ウクライナ侵攻 丸二年

ウクライナ侵攻 丸二年たちました

ロシアは何を手のしたのでしょう
失った世界からの信頼

損得天秤はどちらに 

 


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第三次世界大戦  プーチン大統領の「夢」  戦争終結の道  ウクライナ分断  孤立するロシア  プーチンの新冷戦  どこへ行くプーチン大統領  プーチン大統領の冬支度 ・・・  
  
 

 

●「戦場での主導権、ロシアに」 プーチン氏、負傷兵と会談 1/1
ロシアのプーチン大統領は1日、ウクライナ侵攻で負傷した兵士とモスクワの病院で会談し、戦場の主導権は「ロシア側が握っている」と強調、目的達成まで作戦を続ける意思を改めて示した。タス通信などが報じた。
プーチン氏は、24人が死亡した西部ベルゴロド州へのウクライナの攻撃について「疑いもないテロだ。私自身、はらわたが煮えくり返っている」と述べる一方、「われわれは同じ手法は使わない。精密兵器で軍事施設だけを狙う」と強調した。
また「ウクライナは敵ではない。彼らを利用してロシアの戦略的敗北を目指す欧米こそが敵だ」とし、欧米諸国との対決姿勢を鮮明にした。
●年末年始もロシア軍の攻撃続く 双方に死傷者、独TV通訳も骨折 1/1
ウクライナ空軍は1日、一晩で90機のイラン製無人機を使ったロシア軍の攻撃があり、うち87機を迎撃したと発表した。地元当局によると、南部オデッサでは迎撃した際の破片が集合住宅に落下し、1人が死亡。西部リビウの博物館では破片の落下で火災が起きた。年末年始も戦火はやまず、ウクライナ、ロシア双方で死傷者が相次いだ。
ドイツの公共放送ZDFは12月31日、記者らが滞在していた東部ハリコフのホテルが30日にロシア軍の攻撃を受け、女性通訳が肋骨を折るなどのけがをしたと明らかにした。ホテルは主に外国メディアの取材拠点だった。ZDFは声明で「報道の自由に対するロシアの新たな攻撃だ」と非難した。
ロシア側は、ウクライナ軍がロシア西部ベルゴロド州を30〜31日に攻撃したことに対する報復として、ハリコフ州の軍事施設などを攻撃したと主張した。
「ドネツク人民共和国」の首長プシーリン氏は1日、未明にウクライナ側からミサイル15発が撃ち込まれ、中心都市ドネツクで4人が死亡、13人が負傷したと表明した。
● ロシア軍の攻撃続き ウクライナ南部で死傷者 厳しい新年に 1/1
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、1日にかけてもロシア軍の攻撃が続き、このうち南部のオデーサでは死傷者が出るなど厳しい新年を迎えています。
ウクライナ空軍は、前日の31日夜から1日にかけてロシア軍が90機にのぼる無人機で各地に攻撃を仕掛け、このうち87機を撃墜したと発表しました。
地元当局などによりますと、このうち南部オデーサでは、1日、撃墜された無人機の破片が住宅に落下して火災が発生するなどし、これまでに1人が死亡、3人がけがをして病院で手当てを受けているということです。
一方、ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派の代表プシリン氏は1日、SNSで州都ドネツクにウクライナ軍の砲撃があり、これまでに4人が死亡し、13人がけがをしたと述べました。
ロシアによる軍事侵攻が始まってから2度目の新年を迎える中、双方の攻撃の応酬が続いています。
また、首都キーウでは、先月29日のロシアによる大規模な攻撃で亡くなった人たちを追悼するため、1日を喪に服する日とし、市の中心部にある広場には半旗が掲げられることになっています。
29日の攻撃でキーウ市内で死亡した人の数はこれまでに28人にのぼり、行方不明者の捜索が続けられているということです。

 

●プーチン大統領、ウクライナでの和平望むがロシア独自の条件に限定 1/2
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナで「際限なく」戦うことは望まないが、自国の立場は譲らず自国の条件でのみ和平の用意があるとの見解を示した。
プーチン大統領は1日、軍の病院を訪問した際、ウクライナでのロシア軍の任務遂行に満足していると述べ、敵は「徐々に萎縮しつつある」と指摘。プーチン氏は「できるだけ早期に紛争を終わらせたい」が、「われわれの条件でのみだ」と述べた。和平のために満たされねばならない条件については明示しなかった。
●プーチン大統領「紛争終わらせたい」 ロシア側の条件下なら戦闘終結 1/2
ロシアのプーチン大統領は1日、自国がウクライナで続ける「特別軍事作戦」の主導権を握っており、「我々はできるだけ早く紛争を終わらせたい」と述べ、ロシア側の示す条件下であれば戦いを終わらせる用意があるとの考えを示した。軍事作戦で負傷した兵士らをモスクワの軍病院で見舞った際に明かした。
プーチン氏は「我々の敵は欧米であり、ウクライナそのものではない」と訴え、欧米がウクライナを利用してロシアを撃破しようとしているとの主張を繰り返した。その上で、欧米の論調に変化が表れたと指摘し、欧米はロシアを打ち負かすことが難しいと気づき「より早く紛争を終結させるきっかけを探している」との見解も表明した。
20人以上の死者を出したウクライナによるロシア西部ベルゴロド州への攻撃にも言及し、ロシア国内を不安定にさせるために「民間人を狙ったテロ行為だ」と非難。一方で、ロシアが戦闘で民間人を狙うことはなく、精密兵器で軍事施設を攻撃していると強調した。
プーチン氏は条件付きで戦闘を終結させる可能性に触れたが、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアが占領した地域から撤収しない限り、戦い続ける立場を堅持し続けている。
●プーチン大統領「私たちは団結」 4分弱の新年演説、軍事色抑え 1/2
ロシアのプーチン大統領は12月31日夜、年末恒例の国民に向けた新年の演説を行った。軍事色を前面に出した前年とは対照的に、ウクライナでの「特別軍事作戦」について具体的な言及はなく、国民に団結を呼びかける表現が目立った。
プーチン氏は演説の冒頭で、「私たちは多くのことを成し遂げた」と2023年を振り返り、国益や自由、自分たちの価値観を断固として守ったと強調した。「私たちを団結させるのは、祖国の運命だ。共通の利益のために働くことこそが社会を団結させる」と国民の結束を促し、「私たちは一つの国家であり、一つの大きな家族だ」と呼びかけた。
また、軍関係者に対しては「真実と正義のために前線で戦う全ての人たちに伝えたい」と語りかけ、「あなたたちは私たちの英雄であり、あなたたちを誇りに思う」とたたえた。
ロシアの独立系英字メディア「モスクワ・タイムズ」によると、プーチン氏の年末の演説は、特別軍事作戦の始まった前年は9分を費やしたのに対し、今回の演説は3分45秒と半分以下の長さだった。
●プーチン大統領、新年の辞で国民の団結強調 ウクライナ言及せず 1/2
ロシアのプーチン大統領は新年に向けた演説で、国民の団結と決意の共有を強調した。ウクライナ戦争に関しては、前線で戦う兵士を英雄と称えたものの、ウクライナを名指しすることもなく「特別軍事作戦」という言葉も使わなかった。
3月に大統領選挙を控えプーチン氏は、一進一退のウクライナ戦況よりも、経済やインフレといった国民により切実な問題に有権者の関心を向けさせようとしている。
新年直前に放映された演説で、プーチン氏はクレムリンを背後に、前線で戦っている兵士に「あなたがたはわれわれの英雄だ。思いはあなたがたと共にある。あなたがたを誇りに思い、勇気を称賛する」と呼びかけた。
「われわれは最も困難な問題を解決することができ、決して後退しないことを何度も証明してきた」とし、ロシアおよびロシア国民は団結し支えあい「国益、自由と安全、われわれの価値を守る決意を持っている」と述べた。
共通の利益のための努力が社会を団結させたとし「平日も休日も、仕事でも戦闘でも、われわれの思いは共通しており、ロシア国民の最も重要な特徴である連帯、慈悲深さ、不屈の精神を示している」とした。
●キーウとハリコフにミサイル、西部攻撃受けプーチン氏報復言明 1/2
ウクライナの首都キーウ(キエフ)とハリコフが2日、ロシアのミサイル攻撃を受けた。ロシアのプーチン大統領は、西部ベルゴロドがウクライナの攻撃を受けたとして報復すると述べていた。
キーウでは、朝のミサイル攻撃で爆発が起き、一部地区でガス管が損傷したり停電が発生している。
これに先立ちウクライナ空軍は、2日未明にキーウなどの都市でロシアの攻撃ドローン(無人機)35基を全て撃墜したと発表していた。
ロシア西部ベルゴロドでは年末、ウクライナの攻撃を受け民間人24人が死亡。ロシアは国境を隔てたハリコフから攻撃が行われたと指摘した。プーチン大統領は1日、攻撃は「テロリストの行為」だとし、ウクライナの標的にさらなる攻撃をすると述べていた。
ロシアは朝のピーク時にウクライナの首都にミサイルの波を浴びせ、街の一部を停電させ、墜落した武器の破片を地域全体に落下させた。
ヴィタリ・クリチコ市長はTelegramのメッセージアプリで「首都で爆発が起きている」と述べ、人々に安全を確保するよう促した。
ウクライナの空軍は火曜日未明、ロシアがキエフを含むウクライナのいくつかの都市を狙って真夜中過ぎに発射した35機の攻撃ドローンをすべて破壊したと発表した。
この攻撃は、プーチンが月曜日にウクライナのベルゴロドへの攻撃は"罰せられない"と述べた後に行われた。この攻撃により、ウクライナの大部分は数時間にわたって空襲警報が発令された。
クリチコによれば、キエフのペチェルスキー地区ではガスパイプラインが破損し、首都のいくつかのビルでは電気が遮断されたという。
ロシアのミサイル攻撃の全容はすぐには明らかにされなかった。この攻撃は、少なくとも39人が死亡した金曜日のウクライナに対するロシア最大の空爆に続くものである。
イホル・テレホフ市長は、ハリコフ市も「大規模なミサイル攻撃」を受けたと述べた。
ロシアによると、ウクライナはロシア国境を越えたハリコフ地方からベルゴロドへの攻撃を開始したという。
●「ウクライナ・プラウダ」36歳編集長が向き合う使命 戦いや戦時下の報道 1/2
ロシアによるウクライナ侵略戦争は2度目の厳冬期を迎え、ウクライナ軍は厳しい戦いを強いられている。一方、欧州連合(EU)への早期加盟を目指すウクライナでは、政府による情報統制が強まる戦時下でも、ジャーナリストが国民の知る権利のために奮闘。12月中旬に来日したウクライナの代表的なネットメディア「ウクライナ・プラウダ」のセウヒリ・ムサイエワ編集長(36)は「戦時下のジャーナリストの使命は不正や腐敗から国を守ること」と強調し、「ウクライナ消滅を狙うロシアとは戦う以外の選択肢はない」と訴えた。「ウクライナ・プラウダ」は優れた調査報道で国際的にも評価の高いウクライナメディアの一つだ。
セウヒリ・ムサイエワさん 1987年生まれ。ウクライナ南部クリミア半島出身。キーウ国立大学ジャーナリズム学部卒業後、「フォーブス・ウクライナ」誌の記者などを経て2014年から現職。22年に「GPJ国際報道の自由賞」を受賞した。
この戦争の特質は「脱植民地化」
――ロシアに占領された東部・南部4州の奪還を目指す反転攻勢は難航し、戦況は厳しい。このような現実をどう評価しますか。
「非常に複雑な問題です。これに対する回答は、侵攻当初、ウクライナは3日間しか抵抗できないと見られていたという事実から始めなければなりません。ウクライナは既に2年近く戦っているのです。私自身も多くの友人を失いました。この戦争はウクライナが選んだわけではありません。侵略を始めたのはロシアです。ロシアはウクライナ人とウクライナ国家を滅ぼそうとしています。ロシアは大国で、世界有数の軍事力を保有する国の一つです。異常な国に立ち向かわなければならないのは本当に大変なことなんです。しかし、ウクライナ国民一人一人は、国が(ロシアに)立ち向かう力になれるよう可能な限りのことをしています。この戦争の特質は脱植民地化戦争であることを理解しなければなりません」
ウクライナの首都キーウで、ロシア軍の攻撃で損傷したビルの後方に上がる黒煙=2023年12月29日、AP
ウクライナの首都キーウで、ロシア軍の攻撃で損傷したビルの後方に上がる黒煙=2023年12月29日、AP
――ウクライナがロシアという帝国の植民地であることから脱却するための戦争ということですね。
「この戦争に勝利することで、われわれの国家は維持され、ウクライナがEUの一員となり、北大西洋条約機構(NATO)の一員となれるのです。私たちはこのことを強く望んでいます。そうなればロシアがウクライナに干渉したり、ウクライナ人やウクライナ文化を破壊することは永久にできなくなります。このことはとても重要です。
プーチン(大統領)にとっては、どれほど多数のウクライナ人やロシア人が死亡しようが問題ではない。私たちにとって一人一人の死は大きな損失です。私たちはこの戦争の代償をもちろんよく理解しています。
反転攻勢がいかに難しいかは分かっていますが、他に選択肢はないのです。降伏すれば、ただ殺されるだけだから。ウクライナはロシア軍が(首都キーウ近郊)ブチャで行った虐殺を目の当たりにした後、ロシア軍が占領した領土をそのままにしておくことができないことに気づいたのです」
不都合なことを隠す当局の情報操作
――侵略したロシアとの戦争におけるウクライナでの報道の自由の現状をどのように評価しますか。戦時下では報道活動への一定の制限はやむをえません。果たしてどの程度まで許容できると思いますか。
「ウクライナには戦時検閲があります。検閲は戦時の特殊性によって規定されているからです。例えば、ミサイル攻撃の標的を公開しない、兵器配備の場所を示さないなどです。これらの規定は細かく決められています。例えば、最初の数時間はミサイル落下場所での報道が禁止されているし、ビデオ写真の公開も禁止です。
一方、戦時下の状況では最も民主的な国家であっても情報を操作しようと試みます。ジャーナリストが不都合なことに触れないようにするための(当局の)巧妙な操作を明らかにすることこそ戦時下のジャーナリストの仕事です。
わが国は生存のための戦いを続けていますが、他方で、私たちはウクライナの公務員の汚職を取材したり、政府内の見解の相違、軍の問題についても書いています。われわれが夢見る理想的な国家とはまだまだほど遠いような記事を書いており、そのために私たち(ウクライナ・プラウダ)はウクライナ社会から批判を受けています。戦争中に不快な出来事を伝えることは避けるべきだと考える人もいるからです。しかし、私たちは報道を続けます」
戦争中の腐敗は平時よりも深刻
――多くの汚職の容疑者が摘発されています。
「戦争中の腐敗は恐ろしいことです。平時の腐敗よりも深刻です。なぜなら、まず道徳的原則に反するからです。ウクライナが世界から多くの支援を受け、世界から注目されている時、いかなる不正も許されません。そうでないと、国民の命を犠牲にすることになります。数十億、数百万フリブナ(ウクライナの通貨単位)を盗まれるということは、兵士たちに何かが不足する、または十分な報酬が与えられていないことを意味するのです。ジャーナリストは腐敗や不正行為の蔓延(まんえん)などから国を守らなければなりません。それがジャーナリストの使命ですから。私この仕事を続けます。
もちろん、戦時下で働くことは非常に困難です。何人もの同僚が徴兵で戦場に行ったし、家族を失った人もいるし、占領地に親戚がいる者もいます。つまりこの戦争は遠いところで起こっているのではなく、文字通り個々のジャーナリストたちに深刻な影響を及ぼしているのです」
EUが受け入れてくれると信じている
――汚職一掃はEU加盟の条件です。ウクライナの早期加盟は可能ですか。
「改革は成功すると思います。いかなる困難があっても、ウクライナはEUに加盟できると信じています。懐疑的な国民もいますが、加盟は時間の問題だと思います。欧州の指導者たちは、自由のために高い代償を払い、多くの苦しみを味わってきたこの国を『家族』として受け入れる必要があるのではないでしょうか。われわれは決して完璧ではないし、多くの問題点や欠点はありますが、家族は不完全な子供たちも愛してくれるものです」
大統領と総司令官の「見解の相違」は民主主義国家だからこそ
――ゼレンスキー大統領とザルジニー軍総司令官が対立しているとの問題を詳しく報じた記事が、国際的に注目を集めました。ロシア側につけ入る隙を与えるとの見方もありますが、戦時中の政治報道の在り方についてどう考えますか。
「(大統領と総司令官の)対立という言葉は、海外メディアがよく使う言葉ですが、私たちはその言葉は使いません。ウクライナのメディアとして、私たちは何が起こっているのか、詳しく説明することにしました。それは誰の目にも明らかで、大統領と総司令官の見解の相違に見えます。これはウクライナが民主主義国家であることを示すものでもあるわけです。
つまり二つの意見があり、そこにはある種のバランスが成立しているわけです。なぜなら、ゼレンスキー大統領は現在(戒厳令で)強大な権力を持っているからです。ザルジニー氏は政治に関与するつもりはありませんが、ウクライナ社会では非常に大きな信頼と高い評価を得ています。
ウクライナでは現在、選挙を実施できません。戒厳令が敷かれ、さまざまな制限がある中、ザルジニー氏によってバランスがとられているといえます。このような状況でもゼレンスキー氏がザルジニー氏を解任することがないよう、十分な知恵と意志があることを願っています。ウクライナ社会と軍の士気に大きな影響を与えるからです」
北方領土で起きたことがクリミアでも起きた
――クリミア・タタール人として、占領されているクリミア半島の現状をどうみていますか。
「14年のロシアによるクリミア占領後、私は10年、故郷に戻っていません。クリミアには友人もいますが、彼らは私と話すことさえ恐れています。もちろん、いつかはクリミアが解放されると信じています。この戦争は14年のロシアのクリミア半島占領から始まりました。クリミア半島で始まったものは、クリミア半島で終わらせなければなりません。
歴史的背景を言えば、18世紀末ごろまではクリミア半島にはクリミア・タタール人の国家(クリミア・ハン国)があり、私にとってクリミアは祖国のようなものです。併合後、クリミア・タタール人が追い出され、ロシア人が入ってきて地元の住民が入れ替わっています。かつてロシアが日本の北方領土を占領したときも日本人の島民を追放し、ロシア人を定住させましたが それは今、クリミアで起きていることです。クリミアでは10年間にわたって人権が侵害されてきましたが、国際社会の反応は十分ではありませんでした」
ロシアは黒海を完全に支配しようとしている
――ロシアとクリミア半島を隔てる海峡で知られるケルチ出身ですね。
「重要なのは、クリミア半島は、欧州のパートナーと文明世界全体にとって安全保障上の問題だということです。クリミア半島というのは、つまり黒海(と周辺地域)を意味するからです。ロシアは黒海を完全に支配しようとしています。ロシアがクリミア半島だけでなく(ウクライナ南部の)オデッサまで占領しようとするなら、その目的は何か。この地域にはルーマニアやモルドバ、トルコなど欧州連合(EU)加盟国がロシアと隣接しています。プーチンはクリミア半島を軍事基地化し、そこからウクライナの多くの都市に向けてミサイルを発射していますが、将来は欧州の都市に向けてミサイルを発射できるようになるでしょう。戦争が欧州に拡大するかもしれないのです。モルドバ、ルーマニア、ポーランドはどうなるのでしょうか? 1939年の(ナチスドイツによる)オーストリア併合後、ロンドンへの爆撃がいかに早く始まったか、現代史を思い出してみましょう。手を打たなければ(次の侵略が)非常に早く起きる可能性があるのです。
占領されたクリミア半島では、私の同級生がロシア軍に所属しています。そして彼らはウクライナ人を殺しに来たのです。もしプーチンがウクライナ全体を支配すれば、もともと欧州志向のウクライナの人々がウクライナ軍やロシア軍に入り、欧州の人々を殺しに行くことになるでしょう。私たちはまるで歴史を見ているようです。もし10年前にクリミア併合がなければ、2022年にウクライナ東部・南部の領土は占領されなかったでしょう。プーチンは止まりません。プーチンの目標はロシアの目標であり、帝国を復活させることです」
ウクライナの人々は自分の将来を予測できない
――侵略戦争はウクライナを荒廃させ、犠牲者は増加し、人口は減少しています。戦争が長期化する中、ウクライナ社会に変化はありますか。
「戦争に疲れているウクライナ人はもちろんいます。ある調査では、ウクライナ人の56%がこの戦争の死傷者と関係があるのです。つまり、この戦争はウクライナの大多数の国民に影響を及ぼしているわけです。非常に悲しいことです。ウクライナの人々は自分の将来を予測できません。毎日目が覚めて、ミサイル攻撃がなかったら、これはもう幸せなことです。当初は多数の人々が軍を志願しました。今は兵員募集を含め問題はありますが、私たちは何とかそれを克服しようとしています。非常に重要なのは、この戦争をできるだけ良い状態で終わらせることです。多くの命を救うために」
ロシアはプロパガンダに毒されている
――多くのロシア人はプーチン氏を支持し、政権が戦争を続けることを支持しています。この状況は将来変わると思いますか?
「(プーチン政権が誕生した)2000年以来、ロシア社会はプロパガンダに毒されています。さらにロシアの(官製)メディアは(14年のウクライナ民主政変以降)約10年間、ウクライナ人を人間以下の存在として扱ってきました。だから全面侵攻の最初の数日間、捕虜になったロシア兵全員がこう言ったんです。『われわれは君たちを解放し、ナチスと戦うためにここに来たんだ』と。しかし、彼らは、ここにはナチスが存在しないことをすぐ理解しました。
今後、もし何か想像もつかないことが起こったら、例えばプーチンがロシアで権力を失った後、言論の自由が復活し、独立したメディアが活動するようになれば、ロシア社会は徐々に気づくでしょう。『これは間違っていた。すべて間違っていたのだ』と」
占領地でロシアが最初にやったこと
――ロシアのプロパガンダ(政治宣伝)は東部・南部4州の占領地のウクライナ国民にいかなる影響を与えているでしょう。
「占領地ではロシアの絶対的な情報空間が確立され、残念ながら住民の大半はロシアのプロパガンダの影響下にあります。ロシアの戦争にとって、情報は最も重要な事柄の一つです。
一例をあげますと、ロシアが昨年5月に(南部ドネツク州の)マリウポリを占領すると、まず最初にやったことは、『マリウポリ』というウクライナ語の地名を1字だけロシア文字に置き換えてロシア風の地名に変えたのです。たった1文字ですが、これは重要な意味があるのです。その次に彼らはマリウポリの中心部に(プロパガンダのために)大きなスクリーンを設置しました。情報空間のコントロールは彼らの最優先の仕事なのです」
賠償と処罰の前に和解の話をするのは不可能
――いつの日かロシアとの関係が正常化する可能性はあるのでしょうか。もしあるとすれば、どんな条件が必要でしょう。
「ロシアは非常に長い年月をかけて賠償金を支払わなければなりません。戦争犯罪人に対する国際刑事裁判所の判決も必要です。ロシアは、今回の侵略戦争という犯罪を背負い、さらには次の大戦への扉を開けてしまったのです。ロシアはこの代償を払わなければならないし、ロシアは罰せられなければならないのです。この戦争の根拠となったロシアのプロパガンダを広めた者を含め罰せられなければならない。これは私の個人的な夢のようなものですが、いずれは実現すると思っています。その前に和解についての話をすることは不可能です」
日本の支援に深い感謝を伝えたい
――日本のウクライナ支援をどう評価しますか。またウクライナ戦争における日本の役割は。 
「避難民への思いやりのある受け入れも含め、日本のウクライナ支援に深い感謝の気持ちを伝えたいです。ウクライナ難民への日本人の大きな支援には驚きました。日本駐在のウクライナ人記者がいないので支援の大きさを十分に実感できなかったのですが、今回の訪日で一般の人々の支援の大きさがよく分かりました。日本政府が戦後初めてウクライナ難民に国境を開放したこと、ウクライナへの45億ドルの追加支援パッケージも重要です。東京のウクライナ大使館に行き、市民が大使館に持ってきてくれた励ましの品々を見てとても感動しました。日本の人々は私たちが直面している悲しみを、これほど真剣に受け止めてくれているのかと。日本人のこの感性はとても素晴らしいと思っています」
●プーチン大統領「紛れもないテロ行為」報復示唆 ウクライナ軍が攻撃 1/2
ロシアのプーチン大統領は1日、西部ベルゴロド州で25人が死亡したウクライナ軍の攻撃について、「紛れもないテロ行為だ」と述べさらなる報復を示唆しました。
ロシア西部のベルゴロド州では先月30日、ウクライナ軍の攻撃により、25人が死亡、100人以上がケガをしました。
プーチン大統領は1日、モスクワ近郊の病院を訪問した際、「ベルゴロド州で起きたことは紛れもないテロ行為だ」「(ウクライナは)罰せられないわけにはいかない」と述べ、さらなる報復を示唆しました。
その理由について、ウクライナ軍が「多連装ロケット砲で街の中心部を攻撃したからだ」としています。
多連装ロケット砲は、複数のロケット弾を一斉に発射できるシステムですが、命中精度が低いとされていて、広い範囲を「数」で攻撃する兵器です。
今回のウクライナ軍の攻撃は、ロシア軍が先月29日、ウクライナ各地に大規模攻撃を仕掛け、41人が死亡したことへの報復とみられます。
1日にはロシア軍が再びウクライナ各地を攻撃し、南部オデーサ州で1人が死亡するなど、攻撃の応酬が続いています。
●ウクライナ反撃は「テロ」=ロシア大統領、年初から公務 1/2
ロシアのプーチン大統領は1日、モスクワ郊外の病院を訪れ、ウクライナ侵攻で負傷した兵士らを見舞って懇談した。
昨年12月30日に西部ベルゴロドで25人が死亡したウクライナ軍の反撃に初めて言及。「無差別かつ広範囲を攻撃する多連装ロケット砲で都市部の民間人を狙った」として「テロ」と述べた。
プーチン氏は、報復を含めて「ロシアは精密兵器で軍事施設を攻撃している」と主張。12月29日にウクライナ各地に大規模な空爆を行ったことには沈黙した。英BBC放送によると、首都キーウ(キエフ)などで40人以上が死亡、160人以上が負傷している。
プーチン氏が1月1日に公務に当たるのは、外国首脳らとの電話会談などを除くと極めて異例。ウクライナ侵攻開始後の昨年もなく、2013年末に連続自爆テロが発生した南部ボルゴグラードを訪れた14年以来となる。
●ウクライナ、予算不足近づく…米欧の資金提供滞り年金支払い遅れも 1/2
ロシアの侵略を受けるウクライナが今年早々にも、予算不足に陥る懸念が高まっている。国家予算の半分以上が軍事費に使われ、社会サービスなどの歳出は海外の支援が頼みの綱だが、米欧の資金提供が滞っているためだ。年金や公務員給与の支払いが遅れる可能性もあり、打開策は見いだせていない。
「1月から十分に予測可能な外部融資を受けることが、マクロ経済の維持に不可欠だ」
米ブルームバーグ通信によると、ウクライナのデニス・シュミハリ首相は昨年12月に先進7か国(G7)などの資金提供国・機関への書簡でこう訴え、緊急会合の開催を要請した。
会合は本来、主に復興にむけた資金調整の場だが、シュミハリ氏は「生存に必要なものを満たすことに苦しんでいる時に、復興と再建について議論するのはほぼ不可能だ」と、当面必要な予算に資金を割り当てるよう求めた。
ユリヤ・スビリデンコ第1副首相兼経済相は、英紙フィナンシャル・タイムズの取材に、公務員50万人と教師140万人の賃金、1000万人の年金給付に遅れが出る可能性があると主張している。
ウクライナの政府予算は元々、米欧などからの支援を前提に赤字で編成されている。2024年予算は歳出3兆3550億フリブニャ(約12兆4000億円)に対し、歳入は約1兆7680億フリブニャ(約6兆5400億円)しか見込んでいない。海外から373億ドル(約5兆2600億円)の援助が必要とされる。
だが、米欧からの支援は停滞している。大統領選を控える米国では、ウクライナ支援の是非が政治的な争点となっており、バイデン政権が提案する610億ドル(約8兆6000億円)の支援を含む追加予算が承認される見通しが立っていない。欧州連合(EU)でも、昨年12月の首脳会議で最大500億ユーロ(約7兆8000億円)の追加拠出案にハンガリーが反対し、議論は先送りされた。
こうした状況は、ロシアに好都合だ。ワシリー・ネベンジャ露国連大使は12月29日の国連安全保障理事会で、「ウクライナはもっぱら米英、EUの巨額資金で生き延びている」と皮肉った。プーチン大統領も12月14日の記者会見で欧米の支援について、「終わりつつある」と述べた。
露軍がウクライナ全土を標的とした大規模攻撃を行っている背景には、財政面で苦境に立つウクライナを追い込む狙いもあるとみられる。
●プーチン大統領に度重なる異常行動 「認知症悪化」で核ボタンの行方は 1/2
ロシアのみならず世界にとってプーチン大統領の「健康」が重要視されるのは、その一挙手一投足の行方によって計り知れない影響が出るからだ。当然ながら「核のボタン」を握る男に一片たりとも心身の不安などあってはならない。そんなところに「認知症悪化」のニュースが飛び込んできたものだから、世界中が震えたのである。
これまでにも、がんだ、白血病だ、パーキンソン病だと健康不安説が絶えなかったプーチン大統領。そのたびにクレムリンは「バカバカしい。大統領は健康だ」と疑惑を否定してきたが、ここへきて決定的とも言える映像が公開され、疑惑が再燃している。
問題の映像は、7月19日に行われた市民のビジネスアイデアの開発を支援する非営利団体の行事にプーチン氏が出席した模様を撮影したものだ。
「この会合でプーチン氏は、ニジニノブゴロド市のイワン・シュトックマン副市長と90分以上にわって会談。シュトックマン氏がこれまでの自身の経歴を説明し、軍へ入隊する決意を語ると、感銘を受けたプーチン氏は『ただただ素晴らしい。これは私たちの子供たちとあなたの子供たちの未来のための闘いなのだ』と同氏を称賛。続いて、プーチン氏が子供の年齢を尋ねると、シュトックマン氏は『一番下は9歳で、一番上が23歳』と答えた。ところが直後、プーチン氏は何を勘違いしたのか『末っ子は3歳』と、いま聞いたばかりの年齢を間違えているんです。そこで、映像を目にした人々の間から認知症説が再燃したというわけです」(ロシアウオッチャー)
プーチン氏は数日前にも、イルクーツク州のコブジェフ知事から兵士の死を伝えられた際、「彼らに私の敬意を伝えてほしい」とは答えたものの、そのあまりにもそっけない反応に薄情なのでは、との声も上がっていた。それに輪をかけることになったのが、欧州の安保当局者の談話を伝えた先月25日の米ワシントン・ポスト(電子版)の報道だった。
「プーチン氏は、あの『ワグネルの乱』が始まる2〜3日前には情報を掴んでいたようなのですが、ただ混乱し動揺するばかりで、結局クレムリンの大統領警護と施設数カ所の警備を強化しただけで、他の措置は一切取らなかったというのです。安保当局者が言うには、3日もあれば間違いなくプリゴジン氏を逮捕できる時間はあった。ところがプーチン氏にはなす術がなく、反乱が始まるとクレムリンの機能がすべて停止。結果、本人は身を隠すしか方法がなかったと書かれています。ですから、ルカシェンコ大統領が手打ちをしなければ、本当に打開策がなかった可能性もありますね」(同)
独裁国家の権威主義体制である今のロシアでは、上部の明確な指示がなければ軍隊は1ミリとて動けない。同紙は、反乱当時のこの指揮命令系統の空白が、大統領の権威にかつてない打撃を与えたとの見方を示しているが、その背景にはプーチン氏の認知症があるかもしれないということだ。
ロシアで唯一核のボタンを握るプーチン氏。そして最近では、もう一人「核のボタン」を握るバイデン大統領もトンデモ発言を連発し、こちらも「認知症疑惑」が浮上している。どうか、間違いが起こらないよう願うばかりだ。
●ウクライナ大統領、「ロシアは戦闘で大きな損失」と主張 1/2
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアがウクライナとの戦争で勝利しているという考えは「感覚」にすぎず、ロシアは依然として戦場で大きな損失を被っているとの見解を示した。英経済誌エコノミストに1日掲載されたインタビュー記事で述べた。
ロシアの損失に関する主張について具体的な証拠は示さなかった。ゼレンスキー氏は2024年の優先事項として、クリミアのロシア軍をたたきウクライナ国内への攻撃回数を減らすことや東部戦線の主要都市を守ることなどを挙げた。
ロシア当局者らはゼレンスキー氏の発言に関するコメント要請に応じていない。
ゼレンスキー氏は「(昨年は)世界が望んでいたような成功を収められなかったかもしれない」と認めた上で、ロシア軍が勝利しているという考えは単なる「感覚」だと指摘。先週訪問した東部アブデーフカでのロシアの大きな損失に言及した。
一方で、ウクライナ軍がロシアの黒海封鎖を突破し、南海岸沿いの新ルートによる穀物輸出を可能にしたとし「大きな成果」を称えた。
●ベルゴロド攻撃、死者25人に プーチン氏「100%報復」明言 1/2
ロシア西部ベルゴロド州で1日、ウクライナ軍の12月30日の砲撃で負傷した4歳の少女が病院で死亡し、死者は計25人になった。グラトコフ知事が発表した。プーチン大統領は「市民を標的にしたテロ」と非難。ウクライナ軍関連施設へのミサイル攻撃を続けると述べた。ロシアが報復として空爆を一層強化する可能性がある。
侵攻で負傷した兵士らと1日にモスクワの病院で会談したプーチン氏は「相手の狙いはわれわれを脅し、自信を失わせることだ」と指摘。「私もはらわたが煮えくり返っている」としながらも、ロシアは軍司令部と関連施設だけを狙うと述べ「精密誘導兵器で今日も明日も攻撃する。100%だ」と強調した。
●露、ウクライナへ再び大規模攻撃 キーウと東部で1人死亡 50人超負傷 1/2
ロシア軍は2日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)などに大規模なミサイル攻撃を行った。キーウのクリチコ市長によると、市内の高層住宅にミサイルが着弾し、少なくとも16人が負傷した。東部ハリコフもミサイル攻撃を受け、市当局は1人が死亡、40人以上が負傷したと発表した。
プーチン露大統領は1日、露西部ベルゴロドに対して昨年末にウクライナ軍が実施した攻撃への「報復」を2日にも行うことを予告していた。
ウクライナ空軍によると、露軍は2日の攻撃に極超音速ミサイル「キンジャル」や自爆ドローン(無人機)を使用した。
ロシアは昨年12月29日、ウクライナ各地に過去最大規模のミサイル攻撃を実施。キーウなどで40人以上が死亡した。ウクライナは30日、報復としてベルゴロドを攻撃。ロシア側は25人が死亡したと主張した。
その後、露軍は南部オデッサ州をドローン攻撃する一方、ウクライナ軍もロシアの実効支配下にある東部ドネツク市を砲撃。双方が複数の死傷者を報告するなど、報復攻撃の応酬が続いている。
●キーウとハリコフにミサイル、西部攻撃受けプーチン氏報復言明 1/2
ウクライナの首都キーウ(キエフ)とハリコフが2日、ロシアのミサイル攻撃を受けた。ロシアのプーチン大統領は、西部ベルゴロドがウクライナの攻撃を受けたとして報復すると述べていた。
キーウでは、朝のミサイル攻撃で爆発が起き、一部地区でガス管が損傷したり停電が発生している。
これに先立ちウクライナ空軍は、2日未明にキーウなどの都市でロシアの攻撃ドローン(無人機)35基を全て撃墜したと発表していた。
ロシア西部ベルゴロドでは年末、ウクライナの攻撃を受け民間人24人が死亡。ロシアは国境を隔てたハリコフから攻撃が行われたと指摘した。プーチン大統領は1日、攻撃は「テロリストの行為」だとし、ウクライナの標的にさらなる攻撃をすると述べていた。
ロシアは朝のピーク時にウクライナの首都にミサイルの波を浴びせ、街の一部を停電させ、墜落した武器の破片を地域全体に落下させた。
ヴィタリ・クリチコ市長はTelegramのメッセージアプリで「首都で爆発が起きている」と述べ、人々に安全を確保するよう促した。
ウクライナの空軍は火曜日未明、ロシアがキエフを含むウクライナのいくつかの都市を狙って真夜中過ぎに発射した35機の攻撃ドローンをすべて破壊したと発表した。
この攻撃は、プーチンが月曜日にウクライナのベルゴロドへの攻撃は"罰せられない"と述べた後に行われた。この攻撃により、ウクライナの大部分は数時間にわたって空襲警報が発令された。
クリチコによれば、キエフのペチェルスキー地区ではガスパイプラインが破損し、首都のいくつかのビルでは電気が遮断されたという。
ロシアのミサイル攻撃の全容はすぐには明らかにされなかった。この攻撃は、少なくとも39人が死亡した金曜日のウクライナに対するロシア最大の空爆に続くものである。
イホル・テレホフ市長は、ハリコフ市も「大規模なミサイル攻撃」を受けたと述べた。
ロシアによると、ウクライナはロシア国境を越えたハリコフ地方からベルゴロドへの攻撃を開始したという。  
●ロシア大規模攻撃、4人死亡 プーチン氏、報復継続明言 1/2
ウクライナの首都キーウ(キエフ)に2日朝、ロシアの大規模ミサイル攻撃があり、地元メディアによると、キーウや東部ハリコフで計4人が死亡した。キーウでは各地で火災が発生、一部で停電した。ウクライナのゼレンスキー大統領は通信アプリで計90人超が負傷したとし「ロシアに責任を負わせる」と訴えた。
ロシアのプーチン大統領は1日、西部ベルゴロド州に対する昨年12月30日の攻撃を「市民を標的にしたテロ」と非難し、ウクライナ軍関連施設へのミサイル攻撃を続けると述べていた。ロシアは同29日にウクライナ全土に一斉攻撃を仕掛け40人超が死亡。双方の報復合戦が激化する恐れがある。
ベルゴロド州のグラトコフ知事によると、ウクライナ軍による攻撃の死者は計25人となった。
ウクライナ侵攻で負傷した兵士らと1日にモスクワの病院で会談したプーチン氏は「相手の狙いはわれわれを脅し、自信を失わせることだ」と指摘。「私もはらわたが煮えくり返っている」としながらも、ロシアは軍司令部と関連施設だけを狙うと述べ「精密誘導兵器で今日も明日も攻撃する。100%だ」と強調した。
ロシアがウクライナ東部ドネツク州に設置した「ドネツク人民共和国」当局は1日、中心都市ドネツクと北方近郊のゴルロフカに同日夕、計17回の砲撃があったと明らかにした。ロシア通信が伝えた。
「共和国」首長プシーリン氏によると、ドネツクには1日未明にウクライナ側からミサイル15発が撃ち込まれ4人が死亡、13人が負傷した。
●拡大BRICSで欧米対抗 議長国のロシア、外交の主軸に 1/2
ロシアは1日から、中国やインドなどとつくる新興5カ国(BRICS)の議長国になった。プーチン大統領は同日発表の声明で「世界の公正な発展に向けた多国間主義強化」を進めると表明。1日から新規加盟5カ国を加えて計10カ国になった拡大BRICSを、ウクライナ侵攻で制裁を科す欧米に対抗する枠組みに成長させる姿勢を鮮明にした。
ラブロフ外相も昨年末のインタビューで、BRICSを「国際政治に定着させていく」と発言。2024年のロシア外交はBRICS強化を軸に展開していくことになりそうだ。
ロシアは今年10月、中部カザンで拡大後初の首脳会議開催を計画している。
●ゼレンスキー大統領、欧米の支援鈍化に英誌で憤り 1/2
ウクライナのゼレンスキー大統領は英誌エコノミストが1日に報じたインタビューで、欧米が戦争に対する「緊迫感」を失っているとして支援鈍化に憤りを示した。ウクライナ軍が反転攻勢を仕掛けた昨年の戦況について「恐らく、世界が望んだようには成功しなかった」と危機感をあらわにし、支援継続の必要性を訴えた。
ゼレンスキー氏はウクライナへの支援がロシアの侵略から欧州を守ることにつながると改めて強調した。
ウクライナ東部ドネツク州の激戦地アブデーフカで多くのロシア兵が死傷しているなどとし、ロシアのプーチン大統領が勝利に近づいているとの見方は「感覚」でしかないと訴えた。
ロシアとの和平交渉の可能性を巡っては「ロシアから根本的な和平に向けた一歩は全く見受けられない」と実現性を否定。ロシアが交渉を求めるのであれば「兵力を強化するための休止が狙いだ」と指摘した。

 

●ロシアの空爆によりウクライナで100人以上の死傷者…激しくなる戦争 1/3
ウクライナの首都キーウと南東部のハルキウなどで2日、ミサイルとドローン数十機を動員したロシアの空爆により約100人の死傷者が発生した。ウクライナ空軍は「ロシアが昨年12月29日の大空爆を繰り返した」と明らかにした。
当局はこの日の攻撃で最小5人が死亡し100人以上が負傷したと明らかにした。ウクライナ国営エネルギー企業ウクレネルゴはこの日の空爆の影響でキーウと周辺を含む25万世帯が停電したと伝えた。
ウクライナのゼレンスキー大統領はテレグラムで「ロシアは先月31日から約170機のドローンと数十発のミサイルをウクライナに発射した」と説明した。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官はロシアが撃ったミサイル99発のうち極超音速ミサイル「キンジャル」を10発、巡航ミサイル59発、カリブルミサイル3発の72発を撃墜したと主張した。また、この日ロシアが飛ばした35機の攻撃用ドローンをすべて撃墜したと付け加えた。
ゼレンスキー大統領は「パトリオットミサイルと他の防空システムがなかったら毎日昼夜続くロシアのテロ攻撃で数百人の命を助けることはできなかっただろう」としながら米国と西側の支援に謝意を示した。その上で「ロシアは犠牲になったすべての人命に対し代償を払うことになるだろう」と強調した。
ウクライナのクレバ外相は声明を出し「追加の防空システムとさまざまな種類の攻撃用ドローン、射程300キロメートル以上の長距離ミサイル供給を加速してほしいと同盟国に要求した」と明らかにした。
これに先立ち先月29日にロシアはミサイル122発とドローン36機でキーウ、ハルキウ、オデーサ、ドニプロなど全域に戦争勃発以降で最大の空爆を加え、約40人が死亡した。これに対しウクライナは翌日ロシアのベルゴロドなどに反撃を敢行し、ロシアはウクライナがクラスター爆弾などを使って自国民14人が死亡したと主張した。
●ウクライナ、新年は服喪から プーチン氏は空爆の強化を表明 1/3
ウクライナは、新年最初の1日を服喪の日とすると明らかにした。ウクライナの首都キーウに対しては年末にロシアによる大規模な空爆が行われ、多数の死傷者が出ていた。
ウクライナ軍はCNNの取材に対し、12月29日に行われたロシアによる攻撃はロシアによる全面侵攻が始まって以降で最も大規模な空爆のひとつだったと明らかにした。
ロシアのプーチン大統領は1日、ロシアがウクライナに対する空爆を強化すると述べた。プーチン氏は、ロシア軍が「高精度の兵器」を使って軍事目標を攻撃していると主張した。
12月31日から1月1日にかけて、ウクライナ全土で人々は、空襲警報とロシアによる新たな攻撃の音とともに新年を迎えた。
ロシア・ベルゴロド州のグラドコフ知事によれば、プーチン氏は1日の攻撃について、少なくとも25人が死亡したベルゴロド州へのウクライナ軍による攻撃への報復だと述べたという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は大みそかの演説で、戦争が始まってから2年になろうとしている今、ウクライナの人々を奮い立たせようと「我々は暗闇を打ち破った」と訴えた。
ゼレンスキー氏は「ウクライナは、より強くなった。ウクライナの人々は、より強くなった。2023年の初め、1月と2月に、誇張ではなく史上最も困難な冬を乗り越えた。我々は暗闇の中で消え去ることはなかった。闇は我々を飲み込まなかった。我々は暗闇を打ち破ったのだ」と述べた。
ゼレンスキー氏は、困難が存在することを認めながら、ウクライナの人々に対し、忍耐を求めた。
●欧米に防空支援継続訴え キンジャル迎撃「記録的」 1/3
ウクライナのザルジニー軍総司令官は2日のロシアによる大規模攻撃に関し、地対空ミサイルシステム「パトリオット」でロシアの極超音速ミサイル「キンジャル」10発全てを迎撃したとして「記録的だ」とX(旧ツイッター)で述べた。欧米の防空支援に謝意を示し、攻撃激化に備え、さらなる供与が必要だと訴えた。
ウクライナ軍は99発のミサイルのうち、72発を迎撃したとしている。非常事態庁によると、首都キーウ(キエフ)などで計5人が死亡、127人が負傷した。
ウクライナは欧米からの支援のつなぎ留めを目指している。
●NYダウ平均株価 ことし最初の取引 最高値を更新 1/3
ことし最初の取り引きとなった2日のニューヨーク株式市場は、地政学的なリスクが意識されながらもアメリカの利下げに対する期待は根強く、ダウ平均株価は値上がりし、最高値を更新しました。
2日のニューヨーク株式市場、ダウ平均株価は取り引き開始直後は中東情勢への懸念などから200ドル近い値下がりでスタートしました。
イエメンの反政府勢力フーシ派による紅海を航行する船舶への攻撃が相次ぐなか、イランが紅海に軍艦を派遣したと伝えられたほか、デンマークの海運大手がいったん再開を発表した紅海を通る運航を当面停止すると明らかにしたことなどが懸念材料となりました。
しかし、ことしはアメリカのFRB=連邦準備制度理事会が早い時期に利下げに踏み切ることを期待する投資家も多く、買い戻しの動きが出ました。
結局、ダウ平均株価の終値は去年の年末に比べて25ドル50セント高い3万7715ドル4セントとなり、わずかながら最高値を更新しました。
ことしはFRBが利下げに転じて景気を冷やす要因がなくなるとの期待感が投資家の間では根強くある一方、イスラエル・パレスチナ情勢やウクライナ情勢など戦争や紛争が拡大するリスクがくすぶっています。
市場関係者は「ことし秋にはアメリカの大統領選挙が予定されているほか、台湾やインドネシア、ロシアなどで大きな選挙が控えている。株式市場には不確定要因が多い1年となりそうだ」と話しています。
専門家に聞く 世界経済と国際政治の見通し 懸念されるリスクは
ことしの世界経済、そして国際政治の見通しと懸念されるリスクについて、2人の専門家に話を聞きました。
CEPR ディーン・ベイカー氏 “米経済は堅調に推移”見方示す
アメリカのシンクタンク、CEPR=経済政策研究センターのシニアエコノミスト、ディーン・ベイカー氏はことしのアメリカ経済について「FRB=連邦準備制度理事会が2%の物価目標にソフトランディング=軟着陸することを私は確信している。インフレが抑えられていれば最初の利下げは3月だろう。そして、年に4回、利下げが行われると予想している」と述べたうえで、「賃金はインフレ率を超えて伸びている。個人消費は堅調なペースが続くと予測している」としてアメリカ経済は堅調に推移するだろうとの見方を示しています。
また、ベイカー氏は、外国為替市場について、中東情勢やウクライナ情勢が悪化すれば、避難通貨としてドルが買われる可能性があるとしつつも「アメリカの利下げによってドル安が進み、ほかの多くの通貨に対して5%から10%ドル安が進むだろう」と指摘し、円高ドル安傾向を予測しています。
フランシス・フクヤマ氏 大統領選の結果が及ぼす影響懸念
「歴史の終わり」などの著作で知られるアメリカ・スタンフォード大学の政治学者、フランシス・フクヤマ氏は、「最も差し迫った危険はガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突が激化することだ。すでに国際的な海運の運賃に影響が出ている。イランを直接、巻き込んだ、より広範な戦争が起きれば、世界のサプライチェーンなどに、もっと深刻な影響が及ぶのは明らかだ」と警鐘を鳴らしています。
また、フクヤマ氏は、欧米のロシアに対する経済制裁の影響でロシアの石油やガスの市場が中国やグローバル・サウスと呼ばれる新興国や途上国に広がっているとしたうえで、「アメリカがイスラエルを支持しガザ地区で軍事衝突が続いていることで、今後、多くのグローバル・サウスの国々がロシア・中国の陣営とより広く、手を携えることになる」と指摘しています。
さらにフクヤマ氏は、「大きな不確定要素はアメリカ大統領選挙だ。トランプ前大統領が再び大統領に選ばれれば、トランプ氏は世界経済を孤立主義の方向に転換しようとし、関税を引き上げようとする。それはサプライチェーンの協力関係や世界の地政学的な安定にとって大きなリスクになるだろう」とアメリカの大統領選挙の結果が世界経済に及ぼす影響を懸念しています。 
●ウクライナへ再生エネ支援、政府 バイオ燃料技術供与、復興に貢献 1/3
政府は、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの支援策として、再生可能エネルギーの関連技術を供与する方向で調整に入った。バイオ燃料の製造技術を想定しており、農業国で原材料が豊富なウクライナにとって、復興に向けた産業化に結び付くと判断した。2月19日に日本で開く予定の「日ウクライナ経済復興推進会議」で独自の貢献策として打ち出す考えだ。ウクライナ側と、日本の技術提供企業との合意を目指す。日本政府関係者が3日、明らかにした。
欧米のような軍事支援を展開できない日本は、ウクライナの復旧・復興に力点を置く。日本企業による製造技術、関連設備の提供を想定している。
バイオ燃料は農作物や、家畜の排せつ物などをもとに製造される。発電に活用されるため脱炭素を進める技術の一つとして注目される。「事業が軌道に乗れば有望な輸出品になる」(日本政府関係者)として将来的な対欧州輸出も視野に入れており、ウクライナの外貨獲得につながると期待している。
政府は復興推進会議の開催を前に、ウクライナ側の要望聞き取りを進めている。
●無風のロシア大統領選 プーチン氏“信任”で再選確実視 1/3
ロシアが「特別軍事作戦」とするウクライナへの軍事侵攻後、初めておこなわれるロシア大統領選挙まで3カ月を切った。11人の候補者が名乗りを上げたが通算5期目を目指すプーチン氏の再選は確実視され、今回は得票率80%以上の「圧勝」を狙う。
まもなく3年目に突入するウクライナ侵攻について、プーチン氏は「目標が達成されれば平和になる」と述べ、この選挙が戦争継続への“信任投票”とする意図も見える。
「プーチンチーム」にフィギュア界の“皇帝” 目指すは得票率80%超
先月上旬、ウクライナへの軍事侵攻に参加する軍人らを前に大統領選への立候補を表明したプーチン氏。首都モスクワで開かれた推薦人団体の会合でプーチン氏の支持が全会一致で決まり、今回も無所属での出馬が確定した。
「プーチンチーム」と呼ばれる推薦人団体には、フィギュアスケート界の“皇帝“プルシェンコ氏やペスコフ報道官の妻で元アイスダンス金メダリストのタチアナ・ナフカ氏など著名人も名前を連ねる。
プーチン氏は、政権与党「統一ロシア」の党大会にも出席。同党党首のメドベージェフ前大統領は、「プーチン大統領の勝利が正当であり、議論の余地がないものにしなければならない。これは党としての仕事だ」と述べ、支持を全会一致で決めた。左派系野党の「公正ロシア」も候補者を立てず、支持を決めている。
プーチン氏が政党から支持を受けながらも、無所属で出馬することには理由がある。
主に、対立する西側諸国から「独裁者」とみられないよう対立候補と争う構図をつくり、幅広く国民から支持を得て高い得票率で勝ち、「信任を得た」とアピールするためだ。
ロシアメディアによると、政権は2018年の前回選挙の得票率76.7%を上回る80%超を狙っている。反体制派の“対立候補”を押さえ込む姿勢は鮮明になった。
反対勢力は徹底的に“排除”か 「平和」掲げる女性の立候補認めず
ロシアの中央選挙管理委員会は、ウクライナ侵攻反対を掲げて無所属で立候補を届け出た独立系のジャーナリスト、エカテリーナ・ドゥンツォワ氏の提出書類に不備があるとして、登録を拒否した。
ドゥンツォワ氏は中央選管の対応をめぐり、最高裁判所に異議を申し立てたが、最高裁はこれを棄却。支援を呼びかけていたリベラル派の野党からも色よい返事はなく、立候補を断念せざるを得なくなった。
ドゥンツォワ氏は3人の子どもを育てるシングルマザーで、地方の市議会議員を経て、現在はジャーナリストとして活動する。ウクライナ侵攻に“NO”を突きつけ、「平和と自由、民主主義」を訴えていた。プーチン政権が、軍事侵攻に批判的な層や動員兵の家族などの間で支持が広がることを懸念したとの見方もある。
ドゥンツォワ氏は「ロシア人の大多数は、平和な民主主義の未来と単純な常識を望んでいる。党を立ち上げ、変革を推し進める以外に道はない」と述べ、新党の立ち上げを表明した。
また、反プーチンの急先鋒として知られ、ロシアの刑務所に服役中の反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏は、陣営を通じてプーチン氏以外の候補者に投票を呼びかける「プーチンのいないロシア」キャンペーンをおこなっている。陣営は、公式サイトに誘うQRコードを記載した巨大な看板をモスクワの市街地に設置したが、当局がその日のうちに撤去。翌日には、屋外広告へのQRコード記載を禁止する法律が成立した。
ロシアの独立系ディアは、大統領府が71歳のプーチン氏が「年寄りに見えないように」配慮して、対立候補の条件を50歳以上に設定したと報じていて、プーチン氏の脅威となりうる要素を排除し、再選に向けたお膳立てが整えられているようにも見られる。
今回の大統領選には、33人が立候補のため中央選管に書類を提出し、このうちプーチン氏を含めた自己推薦3人と政党推薦の8人、合わせて11人が受理された。自己推薦者は30万筆の署名を集める必要があるが、プーチン氏の選挙本部の報道官は、「すでに50万筆以上を集めた」と余裕をみせている。
野党第1党の共産党はハリトノフ下院議員、野党第3党の「新しい人々」はダワンコフ下院副議長を候補者に選出。極右野党「自由民主党」はスルツキー党首を指名したが、いずれもプーチン政権に協力的な「体制内野党」で、軍事侵攻にも賛成の立場。スルツキー氏は「プーチン大統領はこれまで以上に得票して勝つだろう」と公言した。
現在71歳のプーチン氏の再選はほぼ確実で、最長で2期12年、83歳までトップの座に留まることが可能になる。
“ポピュリスト”プーチン スターリン超えの“超”長期政権誕生へ
世論調査で、常に8割前後の支持率をキープするプーチン氏。
ロシア反体制機関の「レバダ・センター」が2023年10月に発表した調査では、「2024年以降もプーチン氏を大統領として期待する」と答えたロシア国民は約7割で、このうち約3割が、プーチン氏を「正しい政策を導き、国家を強化する」と評価した。
ソ連崩壊後の経済の自由化と、それに伴う混乱を乗り切り、安定した経済運営をおこなってきたプーチン氏を評価する国民は多い。
支持率維持のポイントのひとつが、世論の反応を敏感に感じ取ることだという。2018年の年金支給年齢の引き上げや、20年のコロナ禍にともなうロックダウン、ウクライナ軍事侵攻後の22年に実施した部分動員では、国民の不満を招いて支持率を下げた。
関係者は、「プーチン政権は世論の反応が悪かった政策は繰り返さない。同じ轍を踏まないよう注意を払っている」と指摘する。
年末恒例の国民との直接対話は、“ポピュリスト”プーチンにとって重要なアピールの場だ。軍事侵攻を理由に2022年は実施しなかったが、2023年は国内外の報道機関を招いた年末会見と合わせておこない、「卵の価格高騰で生活が苦しい」などの訴えに4時間超にわたり耳を傾けた。
2000年に発足したプーチン政権は、首相時代の8年を含めて約24年続いている。再選を果たせば、さらに12年、合わせて36年にわたってトップの座に君臨することになり、ソ連の最高指導者スターリンの29年を上回る“超”長期政権が誕生する。
まもなく3年目に突入するウクライナ侵攻は、終わりの見えない戦いが続いていて、プーチン氏は「目標を達成すれば平和が訪れる」として、「ウクライナの非軍事化、非ナチ化」を果たすまで軍事侵攻を継続する強硬な姿勢を示した。
3月17日の大統領選挙では、この軍事侵攻でロシアが一方的に併合したウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州、南部のヘルソン州とザポリージャ州でロシア大統領選の実施が決まった。翌18日はクリミア半島を併合した日で、ことしは10年目の節目。選挙の勝利=信任として、さらなる占領地の拡大に乗り出す可能性もある。
戦時下でおこなわれる異例の選挙。動員兵の母親や妻らがSNSで早期帰還を求める声をあげるなど、国民の間で軍事侵攻に対する不満は依然少なくないものの、プーチン氏の再選はほぼ確実で、終わりの見えない戦いはことしも続きそうだ。

 

●選挙イヤー2024年、米大統領選が中東・ウクライナの展望を左右 1/4
2024年は、米国をはじめとして世界全体で少なくとも50カ国(総人口約20億人)で国政選挙が予定されている。
ロシアのプーチン氏は3月の大統領選で再選を果たすことはほぼ確実。イスラエルのネタニヤフ首相の運命は、パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの戦闘にかかっている。戦闘が終了すればすぐ、ネタニヤフ氏がその地位を追われるというのが多くの関係者の見方だ。
ただ世界にとって最も重要なのが、11月に行われる米大統領・議会選、そして現在共和党候補指名争いで圧倒的な優位に立つトランプ前大統領が返り咲くかどうかであるのは言うまでもない。
米大統領選で誰が勝つのか、またはより抑制がきかなくなり、既存体制への反発心が増したトランプ氏が権力の座に就けばどう行動するかの予想が難しいことが、世界各地で起きているさまざまな紛争の推移の理解を助ける要素となる。
もっと簡単に言えば、あらゆる勢力は、11月の選挙で米国の外交政策が一変する前に、自分たちに有利な立場を築きたいと考えているのだ。
そうした動きこそが、現在の国際的な勢力関係の大半を物語っている。具体的には、より威圧的になったライバルたちと、低下しつつもなお強い国力を有する米国が対峙する構図。その米国は内政面では分断化が一段と進んでいるように見える。
ロシアのウクライナ侵攻や、中国による台湾威嚇とフィリピンへの軍事圧力からは、ロシアと中国が、つい最近までなら米国の友好国や同盟国に対して行使するなど考えられなかった手段を積極的に用いようとしている姿勢が読み取れる。
バイデン政権は、これを意図的に米国の力を試す行為と受け取り、米国は不要なエスカレーションを回避しつつも同盟諸国を支援する必要があると主張している。
ただそれが困難な道のりであることは、もう明らかになってきた。イスラエルのガザにおける戦闘は、米国の影響力が限定的になり得ることを実証した。ネタニヤフ政権は、米国の一般国民から自制を求める声が強まっているにもかかわらず、米国の幅広い支援を失わずにガザで思う存分に行動できると信じているのは間違いない。
米国にとっては厄介なことに中東地域で火の粉が広がる兆しが出てきている。イエメンの親イラン武装組織フーシ派による紅海での商船攻撃もその一つだ。
さらにまだあまり大きく取り上げられていないが、専門家はスーダンとミャンマーの内戦も24年中に拡大してもおかしくないと警告している。その背後にはロシアと中国の影が見え隠れする。
中東情勢は一層緊迫化
中東情勢は24年序盤に一層緊迫化し、11月の選挙を控えた米国はますます手が回らなくなるとの懸念が浮上している。
最悪の場合、複数の危機が相互に影響し合うかもしれない。ウクライナの戦争が世界の食料価格をつり上げ、貧困国や紛争地域の人道危機をさらに悪化させたように。
ウクライナや東欧諸国の間では、米国や西欧諸国が武器支援を十分に果たしてくれないとの不満が渦巻いている。共和党が追加の軍事支援に反対しているほか、「トランプ政権」になればウクライナ支援を打ち切ってロシアとの和平を強要する展開が現実味を帯びるだけに、24年はそうした不満がもっと大きくなりそうだ。
一方トランプ氏が大統領になった場合、中国に対してどういう出方をするのかは予測がつかない。
1月13日には台湾で総統選が行われ、今のところ与党・民進党候補の頼清徳氏が勝利して中国との緊張が続く公算が大きい。台湾情勢に加え、中国とフィリピンの南シナ海の領有権争も、フーシ派の商船攻撃と同じようにバイデン政権が選挙前に情勢悪化を防ぎたい問題になる。
トランプ氏が大統領選に勝利すると、プーチン氏がロシアの軍事力強化をさらに進め、総動員を行ってウクライナへの攻勢に乗り出すのではないかとの見方も出ている。
6月には欧州各国の議会選がある。今年11月のオランダ総選挙で極右政党が勝利したことを受け、極右勢力への支持がもっと広がるかどうか注目される。今年9月にスロバキアでナショナリスト政権が誕生し、ウクライナ支援打ち切りを表明しただけに、極右の伸張はプーチン氏にとって有利な要素とみられる。
英国では24年中に行われる総選挙でキア・スターマー氏率いる野党労働党が政権を奪回しそうだ。インドはモディ首相の再選が見込まれている。
●2024年、日本にとっても世界にとっても覚悟の年 1/4
波乱の予感
明けましておめでとうございます。
さて、世界はウクライナ戦争、ガザ戦闘収まらず混沌に向かっている。今秋の米大統領選は、トランプ優勢というかバイデンのボロが隠せなくなって来て、民主党はカリフォルニア州のニューサム知事に差し替えようか、ミシェル・オバマを担ぎ出そうかと言う感じになって来ている。
シナリオは大別すれば、1トランプすんなり再選、2バイデン or 後継候補の当選、3そもそも選挙が行われず内戦状態になるか、1か2の後に内戦状態になる、に分かれる。何れにせよ牢屋にぶち込まれても当選してしまうかも知れぬ勢いのトランプに、民主党陣営はあらゆる手を打ってくるだろう。
一番可能性が高いのは、3となりそうな予感もするが、仮にそうなったとして早急に収まって欲しいものである。
もしトランプすんなり再選となった場合には、氏が予てから吠えているように、先ずウクライナ戦争の調停に乗り出し、恋人のように仲の良いプーチンの線に沿ってクリミアの安堵、ロシア本土とのその回廊ともなる南東部四州を厚めに切り取ってロシアに帰属させ、休戦or停戦or終戦の「ディール!」とするだろう。
現在ガザ戦闘で燃える中東には、氏の中東平定策を以て、これまたプーチンと調整の上で強制着陸の瀬踏みを打つも、こちらの方は宗教絡みの積年の怨念渦巻く状況であり、不動産王時代の自慢話がこれでもかと延々と続く著書「ザ・アート・オブ・ディール」のように意外と小技も繰り出し、鎮火を模索するのではないか。だが、それも失敗し第三次世界大戦に拡大する可能性もあり予断を許さない。
日本の覚悟
さて、日本としては、台湾情勢と北方領土が気懸りだ。筆者は予てから中国がロシアをジュニアパートナーとした中露疑似同盟間に楔を打ち込んで離反させ実質的な「日米露三国同盟」若しくは三国協商を結びインドを筆頭としたグローバルサウスも巻き込んで、拡大中国包囲網を築かぬ限り台湾は中国の手に落ち、北方領土は返って来ない処か北海道にロシアが進駐しかねないと危惧を抱いている。
いや、それどころか習近平率いる電脳監視独裁国家に世界覇権を握られれば、世界各国が柵封されウイグル、チベット化しかねない。これを阻止する事は人類最大の国際的大義である。
トランプ再選は、その中核装置と成り得る日米露三国同盟の最大にして最後のチャンスとなろう。日本は機運を逃さぬよう今からその準備体操に入るべきだが、きっしーは論外として安倍氏亡き後、日本にその大局観ある政治家在りや。
とは言え、トランプ再選となるか、バイデン or 後継候補の当選となるか、内戦となるかは未確定であり、それ自体について基本的に日本と日本人が手出し出来る事ではない。
幕末の志士の一人で、政治家、思想家の横井小楠が遺した言葉に下記のものがある。
   堯舜(ぎょうしゅん)孔子の道を明らかにし
   西洋器械の術を尽くさば
   なんぞ富国に止まらん
   なんぞ強兵に止まらん
   大義を四海に布かんのみ
これに倣い筆者は、世界がどう転ぼうと日本は主体性を持って、外交に於いては「国際的大義を伴う長期的国益の追及」、内政に於いては「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会の構築」に向かうべきと考える。
戦争、宗教対立、テロ、大事故、パンデミック、エネルギー・食糧危機、スタグフレーション、経済恐慌、テクノロジーの光陰、天変地異がパンドラの箱からこちらを覗き出番を待っているように筆者には感じられる。
2024年は、世界にとっても、日本にとっても正念場の年となろう。
●イランで爆発、約100人死亡 殺害司令官の墓近辺 「テロ攻撃」と当局 1/4
イラン南東部ケルマンで3日、爆発が2回あり、エイノラヒ保健相によると、95人が死亡、211人が負傷した。政府当局者は「テロリストによる攻撃」という認識を示している。犯行声明は出ていない。
国営テレビによると、2020年に米軍の無人機攻撃で殺害されたイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の墓のある墓地で行われていた追悼式典中に爆発が発生した。1回目の爆発から20分後に2回目の爆発があったという。
地元当局者は国営イラン通信(IRNA)に対し、「墓地に通じる道沿いに仕掛けられた爆発物2つがテロリストの遠隔操作によって爆発した」と語った。
ライシ大統領は「凶悪かつ非人道的な犯罪」と非難した。国営イラン通信(IRNA)によると、ライシ大統領は事件を受け、4日に予定していたトルコ訪問を中止した。
最高権力者ハメネイ師は声明で「間違いなく厳しい対応が取られる」と警告したほか、バヒディ内務相も「イラン治安部隊による強力かつ断固たる対応」が取られると言明した。
他国からも非難の声が上がり、ロシアのプーチン大統領は、イラン指導部に哀悼の意を表した上で、罪のない人々に対する攻撃は残虐で衝撃的とし、「いかなるテロ」も非難すると述べた。ロシア通信社RIAノーボスチがロシア大統領府(クレムリン)の声明を報じた。
こうした中、コッズ部隊のガアニ司令官は、爆発が「シオニスト政権(イスラエル)と米国の工作員」によるものと主張。国営テレビは、群衆が夜間に墓地に集まり、「イスラエルに死を」、「アメリカに死を」と叫ぶ映像を放映した。
米国務省のミラー報道官は記者会見で、米国はいかなる形でもイランの爆発に関与しておらず、イスラエルが関与していると信じる理由もないと述べた。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官も、米国はイスラエルが爆発の背後にいた兆候を確認していないと述べた。
●2024年も世界を見るためインドの動きに注目か 1/4
2024年はどのような年になるだろうか。特にインドを念頭に置いた場合、インドの外交は変化するだろうか。日本で関心を集める点があるとすれば、インドの対中戦略が変化するか、ということであろう。
高まるインドと中国の警戒感
23年、インドの対中戦略は、非常に強いものだったといえる。20年に死傷者多数だした衝突以降続く、印中国境における緊張によって、モディ首相は、習近平国家主席との接触を極力避けてきた。
両指導者が直接会談したのは、南アフリカで開かれた新興5カ国(BRICS)首脳会談の際だけである。そのBRICS首脳会談で緊張緩和に進むかと思われたが、その直後に中国が出した自国領を示す地図にインドが主張する領土が含まれていたこともあって、その雰囲気は一瞬で消し飛んだ。
インドは23年、7月の上海協力機構と9月の主要20カ国・地域(G20)の議長国であった。だから、その際に、インドと中国の指導者が会談する可能性もあった。しかし、インドは上海協力機構の首脳会談はオンラインにしたし、9月のG20に習氏が出席しなかった。もともと中国が自国の存在感を示す場として利用してきたG20は、今年、インド主導で、主要7カ国(G7)とグローバルサウス各国の首脳が中国抜きで話し合う場になったのである(「G20からの中国追い出しと西側へ顔向けた議長国・インド」)。
インドはグローバルサウス各国に呼び掛けた会議も行ったが、自国もグローバルサウスと主張する中国には招待状を出さなかった。グローバルサウスにおけるインドと中国の影響力争いが激化しつつあり、インドの警戒感と中国の警戒感は双方とも激化しつつある。
一方、インドは日米豪印4カ国による連携の枠組み「クアッド(QUAD)」各国との間で防衛協力を進めつつある。23年春には、中国全土を爆撃できるB-1爆撃機がインドに展開し、日本もオブザーバー参加して、日米印共同演習を実施した(「印中国境の米印軍共同演習に日本が参加する意義」)。
24年1月26日のインド共和国記念日の軍事パレードの主賓として、インドはQUAD各国の首脳を招待している(ただ、結局調整がうまくいかず、24年はフランスのマクロン大統領になった)。23年実施は見送られたものの、24年に日米豪印英仏空軍の戦闘機と6カ国のオブザーバーを含む共同演習「タラング・シャクティ」も企画している。
問題はこうしたインドの外交姿勢が24年に変化するか、である。もしこのような姿勢が変化するとしたら、何が考えられるだろうか。多くの要因があり得るが、少なくとも以下の3つは影響を与えるだろう。
モディ首相のタクトに影響する総選挙
インドは今年の春、総選挙を迎える。現在、下院の過半数はモディ首相率いるインド人民党(BJP)が握っており、上院も意見の近い政党との協力をするだけで過半数を獲得できる状況にある。
モディ首相は、比較的自由に政策を決めることができる状態にある。しかし、逆に言えば、状況が変われば、インドの政策は変わるかもしれない。
インドの世論調査を見る限り、モディ首相個人の人気は揺るがないものがあるが、与党BJPの人気はそれほどでもない。インドは広い国なので、地方に行けば、地方に有力な政党がいる。だから、最終的にBJPは過半数とることができるのか、さまざまな予測が出ている。
もし仮に、モディ首相もBJPも圧勝するならば、現在の政策は引き継がれることになろう。もし、BJPが過半数をとれず、連立する場合でもモディ政権が維持されるなら、政策的には継続する可能性がある。ただ、現在見せているようなモディ首相の実行力は落ちるだろう。
1990年代のバジパイ政権はBJP主導の連立政権だった。そのころに近く、連立相手に配慮しながらの政策決定になろう。
一方、野党が連立を組む場合、インドの政治は大きく変わる可能性がある。野党の場合、強力なBJPを倒すために、政治的な意見が違ってもいいから手を組むことになる。そうなると、右派から左派までいろいろな意見が集まった、「烏合の衆」的な政権が樹立されるかもしれない。
2014年にモディ政権が成立する前、インドの政治はまさにさまざまな意見の政党が含まれた連立政権だった。それは実行力に反映された。
特に、米国との防衛協力関係には、常に共産党などの左派政党が反対し、思い切った政策ができなかったのである。米国との防衛協力を進めるために、大きく3つの協定が協議されていたのであるが、交渉開始は2000年代初めなのに、15年近く交渉は進まず、成立したのはすべて、14年にモディ政権が成立してからだ。
24年の選挙で野党が勝った場合は、そのような時代に戻る可能性がある。左派やロシアとつながりのある、いわばQUAD強化に反対する政党が連立に入る可能性は、野党の連立政権の方が、右派のBJP主導の政権に比べ、高いだろう。米国や他のQUADとの協力関係は、進まない時代になるかもしれない。
軋轢の火種がくすぶる米国の選挙結果
24年のインドの外交姿勢に大きな影響を与える要素として、やはり米国大統領選挙がどうなるか、その予測が影響を与えることになるものと思われる。
過去の経緯を見ると、一見すると、米印関係は、米国政権が共和党であろうと、民主党であろうと、関係ないようにみえる。実際、米印関係は、民主党のクリントン政権、共和党のブッシュ政権、民主党のオバマ政権、共和党のトランプ政権、民主党のバイデン政権と、一貫して強化されてきた。中国からの挑戦に対抗するためにインドと組む必要があるという認識は、米国の共和党・民主党を問わないものだから、と考えられる。
しかし、細かな点を見ると、火種がくすぶりつつある。特に、米国では、インドの民主主義が後退しているとの指摘がでている。また、西側各国に潜伏するシーク教徒過激派指導者に対する暗殺にインド政府が関与しているという疑惑も取り上げられるようになっている。
このような火種に対する対応は、米国の政権が共和党、民主党によって異なるものになるかもしれない。民主党の方がイデオロギー的な色彩が強く、共和党の方が防衛問題重視の傾向がある。民主党政権では、インドの民主主義、シーク教徒過激派暗殺の問題がよりクローズアップされるかもしれない。
新たな戦争・危機
最後に、無視しえない要素がある。それは新しい戦争や危機が起きることだ。ここ3年、毎年、大きな危機が生じ続けているから、次の1年で何も起きないとみるのは楽観すぎるだろう。21年に米軍のアフガニスタン撤退とタリバン政権の成立、22年にロシアのウクライナ侵略、23年にハマスによるテロ大規模攻撃が起きている。
これらの戦争や危機は、米国の対中戦略と関係して起きている。米国はアフガニスタンやヨーロッパ、中東から撤退し、インド太平洋に戦力や労働時間を集中させようとしている。しかし、この再配置は、上手にやらないと、問題を作り出す難しいものになってしまう。
まず、アフガニスタンでは撤退の際に米国の権威は失墜してしまった。権威が失墜すると、他の国も動き出す。
ロシアのウクライナ侵略は、米国がアフガニスタン撤退で権威を失ったころから、準備が進められてきた。もともと、米軍のヨーロッパ駐留兵力は、以前いた10万人から2万人減少させていたから、ヨーロッパが手薄な状況になりつつあった。そこにアフガニスタンからの撤退が起き、バイデン政権の実力が低くみえてしまった。プーチン大統領は「勝てる」と思い込んだ可能性がある。
さらに、米国の中東からの撤退も、ハマスの攻撃につながってしまった。米国は中東でイスラエルの保護とイラン封じ込めをできるようにしてきた。そのために、イスラエルとサウジアラビアを国交正常化させ、米国が撤退しても「留守番」ができるように画策した(「中立なインドがハマス攻撃でイスラエルを支持する理由」)。
トランプ政権末期に、米国がイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化をアレンジした時は、それがイスラエルとサウジアラビアの合意に結びつくようにみえた。政権の動きが早く、勢いがあったからだ。しかし、その後、バイデン政権になって、人権問題でサウジアラビアに制裁をかけ、この勢いは断たれてしまった。
その後3年、イスラエルとサウジアラビアの国境正常化は実現しなかった。その時間はハマスに味方したのである。
ハマスにとっては、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化は、ぶち壊しにしたい合意であった。イスラエルと合意したアラブ各国は、パレスチナ問題への関心を失うことが予測されたからだ。
ハマスは2年かけて周到なテロ攻撃を準備し、イスラエル対アラブ、といった形での戦争を起こし、この国交正常化交渉をぶち壊しにすることに成功したのである。
多くのケースで絡むインドの存在
このような経緯を見る限り、現在のバイデン政権は、反米勢力から狙われている。米国の次の大統領が決まる前に、バイデン政権の下で、次の戦争や危機が起きる可能性はある。
それは中国がらみであれば、台湾周辺かも知れないし、印中国境かも知れない。動くのは北朝鮮かも知れないし、イランかも知れない。
どの戦争や危機が起きたとしても、インドは対応を迫られる。その決断は、インド外交が今後、どういう方向性に進むか、影響を与える可能性があろう。
具体的には、米国が頼りないことが強調されると、インドは、QUADとの協力よりも、独自の道へ進もうとする傾向を強めるかもしれない。そうではなく、QUADが協力して対中国政策を一致させることができるよう、強く望むものである。
●ウクライナ、捕虜200人超交換 ロシアの侵攻開始後「最大規模」 1/4
ウクライナ政府は3日、ロシアとの戦争捕虜の交換によって、ウクライナ軍兵士ら230人が帰国したと明らかにした。ロシア国防省は、248人の捕虜がロシアに帰国したと発表した。ウクライナ側によると、捕虜交換は2023年8月以来となり、22年2月の侵攻開始以降で最大規模となった。
アラブ首長国連邦(UAE)が捕虜交換を仲介した。ウクライナメディアが伝えた当局者の話によると、23年12月時点でウクライナ人捕虜は少なくとも3500人いた。
帰還者の中には、南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所での抗戦に参加した兵士も含まれている。6人は違法に連行された民間人だという。
●ロシアとウクライナが230人超の捕虜交換 兵士や“違法連行”の民間人も 1/4
ロシアとウクライナが、戦争の捕虜交換によって、それぞれ230人を超える兵士らを解放した。
ウクライナ当局は3日、ロシア側との捕虜交換で230人の兵士らが帰国したことを明らかにした。
解放された中には、違法に連行された民間人6人が含まれているとしている。
捕虜となっているウクライナ人は、少なくとも3,000人以上いるとみられ、ウクライナのゼレンスキー大統領は「すべての捕虜の帰還に向けて交渉を続ける」と述べた。
一方、ロシア国防省側も、捕虜となっていた248人のロシア軍兵士が帰国したことを明らかにした。
捕虜の交換は、中東のUAE(アラブ首長国連邦)の仲介で5カ月ぶりに行われ、2022年2月に軍事侵攻が始まって以来、最大規模となった。
●ロシア 戦闘長期化見据えウクライナの防衛産業標的か 英国防省 1/4
ロシア軍が年末年始にウクライナに対し攻勢を強めていることについて、ロシアが戦闘の長期化を見据え、ウクライナの防衛産業を標的にしているとの見方が出ています。
ロシア軍はウクライナに対して先月29日、軍事侵攻が始まって以降最大規模の攻撃をしたのに続き、新年となった今月2日にも大規模な攻撃を行うなど攻勢を強めています。
これについてイギリス国防省は3日、SNSで「去年の冬にエネルギー施設が標的となったのとは対照的に、最近のロシア軍の攻撃は主にウクライナの防衛産業をねらっているようだ」との分析を明らかにしました。
そのうえで「戦闘の長期化に備え、防衛産業の力がますます重要になっていることをロシアが認識していることはほぼ確実だ」として、戦闘の長期化を見据えてロシアが一時的に攻撃の標的を防衛産業に変えたとの見方を示しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は国内で兵士の装備品や無人機などの武器の生産能力を強化したい考えで、アメリカなどの軍事産業とも連携したいとしています。
これに関連してアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシア軍の攻撃について「欧米との共同生産を模索するウクライナの努力を混乱させようとしている可能性が高い」と分析しています。
●英提供のウクライナ掃海艇、トルコが通航認めず 黒海の輸出ルート、米英と溝 1/4
ロシアに侵略されたウクライナから黒海を経由した農産物の輸出ルートの安全を確保するため、英国がウクライナに掃海艇の供与を決めたことに関し、黒海と地中海を結ぶボスポラス、ダーダネルス両海峡を管理するトルコが掃海艇の通航を認めず、供与は当面先延ばしとなった。北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコはロシアとウクライナの双方と関係維持を図る独自外交を展開しており、今回の措置で英米などNATO諸国との溝が一層深まる可能性がある。
英国は昨年12月、ロシアがウクライナ産の農産物の海上輸送を妨害しようと、同国の港湾の周辺に機雷の敷設を図っている兆候があるとして、機雷除去のための掃海艇2隻を供与すると発表した。
英国は北欧ノルウェーと協力し、黒海でのウクライナの掃海能力の強化支援を進めており、掃海艇の供与はその中心的取り組みに位置づけられていた。
ところが、トルコ政府は今月2日、交流サイトX(旧ツイッター)に出した声明で、戦争中に交戦国の艦船が両海峡を通航するのをトルコが制限できるとした1936年のモントルー条約を根拠に、「ウクライナに供与された掃海艇は戦争が続いている間は海峡を通れない」と表明した。
トルコは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始直後、両国の艦船の海峡通過を制限すると発表したが、ウクライナ南部クリミア半島のセバストポリを母港とする露黒海艦隊は制限の影響を受けずに黒海で作戦行動が可能だ。
一方で条約は、通航の可否は最終的にトルコの判断で決められるとしており、英国の取り組みに事実上の横やりを入れる今回の措置はNATOの結束に改めて影を落としそうだ。
●五輪の未来 IOC自らが閉ざすのか 1/4
1924年にパリ五輪が開催されてから100年の今年夏、聖火が再びパリにやって来る。聖火は5月から平和を告げる使者としてフランス全土をめぐる。世界で争いが続く今、「普遍の平和」という五輪のメッセージはどこまで人々の心に届くだろうか。
国際オリンピック委員会(IOC)は昨年12月、ウクライナ侵攻を続けるロシアと同盟国ベラルーシ両国の選手について、パリ五輪参加を容認すると決めた。
もちろん条件付きである。国歌や国旗の使用を禁じた。団体競技の出場は認めず、個人の中立選手に限る。軍に所属する選手なども除外する。
昨年12月時点で出場資格を得た選手の総数は約4600人で、そのうちロシア、ベラルーシ勢は約10人だという。IOCにしてみれば、極めて“クリーン”な少数の選手しか参加できないとの目算だろうが、数の多寡が問題ではない。
「五輪憲章」では、オリンピズムの根本原則をこう表す。「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てる」
ロシアのプーチン大統領はウクライナの「非武装化」や「中立化」を確保するまで軍事侵攻を継続すると表明している。根本原則を貫くなら、東西冷戦終結後の国際秩序を根底から覆し、非人道的な軍事行動を重ねるロシアの参加など認められない。
一方、憲章はこうも記す。「権利および自由は(中略)政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身(中略)などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない」。ロシア、ベラルーシ勢に対して参加の道筋を閉ざす決断は、理念に反することになる。
参加の可否の判断を先送りしてきたのも、このジレンマをIOCは抱え続けてきたためだ。
水面下での調整を進めたうえでの結論とはいえ、ウクライナをはじめ、強く反発する国や国際競技団体は少なくない。一方のロシアも「差別的だ」と批判を募らせる。
2021年の東京五輪を思い返したい。新型コロナウイルス禍で、なぜ五輪の存続が多くの人に受け入れられたのか。困難から逃げずに立ち向かうアスリートと、それを支える周囲の献身的な姿に、五輪の本質である相互理解や連帯を見たからだ。
東京五輪以降、IOCはその精神をより広く浸透させる努力をしてきただろうか。憲章との矛盾を抱えたままでのIOCの決断は、五輪の未来を自ら閉ざしているように思えてならない。 
●2024年 ロシア軍事侵攻が影落とすパリ五輪 1/4
2024年。ことしはパリでオリンピックが開かれますが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が影を落とすことになりそうです。
Q)パリオリンピックが開かれる新しい年、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中で迎えましたね。
A)はい。年末年始もミサイルなどによる攻撃が止むことはありませんでした。
ロシアによる軍事侵攻が始まったのは2022年、北京での冬のオリンピックの直後だったので、ことし夏のパリ大会は、侵攻後初めてのオリンピックとなります。
IOC=国際オリンピック委員会は去年12月、ロシアと同盟国ベラルーシについて、国としての参加は認めず、選手については「中立な立場の個人資格」で参加を認めると発表しました。
そのうえで、
・軍の関係者や軍事侵攻を積極的に支持する選手は認めないこと、
・チームとしての出場は認めないこと、
また、
・個人の参加についても具体的には各競技団体が判断すること、
・大会にはロシアとベラルーシの政府関係者も招待されないことになりました。
ところがこの決定に、ウクライナ、ロシア・ベラルーシの双方が反発しています。
Q)どのように反発しているのでしょうか。
A)ウクライナ政府は、ロシアによる軍事侵攻で400人ちかくの選手やコーチが犠牲になったとして、どのような条件であっても両国の選手の参加を認めること自体「無責任」だと厳しく非難しています。
一方ロシアとベラルーシの政府も、両国の参加が制限され、決定は「差別的」だと主張しています。
ロシアは2018年のピョンチャンの冬の大会から国としての参加を認められていませんが、これまでは組織的なドーピングの疑いが理由でした。
しかし今回の決定は軍事侵攻が大きな理由となります。
ロシア国内では、ガザに侵攻するイスラエルの参加が認められるのはなぜなのかという不満もくすぶっています。
Q)ロシアは今後どう対応するつもりなのでしょうか。
A)プーチン大統領は、IOCの決定は差別的でオリンピックの精神に反している。また商業主義を強め、スポンサーの意向に左右されていると批判し、条件を分析して今後の対応を検討するとしています。
このようにプーチン大統領は主張しますが、これまで組織的なドーピング疑惑と軍事侵攻によって、スポーツ、そして「平和の祭典」とされるオリンピックをないがしろにしてきたのは、ほかならぬロシアだったのではないでしょうか。
Q)オリンピックと国際政治を切り離すことは難しそうですね。
A)そのことを改めて浮き彫りにしています。
国連総会では去年11月、パリオリンピック・パラリンピックの期間中、世界のあらゆる紛争の休戦を呼びかける決議が採択されましたが、ロシアは棄権しました。
またロシアは、パリオリンピックの後、友好国を集めたスポーツ大会を開催する計画で、このことは国際スポーツの分断を深めることにつながりかねません。
パリオリンピックがどのように行われるのか、ことしは、オリンピックと“戦争”の関係が問われる年となりそうです。
●トルコ、英船通航を認めず ウクライナに譲渡の掃海艇 1/4
トルコ政府は4日までに、英国がウクライナへの譲渡を発表した掃海艇2隻について、トルコが管理する地中海と黒海を結ぶ海峡の通航を認めないと発表した。ロシアとの関係を維持するトルコが、ウクライナ支援を妨害した形だ。
黒海はウクライナ産穀物輸出の主要ルートだが、ロシア軍が機雷の敷設を図っている可能性がある。英国防省は昨年12月、ウクライナによる黒海の安全確保の取り組みを支援するため、海軍の掃海艇2隻を譲渡すると発表していた。
これを受け、トルコ政府は今月2日「ウクライナに譲渡された掃海艇は戦争が続いている間、トルコの海峡を通過して黒海に向かうことは許可されない」と表明した。

 

●プーチン氏、ロシア軍などと契約の外国人に国籍付与へ 大統領令 1/5
ロシアのプーチン大統領は4日、ウクライナでの「特別軍事作戦」で軍などと契約を結んだ外国人とその家族にロシア国籍取得を認める大統領令を発表した。
ロシア軍をはじめ「軍事組織」と最低1年間の契約を結んだ外国人が国籍を申請できるとしており、民間軍事会社ワグネルのような組織にも適用される可能性がある。
兵役経験を持つ外国人の入隊に新たなインセンティブを設ける狙いがあるとみられる。
●「軍事ケインズ主義」進めるプーチン 2024年のロシア経済 1/5
ロシアのRIAノーヴォスチ通信は暮れに、2023年のロシア経済十大ニュースを発表した。それを整理すると、以下のとおりとなる。
   1. 経済の崩壊ではなく成長が生じた
   2. 記録的な失業率の低さ(それと裏表の人手不足)
   3. 物価沈静化に奔走も年末には卵が高騰
   4. ガソリン不足
   5. 為替安定のため対策に追われる
   6. 過去最大の財政歳出
   7. 冶金・化学の大企業中心に超過利潤税を課税
   8. 富豪YouTuberの課税逃れに対する取締強化
   9. 石油輸出国機構(OPEC)+の枠組みでの石油減産続く
   10. 対露制裁拡大、ロシアは友好国との連携強化
トップの項目にあるとおり、無謀なウクライナ侵攻を続け、国際的な制裁包囲網を敷かれながら、23年もロシア経済が崩壊することはなかった。23年に国内総生産(GDP)が3%前後のプラス成長を記録することは、確実視されている。プーチン大統領に至っては3.5%成長という見通しまで示している。
「プーチンの言うことは信用できない」という読者のために、コンセンサス予測というものを紹介しておこう。これは、ロシアの「発展センター」というシンクタンクが、内外の専門家を対象に主要経済指標の見通しに関するアンケート調査を実施し、それを平均して定期的に発表しているものなので、一定の信憑性がある。
表に見るのは、最新の11月2〜14日の調査結果であり、これによれば23年の成長率は2.6%となっている。24年以降も、1%台半ばと決して高くはないものの、一応はプラスの成長が続くという見通しである。
ロシア経済に関する最近の論評を眺めていると、しばしば目にするのが、「経済の過熱」という言葉である。むろん、そこにはさまざまなひずみが潜んでいるにしても、今のロシア経済が「不況」から程遠いことだけは、認識しておくべきだろう。
ロシア軍の弾は切れなかった
もっとも、マクロ経済的に考えれば、ロシアが悪くない成長率を示しているのも、道理ではある。戦争は究極の景気対策とも言える。
今のロシアのように、財政赤字を厭わず、軍事支出を拡大すれば、目先の経済が成長するのは当然だ。経済を牽引する役割を意図的に戦争に託そうとする路線は、「軍事ケインズ主義」と呼ばれるが、プーチン・ロシアは確実にその道を歩み始めている。
実際、最新のロシア鉱工業生産統計を参照しても、伸びが目覚ましいのは軍需部門である。ある専門家によれば、現状で鉱工業生産の伸びの少なくとも3分の2は、軍需および関連部門によってもたらされているという。
そこで、鉱工業生産の中で、特に軍需と結び付いていると考えられる部門を選び、それぞれの生産水準がどう推移してきたかを、グラフにまとめた。選んだのは、「その他の完成金属製品」(砲弾などはここに含まれると思われる)、「コンピュータ・電子・光学機器」、「航空・宇宙機器」の3部門である。
グラフに見るとおり、軍需関連部門は、きわめて特徴的な季節変動を示している。ロシアでは年初に経済活動が落ち込むのが通例だが、軍需関連部門はとりわけ1月、2月の生産水準が低調である。それが年の後半にかけて拡大していき、年末にピークを迎えるというのが、軍需のパターンとなっている。
ロシアの財政は1月始まり・12月終わりなので、国家発注を年度内に消化するために、年末に生産が急増するものと考えられる。23年はまだ11月の数字までしか出ていないが、12月の生産が再び顕著に伸びるのは確実だろう。というわけで、軍需生産は一直線に伸びているわけではなく、大きな季節変動を伴ってはいるが、その生産水準が全般的に高まっていることは歴然である。
12月19日にロシア国防省で恒例の拡大幹部評議会が開催され、プーチン大統領、ショイグ国防相が演説を行った。この席でプーチン大統領は、23年の国防発注は約98%達成される見通しだと述べ、軍需産業の成果を誇ってみせた。
ショイグ国防相はさらに具体的に、軍需産業の稼働状況について語っている。国防相によると、22年2月の開戦以来、ロシア軍需産業における生産は、戦車で5.6倍、歩兵戦闘車で3.6倍、装甲兵員輸送車で3.5倍、ドローンで16.8倍、砲弾で17.5倍に拡大したという。
むろん、これらの数字は慎重に吟味すべきであるものの、現時点でプーチン政権が軍需産業の面からの継戦能力に自信を深めていることは、間違いないと思われる。
大砲とバターの両立
ロシアの国家財政も、意外にしぶとかった。一つには、ロシア財政の柱である石油・ガス歳入が踏みとどまったことが大きい。
エネルギー担当のノバク副首相が先日述べたところによると、23年の石油・ガス歳入は9兆ルーブルほどに達しそうということである。これは、上半期に価格が高騰した22年の11.6兆ルーブルには及ばないものの、21年の9.1兆ルーブルにほぼ匹敵する規模である。さらに、最近のロシア政府は、超過利潤税、新たな輸出税など、非石油・ガス歳入の確保にも余念がない。
23年の連邦財政の歳出は、過去最大の32.2兆ルーブルに膨らむ見通しである。それでも、上述のとおり歳入が確保できているので、屋台骨は揺らいでいない。
23年のロシア連邦予算は元々、対GDP比2.0%の赤字で編成されていた。しかし、実際にはそれよりも良好に推移しており、先日シルアノフ財務相が述べたところによると、対GDP比1.5%程度の赤字で済みそうということであった。かくして、財政が破綻しプーチンが戦争を続けられなくなるというシナリオもまた、遠のきつつある。
24年のロシア連邦予算では、前年をさらに上回る36.7兆ルーブルの歳出が計上されている。とりわけ、物議を醸しているのが、国防費の大幅増である。
24年の国防費は10.8兆ルーブルに上っており、これはGDPの実に6.0%に相当する。ロシアの国防費は22年まではGDPの3%程度だったから、そこから倍増する形だ。しかも、軍事関連の歳出は他の費目の中にも隠れており、実際の国防費はもっと多いはずという指摘もある。
それでは、軍事費が肥大化している分、国民生活にしわ寄せが及んでいるかというと、これが必ずしもそうなってはいないのだ。少なくとも、大統領選が終わる24年3月までは、国民にそれを実感させないように配慮している。その典型例は公共料金の光熱費であり、23年はずっと据え置きで、次回の値上げは24年7月に決まっている。
18年5月にスタートした現プーチン政権において、国民の支持率がガクっと下がった出来事があった。同年6月、受給年齢を10年間かけて段階的に5歳引き上げるという年金改革を決定し、国民の大反発を食らったものである。サッカー・ワールドカップ開幕のどさくさに紛れて発表したにもかかわらず、それでも国民の反発はすさまじかった。おそらくプーチン政権のトラウマになっていると思われる。
最近、プーチン政権が神経質になっているものに、卵の値上がりがある。23年に卵は59%ほど値上がりし、国民の不満が募っている。政府は慌ててトルコやアゼルバイジャンから関税を免除して卵を緊急輸入することを決めた。ウクライナ侵攻や反体派弾圧では情け容赦ないこわもてプーチンが、卵ショックにはうろたえているというのは、興味深い現象である。
ナワリヌイは北極送り
プーチン大統領は12月8日、24年3月の大統領選に出馬する考えを表明した。ウクライナでの戦況という不確定要素はあるにしても、再選に向け、これといった死角は見当たらない。公正な選挙をやっても、プーチンは過半数くらいとれるはずであり、ましてや公正な選挙ではないのだから、80%以上を得票して圧勝するのが既定路線である。
暮れになり、反体制派のリーダーであるナワリヌイ氏が、西シベリア北部のヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移送されたことが明らかになった。政治犯をシベリア送りにするのはロシアの伝統だが、今回は北極送りである。
ナワリヌイ氏は、必ずしも絶大な人気を誇るわけではないが、獄中からでもメッセージを発し、ロシア政治を流動化させる触媒的な役割を果たすポテンシャルは秘めている。プーチン政権としては、そうしたリスクの芽を摘んでおくために、北極圏の監獄で厳重に監視することにしたのだろう。
筆者には、ウクライナ侵攻に反対する運動や、ナワリヌイ氏解放を求める大規模なデモが近い将来にロシアで巻き起こることは、想像できない。しかし、ロシア国民も、自分に身近な社会・生活の問題で怒りを覚えれば、立ち上がることもある(さすがに上述の卵では無理かもしれないが)。しかも、政治デモなどと異なり、プーチン体制は生活に根差した庶民の要求を弾圧はしにくい。
気になるのは住宅市場
そうした観点から、筆者が注目している分野に、住宅市場がある。ロシア国民は持ち家志向が強く、無理な借金をしてでも、住宅を買いたがる傾向がある。目下、それが過熱し、住宅バブルが発生している。
ただ、不思議に思う読者もいるだろう。ロシアでは、年末に政策金利が16%にまで引き上げられている。そんな高い金利で、ローンを組み住宅を買う人がいるのだろうか、と。
実はそれにはからくりがあり、プーチン政権は数年前から、持ち家促進政策として、一定の条件を満たした住宅購入者には、国の補助で優遇金利を利用できるようにしている。その制度を使えば、新築住宅を買う人は年利8%で、幼い子供がいる家庭は6%で、ローンが借りられる。
ウクライナ侵攻開始後、ロシアの住宅市場はしばらく不活発だった。それが、23年半ば頃から、急にバブル的な様相を呈するようになった。優遇ローンの利用条件が段階的に厳格化される見通しとなり、ルーブル下落が進み、市場金利が急上昇したため、ロシア国民特有の「すぐにでも不動産に換えて資産を守らなければ」という心理が働いた結果であった。
当然のことながら、上昇する一方の市場金利は敬遠され、国の補助による優遇ローンに申し込みが殺到した。23年の前半まで、新築住宅購入のローンに占める優遇ローンの比率は3分の1くらいだったが、同年暮れには85%程度を占めるまでになった。なお、現時点では、国の補助による優遇ローンが利用できるのは24年6月までとされており、これがさらに特需に拍車をかけている。
当局も住宅市場の過熱は問題視しており、優遇ローンの利用条件を厳格化するため、頭金の比率を段階的に引き上げ、12月には30%とした。それでも、消費者金融で頭金の資金を借り、優遇ローンに申し込むような者もいるという。ロシア中央銀行は、こうした状況が金融市場の健全性を損なうリスクを、強く警戒している。
思えば、08年のリーマン・ショックも、発端となったのは米国のサブプライム住宅ローン問題だった。ロシアの住宅バブルがすぐにはじけて、春の大統領選を左右するとまでは行かないだろうが、この問題が今後プーチノミクスのアキレス腱になっていく可能性はある。
●ロシアがウクライナに対し「北朝鮮供与の弾道ミサイル使用」=米高官 1/5
アメリカは4日、ロシアが全面侵攻を続けるウクライナに対し、北朝鮮から供与された弾道ミサイルと発射装置を使用しているとの見方を示した。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、こうした武器供与について、北朝鮮政府によるロシア支援をめぐる「重大かつ懸念すべきエスカレーション」だと述べた。
そして、アメリカは国連安全保障理事会にこの問題を提起し、武器の譲渡を促進しようと動いている人物に追加制裁を科すとした。
ロシア政府は、こうした協力関係を否定している。
ただ、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は昨年9月にロシアを訪問した際、ウラジーミル・プーチン大統領と軍事協力の可能性を協議している。
アメリカはこれまで、北朝鮮政府がロシアに武器を供与していると非難してきた。しかし、900キロ先の目標物に到達できる自動誘導式の弾道ミサイルに関する詳細を、米情報機関が共有したのは今回が初めて。
カービー氏は4日、ホワイトハウスでの記者会見で、ロシアが北朝鮮から弾道ミサイルを調達する行為は、数々の国連安保理決議に直接違反するものだと述べた。
「我々は、ロシアが国際的な義務に再び違反した責任を、ロシアに負わせることを要求する」
また、ロシアにはイランの近距離ミサイル購入計画があると、アメリカは考えているものの、ロシアは実際にはまだ購入はしていないと、カービー氏は述べた。
イギリスは、ロシアが北朝鮮から調達した弾道ミサイルをウクライナで使用したことを「強く非難する」とした。
「北朝鮮は強力な制裁体制の対象になっている。ウクライナにおけるロシアの違法な戦争を支援する北朝鮮に、高い代償を確実に払わせるため、我々はパートナー各国との連携を継続していく」と、英外務省の報道官は述べた。
ウクライナ支援のための追加予算承認を求める
カービー氏は記者会見で、ウクライナ支援のための追加予算を「遅れなしに」承認するよう米連邦議会に求めた。
「ウクライナ国民に対するロシアの恐ろしい暴力行為に、最も効果的に対応する方法は、不可欠な防空能力やその他の軍事装備をウクライナに提供し続けることだ」とカービー氏は強調した。
「イランと北朝鮮は、ロシアを支持している。ウクライナ人には当然、アメリカ国民と米政府が味方であり続けるということを知らせておくべきだ」
ホワイトハウスは昨年12月27日、2億5000万ドル相当の武器などを提供する内容の、ウクライナへの軍事援助パッケージを承認した。新たな議会承認を必要とせずにバイデン政権が提供できる、最後の支援枠だった。
連邦議会では野党・共和党が、ウクライナ支援継続を認めるには、同時にアメリカ・メキシコ国境の不法移民対策強化がセットでなくてはならないとの立場を譲らず、協議が停滞している。
ウクライナは西側諸国からの追加援助が速やかに得られなければ、戦争遂行と財政が危機的状況になると警告している。
●NATO ウクライナ交え大使級の協議開催へ 防空力の強化を検討 1/5
ウクライナでは、4日、ロシア軍の攻撃が続き、各地で民間人の死傷者が増え続けています。こうした中、NATO=北大西洋条約機構は大使級の協議を来週開き、ウクライナを交えて防空力の強化を検討する見通しです。
ロシア軍は4日、ウクライナ各地に砲撃を行い、地元当局などによりますと、ウクライナ中部のキロボフラード州にある工業施設が破壊され、1人が死亡したほか8人がけがをし、東部ドネツク州でも1人が死亡するなど民間人の死傷者が増え続けています。
こうした中、NATO=北大西洋条約機構は、ウクライナと協議を行う枠組みNATOウクライナ理事会を10日に大使級で開催すると明らかにしました。
これは、ロシア軍によるウクライナへの年末年始の大規模攻撃を受けてウクライナ政府が開催を要請したもので、ウクライナのクレバ外相はSNSで「主要議題の1つは、ウクライナの防空能力の強化についてだ」としています。
一方、ロシアのプーチン大統領は4日、ウクライナへの軍事侵攻が続く間に、最低1年間、ロシア軍などと契約を結んだ外国人とその家族がロシア国籍を取得できるようにする大統領令に署名しました。
今回の措置は、戦闘が長期化する中、ロシア軍に入隊を希望する外国人を増やし、兵力を増強するねらいがあるものとみられます。
●なぜ宗教は争いを生むのか。現実世界を動かす「宗教」というファクター 1/5
宗教的確執を抱えるロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス戦争が勃発、国内では安倍元総理銃撃事件が起こるなど、人々の宗教への不信感は増す一方だ。なぜ宗教は争いを生むのか? 国際情勢に精通した神学者と古代ローマ史研究の大家が、宗教にまつわる謎を徹底討論——。
近代合理主義の限界と宗教の影響力
本村 古代ローマ史を研究してきた僕から見ると、いまの歴史教育はルネサンス以降、あるいはフランス革命以降の近代史を重視しすぎて、前近代が軽視されているように感じます。
もちろん、自分たちにとって身近な時代のことを知りたいのはわかりますし、たしかに近代について学ぶのは大事だとは思いますよ。とはいえ、5000年に及ぶ人類の文明史のうち、4000年は古代ですからね。切り捨てていいわけがありません。
ところが高校の世界史の授業でも、古代からやっていると時間が足りなくて20世紀までたどり着けないという理由で、近代史から始めたりしています。それはいいことです。しかし、身近な時代は馴染みやすいので自分の感覚で理解できる面がありますが、遠い昔のことはリアリティを感じにくいですよね。だからこそ、前近代、とくに古代のことは本来より深く勉強する必要があるでしょう。
それに、長い前近代史は、その後の歴史を読み解く上でのひとつのモデルとしても重要です。とりわけ宗教の問題は、現代の社会でも避けて通ることができません。いまも世界情勢に大きな影響を及ぼしているユダヤ教、イスラム教、キリスト教という一神教は古代地中海世界で生まれました。
そしてロシア・ウクライナ戦争など、現代の国際問題を捉える上で宗教的視点は欠かせません。そこで今回は、国際情勢に詳しく、キリスト教の神学者でもある佐藤さんと、近代社会における宗教の存在意義や、宗教と戦争との関係などについて、じっくり語り合いたいと思いました。
佐藤 近代的な価値観や常識は、必ずしも人類史全体に通用するものではありません。しかも近代という枠組みそのものが、二〇世紀以降はいろいろな意味で限界を迎えようとしています。
したがって、いまは近代とは異なる世界像について考えを深めなければいけないと私も考えていました。そのためには、前近代史の専門家の力を借りる必要があります。そういう意味で、こうして本村さんとお話しする機会が得られたのは、私にとっても大変ありがたいことです。
18世紀的な近代合理主義は、ロマン主義的な反動もある程度はあったものの、一応は19世紀を乗り切りました。しかしその後、近代的な合理主義と科学技術の発展が何をもたらしたかといえば、第一次世界大戦における大量殺戮と大量破壊です。その時点で、すでに近代の限界は見えていました。
ところがその問題が解決されないうちに、第二次世界大戦はアメリカが物量にものを言わせて勝ってしまった。これは「合理的なやり方をしたほうが勝つ」という意味で、18世紀型の戦争です。
その結果、第一次世界大戦で見えた近代の限界が、第二次世界大戦では逆に見えにくくなりました。自由と民主主義を謳歌し、物量をたくさん生産できる経済力を持つ者が強い──という話になったわけです。
「マインドコントロール」は宗教だけの話ではない
本村 なるほど。そのためわれわれは、限界を迎えたはずの近代合理主義であるのに、その枠組みからまだ抜け出せていない。しかし実際には、近代合理主義では割り切れない「宗教」というファクターが、国外でも国内でも常に社会に影響を及ぼしていますよね。
佐藤 とりわけ2022年は、宗教をめぐってさまざまな問題が噴出した嵐の年でしたね。日本国内では、安倍晋三元総理の銃撃事件によって、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題が浮上しました。じつはこの問題をめぐる議論の中でも、近代合理主義の限界が露呈しています。
というのも、旧統一教会を批判する人たちのロジックは、単純な啓蒙思想に基づいています。「宗教のように非合理なものを信じて多額の金を寄付するのは、マインドコントロールによって理性を失っているからだ」というわけです。
しかしマインドコントロールによって非合理なものを信じることは、宗教にかぎらず、あらゆる局面であるわけですよ。たとえば「厳しい受験競争に勝って難関大学に入学すれば将来は安泰だ」と信じている受験生やその保護者も、そういうマインドコントロールを受けていると言えます。
本村 それこそ人権思想を多くの人々が信じているのも、ある意味では近代社会によるマインドコントロールの結果と見ることもできますからね。歴史的には、たとえばヨーロッパで起きた1848年革命が、人々が人権思想に洗脳されたと見ることができる最たる出来事です。この年に、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって『共産党宣言』が刊行されています。
約半世紀前に起きたフランス革命もあって、人権思想が人々に浸透した結果、普通選挙の実現を拒否した王政に反発して革命が起こり、フランスは第二共和政に移りました。まだ領邦国家が群立するイタリアにすら人権思想が広まり影響がもたらされたほどで、ヨーロッパ中がある種のマインドコントロール下にあったと言えるでしょう。
近代社会でなくとも、ローマでは共和政に対する信奉が根強く、これも見方によってはマインドコントロールと捉えることができます。カエサルがこの体制を破壊したことで、暗殺にすら発展しているわけです。マインドコントロールはごく自然に起こっている。
佐藤 おっしゃるとおりです。旧統一教会問題では、被害者救済のための新法にこの「マインドコントロール」なる文言を入れるかどうかが議論になりました。これは、きわめて危うい議論です。
たとえばキリスト教なら、「生殖行為なしに生まれた男の子が救い主となり、その救い主は死んでから三日目に復活した」という教義が、ほとんどの教派で採用されています。こんな非合理な話を信じているのですから、キリスト教徒はほぼ全員がマインドコントロールされていることになる。したがって、もしマインドコントロールを法律で禁止できるとなれば、キリスト教を禁止できることになるわけですよ。
本村 世界中が大騒ぎになって、戦争になるでしょうね。実際、八世紀に中世スペインで起きたレコンキスタ(国土回復運動)がそうでした。キリスト教徒、ムスリム(イスラム教徒)、ユダヤ教徒がこの土地には共存していたわけですが、キリスト教徒がムスリムたちを追い出そうとしたわけです。1492年に成功したものの長きにわたる混乱に陥りました。
一方で、それとは反対に東のオスマン帝国は非常に寛容で、国教はイスラム教でも、キリスト教徒やユダヤ教徒も受け入れています。とくにユダヤ商人の活躍は、オスマン帝国が繁栄する大きな要因にもなりました。マインドコントロールを禁止するとなると、宗教を互いに認めることは不可能になってしまう。
佐藤 それを議論すること自体が危険すぎますよ。そういう危うさに対して鈍感になってしまうのが、啓蒙思想というマインドコントロールの怖いところです。
近代的な思考に限界があること自体は、日本では1980年代にいわゆる「ポストモダン」的な思想が嵐のように吹き荒れて以降、みんな口やかましく言ってきました。ところが、いざ日常的な問題を前にすると、単純な啓蒙思想で片づけようとするんです。
もうひとつ、多くの人々が依存しがちな考え方があるとすれば、ナショナリズムですね。国民国家の概念も前近代にはなかったものですが、いまはそれが自明の枠組みであるかのように語られる。18世紀的な啓蒙思想と19世紀的なナショナリズムによってほとんどの物事が動いているのが、現在の世界です。
疫病・戦争・飢餓をめぐる「ハラリ・モデル」の崩壊
本村 啓蒙思想もナショナリズムも、近代の産物にすぎません。人類の文明史全体から見れば、最近になって出てきた新しい枠組みです。しかしそれが普遍的な「常識」だと思い込まれているから、疑おうとしないんですよね。
イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは、『ホモ・デウス 〜テクノロジーとサピエンスの未来』(柴田裕之訳/河出書房新社)という著書で、人類は疫病、戦争、飢饉を撲滅する時代に近づいていると言いました。すでにそれらが「撲滅された」と言ったわけではありませんが、その本が出てから間もなく、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生したのは皮肉です。
まあ、いまから考えれば、疫病についてはハラリの予想どおりにならないことは十分にあり得ました。しかし戦争に関しては、「もうそれほどひどい争いは起きないのではないか」と現代人が考えていたのはたしかだと思います。
ところが、ハラリの予想を嘲笑うかのような戦争がウクライナで始まりました。前近代史をやっている私の目には、フランス革命以前の時代に覇権主義を掲げて行われた戦争と似たことが起きたように見えます。そういう意味で、ロシアのウクライナ侵攻は衝撃的でした。
佐藤 いわゆる「ハラリ・モデル」の崩壊ですよね。ロシア・ウクライナ戦争だけでなく、2023年10月7日に起きたパレスチナ自治政府のガザ地区を実効支配するイスラム教スンナ派武装集団ハマスによるイスラエルに対するテロと、その後のイスラエル軍によるハマス掃討作戦も、ロシア・ウクライナ戦争以上のインパクトを国際政治にもたらしました。2018年と2020年のダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)で、ハラリは基調報告を行いました。つまりその時点までは、世界の政治エリートや経済エリートたちが、今後の世界は「ハラリ・モデル」にしたがって動いていくと思っていたわけですよ。
しかしそのモデルに反して、人類は疫病も戦争も克服できていませんでした。それに関するハラリの釈明文の翻訳が朝日新聞に載りましたが、ほとんど説得力がありませんでしたね。私の見立てでは、すでに時代はハラリからエマニュエル・トッドに移っているんです。
トッドの『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(堀茂樹訳/文藝春秋)には、ハラリに関する言及も引用も一切ありません。それ自体が、ハラリに対する彼の端的な評価だと思います。おそらくトッドの認識では、ハラリなど視界に入れる水準にも達していないエセ学者ということなのでしょう。
本村 人口動態学を基本に据えて、家族類型によってデモクラシーを分析したところがトッドの慧眼ですね。
人間を救済するはずの宗教が残虐性や暴力性を見せる時
本村 さて、家族形態が「無意識」レベルで社会を動かすと考えるトッドは、宗教も同じように位置づけています。かつてはユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの宗教が「意識」レベルで社会生活の枠組みを決めていたけれど、現在は「無意識」に押し込められた形で社会を動かしている、というわけですよね。
佐藤 そうです。世俗化が進んでも、宗教システムに由来する信念などが部分的に延命されているんですよね。たとえば人々がカトリック教会に行かなくなっても、その社会にはカトリックのモラルが残っているわけです。トッドはそれを「ゾンビ・カトリシズム」と呼んでいますね。
本村 古代史研究をしていると、叙事詩などの古典作品は、古ければ古いほど人々が神々の世界を身近に感じていたような印象を受けます。メソポタミアの『ギルガメシュ叙事詩』はもちろん、古代ギリシャで書かれたホメロスの叙事詩でも、神々が人間に働きかけているんですね。人間が神の声を聞くというのは、市民にとってごく自然なことだったはずです。
しかし、時代を経るごとにその感覚が徐々に薄れてきたわけです。神の声を直接的に聞くことができなくなっていきました。ただし、現在でも無意識のレベルで神々は人々の中に存在しています。そのため、人々の信仰の違いが表面には表れていなくても、宗教的な対立がなくなったわけではありません。本来、宗教は人間を救うものですが、それが戦争や暴力を助長することもあります。
佐藤 人間を救済するはずの宗教が、一方で、時に残虐性や暴力性を見せるということは、歴史の中で何度も繰り返されてきました。今世紀に入ってからも、われわれの世界は二度、大きな衝撃を受けたと思います。
一回目の衝撃は、2001年9月11日。アメリカで発生した同時多発テロです。それ以前から、宗教とからみ合った紛争は世界各地で起きていましたが、それらは中東やアフリカの民族間戦争、あるいはスリランカの内戦など、いずれも局地的なものでした。アメリカのど真ん中で宗教的な誘因が入った形での重大なテロが起きたのは、それらとは比較にならない衝撃です。
ただあの一件では、ひとつ頭の片隅に置いておかなければいけないことがあります。あのテロは当初からアルカイダの仕業だと見られていましたが、その一方で「白人至上主義者によるテロかもしれない」という見方もありました。現実にはそうではなかったとはいえ、そういう見方が出てくるということは、アメリカにおいては白人至上主義がキリスト教原理主義と結びつく形での暴力的な運動もあり得るということです。
本村 いずれにしろ、宗教は暴力を引き起こすことができるわけですね。9・11以降のイラク戦争の顛末を見ると、悪者であるサダム・フセインに何でも結びつけて、アルカイダ一味の滅亡を図っていることは明らかでした。その後のイラク戦争は、誰が見てもおかしなことだと、われわれ日本人なら思うわけです。
それがアメリカ社会では受け入れられた。宗教と暴力の関係があったからこそ、フセイン悪、イスラム悪という図式がアメリカ人の頭にはあったという気がしますね。
「正教 対 悪魔崇拝」の価値観戦争になったロシア・ウクライナ戦争
佐藤 そういうことです。そして、宗教の暴力性をわれわれに思い知らせた二番目の衝撃が、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻でした。これも、ある意味で「宗教戦争」なんですよね。
ただしこちらは、イスラム原理主義対キリスト教という構図の同時多発テロと違って、キリスト教内の宗教戦争です。
本村 なるほど。一般的には、そうは見られていませんよね。同一宗教間の戦争といえば、17世紀前半にドイツで起きた三十年戦争が有名です。これも、新旧キリスト教間での戦いでした。1648年にウェストファリア条約において和平が認められたことで、その後に国民国家の理念が出来上がっていきました。
今回のロシア・ウクライナ戦争というのは、この三十年戦争に見られた同一宗教内の争いに似ており、非常に前近代的な覇権争いのように見えます。
佐藤 西側からすると「民主主義陣営」対「独裁国家」という非宗教的な図式になるわけですが、そもそも民主主義の根幹にある近代的な人権思想は、神の権利が維持できなくなったから生まれたものです。「神権」が「人権」に変わったんですね。ですからこれは、ある意味で、西側のカトリック、プロテスタント諸国において世俗化した宗教的な価値観でもあるわけですよ。
本村 まさに「無意識」レベルの話ですね。時が経つにつれて、神々の仕業だと考えられていたものが次第に科学などに置き換わっていく。そうなると神々を中心に回っていたはずの世界が立ち回らなくなってしまい、人間が中心に置き換わる。こうして神権の延長線上に人権があると考えれば、「民主主義陣営」の宗教的側面も浮かび上がってきます。
佐藤 そうです。とはいえ、これは最初から宗教戦争だったわけではありません。開戦当初は、ウクライナ国内のロシア系住民の処遇をめぐるロシア・ウクライナ間の戦争でした。
本村 そうですよね。もはや忘れられてしまった感もありますが、そもそもは「西方のロシア系住民をウクライナのネオナチから解放する」という話でした。
佐藤 しかしアメリカは、この戦争を「民主主義対独裁という価値観の戦争だ」と位置づけました。一方、もともとは地域紛争の枠組みで考えていたロシアでも、2022年9月30日に転換が起こるんです。「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」、ヘルソン州とザポロージャ州の併合を宣言した演説の中で、プーチンが、同性愛や性別適合手術などを受け入れるような価値観に覆われている西側世界は「純然たるサタニズム(悪魔崇拝)の特徴を帯びている」と言ったんです。
これが、ひとつの分水嶺でした。ロシア側も、「正教対悪魔崇拝(サタニズム)」の価値観戦争に切り替えたわけです。だからそれ以降は、西側もロシアもこれを「価値観戦争」という枠組みで認識しているわけですね。
もちろん西側の価値観は世俗化されているので、宗教性はあまり前面に出しません。しかし、それが剥き出しになっている部分もあります。
たとえば、ウクライナのアゾフ連隊の奥さんたちに、フランシスコ教皇が会ったことがありました。さらにフランシスコ教皇は、イエズス会系のウェブ雑誌『アメリカ』での発言で、「今回の戦争でもっとも残虐なのはブリヤート系とチェチェン系だ」と、特定の民族と残虐性を露骨に結びつける偏見をさらしてもいます。この発言は、のちにバチカンが撤回しましたけれどね。
いずれにしろ、キリスト教の暴力性がこれほど露わになった現象は久しぶりのことです。宗教と暴力の問題は正面から見るべきですが、意外とロシア・ウクライナ戦争が孕んでいる宗教の暴力性に気づいていない人が日本には多いんですよ。
しかしこの戦争はおそらく片がつくまでに10年ぐらいかかりますし、日本はG7の中で本土がロシアと直接国境を接している唯一の隣国です。アメリカはアラスカでロシアと国境を接していますが、アラスカは飛地なので地政学的意味が異なります。それを考えたら、事態は楽観できません。西側とロシアの価値観戦争によってデカップリングが進んでいることを深刻に考えないといけないと思います。
本村 近代的な民主主義が普遍的な価値観だと思い込んでいると、そういう枠組みは見えてきませんよね。この戦争はある意味で第二次世界大戦にも通じるところがあります。
日本は別ですけれども、第二次世界大戦はキリスト教内の対立戦争でもありました。しかし、一方では民主主義を守る勢力としての連合国側があり、他方では後発資本主義国家のドイツ、イタリア、日本という自分たちの生命線と領土内の安定を図った枢軸国側があったわけです。
英米、それからフランスといった勢力に対して日独伊が生命線を守る戦いであれば、民主主義が普遍的な価値観だというだけで終了していたはずです。そうはいかずに民主主義が資本主義と対立している点で、この戦争も価値観戦争と見なすことができます。
佐藤 しかもこのロシア・ウクライナ戦争に関して、日本では西側連合による圧倒的な支援を受けているウクライナのほうが強いと考えている人が多数派です。
ところが実際には、現時点(2023年7月)までにロシアがウクライナの国土を20%も占領しました。ウクライナは「反転攻勢をやる」と言ってはいるけれど、膠着状態からなかなか抜け出せません。
自由民主主義陣営とロシアのどちらが強いのか、いまはまだわかりませんが、少なくとも現時点では後者のほうが強いわけです。ロシアが占領しているのは、北海道と九州を足したのと同じくらいの面積ですからね。
本村 ある意味で、「前近代」的な陣営が「近代」的な陣営を抑え込んでいるとも言えるでしょう。しかし、こうした前近代的な価値観が、近代的な価値観と対立するというのは、珍しいことではありません。たとえば、アメリカも原理主義的なキリスト教であり、前近代的なものを持っているところがあります。
アメリカ社会の中にはアーミッシュというキリスト教のグループがあり、彼らの主義では、車にも電力にも頼ってはならない。文明的な機械を一切使わないで、自然の生活に徹するというところがある。最近ではずいぶん事情が変わったらしいですが。
歴史的に見ても、三十年戦争後のウェストファリア条約によって国民国家が出来上がっていきますが、そこには非常に近代的なものと前近代的なものが混在していました。18世紀のヨーロッパといえども、前近代的なものと近代的なものが対立しているというのが当たり前のようにしてあったわけで、必ずしもその対立で近代的なものが勝っているわけではないのです。
佐藤 LGBTQ+の人権を認めないプーチンの姿勢は、まさに前近代的ですね。「神は男と女しかつくっていない」というわけですから。それ以外のセクシュアリティを認める西側諸国は、プーチンから見れば、不自然な肉の欲によって神罰を受けた「ソドムとゴモラ」みたいなものです。
そういう価値観で動く勢力が大きな力を持っているのですから、近代的な価値観を自明のものとしていられるわけがありません。
●ウクライナ軍、東部シンキフカ付近でロ軍戦車を撃退 1/5
ウクライナ軍は4日、東部ハリコフ州シンキフカ付近での激しい戦闘の映像を公開した。ウクライナ軍によると、映像にはシンキフカに向けて進軍するロシア軍の車両や戦車が映っており、その一部がウクライナ軍のミサイルによって破壊された。攻撃を受けた戦車から兵士が逃げ出す様子も映っている。
ロイターは地形の特徴などから撮影場所を特定したが、撮影日時を独自に確認することはできなかった。
ウクライナのメディアは先月28日、ウクライナのシルスキー陸軍司令官の発言として、シンキフカへの攻撃を行ったロシア軍の戦車1両、装甲兵員輸送車3台、ロシア兵30人を排除したと伝えた。
ロシアはウクライナ東部と南部で広範囲を依然占拠しており、来月で2年を迎える戦争に終結の兆しは見えない。
ロシアは、昨年半ばに開始されたウクライナの反攻は失敗だったとの主張を展開している。前線ではこの数カ月膠着状態が続いている。
●クリミアにミサイル攻撃 ウクライナ 1/5
ロシア国防省は4日、実効支配するウクライナ南部クリミア半島上空にウクライナのミサイル10発が飛来したが、いずれも防空システムで迎撃したと発表した。ウクライナ空軍のオレシチュク司令官は「空軍パイロットと計画した皆に感謝する」と通信アプリに投稿し、攻撃を認めた。
クリミア半島にあるセバストポリのラズボジャエフ市長は「最近では最大級の攻撃」と述べ、ミサイルの破片が住宅に落下し1人が負傷したと通信アプリに投稿した。
ウクライナ国防省情報総局は4日、ロシア南部チェリャビンスクの飛行場でロシアのスホイ34戦闘爆撃機が炎上したとし、映像を公表した。 
●首がおかしい! プーチンの「外見」に違和感…「AI生成された偽物では?」 1/5
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2023年12月31日夜、国民向けに演説を行った。だがネットでは、その内容よりも映像に注目が集まっている。映像の中のプーチンの外見に「違和感」があると感じた人は多かったようで、何らかのデジタル技術が使われたのではないかという憶測が飛び交っているのだ。
新年を前に大統領が国民に向けて行うテレビ演説は、旧ソ連時代にレオニード・ブレジネフ書記長(当時)が最初に行ったもので毎年恒例の伝統行事となっている。ロシアにある11の時間帯それぞれの地域で、12月31日の深夜0時を迎える少し前から放送されている。
プーチンは今回の演説の中で、「我々は最も困難な問題を解決することができる」と述べ、さらに「いかなる勢力も我々を分断することはできない」と続けた。だがネット民が注目したのは演説の内容よりもプーチンの外見で、演説が終わった直後から、インターネット上にはプーチンの外見が現実離れしていると示唆する書き込みが投稿された。
X(旧ツイッター)で3万人のフォロワーを擁するミハイロ・ゴラブは、「プーチンの新年の演説は明らかにAIで生成されたものだ」と投稿。プーチンの演説動画を添付し、首のあたりを青い線で囲って、頭部と体のつながりがおかしいと示唆した。
不自然な首は「たるみ」か「AI生成の証拠」か
RASSELは「首のあたりを見てみろ。スーツの中におさまっていない。これは何だ?たるみすぎてスーツにおさまっていないのか?それともAI生成なのか?」と書き込んだ。ウクライナを支持するエストニアのレジーナ・バウアーはこの投稿をシェアし、プーチンの演説は「AI生成か、もしくはグリーンバックの前で撮影されて合成されたもののように見える」と投稿した。
一連の投稿は軽いノリで行われたもので、演説を行ったのがプーチン本人ではないことを示す証拠はない。本誌はこの件についてロシア政府にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。
「プーチンとAI」と言えば、今回の演説が行われる少し前の昨年12月にテレビ放送された、毎年恒例の国民との直接対話を行うイベントでも話題となったテーマだ。このときには、サンクトペテルブルク大学の学生が作った「AIプーチン」の質問に、本物のプーチンが回答するという一幕があった。
プーチンに「影武者がいるのは本当?」と質問
イベントに映像参加した、顔と声がプーチンそっくりの「AIプーチン」は本物のプーチンに対して、プーチンに何人もの影武者がいるという西側メディアの報道は本当なのかや、AIの開発に対するプーチンの考えについて質問した。
これを受けてプーチンは「あなたは私の声色や声の高さを使って話すことはできるが、私のように話せる人物は一人しかいないと思う」と回答。「それは私だ」と述べた。
プーチンは新年の演説の中でウクライナでの戦争に直接言及はしなかったが、ロシア軍を称賛し「団結」を呼びかけた。一年前は背後に大勢の兵士を従えて演説を行ったが、今回の演説の背景はクレムリンの夜景だった。
プーチンはさらに、ロシアは「国益、自由と安全、我々の価値観を守る決意を固めている」と述べ、「共通の利益のための努力が社会を団結させている」と語った。プーチンは3月に行われるロシア大統領選挙への立候補を表明しており、当選が確実視されている。当選すれば2036年まで大統領を続投することになる見通しだ。
●高い「中絶率」が軍隊と国家の存続問題 戦争長期化で「中絶阻止」強化 1/5
これも、対ウクライナ戦争長期化を睨んだ、プーチンの政策の一環なのか。ロシアでは数十年前から中絶が合法とされてきたが、ウクライナ侵攻開始以降、ロシア正教会を中心にした宗教的保守派による中絶反対の声が急激に高まっているというのだ。
ロシアの現状に詳しいジャーナリストが解説する。
「ロシアは1920年、旧ソ連時代に社会主義政権が樹立した直後、男女平等という旗印のもと、世界で初めて中絶を合法化した国で、その後スターリン政権下では20年ほど禁止されたものの、復活後は多くのロシア女性たちが妊娠中絶手術を受けています。中絶が女性の権利として認識され、ソ連時代は中絶手術が無料だったことも後押ししていました。政府の統計によれば、ソ連時代の65年には中絶手術を受ける女性は550万人以上で、95年の統計でも280万人。14年には相当減少したものの、それでも年間約93万人が中絶手術を受けており、出生数に対する割合は5割を超えます。これだけでも、ロシアの中絶率が極端に高いことがわかるはずです」
ところが、人口減少が急速に進み始めたことで、ロシアでも少子化が深刻な問題になってきた。むろんそれだけが少子化の原因ではないものの、中絶が国家の存続問題になっているとして、しだいに国内でも「中絶反対」の声が高まりつつある中、勃発したのがウクライナ侵攻だった。
「つまり、『胎児殺しは断じて許されない』と主張する中絶反対派は、この戦争によって大義名分を得たわけです。プーチン大統領としても将来に備えて、兵士になる男性は確保しておきたい。そんな両者の思惑によって、政府系病院ではすでに規制が導入されたところもあり、今後は全面的な中絶禁止に向けた動きがあるかもしれません」(同)
実際、ロシア各地ではロシア正教会や保健当局が、地元の民間クリニックに働きかけ、中絶を規制しようとする動きが相次いでいるという。
「なかには中絶を回避させた医師に報奨金を支給する地域もあります。一方、昨年12月には、飛び地のカリーニングラード州議会が中絶を勧めることなどを禁止する法案を可決しました。この法案に違反した市民には最高5000ルーブル(約7800円)、公務員には同2万ルーブル、法人には同5万ルーブルの罰金が科されることになり、政府系病院を運営する保健当局は政府の方針に基づき、女性たちに中絶を思い留まらせるよう指導していくとのこと」(同)
とはいえ、一昨年行われたロシアの世論調査では、ロシア人の72%が中絶禁止に反対しているという現実がある。
「民間クリニックでの中絶が禁止されれば、中絶薬の闇市場が拡大し、違法な中絶処置が広がる危険をはらんでいます。プーチン政権がどこまで先を見通して中絶禁止を推進しているのかはわかりませんが、本格的な規制施行までには問題山積しています」(同)
戦死者が急増し、男性の寿命に関する話題がタブーとされるこの国で、再び高まり始めた中絶反対の機運に、市民から戸惑いの声が上がっている。
●ウクライナ軍 クリミアに2日間連続 ミサイルや無人機で攻撃 1/5
ロシアに併合されている南部クリミアの奪還を目指すウクライナ軍は、2日間連続でミサイルや無人機による攻撃をしかけ、ロシア側は「最近では最大規模の攻撃だった」として警戒を強めています。
ウクライナ南部クリミアを一方的に併合しているロシアの国防省は4日「ウクライナ軍による10発のミサイル攻撃をクリミア上空で迎撃した」と発表しました。
これについて、ウクライナ空軍のオレシチュク司令官は4日、SNSで「空軍のパイロットと作戦を立案したすべての人に感謝する」と攻撃を認めました。
クリミアの軍港都市セバストポリを支配するロシア側の市長は、落下した破片によって1人がけがをしたと明らかにしたうえで「最近では最大規模の攻撃だった」として警戒を強めています。
ロシア国防省は、5日もウクライナ側がクリミアで36機の無人機で攻撃をしかけたと明らかにしていて、クリミアの奪還を掲げるウクライナ側が2日連続の攻撃で揺さぶりを強めているとみられます。
一方、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は4日、ロシアが北朝鮮から弾道ミサイルの供与を受け、先月30日や今月2日にウクライナに対し発射したとみられると記者会見で明らかにしました。
さらに、ロシアがイランからも短距離弾道ミサイルを入手しようとしているとの情報があるとしています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は4日、ロシア軍は弾道ミサイルによる攻撃がウクライナの防空システムを突破するのに効果的だと考えていると指摘したうえで「ロシアは国外からの弾道ミサイルの調達を強化する可能性がある」と分析しています。
●上川外相 欧州など歴訪へ 米で首相の公式訪問すり合わせ 1/5
上川外務大臣は5日夜からヨーロッパや北米などを訪問します。アメリカでは、ブリンケン国務長官と会談し、3月上旬で調整が進められている岸田総理大臣の公式訪問に向けたすり合わせを行うことにしています。
上川外務大臣は記者会見で、5日夜から今月18日までの日程で、ヨーロッパとアメリカ、カナダ、トルコを歴訪すると発表しました。
このうちアメリカのワシントンではブリンケン国務長官と会談し、インド太平洋や中東、ウクライナ情勢について意見を交わすほか、3月上旬で調整が進められている岸田総理大臣の国賓待遇での公式訪問に向けて、すり合わせを行うことにしています。
ヨーロッパではフィンランドやスウェーデン、ドイツなどを歴訪する予定で、北欧では男女共同参画などの分野で連携を確認することにしています。
また、オランダのハーグにあるICJ=国際司法裁判所や、ドイツのハンブルクにある国際海洋法裁判所も訪れ、法の支配に基づく国際秩序を重視する姿勢を示す考えです。
上川大臣は記者会見で「分断や対立が深まる今こそ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化することが重要で、幅広くパートナーとの連携を図り、1年間の日本外交につなげていく」と述べました。
上川外相「世界100以上の国や地域などからお見舞い」
上川外務大臣は記者会見で「これまでにアメリカや、その他のG7各国、中国、台湾を含め、世界各地の100以上の国や地域などからお見舞いのメッセージや支援の申し出を受けており、深く感謝している。例えば台湾は義援金6000万円の寄贈を発表していて、国際機関の間で調整を行っている」と述べました。
●イタリア首相“G7議長国としてウクライナ支援継続”の考え示す 1/5
ことしのG7=主要7か国の議長国を務めるイタリアのメローニ首相が4日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、議長国としてロシアの軍事侵攻の問題を中心に据える考えを伝えるとともに、ウクライナへの支援を継続する考えを示しました。
イタリアのメローニ首相は4日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談しました。
イタリア首相府によりますと、メローニ首相はことし、イタリアがG7の議長国に就任したことを踏まえ、議長国としてロシアの軍事侵攻の問題を中心に据える考えを伝えるとともに、あらゆる分野でウクライナへの支援を継続していく考えを示しました。
一方、ウクライナ大統領府によりますと、ゼレンスキー大統領はこれまでにイタリアが行ってきた支援への感謝を伝えたうえで、イタリアのG7議長国への就任を祝ったということです。
また、両首脳はウクライナが「平和の公式」と名付けて提唱する10項目の和平案について、今月、スイスのダボスで開かれる予定のG7や新興国による協議に向け、準備を進めていくことも確認しました。
外交筋によりますと、イタリアはウクライナへの支援に消極的な姿勢に傾いてきたという見方もあったことから、今回、G7の議長国として主導権を発揮する姿勢を示したことで、今後の対応が注目されます。

 

●プーチン大統領の影武者2人が毒物盛られひどい発疹 1/6
ロシアのプーチン大統領の影武者2人が、毒物を盛られたあと、ひどい発疹が出ているとテレグラムチャンネル「ゼネラルSVR(ロシア対外情報庁)」が伝えていると英エクスプレス紙が報じた。
SVR将軍と呼ばれる同メディアを運営しているのは、SVRの元上級幹部で、ベラルーシ出身の大工とされる影武者が手足と首の皮膚に発疹が現れてアレルギー反応に苦しみ、大統領府の医師の診断を受けたと伝えている。ロシア連邦保安庁とロシア連邦警護庁は、暗殺未遂の疑いで捜査を開始したと主張している。
ウクライナ軍情報機関を含む複数の情報筋も、毒を盛られたのはプーチン大統領の複数いる影武者の中の一人だと主張しているという。
プーチン氏には少なくとも3人の影武者がいるとされており、英サン紙は3日に「役に立たなくなったら全員が殺される」とウクライナの情報筋の話を伝えていた。
SVR将軍によると、致死量の毒物ではなかった可能性が高く、命に別条はないという。現在、どのように有害物質が体内に取り込まれたのか調査しているという。影武者は、プーチン大統領に代わって数多くの会議やイベントに出席しており、多くの人と接触していることからどこかで毒を盛られた可能性があると伝えている。
ロシアでは、プーチン大統領は昨年10月に末期がんの闘病の末に死亡し、影武者が大統領に成りすましているとの陰謀論が根強くはびこっている。昨年大みそかに行った国民に向けた演説を巡っても、人工知能(AI)生成された偽物説が浮上していた。
●ゼレンスキー氏、国民鼓舞 「今年を耐え抜く」 1/6
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は5日の声明で「今年を耐え抜くことは戦争自体を耐え抜くことを意味する」と述べ、国民を鼓舞した。防衛や作戦のために装備や人員を確保することが優先事項だとして「重要かつ決定的な時期だ」と訴えた。
ウクライナ東部ドネツク州のマリンカ、バフムト、アブデーフカなどで依然として激しい戦闘が続いていると述べた。トルコのエルドアン大統領と5日、電話会談し、黒海からの輸出の取り組みに対する協力に謝意を述べたと明らかにした。
●ウクライナが全て取り戻すは困難 停戦に向けたシナリオすら困難な理由 1/6
終わりが見えないウクライナ戦争。いまどんな状況なのか、今後の展開はどうなるのか。慶応義塾大学法学部教授・大串敦さんに聞いた。
ウクライナ戦争は、いまどんな段階にあるのか。2023年6月頃からのウクライナによる「大規模な反転攻勢」は、じゅうぶんな成果は得られず失敗に終わったと見ていいと思います。逆にここで持ちこたえたロシア軍が、最近は攻勢に転じているとの情報が多いようです。
私見ですが、ウクライナ軍は軍隊として分権化されている傾向があり、守りではなく攻勢に出るにあたっては全体としてバランスの取れた作戦がとれなかった。組織作りの弱い部分が、反転攻勢では出てしまったように思います。
逆にロシアは、兵器の生産能力にしてもまだかなり余裕がありそうです。開戦当初から「すぐに枯渇する」と指摘されてきましたが、その気配はない。私が調査する範囲では、大都市部での市民の生活ぶりも変わりない。ロシアという国の「基礎体力」の高さは、多くの人が見込み違いをしていたと言えます。
ロシアの世論も、動員兵の妻や母親らが早期の帰還を求めて署名活動を始めるなどの動きはあったものの、プーチンへの支持は比較的高い水準を維持しています。直接戦争の被害を被っている層以外の部分で反戦運動が高まり、反プーチン的な動きに大きくつながっていくかと言われると、私は悲観的です。
「和平」望む声も
一方のウクライナでは、「徹底抗戦だ」という世論が圧倒的に多いものの、「領土を少し諦めてでも、和平を結んだらどうか」という声がこの2カ月ほどで増えてきているのは事実です。
さらに戦況が悪くなったとき、少数派の声が増えていく可能性もありうるでしょう。そのときに「意外と世論を見ながら動く人」でもあるゼレンスキー大統領が、どう動くのか。そこは気になるところです。
ウクライナがさらに頭が痛いのは、アメリカやEUからの支援が細っていく可能性です。アメリカでは共和党の反対で、追加支援の先行きが不透明な状態。EUでもスロバキアでは9月末の選挙でウクライナ支援継続反対の政党が政権をとるなど、とくにウクライナに隣接している国々で「支援疲れ」が見られるのは確かでしょう。EUによる資金援助にハンガリーが拒否権を行使していますが、これにスロバキアなどが同調しないとも限らない。ロシアがいまだ兵器の生産能力が高いのに対し、ウクライナは西側からの支援がないと、その意思はあっても現実問題として戦い続けることはできないでしょう。
ロシアは開戦当初、「譲れないライン」として「ウクライナをNATOに入れない」「東部のドンバス(ドネツク、ルハンスクの2州)の保護」の二つを目標にしていたように見えました。いまはロシア的にはザポリージャ州とヘルソン州も併合したことになっているので、この2州も含めての要求をウクライナにのませることが目標になっているのかもしれません。
一方でゼレンスキー大統領はあくまでも「すべて奪い返す」──つまりドンバスとクリミア半島も含めたすべてを、ということをいまは一貫して譲っていません。
しかし、戦況や支援の先細りを前提にすれば、「ウクライナがすべてを取り返す」ことに関しては、かなり悲観的にならざるを得ないと思います。
開戦当初によく言われた「(開戦日の)2月24日のラインに戻す」で、譲歩をするか。でもこれにさえ、今やロシアは納得しないでしょう。あるいは、ドンバス2州とザポリージャ、ヘルソンの2州は断念した上で、何らかのウクライナの安全保障の仕組みを作り、停戦するか。
ただ、これは戦争がいったん終わり、死ぬ人が少なくなるという点で意義はあるものの、ウクライナ側に大きな禍根を残すので、良いシナリオと言えるかどうかはわかりません。ウクライナ戦争は、「停戦に向けた、よりベターなシナリオ」を思い描くことさえ、きわめて難しい。そんな状況です。 
●ウクライナ、クリミアの航空基地攻撃 攻勢強める 1/6
ウクライナ空軍のオレシチュク司令官は6日、ロシアが実効支配するウクライナ南部クリミア半島西部のサキ航空基地を攻撃したと明らかにした。通信アプリに「全ての目標に命中した」と投稿した。
ウクライナ側は4日にもロシア黒海艦隊が司令部を置く同半島セバストポリ近郊などを攻撃したと表明、クリミアへの攻勢を強めている。
一方、米シンクタンク、戦争研究所は5日、ロシア軍が数週間のうちに東部ハリコフ州クピャンスクの制圧に向け、消耗の少ない部隊を配置しようとしている可能性があると分析した。
ウクライナ側は、ロシア軍が冬の間にクピャンスクやその近郊の制圧を狙っているとみている。ロシア軍はハリコフ州を流れるオスコル川東岸からウクライナ軍を撤退させようとしていると指摘した。
北朝鮮が複数の短距離弾道ミサイルと発射装置をロシアに提供し、ロシアがウクライナへの攻撃で使用したとの米国の発表を受け、ハリコフ州知事は5日、ロシア軍が州内に撃ち込んだミサイルのうちロシアで製造されていないものがあると述べ、確認するとした。地元メディアが伝えた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日の声明で「今年を耐え抜くことは戦争自体を耐え抜くことを意味する」と述べ、国民を鼓舞した。防衛や作戦のために装備や人員を確保することが優先事項だとして「重要かつ決定的な時期だ」と訴えた。
●ゼレンスキー大統領「ことしを耐え抜く」 徹底抗戦呼びかけ 1/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は、東部などでロシア軍の攻撃が続いているとした上で「ことしを耐え抜くことは、戦争に耐え抜くことを意味する」と訴え、反転攻勢の停滞も指摘される中、国民に徹底抗戦を呼びかけました。
ゼレンスキー大統領は5日、国民に向けた動画の演説で「ことしも日々、激しい戦闘が起きている」と述べ、東部ドネツク州のアウディーイウカやマリインカ近郊、それにバフムトのほか、東部ハルキウ州のクピヤンシクなどの前線でロシア軍の攻撃が続いていると指摘しました。
そして「ことしを耐え抜くことは、戦争に耐え抜くことを意味する。重要かつ決定的な時期だ」と訴え、反転攻勢の停滞も指摘される中、国民に徹底抗戦を呼びかけました。
また、ゼレンスキー大統領はトルコのエルドアン大統領と電話会談を行ったと明らかにし、ウクライナ産の農産物の輸出ルートとなっている黒海の安全保障について、ロシア側の妨害がないようトルコ側に協力を求めました。
一方、戦況を分析するアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は5日、「ロシア軍は今後数週間、ハルキウ州クピヤンシクの占領に向けた取り組みを強化する可能性がある」と指摘しました。
この地域に展開するロシア軍がほかの地域と比べて部隊の劣化が少ないなどとしていて、作戦の強化に向けた準備を整えている可能性があると分析しています。

 

●「大統領は重い病気を患い、回復の見込みはない」“ロシア人謎のブロガー”による真偽不明情報も…プーチンは“終身独裁”を手に入れられるのか 1/7
ウクライナ侵攻を続けるロシアは、2024年3月17日の大統領選に向けて「政治の季節」に入った。政権担当二十三年になるプーチン大統領は出馬の構えで、当選すれば、2030年まで6年の続投が可能。スターリンを抜いて、20世紀以降のロシアで最長在位の指導者となる。
一方で、6月に起きた民間軍事会社「ワグネル」の反乱は、プーチン体制下で初の武装蜂起であり、政権の動揺を示した。創設者のプリゴジン氏らワグネル幹部三人が8月23日、小型ジェット機の墜落で即死した事故は、政権による粛清劇とみられる。選挙を前に、不測の事態につながる「ワイルドカード」が一掃されたことで、政権基盤は強化されたが、新たなサプライズが起きる可能性もないとはいえない。
目指すは大統領選の「記録的勝利」
プーチン氏にとって、続投は最重要課題だろう。大統領は軍最高司令官であり、退陣すれば、戦争指導ができなくなる。国際刑事裁判所(ICC)からウクライナの児童連れ去りで逮捕状を発行されており、辞めれば、国際法廷で戦争犯罪を裁かれかねない。2020年、2期続投に道を開く憲法改正を行っており、「終身独裁」を狙っているのは明らかだ。
ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」(7月19日)は、クレムリン当局者の話として、プーチン氏が80%以上の得票率で圧勝する方向で、秋に愛国イベントを開催するなど準備を開始したと伝えた。政治戦略を担当するキリエンコ大統領府第一副長官がチーフで、行政や政府系企業を総動員して記録的勝利を達成する方針という。プーチン氏が過去4回の選挙で8割の票を得たことはなかった。
ロシアの選挙は不正の多い「官製選挙」だが、政権側は盤石の体制を固めつつある。この夏、プリゴジン氏だけでなく、左右両派の反プーチン勢力が弾圧された。服役中の活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏に対して新たな裁判が実施され、19年の刑が言い渡されたほか、多くのリベラル派が拘束された。続投に反対していた極右の活動家、イーゴリ・ギルキン氏も逮捕された。
プーチン大統領(71歳)の大統領選対抗馬は、79歳の共産党委員長
クレムリンがコントロールする議会は8月、選挙監視団体の活動を大幅に規制する法律を制定した。従来の選挙では、民間選挙監視団体が不正や混乱の実態を動画で撮影して公表したが、今後は投票所や開票所の監視活動が制限される。最大の監視団体、ゴロスの幹部らも逮捕された。政権側は対立候補の人選も進めており、野党第一党の共産党に対しては、79歳のジュガーノフ委員長に出馬を要請した。これは、71歳になるプーチン氏の高齢問題が争点になるのを防ぐためで、対立候補は高齢者やアピール度の低い候補で固める意向という。
選挙までは、国民の反発を防ぐため、「安全運転」を進めそうだ。2022年9月の部分的動員令後、ロシア各地で反戦運動が発生しただけに、総動員令や戒厳令は避けるとみられる。年金や公務員給与の増額などバラマキ政策も進めそうだ。当選すれば、6年のフリーハンドを得て、民意を気にせず、戦争継続が可能になる。一方のウクライナは、長引く戦火で経済は疲弊し、国民の厭戦気分が高まりつつある。2024年11月の米大統領選で共和党候補が当選すれば、西側の結束は一気に弱まる。戦争長期化はロシアに有利とプーチン氏が考えているのは間違いない。
とはいえ、長期政権に伴うひずみや閉塞感も確実に高まっている。
プーチンが抱える“4つの不安要素”
第一に、プーチン大統領の健康問題がある。謎のブロガー「SVR(対外情報庁)将軍」は、「プーチンは重い病気を患っており、回復の見込みはない。代わりに、影武者が公務をこなしており、出番が増える一方だ」と繰り返しSNSに投稿している。真偽は不明だが、プーチン氏の動作には、かつてのマッチョぶりはみられない。
第二に、プーチン氏続投の場合、国際的孤立が長期化するとの不安がエリート層にある。ICCから逮捕状を出されたプーチン氏が外遊できる国は、旧ソ連諸国や中国程度で、大統領の任務である外交の遂行は困難だ。西側の経済制裁への経済界の不満も根強い。
第三に、軍事統制経済の長期化が経済・社会を束縛している。国家予算の半分近くが軍事費と治安対策費に充てられ、財政赤字も拡大。若く有能なIT人材など百万人以上が国外脱出した。ロシア経済は技術開発が遅れ、資源依存、中国依存体制が一段と強まった。
第四に、ロシア各地では2022年2月のウクライナ侵攻後、これまでに一千件以上の中・大規模な爆発・火災が発生。連日のように現場の動画がSNSで拡散しており、負傷者は計一万人以上とされる。過失の可能性もあるが、ウクライナ軍のドローン攻撃も激化した。ウクライナのパルチザンやロシアの反体制派のテロの可能性も憶測される。情報統制下で調査結果が公表されておらず、国民の不安や疑心暗鬼を強めている。
くすぶるロシア国内の閉塞感
ロシアの世論調査では、70%以上がウクライナ侵攻を依然支持しているが、6月のプリゴジンの乱でワグネルがロストフナドヌーの南部軍管区司令部を制圧すると、若者ら市民が大量に集まって歓声を上げ、食料を差し入れたり、スマホで撮影する動画が発信された。SNS利用が巧みなプリゴジン氏は、エリートの腐敗を非難したり、「ウクライナは主権国家だ」と戦争目的を否定したり、「即時終戦」を訴えたこともある。社会の閉塞感への不満と現状変更への欲望が、ワグネルへの歓声につながったようだ。
新興ネットメディアでは、プーチン氏の後継者予測が論じられるようになった。プーチン氏の5選が確実と言い切るのは、まだ早いかもしれない。
●プーチンの再選は確定 形骸化した選挙で強烈な個性放つ美容インフルエンサー 1/7
ロシアの大統領選が3月に行われる。33人が中央選管に立候補の書類を出し、11人が受理された。プーチン大統領が80%以上の得票率となるかどうかだけが焦点で、信任投票と化している。そんな中、美容インフルエンサー候補が注目を集めている。
選管は、ウクライナ戦争終結と政治犯の釈放を公約に掲げるテレビジャーナリストのエカテリーナ・ドゥンツォワ氏の出馬を禁止した。書類の不備だという。ライバルにはならないとみられるが、プーチン氏の意向が働いたといわれている。反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ受刑者は政治犯として服役中だ。
無風の選挙戦となりそうだが、注目を集めるのは美容インフルエンサーのラダ・ルスキフ(39)だ。12月29日にロシアのSNS「テレグラム」に「最終日に書類を受け取った中央選挙管理委員会、特に中央選挙管理委員会委員長に感謝します」と記した。
ロシア事情通は「ラダはインスタグラムとテレグラムなどでトータル80万人以上のフォロワーを持つ人気インフルエンサーですが、かなりの変人候補=Bプーチンがまともで有能に見え、プーチン人気を高めるためだけに出馬を許可されたようなものです。反体制派、民主主義推進派は候補者から排除されたので、公正な選挙をやるという体裁を整えるためもあり、クレムリンが白羽の矢を立てたという話もあります」と指摘する。
ラダは「なぜ世界がロシア人についてこれほど不満を言うのか、私はよく理解しています。なぜなら、現時点ではロシアは美女と優れたメークアップアーティスト以外には何も世界に与えていないからです。ロシア人も成長しないといけない」と主張している。
プーチン氏に勝つつもりはないというが、選挙に注目は集まりそうだ。
●日本が戦争犯罪の“抜け穴”になるおそれも…プーチン大統領に“逮捕状” 1/7
ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、2023年3月にプーチン大統領に戦争犯罪容疑で逮捕状を出した国際刑事裁判所の赤根智子裁判官が、NNNの単独取材に応じた。赤根氏は「日本が戦争犯罪のループホール(抜け穴)になるおそれがある」と指摘する。その理由とは。
ロシアから指名手配の赤根氏「夜は出歩かず、食事相手は知人のみ」
2018年、ICC(=国際刑事裁判所)の裁判官に就任した赤根智子氏。日本人としては3人目だ。22年2月、ロシアがウクライナへの侵攻を開始したことについては、「ヨーロッパで戦争犯罪が大々的な形で起きるとは思っていなかったので衝撃を受けた。自分自身も目が覚めた気がする」と振り返る。23年3月には、ウクライナの占領地からの子どもの連れ去りに関与したとして、ロシアのプーチン大統領に対し、戦争犯罪容疑で逮捕状を出す判断に加わった。
ロシア側は激しく反発し、赤根氏らを指名手配している。赤根氏は、指名手配されたことを受け、日ごろから安全面に配慮していると語った。
「私はもともと日本の検事です。被疑者による物理的・肉体的、あるいはそれ以外の脅威にさらされることがないわけではない。それに負けていては、司法の仕事は務まらない。(ロシアに指名手配されて以降)なるべく昼間に出歩き、外では飲み歩かないようにしている。食事も知人ととるようにしていて、面識がない人とは食事に行かない」
赤根氏は、自らの身に危険が及ぶことは「あり得る」と語った。指名手配されて以降、実際に怖い目にあったことがあるかについては「さまざまな関係者がいるので申し上げられない」と述べるにとどめた。
「ICCは最後の砦(とりで)」  逮捕状に有効期限なし
ICC(=国際刑事裁判所)はオランダ・ハーグにある。戦争犯罪や人道に対する罪、大量虐殺などを犯した個人を訴追して処罰するために設置された常設の国際刑事裁判機関だ。2002年に設立条約が発効し、日本は07年に加盟した。現在123の国と地域が加盟しているが、ロシアやアメリカ、中国などは加盟していない。そのため、プーチン氏が自国にとどまる限り、逮捕は困難な状況だ。ただ、ICCの加盟国を訪問すれば身柄を拘束される可能性があり、逮捕状が出たことでプーチン氏の外遊は事実上、制限されている。
赤根氏はプーチン氏への逮捕状について「3人の裁判官で慎重に相談しながら決めた」とした上で、十分な証拠があったことを強調。「日本の逮捕状とは異なり、ICCの逮捕状には有効期限がない。長いスパンで見ている」と述べ、ICCが「最後の砦(とりで)」としての役割を果たすことが重要だと語った。
日本が戦争犯罪の“抜け穴”に  法整備が急務
ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとイスラム組織「ハマス」による衝突など、世界では戦争犯罪が疑われるケースが後を絶たない。しかし、日本の法制度には戦争犯罪や人道に対する罪に関する処罰規定はないため、赤根氏は「日本が戦争犯罪のループホール(抜け穴)になるおそれがある」と指摘。法整備が急務だと訴えた。
「ヨーロッパの多くの国々には『戦争犯罪』に関する国内法がある。しかし日本には、国外で外国人が行った戦争犯罪に関する処罰規定がない。そのため、たとえば国外で起きた日本人が関わっていない戦争犯罪の容疑者が日本に“難民”として入ってきた場合、日本では何の法的措置もとることができないのが現状だ。日本は戦争犯罪者が逃げ込める場所になってしまうのではないか、日本の法制度がループホール(抜け穴)になってしまうのではないか…と懸念している。最終的には、法の世界における日本の安全保障にもつながる問題で、こうした事態をなるべく早く解消するべきだ」
――日本に戦争犯罪に関する国内法がないのは、なぜか?
「日本は戦後、ずっと平和を維持していて、日本周辺でも大きな有事が起きていない。そのため、戦争犯罪に関する国内法は必要ないという声が一番大きかったのではないか」
「ただ、ウクライナ(侵攻)の事態が起きて世界の情勢が大きく変わり、法整備の必要性が増していると感じる。正直、私自身もウクライナの事態が起きるまでは、あまり考えていなかった。ただ、今は日本の近辺で戦争犯罪が起きないという断言はできない。日本を守るのは防衛力だけではない。法の力によって“そういうことをしたら処罰されるのだ”という姿勢を示すことが重要だ」
並々ならぬ正義感 『銭形平次』の影響も…
赤根氏へのインタビューを通して感じたのは、並々ならぬ正義感だ。その強い正義感は、どこで培われたものなのかと聞くと、子どもの頃に見ていたテレビ時代劇『銭形平次』に少なからず影響を受けたという。善事を勧め、悪事を懲らす「勧善懲悪」のストーリーが好きで、検事やICCの裁判官としての仕事にも通ずるものがあると語った。
「勧善懲悪――最終的には必ず善が勝つというストーリーが非常に好きだった。誰かが悪いことをしたときは、処罰されなければならない。検事は、法律上の手続きやプロセスが大切で、有罪が認められるかという問題もあるので、単純ではない。ただ、正義のために仕事をしなければならないという気持ちは変わらなかった」
「検事として正義のためにずっと仕事を続けてきて、今もその延長線上にいる。世界でも不正義、不処罰がまかり通っている。そういうことに対して、何らかの形で法的に改善する方法を考えたい、その一心だ」
●年のはじめに考える 賄賂が人間的とされる国 1/7  
バルト諸国を除く旧ソ連圏の国々は総じて汚職天国です。「賄賂は潤滑油」と、かの地でもよく言われます。大学はじめ学校の入学や成績、車の運転免許証取得に絡むものなど賄賂は日常的です。
中でも最も身近なのは交通違反もみ消しのための賄賂でしょう。
車を運転中に交通警察官に停止を命じられて、違反切符を切られる。手続きが煩わしくて時間がかかるし、ささいな違反に難癖をつけてきた警官に口答えしたら、免許証を没収されかねないという懸念も先に立つ。
取り締まりを賄賂目当てにしている警官がいることは市民の間では常識です。
少しばかりカネがかかってもさっさと片付けたい、と思うのが人情というもの。そこで、警官に袖の下を持ち掛ける際に使われるのが、次の常套句(じょうとうく)です。
「人間的に解決しましょう」
法律はすり抜けるもの
クレプトクラシー(泥棒政治)という言葉があります。ひと握りの権力者とその取り巻きが国の富を食い物にする体制を指します。
その最たるものがロシアのプーチン体制。贅(ぜい)を尽くした「プーチン宮殿」の存在を暴いた野党指導者のナワリヌイ氏は獄につながれたままです。
昔の話になりますが、「役人に賄賂をたかられて困る」と苦情を聞かされたプーチン大統領が「賄賂をせびる連中の手を切り落としてしまえ」と毒づいたことがありました。
それが今では…。「魚は頭から腐る」ものなのでしょう。
「合意は拘束する」と教えるローマ法の精神が根付いた西欧とは違い、ロシアは、権威主義的なビザンチン文明の影響を強く受けました。
ロシアには「法は電柱のようなもの」ということわざがあります。電柱は跳び越えられるものではなく、すり抜けていくものだ、という意味です。法を軽視するロシア人気質を表しています。
腐敗役人には袖の下をもらうことに罪悪感はうかがえません。むしろ賄賂は自分のポストに見合った役得と見なしているふしもうかがえます。
帝政時代を含めロシアの支配が長かった旧ソ連圏。汚職はそこにはびこる風土病ともいえます。
欧州連合(EU)は昨年末の首脳会議でウクライナとの加盟交渉を開始することを決めました。ロシアの引力圏を脱して欧州を志向するゼレンスキー政権にとって、EU加盟は北大西洋条約機構(NATO)加盟と並ぶ悲願です。
ただし、ウクライナが乗り越えなければならないハードルは高い。EUは加盟条件に汚職対策や法の支配の確立を挙げています。
世界の汚職を監視する非政府組織トランスペアレンシー・インターナショナルによる2022年の国別腐敗度調査では、180カ国・地域の中でウクライナは116位。以前よりは改善しているものの、137位のロシアをはじめ旧ソ連各諸国とともに下位グループの常連です。
ウクライナの脱露入欧
ウクライナを支援する欧米からうるさく言われて、ゼレンスキー大統領も汚職摘発の手を強めています。
最高裁長官が判決に手心を加えた見返りに270万ドルの賄賂を受け取った容疑で逮捕・罷免されました。
各州の徴兵窓口のトップが全員解任されたこともあります。徴兵逃れと引き換えに賄賂を受け取った腐敗が蔓延(まんえん)したためです。賄賂は5千〜1万ドルが相場。ちなみに、欧州の最貧国の一つであるウクライナの平均給与は月額500ドル足らずです。
オデッサ州のトップはスペインで計500万ドル相当の別荘や高級乗用車を購入するのに汚いカネを充てていました。前線では兵士が死を賭して戦っているのを尻目に、私腹を肥やす連中が後を絶ちません。
ロシアとウクライナは一体だ、と見なすプーチン氏は、ウクライナが西を向くのが許せません。力ずくで自分の縄張りに留め置こうと侵略に及びました。これはまるっきり逆効果になりましたが。
一方、EUの加盟条件が意味するところは、ロシア的なるものとの決別です。染み付いた腐敗体質を改めるというよりも、まったく新しい社会に生まれ変わるに等しい。並大抵の努力では成し遂げられません。
加盟までには長い時間がかかるでしょう。ウクライナは初志を貫徹する覚悟を問われます。
●ロシア軍、北朝鮮製ミサイルでウクライナの兵站基地爆破 対応難しく 1/7
ロシアはウクライナとの国境のすぐ北の陣地から、北朝鮮製の弾道ミサイルをウクライナに撃ち込んでいる。
ミサイルはKN-23短距離弾道ミサイルとみられ、すでにウクライナ側に大きな損害を与えた可能性がある。あるオープンソース・インテリジェンス(OSINT)アナリストは、ロシアが使い始めた北朝鮮製のミサイルによって最近、ウクライナ軍の兵站基地2カ所が攻撃され、貴重なタンク車少なくとも9両が撃破されたとみている。
KN-23は500kgほどの弾頭を搭載する重量およそ3400kgの固体燃料式ミサイルだ。ロシアによるKN-23の入手は、ロシアがウクライナで拡大して23カ月目になる戦争が大幅にエスカレートしたことを意味する。ウクライナは同様の兵器で反撃することはできないかもしれない。
北朝鮮が自国製のミサイルを輸出することは国際的な制裁で禁じられている。だが、ウラジーミル・プーチンと金正恩という2人の独裁者がそれぞれ支配するロシアと北朝鮮の政権が、制裁をあからさまに無視し、戦争を拡大したところで、ウクライナやその支援諸国から重大な対抗措置を招くことはないと踏んでいるのは明らかだ。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は先週の記者会見で、北朝鮮がロシア側にミサイルのほか発射機も提供したことを明らかにしている。慣性誘導の弾道ミサイルであるKN-23は通常、装輪の輸送起立発射機(TEL)から発射される。射程は640kmかそこらで、照準点から32m以内に着弾するとされる。
KN-23は超強力な兵器というわけではない。というより、おおむねロシアのイスカンデル弾道ミサイルに似ている。ウクライナ軍は、保有する最高の米国製防空システムであるパトリオットPAC-2地対空ミサイルシステムで、イスカンデルをたびたび撃墜している。
だが、ウクライナにはパトリオットの発射機が3基しかない。おそらく首都キーウ、南部の港湾都市オデーサ、東部の主要都市ハルキウに1基ずつ配備されている。ほかの都市は弾道ミサイルに対して無防備な状態にある。実際、カービーの説明では、ロシア軍によるKN-23を用いた最初の攻撃で目標にされたのは南部の都市ザポリージャだった。ザポリージャはパトリオットでカバーされていない。
北朝鮮はKN-23の提供によってロシアのミサイル在庫数を増やし、先月以来、ロシア軍がウクライナに対して過去最大規模のミサイル一斉攻撃を続けるのを手助けしている。ロシア側の狙いが、防空兵器の供給が限られるウクライナ側が迎撃できる以上のミサイルを発射することにあるのは明らかだ。
ATACMSなど西側製兵器がなければ効果的な対応は難しい
ウクライナはKN-23の発射機を攻撃目標にできるかもしれないが、攻撃の手段が問題になる。ウクライナ国産のトーチカU弾道ミサイルの射程は120kmほどにとどまる。ウクライナは英国とフランスから空中発射型の巡航ミサイル、米国から地上発射型のミサイルを供与されているものの、これらについてはロシア国内の攻撃に使わないことを支援国側に保証している。
ウクライナは長距離攻撃用のドローン(無人機)を製造しているほか、古いS-200地対空ミサイルシステムを射程480kmの地対空兵器に改造してもいる。しかし、いずれも地上のKN-23ミサイルシステムを破壊できるほどの迅速さと精度で攻撃できるのかは不明だ。
そもそも、KN-23の発射機を直接狙うとすれば、ウクライナ側はミサイルの発射前、あるいは発射後十分早い時点で探知する必要があるが、それができるのかどうかすらわからない。
ウクライナは占領下のクリミアなど国内のロシア軍の後方地域への攻撃を強めることで、非対称的に対抗することもできるかもしれない。しかし、やはりその手段が問題になる。ウクライナが自国で生産している遠距離攻撃用の弾薬は月に数えるほどだ。残りの弾薬ニーズは支援国に頼っている。だが、支援国は当てにできない。
最悪なのは米国だ。米国は昨年、射程が160kmあるATACMS地対地弾道ミサイルを20発かそこらウクライナに供与したが、それ以降、ATACMSの補充を拒んでいる。
ホワイトハウスが最も強力な兵器類のウクライナへの大量供与に消極的なのは問題である。ただ、それよりもはるかに大きな問題は、米議会のロシア寄りの共和党議員らが、ホワイトハウスによる610億ドル(約8兆8000億円)規模の対ウクライナ支援予算案の採決を何カ月も拒んでいることだ。
共和党がロシアではなくウクライナを支えると決断するまで、ロシアは弾頭と合わせれば4t近くの重さになる北朝鮮ミサイルを、防御が薄くなってきているウクライナに撃ち込み続けることができる。ウクライナ側には、反撃する手段がほとんどなくなってしまうだろう。
●ロシアで潜入行 ウクライナ工作員、闇夜にSu-34爆撃機燃やす 1/7
ウクライナの工作員がロシアに潜入し、1450kmほど移動して中南部のチェリャビンスク空軍基地まで行き、雪に覆われた駐機場に夜の闇に紛れて忍び込み、ロシア空軍のスホーイSu-34戦闘爆撃機に火をつけた。
ウクライナの工作員によるロシア国内での破壊工作はこれが初めてではないが、そのなかでも最も大胆不敵なものだったかもしれない。ロシア空軍は「絶滅危惧種」になりつつあるSu-34をまた1機失った可能性がある。
ウクライナ国防省情報総局(GUR)は、このSu-34は第21混成航空師団所属のものだとしている。放火した様子とみられる動画を投稿し、「機体からなぜ出火したのか明らかになった」と皮肉っている。
ウクライナの工作員は直近では2022年10月にもロシア北西部プスコフの飛行場に潜入し、カモフKa-52攻撃ヘリコプターを爆破していた。プスコフはウクライナとの国境からおよそ800km離れている。ちなみにチェリャビンスクはウラル山脈の東麓、カザフスタンのすぐ北にある都市だ。
ウクライナが何百kmも離れたロシアの航空基地を攻撃する手段はドローン(無人機)やミサイルなどほかにもあるが、直接の破壊工作はロシアにとって最もばつの悪いものかもしれない。航空基地のセキュリティーはいったいどうなっているのだ? ロシアはいまが戦時中だということも知らないのか?
ウクライナがチェリャビンスク空軍基地やSu-34を攻撃目標に据えた理由は明らかだ。双発複座の超音速機であるSu-34はロシア空軍で最高峰の戦闘爆撃機であり、ロシアがウクライナで拡大して23カ月目になる戦争の1000km近くにおよぶ戦線で、最も活発に行動しているロシア軍機の一つでもあるからだ。
Su-34は連日のように出撃し、射程約40kmの衛星誘導の滑空爆弾をウクライナ軍の陣地に向けて投下している。ウクライナの軍人オレクサンドル・ソロニコは、強力な滑空爆弾はウクライナ軍部隊に「最も大きな恐怖を与えるものの一つ」になっていると述べている。
ウクライナはロシア空軍のSu-34を破壊するためにあらゆる手を尽くしている。先月には、南部で長距離防空システムを機動的に運用して1週間で4機のSu-34を撃墜した。もし今回火をつけられた機体が修復不能なら、戦争拡大前に150機超あったロシア空軍のSu-34は125機ほどに減った可能性がある。
ウクライナの破壊工作作戦は有効だが危険をともなう。これまでにウクライナの破壊工作員が何人も捕まり、殺害されている。最も新しいとみられるケースでは昨年8月、ウクライナと国境を接するロシア南西部ブリャンスク州に密かに越境しようとしたウクライナの工作員チームがロシア軍に制止され、うち2人が殺害されたと伝えられる。
●上川外務大臣のウクライナ訪問 1/7
1月7日(現地時間同日)、上川陽子外務大臣は、ウクライナを訪問し、キーウにてドミトロ・クレーバ外務大臣との間で日・ウクライナ外相会談等を行います。
1 今次ウクライナ訪問においては、上川外務大臣からクレーバ外務大臣に対し、現下の厳しい国際情勢においても、ウクライナに寄り添って支援していくとの姿勢は不変であるとの我が国の立場につき改めてウクライナ側に直接伝達するとともに、我が国による具体的支援やその方針につきウクライナ側に説明する考えです。
2 また、本年2月19日にシュミハリ・ウクライナ首相の出席を得て、日本で開催予定の「日・ウクライナ経済復興推進会議」を通じて、日本が官民をあげてウクライナの復旧・復興に取り組む姿勢を内外に力強く示したいとの我が国の姿勢を改めて伝達し、今後、同会議の成功に向けて、両国でいかに協力を強化していくかについても協議を行います。
3 さらに、ウクライナ側が重視する公正かつ永続的な平和実現に向けた取組、とりわけ、その実現に向けた我が国による具体的貢献の方途について、率直にウクライナ側と意見交換を行う考えです。
4 今次訪問日程においては、越冬支援のための大型電力関連機材供与式に参加するとともに、女性自身が指導的な立場にたって復興や平和構築に参画することで、より持続可能な平和に近づくというWPSの考え方を重視する観点から、女性及び子供等への支援現場を訪れる予定です。
5 今般の訪問全般を通じ、ロシアによるウクライナ侵略のような力による一方的な現状変更は決して認めてはならないとの観点から、我が国として「法の支配」に基づく国際秩序を守り抜く決意であることを示すとともに、戦争において特に脆弱な立場に立たされる女性・子供を守り、「人間の尊厳」が確保されることの重要性についても強調する考えです。
● 上川外相がウクライナ訪問、キーウで外相会談へ…支援強化の方針 1/7
外務省は7日午前、上川外相がウクライナを訪問したと発表した。同国の首都キーウでドミトロ・クレバ外相らと会談し、官民が連携してウクライナ支援を強化する方針を伝える見通しだ。ロシアによる侵略以降、日本の外相がウクライナに入ったのは2例目となる。
●侵攻戦死者遺族に支援約束 プーチン氏、クリスマスイブに 1/7
ロシアのプーチン大統領はロシア正教のクリスマスイブに当たる6日深夜、ウクライナで続ける侵攻作戦で戦死した兵士らの遺族とモスクワ郊外の大統領公邸で会談し、国の支援を約束した。タス通信が伝えた。
プーチン氏は、戦死者は「勇敢に戦った」と称賛し、遺族が必要とする支援を国を挙げて実施していくと述べた。
プーチン氏はこの後、公邸の敷地内にある教会で行われたクリスマスのミサに遺族らと共に出席した。 
●プーチン大統領の“実は…”に迫る 遅刻魔、独演会、番記者…意外な素顔も? 1/7
2023年12月8日にロシア大統領選挙で通算5回目の出馬を表明したプーチン大統領。24年2月24日にはウクライナ侵攻開始から2年を迎える。中東情勢でニュースへの登場回数は減っているが、良くも悪くも世界の注目度は変わらない。日々のニュースでは紹介できないプーチン大統領の実像の一端を、モスクワからリポートする。
疾走する公用車 プーチン大統領の“出勤”
NNNモスクワ支局が面するクツゾフスキー大通りは時折、騒音が“ピタリ”と止まる瞬間がある。このとき、車は1台も走ってない。やがて空気を切り裂くような音をまとって車列が駆け抜ける。プーチン大統領自慢の国産車「アウルス」だ。郊外にある大統領公邸から、クレムリンへの出勤風景である。
大使に言い訳…“遅刻魔”プーチン大統領
「厳粛な式典を少し遅らせざるを得なくなったことをご理解いただきたい」。23年12月4日、新任大使21人を迎える式典の冒頭で、プーチン大統領は遅刻の言い訳から始めた。実は、プーチン大統領は“遅刻の常習犯”である。
この日の予定で明らかにされていたのは「ロシア展の視察」と「新任大使との式典」。ロシアメディアは「式典」を中継すべく午後2時前からスタンバイしていたが、大統領の車列がわれわれの支局の前を通ったのが、既に午後2時すぎ。ところがその車列はまず「ロシア展」に向かったため、「新任大使との式典」は大幅な遅刻となった。
このほかにも、予定された演説の開始時間が遅れることはメディアの中では“常識”である。ロシアメディアにすら伝えられないらしいプーチン大統領の「予定」。それが公に批判されることはない。
プーチン大統領の「予定」は「未定」
こうしたことから、プーチン大統領の「予定」はほぼ分からない。モスクワ支局からは毎週、「来週の予定」を東京に報告するのだが、大イベントでない限り、事前に「プーチン大統領の動き」を知ることはできない。
12月4日もそうだった。夜になって突然、国営タス通信がプーチン大統領のアラブ首長国連邦とサウジアラビアへの外遊を伝えた。しかし、「いつ」がない。もちろん、「時間」などない。通常、プーチン大統領の日程は、ぺスコフ大統領報道官が昼頃の記者会見でロシアメディアなどに対して明らかにする。それでも「決まったら良きタイミングでお知らせします」と述べるばかり。非友好国「日本」のメディアが「大統領の予定」を知る術はない。
唯一、大統領に密着できる「ザルビン記者」とは?
ところが、このプーチン大統領の動向を事前に完全に知っているとみられる記者が1人だけいる。国営「ロシアテレビ」記者のパベル・ザルビン氏だ。42歳。地方出身で大学卒業後すぐに国営放送記者となり、2018年から番組「モスクワ・クレムリン・プーチン」のリポーターを務めている。執務室にも出入りが許されているようで、ロシアでは知られた存在である。
ちなみに、彼がリポーターを務める番組「モスクワ・クレムリン・プーチン」は、毎週日曜「夜11時頃」放送される。プーチン大統領の一週間をまとめた45分程度の番組で、登場するのは、ほぼプーチン大統領1人だ。この番組の大統領インタビューを国営メディアが速報することすらある。ザルビン記者のみが知り得ることがあるのである。
毎日、テレビに登場! 4時間超の記者会見も…
そんなプーチン大統領は、ほぼ毎日、どこかで挨拶か演説をしている。国営ニュースチャンネルは、それを必ず放送する。“毎日プーチン”状態だ。
実は、この演説は毎回かなり長い。日本のニュースで扱う場合は10〜15秒に編集せざるを得ないのだが、実際には20分から1時間半以上も話しているのも珍しくない。大統領選挙が告示されてからも変わらない強力なPR活動だ。
ただ驚くのは、メモを手にしながらとはいえ、とうとうと話し続けることである。日本の政治家でここまでできる人を知らない。23年12月14日に開いた「国民直接対話」と「大規模記者会見」の合体イベントは、実に4時間3分話し続けた。これまでの最長記録は、2008年の4時間40分。プーチン大統領は相当な雄弁家である。
自慢の高級国産車「アウルス」…黄金のロシア
話は横道にそれるが、冒頭でお伝えしたプーチン大統領自慢の公用車「アウルス」についても紹介しておきたい。大統領は以前、「メルセデス・ベンツS 600ガードプルマン」を公用車に使っていたが、18年5月7日の大統領就任式から「アウルス・セナート・リムジン」に替えた。
「アウルス」はロシアが威信をかけて開発した高級国産車ブランド。大統領公用車には防弾ガラスはもちろんのこと、パンクしても、時速60キロであればそのまま80キロ走り続けることができるタイヤも装着している。車重は約6トンで一般車の3倍以上。説明によれば「他のクルマよりも安全」なのだとか。23年9月には、極東を訪れた北朝鮮の金正恩総書記に「これが我々のアウルスだ」と自慢している。
「プーチンカレンダー」の“忖度”
日本ではまず見ない光景として、毎年秋に書店に並ぶ「プーチン・カレンダー」がある。12か月すべてがプーチン大統領の写真で占められている。製作しているのはカレンダー製作会社、新聞社、出版社で、一部300〜800ルーブル(約470〜1250円)と高くはない。販売案内には「関係者への贈り物にどうぞ」と書いてある。
大統領選を控えた2023年度版は「サングラス姿」、「柔道着姿」、「市民との歓談」など、いずれも“強さ”と“庶民性”を強調した写真が採用されている。「ウクライナ侵攻」に関する写真はない。果たして、この写真は誰が選ぶのか。大統領府なのだろうか…?
製作したサンクトペテルブルクの出版社に聞いてみたところ「大統領府が関与しているわけではない。公開された写真ライブラリーから選んでいる」というが、「古い写真を使う」のだそうで、71歳になったプーチン大統領への忖度が、そこに働いているようだ。
“プーチン死去”情報と“影武者”報道
プーチン大統領の健康問題は関心の的であることは間違いない。大手メディアが報じることはないが、ネットには時々、そうした情報も流れる。23年10月26日には、ロシアでも閲覧できるフォロワー45万人のテレグラムに「プーチン大統領が自宅で死去。医師は蘇生を中止した」というのもあった。これにイギリスの大衆紙「ザ・サン」が食いつき、その後姿を見せたプーチン大統領について「生き返ったといううわさがロシア中を駆け巡っている」と“影武者”疑惑を展開した。
確かに、毎日のようにテレビで演説するプーチン大統領が23年1月は一週間程度、姿を見せなかったことはある。この1年は、演説中によく“せき払い”もしていた。23年6月には感染症を極端に警戒する大統領が突然、南部ダゲスタン共和国を訪問し、民衆の中で写真に収まる行動に出た。今回の“死亡説”と“替え玉”疑惑の発端である。
ただ、大統領府は余裕の表情だ。ペスコフ大統領報道官は11月の講演会で「専門家は“影武者”は3人なのか4人なのか、と推測しているけれど、けさの式典に出たプーチンが、“影武者”の3人目なのか4人目なのか、それはわかりませんね」と笑い飛ばした。
プーチン氏は24年3月17日、通算5回目となる大統領選挙に臨む。当選して6年の任期を全うすれば、77歳。それでも、現在81歳のアメリカ・バイデン大統領より、まだ若いのだが…。
●ロシア兵器生産能力 多額投資で大幅増強 ウクライナによる膠着打開の戦略? 1/7
ウクライナ軍は、反転攻勢が膠着状態に陥る一方、ロシア軍が東部で攻勢を強め、厳しい状況が続く。しかも、米国そしてEU のウクライナ支援は、まだ新規の予算成立のメドが立っていない。
米政界で民主党、共和党にまたがりロシア政策に関わったフィオナ・ヒル氏は、ウクライナ侵攻でロシアが勝利するリスクについて警鐘を鳴らす。「世界におけるアメリカの地位が低下し、イランと北朝鮮が勢力を拡大し、中国がインド太平洋を支配し、中東が不安定になり、核拡散が敵味方ともに加速するような世界」。プーチン大統領が勝利する世界はどうなるのか。
2023年12月24日『BS朝日 日曜スクープ』は、米国のシンクタンク、戦争研究所に所属する気鋭のアナリスト、カテリナ・ステパネンコ氏を緊急取材。ステパネンコ氏は、両軍の戦力に大きな差はなく、ロシアの防衛線についても、これまでの戦いで得た情報から、対応が準備できると分析する。ただ、ウクライナが反撃するには、欧米の支援が不可欠とも指摘した。
さらに日曜スクープは、ロシアの軍事産業に詳しいジャーナリスト、パトリシア・マリンズ氏も取材。マリンズ氏は、ロシアの軍事企業が戦車や装甲車の生産を拡大して、前線に送り込み損失を補填していると分析し、「わずか4年前には、ロシアの軍産複合体の80%以上が 破産手続き中だった」「ロシア政府は、ウクライナ侵攻後、120億から150億ドル、日本円で最大2兆円を超える多額の投資を行い、生産体制を強化した」と指摘する。
戦時体制を整えるロシアに対して、国際社会はウクライナへの連帯を改めて示し、支援を継続することができるのか。
●今また増え続ける壁と国連の意義とは? 1/7
世界を東西に大きく分断する象徴だったベルリンの壁崩壊から35年。世界には民主主義が広まり平和と安定が訪れるかに思われましたが、新たな壁がよみがえっています。
ベルリンの壁崩壊から35年
1989年、東西ベルリンを分断する壁が壊されます。
自由の喜びを知った東側の人々の間に民主化への機運が高まり、翌年、東西ドイツが統一。東欧諸国でも、次々と社会主義政権が倒れ、自由と民主主義に向かう動きは加速します。
そして1991年、その波は大国・ソビエト連邦をも崩壊させたのです。
東西冷戦時代、「鉄のカーテン」を挟んで、にらみ合いが続いた、西側のNATOと、ソ連を筆頭とする「ワルシャワ条約機構」。この軍事同盟もソ連崩壊によって消滅します。
冷戦崩壊を嘆いた人物は今
こうした光景を驚きを持って受け止めた、一人のソ連工作員がいました。当時30代のプーチン氏。彼はソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と嘆いたのです。それから30年余り…
ロシアの大統領となったプーチン氏はウクライナに侵攻。
プーチン大統領「紛争が激化し、犠牲者が増えているのはすべては西側の責任だ」
プーチン大統領が侵攻の大義の一つに掲げたのが、西側の軍事同盟であるNATOの拡大阻止。現在その加盟国は31カ国に達しています。
プーチン大統領「(NATOの)軍事インフラにはその脅威に応じた対抗措置をとる」
まるで冷戦時代に逆戻りしたかのように、新たな「東西対立」の壁が築かれようとしているのです。
「歴史の終わり」著者は今
冷戦終結当時、世界中でベストセラーとなった本があります。フランシス・フクヤマ著「歴史の終わり」。
この本の中で、冷戦終結で、民主主義だけが唯一のイデオロギーとなり、世界に平和と安定がもたらされるとしていたフクヤマ氏は、今…
フランシス・フクヤマ氏(米スタンフォード大学教授・国際政治学)「(冷戦終結は)非常にうれしかった。共産主義国が、民主主義国に置き換わり、広がることは、世界の人々にとって非常にいい結果だと思いました。しかし、多くのことが起きて、民主主義の後退を招いたのです」
冷戦後の歪みと矛盾とは?
冷戦後の世界は、平和が訪れるどころか、東西二つの大国によって保たれていたバランスが崩れ、その歪みや矛盾が各地で噴出します。
ブッシュ大統領(当時)「世界が民主主義を求めている」
そしてアメリカによる民主主義を根付かせようという試みはうまくいきませんでした。また、中東諸国で広がった民主化運動「アラブの春」が波及したリビアやシリアなどでは、内戦によって多くの難民が生み出されています。
ヨーロッパでは流入する難民を阻止するためのフェンスが築かれ、人々の心に不寛容、排他主義という、新たな「壁」が生みだされます。
またアメリカでも…
トランプ大統領(当時)「壁なしには国境の安全は得られない!」
当時のトランプ大統領が、メキシコとの国境に巨大な壁の建設を掲げます。
そしてウクライナ侵攻後には、ロシアと接するポーランドやフィンランドで国境沿いに長大なフェンスが築かれたのです。
分断の象徴だった「ベルリンの壁」崩壊から35年。世界には、新たな壁が次々と築かれています。
さらに今、「見えざる壁」が立ちはだかろうとしているのです。
F・フクヤマ氏「民主主義が人々を失望させて他のシステムがよく見え、期待するようになりました。特にアメリカの民主主義が機能していません。大衆に迎合した政治家の台頭が民主主義の基盤を脅かす一方で、ロシアや中国のような権威主義国家が強化されています」
「見えざる壁」とは?
「民主主義」と「権威主義」の対立です。ウクライナに攻め込んだロシア。習近平主席による強力な独裁体制のもと覇権を強める中国。核・ミサイル開発を進める北朝鮮もロシアに接近する中、こうした国々と、西側諸国の対立は先鋭化しています。
その対立によって…
中満泉氏(国連事務次長・軍縮担当上級代表)「冷戦末期以来、核兵器が使用されるリスクがこれほど高まった時期はありません」
国連安保理でこう訴えたのは、国連軍縮部門トップの中満泉さん。今回、番組の取材に応じました。
中満泉氏「(核兵器が)あたかも実際に戦場で使用可能な兵器であるという、非常に誤った言説が広まりつつあると。核戦争に繋がっていくようなそういったリスクが色々なところにある」
実際、ロシアはウクライナに対し「核の威嚇」を続け、また去年、イスラエルの閣僚はパレスチナに対して核兵器の使用に言及しています。
忍び寄る、核戦争の危機。それを防ぐべく、今回のウクライナやガザでの停戦を導く役割を期待されたのが、国連安保理でした。ところが…
ウクライナからロシアの即時撤退を求める決議案はロシアの拒否権行使で否決。
ガザでの戦闘停止を求める決議案も…
安保理議長「決議案は否決されました」
アメリカの拒否権によって否決。
国連安保理が、大国の拒否権によって戦争を止められない事態を中満さんは…
中満泉氏「(ガザは)もう2万人の犠牲者を超える状況に達している。私たちにとっては非常に衝撃的 なことでもある。本当に苦しいですし、無力感もある。もっと何かできることがあるんじゃ ないか、毎日考えながら仕事している。私たちの持っている、ある意味武器というのは、“言葉”、“メッセージ”。そのメッセージを持って様々なことを伝えていくことこそが、国連の最も重要な部分。国連が、やはりこういう時代だからこそ必要とされている」
分断する世界で、改めて国連の意義が問われています。
● ウクライナ 軍事侵攻で多数動員も徴兵めぐり不公平感広がる 1/7
ウクライナでは、ロシアによる軍事侵攻が始まって以降、総動員令が出され、18歳から60歳の男性は原則、出国が禁じられています。これまで多くの人が動員されていますが、軍事侵攻が長期化する中、ウクライナ国内では、実際に徴集される人と、そうでない人との間の不公平感が広がっています。
首都キーウの広場などでは、夫が戦地にいる妻たちが政府に対する抗議活動を行い、一定の期間がたてば夫を返すよう訴えるとともに、兵役の義務を果たしているのは一部の人に限られていると批判しました。
こうした中で、追加の動員をめぐる議論も進んでいて、ウクライナ政府は、徴兵の対象年齢を現在の27歳から25歳に引き下げるなどして、より多くの人を動員できるよう、関連する法案を議会に提出しています。
ゼレンスキー大統領は、1月1日付けのイギリスの経済誌「エコノミスト」のインタビュー記事の中で、追加の動員について「前線に行く兵士だけではなく、私たち全員の問題だ。国を守り、占領された土地を解放する唯一の方法だ」と述べ、必要性を強調しました。
また、12月19日に開いた会見では、「軍は45万人から50万人の追加の動員が必要だと要求している」と述べました。
この発言について、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、軍は具体的な数字は出していないと否定したものの、「われわれは資源を必要としている。武器であり、弾薬であり、そして人々だ」と述べ、追加動員の必要性を訴えました。
ウクライナ国内では、戦闘には参加したくないと、徴兵を担当する当局の関係者に賄賂を贈るといった汚職も後を絶たず、徴兵逃れが社会問題となっています。
徴兵避けるため 再び大学に入学するケースも
ウクライナでは、学生などは徴兵の対象外となるため、すでに卒業している人たちが再び大学に入学するケースも増えています。
ウクライナのジャーナリストなどでつくる団体「NGL.media」は、2023年11月、徴兵を逃れるために大学が広く利用されているとする報告を発表しました。
それによりますと、30歳から39歳で新たに学生になった男性の数は、ロシアによる軍事侵攻前の2021年には2186人だったのが、2023年は4万3722人と20倍に急増しています。
NHKの取材に応じた30代のウクライナ人の男性は、すでに大学を卒業していましたが、去年、再び大学に入学しました。
入学は、よりよい仕事を得るため新たな専門性を身につける目的だとする一方で徴兵の猶予も理由の一つだとしています。
男性には妻と、幼い2人の娘がいますが、侵攻が始まって以降海外に避難し、1年以上会っていないということです。
動員されて戦地でもしものことがあったときに、残された家族のことが心配だということで「もし戦闘で手や足を失ったとしたら、どうやって生活し誰が子どもを養うのでしょうか。現状では負傷した兵士などへの社会的な保護も十分ではありません」と話していました。
また「ロシアに対する怒りの感情で敵を殺しに行く人もいますが、私にはその準備ができていません。怖いのです」と話していました。
男性は、徴兵を避けるために、大学に入学する人は自分のほかにも大勢いるとしたうえで「給与や社会保障などとは関係なく戦場に行こうという思いにあふれた人たちは、もういなくなってしまいました。私たちは家畜ではなく、みずから選択する人間です。もしも兵士になってほしいのであれば、政府は、人々を追いかけ回すのではなく、みずから志願するように適切な給与を支払うべきです」として、ウクライナ政府が兵士の待遇改善などを進め、志願する人が増えるような環境を整えるべきだと訴えました。
前線での戦闘兵士以外の職種で人員確保も
ウクライナでは徴兵逃れが相次ぐなか、前線での戦闘に従事する兵士以外にも仕事があるとアピールして、人員の確保に取り組む部隊もあります。
ウクライナ内務省傘下のアゾフ旅団では、戦闘の長期化により、軍の人員の確保が課題となる中、歩兵や砲兵以外にも運転手や料理人、機械工など、20以上の職種で専門的な技術を持った人材を募集しています。
首都キーウにあるアゾフ旅団の施設では、採用を担当するスタッフが市民に直接電話をかけて、溶接工や医療スタッフなどの仕事もあると勧誘していました。
担当者などによりますと、働き始めたあとになって、戦闘に直接携わる職種に変更されることは原則ありません。
また、ほかの部隊に動員される対象にもならないということで、連日10人以上が問い合わせや面接のために施設を訪れているということです。
アゾフ旅団の採用担当者は「戦闘が長引く中、人々も疲れ果てていて、普通の呼びかけでは不十分なときもある。人は、自分の専門性に合うことをするといい仕事ができる。採用に非常にいい影響が出ている」と話していました。
施設を訪れた43歳の溶接工の男性は、装備品の修理などの業務にあたりたいとして、「職種を選ぶことができるのは、とてもよい取り組みだ。何をするか強制もされずに、自分の体調にもあわせて仕事を選ぶことができる」と話していました。
専門家 “政府は情報発信と兵士の待遇改善を”
ウクライナで相次ぐ徴兵逃れについて、軍事専門家、オレクサンドル・ムシエンコ氏は「徴兵を逃れようとする人はいるが、多くを占めるわけではない」として、現時点で兵員の確保に影響はないとしています。
一方、「300万人、400万人が一度に動員されるわけではないのに、多くの人たちがパニック状態に陥っているように見える」として、市民の間には不安が生じているとも指摘しています。
そして、「動員は『罰』ではなく、国のためになることだと人々の考えを変えていかなければならない。各地で軍事訓練を行い、将来の兵士を育てる準備を進め、よりよい給与を支払わなければならない」として、ウクライナ政府は、人々の理解を得るために情報発信を強化するとともに、兵士の待遇の改善を進めるべきだと指摘しました。
そのうえで、「戦争によって経済が悪化する中、兵士への給与の支払いなどについては、友好国からの支援が大きな役割を果たしている。アメリカやヨーロッパ、日本などからの援助が望まれる」と述べ、軍事支援だけでなく、財政面の支援も必要だと訴えました。
●上川外相がキーウ訪問―54億円支援、連帯アピール 1/7
上川陽子外相は7日(日本時間同)、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪れ、クレバ外相と会談した。ロシアのドローン(無人機)による攻撃で大きな被害が出ていることを踏まえ、その動きを把握する「対無人航空機検知システム」を供与すると表明。日本として引き続き支援に当たる方針を伝えた。
2022年2月の侵攻開始後、岸田内閣の閣僚以上によるウクライナ訪問は3例目。
支援額は3700万ドル(約54億円)で、北大西洋条約機構(NATO)の信託基金に拠出する。ドローン対策のシステム供与は昨年7月に岸田文雄首相がNATO首脳会議に出席した際に表明しており、今回はその追加分。
会談後の共同記者発表で、上川氏は「ロシアが年末年始もキーウを含めた各地へのミサイルや無人機による攻撃を継続していることを強く非難する。ウクライナを支え続ける」と強調。クレバ氏は謝意を示し、「防空システムの支援によって、われわれは今後も戦うことができる」と語った。
上川氏は、2月に東京で開く「日ウクライナ経済復興推進会議」に向け、現地のニーズについてクレバ氏と意見交換。戦闘の長期化で欧米に「支援疲れ」が目立つ中、復旧・復興に向けて日本が寄り添う姿勢を内外にアピールした。

 

●ウクライナ、日本へ「哀悼と連帯」 ロシアは能登地震に沈黙 1/8
ウクライナのメディアによると、同国のクレバ外相は7日、能登半島地震を受けて「犠牲者への哀悼と日本国民への連帯」の意を示した。
首都キーウ(キエフ)を訪れた上川陽子外相との共同記者発表で発言した。負傷者の一刻も早い回復を祈るとも述べた。
侵攻を続けるロシアは、ウクライナを支援して対ロ制裁を発動した日本を「非友好国」に指定。プーチン大統領は昨年12月中旬の中国内陸部の地震に関しては、発生後すぐさま習近平国家主席に見舞い電を送っている一方、能登半島地震には沈黙している。 
●ウクライナとロシア、開戦以来最大規模の捕虜交換…5カ月ぶり 1/8
ロシアとウクライナが開戦後最大規模の捕虜交換を実施した。
ロイター通信によると、ロシアとウクライナは3日にそれぞれ248人と230人の戦争捕虜を交換した。開戦以降で最大規模だ。昨年8月の捕虜交換から5カ月ぶりだ。今回の交渉はアラブ首長国連邦(UAE)が仲裁したという。
ロシア国防省は「UAEの人道的仲裁のおかげでロシアの戦争捕虜248人がウクライナからロシアに送還された」と明らかにした。ウクライナのゼレンスキー大統領も「われわれの国民230人が帰国した。5カ月ぶりに行われたもの」と説明した。
UAEはロシアとウクライナ双方と非常に友好的な関係を結んでいる。UAE外務省は「今回の捕虜交換だけでなく戦争の平和的解決案もともに提示した。両国の悲劇的な戦争が1日も早く終わるよう最善を尽くすだろう」と話した。
ウクライナ帰還捕虜のうち一部は行方不明者あるいは死亡者とされた人が含まれた。彼らはウクライナに到着すると歓迎の人たちとともに国旗を体に巻いて国歌を歌い喜びを隠さなかった。ある帰還兵士は「ウクライナ国民が私たちを忘れなかったおかげで私たちが帰ってくることができた」として涙を流した。
一方、ロシアには4000人以上のウクライナ戦争捕虜が抑留されていると推定される。ただ両国軍が捕虜関連情報を公開しておらず具体的な数字を把握するのは難しいとロイターは伝えた。
●2023年12月の世界製造業PMI発表 1/8
中国物流購買連合会は6日、2023年12月の世界製造業購買担当者指数(PMI)を発表しました。指数は前月から横ばいで、15カ月連続で50%を下回っており、世界経済の回復の安定性は弱く、回復のモメンタムが不足していることを示しています。
2023年12月の世界製造業PMIは48%と前月から横ばいとなり、15カ月連続で50%を下回っています。2023年、世界製造業PMIの年間平均は48.5%で、2022年より3.3ポイント低下となり、通年の各月とも50%以下で推移しました。これは、世界経済の成長の勢いが2022年に比べやや鈍化したことを示しています。
世界経済回復の原動力が引き続き弱まっていることを踏まえ、世界の主要機関は、2024年の経済成長速度は2023年をやや下回るとの見方を示しています。ロシアとウクライナの戦争、イスラエルとパレスチナの紛争、紅海周辺の海運情勢などの地政学的衝突は世界貿易に影響を与え、2024年の世界経済回復を困難にする主要な要因となり、世界の産業チェーンとサプライチェーンの安定性への課題となっています。
2023年のアジア製造業購買担当者指数(PMI)の年間平均値は2022年と同水準の50.7%で、アジアの経済成長の強靭性が比較的強いことを示しました。世界の主要機関のアジアの経済成長に対する期待は他の地域よりも高く、世界の経済成長に対するアジアの貢献度は徐々に高まっています。発展環境の相対的な安定と地域協力の段階的な強化は、アジア経済が発展の強靭性を維持するための重要な保障となっています。中国経済は安定した回復を続けており、引き続きアジア経済の安定回復の主要なけん引力となっています。
●ウクライナへの攻撃続く 日本は発電機供与などの支援を表明 1/8
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、7日にかけてもロシア軍の攻撃が続き、東部ドニプロではけが人が出ています。
ウクライナ空軍は7日、6日の夜から7日にかけて、ロシア軍による自爆型の無人機28機とミサイルを使った攻撃があり、このうち無人機21機を撃墜したと発表しました。
ロイター通信によりますと、一連の攻撃で東部ドニプロでは12人がけがをし、教育施設や集合住宅などが被害を受けたということです。
現場を撮影した映像では集合住宅の窓ガラスが吹き飛ばされてほとんど無くなり壁の一部が焦げているのが確認できます。
一方、首都キーウでは7日、現地を訪問した上川外務大臣がウクライナ政府の閣僚らと会談し、厳しい冬を乗り越えるため新たに5つのガスタービンの発電機を供与するなどの支援を行うと表明しました。
ロシアは、おととしの軍事侵攻以降、ウクライナ各地の発電所や送電施設を繰り返し攻撃していて、ウクライナの電力供給能力はおよそ50%にとどまっているとされます。
ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は日本から供与される設備を電力不足が深刻な地域に優先的に配備するとしたうえで「ロシアの侵攻直後から支援してくれた日本に心から感謝している。真に必要な支援だ」と謝意を示しました。 
●ウクライナ東部など複数地域で 6人死亡40人負傷…ロシア軍の空爆受け 1/8
ウクライナで東部ドニプロなど複数の地域がロシア軍の空爆を受け、6人が死亡、40人が負傷した。
ウクライナ当局は8日、東部ドニプロや南部ヘルソン州、北東部のハルキウ州など複数の地域で、ロシア軍からおよそ60発のミサイルとドローン攻撃を受けたと明らかにした。
このうち、ミサイル18発とドローン8機を撃墜したという。
ドニプロでは少なくとも4回のミサイル攻撃を受け、爆風でバスが横転し子ども5人を含む乗客24人が負傷。
ヘルソン州では民家や店舗、工場が被害を受け、2人が死亡、5人が負傷。
さらに、ハルキウ州では教育施設にミサイルが命中するなど、ウクライナ全土で少なくとも6人が死亡、40人が負傷した。
ロシア国防省は、「ウクライナの軍産複合体の施設に対して、極超音ミサイル「キンジャール」を含む高精度の兵器で複数回攻撃をおこなった」と発表している。
●ウクライナ4州に大規模攻撃、4人死亡 防空強化の必要性浮き彫りに 1/8
ウクライナの4州で8日午前、ロシア軍による大規模な攻撃があった。ウクライナ空軍によると、自爆型ドローン(無人機)8機は全て撃墜したが、ミサイルは計51発のうち18発しか撃ち落とせず、現地時間正午時点の警察のまとめでは、少なくとも4人が死亡し、38人が負傷した。
ゼレンスキー大統領は7日、スウェーデンで開かれた安全保障関連会議にオンラインで出席し、「前線でもウクライナの各都市でも、空の守りが足りていない。ロシアは空の支配を失えば、前線でも力を失うことになる」と指摘。防空能力強化の必要性を訴えていたが、改めてそのことが浮き彫りになった。
8日の攻撃による被害が大きいとみられるのは、中部ドニプロペトロウスク州。知事らによると、62歳の女性が死亡したほか、28人が負傷した。ゼレンスキー大統領の故郷である州内の工業都市クリビーリフでは、ショッピングセンターと二十数軒の民家が被害を受けたという。
また、各州の知事らによると、中西部フメリニツキー州では2人が亡くなった。インフラ施設も攻撃を受けたという。北東部ハルキウ州では50歳の男性が死亡し、民家や倉庫、教育施設も損壊した。中南部ザポリージャ州では5人が病院に運ばれ、1人は重体という。
ウクライナでは昨年12月29日、ロシアの全面侵攻開始以来で最大規模となる空からの攻撃があり、各地で計50人以上が死亡した。また、今年に入ってからもロシア軍による攻撃は続いており、1月2日の攻撃では首都キーウやハルキウで少なくとも5人が亡くなり、6日には東部ドネツク州への攻撃で11人が死亡した。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 1月8日の動き 1/8
ロシア ミサイル攻撃 一段と強める ウクライナ各地で被害
ウクライナ軍のザルジニー総司令官はロシア軍が8日朝、弾道ミサイルや無人機などあわせて59の飛しょう体で攻撃し、このうち、18発のミサイルと8機の無人機を迎撃したと発表しました。
この攻撃でウクライナ大統領府などは東部のドニプロペトロウシク州で1人が死亡、ハルキウ州で1人が死亡、そして西部フメリニツキー州では2人が死亡し、あわせて30人以上がけがをしたとしています。
攻撃は南部ザポリージャ州などでも行われ、各地で被害がでています。
ロシア国防省は8日「ウクライナの軍産施設に対しキンジャールなどで集団攻撃を行った」として、攻撃は極超音速ミサイルだとしているキンジャールも使用したと発表し、ロシア軍は無人機に加え、ミサイルによる攻撃を一段と強めています。
プーチン大統領 兵士遺族の支援を強調
ロシアのプーチン大統領はロシア正教でクリスマスイブにあたる6日夜、ウクライナへの軍事侵攻で死亡した兵士の遺族をモスクワ郊外の公邸に招き、遺族を支援する姿勢を強調しました。
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は7日、「プーチン大統領は最近も軍関係者を気遣う同様のイベントに出席し、問題を解決できる指導者だとアピールしている。選挙活動の一環として利用している可能性が高い」と指摘し、ことし3月の大統領選挙に向けて選挙活動を強化しているという見方を示しています。
ロシア軍の攻撃続く 東部ドニプロで教育施設など被害 12人けが
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、7日にかけてもロシア軍の攻撃が続き、東部ドニプロではけが人が出ています。
ウクライナ空軍は7日、6日の夜から7日にかけて、ロシア軍による自爆型の無人機28機とミサイルを使った攻撃があり、このうち無人機21機を撃墜したと発表しました。
ロイター通信によりますと、一連の攻撃で東部ドニプロでは12人がけがをし、教育施設や集合住宅などが被害を受けたということです。
現場を撮影した映像では、集合住宅の窓ガラスが吹き飛ばされてほとんど無くなり、壁の一部が焦げているのが確認できます。
キーウ訪問の上川外相 発電機供与など支援表明
首都キーウでは7日、現地を訪問した上川外務大臣がウクライナ政府の閣僚らと会談し、厳しい冬を乗り越えるため、新たに5つのガスタービンの発電機を供与するなどの支援を行うと表明しました。
ロシアは、おととしの軍事侵攻以降、ウクライナ各地の発電所や送電施設を繰り返し攻撃していて、ウクライナの電力供給能力はおよそ50%にとどまっているとされます。
ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は、日本から供与される設備を電力不足が深刻な地域に優先的に配備するとしたうえで「ロシアの侵攻直後から支援してくれた日本に心から感謝している。真に必要な支援だ」と謝意を示しました。

 

●2024年、世界で何が起きるか 必要な10の視点 1/9
2023年11月6日付の英Economist誌は、Tom Standage同誌副編集長による、年末恒例の特集記事である「2024年の10の注目トレンド」と題する論説を掲載している。
世界は驚くべき速さで変化している。来年、注目すべき10のテーマは次の通りである。
第一は、世界中で選挙が行われ、民主主義の状況に焦点が当たる。2024年には42億人が居住する国々で70の選挙がある。ただし、多くの選挙は自由でも公正でもない。
第二は、米国の選択である。ドナルド・トランプが大統領に再当選するかは、一握りのスウィング・ステートの選挙民にかかっているが、その帰結はグローバルなものである。
第三は、ヨーロッパである。米国の状況は上記の通りなので、ヨーロッパがウクライナに必要な軍事的・経済的支援を提供し、欧州連合(EU)加盟に向けての道を示していかなければならない。
第四は、中東の混乱である。ハマスのイスラエルへの攻撃、イスラエルのガザへの報復は、地域を大混乱させた。手を広げ過ぎている超大国の米国にとっては、更に複雑で脅威を増す世界に適応できるか試練である。
第五は、多極化する無秩序である。米国は、力を増す中国との対抗に集中しようとしていたが、ウクライナ戦争とガザによって狂わされた。世界にはより多くの紛争が起こっている。
第六は、「第二の冷戦」である。台湾を巡る緊張は高まり、米国は先進技術への中国のアクセスを制限し続けるだろう。一方、企業にとって中国への依存を減らすのは簡単ではない。
第七は、新エネルギーの地理的構図である。クリーン・エネルギーへの転換は新たな超大国を生み、資源地図を書き換える。リチウム、銅、ニッケルの重要性が増す。
第八は、経済の不確実性である。金利は以前より高く、企業にとっても家計にとっても苦しい状況である。中国がデフレに突入する可能性がある。
第九は、AIがリアルなものとなる。当局はAIを規制しようとし、IT企業はAIの進化を図る。どのような規制が最善なのかの議論が更に高まろう。
第十は、世界が一つとなるかである。パリ五輪、宇宙飛行士による月探査等の機会には、イデオロギーの相違が脇に置かれるだろうが、世界が一つとなる希望は打ち砕かれる可能性が高い。

今年で38年目となるエコノミスト誌の年末恒例の翌年の予想特集記事である。英国メディアから見た2024年の予想として、常識的な内容だが、子細に見ると注目すべき点はいくつかある。
24年の予想の前提として、23年を振り返るため、一年前に同誌が23年の予想として提示した10項目を振り返ると、次の通りであった。1ウクライナ情勢、2景気後退、3気候変動、4中国はピークを打ったのか、5分断されたアメリカ、6一触触発地域、7変化する世界の協力、8回復する観光産業、9メタバースの現実性、I新年に新たな専門語。
23年の予想が外れた点として、第一に、「景気後退」は予想ほど悪くなかったこと、第二に、新たな「世界の協力」としてサウジアラビアのアブラハム合意への参加も言われていたが、中東では危機が勃発した。
今回の24年の予想で目を引くのは、大きな流れとして、「多極化する無秩序」の時代となり、「手を広げ過ぎている超大国の米国」として対応が困難となりつつあることが示されたことである。ウクライナに加えて中東の危機が起こり、危機の多発に対して米国の能力が明らかとなり、それに加えて、24年11月の米国大統領選挙次第で大きな政策変更が起こりかねない。さらに、ロシア、中国、北朝鮮、イランの連帯の強化、新興5カ国(BRICS)の拡大(アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEの新規加盟)など気になる動きが起こっている。
「第一の危機」であるウクライナへの注目度は、トップの項目として取り上げられていた23年に比して下がった。24年には三番目の項目としてヨーロッパ側の対応として掲げられているに止まっている。
長期戦を覚悟する構えに入っていると想像される。ここでは、外からの支援に焦点を当てているが、長期戦になれば、国内の団結の維持も重要な課題となってこよう。
23年に勃発した「第二の危機」である中東が、24年には四番目と上位にリストされている。ガザでの戦闘が継続する中、米国の対イスラエル姿勢がどのようになるのか注目されるが、これもウクライナと並んで米国大統領選挙による政策の振れ幅が大きい分野である。
24年のトップに挙げられているのが、多くの国で選挙が行われることである。エコノミスト誌によれば、選挙が行われるのは人口の多い方から、インド、米国、インドネシア、パキスタン、ブラジル、バングラデシュ、ロシアである。
一方、影響の大きさから言えば、米国は別として、1月の台湾の総統選挙に注目しないわけにはいかない。これは、東アジアで「第三の危機」が起こるかどうかにも関わる。
中国への注目度は、四番目の項目として取り上げられていた23年に比して若干下がった。24年には六番目に「第二の冷戦」として取り上げられている。中国については見るべき視点は多い。
国内統制や対外的姿勢、経済成長の鈍化、人々の価値観の多様化等、中国にはいくつもの「顔」がある。それらがどのように絡んでいくのか、複眼的に見ていく必要があろう。
全般として24年の注目リストは暗い話題が多い。その予想が良い意味で覆されることを期待したいが、残念ながら、秩序を作る力より秩序を壊す力の方が強くなっていることを認めざるを得ない現状である。
●戦争と日常が共存 頻発する空襲警報、にぎわいも―上川外相キーウ訪問 1/9
ウクライナの首都キーウ(キエフ)を7日(日本時間同日)に訪れた上川陽子外相を時事通信記者が同行取材した。ロシアの侵攻から約1年11カ月が経過。廃虚となった建物が立ち並び、空襲警報が鳴り響く一方、クリスマスツリーが飾られ、日常生活を楽しむ市民の姿も見られた。ウクライナでは戦争と日常が共存していた。
夜行列車で9時間
上川氏や随行員、記者団を乗せた専用夜行列車はポーランド東部の駅を6日夜に出発し、約9時間かけてキーウ近郊に到着。走行速度は比較的ゆっくりだったと感じた。
日ウクライナ外相会談が行われたキーウ中心部の外務省は、白亜の巨大な石柱が並ぶ神殿風の歴史ある建物。入り口周辺は土のうが積まれ、銃を携帯した国軍兵士が目を光らせ、緊張感が伝わってきた。
上川外相とクレバ外相との会談は7日午前11時すぎから始まった。その直前、遠くから重低音の「ウー」という空襲警報が外で鳴っているのがかすかに聞こえたが、ウクライナのメディア関係者の多くは落ち着いた様子だった。
在ウクライナ日本大使館員によると、ロシア軍の訓練飛行でも空襲警報が鳴る場合があるため、多くの市民は手持ちのスマートフォンを使った情報収集で「逃げなくてもいい、逃げる必要があるという基準を自分なりに持っている」という。
午後0時20分ごろ、外相会談中に空襲警報が再び発令。外務省内で休んでいた兵士は急いでヘルメットをかぶり、外に駆け出した。
会談後の共同記者発表の場所は、当初予定していた1階ホールから地下シェルターに変更。配管がむき出しとなった部屋で、上川氏は記者団に「急きょ、このシェルターでの発表となった。ウクライナの人々の大変厳しい環境を身をもって改めて感じている」と述べた。
焼けた店舗、崩落した橋
上川氏は会談に先立ち、ロシア軍によって民間人が大量に殺害されたキーウ近郊のブチャを視察。周囲に警護要員が10人以上配置される厳戒態勢が取られた。
ブチャからキーウに向かう車窓からは、ロシア軍の攻撃を受けて黒く焼け落ちたスーパーマーケット、同軍の侵攻を遅らせるためにウクライナ側が崩落させた橋といった戦争の傷痕が生々しく残されていた。
その一方、道路沿いにはファストフード大手マクドナルドの店舗やガソリンスタンドが営業を続けていた。雪が降った道路で遊ぶ子どもや、楽しそうに町を歩く若い親子連れもいた。キーウは日常生活を取り戻していると感じた。
ただ年末も、キーウ中心部で電力関連施設を狙ったロシア軍によるドローン攻撃があったとされ、日本政府関係者は「戦争状態であることには変わりがない」と指摘。キーウ駅構内には子ども向けの遊具が置かれた場所があり、そこにいたウクライナ人女性は「早く空襲警報を気にしないで外で遊べるよう平和になってもらいたい」と話していた。
●ロシア・ベルゴロド州、住民の移住を支援 ウクライナ軍の攻撃頻発で 1/9
ウクライナと国境を接するロシア・ベルゴロド州のグラドコフ知事は、最近頻発しているウクライナ軍による致命的な攻撃に不安を感じている市民について、移住を支援すると約束した。ウクライナの人々には大きな影響を与えたものの、かつては遠い存在だった戦争がロシア国内にもたらす危険性を珍しく認めるものとなった。
ベルゴロド州では、ウクライナ軍による攻撃が相次いでいる。昨年12月下旬には、ベルゴロド市への攻撃で少なくとも25人が死亡した。
ウクライナは国境近くのロシア地域を標的にしている。12月30日にベルゴロドに対して行われた攻撃は、報告されているものの中で最も死者数が多い事案のひとつと考えられている。
ベルゴロド州への攻撃を受け、住民の1人はロイター通信の取材に対し、「人々は実際に戦争が起きていることに気がつき、それが今ではベルゴロドにやってきた。おそらく初めてではないものの、最も深刻で恐ろしいものだ」と述べた。
グラドコフ知事は住民に直接話しかけ、「SNSで『怖いので安全な場所に行くのを手伝ってください』という依頼をいくつか見かけた」と述べた。
グラドコフ知事は「もちろん助ける」と述べ、いくつかの家族がすでに移住したと明らかにした。
グラドコフ知事は心配する住民に対して、当局と連絡を取り、「退去する準備ができている」ことを伝えるよう指示した。
●ローマ教皇、民間人への「無差別攻撃」は戦争犯罪 1/9
ローマ教皇フランシスコ(87)は8日、外交関係者向けの年次演説で、民間人に対する「無差別な攻撃」は国際的人道法に抵触するため戦争犯罪となると訴えた。
演説はバチカン(ローマ教皇庁)が認めている184カ国の特使らに45分にわたり行われた。
このほか、アフリカとアジアの紛争、米国と中南米の移民危機、気候変動、キリスト教徒への迫害にも言及した。
教皇は、近代の戦争はしばしば民間と軍事の標的を区別せず、民間人への無差別攻撃に至らない戦争はなくなっていると指摘。「ウクライナとパレスチナ自治区ガザの紛争にはこれを明確に証明している。国際的人道法の重大な違反は戦争犯罪であることを忘れてはならない。指摘するだけでは不十分で、阻止しなければならない」と述べた。
その上で「国際社会は国際的人道法の擁護と実践に向け、さらに努力する必要がある」と呼びかけた。
●「2049年には人類の4人に1人がアフリカ人に…」 国連の最新予測が“過少” 1/9
「2049年には人類の4人に1人がアフリカ人になり、この比率は2100年にはほぼ4割に達する」。国連経済社会局人口部の最新予測だ。この数字はあちこちで引用されるが、私は、この見積もりは過少だと考えている。
世界すべての国の人口統計を揃え、各国別に長期予測を作成して人類の総数をカウントする――この壮大な事業において国連人口部に敵う機関は世界中どこにもない。国連予測が使われるのは、これが唯一無二の予測だからである。
だが、日本の人口予測に関しては国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)の予測が専ら使われ、国連予測が引用されることはない。なぜなら両者が大きく異なっているからだ。IPSS最新予測では2070年の日本人口は8700万で合計特殊出生率(TFR)が1.36なのに対して、国連予測は8950万でTFRは1.51とされている。
国連はこれまでも日本の出生率は直(じき)に回復すると想定し、将来人口をIPSSより常に多めに予測してきた。その結果、予測を外し続けてきたのである。この事情は日本に限ったことではなく、TFRが人口置換水準、およそ2.1を割ったすべての国について同水準への復帰シナリオを作成してきた。確率論の手法を取り入れるようになった2010年版からはさすがに単純一律な復帰予測ではなくなったが、それでもTFRが上昇反転するという想定は維持されている。だから、国連人口部の先進国人口予測は毎回上振れする。
アフリカの人口統計は“国連の作品”
一方アフリカに関しては、TFRは即座に低下トレンドに乗り世紀末までには人口置換水準に落ち着くと想定している。出生届や死亡届、人口センサスが整備されていない開発途上国、なかでもサブサハラ・アフリカの人口推計・予測に関して、国連は試行錯誤を続けてきた。各種サンプル調査を通じて人口情報を集め、推定モデルを作成して精度を高めてきたのである。アフリカの人口統計は“国連の作品”といえるほどだ。
ではなぜ国連人口部は、先進国の人口を高めに、アフリカの人口を低めに予測するのか。それは人口転換論という思想を予測の前提にしているからだ。
人口転換論とは「近代化が進行するにつれ死亡率は低下していくが、その過程で、多産多死時代の高い出生率がしばらく維持され、出生率が下がるまでのあいだ多産少死状態が現出して、一回きりの人口爆発が起こる。やがて出生率も低下して少産少死となり、人口はふたたび定常状態に復帰する」というものである。国連人口部はこの思想に基づいて、人類全体の人口定常化をおよそ100年後に遠望しているのである。
アフリカ農業は女性と児童労働に依存
しかし、人口学が発展するにつれ人口転換論の綻びが徐々にみえてきた。なかでも深刻なのは新たな人口定常、すなわち出生率の人口置換水準への回復が、どの国においても実現していないことだ。出生率の動向を説明できる理論はいまだ存在しない。したがって出生率を引き上げる決定的政策もない。先進諸国の人口増加率を動かしているのは、むしろ移民の数である。
他方アフリカに関しては、数々のサンプル調査から判断する限り、国連人口部が想定するスピードでTFRが下がっていくという確たる証拠はない。一夫多妻婚比率は安定して高く、児童婚・若年婚比率も高く、夫妻双方における希望子供数は多くの国で5人を超えている。10代で結婚する女性が多く、これが一夫多妻制を支え、出産期間を長くしているのだ。そこには、いまだ6割の人口が農村に暮らしていて、その過半が食糧生産に従事し、農地が拡大し続けているという背景がある。アフリカ農業は女性と児童労働に多くを依存しているのである。
人口集中がもたらすもの
通常引用されるのは出生率中位予測だが、国連人口部はほかにも、出生率低位と高位、出生率一定、死亡率一定など複数シナリオを公表している。このなかで、今世紀に入ってからアフリカや日本の実態にもっとも近かったのは出生率一定シナリオだった。つまり、日本においてもアフリカにおいても出生率は、想定ほど変化しなかったということだ。そこで試みに、TFRが低下している最中の国については中位予測を、TFRが人口置換水準を下回っている国と、本格的低下が始まっていないアフリカ諸国については出生率一定予測を組み合わせて世界人口予測を作り直してみると、2086年にはアフリカの人口がおよそ65億人となって、人類総数の50%に達する。
人類の2人に1人がアフリカ人になる――まさに未曾有の事態だ。20年を超えると人口予測はほとんど当たらないのだが、それでも、現在のトレンドはその方向を向いている。そのなかでなにが起こると予想されるか。
人口縮小社会が経済力を維持していくためには…
第一の懸念は食糧需給で、そのことはウクライナ戦争で既に垣間見えている。アフリカ大陸は水資源が決定的に不足していることから、農業増産には超えられない限界がある。増えていくアフリカの人口を支えきるだけの食糧増産を、はたしてどの国が賄えるか。また日本のように輸入によって食糧供給を維持している国は、タイトになっていく国際供給体制のなかで自給率を高められるのか。
人口と経済力の偏在が進むと移民圧力が加速的に強まる。その反発としてナショナリズムが高まり政変につながる動きを、我々は既にみている。世界の移民分布における希薄地帯は東アジアだ。人口減少が始まった東アジアに、アフリカ移民を受容して活用する社会的能力が生まれるだろうか。
人口縮小社会が国外のダイナミズムと市場を取り込んで経済力を維持していくためには、まず世界の姿を知ることだ。産業力の弱いアフリカの域外依存度は、一貫して高まっている。その商機を認識できているだろうか。
●味はほぼ同じで安い…「コカ・コーラ」撤退 ロシアで「パクリコーラ」が大人気 1/9
ウクライナ戦争が始まって間もない22年3月、ロシア国内の工場での生産を停止し、そのまま同国から撤退したコカ・コーラ。だが、今もスーパーなどの店頭で売られ、多くの飲食店で提供されているという。
「現在、ロシアで流通しているコカ・コーラはすべて輸入品で、スプライトやファンタといった同社の他の飲み物も普通に手に入ります」(ロシア事情に詳しいジャーナリスト)
実は、コカ・コーラの工場は、カザフスタンやウズベキスタン、アゼルバイジャンなどロシアと友好関係にある中央アジア諸国にも存在する。どうやら、これらの国から大量に輸入されているようだ。
「ところが、他にもEU諸国や英国など、ヨーロッパの国々からも輸入されているんです。食品は経済制裁の対象外で、ロシア政府も規制しておらず、西側の有名ブランドは流通量こそ減っても完全に手に入らなくなった商品はほとんどないのです」(前出・ジャーナリスト)
ただし、輸入品なので輸送コストに加え、インフレの影響もあって価格が高騰。戦争前はスーパーで500ミリリットルのペットボトルが30ルーブル(約46円)ほどで売られていたが、現在は10倍以上に跳ね上がっているという。
だからかどうか、実は、ロシアではかつてコカ・コーラの現地法人だった会社が製造する「コカ・コーラのパクリ飲料」とも言われる炭酸飲料が、全炭酸飲料中で売り上げが2位になるなど大人気となっている。
「パクリコーラの需要が伸びたのは味がほぼ同じで安いから。でも、本家コカ・コーラがいいというロシア人が多いのも事実です。輸入品で高価と言ってもスタバのパクリチェーンなど小奇麗なカフェでコーヒー1杯注文するのと大差ない値段ですし、最近はちょっとした高価な嗜好品のような扱いになっています」(前出・ジャーナリスト)
コカ・コーラの撤退によって本家コーラはブランド化され、その一方でパクリコーラが急成長するという、なんとも皮肉な状況になっているようだ。
●ことし最大のリスクは「アメリカの分断」 米調査会社 1/9
国際情勢を分析しているアメリカの調査会社は「ことしの10大リスク」を発表し、最大のリスクとして「アメリカの分断」を挙げ、11月の大統領選挙に向けて政治的な分断がさらに深まり、地政学的な不安定さを世界にもたらす可能性があると危機感を示しました。
アメリカの調査会社「ユーラシア・グループ」は、恒例となっている「ことしの10大リスク」を8日発表し、最大のリスクとして「アメリカの分断」を挙げました。
この中で、アメリカの政治システムの機能不全は先進的な民主主義国の中で最もひどく、11月の大統領選挙に向けて政治的な分断がさらに深まるという見方を示した上で、前回の選挙結果を覆そうとしたなどとして複数の罪で起訴されたトランプ前大統領と現在81歳という高齢のバイデン大統領はいずれも「大統領にふさわしくない」と指摘しました。
グループを率いる国際政治学者のイアン・ブレマー氏はオンラインでの記者会見で、世界で最も強力な民主主義国家が政治的危機に直面すれば地政学的な不安定さを世界にもたらす可能性があると危機感を示しました。
一方、2番目のリスクにはイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中東情勢を挙げたほか、3番目のリスクとしたウクライナ情勢については、アメリカの支援などが滞る中、ウクライナの領土が事実上ロシアに割譲される可能性があるとしています。
ことしの10大リスク
アメリカの調査会社「ユーラシア・グループ」が8日に発表した「ことしの10大リスク」は、以下のとおりです。
1「アメリカの分断」
11月の大統領選挙に向けてさらに政治的分断が深まり、地政学的な不安定さを世界にもたらす可能性がある。
2「瀬戸際に立つ中東」
イスラエルとハマスの戦闘を終わらせる明確な方法はなく、この戦闘をめぐる政治的分断が世界に影響を与える。イエメンの反政府勢力フーシ派による船舶への攻撃で物流網への影響なども懸念される。
3「ウクライナの事実上の割譲」
ロシアは現在、戦場での主導権を握っており、アメリカの支援などが滞る中、ウクライナの領土が事実上、ロシアに割譲される可能性がある。
4「AIのガバナンス欠如」
企業がほぼ制約を受けないままさらに強力なAIモデルなどが開発され、政府のコントロールを超えて普及する可能性がある。
5「ならず者国家の枢軸」
ロシア、北朝鮮、イランというならず者国家が、ロシアによるウクライナへの侵攻以降、協力関係を深め、既存の制度や原則を弱体化させようとしている。
6「回復しない中国」
すでに外国人投資家の撤退など不調の兆候があったが、中国政府が金融のぜい弱性や需要不足に対応できず、中国経済の回復は難しいだろう。
7「重要鉱物をめぐる争奪戦」
重要鉱物はイノベーションから国家安全保障まで、事実上、すべての領域で大切だが、その生産地は一部地域に偏り、各国政府は価格変動を増大させるなど保護主義的な措置をとる可能性がある。
8「インフレによる経済的逆風」
しぶといインフレに起因する高金利が、世界中で成長を鈍化させるだろう。
9「エルニーニョ現象の再来」
異常気象によって、食糧難、水不足、物流の混乱、病気の流行、政情不安などをもたらすだろう。
10「分断化が進むアメリカでビジネスを展開する企業のリスク」
大統領選挙が近づくにつれて国内市場が分断され、全米に展開する企業は特定の州の市場からの撤退などを迫られる可能性がある。
●ウクライナ 軍需産業の生産能力強化へ 民間企業に生産を要請も 1/9
ロシアの軍事侵攻が長期化する中、ウクライナでは兵器の確保が大きな課題となっていて、国をあげて生産能力の強化に乗り出しています。
ウクライナは航空戦力で劣勢に立たされているとされるほか、前線では弾薬不足が指摘されています。
しかし、最大の支援国、アメリカでは軍事支援の継続に必要な緊急予算が議会で承認されておらず、先行きは不透明なままです。
ゼレンスキー大統領は新年に向けた声明で「来年はより多くの兵器を生産する準備をしている。ウクライナの兵士や国が必要な解決策のため各国と協力している」と述べ、兵器の確保に力を入れていく考えを示しました。
シュミハリ首相は、今月3日の政府の会合でことし中に軍需産業の生産能力をおととしと比べて6倍に増やす目標を掲げました。
無人機については国内で100万機製造する計画です。
さらにウクライナ政府は、以前は軍需産業と無関係だった民間企業などに対し軍の装備品などの生産を要請し、これまでに100を超える企業が生産を始めました。
このうち、軍事侵攻を受けて農業関連製品から軍需品の生産へと転換した企業の社長が取材に応じました。
この企業では負傷した兵士を運ぶ台車や、前線で利用できるトイレやシャワーが備えられたコンテナなどを生産し、ウクライナ軍に届けています。
現在は企業が生産する製品の9割以上が軍に関係するものだということで、従業員たちは年始から溶接などの作業に取り組んでいました。
社長は軍事侵攻の直後にゼレンスキー大統領が首都キーウにとどまり戦い続ける姿勢を示した姿を見て企業としてできることがないか考え、軍需品の生産に乗り出すことを決めたということです。
軍に関わる施設はロシア軍の標的になる可能性もありますが、社長は「従業員が被害を受けることを心配してはいますが、怖がってばかりいたら国を失ってしまいます。家族や国のためになることをするだけです」と話していました。
●2024年の最大リスクは「米国の政治的分断」 米調査会社 1/9
国際政治のリスク分析を行う米調査会社「ユーラシア・グループ」は8日、今年の「10大リスク」をまとめた報告書を発表し、首位に米国の政治的分断を選んだ。11月の大統領選に向けて分断はさらに悪化すると指摘。民主党はバイデン大統領、共和党はトランプ前大統領が本命候補だが、どちらが勝利しても社会や政治制度が損なわれ、米国の国際的な地位が低下すると予測した。
報告書は「米国の政治システムは他の先進的な民主主義国家よりも機能不全に陥っている」と分析。2期目を最後まで務めれば86歳になるバイデン氏も、前回2020年大統領選での落選を覆そうとした罪などで起訴されたトランプ氏も、いずれも大統領に不適格で「国民の大半はどちらにも国を率いてほしくない」と指摘した。
また、トランプ氏が共和党の候補に指名された瞬間から、その政策方針は論争を巻き起こすと予測。大統領選で勝利の可能性が高まれば同盟国も敵対国も身構え、就任する前から国際社会は不安定化するとした。敗北してもあらゆる手段を講じて結果に異議を唱えるだろうと懸念を示した。
2位には「緊迫化する中東情勢」を挙げた。イスラエルは23年10月以降、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとの戦闘を続け、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘も激化している。ガザ地区以外での衝突が拡大すれば、世界経済のリスクが増し、地政学的な分断や過激主義の台頭を招くと警告した。
3位は「ウクライナの分割」だった。来月で2年を迎えるロシアによる軍事侵攻で、ウクライナは欧米諸国の後ろ盾を得ているが、支援は停滞している。報告書は、ウクライナや西側諸国にとって受け入れがたい結果だが「ウクライナは今年、事実上分割される」と指摘。ロシアは戦場での主導権を握っており、今年が「戦争の転換点となる」と予測した。
ユーラシア・グループは国際政治学者のイアン・ブレマー氏が社長を務める。8日のオンライン記者会見でブレマー氏は、米国の分断やイスラエルとハマスの戦闘、ウクライナ侵攻に関して「どの指導者もこれらを終わらせようとする意思もなく、能力もない」と指摘した。 
●ロシア動員兵の妻、無名戦士の墓に花 大統領府に抗議 1/9
ロシア・モスクワで6日、ウクライナで戦う動員兵の妻たちが、大統領府(クレムリン)の壁際にある無名戦士の墓に花を手向けた。≪写真は、無名戦士の墓に花を手向けに訪れる女性たち≫
ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻開始から7か月後の2022年9月、予備役の動員を発表。数か月がたち、動員兵の家族は怒りを募らせている。
6日には15人の女性が寒空の中、赤い花を手向けた。
夫が2022年11月に動員されたというマリアさん(47)はAFPに対し「私たちの訴えに、当局や世間に関心を向けてもらいたい。議員らに書簡を送付するなどもしてきたが、私たちの声は聞き入れてもらえなかった」と語った。
別の女性は当局に対し、ウクライナとの「和平交渉」を求めた。
通常、ウクライナ侵攻に対する抗議は初期のうちに厳しく取り締まられるが、今回は警察は介入しなかった。
1歳の子どもを持つポーリーナさんは、断固として夫を取り戻したいと考えている。
今回の抗議行動は「平和的な行為で、法律でまだ禁止されていない」と話した。「当局は私たちのことを厄介がっているようだが、誰も黙ったままではいない」とし、自分たちの主張に注目が集まるよう「毎土曜日に花を手向ける」と強調した。「いつか、私たちを無視できなくなる」
国営メディアはこれまでのところ女性たちの抗議行動をほぼ無視している。大統領府は、プーチン氏の再選が確実視される大統領選に向け、国内が団結しているとの印象を維持したい考えだ。
プーチン氏によると、ウクライナでの戦闘に従事する兵士は61万7000人で、うち24万4000人が動員兵。
●岐路に立つ北極海LNG 1/9
日本も参加したロシアの北極海の巨大な液化天然ガスプロジェクトが、アメリカからの制裁の対象となり、日本は難しい立場に立たされています。石川一洋専門解説委員に聞きます。
Q この巨大な施設はなんですか
A ロシアの北極圏ヤマル半島の巨大な液化天然ガス製造施設アークティック2です。完成すれば年間2000万トン近いLNGを生産する計画で、北極海航路でヨーロッパとアジアに輸出しようという巨大プロジェクトで、ロシアは春にも生産を開始するとしています。
交通の便利な港で組みたてた施設を海上輸送で未開の極地に運び埠頭に設置するモジュール方式と呼ばれる工法で建造された巨大工場です。ロシアの民間ガス会社でプーチン大統領と繋がりの深いNOVATEKが主体となり、日本、フランス、中国が資本参加しています。
しかしそのプロジェクトそのものを潰すとして、アメリカが去年11月経済制裁の対象に加えました。日本もその影響をもろに被った形です。
Q 日本にどんな影響があるのですか?
A 日本はプロジェクトに参加を決定したのは2019年、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の3年前です。日本政府は、侵攻前からすでに動き出していたプロジェクトで日本のエネルギー安全保障にとって重要だとしてアメリカに制裁しないよう求めてきました。しかしアメリカはまだ生産が始まっていない“新規”のプロジェクトで、ロシアのエネルギー権益を増大させるとして制裁に踏み切りました。LNG輸出国のアメリカとしては競争相手を排除するという思惑もあるでしょう。
プロジェクトには民間から三井物産も参加しており、日本を含む参加企業はアメリカ政府から制裁を受ける恐れもあります。日本としては、そうしたことを避けるために今後アメリカとのハイレベルでの交渉も必要となるでしょうが、撤退あるいは凍結という苦渋の決断を迫られることになるかもしれません。
Q プロジェクト自体も沈没するのでは?
A ロシアは日本や欧米に販売できなくても、中国やインドなどグローバルサウスにいくらでも買い手があると強気の姿勢を崩していません。2024年はエネルギー分野でも米ロが正面から戦う年となりそうです。
●戦争の準備か、ウクライナ戦争の余波か...中国軍を大粛清した習近平の真意 1/9
核兵器を担当するロケット軍幹部ら9人を解任
中国共産党は、ある慣行を実施して2023年を終えた。粛清だ。今回標的となったのは中国軍で、12月29日、国会に相当する全国人民代表大会(全人代)で軍高官9人の代表資格が取り消された。
全人代自体は形式的なものだが、こうした解任はさらなる処分や刑事告発につながることが多い。今回の粛清には、人民解放軍で核ミサイルの管理・運用に当たる「ロケット軍」の複数の高官が含まれており、同軍は昨年夏から調査されている。李尚福(リー・シャンフー)前国防相も、公の場から姿を消してから数カ月がたった10 月に正式に解任されたが、解任理由はいまだ発表されていない。
西側のタカ派の間では、中国における軍の粛清は全て戦争の準備とみる向きもある。抽象的な意味ではそうかもしれない。軍の役割は戦争に備えることであり、中国の指導部は腐敗を軍の即応性に対する脅威と考えている。しかし、今回の粛清は特定の紛争に対する備えを意味するものではない。軍の粛清は独裁支配の特徴であり、特に共産主義国家では政権が軍に対する優位性を主張しようとする。
中国が軍内部の汚職を管理する必要があることは以前から明白で、しばしば明言されてきた。軍高官は長年汚職に手を染め、文化大革命の混乱の中で軍が経済の大部分を掌握した1970年代以降、その傾向が顕著になった。
12年に党総書記に就任して以来、習近平(シー・チンピン)は汚職の取り締まりを強めてきた。14年には、癌で死期が迫っていた軍高官を拘束し、党から追放した。習は粛清の必要性について、長期的には台湾をめぐる紛争に備えるためだと考えているかもしれない。だが短期的には軍という重要な組織を自ら支配するためだ。
結局汚職はなくならない
ロケット軍に汚職があったのなら、どんな汚職で、関与した人物はなぜ摘発されたのか。1つの可能性は、彼らが中国の不動産市場低迷の何らかのあおりを受けたことだ。あるいはもっと直接的な理由かもしれない。中国は核兵器増強のため国内西部の土地を大量に取得しており、それが汚職の温床になった可能性だ。
不動産と政府資金の組み合わせは、汚職の機会を多く生んできた。役人が地方政府から土地を接収したり、安く購入したりする口実があれば、民間利用のためにそれを売却し、多額の利益を得ることができる。
腐敗の問題はなくならない
兵器開発と兵站(へいたん)も汚職が起きやすい分野だ。中国は、ロシアの対ウクライナ戦争を注視してきた。中国の予想に反して22年にロシアが侵攻に失敗した理由の1つは、小規模な腐敗が蔓延していたことで、古くなった食料やタイヤが部隊に供給されるなどした。そのため、中国指導部はロケット軍の物資調達と兵站に目を光らせ、汚職の発覚につながった可能性もある。
どのような計画であれ、中国の汚職撲滅運動が長期的にロケット軍の作戦に大きく影響することはない。結局、どれだけ取り締まりをしても腐敗の問題はなくならない。軍を事実上監督できる唯一の機関は中国共産党だが、党は軍よりも透明性が低いからだ。
22年に中国の国策半導体ファンドをめぐる汚職で幹部を摘発したときと同じように、中国の核近代化に投資された資金は、しばらくの間、行き場を失うかもしれない。
●「召集令状メール」も可能に 兵員不足に悩むウクライナ、動員規則変更を審議 1/9
ロシアとの戦争が長期化する中、ウクライナは徴兵逃れを厳しく取り締まり、より多くの兵士を招集できるよう軍の動員規則の変更を検討している。その具体的な中身について解説する。
<現状はどうなっているのか>
ロシアが本格的に侵攻した2022年2月、ウクライナ政府は戒厳令を布告し、民間人の軍への動員を始めた。当初は大勢の志願兵が集まったが、その後志願者は減少している。先月、ウクライナのゼレンスキー大統領は、軍が最大50万人の追加招集を提案したと述べた。
ゼレンスキー大統領「これは非常に重大な数字であり、私はこの考えを支持するにはもっと論拠が必要だと述べた。これは国民や司法、防衛力、そして財政にまで至る問題だ」
<動員年齢の引き下げ>
予備役を強化するため、法案は戦闘任務への動員年齢を27歳から25歳に引き下げることを提案している。
<徴兵逃れに対する罰則>
徴兵忌避者に対する厳しい罰則も議論を呼んでいる。財産取引が制限され、海外旅行や車の運転も禁止される可能性がある。また、ローンを組むことや公共サービスも受けられなくなる。さらに別の法案では、動員法に違反した者に対する罰金を大幅に引き上げるよう求めている。
このほか軍の健康診断を拒否した者には5年以下の懲役を科すとした。
<ネットを活用>
もう1つの変化はデジタル化だ。法案では徴兵事務所が召集令状を郵送したり本人に手渡す代わりに、メールなどの電子的なプラットフォームで送ることを可能にしている。
<海外在住者の追跡>
現行法では、軍は海外在住者を招集することはできない。法案では海外在住者の追跡と、海外在住者に対し軍籍登録の更新を義務付けるよう求めている。法案が成立した場合、パスポートの発行といった領事サービスも軍籍登録の提示が求められる。
<復員>
今回の法案で、兵士の家族にとって最も関心が高いことの1つが復員に関する規定だ。現行法では戦時中の兵役は無期限だが、この法案は戒厳令中に連続36カ月兵役に就いた兵士は除隊させるとしている。ただ陸軍総司令官はこの点について、戦線がこれ以上拡大せず、2025年までに部隊の代替となる十分な予備役を確保できた場合のみ、これを認めるべきだとしている。
これらの法案が成立するためには、議会の承認とゼレンスキー大統領の署名が必要。ただこれらの法案は国民や一部の政治家の批判にさらされている。またウクライナ議会の人権委員は、法案の一部内容が憲法に反すると指摘している。
法案は早ければ今月中にウクライナ議会で審議が始まる見通し。
●24年の世界成長率2・4% 世銀、3年連続で経済減速 1/9
世界銀行は9日公表した最新の世界経済見通しで、2024年の世界全体の実質成長率を2・4%と予測した。欧米の抑制的な金融政策や貿易取引と投資活動の世界的な低迷を反映し、成長率は3年連続で減速する見込みだ。日本は0・9%成長と試算したが、能登半島地震の経済的影響は含まれておらず「今後数週間のうちに分析する」としている。
新型コロナウイルス禍からの回復以降、世界経済は22年が3・0%、23年が2・6%と勢いの弱さが目立つ。特に途上国では24年末時点でも約4分の1の国・地域の人々がコロナ禍前より貧しいままとなる見通し。世銀の担当者は「豊かな国ほど経済が良く、世界で際立った不均等が生まれている」と警鐘を鳴らす。
世界全体では、25年が2・7%成長になると予測した。ただ、ロシアによるウクライナ侵攻に加え、パレスチナ自治区ガザ情勢がエネルギー価格の高騰を招く恐れがあり、今後2年は「見通しが暗い」と指摘した。
日本もコロナ禍後の需要回復が目立った23年の1・8%成長から、24、25年は減速が続く。

 

●EUミシェル大統領が任期満了前に退任の見通し 1/10
EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領が今年6月のEU議会選挙への出馬を決め、任期満了を待たずに退任する見通しとなりました。
EUのミシェル大統領の側近によりますと「ミシェル氏は今年6月に行われるEU議会選挙への出馬を決めた」ということです。
ミシェル氏の大統領の任期は今年11月までですが、任期満了を待たずして退任することになります。新たな大統領はEU首脳会議で決めることになっていて、ミシェル氏の側近は「6月には後任が決まることになる」と話しています。
ただ、ミシェル氏の退任後、すぐに新大統領が就けない場合、今年7月から議長国となるハンガリーのオルバン首相がEU首脳会議を取り仕切ることになります。
オルバン首相はEUの政策に反対の立場を貫くことが多く、ロシアのプーチン大統領とも親しいとされていて、ミシェル大統領の決断には批判の声も上がっています。
●ロシアの一斉空爆 戦争拡大の危機高めた 1/10
年末から年始にかけて、ロシアとウクライナが激しい攻撃の応酬をした。きっかけは昨年12月29日、ロシアによるドローンやミサイルを使ったウクライナ全土への一斉空爆である。
36機の無人機を使って複数の方角から攻撃し、18機の爆撃機が90発の巡航ミサイルを発射した。 侵攻から約1年10カ月、最大規模となるミサイル攻撃で、ウクライナ側によると、住宅や学校、産院が攻撃を受けた。40人以上の死者が出て、負傷者は160人を超えた。 バイデン米大統領は声明で、ウクライナを消し去るというプーチン大統領の目標は変わっていないとし「食い止めなければならない」と強調した。 ロシアでは3月に大統領選がある。有力な対立候補はおらずプーチン氏の再選が確実視されている。
一斉空爆は、ウクライナ侵攻が世論の支持を得ていると、自らを正当化する意味合いもあろう。権力を維持するために、ウクライナ市民の命が犠牲になっている。 一斉空爆では、ロシアのミサイルが一時、ウクライナの隣国ポーランドの領空を通過した可能性があり、ポーランド外務省はロシアの臨時代理大使を呼び出した。ポーランドは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国で、NATOは加盟国が攻撃を受けた場合、武力行使を含む行動を直ちに取ることができる。 一斉空爆は周辺国の緊張をもかつてないほどに高めた。長引く戦火で紛争地が拡大する危険性がある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「テロには必ず報復する。国民の安全を確保するために戦う。ロシアは敗北しなければならない」などと強く非難。国境近くのロシア地域を標的に相次いで攻撃を仕掛けた。 ロシア西部ベルゴロド州では各地で爆発が起き、商業施設や住宅など10カ所以上で火災が発生。ロシア側によると子どもを含む24人が死亡し、100人以上が負傷した。
同州のグラトコフ知事は、頻発しているウクライナ軍の攻撃に不安を感じている市民について、移住を支援すると約束した。ロシアの国民にとっても既に戦争が身近なものとなっているという現実がある。報復による報復でロシアとウクライナの双方で犠牲が拡大している。昨年8月の時点で既に、両軍の死傷者は50万人近くに上っているとの分析もある。
国連安全保障理事会はロシアの一斉空爆を受けて緊急公開会合を開き、日本や欧米はロシアが民間施設を標的にしたとして非難した。 上川陽子外相はウクライナを初訪問し、越冬支援のため、可動式発電機5基を供与することなどを表明した。
女性や子どもに教育、保健医療を支援する考えも示した。 ガザを含め、子どもを含む市民の犠牲が拡大している状況は「人類の危機」(グテレス国連事務総長)である。国際社会は一人でも多くの命を救うために、行動を取るべきである。
●「ウクライナは今年、分割される。来年にも敗戦の恐れ」米調査会社が分析 1/10
「今年は戦争の転換点」
[ロンドン発]国際情勢を専門とする米調査会社ユーラシア・グループは8日、今年の「世界10大リスク」を発表した。
中でも衝撃的なのは、3番目のリスクとして挙げられた「ウクライナ分割」だ。
「ウクライナは今年、事実上分割される。ウクライナと西側には受け入れがたいが、現実となるだろう。戦争は最前線が変わらないまま互いに防戦となり、ロシアは少なくとも現在占領しているクリミア半島とドネツク、ルハンスク、ザポリージャ、ヘルソンの4州(ウクライナ領土の18%)を維持するだろう」(ユーラシア・グループ)
物量に勝るロシアは戦場で主導権を握り、今年さらに領土を獲得する可能性がある。
「今年は戦争の転換点となる。ウクライナが早急に兵員の問題を解決し、兵器生産を増やし、現実的な軍事戦略を立てなければ、早ければ25年にも戦争に“敗北”する恐れがある」(同)
米シンクタンク、ピュー研究所が23年11月27日〜12月3日にかけ、全米の5203人を対象に実施した世論調査によると、31%がロシアと戦うウクライナに対して米国は過剰な支援をしていると回答。29%が「適切な支援をしている」、18%が「十分な支援をしていない」と答えた。
「米国はウクライナを援助しすぎ」と考える米国人が増加
共和党員と共和党寄り有権者の48%が「米国はウクライナを援助しすぎ」と回答。23年6月の44%から上昇した。民主党員と民主党寄り有権者で「米国の援助レベルは過剰」と考えているのはわずか16%だった。民主党員の39%が「米国は適切な額の援助を行っている」と答え、24%は「十分な援助を行っていない」と回答した。
米シンクタンク、外交問題評議会によると、22年1月〜23年10月にかけ、米国は軍事支援463億ドル、財政支援264億ドル、人道支援27億ドルの計754億ドルをウクライナに提供したものの、すでに大半を使い果たしている。ウクライナに送られる米軍の武器弾薬や装備の備蓄を補うための残り資金は11億ドル。補充できるのは48億ドルに過ぎない。
米議会上下両院指導部は政府機関の閉鎖を回避するため1月7日、23年10月〜24年9月の歳出規模を1兆5900億ドルにすることで合意したが、ウクライナへの600億ドルの追加支援は別ものだという。
「議会が24年の追加軍事支援を承認したとしても、おそらくウクライナが米国から得られる最後の重要な支援となるだろう」(ユーラシア・グループ)
過去にウラジーミル・プーチン露大統領を称賛し「私が大統領に返り咲いた暁にはウクライナ戦争を1日で解決できる」と言ってのけるドナルド・トランプ前大統領が11月の米大統領選に勝利すればウクライナ支援を大幅に削減するのは必至。ジョー・バイデン現大統領が勝利しても民主党が上下両院で過半数を占めない限り、新たな大型予算は望み薄だという。
GDPの6%が戦争に費やされるロシア
欧州連合(EU)はプーチンとの蜜月ぶりを隠さないハンガリーのオルバン・ビクトル首相の反対で550億ドルのウクライナ支援がストップしており、米国の代わりをするのは難しい。ドイツの中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)出身のミヒャエル・クレッチマー東部ザクセン州首相は停戦を確実にするためウクライナ政府が領土を一時的に放棄することを示唆した。
「ロシアは新規契約でかなりの兵員を集めているため、政治的に望ましくない今年の第2次動員は今のところ不必要とみられている。プーチンは経済を戦時体制に転換することにも成功した。今年は政府支出の約3分の1、国内総生産(GDP)の6%が戦争に費やされる。ロシアのミサイルと砲弾の国内生産量は戦前を上回っている」(ユーラシア・グループ)
軍事費がGDPの6%に達するのはソ連崩壊後初めて。社会費(GDPの5%以下)を上回るのもロシア近代史上初めてだ。原油価格が高止まりする限り、プーチンはウクライナ戦争を継続できる。ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)加盟国の沿岸を通るルートを開拓したが、ロシアは機雷を敷設しており、間違って西側諸国の船舶が破壊される恐れもある。
「西側の支援が低下し、国内の政治的内紛が激化すれば、ウクライナはますます絶望的になり、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はリスクをとる恐れがある。ウクライナは国際社会の関心を維持するため最前線から離れた場所で非対称戦に転じ、NATOを戦争に巻き込む可能性がある」(同)
米国は戦争に巻き込まれるのを恐れ始めている。
「ならず者国家」の枢軸
ユーラシア・グループが5番目のリスクとして挙げたのは、ロシア、北朝鮮、イランという強力な「ならず者3国家の枢軸」だ。ロシアがウクライナに侵攻して以来、3カ国は協力関係を強化してきた。
「3カ国を結束させているのは厳しい制裁、米国に対する憎悪、自分たちの犠牲の上に西側が利益を得ていると彼らが一方的に考えている国際秩序を打破しようとする野望だ」(ユーラシア・グループ)
北朝鮮はロシアから「よく言えば厄介者、悪く言えばお荷物」とみなされていた。しかしロシアの孤立と軍事経済化、旧ソ連軍と同じ規格の砲弾の在庫を大量に抱えていたおかげで、北朝鮮はプーチンにとって武器弾薬の供給源となった。代わりにロシアは北朝鮮に食料、エネルギー、人工衛星開発の技術支援を行う。
シリアのアサド政権を支えてきたロシアとイランとの関係も「限定的な戦術的同盟」から「より包括的で戦略的な軍事的・経済的パートナーシップ」へ格上げされた。カミカゼドローン(自爆型無人航空機)を提供するイランは西側の制裁を回避するノウハウをロシアに伝授する。ロシアは中東で米国やイスラエルと戦うイランの代理組織との関係も強化している。
「北朝鮮とイランは数十年にわたり核・ミサイル開発で協力してきた。北朝鮮はハマスやその他イランが支援する武装勢力に武器やミサイルの設計図を提供しているとされる。ならず者国家は連携を深めて相互に支援して能力を高め、ますます協調的かつ破壊的な行動をとり、世界の安定に対する脅威を増大させる。ロシアはリスクの主な推進役となるだろう」(同)
今年最大のリスクは米国
しかし今年最大のリスクは米国だ。米国最大の敵は米国なのだ。
「軍事力と経済力は極めて強力なままだが、政治システムの機能不全は先進工業民主主義国の中で最もひどい。今年はそれがさらに悪化するだろう。大統領選は米国の政治的分裂を悪化させ、過去150年間経験したことがないほど米国の民主主義が脅かされ、国際社会における信頼性を損なう」(ユーラシア・グループ)
米世論調査会社ギャラップの調査では、議会に対する国民の信頼は8%と圧倒的に低い。最高裁判所は27%。大統領は28%。教会や宗教団体は32%。公立学校は28%。TVニュースは14%。インターネット上のニュースは16%といずれも歴史的な低水準を記録している。党派対立は歴史的な高水準にあり、人工知能(AI)を使って偽情報が量産される恐れがある。
「2大政党の大統領候補はいずれも大統領に不適格だ。トランプ氏は何十件もの重罪で訴追を受けており、その多くは在任中の行いに直接関係している。最も重大なのは、自由で公正な選挙の結果を覆そうとしたことだ。バイデン氏は2期目終了時に86歳になる。米国人の大多数はどちらも国のリーダーにはしたくないと考えている」(同)
考えたくもないテールリスクが存在するという。大統領選を妨害するため、サイバー攻撃や偽情報、選挙プロセスへの物理的な攻撃、当日の投票を妨害する目的でテロが行われるリスクも否定できない。今年の大統領選ほど地政学的に重要な標的はない。「米国の混乱を見たいと思っている敵は国内外にたくさんいる」(同)という。
中国では米大統領選は「年寄りと狂人の闘い」とささやかれている。しかし今年の「世界10大リスク」を一読して米国全体が集団ヒステリーに陥っているように見えるのが怖い。
●15日からダボス会議、イスラエルのガザ攻撃など地域紛争議題に 1/10
スイス東部のダボスで15─19日に世界経済フォーラムの年次総会(通称ダボス会議)が開催される。世界各国の政府首脳や企業経営者らが集まり、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃など地域紛争が主要議題の一つとなる見通し。
ダボス会議のボルゲ・ブレンデ総裁は、今年の会議はこれまでで最も複雑な地政学環境下で開催されると述べ、中東やウクライナ、アフリカなどの紛争を巡りハイレベル外交協議が行われると説明した。
米国からはブリンケン国務長官とサリバン国家安全保障担当大統領補佐官が出席する。中東地域はカタールやアラブ首長国連邦の首脳らが参加予定で、イスラエルはヘルツォグ大統領が出席する。国連のグテレス事務総長や40カ国以上の外相も参加する。
過去2回のダボス会議ではウクライナ戦争が主要議題となった。今回もウクライナのゼレンスキー大統領がスピーチを行う。ロシア政府関係者が出席するかは不明。
中国は2017年に習近平国家主席が出席して以来、最もハイクラスの高官として李強首相を送る予定。
各国の中央銀行の政策や債務増加問題なども主要議題となる見通し。ロイターが入手した関連資料によると、非公開セッションでは英銀バークレイズ(BARC.L)とカナダの生命保険会社マニュライフ・ファイナンシャル(MFC.TO)の最高経営責任者の出席が予定されている。
●露朝間のミサイル移転に関する外相共同声明 1/10
1月10日、我が国は、米国を始めとする有志国と共に、標記外相共同声明を発出しました。なお、本件は、計48か国・1機関による共同声明です。
(声明)
我々は、ロシアによる2023年12月30日及び2024年1月2日の北朝鮮製のミサイルのウクライナに対する使用と共に、北朝鮮による弾道ミサイルの輸出及びロシアによるこれらの調達を可能な限り最も強い言葉で非難する。これらの兵器の移転は、ウクライナの人々の苦しみを増大させ、ロシアの侵略戦争を支援し、国際的な不拡散体制を損なうものである。ロシアによる北朝鮮製の弾道ミサイルのウクライナにおける使用は、北朝鮮に貴重な技術的及び軍事的知見を提供するものでもある。我々は、この協力が欧州、朝鮮半島、インド太平洋地域全域、そして世界中における安全保障に与える影響を深く懸念している。
我々の政府は共に、露朝間の武器移転に断固として反対する。北朝鮮からロシアへの弾道ミサイルの移転は、その他の武器や関連物資の移転と共に、複数の国連安保理決議、具体的には、ロシア自身が支持した、決議第1718号(2006年)、決議第1874号(2009年)及び決議第2270号(2016年)にあからさまに違反する。我々は、これらの武器輸出の見返りとして、ロシアが北朝鮮に対して何を提供するかを注視している。我々は、北朝鮮及びロシアに対し、関連する国連安保理決議を遵守するとともに、それらに違反する全ての活動を直ちに停止するよう求める。
我々は、全ての国連安保理理事国を含む全ての国連加盟国に対し、我々と共にロシアと北朝鮮による国連安保理決議へのあからさまな違反を非難するよう強く求める。ロシアがウクライナの人々に対し、ミサイルや無人機を繰り返し発射する中、我々はウクライナを支援するために団結し続ける。我々はさらに、北朝鮮に対し、朝鮮半島における恒久的な平和への唯一の道である、外交に戻るという度重なる真摯な申出に応じるよう求める。
●民間人死者100人規模に 昨年末以来 ロシアとウクライナ、報復連鎖 1/10
ウクライナ国境に近いロシア西部オリョール州の知事は9日、州内の燃料・エネルギー施設がウクライナ軍の無人機攻撃を受け、3人が負傷したと主張した。隣接するクルスク州の知事も9日、州内の集落がウクライナ軍の砲撃を受け、女性1人が死亡したとした。一方、ウクライナ東部ハリコフ市当局は9日、露軍のミサイル攻撃を受けたが、同日夜時点で死傷者は確認されていないとした。
昨年末に激化した双方の長距離攻撃の応酬による民間人の死者はこれまでに計100人規模に達し、負傷者も数百人に上っている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、東部や南部で4人が死亡、40人以上が負傷した同日の露軍のミサイル攻撃に対する報復を行うことを示唆していた。
ロシアは昨年12月29日、ウクライナ各地に過去最大規模のミサイル攻撃を実施。首都キーウ(キエフ)などで50人以上が死亡した。ウクライナは30日、報復として露西部ベルゴロドに砲撃などを行い、ロシア側によると25人が死亡した。双方はその後も報復攻撃の応酬を続け、死傷者が拡大。ロシアは今月2日と6日にも大規模なミサイル攻撃を行い、ウクライナ側によると、両日だけで各地で子供5人を含む少なくとも16人が死亡した。
ウクライナ空軍のイグナト報道官は9日、露軍のミサイルの残存数について、使用数と生産数から推計して「2カ月前の水準と同じ約900発だ」とする見方を地元テレビで示した。
●知的人材と資本の流出が止まらない...既に「経済戦争」は敗戦状態のロシア 1/10
戦況は膠着状態で、政治の機能不全のせいで欧米の支援は揺らぎ、資源や注目は中東で新たに勃発した戦争のほうに転換──。今やウクライナは、2022年2月のロシア軍の侵攻以来、おそらく最も厳しい状況に直面している。
だからといって、得しているのはウクライナの敵、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領だという欧米メディアの皮肉な見方は飛躍しすぎだ。
昨年12月には、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のコラムニストが「今年の勝者」の1人にプーチンを選出。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、多国籍企業1000社以上がロシアから撤退したことが逆効果になり、プーチンと取り巻きの富が膨らんでいると示唆した。
だが、プーチンは万事順調、と思い込む罠に陥ってはならない。プーチンに圧力をかける効果的な手段を捨て去ることも許されない。
実際には、あらゆる証拠が示すように、企業の「ロシア脱出」は数々の損失をもたらしている。ロシア経済が巨大なツケを払っていることは、経済データを見れば明らかだ。
譲渡された資産が無価値同然なら、ロシアもプーチン一味も得はしない。ロシアで事業展開するアジア企業や欧米企業の一部資産は没収され、大半の企業はロシアを離れるため進んで巨額の損失を計上した。だが、こうした企業の行為は好感され、時価総額が急増する結果になっている。
石油大手の米エクソンモービルや英BPの撤退で、ロシア側は資源探査に不可欠な技術を失っている。
WSJは昨年3月、現地のジャーナリストの記事として、大規模な供給崩壊でロシアの各部門の工場が休業に追い込まれていると報道。勇敢にも真実を伝えた記者の1人は当局に逮捕され、現在も拘束されている。
本当のところ、ロシアはどうなっているのか。筆者らが信頼性を確認した経済データから検証してみると──。
人材流出
ウクライナ侵攻直後の数カ月間、推計50万人がロシアを離れた。その多くが、ロシアにとって必要不可欠な高学歴の熟練労働者だ。
侵攻から2年近くたつ今、離脱者は少なくとも100万人に膨れ上がっている。試算によれば、この異例の人材大量流出によって、ロシアは技術系労働力の1割を失った。
資本流出
ロシア中央銀行の報告書にあるように、22年2月〜23年6月までにロシアから引き揚げられた民間資本は計2530億ドル。それ以前の資本流出額の4倍以上だ。試算によれば、ロシア在住の富豪の数は33%減少した。
欧米の技術・ノウハウの喪失
この現象はテクノロジーや資源探査など、幅広い基幹産業で起きている。石油大手ロスネフチだけを見ても、同社の公開資料によれば、昨年末までの1年間の設備投資は100億ドル近く増大。
原油1バレルを輸出するごとに、およそ10ドルの追加経費がかかる計算だ。さらに、同社の北極圏の油田開発計画も、欧米の技術や専門知識に頼り切っていたため継続が危ぶまれている。
外国直接投資(FDI)の停止
複数の措置によって、ロシアへのFDIはほぼ完全に止まっている。ウクライナ戦争以前、年間FDI額は約1000億ドルに達していたが、侵攻開始から昨年12月までの各月のうち、流入超過を記録したのはひと月だけだった。
ルーブルの通貨交換性の喪失
多国籍企業の大量撤退ではばかるものがなくなったプーチンは、通貨ルーブルに厳しい資本規制を導入した。ロシア市民による外国銀行口座への送金を禁止し、ドル預金口座からの資金引き出しを最大1万ドルに制限。
輸出企業に獲得外貨の8割をルーブルに両替することを義務付け、ルーブル口座を持つ個人へのドル直接交換、およびドル建て融資やロシアの銀行によるドル販売を停止した。
ルーブル取引高が90%減少したのも、これでは当然だ。ルーブル資産はグローバル市場で無価値に等しくなり、交換不能になっている。
資本市場へのアクセスの喪失
企業にとって欧米の資本市場は今も、最も深度があって流動性が高く、安価な資金源だ。ウクライナ侵攻以来、欧米金融市場で株式・社債を新規発行できたロシア企業はゼロ。
つまり、もはやロシア企業は、高利で融資する国有銀行(指標金利は16%)など、国内の資金提供源を当てにするしかない。多国籍企業撤退で、ロシアのベンチャー企業は資金調達の選択肢を奪われ、国際的投資家に出資を求めることも不可能になった。
富の大破壊と資産評価の急落
グローバル多国籍企業の大量撤退が一因で、ロシアでは、あらゆる分野で資産評価が急激に落ち込んでいる。筆者らの調べによれば、国有企業の企業価値はウクライナ戦争以前と比べて75%低下。NYTが指摘したように、多くの民間部門の資産価値は50%目減りしている。
これらの7つの現象は、グローバル企業が大量撤退したせいで、プーチンが強いられているコストの一部にすぎない。さらに、ロシア産原油に価格上限を設定する米財務省の措置など、効果的な経済制裁がロシア経済に与えている打撃も考慮すべきだ。
ロシアによる輸出の3分の2以上を占めるエネルギー資源は、輸出規模が半減している。工業分野でも消費者分野でも、グローバル経済において製品提供国でなかったロシアは麻痺状態にある。
簡単に替えが利く原材料を生産するばかりで、経済超大国には程遠い。今や国家に管理される企業の「共倒れ」体制によって、辛うじて戦争マシンを動かしている。
豊富な経済データを検証すれば、状況は明らかだ。外国企業の前代未聞の「ロシア大脱出」で、プーチンの戦争マシンには支障が出ている。ウクライナが瀬戸際に立たされるなか、極度に楽観視するのは過ちだが。
●大統領、ダボス会議出席へ ウクライナ支援継続訴え 1/10
世界経済フォーラム事務局は9日、スイス東部ダボスで15日に開幕する同フォーラム年次総会(ダボス会議)に、ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領が出席すると発表した。各国から60人以上の代表が参加する予定で、ゼレンスキー氏は先細りが懸念されるウクライナ支援の継続を直接訴える考え。
ウクライナの最大の支援国である米国からは、ブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が出席する。
会議に先立つ14日には、ウクライナが提唱する和平案「平和の公式」について協議する安全保障・外交担当の高官級会合が開かれる。ゼレンスキー氏も出席する可能性がある。 
●プーチンにNOを言えない国民ソ連化≠ェ加速するロシア 1/10
2022年2月のウクライナ侵攻開始から約2年を経て、ようやく戦況で優位な立場を固めつつあるロシアのプーチン大統領は、24年3月の大統領選で圧倒的な勝利を誇示する態勢を整えつつある。政敵を北極圏送り≠ノするなどなりふり構わぬ手法で、実質30年にわたる超長期政権を手中に収める構えだ。
プーチン氏の圧勝は一方でロシア国民にとり、兄弟国家のウクライナを侵略し、破壊する行為に賛同するという、精神的な一線を越えることになる。巨大な独裁国家「ソ連」への回帰ともいえる流れが加速するのは必至で、ロシア社会は自由な言論がさらに容認されない、厳しい窒息状態に陥ることになる。
周到に準備された芝居
「今こそ、そのような決定が下されるべき時なのだろう。私は、大統領選に出馬する」
23年12月8日、プーチン大統領は表情も変えずにそう言い切った。モスクワで行われた、ウクライナ侵攻に従事した軍人らに勲章を授与する式典でのひとこまだった。
式典が終わった直後に、ロシアが占領するウクライナ東部の武装勢力「ドネツク人民共和国」の軍人が、プーチン氏に「私たちは、ロシアに再統合された、ドンバス地域(ウクライナ東部)のすべての人々の総意として、あなたに大統領選に出馬してほしいのだ」と要請。その言葉に応える形で、プーチン氏は出馬を宣言した。
軍人らが動き出すや、テレビカメラが素早く回り込み、プーチン氏の発言を撮影していた。ロシア政府は「準備されたものではない」と主張するが、周到に用意された発言であったのは明らかだ。さらにプーチン氏の発言はまわりくどく、芝居≠ニの印象をさらに強めていた。
ロシア軍は31万人が死傷
ウクライナ侵攻をめぐり、プーチン氏はロシアが前線で優位な立場に立ちつつあると、繰り返し誇示している。ウクライナに対する欧米の支援疲れが鮮明になるなか、ゼレンスキー大統領が厳しい局面に追い込まれているのは間違いない。
ただ米情報機関はロシアが、31万人超ともいわれる死傷者を出していると分析しており、この数字は約7万人とされるソ連のアフガニスタン侵攻での死傷者の4倍を超える。それでも、ウクライナ侵攻の明確な出口は依然見えておらず、プーチン氏が当初目指していたウクライナ全土の制圧には、程遠い状況にある。
そのようななかでの大統領選への出馬を正当化するには、プーチン氏には相当の理由付け≠ェ必要だった。その意味で、ロシアが「戦果」として占領したウクライナ東部の軍人からの、プーチン大統領への再出馬の要請は、プーチン氏の再出馬を正当化できる最大限の理由だと政権側は考えたに違いない。
北極圏で封じ込め
プーチン政権は一方で、大統領選での圧勝をおぜん立てるために、これまで以上に反体制派の封じ込めにやっきになっている。その象徴が、アレクセイ・ナワリヌイ氏の北極圏送りだ。
ロシア当局はナワリヌイ氏を繰り返し拘束、拘留して、23年8月には過激派団体を創設したとの罪で、懲役19年の判決を下した。同氏は刑務所に入れられていたが、12月に入り、突然動静が不明となった。
処刑されたかもしれないとの懸念が高まったが、ナワリヌイ氏は同月末、ロシア北部ヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移送されていたことが判明した。外部はマイナス30度にもなる、永久凍土に覆われた同刑務所は、かつて旧ソ連の強制収容所として利用されていた場所だ。同氏の活動は完全に封じ込められた格好で、政権の強い警戒感がにじみ出ている。
3月のロシア大統領選をめぐっては、ウクライナ侵攻を批判する独立系のジャーナリストが中央選挙管理委員会によって出馬を拒否されるなど、あからさまな政敵の排除が進む。体制内野党≠ニ揶揄される、実質的に政権の一部となっている野党や、一部の改革派が出馬する見通しだが、プーチン氏に脅威をもたらす可能性はまずない。
再選支持一色が意味すること
一方的に仕掛けた戦争で、自国の兵士30万人以上が死傷し、さらに兄弟国家とされた隣国への破壊を続けるリーダーに対してロシア国民はなかば無感情に投票することを余儀なくされる。政権からのメッセージは明確であり、それに従わない危険を冒すロシア人はほとんどいない。
ロシア国内のメディアも、プーチン氏の再選を強く支持する。
象徴的だったのは、高級紙≠ニ位置付けられる「独立新聞」の報道だ。同紙は12月26日に掲載した「今年の重大ニュース」のランキングで、プーチン大統領の再選出馬を第1位に掲げた。記事の大半は、今後の正式な出馬へのプロセスを延々と紹介するものだったが、再選出馬が確実視されるプーチン氏の出馬をあえて1位に選ぶ状況にも、メディア側からの政権への配慮≠ェ強く感じられる。
今回の大統領選はウクライナ侵攻開始後で初の大統領選になるため、多くのロシア国民にとり、その投票行動はプーチン氏の言動に「賛成する」との意思を国内外に表示することにつながる。その行動により彼らは、侵攻の連帯責任を、明確に負うことになる。
この一線を越えれば、プーチン政権が国内の独裁体制強化をさらに加速することは必至だ。反体制派に対する圧力を強め、国内の言論統制が進む。社会の硬直化が進み、軍事面においても、より苛烈な作戦が遂行されることは確実だ。
戦況、経済で優勢を誇示
プーチン大統領は同月中旬に行われた大規模記者会見で、こう強調した。
「われわれの目標は変わっていない。つまりそれは、ウクライナの非ナチス化であり、非軍事化、中立化だ。もし彼らが、非軍事化に応じないのだとすれば、軍事的手段を含めた対応を行う必要がある。ウクライナは今日、すでにほぼ、何の(武器の)生産も行っていない。彼らは、他国からの供給でそれをまかなっているだけだ。しかし、それはいつかついえるのだ」
発言からは、ウクライナ侵攻で優位な立場にあると誇示するプーチン氏の強い意図が伺える。戦況においては、ロシア軍は12月末にはウクライナ東部ドネツク州の激戦地マリンカを陥落させるなど、守勢にまわるウクライナ軍に対し攻勢をかけている。国民が懸念する追加の動員も、十分な志願兵がいるとし、否定した。
経済面でも、ロシアは23年の国内総生産(GDP)成長率が3.5%を記録したとみられるなど、プーチン氏は厳しい欧米諸国の経済制裁に耐えた事実を強調した。欧州などが買い控えた原油を中国、インドが代わりに買い支えたほか、兵器生産のための公共投資が経済を押し上げたとみられている。日本のGDP成長率が1.7%、ドイツがマイナス成長に陥ると予想されていることを考えれば、プーチン氏がその成果を誇示することは不思議ではない。
この傾向は、24年も劇的に変わることは考えにくい。消耗品である兵器への公共投資は、再投資にはつながらず国家の中長期的な経済成長にはつながらない。ただ、一定の成長を維持する効果はあり、短期的にはその矛盾に気づきにくい。
中国、インドの資源輸入においても、両国がロシア産原油を安く買いたたくことができるという構図がさらに深まるものの、経済的に孤立させるという当初の制裁の目論見は外れてしまったのが現実だ。
進められる全体主義的な政策
ただ、ロシア国内でその先に待ち受けているのは、さらに声を上げられない℃ミ会の深化だ。国民は、投票を経てウクライナ侵攻に全面的に「賛同」したとの言質を取られる。プーチン氏の行動に制限をかける権利は、彼らにはもうない。
プーチン氏が大統領選後、具体的にどのような施策を進めるかは不透明だ。ただ確実に手を付けると考えられるのが、プーチン氏が強い執着を持つ、ソ連の復活を思わせる全体主義的な施策だろう。プーチン氏はソ連崩壊を「20世紀における、地政学上の最大の悲劇」と言ってはばからない。
プーチン氏は22年、多産した女性を表彰するソ連時代の勲章制度の復活を打ち出したほか、ソ連版のボーイスカウトと呼ばれた「ピオネール」活動を復活させた。ソ連時代に、国の人口維持や優れた共産主義者を輩出することなどを目的に実施された施策であり、国家主義的な色彩が極めて強いものだ。
ウクライナ侵攻後、政権に不満を持つ多くの若者らが国を去った結果、ロシア国内の反政権活動は、一層弱体化した。24年のロシアは、大統領選を経て翼賛体制が進むのは必至で、プーチン氏の動きに国内からブレーキをかけることはほぼ期待できなくなる。ソ連崩壊後、民主主義の歩みを進めたはずのロシアが、その歩みを止めてソ連に回帰するという厳しい現実に、国際社会は直面することになる。
●ウクライナ「戦争終了の圧力受けず」、ゼレンスキー氏バルト3国歴訪 1/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、訪問先のリトアニアで、ウクライナはロシアとの戦いをやめるよう同盟国から圧力を受けていないと述べた。
ゼレンスキー氏はロシアとの戦争やウクライナの北大西洋条約機構(NATO)・欧州連合(EU)加盟について協議するため、バルト3国のエストニア、ラトビア、リトアニアの歴訪を開始。X(旧ツイッター)でビリニュスに到着したと発表し、「安全保障、EUおよびNATOへの統合、電子戦や無人機に関する協力、欧州の支援に関するさらなる調整などが議題だ」と説明した。
ただ、ゼレンスキー氏とリトアニアのナウセーダ大統領との会談が始まる直前、イタリアのクロセット国防相がイタリア議会で、ウクライナの反転攻勢は望ましい結果を生んでおらず、軍事的な状況を現実的に見る必要があるとし、和平に向けた外交の時が来たと発言。
ナウセーダ大統領との共同記者会見で、ウクライナのパートナーはウクライナに対し戦闘を止める促しているのかとの質問に対し、ゼレンスキー氏は「パートナーから防衛を止めるよう圧力は受けていない。紛争の凍結に向けた圧力はまだない」と述べた。
バルト3国はウクライナのEU、NATO加盟を強く支持。ゼレンスキー氏は、ロシアがウクライナで勝利を収めればモルドバと共にバルト3国がロシアの次の標的になるとしている。
ゼレンスキー氏はビリニュス中心部で数千人の観衆を前に行った演説で「戦争が終わった後の日が来る。プーチン(ロシア大統領)の後の日が来る」と述べた。
●ウクライナ ロシア西部に越境攻撃か ロシアも攻撃で応酬激化 1/10
ウクライナ軍は東部の国境に接しているロシア西部の州に対して越境攻撃とみられる動きを強めていて、侵攻するロシア側への揺さぶりを続けています。これに対し、ロシア側は「脅威を排除する」としたうえで、国境を接するウクライナ側の州で攻撃を続けていて、双方の応酬が激しくなっています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシアの国防省は9日、ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州で、ウクライナ軍がミサイルと無人機で攻撃をしかけ、これを迎撃したと発表しました。
ベルゴロド州では先月30日に、ウクライナ軍による攻撃で25人が死亡したと現地の州知事が発表していて、ウクライナ軍は最近、越境攻撃とみられる動きを強め、揺さぶりを続けています。
ロシア大統領府のペスコフ報道官も9日、「この脅威を排除するためにあらゆる努力を行う」と述べ、強い警戒感を示しました。
一方、ベルゴロド州と国境を接するウクライナ東部のハルキウ州ではロシア軍の激しい攻撃が続き、10日、ハルキウの市長は市の郊外の子ども向けのキャンプ施設でロシア側から夜間、ミサイル攻撃があり、建物が被害を受けたと発表しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は9日、「ベルゴロド州との『緩衝地帯』を創設するため、ロシア軍がハルキウ州で大規模な軍事作戦を実施しようとする動きがでている」と指摘し、国境地帯で双方の応酬が激しくなっています。
●北朝鮮ミサイルでロシアがウクライナ攻撃、日米欧が武器取引停止を要求 1/10
日米欧など48か国と欧州連合(EU)の外相は9日(日本時間10日)、ウクライナ侵略を続けるロシアに北朝鮮が弾道ミサイルを供与したとして両国を非難する声明を発表した。露朝の軍事協力拡大が世界中の安全保障に与える影響について深い懸念を示し、武器取引の即時停止を要求した。
ロシアは北朝鮮から数十発の弾道ミサイルの供与を受け、昨年12月以降、ウクライナへの攻撃に使用している。声明は「ウクライナの人々の苦しみを増大させ、ロシアの侵略戦争を支援するものだ」と批判し、「断固反対する」と強調した。
複数の国連安全保障理事会決議に違反していると指摘した上で、全ての国連加盟国に違反を非難するよう強く求めた。

 

●ソ連の版図を求めるならソ連の経済もどうぞ〜プーチン、軍事ケインズ主義 1/11
FSBの支持がある限り、プーチンとその後継者の権力は維持される。しかし今や、製造業の大半は軍需がらみ。原油価格低迷の中、ルーブル下落とインフレを抑えるために補助金がばらまかれて、インフレ圧力をさらに高める。プーチンはウクライナ問題で我を通そうとして、元々弱体のロシア経済を破壊してしまったのである。
軍需に経済を全振りした結果
2年前、ロシア軍のウクライナ侵略開始とその直後の西側の本格的制裁は、ロシア経済に大きな衝撃を与えた。制裁はEUというロシア原油・天然ガスの大市場の門戸を閉ざした(輸出は一部続いているが)ばかりでなく、SWIFTという国際決済メカニズムからロシアを追放するものだったからである。
これを受けてルーブルはドルに対して一時50%近くの暴落を示し、ロシアは財政破綻、輸入インフレ必至という状況に追い込まれた。2022年のGDPはマイナス2.1%の縮小を見せた。
しかしロシアは持ちこたえる。輸出企業の手持ちの外貨を強制売却させてルーブル・レートを引き上げる。更に皮肉なことに、制裁で世界の原油・天然ガス価格がはねあがったから、ロシアの輸出収入はかえって増加することになった。
そして予算が軍需生産部門につぎこまれたせいで、製造業部門の生産額が急増。今年3月の大統領選挙を念頭に、プーチンは住宅ローン、消費者ローンの金利に補助金をつけて、低利を維持したから、建設、消費も好調だった。
このため2023年GDPは3%強の成長を見せ、プーチン初め政策当局者達は「ロシアは制裁を乗り切った」と虚勢を張っている。モスクワなど大都市では、人々が戦争の恐怖、あるいは同胞ウクライナ人を殺しているという後ろめたさを振り払いたいかのように、消費、遊興にうつつをぬかす。
しかしこの宴は、タイタニック沈没直前の舞踏会のようなものになろう。
まるでソ連時代の補助金、低価格制度
破綻は2022年の末に始まっている。この時原油価格の急落を受けて、ルーブルは下落を始め、半年で50%近くの下落を見せた。ルーブルを支えるために、ロシア銀行(中銀)は利上げを繰り返し、10月末には15%とした。
プーチンは、これが住宅ローン、消費者ローン金利を引き上げて返済を難しくするのを恐れ、ローンの金利に政府補助金をつけさせる。また国営企業も銀行融資金利への補助金給付を求め、これによって金利への補助金がついた融資の残高は、GDPの7%相当に達している(11月3日付「Bellingcat」)。
これは、あらゆるものが政府からの補助金、それに類するもので低価格に維持されていたソ連の時代を想起させる。1980年代末期、国際原油価格の低迷で、この補助金支給の負担に耐えられなくなったゴルバチョフ政権は、補助金削減・廃止に向かう。これでインフレが始まり、商品は店から消えて、住民の不満と不安が高まり、エリツィンによる権力奪取に至ったのである。
今回、補助金はインフレを激化させ、インフレは中銀に利上げを迫る。中銀が利上げをすれば益々多額の補助金が支給されて悪循環となる。ソ連末期のハイパー・インフレの足音が近づく。
軍事経済の果てにあるもの
補助金漬け経済と並んでソ連時代を彷彿とさせるのが、経済の軍事化である。冷戦時代米国との核競争は金食い虫で、ソ連の製造業の過半は軍需関連となっていた。消費財生産は巨大軍需工場の片隅で行われることが多かった。
今年、軍事予算は昨年度より70%増額されて、GDPの6%に及ぶこととなっている(9月23日付「Intellinews」)。軍需部門がエンジニア、労働力、資材の多くを吸い上げるだろうから、民需生産はソ連時代と同様、「片隅」に追いやられる。
外国製造業の多くがロシアから撤退したことも、今後の見通しを暗いものとする。乗用車の生産、販売から西側企業が大きく撤退したことで、新車販売の中での中国車のシェアが急増している。中国車はロシア国内で生産されていないから、その供給には不安がある。
もっとひどいのは航空機で、冷戦後の開放政策で、ロシアの航空会社は西側製航空機に大半を依存するに至った。2022年2月、西側がロシア制裁で、航空機のリース契約破棄を決めると、ロシアは航空機を差し押さえ、今でも運用している。部品の入手、そしてメンテは制裁に加わっていない中国などを通じて行っている。おそらくこれでは足りないのだろう。昨年末には旅客・貨物便双方で、機材の不具合による欠便増加が報道されている。
エリツィン政権の終末を見るような
そして昨年末には、アゼルバイジャンから約50トンの卵が緊急輸入されている(2023年12月24日付「RIA Novosti」)。昨年を通じて卵の価格は60%近く上昇したし、通常年末には卵の需要が高まるからなのだが、卵の価格は他の食料の価格動向を先導する。
泣きっ面に蜂で、最近の国際油価は下落傾向にある。中国経済は言うに及ばず、米国経済も破綻ということになれば、油価は底を見るだろう。アンゴラはOPECを脱退して、増産で収入を確保する策に出ており、同様の動きが続けば油価下落要因となる。
1998年8月、借金漬けで首がまわらなくなったロシアは、公的債務支払いのデフォルトを宣言。ルーブルは暴落し、経済は止まった。
万策尽きたエリツィン大統領は、次の年、チェチェンに戦争をしかけてその指揮をプーチン首相に取らせる。軍がチェチェンを踏みにじる中、プーチンの人気はうなぎのぼりとなり、前期のように同年12月にはエリツィンは辞任。プーチンを大統領代行に任命する。
気をつけないと、同じようなプロセスが今回も展開することになるかもしれない。
●3月大統領選へ「遊説」開始=プーチン氏、ロ最東端で体力誇示 1/11
ロシアのプーチン大統領は10日、ベーリング海に面した最東端のチュコト自治管区を訪問し、中心都市アナディリで住民らと懇談した。
自身の通算5選が確実視される3月投開票の大統領選が約2カ月後に迫る中、事実上の「地方遊説」を開始した格好だ。
アナディリは首都モスクワから直線距離が6000キロ以上で、この日の気温はマイナス30度前後。プーチン氏は現在71歳だが、さらなる長期政権を見据え、健康や体力に問題がないことをアピールした。
タス通信によると、住民らの質問に答える形で「毎日少なくとも2時間は(トレーニングや水泳に)取り組んでいる」とも説明した。ウクライナ侵攻下、西側諸国の一部メディアでうわさされた「健康不安説」を一蹴したとみられる。
プーチン氏が2000年の大統領1期目就任後、チュコト自治管区を訪れるのは初めて。ペスコフ大統領報道官は「唯一訪問していなかった地方であり、これでロシア全土に足を運んだと言える」と強調した。
●ウクライナに停戦圧力なし 1/11
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、リトアニアの首都ビリニュスを訪れ、ナウセーダ大統領と会談した。共同記者会見で、友好国からロシアとの停戦を要求する「圧力は受けていない」と主張し、反攻を続ける考えを示した。欧米で停戦を探る動きがあることについて「さまざまな意見はあるが、私は直接聞いていない」と述べた。
ゼレンスキー氏は、ロシアに停戦の考えはないとし「プーチン大統領はウクライナを破壊するまで静まることはない」と述べた。今年が侵攻の行方を左右する「決定的な年になる」と訴えた。ナウセーダ氏は新たに2億ユーロ(約320億円)の軍事支援を表明した。
リトアニアはバルト3国を構成するエストニア、ラトビアと共にウクライナの支援国として知られ、ナウセーダ氏は「ウクライナの完全勝利に関心がある」と語った。
一方、今年の先進7カ国(G7)議長国イタリアのクロセット国防相は10日、議会で演説し「ウクライナへの支援は変わらない」とした上で「外交で動くべき時が来たようだ」と発言。ウクライナの反攻失速や、ロシア国内の疲弊に言及し、交渉に向けた「重要なシグナルが双方から出ている」との見方を示した。
ゼレンスキー氏は、エストニアとラトビアも訪れる見通し。スイスで15日に開幕する世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にも出席する。
●予想をはるかに上回るロシア軍の戦闘能力、ウクライナ軍は崩壊寸前に 1/11
新年を迎えたものの、世界の三大戦略要域である東アジア、中東、欧州は戦争がいつ起きてもおかしくない状況か、戦火に見舞われたままだ。
そのなかで、開戦から2年に達しようとしているウクライナ戦争は、ロシア勝利の見通しが高まっている。
ウクライナ戦争の現状と今後の見通しについて概観し、最後に日本の今後の在り方について付言する。
威力を発揮できず南部正面で敗退したNATO型編成・装備のウクライナ軍
2023年6月初旬から始まったウクライナ軍の攻勢は、2023年11月末に失敗に終わった。現在はロシア軍が全正面で本格攻勢に出ている。
その直後の2023年6月13日にウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナは「戦車160両、装甲車360両以上を失ったが、ロシアが失った戦車は54両だ」と述べた。
ロシアの損害は相手の10分の1で、軍事作戦の目的は不変だと述べている。また、戦死者数についても、ウクライナ軍はロシア軍の10倍だと発言している。
いずれも強気の発言だが、ロシア軍の徹底した火力消耗戦によりウクライナ軍が2022年9月から行ってきた攻勢作戦により大量の兵員と装備の損害を出していることを指摘し、また攻勢を繰り返しても同じ結果になると警告したものと受け取れる。
ウクライナが再度攻勢を試みた背景には、NATO(北大西洋条約機構)の支援があった。
2023年6月からの攻勢は、NATOから供与されたレオパルド戦車、ブラッドレー装甲戦闘車、火砲、対空・対戦車ミサイルなどの新鋭装備とNATO加盟国で訓練された精鋭部隊12個旅団、約6万人を基幹とする本格的な攻勢であった。
この攻勢により、ウクライナ軍もそれを支援するNATOも、南部ザポリージャと東部ドンバスのロシア軍を分断し、占領地域の多くを奪還できるものと期待されていた。
攻勢戦略の全般構想は当初、アゾフ海に最も近い南部ザポリージャ正面の戦線から突破してアゾフ海に進出し、ロシア軍を分断する。
その後、戦果を拡張してクリミア半島を奪還するとともに、東部ドンバスのロシア軍も撃退するというものだったと思われる。
ただし、具体的な戦力配分については、米側とウクライナ側では意見が一致しなかった。
米軍側はザボリージャ正面のロポティネ地区に攻勢部隊の全力を集中するようウクライナ側に勧告した。
これに対しウクライナ側は、戦力を集中してもロシア軍の航空攻撃やミサイルの集中攻撃を受けて壊滅するおそれがあるとし、戦力を分割することを主張したと伝えられている。
その結果、ウクライナ軍は戦力を3分し、激戦地区の東部ドンバスのパフムート、アディエフカ及び南部ザボリージャの3正面から攻勢を発動することを主張した。
結果的にウクライナの主張が通り実行に移された。
特にロポティネ正面には、NATO型編成・装備と訓練された兵員からなる精鋭7個旅団が集中され、ロシア軍の陣地帯に対する突破が試みられた。
しかし、数日以内に主力のレオパルド戦車やブラッドレー装甲戦闘車が数十両一挙に破壊され、当初の目論見は外れた。
その原因について、作戦に参加したウクライナ軍下士官が西側報道機関のインタビューに答えて、概略以下のように説明している。
「攻勢を開始してロシア軍の陣地帯の堅固さに驚いた。全正面にわたり縦深約4マイルの地雷原と障害帯があり、その背後にさらに縦深約4マイルの主陣地線があった」
「特に問題になったのは地雷原など障害の処理だったが、障害を処理しようとするとドローンに発見され精密誘導のミサイルや砲撃を受け処理チームが損害を被り処理が進まなかった」
「その間に後方で待機あるいは前進途上の戦車や装甲車がドローンなどに発見され、その多くが破壊されてしまった」
「車両がなくなったため、砲弾の補給ができなくなり、その後のロシア軍の砲兵火力に対抗できず、一方的に損害を招く結果になったとのことである」
なお、このロポティネ正面の戦闘は、約10キロ正面に5個旅団を集中して運用するというNATOの作戦教義に沿った運用だった。
しかし、失敗に終わった。
このような作戦経過を見ると、ロシア軍の火力消耗戦の実態を熟知しているウクライナ側の主張の方がより的確だったと言えよう。
戦略的に戦力を3分したとはいえ、少なくともロポティネ正面ではNATO教義に沿った戦力密度が集中されていたが、それでもロシア軍の火力消耗戦に敗北したことになるからである。
1正面に集中していれば、なお被害は甚大だったかもしれない。
戦力集中により陣地線を若干突破できたとしても、3線以上の陣地帯を突破はできなかったとみられる。
このような状況下で当初投入された5個旅団内の戦車、装甲車、支援した火砲の大半が戦力を失い、残された2個旅団はレオパルド戦車も含めアディエフカ、パフムート正面に転用された。
その後もロポティネ正面での攻勢は続けられたが、ウクライナ軍は乗車攻撃をやめ、10人前後の下車歩兵を主に多数か所から障害帯を越えて敵陣地に接触し、侵入地域を徐々に拡大するという戦法に移行した。
ただし、ロポティネ正面でウクライナ軍が侵入した地域は、大半が警戒陣地と呼ばれる主陣地前方の深さ7〜10キロの地帯であり、戦車や装甲戦闘車は障害帯を突破できず、主陣地の突破は一部の歩兵による侵入程度に止まっている。
ロシア軍の陣地帯はロポティネ正面には3〜4線構築されていたが、その最初の陣地帯を突破できなかったのが実態である。
しかも、ウクライナ軍の北方から進出した突出部の地形は、3正面を比高差約100メートルの高地帯に取り囲まれた低地帯であった。
対するロシア軍は3方向の高地上に陣地線を構え、3正面から火力制圧をしてきた。目標偵察のため多数のドローンも併用していた。
この様相は秋の泥濘期に入り、さらに悪化した。
車両は道路以外使用できず、歩兵も泥に足を取られ前進は進まない。補給も受けられず低地にくぎ付けになったウクライナ軍歩兵部隊をロシア軍の精密誘導砲爆撃が襲い、被害が続出した。
後述するように、ウクライナ軍は2023年11月、それ以上の無益な犠牲を避け、ロシア軍に両翼から包囲されるのを回避するため、ロポティネ正面突出部の南部から撤退を余儀なくされるのである。
兵力を増強するロシア軍と予備役も枯渇しているウクライナ軍
NATO側は2014年のマイダン革命(実態はクーデター)以降、毎年約8000人の要員をNATO各国で軍事訓練を施し、装備品もNATO装備に逐次切り替えるなど、ウクライナ軍のNATO軍化を進めてきた。
開戦時にはウクライナ軍は正規軍約21万人、予備役約90万人とされ、開戦と同時に予備役にはほぼ全面的動員がかけられ、18〜60歳の男性の出国が禁止されている。
戦争が近いとのうわさが流れ、若い男性の国外脱出が増加していたためとされている。
他方、プーチン大統領は、当初から限定特殊軍事作戦という言葉を使い、戦争目的をウクライナの非ナチ化、非軍事化、中立化にあるとし、この一貫した戦争目的が不変であることは、後述するように2023年12月末の段階でも強調している。
そのため、ロシア軍はいまだに予備役200万人の全面動員はかけていない。
開戦から2022年9月頃までロシア軍は、南部18〜22万人、東部と北部に各15〜20万人、計48〜62万人で戦っている。
ウクライナの首都キーウから撤退して以降の2022年8月までの戦いは、ロシア系住民地区の占領とアゾフなど極右武装勢力の制圧を重点とし、マリウポリの戦いが焦点であった。
そのマリウポリは2022年5月17日に陥落した。
ロシア軍はウクライナ軍の攻勢を予期し、伸び切った戦線を約1000キロに縮小しつつ2022年夏頃からスロビキン・ラインと呼ばれる堅固な陣地帯を構築している。
陣地帯は、現接触戦から数キロ以上離隔した西側から南部のロシア占領地域内の要域に沿い全正面幅約1000キロにわたり、少なくとも1線、特に南部については3線以上も構築された。
このような大規模な陣地構築が可能になったのは、地形が平坦であっただけでなく、航空優勢下に機械力を駆使して陣地や障害帯を迅速に構築することが可能であったことによる。
そのうえ、ロシア軍は総兵力約72万人とウクライナ軍の数倍の兵力を展開し、7〜10倍の圧倒的に優勢な砲兵と砲弾・ロケット弾などを集積し、ウクライナ軍の2022年9月からの攻勢に対し徹底した火力消耗戦を挑んだ。
航空優勢もなく兵員数も火力も劣勢であったにもかかわらず、ウクライナ軍は攻勢反復に固執したため、ウクライナ軍の損耗は急増した。
退役米陸軍大佐ダグラス・マグレガー元米国防省顧問は、2023年末の時点で最大50万人以上が戦死し、同数かそれ以上の兵員が戦傷したと見積もっている。
ウクライナ軍の実際の損耗数についてはウクライナ側からは公表されてないが、マグレガー氏は、衛星画像分析、戦死者通知、ウクライナ国内の新たにできた墓の数、病院での調査結果、インタビューなどを集約して得られた見積もりだとしている。
2024年1月5日のユーチューブ上のマグレガー氏の発言によれば、2023年1月時点でロシア軍は、次の火力消耗戦とウクライナ軍の攻勢に備えるため、戦車2000両を含む戦闘車両5000両、火砲数1000門、無人機数1000機などの装備を集中している。
これに対し、米国のバイデン政権は約30億ドルの武器援助を約束したが、攻勢戦力を補うには不十分であった。
その後、半年間はロシア軍の火力消耗戦が続き、ウクライナ軍の兵力、装備は損害が増加していったが、全般的に活発な動きには乏しく、パフムートなど都市部でのワグネルとの戦闘など都市の攻略戦が焦点となった。
2023年6月からの攻勢を担った基幹部隊は、上述したようにNATOで訓練されNATO型の編成・装備で固めた約12個旅団基幹約6万人だった。
しかしその部隊もロポティネやパフムートの戦闘でほぼ失われた。2023年12月時点で、ウクライナ軍の予備部隊はほぼ枯渇したと言えよう。
ロシア軍側の損耗については、戦死と戦傷を合わせて約31.5万人との米情報機関の見積もりが2023年12月に報じられている。
そのうち戦死者数については、戦傷者数は戦死者数の3倍程度という通常の比率から見て約6〜10万人程度とみられる。
特に、2023年12月以降ロシア軍が攻勢に転じてから損耗が増大したとみられているが、それでも戦死者数はウクライナ軍が5〜8倍になる。
ロシア大統領府は2023年12月1日、プーチン大統領が軍の最大兵員数を約17万人増やす大統領令に署名したと発表した。
これにより軍の正規兵力は132万人になると報じられている(『ロイター日本語版』2013年12月2日)。
プーチン大統領は、2023年12月14日のテレビ記者会見において、これまでに政府の目標を上回る48万6000人が入隊の契約を済ませ、志願兵と合わせればその数は2023年末までに50万人に達するだろうと説明。
「どうして動員をかける必要があるだろうか。その必要はない」と述べている(『Bloomberg News』2023年12月14日)。
他方、ウクライナ軍の開戦時の兵力は約21万人、予備役は約90万人とみられていたので、総計111万人となる。
ウクライナ側では総兵力を2022年7月時点で70万人としていると報じられている(『読売新聞』2023年4月28日)。
その後は、100万人前後とウクライナ側は公表してきているが、2023年12月時点では交代要員もいないことが留守家族の発言で明らかになっている。
その兆候として、ウクライナ国内では、兵役期間を無制限にせず、軍が退役期日を明確に示すことを要求する嘆願書が、2万5000人の署名を得て、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領に提出されている(『ロイター日本語版』2023年11月28日)。
このように、厭戦気運がウクライナ国内では高まっている。
ウクライナ国内の独立系調査機関による2023年11月の調査結果によると、ロシアとの交渉を拒否し全土奪還するまで戦うとの意見に賛成するのは48%にとどまり、戦争終結への妥協を期待するとの意見とほぼ拮抗している(『ロイター日本語版』2023年12月5日)。
ウクライナ軍の損耗数が約100万人に上るとすれば、開戦時兵力の111万人としても、損耗比率は実に9割になる。
ウクライナ軍は開戦後新たに兵員を補充したとみられるが、それを加算しても軍はほぼ壊滅状態に近いと言える。
2023年12月に、ウクライナ軍現役兵士の平均年齢が43歳と報じられたことがあるが、あながち誤りとはいえないであろう。
マグレガー氏は、正規の開戦時のウクライナ軍は2022年9月頃までにほぼ壊滅し、その後の3か月間の攻勢で若い予備役兵士主体の部隊も戦力を失った、その後のウクライナ軍は新編された訓練不十分な老兵と少年兵が主になったと述べている。
2023年12月19日、ゼレンスキー大統領は、国外のウクライナ人男性、国内の女性も含む45万〜50万人の追加徴兵の要請を軍から受けていることを明らかにしている。
同月26日ヴァレリー・ザルジニー総司令官は、追加動員の具体的な人数について言及は避けつつ、「軍の兵士は極めて困難な状況の中で前線に立っている」と述べ、理解を求めた(『朝日新聞DEGITAL』2023年12月27日)。
このように、ウクライナ軍の兵員不足は軍総司令官が認めるほど深刻になっている。
兵力不足のため、2023年12月初旬から始まったロシア軍の攻勢に対し、当初果敢に逆襲を試みていたウクライナ軍も、12月20日頃からロポティネ正面の突出部の部隊を撤退させ、ロシア軍が突出部南部を奪還したことが衛星画像から判明している。
なお2023年12月26日の同上記者会見で、ザルジニー総司令官は、東部の要衝マリインカから部隊を撤退させる方針を示し、事実上の同市陥落を認めている。
また、ザルジニー総司令官は同記者会見で、「軍として人数を挙げて要請した事実はない」とゼレンスキー大統領の発言を否定している。
ザルジニー司令官と大統領の間にあつれきもささやかれており、解任説までささやかれている(『時事通信ニュース』2023年12月27日)。
このように兵員不足問題はウクライナ指導部内の亀裂まで生んでおり、ゼレンスキー大統領に対する不信と不満が軍内に高まっていることも示唆されている。
準備周到だったロシアの装備・弾薬の増産に追いつけない準備不足のNATO
装備や弾薬の緊急増産能力についても、2023年末時点でNATO側はロシア側に追いつかないことが明らかになっている。
その根本原因は、冷戦崩壊後、米国はじめNATO加盟国間では、米国の一極覇権が確立され今後は大規模な戦争はないものとの考え方が支配的になり、9.11を契機に対テロ戦争や低強度紛争用の編成・装備や戦法に重点が指向されたことにある。
特に、米国は軍事生産基盤を大幅に縮小し、最先端の売れる兵器の研究開発や整備に力点を置いてきた。
そのため、戦車、火砲、ロケット弾、戦場防空用対空ミサイル、工兵能力、ドローン、電子戦などの装備の開発配備や備蓄を怠ることになった。
また、米軍内では湾岸戦争が将来戦の様相の基準とされ、砲弾も湾岸戦争の実績値に基づき、月産1.9万発とされてきた。
この量は、現在のウクライナ戦争のウクライナ軍の所要数1日6000発の約3日分に過ぎない。
それに対しロシア軍は、経済制裁にもかかわらず、NATOが予想していた生産量の2倍の年間200万発を生産している、
そのペースはさらに増大しており、NATOの砲弾生産量はロシアの7分の1に過ぎないと報じられている(『New York Times』2023年9月13日)。
国際的な支援もある。NATO以外では韓国が開戦から1年10か月間に、50万発の砲弾をウクライナに貸与している。この量は欧州全体の量よりも多い(『HANK YOREH』2023年12月5日)。
他方、2023年10月の露朝首脳会談では、北朝鮮がロシアに砲弾など数百万発を供与することに同意したと伝えられている。
ほかに、イランからドローン、中国から装輪車両・半導体などがロシアに供与されている。2023年12月25日には、ロシア軍が北朝鮮製の砲弾を使用していることを、ロシア国営放送が報じている。
ロシア軍は、ソ連時代の軍事生産基盤をそのまま温存し、その後も増強してきていた。
開戦前にNATOが予想していた量に比較し、ロシア軍の備蓄量は3倍、緊急増産能力は2倍あったとみられている。
NATOはロシアの戦時使用可能弾量について過小評価していた。
それに対し米国はじめNATO側は、砲弾やミサイルの備蓄、緊急時増産能力の向上も遅れ、経済の国際化の流れの中、特に米国の軍需産業を含めた生産基盤が中国などに移転されていった。
そのため、開戦以降になり軍需生産能力を増強しようとしても、技術者も熟練の現場労働者も生産設備もない、工場も再建が必要という状況に陥っている。
米国を含めNATO加盟国が全力で増産しても、ウクライナの所要である砲弾等1日6000発の要求をまだ満たせないでおり、2024年3月までの年間100万発の生産目標も達成困難とみられている。
また2023年10月にハマスとイスラエルの戦争が始まって以降、ウクライナに対するNATOの支援は、2023年に比べ3割から1割強にまで激減したとされ、ウクライナ側の強い不満の一因となっている。
増強された装備数にも圧倒的格差がある。
ロシア側は2023年12月に、2023年中に戦車2000両、戦闘車2万両を受領したと公表している。
それに対し、ザルジニー総司令官は2023年12月、「我々はNATOから数百両の戦車と数百両の戦闘車を受領したが、それではとても足りなかった。HIMARS(高機動ロケット砲システム)も200基は必要だったのに、50基しか受け取れなかった。それでも戦わざるを得なかった」と不満をもらしている。
ウクライナの戦場で最も効果を上げ戦場様相を一変させたドローンについても、ロシアは自ら1万機を生産し、イランなどからも導入し、戦場での展開数はウクライナ側の約7倍に達していると米軍関係者は評価している。
ロシア軍の受領した装備の5〜10分の1しかウクライナ軍はNATOから受領できなかったことになる。
ウクライナには自らこれらの装備を生産する能力はなくNATOに依存している。
しかも、多種多様な装備品が送り込まれており、部品の補給や整備すら容易ではない。これでは火力消耗戦を戦い抜くことはできない。
表面化してきた停戦交渉に向けた動き
ウクライナ軍要人は2023年12月に、2022年3月にロシアとトルコで交渉した際のロシア側の要求は、ウクライナの中立化であり全土占領ではなかったと証言している。
これが、ロシアが当初過小な兵力で侵攻した理由とみられる。
その交渉の直後にボリス・ジョンソン英首相が来て、いかなる文書にも署名しないと主張し、交渉を決裂させたことも暴露している。
その半面でジョンソン首相は、NATOはウクライナが勝つまで全力で支援するから、戦争を続けるよう説得したと言われている。
この約束に反して、NATO、特に米英は、今になって十分に支援をしていないとの不満が、ウクライナ側のこれらの発言からうかがわれる。
なお、2023年12月にプーチン大統領は、ロシアが受け入れる戦争停止の条件は、ウクライナの非ナチ化、非軍事化、中立化だと表明している。
このことは、アゾフなどのウクライナの反露極右武装戦力を一掃し、自衛以上の軍事力は保有させない、NATO軍化は許さないということを意味している。
この条件は前記の、開戦直後の要求と同じで、ウクライナ側が2022年3月にいったん応じようとした経緯を見ると、NATO、特に米英の支援に失望し不信を持つに至ったウクライナがロシアとの間で停戦交渉を進める可能性はあると言えよう。
それを示唆するかのように、2024年1月3日、ロシアとウクライナ間でアラブ首長国連邦の仲介で捕虜交換がなされた。
米国内でもイスラエル・ロビーが背景にいることから、対ハマス戦争で国際的に孤立しつつあるイスラエルに対し支援するよう求める声が強まっている。
他方では、若者を中心にパレスチナ支援を求める声も高まっており、米国内の関心はウクライナから離れ中東戦争に向けられるようになっている。
大統領選挙を控えたバイデン政権にとり、イスラエル支援問題が国際政治面での最大の政治課題になり、ウクライナ支援の陰が薄くなってきている。
バイデン政権も約600億ドルに上る対ウクライナ支援予算を含む総額1000億ドルの緊急予算が米議会の共和党の反対で通過しないことを口実に、ウクライナ支援を断ち切りウクライナとロシアの直接交渉にゆだねる方向に舵を切る可能性が高まっている。
ジョー・バイデン米大統領は2023年12月6日、ホワイトハウスで演説し、ウクライナ支援予算について、「もしプーチンがウクライナを奪ったら、そこで止まらない」と述べ、ロシアはNATO同盟国に侵攻し米露戦争になる恐れがある、だからプーチンに勝たせてはならない、そのためには約600億ドルのウクライナ支援が必要なのだと釈明している。
しかしプーチン大統領は12月14日のテレビ記者会見で、「ロシアが目標を達成した際に平和は訪れる」と発言、ロシアの目標は「変わらない」とし、ウクライナの非ナチ化、非武装化、中立的地位の確保が目的だとの従来の主張を繰り返したと報じられている(『Bloomberg News』2023年12月14日)。
すでにウクライナとロシアの捕虜交換が実現している。
ロシア側の、ウクライナ全土の占領ではなくロシア系住民地区の安全確保、彼らを弾圧してきた極右武装組織の制圧、およびNATO軍化の阻止を追求しているとの主張をウクライナ側が受け入れれば、停戦交渉も進展する可能性が高まっている。
もともとウクライナ戦争は2022年5月頃には、ロシアとウクライナの直接交渉で、ウクライナ側がNATO化を止め中立を保障し、マリウポリ陥落で主力を制圧された極右武装組織を排除しロシア系住民の保護を保証していれば、終結するはずであった。
そこにジョンソン英首相が割って入り、署名を拒否して交渉を破綻させ、他方でNATOが全面的に支援すると約束したことで、それ以降エスカレーションと長期化の段階に入った。
このジョンソン英首相の動きは、米バイデン政権の意向を受けたものであり、その背後には、アントニー・ブリンケン国務長官やビクトリア・ヌーランド国務次官など政権内ネオコングループのウクライナ戦争を拡大長期化させ、ロシアを弱体化させようとの意向があったとみるべきであろう。
ヌーランド氏が、親露派大統領を追い出した2014年2月のマイダン革命を画策し指揮したことが知られている。
それ以降、ロシア系住民に対する弾圧が強まり、内戦状態になっている。ウクライナ戦争はこの2014年2月の時点から事実上始まっていた。
ネオコングループの狙いは、ロシアを弱体化させ、最終的にはプーチン体制を打倒し、ロシアの資源利権を、ボリス・エリツィン時代のように再度グローバリストからなるユダヤ系国際金融資本家たちの手に取り戻すことだったとみられる。
また彼らの政治的理念は、ヌーランド氏の夫ロバート・ケーガン氏が米国随一のネオコン理論家であると同時にトロッキズム理論家であることからも分かるように、ナショナリストのプーチン政権を打倒しロシアを支配下に入れ、トロッキストが夢想してきた世界統一政府を樹立することにあったとみられる。
すなわち、グローバリズムであり、共産主義もトロッキズムもその一派に過ぎない。
まとめ : 欧米追随をやめ自立国家に立ち返るべき日本
このネオコングループが主導してきたグローバル化の潮流は、遡ればフランス革命以前にまで淵源する世界的な政治イデオロギーであり、日米欧の特に言論界やメディアはすでにこのイデオロギーに支配されている。
しかし、今回のウクライナ戦争においてナショナリズムに立つロシアが勝利することになれば、グローバル化の流れは今後退潮し、世界の主流の政治思想、政治理念は、それぞれの国が固有の歴史、文化、地政学的条件などに基づき国益を追求するナショナリズムになるであろう。
また、国際政治構造を規定するのは、リアリズムに立つ主要大国間のバランス・オブ・パワーになるであろう。
その他の面でも、文化的には、西欧近代文明が退潮し非西欧の旧文明が復興し、地政学的には、海洋覇権国から大陸国の覇権の時代に戻ることになる。
新大陸発見以来続いてきた、西欧列強の海洋覇権国が世界を主導する時代は終わりつつある。
その兆候は、G7の影響力の低下、BRICS+台頭の動きにも表れている。
日本は明治開国以来、植民地化を免れるため、国を挙げて欧米近代化に取り組んできた。
さらに戦後は、GHQの日本弱体化政策により日本固有の歴史と文化、価値観を忘れさせられ、欧米への無批判な追随、特に安全保障面での米国依存政策に終始してきた。
しかし、今時代は大きく変化しようとしている。
日本は、縄文時代以来の最も古く長い歴史と伝統を持ち、皇統を一貫して継承してきた国である。
もう一度、この国柄の価値を再認識し、そこに立ち返るべき時代が来ている。
その第一歩は、安全保障面での対米依存、文化面での欧米追随をやめ、独自の国柄に基づく自立国家として再出発することにある。
●宥和政策の過ち重ねるな/ウクライナ情勢とロシア 1/11
ロシアの侵略と戦うウクライナにとり2024年は厳しい年になるだろう。期待された反転攻勢が失敗し、米欧諸国はウクライナへの大規模な軍事・経済支援継続にちゅうちょしている。米欧は「支援疲れ」からウクライナを見捨てて、ロシアへの事実上の降伏となる「和平」を押し付けてはならない。ロシアに譲歩する「宥和(ゆうわ)政策」に逆戻りすれば、3月の大統領選で勝利が確実のプーチン大統領の思うつぼだ。
かつて英国がナチス・ドイツの領土拡大要求に譲歩し、結果として第2次大戦を招いた教訓を忘れず、米欧と日本はウクライナ支援と対ロ経済制裁を堅持すべきだ。
昨年末にロシア軍はウクライナ全土を空爆し、年明け以降も攻撃を続けている。米欧の支援停滞でウクライナ軍は砲弾不足に苦しんでおり、兵器、弾薬を集中的に生産するロシアは優位にある。ロシアを勝利させないため米欧はウクライナ支援を継続するが、規模の縮小は避けられない。24年にウクライナは防衛専念を迫られそうだ。
12月末に一部の米有力メディアが「プーチン氏が現在占領するウクライナ領土約2割を維持することを条件に、停戦の用意を伝えてきている」と報じた。全領土奪還を掲げるウクライナのゼレンスキー大統領が応じるはずがない。
ロシアがウクライナに事実上の全面降伏を求める裏で柔軟な姿勢も示唆するのは、「領土を犠牲にしてもロシアと和平交渉に臨むべきだ」との声がウクライナ国内や米欧で出ていることを意識しているからだ。11月の米大統領選に向け、ウクライナ支援に後ろ向きな共和党のトランプ前大統領返り咲きの可能性がささやかれており、プーチン氏は、米欧がいずれウクライナにロシアへの譲歩を迫ると見越しているようだ。
しかし米欧や日本は、ロシアの領土拡張要求がウクライナだけで終わらない事態を想定しておくべきだ。「ウクライナは元々ロシア領土だ」と主張し侵略に踏み切ったプーチン氏は、「ロシアの歴史的版図の回復」という危険思想の信奉者だ。「次は(旧ソ連領だった)バルト3国」との懸念がくすぶる。「プーチン氏がウクライナに勝てば、次は北大西洋条約機構(NATO)加盟国を襲う」とのバイデン米大統領の警告には理由がある。
2000年に大統領に就任したプーチン氏は、出身母体の秘密警察を使って野党や独立メディアを弾圧、自らに権力を集中させた。20年夏の憲法改正で独裁体制を完成させ、さらに2期12年の続投を可能にした。ロシアの選挙は体制が完全に統制しており、3月にプーチン氏の通算5期目の続投が決まるのは確実だ。ただ、米欧にはロシア大統領選の合法性を疑問視する声があり、今後、プーチン大統領の正統性を認めるかどうかが焦点となろう。
米欧は核大国ロシアを刺激しないよう宥和政策を取り続けた。北方領土交渉を優先した日本も同じだ。08年のグルジア(現ジョージア)紛争、14年のウクライナ南部クリミア半島の併合など、ロシアの旧ソ連諸国への軍事介入に厳しく対応せずにプーチン氏をつけ上がらせ、ウクライナ侵攻の一因となった。日米欧は同じ過ちを繰り返すことなく、ウクライナ侵略戦争を仕掛けたプーチン氏への毅然(きぜん)とした対決姿勢を貫くべきだ。
●国連機関、今年のウクライナ支援に31億ドルの拠出を要請へ 1/11
国連機関は来週、今年のウクライナ支援資金として31億ドルの拠出を要請する。国連人道問題調整事務所(OCHA)の高官、エデム・ウォソルヌ氏が10日、米ニューヨークで開催された国連安全保障理事会で明らかにした。
ウォルソヌ氏は「ウクライナにおける戦争は衰えることなく続いているのに伴って人道的ニーズが高まっており、資金援助の継続が必要だ」と主張。15日にジュネーブで国連難民機関とともに立ち上げる2024年の国連対応計画の下で、ウクライナの850万人の支援に向け31億ドルの調達を目指していると付け加えた。
OCHAは、ロシアの全面的な侵攻により、ウクライナの人口の40%に相当する1460万人余りが今年、人道支援を必要とすると見積もっている。紛争によって国外への避難を迫られた人々も約630万人に達する。
OCHAによると、ウクライナ国内では100万人近い子どもを含む400万人が避難生活を強いられている。
●ロシア軍に捕虜処刑されたウクライナ旅団、ロボティネ周辺で怒りの逆襲 1/11
ウクライナ南部ザポリージャ州の前線では、西にロボティネとノボプロコピウカ、東にステポベを望む3つの丘が、戦術上重要な場所になっている。
161高地、162高地、166高地と呼ばれるこれらの丘は、ロシアがウクライナで拡大して1年11カ月目に入る戦争の初期以来、ロシア軍の連隊が支配してきた。
昨年10月、ウクライナ軍の反転攻勢をロシア軍が押しとどめられたのも、これらの高地を支配していたことが寄与した。だが、ロボティネ南東のこれらの丘をめぐる戦いが終わったと思ってはいけない。
戦いは終わっていないのだ。今週、ウクライナ空中強襲軍(空挺軍)の最強部隊である第82独立空中強襲旅団はこれらの丘周辺で逆襲した。軍事アナリストのトム・クーパーによれば、第82旅団はロシア軍に最近奪われていた土地の大半を奪還し、「161高地、162高地、166高地を結ぶ塹壕(ざんごう)システムにくさびを打ち込んだ」。
この攻防戦はこの戦争の新たな局面の縮図にもなっている。双方とも決定的な優位に立てず、ひたすら相手を消耗させようとする陣地戦・消耗戦という局面だ。
ウクライナ側は、もし当初161高地、162高地、166高地の軍事的な価値に気づいていなかったとしても、昨年の夏の終わりにはそれを理解し、懸念すら抱いたに違いない。反転攻勢部隊が南進してロボティネを解放したあと、東のベルボベに向けて進軍した時、これらの丘に陣取るロシア軍の5個か6個の連隊と正面から対峙(たいじ)することになったからだ。
クーパーは当時すでに、ロシア側によるこれらの高地の支配がもつ意味合いを理解していた。ウクライナ軍が「どうやれば161、162、166高地とベルボベの間を突き抜けられるのかはわからない」とニューズレターに記している。
実際、第82旅団とウクライナ地上軍(陸軍)の第33、第47、第116各独立機械化旅団を中心とする反攻部隊は、これらの丘の手前で停止した。損耗し、疲弊した機械化旅団は休息や補充のために後退したのかもしれない。いずれにせよ、第47旅団と第116師団は昨年10月から11月にかけて東部ドネツク州のアウジーイウカ方面に転用され、ロシア軍の恒例の冬季攻勢に対応している。
ロシア軍はウクライナ軍による昨夏の反攻の成果を帳消しにすべく、ロボティネ周辺でも攻勢に転じた。その攻撃のひとつで、ロシア空挺軍第76親衛空挺師団に所属する空挺兵らは第82旅団のウクライナ兵3人を捕虜にし、即刻処刑した。
第82旅団は復讐した。砲撃やドローン(無人機)の支援を受けながら、ドイツ製のマルダー歩兵戦闘車、米国製のストライカー装甲車、英国製のチャレンジャー2戦車で攻撃した第82旅団は、161、162、166高地の間を遮断し、ロシア軍の塹壕の一区画を奪った。
とはいえ、第82旅団は3つの高地そのものを掌握したわけではない。そして、この戦域を支配しているのは依然としてこれらの丘だ。第82旅団は第76師団の攻勢を押し返したにすぎない。「これもまた消耗戦のエピソードのひとつだ」とクーパーが述べているとおりだ。
こうした一進一退の攻防はこの戦争の現在の性格をよく表している。ロシア軍は複数の戦域で攻勢をかけているものの、廃墟化している東部の都市バフムートの北にある戦線のごく一部を除き、大きな前進は遂げていない。
それ以外の戦域では、ロシア軍の攻撃はウクライナ側の堅い防御に阻まれるか、ウクライナ軍による局所的な逆襲を受けて後退を余儀なくされている。
ロシア軍が人員や戦車、大砲、砲弾の数でなおウクライナ軍を上回っているのは確かだ。しかし、ウクライナ軍はドローンをより巧みに運用しており、ロボティネ周辺ではロシア軍による戦争犯罪を受けて怒りをたぎらせている。
●無謀な突撃繰り返すロシア部隊、出撃車両の9割は戻らず ウクライナ南部 1/11
ウクライナ南部で、ロシア軍が支配するドニプロ川左岸(東岸)に位置するクリンキ。ここにウクライナ軍側が築いた橋頭堡(きょうとうほ)に向け、ロシア軍が戦車や歩兵戦闘車両を10両向かわせると、戻ってくるのはたったの1両だ。
あるロシア人ブロガーは「われわれの側には、失敗から学ばず、クリンキに装備を運ぶ愚か者が何人かいる」と投稿。「そこに運ばれた装備の90%は戻ってこない」と指摘した。
ウクライナ軍の第35独立海兵旅団がまずモータボートでドニプロ川を渡り、その後繰り広げた一連の激しい歩兵戦を経てクリンキに橋頭堡を確保して以来、クリンキで何が起きているかはロシア軍、ウクライナ軍の双方が知っている。
「敵が大砲とドローン(無人機)で優位に立っているときは、急襲することはできない」と前述のロシア人ブロガーは書いた。そしてクリンキでは予想に反して、数で劣るウクライナ軍が3カ月もの間、火力とドローンでロシア軍を圧倒することに成功した。
たしかに海兵旅団は死傷者を出している。だが、ロシア軍の第810海軍歩兵旅団、第104親衛空挺師団、陸軍付属の連隊の死傷者ははるかに多い。
ウクライナ国防省によると、ロシア側がある時に仕掛けた攻撃は、ウクライナ軍の第501独立海兵大隊が、爆発物を搭載した一人称視点(FPV)ドローンで戦車を攻撃し、大きな爆発を引き起こしたことで、「非常にまばゆく終わった」。
ロシア、ウクライナ共に月に数千機のFPVドローンを製造または購入している。だがドローンの入手は、戦略や方針から始まり、重量900gのクアッドコプターが重さ40トンの戦車を爆破するに至るまでの一連の流れの一部分にすぎない。
クリンキや、ウクライナに対するロシアの1年11カ月にわたる戦争の約965kmに及ぶ前線の他の重要な領域では、ウクライナ軍はロシア軍のドローンとその操縦士をつなぐ無線を妨害し、同時にロシア軍がウクライナ軍の無線を妨害するのを防いでいるため、局所的な制空優勢を握っている。
ドローンで優位性を持つウクライナ軍
「クリンキ地区では、ウクライナ軍は電子面で優位に立っているようだが、これはドローンで優位性を持っていることを意味する」と軍事アナリストのドナルド・ヒルは同僚のトム・クーパーが運営するニュースレターで指摘した。「彼らはロシア軍のドローンを妨害し、地雷や投下弾、自爆型ドローンを使ってロシア軍の車両を破壊している」
ヒルは「ロシア軍の戦線のずっと後方で、電波妨害装置や対砲兵レーダー、ロケット発射機、対空システムが攻撃されている」とも指摘した。りゅう弾砲やロケット砲を発射するにはドローンに標的を偵察してもらう必要があるため、ウクライナ軍のドローンでの優位性は大砲での優位性につながっている。
そのため、橋頭堡へのロシア軍の攻撃はいつも同じ結末を迎える。攻撃を仕掛ける部隊は地雷を踏み、砲火を浴び、 目的地までもうすぐのところで自爆型の小型ドローンの大群に囲まれる。ロシア軍はドローンや大砲で部隊を救うことはできない。
この状況は、数字が物語っている。昨年10月中旬以降、ロシア軍はクリンキ周辺で18両の戦車と58両の戦闘車両を含め、少なくとも152の重装備を失った。ウクライナ軍の損失数は31で、そのほとんどが大砲だ。
ウクライナ軍は少なくとも50隻のボートも失っている。ボートが最も攻撃を受けやすいのは水上だ。「ウクライナ軍が数百mほどしか展開できていないのは、ロシア軍の攻撃のせいではなく、ドニプロ川両岸への攻撃と、川を行き来して物資や弾薬、交代要員、負傷者を運ぶボートへの攻撃のためだ」とヒルは指摘した。
ロシア軍がクリンキの橋頭堡を潰す最も簡単な方法は、ウクライナ軍がドニプロ川を渡れなくして、左岸に展開する海兵部隊の補給源を断つことだろう。
だが、橋頭堡の背後への水上攻撃にはドローンが必要であるものの、ロシア軍はドローンを飛行させられない状態にある。空からも水上からもウクライナ軍の補給線を断ち切れないロシア軍は、地上で攻撃を続けている。
あるロシア人ブロガーは、ロシア軍が最近実施した攻撃について、旧ソ連軍のゲオルギー・ジューコフ将軍にちなみ「大胆なジューコフ作戦」と呼んだ。ジューコフは第2次世界大戦中、ドイツ軍の地雷原を兵士に徒歩で越えさせたと主張し(おそらく虚偽の主張だ)悪名を得た人物だ。
冒頭で紹介したロシア人ブロガーは、クリンキに展開するウクライナ軍の海兵部隊を攻撃するために地雷やドローン、大砲の攻撃をくぐり抜けようと試みては失敗を繰り返し、そのたびに車両10両のうち9両を失っている突撃隊を、独特な言葉で表現している。
その言葉とは「一時的な部隊」だ。
●日米韓など8か国、共同声明でロシアによる北朝鮮ミサイル使用を非難 1/11
国連安全保障理事会は10日、ウクライナ情勢に関する公開会合を開いた。ロシアによるウクライナでの北朝鮮製弾道ミサイルの使用を日米欧が強く非難したのに対し、ロシアは反発した。
10日、米ニューヨークの国連本部で開かれたウクライナ情勢に関する安保理会合=金子靖志撮影
米国のロバート・ウッド国連代理大使は、「国連加盟国は北朝鮮からの兵器関連物資の調達は禁止されている」と指摘した。「ロシアは北朝鮮の弾道ミサイルでウクライナの重要なインフラを破壊し、市民を殺害している」と非難した。
今月から安保理入りした韓国の 黄浚局 国連大使は、「北朝鮮はロシアに弾道ミサイルを輸出することで、ウクライナを実験場として利用している」と強調した。日本の山崎和之国連大使は、「北朝鮮とロシアの間の兵器移転は地域を不安定化させる」との見解を示した。
これに対し、ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は「西側諸国はロシアが北朝鮮のミサイルをウクライナで使用したと繰り返しているが、米国による間違った情報だ」と反発した。
会合に先立ち、日米韓など8か国はロシアに対し、年末年始のウクライナへの攻撃で北朝鮮の弾道ミサイルが使われたことを非難する共同声明を発表した。声明は「兵器移転を直ちに停止し、安保理決議を順守するよう求める」と訴えた。
●上川外相とスウェーデン外相 ウクライナ支援継続へ連携で一致 1/11
上川外務大臣は訪問先のスウェーデンでビルストロム外相と会談し、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの支援を継続するため、緊密に連携していくことで一致しました。
上川外務大臣は、日本時間の10日夜、スウェーデンの首都ストックホルムでビルストロム外相と会談しました。
会談で、上川大臣は、ロシアによるウクライナ侵攻などを念頭に「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が揺らぐ中、同志国との連携はこれまで以上に重要になっている。スウェーデンがNATO=北大西洋条約機構への加盟を申請した決断を支持する」と伝えました。
これに対し、ビルストロム外相は「スウェーデンはNATOへの加盟を通じてヨーロッパの安全保障の強化に貢献していきたい。日本がNATOと関係を強化していることを歓迎している」と述べました。
そして、両外相は、欧米各国でウクライナへの「支援疲れ」も指摘される中、支援を継続するため緊密に連携していくことで一致しました。
また、東アジア情勢についても意見を交わし、核・ミサイル問題や拉致問題を含め北朝鮮への対応などで連携していくことを確認しました。
●ウクライナ防衛強化を再確認=NATO 1/11
北大西洋条約機構(NATO)は10日、「NATO・ウクライナ理事会」をブリュッセルで開き、ロシアの侵攻が続くウクライナの防衛を一層強化することを再確認した。発表によると、多くの加盟国が今年、数十億ユーロ規模の戦闘能力を提供する計画を示した。
理事会では、ウクライナの空軍司令官と内務副大臣がオンライン形式で情勢を説明した。NATOのストルテンベルグ事務総長は、ロシア軍によるウクライナ市民への攻撃を非難した上で、ウクライナを疲弊させようとする行為は「成功しないだろう」と強調した。 
●将来の北方領土訪問を示唆 プーチン氏、ロシア極東視察で 1/11
ロシアのプーチン大統領は11日、視察先のロシア極東ハバロフスク地方で、将来必ずクリール諸島(北方領土と千島列島)を訪問すると述べた。タス通信などが伝えた。日本が返還を求めている北方四島を念頭に置いた発言とみられる。
プーチン氏はハバロフスクでの住民らとの会合で、クリール諸島の観光産業発展の可能性に触れ「残念ながら一度も行ったことがない。必ず行く」と述べた。
●ウクライナ東部ハルキウのホテルにロシアのミサイル、「民間人」11人負傷 1/11
ウクライナ第2の都市ハルキウで10日、ロシア軍のミサイル2発がホテル1棟を直撃し、11人が負傷した。 ハルキウ州のオレグ・シネグボフ知事が発表した。
ウクライナ国家緊急サービスが公開した複数の画像には、ひどく損傷したホテルと、駆けつけた消防隊員が写っている。
シネグボフ知事によると、州都ハルキウで10日午後10時30分ごろ、ロシアの長距離地対空ミサイル「S-300」2発が着弾した。負傷者には複数のトルコ人ジャーナリストも含まれるという。
負傷者9人が病院に搬送された。このうち、35歳の男性は重体だと、シネグボフ知事はメッセージアプリ「テレグラム」で明らかにした。
ウクライナのウニアン通信は、ハルキウ市のイホル・テレホフ市長の話として、攻撃を受けたホテルには当時、「軍関係者はまったくおらず」、いたのは民間人30人だったと報じた。ホテルはハルキウ市中心部に位置し、近隣の複数の住宅や車も被害を受けたと、市長は話したという。
ロシアはこの2週間、ウクライナ各地の都市への空爆を強化している。
ウクライナ当局によると、こうしたドローン(無人機)やミサイルによる攻撃で、これまでに民間人数十人が死亡している。
ハルキウ市はロシアとの国境から30キロメートルしか離れていない。2022年2月にロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウウクライナに対する全面侵攻を開始して以降、空爆による甚大な被害を受けている。
ゼレンスキー氏、防空支援の強化を要請
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日、リトアニアを訪問。西側の協力国に対し、防空兵器の追加供与を要請した。リトアニアはウクライナのロシアへの抵抗を最も強固に支える国の一つ。
「我々にとって最も欠けているのが防空システムだ。ドローンと戦う必要がある。リトアニアやそのほかの多くのパートナー国と合意を結べていることをうれしく思う」と、ゼレンスキー大統領はリトアニアの首都ヴィリニュスで語った。バルト3国のリトアニア、ラトヴィア、エストニアは旧ソヴィエト連邦の構成国で、現在は北大西洋条約機構(NATO)に加盟している。
ドイツのキール世界経済研究所の報告によると、リトアニアのウクライナへの軍事支援額は、国内総生産(GDP)比ではノルウェーに次ぐ世界2位。ただ、ウクライナの国防面へのアメリカの貢献度は圧倒的に大きい。
ゼレンスキー氏は、プーチン氏は「ウクライナを破壊するまで静まらないだろう」と述べたと、インタファクス・ウクライナは報じた。
「彼(プーチン氏)は我々を完全に占領しようとしている。そして、ウクライナへの資金援助や軍事援助、素早い対応に対するパートナー国の疑念が、ロシア連邦に勇気と力を与えることもある」
さらに、プーチン氏は「これ(戦争)を終わらせるつもりはないだろう。我々全員が(戦争を)彼ともども終わらせるまでは」と述べ、次に狙われるのはバルト3国とモルドヴァ「かもしれない」と警鐘を鳴らした。
西側諸国と集中協議
ゼレンスキー氏はここ数日、ロシアに抵抗するうえで不可欠な武器の供給を維持するために、西側の協力国と集中的な協議を行っている。昨年後半にウクライナ軍が開始した反転攻勢ではほとんど進展がなかった。また、西側諸国の中にはウクライナ政府の戦略を疑問視する国もあり、戦費をめぐる懸念が高まっている。
ロシアが軍事支出を大幅に増やすと表明するなか、NATO加盟国は砲弾やそのほかの重火器の製造拡大に苦慮している。
欧州連合(EU)のウクライナに対する500億ユーロ(約7.8兆円)の軍事支援は、ハンガリーが拒否権を発動し行き詰っている。米議会でも、新たな軍事支援をめぐり分断が生じている。
NATOは9日、ウクライナ政府とのビデオ会談後、ウクライナに今年、「数十億ユーロ相当」の追加支援を提供する計画があるとした。
「NATOは、北朝鮮やイランから供与された武器を含む、ウクライナの民間人に対するロシアのミサイル攻撃やドローン攻撃を強く非難する」と、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は述べた。
●国連機関、今年のウクライナ支援に31億ドルの拠出を要請へ 1/11
国連機関は来週、今年のウクライナ支援資金として31億ドルの拠出を要請する。国連人道問題調整事務所(OCHA)の高官、エデム・ウォソルヌ氏が10日、米ニューヨークで開催された国連安全保障理事会で明らかにした。
ウォルソヌ氏は「ウクライナにおける戦争は衰えることなく続いているのに伴って人道的ニーズが高まっており、資金援助の継続が必要だ」と主張。15日にジュネーブで国連難民機関とともに立ち上げる2024年の国連対応計画の下で、ウクライナの850万人の支援に向け31億ドルの調達を目指していると付け加えた。
OCHAは、ロシアの全面的な侵攻により、ウクライナの人口の40%に相当する1460万人余りが今年、人道支援を必要とすると見積もっている。紛争によって国外への避難を迫られた人々も約630万人に達する。
OCHAによると、ウクライナ国内では100万人近い子どもを含む400万人が避難生活を強いられている。
●伊国防相、和平交渉に言及 ウクライナ大統領「停戦はロシア利する」 1/11
イタリアのクロセット国防相は10日の議会で、ウクライナ情勢について、「軍事支援と並行して外交を研ぎ澄ます時期が来たようだ」と述べ、侵攻を続けるロシアとの和平交渉を本格的に検討する必要があるとの認識を示した。
昨年のウクライナ軍による反転攻勢は望ましい成果が出ず、情勢を現実的に見なければならないと指摘した。ロイター通信が伝えた。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、訪問先のエストニアで記者会見し、「(戦闘の)一時停止はロシアを利するだけだ」と早期の政治決着を否定。停戦はロシア軍強化の猶予を与えるとして、継戦の必要性を主張した。
●中国はウクライナ問題で平和と対話の側に立つ 1/11
中国の耿爽国連次席大使が現地時間10日に開かれたウクライナ情勢をめぐる国連安全保障理事会の会議で発言し、「ウクライナ問題において中国は一貫して平和と対話の側に立つ」と強調しました。
耿次席大使は「ウクライナ危機が長引いている中、悪意のある攻撃や民間人の死傷事件が頻発し、人道状況が持続的に悪化している。中国はこれに深い憂慮と痛みを感じている」としたうえで、「自制と冷静さを保ち、国際人道法を厳格に順守し、民間人や公共インフラ、特に核施設の安全を守らなければならない」と紛争の当事国に求めました。

 

●ロシア プーチン大統領「北方領土に必ず行く」 1/12
ロシアのプーチン大統領は視察先の極東で「北方領土に必ず行く」と述べ、初訪問に意欲を見せた。
プーチン大統領「あそこ(北方領土)はとても面白いと聞きます。私は残念ながら行ったことがありませんが、必ず行きます」
プーチン大統領は11日、ハバロフスク地方で現地の経営者らとの会合で北方領土を訪問する可能性を示した。
国後島を中心に観光客が増えていることを受けて、「観光産業を発展させる必要がある」として、北方領土のさらなる開発にも意欲を見せた。
具体的な時期は明らかにしなかったが、訪問が実現すれば初めて。
ウクライナ侵攻をめぐり、日ロ関係が悪化する中、北方領土をロシアの領土とアピールする狙いもあるとみられる。
●プーチン大統領「『日本と領有権紛争』のクリル諸島、必ず訪問する」 1/12
ロシアのプーチン大統領が11日(現地時間)、日本と領有権紛争中のクリル諸島(北方領土と千島列島)を訪問すると述べた。具体的な訪問時期は言及しなかったが、実現した場合、プーチン大統領の初めてのクリル諸島訪問になる。
リアノボスティ通信によると、プーチン大統領はこの日、ロシアのハバロフスクで極東地域の企業家らと会い、クリル諸島について「残念ながらまだ行ったことはないが、必ず行くつもりだ」と述べた。具体的な訪問時期や地域については言及していないプーチン大統領は「クリル諸島は非常に興味深いところだと聞いた」とし、この地域に観光クラスターを開発するアイデアを支持すると述べた。
ロシアと日本は、国後島、択捉島、歯舞群島、色丹島の南端四島をめぐって領有権紛争を繰り広げている。現在、これらの島はロシアのサハリン州が管轄している。ロシアは第2次世界大戦後、四島が旧ソ連の一部となり、ロシアが領有権を持つと主張している。
一方、プーチン大統領はこの席で、昨年のロシアの経済成長率が予想値(3.5%)より高いと予測されると述べた。プーチン大統領は昨年の経済成長率が4%より高い可能性もあるとし、「我々は2022年に(ロシア)経済が2.1%減少すると考えたが、実際には1.2%減少した」と説明した。
プーチン大統領は昨年12月に首都モスクワで開かれた記者会見でも、西側制裁にもかかわらず、自国の国内総生産(GDP)増加率を3.5%と予想した。特に製造業は2022年対比7.5%成長したとし、ロシア経済は健在だと強調した。
●ロシア、プーチン氏の再選前に戦術的前進図る=ウクライナ大統領 1/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、戦場におけるロシアの作戦はプーチン大統領が3月の再選を目指す前に戦術的な前進を図ることであり、今後、より大規模な軍事行動が予想されると述べた。
バルト3国歴訪の一環で最後に訪れたラトビアで語った。
●ロシア “兵員補充は順調” ゼレンスキー大統領は支援訴え 1/12
ウクライナへの侵攻を続けるロシアの安全保障会議のメドベージェフ副議長は、契約軍人による兵員の補充が順調に進んでいるとし、長期戦に備える構えを示しました。一方、バルト三国を歴訪中のウクライナのゼレンスキー大統領は、エストニアで支援の必要性を訴えました。
ロシアの安全保障会議のメドベージェフ副議長は11日、軍の追加人員に関する会議で「去年1年間で契約軍人を中心に50万人以上が兵役に就いた」と明らかにしました。
プーチン政権は、おととし9月、30万人規模の予備役の動員に踏み切りましたが、国民の間で不安や反発が広がり、その後は高額の報酬などを示しながら、契約軍人を募り、兵員を補充しています。
メドベージェフ副議長は「プーチン大統領によって設定された任務は完全に履行された」と述べ、兵員の補充が順調に進んでいるとし、長期戦に備える構えを示しました。
一方、バルト三国を歴訪中のウクライナのゼレンスキー大統領は11日、エストニアの議会で演説し「われわれはこの戦いに勝たなくてはいけない。この戦いは、ウクライナだけでなくロシアと国境を接するすべての国の運命を決める」と述べました。
そのうえで、EU=ヨーロッパ連合のウクライナに対する巨額の資金支援の協議がハンガリーの反対でまとまっていないことについて「この支援がなければ、われわれが生き残ることは非常に難しい」と述べ、支援の必要性を訴えました。
●ロシアに連れ去られた子どもたち NGOによる「命がけ」の救出作戦が続く 1/12
ウクライナの子供が多数ロシアに連れ去られ、「ロシア人になるように」と洗脳を受けている。その救出に当たるウクライナのNGOが取材に応じた。洗脳された子の中には「ロシア人化」してしまい、NGOが帰国を働きかけても拒否するケースがあるという。そうした子らを敵国ロシアにまで乗り込んで取り戻す「命がけの作戦」があるという。
1万9千人が連れ去られる?
救出に当たるNGOは「セーブ・ウクライナ(Save Ukraine)」(本部・キーウ、約300人)。2023年12月24日、ロシア側に連れ去られたウクライナ人の男の子3人をロシア軍占領地からウクライナへ移送し、保護した。うち2人は18歳になったばかりで、ロシア軍にあやうく徴兵されるところだったという。
「徴兵されれば、ウクライナ人どうしが戦うことになってしまいます。私たちは、徴兵年齢に達しかけているティーンエージャーの救出に全力をあげています」
セーブ・ウクライナの広報担当、オリハ・エロヒナさん(40)が、オンライン取材に対し、こう語った。
18歳の2人は両親がいなかった。孤児院で暮らしていたところを連れ去られ、ウクライナ国内のロシア軍占領地に住まわされた。そんなとき、セーブ・ウクライナのもとに「ロシアの占領当局が召集令状を出した」という情報が届いたという。エロヒナさんは言う。「私たちは、(被占領地やロシアを含む)各地に情報網を持つ。子供に召集令状が出されていないかどうか、特に注意を払っています」
ウクライナ政府は、強制連行された子供を捜すため、インターネットに「戦争の子供たち」というサイトを開設。1万9千人余りの子供の情報提供を呼びかけている。しかし、母国に戻れたのは2%の387人。その半数以上の213人を、セーブ・ウクライナが救出した。
ほとんどの子が戻ってこない理由として、エロヒナさんは以下の三つを挙げる。
1 孤児や貧困家庭で育つなど、ウクライナとの絆の薄い不利な条件の子が狙われる
2 ロシアや被占領地で、軍事教育を含む「ロシア化」教育が行われている
3 キャンプ地など数カ所を転々とさせられる子が多いため追跡が難しい
エロヒナさんによると、ロシア軍占領地(南部ヘルソン州)にいた17歳の男児は3回、強制移送させられた。その子は、解放されてキーウに移った後、次のように証言した。
「世話役のおばあさんが心臓発作で死んだため、独りで自宅に住んでいたが、突然、ロシア軍人が来て、地元の学校寄宿舎へ入れられました。何を学びたいのかなど、希望はいっさい聞かれませんでした。毎朝、グラウンドに整列させられ、ロシア国旗が掲揚。ロシア国歌の斉唱を強制されました。僕が拒否したら、トイレ付きの小部屋に15日間、閉じ込められました。そこはテレビも本もありませんでした」
「授業はすべてロシア語で行われ、『ウクライナの大人たちは君を見捨てた』『ウクライナは君を必要としていない』と繰り返し言われました。歴史もロシアのものを教えられました」
「同級生の女の子が授業中、ウクライナ語で『トイレに行きたい』と教師に訴えたところ、ロシア語を使うように言われ、どこかへ連れていかれて、数時間、戻ってこないこともありました」
この男児はその後、(ロシアが一方的に併合した)クリミア半島、さらに別のロシアの都市へ移送されたが、セーブ・ウクライナが救出に成功し、その後、キーウへ移った。
親がロシアに乗りこむ例も
一方で、命にかかわる失敗例もある。エロヒナさんは「10歳前後の子の心はプラスチックのよう。強制移送されるのは孤児のような家庭環境に恵まれない子も多く、なおさらのこと、もろい。そこへ、ロシアのパスポートを与えられたり、一方的な情報を与えられたりするので、『ここに残ろう』と思ってしまうケースも出てくる」と話す。
ウクライナ南部に住んでいた孤児の男児(17)は、2022年2月のロシア侵攻後、街中でウクライナ国旗を掲げるなど、ロシアの占領に抵抗していた。ところが、ロシアへ強制移送された後、親ロシアのプロパガンダに感化され、ロシア国防省傘下の「青少年軍(ユナミル)」に入った。「青少年軍」は、子供に射撃などの軍事教練をさせ、ロシアへの忠誠心を養うことを目的とする。
ロシアに「同化」した男児の救出は難航が予想された。名づけ親(ゴッドマザー)が帰還の説得役に選ばれ、5月、ロシアへ派遣された。しかし、彼女はモスクワで当局に拘束されてしまった。そこで2日間、尋問を受け、さらにベラルーシへ移送され、そこでも尋問を受けた。その後、彼女とは連絡が取れなくなったという。
もう一つの危険を伴う救出作戦の模様を、11月、米国のテレビ局CBSが次のように報じた。
NGO「セーブ・ウクライナ」のホットラインに、ポーランドに避難中のウクライナ人女性ポリーナさんが「9歳の孫ニキータがロシアに連行された」と電話してきた。NGOスタッフは共にモスクワに向かった。ポリーナさんは、ニキータ君が収容されたロシアの養護施設に着くと、門番に「ポーランドから人道支援のために来たボランティアです」と身分を偽って、中に入ることに成功する。
しかし、施設長は引き渡しを拒否。DNA鑑定もやらされ、70日間待たされた。だが、ポリーナさんが実の祖母であると証明され、帰還が決まり、ニキータ君を抱きしめる。セーブ・ウクライナによると、ロシアはウクライナ人の親や親族がロシアまでやってきて、引き取りを求めた場合には、子どもたちの帰還を認める場合があるという。
ポリーナさんはモスクワへ行く際には、地雷原もスタッフの車で走り抜けた。戦場を突破する命がけの道中だった。
このケースでも、ロシア軍が、保護者や親類の許可なく、ウクライナ領内の養護施設からニキータ君ら児童80人を移送。3回、クリミアやロシア本土など移転を繰り返し、児童の失踪の跡を追いづらくしていた。
セーブ・ウクライナはこれまで14回、救出作戦を行った。5月にあった5回目の作戦では、31人の奪還に成功。キーウで記者会見もした。そこには16歳のビターリー君も出席、自らが騙され、拉致された様子を、次のように証言した。
「クリミア半島で2週間だけのキャンプ、という説明を受けました。しかし、着くと、鉄条網に囲まれた場所でした。その中で、毎日4、5時間、ロシア国歌を聞かされ、施設の教師から『ウクライナはテロリスト国家だ』『ゼレンスキーは薬物中毒者だ』などと言われました。また、『(出身地の)ヘルソン州は砲撃が続いており、君の両親も引き取りを拒否している』とも言われました。結局、半年間、そこから出られませんでした」
ロシアの経済紙「RBK」によると、ロシア国防省は本格侵攻から5カ月後の2022年夏、30万人余りのウクライナの子がロシア領にいることを認めていた。
一方、ロシア国営タス通信によると、昨年11月から、中東・カタールの仲介で、外交ルートでロシアからウクライナへの子供の帰還が行われるようになった。タス通信によると、11月に4人、12月に計8人の子供がウクライナへ戻った。
この動きについて、エロヒナさんは「あまりにも数が少ない。ロシアが象徴的な返還により犯罪行為を少しでも帳消しにしようとしている」と語る。
犯罪行為とは、国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ)が2023年3月、ロシアのプーチン大統領と、その補佐役のマリア・リボワベロワ氏に逮捕状を出したことを指す。その容疑は、2人が「少なくとも数百人の子供を、孤児院や養護施設からロシアへ強制移送し、永久に母国から切り離そうという意図を持っている」ことだ。
皮肉なことに、ロシアの犯罪性を浮き彫りにした逮捕状の発出後、セーブ・ウクライナの活動は難しさを増した。エロヒナさんは「ロシアは警戒心を高め、徐々に戦術を変えてきた。バルト諸国など様々な救出ルートがあるが、ロシアは監視を強めている」という。
子供の強制移送の実務を担うリボワベロワ氏は、記者会見などでは「子供を戦争の危険から保護している」と弁解する。だが、孫のニキータ君を取り戻そうとしたポリーナさんには、「お金や車をあげるから、ロシアに留まるつもりはないか」と声をかけてきたという。
また、ロシア領に連れ去られたボグダンさん(17)は、リボワベロワ氏から「罵詈雑言を投げかけられた」と証言したという。当時、ボグダンさんは、ロシア国防省から召集令状を受け取ったにもかかわらず、ウクライナへの帰還を求めており、それが彼女の反感を買ったようだった。
ウクライナの調査報道機関「Molfar」によると、リボワベロワ氏を支える政府高官ら14人からなるチームが存在しており、連れ去りが国家ぐるみで行われている疑いがある。
こうした状況に対し、エロヒナさんは次のように語った。
「ウクライナでは、大人はロシアに殺害され、子供はロシア人化されてしまう。ウクライナのアイデンティティを消すのがロシアの狙い。セーブ・ウクライナは、子供の救出のため、さらに積極的に救出者を現地に送り込んでいく方針です」
●対ロ国境閉鎖を延長 2月半ばまで通行不可―フィンランド 1/12
フィンランド政府は11日、ロシアとの国境検問所の閉鎖措置を1カ月間延長すると発表した。2月11日まで引き続き全検問所が通行不可となる。ロシアのプーチン政権は、ウクライナ侵攻開始後にフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に加盟したことを受け、報復として国境に中東出身の移民を送り付けているとされる。
フィンランドは昨年11月、ロシア経由での越境者の急増を受けて検問所を閉鎖。12月に2カ所を再開したところ、2日間で300人以上がロシア側から入国を試みたため、再び全検問所を閉じた。今月15日に再開する計画だったが、事態の改善が見込めないことから延長を決めた。
●NYマーケット続伸 ダウ平均3万7711ドル02セント ナスダック1万4970.19 1/12
11日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続伸した。
米長期金利の低下が好感され買い注文が優勢となり、一時3万7801ドル90セントと取引時間中の最高値を付けた。
また、この日発表された米消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は市場予想を上回り、米連邦準備制度理事会(FRB)が早期に利上げに踏み切るとの見方が後退、ダウ平均の上値を抑えた。
結局、前日比15ドル29セント高の3万7711ドル02セントで取引を終えた。
また、ハイテク株主体のナスダック総合指数は5営業日続伸し、0.54ポイント高の1万4970.19だった。
個別銘柄ではITのセールスフォース・ドットコム、スポーツ用品のナイキの上昇が目立った。
●米のウクライナ支援は「現在停止中」=ホワイトハウス 1/12
米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は11日、ロシアとの戦争において米国がウクライナに提供している支援は「現在、停止している」と述べた。
また、パレスチナ自治区ガザに十分な支援物資を積んだトラックが到着しておらず、ガザは食料安全保障の問題に直面しているとした。
●ハンガリーのウクライナ政策に「失望」、EUで孤立=米国務次官補 1/12
オブライエン米国務次官補(欧州・ユーラシア担当)は11日、ハンガリーのウクライナ政策に失望感を示し、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を最後に批准する国にはならないという約束を果たすことを期待していると述べた。
オブライエン氏はブリーフィングで「われわれは失望している。(ハンガリーの)オルバン首相がウクライナを支援する闘いを疑問視し、欧州連合(EU)で孤立することを選んだ」と述べた。
EUとNATO加盟国のハンガリーは2022年のロシアによる侵攻以降、ウクライナへの軍事支援を拒否しているほか、トルコとともにスウェーデンのNATO加盟を妨げている。
オブライエン氏は、スウェーデンが近くNATOに加盟することを望むとし、批准する最後の国にはならないという約束をオルバン政権が果たすかどうかに注目していると指摘。ハンガリーが建設的なパートナーになるよう期待すると述べた。
●八方美人?全方位外交サウジの引力 イランやイスラエルとも接近 1/12
中東新時代1サウジアラビアの「引力」
今、中東で目を離せないのがイスラム世界の盟主を自負するサウジアラビアです。はたから見れば「八方美人」とも言える、全方位外交を展開。その中心にいるのは、現サルマン国王の七男で事実上の指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子(38)です。
近年のサウジアラビアの「積極的中立主義」は、大国アメリカ・バイデン政権の外交姿勢を一変させ、ウクライナ危機では対立するウクライナとロシアの双方と対話を維持。往年の敵とされるイランとは、中国の仲介で外交関係を正常化させ、さらにアラブ諸国と敵対してきたイスラエルとの国交正常化と引き換えに、アメリカから核開発能力を引き出そうとしています。
世界に衝撃を与えたパレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃は、サウジアラビアが進める外交にどのような影響を与えうるのか。その特別な立場から紐解きます。
サウジアラビア
アラビア半島の8割を占める君主国家で、人口は約3500万人。首都はリヤド。イスラム教の二大聖地メッカとメディナがある。世界最大級の石油埋蔵量と輸出量を持ち、2022年の原油輸出量は世界最大の3億6480万トンで、日本も総輸入原油の4割をサウジ産に頼る。国の財政収入の8割を石油に依存しているため、2016年にサルマン国王とムハンマド皇太子の指揮で石油依存からの脱却や包括的発展を目指す成長戦略「サウジ・ビジョン2030」を公表。2018年からそれまで許されなかった女性の自動車運転を認めるなど、社会改革を進める。アラブ諸国で唯一のG20メンバー国。
   サウジアラビアの「積極的中立主義」とは
「サウジに代償を払わせ、のけ者にする」
当時、大統領選の民主党候補だったバイデン氏は2019年、その前年にアメリカメディアのコラムニストだったサウジアラビア人のジャマル・カショギ氏がトルコにあるサウジアラビア領事館内で工作員に殺害されたことを受けて、サウジアラビアを強く非難し、こう発言しました。
アメリカとサウジアラビアの外交関係は、「石油と安全保障の交換」とも呼ばれ、1940年代にまでさかのぼります。
アメリカはエネルギー安全保障の観点から産油国であるサウジアラビアとの外交関係を重視してきましたが、イラクやアフガニスタンから撤退するなど、中東自体への関与を弱めると同時に、台頭する中国への対抗を念頭に、外交の軸足をアジア太平洋地域に移してきました。
トランプ大統領が就任後、最初の外遊先としてサウジアラビアを選んだのに対し、バイデン大統領はカショギ氏の問題を受け冒頭のように発言するなど、人権問題の観点からサウジアラビアに厳しい態度を示していました。
しかし、その態度が一転したのは2022年7月。バイデン大統領はイスラエルを訪問したその足で、サウジアラビアを訪問しました。大統領就任後、初めてのことでした。
訪問の最大の動機となったのは、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ軍事侵攻でした。
欧米各国がロシアへの経済制裁を科す一方で、世界的にエネルギー価格が高騰。バイデン大統領としては、サウジアラビアに対し原油の増産を求めざるを得なくなったのです。バイデン大統領はこれを機に態度を一変させました。2023年9月には、G20に合わせてインドからサウジアラビア、そしてイスラエルを経由して、ヨーロッパに通ずる「経済回廊」を実現すると発表。2022年7月のサウジ訪問の際は、ムハンマド皇太子と拳を合わせただけでしたが、この時は固い握手を交わしたのです。
さらにサウジアラビアは、対岸にあるイランとの関係では、中国を仲介役に外交関係を正常化。戦争状態にあるロシアとウクライナ双方と対話ができる関係を維持しています。
特にウクライナ関係では、ゼレンスキー大統領のG7広島サミット訪問の陰でほとんど注目されませんでしたが、ゼレンスキー大統領が日本の直前に訪問していたのはサウジアラビアです。
ゼレンスキー大統領が出席したアラブ連盟の首脳会議で、ホスト国であるムハンマド皇太子は、「我々は、ロシアとウクライナの間の仲介努力を継続し、安全保障の達成に貢献する方法で、この危機を政治的に解決することを目的としたすべての国際的努力を支援する」と述べ、2023年8月には、40カ国が出席するウクライナ和平会議をサウジアラビアで開催したのです。
サウジアラビアの近年の外交姿勢は「積極的中立主義」とも呼ばれています。
一見すると八方美人にも見えるその姿勢を他の中東の専門家はどう見ているのでしょうか。
湾岸地域に詳しいイスラエルの研究者は、その「巧みさ」を評価しています。
イスラエル国家安全保障研究所 ヨエル・グザンスキー上級研究員
「サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は、ウクライナ戦争に続くエネルギー危機や最近の原油価格の高騰を受けて、産油国である自分たちが世界的に重要な存在であると認識している。アメリカ寄りでもなく、ロシア寄りでもなく、さらには中国寄りでもない。より独立した外交政策を手に入れようとしている。そして、これまでのところ、その外交政策がうまく行っていると言える。ただ、サウジアラビア側も、アメリカの存在が他の国と代替可能だと思っていないが、今よりもサウジアラビアの安全保障を考える存在であってほしいと思っているはずだ」
   安全保障の対価=イスラエルとの正常化
「なぜハマスがイスラエルを攻撃したのか。理由の一つは、私がサウジアラビアと(イスラエルの国交正常化について)交渉しようとしていることをわかっていたからだ」
2023年10月7日、パレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲作戦は世界に衝撃を与えました。この攻撃でも、サウジアラビアの影が見え隠れします。
冒頭の発言は、アメリカの首都ワシントンで開かれた会合でバイデン大統領が行ったもの。ハマスが、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化を阻止するために攻撃を実施したという見方を示したのです。パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するハマスからすれば、同じアラブ諸国のサウジアラビアがイスラエルと関係改善すれば、パレスチナ問題の解決が置き去りにされかねないという見方で、こうした分析をする人は少なくありません。
アメリカがイスラエルとアラブ諸国の接近を促してきた背景には、イランとの関係があります。中東への関与を弱めつつ、地域大国として台頭を続けるイランを封じ込めるための抑止策としてイランと長年のライバル関係にあるサウジアラビアと、同じくイランと敵対するイスラエルを結びつけることで、いわゆる包囲網を築こうと考え、国交正常化の交渉を進めていたとされています。
これにはイスラエル側にもメリットがありました。
イスラエルとサウジアラビアには国交はないものの、水面下では交流があるとされています。それでも、正式に国交正常化が実現すれば、イスラエルとアラブ諸国の対立が、少なくとも政治レベルでは終わったことを意味し、パレスチナ問題を事実上、葬り去ることを意味するのです。ハマスはこれを恐れていたとされているのです。
交渉にあたり、サウジアラビア側は国交正常化の「対価」として、いくつかの条件をアメリカ側に提示しました。
アメリカの有力紙ウォールストリート・ジャーナルによると、NATO(北大西洋条約機構)の第5条のような集団的自衛権を含む安全保障条約の締結、F-35戦闘機などの最新型の兵器の供与、そして、核開発能力の支援を求めていたとされています。
2023年8月9日付の同紙の報道では、アメリカ政府関係者が「今後9カ月から12カ月程度でより詳細な和平案で合意できる」とする楽観的な見方すら示していました。
さらに、9月には、ムハンマド皇太子が、アメリカFOXニュースの単独インタビューに応じ、「パレスチナ問題は非常に重要で、この問題は解決しなければならない」としつつも、イスラエルとの国交正常化について、時期は明言しないまでも「日々(和平に)近づいている」と述べ、正常化の可能性にも言及したのです。
   ハマスが変えた世界と、サウジとパレスチナ問題
パレスチナ問題においてサウジアラビアは特殊な立場を維持してきました。
サウジアラビアはメッカとメディナという二つのイスラムの聖地を抱えていることに加え、2002年の「アラブ和平案(Arab Peace Initiative)」を主導し、パレスチナの最大の後ろ盾となってきました。
この和平案では、国連決議242の履行、つまり1967年の第3次中東戦争以降、イスラエルが占領するすべての土地からの撤退を求めるとともに、イスラエルとの国交正常化は、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の独立と引き換えであることを明確にしたのです。
「パレスチナ国家なくして、イスラエルとの国交正常化なし」。この方針は、2020年にUAEやバーレーンなどのアラブ4カ国が、アメリカのトランプ政権の仲介によってイスラエルと国交正常化するまで守られてきました。
このため、2020年のアラブ4カ国とイスラエルの国交正常化の合意はこの方針が破られたことを意味するからこそ、衝撃的でもあり、サウジアラビアとの国交正常化が実現するかが大きな焦点となっているのです。
そうした流れの中で起きたのが、今回のハマスによる攻撃でした。
サウジアラビアが一体どのような声明を出すのかも注目されましたが、攻撃の翌日に出した外務省の声明では、一貫してパレスチナの立場を擁護し、「我々は(イスラエルによる)占領の継続や、パレスチナ人の正当な権利の剥奪、それに聖地に対して繰り返される構造的な挑発の結果として、情勢が爆発する危険性について幾度となく警告してきた」とイスラエル側を非難したのです。
その後も、度々、即時停戦を求めるとともに、10月に国連の会合の後に記者のぶら下がりに応じたファイサル外相は「和平プロセスを再開させなければならない。アラブは本気だ」と語気を強めて、パレスチナ問題の解決を求めました。
   イスラエルとの正常化への影響は
最大の焦点は、今回の激しい軍事衝突が、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化にどれだけの影響を与えるかです。専門家の見方も分かれています。
アメリカのシンクタンクCNAS(新アメリカ安全保障センター)のジョナサン・ロード氏は、米紙「ザ・ヒル」に寄稿した論考の中で、今回アメリカがイスラエルに対して極めて迅速な軍事的な支援を行ったことに触れ、「アメリカとイスラエルがパートナーシップを組んでいたことによってもたらされた安全と保障が実証される形となった」と指摘し、安全保障面の観点から、サウジアラビアをより国交正常化に傾かせ、ハマスにとっては裏目に出る可能性もあると指摘しました。
また、エルサレム戦略・安全保障研究所(JISS)のエフライム・インバル所長は、ハマスがサウジアラビアにとっては脅威でもあるイスラム組織「ムスリム同胞団」から分派した組織だという経緯を踏まえ、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化の流れは変わらないと指摘しました。
エルサレム戦略・安全保障研究所(JISS)のエフライム・インバル所長
「サウジアラビアにとっての最大の敵はイランだ。イランの脅威に対応するためにはイスラエルとの同盟関係が必要だと考え、イスラエルとの戦略的関係を築きたいという考えは変わらない。表向きに言うこととは別に、サウジアラビアはハマスの台頭を望んでおらず、イスラエルに戦争を続けて欲しいとも思っているはずだ」
しかし、こうした考えに疑問を呈する専門家もいます。
イスラエルを代表する著名な歴史・思想研究家であるヘブライ大学のアビシャイ・マルガリット名誉教授は、ハマスはムスリム同胞団に端を発するものの、政治的には独立して活動していると指摘。むしろ、ハマスもサウジアラビアもイスラム教のスンニ派であることや、サウジアラビアの発展に多くのパレスチナ人が貢献してきたことなども踏まえ、次のように指摘しました。
ヘブライ大学 アビシャイ・マルガリット名誉教授
「サウジアラビアとイランは互いに脅威を感じている。イランには、サウジアラビアがイラクのサダム・フセインのイラン攻撃を支援したという記憶がある。なぜイランが核開発を進めるのかといえば、サウジアラビアの脅威のためであり、イスラエルのためではない。しかし、サウジアラビアは近年、イエメンのシーア派系の反政府武装組織フーシの攻撃を受けるなど、脆弱さを露呈した。ムハンマド皇太子がパレスチナ問題を真剣に捉えていないこともある。そこで、アメリカが主導する形で同盟関係を築こうとしてきたが、今回の戦争を受けてすべてが振り出しに戻った。元に戻すのには時間がかかるだろう」
ムハンマド皇太子は若干38歳。一方のアメリカのバイデン大統領は現在81歳。2024年の年明けからは大統領選再選に向けた活動が本格的に始まり、選挙に向けた実績づくりとしてもサウジアラビアとイスラエルの国交正常化を進めたい思いが透けます。
日本の外交筋からは、「若いムハンマド皇太子が国王に即位すれば、その治世は何十年と続く。イスラム世界の盟主を自負するサウジアラビアとして、イスラエルとの国交正常化に急ぐ必要はない」と指摘する声もあります。
そして、イスラエルとハマスの戦闘から2カ月が経ち、興味深い世論調査もあります。
イスラエル寄りとしても知られるアメリカのシンクタンク・ワシントン近東政策研究所による最新の調査では、「イスラエルとの経済交流を支持する」という人の数は、2022年11月には43%に上っていましたが、最新では17%にまで低下しました。
これは、2020年にイスラエルとUAEなどが国交正常化する前のレベルで、いわゆるイスラエルとアラブの「接近ムード」は後退したと言っても過言ではなさそうです。
ただ、予想だにしないことが起きるのも中東です。
思い起こせば、UAEがイスラエルと国交正常化を果たす前、イスラエルのネタニヤフ首相は、パレスチナのヨルダン川西岸地区を併合すると宣言していました。
UAEは、アラブ和平案を破棄してイスラエルと国交正常化した際、”我々は国交正常化によって併合を止めたのだ”と主張していました。「アラブ和平案」という過去の約束をほごにした形ではありますが、このような主張をすることで、「正当化」を試みることができるのが、中東の現実主義的な外交でもあります。
サウジアラビアは、イスラエルとの国交正常化の条件として、パレスチナ問題でも大幅な譲歩を求めていたとされています。
まずはガザ地区での戦闘が集結し、その後の統治問題など課題は山積みですが、そのさらに後にパレスチナ問題がどのように扱われていくのか、サウジアラビアが大きな鍵を握っていることは間違いありません。
●仏・アタル新内閣発足 外相にマクロン大統領の側近セジュルネ氏(38) 1/12
フランスのマクロン大統領は、戦後最年少のアタル首相率いる新内閣の閣僚名簿を発表し、外相に38歳のセジュルネ氏を起用した。
セジュルネ外相(38)はマクロン大統領の側近で、マクロン氏が創設した政党の代表を務めている。
また地元メディアは、同性愛を公表しているアタル首相のパートナーだと報じていた。
一方、経済・財務相や国防相、内相などの主要閣僚は留任。
マクロン大統領は、年金制度改革や移民法などをめぐり政権運営が難航し、求心力の低下が指摘される中、内閣の若返りをアピールするためアタル首相に続き、セジュルネ外相を抜てきしたものとみられる。 
●ロシア不法占拠、35%「知らない」 北方領土問題で内閣府調査 1/12
内閣府は12日、北方領土問題に関する世論調査の結果を発表した。ロシアが不法占拠し続けている現状を「知らない」との回答が35.0%に上り、30代以下では5割弱が「知らない」と答えた。政府の担当者は「若い世代の認知度が低い。SNSでのアプローチを強化したい」と語った。
「現状をどの程度知っているか」との問いに対し、「よく知っている」10.0%、「ある程度知っている」54.1%。「北方領土という言葉を知らない」は0.6%だった。
年代別では18〜29歳の47.0%が「現状までは知らない」、2.0%が「言葉を知らない」。30代は49.1%が「現状までは知らない」と回答した。
北方領土返還運動に「あまり参加しようと思わない」は58.1%、「絶対に参加したくない」4.3%で、合わせて6割を超えた。理由(複数回答)は「自分が参加しても領土が返還されると思えない」が45.7%で最多だった。
調査方法が異なるため単純比較はできないが、2018年実施の前回調査では「北方領土について聞いたことはあるが、現状までは知らない」31.3%、「全く聞いたことがない」1.0%だった。
調査は昨年10月5日〜11月12日に全国の18歳以上の3000人を対象に郵送方式で実施。有効回収率は54.1%。
●ウクライナ・イスラエルでのバイデンの苦境―背景に民主党の分裂 1/12
バイデン政権の深刻な支持低下
12月10日−14日に行われたニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査で、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の政策については支持が33%、不支持が57%という結果が示された。しかも同世論調査によるバイデンとトランプの比較で、イスラエル・パレスチナ衝突をどちらがうまくやると思うかについて、バイデン38%、トランプ46%とトランプが優位な結果が出た。そして、同世論調査で、大統領候補として投票する先は、トランプ49%、バイデン43%とトランプがリードしている。共和党優位の米国の選挙人団制度の仕組みを考慮すると、全米の世論調査が同じでも共和党候補が優位になる傾向があり、選挙は約1年後とはいえ、バイデン陣営にとっては、厳しい調査結果が示されたといえる。
この世論調査では、回答者の44%が、その時点ですでに2万人を超えるガザの民間人の死者が出ていた状況について、イスラエルはハマスに対する軍事作戦を停止すべきだと回答している。そして48%の回答者は、イスラエル軍はガザにおける民間人の死傷を避けるために十分な姿勢を示していないと回答している。
共和党の大統領候補としてトランプ氏が指名を獲得する可能性がより高まっている中で、インフレと経済政策への不満に加えて、イスラエルとハマスの衝突が、バイデン政権にとって、再選への深刻な障害として浮かび上がっている。
ウクライナ支援の条件の国境対策が進まない背後に民主党左派の存在
ウクライナ支援とイスラエル支援をパッケージにして、共和党議会からの支持を得ようとする戦術についても、バイデン政権はワシントンDC内で不満を持たれている。筆者がワシントンDCのメディアや外交安保政策の専門家にインタビューをした際、回答者は例外なく、米国はウクライナ支援を継続すべきだという意見で一致していたが、バイデン政権の議会対策については失敗しているという評価が多かった。例えば、バイデン大統領自身が反対派の議員をホワイトハウスに招待して説得をするなどの積極的姿勢が欠けている点などが、批判の理由だ。
バイデン政権は、議会共和党の強硬派にウクライナ支援の予算を反対され、クリスマス休暇を迎えようとするワシントンDCで議会での厳しい交渉が続いてきた。危機感を抱いたウクライナのゼレンスキー大統領は、12月12日、米国を訪問して、バイデン大統領、上院議員全員およびウクライナ支援に懐疑的な議員を多くかかえる下院共和党の指導者、マイク・ジョンソン下院議長と会談を持ち、自国への支援継続を訴えた。
ジョンソン議長はゼレンスキー氏との会談後、「プーチンの残忍な侵攻に我々は共に立ち向かう。米国民は自由を支持しており、この戦いで正しい側にいる」と話したが、追加予算案を容認する条件は、米国境警備の強化策と、ウクライナが対ロシア戦争で勝利する詳細な戦略の提示だと発言した。ここには、来年の選挙を睨み、内向きで保守的な共和党支持者の意向が反映されている。
バイデン政権は614億ドル(約9兆円)のウクライナ支援の予算を議会に要請しているが、議会共和党は反対している。行政管理予算局(OMB)のヤング局長は、ウクライナ支援の予算が年内に枯渇するという書簡を議会指導部に送り、警告をしている。
他方ウクライナ支援を継続したいバイデン大統領は、12月6日に、急遽、議会と国民向けにテレビ演説を行い、12月下旬までにウクライナ支援追加予算案を可決するように訴え、それができなければ、ロシアのプーチン大統領に対する「最高の贈り物」になると語っている。
この演説の中に、以下の文脈で日本がでてくる。「考えてほしい。もし我々がウクライナを支援しなければ他国は何をするのか?ウクライナを支援している日本はどうするのか?G7はどうするのか?我々のNATOの同盟国はどうするのか?彼らはどうするのか?」
ワシントンDCでのインタビューによると、バイデン政権の日本に対する期待は、日本で考えるよりも大きいようだ。バイデン大統領にとっては、中国との競争を最優先する共和党の保守派に対して、対中競争の重要なパートナーである日本もウクライナ支援に協力していることを示し、ウクライナ支援は、対中競争戦略にも重要な要素であることを訴えたいのかもしれない。事実、サリバン国家安全保障担当補佐官は、フォーリン・アフェアーズ誌に寄稿し、侵略戦争から国を守るために、ロシアに立ち向かうウクライナを支援するための国家連帯を組織していると述べ、アジアについても同様のことを行っており、日本の防衛予算の倍増とトマホーク・ミサイルの購入が、地域のライバル(中国)への抑止力強化となると指摘している。
共和党のウクライナ支援の条件は、メキシコ国境の管理の厳格化であるが、これは民主党左派が反対する政策である。バイデン政権にとっては、来年の大統領選挙を睨めば、民主党左派を離反させる政策はとりにくい。先に見たバイデン政権のイスラエル・パレスチナ紛争への政策に対する不興も、特に民主党左派と若年層からのものであることを考えると、下院共和党議会が、ウクライナ支援の条件について国境警備を持ち出したことは、民主党分断を見据えた効果的な戦術と考えることができる。しかも民主党左派は、基本的に共和党右派と同様に、ウクライナ支援のような対外関与の拡大に懐疑的である。例えば、2022年10月に民主党左派のプログレッシブ・コーカスは、中間選挙を前にバイデン大統領に、ロシアとの直接対話を求める書簡を送った。その後、民主党内の分裂を避けるために書簡を差し戻したが、民主党左派はウクライナ支援の継続に前向きとはいえない。
中東政策でもトランプ支持が増える矛盾
そもそも、米国の世論が不満を持つイスラエルの対ガザへの強硬姿勢は、強権化を強めるイスラエルの現ネタニヤフ政権の性格が反映している。ネタニヤフ首相は、汚職の嫌疑で起訴されて一度首相と議員を辞任したが、同志が法律を変えて、彼が首相に返り咲き組閣をすることを可能にした。しかしリベラル・中道派は、ネタニヤフと連立を組むことに反対し、極右政党と連立を組むことになった。その結果、現在のネタニヤフ政権は、パレスチナのガザとヨルダン川西岸の住民に対して、最も強権的な姿勢をとる結果となり、現在のガザでの暴力の拡大と死傷者の増大にもつながっている。
ネタニヤフ首相は、自らの起訴を無効にする狙いで、司法の議会に対する優位を解消するための憲法改正を狙い、リベラル・中道派から大きな反対を受けた。それがイスラエル各地での大規模な反ネタニヤフ・デモにも発展した。
トランプ前政権では、中東和平特使であったトランプの女婿のクシュナー氏がネタニヤフとの家族ぐるみの付き合いという関係もあり、彼と緊密な関係を築いてきた。クシュナー氏は、やはり強権的で民主党左派から批判されてきた、サウジアラビアの実質的指導者であるムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子とも協力関係を築き、アブラハム合意などの中東和平政策を進めてきたが、パレスチナを置きざりにした政策が、ハマスに危機感を抱かせ、今回の武力衝突を引き起こしたイスラエルでのテロにつながったという見方もされている。
自身への起訴を抱えながら権力に返り咲き、政治的な生き残りを図っているネタニヤフ首相にとって、自分と似た境遇にあり、個人的な関係もあるトランプ氏が来年の大統領選挙でカムバックしてくることは、優位だと考えているはずだ。また、ウクライナへの侵略戦争が難航して多くの人的犠牲を出し、戦局が膠着しているロシアのプーチン大統領にとっても、トランプ氏が大統領に返り咲くことは、願ってもないチャンスだろう。
強権指向のストロングマンと呼ばれる政治リーダーが、多くの市民の権利や生命を犠牲にしながら政治的に生き残ることが、米国の民主党左派が望む状況ではないはずだ。しかし冒頭の世論調査で示したように、ストロングマンの暴挙を止めることができないバイデン政権への民主党左派と若年層の不満は強く、バイデン外交の手足を縛っている。
渡辺将人慶應義塾大学総合政策学部准教授は、議会の民主党最左派のウクライナ支援反対は左派内で抑え込まれたが、イスラエル情勢では左派が結束して政権に圧力をかけている状況を解説している。
そもそも中東におけるバイデン外交の手足を縛ってきたのは、民主党左派の人権重視姿勢である。そして左派が手足を縛ってきたバイデン政権の中東政策での難航は、左派の不満の対象となり、バイデン政権を失速させ、めぐりめぐって、米国内外のストロングマンたちを優位にしている。これは出口のない矛盾構造といえるだろう。
このような矛盾構造から脱却するために、イスラエル・パレスチナ紛争とウクライナ戦争に対する民主党左派と米国有権者の認識をどのように変えて、自らの支援につなげるのかが、バイデンの選挙体制の大きなカギとなるだろう。
●ウクライナ軍、ロシアが完成間近の鉄道橋を破壊 補給に新たな打撃 1/12
ウクライナ軍は先週末、アゾフ海の沿岸から北へ40km、ロシアの占領下にあるウクライナ南東部の前線から南へ80kmほどに位置する東部ドネツク州フラニトネ村の南で、ロシアの労働者が建設中だった鉄道橋を爆破したもようだ。攻撃にはロケット砲が使われたとみられる。
兵站が鍵を握る持久戦になっているこの戦争の出来事としては、ここ数カ月で最も報道が不十分なものだ。だが、ウクライナ軍は、この村を流れるカルミウス川に架けられつつあった未完成の橋を崩落させることで、被占領下のウクライナ南部クリミア半島やその周辺への補給線を改善しようとするロシア軍の取り組みを後退させた。それをあざ笑うようなやり口でもあった。
「ウクライナはロシア軍の主要な兵站構想に穴を開け、ロシア側が半年近く本格的に取り組んできた補給計画を妨害した」。地元紙キーウ・ポストの上級国防担当記者ステファン・コルシャはそう解説している。
ロシア軍が本土からウクライナ南部の部隊に大量の補給物資を運ぶ方法は主に、(1)クリミアへの海路、(2)ケルチ橋(クリミア大橋)経由でのクリミアへの道路と鉄路、(3)ウクライナ南東部への鉄路──という3つがある。
ロシアが2022年2月にウクライナに対する戦争を拡大して以来、ウクライナ軍はこれら3つの補給線をすべて攻撃してきた。
(1)については、ウクライナ軍はミサイルや水上ドローン(無人機)で、補給物資を運搬する黒海艦隊所属の揚陸艦の大半を損傷させるか撃沈し、残りの艦艇にとってもクリミアの港を非常に危険な場所に変えた。(2)のケルチ橋も、爆弾やミサイルなどの攻撃で再三損傷させている。
(3)に関しても、陸上を走る主要な鉄道は前線方向に北へ何度か蛇行しているため、ウクライナ軍の榴弾砲の十分な射程圏内にある。ウクライナ軍の砲兵が、通過する列車や路線自体を攻撃するのは造作ないということだ。
こうした攻撃にさらされてきたため、ロシアは第4の補給線として海岸沿いに鉄道を建設し始めた。この鉄道路線もウクライナ軍のロケット砲や遠距離攻撃兵器の射程に入るものの、少なくとも榴弾砲による攻撃からは列車を逃がすことができる。
ただ、この鉄道路線はカルミウス川を越える必要がある。カルミウス川はフラニトネを通って南へ流れ、戦争拡大の初期からロシア軍が占領するマリウポリでアゾフ海に注ぐ。
ロシアの労働者がフラニトネで橋の建設に本格的に取り掛かったのは昨年9月のことだった。ウクライナ軍が攻撃した時には完成間近だったとみられる。キーウ・ポストのコルシャの記事によれば、米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)が使われた可能性が高い。おそらく、射程80kmでGPS(全地球測位システム)誘導のM30/M31弾が一斉射撃されたのだろう。
建設中だったこの橋を、ウクライナ軍がこれまで攻撃できなかった理由があったわけではない、とコルシャは指摘する。
「ロシア軍の意思決定を揶揄したい人ならおそらく誰でも(中略)、ウクライナ軍の精密誘導弾の射程に完全に入る川に鉄道橋を架けようとするロシア軍の大掛かりな土木作業を、なんとも愚かしい計画と考えるだろう」とコルシャは書いている。
さらに「クレムリンに批判的な向きは、橋の建設が始まってからまる5カ月たったあとでそれを破壊し、ロシアの橋建設業者の作業を降り出しに戻したという点に、(ウクライナ側の)ユーモアのセンスすら感じるかもしれない」と続けている。
既存のものであれロシア側が必死に構築中のものであれ、ウクライナ南部の補給線を攻撃されるたびに、ロシア軍の連隊や旅団は圧迫され、物資が不足する。ウクライナ南部ヘルソン州のドニプロ川左岸(東岸)で、ロシア軍が数千人以上の兵力を投入しながら、数百人規模のウクライナ海兵隊部隊が保持する橋頭堡をいまだに排除できていないのも、それが理由のひとつだ。
●英、ウクライナ向け軍事支援を増額 首相訪問で安保協定に署名 1/12
英国のスナク首相は12日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、ゼレンスキー大統領と2国間の安全保障協定に署名した。また、来年度の支援を25億ポンド(約31億9000万ドル)とし、過去2年間に比べ2億ポンド増額することを明らかにした。ドローン(無人機)や長射程兵器の購入に充てる。
スナク首相は会見で「世界中の敵対勢力は、われわれには長い戦争に耐える忍耐力も資源もないと考えている。今揺らげば、プーチン大統領だけでなく北朝鮮やイランなど他国もあおることになる」と語った。
ゼレンスキー大統領は会見で、米国からの援助も実現の手応えを感じており、先月よりも楽観的になっていると語った。
ゼレンスキー氏は、署名された協定はウクライナに対する「前例のない安全保障協定」だとし、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟するまで効力を持つと表明。「最初の協定を英国と締結できたことをうれしく思う。この協定は他のパートナーと協力する際に基礎となる」と述べた。その後、短文投稿サイト「X」(旧ツイッター)に「これは単なる宣言ではない」と投稿した。
ウクライナの議員は、スナク首相がウクライナ議会で演説し、スタンディングオベーションを受ける動画を投稿。スナク氏は議員に対し「現在、ウクライナの自由を求める闘いにおける困難な時期にある。紛争中に困難な時期が訪れることは常にある。長い闘いを覚悟しなければならない」と語った。
英国はこの協定について「情報(インテリジェンス)共有、サイバーセキュリティー、医療・軍事訓練、防衛産業協力など、英国がウクライナの安全保障のために提供してきたさまざまな支援を正式に表明するもので、今後も継続していく」と表明。
スナク首相は声明で、ウクライナは2年間、自由と民主主義の原則のために戦ってきたとし、「われわれは苦難な時期も、将来のより良い時期も、ウクライナと共にある」とした。
●中ロ貿易、23年は過去最高の2400億ドル 26%増 1/12
中国税関総署が12日公表した統計によると、2023年の中国とロシアの貿易総額は過去最高の2400億ドルだった。両国の経済関係が緊密化していることが浮き彫りになった。
中国は世界最大の石油消費国。西側諸国の制裁下にあるロシアにとって極めて重要なエネルギー輸出先となっている。また、ロシアは欧米企業の撤退を受け、中国製の自動車やスマートフォンなどの輸入も増やしている。
23年の両国の貿易総額はドル建てで前年比26.3%増の2401億ドル。
中国からロシアへの輸出は前年比46.9%増。ウクライナ戦争前の21年との比較では64.2%急増した。
ロシアからの輸入は13%増だった。
ロシアの国営通信がノバク副首相の発言として先月下旬に伝えたところによると、23年のロシアの石油輸出の半分は中国向けだった。
●中国、台湾総統選で「正しい選択」せよと警告 アメリカには「口出し」を非難 1/12
台湾総統選を目前にした11日、中国が台湾の有権者に向け、「正しい選択」をするよう警告した。
中国の国務院台湾事務弁公室は、13日投開票の総統選で与党・民進党の頼清徳氏が勝利すれば、台湾で独立運動がさらに進み、中台の関係は危うくなるだろうとする声明を発表。
国務院は頼氏について、「『独立』をそそのかす邪悪な道を歩み続け、(中略)台湾を平和と繁栄からいっそう遠ざけ、戦争と衰退にますます近づけるだろう」とした。
また、アメリカが中国に対し、選挙前に緊張をあおるなと警告したことについて、「厚かましく口出し」しているとアメリカを批判した。
総統選は誰が勝つかで、台湾がこれまでより中国に接近するか、遠ざかるかの変化が生まれる可能性がある。
台湾は、アジアでの優位を争う中国とアメリカの争いにおいて、重要な火種となっている。
頼氏は有権者に、台湾の主権を維持するため「正しい道を選ぶ」よう呼びかけている。
一方、主要対立候補の国民党・侯友宜氏は頼氏について、中国との関係を危険にさらす人物だとしている。
頼氏は今月2日に世論調査が禁止されるまで、最有力候補と目されてきた。13日には立法院(議会)選挙も同時に実施される。
●イラン、オマーン湾で石油タンカーを拿捕 アメリカが非難 1/12
イランは11日、オマーン湾でマーシャル諸島籍の石油タンカーを拿捕(だほ)した。
報道によると、オマーンのソハール港付近を航行していた「セント・ニコラス」に武装した男たちが乗り込み、イランの港へ向かうよう指示したという。
イランの国営通信は海軍からの情報として、タンカーを差し押さえたとし、昨年アメリカがイランの船と積み荷の石油を没収したことに対する報復だと報じた。また、拿捕した船はギリシャの所有だが、アメリカのものだと伝えた。
セント・ニコラスはイラク・バスラ港とトルコの目的地との間を航行中だった。
英国海運貿易オペレーション(UKMTO)は11日、グリニッジ標準時午前3時30分(日本時間午後12時30分)に、4〜5人の「無許可の人物」が乗船したとの報告を受けたと発表した。「軍服風の黒い制服に黒いマスク」を着用していたという。
また、セント・ニコラスとの通信は途絶えており、当局が調査中だと付け加えた。
セント・ニコラスを所有するエンパイア・ナヴィゲーションによると、同船には原油14万5000トンが積載されていた。また、乗務員はフィリピン人が18人、ギリシャ人が1人だと発表した。
セント・ニコラスは、船名が「スエズ・ラジャン」だった昨年4月、イランに対する制裁の一環として、アメリカに拿捕されている。
当時この船をチャーターしていたスエズ・ラジャン・リミテッドはその後、イランに代わって国外で石油をひそかに販売・輸送し、制裁違反に共謀したとして有罪を認めた。
アメリカは、船舶と乗組員の即時解放を要求し、今回の件はイランによる国際貿易を妨害する最新の試みだと述べた。
米国務省のヴェダント・パテル報道官は、「このような行為は、商船や地域経済、世界経済にとって、単に不確実性を高めるだけだと考えている」と述べた。
アラビア半島の周辺地図
オマーン湾は、アラビア半島の北側に位置している。同半島の反対側にある紅海では、イランの支援を受けているイエメンの武装組織フーシ派が商船に攻撃を繰り返しているが、この二つは別の事案だと考えられている。
紅海に展開するアメリカとイギリスの海軍は12日、フーシ派を標的とした空爆を同国各地で実施した。
●ウクライナに訪れるターニングポイント 1/12
1月6日、大勢の人々がウクライナの沿岸都市オデーサで、冬の気温をものともせず黒海に飛び込んだ。キリスト教の祝日である公現祭に合わせ、キリストの洗礼を記念する行事の一幕だ。
凍える海への今年の飛び込みには、一段と重要な意味があった。戦禍に見舞われたウクライナが初めて、当該の祝日をグレゴリオ暦に従い(1月6日に)祝ったのだ。従来であればユリウス暦の日付(1月19日)だった。
昨年、ウクライナは法律を制定し、クリスマスを祝う日も多くの西側諸国と同じ日に移行した。ロシアと共通する祝日の伝統からまた一歩距離を取った形だ。
しかしこの2〜3週間はとりわけ、迫りくるロシアから自らを引き離すのはほとんど不可能だった。ミサイルとドローン(無人機)のすさまじい一斉攻撃が、オデーサを含むウクライナの複数の都市に降り注いだからだ。
2023年が幕を下ろそうとする中、ロシアは本格侵攻の開始以降で最大となる攻撃をウクライナに仕掛けた。わずか2〜3日後にも、ほぼ同程度の一斉攻撃が行われた。
これらの攻撃の強度と頻度は、ウクライナ軍の反転攻勢の失速や西側の巨額支援の行き詰まりに関する報道を背景に、戦争の重要なターニングポイントを示すものとなっている。
世界の注目が中東のイスラエル・ハマス紛争に大きく転換する状況では、ウクライナ人が不安に駆られるのも無理はない。
ロシアによる全面侵攻が開始してから初めて、最も百戦錬磨の知人でさえ今では懸念の声を上げるに至っている。年明け2度目の一斉攻撃の後は特にそうだ。
「あの朝はひどかった。ドローンだけでなくロケット弾も撃ち込まれた。事態が本当に深刻となったのは、ロシアのロケット弾を迎撃するパトリオットミサイルがいくつ残っているのかが分からなかったからだ」。友人で欧州安全保障協力機構(OSCE)の元同僚、オルハ・ラドケヴィチ氏は、筆者にそう語った。
「ここで問題になっているのは人の命であり、誰もが実感している通り、もし米国が我々への支援を止めればそうした攻撃はより頻繁で激しいものになるだろう」「人々は最近になってすっかり疲れ切ってしまった。疲労がますます見て取れる。人はこんな環境でどれくらい生きられるのだろうか?」(ラドケヴィチ氏)
大晦日(おおみそか)は友人たちと夕食を共にした同氏だったが、それでも戦争を忘れようとする努力は無駄に終わった。ロシア軍のドローン1機が近所を飛び回り、注意を払わざるを得なかったためだ。
過去には安全保障の専門家が、ロシア軍の兵器の備蓄について枯渇しつつあると推測したこともあった。しかしクレムリン(ロシア大統領府)は再供給を済ませたらしく、現在報じられるところによれば同盟国である北朝鮮製の短距離弾道ミサイルをウクライナで使用している。
一方、イランからのドローンの供給はほぼ際限なく行われているようだ。同国を巡っては既に技術を移転し、より多くのドローンをロシア国内で製造する態勢にあるとの不安な報道も流れる。そこでの新たな備蓄は、従来の規模を「格段に上回る」とされる。
兵力の動員:政治的難題
ロシアの全面侵攻から丸2年の節目が近づき、近い将来の収束も見通せない中、ウクライナの指導者たちは自国の市民により多くを求めなくてはならない状況にある。
国会が今後通す見込みの新たな動員法により、最大50万人が戦場に投入される可能性がある。
ゼレンスキー大統領はこの物議を醸す法律から巧みに距離を置いているようだが、動員については必要な措置であり、これによって前線で数カ月戦っている兵士たちの困難が軽減すると述べている。露骨に政治的な動きの中で、同氏はその責任を軍の上層部、とりわけザルジニー総司令官に負わせた。潜在的な政敵とも目されている同氏が、動員の論拠を一般国民に説明する形となっている。
ゼレンスキー氏はまた、徴兵年齢の下限を現行の27歳から25歳に引き下げる考えも示唆した。
動員に関する変更は政治的な難題であり、わざわざ手を付ける指導者はほとんどいない。ロシアのプーチン大統領ですら、第2次大戦以降初となる動員令を署名するまでに数カ月間様子を見ていた。
ウクライナの戦死者の正確な数を算出するのは不可能だが、誰であれ西部リビウにある墓地の軍人用の区画を訪れれば、そこに眠る戦死者の数がこれ以上埋葬できない水準近くまで増加しているのを確認できる。
多くの前線を抱える戦争
この戦争は多くの前線を抱えている。クリスマス前のキーウを訪れた時、筆者は明確な経済活動の停滞を目の当たりにした。戦争の傷の広がりも、今やほとんど無視できないものとなっている。
中央駅を出てすぐ旅客らの目に飛び込んでくる背の高いオフィスビルは、正面が爆発で激しく損壊している。街の中心部にあるビストロは、かつて外国人が足繁く通っていたが、この時はウエートレスがたった一人。テーブルも二つしかなかった。「人々はどんどん貧しくなる。状況は毎月悪化している」。ウエートレスは筆者にそう告げた。
米国と欧州連合(EU)による二つの支援パッケージはそれぞれ610億ドル(約8兆9000億円)と520億ドルだが、これらは政争のために滞る恐れがある。ウクライナ全土の空気が打ち沈んだものに転じるのも無理はない。
時計の針は、かつてないほどの音量で鳴り響く。ウクライナの抱える財政赤字は膨大で、報道によれば来る2月には公共部門への賃金の支払いができなくなる見通しだ。
24年は大いなる凍結解除の年に?
しかし少なくとも一つの領域において、ウクライナは希望を抱くことができる。ロシアの資産だ。ウクライナは先週、大きな勝利を挙げた。EUがロシア最大のダイヤモンド採掘会社アルロサとその最高経営責任者(CEO)に対する制裁を承認したのだ。EUによれば、ロシアのダイヤモンド生産の9割を占める同社は「経済分野の重要な部分を構成しており、政府に実質的な収益を提供している」。
ロシアのダイヤモンド輸出の総額は年間約44億ドル。そのうち16億ドルをEUが輸入している。制裁が巨大な穴となり、プーチン大統領の軍事機構に対する資金供給に影響が及ぶ可能性もある。
ウクライナは間もなく、ロシアが国外に蓄える推定数千億ドルの凍結資産から利益を得るかもしれない。手始めは税収としてベルギーが徴収する分だ。同国は膨大な量に上るロシアの凍結資産を保有している。推定24億ドルのこの税収は、ウクライナの財政赤字を建て直す上での大きな追加分となるだろう。
米国と西側の同盟国は、それ以外の凍結資産の対応にも熱心に取り組んでいる。米国が主導する工程表の展開は、全面侵攻から丸2年を迎える2月半ばの前にも実現するかもしれない。
それでも最終的に、プーチン氏の目的達成の阻止はウクライナ人自身の肩に掛かってくるだろう。同氏が目指すのは、ウクライナ人国家の完全な破壊に他ならない。ウクライナ国内の武器生産が23年に3倍に拡大し、何もないと見られる状況から先進的なドローンを生み出したとの知らせは、筆者に希望を与えてくれる。西側による支援の増強があろうがなかろうが、ウクライナはロシアを撃退するだろう。
それが遠い幻想に感じられるときはいつも、議員で政党ホロスを率いるキラ・ルディック氏に言われたことを思い起こすようにしている。同氏は1月2日、キーウにある自身のアパートをロシア軍の攻撃によりひどく破壊された。「非常に多くの愛情と支援、共に働く人々を目の当たりにしてきた。普段はとても目にすることのないものだ。だから疲弊していると誰かに言われれば当然、戦争で疲れ切った状態にはある」(ルディック氏)
「しかし自分たちの中にもっと戦う意志と、互いに支え合う気持ちがあるかと問うなら、答えは絶対にイエスだ」
●ロシア 米英軍のフーシ派拠点空爆「無責任な行動」と非難 1/12
アメリカ軍とイギリス軍がイエメンの武装組織フーシ派の拠点を空爆したことを受け、ロシアは地域の緊張激化につながる「無責任な行動だ」と非難し、国連安全保障理事会の緊急会合を開催するよう要請したことを明らかにしました。
ロシア外務省のザハロワ報道官は12日、アメリカ軍とイギリス軍による空爆について、「地域の情勢の不安定化を引き起こす可能性がある無責任な行動だ」と非難。国連安全保障理事会の承認がない攻撃だとして「国際法に反している」と主張しました。
そのうえで国連安全保障理事会の緊急会合を現地時間の12日に開催するよう要請したことを明らかにしました。
ロシアはフーシ派の後ろ盾とされるイランと友好関係にあり、ウクライナ侵攻後に対立を深めるアメリカなどへの対抗で連携を強めています。

 

●イギリス、ウクライナに25億ポンドの軍事支援を発表 首相がキーウ訪問 1/13
イギリス政府は12日、ウクライナに向こう1年で25億ポンド(約4600億円)の軍事支援を行うと発表した。イギリスによる年間支援額としては、2022年2月にロシアによる全面侵攻が始まって以来、最多となる。
リシ・スーナク英首相はこの日、ウクライナの首都キーウを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談。ウクライナは「決して孤立しない」と述べた。
また、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「ウクライナで勝利した場合、そこで止まることはない」と話し、ウクライナ支援の重要性を強調した。
支援は4月からの新会計年度から始まる。イギリス当局によると、新たな支援パッケージには長距離ミサイルや防空システム、砲弾などが含まれる。
また、約2億ポンドがドローン(無人機)に振り向けられるという。その大半がイギリス製で、外国からウクライナへのドローン供与としては過去最大規模となる見込みだ。
他方、スーナク首相が数年単位の財政支援を約束しなかったことが注目される。
英政府内では一部の閣僚や軍高官たちが内々に、数年間の財政支援継続を約束した方が、イギリスがウクライナを長期的に支えるのだという強いシグナルをロシアに送ることになると主張していた。
スーナク氏はその代わりに、これまで年間23億ポンドだったウクライナへの支援を、さらに2億ポンド増やすことを選んだ。
英首相官邸は、この支援パッケージは「ウクライナとイギリスの100年にわたる、揺るぎないパートナーシップ」の第一歩となるとしている。
パッケージには1800万ポンドの人道支援も含まれており、エネルギーインフラの防御を助けるほか、オンラインでの英語学習への支援額も拡大した。
イギリスのジェイムズ・ヒーピー国防担当閣外相はBBCのテレビ番組に出演し、ドローンが今後数年のウクライナに有利を与えるだろうと語った。
「このドローンは、この2年間ウクライナで見てきたことから、すべての教訓を学びながら、急ピッチで開発されているものだ」と、ヒーピー氏は説明。
また、今回の支援は、イギリスがウクライナへの第2位の援助国として、欧州における指導的地位を維持していることを示していると付け加えた。
スーナク首相はキーウの大統領府でゼレンスキー氏と会談したほか、市内の緊急サービス職員や住民とも会った。
スーナク首相のウクライナ訪問は2022年11月以来、1年3カ月ぶり。同首相は、「私からのメッセージはひとつだ。イギリスも、たじろいだりしない。我々はウクライナの最も暗い時期にも、そして今後訪れる、これまでより良い時期にも、ウクライナと共にあり続ける」と述べた。
「イギリスはすでに。ウクライナの最も緊密なパートナーのひとつだ。ウクライナの安全保障は我々の安全保障だと認識しているからだ」
「我々はさらに前進し、軍事支援を拡大し、数千機の最新鋭ドローンを提供し、ウクライナに長期的に必要な保証を提供する歴史的な新しい安全保障協定に署名する」
「ウクライナはこの2年、ロシアの残忍な侵略を撃退するために勇敢に戦ってきた。ウクライナは今もなお、国を守り、自由と民主主義の原則を守るという決意を揺るぎなく持って戦っている」
BBCニュースから、イギリスは複数年にわたる資金援助パッケージを発表すべきだったのではないかとの質問を受けたスーナク首相は、イギリスがウクライナと長期の安全保障協定を結んだ最初の同盟国だと強調した。
「今回の支援は、プーチンや他の国々に、我々はここに留まるという強いシグナルを送ることになる。我々は長期的にウクライナを支援するためにここにいる」と、首相は説明した。
ゼレンスキー大統領はスーナク氏の「個人的なリーダーシップ」を称賛し、イギリスとの協定が「他のパートナーとの活動の基礎になるだろう」と述べた。
今回の協定は、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟前からロシアの侵略を抑止できるよう、軍事的・経済的支援に関する二国間の保証で構成されている。
主要7カ国(G7)は昨年のNATO首脳会議で、ウクライナとこうした協定を結ぶと約束しており、イギリスがその最初の国となった。
イギリス国内ではこの数カ月、イギリス政府はウクライナが軍事計画を進展させられるよう、より早く、より明確な情報を与えるべきだったと、議員らが圧力をかけていた。
一方、ウクライナが砲弾とミサイルの増援を切実に必要としている中、アメリカと欧州連合(EU)がそれぞれの支援策に合意するのに苦慮している。
スーナク氏は、同盟国が「一丸となってウクライナを支援し続ける」ことに、自信を持っていると述べた。
●2024年・ロシアのプーチン大統領はどこへ行く? 1/13
2024年を迎え、ロシアによるウクライナ侵攻は2月末には、いよいよ3年目に入る。国際的な最大の関心は、もちろん戦争の行方だ。
しかし、戦局の膠着化、不透明感の強まりを受け、侵攻の現状・見通しを歴史的文脈から考える必要性が、より高まってきたと筆者は考える。そこで、今回の論考では、そういった観点も踏まえて「どこへ行く、プーチン・ロシア」をテーマに分析してみた。
2023年12月14日、プーチン大統領は侵攻後、中止していた恒例の大規模記者会見を復活した。その前後も様々な場で発言を行った。
プーチン「和解はありえない」
もともと系統立てて長広舌を展開するのが得意のプーチン氏。2023年6月からのウクライナ軍の反攻作戦を不発に終わらせた結果に気を良くしてか、余裕の表情を浮かべながら、自らの強気な論理を滔々と展開した。こうした発言はロシア・ウオッチャーにとって、プーチン氏の心根を探る上で重要な機会となった。
その結果、数々の言葉をつなぎ合わせていくと、今後に向けた「プーチン戦略」が、次第に一つの像のように浮かび上がってきた。その像とは、この侵攻が「ロシアを敵視する傲慢な西側」との長期的敵対関係の始まりに過ぎず、西側が大幅に譲歩し歩み寄ってこない限り、和解はありえないとのプーチン氏の強い意志だ。
その思いを象徴的に吐露したのが、2024年1月1日、モスクワの病院に入院している負傷兵を見舞った際に語った発言だ。その概要はこうだ。
「彼ら(西側を指す)がわれわれの敵(ウクライナ)を助けているわけではない。彼ら自身がわれわれの敵なのだ。これが問題のすべてだ。数世紀にわたり、そうだったし、今も続いている。ウクライナ自身は我々の敵ではない。国家としてのロシアを消滅させることを望む西側こそ敵なのだ」
ここで言う「西側こそ敵なのだ」とは何を意味するのか。それは、たとえ侵攻でウクライナに勝っても、問題は終わらないし、その後も西側との敵対関係が続くとロシア国民に長期戦への覚悟を求めたもの、と筆者は考える。
この「数世紀にわたる」西側の敵意、を一言で象徴する言葉として、プーチン氏が最近の演説で従来以上に多用し始めたのが、「ルッソフォビア(ロシア嫌悪)」という言葉だ。
これは、主に18世紀半ばから19世紀半ばにかけ、フランスやイギリスで広まった反ロシア感情を指す、歴史的なロシア語だ。ロシアで長い間、使われなかったこの言葉を政治の舞台に復活させたのはプーチン氏自身だ。
ルッソフォビア(ロシア嫌悪)の受難国
2014年の一方的なクリミア併合を契機にした西側との関係悪化を受け、プーチン政権は、国際的孤立の原因はロシアの行動ではなく、もともとロシアを敵視している西側であると自らを正当化するために使い始めていた。侵攻開始の際にも使った言葉だ。
しかし最近、プーチン氏はこのルッソフォビア批判のボルテージをさらに一段と上げた。2023年11月末、「ルッソフォビアは、事実上、西側の公式イデオロギーになった」と宣言したのだ。
つまり、侵攻を機に形成された西側の対ロシア包囲網が一時的なものでなく、対ロ外交の長期的枠組みとして、ビルトインされた(組み込まれた)との認識を明確に初めて打ち出したのだ。
では、この「公式イデオロギー発言」にはどういう狙いがあったのか。筆者は以下のように解釈する。
東西冷戦時代は「資本主義体制VS社会主義体制」の2つの政治制度の競争であり、対決であった。それが現在は、ルッソフォビアこそ今後のロシアと西側との主要な対立軸であると、プーチン氏は言い切ったのだ。
ロシアがウクライナへの侵略国家であると西側から断罪されている中、ロシアはルッソフォビアの受難国であると説き、国民に団結と忍耐を訴えたのだ。
こうした受難論をベースに、プーチン氏は、2023年から新たな国づくりに踏み出した。代表的なのは、ルッソフォビアを初めて刑事罰の対象とする刑法改正の動きだ。
何をもって「ルッソフォビア」と規定するのか。まだ法律論議が続いているが、例えば、海外でのロシア国民に対する差別や、西側やウクライナを支持するような言動に禁錮5年の処罰を与えるような案が練られているようだ。
教育面でも、この受難論に沿った変化が進んでいる。ソ連時代のような、生徒への軍事教練が導入された。歴史の書き換えも進んでいる。
プーチン氏の指示を受け、高校生年代用に2023年秋に導入された全国統一教科書では、ルッソフォビアを初めて取り上げ、「西側のあからさまなルッソフォビアの狙いは、ロシアの解体である」と記した。
米欧との対立軸として「ルッソフォビア」
まるでソ連時代に敵だった「資本主義陣営」のような位置付けなのである。今やロシアも米欧も経済面では同じ資本主義国家であり、経済制度上の対立はない。プーチン氏としては、ロシアと西側の対立軸を象徴するキーワードとして、「ルッソフォビア」を使い始めたのだ。
だが、こうした司法面、教育面での制度変更は、まだ途中段階の措置のようだ。新たな国づくりの最終的到達地点として、プーチン氏が根本的な、歴史的国家改造に踏み出す可能性が出てきている。
プーチン氏の側近であるロシア連邦捜査委員会のバストルイキン委員長が2023年11月22日、「国家イデオロギー」を制定する必要があると主張したのだ。同委員長は「国家イデオロギー」のあるべき具体的内容には言及しなかった。
しかし、興味深いのは、この発言が、ルッソフォビアが西側の「公式イデオロギー」になったとした先述のプーチン演説と時期的に相前後して行われたことだ。「西側の公式イデオロギー」と「ロシアの国家イデオロギー」が、踵を接して飛び出したのは偶然とは思えない。
「国家イデオロギー」と言えば、「共産党独裁」という国家の根本原則を掲げていたのが旧ソ連だ。ソ連憲法第6条で、これを規定していた。
だがこの規定はゴルバチョフ氏がペレストロイカ(改革)の目玉として、1990年2月7日に放棄を決めた。ソ連は1991年末に解体されたが、この日こそ、事実上「ソ連がソ連でなくなった日」であった。現ロシア憲法は「国家イデオロギー」の制定そのものを禁止し、今に至っている経緯がある。
バストルイキン氏は、この禁止規定を撤廃し、国家イデオロギーを復活させることを主張したのだ。この発言がプーチン氏の意向を反映したものであることは間違いないだろう。現在、クレムリン内で国家イデオロギー制定の是非や、制定の場合の内容について検討が進んでいるもようだ。
では、何が新たな国家イデオロギーとして、掲げられるのだろうか。共産党独裁の代わりに、プーチン政権が進める「独裁的権威主義政治」をさすがに国家の表看板として掲げるわけにはいかないだろう。
国家イデオロギーとしての「ルッソフォビア」
こう考えると、ルッソフォビアである西側への対抗姿勢が新たな「国家イデオロギー」として、何らかの形で盛り込まれる可能性はあると筆者はみる。
では、仮に「ロシアを敵視する西側への対抗」をうたう「国家イデオロギー」が制定されれば、何を意味するのか。
それは、「プーチン・ロシア」が「擬制の復活版ソ連」として、国際社会に登場してくることを意味する。かつての東西冷戦を想起させる対立構造をロシアが国際政治の場に持ち込んでくることになるだろう。
そういう事態になれば、ウクライナを舞台に展開されているロシアと米欧との対立関係は現在の地域的枠を超えて、いっそう広がることは必至だ。
すでに警戒すべき動きが起きている。2023年12月4日、プーチン氏がバルト3国で「ルッソフォビア的事象」が起きていると批判したのだ。
バルトでは各国政府と、旧ソ連時代から居住するロシア系住民との間でトラブルが続いている。プーチン氏は「海外に住むロシア人に対する差別には対抗措置を取る」とも言明した。
これまでプーチン氏はルッソフォビアについては、主にロシア国民向けに西側への警戒心、対抗心を煽るために使ってきたが、ここにきて外交面でも使い始めたのが不気味だ。このプーチン発言を受け、すでにNATO加盟国であるバルト諸国だけでなく、NATO全体に警戒心が広がっている。
プーチン氏はウクライナにとどまらず、かつての旧ソ連指導者のように欧州地図全体を見ているのだろう。今後、ウクライナ侵攻をめぐっては停戦に応じる動きに出る可能性は否定できない。
しかし、仮にそう動いたとしても、それは短期的な一時休止的な行動に過ぎないだろう。なぜなら、擬制的ながら、プーチン氏がはっきりと復活に向け動き始めた「ソ連」の主要な属性の1つが、西側との緩衝帯として、旧東欧衛星国家群を有していたことだからだ。
この21世紀に、かつての東欧諸国のような衛星国家を有するなど、時代錯誤の妄想としか筆者には思えないが、プーチン氏は大真面目なのだ。それを裏付ける動きが実は侵攻前からあった。
ヤルタ首脳会議の再現を狙ったプーチン
プーチン氏は2019年頃から、米英中仏の他の国連安保理常任理事国に対し、欧州秩序に関する会議を開催するよう打診していた。これは、第2次大戦末期の1945年2月に開催され、欧州における東西勢力圏を確定したヤルタ首脳会議の再現を狙ったもので、「ヤルタ2」構想と呼ばれていた。
プーチン氏からすれば、西側から批判されたクリミア併合などを新たな欧州秩序として国際的に受け入れさせ、ウクライナ全体をロシアの勢力圏として認知させることを狙ったものだ。
この時、プーチン氏の頭の中ではウクライナだけでなく、バルト3国なども勢力圏としてにらんでいたのかもしれない。しかし、この時代に、勢力圏の復活には米欧は冷淡で、「ヤルタ2」構想はまったく相手にされなかった。
ここまで述べてきたプーチン氏の世界観を踏まえ、2024年、西側はプーチン・ロシアとどう向き合うべきなのか。
近い将来における「擬制の復活版ソ連」の登場というシナリオに対し、現実感をもって備えるべきだ。もはやウクライナ紛争は単なる地域紛争ではなくなっている。憲法で「平和主義」を掲げる日本も、その枠を守りつつ西側の一員として今後対応していかなければならない。
その意味で、2024年1月初めにキーウに入った上川陽子外相のウクライナ電撃訪問は高く評価できる。
ウクライナへの国際的支援の息切れが懸念される中、ウクライナに対無人航空機検知システムを供与するための資金供与を表明したことは、日本国内で見ている以上に「あの日本が」と国際的インパクトが大きかった。国際的支援再拡充の動きに一定の弾みを与えた。
プーチン氏は2024年3月半ばに大統領選を迎える。国民の支持率は依然として70%の水準を保っている。
反政権派の立候補希望者の出馬を排除するなど、クレムリンが選挙をがっちり管理しており、5選を果たすのは間違いない。選挙戦の過程で上記した「ルッソフォビア」や「国家イデオロギー」に言及するかが注目される。
●ウクライナ情勢とロシア 日米欧は対決姿勢貫け 1/13
ロシアの侵略と戦うウクライナにとって、2024年は厳しい年になるだろう。期待された反転攻勢が失敗し、米欧諸国はウクライナへの大規模な軍事・経済支援継続にちゅうちょしている。米欧は「支援疲れ」からウクライナを見捨て、ロシアへの事実上の降伏となる「和平」を押し付けてはならない。ロシアに譲歩する「宥和(ゆうわ)政策」に逆戻りすれば、3月の大統領選で勝利が確実のプーチン大統領の思うつぼだ。
かつて英国がナチス・ドイツの領土拡大要求に譲歩し、結果として第2次大戦を招いた教訓を忘れず、米欧と日本はウクライナ支援と対ロ経済制裁を堅持すべきだ。
昨年末にロシア軍はウクライナ全土を空爆し、年明け以降も攻撃を続けている。米欧の支援停滞でウクライナ軍は砲弾不足に苦しんでおり、兵器、弾薬を集中的に生産するロシアは優位にある。ロシアを勝利させないため米欧はウクライナ支援を継続するが、規模の縮小は避けられない。24年にウクライナは防衛専念を迫られそうだ。
12月末に一部の米有力メディアが「プーチン氏が現在占領するウクライナ領土約2割を維持することを条件に、停戦の用意を伝えてきている」と報じた。全領土の奪還を掲げるウクライナのゼレンスキー大統領が応じるはずがない。
ロシアがウクライナに事実上の全面降伏を求める裏で柔軟な姿勢も示唆するのは、「領土を犠牲にしてもロシアと和平交渉に臨むべきだ」との声がウクライナ国内や米欧で出ていることを意識しているからだ。
11月の米大統領選に向け、ウクライナ支援に後ろ向きな共和党のトランプ前大統領返り咲きの可能性がささやかれており、プーチン氏は、米欧がいずれウクライナにロシアへの譲歩を迫ると見越しているようだ。
だが米欧や日本は、ロシアの領土拡張要求がウクライナだけで終わらない事態を想定しておくべきだ。
「ウクライナは元々ロシア領土だ」と主張し侵略に踏み切ったプーチン氏は、「ロシアの歴史的版図の回復」という危険思想の信奉者だ。「次は(旧ソ連領だった)バルト3国」との懸念がくすぶる。「プーチン氏がウクライナに勝てば、次は北大西洋条約機構(NATO)加盟国を襲う」とのバイデン米大統領の警告には理由がある。
2000年に大統領に就任したプーチン氏は、出身母体の秘密警察を使って野党や独立メディアを弾圧、自らに権力を集中させた。20年夏の憲法改正で独裁体制を完成させ、さらに2期12年の続投を可能にした。
ロシアの選挙は体制が完全に統制しており、3月にプーチン氏の通算5期目の続投が決まるのは確実だ。ただ、米欧にはロシア大統領選の合法性を疑問視する声があり、今後、プーチン大統領の正統性を認めるかどうかが焦点となろう。
米欧は核大国ロシアを刺激しないよう宥和政策を取り続けた。北方領土交渉を優先した日本も同じだ。08年のグルジア紛争、14年のウクライナ南部クリミア半島の併合など、ロシアの旧ソ連諸国への軍事介入に厳しく対応せずにプーチン氏をつけ上がらせ、ウクライナ侵攻の一因となった。日米欧は同じ過ちを繰り返すことなく、ウクライナ侵略戦争を仕掛けたプーチン氏への毅然(きぜん)とした対決姿勢を貫くべきだ。
●ロシア黒海艦隊、ジョージア親ロ派地域に新拠点 ウクライナ攻撃受け 1/13
旧ソ連構成国のジョージア北部で、親ロシア派の分離独立派が支配するアブハジアの「国家安全保障委員会幹部」が、2024年中にもロシア海軍の拠点を同地域に設けると述べたと、ロシアの英字メディア「モスクワ・タイムズ」が12日、伝えた。
アブハジアは黒海に面しており、ウクライナ軍の攻撃で多数の艦船を失ったロシア黒海艦隊の艦船の避難先になるとみられる。
黒海艦隊は、ロシアが実効支配するウクライナ南部クリミア半島で司令部があるセバストポリ、フェオドシヤ、ドヌズラフの3港と、ロシアのノボロシースク港を拠点とする。
だが、昨年9月にウクライナ軍のミサイル攻撃でセバストポリの司令部や艦船が被害を受けたほか、先月下旬にもフェオドシヤがウクライナ側の攻撃を受け、大型揚陸艦が爆発した。
モスクワ・タイムズによると、ウクライナ侵攻後の2年近くの間に、旗艦だった巡洋艦「モスクワ」なども含め、少なくとも20隻を失ったとしている。
ロシアはクリミアの「併合」後、巨額の投資を黒海艦隊の防衛などのためにかけてきたが、「もはやクリミアは安全ではない」との専門家の声を紹介している。
●EU加盟のためにオリガルヒを駆逐するウクライナの「大いなる矛盾」 1/13
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、まもなく2年が経とうとしている。西側諸国から支援を受けてロシアに対抗してきたゼレンスキー大統領だが、さらなる保護を得るために欧州連合(EU)への加盟を目指している。しかし、そのためにはウクライナが抱える「汚職」という大きな課題に立ち向かわなくてはいけない。
汚職問題を解決したいウクライナ
ウクライナは今後2年以内のEU加盟を望んでいるが、その障害となっているのが同国の汚職問題だ。ソ連崩壊後に強い力を持つオリガルヒたちが現れ、コネや権力、賄賂によって同国の政治に影響を及ぼしてきた。一方、彼らは親露派と親欧米派との勢力を均衡させてもいた。
しかし、ゼレンスキーが政権を握ると、その均衡が崩れ、ロシア侵攻に至ったのだ。ウクライナ大統領府は、EU加盟の妨げとなっているオリガルヒによる支配に終止符を打ちたがっている。しかし、その試みは失敗に終わるかもしれない。古くからいるオリガルヒたちが、新しい者に取って代わるだけに終わるかもしれないからだ。それもゼレンスキーの大統領府にいる者たちに。
ウクライナは、世界でもっとも汚職の多い国のひとつで、ロシア以上にひどい。ザンビアやシエラレオネと同レベルだ。国の指導部は、欧米諸国の資金援助を繋ぎ止めるため、この不都合な問題をもみ消そうとしている。
汚職のために国防大臣オレクシー・レズニコフなどの6名が辞任へと追い込まれ、そのうちのヴャチェスラフ・シャポヴァロフ国防副大臣は逮捕された。ゼレンスキー政権は反発を抑えるため、戦争中には汚職を国家反逆罪と同等とするという法案を提出しようとした。しかし、大統領府が同法案の国会への提出を拒んだために実現していない。
ウクライナの産業界はかなり前から政権と癒着している。同国の長者番付に名を連ねる上位11人のオリガルヒたちは、2022年以前には議員や大臣、知事を務めていた。元大統領のペトロ・ポロシェンコなどもそうだ。彼は、選挙に勝利する前は大手製菓会社ロシェンを経営する実業家だった。
ドニプロペトロウシスク州の元知事である大富豪のイーホル・コロモイスキーは、準軍事組織である「ドニプロ」と「シトゥルム」という義勇兵大隊に資金提供していた。もっとも裕福なオリガルヒであるリナト・アフメトフは、最高議会で二度、議員を務めた。
オリガルヒに対抗するため、ゼレンスキーはウクライナ保安庁(SBU)に実質的に職務の範囲内で無制限の権限を与えている。しかし、そのことは国内外で問題視されている。米国政府が最近作成したウクライナが「優先すべき改革」のリストでは、SBUの権限を制限し、同庁と連携する防諜機関の設立を検討するよう提言されている。
「脱オリガルヒ」を目指すゼレンスキー
大統領選に出馬した際にゼレンスキーが掲げた公約の一つに、「脱オリガルヒ」があった。彼は戦争開始前に「反オリガルヒ法」を制定している。当時はかなり物議を醸した同法にはオリガルヒの定義がある。次の4つの基準のうち、3つを満たす者がそうだ。(1)資産が8000万ドル以上あること、(2)政治に対する影響力を持つこと、(3)メディアを所有していること、(4)なんらかの産業分野で独占的地位を確立していることだ。
同法は、巨大企業が政治に及ぼす影響の抑制にある程度成功した。ウクライナ国家安全保障・国防会議(NSDC)にオリガルヒとみなされた実業家は、政党への資金提供や国営企業の民営化に関与できなくなる。
この法はかなり厳しく、欧州評議会のヴェニス委員会(法による民主主義のための欧州委員会)から厳しい批判を受けた。こうした政策はビジネスの妨げとなり、欧州人権条約と多元主義の原則に反すると判断されたのだ。同委員会はさらに同法の発効を延期するよう勧告した。
脱オリガルヒの最初の標的となったのは、親ロシア派の「野党プラットフォーム―生活党」の党首、ビクトル・メドベチュクだった。2021年に同国の長者番付12位となり、プーチンとの関係が深い彼は国家反逆罪で起訴され、自宅軟禁されていた。ロシアによる侵攻後、彼はウクライナの軍服を着てロシアへ逃れようとしたが、特殊部隊に見つかり、拘束された。
その後、メドベチュクはウクライナに捕えられていた55人のロシア人兵士とともに、捕虜交換でロシアに引き渡された。代わりにロシアで拘束されていた、アゾフ連隊の戦闘員108人を含む215人のウクライナ人捕虜が解放されている。現在、メドベチュクはモスクワにおり、ウクライナでの彼の党による活動は裁判所によって禁止されている。
追い詰められるオリガルヒ
メドベチュクは、最高議会議員として政治に影響力を持っていた。支配下にある複数のテレビチャンネルを通じてロシアに資するロビー活動もできた。つまり、「ウクライナでは内戦が起きており、クリミアは適切な方法でロシアに併合されたのであって、キーウを操っているのは米国だ」というロシアのプロパガンダを伝えたのだ。
2021年、ゼレンスキーはメドべチュクの影響下にあるテレビ局を閉鎖した。彼とその妻の資産は差し押さえられ、ウクライナ国内の銀行口座は凍結された。
さらに戦争によってウクライナのオリガルヒたちの状況は非常に悪化した。同国の長者番付上位20人の合計資産はほぼ半減し、22億ドル(約3兆円)以下となった。打撃をもっとも受けたのは、同国でもっとも裕福なリナト・アフメトフだ。最新の推計では、彼の資産は137億ドル(約20兆円)から44億ドル(約6兆円)と3分の1にまで減った。彼の鉄鋼事業の3分の2を占めていたマリウポリにあるアゾフスターリ製鉄所とイリイチ製鉄所は、ロシアによる攻撃で破壊されてしまった。
それに加え、戦争によってオリガルヒの社会や政治への影響力は奪われた。彼らが支配してきたテレビなどのマスメディアは、いまや戦争法にのっとって運営されている。主要チャンネルが放送時間の大部分を割くのは、ロシア侵攻以降に始まった「ユナイテッド・ニュース」という番組だ。この番組の放送内容に責任を負っているのはウクライナ大統領府だと言われる。
オリガルヒたちは、マスコミを操ることで得ていた利益も失った。広告収入が急減し、テレビ局の収入の大部分を占めていた新企画の制作もできなくなったため、従業員が大量に解雇され、残った従業員も減給された。アフメトフが所有するテレビ局と出版メディアは、ライセンスを市場で売却できず、すべて国に引き渡されたのだ。
オリガルヒを取り締まっても、新たな腐敗が出る「汚職大国ウクライナ」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、西側諸国からさらなる保護を得るために欧州連合(EU)への加盟を目指す。しかし、そのためにはウクライナが抱える「汚職」問題を解決しなくてはならない。ゼレンスキーは「オリガルヒ」による支配体制を解体しようとしているが、それは本当にうまくいくのだろうか。
自らの支援者をも粛清
ウクライナではいま、同国最大の金融グループ「プリヴァト」の創業者で、もっとも影響力を持つイーホル・コロモイスキーが、当局と対立している。
反露派のコロモイスキーは2019年の大統領選でゼレンスキーを強く支持し、ゼレンスキーの「政治上の父」「メインスポンサー」と報じられた。彼が所有するテレビ局「1+1」は、選挙戦でゼレンスキーのキャンペーンを積極的に宣伝し、『国民の僕(しもべ)』など、彼が出演する人気のコメディ番組を放映していた。ゼレンスキーの当選後、コロモイスキーは地方行政の長として顧問の一人に任命された。
しかし、2023年9月2日、キーウの裁判所はコロモイスキーを逮捕した。詐欺と、5億フリヴニャ(約19億円)以上を国庫から不正に引き出した疑いがかけられたのだ。しかし、彼は容疑を否認し、釈放のための保釈金の支払いも拒んでいる。彼の弁護士はこの件について、「コロモイスキーらが所有する銀行の不当な没収から始まった政治的動機によるキャンペーン」の一部だと訴えている。
コロモイスキーはこれまでにも複数の法的トラブルに直面してきた。彼は金融詐欺事件に関与した疑いでFBIとイスラエル警察によって捜査されており、米国は彼に制裁を科している。モスクワでは2014年に「組織的殺人」の罪で逮捕状を出された。彼は法律で禁止されているにもかかわらず、二重国籍を持っているため、「ウクライナの安全保障を脅かす存在」としてNGOによるデータベースにも掲載されている。
彼の逮捕からわかるのは、ゼレンスキーが本当に真剣に汚職との闘いに取り組んでいるということだ。しかし、コロモイスキーの主要事業で、ウクライナでもっとも人気のある銀行である「プリヴァトバンク」が国有化されたのは、前出のポロシェンコが大統領だった2016年のことだ。債務超過がその理由とされた。
ゼレンスキーが政権を取ってから、ウクライナでは「反コロモイスキー法」と呼ばれる法律が制定された。銀行が国有化されると、その元オーナーらは裁判所を介しても銀行を監督する権利を得られないというのだ。この法の導入を進めたのは西側諸国だった。国際通貨基金(IMF)は、同法成立のために50億5000万ドル(約7兆円)の支援を約束し、結局80億ドル(約11兆5000億円)を渡した。
ゼレンスキーは同法を推進し、2020年5月、数多くの修正を経て同法案は最高議会で採択された。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっていた2020年、ウクライナは資金を必要としていた。
オリガルヒ一掃では解決できない汚職問題
戦争によって、ウクライナ政府はオリガルヒに対抗するのに必要なあらゆる権限を得た。2023年9月、ゼレンスキー大統領は「オリガルヒの一族に未来はない」と述べ、汚職との闘いを宣言した。ゼレンスキーの経済顧問であるロスチスラフ・シュルマは「戦争終結後のウクライナにはオリガルヒは一人も残らない」と語る。
一方、オリガルヒとは無関係である汚職も多い。2023年初めに発覚した、同国国防省内の汚職事件に彼らは関与していなかった。国防省はいくつかの軍事地域で軍用食料をキーウの食料品店の3倍の高値で買い付けていたことが発覚し、国防大臣のレズニコフの辞任に至った。
それでも、オリガルヒが関与する汚職事件もある。2023年5月、ウクライナ国家汚職防止庁(NABU)は、同国最高裁判所長官フセヴォロド・クニャゼフを拘束した。300万ドルの賄賂を受け取り、元議員の有力オリガルヒであるコンスタンチン・ジェヴァゴに有益な判決を下していたためだ。逮捕されたクニャゼフは最高裁長官の地位を奪われたが、まだ判事としての地位は保っている。彼を最終的に解任できるのは最高司法評議会だけで、拘置所から大富豪たちの事件に関与し続けている。
ジェヴァゴは破産したファイナンス・アンド・クレジット銀行から1億1300万ドルを着服した罪に問われている。2022年、彼はフランスのクールシュヴェルで拘束されたが、フランス当局はロシアへの引き渡しを拒否した。彼は100万ユーロの保釈金を払って釈放されている。
オリガルヒが果たしてきた重要な役割
オリガルヒ体制の解体によって、ウクライナのEU加盟は進むはずだ。しかし同政府は、その取り組みによって、同時に新たなオリガルヒを育てている。古参者を排除することで、新たな隙が生まれているからだ。たとえば、大統領顧問の多くが未来のオリガルヒとなる可能性がある。
「当局との繋がりや横領によって、新たなオリガルヒが出現するリスクはあります。それを未然に防ぐには、司法改革を成し遂げ、強力な制度を作る必要があります」と、同国汚職対策センターのダリア・カレニュク所長は言う。
オリガルヒたちは、多くの詐欺や汚職事件に関与しているが、独自の役割も果たしてきた。ロシアのオリガルヒたちがウラジーミル・プーチンの周囲で団結しているのとは異なり、ウクライナのオリガルヒは互いに競い合っている。そのため、同国では多様な勢力が存在し、親露派のメドべチュクも、親欧米派のコロモイスキーも、国政に影響を与えてきた。
他にも、ウクライナのオリガルヒは革命や軍事抵抗に対して資金を提供してきた。2004年のオレンジ革命と2014年のユーロ・マイダン革命が成功したのは、反ロシア的な立場を明確に示した実業家たちによるところがある。
ウクライナ保安庁の影響力拡大は、同国の戦後の政治競争に著しい打撃を与えかねない。金を持っている者に有利に働く司法制度にも欧米流の改革が必要だ。
「保安庁の改革は防諜の問題で、至急対応すべき課題です。同庁には捜査権を乱用してきた長い歴史があり、法執行機関として全能を与えられるべきではありません」と、同国最高議会議員で反汚職政策問題国民評議会会員のアナスタシア・ラジナは言う。
ゼレンスキーはオリガルヒらから政治的影響力を奪いつつ、戦争終結後の潜在的な反対勢力を一掃しようとしている。ゼレンスキーは少なくとも戦争終結時まで大統領の座にとどまる。しかし、この政治的粛清によって、彼に比肩する響力のある者は誰もいなくなるかもしれない。
●ロシアのサイバー攻撃でウクライナの通信網ダウン、日本も狙われていると思え 1/13
ウクライナ最大の通信会社のサービスが停止
昨年12月12日、ウクライナに大規模なサイバー攻撃が仕掛けられた。犯行はロシアに関係するハッカー集団によるものと見られている。そしてこのサイバー攻撃は、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから最大規模の攻撃だった。
標的となったのはウクライナ最大の通信事業者キーウスターだった。同社は約2400万人の携帯電話加入者と110万人以上の家庭用インターネットユーザーを抱えているが、この日、強力なサイバー攻撃を受け、サービスを停止せざるを得ない状況に陥った。
朝からサービスが不安定になっていたが、その後、SNSを通じて、強力なサイバー攻撃の影響で「大規模な技術的障害」が発生していることを認めたのだった。
この影響で、同社が提供するモバイルサービスやインターネット通信が遮断され、さらにはキーウ州の一部では空襲警報システムが停止した。ビジネスや社会生活に不可欠になっている重要な通信インフラを遮断されたことは、世界の政府関係者やサイバーセキュリティ関係者らにも衝撃を与えた。
同社CEOは、「私たちはこのハッキング攻撃に対して、サイバー空間で対抗することができなかった。それゆえに敵の不正アクセスを食い止めるためにキーウスターのシステムを物理的にシャットダウンした」と語り、「戦争はサイバー空間でも起きている」と述べている。
攻撃を仕掛けてきたハッカー集団の名は「Sandworm」
この攻撃の後、筆者がウクライナ保安庁(SBU)の関係者に取材をしたところ、「攻撃者はロシアのGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)のサイバー攻撃グループによるものだ」と断言した。ウクライナ侵攻以降、ロシアがたびたび仕掛けてきたサイバー攻撃だが、今回は「かなり深刻なサイバー攻撃であると認識している」とも述べている。
さらにウクライナ政府は、キーウスターへの攻撃は、ロシアのGRUとつながりのあるサイバー攻撃グループ「Sandworm(サンドワーム)」が実行したとの見解を明らかにしている。サンドワームは、過去にもウクライナの電力網をサイバー攻撃して大規模停電を引き起こすなど、数々の悪意あるサイバー攻撃を仕掛けてきた悪名高きグループである。
一方で、今月になり、逆に親ウクライナのハッキング集団「ブラックジャックグループ」が、ロシアのインターネットプロバイダー「M9com」からデータを盗んで停止させているという事態も発生している。サイバー空間では、ウクライナとロシアのせめぎ合いが続いているのである。
このサイバー攻撃、実は欧米や日本にとっても決して他人事ではない。というのも、今回のキーウスターへの攻撃は、被害が起きる6カ月ほど前に始まっていたことが判明している。そうであるならば、ロシア(あるいはそれ以外の第三国)によるサイバー攻撃が、すでに日本や欧米でも、人知れず進行している可能性が十分あると言える。平時から密かに展開されるサイバー攻撃は、犯行者が望むタイミングでターゲットに多大なる影響を及ぼすことになる。その破壊力は、今回のウクライナのケースを見れば分かるように、一国のインフラを簡単にズタズタにすることができる。
今回、筆者は、キーウスターへの攻撃について、2022年のロシアによるウクライナ侵攻より前からの知己で、2023年11月までウクライナの特別通信情報保護局(SSSCIP)のナンバーツーだったサイバーセキュリティ専門家のビクトル・ゾーラ前副長官に話を聞いた。
ゾーラ氏は、キーウスターへの攻撃については現在も情報が錯綜しているため「少し解説が必要であると感じている。そこで私自身の結論を共有したい」とし、「私たちのサイバー戦の最前線で何が起きているのかを国際的に知ってもらうのは重要だと考えている」と述べて取材に応じてくれた。
「敵」は管理者レベルのアクセス権限まで獲得していた
――攻撃者は遅くとも2023年5月から侵入していたとのことですが。
ゾーラ氏 ハッキングによる最初の侵入から、システムの「コア」な部分までアクセスできるようにするには、いくつものセキュリティのレイヤーと複雑なネットワークアーキテクチャを考えると、かなり長い道のりが必要になります。したがって、多くの時間をかけて、横方向の移動などによるアクセス範囲を拡大し、システムの管理者レベルのアクセス権限を獲得していったのです。
このプロセスに6カ月もかかったのかどうかは、まだわかりません。もしその所要時間が短かったとしたら、最終的なアクセス獲得から攻撃までの余分な時間は、顧客データなどの窃取に使われたと考えられます。ただ、データ窃取では、気づかれないように大量のデータを引き出すのは難しいため、それほどの被害ではない可能性が高い。キーウスターは、加入者の個人データへの長期的な不正アクセスと漏洩を否定しています。公式の調査結果が待たれます。
サンドワームは、ロシアの諜報機関であるGRUの74455部隊の中にある。国家レベルでのスパイ工作やハッキングによるデータ窃取、システムの完全消去、さらに影響工作も行っています。
他国にもすでに入り込んでいる、まだ被害が出ていないだけ
――攻撃成功の後もまた同社に不正アクセスしようとする攻撃が来ていると耳にしているが、それは事実ですか?
ゾーラ氏 もちろん攻撃は来ています。ロシアのサイバーテロリストは、「犯罪現場」に戻ろうとする。したがって、こうしたサイバー攻撃に対応する際には、攻撃者の埋め込んだ不正プログラムなどを最終的にきちんと除去し、攻撃に使用されたりしないよう、残された「穴」を塞ぐことが重要になります。
――この攻撃は、欧米へのメッセージでもあると思うか。
ゾーラ氏 もちろんです、疑うことすらしてはいけない。もうすでに入り込んでいる。被害がまだ起きていないだけなのです。
今回、キーウスターへの大規模サイバー攻撃を成功させたロシア諜報機関関連のサイバー攻撃グループは、その高い技術力と忍耐で、ターゲットのネットワークに忍び込み、システムをハッキングしていく。ただでさえロシアのハッカー集団は全世界に向けてサイバー攻撃を仕掛けているのに、ウクライナを支援しロシアに制裁を科している日本は、ロシアが膨大なエネルギーを注ぎ込んででもハッキングするに足る存在になっている。
いったん忍び込まれたら容易に察知することはできない。日本も重々警戒しなければならない。
●米国がウクライナに渡した兵器、10億ドル分が「行方不明」 盗難の恐れも 1/13
米国防総省は11日、米国などがウクライナに供与した兵器について、およそ10億ドル(約1450億円)相当分が適切に追跡されていないとする報告書を公表した。米議会がウクライナ向け追加予算をめぐって紛糾するなか、これらの兵器は盗まれたのではないかという疑念も出ている。
国防総省の監察総監がまとめた報告書の編集済み版によると、米国とパートナー諸国からウクライナに送られたおよそ16億9000万ドル(約2450億円)相当の兵器のうち、10億ドルあまりの在庫管理が「未処理」となっている。政府のデータベースで当該在庫について「完全な説明責任を果たせない」ことが原因とみられるという。
報告書は、兵器の追跡をおろそかにすれば「盗難や流用のリスクを高めかねない」と警告する一方、ウクライナ向け兵器の追跡は今後、在庫状況が変化していくなかでさらに難しくなるとの見通しも示している。
サーシャ・ベーカー米国防次官(政策担当)代行は、要求される会計処理の手続きは「戦時下の厳しく、変化の激しい環境では現実的でない」と述べている。
米紙ニューヨーク・タイムズが入手した編集前の報告書によれば、これまでに米国からウクライナに供与された兵器数は3万9139点にのぼる。適切に追跡されていない兵器の正確な数は不明だという。
米国務省によると、ロシアが2022年2月にウクライナに全面侵攻して以降、米政府はウクライナに442億ドル(約6兆4100億円)超の軍事援助を行っている。ニューヨーク・タイムズは、米国からウクライナに供与された兵器には対戦車ミサイルや地対空ミサイル、ドローン(無人機)、中距離ミサイル、暗視装置などが含まれると報じている。
国防総省の監察総監は2022年10月のリポートで、西側諸国からウクライナに供与された兵器の一部が犯罪者や義勇兵、密売業者に盗まれたと警鐘を鳴らしていた。ウクライナでの米国の軍事的プレゼンスは限られるため、米国からウクライナに送られた装備品を国防総省が追跡する能力は「難題」に直面しているとも認めていた。
CNNが当局者の話として伝えているところでは、ジョー・バイデン米政権はウクライナに送る兵器に関して、一部が適切な相手の手に渡るのであれば追跡不能なものが出るのもやむを得ないと判断しているという。
米議会では、野党・共和党がウクライナ向け追加予算の成立を滞らせている。議会の民主、共和両党の指導部は今週、2024会計年度(2023年10月〜2024年9月)予算の大枠で合意したと発表したが、交渉はなお続いている。 
●プーチン大統領の健康不安が再び...市民との対話の席で「椅子にしがみつく」 1/13
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、「大統領の椅子」だけでなく、実際の椅子に必死にしがみついていると揶揄する動画が、ネットで話題になっている。ロシア国内での市民との懇談会の様子を捉えた動画なのだが、たしかにその中でプーチンは、右手で不自然なほど椅子を握りしめ続けている。
ウクライナ内務省顧問のアントン・ゲラシチェンコは、ロシア最東端チュクチで演説するプーチンの動画をX(旧Twitter)に投稿した。「プーチンは椅子にしがみつきならが、『非合法の諜報活動』における自らのキャリアと特別訓練について説明した」とゲラシチェンコは指摘している。この動画は、1月11日時点で83万5000回以上再生されている。
プーチンは1月10日、ベーリング海峡を隔てて米アラスカ州と向かい合うチュクチ自治区の首都アナディリで、住民との懇談会に出席した。
ゲラシチェンコが注目したのは、プーチンのボディランゲージだ。プーチンは自らキャリアについて語りながら、右手で椅子の脚をしっかりと掴んでいる。
大統領として初めてチュクチ自治管区を訪問
「私の経歴はよく知られている。学校、大学、レニングラード大学(現在のサンクトペテルブルク国立大学)法学部。それからソ連のKGBの特別学校、非合法の諜報活動の特別訓練、そして合法の諜報活動だ」とプーチンは語った。
プーチンは1975年にKGBに入省。東ドイツのドレスデンに勤務し、1989年のベルリンの壁崩壊の際も同地に赴任していた。その後のソ連崩壊について、プーチンは後に「今世紀最大の地政学的惨事」と述べている。
プーチンは今回、大統領として初めてチュクチ自治管区を訪問した。同自治管区はモスクワと9時間の時差があり、サッカーのイングランド・プレミアリーグ、チェルシーの元オーナーであるロマン・アブラモビッチが知事を務めたこともある。
極寒の地でオフロード車を自ら運転
ロシア国営タス通信によると、プーチンはマイナス25度という極寒の中、オフロード車を自ら運転し、温室を訪れたという。地元住民との対話集会では、多産を推奨する政策に対する国の支援を発表した。
プーチンは、3月に行われる大統領選への再出馬を発表した後、ロシアの極東地域を視察している。大統領選では、慎重に管理された政治環境の中で、プーチンが勝利するというのが大方の見方だ。
1月11日には、南東部ハバロフスクで経営者らと懇談し、昨年12月の国民とのテレビ対話で指摘された卵の価格高騰は、政府の判断ミスによるものだと認めた。また、2023年のロシアのGDP成長率は、従来の予想の3.5%を上回り、4%を超える可能性があるとの見方を示した。
●ウクライナ侵攻への動員兵の家族ら、首都モスクワで“帰還”訴え 1/13
ロシアの首都モスクワで13日、ウクライナ侵攻に動員されている兵士の家族らが集まり、動員兵の帰還を訴えました。
これは動員兵の家族らでつくる「家への道」というグループがSNSで呼びかけたものです。13日、モスクワのクレムリンに隣接する「無名戦士の墓」に、およそ20人が集まって無言で献花をし、動員兵の帰還を訴えました。
恋人が動員されている女性「私の彼氏たちが死ぬとしたら、それは納得できない」
息子が動員されている女性「動員された人々がいつ帰るのか、その時期を知りたい」
グループの代表が「夫や息子を戻して」と書いたプラカードを掲げたため、一時、拘束されるなどしました。
ロシア軍の動員は、2022年9月にプーチン大統領が導入しましたが、兵役の期間については明らかにされていません。

 

●ロシア プーチン大統領の長女マリヤ氏がメディアに 極めてまれ 1/14
ロシアのプーチン大統領の長女マリヤ氏が地元の医療系の非営利団体とのインタビューに応じ、プーチン大統領の家族がメディアに出てくるのは極めてまれなことから、注目を集めています。
小児内分泌学者のマリヤ氏は、インタビューで「人の命には至上の価値がある。ロシアは経済ではなく、人間を中心とした社会だ」と述べ、医薬品の世界的な進歩や文学、芸術などについて発言していますが、ウクライナ侵攻については言及していません。
また、本人や取材者からマリヤ氏がプーチン大統領の娘であることについても触れられていません。
インタビューは去年12月に収録されたもので、ここ数日、欧米のメディアが取り上げています。
マリヤ氏を含むプーチン大統領の2人の娘は、ロシアによるウクライナ侵攻後、欧米や日本による資産凍結などの制裁対象になっています。
イギリスの公共放送BBCの記者は、マリヤ氏が人命の価値に言及したことに触れ、SNSに「彼女の父親によって『予備的な部分動員』に巻き込まれた兵士は同意するだろうか」と皮肉っています。
●「雪豹」仕様のレオパルト1戦車、東部激戦地のロシア兵狩りへ爪を研ぐ 1/14
ウクライナ軍のレオパルト1A5戦車の一部は、冬用の擬装を施されている。「雪豹」に姿を変えたこれらのレオパルトは、必要性が明らかな爆発反応装甲はまだ付けられていないが、ウクライナの戦車兵らによれば、近くそうする予定とのことだ。
重量40t、乗員4人のドイツ製戦車であるレオパルト1A5は、ドイツとデンマーク、オランダが共同で200両近くをウクライナに供与すると表明している。これまでに引き渡されたレオパルト1A5を配備されているウクライナ軍部隊は、そのすべてに冬用の擬装をさせ、爆発反応装甲を追加するのが最も望ましい。
ロシアがウクライナで拡大した戦争が23カ月目に入るなか、およそ1000kmにおよぶ戦線の最も重要ないくつかの戦域で、ウクライナ軍部隊は機動的な火力支援をますます必要とするようになっている。冬景色に溶け込み、防護力を増したレオパルト1は、その必要を満たしてくれるものになるだろう。とくに期待されるのが、東部ドネツク州アウジーイウカ方面の戦いでのそうした役割だ。
アウジーイウカ周辺では昨年10月半ば以来、ウクライナ軍の1個師団規模(計6個の機械化旅団と戦車旅団)の守備隊が、2個野戦軍を含むロシア軍のはるかに大規模な攻撃部隊を相手に果敢な機動防御戦を展開してきた。投入兵力はおそらく、ウクライナ側が1万人、対するロシア側が4万人程度と考えられる。
困難な状況にもかかわらず、アウジーイウカ守備隊は持ちこたえてきたばかりか、攻撃してくるロシア軍部隊に多大な損害を与え、最初の2カ月だけで1万3000人にのぼる死傷者を出させた。自軍側の人的損害は低く抑えている。
ロシア軍はアウジーイウカ周辺で戦車やその他の戦闘車両も数百両失っており、その数はすぐに補充できる数をはるかに上回る。車両の損害もロシア側に偏っており、ロシア側の損害数はおそらくウクライナ側の10倍にのぼる。ロシアの独裁者ウラジーミル・プーチンは持久力でウクライナを打ち負かすという意思を公然と示しているが、ウクライナ側はそれを踏みにじってみせた格好だ。
戦車はアウジーイウカの防衛で重要な役割を果たしてきた。ウクライナ軍の第1独立戦車旅団と第116独立機械化旅団のT-64BV戦車、第47独立機械化旅団のレオパルト2A6戦車は、アウジーイウカ周辺の無人地帯でロシア側の戦車と交戦したり、ロシア軍の歩兵を吹き飛ばしたり、あるいは孤立した味方部隊を救援したりしている。
もっとも、戦車はアウジーイウカ方面の過酷な戦闘で最も重要な兵器というわけではない。戦車よりもりゅう弾砲などの大砲とドローン(無人機)が重要なのはいつも変わらない。精度の高い25mm機関砲を備え、機敏で、しかも防護もしっかりしている米国製M2ブラッドレー歩兵戦闘車が僅差でそれに続くだろう。
それでも、戦車もやはり非常に重要だ。アウジーイウカ守備隊が戦車部隊の増援を断ることはまずないだろう。第47旅団は手元に残っていた数少ないレオパルト2A6を、アウジーイウカの北方にある東部ルハンスク州クレミンナ周辺で陣地を守る第21独立機械化旅団に譲り渡したらしいので、むしろ喜んで受け入れるはずだ。
ウクライナ軍が保有するレオパルト1A5の大半は、新編の第5独立戦車旅団に配備されているもようだ。第5戦車旅団は中部ドニプロペトロウシク州クリビーリフで準備してきたとみられる。100両かそこらの戦車やその乗員の用意が整ったあと、この旅団がどこに配置されるのかは現時点では不明だ。
もし新たな戦車を100両規模擁する新たな旅団がアウジーイウカに来るとなれば、守備隊が歓迎するのは間違いない。とりわけ、その戦車が冬用の擬装をきちんと施され、防護力の高い爆発反応装甲も追加で備えていれば、大歓迎だろう。
●ロシア著名司祭の聖職剥奪 正教会裁判所、侵攻反対で 1/14
ロシア正教会の裁判所は13日、モスクワ中心部の教会で約30年活動してきたアレクセイ・ウミンスキー長司祭(63)の聖職を剥奪する決定をしたと発表した。正教会の最高位キリル総主教の指示に従わなかったことを理由としている。ウミンスキー氏はウクライナ侵攻に反対し、今月初めに拠点教会の主任を解任されていた。
キリル総主教はプーチン大統領と親しく、侵攻支持を表明している。
ウミンスキー氏はテレビの解説番組や信仰に関する著作で知られ、2022年に死去したゴルバチョフ元ソ連大統領の葬儀を取り仕切った。プーチン政権に反対する野党活動家らを支援するなど、リベラルな立場を取っていた。
●EUの新たな頭痛の種スロバキア 1/14
欧州連合(EU)は現在、27カ国から構成されているが、ポーランドとハンガリーの2国はこれまでEUの共通価値観である民主主義と法治国家の原則に違反しているとしてブリュッセルから批判されてきた。ただし、ポーランドで昨年12月11日、元欧州理事会議長のドナルド・トゥスクを首相とした新政権が誕生したことで、そのEU政策もブリュッセル寄りに変わってくることが予想される一方、昨年10月に発足したスロバキア新政権はEUのウクライナ支援に消極的な姿勢を示すなど、スロバキア・ファーストを歩み出してきた。ハンガリーと共に、スロバキア新政権は、EUの結束に大きな影を投げかけている。
昨年9月30日に実施されたスロバキア議会の繰り上げ選挙で、ロバート・フィツォ元首相が率いる野党「社会民主党(スメル)」が第1党にカムバックした。その結果、中道左派「方向党−社会民主主義(Smer−SD)」を中心とする、中道左派「声−社会民主主義(Hlas−SD)」および中道右派「自由と連帯(SaS)」から成るフィツォ連立政権が発足した。
フィツォ氏は2006年から2010年、そして2012年から2018年まで首相を務めた。2018年にジャーナリストのヤン・クシアク氏とその婚約者が殺害された事件を受けて、イタリアのマフィアとフィツォ首相の与党の関係が疑われ、ブラチスラバの中央政界を直撃、国民は事件の全容解明を要求、各地でデモ集会を行った。フィツォ首相(当時)は2018年3月15日、辞任を余儀なくされた。
その後のスロバキアの政情は腐敗とカオス状況が続いた。フィツォ首相の後継者に同じ社会民主党系スメルからペレグリニ副首相が政権を担当、スメル主導の連立政権を継続した。ただし、2020年2月に総選挙が行われ、マトヴィチ党首率いる「普通の人々」、「我々は家族」、「自由と連帯」、「人々のために」の4党から成るマトヴィチ首相率いる新政権が発足したが、連立内の対立でマトヴィチ首相は辞任。ヘゲル新政権が発足したものの、少数派政権となって2022年12月、内閣不信任案が可決され、総辞職に追い込まれ、昨年9月の繰り上げ総選挙実施となったわけだ。そしてフィツォ氏が再びスロバキア政治の表舞台に登場してきたわけだ。
5年前のジャーナリスト射殺事件で引責辞任に追い込まれたフィツォ氏が政治にカムバックできた背景には、前政権の行政能力のなさがあることは明らかだ。また、新型コロナウイルスの席巻、ウクライナ戦争の長期化で、国民経済が停滞し、国民の生活は厳しいという事情がある。
そのスロバキアで11日夜、フィツォ新政権に反対して数千人の国民が抗議デモを行った。野党3党が主催した抗議デモは経済犯罪や汚職との戦いを担当してきた特別検察庁(USP)の廃止に抗議することが大きな目的だ。野党は法の支配に対する脅威と警告し、「フィツォ政権は過去の汚職事件を隠蔽しようとしている」と非難している。現地からの情報では、ブラチスラバの抗議デモには約2万人が参加し、「フィツォは辞めろ!」「フィツォを刑務所へ!」などのスローガンを掲げた横断幕が掲げられた。
ところで、EUのウクライナ支援が揺れ出した。ロシア軍のウクライナ侵攻以来、ハンガリーのオルバン首相はウクライナへの武器供与を拒否、ハンガリー・ファーストを推進する一方、ロシアのプーチン大統領とも友好関係を築いている。フィツォ首相は施政方針でオルバン政権と同じように、スロバキア第一主義を前面に打ち出し、国益重視の外交を主張している。
欧州委員会は、フィツォ新政権が特別検察庁の廃止を実施した場合、スロバキアの法治体制が大幅に制限される、と懸念している。同時に、スロバキアがEU内で「第2のハンガリー」にならないように注意深く監視しているところだ。
なお、スロバキアの政情を予測するうえで、3月に予定されている大統領選挙は重要となる。スロバキアの大統領は法律に拒否権を発動したり、憲法裁判所で異議を申し立てたりすることができるからだ。ただし、ズザナ・チャプトヴァー現大統領は昨年6月、「殺害の予告を受けている」として、3月の大統領選には出馬しない意向を表明している。
フィツォ首相は国民の抗議デモに屈して辞任に追い込まれた2018年の再現を避けるため、国民経済の停滞や社会の閉塞感はブリュッセルの政策に起因するとEUを悪役にし、ハンガリーと連携をとって政治的・外交的延命を図る可能性が考えられる。
●戦死者を「ウクライナの英雄」に、遺族の嘆願書が殺到 1/14
アンナ・バーズルさん(35)は昨年11月、ウクライナ東部におけるロシア軍との戦闘で弟を亡くした。2日間は悲しみに打ちひしがれていたが、すぐに行動を起こした。
弟のボーダン・クロトフさん(29)に軍の最高栄誉称号である「ウクライナ英雄」を授与するよう、バーズルさんはゼレンスキー大統領に宛てた嘆願書をしたためた。
「26日に弟を埋葬し、翌27日にはすでに書き終えていた」とバーズルさんはキーウの墓地にあるクロトフさんの墓石の前に立ち、涙ながらに語った。
衛生兵を務めたクロトフさんは、遺影の中で笑顔を浮かべていた。その上では、内務省の管轄下にある所属部隊の記章が描かれたウクライナ国旗がはためいていた。
こうした嘆願書は、2022年2月にロシアが侵攻を開始して以降、少なくとも2000件提出されている。多くが親戚や友人によって書かれ、命を落としたウクライナ兵に栄誉を与えるよう、ゼレンスキー大統領に呼び掛ける内容だ。
ウクライナで戦争が始まって以降、「ウクライナ英雄」を授与された兵士は400人に満たない。「英雄」は敵の進軍阻止に貢献したなどの勇敢な行動を称え、その多くは死後に授与されている。
この請願制度は2015年、国民が大統領へ訴えかけることのできる機会として導入された。ただ、1998年に創設された同称号の候補者を決める手続きの正式な一環とはなっていない。
ウクライナ軍がロシア政府を後ろ盾とする分離派勢力との戦闘を行っていた際には、嘆願書の数はさほど多くなかった。
だが現在では、ほぼ毎日のように、兵士の死を悼む妻や母親、子どもたちからの新たな嘆願書が寄せられており、大統領府のウェブサイトに掲載された後、ソーシャルメディア上で拡散されている。国民が団結しながらも戦争終結の兆しが見えない中、遺族による嘆願書の提出はウクライナで慣例になりつつある。
こうした動きからは、ウクライナの人々の集団的トラウマが深刻であり、戦死した兵士全員が侵略行為からウクライナを守る「英雄」だと見なされていることがうかがわれる。
ウクライナ政府は戦死した兵士の数を明らかにしていない。ただ、西側の情報機関は、これまでに数万人に上るウクライナ兵が死亡したと予測している。
幅広い署名活動
昨年6月に反転攻勢が開始される以前に強襲旅団に加わったクロトフさんの人柄について、姉のバーズルさんは陽気で自分よりも他人を優先する性格だったと話す。幼い頃、父親の存在が無い時にも、思いやりがあって支えになってくれたと振り返った。
「フリブ」という通り名で親しまれていたクロトフさんは自分の家庭を持つことを夢見ていた、とバーズルさんは言う。戦場では責任感を感じていたとも語った。
バーズルさんは嘆願書に、クロトフさんが激しい銃撃戦の中、戦場から負傷した兵士を引きずりだして救出したことを記した。戦友たちは「涙を浮かべながら」クロトフさんをしのんでいたという。
クロトフさんは亡くなった当日、4人を助けていたとバーズルさんは同僚兵士の証言を基にロイターに話した。
バーズルさんは他の嘆願者と同様、ソーシャルメディアを通じた署名活動を行っている。中には著名人もいる友人やフォロワーに対して、各自のアカウントでも嘆願書を共有するよう強く呼びかけたという。
時間との戦いだ、とバーズルさんは話す。嘆願書が考慮の対象となるには、掲載してから90日以内に2万5000人分の署名を集めることが必要とされている。
「署名した人は、今もまだ私のことを覚えていると思う。皆に電話をかけて回りながら、『今すぐに、お願い。土下座でもする覚悟だ』と感情的に懇願していたから」
バーズルさんの嘆願書には9日時点で、1万8800人からの署名が寄せられた。
必要数の署名を集めた嘆願書は、軍の指揮系統へと回され、嘆願書の急増を受けて昨年5月に設立された大統領委員会で審査される必要がある。
委員会設置に際した声明でゼレンスキー大統領は「われわれは、ウクライナの英雄全員の名前を知らなければならない」と述べた。
この記事に関してウクライナ大統領府に質問したものの、返答は得られなかった。
死者の記憶
称号が授与された場合、本人や遺族に対し、住宅の無償提供などの十分な経済的支援が行われる。
しかし、こうした支援が念頭にあるわけではないと話す遺族もいる。ビクトリーア・ウラセンコさん(26)もその一人だ。夫のオレクサンドルさんは2022年6月、ロシア軍の占領下におかれた南部へルソンを奪還するウクライナ軍の作戦中に亡くなった。
「(金銭的報酬は)私にとって全くもって重要なことではない」
ウラセンコさんの目的は、オレクサンドルさんが一度も会うことのなかった1歳の息子マカルくんに父親の思い出を残すことだという。
「息子が心の片隅にでも父親を記憶し、次の世代に受け継いで欲しい」とウラセンコさんは自身の嘆願書に記した。
この嘆願書は2万5721人の署名を集め、現在、審査が進められている。
ウクライナでの戦闘が続く中、戦死者を記憶に残すことが急務になりつつある、とスウェーデンの首都ストックホルムにあるセーデルテルン大学で上級講師を務めるユリヤ・ユルチュク氏は言う。
政府当局は先月、活動家や遺族からの強い要望を受け、大幅に遅れていたキーウにおける国立戦没者墓地の建設計画を承認した。
ただ、嘆願書が殺到している状況にウクライナ退役軍人の一部からは、多数に授与することで称号の価値を下げることに繋がりかねないと懸念する声も上がっている。
ユルチュク氏はこの現象が、国民全体の士気を保ちながらも顕彰にふさわしい人を選出するという難題をウクライナ政府に突き付けていると指摘する。
「個人や家族間における記憶がある一方で、国家としての記憶も存在する。後者は国民を一致団結させ、動員させるために働きかけるために必要な記憶だ」
●自走砲の「砲身」が足りないロシア軍、古いけん引砲から取り外して再利用 1/14
北朝鮮から大量の砲弾が送られてきたおかげで、ウクライナで戦うロシア軍の部隊は砲弾に余裕がある。
余裕がないのはりゅう弾砲の砲身だ。そして、ロシア軍が使い物にならない砲を解体することによって、最も活躍している砲を維持していることが明らかになっている。
りゅう弾砲の砲身は通常、鋼鉄がもろくなったり曲がったりするまでに数千発は発射できる。 適切な時に消耗した砲身を交換しなければ、砲弾が砲の内部で爆発して大惨事になりかねない。このような事態は、ウクライナで1年11カ月にわたって繰り広げられてきたこの戦争の両陣営で幾度となく発生している。
ロシア軍の砲手にとって、計算は容赦のないものだ。約1000kmに及ぶ前線に沿って配備されているロシア軍のりゅう弾砲は2000門ほどだろう。これらの砲は1日に少なくとも計1万発を発射している。
平均すると1門あたり1日にたったの5発だ。このペースであれば、りゅう弾砲の砲身は1年強もつはずだ。だが実際には、前線の最も重要な方面の砲は平均よりはるかに多く発射し、一方で戦闘が少ない方面の砲は発射回数が少ないと考えられる。
ウクライナ東部のアウジーイウカやバフムート、南部のクリンキ周辺に展開するロシア軍の砲兵隊は、数カ月ごとに砲身を交換する必要があるだろう。
砲身の生産には高品質の鋼鉄と精密な機械加工が求められる。ロシアがウクライナに侵攻する前、ロシアで砲身を生産できる工場はペルミのモトビリハ工場とボルゴグラードのバリカディ工場の2つだけだった。ロシアが新たな生産施設を設立したのか、代替の砲身の調達先を外国に確保したのかは不明だ。調達先は北朝鮮かもしれない。
いずれにせよ、現在のように高頻度のペースで大砲を撃ち続けるために必要な、何千もの交換用の砲身をロシアが生産するのに苦労しているのは明らかだ。
オープンソースのアナリスト、リチャード・ヴェレカーによると、ロシアは冷戦時代のけん引式のりゅう弾砲を長期保管庫から数千門引っ張り出しているという。だが、ウクライナに侵攻した2022年2月以降にロシア軍が失った約1100の大砲を補うために、古いがさほど使用されていないそうした砲を必ずしも前線に送っているわけではない。
そうではなく、技術者たちは代わりに古いけん引砲の砲身を外し、最も重要な自走砲の消耗した砲身と交換しているようだ。
ヴェレカーは、ロシア軍のけん引砲の損失が急減していることに注目し、けん引砲は「(自走砲よりも)先に保管庫から引っ張り出されるが、これは砲身を取り外して自走砲に取り付けるためではないか」との結論に達した。
ヴェレカーの主張が正しく、ロシア軍が自走砲を稼働させるためにけん引砲を解体しているとすれば、自由なウクライナを支持する者が気になるのは、ロシアにどれだけの古い砲が残っているのか、つまり砲身を新たに生産しなくても、どれだけ予備の砲身を用意できるのかという点だ。
この疑問は、砲身がロシア軍の大砲供給のボトルネックになっているのか、そして砲身不足がロシア軍の火力を制限する可能性はあるのかという問いにもつながる。
たとえそうした事態になるとしても、今年ではないだろう。ヴェレカーによると、ロシアは2021年に1万2300門の古いけん引砲を保有していた。2年近い戦闘を経て、保管されているけん引砲は7500門に減った。4800門もの古いけん引砲から砲身を取り外したことになる。
回収された砲身とロシアの産業界が生産した砲身の合計数は、2000門のりゅう弾砲を2年間稼働させるのに十分なものだった。倉庫にまだ残っている7500門の古いけん引砲のほとんどが完全に消耗していないと仮定すると、これらの砲の砲身に取り替えることで前線のりゅう弾砲をさらに2年間稼働させ続けることができる。
もしそうなら、ロシア軍の兵器供給は2026年に危機に陥る。偶然にも、それは同軍が歩兵戦闘車と戦車を使い果たす可能性のある年でもある。
●台湾総統選挙 与党・頼清徳氏勝利も厳しい政権運営 1/14
13日に行われた台湾総統選挙は接戦の末、与党・民進党の頼清徳氏が当選しました。野党の得票も多く、勝利宣言では「努力する」という発言も聞かれました。
与党・民進党 頼清徳氏「頼清徳と蕭美琴は、この礎を踏まえて国がしっかりと進み続け、人々が良い暮らしを送れるようさらに努力を重ねていきます」
与党と2つの野党の3つどもえの構図で争われた台湾総統選挙。投票率は前回を3ポイント下回る71.9%でした。
およそ558万票を獲得し当選を決めた頼清徳氏ですが、野党候補の得票は合わせて836万票に上り、台湾で初めて8年以上の長期政権を担う与党に対する不満もあらわになりました。
頼清徳氏が正式に総統に就任するのは5月20日ですが、難しい政権運営をせまられそうです。
●和平案めぐる協議 複数国がウクライナに停戦応じるよう説得か 1/14
ウクライナが提唱する和平案を巡る先月の非公式協議で、ウクライナに対し、複数の国の高官からロシアとの停戦に応じるよう説得する発言が相次いだことがわかりました。
スイスのダボスでは14日、4回目となる協議が開かれますが、各国が和平案の実現に向けて一致できるか不透明な情勢です。
ウクライナが「平和の公式」と名付けて提唱する10項目の和平案を巡っては、先月16日、サウジアラビアの首都リヤドで、案の実現に向けた戦略をより現実的なものへと軌道修正しようと、G7=主要7か国やグローバル・サウスと呼ばれる新興国などの高官が非公式協議を開きました。
外交筋によりますと、非公式協議では、複数のグローバル・サウスの国々の高官から軍事侵攻による死傷者をこれ以上増やさないという観点から、ウクライナに対し、ロシアとの停戦に応じるよう説得する発言が相次いだということです。
これに対しウクライナ側は「意見は聞いたが立場は変わらない」などと述べ徹底抗戦を続ける姿勢を強調したということです。
スイスのダボスでは14日、およそ80の国や国際機関が参加して4回目となる協議が開かれますが、前回の非公式協議で浮き彫りになった立場の違いから各国が和平案の実現に向けて一致できるか不透明な情勢です。
フランス 外相 ウクライナに支援続ける考え示す
ウクライナの首都キーウには13日、就任したばかりのフランスのセジュルネ外相が訪れました。
セジュルネ外相は、今月9日に新たに任命されたアタル首相が率いる内閣の外相に起用され、初めての外国訪問先にウクライナを選び、クレバ外相と会談しました。
会談のあとの記者会見でセジュルネ外相は「ロシアは、ウクライナと、その支援国が、先に疲弊することを望んでいるが、われわれは弱体化しない」と強調し、支援を続ける考えを示しました。
そのうえで「フランス企業にウクライナへの投資を働きかけたい」と述べ、輸送やエネルギー、それに通信関係など民間分野での支援を拡大させる方針を明らかにしました。
これに対し、クレバ外相はフランスの防衛産業との協力関係の拡大に期待を示しました。 
●「一番の敗北者は中国」台湾総統選巡る反発 佐藤正久氏 1/14
「中国が反発するということは、日本政府が正しいことをやっているということだ」
13日に投開票された台湾の総統選で当選した頼清徳副総統に上川陽子外相が祝意を示したことに対し、中国が反発を強めていることについて、自民党の佐藤正久元外務副大臣は14日、産経新聞の取材にこう語った。
佐藤氏は、台湾総統選の結果について「国民党の敗北というよりも、一番の敗北者は中国だった」と語る。対中融和路線の最大与党、国民党の候友宜新北市長が敗れたことは、台湾統一を目指す中国の習近平国家主席にとって痛手だったというわけだ。その上で、佐藤氏は「習氏は相当怒っていると思う」と話す。
上川氏の祝意に対して「強烈な不満と断固とした反対」を表明した談話を発表したのは、在日本大使館の報道官だった。佐藤氏は「在日本中国大使館としては、こういう時は習氏に寄り添った態度を出さないと(駐日中国)大使の立場がないと考えたのではないか」と語る。
一方、佐藤氏が懸念するのは、中国政府内で習氏に報告される情報が偏っている可能性だ。「習氏に正しい情報が上がっていない。台湾総統選に関しても、習氏の予想と違った可能性がある。在日本中国大使館も悪い情報を上げていない」とみる。
中国と同じ権威主義国家のロシアをめぐっては、プーチン大統領に正しい情報が伝わっていなかったことがウクライナ戦争につながったという指摘もある。こうした見方を念頭に、佐藤氏は述べた。
●中東、ウクライナで連携 上川氏、カナダ外相と会談 1/14
上川陽子外相は13日(日本時間同)、カナダ東部モントリオールでジョリー外相と会談し、中東やウクライナの情勢を巡り緊密に連携することで一致した。総統選で与党候補が勝利した台湾や中国、北朝鮮についても意見交換した。日本外務省が発表した。
イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が続く中東情勢に関し、上川氏は人質の即時解放と人道状況改善、事態の早期沈静化を目指す日本の立場を改めて強調。「中東地域全体への波及を防ぐため同志国と連携したい」と述べた。
能登半島地震と羽田空港での航空機衝突事故に対するカナダ政府からのお見舞いに謝意を伝えた。
●ウクライナ首相 安全保障協定の締結に向け約30か国と交渉 1/14
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナのシュミハリ首相は、ウクライナの長期的な安全の確保のため、およそ30か国との間で安全保障協定の締結などに向けて交渉していると明らかにしました。
ウクライナでは、13日から14日にかけてロシア軍による攻撃が相次ぎ、このうち東部ハルキウ州の知事によりますと、州内の15以上の集落が迫撃砲などによる攻撃を受けたということです。
ロシアによる軍事侵攻が続くなか、ウクライナのシュミハリ首相は13日、地元のテレビ番組で、ウクライナの長期的な安全の確保のため、G7=主要7か国を含めたおよそ30か国との間で安全保障協定の締結などに向けて交渉していると明らかにしました。
G7は去年7月、共同宣言を発表し、ウクライナへの将来のロシアによる侵略を抑止するため、長期的な支援を行う方針を表明していました。
これに基づき、イギリスのスナク首相が12日、首都キーウでゼレンスキー大統領と会談し、新たな安全保障協定に署名しています。
日本も安全保障分野などで協力していく内容を定める2国間文書の作成に向けて、去年10月から交渉を行っています。
シュミハリ首相は「パートナー国と類似した協定の署名に向けて協議を進めている」と述べ、目下の軍事支援にとどまらず、ウクライナがNATO=北大西洋条約機構に加盟するまでの安全保障を担保するものだと重要性を強調しています。

 

●北朝鮮の崔善姫外相、訪露…プーチン大統領と兵器取引など議論の可能性 1/15
北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相が15日から17日までロシアのラブロフ外相の招待でロシアを訪問すると、朝鮮中央通信が14日、報じた。
金正恩(キム・ジョンウン)委員長とロシアのプーチン大統領の昨年9月の首脳会談後、両国の協力が拡大する中、崔外相は訪露期間中にラブロフ長官と会談するものとみられる。これに先立ち、ラブロフ長官は昨年10月の訪朝当時、崔外相に「都合のいい時期にモスクワを訪問してほしい」と招待していた。
外交街では、崔外相がプーチン大統領と会談し、兵器取引をはじめとする両国の核心懸案を話し合う可能性があるという観測も出ている。朝露は昨年9月の首脳会談後、ラブロフ長官の訪朝(10月)、朝露経済共同委員会(11月平壌)の開催、沿海州政府代表団の訪朝(12月)などを続け、軍事分野はもちろん農業特区の共同運営、羅津(ナジン)・ハサンプロジェクトの再開などに協力を拡大している。
●ロシア消費者物価、23年は7.42%上昇 前年の2桁台から鈍化 1/15
ロシアの統計局が12日発表した2023年の消費者物価指数(CPI)は7.42%だった。中央銀行の見通し(改定値)の上限。2桁台だった前年からは鈍化した。
3月の選挙で再選を目指すプーチン大統領にとって高いインフレ率は課題の1つだ。しかし、軍事費の急伸と西側による原油価格上限を回避し、ロシア経済は回復している。
12月のCPIは前年同月比7.42%上昇し、前月の7.48%から伸びが鈍化。アナリスト予想の7.6%をやや下回った。中銀が予想していた7.0─7.5%の上限で着地した。中銀が目標としていた4%は大きく上回った。
前月比では、0.73%上昇。22年4月以降で最大の伸びとなった11月のプラス1.11%から鈍化した。アナリストは0.9%の上昇を予想していた。
●デンマークで新国王が即位 在位52年のマルグレーテ女王が退位 1/15
ヨーロッパの君主として在位が最長となっていたデンマークの女王が退位し、長男が王位を継承した。
デンマークのコペンハーゲンで14日、王位継承の式典が行われ、83歳のマルグレーテ女王が退位し、長男のフレデリック皇太子が国王に即位した。
宮殿前の広場に集まった多くの国民から盛大な祝福を受けた。
式典が行われた14日は、1972年にマルグレーテ女王が即位してから、ちょうど52年にあたる。女王はヨーロッパで最も在位期間の長い君主だった。
マルグレーテ女王は昨年の大みそかに、国民に向けたテレビ演説で、退位する意向を明らかにしていた。
デンマークで君主が自らの意思で退位するのは約900年ぶり。
●米英がイエメン「フーシ派」攻撃開始。崩れる中東のバランスと進む世界の分断 1/15
ハマスによる突然のイスラエル襲撃から3ヶ月あまり。ついに米英軍が反米・反イスラエルの姿勢を鮮明にするフーシ派の拠点に対して空爆を開始し、中東地域のバランスがさらに大きく崩れようとしています。この事態を早くも予見していた識者はどう見るのでしょうか。元国連紛争調停官の島田さんが、「戦争拡大に対する抑止力の不在」の顕在化を指摘。その上で、今後の国際社会を不安定で緊張感に満ちたものにしないため我々がなすべき努力について考察しています。
ついにイエメン反政府勢力「フーシ」に米英が空爆開始
 迷走する国際秩序と世界の分断
「Kuniはよく国際秩序というけれど、ちなみに国際秩序なるものは存在するのだろうか?」
複数の国際紛争・国内での紛争案件を同時進行で扱う中、調停グループの複数の専門家から投げかけられた問いです。
私なりの定義があるとしたら、「国際秩序とは法の支配(Rule of Law)が尊重されながら、国際社会のメンバー(つまり国々)が互いの違いを認め合いつつ、協調関係を成り立たせるために必要なルールと規則」と考えています。
しかし、協調関係の維持のみが国際秩序を構成しているのではなく、そこにはbalance of powers (勢力均衡)の要素も大いに含まれるでしょうし、EU(欧州連合)の形式に代表されるような“共同体の設置”という要素も大いに含まれると考えます。
ただ強調、BOP、そして共同体(コミュニティ)の要素に共通するものとして【ルールに基づく統治・体制】という特徴があります。
“国際秩序”と聞かれていろいろと想起される内容があると思いますが、あえて上記の“共通ルールに基づく統治”という定義で見る場合、とても大きなクエスチョンマークが生まれてはこないでしょうか。
例えば、このような問いが出てきます。
【その“共通のルール”とは、誰の観点からのルールなのでしょうか?】
【そのルールは誰によって課され、遵守の信憑性を保証されているのでしょうか?】
【不遵守の場合、誰がどのような権利・権限に基づいて罰則を科すのでしょうか?】
【相反する“国際”秩序が存在し、成り立っている場合、それらは平和裏に共存できるものなのでしょうか?】
いろいろと問いが浮かんできますが、答えもまたいろいろ存在するのだと思います。そして何よりも“どの答えも同等に正しい”というのが認識かと思います。
ただここに大きな問題が存在します。
それは見る人によって定義が変わり、ルールを適用する国・機関によって“正しいこと”は変わります。
アメリカや欧州の多くの国々、そして日本などのG7諸国の観点からは、基盤に自由で開かれた社会制度があり、法による支配(専断的な国家権力の支配を排し、権力を法で拘束するという英米法系の基本的原理)の概念が国際秩序の根幹と捉えられ、また民主主義が統治の根幹に存在すると考えられます(もちろん、G7およびその仲間たちの間でも政治体制に差異があります)。
中国やロシア、アラブ諸国、そして多くのアフリカや中南米の国々では、中央集権的に適用されるルールによって確保できる統一性を重んじる政治・社会文化の維持が根幹に存在します。
また【法による支配(Rule of Law)】と言っても、それが国際法によるuniversalityを指すのか、国内における法が国際法を凌駕するという考え方なのか、それとも党や宗派の教義の尊重と遵守を法の支配と呼ぶのか、その出口はまちまちではないかと思われます。
特に、中国やロシア、中東アラブ諸国ほどのextremeでないにせよ、Rule of Lawの要素として挙げられる“専断的な国家権力の支配”を否定する概念は、地球上の多くの国では受け入れがたい認識になっています。
国際秩序の崩壊を決定づけたウクライナ侵攻とガザ紛争
そしてさらに私が問題だと認識しているのは、同じ国であってもケースバイケースで国際秩序や平和、正義(justice)、そして国際人道法に対する定義を使い分けているという国際政治の現実です。
調停グループに参加する国際政治の専門家によると「現在の国際社会はダブルスタンダードどころかmultiple standardsが蔓延っており、スタンダード(基準)を主張する国が、自国の利害に基づいて定義を自在に変えて、自らの行動や言動を正当化する矛盾に満ちた世界だ」と表現しています。
その現実がまさに私たちが目にしている各国のロシア・ウクライナに対する態度、イスラエル・ハマスの戦争に対する態度、そしてアフリカや中南米、アジアで長年続く紛争・戦争・内戦に対する態度(ほぼ無関心)として表れています。
この矛盾に満ちた対応は、一貫した姿勢と認識に基づく対応を阻むだけでなく、ルールを遵守し、相互に利害を尊重し合うという国際協調体制(もしかしたらただの幻想だったのかもしれませんが)を根本から覆し、結果、いわゆる“国際秩序”を崩壊させたのではないかと考えます。
崩壊の兆しはもうずいぶん前からあったのでしょうが、それを決定づけてしまったのが、ロシアによるウクライナ侵攻による世界の分断を経て、現在進行形のイスラエルとハマスの戦争を巡る各国の対応でしょう。
コロナのパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻以前はまだ【自由民主主義】【基本的人権の尊重】【国際人道法の遵守】【武力侵攻の禁止】といった理念が意識され、違いを受け入れつつも、国際社会の安定と平和という朧げな目標の下、国際協調体制が成り立っていたように思いますが、ウクライナ、そしてその後のイスラエル・パレスチナ問題の再燃、世界中で顕在化する格差の拡大などが幾層にも重なり、“明日はきっと今日よりは良くなる”という進歩への信仰が薄れ、“失ったもの・奪われたものをいかに取り戻していくかという実利主義”に基づいた対応が力を持ち出しました。
こじつけとお叱りを受けるかもしれませんが、それがグローバルサウスの台頭であり、ロシアによるウクライナ侵攻の背景にある思想の一つであり、そしてイスラエルとハマスの攻防の背景にあるのではないかと感じています。
グローバルサウスの国々は緩い連帯を示し、相互の国内情勢には不可侵を貫いているという特徴以外に、かつて欧米列強国に蹂躙され、天然資源をはじめとする資産を奪われ、従属させられた過去を繰り返さない・繰り返させないという強い意志が存在します。
これを可能にしたのは、各国の経済発展に伴う経済力の向上と、国際協調の下、進められたグローバリゼーションが与えた国際経済への影響力とつながりだと考えます。
これによりグローバルサウスの国々の発言力が上がり、これまで欧米諸国の身勝手な方針に盲従させられていた過去から脱却し、自国の実利に照らし合わせて対応を考え、毅然とした態度で要求にも対峙するという構図が出来上がっています。
その結果、ロシアによるウクライナ侵攻に対するグローバルサウスの国々の反応は、ロシアの武力侵攻という事実に対しては非難するものの、欧米諸国とその仲間たちが構成し、参加を迫った対ロ包囲網と経済制裁からは距離を置き、ロシアや中国とも、欧米諸国とその仲間たちとも適切な距離を保ちつつ、しっかりと利益を確保するという現実的な戦略を取っています。
ウクライナ侵攻によって否定された「ありえない」状況
またイスラエルとハマスの問題についても、人道的な観点から即時停戦と迅速な人道支援の必要性に触れつつも、事態からは距離を置き、飛び火を非常に警戒する安全保障戦略を取っています。
これはまた“ありえない”と妄信的に信じられていた状況から距離を置くことも意味します。
例えば【主権国家が他国に対して武力侵攻するというのは、現在の世界においてはあり得ない】という幻想は、約2年前のロシアによるウクライナ侵攻によって否定されました。
そしてロシア軍がウクライナ全域を対象に攻撃を仕掛け、ウクライナを攻撃しつつ、その背後にいるNATOに対して「ロシア、そしてロシアの裏庭に構うな」というメッセージを突き付け、国際社会の分断を鮮明化しています。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、度々、ロシアが核兵器を使用する可能性(核使用の脅威)についての懸念が述べられ、プーチン大統領とその取り巻きも核を脅しとして使っていますが、実際に核兵器を使用するシナリオは考えづらく、ロシアの核兵器使用のドクトリンに挙げられる“ロシアおよびその国民に対する差し迫った安全保障上の脅威が引き起こされる場合”が現実になる以外は起き得ないと考えていますが、これも“ありえない”とは言い切れないかもしれません。
現在、ロシア軍がウクライナ戦線において選択している戦略は、ウクライナ東部の支配地域の拡大・維持というよりは、大規模かつ同時発生的なミサイル攻撃をウクライナの大都市に対して行うことで、ウクライナがNATO加盟国、特にアメリカから供与されたパトリオットミサイルなどの防空迎撃ミサイルをどんどん使わせ、在庫を枯渇させることを目的にしているように見えます。
真偽のほどは分かりませんが、ウクライナ軍の司令官の表現を借りれば「あと数回分の大規模ミサイル攻撃に対応する分の迎撃ミサイルしかない」状態にあり、NATO諸国からの支援の先細りと遅延により、さらに状況が悪化する恐れがあります。
また分析によると、ロシアが極超音速ミサイル・キンジャールを含む、弾道ミサイルを対ウクライナ攻撃に用いるケースが増えていますが、弾道ミサイル迎撃システムはウクライナでは機能しておらず、実際にウクライナに着弾し、インフラを次々と破壊する事態に陥っているようです。
そのロシアもミサイルが枯渇しているとの楽観的な報道が時折なされていますが、実際には欧米諸国とその仲間たちによる厳しい制裁にも関わらず、地上戦における戦況の停滞状況を活かし、弾道ミサイルの量産体制を強化して来るべき一斉攻撃に備えていようです。そこに北朝鮮やイランなどからの“つなぎ”支援を得てさらに時間稼ぎをしていますし、“悪魔の商人”としてのトルコも(トルコの皆さん、ごめんなさい)、NATO加盟国としてウクライナに無人ドローンを供与してロシア攻撃に投入している半面、ロシアにも武器を供与して、しっかりと利益を得ています。
アメリカ政府における対ウクライナ支援のための資金が枯渇し、欧州各国も対ウクライナ支援を控え始める中、ロシアは苦境から回復し、弾道ミサイルを量産して攻撃態勢を整え始めるという現状が存在することで、もしNATOがウクライナを見捨てるような事態になれば、ウクライナの存在は危ぶまれますし、その波が一気にユーラシアの近隣諸国に押し寄せる可能性が出てきます。
ウクライナで拡大する「反ゼレンスキー」の声
ウクライナ国内に目を向けると、ゼレンスキー大統領と統合参謀本部議長のザルジーニ氏の確執が目立ってきており、一旦延期された大統領選挙をやはりこの4月に実施すべきとの声も高まる事態に陥っています。
NATOからの支援の先細りを懸念してか、ゼレンスキー大統領が国外にいる18歳から60歳の成人男子をウクライナに呼び戻して徴兵するという方針を示したことで、一気にゼレンスキー大統領に対する反対の声が拡大し、国内における政治的な支持基盤が脆弱になり始めているという分析結果も出てきています。
その背景には、もちろん、ロシアによる情報戦と政治工作も存在するでしょうが、インフラを徹底的に破壊し、補給路を断ち、国内でも揺さぶりをかけるという厳しい心理戦がウクライナ国民に対して行われているようです。
これまで自国が掲げる絶対的なルールである基本的人権の尊重や汚職の撲滅といった規範の不履行には目を瞑り、ロシア憎しでウクライナの後ろ盾となり、おまけにEUは支援が遅延することへの非難をかわす狙いでウクライナのEU加盟交渉の開始を提示しましたが、今、多方面から欧米諸国の勝手なダブルスタンダードが指摘され始め、次第に他国の案件から手を退き、自国ファーストの内向きの政治に傾く傾向が顕著になってきています。それが欧州各国で表出する右派の躍進と国家主義体制の構築として見られるようになってきています。
その影響を喰らっているのが、イスラエルとハマスの戦いとガザにおける悲劇への対応の遅れと矛盾でしょう。
アメリカ政府は今秋に予定されている大統領選挙および議会選挙への影響を考慮して、国内のユダヤ人層の支持固めのためにイスラエル寄りの姿勢を鮮明にしていますが、その思惑は、アメリカの言うことを聞かずに暴走するイスラエルのネタニエフ首相と政権の存在と、アメリカ国内のユダヤ人若年層による政府批判とパレスチナ支持の表明と拡大により、崩れ去りそうになっています。
まさに国内において政府が用いるダブルスタンダードを非難され、民主党内部でも左派が公然とバイデン政権を非難し始め、さらに国際社会においてアメリカのリーダーシップと信憑性が非難に晒されている現状を受けて、バイデン政権の対イスラエル支援に変化の兆しが見られるようになってきています。
今でも基本的にはPro-イスラエルの姿勢は堅持していますが、今週アラブ諸国とイスラエルを訪問しているブリンケン国務長官もイスラエルに対して苦言を呈し、過剰な防衛はイスラエルを崩壊させるかもしれないと懸念を表明しつつ、「アメリカ政府はこれ以上、イスラエルを支持できない可能性がある」旨、ネタニエフ首相に伝えたらしいという情報も入ってきています。
そして、イスラエルは沈黙していますが、今週起きたヒズボラの幹部暗殺事案は、これまで人質解放の交渉に尽力してきたカタール政府を憤慨させ、「すべての和平と人質の生命を守るための試みを一瞬で吹っ飛ばし、地域におけるデリケートな安定を崩しかねない愚行」(首相兼外相)という非難が出ている事態は、大いに懸念されます。
そこに今年に入って起きたイラン革命防衛隊の幹部の殺害(シリア)や故ソレイマニ司令官の追悼式典におけるISによるテロなどが重なり、次第にアラビア半島およびペルシャ湾岸諸国も、ずるずるとイスラエルとハマスの血で血を洗うような凄惨な戦いに引きずり込まれつつあります。
これは口頭ではパレスチナ・ガザとの連帯を叫びつつ、実質的には何もしない方針を取ってきたサウジアラビア王国やUAE、ただでさえ不安定なイラク、反米反イスラエルを明確にするイエメンのフーシ派、そしてイランへの戦火の飛び火が現実になりかねない事態がそこまで来ています。
顕在化する戦争拡大に対する抑止力の不在
このような危機に対して、口は出し、懸念は表明するものの、実質的には何もコミットしない欧州各国とアメリカの姿勢が浮き彫りになり、戦争拡大に対する抑止力が不在であることが顕在化してきているように感じます。
イスラエルとの関係改善と経済的・技術的な利益を得たいUAEなどのアブラハム合意当事国と合意が近いとされていたサウジアラビア王国は、あまりイスラエルを刺激したいとは思っていませんが、サウジアラビア王国の場合、原則言論の自由を保障していないことで民衆のデモを規制していても、パレスチナとの連帯を表明しないと、いつアラブの春のような民衆蜂起が起きるか分からなくなるため、ハマスやヒズボラ、そして最近は関係改善に努めているイランとの距離感が悩みの種とのことです。
そして中東諸国にとってさらに悩ましいのが、アメリカや欧州各国との距離感です。サウジアラビア王国やUAEなどは長くアメリカとの同盟関係を結んできましたが、アメリカにとっての中東諸国の重要性が低下したことを受け、両国ともロシアや中国との関係を深め、軍事・経済戦略パートナーシップ協定を締結しています。
10月7日のハマスによる同時攻撃までは、アメリカの力添えを軸に、アブラハム合意の拡大を進めてきましたが、イスラエル・パレスチナ問題が再燃し、ガザの悲劇が悪化していく中、地域において反米・英・仏の意見が強まってきています。
特に「イスラエルの建国を許し、アラビア半島を滅茶苦茶に蹂躙したのは英仏の嘘に端を発し、その後、米国によるイスラエルへの過度の肩入れによって、パレスチナ人は土地や権利を奪われただけでなく、人質に取られてしまった」という認識が再燃し、一触即発の状態にまで悪化しているようです。
その一触即発の“事態”となり得るのが、ヒズボラの幹部暗殺事案へのイスラエルの関与と、比較的穏健的なカタールの憤怒、イラン革命防衛隊幹部の暗殺に起因するイランによる対イスラエル報復宣言、さらにはISの犯行とされている故ソレイマニ司令官(イラン革命防衛隊)追悼イベントでのテロ攻撃など、アラブ諸国とイランの中での怒りのレベルが最高潮に達している状況です。
イスラエルが一向に退く素振りを見せず、かつハマスの壊滅を目的に掲げてガザにおける殺戮を繰り返しながら、ヒズボラや他の親イラン勢力の掃討まで行おうとしていることには、非常に危機感を感じていますし、ヒズボラを嫌っているアメリカ政府でさえ、イスラエル・ハマスの戦争が隣国に飛び火する事態を何とか避けたいと願い、イスラエルに自制を強く迫る状況に発展しています。
アメリカ国務省やペンタゴンの関係者によると、アメリカ政府としては紛争の拡大の抑止のために空母攻撃群を東地中海や紅海近辺に展開するが、NATOの核(コア)としてウクライナ対応も行う必要や、高まり続ける台湾海峡に対する中国の威嚇への対応も必要であるため、中東に割ける兵力はあまり期待できないと考えているようです。
その手詰まり感をNATOの欧州各国も感じているようで、今、東地中海での案件が南欧諸国に飛び火したり、トルコとギリシャの領海争議を再燃させたりすることを何とか避けるために、イスラエルとハマス、そしてアラブ諸国に対して即時停戦と人道支援の迅速な実施と拡大を求めてプレッシャーをかけています。残念ながら、奏功していませんが。
中東の「利権の確保」に移り始めた国際社会の関心
そして今年2024年、世界の人口約80億人のうち、42億人強を占める国々でリーダーを決める選挙が行われることも、国際秩序の今後に対する不確実性を高めています。
アメリカでは秋に大統領選挙があり、もしトランプ大統領が再選されるようなことがあれば、ウクライナへの支援は完全に終わり、以前、宣言したようにNATOからも離脱する可能性があります。在日・韓米軍の撤退もあり得るとの分析結果もあります。
アメリカにおいて誰が次の政権を担うのかによっては、欧州はウクライナを背負い、高まる安全保障上のリスクとコストをアメリカ抜きで担う必要性に駆られます。トランプ大統領のアメリカがイスラエルを見捨てることはないでしょうが、トランプ大統領の復権がパレスチナやアラブ社会に及ぼす影響は未知数であるため、恐らく東地中海における様々な紛争の処理を欧州が主導しなくてはなりません。
しかし、ご存じのように、残念ながら英国が抜けたEUにはその能力はありませんし、仮に英国が輪に加わっても、アラビア半島や北東アフリカ、ペルシャ湾に至る安定を守るだけのキャパシティーはありません。
ロシアもプーチン大統領が5期目をかけて選挙が行われますが、ロシアの制度上、プーチン大統領の統治が継続されることは確実視されており、4月に5期目を獲得した暁には、ウクライナに対するEnd gameを仕掛けてくると予想されています。
そして国内外で影響力の再建に着手し、その影響は、欧州全土はもちろん、広くシベリアから中東、アフリカ、そして昨今、進められている中央アジア諸国(スタン系)と南アジア諸国(インド、バングラデシュなど)を繋ぐ回廊を通じて南アジアまで及ぶよう画策してくると思われます。
その成否は、実はアメリカや欧州、アジア諸国の団結によってではなく、中国がどのような姿勢を取り、インドがどこまでロシアと協力するかにかかってくるでしょう。
そして延期されることになっているウクライナ大統領選挙がもし予定通りに開催され、ゼレンスキー大統領が下野してウクライナにロシア寄りの政権ができたり、東南部(ドンバス、マリウポリなど)・中央部(キーウなど)・西部(リビウなど、かつてポーランドと合わせてガリツィアと呼ばれた地域)に分裂したりした場合には、EUの東端地域の安全保障環境が緊張に満ちたものになると予想されます。
ロシアとウクライナの戦争の落としどころが見えず、最悪の場合、ロシアにウクライナが飲み込まれる事態が恐れられる中、すでに当事国以外はポスト・ウクライナの世界、そして“国際秩序”の構築に重点を移し始めています。
欧米諸国はもちろん、日本も、中国も、トルコも、そしてロシアの脅威に苦しめられてきたスタン系とジョージアなどの国々も、その輪に我先にと加わり、戦後復興という大義の下、それぞれのウクライナ(とロシア)における権益の拡大を画策しています。
そして先の見えないイスラエルとハマス、そしてヒズボラの戦いにおいても、同様の動きが活発化してきています。ガザの悲劇に心を痛め、涙し、即時停戦と人道支援の実施を訴えかける裏で、すでに“国際社会の関心”は、いかに中東地域の安定を取り戻し、利権を確保するかに移っており、そこにはアラブ諸国も含まれています。
「パレスチナ人、ガザと共に」と叫びながら心はここにあらずで、関心は影響力と経済力の拡大に注がれています。
そのような中、戦後の統治の世界に自らの居場所がないことを悟っているネタニエフ首相は、自身の保身のためにガザにおける民間人と人質に取られた同胞たちの生命を犠牲にしてでもこの戦争を長期化させ、自分が権力の座に居座るための口実・正当性を高めようとしています。
解決の機会が訪れているにも関わらず放置される「火薬」
同じことはプーチン大統領にも、残念ながらゼレンスキー大統領にも当てはまると、いろいろな情報や分析を総合してみた時、どうしても私はそう感じざるを得ません。
そして新しい国際秩序の構築を模索する際、顧みられない数々の紛争や内戦を解決するための絶好の機会が訪れるにも関わらず、30年以上続き600万人の生命を奪っているコンゴの内戦も、東アフリカのデリケートな安定を根本から覆しかねないスーダン内戦も、いつ再燃するかわからないエチオピアの内戦も、そしてアジアに目を移せばミャンマー情勢は緊迫化し、アフガニスタンは見捨てられ、そして朝鮮半島情勢は緊迫し、タイ深南部(マレーシアとの国境付近、南部のパッターニー県を中心とする地域を指す)のポンドュックとそのライバルたちによる分離独立紛争も、相変わらず放置・無視されたまま、各地域の不安定化の要因として残留し、そして常に紛争の拡大のための火薬として存在する事態が放置されることになります。
各国が安全保障問題や国際秩序を、世界の安定のためのパッケージとして捉えていた協調時代から、各国それぞれの利害・実利の観点から、アラカルト形式で関心を持ち、介入するか否かを判断する傾向を強め、どんどんブロック化し、世界を分断する方向へと導かれることになります。
その結果、“国際秩序”は複数の定義が存在し、それぞれが自らの秩序の正当性を争い合うとても不安定で緊張感に満ちた世界が、今後、生まれることになります。
それを防ぐには、ウクライナなガザの問題のみならず、世界各地で起きている紛争や自身の身近なところで起きうる紛争の種に目を向け、紛争が起こり、拡大し、そして互いに共鳴し合うまえに、その芽を摘んでおく努力をしなくてはなりません。
そのためには関心を持ち続け、世界の不条理から目を背けず、それぞれが出来ることを行っていくことが、安定した国際秩序の構築を可能にし、再び協調の下、平和が訪れる世界を作り出すことが出来ると考えます。
●ウクライナ大統領、ダボス会議でダイモン氏と面会へ−関係者 1/15
ウクライナのゼレンスキー大統領は今週、スイスのダボスで開かれる世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)と面会する予定だと、事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。ゼレンスキー氏はロシアと戦うための財源を補充しようとしている。
ウクライナの数カ月に及ぶ反攻作戦も突破口を見いだせず、同盟国は多額の戦費に疲弊しており、欧米による計1000億ドル(約14兆5000億円)余りのウクライナ支援は滞っている。戦争が3年目に入ろうとしている今、国際舞台でウクライナの支援要請は昨年10月に始まったイスラエルとイスラム組織ハマスの戦争に押され気味だ。
ニューヨークに本拠を置くJPモルガンは、さまざまな再建プロジェクトへの民間資本の誘致でゼレンスキー氏に助言している。昨年9月には、同行のアセット&ウェルスマネジメント部門責任者メアリー・アードーズ氏が、シタデルのケン・グリフィン氏やブラックストーンのジョン・グレイ氏ら米金融界のトップとゼレンスキー氏との会合をアレンジし、ウクライナ復興支援への民間資金の活用が話し合われた。
ゼレンスキー氏はダボス会議で演説を行う予定で、ダイモン氏のほか、スイスのアムヘルト大統領とも面会する。
一方、ゼレンスキー氏のダボス会議での予定はまだ決まっていないと報道官は説明。JPモルガンはコメントを控えた。
●ロシア軍の「使い捨て」ストームZ部隊、肉弾戦で全滅 ウクライナ南部 1/15
ウクライナ軍の海兵らがドニプロ川をモーターボートで渡り、ロシア軍が支配する左岸(東岸)に橋頭堡(きょうとうほ)を築いてから3カ月になる。ロシア軍はいまだに海兵らを駆逐できていない。
むしろ、ウクライナ南部クリンキの橋頭堡周辺におけるロシア軍の運命は悪い方へと向かうかもしれない。ウクライナ軍南部方面司令部のナタリヤ・グメニュク報道官によると、クリンキでウクライナ軍の防衛を突破するのにロシア軍の司令官らが当てにしていた、訓練不足で軽装備の「ストームZ」突撃部隊のほとんどが死傷しているか、捕虜になっているという。
ストームZの隊員のほとんどは前科者か召集兵あるいは元傭兵だ。軍事アナリストのトム・クーパーによると、ストームZ部隊は「ろくに訓練も受けず、まともな戦闘服もないまま武器を与えられ、航空機や大砲による適切な支援がない中を攻撃に送り込まれる」のだという。
ロシア政府にとって、ストームZの隊員は使い捨てだ。そして昨年あたりから、ロシアの戦争の計画に不可欠な存在になっている。歩兵が先頭に立ってウクライナ軍の要塞を正面から攻撃するロシア軍の「肉弾戦」において、ストームZの隊員は「肉」だ。
ロシア軍が最近優勢となったところでそうなったのは、肉弾戦でウクライナ軍を圧倒したからだ。ロシア軍が地歩を広げられなれなかったところでそうした結果になったのは、ウクライナ軍がストームZ部隊を100人単位で殺して肉弾戦に勝ったからだ。
「特に我々の方面では、ストームZタイプの部隊が減少している」とグメニュクは指摘した。「敵の損失はかなり大きい。10〜15人の部隊が我々の陣地を襲撃しようとすると、少なくともその半分はその場で死亡する」
ストームZの隊員が死亡したか、負傷しているため、左岸にいる海軍歩兵や空挺隊員、陸軍機械化部隊などのロシア軍部隊は、ウクライナ軍の橋頭堡に「肉」を送り込むことができない。もちろん、自分たちが「肉」になることを選ばなければの話だ。
「このため、ロシア軍の部隊では道徳的な問題や精神的混乱、さまざまな種類の争いが起きている」とグメニュクはいう。「海軍歩兵や空挺部隊の割合が高くなっている。自分たちはエリートだと考えており、そのような行きたくない攻撃には行かない」
グメニュクの指摘が正しければ、クリンキ周辺ではロシア軍の指揮統制にほころびが生じている。「ドニプロに展開する部隊の指揮には多くの混乱がある」(グメニュク)。
そうした評価を行うのはグメニュクだけではない。あるロシア軍の空挺隊員によると、左岸にいるロシア軍の指揮の危機は昨年12月初めには明らかになっていたという。「上級の司令官は一部の部隊と意思疎通を図ることができない」と空挺隊員は当時手紙に書いている。
砲火を浴びてストームZ部隊が全滅する前、クリンキ周辺のロシア軍の司令官らが部隊を統制できていなかったとすれば、ストームZ部隊より訓練を受けた部隊がウクライナ軍の砲火を浴び始めなければならないいま、苦慮している事態が想像できる。
●世界の海に忍び寄る戦争、波を制するのは誰か? 1/15
米国によるフーシ派攻撃は、海をめぐってエスカレートする争いの一環だ。
数十年にわたって穏やかだった世界の海で、嵐が発達しつつある。
紅海では武装組織フーシ派がドローン(無人機)やミサイルでの船舶攻撃を繰り返し、米軍をばかにする仕草を見せながら、スエズ運河でのコンテナ輸送を90%減少させている。
黒海は機雷と破壊された軍艦でいっぱいだ。
ウクライナは今年のうちに、18世紀の女帝エカチェリーナの時代から基地にされているクリミアからロシア海軍を追い出したいと思っている。
バルト海や北海は、海底を走るパイプラインや通信ケーブルの破壊工作という影の戦争に直面している。
そしてアジアでは、第2次世界大戦以来の大規模な海軍力増強が進められており、中国が台湾に統一を迫ろうとしている一方、米国が中国による侵攻を抑止しようとしている。
13日の台湾総統選挙が終わった後、緊張がさらに高まるかもしれない。
再び争いの場と化した海
これらの出来事が重なっているのは偶然ではなく、この惑星の海洋に大きな変化が生じている兆しだ。
世界経済はまだグローバル化されている。
貿易は数量ベースで全体の約80%、金額ベースで50%がコンテナ船やタンカー、貨物船など10万5000隻の船舶を使って行われている。
昼夜を問わず定期的に海を渡って人々の生活を支えているが、当の人々はそれを当たり前だと思っている。
しかし、超大国同士の対立とグローバルなルールや規範の衰退は、地政学的な緊張が深刻化していることを意味する。
必然的で、まだ過小評価されているその結果は、海洋が第2次世界大戦後で初めて争いの場になっていることだ。
海での機会と秩序の探求には長い歴史がある。
オランダの法学者グロティウスが公海自由の原則を唱えたのは17世紀のことであり、英国が海軍と港湾・砦のネットワークを用いてその原則を施行したのは19世紀のことだった。
開かれた海という概念は1945年以降の秩序に採用され、1990年代からは海の世界がグローバル化と米国の国力の台頭を反映した。
そこでは効率の高さと極度の集中が重視された。
今日ではコンテナの62%がアジアと欧州の海運会社5社によって運ばれ、船舶の93%が中国、日本、韓国で建造され、船舶の86%がバングラデシュかインド、またはパキスタンでスクラップにされている。
米国海軍は、海洋での安全を守るという特殊な役目を独占に近い形で担っており、280隻を超える軍艦と34万人の兵士を投じている。
地政学的な緊張と海洋法の力の減退
この巨大かつ入り組んだシステムが今、2つの困難に直面している。
1つ目は地政学的な緊張だ。中国海軍の増強により、太平洋における米海軍の覇権的な地位が1945年以降で初めて脅かされている。
もっと手荒なことをするアクター(主体)もいる。
イランの支援を受けているフーシ派に加え、内陸国エチオピアの独裁者は隣のソマリランドから紅海に面した海軍基地を借り受けようとしている。
2つ目は、海洋法が以前ほど守られなくなっていることだ。
中国は仲裁裁判所の判断に反発し、これを無視している。また西側諸国の経済制裁は密輸ブームの引き金を引くことになった。
今では世界のタンカーの10%が、主流の法や金融システムの外側で活動する無法の「ダークフリート(闇の船団)」に属している。この割合は1年半前の2倍に当たる。
地政学的な風は、技術のディスラプション(破壊的変化)や気候変動によって強められている。
中国は対艦ミサイルに投資し、米海軍の艦船をさらに沖へと遠ざけた。
兵器の拡散も著しく、つい最近まで国家しか所有していなかった巡航ミサイルをフーシ派のような民兵組織が入手するに至っている。
知識経済――そしてウォール街とシリコンバレーの支配――は、破壊工作に見舞われやすい600本あまりの海底通信ケーブルに依存している。
気候変動は地理とインセンティブを変えつつある。
パナマ運河は水不足に陥り、北極海では氷が溶けて航路が広がっている。グリーンエネルギー・ブームは海底からの鉱物採取競争を促している。
公海の無秩序がもたらすコスト
このため、公海に無秩序が迫りつつある。
それがもたらすコストの一つは、貿易が過渡的な混乱に陥ることだ。
海上貿易の規模は現在、世界全体の国内総生産(GDP)の約16%に相当する。海運システムは変化に適応できるものの、それにもやはり限度がある。
単発のショックは吸収できることが多い。
フーシ派による攻撃は保険料と輸送運賃の一時的な急上昇を招いたが、幅広い上昇を引き起こすにはまだ至っていない。コンテナ輸送業界や石油市場に供給余力があるためだ。
市場の需給が引き締まったり、同時多発的にショックが起きたりすれば、コストはその分高くなる。
新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)開けに生じた2021年の海運需給逼迫と、2022年の黒海における穀物輸送の混乱は世界規模のインフレを引き起こした。
大半の製品の最終価格に占める海上運賃の割合は小さいが、海上輸送に予測不可能性が混じれば、企業はサプライチェーン(供給網)の縮小に動き、コスト増を招く。
大規模紛争が勃発すれば・・・
海上での大規模な紛争は壊滅的なものになり得る。
海での対立にはほかにはない特徴がある。艦隊を迅速に増強することが難しいため、陸上に比べると事態がエスカレートしにくいからだ。
それでも、紛争が勃発しかねない場所を特定するのは容易だ。
例えば、イランやロシアがパイプラインや液化天然ガス(LNG)の航路、通信ケーブルに攻撃を加えてきたら、深刻なダメージが生じる。
南シナ海やインド洋では、戦略的に重要な島をめぐる小競り合いが紛争の引き金を引きかねない。
そしてロシアやイランよりも経済が発展した国への通商禁止措置は、ケタ外れに大きな打撃をもたらすだろう。
ブルームバーグが行ったシミュレーションによれば、台湾が封鎖されて西側諸国が対抗措置を取った場合、世界全体のGDPが5%減るという。
こうしたことはすべて、ならず者のアクターや敵対的な国家を抑止する必要性を浮き彫りにしている。
とはいえ、1990年代の穏やかな海に戻る安易なルートは存在しない。
普遍的な原則の遵守を訴えても、成功はおぼつかない。貿易への依存度が高い中国は失うものが多いが、西側の制裁を覆し、南シナ海における違法な主張を押し通したいと思っている。
海事法の要(かなめ)となる国際条約を米国が批准していないことも足かせになる。
慢性的な過小投資の後だけに、西側の海軍力を早急にてこ入れし、海を再び支配することもできない。
世界全体の船舶建造力に占める割合が5%しかない状況では、艦隊の再建には数十年かかるだろう。
静穏な海なしでは世界経済が沈没
従って、異なる対応が求められる。
まず、西側諸国は例えば潜水艦や自律運航船などにおける技術的優位を維持することにさらに力を入れなければならない。
パイプラインなど脆弱な海のインフラを政府と民間が協力し合って監視することも重要だ。通信ケーブルのバックアップを別のケーブルや衛星回線で確保することも欠かせない。
そして、海洋のパトロールに利用できる資源を増やすために同盟の輪を拡げる必要もある。
米国はアジアで海軍の協力関係を再構築している。紅海で始まったフーシ派への対応は、参加する西側諸国やアジア諸国の海軍が増えている有望なモデルだ。
重要性の高さゆえに、海の秩序を維持することは国際協力の最小公分母となる。これは孤立主義者でさえ賛同するべきものだ。
この秩序が保たれなければ、世界経済は沈没する。
●ヘルソン州の消防署攻撃 ロシア、インフラ標的 1/15
ウクライナ南部ヘルソン州のプロクジン知事は通信アプリで14日、同州の村の消防署にロシア軍の無人機(ドローン)攻撃があり、消防士4人が負傷したと伝えた。地元メディアによるとヘルソン市も13日に砲撃され、少なくとも住民ら6人が負傷した。
ヘルソン市は昨年11月にウクライナ軍が奪還したが、その後もロシア軍の激しい攻撃が続く。13日は住宅やインフラ施設が砲撃された。住民男性ががれきの下敷きになったが、救出された。
一方、ロシア西部クルスク州のスタロボイト知事は通信アプリで14日、ウクライナ軍の無人機が国境に近い同州の村を攻撃し、男性1人が負傷したと伝えた。
●ダボス会議 15日から 世界の政財界のリーダーら2800人余参加へ 1/15
世界の政財界のリーダーが集まる、通称「ダボス会議」が15日からスイスで始まります。ウクライナ侵攻や中東情勢に加え、世界経済の行方やAIの活用のあり方など、重要な課題について議論が交わされます。
「ダボス会議」として知られる世界経済フォーラムの年次総会は、スイス東部のダボスで例年この時期に開かれていて、ことしの開催は15日から19日までとなっています。
120の国と地域から合わせて2800人余りの政財界のリーダーたちが参加する見込みで、ことしは「信頼の再構築」という全体テーマが掲げられています。
ロシアによるウクライナ侵攻や人道危機が深刻化する中東情勢を議題としたセッションが予定され、世界の分断が一段と進む状況に各国がどう対処すべきか議論が行われます。
現地には60人以上の各国の首脳らも訪れる予定で、16日にはウクライナのゼレンスキー大統領が演説し、改めて支援の継続を訴えるものとみられます。
また、根強いインフレや各国の中央銀行が進めてきた利上げによる世界経済への影響、急速に普及が進むAIの活用や規制のあり方についても意見が交わされる見通しです。
このほか、気候変動やエネルギー問題についても議論される見込みで、世界が直面するさまざまな重要課題に有効な解決策が示されるか注目されます。
ことしの注目点は
ことしの世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」は、「信頼の再構築」という全体テーマを掲げています。
これについて、世界経済フォーラムのシュワブ会長は「世界では分断が拡大し、不確実性と悲観主義のまん延につながっている。問題の根本原因に目を向け、より有望な未来をともに築くことで、未来に対する信頼を再構築しなければならない」として、グローバルな課題について対話を進める重要性を強調しています。
5日間の会期中には200以上のセッションが予定され、異なる4つの主要テーマが議論の中心となる見通しで、その内容が注目されます。
1. 分断された世界における安全保障と協力の実現
ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中東情勢を踏まえ、安全保障の危機や政治的な分断に対しどう対処するかについて意見が交わされます。
16日にはウクライナのゼレンスキー大統領が初めて対面で出席して演説を行うほか、アメリカのブリンケン国務長官や安全保障政策担当のサリバン大統領補佐官が現地入りする予定で、ウクライナ情勢などについて突っ込んだ議論が行われるか注目されます。
2. 新しい時代の成長と仕事の創出
世界経済の減速を避け、人々の生活を豊かにするためには、どのような政策や協調が必要かも議論されます。
インフレを抑えるため各国で進められてきた利上げや債務の増加などが課題となる中、関係するセッションには、ヨーロッパ中央銀行のラガルド総裁やWTO=世界貿易機関のオコンジョイウェアラ事務局長など、中銀や国際機関の関係者が参加します。
日本からは新藤経済再生担当大臣が参加して、日本経済の現状などについて説明するほか、河野デジタル大臣も出席します。
また、中国からは李強首相、G7=主要7か国の中では夏にパリオリンピック・パラリンピックを控えるフランスのマクロン大統領が、現地でスピーチを行います。
3. 経済と社会をけん引するAI
普及や開発が急速に進むAIも主要な議題となります。
世界経済フォーラムが10日に発表した報告書では、社会や政治の分断を拡大させるおそれがあるとして今後2年間で予想される最大のリスクに「偽情報」をあげ、AIがリスクを増大させていると警鐘を鳴らしています。
18日には生成AIの「ChatGPT」を開発したアメリカのベンチャー企業、オープンAIのアルトマンCEOが参加するセッションも予定され、AIの活用や規制について活発な議論が見込まれます。
4. 気候、自然、エネルギーに関する長期戦略
気候変動などの地球規模の課題も去年に続き、議論の柱となります。
企業の代表や研究者のほか、気候変動問題を担当するアメリカのケリー特使などの政府要人も含め、さまざまな立場の参加者が、再生可能エネルギーの活用から異常気象による被害まで幅広い議題で意見を交わす見通しです。 
●北朝鮮外相がロシア入り ラブロフ氏が招待 1/15
朝鮮中央通信は15日、北朝鮮の崔善姫(チェソンヒ)外相を団長とする政府代表団がロシアを公式訪問したと報じた。ラブロフ外相の招待を受け、空路で14日にモスクワ入りしたとしている。
崔氏らは17日まで滞在する予定。ラブロフ氏との会談で、労働者の派遣などについて話し合うとみられるほか、プーチン大統領の訪朝についても協議する可能性がある。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が2023年9月に訪ロした際、正恩氏からの訪朝の要請をプーチン氏は受諾している。
聯合ニュースは15日、ロシアのペスコフ大統領報道官が崔氏の訪ロに関連し「北朝鮮とは全ての分野でパートナーシップを発展させる。あらゆるレベルで対話は続く」と語ったと報じた。同ニュースによると、崔氏が外相就任後、単独で海外を訪れるのは初めて。
●プーチン氏に批判的なロシアの詩人が死亡、モスクワで交通事故 遺族公表 1/15
ロシアの詩人で、ウラジーミル・プーチン大統領に批判的なレフ・ルビンシテイン氏(76)が今月、モスクワで交通事故に遭い、死亡していたことが明らかになった。同氏の娘が14日に公表した。
ルビンシテイン氏は旧ソ連の地下文学界の中心的人物で、プーチン大統領に批判的だった。
娘マリア氏によると、ルビンシテイン氏は8日、モスクワ市内で車にはねられて昏睡状態に陥った。6日後の14日に死亡したという。
「私のパパ、レフ・ルビンシテインは今日(14日)亡くなった」と、マリア氏はブログに書いた。
ルビンシテイン氏はソ連時代の、非公式な芸術運動「コンセプチュアリズム」の共同創設者として知られる。
この運動は1970年代から80年代にかけて、様々なかたちで芸術を用いて、ソ連時代の伝統的な規範を覆し、社会主義リアリズムの公式教義を批判した。社会主義リアリズムとは、ソ連時代に台頭し公式化された芸術様式で、芸術を用いて政治アジェンダを推し進めるものだった。
2022年のノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体「メモリアル」は、ルビンシテイン氏を「震えるほど詩的で、洞察力の鋭い、皮肉さを兼ね備えた人物」と評した。
メモリアルはロシアで最も古い人権団体の一つ。ロシア政府がウクライナ侵攻反対派への弾圧を強化したため、2021年12月に解散を余儀なくされた。
メモリアルが「親しい友人」と呼ぶルビンシテイン氏は、ロシア政府によるウクライナ侵攻や、LGBT(性的マイノリティー)の権利に対する政府の姿勢に、強く反対していた。
ルビンシテイン氏はこの2年間、「あらゆることがあったにも関わらず」モスクワに留まることを選んだと、同団体は述べた。
「(そうしたのは)彼自身のためだけでなく、ほかの人たちのためでもあった。自分たち自身を再び見出すための言葉を、そしておそらく、もしかしたら、抵抗するための言葉を見つけようとしている人たちのために」と、メモリアルはソーシャルメディアに投稿した。
●ウクライナ人捕虜200人以上に長期刑 ロシア 1/15
ロシア連邦捜査委員会(Investigative Committee)は15日、ウクライナ人捕虜200人以上に対し、終身刑を含む長期刑を言い渡したと発表した。
同委員会のアレクサンドル・バストリキン(Alexander Bastrykin)委員長は国営ロシア通信(RIA)のインタビューで、「200人以上のウクライナ軍関係者が、民間人殺害や捕虜虐待の罪で長期刑の実刑判決を受けている」と述べた。
ロシアが拘束しているウクライナ人捕虜の総数は不明だが、数千人単位とみられており、多くは2022年にロシア軍がウクライナ南東部の港湾都市マリウポリ(Mariupol)を包囲した際に連行された。
ウクライナ政府や国際人権団体は、ロシアによるウクライナ人捕虜の裁判は違法だと非難している。
ウクライナ人捕虜の一部はロシアに連行されたが、多くはロシア占領下のウクライナ東部で拘束されている。バストリキン氏は、捕虜らがどちらの国内で裁判を受けたのか明らかにしなかった。
だが、ロシア国営テレビRTは捜査委関係者の話として、242人がロシア占領下のウクライナで判決を受けたと伝えた。
●ロシア軍の猛攻でウクライナの反転攻勢が頓挫した理由 1/15
2023年6月に始まったウクライナ軍の反転攻勢は、ロシア軍の3線防御を突破できなかった。
計画では、表面土壌が泥濘化する前に防御ラインを突破し、アゾフ海への進出を、少なくともその地への進出の足掛かりまでは、達成したかったと思われる。
現実には、南部戦線の一部で第2防御ラインにたどり着き、突破の穴を開けようとするところまでだった。
反転攻勢から4か月が過ぎ、10月からロシア軍は東部と北部の戦線で損害を厭わない猛攻をしかけてきた。
ウクライナ軍は、防御線陣地の一部を侵食されているところもあるが、ロシア軍の猛攻を受け止めている。
南部戦線でも、攻勢を止め防勢に転移した。
へルソンの西部戦線では、ドニプロ川の東岸にとりついたウクライナ軍が、ロシア軍の執拗な攻撃を受けてはいるが、対岸に橋頭堡を作る足掛かりを確保している。
ウクライナ軍の防勢への転移は、悪い要素ばかりではない。
敵が大量の兵力で攻撃してくれば、防勢に転移して、待ち受けの利を使い敵戦力を減殺することも必要な作戦戦術なのである。
戦略持久・戦略的防勢転移と言ってもよい。
では、このような戦闘推移におけるウクライナ軍は、何を企図しているのか、その企図を達成しようとする具体的な取り組みを行っているのか、今後の戦況を予想する。
1.ウクライナ軍が防勢に転移した要因
ウクライナ軍の攻勢は、南部戦線でロシアの防御ラインを突破する途中でほぼ止まってしまった。
それは、ウクライナ軍総司令部が「防勢にならざるを得なかった」のか、あるいは「意図的にいったん防勢に転移した」のかは、外部から見ると明らかになってはいない。
まず、ウクライナ軍にとって防勢に転移した要因を考察する。
1つの要因で、ウクライナ軍の攻勢が止められたというよりも、下記の要因が複合して転移した、あるいは転移せざるを得なかったと考えられる。
ウクライナ軍が防勢に転移したことは、長期戦を戦うため、また次の反転攻勢のために、賢明な判断であった。
(1) ロシア軍の防御ライン、特に防御の障害処理の困難さ
ロシア軍の防御ラインは、広大なライン全域に3線に設置されていた。
障害だけが設置されているのであれば、その処理は戦車ドーザーや障害処理爆薬を使えば、多くの損害を出さずに処理できる。
だが、その位置に防御部隊の火力(航空火力・火砲砲弾・対戦車ミサイルなど)が向けられていた。
障害処理のために停止し、処理している時に部隊が攻撃されて、撃破されてしまう。そのため、大変な壁となった。特に航空攻撃の影響は大きかったようだ。
(2) ロシア地上軍大量兵力投入と犠牲を厭わない攻勢
東部や北部の戦線で、ロシア地上軍が多くの兵力を投入して攻勢を開始した。
ウラジーミル・プーチン大統領から強い命令を受けて、特別軍事作戦の当初の目標、「ドネツク人民共和国(ドネツク州)とルガンスク人民共和国(ルハンスク州)の要請に応えて、特別軍事作戦を実施する」を実現することを目指しているようだ。
それも、兵士・兵器の犠牲を厭わない突入を実施させている。
(3) ロシア軍の組織的な戦闘で高まってきた戦う意識
ハルキウやへルソンでの戦いでは、ウクライナが攻撃すれば、抵抗せずに後退してしまっていた。
ところが、現在は防御陣地も3線にわたって構築し、障害、対戦車火力、火砲火力および航空火力を組織化して戦うようになった。ロシア軍は攻撃されたからといって、すぐに後退することも少なくなった。
戦争開始から時間の経過とともに、ロシア軍の中に戦う意思も生まれてきているのも事実のようだ。
(4) ロシア空軍による地上作戦支援の強化
ロシア空軍は2022年の5月から、都市攻撃から地上軍の支援攻撃(近接航空支援)に作戦を変更した。
それは、ウクライナ軍の6月反転攻勢の前からであった。ロシア空軍戦闘機の爆撃は、ウクライナ軍の防空ミサイルの外から実施しているので、その戦闘機を撃墜できない。
ウクライナ軍にとっては、ロシアの戦闘機になすすべがほとんどないのだ。「F-16」戦闘機が供与されて、長射程空対空ミサイルでロシア軍機を撃墜する方法がある。
12月25日に一度、長射程防空ミサイル(おそらくパトリオットミサイル)を前線に近づけたのか、あるいは「Su-30」×2機(1機は分析中)、「Su-34」×2機がウクライナの防空ミサイル圏内に入ったためか、撃墜できた。
だが、その後は再び警戒され、防空ミサイルの射程内には絶対に入らなくなったために、撃墜できなくなった。
(5) ロシアのミサイルによるウクライナ国内の軍事施設等への攻撃
ロシア軍爆撃機から発射される巡航ミサイルや弾道ミサイル、地上発射の弾道ミサイル攻撃によって、都市や軍事施設が攻撃された。
多数弾による飽和攻撃によって、ウクライナ軍の防空ミサイルによる撃墜率が低下している。
ウクライナ軍の軍事施設も詳細は不明だが、破壊されていると考えてよいだろう。
(6) ロシア軍の無人機攻撃の増加
ロシアの無人機は2023年2月に枯渇してしまうのではないかという英国の予想があった。
しかし、ロシアはその後すぐにイランの自爆型無人機を導入した。これらの無人機は、都市と地上部隊の攻撃に使用されている。
それらは99%がイラン製であり、無人機攻撃数は著しく増加している。ウクライナは、この自爆型無人機を撃墜しており、その率は80%に達している。
(7)ウクライナの戦闘能力を低下させている弾薬不足
ウクライナの弾薬消費量が米欧の弾薬製造量に追いついていない。
ウクライナの報道官の発表では、ウクライナに供与するとしていた弾薬量を提供できない、あるいは契約した時期までに間に合わないという。
どれほど不足しているのかという実態は分からないが、攻勢作戦を継続することに、最も大きな影響を与えたとされている。
アウディウカで無謀な突撃を阻止できないのは、弾薬が不足しているためなのだろう。
2.ウクライナ軍の戦いぶり
地上戦で注目されているのは、ウクライナの反転攻勢が膠着していること、また東部・北部戦線でのロシア地上軍の兵士の命をないがしろにした猛攻でウクライナ軍の陣地の一部が占拠されていることである。
また、ウクライナはロシアに攻撃されて現在の接触線を守り切れないのではないか、という見方も出てきている。
ウクライナ軍の戦いぶりについて、改めて注目して分析する。
(1)ドネツク州の東部戦線やハルキウ州やルハンシク州の北部戦線でのロシア地上軍の攻勢では、大量の兵員を投入し、兵士の命を無視して突撃させている。
その攻撃は3か月間続いているが、今でもアウディウカの要塞は陥落していない。
プーチン大統領としては、ドネツク州の全域を占拠したいはずなのだが、その手前のアウディウカの戦いで止まっている。ウクライナ軍はロシア軍の猛攻を凌いでいるのだ。
(2)ウクライナ軍海兵部隊の徒歩兵は、舟艇を使ってドニプロ川を渡河し、敵岸に今なおとりついている。
ロシア軍の攻撃を受けても、その地を放棄することなく残って戦っている。この地があることによって、へルソンへの渡河作戦の足掛かりを保持しているのだ。
そして、へルソンからクリミア半島への攻撃と占拠の可能性を残している。
(3)黒海艦隊司令部はクリミア半島にあるセバストポリ港にあった。
海軍の戦いでは、ウクライナ軍は、無人艇・無人機・巡航ミサイルでクリミア半島の海空軍基地やエネルギーインフラを叩いている。
潜水艦を含む多くの軍艦が破壊された。その結果、ロシア黒海艦隊主力は、クリミア半島のセバストポリ港を離れ、ロシア国内のノボロシクス港まで撤退している。
そして現在も、ウクライナの無人艇が自由に活動することにより、ロシア黒海艦隊の軍艦は、クリミア半島の東域の黒海に進出ができなくなっている。
(4)ウクライナは、ロシアの無謀な攻撃を撃退して、多くの兵員・兵器を殺傷・破壊している。
ロシアは2023年10月から、東部・北部の戦線で無謀な攻撃を実施した。それにより、甚大な損失を出している。
特に、侵攻開始時期から見ると、2023年11月と12月には、最も大きな損失が出ている。
兵士の損失は、直接ロシア軍の兵力不足となり、士気を大きく落とす。
このような戦い方をこれから先、継続することは難しいだろう。ロシア大統領選挙までは、あと1回できるかどうかであろう。
3.ロシアの兵器生産能力の欠如
(1)多くの兵器損失を補うための増産は難しい
ロシアは、いったん廃止または縮小した軍事工場を再び稼働させて、生産を増やそうとしている。
しかし、いったん生産ラインを止め、廃止したものを簡単に元に戻すことはできない。
製造する機械がなくなっていたり、あるいはその機械に必要な部品が不足したりしていれば、まず生産機器から作り直さなければならない。そう簡単ではないので多くの期間が必要になる。
ロシアは、戦争を開始する時に、多くの損失を想定してはいなかった。
短期決戦であり、損失が出ても、現有装備だけで十分だと考えていただろう。そのため、生産力を著しく増加させることはできてはいない。
ロシアが今、戦車・歩兵戦闘車・火砲を補充しているのは、保管してあったもので、保存状態がいいものから改修している可能性が高い。
その際に、部品の共食いを行っていると考えられる。
プーチン大統領がはっぱをかけて増産することを命令しているが、ロシア地上軍の兵器が急速に増加しているわけではなく、欠品の補充数量は少ないようだ。
歩兵突撃を多用しているのは、兵器が少なくなってきているからだと見てよいだろう。
さらに、ロシアが発射する自爆型無人機は、2023年5月以降、99%がイラン製である。ロシア製は1%にも満たない。
現在、ロシアは北朝鮮の砲弾やミサイルを使用している。これも自国生産では十分な兵器を製造できないからと見てよい。
(2)途中で落下するミサイル、誤爆を誘発する爆弾が散見される
ウクライナ空軍発表をみていると、ロシアのミサイルが攻撃の途中でウクライナに達せずにロシア領土に落下しているという。
最近、この情報が散見されるようになった。また、まれにロシア軍機が爆弾を友軍地点に落とすという情報もある。
パイロットの技能の低下ともいわれているが、急ピッチで製造した爆弾や他国から調達した爆弾に欠陥があると考えられる。
4.ウクライナの攻勢を成功させる展望
ウクライナは、攻勢作戦をいったん終息させて防勢行動に移っている。
これから再び攻勢に移るのは、非常に難しいことだ。今後、防勢から攻勢に再び転じて、クリミア半島を占領することは可能なのか。
ロシア軍は大量の兵器を保有していたが、多くの損失を出してしまい、それを十分に補充できる能力はない。
一方、ウクライナは、もともと保有兵器は少なかったが、米欧の兵器供与を受けて戦力をアップしてきた。それでも、それらが損失し、ウクライナ軍の大きな痛手になっている。
ザポリージャ州の南部戦線では、攻勢時に獲得した地域はいまだ奪還されてはいない。
へルソン州の西部戦線では、ドニプロ川を渡った部隊がロシア軍に追い落とされずに残っている。
橋頭堡を作る準備はできていると評価してよい。
5個海兵旅団が、渡河作戦の準備をしていたはずだ。その戦力はすべてではないが、大部分が残っているだろう。渡河作戦は、実行が可能だ。
渡河作戦と航空攻撃
ロシア軍は、渡河したウクライナ軍を完全に追い出したかったはずだ。ロシア軍は、できる限り、追い出すために努力したはずだ。
意志はあったが、実行はできなかった。これが、ロシア軍の今の限界なのである。
防勢転移から攻勢に転移し、ウクライナ軍海兵旅団が渡河するのは、ウクライナにF-16戦闘機が供与されて、実際に作戦ができるようになってからだ。
ウクライナの作戦に、ロシアは航空攻撃を主体に反撃に出る。そのほか自爆型無人機攻撃、ミサイル攻撃、砲撃を行ってくるだろう。
ウクライナのF-16は、まず妨害してくるロシア戦闘機を空対空ミサイルで撃墜する。そして、渡河を妨害してくる地上軍を航空攻撃で撃破する。
ロシアもウクライナも、無人機攻撃とミサイル攻撃を行うだろう。
反転攻勢を始めてから、ロシア戦闘機にかなり痛めつけられた。F-16が戦えば、その妨害のほとんどがなくなるだろう。
ウクライナ軍渡河作戦を妨害するロシア戦力を撃退できるかどうかが、ウクライナの攻勢を成功させるカギとなる。
●国連、戦争で荒廃したウクライナと難民支援に42億ドルを要請 1/15
ジェネーブ:国連とそのパートナーは15日、ウクライナでの戦争で荒廃した地域社会とウクライナ難民を支援するため、2024年は42億ドルの資金援助を拠出するよう訴えた。
「戦争の最前線にあるコミュニティでは、何十万人もの子どもたちが恐怖におびえ、心に傷を負い、基本的なニーズを奪われている」と国連事務次長(人道問題担当兼緊急援助調整官)のマーティン・グリフィス氏は述べた。
「この事実だけでも、ウクライナにより多くの人道支援を提供するために、あらゆる手段を講じなければならないはずだ」
国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、ロシアの全面侵攻により、今年はウクライナ人口の40%にあたる1460万人以上が人道支援を必要とする。
OCHAによると、支援を必要としている人々のうち330万人以上が、ロシアに占領された地域を含む、ウクライナの東部と南部の前線地域に住んでおり、その地域へのアクセスは依然として「著しく妨げられている」という。
このアピールの一環として、OCHAは、2024年に人道支援を切実に必要としている850万人を支援するために31億ドルを要求している。国連難民高等弁務官事務所は、230万人のウクライナ難民とその受け入れコミュニティを支援するために11億ドルを求めている。
2022年2月に開始されたロシアの侵攻により、約630万人が海外への非難を余儀なくされている。OCHAによると、約100万人の子どもを含む400万人が国内で避難生活を強いられている。
「受け入れ国は、難民の保護を継続し、難民を社会に受け入れているが、脆弱な難民の多くは依然として支援を必要としている」と国連難民高等弁務官事務所のフィリッポ・グランディ氏は述べた。
「亡命先で生活が成り立たないからといって、帰国を迫られるようなことがあってはならない」
●スイスとウクライナ、和平案巡るダボス協議に参加訴え 1/15
ウクライナの和平について話し合う「平和の公式」国際会議の第4回会合が、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)に先立つ14日、スイスのダボスで開かれた。80を超える国・国際機関が参加したが、具体的な合意には至らなかった。ロシアや中国は参加を見送ったが、スイスのイグナツィオ・カシス外相は、これらの国々が関与することの重要性を訴えた。
ウクライナ政府の高官らは、協議は「オープンで建設的」だったとし「包括的で公正かつ永続的な和平」を達成するための重要な原則について、参加国が同じ認識を持つことができたと述べた。
会議ではウクライナが「平和の公式」を提示し、80を超える国と国際機関の安全保障担当高官らが和平への道筋について議論した。ウクライナのアンドリー・イェルマーク大統領府長官は会合後の記者会見で、同案が多くの国々に支持される「共同案」になることを期待していると語った。
「平和の公式」は10項目から成る和平案で、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が2022年11月に提唱した。同案について、これまでにコペンハーゲン、サウジアラビアのジッダ、マルタで国際会合が行われた。
第4回会合の共同議長を務めたスイスのカシス外相は、「地球の運命を左右する」事態において話し合いに代わるものはないと訴え、「約2年にわたる戦争を経て、ウクライナの人々は緊急に平和を必要としている。ウクライナがこの戦争を終わらせるために、私たちはできる限りのことをしなければならない」と語った。
会議の開催にあたり厳重な警備体制が敷かれた。ダボス上空は今月12日から飛行禁止となり、ダボスの中心地は警察や軍による警備が強化された。50人を超える報道関係者に対しては開始直前に記者会見の場所を知らせるという徹底ぶりだった。
ウクライナは、15日に始まるダボス会議に合わせ第4回会議を共催するようスイスに呼び掛けていた。WEF創設者のクラウス・シュワブ氏とヒルダ夫人はカシス氏とともに記者会見の最前列に座り、主要な外交関係者が集まる場としてのWEFの重要性を印象付けた。
和平案に対する国際的な圧力
会議では、和平案の6〜10項目に掲げられた「敵対行為の停止」と「ロシア軍の撤退」、「正義の回復」、「環境破壊行為(エコサイド)対策」、「エスカレーションの防止」、「戦争終結の確認」を中心に話し合われた。
ウクライナのユリア・スビリデンコ第1副首相兼経済相は、「ロシアはウクライナ人だけでなく、世界中の人々を標的にしている」と述べた。
食料安全保障や人道的問題についても話し合われた。スビリデンコ氏は「ロシアが土地や貯蔵施設を破壊し、輸送を妨害している」ため小麦の価格が高騰し、現在3億人以上が供給不安を抱えていると訴えた。
今回の会議には、支援の中心となっている米国や欧州諸国に加え、ブラジル、インド、サウジアラビア、アルゼンチン、南アフリカからも参加があった。イェルマーク氏とカシス氏は、前回よりも多くの国・機関の参加が得られたことは、協議の成功を裏付けるものだとした。
カシス氏によれば、ロシアとの接触を促進し「この戦争から抜け出す創造的な方法を見つける」ためには、これらの国々の参加が非常に重要だという。ウクライナは現在、南アメリカとアフリカでの二国間会議の開催を計画している。
ロシアへの働きかけが最も期待される中国は、2回連続で参加を見送った。イェルマーク氏は、中国がキーウでの大使会談やジッダでの会議には出席したことに触れ、「中国は重要で影響力のある国。中国を関与させる方法を探す」と述べた。ダボス会議には中国から李強首相が出席する。ゼレンスキー氏が李氏と会談するかどうかについては明らかになっていない。
ロシアなくして和平なし
カシス氏は14日、戦争終結に向けた交渉は長い道のりになるとの認識を示し、「何らかの形でロシアをこのプロセスに関与させる必要がある。ロシアの関与なしでの平和はありえない」と述べた。
ロイターの報道他のサイトへによると、ロシアは「平和の公式」について、ロシアの関与なしに和平を見出そうとする、不合理なプロセスだと主張している。
そうした反応についてカシス氏は、会談の目的はロシアを満足させることではなく、10項目の和平案について国家間の共通認識を作り「いつ、どのようにロシアを関与させることができるか」を見極めることだと明言した。
無駄にできない時間
ウクライナの一部では依然として激しい戦闘が続いている。カシス氏はそうした中でも和平に向けた準備を進めることの重要性を訴えた。
同氏は「毎日、ウクライナでは何十人もの民間人が亡くなっている。我々に待つ権利はない」と述べ、状況が許す限り「準備を整えなければならない」と強調した。会議は「時が来たときに、ロシアとのプロセスを開始できるようにする」ためだとした。
イェルマーク氏は会議後、首脳級の第1回平和サミットの準備を進められる可能性があると発言したが、開催期間については明言しなかった。
今回の会議は、西側諸国の「支援疲れ」が懸念される中での開催となった。さらなる資金と武器供与なしに、ウクライナはロシアからの攻撃から身を守ることができるのか、見通しは不確かだ。
スイスの役割
今回の会議は、2022年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始して以来、スイスが主催した2回目のウクライナに関する国際会議となった。
スイスは2022年7月、ティチーノ州ルガーノでウクライナの復興支援を議論する国際会議を開催。40超の国と欧州投資銀行や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関が参加し、汚職との戦い、民主的価値観への約束、透明性のある政府、基本的権利の保障など7つの原則が盛り込まれたルガーノ宣言に署名した。
カシス氏は、ダボスで「平和の公式」会議を共催できた要因として、スイスの「平和構築の長い伝統」を強調した。
スイスは、核の安全、食料安全保障、戦争の終結など、いわゆる平和の公式を扱う3つの作業部会にも参加している。このほかウクライナに対し、約4億フランの人道支援を行っている。このうち約1億フランは地雷除去活動に充てられる。
またスイスは、ウクライナに対し2026年までに少なくとも15億フランを支援する方針を明らかにしている。スイスは中立政策により、紛争当事者に武器を提供することはできない。
昨年12月、スイス連邦政府は制裁措置の一環として、77億フランのロシア資産を凍結したと発表した。
●ダボス会議開催 ゼレンスキー大統領が演説へ 1/15
世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)が15日、スイス東部のダボスで開催される。19日まで。各国の首脳60人以上が出席し、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢、人工知能(AI)の規制などについて協議する。
年次総会には、ウクライナのゼレンスキー大統領が参加。16日に演説を行う予定で、同国への支援継続を訴えるとみられる。ブリンケン米国務長官や中国の李強首相、マクロン仏大統領らも出席する予定。
年次総会の開催に先立ち、ゼレンスキー氏が提げる領土回復や戦争犯罪の処罰など10項目の和平案「平和のフォーミュラ(公式)」について話し合う4回目の国際会合がダボスで行われた。80カ国以上の国・機関の代表が出席した。
参加国は回を重ねるごとに増え、出席したウクライナのイエルマーク大統領府長官は「光栄に感じる」と評価。「(参加国は)この欧州の紛争が、全人類にとっての課題であることを理解している」と述べた。ウクライナは、和平案への国際的支持を広げ、ロシアへの外交圧力を強めたい考えとみられる。
欧州メディアによると、和平案を拒否する立場をとっているロシアは会合に招待されなかった。ロシアとの協力を強化する中国はウクライナの招待を受け入れず、代表を送らなかった。
イエルマーク氏は14日、「ロシアとの戦争終結に向けた協議に中国が関与する必要がある」と強調した。
李氏はロイター通信などに対し、年次総会の期間中ゼレンスキー氏と面会するかどうかは「様子を見る」との発言にとどめている。
●米テキサス州、天然ガス供給不足の恐れ 設備凍結で 1/15
米国の天然ガス生産量は14日、気温低下により各地の生産設備が凍結し、11カ月ぶり低水準を記録した。一方で暖房や発電用のガス需要は過去最高を記録する勢いで増加している。
テキサス州の電気信頼性評議会(ERCOT)は、16日の電力需要は昨年夏に記録した過去最高を更新すると予想。15日と16日は電力供給が不足する恐れがあるとの見方を示した。
ERCOTは14日、現地時間15日午前6時から10時の間に節電をするよう呼びかけ、州政府に各施設の電力使用を減らすよう求めた。
LSEGが集計したデータによると、今週に入ってからの米国のガス供給量は過去1年超で最大の落ち込みを記録している。8─14日に供給量は日量約96億立方フィート減少し、14日には11カ月ぶり低水準の986億立方フィートを記録する見通し。
●健康不安説のベトナム最高指導者、国会に出席 1/15
健康不安説が浮上していたベトナムの最高指導者グエン・フー・チョン共産党書記長(79)が15日、国会に出席した。
チョン氏は今月、同国を訪問したインドネシアのジョコ大統領やラオスのソンサイ首相との会談が公式予定に記載されず、健康不安説が流れていた。
国営メディアは15日、ウェブサイトでチョン氏の国会出席を強調。他の指導者とともに微笑む姿や議場に立つ姿を写した写真を掲載した。
ロイターの記者によると、チョン氏は議長の開会演説の直後、側近の助けを借りて議場を後にした。
チョン氏は2011年以降、共産党一党支配のベトナムで最高指導者である書記長を務めている。
●ウクライナ提唱の和平案を話し合う協議 議長声明を見送り 1/15
ウクライナが提唱する和平案について欧米や新興国などが話し合うためスイスのダボスで14日開かれた協議では、議長声明の発表が見送られ、背景には、ロシアとの関係も重視する国々の強い反対があったことがわかりました。多くの関係国の同意を得ながら、和平に向けた道筋を探る難しさが改めて浮き彫りになりました。
スイスのダボスでは14日、ロシア軍の撤退や領土の回復など、ウクライナが提唱する10項目の和平案について話し合う4回目の協議が開かれました。
G7=主要7か国や、グローバル・サウスと呼ばれる新興国の高官などが参加し、ウクライナ側は、80を超える国と国際機関が参加し、大きな成果が得られたとしています。
ただ、議論の成果をまとめた議長声明の発表は見送られ、外交筋によりますと、その背景には、ロシアとの関係も重視するブラジルやインド、サウジアラビアの高官が強く反対したことがあったということです。
結局、メディア向けの声明が発表されましたが、すべての参加国の意見が反映されているわけではないとも記されていて、反対する国々への配慮もうかがえます。
ロシアによる軍事侵攻が始まって2月で2年となる中、欧米や新興国などは、この協議の枠組みで和平のあり方をめぐり議論を始めていますが、多くの関係国の同意を得ながら、その道筋を探る難しさが改めて浮き彫りになりました。
ロシア “ロシア抜きの協議は意味がない” 軍事侵攻の継続強調
スイスのダボスで開かれた、ウクライナが提唱する和平案について話し合う協議について、ロシア大統領府のペスコフ報道官は15日、記者団に対し、「これは本質的に議論のための議論だ。成果の達成を目標としていない。われわれが参加していないからだ」と述べ、ロシア抜きで行われた協議は意味がないとけん制しました。
そのうえで、「ロシアは平和的な解決を望んでいるが、欧米側、ウクライナ側が消極的なので不可能な状況だ。目標を達成するために特別軍事作戦を継続する」と述べ、ウクライナ側が停戦交渉を拒否していると一方的に主張し、軍事侵攻を続ける姿勢を強調しました。

 

●ロシア印首脳が電話会談、ウクライナや両国の選挙巡り協議=大統領府 1/16
ロシアのプーチン大統領は15日、インドのモディ首相と電話会談し、ウクライナ情勢を巡り協議した。さらに今年のインド総選挙およびロシア大統領選での互いの健闘を祈った。クレムリン(大統領府)が発表した。
クレムリンのウェブサイトに掲載された声明によると、両首脳は「互恵的な二国間関係の一段の強化に関心を表明」した。
ロシアのウクライナ侵攻以降、インドは時折ロシアの軍事作戦を批判し、米国を含む西側諸国との関係を継続しつつも、ロシアとの友好関係を維持している。
●ウクライナ、中東に米国内戦?2024年の世界を左右する「3つ戦争」 1/16
1日に能登半島地震、2日にはJAL機炎上事故と、波乱の幕開けとなった2024年。海外に目を移せば、ウクライナや中東で上がる戦火は収まる気配もありません。かような2024年の「リスク」を考察しているのは、ジャーナリストの高野孟さん。今年の世界を大きく左右するであろう「3つの戦争」を解説しています。
米国の国際情勢分析家イアン・ブレマー=ユーラシアグループ代表が毎年初に発表する「今年の10大リスク」は正月の楽しみの1つで、もちろん本誌の見方とは一致するところもあればしないところもあるが、その両方を含め大いに知的な刺激を与えてくれる。
「アメリカ対アメリカ」の域に達しつつある米国内の対立
ブレマーの「2024年10大リスク」のNo.1は「米国の敵は米国」──すなわち米国内の対立が極端なところにまで進み、政治制度が前例のないほどの機能不全に陥る中での大統領選が世界80億人の運命を左右することこそ、今年の最大の問題であるというにある。これは、本誌が前号でこの大統領選を「史上最悪の『悪魔の選択』」と呼び、その根本原因を「ポスト覇権という世界的なトレンドに適応することが出来ず、従ってそのトレンドの中で自分がどのような地位と役割を占めればいいのか分からなくなってしまった『アイデンティティ喪失状態』に陥っていること」と説明したのと、結論において一致する。
そこへ話を持っていくブレマーのレトリックが面白くて、「3つの戦争が世界情勢を左右する。ロシア対ウクライナは3年目、イスラエル対ハマスは3カ月目に入った。そして米国対米国の争いは、今にも勃発しそうだ」(「はじめに」)と言う。つまり、米国内の対立はすでに米国が米国を敵とする「戦争」の域に達しつつあるという訳である。
 米国の政治システムの機能不全は先進工業民主主義国の中で最もひどく……そして今年はそれがさらに悪化するだろう。大統領選は、米国の政治的分裂を悪化させ、過去150年間経験したことのないほど米国の民主主義が脅かされ、国際社会における信頼性を損なうだろう。
 2大政党の大統領候補は、いずれも大統領に不適格だ。トランプ元大統領は、自由で公正な選挙の結果を覆そうとしたことなど何十件もの重罪で訴追を受けている。バイデン大統領は2期目終了時に86歳になる。米国人の大多数は、どちらも国のリーダーにはしたくないと考えている。
 トランプが勝てば、広範な暴力が現実のリスクとなり、米国の民主主義の終焉を招くことになろう。また、投資先としての米国の長期的な安定性、金融面での約束の信頼性、海外パートナーとの約束の信頼性、グローバルな安全保障秩序の要としての役割の持続性についても、根源的な疑問が生じ始めるだろう……。
ここで「150年間経験したことのない」と言うのは、リンカーン暗殺で終わった南北戦争以来、という意味なのだろうか。だとすると、民主主義の本家を自慢してきた米国は、もう一度内戦を戦わなければならないほどの民主主義の壊れ方に直面しているということになる。それにしても不思議なのは、誰が見てもそんな馬鹿馬鹿しい結果にしかならないことが分かりきっている大統領選の構図を取り除いて、別のものに置き換える力がこの国のどこにも残っていないというのはどうしてかという問いに、ブレマーも答えていないことである。
「分割」から逃れられないウクライナ
さて、他の2つの戦争はどうなるだろうか。ブレマーの今年のリスクNo.3は「ウクライナ分割」である。
 ウクライナは今年、事実上分割される。ウクライナと西側諸国にとっては受け入れがたい結果だが、現実となるだろう。少なくとも、ロシアは現在占領しているクリミア半島、ドネツク、ルガンスク、ザポロジエ、ヘルソンの各州(ウクライナ領土の約18%)の支配権を維持し、支配領域が変わらないまま防衛戦になっていくだろう。
 ロシアは現在、戦場での主導権を握っており、物的にも優位に立っている。ウクライナが人員の問題を解決し、兵器生産を増やし、現実的な軍事戦略を早急に立てなければ、早ければ来年にも戦争に「敗北」する可能性がある。
 ウクライナが分割されれば、国際舞台における米国の信頼も損なわれる。バイデンは選挙の年にウクライナ問題での政治的敗者となり、その分だけトランプが有利になる……。
ゼレンスキーが昨年6月に開始した「反転攻勢」は失敗に終わり、クリミアはもちろん東部のロシア系住民が多数を占める地方の領土的奪回はすでに困難になった。そうなってしまうのは、(ブレマーはそれについて何も言っていないが、私に言わせれば)単に戦場での現在の力関係の問題ではなく、ウクライナ戦争の政治的本質ゆえである。
本誌が繰り返し指摘してきたように、2014年以来のキーフ政府と東部諸州の内戦は、フランスとドイツも後見人として加わった国際的な協約としての「ミンスク合意」に従って、ウクライナが東部のロシア系住民に一定の自治権を付与する制度改革を実行することを怠ったことから始まったもので、だからと言ってロシアがそれに武力介入したのは戦術的に誤りだとは思うけれども、結局のところ問題は、どうしたら東部のロシア系住民の自治権=生存権を保証できるかに帰着せざるを得ない。
これは、仮にゼレンスキーの反転構成が成功して彼が東部の領土を奪還したとしても同じことで、彼はやはり憲法を改正し法律を整備して東部に一定の自治権を付与して融和を図る以外にない。だったら最初からそうしていれば、内戦が激化し、ついに我慢し切れなくなったプーチンの介入を招くこともなかったのである。政治的に妥当性のない軍事作戦ほど成功の見込みが少ないものはない。
ガザの戦火は中東全体に拡大するのか
ブレマーの今年のリスクNo.2は「瀬戸際に立つ中東」である。
 今のところ戦争はガザに封じ込められているが、火薬は乾いており、現在のガザでの戦闘は、2024年に拡大する紛争の第1段階に過ぎない可能性が高い。
 イスラエルのネタニヤフ首相には、ガザ作戦を継続したり、北部でヒズボラ攻撃の作戦を開始したりする理由がある。失脚や刑務所行きを避けるためだ。
 米軍はほぼ間違いなくイスラエルの活動を支援し、イランはヒズボラを支援するだろう。エスカレートのスパイラルは、イスラエル・米国とイランの間の影の戦争を実際の戦争に変える可能性がある。
 武装組織フーシもまた、エスカレート路線を追求している。フーシがこの路線を続ければ、イエメン国内の基地が攻撃される可能性が高まり、米国とその同盟国がより直接的に戦争に巻き込まれることになる……。
このような負の連鎖を食い止めるには、そもそものイスラエルとパレスチナの2国家共存の道筋に立ち返るしか方法がないが、ネタニヤフには全くその気がなく、そのためユダヤ人に対する暴力が世界中で蔓延するだろう。
こうして「3つの戦争」は相互に絡みながら、2024年の見通しをますます暗いものへと追いやっていくだろう。
   ちなみに、他のリスクは次の通り。
   No.4 AIのガバナンス欠如
   No.5 ならず者国家の枢軸
   No.6 回復しない中国
   No.7 重要鉱物の争奪戦
   No.8 インフレによる経済的逆風
   No.9 エルニーニョ再来
   No.10 分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク
●ハイブリッド戦に包含 ウクライナによるモスクワ系正教会非合法化法案 1/16
ウクライナ最高議会でモスクワ総主教系ウクライナ正教会(UOC―MP)の活動を非合法化する法案が昨年10月、第1読会を通過した。これに対し、信教の自由を巡り国外から批判が出始めており、ロシア側もUOC「迫害」を盛んに訴える。ロシア・ウクライナのハイブリッド戦争に正教会が深く組み込まれている。
モスクワ総主教庁は信教の自由に関わる国連人権高等弁務官事務所の見解をウクライナ政府批判のためにしばしば援用してきた。一方、UOC―MP系のウェブサイトUOJ(正教会ジャーナリスト同盟)によれば、ウクライナ議会内では11月下旬、議員51人がUOC―MP非合法化法案の法的適合性に関し、欧州評議会ベネチア委員会(国際法、憲法専門家、裁判官などで構成)に意見を求めるようステファンチュク議長に要求した。
●ウクライナ軍のM2歩兵戦闘車ペア、ロシア最高の戦車T-90を撃破 1/16
米国製のM2ブラッドレー歩兵戦闘車は、いうまでもなく戦車ではない。主に戦場での歩兵の輸送を用途とした車両である。
だが、乗員に相当な技量があり、少しばかりの運も手伝えば、30t、11人乗りで砲塔に25mm機関砲とTOW対戦車ミサイル、側面に爆発反応装甲を備えたM2は、ロシア軍最高の戦車に対して互角以上の戦いができる。
この短時間の激しい戦闘は、ウクライナ軍のドローン(無人機)によって撮影されていた。アウジーイウカ周辺ではこの3カ月、4万人の大兵力を投入して攻略をめざすロシア軍と、1万人規模のウクライナ軍守備隊の間で、こうした激戦が何百回と交わされている。
12日にオンラインで共有された映像では、2両のM2が1両のT-90と交戦する。理論上は、M2はたとえ2両がかりでも、51t、3人乗りで125mm滑空砲や数百mmの厚さの複合装甲を備えたT-90と互角に戦えるとは考えられない。
だが、第47旅団のM2の乗員たちは7カ月にわたって戦闘を続ける(その過程でM2を少なくとも31両失った)なかで、いまやM2の世界一の使い手になったのかもしれない。その腕前はもはや本家・米陸軍の乗員すらしのぐかもしれない。
この戦闘では、まずT-90が射撃するが外している。その後はM2コンビが機動でも射撃でも圧倒する。1両目がT-90に機関砲で25mm弾を浴びせ、駆け抜けていく。次に2両目が反対側から疾走してきて、1両目が去った場所あたりまで行き、至近距離からT-90に25mm弾を注ぐ。
M2の機関砲は毎分200発のペース、毎秒1100mの初速で0.45kg弾を発射する。高精度の光学照準器と正確な射撃統制装置と組み合わされたこの機関砲は、残酷なまでに効果的だ。
アウジーイウカ周辺では以前、ウクライナ軍の1両のM2が、わずか30秒の間にロシア軍のMT-LB装甲牽引車3両を立て続けに攻撃し、おそらくすべて撃破している。
T-90はMT-LBよりもはるかに防護力が高いものの、関係なかった。M2の容赦ない射撃によってT-90の操縦士と車長は死亡したとみられる。戦車のほうもひどく損傷し、制御不能に陥る。
砲塔を回転させながら、T-90は木にぶつかって止まる。「ロシア兵の技術と訓練はあまりにお粗末」だとパーペチュアは嘲っている。
米議会でロシア寄りの共和党員らが滞らせているバイデン政権の610億ドル(約8兆8000億円)の対ウクライナ追加支援予算が承認されれば、一部はM2の追加供与に充てられるはずだ。
M2はロシアとウクライナの戦争で最も有効な兵器の1つになっている。追加予算が執行されれば、ウクライナ軍はそれを大量に手にすることができるだろう。
●地域紛争が主要議題に=ダボス会議開幕 1/16
世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)が15日、スイス東部ダボスで開幕した。米国のブリンケン国務長官やウクライナのゼレンスキー大統領ら政財界のリーダーが出席。ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の悪化など地政学的な緊張が高まる中、地域紛争が主要議題の一つとなる見通し。
今会合のテーマは「信頼の再構築」。大国間の対立が激化し、武力紛争で世界の秩序がさらに不安定化する恐れがある中で、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の役割が注目される。気候変動対策や食料危機なども話し合われる見込みで、連携に向けた信頼構築が喫緊の課題だ。
● ダボス会議 始まる ウクライナ侵攻・中東情勢の危機収束へ議論 1/16
世界の政財界のリーダーが集まる通称「ダボス会議」がスイスで始まりました。ウクライナ侵攻に加え、ことしは中東情勢に関するセッションが設けられ、危機の収束に何が必要なのか議論が行われる見通しです。
通称「ダボス会議」として知られる世界経済フォーラムの年次総会は15日、スイス東部の山あいの町ダボスで始まりました。
ことしは120の国と地域からあわせて2800人余りの政財界のリーダーたちが参加し、不透明な世界情勢を踏まえ「信頼の再構築」を全体テーマに議論を交わします。
16日はウクライナのゼレンスキー大統領が演説し、支援の継続を訴えるとみられるほか、アメリカのサリバン大統領補佐官や中国の李強首相などのスピーチも予定され、その発言の内容が注目されます。
会期中はウクライナ侵攻に加え、中東情勢に関するセッションも設けられます。
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くなか、17日には仲介役のカタールを含む中東各地の閣僚らが参加して「紛争の出口」を議題に危機の収束に何が必要か議論を行う見通しです。
また、最終日の19日にはヨーロッパ中央銀行のラガルド総裁など中銀トップらが参加し、根強いインフレや各国で進められてきた利上げが世界経済に及ぼす影響についても意見が交わされます。
●モルドバ、ロシアからの市民権申請急増で対応困難に 1/16
旧ソ連モルドバの当局は15日、ロシアからの市民権取得申請が急増しており、対応が困難になっていると明らかにした。
モルドバの市民権に関する事務手続きを担当する機関は政府に対し、市民権申請を審査する期間を現行の20日から6カ月に延長するよう要請した。
当局は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う地政学情勢により、モルドバの市民権を取得しようとする人が増えたと説明した。
当局によると、市民権申請者の70%はロシア人、20%はウクライナ人となっている。ただ申請者の人数は明らかにしなかった。
欧州寄りのモルドバ政府は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を非難している。
●ウクライナ軍、ロシアの偵察機と司令機を破壊 1/16
ウクライナ軍は15日、アゾフ海域でロシアのベリエフA−50偵察機とイリューシンIl−22空中指揮機を破壊したと発表した。どのような攻撃によるものかは明らかにしなかった。
アゾフ海はウクライナの支配地域からおよそ100キロ離れている。ロシア国防省はコメントを発表していない。
その後、ロシアの軍事ブログは、傷ついたIl−22の尾翼部分の画像を掲載し、乗組員を「真の英雄」と称賛した。
ウクライナ空軍の報道官はこの画像を再投稿し、同機はロシア南部のアナパに不時着したようだが、炎上したため修理不可能だと述べた。また、A−50はウクライナにとって優先ターゲットだったとした。
●露朝の連携 武器協力は世界の危機深める 1/16
北朝鮮によるロシアへの武器供与で、ウクライナ情勢がロシアに有利に傾くことになれば、欧米の「支援疲れ」を一層拡大させ、世界の危機をさらに深めることになる。
露朝の軍事協力に、国際社会は 毅然 と対処する必要がある。
米政府は、北朝鮮がロシアに数十発の弾道ミサイルと発射装置を供与したと発表した。ロシアは昨年末から年明けにかけて、そのミサイルをウクライナへの攻撃に使用し、ハルキウ州やザポリージャ州に着弾させたという。
今回の弾道ミサイルのほかにも、ロシアは昨年以降、北朝鮮から砲弾などの供与を受けている。ウクライナ侵略の長期化で、武器が枯渇しているのだろう。
核、ミサイル開発を続ける北朝鮮との武器取引は、国連安全保障理事会の決議で禁じられており、安保理常任理事国のロシアは、これに賛成した経緯がある。
そのロシアが決議を破り、北朝鮮から武器を調達してウクライナ侵略に使用するとは言語道断だ。ロシアには、国際の平和と安全に責任を負う常任理事国としての資格がないと言わざるを得ない。
米欧日など約50の国と機関が共同声明を出し、露朝の軍事協力を非難したのは当然だ。
先週、この問題を討議した安保理で、米欧日は「北朝鮮のミサイルがウクライナの重要なインフラを破壊している」と非難した。これに対し、ロシアは北朝鮮からの武器供与を「米国による間違った情報だ」と反発した。
安保理が機能不全に陥っている以上、米欧日は、露朝の軍事協力の停止を求める決議案の国連総会への提出を検討すべきだ。総会決議に拘束力はないが、多数の国連加盟国がそろう場で国際世論を喚起していく意味は小さくない。
米国では与野党の対立で、ウクライナへの追加支援が滞っている。欧州でも、ウクライナ支援よりも物価高騰への対応を優先するよう求める声が強まっている。
米欧の指導者には、国際秩序を守る意義を粘り強く説き、軍事支援を続けてもらいたい。日本も、防衛に限った装備などを可能な範囲で支援していきたい。
露朝の軍事協力は、欧州だけの問題ではない。北朝鮮は武器供与の見返りとして、ロシアに戦闘機の供与を求めている模様だ。
北朝鮮が、現在保有している戦闘機を新型に更新すれば、アジアの脅威となる。政府は北朝鮮の能力を見極めるとともに、米韓との安保協力を深めねばならない。
●オースティン米国防長官が退院、自宅療養に 大統領に未報告で批判 1/16
米国防総省は15日、オースティン国防長官が同日にワシントン近郊のウォルター・リード軍医療センターから退院したと発表した。体調は順調に回復しているといい、オースティン氏は「自宅療養を続けながら職務を遂行し、一刻も早く完全に回復して国防総省に戻りたい」とする声明を出した。
オースティン氏は今月1日、前月22日に受けた前立腺がんの手術で合併症を発症して秘密裏に入院した。しかし、バイデン大統領には4日まで入院が知らされておらず、がんの手術や合併症の状況も9日に初めて報告された。
中東やウクライナ情勢が緊迫する中、国防トップの健康状態を米軍の最高司令官である大統領が把握していなかったため、議会から批判の声が上がっていた。バイデン氏はオースティン氏が報告しなかったことは「判断の誤り」との認識を示している。
●トランプ氏が指名争い初戦勝利 米大統領選 共和党アイオワ州党員集会 1/16
11月の米大統領選に向けた野党共和党の候補指名争いの初戦となるアイオワ州の党員集会が15日夜(日本時間16日午前)、州内約1600カ所以上の会場で開かれた。米主要メディアによると、返り咲きを狙うトランプ前大統領(77)が勝利を確実にした。
ロシアによるウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザ情勢を巡る対応、移民対策、経済政策などを争点に、本選に向けた戦いが始まった。
米紙ニューヨーク・タイムズの日本時間16日正午現在の集計によると、得票率はトランプ氏が52.8%、デサンティス・フロリダ州知事(45)が20.0%、ヘイリー元国連大使(51)が約18.7%。トランプ氏は岩盤支持層に加え、白人の比率が高く保守的なアイオワ州の有権者に幅広く浸透。2位以下の候補を引き離した。
アイオワ州の党員集会は序盤の選挙戦に大きな影響を与えるため、各候補は精力的に同州入りして支持を訴えてきた。AP通信によると、トランプ氏は1月だけでテレビ広告や郵便物の送付などに約1千万ドル(約14億4千万円)の資金を投入。猛追が伝えられるヘイリー氏も同1500万ドル以上(約21億6千万円)を費やしたとされる。
共和党の指名争いは一時、10人以上の候補が乱立したが、トランプ氏が議会襲撃事件などでの起訴を逆手に劇場型の選挙戦を展開して党内支持率で独走。ペンス前副大統領ら複数の候補がアイオワ州の党員集会の前に撤退した。主要候補はトランプ氏、ヘイリー氏、デサンティス氏の3人に絞り込まれた。
共和党候補を選ぶ党員集会・予備選は1〜2月に東部ニューハンプシャー州、南部サウスカロライナ州などでも行われ、3月5日に10州以上で集中的に行われるスーパーチューズデーでヤマ場を迎える。
民主党は、再選を目指すバイデン大統領(81)以外の有力候補がおらず、バイデン氏の党候補指名が確実視されている。
全米注目の初戦地アイオワ 過去に波乱も
米大統領選のスタートを飾るアイオワ州の党員集会は、多くの国内外メディアが報じる全米注目の一戦だ。過去にはアイオワを制した候補が勢いに乗って大統領選に勝利した歴史もあり、米国の真ん中に位置する農業州が4年に1度、脚光を浴びる舞台でもある。
1972年以降、大統領選最初の党員集会はアイオワで開催されてきた。民主党の第39代大統領カーター氏や第44代のオバマ氏はアイオワでの勝利で弾みをつけた。
初戦に向け、各陣営は多大な資金と運動員を投じる。ただ、アイオワ州での結果が必ずしも候補指名に結び付かないことも多い。2020年の前回は、民主党のバイデン大統領がアイオワをはじめ序盤州で連敗したが、第4戦の南部サウスカロライナ州予備選で初勝利して最終的に指名にこぎ着けた。民主党は今回、党候補選びの初戦を2月3日のサウスカロライナ州に変更する。
人口推計約320万人で白人の比率が高く保守的とされるアイオワ州は、米国有数のトウモロコシ生産地。養豚も「人より豚の数が多い」と言われるほど盛ん。1959年の伊勢湾台風などで山梨県の養豚が被害を受けた際、アイオワが豚を贈って支援した。映画「フィールド・オブ・ドリームス」や「マディソン郡の橋」の舞台にもなった。 
●中国の国有銀が対ロ制限措置を強化、米の二次制裁承認で−関係者 1/16
中国の国有銀行はロシア顧客の資金調達に対する制限を強化する。ウクライナ軍事侵攻を続けるプーチン政権の取り組みに手を貸す海外の金融機関を対象とした二次制裁を米国が承認したことを受けた措置。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
関係者によれば、少なくとも2行がここ数週間に国境を越えた取引に照準を定め、ロシアビジネスの見直しを指示した。非公表の情報だとして匿名を条件に述べた。銀行は制裁リストに載っている顧客との関係を断ち、通貨や取引場所にかかわらず、ロシアの軍事産業への金融サービスの提供を停止するという。
関係者によれば、金融機関は顧客に対するデューデリジェンスを強化し、事業登録、承認された受益者、最終的な管理者がロシア出身かどうかのチェックを行う。この審査は、ロシアでビジネスを行っている、あるいは第三国を通じて重要な品目をロシアに輸出しているロシア人以外の顧客にも拡大される予定だという。
ロシアのウクライナ侵攻が米国を含む国々からの制裁を引き起こした後、中国の国有銀行は少なくとも2022年序盤から制限を設けていた。米財務省は先月、ロシアが戦争に必要な装備を調達するための取引を促進する銀行に対して二次制裁を行うと発表し、プーチン大統領に対する金融面での戦いを拡大した。
中国の国家金融監督管理総局にコメントを求めたが、現時点で返答はない。
●ロシア南部都市が非常事態宣言、ウクライナ無人機攻撃で子ども2人負傷 1/16
ロシア南部の都市ボロネジ市のクステニン市長は16日、ウクライナによるドローン(無人機)攻撃で建物数棟が損壊し、子ども2人が負傷したことを受け非常事態を宣言した。
ボロネジ市はウクライナ国境から約250キロの場所にあり、人口100万人。
ロシア国防省は、ウクライナと国境を接するボロネジ州上空で夜間にドローン5機を破壊し、他に3機を撃墜したと発表。隣接するベルゴロド州でもドローン4機を迎撃したと述べた。
負傷したのは6歳の少年と10歳前後の少女。少年の母によると、現地時間午前2時30分ごろからドローン攻撃を受け、アパートの窓が吹き飛んだという。
ウクライナ側から今のところコメントは出ていない。
ロシアメディアによると、同市近郊にはロシアの空軍基地があり、スホイ34戦闘爆撃機が配備されている。ロシアはウクライナ空爆に同機を投入している。
●トランプ氏 初戦アイオワで圧勝 米大統領選 共和党指名争い 1/16
アメリカ大統領選挙に向けた、共和党の候補者レースの初戦となるアイオワ州の党員投票が15日に行われ、トランプ前大統領が圧勝した。
トランプ前大統領「国民はアメリカを再び偉大な国にすることを望んでいる」
トランプ氏は、アイオワ州で行われた党員集会の結果で、2位以下の候補を大きく引き離して圧勝した。
勝利宣言では、バイデン大統領について、「インフレを招き、不法移民の流入で治安を悪化させている」と指摘して、「わが国の歴史上、最悪の大統領だ」と痛烈に批判し、大統領への返り咲きに強い意欲を示した。
一方で、注目されていた2位争いは、劣勢が伝えられていたフロリダ州のデサンティス知事が、ヘイリー元国連大使を抑えて踏みとどまった。
共和党の候補者レースの第2戦は、23日に東部・ニューハンプシャー州で予備選が行われる。

 

●ロシアではいま決して語られない、プーチン大統領の人生と足跡 1/17
プロローグ/プーチン新大統領誕生の背景
ソ連邦は今から102年前の12月30日に誕生しました。
1917年の「2月革命」(旧暦)で帝政ロシアが崩壊し、ケレンスキー内閣樹立。その年の「十月革命」(新暦11月8日)によりケレンスキー内閣が倒れ、レーニンを首班とするソビエト政権が誕生しました。
その後ロシアは赤軍と白軍に分かれた内戦状態となり、ソビエト連邦は1922年12月30日に成立。そのソ連邦は1991年12月25日に解体され、ロシア共和国は新生ロシア連邦として誕生しました。
ゆえに、今年はソ連邦誕生102周年、ソ連邦崩壊・新生ロシア連邦誕生33周年になります。
「強いロシア」を標榜する、KGB(ソ連国家保安委員会)出身のV.プーチン大統領(現71歳)は、2005年4月25日に発表した大統領就任第2期2回目の大統領年次教書の中で、「ソ連邦崩壊は20世紀の地政学的惨事である」と述べています。
プーチン大統領にとりソ連邦崩壊は20世紀最大の惨事でした。
「強いロシア」を目指す本人の頭の中には偉大なるソ連邦復活の野望が蘇っていたことでしょう。
プーチン大統領がなぜウクライナ全面侵攻に踏み切ったのかよく議論されていますが、筆者の理解は以下の通りです。
ウクライナ侵攻は本人の世界観(妄想)を実現する一つの過程であり、2014年3月のクリミア併合同様、ウクライナの首都キエフ(現キーウ)は簡単に制圧可能と考えていたと筆者は推測します。
侵攻開始数日後には首都キエフ陥落。ウクライナのゼレンスキー大統領は海外逃亡、ロシア軍はウクライナ市民に歓呼の声で迎えられ、親露派ヤヌコービッチ元大統領を首班とする傀儡政権が樹立されるはずでした。
その証拠にロシア国営ノーヴォスチ通信は侵攻開始2日後、キエフ制圧の予定稿を間違って世界に発信してしまいました。
NATO(北大西洋条約機構)東進を阻止すべくウクライナに侵攻したのに、逆にフィンランドとスウェーデンのNATO加盟の動きを誘発し、結果としてNATO東進を促進。
これはプーチン大統領の戦略的失敗と言えましょう。
戦争泥沼化によりプーチン大統領は国内マスコミ統制強化と実質「戦時経済」への移行を余儀なくされ、露マスコミ報道は大本営発表であふれることになりました。
筆者は、プーチン大統領の軍事的勝利はロシアの戦略的敗北を意味するものであり、その先に待っているものはプーチン王朝の弱体化にほかならないと考えます。
では、ロシアになぜプーチン大統領は誕生したのでしょうか?
「強いロシア」を渇望するロシアの民衆がプーチンKGB予備役大佐に夢を託したのでしょうか?
筆者の結論を先に書きます。いいえ、違います。
「弱いロシア」を実現したB.エリツィン・ロシア連邦初代大統領は2期目に入るとますます国民の支持を失い、2000年6月に予定されていた次期大統領選挙では露共産党勝利が視野に入ってきました。
共産党政権になって困るのは、ソ連邦の国家資産を搾取して大金持ちになった新興財閥(オリガルヒ)。
その彼らが白羽の矢を立てた人物こそ、当時無名のプーチンKGB予備役大佐でした。
プーチン大統領はいかにして大統領となり、なぜ大統領職に固執し、独裁者の途を歩んでいるのでしょうか。
本稿では、最初の奥様リュドミーラ・プーチナが語る夫像を通じ、プーチン大統領誕生の軌跡と、知られざるプーチン人物像に言及したいと思います。
第1部:2油種週次油価動静(2021年1月〜24年1月)
最初に、2021年1月から24年1月初旬までの代表的2油種の週次油価推移を概観します。
ロシア(露)の代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)と南部ヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレンド原油で、中質・サワー原油です。
一方、日本が2022年5月まで輸入していた露産原油3種類(S−1ソーコル原油/S−2サハリン・ブレンド/シベリア産ESPO原油)はすべて軽質・スウィート原油にて、日本はウラル原油を輸入していません。
油価は2021年初頭より22年2月まで上昇基調でしたが、ウラル原油はロシア軍のウクライナ侵攻後下落開始。
ウラル原油以外の油種は侵攻後乱高下を経て、6月まで上昇。その後乱高下を経て、ウラル原油は直近2か月間でバレル$20(露黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)下落。
2024年1月2〜5日の週次油価は$59.5/bbl(前週比▲$1.0)となり、欧米が設定した上限油価FOB $60を割り込みました。(bbl=バレル、1バレルは約159リットル、FOB=本船渡し)
北海ブレントとウラル原油の値差はロシア軍のウクライナ侵攻後、一時期最大バレル$40の大幅値差となりましたが、最近は値差$17で推移。
しかし、原油性状の品質差による正常値差はバレル$2〜3程度ですから、依然としてロシア産原油のバナナの叩き売りが続いており、これが対露経済制裁の効果と言えます。
この超安値ウラル原油を輸入し、自国で精製して石油製品(主に軽油)を欧州に国際価格で輸出して、“濡れ手に粟”の状態がインドです。
最近ではパキスタンや中東諸国などもこのバナナの叩き売り原油を輸入開始。ウラル原油の新規市場出現によりウラル原油の需要が拡大結果、油価が上昇した次第です。
一方、中国が輸入している原油はウラル原油ではなく、長期契約に基づくシベリア産ESPO原油(軽質・スウィート)ですが、やはりバナナの叩き売り状態になっています(一部、海上輸送によるスポット玉あり)。
2023年のウラル原油平均油価は$63.0になり、昨年の露国家予算案想定油価$70.1を割り込みました。
直近の油価下落に鑑み、2024年通期のウラル原油はさらに下落必至と筆者は予測します。
第2部:2油種(北海ブレント・露ウラル原油)月次油価動静(2021年1月〜23年12月)
次に、2油種の月次油価推移を確認します(出所:北海ブレントは米EIA/ウラル原油は露財務省統計資料)。
油価を確認すればすぐ分かることですが、ウクライナ侵攻後、露ウラル原油は下落しています。
日系マスコミでは「ウクライナ侵攻後油価上昇したので、ロシアの石油収入は拡大した」との報道も流れていました。
ロシアの石油輸出金額が増えたのは事実ですが、ウラル原油の油価は下落しているのです。
ではなぜロシアの石油輸出収入が増えたのかと申せば、前年比油価水準自体が底上げしたからです。
ロシア軍がウクライナに侵攻開始した2022年2月度の露ウラル原油(FOB)はバレル$92.2でした。以後23年3月までウラル原油の油価は下落、2023年通期の平均油価は$63.0になりました。
第3部:ロシア国庫税収概観
ロシア経済は「油上の楼閣経済」にて、油価(ウラル原油)依存型経済構造です。このウラル原油の油価が国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価と正の相関関係にあります。
下記グラフをご覧ください。ロシア国庫税収は油価(ウラル原油)に依存していることが一目瞭然です。
なお、この場合の石油・ガス関連税収とは2018年までは炭化水素資源採取税(石油・ガス鉱区にかかる税金)と輸出関税のみでした(註:天然ガスは気体としてのPLガスのみ/液化天然ガスLNGは関税ゼロ)。
2019年からは露国内石油精製業者に賦課される税収も加わりましたが、補助金対象にもなっており、現在でも石油・ガス関連税収の太宗は炭化水素資源採取税です。
露財務省は毎月、石油・ガス関連税収と非石油・ガス関連月次税収を発表しています。
露プーチン大統領は2000年5月にロシアの新大統領に就任したので、ここでは2000年から2023年までの油価と国家予算案実績と今年2024年国庫予算案を概観したいと思います。
プーチン新大統領誕生当時、露国家予算案に占める石油・ガス関連税収は約2割でした。
ところが、プーチン大統領就任後、油価は徐々に上昇開始。ウラル原油がバレル$100を超えた2011年から数年間は、露国家予算案に占める石油・ガス関連税収は上記2種類の税金のみで50%を超えていました。
2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2(石油・ガス関連税収シェア38.1%)、実績$76.1(同41.6%)。2023年は予算案想定油価$70.1(同34.2%)に対し、実績$63.0(同30.3%)になりました。
今年2024年の露ウラル原油は政府予想油価$71.3ですが、税収基準は$60に設定されました。
油価が$60以上になると歳入増収分は露国民福祉基金に組み入れられることになりますが、現行油価(ウラル原油)は$60前後ゆえ、国民福祉基金に組み入れる余裕はないと予測します。
付言すれば、天然ガス輸出の場合、PLガス輸出はFOB輸出金額の50%が輸出関税(2022年までは30%)、LNG(液化天然ガス)輸出は関税ゼロです(PL=パイプライン)。
第4部:ロシア国家予算案概観
4−1. 2022年〜23ロシア国家予算案実績と24年予算案概観:
2022〜23年の期首予算案と実績、および24年予算案概要は以下の通りです。
2022年の期首国家予算案は1.33兆ルーブルの黒字案でした。期首想定油価バレル$62.2に対し実績$76.1ですから、本来ならば期首黒字案以上の大幅黒字になるはずが実績は大幅赤字となりました。
露財務省は2021年までは各支出項目の経費を明記していました。しかし22年1月から支出総額のみで、支出細目は白紙となり、何にいくら支出されたのか詳細不明です。
実質戦争経済に移行したので、支出細目は非開示になったものと筆者は推測します。
4−2. ロシア国家予算案遂行状況概観 (2023年):
露財務省は1月11日、2023年露国家予算案遂行状況を以下の通り発表。予算案想定油価$70.1に対し、ウラル原油平均油価は$63.0になりました(現在1米ドル約90ルーブル、1ルーブル約1.6円)。
(註:2023年1〜11月度までは「国家購入」の数字が明記されており、5.55兆ルーブルが計上されていましたが、今年1月11日に発表された予算遂行状況では「国家購入」の項目自体、削除されました。「国家購入」とは何か、何を購入したのか非開示ですが、恐らく軍需産業への発注・支払いではないかと推測されます)
第5部:露連邦エリツィン初代大統領誕生と退場
5−1. B.エリツィン政権の誕生:
ソビエト政権の凋落と落日は1970年代に始まります。ブレジネフ政権末期にはソ連経済は重傷となり、回復・復活の見込み薄となりました。
ソ連邦崩壊に関しては多くの要因が指摘されていますが、ソ連邦崩壊の底流は長期にわたる油価低迷です。
M.ゴルバチョフ政権が1985年春に誕生した時、彼はその実態を知り驚愕。体制内改革を唱えたゆえんですが、古い機構の中に新しい思想は定着せず、ペレストロイカは失敗。
ソ連邦は1991年8月19〜21日のクーデター未遂事件を経て、露(エリツィン)・ベラルーシ・ウクライナは同年12月8日、CIS(独立国家共同体)条約に調印。12月25日にゴルバチョフ大統領は辞任発表。
この日、クレムリンではソ連国旗が降ろされロシア国旗が掲揚され、核のボタンがゴルバチョフ・ソ連邦初代大統領からエリツィン露共和国大統領に渡され、ソ連邦は解体されました(法的消滅は翌26日)。
1990年代前半のエリツィン政権下、経済の自由化と国営企業の民営化が開始されました。
当時のエリツィン政権は権力基盤が弱く、ロシアに民主主義萌芽を夢見た西側諸国の一時の熱狂は次第に冷めて行く一方、ソ連邦崩壊後の民営化により巨万の富みを蓄えたオリガルヒ(新興財閥)は、共産党政権復活の影に怯えていました。
1996年6月の露大統領選挙における事前の世論調査では、エリツィン候補の予想得票率は1桁台。ジュガノフ共産党党首の圧勝が予想され、オリガルヒの背筋に戦慄が走りました。
共産党政権誕生に危機感を抱いた新興財閥は1996年1月、スイスのダボスで開催された世界経済会議にて焦る政権側とエリツィン支持の陰謀を協議。
オリガルヒは総額5億ドルともいわれる選挙資金を投入。同年6月の大統領選挙ではエリツィン35%、ジュガノフ32%となり、舞台は決選投票へ。
エリツィン氏は3位となったレベジ将軍を政権側に取り込み、翌7月の決戦投票を乗り切りました。
5−2. エリツィン政権の崩壊:
2期目の大統領選挙をオリガルヒの選挙資金で乗り切ったエリツィン政権は、新興財閥とマフィアが跳梁跋扈する傀儡政権になりました。
エリツィン政権下、露国家の対外債務は増大の一歩を辿り、貧富の差が拡大。ゆえに、エリツィン大統領の任期満了に伴う次期大統領選挙(2000年6月)ではエリツィン側に勝ち目なく、露下院第一党たる共産党が有力となり、再び新興財閥に戦慄が走りました。
エリツィン大統領は1999年の大晦日、早期辞任を発表。
露憲法に従い、プーチン首相が大統領代行に就任。ヴォローシン大統領府長官は、傀儡政権としてプーチン首相を大統領後継候補に指名。
エリツィン大統領側はプーチンを後継者に指名する条件として一つの密約を交わしています。
否、それを条件に後継に指名したという方が正鵠を射ています。密約の内容は下記2点:
1 大統領の家族に手をつけないこと(←大統領代行として最初に署名した大統領令)。
2 少なくとも1年間は大幅な人事異動をしないこと。
エリツィン大統領は、ゴルバチョフ初代ソ連邦大統領が自分に対して要求し、自分が拒否したその同じ条件をプーチンに強要。もちろん、プーチンは断る術もなく、妥協がすべてに優先した次第。
担ぐ神輿は、軽ければ軽いほど良い神輿。
オリガルヒ側にとり、モスクワに政権基盤のない無名のプーチン氏は操り人形として最適任者でした。
しかし、運命とは皮肉なもの。結果論ではありますが、後顧の憂いなく、軽い神輿を選んだはずの新興財閥がその直後に臍を噛むことになろうとは、この時点では誰も予想だにできませんでした。
第6部:露連邦プーチン大統領誕生の軌跡
6−1. V.プーチン新大統領誕生 (2000年5月):
後世の歴史家は、2000年3月26日をロシアの重要な転換点と位置付けることでしょう。この日、標準時から夏時間への移行と共に、ロシアは新しい時代に突入しました。
本来ならば2000年6月に予定されていた大統領選挙は、エリツィン大統領の1999年大晦日の電撃辞任により翌年3月の繰り上げ選挙になりました。
ここまではエリツィン大統領を操るオリガルヒ(新興財閥)の台本通りの動きであり、選挙準備の整わない野党候補を横目に、プーチン大統領代行は53%を獲得して当選。
大統領選挙後の5月7日、ロシア連邦2代目大統領に就任したプーチン新大統領は就任演説にて強いロシアを標榜。以後、エリツィン時代の新興財閥から一線を画し、独自路線を歩み出すことになりました。
6−2. 露大統領選挙/プーチン大統領候補選挙結果:
プーチン大統領は過去4回大統領候補として出馬しましたので、本稿ではプーチン候補が出馬した過去4回の露大統領選挙結果を概観します。ご参考までに、過去4回の大統領選挙結果は以下の通りです。
上記グラフをご覧になればお分かりの通り、プーチン候補最初の選挙は当選に必要な最低得票率50%すれすれの辛勝となり、大統領の椅子を巡り2位の共産党ジュガノフ候補と競い合いました。
第1回選挙の辛勝はプーチン大統領のトラウマになり、2024年3月17日(投票日15〜17日)の大統領選挙では、過去一度も達成したことのない70%以上の投票率と80%以上の得票率を目指しています。
今回の選挙は当選するか・しないかではありません。当選確実ですが、問題は絶対得票率です。
ロシア憲法では本来、大統領職は2期までと明記されていました。しかし2023年1月のカザフ政変(後継者によるナザルバエフ前大統領一家追放事件)に驚愕したプーチン大統領は、死ぬまで大統領職に居座ることを決意。
憲法を改定し、理論的にはあと12年間(6年間×2期)大統領職に居座ることを可能としました。
プーチン王朝継続には、圧倒的多数のロシア国民の支持を得て5期目の大統領に就任する大義名分が必要になり、これが80%以上の得票率を目指すゆえんです。
6−3. プーチン首相代行誕生の背景:
1999年当時、病弱のエリツィン大統領はこのままでは職務遂行不可能となることを、エリツィン周辺の新興財閥は見抜いていました。
エリツィン氏に倒れられて困るのはエリツィン周辺で財を成したオリガルヒ。当時、彼らが一番危惧していたことは共産党政権の復活でした。
共産党政権が復活すれば、「民営化」という錦の御旗のもと、営々と国から搾取してきた国家資産を再度共産党に接収される恐れがありました。
ステパーシン首相(当時)は大物で、オリガルヒの言いなりにならない。ゆえに、唯々諾々とオリガルヒの手足になる操り人形が焦眉の急となり、大統領府という名の伏魔殿の深奥にて大物は解任して、無名の操り人形を首相に任命。エリツィン後継者に指名することが決定しました。
そこで選ばれたのが当時無名のプーチン予備役大佐。
元上司たるA.チュバイスの引きで首都に移住、大統領総務局にてボロジン総務局長の部下となったプーチン氏に白羽の矢が立ち、彼を連邦保安庁長官から首相代行に大抜擢。
この時、西側の反応は予想通り、“Putin, who?”。1999年8月9日のことでした。
日系マスコミはPutinの正しい読み方が分からず、「プーチン」と「プチン」、2つの異なる名前が日系各紙に載りました。
6−4. プーチン首相代行誕生/露内外マスコミの反応:
ではここで参考までに、1999年8月9日プーチン首相代行誕生当時の露マスコミ反応を列挙したいと思います。当時の露マスコミも下記の通り、一様に否定的反応でした。
これもプーチン新大統領のトラウマになり、大統領就任後、マスコミ弾圧に乗り出す契機となりました。
プーチン首相が2000年5月大統領就任後、プーチン本人の人物像に関する記事はマスコミに登場しなくなり、プーチン大統領の個人情報や家族情報が載るとそのマスコミが閉鎖される事例も出てきました。
換言すれば、プーチン新大統領就任前は露マスコミにはまだ報道の自由が存在していたということです。
1『モスクワ・ニュース』(1999年8月10日付け):
「“皇帝”(エリツィン大統領の側近は彼をそう呼んでいる)は、後継者を発表した。その人の名はブラジーミル・プーチン。・・・プーチンが大統領選挙で当選するという考えは、エリツィン大統領の政治的妄想の産物であろう。大統領選挙まであと1年あるが、テレビの視聴者も彼の顔をほとんど知らない。彼に大統領の椅子を望むことは、政治的には大きなリスクである」
2 『モスクワ・コムソモレッツ』 (1999年8月10日付け):
「高齢のエリツィン大統領は未来の後継者を任命した。ただし、プーチン自身がこの決定を歓迎しているのかどうかは疑問。・・・もしエリツィンのお気に召さなければ、それは辞任の前触れを意味することがクレムリンでは慣習となった」
3『コモソモルスカヤ・プラウダ』(1999年8月10日付け):
「プーチンはカリスマ性あるリーダーとは言い難い。大統領への途は茨の道」
4 『文学新聞』 (1999年8月11日付け):
「民主主義国家たるロシアの大統領が連邦保安局長官を自分の後継者に指名した。社会にとり何たる侮辱。今回のエリツィン大統領の行為は決して評価できない」
6−5. プーチン大統領の人物像/家族:
プーチン大統領を一番よく知る人は誰でしょうか?
それはプーチンの一番近くにいた奥様です。
本稿では、プーチン一家をご紹介します。最初の奥様はリュドミラ(リューダ)・アレクサンドロヴナ・プーチナさん。子供は娘2人、マリアとカーチャ。全員ドイツ語堪能。子供は日本語も学んでいます。
リューダさんは、カリーニングラード(旧ドイツ領ケーニッヒスベルク)生まれのカリーニングラード育ち。
労働者の家庭に生まれ、同市の工業専門学校卒業後ソビエト・アエロフロート航空に就職、国内便のキャビンアテンダントになりました。
トランジットでレニングラードに立ち寄ったリューダさんは1981年、友人に誘われて、当時有名なエンターテイナーであったアルカジ・ライキン氏のショーを見に行くと、劇場の入口で一人の風采の上がらない男が彼女たちを待っていました。
友人は彼を彼女に紹介。その男は、「ヴァロージャ」と自己紹介。のちにリューダさんは、「彼は風采の上がらない、街で通りかかっても目に入らないほど平凡なタイプ」と第一印象を述懐しています。
人は見かけによらぬもの。その風采の上がらぬ男には、何と当時婚約者がいました。既に結婚式の日取りまで決まっていたが、当時24歳の金髪・碧眼・美貌のリューダさんに一目惚れ。
以降ストーカーとなり、あとはお決まりの電話攻勢。風采の上がらないヴァロージャはリューダさんに、自分は「犯罪捜査官」と身分を偽り、後々までリューダさんはそれを信じていました。
その3年後の1983年、ヴァロージャはリューダさんに唐突に語り始めた。「僕と一緒にいてもつまらないだろう。朴訥、不器用、不作法。生命の危険性もあるし・・・」。
それを聞いたリューダさんは、「この人は私と別れたがっているのだ。そろそろ潮時だ、別れよう」と思った由。
しかし、それが何とプロポーズの言葉であり、その年2人は結婚。貧しい2人は住居が持てず、夫の親の家に同居することになりました。
6−6. プーチン大統領の人物像/プーチンKGB少佐、東独赴任(1985〜1990年):
V.プーチン氏は1975年、レニングラード大学法学部卒業後、KGB第1総局第4課(西欧担当)に入局。KGBには計9局あり、第1総局(現SVR/対外諜報庁)は対外諜報専門部局です。
1985年、プーチンKGB少佐に新しい指令が下り、東独ドレスデンの管理官として家族で赴任。プーチンKGB少佐は1980年代後半の5年間ドレスデンに勤務、駐在中に中佐に昇進。
1987年11月21日、「ドイツ(東独)・ソ連邦友好黄金勲章」を授与されました。
東独の生活は家族にとり天国であり、彼はのちに「ドレスデン駐在時代が一番幸福であった」と述懐しています。
1989年に「ベルリンの壁」が崩壊。翌年の東西ドイツ統一後東独勤務が困難となり、一家は1990年、レニングラードに帰任後退職。KGB大佐として予備役編入。
その後、レニングラード大学にて学生の監視、サプチャク市長の側近としてサンクトペテルブルク副市長などを務めました。
さてここに、現在のプーチン大統領を理解する一つのカギが潜んでいます。
東西ドイツ分裂時代、筆者は何度も東ベルリンを訪問しました。ソ連大使館は当時の東ベルリンの一等地に居を構えており、優秀なソ連邦の官僚は東ベルリンに派遣・勤務。二流・三流官僚がドレスデンのような地方都市に派遣されていました。
プーチン氏がドレスデンに派遣された事実は、彼がKGB内部では優秀とは見なされていなかったことの証左と言えましょう。
6−7. プーチン大統領の人物像(2000年当時):
プーチン首相兼大統領代行は2000年3月26日の大統領選挙で辛勝。同年5月、新大統領に就任(当時47歳)。
プーチン首相の大統領就任後、プーチン氏の人物像に関する記事はマスコミに登場しなくなり、プーチン大統領の個人情報や家族情報が載ると、そのマスコミが閉鎖される事例も出てきました(前述)。
しかし、2000年初頭の大統領選挙中は、プーチン候補に関する記事が数多く掲載されていたのです。
当時ロシア駐在中の筆者はそのような記事を収集・分析していたので、今回は関連記事を一つご紹介したいと思います。現在のロシアでは掲載不可能な記事ですが、当時は堂々と新聞に掲載されていました。
その意味では、今となっては貴重な情報と言えるのかもしれません。
モスクワの週刊新聞紙『ベルシア』2000年第2号はプーチン特集を組んでいました。
一面トップ記事として、東独シュタージ(秘密警察)の制服を着たプーチン少佐の写真を掲載。ドイツ語のフラクトゥーラ(飾り文字)で“Das ist Putin”(これがプーチンだ)と大書されています。
プーチン氏は1998年7月に連邦保安庁長官として、ジェルジンスキー広場に建つ古巣のルビアンカのKGB建物に戻りました。
KGB幹部を前にしての第一声は、「生まれ故郷の懐かしい両親の家に戻ってきたようだ」。これが、プーチン長官開口一番の心情吐露でした。
プーチン首相は2000年3月の大統領選挙で当選。生粋のKGB機関員の大統領就任はソ連・ロシアの歴史上初めてのことになりました。
L.ブレジネフ書記長亡き後、Yu.アンドローポフKGB議長が書記長に就任しましたが、彼は元々外交官です。
1956年のハンガリー動乱の際、当時の駐ハンガリー・ソ連大使がアンドローポフ氏であり、ソ連軍(ワルシャワ条約軍)の介入を要請。
アンドローポフ書記長就任にあたり、イメージ・アップのため、西側諸国に対し「彼は英語が得意であり、こよなくジャズを愛する」という偽人物像を流したのもKGBです。
プーチン新大統領就任にあたり、「彼は信頼がおけ、首尾一貫しており、決断力がある。勤務以外ではゲーテとシラーをこよなく愛する、筋金入りの愛国者」との人物像が流れました。
この人物像を流した人物こそ、東独シュタージのプーチン相棒M.ヴァルニッヒ氏。彼はのちに、ノルト・ストリーム2社の社長を務めていました(会長は元ドイツ首相のG.シュレーダー)。
エピローグ/プーチン大統領の人物像/プーチン大統領を理解するカギ
プーチン大統領の現行任期は2024年5月7日までです。この日、ロシアには新大統領が誕生します。
筆者は前号(2023年11月JBpress寄稿「戦争経済に突入したロシアの行方は哀れ、中国の資源植民地に」)にて、「プーチン後継はプーチン」と断定。そして、その通りになりました。
世の中、欺瞞と驚きに満ちています。
風采の上がらない、街で通りかかっても目に入らないほど平凡な男性はKGBの凡庸な職員で、中佐止まりでした。
その人物が大国の大統領になり、国防軍の最高司令官に就任。劣等感の塊が国軍最高司令官となり、優越感に浸って権力を揮っているのが現在の姿と言えましょうか。
現在のプーチン大統領を理解するカギ。それは、意外とこの劣等感かもしれません。
ロシアはプーチン大統領の所有物ではありません。ロシア悠久の歴史の中でプーチン氏は一為政者にすぎませんが、その一為政者がロシアの歴史に汚点を残す独裁者となりました。
ウクライナ戦争が膠着状態となり、長引けば長引くほどロシア経済は疲弊するでしょう。
人治国家プーチン王朝の近未来は、実は我々が思っている以上に脆弱なのかもしれません。
●プーチン大統領 北朝鮮の外相と会談 北朝鮮訪問も調整か 1/17
ロシアのプーチン大統領はモスクワを訪れている北朝鮮のチェ・ソニ外相と会談しました。プーチン大統領の北朝鮮訪問に向けた調整も行われているとみられていて、ロシアと北朝鮮はともに対立するアメリカなどを念頭に協力を拡大しています。
ロシアのプーチン大統領は16日、モスクワを訪れている北朝鮮のチェ・ソニ外相とクレムリンで会談し、ロシア側からはラブロフ外相やウシャコフ大統領補佐官が同席しました。
これに先立ち、チェ外相はラブロフ外相と会談し、両外相は、軍事や経済分野を念頭に協力を進めていく考えを示していました。
ロシアの国営テレビは、プーチン大統領が笑顔でチェ外相を出迎える様子を伝え、ロシア大統領府は、チェ外相らが今回の外相会談の結果をプーチン大統領に報告したと発表しましたが、詳細は明らかにしていません。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は16日「プーチン大統領は北朝鮮へ招待されており、適切な時期に応じることになるだろう」と述べていて、プーチン大統領の北朝鮮訪問に向けた調整も行われているものとみられます。
ロシアはウクライナへの侵攻で、北朝鮮から供与された弾道ミサイルを使っているなどとも指摘され、両国は、ともに対立するアメリカなどを念頭に協力を拡大しています。
林官房長官「引き続き情報収集や分析を」
林官房長官は午前の記者会見で「ロ朝関係を含め、北朝鮮をめぐる情勢については平素から重大な関心を持って情報収集や分析に努めている。引き続き関連情報の収集や分析を行うとともに、関連する国連の安保理決議の完全な履行に向けてアメリカや韓国をはじめとする国際社会と緊密に連携していく考えだ」と述べました。
●北朝鮮外相、プーチン氏と会談 訪朝「間違いなく応じる」 ロシア報道官 1/17
ロシアを公式訪問している北朝鮮の崔善姫外相は16日、モスクワのクレムリン(大統領府)でプーチン大統領と会談した。
崔氏はこれに先立ち、ラブロフ外相と会ってロ朝関係強化で一致しており、プーチン氏にその内容を報告した。
ロシア大統領府の発表では触れていないが、金正恩朝鮮労働党総書記の招待によるプーチン氏訪朝についても話し合われたもようだ。タス通信によると、ペスコフ大統領報道官は「都合の良い時期に間違いなく招待に応じる」と説明した。
●「戦利品は放棄せず」 プーチン氏、占領地返還を否定 1/17
ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領は16日、ウクライナとの停戦交渉について「(侵攻開始後の)過去1年半で獲得した戦利品をわれわれに放棄させようとする試みは不可能だ。そのことをウクライナも欧米諸国も理解している」と述べ、仮に交渉が始まっても占領地域の返還は協議対象にしないとの考えを改めて示した。同日出席した露各地の自治体の首長らとの会合で発言した。
プーチン氏はまた、ウクライナのゼレンスキー政権が法令でロシアとの交渉を禁止しているとし、「交渉したくないのであればそれでいい。だが、ウクライナ軍の反攻は失敗し、主導権は完全に露軍に移った。このままではウクライナは取り返しのつかない深刻な打撃を受けるだろうが、それは彼らの責任だ」とも述べた。ウクライナに抗戦を断念するよう威圧した形だ。
停戦交渉を巡っては、プーチン氏は1日にも「われわれは紛争をできるだけ早く終わらせることを望んでいるが、ロシアの条件に沿う限りでだ」と指摘。ウクライナがロシアの要求を受け入れることが必要だとする認識を示していた。
一方、プーチン氏は16日、モスクワを訪問中の北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相と面会し、同日行われた崔氏とラブロフ露外相の会談の結果について報告を受けた。ペスコフ露大統領報道官が発表した。会談で両外相は両国の結束を確認。プーチン氏の将来的な訪朝についても調整したとみられている。
●「プーチン氏に敗北を」 ゼレンスキー大統領が演説 1/17
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は16日、スイス東部ダボスで開催中の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で演説し「プーチン(ロシア大統領)を敗北させなければならない」と述べ、ウクライナへの協力を訴えた。「侵略者への圧力を減らせば、戦争を長引かせることになる」と主張し、国際社会が結束して支援するよう呼びかけた。
ゼレンスキー氏は同日、ウクライナが加盟を目指す北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長とダボスで会談。ロシアのミサイル、無人機攻撃が激化する中、防空態勢強化の必要性を訴えた。ブリンケン米国務長官、企業関係者らとも会談した。
ゼレンスキー氏は15日にはスイスのアムヘルト大統領と会談した。共同記者会見で、自らが提唱する和平案「平和の公式」を話し合う首脳級の「世界平和サミット」をスイスで開く準備を始めると述べた。日程や形式、参加国は明らかにせず曲折が予想される。
●ロシアで人民元取引が急増、脱ドル化戦略でシェア首位に=地元紙 1/17
16日付のロシア紙コメルサントによると、モスクワ証券取引所(MOEX.MM), opens new tabで2023年に取引された中国人民元の総額は前年比3倍超に急増した。外貨取引全体に占めるシェアが約42%に拡大してドルの39.5%を超え、首位に立った。
ウクライナ侵攻に伴う西側の対ロシア金融制裁に直面したプーチン政権は、脱ドル化戦略を推し進め、中国との関係を一層強化。中国へのエネルギー供給が増加するとともに、中国からの輸入も自動車からスマートフォンまで幅広い分野で膨らみ、人民元取引の増加につながった。
同取引所での人民元の取引高はルーブル換算で34兆1500億ルーブル(3915億ドル)。前年のシェアは13%にとどまっていた。
ドルは32兆4900億ルーブル。前年は49兆9000億ルーブルでシェアが63%超だった。
●ロシアへの納税4千億円 維新・松沢氏、JTの同国撤退求め署名活動開始 1/17
日本維新の会の松沢成文氏(参院神奈川選挙区)は16日、国会内で記者会見を開き、日本たばこ産業(JT)に対しロシア事業からの撤退を求め、オンラインで賛同署名活動を始めたと発表した。
JTは政府が筆頭株主で、同社の100%子会社はロシアのたばこ市場で35%のシェアを占め首位。ロシアへの納税額(2020年度)は約4千億円に達するという。
松沢氏は「ウクライナ侵攻を続けるロシアの利益になっている」と国会質疑で政府に指摘してきたとし、「利敵行為を見て見ぬふりはできない。ロシアへの経済制裁をしっかりとしたものにしたい」と訴えた。署名サイト「チェンジ・ドット・オーグ」では約460筆が寄せられており、まずは千筆を目指すとしている。
●ウクライナ、戦争継続なら国家存続に打撃=プーチン氏 1/17
ロシアのプーチン大統領は16日、戦争が続けばウクライナは国家として「回復不可能な打撃」を受ける可能性があるとし、ロシアが得たものを手放すよう迫られる事態にはならないとの考えを示した。
ウクライナを巡ってはスイスが前日、ウクライナのゼレンスキー大統領の要請を受け、「世界平和サミット」を開催することに合意したと発表した。 もっと見る
プーチン氏は西側諸国とウクライナが協議している「いわゆる和平の方式」と「法外な要求」は拒否するとし、「(ロシアと)交渉したくない場合はしなくても構わない。ウクライナの反転攻勢は失敗しただけでなく、主導権は完全にロシア軍が握っている。このままではウクライナは国家として取り返しのつかない深刻な打撃を受ける可能性がある」と述べた。
その上で、西側諸国が語る和平は「過去1年半でロシアが得たものを手放すよう仕向ける試み」との考えを示し、「こうしたことは誰もが不可能だと理解している」と述べた。
プーチン氏の発言はテレビ放映された。
ロシアは現在、ウクライナの領土の17.5%を支配。ウクライナが反転攻勢で目立った戦果を上げらない中、プーチン氏の戦争の行方を巡る発言はここ数カ月で一段と自信に満ちた攻撃的なものになっている。
●ウクライナ大統領、ダボス会議で演説 対ロシア戦争の「凍結」に警鐘鳴らす 1/17
ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、スイス・ダボスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で各国の代表者らを前に演説し、ロシアによるウクライナでの戦争を「凍結」させてはならないと訴えた。
2年近く前にロシアがウクライナへ全面侵攻して以降、ゼレンスキー氏が対面での演説をダボス会議で行うのは初めて。同氏はウクライナが当初の予想に反し、ロシア軍を長期にわたって撃退してきたと強調。同盟国は「戦場での進展」に向け、「何が必要とされているかを理解している」と指摘した。ウクライナ軍の戦果はもう何カ月にもわたって乏しい状況が続いているとしている。
英語での演説の冒頭、ゼレンスキー氏は聴衆の多くが尋ねたいと考える複数の質問について承知していると述べた。答えにくいそれらの質問は「戦争はいつ終結するのか? 第3次世界大戦は起こるのか? 今はプーチン(ロシア大統領)と交渉すべき時なのではないか?」といった内容だろうとした。
その上で「どんなものであれ、凍った対立はいずれ再燃する」と警告。ロシアが2014年以降、「東部ドンバス地方での戦争を凍結する複数の試み」の後で改めて侵攻に踏み切ったことを引き合いに出し、現状はウクライナにより多くの兵器が供与されてこそ「公正かつ安定的な」和平がもたらされると述べた。
また、ウクライナへの兵器の供与で戦争が激化するとの西側の懸念が、ロシアにとって有利に働いているとも指摘した。この認識ほど両者の連携を阻害するものはないとし、実際に新型の兵器が到着してからも戦争が激化することはなかったと言い添えた。
ゼレンスキー氏の前には北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長が演説し、継続的なウクライナ支援だけがロシアのプーチン大統領の屈服を促すことになるとの見解を示した。
●「ロシアへの圧力弱めれば戦争長引く」ゼレンスキー大統領 1/17
ウクライナのゼレンスキー大統領は、スイスで開かれている「ダボス会議」で演説し、「ロシアへの圧力を弱めることは戦争を長引かせることになる」と述べ、各国に支援の継続を訴えました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「彼(プーチン氏)は変わらない。私たちは変わらなくてはならない」
「ダボス会議」で演説したゼレンスキー大統領は、ロシアのミサイルには西側諸国の部品が使用されていると指摘し「ロシアへの圧力を弱めることは戦争を長引かせることになる」と話しました。
そのうえで、「プーチン氏や他の侵略者の狂気に負けないよう、私たち全員が変わらなければならない」と述べ、ロシアへの制裁強化やウクライナへの支援継続の重要性を訴えました。
●NY外為、一時1ドル=147円台前半に下落…金融引き締めが長期化観測 1/17
16日のニューヨーク外国為替市場で、対ドルの円相場は一時、1ドル=147円台前半に下落した。米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めが長期化するとの観測が強まり、昨年12月上旬以来、約1か月ぶりの円安水準となった。
FRB高官が16日の講演で、利下げは慎重に進めるべきとの方針を示した。FRBの利下げには時間がかかるとの見方が強まり、米長期金利が上昇した。日米の金利差拡大を見込んだ円売り・ドル買いが優勢となっている。
●上川外相 トルコ大統領らと会談 ウクライナ復興など連携で一致 1/17
上川外務大臣は訪問先のトルコでエルドアン大統領らと会談し、ウクライナの復興やパレスチナのガザ地区の人道状況改善に向けて緊密に連携していくことで一致しました。
上川外務大臣は、日本時間の17日未明、トルコの首都アンカラで、エルドアン大統領やフィダン外相と会談しました。
この中で上川大臣は「ウクライナ情勢や中東情勢など国際社会の諸課題についてトルコが果たす役割は重要だ」と指摘しました。
そのうえで、ロシアによる侵攻が続くウクライナの復旧・復興に向けて協力していくことや、パレスチナのガザ地区の人道状況改善や事態の早期沈静化に向け緊密に連携していくことで一致しました。
また、ことしは日本とトルコの外交関係樹立から100年となることを踏まえ、EPA=経済連携協定の早期妥結を目指して協議を続けるとともに、エネルギー分野の協力などで関係を発展させていくことを確認しました。
一方、エルドアン大統領からは能登半島地震に対してお見舞いのことばが伝えられ、上川大臣は謝意を示しました。 
●ウクライナ、米国の失敗の影 1/17
中東でイスラエルとの同盟を最優先視する米国は、トルコや湾岸諸国に対し対ロ制裁に加わるべき理由を説得力をもって示すことができなかった。ガザ地区でジェノサイドに準ずるイスラエルの蛮行が続いているにもかかわらず、全く変わらない米国の親イスラエル偏向外交は、プーチンと中国が中東を含む「グローバルサウス」の民意を簡単に獲得できる環境を作った。
1950〜1953年の朝鮮戦争のように、現在のウクライナ戦争の性格も複合的だ。朝鮮戦争は本来、内戦ともいえる分断国家の武力対立だったが、国際戦争、すなわち中国・ソ連ブロックと米国中心の西側ブロック間の対決に飛び火した。一方、ウクライナ戦争は当初、過去の帝国を復元しようとするプーチンの帝国主義的侵略から始まった。しかし、プーチン大統領の速戦即決計画が失敗に終わり、米国とその同盟国も関与することになり、この戦争もベラルーシや北朝鮮、イランなどの支援を受けるロシアとNATO(北大西洋条約機構)間の国際戦、すなわち間接的には米ロ戦争の姿も同時に帯びるようになった。
朝鮮戦争と比較を続けるならば、今回の米ロ間接戦で米国は約70年前と比べると、はるかに圧倒的な力の優位を保有している。軍備支出だけを見ても、米国の軍事予算はロシアより10倍ほど多い。米国製兵器の威力、例えば米国製の大砲の射程距離がロシアのそれより長いという点は、ロシアの軍人たちも認める。にもかかわらず、昨年ウクライナの戦場で米国ははるかに弱いロシアを相手に、意味のある勝利は何一つ収めることができなかった。ロシアが占領したウクライナ領土の割合(約18%)は減るどころか、むしろやや増えた。
米国が間接参戦に乗り出した目標である「ロシア軍を弱体化させること」も、やはり思い通りにはならなかった。戦線が膠着した陣地戦になってしまったロシア・ウクライナ戦争の現場で、現在のウクライナ軍より5倍多い砲弾を毎日使用するロシアの軍隊が弱体化したとみなすことはできないだろう。2022年2月24日以降、超大国の米国から1000億ドル相当の、歴史的に破格的な規模の支援を受けたウクライナが、米国ほどの財力や軍事技術を保有できないロシアに勝てず、守勢に追い込まれる理由は果たして何だろうか?
戦争の勝敗は様々なレベルで決まる。戦場における戦術・戦略などは最も基礎的なレベルだ。ところが、戦場で勝つためには、補給に支えられなければならない。すなわち、軍事物資の増産など「生産戦争」で勝たなければならない。また、戦争に必要な物資を調達し続けるためには交易を持続しなければならないため、相手国を外交・交易の次元で孤立させることに成功してこそ、戦争勝利の可能性も大きくなる。そして自国はもちろん、第3国の国民、ひいては戦争相手国の国民にまで説得力のある戦争目標などに関する「ストーリー」を提示してこそ、世論戦に勝ち、相手国の民意を乱し、その政権の立場を弱めることができる。
この4つのレベルで、これまでウクライナ側で決定権を行使してきたのは米国だった。そして、この4つのレベルで米国がこれまで見せたのは、主に惨憺たる失敗だけだった。
戦場での戦略・戦術について言えば、ウクライナの戦勢がまだ多少有利だった2022年末、ウクライナ軍は南部地域奪還、そしてクリミア半島への進撃計画をペンタゴン(米国防総省)に提出したという点から言及しなければならない。まだ南部でロシアの防衛線が構築されていなかったその時点で、米国製の優秀な兵器で武装した当時は士気が高かったウクライナ軍は、もしかしたらプーチンに歴史教科書に後々まで残る完敗を与えることができたかもしれない。しかし、米中対立など様々な面で緊張が高まった時局にプーチン大統領をあまり窮地に追い込んではならないと判断したペンタゴンは、この計画を受け入れなかった。上位のパートナーである米国のこのような意中の前で、ウクライナは仕方なく北部地域の奪還に焦点を合わせ、昨年夏になって南部地域奪還のための「大反撃」を試みたが、すでに構築されたロシアの防衛線に阻まれ大きな損害だけを被った。プーチン大統領と妥協の余地を残そうとする米国の一貫性のない態度は、結局ウクライナ兵士の莫大な犠牲を無意味にしてしまった。
その犠牲をさらに大きくしたのは、大砲の威力に依存する陣地戦の状況で、最も重要な戦争物資となった砲弾などの増産に米国が失敗し続けた点だ。1年に約150万発の砲弾を生産し、さらにベラルーシや北朝鮮から砲弾を輸入できるロシアに同等に対抗するためには、ウクライナもこの程度の砲弾が必要だ。ところが今、米国が1年に生産できる砲弾数は33万6千発に過ぎず、ヨーロッパ全体の砲弾生産能力もやはりその程度以上にならない。ロシアは依然として国営企業であるソ連時代の砲弾製作所を保有しているが、ウクライナ戦争が1〜2年後に終われば砲弾需要が急減すると見通している欧米圏の民営軍需会社は簡単に砲弾増産に投資できない。「利潤」を最優先に考慮しなければならない新自由主義的資本主義は、このように戦時状況でプーチン式国家資本主義に勝てずにいるのだ。
戦争で勝つためには、兵器製造に必要な部品や機械を中国や湾岸地域の国あるいはトルコなどを通じて輸入しているロシアの貿易網を遮断しなければならなかった。ところが、準同盟の中ロ関係はともかくとしても、中東でイスラエルとの同盟を最優先視する米国は、トルコや湾岸諸国に対ロ制裁に加わるべき理由を説得力をもって提示できなかった。ガザ地区でジェノサイドに準ずるイスラエルの蛮行が続いているにもかかわらず、全く変わらない米国の親イスラエル偏向外交は、プーチンと中国が中東を含む「グローバルサウス」の民意を簡単に獲得できる環境を作った。その上、独裁者プーチンが破壊したロシアの民主主義の回復ではなく、ロシアの「国力弱体化」を戦争の目標として公然と提示した米国によって、ロシアの一部の西方シンパである中産層までが戦時状況でプーチンを条件付きで支持するようになった。
プーチンの侵略に対抗するウクライナ民衆の想像を絶する犠牲にもかかわらず、米国に対するウクライナの軍事的従属、戦時状況での新自由主義的経済の限界、そして米国の近視眼的な国家主義的アプローチと世界体制周辺部での米国の影響力の衰落は、ウクライナで米国が失敗した原因となった。このすべての状況が、私たちが結局他山の石にしなければならない教訓だ。
●米軍 「フーシ派」支配地域を再び空爆 イエメンの反政府組織 1/17
アメリカ軍が、イエメンの反政府組織フーシ派の支配地域を再び空爆した。
アメリカ軍は16日午前、フーシ派の支配地域で発射準備中だった弾道ミサイル4発に向けて攻撃し、破壊したとしている。
その9時間後には、フーシ派の支配地域から紅海に向けて対艦弾道ミサイルが発射され、貨物船に命中したという。
ホワイトハウスのカービー調整官は、「われわれは戦争をしたいわけではない。これを拡大するつもりはない」と説明しているが、アメリカによるフーシ派の拠点への空爆は3度目で、双方によるさらなる報復が続く可能性がある。
●現状は「積極防衛」、ロシア消耗狙うとウクライナ司令官 1/17
ウクライナ軍の地上部隊は、1000キロにおよぶ前線東部の防衛に何よりもまず集中しているが、攻撃面の戦力としても考慮の外に置くべきではない――。
ウクライナのシルスキー陸軍司令官(58)は先週末、ロイターのインタビューに答え、戦況が変化し、ウクライナ側が大躍進できる望みが薄れた現実を明確にした。同氏はウクライナ軍司令官ナンバー2。その態度は冷静沈着で、メッセージにあいまいさはない。
当初はウクライナによる夏の反転攻勢が大いに期待されていたが、ロシアの防御態勢はほとんど崩れなかった。ウクライナ側は一部地域で初期に数キロ前進するにとどまり、その後ロシア軍が他の地域で押し返した。
「われわれの目標は変わらない。われわれの拠点を維持し、敵に最大限の損害を与えて消耗させることだ」とシルスキー氏は語った。
戦闘服に身を包み、東部ハリコフ州の非公開の場所で慎重に語るシルスキー氏。侵攻2年目に入るのを控え、ロシアは主導権を握ろうと目論んでいると話す。
シルスキー氏によると、ロシアは東部戦線沿いの多方面に圧力をかけており、人員と物資を大きく失いながらも、工業地帯であるドンバス地域の完全な支配権奪取を目指している。
ロシアはまた、南部ヘルソンおよびザポロジエ地域で失った陣地を取り戻したい意向だという。
ウクライナ軍側は、小規模な反撃を仕掛ける「積極的防衛」(シルスキー氏)を行っている。主導権奪回に向けて攻撃の機会を見計らうことで、敵に気を張り詰めさせる戦術だ。
両軍とも、弾薬と人員を節約するために交戦は小規模になっているとシルスキー氏は付け加えた。つまりロシア側も状況に対応し、損失を食い止めることを学んだようだ。
「大隊レベルの攻勢は非常に珍しい」とシルスキーは言い、ドローンの使用拡大によって戦術の変更を余儀なくされたと語った。
ウクライナは、望ましいレベルの攻撃を維持するのに十分な弾薬が無いとして、西側同盟国に追加的な供給を求めている。
狡猾で勇敢
シルスキー氏は2014年以来、ロシア軍と戦う部隊を指揮し、「ユキヒョウ」の呼称を得た。部隊はウクライナ東部で、ユキヒョウの「狩りに似た戦術」を使って戦った、とシルスキー氏は説明。「この動物は非常に注意深く、狡猾で勇敢だ」と言う。
シルスキー氏は22年9月、ハルキウ地方の大部分を奪還するため電光石火の反攻作戦を指揮し、ロシア軍を退却に追い込んだことで、その名声に磨きをかけた。
この作戦はウクライナの強み、特に要塞化された陣地を迂回して敵陣深くまで攻め込むことができる軽快な部隊を生かしたものだった。
しかし、シルスキー氏の指揮官としての実績は、完璧ではない。23年初頭、同氏はウクライナ東部の都市バフムトの防衛を指揮したが、双方の兵士数千人が死亡したとみられており、今回の戦争で最も死者の多い戦闘となった。
バフムトは廃墟と化し、最終的にロシアに奪われた。こうした都市のために、これほど多くの死傷者を出して戦う価値があったのかと疑問を呈する軍事アナリストもいた。シルスキー氏は、民間軍事会社ワグネルを無力化することで、ウクライナはこの地におけるロシア側の戦闘行動を阻害したと主張している。
シルスキー氏は、ロシアは今でも同氏を脅威と考えており、その証拠に複数回にわたって暗殺未遂があったと指摘。「われわれはロケット攻撃には慣れている」と語った。
ウクライナが戦争に勝ちたければテクノロジーが主要な役割を果たすという点で、シルスキーはザルジニー総司令官と意見を同じくする。大砲や塹壕戦では大きな進展がないためだ。
シルスキー氏は、この1年で電子戦が激化したと説明。ドローンやその他の誘導兵器の普及により、ジャミング(レーダー波などの妨害)の機会が増えたと言う。
ウクライナ軍が優位に立つためには、一度に複数の周波数で動作する高度なキットをより大量に必要とする。
しかし、22年秋にウクライナが行ったように「人為的優位性」(シルスキー氏)を作り出すことで、前進するチャンスはまだあるという。
「何があろうと、守備の堅い地域とそうでない地域は存在する」とシルスキー氏。重要なのは、最も脆弱な地点に、最適なタイミングで兵力を集中させることであり、この原則は「妥当性を失っていない」と語った。
●NATO、「戦闘の変革」必要 実効性重視を=軍事委員長 1/17
北大西洋条約機構(NATO)のバウアー軍事委員長は17日、加盟国の政府・民間部門に対し、戦争を含め、いつ何が起きてもおかしくない時代に備えるよう呼びかけた。
バウアー氏はブリュッセルで2日間の日程で始まった国防相会合の冒頭、「NATOの戦闘に変革が必要だ」と発言。
これまでは、あらゆるものが豊富に存在し、全てが予見可能・管理可能で、効率性を重視した時代だったが、ロシアのウクライナ侵攻以降は「いつ何が起きてもおかしくない時代、予期せぬ事態を想定しなければならない時代、完全な実効性を発揮するため実効性を重視しなければならない時代」に合わせて考え方を改める必要があると述べた。
同氏はNATOが今後もウクライナを支援すると表明。「ウクライナは今後ずっとわれわれの支援を受けられる。この戦争の結果が世界の運命を左右するからだ」と述べた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、西側諸国によるウクライナ支援へのためらいや戦闘激化を巡る懸念によって戦争が長引く恐れがあると警告した。
●経済フォーラムで語る紛争 ゼレンスキー大統領が悲痛な訴え 1/17
毎年1月に世界各国の首脳や企業トップらが雪深いスイスのリゾート地に集まり、世界を取り巻く様々な課題について議論する世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)が、今年も15日から始まった。
ゼレンスキー氏の疲労感や焦燥感…戦争長期化で関心低下、米欧諸国の「支援疲れ」
世界「経済」フォーラムながら、実質的な初日となった16日に最も注目を集めたのは、ロシアの侵略を受けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の登場だ。昨年はオンラインでの参加だった。
会場内で、午後からのスピーチを前に、数台のテレビカメラに囲まれながら歩くゼレンスキー氏に出くわした。黒いトレーナーにカーキ色のズボンという「戦時大統領」のスタイルを貫いてはいるものの、疲労感や焦燥感を隠そうと力を振り絞っている様子というのが第一印象だった。ゼレンスキー氏の数分後、米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官も通り過ぎた。
疲労感や焦燥感の原因となっているのは、戦争の長期化による関心の低下、そして米欧諸国の「支援疲れ」とみてよいだろう。スピーチの会場となった会議施設のメインホールは満員になったが、前日の時点では、米国などの参加者から「ゼレンスキーが来るんですか。いつ会議に登場するんですか?」という声を聞いたのも事実だ。当日になって、報道陣が集まっている様子などを見て足を運んだ参加者もいたのではないかと思う。
世界の関心はイスラエルとハマスの戦闘に…中東関係のセッションは満員
傾向に拍車をかけているのは、昨年10月に始まったパレスチナ自治区でのイスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦闘だ。石油の生産地である中東全体を巻き込んで緊張が激しくなれば、世界経済への影響は避けられない。ちょうど会議直前には、戦闘開始以降、商船が多く通る紅海で無人機攻撃などを繰り返してきたイエメンの反政府勢力「フーシ」の拠点に対し、米国と英国が攻撃を実施した。企業幹部や経済分野の研究者らが多く集まるダボス会議では、中東諸国の要人のスピーチや、地域の動向に関するセッションが満員となっている。
「戦争を凍結しても、いずれは再燃する」と、停戦をかたくなに拒み、支援継続を呼びかけたゼレンスキー氏のスピーチは、世界の目を呼び戻そうとする悲痛な訴えとして響いた。WEFのボルゲ・ブレンデ総裁から「我々は何ができるか」と問いかけられ、「強い経済を作るために投資をしてほしい。国外にいるウクライナの人々が戻ってくるためには雇用が必要だ」と返したのは、経済の文脈で語るのが最も聞き手に響くとの判断も働いたのだろう。
ゼレンスキー氏はこの日、会議に参加するブリンケン米国務長官とサリバン氏や、欧州連合(EU)のウルズラ・フォンデアライエン委員長らと会談して支援継続を訴えている。企業幹部らとも直接面会して、投資を呼びかけた。
「私たちはどうしたらよいのか」ウクライナ市民にも焦り広がる
会場につながる目抜き通りで、多くの政府や企業のパビリオンが並んでいる中に、ウクライナの財団が設けている「ウクライナ・ハウス」という所がある。16日に開かれたトークイベントでは、軍で活動したウクライナ人女性たちが登壇した。その中の一人が、「武器を送ってほしい。そうすれば、世界とつながっていると感じられる」と国際的な支援に触れると、聞いていた別のウクライナ人女性からは、「外国人は皆聞き飽きてしまっている状況で、私たちはどうしたらよいのか」という声が上がった。国際的な関心の低下が自分たちをより苦しい状況に追い込みかねないとの焦りは、ゼレンスキー氏だけではなく、ウクライナの市民にも広がっている。
偶然、2022年9月にキーウを取材した際に知り合った、現地の女性から携帯にメッセージが届いた。ダボスでウクライナ関連の取材もしていると伝えると、「Thank you(ありがとう)」のあとに、「!」がいくつも並んだメッセージが返ってきた。

ダボス会議は、5日間で200以上のセッションが開かれるほか、会場周辺では参加者らが主催する関連イベントも行われます。紛争や社会の分断の深まり、自然災害の激甚化など、悲観的にさせられる出来事が世界を覆う中で、リーダーたちはどのような議論を展開するのでしょうか。日本メディアの代表の一人として、会議に参加する機会を得た記者が、日頃取材に携わっている国際情勢や、デジタル技術の活用を中心にリポートします。
●巡航ミサイルウクライナ追加供与 仏マクロン大統領が表明 1/17
フランスのマクロン大統領は16日に記者会見し、ウクライナに巡航ミサイル「スカルプ」約40発を数週間以内に追加供与すると表明した。2月にウクライナを訪問し、安全保障協力に関する2国間協定を締結するとも述べた。ロイター通信が報じた。
スカルプは射程が250キロ超で、フランスはこれまで約50発を供与した。ウクライナ軍はスカルプで戦果を上げている。
ウクライナとの2国間協定は、日本など先進7カ国(G7)を含む約30カ国が検討している。今月12日、英国が他国に先駆けて締結した。

 

●プーチン大統領「ロシアに主導権」ウクライナも徹底抗戦を強調 1/18
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を巡る状況についてロシア側に主導権があると主張し、ウクライナのゼレンスキー大統領も徹底抗戦の姿勢を改めて強調しました。来月で侵攻が始まって2年となりますが、戦闘のさらなる長期化は避けられない見通しです。
ウクライナ空軍が15日、南部のアゾフ海上空でロシア軍のA50早期警戒管制機を撃墜したと発表したことについて、イギリス国防省は、A50は、ロシアの偵察能力にとって非常に重要で、ロシアは、航空機の作戦区域を限定することを再考せざるを得なくなるだろうと分析しています。
一方、地上での戦闘もこう着状態にあると見られ、欧米からの支援が停滞するウクライナ軍は弾薬不足に直面しています。
ロイター通信は、東部ドネツク州のバフムト近郊にいる部隊の兵士が「前線を動かすにはもっと多くの弾薬や兵士、兵器が必要だ」と訴える声を伝えています。
ロシアのプーチン大統領は16日、「ロシア軍の手に完全に主導権があることは明らかだ」と主張した一方、ウクライナのゼレンスキー大統領も、スイスで行われている世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」で「戦争は、公正で安定した平和で終わらせなければならない」と述べ、ロシアを敗北に追い込むまで戦う姿勢を強調しました。
双方ともに一歩も譲らない構えで、来月で侵攻が始まって2年となりますが、戦闘のさらなる長期化は避けられない見通しです。
●北朝鮮“ロシアと緊密に協力” 外相とプーチン大統領会談で 1/18
北朝鮮は、チェ・ソニ外相とプーチン大統領の会談内容について、双方が緊密に協力していく立場を再確認したと発表しました。また、チェ外相は朝鮮半島情勢をめぐり、ロシア側と積極的に共同で行動していくことで一致したとしています。
北朝鮮は、17日までの日程でロシアを訪問したチェ・ソニ外相がプーチン大統領と16日に行った会談内容について、17日夜、国営テレビを通じて発表しました。
それによりますと、チェ外相はキム・ジョンウン(金正恩)総書記からの「温かいあいさつ」をプーチン大統領に伝え、プーチン大統領からはキム総書記への新年のあいさつが伝えられたということです。
そのうえで、伝統的な両国の親善関係で新たな全盛期を開くとともに、緊密に協力していく立場を再確認したとしています。
一方、キム総書記が招待している、プーチン大統領の北朝鮮訪問についての言及はありません。
またチェ外相とラブロフ外相との会談では、経済や文化などの分野で協力事業を進めるため、担当機関どうしの戦術的協力の強化についても議論したということです。
そして、朝鮮半島と北東アジア情勢をめぐって、積極的に共同で行動していくことで一致したとしていて、安全保障協力を深める日米韓3か国への対抗を念頭に、連携を一段と強化していく姿勢を強調しています。
●ロシア中西部で大規模デモ 警官隊が鎮圧 活動家の解放要求 1/18
ロシア中西部に位置するバシコルトスタン共和国で、拘束された活動家の解放を求めたデモが大規模化し、治安部隊が参加者を警棒で叩くなどして鎮圧する事態になっています。
デモは15日、バシコルトスタン共和国で拘束された活動家の解放を求めて裁判所前で始まりました。
独立系メディアなどによりますと、デモの参加者は日々、増えていき、マイナス30℃の気温のなか、最大1万人が参加したということです。
治安部隊は17日、閃光手りゅう弾を使用したり、警棒でデモ参加者らを叩いたりして鎮圧しました。
また、デモを報じているSNSのニュースチャンネルが閉鎖されました。
デモは当初、ウクライナへの侵攻とは直接関係がないとみられていましたが、17日になって反プーチン運動と関連付ける動きが表面化してきました。
プーチン大統領のスピーチライターだった政治評論家のアッバス・ガリアモフ氏は17日、地元住民だとする女性の映像を公開しました。
女性はウクライナで戦っている兵士に対して「あなたがプーチン大統領1人の野望のために戦っている間に住民は警棒で殴られている」と語り、地元を守るために戦場から帰還するように呼び掛けました。
独立系メディアによりますと、鎮圧にはロシアで最も訓練されている特殊部隊の一つとされる「グロム」が加わったということです。
2カ月後に控えた大統領選挙を意識して、ロシア当局がデモを強硬に鎮圧しようとしているという指摘が出ています。
●疲弊が進むウクライナ経済、二大スポンサー米国・EU次第で停戦も視野 1/18
・ロシアとの戦争を「総力戦」で臨んでいるウクライナだが、財政赤字が5割拡大するなど経済の疲弊は進んでいる。
・ウクライナの戦後復興支援に鑑みれば、国際機関や欧米が供与したウクライナ向けローンの大半を放棄しなければならないのではないか。
・納めた税金が、ウクライナの戦争や戦時経済体制の運営のために使われる欧米の納税者の忍耐もいつまで持つか。今年の米大統領選がターニングポイントとなって、戦争は停戦に向かうかもしれない。
ウクライナの実質GDP(国内総生産)は、2023年4-6月期に前年比19.5%増と6四半期ぶりにプラス成長に復した(図表1)。しかしこの動きは、2022年に実質GDPが約3割も減少したことの反動増に過ぎず、翌2023年7-9月期の実質GDPは前年比9.3%に成長率が低下しており、10-12月期にはさらなる低下が予想される。
他方で、ウクライナの消費者物価も、2022年10-12月期の前年比26.6%をピークに上昇率が低下に転じ、直近2023年10-12月期は5.1%まで上昇が落ち着いている。ただ、これもいわゆるベース効果に伴うディスインフレに過ぎず、このことをウクライナのマクロ経済が安定を取り戻していることの証左として評価することはできない。
   【図表1 ウクライナの実質GDPと消費者物価】
そもそもウクライナは、ロシアとの戦争を文字通りの「総力戦」で臨んでいる。ロシアの場合、ウクライナとの戦争で戦時経済体制への移行が進んでいるが、ウクライナはそれ以上に本格的な戦時経済体制へと既に移行している。そうした事実を踏まえたうえで、ウクライナのGDPや消費者物価の動きを冷静に評価する必要がある。
急速な戦時経済化は、財政赤字の急増にも表れている。
次ページの図表2にあるように、財務省の発表によれば、同国の2023年の財政赤字は1兆3300億フリヴニャ(約350億米ドル)となり、前年の8472億フリヴニャから5割増加した模様だ。歳入は2兆6700億フリヴニャで、うち税収は1兆6600億フリヴニャ、一方で歳出は4兆フリヴニャ超だった。
着実に低下するウクライナ財政の持続可能性
   【図表2 ウクライナの財政赤字】
歳出増の主因が軍事費にあることに疑いの余地はない。
2022年2月24日、ロシアに軍事侵攻を仕掛けられたことを受けて、ロシアとウクライナは交戦状態に入った。当初、ウクライナがすぐに敗北すると予想されていたが、今に至るまで、ウクライナはロシア相手に善戦している。一方で、その善戦による戦争の継続が、歳出の急増につながっている。
総力戦となれば、戦争の遂行を最優先に、経済のシステムを組み替えていく必要がある。そのカギを握るのは財政だ。現在、ウクライナの財政は、国際金融機関や欧米からの借り入れによって支えられている。その結果、同国の対外債務は2023年11月時点で前年比40.8%増となる896億米ドルに達するまで積み上がった(図表3)。
今後もウクライナが戦争を持続するためには、国際金融機関や欧米からの借り入れを増やしていく必要がある。一方で、国際金融機関や欧米は、ウクライナの戦後復興支援に鑑みれば、この間に貸し出したローンのかなりの部分をリスケジュールする必要がある。恐らく、供与したローンの大半を放棄せざるを得ないのではないだろうか。
   【図表3 ウクライナ政府の債務状況】
つまり、ロシアとの戦争が長期化すればするほど、国際金融機関や欧米は、返済される当てがないローンの供与を増やさざるを得なくなるわけだ。その最終的な負担は、各国の納税者に帰する。欧米の納税者の立場に立てば、納めた税金がウクライナの戦争や戦時経済体制の運営のために使われていることになる。
米欧で萎え始めたウクライナ支援の機運
したがって、米国ではバイデン大統領の率いる与党民主党がウクライナ支援に積極的となる一方で、財政タカ派の野党共和党がウクライナ支援に反対するのは当然の帰結だ。米国の政治家は米国の納税者を代表する立場であるから、米国民の血税をウクライナのために際限なく使うことはできないという共和党の立場には、一理ある。
その米国では、今年11月に大統領選が行われる。これがウクライナ支援の完全なターニングポイントになるだろう。ここで政権および上下両院を民主党が制しでもしない限り、米国が積極的なウクライナ支援を続ける展開は望みにくい。仮に共和党が政権を奪取した場合は、米国のウクライナ支援は急激に萎むのではないだろうか。
米国の大統領選の結果がどうなるかは分からないが、メガトレンドとしては、米国のウクライナ支援は減額方向にある。一方の欧州連合(EU)はウクライナに対して潤沢な財政支援を継続しようと試みているが、綻びが広がっていることも事実である。そのため、米大統領選の結果次第では、EUの支援スタンスにも変化が生じよう。
今のところ、EUの中でウクライナへの財政支援に対して反対の立場を公にしているのは、親露派のハンガリーだけである。同国の反対により、昨年12月のEU首脳会議では、ウクライナへの追加支援は見送りになった。EUのシャルル・ミシェル大統領は年明けの合意を目指しているが、ハンガリーが妥協に転じるか定かではない。
歴史的な経緯からウクライナに親近感を抱くポーランドのような国は例外として、概してEU各国の国民の間では、ウクライナに対する関心も薄らいでいるようだ。むしろ、ウクライナと近い国々では、同国産の安価な穀物の流入を巡って関係が緊張してさえいる。またスロバキアのように、ウクライナへの支援を見直す国も出始めた。
こうした環境の下では、仮に米国がウクライナ支援の大幅に削減したとして、EUだけでウクライナを支え続けることなど、まず不可能だろう。EUは今後も、表向きはウクライナに対する手厚い支援のスタンスを堅持するはずだが、米大統領選の動きいかんでは、そのスタンスを大きく修正せざるを得なくなるはずだ。
スポンサー離れが停戦のターニングポイントに
米国とEUという二大スポンサーが離れれば、ウクライナは戦時経済体制を運営することが困難となる。それを回避したいのがウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領であるし、それを狙っているのがロシアのウラジーミル・プーチン大統領と言えよう。いずれにせよ、欧米が永遠にウクライナを支援し続けることはあり得ない。
今年の2月24日で、ロシアとウクライナの戦争は3年目に突入する。ロシア国民もだが、ウクライナ国民の疲労こそ相当なものだろう。そもそも、ウクライナの戦時経済体制は、欧米からの財政支援がなければ持続しえない。こうした状況に鑑みれば、今年の米大統領選がターニングポイントとなって、戦争は停戦に向かうかもしれない。
●62%対88%、明暗を分けるゼレンスキーとウクライナ軍 1/18
ロシアとの戦争が続くなか、ウクライナでゼレンスキー大統領への支持が揺らいでいる。
国内でのゼレンスキーの支持率は2022年末時点では84%。だが、キーウ(キエフ)国際社会学研究所(KIIS)が昨年11月末〜12月上旬、成人1031人を対象に行った世論調査では62%に低下した。
一方、ウクライナ軍の支持率は96%で、ワレリー・ザルジニー総司令官を信頼する人の割合は88%。
ザルジニーは昨年11月、対ロシア戦は「膠着状態」だと発言したが、直後にゼレンスキーがその見解を否定し、両者の確執が取り沙汰された。
それでも「大統領は国民の圧倒的信頼を保持している」と、同研究所は指摘する。
84%  2022年末時点のウクライナ国内でのゼレンスキーの支持率
62%  昨年末時点でのゼレンスキーの支持率
88%  昨年末時点でのザルジニー総司令官の信頼度
●世界的課題が山積、ガザ情勢に「胸が張り裂ける」米国務長官 1/18
ブリンケン米国務長官は17日、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で、パレスチナ自治区ガザやウクライナでの戦闘、台湾を巡る緊張など、自身のキャリアにおいてこれ以上の世界的な課題に直面した時期は考えられないと語った。
ガザ情勢については「人々の苦しみに胸が張り裂ける」とし、「何をすべきかが問われている」と述べた。状況の解決に必要なものは「人々が望むものを与え、イスラエルと連携して効果を発揮する」統治機構を備えたパレスチナ国家の樹立との認識を示した。
中東諸国からは、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘をどのように終結させるかを巡る議論に米国が参加することを望む声を耳にしているとし、「米国とのパートナーシップにはこれまで以上に大きなプレミアムがある」と語った。
ロシアの侵攻が続くウクライナで近く停戦が実現する見通しがあるかという質問に対しては、米国は常に停戦の可能性にオープンとしつつも、停戦の実現については否定的な見方を示した。
また、中国の李強首相が16日の講演で、中国経済はビジネスに開かれており、海外企業にとっての投資の可能性を強調したことを受け、ブリンケン長官は米国がビジネスに関し中国政府と「非常に直接的かつ明確に」対応しているとし、米中間に相違はあるものの協力すべき分野もあると述べた。
13日に実施された台湾総統選以降高まっている緊張については、台湾海峡の重要性を強調した上で、台湾は世界で極めて重要な役割を担っているという認識を示した。
●「戦闘能力の変革必要」 NATO国防相会合で軍事委員長 1/18
北大西洋条約機構(NATO)の国防相会合が17日、ブリュッセルで始まった。2日間の日程。NATOのバウアー軍事委員長は、ロシアのウクライナ侵攻以降、世界が予測不可能な時代へと移り変わったと指摘し、NATOについても「戦闘能力の変革が必要だ」と訴えた。
バウアー氏は会合の冒頭で「ルールに基づく国際秩序が大きな圧力にさらされ、私たちはここ数十年で最も危険な世界に直面している」と警告し、NATOの防衛力を強化していく方針を示した。ロシアの侵攻を受けるウクライナを支えることが「民主主義を守る」ための戦いであることも改めて強調した。
ロシアによる侵攻が長期化するなか、ウクライナはNATOを軸とする欧米諸国に継続的な支援を求めている。主要7カ国(G7)は昨年7月、ウクライナへの長期支援を約束した国際的な枠組みを定めた共同宣言を発表した。英国のスナク首相は今月12日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、この枠組みに基づき初めてウクライナと2国間の安全保障協定を締結した。フランスのマクロン大統領も2月にウクライナを訪れ、同様の2国間協定を締結する考えを示している。 
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 1/18
ロシア イランと新条約締結へ 無人機などの攻撃強化か
ウクライナ空軍は18日、ロシア軍がイラン製の自爆型無人機33機で攻撃し、22機は迎撃したと発表しました。
また東部ハルキウ州ではミサイル攻撃も行われたとしていて、ロシア軍は連日、ミサイルと無人機を組み合わせた攻撃を続けています。
これに対し、ウクライナのカミシン戦略産業相は17日、自国で保有するソビエト製の兵器と欧米が供与したミサイルなどを組み合わせた防空システムで、イラン製無人機の迎撃に初めて成功したと発表しました。
この兵器は、怪物の「フランケンシュタイン」と地対空ミサイルを意味する「SAM」をあわせて「フランケンSAM」とも呼ばれ、ウクライナ軍は兵器や資金不足に直面する中、防空システムの強化を急いでいるものとみられます。
こうしたなか、ロシア外務省のザハロワ報道官は17日、記者会見で「ロシアとイランの新たな条約の承認が最終段階にある。国際情勢が変化する中、両国の関係はかつてなく高まっている」と述べ、イランとの包括的な戦略関係の強化に向けた新たな条約締結について最終調整が行われていると明らかにしました。
ロシアのプーチン大統領は12月、イランのライシ大統領をモスクワに招いて会談し、1月15日も両国の外務・防衛のトップがそれぞれ電話会談して結束を確認しています。
ロシアはイランから無人機だけでなく、弾道ミサイルの獲得を目指しているとされるほか、イラン側はロシアから戦闘機の購入を進めるなど軍事協力を加速させていて、欧米や、イランと対立する中東各国は一段と警戒を強めています。
ロシア・ウクライナ 双方一歩も譲らぬ主張
ロシアのプーチン大統領は16日、「ロシア軍の手に完全に主導権があることは明らかだ」と主張しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領も、スイスで行われている世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」で、「戦争は、公正で安定した平和で終わらせなければならない」と述べ、ロシアを敗北に追い込むまで戦う姿勢を強調しました。
双方ともに一歩も譲らない構えで、2月で侵攻が始まって2年となりますが、戦闘のさらなる長期化は避けられない見通しです。
英国防省 “ロシアは航空機作戦区域限定再考せざるをえない”
ウクライナ空軍が15日に南部のアゾフ海上空でロシア軍のA50早期警戒管制機を撃墜したと発表したことについて、イギリス国防省は、A50はロシアの偵察能力にとって非常に重要で、ロシアは航空機の作戦区域を限定することを再考せざるをえなくなるだろうと分析しています。
ウクライナ軍 弾薬不足に直面か
地上での戦闘もこう着状態にあるとみられ、欧米からの支援が停滞するウクライナ軍は弾薬不足に直面しています。
ロイター通信は、東部ドネツク州のバフムト近郊にいる部隊の兵士が「前線を動かすにはもっと多くの弾薬や兵士、兵器が必要だ」と訴える声を伝えています。
●プーチン氏、イラン大統領と新条約調印へ 戦略的関係を強化 1/19
ロシア外務省は17日、プーチン大統領とイランのライシ大統領が近く新たな二国間条約に調印すると明らかにした。両国は政治・貿易・軍事面で関係を強化しており、米国とイスラエルの懸念材料となっている。
プーチン氏は先月、ロシア大統領府(クレムリン)で5時間にわたりライシ氏と会談した。
ロシア外務省のザハロワ報道官は17日、新条約は両国間の戦略的パートナーシップを調整し、関係全体を網羅すると説明。「現在の条約調印以来、国際的な文脈が変化し、両国関係は前例のない進展を見せている」と述べた。
その上で、新条約調印は今後大統領間で連絡が取られた際、いずれかのタイミングで行われると述べた。
大統領府は11月、ロシアとイランは「軍事技術面を含めた」関係を構築していると明らかにしたが、イランがロシアへの弾道ミサイル提供を検討している可能性があるとする米政府の指摘にコメントを控えた。
●ロシア イランと新条約締結の最終調整 軍事協力に欧米など警戒 1/18
ロシア軍はイラン製の無人機でウクライナ各地への攻撃を続けています。ロシア外務省は、イランとの間で新たな条約締結に向けて最終調整が行われていると明らかにし、両国の軍事協力に対し欧米などは警戒を強めています。
ウクライナ空軍は18日、ロシア軍がイラン製の自爆型無人機33機で攻撃し、22機は迎撃したと発表しました。
また東部ハルキウ州ではミサイル攻撃も行われたとしていて、ロシア軍は連日、ミサイルと無人機を組み合わせた攻撃を続けています。
これに対し、ウクライナのカミシン戦略産業相は17日、自国で保有するソビエト製の兵器と欧米が供与したミサイルなどを組み合わせた防空システムで、イラン製無人機の迎撃に初めて成功したと発表しました。
この兵器は、怪物の「フランケンシュタイン」と地対空ミサイルを意味する「SAM」を合わせて「フランケンSAM」とも呼ばれ、ウクライナ軍は兵器や資金不足に直面する中、防空システムの強化を急いでいるものとみられます。
こうした中、ロシア外務省のザハロワ報道官は17日、記者会見で「ロシアとイランの新たな条約の承認が最終段階にある。国際情勢が変化する中、両国の関係はかつてなく高まっている」と述べ、イランとの包括的な戦略関係の強化に向けた新たな条約締結について最終調整が行われていると明らかにしました。
ロシアのプーチン大統領は先月イランのライシ大統領をモスクワに招いて会談し、今月15日も両国の外務・防衛のトップがそれぞれ電話会談して結束を確認しています。
ロシアはイランから無人機だけでなく、弾道ミサイルの獲得を目指しているとされるほか、イラン側はロシアから戦闘機の購入を進めるなど軍事協力を加速させていて、欧米や、イランと対立する中東各国は一段と警戒を強めています。
●ロシアの凍結資産、ウクライナ再建に回すよう主張 ゼレンスキー大統領 1/18
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は16日、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダヴォス会議)で演説し、各国の銀行が凍結しているロシア資産の一部をウクライナ再建に回すよう訴えた。
主要7カ国(G7)は、2020年にロシア資産を凍結して以降の資産の値上がり分と利子のみについて、ウクライナに引き渡すことを検討している。
しかしゼレンスキー氏は、全資産が使われるべきだとBBCの取材で主張。「世界に3000億ドルあるなら、なぜそれを使わないのか」と訴えた。
一方、欧州各国の中央銀行は、金融機関にとっての安全な資金避難先としての地位を損なうことを懸念しているとみられる。
ロシア資産引き渡しについては、米英政府が熱心に支持しているのに対し、欧州各国の中央銀行は、国際金融の安定を損ないかねない微妙な法的前例をつくるとして、はるかに懐疑的だ。仮に認めれば、他の国々が安全に避難させたい資金を西側諸国に預けることをためらうことになりうる。
凍結したロシア資産の大部分を保有しているのが、欧州準備金の決済システムの役割を担っているベルギーだ。同国はすでに、いくつかのファンドに課金し、ウクライナに20億ユーロを調達している。積極派からは、凍結資産が3600億ドル近くに上ることや、現在の高金利を考慮すれば、数百億ドル規模の資金を調達できるとの声も出ている。
「再建のために使うべき」
ゼレンスキー氏は、スイス・ダヴォスで開かれているダヴォス会議の会場でBBCの取材に応じ、ウクライナでの戦争のコストを西側諸国の納税者に負担させるべきではないと話した。
「凍結されたロシア資産は3000億ドルある。ロシアはウクライナを破壊した。(中略)ロシア資産が3000億ドルあるなら、ロシアのミサイルによって破壊されたものの再建のために、それを直接使うべきだ。(中略)なぜ各国は支援の方法を考えなくてはならないのか。(中略)世界に3000億ドルあるなら、なぜそれを使わないのか」
ゼレンスキー氏はダヴォス会議で、米金融大手JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)や米投資会社ブラックストーンのスティーヴン・シュワルツマンCEOなど、米ウォール街の大物らと会談した。
英銀行スタンダード・チャータードのビル・ウィンターズCEOは、ロシアの凍結資産が生み出す利益を差し押さえることについて、中央銀行や通貨の「兵器化」が懸念されている状況では、世界の金融界は「複雑」な反応を示すだろうと、BBCに述べた。
「正しいことをするために価値があるという意見もあるかもしれない。私たちの多くは、人として、それが正しいことだと同意するだろう。だが、中央銀行には懸念を抱く権利があると思う」
「長期的には、米ドルが中心的な役割を担っていることから、米ドルの効果的な兵器化について私たちは気をつけなければならない。制裁措置を通して、すでにかなり兵器化されている。これ(凍結資産の利用)はそれをさらに拡大するだろう」
ゼレンスキー氏はダヴォス会議の演説で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が領土にしか関心がないことを、西側の一部は否定していると主張。また、ウクライナはヨーロッパを防衛しており、さらなる支援が必要だと訴えた。
●ロシア外相、米国との水面下での接触認める 「昨年、考えを伝えた」 1/18
ロシアのラブロフ外相は18日、外国メディアも参加した記者会見で、ウクライナ侵攻で停止している米国との協議について「米欧が、ロシアの安全保障と利益を損なう悪意ある路線を撤回することが絶対の条件だ」と主張し、昨年12月、こうした考えを米国側に文書で伝えたと明らかにした。
侵攻後、米国とロシアの協議は、偶発的な軍事衝突の回避が目的のもの以外はほぼ止まっているが、水面下での接触が続いていたことを認めたことになる。
ただ、ラブロフ氏は対話再開について「国際的な安全保障や戦略的な安定と切り離せない」とも強調。ロシアが侵攻前から強硬に主張している北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大の停止などを指すとみられるが、米国がロシア側に譲歩するのは現時点では難しい。
米ロの協議については、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が昨年12月、ロシアのプーチン大統領が、領土の維持を前提として停戦に前向きな姿勢を水面下で示しており、第三国を通じて米国にも伝えられていると報道していた。
●韓米日高官がソウルで会談、ロシアとの武器取引で北朝鮮を非難 1/18
韓国、米国、日本の核問題担当高官が18日にソウルで会談し、最近のミサイル実験、ロシアとの武器取引、敵対的な発言の増加について北朝鮮を非難した。
米国のジュン・パク北朝鮮担当高官は冒頭、ロシアへの武器移転、北朝鮮の人々に対する人権侵害で協調行動が必要だと指摘。北朝鮮から特に韓国への敵対的なコメントが最近増えていることにも深い懸念を抱いていると述べた。
日本外務省の鯰博行アジア大洋州局長は、北朝鮮による弾道ミサイル発射を非難したほか、ロシアが北朝鮮に武器の見返りとして何を提供するのか、綿密に監視する必要があると述べた。
●ロシア南西部で活動家の解放求めるデモ拡大、群衆数千人と警察が衝突… 1/18
ロイター通信などによると、ロシア南西部のバシコルトスタン共和国の町で17日、有罪判決が出た活動家の解放を求めるデモ活動が拡大し、数千人の群衆と警察が衝突した。逮捕者が出ているとみられる。ロシアのウクライナ侵略開始以降、集会に関する当局の規制は厳しくなり、大規模な抗議行動が起きるのは異例だ。
衝突が起きたのは、モスクワの東方約1400キロ・メートルの町バイマク。裁判所が地元の活動家フェイル・アルシノフ氏に民族憎悪を扇動した罪で禁錮4年の判決を言い渡した後、抗議する群衆が裁判所を取り囲んだ。SNSの映像では、催涙ガスから逃げる人々や出動した警察が群衆を警棒で殴る様子を捉えている。
国の捜査当局は刑事事件として捜査を始めたと発表した。プーチン大統領は3月の大統領選で通算5選が確実視されているが、国民の不満が高まるのを警戒している模様だ。
●ロシア、軍事部品3兆円輸入 昨年、中国やトルコ経由 1/18
ウクライナ侵攻で欧米から厳しい経済制裁を受けるロシアが昨年1〜10月、222億ドル(約3兆2800億円)を超す軍事転用可能な機械部品を輸入していたことが18日までに分かった。ウクライナのシンクタンクと米国の研究者が共同調査し、報告書を公表した。約3割が日本を含む西側企業の生産で、大半が中国やトルコを経由してロシアに流れていた。
機械部品は集積回路(IC)や通信機器、センサーなどで、無人機やミサイル、装甲車の製造に使用できる。ロシアが欧米の制裁をかいくぐる形で調達している実態が浮き彫りになった。
●動けないウクライナ軍、兵力不足に厳しい冬が追い打ち 1/18
ロイターは16日、ウクライナ東部バフムト近郊に展開するウクライナ軍を取材した。兵士らは弾薬や武器、人員不足に加え、冬の厳しい寒さによってロシア軍の進軍を防ぐのがより困難になっていると話す。
最前線に近いウクライナ東部バフムト周辺では、凍てつく冬も敵だ。兵士のミハイロさんは、それがロシア軍の攻撃に対し防御態勢に切り替えた理由の1つであると語った。「悪天候でいいことは何ひとつない。ドローンを飛ばすのも難しくなる。偵察活動は最低限の規模となり、主に歩兵が肉眼で確認できるものに頼ることになる」
ウクライナ軍はこうした問題に加え、弾薬や武器の不足、そして兵士の不足が攻撃能力を低下させているという。供与された西側兵器も、厳しい気象条件によっては苦戦を強いられると話す。
ウクライナの反攻作戦は昨年、占領された東部と南部で、ロシアの厳重な防衛線を突破することはできなかった。ロシアの全面侵攻からまもなく2年を迎える。ウクライナは、より多くの大砲を供給するよう支援国に求めている。
兵士のパブロさんは、現時点では敵の進撃を食い止めているだけだと話す。「前進するためには、前線を動かすためには、弾薬も必要だし兵力ももっと必要だし、武器も必要だ。それが手に入らないなら、我々はどこにも動けない。我々に資源がないことを敵が理解すれば、簡単に圧力をかけられる。他国が我々を支援して、弾薬や人員、武器を提供してくれればわれわれは成功するだろう。現時点でわれわれは弾薬が不足しているので、あまり撃てない。1日に5発だとか10発だとか20発もの砲弾を撃つことはこのところずっとない」
米国と欧州連合(EU)はそれぞれ、内部の政治的な対立によって数カ月にわたってウクライナに対する軍事・財政面の支援パッケージが保留されたままになっている。ウクライナは、最終的にこれらが実現することを期待している。
ウクライナ陸軍の司令官は、東部・南部の戦線ともに人員や弾薬の節約のため、反攻作戦は小規模な戦闘にとどまっていると述べた。

 

●「プーチン大統領は臆病者」批判…軍事ブロガーに懲役4年11カ月求刑 1/19
ロシアのプーチン大統領を「臆病者」と称するなど批判文を作成した疑惑で裁判にかけられたロシアの有名軍事ブロガーに検察が懲役4年11カ月を求刑した。
18日(現地時間)、インテルファクス通信によると、ロシア検察は極端主義を扇動した容疑で起訴された民族主義派の軍事ブロガー、イーゴリ・ギルキン氏に懲役4年11カ月を求刑した。また、3年間インターネットなど通信網でウェブサイトを管理する権利も剥奪してほしいと裁判所に求めた。
「ストレロフ」という仮名で知られるギルキン氏はソーシャルメディアでプーチン大統領を「愚か者」「臆病者」などと呼んで批判する書き込みを掲載していたが、昨年7月極端主義活動扇動の疑いで逮捕され起訴された。
連邦保安局(FSB)大佐出身のギルキン氏は2014年、ロシアがウクライナのクリミア半島を合併する際に大きな功績を残し、その後ウクライナ東部地域で親ロシア反軍を組織したことに貢献した人物だ。
その後、軍事ブロガーとして活動したギルキン氏は、ロシアのウクライナ「特別軍事作戦」を支持しながらも、プーチン大統領と軍首脳部がより積極的に攻勢に出なければならないとし、公開的に批判の声をあげてきた。
ギルキン氏は昨年11月、「クレムリンの計画を妨害する可能性がある」と述べ、3月大統領選への出馬の意思を明らかにした。
●プーチン大統領は高騰する卵の価格を抑えようと躍起 1/19
・卵やその他の日常的な食料品の価格が高騰するなど、ロシアのプーチン大統領はインフレと戦っている。
・街には旧ソ連時代を彷彿とさせる行列ができ、人々は食料品を大量に備蓄しようとしている。
・これを受け、ロシア政府は輸入関税を引き下げ、アゼルバイジャンやトルコから卵を購入している。
ウクライナとの戦争が続く中、ロシアのプーチン大統領は卵の価格高騰を抑えるというもう1つの戦いに挑んでいる。
ロシア政府はインフレに拍車をかけ、旧ソ連時代を彷彿とさせるスーパーの長蛇の列を引き起こしている日常的な食料品の価格高騰を抑えようと躍起になっている。
中でも「卵」はロシアが直面する経済的な混乱を象徴していて、ロシア国家統計庁(Rosstat)のデータによると、その価格は2023年11月までの1年間で42%上がった。
あまりに高価なため、地域によっては店が卵をばら売りするようになり、Telegraphによると、1個20ルーブル(約33円)することもあるという。バナナやオレンジ、トマトといったその他の日常的な食料品の価格もここ1年で高騰している。深刻な労働力不足やエネルギー価格の高騰、ルーブルの下落などが影響している。
2022年2月にウクライナに侵攻して以来、外国企業の撤退や西側諸国による制裁にもかかわらず、ロシア経済は底堅く推移している。2023年7〜9月期の国内総生産(GDP)は前年同期比で5.5%増と、2022年からの落ち込みを取り戻した。失業率は記録的な低水準となっている。
ただ、2024年3月に予定されている大統領選に向けて準備を進めるプーチン大統領にとって、食料品価格の高騰は"頭痛の種"となっている。
旧ソ連時代を彷彿とさせる「行列」
キエフ・ポストによると、12月にテレグラムに投稿された動画は、ウクライナとの国境から25マイル(約40キロ)ほど北に位置するベルゴロドのスーパーで10個入りの卵が100円前後で売られていて、何百人というロシア人が雪の中、行列に並ぶ様子を捉えている。
他にも、ウクライナのアントン・ヘラシチェンコ(Anton Gerashchenko)内相顧問がX(旧Twitter)に投稿した動画は、モスクワから500マイルほど南東に位置するサラトフで何百人もの人々が卵を買いだめしようとしている様子を捉えている。
1991年よりも前に生まれたロシア人にとってスーパーの長蛇の列は、度重なる深刻な食料不足の影響で大行列や買いだめが常態化していた旧ソ連時代の記憶を呼び起こすかもしれない。
政府の対応
ロシア中央銀行は12月、インフレに対応すべく政策金利を16%に引き上げた。インフレ率は依然として、中銀目標の4%から大きく乖離している。
しかし、ロシア政府は卵の価格を抑えるために具体的な政策も打ち出している。
12月には卵の輸入関税を一時的に撤廃し、隣国のアゼルバイジャンとトルコからの輸入を開始した —— ただ、当局は先週、トルコから輸入した卵の20%以上が鳥インフルエンザに感染している可能性が高いと警告した。
一方、プーチン大統領は年末の国民との直接対話のイベントで、卵や鶏肉価格の高騰に対する年金生活者からの不満の声を受け、国民に対して珍しく謝罪する場面もあった。
「申し訳ないがこれは政府の失敗だ。近い将来、この状況を正すことを約束する」とプーチン大統領は発言したとロイターは伝えている。
3月に大統領選を控えたプーチン大統領が示した驚くべき"遺憾の意"は、大統領が卵の価格危機をどれほど深刻に受け止めているかを表している。
●北朝鮮外相、プーチン大統領に会って帰国…「露朝偵察衛星協力を協議か」 1/19
ロシアを訪れた北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相が公式訪問を終えて19日、平壌(ピョンヤン)に帰国したと、朝鮮中央通信が報じた。
14日にモスクワに到着した崔外相は、プーチン大統領、アレクサンドル・ノヴァク副首相、セルゲイ・ラブロフ外相に会う日程などを消化し、18日にモスクワを発った。
崔外相は16日昼にラブロフ外相と会談し、同日午後にクレムリン宮でプーチン大統領を表敬訪問して露朝外相会談の結果を報告したとロシア大統領府が17日、明らかにした。
ロシア大統領府は面談内容を公開していないが、当時、崔外相の随行員が「宇宙技術分野参観対象目録」と書かれた書類を持っていた点から見て、偵察衛星協力方案などを議論したものと推定される。
プーチン大統領は昨年9月、ロシアで開かれた露朝首脳会談で、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の招待を受けた。プーチン大統領は金正日(キム・ジョンイル)政権時代の2000年7月に北朝鮮を訪問したことがある。
●ロシア政府、英国との漁業協定破棄承認 1956年締結 1/19
ロシア政府は18日、旧ソ連時代の1956年に英国と結んだ漁業協定を破棄する案を承認したと発表した。
同協定は英国の漁船がタラなどの漁業資源が豊富なバレンツ海周辺で操業することを認めるもの。
ロシア紙イズベスチヤによると、英国がロシア経済にダメージを与えようとしていることへの対応。協定の破棄には議会とプーチン大統領の承認が必要になる。
●冷戦後最大の演習実施へ 9万人規模、ロシアの攻撃想定―NATO 1/19
北大西洋条約機構(NATO)は18日、来週から5月まで、約9万人の兵士が参加する大規模な軍事演習「ステッドファスト・ディフェンダー(不動の守護者)」を実施すると発表した。冷戦中の1988年に12万人以上が動員された「リフォージャー演習」以降で最大規模。
今回の演習には、全加盟31カ国と加盟手続き中のスウェーデンが参加。DPA通信によると、加盟国がロシアから攻撃を受け、NATO全体への攻撃と見なして即応する想定で行われる。カボリ欧州連合軍最高司令官は「部隊が北米から大西洋を横断して欧州・大西洋地域(の防衛)を強化する能力を実際に示す」と説明した。
●ロシア・ウクライナ戦争、大きく動いていない=NATO高官 1/19
北大西洋条約機構(NATO)のロブ・バウアー軍事委員長は18日、ロシアとウクライナの戦争は現在、「大きく動いていない」状態にあると述べた。
また「どちらか一方に奇跡が起きることを期待すべきではない」とした。
最近のロシアによる攻撃については「破壊的だが、軍事的に効果的ではない」とした。
●ロシア外相「欧米がロシアに配慮した解決策を望んでいない」 1/19
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのラブロフ外相は「欧米がロシアの懸念に配慮した解決策を望んでいない」と述べ不満を示しました。一方、ショイグ国防相は軍需工場を視察してミサイルの生産を強化するよう指示しました。
ロシアのラブロフ外相は18日、首都モスクワで外国メディアも招いて会見し、ウクライナへの支援を続ける欧米について「ロシアの正当な懸念に配慮した解決策を望んでいない」と述べ不満を示しました。
そして、このような状況の中では、アメリカとの核軍縮を含む戦略的安定の対話は「不可能だ」と述べました。
また、ウクライナへの軍事侵攻が、3月のロシアの大統領選挙に与える影響について、ロシアの人々は団結し、欧米による制裁にも関わらず産業が成長しているとして「よい影響を与えている」と述べました。
一方、ショイグ国防相は、18日、モスクワ州にあるミサイルの製造工場を視察しました。
この中でショイグ国防相は、射程を伸ばした新しいミサイルの生産を強化するよう指示し「そのようなミサイルを十分に保有することが重要だ」と強調しました。
ロシアはウクライナ侵攻の長期化を見据え、ことしの国家予算のおよそ3割を国防費にあてるなどして、兵器の生産能力を強化しています。
●2024年世界経済成長率は2.4%、3年連続の鈍化、国連と世界銀行の見通し 1/19
国連経済社会局(UN DESA)は1月4日に「世界経済状況・予測」を、世界銀行は1月9日に「世界経済見通し」〔プレスリリース〕をそれぞれ発表した。2023年の世界経済成長率(実質GDP伸び率)は、UN DESAが2.7%、世界銀行は2.6%としたが、2024年については双方ともに2.4%と予測し、2022年以降3年連続で前年と比べて鈍化した。前回見通しとの比較では、UN DESAが0.4ポイント(前回:2023年5月)、世界銀行が0.5ポイント(前回:2023年6月)の上方修正となった。
UN DESAは、2023年は「最悪のシナリオを回避した」とした。他方で、新型コロナウイルス禍以前の3%成長を下回る低成長が続くと予想する。労働市場は欧米で回復基調を示すものの、大半の国・地域で賃金上昇がインフレを相殺できていないと指摘。また、UN DESAは、途上国で2023年に食料不安を経験した人口を2億3,800万人(前年比2,160万人増)と推計している。
世界銀行は、好調な米国経済を主因に、世界同時不況のリスクが後退した点について、1年前と比較して好転した指標だと評価したが、2024年末までの5年間の経済成長率は「過去30年で最も低い」とした。長引く金融引き締めや、停滞する世界貿易と投資の影響を指摘した。2023年の世界の財・サービス貿易の伸び率を0.2%増と推計し、2009年と2020年の世界的な不況を除き、過去50年で最低とした。
UN DESAの報告書を基に国・地域別の経済成長率をみると、先進国では、米国(2024年のGDP成長率見通し:1.4%)が「深刻な下方リスクに直面する」とした。家計貯蓄の縮小や高金利、労働市場の軟化を受けて、これまで成長を支えた個人消費が弱まり、投資も低迷するとみている。EU(1.2%)も課題を抱え、インフレ緩和や賃金上昇を通じた個人消費の改善で回復基調にあるとする一方、緊縮財政や金融支援策の終了が成長を押し下げるとした。
新興国では、中国(4.7%)経済は2023年下半期に「峠を越えた」とするものの、不動産部門が依然として弱く、国外需要の低迷も伴い、緩やかな成長が予想される。東アジア(4.6%)は引き続き堅調な個人消費を見込み、観光業などサービス輸出も回復しているが、世界全体の需要減が地域の成長源の財輸出を押し下げる見通し。インド(6.2%)は主要経済で最も急速な成長を続けていると指摘。国内需要が力強く、製造業とサービス業の成長も底堅いとしている。
世界銀行は今後の見通しについて「(2024年からの)2年間の見通しは暗い」と予測する。下振れリスクが優勢とし、中東情勢やウクライナ紛争などの地政学リスクに対し、「対立が激化すれば、エネルギー価格の高騰を招き、世界の経済活動やインフレに大きな影響を与え得る」と指摘した。2025年の世界経済成長率は、UN DESA、世界銀行ともに2024年よりわずかに回復し、2.7%と予測している。 
●駐日ロシア大使にノズドレフ氏 プーチン大統領が任命 1/19
ロシアのプーチン大統領は19日、同国外務省で日本などを担当するアジア第3局長のニコライ・ノズドレフ氏を新たな駐日大使に任命する大統領令に署名した。政府の公式サイトで公表された。
ノズドレフ氏は1994年にモスクワ国際関係大を卒業後に外務省入りし、2010〜15年に在オーストラリア大使館参事官。15〜18年にアジア第3局次長を務め、18年2月に同局長となった。日本語に堪能。東京の在日ロシア大使館では、ガルージン前大使(現外務次官)が22年11月に離任後、後任の大使が着任せず空席となっていた。
日本の武藤顕駐ロシア大使は昨年12月に着任していた。
●ウクライナがロシアに無人機攻撃 プーチン大統領の別荘の上空飛行も 1/19
ウクライナ軍はおよそ1000キロメートル離れたロシア領内の石油施設に無人機攻撃を実施したと発表しました。うち1機はプーチン大統領の別荘の上空を飛行したということです。
ウクライナメディアは18日、ウクライナの国防省情報総局がロシアの第2の都市、サンクトペテルブルクの石油貯蔵施設を無人機で攻撃したと報じました。
そのうち1機は、ロシアのプーチン大統領が所有するとされる別荘の上空を飛行したということです。
ウクライナのカミシン戦略産業相は、攻撃を認めたうえで「我々は、サンクトペテルブルクまで飛行する物を作ることができる。無人機は1250キロメートル飛行した」と述べ、長距離の標的もウクライナ軍の射程内にあることを誇示しました。
一方、ロシア国防省は18日、「モスクワ近郊とサンクトペテルブルクがあるレニングラード州の上空で、無人機2機を迎撃した」と述べ、攻撃は失敗したと主張しました。
●プーチン大統領の娘が異例のメディア出演...無神経な発言に批判の声 1/19
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の娘であるマリヤ・ボロンツォワが、2023年12月にインタビューに応じていたことが分かった。プーチンの家族がメディアに出るのは、きわめて異例のこと。「最も価値があるのは命」などの発言をめぐり、ネット上では多くの批判の声が飛び交っている。
ボロンツォワは2023年12月16日に、医療系の非営利団体「Medtech」のインタビューに応じ、世界的な医療の進歩や文学、音楽芸術への関心について42分間にわたって語った。
彼女がインタビューに出演することは、ロシアの人気ソーシャルメディア「フコンタクテ」で大々的に宣伝されたものの、ユーチューブ上で公開された動画の視聴回数は、1月12日の時点で1万回に達していなかった。
長年公の場に姿を見せて来なかったボロンツォワはインタビューの中で、ロシアは「経済中心の社会」ではなく「人間中心の社会」であり、「最も価値があるのは人間の命だ」と語った。彼女がプーチンの娘だという紹介はなく、会話の中にも出てくることはなかった。
ボロンツォワは、プーチンと2013年に離婚した最初の妻リュドミラ・シュクレブネワの間に生まれた二人の娘のうちの一人だ。ボロンツォワも妹のカテリーナ・チホノワも、それぞれ子どもがいる。プーチンが二人を自分の娘だと公に認めたことはなく、ロシア政府も二人の生活に関する詳しい情報は一切公表して来なかった。ボロンツォワがロシアによるウクライナ侵攻について公にコメントしたことはない。
「前線に送られた兵士の命は」など批判的なコメント
複数のX(旧ツイッター)ユーザーは、今回のインタビューでボロンツォワがロシア社会における人間の命の価値について発言したことに注目。父親であるプーチンが、もう2年近く続いているウクライナでの戦争に対して強硬姿勢を貫いているなか、偽善的な発言だと示唆した。
英BBCのジャーナリストであるフランシス・スカーは12日、「彼女の父親の『部分動員』によってバフムトやマリインカの前線に派遣された人々は、彼女の意見に賛同するだろうか」とXに投稿した。
ロシア、ベラルーシやウクライナの外交政策を取材しているジャーナリストのニコラ・ミコビッチは11日に、「私たちにとって最も価値あるものは人間の命だ――プーチンの娘であるマリヤ・ボロンツォワの発言」と投稿。「もちろんそうだ。特に厳重に要塞化されたウクライナ軍の拠点に突入させられたロシア軍の兵士たちの命が」と書き込んだ。
インタビュアーは過去にモスクワ市長の下で勤務
米当局者らは2023年12月、2022年2月24日のウクライナ侵攻から始まった今回の戦争におけるロシア軍の死傷者は31万5000人にのぼっているとの推定を明らかにした。これは戦争が始まる前のロシア軍の要員の87%に相当する数だ。プーチンは2022年9月に部分動員令を発令し、30万人の予備役を招集している。
ウクライナの市民団体によれば、2023年11月までに確認されたウクライナ軍の死者は2万4500人に達した。米ニューヨーク・タイムズ紙は2023年8月に、複数の米当局者(匿名)の話として、ウクライナの総死者数は7万人近くに達していると報じていた。
今回ボロンツォワにインタビューを行ったのは、非営利団体「Medtech」モスクワ支部のCEOを務めるビヤチェスラフ・シュレニンだ。ロシア語の独立系メディア「Agentstvo」によれば、シュレニンは2013年から2017年までモスクワ市長事務所で働いていた。同事務所での最終職位は第一副首席補佐官だった。
●「ウクライナ危機」表記を修正 1/19
ウクライナメディア「ウクラインスカ・プラウダ」は19日、ロイター通信がロシアによるウクライナ侵攻をウェブサイトで「ウクライナ危機」と表記していたとして修正を求めたと明らかにした。「ウクライナ危機」の表現はロシアの公人や主要メディアが侵攻を正当化するために多用しているプロパガンダだと訴えた。
ロシアのプーチン大統領は侵攻を「ウクライナ危機」と表現してきた。ロシアとは関連がないウクライナの国内問題と印象付ける狙いがあるとみられる。
ウクラインスカ・プラウダによると、問題となったのはニュースを分類する項目の表記。ロイターは指摘を受け「ウクライナとロシアの戦争」に改めた。
●「町の再建」か「戦争の勝利」か、復興の順序巡り割れるウクライナ 1/19
ウクライナ東部のトロスティアネツは、戦後の大規模な復興に必要な技術と経験を蓄積することを目的に、国家予算を充てて町を再建する試験的なプロジェクトの実施都市に選ばれた。市長は、町に活気を取り戻したいとして中央広場や交通ターミナルの再建を始めた。しかしこうした復興事業に対し、「何よりもまず勝利」だとして反対する声も上がっている。
取材で訪れた際、トロスティアネツでは交通ターミナル再建のため、ショベルカーが忙しく土砂やがれきの撤去を進めていた。
トロスティアネツは、ロシアとの国境から32キロほどしか離れておらず、およそ2年前の戦闘で大きな被害を受けた。
ユーリイ・ボヴァ市長は町が活気を取り戻さなければ、何百万人ものウクライナ人が祖国の復興を果たすことなく海外に永住してしまうのではないかと危惧する。また国民は日々、破壊を目の当たりにすることで、心に傷を負っている、とも述べた。
トロスティアネツ ボヴァ市長「今日、私たちは帰還すべきすべての人々のために戦っている。帰還し、ここで未来を築く必要のあるすべての子どもたちのために。わが軍の兵士たちは、この人たちのために戦っている。抽象的な目的のためではなく、彼らのため、そしてこの国の未来のために。しかし人口のない国、あるいは活動的な人口が海外に移住し、高齢の女性だけが残された国を想像することは不可能だ。そんなことはあり得ない。だから私たちは今日やらなければならないし、わが町の事例こそが、おそらく人々を呼び戻すきっかけになるだろう」
しかし戦争は一向に収まる気配がない。そして誰もが復興を優先すべきだと考えているわけではない。
近くの町オフチルカに住むアントニーナ・ドミトリチェンコさんは、人々はウクライナ軍を支援するために、ギリギリまで節約していると話す。「何よりもまず勝利」と彼女は言う。
オフチルカのパブロ・クズメンコ市長は、トロスティアネツの再建方法を公然と批判している。
オフチルカ クズメンコ市長「トロスティアネツが選ばれたのは嬉しかった。しかし、再建されるのは人々の住宅や重要なインフラ施設であり、中央広場や道路ではないと思っていた。広場とその美しさは、戦争の後からでも十分に再建可能だ」
近隣の町同士の見解の相違は、戦時中の財政支出に対して、ウクライナ国民の意見が分かれていることを反映している。当局に対し、道路や公共スペースの美化にかける予算を凍結し、その資金を軍事費に拠出するよう求める草の根運動が広がりを見せている。
こうした動きを背景に、南部オデーサの当局は昨年末、予定していた道路の補修やスタジアムの改修などは戦時下に「認められるものではない」として、合計約13億4000万円の入札を取り消した。
●中国首相、ゼレンスキー大統領と会談拒否か ダボス会議閉幕 1/19
スイス東部のダボスで開催中の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)が19日、閉幕した。ロシアによるウクライナ侵略後、初めて対面出席したゼレンスキー大統領はロシアとの協力を強化する中国に対し、和平案の協議への参加を要求。和平に向けた議論の進展が期待されたが、ゼレンスキー氏と中国の李強首相の会談は実現しなかった。中国側が拒絶したとの見方もあり、世界経済に影を落とす侵略の終結が見通せない状況だ。
2つの戦乱終結の糸口を
15日に開幕したダボス会議は地政学リスクが主要議題となった。ゼレンスキー氏や李氏のほか、ブリンケン米国務長官、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長らが集結。ウクライナ侵略や、イスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘などについて討議した。
ロシアが2022年2月に開始したウクライナ侵略は高インフレを引き起こした。さらに、エネルギーの重要な供給源である中東地域で戦闘が拡大すれば「世界的な景気後退につながる恐れもある」(米ブルームバーグ通信)。欧州経済の専門家は「首脳らはダボス会議で世界経済を揺るがす2つの戦乱を終わらせる糸口を模索した」とみる。
EUの後押しも
会議開幕に先立ち、ウクライナ侵略の終結に向けた道筋を話し合う国際会合が14日にダボスで開催。80カ国以上の国・機関代表が出席した。ゼレンスキー氏は15日、同氏が掲げる領土回復や戦争犯罪の処罰など10項目の和平案「平和のフォーミュラ(公式)」を協議する首脳級の「世界平和サミット」の開催をスイスと準備する方針を表明した。
だが、軍事転用が可能な物品をロシアに供与していると指摘される中国は国際会合を欠席。ウクライナのイエルマーク大統領府長官は「戦争終結への協議に中国が関与する必要がある」と訴えた。ウクライナには協議参加を通して中露関係を弱めたい思惑もある。
ゼレンスキー氏はダボス会議の期間中、和平交渉の参加を求めるために李氏と会談しようとしたとみられる。EUも会談の実現を後押ししたもようだが、米政府高官は米政治サイトのポリティコに「中国はウクライナの面会要請を拒否した」と明かした。ロシアが中国にウクライナとの外交的な接触を避けるよう求めたとの情報もある。
「建設的な役割」
中国の習近平政権はウクライナ問題に関し「建設的な役割を果たす」としつつも、一定の距離を保って深入りを避けようとしている。協力を深めるロシアや対立が続く米国の動向も見極めているとされる。
中国外務省の毛寧(もう・ねい)報道官は16日の記者会見で、李氏とゼレンスキー氏の会談について問われると「中国は一貫してウクライナを含む関係各方面と意思疎通を保っている」などと述べ、直接的な言及は避けた。李氏は同日のダボス会議での基調講演で、ウクライナ問題について一切触れなかった。
ダボス会議ではパレスチナでの戦闘の停戦や終戦に向けた協議も行われた。カタールのムハンマド首相兼外相は16日、イスラエルがパレスチナとの「2国家共存」に取り組む必要性を指摘。ブリンケン氏も17日、中東諸国から戦闘終結に向けた議論に米国が参加することを望む声が寄せられているとし「何をすべきかが問われている」と述べた。
●ナゴルノ・カラバフ紛争の基層に根ざす「マトリョーシカ・ナショナリズム」 1/19
1月1日、アルメニア系勢力の「共和国」が解体されナゴルノ・カラバフ紛争は幕引きを迎えた。30年以上続いた紛争の出発点を、アゼルバイジャン人とアルメニア人の対立を抑える「重石」だったソ連の崩壊に見る議論は数多い。だが、米マイアミ大学准教授のクリスタ・ゴフは著書『Nested Nationalism』の中で、対立の萌芽をさらに1930年代にまで遡って探している。一つのナショナリズムの内部に別のナショナリズムが入る「入れ子構造」を持ったソ連の「マトリョーシカ・ナショナリズム」は、ナゴルノ・カラバフの歴史にも色濃く影を落としている。
ウクライナとガザでの戦争に世界が振り回された2023年は、ナゴルノ・カラバフ紛争が大きく動いた年でもあった。アゼルバイジャン領内でアルメニア人が多数を占めるこの地域で、支配や帰属を巡って30年あまり続いてきたこの紛争は、前者2つの戦争の大立ち回りの陰であまり注目されないまま、アゼルバイジャンの軍事的勝利に終わった。
ナゴルノ・カラバフは、1990年代の第1次紛争で勝利したアルメニア側が長年、周辺も含めて広範囲に支配していた。アゼルバイジャンはその相当部分を、2020年の第2次紛争で取り戻し、残る領土の奪還を目指して23年9月に新たに攻撃を始めた。軍事面で劣勢のアルメニア側はわずか1日で降伏し、十数万人の住民のほぼ全員が難民となってアルメニア本土に逃れた。「民族浄化」と見なされかねない結末である。
この紛争では、これまでも虐殺や住民の追放、戦争犯罪行為がたびたび指摘されてきた。なぜ対立はこれほど激しくなったのか。両者が憎み合うのはなぜか。
●「親しみ感じる」中国12.7% ロシア4.1% 過去最低 内閣府調査 1/19
外交に関する内閣府の世論調査で、中国に「親しみを感じる」と答えた人は12.7%、ロシアに「親しみを感じる」と答えた人は4.1%で、ともに過去最低となりました。
内閣府は外交に関する国民の意識を把握するため、去年9月から10月にかけて全国の18歳以上の3000人を対象に郵送で世論調査を行い、55%にあたる1649人から回答を得ました。
それによりますと、中国に「親しみを感じる」と答えた人は12.7%で、前回より5.1ポイント下がりました。
令和2年から調査手法が変更されたため、単純に比較はできないものの、質問が設けられた昭和53年以降、最も低くなっています。
外務省の担当者は「中国との間にはさまざまな懸案があり、日本産水産物の輸入停止措置などが影響したと考えられる」としています。
また、ロシアに「親しみを感じる」と答えた人は4.1%で、ウクライナへの軍事侵攻が続く中、こちらも過去最低となりました。
一方、アメリカに「親しみを感じる」と答えた人はほぼ横ばいの87.4%、韓国に「親しみを感じる」と答えた人は、前回の調査より6.9ポイント上がり、52.8%でした。
●なぜ米ウクライナ支援は停滞しているか? 1/19
ロシアと戦うウクライナに対しアメリカからの巨額の軍事支援が滞っています。いったいなぜでしょうか?橋解説委員とお伝えします。
Q1) けさのイラスト、バイデン大統領が武器や弾薬を詰め込んだ箱をウクライナに届けようとしている?
A1) バイデン大統領は、ウクライナに対する支援として、614億ドル=日本円で9兆円規模の追加予算を議会に要求しています。従来の予算はすでに先月で底をつき、ロシアによる攻勢に、ウクライナがどこまで持ちこたえられるかをバイデン政権は強く懸念しています。
Q2) アメリカ議会はウクライナ支援に反対なのですか?
A2) 議会下院で多数派を占める共和党のジョンソン下院議長は、「不法移民対策が最優先だ」として、追加予算の承認を先延ばししています。共和党議員全員が支援に反対しているわけではなく、予算の優先順位が問題だと言うのです。
アメリカ南部のメキシコとの国境で確認された不法移民は、去年9月までの1年間で250万人と過去最多を記録しました。とりわけ“国境の壁”を建設したトランプ前大統領が、政権復帰をめざすのにつれて、まるで駆け込みのように、国境を許可なく越えてくる人が増え、先月も1日あたり平均で7,000人に上っています。
このため、他国の防衛を支援する前に“アメリカ国内の国境対策の強化を急ぐべきだ”とする意見が高まっているのです。
Q3) では国境対策を強化した上で、ウクライナ支援も行えば良いのではないですか?
A3) それはそうなのですが、民主・共和両党は、今年度予算の歳出総額では合意しましたが、個別の項目は審議が紛糾し、当面のつなぎ予算も、今週末と再来週末で期限を迎えます。このため議会は、政府機関の閉鎖を回避しようと、つなぎ予算の期限を3月上旬まで延長する案を審議し、このつなぎ予算には含まれないウクライナ支援は、いわば後回しになっています。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから来月で2年になります。最大の支援国アメリカは、選挙が近づくのにつれて、両党の政治的なかけ引きが激しくなり、支援の停滞は、さらに長引く可能性もありそうです。

 

●関係改善の糸口? プーチン氏、駐日ロシア大使を任命 約1年空席 1/20
ロシアのプーチン大統領は19日、新しい駐日大使として外務省アジア第3局長のニコライ・ノズドレフ氏を任命した。駐日大使のポストは、現外務次官のガルージン前大使が2022年11月に離任して以降、空席になっていた。
露外務省によると、ノズドレフ氏は1994年にモスクワ国際関係大学を卒業後、外務省に入省。日本語が堪能としている。在オーストラリア大使館の公使参事官などを歴任し、18年2月から日本などを担当するアジア第3局長を務めていた。
ロシアはウクライナで続けている「特別軍事作戦」を巡り、日本が欧米と足並みをそろえて対露経済制裁を科していることに反発し、日本を「非友好国」に指定。平和条約締結交渉の中断を表明し、北方領土でのビザなし交流に関する合意を一方的に破棄するなど、両国関係は著しく悪化している。
在露日本大使館では、武藤顕大使が23年12月に着任したばかり。両国の大使が同時期に着任することになり、関係改善に向けた糸口を探る動きにつながる可能性もある。
●北方領土・国後島の空港、整備加速 プーチン氏、往来増狙い開発主導 1/20
ロシア政府は17日、北方領土・国後島のメンデレーエフ空港を整備し、濃霧による欠航が常態化している現状を2025年までに改善する方針を明らかにした。悪天候下でも航空機の正確な着陸を誘導する装置を導入する予定で、国後島との人・モノの往来が大幅に増える可能性がある。3月に大統領選を控える中、プーチン大統領が地元の要望に応じて指示した形で、実効支配する島の開発を主導する姿勢を鮮明にした。
国後島唯一の空の玄関口となる同空港を巡っては、同島の旅行業経営者が11日に極東ハバロフスクで開かれたプーチン氏との会合で「観光ピーク期の欠航率が45%に上る」と窮状を直訴した。これを受けてプーチン氏が17日に開いた政府の会合で、サベリエフ運輸相が対応策を説明。25年までに着陸用の「照明・信号装置を設置する」とし、「困難な気象条件でも受け入れが可能になる」と語った。
同空港は島南部に旧日本軍が建設し、約2千メートルの1本の滑走路がある。施設の劣化で06〜07年に約3カ月間閉鎖された後、滑走路の修繕などを経て利用を再開。12年には夜間の離着陸を可能にする発光信号装置が設置された。現在はロシアのオーロラ航空がサハリン州の州都ユジノサハリンスクと1日1往復の定期便を運航している。
ただ、最も利用客が多い夏場に濃霧が頻繁に発生する上、滑走路の近くに山があり視界不良で衝突の危険がある。17年に同州のコジェミャコ知事(当時)が改善に向け整備する方針を示していたが、昨年6月には5日間連続で欠航。択捉島のヤースヌイ空港と比べても航空会社が早期に運航をとりやめるケースが目立ち、関係者から不満の声が出ていた。
ロシアでは22年2月のウクライナ侵攻後、対ロ制裁の影響で国内観光の需要が伸び、北方領土への訪問客も増加。サベリエフ氏によると、23年のメンデレーエフ空港の利用客数は22年比8%増の5万7500人に上った。空路の運航が安定すれば、さらに観光客などの往来の増加が予想されるほか、国内外からの投資拡大につながる可能性もある。日本政府は北方領土の返還を求めているが、ロシアによる整備が加速する恐れがある。
●ロシア中部で大規模なデモ ウクライナへの軍事侵攻以降まれ 1/20
ロシア中部のバシコルトスタン共和国で、地元の著名な活動家に実刑判決が言い渡され、これに抗議する支持者らが相次いで大規模なデモを行い、拘束者も出ています。
ウクライナへの軍事侵攻以降、ロシアで大規模なデモが行われるのはまれで、大統領選挙が3月に行われるのを前に、政権は国内の安定維持に神経をとがらせています。
ロシア中部のバシコルトスタン共和国の中心都市ウファで、19日、実刑判決を受けた活動家の支持者およそ1500人が中心部の広場に集まり、抗議デモを行いました。
地元当局は、抗議デモを厳しく取り締まると警告していて、地元メディアによりますとおよそ10人が治安部隊に拘束されました。
活動家はこの地域に多い少数民族バシキール人の男性で、文化や環境保護への取り組みが地元の人の支持を集めていましたが、今月17日、民族的な憎悪をあおったとして禁錮4年の判決を言い渡されました。
デモは今週に入って3度目で、実刑判決が下された17日には数千人規模に膨れ上がり、治安部隊との衝突も起きました。
ウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、ロシアでは市民による抗議活動への取り締まりが強化され、大規模なデモが行われるのはまれです。
一連の抗議デモについてロシア大統領府のペスコフ報道官は19日、「大規模な暴動ではない」と述べ、地域の問題だと指摘しました。
プーチン大統領が通算5回目の当選を目指す大統領選挙が3月に行われるのを前に、政権は国内の安定維持に神経をとがらせています。
●ベラルーシの「軍事ドクトリン」核戦力も誇示した内容に改訂 1/20
ロシアと同盟関係にあるベラルーシは、改訂中の新たな安全保障の基本原則の中にロシアからベラルーシ国内に配備されたとする戦術核兵器を抑止力だとする要素が盛り込まれるという認識を示し、ウクライナ情勢を巡って対立する欧米諸国へのけん制を強めています。
ロシアと同盟関係にあり、NATO=北大西洋条約機構の国とも隣接するベラルーシでは、安全保障の基本原則である「軍事ドクトリン」の改訂が進められています。
これについて、ベラルーシのフレニン国防相は19日、記者団に対し「新たな軍事ドクトリンは軍事危機のレベルに応じて国家が講じる適切なものだ」と述べウクライナ情勢などを巡ってNATOとの対立が深まる中で、必要な措置だと強調しました。
そのうえで「ベラルーシへの戦術核兵器の配備は、潜在的な敵国からの武力侵略を防ぐため、抑止力として重要な要素となる」と述べ、戦術核兵器の配備を抑止力だとする要素が盛り込まれるという認識を示しました。
ロシアのプーチン大統領は去年3月、ベラルーシにロシアの戦術核兵器を配備すると表明してその後、核兵器の運搬が進められてきたとされ、先月ベラルーシのルカシェンコ大統領は核兵器はすでに国内に配備されたと主張していました。
ベラルーシとしては核戦力も誇示した軍事ドクトリンに改訂することで、ロシアとともに対立するNATOへのけん制を強めるねらいです。
●新たな危機の火種。韓国を敵国と見なし、プーチンと手を組んだ北朝鮮 1/20
開戦から3年が経とうとするウクライナ戦争に、終わりの見えないガザ紛争。そんな中にあって、北朝鮮は韓国を「第一の敵国」と定めロシアに急接近する姿勢をより鮮明にしています。2024年、国際社会はどのような事態に見舞われてしまうのでしょうか。元国連紛争調停官の島田さんが、北朝鮮の軍事的台頭が世界に及ぼす影響を解説。さらにガザ紛争の長期化で利を得るのはプーチン大統領だとした上で、パレスチナに和平をもたらす解決策を考察しています。
世界は戦いのドミノに陥ってしまうのか。北朝鮮の軍事的台頭で混乱化する国際社会
「北朝鮮の外交・安全保障政策における方針転換は、北朝鮮が戦争やむなしとのモードに入ったと受け取るべきか」
このような問いが海外メディアでの討論中に出てきました。
とてもセンセーショナルでショッキングな内容ではありますが、正直申し上げて私は答えを持ち合わせていません。
今週に入って北朝鮮のチェ・ソンヒ外相がモスクワを訪問し、クレムリンでプーチン大統領が直接会談するという非常に稀な厚遇をしたことと、相次ぐ弾道ミサイル発射実験の実施、そして金正恩氏自身が発言した「(これまでの融和・統一路線を破棄し)韓国を敵国と見なす」という内容はいろいろな憶測と懸念を生じさせます。
「またお馴染みの瀬戸際外交じゃないのか」という意見も多く聞かれますが、今回の状況が通常と異なるのは
【外交・安全保障面で背後にしっかりとロシアがついていること】
【ロシアの高度な軍事技術、特にミサイル技術が北朝鮮に提供されたと思われ、これからもそれが強化されると思われること】
【国連をはじめとする国際社会において、ロシアとくっつくことで北朝鮮の孤立が解消されることが期待できること】
などといった複数の特徴の存在です。
本当に韓国に対して戦争を仕掛けるか否かという問いは極端なものであると考えますが、ただ仮に北朝鮮優位の形で南北統一が実現したとしても、金王朝の権威の弱化は必須であると分析できるため、金王朝の基盤の堅持と強化が最大の使命に位置付けている金正恩氏とその一族にとっては、あえて統一の道を断ち、独自路線を引くことがベターと判断したのだと考えます。
実際に戦争に至るかどうかは分かりませんが、アメリカ大統領選挙でトランプ大統領の復活の可能性があると言われていることから、その結果が判明するまでは仕掛けてこないと見ています。
ただ、ロシアと北朝鮮の接近と、北朝鮮の態度の硬化は国際社会にとっては無視できない重大な懸念を生じさせます。
北朝鮮の飛躍的に伸びる弾道ミサイル技術と飛距離、核弾頭の小型化に関する技術革新、そしてロシアの手助けを得ていると思われるHCV(極超音速滑空兵器)の開発などは、もうこれまでのように口先だけの脅しで済ませることは出来ず、北朝鮮発の有事に備えて真剣な監視体制の構築と運用が急がれることになります。
そしてそれは日米韓の北東アジア地域に留まらず、世界がICBMの射程距離に入ると思われることから、欧州各国にとっても無視できない自国・地域の安全保障問題として扱われることになります。
即時に北朝鮮が戦争を仕掛ける可能性は低いと考えますが、北朝鮮が軍事的な国際プレイヤーとして台頭してくることになると、国際社会は、現在進行形のロシア・ウクライナ間の戦争と、一向に出口の見えないイスラエル・ハマスの戦争へのアクティブな対応の必要性に加え、広域アジアで高まる軍事的な緊張(米中台間の南シナ海周辺と朝鮮半島情勢などの北東アジア周辺)にも対応を迫られる【三正面の作戦実行】を迫られることになります。
ガザ紛争と北朝鮮の軍事台頭の割を食うウクライナ
しかし、“国際社会”に実質的に三正面の作戦実行を行う余裕はないと思われ、その割を喰うことになる最前線がウクライナでしょう。
ロシアによるウクライナ侵攻からもうすぐ3年が経過しますが、ウクライナによる反転攻勢は遅々として進まず、欧米諸国とその仲間たちの対ウクライナ支援疲れが顕著になりだしたところに、イスラエル・ハマスの戦争が勃発し、イスラエル軍によるガザでのパレスチナ人への無差別攻撃による犠牲の拡大への対応と周辺国への波及・拡大を防ぐためのあらゆる努力が優先されることになり、ウクライナへの軍事・経済支援は滞っています。
アメリカ政府の対ウクライナ支援のための資金はすでに枯渇し、新たな予算が担保される可能性は低いと思われると同時に、ウクライナ支援の是非がアメリカ国内の政争の具にされることで、より状況が悪化していると思われます。バイデン大統領からゼレンスキー大統領への口約束も実現のめどは立っていないのが実情です。
そしてこれまでの“ウクライナ領からのロシアの完全排除を目指すウクライナへの支援”の方針を見直し、すでに確保した領土を守ることに徹するべきだという姿勢に移行する方針と言われています。
欧州各国については、英国のスナク首相が2兆5,000億円規模の追加支援をウクライナに約束しましたが、こちらもまた議会での承認をまだ得ておらず実現の可否は未定ですし、フォンデアライエン委員長(欧州委員長)やマクロン大統領などは「ロシア・ウクライナ戦争の停戦実現のために外交努力を強化する」と発言するものの、具体的な軍事支援の拡充と継続といったような先立つものはなく、それは日本からG7議長国を引き継いだイタリア政府の方針(クロセット国防相)にも引き継がれています。
2023年6月からウクライナが行っている反転攻勢は失敗との見方が強く、戦闘が泥沼化する中で、巨額の援助と膨大な量の軍事支援が功を奏さず、かつ供与された兵器管理がずさんであることが明らかになったゼレンスキー大統領とウクライナ政府と距離を置き、このままゼレンスキー政権がロシアとの停戦協議の実施を拒み続ける場合には、支援の継続は不可能ではないかとの見方が強まっているようです。
そのような動きと雰囲気を敏感に感じ取っているのか、12月あたりからプーチン大統領の発言の中に“停戦に向けた交渉に臨む用意がある”という内容が含まれるようになってきており、「戦争を長引かせているのはウクライナ」というような風潮を、ウクライナの後ろ盾となっている欧米諸国とその仲間たちの国内で高めようとしているように見えます。
とはいえ、注意しないといけないのは、その発言と同時に「“on Russia’s terms”(ロシアが提示する条件の下ならば)』というBig IFが付けられていることです。
ロシアの提示する条件をウクライナはもちろん、なかなか欧米諸国とその仲間たちも受け入れることはないと考えますが、このような偽の前向きな発言を提示しておくことで、ウクライナ国内と欧米諸国とその仲間たちの国内で、反ゼレンスキーの波風を立てようとする心理戦の狙いが透けて見えてくるのは要注意でしょう。
プーチン大統領とロシア政府の狙いは、【ゼレンスキー大統領の排除と親ロシア政権の樹立】、そして【NATOに代表される欧米の影響力と軍事的プレゼンスの“ロシアの勢力圏からの排除”】さらには【すでに“一方的に”編入したウクライナ東南部4州のロシアへの帰属を認めさせることと、クリミア半島の支配の固定化】があると思われます。
懸念される「ウクライナの存亡に関わる事態」への発展
最初の2つについては、実現は難航が予想されるものの、3つ目に関しては、早期停戦と一旦ウクライナ支援をリセットしたいと考える欧米諸国とその仲間たちが水面下でウクライナに受け入れを考慮するように迫っていると思われます。
ゼレンスキー大統領とその政権にとってはその受け入れは、ゼレンスキー政権の基盤の崩壊につながることから受け入れることは到底できないという判断をするかと思いますが、それで欧米からの支援がなくなり、ウクライナが強大なロシアの前で孤立するような事態に陥ってしまうと、【戦闘がロシア・ウクライナ国境を超える恐れ】が出てきて、それはウクライナの存亡に関わる事態に発展する公算が高くなります。
ロシアはウクライナ軍による自国への攻撃を国家安全保障上の“脅威”と定義し、自衛権を発動してウクライナへの大規模一斉攻撃を正当化することになるでしょう。ロシアはいろいろなところでちょっかいを出していますが、戦争をしているのは対ウクライナの一正面だけですので、一気にウクライナに止めを刺しに来るか、じわじわといたぶるのかは分かりませんが、対ウクライナEnd gameの発動に繋がることになります。
ちなみにウクライナがロシアに対して攻撃を仕掛けるような事態が生まれ、そしてロシアが自衛権を発動してしまうと、欧米社会とその仲間たちも、国連などの国際社会も、直接的な戦争の拡大による安全保障上のリスクに加え、政治・外交面で大きなジレンマに直面することになります。
昨年10月7日にハマスがイスラエルに対して一斉テロ攻撃を加えたことに対するイスラエル軍の報復を“正当な自衛権の発動”と当初、擁護してしまったことで、“ウクライナに攻め込まれた”とロシアが主張して自衛権を発動し、対ウクライナ攻撃を全土に広めることを正当化してしまった場合、自制は促すことが出来ても、道義上、非難できなくなる状況に陥る可能性が高まることです。
そもそもウクライナに侵攻したロシアが悪いのは言うまでもないことですが、ウクライナに侵攻された場合、ロシアとしては“当然”自衛権を発動する権利を主張し、実際に発動して一斉にウクライナ全土への大規模報復を行うというかたちになると考えますが、ロシアによる攻撃が、これまでの半ば無差別とも思われる攻撃とは一線を画して軍事ターゲットへのピンポイントかつ確実な攻撃として実施されるような事態が来た場合、なかなか非難しづらい状況が生まれてしまいかねません。
もちろん、イスラエルによる“過剰な自衛権の行使”(EUのボレル上級外交代表など)のように、ロシアがウクライナ市民に対して無差別な“報復”攻撃に及んだ場合には再びロシアに対する重大なバックラッシュが待っていますが、いろいろと非難され、国際社会における孤立を深めても、いまでも国連安全保障理事会の常任理事国の座は維持し、あらゆる国際案件をかき回す力を発揮するロシアが突如引き下がることはないでしょう。
それに対ロ非難が何らかの形で湧き起ったら、先ほどの北朝鮮が引き起こす地域の安全保障に対する挑戦を発動させるべく、北朝鮮を焚きつけて、国際社会の緊急対応の目と注意をアジアに向けて、その間にウクライナを終わらせるという手段を取るかもしれませんし、中東に中国と共に影響力を発揮して(特にイラン)、イスラエルへのちょっかいをかけさせるという手段を取るかもしれません。
ロシアに思いのままにさせないためには、まず北朝鮮の暴発を抑止し、かつガザにおける衝突をいち早く終わらせることが大事ですが、それはそれでかなり難航しそうな感じです。
ガザでの凄惨な戦いの炎が周辺国に飛び火する可能性も
ダボス会議に参加し、イスラエルとハマスの間の仲介を行っているカタールのムハンマド首相兼外務大臣が言うように「イスラエルが2国家共存に取り組まない限り解決は望めない。今、国際社会は人質交換のための戦闘休止を議論の中心に据えているが、それでは根本的な問題は解決せず、また同じようなことが起きて、結果、パレスチナの地で大量殺戮が行われることになるだろう。国際社会はイスラエルとパレスチナの2国家が共存するというより大きく根本的な問題を無視してはならない」というのが、“解決”の鍵だと考えます。
「じゃあ、そうすればいいじゃないか」と言われるかもしれませんが、それが容易でないことは、これまでの複雑に絡み合ったイスラエルとパレスチナの間での交渉の進捗の遅さと何度も破られる約束を見れば分かるかと思います。
そして今回はメンツを完全につぶされたネタニエフ首相の政治的な意図も絡んでおり、純粋な自衛権の発動に留まらず、これまで彼の中で溜まっていたハマスやパレスチナ自治政府への不信感と、これを機にイスラエル周辺地域の安全保障・治安環境をリセットしようという意図が見え隠れしているのが気になります。
これまでイラン革命防衛隊に支援されたヒズボラやイエメンのフーシー派がイスラエルに攻撃を仕掛けていますが、それらはイスラエルへの示威行為に留まり、非常に綿密に計算された攻撃であると見ていますが、もしネタニエフ首相が自国の抑止力を再構築するために隣国のヒズボラを追い込むことを選び、レバノンやシリアへの攻撃を行うことを選択したら(自身の政治生命の延命と復権のたに)、ガザでの凄惨な戦いの炎はレバノンやシリアに飛び火することもあり得ます。
しかし、誰もパレスチナ自治区のガザを越えてこのイスラエルとハマスの紛争が拡大することを望むプレイヤーは(ハマスを除けば)存在せず、それはイスラエルの後ろ盾であるアメリカ政府も、ハマスを称え、ヒズボラやフーシー派を支援するイラン政府も、公式・非公式に紛争の拡大を望まないことを確認済みです。
サウジアラビア王国やヨルダン、UAE、カタール、エジプトなどの市民は「アラブ同胞の連帯」を掲げ、それぞれの政府に積極的にパレスチナ側につくように要請していますが、政府はすでにこれまでに進められてきたイスラエルとの国交正常化が提供する経済的な利益と最先端技術へのアクセス(特に海水の淡水化技術)といった実利の確保が自国経済の命運を握ることから、国民の手前、proパレスチナの口先での介入は行っても、戦争が収まった後のイスラエルとの協調に重点を置いて、戦闘からは距離を置いているため、イスラエルからの直接的な攻撃が、仮に誤爆であっても、自国に“継続的に”及ばない限りは、結局何もしないことを選択するものと、これまでいろいろな利害関係者や調停グループの専門家などと話ししてみて、そう私は理解しました。
ネタニエフ首相とその周辺は、もしかしたらよからぬ別の意図があって戦闘を長期化させているかもしれませんが、ガザでの紛争が継続し、長期化しても誰も得することはなく、逆に国際的な安全保障環境と体制の一層の不安定化を進めてしまうだけですので、国際社会はかなり強い決意をもってガザでの戦闘を止めさせる協調行動を取る必要があります。
そして停戦・戦闘停止が成立した場合、もちろん人質の一刻も早い解放を実現することは当たり前ですが、これまでに何度も議論され、架空の合意ができては破棄されてきた“2国家解決”(オリジナルは1967年の第3次中東戦争後の占領地からのイスラエル軍の撤退)を見直すことも必須ではないかと考えます。
イスラエルとハマスの紛争長期化で利を得るプーチン
パレスチナ人はこれまでに国家樹立を目指して戦ってきましたが、実現せずに今の中東におけるパワーバランスが出来上がって固定化しているため、現状に鑑みて、実現性のある解決、それもイスラエルが受け入れられる解決策を探す必要があります。
ネタニエフ首相はガザの統治について言及していますが、イスラエルによる再占領は、国際法に反し、同盟国で後ろ盾のアメリカが受け入れることはないでしょうし、アブラハム合意で国交正常化を図ったアラブ諸国の反発を招くことになり、さらなる混乱と悲劇を招く可能性が高まります。
解決策の根本となる諸条件がいくつかあります。
まず、ガザ地区はパレスチナ人によって統治されなくてはなりませんが、自治政府はそれには向いていませんし、ハマスによる統治への参加はイスラエルが受け入れ不可能なので、別の体制が必要になると考えます。そしてそこにはエジプトやヨルダンなどの周辺国や、サウジアラビア王国やUAE、カタールなどが、ガザの復興とサービスの拡充のために関与する必要があるかと思います。
次にすでにユダヤ人が入植しているヨルダン川西岸地区から、ユダヤ人を追い出すことは考えないことも現実的な解決策かと考えます。そうすることで新たな争いをイスラエルとパレスチナの間に生じさせる種を減らすことが可能になります。
そしていろいろな解決策、特にパレスチナ人の独自国家に繋がる解決策を模索するためには、大前提として、これまでイスラエルを盲目的に支えてきたアメリカ政府が「このようなことはもうたくさんだ。イスラエルによる国際法違反と考えられる企てを今後はサポートしない」と宣言し、イスラエルによるパレスチナ支配の終結を決意し、国際的に宣言することが必要でしょう。そして、これまでアメリカがイスラエルのために拒否権を発動してきた慣例も終結させ、国連安全保障理事会の場で停戦決議を採択して、イスラエルを従わせるように舞台を用意することが必要だと考えます。
そして余計なお世話ではありますが、イスラエル社会は総じて極めて民主的な構造であり、国際的にイスラエルを孤立させ、イスラエル人の人質の生命を犠牲にし、ガザの民間人を殺戮する決定を推し進める自国の姿を容認しないとする有権者が増えてきていると言われていることから、国益と自身の生活の安定、そして何よりも安心のために、現状を一刻も早く変えようとすることも必要かと思います。
そして欧米とその仲間たち、国際社会、イスラエル、アラブ諸国が協調して、これまでに話し合われてきた2国家解決ではなく、パレスチナという新しい国を作る提案を話し合うことで、現実的な解決をもたらし、これまで長年続いてきたnever endingな戦闘と苦痛に終止符を打つことに繋がるのではないかと考えます。
もし迅速にイスラエルとハマスの戦いを収めることが出来なければ、その影響はウクライナにも及び、北朝鮮によからぬことを考えさせ、そして他地域で眠っているか見逃されてきている数々の紛争の種が一気に芽吹き、解決不可能な混乱が私たちに訪れることに繋がるかもしれません。
そうなった場合、利益を得るのはロシアであり、その統治者プーチン大統領であり、そして大多数を占める傍観者という望まざる国際情勢が具現化することになります。
イスラエルとハマスの戦いも、ロシアとウクライナの戦いも、現時点では長期化することが予想され、解決のための策も手詰まり状態です。
解決には多層に絡み合う様々な利害と現実を丁寧に解き、皆が許容しうる現実的な解決策を編み出してくることが必要になりますが、微力ながらそのお手伝いを、仲間たちと共に、させていただきたいと思います。
●「ウクライナ敗戦」を世界大戦へ拡大させるな 1/20
2023年末からロシアによる、ウクライナの主要都市へのミサイル攻撃が激しさを増している。毎日のようにロシアからミサイルが発射されている。それも、超音速からドローンまで多種多様である。
しかし、不思議なことに都市の住民の建物をことごとく破壊したという話はあまり聞かない。ロシアは住宅への直接攻撃を避けているのだ。
一方、ウクライナのドローン攻撃も2023年12月30日にあった。ウクライナの北の国境から30キロメートル先にある都市ベルゴロドへの攻撃だ。このドローンは軍事施設やインフレを狙ったものではなく、町の広場を狙ったものであった。市民の犠牲者も出た。
目立つロシア軍の冷静さ
しかし、ロシアはこれに対して、報復攻撃として住宅への攻撃はできるかぎり避けている。ひたすら軍事施設とインフラ攻撃を繰り返している。それはなぜか。
ここで理解しておかねばならないのは、ロシア軍の冷静さである。あたかも何年も前に計画された行動にしたがって沈着に行動しているようだ。ある意味、報復をするような感情の起伏があってもいい。しかし、それを持たない極めて冷徹な反応は、恐るべしというべきかもしれない。
これについてスイス陸軍の元大佐であるジャック・ボー(Jacques Baud)は『戦争と平和の狭間のウクライナ』(Ukraine entre Guerre et Paix, Max Milo, 2023)の中で、このロシア軍の冷静な行動について分析している。
ロシアは周到に作戦を立てて行動しているという。1つひとつの軍事行動が全体の行動と、そしてその後の戦略としっかりと結びついているというのだ。これをハイブリッド戦略というようだ。
例えば2022年の開戦当初、ロシア軍はキエフ(キーウ)の北、ハリコフ(ハルキウ)の近郊など、大きな軍事作戦を展開した。しかし、同年9月にはすべて撤退し、ドンバスからザポロージャ(ザポリージャ)とヘルソンのドニエプル川左岸地域に軍を引き、国境線を固めた。
この戦いをウクライナは勝利だと喧伝したのだが、ボーによるとそうではないという。
それはロシアの行動が最初から、ウクライナの東のロシア人地域を占領するという計画であったからである。キエフやハリコフ近郊への攻撃は、あくまでも陽動作戦であったというわけだ。
キエフは6万人以上の精鋭部隊で固められている。そのほかの都市も同じだ。こうした軍が東へ投入されると、当時のロシア軍の兵力15万人程度では目的が貫徹できない。だから、ウクライナ全土に攻撃をかけて、ウクライナ軍の東部への投入を避けたというものだ。
アフガン紛争での教訓
ロシアは、ソビエト時代のアフガニスタン攻撃で痛い目に遭っている。それは、アメリカが北爆や中東での戦争で繰り返したように、絨毯爆撃を行い、多くの市民を殺戮し、アフガン人の反感を買い、それ以降の戦線で相次ぐゲリラ攻撃で守勢にたたされ、敗北したという苦い経験だ。
こうした経験からロシアは、市民への直接攻撃は避け、攻撃目標は当面のみならず、背後にある銃後のインフラ設備にターゲットを絞っているという。インフラとは、軍事施設、飛行場、迎撃システム、レーダーなどの情報施設、橋や道路や鉄道などの兵站設備である。
確かにイスラエルのガザ攻撃を見ても(もちろんガザからのイスラエルの攻撃を見ても)、市民への攻撃は国際法違反というだけでなく、人々の憎悪をかきたて、復讐の連鎖を生み出す。破壊されることによる見かけの打撃は大きいが、こうした攻撃は末代までの怨念を生み出す。
インフラ攻撃は、ボクシングのボディブローに似ている。間接的ではあるが、次第次第に相手を消耗させ相手の動きがとまる。考え方によっては、残酷な攻撃だ。真綿でじわじわと締め付ける方法だ。
最終的に根をあげたところで勝利する作戦ともいえる。こうしたロシアの攻撃は、ゲラシモフ将軍の理論から来ているという。
通称「ゲラシモフ・ドクトリン」と呼ばれる作戦は、まさにこの消耗戦である。西側の軍隊はこれまで比較的軍事的に弱い地域と戦争をしてきたこと、また西側から見て殺戮もやむなしという人種的偏見をもっていた地域が対象だったこともあり、直接攻撃を展開してもいた。
それが可能だったのは、相手の抵抗が少なかったからである。しかし、近代的軍をもっていて、軍備においてさほど差がない国同士では、周到な作戦と、相手の兵力を削ぐという作戦をしないと、大量の死者を出すことになる。
ゲラシモフという名は、2023年10月にウクライナのゼレンスキー大統領と停戦交渉に入ったのではないかという噂や、最近の攻撃で戦死したのではないかとウクライナ筋の情報で噂されるロシア軍のナンバー2である。
作戦要綱「ゲラシモフ・ドクトリン」
ゲラシモフは、「ゲラシモフ・ドクトリン」という作戦要綱を2013年に発表している。これは2006年に『ミリタリー・レビュー』に翻訳されていて、ネットで誰でも読める。そこでこう述べている。
〈戦争のルールそのものが変わった。政治や戦略的目標を完遂する非軍事的手段の役割が増大し、多くの場合、その効果において武器の力の威力を、凌駕しているのである。適用される紛争の方法の焦点が、政治、経済、情報、人事、そのほかの非軍事的手段―人々の抗議のポテンシャルと歩調を合わせて適用される―を広く使うという方向へシフトしたのである〉(24ページ)。
まさにこれは、クラウゼヴィッツの『戦争論』の有名な定義、「戦争は政治の延長である」という言葉を体現したもので、とりわけ新しいものではない。しかも、こうした戦略がどこから生まれたかというと、1991年のアメリカの湾岸戦争からだというから、むしろ戦略のヒントはアメリカから来ているといえる。
情報技術の進展で、戦争の遂行は極めて間断のない決定を強いられる時代になっていて、そのためには前線での戦闘以上に、中央司令部での広範な戦略が重要になっているという。
だから前線の戦闘能力もさることながら、そこに至る中央の戦略の持つ意味が大きい。そして、戦争に勝利するには、非対称的に「敵の利点を徹底的に無力化」することだという。
まさにその無力化ということが、インフラ設備への徹底攻撃だということになる。そしてそれを遂行するために、AIを使った科学戦略があげられている。AI技術の導入という点で、ロボットによる戦争遂行や宇宙戦争という問題もゲラシモフはあげている。 
しかし、それ以上に重要なことは経済と外交であろう。ゲラシモフは軍人らしく、この問題にはほとんど触れていない。
ただ、軍事力だけではないハイブリッド戦争の遂行は、まさにこの経済と政治、とりわけ外交にかかっているともいえる。経済と政治、この点におけるロシアのこの2年間の行動は、これまでの戦争のときとかなり異なっている。
ロシア外交の奮闘ぶり
NATO(北大西洋条約機構)諸国の経済封鎖による圧力を避けるために、ロシアの外交活動には目覚ましいものがあった。ロシアのラブロフ外相が世界中あちこちと飛び回り、NATOに敵対的な国家を自らの陣営に引きずり込んだ。
なおかつ国際貿易をドルやユーロによらない決済制度に変えることで経済的制裁を回避し、友好国とりわけBRICS体制を強化することで「孤立したロシア」というイメージを払拭していった。
NATO諸国が得意とするところは軍事力だけではなく、その経済力と政治力にあったのだが、ロシアはその1つ経済制裁と経済封鎖を、友好国を拡大することで切り抜けている。また「国際的価値基準」という名の西側の政治を、「多様な価値観」という発想で切り抜けようとしている。
戦争がアジア・アフリカの反NATO勢力の支持を得ることで展開されれば、ウクライナ戦争は欧米対反欧米という対立の戦争となる。当然、ウクライナの局地的戦争という枠を越えてしまう。ゲラシモフ・ドクトリンの気になるところがそこにある。
戦争の当面の目的はウクライナにあるとしても、それはウクライナに勝利するためにNATO勢力と真っ向から対抗することを意味しているからだ。ゲラシモフ・ドクトリンがNATOにとって脅威である理由は、まさにここだ。
要するに、このドクトリンから言えることは、ウクライナ戦争は、ロシアにとってもまたNATOにとっても、もはや東欧の局地的戦争ではなくなっているということである。それがこの戦争を長引かせている原因でもある。
そしてこの戦争は、NATOと対抗する紛争地域への導火線となり、対立する両陣営が一触即発で第3次世界大戦まで至る不気味な可能性を秘めていることである。
ウクライナへの攻撃は、前線での戦争だけでなく、ウクライナ全土のインフラ設備の破壊であった。それはウクライナ経済を壊滅状態に今追い込んでいる。
NATOが苦しむブーメラン効果
またウクライナに武器や援助を与えたNATO諸国も、その結果自らが行った経済制裁や援助のブーメラン現象を受け、経済的に息切れを起こし景気の衰退が生まれている。それがNATO諸国の不安をいっそうかきたて、ロシアへの脅威を増幅させているともいえる。
そして、それがますます停戦を困難にさせ、戦争を迷走経路に導き、引くに引かれぬ戦いの場となっている。前出のジャック・ボーは、先の書物でウクライナとロシアのプロパガンダの違いを指摘している。
ウクライナは虚偽の情報を流し、ロシアは不利な情報を隠す。ともにプロパガンダだが、内容は異なる。もっぱらウクライナの情報に従っているNATO諸国は、この情報によってこの戦争に簡単に勝利できるものだと支援を強化したが、それが真実ではなかったことで、大混乱に陥っているというわけだ。
戦争中の日本のように、うその情報が出てくると、それを払拭するのは簡単ではない。ロシアの残虐性や非道性への非難が拡大するだけで、戦況や相手の意図がわからなくなる。
ロシアはロシアで、情報が入らないことで、相手の言い分が入ってこない。国民はいたずらに勝利に向かって愛国心を燃やすだけである。
要するに、停戦を生み出す理解がお互いに得られなくなっているのだ。戦争が終われば、両国民さらには世界が、この戦争の現実をしっかりと知ることになるだろう。だが、今のところプロパガンダに振り回され、敵意をむき出しにして、終わるところを知らない。
ウクライナに限っていえば、戦争の決着はすでについているといえる。後は、第3次世界大戦という愚かな戦争へ至らないための政治的決着をどうするかが残っているだけなのだ。
●ダボス会議が閉幕 世界経済の見通しや地政学的リスクなど議論 1/20
世界の政財界のリーダーが集まる通称「ダボス会議」は19日、中央銀行などのトップが参加して地政学的なリスクが世界経済に与える影響などについて議論が行われ、閉幕しました。
世界経済フォーラムの年次総会、「ダボス会議」はスイスで15日から開かれ、世界の政財界のリーダーなどおよそ2800人が参加して「信頼の再構築」をテーマに多くの議論が交わされました。
19日、中央銀行や国際機関のトップなどが参加し、最後のセッションとして世界経済の見通しが議論されました。
この中で、ヨーロッパ中央銀行のラガルド総裁は正常化と非正常化というキーワードをあげたうえで正常化の例として世界的にインフレが低下していることをあげました。
一方で、非正常化の道としてユーロ圏を含め世界的に「消費が明らかに以前ほど力強くない」と指摘しました。
また、WTO=世界貿易機関のオコンジョイウェアラ事務局長はことしは去年と比べ貿易量の大幅な回復が見込まれるとしたものの、「紅海における地政学的な対立という問題を抱えている。また、世界各地で行われる選挙が何をもたらすかわからない」と述べ、不確実性がもたらす世界経済への影響に懸念を示しました。
ドイツのリントナー財務相は「アメリカのトランプ前大統領のことがかなり議題になった。2期目の可能性に備えて準備をする必要がある」としつつ、自国に魅力があればどの政権であろうと関係なく協力が可能だとも指摘しました。
テーマは「信頼の再構築」
ことしのダボス会議のテーマは「信頼の再構築」。ロシアによるウクライナ侵攻に加え、中東情勢という2つの「戦争」に世界が直面するなかで開かれました。
ウクライナ情勢をめぐっては、最大の支援国アメリカで軍事支援の継続に必要な緊急予算が議会で承認されず、欧米側に「支援疲れ」も指摘されています。ウクライナのゼレンスキー大統領は直接会場に乗り込み、支援継続を訴えました。
一方、中東情勢は混迷が一段と深まっています。ダボス会議の最中もイスラエル軍によるガザ地区での地上作戦は間断なく続けられていました。ダボス会議に参加したイスラエルのヘルツォグ大統領は「国際社会に対し、イスラエルを支持し、大量虐殺だという主張を拒否するよう呼びかける」と述べました。
一方、パレスチナ銀行の会長で、ガザ地区出身のシャワ氏は「イスラエルによる空爆で、多くの従業員とその家族を失った。ガザ地区の破壊と死に胸が張り裂けそうだ」とNHKのインタビューで述べ苦しい胸の内を語りました。
中東情勢をめぐっては、イランの支援を受けるイエメンの反政府勢力フーシ派が紅海を航行する船舶への攻撃を繰り返し、アメリカ軍との間で攻撃の応酬が続いています。
ジョンズ・ホプキンス大学のナスル教授は「今後5年以内に、イスラエルとイランが直接対決する可能性が数段高まった」と述べ、今回のイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が、アメリカやイランを巻き込んで中東各地に紛争を拡大させる危機感を示しました。
途上国で開発支援にあたるUNDP=国連開発計画のトップ、シュタイナー総裁は「各国の財政緊縮策などによって他人の世話をする前に、自分の世話をする必要があるという意識が高まっている。私たちは、国際関係が対立を引き起こす道具となってしまう時代に生きている」とNHKのインタビューで述べ、ことしは新たな危機に備える必要があると警戒感を示しました。 
●中国 ロシアからの天然ガス輸入 前年比60%増 経済関係強化が鮮明に 1/20
去年、中国がロシアから輸入した天然ガスが前年比60%増と急速に拡大したことがわかりました。
中国の税関総署の発表によりますと、2023年に中国がロシアから輸入した天然ガスは前の年と比べておよそ60%増え、およそ64億ドルとなりました。
原油は4%増のおよそ606億ドルで、中国がロシアを経済的に下支えしていることが改めて鮮明になった格好です。去年1年間のロシアとの貿易額も26.3%増と大幅なプラスとなっています。
習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は去年10月の会談で、食糧やエネルギー、サプライチェーンなどの分野で関係を強化する方針で一致しており、経済的結びつきがさらに強化されることが予想されます。
●「夫、息子を帰せ」 動員兵の妻や母がプーチン氏に抗議 1/20
ウクライナ侵攻で前線などに送られた動員兵の妻や母らが20日、早期の復員を求めてロシア各地で抗議活動をした。
モスクワでは、3月のロシア大統領選に向けたプーチン大統領の選対本部を訪れ、「動員兵はいつ帰れるのか」と訴えた。
モスクワ中心部の赤の広場近くでは同日、約10人が赤いカーネーションを持って集まり、第2次世界大戦の旧ソ連兵を慰霊する「無名戦士の墓」に献花した。
テレグラムチャンネル「プーチ・ダモイ」(ロシア語で「家路」)が呼びかけ、参加者はシンボルの白のスカーフを頭に巻いた。
その後、プーチン氏の選対本部を訪問。プーチン氏への要望書に「動員兵はいつ帰れるのか」などと書いて提出した。
●ロシアの2大都市に無人機到達 ウクライナ射程5割増、応酬激化 1/20
ロシアの侵攻を受けるウクライナが特別作戦として発射した同国製無人機がロシア第2の都市、北西部サンクトペテルブルクに到達した。航続距離は5割以上伸び、既に攻撃した首都モスクワに次いで射程に入った。ロシアはイラン製シャヘドを改良してウクライナ各地への攻撃を続けており、無人機攻撃の応酬が激化している。
ウクライナ国防省情報総局は18日、サンクトペテルブルクの石油ターミナルに無人機攻撃を実施した。無人機は迎撃されたとみられ、施設に破片が落下し火災が発生。ウクライナ当局者は共同通信に「特別作戦が成功した」と説明し、同市やその周辺の軍事施設が攻撃範囲にあると認めた。

 

●“プーチン大統領 早い時期に北朝鮮訪問を表明” 北朝鮮が発表 1/21
北朝鮮は、プーチン大統領が北朝鮮を早い時期に訪問する用意があると表明したと発表しました。プーチン大統領が実際に訪朝すれば、24年ぶりで、北朝鮮は朝鮮半島情勢をめぐりロシアと緊密に協力していくと強調しています。
21日付けの北朝鮮の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、チェ・ソニ外相が今月15日から3日間の公式日程でロシアを訪れて、プーチン大統領と行った会談内容について伝えました。
このなかで、プーチン大統領は、キム・ジョンウン(金正恩)総書記からの北朝鮮訪問の招待に感謝の意を示した上で、早い時期に訪朝する用意があると表明したということです。
プーチン大統領が、実際に北朝鮮を訪問すれば2000年にロシアの国家元首として初めて訪問して以来、24年ぶりになります。
「労働新聞」では「わが国は最も親しい友人を、誠心誠意を尽くして迎える準備ができている」と強調しています。
一方、会談では朝鮮半島情勢について意見が交わされ、双方は「アメリカとその同盟勢力の挑発的行為が地域の平和に否定的な影響を及ぼしている」と憂慮を示し、緊密に協力していくことで合意したとしています。
北朝鮮はアメリカなどに対抗するため、ロシアとの連携をさらに強化していく姿勢を強調しています。
●ロシア動員兵の妻ら帰還訴え プーチン氏選対本部訪れ 1/21
ウクライナ侵攻のためロシア軍に動員された兵士の妻らが20日、3月の大統領選で通算5選を目指すプーチン大統領の選挙対策本部を訪れ、帰還を求める請願書を出した。独立系メディア「バージヌイエ・イストリイ」が伝えた。
帰還要求運動「プーチ・ダモイ(家路)」で中心的役割を担うマリア・アンドレーエワさんはモスクワの選対本部で、動員解除の法令にプーチン氏が署名するよう要求。夫が動員された後、幼い娘の言語発達が止まったと窮状を訴えた。
妻らは20日、クレムリン(大統領府)近くで第2次大戦の戦死者をまつった「無名戦士の墓」に献花した。拘束された人はいなかった。
●ロシア・プーチン大統領…大統領選に出馬で「権力固定化の懸念」強まる 1/21
スターリン以来最長の任期をさらに伸ばすか?
2023年12月8日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が次期大統領選への立候補を表明しました。選挙は2024年3月15日から3月17日にかけて実施され、当選者は5月初旬に就任する予定です。プーチン氏は一次政権で2期、現政権で2期に渡り大統領を務めており、今回再選すれば5期目に突入します。
ウクライナとの戦争により国家財政に大きな打撃を与え、また人道的な観点から国外から厳しい批判を浴びているプーチン氏ですが、国民から支持の支持は依然として強いままです。ロシアの独立系世論調査財団(FOM)が12月7日に発表した世論調査によると、ロシア国民の約70%がプーチンはもう1期出馬するべきだと考えており、さらに15%は現職こそ辞すべきとしたものの政府の要職に就くことを求めています。プーチン氏が政治の表舞台から完全に去ることを求めている人はわずか8%でした。
現時点ですでにヨシフ・スターリン後のロシアで最も長く国家元首の座を占めているプーチン氏がさらに任期を伸ばす可能性が高く、権力が固定化されることへの懸念が高まっています。
出馬に先立ち、メディア規制を強化
そうした懸念を裏付けるのが、プーチン氏が11月に承認した、メディアの報道に関する新たな制限です。
カタールを拠点とするメディア「Al Jazeera」によると、中央選挙委員会の会合の報道は登録されたメディア機関に限定され、フリーランスや独立系のジャーナリストを排除する可能性があります。また、軍基地や戒厳令が敷かれた地域での委員会の行動に関しても、地域および軍当局からの事前の承認なしに報道することができなくなります。
さらに、2022年3月から閲覧が禁止されているFacebookやInstagramなどのWebサイトやサービスについても、閲覧妨害と違反罰則の強化が行われます。現在は、VPNサービスを利用して閲覧国を変更すれば利用できている状況ですが、それすらもブロックされる計画です。
これらの制限により、政府や軍部への反対意見を封じ込めることができるため、大統領選挙で有利に戦うためにこのタイミングで承認されたのではとの見方が濃厚です。
●バルト三国 ロシアやベラルーシとの国境沿いに防衛施設構築へ 1/21
バルト三国はロシアやベラルーシとの国境沿いに防衛施設の構築を共同で進めていくことを明らかにし、ウクライナへの侵攻を続けるロシアへの警戒を強めています。
バルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアの国防相は19日、ロシアとベラルーシとの国境沿いに今後、数年間かけて防衛施設の構築を共同で進めていくことを明らかにしました。
エストニアの地元メディアによりますと、具体的には自国とロシアとの国境沿いのおよそ600か所に砲撃などに耐えられるコンクリート製の陣地などを建設する計画だと伝えています。
エストニアのペフクル国防相は声明で、「ウクライナでのロシアの戦争は、装備や弾薬だけでなく、物理的な防御が重要だということを示した」と指摘しています。
バルト三国は、今月、訪問したウクライナのゼレンスキー大統領に対しても軍事支援の継続を約束していて、ウクライナに侵攻したロシアや同盟関係にあるベラルーシからの脅威に警戒を強めています。
一方、ロシアではプーチン大統領の側近としても知られるボロジン下院議長が20日、ロシア軍の活動についてうその情報を拡散させたり、ロシアの安全を損なう活動を呼びかけたりする行為を行った場合、資産を没収する法案を作成し、22日に議会下院に提出すると明らかにしました。
ボロジン議長は「ロシアを破壊しようとしたり、裏切るものは罰をうけ、国に与えた損害はみずからの資産で償わねばならない」と主張しています。
ことし3月に大統領選挙を控えるなか、プーチン政権側は国内の情報統制を一段と強めています。
●ウクライナ軍、ロシア軍車両を次々撃破 アウジーイウカ北方の村 1/21
ウクライナ東部ドネツク州アウジーイウカのすぐ北に位置するステポべ村は、小さなレースコースのような道路に囲まれている。
ロシアがウクライナで続ける1年11カ月にわたる戦争で、ここ最近起きた中では最も劇的な小競り合いの数々を捉えた映像をよく見てほしい。その多くは、この道路に沿って行われている。ロシア軍は、この道路を経由して戦車や戦闘車両をステポべに投入し、ウクライナ軍の待ち伏せを受けている。
2両の米国製M2ブラッドレー歩兵戦闘車がロシア軍のT-90戦車1両と相見え、機関砲で25mm弾を浴びせてT-90を撃破。その際、M2はこの道路を前後に行ったり来たりし、T-90の照準をかわした。
別の戦闘では、M2が最北の東西に走る道路に沿って進撃し、ウクライナ軍第109領土防衛旅団が動けなくしたばかりのロシア軍のBMP歩兵戦闘車3両を爆破した。重量30トンのM2が重量16トンのBMPに重さ450gある25mm徹甲弾を浴びせると、「くらえ!」と領土防衛旅団の兵士が叫んだ。
昨年10月以来、数区画ほどしかないこの場所で来る日も来る日も激戦が繰り広げられている様は、この戦争の状況を物語っている。ロシア軍は攻撃をかけているが、ほとんど前進できていない。言い換えると、戦いは陣地戦になっている。
陣地戦は、防衛に有利な場所を手にした側が優位に立つが、完全に一方的な戦いというわけではない。少なくとも1両のM2が、爆破されたロシア軍のBMPの残骸でほぼ埋め尽くされたステポべの北端の「車両の墓場」で撃破された。ウクライナ軍のT-64戦車もどうやらM2をけん引しようとしていた最中に被弾したようだ。
だが、ステポべとアウジーイウカでは、ウクライナ軍よりもロシア軍の方が装備と兵士を多く失っている。独立系オープンソースインテリジェンス(OSINT)サイト「オリックス」のアナリストによると、昨年10月中旬以降、ロシア軍はこの地域で少なくとも488の戦車や戦闘車両、りゅう弾砲、トラック、その他の重装備を失ったか放棄したという。
これに対し、ウクライナ軍の損失は37だ。もし兵士の犠牲が装備の損失に比例するとすれば(そうでないと信じる理由はない)、ステポべとアウジーイウカではウクライナ兵1人が死亡するごとに、13人のロシア兵が死亡していることになる。
●ロシア一気に劣勢へ? 「早期警戒管制機」撃墜の深刻な影響  1/21
史上初のAWACS撃墜例か
ロシアによるウクライナ侵略戦争が長期化するなか、2024年1月14日、今後の航空戦に影響を与えるであろう重大な出来事が起きました。ウクライナ軍が、ロシア空軍の早期警戒管制機(AEW&C)であるA-50「メインステイ」を撃墜したと公式に発表したのです。
A-50は機体上部に大型のレーダードームを搭載し、空飛ぶ航空戦司令部として機能します。別名「空中警戒管制機(AWACS)」とも呼ばれ、価格は約400〜500億円と高価です。ロシア空軍には9機しかなく、そのうちの1機が失われたことになります。
早期警戒管制機は航空戦の趨勢を左右しかねない重要な機体です。最大で400〜600kmのレーダー視程を有し、敵の攻撃が及ばない戦線の後方でパトロールしながら航空戦を指揮します。これまで早期警戒管制機が攻撃を受けた事例はなく、今回が史上初めての被撃墜となりました。
本来、困難であるはずの後方に存在する早期警戒管制機に対する攻撃を、ウクライナ軍がどのようにして成功させるに至ったのかは現在のところ不明です。一説によると、ロシア空軍の同士討ちという可能性もあるとか。いずれにせよ、ロシア空軍にとっては海軍の黒海艦隊旗艦「モスクワ」沈没に匹敵する開戦以来の大失態といえるでしょう。
これ以上A-50を失えないロシア空軍
今回のA-50被撃墜が、この戦争にすぐさま影響を与えるとは考えにくいですが、ウクライナ周辺の低空域における航空優勢、いわゆる制空権の掌握においてロシア側が不利になる可能性は多分にあります。
早期警戒管制機が持つ最大の役割の1つは「地球の丸み」を克服することです。地上に配置された防空レーダーは、水平線(地平線)より下に存在する、すなわちその向こうに位置する航空機の探知ができません。これは海面(地面)の影になってしまうからです。
この影響は意外と大きく、たとえば人間の頭と同じ高さに置かれたレーダーアンテナは、わずか5kmで水平線の下の領域、すなわち探知不能エリアができてしまいます。
早期警戒管制機は高い位置から見下ろすことによって、この問題を解決できます。たとえば高度1万mを飛行すれば水平線の位置を378km先へ追いやることができます。つまり、ロシア側はウクライナ本土の低空をもっぱらA-50の監視に頼っていると言えるでしょう。
ロシア空軍はこれ以上のA-50の損失を防ぐために、今後は同機をより戦線後方へと下げてパトロールさせるでしょう。仮に現在より100km後方に下げたとすると、ロシア側は100km分の低空監視網を失うことになります。
間もなく実戦投入か? ウクライナのF-16
また、監視だけでなく、攻撃能力も低下します。ロシア空軍は最大射程400kmの高性能地対空ミサイルS-400を保有しており、ウクライナの空の大半を攻撃範囲に収めています。
しかし、S-400は自前の射撃用レーダーでは、前述した地球の丸みに関する問題から低空を飛ぶ航空機を照準することができず、ミサイルの最大性能を発揮するためにはA-50のレーダー支援が必須です。よってA-50を後方に下げたら、その分S-400がカバーできる範囲も減ると考えられます。
2024年春にはウクライナ空軍へF-16「ファイティングファルコン」戦闘機の配備が始まりますが、A-50の後退はF-16の性能を発揮する上で有利になります。F-16は空戦能力だけでなく、対地攻撃や地対空ミサイルの破壊能力にも優れているので、もしF-16による作戦が自由に行えるようになった場合、地上戦へ影響を与えることも十分に考えられるでしょう。
また、低空を飛翔し接近する巡航ミサイルはこれまでにおいてもロシア海軍司令部や潜水艦を撃破するなど戦果を上げていますが、ロシア側はその迎撃も一層困難となる可能性も考えられます。
ロシア側はS-400とA-50の組み合わせでF-16を封殺するつもりだったようですが、A-50を前進させると再び撃墜されるリスクを負うことになります。ちなみに、F-16は射程100km以上あるAIM-120D「アムラーム」空対空ミサイルを使用可能で、これもA-50にとって脅威となります。
いずれにせよロシア空軍はまもなく控えるF-16の実戦投入にそなえ、何らかの手段を用意しなくてはならないでしょう。たとえばA-50の代わりにMiG-31やSu-35といった大型戦闘機にレーダー監視をさせるという方法などが考えられます。 
●グローバル経済の時代が今年で終焉も。民主主義と権威主義の戦い 1/21
「選挙イヤー」と言われる2024年(令和6年)が幕開けし、先陣を切る形で台湾で総統選挙が行われ、欧米との関係を維持・強化する姿勢の頼清徳(らいせいとく)さんが勝利した。
このニュースは、日本人にとっていいニュースに見えたかもしれない。しかし「選挙イヤー」は始まったばかりだ。本番はこれかららしい。
各国で行われる選挙は、民主主義と権威主義の戦いの様相を呈している。それらの結果次第では、これまでの世界の秩序が大きく変わってしまう可能性もあると専門家は指摘する。日本の若者の暮らしも全く無関係ではない。
そこで今回、立て続けにこれから届く選挙関連のニュースをどのように解釈し、ウォッチすればいいのか、国際政治に詳しい専門家の和田大樹さんに教えてもらった。
和田さんは、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門家で、Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、日本カウンターインテリジェンス協会理事、ノンマドファクトリー社外顧問、清和大学講師、岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員など数々の職務を兼任する。
台湾は、民主主義と権威主義の戦いの最前線
2024年(令和6年)が始まった。今年は台湾、ロシア、インド、インドネシア、米国などで選挙が行われる。正に「選挙イヤー」だ。それらの選挙結果の行方次第で、民主主義と権威主義の戦いは大きな岐路を迎えるだろう。
まず、台湾では、次の指導者を選ぶ総統選挙が1月半ばに行われた。欧米との関係を重視する現総統の蔡英文(さいえいぶん)氏の後継者が勝利した。今後4年間は、台湾と中国との関係が冷え込む可能性が高い。
中国は、軍事的、経済的威圧を台湾に対して仕掛けてきたが、今後もそれが継続されるだろう。
現在の蔡英文(さいえいぶん)政権は、自由や民主主義を重視し、欧米との関係を維持・強化して中国に屈しない姿勢に徹している。台湾は、引き続き、民主主義と権威主義の戦いの最前線となるだろう。
権威主義陣営の勢いを抑えられない世界
台湾の結果だけを見れば、民主主義の側の勝利となったがその先は、予断を許さない。
3月には、大統領選挙がロシアで行われる。この選挙は、プーチン政権の延長を承認するイベントに過ぎない。プーチン大統領は今年、ウクライナでの攻勢をいっそう強化する可能性がある。
選挙の行われる3月で、ウクライナ侵攻から早くも3年目に入る。これまでは、欧米諸国からの軍事支援もあり、ウクライナ軍が優勢だったが、その勢いにも昨今は陰りが見え始め、ロシアに有利な軍事環境が到来している。
米国を中心とした欧米諸国では、ウクライナへの支援疲れも顕著になってきている。プーチン大統領は、そこをチャンスに軍事的優勢を勝ち取りたいところだ。
ただ、ロシアによる軍事的優勢は同時に、権威主義陣営の勢いを民主主義陣営が抑えられない事実を意味する。日本など自由民主主義陣営にとってもウクライナ情勢は決して対岸の火事ではない。
トランプ勝利は、民主主義陣営の分断を意味する
民主主義と権威主義の戦いで最大のポイントは、米大統領選挙の行方だ。なぜ最大なのか。民主主義と権威主義の戦いの中、民主主義陣営の中で大きな分断が発生する恐れがあるからだ。
この選挙で、トランプ勝利・バイデン敗北というシナリオが現実となれば、民主主義陣営内部の分断が生まれ、中国やロシアなど権威主義国家が勢いを助長する可能性がある。
筆者周辺の専門家の間でも、トランプ勝利のシナリオが想定されている。
NATO(北大西洋条約機構)からの脱退の示唆、ウクライナ支援の停止、欧州との関係悪化、米中貿易戦争のさらなる激化、日本や韓国など同盟国への軍事的負担増など、トランプ勝利によって、世界に大きな影響をもたらすさまざまな変化が予測されている。
物価高どころでは済まない恐れも
欧米や日本など先進国の影響力が相対的に低下し、中国およびロシアなど現状打破を求める国家、ならびにアジア、アフリカおよび中南米といったグローバルサウスの国々の影響力が高まる世界において、民主主義と権威主義の戦いは岐路を迎えようとしている。
これからの社会で活躍する皆さんには、企業のビジネス環境にとって最適だったグローバル経済の時代が終焉(しゅうえん)に向かい、対立国や対立陣営との貿易摩擦(関税引き上げや輸出入規制など)が起こりやすい分断の世界へ移行しつつあると理解してほしい。
民主主義と権威主義の戦いの1つであるウクライナ戦争を例に見ても、ロシアに進出していた日本企業の多くが戦争によって撤退した。マクドナルドやスターバックスなど誰もが知る米国企業も同じだ。
こういったケースは今後も、民主主義と権威主義の戦いの中で起こる可能性がある。そういった世界の潮流の変化を日々把握する習慣を身につければ、所属する企業や自分の暮らしに発生するリスクを最小化できる。
民主主義と権威主義の戦いが岐路を迎える年になると理解し、世界の潮流の変化に敏感になってほしい。

 

●ロシア中銀、インフレ抑制で政策金利16%に 鶏卵高騰も 1/22
ロシア中央銀行がインフレ対応で政策金利の引き上げを続けている。2023年12月15日に開いた金融政策決定会合で政策金利を1%引き上げて年16%にすることを決めた。利上げは5会合連続。欧米の制裁などで鶏卵など生活に身近なもので価格上昇の動きが目立っている。
プーチン大統領が12月14日にモスクワで開催した国民との直接対話で、ロシア国内で生鮮食品の「卵」が23年に入り4割高騰していることへの質問が上がった。プーチン氏は「政府の仕事の失敗だ。対応を進めており、状況は間違いなく改善するだろう」と政府の対応の遅れを釈明した。
ロシアメディアなどによると、欧米の対ロ制裁に伴って飼料の調達コストが上昇していることが価格上昇につながった。
生鮮食品に限らず、ロシア国内では足元でインフレ基調が再燃している。ロシア中銀によると、23年12月のインフレ率は7.4%だった。中銀は23年の年間インフレ率を7.0〜7.5%と予想していた。
ロシア中銀のナビウリナ総裁は12月15日の声明で、物価上昇への対応のため「(政策金利の)高い水準が長期間続くことが必要だ」と述べた。現状の金利水準を当面の間継続し、目標とするインフレ率4%に徐々に引き下げる考えとみられる。
ロシア中銀は12月の声明で、特に製造業で労働力不足が深刻になっており、供給面での制約につながっていると指摘した。
ウクライナで続ける「特別軍事作戦」が影響しているようだ。ロシア軍は兵士を志願した「契約軍人」を増やしており、死傷者が拡大しているとされるウクライナとの戦闘地域への兵士の増員を進めているもよう。
プーチン氏は国民との直接対話で、ウクライナ軍との戦闘地域には「61万7000人の兵士がいる」とも述べ、ロシア軍の兵力は不足していないと強調した。ウクライナの南部・東部について「歴史的にロシアの領土だ」とも述べ、今後も侵攻を続ける姿勢を改めて示した。
兵士の増員を優先して進めているため、国内の働き手の不足にも影響しているとみられる。
ロシアでは24年3月に大統領選が実施される。プーチン氏は昨年12月に出馬を表明し、無所属での立候補に向けた準備を進めている。
プーチン氏は選挙に向けて内政の安定を強調しており、欧米諸国が制裁を続ける中でもロシア経済は成長していると説明。昨年12月には23年の国内総生産(GDP)は3.5%増になるとの見通しを示した。
大統領選は他に有力候補が出馬表明しておらずプーチン氏の当選が確実視されている。独立系メディアはロシア大統領府が80%以上の得票率を目標にしていると伝えており、国民の支持をどの程度得られるかが焦点になる。
●中国の原油輸入、ロシアが最大相手国に…天然ガスの輸入額も6割増 1/22
中国が2023年にロシアから輸入した原油が、22年比で3・5%増の606億ドル(約9兆円)となった。ウクライナ侵略が始まる前の21年比で約5割増加しており、ウクライナ侵略で制裁を受けるロシア経済を中国が下支えしている構図が一段と明確になった。
中国税関当局の発表資料によると、サウジアラビアからの原油輸入額は22年比17・1%減の538億ドルと落ち込み、ロシアがサウジアラビアを抜き、中国にとって最大の原油の輸入相手国となった。原油の全輸入額に占めるロシアの割合は17・9%で、22年から1・9ポイント上昇した。ロシアからの天然ガスの輸入額も約6割増の64億ドルとなった。
23年のロシアから中国への全体の輸入額は前年比12・7%増の1291億ドルで、原油が半分弱を占めた。一方、中国からロシアへの輸出額は46・9%増の1109億ドルで、ガソリン車などが急増した。
輸出入を合わせた中露間の年間貿易総額は26・3%増の2401億ドルと過去最高を更新した。習近平国家主席とプーチン大統領は、年間貿易総額を24年までに2000億ドルに拡大する目標で合意しており、1年前倒しで達成した。
●ゼレンスキー氏「トランプ氏をキーウに招待」 1/22
ウクライナのゼレンスキー大統領が米大統領選の共和党候補指名争いで独走するトランプ前大統領に向けて「ウクライナのキーウ(キエフ)にご招待します」と呼びかけた。英テレビが21日までにインタビューを放送した。
トランプ氏が大統領に返り咲けば24時間以内に戦争を終わらせられると主張していることを踏まえ、現実的な和平案があるなら聞かせてほしいと注文を付けた。
AP通信によると、ゼレンスキー氏はトランプ氏がウクライナなどの意向を聞かずに独断で和平案を推し進める可能性を指摘。ウクライナが望まない形で終戦につながりかねないと警戒感を示した。
英メディアによると、トランプ氏はこれまで和平案について「話してしまえば、交渉材料を失ってしまう」として詳細を明らかにしていない。
ゼレンスキー氏は昨年もキーウ訪問を促したが、トランプ氏が受け入れず実現しなかった。
トランプ氏は2022年2月の侵攻開始直前、ロシアのプーチン大統領を「天才」と持ち上げた。自身が大統領であり続けていれば戦争は起きていなかったとも主張している。
●「ロシアは月3万人を新たに徴兵している」ウクライナ情報機関の幹部が証言 1/22
・「ロシアは毎月3万人の新たな兵士を採用している」とウクライナの情報機関の幹部が語った。
・戦争研究所によると、ロシアは前線での損失を補うために新規に兵士を採用しているという。
・「ロシア軍はウクライナで日常的な作戦レベルのローテーションを実施できる」と戦争研究所は述べた。
ウクライナ国防省情報総局の幹部が2024年1月15日に語ったところによると、「ロシアはウクライナの『肉挽き器(meat grinder)』に投入された兵士の補充をするために毎月3万人の新兵を採用している」という。
ウクライナ国防省情報総局のバディム・スキビツキー(Vadym Skibitsky)副局長によると、この人数は1日あたりに換算すると約1000人から1100人になるという。
シンクタンクの戦争研究所(Institute for the Study of War:ISW)は、スキビツキーの発言は「ロシア軍がウクライナで日常的な作戦レベルのローテーションを実施できるというISWの評価と一致する」としている。
「肉挽き器(meat grinder)」という言葉は、もともとウクライナのドネツィク州にあるバフムトやアウディーイウカのような戦略的都市をめぐる激しい戦いなど、ロシア兵の死傷者の多い戦況を指していた。しかし、戦争が長引くにつれ、アナリストたちは前線の他の部分においても、ロシアの攻撃に同様の類似点があると見ている。
2023年10月、アメリカはロシアが血なまぐさい「人海戦術」を復活させたと発表した。人海戦術とは、準備も訓練も不十分な部隊をしばしば適切な装備もないまま、大量に戦場に投入することだ。
「ロシア人が軍隊に入隊する動機は主に給料だ。特に賃金が低かったり、仕事がまったくないような危機的状況にある地域では、人は軍隊に入りたいと考える」とスキビツキーは2024年1月15日、RBCウクライナ(RBC-Ukraine)に語った。
「毎月3万人の新兵は前線での損失を補充するには十分だが、ロシアは『より戦略的な予備軍を作る』ために、『より大規模な動員を宣言する』必要があるだろう」
RBCウクライナによると、「プーチン大統領は敢えてそんなことをするだろうか?」と彼は付け加えた。
「選挙前には考えにくい。そして選挙後は…いずれ分かることだろう。しかし、ロシアで動員を行うためのすべての条件はいつでも整う」
戦争に加えて、プーチン大統領はロシア国内からの増大する脅威に直面している。それは愛する人の帰還を願う兵士の妻や母親だ。
彼らの反発は非常に強く、ロシアの連邦保安局の職員は、抗議する妻のいる兵士を尋問するほどで、さらにワシントン・ポスト(The Washington Post)が報道したところによると、軍の幹部らは、妻が引き下がらなければ兵士を前線に送ると脅したという。
ワシントン・ポストによると「あなた方のやり方は非常に汚い」と兵士の帰還を願うメッセージがテレグラム・チャンネル(Telegram channel)に投稿されたという。
「あなた方は親族に圧力をかけることで、我々の怒りを鎮めようとしている」
●“ロシアの支配拠点で市民25人死亡”ウクライナへの批判強める 1/22
ロシア北西部の港にあるガス会社の施設で起きた火災について、ウクライナのメディアは、ウクライナの治安機関が行った無人機攻撃だったと伝えました。また、ウクライナ東部ドネツク州では、ロシア側が支配する拠点で、ウクライナ軍の攻撃で市民25人が死亡したとして、ロシア側はウクライナへの非難を強めています。
ロシア北西部レニングラード州の知事は21日、バルト海に面した港にあるロシアの大手民間ガス会社「ノバテク」のターミナルで火災が起きたと明らかにし、地元メディアは2機の無人機が攻撃したと報じました。
ウクライナのメディアは、情報筋の話としてウクライナ保安庁が行った無人機攻撃で、ロシア軍に供給される燃料を標的にしたものだったと伝えました。
また、ウクライナの東部ドネツク州の親ロシア派の代表、プシリン氏は21日、ロシア側が支配する州都ドネツクでウクライナ軍の攻撃で市民25人が死亡し、20人がけがをしたと発表しました。
ロシア外務省は声明で「欧米から供与された兵器が使われた。すべての国や国際機関がこのテロ攻撃を非難するよう訴える」として非難を強めています。
一方、ロシア軍もミサイルと無人機による攻撃をウクライナ各地で行っていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は20日「ウクライナの防空網を突破し、圧力をかけるため、ロシア軍はミサイルと無人機を組み合わせた攻撃を続けていく可能性がある」と分析しています。
●黒海艦隊の哨戒艇撃沈が新たに判明 ウクライナ海軍、年末に無人艇で攻撃 1/22
ウクライナ海軍が昨年12月下旬、ロシア黒海艦隊のステンカ級哨戒艇を撃沈していたことが明らかになった。伝えられるところでは、ロシアの占領下にあるウクライナ南部クリミア半島セバストポリのフラフスカヤ(グラフスカヤ)湾で、爆薬を積んだ1艇または複数の水上ドローン(無人艇)が排水量200トン級の「タラントゥル」を攻撃し、破壊したとのことだ。
撃沈は襲撃から数週間たってウクライナのパルチザンによって確認され、衛星画像でも裏づけられた。冷戦時代にさかのぼる古い哨戒艇であるタラントゥルは、ウクライナ軍が運用不能にした黒海艦隊艦艇の長いリストに新たに追加された。
ロシアがウクライナで拡大して23カ月になる戦争の激しい戦闘で、黒海艦隊はウクライナ軍の無人艇やドローン(無人機)、地上発射ロケット、空中発射ミサイルによって、巡洋艦1隻、大型揚陸艦4隻、潜水艦1隻、補給艦1隻、コルベット艦や哨戒艇、揚陸艇数隻などを失っている。
損失は、戦争拡大前に黒海艦隊が保有していた艦艇のおよそ5分の1に及ぶ。
しかも、沈没した大型艦は補充できない。黒海への唯一の入り口であるボスポラス海峡はトルコが管理し、慣例として戦時中は外国の軍艦通過を認めないからだ。
いずれにせよ、黒海艦隊が補強しようとする場合は、ロシア海軍のほかの地域艦隊から艦艇を回してもらう必要があるだろう。ロシアの艦艇建造産業はソ連崩壊後の1990年代に凋落し、今日にいたるまで回復していない。
世界の主要な海軍の大半は、保有する艦艇の総トン数という重要な指標に基づくと着実に拡大しているが、世界3位の規模をもつロシア海軍は縮小を免れるのがやっとの状態だ。
ロシア海軍が保有する艦艇の2023年末時点の総トン数は215万2000トン(米海軍のおよそ3分の1)で、前年比の増加は6300トンにとどまった。フリゲート艦やコルベット艦、掃海艇、潜水艦艇の新造によって1万7700トン増やすはずだったが、ウクライナ側の攻撃によって黒海艦隊の艦艇を1万1400トン失った結果だ。
タラントゥル分を含めれば、失ったトン数はさらに200トンほど膨らむ。
黒海艦隊にとってとりわけ屈辱的なのは、戦争拡大前の時点で大型艦がたった1隻しかなかったウクライナ海軍との海戦に負けていることだ。
ウクライナ海軍はこの大型艦(フリゲート艦「ヘチマン・サハイダチニー」)も、2022年2月にロシアの全面侵攻が始まった直後に自沈させている。こうしてウクライナ海軍は、空軍や地上軍(陸軍)の大きな支援を受けつつドローンやミサイルで戦う新しいタイプの海軍になった。
ドローンやミサイルは有効でもある。ウクライナ側は昨年後半、黒海艦隊に対する攻撃を強化し、たいていは空中発射ミサイルによって揚陸艦2隻、潜水艦1隻、コルベット艦1隻、退役した掃海艇1隻を破壊した。タラントゥルに対する無人艇攻撃は、3カ月にわたる激しい対艦作戦のハイライトだった。
この作戦はロシア側の後退で終わった。黒海艦隊はクリミアからだけでなく、ロシア南部のノボロシスクからも大半の艦艇を引き揚げた。
ウクライナ側は黒海艦隊の2割を破壊し、残りをさらに東へと追いやることで、黒海西部の支配権を取り戻し、そこを南北に通るきわめて重要な穀物輸送回廊を確保した。
とはいえ、それで終わらせるつもりはない。ウクライナ海軍のオレクシー・ネイジュパパ司令官(海軍中将)は執務室の壁に、黒海艦隊の全艦艇の一覧を掲示している。
ウクライナ軍が艦艇を沈めるたびに、ネイジュパパはその艦艇の絵柄を赤く塗りつぶす。「いずれ、ここにあるすべてが赤く染まることでしょう」と地元メディアのウクラインスカ・プラウダに最近語っている。
●西側諸国、ロシア資産没収なら最低2880億ドル損失 国営通信が試算 1/22
国営ロシア通信(RIA)は21日、西側諸国がロシアの資産を没収してウクライナ復興に充当し、ロシアが報復に動いた場合、西側が失う資産と投資の規模は少なくとも2880億ドルに上るとの試算結果を伝えた。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、米国やその同盟諸国はロシアの中央銀行および財務省との取引を禁止するとともに、西側にあったロシア政府の資産およそ3000億ドルを凍結した。
さらに米国と英国の当局者はここ数カ月、ベルギーや他の欧州の都市で凍結されたロシア資産を没収し、戦争で被害を受けたウクライナの復興支援に投じるための作業に動いている。
3人の関係者は2023年12月28日ロイターに、今年2月に行われる主要7カ国(G7)首脳会議でロシア資産没収を可能にする新たな法理論を協議する見通しだと明かした。
一方ロシアは、西側が強硬措置を進めれば、ロシア側にも没収できる米国と欧州諸国の資産のリストがあると警告している。
RIAが引用したデータによると、欧州連合(EU)とG7諸国、オーストラリア、スイスからのロシア向け直接投資額は22年末時点で2880億ドル。G7では英国が最大の対ロシア投資を行っており、21年末にロシア国内にあった資産は189億ドルだった。
22年末段階では、米国が96億ドル、日本が46億ドル、カナダが29億ドルのロシア関連資産を保有していた。
●共産党、大統領選で存在感 戦争協力、政権に「従順」― 1/22
ロシア革命を率いた旧ソ連最初の指導者レーニンが死去して21日で100年を迎えた。ソ連崩壊前に共産党一党独裁は消え、後継のロシア共産党は現在、政権に従順な最大の「体制内野党」に甘んじている。ただ、政権与党「統一ロシア」などの支持を受けたプーチン大統領の圧勝が確実視される今年3月の大統領選で独自候補を擁立するなど、一定の組織力と存在感を残している。
次点に警戒心
「永久保存」処置が施されて1世紀となる遺体が安置されている、モスクワ「赤の広場」のレーニン廟(びょう)。共産党は節目の21日に献花を実施。これに先立つ声明で「レーニンの思想は不滅」「大義は生き続ける」と訴えた。
党は今でこそプーチン政権を支え、ウクライナ侵攻は「勝つか負けるか」(ジュガーノフ委員長)が重要だと戦争協力している。しかし、1990年代は下院第1党としてエリツィン政権を脅かし、96年大統領選はジュガーノフ氏が次点の大接戦となった。
今回出馬したハリトノフ下院極東・北極圏発展委員長は、2004年大統領選で次点の候補。昨年12月の党大会で「少なくとも2位を目指す」と述べる一方、プーチン氏に勝つ意気込みかどうかをメディアに問われると「何とも言えない」と言葉を濁した。
共産党はおおむね従順とはいえ、18年に年金改革反対の論陣を張るなど、いつ政権に歯向かうかは分からない。無所属候補として超党派で臨むプーチン氏の圧勝が予想される次期大統領選での得票数は、党勢を示す指標となる。独立系メディアは最近、選挙のコントロールを画策する政権が、2位の座を共産党ではなく極右・自由民主党の候補に与えたい意向と報道。共産党への警戒心が残ることをうかがわせた。
プーチン氏からは低評価
「ロシア1000年の歴史で最も傑出した政治家・国家指導者の一人」。現地メディアは没後100年に際し、レーニンをこう描写した。政府系の世論調査でも「レーニンについて知らない」という回答は2%にすぎず、世代や党派を超えて評価されている。
プーチン氏の祖父は、レーニンが最晩年に過ごしたモスクワ郊外の別荘で料理人を務めていたとされる。プーチン氏とレーニンのつながりを示す逸話が語られるのは、ロシア国民の「レーニン人気」を反映してのことだ。
だが、欧米諸国から「ソ連復活をもくろんでいる」と指摘されることもあるプーチン氏自身のレーニンへの評価は低い。22年のウクライナ侵攻直前の演説では「レーニンがウクライナをつくった」と主張した。ウクライナは旧ロシア帝国の一部だったが、旧ソ連内で共和国の地位を得て、崩壊によって独立したという歴史観を展開。「ロシア固有の領土」だとして侵攻を正当化した経緯がある。
●北朝鮮、対ロ最大の兵器供給国 ウクライナ国防省の局長 1/22
ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は21日までに、英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューに応じ、北朝鮮が現在、ウクライナに侵攻するロシアへの最大の兵器供給国になっているとの考えを示した。
ブダノフ氏は、ロシアはウクライナで自らの生産能力を超えて兵器や砲弾を消費しているとして、他国からの兵器調達を探っていると指摘。「北朝鮮の支援がなければ、(ロシアにとって)破滅的な状況になっていただろう」と語った。
ロシアと北朝鮮は最近、軍事面で協力を深めており、ロシアは北朝鮮から送られた砲弾や短距離弾道ミサイルをウクライナ侵攻で使用しているとされる。
●親露派トップ「ウクライナの攻撃で28人死亡」 露軍、東部集落を新たに制圧 1/22
ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部ドネツク州の主要部を実効支配する親露派武装勢力トップ、プシリン氏は21日、州都ドネツク市の市場などがウクライナ軍の砲撃を受け、合わせて民間人28人が死亡、30人が負傷したと交流サイト(SNS)で主張した。
ロシアは昨年12月29日、ウクライナ各地に過去最大規模のミサイル攻撃を実施。首都キーウ(キエフ)などで50人以上が死亡した。ウクライナは報復として露西部ベルゴロドに砲撃を行い、ロシア側によると25人が死亡した。双方はその後も互いの都市への攻撃を繰り返しており、両国が発表した民間人の死者数は昨年末以降だけで既に計100人を超えている。
前線の戦況を巡り、露国防省は今月21日、ウクライナ東部ハリコフ州の集落クラフマリノエを制圧したと主張した。ウクライナメディアによると、同国軍も同集落からの撤退を認めた一方、人員損失を避けるための撤退で戦局の大勢に影響はないとの見方を示した。
クラフマリノエは露軍が制圧を狙うハリコフ州の要衝クピャンスクから南東約30キロに位置しており、2022年秋にウクライナ軍が露軍から奪還していた。
露軍は昨年秋ごろから東部で攻勢を強化。12月にはドネツク州の激戦地マリインカの制圧を発表し、今月18日にも同州の集落ベショーロエを制圧したと主張した。戦局は全体的に膠着(こうちゃく)状態にあるものの、戦力で勝る露軍が徐々に優勢になりつつあるとの観測が強い。
●ロシア兵器に“日本製部品”どこから?「兵器生産力が回復している」 1/22
ウクライナのキーウ経済大学研究所が、西側諸国のロシア制裁に関する調査資料を公開。ロシアは兵器の部品の調達などが厳しくなっていると思いきや、生産能力を持ち直していることが強調されています。
生産能力は2023年にほぼ回復?
ウクライナのキーウ経済大学研究所(KSE)は2024年1月11日、2023年におけるロシアの軍需部品などに関する生産や輸入状況についてまとめた資料を公開しました。西側諸国のロシア制裁に関しての計画や勧告を行っている国際グループ、ヤーマック・マクフォールと共同で調査したものです。
資料によると、西側諸国及びウクライナの友好国による制裁にもかかわらず、ロシアは軍事産業にとって重要と思われる部品を220億ドル以上、輸入したことが明らかとなっています。
これまでウクライナの戦場で、破壊または鹵獲した兵器には、約2800点の外国製部品が使われていたとのことで、これらの製造を担当した企業を調査中だといいます。西側企業の部品は、ロシア軍のヘリコプター、装甲車両、電子線装置のほか、極超音速ミサイル「キンジャール」や、イランの自爆ドローン「シャヘド」のロシア版である「ゲラン2」にも使用されているなど、ウクライナのインフラ攻撃に大きな影響を与えているそうです。
KSEはロシアの軍需備品輸入に関して、2022年2月侵攻開始直後には急速に落ちたものの、「2023年にはほぼ完全に回復している」と見解を述べています。
実は日本の製品も使われている!?
調査した兵器に使われていた約2800点の外国製部品のうち、72%はアメリカに拠点を置く企業からもたらされており、スイスが6%、日本が5%と続きます。ロシアと関係が深いとされている中国からの部品は、意外にも4%程度しか使用されていなかったとのことです。
ロシアは欧米や日本などの外国製部品を、経済制裁の抜け穴を利用し、中国、香港、トルコなどの代理店を通じて入手しているようです。調査によると、2023年1月から10月までの軍需部品の輸入のほぼ半分が、こうした生産企業から第三国経由でもたらされているようです。
また報告書では、工作機械の動作をコンピュータで自動化する、CNC工作機の輸入状態について特に注目しています。
CNC工作機2023年1月〜10月の輸入額は2億9200万ドルとのことで、これは制裁前と比べ33%も増加しているとのことです。輸入した製品を生産している企業の国別では、ドイツ(42.3%)、韓国(20.7%)、台湾(19.5%)、アメリカ(7.1%)、日本(6.9%)と、こちらも西側の企業が多くなっています。
CNCは、兵器外板や航空機、ミサイル、ドローンなどの各部品を製造するに欠かせない機械ということで、資料ではこの分野の機械に関しての制裁も強く訴えています。 
●ロシア大統領選、反プーチン候補に5万超の署名 寒空に2時間の行列 1/22
ウクライナ侵攻への反対を訴えて今年3月のロシア大統領選挙への立候補を目指して署名集めをしているボリス・ナジェージュジン氏が21日、必要数の半分超となる5万以上の署名を集めたとSNSのテレグラムで明らかにした。プーチン大統領の当選が確実な状況で、政府の弾圧も激しいが、「反戦の声を上げたい」という声が広がっている。
ナジェージュジン氏は中道右派の政党「市民イニシアチブ」で候補者に選ばれており、正式な立候補には10万人の署名を1月末までに集める必要がある。
「我々は半分の道のりを到達し、5万4740の署名を集めた。1週間前に不可能に思えたことで、素晴らしい」と喜びつつ、「活動を弱めてはいけない」と檄(げき)を飛ばした。
週末、ロシア各地の選挙対策事務所では、署名に訪れた支持者で行列ができた。モスクワでは零下6度の寒空の下、「反戦」の姿勢を支持する若者を中心に多くの市民が行列に2時間並んで署名をした。
ただ、10万人分の署名を集めても、選挙管理委員会の審査で、名前や住所などに間違いが見つかれば無効になる。選対のスタッフも支持者の身分証明書を見てデータを確認するなど、慎重に作業を進めていた。
●ドネツクのマーケットに砲弾 27人が死亡 25人が重軽傷 1/22
ドネツク、ウクライナ、1月22日 (AP) ― ロシアが一部を占領しているウクライナ東部ドネツク州に対する砲撃で、州都ドネツク郊外のマーケットが被弾し、少なくとも27人が死亡、子ども2人を含む25人が重軽傷を負った。ロシアが一方的に独立を宣言した「ドネツク人民共和国」のプシリン首長が明らかにした。
ドネツクのマーケットを直撃した砲弾は、同市の真西に位置するクラホヘとクラスノホリフカから発射されたものだとプシリン首長指摘しているが、この砲撃についてウクライナはコメントしておらず、AP通信はロシア側の声明を独自に検証できていない。
ほぼ2年におよぶ戦争で、この冬は全長約1500キロにおよぶ戦線にこれといった動きはなく、ロシア、ウクライナともに長距離砲による砲撃戦に終始している。
●台湾総統戦、まさに「米中の代理戦争」 「民主主義」と「権威主義」の戦い 1/22
2024年の選挙イヤーの幕開けで、台湾で総統選挙が行われた。その結果、蔡英文政権で副総統を務める頼清徳氏が選挙戦で勝利し、今後4年間は緊張感漂う中台関係が続くことになりそうだ。今後も中国による軍事的挑発や経済的威圧、サイバー攻撃や偽情報の流布など台湾への圧力が繰り返されるだろう。
しかし、今回の選挙で筆者が強く感じたのは、その注目度である。台湾では4年ごとに総統選挙が行われるが、今回の諸外国の注目度はこれまでよりはるかに高かった。日本でも米国でもその動向は頻繁に取り上げられ、そこには「今後の世界の行方を左右する総統選挙」のイメージが強く滲み出ていた。では、なぜそのようなイメージが強くなったのか。
当然のことだが、台湾の総統選挙は台湾国内のイベントであり、諸外国が介入する問題ではない。しかし、近年の台湾は「民主主義」と「権威主義」の戦いの最前線にあるという事実を我々は忘れてはならない。
今回の総統選挙で最大の焦点となったのは、米国寄りの指導者と中国寄りの指導者のどちらが勝利するかであった。結果論、米国寄りの指導者が勝利したわけだが、米国としては台湾への防衛協力を続け、台湾を中国による太平洋進出を抑える防波堤として機能させておきたいので、米国との関係を重視する頼氏が当選したことに安堵している。
一方、中国としては独立勢力と位置づける民進党政権がさらに4年間続くことになったことに強い不満を覚えている。中国の習政権は台湾統一を強く掲げているが、では統一すればそれで終わりかいったらそうではない。中国には海洋進出を強化し、いずれは西太平洋で影響力を拡大させるという野望がある。台湾統一はその出発点にすぎず、台湾を支配下に置けば、台湾軍を中国軍に組み入れ、台湾を太平洋進出に向けての最前線基地にすることは間違いない。台湾が中国軍の出発拠点となれば、同地域の安全保障バランスは大きく変わることになる。
これが米国が台湾を強く後押しする核心だ。これまで太平洋秩序で覇権を握ってきた米国からすると、その現状打破を目指す中国の存在は大きな脅威となる。米中の軍事力の拮抗が顕著になる中、米国は今後も防波堤としての台湾への支援を継続するだろう。
要は、今回の総統選挙は米中の代理戦争という意味も含んでいるのだ。そして、これは同時に民主主義陣営と権威主義陣営のどちらが勝つのかという問題でもあり、そこはウクライナ情勢と全く同じだ。バイデン政権が批判が強まる中でもウクライナ支援を継続するのは、ウクライナ情勢で権威主義国家ロシアに民主主義陣営が負けてはならないという危機感からだ。今日、ウクライナと台湾は両陣営にとっての戦いの場となっている。

 

●プーチン大統領のバルト三国への強気発言は、NATOとの「将来的エスカレーション」の土台作りか 1/23
ロシアのプーチン大統領はNATO加盟国であるラトビア、エストニア、リトアニアに対して"怒り"を示し始めた。
その主張は、ロシアがウクライナに侵攻する前のプーチン大統領の発言に恐ろしいほど酷似している。
バルト三国に対するロシアの新たな主張は、「将来的なエスカレーション」の土台を作るものだとISWは指摘している。
ロシアのプーチン大統領はバルト三国に対する主張を強めていて、東のNATO加盟国との「将来的なエスカレーション」の土台を作るものだと、アメリカのワシントンD.C.を拠点とするシンクタンクの戦争研究所(ISW)は指摘している。
ISWによると、プーチン大統領は1月16日、ラトビアをはじめとするバルト三国がロシア系民族を国外へと「追放している」と主張した。
これはラトビアの移民法の"変更" ── 永住者としてラトビアで暮らすロシア人に対し、同国に留まることを望むならラトビア語の試験に合格することを求めている ── に言及したものだ。新しい規則に基づいて在留許可を更新していないとして、12月にはおよそ1200人のロシア人が国外退去の対象となった。
ロシア国営通信社RIAノーボスチによると、「これらは我が国の安全保障に直結する非常に深刻な問題だ」とプーチン大統領は語った。
プーチン大統領の主張は「バルト三国に対する将来的なエスカレーションのために情報条件を設定しようとするクレムリンの長年にわたる試みを著しく拡大させた」もので、「NATOを弱体化させるというより大きな試みの一環だろう」とISWは指摘している。
ISWによると、ロシアがバルト三国をすぐにでも攻撃する兆候はまだ見つかっていない。ただ、プーチン大統領が「『同胞』を守るという名目の下、将来的にロシアが国外で攻撃的な行動を取る」ための下地を作っている可能性があると警鐘を鳴らしている。
プーチン大統領はウクライナについても、一方的な軍事侵攻を開始する前に同様の主張をしていた。
ロシアが主張した侵攻の理由の1つは、ドンバスで親ロシア派の武装勢力と戦う中で、ウクライナがロシア民族に対する「大量虐殺(ジェノサイド)」を行っているというものだった(ただ、その主張を裏付ける証拠はない)。
バルト三国同様、ウクライナも旧ソ連の一部だった。プーチン大統領はこうした国々の「主権を矮小化」する一方で、「ロシアの主権を拡大解釈」しているとISWは指摘している。
ただ、ウクライナとは違って、バルト三国 ── エストニア、ラトビア、リトアニア ── はいずれもNATO加盟国だ。
ISWによると、バルト三国の主権を弱め、ロシア人を"いじめている"とレッテルを貼ることは、NATOを弱体化させるというプーチン大統領の最終目標に合致するという。
プーチン大統領がウクライナに侵攻した目的は、大統領が表明したようなNATOによる攻撃からロシアを守ることではなく、NATOを不安定化させることだと、ISWは2023年10月の時点で評価していた。
●北朝鮮とロシアの関係に中国が激怒していた! 1/23
世界的なコロナ禍が収束する中、北朝鮮の動向に関心が持たれている。ミサイル発射など軍事面での行動が目を引くが、実は自国と海外との往来をいつ解放するのかにも注目が高まっている。2020年1月にコロナの拡大を防ぐため中朝国境を封鎖して以来、正式に解除されていないためだ。貿易など細々とした対外関係は行われているが、そのような中、「本格開放のシグナル?」とも思える動きが見えた。
2024年1月12日、ロシアの旅行会社が「北朝鮮へのスキーツアーを実施する」と、アメリカ政府系ラジオの自由アジア放送(RFA)が伝えた。
観光目的での北朝鮮訪問が実現すれば2020年1月22日、新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に北朝鮮が一切の入国を停止した後で初めてのこととなる。
この報道を契機に、中国の旅行会社からは「なぜロシアからなのか。信じられない」との落胆の声が聞こえてくる。
中国の旅行社が落胆する理由
翌1月13日、アメリカ・CNNは、2023年12月に北朝鮮を訪問したロシアのオレグ・コジェミャコ沿海地方知事との会談で、北朝鮮当局と観光ツアーの再開が議題となった可能性があると伝えている。
ロシアの旅行会社が主催するツアーは、2024年2月9日にロシア沿海州のウラジオストクから空路で平壌へ入る計画のようだ。現時点では70人の参加が確定しているという。
旅行日程は、3泊4日で費用は1人750ドル(約11万円)。ツアーの目玉は、北朝鮮東部・元山に近い馬息嶺(マシンリョン)スキー場でのスキー観光となるようだ。
前述のRFAは、ロシアメディアの情報として「観光の本格再開は4月とされ、今回2月実施のスキーツアーは試験的なプレ実施との位置づけだ」とも伝えている。
こうした一連の報道を見ると、北朝鮮旅行は現在ロシアがイニシアティブを取っているように思える。だが、外国人訪朝者の95%強を占めてきた北朝鮮の「お得意様」中国はどうなっているのか。
今回、中国が後れを取ったのは、中国政府が北朝鮮への人的往来を無期限延期するという、実質的な「制裁」を課していたことが関係筋の証言で浮かび上がってきた。
実は2023年9月25日、日本のNHKや朝日新聞をはじめとする日本メディアが、「北朝鮮が9月25日から外国人の入国を許可。国営中国中央テレビ(CCTV)が伝える」と大きく報じていた。
しかし、その後も中国から北朝鮮への出入国は正常化されるどころか、北朝鮮から中国への人的往来もコロナ禍前の水準ほどに戻ったとの情報は確認できない。
延び延びにされてきた北朝鮮入国
中朝国境の遼寧省・丹東にある国営旅行会社の社長は、「北朝鮮の最高指導者のロシア訪問が、中国政府が人的往来を止めたきっかけ」と打ち明ける。
すなわち、2023年9月12日からの北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記がロシア極東訪問してプーチン大統領との首脳会談を行ったことが、中国の習近平国家主席の逆鱗に触れ、結果として制裁を課したということだ。
この国営旅行会社は、中国人向け北朝鮮旅行手配では最大手となる。国営企業なので丹東駅から平壌駅までの国際列車の乗車券も優先的に取得できるなど、北朝鮮に関する旅行業界での力は絶大なものを持つ。
また、これまで北朝鮮の旅行業を「自分がリードしてきた」という自負も強い。だからこそ、今回の再開1号ツアーがロシアに取られたことは、さぞかしがっかりさせられたことだろう。
では、2020年に北朝鮮が国境を閉鎖して以降、中朝国境ではどのような動きを見せてきたのか。とくに2023年1月以降の動きを振り返ってみたい。
2023年1月8日、中国・吉林省の琿春と北朝鮮の羅先特別市のイミグレーション圏河口岸(出入国審査場)の封鎖が解除された。そして、車両や人的往来を限定再開させた。
行けるのは羅先のみと限定されており、平壌など他の都市へ移動は制限されたままだ。また、観光客も実質的に通過することができない。
その後、国境付近は穏やかだったが、再びここが注目を集めたのは2023年8月16日に丹東との国境の封鎖が解除され、北朝鮮のテコンドー選手団が国際大会に参加するために中国へ入国した時だ。平壌からの入国者は3年半ぶりだった。
2023年下半期から徐々に増えてきたが…
2023年8月末には丹東からの国際列車に加え、北京や瀋陽からの北朝鮮国営・高麗航空が限定的に運行が再開され、コロナ禍で帰国できなかった北朝鮮人外交官や労働者などの帰国が確認されている。
そして9月16日、中国・杭州で開催されたアジア大会へ参加する選手や関係者など約200人が中国へ入国している。
また8月末からは中国当局が拘束していた脱北者の強制送還が始まった。10月9日には脱北者600人を一斉に送還し、これまで約2600人が北朝鮮へ強制送還されたと、韓国メディアの報道がある。
このように、間欠的に、かつゆっくりと中朝国境の人的往来が正常化されるような動きがあった。
とくに2023年8月中旬、北京の北朝鮮大使館は、関係する貿易・旅行関係者向けに「9月24日前後から人的往来を再開する」と通知を出した。通知を読むと、中朝が合意した内容だと読み取れる内容だった。
筆者は、この北朝鮮大使館から通知があったことを関係筋から聞いていたので「9月25日、北朝鮮が外国人の入国許可」の報道には驚くことはなかった。強いて言えば、中国人以外の外国人向けの観光業も同時に再開させるとの直前情報に驚いたくらいだ。
実は当初、中国の関係筋から聞いていたのは、以下のような内容だった。
まず先行して中国人を、それも観光目的ではなく、出張者などから往来を再開させ、中国人の北朝鮮旅行は中国で最大の連休期間となる10月1日の国慶節(建国記念日)あたりから再開させる。日本人を含むその他の外国人は、早くて10月末から再開させるのではないか、というものだった。
往来を「無期限延期」にした理由
かなりハイペースのスケジュールに感じられたため、「観光再開は予想以上に早い。それだけ、北朝鮮の経済状況が悪いのだろう」と受け取っていた。
ところが、前述したように、9月25日に中国メディアが報じたのにもかかわらず、その後は「人的往来が再開した」との報道がパタリと途絶えてしまった。
中国メディアが伝えた情報は、本来のテレビによる報道ではなく、インターネット上での記事だったようだが、その後に削除されたようで今ではその報道を確認できていない。
いったん中国メディアが報じたのにもかかわらず、結局実行されなかった大きな理由は、前述の丹東の国営旅行会社社長が明かしたように、中国政府が金正恩・プーチン会談に激怒し、9月25日に人的往来再開で中朝合意していた約束を中国政府が一方的に反故にし、無期限延期にしたことだろう。
反故にしたタイミングが直前すぎたことも、結局は誤報の原因となった可能性もありそうだ。
ただ、米中対立が深まる中、北朝鮮と中国、ロシアは緩やかな連帯が深まっているとされている情勢なのに、中国政府はなぜ北朝鮮がロシアへ接近したことにそこまで反発したのか。
中国とロシアの関係はよい――。日本にいると中国はロシアに近く、現在のウクライナ戦争についても、中国はロシアよりだとみている日本人は多いと思う。
中国国内では、地元のSNS「微博(ウェイボー)」などで見られるコメントを見ると、ロシア支持のコメントが圧倒的に多い。ウクライナを支持し、戦争そのものへの批判は大部分が削除されていると思われる。これは中国当局による情報統制の一環だろう。
日本人が思うほど関係は強くない
実は、中ロ関係は日本人が思う以上に薄っぺらで脆弱な関係だ。中ロ朝の3カ国とも、自分たちの権威主義体制維持を脅かすアメリカに反対するという1点で、しかも細くつながっているだけだ。
互いの利己的な国益のために、水面下ではそうとうなつばぜり合いが繰り返されており、蜜月関係とはとうてい言えるような関係ではない。
2024年1月13日に行われた台湾の総統選挙の結果もあり、中国の関心は台湾に集中しているような情勢ではある。しかし、中国の現実的な狙いは「台湾統一」ではなく、ロシア極東の再併合なのではないのかと思えるフシがある。
実際に、そう指摘する声がロシアと国境を接する吉林省の実業家や旅行業関係者などからもしばしば出されている。
現在の吉林省を含む旧満州、すなわち東北3省の人たちは、現在のウラジオストクを含むロシア沿海地方、アムール州、ユダヤ自治州、ザバイカリエ地方などを「外東北」(日本では外満州)と呼び、ウラジオストクを旧名の「海参崴」と呼び続ける人がいる。
それは、「外満州はロシアと結ばされた不平等条約によってロシア帝国に奪われた土地」と認識している人が少なくないからだ。
世界史の教科書をひもとくと、1858年のアイグン条約と1860年の北京条約で本来保有していた広大な領地がロシアへ割譲されている。
もちろん、習近平政権は一度も「奪われた外東北を奪還する」などと口にしたことはない。だが、吉林省在住の中国人たちに話を聞くと、そんな清朝時代の最大領土を取り戻すという「中国の夢」が見え隠れするのだ。
中国政府としては武力を用いず、かつ国際社会との摩擦も最小限に抑えてかつての領土を併合したい。そのためにロシアの国力低下を虎視眈々と待っているのだという声も、実は少なくはない。
中国が抱く「沿海州再併合」
中国は、ロシアがウクライナに勝とうが負けようが中国の国益になるようなポジションで動いている。ウクライナ戦争では、仮にロシアが勝利しても、国力や国際的な信用、プレゼンスも大幅低下することは避けられない。敗北すれば、ロシア領土が複数に分割される、などの話も飛び交っている。
前者であれば、疲弊したロシアに対し外満州を金で割譲することを持ちかける。後者であれば、分割された領土に対し歴史的な経緯を主張したり、高麗人(朝鮮半島からロシア沿海地方へ移住した朝鮮民族)を中国の少数民族朝鮮族の同胞だと定義し、少数民族保護などの名目で再併合するシナリオも考えられる。
こうしてみると、中国はロシアがどちらに転んでも自分たちに利益となるような態度をとっているといえる。
しかも、中国による「極東再併合」は、今に始まったことではない。すでに10年以上前から、吉林省の実業家を中心にロシア沿海地方の農地を買収し、中国人を移住させる大規模耕作地を増やしてきた。この件は日本のメディアでも報じられたことがある。
コロナ禍で一時的に中ロ間の人的往来は止まっていたが、2023年1月8日に陸路の中ロ国境封鎖が解除された。
しかし、人的往来が停止している間も中ロの貨物輸送は増えており、ロシア政府系通信社のスプートニク中国語版は2023年1月12日、ロシア・マハリノと中国・琿春間の鉄道による貨物量が2022年には約350万トンとなり、前年比22%増を記録していると伝えた。
さらに、ロシア産石炭の輸出が急増しており、そのため、検問所を24時間体制にし、貨物列車も1日5本を増便させたと伝えている。
ロシア沿海州が中国の租借地化
中国人実業家によると、今では農地だけではなく、鉱山や港などの長期使用権なども獲得していると胸を張る。まるで、ロシア沿海州が中国の租借地状態になりつつあるようだ。
中国共産党の一党支配という国家体制上、こうした沿海州へ進出する中国人たちの背後には、中国政府の意向が働いていることは容易に想像がつく。
そんな中国政府が着々と狙っているエリアに、金正恩総書記がコロナ後、初の外国訪問として訪れた。だから、習近平国家主席がへそを曲げたという想像もつく。しかも、金総書記は2019年にも同じロシア沿海州を訪問し、プーチン大統領と初めての首脳会談をおこなった。
ロシア側からみても、中国の極東再併合の狙いを認識しており、そうした中国を牽制するために、2度も金総書記をロシア沿海州へ厚遇してまで招き首脳会談を開催した可能性がなくもない。
そして北朝鮮は、中ロ間の間隙を利用するかのようにロシアへ接近して、武器を供与し、その見返りとしてミサイル技術をロシアから獲得。さらには、ロシアへ北朝鮮への観光ツアー再開を打診した――。
こうしてみると、中ロ関係を悪化させることが北朝鮮の国益だといわんばかりに動いているようにも見えてくる。
北朝鮮に激怒し、へそを曲げた状態とされる中国は、今後どのような動きを見せるだろうか。
1つは、中国政府が今後も態度を硬化させて、中国を経由する外国人をも含めた人的往来の再開を無期限延期したままにする。
あるいは、振り上げた拳をそのままにして、拳を振り上げなかったことにし、ロシアがやっているようなことに合わせて人的往来、つまり、北朝鮮観光をあっさりと「許可」して再開させる可能性も十分にある。
もう1つの「中国の夢」
それは、中国も国内経済が悪く、国民に対するガス抜きを行うことが不可欠となっているためだ。
中国政府にとって台湾問題は自国の求心力を高める重要な問題だ。
また極東再併合は、清朝最大領土を奪還する「中国の夢」にも矛盾することもない。台湾問題と比較し、獲得できる資源とリスクを天秤にかけると、どちらに本腰を入れるべき夢なのか。
万が一、ウクライナ戦争の行方次第でロシアが崩壊・分割されるような事態になれば、中国はどさくさに紛れて清朝が領土とみなしたこともないサハリンさえも取りに動くだろう。これは決して筆者の空想ではない。実際にこんな話題が、すでに東北3省の中国人実業家たちからはささやかれているのが現状だ。
●「北朝鮮はロシア最大の武器供給国…プーチン氏の影武者しばしば目撃」 1/23
ウクライナの情報機関トップが北朝鮮をロシアの最大の武器供給国だと名指しし、北朝鮮の助けがなかったとすればロシアはもっと大きな困難に陥っていただろうと明らかにした。
英紙フィナンシャル・タイムズは21日、ウクライナ国防省のブダノウ情報総局長とのインタビューを公開した。
ブダノウ総局長は「ロシアが生産能力より多い武器と軍需品を消費しており、品質維持が困難となっている。これがロシアが外国から武器を求める理由」と話した。
彼は現在北朝鮮がロシアの最大の武器供給国だとしながら「北朝鮮が相当な量の砲弾を供給したおかげでロシアは少し息をつなぐことができた。北朝鮮の助けがなかったとすればロシアは厳しい状況を迎えただろう」と付け加えた。
これに先立ち英国のシャップス国防相も北朝鮮がロシアに武器を供給したのと関連し、Xを通じて「世界はロシアに背を向け、プーチンは違法な侵略を継続するために北朝鮮と手を組む屈辱を甘受しなければならなかった」と明らかにすることもした。
「プーチンの影武者しばしば目撃」…ブダノウ氏、ウクライナで人気
この日のインタビューでブダノウ総局長はロシアの民間軍事会社ワグネルグループが解体されたという報道に対し「ワグネルは存在する」と一蹴し、設立者プリゴジン氏の死に対しても「中途半端に結論を出さない」と言及した。
ロシアは昨年8月にプリゴジン氏が飛行機墜落事故で死亡し、彼のDNAを確認したと明らかにしたが、彼の遺体は公開されていないと同紙は付け加えた。
ブダノウ総局長はまた、放送でロシアのプーチン大統領の影武者をしばしば見たと主張した。
彼は自身の分析官がプーチンの耳たぶ、眉毛の間隔など顔付きを研究していると明らかにしながら「それほど難しくはない」とした。
ブダノウ総局長は以前に、プーチン大統領ががんを患ったと主張したこともある。
2020年に任命されたブダノウ総局長は2022年10月のクリミア半島大橋爆発の背後とロシアが名指しした人物であり、ウクライナでは彼の姿をロシアの軍事装備が爆発する姿とともにシェアするインターネットミームが存在するほど人気がある。
彼はこれまで10回にわたり暗殺を試みられて生き残ったが、昨年11月には妻が毒殺未遂の被害を受けている。
●プーチンと習近平を利するヤバすぎる事態に…「トランプ復活」で世界が「悪夢」 1/23
他の候補を圧倒
先週水曜日(1月15日)、激震が西側世界のリーダーたちの間を走った。米国の大統領選びの初戦となる中西部アイオワ州の共和党予備選挙で、トランプ前大統領が得票率51%と他の候補を圧倒したとのニュースが駆け巡り、あの大統領の復権が現実味を増したからである。
トランプ氏が西側の最大国家・米国の大統領に返り咲けば、ウクライナはロシアとの戦争遂行に支障を来たしかねない。そればかりか、もたつきながらも前進し始めた気候変動対策が再び白紙に戻され、高関税が横行して世界の貿易と経済がシュリンクするリスクも大きい。
トランプ再任の障害として、同氏がいくつもの訴訟に直面しており、足もとをすくわれる可能性を指摘する声はある。中でも、トランプ氏が2021年1月の米議会占拠事件で暴動を煽ったとされる問題は、同氏の大統領選への出馬資格の剝奪に繋がるものとして注目されている。しかし、米連邦最高裁にこの問題の迅速かつ大胆な裁きを期待することは難しそうだ。
結果として、米大統領選は、トランプ氏と民主党の現職大統領バイデン氏の一騎打ちになる可能性が強い。そして、わずかながら、バイデン氏は支持率で後れをとっている。まさに世界は今、また、あの異端の大統領に振り回されかねない窮地に立たされている。
トランプ氏が初戦で大勝を収めたというニュースは、今月15日から始まったダボス会議(世界の政財界人を集めて毎年1月に開く世界経済フォーラムの年次総会)でも話題の的だった。ウクライナ戦争や中東で相次ぐ深刻な紛争、そして生成AI活用などが今年の焦点とされていたが、トランプ氏がそうしたテーマを脇に追いやったというのである。
例えば、米政治専門メディア・ポリティコによると、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、トランプ氏への辛らつな評価を口にした。フランスのテレビ・インタビューで同氏復活の可能性を問われ、「歴史から教訓を得るとすれば、彼が最初の4年間の任期をどのように運営したかを見ればよい。それは明らかな脅威だ」「関税、NATOへの対応、気候変動への取り組みの3つをとっても、悉く米国とヨーロッパの利害は一致しなかった」と深刻な懸念を表明したのである。西側の国際機関のトップが、ここまで率直に米国大統領候補に疑問を呈することは異例である。
ポリティコは、ラガルド氏だけではなく、英国のジェレミー・ハント最高財務官もダボスで、「(保護主義への回帰を始めれば)深刻な誤りになる」と、トランプ氏の復権への警告を発したと報じている。
ラガルド氏やハント氏が懸念するように、トランプ氏が米国大統領の座に返り咲けば、問題は、移民政策の厳格化のような米国の内政マターにとどまらない。世界の軍事・安全保障問題や気候変動対策、通商・経済などの問題で看過できない状況が生じ得る。
最も懸念されるのは、ウクライナに侵略戦争を仕掛けたロシアのプーチン大統領や、台湾の武力統一を選択肢のひとつとしている中国の習近平・首席を利する結果になりかねないことだ。
今回の大統領選挙でトランプ氏の最大のライバルになっている民主党のバイデン大統領は、在任中、同盟国との連携を重視。トランプ氏が破壊した欧州連合(EU)との関係改善に努め、日本を含む主要7カ国(G7)の結束の再構築に努めてきた。ウクライナへの軍事・経済支援を主導して、西側としてロシアの侵略戦争に対抗してきたことは、その象徴だ。以って、台湾への野心を燃やす中国をけん制してきた側面も見逃せない。
しかし、トランプ氏が米大統領の座を取り戻せば、1期目と同様か、それ以上の強硬さで「米国第一主義」を実践するだろう。EUと北太平洋条約機構(NATO)の加盟国や日本に対し、ウクライナ支援の肩代わりを迫る一方で、米国がウクライナ支援を縮小することは既定路線とされている。
トランプ氏自身は、米国の輸出拡大に繋がる台湾への武器売却には積極的な態度を見せるかもしれない。が、1月13日の台湾の総統選挙に勝利して、民進党・蔡英文氏の後を継ぐことになった頼清徳・政権は、同時に行われた議会に相当する立法院の選挙で過半数を失った。このため、国民党や民衆党の反対にさらされ、米国からの武器購入を円滑に進められない懸念がある。
「米国第一主義」の回帰
こうした状況は、中国が野心を膨らませ、台湾海峡で偶発的な衝突が起きるリスクを高めかねない。日本は、日本本土の米軍や自衛隊基地への中国の攻撃に備えざるを得ない窮地に立つことになる。
気候変動対策で、トランプ氏が1期目にどういう振る舞いをしたかは、記憶に新しい。大統領に就任した途端、気温上昇を抑える国際的な目標のパリ協定から離脱、異常気象対策を形骸化させた“前科”があるのだ。
気候変動対策は、依然として、実効性を担保するための罰則規定がないなど不十分な内容だ。とはいえ、トランプ氏が復権すれば、国際社会が過去数年かけて積み上げてきた実績が崩壊しかねない。
トランプ氏に立ち止まる気配はない。バイデン政権の看板政策である電気自動車(EV)への移行を促す規制撤廃を公言する一方で、石油、天然ガスといった化石燃料の大幅増産へ向けて投資再開を促す方針も掲げている。
経済、通商、貿易政策も「米国第一主義」と言う保護主義への回帰・拡大を目指すものになる。
トランプ氏はすでに昨年8月、米メディアに「(外国企業が)米国で製品を販売する場合、自動的に、例えば10%の税金を払うべきだ」と言い放っている。自身の支持者に多い製造業の労働者の人気を獲得しようという意図は明らかだ。
しかし、こうした関税は、報復合戦を招き、双方でインフレを招く懸念がある。思慮不足は明らかだ。さらに言えば、様々な物品の国際的なサプライチェーンに壊滅的な打撃を与えて、トランプ氏の意図に反して、雇用を減らし、経済を減速させるリスクもある。
加えて、トランプ氏が中国いじめを目論んでいる。「中国の最恵国待遇(MFN)を撤廃する。世界中で米国の国家安全保障上の利益を損なっているからだ」と言うのである。不動産不況からの回復の遅れが目立つ中国経済にダメージを与えるだけでなく、形骸化が目立つ世界貿易機関(WTO)の自由貿易体制を揺るがす暴挙になりかねない。
トランプ氏は、世界の軍事・安全保障や経済、通商、貿易、気候変動対策などに対する脅威となりかねない候補者だが、共和党の大統領候補選びでのトランプ氏のリードは圧倒的だ。
トランプ氏が初戦のアイオワ州で見せた51%の得票は、2位のフロリダ州デサンティス知事の21.2%、3位のヘイリー国連大使の19.1%を圧倒するものだった。
共和党はこの後、米国時間の今日(23日)に第2戦となるニューハンプシャー州の予備選挙を予定している。この州の予備選の焦点は、アイオワで3位にとどまったものの、共和党内では穏健派に位置するヘイリー元国連大使の巻き返しがあるのかだ。
トランプに待ったをかける要因
ニューハンプシャー州は穏健派が比較的多い土地柄で、ヘイリー氏は同州知事のスヌヌ氏から推薦を取り付けているほか、ライバルと目されていたクリスティー前ニュージャージー州知事が撤退する幸運にも恵まれている。ただし、情勢は甘くないし、ニューハンプシャー州での巻き返しに失敗すれば、その時点で、選挙戦の継続が難しくなりかねない。アイオワで2位につけたデサンティスは22日、撤退を表明した。
こうした中で、トランプ氏に待ったをかける要因として、司法の役割に注目する向きがある。
以前にも本コラムで指摘したが、トランプ氏は、自身の不動産ビジネスなどでの事業記録の改ざんをめぐる34件の重罪の疑いや、金融詐欺の疑いで提訴されているからだ。
これらの訴訟の中でも、特に深刻とみられているのが、トランプ氏が2021年1月の議会占拠事件で暴動を煽ったとされていることに関連した訴訟である。民主党支持者らの訴えを受け、コロラド州の最高裁は昨年末、「トランプ氏は宣誓した米国憲法の順守を怠っており、再び公職に就くことは許されない。したがって、大統領選挙に出馬する資格がない」との判決をくだした。同じ問題で、民主党所属のメーン州のベローズ州務長官も、トランプ氏の出馬資格を剝奪すると発表した。これらに対し、トランプ氏側が無効として提訴しており、連邦最高裁はこうした判決や判断の是非を審理している最中なのだ。
だが、連邦最高裁がトランプ氏に大統領選への出馬資格を取り消すような判決や判断を今回の大統領選挙の期間中に降すとの見方は説得力を欠いている。というのは、連邦最高裁の顔触れがトランプ氏の大統領時代に任命された3人を含めて共和党の党派色が強いことだけが理由ではない。むしろ、これほど高度な政治判断は、司法の判断にそぐわないという理由から、連邦最高裁が選挙期間中の判断を嫌うと読む方が自然なのである。
そして、この脈絡で考えると、トランプ氏は他の裁判でも選挙期間中に有罪判決を受けて刑務所に収監され、大統領選からの撤退に追い込まれる可能性はかなり小さいと見るべきだろう。
結局のところ、トランプ氏が共和党の大統領候補の座を射止め、本戦は、民主党のバイデン大統領との一騎打ちになる可能性が高い。冷静に見れば、この2人はいずれも高齢であり、最後まで両者に健康リスクが残るものの、現在のところ一騎打ちのシナリオは動かないのだ。
では、一騎打ちの軍配はどちらに下るだろうか。
まず、選挙資金だ。バイデン大統領の選挙陣営と民主党全国委員会によると、バイデン陣営は2023年10〜12月期に前期比約37%増の9700万ドルという巨額の選挙資金を集めたと発表している。この結果、23年末時点の選挙資金は1億1700万ドルと民主党候補として過去最大に達しているという。
バイデンは資金準備でリード
これに対し、トランプ陣営の集めた選挙資金は、23年7〜9月の段階で約4550万ドルにとどまっていたという。
バイデン陣営は資金準備で1歩リードしている格好だ。
次に、政策面である。本来ならば、外交、安全保障面だけでなく、米国の有権者の関心の高い内政、経済面で、バイデン大統領の実績が高く評価されてもおかしくないはずだ。
バイデン氏は、新型コロナウイルス危機の中で大統領に就任し、家計への直接給付を含む1兆9000億ドルの景気刺激策を実施した。この中には、1兆ドルを投じて道路、橋、鉄道といった老朽インフラの刷新と高速通信網の整備に取り組んだ「インフラ投資雇用法」や半導体産業を支援する「CHIPS法」、脱炭素の取り組みに補助金を出す「インフレ抑制法」などが含まれ、雇用を創出し、景気の後退を免れてきた。これらの政策では多くの共和党支持者も恩恵を受けたはずだ。これから効果が出て来る施策もあるだろう。
しかし、高インフレに見舞われて消費者物価指数(CPI)が高騰した時期があり、家計、特に貧困層にとってはバイデン氏の政策に恩恵を感じるよりも、実質所得が減少して生活が窮乏したと実感している人が多いことも想像に難くない。こうしたことに強い不満を持つ労働者層の多くが、トランプ氏の支持基盤なのだ。バイデン氏が任期中に、社会の分断を修復して、十分に格差を解消できなかったことが、トランプ氏にとっての追い風になっている。
トランプ大統領のスキャンダルは今なお、とどまるところを知らない。1月4日、米下院民主党は、トランプ氏が大統領在任中にファミリービジネスを通して、外国政府から780万ドル(約11億円)以上を受け取っていたと結論付ける調査報告書を公表した。
最大の資金の出し手は、約557万ドルに達した中国だ。在米中国大使館、中国工商銀行、海南航空などが名を連ねている。これに、サウジアラビアの約62万ドル、カタールの約47万ドル、クウェートの約30万ドル、インドの約28万ドルなどが続いている。
普通ならば、こうした資金の授受は大きな問題になるところだが、トランプ氏の場合は、支持者が民主党の仕掛けた謀略だと受け止めてしまい、選挙に響く兆候もない。
直近(1月20日)の米政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の世論調査によると、トランプ氏は46.6%と2.0ポイントの僅差ながら44.6%のバイデン氏をリードしている。
選挙のたびに勝者が変わって趨勢を決めることで有名な7つの激戦州(スイングステート)を対象にした同サイトの調査をみると、トランプ氏の優勢はさらに鮮明だ。ウィスコンシン州で両者の支持率が45.80%で並んでいる以外は、ペンシルバニア、ネバダ、ジョージア、アリゾナ、ミシガンの6州でトランプ氏の支持率がバイデン氏のそれを上回っているのだ。
このまま行けば、世界は再び、トランプ氏に振り回されることになりかねない。
●「再建」か「戦争勝利」か、復興の順序巡り割れるウクライナ 1/23
ウクライナ北東部トロスティアネツ市では、重機が排煙を上げながら、鉄道の駅とバス停の間にたまった土砂やがれきを除去している。新たに構想された交通ハブへのルートを確保するためだ。
約2年前にロシア軍との戦闘により大きなダメージを受けたトロスティアネツは、国費を投じた試験的なプログラムによる復興対象地6カ所の1つに指定された。将来、はるかに広範囲にわたる戦後復興を進めるために必要なスキルや経験を培うのがプログラムの目的だ。
ユーリ・ボーバ市長は、街に活気を取り戻すためには一刻の猶予もない、と語る。急がなければ、復興の担い手となり得る何百万人ものウクライナ国民が、欧州各国に永住してしまう。
ロシアとの国境からわずか30キロメートルしか離れていないトロスティアネツの街で、ボーバ市長はロイターに対し「ここに戻るべき全ての人々のために汗をかいている。この街に戻り、ここで未来を築かなければならない、全ての子どもたちのためだ」と語った。
市長は荒廃した街について、「毎日この光景を見ていると、精神的にトラウマになるだろう」と語る。「何もかも再建する必要がある。手始めはカフェ、図書館、工場、図書館、病院だ」
ウクライナ政府当局者も、復興は急務であるというシグナルを出している。復興には数千億ドルの費用が必要となり、病院や発電所、鉄道といった重要なインフラの復旧は何よりも急を要する。
だが戦火が収まる気配は見えない。反攻が大きな成果を上げられず、資金不足のウクライナは、新たなロシア側の攻撃に対して守勢に回っている。またロシア政府は、前線から遠く離れた人口密集地に対する大規模空爆作戦を再開している。
トロスティアネツから南へわずか20キロの位置にあるアフトゥイルカ市も、やはり戦争初期にロシアの激しい爆撃によりダメージを負った。パブロ・クズメンコ市長は、今のウクライナには同市の広場の再建というぜいたくは許されないと見ている。
アフトゥイルカ市当局は、かつて市役所だったがれきを目抜き通りから撤去したが、完了には時間を要した。通り沿いの破壊された百貨店はまだ修復していない。とはいえ、主として国際的な支援のおかげで、大半の学校は修理されて窓や屋根も新しくなり、防空壕も設置された。
クズメンコ市長はトロスティアネツ市の復興計画を公然と批判しており、住宅や重要インフラの応急修理にまず集中すべきだとして、リソース不足を嘆いている。それ以外に余裕資金があれば軍事に回すべきだとしている。
クズメンコ市長は「再建すべきものはたくさんある」とロイターに語った。「広場やあれこれの装飾といったものは、戦争が終わってから着手すればいい」
アフトゥイルカ市在住のアントニナ・ドミトリチェンコさん(65)は、市役所の残骸の近くに立ち、市長の意見に同意する。「まず必要なのは勝利。復興はそれからだ」
隣り合う都市の意見対立には、ウクライナ全土で展開されている、戦時下での費用支出に関する幅広い議論が反映されている。特に目につくのは、街路や公共スペースの整備といった不要不急のプロジェクトを棚上げして軍事を優先すべきだと主張する草の根の抗議行動が広がっていることだ。
「戦争に勝つために必要なのは経済力」
オデーサ州当局が2023年10─12月に総額900万ドル(約13億3000万円)以上に及ぶ入札を中止したことにも、こうした対立の兆候が現れている。中止の理由は、道路の補修やスタジアムの改修、ソフトウエアなどへの投資は戦時下では「受け入れがたい」というものだった。
ロンドンのシンクタンク英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のオリシア・ルトセビッチ氏は、こうした論争の中で、復興のあり方、さらには戦争に適応した経済はどうあるべきかについて、政府の戦略を明快に発信していくことの必要性が浮き彫りになっている、と指摘する。
ルトセビッチ氏は、ウクライナ当局は収益を生み出す成長機会を復活させ、それによって同国の経済的なポテンシャルを開花させることを急がなければならないと主張する。それがロシアに対する勝利につながり、人々の帰還を促し、恒久的に国を離れようとする人が増えるのを食い止めることになると同氏は言う。
「軍事力があれば個々の戦闘には勝てる。だが戦争全体に勝つために必要なのは経済力だ。経済力も、同じ方程式の1要素だ」とルトセビッチ氏は説明する。
ルトセビッチ氏によれば、たとえば比較的安全な西部の都市リビウにもっと学校を建設するのは理にかなっている。他地域での戦闘により多くのウクライナ国民が同市に避難しており、学校があればそこにとどまり、戦時経済に貢献することになるからだ。
「それが復興というものだ。こじゃれた遊び場や新しい動物園を作るという話にはならないかもしれないが」とルトセビッチ氏。「ウクライナがこの戦争をどう耐え抜くかという、もっと大きな戦略にふさわしい種類のプロジェクトでなければならない」
ウクライナ復興を担当する当局者の1人、ムスタファ・ナイエム氏は、トロスティアネツのようにひどく破壊された街をよみがえらせるには、政治的にかなりの豪腕が必要になるだろうと認める。
ウクライナ復興インフラ開発庁の長官を務めるナイエム氏はロイターの取材に対し、「この国は、これまでにコミュニティーを丸ごと再建したことはない」と語った。「私たちにはそういう経験はない」
ウクライナ政府がそれぞれ異なる課題を持つ6つの復興プロジェクトを採用し、主として押収したロシア系資産を原資とする国費を投じることにした理由もそこにある。デニス・シュミハリ首相は昨年4月にプロジェクトを発表した際、その狙いは、対象となる場所を以前よりも良い場所に全面的に変身させることにあると述べた。
あるプロジェクトでは1つの村をゼロから再建するが、別のプロジェクトでは多数の住宅を補修する。一方、モンデリーズ(MDLZ.O)のチョコレート工場があるトロスティアネツでは、経済生活の再開を促すことを視野に入れつつ、複数の中核プロジェクトに注力している。
数世代前にさかのぼる不動産の法的所有権を確認するという往々にして骨の折れる作業から、集合住宅が並んでいた地区全体の都市計画見直し、新たなエネルギー網の構築に至るまで、必要とされるスキルは多岐にわたる。
「図書館のリニューアルではない」
シュミハリ首相は昨年10月、すでに復興資金のうち16億ドル以上を配分したと述べた。復興インフラ開発庁の広報担当者によれば、昨年は約8600万ドルの予算が試験的プロジェクトのために割り当てられたが、2024年度の予算はまだ決まっていないという。
世界銀行では、ウクライナ復興には全体として今後の10年間で4000億ドル以上を要すると試算している。
だがナイエム氏は、昨年6月に起きたカホフカ水力発電所のダム決壊に触れ、戦争が続いているため長期的な計画が難しくなっていると述べた。同ダムの惨事により、復興インフラ開発庁ではウクライナ南東部において不可欠な上水道網をほんの数カ月で急いで構築する必要に迫られ、時間もリソースも奪われてしまった。
ナイエム氏によれば、当局者が現時点で計画できるのは「復興に向けたインフラ」だという。つまり、基準や手続きをしっかりと定め、チームを構築し、国際的なパートナーとの関係を育むことだ。
「いずれ、多少なりとも詳細な計画を立てる余裕ができるときに備えて、最大限、そういう部分を育てている」とナイエム氏は言う。「それは必ずしも、我が国が戦争に勝利した後ではないかもしれない」
ナイエム氏は、クズメンコ市長のような批判に対して試験的プロジェクトを擁護し、再建しているのは不必要なものではなく、人々が必要としている住宅やサービスだけだと指摘。また、軍の移動やウクライナ国内の取引を容易にするための戦略的な道路建設や、行政関係の建物も優先対象とすべきだと語る。「図書館や博物館のリニューアルとは違う」
トロスティアネツでの復興計画では、集合住宅2棟、医療施設3カ所、鉄道の駅、広場、近隣のビル1カ所、市街を貫く目抜き通りをよみがえらせることになっている。
一方、市内の主力病院の新たな病棟の再建には、国際支援機関からの資金が活用された。
「私たちの街は侵攻前よりも良い場所になり、敵を落胆させることになると信じている」と語るのは、ナタリア・アンドロソバさん(60)。アンドロソバさんをはじめ、トロスティアネツの地元住民の多くは、ボーバ市長がリーダーシップを発揮し、国の財源を引っ張ってきたことを高く評価している。
トロスティアネツ市以外に試験的プロジェクトの対象となっているのは、首都キーウに近いボロディアンカとモシュン、北部のヤヒドネ、東部のチュルクニ、南部のポサド・ポクロフスケの5カ所だ。
3週間にわたる激しい砲撃にもかかわらずロシア軍の攻撃に耐えたアフトゥイルカ市は、戦火の傷跡は残るものの、活気にあふれている。家族たちは公園を気ままに行き交い、人気レストランの1つでは何かを祝うパーティーが行われている。
だが、重要ないし緊急のニーズ以上に、平時の感覚を切望する声もある。ヤロスラフ・ビビクさん(19)は、侵攻前にこの街に満ちていたような文化的で若々しい空気を取り戻すために、当局がもっと努力してくれないかと願っていると話す。
「ここ数カ月はろくに外出もしなかった」とビビクさんは言う。「今のこの街は少しも面白くないから」
●ウクライナのドローン攻撃、ロシアの主要石油輸出ルートを脅かす 1/23
ロシアのウクライナ侵攻で、新たな戦線が開かれた。ドローンがロシアのバルト海沿岸の施設を攻撃したと伝えられ、同国西部の港からの石油輸出に弱点があることが浮かび上がった。
ウクライナのドローンが先週、初めて国境から約1000キロ離れたロシアのレニングラード州に到達した。このドローンは民間が保有する石油ターミナルの上空で撃墜され、施設に損害を及ぼすことはなかったとロシア当局は発表した。
だが、事情を知る当局者によると、21日にあった2回目のドローン攻撃はいっそう破壊的だった。ロシア西部のウスチルガ港が攻撃を受け、ロシア軍に燃料を供給するノバテクのガス・コンデンセート工場で火災が発生、閉鎖に追い込まれたと同当局者が匿名を条件に語った。攻撃はウクライナ情報機関が組織したものだという。
攻撃を受けた施設はまた、ロシアの最も重要な石油輸出ターミナルの一部にも近い。ウクライナでの戦争が再びエネルギーインフラを標的とした消耗戦の局面に入る中で、今回の攻撃は石油市場の観測筋らを不安にさせている。
25年に及ぶキャリアのうち10年をロシア石油会社の幹部として過ごした業界のベテラン、セルゲイ・ワクレンコ氏は「攻撃が定期的にあったりドローン攻撃が激化したりすれば、バルト海の港の操業は乱れ、輸出量の減少に至る可能性がある」と指摘。そうなる場合、「ロシアがとれる実行可能な選択肢は多くない」と述べた。
歳入の約3割をエネルギー業界から得ているロシアにとって、安定した石油輸出の維持は死活的に重要だ。オイルマネーは丸2年が近づくウクライナでの戦争の費用を助けているほか、3月の大統領選を前にした国内の支出も賄っている。
バルト海からの石油輸出に深刻な混乱が生じれば、影響は世界中に及ぶだろう。ロシアは石油生産で世界上位3位に入り、昨年は中国に対して最大の石油供給国だった。紅海で商船が攻撃を受ける中で、原油市場ではすでに警戒感が高まっている。
コンサルティング会社ライスタッド・エナジーのシニア石油市場アナリスト、ビクトル・クリロフ氏は「バルト海の石油輸出が停止すれば、大型の衝撃になる」と語った。
業界データを基にしたブルームバーグの試算によると、ロシア国営企業トランスネフチが運営するバルト海の2つの主要石油ターミナル、ウスチルガとプリモルスクは昨年1月から11月までの平均で日量150万バレルを輸出し、ロシアの海上原油輸出全体の40%強を占めた。これに加え、ウスチルガからはカザフスタン産原油の一部も輸出されている。
ロシアが数十カ国に輸出する代表的な油種のウラル原油は、75%余りがこの2つの石油ターミナルから輸出されていると、データ分析会社ケプラーが指摘。攻撃を受けて、この規模の量を別の港に振り向けるのはロシアの石油会社にとってほぼ不可能だろうと、複数のアナリストが述べた。
●ポーランドとウクライナ、政治的摩擦の早期解決を確約 1/23
ポーランドとウクライナの両首脳は22日、同盟関係の妨げとなっていた政治的摩擦について取り組んだ上で防衛面での協力を強化すると確約した。
首相として初めてウクライナを訪問したポーランドのトゥスク首相は、ゼレンスキー大統領に友好のメッセージを伝えた上で、ポーランドのトラック運転手による抗議行動を巡り、双方が「共通の理解に達した」と指摘。共同記者会見で「ポーランドは、ウクライナがロシアとの戦争で勝利する可能性を高めるためにあらゆることを行う」と述べた。
ポーランドはウクライナにとって重要な同盟国であり、ロシアに対する西側の財政的・軍事的支援を求めていたが、トラック運転手らがウクライナとの国境検問所に通じる複数の道路を封鎖し、ウクライナ経済にダメージを与えたため、ここ数カ月で関係が悪化。
その後、トラック運転手らは先週、抗議活動を3月1日まで中断することで合意。トラック運転手らは抗議活動で、ウクライナのトラック運転手による欧州連合(EU)への自由なアクセスを取り消すよう求めていた。
ゼレンスキー大統領は「このような事態を招いた理由の深さを理解しているが、何よりもまず、国民の前に立ちはだかる脅威の深さに注意喚起する」とし、この問題に対するポーランドの取り組みを歓迎するとした。
ウクライナのシュミハリ首相はトゥスク首相との別の会見で、両政府間の関係の「リセット」を宣言し、協力強化に向けて定期的に会合を開催すると表明。ウクライナはポーランドの経済的利益を損なうことを避けるために「最大限の努力」を注ぐ一方、ポーランドがウクライナの農民や生産者に対する制限を解除することも期待しているとした。
トゥスク首相は「ポーランドの農民や生産者に利益をもたらし、ウクライナ側にとって安全な解決策が見つかると確信している」とした。
ゼレンスキー大統領とトゥスク首相はまた、両国間の武器共同生産計画を歓迎。ゼレンスキー大統領は短文投稿サイトのX(旧ツイッター)で「ウクライナが必要とする、より大規模な武器購入を目的とした新しい形の協力」について協議したと述べた。ただ詳細は明らかにしなかった。
トゥスク首相は「われわれはポーランドとウクライナの企業に投資し、ポーランド、ウクライナ、そして欧州全体の防衛力の利益のために製造・機能させるつもりだ」と言及。「これは双方にとって非常に有益なビジネスとなる」とした。
●米英首脳、中東・ウクライナ情勢巡り協議=ホワイトハウス 1/23
米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、バイデン米大統領が22日にスナク英首相と会談し、紅海やパレスチナ自治区ガザ、ウクライナを巡り協議したと述べた。
ワシントンで記者団に対し「両首脳は紅海で何が起きているのか、イエメンの親イラン武装組織フーシ派の能力を破壊・低下させるための国際的な多国間アプローチ継続の必要性について協議した」と指摘。
また、民間人の犠牲者数を減らしガザへの人道支援を拡大する必要性のほか、ウクライナへの追加資金と支援が緊急的に必要なことについても話し合ったという。
●国連安保理 緊急会合でロシア外相 欧米のウクライナ支援を非難 1/23
国連の安全保障理事会では22日、ウクライナ情勢をめぐる緊急会合が開かれ、ロシアからはラブロフ外相が出席しました。
この中でラブロフ外相は、ウクライナ東部ドネツク州のロシア側が支配する地域で21日、市民27人が死亡したことについてウクライナ軍による攻撃だとしたうえで欧米から供与された兵器が使われたと主張しました。
そして「戦場での失敗にもかかわらず、欧米の支援者たちは、ウクライナに無意味な軍事的対決を続けるよう仕向けている」と主張し、欧米によるウクライナへの軍事支援を非難しました。
ラブロフ外相はみずからの発言後、およそ10分だけ議場に残り、中国の国連大使の発言が終わると退席しました。
このあと、アメリカのウッド国連次席大使は「ウクライナの自衛のための正当な支援が、ロシアの侵略戦争を長引かせていると主張するのは最上級の皮肉だ。この戦争を長引かせているのは、ウクライナを消滅させ、ウクライナ国民を服従させようとするプーチン大統領の一貫した追求だ」と非難し、ロシア軍の即時撤退を改めて求めました。
このほか欧米各国や日本や韓国などからは、ロシアが北朝鮮から供与された弾道ミサイルをウクライナに対して使ったのは安保理決議に違反すると非難する意見も相次ぎました。
●ウクライナ大統領、二重国籍容認を提案 ロシア移住者の権利保護も 1/23
ウクライナのゼレンスキー大統領は22日、ロシアによる侵攻に関して海外にいるウクライナ人の支援に謝意を示し、憲法を改正して二重国籍を認める法案を議会に提出すると表明した。
また、ロシアに住む約400万人のウクライナ民族の権利とアイデンティティーを保護する大統領令を発動した。
ウクライナの憲法は国民の二重国籍を認めておらず、同国から海外に移住するとウクライナのパスポートを持つことができない。
ゼレンスキー氏は法案について、ロシアを念頭に「侵略国」の市民権を得ている場合を除き「世界中の全てのウクライナ民族とその子孫がウクライナの市民権を得られるようになる」と述べた。
憲法改正には議会と憲法裁判所の承認が必要。
大統領令はロシアに居住するウクライナ民族に対する犯罪の文書化や関連する偽情報に対抗する取り組み、アイデンティティー保護への行動計画が必要と定めた。 
●ロシア大統領選「反戦」候補者への支持広がる 「プーチン氏致命的間違い」 1/23
プーチン大統領が再選を目指す3月のロシア大統領選に向け、反戦を訴える唯一の候補者への支持が広がっています。これまでに10万人の支持者の署名を集めたとし、正式な出馬を目指しています。
通算5期目を目指すプーチン大統領の選挙対策本部は22日、正式な出馬に向け支持者らの署名を中央選挙管理委員会に提出しました。無所属候補は30万人分の署名が必要とされ、プーチン氏の選挙対策本部は10倍の300万人以上の署名が集まったとしています。
プーチン氏の再選が確実視される中、候補者の中で唯一、ウクライナ侵攻に反対するナジェージュジン元下院議員への支持がここにきて急速に広がっています。
ナジェージュジン元下院議員「プーチン大統領は致命的な間違いを犯した。それは特別軍事作戦を始めたことだ」
改革派政党「市民イニシアチブ」が擁立したナジェージュジン氏は下院に議席を持たない政党の候補者として今月末までに10万人分の署名が必要とされ、モスクワ市内などの事務所には連日、支持者らが署名に訪れています。
支持者「唯一、この国で禁止されている言葉(=平和)に賛同している候補者に投票したいので署名に来ました」「(出馬すれば)少なくとも真実を語る言葉がゾンビ化したロシアの人々に届きます」「1パーセントでも希望があるのなら、それを信じるべきです」
ナジェージュジン氏は23日、SNSを通じてこれまでに10万人の署名が集まったと明らかにしましたが、条件として定められた人数を満たしていない地域があるとして、引き続き15万人を目標に署名を集めるとしています。
ただ、たとえ条件を満たしたとしても中央選管に署名内容に不備があると判断され、無効にされる可能性もあるとして、ナジェージュジン氏の陣営は慎重に作業を進めているとしています。
●プーチン氏の訪朝、3月の大統領選後に ロシア報道官 1/23
ロシアのペスコフ大統領報道官は23日、プーチン大統領の北朝鮮訪問は3月15〜17日に投票が予定されているロシア大統領選挙の後になるとの考えを示した。ロシアメディアが報じた。
ペスコフ氏は訪朝について、3月の大統領選よりも「先の予定になる」と述べた。北朝鮮の朝鮮中央通信は今月、プーチン氏が北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相の訪ロ時に早期訪朝に向けた意欲を示したと報じていた。
プーチン氏は金正恩(キム・ジョンウン)総書記と2023年9月にロシア極東で首脳会談を開いた。金正恩氏は会談時にプーチン氏を北朝鮮に招待していた。
ペスコフ氏はプーチン氏が大統領選前にトルコを訪問する可能性も示唆した。
プーチン氏はロシア大統領選に23年12月に出馬を表明している。同氏以外では「体制内野党」から複数名の候補者が出馬を表明し、独立系の候補者が立候補に必要な署名集めを進めている。
●プーチンは20万人を追加招集し「春の攻勢」を準備か…NATO高官警告 1/23
グラント・シャップス英国防相は21日の英BBC放送で「国防費は増えており、国内総生産(GDP)の2%を優に超えている。目標の2.5%は経済状況が許せば達成される」と述べた。国防費を3%に増強しない限り、ナチスドイツの指導者アドルフ・ヒトラーを止められなかった1930年代を繰り返す恐れがあるとの元陸軍トップの警告に答えた。
シャップス国防相はこれに先立つ15日、ロンドンのランカスター・ハウスで「平和の配当の時代は終わった。5年以内にロシアや中国、イラン、北朝鮮を含む複数の脅威に直面する恐れがある。今年は間違いなく分岐点になる。ウクライナにとっては国家の命運が決まる年になるかもしれない」と演説した。
「平和の配当」とは緊張時には国防を最大化すべきだが、平和時には最小化できるという考え方だ。過去に戦争を抑止した核兵器による「相互確証破壊」戦略をイラン革命防衛隊や北朝鮮に当てはめても戦争を止めることはできないとシャップス国防相は指摘する。西側と敵対するロシア、イラン、北朝鮮の「ならず者国家の枢軸」と中国はより緊密な関係にある。
理想主義の時代は冷徹な現実主義の時代に変わった。ウクライナへの25億ポンドの追加支援策に続き、英国は今年前半、陸海空軍の2万人を欧州に派遣し、北大西洋条約機構(NATO)とスウェーデンの大規模演習に参加する。クイーン・エリザベス級の空母やステルス多用途戦闘機F-35B、護衛艦からなる空母打撃群も加わる。
ドイツ連邦軍の秘密シナリオ「同盟防衛2025」
ドイツの大衆紙ビルト(電子版16日付)は独国防省の機密文書をもとにロシアと西側との間に早ければ来年に起こり得る「戦争のシナリオ」を独自ネタとして報じている。それによると、ドイツ軍の秘密シナリオ「同盟防衛2025」は今年2月から始まっている。ロシアは新たな動員で20万人を追加招集する。
ウラジーミル・プーチン露大統領は「春の攻勢」を開始する。西側のウクライナ支援は弱まり、ロシア軍は6月までにウクライナ軍を後退させる。7月にはロシアはNATOに加盟するバルト三国にサイバー攻撃を仕掛け、ロシア系住民を扇動する。9月、ロシア西部とベラルーシで5万人の大規模演習「ザパド2024」を始める。
10月、ロシアはNATOの攻撃が差し迫っているというデタラメの口実で軍隊と中距離ミサイルを飛び地のカリーニングラードに移動させる。クレムリンの狙いはベラルーシとカリーニングラード間のスヴァウキ・ギャップだ。米大統領選で生じる空白を突いて12月にスヴァウキ・ギャップで「国境紛争」と「多数の死者を伴う暴動」を引き起こす。
来年 1 月の NATO特別会合でポーランドとバルト三国がロシアからの脅威増大を報告。ロシアは 3 月にベラルーシに追加部隊を移動させ、駐留規模は7万人以上に膨れ上がる。NATOは5月にスヴァウキ・ギャップへのロシアの攻撃を抑止するための措置を決定し、ドイツ軍の3万人を含む計30万人を配備するというシナリオだ。
「スウェーデンで戦争が起こる恐れがある」
伝統の中立政策を捨て、NATO加盟に舵を切ったスウェーデンのカール・オスカー・ボーリン民間防衛相は7日、「国民と国防」年次全国会議で「約210年間、国民にとって平和は不動のものだという考えはごく身近にある。しかし、この結論に安住することは危険だ」と演説した。スウェーデンにとって最後の戦争は1814年、隣国ノルウェーとの間で起きた。
「赤裸々に言わせてもらおう。スウェーデンで戦争が起こる恐れがある。恐怖に訴えることが第一の目的ではない。現状認識に訴えることが目的だ。もし戦争が起こったら、あなたはどうする。プーチンは2014年にすべてのウクライナ人を目覚めさせたことを理解せずに、22年2月に本格侵攻し、ウクライナ社会全体の統合された力に直面した」
ボーリン民間防衛相は「社会の復元力には現状認識が必要だ」と強調する。時間が最も貴重な資源だ。防災当局の幹部なら、戦争組織を構築し、どの活動を続けるのか決めなければならない。身を守るための安全や代替指揮地へのアクセスは確保されているのか。自主的な防衛組織と協定を結んでいるのか。今すぐに行動を起こすよう同民間防衛相は呼びかける。
地方自治体の委員なら、戦争組織、避難所、緊急給水計画、医療・福祉施設用の暖房・電気の供給を確保する必要がある。従業員なら職場の戦争組織における役割を雇用主に確認する必要がある。個人も各家庭で備えなければならない。「世界は第二次大戦後かつてないほど大きなリスクに直面している」とボーリン民間防衛相は語った。
NATOと加盟国の国防計画がこれほど密接に結びついたことはない
NATOのロブ・バウアー軍事委員長は17、18の両日、ブリュッセルで開かれた国防相会合で「ルールに基づく国際秩序が大きな圧力にさらされている今、政治的意思と軍事的能力を一致させる重要性はいくら強調してもしすぎることはない。力の地殻変動が起きているのだ。その結果、私たちはここ数十年で最も危険な世界に直面している」と強調した。
「NATOは集団防衛の新時代に突入した。10億の国民と31カ国(間もなく32カ国に)の安全以上に自由と民主主義を守っている。NATOと加盟各国の国防計画がこれほど密接に結びついたことはかつてなかった。同盟国は現在、新しい国防計画の実行可能性を最大化するために積極的に取り組んでいる。NATOの戦争遂行能力の変革が必要だ」
「平和を望むなら戦争に備えよ。備えと抑止力を最大化することは紛争の発生する可能性を最小化する。ロシアの最近の攻撃は壊滅的だが、軍事的には有効ではない。ウクライナ側には実質的な軍事的成功が見られる。30万人以上の死傷者がロシア側に出た。昨年、世界は過度に楽観的だったかもしれないが、今年は悲観的になり過ぎないことが重要だ」
「私たちの社会では紛争や戦争で活動できるのは軍隊だけではないということが理解されていない。好むと好まざるとにかかわらず、社会全体が巻き込まれる。産業基盤もだ。国民も自分たちが解決策の一部であることを理解する必要がある。今後20年何も起きないわけではない。平和であることが当たり前ではないことを認識しなければならない」と釘を刺した。
●NATO、11億ユーロの砲弾調達契約調印 一部ウクライナ向け 1/23
北大西洋条約機構(NATO)は23日、11億ユーロ(12億ドル)の155ミリ砲弾調達契約に調印した。砲弾の一部はウクライナに供給される。
ストルテンベルグNATO事務総長は調印式の後、記者団に「ウクライナの戦争は弾薬の戦いになっている」と述べた。
ウクライナのウメロフ国防相は先週、ロシアの侵攻開始から約2年となり、ウクライナ軍で砲弾不足が深刻な問題になっていると述べていた。
今回の契約は、一部加盟国に代わってNATOが締結した。NATO当局者によると、調達国はベルギー、リトアニア、スペイン。これらの国は、そのままウクライナに供与したり、自国の備蓄とする。
調達規模は22万発程度で初回の納入は2025年末の予定という。
● ウクライナ首都攻撃、21人負傷=国境近いハリコフで5人死亡 1/23
ウクライナのメディアによると、首都キーウ(キエフ)の複数の地区に23日朝、ロシア軍のミサイル攻撃があり、集合住宅で崩落や火災が起きるなどして子供を含む少なくとも21人が負傷した。ウクライナ空軍はミサイル41発が飛来し、うち21発を迎撃したと発表した。
ロシア軍の攻撃は、第2の都市である北東部ハリコフにもあり、5人が死亡、子供を含む約50人が負傷した。ハリコフは東・南部4州のように占領されていないが、ロシア西部ベルゴロドまで国境を挟んで直線距離で約70キロと近く、両国軍がにらみ合う「前線」に位置している。
このほか東部ドニエプロペトロフスク州パブログラードも攻撃され、2人が死傷した。
●スロバキア首相、戦争終結には「ロシアへの領土割譲必要」 ウクライナ反発 1/23
昨秋就任したスロバキアのフィツォ首相がウクライナ戦争終結のためにはロシアに領土を割譲する必要があると述べたことに対し、ウクライナが反発を示している。
ウクライナ外務省のニコレンコ報道官はフェイスブックに、「領土の一体性に関して譲歩はあり得ない。ウクライナであれスロバキアであれ、どの国にとってもそれは同じだ」と書き込んだ。
さらに「率直に言おう。もしウクライナの安全を確保できなければ、スロバキアも欧州全体も安全ではなくなる」と述べた。
フィツォ氏は国内ラジオとの先週のインタビューで、こうした考え方に真っ向から挑戦していた。ウクライナの領土保全は欧州連合(EU)における同氏の大半のパートナーの中核となる立場でもある。
フィツォ氏はインタビューで「ウクライナは何を期待しているのか。ドンバスやルハンスクからロシアが撤退することか、それともクリミア半島からの撤退か。全く非現実的だ。そんなことは誰にでも分かる」とも述べた。
ドンバスとルハンスクはウクライナ東部の領土。ロシアは2014年にウクライナ東部の一部を実効支配し、22年の全面侵攻後はここを起点に領土奪取を進めてきた。クリミア半島も14年に奪取・併合された。
ロシア寄りとの見方が多いフィツォ氏は、ウクライナへのさらなる軍事支援を阻止するとの公約を掲げ、昨年10月の選挙で勝利した。今回のラジオインタビューではウクライナについて、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領(当時)を失脚させた14年以降、「米国の完全な支配下」にあるとの見方を示した。
フィツォ氏は欧州連合(EU)内ではハンガリーのオルバン首相と共同歩調を取り、ウクライナのEUや北大西洋条約機構(NATO)への加盟を阻止する考えを公言している。
●ロシア軍がキーウなどにミサイル攻撃 65人死傷…攻撃の応酬 1/23
ロシア軍が23日、ウクライナの首都キーウなどにミサイル攻撃を行い、少なくとも子ども5人を含む65人が死傷した。死傷者はさらに増える可能性がある。
ウクライナ当局は23日、首都キーウや北東部ハルキウがロシア軍のミサイル攻撃を受けたと発表した。
キーウは民間のアパートが空爆を受け、20人が負傷。またハルキウでは、ガスのパイプラインが攻撃を受けて炎上したほか、病気の子どもの療養所や民間の住宅が被害を受けて3人が死亡、40人が負傷したという。
東部ドニプロも空爆を受け、2人が死傷した。
ウクライナ当局は、41発のミサイル攻撃を受け、このうち21発を迎撃したと発表。ロシア軍の相次ぐ大規模攻撃で、ウクライナ軍の迎撃率の低下が懸念されているが、当局は「すべての敵のミサイルが目標に到達したわけではないことが重要」と述べた。
軍事侵攻をめぐっては、ウクライナ軍が21日、ロシアが実効支配するウクライナ東部ドネツクの市場を砲撃し、少なくとも27人が死亡した。
ウクライナ侵攻から2年の節目を前に、攻撃の応酬が続いている。
●ウクライナ首都攻撃、21人負傷 国境近いハリコフで5人死亡 1/23
ウクライナのメディアによると、首都キーウ(キエフ)の複数の地区に23日朝、ロシア軍のミサイル攻撃があり、集合住宅で崩落や火災が起きるなどして子供を含む少なくとも21人が負傷した。ウクライナ空軍はミサイル41発が飛来し、うち21発を迎撃したと発表した。
ガス施設炎上、ドローン攻撃か ウクライナから1000キロ―ロシア北西部
ロシア軍の攻撃は、第2の都市である北東部ハリコフにもあり、5人が死亡、子供を含む約50人が負傷した。ハリコフは東・南部4州のように占領されていないが、ロシア西部ベルゴロドまで国境を挟んで直線距離で約70キロと近く、両国軍がにらみ合う「前線」に位置している。
このほか東部ドニエプロペトロフスク州パブログラードも攻撃され、2人が死傷した。
● ウクライナの港からの12月の農産物輸出 軍事侵攻後で最大に 1/23
ロシアによる軍事侵攻で制限されていたウクライナの港からの農産物の輸出について、イギリス国防省は、12月の輸出量が侵攻後、最大になったとの分析を発表しました。黒海を通じた貿易の拡大への道をひらく象徴的な出来事だと指摘しています。
ウクライナは世界有数の穀物輸出国ですが、2年近く前に、ロシアによる軍事侵攻が始まってからは、黒海を通じた輸出ルートが制限され、世界的な食料供給にも影響が出ています。
これについてイギリス国防省は22日、ウクライナの港から12月に輸出された農産物が、侵攻開始以降、最も多くなったとの分析を発表しました。
輸出ルートにあたる黒海の西側部分で、ウクライナ側がミサイルによる防衛などを強化し、ロシアの黒海艦隊に十分活動させなかったことが背景にあるとしています。
そのうえで、「輸出航路の確保は、ウクライナの輸出による歳入だけでなく、黒海における貿易拡大に道をひらく象徴的な出来事で、長期的にも極めて重要だ」と指摘しています。
一方、ロシア軍は攻撃の手を緩めておらず、23日には首都キーウや東部ハルキウなどにミサイル攻撃などを行い、クリメンコ内相によりますと、これまでに5人が死亡したということです。
また、キーウのクリチコ市長は、子どもを含む20人がけがをしたほか、住宅や建物にも被害が出ているとしていて、ウクライナの主要都市を狙った攻撃が相次いでいます。
キーウ市内でも大きな音が10回以上
ロシア軍による攻撃では、NHKの取材班が滞在するキーウ市内のホテルでも、現地時間23日午前7時すぎ、日本時間23日午後2時すぎに「ドーン」という大きな音が10回以上聞こえました。
時折、振動も感じられ、その影響で、駐車していた車の防犯システムも誤作動し、通りではアラームが鳴り響いていました。
取材班が退避する途中には、ミサイルを迎撃しようと、ウクライナ軍が空に向けて何かを発射している様子も窓から見えました。

 

●プーチン大統領の北朝鮮訪問 3月の大統領選後の見通し示す 報道官 1/24
ロシアのプーチン大統領の北朝鮮訪問について、3月の大統領選後になるとの見通しを大統領報道官が示しました。
ロシアメディア「SHOT」は23日、ペスコフ大統領報道官がプーチン大統領の北朝鮮訪問について、3月17日に実施される大統領選の前には行われないとの見方を示したと伝えました。
同じく取り沙汰されているトルコ訪問については、大統領選前に行われる可能性があるとしています。
北朝鮮の国営メディアは21日、プーチン氏がロシアを訪問した北朝鮮の崔善姫外相と会談した際、「北朝鮮を早い時期に訪問する用意」を表明したと報じています。
● ロシア軍事侵攻 開始から700日 キーウなどに大規模な攻撃続く 1/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で700日となります。ウクライナではミサイルなどを使ったロシア軍の大規模な攻撃が続き、23日は首都キーウなどで多数の死傷者が出ました。
ウクライナ軍は23日、ロシア軍がウクライナ各地に巡航ミサイルや弾道ミサイルなど合わせて41発のミサイルで攻撃を仕掛け、このうち21発を撃墜したと発表しました。
ゼレンスキー大統領は、この攻撃で首都キーウや第2の都市ハルキウなどで合わせて6人が死亡し、子どもを含む70人以上がけがをしたと明らかにしました。
このうちハルキウでは、変電所やガスパイプラインに被害があり、厳しい寒さの中、市内の一部地域で停電が起きているほか、暖房も使えなくなっているということです。
この攻撃についてロシア国防省は「ミサイルや砲弾などを生産するウクライナの軍需工場に対して一斉攻撃を行い、すべての目標を破壊した」と主張しました。
こうした中、アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」は22日、ロシア軍がウクライナで使用した北朝鮮のミサイルについて、比較的最近、製造されたもので、性能は、ロシア製のものと変わらないとするアメリカ政府関係者などの分析を伝えました。
また、これまでに北朝鮮から提供されたミサイルは50発以下にとどまるものの、今後、増加するとみられるということで、ロシア側の攻勢が強まることが懸念されています。
●米財務長官、ウクライナ首相に財政支援の予算確保を確約 1/24
イエレン米財務長官は23日、ウクライナのシュミハリ首相とテレビ会議方式で会談を行い、118億ドルの対ウクライナ支援のための予算をバイデン政権は確保すると確約した。
財務省は声明で「ウクライナに対する財政支援は戦場での成功と直接的に関連している」とし、「ウクライナに財政支援を行うことは、ウクライナが戦争に勝利し、米国の国家安全保障上の利益を世界的に高めることにつながる」とした。
●ロシア軍は受刑者らによる「突撃部隊」編成、人的犠牲をいとわず… 1/24
ロシアがウクライナ侵略を開始してから24日で1年11か月となる。露軍は受刑者らによる「突撃部隊」を編成し、人的犠牲をいとわずに突破を図る戦術への傾斜を強めており、ウクライナ軍は防衛主体に切り替えた。米欧のウクライナへの軍事支援は停滞しており、人命軽視の露軍にウクライナが苦戦を強いられる展開が当面、続きそうだ。
受刑者ら「突撃」、1日400人兵士喪失の推計も
   ゾンビ
露軍は昨年秋から攻撃を強化している東部ドネツク州アウディーイウカを巡る戦闘に、突撃部隊を繰り返し投入している。露軍が1日平均300〜400人の兵員を失っているとの推計もある。
露軍の進軍を阻止する防衛拠点アウディーイウカを死守するウクライナ兵は、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに対し、露軍の戦いぶりを「我々には弾薬が十分になく露軍には人間がたくさんいる」と評した。
英王立防衛安全保障研究所(RUSI)などの分析によると、突撃部隊は2〜5人ごとに次々とウクライナ陣地に突っ込んでウクライナに撃退させる。ウクライナの陣形を把握し後方から重火器などで破壊するための「捨て駒」だ。味方の戦車など戦闘車両による援護は期待できない。
決して後退は許されないとされる。後方で監視し銃撃も辞さない「阻止部隊」を配備しているとの証言が相次いでいる。倒されても倒されても波状攻撃を仕掛けてくる様子は「ゾンビ」とも表現される。
   勧誘
ウクライナ侵略では、露民間軍事会社「ワグネル」が2022年秋頃から突撃部隊を使っていた。ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が露国内の刑務所を回って受刑者を勧誘した。半年間の契約期間を満了して生還すれば、刑務所から釈放する触れ込みで、約5万人を勧誘したとされる。ワグネルの突撃部隊は昨年5月のドネツク州バフムト制圧に一役買った。
昨年6月のプリゴジン氏による反乱を機に、受刑者の勧誘と突撃部隊の編成は露国防省が主導するようになった。部隊は「ストームZ」や「ストームV」と呼ばれ、軍紀違反の兵士も「懲罰」の一環で配属される場合があるという。
戦闘訓練をほとんど受けずに最前線に放り込まれるのが特徴だ。ロイター通信によると、バフムトで戦ったある部隊は120人の隊員のほとんどが死傷し、無事だったのはわずか15人だった。米紙ワシントン・ポストによると、侵略を開始した22年2月に約42万人いた露国内の受刑者は、昨年10月には約26万人まで減ったという。
受刑者の動員は、政権にとっては、正規軍の兵士や一般国民と異なり批判を受けにくい利点もある。
   ウクライナ人も
戦場への受刑者投入自体は必ずしも珍しくないが、旧ソ連の独裁者スターリンは第2次世界大戦の独ソ戦で、犯罪者や懲罰対象の兵士で部隊を編成して戦場に大量投入し、阻止部隊に監視させていた。プーチン露大統領がスターリンの手法を踏襲したものとみられる。
ウクライナ国防省情報総局などは、露軍が南部ヘルソン、ザポリージャ両州などの占領地域でウクライナ人を動員し、ウクライナ軍との戦闘に参加させていると指摘している。ウクライナ人を「弾よけ」として最前線に配備している事例もあるとみられている。
戦争犯罪を規定するジュネーブ条約では、占領地での住民の徴兵を禁じている。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは住民を拘束して従軍を強制している事例もあると指摘し、「戦争犯罪だ」と非難している。
ウクライナ戦術 米欧型
ウクライナ軍は、兵員の生命を最優先する北大西洋条約機構(NATO)型の戦い方を重視しており、露軍との違いを強調している。
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は昨年11月の英誌エコノミストのインタビューで「封建国家で最も安価な資源は人命だが、我々にとっては、最もかけがえのないのは国民だ」と述べ、露軍の手法を批判した。「他の国ならば、これほどの犠牲が出れば戦争は止まったはずだ」とも語り、プーチン露政権の人命軽視は想定以上だったことを認めた。
ウクライナもロシアと同様、旧ソ連構成国の一角だが、NATOへの加盟が悲願で、2014年にロシアが南部クリミアを一方的に併合して以降、軍隊機構のNATO型への移行を加速させている。ザルジニー氏ら幹部世代はソ連式の教育を受けたものの、ウクライナ軍の若手兵士の多くはNATO加盟国で訓練を受けており、意識改革も進んでいるとみられる。
ウクライナ軍が昨年6月に南・東部で始めた反転攻勢では、露軍の地雷原突破を図る作業を、歩兵部隊の突撃ではなく、少数の工兵チームに担わせた。
ただ、ロシアは人口約1億4000万人でウクライナの3倍以上だ。消耗戦になれば、人口規模が大きいロシアに分がある。
ウクライナでは兵員補充のため、犯罪歴がある人の動員を可能にする案が取りざたされており、今後、受刑者の動員強化にかじを切る可能性もある。
プーチン氏 領土拡張重視…岩田清文氏 元陸上幕僚長
ロシアのプーチン大統領は死者数を減らすことより、「領土拡張」に価値を置いている。おびただしい数の戦死者が出ても、ロシア軍は歩兵を突撃させる戦い方を継続している。ウクライナ軍が苦しんでいるのも、露軍の用兵が常識を超えているためだ。
露軍は元々、ミサイルやりゅう弾砲などの火力で敵の陣地を徹底的に破壊した上で、装甲車両が主体の「機械化部隊」が突っ込んでいく戦術で臨んでいた。しかし、ウクライナ侵略では既にミサイルや装甲車両の多くが撃破され、兵士や将校も失った。受刑者らで小規模な部隊を作って波状攻撃を仕掛けているのは、このためだ。
ロシアは兵器や車両などの増産を急いでいるが、兵士の訓練には時間がかかる。露軍が以前の状態に戻るまでは、今と同じような戦い方を続けるだろう。ロシアでは3月に大統領選を控えており、露軍は「戦果」がほしいプーチン氏から、政治的要求を突きつけられているはずだ。
気温が氷点下20度に達する厳冬期が過ぎて、暖かくなる5月頃になれば、露軍はさらに兵士と装備を前線に送り込み、攻勢を強めるかもしれない。
●ロシア軍攻撃、死者18人に ウクライナ大統領 1/24
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日夜の国民向け演説で、首都キーウ(キエフ)などを狙ったロシア軍による同日の攻撃で、死者が18人、負傷者が130人に上ったことを明らかにした。崩落した集合住宅のがれき撤去が進み、確認された犠牲者数が増えたとみられる。
●露ミサイル攻撃で18人死亡 ゼレンスキー氏、報復示唆 1/24
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、同国各地を標的とした同日のロシア軍の大規模ミサイル攻撃により、少なくとも18人が死亡、130人が負傷したと明らかにした。東部ハリコフでは救助活動が続いており、死傷者数はさらに増える恐れがあるという。
ゼレンスキー氏は「典型的なテロリストだ」とロシアを非難。「ウクライナには十分な長距離戦の能力があることをロシアに知らせよう」と報復を示唆した。
ゼレンスキー氏や地元当局によると、露軍はこの攻撃で、約40発のミサイルを発射。一部が着弾し、139の一般住宅などに被害が出た。ハリコフでは高層住宅が崩落するなどし、21歳の女性や8歳の女児が死亡した。
昨年末の露軍の大規模なミサイル攻撃以降、双方は互いの都市への報復攻撃を繰り返しており、双方の死者数は昨年末以降だけで計100人を超えている。
●ロシア軍、ウクライナ各地に大規模なミサイル攻撃 7人死亡 1/24
ウクライナ各地にロシア軍の大規模なミサイル攻撃があり、これまでに7人が死亡、70人以上がけがをしました。
ウクライナ当局によりますと、23日未明に首都キーウや東部ハルキウなどにロシア軍によるミサイル攻撃があり、7人が死亡し、子どもを含む70人以上がけがをしました。
こうしたなか、イギリスの研究機関が1月2日にハルキウに着弾したミサイルの残骸を調べたところ、部品にハングルが記載されていたことなどから「ミサイルは北朝鮮製」との分析結果を公表しました。
ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長も、北朝鮮がロシアの最大の武器供給国との認識を示し、「北朝鮮の助けがなければロシア軍の状況は壊滅的になっていただろう」としています。
●イタリア、G7議長国としてウクライナ全面支援を継続の意向=関係筋 1/24
今年の主要7カ国(G7)議長国を務めるイタリアが、ロシアに侵攻されたウクライナに対してG7として全面的な支援を続ける意向を示していることが分かった。ウクライナでの戦闘でロシアが優勢になっているとの観測や、西側諸国に支援疲れがあるとの見方に対抗する。情報に詳しい関係者が匿名で語った。
関係者によると、6月13─15日にイタリア南東部プーリア州で開催されるG7首脳会議(サミット)では中東紛争、食料安全保障、気候変動、アフリカ開発、中国との関わり、人工知能(AI)などが主要議題になる予定。
過去2回のサミットと同じように、ウクライナでの戦闘も主要な検討事項となる見込みだ。
関係者は「われわれはウクライナのストーリーを変えなければならない」と述べ、ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻以来、財政的、軍事的、外交的影響力を著しく失っていると主張した。
G7は今年、3月13─15日に開かれる産業、技術、デジタル化に関する会合をはじめ20の閣僚級会合を予定している。
●スウェーデン NATO加盟に向け大きく前進 トルコ議会が承認 1/24
トルコの議会はスウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)への加盟を23日、承認しました。NATO加盟国のうち、これまでトルコとハンガリーが承認を終えていませんでしたが、スウェーデンの加盟に向けて大きく前進したかたちです。
ロシアと国境を接するフィンランドと隣国のスウェーデンは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、おととし5月、NATOへの加盟をそろって申請しました。
このうちフィンランドは去年4月に加盟が実現しましたが、スウェーデンについてはトルコとハンガリーが承認を終えていませんでした。
特にトルコは、自国からの分離独立を掲げるクルド人武装組織のメンバーなどをスウェーデンが支援していると主張して、承認に向けた動きは長く停滞していました。
対策が講じられたとしてトルコ政府も前向きな姿勢に転じ、23日、トルコ議会では審議が行われました。
出席した与党の議員からは「スウェーデンの加盟はトルコの利益に一致する」などの声も上がり、その後、採決が行われ、賛成多数でスウェーデンのNATO加盟を承認しました。加盟に向けて大きく前進したかたちです。
残るハンガリーもスウェーデン側と交渉する意向を示しています。
一方、NATOの拡大に強く反対するロシアは反発することが予想されます。
スウェーデンの首相府は23日、SNSに「きょうわれわれはNATOの一員に1歩近づいた。スウェーデンのNATO加盟をトルコ議会が支持したことを前向きに受け止めている」と投稿し、スウェーデンの加盟にかたくなな姿勢を示してきたトルコの承認を歓迎しました。
●ウクライナ砲弾不足が深刻 ロシア軍の1割か 1/24
米CNNテレビは23日、ウクライナ軍の砲弾不足が深刻化し、侵攻を続けるロシア軍との戦闘で不利な状態だと報じた。指揮官の一人は、ロシア軍とウクライナ軍が保有する砲弾の差は「10対1」だと話した。
防衛を続ける東部ドネツク州アブデーフカの近くでは砲弾不足により、昨年の大規模反攻時と比べて発射数が半減。やむを得ず、爆発しない種類の砲弾を打ち込んだこともあったという。
23日はロシア軍がウクライナ各地にミサイル攻撃を仕掛けた。東部ハリコフで8歳の女児を含む8人が死亡した。ウクライナメディアによると、変電所などの電力関係設備なども損壊し、大規模停電が発生した。 
●EUのロシア中銀資産没収、可能性低い 法的リスク警戒=関係筋 1/24
欧州連合(EU)がウクライナ侵攻を受けて凍結したロシア中央銀行の資産を没収する可能性は低いと、EU当局者が明らかにした。
日米欧などは制裁の一環としてロシア中銀の資産約3000億ドルを凍結した。約2000億ドルは主にベルギーの決済機関ユーロクリアに保管されている。
バイデン米大統領は議会に610億ドルのウクライナ追加支援を要請しているが、共和党が反対している。EUもウクライナへの500億ユーロ(543億6000万ドル)規模の支援についてハンガリーの反対で合意できずにいる。
ロシアの資産を没収してウクライナに提供すれば、ウクライナ向け資金調達を巡り欧米諸国への圧力は和らぐが、EU当局者は法的リスクが高すぎると考えているという。
EU当局者は匿名を条件に「ロシア資産の没収はあり得ない。EU加盟国の間でこの件に関する合意はない」と述べた。
ルクセンブルクのベッテル外相はロイターとのインタビューで「仮にウクライナへの数十億ドル供与を政治的に決めたとして、半年後にウクライナへの引き渡しは認められないとの法的判断が下されたとしたら誰が支払うことになるのか」と述べ、資産差し押さえに慎重な見方を示した。
●ロシア軍用機が墜落 “捕虜のウクライナ兵など74人搭乗” 1/24
ロシア国防省は、ウクライナと国境を接しているロシア西部のベルゴロド州で、捕虜となっていたウクライナ軍の兵士など合わせて74人が乗っていたロシア軍の軍用機が墜落し、全員が死亡したと発表しました。ロシア国防省は、ウクライナ側がミサイルで撃墜したとしています。
ロシア国防省は24日、ウクライナ側との捕虜交換のためにモスクワ近郊の空軍基地を出発したロシア軍の軍用機が、ウクライナと国境を接している西部のベルゴロド州で墜落したと発表しました。
墜落したのは、イリューシン76型輸送機で、捕虜となっていたウクライナ軍の兵士65人のほかロシア軍の乗員など9人の合わせて74人が乗っていたとした上で「全員が死亡した」と明らかにしました。
ロシア国防省は「ウクライナ東部ハルキウ州からウクライナ軍が発射した対空ミサイルで破壊された」として、ウクライナ軍がベルゴロド州と隣接するウクライナ側の州から2発のミサイルを発射し、撃墜したとしています。
国防省の発表に先立ち、ロシア議会下院のボロジン議長やカルタポロフ国防委員長も「ミサイルで撃墜された」と相次いで発言していてロシア側は、欧米からウクライナ側に供与された対空ミサイルで撃墜されたと主張しています。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は「これから調査する」と述べ、ロシア軍は現地に調査団を派遣するとみられます。

 

●ゼレンスキー氏、露軍輸送機墜落で国際調査を要求 1/25
ウクライナ軍捕虜65人を含む計74人が搭乗するロシアの軍用輸送機IL76がウクライナ軍のミサイル攻撃で墜落し、搭乗していた全員が死亡したと露国防省が主張した問題で、ウクライナのゼレンスキー大統領は24日夜、「明確な事実を確定する必要がある」とし、軍高官らに報告を求めたことを明らかにした。また、「墜落は露領内で起きた」とし、国際的な調査の実施を求める考えも示した。
IL76の墜落は24日午前、ウクライナと国境を接する露西部ベルゴロド州で発生。露国防省は、同日午後に予定されていた捕虜交換のためにIL76がウクライナ軍捕虜を国境地帯に移送中だったと主張した。
ウクライナ国防省情報総局は24日午後、捕虜交換が同日予定されていたことを認めた一方、「ロシアとは捕虜の安全を確保するとの合意があったが、ベルゴロド州上空の安全を確保するようロシアから通知されていなかった」と指摘。捕虜の移送手段や経路もロシアから知らされておらず、捕虜が実際にIL76に乗っていたかどうかも把握できていないとした。ウクライナ軍がIL76にミサイル攻撃を行ったかどうかに関しては言及しなかった。
●解氷とともに開かれる黄金航路…北極に力を注ぐロシア・中国 1/25
「氷河が溶け、北極でロシアと中国が新たな脅威として浮上している」
米国のCNNは先月20日、全人類の心配事である「気象災害」による北極の解氷を、特にロシアと中国がポジティブな視線で眺めていると皮肉った。同放送は「(ノルウェーの)トロムソ港から数百マイル離れたロシアのコラ半島にはロシア北部艦隊がある。数隻の弾道ミサイル潜水艦と巡洋艦や駆逐艦、哨戒艦をはじめ、兵力、飛行場、その他の軍事資産が北大西洋条約機構(NATO)の国境近くに密集している」と報じた。氷河が溶けて移動が自由になった北極海を通じて、ロシアが最近NATO加入によって自国を敵に回した北欧諸国(フィンランドは昨年4月に追加加入、スウェーデンは加入手続き進めている)の安全保障に脅威を加える恐れがあるという点を懸念したのだ。さらに、現在進行中のガザ戦争で地中海とインド洋を直接つなぐ紅海航路の軍事的緊張感が高まっていることから、アジア-ヨーロッパ、北米-ヨーロッパのどちらにも自由に移動できる北極航路が新たな「氷上のシルクロード」として注目されている。
北極を挟んで大型輸送船の移動が可能な北極海航路(NSR)のうち、北米とヨーロッパをつなぐ北西航路(NWP)とアジアとヨーロッパをつなぐ北東航路(NEP)のかなりの地域が、ロシアが所有権を主張する地域に含まれている。特に韓国など極東から欧州に向かう航路の場合、北東航路(1万5千キロメートル)はスエズ運河経路(2万キロ)よりはるかに短い。
北極圏の辞書的定義は、北緯66.3°以上の海と陸地を意味する。ここは長い間、雪と氷に覆われた「凍土」だった。だが、地球の他の地域で続く激しい対立が影響を及ぼさない、いわゆる「北極例外主義」が適用された地域でもあった。この巨大な氷の地は、軍事大国がこの地域を経て他の大陸を行き来できないようにする戦略的緩衝地帯の役割を果たしてきた。米地質調査所によると、北極圏には世界の未開発天然ガスの30%、石油の13%が眠っている。北極に領土を持つロシア、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、米国の8カ国は、1996年に「北極評議会」を作り、この資源を平和的かつ持続可能に共同開発するために力を合わせているかのように見えた。
北極開発に本格的に動き始めたのはロシアだった。ウラジーミル・プーチン大統領は2013年、「2020年までのロシア連邦の北極圏開発と安全保障戦略」などを発表し、積極的な北極開発に乗り出した。ロシアのこのような動きが最近さらに浮き彫りになっているのは、気候温暖化で北極の解氷が本格的に進むとともに、ウクライナ戦争で西欧との対立が先鋭化したためだ。
北極開発と関連して最も目を引くのは、北極航路の商業的利用だ。北極の氷河はここ10年ごとに13%の割合で消えており、早ければ2040年に氷のない夏が来る可能性があるとみられている。ロシアは2022年8月に「2035年までの北極航路開発計画」を発表し、2035年にはこの海を通じた運送量を現在の4倍の2億7千万トンに引き上げる計画を打ち出している。 米ハーバード大学ベルファー・センターは「ウクライナ戦争後、ロシアに加えられた西側の制裁と多くの外国企業の撤退で、ロシアの北極プロジェクトの稼動が遅れるだろう」と予想しながらも、「ヨーロッパで被った損失を取り戻すために、北極を通じてアジア市場に輸出を拡大する可能性が高い」と見通しを示した。
さらにロシアは、同航路を北極圏で生産したエネルギーの輸出に積極的に活用しうる。ロシアは北極圏で全体天然ガス生産量の83%、石油17%を生産している。ロシアの国内総生産(GDP)の約20%がここから生まれる。ロシアは2018年から北極圏のヤマル半島で生産した天然ガスを、この航路を通じて中国に輸出している。
最近の情勢変化とあいまって懸念を高めているのは、北極海の軍事利用の可能性だ。15年ほど後には北極海の氷河が溶け、この海で太平洋や大西洋のように通常の軍事活動が可能になるとみられる。米国シンクタンクのジャーマン・マーシャル財団(GMF)は昨年8月の報告書で「北極は今や強大国間の競争を管理し、透明性、予測可能性の強化と信頼構築措置が必要な地域」だと強調した。
実際、ウクライナ戦争後、北欧諸国は北極を軍事的に活用するロシアに少なからぬ安全保障上の脅威を感じている。ブルームバーグ通信は「北極の石油とガスプロジェクトがロシアの戦争資金を支えており、ウクライナを攻撃する爆撃機が北極基地から離陸することもある」と指摘した。米国の外交専門誌「ディプロマット」は先月20日、「ロシアが(フィンランドと国境を接する)北極海岸のコラ半島に、艦隊や相当数の核兵器、ミサイル施設、飛行場、レーダー基地を配置した」とし、「近隣のノヴァヤ・ゼムリャ諸島とゼムリャ・アレクサンドラ島からロシア太平洋艦隊の本拠地であるウラジオストク港につながる地域にここ10年間にわたり旧ソ連の老朽化した軍事施設を改造して新しい基地を建設し、極超音速ミサイルから核魚雷ドローンに至る新しい兵器の試験場を拡張している」と説明した。ロシアは現在も、原子力砕氷船を含め、全世界の砕氷船の半分近い50隻以上を運営し、北極で最強の戦力を維持している。
米国に対抗してロシアと戦略的協力を強化している中国も、北極に大きな関心を示している。中国国務院は2018年に発表した「中国の北極戦略白書」で、中国が地理的に北極圏に最も近い大陸国家の一つである「北極近接国家」であり、「重要な利害当事国」だという立場を示した。中国は同白書で「北東、北西、中央航路で構成された北極航路は、地球温暖化の結果、国際貿易の重要な運送路になる可能性が高い」とし、「(中国『一帯一路』の北極版計画である)『氷上シルクロード』を構築することを望んでいる」と明らかにした。さらに2021年に始まった第14回5カ年計画には「北極の実務協議に関与し氷上シルクロードを建設する」と明記した。中ロは2017年7月の首脳会談で、北極航路開発のための協力を約束した後、これを実行してきた。しかし、中国はロシアのように北極を軍事利用しようとする動きは見せていない。
米国も最近急変した北極の戦略的意味をよく理解している。米国は2022年10月に新たな「北極戦略」を公開し、この地域を巡る「戦略的競争が激しくなっている」として、同盟国と共に国際法とルールに基づいた秩序を維持する方針を示した。さらに中国については「北極に対する影響力を確保するための対応を強化している」とし、「米国は効果的に競争しながらも緊張を管理する立場」を取るという覚悟を明らかにした。米国の科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」は3日、「氷河が急速に溶けている北極で、ロシアと中国がさらに攻撃的な態度を取っており、ペンタゴン(米国防総省)に赤信号が灯った」とし、「米国が北極政策と訓練を建て直している」と説明した。米国は北極圏に本土防衛のための重要な戦略地域であるアラスカという領土を保有している。北極の氷河がなければ、米国とロシアの間には直通の高速道路が開通することになる。ウォールストリート・ジャーナル紙は5日、「冷戦後、米国は北極で存在感が大きく低下した一方、ロシアと中国などは経済・軍事的資源を投資している」とし、「ロシア本土はアラスカ西海岸から60マイル(97キロメートル)も離れていない」と指摘した。
さらに、米国と北欧諸国の安全保障協力が強化されている。先月5日、スウェーデンを皮切りにフィンランド(18日)、デンマーク(19日)が米国と多年間の防衛協力協定(DCA)を結んだ。特にロシアと1300キロメートルを超える国境に接するフィンランドは、北極の氷河がなければわずか1千キロメートルの距離にあるノヴァヤ・ゼムリャ諸島でロシア艦隊と直面することになる。3日後の22日には、バルト3国が米国と既存の防衛協定を更新した。米国はこの協定を通じて、有事の際、この3カ国の軍事基地を活用することができる。
●「第3次世界大戦」が現実味?ロシアとの「全面戦争」に備え始めたドイツ 1/25
・ロシアがウクライナとの戦線を拡大し、2025年にも北大西洋条約機構(NATO)との「全面戦争」に突入する――。そんな最悪のシナリオをドイツ国防相が想定していると独大衆紙がスクープした。
・英国やスウェーデンの防衛関連閣僚も、ロシアとの戦争を想定した備えを訴えるスピーチをするなど、さながら「第3次世界大戦」が近づいているかのような物々しさだ。
・米国では社会の分断による「内戦」勃発に備えた動きが出ているほか、台湾では中国との軍事衝突に備えた「民兵」育成の動きもある。日本人にとって必要な備えとは?
ドイツの大衆紙ビルトは1月16日、ドイツ連邦軍が早ければ2025年にもロシアと北大西洋条約機構(NATO)との間で武力紛争が起きることを想定し、準備を進めていると独占で報じた。独国防省の機密文書のリークと見られる。プーチン大統領がウクライナ侵攻から戦線を拡大させ、2月中にも状況がエスカレートし、数万単位の独軍兵が戦場に送られることを想定しているという。
欧米の主要メディアもビルトの報道を追随。各紙のまとめによると、ドイツの想定ではロシアがまず、隣国ベラルーシ、およびロシア最西端であり飛び地のカリーニングラードで兵士を増員。この脅威に対してNATOが東欧に派兵し、地域の緊張がより高まるという。
ちなみに、カリーニングラードは欧州に最も近いロシア領で、西側は長い間、ロシアが既に同地に核兵器搭載可能なミサイルを配備したと指摘してきた。ここでの核兵器の配備は、西ヨーロッパの広い範囲が射程圏内に入ることを意味する。
ドイツはさらに、次のようなシナリオを想定しているという。
ロシアは2月に20万に及ぶ新兵を動員し、6月までにウクライナとの戦線で大幅に前進。その後、7月にはバルト3国にハイブリッド戦を仕掛け、サイバー攻撃によって、地域のロシア語を主とする少数派が不当に標的になっているとの偽情報を流す。そのことによる暴力的な行為が横行し、同地域でのロシアの介入を正当化させる。
11月の米大統領選後の移行期間の隙をついて、「偽の国境紛争や暴動」をでっち上げ、ベラルーシとカリーニングラードを結ぶ回廊を制圧せざるを得ないと主張する。2025年1月、ロシアはNATOがプーチン大統領の転覆を目論んでいるとし、同年3月にはNATOとロシアがバルカン半島で全面衝突する――。
独国防省はビルトに対し、文書に記された詳細についてコメントせず、「様々なシナリオを検討することは、特に通常の訓練において、日常の軍事業務である」と述べている。
来年にも大規模な戦闘に発展するというビルト報道への欧米の反響は大きく、米ニューヨーク・ポストや英indy100などは「ロシアによる第3次世界大戦開始に備えるドイツ」などという見出しを掲げている。これを受けてか、独ピストリウス国防相は19日、独日刊紙のターゲス・シュピーゲルとのインタビューで、現状ではロシアによるNATOへの攻撃の可能性は低いとしながらも、同国の専門家の見立てではこの5〜8年の間に起きる可能性があると発言している。
市民にロシアとの戦争への備えを訴えるスウェーデン
欧州では今年に入ってから、ロシアなどとの戦争が現実味を帯び、戦闘に備えるようにとの各国の政府高官などによる発言が相次いでいる。今年総選挙が予想されている英国でも15日、シャップス国防相が演説で、この5年でロシアや中国、イラン、北朝鮮との紛争の危険が高まるだろうと発言し、各国による国防支出増大の必然性を力説した。
中でも、一昨年NATOへの加盟申請を行ったスウェーデンでは、今月7日にボーリン民間防衛相が、今後スウェーデンでの戦争勃発の可能性を明言したことが、衝撃を持って受け止められた。ボーリン氏は民間人に対しても単刀直入に「来る戦闘に迅速に備えよ」という趣旨の発言を行なったからだ。
同氏は演説の初めに、210年もの間平和を享受してきたスウェーデンでは、戦争やテロなどの脅威がどこか別の場所で起きていると考える「精神的な防衛メカニズム」が働いていると指摘。 その上で、現在、世界は第2次世界大戦以来最大の危機に瀕しているとし、祖国防衛は国民全ての問題であり、それぞれの分野で対策を講じる義務を負うと主張した。
同氏の発言は「行動を起こさないことは許されない」とまで踏み込んでいる。様々な分野の人々に、備えるべき具体例も示した。例えば、一個人であるならば「家庭の備えに責任を持っているか。自主防衛組織に参加する時間について考えたことがあるか。ないのなら、動くべきだ!」などと、強く促している。
ボーリン氏の演説は不適切だとの批判もある一方で、スウェーデン軍最高司令官のビューデン将軍も同じ場で同意の発言を行なっている。ビューデン氏は人々が事の重大性を鑑み、精神的に備える必要性を訴えた。
フランス24は、この発言を受けたスウェーデンの市民が、燃料や水タンクなどの非常用品を買いに走る様や、防空壕へのオンライン地図、また戦争に備えるための小冊子へのウェブアクセスが激増した様子などを伝えている。非常用キットに商機を見出した企業もあるという。
英ガーディアン紙は、スウェーデンで来年兵役に召集される予定の18歳の女性への取材を行なっている。10万人のうち1割程度は徴兵されることになるという。これまでは志願兵のみであったものが、兵士の不足から当局は昨年、方針転換を余儀なくされた。同紙はこの中で、クリステション首相の、スウェーデンの安全を確実にするのは市民であり「市民権とは(単なる)渡航証明書のことではない」という発言を引用している。
米国では市民が内戦に備えサバイバル訓練
戦争の脅威を身近に感じているのは、プーチン大統領の狂気に翻弄されている欧州だけではないようだ。米ニューヨーク・タイムズは19日の特集で、一般市民が実践に備える模様を詳報している。
ある週末、カリフォルニア州に集った一般人が、米空軍士官に訓練を行なってきたエキスパートからサバイバル術を伝授されていた。森の中で敵に見つからないよう、周囲に溶け込む訓練に参加したのは9人。費用はおよそ800ドルという。米国では昨今、世界大戦はもとより、米国内での内戦が起きる不安から、こうしたサバイバル・コースや、軍事シミュレーションが人気を博しているという。内戦関連の著書も多数出版され、同様のドラマなども企画されている。
米国では3年前、トランプ前大統領が落選した大統領選挙の結果を受け、多数の暴徒による連邦議会襲撃という前代未聞の事件が起きた。同前大統領が選出された2016年の大統領選あたりから、米国内でのリベラルと保守派の分断は、ますます激しくなっている。
この記事に登場する市民の参加理由は様々だが、やはり内戦などの不測の事態に備えたいという思いがあるのだという。紛争が報道のことだけではなく、自身の目前に迫り来るのは「もはや時間の問題」と感じる参加者の言葉が印象に残った。
大戦の火種は欧米のみならず、アジアにもある。今月13日に行われた台湾の総統選挙では、自治権を主張する与党・民進党が勝利した。中国の習近平国家主席は選挙に先駆けた昨年末、国民に向けた新年のテレビ演説で「祖国の統一は歴史の必然」などと述べ、民進党を牽制していた。
台湾では富豪が私的に「民兵」養成
中台の緊張は今に始まったことではないが、たびたび軍事力を誇示して台湾統一に野望を燃やす中国に備えるため、台湾では有事に備える市民が増加しているのだという。豪ABCニュースが今月初めに伝えた。
台北を拠点とするクマ・アカデミーでは、市民が緊急事態と避難の準備、応急処置などに加え、偽情報への対処法や、現代における戦争の基礎知識を学べるという。1年半ほど前、このアカデミーに、台湾の半導体メーカーを有する富豪の曹興誠(ロバート・ツァオ)氏が多額の資金援助を約束した。この間、民間防衛のコース受講者が急増したという。興味深いのは、受講者の多くが女性や若い夫婦だといい、中国による侵攻や封鎖が起きた場合に、子どもたちに戦闘に直面して欲しくないという思いがあるのだという。
曹氏はこのアカデミーに加え、その他の組織を通じて民間の戦士部隊を300万人育成するとしている。投じた資産は10億台湾ドルに上るという。
豪ABCニュースが取材した民間人受講者は、徴兵時の経験が不十分だったとして、このコースに参加したと語った。新生児を抱えるこの男性は、襲撃があった場合に子どもとどう避難すれば良いのかなどの不安を覚え、受講を決めたのだという。
コロナ禍を生き抜いた世界は今、各地を巻き込む戦争という不測の事態に備え、どの大陸でも一人ひとりが、現実と直面せざるを得ない局面を迎えているようだ。
最後にお断りしておきたいが、筆者は通常は殊更に「世界大戦の危険」などと煽り立て、不安を広めるような論調は本意ではない。しかしそんな筆者ですら、昨秋勃発した中東での紛争に最近米英が直接参加し始めた状況などを鑑みると、今後広域を巻き込んだ大規模な紛争が勃発しかねない、差し迫った危険を想定せざるを得ない。
年始の能登半島における震災や、直後に起きた日航機と海保機の衝突事故などによって、SNS上では不安になるようなニュースの遮断を奨励するポストを多数見かけた。SNSが人々のメンタルに及ぼす悪影響を考えれば、それも当然の意見だと重々承知しているし、同意でもある。
だが、欧州各国の政府関係者が指摘しているように、今後紛争など不測の事態が間近に迫る危険は、もはや日本でも想定しなければならない現実なのではないだろうか。その時になってパニックに陥るよりも、スウェーデンで指摘されているように有事に「精神的に備える」という必然性は、すでに避けられない気がしている。
非常用キットを買い求めることなどよりも、まずは世界でどんな紛争が起き、またこれから起きかねないのか。自身にはどのような影響を及ぼしかねないのか。冷静に、正しい知識の備蓄を始めるということも、精神的な備えにつながるように感じている。
●北朝鮮関係「活発に発展」=ロシア外相 1/25
ロシアのラブロフ外相は24日、軍事協力を深める北朝鮮との関係について「順調であり、非常に活発に発展している」との認識を示した。ニューヨークの国連本部での記者会見で語った。
プーチン大統領の訪朝に関しては「招待は受けているが、日程はクレムリン(大統領府)が決める」と述べるにとどめた。実現すれば2000年以来、プーチン氏にとって2回目となる。
●ロシア軍輸送機が墜落、捕虜ら74人搭乗 ウクライナが撃墜と非難 1/25
ロシア国防省は、捕虜のウクライナ兵士65人を乗せた軍輸送機が24日、ウクライナ国境近くで墜落したと明らかにした。捕虜交換のため輸送中で、ウクライナによる意図的なミサイルによる撃墜としている。
墜落したのはイリューシン(IL)76で、ウクライナ人捕虜のほか乗員6人と警護員3人の計74人が搭乗していたという。地元当局によると全員死亡した。
ウクライナは状況について完全に明らかにするよう求め、撃墜したしたことを直接的には認めなかった。
ウクライナのゼレンスキー大統領は演説で「ロシアがウクライナの捕虜の命、彼らの愛する人々の感情、われわれの社会の感情をもてあそんでいることは明らかだ」と述べた。
ただ、ウクライナ軍は墜落からかなりの時間が経過した後、ウクライナを攻撃するためのミサイルを搭載していると疑われるロシア軍用輸送機に対する攻撃を継続すると表明。
対話アプリ「テレブラム」への投稿で、ウクライナ軍はベルゴロドに到着するロシア軍の輸送機が増えていると認識しているとし、これはハリコフや他の都市に対するロシア軍のミサイル攻撃と関連していると指摘した。
ロシア「野蛮な行為」とウクライナを非難
ロシア国防省は、ウクライナ指導部側は自軍兵士が捕虜交換でベルゴロド飛行場に軍用輸送機で輸送されることを知っていたと指摘。「これまでの合意に基づき、捕虜交換はこの日の午後にロシアとウクライナの国境にあるコロチロフカ検問所で行われることになっていた。こうしたテロ行為によってウクライナの指導者は素顔をさらけ出し、自国民の命を軽視した」と主張した。
同省はまた、航空機が墜落した時刻に2発のウクライナ製ミサイルの発射がレーダーで検知されていたと発表した。
ロシアのラブロフ外相は軍機墜落を受け、国連安全保障理事会の緊急会合を開催するよう要請した。 もっと見る
国連のフランス報道官は会合が25日午後5時(日本時間26日午前7時)に開催されると述べた。
ロシア国営メディアは、墜落機に搭乗していたとする65人のウクライナ兵の氏名と生年月日を公表。ロイターは公表された氏名などの一覧表の真偽を確認できていない。
退役軍人で国防省と密接な関係があるロシア議会のアンドレイ・カルタポロフ議員はテレビインタビューで、「捕虜交換を妨害するために意図的に行われた」とウクライナを非難。米国製かドイツ製のミサイル3発が撃墜したと述べた。
ウクライナ、空域の安全確保知らされずと主張
ウクライナ軍情報当局は24日、テレグラムで、ウクライナが捕虜輸送中のロシア軍機を撃墜したとのロシア側の主張は「ウクライナにおける状況を不安定化し、わが国に対する国際的支援を弱めるために計画された行動である可能性がある」と指摘。墜落したロシア軍輸送機に誰が乗っていたかについて信頼できる情報はないとした。
また、捕虜交換は確かに計画されており、ウクライナは全ての条件を満たしたが、捕虜を輸送する飛行機の機数やそのルートについてはロシアから知らされておらず、「同時にこれまで繰り返し行われてきたように、一定期間にベルゴロド地域の空域の安全を確保する必要性については、ウクライナ側に知らされていなかった」とした。
ベルゴロド州は昨年12月のミサイル攻撃で25人が死亡するなど、ここ数カ月ウクライナから頻繁に攻撃を受けている。
● ロシア南西部で輸送機墜落、ウクライナ人捕虜含む74人死亡… 1/25
ロシア国防省は24日、露南西部ベルゴロド州で露軍輸送機「IL(イリューシン)76」が墜落し、ウクライナ人の捕虜65人を含む搭乗していた計74人全員が死亡したと発表した。露側はウクライナ軍がミサイルで撃墜したと主張した。捕虜交換のための移送中だったとし、ウクライナ側を非難した。
同省は、ウクライナ軍がウクライナ東部ハルキウ州から対空ミサイルを発射して撃墜したと主張した。IL76には、ロシア人の乗員6人と露軍兵士3人も乗っていたという。
セルゲイ・ラブロフ露外相は米ニューヨークの国連本部で記者会見し、輸送機墜落について、「ウクライナのテロ攻撃だ」と非難した。ロシアの要請を受け、国連安全保障理事会の緊急会合が25日に開かれる予定だ。
ウクライナのニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」は当初、IL76が地対空ミサイル「S300」を輸送中だったと報じたが、その後、記事を削除した。ウクライナ側は24日に捕虜交換を行う予定だったことは認めたが、25日未明時点で、露軍輸送機の墜落への関与について肯定も否定もしていない。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日深夜、SNSで事故の全容解明を求めた上で、「ウクライナ人捕虜の命や彼らを愛する人の感情をもてあそんでいる」と露側を非難した。
●ロシア、安保理緊急会合を要請 ウクライナ捕虜搭乗機墜落受け 1/25
ロシアは、西部ベルゴロド州で捕虜のウクライナ兵士らを乗せたロシア軍の大型輸送機が墜落したことを受け、24日に国連安全保障理事会の緊急会合を開催するよう要請した。ロシアのラブロフ外相が明らかにした。
ラブロフ外相によると、ロシアは安保理緊急会合を米東部時間午後3時に開催するよう要請した。
ロシア国防省はこの日、ウクライナ捕虜65人を乗せた軍輸送機がウクライナ国境近くで墜落したと明らかにした。捕虜交換のため輸送中で、ウクライナによる意図的なミサイルによる撃墜としている。
ラブロフ外相は、ロシア機撃墜はウクライナによる犯罪行為と非難。ウクライナが安保理会合でロシア機墜落の経緯を説明するよう求めると述べた。
●米が低濃縮ウラン増産へ…日英仏加と協力、供給網の脱ロシア狙う 1/25
米エネルギー省で原子力政策を統括するキャサリン・ハフ次官補は、原子力発電所で燃料に使う低濃縮ウランの生産体制を増強する方針を本紙に明らかにした。一昨年2月のウクライナ侵略以降、対立するロシアへの依存を減らし、日英仏加と協力して、脱ロシアの国際的な供給網構築を目指すと説明した。
米国の電力の2割は原子力発電が賄う。現在、自前で賄える低濃縮ウランは3割程度で、約2割をロシアに頼る。
ハフ氏によると、約22億ドル(約3200億円)の予算を投じ、米企業の設備増強を支援する。近く、支援対象の企業を公募する。
天然ウランは、核分裂反応を起こす種類のウランの割合を高める「濃縮」などの工程を経て、低濃縮ウランになる。露国営企業「ロスアトム」は濃縮で5割近い世界市場でのシェア(占有率)を持つ。
日米英仏加は昨年12月、低濃縮ウランの脱ロシアに向け、「今後3年間、官民で42億ドル(約6100億円)以上の投資を目指す」と共同宣言を発表していたが、主導した米国が過半を投資することになる。
米露は1993年、核不拡散のためロシアの核兵器用の高濃縮ウランを低濃縮ウランに作り直し、米側が購入することで合意。安い製品の輸入を続け、米国の核燃料産業は衰退した。
天然ウランの産地は世界的に分布し、米政府や米議会では、濃縮などの能力を増強して依存を解消するべきだとの声が強まっていた。
日本のロシア依存は低いとされる。日本政府は宣言への対応として、日本原燃がウラン濃縮工場(青森県)の能力を6倍に増やす計画を後押しする。
ハフ氏は「ロシアはエネルギーを他国への『兵器』として使うことをためらわない。供給源として信頼できず、安定した国際供給網が必要だ」と強調した。 
●プーチン批判の強硬派元司令官に禁錮4年 「過激な行為を扇動した」 1/25
ウクライナ東部の親ロシア派の元司令官で、現在はロシアで強硬派の軍事評論家として知られるイーゴリ・ギルキン氏(通称ストレルコフ氏)に対し、モスクワの裁判所は25日、「過激な行為を扇動した」として禁錮4年の有罪判決を言い渡した。インタファクス通信が伝えた。同氏の弁護士は、判決を不服として控訴するとしている。
裁判所の外にはギルキン氏の支持者が集まって支援のプラカードを掲げた。ロシアの独立系メディアによると、3人の支持者が警察に拘束されたという。
ギルキン氏は昨年7月に拘束され、裁判は同12月から非公開で行われていた。ロシアメディアによると、「クリミアでの降伏の可能性」と「軍人への支払い」に関するSNSの投稿が罪に問われたという。判決は、ギルキン氏がSNSを投稿するなどインターネットを使うことも禁じた。
ギルキン氏は侵攻を支持する一方、占領地からの撤退などロシア軍の失態をめぐって政権や国防省を批判。さらに「国のトップに23年間、大半の国民をだましたクズがいた」などとSNSに投稿。2000年から権力を握るプーチン大統領にも矛先を向けた。
●反プーチン派の「出馬実現を」 ウクライナ侵攻反対の候補者への署名に大行列 1/25
プーチン氏の勝利が確実な3月のロシア大統領選。対立する人々は、立候補すらできていない。
しかし...。
雪がちらつく首都・モスクワにできた大行列。反対側の歩道から、道路をまたいで続いている。
反プーチン政権軍事侵攻反対を掲げてロシアの大統領選に立候補したナデジディン氏の事務所の前には、支持を表明しようと、署名のために多くの人が並んでいる。
元ロシア下院議員のボリス・ナデジディン氏。大統領選に出馬するには10万の署名が必要だが、可能性が残る人物の中でただ1人、ウクライナへの侵攻に反対している。
署名するまで極寒の中、2時間待ち。ボランティアが配る温かい飲み物を頼りに並び続ける。
それでも人々の列は絶えない。
署名に訪れた人(19)「戦争に反対です。ウクライナには友人がたくさんいます」
署名に訪れた人(86)「すべてのデモが禁止されていて、投票しか意思表示できません」
こうした動きは、厳しい寒さが続くシベリアの事務所でも。いてつく空気の中、行列ができている。
10万の署名はすでに集まっていたが、書類の不備などで4割程度が無効に。
そのため、目標を15万人分に再設定。日本時間25日午後に達成されたが、署名集めはまだ続いている。
はたして、有効と認められて立候補できるのか。署名の提出期限は31日。
●要衝アウディーイウカでロシア軍が突破口 「掘り崩し戦術」で市内へ進攻 1/25
ロシア軍はこの数カ月、ウクライナ東部ドネツク州の要衝アウディーイウカ(旧アフディフカ)に猛攻をかけてきた。ここを落とせば一気に戦局が有利になるからだが、ウクライナ側の守りは堅く、前線は膠着状態にあった。だがここに来て、この都市の南側で大きな進展があったと、ロシアの軍事ブロガーが勝報を伝えている。【デービッド・ブレナン】
ロシア軍はアウディーイウカ南部の住宅地を攻撃し、「突破口を開いた」と、「リバル」をはじめとする複数のロシアの軍事ブロガーがテレグラムのチャンネルで伝えた。本誌の調査ではこの情報を確認できず、現在ロシア国防省にメールで問い合わせ中だ。
ここ数カ月アウディーイウカ北部では、ロシア軍とウクライナ軍が激しい攻防戦を展開してきた。北部にはヨーロッパ最大規模のコークス工場群が並び、その掌握がロシアの狙いとみられていたが、難攻不落の巨大な工場群が立ちはだかる北部より、小さな家々が立ち並ぶ南部のほうが攻略しやすいとみて、ロシアは一転南部に兵力を集中、ウクライナの防衛戦を突破したと、リバルは伝えている。
瓦礫の山を手に入れる
ロシア軍は既にアウディーイウカ市内に進み、ウクライナ軍と激しい市街戦を展開していると、テレグラムのもう一人の主要な軍事ブロガー「サーティーンス」は述べている。それによれば、ロシア軍が用いたのは文字どおりの「掘り崩し戦術」で、市外からウクライナ軍の陣地の下までトンネルを掘り、中に爆発物を敷き詰めて遠隔操作で爆破した、というのである。
いずれのチャンネルも、両軍はアウディーイウカ南部のレクリエーションセンター「ツァルスカヤ・オホタ」近くで激しい戦闘を行い、「わが軍はここを掌握した後、周辺地域に進撃を続けている」と述べている。
ウクライナ側の軍事ブロガーも同様の分析をしている。
「アウディーイウカ北部はAKHZ(コークス工場群)で守られているが、南部は平屋や二階建ての住宅が立ち並び、砲撃に弱い」と、X(旧ツイッター)のアカウント「タタリガミUA」(UAはウクライナの国名コード)の管理人は指摘した。「ロシア軍はこの地域を奪えなければ、砲撃で消し去り、歩兵隊を送り込んで、瓦礫の山を手に入れるだろう」
「わずかな戦術的前進」
ただ、ウクライナ軍参謀本部はロシア軍の突入を認めていない。1月23日にテレグラムに投稿した更新情報でも、ロシア軍は絶えず「アウディーイウカ包囲を試み」ているが、わが軍は「引き続き敵を抑え込んで」いると述べている。
「わが軍の兵士たちは強固な防衛力で敵を撃退し、甚大な損失を与えている。過去24時間に防衛部隊はステポボイとアウディーイウカ周辺で10回、さらに近くのペルボマイスキーとネベルスキーで7回、敵の攻撃を跳ね返した」
米シンクタンク・戦争研究所(ISW)は、アウディーイウカ周辺の「陣取り戦」では、ここ数日ロシア軍の「集中的な攻撃で、わずかな戦術的前進」があったと分析している。
「1月23日に公開された位置情報を示す映像から、ロシア軍は(アウディーイウカ北西の)ステポベ西部に進んだとみられる」と、ISWは指摘した。
2022年2月末に本格的なウクライナ侵攻を開始して以来、いや、クリミアを併合し、ウクライナ東部に侵攻した2014年以来、ロシア軍は一貫してアウディーイウカ陥落に執念を燃やしてきた。親ロ派の分離独立主義者が支配するドネツク市と隣接しているこの都市は、ウクライナにとっては死守すべき要衝、ロシアにとっては何としても奪取すべき拠点だからだ。
バフムト陥落と同じやり方
ロシアにここを奪われれば、ウクライナは前線のロシア側に大きく食い込んだ凸部を失うことになる。ロシア軍はそれを突破口に、約70キロ北の、ウクライナ側が支配するドネツク地域の行政の中心地となっているクラマトルスクを目指すだろう。
ウクライナ議会の外交委員長を務めるオレクサンドル・メレシュコ議員は昨年10月、本誌に対し、ロシア軍が多大な人的損失も厭わず、最終的に陥落させたバフムトを引き合いに出し、アウディーイウカでも「あれと同じことを繰り返すだろう」と予告した。ロシアは「多くの人命が犠牲になることを厭わない」と。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、今年3月の「大統領選を控え、前線での『成功』を何としても国民にアピールしたいと思っている」と、メレシュコは語る。「それが独裁者のやり方だ」

 

●ロシアのプーチン大統領、バルトの飛び地訪問=北欧NATO加盟後で初 1/26
ロシアのプーチン大統領は25日、バルト海に面する最西端の飛び地カリーニングラード州を訪問し、地元知事と会談した。自身の通算5選が確実視される3月の大統領選に向けた「行脚」の一環。今月10日に最東端のチュコト自治管区も訪れている。
同州はポーランドとリトアニアに挟まれており、政府専用機は北大西洋条約機構(NATO)に加盟する両国領空を避け、バルト海上空を飛行した。NATOは24日、冷戦終結後で最大規模とされる約9万人参加の軍事演習「ステッドファスト・ディフェンダー(不動の守護者)」を開始。プーチン氏の同州訪問には、NATOにひるまない姿勢を示す狙いもあったもようだ。
● プーチン政権を批判 強硬派に禁錮4年の判決 ロシア裁判所 1/26
ロシアの裁判所は、ウクライナへの軍事侵攻を巡りプーチン政権を批判してきた強硬派で親ロシア派の武装勢力の元幹部に対し、過激な活動を呼びかけた罪で禁錮4年の判決を言い渡しました。
ロシアの首都モスクワの裁判所は25日、ウクライナへの軍事侵攻を巡りプーチン政権の対応を批判してきたイーゴリ・ギルキン被告に対し過激な活動を呼びかけた罪で禁錮4年の判決を言い渡しました。
ギルキン被告の弁護士は、控訴するとしています。
ギルキン被告はウクライナへの軍事侵攻を強く支持してきた強硬派で、戦況がこう着する中、プーチン政権やロシア国防省などの批判をインターネット上で展開していました。
また、プーチン大統領についても「臆病で凡庸」などと批判したことから、プーチン政権は反政権の動きに警戒を強めていたとみられ、去年7月にギルキン被告は当局に拘束されていました。
ギルキン被告は、10年前の2014年にはウクライナ東部で親ロシア派の武装勢力の軍事部門を率いていて、この年の7月、オランダ発のマレーシア航空機が撃墜され乗客乗員298人が死亡した事件に関与したとして、おととしにはオランダの裁判所から被告不在のままで終身刑の判決を言い渡されています。
●軍事ブロガー殺害の女性に禁錮27年 ロシア裁判所 1/26
ロシア西部サンクトペテルブルクのカフェで昨年4月にウクライナでの戦争を支持するブロガーが爆殺された事件で、ロシアの裁判所は25日、ダリヤ・トレポワ被告に禁錮27年の判決を言い渡した。
殺害されたウラドレン・タタルスキー氏はロシアで最も歯に衣(きぬ)着せぬ発言をする超国家主義の軍事ブロガーの一人で、戦争を熱烈に支持し、時に戦場でのロシアの失態を批判することで知られていた。
タタルスキー氏が殺害された時、現場のカフェでは戦争支持団体によるイベントが開催されていた。
ロシア国営タス通信は当時、爆発装置が隠された像をタタルスキー氏に手渡したとして、トレポワ被告がすぐに逮捕されたと報じた。
トレポワ被告の夫、ドミトリー・リロフ氏は同国の独立系メディアに、妻ははめられたと確信していると述べた。
タタルスキー氏はウクライナでの戦争を支持し、SNS「テレグラム」で分析やコメントを発信することで人気を得た。そうした投稿の大半は、ウクライナに対してより厳しい姿勢を取るよう主張するものだった。
ロシア国営通信のベスチによると、タタルスキー氏の本名はマキシム・フォミンで、ロシアの作家ビクトル・ペレービン氏の小説「ジェネレーション〈P〉」の登場人物にちなんだ名前で2019年にテレグラムにチャンネルを開設した。タタルスキー氏はその後、本を数冊執筆した。それ以前には、14年にウクライナ東部ドンバス地方でロシア軍側で戦った。
●トランプ氏帰ってくる…「いんちきジョー」の尻馬に乗る岸田政権は対応できない 1/26
「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(アメリカを再び偉大に)」
このフレーズとともに、ドナルド・トランプ前米大統領が帰ってくる―。11月に行われる米大統領選に向けた共和党の指名候補争いで、初戦のアイオワ州に続き、23日、ニューハンプシャー州での予備選を制したトランプ氏が、同党の候補となる見通しがほぼ確実となったのだ。
ニューハンプシャー州で敗れたニッキー・ヘイリー元国連大使は選挙戦続行を表明したが、今後、トランプ氏に勝つ見込みはゼロと言っていい。インド系女性であり、州知事と国連大使を歴任。経歴からすると、新たな大統領像にぴったりのヘイリー氏だが、劣勢の理由は何か。筆者の旧知の共和党関係者は言う。
「ヘイリーは、RINO(Republican in Name Only=名ばかり共和党)だと言われているからね。多くの共和党員は彼女を、大メディアに持ち上げられ、大企業やウォール街がスポンサーについている人であり、『米国人のための米国』を取り戻す政治家ではないとの評価を下している」
日本のネットスラングでいうところの「エセ保守」のような存在というわけか。
こうした事情もあってか、トランプ氏が、ヘイリー氏をランニングメイト(副大統領候補)に指名する可能性も薄いとみられている。
従来の見方なら、マイノリティー(インド系)の女性というヘイリー氏こそ、トランプ氏の「弱点」を補うに格好な人材と思われそうだが、いまや米国の保守は、そうした表面的な「つじつま合わせ」をひどく嫌うのだという。
一方、ヘイリー氏は2月24日の南部サウスカロライナ州(SC)での予備選挙まではレースを降りないともみられている。SCは彼女の出身地で、知事を務めた地でもある。
ここまでは闘いたいとの思いだろうが、むしろ多くの共和党員が期待するのは、そのサウスカロライナで、トランプ氏がヘイリー氏を完膚なきまでにたたき潰すシーンだという。あと1カ月、「トランプ、ヘイリーの攻防」をじっくり見ていくことにしよう。
共和党が政権を取り返すことは本来、日本にとって喜ぶべきことだ。歴史的に見て、共和党政権時の方が日本に平穏な日々が訪れやすい。日米開戦時の大統領が誰で、原爆投下をした大統領が誰だったかを考えればそれは明らかだし、20世紀終わりのクリントン政権による日本企業いじめのひどさは、われわれ世代には記憶に新しい。
そして、トランプ政権時の安倍晋三元首相との日米蜜月はさらに記憶に新しい。とりわけ、北朝鮮による日本人拉致問題へのトランプ氏の真摯(しんし)な関与は、私たちの胸を打った。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(当時)との米朝首脳会談を仕掛けたマイク・ポンペオ前国務長官が23日、東京で語った通り、トランプ再選こそが「より平和で豊かな世界に戻る最良のチャンス」なのだろうと首肯(しゅこう=納得し、賛成すること)する。
外交面のみならず、筆者がトランプ氏に期待するのは「エネルギーと産業政策の転換」だ。
「私がホワイトハウスに戻ったら、いんちきジョー(バイデン大統領)による『電気自動車(EV)オシ』を終わらせる」と明言する氏の公約が実現されれば、日本の基幹産業である自動車産業には強い追い風となる。
良いこと尽くめとおぼしき「トランプ再来」。これを日本の好機とするのに一つ、大きな障害がある。
「安倍不在」である。トランプ政権との蜜月を企画・演出・主演した安倍氏の不在は、間違いなく日本の大きな弱点となる。
「いんちきジョー」の尻馬に乗って、日本に不要なLGBT法をつくらせ、電気自動車オシを一層進める岸田自民党では到底、歯が立つまい。「名ばかり保守」どころか、ウルトラリベラルとしか思えない自公政権では、トランプ氏に鼻で笑われかねない。
「日本を再び偉大に」するために、「トランプのカウンターパート」を生むことが日本国民の急務である。
●プーチン氏、ウクライナ巡る交渉にオープンと米国に示唆−関係者 1/26
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナでの戦争を終結させるための協議に米国が応じる用意があるか瀬踏みしている。
ロシア政府に近い関係者2人によると、プーチン氏は間接的な経路を通じて、将来のウクライナの安全保障に関する取り決めも含め、話し合いにオープンだと米国に示唆した。
米当局者はそうした提案は把握しておらず、プーチン氏が戦争終結に向けた方策を真剣に検討している様子は確認できないと述べた。
ロシアが協議に前向きだと示唆することで、たとえそれが不誠実なものであったとしても、ウクライナの同盟国の間に分断の種をまき、ウクライナ政府を孤立させる恐れがある。ロシアの完全撤退を盛り込んだ和平案への支持確保を目指すウクライナのゼレンスキー大統領の取り組みを損なうことにもなりかねない。
部外秘の情報だとして匿名を条件に語ったその関係者によると、ロシアの意向は先月、仲介者を通じて米高官に伝えられた。プーチン氏はウクライナに中立の立場を維持するよう求める要求を撤回し、最終的には北大西洋条約機構(NATO)加盟への反対取り下げについても前向きに検討するかもしれない、と関係者は述べた。
ロシア大統領府のペスコフ報道官はブルームバーク・ニュースの質問に対して「プーチン大統領はかねて、ウクライナに関する交渉に前向きであることを表明してきた」と述べた。
一方、米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官は、指摘されているようなロシア政府の立場の変化については把握していないと説明。「ロシアと交渉するかどうか、するならいつ、どのように行うかを決めるのはウクライナだ」と述べた。
●ロシアの兵器、大半は欧米製半導体を搭載−制裁すり抜け業者が転売か 1/26
ウクライナで戦争を続けるロシアのプーチン大統領が軍事技術を入手できなくなるよう、ロシアへの半導体輸出には制限が設けられているが、同国は昨年、10億ドル(約1476億円)余りに相当する最先端の半導体を欧米から輸入した。
ブルームバーグが入手したロシア税関の機密データによると、2023年1−9月に輸入された半導体と集積回路の半分以上が米国と欧州の企業によって製造されたものだった。
その中にはインテルやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ、アナログ・デバイセズのほか、欧州ブランドのインフィニオン・テクノロジーズやSTマイクロエレクトロニクス、NXPセミコンダクターズが含まれている。これらの企業が制裁法に違反したとの示唆はない。データはどの企業がロシアに技術を輸出したのか、どこから出荷されたのか、いつ製品が製造されたのかを示していない。
各社は制裁要件を完全に順守しており、戦争が始まった際にロシアでのビジネスを停止し、順守を監視するためのプロセスやポリシーを導入したとしている。また関係当局との連携を含め、製品の不正な横流し対策に取り組んでいるという。
2022年2月のウクライナ侵攻以来繰り返されてきた対ロシア制裁措置にもかかわらず、米国と欧州連合(EU)がロシアへの技術供給を遮断する難しさが浮き彫りになった。こうした貿易のおかげで、ロシアは戦車やミサイルなどの兵器を製造し続け、ウクライナの都市に恐怖の雨を降らせることができている。
制限された技術の大部分は中国やトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)を含む第三国からの再輸出を通じてロシアに入っている。米国とEUはこうしたルートの遮断に取り組んでおり、ウクライナの戦場で使われるロシア製兵器に搭載する、あるいはその製造に必要とされる二重用途品や先端技術品の優先リストに重点を置いている。
半導体販売の大部分は販売業者が担っており、そこから複数のベンダーを経由する。メーカーは必ずしもこうした企業に販売した後の製品の行き先を追跡する必要はないが、特定の軍事用半導体の中には書面での証跡を残さなければならないものもある。
税関のデータによると、ロシアは昨年1−9月に17億ドル相当の半導体を輸入している。このうち12億ドル相当を20社が製造。残り5億ドル相当を欧州や米国の小規模メーカーが製造した。
インテルのアルテラやAMDのザイリンクスといった傘下ブランドを含めると、ランキングはインテルとアナログ・デバイセズ、AMDがリードしている。このリストに含まれる欧米企業の2023年売上高は、合計で数百億ドルに上る。
少数の中国メーカーと台湾のリアルテック・セミコンダクターも上位20社に入っており、ロシアは後者の製品を約1700万ドル相当輸入している。リアルテックがロシアに直接チップを輸出した形跡はないし、その製品がロシアに渡ったことも承知していない。
ブルームバーグが過去に報じたところによると、優先度の高い品目の貿易額は昨年後半に若干減少しており、米国とEU、主要7カ国(G7)による対ロ制裁の取り組みが成果を上げ始めている可能性を示唆している。
ウクライナのキーウ経済大学は今月、ロシアが昨年1月から10月までに輸入した戦場装備品の額は87億7000万ドルに相当し、制裁前と比べわずか10%減少したと報告した。より広義の重要防衛産業部品の輸入額は222億3000万ドルに達したという。
「キーウや他の都市を毎日のように襲う兵器には、外国製部品が使われ続けている」と報告は指摘した。
インテルは「適用されるすべての輸出規制と制裁措置に従っている」と述べ、顧客や販売業者との契約でも規制に従うよう求めているという。AMDの広報担当者は製品販売後の違法な経路での流通を防止し、是正する」プログラムを運営していると主張。
テキサス・インスツルメンツはロシアへの製品出荷はいかなる形でも「違法であり、許可していない」と述べた。アナログ・デバイセズは戦争が始まった時点で、ロシアとベラルーシ、ウクライナの占領地域での事業を停止したと説明。
インフィニオンやSTマイクロエレクトロニクス、マイクロチップ・テクノロジーも広報担当者や社長のコメントを通じて規制の順守を表明し、違法な出荷を防ぐ取り組みについて説明した。マーベル・テクノロジーも販売業者や顧客に対ロシア再輸出を禁じているとした上で、「販売業者の顧客の中には、当社やその販売業者が知り得ず、関知も制御も不可能な企業に製品を転売する者がいる可能性はある」と述べた。
NXPは過去に、すべての輸出規制と制裁法を順守していると述べている。MACOMテクノロジー・ソリューションズとリアルテックにコメントを求めたが返答は得られていない。
●ウクライナ捕虜輸送機の墜落、ロシア側は事前に警告と主張 1/26
捕虜のウクライナ兵士を乗せたロシア軍輸送機の墜落を巡り、ロシアの議員は25日、ウクライナ軍の情報機関は情報機関は同機が撃墜された空域に入る15分前に警告を受けていたと述べた。この主張は、同機の飛行について何も知らされていなかったとするウクライナ軍情報部の声明と矛盾する。ウクライナのゼレンスキー大統領は、墜落について国際的な調査を求めるとともに、ロシアが「捕虜の命を弄んでいる」と非難した。
ロシアのアンドレイ・カルタポロフ上院議員は25日、次のように述べた。「近代的な通信システムであれば、この情報を受信した時点で、特定の地域に命令が送信され、すべてが通常通り行われるはずだった。しかしそうならなかった。それどころか攻撃命令が出され、もう二度と故郷に帰ることのないわれわれの乗組員と兵士たちを乗せた機体は撃墜されたのだ。つまりウクライナ政権の手は、兵士と将校の血で濡れているのだ。」
ロシア政府は、ウクライナがロシアのベルゴロド地方でイリューシンIl-76を撃墜し、乗っていた74人全員が死亡したと非難している。そのうち65人は、捕虜交換に向かっていたウクライナ兵だったという。
今回の出来事は、ウクライナ侵攻に関連してロシアの国際的に承認された領内で発生した事案としては、最も多くの犠牲者を出した。
カルタポロフ議員の主張は、同機の飛行について何も知らされていなかったとするウクライナ軍情報部の声明と矛盾する。ウクライナは撃墜を肯定も否定もしていないが、国際的な調査を求めている。ロシアは、ウクライナの「テロ行為」だと非難している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、何が起きたのか明らかにする必要があると述べた。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ロシアが、ウクライナ人捕虜の生命や家族の気持ち、我が国社会の感情を弄んでいることは明らかだ。墜落事故がロシア領内で発生したことを考慮すると、可能な限りすべての事実を明らかにする必要がある」
墜落現場に入れるのはロシア当局だけだ。ロシア国営タス通信は、当局者の話としてウクライナとの国境に近い墜落現場でミサイルとみられる破片を発見したと伝えた。またブラックボックスが回収され、調査のためモスクワに持ち込まれるという。
まもなく丸2年を迎えるウクライナ戦争では、双方の主張が食い違うことは日常茶飯事だ。
●軍用機墜落で非難の応酬 ウクライナ「ロシアに全責任」―国連安保理 1/26
国連安保理は25日、ロシア西部ベルゴロド州で24日にロシア軍輸送機が墜落したことを受けて緊急会合を開いた。ロシアはウクライナによる「計画的犯罪」だと批判し、ウクライナが強く反発した。
ロシアは、輸送機には捕虜交換に向かうウクライナ軍人65人が乗っていたと指摘。ウクライナ軍が輸送機を撃墜し、捕虜全員が死亡したと説明し、「ウクライナ指導部は飛行ルートを知っていた」と根拠を示さず主張した。
これに対しウクライナは、「移送手段や周辺空域の安全確保の必要性を知らされていなかった」と強調。その上で、全ての責任は、捕虜や民間人を「人間の盾」にしているロシアにあると非難した。撃墜したかについては触れず、調査を進めると述べるにとどめた。 
●ロシアが国内の原発警備強化 ウクライナによる攻撃警戒か 1/26
ロシアが国内の原子力発電所の警戒を強めています。
ウクライナによるロシア本土への攻撃が強化される中、ロシア当局は西部に位置するクルスク原発周辺の立ち入りを禁止する措置を講じたとコメルサント紙が報じました。数日以内に正式に決定されるとしています。周辺への立ち入りが禁止されるほか、安全設備の改修なども行われるとみられます。この措置は特別軍事作戦が続いている間、行われるということです。
ロシアは去年10月にこの原発の核廃棄物貯蔵施設にウクライナのドローンが衝突し、壁が損傷したと批判しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、「ウクライナには長距離で反撃する能力があることをロシアに知らしめる」と述べるなど、長距離ミサイルなどでロシア領内などへの反撃を行う考えを示していて、原子力発電所への攻撃も想定されています。
●ウクライナがれき処理協力 日本政府、災害のノウハウ活用 1/26
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナへの復興支援として、日本政府が戦闘で破壊された建物のがれき処理の技術協力を検討していることが26日、分かった。地震や水害による災害廃棄物の処理で蓄積された日本のノウハウを活用する。2月19日に日本で開く「日ウクライナ経済復興推進会議」で打ち出す支援策に盛り込む方向で調整している。
日本は災害廃棄物を仮置き場に集めて一時保管し、種類に応じて分別、再利用するサイクルが定着している。東日本大震災では約3千万トンの災害ごみが発生し、コンクリート片や津波で運ばれた土砂を海岸堤防の復旧で土台に使うなどして8割以上を再利用。約3年で処理を終えた。

 

●ロシア改革派、必要分の署名確保 大統領選、侵攻反対の元下院議員 1/27
3月のロシア大統領選に向け改革派政党「市民イニシアチブ」が擁立したナデジディン元下院議員は26日、下院議席を持たない党からの立候補に必要な10万人を上回る約20万人の署名を集めたと発表した。同氏はウクライナ侵攻に反対の立場。
ナデジディン氏は不備のない10万5千人の署名を提出する方針。ロシア通信に対し、期限の31日に提出すると述べた。中央選挙管理委員会が10万人の署名を有効と認めれば立候補できる。
大統領選は現職プーチン大統領の通算5選が確実視される。無所属で立候補するプーチン氏の陣営は22日に30万人余りの署名を提出。選管は26日、有効性の検証を終えたとした。
●プーチン大統領 ロシア軍用機 “ウクライナによって撃墜” 1/27
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ人の捕虜を乗せたとされるロシア軍の軍用機の墜落について「明らかに彼らがやった」と述べ、ウクライナの防空システムによって撃墜されたと主張しました。一方、ウクライナ側は国際的な調査の実施を求めています。
ロシア国防省は24日、西部のベルゴロド州で、ロシア軍の軍用機がウクライナ側の攻撃で撃墜され、捕虜となっていたウクライナ軍の兵士65人など、搭乗していた全員が死亡したと発表しています。
軍用機の撃墜について、ロシアのプーチン大統領は26日、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開かれた学生らとの会合で言及し「故意なのか、過失なのかはわからないが、明らかに彼らがやった」と述べウクライナの防空システムによって撃墜されたと主張しました。
また、プーチン大統領は、ウクライナ側から発射されたミサイルは2発で、アメリカ製かフランス製のものである可能性が高いとして、ロシアの当局による捜査結果が2、3日のうちに明らかになるだろうという見通しを示しました。
一方、ウクライナ側は墜落への関与については明言しておらず、国際的な調査の実施を求めています。
●ロシアは本当にNATOを攻撃するのか、元陸将が読む高度な心理戦 1/27
昨年末ごろから、にわかに北大西洋条約機構(NATO)側から、ロシアとの衝突を懸念する声が上がり始めた。ドイツのピストリウス国防相は、今月19日に独紙「ターゲスシュピーゲル」が報じたインタビューで、ロシアのプーチン大統領が10年以内に北大西洋条約機構(NATO)加盟国を攻撃する可能性があるとの考えを示した。昨年11月にはドイツ外交問題評議会(DGAP)が、ロシアがウクライナとの戦争終結後に軍備を再整備するまでに6〜10年しかかからない可能性があるとして、NATO側の対応を促す論文を掲載した。英BBCによれば、スウェーデンのカール・オスカル・ボーリン民間防衛相は1月7日の防衛会議で、「スウェーデンで戦争が起こるかもしれない」と語った。
ウクライナによる反転攻勢が具体的な成果を得られず、ロシアとの間で停戦が徐々に現実味を増しているという認識のもと、NATO関係者に「次は我々が狙われる番だ」という懸念や、「最悪の事態に備えなければならない」という安全保障の鉄則を守る考えが、こうした動きの背景にあるのかもしれない。陸上自衛隊東北方面総監を務め、軍事力に心理戦や情報戦などを絡めるハイブリッド戦争に詳しい松村五郎元陸将は、こうした背景に加えて、「ロシアによる情報戦がNATO側の発言を生み出している」と指摘する。
松村氏の指摘通り、ロシアは2022年2月のウクライナ侵攻後から、NATOの介入を避けるため、「NATOが参戦すれば、核を使う」といった脅しを繰り返してきた。最近でも、23年12月に米国との防衛協力協定に相次いで署名したフィンランド、デンマーク、スウェーデンに対し、ロシア側が反発のコメントを発表。フィンランドとの国境線近くの軍備を増強する動きもみせている。松村氏は「ロシアはNATO・西側諸国による支援の先細りが続けば、ウクライナに勝利できると考えています。支援を思いとどまらせるために、NATO諸国を激しく牽制しているのでしょう」と語る。
そして、松村氏は「このような状況が続くと、冷戦時代に、お互いに軍事力を強化するエスカレーション現象が続いたように、NATO側もロシアによる攻撃を警戒せざるを得ず、互いに軍備を増強するスパイラルに入っていく危険性があります」と懸念する。
欧州連合(EU)は昨年12月、ウクライナに対して、24年から27年にかけて500億ユーロ(約8兆400億円)を支援する計画を先送りした。加盟国のハンガリーが反対したためだ。米国も共和党の反対により、ウクライナへの追加支援の見通しが立たない状況に追い込まれている。このため、ウクライナ軍は兵器や弾薬の不足に悩まされている。
松村氏によれば、特に戦闘正面での榴弾砲(曲射砲)の弾丸不足が深刻だという。現在、戦闘正面ではロシアが1日1万発以上を確保しているのに対し、ウクライナは1日5千発程度にとどまっているという未確認情報もあるという。砲身が焼き付かない範囲での最大発射速度は1分に2発程度で、5分間で10発を発射する計算だ。松村氏は「実際に戦闘が起きている地域に500門の榴弾砲が展開していると仮定した場合、1日に5千発しかなければ、各砲門あたり1日5分間しか射撃できない計算になります」と指摘する。榴弾砲は、地雷原を処理したり、味方が敵陣地に突入したりする際に、敵軍を塹壕にくぎ付けにするためなどに使われる。陣地を突破して進んでいくために不可欠なため、「補給さえ可能なら、突破正面では各砲門あたり1日100発近く欲しいところ」(松村氏)だという。
ロシアは現在、領土的野心を隠さないウクライナ東部4州のうち、ほぼ全域を占領できたのはルハンスク州だけにとどまっている。松村氏はロシアの思惑について「州の全域を併合するとは明言していないザポリージャとヘルソン両州はともかく、少なくとも親ロ派が2014年以来『ドネツク人民共和国』の領域だと主張してきたドネツク州全域を占領しない限り、停戦には応じられないでしょう」と語る。NATO内に「ロシアとの全面戦争」を懸念する声が広がれば、NATOの防衛力強化を求める声が上がるだろうが、その一方で、ウクライナへの支援に及び腰になる国が、ハンガリーのほかにも出てくるかもしれない。そうなれば、ドネツク州を占領するために必死になっているロシアにとって好都合な結果が生まれる。
松村氏は、プーチン大統領はさらにウクライナの「非ナチス化・非武装化」も掲げているため、仮に停戦が実現しても、ゼレンスキー政権の打倒とウクライナのNATO加盟阻止に全力を挙げるだろうとも予測する。ただ、「ロシアがNATOに対する攻撃の構想を持っているとは思えません」とも語る。「プーチン大統領はNATOと戦争になれば、ロシアは勝てないと思っているはずです。そのため、ウクライナ侵攻へのNATOの介入を防ごうと必死になって情報戦などを展開しているのです」という。「最悪の事態に備える必要はありますが、粛々と準備すれば良いと思います。声高に、ロシアが攻めてくると叫び続けると、逆にロシアが仕掛ける情報戦の思うつぼになりかねません」
現在のNATOとロシアによるやり取りは、台湾を巡って中国と相対する日本や米国にとっても参考になるだろう。
●プーチン氏、「ウクライナ軍が撃墜」と輸送機墜落に初言及 1/27
ウクライナ軍捕虜を移送中だったとされるロシアの軍用輸送機IL76が墜落した問題で、プーチン露大統領は26日、「故意か過失かは分からないが、彼らがそれをやったことは明らかだ」とし、ウクライナ軍が防空ミサイルでIL76を撃墜したとの認識を示した。露軍の防空ミサイルには友軍機への誤射を防ぐ機能が備わっているとし、露軍による「同士討ち」はありえないとも主張した。
露北西部サンクトペテルブルクで行われた国内行事での発言。IL76が墜落した理由は特定されておらず、露軍の同士討ちが起きた可能性もあるとするウクライナ側の主張に反論した形だ。プーチン氏が墜落に公の場で言及したのは初めて。
一方、露捜査当局は26日、ウクライナ軍捕虜が墜落したIL76に乗り込む際の様子を撮影したとする動画を公開した。ただ、動画は遠方から撮影されている上、撮影日時や場所も明らかになっておらず、真偽は不明。
墜落は24日、露西部ベルゴロド州で発生。露国防省は、同日予定された捕虜交換のためIL76がウクライナ軍捕虜65人を移送中だったが、ウクライナ軍のミサイル攻撃で墜落し、搭乗していた乗員や捕虜ら計74人全員が死亡したと主張した。
ウクライナ側は、捕虜が実際に搭乗していたかや、ウクライナ軍が攻撃したかどうかは確認できていないとしている。
●ロシア軍機「ウクライナが撃墜」、故意か過失か不明=プーチン氏 1/27
ロシアのプーチン大統領は26日、ロシア西部ベルゴロド州で24日に墜落したロシア軍の大型輸送機について、同機はウクライナの防空システムによって撃墜されたと述べ、故意か過失かは分からないとしながらも、犯罪に値するとの考えを示した。
プーチン氏はテレビ放映されたコメントで「意図的だったのか過失だったのかは分からないが、彼らが実施したことに疑いはない」とし、「過失と故意のいずれであっても犯罪だ」と述べた。
また、同機に向けて発射されたミサイルは米国製かフランス製の可能性が高いと指摘。数日以内に確認できるとの見方を示した。
プーチン氏がこの件について発言するのは初めて。ロシア連邦捜査委員会はこれに先立ち、墜落現場でウクライナの身分証明書のほか、タトゥー(入れ墨)が入った遺体の一部が回収されたと明らかにしている。
ロシア軍の大型輸送機「イリューシン76」は24日にロシア西部ベルゴロド郊外に墜落。ロシアは捕虜のウクライナ兵士65人のほか、乗員6人と警護員3人の計74人が搭乗していたとしている。
ウクライナはこれまでのところ、同機の撃墜を巡り肯定も否定もしておらず、搭乗者などを巡るロシアの説明に異議を表明。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問はこの日のプーチン大統領の発言について「典型的な偽情報」だとした。
●プーチンは「ヒトラーの失敗」を繰り返している…2人の独裁者に共通する史実 1/27
2022年2月、ロシア軍はウクライナ・キーウ近郊のアントノフ国際空港を急襲占領した。しかし、空挺部隊は地上軍の救援を受けられず潰滅した。現代史家の大木毅さんは「生煮えの状態で強行され、失敗に終わった空挺作戦の例は戦史に少なくない。世界の軍事筋を驚かせたドイツ軍のクレタ島作戦も、同じような結末だった」という。大木さんの新著『勝敗の構造 第二次大戦を決した用兵思想の激突』から、両軍の共通点を紹介する――。
エリートがそろう空挺部隊を使いこなせない
空挺作戦には華やかな印象がある。
しかしながら、長駆敵陣を衝くというその本質ゆえに、
空挺作戦にはおのずから危険がつきまとう。空からの奇襲によって目標を占領したとしても、敵が動揺から立ち直って反撃に出てきた場合、空挺部隊がそれらを維持するのはきわめて困難だ。
空挺部隊は、物質的には重装備を持たない軽歩兵にすぎないからである。そうして敵中に孤立するかたちになった空挺部隊のところに、味方の地上部隊が駆けつけることができればともかく、救援に失敗すれば大損害は必至となる。
二〇二二年、ウクライナ侵攻の際に、首都キーウの空港を急襲占領したロシア軍空挺部隊が、後続の空輸部隊、あるいは進撃してくる地上軍の救援を受けることなく潰滅した事例は記憶に新しいところであろう。
加えて、空挺作戦には、しばしば作戦・戦術次元のリスクがともなう。開戦劈頭の奇襲・強襲は措くとして、空挺部隊が投入されるタイミングは、敵軍が敗走し、追撃戦の段階に移ったときということが多い。
かような状態ならば、敵の混乱に乗じて、通常ならば設定しにくい目標に空挺作戦を行なうことも可能となるし、降下後の「空挺堡」(空挺部隊が降下後に制圧している地域。「橋頭堡」の空挺部隊版と考えてもらってよい)への地上部隊の連結も容易となる。
ロシア軍とドイツ軍の共通点
だが、そうしたテンポの速い作戦は、往々にして拙速になる。予定目標の偵察や所在の敵戦力の推定も充分ではないし、投入される部隊の作戦準備に万全を期すことも難しい。
にもかかわらず、空挺部隊の指揮官、もしくは空挺部隊を有する司令官は、敢えて空からの急襲を実行したがる。逆説的なことだが、そうした追撃戦においては、巧遅を選べば、その間に地上部隊が設定された目標を占領してしまい、空挺部隊の出番がなくなってしまうがゆえである。
かかる焦りから、生煮えの状態で強行され、失敗に終わった空挺作戦の例は戦史に少なくない。空挺作戦を成功させるには、さまざまなハードルを乗り越えねばならないのだ。それゆえ、青天の霹靂のごとく要地を奇襲できるという戦略的利点に魅せられ、人的・物的資源の最良の部分を投じて空挺部隊を編成しながら、使いこなせずに終わるということさえある。
実は、空挺・空輸部隊が初めて独力で目標を占領し、世界の軍事筋を驚かせたドイツ軍のクレタ島作戦も、かくのごとき矛盾を抱えていた。しかもそれは、作戦の指揮を執ったクルト・シュトゥデントという歴史的個性によって、拡大されていたのである。ここでは、そのような戦略・作戦次元の問題に注目しながら、クレタ島の戦いを検討していくことにしよう。
「世界初の空挺作戦」が失敗に終わったワケ
一九四一年四月、ナチス・ドイツは、ユーゴスラヴィアとギリシアに対する戦争を開始した。強大な空軍の支援のもと、装甲部隊を先陣に立てて攻め入ったドイツ軍に、小国ユーゴスラヴィアとギリシアの軍隊、さらには、彼らを支援したイギリス軍も太刀打ちできず、なだれを打って敗走した。
ユーゴスラヴィアは約十日で制圧され、四月十七日に降伏する。ギリシア本土も二十日ほどで占領され、ギリシア政府は南のクレタ島に逃れる。
この電撃的な勝利を、切歯扼腕の思いで注視していた将軍がいる。ドイツ空軍のクルト・シュトゥデント航空兵大将、「降下猟兵(ファルシルムイェーガー)」部隊の創始者として知られた人物だ。
第二次世界大戦がはじまるや、シュトゥデントはその降下猟兵を率い、ノルウェーやオランダへの侵攻に際して空挺作戦を敢行、大きな戦果を上げた。いわば、降下猟兵のボスともいうべき存在である。
ドイツがバルカンに介入した時点では、第一一空挺軍団長に補せられていたシュトゥデントは、かかる経歴から、また、自らが拠って立つ降下猟兵という新兵科の利害を守るためにも、その存在意義を示さなければならないと考えていた。
これまでのような小部隊による奇襲にとどまらず、空挺部隊には戦略・作戦次元でも決定的な威力があることを証明するのだ、と。
ヒトラーはクレタ島攻略に積極的ではなかった
シュトゥデントはギリシア侵攻において空挺作戦を実行すべしと強硬に主張した。
実際、サロニカ付近やコリント運河の橋梁などで、小規模な作戦は実施されたのだけれども、この程度では空挺部隊の真価が発揮されたとはいえない。しかも、一部の攻撃は失敗していた。シュトゥデントは、直属上官である第四航空軍司令官アレクサンダー・レーア航空兵大将(五月三日、上級大将に進級)に、空挺作戦の計画を矢継ぎ早に提案した。
エーゲ海中部のキクラデス諸島のうち、一つ、もしくは複数の島を占領するのはどうか。キプロス島やクレタ島は、空挺作戦の目標にするだけの価値があるのではないか?
シュトゥデントのたびたびの要請を受けたレーアは、一九四一年四月十五日、ドイツ空軍総司令官ヘルマン・ゲーリング国家元帥(「元帥」の上に特設された階級)に空挺部隊によるクレタ島攻略の計画案を提出した。
ゲーリングはクレタ島空挺作戦を支持した。ゲーリングはヒトラーのもとに、シュトゥデントと空軍参謀総長ハンス・イェショネク航空兵大将を派遣し、計画の説明に当たらせることにした。
四月二十一日、総統に面会したシュトゥデントは熱弁を振るった。ヒトラーは必ずしもクレタ島攻略に積極的ではなかったが、シュトゥデントに説得され、作戦実行を許可した。おそらくは、イギリス軍のクレタ島保持を許していれば、その航空基地から、ドイツの戦争継続にとって不可欠のプロエシュチ油田(ルーマニア)が爆撃されると危惧したのが決め手となったのではないかと推測される。ただしヒトラーは、準備期間が短くなるけれども、五月中旬には作戦を発動せよと条件を付けていた。
一九四一年四月二十五日、総統指令第二八号が下令される。
「東地中海における対英航空戦遂行の基地として、クレタ島占領を準備すべし(『メルクーア』作戦)」(Hitlers Weisungen für die Kriegführung 1939-1945, herausgegeben von Walther Hubatsch.)。
待ち構えていたイギリス軍
一九四一年五月二十日早朝、クレタ島西部の空は、鉄十字の国籍マークを付けた航空機の大群がとどろかす爆音に包まれていた。午前七時十五分、リヒトホーフェンの爆撃機編隊がハニアならびにマレメ付近に対する攻撃を開始し、イギリス軍の高射砲陣地を沈黙させる。
この爆撃遂行中に、島の沖合で曳航してきたJu―52輸送機から切り離された、グライダー五十三機が突進し、マレメ飛行場の西に強行着陸する。グライダーから飛び出してきたのは、空挺突撃連隊第一大隊隷下の二個中隊だった。
続いて、同連隊の第二、第三、第四大隊が落下傘降下にかかる。空挺突撃連隊を主体とする西部集団が第一波攻撃隊として、最初にクレタ島に殺到したのだ。
しかし――着地直後、それどころか、落下傘降下中の宙に揺れているときから、彼らは激烈な銃火にさらされた。降下空域の地上にあったニュージーランド第五歩兵旅団は、圧倒的な光景に動じることもなく、堅固な陣地から降下猟兵たちに防御射撃を浴びせてきたのである。
多くの将兵が空中で戦死、もしくは負傷した。作戦初日にマレメ飛行場を奪取し、空輸により増援を運び込むという任務を果たすことは不可能になった。西部集団は、飛行場外縁部にたどりついたものの、イギリス軍の抵抗をくじくことはできず、攻撃中止を強いられる。
目標を一つも奪取できないドイツ軍
「奇襲」されたのはイギリス軍ではなく、降下猟兵の側であることはあきらかだった。ドイツ軍はそうとは知らぬまま、自分たちにはない重装備を持ち、数も多く、しかも防御陣地の有利を生かした敵を攻撃していたのである。
西部集団の第一波についていうなら、最初に降下した二千人弱はおよそ一万二千人の敵に対していた。これでは、彼ら、先陣を切った降下猟兵の半数ほどがたちまち死傷したというのも無理はあるまい。
イギリス軍は、傍受した無線暗号通信を解読していたのに加えて、ギリシア本土に大量の輸送機が集結しているとの情報を得ており、ドイツ軍は必ずや空挺作戦を実行するものと判断していた。
それを受けて、クレタ島防衛軍の司令官、第一次世界大戦で英軍最年少の将官というレコードをつくったこともある、ニュージーランドのバーナード・フレイバーグ少将は、三カ所の飛行場を中心に強固な陣地を築いていたのだ。
その兵力も、ドイツ軍の予想をはるかに上回るものだった。ニュージーランド第二師団を基幹として、オーストラリア軍やギリシア軍の部隊を加え、およそ四万二千人の将兵を有するまでになっていたのである。
結局、「メルクーア」作戦初日に投入された第七空挺師団の諸部隊は、ただの一つも目標を奪取できず、流血を重ねるばかりだったのである。
戦術的成功に救われる
だが、シュトゥデントは幸運なファクターに恵まれていた。
一つには、戦闘初日の成功にもかかわらず、イギリス軍が、航空優勢を得たドイツ空軍が縦横無尽に繰り広げる爆撃に動揺しはじめていたことがある。また、通信手段が充分でなかったため、クレタ島防衛軍の司令官フレイバーグは麾下部隊の現状を正確に把握できず、ドイツ軍の圧力を実際以上に大きなものに感じていたことも、シュトゥデントにとって有利に作用した。
もう一つは、現場の降下猟兵が恐るべき消耗に耐えながら、なお戦意を失っていなかったことであった。とくに、いわゆる瞰制地点、マレメ飛行場を見下ろす一〇七高地における成功が大きい。五月二十日には何一つ良いことがなかったようではあったが、この日の夜に空挺突撃連隊はからくも一〇七高地の頂上を奪取していたのだ。
この攻撃を指揮した突撃班の指揮官は、こう述懐している。「われわれにとっては幸いなことにニュージーランド兵は逆襲してこなかった。もし、そうなっていたら、弾薬がなくなっていたから、石と小型ナイフで守るしかなかったろう」(カーユス・ベッカー『攻撃高度4000』)。
まさしく「幸いなこと」ではあった。イギリス軍が一〇七高地を取り返すチャンスは、この二十日から二十一日にかけての夜しかなかったのである。一夜明けて日の出を迎えれば、ドイツ側は航空支援を得られるから、奪還はきわめて困難になるのだった。
事実、マレメ飛行場を制圧できる一〇七高地をドイツ軍が押さえたことは、クレタ島の戦いの分水嶺になっていく。戦術的成功が、作戦次元の失敗をカバーした、珍しい例といえる。
クレタ島占領は実現したけれど…
二十一日早朝、数機のJu―52輸送機がマレメの西方で着陸態勢に入った。むろん、イギリス軍の射撃を浴びるのは必至であるが、パイロットたちは意に介していない。彼らは、マレメ飛行場攻略のために必要な弾薬を、何としても降下猟兵に届けよとの厳命を受けているのだった。
続いて、急降下爆撃機の支援を受けた降下猟兵が一〇七高地を完全占領する。これで、マレメ飛行場を多正面から攻撃する態勢がととのった。午後四時、飛行場をめぐる戦闘のただ中に、第五山岳師団からの増援部隊を乗せたJu―52が飛来する。これらは対空砲火をかいくぐって、着陸を強行した。機内から吐き出された山岳猟兵の応援を得て、降下猟兵は午後五時にマレメ飛行場を奪取したのである。
その夜、イギリス軍は反撃に出て、飛行場近くまで迫ったが、夜明けとともにドイツ空軍の攻撃を受けて、撃退されてしまう。
潮目は変わり、戦運はドイツ側にまわってきた。
もっとも、二十一日の夜から翌日の朝にかけて、海上から護送船団によってクレタ島に増援の山岳猟兵部隊を送り込む試みがなされたけれど、いずれも英海軍によって撃退された。ドイツ軍は空を制してはいたものの、海上はまだイギリス軍のものだったのだ。それゆえ、ドイツ側は、いよいよ航空機による増援・補給に頼らざるを得なくなった。
ここまでみてきたように、「メルクーア」作戦は必ずしも、経空攻撃だけでクレタ島を占領することを企図していたわけではない。だが、こうした状況に追い込まれたためにそうするしかなくなったのである。
精鋭部隊3000人が犠牲に…ドイツ軍が支払った大きな代償
作戦目標のクレタ島を占領したという点では、「メルクーア」作戦は成功したといえる。
だが、ドイツ軍が同島を戦略的に活用することはついになかった。「メルクーア」作戦終了から三週間後の六月二十二日、ドイツがソ連に侵攻したためである。東地中海のイギリス軍の海上交通、あるいは北アフリカの連合軍拠点に脅威を与えるはずだったドイツ空軍の主力はロシアに投入されてしまい、クレタ島の航空基地や港湾は二次的な重要性しか持たなくなってしまった。
にもかかわらず――この島を得るために、ドイツ軍が支払った代償はきわめて大きかった。志願兵を集めて猛訓練をほどこしたエリート、降下猟兵のおよそ三千名が戦死、もしくは行方不明となったのだ。
あまりの損害の大きさに驚いたヒトラーが、以後大規模な空挺作戦は実施しないと決定したのも当然であろう。シュトゥデント自身の言葉を借りれば、「クレタ島は、ドイツ空挺部隊の墓場」だったのである(前掲『空挺作戦』)。以後、ドイツ降下猟兵は、優良な歩兵部隊としてしか使われなくなった。
かかる凄惨な結果は、空挺作戦が宿命的に持つ危険性が極大化されたかたちで現出したものとみることもできよう。さりながら、シュトゥデントの指揮官としての能力不足が、その危険を増幅させたことも否定できないように思われる。
●「プーチン大統領、米国にウクライナ終戦を非公式打診」 1/27
ロシアのプーチン大統領が非公式チャンネルを通じて、米国政府がウクライナ戦争の終戦に向けた対話をする用意があるかを打診した、という主張があった。
ブルームバーグ通信は25日(現地時間)、ロシア大統領府と近い複数の人物を引用し、プーチン大統領が先月、仲介人を通して米政府当局者に関連の議論をすることができるという意思を表明した、と報じた。
ブルームバーグによると、匿名を求めたこの人物らは、プーチン大統領がウクライナの中立国化を放棄する案を考慮する用意があることを示唆したと伝えた。また、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟反対も撤回する可能性があるが、ロシア軍が占領したウクライナ領土に対するロシアの統制権は認めるべきだと強調した。2022年2月にウクライナを侵攻したロシア軍は現在、ウクライナ領土の18%を占領している。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は26日の記者会見で、ウクライナのNATO加盟反対撤回の可能性など水面下交渉報道に関する記者の質問に対し「間違った報道だ。全く事実でない」と強く否認した。米政府当局者も全面的に否認した。米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官は「ロシアの立場に変化があることを知らない」とし「ロシアとの交渉、いつ、どうするかはウクライナの決定にかかっている」と述べた。
ロシア政府が休戦メッセージを送ったという報道は今回が初めてではない。先月、米ニューヨークタイムズ(NYT)はロシアの元官僚を引用し、ロシア側が昨年9月から複数の外交チャンネルを通じて休戦交渉に関心があるという信号を送ったと報じた。
●ドイツで「首相交代」求める声高まる 1/27
ドイツで戦後初めて3政党のショルツ連立政権が2021年12月に発足した時、政治信条も政策も180度異なる政党の政権は寄せ集め集団に過ぎず、政権維持は難しいだろうと受け取られた。ショルツ政権は社会民主党(SPD)、環境保護政党「緑の党」、それにリベラル派政党「自由民主党」(FDP)の3党から成る。
政権発足当初は新型コロナウイルス対策が新政権の主要課題で、ワクチン接種のおかげでパンデミックは次第に収束していった。その束の間、ロシアのプーチン大統領が2022年2月、ウクライナの軍事侵攻を始めた。欧州大陸で戦後初のウクライナ戦争はこれまで経済発展に重点を置いてきた欧州諸国はその対策にアタフタとなった。ショルツ首相は危機に直面し、「時代の転換」(Zeitenwende)というキャッチフレーズを掲げ欧米の同盟国と連携をとって対応してきた。そして昨年10月7日はパレスチナ自治区ガザ区を実効支配していたイスラム過激派テロ組織ハマスがイスラエルを奇襲して1200人余りのユダヤ人を虐殺するという事態が生じ、ドイツを始め欧州諸国はその対応に乗り出し、中東戦争の拡散防止に腐心してきた。ショルツ連立政権は想定外の外交、安保情勢に直面し、対応に苦戦したが、なんとか試練を乗り越えた。
一方、国内ではウクライナ戦争の影響もあってエネルギー価格の急騰、物価の高騰などで国民の生活は厳しくなっていった。国民経済もマイナス成長が続き、リセッションに陥り、国民の間でも政権への不満が高まっていった。与党3党の間で政治信条、政策の違いなどが表面化して、政権内の対立、意見の相違などがメディアでも報じられてきた。メディアの世論調査によると、政権与党の3党に支持率は急減し、3党を合わせても支持率は30%をようやく超える状況となっていた(安保・外交では国民の支持率を上げることは難しいことが改めて実証された)。
それに反し、野党第一党の「キリスト教民主同盟」(CDU)は支持率31%でトップを走り、極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)は22%と支持率を上げていった。特に、AfDは旧東独では30%を超える支持率を得ている。ポツダムでの極右関係者の会合が開催され、強制移民政策が話し会われたことが明らかになると、AfDへの批判の声は高まったが、支持率には大きく響いていない。
そのような中、ショルツ首相のSPDの支持率は13%と急落し、14%の「緑の党」にも抜かれて与党第2党の地位に甘んじていることが明らかになったのだ。そしてベルリンから突然、「ショルツ首相は退陣、後継者にピストリウス国防相」といった情報が流れてきた。ドイツやオーストリアのメディアは一斉に大きく報じた。
オーストリアの日刊紙クリアは26日、4面国際面の1ページを使い、「ショルツ自身の変わる時」という見出しを付け、「ドイツの政権でショルツ首相ほど愛されない首相はいない」と報じ、SPD内でも首相の交代を求めるが流れている、「ドイツ国民の64%が首相の交代を願い、その後継者にピストリウス国防相の名前を挙げている」というのだ。ただし、国防相が首相になったとしても、SPDは3%しか支持率を伸ばせないだろうという。肝心の後継者と名指された国防相自身「首相になる考えはない」と噂を否定している。
ショルツ首相が先日、ベルリンで開催中のハンドボール欧州選手権を応援するために会場に入ると、ブーイングの声が上がり、罵声が飛んできたという。首相の行く先々で歓迎ではなく、批判の声が飛び交うのだ。クリア紙は「首相は侮辱されても行動せず、座って、良くなることを希望して待っている。典型的なショルツ氏の反応だ」と論じている。SPD関係者も「首相は語らなければならない時、沈黙し、動かなければならない時、固まって動かない」と受け取っている。
首相への批判はどの政権でもあった。メルケル政権時代、移民・難民が殺到した時(2015、16年)、「メルケル、出ていけ」という声が聞かれたし、シュレーダー氏も首相時代(1998年〜2005年)にSPD系労働組合から罵声を受けた。しかし、ショルツ首相は政権を担当してまだ2年だ。16年間の首相の座にいたメルケル前首相や7年間のシュレーダー氏とは比較できない。
今年はドイツでは6月に欧州議会選を控え、秋には旧東独の3州(ザクセン州、チューリンゲン州、ブランデンブルク州)で州議会選が待っている。「首相を変えるのならば今しかない」といった危機感がSPD関係者内にあるのかもしれない。
●トランプ前大統領に8330万ドルの損賠命令、性的暴行したコラムニストへ 1/27
ニューヨーク・マンハッタンの連邦地裁で26日、ドナルド・トランプ前大統領が在任中の2019年にコラムニスト、E・ジーン・キャロル氏を中傷しその名誉を毀損(きそん)したことについて、計8330万ドル(約123億4000万円)の損害賠償を支払うよう、陪審団が評決を下した。連邦地裁は昨年5月にすでに、前大統領が1990年代にキャロル氏を性的に暴行したと認定していた。
連邦民事訴訟において陪審団が命じた損害賠償額は、補償のための1830万ドルと懲罰的賠償額6500万ドルの合計。補償的損害賠償は、前大統領がキャロル氏を中傷し、名誉を傷つけ、精神的苦痛を与えたことに対するもの。懲罰的賠償額は、トランプ前大統領が今後もキャロル氏を中傷・攻撃し続けるのを阻止することを意図してのもの。
男性7人と女性2人からなる陪審団は、3時間弱の評議で今回の評決に至った。
キャロル氏は評決を受けて、「これは、打ちのめされても立ち上がるすべての女性にとって素晴らしい勝利だ。同時に、女性をいじめて押さえつけようとしたすべての横暴な者にとって、巨大な敗北だ」と声明で述べた。
キャロル氏を支えたロバータ・キャプラン弁護士は声明で、「本日の評決は、この国では法律が全員に適用されることを示した。相手が金持ちだろうと有名人だろうと、大統領経験者だろうと」と述べた。
トランプ前大統領は、この裁判を「魔女狩り」と呼び、評決は「まったくばかげている!」とコメント。必ず控訴すると強調している。
連邦地裁のルイス・キャプラン裁判長はこの裁判であらかじめ、陪審団に対し審理の難しい性質を念頭に、お互いで話し合う際にも本名を使わないよう助言していた(キャプラン判事は、ロベルタ・キャプラン弁護士とは親類ではない)。
この日の結審にあたっても、裁判長は陪審団に、それぞれ自分の経験を話すことは自由だが、この裁判の陪審員だったことは公表しない方が良いと思うと忠告した。
トランプ前大統領は繰り返し、自分は何の問題行動もしていないと強調し、キャロル氏とは会ったこともないと主張している。
しかし評決後に、自分のソーシャルメディアで評決を非難した際、キャロル氏への直接的な攻撃は避けていた。
「どちらの評決にもまったく同意しない」と前大統領は書き、「私と共和党に集中してバイデンが支持した魔女狩りについて、控訴する」、「この国の司法制度は、たがが外れていて、政治的な武器として使われている。連中は修正第1条の権利をぜんぶ取り上げた。これはアメリカじゃない!」などと主張した。
昨年の民事裁判でマンハッタンの連邦地裁はすでに、前大統領が1990年代にニューヨーク市内のデパートの試着室で、雑誌コラムニストのキャロル氏を性的に暴行したと認定していた。
その裁判の陪審団も、前大統領がキャロル氏の証言をうそだと中傷したことについて名誉毀損だと認め、約500万ドルの損害賠償の支払いを命じていた。
26日に結審した今回の名誉毀損訴訟は、前大統領が2019年にした別の発言に関するもの。
この日の評決の読み上げより先に、前大統領は法廷を後にしていた。その直前には、担当のアリナ・ハバ弁護士に対して裁判長が、不規則発言を注意していた。
発言をやめるよう裁判長に指示された後も話し続けたハバ弁護士に対し、キャプラン裁判長は「あなたはあと少しで収監される、その瀬戸際にいる。いいから座りなさい」と命じていた。
これより先に裁判長はすでに、法廷内で前大統領が「これはやらせだ」「魔女狩りだ」などつぶやいたことを問題視し、続くようなら退廷を命じると警告していた。
キャロル氏の弁護団はこの日の最終陳述で、前大統領がキャロル氏に対する性的暴行を否定し続けたことで、キャロル氏の名誉は著しく傷つけられたと主張。「この裁判は、ドナルド・トランプに罰を与えるためのものでもあります(中略)ここでついに彼に、そうしたまねをやめさせるための裁判です」と述べていた。
弁護団は裁判中、前大統領の発言をきっかけに、キャロル氏は大勢から殺害や強姦を脅され、オンラインでひどく中傷されるようになったと主張していた。
これに対して前大統領側は、キャロル氏への脅迫は前大統領の責任ではないとして、原告側の主張は「穴だらけ」なのでトランプ氏がこれ以上の損害賠償を払う必要はないと主張していた。
トランプ前大統領はこの民事訴訟とは別に、4件の刑事事件で計91件の不法行為について起訴されている。アメリカで大統領経験者が、刑事被告人となるのは史上初めて。
それに対して前大統領は一貫して、自分に対する数々の訴訟はジョー・バイデン大統領とその仲間が指揮しているものだと主張している。
今年11月の大統領選に向けて、野党・共和党の候補選びではトランプ前大統領が優勢となっており、民主党候補になる見通しのバイデン大統領と、4年前に続いて再び対決する可能性が高い。
米ジョン・ジェイ・刑事司法カレッジのドミトリー・シャクネヴィッチ教授はBBCに、少額の賠償額では前大統領による中傷をやめさせることができないと、キャロル氏の弁護団は陪審団を説得したのだと説明した。
「陪審団は要するに、この金持ちは(中傷を)やめようとしないので、やめさせるには(経済的な)痛みを与えるしかないのだと言っている」と教授は話し、今回の賠償額は「非常に大きい額だ」と述べた。
米リッチモンド大学のキャロル・トバイアス教授(法学)はBBCに対して、「トランプ氏は裁判長と陪審員と、相手側の弁護団、そして特に原告のキャロル氏に、敬意を欠いた態度をとり続けた」ことが、原告の主張を裏付ける結果となり、「高額の損害賠償額が適切で、相応」だと陪審団が判断する理由になったかもしれないと指摘した。
●北朝鮮は10年ぶり高成長か、兵器取引で経済好転−金氏に戦争回避促す 1/27
ここ数週間に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記から好戦的な発言が相次ぎ、同国が戦争を準備しているのではないかとの臆測が浮上している。
だが、金氏には戦争突入を回避する新たな理由が少なくとも一つある。目立たないながらも北朝鮮経済は改善しつつあり、経済成長のペースは約10年ぶりの高水準に届こうとしている。
国際的な制裁で長らく孤立していた北朝鮮経済を活性化させたのは、プーチン大統領のウクライナ侵攻を支えるための弾道ミサイルや砲弾、その他軍用品の売却だ。
これにより金氏には今後数年にわたって西側からの関与を拒否できる余裕が生まれているかもしれないが、戦争など劇的な措置に打って出なければならない圧力も後退している。
北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議の韓国首席代表を務めた千英宇氏は「核の使用や戦争は体制の終わりを意味すると、金正恩氏はよく分かっている」と述べた。
BMIの欧州カントリーリスク責任者で、北朝鮮を追い続けている数少ないエコノミストの一人であるアンウィタ・バス氏によると、対中国貿易の増加も相まって北朝鮮の国内総生産(GDP)は今年0.5%拡大する可能性がある。そうなれば、核開発を巡り北朝鮮への国連の制裁が強化された2016年以降で最大の成長となる。
この規模の成長では、北朝鮮が新型コロナウイルス対策の制限で国境を閉ざした数年間に失った成長を取り戻すことはできないが、バス氏は自身の予測が韓国中央銀行のデータに一部基づいていると説明した。韓国中銀のデータは、北朝鮮の防衛セクターを完全には計算に入れていない。
「北朝鮮製兵器に対する需要増加で、同業界の売り上げは確実に上がるだろう」とバス氏は指摘し、同国の人口の半分程度が防衛業界と何らかの関係のある職に就いているとの試算もあると語った。
●ロシアとウクライナ、相手側の責任主張 輸送機墜落問題 1/27
捕虜となっていたウクライナ兵を乗せたとされるロシア軍の輸送機が墜落した問題をめぐり、ロシアとウクライナは26日も、相手側の責任だとする主張を繰り広げました。
24日、ベルゴロド州でロシア軍の輸送機が墜落した件をめぐっては、ロシア側はウクライナによる撃墜だとして、「乗っていたウクライナ軍の捕虜65人を含む74人が死亡した」と発表する一方、ウクライナ側は捕虜が乗っていたかどうかは確認中だと主張しています。
ロシア捜査委員会は26日、新たな調査結果とする情報をSNSに投稿し、犠牲者の遺体の一部に、ウクライナの治安組織「アゾフ連隊」の戦闘員が施す特徴的な入れ墨がみられたとして、映像を公開しました。また、レーダーの情報などから、輸送機を狙った地対空ミサイルはウクライナ・ハルキウ州の村にあったとして、“ウクライナが撃墜した”との主張を展開しました。
これに対し、ウクライナ軍の報道官は26日、ウクライナメディア「ウニアン」の取材に答え、「墜落がウクライナ軍によるものかは確認できていない」と述べました。ロシアが捕虜交換について国際赤十字に伝えていなかったことや、搭乗予定だったロシア政府関係者2人が最終的に乗らなかったことなどの点を挙げ、「情報が隠ぺいされている」との見方を示しました。この墜落をめぐっては、ウクライナ側が国際的な調査を求めています。 
●ロシア主力戦車を「一瞬で灰燼に帰す」ウクライナ軍ドローン攻撃 1/27
ウクライナ南部と東部の約965キロにわたる戦線での戦闘で、損失が拡大しているロシア。1月23日には、東部ドネツク地方での激しい戦闘で、ロシア軍の主力戦車T-72B3が破壊される様子を捉えた動画が、ウクライナの第10軍団によって撮影された。ドローン攻撃によってロシア軍戦車が大爆発を起こし、一瞬で粉々に砕け散る瞬間の動画は、SNSを通じて拡散されている。
ウクライナ第10軍団が「朝の挨拶」と称したこの攻撃は、FPV(一人称視点)ドローンを使って行われた。オープンソース・インテリジェンス(公開情報を分析して諜報活動を行うこと)の専門サイト「オシント・テニクカル」はX(旧Twitter)で、この攻撃により「壊滅的な弾薬の爆発」を引き起こしたと説明した。
ウクライナ国防省もXでこの映像を公開し、ロシアの戦車が「FPVドローンの攻撃を受け、一瞬にして灰じんに帰した」と述べた。
オシント・テニクカルによれば、この映像はドネツク州で撮影されたものだ。同州は2014年以降、ロシアとウクライナとの紛争の中心地となっており、2022年2月にロシアによる本格的な侵攻が始まってからは激しい戦闘が繰り広げられている。
第10軍団が現在活動している正確な位置は明らかにされていない。しかし、ウクライナ中部ポルタバに本部を置くこの部隊は、同国が昨夏に実施し、失敗に終わった南東部での反転攻勢に参加し、ザポリージャ州とドネツク州で戦ったことが知られている。
ウクライナ軍は春に向けて挽回の準備を進める
ウクライナ軍は、昨夏の作戦の失敗を受けて、「積極的防衛」に転じている。弾薬が不足し、欧米諸国からの支援は停滞し、ロシア軍が疲弊している兆候もない中、冬から春先にかけて挽回する準備をしている。
対するロシア軍は、冬に入ってからも新たな領土を目指して前進している。ドネツク州の要衝アウディーイウカ(旧アフディフカ)を孤立させ、占領しようとしている一方、破壊されたバフムト周辺では漸進的な前進を続けている。
ロシア軍の死傷者は多数に上っているとみられる。英国防省は先月、高い消耗率が続いていることは、「2022年9月の予備役の『部分動員』以来、ロシア軍が劣化し、質より量の大衆軍に移行していることを示唆している」と指摘した。
ロシア軍の死傷者はすでに37万人超か
ウクライナは1月24日、新たにロシア軍兵士840人を「排除」したとXで発表。2022年2月以降のロシア軍の死傷者は、37万8660人に達したとしている。
また、新たには破壊した戦車が13両(ロシアによる侵攻以来、計6227両)、装甲戦闘車両が31両(同1万1579両)、大砲が61門(同9008門)だと明らかにした。
ロシア政治アナリストでフレッチャー法外交大学院の客員研究員パベル・ルジンは、ロシア軍は戦場で粘り強さを見せているが、「2022年2月以降、致命的な戦略的惨事に陥っている」と本誌に語り、その結果、「何十年にもわたって弱体化するだろう」と指摘している。
●「米中は衝突防ぐ必要ある」と米高官 1/27
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、中国の王毅外相との会談で「米中は競争関係にあるが、対立や衝突に発展するのを防ぐ必要がある」と強調した。

 

●レニングラード解放80年で献花=ロ大統領、ウクライナ継戦訴え 1/28
ロシアのプーチン大統領は27日、第2次大戦でナチス・ドイツに包囲されたレニングラード(現サンクトペテルブルク市)の完全解放から80年を迎え、市郊外に新たに完成した犠牲者の追悼施設に献花した。大統領府が発表した。
献花したのは「ナチスのジェノサイド(集団虐殺)被害に遭ったソ連市民」の追悼施設。プーチン政権は、ウクライナのゼレンスキー政権を「ナチス」と一方的に決め付け、侵攻の口実にした経緯があり、作戦継続を国民に訴える意味合いもありそうだ。式典には、侵攻に協力しているベラルーシのルカシェンコ大統領も同席した。
●ロシア、ウクライナ侵攻を正当化 レニングラード解放80年 1/28
第2次大戦でナチス・ドイツに包囲されたソ連のレニングラード(現サンクトペテルブルク)の解放から80年となった27日、プーチン大統領はロシア北西部レニングラード州での慰霊碑落成式で演説し、ウクライナの政権が「ヒトラーの共犯者であるナチス親衛隊を称賛している」と述べ、侵攻を正当化した。
プーチン氏はウクライナ政権を「ネオナチ」と繰り返し主張してきた。演説で「欧州の多くの国が『ロシア嫌悪』の国策を推進している」と批判した。
式典にはベラルーシのルカシェンコ大統領が参列した。
レニングラードは1941年9月から包囲されて補給路を断たれ、44年1月の解放までに60万人以上とされる死者が出た。
●プーチン大統領 第2次大戦の激戦地でウクライナ侵攻継続を強調 1/28
ロシアのプーチン大統領は、第2次世界大戦でナチス・ドイツとの激戦地となったサンクトペテルブルクの近郊を訪れ、一方的にウクライナをナチズムに重ねて進めてきた軍事侵攻を継続する姿勢を改めて強調しました。
かつてレニングラードと呼ばれたロシア第2の都市サンクトペテルブルクは、第2次世界大戦中、ナチス・ドイツにおよそ900日間包囲され、数十万人の犠牲が出た激戦地で、ソビエト軍が一帯を解放したとされる日から80年となった27日、各地で記念行事が行われました。
プーチン大統領は戦没者の墓地に花を供えたあと、新たに設けられた慰霊碑を訪れあいさつしました。
この中でプーチン大統領は、ソビエト軍の功績をたたえるとともにウクライナに触れ「われわれは、ナチズムを食い止め、完全に根絶するためあらゆることをする」と述べ、一方的にウクライナをナチズムに重ねて進めてきた軍事侵攻を継続する姿勢を改めて強調しました。
一連の日程の途中からはロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領も合流し、あいさつの中で、両国が共有する大戦の歴史に触れるなど、ロシアと連携していく姿勢を印象づけました。
プーチン政権は、第2次世界大戦でソビエトが多くの犠牲を出しながらも勝利したことを強調し、各地で記念行事を大々的に行っていて、国民の愛国心に訴えながら軍事侵攻を継続する姿勢に理解を求めるねらいがあるとみられます。
●韓国 対ウクライナ支援警告のロシアに「今後の動向が重要」 1/28
ロシアが韓国の対ウクライナ支援に関して「無謀な行動」のせいで韓ロ関係が崩壊しかねないと警告したことに対し、韓国の外交部当局者は28日、「今後のロシアの関連動向が非常に重要だと警告する」と述べた。
ロシア外務省のザハロワ報道官は26日の記者会見で、韓国の国防トップが対ウクライナ軍事支援の必要性に言及したとして、「友好的だったロシアとの関係を崩壊させかねない無謀な行動について韓国政府に警告する」と述べた。
韓国の申源G(シン・ウォンシク)国防部長官はメディアのインタビューで、韓国政府の対ウクライナ支援が人道主義的・財政的な支援に制限されていることについて「個人的には全面支援が必要だと考えているが、政府の政策を支持する」と述べていた。
外交部当局者は「政府はウクライナに殺傷兵器を支援しないとの立場を堅持している」と強調。そのうえで「最近のロ朝間の軍事協力の動向と韓国の安全保障に及ぼす影響を綿密に注視している」と述べた。
●米、ウクライナ戦略転換 領土奪還よりも侵攻抑止に注力 1/28
27日付米紙ワシントン・ポストは、バイデン米政権がウクライナ支援を巡り、ロシアが占領した領土の奪還よりも、新たな侵攻を抑止することに注力する戦略を策定していると報じた。ウクライナによる昨年の反転攻勢で期待した戦果を得られなかったことで方針を転換した。長期的な戦力強化や、経済基盤の立て直しに重点を置く。
バイデン政権は今春、10年先までを見据えた支援策を公表する。11月の米大統領選でウクライナ支援に否定的な共和党のトランプ前大統領が再選される可能性も見据え、米国の支援を将来も保証する狙いもある。
ウクライナ軍は昨年6月に反転攻勢に出たが不本意な結果に終わった。
●ドイツ首相、ネオナチの台頭を警告 アウシュヴィッツ解放から79年 1/28
ドイツのオラフ・ショルツ首相は「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」にあたる27日、台頭する極右過激派への懸念を表明した。
ショルツ首相は、「ネオナチとその闇のネットワーク」に警戒し、人種差別や反ユダヤ主義と戦うよう国民に呼びかけた。
ナチス・ドイツのアウシュヴィッツ強制収容所が旧ソ連軍によって解放されてから79年を記念するショルツ氏の演説は、事前に収録されたもの。その中でショルツ氏は、「ネオナチとその闇のネットワークについて常時、新しい報告がある。それと同時に、右派のポピュリストが台頭し、恐怖をあおり、憎悪をまき散らしている」と語った。
「しかし、このような事態は、ただ受け入れるしかないような、そんなものではない」と首相は力説し、極右勢力に対抗し、ドイツの民主主義を守るために立ち上がるよう、ドイツ国民に呼びかけた。
「我が国はいま立ち上がっている。何百万人もの市民が、民主主義、そして互いへの敬意と思いやりを支持し、街頭に繰り出している。結局のところ、それこそが大事だからだ。民主主義者の結束こそ、民主主義を強くする。今まさにそうしているように、公の場で自信を持ってそれを示するのは、気分がいいことだ」
ショルツ首相はまた、急進右翼政党「祖国」(旧ドイツ国家民主党)への資金提供を削減する画期的な裁判所の判断を歓迎した。
ドイツの憲法裁判所は24日、「祖国」について、ドイツの政党が合法的に受けている国家からの資金提供や税制上の優遇措置をこれ以上受けられないようにすべきだとの判断を下した。
ドイツが党活動を禁止することなく、国からの財政支援を打ち切るケースは、今回が初めて。
ドイツでは極右に反対する抗議行動が相次いで起きており、デュッセルドルフでは27日、数千人がデモ行進に参加した。
これは、難民排斥を掲げる極右野党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部が外国にルーツを持つ市民の強制送還をめぐる話し合いに加わったとの報道を受けてのもの。
ドイツは現在、複数の極右政党の党活動を禁止するかどうかの議論を進めている。
デモ参加者たちは、24日の裁判所の判断が、国内で2番目の支持を集めるAfDの支持率上昇に対処するための前例になることを期待している。
AfDの支持率は、全国的には20%強で2位だが、今年中に重要な地方選挙が行われる東部3州では30%をわずかに上回り1位となっている。
●来月9日に米独首脳会談、ウクライナ支援再確認へ=ホワイトハウス 1/28
米ホワイトハウスは27日、バイデン大統領が2月9日にドイツのショルツ首相とワシントンで会談すると発表した。ウクライナへの強力な支援を再確認するとしている。
米独首脳は、中東における緊張激化を防ぐ取り組み、イスラエルの自衛権に対する揺るぎない支持、パレスチナ自治区ガザでの人道支援の強化と市民の保護についても話し合う見通し。
ドイツ政府からコメントは出ていない。
●米独首脳、2月9日に会談へ 中東、ウクライナ情勢協議 1/28
米ホワイトハウスは27日、ドイツのショルツ首相が訪米し、2月9日に首脳会談を行うと発表した。ロシアによるウクライナ侵攻や、パレスチナ自治区ガザの情勢を協議。7月に米ワシントンで開催する北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に向けた調整も行う。
ジャンピエール大統領報道官は声明で「両首脳はウクライナの国土と国民の防衛に対する確固たる支持を再確認する。中東情勢悪化を防ぐ努力、イスラエルの自衛権に対する揺るぎない支持、ガザでの救命支援と民間人の保護強化の必要性について話し合う」とした。
●ウクライナ国防省高官、軍需企業幹部と59億円横領 砲弾調達巡り 1/28
ロシアの侵攻を受けるウクライナの情報機関・保安局(SBU)は27日、砲弾の調達を巡り、国防省高官と軍需企業幹部による総額約15億フリブナ(約59億円)の横領が発覚したと発表した。同国では汚職体質の改善が長年の課題で、政府が対策強化を進めている。汚職の継続は、欧米による支援の支障となる懸念がある。
SBUの発表によると、国防省と軍需企業「リビウ工廠(こうしょう)」は侵攻開始から半年後の2022年8月、砲弾10万発の調達契約を締結。だが、砲弾が納入されないまま購入費は国防省から前払いされ、一部は国外の軍需企業に送金された。事件に関与したとして、政府当局は国防省と同社の在職者を含む計5人に対し、法的手続きの第1段階となる通知を出した。うち1人は出国しようとして拘束された。
ウクライナでは中央・地方両政府の汚職体質がソ連崩壊による独立以来の問題で、欧州連合(EU)は汚職対策強化を同国の加盟条件に挙げる。昨年12月のEU首脳会議では、ロシア寄りの立場をとるハンガリーのオルバン首相が「ウクライナは汚職対策などの基準を満たしていない」として、加盟交渉開始に反対した。欧米のウクライナ支援の障害にもなっている。
ウクライナ政府当局は汚職取り締まりを強化し、政府高官の解職が相次ぐ。昨年8月には、徴兵逃れの希望者から賄賂を受け取って国外脱出を支援した疑いで、州徴兵事務所の責任者である軍事委員が全州で解任された。軍関連で相次ぐ汚職から、同9月にレズニコフ国防相が解任された。
ゼレンスキー大統領は昨年8月、汚職関連で112件の刑事手続きが進められていると明らかにした。国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」は、腐敗の少なさを示す22年の「腐敗認識指数」(昨年1月発表)で、ウクライナを180カ国・地域中116位と位置付けた。
●前線でロシア軍の攻勢続く ウクライナ軍報道官らが報告 1/28
ウクライナ軍報道官らによると、同国各地の前線で最近、ロシア軍が攻勢をさらに強めている。
特に、ウクライナ東部ハルキウ州とルハンスク州の境界沿いで激しい戦闘が続いている。
ウクライナ軍は先日、ハルキウ州クロフマルネから防衛部隊を撤収させ、より有利な高台に移したと発表した。
ウクライナの陸軍参謀本部はフェイスブックへの投稿を通し、クロフマルネの北西と南方の集落でロシア軍から13回の攻撃を受け、対戦したと報告した。
この地区の戦闘について、陸上部隊司令部の報道官は国内テレビに「敵軍は大量の砲撃に集中して前進を図っている」と述べた。
集落は南北に走るオスキル川の近くに位置する。6カ月間に及ぶロシア軍の占領を経て、2022年夏にウクライナ軍が解放していた。
また、ちょうど1年前にロシア軍による冬季攻撃の舞台となった東部ドネツク州バフムート周辺でも、ウクライナ軍部隊が攻撃にさらされている。
同市の南西には、ウクライナ軍が反攻作戦で昨年9月に奪還した二つの集落がある。その周辺の状況について、現地の軍曹は「敵軍が部隊を集結させている。連日攻撃を仕掛けてくる」と述べた。ロシア軍が持つドローン(無人機)には暗視装置搭載型も含まれ、ウクライナ側よりはるかに数が多いという。
ウクライナ軍は昨夏、南部ザポリージャ州でも反攻作戦を実行し、ロシアとクリミア半島を結ぶ陸路の寸断を目指してオリキウから南へ進軍したものの、わずか20キロで断念していた。
軍報道官によると、ロシア軍は同州でも現在、領土の奪還を図っている。同報道官は、ロシア軍が2日連続で1日に50件の戦闘を仕掛けるなど、全方角で攻勢を強めていると報告した。 

 

●軍需協力や侵攻現状を協議 プーチン氏、ベラルーシ大統領と 1/29
ロシアのプーチン大統領は28日、ベラルーシのルカシェンコ大統領とロシア北西部サンクトペテルブルクで会談した。軍需産業分野での協力やロシアが続けるウクライナ侵攻の現状などを協議した。タス通信が伝えた。
両首脳は会談に先立ち、ロシアのボストーク南極観測基地の新しい越冬施設稼働式にオンラインで参加した。
ルカシェンコ氏は、第2次大戦中にソ連に侵攻したナチス・ドイツ軍に2年以上包囲され、空爆や飢餓で多数の市民が死亡したレニングラード(現サンクトペテルブルク)解放80年を記念した27日の行事にもプーチン氏と共に出席。欧米と対立を深めるロシアを支持する姿勢を改めて示した。
●プーチン大統領 侵攻継続の姿勢 ベラルーシと対欧米で連携強化へ 1/29
ロシアのプーチン大統領は第2次世界大戦のナチス・ドイツとの激戦地を訪れ、「ナチズムを根絶する」などと、ウクライナ侵攻を一方的に正当化し継続する姿勢を改めて示しました。
プーチン大統領は27日、第2次世界大戦中にナチス・ドイツに包囲された旧レニングラード、いまのサンクトペテルブルクの解放80年に合わせ新たに建てられた慰霊碑を訪れました。
プーチン氏は式典での演説で、ウクライナ政権は「ヒトラーの共犯者たちやナチス親衛隊を称賛している」と一方的に主張したうえで、「我々はナチズムを食い止め、完全に根絶するためにあらゆることをする」と述べ、ウクライナ侵攻を継続する姿勢を改めて示しました。
式典には同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領も出席。両首脳は28日に会談を行い、両国の結びつきが一層強まっていると強調しました。
29日にはロシアとベラルーシによる「連合国家」のさらなる統合に向けた会議も行われるとして、ウクライナ侵攻などで対立を深める欧米への対抗で連携を強めていく狙いがあるとみられます。
●対ロシア強硬派で決選投票へ フィンランド大統領選 1/29
フィンランドで28日、昨年4月の北大西洋条約機構(NATO)加盟後初となる大統領選が実施された。即日開票の結果、いずれも対ロ強硬で、得票率トップの与党第1党の国民連合、アレクサンデル・ストゥブ元首相(55)と、2位の緑の党、ペッカ・ハービスト前外相(65)が2月11日の決選投票に進むことが決まった。いずれの候補も当選に必要な過半数の得票に届かなかった。
フィンランドはロシアと約1300キロの国境を接する。ロシアによるウクライナ侵攻開始後に軍事的中立から路線転換し、NATOに加盟した。
●ロシア大統領選 唯一の“反戦”候補「戦争終結が私の課題」集会に支持者も 1/29
3月のロシア大統領選挙に向けウクライナ侵攻反対を掲げて立候補を目指す候補が28日、モスクワで集会を開き、反戦を支持する市民が集まりました。
会場は、非常にわかりにくいイベントホールに設定されました。この場所は28日の朝まで秘密になっていました。
大統領選の候補予定者の中で唯一、ウクライナ侵攻反対を掲げるナジェージュジン氏の集会には、およそ250人が集まりました。
集会の参加者「戦争には反対。私は外交と交渉を望む」「私は同じ考えを持つ人とともにいたい。ここにいる人たちとはほぼ同じ考え(反戦)を持っていると思う」
ナジェージュジン氏「人が死ぬのは良くない。戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しい。終わらせるのが、私の大統領一期目の課題だ」
ナジェージュジン氏は、正式に立候補するために必要な署名を31日に提出する予定で、これが認められれば、反戦を求める声の受け皿になる可能性があります。
●ウクライナ侵攻、世界大戦に発展も ゼレンスキー氏が支援訴え 1/29
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、ウクライナでの戦闘が第三次世界大戦に発展する恐れがあると述べ、西側諸国に支援を求めた。
ドイツの公共放送ARDとのインタビューで、「ショルツ首相はこのリスクを認識しているようだ」と述べ、ロシアが北大西洋条約機構(NATO)加盟国を攻撃すれば「第三次世界大戦の始まり」になると訴えた。
ドイツが巡航ミサイル「タウルス」のウクライナ供与を計画していないことに失望しているかとの質問には、「ウクライナへの最初の侵攻の際にドイツが果たすべきだった役割」を果たしていないことにのみ失望していると答えた。
ロシアによるウクライナ侵攻の前段となった2014年のクリミア編入にも言及し、西側の鈍い反応はドイツだけの問題でなく、欧米の指導者の問題だと述べた。
●昨年の韓国自動車輸出好調…276万台で8年ぶり最多 1/29
昨年韓国の自動車メーカーの輸出量が8年ぶりの最多を記録した。北米と欧州市場を中心に輸出が大きく膨らんだことがわかった。
韓国自動車モビリティ産業協会(KAMA)が28日に明らかにしたところによると、韓国自動車メーカー6社(現代自動車、起亜、韓国GM、KGモビリティ、ルノーコリア、タタ大宇)が昨年196カ国に輸出した自動車台数は276万3499台と集計された。2022年に197カ国に輸出した230万333台より20.1%増加した数値だ。韓国の自動車メーカーが年間270万台以上を輸出したのは2015年の297万4114台から8年ぶりだ。
地域別に見ると、北米が154万9164台で最も多かった。次いで欧州連合(EU)が43万5631台、中東が21万9530台、オセアニアが18万7118台の順だ。単一国別では米国が130万5991台で最多を記録した。次いでカナダが21万8721台、オーストラリアが16万9205台、英国が8万7064台の順となった。
主要貿易相手国である中国は2571台、日本は1506台で3000台も売れなかった。日本はトヨタを筆頭とした自国ブランドの販売比率が高く、中国は現地自動車メーカーの技術力が向上し韓国の自動車メーカーが有利な位置を先取りするのが難しくなったためだ。ウクライナと戦争中のロシアに輸出した自動車もやはり前年比94.3%急減の808台にとどまった。
輸出額も過去最高を記録した。16日に産業通商資源部が発表した昨年の自動車輸出額は709億ドル(約10兆円)で、2022年に記録した最大輸出額の541億ドルを30%以上上回った。産業通商資源部はエコカー輸出が増え、輸出単価が上昇したと説明した。
KAMA関係者は「今年も昨年と同水準の輸出の流れが続くだろう」としながら275万台を輸出すると予想した。
保守的な見通しも出ている。現代経済研究院のチュ・ウォン研究室長は「最大の米国市場の消費心理が期待ほど早く回復しないと予想する。昨年ほど自動車輸出は良くないだろう」と予想した。続けて「今年は収益性を中心に目標を保守的にとらえなければならない」と付け加えた。
●中国に米大統領補佐官「ロシアと密着する北朝鮮に中国が影響力行使を」 1/29
北朝鮮の軍事行動の可能性に対する警告音が相次いで聞こえる中、米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、中国の王毅外相(共産党中央外事弁公室主任)と会談し、北朝鮮に対する中国の影響力の行使を求めた。
ホワイトハウスは、タイのバンコクで26〜27日に会ったサリバン補佐官と王外相が、ウクライナ戦争や中東、台湾、北朝鮮、南シナ海、ミャンマーなどグローバル及び地域的安全保障問題について、「率直かつ実質的で、建設的な」議論をしたと、27日に明らかにした。
米政府高官は会談に関する電話ブリーフィングで、米国は北朝鮮のミサイル発射について「深く懸念している」と明らかにした。また「ロシアとの関係を強化するミスター・キム(金正恩国務委員長)の意図について深く懸念している」とし、「中国の北朝鮮に対する影響力を考慮し、このような問題を直接提起した」と明らかにした。朝ロは9月の首脳会談前後に急速に密着しており、米国はウクライナとの戦争で、北朝鮮がロシアを支援し砲弾とミサイルを供給していると明らかにした。
同高官は「最近、中国が北朝鮮に影響力を建設的に行使しておらず、ロシアは北朝鮮に対する影響力を拡大している」と語った。また「だが、中国は明らかに影響力を維持しており、我々は中国が北朝鮮を再び非核化の道へと導くために影響力を行使すべきだという期待を持っている」と述べた。さらに、平壌(ピョンヤン)を訪問した中国の孫衛東外務次官が北京に戻ってきたら、米国が外交チャンネルを通じて接触する予定だと明らかにした。孫外務次官は26日、10日前にモスクワでロシアのウラジーミル・プーチン大統領などに面会して帰国した北朝鮮のチェ・ソンヒ外務相と面会した。
これまで米国は、中国が北朝鮮の国連安保理決議違反を制止しないとして、不満をあらわにしてきた。今回は、平壌を訪問した中国の外務次官との接触計画まで明らかにし、北朝鮮に対する積極的な影響力行使を求めた。孫外務次官は平壌で朝中関係について協議し、朝ロ関係の動向を把握した可能性がある。
ホワイトハウスは、昨年3回会談したサリバン補佐官と王外相の今回の会談は、同年11月の米中首脳会談で合意した軍事チャンネルをはじめとする意思疎通ラインの維持と「競争の責任ある管理」のためのものだと説明した。今月13日、台湾総統選で独立志向の民進党の頼清徳候補が当選した後に開かれた今回の会談では、いつものように台湾問題も重要議案として取り上げられた。ホワイトハウスはサリバン補佐官が「台湾海峡の平和と安定維持の重要性を強調した」と伝えた。米政府高官は、サリバン補佐官が台湾独立を支持しないとして「一つの中国」の原則を再確認する一方、どちらか一方による現状変更に反対するという立場を再度明らかにしたと伝えた。
同高官はまた、サリバン補佐官は親イラン勢力のイエメンのフ―シ派が紅海で船舶を攻撃することを、中国が「イランに対する実質的影響力を使用」し、中止させるよう求めたと語った。
ホワイトハウスは、サリバン補佐官と王外相が2日間にわたる12時間の会談で、首脳会談の合意どおり、今春に人工知能(AI)の危険性を減らすための対話チャンネルを設ける問題についても話し合ったと明らかにした。また、米中は首脳会談の合意にともない、今月30日に中国産の麻薬性鎮痛剤の原料であるフェンタニル問題を解決するための作業部会を発足させることにした。
●ハマスのテロに国連機関職員が関与か?日本政府が資金拠出停止… 1/29
国連機関の職員が、2023年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルの奇襲に関与した疑惑を受け、日本政府も資金拠出の一時停止を発表した。
国連のグテーレス事務総長は、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の職員12人が、ハマスのテロ攻撃に関与した疑惑で、9人が解雇されたほか、1人がすでに死亡、残り2人の身元を特定中だとしている。
これを受け、各国で資金拠出を停止する動きが相次ぎ、外務省も28日、UNRWAへの資金拠出を一時停止すると発表した。
日本は、UNRWAに対し2022年におよそ3,000万ドルを拠出するなど、世界で6番目に多く支援をしている。
●WP「米国、ウクライナ支援戦略転換を検討…領土奪還から防衛戦に」 1/29
米国政府がウクライナ支援戦略の目標を「領土奪還」から「防衛戦支援」に転換する計画という外信報道が出てきた。ウクライナ戦争が3年目に入り込み長期的消耗戦になると予想されることからこれに伴う戦略変化だとみられる。
ワシントン・ポストは26日、米国政府関係者の話として米国務省がこうした方向で「ウクライナ支援10年計画」を構想していると報道した。ある高位当局者によると、米政府はひとまずウクライナが戦場で現状を維持できるようにすることを目標にするものの、今年末までに戦闘力を強化し戦場で別の軌道に乗れるようにする計画という。
米国務省はこうした新しい戦略を今春発表する予定という。具体的には「戦闘」「戦略構築」「復興」「改革」の4段階で、すべての支援は現在議会で係留中の610億ドル(約9兆円)規模のウクライナ支援案が通過されることを前提とする。
まず戦闘部門では砲弾やドローン支援とともに、より多くの防空システムを構築する必要があるだけにこれを中心に支援案が組まれるものとみられる。戦略構築部門ではウクライナの陸海空に対する安全保障を約束し防衛産業を育成する内容が盛り込まれると予想される。このほか鉄鋼や農業など主要産業の回復、防空強化案、腐敗根絶案など社会全分野にわたって復興・改革できる案も幅広く盛り込まれるというのが同紙の報道だ。
ある高位当局者は同紙に「米国が手をこまねいているという意味ではない。小都市などで領土収復の試みがあるものでミサイル発射なども続くだろう」と説明した。
米国の戦略変化はこれまでウクライナが大々的な支援を受けロシアが占領した東部・南部地域を収復しようとしたのに、明確な成果を上げられていないことに伴った「修正」との分析が出ている。全方向への攻撃をこれ以上持続できないということに意見が集まったということだ。
ウクライナもやはりこうした現実を受け入れる雰囲気だと同紙は説明した。ウクライナのゼレンスキー大統領は「単純防衛が計画ではない」と話しているが、実際には米国の支援が以前と同じではない状況で以前のように攻勢的に出るのが難しいということをわかっているという意味だ。
ウクライナ国内の雰囲気も混乱している。ロイター通信は27日、ウクライナ保安局(SBU)が砲弾購入契約と関連して約15億フリブニャ(約57億円)を横領した容疑で元国防省高官ら5人の立件を告知したと報道した。
米国の戦略変更に対し懸念を示す声もあるが、結局戦争を終わらせるには「交渉」が必要だということで政府高位当局者の意見が集まっているとワシントン・ポストは伝えた。
一方、ロシアのプーチン大統領は27日にサンクトペテルブルクで開かれた第2次世界大戦記念館除幕式で「多くの欧州の国で『ロシア嫌悪』が国の政策として推進されている」と主張した。「いまロシアが向き合っている侵略状況は1945年にナチズムは敗北したが根絶されてはいなかったという傍証」としながらだ。
プーチン大統領は現在ウクライナ政府をナチス反逆者の後裔と規定し、これをウクライナ侵攻の名分のひとつとして掲げている。28日は第2次大戦当時にソ連軍がナチスドイツ軍を撃退しレニングラード(現サンクトペテルブルク)を解放した日だ。
同紙は「プーチンはトランプ前大統領が当選する場合、ウクライナに対する支援を撤回する可能性を念頭に置いている。終戦に向けた対話に真摯な関心を持たないだろう」と分析した。
●北朝鮮 潜水艦発射巡航ミサイル 発射実験 日本海上で28日 1/29
北朝鮮は、キム・ジョンウン(金正恩)総書記の立ち会いのもとで、28日に日本海上で潜水艦発射巡航ミサイルの発射実験を行ったと29日朝に発表しました。
29日付けの北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、潜水艦から発射する新型の戦略巡航ミサイル「プルファサル」の発射実験が28日、行われたと伝えました。
実験にはキム・ジョンウン総書記が立ち会い、ミサイルは日本海上を飛行して目標の島に命中したとしています。
実際にミサイルが潜水艦から発射されたかどうかは明らかにしていません。
公開された画像では、ミサイルが白い煙をあげて海上を飛行する様子が写され、飛行時間は2時間余りだったとしています。
キム総書記は、実験の結果に満足した上で、海軍の核武装化を実現し、核抑止力の多様化を進めるように指示したということです。
韓国軍は28日、北朝鮮が東部シンポ(新浦)付近の海上から巡航ミサイル数発を発射したとしていて、北朝鮮の29日朝の発表は、これを指すものとみられます。
また「労働新聞」は、キム総書記が原子力潜水艦の建造事業を確認し、建造に関連した協議を行ったと伝えています。
北朝鮮は先週も新型の戦略巡航ミサイル「プルファサル」の発射実験を行ったと発表したばかりで、戦術核弾頭の搭載を想定した巡航ミサイルの開発を進めています。 
●ウクライナ軍総兵力88万人 大統領が言及 1/29
ウクライナのゼレンスキー大統領は、現在のウクライナ軍の総兵力は88万人だと明らかにした。29日に公開されたドイツ公共放送ARDのインタビューで述べた。ロシアのプーチン大統領は昨年12月の大規模記者会見で、ウクライナの戦闘地域に「61万7000人が展開している」と述べていた。
ウクライナの海軍司令官は29日までに、欧米が供与する武器を使ってロシア領内を攻撃することが認められれば、早期に戦争に勝利できるとの認識を示した。英スカイニューズ・テレビが27日報じたインタビューで「必要な戦闘力や敵のインフラ破壊能力を手にできれば、それだけ早く勝てる」と語った。
欧米はロシアとの戦闘拡大を懸念し、供与した武器をロシア領内に使わないよう求めてきた。ウクライナが昨年6月に開始した反転攻勢は膠着し、東部ではロシア軍が優位との見方も出ている。

 

●プーチン氏「圧勝」へ運動加速 4日間で14行事、新年初日から始動 1/30
ロシアのプーチン大統領が3月の大統領選での「圧勝」に向けた選挙運動を加速させている。年明けの1月1日に早速始動し、ロシア各地を精力的に訪問。イベント出席などで自身を最大限に露出し、ウクライナ侵攻の正当性とロシアの発展を訴えている。ただ、再選が既定路線とは言え、ロシア有力メディアの報道はプーチン氏に極端に偏り、他候補との「不公平」な状況も鮮明だ。
「敵(ウクライナ)の占領地で起こったのは集団殺害であり、彼ら(ウクライナと米欧)が始めた戦争を止めようとしているのだ」
プーチン氏は26日、サンクトペテルブルクで、ウクライナ侵攻に参加した学生らとの懇談でこう述べ、侵攻の正当性を強調した。プーチン氏はその後の知事らとの会議で、「戦地に行った学生らが、将来の国のエリートになるべきだ」とたたえた。さらに28日にかけては、原子力砕氷船の建造開始や、ナチス・ドイツによる犠牲者の慰霊碑建立の式典などに参加。25日のカリーニングラード訪問を含めれば、4日間で計14の行事をこなした。
プーチン氏は、3月の大統領選に向け、侵攻に参加する兵士に新年初日から会うなど、異例の態勢で臨んでいる。大統領としての公務だが、選挙を意識した動きなのは明らかだ。
●ウクライナ軍総司令官、解任報道 大統領と摩擦続く 政府は情報否定 1/30
複数のウクライナメディアは29日、消息筋の話として、同国軍のザルジニー総司令官の解任が決定されたと報じた。一方、ウクライナ国防省は同日、「それは真実ではない」と交流サイト(SNS)に投稿し、同氏の解任を事実上否定。ウクライナメディア「ウクラインスカヤ・プラウダ」も同国のニキフォロフ大統領報道官がザルジニー氏の解任を否定したと伝えた。
ザルジニー氏を巡ってはこれまでも、ロシアとの戦争の方針などを巡ってウクライナのゼレンスキー大統領との見解の相違がたびたび指摘されてきた。
●プーチン氏大統領候補者に登録 「反戦」掲げるナジェージュジン氏は支持拡大 1/30
ロシアの中央選挙管理委員会が3月の大統領選挙の候補者としてプーチン大統領を登録しました。
ロシアの中央選挙管理委員会は29日、プーチン氏が提出した30万人以上の署名を有効だと判断し、プーチン氏を全会一致で「無所属」候補として登録しました。
ウクライナでの特別軍事作戦を継続するうえで、選挙を通じて強い国民の支持を得ていると示したい考えです。
政党から立候補する場合は、署名の提出は不要で、共産党や自由民主党などからすでに3人が登録されています。
プーチン氏は4人目の候補者となります。
一方、「反戦」を掲げる元下院議員のナジェージュジン氏が候補者として登録されるかに注目が集まっています。
ナジェージュジン氏は、ウクライナへの侵攻を「プーチンの致命的な失敗」だと指摘し停戦交渉を呼び掛けています。
各地で署名を希望するロシア人の長蛇の列ができるなど急激に支持を広げていて、期限の31日までに必要とされる10万件以上の署名を提出する予定です。
独立系メディアはロシア大統領府は「反戦」ムードの広がりを警戒し、署名の不備を理由にナジェージュジン氏の登録を拒否するよう干渉する方針だと報じています。
ナジェージュジン氏はすでに20万件以上の署名を集めていて、不備のない署名を厳選して手続きを行う方針ですが、登録が拒否された場合も、署名者たちに抗議集会の開催を呼び掛けるなどしてプーチン政権と対峙していく構えです。
●ロシア プーチン大統領 3月の大統領選挙 候補者に正式登録 1/30
ことし3月に行われるロシアの大統領選挙をめぐり、中央選挙管理委員会はプーチン大統領が必要な有権者の署名を集めたとして大統領選挙の候補者に正式に登録しました。プーチン氏の陣営は国民からの広い支持をアピールし、公式に選挙活動を開始するとしています。
ことし3月に行われるロシアの大統領選挙をめぐり、プーチン大統領は先月、立候補する意向を表明し、無所属の立場から立候補を目指して正式な候補者登録に向けた署名活動を行っていました。
プーチン氏の陣営は今月22日、立候補に必要な30万人以上の有権者の署名を提出し、これをうけて中央選挙管理委員会は29日、プーチン氏を候補者に正式登録しました。
プーチン氏の陣営は、実際には必要な署名数の10倍以上を集めたとして国民からの広い支持をアピールし、公式に選挙活動を開始するとしています。
大統領選挙にはこれまでにプーチン氏のほか、「ロシア共産党」のハリトノフ下院議員や「ロシア自由民主党」のスルツキー党首などあわせて4人の候補者が正式に登録されていますが、通算で5期目となるプーチン氏の当選が確実視されています。
また、選挙には、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、プーチン大統領の対応を批判するボリス・ナデジディン元下院議員が立候補する意向を表明して正式登録に向けた署名活動を行っていて、その動向が注目されています。
●バイデンの存在薄くなる3年目のウクライナ戦争 1/30
ゼレンスキーがアメリカに激怒した理由
日本ではあまり注目されなかったが、2024年1月16日、スイス東部ダボスで開催されていた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、ウクライナのゼレンスキー大統領が行った演説が国際的に大きな波紋を呼んだ。これまでにない強い調子でアメリカのバイデン政権を真っ向から批判したからだ。
キーワードは「エスカレーション」だ。それは、侵攻前も侵攻後もアメリカがつねにウクライナに言って来たのは、ロシアとの間で「エスカレーションを引き起こすな」という同じメッセージだった。
2022年11月、ロシアのミサイルを迎撃しようとしたウクライナ側の防空ミサイルとみられるものが逸れてポーランドに着弾した際も、アメリカ政府は関与していないウクライナに対し、「エスカレーションを引き起こすな」とお門違いの注意をしてきたという。
ゼレンスキー氏はアメリカからの、この「エスカレーションさせるな」発言について「プーチンに対し『あなたが勝ちますよ』と言っているようなものだ」と非難した。
では、なぜゼレンスキー氏がダボス会議という大舞台で、最大の軍事支援国であるバイデン政権に対しこれほどの非難をしたのか。
キーウの軍事筋によると、この背景には、ダボスでのバイデン政権からのある密かな提案がウクライナ側を激怒させたことがある。アメリカ政府高官がウクライナ側に対し、東部、南部の領土奪還を当面断念し、クリミア半島奪還に目標を絞れ、と言ってきたという。これにゼレンスキー氏が激怒したのだ。
ウクライナからすれば、2023年6月に開始した大規模反攻作戦が不発に終わった最大の要因は、アメリカがエスカレーション回避論でウクライナを押さえつける一方で、F16戦闘機など必要な武器を供与しなかったことだ。
キーウの希望通り、供与が実現していれば、2023年末までに全占領地を奪還できていたはずだ、との怒りが充満していた。
ダボスでのアメリカからの戦略変更提案が、これまで2年間溜まっていたバイデン政権への不満のガスに火をつけたようだ。
筆者は反攻開始以来、アメリカ政府とウクライナ側の間で続いていた反攻戦略をめぐる対立について、「ウクライナが奪還作戦実行で感じた『手応え』」などで伝えてきた。
東部ドンバス地方や南部ザポリージャ州、ヘルソン州で反攻作戦を続けているウクライナ軍に、南部に集中するようアメリカ軍が求めたのに対し、ウクライナ軍は東部奪還の失敗につながると一貫して拒否してきた経緯がある。
アメリカの戦略を疑い始めたウクライナ
実際問題として、ロシア軍はこの間、プーチン氏が厳命していた東部ドンバス地方の完全制圧のため猛攻を続けている。ウクライナ軍がこれを跳ね返すことができたのは、東部で十分な兵力を維持してきたためだとの自負がある。逆に言えば、アメリカによる戦略提案への懐疑があるのだ。
しかし、今回バイデン政権が打診してきたクリミア集中案は、キーウ側に対し、東部のみならず、南部の領土奪還作戦の延期を迫るものだった。これによって、ゼレンスキー政権のバイデン政権への不信感が一層深まった。
不信感を深めさせる材料はこれ以外にもあった。これまでウクライナの防衛支援をめぐる関係国会合で決まり、アメリカ国防総省が行うはずだった支援がホワイトハウスの意向で断念させられていた事実が漏れてきたからだ。
ウクライナの立場に寄り添う姿勢が目立っていたオースチン国防長官が長射程の地対地ミサイル「ATACMS」(エイタクムス)を供与するという提案を、ホワイトハウスが却下していたという。
先述の軍事筋は、こうした動きについて「アメリカ政権には統一された司令部は存在しない。自分たちの戦争とは思っていない」と指摘した。さらに「そろそろ戦争をやめたらどうか、とキーウに言ってくる準備を始めたのだろう」とも見る。
アメリカ有力メディアの中には、アメリカ側の新戦略案として、2024年は領土防衛に徹し、占領地奪還の攻勢に転じるのは2025年にすべきとの案があることを報じている。ホワイトハウスがウクライナ側に圧力を掛けるために意図的にリークしたのだろう。
しかし、2024年11月のアメリカ大統領選でバイデン氏再選が危ぶまれている状況で、2025年に攻勢に転じるとの戦略をウクライナに提示したとしても、真剣に受け入れられるはずはない。むしろウクライナには無責任な提案と映る。
なぜなら2025年1月にホワイトハウスの主になるのは、プーチン氏と良好な個人的関係があるとされるトランプ氏との見方が根強いからだ。
バイデン政権は約610億ドル(約9兆円)のウクライナ支援を含む緊急予算案の承認を議会に求めているが、共和党の反対で審議は難航している。共和党の背後にはトランプ氏の存在があるとも言われている。
欧州「自分たちでやるしかない」
そんなアメリカに冷ややかな視線を向け始めたのはウクライナだけではない。欧州も同様だ。
トランプ政権が再登場した場合、北大西洋条約機構(NATO)脱退の可能性を懸念している欧州では、ウクライナ対応を含めた今後の欧州全体の安全保障に関して、アメリカがもはや頼りにならないので自分たちでやるしかない、との機運が高まっている。
この動きを象徴するのが、イギリスによるウクライナとの2国間の安保協定の締結だ。各国がウクライナとの間で2国間の安保協定を締結する大方針自体は2023年7月のリトアニアのビリニュスで行われたNATO首脳会議で決まっていた。
この首脳会議では、ウクライナのNATO加盟に向けた明確なメッセージが出せなかったため、ウクライナ側の不満をなだめる代替策として、2国間の安保協定締結が決まっていた。
2024年1月、この安保協定の第1号として、キーウを訪問して調印したのがイギリスのスナク首相だ。ウクライナの安全保障に10年間コミットすることをうたったこの協定の肝は、将来ウクライナと停戦したロシアが停戦を破って、再び侵攻してきた場合の軍事支援を確約したことだ。
今後、ウクライナがロシアとの間で停戦交渉をするかどうかはわからない。しかし、この保障により、ウクライナは後顧の憂いなく、何らかの形でロシアとの停戦協定を結ぶ、という選択肢を確保することになる。
この2国間協定の交渉はドイツ、フランスとも行っている。仮にドイツとフランスも追随した場合、ウクライナの安全保障に与える意義は大きい。
NATOに未加盟のウクライナを支援するうえでの現在の法的根拠は、侵攻が国連憲章違反であるという1点のみだ。この2国間の安保協定体制が各国に広がれば、ウクライナを守る国際的条約体制がNATO加盟までの間とりあえずできることになる。
今回の安保協定の締結により、イギリスは欧州でウクライナ支援での明確なリーダーとなった。ワシントンと電話で協議することが多かったウクライナ政府高官が、今はロンドンに電話して相談するケースが目立って増えている。
ここで問題は、現時点ではウクライナにとって最大の支援国であるアメリカの動向だ。バイデン政権は2023年末までの段階でキーウとの間で安保協定の交渉を終える予定だったが、軍事筋によると、中断してしまったという。
欧州安保でのアメリカへの不安
こうした事象が指し示すことは何か。それは、欧州安保の保障者としてのアメリカの地位および信用度の低下である。
そのため欧州では、2国間安保協定以外にも「自らの平和は自らの手で守る」という覚悟を示す行動が広がっている。象徴的なのが2024年1月末にバルト3国やポーランドを主な舞台として始まった冷戦終結以来で最大規模といえる軍事演習だ。
ロシア軍による侵攻を想定したもので、9万人規模の部隊が参加する。NATO演習である以上、アメリカ軍部隊も参加するが、想定といい、演習場所といい、極めてリアルであり、従来の演習以上の危機感が伝わってくる。
2024年に入り、欧州各国の軍部からはロシアによる欧州攻撃の可能性を警告する発言が相次いでいる。ドイツのピストリウス国防相は、ウクライナ戦争がバルトなどに広がる可能性を指摘した。
イギリス軍高官も、現在のウクライナ情勢が第1次世界大戦やナチス・ドイツによる欧州侵攻の前夜に似ていると指摘。イギリス軍の兵力を倍増する必要性に言及した。
しかし、バルト3国やポーランドはウクライナと異なり、NATO加盟国である。NATO条約第5条には、加盟国の1つに対する攻撃は全加盟国への攻撃とみなす、とある。この条項を踏まえ、これまではロシアがアメリカとの直接の開戦を恐れて、バルト3国などを攻撃する事態はありえないとみられていた。
しかし、アメリカの支援を受けたウクライナの反攻をロシアが力で食い止めたことを受け、欧州の認識は大きく変わった。自国の軍事力に自信を持ったプーチン氏がNATO加盟国であるバルト3国でさえも侵攻の対象にするとの懸念が出始めたのだ。
トランプ政権再登場の可能性があるアメリカが、今後バルトが攻撃されても、ロシアとの戦争で自国の安全まで犠牲にする形で本当に守ってくれるのか、確信を持てなくなったからだ。
一方でウクライナにとって、2024年における最大の目標は何か。軍事面ではゼレンスキー政権が、バイデン政権の慎重姿勢をよそに改めて攻勢を掛ける可能性が相当ある。春には地上作戦開始に不可欠だったF16部隊がウクライナに到着する可能性があるからだ。
F16があれば、制空権を獲得し、南部などで地上作戦を開始できるようになる。目立った戦果を示すことで、ウクライナ軍の反攻能力を国際的に示すと同時に、ウクライナへの軍事支援継続に対する支持論を米議会でも高める政治的効果を狙うのではないか。
外交面でゼレンスキー政権の最大の目標は、2024年7月のワシントンでのNATO首脳会議で、ウクライナとの間でNATO加盟交渉に入ることが決まることだ。
ウクライナNATO加盟で米欧で論争も
2023年12月、欧州連合(EU)は、ブリュッセルで開いた首脳会議でウクライナの加盟交渉開始で合意し、EU加盟というウクライナの悲願実現へ道を開いたばかり。キーウとしては、NATOとの間でも加盟交渉開始にこぎつけ、正式な西側のメンバー入りを大きく前進させることを目指している。
このワシントンでの首脳会議で、バルト3国や北欧は交渉入りを支持するとみられる。一方でアメリカは反対すると予想されている。ウクライナへの寄り添い方をめぐり、米欧間で論争が起きる可能性も否定できない。
ロシアと北朝鮮との軍事協力の拡大も大きな懸念要素として急浮上してきている。先述のダボス会議では、侵攻をめぐりウクライナを支援する欧州諸国と、中立的姿勢を保つグローバルサウス(新興・途上国)の国々との間で、本音ベースでの議論も始まった。
このように2024年は単にウクライナ戦争のみならず、欧州安保や国際秩序全体をめぐる分岐点となる1年になりそうだ。2023年は先進7カ国(G7)議長国だった日本も、2国間の安保協定の締結も含め、引き続き積極的に関与しなければならない。
●ハンガリー、承認に向け譲歩か EUのウクライナ支援 1/30
ハンガリーは29日、これまで拒んできた欧州連合(EU)のウクライナに対する500億ユーロ(約8兆円)の支援案の承認に前向きな姿勢を示した。EUは2月1日の緊急首脳会議でこの支援案の合意を目指しており、ほかの加盟国からの圧力が高まるなか、ハンガリーが譲歩に転じた可能性がある。
一方、ハンガリーのシーヤールトー外相は29日、ウクライナ西部ウジホロドを訪れ、同国のクレバ外相と会談した。両国は関係改善に向け首脳会談の開催を目指す方針で一致した。
ハンガリーのオルバン政権はロシアのプーチン政権と近いとされる。ロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナを支援するEUの足並みを乱してきた。昨年12月のEU首脳会議では500億ユーロ(4年間)のウクライナ支援を含む予算の見直しに反対。議決には全会一致が必要なため棚上げになった。
支援案は2月1日のEU首脳会議で再び協議されるが、オルバン首相の側近は29日、X(ツイッター)で、EUに対し27日に妥協案を示したことを明かした。そのうえでハンガリーは「ウクライナのためにEU予算を使うことに前向きだ」と表明した。
英紙フィナンシャル・タイムズは28日、ハンガリーが首脳会議で承認を拒んだ場合の報復措置が記されたEUの内部文書について報じた。文書には、ハンガリーに対するEU予算支出を長期的に停止する方針を公表することなどで市場の動揺や通貨の下落を誘い、同国経済に打撃を与える案がまとめられていた。
EU高官は「報じられた文書は加盟国間の実際の議論や計画を反映したものではない」としているが、EU内ではロシア寄りの姿勢を崩さないハンガリーへの強硬姿勢を求める声が強まっているとみられる。
EUの欧州議会は18日、昨年12月の首脳会議でウクライナへの支援案を拒んだハンガリーに対し「EUの戦略的利益を侵害する」などと批判する決議を採択。加盟国で構成する欧州理事会に対し、EU条約第7条に定められた加盟国の投票権停止の適用について判断するよう求めている。
●ロシアのタンカーが流氷に囲まれ航行不能 早朝から救助活動再開 1/30
29日午前3時40分ごろ、ロシア籍のタンカー「オストロフ サハリン」が、北海道・枝幸沖約24キロの領海外で流氷に囲まれて航行不能になっていると、第1管区海上保安部に通報がありました。
通報を受け、29日午前8時に羅臼海上保安署から砕氷できる巡視船「てしお」がタンカーの救助に向かいましたが、途中で日没となり活動を休止していました。
稚内海上保安部によりますと「てしお」は、30日午前7時ごろにタンカーから約70キロ地点で活動を再開し、救助に向かっています。
また、ロシア籍のタンカーの船主がロシア側にも救助を求めていて、サハリン州コルサコフからも砕氷船が向かっているということです。
●“ガス欠状態”のウクライナ軍、M109自走榴弾砲の弾薬は「発煙弾のみ」 1/30
前線に広がる砲弾不足
[ロンドン発]「この冬、ウクライナ軍は目に見えて“ガス欠状態”に陥っている。最近の報道ではウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムート郊外に配備されたM109 155mm自走榴弾砲A6(パラディン)砲の弾薬は発煙弾のみだ。私たちが最後に現地に赴いた昨年11月当時、砲弾不足は前線全体に広がっていたが、状況は悪化の一途をたどっている」――。
米国の戦略・国防・外交に関する分析と討論のオンライン・プラットフォーム「ウォー・オン・ザ・ロックス」に、ウクライナ戦争に詳しい米超党派シンクタンク「カーネギー国際平和基金」のマイケル・コフマン、ダラ・マシコット両上級研究員、外交政策研究所のロブ・リー上級研究員という気鋭の3人が共同で寄稿(1月26日付)している。
満を持して昨年6月に始まったウクライナ軍の反攻は完全に不発に終わり、長期的に見た場合、現状維持も難しい状況だ。国内軍需産業を動員し、戦線の一部で主導権を奪い返したロシアは今年、人的にも、物的にも優位に立つ。一方、ウクライナは西側からの弾薬供給が著しく減少したため、戦線全体が極度の砲弾不足に陥っている。
今年11月の米大統領選でドナルド・トランプ前大統領が返り咲き、西側の支援が大幅に減った場合、ウクライナは疲弊し、弱者の立場でウラジーミル・プーチン露大統領との「停戦交渉」に応じざるを得なくなる。
しかしロシア軍も攻撃には敵の3倍超の兵力が必要という「攻撃3倍の法則」に阻まれ突破口を開けず、東部ドンバスも掌握できない膠着状態が続く。
ロシアの国防費はGDPの6%、「実際には8%」との観測も
コフマン氏らは「暗い現実にもかかわらず、西側の十分かつ適切な支援があれば、ウクライナは戦闘力を回復し、来年には優位性を取り戻せる可能性がある。この1年を賢明に使い、根本的な問題に対処し、反攻が不発に終わった教訓に学べば、ウクライナ軍にはまだロシア軍を撃退するチャンスは残されている」と望みをつなぐ。
ロシア経済は夥しい財政出動で昨年3%成長の世界経済を上回る3.5%成長を達成できるとロシア政府は胸を張る。原油価格が1バレル=80ドル前後なら「中国のガソリンスタンド」と蔑まれてもプーチンはびくともしない。戦争資金の捻出、国民生活の維持、マクロ経済の安定を達成できる。それが資源国の強みであり、プーチンとアドルフ・ヒトラーとの違いだ。
カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレクサンドラ・プロコペンコ非常勤研究員は米国際政治経済ジャーナル「フォーリン・アフェアーズ」に寄稿(1月8日付)し、ロシアの経済成長の3分の1以上がウクライナ戦争によってもたらされ、国防関連産業は2桁成長していると分析している。
ロシアは今年、国防費を昨年の6兆4000億ルーブル(約10兆6000億円)から10兆8000億ルーブル(約17兆8000億円)に増強する。国内総生産(GDP)の6%で、実際は8%に達している可能性があるとプロコペンコ非常勤研究員は指摘する。旧ソ連がアフガニスタンに侵攻した際、国防費はGDPの18%に達し、ソ連崩壊の一因となった。
32万1000人の死傷者を出したロシア軍
ある西側政府高官は英紙デイリー・テレグラフ(1月26日付)に「われわれはロシアがウクライナ戦争にGDPの40%を費やしているというシナリオの中にいる」と証言している。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は昨年12月、「1530両の新型戦車、改良型戦車と2518両の歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車が陸軍に提供された」と報告している。
ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月以降、戦車、歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車の生産台数はそれぞれ560%、360%、350%も増加した。西側政府高官は米紙ニューヨーク・タイムズ(昨年9月13日付)にロシアは年間200万発の砲弾を製造する勢いだと証言している。西側情報機関の当初見積もりの2倍、欧州の弾薬生産量(現在30万発)の7倍近くだ。
2700万人の死者を出しながら大祖国戦争を戦った旧ソ連最高指導者ヨシフ・スターリンは大砲を「戦争の神」と呼んだ。ロシア製の武器弾薬は西側に比べ劣悪でも、第一次大戦並みの塹壕戦では量は質を凌駕する。ロシア軍はウクライナ戦争で32万1000人の死傷者(英BBC放送)を出しているが、大祖国戦争に比べると“かすり傷”程度なのかもしれない。
ロシアはウクライナの防空システムを破るため「ならず者国家の枢軸」を形成する北朝鮮、イランから弾道ミサイルやカミカゼドローン(自爆型無人航空機)を調達する。西側の制裁で精密誘導兵器の製造に使われる先端技術には厳しい貿易管理措置がとられているが、ロシアのエネルギーが喉から手が出るほどほしい第三国を経由した抜け道はいくらでもある。
ウクライナ軍も堅牢な防御帯構築を
「ロシアの優位性は今年から来年にかけて強まり始めるだろう」(コフマン氏ら)
そのためウクライナ軍は約1000キロメートルの前線にロシア軍に劣らぬ堅牢な防御帯を構築することが必須だ。地下壕やトンネルを含むより強固な防御帯は、大砲や滑空弾におけるロシアの優位性を削減する。
ウクライナ軍は西側から多種多様な装備を受け取っており、大砲だけでも14種類ある。戦車もドイツ製レオパルト、英国製チャレンジャー、米国製M1エイブラムス、さまざまな歩兵戦闘車両、耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)があり、ロジスティクスとメンテナンスは「悪夢のよう」(同)という。3Dプリンターを使った修理技術を導入する必要がある。
ウクライナ議会は45万〜50万人を動員する提案を拒否した。ウクライナは18〜60歳の男性の出国を禁止しているが、何万人もの徴集兵が不法に国境を越えたり、偽造書類を使って海外に出国したりしている。「ウクライナ軍の平均年齢が40歳代にまで上昇し続ければ、攻撃作戦を行うのに苦労するだろう」(コフマン氏ら)
ウクライナは西側と協力し、訓練プログラムを拡大、ドローンや電子戦システムの生産を大幅に増やさなければならない。ウクライナは西側の情報支援によって向上した長距離攻撃能力を活用し、はるか後方のロシアの軍基地や重要インフラを標的にできる。欧州連合(EU)加盟国は今年末までに少なくとも年間130万発の砲弾を生産できる能力を獲得する見通しだ。
「停戦交渉」という罠
米メディア、ブルームバーグ(1月25日付)はクレムリンに近い2人の話として、プーチンが間接的なチャンネルを通じて米国に接近し、ウクライナの安全保障に関する取り決めを含め話し合いに応じる用意があることをほのめかしていると報じた。支援疲れが濃い米欧にプーチンは「停戦交渉」という罠を仕掛けている。
ニューヨーク・タイムズ紙(昨年12月23日付)もクレムリンに近い元ロシア政府高官2人とプーチンの特使からメッセージを受け取った米国政府や国際機関高官の話として、プーチンが昨年9月以降、仲介者を通じ、現在の前線に沿って戦闘を凍結する停戦に前向きだとほのめかしていると報じている。
「永世大統領」を目指すプーチンは今年3月、大統領選を迎える。ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターによると、プーチン支持率は85%と衰えることを知らない。「特別軍事作戦」を支持する世論も74%と高く、回答者の大半は、作戦は成功裏に遂行されていると信じている。しかし停戦交渉を支持する人も増えており、昨年11月には57%に達した。
ほとんどのロシア人はプーチンが大統領であり続けることを望んでいる。プーチンがウクライナとの敵対行為の終結を宣言した場合、大多数の国民は支持する用意があるが、その条件として占領地を維持することが挙げられている。
「交渉」と「停戦」はプーチンにとって力を蓄え、態勢を立て直す絶好の機会となる。
英陸軍参謀総長「『市民軍』を創設する必要がある」
人口も、兵員も、武器弾薬もウクライナを凌駕するロシアに時間は有利に働く。「返り咲いたら24時間以内にウクライナ戦争を解決する」と豪語するトランプ氏が野党・共和党予備選で連勝し「第2次トランプ政権」の悪夢が現実味を増す。そんな中、欧州の閣僚、軍幹部、北大西洋条約機構(NATO)高官から対ロシア戦争への備えを呼びかける発言が相次ぐ。
パトリック・サンダース英陸軍参謀総長は24日、「英国が紛争に巻き込まれる場合に備え、市民を訓練して装備を整え『市民軍』を創設する必要がある。3年以内に正規軍、予備役、有事の際に呼び戻す元軍人の戦略的予備役を含む12万人規模の陸軍を持つべきだ」と訴えた。英陸軍の規模は1950年の70万人から激減、今後2年以内に7万人を下回る恐れがある。
グラント・シャップス英国防相は15日、「平和の配当の時代は終わった。5年以内にロシアや中国、イラン、北朝鮮を含む複数の脅威に直面する恐れがある」と演説。ノルウェー軍トップのエイリク・クリストファーセン大将は「ノルウェーは3年以内に起こりうるロシアとの戦争に備え、国防支出を拡大する必要がある」と警告した。
ボリス・ピストリウス独国防相は「5〜8年の間にプーチンがNATOの同盟国を攻撃する可能性がある」と指摘。ドイツ軍の2万人増員を図るため外国人採用も検討する。独国防省は来年にもロシアと西側が対峙するシナリオを描く。スウェーデンのカール・オスカー・ボーリン民間防衛相は「わが国で戦争が起こる恐れがある」と市民や社会に備えを呼びかける。
NATOのロブ・バウアー軍事委員長は「好むと好まざるとにかかわらず、社会全体が戦争や紛争に巻き込まれる。国民も自分たちが解決策の一部であることを理解しなければならない。今後20年何も起きないわけではない。平和は当たり前ではなくなった」と釘を刺した。欧州はウクライナ支援と国防費の拡大(最低でもGDPの2%)を実現することが不可欠だ。
●上川外相 外交演説 “法の支配や人間の尊厳守られる世界に” 1/30
上川外務大臣は、衆議院本会議で外交演説を行い、ロシアによるウクライナ侵攻などを踏まえ、「法の支配」や「人間の尊厳」が守られる世界を実現するための外交を推進していくと訴えました。
演説の冒頭、上川外務大臣は「ロシアによるウクライナ侵略によって国際秩序が重大な挑戦にさらされている」と指摘しました。
そのうえで「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、『人間の尊厳』が守られる安全・安心な世界を実現するための外交を推進していく」と訴えました。
そして、今月、ウクライナを訪問したことに触れ「力による一方的な現状変更を決して認めてはならない」として、ロシアへの制裁とウクライナ支援を強力に進めるとともに、2月、東京で開催する日ウクライナ経済復興推進会議に向けて調整を加速する考えを示しました。
中東情勢については、パレスチナのガザ地区の人道状況の改善に取り組むとともに、イスラエルとパレスチナ国家が共存する「2国家解決」の実現に向け、積極的に貢献していく方針を示しました。
また、日米同盟は外交・安全保障の基軸だとして、抑止力と対処力の一層の強化に取り組むとしています。さらに「自由で開かれたインド太平洋=FOIP」の実現を最優先課題の1つに掲げ、同盟国や同志国などと連携し、協力を広げるとしています。
一方、中国との関係では「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとともに、建設的かつ安定的な関係を双方の努力で構築することが重要だとしています。
また、台湾海峡の平和と安定も重要だと指摘しています。
核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対しては、ロシアとの軍事協力に深刻な懸念を示しつつ、日米韓3か国をはじめ、国際社会で緊密に連携して対応していくとしています。
このほか、紛争の予防や和平に女性が主体的に参画することが重要だとする「WPS」の取り組みを推進していく考えも示しました。
●米、武器輸出額が過去最高 35兆円、前年度比16%増 1/30
米国務省は29日、2023会計年度(22年10月〜23年9月)に承認した外国政府への武器輸出総額が前年度比約16%増の約2384億ドル(約35兆円)に上ったと発表した。ロイター通信によると、過去最高。同盟国などがロシアの侵攻を受けるウクライナへ提供した武器を米国から補充する動きを強めたことなどが影響した。
米国の武器輸出は、米政府が窓口となる「対外有償軍事援助(FMS)」と、外国政府と米企業が直接やりとりする商業販売の二つの方法に主に分かれている。
国務省によると、FMSは前年度比55.9%増の約809億ドル。日本へのE2D早期警戒機の売却などが含まれる。
●無人機活用で戦闘優位に ゼレンスキー大統領 1/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は29日の声明で、ロシアとの戦闘では無人機を活用した作戦で優位に立つ必要があるとの考えを示した。「無人機で成功を収めれば、より多くの兵士の命が救われることになる」と強調した。ウクライナ侵攻の前線では無人機による偵察や攻撃の成否が、戦局を左右する鍵となっている。
ゼレンスキー氏は昨年12月、無人機の生産能力を強化して今年には100万機を製造する方針を表明していた。
今月29日公開のドイツ公共放送ARDのインタビューでは、米議会でウクライナ軍事支援の予算審議が停滞していることに関し、「与野党の大部分は支持している」と述べた。
●ハンガリーとウクライナ、EU首脳会議控え「建設的」協議 1/30
ウクライナを訪問中のハンガリーのシーヤールトー外相は29日、同国のクレバ外相やイエルマーク大統領府長官らと会談した。両国はウクライナのハンガリー系住民の権利を巡る問題で協力することで合意した。
シーヤールトー氏は会談後に「ハンガリーとウクライナの信頼関係の回復に向けて、心強い一歩が踏み出された。ただ、まだ長い道のりがあり、多くの作業が必要だ」と述べた。
ハンガリーは、ウクライナのハンガリー系住民が母国語を使う権利などを侵害されていると主張しいる。クレバ氏は、会談は率直で建設的なものだったと評価し、この問題に関する特別委員会を設置することで合意したと説明した。
2月1日の欧州連合(EU)首脳会議では、500億ユーロのウクライナ支援について協議する。ハンガリーは12月のEU首脳会議で唯一ウクライナ支援に反対した。
外相会談では、支援策に対するハンガリーの姿勢に変化はなかったと見られる。シーヤールトー氏は、これは二国間の問題ではなく、EUで議論される問題だと述べた。 
●岸田首相 “ウクライナ経済復興推進会議成功へ万全の準備を” 1/30
ウクライナ政府の関係者を2月東京に招いて開く「日・ウクライナ経済復興推進会議」を前に、岸田総理大臣は日本の貢献を国際社会に示す重要な機会になるとして、成功に向けて準備に万全を期すよう関係省庁に指示しました。
ロシアによる侵攻が続くウクライナを強力に支援していくため、日本政府は2月19日に現地から政府関係者を東京に招いて「日・ウクライナ経済復興推進会議」を開く予定で、これを前に30日、総理大臣官邸で関係省庁による準備会合が開かれました。
この中で、岸田総理大臣は「会議は日本の貢献を改めて国際社会に力強く示す重要な機会だ。ウクライナの復興需要はばく大で、日本の戦後復興や震災復興の経験のほか、企業の技術や知見に対する期待は大きい」と述べました。
そのうえで「官民が一体となり、オールジャパンで支援していくことが重要だ」と述べ、企業や経済団体とも連携しながら成功に向けて、準備に万全を期すよう指示しました。
また会合では、日本がウクライナを支援する国際的な意義などをより多くの国民に知ってもらう必要もあるとして、周知や広報活動を強化していくことを確認しました。
●ハンガリーとウクライナが早期首脳会議で一致 外相会談、関係修復を模索 1/30
ハンガリーのシーヤールトー外相は29日、ロシアに侵略されたウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、同国のクレバ外相やイエルマーク大統領府長官らと会談した。イエルマーク氏によると会談では、ハンガリーのオルバン首相とウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談を可能な限り早期に実現させる方向で両国が一致した。
会談では、ウクライナ国内のハンガリー系少数民族の権利保護に向けた委員会を設置することでも合意した。ハンガリー政府は少数民族が母語の使用を制限され、ウクライナ語教育を強制されているなどと主張し、ウクライナ政府に対応を求めていた。
会談では、親露姿勢をとるハンガリーのオルバン政権が、欧州連合(EU)による500億ユーロ(約8兆円)規模のウクライナ支援を含む予算見直しに反対している問題に関しても話し合われたとみられる。
●ロシアがベラルーシに核を配備した意図と狙い 国際情勢を意識か 1/30
ウォールストリート・ジャーナルが1月7日付けで‘Putin Sends Nukes to Belarus’(プーチンがベラルーシに核を配備)と題する社説を掲載している。概要は次の通り。
ベラルーシのルカシェンコ大統領が先月(2023年12月)明らかにしたところによれば、ロシアはベラルーシへの戦術核兵器の配備を完了した。
米国の政府関係者はこの核の移転に関する情報につき口を閉ざしており、ルカシェンコによるブラフの可能性もある。しかし、サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は、昨年6月にプーチン大統領は「ベラルーシへの戦術核兵器の配備に向けた措置」を取り始めたと述べており、同7月に国防情報局(DIA)はプーチンのベラルーシへの核配備を「疑う理由はない」と述べた旨CNNは報じている。
ロシアがウクライナへの全面侵略を開始して間もなく、ベラルーシは非核を定めた憲法第18条の規定を削除する憲法改正を行った。ベラルーシによれば戦術核兵器を扱うための訓練がロシアによって行われた。2023年夏、ルカシェンコは、ロシアによる核兵器の移転が開始されており、ベラルーシのスホイ機に核兵器が搭載された、と述べた。
米国科学者連盟(FAS)の分析によれば、リトアニア国境から40キロメートルしか離れておらずベラルーシ空軍がSu-25攻撃機を配備している唯一の航空団が所在するリダ空軍基地が、ロシアによる新たな「核共有」の最もありそうな候補地である。
ルカシェンコによる核配備完了の発言は、ロシアが西側への脅しを強めている中でなされた。プーチンは最近、北大西洋条約機構(NATO)がフィンランドを同盟に「引きずり込んだ」ので、フィンランドとの間で、問題が生ずるだろうと述べた。その後、ロシアは、フィンランド国境において、移民を武器として送り込んだ。
11月には、ロシアの安全保障会議のメドベージェフ副議長は、ポーランドは「敵」であり、国家を失うこととなりかねないと述べた。ロシアはNATO領域に近いウクライナへの攻撃を継続している。
ロシアはベラルーシの軍事的統合を進めている。ロシアはS-400地対空ミサイル・システム、イスカンデル短距離ミサイルをベラルーシに配備している。プーチンによる挑発的なベラルーシへの核の移転は、ウクライナにおいて何が問われているかを再度明らかにするものである。

上記の社説は、ベラルーシのルカシェンコ大統領が昨年12月26日に配備完了を記者会見で述べたことを踏まえて、ウクライナ侵略後のロシアの動きの一つであるベラルーシへの核配備について述べたものである。
各種報道に基づき、本件についてのこれまでの動きを時系列で整理すると次の通りとなる。
・2022年2月24日 ロシアのウクライナ侵略開始
・2022年2月27日 ベラルーシ、国民投票で「非核地帯となり、中立国となる」を定めた憲法の規定の削除を可決
・その後 ロシアからベラルーシへ核搭載可能なイスカンデル短距離ミサイルの供与、ベラルーシ空軍機を核搭載可能に改修
・2023年3月25日 プーチン大統領がベラルーシに戦術核を配備することとした旨表明
・2023年5月25日 ロシアからベラルーシへの核配備についての協定に両国が調印(ロシアが管理と使用判断の権限を持つ)
・2023年6月中旬 貯蔵施設の整備などの受け入れ準備が完了し、配備開始
・2023年10月 配備完了、実戦運用が可能な状況となる(12月にその旨が明らかとされた)
上記の社説はロシアの意図・狙いについてあまり明確に述べていないが、いくつかの可能性が考えられる。(1)フィンランド、スウェーデンのNATO加盟の動き、ポーランドをはじめとする隣接国での軍備増強など(ロシアから見ての)安全保障環境の悪化に備える。(2)ウクライナの戦況を見据えて核のオプションを増やす。(3)今後、いずれかの段階であり得る西側との交渉におけるバーゲニング・チップとする、といったことである。
上記の三つの意図・狙いは相互排他的なものではなく、おそらくそのすべてを視野に入れたものであろうが、(1)の要素が一番重要だったのではないかと考えられる。また、当然のことながら、「米国が欧州のNATO同盟国に核兵器を配備しているのだから、ロシアが同盟国のベラルーシに核兵器を配備して何が悪い」という考えもベースにあったであろう(実際に、米国が欧州のNATO同盟国との間で行っている「核共有」(核貯蔵)と同様の運用が想定されているようである)。
核の拡散となってしまうのか
ソ連が15カ国に分裂した際、ベラルーシは、ウクライナ、カザフスタンとともに、ソ連の核兵器が領土内に残されていた国の一つとなり、その非核化が大きな課題となったが、三カ国の中でも、どの国よりも、ロシアに協力的に行動し、核兵器をロシアに返送し、非核化を受け入れた。1990年7月のベラルーシ最高会議において、「主権宣言」が採択された際、「非核地帯となり、中立国となる」ことを目標とすることが規定され、その趣旨が94年に採択された新憲法にも規定された(2022年に削除されたのはこの規定)。
今回の措置は、ロシアが保有、管理する核兵器がベラルーシに配備されるという形をとっているので、ベラルーシ自身の非核化とは異なった次元のものである。核兵器不拡散条約(NPT)は非核兵器国が核を受領、製造、取得してはいけない旨規定しているが、この配備自体がベラルーシのNPT上の義務違反となるわけではない。
一方、非核化を進めた1990年代との相違、同じく非核化を行いロシアの侵略を受けたウクライナとの相違が浮かび上がる状況となっている。また、これは「核兵器復権の時代」を示唆するもう一つの事例であり、核の拡散傾向を助長する動きであることも否定できない。
ルカシェンコは、1994年以来ベラルーシの大統領の座にあるが、2020年8月の大統領選挙以来、プーチンへの依存を強めているとみられている。ベラルーシに配備された核兵器の運用は基本的にプーチンの判断でなされると考えられる。 なお、当面、ロシアは核兵器使用を考慮しなければならないほど追い詰められた状況にあるわけではないだろう。

 

●「日本、勇気あれば切腹を」…プーチン最側近のぞっとする警告 1/31
ロシアのプーチン大統領の最側近メドベージェフ国家安全保障会議副議長が日本に向けてぞっとする警告メッセージを送った。
メドベージェフ副議長は30日、自身のX(旧ツイッター)で岸田文雄首相の施政演説に言及した。
岸田首相は施政演説の外交関連部分で「日ロ関係は厳しい状況にあるが、わが国としては領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持する」という従来の立場を改めて強調した。
これに対しメドベージェフ氏は「北方領土に対する日本人の感情など知ったことではない。これらは紛争地域でなくロシア」とし、過去の日本の武士の写真を掲載した。そして「悲しむサムライは切腹という伝統的なやり方で人生を終わらせることができる。もちろん勇気があればだが」と刺激的な投稿をした。
メドベージェフ氏はこの掲示物で、日本のクリル諸島(北方領土と千島列島)領有権主張を黙殺すると同時に、米国と友好的な関係を継続する日本を皮肉った。また「(日本は米国が原爆を投下した)広島と長崎を完全に忘れて米国と『フレンチキス』をすることをはるかに好むのが明らか」と書いた。
●プーチン氏6年年間の給与収入1億円超 中央選管に収入資産報告 1/31
ロシア中央選挙管理委員会は30日、今年3月の大統領選候補者として正式登録された現職プーチン大統領の最近6年間の収入やその他の資産報告を公開した。2017〜22年の収入は大統領としての給与など約6760万ルーブル(約1億1100万円)だった。
銀行預金も計約5440万ルーブルあり、双方を合わせると約1億2200万ルーブルになる。
ほかに自動車3台や、出身地の北西部サンクトペテルブルクに77平方メートルのアパートと18平方メートルの駐車場を保有していると報告されている。
プーチン氏の選挙対策本部の広報担当者はコメルサント紙に対し「資産の額は大統領職の収入に見合ったものだと思う」とコメントした。
大統領選ではプーチン氏のほかに共産党のハリトノフ下院議員ら3人が候補者として正式登録され、同様の資産報告を提出している。
●プーチン大統領、早期に北朝鮮訪問を表明 1/31
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、1月16日にロシアで北朝鮮の崔善姫外務大臣と会った際、平壌を「早期に」訪問する意欲を表明したと、北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は1月21日に報じた。
実現すれば、ロシアの大統領による20年以上ぶりの北朝鮮訪問となる。
ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は1月22日、ロシア政府は、金氏から招待を受けての北朝鮮訪問が「近い将来に」行なわれることを望むが、日付はまだ決まっていないと述べた。
●飛行機か船でしか行けない、隠されたプーチンのもう1つの豪邸が初公開 1/31
このドローン映像は、ロシアの反政府派によってイギリスで運営されているシンクタンク「ドシエ・センター」が、自らのユーチューブ・チャンネルで公開したものだ。映像には、ロシア北西部に位置するカレリア共和国の、フィンランドとの国境近くにある豪華な邸宅の姿が捉えられている。ドシエ・センターでは、この邸宅はプーチンが所有するものだと主張している。
見つからない場所
プーチンは、公式・非公式を含めて、ほかにも多くの不動産を保有している。公式の邸宅としては、モスクワ郊外のノボ・オガリョボにある大統領官邸や、黒海沿岸の保養地ソチにある夏用の別邸「ボチャロフ・ルチェイ」などがある。クレムリン自体も、プーチンの官邸として記載されているが、実際には居住していない。
アメリカ財務省外国資産管理局(OFAC)によると、プーチンは、これらの官邸とは別に、ロシアのノブゴロド州に、「バルダイ」と呼ばれる邸宅を保有しているという。また、現在ロシア国内の刑務所に収監されている反体制活動家のアレクセイ・ナワリヌイは2021年、大統領が「プーチンの宮殿」と呼ばれる邸宅を黒海沿岸に保有していると暴露した。しかし、プーチンはこの10億ドル(約1470億円)の「宮殿」の保有を否定したとBBCは報道している。
カレリア州の大邸宅については、今回新たなドローン映像が浮上するまで、未確認の写真が多少出回る程度であり、その姿が公の場で紹介されることはほとんどなかった。それは、ラドガ湖畔のマリアラフティ湾という、この邸宅がある場所が、たどり着くのが難しいところであるという理由からだ。ドシエ・センターによれば、この地所は、船か飛行機で行く以外の交通手段が存在しないという。
ドシエ・センターの動画につけられていたナレーションの説明によると、湖の湾に面したこの地所には、約4メートルの滝があるという。なお、この邸宅は、フィンランドとの国境から約29キロの距離にある。フィンランドは、2023年に北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、ロシアとは現在、非友好的な関係にある。
動画ナレーターによれば、この邸宅には、「フェンス、有刺鉄線、24時間体制の警備」などの防犯設備が設けられている。3つある母屋の建物のうち1つの裏には、大規模な盛り土がされた箇所があり、これは防空システムを設置するために用いられている可能性もあると、ドシエ・センターでは説明している。
ソーシャルメディアに親ウクライナのメッセージを頻繁に投稿しているユルゲン・ナウディットは1月29日、ドシエ・センターによるこの動画をX(旧ツイッター)で共有した。
広さ約650ヘクタールに及ぶこの地所は、本来は国立公園の敷地であるはずだが、プーチンのために確保されたと、ドシエ・センターのレポートは述べている。
「大統領はここで、くつろいだ気分で過ごしているのは間違いない」。ドジエ・センターの動画で、ナレーターはそう述べる。「プーチンの訪問時には、地元の警備隊は、FSO(ロシア連邦警護庁、ロシア版のシークレットサービス)の係官に置き換えられ、出入り口は封鎖され、近隣の島々も立ち入り禁止となる」
それ以外にも、この地所には、醸造所、ティールーム、2基のヘリパッドとヨット用の埠頭などが設けられているほか、マスの養殖場があり、牛肉生産用に牛が飼われているという。
ドシエ・センターによると、この地所の書面上の所有者は、ロシアのあるビジネスマンが経営する複数の企業だという。この人物は、「大統領の余暇活動」を取りしきる「ネットワーク」を運営しており、「大統領が持つ不動産すべてを管理している」とのことだ。
●ウクライナ軍が3倍返し、1両失うごとにロシア軍は3両損失 1/31
ウクライナ軍の昨年夏の攻勢は多くの損失をともなうものだった。ウクライナの南部と東部の3つの軸に沿ってそれぞれ16kmほど前進する際、ウクライナ軍の旅団は数千人の経験豊かな兵士と、保有するものの中で最高ランクの装甲車両を数百両失った。
だが、特筆すべき点として、過去の例に反してウクライナ軍はロシア軍にほぼ同等の損失を与えた。開けた土地で敵の陣地を攻撃する場合、攻撃側は防衛側の数倍の損失を被ると歴史家は考えている。
ウクライナ軍が昨年夏に被ったのと同じだけの損失をロシア軍に与えたことは注目に値する。驚きという点では劣るが、同じように注目すべきは、ウクライナ軍の旅団が攻撃を中止し、人員補充のあったロシア軍の連隊に勢いが流れた昨年秋から起こったことだ。
ロシア軍は冬の攻勢でウクライナ軍の3倍近い重装備を失い、おそらく少なくとも3倍の兵士を失っている。そしてこれまでのところロシア軍は、過去の例にならうように攻撃側は典型的な大きな損失を出し、引き換えに少ない陣地を得ている。もっと少ない損失でウクライナ軍が昨年夏に獲得した陣地を下回る。
数字は嘘をつかない。東部アウジーイウカと南部クリンキの周辺で繰り広げられている主に陣地戦の戦闘では、ロシアの野戦軍は月に500両を超える戦車や戦闘車両、りゅう弾砲、トラックを失っている。ウクライナ軍側の損失はというと200両以下だ。
車両損失の証拠を得るためにソーシャルメディアをチェックしている独立系オープンソースインテリジェンス(OSINT)サイト「オリックス」のアナリストによると、ロシア軍は昨年12月25日から1月25日までの間に562両の車両を失ったという。一方、ウクライナ側の損失は196両で、3対1の比率でウクライナの方が損失は少ない。
機動防御を続けることができれば「来年までに両軍の装備の数は同じになる」
それどころか、ロシア軍の冬の攻勢が4カ月目に突入する中、この比率はさらに偏りつつある。OSINTアナリストのアンドルー・パーぺチュアが確認した最近の1日の損失数は状況を表している。パーぺチュアは1月25日に、ウクライナ側で戦車1両を含む車両3両の破壊、それから戦車3両を含む車両10両の損傷または放棄があったと指摘した。
同日、ロシア側では3両の戦車を含む車両27両の破壊、そして2両の戦車を含む車両17両の損傷または放棄があったという。これはおよそ4対1の比率で、ウクライナの方が有利だ。
ロシア軍の兵士は、容赦なく攻撃を仕かける中で問題を抱えているとわかっている。一方のウクライナ軍は柔軟な機動防御を維持している。あるロシア人の従軍記者は「ウクライナ軍の今年の戦術は我々の装備と人員に最大限の打撃を与え、防御に徹し、次の陣地に退却することだ」とソーシャルメディアに投稿した。この投稿を翻訳したものをユーザーネームwartranslatedがXで紹介した。
ウクライナ軍の旅団が機動防御を続けることができれば「来年までに両軍の装備の数は同じになる」とこの従軍記者は予想している。つまり、ロシアの長期にわたる兵士と装備の上での2対1の優位性は低下する。
注目すべきは、ロシア軍は大砲の弾薬で10対1と圧倒的に優位に立っていながら、ウクライナ軍がロシア軍に大きな損失を与えていることだ。ロシア軍のこの優位性は、米連邦議会下院のロシア寄りの共和党議員らが610億ドル(約9兆円)のウクライナへの軍事支援案の承認を拒んだことによるものだ。
同盟国からの持続的な支援があれば、ウクライナ軍は自軍が受けるよりずっと多くの損失をロシア軍に与え、今年か来年に戦場で勢いを取り戻す環境を整えられる可能性がある。
●ゼレンスキー大統領、国民からの信頼厚い軍総司令官を解任か… 1/31
英紙フィナンシャル・タイムズと英BBCロシア語版などは30日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、軍制服組トップのワレリー・ザルジニー総司令官に別なポストを提示し、総司令官を解任する方針を直接伝達したと報じた。両氏はこれまでも不協和音が伝えられてきた。ザルジニー氏は代替ポストへの転出を拒否したとされており、曲折する可能性がある。
報道によると、ゼレンスキー氏は29日、ルステム・ウメロフ国防相を交えてザルジニー氏と会談し、解任する方針を伝えた。国防関連の顧問などへの就任を打診したという。ザルジニー氏の解任について、大統領府や国防省は発表していない。解任に伴う大統領令も出していない。
後任には、国防省のキリロ・ブダノフ情報総局長やオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官らが取りざたされているが、いずれも固辞しているという。
ザルジニー氏は2021年7月に軍総司令官に就任し、翌22年2月に始まったロシアのウクライナ侵略への抵抗を指揮してきた。昨年12月の世論調査では、ザルジニー氏を信頼するとの回答が88%で、ゼレンスキー氏(62%)を上回るなど人気が高い。
●ウクライナ穀物輸出量“黒海防衛強化でほぼ軍事侵攻前水準に” 1/31
ロシアによる軍事侵攻で深刻な影響が続いてきたウクライナ産の穀物などの輸出は輸送路の黒海での防衛が強化された結果、軍事侵攻前の水準まで回復しつつあるとウクライナの業界団体が明らかにしました。
世界有数の穀物輸出国として知られるウクライナからの穀物輸出は、ロシアによる軍事侵攻後、黒海を通じたルートが制限され、世界の食料供給にも深刻な影響を与えてきました。
軍事侵攻の開始から2月で2年となるのを前に30日、業界団体の「ウクライナ穀物協会」が首都キーウで会見し、去年12月の穀物などの輸出量がおよそ598万トンにのぼったと明らかにしました。
これは、去年7月にロシアが黒海を通じた輸出をめぐる合意の履行を停止して以降、最も多く、輸出量全体では軍事侵攻前の水準まで回復しつつあるということです。
その背景についてウクライナ穀物協会は、輸出ルートにあたる黒海の西側での防衛が強化されたことなどをあげています。
一方、ウクライナから輸出される穀物などのおよそ40%は紅海を経由してアジアに輸出されているということで、イエメンの反政府勢力フーシ派が紅海などで船舶への攻撃を繰り返していることから、今後の安定的な輸出には懸念もあるとしています。
会見に同席したソリスキー農業食料相は「紅海での問題が影響し今月の輸出量は減るだろう。ほかの国と同様、事態が収束するのを待ちたい」と話していました。
●ロシア“ミサイル増産”強調 ウクライナはEUの巨額支援焦点に 1/31
ウクライナへの侵攻を続けるロシアのショイグ国防相は30日、ミサイル工場を視察し、生産を加速させる姿勢を強調しました。一方、ウクライナのクレバ外相はハンガリーの外相と会談し、EU=ヨーロッパ連合からの巨額の支援につなげられるかが焦点となります。
ロシアのショイグ国防相は30日、中部にある巡航ミサイルや地対空ミサイルシステムなどの工場を視察しました。
一部のミサイルは製造数を去年よりも倍増する計画だとしています。
ショイグ国防相は視察後、「新たな設備が導入され、生産量は大幅に増加している。ことしの計画の完全な達成を期待している」と述べ、兵器の生産を加速させる姿勢を強調しました。
ロシアの兵器生産をめぐっては、イギリス国防省が29日、「主力戦車をひと月に100両以上製造できる可能性がある」と指摘しました。
戦場で失った分を埋め合わせる生産能力があるとして、ウクライナ東部でロシアが進めている攻撃が当面は続くという見方を示しています。
一方、ウクライナのクレバ外相は29日、隣国ハンガリーのシーヤールトー外相と会談し、関係改善に向けて首脳会談を目指す方針で一致しました。
EUはウクライナへの4年間で500億ユーロ、日本円でおよそ8兆円規模の資金支援について去年12月、ハンガリーの反対により合意できず、2月1日の首脳会議で改めて協議することになっています。
アメリカでウクライナ支援の継続に必要な緊急予算が承認される見通しが立たない中、ウクライナとしてはハンガリーとの関係改善を図り、EUからの巨額の支援につなげられるかが焦点となっています。
仏マクロン大統領「ヨーロッパ各国は支援継続すべき」
フランスのマクロン大統領は30日、訪問先のスウェーデンで記者会見し、今後、アメリカがウクライナへの軍事支援の停止や削減を決定した場合でも、ヨーロッパ各国は結束してウクライナへの支援を継続すべきだと訴えました。
フランスのマクロン大統領は30日、訪問先のスウェーデンの首都ストックホルムで記者会見しました。
この中で、マクロン大統領は、ウクライナへの軍事支援をめぐって、最大の支援国となってきたアメリカで、支援の継続に必要な緊急予算が議会で承認されていないことなどに関連し、「アメリカは、われわれの側に立ち続けてくれることを願っている」と述べました。
その上で「アメリカが支援の停止や削減を選択をしたとしても、現状に影響を与えることがあってはならない」と指摘し、今後のアメリカの対応にかかわらず、ヨーロッパ各国は結束してウクライナへの支援を継続すべきだと訴えました。
また、続く軍関係者へのスピーチで、マクロン大統領はウクライナに供与する兵器の生産について「われわれが、より迅速に生産するための多くの努力をしても、ロシアの努力に比べれば、規模も速度も適切ではない」と述べ、ヨーロッパ各国が全力で取り組むべきだという認識を示しました。
このほか、スウェーデンのNATO=北大西洋条約機構への加盟については「全面的な支持を改めて表明したい」と述べました。
●今年の世界成長率3.1% IMF 世界経済見通しを上方修正 1/31
IMF=国際通貨基金は、最新の世界経済見通しを公表し、アメリカや新興国の経済が予想以上に堅調だとして、今年の世界全体の成長率の見通しを3.1%に引き上げました。
IMFは30日、最新の世界経済見通しを公表し、今年の世界全体の実質経済成長率を3.1%として、前回の去年10月時点の予測から0.2ポイント引き上げました。
世界的に物価上昇の勢いが鈍化し、アメリカや新興国の経済が予想以上に堅調なためで、アメリカと中国の成長率もそれぞれ上方修正されました。
IMFは、世界経済が景気後退を避けながら物価上昇率を抑える「軟着陸」に向かっているという見方を示しています。
リスク要因としては、中東やウクライナ情勢の影響によるエネルギー・食料価格の上昇や、不動産不況による中国経済の減速などを挙げました。
一方、日本は新型コロナからの消費の回復などが一巡したとして、今年の成長率は0.1ポイント下方修正されて0.9%にとどまるとの見通しでした。
●JT ロシアに4000億円納税する「世界最大の戦争支援企業」 1/31
参議院議員の松沢成文氏(日本維新の会)が、1月16日に参議院議員会館で記者会見を開いて、日本たばこ産業(JT)のロシア事業継続を厳しく批判した。  
2022年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻すると、アメリカ、欧州、日本などがロシアへの経済制裁に踏み切り、各国の企業がロシアから撤退を始めた。日本の企業もトヨタ、ソニー、任天堂、ユニクロ(ファーストリテイリング)......と大手企業が次々と撤退したが、JTは、今もロシアで事業を続けて莫大な利益を生んでいるからだ。
JTは90年代後半以降、海外企業の大型M&Aを続けてたばこ事業の海外売上高比率は6割を超えたが、中でもロシア事業は大きく成長した。JTのたばこ事業を担うJTインターナショナル(JTI)のたばこ販売数量は、フィリップモリス・インターナショナル(PMI)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)に次ぐ世界3位だが、ロシア市場ではシェア36・6%を占め(22年度)、最大のタバコメーカーになっている。
●中国 製造業の景況感 景気判断の節目「50」 4か月連続下回る 1/31
中国の1月の製造業の景況感を示す指数は、先月から0.2ポイント改善したものの、景気判断の節目となる「50」を4か月連続で下回りました。不動産市場の低迷の長期化などを背景に国内需要の停滞が続いていることが主な要因です。
中国の国家統計局が製造業3200社を対象に調査した今月の製造業PMI=購買担当者景況感指数は49.2となりました。
先月から0.2ポイント改善しましたが、景気のよしあしを判断する節目となる「50」を4か月連続で下回りました。これは、不動産市場の低迷の長期化や厳しい雇用情勢を背景に国内需要の停滞が続いていることが主な要因です。
企業の規模別では、大企業が50.4、中規模な企業は48.9、小規模な企業は47.2となっていて、中小企業で、節目の「50」を下回る状況が続いています。
一方、サービス業などの非製造業の景況感指数は先月から0.3ポイント改善して50.7となりました。
中国では29日、香港の裁判所が不動産大手の「恒大グループ」に清算命令を出し、その影響が懸念されていて、企業の間で景気に対する慎重な見方がさらに強まることも予想されます。
●仏 環境規制など反対の農家 パリへの高速道路封鎖 流通に懸念 1/31
フランスではEU=ヨーロッパ連合の環境規制などに反対する農家が首都パリに向かう高速道路の封鎖に踏み切り、流通の混乱への懸念が出ています。農家による抗議活動はヨーロッパ各地でも起きていて、ことし行われるEUの議会選挙でも農業政策が争点の1つとなりそうです。
フランスではインフレや燃料費の高騰などを背景に、EUが域内の農家に求める環境規制が厳しすぎると、全国の農家らが訴えていて、主要な幹線道路を農業用トラクターで封鎖する抗議活動が相次いでいます。
29日には、全国の農家の組合で作る団体らがパリに向かう近郊の高速道路、8か所で封鎖に踏み切り、このうち、パリから北に10キロほど離れた高速道路では、トラクターおよそ50台が封鎖に加わりました。
参加した農家の男性は「EUによる規制が多く、コストがかかりすぎて、域外の商品などに勝てない。これでは農業を続けることはできない」と話していました。
今回の抗議活動をめぐっては、アタル首相が26日、燃料税の増税延期などの措置を発表しましたが、事態の収束には至らず、流通の混乱への懸念が出ています。
ヨーロッパでは、ドイツやオランダなどでもEUや自国の農業政策に不満を持つ農家による抗議活動が相次いでいます。
ことし6月に行われるEUの議会選挙でも農業政策が争点の1つとなる見通しで、極右や右派の政党がこうした不満を取り込み、支持を広げる可能性も指摘されています。
農家の抗議活動相次ぐ 要因は
ヨーロッパ各国では、EU=ヨーロッパ連合による環境規制や、自国の農業政策に不満を持つ農家による抗議活動が相次いでいます。
その要因の1つが、EUが2019年に発表した、気候変動や生物多様性に配慮しながら経済成長を目指す行程表「欧州グリーンディール」です。
この中で、農業分野において、2030年までに農薬の使用を半減させることや、肥料の使用を削減すること、2030年までに全農地の25%を有機農業とすることなどを定めています。
これに加えてEUは、去年から農地の一定の割合を休耕地とし、作付けを行わないことなども定めています。
こうしたEUの規制によって、ヨーロッパの農家からは、単位面積あたりの収量が減るなどとして、不満が出ていました。
こうした不満に加え、フランスでは、燃料費の高騰が続く中で、農業用ディーゼル燃料に対する減税措置の打ち切りへの反発から、抗議の動きが全国に広がりました。
またヨーロッパでは、ロシアによる軍事侵攻で黒海から輸出できなくなったウクライナ産の安価な農産物の流入などもあり、同様の不満の声がフランス以外のヨーロッパの国の農家からも上がり、ドイツやベルギー、ポーランドなどでも農家による抗議デモが相次いでいます。 
●最新状況 「ロシア軍は町を破壊し尽くしている」反転攻勢のいま 1/31
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってまもなく2年。ウクライナでは東部や南部の要衝をめぐり、激戦が続いています。
「ロシアはアウディーイウカを破壊し尽くしている」
東部の要衝、アウディーイウカを防衛するウクライナ軍の前線部隊「第110独立機械化旅団」の報道官のことばです。
去年(2023年)6月から始まったウクライナ軍の反転攻勢はどうなっているのか?
前線部隊や激戦地の市長へのインタビューからその現在地を探ります。
去年6月から始まった反転攻勢
ウクライナ軍の反転攻勢が始まったのは2023年6月。
ゼレンスキー大統領「ウクライナでは、反転攻勢と防御の軍事行動が行われている」
この2日前の6月8日に、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」はホームページで戦況の分析を公開。この中で「ウクライナ軍は反転攻勢の一環として、少なくとも前線の3つの地域で作戦を行った」と指摘。8日までに、東部ドネツク州のバフムト周辺やドネツク州の西部のほか、南部ザポリージャ州の西部でもウクライナ軍が攻撃に打って出たという分析を明らかにしました。
ロシア側に占領された領土の奪還を目指すウクライナ軍。防御に徹するロシア軍。各地で双方による激しい戦闘が繰り広げられてきました。
「反転攻勢」停滞の指摘も
秋以降は、ロシア軍が東部のドネツク州などで攻勢を強め始めました。ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、イギリスの経済誌「エコノミスト」(11月1日付)の中で、戦況について「第1次世界大戦と同じように、こう着状態に陥る段階に達している」という認識を示しました。
さらに、12月にはゼレンスキー大統領が反転攻勢についてAP通信のインタビューで「早く結果を出したかったが、望んだ結果が得られなかった」と述べるなど、その停滞が伝えられています。
東部戦線でウクライナ軍が苦戦も
激戦が続いているとされているのが東部の戦線です。特にドネツク州のアウディーイウカやマリインカ近郊、バフムト、それにハルキウ州のクピヤンシクなどの前線でロシア軍の攻撃が続いているとされています。
その一つ、アウディーイウカは東部ドネツク州の中央部に位置する人口3万余りの小さな町です。すでに多くの住民が避難しています。ウクライナ軍にとっては重要な補給拠点ですが、ロシア軍はこの町を取り囲むように占領地域を広げていて、ドネツク州全域の掌握を目指す上での「突破口」として重視しています。
複数のウクライナメディアによりますと、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、今のままではアウディーイウカは2、3か月以内に占領されるおそれがあるという認識を示しました。さらに、隣に位置するマリインカという町では、ロシアの制圧によってウクライナ軍の部隊が郊外に撤退したことも認め、苦戦が明らかになっています。
「インフラは100%破壊された…」市長が語る
アウディ―イウカはいったいどうなっているのでしょうか。戦時下の現在、市の軍政にも携わっている市長が取材に応じました。
壊滅的な被害を受けている町。ビタリー・バラバシュ市長は、特に電力の供給源となっていたコークス工場が空爆で破壊されたことが厳しい惨状を招いていると訴えます。
バラバシュ市長「ロシア軍は町を包囲しようと差し迫っていて、周辺で激しい戦闘が続いています。インフラは100%破壊されたと断言できますし、住宅など建物の破壊率も100%に近づいています。市内には電気もガスも共有されず、明かりも暖房もありません」
「もとの人口は3万3000でしたが、今ではその4%、1300人ほどしか残っていません。残った住民は地下室で過ごし、ストーブで薪を焚いてしのいでいますが、敵はストーブの煙がどこから出ているのかを見て、空爆を行うことまでします。さらに、市内には飲み水もなく、汲み上げた井戸水を沸かして飲むしかないのですが、その井戸水を運ぶ道中でも、常に銃撃を受けていて、水の供給は難しいのです」
前線の戦闘で何が?人的損失を顧みないロシア軍
なぜ、ロシア軍が攻撃を強め、ウクライナ軍が守勢に回る事態となっているのか。
アウディーイウカでロシア軍と激戦を繰り広げている、ウクライナ軍の前線部隊「第110独立機械化旅団」のアントン・コツコン報道官に話を聞きました。
コツコン報道官が指摘したのが、ロシア側の攻撃の大きな変化です。ウクライナ軍は戦闘の長期化で兵員の確保が課題となっている一方で、ロシア軍はこれまで以上に戦闘機や砲弾などを増やして、大量の兵士を投入してきているといいます。損失を顧みない、いわば「人海戦術」をとってきているのです。
コツコン報道官「ロシア軍は信じられないほどたくさんの兵士を投げるように投入し、攻撃が始まった10月10日から1か月だけで、1万人の自軍の兵士を犠牲にしたほどです。また、攻撃には歩兵部隊だけでなく、戦車やロケット砲、航空隊など多くの部隊が関わっていて、これら全てが毎日ノンストップで動いています」
激しい空爆、航空戦力の差が…
さらに航空戦力の差が大きいとも指摘します。ロシア軍は航空機による空爆で、町のインフラそのものを破壊しつくす戦術に舵を切っているといいます。
コツコン報道官「ロシア軍は爆弾を投下する航空機を使って常に活動しています。空爆は精密兵器ではないのですが、非常に強力かつ大規模に町を破壊してしまいます。市の産業の中心となっていたコークス工場は空爆によって深刻に破壊されました。被害を受けずに残っている住宅は1軒もなく、ロシアはアウディーイウカを破壊し尽くしているのです」
砲弾不足に直面
さらに、ここにきて、砲弾などの数に大きな差が出ていることも作用しているといいます。緊迫するイスラエルとパレスチナ情勢などのあおりをうけてアメリカなど欧米諸国からの軍事支援が滞り、ウクライナは武器不足に陥っています。
アメリカメディアは、アメリカがウクライナに供与する砲弾の量が、イスラエル軍とイスラム組織ハマスによる一連の衝突が始まった2023年10月以降、その前と比べて減っていると伝えているほか、砲弾が尽きかけている最前線の現状を報告しています。
また、アメリカ議会では軍事支援の継続に必要な緊急予算がいまだ承認されず、今後の支援の先行きはさらに不透明な状況です。
一方で、アメリカのホワイトハウスやイギリスの国防省は、ロシアが北朝鮮から大量の砲弾を受け取っていると指摘しています。
前出のバラバシュ市長は、厳しい戦いを迫られている現状をこう吐露します。
バラバシュ市長「正確な数字では言えませんが、ロシア側の砲弾のほうが間違いなく何倍も多いです。私たちの砲弾は不足していて、確実に供給が減っています。砲弾が不足しているので、われわれの兵士は狙撃手のように1人1人を狙うような細かい作業をしているのです。砲弾や装備、ミサイル、それに戦闘機の数が多ければ、戦いで有利になります。とにかく多ければ多いほどです。もしロシア人をここで止めることができなければ、彼らは暴走していくでしょう。だからこそ、全世界がわれわれを助けなければならないと思います。これは、文明的な世界全体に対する戦争でもあるのです」
厳しい冬の戦闘、極限状態に…
ロシアによるウクライナの軍事侵攻開始からまもなく2年。ウクライナ軍は、またもや文字通り、厳しい冬を迎えています。戦闘の長期化によって最前線で戦う兵士たちの疲労は極まっていると、報道官は指摘します。
コツコン報道官「戦争が2年近く続く中で、特に歩兵は疲労を感じています。寒さや雨、そして雪の中で、民間人の生活ではおそらく一度も経験したことのないような極限状態に置かれているのです。ただ、兵士たちは前線で戦う意味を理解しているので、士気で疲れを克服しています」
「家族を、国を守る」その一心が支えに
圧倒的な物量の差に欧米の支援疲れへの懸念。それでも戦い続けるウクライナ軍の兵士たちを支えるのは何か。
コツコン報道官「ウクライナには、この戦争の影響を受けていない人は1人もいません。誰かが戦争に巻き込まれ、誰かは直接戦い、誰かの親族が戦い、誰かの妹が外国に逃げ、誰かの家族が殺され、誰かが負傷しています。兵士たちの士気が高いのは家族を守っているからです。また、出身地が一時的にロシアに占領されている人もいて、自分の土地のために直接戦っているのです。ロシア軍を止めなければ、追い返さなければ、ロシア軍は前進し続けてしまうことも分かっています。戦うモチベーションは探さなくても、そこにあるのです。そして、そのモチベーションこそが兵士を塹壕に立たせ、ロシア軍の攻撃を退け、撃破し、より多くのリスクを冒す力を与えてくれます。この戦いは相手を全員殺したときに終わるのです」
取材後記
欧米からの軍事支援の継続が必須だとする、ゼレンスキー大統領。2024年1月12日にイギリスのスナク首相と会談し、安全保障の協定を締結して、およそ4600億円規模の追加の軍事支援にこぎ着けました。
さらに、ルーマニアなど各国とも安全保障をめぐる交渉が始まっているとも明らかにするなど、積極的な動きを見せています。裏を返せば、反転攻勢の停滞、欧米側の「支援疲れ」が指摘されるなかで、2国間の交渉や協定によって支援を要請しなければならないウクライナの苦しい立場を映しているようにもみえます。
「広く現状を知ってもらい、ウクライナに関心を持ち続けてもらいたい」
コツコン報道官がインタビューの最後に口にした言葉は、極限状態で一進一退の攻防を続ける最前線の部隊からの切実な願いだと感じました。
 
  

 

●ロシアがウクライナ東部アブデーフカの一部制圧とプーチン氏 進軍継続表明 2/1
ロシアのプーチン大統領は1月31日、激戦地となっているウクライナ東部ドネツク州アブデーフカの一部をロシア軍が制圧したと述べた。ウクライナ軍と対峙(たいじ)している防衛線付近の安全確保が重要だとし、東部・南部4州の実効支配地域をウクライナ軍の長距離攻撃から守るために進軍を続ける構えを示した。
プーチン氏はモスクワで、3月に行われる大統領選の選挙運動員らとの会合に出席した。ドネツク州のロシア側支配地域「ドネツク人民共和国」の中心都市ドネツクへの攻撃拠点になっているアブデーフカの制圧は「最優先課題の一つだ」と述べた。
1月24日にロシア西部ベルゴロド州で起きたロシア軍輸送機イリューシン76の墜落については、米国が供与した地対空ミサイルシステム「パトリオット」での撃墜を「確認した」と説明した。
●「マンション1軒ある」というプーチン氏だが…「滝付きの超豪華別荘」暴露登場 2/1
大統領選挙を控えたロシアのプーチン大統領が候補登録のために所得と財産を申告した。過去6年間で約1億1000万円の収入があり、小型アパートとロシア産自動車を所有していると明らかにした。だが、モナコの倍の面積を持つ別荘を所有しているという暴露が追加で登場するなど、隠し資産に対する疑惑が大きくなっている。一方、米国中央情報局(CIA)の局長はロシア内部でウクライナ戦争に対する不満からCIAに協力しようとする者が増加しているという趣旨の発言をした。
「公式給与は14万ドル(約2060万円)」
30日(現地時間)、インターファクス通信やモスクワタイムズなどによると、ロシア中央選挙管理委員会は3月15〜17日に行われるロシア大統領選を控えてプーチン大統領が申告した2017〜2022年の所得内訳分を公開した。ロシア大統領候補は選挙年度以前の6年間の所得と財産情報を公開することになっている。
プーチン大統領はこの期間、所得が6759万1875ルーブル(約1億1044万円)と申告した。給与・預金・軍人年金・不動産などが主な収入源だ。報道によると、プーチン大統領はサンクトペテルブルクに小型(77平方メートル)マンション1軒と18平方メートルの大きさの車庫1軒を所有している。1960年型ガズM21と1965年型ガズM21、2009年型ラダニバなどロシア製乗用車3台と1987年に生産されたキャンピングトレーラー1台も申告した。
また、計10の銀行口座に5441万6604ルーブルとサンクトペテルブルクPJSC銀行の株式230株(1株280.49ルーブル)も保有していると明らかにした。モスクワの153平方メートル規模のマンション1軒とサンクトペテルブルクの18平方メートル規模の駐車場を無制限に利用する権利も持っている。
フィンランド近隣、黒海沿岸、ソチに資産か
しかし実際プーチン大統領には隠し財産が複数あるという報道が相次いだ。ロシア高位層の不正腐敗を主に暴露してきた調査報道機関「Dossier Center」は、フィンランドの国境に近いロシア北西部カレリアにプーチン大統領の秘密の別荘があるとし、航空撮影動画をYouTubeなどを通して前日公開した。
同メディアによれば動作センサーや鉄条網、監視カメラで24時間監視されている同地は現代式住宅3軒、ヘリパッド2つ、複数のヨットハーバー、マス養殖場、牛肉生産のための牛牧場、個人の滝などで構成されている。メディアはこの滝は国立公園の一部だが外部の人の接近は徹底的に遮断されているとも指摘した。この別荘の敷地の全体面積は4平方キロメートルに達する。韓国汝矣島(ヨイド)面積(2.9平方キロメートル)の約1.4倍、モナコ公国(2平方キロメートル)の2倍に該当する。
近隣住民はプーチン大統領が少なくとも年に一度はここを訪れると伝えた。10年前、プーチン大統領のライバルだった人物が作ったと言われるこのエリアは、金融家のユーリ・コワルチュク氏が管理する資産ポートフォリオの一つという説明も付け加えた。
米国メディア「ビジネスインサイダー」はこの報道を引用して「プーチンは年間14万ドルの公式給与と比較的平凡な官邸マンションを有しているが、スーパーヨットや黒海沿岸の広大な宮殿を含む多様な高価資産が複雑な金融構造を通じてつながっている」とした。米誌「ニューズウィーク」もソチの夏の別荘などがプーチン大統領の所有だといわれると言及した。
これに先立ってロシア野党圏運動家アレクセイ・ナワリヌイ氏が設立した反腐敗財団(FBK)は、2021年プーチン大統領が黒海に面したロシア南部のクラスノダール地方のリゾート都市ゲレンジークに10億ドルの超豪華邸宅を実所有していると暴露したことがある。
過去、プーチン大統領の資産が2000億ドル以上あるという主張も提起されたことがある。一時ロシア最大の外国人投資家であったビル・ブラウダー氏は2017年の米国上院法司委員会でプーチン大統領の資産規模を2000億ドル水準と推算していると証言した。
国際調査ジャーナリスト協会(ICIJ)が2016年に公開した報告書にもプーチン大統領の友人の1人が域外の会社を通じて最初20億ドルを振込んだことが明らかになるなど家族や友人と関連している資産が多い。
世界最高の富豪であるイーロン・マスク氏は2022年3月ビジネスインサイダーの親会社であるアクセル・シュプリンガー社のマティアス・デップナー最高経営責任者(CEO)と行ったインタビューで、「プーチンは私よりはるかに金を持っていると考える」と主張していた。当時マスク氏の財産は2600億ドルだった。
一方、CIAのバーンズ局長はこの日公開された米外交専門紙「フォーリン・アフェアーズ」の寄稿文で「戦争に対する不満は国家宣伝と弾圧の厚い表面下にあったロシア指導部とロシア国民をむしばみ続けている」とし「このような不満の流れはCIAに一世一代の採用機会を作っている。われわれはそれを浪費しない」と書いた。ウクライナ戦争の長期化により、ロシア内部で米国情報機関に協力しようとする人々が増えているという趣旨の発言だ。
バーンズ局長は「プーチンの抑圧的統治力が近い将来弱まる様子はないが、ウクライナでの戦争は彼の国内権力を静かに腐食させている」とし「傭兵指導者エフゲニー・プリゴジンが起こした短期間の反乱は、プーチンの注意深く整えられた統制イメージの後ろに隠れている逆機能の一部を垣間見せてくれた。(中略)プーチン戦争の核心である嘘と軍事的誤判断、ロシア政治システムの核心である腐敗に対するプリゴジンの辛らつな批判はすぐには消えないだろう」と繰り返し強調した。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)はこのようなバーンズ局長の寄稿文を基に「ウクライナ戦争がプーチンを弱くしているとCIA局長が書いた」とこの日伝えた。
NYTはそれとあわせてCIAがロシア政府と軍要人を誘い込むための動画を相次いで公開していることを取り上げた。実際、先週公開されたロシア語の動画「私がCIAに連絡した理由:祖国のために」などは追跡が難しいダークウェブを通じてロシアの内部情報を米国に渡すように督励している。ロシア政府の腐敗に対する怒りに訴えるビデオもある。米国政府はこのような誘い込み作戦の成果を明らかにしてはいないが、効果がないならこれほど頻繁に動画を制作しなかっただろうというのが関係者の説明だ。
●ロシア軍輸送機「パトリオットで撃墜」 プーチン氏主張 2/1
ロシアのプーチン大統領は31日、西部ベルゴロド州で24日に起きた空軍輸送機の墜落は、ウクライナ軍による撃墜であることは「証明済み」で、米国製の地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」が使われたと述べた。ロシア側は、輸送機はウクライナ人捕虜65人を乗せていたと主張している。
ウクライナ側は墜落当日に捕虜交換が予定されていたことは認めつつ、墜落原因に関する言及は回避。「国際調査」を訴えていたが、現在は立場をトーンダウンさせている。プーチン氏はこうした経緯を指摘した上で「われわれこそ国際調査を求める」と語った。
同氏はまた「(ウクライナによる)撃墜が偶発的なものだったとしても、犯罪であることには変わりない」と強調。ただ、ウクライナとの捕虜交換は今後も続ける立場を示した。
●ウクライナ侵攻反対の候補者がロシア大統領選挙立候補認めるよう要請… 2/1
3月に行われるロシア大統領選に反プーチンを掲げる候補が、立候補に必要な10万人分の署名を提出した。
大統領選挙で唯一、ウクライナ侵攻に反対を唱えて立候補を目指すナデジディン氏は、1月31日、モスクワの中央選挙管理委員会を訪れ、25箱に入った有権者の署名10万5,000人分を提出した。
ロシア全土75地域で署名活動を行い、およそ20万人分を集めたが、このうち、有効と認められる可能性が高い10万5,000人分を提出したという。
署名を提出後に報道陣の取材に応じたナデジディン氏は、自身の署名活動を「ロシア大統領選挙の歴史の中で、人々が実際に行列を作って署名をした初めてのケースだ」と胸を張り、「私が何十万人もの人々に支持されていることを疑う者はいない」と述べ、選挙管理委員会に立候補を認めるよう強く求めた。
大統領選をめぐっては、反戦を掲げた女性が書類の不備を理由に申請を受理されず、立候補が認められなかった。
選挙管理委員会は、政党推薦の3人とプーチン氏をすでに立候補者として登録していて、ナデジディン氏を含む自己推薦の候補者3人の登録を認めるかどうかは、提出された署名を確認して10日以内に判断する。
全員の登録が認められれば、大統領選には7人が立候補することになる。
次期大統領が決まるのは、3月17日。
●砲弾数、ロシアの4分の1 ウクライナ高官「深刻な不足」 2/1
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は31日までに、ウクライナ軍の1日当たりの砲弾使用数について、東部戦線で攻勢を強めるロシア軍の4分の1程度だとの分析を明らかにした。ロシアが北朝鮮から大量の砲弾提供を受けたのに対し、ウクライナは西側諸国による支援の遅れが「深刻な砲弾不足」につながっているという。首都キーウ(キエフ)で時事通信の単独インタビューに応じた。
ポドリャク氏によると、ロシア軍の砲弾使用数はピーク時で1日当たり3万5000〜5万発だったが、侵攻が長引くにつれ同3000〜5000発に減少。最近、再び同8000〜1万2000発に増加した。
一方、ウクライナ軍の現在の砲弾使用数は同2000〜3000発で、「物量で圧倒されている」という。実際、ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州アウディイウカやその周辺に戦力を集中させ、徐々にウクライナ軍を押し込んでいる。
ポドリャク氏は、北朝鮮がロシアに砲弾100万発以上や地雷、弾道ミサイルを提供したとし、「北朝鮮の武器供与はロシアを大いに助けている」との見方を示した。その上で「ロシアと北朝鮮、イランによるテロ国家連合は、明らかに武器や軍事技術を融通し合うという合意を結んでいる」と指摘。北朝鮮に武器提供を求めたのは、ロシアの軍需産業が逼迫(ひっぱく)している証拠だとも語った。
また、ウクライナ軍が砲弾不足を補うには、ロシアの後方補給拠点を爆撃できる長距離ミサイルと、ロシアの航空優勢を覆す戦闘機、砲弾の代わりに対戦車攻撃に使えるドローンが必要だと強調。「ロシアを打倒しない限り、北朝鮮やイランは攻撃的行動をエスカレートさせ、紛争が世界各地に飛び火する」として、西側諸国に迅速な対ウクライナ支援を求めた。
●ウクライナ砲弾供与、目標の半分 2/1
欧州連合(EU)は31日、ウクライナに対する3月までの1年間の砲弾供与が、目標の半分強の52万4000発にとどまるとの見通しを示した。ボレル外交安全保障上級代表が会見で表明した。
●ロシアとウクライナ、大規模な捕虜交換 軍輸送機墜落後初 2/1
ロシアとウクライナは1月31日、捕虜を交換したと発表した。同24日に捕虜のウクライナ兵士を乗せたロシア軍輸送機がウクライナに撃墜されたとロシアが発表してから初の捕虜交換となる。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、兵士207人が帰国したと明らかにした。一方、ロシア国防省は兵士195人が空路モスクワに移送され、治療とリハビリを受けると発表した。
ゼレンスキー氏は、207人のうち約半分はロシアのウクライナ侵攻後間もなくロシア軍に包囲されたウクライナ南部のマリウポリで防衛にあたった兵士だと説明した。
ロシアによる侵攻が始まって約2年となるが、ゼレンスキー氏によると、これまでに50回の捕虜交換が行われ、ウクライナに帰国した兵士は3035人にのぼるという。「捕虜となった兵士全員を帰国させるために全力を尽くす」としている。
今回の捕虜交換は、1月24日にロシア軍の大型輸送機「IL(イリューシン)76」がウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州に墜落してから初めて。この事故をめぐっては、ロシアは同機が捕虜のウクライナ兵65人を輸送中で、全員死亡したと主張。一方、ウクライナは同機はウクライナを攻撃するのに使われるミサイルを運んでいたと指摘し、主張は大きく食い違っている。
両国とも捕虜交換が予定されていたことは認めている。ウクライナ国防省情報総局のユーソフ報道官はCNNに、墜落現場から近くの安置所に運ばれた遺体は5体のみであることを示す情報があると明らかにし、その数は輸送機の乗員数と一致すると指摘した。
ロシアはウクライナ兵士が死亡したとの主張を裏付ける映像などの視認できる証拠を示していない。
●ウクライナ支援でバイデン「奥の手」 ギリシャなどから三角スキームで武器送る 2/1
「三角取引」。この言葉をよく覚えておいてほしい。米国のジョー・バイデン大統領はこの方式によってウクライナに武器を届け始めている。
最初はエクアドル。そして今、ギリシャとそれを進めている。
三角取引とは要するに、突き出し方式で第三国に武器を融通するスキームだ。ある国が相手国に代金を支払うか武器を供与し、それによって相手国から第三国に武器を供与できるようにする。
ウクライナへの武器支援で、この方式のパイオニアはドイツである。ドイツ語で「Ringtausch」(「循環取引」といった意味)と呼ばれるこのスキームを通じて、ドイツはウクライナに武器を送り出してきた。主だったものを挙げれば次のようなものがある。
・チェコ:ドイツはチェコにドイツ製レオパルト2戦車(14両)と工兵車両(1両)を提供し、チェコはウクライナに旧ソ連製T-72戦車(数十両の可能性)を譲渡
・ギリシャ:ドイツはギリシャにドイツ製マルダー歩兵戦闘車(40両)を提供し、ギリシャはウクライナに旧ソ連製BMP-1歩兵戦闘車(40両)を譲渡
・スロバキア:ドイツはスロバキアにドイツ製レオパルト2A4戦車(15両)を提供し、スロバキアはウクライナにBMP-1(40両)を譲渡
・スロベニア:ドイツはスロベニアに軍用大型トラック(45台)を提供し、スロベニアはウクライナにスロベニア製M-55S戦車(28両)を譲渡
古い武器の在庫が膨らんでいる米国は、いずれドイツを抜いて三角取引の最大のブローカーになる可能性がある。それには十分すぎるほどの理由がある。米議会でこの4カ月、極端派のマイク・ジョンソン下院議長率いるロシア寄りの一部共和党議員が、ウクライナの戦争努力を支援する米政府の610億ドル(約8兆9000億円)の新たな支援予算を妨害し続けているからだ。
バイデンと部下のアントニー・ブリンケン国務長官は知恵を絞った。そして、おそらくドイツを手本に、議会の制約を受けない、大統領のもつ広範な軍事援助に関する権限を行使して、ウクライナ以外の国に武器を供与し、その国からウクライナに武器を譲渡してもらう取り組みに乗り出した。
1月上旬、エクアドルのダニエル・ノボア大統領は、米国から2億ドル(約290億円)相当の新しい武器を受け取る代わりに「スクラップ」兵器を米国に譲渡するとラジオ局のインタビューで明らかにした。
そして、この「スクラップ」は米国からウクライナに譲渡される。一部は1月下旬、アントノフAn-124大型輸送機でエクアドルから国外に運ばれたようだ。
エクアドルがウクライナに間接的に供与した武器が何だったのか、推測することはできる。9K33オサー地対空ミサイルシステムだ。レーダーと、射程およそ10kmのミサイルの4連装発射機を組み合わせた旧ソ連製防空車両で、エクアドルは何年か前、当のウクライナから10基取得していた。
オサーは世界最高峰の防空兵器というわけではないものの、シンプルで信頼性が高い。ウクライナ軍の第1129対空ミサイル連隊にも、近代的な英国製ストーマー装甲車と並んでオサーが配備されている。
第1129連隊でオサーとストーマーは互いに補完する関係にあるという。同連隊の兵士は「オサーはシンプルで、目標をより早く見つけることができる」半面、アクティブレーダーを使うため「探知されるのもより早い」と語っている。つまり、応射にさらされる危険があるということだ。
ウクライナは2022年2月にロシアが戦争を拡大した時点で、オサーを100基程度保有していた可能性があるが、OSINT(オープンソース・インテリジェンス)グループのOryx(オリックス)によると、うち少なくとも16基をロシア軍による攻撃で失っている。エクアドルからの譲渡に先立って、ウクライナはポーランドから余剰分のオサーを入手している。
エクアドルからの返還分によって、ウクライナ軍のオサーは戦争拡大前の数に回復するかもしれない。とはいえ、ミサイルの発射機と合わせてミサイルがセットで供与されるのだとしたら、そちらのほうが発射機本体以上に重要だろう。ウクライナ軍はロシア軍のドローン(無人機)や巡航ミサイル、ヘリコプター、その他の軍用機を迎撃するために、短距離ミサイルを何千発と費やしている。
エクアドルに続いて、ホワイトハウスはより規模の大きい三角取引をギリシャと始めた。
ギリシャのカティメリニ紙やその他のメディアによれば、バイデン政権はギリシャに、マリンプロテクター級哨戒艇3隻やC-130H輸送機2機、P-3哨戒機用のアリソンT56ターボプロップエンジン10基、M2ブラッドレー歩兵戦闘車60両、複数の輸送用トラックを供与した。
米政府はこれらと引き換えに、ギリシャがウクライナにさらに多くの武器を渡すことを求めている。「わが国は、ギリシャがウクライナに譲渡または売却できる防衛装備に引き続き関心をもっている」とブリンケンは表明している。ギリシャ政府はすでに、ウクライナに譲渡する古い武器を手当てしたとも伝えられる。
エクアドルの場合と同様に、ギリシャから三角取引でウクライナに送られる武器にも防空装備が含まれる可能性がある。旧ソ連で開発されたS-300地対空ミサイルシステムや9K330トール短距離地対空ミサイル、オサー、米国製ホーク中距離地対空ミサイルシステムだ。
三角スキームを通じた米国からの間接的な対ウクライナ支援が必要なのは、昨年10月以降、米議会共和党が、ウクライナに対する直接の追加軍事援助はおそらく決して承認しないという姿勢を明確にしたからだ。
共和党議員は、ドナルド・トランプ前大統領がウクライナに向ける個人的な憎悪と、権威主義のロシアに寄せるやはり個人的な好感に歩調を合わせている。
これらロシア寄りの議員たちは法案は妨害できても、米国がパートナー国向けの武器に資金を融通したり(編集注:対外軍事融資=FMF=と呼ばれるプログラムのこと)、米国の軍事ニーズを超えて余剰となったと大統領に認定された武器を譲渡したりできる、バイデンの大統領としての法的権限の行使は阻めない。
後者の余剰防衛装備品(EDA)に関する権限はとくに強力である。法律ではEDAの枠組みで移転できる武器の上限額は年間5億ドル(約730億円)に制限されているが、大統領が余剰武器に割り当てる金銭的な価値に関する規定はない。その価値はゼロ、つまり無償供与になる場合もあるのだ。受け取る側の国にとって主な問題は、輸送費については米国が負担することが認められていない点だ。
ウクライナ支援法案のメリットは、米国が製造できる、もしくは他国から購入できるほぼすべての武器を、ウクライナに供与できる基金を創設できる点ところにある。
バイデンが既存の融資権限とりわけEDAの権限に頼る場合、選択肢は少なくなる。今のところバイデンは、ウクライナ軍が使い慣れている旧ソ連式の武器をもっと入手できるように、三角取引向けに資金を融通したり、余剰武器を譲渡したりすることに最も熱心に取り組んでいる。
とはいえ、共和党が頑なな態度を崩さない限り、バイデンはさらに創意を発揮するだろう。ウクライナ、もしくは別のどこかの国が輸送費を負担すれば、バイデンはEDAをウクライナに直接譲渡することすらできるのだ。
●ウクライナ支援、早期承認を 議会に要請、「安保への投資」―米財務長官 2/1
イエレン米財務長官は31日、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援について、「慈善事業ではない。米国や欧州の安全保障やルールに基づいた国際秩序への投資だ」と強調した。米議会に対し、追加支援を盛り込んだ補正予算の早期承認を改めて要請した。
欧州連合(EU)欧州委員会のベステアー上級副委員長らとの会談で語った。
イエレン氏は「われわれの支援は、戦場での成功と切っても切れない関係だ。ウクライナが弾薬を使い果たす前に、資金が枯渇することは許されない」と話し、支援の重要性を訴えた。
●ウクライナ政権・軍トップの間に溝 ロシア大統領府 2/1
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は1月31日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がワレリー・ザルジニー軍総司令官に辞任を迫っているとの観測が浮上していることについて、政権・軍双方のトップ同士の対立を示すものだとの認識を示した。
ウクライナのメディアは今週、ロシアによるウクライナ侵攻が2022年に始まる前から軍トップを務めてきたザルジニー総司令官の解任にゼレンスキー氏が踏み切る見通しだと報じた。
後任としてウクライナ国防省情報総局(GUR)のキリロ・ブダノフ局長の名前も取り沙汰されている。
ザルジニー氏が昨年、英誌エコノミストに掲載されたインタビュー記事で、戦況はこう着状態に陥っていると発言したのを受け、ゼレンスキー氏との間に溝ができているのではないかとの見方が広がっていた。
ペスコフ報道官はモスクワで記者団に対し、ザルジニー氏の解任観測について、ウクライナの文民、軍双方のトップの間の「溝が広がっている」ことを示していると指摘。その背景には「反転攻勢の失敗と前線における緒問題があるのは明らかだ」と述べた。
さらに、「ロシアの特別軍事作戦は戦果を上げ続けており、(ウクライナ側の)分裂はこれからも拡大するだろう」と語った。
●ウクライナ、動員人数巡り対立か 米紙報道、軍総司令官交代で 2/1
ウクライナのゼレンスキー大統領が国民的人気の高いザルジニー軍総司令官の交代を準備しているとの報道に関し、米紙ワシントン・ポスト電子版は1月31日、背景に動員人数を巡る激しい意見対立があったと報じた。事情を知る関係者の話とした。
同紙によると、29日に両氏が話し合った際、ザルジニー氏が今年は50万人近い動員をすべきだと提案。ゼレンスキー氏は軍服、銃、訓練施設の不足や勧誘の課題を理由に現実的でないと返答した。ザルジニー氏は「ロシアが動員する人数に対抗しなくてはいけない」と反論したという。 
●ロシア、ウクライナ東部の一部制圧 支配地域拡大の構え 2/1
ロシアのプーチン大統領は1月31日、侵攻したウクライナで激戦地となっている東部ドネツク州アブデーフカの一部をロシア軍が制圧したと述べた。ウクライナ軍と対峙する防衛線付近の安全確保が重要だとし、一方的に併合を宣言した東部・南部4州の実効支配地域をウクライナ軍の長距離攻撃から守るために進軍を続ける構えを示した。
ロシアは、ほぼ全域を支配下に置いた東部ルガンスク州以外の3州でも全域制圧を目指すほか、ロシア西部ベルゴロド州への攻撃を防ぐため、国境を接するウクライナ東部ハリコフ州への攻勢を強めるとみられる。
一方でウクライナ国防省情報総局は1日、クリミア半島西部でロシア黒海艦隊のミサイル艇「イワノベツ」を撃沈したと表明した。無人艇のようなものが艦艇に近づき爆発する映像も公開した。
ロシア国防省は1日、ベルゴロド州に4機、南部ボロネジ州に2機の無人機攻撃があったと発表した。
プーチン氏は31日にモスクワで、3月に行われる大統領選の選挙運動員らと会合。ドネツク州のロシア側支配地域「ドネツク人民共和国」の中心都市ドネツクへの攻撃拠点になっているアブデーフカの制圧は「最優先課題の一つだ」と述べた。
●EU ウに8兆円支援実施で合意 2/1
欧州連合(EU)は1日、ブリュッセルで臨時首脳会議を開き、ウクライナに対する4年間で500億ユーロ(約8兆円)の追加支援に全会一致で合意した。EUのミシェル大統領がX(旧ツイッター)で明らかにした。ロシアに融和的で追加支援に難色を示していたハンガリーも賛成に回った。
ミシェル氏は今回の合意を通じて「EUはウクライナ支援でリーダーシップを発揮し、責任を負っている」と強調した。ウクライナのゼレンスキー大統領はXで、EUの支援継続で「ウクライナの経済と財政がより安定する」と歓迎した。
首脳会議に先立ち、ミシェル氏とハンガリーのオルバン首相、独仏伊首脳らが協議した。公表された採択文書には今回の支援に関し、毎年討議を行うことや、「必要であれば2年後に見直す」方針も明記された。ハンガリーは1年ごとに判断する「妥協案」をEU側に示しており、これが落としどころになったもようだ。
●ウクライナ軍の砲弾不足が深刻化、ロシアの1/3以下に…米欧の追加支援滞り 2/1
米ブルームバーグ通信は1月31日、ロシアの侵略を受けているウクライナ軍が前線で使う砲弾量が1日2000発以下に減り、露軍の3分の1以下になっていると報じた。米国や欧州連合(EU)の追加支援が滞る中、ウクライナ軍の砲弾不足が深刻化している。
ウクライナのルステム・ウメロフ国防相が今週、EU各国に送った書簡で明らかにした。ウメロフ氏は戦線が1500キロ・メートルと長いことを指摘し、「多くの場合は、砲弾が多い側が勝つものだ」として、迅速な支援を訴えた。ウクライナ軍は月20万発の砲弾が必要になると訴えている。露軍は月40万発の規模で砲弾を確保しつつあるという。
一方、ロイター通信によると、EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相)は1月31日、今年3月までにウクライナに供与できる砲弾は約50万発で、目標としていた100万発を達成できないと明らかにした。今年末には、年140万発を生産できる態勢が整う見通しという。

 

●反政府活動家ナワリヌイ氏がプーチン氏への反対票投じるよう国民に呼びかけ 2/2
プーチン政権と対立して逮捕され服役しているロシアの反政府活動家ナワリヌイ氏は1日、プーチン氏が通算5選を目指す3月の大統領選で、投票日の正午に投票所に出向いてプーチン氏への反対票を投じるよう国民に呼びかけた。
ナワリヌイ氏は通信アプリへの投稿で、この方法なら完全に合法的な手段でプーチン氏への反対の多さを示すことができると主張。政権側は妨害できないと指摘した。
大統領選の投票は3月15〜17日の3日間。
ナワリヌイ氏は過去の経済事件で拘束・収監されたほか、昨年8月には過激派団体を創設したとして懲役19年を言い渡され9月に確定。昨年12月、モスクワ東方ウラジーミル州の収監先から北極圏にある北部ヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移送されたことが判明した。
●出馬なるか “反プーチン”ナデジディン氏が署名提出 2/2
反プーチン・反ウクライナ侵攻を掲げるナデジディン氏が、ロシア大統領選立候補に必要な10万5000人分の署名を中央選挙管理委員会に提出した。立候補の可否については、10日以内に選挙管理委員会の判断が下される。
ナデジディン氏の署名集まる
ロシア大統領選が3月に迫る中、モスクワの中央選挙管理委員会に、軍事侵攻反対を掲げるボリス・ナデジディン氏が到着した。
反プーチン、反ウクライナ侵攻を掲げる、唯一の立候補予定者だ。
この日は、出馬に必要な10万人分の署名の提出期限当日。自分で持ち込みに来たのだ。
次々に検査機を通り抜けていく、署名が入った箱。どんどん積み上げられ、その数は25個。
ナデジディン氏は署名活動の結果に自信をのぞかせ、「ロシア大統領選の歴史の中で、実際に人々が行列を作って署名した初めてのケースです」とコメント。
その言葉通り、ロシア全土75の地域で行われた署名活動では大行列ができていた。
10日以内に選挙管理委員会が判断
集まった数は、約20万人分にのぼる。このうち有効とされる可能性が高い、10万5000人分を提出したという。
すでに政党推薦の3人とプーチン氏は立候補者として登録済み。
署名が有効と認められ、立候補できるのか。10日以内に選挙管理委員会の判断が下される。
●「5選挑戦」プーチン大統領、選挙運動員に「ウクライナで軍事的利益を死守」 2/2
「5選」に挑戦するロシアのプーチン大統領が来月の大統領選挙を控えて選挙運動員に会い、ウクライナ戦争で軍事的利益を確保するという立場を見せた。
1日(現地時間)のAP通信によると、プーチン大統領は前日、選挙運動員に会った席で「ロシアは軍事的手段を動員しながらも国益を守らなければいけない。会議が行われる間にもロシア軍はウクライナ東部のアウディイウカで新しい利益を得た」と述べた。
続いて「我々は国家の発展とすべての方面で独立と主権を強化するうえで、かなり難しく重要な時期を送っている」とし「常に存在する汚れた泡が少しずつ洗い流されている」と主張した。
プーチン大統領は「戦線を後回しにしなければいけない。ウクライナ当局が平和な都市を砲撃するために西側が供給する長距離砲から安全なわが領土を広げなければいけない」とし「重要な人口密集地から敵を追い出すなどそのようなことをしてきた」と強調した。そして「これはそこで命をかけて戦う軍人の主な動機だ。祖国を守ってわが国民を守るためのことだ」と述べた。
プーチン大統領は統一ロシア党出身で2012年に離党し、今回の大統領選に無所属で出馬する。ロシア大統領選は来月15−17日に行われる。ロシアはウクライナから奪ったドネツク・ルハンシク(ルガンスク)・ヘルソン・ザポロジエ州も選挙区に含めた。2014年に強制合併したクリミア半島でも選挙を行う。
●戦争の設計が変わった、ウクライナ軍総司令官が寄稿 2/2
第2次世界大戦が終わって80年近くたつ。それでも、戦争の戦略観を定義づけるレガシー(遺産)は今日まで続いている。
航空、ミサイル技術、宇宙基盤の資産などでめざましい進展があった一方、勝利の概念は変わっていない。敵を壊滅させ、領土を確保または解放することだ。
それでも、それぞれの戦争には独自性がある。
そして軍司令官にとって、各戦争がどう形成されるか、その違いを早めに理解することほど難しい課題はない。それが私の見解だ。
その一つ目の要因は、技術の進歩だ。それは兵器や装備の発展を決定づけるものとなる。
二つ目は国内外の政治状況と経済環境だ。
勝利は独自性のある戦略を必要とし、独自性のある論理に従って実現する。
この戦争の中心的な推進力となってきたのは、無人兵器システムの発展であることは周知のとおりだ。
こうしたシステムは息をのむペースで増え、その適用範囲はさらに広がりを見せている。
極めて重要なのは、こうした無人システム――ドローンを含む――や他のタイプの先進兵器が、ウクライナが陣地戦に引きずり込まれるのを回避するために最良の方法を提供しているという点だ。陣地戦で我々に優位性はない。
こうした技術の習熟は重要である一方、それだけが現在の戦略に影響を与えているわけではない。
我々は重要なパートナー国からの軍事支援の縮小と戦わなければならない。こうした国々は内政に緊張を抱える状態にある。
我々のパートナー国のミサイルや防空迎撃兵器、大砲の弾薬の備蓄は尽きつつある。ウクライナでの激しい戦闘行為が原因だが、世界的な推進装薬の不足も要因となっている。
ロシアは中東情勢の展開が国際社会の注意をそらしていると気づいていて、他の場所でもさらなる紛争を引き起こそうとするかもしれない。
国際社会が科した制裁の枠組みが弱いため、ロシアは一定の国との協力関係を維持しながら、我々に消耗戦を仕掛けるための軍産複合体を展開することが依然可能な状態にある。
我々は、敵が人的資源の動員で極めて有利なことを認識しなければならない。ウクライナの国家機構が不人気な手段を使わずに、軍の人員レベルを引き上げることができない状況とは対照的であり、我々はこの点も認識する必要がある。
最後に、我々は自国の規制枠組みの欠陥と、防衛産業の部分的な独占状態で、身動きがとれなくなっている。こうした状況が弾薬などの生産のボトルネックを生み、供給面でパートナー国への依存度をさらに高める要因となっている。
我々の戦闘経験、特に2022年以降のものは他にはない唯一のものだが、それでも勝利に向けて常に新しい方法、新しい能力を探さなければならない。それが敵に対する優位性を確保する上で手助けとなる。
恐らく、現時点で最も優先度が高いのは(比較的)安価で、高い効果を発揮する最新の無人機や他の技術的手段といった兵器全般の習熟だ。
既にそうした資産のおかげで、司令官は戦場の状況をリアルタイムに、昼夜や天候を問わず監視できる状況となっている。
だが、それだけではない。
そうした資産はリアルタイムの諜報(ちょうほう)も可能にしている。これにより24時間、絶え間なく砲撃の調整ができ、標的の敵が前線にいても奥地にいても、精密に攻撃できるようになる。
要するに、これは戦場における作戦の大規模な再設計にほかならない。同時に、時代遅れの型にはまった思考を捨て去ることも意味する。
新しい作戦にはデジタル分野での創造性、電磁環境の管理、攻撃用ドローンとサイバー資産の統合運用が含まれるかもしれない。
そうした作戦は単一の概念や計画のもと、連携して実行される。
重要な点として、目標は焦点となっている戦闘だけとは限らない。
敵の経済力を減退させたり、孤立や疲弊させることも目標となり得る。
攻撃作戦には心理的な目標が含まれることもある。
ただ、そうした点を踏まえたとしても、しばらくの間は戦場の状況の改善が優先項目であり続けるだろう。
そしてそこでは、技術が伝統に対して疑いようのない優位性を誇ることになる。
こうした資産の遠隔制御は、危険な状況に置かれる兵士を減らし、人的損失のレベルを下げることにつながる。
戦闘任務における重い資材への依存度も減らし(完全にはなくならないが)、全体的な戦闘行為の実行を減らす機会ももたらす。
さらに、重要なインフラ施設や通信拠点に対し、高価なミサイルや有人航空機を使うことなく大規模な奇襲攻撃を仕掛けられる可能性も開く。
さらなる利点については、時間がたつにつれ明らかになるだろう。ただ、当然ながら敵もそうした作戦から身を守り、主導権を回復する方法を常に模索している。
従って、防衛システムも常に改善が必要となる。敵による新技術の利用を想定した対抗手段も同様だ。
我々の軍が抱える課題を甘く見ることはできない。
それは技術的な再武装を実現する、完全に新しい国家システムの創造だ。
現時点でのあらゆる事項を考慮すると、そうしたシステムの構築は5カ月でできると我々は考えている。
我々のパートナーも同意見だ。
この期間は、適切な組織構造の構築、陣地への補充と装備支給、訓練と支援の実施、支援インフラと兵たんの構築、軍事ドクトリン(基本原則)の枠組みの開発に使われる。
結論として、2024年、我々は三つの分野に注力する。
我々の軍にハイテク資産を供給するシステムを作ること。
資産の制約やその展開方法を念頭に入れた、訓練や戦争行為に対する新しい考え方の導入。
新しい戦闘能力の可能な限り早い習熟。
我々は敵を排除し、国家としての存立を確保するための能力を既に持っている。
我々の目標はチャンスをつかむことに置く必要がある。最新の戦闘能力を最大限に積み上げ、より少ない資源で敵に最大の被害を与えることだ。それが侵略を止め、ウクライナを将来も侵略から守ることにつながる。
[バレリー・ザルジニー氏は2021年からウクライナ軍総司令官を務める。この記事は予想される同氏解任の発表前に書かれた。]
●中国、ウクライナの「戦争支援企業」リストに警告=関係筋 2/2
中国がウクライナに対し、中国企業を「戦争支援企業」に指定したことで2国間関係が損なわれる可能性があると伝えていたことが分かった。事情に詳しいウクライナ高官2人が匿名を条件にロイターに明らかにした。
中国の駐キーウ大使がウクライナ政府高官と先月会談した際に伝達したという。
ウクライナは中国企業14社を含む世界48社を「国際的な戦争支援企業」としてリストアップしており、その企業活動が間接的にロシアの戦争を支援していると見なしている。
高官の1人によると、中国側はウクライナに対して何らかの条件を設定したのではなく、単にリストについての見解を表明しただけだという。
一方、別の高官は中国がこの問題を中国のウクライナ産穀物購入に結びつける可能性を示唆した。
ブラックリストは掲載企業に法的な影響を及ぼさないものの、ロシアの主な収入源である石油やガスなどの分野における中国とロシア企業の協力関係を問題視。中国エネルギー大手を取り上げている。
リストに載っている企業は中国が最も多く、次いで米国が8社、フランスとドイツが各4社となっている。
●ウクライナ国防省「ロシア黒海艦隊のミサイル艇撃沈」…水上無人艇が体当たり 2/2
ウクライナ国防省情報総局は1日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア周辺で、露軍黒海艦隊のミサイル艇「イワノベツ」を撃沈したと発表した。水上無人艇が体当たりした結果、イワノベツが爆発する様子だとする動画も合わせて公開した。
発表によると、ウクライナ軍は1月31日夜から2月1日未明にかけ、クリミア西部に位置し、黒海につながるドヌズラフ湖周辺で警戒活動中のイワノベツに無人艇による攻撃を加えた。
発表は、イワノベツについて「移動が不可能な損傷を受けて船尾側に転覆し、沈没した」と説明。露側の損害額が約6000万〜7000万ドル(約88億〜103億円)に上ると主張した。
英BBCロシア語版によると、露側は1日夜の時点で攻撃についてコメントしていない。ウクライナ軍は、黒海艦隊の弱体化を狙い、無人艇などで艦船や基地への攻撃を続けている。
●ウクライナ、ロシア軍ミサイル艇を撃沈と発表 黒海 2/2
ウクライナ軍は1日、ロシア占領下のクリミア半島の海湾で特別作戦を実施し、ロシア黒海艦隊のミサイル艇を破壊したと発表した。
ウクライナ軍情報当局によると、ロシアの小型軍艦「イワノヴェツ」は夜間の攻撃で「船体に直撃」を受け、沈没したという。
同当局は、直撃と大爆発の瞬間だとする映像を公開した。映っている船のマストや大型レーダーなどは、ロシアが保有するミサイル艇の特徴と一致している。
ロシア当局はこの件についてコメントしていない。
ロシアの軍事ブロガーは通信アプリのテレグラムに、船はドローン(無人機)による攻撃を3回受けて沈んだと書いた。
ウクライナ国防省情報総局は、特殊部隊「グループ13」の兵士らが、海軍基地のあるクリミア半島西側の海湾、ドヌズラフ湖で船を破壊したとテレグラムで発表。
「ロシア船(イワノヴェツ)は船体を繰り返し直撃され、損傷して動けなくなった。船尾に傾き沈没した」と説明した。
また、ロシアの捜索救助活動は失敗に終わったと主張。同船は6000万〜7000万ドル(約88億〜102億円)の価値があるとした。
ウクライナ外務省のオレクサンドル・シェルバ氏は、「午前3時45分に最初の攻撃があり、午前4時には乗組員全員が避難した。この船が助かる可能性はまったくなかった」とBBCに説明。「見事な」攻撃だったとした。
ウクライナはロシアとの戦争で、黒海とその周辺において一連の成功を収めてきた。艦隊は有していないものの、ロシアの軍艦を損傷・破壊してきた。
ロシアによるウクライナ侵攻の開始2カ月後の2022年4月には、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を損傷させ、最終的には撃沈させた。ウクライナはミサイルで攻撃したとみられている。
昨年9月には、クリミア・セヴァストポリのロシア黒海艦隊の司令部をミサイル攻撃した。その後の衛星画像は、ロシア海軍が黒海艦隊の多くをクリミアからロシアの黒海港ノヴォロシースク港に移動させたことを示していた。
昨年12月には、クリミアのフェオドシヤ港で大型揚陸艦「ノヴォチェルカッスク」を破壊したと発表した。ロシアも同艦の損傷を認めた。
●EU ウクライナ追加支援 4年間で8兆円規模 ハンガリーも含め合意 2/2 
EU=ヨーロッパ連合は、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの8兆円規模の財政支援について、反対していたハンガリーも含めて全加盟国で合意しました。
EU フォンデアライエン委員長「4年間で500億ユーロの支援は、残忍な軍事侵攻開始から2年になるのを前に、プーチン大統領に対して非常に強いメッセージを送るものです」
EUは1日、臨時首脳会議を開き、ウクライナへの4年間で500億ユーロ、日本円でおよそ8兆円規模の資金援助に27の全ての加盟国で合意しました。反対し続けていたハンガリーのオルバン首相とは会議を前に、EUのミシェル大統領やフランス、ドイツの首脳らが協議し、説得したとみられます。
合意文書には「資金の使い方について毎年討議を行い、必要であれば、2年後に見直すこと」などが盛り込まれました。
こうしたなか、ウクライナ兵捕虜を乗せたロシア軍輸送機の墜落をめぐって、ロシア連邦捜査委員会は1日、「ウクライナ軍がアメリカ製の地対空ミサイルシステム『パトリオット』で撃墜した」とする調査結果を発表しました。
調査結果では、現場で見つかったミサイルの破片とされる映像が公開されたほか、捕虜のウクライナ兵65人を含む死者全員の身元が確認されたとしています。
一方、ウクライナ国防省は1日、ロシアが一方的に併合した南部クリミア沖の海上で、ロシア軍の艦艇をドローン=無人機で攻撃し、撃沈したとする映像を公開しました。ウクライナ側は今週、クリミアのロシア軍基地などにも攻撃を行ったと主張していました。
●EU、ウクライナ支援パッケージを承認 7.9兆円相当 2/2
欧州連合(EU)の加盟27カ国は1日、ウクライナに対する500億ユーロ(約7兆9500億円)相当の支援パッケージを承認した。これまで、ハンガリーが反対していた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は新たな支援を歓迎。同国の経済と財政の安定につながると述べた。
ウクライナ経済省によると、支援の第1弾は3月に届けられるという。
昨年12月のEU首脳会議(サミット)では、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相が支援策に拒否権を発動し、否決されていた。今回も、ハンガリーが支援を阻止するのではないかとの懸念が広がっていた。
オルバン首相は、EUの中では最もロシアのウラジミール・プーチン大統領に近い。オルバン氏は先に、ウクライナに対するEUの政策を再考させたいと述べ、向こう4年にわたってウクライナに資金を提供することに疑問を呈していた。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「この支援が、アメリカが同じことをするきっかけになると思う」と述べた。アメリカでも昨年末、連邦議会が対ウクライナ支援策を否決し、協議が滞っている。
短時間の承認に驚きも
EUの支援の承認は、今回のサミットが始まってから2時間以内に発表された。オルバン氏と他のEU首脳とのあつれきで協議が長引くと思われていただけに、早急な決定に驚きの声も上がった。
ただし、EUの支援は前線ではなく、後方で生活する人々向けだ。
ウクライナは国家予算を戦争につぎ込んでいる一方で、年金や公務員給与などの支払いも続けなければならない。EUが支援を承認しなかった場合、こうした支払いが遅れるとの警告も出ていた。
ウクライナが友好国に支援継続を求めるなかでも、国民生活を可能な限り円滑に維持することは、戦争への支持を維持するために不可欠だ。
新たな協定には、資金パッケージについて1年ごとに話し合うことと、「必要であれば」2年後に見直すオプションが含まれている。このオプションは、欧州理事会の裁量にゆだねられている。
オルバン氏は、この協定について毎年投票を行うよう求めていた。これは、支援が毎年、ハンガリーの拒否権の脅威にさらされる可能性があった。
武器供給についても協議
協定ではまた、ウクライナを支援する前提条件として、ウクライナが「少数民族に属する人々の権利」を支持することが挙げられている。これは、ウクライナにおけるハンガリー系少数民族に対するオルバン氏の長年の懸念に言及している可能性がある。
サミットではウクライナへの武器供給についても協議された。
EUは今週初め、3月までに送るとしていた弾薬100万発のうち52%しか届けられていないと認めた。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は1日、EUはウクライナが「自国と自国の未来」を守るために必要な装備を確実に入手できるようにする決意があると述べた。
ゼレンスキー氏はEU首脳に向けたビデオ演説で、EUは「その言葉が重要であり、その約束が欧州全体の利益に寄与すると証明した」と述べた。
また、米国の援助が議会によって阻止されていることに言及し、今回の発表が「大西洋を越えて(中略)国際ルールに基づく世界秩序が、あらゆる挑戦に耐えるというシグナルを送るだろう」と話した。
「欧州はその団結力によって、世界情勢の基調を定めている」と、ゼレンスキー氏は付け加えた。
EUは昨年12月のサミットで、ウクライナの加盟交渉を開始することに合意している。ハンガリーのオルバン首相は、この時は拒否権を発動せず、採決の際に一時的に会議場から退出した。
●「質より量だ」ウクライナ 大砲・砲弾の迅速供与を訴え 2/2
ウクライナの情報機関トップがCNNのインタビューに応じ、不足する大砲や砲弾について迅速な供与を訴えました。また、ロシア国内の重要インフラへの攻撃強化を示唆しました。
CNNによりますと、国防省情報総局のブダノフ局長は「援助が本当に必要だ」と述べ、これまでの戦闘による消耗を補うためりゅう弾砲を初めとする、大砲の数を急ぎ増やす必要があると語りました。砲弾についても「戦争で最も決定的な要因のひとつだ」、「質より量だ」として、北朝鮮から供給を受けるロシアに比べ大幅に不足している現状を訴えました。
また、ロシア国内へのドローン攻撃について関与は認めないものの、「全ての重要インフラ、軍事インフラが対象に含まれると信じている」として攻撃が拡大する可能性を示唆しました。そして、燃える施設などを見ることにより「ロシア国民は戦争の本当の姿を知る」と述べました。
一方、ゼレンスキー大統領がザルジニー軍総司令官を解任し、ブダノフ氏を後任に充てるとの報道ついては否定しました。
●中国に関する国際金融界は嘘と欺瞞だらけ デフレ不況・マイナス成長も… 2/2
国際金融界というのは、中国に関する限りは虚偽と欺瞞(ぎまん)だらけである。
昨年の中国経済は本欄前週で報じたようにデフレ不況、マイナス成長に陥った。ところが西側の銀行、証券の国際金融資本は5・2%のプラス成長とする北京当局発表に疑義をはさまない。さりとて真実から目をそらしていては、金融機関としての信用を失ってしまう。固より、中国市場が縮小し、衰退し続けるのは国際金融資本にとっては重大な打撃になる。そこで、どうやって中国の経済危機を緩和し、再浮上させられるか、秘策を練る。国際金融資本のアナリストたちは中国が依然として巨大な成長市場だと喧伝(けんでん)する習近平政権のお先棒を担ぐのだ。
図らずもだろうが、この思惑が最近あらわになった。1月26日付ブルームバーグ電は「中国は低迷する経済と株式市場を回復させるために、円に対する人民元安を狙うべきだと、シティグループが提案した」と報じた。米シティグループ・グローバル・マーケッツのアジア取引戦略責任者はブルームバーグテレビジョンで、「もし中国が現在の水準より8%から12%安い1元=18―19円にすることを目指せば、(中略)中国はリフレ、日本はデフレとなり、皆がハッピーになれる」と論じたという。
グラフは人民元の対円、ドル相場の推移である。元は円とドルの双方に対してウクライナ戦争勃発の2022年2月までは上昇を続けたが、同3月以降はドルに対しては下落プロセスに入ったものの、円に対しては1元=20円前後の高水準で推移するようになった。2021年末には不動産市況下落が本格化し、ウクライナ戦争開始後からはロシアに加担する習政権が西側の金融制裁を食らうとの恐れが生じた。不動産バブル崩壊と政治的リスクの双方が重なった結果、外国の対中証券投資が急減し、続いて製造業の対中直接投資減にもつながった。
●OPECプラス、常に石油市場支える用意=ロシア副首相 2/2
ロシアのノバク副首相は1日、石油輸出国機構(OPEC)加盟・非加盟産油国で構成する「OPECプラス」について、中東情勢やその他の要因で対処が必要な際には「いつ何時でも」石油市場を支える態勢が整っていると述べた。
OPECプラスの合同閣僚監視委員会(JMMC)後のテレビ放送で語った。会合では現行の生産方針を維持することを確認した。
関係者2人によると、現在実施している自主減産を延長するかどうかは3月の会合で決めるという。
OPECプラスは、1─3月期に日量計220万バレルの減産を実施することで合意している。
ノバク氏は中東情勢の緊迫化や紅海での商船攻撃について触れ、「市場のバランスを取ることを目指した協調行動を調整する決定がいつでもできるよう、現在の状況を注視し続けることは極めて大切だ」と語った。「現在、市場は中東情勢に大きく左右されている」と指摘したものの、全体的には世界の市場は安定しているとの見方を示した。 
●正午の反対投票呼びかけ 大統領選でナワリヌイ氏 2/2
プーチン政権と対立して逮捕され服役しているロシアの反政府活動家ナワリヌイ氏は1日、プーチン氏が通算5選を目指す3月の大統領選で、投票日の正午に投票所に出向いてプーチン氏への反対票を投じるよう国民に呼びかけた。
ナワリヌイ氏は通信アプリへの投稿で、この方法なら完全に合法的な手段でプーチン氏への反対の多さを示すことができると主張。政権側は妨害できないと指摘した。
大統領選の投票は3月15〜17日の3日間。
ナワリヌイ氏は過去の経済事件で拘束・収監されたほか、昨年8月には過激派団体を創設したとして懲役19年を言い渡され9月に確定した。
●「単なるガス抜き」扱いされていたはずが予想外の人気─ 2/2
 落選確定の“プーチンの対抗馬”ナデジディンが出馬することの意義
突然浮上した地味な政治家
3月15日から17日にかけておこなわれるロシアの大統領選挙。選挙とは名ばかりで、プーチン本人と体制を支持する候補しか参加せず、ウラジーミル・プーチン大統領が勝利するようになっているという見方が強い。プーチン政権を批判してきた陣営や候補は、これまでの選挙でも立候補前に投獄されたり、手続き上の不備を理由に立候補を取り消されたりしてきた。今回の選挙でも、平和主義を掲げて名乗りをあげたエカテリーナ・ドンツォワの出馬が認められなかった。
しかし、ウクライナへの侵攻に異議を唱えるもう一人の候補が、立候補手続きの完了までこぎつけたとして話題になっている。それは、元下院議員のボリス・ナデジディンだ。そのマニフェストでは、プーチンが「特別軍事作戦(ウクライナへの侵攻)を開始するという致命的な間違いを犯した」と述べられている。
ナデジディンは、現在投獄されているアレクセイ・ナワリヌイや、暗殺されたボリス・ネムツォフのように、政権にとって脅威となったカリスマ的な批判者ではなかった。
英紙「ガーディアン」によると、彼は国営テレビに出演してウクライナへの侵攻について批判的な発言をすることを許された稀な人物だったが、それだけに「ロシアにも競争があるという虚構を維持する、形だけの反対派」ではないかと思われていたようだ。これは彼が過去に、いまもプーチンの側近を務めるセルゲイ・キリエンコなどのもとで働いていたという事情もあるだろう。ナデジディンについて尋ねられた大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、「我々はナデジディンを競争相手とはみなしていない」と余裕の構えだった。
しかし、仮に見かけ上だけでも「反戦派」として立候補が認められる可能性がある唯一の人物となったナデジディンのもとには、予想外の幅広い支持が集まっている。獄中のナワリヌイやその支持者、出馬を拒否されたドンツォワ陣営のほか、亡命したミハイル・ホドルコフスキー、徴兵された家族を家に返してほしいと訴える兵士の妻や母からなるグループなどが、ナデジディン支持を表明した。選挙への立候補には有権者10万人以上による署名が必要だが、ロシア全土で、人々が署名のために何時間も並ぶ様子も話題となった。
可能性は「絶望的」だが…
ナデジディンの立候補が正式に認められるか自体もまだ不明だ。ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」によると、はじめは政権や体制派に黙殺されていたナデジディンだが、予想外の人気が出たせいか、にわかに国営テレビなどで声高に批判されるようになった。そのため、当局が何らかの理由をつけて立候補手続きを取り消す可能性は大いにある。メドゥーザの取材を受けた支持者らも、ナデジディンが選挙に参加できるかどうかについて、まったく楽観視していない。
それでは、仮に立候補が認められた場合はどうなるのか。ロシアの政治アナリスト、ドミトリー・オレシキンはドイツメディア「ドイチェ・ヴェレ」に対し、ナデジディンの得票率が5%程度にとどまった場合は、むしろ政権にとって都合の良い演出になってしまうと述べる。だが同時に、何事もなければ10〜15%の票を集めることができるだろうと予測する。
ナデジディン支持者の大部分も、勝てる可能性がとても低いことは理解している。しかし、もし5%を超える得票率を獲得できれば、「ロシア国民がウクライナ戦争に賛成して固く団結しているという立派なイメージに泥を塗ることになる」ため、反体制派にとってはイデオロギー面での勝利となり、プーチンの政権運営に一定の影響を及ぼすのではないかと考えられている。
●ウクライナ戦争、ロシア崩壊のカウントダウンか…少数民族が独立運動を活発化 2/2
間もなく2年を迎えるウクライナ戦争では連日犠牲者が出続けている。そんな中で、ウクライナとロシア内少数民族が連携する可能性が出てきた。
昨年11月8日、欧州議会庁舎内で行われた国際会議で、100年以上前、ロシア南部に実在した「北コーカサス山岳共和国連邦」の復興宣言がなされたのだ。ちなみに、山岳共和国連邦領土の西端は、海峡を挟んでウクライナが奪還を図るクリミア半島につながる。
クリミア半島でウクライナが圧倒的優勢に立った場合、独立に向けての動きが活発化するだろう。
そうなると、21世紀のロシア革命的な歴史的大事件に発展する可能性もなきにしもあらずだ。ロシア少数民族の視点から、その背景と展望を探る。
零下30度のロシアでクライナ侵略以降、最大規模のデモ
1月17日、ロシアのウラル山脈南部に位置するバシコルトスタン共和国で、1万人規模の大規模デモが起き、機動隊と衝突が起きて逮捕者が出ている。
CNNなどの報道によると、地元少数民族バシキール人のフェイル・アルシーノフ氏が民族的憎悪の扇動した罪で有罪判決を受けた。これに抗議する群衆が集まり、大規模デモとなったのだ。ロシアではウクライナ全面侵略開始以降、デモは禁止されている。今回のデモも無許可だから、警察は捜査を開始。今後、逮捕者が増える可能性がある。
このバシコルトスタン共和国には、もちろんロシア人も住んでいるが、地元の少数民族バシキール人(主にイスラム教徒)やタタール人などが住んでいる。
今回の大規模抗議デモのきっかけは、ウクライナ戦争や動員にストレートに反対する目的ではなかった。しかし、次第にウクライナ戦争やプーチン政権批判に傾いていった。その背景には、ウクライナ戦争に駆り出されて戦死を強いられている少数民族の存在があり、今後は何かのきっかけで爆発する可能性を示した。
ロシアはウクライナ戦争で自国内少数民族を大量抹殺
いま、ロシアでは“自国内民族浄化”が進んでいる。
ロシア連邦は83の共和国と州などに分かれており、登録されている民族は180以上。これだけの民族が存在するのは、広大なロシアの領土が、帝政ロシア時代に戦争によってさまざまな民族を征服して獲得された結果である。
アメリカの情報機関によれば、昨年12月時点でウクライナ戦争におけるロシア軍死傷者は31万5000人。戦死者数と負傷者数の内訳は明らかにされていない。ウクライナ当局による発表でも、これに近い数値だ。ロシア兵の戦死者は、ロシア人でなく帝国時代に征服された少数民族の占める割合が高い。
モスクワやサンクトペテルブルグなどの大都市出身者に大量の戦死者が出れば、ロシア国民に大きな動揺が起こり、弾圧しても反戦運動が起きる可能性がある。そうなれば戦争遂行の妨げになるため、少数民族を盾にしてロシア人や大都市出身者を守る意味合いもあるのだろう。
しかし、その実態を見るにつれ、単にロシア人を守るだけでなく、ロシアはウクライナ戦争を利用して国内の少数民族抹殺を推進しているのではないかとすら思えてくる。
ブリヤート共和国出身者はモスクワ出身者の33倍の戦死率
ロシアの独立系メディア「メディアゾーナ」は、出身地域別にロシア軍兵士の戦死統計を掲載し続けている。刑務所の実態、司法、警察などに関係する人権状況を調査報道することが多いメディアで、BBCなどとも協力して、戦死者の独自データを集めている。
この調査では、アメリカやウクライナの政府機関発表より犠牲者数が少ない。2022年2月24日のロシア軍による全面侵攻以降、2023年12月27日までの地域別の戦死者を見てみよう。
1月17日に大規模デモが発生したバシコルトコスタン出身の戦死者とモスクワ市出身者の戦死者を比べてみた。
〇バシコルトコスタン 戦死1304人(人口約405万人)
〇モスクワ市 戦死423人(人口約1261万人)
人口比では、少数民族を多数抱えるバシコルトスタン出身者は、モスクワ出身者より約9.6倍もの戦死者を出している計算になる。
同じように同じように見ていくと、シベリアにありモンゴルに隣接するブリヤート共和国(仏教が主流の共和国)は、モスクワ出身者より実に32.6倍の戦死率。ブリヤート共和国の人口は約98万人。ブリヤート人はロシア連邦全体で45万人程度しかいないので、戦死が続出するいまの状況が長引けば、民族存亡の危機につながる。
北コーカサスのダゲスタン共和国はどうか。ここは一昨年9月、既存の兵員では人員を確保できなくなったプーチン政権が、30万人の動員をかけたとき、ストレートに動員に反対する街頭デモが起き、多数が警察に拘束されたところだ。そのダゲスタン共和国も、モスクワ市出身者より7.6倍も高い戦死率なのである。
以上は、2022年2月24日から2023年12月27日までを均して計算したものだが、特定時期をとりあげれば、モスクワ市よりブリヤートの方が人口比で40倍以上も戦死者を出していたこともあった。
これは、民族別の戦死ではなく、あくまでも出身地域別の戦死者だ。モスクワにも少数民族は住んでいるし、それぞれの少数民族共和国にはロシア人も住んでいるからだが、辺境地域や少数民族地域の戦死が集中しているのは歴然たる事実だ。
民族の牢獄……ロシア内部から動きが
前述のように膨大な数の民族が、ロシアに武力併合されて数百年間も差別され屈従を強いられてきた。差別されている人たちが、戦争が起きると最前線に送られ戦死を強いられる。ソ連時代から指摘されている「民族の牢獄」に他ならない。
1月17日のバシコルトスタンにおける大規模デモを見れば、何かのきっかけで大きな運動に発展する可能性がある。
そして、現実に少数民族たちの独立を求める運動がある。つまり、牢獄から自由の身になりたいという人々が、少数だが確実に声を上げ始めているのだ。民族を問わずプーチン政権の戦争に抗する反体制派たちによるパルチザンが激増しているという情報もある。加えて現在、戦線で抵抗を続けるウクライナ人。
つまり、ウクライナ、ロシア少数民族、ロシア反体制派、の三者が、結果的にせよ連動するかたちが作られかけている。その流れに結集する人たちは「ロシア連邦解体のカウントダウンが始まった」と言う。
180以上もの民族が住むロシア連邦内で、いま注目したいのは「ロシア後の自由な民族フォーラム」である。
このフォーラムは、ウクライナ人のオレグ・マガレツキー氏らが2022年に創立したもので、少数民族たちが自分たちのおかれた状況確認し、ロシアの脱帝国主義化・ロシアの脱植民地化を目指す枠組みである。
「民族の牢獄」の解体を求めてロシアの少数民族たちが来日
昨年8月1日、東京永田町の衆議員会館大会議室において「第7回ポストロシア自由な民族フォーラム」が開催された。翌2日には都内のほかの場所で主としてオンラインによる会議が行われた。ロシアの反体制派、ウクライナ人活動家、ロシア少数民族たちが集まって、ロシア連邦解体(もしくはゆるやかな連邦)や独立へ向けての決意を語った意義は大きい。
彼らが主張するロシアの「脱帝国主義化」「脱植民地化」が表す「脱」という表現だが、プーチン政権がウクライナ侵略の目的として掲げるウクライナの「非」ナチ化、「非」軍事化に対抗しているのではないだろうか。
創設者マガレツキー氏に2人が呼応して、このフォーラムを推進してきた。ひとりは、2014年のクリミア併合にただひとり反対したロシアの元国会議員イリヤ・ポリョマノフ氏(ウクライナで亡命中)。ウクライナ側で戦うロシア国民などで結成された「ロシア自由軍団」の政治部門幹部だ。ロシア自由軍団は、数度にわたり越境してロシア内に侵入し戦闘を行っている。
二人目は、チェチェン亡命政府のアフメド・ザカーエフ首相である。ソ連崩壊後の民族弾圧で最大の被害を受けているのがチェチェン人である。
1994年末から2009年に至る二度のチェチェン戦争で、人口のおよそ20%が殺されているほどの殺戮だ。このチェチェン戦争こそ、現在進行中のウクライナ戦争の原点といえるだろう。帝政ロシア、ソビエト連邦、現在のロシア連邦をとおして少数民族は抑圧されてきた。これを指してロシアは「民族の牢獄」と呼ばれてもいる。
その被害者である少数民族、ロシア反体制派、現在闘いの最中にあるウクライナ人の三者が一同に会し、その枠組みを継続させている意義は大きい。
なお、ザカーエフ亡命政府首相は日本政府がビザを発給しなかったため、亡命政府のイナル・シェリプ外相が来日し会議に出席した。
ロシア連邦解体のカウントダウンか
それにしても「ポストロシアの自由な民族フォーラム」のようなイベントが日本で開催されるとは、ウクライナ戦争以前では考えられなかった。
ロシア自由軍団政治部門幹部のポリョマノフ氏の発言は象徴的だ。「プーチンがウクライナの全面侵略を開始したことで、ロシア連邦崩壊のカウントダウンが始まった」と明言したのである。
他の出席者からも「ロシア連邦崩壊」という表現が何度も出ていた。ウクライナ戦争で、モスクワ出身者より30倍以上も多くの戦死を強いられている(ロシアの独立系メディア「メディアゾーナ」の調査を基に人口比で換算)。ブリヤート共和国出身者も会議に参加した。
ブリヤート共和国の出身で「ブリヤート独立運動」のマリーヤ・ハンハラーエヴァ代表がこう訴えた。
「私たちの民族は、ロシア帝国下で数々の苦渋を強いられてきた。生まれたときからロシア人と差別され、資源は中央政権にもっていかれ地元にはひどい環境破壊がもたらされた」
そのあげく、ウクライナ戦争ではロシア兵として前線に駆り出されて大量の戦死を強いられ、ロシア連邦全体で約45万人しかいないブリヤート人は民族存亡の危機に立たされているのだ。ブリヤートでは、帝政時代に6回も蜂起があったが制圧された歴史がある。
今年1月17日に、全面侵攻以後最大のデモが起きたバシコルトスタン共和国出身のルスラン・ガバーソフ氏(バシキール国民政治センター代表)は、ロシアに対して強い不信感を現した。
「ロシアは伝統的な帝国そのもの。我々バシキール人は、何百年もの間自由を求めて戦ってきたが、そのつど制圧されてきた。世界は何もしてこなかった。
それは、世界がロシアにこのまま存続してもらいたいと思っているからである。しかしウクライナで虐殺を行ったことで、ロシアは自身がモンスターであることを示し、世界はそれを理解した。ロシアは周辺民族を支配下に置きたいという野望をもっており、仮にプーチンが失脚してもロシア国家そのものは変わらない」
このように非常に厳しい見方を示している。
ロシア南部コーカサスに火がつくのか
このロシア後の自由な民族フォーラムは、2022年5月にワルシャワで第1回が開かれ、東京は第7回。その後も各地で回を重ね、情報収集・分析・発言を通して各民族が独立を目指す姿勢を継続させている。
ウクライナ、ロシア反体制派、ロシア少数民族が連携した枠組みが継続されていること自体に意義があるだろう。
ただ、フォーラムに加盟している人々は、主に海外に亡命した人たちだ。ロシア国内でこのような活動をするのは、今のところ極めて困難だ。したがって、ロシア内に実際に住む少数民族の人たちがどう考え何を思っているかがポイントだ。
そして、ロシア内部に実際に住む少数民族の人々と、外部の亡命者たちが今後どのように連携していくかが課題となるだろう。
こうした状況で、独立に向けて最も先へ進んでいるのが、ダゲスタンやチェチェンなどを含む北コーカサス地方である。
2023年11月8日、ブリュッセルの欧州議会庁舎内で重要な国際会議が行われた。関係者に聞いてみると、北コーカサスを巡る壮大な構想があることがわかった。
構想実現に向けて具体的な動きが進展すれば、歴史的事件となるはずである。
目下の焦点は、ロシア南部の北コーカサス地方だろう。ロシアに併合されているクリミア半島の奪還作戦でウクライナが勝利もしくは圧倒的優勢に立った場合、北コーカサスで独立運動が再燃する可能性が出てきた。そうなれば、ロシア全体の問題になる。
106年ぶり 北コーカサス民族連合共和国(山岳共和国)復活宣言
2023年11月8日、北コーカサスをルーツとする人々の子孫や亡命者たちが世界中からベルギーにある欧州議会庁舎に集まり「第3回北コーカサス人民会議」を開催した。
第2回は北コーカサス現地で1917年の開催だから、実に106年ぶりとなる。ロシア革命最中の1917年、この地の少数民族たちが集まり共和国設立を宣言。翌1918年には北コーカサス民族連合共和国(通称・山岳共和国)の独立宣言をした。
周辺諸国も独立を承認し、数年間は実際に独立していたのだ。が、やがてソビエト連邦に組み込まれ、この山岳共和国が消滅させられた。
この地域は数十もの少数民族が住み、イスラム教徒が主流だが、キリスト教徒も住む。山岳共和国のコンセプトは「山岳民」を共通のアイデンティティにしており、宗教や民族を超えようとした意図がうかがえる。
想定されている領域は、カスピ海から黒海に至る地域。ロシア連邦内のダゲスタン共和国、チェチェン共和国、イングーシ共和国、カバルジノ・バルカル共和国、カラチャイ・チェルケス共和国の各共和国に加え、かつて存在したチェルケス王国の領域(ロシア・クラスのダル地方の一部)も含む。
つまり、黒海に面するノヴォロシスク市も含む。ここにはロシアの海軍基地があり、ウクライナに脅威を与えている。ノヴォロシスクの先は、ケル地海峡を隔ててウクライナのクリミア半島だ。
ブリュッセルでの会議は、その「北コーカサス人民国家復興会議」を設置し、次の責任者が選ばれた。
〇議長(将来の大統領)イヤド・ヨガル(チェルケス人実業家=アメリカ国籍)
〇副議長 アデル・バシクゥイ(チェルケス人作家)
〇副議長 シャミーリ・アルバーコフ(イングーシ代表)
〇軍事委員会議長(将来の国防相)アフメド・ザカーエフ(チェチェン亡命政府首相)
〇政治評議会議長イナル・シェリプ(チェチェン亡命政府外相)
数百年の怨念 ロシアvs.コーカサス
ロシアの広大な領土は、戦争で他民族を征服した結果だが、もっとも果敢にロシアに抵抗したのがコーカサス諸民族である。ロシアに征服される最終段階で約半世紀続いたコーカサス戦争(1817〜1864)では、チェチェンの人口は半減し、その西方に住むチェルケス人は、虐殺と国外追放で7割から9割が失われたという被害を被っている。
そのチェルケス人の子孫が独立委員会議長に就任したのは、象徴的だ。
しかし今回、ロシア革命後に実在した独立国家「山岳共和国」復興構想が始動した背景として、1994年12月〜2009年4月のチェチェン戦争を見なければならない。19世紀のコーカサス戦争の再燃だった。
だが、この時はチェチェンだけが突出してロシアと戦い、徹底的な虐殺で人口の20%、侵攻直前は推定100万人だったから、20万人もの市民が殺されたのである。
虐殺と破壊の後は、ロシアの傀儡アフメド・カドゥイロフ首長が実験を握り、共和国内で恐怖政治を行っている。独立派は母国を追い出され、世界に50万人、そのうちヨーロッパに30万人のチェチェン人が亡命しているとみられる。
ウクライナ戦争で、いち早くロシア軍の先兵となり侵略に参加しているカドゥイロフ部隊が前線に出たのは、最初の3週間ほど。あとは後方に退き、パフォーマンスだけをネットで流している状況だ。
反対に、チェチェン独立派は義勇軍を結成。ロシアがクリミアを併合し、ウクライナ東部のルハンシク・ドネチクに軍事介入した2014年から、10年間ウクライナ側で戦っている。その数は1000人を超えている。赤ん坊から老人、男女すべてでヨーロッパに30万人、全世界で50万人しかいないチェチェン移民のうち1000人が義勇軍に参加しているのは驚異的な数字だ。
ウクライナに“北コーカサス軍”結成
2022年、チェチェン部隊はウクライナ軍と協定を結んだ。ロシアにより解体させられていたチェチェン軍が実質的に再建されたといっていい。ただし、ウクライナに少なくとも4つあるチェチェン部隊が、すべて正式にウクライナ国防省と協定を結んでいるわけでない。
関係者によると、現在は一つの軍事組織に統合する作業が進められている。さらに、チェチェン人以外の北コーカサス諸民族もウクライナの外国人義勇軍に参加しており、彼らとも組織的統合をはかる予定だという。
そうなると、ウクライナ内に北コーカサス統一の武装組織が誕生することになり、これが実質的に、独立を想定した“北コーカサス民族連合軍”として発展していく。
クリミア半島でのウクライナ優性で大きく動く
「北コーカサス民族連邦」独立委員会が想定しているのは、ウクライナが戦争に勝利、とくにクリミア半島で勝利した場合、独立運動を本格化させること。
ウクライナが勝利にまでに至らなくても、優勢(とくにクリミア)が一定期間維持されれば、事態が大きく進展するだろう。
その場合、クリミア半島から「北コーカサス軍」が北コーカサスに侵入することも想定内にあるのだ。クリミアと北コーカサス(ロシア本土)を隔てるケルチ海峡は、クリミア大橋で結ばれている。
北コーカサス民族連合構想の企画者たちは、これにより、ロシアの黒海へのルートを塞ぐことを想定している。
現実には、北コーカサスに構えるロシアの傀儡チェチェン武装勢力「カドゥイロフ部隊」も控えているし、黒海を望むノヴォロシスク基地をロシアが明け渡すはずもない。
現時点では「構想」の段階にあり、目論見通りに進む保証はどこにもない。だが、各民族の様々な人々がこの構想に関わり、着々と準備を進めていることは事実だ。
独立委員会が結成された11月8日の会議では、世界各国からの代表や欧州議会議員なども参加し、民主主義を基盤とし西側と協調していく姿勢を示している。
106年前の「山岳共和国」独立も、その数年前まではロシア帝国からの独立が実現できるなどと、多くの人は考えていなかったであろう。
ロシアの少数民族とウクライナの抵抗が連携することを前提とした「北コーカサス民族連合構想」は、ロシア全体をも動かす契機になるかもしれない。
クリミアと北コーカサスはつながっている。
●ウクライナの子供奪還急務 露が「同化」進める ラトビアで国際会議 2/2
ロシアに連れ去られたウクライナの子供の奪還などを話し合う国際会議が1日までの2日間、バルト三国ラトビアの首都リガで開かれた。ウクライナのオレナ・ゼレンスキー大統領夫人が出席して各国に協力を要請。ロシアはウクライナや日米欧などの非難にもかかわらず、再教育や養子縁組などを通じて子供の「ロシア人化」を進めているとされ、対処は急を要している。
国際会議はウクライナとラトビア両政府が共催。欧米諸国の代表や国際法などの専門家らが出席した。
オレナ夫人は1日の演説で「(ジュネーブ条約などの)国際人道法は紛争下での子供の強制移送を戦争犯罪だと規定している」と指摘。子供の奪還に向けた仕組みづくりやロシアとの仲介支援を各国に求めた。その上で「どれほどの労力がかかろうとも、連れ去られた全ての子供のために戦う」と強調した。
ウクライナ政府によると、侵略開始後にロシアへの連れ去りが確認された子供は少なくとも1万9546人。実際にはさらに多いのが確実だという。一方、帰還が実現したのは388人にとどまる。国際刑事裁判所(ICC)は昨年、子供連れ去りを巡り、戦争犯罪の疑いでロシアのプーチン大統領と子供の権利問題を担当するマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表に逮捕状を出した。
ロシア側は子供の連れ去りに関し、紛争地域からの「保護」だと正当化。子供のうち約1500人は露支配地域の孤児院などの施設にいた子供で、他の大多数は両親らに従って避難してきたと主張している。
だが、ラトビア政府や欧米メディアなどによると、子供がロシアへの入国審査時に両親から引き離されて単独で入国させられたり、支配地域のウクライナ人の両親らには「短期休暇」と説明して子供を露国内の施設に連れてきた上で、紛争地域に戻すのは危険だと、そのままとどまらせたりした事例も確認されている。
米エール大の昨年2月の調査報告は、ロシアがウクライナの子供6千人超を各地の43施設に入所させ、再教育したり、養子縁組させたりし、一部では軍事教練を実施していることが判明したと指摘。「国際人道法違反だ」と批判した。
ロシアは侵攻後、支配地域の住民やウクライナの孤児らに対する露国籍の付与手続きを簡素化しており、実際にウクライナの子供に露国籍を付与した事例も伝えられている。
●中露国境地帯で観光・貿易が活発化、過去最高35兆円規模に… 2/2
ウクライナへの侵略を続けるロシアと中国の貿易総額が昨年、過去最高の約2400億ドル(約35兆円)に達した。中露の国境地帯では物資や人の往来が活発化しており、両国は国交樹立75年にあたる今年、経済交流をさらに強化する構えだ。
黒竜江省黒河と露極東ブラゴベシチェンスクを結ぶ黒竜江大橋では1月上旬、ロシアへの輸出手続きを待つ真新しい中国製トラックが100台以上並んでいた。侵略後、海外自動車メーカーの撤退に伴いロシアで需要が高まっているためだ。
アムール川(中国名・黒竜江)にかかる橋は2022年6月、米欧などがロシアへの経済制裁を行う中で開通した。ロシアを下支えする輸送ルートの一つで、中露の蜜月を象徴する。
実際、中国税関当局によると、昨年の中露の貿易総額は過去最高の約2400億ドルだった。両国は今年までに貿易総額を2000億ドルとすることで19年に一致しており、前倒しで実現した。
黒河の中心部は、買い物や食事を楽しむロシア人観光客でにぎわう。昨年9月には、コロナ禍で中断していた団体観光客のビザなし観光が再開した。地元の飲食店経営女性は「対露関係が良くなるほど、我々は経済的に潤う」と話した。
中国東北部の遼寧省瀋陽では1月、中露の合同商談会で、インフラ建設などで総額136億元(約2720億円)の事業契約が結ばれた。今月末には瀋陽とモスクワを結ぶ航空便が就航することも決まった。 習近平 国家主席とロシアのミハイル・ミシュスチン首相が昨年末の会談で確認した、経済分野での協力強化の方針に沿った動きだ。
ロシア経済を孤立化させたい米欧は、中露の接近に懸念を深めている。米政府の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は「中国は国際制裁の最大の抜け穴だ」と指摘している。
●スエズ運河ルートを回避!フーシ派の船舶攻撃 世界の物流混乱 2/2
炎が吹き上がる石油タンカー。イスラム組織ハマスとの連帯を掲げるイエメンの反政府勢力フーシ派による攻撃を受けたものです。紅海とその周辺での船舶攻撃が止まりません。その影響で多くの船舶がアフリカの喜望峰を回るルートに迂回することを余儀なくされ、日本を含む世界の物流や経済に影響が及び始めています。ガザ地区での戦争が世界の人々の暮らしにダメージを与えつつあります。
喜望峰に船舶集中
アフリカ南端に位置する喜望峰。15世紀、航海者のバルトロメウ・ディアスによって発見された岬で、強風が吹き荒れることから「嵐の岬」と言われていましたが、この沖合を通過してインドへの航路が発見され、「良い希望の岬」という名前に改名されたといわれています。現地を訪れると、ふだんより多くの貨物船やコンテナ船が行き交っていることが確認できました。ヨーロッパとアジアを結ぶ最短ルートである紅海での攻撃が相次ぎ、迂回する船舶が後を絶たないのです。
紅海周辺で攻撃相次ぐ
2024年1月26日には紅海周辺、アデン湾で石油タンカーがハマスとの連帯を掲げるフーシ派によるミサイル攻撃を受けました。イギリス企業が運航するタンカーは右舷の貨物タンク1基で火災が発生したといいます。2023年11月以降のフーシ派による商船攻撃で最大規模のものとなったとアメリカのメディア、ブルームバーグは伝えています。アメリカ国防総省は、船舶に対する攻撃は30回を超えたと説明。(1月22日時点)フーシ派の勢力をそぐため、アメリカ軍とイギリス軍が繰り返し攻撃していますが、事態は収まっていません。
ガザの戦争が運賃上昇に
アフリカの喜望峰経由に迂回した船舶は燃料消費が増え、輸送コストが上昇。コンテナ船の運賃が急激に値上がりしています。40フィートのコンテナ1個あたりの運賃は、1月25日の時点で3964ドルで、軍事衝突が始まる直前の2023年10月5日時点と比べて2点8倍になっています。ガザ地区での激しい戦闘が起点となり、海上輸送という動脈を傷つけ、運賃上昇を通じて世界経済に影響を与え始めているのです。
ドイツのメーカー 減産迫られる
紅海周辺の混乱は遠く離れたドイツ企業の生産活動に影響を及ぼし始めていました。ドイツ西部ラインラント・プファルツ州にある食洗機の洗剤などを製造するメーカーを訪れたところ、経営者は困った表情を浮かべていました。船舶の迂回によって中国や台湾から調達している主要な原材料のクエン酸三ナトリウムなどの到着が通常より2週間ほど遅れるようになったというのです。こうした原材料はヨーロッパでは調達が難しく、重量もあるため航空貨物での輸送に切り替えることも容易ではなく、倉庫にある原材料は底をつきかけています。倉庫にはふだんであれば50トンは保管されているクエン酸三ナトリウムが10トンを下回っていて(1月25日時点)、物流の混乱の影響の大きさがうかがえました。会社は1月24日から取引先に対して出荷量の減少や出荷時期を遅らせる調整を始めています。今後の原材料の調達の見通し次第では、3交代のシフトを2交代に変更して生産を減らす可能性もあるとしています。この会社は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で今回と同じように中国からの原材料の調達が滞る事態を経験しました。しかし、感染が下火となった今、再び同じ問題に直面するとはまったく想定していなかったということです。
洗剤などの製造メーカー「ゲヘム」マルティナ・ナイスウォンガー社長「今回の危機は予想していませんでした。2月は厳しい状況になると覚悟しています。原材料が予定どおりに届くことはないでしょう。これからの生産量は、本当に原材料が届くか、そして、どのくらいの量が届くかによって決まります」
日系食品メーカー 値上げの可能性も
イギリスでは日系企業も影響を受けています。日本などからカレーやマヨネーズ、コメといった食品を輸入して日本食レストランや小売店に販売するロンドンにある日系の大手食品輸入会社を訪ねました。出荷場所などによって変わるとしているものの、海上運賃はふだんと比べて2倍から5倍に上昇しているといいます。そして事態が長期化した場合は商品の値上げを迫られる可能性があると指摘しました。
大手食品輸入会社 冨永美貴 サプライチェーンマネージャー「長期化した場合には、調達ルートの見直しが必要になります。また、運賃が上昇しているため、今後、コストの見直しなどが必要になってくるかもしれません」
イギリスの複数の食品輸入会社から聞き取りを行っている「JETRO」=日本貿易振興機構は企業が新規のビジネスを広げにくくなっていると分析します。
JETROロンドン事務所 林伸光 農業・食品部長「海上輸送が混乱している中、食品輸入会社は今、取り引きしている顧客の注文に確実に対応しようとしています。このため新規の顧客開拓ができないという声を聞きます」
小売り大手も影響を懸念
また、ヨーロッパでは小売り業への影響の広がりが懸念される事態となっています。スウェーデン発祥の家具大手「イケア」は「一部の製品に遅れが生じ、入手が困難になる可能性がある」と明らかにしているほか、イギリスの衣料品メーカー「ネクスト」は、「スエズ運河を通行できない状況が続けば、ことしの初めには在庫の配送が遅れる可能性が高い。これが長期間続けば売り上げに影響を与える」と懸念を示しました。さらに、イギリスの大手スーパー「セインズベリーズ」はワインや電気機器などについて、在庫を保つために仕入れの順序を慎重に検討していて、重要な問題だとして政府とも定期的に連絡を取り合っていると明らかにしています。
紅海経由でもコスト増加
影響は紅海・スエズ運河を経由するルートによって繁栄してきたイタリアの街にもあらわれていました。イタリア北東部、地中海に面するトリエステ港です。アジアとヨーロッパ東部を結ぶ物流の拠点として知られています。トリエステを拠点に荷主の依頼を受けて船舶の手配を行うステファノ・ビジンティンさんに話を聞きました。ビジンティンさんは、紅海とスエズ運河を経由して航行を続けた場合でも、貨物の運送コストは大幅に上がっているといいます。
その理由は
・危険が高まっているとして保険料が値上がりしていること
・海運会社は攻撃されるリスクを抑えるため、船舶をサウジアラビアのジッダなどの港に立ち寄らせて、より小さく、海運会社の名前などを表示していない船に貨物を積み替えていて、その分の費用が上乗せされること
さらにビジンティンさんは、物流の乱れの影響で、2月半ばころまでは空のコンテナが不足するという新たな問題も出てくると指摘します。
船舶の手配を行うステファノ・ビジンティン氏「商業的には大惨事です。航行の安全を保つ必要があります。残念ながらコストはさらに上がる可能性があります」
地中海の港がスルーされる?
トリエステ港の関係者がさらに懸念しているのは、事態が長引いた場合の影響です。中国などから到着した貨物はトリエステ港で荷揚げされたあと、列車やトラックでイタリアのほか、ハンガリーなどヨーロッパ東部の国に運ばれています。紅海での攻撃が続き、アフリカの喜望峰を回る航路が定着した場合、貨物船は地中海を通らずにオランダのロッテルダムやドイツのハンブルクなど北海の港に向かうようになる可能性があると、トリエステをはじめイタリアの港の関係者は見ています。海上でも、さらに陸上でも、モノの流れが変わり、イタリアが不利な状況におかれることを懸念しているのです。
イタリア港湾協会 ジャンピエリ会長「アフリカを回るルートが定着すれば、イタリアの港の仕事が落ち込むことは明らかです。地中海の競争力が落ちればEUにとっても問題です。この危機が長引けば、経済的な影響が大きくなります」
スエズ運河の航行は71%減
アメリカの物流調査会社「プロジェクト44」によりますと、1月26日時点で、推計で362隻が危険を避けようとアフリカの喜望峰を回るルートに変更したといいます。また、スエズ運河を通る船の数は1月21日から1月27日の週で、12月中旬と比べて1日あたり71%余り減少しているということです。
フーシ派 “商船攻撃は続ける”
今後、フーシ派の攻撃はどうなるのか。フーシ派のアベド・トール報道官が1月29日、NHKのオンラインインタビューに応じました。トール報道官はアメリカとイギリスがイエメンへの攻撃を行い戦争状態にあるとして、紅海などで行っている船舶への攻撃の正当性を主張しました。そしてイスラエルのハマスへの攻撃停止が実現するまでは同じような船舶攻撃を続けると強調しています。
フーシ派 アベド・トール報道官「われわれはこれまで間違った標的を攻撃したことはなく、海上輸送になんら影響を与えていません。アメリカこそが海上輸送に悪影響を与えているのです。イスラエルがガザ地区への攻撃を止めればわれわれの攻撃も終わります」
専門家「まったく見通し立たず」
今後の見通しについて、日本の専門家に話を聞きました。
日本海事センター 後藤洋政研究員「アジアから欧州の運賃が特に上がっています。また、航空貨物など、ほかの輸送モードを使うという対応をとった場合も追加的なコストがかかることになります。いつ、紅海で安全に船舶が航行できるようになるのかは今のところまったく見通しが立っていない状況です。紅海での航行が再開されるとしても、すでにルートを変えて対応している海運会社がまた、スエズ運河経由に船舶を戻すとなると、一定の期間かかることが想定されます」
ガザ地区の惨事 わがこととして
すでに日本でも一部の食品の輸入が滞っていることが判明しています。日本などからの部品の輸送に影響が出たことで自動車メーカーのスズキはハンガリーにある自動車工場の稼働を一時、停止しました。ガザ地区ではきょうもイスラエル軍による空爆や地上部隊による攻撃が続けられ、多くの人の命が失われています。憎しみが連鎖し、武力による応酬が中東の広い範囲に広がって、それが海上輸送を通じて世界の経済をゆさぶり始めているのです。ガザ地区の戦争は決して遠くの場所の出来事ではないと痛感しました。

 

●“反戦候補”提出の署名に「死者の名前」ロシア中央選管主張 2/3
「ウクライナ侵攻反対」を掲げ、3月のロシア大統領選挙への出馬を目指す元下院議員が提出した署名をめぐり、ロシアの中央選挙管理委員会は死者の名前が含まれていると主張しました。出馬が認められない可能性もあります。
ロシアメディアによりますと、中央選挙管理委員会は2日、元下院議員のナジェージュジン氏が提出した署名に、すでに死亡した数十人の名前が含まれているとし、「ナジェージュジン氏も一部関与している疑いがある」と主張しました。
中央選管は5日にナジェージュジン氏から事情を聴いたうえで候補者として登録するかどうか決定し、7日に発表するとしています。
ナジェージュジン氏は2日、自身のSNSに署名に訪れた人たちの画像とともに「彼らが生きているのは明らかだ」と投稿。選管側の主張に反論しています。
「ウクライナ侵攻反対」を掲げるナジェージュジン氏をめぐっては、反戦ムードの広がりを警戒する政権側の意向を受け、候補者登録が認められない可能性も指摘されていますが、JNNの単独インタビューに対しナジェージュジン氏は「認められなければ裁判に訴える」と語っています。
●ウクライナが軍総司令官解任を米に伝達 米メディア報道 2/3
アメリカメディアは、ウクライナ政府が軍総司令官の解任をホワイトハウスに伝えたと報じた。
ロシアとウクライナメディアは2日、アメリカのワシントンポストを引用して「ウクライナ当局が軍のザルジニー総司令官の解任決定をホワイトハウスに通知した」と伝えた。
「(ホワイトハウスは)決定に対して支持も反対もせず、大統領の選択と認めた」としている。
ザルジニー氏の解任報道をめぐっては、イギリスのフィナンシャルタイムズが1月30日、「ザルジニー氏は新たに国防顧問の職が提示されて拒否したが、ゼレンスキー大統領がザルジニー氏の解任を明言した」と報じていた。
ウクライナメディアは、ゼレンスキー大統領はザルジニー氏解任に関する文書にサインしておらず、発表の時期も不透明としている。
軍事侵攻開始からまもなく2年となり、戦況が膠着(こうちゃく)する中、ゼレンスキー大統領とザルジニー氏は兵士の動員などをめぐり、意見の対立が取り沙汰されていた。
国民からの人気が高いザルジニー氏が解任されれば、ゼレンスキー大統領の支持が下がる可能性もある。
●プーチン大統領「兵器 何倍も増産」侵攻継続の姿勢 改めて示す 2/3
ロシアのプーチン大統領は軍需産業が集まる都市を訪れ、大量の兵器を投入してウクライナへの侵攻を続ける姿勢を改めて示しました。
一方、ウクライナ側はロシアが支配する南部クリミアの飛行場への攻撃で航空機に損害を与えたとしていて、クリミア周辺への攻撃を強めているとみられます。
ロシアのプーチン大統領は2日、首都モスクワの南にある軍需産業が集まる都市トゥーラで演説し「ロシアの軍需産業の仕事は現在3交代制で休みのない、膨大なものとなっている。年間でみると何倍も増産している」と述べ、大量の兵器を投入してウクライナへの侵攻を続ける姿勢を改めて示しました。
また、ロシアのショイグ国防相は国防省の会議で「ロシア軍はすべての前線で戦略的な主導権を維持している。われわれの部隊は前進し、掌握地域を拡大している」と述べて、戦闘を優位に進めていると強調しました。
一方、ウクライナ空軍のイグナト報道官は2日、地元メディアに先月31日に行ったとされるクリミアの飛行場に対する攻撃について「飛行場には航空機が少なくとも3機あり、確実に損害を与えた」と述べ、ロシア軍に打撃を与えたと強調しました。
また、ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長は、クリミア西部で撃沈したと1日に発表したロシア軍のミサイル艇についてメディアの取材に対し「6隻の無人艇による体当たり攻撃で、ミサイル艇は傾いて沈没した」と述べました。
ウクライナメディアは、黒海艦隊が保有する同型の3隻のうちの1隻だったとして「ロシアにとって重大な損失だ」などと伝えていて、東部の戦況がこう着する中、ウクライナはクリミア周辺への攻撃を強めているとみられます。
●ウクライナ海でのドローン映像で明らかになったロシア軍艦沈没の「罠」 2/3
ウクライナが公開した刺激的なビデオ映像で、水曜夜に併合したクリミア半島付近での秘密作戦中にキエフ軍がロシア軍艦に仕掛けた「罠」が明らかになったと地元メディアが報じた。
ウクライナ国防省 夜の写真を投稿しました 伝えられるところによると、6機の海軍無人機がミサイルを搭載したロシア軍艦を攻撃した瞬間を示している イワノヴェッツ ドノスラフ湖の港にて。 ウクライナ軍諜報機関長官キリロ・ブダノフ中将は、同船は6機のMAGURA V5ドローンの攻撃を受け「黒海の底に飛ばされた」と語った。
キエフ政府は、この作戦はウクライナ特殊部隊第13グループの兵士らによって実行されたと発表した。
この2分間の映像はさまざまな場所から撮影されたものとみられ、ウクライナが攻撃に複数のMAGURAドローンを使用したことを示唆している。
1月31日から2月1日までの作戦中、第13特殊部隊グループは建物の破壊を計画し、実行した。 イワノヴェッツ ブダノフ氏はドヌズラフ湖の襲撃中に同誌に語った。
「特定された船の破壊中に、船体は海軍無人機による 6 回の直撃を受けました。損傷の結果、船は後方に向きを変え、沈没しました。予備データによると、敵の捜索救助活動は行われました。」海軍力は失敗した。
ウクライナが開発した無人機「MAGURA V5」は長さ5.5メートル、幅1.5メートルで、さまざまな任務を遂行できると地元メディアが報じた。 これらの任務には、監視、偵察、パトロール、捜索救助、地雷対策、海上警備および戦闘任務が含まれます。
ニューズウィーク キエフはビデオの信頼性やキエフの主張を独自に検証できず、電子メールでロシア国防省にコメントを求めた。
ウクライナは、2014年にクリミア併合というロシアのプーチン大統領の決定を覆そうとした黒海艦隊を標的にした。この地域は、ウクライナ南部におけるロシア軍の中央物流拠点として機能している。
「全長56メートルの船は、黒海地域のオクニフカ村近くのドヌズラフ湖の入り口から9キロ離れた罠の中で発見された」と、ロシアの安全保障からの内部情報を持っていると主張するVChK-OGPUアウトレットは述べた。 木曜日、軍は攻撃を報告した。 イワノヴェッツ。
ロシア従軍記者、ブロガー、テレグラムチャンネル「ヴォエンコール・コテノクZ」を運営するアナリスト、ユーリ・コテノク氏は、海軍の無人機3機が船を攻撃したと指摘した。
ウクライナのニュースウェブサイト「censer.Net」の編集長ユーリ・ブトゥーソフ氏は、地元新聞社NV.uaが掲載した論説記事の中で、キエフの同船破壊戦略の概要を述べた。 同氏は、ロシア諜報機関はドローンを探知できず、少なくとも5機が船への攻撃に使用されたと述べた。
2023年12月18日、黒海を哨戒中のウクライナ海軍艦艇にスティンガー対空兵器を搭載したウクライナ兵士。映像では、キエフ軍がロシア軍艦のために用意した罠が明らかに…
「ビデオから判断すると、少なくとも5機の海軍無人機のグループが…発見されることなく黒海のロシア黒海艦隊基地に侵入した。」 [Lake] ブトゥーソフ氏は、ドヌズラフ氏と無人機がミサイル艇を連続攻撃したが、ミサイル艇は明らかに戦闘哨戒を行って基地を守っていたと述べた。
同氏は、船の乗組員がドローンの接近に気づき、回避しようとした可能性が高いと付け加えた。 しかし、彼らには脱出するのに十分な時間がなく、ロシア軍は海軍の無人機が小型で速度が小さかったため、至近距離で破壊することができなかった。
「グループ 13 の指揮官たちの適切に選択された攻撃戦術は印象的でした。最初の無人機が右側からボートの船尾に衝突し、プロペラを無効にしました。ボートは全速力に達することができませんでしたが、停止しませんでした。次に 2 番目の無人機がボートの船尾に衝突し、プロペラを停止させました。」ドローンもプロペラに衝突したが、左側からの2度の衝突でボートは確実な移動と操縦を奪われた。
その攻撃の後、船は「首尾よく排除された」と彼は書いた。
同氏はさらに、「3機目のドローンはモスキートミサイル発射装置の下にある構造物の中央に命中し、左側に大きな穴が開いた」と付け加えた。 「このドローンのビデオクリップは表示されなかったが、攻撃の結果は4台目のドローンのカメラから表示され、オペレーターが同じ場所にいた3台目のドローンから穴に直接カメラを向けた。」
ブトゥーソフ氏は、4機目の無人機の爆発は軍艦にとって「致命的」だったと述べ、「文字通り粉々に砕け、乗組員には逃げるチャンスがほとんどなかった」と付け加えた。
「ウクライナ軍兵士、国防省主要情報総局第13グループの指揮官およびオペレーターが達成した目覚ましい成功は、作戦の高レベルの偵察、計画、準備および管理を証明した」とブトゥーソフ氏は付け加えた。
ロシアの独立ニュースサイト「インサイダー」は金曜日、プーチン大統領が2022年2月24日にウクライナへの全面侵攻を開始して以来、少なくとも26隻のロシア船がウクライナ軍の攻撃を受けたと報じた。
●欧米の政府関係者800人以上、自国のイスラエル・ガザ戦争対応を批判 2/3
アメリカや欧州の政府で働く公務員800人以上が、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区での戦いに対する自国政府の政策は「深刻な国際法違反」に相当する恐れがあると警告する文書に署名した。
BBCが入手した「大西洋を超える声明」の文書に署名した公務員たちは、自分たちの政府が「今世紀最悪の壊滅的な人道上の破局」に加担する事態になりかねないものの、自分たちの専門的な意見は度外視されたと批判している。
文書には、アメリカと欧州連合(EU)の当局者のほか、イギリス、フランス、ドイツを含む欧州11カ国の公務員が署名している。
イスラエルを支える主な西側諸国の政府内で、ガザ情勢への自国の対応について、相当な異論があることが、あらためて浮き彫りになった。
アメリカ政府の国家安全保障政策分野で25年以上の経験を持つ当局者も、この文書に署名。自分たちの懸念を何度繰り返しても「捨て置かれる事態が続いている」と、BBCに話した。
「あの地域と現場の力学を理解する人たちの声は、聞き入れられていない」と、この官僚は話した。
「これまでと本当に何が違うかというと、自分たちは問題を阻止できていないというのではなく、自分たちは積極的に問題に加担している。これは自分が記憶する限り、これまでと根本的に全く異なる状態だ」と、匿名を条件に取材に応じたこの官僚は話した。
「限界のない」イスラエルの軍事作戦
欧米で800人以上の政府関係者が署名した文書はさらに、イスラエルがガザ地区で展開する軍事行動には「何の限界もない」とイスラエル自ら示していると指摘。
その行動の結果、「民間人の死は防げたはずが、何万人もの民間人が死亡している。(中略)援助物資の搬入を意図的に阻止することで、大勢の民間人を飢餓と緩慢な死の危機にさらしている」と批判している。
「国際法の深刻な違反、戦争犯罪、そして民族浄化や大量虐殺にさえ、我々の政府の政策が加担しているリスクが高い」とも、官僚たちは指摘している。
この文書に署名、あるいは支持した人たちの名前は公表されていない。BBCも名前の一覧は確認していないが、その半数近くが少なくとも10年は政府で働いている経験者だと説明を受けている。
かつてアルジェリアとシリアでアメリカ大使を務め、現在は引退しているロバート・フォード氏はBBCに、複数の政府で働き、自国政府の方針に反対する公務員たちがこれほどの規模でまとまって声を上げるのは、前例のないことだと話した。
「過去40年にわたり外交政策を見てきた経験からしても、かつてないことだ」と、フォード元大使は言う。
フォード元大使は先例として、2003年3月に始まったイラク戦争をめぐり、開戦の根拠として入手した情報に欠陥があるのではないかと、当時のアメリカ政府内に懸念が募っていたケースを挙げる。ただし、当時と今回の違いは、今の政府の対応に批判的な当局者が沈黙を守らなかったことだとも、元大使は言う。
「(当時のアメリカ政府内には)本当はそうではないと実態を知り、自分たちの解釈に都合よく機密情報を取捨選択して政策を決めている、戦後について何も計画していないと知っている人たちがいたが、誰もそれを公言しなかった。それが深刻な問題につながった」と、元大使は説明する。
「ガザ戦争の問題はあまりに深刻で、その余波はあまりに深刻なので、(今の各国政府内には)その懸念を公表せざるを得ないと強く思う当局者たちがいたのだ」
公務員の不満高まる
800人以上の公務員が署名したこの文書は、自分たちの政府が現在、「実際には無条件に、何の説明責任も求めないまま」イスラエルを軍事的、政治的あるいは外交的に支え続けるのは、パレスチナ人の命を引き続き危険にさらすだけでなく、イスラム組織ハマスに拉致された人質の命をも危険にさらし、かつイスラエル自身の安全保障や地域の安定性をも、危険にさらしていると批判している。
「イスラエルの軍事作戦は、(アメリカへの同時多発攻撃)9/11以来積み上げられてきた、重要な対テロ知見をいっさい無視している(中略)作戦はハマス打倒というイスラエルの目標に貢献せず、むしろハマスやヒズボラやその他の敵対勢力の魅力を強化している」とも、文書は指摘する。
署名した当局者たちは、専門家としての自分たちの懸念は政府内で表明してきたものの、「政治的およびイデオロギー的な理由から、覆されてきた」とも書いている。
この文書を支持するイギリス政府高官はBBCに対して、公務員の間の「不満が高まっている」と話した。
この政府高官は、今月26日に国連の国際司法裁判所(ICJ)がイスラエルに対し、パレスチナ自治区ガザ地区でのジェノサイド(集団虐殺)を防ぐためにあらゆる対策を講じるよう、暫定的に命じたことの、余波に言及した。
南アフリカ政府が提訴したことによるICJ判断を、「この国の外相が『有益でない』と一蹴したことは、(法や規範に基づく国際社会の)秩序を脅かすものだ」と、イギリス政府高官は述べた。
「イスラエル政府が批判されると、その内容についてこの国の閣僚が、しっかりした証拠に基づいた適切な法的助言を得ないまま、批判を一蹴するような発言をしてきた。我々の現在の方針は、イギリスの国益にとっても、中東地域や国際秩序にとっても、最善とは思えない」と、匿名を条件に取材に応じたイギリス高官は話した。
今回の声明についてイギリス外務省は、ガザでの戦闘ができるだけ速やかに終わってもらいたいと考えているとコメントした。
「外務大臣が言うように、イスラエルは国際人道法の範囲内で行動すると約束しており、そうする能力もある。しかし、ガザの民間人に対する影響を私たちは深く憂慮している」と、外務省報道官は述べた。
欧州委員会は、声明の内容を「検討」すると述べた。BBCは、米国務省にもコメントを求めている。
公務員800人以上の声明は、イスラエルの軍事作戦はガザで前例のない生命・財産の破壊を引き起こしているが、ハマスの脅威を取り除く実現可能な戦略はないように見えるし、イスラエルの安全を長期的に保障するための政治的な解決策もないように見えると指摘している。
その上で声明は、「イスラエルの作戦の後ろには、戦略的で、かつ正当性を弁護できる論拠があるかのように、国民に向けて主張し続けるのをやめる」よう、アメリカと欧州諸国の政府に呼びかけている。
イスラエルは反論続ける
イスラエル側はこうした批判に、反論を続けている。今回の声明を受けて、在ロンドンのイスラエル大使館は、自分たちは国際法に従っていると述べた。
さらに、「イスラエルは引き続き、戦争犯罪だけでなく人道に対する罪を繰り返し、大量虐殺を続けるテロ組織に対して、行動をとり続ける」と主張した。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はこれまで、人質の解放実現にはハマスに対する総力戦を続けるしか方法がないとしている。イスラエル国防軍は、ハマスが使用する地下インフラの相当部分を破壊したとしている。それには、指揮や武器保管の拠点、人質収容の拠点なども含まれるという。
イスラエル軍は1月29日の時点で、「(ガザ南部)ハンユニス全域の地上と地下で、2000人以上のテロリストを排除した」と述べている。
イスラエルはこれまで繰り返し、民間人を標的にしていないと主張。ハマスが民間インフラの中や周辺に潜伏しているのだと繰り返している。
昨年10月7日に戦闘が始まって以来、ガザでは2万6750人以上のパレスチナ人がイスラエル軍に殺され、少なくとも6万5000人が負傷したと、ハマス運営の保健省は発表している。ガザ地区は2007年以来、ハマスが実効支配し、イスラエルとエジプトが封鎖を続けている。
イスラエル側は、10月7日以来、ガザで死亡したうち9000人はハマス戦闘員だと主張するが、裏付けとなる証拠は提示していない。イスラエル軍によると、ハマスのイスラエル奇襲では1200人以上が殺され、さらにその後、負傷のため100人が死亡した。250人以上がハマスに拉致され、ガザへと連行された。
アメリカ政府は、「あまりに多くのパレスチナ人がガザで殺されている」と繰り返す一方、イスラエルは10月7日の事態が「二度と起きない」ようにする権利があるともしている。
●ウクライナ戦争「ロシアが勝利」すればグローバリズム拡大に歯止め 2/3
 ナショナリズム復興と文明固有の価値観を再認識
西欧文明は、ルネサンス以降、科学技術を中核として、主に軍事面で旧文明を圧倒し、それらを植民地化し、世界的な文明の先進地域として君臨してきた。
しかし、新たな多極化の波は、これら旧文明圏の再興をもたらすことになるであろう。
西欧文明の優位性の中核となってきた科学技術文明ですら、先端半導体の生産基地の多くが東アジアに集中していることなど、その優位性を失いつつある兆候が見られる。
欧米への非西欧系の移民の大量流入も深刻化している。欧米白人の少子化が進む一方で、有色人種の人口比率が増大している。
このことは、欧米社会全体のキリスト教とギリシャ・ローマ文明を基軸とする文明的同質性やアイデンティティーを長期的に変質させることになるであろう。
欧米の軍事的な優位性も揺らいでいる。20年以上に及んだ対テロ戦争は、2021年8月の米軍のアフガンからの一方的撤退により終わった。ウクライナ戦争でも、NATO(北大西洋条約機構)が支援してきたウクライナの敗色が濃くなっている。
金融面でも、欧米の金融制裁の対象になりかねないドル建て金融資産からの脱却の動きが、グローバルサウスと称される非欧米圏で強まっている。
価値観にも変化がみられる。欧米諸国が「人類普遍の価値観」として掲げてきた、フランス革命以来の「人権」「自由」「平等」「民主」といった政治的道徳的な価値観を、西欧列強に植民地化されてきた非西欧諸国が、全面的に受容しているわけではない。
例えば、イスラム教世界では、主権は万能の唯一神にあるという神権思想に基づく政治体制が正しいとされる場合もある。イランはこのような思想に基づくイスラム共和制をとっている。
ウクライナ戦争は、価値観の戦いとみると、NATO加盟を望む親欧米派のウォロディミル・ゼレンスキー政権と、ナショナリズムに立つウラジーミル・プーチン政権との戦いである。
プーチン大統領は、ソ連崩壊後ロシアの資源利権を支配した欧米資本のオリガルヒ(新興財閥)を追い出し、ロシアの手に取り戻した。彼は、ロシアの伝統的価値観や信仰を守ることを主張している。
他方、ゼレンスキー政権を支援している、米国左翼グローバリストたちは、各国固有の国柄、既存の家族、宗教・道徳・文化を否定し、世界の人々を無国籍のアイデンティティーのない均質な大衆に仕立て、一部のエリートが支配する世界を築くことを目指している。共産主義もキャンセルカルチャー(=特定の人物・団体の言動を問題視し、集中的批判などによって表舞台から排除しようとする動き)もその一種と言える。
ウクライナ戦争でロシアが勝利するとすれば、フランス革命以来のグローバリズムの世界的拡大に歯止めがかかることになる。ナショナリズムの復興と各文明固有の価値観の再認識が、今後の世界的潮流となるであろう。 
●ロシア、米国のイラク、シリア報復空爆を非難 2/3
ロシア外務省は3日、ヨルダンの米軍施設で米兵3人が死亡した無人機攻撃への報復として米軍が実施したイラク、シリア両国内への空爆を「主権国家に対する許されない侵略行為」だと非難する声明を発表した。
声明は、攻撃が中東地域での紛争をたきつける目的で行われたことは明らかだと主張。「米国は中東での問題解決を追求せず、対立継続を望んでいる」と批判し、国連安全保障理事会の緊急会合開催を求めると表明した。
●ロシア大統領選「反戦」候補を親プーチン派が一斉に中傷…「ナチスの候補だ」 2/3
ロシア大統領選(3月15〜17日投票)で、ウクライナ侵略への反対を訴え立候補を目指すボリス・ナデジディン氏(60)に対し、露国営メディアやプーチン大統領を支持する著名人らが一斉に中傷や非難を始めた。中央選管は署名の不備も指摘している。プーチン政権側が想定以上のナデジディン氏への支持拡大を警戒しているとみられる。
ナデジディン氏は1月31日、候補者登録に必要な10万人超の署名を選管に提出した。選管は署名の有効性を検証し、今月7日までに出馬の可否を公表する見通しだ。
国営メディアは、通算5選が確実視されるプーチン氏の活動を逐一報じる一方で、ナデジディン氏をほぼ無視してきたが、ここに来て態度を一変させた。独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」によると、国営テレビ「第1チャンネル」や「ロシア1」などはナデジディン氏の署名の不備や、各地で署名に集まった行列には、雇われた「サクラ」がいたとも報じた。
選管幹部も2日、署名には死亡した人の名前があったと公表し、不備を指摘した。ナデジディン氏は自らのSNSで、露各地に出来た行列の写真を投稿し、指摘を否定した。
プーチン氏に近い国営テレビの著名な司会者ウラジーミル・ソロビヨフ氏は自らの番組で、ナデジディン氏について、ウクライナの情報機関の支援を得て署名を集めた「ウクライナのナチスの候補だ」などと、根拠を示さず一方的に主張している。
プーチン政権が反戦世論の盛り上がりを避けるため、選管に出馬を認めないように圧力をかける可能性がある。一方、独立系メディア「メドゥーザ」は、出馬を認めた上で圧勝を演出する方が政権にメリットがあるとの識者の分析を紹介した。「大統領府は完全に得票集計もコントロールできる」というのも理由だという。
●軍事動員された夫の帰還訴え ロシアで妻たちが活動 2/3
ロシア大統領府があるモスクワのクレムリン脇で3日、ウクライナ侵攻に動員された夫を持つ女性たちが、夫の早期帰還を訴える活動を行った。赤い花束を手にした女性たちは正午に、第2次大戦で戦死した兵士をまつる「無名戦士の墓」前に集合し、順番に花を手向けた。
この日は、第2の都市サンクトペテルブルクや極東ウラジオストクなど全国から約50人が集まったという。
リーダー格でモスクワ在住のマリヤ・アンドレーエワさん(34)は「私たちの夫は既に500日も前線に留め置かれている。普通の市民にとっては精神的負担が大きすぎる」と早期帰還を要求。夫の帰還が実現するまで活動を続けると語った。
●ウクライナ復興会議に200社超 政府、渡航制限の例外措置も 2/3
日本政府が今月19日に東京で開く「日ウクライナ経済復興推進会議」に、両国から各100前後、計200社超の企業が参加する見通しであることが分かった。政府はウクライナへの渡航制限の例外措置を含め、事業展開を促す環境整備を進める方向。複数の関係者が3日、明らかにした。
会議にはゼレンスキー大統領がビデオメッセージを寄せる見通し。日本はエネルギー供給や農業、インフラ整備などを中心に官民一体でウクライナの復旧・復興を進めたい考えだ。会議では岸田首相が復興支援を巡る政府方針を表明し、首脳や閣僚らの討議をそれぞれ開催。エネルギーやインフラなど、業界ごとに両国企業同士の討議も行う。ウクライナのシュミハリ首相が対面で出席し、ロシアとの戦闘が続くウクライナ国内の状況や具体的な要望を伝える見通し。
日本の経済界の一部からは、政府がウクライナ全土に出している危険レベル最高度の退避勧告が「投資の足かせになっている」との声がある。政府内では危険レベルを維持したまま限定的に渡航を認める案が検討されている。

 

●プーチン氏の思惑、増えるウクライナ侵攻反対の署名 米国に停戦示唆!? 2/4
金融情報の配信などを手がける米国ブルームバーグが先月26日に報じたところによると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻の終結に向けた話し合いの用意があることを米国に示唆したという。
プーチン大統領は、米国に対するウクライナへの中立維持の要求を撤回するほか、NATO(北大西洋条約機構)加盟反対の取り下げも検討する可能性があるとしている。米国のNSA(国家安全保障会議)のワトソン報道官は、「指摘されているようなロシアの変化については把握していない」と語っている。
プーチン大統領はこのまま進めてもラチが明かないと思ったのだろう。すでにウクライナの国土の約18%を獲ったものの、そこから先は膠着して、両軍とも攻めあぐねている。今後も戦力を損耗するだけでロクなことはない。だから、ここで停戦交渉するというのも悪くないと考えても不思議ではない。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアが2014年に占領、併合したクリミア半島のウクライナ領を戻せと主張している。こちらは非現実的な要求だ。だから敵対するウクライナに停戦を持ちかけるのではなく、援助疲れをしている米国に持ちかけた…というのは、あながち的外れではないのかもしれない。
プーチン大統領の落としどころに挙げられた「ウクライナのNATO加盟に反対しない」というのは、すでに隣のフィンランドとスウェーデンまでNATO加盟が決定的になったいま、ウクライナのNATO入りはあまり大きな事案ではないと悟ったのだろう。
ウクライナという国は、放っておくと汚職などどうしようもない政府になりがちなところもある。そのときに倒す方がラクだと踏んだのか。現在のようなロシアに攻撃されて愛国心から国威発揚しているウクライナというのは、やっぱり手ごわい。「自然に堕ちる≠フを待つのも悪くない」と一歩引いてみたとすれば、プーチン大統領も少し賢くなったということか。
プーチン氏がこんな気持ちになっているのは、お膝元でいろんな動きが出ていることもある。3月に行われるロシア大統領選をめぐり、ロシアのボリス・ナジェージュジン元下院議員が、立候補に必要な10万人の署名が集まったことを明らかにした。
プーチン氏の再選が確実視される中、ナジェージュジン元議員は候補者の中で唯一、ウクライナ侵攻に反対を表明していて、モスクワ市内などの事務所には連日、支持者などが署名に訪れているという。署名するのに極寒の中、2時間も待つほどの盛況とも。
これまでプーチン氏は政敵を消すためにいろいろなことをしてきた。この10万人の署名についても、不備があったなどとしてイチャモンをつけるかもしれないが…。
プーチン政権を批判する急先鋒として知られる反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は、極寒の北極圏の過酷な環境の刑務所に収監されていることが判明。先月21日には同氏を支援するデモが、豪州やドイツ、ロシアなどで開かれた。彼らは「プーチンなきロシアを」を掲げていた。
こんな状況の中、さすがのプーチン氏も大統領選で圧倒的な支持というのはないのかもしれない。最近のプーチン氏は、やることがどうもうまくいっていないと感じられる。それで態度にも変化がみえてきている。
こういう風に、明らかにウクライナ戦にも反対という人が出てきたということは、今までなかったこと。どう展開をするのか。3月までみていきたいと思う。そういう意味では、このブルームバーグの記事はかなり重要だ。
●ロシア側地域に砲撃、20人死亡 ルガンスク、米供与兵器で 2/4
ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部ルガンスク州リシチャンスクの喫茶店に3日、ウクライナ軍の砲撃があり、ロシア非常事態省は市民ら20人が死亡し、少なくとも10人が負傷したと明らかにした。タス通信などが報じた。
ロシア連邦捜査委員会は、米国が供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」が使われたとの見方を示した。
同州のロシア側行政府「ルガンスク人民共和国」トップのパセチニク氏は、約40人が店にいた可能性を指摘。死傷者は増える恐れがある。
●ウクライナ侵攻に動員のロシア軍兵士の妻たち 早期帰還訴える 2/4
ロシアの首都モスクワでウクライナ侵攻に動員された兵士の妻たちが集まり、早期の帰還を訴えました。取材していた記者などが治安当局に一時拘束され、プーチン政権としては、来月の大統領選挙を前に、ウクライナ侵攻に反対する世論が広がることに神経をとがらせているとみられます。
モスクワ中心部のクレムリンの前では3日、おととし9月下旬に予備役の動員が開始されてから500日となるのに合わせて、戦地に派遣されたロシア兵の妻たちが集まりました。
集まった数十人の参加者は、第2次世界大戦の戦死者を慰霊する「無名戦士の墓」に花を供えるなどして早期帰還を訴えました。
ロシアの人権団体によりますと、現場で取材していた国内外のメディアの記者など20人以上が治安当局に一時拘束されたということで、プーチン政権としては、来月の大統領選挙を前に、ウクライナ侵攻に反対する世論が広がることに神経をとがらせているとみられます。
一方、ウクライナ陸軍は、東部ハルキウ州のクピヤンシク方面の前線をシルスキー司令官が視察したと発表し「前線の全域で激しい戦闘が行われている」として、攻撃を強めるロシア軍から周辺地域を防衛するための戦力を再配置したとしています。
また、ウクライナ大統領府は、ロシアが支配する南部クリミアでこのほどロシア軍のミサイル艇を撃沈した功績で、国防省情報総局のメンバーがゼレンスキー大統領から表彰を受けたと明らかにし、戦況がこう着する中、士気の向上につなげるねらいがありそうです。
● 動員兵の帰還求め妻らがデモ、記者一時拘束 ロシア 2/4
ロシア・モスクワで3日、ウクライナ侵攻に動員された兵士の妻らが夫の帰還を求めて行ったデモを取材していた約20人の報道関係者が、警察に一時拘束された。AFP通信の記者も警察署に連行されたが、数時間後には解放された。
動員兵の妻らはここ数週間にわたり、毎週末、大統領府(クレムリン)の壁の前で抗議活動を行っている。当局は反政府的な抗議活動を厳しく取り締まっているが、兵士の妻らはこれまでのところ処罰されていない。妻らを拘束すれば反発が一段と拡大する恐れがあると懸念しているとみられる。
この日はモスクワ中心部の赤の広場の外で、抗議活動を取材していた内外の報道関係者(全員男性)が拘束された。拡散された動画には、報道関係者であることを示す黄色いベストを着た記者らが警察車両に乗せられる様子が捉えられている。
ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナでの戦闘に従事する兵士は61万7000人で、うち24万4000人が動員兵だとしている。
●ロシア占領地からの報道に反発 独公共放送にウクライナ 2/4
ドイツ公共放送ZDFのモスクワ特派員の記者が1月下旬、ロシア占領下のウクライナ南部マリウポリにロシア領内から入って取材し、現地の様子を報じた。記者は「ロシアの占領を認めるということではない。戦争を両サイドから報道することが重要だ」と伝えたが、ウクライナ外務省報道官は2日、同国の同意を得ておらず法律違反だと反発。「現実の歪曲はジャーナリズムではない」と批判し、ZDFに正式な説明を要求した。
ZDFは1月30日の声明で「記者はロシアが多額の資金を使っていかに街の正常化と再建を印象付けているかを説明した」と主張した。 
●ウクライナ・ルハンスク州のパン屋に砲撃 28人死亡 ロシアが実効支配… 2/4
ロシアが一方的に併合したウクライナ東部ルハンスク州のパン屋に3日、砲撃があり、現地当局はこれまでに28人が死亡したと明らかにした。
ロシアメディアなどによると、ロシアが実効支配するウクライナ東部ルハンスク州リシチャンスクのパン屋が3日、ウクライナ軍の砲撃を受けた。
ルハンスク当局はこれまでに市民28人が死亡、10人が負傷したと発表した。
ロシア外務省のザハロワ報道官は、「攻撃では西側の武器が使われた」と非難する声明を出した。
パン屋は2階建てで、砲撃を受けた当時は週末の客でにぎわっていたという。
●BRICS加盟に34カ国が関心表明、今年はロシアが議長国 2/4
日米欧の主要7カ国(G7)に対抗して中国とロシアが主導する新興5カ国(BRICS)の一員である南アフリカのパンドール国際関係相は4日までに、BRICS加入への関心を伝えてきた国は34カ国に達すると述べた。
記者団に明らかにしたが、具体的な国名には触れなかった。輪番制となっているBRICSの議長国は今年、ロシアが務めており、加盟申請を受け付ける最初の国ともなる。
BRICSは2011年以降、中ロにブラジル、インドと南アによる組織として活動。数週間前には加盟国の拡大が初めて実現し、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアとエジプトが正式に加わった。
BRICSの推進力の中心は中国とされ、米国が強い影響力を持つG7による不公平な国際秩序の構築に挑戦するための組織との見方もある。ウクライナ侵略で西側諸国からの経済的かつ外交的な締め出しを受けるロシアにとって加盟に関心を示す諸国の存在は孤立を避け得る好材料ともなる。
年次のBRICS首脳会議は今年10月にロシア南西部のカザン市での開催が予定されている。南アのヨハネスブルクで昨年開かれた首脳会議ではプーチン氏はオンライン上の参加にとどまっていた。ウクライナ侵略で戦争犯罪の容疑に問われ、国際刑事裁判所が逮捕状を出したことが背景にあった。

 

●抗議活動続く露バシコルトスタン 2/5
旧ソ連の後継ロシア連邦は広大な多民族国家である。そのうちの一つ、バシコルトスタン共和国は、東はウラル山脈、西はボルガ川の間に位置する。2020年の国勢調査によれば、人口400万人を超えるロシアで最も人口の多い民族共和国である。
そこには、人口の31・5%を先住民族のキプチャク・チュルク系民族であるバシキール人が住んでおり、ロシア人とボルガ・タタール人がそれぞれ人口の37・5%と24・5%を占める。同共和国は、ロシア最大の工業地帯の一つで、製造業が盛んなほか、国内でも有数の豊富な天然資源が埋蔵されている。
抗議者が勝利した前例
バシコルトスタンには、環境や先住民族の権利問題を巡る抗議活動の長い歴史がある。最も注目されたのは、この地域のイシンベイスキー地区にある山クシェタウを守るための20年の抗議行動であった。クシェタウでの抗議活動は、バシキール・ソーダ社(BSK)による石灰岩採掘計画に反対するため、一般市民、環境保護活動家、バシキール民族の活動家らが団結したものだった。数千人の抗議者とBSKの警備請負業者や機動隊との数日間にわたる睨(にら)み合いは、抗議者の勝利に終わり、クシェタウは自然保護地域の地位を獲得した。
22年には、バシコルトスタン南東部のベイマクスキーとアブゼリロフスキーでの金採掘事業に対し、住民が新たな抗議活動を開始した。抗議者たちは、このプロジェクトは、人気のある自然の名所を破壊し、淡水の供給や地元の農業に害を及ぼす恐れがある、と非難した。
そして今年1月、バシコルトスタンでは、クレムリンが約2年前にウクライナに侵攻して以来、ロシアで見られた最大規模の街頭抗議デモの震源地となった。そこでは、先住民族バシキール人権利活動家の逮捕がきっかけとなって、ウクライナ侵攻以来、ロシアで最大規模の街頭デモが発生した。独立系有力英字紙「モスクワ・タイムズ」は1月19日、「ロシアのバシコルトスタン共和国で投獄された活動家支援のため数百人が新たに抗議行動に参加」と題する解説記事を配信した。
15日と17日には、数千人の人々がベイマクの町の裁判所の前に集まり、「民族間の憎悪を扇動した」罪で4年間の流刑を言い渡された著名なバシキール人活動家ファイル・アルシノフに対する支持を表明した。伝えられるところによると、機動隊は17日、群衆を解散させるため発煙筒、催涙ガス、警棒を使用し、少なくとも40人が負傷し、6人の抗議者が投獄された。さらに18日には少なくとも8人の抗議参加者が逮捕された。
37歳のアルシノフはバシコルトスタンで15年以上にわたる活動家で、地域の主権とバシキール先住民の政治的・言語的権利を擁護する発言をしてきた。アルシノフは20年5月にロシア政府によって非合法化されたバシキール民族組織「バシェコルト」の会長を務めるなど、幾つかのバシキール民族組織や運動のメンバーである。彼は、バシキール民族組織以外では、クシェタウ抗議運動に参加し、中心的な調整役を担ったことで知られるようになった。
23年4月、アルシノフはベイマクスキー地区での違法採掘に対する抗議行動に参加し、彼に対する刑事事件の基になる演説を行った。当局は、アルシノフがカフカスや中央アジアからの移民労働者たちを「否定的に評価」し、演説の中で彼らを「黒人」と呼んだことで、彼らの「人間としての尊厳」を「侵害」したと主張した。親政府勢力はまた、アルシノフが民族主義的なレトリックを用い、バシキール人以外の全ての人を共和国から追放するよう呼び掛けていると非難した。アルシノフはこの非難を否定し、自分のスピーチは政府系の言語専門家によって彼の祖国語であるバシキール語から「重大な誤訳」されたものだ、と述べた。
多民族国家の悩みの種
プーチン政権が任命したバシコルトスタンの首長であるハビロフは、アルシノフを鉱山抗議運動の「指導者」と呼び、「地元住民に過激な活動を公然と呼び掛けている」と非難した。クレムリンにとって、多民族国家の悩みの種は尽きないようだ。
●ウクライナ情勢と日本 露の「やり得」にするな 2/5
ロシアによるウクライナ全面侵攻から間もなく3年目に突入する。ロシアは攻勢が目立つものの決定打を欠く一方、ウクライナは支援が細る中でもどうにか持ちこたえられそうであることから、戦争の4年目突入もあり得る状況だと、東京大学の小泉悠准教授と本紙の斎藤勉論説委員が今後の見通しを語った。米国からのウクライナ支援は当面途絶えるかもしれないが、日本が代わりに防衛装備品を供与する方法はあると両氏は論じる。この戦争を外交で止めることはできない以上、軍事的に支援するしかないのだ。
戦争に伴い戒厳令下にあるウクライナでは今年予定されていた大統領選も延期となったが、意外にも民主主義は機能しており、かつゼレンスキー政権は安定していると神戸学院大学の岡部芳彦教授が分析。本紙外信部の遠藤良介次長は戦場に「通勤」するウクライナ軍兵士の様子や同国の継戦能力について報告する。一方でロシアの経済、特に軍需産業の詳細について北海道大学の服部倫卓教授が解説、昨年1年間で1530両もの戦車が生産≠ウれたカラクリを明かす。なお斎藤、岡部、遠藤の3氏はロシアから入国禁止処分を受けている。
同志社大学の兼原信克特別客員教授は露宇戦争を通して、台湾有事の際に米国は核大国を前に萎縮し、中国のほうが米日台より有利になることが見えてきたとして、日本は総力を挙げて安全保障政策を実施せねばならないと訴える。
日本の安全保障のあり方を憂え、憲法改正の必要性を長年にわたり主張してきた田久保忠衛杏林大学名誉教授が去る1月、90歳で逝去した。
●ウクライナ東部のロシア占領地で攻撃、28人死亡 2/5
ロシアが占拠するウクライナ東部ルハンスク州リシチャンスクで3日、建物が攻撃されて少なくとも28人が死亡した。ロシアが設立させた自称「ルガンスク人民共和国」のトップが4日に明らかにした。
ルガンスク人民共和国トップのレオニード・パセチニク氏はテレグラムに掲載した声明の中で、ウクライナが3日にパン屋のある建物を攻撃し、救急隊ががれきの下から10人を救助したと述べた。
パセチニク氏は、犠牲者をしのんで4日をルガンスク人民共和国の服喪の日とすると宣言した。
ウクライナ国防省は今回の攻撃についてコメントしていない。
リシチャンスクは2022年7月に陥落してロシア軍に制圧された。
ウクライナ軍は地上攻勢が停滞する中で、ロシア軍とロシア占領地域に対する攻撃を強めている。
●ウクライナ大統領、軍司令官など複数高官の交代検討 2/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日に放送されたインタビューで、軍司令官を含む複数の高官の交代を検討していると明らかにした。
ゼレンスキー氏は、ロシアとの戦闘指揮を巡って対立してきたザルジニー軍総司令官を近く解任するとみられている。
ゼレンスキー氏はイタリア国営放送RAIのインタビューでザルジニー氏について聞かれ、「ウクライナを率いるべき人物の問題だ」と指摘。「リセットが必要だ。軍部だけでなく、複数の国家指導者の交代について話している」と語った。
また「勝利したいのであれば、全員が同じ方向に進む必要がある。弱気にならず、正しいポジティブなエネルギーを持たなければならない」と述べた。
ザルジニー氏は昨年11月、西側メディアに対し、ロシアとの戦争が消耗戦という新たな段階に入ったと述べ、ゼレンスキー氏から非難を浴びた。
●軍総司令官の解任検討認める ゼレンスキー大統領 2/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は、4日放送の国営イタリア放送協会(RAI)のインタビューで、ザルジニー軍総司令官の解任を検討していることを認めた。「単に一人の話ではなく、国を指導する方向性に関わることだ」と述べ、軍だけでなく、複数の高官の交代を考えていると明らかにした。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は4日放送のCBSテレビの番組で、「人事はウクライナ政府の問題」だとして介入しない方針を示した。ゼレンスキー氏の判断を尊重する考えを強調した。
ロシアによる侵攻のさなかに国民の信頼が厚いザルジニー氏を解任すれば、国内の結束が揺らぐ懸念が浮上している。米政府はウクライナへの軍事支援をけん引してきたが、この問題からは距離を置く姿勢を明確にした。
サリバン氏は、政府高官の人事については「明らかにウクライナの主権であり、ゼレンスキー氏の権利だ」と指摘。「特定の決断には巻き込まれない」との米政府の方針をウクライナ政府に直接伝えてきたと説明した。
●苦悩するドイツ、危機迎えるショルツ政権に突如「神風」が吹くも… 2/5
ドイツでは、極右政党が伸張したり、それに反対する市民のデモが広がったり、農民が補助金削減に反対してトラクターを繰り出して抗議活動を行ったり、社会に混乱が拡大している。
AfDの勢力拡張
ドイツでは、2013年に発足した極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢いを増している。移民排斥などの過激な主張を展開しているが、昨年6月にはチューリンゲン州のゾンネベルク郡でドイツ初のAfDの郡長が生まれた。次いで7月には、ザクセン・アンハルト州ラグーン・エスニッツの町長選でAfDの候補が当選した。12月にもザクセン州ピルナでAfDの市長が誕生した。
これらの自治体は、いずれも旧東ドイツにあり、旧西ドイツよりも貧しく、住民の不満が高く、それがAfDの支持につながったようである。アメリカで繁栄から取り残された地域の貧しい白人の労働者が、トランプを支持した状況に似ている。
AfDは、地方自治体で行政の長のポストを獲得したのみならず、地方議会の選挙でも躍進している。10月には、旧西ドイツのヘッセン州とバイエルン州で勢力を拡大した。
最近の世論調査では、野党CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)に次ぐ第二党に躍り出て、ショルツ首相与党のSPD(社会民主党)は第3位に甘んじている。それだけ、ショルツ政権の人気がないということである。難民の急増、インフレの高進が原因である。
農民の反乱
今のショルツ政権は、SPD、緑の党、FDP(自由民主党)の連立政権である。中道左派のSPDに加えて、環境保護政党の緑の党がメンバーであるために、地球温暖化対策に熱心である。
そこで、原発を廃止し、再生可能エネルギーに切り替えた。これまでは、安価なロシア産天然ガスを輸入し、それがドイツ経済を支えてきた。しかし、ウクライナ戦争のためにロシア依存を止めざるをえなくなり、電気代をはじめエネルギー価格の高騰を招いた。
政府はエネルギー政策の一環として、農業用ディーゼル燃料の税控除廃止など補助金の削減を決めたのである。それでなくても、インフレで生活が苦しくなっている農民が怒って、12月になってベルリンをはじめ各地で道路をトラクターで塞ぐなどして抗議活動に出たのである。その政府批判に乗じて、AfDが勢力を拡大している。農民の中には、あからさまにAfD支持を表明する者もいる。
政府は、1月4日には補助金削減計画の一部を修正したが、農民はそれでは不十分として抗議活動を続けている。政府の施策に不満を持つ多くの国民は農民を支持している。
突然のAfD攻撃
こうして苦境に立たされたショルツ政権であるが、突然、AfDへの逆風が吹き始めた。それは、1月10日のことで、テレビが、「ワイデル共同党首などAfDの政治家がポツダムのホテルで秘密会合を開き、移民・難民をドイツから追い出す計画を立案した」と報じたからである。最大200万人を追放する計画だという。
これは、ナチスによるユダヤ人迫害を連想させるものであり、国民の間に一気に批判が高まり、「民主主義を守れ」、「ナチスの再来はごめんだ」といったスローガンを掲げて、反AfDのデモがドイツ各地で繰り広げられている。
ショルツ政権にとっては神風が吹いたようなものだが、政府による世論工作としてでっち上げられた話題であるという説もある。真相は不明だが、この件もドイツ社会の混乱を深めている。
1月8日には、旧東独の社会主義政党の流れをくむ左派で人気政治家のザーラ・ヴァーゲンクネヒトが新党BSW(ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟)を立ち上げた。左派ポピュリストであり、反移民でもあり、AfDと競合する。
6月には欧州議会選挙、今秋には旧東独のザクセン、チューリンゲン、ブランデンブルクで州議会選挙が行われる。EUの主軸であるドイツの政治動向は世界に大きな影響を与える。
日本はドイツにGDPで抜かれ、4位に転落したが、それは、GDPがドル表示であり、ドイツのインフレ、円安の影響だ。GDP3位などというのは、ドイツでは話題にならないくらいに、国内政治が深刻なのである。
●米上院、移民対策で与野党合意 ウクライナ支援で前進 1/5
米上院の民主、共和両党は4日、メキシコとの国境を越えて流入する移民対策に関する与野党合意案をまとめ、公表した。下院で過半数を握る野党共和党は、移民対策をウクライナ支援よりも優先するよう要求してきた経緯があり、両党が対外支援と移民対策の両方を盛り込んだ法案を協議していた。
合意案は、ウクライナやイスラエルに対する追加支援とセットで、米政府のウクライナ支援の再開に向けて前進となる。予算総額はホワイトハウスの要求額を上回る約1180億ドル(約17兆5000億円)に上る。ただ、ジョンソン下院議長(共和党)は反対を表明しており、下院通過のめどは立っていない。
●米上院、与野党で合意 ウクライナ支援・移民対策 2/5
米上院の民主、共和両党は4日、ウクライナ支援と移民対策を盛り込んだ法案の内容で合意し、公表した。予算総額は約1183億ドル(約17兆6000億円)に上り、ホワイトハウスの要求額を上回った。ただ、下院で過半数を握る野党共和党の保守強硬派がウクライナ支援に反発する中、成立するかは依然不透明だ。
米政府のウクライナ支援は昨年末で底を突き、議会による追加予算の承認が必要となっている。共和党はウクライナ支援よりも移民対策が優先だと主張し、両党による協議が行われていた。今回の合意を受け、支援再開に向けて一歩前進した。
しかし、11月の大統領選を前に、争点となる移民対策でバイデン大統領(民主党)に得点を稼がせたくないトランプ前大統領(共和党)は、与野党合意案に反対を呼び掛けている。ジョンソン下院議長(共和党)も「下院に届き次第、廃案となる」と呼応しており、下院通過のめどは立っていない。
合意案は、メキシコとの国境を越えて流入する移民が増加した場合に、大統領に国境を一時閉鎖する権限を与えるのが柱。移民申請の資格の厳格化なども盛り込み、「過去数十年で最も厳しい移民改革」(米政府高官)となる。
このほか、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援に約600億ドル(約8兆9000億円)、パレスチナのイスラム組織ハマスとの戦闘が続くイスラエルへの支援に約141億ドル(約2兆1000億円)を計上した。
●ロシアの「エースドローン操縦士」殺害を機にウクライナは南部で攻勢に転じる 1/5
ウクライナ海兵隊は同国南部ヘルソン州を流れる広大なドニプロ川の左岸(東岸)に位置するクリンキに幅の狭い橋頭堡(きょうとうほ)を築き、なんとか持ちこたえている。そこでの戦いの大部分はドローン(無人機)によるものだ。
ロシア軍、ウクライナ軍双方とも、1人称視点(FPV)の小型ドローンで互いを監視し、攻撃しており、空がFPVで埋め尽くされる日もある。
そのため、1月中旬にウクライナ軍のドローンチームが「モーゼ」を意味する「モイセイ」というコールサイン(無線会話で使われるニックネーム)を持つロシア軍のエースドローン操縦士の居場所を割り出して殺害したのは大きな出来事だった。
モイセイの殺害でクリンキでの戦いの勢いが変わった。「モイセイのグループが無力化された後、敵は何の問題もなく集落内を徘徊している」と、あるロシア人の従軍記者はSNSで不満を語っている。
ウクライナ軍の第35独立海兵旅団の部隊は昨年10月中旬にドニプロ川を渡った。それから数カ月間、橋頭堡を拡大するのに苦労した。
確かに、自軍の大砲とドローンが右岸から海兵部隊を援護し、ほぼ毎日ロシア軍の反撃を跳ね返していた。だが、海兵部隊は攻撃を成功させられるほど橋頭堡を十分拡大することができなかった。
モイセイがその主な原因だった。モイセイはクリンキの前線からわずか約150m西にある2階建ての家から、約900gの爆薬を搭載したFPVドローンを飛ばし、ウクライナ軍の兵士が補給と橋頭堡の補強で頼っていた小型ボートや水陸両用トラクターを容赦無く追い回した。
モイセイとその仲間は、ウクライナ軍のボートを31隻攻撃し、400人近いウクライナ兵を死傷させたという。この「ボート大虐殺」はクリンキにいる一部の海兵を絶望に追いやり、米紙ニューヨーク・タイムズなどのメディアは悲観的に報じた。同紙は昨年12月、クリンキの戦いを「自殺任務」とするウクライナ海兵の言葉を記事の中で引用した。
モイセイを見つけ出して殺害することが、ドニプロ川右岸にいるウクライナ軍のドローン操縦士たちの最優先任務となった。そして、どうやら1月上旬にその任務を全うした。
ウクライナ軍のドローンは、モイセイのチームがクリンキの隠れ家からドローンを飛ばしているのを突き止めた。そしてFPVをその隠れ家に突っ込ませて爆破した。「モイセイへのささやかな贈り物」と「バル」というコールサインのウクライナ軍のドローン操縦士は皮肉った。
モイセイを排除しても、クリンキとその周辺におけるロシア軍のドローン攻撃の脅威はなくなっていない。だが、モイセイを始末したことで脅威は減った。これまでよりも多くのウクライナ軍のボートが急にドニプロ川を渡るようになった。
補強と補給を受けたクリンキにいる第35旅団の部隊は攻撃に転じた。300mほど西に前進し、皮肉にもモイセイが死亡した建物に到達したと伝えられている。
クリンキでの戦いは「自殺任務」ではない。ヘルソンに展開するロシア軍にとってはほぼ消耗戦となってしまった。
クリンキでウクライナ軍を駆逐しようとしては失敗を繰り返し、ロシア軍は少なくとも157両の戦車や戦闘車両、りゅう弾砲、そしておそらく数千人の兵士を失った。一方で、ロシア軍が破壊できたウクライナ軍の兵器(主に大砲)はわずか24で、おそらく数百人の海兵とボートの乗員が死傷した。
だが、ここでの戦いが完全に陣地戦で、双方とも地歩を固めていないというわけではない。クリンキで最も危険な存在だったロシア軍のエースドローン操縦士を殺害してから、ウクライナ軍は勢いを得て前進している。
●侵攻開始前からロシアがついてきた嘘を徹底分析、見えてきたロシアの本質 2/5
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2023年9月、「誰かと妥協や対話をしたくても、嘘つきとは不可能だ」と述べた。
この「誰か」とはロシアのウラジーミル・プーチン大統領を指す。
プーチン大統領は果たしてどのような嘘をついてきたのか、改めてその「嘘」とその狙いを分析する。
ロシアのウクライナ侵攻についてロシアの嘘には、政戦略的な嘘、作戦戦術的な嘘、言い逃れの嘘、兵器能力の嘘などの5つが存在する。
軍事に関する嘘は、戦争をすれば必ず暴露される。
なぜなら、戦っていればいずれその事象や結果が明らかになってくるからだ。戦わない場合でも事実が暴露されれば嘘は判明する。
ロシアの嘘には必ず狙いがあり、その狙いを広め、あるいは押し付けようとする。これは、まさしく情報戦(認知戦)である。
ロシアのそれぞれの嘘について解説するが、最近撃墜されたロシア輸送機にウクライナ兵捕虜が搭乗していた、していなかったということについても分析を加えたい。
1.ウクライナを弱体化・混乱させてきた戦略的なロシアの嘘
(1)ウクライナを弱体化させてきたロシアの嘘
ロシアのプーチン大統領は昨年(2023年)12月14日、首都モスクワで開いた年末の記者会見で、「ウクライナとの和平は侵攻の目標である『ウクライナの非武装化』が達成されて初めて可能になる。そして非武装化とは『ウクライナの非ナチ化と非武装化、そして中立化』だ」と述べた。
しかし、この「和平」「非武装化」「中立化」「非ナチ化」という言葉の裏には、「ロシアがウクライナ国家に侵攻・占領し、弱体化したウクライナを滅亡させる」という狙いが隠されている。
ウクライナ人の生命が失われないことを優先し、とりあえず戦争を終結させるためにロシアが和平交渉するのは、「ウクライナを完全に弱体化させ孤立させる」という欺瞞にほかならない。
ウクライナが、2014年にクリミア半島をロシアに取られ、今回の侵攻(2022年2月侵攻開始)を受けた最大の原因は、ウクライナにロシアの侵攻を阻止する軍事力がなかったから、そして孤立していたからだ。
その最大の要因が、1992年、リスボン議定書に署名し、ウクライナが核兵器を撤去して、核抑止力をなくしたことだ。
その見返りとして、ブダペスト覚書に米国・英国・ロシアが署名した。
その内容には、核を撤去したウクライナなど3か国の安全を保障するというものが含まれていた。
ロシアは、ウクライナに難癖をつけて、この覚書に違反して2014年にクリミア占拠、そして今回の侵攻を行っている。
ロシアが和平の前提として主張する「非武装化・中立化」をウクライナが受け入れれば、ウクライナは軍事的に弱体化し、孤立するだろう。
ロシアが過去に署名した覚書を無視して侵攻したことを考えると、ロシアは将来的に、ウクライナ全土を占領することは目にみえている。
ロシアと結んだ条約・協定・覚書などは、ロシアの都合によって難癖をつけられ破られ、そして守られないということである。
(2)ウクライナ政権等を混乱・転覆させることを狙った嘘
ロシアは侵攻当初、侵攻と同時にウクライナの戦意を消失させるために「ウクライナの大統領は逃亡した」との噂を流した。
その間、ロシアの特殊部隊はゼレンスキー大統領の殺害を8回も試みたが、成功しなかった。
侵攻したウクライナのトップを殺害するか拉致するかして、政権の転覆を図ったのだ。
東部の州では、市長が拉致され、入ってきたロシア人が「私が市長です」と名乗り出て、市政府が乗っ取られた。
ロシアは、このような情報戦を実施しつつ、暗殺という実行も行っている。ロシアの情報戦と作戦の要領だ。
ロシアの情報戦に対して、ウクライナはゼレンスキー大統領、国防大臣など政府の要人たちが、大統領府の近くで撮った「俺たちは、ここにいる」という写真を公表し、実際に首都に残って戦う姿勢を示した。
これらの情報戦は、台湾有事の際に、日本でも予想される。
例えば、沖縄を含む南西諸島では同様のことが起こる可能性がある。
具体的には、「沖縄県知事や南西諸島の首長が中国に亡命した」と流布し、実際は拉致して中国に連れ去る。その後、中国人で「私が県知事です。○○市長です」と言う者が現れるというものだ。
この嘘情報の流し方そして政権を混乱させ、うまくいけば乗っ取ってしまうやり方が、まさしくロシアによる国の乗っ取り方であり、これまで東欧諸国を乗っ取ってきた方法である。
2.ロシアの作戦戦術的な嘘
(1)侵攻することを直前まで否定していた嘘
ロシアのプーチン大統領は、侵攻開始の数か月間、ウクライナに侵攻するつもりはないと繰り返し発言していた。
だが、実際にはロシアはウクライナ国境付近に約13万人規模の軍部隊を配置して、そこから撤退する様子はなかった。
この時、侵攻するつもりがなかったのなら、国境に集結している軍部隊に撤収せよと述べていたはずだ。
しかし侵攻の3日前になると、停戦協定を破棄しウクライナ東部で親ロシア派の武装分離勢力が実効支配してきた2つの地域について、独立を自称してきた「共和国」を承認した。
そして2022年2月24日、ロシアは陸海空からウクライナ侵攻を一斉に開始したのだ。
侵攻の約1か月前に、ロシアのラブロフ外相は「ロシアはウクライナ国民を一度も脅したことはない、攻撃する意図もない」と発言していた。
実際は攻撃したのだが、「我々は、ウクライナを攻撃していない。ロシアが戦争を望んだことは一度もない」と主張した。
20万人以上の兵がウクライナに侵攻しているのに、攻撃をしていないと言う。
大統領が「侵攻するつもりはない」と言っていながら、「侵攻する」のがロシアだ。
侵攻の時期を判読されないようにするのは、奇襲作戦を実施するうえで重要なことだが、ロシアの嘘は軍事大国の傲慢な嘘だ。
(2)侵攻の名目は非現実的で、明白な嘘
プーチン大統領は2022年5月9日、戦勝記念日の式典で演説し「ロシアにとって受け入れがたい脅威が、直接国境に作り出され、衝突は避けられなかった」と述べた。
ウクライナのゼレンスキー政権が核兵器を取得する可能性を指摘していた。また、「アメリカやその同盟国が背後についたネオナチとの衝突は、避けられないものになっていた」と強調した。
プーチン大統領の演説に対し、ゼレンスキー大統領は「すべてでっち上げで、彼が見ているものは現実と一致していない。ウクライナにはネオナチ主義などないからだ」と述べ、プーチン大統領はウクライナへの侵略のための口実を求めているだけだと批判した。
ゼレンスキー大統領の発言は、民主国家の共通した認識であり、ウクライナにネオナチの集団がいるとは誰も思ってはいない。
(3)ウクライナ軍の作戦を混乱させようとする嘘
2023年9月、ウクライナ軍はそれまでに第1防衛線を突破してきた勢いに乗り、さらに第2、第3防衛線の一部を突破して、トクマクの目標線まで進出しようとしていた。
この時期に、ロシア軍の内部情報として戦いを立案するロシア軍トップのゲラシモフ参謀長が、ウクライナ軍の攻撃目標にもなっているトクマクから「早々に撤退します」という情報を流した。
ロシア軍の守備部隊が混乱するような情報を軍のトップが発言するのは絶対にあり得ないことだ。
こういった情報をメディアに流すのは意図的であり、まさしく情報戦だ。
現実に、2024年の2月1日でも、トクマクからは撤退していない。
ロシア通信社のRIAノーボスチが2023年11月13日、「へルソンの一時占領地からロシア軍を撤退させる、その理由として、軍隊を再編させより有利な場所に再配置するため」としていた。
実際には、そのような行動は確認されなかったし、2024年2月1日でも、へルソンから撤退してはいない。
これらの情報は、ウクライナ軍に拙速な攻撃を仕掛けさせ、守備しているロシア軍がウクライナ軍を撃退するための嘘情報であったと考えられる。
3.「悪いのはお前達だ」というロシアの嘘
ロシアのプーチン大統領は1月26日、ウクライナと国境を接する西部ベルゴロド州で24日に墜落した同軍の輸送機「イリューシン76(IL-76)」について、ウクライナ軍に撃墜されたのは「明らかだ」と主張した。
ロシア側は、同機は捕虜交換のためにウクライナ兵65人を乗せて同州に向かっていたところを対空ミサイルで撃墜されたとしている。
ウクライナによる撃墜とのロシア側の主張について、ウクライナは否定も肯定もしていない。
ウクライナ国防省情報総局(GUR)は1月27日、遺体の映像など証拠を示すようロシアに呼び掛けた。
24日に国境地帯で捕虜交換が予定されていたことは認めたものの、捕虜が航空機で移送されることは、ロシア側から事前に通知を受けていなかったとしている。
GURのブダノフ局長は国営テレビのインタビューで、「遺体が散乱した現場(の映像)を示していない」など、ロシア側の主張には「不透明部分」が多いと指摘。
捕虜交換は両国にとって有益なものである。
そのため、その輸送には安全に神経を尖らし気を配るものだ。だから、誤って攻撃されないように事前に、交換のポイントや輸送の経路、その手段を伝えるのは当然のことなのだ。
防空兵器の攻撃目標になるように、そしてわざと撃墜されるように晒すようなことはしない。
ウクライナは撃墜の有無については発表していない。
ウクライナ軍は、パトリオットミサイルを前線近くまで移動させるのは常時行っていることではない。
このようなことを常時実施していれば、ロシアからミサイル攻撃を受けて、数少ない貴重なミサイルが破壊されることになるからだ。
その反面、レーダーは位置を変更し、監視の目は常時作動している。
だから、ロシア空軍輸送機の動きは常に把握していた。その動きが定期的に飛行しているのか、特別に飛行しているのかが分かる。
定期的な飛行であれば、その飛行場の物や人の動きを偵察衛星や無人偵察機で写真を撮り、何のための飛行なのかを判定できる。
ウクライナ軍は、これらの偵察活動は実施しているはずで、撃墜するかどうかの優先度をしっかりと判断しているはずである。
このため、自国のウクライナ兵の捕虜が搭乗しているかどうかを誤る可能性はほとんどない。
さらに、ロシアがこのことを事前に通知していれば、撃墜は100%ないはずである。
ロシアは、都合の悪い情報について、自国の責任を放棄して、相手国の責任にするのが、いつものやり方である。
4.ブチャ虐殺をでっち上げと主張する嘘
ウクライナ侵攻当初の2022年3月、ウクライナのブチャとその周辺区域で、ロシア連邦軍が民間人を虐殺した。
ウクライナ軍が奪還したブチャを含むキーウ近郊の複数の地域では2023年3月時点で、1400人以上が殺害されたとされている。
ウクライナのほか各国や国際機関は戦争犯罪として非難しているが、ロシア連邦政府は関与を否定している。
そして、ロシア国防省は2022年4月3日、「市民の誰一人としてロシア軍による暴力を受けていない」とロシア軍の関与を一切否定し、殺害された人々の映像や写真は「ウクライナ側による挑発だ」と主張した。
ロシアの国連大使は4月4日、ブチャで撮影された遺体はロシア軍撤退前にはなかったと記者団に述べ、「遺体は突然、路上に現れた」「一部は動いていたり息をしたりしていた」「ウクライナ側が情報戦争を仕掛けた」としていた。
ロシアの前述の嘘に反論するために、米国の宇宙技術会社マクサー・テクノロジーズは、ブチャがロシア軍占領下にあった3月半ばに衛星画像を撮影し、4月4日に公開した。
それによって、民間人と見られる遺体が確認された。
また、米ニューヨーク・タイムズは4月1日と2日に撮影された動画と衛星画像を比較し、遺体の多くが少なくとも3週間放置されていたと結論付けた。
AP通信はブチャ住民の話として、ロシア軍が地下の防空壕(ごう)を一つひとつ訪れ、住民のスマートフォンを調べ、SNS(交流サイト)の履歴などから反ロシア的だと判断した人々を射殺したり連れ去ったりしたと報じた。
英BBC(電子版)はキーウ近郊の路上で3月上旬、ロシア軍の戦車に向かって両手を挙げて民間人だとアピールした後に射殺された夫妻のものとみられる遺体が見つかったとも報じた。
ロシアは、残虐の行為を隠そうとして、嘘情報を作って流したのである。
5.兵器能力を誇大に吹聴する嘘
ウクライナ軍は、プーチン大統領が「どんな防空システムにも止められない」と豪語してきた空対地極超音速ミサイル「キンジャール」(地上発射型は「イスカンデル弾距離弾道ミサイル」)を、2023年4月に配備したパトリオットミサイルで撃墜した。
初めて撃墜したのは2023年5月の中旬、3発発射されて全弾撃墜した。
その後も、ロシア軍はキンジャールミサイルを撃ち続けているが、2023年末までに100基以上撃墜されている。
プーチン大統領は、ロシア語で「短剣」を意味するキンジャールをロシアの次世代兵器と謳い、「高度な防空システムを回避できる」と主張していた。
それが、パトリオットミサイルが配備され、キンジャールは撃ち落された。ロシアの嘘は完全に覆されたのである。
ロシアは、自国の兵器が西側の兵器よりも優秀であることを自慢したいために、兵器の実力以上の性能を吹聴するのだろう。
兵器の情報は、戦争をしなければ詳細は不明だが、戦って見れば、その実力、特に勝敗は明らかになるものだ。
6.ロシアは嘘つき国家の烙印を押された
ロシアは、過去から現在の戦争までに政戦略、戦争戦略、軍事戦略、作戦戦略、兵器の能力の面で、あるいは都合の悪い情報に対して言い逃れをするために、嘘に嘘を重ねてきた。
特に、ウクライナ侵攻の前から深刻な嘘をつき、またその量は多い。
ロシアは、嘘つき国家の烙印を押された。
プーチン大統領らの嘘については、ロシア人には罪はない。だが、これから50年、100年とロシア人は嘘つきとの烙印を押されることになるだろう。
ロシア国民は、3月の大統領選挙でプーチン氏を大統領として選び、引き続き嘘つき国家という汚名を着せられ続けることを許容するのか。
今回の選挙は、世界から汚名を着せられた「嘘つきだが強い大統領」がいいのか、「正義を尊ぶ民主的な大統領」がいいのかをロシア国民が選ぶ選挙である。
世界の民主的な国家と人々は、ロシア国民が民主的な人を選ぶかどうかを見て、ロシア人を評価することになる。
●追加支援に8兆9000億円、米上院が法案発表…下院では合意メド立たず 2/5
米上院の民主、共和両党は4日、ウクライナ追加支援に約600億ドル(約8兆9000億円)をあてる追加予算を含む法案を発表した。メキシコとの国境管理強化やイスラエル支援と一体化させた。下院で超党派の合意を得るメドは立っておらず、成立に至るかどうかは不透明だ。
法案の予算総額は約1180億ドル。イスラエル支援には約140億ドル、国境警備対策に約200億ドル、中国に対抗するためインド太平洋地域の支援に約48億ドルが計上された。不法移民対策の強化を求める野党・共和党の主張を取り入れ、バイデン政権が強く求めているウクライナ支援予算と一体的に協議してきた。
成立には共和党が多数派を握る下院での可決も必要だが、マイク・ジョンソン下院議長(共和党)は、法案に否定的な考えを示している。下院共和党に強い影響力を持つトランプ前大統領も、11月の大統領選を見据え、移民対策の強化は民主党を利するとして「不要だ」と主張している。
●アメリカはイラン領土攻撃を排除せず…直接攻撃を受けた場合 「強力な対応」 1/5
米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は4日、米ABCの番組で、ヨルダンの米軍拠点で米兵3人が殺害された無人機攻撃に対する報復措置に関連し、イランから直接攻撃を受けた場合にはイラン領土への攻撃を排除しない考えを示した。中東地域の緊張が高まる中で、イランに自制を促した。
サリバン氏は「彼ら(イラン)が米国への直接の対応を選択すれば、我々の迅速かつ強力な対応が待っている」と語った。米政府は2日、イラクとシリアで親イラン武装勢力などが使用する拠点を空爆したが、紛争拡大を避けるためイラン本土は狙わなかった。
2日の空爆について、サリバン氏は「我々の対応の始まりだ。さらに多くの段階があるだろう」と強調した。攻撃を複数の手段で継続する考えも示した。「いくつかは目に見える形になるだろうが、見えないものもあるだろう」と述べており、サイバー攻撃などを念頭に置いているとみられる。
サリバン氏は、親イラン武装勢力が反撃する可能性は排除できないとの考えも示した。バイデン大統領も同様の認識を示し、武装勢力の反撃に備えるよう軍指揮官に指示したという。 
●ロシア「反戦候補」選管作業部会が候補者登録拒否を勧告 2/5
ウクライナ侵攻反対を掲げ、ロシア大統領選への出馬を目指す元下院議員について、ロシア中央選挙管理委員会の作業部会が、提出した署名に誤りが多いとして候補者としての登録を拒否するよう勧告したことがわかりました。
来月のロシア大統領選への出馬を目指す元下院議員ナジェージュジン氏の陣営幹部は5日、中央選挙管理委員会の作業部会から、提出した10万5000人の署名の一部を抽出して調べたところ、およそ15%に誤りがあるとして無効だと指摘されたことを明らかにしました。
中央選管は7日にナジェージュジン氏を候補者として登録するかどうかの判断を示すとしていますが、作業部会は登録を拒否するよう勧告したということです。
ウクライナ侵攻反対を掲げるナジェージュジン氏は、20万人以上の署名を集め、そこから厳選して署名を提出したとしていて、JNNの単独インタビューに対し、出馬が認められない場合は「裁判に訴える」と主張しています。
●地上戦膠着、領土26%占領 ゼレンスキー氏 2/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日放送の国営イタリア放送協会(RAI)のインタビューで、欧米による武器支援が予定より遅れたため「地上戦は膠着している」と述べた。勝利には砲弾だけでなく最新の軍事技術が必要と改めて強調した。24日で侵攻2年となるが、現時点でウクライナの領土26%がロシアの占領下にあると訴えた。
ゼレンスキー氏は、ロシアがウクライナ以外の国に侵攻する可能性があると指摘。「NATOが即応するという保証はない。欧州の軍隊は戦争の準備ができていない」との見解を示した。
ロシア軍は5日、南部ヘルソン州の州都ヘルソンを砲撃し、少なくとも4人が死亡した。
●フーシ派拠点空爆で戦争激化の懸念、中東に必要な希望 BBC 2/5
アメリカは2日、米兵3人が死亡した先月のヨルダンの米軍基地攻撃への報復として、シリアとイラク領内にあるイラン関連の85以上の標的への攻撃を実施した。
アメリカ中央軍(CENTCOM)は、イラン革命防衛隊(IRGC)の精鋭部隊「コッズ部隊」や関連する民兵組織を標的にした空爆を行ったと発表した。
さらにアメリカ国防総省とイギリス国防省は3日夜、イランが支援するイエメンの武装組織フーシ派の拠点を空爆したと発表した。米英のフーシ派に対する共同作戦は、1月11日と22日に次いで3回目となる。
他方でイスラエルでは、イスラム勢力ハマスに捕らわれたままの人質の家族が、人質とパレスチナ人囚人の交換を可能にする取引と停戦を、政府に強く要求している。
昨年10月7日にハマスによるイスラエル攻撃を機に始まったガザの戦争は、拡大とエスカレーションを続けている。ガザで停戦しない限り、紅海での艦船攻撃は続けると、フーシ派は主張する。
中東地域をめぐり危険信号が激しく点滅している現状について、BBCのジェレミー・ボウエン国際編集長が報告する。
●トルコ大地震1年、「街は死んだまま」…再建のめど立たず 2/5
トルコ南部と隣国シリアに甚大な被害をもたらし、計6万人超が死亡した地震は、6日で発生から1年となる。トルコ南部の被災地では一部で復興住宅の引き渡しも始まったが、損壊した建物が手つかずで残る場所が目立ち、がれきの撤去も続いている。復興への道のりは長く険しい。
「1年たっても、街は死んだままだ」。アンタキヤの自宅が全壊したハサン・ギュネスさん(75)は嘆いた。近くに住んでいた長女(当時50歳)と孫娘(当時15歳)、三男(当時40歳)らを亡くした。自宅の庭に親族の支援で建てた仮設住宅で妻と避難生活を続けている。
自宅のがれきは1月にようやく撤去されたが、再建のめどは立たない。周辺の家もほぼ崩れ、庭でテント生活を続ける人もいる。街を離れたまま、帰らない住民は多い。中心部には広大な更地に被害を受けた建物が点在し、人の気配が消えた場所もあり、「もう昔のような街のにぎわいは戻らない」とつぶやいた。
トルコ政府によると、トルコでの死者は5万3537人。内戦下のシリアでは、在英のシリア人権監視団による昨年3月のまとめで、6795人が犠牲になった。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 2月5日の動き 2/5
ウクライナ 戒厳令90日間延長 大統領選挙行われない見通し
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、戒厳令と総動員令をことし5月まで90日間、延長する法案を議会にあたる最高会議に提出しました。ウクライナでは、当初の予定ではことしの春が大統領選挙の実施時期ですが、戒厳令が撤回されるなど状況が変わらないかぎり選挙は行われない見通しです。
ゼレンスキー大統領 ザルジニー総司令官の解任検討を認める
ウクライナのゼレンスキー大統領は、4日公開されたイタリアの公共放送「RAI」とのインタビューで、軍のザルジニー総司令官が解任される可能性があると複数のメディアが報じていることについて、「リセットと新たな出発が必要だ」と述べ、解任を検討していることを認めました。ロシアに対する軍事作戦の指揮をとってきたザルジニー総司令官は、去年12月に発表された世論調査で「信頼している」と回答した人が88%にのぼり、ゼレンスキー大統領の62%を上回るなど、国民からの人気が高いことで知られています。ザルジニー氏は、戦闘の進め方などを巡ってゼレンスキー大統領とたびたび意見が対立してきたと伝えられ、1月下旬から欧米などのメディアが、ザルジニー氏が解任されるという見方を相次いで報じていました。ゼレンスキー大統領は、ザルジニー氏を解任した場合の戦況への影響や国民の反応などを慎重に見極め、最終的に判断するとみられます。
国民からは 解任の影響 懸念する声相次ぐ
ウクライナ軍のザルジニー総司令官の解任の可能性が伝えられていることについて、首都キーウでは、国民からの人気が高いザルジニー氏が解任された場合の影響を懸念する声が相次ぎました。このうち50歳の男性は、「私は軍事の専門家ではないが、ザルジニー氏は象徴的な存在になっている。もし解任されれば国際的によくない印象を与えることは明らかだ」と話していました。63歳の男性は、「ザルジニー氏の人気はゼレンスキー大統領と同じくらい高い。私はザルジニー氏の解任を望みません」と話していました。18歳の女性は、「幼い子どもでさえ、ザルジニー氏を知っていて人々に希望を与え、心を動かすといった点で非常に大きな役割を果たしています。もし解任されれば強い反発が起きると思います」と話していました。
G7各国 “大統領と軍トップの対立はロシアを利する”
外交筋によりますと、「ザルジニー総司令官が解任される可能性がある」という情報は、1月中旬ごろから、キーウに駐在している各国外交官たちの間でも話題になったということです。当初、外交官たちは、ザルジニー氏は、ゼレンスキー大統領との関係が悪化しているとしても直ちに外交筋は、NHKに対して、「ゼレンスキー大統領はしゅん巡している」と述べ、国民にも人気のあるザルジニー氏を解任するかどうか慎重に検討を進めている可能性があると明らかにしました。また、G7各国は1月下旬、ザルジニー氏の解任の可能性に関する情報を巡り意見を交わしたということで、一部の国からは懸念する声も聞かれ、「大統領と軍のトップが対立していてはロシアを利するだけなので、結束すべきだとウクライナ側に伝えた」という話も出されたということです。
ザルジニー総司令官とは
ザルジニー総司令官は1973年生まれの50歳。1997年に軍人としてのキャリアをスタートさせたザルジニー氏は、陸軍で要職を歴任した後、ロシアによる軍事侵攻が始まる前の2021年7月にウクライナ軍のトップ、総司令官に就任しました。ロシアによる侵攻開始後はたびたび最前線にも赴くなどして軍事作戦の指揮をとり続けてきました。去年12月にキーウ国際社会学研究所が発表した世論調査では、ザルジニー総司令官を「信頼している」と回答した人が88%にのぼり、ゼレンスキー大統領を「信頼している」と答えた62%を上回りました。ザルジニー総司令官は、去年11月にはイギリスの経済誌「エコノミスト」に「現代の陣地戦とその勝ち方」と題する論考を寄稿しました。また、2月にはアメリカのCNNテレビに寄稿し、欧米からの軍事支援について各国の不安定な政治情勢が支援の縮小につながっているとした上で、今後は無人機など安くて効果的な技術をさらに活用する必要性があると強調するなど、独自の分析を発信していました。一方で、去年6月に始まった反転攻勢が当初の想定より進んでいないと伝えられる中、戦況の認識などを巡ってザルジニー氏とゼレンスキー大統領との間で意見が対立するなど、あつれきも生じていると指摘されていました。去年12月、ウクライナのメディア「ウクラインスカ・プラウダ」は、大統領の側近の話として、ゼレンスキー大統領が直接、一部の司令官とやりとりしているため軍の指揮系統が乱れ、ザルジニー氏が軍全体を統率できなくなっているとの見方を伝えていました。そして1月下旬から、ウクライナや欧米のメディアがザルジニー氏が解任されるのではないかという見方を相次いで伝え、このうちアメリカの有力紙、ワシントン・ポストは2月2日、ゼレンスキー大統領が解任を決めたとウクライナ政府が最大の支援国であるアメリカのホワイトハウスに伝えたと報じていました。ザルジニー総司令官を交代させることになれば、国民から反発が出るほか、軍の統率が一時的に乱れるなど戦況に影響が及ぶ可能性があるという指摘も出ています。
ゼレンスキー大統領 前線の陣地など訪れ 兵士に勝利呼びかけ
ウクライナ軍のザルジニー総司令官の解任の可能性が報じられる中、ゼレンスキー大統領は4日、前線に近い南部ザポリージャ州や東部ドニプロペトロウシク州を相次いで訪問しました。このうちザポリージャ州では、激しい戦闘が続いているロボティネ近くの陣地を訪れたとする映像をウクライナ大統領府が公開しました。この中でゼレンスキー大統領は兵士を表彰した上で、「皆さんは敵を撃退し、この戦争に勝つという困難で重要な任務にあたっている。迅速に勝利するため、あらゆることをしてほしい」と呼びかけました。ロボティネは去年8月にウクライナ軍が奪還した集落ですが、反転攻勢は、その後、こう着した状態が続いていて、ゼレンスキー大統領としては訪問を通じて前線の兵士の士気を高めたいねらいもあるとみられます。
ウクライナ 市民の間で無人機を組み立て 軍に送る動きも
ロシア国防省は3日、この1週間で、ウクライナ側の軍事施設や燃料基地を標的に、無人機などを使った攻撃を37回行ったと発表しました。ウクライナ側も国境に近いロシア領内などに対する無人機攻撃を続けていて、ゼレンスキー大統領は1月29日、「無人機の運用の質を高め、敵に先んじることが、ことしの課題の1つだ」と強調しています。ウクライナはことし、自分が操縦しているような感覚で上空からの映像をリアルタイムで確認できる、FPVと呼ばれる性能を備えた無人機を100万機製造し、戦地に投入する計画です。FPVは、小型で安価なことも特徴で、市民の間では、自身で無人機を組み立てて軍に送るなど、支援する動きが広がっています。首都キーウで暮らすマトビー・カルペンコさん(23)は、ゲーム開発の仕事をするかたわら、半年ほど前から無人機の組み立て方や操縦の方法を学びました。カルペンコさんは「今後兵役に就いたときにも役に立つスキルなので、学んでいます」と話していました。
ウクライナ 無人機を操縦できる兵士の育成も
また、無人機を操縦できる兵士の育成も進められています。キーウ市内の屋内施設では1月、兵士を対象にした無人機の操縦訓練が行われていました。訓練はNGOが主催したもので、兵士たちが民間のエンジニアなどからモニターなどを使った操縦のしかたを学んでいました。兵士たちは、キーウ州内の空き地でもねらいどおりのルートで実際に無人機を飛行させることができるか確認していました。25歳の兵士は「学んだ知識を実戦で生かすことができれば、より早くロシア軍に勝つことができます」と話していました。講師役を務めた、エンジニアでゲーム開発者のイワン・コワリョウさんは「エンジニアとして持っている知識を兵士に受け継ぐことが、私ができる最大限の貢献です」と話していました。
●キーウで夫と再会の日本人女性、「破壊された住宅ほぼ修復」 2/5
ロシア軍のウクライナ侵略開始から2年となるのを前に、首都キーウから三重県伊賀市に避難している同市出身の浅井絵利香さん(37)が4日、「ウクライナの今」と題し、同市上野桑町の上野南部地区市民センターで講演した。「平和を取り戻し、復興するまで10年、20年と長い年月が必要。どうか長い目で見守ってほしい」と訴えた。
浅井さんは2013年、ウクライナ人の翻訳家の夫(39)と結婚し、大阪府吹田市で暮らした。21年3月、夫婦と長女(6)、次女(4)の一家4人で、義母(66)の住むキーウに移住。22年2月に侵略が始まると、浅井さんは翌月、娘2人を連れて出国し、スロバキア、チェコ、フランスを経由して伊賀に避難した。
講演は、伊賀市の上野南部地区・人権啓発地区草の根運動推進会議が主催。地元をはじめ、三重県内各地から約80人が訪れた。
ウクライナの民族衣装で登壇した浅井さんは、昨年夏、一時帰国してキーウで夫と再会した時の様子について報告。「日に7回ほど空襲警報が鳴り、そのたびに地下シェルターに避難するが、それ以外は日常生活が戻っていた」と述べた。
うれしいこととして「2年前に破壊された住宅は、ほとんど修復されていた。スーパーの品ぞろえは侵略前の水準に戻った」ことを挙げ、ショックを受けたこととして「散歩していると、毎日のように手足を失った人や失明した人を見かけた」と振り返った。
このほか、避難先から戻った人が「自分だけ生き残った」と罪悪感にさいなまれる問題や、ロシアによる子どもの連れ去りなどにも触れた。最後に「ロシアの狙いは、ウクライナが忘れ去られること。(国花の)ヒマワリを見るたびに、ウクライナを思い出してほしい」と呼びかけた。

 

●凍結資産担保にウクライナ支援は「違法」、ロシアが警告 2/6
ロシアのペスコフ大統領報道官は5日、欧米諸国が制裁の一環として凍結しているロシア資産について、ウクライナ向け資金調達の担保に活用することは違法だと指摘し、実際に行われれば何年もの訴訟を引き起こすと警告した。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は3日、主要7カ国(G7)がロシア資産を担保に借り入れを行う案を策定したと報じた。ブルームバーグもこの計画について報じている。
ペスコフ氏は、「これらの報道がどこまで現実を反映しているか分からない。本当にそうした計画があるか疑問だ」と指摘。
その上で、欧米諸国がロシア資産を没収しようとすれば、ロシアは何年にもわたって法的手段に訴えることになると警告した。
●ロシア・プーチン大統領の資産を公開…宮殿やスーパーヨットはなし 2/6
・プーチンの公式な資産が発表されたが、それは滑稽に思えるほど控えめなものだった。
・それによると、彼の資産とは、2、3のアパート、数台の古い車、キャンピングトレーラー、駐車場などだ。
・彼が所有していると広く報じられている広大な宮殿やスーパーヨットについては一切触れられていない。
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の資産に関して最新の情報が公開されたが、本当の財務状況を反映していないことはほぼ間違いない控えめなものだった。
ロシアでは2024年3月17日に大統領選挙を控えており、候補者登録に伴う手続きのひとつとして1月29日にこの情報が公開された。
The Moscow Timesによると、プーチンの資産は2018年の前回公開時とほとんど変わっておらず、以下のような内容となっている。
・6年分の公式給与、年金、その他の収入:75万3000ドル(約1億1000万円)
・複数の銀行口座にある貯蓄:60万7000ドル(約8900万円)
・モスクワにある153平方メートルの政府賃貸アパート
・サンクトペテルブルクにある77平方メートルのアパート(18平方メートルのガレージ付き)
・サンクトペテルブルクの駐車スペース
・1960年代のクラシックカー2台
・1987年製のキャンピングトレーラー
・2009年製のラーダ・ニーヴァ(ロシア製の4WD車)
この内容は、プーチンの資産として広く信じられているものからほど遠い。ただし、本当の数字を出すのは、富に関する専門誌であるフォーブスにとっても不可能に近いことだ。
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)、ロシアの独立系出版社プロエクト(Proekt)、野党運動家のアレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)などのグループによる調査報道は、長年にわたって、ロシア大統領が所有している可能性が高い莫大な財産や不動産ポートフォリオについて明らかにしてきた。
最も広く知られている資産見積もりは、投資家でありクレムリン批判者でもあるビル・ブラウダー(Bill Browder)によるもので、彼はプーチンの資産を約2000億ドル(約29兆円)だと試算した。そうだとすれば、2024年の世界長者番付でプーチンは3位となり、ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)より資産が数十億ドルも多い富豪だということになる。
今回公開された資産の中には、プーチンが所有または管理しているとされる複数の宮殿やスーパーヨットは含まれていない。
また、黒海の宮殿にある秘密の地下壕や、恋人と噂されるアリーナ・カバエワ(Alina Kabayeva)が住んでいるとされるヴァルダイ湖畔の厳重に保護された森の宮殿についても言及されていない。
調査機関のドシエ・センター(Dossier Center)は1月、フィンランド国境に近いカレリア湖にあるプーチン所有とされる複合施設についても報じている。
この複合施設には「3棟の近代的な家屋、2つのヘリパッド、複数のヨット桟橋、養鱒場、霜降り牛肉生産用の牛を飼う牧場、そして個人所有の滝」があるという。
●プーチン大統領の秘策か 欧州を大混乱に陥れるロシアの電子兵器の危険度 2/6
プーチン大統領の秘密兵器か…。ロシアの極秘電子兵器がNATO側の航空機や船舶のGPSシステムに誤作動を起こしていると西側諜報機関が懸念している。
エストニア軍のマルティン・ヘレム司令官によると、フィンランド、スウェーデン、バルト三国、ポーランドで空と海の交通のGPS誘導に混乱が生じているという。ヘレム司令官は英紙テレグラフに対し、「われわれが目撃したのは船舶や航空交通用のGPSの誤作動だ。ロシアが何かをやりたいのか、それともただ装備をテストしたいだけなのか、本当に分からない」と話した。
バルト海、黒海、イスラエル付近などでもGPSの混乱が確認されているという。
西側諜報機関はエストニアなどに混乱を引き起こしている疑いのある極秘電子兵器は、リトアニアとポーランドの間に位置するロシアの飛び地、カリーニングラードの軍事施設に拠点を置いている可能性が高い。
兵器は「トボル」と呼ばれ、巨大なパラボラアンテナのような形だという。
軍事事情通は「衛星通信抑制システムのトボルは多方向にGPS妨害信号を飛ばすことができます。正確な原理は明らかにされていません。本来はミサイルやドローンの攻撃からカリーニングラードを守る用途で設置されたといわれています。しかし防衛ではなく攻撃に使えば、他国の民間機、船舶の運航を妨害することができます」と指摘する。
最近、GPSの混乱により飛行機が航空機追跡サイトから消失するケースが報告されている。
航空機や船舶はGPSだけに頼って運航しているわけではないが、GPSの混乱が続けば、正確な位置情報を得られなくなるため、物流が滞ることが予想されている。
●スウェーデンNATO加盟が起こすウクライナ戦争への影響、プーチンの誤算か? 2/6
2024年1月24日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙トルコ特派員Adam Samson等が、「トルコ議会はスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持すると表決。決定は西側軍事同盟に参加するスウェーデンの試みでの意義深い一歩を印す」との解説記事を書いている。
トルコ議会は、スウェーデンがNATOに加盟することに賛成した。スウェーデンの西側軍事同盟参加への長期の試みでの意義深い一歩である。1月23日の表決は、エルドアンがロシアのウクライナ侵攻の後、非同盟政策をやめたスウェーデンのNATO加盟に賛成する道を開いた。スウェーデンのクリスターソン首相は、それを歓迎した。
北欧とバルト諸国は、この批准が地域の安全保障の強化になると歓迎している。リトアニアのナウセーダ大統領は「スウェーデンのNATO加盟は、より安全なバルト海とより強化された同盟への重要な一歩である」と述べた。
ストルテンベルグNATO事務総長は、「この表決を歓迎し、ハンガリーが可及的速やかに批准を完了することを期待する」と述べた。
エルドアンは昨年7月に加盟に賛成すると誓約したが、プロセスが遅れ、トルコと西側同盟国との溝を広げた。ハンガリーはスウェーデンの加盟の批准について、大体トルコと同じ対応をすると期待されている。
1952年以来NATO加盟国であるトルコは西側のパートナーが忌避するロシアと強い結びつきを持ってきた。例えばウクライナ戦争開始後、トルコはロシアとの貿易額を増やし、かつ西側の制裁に参加していない。
トルコの議会はエルドアンの政治的連立が支配しており、23日の表決はエルドアンの賛同なしに行われたとは考えられない。ただエルドアンはまだ批准議定書に署名しなければならない。
トルコの大統領は米国がスウェーデンの試みへの賛成の見返りとして何10億ドルのF-16戦闘機を買いたいとの要請に応ずることを期待していると述べた。バイデン政権はこの武器取引を支持しているが、米上院の有力議員がトルコのギリシャとの関係の問題で懸念を表明している。
また、トルコは、クルド武装組織の取り締り強化をスウェーデンに要求している。昨年施行された反テロ法を含むスウェーデンの措置がトルコの懸念を鎮めたとされる。
このフィナンシャル・タイムズ紙の記事が出た後、ハンガリーのオルバン首相は、1月24日、Xに「ハンガリー政府はスウェーデンのNATO加盟を支持する」と投稿し、議会に速やかに批准手続きを終えるように要請したと述べた。まだ若干の手続きは残っているが、スウェーデンのNATO加盟が実現することは確実になった。
ロシアのプーチン大統領は、NATOの東方拡大、具体的にはウクライナのNATO加盟の恐れをウクライナ戦争の一因としていたが、ウクライナ戦争の結果、NATOの北方拡大を引き起こした結果となった。いわゆる北欧バランス(ノルウェーはNATO加盟国、スウェーデンは中立国、フィンランドはロシアに配慮する国)は消滅し、スウェーデンもフィンランドもNATO加盟国になる。これは、相当に意義深い情勢の変化である。
第一に、バルト海はNATO加盟国で取り囲まれることになった。バルト海はロシアにとっても重要なシーレーン(海洋航路)であるが、有事の際には、その利用が制約されることになろう。特に、スウェーデンは強力な潜水艦部隊を有している。ロシアの飛び地カリーニングラードはロシアにとり防衛が困難な地域にさえなりかねない。
第二に、バルト3国の対ロシア安全保障は格段に強化されることになろう。リトアニアの大統領の発言がこの記事でも引用されているが、バルト諸国はスウェーデンのNATO加盟を強く歓迎している。
第三に、NATOの北方拡大は温暖化の中で期待されている北極航路についての西側の関与の道を開くことにつながりうる。
ごね得とはならないトルコ
プーチンのウクライナ戦争が引き起こしたこの状況変化だけでも、ロシアの国益を害することになったと思われる。
エルドアンはスウェーデン加盟問題でごね得をしたように思われるが、NATO加盟国にはトルコへの不信感が生まれ、長期的には、トルコには今後それがマイナスの影響を与えかねないと思われる。
いずれにせよ、フィンランド、スウェーデンのNATO加盟は、日本としても歓迎すべきであると思われる。
●プーチン氏がUAE大統領と電話会談、ウクライナ・ガザ情勢協議 2/6
ロシアのプーチン大統領はアラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド大統領と電話会談を行い、ウクライナのほか、パレスチナ自治区ガザを巡る情勢について協議した。ロシア政府が5日、明らかにした。
両首脳は「友好関係のさらなる発展」について合意したという。
●露大統領選 選管が“ウクライナ侵攻反対候補”の登録拒否を勧告 2/6
来月に行われるロシアの大統領選挙で、選挙管理委員会の作業部会は5日、ウクライナ侵攻に反対する立候補予定者について、提出した署名に不備があったとして、候補者として登録しないよう勧告しました。
来月に行われるロシア大統領選挙で、ナジェージュジン氏は立候補予定者の中で唯一、ウクライナ侵攻に反対する立場を表明していて、野党「市民イニシアチブ」の公認を受けています。
こうした中、ナジェージュジン氏の陣営関係者は5日、「作業部会が選挙管理委員会に対し、ナジェージュジン氏を候補者として登録しないよう勧告した」とSNSで明らかにしました。
候補者となるためには、提出された10万人以上の署名の中から6万人分を抽出し、そのうち無効な署名が5パーセント以下であることが求められていますが、ナジェージュジン氏によりますと、作業部会は「15パーセントが無効だ」と指摘したということです。
選管は7日に正式に決定するとしていて、勧告に従えば、ウクライナ侵攻に反対する候補の立候補が認められないことになります。ナジェージュジン氏は、「選管が候補者への登録を拒否すれば、最高裁に訴える」と反発しています。
●ウクライナ大統領、指導部の大幅刷新を検討 軍総司令官解任以上の動きも 2/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は、軍の総司令官を含む同国指導部の多くを入れ替えることを検討していると明らかにした。ロシアによる全面侵攻から2年近くが経過し、自国の向かう道筋を「リセット」する狙いがあるという。
4日に放送されたイタリアの国営放送RAIとのインタビューで語った。ゼレンスキー氏は「新たな始まりが必要」とし、「真剣に考えていることがある。1人の人物に関してではなく、国の指導部が目指す方向性を巡る考察だ」と説明した。
「この話をするときに意味するのは国家のリーダーたちをまとめて入れ替える措置であり、軍のような単一の部門だけを念頭に置いているわけではない」(ゼレンスキー氏)
ゼレンスキー氏は誰を入れ替えるかについて明言しなかったが、現在ウクライナ軍のザルジニー総司令官の今後を巡って臆測が広がっている。昨年末にかけ、両者の間では見解の相違に拍車がかかっているとの見方が出ていた。
昨年11月、ザルジニー氏は戦況が「膠着(こうちゃく)状態」にあるとの認識を表明。大統領府の高官は、ロシアを利するだけの言説だとしてこれを厳しく批判した。
より最近では、ウクライナ軍に大規模な動員の措置が必要かどうかを巡ってもゼレンスキー氏とザルジニー氏は対立している。ザルジニー氏は最大50万人の兵力を追加する必要があると提言したが、ゼレンスキー氏はこれを拒否した。
ゼレンスキー氏はザルジニー氏を数日中にも解任するとみられているが、大統領の報道官は先週、CNNをはじめとするメディアに対して軍総司令官の解任が近いとの噂(うわさ)は事実ではないと述べた。
ザルジニー氏の解任が実現すれば、軍関連の人事の刷新ではロシアによる侵攻開始以降最大のものとなる。
ただザルジニー氏はウクライナ軍の反転攻勢の失敗後も国民から圧倒的な人気を誇っており、同氏の解任はゼレンスキー氏にとっても政治的なリスクがあるとみられる。
キーウ国際社会学研究所(KIIS)が公表した昨年12月の世論調査の結果によれば、ウクライナ人の88%がザルジニー氏を支持しているのに対し、ゼレンスキー氏を支持しているのは62%だった。
調査は戦争の遂行を巡る両指導者の見解の相違が表に出た後で実施された。
●ロシア軍はどれだけ航空機を失った?高性能機の損害相次ぐ  2/6
イギリス国防省は、2024年2月3日にウクライナ紛争の戦況分析を更新し、ロシア空軍が制空権を獲得できていないとの分析を明らかにしました。
ウクライナ軍の参謀本部は1月30日、ロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機をルハンシク州東部で撃墜したと発表。Su-34戦闘爆撃機は、ロシア空軍の中では高価かつ高性能な機体ですが、この戦争では損害が相次いでおり、また損失が発生したとみられます。イギリス国防省は、ロシア空軍は2022年2月のウクライナへの全面侵攻以降、合計で82機の固定翼戦術機を失ったと推定しており、大きな被害が生じています。
イギリス国防省によると、ロシア空軍の航空部隊は、地上部隊への一貫した支援に苦心している可能性があるとのこと。また、機体の損失を恐れ、ウクライナ軍の防空網の外側から射程延長用滑空装置を備えた兵器を発射しており、リスクを回避したい意向がある可能性が高いとしています。
こうした動きは、ウクライナ軍の防空部隊が成功し、ロシア空軍がウクライナ上空の制空権を獲得することが不可能になっていることを示しているとしています。
●ウクライナ保安当局、記者を違法に監視 報道機関が指摘 2/6
ウクライナの調査報道機関「bihus.info」は5日、同国の情報機関である保安局(SBU)の支部が記者を違法に監視していたと明らかにした。
bihus.infoは当局者や富豪に関する調査記事を定期的に報道。メッセージアプリ「テレグラム」への投稿で、昨年12月にホテルで行われた企業イベントで同メディアのジャーナリストに対しSBUの部門がスパイ活動を行っていたと指摘した。
SBUは、国益を守る使命の一環として報道の自由の原則を支持しているとする声明を発表。スパイ技術の使用について犯罪捜査が始まったという。
SBU筋は記者団に対し、この疑惑が先月公になった後、SBUの国家独立防衛部門トップが解任されたと語った。
SBUはテレグラム上の声明で、このメディアのメンバーの何人かが麻薬ディーラーの顧客と特定されたと指摘した。
先月、あるグループがオンラインに投稿した動画には12月のイベントでbihus.infoのメンバーが娯楽用ドラッグを使用し、ウクライナでは違法な大麻や合成麻薬MDMAの調達について話している様子が映っていた。
Bihus.infoは動画が本物であることを認め、薬物の使用と従業員の監視の両方を非難した。 
●IAEA事務局長 ザポリージャ原発視察へ 両国への働きかけ続ける 2/6
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、軍事侵攻から2年となるのを前に、ロシアが占拠するウクライナのザポリージャ原子力発電所を視察する予定を明らかにするとともに、原発の安全の確保に向けてロシアとウクライナ、双方への働きかけを続ける考えを強調しました。
ウクライナを訪れているIAEAのグロッシ事務局長は6日、ハルシチェンコエネルギー相と会談後、首都キーウで会見し、7日に南部のザポリージャ原発を訪れることを明らかにしました。
グロッシ事務局長がザポリージャ原発を訪れるのは去年6月以来、4度目です。
ロシア軍が占拠するザポリージャ原発では、相次ぐ砲撃などで原子炉の冷却に必要な外部からの電力の供給が途絶える事態がたびたび起きています。
またIAEAによりますと、現在、ロシア側によって雇用されている原発のスタッフの数は4500人と軍事侵攻前の半数以下になっていて、人員不足も深刻だということです。
グロッシ事務局長は会見のなかで「すべてが安定し、満足できる状況には全くない」と述べ、原発をめぐる状況は依然、不安定だと懸念を示しました。
そして、来週にはロシアを訪れて関係者と協議することを明らかにした上で、「私たちは原発を確実に守ることによって、この戦争での犠牲に加えて事故が起きないことを望んでいる」と述べ、原発の安全の確保に向けてロシアとウクライナ、双方への働きかけを続ける考えを強調しました。

 

●日本の返還要求団体を活動禁止 「北方領土の日」控え―ロシア 2/7
ロシアのプーチン政権は6日までに、日本の北方領土返還要求運動に関係する1団体を「好ましからざる団体」に定めた。最高検が1月下旬に指定後、法務省が5日付でリストに追加した。ロシアが自国領とする北方領土を含め、全土での活動が禁止される。
「北方領土の日」に当たる7日を控え、日本をけん制した格好。昨年2月の北方領土返還要求全国大会では、採択されたアピールに「不法占拠」の文言が復活し、ロシア側が反発した。
リストに掲載されたロシア語表記から、この団体は北方領土復帰期成同盟(北方同盟、札幌市)を指している可能性がある。プーチン政権が好ましからざる団体に定めた返還要求運動関係団体は、昨年の千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)に次いで2例目。
●北方領土返還運動の団体、ロシアが「好ましくない組織」に指定… 2/7
タス通信は6日、ロシア法務省が、北方領土の返還運動を展開する日本の「北方領土復帰期成同盟」(北方同盟)を、露国内での活動を禁じる「好ましくない組織」に指定したと報じた。7日の「北方領土の日」を前に、日本に揺さぶりをかける狙いがあるとみられる。
ロシアは昨年4月にも、元島民らでつくる「千島歯舞諸島居住者連盟」(千島連盟)を「好ましくない組織」に一方的に指定している。
ロシアはウクライナ侵略開始直後の2022年3月、侵略に伴う日本の対露制裁に反発し、日本人と北方領土に住むロシア人との相互訪問を可能にする「ビザなし交流」と、元島民の「自由訪問」の一方的な停止を宣言していた。
「ビザなし交流」が今後、復活した場合でも、「好ましくない組織」への指定で、団体メンバーが北方領土に入れない恐れもある。
●プーチン氏 大統領選前に「年次教書演説」 実績や主張展開か 2/7
ロシア大統領府は、プーチン大統領が内政や外交の基本方針を示す年次教書演説を、早ければ今月下旬にも行う見通しを示し、来月の大統領選挙で圧勝を目指すプーチン大統領がみずからの実績や主張を展開するものとみられます。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は6日、プーチン大統領がことしの年次教書演説を今月下旬から来月上旬の間に行う可能性を明らかにしました。
年次教書演説は大統領が年に一度、議会や政府の代表を前に内政や外交の基本方針を示すもので、有力紙「コメルサント」は政権関係者の話として、今月下旬を軸に調整されていると伝えています。
演説では、今月24日で2年となるウクライナへの侵攻や、来月の大統領選挙で圧勝を目指すプーチン大統領がみずからの実績や主張を展開するものとみられます。
一方、大統領選挙では、ウクライナへの侵攻を批判するナデジディン元下院議員が立候補に向けて有権者から集めた署名を提出しましたが、中央選挙管理委員会は5日、書類上の不備が見つかったと指摘しました。
選挙管理委員会は立候補を認めるかどうかの最終判断を7日に下すとしていましたが、ナデジディン氏側が指摘があった不備を確認するのに時間が足りないなどとして延期を要請し、これをうけて選挙管理委員会は判断は8日に行うと発表しました。
ナデジディン氏はプーチン氏に対抗する候補者になるか注目されていますが、不備があったとして立候補が認められない可能性もでています。
●40両超を撃破 「血の味覚えた」ウクライナ軍ジャベリン名砲手が記録重ねる 2/7
歴史家で作家のマイク・スピックによると、第二次大戦中の航空戦では5%のパイロットによる撃墜が全体の撃墜数の40%を占めた。最も運に恵まれ、最も技量のあるエースパイロットが、偏って多くの戦功をあげていた。
ロシアがウクライナで拡大して23カ月あまり経つ戦争の地上戦でも、同じようなことが起こっている。最も運に恵まれ、最も技量のある兵士が、偏って多くの撃破数を誇っているのだ。
100万人規模のウクライナ軍の中でも、空中強襲軍(空挺軍)第79独立空中強襲旅団のミサイル兵、コールサイン「ハハウズ」ほど、運に恵まれ、技量の優れた兵士はほかに少ないだろう。米国製のFGM-148ジャベリン対戦車ミサイルシステムを2人組で運用するハハウズは、これまでにロシア軍の戦車や装甲兵員輸送車、工兵車両を40両以上撃破し、さらに20両以上を損傷させたと伝えられる。
これらの損害はすべて、彼がウクライナ東部ドネツク州ブフレダル方面の1つの戦域で与えたものである。「自分に与えられた仕事を効果的にやっています」エストニア出身の軍事アナリスト、WarTranslated(@wartranslated)が引用・翻訳している公式インタビューで、ハハウズはそう自信を示している。
彼は第79旅団に数チームあるジャベリンチームの一員だ。ウクライナ軍の地上軍(陸軍)と空中強襲軍には旅団が合計で100個ほどある。
これらの旅団にはジャベリンが大量に配備されている。重量22.3kgのジャベリンは、装甲を貫通するタンデム弾頭と赤外線画像シーカーを備え、最長約3.2km先の車両を攻撃できる。1基8万ドル(約1200万円)ほどするジャベリンは、米国からだけでも1万基がウクライナに供与された。もちろんこれは、米議会のロシア寄りの共和党議員が昨年後半、ウクライナへの支援を断つ前のことだ。
ロシアがウクライナとの戦いでこれまでに被った1万4000両を超える車両の損害のうち、数千はジャベリンによるものである。そして、ジャベリンによる撃破数の数%はハハウズのチームの戦果だとしてもおかしくない。
ハハウズがジャベリンの砲手になったのは2022年の夏だった。「準備を命じられ、目標を見て、発射しました」と彼は振り返っている。「すると命中したんです。そうして、血の味を覚えました」
続く18カ月、ハハウズはジャベリンをロシア軍の車両に月に3発以上命中させてきた。前線から離れた期間を差し引けばその数はもっと増えるはずだ。戦闘に従事している期間は毎週、ロシア軍の戦車や歩兵戦闘車などを爆破しているかもしれない。
ジャベリンは撃ちっ放し型ですぐ撤収できるとはいえ、反撃にさらされる「非常に危険な仕事」
第79旅団にはジャベリンのエース砲手が他にもいる。その1人であるアンドリー・H下級曹長は1月、1回の小競り合いでロシア軍の車両を4両撃破したと報じられている。ただ、ロシア側にとって最も危険なジャベリン使いはやはりハハウズかもしれない。
「わたしたちはいつもペアで行動します」と彼はインタビューで説明している。通常はウクライナ側の防衛線とロシア側の防衛線の間に広がるグレーゾーンにある既設の射撃陣地から攻撃するが、ピンチの場合は、攻撃してくるロシア軍部隊に対してよリ良い照準線(照準器と目標を結ぶ線)を確保するために陣地を変えるという。
戦闘の際はハハウズがジャベリンの6.8kgの発射装置を昼夜対応の照準器で操作し、ペアの相手がミサイルを取り扱う。「目標を発見すると、わたしは観測しながら相手に指示を出します。彼はロケット(ミサイル)を準備し、わたしは目標を追跡します。そして発射します」
ジャベリンは撃ちっ放し型のミサイルなので、発射後、チームは撤収できる。というより、撤収しなくてはならない。なぜなら、しっかり訓練された敵部隊なら即座に撃ち返してくるからだ。ハハウズはロシア軍の軍用機やBM-30スメルチ多連装ロケット砲で応酬された経験もあるという。「対戦車兵は非常に危険な仕事なんです」と彼は語る。
ハハウズの攻撃を受ける側のロシア軍部隊の1つは、運に見放されている部隊でもある。ロシア海軍歩兵隊の第155独立親衛海軍歩兵旅団は2年近くにわたって、ハハウズの旅団が守る町の1つであるブフレダルの占領を試みてきたが、これまで失敗している。
ブフレダル周辺の道路や平地にはロシア軍の車両の残骸が散乱している。そのうち、少なくとも40の山はハハウズがつくり出したものだ。
第二次大戦時と同様に、ウクライナでの戦争でもエースたちが最も多く敵の兵器を仕留めている。彼らを恐るべき車両キラーなどにしている天分や磨き上げた技能は、彼らの生存率を高めることにもつながっているかもしれない。
もしハハウズを挫かせることのできるものがあるとすれば、それは米国の共和党だろう。共和党は何カ月もウクライナへの追加支援の採決を拒んできた。その支援にはジャベリンの追加供与も含まれるはずだ。
●米高官が「あと数週間でロシア軍が勝利する」明言したウクライナ戦争 2/7
2月1日、欧州連合(EU)のウクライナへの追加支援が全会一致で合意された。加盟国は2027年までの間、500億ユーロ(約8兆円)を支援する。
EUの発表によれば、追加支援する500億ユーロのうち、330億ユーロは融資で、残り170億ユーロは凍結されたロシアの資産から生み出される可能性のある「返済不要の支援」であるほか、EUへの加盟を希望するウクライナの準備資金として使用されるという。全国紙国際部記者が解説する。
「ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから丸2年が経ちます。一時は大規模な反転攻勢で一気に情勢がウクライナ有利に変わるのでは、との希望的観測もありましたが、結局、膠着状態は続いたままで、その間にもウクライナの弾薬は枯渇する一方。 EUの推計によると、1日あたり2万発以上の砲弾を撃ち込んでいるロシアに対し、ウクライナの砲弾発射数は23年夏の反転攻撃時でも1日あたり8000発。その数も徐々に減少していて、昨年12月にウクライナ軍のタルナフスキー司令官が発表した1日当たりの砲弾の数は約2000発でした」
しかも、同国の頼みの綱だった米政府による610億ドル(約9兆円)の支援も、米議会での承認手続きの見通しが立たず停滞したまま。そんな中、今回のEUによる追加支援は、ウクライナにとって喉から手が出るほど待ち望んでいたものだった。ただ、この支援に疑問を呈する専門家は少なくない。
「1月にNATO(北大西洋条約機構)は、ウクライナに対し数十万個単位の155ミリ砲弾を生産するという11億ユーロ(約1760億円)規模の契約を結んだと発表している。しかしNATO本部で会見したストルテンベルグ事務総長は『納品までに要する時間は24カ月〜36カ月になる予定』と述べています。つまりウクライナへ砲弾が届くのは27年になってしまうということ。今回のEUの決定においても追加支援は27年までとなっており、そこまでウクライナが持ちこたえられるかが最大の問題です」(前出・記者)
弾薬が枯渇しているウクライナとしては、明日にでも「現物」での支援が欲しいところだろう。一方で米バイデン政権の軍事支援担当者は「米議会が動かなければ、あと数週間でロシア軍が勝利する」と明言している。さらに1月25日に米ブルームバーグ通信は、プーチン大統領が昨年12月、仲介人を通して米政府当局者とウクライナ戦争の終戦に向けた対話をする用意があるかどうかを非公式で打診した、と報じた。
当然ながらウクライナの敗北は、EU、NATO、そしてアメリカの敗北という最悪の結果を意味する。戦争はいよいよ最終局面に入ってきているようだ。
●「今後はロシア軍が有利」は完全な間違い...ロシアの深刻事情 2/7
1月24日、ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州でロシア軍の大型輸送機「Il-76(イリューシン76)」が墜落した事件。
筆者はこれがロシアの謀略ではないかと強く疑われる理由を前編『「イリューシン76墜落事件」はロシアによる「苦しまぎれの謀略」ではないか...「ロシア空軍は《モスクワ撃沈なみ》の痛手を受けていた」と考えられる関連背景』で解説した。本項ではそのさらなる根拠の詳細と現在ロシアが陥っていると考えられる状況について説明する。
ロシアの真の狙い
前編を受けて結言すれば、以下のような推測が成り立つ。
ウクライナ軍はこのIl-76が、当初の報道どおり、「S-300の誘導弾」などの装備品を輸送する、という情報を何らかの手段(ロシアが意図的にリークした可能性も)で事前に入手し、米国から供与された対空ミサイル・ペトリオットで同機を撃墜した。
一方、ロシア側は、このリークした情報をウクライナ側が入手している可能性を認識した上で、同機が撃墜されることも想定し、実際のウクライナ人捕虜の輸送と並行させてIl-76を少なくとも2機飛行させ、衛星や情報収集機、並びに地上レーダや地上の信号情報収集装置などによって、ウクライナ軍の動きを監視していた。
そして、実際にウクライナ軍はこの装備品を搭載しているIl-76をペトリオットで撃墜し、ロシアはこの行動を前述の情報収集手段によって捕捉した。その上で、撃墜された場合に備えて用意していた、「ウクライナ人捕虜の輸送機を撃墜」というシナリオを大々的に発表するとともに、国連安保理にも緊急会合を要請し、ウクライナを糾弾した、というものである。
つまり、ロシアは今回のIl-76の墜落を、「ウクライナ人捕虜(65人)輸送時の撃墜事案」と宣伝することによって、反人道的攻撃を掲げて国際問題化し、事後のウクライナによるロシア領内への対空攻撃を躊躇させるとともに、ウクライナ国内で自国民(ウクライナ人戦争捕虜)の搭乗機を撃墜した軍や政権への非難や不信感を煽ることを企図したのではないかと考えられるのである。
しかし、ロシアは、実際にIl-76輸送機1機とその搭乗員を犠牲にしてまで、なぜこのような危険な賭けを行ったのか。
ロシアは自国内の制空権さえ失っている?
そこには、1月14日のアゾフ海におけるロシア空軍機A-50(メインステイ)早期警戒管制機の被撃墜と、Il-22(Il-20クートB)空中指揮機の被撃破(撃墜は免れ大破)という、衝撃的な出来事があったからだと考えられる。なぜならば、この事象は、ロシア軍にとって、同海軍が黒海艦隊の旗艦であるスラヴァ級ミサイル巡洋艦「モスクワ/CG-121:12,500トン級)」を撃沈されたのと同等のダメージをもたらしたと考えられるからである。
そもそも、ハイバリューアセット(高価値目標)であるAWACS(早期警戒管制)機が戦時中に撃墜されるなどというのは、世界でも過去に前例のないことであった。これは、ロシアが実効支配しているウクライナの地域はもとより、ロシアの領土内にまで自国の制空権が失われていることを意味しており、ロシア軍にとってこれは極めて深刻な戦況となっている実態を表している。
今後、ウクライナに供与されたF-16戦闘機が実動を始めたら、前線のロシア軍は手痛い打撃を食らうことになるだろう。
地上戦では膠着状態が続いており、今後はロシアが優位な展開になるとの見方も優勢である。しかし、筆者はそうは思えない。制空権が得られない状態での安定した領土獲得などあり得ないからである。ロシアもそれを危惧していることが、今回の事案で見て取れるのである。
ロシアは、このような懸念される情勢を見越して、今後この事案を契機に、両国の国境付近に一部飛行禁止空域の設定などを提案してくる可能性も考えられる。もちろん、その先には「停戦」ということも念頭に置いていることだろう。その落としどころを模索し始めているのではないか。このままでは、さらに長期化し、漸次兵力も装備も損耗していくことは明白であるからだ。
今後の推移に注目したい。
●ロシア、国連制裁「北の凍結資金」を一部 “解除”…「銀行の利用」も許容 2/7
ロシアは国連による対北制裁にもかかわらず北朝鮮の凍結資金を一部解除し、自国の銀行も利用できるようにした。
米ニューヨークタイムズは6日、米国同盟国の情報官僚たちからの話を引用し「ロシアは、自国の金融機関に凍結されていた北朝鮮の資金3000万ドル(約44億6000万円)のうち900万ドル(約13億4000万円)の引き出しを許可した」と伝えた。
「この金は、北朝鮮が原油を購入するため使われるだろう」と情報官僚たちは語ったという。
この官僚たちは「北朝鮮のペーパーカンパニーは最近、親ロシア自治共和国である南オセチアにあるロシア銀行に口座を開設した」と語った。
つづけて「これは、ロシアが北朝鮮による国際金融ネットワークの接近を遮断した国連対北制裁を避けることができるよう援助したという証拠だ」と付け加えた。
●トランプ氏の訴追免責、米連邦控訴裁「分権システムを崩壊させる」と認めず 2/7
米ワシントンの連邦控訴裁は6日、2021年1月の米連邦議会占拠事件などで起訴されているトランプ前大統領に対し、訴追免責の特権は適用されないと判断した。トランプ氏は在任中の行為は刑事訴追を免れると主張しており、判断を不服として争う意向を表明した。
秋の大統領選で返り咲きを目指すトランプ氏は四つの事件で起訴されている。訴追免責の有無は、事件の裁判に影響するため司法判断が注目されていた。
3人の裁判官からなる控訴裁は全会一致の意見書で、トランプ氏の主張を認めれば大統領を三権(立法・行政・司法)の及ばない地位に置き、「我々の分権のシステムを崩壊させる」と指摘した。大統領には、犯罪を無効にできるような「無制限の権限」も「白紙の委任状」も与えられていないとし、免責を認めなかった地裁判断を支持した。
トランプ氏は、控訴裁の判事全員による審理を要請するか、連邦最高裁に上訴する見通しだ。同氏の報道担当者は声明で「免責特権が与えられなければ、退任する全ての大統領は反対派政党によって起訴されるだろう。公務を理由に大統領を訴追することは憲法違反だ」などと主張した。
米連邦議会占拠事件を巡る初公判は3月4日に予定されていたが、免責特権に関する司法判断が確定していないため延期が決まった。トランプ氏は大統領選と並行して進む裁判の先送りを狙う戦術を取っている。免責特権に関する判断がずれ込めば、一連の事件を巡る裁判の結果が11月の大統領選後になる可能性がある。
●米ロが国連で非難の応酬、北朝鮮ミサイルやロ軍機墜落巡り 2/7
ウクライナ情勢に関する国連安全保障理事会の会合が6日に開催され、米国とロシアの代表が非難の応酬を繰り広げた。
ロバート・ウッド米国連代理大使はロシアがウクライナに向けて北朝鮮のミサイルを少なくとも9発発射したと指摘。ロシアのネベンジャ国連大使は先月のロシア軍輸送機墜落に米国が直接関与したとの見解を示した。
ウッド氏は「ロシアと北朝鮮は安保理決議に基づく長年の義務を怠る行動に対して責任を負わなければならない」と述べた。
ロシアでは先月24日、捕虜のウクライナ兵士65人を乗せた軍輸送機がウクライナ国境近くで墜落した。ロシアはウクライナが撃墜したとしている。 もっと見る
ネベンジャ氏は米国製地対空ミサイルシステム「パトリオット」が攻撃に使用されたという動かぬ証拠があり、「米国がこの犯罪の直接の共犯者であることは確かだ」と述べた。
ロシアは、ウクライナ東部のロシア支配地域で3日にウクライナが西側兵器を使用し、少なくとも28人が死亡したとし、安保理会合を要請していた。
ウクライナ高官はロシアが安保理を利用して「偽情報を流している」と非難した。
●法案成立求め、「異例」の書簡 ウクライナ支援停滞で危機感―駐日米大使ら 2/7
米政府高官は6日、記者団に対し、日本やオーストラリア、中国などに駐在する米大使9人が、ウクライナ支援の追加予算などを盛り込んだ法案の即時成立を求める連名の書簡を議会に送ったと明らかにした。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、議会で対立する問題に関し、大使らが連名で立場を表明するのは「異例だ」と指摘。書簡は「歴史上、極めて重要なこの時期に各国政府は米国の行動を注視している」と強調しており、超党派での早期可決を促しているという。
●ウクライナ軍、ドローン専門部隊創設へ 「戦況根本的に変える」 2/7
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、ウクライナ軍にドローン(小型無人機)専門の部隊を創設する大統領令に署名した。
ウクライナ軍の当局者らはこれまでも、ロシア軍との戦いを進めるにあたりドローンは必要不可欠と主張。フェドロフ・デジタル変革相は、ドローンの投入で「戦場の状況が根本的に変わった」とし、「ロシア軍の攻撃を阻止し、ウクライナ軍の反撃を支援するの効果的だ」と述べた。
●ウクライナ戒厳令、5月まで延長 3月の大統領選先送り―議会 2/7
ウクライナ最高会議(議会)は6日、ゼレンスキー大統領の提案を受け、ロシアの侵攻下の戒厳令と総動員令を5月中旬まで3カ月間延長することを決めた。ウクライナでは戒厳令下、国・地方レベルを問わず選挙を行えないことになっており、本来なら3月に実施予定だった大統領選が正式に先送りされる。
現地メディアによると、ゼレンスキー政権与党「国民の奉仕者」を含む最高会議の全会派は昨年11月、戒厳令が解除された後も6カ月間は選挙を行わない方針を覚書で確認している。
●ウクライナ、敵に「国民の誇り」塩奪われる…露が岩塩鉱占領で輸入国に 2/7
ロシアの侵略を受けるウクライナが、塩の純輸出国から輸入国に転落した。欧州有数の岩塩鉱がある東部ドネツク州の激戦地バフムト近郊ソレダルをロシア軍に占領されたためで、アフリカから安価な塩の輸入を始めた。塩の純輸入国だったロシアは生産量が増えたが、敵に塩を送る気配はなさそうだ。
ウクライナはロシアによる侵略まで塩の純輸出国で、20か国以上に輸出していた。欧州最大級の製塩所があるソレダルの塩は、国内生産の90%以上を占めていた。ウクライナ国営通信などによると、ソレダル占領で製塩所が生産停止に陥り、西部ザカルパッチャ州の塩鉱床の開発を始めた。
しかし、地質上の問題や財政難などで、運搬用のトンネル建設が頓挫。本格的な稼働には至らず、工事完了まであと1年かかる見込みだという。同州知事が昨年12月、地元メディアに明らかにしたところでは、ソレダルの生産停止後、ポーランドから一時輸入したが割高で、低価格なアフリカ産の輸入に切り替えた。ボルシチなどのスープが食卓に並ぶウクライナでは、味の決め手となる塩へのこだわりが強いという。米紙ニューヨーク・タイムズはソレダルについて「ウクライナ国民の誇りで、食卓の象徴の喪失」と伝えている。
タス通信によると、ロシアの2023年の塩の生産量は前年比10・5%増で国内市場をまかなえる量となり、中国などの友好国への輸出を増やしたという。
●ロシア、エクアドルに報復か 自国製兵器ウクライナ提供に反発 2/7
ロシアがエクアドル産バナナを対象に、害虫が検出されたとして一部の輸入停止を決めた。実際には、エクアドルの保有するロシア製兵器が米国経由で、ロシアの侵攻を受けたウクライナに最終的に渡る取引への報復とみられる。
エクアドルはバナナの輸出が世界一で、輸出全体の約2割がロシア向けだ。業界団体は5日付の声明で、ロシアが検出されたと主張するクサビノミバエは腐敗物がえさだとして「国内のバナナ栽培のいかなる段階とも関係はなく、農業害虫とも見なされていない」と決定に不満を示した。ロシアはこれまでも、外交上などで問題が起きた相手国から食品の輸入を制限するという行動を繰り返してきており、今回もこれに該当すると受け止められている。
●首都キーウにミサイル、停電も ロシア軍、大規模攻撃か 2/7
ウクライナ首都キーウ(キエフ)など各地に7日、ロシア軍のミサイル攻撃があった。キーウのクリチコ市長によると、迎撃された破片が落下し、一部で停電が発生。けが人も出ている。
ウクライナメディアによると、7日朝、東部ハリコフ州や西部リビウ州でも爆発音が聞かれた。ウクライナ各地への大規模攻撃の可能性がある。 
●日本の"北方同盟"禁止か/露 2/7
ロシアのプーチン政権は6日までに、日本の北方領土返還要求運動に関係する1団体を「好ましからざる団体」に定めた。最高検が1月下旬に指定後、法務省が5日付でリストに追加した。ロシアが自国領とする北方領土を含め、全土での活動が禁止される。
「北方領土の日」に当たる7日を控え、日本をけん制した格好。昨年2月の北方領土返還要求全国大会では、採択されたアピールに「不法占拠」の文言が復活し、ロシア側が反発した。
リストに掲載されたロシア語表記から、この団体は北方領土復帰期成同盟(北方同盟、札幌市)を指している可能性がある。プーチン政権が好ましからざる団体に定めた返還要求運動関係団体は、昨年の千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)に次いで2例目。
●ロシア爆撃機、ベーリング海を9時間飛行 核搭載可能 2/7
ロシア国防省は7日、航空宇宙軍の核兵器搭載可能な長距離戦略爆撃機ツポレフ95MS2機が、ベーリング海とチュクチ海の公海上を約9時間飛行したと発表した。戦闘機スホイ30が同行した。
国防省は、飛行は計画されたもので「国際規範を順守して実施された」と指摘。長時間飛行は北極海や北大西洋、バルト海、黒海で太平洋の公海上で定期的に行っているとした。
国防省は6日にも2機のツポレフ160が北極海とラプテフ海の公海上を10時間以上飛行したと発表していた。
●ウクライナ軍の攻撃で “ロシアの石油精製量4%減少” 2/7
ロシアによるウクライナ侵攻は7日、首都キーウでもミサイルなどによる攻撃が相次ぎました。一方、ウクライナ軍によるロシアの石油関連施設への集中的な攻撃によってロシアの先月の石油精製量が4%減少したと現地のメディアが伝えました。
ウクライナでは7日、首都キーウや南部のミコライウ州などでロシア軍によるミサイルや無人機による攻撃が相次ぎました。
キーウにある集合住宅も壁面が黒く焼けて、大きな被害を受けました。
クリメンコ内相によりますとこれまでにキーウで4人が死亡したとしています。
また、キーウのクリチコ市長はSNSで、市内の複数の電力インフラが損傷し、一部で停電も発生しているとしています。
ウクライナでは現地時間の7日午前6時ごろから、全土で防空警報が出され、NHKの取材班が滞在しているキーウ中心部のホテルの地下2階にあるシェルターでも爆発音のようなものが少なくとも3回、聞こえました。
一方、ウクライナ軍は先月無人機によってロシアの石油関連施設を集中的に攻撃しています。
西部ブリャンスク州や第2の都市サンクトペテルブルクの港の石油関連施設などに対して攻撃が行われ、大規模な火災が発生しました。
ロシアの有力紙「コメルサント」は6日、ロシアの先月の石油精製量が、前の年の同じ時期と比べて4%減少したと伝えました。
攻撃を受けた施設の中には一時生産が停止し、精製量が30%減少したところもあったということです。

 

●米著名ジャーナリストがプーチン大統領に独占インタビュー 2/8
米ジャーナリストのタッカー・カールソン氏がロシアのプーチン大統領にインタビューしており、その映像が米東部時間8日18時にX(旧ツイッター)などで公開される見通し。ロシアのウクライナ侵攻後、西側メディアがプーチン大統領に接触することがなかったことから、世界的に非常に注目されている一方、一部の欧州連合(EU)議員は今回のインタビューを巡りタッカー・カールソン氏への制裁を検討しているという。米ニューズウィークが伝えた。制裁の背景は不明。米国でもタッカー・カールソン氏の帰国を禁止すべきとの意見もある。
● プーチン氏 トランプ前大統領に近いキャスターのインタビュー応じる 2/8
ロシア大統領府は、プーチン大統領がアメリカのトランプ前大統領に近いFOXニュースの元看板キャスターのインタビューに応じたと明らかにしました。プーチン大統領としては、トランプ氏がアメリカ大統領選挙で共和党の最有力候補となっていることも踏まえ、自身の主張を訴えかけていくねらいとみられます。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は7日、プーチン大統領がモスクワを訪問しているアメリカのFOXニュースの元看板キャスター、タッカー・カールソン氏のインタビューに応じたと明らかにしました。
ウクライナへの軍事侵攻以降、プーチン大統領が欧米メディアのインタビューに応じたのは初めてとされています。
カールソン氏は、アメリカの保守層に人気があり、トランプ前大統領に近い存在として知られています。
アメリカ大統領選挙で共和党の最有力候補となっているトランプ氏は、民主党のバイデン政権によるウクライナへの軍事支援を批判しアメリカでは、必要な緊急予算を巡って協議がまとまらず支援の動きが停滞しています。
プーチン大統領としては、これを好機ととらえインタビューに応じることで、ウクライナ侵攻を進めるロシアの主張を訴えかけ、支援の是非を巡って世論が割れるアメリカ側に揺さぶりをかけるねらいもあるとみられます。
インタビューの内容は近く公開されるとみられますが、ロシアの主張を一方的に伝える機会を与えたと批判する見方も出ています。
●北方領土問題 露支配の固定化は看過できぬ 2/8
ロシアが北方領土の不法占拠を既成事実化しようと、様々な手段を強化している。北方領土は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、不当なふるまいは容認できない。
岸田首相は「北方領土の日」の7日、都内で開かれた返還要求全国大会で「日露関係は厳しい状況にあるが、領土問題を解決し、平和条約を締結する方針を堅持していく」と述べた。
ロシアの前身のソ連は終戦時、日ソ中立条約を破って択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の4島に侵攻した。今もロシアによる不法占拠が続いている。ロシアがウクライナの領土を侵略し、占領しようとしているのと同じ構図だ。
政府は2022年2月、ロシアがウクライナを侵略し始めたことを受け、プーチン露大統領の資産凍結などの制裁措置を科した。
これに対しロシアは、一方的に北方領土交渉を中断した。ビザなし交流も停止し、元島民による墓参も途絶えている。
プーチン氏は昨秋、「窓を閉ざしたのは日本だ」と述べたが、制裁を科す原因を作ったのがロシアであることは明らかだ。
プーチン氏には、日本に揺さぶりをかけ、ウクライナ侵略を巡る日米欧の足並みを乱す狙いがあったようだが、政府は動じることがあってはならない。ロシアに侵略の代償を払わせるため、国際社会との連携を深めていくべきだ。
ロシアは4島をあたかも自国の領土のように扱い始めている。
露軍は昨春、極東で2万5000人の兵士のほか、潜水艦を含む多数の軍艦や戦略爆撃機が参加した大規模な演習を行った。北方領土への「敵の上陸阻止」を想定した訓練も含まれていたという。
日本が北方領土に侵攻するとでも言うのか。荒唐無稽な主張にあきれてしまう。
また、ロシアは昨夏、歯舞群島の一部である貝殻島の灯台にロシアの国旗を掲揚した。一昨年には、北方領土に外国企業を誘致するための特区も法制化した。
日本人の感情を逆なでするような露側の発言も目立つ。
プーチン氏は先月、会合で北方領土と千島列島について「行ったことはないが、必ず行く」と述べた。領土問題で日本に譲歩しない姿勢を示したものとみられる。
メドベージェフ前大統領もSNSに「日本人の感情など知ったことではない。悲しむサムライは切腹で人生を終わらせることができる」と投稿した。日本人を愚弄した発言というほかない。
●北方領土交渉、岸田首相「墓参に重点置いて再開求める」…領土問題解決強調 2/8
岸田首相は7日、東京都内で開かれた北方領土返還要求全国大会に出席し、ロシアとの北方領土を巡る交渉について、「特に北方墓参に重点を置いて(交流)事業再開を求めていく」と述べ、元島民らの墓参再開に力を入れる考えを示した。
北方領土返還要求全国大会であいさつする岸田首相(中央)(7日、東京都渋谷区で)=時事
ロシアはウクライナ侵略後、日露平和条約交渉の中断を一方的に宣言し、墓参事業も停止されている。首相は「日露関係は厳しい状況にあるが、領土問題を解決し平和条約を締結する方針を堅持する」と強調した。
官民の主催団体が採択した大会アピールでは、「外交交渉再開の兆しすらもみえない」と現状に危機感を示し、昨年に続き「不法占拠」の文言を盛り込んだ。北方4島の返還に向けた交渉再開に加え、「元島民の高齢化は深刻だ」とし、墓参事業の早期再開を求めた。
日本の領土を取り巻く状況が厳しさを増す中、政府は年内にも、東京・霞が関の「領土・主権展示館」を改装し、プロジェクションマッピングを活用した展示を始める。北方領土や竹島(島根県)、尖閣諸島(沖縄県)の自然や歴史の迫力ある映像を通じて、日本の主権に対する理解を広げたい考えだ。
●軍を批判すれば財産没収 ロシア上院、法案可決「裏切り者に賠償」 2/8
ロシア上院は7日、ロシア軍の虚偽情報の流布などの罪で有罪となった場合、財産を没収できる法案を可決した。下院を1月末に通過しており、プーチン大統領の署名で成立する。虚偽情報の流布などの罪は、ウクライナ侵攻の反対派への弾圧に利用されており、政権は3月の大統領選を控え、侵攻への反対の声をさらに抑え込む考えだ。
対象になる罪はほかに、ロシアの領土保全の侵害や安全保障の脅威となる行為の扇動、ロシア軍の信用失墜を目的とした行為など。対ロシア制裁の呼びかけや、ロシアが不参加の国際機関や外国の政府機関への協力も含まれる。
ボロジン下院議長は「ロシアを破壊し、裏切ろうとする者は、自らの財産で国に賠償しなければならない」と表明していた。 ・・・
●ウクライナ各地に大規模攻撃、キーウで4人死亡 2/8
ウクライナ当局は7日、ロシア軍による国内各地への大規模な攻撃があり、首都キーウ(キエフ)では4人が死亡、38人が負傷したと明らかにした。
攻撃があったのは、キーウのほか、西部リビウ州、東部ハルキウ州、南部ミコライウ州、中部ドニプロペトロウシク州など。
一連の攻撃で、ウクライナはロシア軍のミサイルやドローン(無人機)の3分の2を迎撃。ウクライナ空軍のデータによると、ロシア軍が発射した弾道ミサイル「イスカンデル」全3発と巡航ミサイル「Khー22」4発の撃墜は失敗した。
空軍は、ロシア軍の攻撃を撃退するために防空ミサイルや地上部隊、電子戦システムなどさまざまな手段が使われたとした。
だが、7日の迎撃の成功率は昨年ミサイルとドローンで激しい攻撃を受けたときより低かった。同年の成功率は80%を上回ることが多かった。
ロシアは今年に入って空からの攻撃を強めており、ウクライナは同盟国にさらなる防空システムの供与などを求めている。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は数週間前、ロシアが巡航ミサイルや弾道ミサイル、極超音速ミサイル、ドローンなどを使って攻撃しているとCNNに明らかにした。
ウクライナのシンクタンク、ラズムコフセンターの共同ディレクターを務めるオレクシー・メルニク氏はCNNの取材に、ウクライナの防空は「能力の限界」に達していると指摘した。
ゼレンスキー大統領は7日、ロシアのミサイル攻撃を阻止するために必要な迎撃ミサイル発射機について、自国に「著しく欠けている」ものだと指摘。「ウクライナは現在、近代的な防空システムを同盟国と生産することはできない」とも述べた。
●ロシア軍 キーウなどで大規模攻撃 市民5人死亡48人けがの被害 2/8
ロシア軍は7日、首都キーウなど各地でミサイルや無人機による大規模な攻撃を行い、市民5人が死亡し、少なくとも48人がけがをするなど被害がでています。
ウクライナ空軍は7日、ロシア軍があわせて64の弾道ミサイルや無人機などを使い各地で大規模な攻撃を行い、44のミサイルなどは撃墜したと発表しました。
この攻撃で首都キーウで集合住宅が被害を受けたほか、一部で停電も起きるなどウクライナ大統領府によりますと各地であわせて市民5人が死亡し、少なくとも48人がけがをしたということです。
また、キーウには当時、EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表がウクライナへの支援を協議するため滞在していて、ボレル氏はSNSで「防空警報が鳴り響く中、シェルターで朝を迎えた。これが市民の日常なのだ」と非難しました。
一方、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは6日、アメリカの同盟国の情報当局者の話として、ロシアがかつて欧米側とともに凍結していた北朝鮮の金融資産を解除した可能性があると伝えました。
北朝鮮からミサイルや弾薬を獲得する見返りの措置とみられ、具体的には、ロシアの金融機関にある北朝鮮の凍結資産3000万ドルのうち、900万ドルの解除を許可し、北朝鮮はこの資金で原油を購入する予定だとしています。
また、北朝鮮側は、ロシアの隣国ジョージアのロシアの影響力が強い南オセチアで、新たに銀行口座を開設し、制裁を回避するねらいだと指摘していて両国の関係強化に対する各国の懸念がいっそう強まるとみられます。
●アウジーイウカが陥落の瀬戸際に ウクライナ東部要衝、ロシア軍が突破口 2/8
2月4日、ロシア軍部隊は曇り空の下をすばやく進撃し、ウクライナ東部アウジーイウカ市内に侵入した。
ロシア軍の2個野戦軍が、すでにロシアの支配下にあるドネツク市のすぐ北西に位置し、ウクライナ軍の要衝であるアウジーイウカの攻略に向けた攻撃を開始してから4カ月。兵力約4万、車両数千両を投入し、おびただしい血を流してきた作戦は、最終局面を迎えつつある可能性がある。
「市の状況は危機的になっている」。ウクライナのジャーナリスト、アンドリー・ツァプリエンコはそう報告している。
作戦が実際に最終局面にあり、ロシアが勝利することになれば、その責任が主に誰にあるのかは明らかだ。米議会のロシア寄りの共和党議員たちである。彼らは昨秋以来、米国によるウクライナへの援助を妨害し、その結果、ウクライナ軍がロシア軍の火力に対抗するために必要としている弾薬を枯渇させた。
ウクライナの戦場記者ユーリー・ブトゥソウは4日「アウジーイウカは新たな予備と交代部隊を緊急に必要としている」と伝えている。「弾薬も必要だ。補給も極度に少なく、敵(ロシア側)が大きく優位な状態にある」
アウジーイウカ守備隊は、ロシア軍と親ロシア派勢力がウクライナ東部に侵攻した2014年以来、10年にわたって持ちこたえてきた。ロシアがウクライナでの戦争を拡大した2022年2月以来、2年近くはウクライナ軍の第110独立機械化旅団が市の防衛の主力を担ってきた。
アウジーイウカ占領がロシアの主要な目標の1つだということが明らかになったあと、ウクライナ軍東部司令部はこの方面の防衛の増強をしなかったわけではない。増強はしていた。
アウジーイウカの北面には、近接する集落ステポベを防衛するため、米国製M2ブラッドレー歩兵戦闘車などを運用する精鋭の第47独立機械化旅団が配置された。南面には第53独立機械化旅団が増援に到着した。
ただ、市の中心部を守るのは依然として第110旅団と国家警備隊や特殊部隊の一部だけとなっている。
2000人規模の第110旅団は休息のための交代を一度もせず、連日戦い続けてきた。歩兵は塹壕に陣取り、攻めたり守ったりする。ドローン(無人機)の操縦士は爆発物を積んだドローンなどを飛ばしときには廃墟に駆け込んでアンテナを設ける。砲手はグレネードランチャー(擲弾発射器)や対戦車ミサイルを目標に向けて撃ち込む。
第110旅団、あるいは増援の旅団もそうやって、この4カ月、攻撃してくるロシア軍の縦隊をつぶしてきた。昨年12月までにロシア側は死者・重傷者を1万3000人出し、装甲車両を数百両失った。2カ月後の現在、ロシア軍の兵力の損耗は2倍に膨らんでいる可能性がある。
だが、ロシアは新たな部隊を次から次に「肉挽き機」のような戦場に投入し続けた。人員にも装備にも多大な犠牲を出しながら、ロシア軍はまずアウジーイウカの側面に、次に市内へとじわじわ前進してきた。
ウクライナ軍によるアウジーイウカの防衛では、常に小型ドローンが鍵を握ってきた。やって来るロシア軍部隊を偵察ドローンが発見する。爆発物を積んだFPV(1人称視点)ドローンがそれを攻撃する。最後はM2や戦車が出撃してとどめを刺す。
ロシア兵を市北部の陣地から排除できなければ、守備隊は補給路を断たれるおそれがある
4日、現地に雲が垂れ込め、ウクライナ側の多数のドローンが飛行停止を余儀なくされ、ほかのドローンなども視界が曇ると、ロシア軍部隊は前進を図った。ツァプリエンコによれば、ロシア軍部隊は市の北端に隣接する採石場の脇を突っ切り「ウクライナ側の戦闘陣形を迂回して建物内に陣取った」という。
ブトゥソウは、不意を突かれた第110旅団の部隊が至急対応した様子を伝えている。伝えられる証言によれば、年配の整備員を含めて全員が武器を手に取り、この陣地に向かうように命じられた。彼らは出ていき「ほとんどが戦闘で死亡した」という。
ブトゥソウはドローンの映像で、ロシア軍の突撃グループが家屋を攻撃するところも見たという。「私たちの兵士2人は最後まで戦った。家屋は燃え上がり、誰も投降しなかった」
ロシア軍部隊がアウジーイウカ北部に新たに築いた陣地に張り付くことができれば、ロシア側は西から市内に伸びる守備隊の補給線を脅かすことができる。ツァプリエンコは、4日時点で、ロシア軍部隊のいる場所は主要道路から数百メートルしか離れていないと指摘している。ロシア兵が携行している武器でトラックを十分攻撃できる距離だ。
アウジーイウカは陥落するかもしれない。9カ月前のドネツク州バフムートに続いて、ロシアがウクライナで占領した新たな都市になるかもしれない。そうなった場合、責任の大半はウクライナから弾薬を奪った共和党議員たちにある。
彼らは自分たちの頑なな態度によって、ウクライナの兵士らが味方の火力支援を得られず、冷たい塹壕の中で死ぬことになるのは知らなかったと弁解することはできない。共和党がウクライナへの支援を妨害し出してから約6週間後の昨年12月時点で、アウジーイウカ方面のウクライナ軍部隊は弾薬庫が払底していることを訴えていたからだ。
同月17日、ロシア軍の縦隊は霧に紛れてアウジーイウカを南側から攻撃した。ウクライナ軍のドローン操縦士たちはのちにこの部隊を発見したが、味方には攻撃する手段がなかった。「私たちにはただたんに弾薬がない」と操縦士の1人はこぼしている。
この縦隊は結局、地雷を踏んで引き返した。ウクライナ軍のドローン操縦士たちは、ロシア兵がウクライナ側の攻撃を受けず自陣に歩いて戻るのをみすみす許した。「ロシア兵が罰を受けずに歩き去るのを見るのは虫酸が走る」と同じ操縦士は吐き捨てている。
これらのロシア兵たちは生き延び、その後再度、いや何度もアウジーイウカを攻撃できたのだろう。そして、天候とウクライナ軍の火力の低下のおかげで、ついに市内への侵入を果たした。
●IAEAのグロッシ事務局長 ウクライナでロシアが占拠するザポリージャ原発視察 2/8
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が7日、ウクライナのザポリージャ原発を視察した。原発を占領するロシア側が、ウクライナ人作業員にロシア企業と契約を結ぶよう強制したことで核燃料の冷却にあたる作業員が減少する事態になっていることを懸念しての訪問だ。軍事紛争に原発が巻き込まれた「現在進行形」の課題をどう「沈静化」できるかは、長引くウクライナ紛争の中でも特に先が読ない懸念事項といえる。
ウクライナ南部のザポリージャ原発(ロシアが占拠中)を訪問したのは、IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長とリディ・エブラード原子力安全・セキュリティ部長ら専門家チーム。7日に同原発を視察した。
グロッシ氏らは前日6日に、キエフでゼレンスキー大統領と会談した。会談後の報道陣の取材に対して、グロッシ氏は「私たちはかなり長い間、ザポリージャ原発の労働力レベルについて一般的な懸念を表明してきた。ロシア原発管理部門による今回の発表はその懸念に拍車をかけるものであり、明日(7日)の朝から始まる私の訪問の主な関心事は、この件についてロシア側に正確に尋ねることだ。最も重要なのは、ロシアの決定が運転に与える影響を評価することだ」と述べた。
IAEAによると、ザポロージャ原発では、占領するロシアが、ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムと雇用関係にある作業員の勤務を認めず、すべてロシアの市民権を取得しロシア国営ロスアトムと契約を結ぶよう強制すると発表した。これを受けて、作業人員の不足が心配されている。IAEAは今月1日、「スタッフはすでに大幅に減少している」との声明を出し、原発の管理態勢に懸念を示していた。
今回の視察でグロッシ氏らは、少ない人員で使用済核燃料が安全に冷却されているかを中心にロシア側に聞き取りを行なったとみられる。IAEAはグロッシ氏らが、この視察の後、モスクワを訪問する予定であると言及している。
グロッシ氏が戦争の最前線を越えてザポリージャ原発を訪問するのは今回で4度目。同原発では6基の原子炉がすべて1年半近く停止している。だが、原発の敷地内に保管されている使用済核燃料は、原発が停止した状態の間でも、放射性核種が崩壊熱を放出し続けている。
放射性核種の崩壊による熱量は運転中の出力の7〜8%に達するとされ、冷却水をポンプで循環させるなどして熱を除去し続けないと、温度が上昇し核燃料の溶融(メルトダウン)が始まってしまう。条件次第では、臨界に達して核分裂反応が始まったり、水蒸気爆発を引き起こしたりして、大量の放射性物質が大気中に撒き散らされる恐れが出てくる。
こうした事態は、ウクライナだけで生じる特殊な問題ではない。日本の原発が戦時を想定して規制を行なっているかというと、2022年5月30日の参議院予算委員会で原子力規制委員会の更田豊志委員長(当時)が「規制基準において、武力攻撃に備えることは現在要求しておりませんし、また今後も要求することは考えておりません」と答弁したように、将来についても考えないことにしている。
武力攻撃には自衛隊が当たるという建て付けの中での答弁だ。だが、北朝鮮や中国、ロシアと海を挟んで向かい合う日本海側に、稼働中の全19原発のうち10原発が配置されている。これらを有事の際に、自衛隊がすべて防衛できるのかといった議論は国会でも乏しい。「ダチョウ」は眼前の危機を前にして、頭を土の中に潜り込ませて気づかないフリをするといわれるが、日本の原発政策はこのダチョウと似ているのかもしれない。
しかし、そんな「現実逃避の国」は限られている。世界に目を転じると、これまで各国の原発の対テロ対策の評価・提言を行なってきた米シンクタンク「核脅威イニシアチブ(NTI)」が、ロシア・ウクライナ戦争を機に、原発への武力攻撃における国際的な規範作りの検討に入っているという。同規範が実現すると、日本の原発の安全保障上のリスクが精査されるかもしれない。
●支持急上昇の極右政党が「EU離脱」に言及… 2/8
 ドイツは長期不況の可能性が高まりすべてが良くない方向に進んでいる
足元の経済が急速に悪化
ドイツ政府は2月1日「昨年のビール販売量が前年比4.5%減の83億8000万リットルとなった」と発表した。1993年の統計開始以来、最も少ない数字だ。
「ビール大国」のドイツでも近年、飲酒を自制する傾向は出ているが、加えて景気の低迷が追い打ちをかけている。インフレのせいで個人消費が伸び悩み、昨年のクリスマス商戦は低調だった。
ドイツ卸売・貿易業連合会は1月上旬「今年の卸売業者の売上高は名目ベースで2%減少する」との見通しを示している。昨年も3.75%減少しており、「景況感は『底』だ」と悲観的だ。
昨年の実質経済成長率は、日本の2.0%増に対し、ドイツは0.3%減だった。昨年の名目国内総生産(GDP)はドイツが日本を抜いて世界第3位となったが、足元の経済は急速に悪化している。
「一人勝ち」からなぜ一転したのか
ドイツ経済は高インフレが景気を圧迫するスタグフレーションの様相を呈しており、「今年も2年連続でマイナス成長」との見方が強まっている。
ユーロ圏のGDPで3割を占めるドイツ経済はつい最近まで「一人勝ち」の状態が続いていたが、なぜ苦境に陥ってしまったのだろうか。
ドイツ経済の屋台骨は自動車や機械・化学などの製造業だ。このため、資源高に起因するインフレやこれを抑止するために実施された欧州中央銀行(ECB)の利上げが製造コストや設備投資の負担増につながり、ドイツ企業にとって大きな足かせとなっている。
その典型例は化学産業だ。原材料価格の上昇が利益を圧迫し、ドイツ化学大手BASFは昨年第3四半期の最終損益は2億4900万ユーロ(約400億円)の赤字となった。
ロシアからのガス調達を断念
東ドイツを統合したことが重荷となって、1990年代のドイツ経済は低迷した。「欧州の病人」と揶揄されたが、安価なロシア産天然ガスの確保などで経済を再生させた経緯がある。
だが、ウクライナ戦争を機にロシア産天然ガスの調達を断念したことで、ドイツの産業競争力は再び低下してしまったのだ。
ドイツ製造業の要である自動車産業も苦戦している。ドイツ自動車工業会は1月29日、今年の自動車販売は前年比1%減の282万台で、新型コロナ前の4分の3の水準にとどまることを明らかにした。
世界の自動車販売台数がパンデミック前の水準に近づくのとは対照的だ。ドイツの自動車企業を取り巻く環境が依然として厳しいことを示している。
日本以上に深刻な労働力不足
建設業も逆風にさらされている。ドイツ経済研究所は「今年の建設支出は2009年の金融危機以降で初めて減少する」と予測した。背景にあるのはドイツの不動産バブルの崩壊だ。
ドイツの戸建て住宅やマンションなどの価格は前年に比べて10%以上下落しており、市場関係者は「底が見えない」と警戒感を強めている。住宅価格が下落している主な要因は欧州中央銀行(ECB)による利上げだ。
ドイツでも住宅用不動産以上に深刻なのは商業用不動産だ。米国と同様、取引の急激な鈍化によりここ数十年で最も深刻な危機に見舞われ(1月23日付ロイター)、大都市では資金繰りの悪化で建設が止まった高層ビルが林立している。
ドイツの潜在成長率(経済の実力を示す指標)が0.4%と日本の0.5%を下回っていることも気になるところだ。日本に次いで高齢化率が高いドイツ(22%)では、今後10年以上にわたって「ベビーブーム」世代が引退することから、日本以上に深刻な労働力不足が懸念されている。
約30年前の日本はバブル崩壊により長期不況に陥ったが、ドイツも「二の舞」を踏むのではないかとの不安が頭をよぎる。
極右政党の躍進は確実か
経済の低迷はドイツ政界にも暗い影を投げかけている。ドイツ政界において移民問題は悩みの種だ。景気の悪化が進むにつれて、「よそ者(移民)」への反発が強まっている。
移民排斥を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率 は急上昇しており、政権与党の社会民主党(SPD)と緑の党、自由民主党(FDP)に迫る勢いだ。今年9月に予定されている旧東ドイツ地域3州の議会選挙でも躍進が確実視されている。
ドイツ銀行のゼービングCEOは1月29日、「AfDの台頭はドイツへの投資のリスクになる」と警鐘を鳴らした。
だが、AfDの主張はとどまるところを知らないようだ。共同党首のアリス・ワイデル氏は先ごろ、「今年5月に開催される欧州議会で同党が求める移民制限案が受け入れられなければ、政権与党となった暁にEUから離脱すべきか否かを問う国民投票を実施する」と驚くべき発言をした(2月4日付クーリエジャポン)。
域内市場の恩恵を最も享受しているドイツだけに、2016年の英国のようなEU離脱はにわかには考えられない。だが、ドイツではすべてが良くない方向に進んでいるのも事実だ。
悩めるドイツの今後の動向について細心の注意を払うべきではないだろうか。
●ロシア、北朝鮮資産13億円を凍結解除…武器供与の見返りか 2/8
米紙ニューヨーク・タイムズは6日、ロシアが国内に保有する北朝鮮の凍結資産3000万ドル(約44億円)のうち、900万ドル(約13億円)の解除を許可したと報じた。米同盟国の情報当局者の話として伝えた。北朝鮮は解除された資金を原油購入に充てるとみられるという。
国連安全保障理事会は、北朝鮮の核・ミサイル開発に関わる資産凍結を各国に要請している。ウクライナ侵略を続けるロシアに対する北朝鮮の武器供与の見返りとして、ロシアが「制裁逃れ」を助けている模様だ。
報道によれば、北朝鮮のフロント企業によるロシアの銀行での口座開設も確認された。北朝鮮が今後、ロシアを通じた第三国との金融取引を目指す可能性がある。
●米上院、緊急予算案を否決 ウクライナ支援再開できず 2/8
米上院は7日、バイデン民主党政権が求める不法移民対策とウクライナ支援を含む緊急予算案を否決した。共和党のトランプ前大統領が反対し、承認阻止に向けて同党議員に圧力をかけていた。ロシアの侵攻を受けるウクライナにとって命綱の軍事支援の再開は暗礁に乗り上げている。
不法移民対策は11月の大統領選の主要争点で、民主、共和両党で駆け引きが続いている。
米メディアによると、バイデン大統領は7日、ニューヨークでの選挙資金集めの非公開会合で、トランプ氏が予算案に反対するよう共和党議員を脅していたと批判した。
緊急予算案は約1180億ドル(約17兆4700億円)規模。
●ゼレンスキー大統領、69%信頼 軍は94% ウクライナ世論調査 2/8
ウクライナのシンクタンク「ラズムコフ・センター」は7日、世論調査結果を発表し、ゼレンスキー大統領を「信頼する」との回答が69%だった。昨年2〜3月の調査では85%だった。一方、軍の信頼度は94・9%に達した。
ゼレンスキー氏を「完全に信頼している」は30・9%、「どちらかといえば信頼している」は38・1%で、調査で問われた政治家や著名人の中で最も高い割合だった。ゼレンスキー氏が解任を検討しているザルジニー軍総司令官は調査対象になっていない。
調査は1月19〜25日、ロシアに併合された地域を除くウクライナ全土の2千人を対象に実施された。 
●ロシア軍、ウクライナ東部で大規模攻勢 大統領選控え、戦果急ぐ 2/8
ウクライナ東部ドネツク州アウディイウカのバラバシュ市長は8日、ロシア軍が同市に大規模攻勢を仕掛けていると語った。AFP通信が報じた。3月の大統領選で通算5選を目指すロシアのプーチン大統領は、ウクライナでの戦果を誇示するため、要衝アウディイウカの制圧を急いでいるもようだ。
バラバシュ市長は現地メディアに「敵は全方位から非常に大きな兵力で圧力をかけてきている」と強調。「市内で平穏な場所はどこにもない」と述べ、市街戦が激しさを増していると語った。
●ラトビア外相 “ロシア止めなければ世界は大きな問題抱える” 2/8
日本を訪れているラトビアのカリンシュ外相が8日、NHKの単独インタビューに応じ、今月で2年となるロシアによるウクライナ侵攻について「ロシアを止めなければ世界はばく大な費用がかかる大きな問題を抱えることになる」と訴え、欧米の支援疲れが指摘される中、危機感を示し、結束を呼びかけました。
ロシアと国境を接するバルト三国の1つ、ラトビアのカリンシュ外相は6日から4日間の日程で来日し、8日に都内でNHKのインタビューに応じました。
この中でカリンシュ外相は、ラトビアはウクライナに対し、兵器の供与を含む支援を一貫して続けていて軍事侵攻以降の支援額はGDP=国内総生産のおよそ1%にもなると強調しました。
ラトビアは旧ソビエトに併合され、50年にわたって一部とされてきた歴史からロシアの動向を強く警戒してきました。
カリンシュ外相は「ロシアはウクライナを滅ぼそうとしているが、それはロシアと国境を接するラトビアだったかもしれない。ラトビアでは、ウクライナの人々が私たちの代わりにロシアと戦ってくれていると確信している」と述べました。
そして「ロシアを止めなければ、世界はばく大な費用がかかる大きな問題を抱えることになる」と危機感を示し、ウクライナの最大の支援国となってきたアメリカで予算が枯渇するなど欧米の支援疲れが指摘される中、支援の継続とともに結束を呼びかけました。
2月、東京ではウクライナの経済復興の会議が開催されます。
カリンシュ外相は「ウクライナの人々はルールに基づいた秩序のために戦っていて、その支援は直接的・間接的に日本の利益にもなるだろう」と述べ、日本の支援の重要性を強調するとともに、連携を進めていく考えを示しました。

 

●プーチン氏、ポーランド攻撃「関心ない」 侵攻後初の米インタビュー 2/9
ロシアのプーチン大統領は8日に公開されたインタビューで、ロシアは自国の利益のために戦うが、ウクライナでの戦争をポーランドやラトビアなど他国に拡大するつもりはないと述べた。
米FOXニュースの看板アンカーだったタッカー・カールソン氏のインタビューに応じた。インタビューは6日にモスクワで収録された。 もっと見る
プーチン氏が米国のジャーナリストからインタビューを受けるのはウクライナ侵攻後初めて。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドにロシア軍を派遣するシナリオを想像できるかとの質問に「ポーランドがロシアを攻撃する場合だけだ。ポーランドやラトビアなどに何の関心もないからだ」と答えた。
プーチン氏はロシア語で話し、英語に吹き替えられた。プーチン氏はロシアとウクライナやポーランドなどとの関係から話を始めた。
ロシア大統領府はプーチン氏がインタビューに応じた理由について、カールソン氏の姿勢が多くの西側メディアによるウクライナ紛争の「一方的」な報道と異なったためと説明していた。
カールソン氏は西側メディアの報道の多くがウクライナ寄りだと指摘している。
同氏は11月の米大統領選に向けた共和党候補指名争いで独走するトランプ前大統領と親しい関係にあるとされる。
●ロシア大統領選、支持広げた「反戦候補」を認めず “常とう手段”か… 2/9
3月に開票されるロシアの大統領選挙を巡り、唯一「侵攻反対」を掲げていたナジェージュジンさんについて、選挙管理委員会が立候補を認めないと発表しました。専門家によると、選管はプーチン政権と密接な関係です。ウクライナ侵攻への影響を考えます。
勢いのあった立候補予定者に何が?
有働由美子キャスター「集合住宅から炎と黒煙が上がるのは、ウクライナの首都キーウです。7日も複数の都市でロシア軍による大規模な攻撃があり、少なくとも5人が死亡しています。ウクライナ侵攻に終わりが見えない中、3月17日に開票されるのがロシアの大統領選挙です」
「プーチン大統領と戦う立候補予定者として唯一『侵攻反対』を掲げていたのがナジェージュジンさん。野党の公認を受け、ロシア軍に動員された兵士の家族らから支持されています」
「候補者の登録に必要な10万人分の署名を集め、あるインターネット調査では支持率約32%(プーチン大統領は約58%)と勢いを見せていましたが、日本時間8日夜、選挙管理委員会が立候補を認めないと発表しました。何が起きているのでしょうか?」
プーチン大統領の目標得票率は80%か
小栗泉・日本テレビ解説委員長「選挙管理委員会は、集めた署名の中に既に亡くなっていた人の名前があるなど、不備があったと主張しています。ただ、その後会見を開いたナジェージュジンさんは、短期間で正確なチェックはできないだろうとして、『最高裁に訴える』と怒りの声を上げています」
「前回の大統領選でのプーチン大統領の得票率は約77%。今回、ウクライナ侵攻を続ける支持を得たとアピールするためには、プーチン大統領は前回よりも多い80%の得票率を目標にしているだろうとみられています」
「それだけに、インターネット調査とはいえ、約 32%もの支持を集めているナジェージュジンさんが目障りな存在になってきたのは確かなようです」
女性ジャーナリストの届け出も却下
有働キャスター「何か裏があるのではないか、と思ってしまいますが…」
小栗委員長「防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は、こうした動きはプーチン政権の常とう手段だと指摘します。ナジェージュジンさんの前にも、反戦を掲げる女性のジャーナリストが立候補を届け出ていましたが、同じように書類の不備を理由に却下されました」
「また、プーチン大統領が選挙管理委員会の委員長の仕事ぶりを褒めたたえ、勲章を与えた場面がありました。兵頭さんによると、公正中立なはずの選管とプーチン政権は密接な関係にあり、選挙結果をプーチン大統領の思うように調整することもあり得るといいます」
再選なら…ウクライナ侵攻への影響は
有働キャスター「プーチン大統領の再選が確実視されている中で、ウクライナ侵攻への影響はどう考えたらいいでしょうか?」
小栗委員長「兵頭さんは『侵攻は変わらず続いていく。ただ、長期化した場合は潜在的な反戦の機運が拡大していく可能性があり、それをプーチン大統領はかなり警戒している』と話します」
廣瀬俊朗・元ラグビー日本代表キャプテン「選管の現状は、この時代にあり得ないなと思いました。仮に不備があったとしても、反戦を訴える人に対してこれだけの署名が集まったのは事実だと思うので、良いことだと思います。このように勇気を持って署名した人に、他の人がもっと続いてほしいです」
有働キャスター「2月24日で、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まってもう2年になります。ウクライナ市民の皆さんのことを考えると、とにかくこの戦いをプーチン大統領の思惑通り、得になるような終わり方をさせてはいけません」
「(日本)政府は2月19日に、ウクライナの経済復興推進会議を日本で開催します。しっかり支え続ける決意と覚悟を、世界に示してほしいと思います」
●習近平主席・プーチン大統領が電話会談… 2/9
中国の習近平国家主席が8日、ロシアのプーチン大統領との電話会談で「今年は中ロ国交樹立75周年で、我々は共に数多くの波風と試練を経験した」と回顧した。続けて「未来を展望すると、中ロ関係は新しい発展の機会をむかえた」と述べたと国営通信社の新華社が報じた。ロシア大統領府はこの日、プーチン大統領と習主席が「ロシアと中国の緊密な相互作用が国際問題において重要な安定要素」と強調したと発表した。昨年3月と10月に両国を相互訪問した中・ロ首脳が今回の電話会談を機に今年も各種国際問題において緊密な協力を誓ったと分析される。
習主席はこの日の電話会談で「両国は密接に戦略的に協力し、各自の国家主権・安保・発展利益を守護し、外勢の内政干渉に断固反対しなければならない」と強調した。習主席は「双方は協力の新しい動力を育成し、産業網・供給網の安定を守護しなければならない」とし、今年カザフスタンで開かれる上海協力機構(SCO)とロシアが議長国を務めるBRICS首脳会議での協力も約束した。
プーチン大統領は経済協力と中東問題を強調した。プーチン大統領は「両国間の貿易額が首脳間で設定した目標の2000億ドルを越え、過去最大の2277億ドルを達成したことに満足している」と強調した。また、「パレスチナ問題の政治・外交的解決を望むロ・中のアプローチ方法をはじめ、中東と世界の多くの地域状況に対する実質的な意見交換とフレームワークでの一致を遂げた」と述べた。ただ、中ロ密着と韓半島(朝鮮半島)についての言及はなかった。
代わりにプーチン大統領が「ロシアは『一つの中国』の原則を固く遵守する」とし「台湾問題で中国を挑発する危険ないかなる行為にも反対し、中国の平和統一を阻止しようとするいかなる企ても思い通りに行われないと信じる」と強調したと新華社が伝えた。
米国の大統領選挙を控えた10月、ロシア・カザンで開かれる予定のBRICS首脳会議に習近平主席が参加すると予想される中、北朝鮮訪問を予告したプーチン大統領が今年も北京を訪問するか注目される。
●プーチン大統領、台湾めぐり「危険な挑発に反対」 習氏と電話会談 2/9
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は8日、ロシアのプーチン大統領と電話会談した。中国外務省は、プーチン氏は台湾をめぐって「中国に対するいかなる危険な挑発行為にも反対する」と述べたと発表した。
同省によると、プーチン氏は「中国の平和的統一を妨げるいかなる試みも成功しないと信じている」とも述べた。プーチン氏の台湾を巡る発言としては従来より一歩踏み込んだもので、発表には1月の台湾総統選で勝利した民進党政権への外交的圧力を強め、同政権を支持する米国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。
一方、ロシア大統領府の発表では、プーチン氏の台湾を巡る発言としては、「台湾問題について『一つの中国』政策を支持するという原則的立場を確認した」とするにとどまった。
中国外務省の発表によると、プーチン氏は昨年10月の習氏との首脳会談では台湾について「世界に中国は一つしかなく、台湾は中国の不可分の領土だ。中国が国家主権や領土の一体性を守ることを支持する」としていた。
●プーチン大統領が米司会者のインタビューに応答 「準備ができ次第」公開へ 2/9
ロシア大統領府(クレムリン)は7日、同国のウラジーミル・プーチン大統領が米保守系FOXニュースの元司会者タッカー・カールソンのインタビューに応じたことを認めた。
大統領府は、ロシアによるウクライナ侵攻に対するカールソンの見解が 「一方的」 でないことを理由に取材の要請を受け入れたと説明。他方で、プーチン大統領への取材を求めた唯一の西側の報道関係者であるというカールソンの主張は否定した。
ロシア国営タス通信によると、同国のドミトリー・ペスコフ大統領府報道官は、ウクライナを激しく批判するカールソンがプーチン大統領と会談したことを認め、「準備ができ次第」インタビューが公開されることを示唆した。英ロイター通信は、大統領府がプーチン大統領へのインタビューを許可したのは、カールソンの見方が「決して親ロシア的ではなく、親ウクライナ的でもない」代わりに「親米的」だったからだと説明したと伝えている。
カールソンはロシアがウクライナ侵攻を開始して以降、西側の報道機関はプーチン大統領に「あえてインタビューしようとはしていない」と主張しているが、ペスコフ報道官はこれを否定し、大統領府は西側から多数の取材要請を受けていると明かした。ただ、ウクライナ侵攻を巡っては、他の西側報道機関は「完全に一方的な立場」をとっていると指摘。そういった機関とは「関わる気はない」と切り捨てた。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、インタビューは米国時間の8日に公開されるもよう。
カールソンは6日、ロシアが約2年前にウクライナに侵攻して以降、西側報道機関との関わりを絶っているプーチン大統領にインタビューすると表明していた。カールソンは数日前にモスクワで目撃されており、ロシアのテレビ局の間では憶測が飛び交っていた。
カールソンは、他の西側報道関係者はプーチン大統領にインタビューをしようとしていないとしているが、ここ数年、同大統領に取材を申し込んだ記者は他にもいる。米CNNの記者クリスティアン・アマンプールもその1人で、カールソンの主張を批判している。
カールソンは、プーチン大統領にインタビューするのは「それが私たちの仕事」であり、「私たちは報道の世界にいる」からだと明言。米国人の多くはウクライナ侵攻について知らされていないと訴えた。
カールソンは米国のウクライナへの軍事支援に異議を唱えており、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を「汗臭いネズミのようだ」と攻撃した。ロシアとウクライナの対立について2019年に討論した際、カールソンは放送中に「なぜ私がロシアを応援してはいけないのか?」と発言したが、後にこれは冗談だったと釈明した。
●プーチン大統領、米FOXニュース元看板キャスターの取材に応じる  2/9
ロシアのプーチン大統領がアメリカのトランプ前大統領に近いFOXニュースの元看板キャスターのインタビューに応じたと、ロシア大統領府が明らかにしました。
ロシアのペスコフ大統領報道官は7日、プーチン大統領がアメリカFOXニュースの元看板キャスター、タッカー・カールソン氏のインタビューに応じたと明らかにしました。プーチン氏がウクライナ侵攻後、欧米のジャーナリストのインタビューに応じるのは初めてとされています。
カールソン氏はトランプ前大統領に近い存在として知られ、トランプ氏はバイデン政権が進めるウクライナへの軍事支援に批判的な立場を示しています。
プーチン政権としては、インタビューを通じて侵攻を改めて正当化し、軍事支援の継続をめぐりアメリカに揺さぶりをかける狙いもあるとみられます。
インタビューは日本時間9日朝に公開される見通しですが、ロシア側の一方的な主張を広める機会を与えたとして批判する声も出ています。
●ゼレンスキー大統領 ウクライナ軍の総司令官交代を発表 2/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、国民に人気の高いザルジニー総司令官を解任し、新しい総司令官を任命しました。ロシアによる軍事侵攻が続く中、軍の総司令官が交代することで戦況に与える影響は避けられないとみられます。
ゼレンスキー大統領は8日、公表した動画で「ザルジニー総司令官が2年間、国を守ってくれたことに感謝する。きょうから、新たな指導部が軍を引き継ぐ」と述べ、ザルジニー総司令官を解任し、新しい総司令官に陸軍のシルスキー司令官を任命したと発表しました。
そのうえで「ウクライナ軍に効果的な変化があればこそ、2024年はウクライナにとって成功の年となる」と述べ、総司令官の交代でこう着が指摘される反転攻勢を進めたい考えを強調しました。
ゼレンスキー大統領はこれを前に、SNSにザルジニー総司令官と2人で撮影した写真とともに「私たちは、軍にどのような更新が必要かを話しあった。いまがその更新をする時だ」と投稿していました。
これまで軍事作戦を指揮してきたザルジニー総司令官は、国民からの人気が高いことで知られていましたが、戦況の認識や動員などを巡ってゼレンスキー大統領とあつれきも生じていると指摘されていました。
ロシアによる軍事侵攻が始まって今月24日で2年となるなか、軍の総司令官が交代することで、戦況に与える影響は避けられないとみられます。
2人の写真を投稿 “交代は対立なく行われた”と強調か
ゼレンスキー大統領は8日、解任の発表を前に笑顔でVサインを送るザルジニー氏との2人の写真をSNSに投稿し「2年間、国を守ってくれてありがとう」と感謝のことばを添えました。
そのうえで「チームに残るよう要請した。われわれは絶対に勝利する」などと述べ、国民からの人気が高いザルジニー氏への配慮を示しました。
また、ザルジニー氏もゼレンスキー大統領と同じ時間に同じ写真をSNSに投稿し「戦争初期の最も困難な日々に卑劣で強力な敵にともに立ち向かい、ともに耐えてきた。われわれの戦いは続き、日々変化している。2022年の任務は2024年の任務とは異なる。それゆえに、誰もが変化し、新たな現実に適応しなければならない」と述べました。
そのうえで「私とともにいるすべての人に感謝している。参謀本部や国防省、ウクライナ大統領」などと述べゼレンスキー大統領への謝意を示しました。
ゼレンスキー大統領とザルジニー氏の間にはあつれきが生じているという指摘も相次いでいましたが、双方がお互いを尊重している姿勢を示し、総司令官の交代は対立なく行われたと強調して、解任に対する国民の反発や混乱が広がるのを防ぎたい思惑もあるとみられます。
林官房長官「ウクライナ支援を強力に推進」
林官房長官は閣議のあとの記者会見で「他国の内政に関わる事項について、政府の立場でコメントすることは適切ではない」と述べました。
その上で「ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序全体の根幹を揺るがす暴挙であるというのがわが国の一貫した立場であり、1日も早い公正かつ永続的な平和を実現すべく、対ロ制裁とウクライナ支援を強力に推進していく必要がある。引き続きG7を含む同志国などと緊密に連携しつつウクライナに寄り添った取り組みを継続していく」と述べました。
米 戦略広報調整官「いかなる人物とも協力する」
アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は8日、記者会見で、ゼレンスキー大統領がザルジニー総司令官を解任し、新しい総司令官を任命したことについて「われわれはゼレンスキー大統領が軍の責任者に任命したいかなる人物とも協力する」と述べて今後もウクライナと連携していく考えを示しました。
仏 国防相「後任の総司令官とも同じように関係築いている」
フランスのルコルニュ国防相は8日、フランス南東部の基地で、記者団の取材に応じ、ザルジニー総司令官の解任について「われわれのビュルカール統合参謀総長は、ザルジニー総司令官と、この2年間、強い信頼関係を維持してきたが、後任の総司令官とも、同じように関係を築いている」と述べ、これまでと変わらず、ウクライナ側との信頼関係を築いていけるという考えを示しました。
解任されたザルジニー氏とは
ザルジニー氏は、1973年生まれの50歳。
1997年に軍人としてのキャリアをスタートさせたザルジニー氏は、陸軍で要職を歴任した後、ロシアによる軍事侵攻が始まる前の2021年7月にウクライナ軍の総司令官に就任しました。
ロシアによる侵攻開始後はたびたび最前線にも赴くなどして、軍事作戦の指揮をとり続けてきました。
国民からの人気も高く、去年12月にキーウ国際社会学研究所が発表した世論調査では、総司令官のザルジニー氏を「信頼している」と回答した人が88%にのぼり、ゼレンスキー大統領を「信頼している」と答えた62%を上回りました。
ザルジニー氏は、去年11月にはイギリスの経済誌「エコノミスト」に「現代の陣地戦とその勝ち方」と題する論考を寄稿するなど、理論派としても知られていました。
また、解任の可能性が報じられる中、今月にはアメリカのCNNテレビに寄稿し、欧米からの軍事支援について各国の不安定な政治情勢が支援の縮小につながっているとした上で、今後は無人機など安くて効果的な技術をさらに活用する必要性があると強調するなど、独自の分析を発信していました。
一方で去年6月に始まった反転攻勢が当初の想定より進んでいないと伝えられる中、戦況の認識や動員などを巡ってザルジニー氏とゼレンスキー大統領との間で意見が対立するなど、あつれきも生じていると指摘されていました。
去年12月、ウクライナのメディア「ウクラインスカ・プラウダ」は、大統領の側近の話として、ゼレンスキー大統領が直接、一部の司令官とやりとりしているため軍の指揮系統が乱れ、ザルジニー氏が軍全体を統率できなくなっているとの見方を伝えていました。
そして先月下旬からウクライナや欧米のメディアが、ザルジニー氏が解任されるのではないかという見方を相次いで伝えていました。
新たな総司令官 シルスキー氏とは
新たに総司令官に任命されたシルスキー氏は58歳。
2019年からウクライナ陸軍の司令官を務めています。
ゼレンスキー大統領は8日に公開した動画のなかでシルスキー氏について「首都キーウの防衛や東部ハルキウ州の解放で作戦を指揮し成功を収めた。最も経験豊富な司令官だ」と述べ、これまでの功績を強調しました。
一方、アメリカの有力紙、ワシントン・ポストは8日、「シルスキー氏は、ウクライナ東部ドネツク州のバフムトで兵士たちをあまりにも長く敵の攻撃にさらし続けた指揮官で、戦略的価値に乏しい町を守るために多くのウクライナ兵が犠牲となった」とした上で、「シルスキー氏を総司令官に任命する決定は、現場の部隊の反発を招くことが予想される」と指摘しています。
●ウクライナのザルジニー軍総司令官を解任 ゼレンスキー大統領と確執 2/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、ワレリー・ザルジニー軍総司令官(50)を同日付で解任し、後任にオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官(58)を充てた。ザルジニー氏は国民的人気が高いが、ゼレンスキー氏との確執が伝えられていた。ロシアへの反転攻勢が失速する中、解任への反発が広がり、国内の結束が揺らぐ恐れもある。
ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で2年。侵攻前から米欧と連携して軍を統率してきたザルジニー氏の解任で、戦争は新たな局面に入った。
ゼレンスキー氏は声明で「昨年は残念ながら地上戦で目標を達成できなかった。南部戦線の停滞と東部での苦戦が社会の雰囲気に影響を与えた」と指摘。ザルジニー氏に軍刷新の必要性を説明し、今後も要職にとどまることを要請したという。
ザルジニー氏は英誌エコノミストが昨年11月に報じたインタビューで、ロシアとの戦争が「膠着(こうちゃく)状態」にあると発言。ゼレンスキー氏が「膠着ではない」と否定し、両者間の亀裂が指摘されていた。
ゼレンスキー氏は昨年12月の記者会見で、ザルジニー氏との関係について「実務的な関係を保っている」と述べた一方「戦場で起きていることはザルジニー氏と参謀本部に責任がある」と発言し、一定の距離を置いていることをうかがわせた。
ザルジニー氏は陸軍士官学校卒業後、陸軍で昇進を重ね、北部作戦司令部の司令官などを歴任。2014年以降、東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州)でロシア側との戦闘に関わり、21年7月にゼレンスキー氏が軍総司令官に任命した。
ロシアの侵攻を受ける中で首都防衛に成功し、東部や南部の戦線でロシアを退却させるなど戦果を上げた。
●ウクライナ軍総司令官交代 陸軍トップが就任 2/9
ロシアによる軍事侵攻から2年を前に、ウクライナ軍のトップが交代。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、軍総司令官の交代を発表した。
ザルジニー氏に代わり、陸軍トップのオレクサンドル・シルスキー氏が就任する。
首都キーウの防衛や北東部ハルキウの解放を成功させた実績を認め、任命したという。
ゼレンスキー大統領は、南部で戦況がこう着する一方、東部ドネツクで戦闘が激しさを増していることに触れ、「ウクライナ国民が勝利の話をしなくなった」と士気の低下を懸念。
ロシアによる軍事侵攻から2年の節目を前に、「アップデートが必要」だと強調した。
ザルジニー氏の処遇は明らかにしなかったが、ゼレンスキー大統領は「将来的にウクライナ国家チームに入ることを提案した。彼が承諾してくれたら感謝する」と述べている。
●ウクライナ軍トップの交代人事「懸念ない」 米国は後任者に期待 2/9
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は8日の記者会見で、ウクライナ軍総司令官の交代人事に関して「ウクライナの安定に何か影響があるとは懸念していない。誰が総司令官に任命されても、米国は協働していく」と述べた。
国民や軍内部の人気が高いザルジニー前総司令官の解任は、戦況に悪影響を与えるとの懸念がある。カービー氏は、米政府が今回の人事についてウクライナ側と協議したかどうかについて「米国に人事の承認権があるかのような話は事実ではない。ゼレンスキー大統領が最高指揮官であり、軍の指導部を決める。それが文民統制というものだ」と述べた。
ワランダー米国防次官補(国際安全保障問題担当)は8日の米シンクタンクのイベントで、新たに総司令官に任命されたシルスキー前陸軍司令官について「経験が豊富で、成功した司令官だ。(ウクライナ東部の)ルガンスク、ドネツク両州でウクライナ軍を勇敢に指揮し、好影響を与えた」と評価した。
米国では2023年末から予算切れのためにウクライナへの新規支援が止まっている。連邦上院は8日、約600億ドル(約8兆9600億円)の対ウクライナ支援を含む総額約953億ドル(約14兆2300億円)の緊急補正予算案の審議を本格的に開始。上院では超党派で合意に至る可能性がある。ただ、下院で多数派の共和党は、大規模な追加支援を無条件で認めることに慎重な姿勢を崩していない。
●米LNG輸出許可停止、同盟国の供給に問題生じない=エネルギー省副長官 2/9
米議会上院エネルギー委員会が8日、バイデン政権による液化天然ガス(LNG)輸出許可の一時停止に関して開いた公聴会で、エネルギー省のターク副長官は、同盟国のガス供給に問題は生じないと改めて強調した。
バイデン大統領は先月、気候変動や国家安全保障に及ぼす影響を分析するとの理由で、LNGの新規輸出許可を一時的に停止する措置を講じている。
天然ガス生産地のウェストバージニア州選出で公聴会開催を求めていた民主党のマンチン議員は、輸出許可停止は欧州やアジアの同盟国に間違ったシグナルを発することになると懸念を示した。
しかしターク氏は「同盟国に対するわれわれの供給能力に影響は生じない」と語り、既に承認済みの輸出案件も停止措置の対象外だと付け加えた。
ターク氏は、気候変動や国家安全保障に及ぼす影響の分析については、可及的速やかに作業を終えるつもりだが、「年単位でなく月単位」という以上の期限は想定できないと述べた。
公聴会での証言が終わった後もターク氏は記者団に、バイデン政権が同盟諸国や友好国とこの問題で話し合う中で、今後のガス供給について「われわれは非常に安心感を持っている」と言い切った。
バイデン氏の輸出許可停止は、民主党支持層の若者や環境保護活動団体などを念頭に、政権として環境へ配慮していることをアピールする面もあり、野党共和党からは11月の大統領選を前にした政治的な行動だとの批判も出ている。
●アウジーイウカ陥落は時間の問題 分析グループ、バフムートの轍踏むなと警告 2/9
ロシアによる最初のウクライナ侵攻以来、ウクライナ軍は10年にわたってアウジーイウカで持ちこたえてきた。アウジーイウカは、現在はロシアの占領下にある州都ドネツク市から北西へ8kmほどに位置し、ロシアによるウクライナ全面侵攻前には3万人あまりが暮らしていた都市だ。
だが、ウクライナ軍の守備隊は撤退すべき時が来たのかもしれない。ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは最新のリポートで、アウジーイウカは「陥落するかどうかではなく、いつ陥落するかの問題」になりつつあると評価している。
廃墟と化しているアウジーイウカに民間人はごく少数しか残っておらず、その人たちやペットも救助隊が市外に避難させる作業を進めている。だからといって、ウクライナ側はロシアによる2022年2月の全面侵攻後、23カ月にわたりアウジーイウカを守備してきた第110独立機械化旅団を撤収させても、失うものがないということではない。
まず、ロシア側がアウジーイウカを攻め落とす、あるいはウクライナ側がアウジーイウカを守り抜くことには、プロパガンダ上の価値がある。ロシア側がアウジーイウカを取れば、来月に予定される見せかけの選挙での再選を前に、ウラジーミル・プーチン大統領は戦果として誇れるに違いない。
それだけではない。アウジーイウカには軍事上の価値もある。この戦争に関するロシアの主要な目的の1つは、アウジーイウカやドネツク市があるウクライナ東部ドネツク州の全域を支配し、ウクライナ側による州の解放を恒久的に阻むことにある。だからロシア軍はアウジーイウカのような州内の抵抗拠点を除去し、陣地や兵站を固めようとしているのだ。
ウクライナ側はアウジーイウカを保持することで、ドネツク州内を走る鉄道路線を脅かし、ロシア側にウクライナ東部各地への人員や装備の輸送で、効率の悪い別の手段の使用を強いることが可能だった。
だが、2000人規模だった第110旅団の生き残った兵士がアウジーイウカを離れ、数km西にある強化された陣地に退却すれば、ウクライナ側がドネツク州を貫くロシア軍の補給線を脅かし続けるのは格段に難しくなる。そしてこれは、ロシア側がウクライナ東部の占領を固めることにつながる。
それでも、時が訪れたのかもしれない。第110旅団は4カ月にわたって、休むことなく勇敢に戦い続け、4万人の兵士を投入したロシア軍に1m前進するごとに大量の血を流せてきた。増援に駆けつけた第47独立機械化旅団と第53独立機械化旅団が支援し、ドローン(無人機)や地雷、大砲、さらに第47旅団の場合はM2ブラッドレー歩兵戦闘車の傑出した働きで市の南北両翼を防衛してきた。
撤退を引き延ばしすぎたバフムートの失敗に学ぶ必要がある
ロシア軍は昨年10月にアウジーイウカに対する直近の作戦を発動して以来、数万人にのぼる死者・重傷者を出し、数百両の戦闘車両を失ったとみられる。ロシア側の損耗は一時、ウクライナ側の7倍ないし10倍に達した可能性がある。
だが、それはウクライナ軍の補給線がロシア側に脅かされていなかった頃の話だ。ロシア側はその後、アウジーイウカの南北両翼でじわじわと前進し、1月末には両翼から市内に直接侵入するようになった。
ロシア軍部隊は現在、市内につながる主要道路から数百mの地点に入っている。これは手持ちの兵器でウクライナ側の補給トラックを攻撃できる距離だ。
アウジーイウカ戦役は攻防の転換点を迎えている。ただ、こうした事態はウクライナ側にとって初めての経験ではない。昨年5月まで、ドネツク州バフムートのウクライナ軍守備隊は、アウジーイウカと似たような消耗戦を続けて、廃墟化したこの都市で何カ月も持ちこたえた。ロシア側がおびただしい犠牲と引き換えに前進し、市の補給線が危機的な状況になるまでに、ウクライナ側は味方の10倍の戦死者を敵に出させた。
しかし、弾薬が不足してくるとバフムートの守備隊は優位性を失った。フロンテリジェンス・インサイトは「ロシア軍がウクライナ側の両翼を制圧し、補給ルートを遮断すると、(ロシア側とウクライナ側の)損耗率はほぼ同じになった」と当時を振り返って警告している。
ウクライナ軍の指揮官たちは、バフムートからの撤退を遅らせすぎた結果、ロシア側よりかなり少なく抑えていた損耗を増やし、それによってウクライナ国民からの信用を失った。
フロンテリジェンス・インサイトによれば、指揮官たちがバフムート戦役の最終盤に兵士らの命を無駄に失わせたことは、今も国内に影を落としている。「ウクライナ軍の一部将官の評判は地に落ち、無謀な正面攻撃をさせることで悪名高いロシア軍の将官と並べられるほどだ」という。
その結果、ウクライナが3年目、さらに4年目の戦争努力を続けるために、数十万人を動員する計画に支障が出かねなくなっている。「国民の間では自発的に軍隊に参加しようとする熱意が薄らいできている」とフロンテリジェンス・インサイトは警鐘を鳴らす。
アウジーイウカに対するロシア側の挟撃がさらに進む前に守備隊を撤退させれば、ウクライナ軍の指揮官たちは何百人の命を救えるだろうし、自分たちへの信用も保てるだろう。
戦術的撤退が戦略的損失につながるとは限らない
戦術的撤退は必ずしも、より大きな戦略的損失につながるものではない。適切な武器とそれと同じくらい重要な十分な弾薬があれば、ウクライナ側はアウジーイウカから撤退して数km西の陣地を固めたあとも、ドネツク州を通るロシア側の補給線をなお攻撃できるはずだ。
「状況の悪化に歯止めが利かなくなるのを回避するためには、西側からの時宜を得た援助がきわめて重要だ」とフロンテリジェンス・インサイトは強調している。より高性能な大砲やロケットランチャー、長距離飛行弾薬、それを発射する軍用機がもっとあれば、ウクライナ軍はアウジーイウカの廃墟をロシア軍に明け渡したあとでも、遠方からロシア軍の補給線を攻撃し、東部の状況を実際に改善していくことができる。
問題はいうまでもなく、米議会のロシア寄りの共和党議員らが4カ月にわたり、610億ドル(約9兆1000億円)規模の対ウクライナ支援予算の採決を拒んでいることだ。これには多数の長距離火力兵器に充当される資金も含まれるはずだ。
共和党議員らはその頑なな姿勢によって第110旅団の死活的に重要な弾薬を枯渇させ、アウジーイウカの陥落を助長した。彼らは同旅団の死亡した兵士たちを生き返らせることはできない。だが、アウジーイウカの防衛者たちを裏切ったせめてもの罪滅ぼしに、遅ればせながらも支援を承認して、ウクライナ軍が今後の戦いのために形勢を立て直すのを手助けすることはできる。
●東部アブデーフカ、防衛困難に ロシア攻勢「多方向から」 2/9
ウクライナ東部ドネツク州アブデーフカのバラバシ市長は8日、ロシア軍の攻勢により防衛が難しくなっていると明らかにした。「大勢の敵が多方向から押し寄せ、極めて厳しい状況にある」と語った。ロイター通信が報じた。ロシアはアブデーフカの制圧を狙っており、プーチン大統領も「最優先課題の一つだ」と述べていた。
ロシア軍は、ウクライナ軍の物資供給網の寸断や塹壕の包囲を図っているとされる。バラバシ氏は、侵攻前は3万2千人いた市民が941人まで減ったと訴えた。
米紙ワシントン・ポストは、ウクライナ軍の兵員不足が深刻だと報じた。
●国連がロシアに勧告「ウクライナの子ども早期帰国を」 2/9
国連の子どもの権利委員会は、ロシア側に連れ去られたとされるウクライナの子どもたちについて、家族らへの情報提供と子どもの早期帰国をロシアに勧告しました。
国連・子どもの権利委員会 スケルトン委員長「ロシアは多くの(ウクライナの)子どもたちにロシア国籍を与えていることを認めているが、それ自体が子どもたちがアイデンティティを失っていることを意味している」
国連の子どもの権利委員会は8日、ロシアが提出した「子どもの権利条約の履行状況に関する報告書」について最終見解を発表しました。
委員会は「ロシア側がウクライナの子どもを強制移送していると指摘される問題」について深い懸念を示し、ロシア側に渡った子どもの数と居場所に関する正確な情報を提供し、子どもを家族のもとや出身地に速やかに戻すよう求めました。
この問題について、ロシア側は「ほとんどの子どもが親か親族と一緒にロシアに到着した」などと、連れ去りには当たらないと反論していました。
委員会はまた、「ロシアの学校でウクライナへの軍事侵攻に関する広範囲かつ組織的なプロパガンダが行われている」と懸念を示し、学校の政治的、軍事的な利用を止めるよう勧告しました。 
●米記者解放は「合意可能」と元米FOX司会者に NATO諸国侵攻は「問題外」 2/9
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、米FOXニュースの司会者だったタッカー・カールソン氏によるインタビューで、昨年ロシアで拘束された米記者エヴァン・ガーシュコヴィッチ氏(32)について、解放で合意する可能性があると述べた。
プーチン氏は2時間を超えるインタビューで、ウクライナ、米大統領、米中央情報局(CIA)についても持論を展開した。インタビューは6日にモスクワで撮影された。
ロシアが2022年にウクライナに侵攻して以降、プーチン氏が西側ジャーナリストのインタビューに応じたのは初めて。
プーチン氏は、スパイ容疑で拘束されているガーシュコヴィッチ氏について、アメリカと協議が進んでいると説明。「私たちのパートナーたちが互恵的な措置を取れば」、同氏の解放で合意に至る可能性があるとした。
「相互に特別チームが連絡を取り合っている。話し合いが行われている。(中略)合意に到達できると信じている」
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル記者のガーシュコヴィッチ氏は、昨年3月29日にモスクワから東に約1600キロメートル離れたエカテリンブルク市で拘束された。
ロシア当局は今年1月、同氏の公判前勾留を3月末まで再延長した。有罪となった場合、最長20年の禁錮刑を受ける可能性がある。
カールソン氏はインタビューで、ガーシュコヴィッチ氏をすぐに解放する考えがあるかプーチン氏に質問。併せて、「私たちが彼をアメリカに連れ戻す」と投げかけた。
これに対しプーチン氏は、ガーシュコヴィッチ氏が機密情報を受け取っていたと主張。一方で、囚人交換の候補に、「愛国的な思いから、ヨーロッパの首都の一つで悪党を消した人物」がなりうると述べた。
これが、ロシア連邦保安庁(FSB)の暗殺者ヴァディム・クラシコフ受刑者を指しているのはほぼ間違いない。同受刑者は2019年にドイツ・ベルリンの公園で、ジョージア軍将校ゼリムハン・ハンゴシュヴィリ氏を射殺したとされ、現在ドイツで服役している。
ウクライナ侵攻を正当化
インタビューでのプーチン氏への最初の質問は、なぜ2年前にウクライナ侵攻を命じたのかというものだった。
カールソン氏は、「アメリカが突然、ロシアを攻撃するかもしれないと考えている理由は何なのか」、「どうやってその結論に達したのか」と聞いた。
プーチン氏は通訳を介し、「アメリカが、合衆国が、ロシアに奇襲攻撃を仕掛けるということではない」、「私はそんなことは言っていない。これはトークショーなのか、それとも真剣な対話なのか?」と返した。
その後、プーチン氏は30分以上にわたり、東欧の歴史について、9世紀のロシア建国までさかのぼって長々と語った。
プーチン氏は、侵攻は正当だとさまざまに主張した。ウクライナの歴史に関する使い古されたうそ、ソヴィエト連邦崩壊と北大西洋条約機構(NATO)拡大をめぐる個人的かつ歴史的ないらだち、ウクライナにはネオナチがはびこっているという主張などを繰り出した。
プーチン氏はまた、ロシアがウクライナを攻撃して侵攻が始まったわけではないという虚偽の主張を長々と繰り返した。その際、ロシアは安全保障に対する脅威に対応しただけだと述べた。
カールソン氏は、ブチャなどウクライナ各地でロシア兵が犯したとされる戦争犯罪、国際刑事裁判所がプーチン氏に逮捕状を発行するきっかけとなったウクライナの子どもたちのロシアへの強制連行、政治的ライバルたちの死、反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の収監などについては質問しなかった。
プーチン氏は、ポーランドやラトヴィア、その他のNATO加盟国に侵攻する気はないと主張。そうしたシナリオは「完全に問題外」とした。
歴代の米大統領については
プーチン氏は米大統領との関係についても語った。ビル・クリントン氏が在任中、ロシアもNATOに加盟しうると述べたが、すぐにその選択肢を取り下げたというエピソードを改めて紹介した。
ジョージ・W・ブッシュ氏については、「非常に良い関係」だったと回顧。「アメリカやロシア、ヨーロッパの他のどんな政治家よりも悪くはなかった」と述べた。また、「彼は自分がしていることや、他人がしていることを理解していた。私はトランプともそうした個人的な関係があった」とした。
ジョー・バイデン大統領に関しては、いつ最後に話をしたか記憶にないと述べた。
カールソン氏はどんな人物なのか
カールソン氏はインタビューに先立ち、2022年以降にプーチン氏に「わざわざインタビューした西側ジャーナリストは一人もいない」と述べた。
BBCのスティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長を含め、西側各国の何人もの記者がこれまで、プーチン氏のインタビューを繰り返しクレムリンに申し込んでいる。BBCの要請はすべて無視されている。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官はこれを認め、「カールソン氏は正しくない。だがそうとは知り得なかった。私たちのところには大統領へのインタビューの申し込みがたくさん届いている」と話した。
ロシアの国営メディアは、カールソン氏の訪問を数日間にわたって報じた。レストランを訪れたり、ボリショイ劇場でバレエ「スパルタクス」を鑑賞したりする様子を放送した。
カールソン氏はFOXニュースで最も高い視聴率を誇ったゴールデンタイム番組の司会者だった。2023年4月に降板したが、FOXはその理由を明らかにしていない。
その後、自身のメディア会社「タッカー・カールソン・ネットワーク」を設立。X(旧ツイッター)に動画を投稿するなどしてきた。
そのコンテンツは、右派政治家との友好的なインタビューが中心で、トランプ氏との対談もある(共和党の大統領選討論会に合わせて行われた)。そのほか、インフルエンサーのアンドリュー・テイト氏、人気コメディアンのラッセル・ブランド氏などへのインタビューもある。
●プーチン大統領、西側に語る ロシアはウクライナで敗北できない 2/9
ウラジーミル・プーチン大統領は木曜日に発表された、物議を醸している米国の右派トーク番組司会者タッカー・カールソン氏とのインタビューで、西側諸国はウクライナでロシアを打ち負かすことは「不可能」であることを理解すべきだと語った。
ロシアのウクライナ侵攻から2年を目前に控えた元Foxニュースの司会者との2時間のインタビューで、プーチン大統領はまた、投獄されたウォール・ストリート・ジャーナルのエヴァン・ガーシュコビッチ記者について「合意に達することができる」と述べた。
プーチン氏は、この記者はスパイだと主張しながらも、「特殊部隊のチャンネルを通じて、ある条件が話し合われている」と語った。
西側メディアによるプーチンへの1対1のインタビューは2019年以来初めてだった。
しかし、ホワイトハウス候補でドナルド・トランプ前大統領と親しいカールソンは、クレムリンの指導者がロシアの歴史観を説き、この国を西側の裏切りの犠牲者として描いている間、厳しい質問はほとんどはさまず聞き流した。
プーチン氏は、2022年2月のウクライナ侵攻の決断を擁護した。そして、アメリカ、ヨーロッパ、NATOがウクライナを支援しているにもかかわらず、ロシアが敗北することはないと西側諸国が気づいていると述べた。
「これまでは、戦場でロシアに戦略的敗北を与えるという興奮と虚勢があった。しかし今、どうやら彼らは、それが可能であるとしても、達成するのは難しいということを理解しつつあるようだ。私の意見では、それは定義上不可能だ」
彼はまた、トランプ氏が支配する共和党が、武器やその他の軍事援助でウクライナを支援し続けることにますます消極的になっているアメリカ議会での動きに対して発言した。
「この件に関して我々が言っていること、そして米国の指導者に伝えていることをお伝えしましょう。本当に戦闘をやめたいのなら、武器の供給をやめる必要がある」と述べた。
NATO加盟国であるポーランドやラトビアなど、この地域の他の国々、あるいはヨーロッパ大陸全体への侵攻をモスクワが考えるかとの質問に対し、同大統領は「問題外だ」と答えた。
「ポーランドにも、ラトビアにも、他のどこにも興味はない。なぜそんなことをするのか?単に関心がないだけだ。脅威を煽るだけだ」とプーチン氏は言った。
ポーランドとの戦争は、「ポーランドがロシアを攻撃した場合にのみ起こる」と述べた。
バイデン大統領が2020年の再戦でトランプと対決することが予想されるアメリカ選挙後の指導者交代の可能性について尋ねられたプーチン氏は、ほとんど変化はないだろうと答えた。
「別の指導者が来て何かが変わるかということ?それは指導者の問題ではない。特定の人物の人格の問題ではない」
おそろいの白い椅子に座り、小さなテーブルを挟んでプーチン氏と向かい合ったカールソン氏は、クレムリンの豪華な部屋でのインタビュー(火曜日に収録され、カールソン自身のウェブサイトに掲載された)では、ほとんど反論せず、トランプ氏との関係をめぐって大統領に異議を唱えることもなかった。
大統領時代、そしてバイデン氏に敗れて以来、トランプ氏は繰り返しプーチン大統領を賞賛し、ウクライナ侵攻を非難しなかった。
これとは対照的に、バイデン氏は同氏を「戦争犯罪人」と烙印を押し、選挙で選ばれたウクライナの親欧米政権を支援することを大統領就任後の重要課題のひとつに掲げている。
●ロシア大統領選、プーチン氏ら4人の争いに リベラル系候補登録拒否 2/9
ロシア中央選挙管理委員会は8日、3月のロシア大統領選について、5選を目指すプーチン大統領ら4人の候補で争われることが確実になったと発表した。タス通信が報じた。反戦を訴え出馬を目指していたリベラル系候補のボリス・ナデジディン元下院議員は、候補登録に必要な署名に不備があったとして登録を拒否された。
大統領選で争うのは、無所属で出馬するプーチン氏のほか、いずれも野党で、共産党のハリトノフ下院議員と自由民主党のスルツキー党首、政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長の計4人。プーチン氏は無所属での立候補に必要な30万人以上の署名を提出した。国政政党の候補者は署名を集める必要がなく、4氏ともすでに候補登録されている。
一方、改革派政党「市民イニシアチブ」が擁立したナデジディン氏は10万5000人分の署名を選管に提出。議会に議席をもたない政党は候補登録に10万人以上の署名が必要とされ、規定を満たす数の署名を集めたが、選管は提出された署名の15%以上に不備があったと指摘。登録を認めなかった。ナデジディン氏は決定を不服として最高裁に訴える方針。
●プーチン大統領「武器供与をやめれば数週間で戦争は終わる」 アメリカ批判 2/9
ロシアのプーチン大統領は8日に公開されたインタビューで、「武器供与をやめれば数週間で戦争は終わるだろう」などと述べ、武器供与を続けるアメリカを批判しました。
このインタビューはアメリカの保守系ジャーナリスト、タッカー・カールソン氏が行ったもので、プーチン氏が西側諸国のメディア関係者のインタビューを受けるのはウクライナへの侵攻開始後初めてです。
プーチン氏は武器供与を続けるアメリカを批判した上で、「もし本当に戦いを止めたいのであれば、武器の供与をやめろ。そうすれば数週間で戦争は終わるだろう」などと主張しました。
さらに、ロシアは自国の利益のために戦うが、「ポーランドやラトビアやほかの地域に興味はない」と述べ、ウクライナでの戦争を他の国に拡大する意思はないと述べました。

 

●ロシアとウクライナ、必ず和解 プーチン氏、会見で強調 2/10
ロシアのプーチン大統領は現地時間9日に公開された米保守系ジャーナリストとの単独会見で、ロシアとウクライナは将来必ず和解に達すると述べ、侵攻を続けるウクライナとの関係正常化に自信を示した。
欧米はウクライナに軍事支援を実施してロシアと戦わせ、双方を永遠に引き離したと考えているが「そうはならない。必ず和解する」と断言した。
会見は、トランプ前米大統領に近いとされるタッカー・カールソン氏がモスクワで6日に行った。2022年2月の侵攻開始以降、欧米メディアとの単独会見は初めて。
●プーチン氏、侵略を改めて正当化「ロシアだました」と欧米を批判 2/10
ロシアのプーチン大統領は米FOXニュースの元看板司会者、タッカー・カールソン氏のインタビューに応じ、露大統領府が9日、内容を公開した。プーチン氏はウクライナ侵略に関し、ロシア系住民を迫害してきたウクライナの「ネオナチ思想」を根絶するための戦いだとして改めて正当化した。また、「ロシアをだましてきた」と米国や欧州諸国を非難した。
インタビューは6日に行われた。ウクライナ侵略の開始後、プーチン氏が欧米側メディア関係者の単独インタビューに応じたのは初めて。ペスコフ露大統領報道官はインタビュー要請を受け入れた理由について「カールソン氏の立場は他の欧米メディアとは異なるためだ」と説明した。カールソン氏は米大統領への返り咲きを狙うトランプ前大統領に近いとされる。
インタビューでプーチン氏は、ウクライナは歴史的にロシアの一地域にすぎなかったが、旧ソ連草創期にソ連指導部がウクライナにロシア領土を分け与え、国家として成立させたと主張。1991年のソ連崩壊時にウクライナは領土を保持したまま独立したが、ロシアがそれを認めたのは両国の良好な関係が続くことを前提としていたとした。
プーチン氏はその上で、ソ連崩壊後のロシアは欧米側の一員として迎え入れられることを期待していたが、そうはならなかったと指摘。反対に欧米側はロシアとの約束を破って北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を進め、ウクライナまで将来的に加盟させようとしたと述べた。さらに米国に対し、2014年のウクライナ政変を主導して当時の親露派政権を「違法クーデター」で崩壊させたと非難した。
プーチン氏は、新たに樹立されたウクライナの親欧米派政権が、政変に反発してウクライナ東部で蜂起したロシア系住民を攻撃し、ウクライナ東部紛争を引き起こしたと一方的に主張。ウクライナは東部紛争の解決策を定めた合意も履行しなかったとし、「ロシアは22年に戦争を始めたのではない。ロシアの目標は彼らが14年に始めた戦争を終わらせることだ」と従来の主張を展開した。
プーチン氏は軍事作戦について、欧米側がウクライナ支援を停止すれば「数週間で終わる」と主張。また、侵略開始直後の交渉でウクライナ側との停戦が合意寸前まで達したが、英国のジョンソン首相(当時)がウクライナに合意しないよう圧力をかけたため成立しなかったと述べた。その上で、米国はウクライナのゼレンスキー大統領に対露交渉に応じるよう働きかけるべきだとした。
プーチン氏は、歴史や宗教、言語を共有するロシアとウクライナの戦いは「ある意味で内戦だ」と指摘。「時間はかかるだろうが、両国民の関係は必ず回復する」とも語った。
●ポーランド国防相、プーチン氏インタビューに「信ぴょう性ない」 警戒緩めず 2/10
ポーランドのコシニャクカミシュ国防相は9日、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領が米保守系ジャーナリストとの会見で「ポーランドやラトビアに関心はない」と発言し、侵攻拡大の意図を否定したことを受け「信ぴょう性はなく、警戒を緩めることにはならない」と述べた。ポーランド通信などが報じた。
ウクライナに隣接するポーランドは侵攻以降、ロシアの次の標的となることへの危機感を強めている。国防相は9日の記者会見で「計画していないと繰り返されると、逆に疑念を抱かざるを得なくなる」と語った。
●兵士の妻ら取材の記者が次々…白昼の“拘束劇”舞台裏 高まる「反戦」機運 2/10
来月中旬に迫った大統領選挙を前に、ロシア国内でにわかに反戦機運が高まっている。一度は治安部隊に屈した反戦運動は復活するのだろうか? それとも再び、弾圧に屈するのか?
“潰されない抵抗”を続ける動員兵の妻らがいる。そして、「反戦」を訴える候補が躍進している。こうした動きは今後のロシア社会にどういう意味をもたらすのか?
プーチン政権に抗おうとするロシア市民の戦いの行方に迫りたい。
まずは、白昼に起こった記者の大量拘束劇から始めよう。
モスクワの中心で…衆人環視の記者拘束劇
2月3日午後1時――。
ロシアの首都モスクワは、マイナス10度近くまで冷え込んでいるが、正午をまわると分厚い雲の隙間から晴れ間がのぞきだした。「赤の広場」に繰り出す観光客らの数も徐々に増えてきて、つかの間の陽の光を楽しんでいる。この2年で、中国からの団体旅行客に加えて中東やアフリカからの観光客の姿がとりわけ目立つようになった。
その観光客でにぎわう赤の広場のすぐ隣に位置するアレクサンドル庭園で「事件」は起こった。「プレス」と書かれた蛍光ビブスを着た一団が次々と拘束され始めたのだ。
アフリカからの観光客だろうか。異変に気付いた女性が友人につぶやく。「プレスって書いてある。ジャーナリストじゃない?何が起こっているの?」しかし、彼らはそれ以上、気に留めることはないまま通り過ぎていく。
警察は用意周到だった。庭園の出口のすぐわきに護送車を配置し、庭園から出てくる記者たちをその護送車の裏に次々と連れ込み、拘束していく。
首都のど真ん中での拘束劇だが、ほとんど騒ぎにはならなかった。独立系メディアによると拘束者は27人に上った。
「プーチ・ダモイ(家路)」―動員兵の妻たちの戦い
拘束されたのは、動員兵の妻らの活動を取材していた記者や支援者の男性だった。「プーチ・ダモイ(=家路)」と名付けられたその運動は、動員兵の妻が呼びかけて始まったもので、1年以上戦場に送られている動員兵を帰還させるよう呼びかけている。この運動は、ロシアの戦争支持派から「西側・ウクライナによる情報戦だ」と猛烈な批判を浴び、テレグラムチャンネルは「フェイク」の認定を受けるまで追い込まれた。
声を上げる妻や現場の動員兵へも様々な圧力がかかった。取材では、妻の身元が割れると戦地にいる夫が、より過酷な前線に送られるケースも明らかになっている。それでも妻らは熱心に呼びかけを続けている。
昨年末から、毎週土曜日にロシアの各都市にある「無名戦士の墓」に献花することで、自分たちの意思表示をしようとSNSで呼びかけが始まった。当初は、治安当局に身元がばれることを恐れて人は集まらなかったが、今年に入ってから参加者は徐々に増えている。当局は、3月の大統領選挙を前に動員兵の帰還を求める声が広がるのも問題視する一方、無理やり弾圧することで事態の悪化を招くことも恐れているようだ。そのため、デモでもなく、ピケでもない、ただ「花を添えるだけ」の行為を当局は警戒しつつ許可した。
毎週土曜日の正午、アレクサンドル庭園の「無名戦士の墓」の前には動員兵の妻らと記者、そして多数の警察官とおそらく連邦警護庁の私服職員が集結し、妙な緊張感が張り詰める中、献花を見守るのが恒例となっていた。
記者ら拘束の日に起きた異変
ただ、2月3日は動員が始まって500日の節目であり、様相が違った。動員兵の妻らに加え、男性の支持者らも加わり、参加者は200人ほどに上った。それでも、当局はこれまで通りアレクサンドル庭園での献花を妨げず、見届ける。
しかし、運動の中心となっているマリア・アンドレーエワさんが歩き出し、庭園の敷地を出たとたんに事態が急変する。彼女を囲んで歩いていた記者たちが次々と拘束されたのだ。
警察はアンドレーエワさんら女性には手を出さず、男性記者を中心に拘束していった。
じつはこの日、アンドレーエワさんらは献花の場所から徒歩10分ほどのところにあるプーチン大統領の選挙事務所に動員兵を帰還させる訴えを届けようとしていた。街の中心部を大勢の記者とともに歩かれれば注目を浴びることになる。当局はこの動きを警戒したとみられる。
結局、アンドレーエワさんたちは、プーチン氏の選挙事務所に訴えを届けることは許された。しかしその現場を報じる記者はほとんど残されていなかったし、混乱が生じたり、事態がエスカレートしたりすることもなかった。かわりにプーチン大統領の選挙事務所は動員兵の妻らを紅茶と毛布でもてなすパフォーマンスまでして余裕を見せつけた。
弾圧とガス抜き 収束させられた抗議活動?
プーチン政権は、反戦世論の高まりを巧みに抑え込んでいる。プリゴジン氏が率いた「ワグネル」の武装蜂起をのぞけば、首都モスクワでは2022年の秋以来、大規模なデモは行われていない。
プーチン大統領が2022年9月に発令した動員令に対して、その直後には多くの市民が声を上げ、連日SNSで場所と時間を呼びかけあい、抵抗を示した。しかし、当局はデモ参加者を容赦なく拘束し、さらに拘束者を動員し戦場に送るという手段まで使って威嚇し、市民の意思をくじいていった。
市民らは幾度もデモを計画し、抵抗したが、次第に規模は小さくなっていった。デモ呼びかけの当日には、地下鉄の出入り口に警官が張り込み、デモに参加しそうな背格好だというだけで手あたり次第、護送車に連行していくことで、人が集まることができないまま抗議活動は自然消滅した。
以来、市民らは声を上げることをやめた。
かわりに「ウクライナが始めた戦争だ」「欧米の侵略からロシアを守る戦いだ」というプーチン大統領の主張が国営メディアなどでますます喧伝されるようになる。多くの市民は、そんな過激な発言を困惑の表情とともに遠巻きに傍観していた。
こうした中、昨年秋から動員兵の妻らが再び声を上げたが、冒頭のように当局は「献花」を許したり、訴えを聞くふりをしたりしながら、時には刑事罰も科して、反戦の声が目立たないように巧妙にコントロールしてきた。
そのため、動員兵の妻らの運動も、その切実な訴えにもかかわらず、広がりを欠いていた。
だが、こうした中でも“反戦の声”はくすぶり続けていた。
ウクライナへの侵攻を「プーチンの致命的な失敗」だと指摘し、即時停戦を訴えるボリス・ナジェージュジン氏への支持は驚くべきスピードで拡大していったのだ。
●“反プーチン”候補が躍進 支持者「戦争に疲れた」…高まる「反戦」機運 2/10
ロシアでは“反戦”の声が上がるたびに、陰に陽に繰り返される弾圧で反政権の動きは消沈したかに思えた。
だが、「反戦」「反プーチン」を掲げるナジェージュジン氏の大統領選挙出馬に向けた署名活動は驚くべきスピードでロシア全土に広がった。
そして、ついに地方からも上がった不満の声。
弾圧されることを知りつつ上がる反戦の声は、ロシアをどこへ導くのか?
全土に署名の行列 きっかけはYouTubeの呼びかけ
2022年に発動された動員令に猛烈に反対した市民の声は、容赦ない拘束や、その拘束者を戦場に送るという徹底的な威嚇で、小さくなっていった。プーチン大統領の主張が国営メディアを席巻し、抗議活動は自然消滅したかに見えた。
しかし今年に入り、反戦の声が突如、再燃した。
「反戦」を掲げるボリス・ナジェージュジン氏を大統領選の候補者にしようと署名を求める長蛇の列がロシア全土でできたのだ。
「ロシアの選挙で大事なのは、誰が出馬するかではない。誰が数えるかだ」
ロシア人自身が自嘲するように、今年3月の大統領選挙では、現職のプーチン大統領が再選するという結果はゆるぎないとほぼすべてのロシア人が信じている。
にもかかわらず、多くのロシア人が極寒のなか、警察の監視も恐れず、「反戦」を訴える候補への署名のために行列を作った。
じつはナジェージュジン氏が立候補を表明したのは去年(2023)年の夏だった。しかしほとんど注目されないまま、昨年暮れに中央選挙管理委員会から大統領選への候補者登録を目指して10万人の署名集めを許可された。
ナジェージュジン氏はエリツィン政権時代に、プーチン大統領の側近であるキリエンコ大統領府第一副長官の補佐官を務めていた経歴などから、当初「クレムリンの傀儡(かいらい)候補」だと疑われていた。そのため、署名の提出期限まで残り2週間に迫っていた1月中旬になっても、集まった署名は1万人分ほどしかなかった。
低調だった署名活動の潮目が変わったのは1月16日だった。
反体制派のリーダーの一人であるマキシム・カッツ氏がYouTubeチャンネルで、ナジェージュジン氏が正面から「反戦」「反プーチン」を訴えていることは、「勇気ある行為」だとして、傀儡候補との疑念を振り払ったのだ。
そのうえで、「『反戦候補』の名前を投票用紙にのせる最後のチャンスだ」と述べ、ナジェージュジン氏への署名を呼び掛けると、ロシア各地で署名を行うための行列ができた。
この動画が呼び水となり、ナワリヌイ氏の側近や元石油王のホドルコフスキー氏といった反体制派の重要人物らが次々とナジェージュジン氏への署名を呼びかけだした。
熱気を帯びる事務所 結集する反戦の声
1月17日午後7時―。
ナジェージュジン氏のモスクワの事務所に足を一歩踏み入れると、仕事終わりに署名にやってきた市民が狭い廊下を埋め尽くしている。
床は靴についた雪が解けて泥にまみれている。
スタッフが、記入ミスや漏れがないようにパスポートを確認し、時間をかけながら丁寧に作業を進める間、市民らは、自分の番が来るまで辛抱強く立ち続けている。
時間がたつにつれ、仕事を終えた人が次々と増えてくると、署名を待つ列は建物の外まであふれ出す。外はマイナス10度を下回る寒さだが、文句を言う人は誰もいない。
多くがカップルや友人、知人と誘い合って一緒に来ているようだ。
一般的にリベラルな考えを持ち、反戦機運が高いのは若者だとみられている。対照的に国営テレビのプロパガンダを日々目にしている高齢層ほど、プーチン支持が強いといわれている。
だが、意外にも若者に交じって老夫婦の姿も目立つ。陣営スタッフに確認すると、署名者には高齢者も多いうえに、彼らは若者以上に熱心に反戦を訴えるという。
ある高齢女性は、署名をするさいに、欧米のスパイを意味する“外国代理人”として祖国を追われているカッツ氏の身を案じて熱心に語り続けたという。
また、少しでも力になりたいと署名集めの手伝いを申し出てきた78歳の男性もいたという。
地域的にも意外な事実が明らかになった。
一般的には都市部にリベラル層が多く、地方ほど保守的でプーチン支持が強いといわれる。
しかし実際にはモスクワやサンクトペテルブルクなどの都市部に限らず、地方でも署名が勢い良く集まっているという。特に極東やアルタイ地方などが多いという。
さらにクレムリンに勤めるような高級官僚が住んでいる地域の住民もこっそりと署名に来ているそうだ。
あるロシア人はナジェージュジン氏のことを「先生のようだ」と形容する。饒舌だが、その場を飲み込むような強烈なカリスマ性があるわけではない。
ある老人が、メディアの取材に署名に訪れた理由を「戦争に疲れたからだ」と答えたように、ナジェージュジン氏という人物に惹かれるというよりも、戦争を早く止めてほしいという気持ちが支持の理由だろう。
陣営スタッフは、これまで弾圧でくじかれてきた市民の気持ちをこう代弁する。
「この2年間、多くの人が燃え尽きてしまいました。チャンスが訪れても、『どうせ何もできない』と考えてしまうようになりました。だから、私たちの今の課題は、『何かができるのだ』ということを示すことなのです。今、政治活動のチャンスが到来しています。もし、何かを変えたいと願うのならば、この機会を逃してはなりません」
プーチン政権下での抵抗の限界
大統領選挙に向けた署名は法律の枠内だが、リスクが完全にないわけではない。
署名には、名前に加えて住所や連絡先が記されている。
中央選挙管理委員会から当局の手に渡れば、今後、動員されやすくなったり、政治的な圧力をかけられたりするなど、悪用される恐れは十分にある。
にもかかわらず、わずか2週間で20万人が署名した意義は大きい。不安や恐れから署名にまで踏み切れなかった、反戦の思いを持つ市民はもっと多い。
だが、再び芽吹きつつある反戦機運が、ロシアの針路を変えるまでに至るかは未知数だ。
ナジェージュジン氏が集めた署名を提出した翌々日、中央選挙管理委員会は15%以上に問題が見つかったと指摘した。
ナジェージュジン氏の陣営は、「ロシア国中でできた長蛇の列を世界中が目撃している。この署名に不備があるというのは言いがかりだ」と反発しているが、正式に登録される可能性は低い。
ナジェージュジン氏の陣営は、中央選挙管理委員会から不備を指摘された署名が本物であることを証明するため、1人1人の署名者に直接連絡しているが、実質2日間しか猶予を与えられていない。
そのため、独立系メディアによると、ナジェージュジン氏自身も物理的な時間が足りず中央選挙管理委員会が登録を拒否することを覚悟していて、裁判で控訴して争う構えだ。
仮に登録を拒否された場合、大規模なデモが起こるだろうか?
22年の秋と同じように弾圧され、それに加えて当局は真っ先に署名簿を使って、見せしめにさまざまな圧力をかけることも考えられる。
そして市民らは再び不機嫌な沈黙を守りながら日々をやり過ごしていくことになるかもしれない。
いまのプーチン政権下のロシアで、市民が限られた手段で反戦の意思を示すだけでは、プーチン政権を揺るがしロシアの針路を変えるという事態を想像するのは難しいのが現状だ。
爆発する地方の不満
一方で、これだけ異論があるにもかかわらず、それを力で封じ込めようとするプーチン政権の手法の限界も見えつつある。
変化は地方から訪れる。
今年1月15日には、ロシア中西部に位置するバシコルトスタン共和国で、拘束された活動家の解放を求めたデモが大規模化し、治安部隊が参加者を警棒で叩くなどして鎮圧する事態を招いた。現地メディアによれば、デモの参加者は日々増え続け、マイナス30℃の気温のなか、最大1万人に達した。
独立系メディアが指摘したのが、デモの鎮圧にロシアで最も訓練されている特殊部隊の一つとされる「グロム」が投入されたという点だ。
これまで当局は3月に大統領選挙を控えていることもあり、冒頭で触れたように反対運動をできるかぎり穏便な形で抑え込もうとしていた。あからさまに強力な部隊を投入して鎮圧したのは、政権が事態の激化や周辺地域への飛び火することに強い危機感をいだいたからだろう。
バシコルトスタンの人びとは当初、「反戦」や「反プーチン」を唱えていたわけではない。
自主独立を主張して拘束された活動家の解放を求めていた。しかし、地元当局が要求を聞き入れる姿勢を一切見せないことで、デモは大規模化した。
そんな中、ウクライナで戦っている兵士に対して呼びかけたある女性の訴えがSNS上で広がった。
「あなたがプーチン1人の野望のために戦っている間に住民は警棒で殴られている」
女性は、バシコルトスタンから派遣されている兵士たちに、地元を守るために戦場から帰還するように呼び掛けた。不満の矛先を「プーチンの戦争」に向けたのだ。
デモは治安部隊の弾圧により解散したが、住民の不満が解消されたわけではない。
ウクライナへの侵攻から丸二年が過ぎようとしている。
このままプーチン政権が強硬路線で突き進めば、国内からの突き崩しというシナリオもますます現実味を帯びてくる。
●米議会でのウクライナ追加支援停滞に欧州から強い不満 欧州議員団 2/10
米上院でロシアに侵略されたウクライナに対し600億ドル(約8兆9千億円)規模を追加支援する予算案の審議が停滞している問題を巡り、欧州諸国の間で不満と不安が広がっている。ウクライナ支援に対する米国の消極姿勢が原因でロシアのプーチン政権がウクライナ戦争に勝利する事態となれば、同政権が続いて他の欧州諸国への攻撃に踏み切る恐れがあるとみて警戒を強めているためだ。
スウェーデンなど北欧4カ国とエストニアなどバルト三国の国会の外交委員会の委員長らから成る議員団は今月7、8日、ワシントンでバイデン米政権高官や議会関係者らと面会し、ロシアの攻勢を前に弾薬不足などに苦しむウクライナを早急に支えるよう訴えた。
議員団らが訪米した最大の目的は、ウクライナ支援に否定的なトランプ前大統領の意向を背景に追加支援をためらう共和党の上下両院議員を説得することだった。だが、同党から議員団との面会に応じたのは下院議員1人にとどまった。
議員団は8日、現地で記者団の取材に応じ、米議会の対応などに強い不満を示した。リトアニアのジーギマンタス・パビリオニス委員長は「欧州がかつてなく結束しているのに米国が孤立主義的傾向を深めていくのは異様だ」と述べ、プーチン露大統領を念頭に「現代のヒトラーを演じる最大の敵を打ち破る覚悟はあるのか」と訴えた。
エストニアのマルコ・ミフケルソン委員長は、バイデン政権のウクライナ戦略について「どのように戦争を決着させるのかが明確でない」と批判した。
ベルギーのデクロー首相は1月23日、ロンドン大学経済政治学院(LSE)での講演で、欧州の安全を確保するには「米国と欧州が同じ方向を向く必要がある」と指摘すると同時に、軍事面で米国と適切に連携して脅威に対処できるよう欧州諸国も防衛態勢を一層強化していく必要があると強調した。
欧州の危機感の背景にあるのは、ロシアによる北大西洋条約機構(NATO)攻撃が前にも増して現実味を帯びているとする厳しい情勢認識だ。
デンマークのポールセン国防相は今月9日、地元紙とのインタビューで、ロシアが想定以上に急速に軍備を増強し、「3〜5年以内」にNATO加盟国を攻撃する可能性があるとする分析を明らかにし、軍事分野への投資を加速させる必要があると訴えた。
ドイツのピストリウス国防相は1月、ロシアによる攻撃の可能性を「5〜8年以内」としていた。
米国で追加支援が今後も滞った場合、ウクライナをめぐる米欧の結束に深刻な亀裂が生じる恐れが拡大するのは不可避だ。
●「TSMCの半導体は『護国神山』」 中国が台湾に安易に侵攻できない理由 2/10
1月17日、中国の軍用機11機が台湾海峡の中間線を越えて台湾の空域を侵犯した。台湾総統選で民主進歩党(民進党)の頼清徳氏が勝利して4日後だった。台湾独立と反中感情を前面に出した民進党の勝利で中台の緊張が高まり、経済的な後遺症が強まるのではないかという懸念が存在する。中国が台湾に対する圧迫を強め続ければ、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争などに続き、世界経済にとってもう一つの導火線になり得るとの指摘だ。
中国による台湾侵攻の可能性は
国内外の専門家はひとまず5月20日に予定される総統就任式までの期間に中国の台湾に対する圧迫が強まるとみている。「一つの中国」原則を貫き、新政権の勢いをそごうとするのではないかという見方だ。今回の選挙結果を分析すると、頼氏は559万票(40.1%)を獲得し、親中路線の中国国民党の侯友宜氏(467万票、33.5%)と中道・台湾民衆党の柯文哲氏(370万票、26.4%)を破って当選した。台湾では2000年から8年ごとに民進党と国民党の間で政権が交代してきたが、民進党の2期8年にわたる蔡英文総統から親中勢力が政権を譲り受けることを期待した中国は失望が大きかったはずだ。
反中派政党の3期連続で政権を握ることで、中国の圧迫はさらに強まるとみられている。中国は選挙前にも「頼氏が当選すれば、両岸関係の平和を保障できない」とけん制。選挙直後も「一つの中国」を強調し、威嚇するかのような発言が相次いでいる。中国の王毅外相は14日、エジプト・カイロで記者団に対し、「台湾独立は過去にも成功したことがなく、未来にも成功しない。台湾独立は『死の道』だ」と述べた。
ロシアがウクライナに侵攻した前例があるため、中国の台湾侵攻という事態はあり得ないことではないという見方もある。フィナンシャルタイムズは、中台関係をロシア・ウクライナ関係と比較したコラムで、「プーチン大統領と習近平主席は、いずれもウクライナと台湾の土地を正当に自国の領土と考えている」とし、「台湾人が自らを『中国人』ではなく中『台湾人』と考える傾向が強まっていることも、北京の懸念が高まる要因だ」と指摘した。ただ、同紙は台湾海峡に戦雲が漂えばロシア・ウクライナ戦争とは異なり、米国が直接参戦する可能性が高く、ロシアの陸上侵攻とは違い、国は台湾という島国に上陸作戦を展開しなければならないと点からみて、台湾とウクライナの運命はそれぞれ異なってくると説明した。
半導体は護国神山
経済的側面で中国が「台湾侵攻」のカードを切りにくいとみられる理由に「半導体」がある。台湾も自国企業である世界最大のファウンドリー(半導体委託生産)企業、台湾積体電路製造(TSMC)を「護国神山(国を守る神聖な山)」と呼び、重要事業と位置づけている。半導体は台湾の経済安全保障面で重要との立場だ。頼氏は当選直後、「半導体は世界共通の資産だ」とし、「台湾だけでなく中国と国際社会が共に半導体産業を大切にしてもらいたい」とも述べた。
中国にとっては、米中対立で半導体需給が困難に直面しており、台湾製半導体は重要にならざるを得ない。世界の半導体サプライチェーンで大きな割合を占める台湾を封鎖したり侵攻したりすれば、中国経済にも被害を与える「両刃の剣」になり、大打撃となるのは避けられないからだ。
中国の台湾侵攻は、両国経済に壊滅的な打撃を与えるだけでなく、世界経済にも大きな打撃を与えかねない。ブルームバーグ・エコノミクスは最近、中国が台湾に侵攻した場合、台湾は戦争1年目に国内総生産(GDP)の40%を失い、中国もGDPの16.7%が蒸発しかねないと分析した。両国のGDPへの損害だけでも約4300兆ウォン(約477兆円)に達し、韓国のGDP(約2200兆ウォン)の2倍に相当する。国際サプライチェーンへの依存度が高まった状況で、戦争の火種は台湾海峡だけでなく、周辺国にも大きな打撃を与え得る。特に韓国と日本はそれぞれGDPが23.3%、13.5%減少し、中台以外で最も大きな打撃を受けると予想した。
中国のメンツも守った中途半端な勝利
中国の台湾に対する経済的圧迫が限定的なものにとどまるとの見方が出る理由の一つは、今回の選挙で中国がメンツを保ったためだという解釈もある。今回の台湾総統選と同日に行われた立法院(国会)の選挙で、親中系の国民党が全議席(113席)のうち52席を占め、改選前の37席から大きく躍進し、「与小野大」のねじれ状態をつくった。民進党は立法院では国民党を下回る51議席にとどまった。結果的に台湾住民が総統は反中政党に、立法院には親中政党にかじ取りを任せた格好だ。韓国対外経済政策研究院のヨン・ウォンホ経済安保チーム長は「台湾立法院の選挙は経済的路線を選ぶという意味合いが濃い」とし、「立法院で親中派の議席が増え、中国にとっても今回の選挙結果はそれほど失望的ではなくなり、台湾に経済的圧力をかける誘因も小さくなった」と説明した。
台湾中央研究院の金珍鎬(キム・ジンホ)教授は「中国はこれまで台湾と片手で握手し、片手で殴るような政策を繰り広げてきたが、台湾に対して強硬策を採るほど台湾の反発をあおり、米国が介入する名分が大きくなるということに気づいている」とし、「中国が自国民のための政治的パフォーマンスとして台湾に対する武力挑発に出る余地は依然としてあるが、経済的利益を考え、融和策を前面に出すと考えている」と話した。
●バイデン大統領 共和党を非難 ウクライナ支援反対は犯罪行為 2/10
アメリカでウクライナへの軍事支援を盛り込んだ緊急予算案が野党・共和党の反対で暗礁に乗り上げる中、バイデン大統領は「ウクライナを支援しないのは犯罪行為に近い」と述べて共和党を強く非難しました。
アメリカのバイデン大統領は9日、首都ワシントンを訪問中のドイツのショルツ首相とホワイトハウスで会談しました。
会談の冒頭、ショルツ首相は「ウクライナはアメリカやヨーロッパの支援なしでは国を守ることができない」と述べ、ウクライナに対する新規の軍事支援が止まっているアメリカに対し、早急に対応することが必要だという考えを示しました。
これに対しバイデン大統領は「ウクライナを支援しないのは義務を放棄する犯罪行為に近い。言語道断だ」と述べて、ウクライナへの軍事支援を盛り込んだ緊急予算案に反対した野党・共和党を強く非難しました。
緊急予算案をめぐっては議会上院で与野党がいったんは合意したものの、トランプ前大統領が反対を表明したことに影響された共和党の議員が採決の直前になって反対に転じて7日、否決されました。
これを受けて議会上院は、トランプ氏が不十分だと指摘したメキシコとの国境管理の強化策を切り離した新しい緊急予算案をまとめ、協議を進めていますが、先行きは不透明な状況です。
●独首相、米大統領に加勢 議会にウクライナ支援促す 2/10
バイデン米大統領とドイツのショルツ首相は9日、ホワイトハウスで会談し、米議会がウクライナへの追加支援を盛り込んだ法案を可決しなければ、「ウクライナの自国防衛は困難になる」との認識で一致した。その上で、米議会による早期可決が今すぐに必要だとの見解で合意した。
ショルツ氏が首脳会談後、記者団に明らかにした。ショルツ氏は「バイデン氏と私は、最終的には議会がそのような決定を下すとも確信している」と期待感を示した。一方、バイデン氏は会談冒頭、「議会がウクライナを支援しないのは、犯罪に近い怠慢だ」と強調した。
●「捕虜搭乗せず」 1月のロシア輸送機墜落―ウクライナ高官 2/10
ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は、1月下旬にロシア西部ベルゴロド州で墜落したロシア軍輸送機に「(ウクライナ人捕虜65人は)乗っていなかったと断言できる」と述べた。9日のウクライナ・メディアのインタビューで表明した。
ロシア国防省は、交換を控えたウクライナ人捕虜が搭乗し、全員が死亡したと発表。これについてダニロフ氏は、もし事実ならロシア側はウクライナを非難するため「(遺体と分かる)映像を公開したはずだが、何も示していない」などと不審点を挙げた。
●バイデン氏の記憶力巡る指摘は「政治的動機」、米副大統領が非難 2/10
ハリス米副大統領は9日、バイデン大統領(81)の記憶力に疑問を呈する米特別検察官の報告書について、「明らかに政治的動機によるもの」として非難した。
ハー特別検察官は8日、機密文書持ち出しを巡りバイデン大統領を刑事訴追しないと決定。同時に「訴追されても、バイデン氏はわれわれの行った聴取と同様、好意的かつ善意ある、記憶力の悪い高齢者」という印象を陪審員に与える可能性が高いと説明した。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、バイデン氏の記憶力に関する部分は「真実ではない」として退けたほか、ホワイトハウス法律顧問室のサムズ報道官も、共和党であるハー氏が政治的な影響を受けていた可能性があるという見方を示した。
バイデン大統領は今週、複数の世界の首脳を混同していたこともあり、ハー氏の報告書を受け、11月の大統領選で再選を目指すバイデン氏への「高齢不安」に拍車がかかる可能性がある。
●ウクライナ東部で戦闘激化 新総司令官は軍の改革へ決意示す 2/10
ウクライナ東部のアウディーイウカ周辺ではロシア軍が攻勢を強めていて、地元の市長は「敵は何倍もの規模だ」と切迫した状況を訴えています。こうしたなか新たに就任したウクライナ軍のシルスキー総司令官は軍の改革に向けた決意を示し、戦況の打開につなげられるか注目されます。
ウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカ周辺では、占領地域の拡大をねらって包囲を試みるロシア軍の攻撃が続いています。
ウクライナ軍参謀本部は7日、ロシアの攻撃ヘリコプターを撃墜したと発表するなど、防衛を続ける姿勢を強調していますが、バラバシュ市長は9日、地元メディアに対し、「状況は非常に厳しい。付近に入ってくる敵を撃退しているが、敵の戦力は何倍もの規模だ」と、切迫した状況を訴えています。
アウディーイウカをめぐりイギリス国防省は8日、ロシアの優先目標だとした上で「ロシアの誘導兵器による空爆はこの2週間で1日あたり30回から50回に増加した」と指摘し、今後数週間にわたり圧力をかけ続けるという見通しを示しています。
こうした中、新たに就任したウクライナ軍のシルスキー総司令官は9日、自身のSNSを更新し、軍の重要な課題として、前線のニーズを踏まえた部隊の行動計画作りや迅速で合理的な補給などを挙げました。
その上で「戦闘の手段や方法を変え、改善し続けてこそ成果をあげられる」として、軍の改革に向けた決意を示しました。
またシルスキー総司令官は9日にウメロフ国防相とも会談し、前線部隊の交代体制や、新たに創設する無人機などに特化した部門について議論したということで、今後こう着する戦況の打開につなげられるかが注目されます。
●ウクライナ、結束にほころび 軍総司令官解任「ロシア利する」 権力闘争か 2/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、軍トップのザルジニー総司令官を解任した。
長らく続いていた政権と軍トップの反目に終止符を打った形だが、ロシアの軍事侵攻から間もなく2年となる中、ウクライナが誇る結束にほころびが生じつつある実態を露呈した。一部の国民や将兵が解任に反発するのは必至で、「ロシアを利するだけだ」と危惧する声も出ている。
不信が噴出
「兵士を増員できないウクライナの国家機関と比べ、ロシアは追加動員で大きな優位性を謳歌(おうか)している」。ザルジニー氏は米CNNテレビ(電子版)に1日掲載された寄稿で、追加動員に後ろ向きな政権をこう批判した。
ゼレンスキー氏は昨年12月、軍指導部から最大50万人の追加動員を提案されたが、支持しなかったと述べた。ザルジニー氏は「具体的数字を示して要請したことはない」とこれに反論。国民の不評を買う追加動員を巡り、責任の押し付け合いを演じた。
両者の確執はかなり前から水面下で続いていたとされる。ゼレンスキー氏は特に、国民の人気が高いザルジニー氏の政治的野心を警戒していた。昨年6月に始めた反転攻勢が大きな成果を生まず、戦況が行き詰まったことで、蓄積した互いへの不信が噴き出たもようだ。
後任は「旧ソ連型」
ゼレンスキー氏は8日の国民向け演説で「残念ながら、地上戦では目標達成に失敗した」と説明。その上で「南部戦線での停滞感や東部ドネツク州での苦戦が国民の士気に影響を与えている」として、軍首脳部の刷新が必要だと理解を求めた。
ただ、こうした主張とは裏腹に、ロシアへの抵抗を指揮してきたザルジニー氏の退場により、国民や将兵の間に不安が広がる恐れがある。報道によれば、後任のシルスキー陸軍司令官は、ロシア軍の猛攻の末に制圧された東部バフムトの死守を主張し、多くの兵士を失った。兵士の間では「旧ソ連型の司令官」として人望がないとされる。
ゼレンスキー氏は、解任は政局の問題ではないとも強調した。だが、次世代の政治家育成などを掲げるウクライナのNGO「国益擁護ネットワーク・ANTS」の共同創設者ワシル・セヒン氏は「ロシア侵攻当初は国全体が団結していたが、2年がたち、一部の政治家が権力争いに興じ始めた」と指摘。「不和が表面化し、大統領府への権力集中も進んでいる」と懸念を口にした。
●軍総司令官解任に市民反発 キーウでデモ 2/10
ウクライナの首都キーウ(キエフ)中心部の独立広場で9日、軍総司令官だったザルジニー氏の解任に反発する市民ら約100人がデモを実施した。ゼレンスキー大統領との確執が伝えられてきたザルジニー氏は、国民の人気が高い。市民らは「ザルジニーを戻せ」と書かれた国旗を手に抗議した。
ゼレンスキー氏は8日のザルジニー氏解任に続き、9日にはシャプタラ参謀総長の解任も発表した。人事や戦略の見直しにより、戦況膠着を打開する考えだ。
この日のデモに参加したミコラ・ポメンチュクさん(40)は「ザルジニー氏は大統領よりも厚い信頼を得ていた。解任は間違いだ」と訴えた。
●ロシア軍、化学兵器の使用急増 1月だけで200回超=ウクライナ 2/10
ウクライナは9日、ロシア軍による有毒化学物質を装填(そうてん)した弾薬の使用が急増していると非難した。今年1月だけで200回以上に上るという。
ロシアはウクライナでの化学兵器の使用を否定すると同時にウクライナ軍が化学兵器を使用していると非難しているが、ウクライナ側も否定している。双方とも証拠を出しておらず、ロイターはどちらの側による使用も確認できていない。
ウクライナ軍関係者はメッセージアプリ「テレグラム」で「ロシア連邦による有毒化学物質を装填した弾薬の使用は815件記録されている。このうち2024年1月のみで229件に上る」と明かした。
これとは別に、南東部の軍事作戦を指揮するオレクサンドル・タルナフスキー氏はテレグラムで、ロシア軍が化学物質を装填した弾薬を無人機(ドローン)で運んでいると指摘。8日にはクロロピクリンという化学物質が使用されたとした。 
●ロシアで再び記者ら拘束 動員兵の妻らデモ、当局「無許可」と警告 2/10
動員された兵士の早期帰還を求める妻らの抗議活動が10日、ロシア各地で開かれた。事前にロシアの検察当局が「無許可だ」と警告しており、再び記者や参加者が拘束された。ただ、デモの参加者は毎週のように増えており、警戒する当局からの圧力が一段と強まる懸念がある。
運動を呼びかけているのは「プーチ・ダモイ」(家路)。モスクワでは同日正午過ぎ、赤の広場近くの「無名戦士の墓」に、運動のシンボルである白いスカーフなどを頭につけ、赤いカーネーションなどを持った女性らが集まった。
先週の抗議活動では、モスクワで20人以上の男性記者らが拘束されたが、この日も参加者数は大きくは変わらず、献花の行列ができた。 ・・・
●ロシアで市民や記者拘束 動員兵帰還求める献花で 2/10
ロシア人権団体「OVDインフォ」によると、ウクライナ侵攻に動員されたロシア兵の早期帰還を求めて第2次大戦の戦死者の墓などに献花した人や取材中の地元メディアの記者が10日、モスクワ中心部で拘束された。
モスクワでは大統領府のあるクレムリン脇の「無名戦士の墓」周辺で、動員兵の妻らによる帰還要求運動「プーチ・ダモイ(家路)」の参加者1人と地元メディアの記者1人が拘束された。
また、中部エカテリンブルクでも5人が拘束。プーチ・ダモイによると、動員兵の息子や親類の少女も含まれていた。
●「ウクライナ敗北なら太平洋でも同じことが」 ラトビア外相が東京で講演 2/10
ロシアと国境を接するラトビアのカリンシュ外相(元首相)は9日、東京都内で講演し、ウクライナの敗北という「最悪のシナリオ」を回避するために、ウクライナへの全面的な支援の継続が重要だと訴えた。8日には上川陽子外相と会談し「欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分だ」との認識で一致した。
米欧の支援が停滞してウクライナが苦境に立つ中、ロシアのプーチン大統領は8日公開された米ジャーナリストとのインタビューで停戦協議に意欲を示した。しかしカリンシュ氏は講演で「ロシアが取り組んでいるのは膠着(こうちゃく)状態を定着させ、停戦に持ち込むこと。その後、軍を再建し、さらに侵攻するのは時間の問題だ」と警告。その上で「ロシアが戦争に勝てばウクライナは消滅する。元に戻ることはあり得ず、ロシアは前に進む」と欧州への戦線拡大に懸念を示した。
ウクライナで法の支配が破壊されれば「北朝鮮、イラン、中国などの独裁国に明確なシグナルを送ることになる」とし「遅かれ早かれ太平洋でも同じことが起きる」と警鐘を鳴らした。「法に基づく秩序の維持に関心を持つ国々すべてが協力すれば、食い止めることができる」とも語った。
ロシアについては「(ラトビアの)社会と国を弱体化させる狙いから(ソ連から独立後)30年かけて『ラトビアは失敗国家で、全てが悪い』というメッセージや、国内に分断を起こすような偽情報を積極的に拡大してきた」と強調。ウクライナ侵攻以降、ラトビアは、ロシアのテレビ局のプロパガンダ放送を禁止するなど対抗策を強化した。
●東部にロシア無人機、7人死亡 ハリコフ、乳幼児も犠牲 2/10
ウクライナ東部ハリコフ州のシネグボフ知事は10日、州都ハリコフにロシア軍の無人機攻撃があり、少なくとも7人が死亡したと発表した。死者には生後6カ月の乳児や4歳と7歳の子どもが含まれる。
シネグボフ氏は石油施設が攻撃され、燃料漏れが起きていると述べた。大規模な火災が発生し、15軒ほどの住宅が燃えたとの情報もある。ロシア軍は国境に近いハリコフやその周辺を頻繁に攻撃している。
ゼレンスキー大統領は9日、シャプタラ参謀総長を解任し、後任にバルヒレビッチ少将を任命した。8日のザルジニー軍総司令官解任に続いて人事を刷新し、戦況の打開につなげる考え。
●給油所にドローン攻撃、7人死亡 ウクライナ北東部 2/10
ウクライナ北東部ハリコフで、ロシアがガソリンスタンドにドローン攻撃を加え、7人が死亡した。
地元州のシネグボフ知事は10日、通信アプリ「テレグラム」で、犠牲者の中に「7歳、4歳、生後6カ月ほどの子供3人が含まれる」と主張した。
●米国による恩恵と「親方が沈んでしまう」リスク…ウクライナ侵攻 2/10
国際政治学者三浦瑠麗氏の全3回短期集中連載「政界再編」。第3回のテーマは国際情勢だ。かつて国内政治を二分していた「対米自立派」と「同盟強化派」だが、三浦氏は「対米自立の選択肢はまったく現実的でないと見なされるようになった」と指摘する。またどっちつかずの中間層についても「ウクライナ侵攻によって明確に減少した」。三浦瑠麗氏が米中にはさまれる日本の未来を考える――。
米国による恩恵とリスク
第二次世界大戦後、米国は国際経済秩序を主導して作り上げるとともに圧倒的な国力差を背景として自国市場を世界に開放してきた。とりわけ西側陣営諸国はその恩恵に大きく与った。戦後日本の焼け跡からの復興を奇跡に例え、日本人の勤勉さを称える言説をよく目にする。これはまことその通りなのであるが、ひとつ重要な背景事情を見落としている。米国が戦間期の過ちに学び、敗戦国を復興させつつ自らの秩序内に組み込むことを目指したという点である。「持たざる国」を困窮に追いやるような過ちは繰り返さない。欧州から日本にいたるまで、戦後復興は世界で最も豊かな米国市場に比較的自由なアクセスができたことに下支えされていた。
自由貿易体制とは、したがってそもそもが、国際秩序の安定と米国の国益にかなうために作られたものである。当然、その恩恵を受ける同盟諸国が米国の政策に付き従うこととセットであった。また、米国経済に余裕が乏しくなればアクセスには制限がもたらされるようになる。日本は70年代に繊維製品で、80年代以降は自動車や半導体関連分野において自主規制を課さざるをえなかった。恩恵とこうした制約は背中合わせのものだと理解していたからである。米国の国内法は、常に域外への適用可能性を秘めたものとして力を発揮してきたため、米国依存度の高い同盟国にとっては米国の意向と力の行使は警戒すべきリスクの一つだった。その観点から、日本がかつてイランとの間で独自外交を繰り広げることができたのは、ごく稀なケースであったと言える。
米国が敵認定する諸国、例えば昔であれば共産圏、そしてイラン、イラク、北朝鮮といった国々とのかかわりは制裁対象となりかねず、そのかわり米国市場から経済的利益を得、核の傘の下にいれてもらう、あるいは通常兵力で脅威国の動きを抑止してもらうという軍事的経済的恩恵とのバーターが成立していた。力の非対称性が圧倒的な場合、言うことを聞かない同盟国は、米国にとってむしろ抑え込む対象であった。韓国や台湾のように強大な敵に対峙する中でひそかに核武装を志向しようとする計画が窺えると、米国はすぐさまそれを牽制した。敵国の意思を翻させるのは実際に攻め込んで強制しない限り容易ではないが、同盟国等の場合には自らに依存する存在であるためとりうる政策の幅が広く、はるかに容易だったからだ。
親方が沈むリスク
こうした非対称な依存構造は、米国とある国との関係が急速に悪化した際、同盟国に多大な影響をもたらす。今般のロシアによるウクライナ侵攻とそれに続く一連の制裁が世界経済や燃料価格、ひいては各国の国内政治に与えている影響はその分かりやすい例だ。場合によっては暴動が広まり政権が倒れるほどの影響があり、経済的打撃も大きい。もちろんウクライナ侵攻は欧州にとって対岸の火事ではなく、当事者に限りなく近い。欧州が米国に引きずられて制裁に踏み切ったとは間違っても言えないだろう。日本も国際秩序を守るために自ら進んで行動している。しかし、ほぼ足並みをそろえた西側諸国を見ると、いずれも安全保障で自立しておらず米国と切っても切り離せない関係にあることが分かるだろう。同じNATOに入っていても自立的傾向のあるトルコはロシアとの等距離外交をとり、穀物輸出のため暫定的合意締結を取り持つなど独自の存在感を発揮している。日本にはもちろんのこと、EU諸国にもそこまでの自主性の余地はない。
米国依存の問題点のひとつは、米国が政策を誤った際の軌道修正が難しいことである。ウクライナ侵攻からおよそ2年がたち、制裁を多用したことで却って制裁そのものの効き目を薄れさせてしまったという批判も(徐々にではあるが)欧米圏では目にするようになってきた。その間に中国は中東に手を突っ込み、経済制裁の間隙を縫って様々な国へとアプローチを拡大している。問題は、西側陣営がロシアすら力で打ち負かすことが出来ず、その間に中東も中国もおろそかになっていることだ。
米国リスクの本質は、冷戦期によく言われていたような二大陣営の軍事的緊張に「巻き込まれ」ることではなく、一定の制約に縛られつつも安全と繁栄を享受してきた西側諸国にとって、運命を共にする親方が沈んでしまうことそのものではないだろうか。
中国リスクは甘受できない
今世紀における最大の問題は、今後の米中対立の行方だろう。米中関係はオバマ政権末期からのっぴきならない対立があらわになり、トランプ政権の誕生によって急速に悪化する。いわゆる米中貿易戦争の始まりである。中国は、米国がもはや抑え込もうとしても抑え込める相手ではなくなっていた。米国市場への依存を盾に力を振るおうとしても、中国が全て折れることは想定できない。だから、経済制裁の多用とそのエスカレーションは、従来の同盟国に対するような米国の力の行使の延長線上にとどまることはできない。トランプ氏自身がそれを意図していたかはともかくとして、中国経済への圧力は中国の国内改革へと繋がる道ではなく、相手の力を削ぐことを目的とするものになりつつある。
米国はだいぶ遅れて、中国をかつてのソ連よりもはるかに大きな脅威ポテンシャルと認めた。その米国の政策転換によって各経済主体や国・地域がすさまじい規模の影響を受ける、歴史はそのような展開に入ってきている。米国が戦っているのはもはや傘下の西側諸国を共産主義から守る戦いではなくて、本気の覇権競争だからである。覇権競争において、日本は国際政治のアクターとしての独自性を失う。それは日本に限らず同盟諸国の運命である。
だからこそ、親方が沈んでもらっては困るのである。仮に中国が覇者となったとして、一体どんな世界が開けるだろうか。絶大な力を行使した米国は、同時に世界に繁栄をもたらしてきた。歴史上いくつかの間違いは犯したが、基本的には自由と人権、法治国家の概念を広めてきたと言ってよい。グッドウィルに基づく帝国である。翻って、中国が支配する世界にそのようなものを期待することはできない。中国は台湾などを例外として必ずしも軍事的に直接統治しようとするタイプではないが、米国と同様に国内政治や国内法を域外に積極的に適用していってしまう習性をもつ。自国民を使ってスパイ網を作り上げて浸透する方向だけでなく、外国人にも自国の法を自国の論理に従って適用する。そこに彼らの帝国性が窺える。自由主義、民主主義が定着しており価値観も我々と近しい米国とは異なり、中国の論理は日本にとって全くの異質である。
米国リスクも苛烈さを含んでいるが、中国リスクは現在の価値観を享受する我々にとって到底受け入れがたいものなのである。
魔法の杖はない
米国の同盟諸国にとっても中国は脅威である。軍事的な拡張傾向といい、台湾問題のような熱戦リスクが高い緊張関係が存在することといい、安全保障面で彼らが与える脅威の存在は疑いようがない。また、国家資本主義によるアンフェアな国内経済の在り方と対外的な経済進出も既存の秩序に対する脅威となる。中国の目と鼻の先に位置する日本にとっては、米国の支えなしに独り立ちすることすら難しいだろう。
これまで、日本の国内政治においては対米自立VS同盟強化派が対峙してきたが、第二次安倍政権の頃から対米自立の選択肢はまったく現実的でないと見なされるようになった。日本がすべてを捨てて軍事大国化することなしに前者の選択肢が有効になることはないからだ。また、両者の間の中間的意見をとるどっちつかずの層は、ウクライナ侵攻によって明確に減少した。同盟のただ乗りも難しければ、魔法の杖がないことも日本国民はよく理解しているのではないだろうか。
米中対立の先が軍事的な熱戦になるとは考えていない。むしろ経済分野における熱い戦争こそがわれわれの生活に大きな破壊力を持つことになろう。世界は既に中国経済と密接な関係にあり、米国すら中国市場に依存している。元来、米国における経済勢力の地位は日本などよりよほど高い。ポテンシャルの大きい中国市場は多くの米国企業にとって優先順位の高い市場であり、それゆえにルール違反を繰り返す中国に対して米国政府は手加減をし、手ぬるい対応に終始してきた。読み違いと言えば読み違いも甚だしいが、成長すれば自ずと中国は現代化し民主化するだろうという楽観論がかつてはあったのだ。それが、今日の真逆の「付随的被害」が大きすぎる拒否反応へと繋がっている。
中国も米国をたびたび読み違えた。中国が経済的国益を前面に押し出しつつ歴史的な失地回復をしても、その異質さ、強硬さゆえに米国が許容するのではないかと思っていたのだろう。バイデン政権になってからの3年間の米中関係は、米国における中国恐怖症の誕生に対する再調整に双方時間を費やした感がある。対中アレルギーが浮上した現在においては、かつての赤狩りに等しいような政治が展開しはじめている。
そうこうするうちに、中国経済の先行き自体が大きなリスク要因となりだした。習近平の中国は、市場を政府がコントロールできるのかという大問題に直面している。政府が統制する経済における今後の規制の不確実性こそが中国企業の価値を下げていることを見ても、中国市場の規模の大きさに見合った順調な成長が見込めるとは筆者も考えていない。心配なのは、こうした内政状況のなかで中国がかえって対外的な冒険主義に乗り出すリスクがゼロとは言えないことだ。
米中がしのぎを削り、経済安全保障の名のもとに互いにダメージを与えあう21世紀において、米国陣営の勝利に貢献しながらも対立自体を暴発に振り向けないよう努力する。その苦しい戦いが日本を待っている。魔法の杖はない
米国の同盟諸国にとっても中国は脅威である。軍事的な拡張傾向といい、台湾問題のような熱戦リスクが高い緊張関係が存在することといい、安全保障面で彼らが与える脅威の存在は疑いようがない。また、国家資本主義によるアンフェアな国内経済の在り方と対外的な経済進出も既存の秩序に対する脅威となる。中国の目と鼻の先に位置する日本にとっては、米国の支えなしに独り立ちすることすら難しいだろう。
これまで、日本の国内政治においては対米自立VS同盟強化派が対峙してきたが、第二次安倍政権の頃から対米自立の選択肢はまったく現実的でないと見なされるようになった。日本がすべてを捨てて軍事大国化することなしに前者の選択肢が有効になることはないからだ。また、両者の間の中間的意見をとるどっちつかずの層は、ウクライナ侵攻によって明確に減少した。同盟のただ乗りも難しければ、魔法の杖がないことも日本国民はよく理解しているのではないだろうか。
米中対立の先が軍事的な熱戦になるとは考えていない。むしろ経済分野における熱い戦争こそがわれわれの生活に大きな破壊力を持つことになろう。世界は既に中国経済と密接な関係にあり、米国すら中国市場に依存している。元来、米国における経済勢力の地位は日本などよりよほど高い。ポテンシャルの大きい中国市場は多くの米国企業にとって優先順位の高い市場であり、それゆえにルール違反を繰り返す中国に対して米国政府は手加減をし、手ぬるい対応に終始してきた。読み違いと言えば読み違いも甚だしいが、成長すれば自ずと中国は現代化し民主化するだろうという楽観論がかつてはあったのだ。それが、今日の真逆の「付随的被害」が大きすぎる拒否反応へと繋がっている。
中国も米国をたびたび読み違えた。中国が経済的国益を前面に押し出しつつ歴史的な失地回復をしても、その異質さ、強硬さゆえに米国が許容するのではないかと思っていたのだろう。バイデン政権になってからの3年間の米中関係は、米国における中国恐怖症の誕生に対する再調整に双方時間を費やした感がある。対中アレルギーが浮上した現在においては、かつての赤狩りに等しいような政治が展開しはじめている。
そうこうするうちに、中国経済の先行き自体が大きなリスク要因となりだした。習近平の中国は、市場を政府がコントロールできるのかという大問題に直面している。政府が統制する経済における今後の規制の不確実性こそが中国企業の価値を下げていることを見ても、中国市場の規模の大きさに見合った順調な成長が見込めるとは筆者も考えていない。心配なのは、こうした内政状況のなかで中国がかえって対外的な冒険主義に乗り出すリスクがゼロとは言えないことだ。
米中がしのぎを削り、経済安全保障の名のもとに互いにダメージを与えあう21世紀において、米国陣営の勝利に貢献しながらも対立自体を暴発に振り向けないよう努力する。その苦しい戦いが日本を待っている。
●ロシアの脅威と寒さに耐える陸の孤島 ウクライナ東部シベルスク 2/10
ウクライナ東部ドネツク州のバフムト地区にあるシベルスク。12平方キロの街は北、東、南の3方向がロシア軍によって包囲された状態が2年近く続いている。西に向かう幹線道路では二つの大きな橋が爆破によって陥没している。仮設の橋は冠水などにより、たびたび通行できなくなる。ここが陸の孤島と呼ばれるゆえんだ。
砲撃を受け、穴だらけになった道を通って街の中心部を目指す。駅舎は破壊され、線路の架線は垂れ下がっている。大きな煙突のある工場もボロボロになっている。
「おーい、乗せてくれないか」。ウクライナ軍の兵士が手を振り、声を張り上げた。雪や雨でぬかるんだ黒土の道は、頑丈な軍用車さえも走行不能にしてしまう。
シベルスクでは400人ほどの兵士が空き家になったアパートなどに駐留し、最前線での戦闘に備えている。1月には兵舎として使っていた民家が砲撃を受け、兵士1人が亡くなり、7人が重傷を負った。ウクライナ軍の反転攻勢が失敗し、7キロ先にまで迫っているロシア軍の脅威は増すばかりだ。
「スマッチノーホ(いただきます)」と言って、おじやのような米料理を食べるのはナージャ・リシツカヤさん(71)。ここは街の北側にある病院の地下室だ。六つほどの部屋と長い廊下を利用して、12人の高齢者が避難生活を送っている。電気、ガス、水道などのインフラが途絶えた街にあって、頼りになるのは発電機やまきストーブが設置された施設。氷点下10度を下回る冬、貴重な駆け込み寺になっている。
子供や働き手の世代は安全な街に移り、開戦時1万3000人だった人口は1140人に減った。避難する資金がなく、街に残った中高齢者に食事を提供するのは、ウクライナの各地からやってくる若者だ。
「ここは週替わりで運営しています。私たちはキーウ(キエフ)から来ました」と話すのは、住み込みで支援に来たアーニャさんとロシャンダさん。大きな鍋で50人分のボルシチを作っていた。使われなくなった事務所をボランティアセンターに改装したのはリーダーのティマさん。ロシア軍から解放されたリマン、激戦地バフムトなど、戦禍の街に次々と支援拠点を築いてきた。
「とにかく行けるところまで行って、できることをする。ただ、それだけです」。そう語るティマさんたちは、白い息をはきながら事務所の屋根を修理していた。
●どうなる日本のウクライナ支援 非軍事分野で「6兆円」との噂 2/10
19日に「日・ウクライナ経済復興推進会議」が東京で行われる。日本のウクライナ支援の狙いは何か。日本は米国の支援を肩代わりさせられるとの懸念も一部にあるが、どうなのか。
日・ウクライナ経済復興推進会議は、岸田文雄首相肝いりで、外務省および経済産業省の協力を得て内閣官房において準備が進められてきた。主催は日本政府とウクライナ政府、共催が経団連と日本貿易振興機構(ジェトロ)だ。一応、官民体制になっている。
もっともウクライナ側は、日本の企業進出や技術協力だけでなく、日本政府からの財政援助にも期待を寄せているとみられる。
ウクライナは今年の国家予算が約3兆3500億フリブナ(13兆円超)。その財源は税収が約1兆8000億フリブナ(7兆円程度)、残りの約1兆6000億フリブナ(6兆円程度)は支援国からの援助など―となっている。
国家予算の税収相当分は、兵器調達や軍の人件費などロシアと戦うための国防関連費、支援国からの援助相当分は国防関連以外の社会保障費などに充てるとしている。
ウクライナ政府は、支援国の財政援助がなければ、公務員約50万人と教員約140万人の賃金、約1100万人分の年金の支払いが遅れると公言している。というわけで、非軍事への支援なら日本という連想で、日本が「6兆円の支援をする」という噂が出ているのだ。
たしかに最大の支援国である米国は、ウクライナ支援予算が通らない状況だ。共和党は支援に否定的で、かつ11月に大統領選があるので、今年は期待できない。大統領選ではトランプ氏が優勢なので、来年も状況改善は無理と見たほうがいい。
他方、欧州連合(EU)は2月1日、500億ユーロ(約8兆円)の支援を決めた。内訳は330億ユーロの融資と170億ユーロの返済不要の補助金からなり、新たに設置される「ウクライナ・ファシリティー」を通じて、2024〜27年にウクライナに継続的に提供される。
ウクライナが国防関連費を税収から、その他社会保障費などを外国支援国からの援助という方針なら、EU以外は日本からと考えても不思議でない。EUの支援は4年間で8兆円なので1年では2兆円となる。1年あたり4兆円不足するので、日本にはその程度の期待がかかっているかもしれない。
ウクライナが税収を国防関連費に充てるというのは、米国の支援がなくなることを見越した対応だ。ということは米国の肩代わりを日本がすることにはならないかもしれない。
しかし、米・EUでは「支援疲れ」もあり、支援継続が難しくなっている。それぞれの見通しが出る中、残りの非軍事についてはすべて日本となることも考えられる。
ウクライナとロシアは交戦中であるが、世界では支援の押し付け合いが同時進行していた。米、EUの後に日本という順番が大いに気になるところだ。ウクライナとロシアの停戦が日本を除いて急転直下決まり、後の支援は日本となりかねない。

 

●ウクライナ「消滅」危機回避を 援助拡大が必要―ラトビア外相 2/11
来日したラトビアのカリンシュ外相は9日、東京都内でインタビューに応じ、ロシアの侵攻を受けるウクライナに関し「武器を捨てれば国が消滅する」と強い危機感を示した。同氏は、ウクライナが敗北すれば、ロシアの脅威は周辺国にも及ぶと警告。「ロシアを止めなければならない」と語り、各国の援助拡大が必要だと訴えた。
ラトビアは旧ソ連から独立したバルト3国の一つで、ロシアと国境を接する。国内総生産(GDP)の約1%をウクライナ支援に充てており、人道支援に加え、武器供与も積極的に進めてきた。
カリンシュ氏は「ラトビアは欧州で最も裕福な国ではないが、極めて高水準の援助を続けている。われわれができるなら、他の国もできるだろう」と強調。ウクライナに対する欧州連合(EU)の弾薬供給計画や米国の支援が停滞する中、各国政府に一層の努力を求めた。
また、「ラトビアは2024年にGDPの2.4%を国防費とし、27年までに3%に引き上げる目標を掲げており、前倒しで達成できる可能性もある」と説明。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の多くが国防費をGDP比2%以上に増やす目標を達成できずにいるが、ラトビアはNATOの一員として十分な責務を果たしているとアピールした。
カリンシュ氏は「1991年にラトビアは旧ソ連から独立したが、その歴史から、他国と協力し、できるだけ多くの友人を持つことが非常に重要だという教訓を学んだ」と述べた。その上で「自由、民主主義、法の支配という価値観を共有している」として、日本との外交・経済面での関係強化に意欲を示した。
●「戦争の準備できているか」弱体化著しい英軍を識者や議会が真剣に危惧 2/11
英軍事史家「英国海軍は国を守ることすらできない」
ウクライナ・ロシア戦争やイスラエル・ハマス戦争で地政学的リスクが高まる中、英軍事史家でバッキンガム大学のソール・デービッド教授は英大衆紙デーリー・メール(2月6日付)への寄稿で「今日の英国海軍はフォークランド奪還どころか英国を守ることすらできない」と警鐘を鳴らしている。
「35億ポンド(約6500億円)を投じて建造された新鋭空母クイーン・エリザベスがプロペラシャフトの錆のため冷戦後最大の北大西洋条約機構(NATO)の演習に参加できなくなった。私たちにできることはロシアのウラジーミル・プーチン大統領とアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領が英国に手を出さないことを祈るだけだ」とデービッド教授は嘆く。
1897年に行われたヴィクトリア英女王のダイヤモンド・ジュビリー(即位60年を祝う式典)の海軍観閲式では21隻の戦艦と56隻の巡洋艦を含む170隻の大艦隊が英南部ソレント海峡に展開した。2列に並んでも13キロメートルの長さに及んだ。大英帝国海軍は1889年に、次に大きな2国を合わせたより大きな艦隊を持つ「2大国主義」を採用していた。
NATOの演習には通常、英国の海岸を巡回している4隻のP2000「プラスチック製哨戒艇」(乗組員5人、全長20メートル)も参加する。艦船というより民間のレジャー船に近い。艦橋は風雨にさらされ、ノルウェーや北極圏まで北上して演習に参加するのは並大抵ではない。ありとあらゆる船を動員した第二次大戦の「ダンケルクの戦い」を彷彿とさせる。
2010年英軍は19万2000人の兵員を擁していたが、現在は14万人未満
「英国海軍はその歴史を通じ、わが国の沿岸を守り、海外に力を誇示するという2つの大きな任務を果たしてきた。もはや、そのどちらもできていない。もし武装した敵国による海上からの大規模な攻撃という想像を絶する事態に直面した場合、英国が撃退に成功する可能性は低い。艦船だけでなく、必要な航空戦力もない」(デービッド教授)
冷戦終結時、英国は国内総生産(GDP)の4%以上を国防に費やしていた。現在はNATO同盟国に求められる最低ラインの2%を何とかクリアする程度。リシ・スナク英首相はこれを2.5%に引き上げる方針だ。2010年、英軍は19万2000人の兵士を擁していたが、世界金融危機後の緊縮策で現在は14万人を下回る。
英国は言うまでもなくNATOの一員だが、同盟国の協力を期待するのは甘すぎるとデービッド教授は釘を刺す。
「ドナルド・トランプ前米大統領が再選した暁にはNATOから米国を離脱させる可能性があると発言していることを考えると、何かあれば米国が助けに来てくれるという思い込みは危険なまでに自己満足的だ。欧州の同盟国がすべてを賭して私たちを救ってくれると考えるのも同様に危険であることは間違いない」
同教授によると、1982年のフォークランド紛争では「鉄の女」マーガレット・サッチャー首相(当時)は2隻の空母と41隻の軍艦を含む127隻からなる機動部隊を編成した。現在の英国海軍は2隻の空母、6隻のミサイル駆逐艦、11隻のフリゲート、2隻の水陸両用輸送ドック、10隻の原子力潜水艦の計31隻しか保有していない。
英国防相「私たちは戦後から戦前の世界に入った」
英下院国防委員会は『戦争の準備はできているか』と題した報告書をまとめ、ジェレミー・クイン委員長は英紙デーリー・テレグラフ(2月4日付電子版)に「私たちは『戦前の世界』の課題に迅速に取り組まなければならない。プーチンがNATO同盟国を攻撃する危険性が大きくなっているというのは私たちにとっては最後の警告だ」と寄稿している。
クイン委員長は「私たちは今、歴史の中で危険な局面に立たされている。全面戦争の脅威に対する抑止力の必要性はこの数十年で最も差し迫っている。グラント・シャップス英国防相が理想主義を『冷徹な現実主義』に置き換えなければならない『戦前の世界』に入ったと述べているように、抑止力の重要性はかつてないほど浮き彫りになっている」という。
シャップス国防相は1月15日、ロンドンのランカスターハウスで「戦後から戦前の世界へ。理想主義の時代は冷徹な現実主義の時代に取って代わられた。今日、敵対勢力は障壁の再構築に躍起になっている。世界秩序の根幹が揺らいでいる。私たちはこの岐路に立っている。トラブルの海に身を委ねるのか、危険を抑止するために全力を尽くすのか」と演説した。
1月19日、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国はロシアとその同盟国のベラルーシとの国境沿いの防衛を強化するため、今後数年間でバンカー(掩体)を構築する協定に調印した。3カ国は「軍事的脅威を抑止し、必要に応じて防衛するために、今後数年間で戦車や装甲戦闘車を防ぐ施設を国境の最初の1メートルから構築する」という。
徴兵制を再導入したラトビア
エストニアは来年初頭から、ロシアとの294キロの国境沿いの600カ所にバンカーを建設する予定だ。初期予算は6000万ユーロ(約96億円)。各バンカーは10人の兵士を収容できるように設計されている。リトアニアは米国と協力して、M142 高機動ロケット砲システム(HIMARS)の開発に取り組む。ラトビアは2006年に廃止した徴兵制を再導入した。
ドイツ南西部にあるNATO軍事兵站センターのアレクサンダー・ソルフランク司令官は英紙タイムズ(1月28日付)のインタビューに対し「10年前、5年前の戦争や作戦と比べると前線ではない後方地域でも激しい戦闘に巻き込まれる事態を想定しておかなければならない」と語っている。
後方地域の通信ラインをはじめ戦線を維持するために必要な民間・軍事インフラを破壊しようとロシアがさまざまな攻撃を仕掛けてくることを念頭に、NATO同盟国は戦争に備えなければならない。タイムズ紙(昨年12月4日付)によると、ポーランドの国家安全保障機関トップは、ロシアの侵攻に備えるためNATOに残された時間は3年しかないと警戒を強める。
下院国防委員会の報告書『戦争の準備はできているか』によると、英軍は安全保障情勢の悪化に対応するため、能力を超えて展開しており、兵員と備蓄の不足に陥っている。兵員を5人新規採用する間に8人が退役していく流出超の状態が続く。過度の展開が常態化しており、戦力の維持に悪影響を及ぼすだけでなく、戦争への準備を遅らせている。
「戦闘航空隊が敵の侵略を抑止できるかどうか深刻な疑問が生じている」
報告書は、通常任務のため兵力を展開したり危機に対応したりする作戦即応性は過度の展開という問題を抱えており、戦争遂行能力にも疑問が残ると指摘している。英軍は武器弾薬の備蓄不足に直面しており、産業基盤は十分な速さで備蓄を補充することができない。このため英軍はより柔軟な調達と産業界との協力を必要としている。
2023年春予算の一部として交付された19億5000万ポンド(約3600億円)が武器弾薬の備蓄の補充や増強に使われるのではなく、その他の用途の国防予算穴埋めに使われる恐れすらある。このため下院国防委員会は、英国政府は軍隊の任務の優先順位を高めるか、追加的な資源を提供するか、難しい決断を下す必要があると提言している。
下院国防委員会は昨年9月、英空軍に関しても「戦闘航空隊が敵の侵略を抑止し、防衛できるかどうか、深刻な疑問が生じている。非常に能力の高い航空機で構成されているとはいえ、国対国の戦争で発生するレベルの消耗に耐えるには小さすぎる」と率直に認める報告書をまとめている。
英空軍の固定翼機は冷戦終結後、1990年の579機(うち戦闘機は463機)から2023年には205機(同159機)まで減少している。戦闘機の数はフランス231機、ドイツ214機、イタリア199機より少ない。予算不足から高額なステルス多用途戦闘機F-35を当初の予定通り138機購入するか逡巡しており、現在は74機までの調達計画しかない。
パイロットを育てるのにさえ四苦八苦している英空軍
また航空機が老朽化し、教官が少ないため新しいパイロットを育てるのにさえ四苦八苦している現状だ。F-35の本拠地であるマーハム空軍基地では、10年の大半を訓練に費やしているパイロットがいたという。パイロットの訓練完了が遅れることはパイロットの士気と軍の効率性に深刻なダメージを与える。
陸軍から兵員増強を求める声が上がりはじめた。
英陸軍は兵員が7万人を下回る恐れがあるため、パトリック・サンダース陸軍参謀総長が「英国が紛争に巻き込まれる場合に備え、市民を訓練して装備を整え、市民軍を創設する必要がある。3年以内に正規軍、予備役、有事の際に退役軍人を呼び戻す戦略的予備役を含む12万人規模の陸軍を持つべきだ」と訴えたのだが、これに対して国民から「徴兵制と同じだ」と批判され、政府からも「徴兵制の計画はない」と一蹴された。
トランプ前政権で戦略・戦力開発担当国防副次官補を務めたエルブリッジ・コルビー氏は「中国は台湾を征服する準備をしている。日本は2027年度に防衛費をGDPの2%にすると言っているが、今3%にすべきだ」と主張している。第2次トランプ政権が誕生しようがしまいが、日本も防衛強化を急がなければなるまい。
●インフラ防護に日本支援 ロシア攻撃、土のうで守る 2/11
ウクライナの重要インフラをロシアの攻撃から防護するため、日本が支援する資材の供与式が10日、首都キーウ(キエフ)近郊で行われた。「ソイルアーマー」と呼ばれる日本製の土のうで、日本では土砂崩れなどの災害現場で活用されてきた。ミサイルや無人機が近くに落下した場合、被害を減らす緩衝材としての役割を果たす。
1〜2メートル四方の金属製の箱に土を入れて使用する。国際協力機構(JICA)がウクライナ政府を通じ1800個を現地のガス会社に引き渡した。前線に近い東部や南部のガス貯蔵施設などの周辺に設置されるという。 
●ロシア大統領選は4人の争い、プーチン氏の5期目当選が確実視… 2/11
タス通信は11日、ロシアの中央選挙管理委員会が3月の大統領選の立候補者登録を締め切ったと報じた。無所属で立候補したプーチン大統領を含む4人が出馬する。プーチン氏以外に有力候補はおらず、同氏の通算5期目の当選が確実視されている。
プーチン氏以外に立候補が認められた3人はいずれも政権を容認する「体制内野党」の候補者で、ウクライナ侵略に賛成している。
唯一の反戦候補として出馬を目指したボリス・ナデジディン元下院議員は、署名の不備を理由に登録を認められなかった。
●NATOに「ロシアけしかける」 軍事費負担求め、トランプ氏 2/11
トランプ前米大統領は10日、自身が在任中に北大西洋条約機構(NATO)のある加盟国に対し、軍事費を適切に負担しなければロシアが攻撃してきても米国は支援せず、むしろ「好きに振る舞うようロシアをけしかけてやる」と伝えたと主張した。大統領選の共和党予備選を控える南部サウスカロライナ州での演説で述べた。
ホワイトハウスは10日、声明を発表し「残忍な(プーチン)政権に、われわれの最も親しい同盟国への侵略を促すとは、低劣で正気と思えない」と非難した。
トランプ氏は在任中、NATOとの関係を悪化させ、脱退にも言及したとされている。
●バイデン政権下でビックマックのセットは18ドル(約2600円)に 2/11
アメリカ人の景況感はいつになく低下している。
一時期9%を超えたインフレ率は低下し、バイデン大統領は「経済は活況を呈している。バイデノミクスのお蔭である」と豪語しているが、国民感情とは乖離がある状況だ。
確かに数字上は、よくなったように見える。
失業率は24カ月連続で4%を下回り、23年は、22年のペースをはるかに上回る3.1%の経済成長を遂げている。
消費者マインドは、1991年以来で最大の伸び率を示しているが、これは2020年初頭の好景気時と比べると、20%ほど低いものとなっている。
ビックマックのセットは18ドルに上昇
一度値上がりした商品価格は、下がらないため、日用品の価格は約20%も上昇している。
「スーパーにいく度にその値段にため息がつく──」
そんな状況で、国民の消費者マインドがコロナ前の2020年と比べて冷え込んでいるのは、ある意味で当然ではある。
またロシア―ウクライナ戦争が継続する中で、中東での戦争が拡大すれば、穀物や石油、輸送にかかるコスト増で、インフレが再燃するのではないかという国民の懸念もぬぐえていない。
ビックマックのセット価格が、18ドル、場所によっては20ドルもするようになった。
あらゆる社会階層の人々にとって、定番メニューだったはずだが、ビック・マックのセットはもう手が届かないランチになりつつある。
・・・ バイデン氏が火をつけたインフレ率の上昇 
●ウクライナ敗戦で1千万人避難も 独紙報道「最悪のシナリオ」 2/11
ドイツ紙ウェルト電子版は10日、ロシアの侵攻を受けるウクライナが敗戦した場合、さらに1千万人以上のウクライナ人が国外に避難する可能性があると報じた。ドイツ政府の想定としている。
最大の支援国、米国による今後のウクライナ支援は不透明感が増している。同紙は、欧州が支援を強化しなければ「大量の避難民流出と北大西洋条約機構(NATO)諸国への戦争拡大という最悪のシナリオが起こり得る」との専門家の見解を伝えた。
また、ドイツ軍高官は同紙に、欧州諸国は冷戦終結後初めて、ロシアとの武力衝突のリスクに直面しており、ドイツ軍は5年以内に戦争の準備を完了する必要があるとの見解を示した。

 

●ロシア大統領選、国民の4人中3人は「プーチン氏」に投票 2/12
ロシア国営“タス通信”は10日(現地時間)「ロシア国民の4人中3人は、1か月後に控えた大統領選でウラジミール・プーチン大統領に投票する意向があると調査された」と報道した。
この日に発表されたロシア公共世論調査(VCIOM)の結果、“来週の日曜日に大統領選が実施されるなら、誰に投票するか”いう質問に対し、回答者の75%が「プーチン氏に投票する」と答えた。
ロシア大統領選は、3月15〜17日の3日間にわたって開かれる。
VCIOMによると、回答者の81%は選挙がいつ開かれるかを正確に把握していて、4%は大統領選がことし開かれるということだけを知っていた。
また「今回の大統領選に必ず投票する」と回答した人は62%、「できるだけ投票する」と回答した人は14%で、この2つを合わせると投票意向者は76%に達した。
今回の調査は先月29日から今月4日まで、ロシアの成人1600人を対象に実施された。
●トランプ氏がNATO軽視発言 バイデン氏「ぞっとするほど危険」 2/12
ドナルド・トランプ(Donald Trump)前米大統領が、北大西洋条約機構(NATO)加盟国への集団防衛義務を軽視する発言を行った。これに対しジョー・バイデン(Joe Biden)大統領は11日、「ぞっとするほど危険だ」とし、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に「さらなる戦争と暴力」を容認するようなものだと非難した。
トランプ氏は10日、サウスカロライナ州での選挙演説で、自身が大統領としてあるNATO首脳会議に出席した際、「大国の大統領の一人」から「われわれが国防支出未達のままロシアに攻撃されたら守ってくれるか」と尋ねられたのに対し、「支出しないのは義務の不履行ではないか」「それなら守らない。むしろやりたいようにやるようロシアに勧める」と答えたと明らかにした。
トランプ氏は、国防費の国内総生産(GDP)比率を2%以上にするとのNATO目標未達の加盟国を以前から批判してきた。
トランプ氏の発言を受け、バイデン氏のみならず、NATOのイエンス・ストルテンベルグ(Jens Stoltenberg)事務総長も11日、「同盟国が相互防衛しないと示唆することは米国を含め、われわれ全体の安全保障を損ねることになる」と警告した。
●ロシア軍がスターリンク利用か 入手経路は不明 2/12
ウクライナ国防省情報総局は11日、ロシア軍がウクライナの前線で米宇宙企業スペースXが手がける衛星インターネットサービス「スターリンク」を利用していると表明した。通信や無人機操縦にはネット環境が不可欠。情報総局報道官はロシアがスターリンクの利用を組織的に拡大しているとした。
情報総局によると、ウクライナ軍もほぼ全ての前線で使用している。東部ドネツク州に展開するロシア軍部隊の会話を傍受し、端末の設置を確認した。スペースXは、X(旧ツイッター)で「ロシア政府や軍といかなるビジネスも行っていない」としており、入手経路は不明だ。
●ロシア軍が「スターリンク」使用 ウクライナの占領地で 2/12
ウクライナ国防省情報総局は11日、ロシア軍がウクライナ国内の占領地で米スペースXの衛星通信サービス「スターリンク」を使用していると発表した。ロシア兵2人がスターリンクの端末設置について話し合っている会話を傍受したとして、その音声記録を通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
スターリンク端末は2022年2月のロシアによる侵攻開始後、ウクライナ軍支援のために提供され、戦場での通信で重要な役割を果たしてきた。情報総局は声明で、東部ドネツク州の二つの町付近に展開するロシア軍部隊が端末を使用していると主張。どういう経路で端末を入手したと考えられるかについては説明していない。
スペースXは、ロシアの政府や軍とはいかなるビジネスも行っていないと説明。同社を経営する米実業家イーロン・マスク氏は11日、X(旧ツイッター)に「われわれの知る限り、直接か間接かを問わずロシアにスターリンクは売られていない」と投稿した。
●金正恩委員長の強硬発言にロシア「朝鮮半島で軍事的衝突の可能性が急増」 2/12
ロシア外務省のジェロホフチェフ第1アジア局長が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の強硬発言に関連し「朝鮮半島の直接軍事衝突の可能性が急激に高まったことをそのまま表している」と評価した。
聯合ニュースによると、ジェロホフチェフ局長は11日(現地時間)のRIAノーボスチ通信のインタビューで、「北朝鮮の最近の黄海上の砲射撃は朝鮮半島交戦の前兆に該当し、金委員長の発言は彼が真剣に武力衝突の準備をすることを意味するのか」という質問に対し、このように答えた。
金委員長は先月、大韓民国が先に武力を使用する場合、「躊躇なく水中のすべての手段と力量を総動員して大韓民国を完全に焦土化してしまう」と脅迫した。
金委員長は昨年12月には「ワシントンが我々を相手に間違った決心をする場合、我々がどういう行動を迅速に準備していて、どういう選択をするかををはっきりと見せる契機になった」とし、米国本土に対する核攻撃の可能性にも言及した。
ジェロホフチェフ局長は金委員長のこうした発言について、米国とその同盟国が北朝鮮を狙った連合訓練をするなど危険な軍事措置を取ったという脈絡で眺めるべきだとし、「北朝鮮は安保を守り、国防を強化し、主権を守るために合理的な措置を取るしかなかった」と北朝鮮の立場に理解を示した。
また、韓ロ関係については、韓国が両国関係回復の可能性を残そうとする意志を見せていると評価し、最終判断は具体的な対ロシア措置の内容を見て下す計画だと明らかにした。
ジェロホフチェフ局長は「韓国はすでに構築されたロシアとの関係を断絶せず、有望なロシア市場に復帰させる機会を残そうとする意志を、さまざまなレベルの接触を通して見せた」と話した。続いて「こうした態度を歓迎する」としながらも「主に、我々に対する経済制裁関連の具体的な措置を通じて韓国の意図を判断する」というガイドラインを提示した。
また、韓国は今月中に3回目の対ロシア輸出統制措置を導入する計画だとし、「両国の協力が互恵的なパートナーシップ関係に復帰するかは韓国にかかっているという点を強調したい」と述べた。
ジェロホフチェフ局長は経済分野を中心に建設的に発展した韓ロ関係が最近難しい時期を迎えているとし、韓国は米国との同盟関係のためにロシアを相手にした戦争で西側を支援しなければならなかったと評価した。
しかしロシアは韓国と意思疎通チャンネルを維持することが重要だと考えていて、今月初めにルデンコ外務次官が韓国で次官級会談をした際、韓国の見解も似ていることを確認した、と説明した。
ロシアのプーチン大統領の北朝鮮訪問日程に関連し、ジェロホフチェフ局長は「ロ朝外交チャンネルを通じて調整している」と明らかにした。続いて「昨年9月にボストーチヌイ宇宙基地で開催された首脳会談期間に金正恩国務委員長がプーチン大統領を平壌(ピョンヤン)に招請し、これは先月の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相のロシア訪問期間に確認された」と説明した。
これに先立ちロシア大統領府のペスコフ報道官はプーチン大統領が3月末までは北朝鮮を訪問する計画がないと明らかにした。プーチン大統領は5選に挑戦する3月15−17日のロシア大統領選挙日程を終えた後、北朝鮮訪問をするとみられる。
●「日本や韓国は米国の価値観が『著しく劣化』していることに警戒すべき」 2/12
今年も昨年に引き続き緊迫した国際情勢が世界を覆っている。
ロシアの侵攻から始まったウクライナ戦争は、すでに2年目。モスクワとの停戦交渉は事実上白紙化されたようで、多くの専門家はロシアが長期戦を覚悟しているとの見解を示している。
一方、昨年10月7日のハマスのテロ攻撃が引き金となったガザ地区での紛争は、イスラエル指導部のハマス消滅計画を骨子とした全面戦争へと転換した。加えてイランの支援を受けるフーシ派の反政府勢力と武装組織ヒズボラの挑発により、中東の戦争はますます激化している。武力衝突はすでに周辺国に飛び火し、一歩間違えば列強の介入で世界大戦に発展する可能性も否定できない状況である。
こうした不安定な情勢を、かつて米国の中枢にいた人物はどう見ているのか。
元米陸軍大佐で、国務長官時代のコリン・パウエル氏の首席補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン氏に中東・東欧戦争の行方と米国主導の同盟体制について聞いた。
米国の戦略的利益に合致しない戦争
ウィルカーソン氏は現在、米バージニア州にあるウィリアム・アンド・メアリー大学で国際関係学の特別講師を務めているが、2003年、米国務長官コリン・パウエル氏が国連で「イラクの大量破壊兵器開発・保有」演説を行った際の首席補佐官だった。
当時、イラク戦争に懐疑的な立場を持つ米政府関係者もいたものの、パウエル氏のあの有名な演説は、ネオコンが主軸だったブッシュ政権にイラク侵攻の大義名分を提供した。結局、イラクで大量破壊兵器は発見されず、米国は占領を続けた。
ウィルカーソン氏は、ブッシュ政権の誤った選択に知らぬまま一役買ったことを痛切に後悔、反省している数少ない人物だ。こうした苦い経験をもとに、彼は政界を去った後も、国民を欺きイラク戦争を支持したネオコン派と軍産複合体を痛烈に批判している。
――ウクライナでの戦争が長期化する中、米国内では戦争に対する疲労感が高まっています。昨年12月、バイデン政権とヴォロディミル・ゼレンスキー大統領の緊急要請にもかかわらず、米議会はウクライナへの追加資金援助を拒否しました。共和党を中心とする議員と有権者の多くは、ウクライナへの無条件援助に不満を抱いています。米国はウクライナに対する政策を変えるべきでしょうか?
ご指摘の通り、米国のウクライナへの支持は減少しており、これは当然のことです。国際情勢に詳しくない米国の国民でさえ、この戦争は理不尽であり、あまりにも長期化していると感じています。その一方、状況により精通した国民は、この戦争が米国の戦略的利益に合致しないことを認識し始めています。
明らかな事実は、ロシアが戦争に勝っており、米国の制裁によってロシアの経済が弱体化するどころか、むしろ強化されているということです。また、中国―北朝鮮とロシアとの間で暗黙の同盟関係が構築されている現実を認識しなければなりません。
戦争から得た天文学的な利益
――ではなぜ、バイデン政権は負けている戦争を支援し続けるのでしょうか?
戦争の長期化は、米国の軍産複合体が戦いを続けることにより、莫大な利益を上げていることに起因しています。トニー・ブリンケン国務長官とジェイク・サリバン国家安全保障顧問は明らかに非外交的ではありますが、このことをむしろ公言しています。彼らは、米国は戦争で血を流すことなくロシアを傷つけている、だからこの戦争は「善い戦争」だ、とほのめかしています。
過去5年間、退役する安全保障複合体の4つ星、3つ星の軍上層部の多くが政府職を離れ、軍需産業に関連する企業に入社しました。これはまさに防衛関連企業が、元エリート軍人たちの連絡リストと米政府に対する影響力を買っているということです。
私は30年以上米国の陸軍で勤務し、イラク戦争時にはパウエル氏の首席補佐官を務めました。痛切な経験をもとに、軍産複合体の内情、そして彼らがイラクやアフガニスタンでの戦争から得た天文学的な利益をよく承知しています。
ロシアの動機は「安全保障」
――ウクライナ戦争の初期段階において、モスクワが交渉に前向きであったことを示唆する証拠が明らかになっています。しかし、平和交渉は西側諸国(特に米英)によって阻止されたとの分析もあります。ロシア側が再び交渉テーブルに復帰する可能性はあるのでしょうか?
ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに対する侵攻を行った理由は、米国率いる西側諸国が、ゴルバチョフやエリツィンと交わしたNATOの拡大に関する約束をことごとく破ったからです。
プーチンとセルゲイ・ラブロフ外相の発言を見れば、この戦争は「領土」ではなく「安全保障」が第一の動機であることを明確にしています。プーチンはつい最近まで、停戦を前提とした交渉をする意思があると明言しています。これは交渉を開始するべきとの明確なシグナルですが、米国のジョー・バイデン大統領はそのようなメッセージが自分の再選に有利に働くまでは交渉に応じないでしょう。
20年後、イスラエルは国家として存在しない
――ウクライナで膠着状態が続く一方、中東では昨年10月7日に武力紛争が勃発しました。両方の戦争が起こる前である2021年、あなたはイスラエルが20年後には国家として存在しないだろうと予測しました。今もそのお考えをお持ちでしょうか?
もちろんです。イスラエルは、ガザ地区のみならず、ヨルダン川西岸と東エルサレムでの極めて残忍な戦闘、主に民間人やUNRWAの職員、病院スタッフ、その他の非戦闘員を殺害し続けることによって、「パーリア国家(pariah state)」の烙印を押されつつあります。今や世界各国がイスラエルを非難し、ひいてはイスラエルを支持する米国も憎んでいます。
しかし、イランがレバント(地中海東部沿岸地方)・南西アジアで神権国家であるように、ユダヤ国家であるイスラエルを救うには、米国の全面支援さえも不十分でしょう。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相はハマスの全滅を主張していますが、それは武力だけでは不可能です。ハマスも他のテロリスト集団と同様、テロリストのイデオロギーよりも強力な思想によって打ち負かす必要があります。民主主義がその思想の一つでありますが、ネタニヤフ首相はイスラエルの民主主義を破壊しています。
古代ユダヤの預言者エレミヤがイスラエル民の滅亡を堅く予言したように、私も自らの予言に揺るぎはないです。
中国、核兵器、気候変動危機
――一部の専門家は、ウクライナとパレスチナでの戦争が、米国とその同盟国の関心をより差し迫った安全保障上の脅威(中国)から目を逸らしていると主張します。特に、エルブリッジ・コルビー元米国防副次官補とシカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマーは、安全保障の軸足をアジアへ「再移動」するよう呼びかけています。この見解についてどう思われますか?
賛成です。中国だけでなく、核兵器と気候変動危機という、存亡に関わる二つの脅威 も含むべきでしょう。前者は条約体制がまったく残っておらず、後者はCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議、2023年11〜12月開催)での結果からも明らかになったよう、今世紀半ばにも破滅的な結果を招く可能性があります。
WW2後の同盟関係は過去の遺物
――インド太平洋での同盟関係が拡大する傾向にありますが、あなたはワシントン主導の安全保障体制には否定的な見解を示しています。
第二次世界大戦後に構築された同盟関係は、今日、その実用性と有効性を失いつつあります。
その中で最も成功したNATOは、今後10年以内に解体されるでしょう。米日、米韓との安全保障協定、QUAD(日本、インド、オーストラリア、米国の4カ国による安全保障グループ)、AUKUS(オーストラリア、英国、米国の3カ国による安全保障グループ)、ANZUS(オーストラリア、ニュージーランド、米国の3カ国による安全保障グループ)、あるいは太平洋島嶼 国とのさまざまな関係も、すべて過去の遺物であり、朽ち果てようとしています。
先に述べた存立危機に対処する、より実務性のあるグルーピングが必要とされます。例えば、米国、中国、日本、ロシア、インド、ブラジル、ドイツが新たな共同体を作り、現実的な議論を交わす必要があるでしょう。
米国の価値観は著しく劣化している
――日本は米国の「軍事介入」に対する消極的なスタンスを憂慮すべきでしょうか?
いいえ。しかし、なぜこのような不作為が起きているのかは懸念すべきでしょう。それは、ブリンケン国務長官が公言しているように、米国は戦争で儲けることに関心があり、それ以外のことには興味がないという、堕落した指導者の姿を描いているからです。
確かに今日の米軍は、最小限の兵力構成を満たすための十分な人材を確保することさえできず、急速に「紙の虎(Paper Tiger)」になりつつあります。しかし、5000発以上の核弾頭を保有している限り、戦争に対するこのような準備不足でさえ許されると考えているのです。日本や韓国など、米の同盟国は、我が国の価値観が著しく劣化していることを警戒すべきでしょう。
●ウクライナ 防空能力低下の分析相次ぐ 新指導部の対応に注目 2/12
ウクライナへの最大の支援国であるアメリカからの支援が滞る中、ウクライナがロシア軍のミサイルや無人機を撃墜する防空能力が低下するとする分析が相次いでいて、ウクライナ軍の新しい指導部の対応が注目されます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、防空能力の向上のために各国の首脳らに繰り返し支援を求めてきましたが、最大の支援国アメリカでは支援継続に必要な緊急予算が議会で承認されない状況が続いています。
アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは9日、アメリカ政府関係者の話として、ウクライナは欧米からのミサイルの補給などの新たな支援がなければ3月までしか防衛能力を維持できないと伝えました。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も10日、ここ数週間ロシアはミサイルや無人機による攻撃を激化させ、ウクライナの防空能力がさらに弱体化した可能性があるとしたうえで、ロシア軍が今後、地上での攻撃を支援する大規模な航空作戦に踏み切れば、ウクライナに重大な脅威となると指摘しています。
こうした中、ゼレンスキー大統領は11日、新しく総司令官に就任したシルスキー氏が務めていた陸軍司令官に、国防第1次官だったパブリュク氏を任命したほか、新しい統合軍司令官や空軍司令官なども任命しました。
ゼレンスキー大統領としては軍の指導部を刷新することで反転攻勢を立て直したい考えですが、今後の戦況にどのような影響が及ぶのか注目されます。
●フィンランド大統領選、55歳元首相が初当選…安保政策継続へ 2/12
北欧フィンランドで11日、大統領選の決選投票が行われ、即日開票された。中道右派「国民連合」のアレクサンデル・ストゥッブ元首相(55)が、中道左派の無所属ペッカ・ハービスト前外相(65)を破り、初当選した。
政府発表の開票結果によると、得票率(速報値)はストゥッブ氏51・6%、ハービスト氏48・4%。任期満了に伴う今回の大統領選には9人が立候補し、1月28日に行われた1回目の投票で上位2位になった両氏が決選投票に進んだ。
フィンランドの大統領の権限は限定的だが、外交や国防分野で政策決定に一定の影響力を持つ。ストゥッブ氏は親欧州連合(EU)派として知られ、ロシアの侵略を受けるウクライナへの支援や北大西洋条約機構(NATO)内の協力強化といった従来の外交・安全保障政策を継続する考えを示している。 
●ロシア経済、人口流出と技術不足で「難局」に=IMF専務理事 2/12
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は12日、ロシア経済について、経済成長は大規模な軍事費に支えられているものの、人口の流出と技術不足を受け、厳しい局面を迎えるとの見方を示した。
ロシア経済は2022年に1.2%のマイナス成長に陥った後、23年は3.6%のプラス成長に回復。IMFは今年の成長率が2.6%になると予想している。
ゲオルギエワ専務理事はCNBCに対し、ロシア経済の今年の成長率見通しについて、戦争経済に投資していることの表れだと指摘。軍事生産が増える一方で、消費が減退しているとし、「旧ソ連時代のように高生産・低消費の構造になっている」と述べた。
その上で「人口の流出に加え、(西側諸国の)制裁措置で技術へのアクセスが限定されているため、ロシア経済は極めて厳しい状況に直面する」と語った。
●モンゴル元大統領 “モンゴル帝国”の地図を プーチン大統領の主張を皮肉る 2/12
「ウクライナは歴史的にロシアの領土だ」などとしてウクライナ侵攻を正当化するプーチン大統領の主張に対し、モンゴルの元大統領がモンゴル帝国時代の地図を引き合いに出して当てこすりました。
ロシアのプーチン大統領は8日に公開されたアメリカのFOXニュースの元司会者、タッカー・カールソン氏とのインタビューでウクライナは歴史的にロシアの土地だったなどと主張し、ウクライナ侵攻を正当化しました。
これを受けてモンゴルのエルベグドルジ元大統領は12日、モンゴル帝国時代の地図をSNSに投稿しました。
地図では現在のロシアがモンゴル帝国の一部として描かれています。
エルベグドルジ元大統領は「モンゴルの歴史的な地図を見つけました。心配しないで下さい。私たちは平和で自由な国家です」と皮肉交じりのコメントを添えています。
ウクライナメディアは「モンゴルの元大統領がプーチン大統領に歴史の教訓を教えた」「プーチン大統領の主張に沿えばロシアを支配しているのが誰なのかを示唆している」などと報じました。
また、ロシア政府寄りの一部メディアもこのニュースを伝えていますが、モンゴル帝国の地図は載せていません。
●ロシア反戦候補、出馬拒否で訴訟へ 「国民2割が支持」 2/12
3月のロシア大統領選挙への立候補登録が認められなかったボリス・ナデジディン元下院議員は11日、中央選挙管理委員会の決定を不服として最高裁判所に訴訟を起こす考えを示した。プーチン政権を批判し、自身への支持率は20%に達すると主張した。
モスクワで日本経済新聞のインタビューに応じた。
中央選管は8日、ナデジディン氏が立候補登録のために提出した10万人超の署名について、登録の規定を超える約15%の署名に不備があるとして立候補を認めないと決めた。ナデジディン氏は「最高裁に大規模な訴訟を提起するよう準備している」と述べ、近く複数件の訴訟を起こす考えを示した。
中央選管による登録拒否のほか、選管が署名を審査した際の根拠となる法律についても不服を申し立てるとした。憲法裁判所に訴える可能性も示唆した。
中央選管の決定で、ウクライナ侵攻に明確に反対する立候補者はゼロになった。ナデジディン氏はこの状況を「不公平だ」と批判した。同氏を立候補登録するための署名活動に行列ができたことに触れ「もし今日が選挙だったら得票率は20%になるだろう」と主張、プーチン氏に次ぐ2位になるとの見方を示した。
ロシアの独立系メディアでは、政権を批判し明確な反戦姿勢を打ち出すナデジディン氏に反発したロシア大統領府が立候補登録を認めないよう選管に働きかけたとの見方も出ている。
ナデジディン氏は「正確なところは分からない。だが、選管の結論はそうしたバイアスを示していた」と述べ、政権が関わった可能性を匂わせた。
侵攻を続けるプーチン政権に対し「(特別軍事作戦は)プーチン氏の致命的な誤り。ロシアの将来に大きな打撃だ」と改めて強調した。
ナデジディン氏は大統領選後のロシア国内の政治イベントとして「2026年に予定されるロシア下院選が状況を変えるポイントになる」との見方を示した。大統領選の立候補登録で自身に約21万人分の署名が集まったことを踏まえ「政治的な支持を選挙結果に変える」と述べた。
中央選管によると、現時点で大統領選の候補者は現職のプーチン大統領のほか、ロシア共産党のハリトノフ下院議員、自由民主党のスルツキー党首、政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長の4人だ。
ロシア大統領選は3月15〜17日が投票日となる。無所属で立候補したプーチン氏は与党「統一ロシア」の支持を得ているほか、他の立候補者は明確に「特別軍事作戦」への反対などの意向を示していない。大統領選ではプーチン氏の当選が確実視されている。
ロシアメディアによると、プーチン氏は2月下旬から3月上旬頃に年次教書演説を実施する予定とみられている。「特別軍事作戦」を巡る動向や内政の安定などを国民に訴え、大統領選での「圧勝」につなげる狙いとみられる。
●政府 東南アジア4か国の海上保安当局に長期的支援の方針固める 2/12
日本政府は、フィリピンやベトナムなど東南アジアの4か国の海上保安当局に対して長期的な支援を行う方針を固め、計画作りに乗り出しました。専門家は、南シナ海で各国と領有権争いが続く中国を念頭にしたものだと指摘し、「各国にとって非常に力強い助けになる」と分析しています。
支援の窓口となるのはJICA=国際協力機構で、▽フィリピン、▽インドネシア、▽マレーシア、▽ベトナムを対象の重点国と位置づけ、10年程度の長期の計画を立てた上で支援を行う予定です。
各国のニーズを把握するための現地調査を、ことし1月にフィリピンとインドネシアで行ったほか、ことし4月ごろにマレーシアとベトナムで行う予定です。
各国の海上保安当局などとの協議をもとに、無人機やレーダーの整備、巡視船の供与、人材育成などについての具体的な協力計画を、来年3月までに策定することにしています。
南シナ海をめぐっては、中国がほぼ全域の管轄権を主張し、海上警備にあたる海警局に武器の使用を認める「海警法」を施行して、ことし2月で3年となり、中国の行動に周辺国が警戒を強めています。
中国とのトラブル相次ぐフィリピン 日本の支援強化に期待
支援の重点国の1つ、フィリピンの海上保安当局は、日本の支援強化に期待を示しています。
背景にあるのが、南シナ海で対立する中国の動きへの警戒感です。
フィリピンは、南シナ海の領有権をめぐって南沙諸島、英語名スプラトリー諸島にあるセカンド・トーマス礁の付近で、最近、中国とのトラブルが相次いでいます。
セカンド・トーマス礁はフィリピンが1999年に軍艦を座礁させて軍事拠点化していますが、フィリピン政府によりますと、特に去年8月以降、中国海警局の船がフィリピン側の船に放水するなど妨害しているということです。
去年12月には沿岸警備隊の巡視船などが中国海警局の船などから妨害を受け、輸送船のエンジンが損傷して航行ができなくなったとしています。
フィリピン沿岸警備隊には、2016年以降、日本から巡視船が相次いで供与されていて、おととしには大型の巡視船2隻も供与されました。
フィリピン沿岸警備隊によりますと、巡視船はこうした海域で活動しているということで、さらなる支援の強化に期待を示しています。
日本に留学し、国際法などを学んだ経験がある、フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ報道官は「日本の支援が途絶えると、沿岸警備隊には大きな影響が出る。中国と対じするなかで、日本の支援はとても重要だ」と話していました。
専門家 “尖閣諸島での不測の事態に備えるためにも重要”
中国の安全保障に詳しい、防衛省防衛研究所の飯田将史中国研究室長は、支援は海洋進出の動きを強める中国を念頭にしたものだと指摘した上で、「中国は最近、南シナ海で海警局を使って東南アジア諸国に対する圧力を強化している。各国としては、海上保安機関の能力構築を支援してもらえることは、対抗していく上で非常に力強い助けになる」と話しています。
また、飯田室長は、日本側の支援の強化のねらいについて、今後、沖縄県の尖閣諸島での不測の事態に備えるためにも重要だと指摘しています。
飯田室長が注目するのが、最近の南シナ海をめぐる中国側の動きと、ことし2月で施行から3年となる「中国海警法」の存在です。
「中国海警法」では、中国が管轄する海域などに外国の組織や個人が設けた構築物などを強制的に撤去できることが明記されていることから、中国側が今後どのような行動をとるか、注視する必要があると指摘します。
飯田室長は「フィリピンが設置している構築物が中国側に撤去されることになれば、日本が灯台を設置した沖縄県の尖閣諸島に対して同じような行動を取ることを予知しているようにも見える。日本にとっても見過ごせず、重要だ」と述べました。
その上で、「南シナ海で中国側に国際法などのルールを逸脱する行動を許さないようにするための支援は、わが国にとっても非常にプラスになる」と、フィリピンなどへの支援強化の動きを評価しています。

 

●ロシア反戦候補 最高裁判所に訴訟 大統領選挙の登録拒否を受け 2/13
ロシアで「反戦」を訴える政治家のナジェージュジン氏が、大統領選挙の候補者登録を拒否されたことを受けて、最高裁判所に訴訟を起こしました。
ナジェージュジン氏は12日、中央選挙管理委員会が「支持者の署名は無効」だとして大統領選挙の候補者登録を拒否した件を受けて、最高裁判所に提訴しました。この日は、書類の形式をめぐる2件の訴訟を起こし、3件目を16日までに行うとしています。
選管は8日、署名に記された住所と内務省のデータに齟齬があるとして、署名の多くを無効と判断していました。
●「軍事費を払わないNATO国への侵攻をロシアに促す」…トランプ氏 2/13
11月の米大統領選挙の有力候補であるトランプ前大統領が、再び同盟の価値を無視する発言をした。トランプ氏は在任中、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議の逸話を紹介し、「(NATO加盟国の)首脳から『十分な軍事費を負担していない加盟国がロシアに攻撃された場合、米国は防衛しないのか』と質問された時、『防衛しない。むしろ、ロシアに対し望むようにするよう促す』と答えた」と発言した。選挙集会での発言とはいえ、ロシアのプーチン大統領の好戦性を考えると、危険な発想だ。1950年、米国が極東防衛線で「日本は含めるが、韓国は除外する」という趣旨のアチソン宣言をしたことが想起される。この発表は北朝鮮の金日成(キム・イルソン)主席の誤った判断の要因となり、5ヵ月後に韓国戦争が勃発した。
トランプ氏の今回の発言は、同盟軽視あるいは無知を露呈するもので、「トランプリスク」が実在することを再確認させる。米国、カナダ、欧州など32ヵ国が参加するNATOのような集団防衛体制であれ、韓米同盟のような1対1の同盟であれ、軍事同盟は参加国すべてが共同受益者だ。米大統領のうち、トランプ氏だけが「米国だけが損をする」という認識を繰り返し示している。トランプ氏が再選する場合、プーチン氏、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記などが米国の同盟意志と安定維持の努力を過小評価する可能性がある。
韓米同盟の先行きも心配される。まず、同盟を金だけで判断する点だ。NATO加盟国の多くが「2024年までに国防費を国内総生産(GDP)の2%まで引き上げる」という約束を守れなかったのは事実だ。だからといってロシアの侵攻を防衛しないというのはとんでもない。第2に、相互防衛という文書上の約束を一人の考えだけで無効にできるという発想だ。NATO条約第5条は、加盟国が攻撃されたときに共同対応を約束している。このような文書さえも守らないなら、米国はNATOはもとより韓国、日本、フィリピン、イスラエルなどと結んだ同盟のリーダーシップをどう維持するのか。同様の約束を盛り込んだ韓米両国も、相互防衛条約第3条を無視する可能性があるという懸念を生むことになる。
トランプ氏の今回の発言は、テレビカメラの前で2度繰り返された。大統領在任中、安保参謀たちの反対で同盟軽視が実際の政策につながったのは一部にすぎなかったが、忠誠派の比重がより大きくなった政権2期は予断を許さない。トランプ氏は、「なぜ他国のために私たちの金と命を使わなければならないのか」という質問を得票に活用してきた。トランプ氏が再選すれば、軍事費の増大、在韓米軍の削減要求は恒常的なものと見て準備しなければならない。また、正恩氏とのイベントの試みや、韓国が世界的な紛争の解決の努力を求められることが増える可能性もある。
●トランプ氏再選なら米国はNATO離脱、元側近らが警告 2/13
米国のトランプ前大統領は先週末、軍事費の拠出が基準に満たない欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対しては、ロシアによる侵攻を促すと発言した。米国の同盟国がこの発言に動揺する中、トランプ氏のかつての側近の多くは同氏が大統領2期目の就任を果たした場合、米国のNATOからの正式な離脱を模索するだろうと警鐘を鳴らしている。
元側近らは、記者が3月12日刊行予定の書籍の中で警告した。トランプ、バイデン両政権に加わったある高位当局者は、トランプ氏が11月の大統領選でバイデン大統領を破れば、「米国はNATOから離脱するだろう」と語った。
トランプ政権の大統領補佐官(国家安全保障担当)だったジョン・ボルトン氏も「NATOは本当の危機に陥るはずだ」「彼(トランプ氏)は離脱を試みると思う」と述べた。
退役将軍でトランプ政権の大統領首席補佐官だったジョン・ケリー氏によれば、米国の安全保障責任を軽視するトランプ氏の姿勢は、日本や韓国との相互防衛協定にまで拡大するとみられる。NATOを全く重視しなかったトランプ氏は、抑止力としての日韓両国での米軍駐留にも強く反対していたという。
トランプ氏はロシアのプーチン大統領も北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記も問題視しておらず、むしろ米国がNATOに加盟していることでプーチン氏を刺激する形になっているとの考えを示唆していたと、ケリー氏は振り返った。
これらの元高官らは、トランプ氏が大統領に返り咲けばウクライナと台湾に対する支援も縮小すると見込む。
ボルトン氏は、自分がウクライナや台湾の立場なら、非常に憂慮する状況だとの見解を示した。
●貨物車両の列30キロ、防壁か ロシア軍、ドネツク州の占領地 2/13
米シンクタンクの戦争研究所は11日の戦況分析で、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の占領地内で、貨物列車の車両の列を約30キロにわたって築いたと指摘した。2100両以上を同州オレニフカからボルノバハの間に設置した。ウクライナ軍に攻め込まれた際、防壁として使うとみている。
車両の列から前線まで最も近い場所で約6キロという。昨年7月に車両を連ね始め「皇帝列車」と呼ばれているとの情報もある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、シルスキー軍総司令官の就任後初めて、シルスキー氏らと会議を開いたと通信アプリに投稿した。兵力増強を目指す方針を確認したという。
●ロシア、ウクライナで極超音速巡航ミサイル使用か 侵攻後初めて 2/13
ロシアは先週行ったウクライナの首都キーウ(キエフ)への攻撃で、極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」を使用したもよう。キーウ科学研究所所長が暫定段階の分析を発表した。極超音速巡航ミサイルが使用されるのはロシアのウクライナ侵攻開始以降初めて。
同所長はテレグラムで、7日の攻撃で使用されたミサイルの破片の暫定調査を完了したとし、「3M22ツィルコンミサイルに特有の要素を確認している」と明らかにした。
7日起きた攻撃では、ロシア軍は朝のラッシュアワーの時間帯にキーウを含む複数の都市を標的にミサイル攻撃を実施。ウクライナ当局によると、5人が死亡し30人以上が負傷した。
ロシアは2022年6月、ツィルコンの発射実験を完了したと発表。プーチン大統領はツィルコンを比類のない次世代の兵器システムの一部と位置付けていた。
●今こそウクライナを強力に支援せよ 2/13
1月14日、ロシアの早期警戒機A50(メインステイ)がウクライナ南東のアゾフ海上空でウクライナ軍の対空ミサイルによって撃墜された。日本ではあまり報道されていないが、外国メディアはこの日をロシア軍の「暗黒の日」と伝えた。A50 が撃墜された軍事的意味は大きい。
A50は、半径650キロ以内の航空機を発見し、半径300キロ内の地上目標を探知できる。ロシアの対ウクライナ軍事作戦には欠かせない装備である。米軍の空中警戒管制機(AWACS)E3に相当するが、E3が空中目標だけを対象とするのに対し、A50は地上目標も対象にする。米軍の地上目標専用の早期警戒機E8(ジョイントスターズ)の機能を兼ね備えた装備である。
早期警戒機撃墜で戦況変化も
西側情報筋によると、開戦前、ロシアはA50を6〜9機保有しており、故障が多く稼働率は5割以下といわれる。昨年2月にはウクライナによるドローン攻撃で1機を地上で失っている。制空権獲得、対地攻撃、空地連携などの作戦には不可欠で、しかも数が少なく、高価であるため、ロシア軍にとっていわば「虎の子」である。これを新たに1機失ったこと、特に十数名の熟練クルーを同時に失ったことは、ロシア軍にとって大きな痛手となる。
ウクライナ軍は二つの致命的な弱点を抱える。制空権を獲得できないことと、外国の武器弾薬支援に大きく依存していることである。
今年夏にはF16戦闘機約40機が北大西洋条約機構(NATO)諸国からウクライナに供与される。これが戦力化されると弱点が補強され、戦況は大きく変わる可能性がある。ロシアはF16が戦力化される前に、これを地上で壊滅させようとするだろう。この作戦にA50は欠かせない。
米国からの武器弾薬の支援は、議会で予算が通らずストップしているが、欧州連合(EU)は4年間で総額500億ユーロ(約8兆円)の支援を決めた。支援物資が現場に届く前に地上で叩くのが作戦の常道である。この作戦にもA50は必須である。
今回の撃墜で、ロシア軍によるA50の24時間運用はますます困難となり、警戒監視に空白が生じることが予想される。ウクライナ軍は当然その間隙を突いて行動するだろう。ここに一筋の光明が差す。
日本ができる間接軍事援助
日本は、この一筋の光明を増幅すべく、今こそウクライナに強力な支援を実施すべきである。先ずは、昨年末の防衛装備移転三原則の運用指針改正で米国への輸出が可能になったライセンス生産品の地対空ミサイル「パトリオット2」(PAC2)を大幅に増産し、対米輸出を継続することだ。ウクライナへの軍事支援で足りなくなった米軍の備蓄を日本からの輸出で補えば、日本にとって間接的な対ウクライナ軍事支援となる。同様なやり方で砲弾の支援も検討すべきだろう。
ウクライナ戦争は、ロシアの「力による現状変更」、つまり明白な侵略戦争である。これを成功させれば国際秩序は崩壊する。中国による台湾侵攻、尖閣、沖縄への侵略を促す可能性もある。日本はあらゆる支援を検討し、ロシアに勝たせてはならないのだ。
●島サミット閣僚会合「一方的な現状変更の試みに強く反対」と議長総括… 2/13
日本と太平洋島嶼(とうしょ)国は12日、フィジーの首都スバで「太平洋・島サミット」閣僚会合を開いた。覇権主義的な行動を強める中国を念頭に、「一方的な現状変更の試みに強く反対する」などと盛り込んだ議長総括を発表し、「地域の課題に対処するため、パートナーシップを更に強化する」と宣言した。
閣僚会合には、島嶼国を中心に計17か国・地域が参加し、日本の上川外相とクック諸島のティンギカ・エリカナ外務・移民相が共同議長を務めた。
議長総括は「ルールに基づく国際秩序を堅持することは、グローバルな平和と安定のためにかつてなく重要になっている」と強調した。ロシアによるウクライナ侵略も踏まえ「いかなる侵略戦争にも反対し、恒久的かつ持続可能な平和を追求する」との立場を示した。
東京電力福島第一原子力発電所の処理水を巡っては、国際原子力機関(IAEA)が昨年7月、「国際的な安全基準に合致している」とする包括報告書を公表したことに「留意」し、「科学的根拠に基づくことの重要性で一致した」と明記。処理水を同サミットの常設議題とする方針も確認した。
上川氏は閣僚会合後、記者団に「(島嶼国と)共有する価値や原則を確認できた」と語った。一方で、島嶼国側で会合に外相が参加したのは、パラオなど6か国にとどまった。一部の国が、地域で影響力を増す中国に配慮した可能性もある。
日本と島嶼国は閣僚会合の成果も踏まえ、7月に東京で首脳級によるサミットを開催する予定だ。
●86%が「高齢過ぎる」と回答…バイデン大統領(81)「記憶力の乏しい高齢者」指摘され不安広がる トランプ氏(77)は62% 2/13
アメリカのバイデン大統領(81)が「2期目を務めるには高齢すぎる」と、有権者の約9割が回答した。
ABCなどが行った世論調査によると、11月の大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領について、有権者の86%が「2期目を務めるには高齢すぎる」と回答した。
バイデン氏の年齢をめぐっては、先週、機密文書を自宅に持ち出した問題を捜査していた特別検察官が、報告書で「記憶力の乏しい高齢者」などと指摘し、職務遂行能力に不安の声が上がっていた。
アンケートでは、同じ問いを共和党の有力候補のトランプ前大統領(77)についても行っていて、62%が「高齢すぎる」と回答している。
●ウクライナ軍 東部アウディーイウカ周辺 追加の部隊を投入 2/13
ウクライナ東部のアウディーイウカ周辺でロシア軍が攻撃を強める中、ウクライナ軍は追加の部隊を投入していると明らかにし、防衛を継続できるかが焦点となっています。
ウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカ周辺では、包囲を試みるロシア軍が攻撃を強めていて、ウクライナ軍の指揮官は10日、「わが軍は防衛線を強化し、陣地を増やし、新しい効果的な戦力を使う」とSNSに投稿し、部隊の追加投入を明らかにしました。
これについてアメリカの経済誌フォーブスは11日、投入されるのは軍の精鋭部隊の1つで、東部に予備として温存していた唯一の部隊とみられるとして「軍は町にとどまって戦うことにより大きなリスクを取ろうとしている」と伝えました。
ゼレンスキー大統領が今月、軍の総司令官を交代させた際、アウディーイウカのため大きな犠牲を払っても戦い抜く意向を示した可能性があるとも指摘しています。
ロシア側が犠牲もいとわず多くの兵力を投入しているとみられる中、ウクライナ軍が防衛を継続できるかが焦点となっています。
一方、ロシアのプーチン大統領は12日経済関係の閣僚などとの会議で「最新のデータによれば去年のGDP=国内総生産の伸び率は3.6%で、世界平均のペースを上回った」と述べました。
さらに「ことし初めの経済活動は高い水準にある。状況は政府や専門家の期待どおりに進んでいる」などと述べ、欧米から制裁を受け、石油収入への依存も指摘される中、ハイテク分野などで高い成長率を記録していると強調しました。 
●ロシアの良き隣人、中国の銀行が制裁を恐れて逃げ始めた 2/13
ロシア政府は、中国のある銀行がロシア輸出業者との取引のすべてを一時的に停止すると決定したことに関する懸念を打ち消そうとしている。ウクライナ戦争で西側諸国からの孤立がいっそう深まるロシアにとって、中国の銀行によるこの動きは、ロシアの主要なライフラインを危うくするものだ。
ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官は、自国企業と、隣国である中国との間の決済に、(金融取引サービスSWIFTの代わりにロシアで使われているSPFSも含めて)問題は生じていないと主張した。
ロシアの国営通信社であるタス通信は2月9日、ルデンコの発言として次のように伝えた。「大した問題ではない。中国のいくつかの銀行は、(欧米に)制裁されることを恐れて、予防策として取引を自粛している。しかし、この問題は解決されると確信している」
中国は、ウラジーミル・プーチン大統領が2年前、ウクライナへの侵攻を決断したとき、表立ってはロシアを批判しなかったありがたい国だ。だが中国政府がロシアを政治的支えているのに対し、中国の多くの企業や金融機関は、西側の制裁を回避しようとしている。
春節明けが危ない
中国の大手銀行のいくつかは、アメリカの制裁を受けているロシア防衛産業との取引を警戒し、自行のサービスにアクセスすることを制限したり、関係を断ったりしている。ウクライナ侵攻に抗議してマスターカードやビザカードがロシアから撤退した後、それに代わる決済システムだと謳っていた中国のユニオンペイも、リスクが高過ぎるとしてロシアとの取引を停止した。
それでも、2023年における中国とロシアの二国間貿易は活況だった。中国の通関データによれば、エネルギーと農産物の輸入増加に後押しされ、年間輸入額は前年比26.3%増の2401億ドルに達した。
ロシアのビジネス紙ベドモスチは2月第2週、浙江長州商業銀行がロシアおよびベラルーシの顧客との取引をすべて停止したと報じた。ベドモスチによれば、中国東部にあるこの銀行は、西側の制裁を受けるリスクは限定的と考えられ、しかもロシアの輸出業者各社にとっては主要な金融機関だった。
浙江長州商業銀行が、ロシアおよびベラルーシ企業との決済を、全ての通貨に関して停止したのは、2023年12月に米国が発表した対ロシア金融規制の拡大と関連しており、「二次的制裁」を受けるリスクが拡大するのを恐れた可能性がある。
本誌の取材に応じた専門家たちは、今回の動きの影響は、中国の経済活動が一般的に低水準となる春節後に現れる可能性が高いと述べた。
タス通信によればルデンコは、浙江長州商業銀行が慎重すぎる可能性を示唆しながら、ロシアと中国がこの問題を解決することへの自信を見せた。
ルデンコは、ロシアが中国との貿易を拡大していることを指摘した。ロシアによれば、2023年の二国間貿易はほぼ例外なく、ロシアのルーブルか中国の人民元で決済されていた。「そしてこれは、私たちが問題を解決している第一の証しだ」
「脱ドル化」をめざす
ルデンコの発言は、ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官の発言と酷似している。ペスコフは2月第2週、ロシアは「中国の友人たちと緊密な対話(を行なった)。もちろん、現在生じている問題はすべて解決するつもりだ」と報道陣に語った。
ロシアは、同国における戦時経済の「脱ドル化」に成功したことを誇示しようとしている。ロシア連邦中央銀行のエリヴィラ・ナビウリナ総裁は1月後半、ロシアの国営通信社RIAノーボスチに対し、ロシアの対中輸出入の3分の1以上が人民元で決済されるようになったと述べている。
●プーチン氏、候補者討論不参加を通告 中央選管に 2/13
ロシア中央選挙管理委員会は13日、3月の大統領選で通算5選を目指すプーチン大統領の選挙対策本部から、国営テレビによる候補者討論番組への参加を拒否するとの正式通告を受けたと明らかにした。
一方、ロシア共産党のジュガーノフ委員長は13日、同党下院議員らとの会合で、プーチン氏の連邦議会への年次報告演説が今月末に行われるとの見通しを示した。インタファクス通信が伝えた。
プーチン氏は対立候補との直接討論は避け、大統領として内政外交の基本政策を示す年次報告を投票前に実施して公約表明に代える戦略とみられる。
ペスコフ大統領報道官は今月6日、年次報告がロシアで「祖国防衛者の日」に当たる今月23日から3月上旬の間に行われる可能性を「排除しない」と述べていた。
大統領選の投票は3月15〜17日。中央選管はプーチン氏を含む4人を候補者として正式登録した。
●ロシア、エストニア首相らを指名手配 「敵対行為」で 2/13
ロシア当局は12日、エストニアのカヤ・カラス首相らを、刑事事件で「指名手配」したことを明らかにした。ロシア大統領府はその理由として、カラス氏らバルト3国の閣僚の「敵対行為」を挙げた。
ロシア内務省の指名手配被疑者データベースには、「刑法に基づく指名手配」と表示されている。罪名は記載されていない。
カラス氏の他、同国のタイマル・ペテルコプ国務長官、リトアニアのシモナス・カイリース文化相も指名手配されている。ウクライナ侵攻開始以来、ロシアとバルト3国の緊張がさらに高まっていることを示す動きだ。
電話取材に応じたロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は3氏について、「歴史的記憶とわが国に対する敵対行為に及ぶ者」だと説明した。
国営タス通信(TASS)は先に治安筋の情報として、3氏は第2次世界大戦時の「ソ連兵(をたたえる)記念碑を破壊・破損」した罪に問われていると報じた。
近年バルト3国では、ソ連に占領されていたとの認識から、第2次大戦後に受け継いだ一部の記念碑が、ソ連時代を拒否する姿勢の表明として解体されている。
●揺れるロシアの勢力圏 もう1つの「戦争」でロシア離れが加速? 2/13
「ロシアに裏切られ、私は故郷を失いました」
涙ながらにこう打ち明けたのは、ロシアの南に位置するアルメニアにいる女性です。
アルメニアは去年、隣国アゼルバイジャンとの武力紛争に敗れ、12万人を超える避難民が発生する事態となりました。
ロシアのプーチン大統領がみずからの“勢力圏”とみなしてきた旧ソビエト諸国。
ウクライナへの侵攻を始めてからまもなく2年となりますが、その“勢力圏”で、ロシア離れの動きが顕在化しています。
アルメニアとは?
ロシアの南側に位置し、トルコやイランと接しているアルメニア。
4世紀、世界で最も古くキリスト教を国教とした国としても知られています。
旧ソビエトを構成していた共和国の1つで、人口はおよそ280万。
公用語のアルメニア語とともに多くの国民はロシア語も話し、エネルギーや経済でもロシアに依存しています。
アルメニアの首都エレバン
ただ、近年、ロシアとの関係が悪化。
その動きがさらに強まったのが「ナゴルノカラバフ」をめぐる問題です。
ナゴルノカラバフ問題とは?
ナゴルノカラバフは、アルメニアの隣国アゼルバイジャンの西部にある地域で、アルメニア系住民が多数を占めていました。
「ナゴルノカラバフ」とは現地の言葉で「山にある黒い庭」という意味で、山岳地帯にある肥沃な土壌に恵まれた土地であることを表しています。
アルメニアがキリスト教を国教とする一方、アゼルバイジャンはイスラム教シーア派の人々を主体としていて、いずれも旧ソビエトの共和国でしたが、1991年のソビエト崩壊とともに、それぞれ独立しました。
ソビエト崩壊の前後に、ナゴルノカラバフのアルメニア系住民がアゼルバイジャンからの独立の動きを強め、アルメニアとアゼルバイジャン双方がその帰属を主張して激しく対立、武力衝突が起きたのです。
係争地のナゴルノカラバフ(2017年)
ナゴルノカラバフめぐる対立 どうなった?
1994年、ロシアの仲介でいったん停戦に合意しましたが、アルメニア側は、ナゴルノカラバフを実効支配し、その周辺のアゼルバイジャンの領土も占領。
アルメニアはロシアが主導する軍事同盟CSTOに加盟し、ロシアを後ろ盾とした一方、アゼルバイジャンは民族的にも近く、同盟関係にあるトルコからの支援をうけて、その後もたびたび、衝突を繰り返してきました。
CSTO=集団安全保障条約機構 / ロシアが主導する軍事同盟。アルメニアのほか、ベラルーシや中央アジアのカザフスタン、キルギス、タジキスタンが加盟
近年、アゼルバイジャンはカスピ海の油田開発で経済成長を遂げ、軍事力を増強。
2020年に再び大規模な武力衝突に発展し、双方あわせて5600人を超える死者が出る事態となりました。このとき、アゼルバイジャンはトルコから最新の攻撃型無人機の支援も得て、多くの地域をアルメニア側から奪い返しました。
一方、アルメニアの後ろ盾であり、仲介役を担ってきたロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始。
こうしたなか、2023年9月19日にアゼルバイジャンが対テロ作戦を名目とした軍事行動を起こしたのです。
「ロシアに裏切られた」故郷失った女性は
アゼルバイジャンが軍事行動を始めた当時、ナゴルノカラバフにいた住民に話を聞くことができました。
アリョーナ・サルグシャンさん(33歳)です。
ナゴルノカラバフで生まれ育ち、中心都市ステパナケルトで料理学校の先生をつとめていました。将来はイタリアやフランスにも留学し、料理の腕を磨くことを夢見ていたといいます。
しかし、このアゼルバイジャン側からの攻撃で生活は一変しました。
サルグシャンさん「攻撃の音が聞こえたとき、私は職場の学校にいましたが、母が心配で急いで家に戻りました。銃撃音が激しくなり、私と母は家の地下室に入りました。姉は職場にいて連絡がつかず姉のことが心配でした。街にミサイル攻撃が始まり、これでもう終わりだと思いました」
そして9月20日。
アゼルバイジャンが軍事行動を始めてわずか1日で、アルメニア側は武装解除を受け入れ、敗北しました。
現地に住むアルメニア系住民は「ナゴルノカラバフ共和国」として“国家”を自称してきましたが、その行政組織も解体され、2024年1月1日に「ナゴルノカラバフ共和国」は消滅しました。
ナゴルノカラバフには12万人のアルメニア系の人々が住んでいましたが、ほとんどの住民が避難民としてアルメニアなどに逃れています。
サルグシャンさんも現在、アルメニアの首都エレバンで、知り合いのアパートに住んでいますが、仕事は見つからず、厳しい生活を送っています。
生まれ育った故郷はなぜ失われたのか。涙ながらに自らの思いを語ったサルグシャンさん。
アルメニアはロシアの軍事同盟に加盟し現地にはロシア軍も駐留していたのに、なぜアルメニア系住民を守らず同盟国としての役割を果たさなかったのかと、ロシアへの強い不信感をあらわにしました。
サルグシャンさん「ロシアは私たちを裏切ったのです。ロシアは全く頼りにならないと確信しました。現地にいたロシア軍の平和維持部隊の兵士は私たちを助けず、アゼルバイジャン人がいる地域にいかせたのです。私は故郷を失い、父の墓も失ってしまいました。大きな悲劇です」
なぜロシアはアルメニアを助けなかった?
歴史的にも関係が深いロシアとアルメニア。
大きな転機となったのは、2018年に起きた民主化運動の結果、欧米との関係も重視するパシニャン政権が誕生し、ロシアとの政治的な関係が冷え込んだことです。
パシニャン政権発足後、2020年に起きた大規模衝突で、双方あわせて5600人を超す死者が出たときも、ロシアのプーチン政権は「ナゴルノカラバフはアルメニアではなく、防衛義務はない」と突き放しました。
アルメニアの首都エレバン中心部から少し外れた高台を訪れると、兵士たちが眠る集団墓地がありました。
長年にわたるナゴルノカラバフ紛争で亡くなった数多くの兵士たちが埋葬され、中には、10代の若さで亡くなった兵士の墓もあり、墓参りに訪れた遺族が涙をぬぐう姿も見られました。
そのナゴルノカラバフを失ったことで、アルメニアの人たちのロシアに対する意識にも変化が出ています。
去年11月、アルメニアで行われた世論調査では、アルメニアはロシアとの関係を強化すべきだという声は1年前の17%から14%へと低下。
その反面、EUとの関係を強化すべきだという声は17%と1年前の9%から上昇したのです。
「ロシア離れ」の動きが加速?
ナゴルノカラバフでの敗北以降、パシニャン首相は、ロシアが主導する旧ソビエト諸国の首脳会議を相次いで欠席。
また去年9月には、アメリカ軍と合同軍事演習を実施したほか、フランスのマクロン政権からも兵器購入を取り付けました。
パシニャン首相は今月、地元メディアに対し「もはやロシアを主要な安全保障のパートナーとして頼ることはできない。アメリカやフランスなどとより緊密な関係を築くことを検討すべきだ」と発言し、欧米側に一段と接近する姿勢を示しているのです。
さらに、パシニャン政権はICC=国際刑事裁判所の加盟に必要なローマ規程も批准し、今月、ICCに正式に加盟しました。
ICCはウクライナへの軍事侵攻を続けるプーチン大統領に対し、戦争犯罪などの疑いで逮捕状を出しており、プーチン大統領がアルメニアを訪れれば、拘束する義務が生じることになります。
一方、欧米側も、アメリカの政府高官がアルメニアを相次いで訪問するなど、この地域への関与を強める動きを示しています。
欧米各国の活発な外交活動について、外交筋からは、ロシアの影響力を弱めるとともに、この地域の南に位置するイランを牽制するねらいもあるという見方が出ています。
ロシアの軍事同盟から離脱も?
それではアルメニアは今後、自国の安全保障にどう取り組むのか。
かつてパシニャン政権で安全保障政策を担当したアレグ・コチニャン氏は、アルメニアは欧米と接近しながら、インドからも大量の兵器を購入するなどグローバルサウスの国々とも多角的に関係を強化し、脱ロシア政策を進めようとしていると指摘。
パシニャン政権は、ことし中にもロシア主導の軍事同盟CSTOから離脱する可能性があるとしています。
コチニャン所長「この地域は、いま劇的に変化しており、もはやロシアの“裏庭”ではありません。
アルメニアが最もロシアに依存してきたのがナゴルノカラバフをめぐってでしたが、われわれはナゴルノカラバフで裏切られました。安全保障をロシアに過度に依存するという戦略的な同盟関係は間違いだったということです。今こそ変える必要があります。
ロシア中心主義の関係はもう終わりであり、アルメニアはロシアから1歩1歩距離を置いていかねばなりません。最終的には、CSTOから離脱することです」
ウクライナの次はアルメニア?
一方で、パシニャン政権の急速なロシア離れの動きには、アルメニア国内から懸念する声も根強く聞かれます。
ナゴルノカラバフでジャーナリストとして活動してきたバン・ノビコフさんも去年9月の軍事衝突の後、アルメニアの首都エレバンに逃れてきました。
現在は、アルメニアの国営通信で記者として働いているノビコフさん。
故郷を失ったことに強い喪失感を感じていますが、歴史的な関係が深く、経済面などでも強い結びつきがあるロシアと関係を断ち切ることは難しいと考えています。
ノビコフ記者「ロシアにもおよそ200万人ものアルメニア人がいるのです。今更、われわれは後戻りすることなどできません。ロシアとの関係をさらに強化しなければなりませんが、アルメニアはしばらくの間、そうした可能性を逃していたように思います」
また、最大野党の幹部、ゲガム・マヌキャン議員は、ロシア離れを急速に進めるパシニャン政権の動きはむしろ危険だと指摘します。
アルメニアには、ロシア軍も駐留しているだけに、欧米などNATOの軍事同盟に接近する動きはロシアのプーチン大統領の不信感を拡大させ、軍事的な介入すら招きかねないと警告しています。
マヌキャン議員「アルメニアにはロシアの軍事基地もあります。ロシアが存在しないと考えることは不可能です。パシニャン首相は、アルメニアの安全保障と外交政策を変えようとしていますが、ジョージアやウクライナでは悲劇的な結果を招きました。われわれは、このことを心にとどめなければなりません」
プーチン大統領はどうでるのか
アルメニアを「勢力圏」と位置づけてきたロシアのプーチン大統領は、パシニャン政権の動きに不快感を示しています。
ロシアの有力紙は、政府高官の話として「アルメニアは、次のウクライナ、モルドバになりかねない」と伝えるなど、緊張も高まりました。
プーチン大統領「ロシアがナゴルノカラバフを見捨てたわけではなく、判断したのはアルメニアだ。アルメニアが旧ソビエト諸国でつくるCISや、ロシア主導の軍事同盟、CSTOなどの加盟をやめることはアルメニアにとって利益とはならないだろう」
こうしたなか、2023年の年末、プーチン大統領はみずからの出身地でもある第2の都市サンクトペテルブルクで、旧ソビエト諸国の首脳を集めた会議を開催。
この場に、パシニャン首相を“呼び寄せ”たのです。
プーチン大統領はパシニャン首相と握手を交わし、言葉をかける様子も見せ、旧ソビエトの首脳らを前に、改めて勢力圏の引き締めを印象づけようとしました。
アルメニア さらなる戦争の懸念も?
ナゴルノカラバフを失うこととなったアルメニア。現在、アゼルバイジャンとの間で和平交渉が行われています。
ただ、現地の人々からは「戦争はこれで終わりではない。軍事的な勝利で勢いに乗るアゼルバイジャンが、今度はアルメニア本国にも侵攻するのではないか」という不安の声も聞かれるなど、戦争の火種は依然としてくすぶっています。
ウクライナへの軍事侵攻で政治的にも軍事的にも余裕がないロシア。
ウクライナだけでなく、旧ソビエト諸国だったジョージアやモルドバのロシア離れは鮮明となっています。
また、カザフスタンなど中央アジアの国との間にも隙間風が吹き、欧米や中国などが関与を強める中、アルメニアのロシア離れがさらに進めば、勢力圏の他の国々にも波及しかねません。
ウクライナ侵攻から24日で2年となり、3月には大統領選挙も控えるプーチン大統領。欧米との対決が長期化する中、揺らぎつつあるロシアの勢力圏の引き締めが大きな課題となっています。

 

●ロシア、占領地維持を条件に米国にウクライナ停戦を非公式打診も米は拒否 2/14
ロシアによるウクライナ侵略で、ロイター通信は13日、ロシアが昨年、既存の占領地域を維持する条件でウクライナと停戦することを米国に非公式に打診したが、米国はウクライナ抜きでの停戦協議には応じられないとして拒否したと伝えた。これを受け、ロシアは米国との接触は無意味だと判断し、軍事作戦の継続を決めたという。ロシア側消息筋3人の話としている。
ロイターによると、ロシアは中東地域の第三国などを仲介役として停戦案を米国に提示。昨年末〜今年初めに関係者の協議が行われた。ロシア側の提案は米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)やバーンズ中央情報局(CIA)長官、ブリンケン国務長官らに伝達された。
ロシアはサリバン氏とウシャコフ露大統領補佐官の間で停戦に向けた調整を進める構想を立てていたが、サリバン氏は1月にウシャコフ氏に電話し、「ウクライナを除外して停戦を協議することはできない」などと伝えたため、米露の接触は破綻したという。
ロイターは米ホワイトハウスと国務省、CIA、露大統領府にコメントを要請したが、いずれも拒否されたとした。ある米当局者がロシアとの非公式接触自体を否定したとも伝えた。
一方、独立系の露語メディア「メドゥーザ」は、ロイター報道へのコメント要請に対し、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問が「フェイクであり、ロシアのプロパガンダだ」と述べたと伝えた。
●米、プーチン氏のウクライナ停戦案を拒否 2/14
ロシアのプーチン大統領が、現在の占領ラインに沿ってウクライナでの戦闘を凍結する停戦案を提示したものの、米国がこれを拒否した。ロシアの情報筋3人がロイターに対し明らかにした。
情報筋によると、プーチン大統領は昨年、公の場および、中東地域のパートナー国を含む仲介役を通じ、米国に対しウクライナでの停戦を検討する用意があるというシグナルを送った。
仲介者らは2023年末にトルコで会合を開催し、プーチン大統領のシグナルは米政府に伝えられた。その後、米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が次のステップについて、ロシアのウシャコフ大統領補佐官と対話する運びとなっていた。
ところが1月に入り、サリバン氏はウシャコフ氏に対し、米国は他の分野について対話する用意があるものの、ウクライナ抜きで停戦について協議しないと伝えてきたという。
情報筋の1人は「米国側との接触は徒労に終わった」とし、別の関係筋も、ウクライナの参加なしに停戦の可能性について協議しないとする米国側の主張により両国の接触は失敗に終わったと述べた。米国はウクライナに圧力をかけることを望んでいなかったという見方も示した。
米当局者は、ロシアといかなる「水面下」での協議も行われておらず、米国はウクライナが関与しない協議に応じることはないと述べた。また、仲介者を通じた非公式な接触については認識していないとも述べた。
プーチン大統領は8日に公開された米FOXニュースの看板アンカーだったタッカー・カールソン氏とのインタビューで「われわれは対話の準備ができている」と語っていた。
ロシアのウクライナ侵攻は24日で3年目に突入する。
●バイデン氏、プーチン氏に屈服とトランプ氏を非難 2/14
米国のバイデン大統領は13日、軍事費の拠出が基準に満たない北大西洋条約機構(NATO)の加盟国に対してはロシアの侵攻を促すとの考えを示したトランプ前大統領を厳しく非難した。そのような発言はロシアのプーチン大統領に屈服することを意味すると強調した。
バイデン氏によるトランプ氏への批判としては最新のもの。外交政策に関しては最も辛辣(しんらつ)な部類に入る内容となっている。
トランプ氏は10日、サウスカロライナ州での集会で、軍事費拠出の指針に従わないNATO加盟国に対してはロシアが「何でもやりたいことをやる」ように促すと発言した。バイデン氏はそうしたコメントについて、「危険かつ衝撃的な」合図を送るものだと指摘した。
「米国の前大統領がそんなことを言うなんて想像できるか?」「全世界がそれを聞いた。最悪なのは、彼が本気だということだ」(バイデン氏)
バイデン氏はキャリアの大半を通じ、大西洋をまたぐ安全保障に関わる問題に取り組んできた。そうした背景から、トランプ氏の発言は特に我慢ならないものだったとみられる。この後、バイデン氏の選挙陣営からは、当該の発言を非難する声明が出ている。
ホワイトハウスも発言の直後にトランプ氏を批判した。
バイデン氏は「我が国の歴史上、ロシアの独裁者に屈服した大統領は他にいない」と述べ、自分なら決してそんなことはしないと明言。当該のコメントは常識外れにして恥辱、危険であり非米国人的だとこき下ろした。
トランプ氏の発言を非難した後は、スピーチの大半をウクライナへ向けた支援に割いた。上院で可決した950億ドル(約14兆3000億円)規模の支援パッケージについて、下院で「直ちに」採決を行うよう促した。
●米上院、ウクライナ支援法案を可決 下院の通過は不透明 2/14
北大西洋条約機構(NATO)の加盟国がロシアによる侵攻を受けたとしても、「守らないし、ロシアがしたいようにすることを勧める」という米国のトランプ前大統領の発言を受け、ドイツのショルツ首相は13日、「無責任で危険。ロシアの利益になるだけだ」と非難しました。
一方、米上院は12日、約950億ドル(約14兆円)を盛り込んだウクライナなどへの支援法案について、賛成多数で可決し、法案採択に向けて前進したとロイター通信が報じました。ただ、法案にバイデン大統領が署名するには上下両院を通過する必要があり、法案が共和党優勢の下院を通過するかは不透明な状況だといいます。
●マスク氏「プーチン、ウクライナ戦から退けば暗殺…だから敗北はあり得ない」 2/14
テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はウクライナ戦争に関連してロシアのプーチン大統領が戦争から絶対に退くことはできないとし、そのためにプーチン氏に敗北はあり得ないという意見を明らかにした。
13日(現地時間)、ブルームバーグ通信など米国メディアによると、マスク氏は前日ソーシャルメディアのX(旧ツイッター)の「Xスペース」で開かれたウクライナ戦争関連のフォーラムで、プーチン大統領が戦争を続けなければならないという圧力を受けているとし「もし彼が後ろに退けば暗殺されるだろう」と話した。
あわせて「プーチンに敗北はあり得ない」と強調した。このような理由で、マスク氏は米国のウクライナ追加支援予算法案に反対すると明らかにした。
マスク氏は「戦争を延長することはウクライナのためにならない」とし、自身の関心事は戦争による人々の死を止めることだと話した。
続いてプーチン大統領の追放を追求することが賢明なことかは疑わしいとし、「ロシアの政権交代を望む人々はプーチンを除去できる人が誰なのか、その人が平和主義者なのかどうかも考えなければならない。おそらく違うだろう」と話した。
マスク氏は自身が時々プーチンの擁護者として非難されると言いながら「馬鹿らしい」と明らかにした。
マスク氏は自分の会社が「ロシアを弱めるために多くのことをしてきた」とし、ロシアのウクライナ侵攻後ウクライナにスペースXのインターネットサービス「スターリンク」を提供したことやスペースXが宇宙ロケット発射分野で躍進してロシアの比重を減らした点などについて言及した。
このフォーラムには米共和党所属上院議員のロン・ジョンソン、J.D.バンス、マイク・リー各氏と、共和党候補指名争いから撤退を表明したビベック・ラマスワミ氏、ベンチャーキャピタル「クラフト・ベンチャーズ」の共同創業者デービッド・サックス氏らが参加した。
これに先立ってプーチン大統領は今月9日(日本時間)に公開されたタッカー・カールソン前米国フォックス(FOX)ニュースアンカーとのインタビューで、マスク氏に対して「私は彼が勇気ある果敢な人だと思う」と評価していた。
●「兵士の命優先」で解任されたウクライナ軍総司令官 侵攻から丸2年 2/14
ロシアによるウクライナ侵攻から満2年を間近に控えた2024年2月上旬、ゼレンスキー大統領が大きな決断を下した。ワレリー・ザルジニー・ウクライナ軍総司令官の解任だ。ここでは、この解任の背景だけでなく、今回の侵攻が持つ戦争史的な意味も考えてみた。
ザルジニー氏解任と、後任にオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官を充てる今回の軍トップ人事は異例な形で発表された。この種の重要発表は昼間に行われるのが通例だが、キーウ時間の2月8日夕方に、人事に関する大統領令をゼレンスキー氏が公表したのだ。なぜか。
大統領との「不仲説」を否定
人事発表に当たり、ウクライナ政府が非常に気にしていたのは、ワシントンの反応だったからだ。解任自体は事前に報道もあり、予期されていた事ではある。しかし、発表時間はアメリカ東部時間では2月8日昼に当たる。
当局者がオフィスにいる時間帯に入念に準備した一連の声明文を出し、読んでもらうことで、総司令官解任というショッキングな展開への先行き不安感を払拭し、アメリカ政府や議会の理解を得たいとの思惑があった。
とくにアメリカ議会では、キーウにとって緊急に必要なウクライナへの支援を含む予算案の審議が共和党の反対で難航している最中であり、アメリカの軍事支援に反対する意見が増える事態を避けたいところだった。
さらに声明文には、ゼレンスキー政権のもう1つの狙いが込められていた。今回の解任について、国民に人気の高いザルジニー氏が将来の大統領選で政治的ライバルになることを恐れてゼレンスキー氏が排除した、との内外での一部観測を否定することだ。
こうした観測が出た背景には、ザルジニー氏への国民の期待感の高まりがある。2023年6月に始まった反攻作戦が不発に終わったものの、それでもザルジニー氏の人気は高まった。その理由の1つが西側流の軍事教育を身に付けた同氏の近代的作戦指揮だ。
50歳のザルジニー氏は、旧ソ連からウクライナが独立した後に軍事教育を受けた世代出身だ。北大西洋条約機構(NATO)に派遣され、西側の軍事訓練を受けた留学組の第1期生となる。兵士の犠牲を極力少なくしようとする流儀が兵士本人や兵士家族から支持されていた。
もう1つの要因は、明るい人柄。周囲からの人望があった。2023年12月、国際社会学研究所(キーウ)による世論調査では、ザルジニー氏を「信頼する」との回答が88%に上った。一方でゼレンスキー氏を「信頼する」は62%で、2022年末の84%から大幅に下落したという。
反攻作戦の立て直しが理由
しかし実際は、ゼレンスキー政権にとってザルジニー氏解任は反攻作戦の立て直し、という純軍事的目的だった。声明でも大統領はこの説明に心を砕いた。
曰く「これは名前の問題でも、国内政治の問題でもない。軍のシステムやウクライナ軍の管理の問題である。ザルジニー氏との率直な意見交換の結果、緊急の変更が必要との意見で一致した」と強調した。
元々、大統領とザルジニー氏との間には2023年秋から信頼関係に亀裂が走っていた。2023年6月に始めた反攻作戦は当初の目標を実現できないまま難航した。
おまけに、2023年11月初めにイギリス『エコノミスト』誌とのインタビューで、ザルジニー氏が戦況について第1次世界大戦のような「陣地戦」に陥り、膠着状態に陥っているとの見解を表明したからだ。この見解に対し、ゼレンスキー氏は「膠着状態ではない」と否定してみせて、周囲を驚かせた。
この時期、クリミアでの黒海艦隊に対する攻撃や黒海での穀物輸出ルートの確保など、ようやく反攻が局地的に動き始めた矢先だった。東部や南部での反攻地上作戦が思うように進まない中、ゼレンスキー氏としてはこうした黒海での進展を政治的にも反攻の成果として内外に誇示したいところだった。
それなのに軍トップのザルジニー氏が大統領の立場にお構いなしに「膠着状態」と言い切ったことが不満だったようだ。2023年末には、記者会見で大統領は東部や南部での地上作戦が難航しているのはザルジニー氏と参謀本部の責任だと言い切るまでになっていた。
もちろん、筆者がこれまで再三指摘したように、反攻難渋の最大の要因はF16戦闘機などの供与をバイデン政権が渋ったことだ。だが、その裏でキーウはウクライナ軍の作戦にも問題があったとして、ザルジニー氏の総司令官としての能力に見切りを付け始めたのだ。
表に出ていないが、政府高官からは「明るくて人柄は良いが、総司令官としては無能だ」と吐き捨てる意見も出ていた。
さらに、歩兵部隊・戦車部隊・砲兵部隊・ヘリコプター部隊など異なる兵科部隊を単一の命令系統に組み込んで戦う「諸兵科連合作戦を彼はついにうまく実行できなかった」との批判も出ていた。
ウクライナ軍「戦略的防衛」からの脱却
しかし、今回の解任劇は単にザルジニー氏個人の総司令官としての能力、適性を巡る問題ではなかった。ウクライナ政府にとって、2024年の戦局全体にかかわる非常に重大な判断が背景にあったのだ。
ゼレンスキー大統領としては、ロシア軍の攻勢に耐え、現在の戦線を守って維持する、いわいる「戦略的防衛」のみで2024年を終える気持ちはない。
筆者は前回の「バイデンの存在薄くなる3年目のウクライナ戦争」(2024年1月30日付)で、「外交面でゼレンスキー政権の最大の目標は、2024年7月のワシントンでのNATO首脳会議で、ウクライナとの間でNATO加盟交渉に入ることが決まることだ」と書いた。
大統領としては、このサミットに向けウクライナ軍が攻勢を展開し大きな成果を上げることを目指しているのだ。ウクライナ軍の反攻能力健在を誇示、NATO加盟交渉入りの合意達成に向け弾みをつける政治的効果を狙っている。
しかしキーウの軍事筋によると、驚くべきことが起きた。2024年1月末、軍総司令官としてこの攻勢を指揮することにザルジニー氏は消極的態度を示したという。西側からの武器が揃うまでは、戦争はできないと主張した。
これが今回の解任の最終的引き金になったのだ。この春には、ウクライナ軍待望の戦闘機F16の第1陣が到着する見込みだが、武器がいつ揃うのかは不明だ。大統領としては、到着前であっても攻勢を開始することは可能とみている。
2024年のウクライナ軍の戦略を巡っては、アメリカ政府がウクライナに対し、防御専念を求めていると一部アメリカのメディアが報道している。しかし、軍事筋はこれに関連して「そもそもバイデン政権も攻勢に出ること自体には反対していない」と強調する。
しかしザルジニー氏は、いたずらに攻勢に出れば戦死者が増えることに懸念を示した。このため、ゼレンスキー政権として「今年戦争をできる司令官を採用した」という。
冒頭に記したように、大統領はシルスキー陸軍司令官を新たな総司令官に任命したが、このシルスキー氏こそ「今年の戦争ができる司令官」なのだ。
「今年の戦争ができる司令官」
同氏は58歳。ソ連時代に軍事教育を受け、西側への留学経験もない旧ソ連軍色の濃い司令官だ。2022年秋にウクライナ軍は東北部ハリコフ州の要衝イジュムを奇襲によってあっという間に陥落させたが、この巧みな作戦を指揮したのが東部を仕切る司令官のシルスキー氏だった。
一方で2023年の東部要衝バフムトを巡る激戦では、ウクライナ軍側に多数の戦死者を出すことを厭わなかったとして部下から批判が出た。戦死者を出すことを嫌がるザルジニー氏とは対照的だ。
多くの戦死者を出してもゼレンスキー大統領の命令を黙々とこなそうとする姿勢は旧ソ連軍幹部を彷彿とさせる行動である。
そもそもウクライナ軍のソ連軍的体質からの脱却を目指して、西側的司令官であるザルジニー氏を総司令官に任命したのはゼレンスキー氏だ。先述したように、大統領とすり合わせもせずに「膠着」発言をしたことが象徴するように、思ったことをズケズケ発言する行動パターンも元々許容していた。
だが、ロシア軍との戦争で2年が経過する中、ロシア軍との戦争で求められる軍指導者像について、ゼレンスキー氏は非常に重い結論に達したのではないか、と考える。
つまり、戦死を承知の「捨て駒」として受刑者出身の突撃部隊を最前面に押し出して、波状的に攻撃を繰り返す非人道的なロシア軍と戦い勝つためには、ザルジニー氏的な兵士の生命優先論では対抗できないと悟ったのではないだろうか。
もちろん、シルスキー氏が総司令官として兵士の命を粗末に扱うと言い切るのは公平ではないだろう。しかし、ザルジニー氏と比べれば、戦果優先の側面が強くなる可能性は高いだろう。
こうしたゼレンスキー氏の変身を批判する向きもあるだろう。しかし、自軍の戦死傷者数が30万人以上に達したともいわれる残酷なプーチン・ロシア軍に対抗するには、やむをえない判断だったと考える。
これが3年目に入るウクライナ侵攻の現実なのだ。目を背けることなく、しっかりと直視すべきだ。
●米LNG輸出許可停止、向こう2─3年の欧州向け供給には影響せず=EU高官 2/14
欧州連合(EU)欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長は13日、バイデン米政権が液化天然ガス(LNG)輸出の新規許可を一時的に停止すると決めたことについて、向こう2─3年の米国から欧州への供給には影響を及ぼさないとの見方を示した。
シェフチョビッチ氏は米政府高官らと会談し、米国が世界全体のエネルギー安全保障に対してどのような形で責任を果たしてくかが大事だと伝えたことを明らかにした。またバイデン政権の決定が世界に波紋を広げたとも指摘した。
ただシェフチョビッチ氏は、今回の措置の対象外となった既に許可されている米国のLNG輸出が伸びているため、最近になって事態は落ち着いてきたと強調。さらに米国は今後数年にわたる欧州からの大きな需要に対応できるはずだし、一時停止措置には、窮地に陥った米国の同盟国や友好国には緊急的な供給を行うとの条項も盛り込まれていると付け加えた。
それでもシェフチョビッチ氏は、米国のエネルギー安全保障の担い手としての責任は欧州だけにとどまらなくなっており、東南アジアやインド、中南米、アフリカも石炭依存から脱却する上で、ガスを必要としていると述べた。
●英シンクタンク “ロシアとウクライナ こう着状態続く可能性” 2/14
イギリスのシンクタンクが世界の軍事情勢の分析を発表し、ロシアがウクライナ侵攻で3000両近い戦車を失い、旧式の戦車で戦力を補っていると指摘しました。
一方のウクライナも欧米の支援によって軍事力を維持し、こう着状態が続く可能性があるとしています。
イギリスのシンクタンクIISS=国際戦略研究所は13日、世界各国の軍事力や地域情勢を分析した年次報告書「ミリタリー・バランス」を発表しました。
この中で、今月でウクライナ侵攻から2年となるロシアについて、戦車を侵攻前に保有していたのとほぼ同じ2900両以上失ったものの、旧式の戦車を再活用し、今後3年ほどは戦力を維持できるとしています。
一方のウクライナも大きな損失を被りながら、欧米各国の支援や安価な無人艇の活用などで軍事力を維持し、戦闘はことしもこう着状態が続く可能性があるとしています。
また、報告書はイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘や、中国による台湾周辺での軍事活動などによっても世界の安全保障環境が悪化し、各国が防衛計画の見直しを迫られていると指摘しています。
こうした状況を背景に、去年の世界全体の防衛費は前の年より9%増えて過去最高の2兆2000億ドル、日本円でおよそ328兆円に上り、ことしはさらに増えるという見通しを示しました。
国別ではアメリカが9055億ドルと最も多く、次いで中国が2195億ドル、ロシアが1085億ドルで、日本は9番目に多い490億ドルでした。
●ロシア、ウクライナで3000両超の戦車喪失=国際戦略研究所 2/14
英シンクタンク国際戦略研究所(IISS)が13日に公表した世界の軍事情勢を分析した報告書「ミリタリー・バランス」の2024年版によると、ロシアがウクライナで喪失した戦車は3000両以上に達した。これは2022年のウクライナ侵攻開始前に現有兵力として保有していた主力戦車の総数に相当するという。
過去1年間では推定1120両の戦車を喪失。ただ、ここ1年間でおよそ1000─1500両の戦車を前線に投入したとみられ、戦車補充に関してはほぼ「ブレークイーブン」にあるとした。
もっとも、前線に投入された戦車のうち新造されたものはせいぜい200両で、大半が旧式戦車を改修したものだという。
それでもロシアが保有している戦闘に利用可能な戦車はウクライナの約2倍。ロシアには旧式で性能が劣る退役戦車の在庫が十分あり、今後約3年間はこれらを現役戦車に改修して補充が可能とした。
ロシア国防省はコメントを控えた。
ウクライナに関しては、ロシアによる侵攻以降、大きな損害を被っているが、西側諸国の軍事支援により、品質を向上させながら在庫を維持することができているという。
IISSは、ロシア・ウクライナ両軍の損失と塹壕戦の特徴を考慮すると、現在の膠着状態が続く可能性が高いと指摘。「両陣営とも非常に多くの死傷者を出さずに大規模な攻撃を行うことはできず、それは当面続く可能性が高い」とした。
●アルメニア兵4人死亡 アゼルバイジャン軍が砲撃“前日の報復” 2/14
旧ソビエトのアルメニアは隣国アゼルバイジャン側から砲撃を受け、兵士4人が死亡したと発表しました。
これに対し、アゼルバイジャンは前日の砲撃に対する報復攻撃だと非難していて、係争地をめぐり対立してきた両国の間で再び緊張が高まらないか、懸念の声が上がっています。
アルメニア国防省は13日、南部の国境でアゼルバイジャン軍から砲撃を受け、兵士4人が死亡し、1人がけがをしたと発表し、これに対し、アゼルバイジャンは前日の砲撃に対する報復攻撃だと非難しました。
アルメニアとアゼルバイジャンは係争地のナゴルノカラバフをめぐって長年争ってきましたが、去年9月、アゼルバイジャンが起こした軍事行動の結果、アルメニア側は敗北しました。
両国は平和条約の締結に向けた協議を行っていましたが、交渉の難航も伝えられていて、こうした中で再び戦闘が起きたことについてアルメニア外務省は「和平努力を台なしにする行為だ」と非難しました。
仲介役を担ってきたロシア大統領府のペスコフ報道官は「双方に自制を求める。状況を注視していく」と述べるなど、両国の間で再び軍事的な緊張が高まらないか、懸念の声が上がっています。
● ロシアがエストニア首相らバルト三国の高官ら指名手配 ロ報道 2/14
ロシア国営のタス通信は、ロシア内務省がエストニアのカラス首相などバルト三国の複数の政府高官を指名手配したと伝えました。第2次世界大戦でナチス・ドイツと戦ったソビエト兵の記念碑の破壊に関与したためだとしています。
タス通信などが13日伝えたところによりますと、ロシア内務省が指名手配したのはエストニアのカラス首相やラトビアの法相、それにリトアニアの文化相を含むバルト三国の複数の政府高官や下院議員などです。
タス通信は捜査当局筋の話として、政府高官らは第2次世界大戦でナチス・ドイツと戦ったソビエト兵の記念碑を破壊したとして指名手配されたと伝えています。
これについてロシア大統領府のペスコフ報道官は「彼らは歴史の記憶に対してもわが国に対しても敵対的な行動をとっている」と述べました。
これに対し、エストニアのカラス首相は指名手配されたことについて「驚くべきことではない。私が正しいことをしていることの証しだ。ウクライナに対し、強力な支援を続ける」と旧ツイッターのXに投稿しました。
バルト三国は旧ソビエトに併合された歴史から反ロシア感情が強く、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まって以降、ソビエト兵をナチス・ドイツからの解放者としてたたえる記念碑を撤去する動きが相次ぎ、ロシアは「歴史のわい曲だ」として強く反発しています。 
●ロシア、プーチン氏がウクライナ停戦提案とのロイター報道否定 2/14
ロシア大統領府(クレムリン)は14日、プーチン大統領が仲介役を通じて米国にウクライナでの停戦を提案したというロイター報道を否定した。
ペスコフ報道官はロシアが和平提案を行ったとのロイター報道は事実かと問われ、「いいえ、事実ではない」と答えた。
ロシアの情報筋によると、プーチン大統領は昨年、公の場および、中東地域のパートナー国を含む仲介役を通じ、米国に対しウクライナでの停戦を検討する用意があるというシグナルを送った。
●ロシアが4州占領のままの停戦呼びかけ、ウクライナ抜きの交渉を米が拒否… 2/14
ロイター通信は13日、ウクライナを侵略するロシアが米国に対して、現在の占領地域を維持した上での「停戦」を呼びかけたものの米国が断ったと報じた。米国は、ウクライナ抜きでの交渉を拒否したという。露側の情報筋3人の話として伝えた。ロシアによる情報戦の一環の可能性がある。
米当局者はロイター通信に、露側で対話を模索する非公式な動きがある模様だが、米国は関与していないと述べ、米露間の協議を否定した。
報道によると、プーチン露大統領は2023年、中東のアラブ諸国など仲介者を通じて、停戦協議の用意を米国側に伝えた。ウクライナ東・南部4州の露占領地域は返還しないとの考えを改めて示したという。仲介者らによる会合が23年末頃に、トルコで開かれたとしている。
米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官とロシアのユーリー・ウシャコフ大統領補佐官をつなぐ構想だったとされるが実現しなかったという。
●ウクライナ ロシアの大型揚陸艦「撃沈」 2/14
ウクライナ当局は、ロシアが実効支配する南部クリミア半島でロシア軍の大型揚陸艦を撃沈させたと発表した。
ウクライナの国防省情報総局は14日、クリミア半島の黒海でロシア軍の大型揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」を海上ドローン攻撃で破壊したと明らかにした。
ウクライナの治安部隊と国防軍が協力して行ったとしている。
当局が公開した3分間の動画には、ロシア軍の揚陸艦に迫った後、爆発する様子などが映し出されている。
一方、ロシア国防省は黒海上空でウクライナ軍のドローン9機を破壊したと主張している。
●ウクライナ、18兆円損失も 侵攻のGDP影響―独シンクタンク試算 2/14
ドイツのシンクタンク、キール世界経済研究所は14日、ロシアの侵攻によって、ウクライナの国内総生産(GDP)が2026年までに約1200億ドル(約18兆円)失われる可能性があるとの試算を発表した。戦争当事国以外の損失も近隣諸国を中心に計2500億ドル(約37.5兆円)規模に上ると見積もった。
ウクライナでは社会インフラや工場などが破壊され、今後の経済活動にも大きな支障が出る見込みだ。侵攻は世界的なインフレも招いた。シューラリック所長は「ロシアの攻撃はウクライナだけでなく近隣諸国にも多大な経済的損害を与えた。いかに平和の経済的な価値が高いかが、改めて示された」と指摘した。

 

●米大統領に望ましいのはバイデン氏 「予測しやすい」―ロシア大統領 2/15
ロシアのプーチン大統領は14日放送されたインタビューで、米大統領として民主党現職のバイデン氏が共和党のトランプ前大統領より望ましいとの考えを示した。ロイター通信などが報じた。2024年大統領選に関し、プーチン氏が公に言及するのは初とみられる。
ロイターによると、プーチン氏はバイデン氏とトランプ氏のどちらが「われわれ(ロシア)にとって良いか」と問われ、ためらいなく「バイデンだ。より経験があって予測しやすい、昔ながらの政治家だ」と返答した。「もっとも、米国民が選んだ大統領なら、誰であれ共に働く」とも語った。
81歳というバイデン氏の年齢を巡る不安に関しては「3年前に会った時、既にそうした指摘はあったが、不安に値するようなことはなかった」と述べた。
プーチン氏の発言についてトランプ氏は14日、南部サウスカロライナ州で行った演説で「最大の賛辞だ」と主張。自身がロシアにとって最も手ごわい相手だと強調した。
●プーチン氏、「米大統領はバイデン氏の方がトランプ氏より好都合」 2/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日のインタビューで、ロシアにとって米国の大統領はドナルド・トランプ氏よりもジョー・バイデン氏の方がいいと発言した。
インタビューの中でプーチン氏は、ロシアにとってはバイデン氏の方が好都合とした理由について「同氏の方が経験豊富で予測しやすく、古いタイプの政治家だから」と語った。
一方で「米国民の信頼を得た米国の指導者には、誰であれ対応する」と述べ、現政権の行動について判断するためには「政治的姿勢」に目を向ける必要があると指摘。ロシアがウクライナで行っている戦争を念頭に、「現政権の立場は著しく有害で誤っている」と強調した。
プーチン氏はさらに、2022年3月のイスタンブール会談の合意が守られていれば、この戦争は「1年半前に終わっていたかもしれない」とした。どんな合意に言及しているのかは明らかにしていない。
22年2月に開始したウクライナ侵攻については「もっと早く積極的な行動を開始しなかったこと」を悔やんでいると述べ、西側の指導者はロシアに対し、「NATO(北大西洋条約機構)を東へ拡大しない」ことに関してうそをついたと主張。「我々は当時も今も、ウクライナがNATOに引きずり込まれる可能性について憂慮している。そうなれば我々の安全を脅かす」と語った。
また、ウクライナとロシアの停戦を定めた15年のミンスク合意については、もともと守られる意図はなく、「さらに多くの兵器をウクライナに持ち込むための時間稼ぎ」に利用されたと主張している。
●ロシア、がんワクチン開発近づく 早期の患者提供も=プーチン氏 2/15
ロシアのプーチン大統領は14日、国内科学者が間もなくがんワクチンの開発に成功しそうだとし、患者に早期提供できる可能性があると述べた。
モスクワで行われた未来技術に関するフォーラムで、「いわゆるがんワクチンと新世代の免疫調節薬の開発に極めて近いところにきており、個人治療の手段として効果的な使用が可能となるよう期待している」と述べた。
ワクチンの対象となるがんの種類や作用の仕組みは明らかにしなかった。
がんワクチンには多くの国や企業が取り組んでおり、昨年には英政府が独製薬会社ビオンテックとの間で「個別化されたがん治療」を提供する臨床試験を行うことで合意。2030年までに患者1万人の実験を目指すとした。
●侵攻後初の米インタビューは不発 鋭い質問なく驚き=プーチン氏 2/15
ロシアのプーチン大統領は、米FOXニュースの看板アンカーだったタッカー・カールソン氏とのインタビューについて、鋭い質問がなかったことに驚いたと感想を述べた。
ウクライナ侵攻以降、初の米国ジャーナリストとのインタビューとして先週世界的に注目されたインタビューだったが、プーチン氏はロシアのテレビの聞き手に、カールソン氏にはもっと攻撃的に振舞って欲しかったとし、そうすればより辛らつに答える機会も与えられただろうと振り返った。
「正直なところ、カールソン氏は攻撃的な態度でいわゆる鋭い質問を投げてくると思っていた。同じように攻撃的に応じるためにも、そうしてほしかった」と語った。インタビューでの発言内容は、14日に放映された。
プーチン氏はカールソン氏に30分余りにわたって歴史について語ったが、予想よりも話を遮られなかったことに驚いたとし「率直に言って、このインタビューに満足できなかった」と述べた。
●ウクライナ、ロシア黒海艦隊の「3分の1を無力化」 軍艦撃沈後に主張 2/15
クリミア半島沖の水上ドローン(無人艇)攻撃でロシアの軍艦1隻を新たに撃沈したとのウクライナ軍情報機関の発表を受け、ウクライナ軍はCNNに対し、これでロシア黒海艦隊の3分の1を無力化したことになると主張した。
ウクライナ国防省情報総局(GUR)がテレグラムで発表したところによると、ロシアの揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」は無人艇「マグラV5」の攻撃を受け、左舷に「致命的な穴」が空いた。
ウクライナ軍は14日の攻撃後、CNNの取材に対し、「今回の大規模侵攻の間にロシア黒海艦隊の3分の1を無力化した」と説明した。
これはロシア軍の艦船24隻と潜水艦1隻で33%を無力化したとのウクライナの先週の主張と符合する。ウクライナの集計によると、「ツェーザリ・クニコフ」は25隻目の無力化された艦船となる。
声明によると、14日の攻撃はGUR傘下の特殊部隊「グループ13」がウクライナの治安部隊や軍と共同で実施した。
ウクライナから提供された夜間の映像には、水上ドローンがツェーザリ・クニコフに接近した後、艦体から大きな煙が上がる様子が映っている。
CNNはウクライナの主張を独自に検証できていない。ロシア大統領府は攻撃の情報についてコメントを控えた。
ロシアによるウクライナ侵攻が開始から2年の節目に近づく中、このところ前線はおおむね膠着(こうちゃく)状態が続いている。しかし昨年以降、ウクライナは黒海に重心を転換。クリミア半島やロシア軍艦船への攻撃について、同半島を孤立させ、ウクライナ本土におけるロシアの軍事作戦の継続を困難にする意図があるとしている。
●ウクライナがクリミア半島周辺で攻撃強化、ロシア黒海艦隊の大型揚陸艦撃沈 2/15
ウクライナ国防省情報総局は14日、南部クリミア半島の沖合でロシア黒海艦隊の大型揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」を複数の水上無人艇の攻撃によって撃沈したとSNSで発表した。ウクライナは黒海艦隊に対し相次いで攻撃を成功させており、黒海周辺で圧力を強めている。
発表によると、揚陸艦は半島南部のアルプカ近海で、ウクライナ軍の無人水上艇「マグラV5」の攻撃を受けて左舷に致命的な穴が開き、沈没し始めた。揚陸艦には87人が乗船でき、ジョージアやシリア、ウクライナとの戦闘で利用されてきたという。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、「黒海の安全がさらに強化された。我々は徐々に黒海からロシアのテロリストを排除していく」とSNSに投稿した。
ウクライナはクリミア周辺の攻撃を強化している。1日には、水上無人艇が露軍ミサイル艇「イワノベツ」に体当たりして撃沈したと発表した。昨年12月にも、今回撃沈された揚陸艦と同型の「ノボチェルカスク」を巡航ミサイルで破壊したと発表している。
●ロシアの戦争努力、「さらに2〜3年」持続可能 国際戦略研究所 2/15
ロシアはウクライナでの戦争遂行努力を「さらに2〜3年間」持続できると分析した報告書が、今週発表された。ただ破壊された、もしくは損傷した兵器の代わりが保管してある旧式の兵器になることから、今後は「量のために質を」犠牲にせざるを得ない状況に陥るという。
英国を拠点とする国際戦略研究所(IISS)がまとめた報告書によれば、ロシア軍はウクライナへの全面侵攻を開始した約2年前の時点よりもさらに多くの戦車を戦場で失っていると推計される。しかしそうした損失が「近い将来の戦闘の終結につながる」公算は小さいという。
「毎月平均数百台の装甲車両、大砲が失われているにもかかわらず、ロシアは稼働可能な在庫の数を安定的に維持している。旧式の兵器の再活用や、工業力の増強、国外からの購入を通じて損失に対応している」と、IISSは指摘する。
その上でロシアについて、「ウクライナへの攻撃をさらに2〜3年間は維持できる。もっと長期にわたる継続も可能かもしれない」と推計した。
ロシア軍は現在、1000キロ近くに及ぶ前線一帯で猛攻を展開。ウクライナ軍の前総司令官が昨年「膠着(こうちゃく)状態」と評した現状の打開を目指している。
一方で欧州連合(EU)は、3月までに155ミリ砲弾100万発をウクライナに供与するとしていたが、このままいけば目標を大幅に下回る見通しだと、IISSの報告書は指摘する。
報告書によるとロシアは過去1年だけで3000台以上の装甲戦闘車を失ったが、これは約1200台の主力戦車と約2500台の歩兵戦闘車並びに装甲兵員輸送車で穴埋めできる。こうした措置は「質より量を取る」ことを意味するものの、ロシアには新たな車両を製造する能力もあるという。
報告書はまた、国際社会からの制裁にもかかわらずロシア経済がその強靱(きょうじん)さを証明していると分析。2024年は国防費を増強しているとも述べている。
具体的には前年比60%超の増額で、軍事費の総額は今や国家予算の3分の1、国内総生産(GDP)の約7.5%に達する見込みだという。
●ロシア孤立の経過で顕在化したOSCEへの期待とその組織課題 2/15
――ウクライナ戦争が浮き彫りにしたもう一つの欧州問題
2014年のクリミア併合以降、欧州社会の中でロシアが孤立を深める中、OSCEはロシアとの対話等において一定の役割を果たしてきた。他方、2022年2月のウクライナ戦争の勃発により、こうした傾向はより強まった。それ以降、主要な国際的枠組みだけでも、2022年3月には欧州評議会の加盟資格の停止、4月の国連総会で国連人権理事会から脱退、11月には欧州通常戦力条約(CFE)から正式に脱退した。また、経済面でも米国、EUによる追加制裁を始め、ロシア排斥が進んだ。さらに、同様の傾向はロシアが伝統的に主導してきた枠組においても見られ、集団安全保障条約機構(CSTO)でも一部の国がロシア離れの動きを見せている。
こうした孤立化の流れにありながら、ロシアが依然として留まり続けている国際的枠組みの1つが欧州安全保障協力機構(OSCE)である。本論の狙いは、国際社会から孤立の一途をたどるロシアとOSCEとの関係を軸として、組織運営に関わる主要な論点を概観し、そこから導出されるOSCEの組織課題と欧州問題の示唆を得ることである。
OSCEにおけるロシアとの対話
OSCEはウクライナ戦争の開戦当初から、ロシアに対しあらゆる機会を捉えて、戦闘行為の即時停止を主張し、対話を継続してきた。OSCEの実質的な政策決定機関である常設理事会を始め、安全保障フォーラム(FSC)、民主制度・人権事務所(ODHIR)などの各協議体では定例会議や各種活動を通じて、ロシアとの対話を継続している。こうした取り組みの中でも注目されるのが開戦直後に発動されたモスクワ・メカニズムである。同メカニズムはOSCEの枠組みにおいて、各国が行った人権侵害に対する重大な違反の申し立てを調査し、是正のための行動の特定を目的としている。既に、同メカニズムは第2弾、第3弾が発動され、ロシアへの働きかけを続けている。しかし、いずれの取り組みも未だに成果を挙げるには至っておらず、OSCEのコミットメント履行は加盟国の判断次第という組織上の脆弱性を示している。しかし、一連の過程において、ロシアは各国からの問いかけにその都度応答し、曲がりなりにも対話は継続していることから、地域に開かれた対話の場としてのOSCEの役割は失われていない。
暗礁に乗り上げているウィーン文書の更新
上記のようなOSCEからロシアに対する働きかけに対し、ロシアはこれまでOSCEの組織の在り方に度々不満を示してきた。例えば、ウクライナでのSMMマンデートの延長拒否を始め、モルドバミッションの活動延長への反対、2022年度、2023年度統一予算案の承認拒否等がある。さらに、年次軍事情報の交換(AEMI)にも応じなかった。中でも、特に懸念されるのが2011年ウィーン文書(VD2011)の更新に対する反対である。同文書はOSCEの加盟国軍隊の相互査察といったOSCEの信頼・安全保障醸成措置(CSBMs)を取り決めたものであり、1990年の同文書採択から加盟国間の調整、措置内容の近代化や精緻化のために、数度の更新を経てきた。VD2011更新に係る議論は何度かその機会があったものの、未だに更新は実現できていない。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相の2023年8月のモスクワ安全保障会議における、「加盟国間の信頼が不足している状況では、検証メカニズムは実質的にインテリジェンスの情報源となるため、同文書の合意精神に適さない」という更新への反対意見からも、ロシアの消極的姿勢が見て取れる。こうした関連議論の停滞を受けて、既にロシアの影響を低減する組織改善案も議論されているが、協調的安全保障の存立意義に関わる問題でもあり、OSCEには慎重な対応が求められる。
2024年議長国決定をめぐる混乱
次に、組織に係る1課題として議長国選出を取り上げる。OSCEでは紆余曲折を経て、新たな議長国に軍事的中立国であるマルタが選ばれた。しかし、当初名乗りを上げていたのはエストニアであった。マルタ選出に至った理由は、ロシアとベラルーシがNATO加盟国であるエストニアの議長国就任に反対し続けてきたためであった。一時は議長国不在となり、OSCEが活動停止に至ることさえ危惧されたが、2023年末の閣僚理事会の終了間際に選出に至った。OSCE議長国の任期は1年であり、通常であれば、前年度の後半或いはより早い時期に決定される。今回のように一部加盟国による議長国選出への反対は異例と言え、OSCEが欧州各地で実施している諸活動に相当程度のネガティブな影響を与えたことは明白であり、こうした事態の常態化を回避する必要がある。
OSCEの一体性に波紋を呼ぶロシア
上記の2点とともに、特に憂慮すべき点は、ロシアの存在がOSCEの一体性にも影を落としていることである。2023年11月30日に第30回OSCE閣僚理事会が北マケドニアの首都スコピエで開催された。同会議にて注目を集めていたのが前述した議長国の決定に加え、ロシアのラブロフ外相の参加であった。これは会議の開催に至る過程で一部の加盟国が強い抗議の姿勢を示してきたことや、米露外相の直接対話の実現が期待されたためである。結局、ラブロフ外相は出席となったが、米国のブリンケン国務長官は会議の前日にOSCE議長との短時間の面会を済ませ、当日は欠席となった。また、ロシア外相の出席を受けて、ウクライナ、ポーランド、バルト3国の合計5カ国は同会議への参加をボイコットした。一方で、ハンガリー、カザフスタン、アルメニアなどの一部国家はこの機会を捉え、ロシアとの二国間会談を行った。同様の不調和はその他の場面でも垣間見られ、これら一連の内容から、ロシアがOSCEに組織としての連帯を揺るがすほどの影響を与えていると言うことができる。OSCEはその前身の設立以来、異なる国々や地域との連携を重視し、一体性の保持に努めてきた。その方針は今後も継続されねばならないだろう。
終わりに: OSCEの組織課題と高まる責任と期待
上述の通り、OSCEにおけるロシアとの協力やコミュニケーションを巡る組織としての諸課題は未解決である。OSCEは地域に開かれた多国間安全保障の枠組みであり、その意思決定は加盟国の合意に基づくという特徴を有する。しかし、全加盟国が常に組織の精神に基づき、合理的に行動するとは限らない。ロシアの存在は、たとえOSCEに長期的な信頼醸成や軍備管理の積み重ねがあったとしても、一部の恣意的に行動する国が組織の活動を容易く停止させられる可能性を改めて明示した。今後、OSCEがより安定した組織運営、協力関係の構築を目指すのであれば、組織構造の見直し、多国間協力の強化、一部国家の恣意的な行動に対する備えの強化といった諸課題に対処する必要があるのではないか。
ロシアのラブロフ外相はOSCE閣僚理事会にて、「OSCEがNATOやEUの付属物となっており、その活性化に注力する価値はあるか?公平な安全保障の議論ができるプラットフォームとしていかがなものか」と、組織の在り方へ不満を述べている。また、アルメニアのミルゾヤン外相は「OSCEが早期警戒、予防という中核的機能を果たさなかった」とその紛争予防機能の不足を批判した。彼らの発言の真意は不明であるが、OSCEが実効性を向上させるための組織課題を抱えていることは事実である。
他方、欧州地域の多国間安全保障の枠組みを俯瞰すると、欧州地域で西側とロシアが対話できる国際的枠組みはOSCEを置いて他にない。また、CFE条約も活動を停止した今、欧州の軍備管理の頼みはOSCEとなる。OSCEはウクライナ戦争にとって鍵となる米露の直接対話や地域が共同連携するための対話の場を保持しつづけねばならない。さらに、いずれ戦争が終わる時、紛争予防や国家再建に長年携わってきたOSCEの真価が問われることになる。ウクライナ戦争終結の見通しは不明であり、OSCEは多くの課題を抱えているが、これからもロシアと粘り強く向き合っていくことが求められる。
●永世中立国スイス、防衛予算を長期拡充へ 安全保障リスク増大で 2/15
永世中立国のスイスが14日、長期的に防衛予算を拡充する方針を明らかにした。
ロシアのウクライナ侵攻後、欧州諸国で安全保障を巡る懸念が高まっている様子が改めて浮き彫りになった。米大統領選の共和党候補指名争いで優位に立つトランプ前大統領が、防衛予算を十分に確保できない北大西洋条約機構(NATO)加盟国はロシアに攻撃されても助けないと発言していることも、そうした不安を高めている可能性がある。
スイスのアムヘルト大統領(国防相兼任)は、ウクライナ戦争が始まる前の計画に比べて、2035年時点で使える防衛予算が約200億スイスフラン(225億8000万ドル)上積みされると説明した。23年の防衛装備に充当された予算は19億フランだった。
アムヘルト氏は、スイス国防軍は冷戦終結後のいわゆる「平和の配当」を受けてこれまでずっと予算圧縮で弱体化してきたと指摘した。
しかし「欧州大陸における戦争や中東の紛争などを踏まえると、現在の安全保障政策を巡る環境は従来と違ってきたのは明らかだ」と述べ、非常に多くの危機が存在すると強調。最新の防衛予算計画には、ウクライナ戦争で得られた教訓も織り込んでいる面があると付け加えた。
●ワグネルをプーチン氏直属「国家親衛隊」に正式編入… 2/15
ロシアのウクライナ侵略で露軍の貴重な戦力となった民間軍事会社「ワグネル」の再編が進んでいる。昨年12月、プーチン大統領直属の治安機関「国家親衛隊」に正式編入された。ワグネルが拠点を築いてきたアフリカでは新たに設立された雇い兵部隊に編入され、現地のクーデター政権を支援する。
英国防省によると、プーチン氏は昨年12月、国家親衛隊を再編する法令に署名し、ワグネルの3部隊が国家親衛隊に編入された。編入された部隊はウクライナに6か月、アフリカに9か月派遣される可能性が高いという。ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は昨年6月に反乱を起こし、8月に主要幹部らとともに航空機事故で死亡した。戦力は大幅に低下したとの見方があるが、英国防省は「再編はワグネルを従属させ、国家による統制強化に成功したことを示している」と指摘した。
ワグネルの新指導者アントン・エリザロフ氏はビデオ声明で、ウクライナ出撃の拠点になっている露南部ロストフ州の露軍基地にワグネルの新本部「コサック・キャンプ」を置き、編入部隊が駐屯することを明らかにした。実戦経験が豊富なワグネル兵のウクライナ再投入は、戦況に影響を与える可能性がある。
プーチン政権はアフリカでのワグネルの事業継承も進めている。露国防省傘下の雇い兵部隊を設立し、ナチス・ドイツのアフリカ遠征軍と同じ「アフリカ軍団」と名付けた。米ブルームバーグによると、親露的なリビア、マリ、中央アフリカ、ニジェール、ブルキナファソの5か国で2万人の戦闘員を募集している。
●NATO事務総長「ロシア勝利なら中国に勢い」、米にウクライナ支援要請 2/15
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は14日、ロシアがウクライナでの戦争で勝利すれば、中国が勢力を増すと警告し、米下院に対し「極めて重要な」ウクライナ支援法案を可決するよう訴えた。
ストルテンベルグ事務総長はロイターのインタビューで「米下院がウクライナへの支援に同意することを期待している。これは慈善活動ではなく、われわれの安全保障に対する投資だ」と語った。
また、NATO加盟国を外部の攻撃から防衛しない可能性に言及したトランプ前大統領の発言を受け、欧州の米国への防衛依存を巡る議論が出ていることについては、「欧州連合(EU)は欧州を守ることはできない。NATOの国防支出の80%は非EUのNATO同盟国が拠出している」とし、欧州が単独で防衛に乗り出すことに警鐘を鳴らした。
●ウクライナ軍の貴重な強襲旅団がアウジーイウカに介入 「積極防御」実践 2/15
ロシアのウクライナ全面侵攻から約2年間、ウクライナ軍の第110独立機械化旅団は東部ドネツク州の防御拠点アウジーイウカを防衛し続けてきた。
だが、2000人規模だった第110旅団の生き残った将兵らは、ここ数日の間についに西へ退却し、ロシア軍がじわじわと進める包囲を逃れた。
第110旅団は、増援に投入されたウクライナ軍屈指の旅団、第3強襲旅団の砲声がとどろくなか、廃墟と化しているアウジーイウカから撤退した。第3強襲旅団はウクライナ軍に2個しかない強襲旅団の1つ(もう1つは第5強襲旅団)で、名前が示すように強襲、つまり攻撃の訓練を受けている部隊だ。
しかしアウジーイウカでは、兵力も火力もロシア側に劣るウクライナ軍は防御する側にある。
ウクライナ軍は砲弾が絶望的なまでに不足している。これは昨秋以来、ロシア寄りの米議会共和党が米国の対ウクライナ支援を妨害してきたことの直接の帰結だ。アウジーイウカ方面のウクライナ軍部隊も砲弾が枯渇し、現地の数個旅団は十数個相当とみられるロシア軍の大軍をかろうじて押しとどめてきたのが実情だった。
ウクライナ軍の東部コマンド(統合司令部)は強襲旅団を防衛作戦に投入した。これは「積極防御」の実践でもある。積極防御とは柔軟で機動的、攻撃的な防御のことだ。
第3強襲旅団の積極防御は、先週ごろ、アウジーイウカ北西のコークス工場に展開した直後から顕著にみられた。
同旅団の米国製マックスプロ装甲車の砲手はヘルメットに取り付けたカメラで、コークス工場の敷地内を駆け回る自車と、M2重機関砲を撃ちまくる自身の姿を撮影している。
第3強襲旅団の狙いがこのコークス工場の死守にあるのは明白だ。市の西部で守備隊を立て直しつつ、以前より敵側にさらされる部分が少なくなる新たな前線で、コークス工場を北方面の拠点にする考えかもしれない。
映像に見えるような、軽快な装甲車による機動や速射は第3強襲旅団の戦術の1つだ。とはいえ、ロシア側から撃ち込まれた砲弾が近くで爆発している様子は、この戦術が兵士らにとってどれほど危険かもまざまざと示している。
「ウクライナは砲弾不足をまずもってFPV(1人称視点)ドローン(無人機)、そしてもちろん兵士たちの命で補っている」ウクライナの軍事アナリストであるミコラ・ベレスコウは最近、ポッドキャストの番組でそう語っている。
積極防御は、攻撃するロシア軍側の安定を崩したり、第110旅団がアウジーイウカ東部から完全に引き揚げるための時間を稼いだりするのに寄与するかもしれない。また、市の最も脆弱な部分を放棄したあと、ウクライナ側が新たな防衛作戦の条件を整えるのにも役立つかもしれない。
だが、もしウクライナ軍の指揮官たちが米国の「裏切り」に対する怒りに駆られ、アウジーイウカで本格的な逆襲を仕かけようとすれば、第3強襲旅団に大惨事をもたらしかねない。
カーネギー国際平和財団のロシア専門家であるマイケル・コフマンらは先月末の論評で「主導権を握るための戦いは、主導権を握ったあとにそれを利用するリソースがなければ、ほとんど意味がない」と指摘している。
「理屈で言えば、局所的な攻勢はロシア軍への圧力を維持し、ロシア軍の行動の自由を制約することになるが、実際はウクライナ軍の戦闘力の再建に支障をきたしかねない」とも警告している。
疲弊した第110旅団の生き残った将兵らは、アウジーイウカ東部から撤退する際に第3強襲旅団から掩護射撃を受けており、その積極的な戦い方に感謝しているに違いない。
だが同時に、指揮官たちが運任せで第3強襲旅団に前進を命じないことも望んでいるはずだ。第3強襲旅団はウクライナにとって必要な戦力である。ウクライナ軍にはとても保持できない廃墟化した都市の半分を取り戻す戦いに、この旅団を浪費できるほどの余裕はない。
●韓国 G7主導のウクライナ復興支援協議体に加盟 2/15
韓国大統領室は15日、ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナの復興に向けた支援を協議する「ウクライナ復興ドナー調整プラットフォーム(MDCP)」に加盟したと明らかにした。
MDCPはウクライナに対する財政支援や中長期的な復旧計画を協議するため、主要7カ国(G7)主導で発足した。G7加盟国や欧州連合(EU)の欧州委員会、世界銀行、国際通貨基金(IMF)などが参加している。
韓国は昨年7月の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領のウクライナ訪問に合わせ、同国への安全保障や人道支援、復興など包括的な支援を表明する「ウクライナ平和連帯イニシアチブ」を発表。また、今年3億ドル(約450億円)、来年以降に20億ドル以上を支援する方針を示している。
大統領室は「MDCP加盟を通じ、G7など国際社会の主要国と緊密に連携し、戦争の傷を乗り越え、自由民主主義と市場経済を守った韓国の経験がウクライナの平和で民主的な再建・復旧に寄与できるよう、引き続き努力していく」と強調した。
●ウクライナ文化損害5300億円 ユネスコ推定、ロシアの侵攻で 2/15
国連教育科学文化機関(ユネスコ、本部パリ)は14日、ロシアのウクライナ侵攻が始まって2年でウクライナの文化・観光分野に与えた損害額が推定で約35億ドル(約5300億円)近くに上ると発表した。
1年前の26億ドルから大幅に増加した。復興には今後10年で90億ドル近くが必要になるとしている。
ウクライナ当局から被害が報告された建造物や美術品、観光施設など計4779件の文化・観光分野の資産を対象とした。ロシアと国境を接する東部ハリコフ州の被害が特に大きく、全体のほぼ25%を占めた。 

 

●プーチン氏がバイデン氏を後押し……表向きと実際とは違う BBCロシア編集長 2/16
アメリカ大統領選を前に、ジョー・バイデン米大統領は応援されれば歓迎するはずだ。
しかし、今回の応援の言葉は予想外だっただろう。
「私たちにとってはどちらがいいですか。バイデンかトランプか」。ロシア国営テレビのパヴェル・ザルビン記者が、ウラジーミル・プーチン氏にこう質問した。
「バイデン」と、プーチン大統領は即答した。「彼の方が経験豊富で、予測可能で、古いタイプの政治家だ」と。
そして、プーチン氏はさらに続けた。
クレムリン(ロシア大統領府)の指導者は、バイデン大統領の職務遂行能力を擁護したのだ。
「スイスでバイデンに会った時、確かに数年前のことだが、一部の人はすでに、彼は職務を果たせないと言っていた。しかし、私にはそうは見えなかった」と述べた。
「確かに彼は手元の書類を見ていたが、正直に言うと、私も同じことをしていた。たいしたことではない。それに、彼がヘリコプターから降りるときに頭をぶつけたことがあると言っても、何かに頭をぶつけたことなど一度もないと言える人がいるのか?」
こう話すクレムリンのリーダーについて、バイデン大統領はこれまで「人殺しの独裁者」とか「完全なごろつき」とか、「土地と権力に貪欲」な人間だと非難してきたのだが。
ということは、クレムリン側はそう言われても特に気にしていないと? 何もかも水に流したと?
とてもそうとは思えない。
プーチン氏とロシアに関するバイデン氏の過去の発言と、ドナルド・トランプ前大統領の過去の発言を比べてみるといい。
トランプ氏はプーチン氏を「頭がいい」「天才だ」とたたえてきた。北大西洋条約機構(NATO)の加盟国として十分な予算を国防費に充てない国については、ロシアに「好きにするよう促す」と発言している。
●プーチン氏、次期米大統領はトランプ氏よりバイデン氏が望ましいと発言 2/16
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日、今年11月の米大統領選挙をめぐり、ドナルド・トランプ前大統領より現職のジョー・バイデン大統領の勝利を望むと述べた。
プーチン氏の発言は、ロシア国営テレビのインタビューで出た。バイデン氏について、「より経験が豊富で、予測可能で、古いタイプの政治家だ」とし、バイデン氏がアメリカのリーダーになったほうがロシアにとって好ましいとの見解を示した。
プーチン氏はまた、誰が「アメリカ国民の信頼を得て」大統領になろうと、ロシアはその人物と協力していくと表明した。
プーチン氏は、2016年米大統領選にトランプ氏が初挑戦する前、トランプ氏を「傑出し才能がある」と称賛。トランプ氏も同じ時期、プーチン氏とは「とてもうまくやっていく」だろうと述べていた。
一方、バイデン氏は長年、プーチン氏を激しく批判している。ロシアによるウクライナ侵攻の前には、プーチン氏を「殺人者」と呼んだ。
バイデン氏の高齢不安は否定
この日のインタビューでプーチン氏は、バイデン氏の年齢や精神面での健康について質問されると、最後に会った2021年当時は特に変わった点はなかったと返答。
「すでにその時(3年前)、すでに一部の人が彼は職務を果たせないと言っていたが、私にはそのようには見えなかった」と述べた。
そして、「確かに彼は手元の書類を見下ろしていたが、正直に言えば、私も同じことをしていた。たいしたことではない」とした。
ただ、バイデン氏に関する評価は好意的なものだけではなかった。同氏がウクライナでの戦争を非難していることについては、「極めて有害で間違ったもの」だとした。
プーチン氏はまた、米ジャーナリストのタッカー・カールソン氏のインタビューを最近受けたことについて言及。質問があまり鋭くなかったので、がっかりしたと述べた。
トランプ氏は最近、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中に、国内総生産(GDP)比で2%の軍事費支出という目標を満たしていない国があると批判。そうした国をロシアが攻撃するのを「促す」と発言し、関係国などの怒りを買った。
これを受けてNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、トランプ氏に集団的安全保障を「損なう」のはやめるよう求めた。
●ロシア民族存続には2人以上の子ども必要、プーチン氏が人口増訴え 2/16
ロシアのプーチン大統領は15日、同国の民族が存続するには家族が少なくとも2人の子どもを設け、さらに発展・反映するには3人以上をもうけなければならないと述べた。
約2年にわたるウクライナ侵攻で、人数は明かされていないが多数の死者が発生しているほか、侵攻への反発や戦闘動員の恐れから数十万人が出国している。
プーチン氏はウラル地方の戦車工場で従業員らに、ロシアの民族またはロシアの住民として存続したければ、少なくとも一家に2人の子どもが必要になる。人口増加と繁栄に至るには少なくとも3人必要だと述べた。
そのうえで、一家に一人の子どもでは人口が減少すると述べた。
●プーチン露大統領が戦車工場視察 ウクライナ侵略正当化 2/16
ロシアのプーチン大統領は15日、ウラル地方のスベルドロフスク州ニジニタギルを訪れ、主力戦車のT72B3MやT90Mの生産工場を視察した。従業員は、ウクライナ侵攻を後押しするため工場が24時間操業を導入し、増産を担っていると報告。プーチン氏は、ロシア人とウクライナ人は一体だとの持論を展開して侵攻を正当化した。国営テレビが報じた。
プーチン氏を迎えた従業員は、第2次大戦時にウクライナ東部ハリコフからウラル地方に戦車工場が移転し、ウクライナ人が地域に根付いたと紹介した。プーチン氏は「われわれはロシア人とウクライナ人を区別したことは一度もない。両国民の圧倒的多数は同じだと信じてきた」と応じた。
ナチス・ドイツに協力したウクライナ人の一部が米国の支援を受けてソ連崩壊後にウクライナで権力を握り、現在の対立を招いたと一方的に主張した。
●反プーチン候補者「ロシア大統領選への出馬拒否」に対する不服申し立て棄却 2/16
モスクワ最高裁判所は、反プーチンを掲げたボリス・ナデジディン氏の、ロシア大統領選への出馬拒否に対する不服申し立てを棄却した。
モスクワ最高裁判所は15日、大統領選挙への立候補登録を拒否された元下院議員のボリス・ナデジディン氏の、ロシア中央選挙管理員会に対する不服申し立てを棄却した。
ナデジディン氏は「反プーチン」を掲げて立候補を届け出たが、中央選管は署名に不備があるとして、候補者の登録を拒否した。
中央選管は、提出された10万5,000件のうち、6万件を精査した結果、15%にあたる9,000件あまりに不備が見つかったとしている。
これを受け、ナデジディン氏は、署名の収集方法や署名を記入するシートの形式に問題があるとして最高裁に不服を申し立てていたが、いずれも棄却された。
ナデジディン氏は決定を不服として、今後、憲法裁判所に上訴する方針だという。
3月の大統領選では、現職のプーチン氏のほか、「自由民主党」のレオニード・スルツキー氏と、「新しい人々」のウラジスラフ・ダワンコフ氏、「共産党」のニコライ・ハリトーノフ氏の4候補が出馬するが、プーチン氏の当選が確実視されている。
●ロシアで増える密告……同僚でも他人でも 2/16
ソヴィエト連邦時代のロシアでは、隣近所の人や同僚や、赤の他人でさえ、当局に密告するのは普通のことだった。それが今では、ウクライナでの戦争に批判的な国民をロシア当局が厳しく取り締まる中で、誰かが気に食わないとか、自分には政治的な主義主張があるのだなど、様々な理由から、他人を密告するロシア人が増えている。
「うちは、祖父が密告が得意だったので、どうすればいいか私は祖父に教わりました」
「アンナ・コロブコワ」を名乗る女性はこう話す。ロシアの大都市に住んでいるそうだが、具体的にどこかは明らかにしなかった。
そのコロブコワさんの祖父はスターリン時代、ソ連の秘密警察に匿名で情報提供をしていたのだという。当時は、他人を密告したり糾弾したりすることは日常生活の一部だったし、孫娘も今や祖父のあとを継いでいる。
彼女は今では、ウクライナでの戦争に批判的だと思う相手は誰だろうと、片端から通報している。
密告の常習者を自認
ロシアによるウクライナ全面侵攻が始まって以来、自分は1397通の通報文を書いたと、コロブコワさんは言う。自分の通報によって、大勢が罰金を科せられ、解雇され、「外国の代理人」のレッテルを貼られたという。
「気の毒とは思わない」と、コロブコワさんは明かす。「私が通報したおかげで罰せられたなら、とてもうれしい」。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻してから間もなく、新しい検閲制度が法制化された。それ以来、コロブコワさんは暇を見つけてはオンラインで過ごし、「ロシア軍の信用を傷つけた」と思う人たちを次々と通報している。今の制度では、「ロシア軍の信用を毀損(きそん)」した罪で有罪となれば、最高5万ルーブル(約8万円)の罰金か、2回以上の再犯の場合は最高5年間の禁錮刑の罰を受ける。
コロブコワさんは私の取材に対して非常に慎重で、メールでのやり取りにしか応じなかった。自分の顔を出すのはいやで、自分の身元を証明するものも提示したくないと力説した。なぜかというと、「殺してやる」と脅されることが多く、自分の個人情報がハッキングされたり盗まれたりするのが怖いからだという。
では、なぜ自分と同じロシア市民について、密告するのか。動機は二つあるという。
第一に、ロシアがウクライナに打ち勝つための手助けを、自分はしているのだと。そして第二に、自分の経済的安定の助けにもなるからだと。
コロブコワさんは独り暮らしで、人文系の教授としてパートタイムで働いているという。貯金を取り崩しながらなんとか、やりくりしているのだと。もしも戦争でウクライナが有利になれば、ロシアは賠償金を払う羽目になり、そんなことになれば国全体と国民全員の経済状態が打撃を受けかねないと、心配しているのだと話す。
「特別軍事作戦に反対する全員が、私の安全と生活にとって、敵です」。こう言うコロブコワさんにとって、ウクライナの勝利は自分の敗北を意味する。
「貯金がなくなって、フルタイムの仕事を見つけなくてはならなくなる」
政府から離れて活動するロシアの独立系人権団体「OVD-インフォ」によると、新しい検閲法が制定されて以来、軍を批判した疑いで8000件以上の事案が立件されているという。
標的
コロブコワさんが通報するのは主に、マスコミに話をする人たちだ。特に、BBCなどの外国メディアの取材に応じる人たちを、標的としている。人類学者のアレクサンドラ・アルヒポワさんも、コロブコワさんに通報された一人だ。
「彼女はもう7回、私のことを通報しています」とアルヒポワさんは話す。「密告文を書くことがあの人にとって、当局とやりとりする手段で、それが自分の使命だと思っている」。
「自分にぴったりな、得意なことを見つけたんでしょう。彼女に糾弾されると、専門家や研究者は往々にして、黙るしかなくなる」
アルヒポワさんは今や亡命中だ。自分が昨年5月にロシア国内法に基づき「外国の代理人」と認定されたことと、コロブコワさんの行動は、無縁ではないかもしれないと思っている。
「彼女に通報された私の友人たちは、もう一切、マスコミに話をしなくなりました。なので、彼女は成功したと言えるでしょう。任務完了です」
もう一人、標的にされたのは、タティアナ・チェルヴェンコさんというモスクワの教師だった。
ロシア政府が2022年9月に愛国教育を導入した際、チェルヴェンコさんは独立系メディア「ドシチ(TV Rain)」で、自分は代わりに数学を教えることにしたと発言した。「ドシチ」はその後、ロシア国内では閉鎖され、今ではオランダを拠点にしている。
「ドシチ」のインタビューを見たコロブコワさんは、チェルヴェンコさんを攻撃し始めた。チェルヴェンコさんの勤務先に苦情を繰り返し、モスクワの教育当局やロシアの子どもの権利当局にもクレームを重ねた。
結果的にチェルヴェンコさんは、2022年12月に解雇された。
コロブコワさんは自分のしたことを、何も後悔していない様子だ。それどころか、自分が通報した人たちのデータベースを作り、その結果どうなったかも記録している。
自分の通報の結果、6人が解雇されたほか、15人が罰金処分を受けたのだという。
コロブコワさんは、ロシア国家の敵だと思う相手しか自分は相手にしていないと力説する。しかし、ロシア国内には個人的な恨みつらみを晴らすために通報している人もいるという話が、BBCに寄せられている。
投獄され、自由を求め
漁師のヤロスラフ・レフチェンコさんは、ロシア極東のカムチャッカ半島出身だ。
半島は火山と珍しい野生動物で有名なだけでなく、ロシア軍が重点配備されていることでも知られる。
この地域に住む人たちの多くは、ウラジーミル・プーチン大統領を支持している。レフチェンコさんの同僚たちもそうだ。
2023年2月のことだ。レフチェンコさんの漁船は1カ月の航海を終えて、カムチャッカの港に戻った。仲間の漁師に酒を勧められたが、断った。相手の男は以前から自分に不満があったらしいと、レフチェンコさんは言う。酒を断ったことから口論になり、レフチェンコさんは頭をびんで殴られ、意識が戻った時には病院にいた。
退院が許され、被害届を出そうと警察署へ行くと、通報されていたのはむしろ自分の方だと知らされた。暴行ではなく、反戦思想を理由に。愕然(がくぜん)とした。
レフチェンコさんに警察は、彼を殴った同僚を訴えられるほどの証拠がないと告げたのだという。
やがて7月13日になり、レフチェンコさんは逮捕された。BBCが確認した裁判資料によると、問われている罪状はテロの正当化だ。そんなことはしていないと否定するレフチェンコさんは、公判開始前という理由で勾留された。
BBCと連絡をとるには、弁護士に手紙を託すしか方法がない。「私が他の船員に暴力をはたらいたと、捜査員たちは言う(中略)そして、ロシア連邦に対して敵対行為をするつもりだと、私がそう話していたことになっている」と、レフチェンコさんは私たちに書いた。
レフチェンコさんの友人たちは、相手の船員が自分の暴力行為をごまかし、警察の目をそらすために、彼が通報したのだろうと、私に話した。漁船内での飲酒は禁止されているのに、酒を勧めたことも、相手の男はごまかそうとしているのだろうと。
「自分はただ家に戻りたい」と、レフチェンコさんは言う。「自分の牢(ろう)では、何重もの鉄格子の向こうにかろうじて、空がぎりぎり少し見えるだけで、こんなことは耐えられない」。彼がこう友人に書き送った手紙を、その友人がBBCに見せてくれた。
「果てしない訴え」
戦争が始まって以来、あまりに大量の通報が次々とくるため対応しきれないのだと、ロシア警察は認めている。「誰かがロシア軍を批判したという訴えが、延々と届く」ため、警察はその捜査と対応に多くの時間を割いているのだと、警察関係者はBBCに匿名で明らかにした。
「特別軍事作戦」をめぐり「何かしら他人を攻撃したい人たちが、常に言いがかりの口実を探している」のだと、引退間もない警官がBBCに話した。
「おかげで、たとえ具体的な中身のある本物の案件がいざ来ても、捜査しようにも人手がない。みんな、ウクライナの旗に見えるカーテンを見たという、どこかのおばあちゃんの話を確認しに、出払ってしまっているので」
プーチン大統領は、「裏切り者を罰せよ」と繰り返している。そして、ウクライナでの戦争に終わりは全く見えない。それだけに、コロブコワさんのような常習的な密告者も、ほかの市民について密告するのを全くやめようとしない。
「私はこれからも、通報文を書き続ける」と、彼女はメールでBBCに伝えてきた。
「たくさん書かなくてはならないので、忙しい」のだという。
●ウクライナの観光損失額が、2年にわたる戦争で196億ドルに、観光産業の復興には90億ドルが必要との試算 2/16
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、2年にわたっている戦争によって、ウクライナにおける観光収入の損失額が196億ドル(約2.9兆円)以上になり、今後10年間で観光産業を復活させるためには90億ドル(約1.4兆円)が必要になるとの試算を明らかにした。ユネスコによると、キーウだけで、100億ドル(約1.5兆円)以上の収入が失われたという。
また、ユネスコは、戦争によるウクライナの文化財の損失額を約35億ドル(約5250億円)と試算。これは2023年の試算からさらに40%増えたことになる。博物館、記念碑、図書館、宗教施設など340棟あまりが被害を受けた。
ユネスコが発表した報告書では「ウクライナの観光復興に向けては、国際的な連帯が不可欠。リスク回避策とクリエイティブ産業への支援が、長期化する戦争の影響を軽減するための重要な手段になる」と記されている。
●“ウクライナ復興に72兆円余が必要” 世界銀行が新たな試算 2/16
世界銀行は、ロシアによる侵攻が続くウクライナの復興に必要な費用は今後10年間で4860億ドル、日本円にして72兆円あまりにのぼるという新たな試算を明らかにしました。
世界銀行はロシアによる侵攻開始からまもなく2年となるウクライナの復興に必要な費用の新たな試算をウクライナ政府や国連などとともにまとめ、15日、発表しました。
それによりますと今後10年間で必要な費用は4860億ドル、日本円にして72兆円あまりにのぼるとしていて、侵攻が続く中、去年3月に発表した試算より750億ドル、日本円にして11兆円あまり増えています。
侵攻による直接の被害額は1520億ドル、22兆円あまりにのぼっていて、特に住宅や運輸、商業や農業などの復旧に多くの費用が必要だとしています。
また、ことし1年だけでも緊急の復旧作業に150億ドルが必要で、このうち95億ドルはまだ調達のめどがたっていないということです。
世界銀行は国際社会が支援を続けることの重要性を強調するとともに、民間の投資を促進するための取り組みも必要だと指摘しています。
●ロシア、激戦地の補給路遮断=「ウクライナ軍撤退」報道も 2/16
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は、包囲する東部ドネツク州の激戦地アウディイウカで、ウクライナ軍の主要な補給路を遮断したもようだ。占領地区にロシア国旗が掲げられたことがドローンの映像で確認できたと、双方の軍事ジャーナリストらが15日、SNSで指摘した。事実であれば、同地での攻防は重大局面を迎えた可能性がある。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は15日、ウクライナ軍の兵員の一部がアウディイウカから撤退を開始したと報じた。同国軍当局者は「(陥落は)時間の問題」と認めているという。
●ロシア ウクライナにミサイル攻撃 ロシアも攻撃受け双方死傷者 2/16
ウクライナでは14日から15日にかけてロシアによる大規模なミサイル攻撃があり、死傷者が出ています。一方、両国の国境に近いロシア西部ではウクライナ側の攻撃によって死傷者が出たと伝えられていて、双方の応酬が続いているとみられます。
ウクライナでは15日にかけてロシアによる大規模なミサイル攻撃が行われ、ウクライナ空軍は発射された26発のうち13発を撃墜したとしていますが、東部ハルキウ州で60代の女性が死亡したほか、各地でけが人やインフラの損壊などの被害が出たということです。
また、東部ドネツク州の知事は14日に州内の住宅などが砲撃を受け、あわせて8人が死亡したと明らかにしました。
一方、国営ロシア通信は15日、ロシア西部のウクライナとの国境近くの都市ベルゴロドにウクライナ軍の攻撃があったとして、がれきが散乱するスーパーマーケットや窓が割れた集合住宅などの様子を伝えました。
ベルゴロド州の知事によりますと子どもを含む7人が死亡し、18人がけがをしたということです。
こうした中、ウクライナ大統領府は、ゼレンスキー大統領が16日からドイツとフランスを訪問すると発表しました。
ゼレンスキー大統領は17日には、ドイツ南部ミュンヘンでの安全保障会議に出席し、演説を行うほか、欧米各国の出席者との会談を予定しているということで、軍事支援の先行きが不透明になる中、支援の継続を働きかけるとみられます。
●ロシア軍がウクライナ東部で攻勢、犠牲いとわず兵力投入… 2/16
ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州アウディーイウカで攻勢を強めている。米国のジョン・カービー大統領補佐官は15日の記者会見で、「アウディーイウカは露軍の手に落ちる危険にさらされている」と指摘した。ウクライナ軍が防衛を継続できるかが焦点となっている。
戦闘が続くアウディーイウカ=15日、写真はロイター
ロイター通信によると、ウクライナ軍の主要な補給路が遮断される危険性が高まり、部隊の再編成も強いられている。軍報道官は15日、一部部隊を守備に適した場所に後退させていると国営テレビで明らかにした。露軍は犠牲をいとわずに兵力を大量投入しているとみられる。
アウディーイウカは、ロシアが占領するドネツク州都ドネツクの北約15キロ・メートルに位置する。露軍は同州全域を制圧するため、アウディーイウカを重点攻略目標としている。
●“ウクライナ東部アウディーイウカ ロシア掌握おそれ”米高官 2/16
ウクライナ情勢をめぐってアメリカ政府の高官は、ロシア軍が攻撃を強める東部のアウディーイウカについてロシア側に掌握されるおそれがあると明らかにしました。前線のウクライナ軍が弾薬不足に陥っているとしてアメリカ議会がウクライナ支援を含む予算案を早急に成立させる必要があると強調しました。
ウクライナでは東部ドネツク州のアウディーイウカ周辺で、占領地域の拡大をねらって包囲を試みるロシア軍の攻撃が続いています。
これについてアメリカ・ホワイトハウスで安全保障分野の広報を担当するカービー大統領補佐官は15日、記者会見で「ウクライナ側から危機的な状況だと報告を受けている。ロシア軍がウクライナの陣地を攻め続け、アウディーイウカはロシアの支配下に入るおそれがある」と明らかにしました。
そして「ウクライナ軍が、前線で砲弾が足りなくなっているのが理由だ。われわれはロシアの攻撃の阻止に必要な砲弾を提供できていない」と述べて、アメリカ議会がウクライナへの支援を含む緊急予算案を早急に成立させる必要があると強調しました。
アメリカ議会では上院が13日にウクライナやイスラエルへの支援を含む緊急予算案を可決しましたが、野党・共和党が多数派の下院では可決する見通しが立っておらず、予算案が成立するか不透明な状況が続いています。
ゼレンスキー大統領“戦局の打開に努めている”
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、公開した動画でロシア軍が攻撃を強めているアウディーイウカなどの東部の戦況について軍のシルスキー総司令官とウメロフ国防相から報告を受けたと明らかにしました。
その上で「できるだけ多くのウクライナの人々の命を救うためわれわれの兵士が力を発揮できるよう全力を尽くしている」と述べ、戦局の打開に努めていると強調しました。 
●ロシア野党指導者ナワリヌイ氏が死亡=ロシア刑務所当局 2/16
ロシアの刑務所当局は16日、近年のロシアで最も著名な野党指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が、収監されていた北極圏の刑務所で死亡したと発表した。
ウラジーミル・プーチン大統領を最も声高に批判していた政治指導者だったナワリヌイ氏は、禁錮19年の実刑判決を受けて収監されていた。収監理由となった罪状は、プーチン政権の政治的狙いによるものと、広く受け止められていた。
ナワリヌイ氏は昨年末、モスクワ近郊の刑務所から、最も警備が厳重とされる、北極圏にあるヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移されていた。
ヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所当局は、ナワリヌイ氏が16日に散歩した後、「気分が悪く」なったのだと説明した。
刑務所当局は、ナワリヌイ氏はそれから「ほぼすぐさま意識を失った」とコメント。救急医療チームがすぐに呼ばれ、蘇生しようとしたものの、ナワリヌイ氏は回復しなかったという。
「救急チームの医師が、受刑者の死亡を宣告した。死因は現在、確認中」だと、刑務所は発表した。
ナワリヌイ氏の顧問弁護士、レオニード・ソロヴョフ氏はロシア・メディアに、まだコメントしないと述べた。ナワリヌイ氏の側近、レオニード・ヴォルコフ氏はソーシャルメディアに、「ロシア当局が、刑務所でアレクセイ・ナワリヌイを殺したと告白文を公表した。これが本当かどうか、確認も証明することもできない」と書いた。
ナワリヌイ氏は15日にも、刑務所から動画リンクで審問に参加したばかりで、映像では元気で、笑っていた。
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ナワリヌイ氏の死去は「大統領に報告済み」だとのみ述べた。プーチン氏は、中部チェリャビンスクを訪問中という。
ミュンヘンで開かれている安全保障会議に出席していたナワリヌイ氏の妻ユリアさんは同日、満場のスタンディングオベーションを受けて登壇し、「プーチンと彼の政権は常にうそをつくので(訃報を)ただちには信じられないが」としたうえで、「(訃報が)もしも本当なら、プーチンと仲間たちに知っていてほしい。連中がロシアと私の家族と夫にしたことについて、裁きを受けることになると。その日は素早くやってくる。あの独裁政権とプーチンは、これまでのあらゆる恐ろしい行動について、個人的な責任を負わされなくてはならない」として、「私たちにしていることについて独裁政権を罰するため、国際社会には団結して助けてほしい」と述べた。
ナワリヌイ氏の広報担当キラ・ヤルミシュ氏は1月、ナワリヌイ氏が独房で過ごした日数は280日以上に上ると明らかにしていた。
ロシアの人権活動家でジャーナリストのエヴァ・メルカチェワ氏は16日、ナワリヌイ氏は少なくとも27回にわたり独房に入れられており、それが死去に「影響しなかったわけがない」と話した。
「プーチンの責任だ」=バイデン米大統領
アメリカのジョー・バイデン大統領は同日、ホワイトハウスで記者会見し、「伝えられているアレクセイ・ナワリヌイ氏の死去の知らせに、世界中の何百万人の人たちと同様、文字通り驚いていないし、同時に激怒している」と述べた。
「プーチン政権によるあらゆる腐敗や暴力や悪行に、彼は立ち向かった。それに対してプーチンは彼に毒を使い、逮捕し、でっちあげの犯罪で起訴した。実刑を与え、独房に入れた。それだけの目に遭わされても彼は、プーチンのうそを非難するのをやめなかった。刑務所の中にいてもなお、彼は真実を口にする強力な声だった」とバイデン氏は述べた。
ナワリヌイ氏は2020年の暗殺未遂を受けてそのまま外国にとどまることもできたが、「代わりに彼はロシアに戻った。自分がおそらく投獄され、このまま活動を続ければ殺されることもあり得ると知っていながら、ロシアに戻った。それでも彼は、自分の国を、ロシアを、深く信じていたから戻った」のだともバイデン大統領は指摘した。
「彼の死去の情報が本当なら、そして本当ではないと思う理由は何もないが、もし本当なら、ロシア当局は独自の話を展開するはずだ。しかし、間違えないように。間違えないように。ナワリヌイの死亡はプーチンの責任だ。プーチンの責任だ」と、バイデン氏は強調した。
「プーチンに殺された」=ゼレンスキー氏
刑務所当局の発表を受けて国際社会はただちに、プーチン大統領にとってロシア国内で最大の政敵だったナワリヌイ氏をこぞって称賛した。
フランス政府は、ロシアの「抑圧」に抵抗したナワリヌイ氏が自分の命でその代償を払うことになったとコメント。ノルウェーのエスペン・バット・アイデ外相は、ナワリヌイ氏の死去にロシア当局が多大な責任を負うとコメントした。
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、「ロシアからの情報に悲しみ、動揺している」と述べた。
イギリスのリシ・スーナク首相は、ナワリヌイ氏の死去は「ひどい知らせ」だとして、ナワリヌイ氏が「目覚ましい勇気を終生示した」とたたえた。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は、ナワリヌイ氏が「勇気の代償を自分の命で払った」と述べた。
ドイツ・ベルリンでドイツとの安保協定に署名し、ショルツ首相と共同記者会見に臨んでいたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ナワリヌイ氏が「プーチンに殺されたのは明らか」で、「プーチンは自分の地位が安泰な限り、誰が死のうとも気にしない」と批判。だからこそ「プーチンを今の地位にとどめてはならない」し、「責任をとらせなくてはならない」と述べた。
欧州理事会のシャルル・ミシェル理事会議長は、ナワリヌイ氏の「悲劇的な死」の責任を負うべきはロシアだけだとソーシャルメディアに書いた。
ミシェル議長は、ナワリヌイ氏が「自由と民主主義の価値のために闘い」、自分の理想のために「究極の犠牲を払った」と述べた。「最も暗い状況で民主主義のため、世界各地で闘う人たち。戦士は死ぬ。しかし、自由のための戦いは決して終わらない」とも、議長は書いた。
アメリカのカマラ・ハリス副大統領は、「(ナワリヌイ氏の死去が)確認されれば、プーチンがいかに残酷か、またしても示すことになる」、「責任はロシアにある」と述べた。
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、ロシア政府がナワリヌイ氏を「迫害し、毒を使い、投獄」してきたと述べ、同氏の死去が確認された場合それは「たった一人の男がいかに(ナワリヌイ氏に)こだわり恐れていたか」の表れで、「プーチンが築いた体制の中心にある弱さと腐敗を強調するだけだ」と批判。その上でブリンケン長官は、「この責任はロシアにある」と強調した。
近年のロシアで最も著名な野党指導者
プーチン大統領に批判的な政治やマスコミ関係者のほとんどは、すでにロシアから脱出している。
しかし、ナワリヌイ氏は2020年8月に西シベリアからモスクワに向かう機内で意識を失い、ロシア国内の病院に搬送された。治療のためその後移送されたドイツの当局は同年9月、神経剤「ノヴィチョク」が使用されたと発表した。
ナワリヌイ氏はその後、2021年1月に帰国。モスクワ郊外のシェレメチェヴォ空港の入管窓口で警察に拘束され、それから3年1カ月にわたり拘束され続けた。
ナワリヌイ氏はかねて選挙でプーチン氏を倒そうとし続けたものの、2018年の大統領選には出馬を禁止された。
ロシアでは今年3月に次の大統領選が予定されているが、プーチン氏に対抗する候補は実質的にいない状態での選挙となる。
ロシアの中央選挙管理委員会は8日、来月の大統領選挙に関し、ウクライナ侵攻に反対するボリス・ナデジディン元下院議員(60)の候補者登録を認めないと決めた。
ナワリヌイ氏は1月にも刑務所から支持者あての動画で、自分がいる刑務所は「とても遠い」のでまだクリスマスの郵便物が届いていないのだと冗談を言い、笑っていた。
ナワリヌイ氏は刑務所からも、弁護士にメッセージを託して、世界に自分の言葉を届けていた。弁護団が代理でアップロードした2月14日のインスタグラムの投稿は、妻ユリアさんへのバレンタインのメッセージで、「私たちは何千キロも隔てられている」けれども、「君はいつでも僕の近くにいると感じるし、僕はますます君のことを愛している」と書いていた。
帰国の危険性を承知し、刑務所から挑戦し続けた――BBC東欧特派員
神経剤ノヴィチョクで暗殺されかかったナワリヌイ氏は、自分にとってロシアがいかに危険な場所か、承知していた。自分にとってロシアに安全な場所などないと。
それにもかかわらず、ドイツで治療を受けて回復した彼は、帰国を選んだ。
ロシアの政治家として彼は、亡命生活を続けることが受け入れられなかった。ロシアを離れ、国内事情がわからなくなり、ロシア政治にとっての存在意義を失うなど、彼には考えられなかったのだ。
どんなに危険が高くても、自分はロシアにいなくてはならない。それが、ナワリヌイ氏の思いだった。
しかし、とんでもなく危険なことだった。
2021年1月にモスクワに着陸して、彼はただちに逮捕され、以来ずっと拘束され続けた。
複数の罪状に問われた彼の姿は、刑務所からの動画でしばしば見ることができた。数々の罪状は、ナワリヌイ氏を拘束し続けるための口実だった。
刑務所での彼は、やせ細っていた。髪をそって、囚人服はぶかぶかだった。それでも、その発言は以前と変わらず、力強く挑戦的だった。
ナワリヌイ氏は「未来の美しいロシア」への希望と信念を、決して失わなかった。彼を支えるチームが使うそのフレーズは、長年続く抑圧的なプーチン独裁体制の終わりと、ロシアの政治的変革を期待してのものだ。
しかし、ナワリヌイ氏の逮捕を経て、プーチン氏はウクライナでの戦争を始めた。ナワリヌイ氏の政治団体は「過激主義」を理由に活動を禁止され、メンバーは逮捕され、プーチン氏を批判する主立った人たちは国を逃れるか拘束された。
拘束されているほかの反政府活動家の家族はいま、震えあがっていることだろう。
その人たちにとって、そして今とは違うロシアを想像した全員にとって、今の展望はかつてないほど暗い。
●プーチン氏の誤算?中立政策転換スウェーデンのねらいとは? 2/16
「われわれはバルト海で潜水艦を運用し、ロシアを対象とした強力な情報機関なども持っている」
こう話すのは、長年、保ってきた軍事的中立を転換し、NATO加盟にかじを切った北欧スウェーデンのヨンソン国防相です。
ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく2年となる中、NATO加盟を目前にしたスウェーデンの国防相に、そのねらいや今後のウクライナ支援について聞きました。
中立政策を転換したスウェーデン
東西冷戦中も軍事的中立を保ってきた北欧のスウェーデン。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて2022年5月、隣国フィンランドとともに、その安全保障政策を大きく転換し、NATO=北大西洋条約機構への加盟を申請しました。
フィンランドのNATO加盟は2023年4月に実現した一方、スウェーデンについては、トルコが自国からの分離独立を掲げるクルド人武装組織のメンバーなどをスウェーデンが支援していると主張し、対策を求めていたほか、ロシア寄りの姿勢を示すハンガリーの承認も進まず、長く加盟に向けた手続きが停滞していました。
しかし、トルコ議会がことし1月にようやくスウェーデンのNATO加盟を承認したのに続き、ハンガリーのオルバン首相も議会に承認を急ぐよう促す考えを示し、スウェーデンのNATO加盟に向けて、大きく前進しています。
これまで堅持してきた「軍事的中立」を放棄して、NATO加盟にかじを切ったねらいは何なのか、今後のウクライナへの支援をどう考えているのか。
首都ストックホルムで、ヨンソン国防相がNHKのインタビューに応じました。
なぜNATO加盟を目指す?
NATOの加盟国とパートナーの間には違いがあるからです。
スウェーデンはもともと、NATOに加盟する計画はなく、ロシアがウクライナに軍事侵攻を行ったことで、加盟しようという動きになりました。
ウクライナ侵攻が始まったとき、われわれが出した結論の1つは「加盟国とパートナーの違いがウクライナで露呈した」ということでした。
ウクライナはNATOのパートナーです。NATOはパートナーを支援しますが、加盟国が武力攻撃を受けた場合は、その国を防衛します。つまり、集団的自衛権の行使が規定されている北大西洋条約第5条が適用されるには加盟国でなければならないのです。
ロシアとしては、スウェーデンとフィンランドをNATOの外に置いておくことが目的だったと思います。しかし、ウクライナ侵攻の結果、スウェーデンとフィンランドはNATOへ加盟することになりました。
国民にはどう説明する?
ロシアのウクライナ侵攻によって、安全保障環境が大幅に悪化したためだと説明します。
武力攻撃にさらされた場合に防衛してもらいたいのであれば、援助を受けることを望む前に、NATO加盟国になることが不可欠です。
ロシアは、大きな政治的、軍事的リスクを取ることをいとわない国であると同時に、戦場において大きな残虐性を示す国です。私はロシアが侵攻したウクライナのブチャやイルピンなどを訪れ、ロシアが行った行為を目の当たりにしました。
NATOは歴史上、最も成功した軍事同盟であり、一度も武力攻撃にさらされたことはありません。そのNATOの正式メンバーになれば、北大西洋条約第5条とNATOの共通防衛計画の適用を受けることになるのです。
ハンガリーに対する働きかけは?
もちろん、ハンガリーと話し合っています。また、軍事面でもハンガリーとは良好な協力関係を築いています。
もちろん最終的には、ハンガリーの議会が決めることです。しかしハンガリーは批准するつもりだと言っており、私たちはもちろんできるだけ早くそうなってほしいと思っています。
これはわれわれの安全保障にとって重要であり、NATO全体の安全保障にとっても重要なのです。スウェーデンには、NATOをより強固なものにするための資産と能力があります。
そしてスウェーデンの領土がNATOの領域となることで、フィンランドとバルト3国の信頼性を高めることになるでしょう。
スウェーデンの加盟で何が変わる?
スウェーデンが加盟すれば、NATOの北側全体に安定をもたらし、NATOの抑止力と同盟全体の防衛能力を高めることになります。これが重要なポイントだと思います。
NATOの防衛力を強化することは非常に重要なことであり、北欧諸国間の協力関係も深まりやすくなります。
北欧5か国すべてが初めて、同じ安全保障の枠組みに入ることになるからです。
そして、NATOの共通の防衛計画を持つことになります。それは軍事的な機動性や相互運用性など、あらゆるものを強化するために重要なことであり、われわれはより強い協力関係を築くことができます。
スウェーデンの加盟によって、NATOは北側を強化することができるのです。
スウェーデンはNATOにどう貢献する?
スウェーデンは小国でありながら強力な防衛産業の基盤があります。戦闘機、潜水艦、水上戦闘機、砲兵システム、先進的な歩兵車両を生産できる1000万人規模の国はスウェーデン以外にありません。
NATO加盟国への攻撃の抑止力と防衛に貢献できることがたくさんあると思います。
1つはバルト海に関するわれわれの能力です。われわれはバルト海で潜水艦を運用し、潜水艦を製造できます。
パトリオット・システムによる強力な防空能力もあり、90を超えるグループによる強力な防衛産業の基盤を有しています。特に、ロシアを対象とした強力な情報機関などもあり、地理的にも北欧諸国の中心に位置しています。
防衛費に関してもかなり力を入れていて、2024年は2020年と比べると2倍、GDPの2.2%に達しています。私たちは安全保障を提供する国になることを目指しているのです。
ウクライナの戦況どうみる?
これまでのところ、ロシアが支配しているのはウクライナ全土の18%に満たず、この戦争がロシアにとって成功しているとは言えません。
しかし、今われわれが確認しなければならないのは、ウクライナの人たちに対する支援を続けること、特に、砲弾と防空システムの両方を提供することが非常に重要です。
また、ウクライナをEUやNATOの加盟国として迎え入れ、できるだけウクライナを支援することも重要です。
ウクライナは多くの国から武器の供与を受けていますが、新たに生産された武器を提供することも重要な段階にきています。
ウクライナへの支援は?
スウェーデンはウクライナに対して非常に大規模な支援を行ってきました。20億ユーロ以上の支援を行いましたが、これはもちろん正しいことであり、賢明なことです。
ウクライナを支援することで、ルールに基づく国際秩序と、自由で独立したウクライナを支持しています。
われわれはウクライナに歩兵戦闘車CV90を提供し、ウクライナで非常に良い成果をあげています。また、「アーチャー」という最新鋭の自走式りゅう弾砲や戦車のレオパルトも供与しました。
これら3つの異なる種類の兵器を提供することで、ウクライナ側には、砲兵、戦車などを組み合わせた統合戦を行う能力が生まれます。
ですから、私にとっても重要なのは、単にこれらを供与するだけでなく、ウクライナ側がこうした兵器を使って作戦を達成できるようにすることです。
ウクライナ東部で任務を遂行できるようにするためには、補給と弾薬の維持が極めて重要なのです。また、より多くのウクライナ兵を訓練することも非常に重要だと考えています。
スウェーデン製戦闘機「グリペン」の供与は?
「グリペン」を供与するかどうか決めるには、スウェーデンがNATOの加盟国でなければなりません。供与については国際協力の中で決定されなければならないことです。
グリペンはわれわれのニーズと能力に合わせた戦闘機です。運用が簡単でコスト効率に優れているため、非常にすぐれた戦闘機であり、私たちの周辺で起こりうる脅威に対応しています。
ロシアによるウクライナ侵攻から学んだ教訓のひとつは、強力な防衛産業の基盤が信頼できる抑止力の一部になるということです。
この戦争は消耗戦であり、戦場での勝利を確実にするためには、強力な防衛産業を持つことが非常に重要なのです。
●疲弊するウクライナ軍、兵員補充にも苦慮 侵攻2年 2/16
ロシアによる侵攻開始後、直ちに軍に志願したウクライナ人のイワン・ザドンツェウさん(27)は、紛争が3年目に突入しようとする今、疲弊しきっていた。 
「ただ怒りしか感じない。いつまで続くのか」。ザドンツェウさんは第24独立突撃大隊の報道将校としてAFPの取材に応じた。「われわれは全員、疲れ果てている。皆、休息を望んでいる。とにかく交替させてほしい!」
兵士の疲労と休息の必要性を訴える声は、さらなる兵員補充を求めるウクライナ軍上層部にジレンマをもたらしている。志願兵数が伸び悩む一方で、追加動員法案は政治的窮地にあり、政府にも身動きする余地がない。
空挺攻撃部隊の中隊を率いるセルヒー・オゴロドニクさん(39)は「兵士たちには休みが必要だ。回復して戦闘を継続するためだけはなく、市民として生活を再建するための時間も要る」と語った。兵士たちの間では、応召していない人々に対する「不公平感」が渦巻いているという。
紛争終結が見通せない中、ウクライナ軍は十分な人員の確保に苦慮している。徴兵を容易にし、前線の兵士に休息を与えることを目的とした追加動員法案は、現在激しい議論の的となっている。
戦線の停滞によって、志願を考えている人々の勢いも冷め気味だ。
ウクライナ軍が2022年当初掲げていた同年内の勝利は実現せず、昨年の待望の反転攻勢でもロシア軍を打破できなかった。
首都キーウの理容師ダニールさん(27)は1年前なら入隊を考えたかもしれないが、今は違うと言う。「当時はある種の熱狂があり、誰もがうまくいくと思っていた。すべて解決し、勝利を取り戻せると… だが、今はみんなもっと現実的だ」
キーウ国際社会学研究所(KIIS)のアントン・グルシェツキー氏は、米議会内の対立が西側の支援の足かせとなり、先行きが不透明なことも影響しているとみている。
「強力な支持を受けていると感じていた時には、ウクライナ人は戦場で死ぬ覚悟ができていた。だが、戦うための武器がないと知れば、戦意は喪失する」
さらにウクライナ政府の一連の汚職の暴露は、志願を迷っているダニールさんのような人々をいっそう落胆させた。
追加動員法案で広がる不安
軍の勧誘を請け負う人材募集代行会社「ロビーX」は、ウェブサイトで軍の職務を公開し、さまざまな部隊や指揮官の情報を提供している。
ウラディスラウ・グレジーウ最高経営責任者(CEO)は、システムの近代化は「非常に大きな挑戦だが、それが唯一、この戦争に勝利する道だ」と語る。サイトにはこれまでに6万7000件を超える応募があった。
「入隊への一歩を踏み出す手助けをしている。志願した後はどうなるかをより明確に示し、納得して決断できるように」
だが近い将来、ウクライナ人男性に残される選択肢は減るかもしれない。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は昨年12月、軍が最大50万人の追加動員を求めていると述べた。
追加動員法案は、増員と前線にいる兵士の処遇改善という二つの課題に対応しようとしている。現在は上限のない戦時の兵役期間を36か月に制限することや、動員可能年齢の27歳から25歳への引き下げ、電子徴兵制の導入などが盛り込まれている。
徴兵の強化が取り沙汰される中で、法案の内容は多くの人に不安を抱かせている。
動員兵を部隊の一員として迎え入れるのも、単純な話ではない。ザドンツェウさんは「われわれの部隊では、意に反して動員された兵士は好まれない」と語った。その一方で、動員兵に頼らざるを得ない状況であることは認め、正規の訓練を終えれば士気が上向く可能性があると期待を示した。
ザドンツェウさんは、同胞たちが現状を認識し、引き続き動員に応じてくれることを望んでいる。
「われわれは国全体のため、独立のために戦っている。もしわれわれが戦うのをやめれば、再び占領されてしまうだろう」
●ウクライナ世論調査、ゼレンスキー氏「信頼」64%に低下…解任のザルジニー前総司令官は94% 2/16
ウクライナの調査研究機関「キーウ国際社会学研究所」は15日、世論調査結果を発表した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領を「信頼する」と答えた割合は昨年12月の前回調査(77%)から低下し、64%だった。国民的人気が高く、8日に解任されたワレリー・ザルジニー前軍総司令官は94%が信頼すると答えた。
後任のオレクサンドル・シルスキー総司令官については35%が「知らない」と答え、知名度の低さが目立った。シルスキー氏を「信頼する」としたのは、40%にとどまった。
また、ウクライナが現在進む方向について、46%が「間違っている」と回答した。「正しい」は44%で2022年5月以降、「間違っている」が「正しい」を初めて上回った。ロシアによる侵略開始から2年を前に国民の不安が見て取れる。
調査は、ザルジニー氏の解任前後の今月5日から10日にかけて、ウクライナ全土の約1200人を対象に行われた。

 

●バイデン大統領、ナワリヌイ氏死亡は「プーチンに責任」と非難 2/17
バイデン米大統領は16日、ホワイトハウスで演説し、ロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏が刑務所で死亡したことについて「プーチン(露大統領)に責任がある。ウクライナなど他国の市民を標的にするだけでなく、自国民にも恐ろしい悪事で苦痛を与えている」と非難した。
バイデン氏は「暗殺か」との質問には「何が起きたのか正確には分からないが、プーチンと彼の悪党たちがしたことの結果であることに疑いはない」と述べた。また、ナワリヌイ氏について「プーチン政権の汚職や暴力に対して勇敢に立ち上がった。プーチンは彼に毒を盛り、拘束し、でっち上げの罪で訴追し、刑務所に送り、独房に入れた。それでも彼は声を上げることをやめなかった。自分の国であるロシアを深く信じていた」と称賛した。
バイデン氏は2021年6月にスイスでプーチン氏と会談した際の記者会見で、ナワリヌイ氏が死亡した場合は「ロシアにとって破壊的な結果となる」とプーチン氏に伝えたと説明していた。16日に記者から「破壊的な結果」の内容を問われたが、「(ウクライナ侵攻によって)幅広い制裁の対象になっているが、他に何ができるか検討している」と述べるにとどめた。
●ロシア ナワリヌイ氏が死亡 プーチン政権批判の反体制派指導者 2/17
ロシアでプーチン政権を批判する急先ぽうとして知られ、刑務所に収監されていた反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏が死亡したと当局が発表しました。
プーチン大統領も立候補している大統領選挙が来月に迫る中で起きた事態に欧米各国などからは政権側を批判する声が強まっています。
ロシアのプーチン政権への批判を続け、刑務所に収監されていたナワリヌイ氏について関係当局は16日「散歩のあと気分が悪くなり医師が蘇生措置を行ったものの死亡が確認された」と発表しました。
47歳でした。
ナワリヌイ氏は、2020年、政権側の関与が疑われる毒殺未遂事件の被害を受けたあと過去の経済事件を理由に逮捕され北極圏にあるロシア北部のヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に収監されていました。
ロシアでは、来月、大統領選挙が行われプーチン大統領も立候補していますが、ナワリヌイ氏は、支援団体を通じてプーチン氏以外の候補者に投票するよう呼びかけるなど収監後も反政権の活動を続けていました。
こうした中で起きた事態に人権団体や欧米各国からは批判の声が強まっていてプーチン政権に厳しい姿勢を示し、2021年にノーベル平和賞を受賞したロシアの独立系新聞の編集長、ドミトリー・ムラートフ氏は「ナワリヌイ氏への刑罰に『殺害』が加えられた」と非難しました。
また、アメリカのバイデン大統領は緊急の演説を行い「ナワリヌイ氏の死は、プーチンや彼のまわりの悪党が行った何かしらの結果であると確信している。プーチンに責任がある」と述べてプーチン大統領を厳しく非難するとともに今後、何らかの対抗措置を取る考えも示しました。
一方、ナワリヌイ氏の妻、ユリアさんは各国の首脳や閣僚が集まってドイツで開かれていた国際会議で急きょ演説し「プーチンはロシアに対して行ってきたすべての恐ろしい出来事への責任を負わねばならない」と述べ、プーチン大統領の責任を追及するよう訴えました。
ナワリヌイ氏を支援する団体は、前日の15日、ナワリヌイ氏が裁判のために刑務所からビデオを通じて姿を見せ、健康そうに見えたとしてその映像をSNSで公開していました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は16日、記者団に対し「われわれが知るかぎりでは、規則に従って確認や解明などが行われている。医師が明らかにするはずだ」と述べたほか、ナワリヌイ氏の死亡についてはプーチン大統領も報告を受けたと明らかにしました。
アレクセイ・ナワリヌイ氏とは
アレクセイ・ナワリヌイ氏は、ロシアでプーチン政権を批判してきた急先ぽうとして、世界的にも知られた反体制派の指導者です。
プーチン大統領が反対勢力に対する抑圧を強める中で、最大の政敵ともみられてきました。
ナワリヌイ氏は、1976年、モスクワ州生まれで、2000年代初めからプーチン政権の高官や国営企業の汚職を主にインターネット上で告発する活動を続け、若者を中心に人気のブロガーとして支持を広げていきました。
政権側の汚職や選挙の不正に対して、ナワリヌイ氏は反政権デモを呼びかけ、ロシア全土に広がりを見せました。
一方、ナワリヌイ氏自身は政権から敵視され、繰り返し拘束された上、罰金刑や実刑を科されました。
そうしたなか、2020年、ナワリヌイ氏はロシア国内を旅客機で移動中に突然、意識を失い、ドイツの病院に搬送されます。
原因の究明にあたったドイツ政府は、旧ソビエトで開発された神経剤『ノビチョク』と同じ種類の物質によって攻撃されたと発表しました。
政権側の関与が疑われる毒殺未遂事件として、世界に衝撃を与え、プーチン政権に対する国際的な批判が高まりました。
そして、ナワリヌイ氏は、2021年の1月、療養先のドイツから帰国した直後、過去の経済事件を理由に逮捕され、刑務所に収監されました。
また、ナワリヌイ氏が率いる団体もその年の6月、ロシアの裁判所から「過激派組織」に認定され、解散に追い込まれました。
さらに、2022年3月、ロシアの裁判所は、新たに詐欺などの罪で禁錮9年の判決を言い渡し、刑期が大幅に延長されることになりました。
しかし、ナワリヌイ氏は、刑務所からも支援者を通じてSNSで政権批判を続け、弾圧に屈しない姿勢を崩しませんでした。
プーチン政権が始めたウクライナへの軍事侵攻に対しても繰り返し非難し、市民に反対の声を上げるよう呼びかけました。
欧米各国や人権団体はプーチン政権に即時釈放を求め、国際社会ではこうしたナワリヌイ氏の姿勢を評価する声も高まります。
ナワリヌイ氏は、EU=ヨーロッパ連合の議会が人権擁護に貢献した人に贈る「サハロフ賞」に選出されたほか、たびたびノーベル平和賞の有力な候補にも上がりました。
また、2023年、活動を取り上げた映画『ナワリヌイ』がアメリカのアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。
2人の子どもとともに授賞式に出席した妻のユリアさんは「夫は真実を述べ、民主主義を守るためだけに刑務所にいます。夫と私たちの国が自由になる日を夢みています」と訴えていました。
一方、支援団体はナワリヌイ氏の体調が収監中に悪化しているとたびたび訴え、去年4月には「急性の胃の痛みを訴え、刑務所に救急車が呼ばれた」と明らかにした上で「ゆっくりと、しかし着実に毒殺されようとしている可能性が排除できない」と危機感を訴えていました。
ナワリヌイ氏に対し、ロシアの裁判所は去年8月、過激派団体を創設した罪などで新たに禁錮19年の判決を言い渡し、刑期がさらに大幅に延長されることになりました。
そうした状況の中でもナワリヌイ氏は、ことし3月のロシア大統領選挙をめぐって、支援団体を通じてプーチン大統領以外の候補者に投票するよう呼びかけ、政権への批判姿勢を貫いています。
去年12月、支援団体はナワリヌイ氏との連絡が途絶え、所在が不明になったと明かし、その後、ロシア北部の北極圏にある刑務所に移送されていたことがわかりました。
ナワリヌイ氏は先月、SNSを通じて移送後の姿を見せていました。
国内の反応は
ナワリヌイ氏の妻「プーチンはすべての出来事への責任を」
ナワリヌイ氏の妻、ユリアさんは16日、出席していたミュンヘン安全保障会議で急きょ演説し「この恐ろしいニュースを信じていいのかわからない。常にうそをつくプーチンやプーチン政権を信じることができないからだ」と述べました。
その上で「もし事実なら、プーチンやその仲間たちは、彼らがわたしたちの国やわたしの家族、そして夫にしたことへの報いを受けると思い知らせたい。その日はすぐにくるだろう」と強調しました。
さらに「わたしは、いまのロシアのこの邪悪で恐ろしい政権に勝利するため、国際社会や世界の皆さんに結束を呼びかけたい。ウラジーミル・プーチンはここ数年間、ロシアに対して行ってきたすべての恐ろしい出来事への責任を負わねばならない」と述べ、国際社会に対し、プーチン大統領の責任を追及するよう訴えました。
ナワリヌイ氏の母「どんな追悼のことばも聞きたくない」
ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」によりますと、ナワリヌイ氏の母のリュドミラ氏は、フェイスブックに「どんな追悼のことばも聞きたくない。息子とは刑務所で12日に面会した。生きていて、健康そうで、人生を楽しんでいるようだった」とつづったということです。
ナデジディン元下院議員「真実でないことを願う」
ロシア当局がナワリヌイ氏が死亡したと発表したことについて、ウクライナへの軍事侵攻を批判し来月行われるロシアの大統領選挙に立候補を表明していたナデジディン元下院議員は「その情報が真実でないことを願っている。私が知るかぎり、彼はロシアで最も才能があり、勇気のある人物のひとりだ」とSNSに投稿しました。
ナデジディン氏は、大統領選挙でプーチン大統領に対抗する候補として注目され、ナワリヌイ氏のグループからも支持する声があがっていましたが、今月8日、中央選挙管理委員会は立候補は認められないとする判断を下し、ナデジディン氏は最高裁判所に訴えています。
ロシア独立系新聞編集長「刑罰に『殺害』が加えられた」
2021年にノーベル平和賞を受賞したロシアの独立系新聞の編集長、ドミトリー・ムラートフ氏は「恐ろしい知らせだ。懲罰房では、動けず、食事の栄養が少なく、空気が薄く、常に寒い。3年にわたり苦痛と拷問を受けたのだ。ナワリヌイ氏への刑罰に『殺害』が加えられた」と非難し、適切な救命措置がとられたか検証するよう求めました。
ロシア人権団体幹部「政権側が故意に殺害したのだ」
また、2022年、ノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体「メモリアル」の幹部、オレグ・オルロフ氏は、独立系メディアに対し「ロシア全体にとっての悲劇だ。ただただがく然としている」と述べた上で、「死の状況がどうだったとしても、政権側が故意に殺害したのだ。関与した者は刑事責任を負うべきだ」とプーチン政権を非難しました。
ロシア各地で追悼する動き 100人以上拘束も
ロシアでプーチン政権を批判する急先ぽうとして知られるナワリヌイ氏が死亡したと16日当局が発表したことを受けて、ロシア各地ではナワリヌイ氏を追悼する動きが広がっています。
ただロシアでは集会やデモが厳しく規制されていて、人権団体によりますと、各地であわせて100人以上が拘束されました。
このうち、首都モスクワでは、ソビエト時代の弾圧の犠牲者を追悼する碑の前にナワリヌイ氏の写真が置かれ、訪れた市民が花を供えていました。
中には、ナワリヌイ氏のことばとして知られる「諦めないで」と書かれたカードを掲げる女性の姿もありました。
ロシアの独立系メディアによりますと、モスクワでは、別の記念碑や、9年前に野党指導者のネムツォフ氏の殺害現場となった橋にも、ナワリヌイ氏を追悼するため市民が訪れたということです。
また、第2の都市サンクトペテルブルクでも、政治弾圧の犠牲者の記念碑に花が手向けられ、「すべてフェイクであってほしい」と話す人もいました。
ただロシアでは集会やデモが厳しく規制されていて、治安当局は、市民が無許可のデモに参加しないよう警告しています。
人権団体によりますと、モスクワやサンクトペテルブルク、それに西部のニジニ・ノブゴロドなどあわせて8つの都市で100人以上が拘束されたということで、当局が神経をとがらせている様子がうかがえます。
モスクワ市民の反応は
ナワリヌイ氏が死亡したと発表されたことについてモスクワの市民に話を聞きました。
女性は「きょう2月16日のことはずっと忘れない。これは、ロシアの歴史の一部として残るだろう」と述べ、ナワリヌイ氏の死を悼んでいました。
また、男性は「彼がなぜ死亡したのか。病気で亡くなったのか、それとも誰かに殺されたのか、何でもあり得ると思う」と話していました。
一方「これが彼の運命だ。彼は、立ち止まって考え直すべきだった。もっと政権側と話し合うべきだった」とか「彼のやり方には賛成できないところもあったが人が亡くなったことは残念だ」と話す女性もいました。
多くの人は、SNSなどを通じてこのニュースを知っていましたがプーチン政権を批判し続けてきた人物に関する街頭取材だからか口が重い人が目立ちました。
各国の反応は
ウクライナ ゼレンスキー大統領「殺害されたのは明らか」
ロシア当局がナワリヌイ氏が死亡したと発表したことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、訪問先のドイツで「プーチン大統領によって殺害されたのは明らかだ。プーチン大統領は誰が死のうと気にしない。彼にとって重要なことは、自分の地位を守ることだ」と述べました。
アメリカ バイデン大統領「プーチンに責任がある」
アメリカのバイデン大統領はナワリヌイ氏が死亡したとの発表を受けて16日、緊急の演説を行い「驚きはしなかったが、激しい怒りを感じる」と述べました。バイデン大統領は、ナワリヌイ氏について「彼は勇敢で、信念を持ち、ロシアを法の支配のある国にしようと、ひたむきだった」と述べ、たたえました。
そして「何が起きたのか正確なことは分からないが、ナワリヌイ氏の死は、プーチンや彼のまわりの悪党が行った何かしらの結果であると確信している。プーチンに責任がある」と述べ、ロシアのプーチン大統領を厳しく非難するとともに、今後、何らかの対抗措置を取る考えも示しました。
一方、バイデン大統領はウクライナへの軍事支援の予算案が野党・共和党の反対で宙に浮いている事態を受けて「この重要なときにウクライナの支援に失敗すれば人々の記憶にずっと残ることになる」と述べて共和党に対し早急に対応するよう求めました。
ウクライナ大統領府長官「プーチンは究極の『悪』だ」
ウクライナのイエルマク大統領府長官はSNSにメッセージを投稿し「プーチンは究極の『悪』だ。いかなる競争も怖がっている。プーチンにとって、ロシア国民の命はなんの意味もない」と指摘しました。
その上で「『プーチンと交渉を』と呼びかけている人々に分かってほしい。彼を信じてはならない。彼が理解できるのは『力』だけだ」として、ロシアに対し徹底抗戦する構えを改めて示しました。
イギリス首相「ロシアの人々にとって大きな悲劇だ」
イギリスのスナク首相は旧ツイッターの「X」に「これはひどいニュースだ。アレクセイ・ナワリヌイ氏はロシアの民主主義の最も熱心な擁護者として、生涯を通じて信じられないほどの勇気を示した。彼の妻、そしてロシアの人々にとって大きな悲劇だ」と投稿しました。
ドイツ首相「もはや民主主義国家ではない」
ドイツのショルツ首相は16日、記者会見で「ロシアがいかに変わったかを示す恐ろしいシグナルだ。ロシアはもはや民主主義国家ではない」と述べました。
フランス大統領「ロシアでは自由な精神は死刑を宣告される」
フランスのマクロン大統領は16日、旧ツイッターの「X」に、「現在のロシアでは、自由な精神は収容所へと送られ、死刑を宣告される。怒りと憤りを禁じえない。アレクセイ・ナワリヌイ氏の記憶、彼の献身と勇気に敬意を表したい。私の思いは、彼の家族、愛する人々、そして、ロシア国民とともにある」と投稿しました。
スウェーデン首相「恐ろしいニュースだ」
ロシアのウクライナ侵攻を受けて軍事的中立を転換し、NATO=北大西洋条約機構への加盟を目指しているスウェーデンのクリステション首相は旧ツイッターの「X」への投稿で「恐ろしいニュースだ。アレクセイ・ナワリヌイ氏がもう生きていないことについてはロシア当局、そしてプーチン大統領個人に責任がある」と非難しました。
カナダ首相「プーチンがいかに怪物であるか思い知らされた」
カナダのトルドー首相は16日、地元メディアの取材に対し「これは悲劇であり、プーチンがいかに怪物であるかを全世界が思い知らされた」と述べ、ロシアのプーチン大統領を非難しました。
国連事務総長 “信頼性と透明性のある調査を”
国連のグテーレス事務総長は16日、報道官を通じてコメントを出し、「ショックを受けている」とした上で、ナワリヌイ氏が死亡した状況について信頼性と透明性のある調査を行うよう求めました。
EU ミシェル大統領「責任はロシア政府にある」
EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領は16日、SNSに「アレクセイ・ナワリヌイ氏は自由と民主主義の価値のために戦い、究極の犠牲を払った。この悲劇的な死に対する責任はロシア政府にある」と投稿しました。
そして「戦士は死んでも、自由のための戦いは決して終わらない」としています。
アメリカ国務長官「責任はロシアにある」
アメリカのブリンケン国務長官は16日訪問先のドイツで「プーチン氏が確立したシステムの弱さと腐敗を明確に示している。責任はロシアにある」と述べました。
フランス外相「哀悼の意を表明する」
フランスのセジュルネ外相は16日、旧ツイッターの「X」に「アレクセイ・ナワリヌイ氏は、抑圧体制への抵抗に命をささげた。流刑地での彼の死は、プーチン体制の現実を想起させるものだ。フランスは、彼の家族と友人、そして、ロシア国民に哀悼の意を表明する」と投稿しました。
NATO事務総長「深い悲しみとともに動揺している」
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は、16日、ナワリヌイ氏が死亡したという報道について「深い悲しみとともに動揺している」と述べた上で「事実をはっきりさせる必要があり、ロシアは彼が死亡した状況についてすべての重大な疑問に答える必要がある」として、真相の究明を求めました。
ベラルーシ 反政権派の指導者「故意に殺害されたこと 疑いない」
ロシアの同盟国ベラルーシで民主化運動を率いてきた反政権派の指導者、スベトラーナ・チハノフスカヤ氏は「独裁者にとって人命がいかなる価値もないことが改めて明らかになった」と自身のSNSに投稿しました。
そのうえで「プーチン政権はベラルーシのルカシェンコ政権のように、権力を維持しようと手段を選ばず反対者を排除する。プーチン政権によってナワリヌイ氏が故意に殺害されたことに疑いはない」と非難しました。
その上で、ベラルーシでも、自身の夫を含め収監が続く政治犯たちが危険にさらされていると訴えました。
世界各地でも追悼と抗議の動き
ナワリヌイ氏が死亡したと発表されたことを受けて、世界各地でも追悼する動きのほか、ロシアのプーチン大統領に抗議する動きが広がっています。
このうち、ドイツの首都ベルリンでは、ロシア大使館の前にナワリヌイ氏の死を悼む人たち数百人が集まり、「プーチンは殺人者だ」と書かれた紙などを掲げて、抗議の声をあげていました。
男性の1人は、「私はプーチン大統領に反対する集会に参加したくて来ました。非常に怒っています」と話していました。
また、ロシアの隣国、ジョージアでは、かつてロシア大使館があった場所の近くに、およそ500人が集まり、スマートフォンのライトを照らして死を悼むとともに、プーチン大統領への抗議の声をあげていました。
参加した女性の1人は「涙が出るばかりでショックで、まだ信じることができません。この痛みは耐えがたい」と話していました。
さらにアメリカのニューヨーク中心部で行われたデモでは、参加者が「私たちは戦争の終結、政治犯の自由、ロシアの自由を求めなければいけない」などと呼びかけていました。
参加したロシア人の女性は、「これは私の国の歴史における暗い、暗い日です」と話していました。
●ナワリヌイ氏死亡 妻・ユリヤさんが国際社会の団結呼びかけ「悪に打ち勝つ」 2/17
ナワリヌイ氏の死亡報道を受けて、妻のユリヤさんがドイツでスピーチし、団結を呼びかけました。
「私は国際社会とすべての人びとに対して、団結してこの悪に打ち勝つよう呼びかけたい」(ナワリヌイ氏の妻・ユリヤさん)
ユリヤさんは演説で、ナワリヌイ氏の死亡に関する情報はロシア政府側の情報のみで、実際に何が起こったのか信頼することは難しいと強調しました。また、もし死亡が事実ならば、プーチン大統領とその周辺が責任を負うべきだとも述べ、国際社会が団結してプーチン政権を倒すよう呼びかけました。
ロシアの独立系メディアによりますと、ロシア各地ではナワリヌイ氏を追悼しようと政治弾圧の犠牲者の記念碑に花が手向けられましたが、警察が周辺を規制したり、訪れた人の顔をチェックしています。
ロシア国内で、少なくとも10人が拘束されたということです。
●プーチン政権と対峙、突然の死に衝撃 ロシア反体制派ナワリヌイ氏 2/17
ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)は、強権的なプーチン政権に真っ向から対峙(たいじ)してきた。
過去十数年にわたり反政権運動をけん引し、インターネットなどを駆使して政権の不正を告発。収監中の刑務所での突然の死亡が伝えられ、内外に大きな衝撃が広がった。
2020年8月にロシア国内で毒殺未遂に遭った。療養先のドイツで旧ソ連の軍用神経剤「ノビチョク」系毒物の投与が確認され、ロシア情報機関の関与が報じられた。死線をさまよったにもかかわらず、「帰国しなければプーチン大統領が勝利し、目的を達したことになる」と対決姿勢を崩さなかった。21年1月の帰国直後に拘束。裁判で過去に受けた禁錮刑の執行猶予を取り消され、刑務所に収監された。
11年のロシア下院選や12年の大統領選を巡る抗議デモで主導的役割を果たし、一躍脚光を浴びた。SNSや動画を活用し、政権幹部の不正を追及。ナワリヌイ氏拘束後の21年1月に公開された、陣営がプーチン氏のものと主張する「宮殿」の暴露動画は、再生が1億回を超えるなど大きな反響を呼んだ。
ナワリヌイ氏は21年2月の裁判で「数百万人をおびえさせるために、1人の人間を投獄しようとしている」と政権を鋭く批判。収監後も弁護士らを通じてSNSで発信を続けた。同年6月に自らの団体が「過激派組織」に認定された際も「汚職が政権の根幹を成している場合、反汚職の闘士は過激派になってしまう」と痛烈に皮肉った。
22年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻も強く非難。プーチン氏を「狂った皇帝」と表現し、「(プーチン氏が)ウクライナに対して繰り広げた侵略戦争に気付かないふりをする臆病者」になってはならないと訴えた。21年に欧州連合(EU)欧州議会が人権や自由の擁護活動をたたえるサハロフ賞を授与。ノーベル平和賞候補としても、たびたび名前が挙がっていた。
●米高官 “ロシア軍死傷者31万人超 作戦維持に最大2110億ドル” 2/17
アメリカ国防総省の高官は、ロシアがウクライナに侵攻してまもなく2年となる中、ロシア軍の死傷者が31万人を超え、作戦の維持などのために、最大で2110億ドルを費やしたとの見方を明らかにしました。
アメリカ国防総省の高官は16日記者団に対し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの損失について「われわれはロシア軍の死傷者を少なくとも31万5000人と推定している」と述べました。
また、ウクライナ軍の攻撃によって破壊されたか、損傷を受けたロシア軍の中型から大型の艦艇は少なくとも20隻にのぼるほか、ロシアは装備や作戦の維持のため、最大で2110億ドル、日本円にして、31兆6500億円を費やしたとの見方を明らかにしました。
一方、この高官は、ロシア軍の攻勢が強まるウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカについて、ウクライナ軍の弾薬などが不足しており、まもなく、ロシア軍に掌握されるおそれがあると危機感を示しました。
その上で追加の資金がなければ、ウクライナには、ロシアによる絶え間ないミサイル攻撃から都市や重要インフラ、前線部隊を防衛するための迎撃ミサイルもなくなってしまうと説明し、アメリカ議会に対し、速やかに追加の軍事支援を行うための緊急予算案を承認するよう呼びかけました。
●見据える「トランプ再選」…ゼレンスキーがついに「大きな賭け」に打って出た 2/17
国民人気の高いザルジニー氏を更迭
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2月8日、軍制服組トップのワレリー・ザルジニー総司令官を解任し、後任にオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官を起用すると発表した。
昨年6月に始まったウクライナ軍による対ロシア反転攻勢が期待された成果を上げられずウクライナ戦争の先行きの長期化必至の現状に不満を抱くゼレンスキー氏が、戦況の認識や兵士の動員方針、対露軍事作戦の優先順位などを巡るザルジニー氏との意見対立が表面化し、終に解任に踏み切ったのである。
ゼレンスキー氏にとって、戦う兵士の信頼が厚く、国民からの人気も高いザルジニー氏更迭は大きな「賭け」と言っていい。ザルジニー氏の現状認識「戦況は膠着状態にある」(昨年11月に英誌「エコノミスト」寄稿文中の指摘)なかで、年初からウクライナ軍の兵士・弾薬・砲弾・兵器不足はさらに深刻化している。
こうした厳しいウクライナ情勢下の2月19日、東京・大手町の経団連会館で日本ウクライナ経済復興推進会議が開かれる。岸田文雄首相、十倉雅和経団連会長、石黒憲彦日本貿易振興機構(JETRO)理事長、そしてデニス・シュミハリ首相やユリヤ・スヴィリデンコ第1副首相兼経済相など両国政府、企業関係者らが出席する。ウクライナの企業・研究機関など約50の組織からの100人規模に日本側出席者を加えた総勢約300人になる。
同復興会議では、日・ウクライナ共同コミュニケ発表以外に両国租税条約の改正、さらに「インフラ復旧・復興に関する協力覚書」(国交省=インフラ省)、「無償資金協力にかかる交換公文」(外務省=インフラ省)、「二国間クレジット制度(JCM)構築に関する協力覚書」(環境省=環境保護・天然資源省)などの包括的協力覚書(MOC)交換式も実施される。こうした両国官民合同会議に国内外から熱い視線が向けられるのには理由がある。
混沌とするウクライナ戦争の行方
改めて言うまでもなく、11月5日に行われる米大統領選でドナルド・トランプ前大統領がジョー・バイデン現大統領を破り、来年1月にホワイトハウスの主として返り咲くとなると、ウクライナ戦争の行方が全く不透明になるからだ。
一方で、トランプ氏がウラジーミル・プーチン露大統領とのディールで「停戦・休戦」が実現するかもしれない。だが、それはロシアの軍事侵攻によって占領されたウクライナ東部・南部4州の事実上の現状維持を認めることになる。平たく言えば、ロシアのウクライナ侵略を容認すること、すなわち“遣り得”である。
それゆえに諸外国は現行の「防衛装備移転三原則」の制約を受ける日本がウクライナ復旧・復興支援にどのような具体策を準備しているのかに強い関心を抱くのだ。
15日(米東部標準時)に世界銀行が発表した試算によると、ウクライナ復興費用は10年間で4860億ドル(約72兆円)に達するという。この巨額な復興ビジネスに多大な関心を持つだけでなく、日本に先行して現地アプローチを進めているのは、昨年7月に尹錫悦大統領が同国を訪れた韓国だ。
それだけに韓国はその「目安」となる共同コミュニケに多大な関心を持っている。現時点で筆者が承知している限り、同コミュニケには「日本側は、ウクライナ及びその人々が自由及び独立を守り、領土一体性を回復することを支援し、また、第一次産業から第三次産業までの経済発展及びウクライナ経済の安定のため、長期的に支援することにコミットする。そして初期の緊急復旧支援フェーズから、経済復興・産業強化まで、あらゆるフェーズでの継続的な支援を表明し、インフラ整備支援、汚職対策及びガバナンス強化のための基盤構築の重要性をウクライナ側に提起する」といった文言が盛り込まれるはずだ。
要は、非軍事部門での全面的なウクライナ支援を10年タームで約束するというものである。たとえ「トランプ大統領」が誕生したとしても、このコミットは不変であると国内外にアピールすることになる。次回復興会議は6月にドイツで開催されるが、その頃までには米大統領選の行方が見えて来るのではないか。
●ウクライナ軍 東部アウディーイウカ撤退へ ロシアが攻撃強める 2/17
ウクライナ軍の新たな総司令官に就任したシルスキー氏は17日、ロシア軍が攻撃を強めている東部ドネツク州アウディーイウカから部隊を撤退させるとSNSで発表しました。ロシア軍による包囲と兵士の犠牲を避けるためだとしています。
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は17日、ロシア軍が攻撃を強めていたアウディーイウカについて「包囲を避け、兵士の命を守るため、部隊を撤退させ、より優位な戦線の防衛に移る」とし、部隊を撤退させると発表しました。
シルスキー総司令官は、14日にアウディーイウカなどの前線を視察したと明らかにした際、ロシア軍が人海戦術を仕掛けていて「極めて困難な状況になっている」とし、アメリカ・ホワイトハウスで安全保障分野の広報を担当するカービー大統領補佐官は15日「アウディーイウカはロシアの支配下に入るおそれがある」と指摘していました。
アウディーイウカは、東部ドネツク州の中心都市ドネツクの15キロほど北に位置する工業都市で、州全域の掌握をねらうロシア軍は去年10月ごろから多くの部隊を投入し、兵士の犠牲をいとわずに攻撃を強めていました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は15日、ロシアのプーチン政権は来月の大統領選挙を前にアウディーイウカの掌握をドネツク州での重要な勝利だと国民に向けてアピールするねらいがあると指摘していて、ロシアが州全域の掌握をねらうなか、戦果として強調していくものとみられます。
●ウクライナ軍トップ、アウジーイウカ撤退を表明 「兵士の命のため」 2/17
ウクライナ軍トップのシルスキー司令官は17日、同国東部の激戦地アウジーイウカからの撤退を決定したとSNSに投稿した。
シルスキー氏は撤退の理由について、「(ロシア軍による)包囲を回避し、兵士の命と健康を守るため、部隊を撤退させ、より有利な位置での防衛に移ることを決定した」と述べた。
東部ドネツク州のアウジーイウカは、2014年に州都ドネツクが親ロシア派武装勢力に占拠されて以降も、ウクライナ軍が周囲で唯一陣地を維持してきた。ロシアの進軍を阻む役割を果たす強固なとりでとされたが、昨年10月からロシア軍が集中的に攻撃を仕掛けていた。
シルスキー氏の投稿に先立ち、ウクライナ軍で南東部の前線の部隊を指揮するタルナウスキー司令官がアウジーイウカの一部の陣地から撤退したことをSNSで明らかにしていた。
●ウクライナ軍、アウジーイウカからの撤退を発表 東部要衝 2/17
ウクライナ軍は東部ドネツク州の要衝、アウジーイウカから撤退すると発表した。
アウジーイウカはドネツク市の北西に位置する都市で、ロシアがここ数週間攻勢を強める中、最も激しい部類に入る戦場となっていた。
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は16日、フェイスブックへの投稿で「アウジーイウカ周辺の作戦状況を踏まえ、包囲の回避と要員らの生命及び健康の保護のため、我が軍の部隊を同市から撤退させることを決断した。移動してより有利な戦線の防衛に当たる」と発表した。
シルスキー氏によれば、ウクライナ軍の兵士は「ロシア軍の精鋭部隊を撃滅するためにできる限りのことをした。人的資源と装備の観点から敵に甚大な損害を与えた」という。
その上でウクライナ軍は現在、「状況の安定化と陣地の確保に向けた措置を講じている」とし、「軍要員の生命に最高の価値を置いている」と付け加えた。
●ドイツ ウクライナと首脳会談 1800億円規模の追加軍事支援発表 2/17
ドイツのショルツ首相は、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナの長期的な安全を確保するための新たな協定を結ぶとともに、防空能力や火力を強化するため、およそ11億ユーロの追加の軍事支援を行うと発表しました。
ドイツのショルツ首相とウクライナのゼレンスキー大統領は16日、ベルリンで首脳会談を行い、ウクライナの長期的な安全を確保するための協定に署名しました。
この協定は、去年7月のG7=主要7か国の共同宣言に基づいて、各国が締結しているもので、先月にはイギリスが同様の協定を結んでいます。
また、ドイツ政府はウクライナに対し、およそ11億3000万ユーロ、日本円にして1800億円規模の追加の軍事支援を行い、防空システムや砲弾、それに自走式のりゅう弾砲を供与すると発表しました。
首脳会談のあと、ショルツ首相はゼレンスキー大統領とそろって記者会見し「ドイツはロシアの侵略戦争からウクライナを守るため、支援し続ける」と強調しました。
またゼレンスキー大統領は「残念ながらパートナーからの支援は減少している。ドイツの支援は、わたしたちや、前線で戦う兵士にとって不可欠なものだ」と述べ、謝意を表しました。
一方、ゼレンスキー大統領は、最大の軍事支援国アメリカで野党・共和党が反対し、追加支援のための見通しが立っていないことについて「アメリカ国民の大多数はウクライナを支持していると信じている」と述べ、早期の支援を呼びかけました。
●仏 ウクライナと安保協定締結 最大30億ユーロ軍事支援へ 2/17
フランスのマクロン大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談してウクライナの長期的な安全を確保するための協定を締結し、防空能力の強化などに向けて、ことし中に最大で30億ユーロの追加の軍事支援を行うと発表しました。
フランスのマクロン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は16日、パリで首脳会談を行い、ウクライナの長期的な安全を確保するための2国間の安全保障協定に署名しました。
協定では、防空能力や砲撃能力の強化、ウクライナ軍部隊への訓練の実施、NATO=北大西洋条約機構の加盟国との相互の運用性の強化などを目的に、ことし中に最大で30億ユーロ、日本円にして、およそ4838億円の追加の軍事支援を行うとしています。
首脳会談のあとの共同記者会見で、マクロン大統領は「フランスは、軍事装備品の提供や防衛産業間の協力など、あらゆる面でウクライナへの支援を継続することを約束する」と述べた上で、来月、ウクライナを訪問すると明らかにしました。
一方、ゼレンスキー大統領は「われわれは野心的で中身のある協定を準備し、締結することができた」と述べました。
この協定は、去年7月のG7=主要7か国の共同宣言に基づいて各国が個別にウクライナと締結しているもので、フランスは、イギリスとドイツに続いて3番目の締結国となりました。
●ミュンヘン安保会議 米 ウクライナの軍事支援実現急ぐ方針強調 2/17
安全保障をテーマにドイツ南部のミュンヘンで始まった国際会議でアメリカのハリス副大統領は、野党の反対で暗礁に乗り上げているウクライナへの軍事支援の実現を急ぐ方針を強調し、支援の先行きに関して各国が抱く懸念の払拭(ふっしょく)に努めました。
ドイツ南部で16日から始まったミュンヘン安全保障会議には、40か国以上の首脳や100人以上の閣僚が出席して安全保障を巡って意見を交わしています。
会議の主要なテーマは、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援で初日は、アメリカのハリス副大統領が演説しました。
ハリス副大統領は「ウクライナが切実に必要としている重要な武器や資金の確保に取り組む。失敗はプーチン大統領への贈り物になる」と述べ野党・共和党の反対で暗礁に乗り上げている軍事支援を盛り込んだ緊急の予算案の成立を急ぐ考えを強調しました。
最大の支援国アメリカの支援の先行きに不透明感が漂う中各国の懸念の払拭に努めたものとみられます。
会議の議長を務めるクリストフ・ホイスゲン氏はNHKのインタビューに対し会議には支援に反対するアメリカの議員も参加していると明らかにしました。
その上で、ヨーロッパ側が、アメリカの議員などに対して支援を継続するよう働きかけるという見通しを示しました。
会議の2日目となる17日は、ウクライナのゼレンスキー大統領が出席して演説する予定でウクライナを支援する必要性を強く訴えるとみられます。
安保会議議長 “支援反対の米議員にも支援継続を働きかけへ”
ミュンヘン安全保障会議の議長でドイツのメルケル前首相の外交安全保障政策のアドバイザーを務めたクリストフ・ホイスゲン氏がNHKのインタビューに応じ、「各国の参加者は、ウクライナへの支援は国際法や国連憲章を守ること、ヨーロッパの安全を守ることにつながると理解している。ゼレンスキー大統領が参加し、その言葉に耳を傾けることは非常に重要だ」と述べ、今回の会議の意義を強調しました。
その上で「各国にはそれぞれ国内の事情もあるが、ウクライナへの支援が今後も継続されることを期待している」と述べ、欧米側の支援の先行きが不透明になるなか、各国の首脳や閣僚が支援の継続で結束を確認することに期待感を示しました。
また、ウクライナへの支援が議会で暗礁に乗り上げているアメリカについて「会議にはアメリカから大規模な議員団も参加している。中には支援に反対する議員もいる。彼らが『われわれはともに立たなければいけない』というメッセージを持ち帰るよう務める」と述べ、ヨーロッパ側からアメリカ議会の参加者に対し支援を継続するよう働きかけるという見通しも示しました。
●プーチンは“禁じ手”に手を染めるのか、米議会が重大懸念「ロシアは電磁パルスでスターリンク破壊を狙っている」 2/17
1960年代後半に封印された“禁じ手”
ウクライナ戦争で米実業家イーロン・マスク氏のスペースX社の衛星インターネット「スターリンク」がなかったらウクライナは“情報ブラックアウト”に陥っていたはずだ。現在、軌道上にある人工衛星は8377基で、内訳は米国2926基、中国493基、英国450基、ロシア167基、日本90基(リトアニアの宇宙スタートアップ企業・コングスバーグ・ナノアビオニクス社の集計)。
ロシアは軍事利用できる西側商業衛星の画像や通信、ナビゲーション、測位サービスへのアクセスを制限されている。軌道上にある衛星を破壊する技術力を持つロシアのウラジーミル・プーチン大統領は情報格差を少しでも解消するため、スターリンクの人工衛星に電子的に干渉しようと試みている。
だがそれ以上に、人工衛星自体を大量に破壊することができる“禁じ手”がある。
核兵器を宇宙空間や高高度で爆発させることで強力なEMP(電磁パルス)を発生させ、西側衛星の電子回路を焼き切って無力化できるのだ。これは軍事衛星だけでなく通信・放送衛星、測位衛星、観測衛星に影響を及ぼし、軍民のインフラに重大な混乱を引き起こす恐れがある。こうした宇宙空間での核兵器使用は冷戦時代の1960年代後半に封印されたが、プーチンはその使用を検討しているのだという。
米下院情報委員会のマイク・ターナー委員長(共和党)は2月14日、X(旧ツイッター)に「本日、下院情報委員会はすべての下院議員に深刻な国家安全保障上の脅威に関する情報を知ることができるようにする。私はジョー・バイデン大統領に対してこの脅威に関するすべての情報について機密解除するよう求めた」と投稿した。
ロシアは核兵器を地球に落とすのではなく、人工衛星に使用する
ロシアの宇宙核兵器開発に関する機密情報だ。ホワイトハウス当局者はロシアの重要な情報源を失うと激怒したが、ターナー委員長は米議会、政府、米国の同盟国が脅威に対処するためオープンに議論できるようにするのが目的だと言う。米民放TVネットワーク、ABCは同日「ロシアは核兵器を地球に落とすのではなく、人工衛星に使用する恐れがある」と伝えた。
議会審議に詳しい2人が情報源だ。そのうちの1人は「非常に気になることであり、センシティブで重大な問題だ」と注意を呼びかけている。ウクライナやイスラエルへの緊急支援法案でバイデン政権と対立するマイク・ジョンソン下院議長(共和党)は「機密扱いされるすべての事項と同様にこの問題にも協力して取り組む」考えを表明した。
米上院は2月13日、70対29の賛成多数でウクライナ、イスラエル、台湾への953億ドル(約14兆円)の緊急支援法案を可決。しかし下院は分裂する共和党が抵抗し、法案は否決の危機に瀕している。バイデン氏の記憶は「著しく限られている」(ロバート・ハー特別検察官)と衝撃的な事実が明らかになる中、バイデン政権への揺さぶりは一段と強まっている。
ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は2月14日のプレスブリーフィングで「今週初めにギャング・オブ・エイト(機密情報についてホワイトハウスからブリーフィングを受ける上下両院の民主党、共和党のリーダー、各情報委員会の委員長ら8人)に連絡を取り、個々人へのブリーフィングを申し出た」と説明した。
「米国の国家安全保障を不安定化させる外国の軍事力」
2月15日に下院の4人にブリーフィングを行う。サリバン氏は情報機関や国防の専門家と同席して説明する予定だったため、ターナー委員長がこれに先立ってXで機密解除を求めたことに驚いたという。「バイデン政権は米国の国益のため米史上どの政権よりも創造的かつ戦略的な方法で機密情報の開示に対処してきた」と強調した。
バイデン政権はプーチンのウクライナ侵攻と「特別軍事作戦」の口実をデッチ上げる偽旗作戦を封じ込めるため、積極的に機密情報を開示してきた。サリバン氏は「国家安全保障上の利益となる場合、バイデン政権が機密を解除することに消極的なわけがない。ただ情報源と開示の方法に優先順位をつける必要がある。最終的には大統領が決断することだ」と説明した。
ターナー委員長が「米国の国家安全保障を不安定化させる外国の軍事力に関する緊急の問題」と報道陣に説明したことについて、サリバン氏は「15日にターナー委員長らへのブリーフィングを予定しているので今日はこれ以上何も言える立場にはない」と質問を打ち切った。ホワイトハウスと一部の共和党下院議員の関係は11月の大統領選を前にこじれにこじれている。
米紙ニューヨーク・タイムズ(2月14日付)は「米国の広範な衛星ネットワークを脅かすために設計された宇宙を拠点とするロシアの新しい核兵器について、バイデン政権は米議会や欧州の同盟国と情報共有した。衛星キラー兵器が配備されれば民間通信、宇宙からの監視、米国とその同盟国による軍事指揮統制活動を破壊できる」と解説した。
米国は衛星を防衛する能力を持っていない
現時点で米国は衛星を防衛する能力を持っていない。ロシアが宇宙空間における探査と利用の自由、領有の禁止、宇宙平和利用の原則を定めた宇宙条約(1967年発効)を破棄するのではないかという重大な疑念が膨らむ。「ロシアが宇宙空間での核兵器の配備に近づいているようには見えないため、緊急の脅威とは考えられない」と同紙は分析している。
宇宙空間での核兵器使用は1963年の部分的核実験禁止条約(PTBT)や宇宙条約で禁止されている。ウクライナ戦争で完全に正気を失ったプーチンなら2つの条約から離脱することも想定しておかなければならない。宇宙空間への核兵器配備を防ぐ時間は限られている。冷戦時代、すでに米ソ両大国は宇宙への核兵器配備を考えていた。
1957年、人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功したソ連は宇宙開発競争で米国に差をつける。翌58年、米国は月面で原子爆弾を爆発させて軍事力と科学力を誇示する「プロジェクトA119」を策定した。月面での核爆発計画は実行されることはなかったが、もし実行されていれば宇宙空間の軍事化につながった恐れがある。
一方、ソ連の計画は米国より大規模で、宇宙ベースの兵器プラットフォームの開発も含まれていた。最も有名な計画の一つは核兵器を運ぶ「部分軌道爆撃システム」(FOBS)である。FOBSは地球を周回した後、目標に到達するよう設計され、米軍の早期警戒レーダー網を回避するのが狙い。核兵器運搬目的の宇宙空間の戦略的利用を象徴する計画だった。
核爆発を利用して軍事衛星を無力化する衛星攻撃兵器
米ソは核爆発を利用して軍事衛星を無力化または破壊する衛星攻撃兵器(ASAT)についても研究を進めていた。しかし米ソが批准した宇宙条約によって、宇宙空間への核兵器配備は停止された。宇宙空間には核兵器やその他いかなる種類の大量破壊兵器も配備しないことが定められた。宇宙空間における核兵器の危険性が認識されたためだ。
宇宙空間の脅威を評価する米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書(昨年4月)はロシアについて米国、中国に続く3大国家的宇宙開発主体と位置付けている。ロシアはソ連時代にさかのぼる宇宙開発能力と戦力を保持する。プーチンが胸を張る防空・対衛星戦用レーザー兵器の「ペレスヴェト」や「ソコル・エシェロン」はまだ実戦配備されていない。
ロシアの宇宙産業基盤は西側の制裁、労働人口の高齢化、腐敗、慢心に苦しんでいるとの報告もある。しかしロシアはウクライナ戦争でこれまで以上に宇宙能力と対宇宙兵器を使用した。東欧全域で増えるGPS(全地球測位システム)妨害や、衛星通信の米大手プロバイダー「ヴィアサット」やスターリンクに対する妨害もロシアによる衛星攻撃とみられている。
モスクワは自国の衛星を使って他国の衛星に接近する軌道上での“ストーカー行為”を続けており、重大な懸念を引き起こしている。ウクライナ戦争は「初の商業宇宙戦争」と呼ばれる。スターリンクはウクライナ軍に力を与え、ウクライナ国民を外の世界とつないだ。雲を突き抜けて夜でも撮影できる画像衛星はロシア軍の動きを監視し、戦争犯罪の証拠を集めている。
プーチンが部分的核実験禁止条約や宇宙条約を破棄すれば、宇宙空間での核軍拡競争が始まる恐れがある。
●「日・ウクライナ経済復興推進会議」共同声明案 明らかに 2/17
19日、東京で開かれるウクライナの復興に関する会議で首脳間でとりまとめる共同声明の案が明らかになりました。初期の緊急復旧から経済復興に至るまで、あらゆる段階で日本がウクライナを継続的に支援していく方針を表明するなどしています。
岸田総理大臣やウクライナのシュミハリ首相らが出席し、19日東京で開かれる「日・ウクライナ経済復興推進会議」では、成果として首脳間で共同声明をとりまとめることにしていて、その案が明らかになりました。
この中では、日本政府として、ウクライナの人々が自由と独立を守り、領土の一体性を回復することを後押しする姿勢を強調しています。
その上で、地雷の除去やがれき処理など、初期の緊急復旧から経済復興と産業の高度化に至るまで、あらゆる段階で日本がウクライナを継続的に支援していく方針を表明しています。
また、日・ウクライナ両国は、ロシアの軍事活動の抑止には制裁の維持・強化が重要だという認識で一致し、制裁逃れを防ぐ措置を講じていく決意を確認するなどとしています。
一方、今回の会議で両国は、農業やインフラ強化など7つの分野を柱に、企業が主体となるものも含め、およそ50本の協力文書を交わす方向で最終調整しています。
●米国務長官 中国外相と会談 “ロシア支援している”懸念伝える 2/17
アメリカのブリンケン国務長官は、訪問先のドイツで、中国の王毅外相と会談し、中国がウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアを支援しているとして懸念を伝えました。
アメリカのブリンケン国務長官と中国の王毅外相は16日、ドイツ南部のミュンヘンで開かれている安全保障に関する国際会議にあわせて会談しました。
アメリカ国務省の発表によりますと、会談で、ブリンケン長官は、中国がロシアの防衛産業をはじめ、ウクライナへの侵攻を続けるロシアを支援しているとして、懸念を伝えたとしています。
また、ブリンケン長官は、台湾海峡と南シナ海の平和と安定を維持することや、去年11月の米中首脳会談で再開させることで合意した軍どうしの対話をさらに前に進めることの重要性を強調したとしています。
このほか両外相は、中東や朝鮮半島の情勢についても意見を交わしたとしています。
米中関係をめぐって、アメリカ政府高官は、ことし春にも両首脳による電話会談が行われるという見通しを示しています。
会談で両外相は、さまざまな戦略的問題において米中が開かれた対話のルートを維持する重要性を確認したとしていて、首脳会談に向けた調整も行われたとみられます。
王毅外相 台湾関与や中国企業などへの制裁で米をけん制
中国外務省によりますと、王毅外相はアメリカのブリンケン国務長官との会談で「世界には1つの中国しかなく、台湾は中国の領土の一部であることが台湾問題の真の現状だ。この現状を変えようとしているのは『台湾独立』の分裂活動と外部勢力の容認と支持だ」と強調し、台湾に対して安全保障上の関与を続けるアメリカをけん制しました。
また王外相は「『中国へのデカップリング』は最終的にはアメリカ自身にとって裏目に出るだろう」と述べたうえでアメリカ側に対し中国企業や個人に対する制裁の解除を求めました。
●プーチン露が総攻撃へ、敗北確定ウクライナ。西側メディアに騙され続けた世界 2/17
22年2月のロシアによる軍事侵攻開始以来、事あるごとに「ウクライナ優勢」を伝え、時にはプーチン大統領の重病説まで流布してきた西側諸国のメディア。しかし現状は彼らが報じてきた内容とは正反対の「ウクライナの敗北」が確定的であり、それを証明するかのようにプーチン氏は次期アメリカ大統領に関して、自身のウクライナ侵攻に「有利」な判断を下すことが予想されるトランプ氏よりバイデン氏のほうが好ましいとの発言を行っています。そのような中にあって、早い段階からウクライナ劣勢の見立てを発信してきたのは、元国連紛争調停官の島田久仁彦さん。島田さんはメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で今回、近いうちにロシアによる総攻撃が開始されるとの新情報を明かすとともに、ウクライナが国家消滅の危機から脱することが可能か否かを考察しています。
反転攻撃は失敗。敗戦どころか国家消滅の危機に瀕するウクライナ
「ロシア・プーチン大統領による蛮行を許してはならない」と欧米諸国とその仲間たちはロシア包囲網を敷き、ロシアを国際社会と経済から締め出そうとしまし、昨年6月までに最新鋭の武器・兵器もウクライナに供与して、対ロ反転攻勢を後押ししようとしました。
反転攻勢は実施当初は一定の結果を収めていたと思われますが、実際にはロシア軍による待ち伏せに遭い、十分に時間をかけて張り巡らされた塹壕と、旧式戦車を地中に埋めて大砲として用いる戦略、そしてびっしりと敷き詰められた地雷原によって、ロシア軍の堅固な防衛線を突破できませんでした。
その後はロシアとの圧倒的な兵力・兵器差(ロシアを100とすれば、ウクライナは20未満)と、ロシアによる最新兵器の投入により、じわりじわりとウクライナ側の被害が拡大していくという事態に陥りました。
それでも無人ドローン群による攻撃や無人海上ドローンによるロシア艦船へのアタックなどにより、一定の目立つ戦果はあげるものの、その無人ドローン生産施設と輸送手段を次々と精密誘導弾で攻撃されるとともに、徹底的なインフラと輸送路へのミサイル攻撃によって大きな被害を受け、反転攻勢は失敗したと言わざるを得ない状況に陥っています。
状況を反転させるためには欧米からの切れ目ない支援が不可欠とされていますが、欧米諸国は皆、一向に成果が上がらないことで支援疲れに陥るとともに、国内で巻き起こる対ウクライナ感情の悪化と関心の著しい低下に直面して、なかなか迅速かつ決定的なレベルでの支援を打ち出せていません。
その元凶は、アメリカ議会において政争の具に対ウクライナ支援を持ち出し、“バイデン政権が何らかの成果を上げることを阻止したい”共和党による徹底的な反対によって、バイデン大統領がゼレンスキー大統領に行った9兆円規模の支援の“口約束”が実現する見込みがない状況でしょう。
そのような時にEUが500億ユーロ(約8兆円)規模の支援を約束するという明るいニュースが飛び込んではきましたが、アメリカの支援の穴を埋めるには能力不足と言わざるを得ない状況で、軍事支援に至っては、本格化できるのは早くとも2025年後半と言われています。
もしウクライナがそれまで持ちこたえていたら、戦況に対する変化は期待できるかもしれませんが、先日触れたように、NATOによる155ミリ砲弾薬の生産と実戦配備が2027年になることと合わせると、あまり期待できないものと感じています。
戦争を勝利で終わらすためにプーチンが仕掛ける総攻撃
そしてそのプロセスとタイムラインに大きな悪影響を与えそうなのが、「もしトラ」現象です。
これはご存じのように、もしトランプ氏が再び大統領の座に返り咲いたら…という想定ですが、すでに彼が公約で述べているようにアメリカの対ウクライナ支援はキャンセルされるだけでなく、欧州各国とのパートナーシップも再考するという動きに出ることが予想されるため、ロシアに対する包囲網も恐らく解かれ、NATOの抑止力にも陰りが見えることになる可能性が高まります。
もしそうなったら…バルト三国や北欧諸国、中東欧諸国に対するロシアのちょっかいが強まることが予想され、広域欧州地域の安定は損なわれることになりかねません。
ウクライナの外ですでにウクライナにとってアンハッピーな状況が発展してきているのですが、戦闘の長期化と犠牲の拡大は確実にウクライナ軍の士気を低下させ、国民の抗戦意欲も削いでいます。
そこに止めを刺したのが、国民的な英雄でもあるザルジーニ前統合参謀本部議長の解任(辞任・交替)でしょう。
退任時にはゼレンスキー大統領と笑顔で肩を組む写真を掲載し、いかにも円満な退任であるかのように繕っていますが、戦闘が継続している最中での交代は異例と言わざるを得ず、ウクライナ軍の士気にも関わります。
特にザルジーニ氏は2014年のロシアによるクリミア併合以降、欧米式の兵法と戦略を積極的に学び、ゼレンスキー政権で統合参謀本部議長に就任してからはウクライナ軍を戦える軍隊に作り替えるために新しい戦い方を浸透させてきたことと、それが対ロ抗戦当初は大きな戦果を上げたことで国民的な人気を獲得しました。
そのザルジーニ氏の後任は、旧ソ連軍で訓練を受けた旧来型の戦術を得意とするシルスキー氏になりましたが、戦術と戦略に大きな変化が生じることは確実ですし、シルスキー氏自身、東部戦線で指揮を執っていて、ロシアに押し返された張本人でもあるため、軍の士気高揚に対する期待は皆無と言わざるを得ません。
そこに著しい兵員と兵器不足の深刻化と弾薬の枯渇という致命的な条件が重なり、ウクライナの戦略専門家の表現を借りると「このような状況でどうやってロシアと戦うのだ」と嘆くほどの惨状と言えます。
そのような窮状をつぶさに把握しているのか、ロシア軍は春から夏にかけてウクライナに総攻撃をかけるという情報が上がってきており、確実に戦争を勝利で終えるためのfinal blowをかけにきているようです。
その対象は「すでに支配を拡大している東南部4州の完全支配の確立」から、「ウクライナ全土をロシアのコントロール下に置くための総攻撃」という見方もあり、これはふたを開けてみないと分かりませんが、そのための最新鋭の兵器が続々と集められているという情報が多数あることから、それが現実味を帯びてきているように感じます。
軍事的な攻撃を着々と用意しつつ、プーチン大統領は停戦交渉という外交戦略も活発化させています。今年に入り何度も「アメリカ政府と水面下で折衝している」と明かしたり、「ウクライナが停戦交渉に応じるように、アメリカ政府が説得すべきだ」と要求してみたりと、かなり強気の戦略を打ち出しています。
プーチン大統領とロシアがテーブルに乗せている“停戦のための条件”は【実効支配している東南4州とクリミアを正式にロシアに譲る協定をロシア・ウクライナ間で締結すれば、ロシアは軍を“ウクライナ”から撤退させて、即時に停戦に応じる用意がある】という内容と伝えられています。
その真意は、ロシア政府関係者によると「プーチン大統領の頭と心の中では、ウクライナはロシアと一体の存在であり、誰もその魂も精神も切り離すことはできないし、決して許されないと信じており、この信念に揺るぎがないため、ウクライナがロシアと決別するシナリオも、ウクライナがロシアから独立した存在であることも許さない」ということのようです。
「交渉」でロシアを封じ込め可能という大きな勘違い
ただ、真偽のほどは分かりませんが、プーチン大統領は周辺国には関心がないそうで、「ウクライナの問題が解決した後は、バルト三国にも、ポーランドにも触手を伸ばすことはない」と明言していますが、過去に何度もロシア・ソ連に蹂躙された記憶が残る周辺国としては、最近、ロシア優勢の分析が増えてくる中、警戒心を高める結果に繋がっており、これはまた地域の緊張の高まりをさらに加速させることにもなってきています。
フィンランドの新しい大統領(ロシア強硬派)曰く、「プーチン大統領を信用することは絶対にできず、態勢が整ったら、彼は周辺国に戦いを挑むだろう。恐らく私の任期中にロシアはまた大きな戦争を起こす。もしかしたらフィンランドが直接攻撃を受けるかもしれないし、それはポーランドかもしれない。その日に備えて欧州は結束し、自前でロシアと対抗できる力を用意しておく必要がある。核兵器のシェアも選択肢の一つとして検討しなくてはならない」とのことで、確実にテンションが高まっていることを感じます。
ロシアによるウクライナ侵攻から来週でまる2年が経ちますが、国際社会は確実にウクライナ疲れを見せており、Stand by Ukraineの声も聞かれなくなってきていますが、このままではウクライナの存在がなくなってしまう恐れが出てきてしまいます。
支援疲れと国内における関心の低下、そして同時進行的に起こる紛争とエネルギー資源や食資源の危機、インフラ…様々な問題に苦しめられる中、欧米諸国とその仲間たちはウクライナに対して“早期の停戦”を呼びかけるようになってきました。
停戦に関しては、この戦争においては、ロシアがもし武器を置くのであれば、戦争は即時に集結し、停戦が成立し、恐らく、例えは悪いですが、プーチン大統領やその周辺は、舌をペロッと出して「思うようにはいかなかったけど、勝ったね」とbusiness as usualに戻るでしょう。
しかしウクライナにとっての現時点での停戦は、武器を捨てることは即時にウクライナという国家がなくなることを意味しかねません。ウクライナという国名は残るかもしれませんが、それは実質的にはロシアと一体の存在に立ち戻ることになりますし、これまでロシアが何度も繰り返し停戦という約束を破ってきた歴史に鑑みると、頃合いを見てまたウクライナに襲い掛かり、今度は徹底的に蹂躙することになる可能性が高まるからです。
それを防ぐにはロシアを永続的に封じ込め、影響力を拡大する道を閉ざし、囲い込むことで勢いを削ぐ必要があります。
ただし、それを、交渉を通じて行おうというのは大きな勘違いだと、私は経験上、痛く感じています。
以前、ロシアとの交渉に臨んだ時に思い知ったことは「ロシアにとって交渉とは結果を得るために妥協するプロセスでは決してなく、全面的に自分の要求を押し通し、相手にのませるために行うもの」というメンタリティーが強くかつ堅く出来上がっており、手法としては【無理難題を交渉の最初にぶつけ、あとは黙り込んで、相手が我慢できなくなって妥協し始めるのをひたすら待つ】という独特のスタイルを貫きます。
ロシアと対峙し、警戒する欧米諸国とその仲間たちはその戦略に耐えられるでしょうか?
そして、今回のウクライナ侵攻に際して行った厳しいロシア包囲も結果的に穴が開き、結束に解れが出た経験に照らし合わせた時、本当に永続的に囲い込むような覚悟と結束を維持することが出来るでしょうか?
そのカギを握るのは、ロシアがあてにする中国がどう動くかということかもしれません。
早ければ今年中に極めて深刻な状況に直面しかねない国際社会
もし中国政府がロシアとある程度の距離を置き、べったりとロシアの企てに乗らず、ロシアの企ての封じ込めの陣営の一角を担うことがあれば、安定的な国際情勢がうまれるかもしれません。
しかし、中国が欧米諸国とその仲間たちのチームに加わることは考えづらく、中国政府の“独自の非干渉型の外交戦略”が維持されることを予想すると、そう簡単にどちらかに与することはないと思われます。
そうなると、またアメリカがどう動くかが、イスラエル・ハマスの戦争と同じく、ロシア・ウクライナ戦争の行方も左右する状況になりますが、もしバイデン大統領が自身の“成果”としてウクライナに停戦を飲ませる(恐らくロシアの提示した条件をほぼ丸のみで)ような決定を下したら、11月の大統領選の結果が出るまでは、恐らくロシアもウクライナをキープすることに同意するかもしれませんが、ウクライナ政府と国民に引導を渡すことになってしまうかもしれません。
   ・中東地域の緊張の高まり
   ・ユーラシア大陸における緊張の高まりと安全保障環境の悪化
   ・北東アジアで燻る紛争の火種
もし、まだ世界のリーダーを自認するアメリカやその仲間たちがハンドリングを間違えたら、早ければ今年中、恐らく来年にはとんでもない国際情勢に、私たちは直面し、苦しめられることになるかもしれません。
●プーチンが退任も、「トヨタ」「日産」などが今後もビジネスに期待できない理由 2/17
日本車メーカーの“脱ロシア”
2024年2月でロシアがウクライナへ軍事侵攻してからちょうど2年となる。
侵攻直前、ロシアがウクライナへ侵攻するかしないかで日本国内でも大きな話題となった。多くの専門家たちは侵攻する経済的代償があまりにも大きいため、プーチン大統領は侵攻という決断をためらうとの見方が多かったが、それは単なる願望になってしまった。
それ以後、欧米諸国や日本など40か国あまりはロシアへの制裁を一斉に強化し、日露関係も冷戦後最悪なレベルに冷え込んでいき、経済や貿易を巡る摩擦も拡大していった。
そして、侵攻から半年あまりが経過したとき、日本の大手自動車メーカーの“脱ロシア”の動きにエンジンが掛かり始めた。トヨタ自動車は2022年9月下旬、生産再開の見通しが立たないから、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクにある工場を閉鎖し、ロシアでの生産から撤退すると発表した。
その後、ロシア産業貿易省は2023年3月末、トヨタのサンクトペテルブルク工場が同省傘下にある自動車・エンジン中央科学研究所に譲渡され、国有化されたことを発表した。
また、日産自動車も2022年10月、ロシア事業からの撤退を表明し、現地の子会社であるロシア日産自動車製造会社の全株式を自動車・エンジン中央科学研究所に1ユーロで譲渡する方針を明らかにした、
その後、11月に全株式の売却が完了し、日産は2023年3月期に1000億円あまりの特別損失を計上することとなり、日産のサンクトペテルブルク工場は自動車・エンジン中央科学研究所への譲渡後、ロシアの乗用車最大手アフトワズが2022年末から自動車生産をその工場で開始した。
各社の決断の背後に潜む事情
マツダも2022年11月、ロシアからの撤退を表明し、ロシアで製造を手がける大手自動車メーカー・ソラーズとの合弁会社の株式を同社に1ユーロで譲渡することを明らかにし、マツダも2023年3月期に120億円あまりの特別損失を計上した。マツダは侵攻直後の3月にロシアへの部品の輸出を停止し、4月からロシアでの自動車生産を停止していた。
その後も自動車メーカーの脱ロシアは続き、2023年7月半ばには大手トラックメーカーのいすゞ自動車が同業他社から遅れる形でロシア事業から撤退することを明らかにした。同社もロシアでの事業再開が見込めないとして、ソラーズに事業を譲渡したのち撤退すると発表した。
こういった日本企業の脱ロシアは、他の業種でも見られる。ではこの2年間でどれくらいの日本企業が脱ロシアにかじを切ったのか。
2023年8月に帝国データバンクが発表した統計によると、侵攻直前にロシアに進出していた日本の上場企業168社のうち、2023年8月21日までに脱ロシア(ロシア事業からの撤退、停止、規模縮小などを発表)の動きを示した企業は80社に上り、完全な撤退や撤退計画を明らかにした企業が30社(約2割)と達したという。
この数字が多いか少ないかは人によって受け止め方が違うだろうが、企業にはそれぞれ個別の事情があることが想像できる。脱ロシアにかじを切った企業としては、侵略国でビジネスを継続すれば後になって自社のブランドやイメージが悪化する恐れがあり、それによって損害が利益を上回ることを回避したいという事情があったと推測できる。
また、サプライチェーンの不安定化や混乱に加え、ロシアに駐在員を配置する日本企業としては社員の安全への懸念が強まった。日露関係の急速な冷え込みによって現地在住の邦人の安全がすぐに脅かされるわけではないが、そういった環境下で生活を送ることは大きなストレスになるケースもある。
一方、脱ロシアにかじを切っていない日本企業は、売り上げ全体を占めるロシア事業の割合が極めて大きい、ロシアからの輸出入に依存しなければそもそもビジネスが成り立たないなど企業独自の事情があることが想像できよう。
“アフタープーチン”も不透明
では、日本企業にとって以前のようなビジネス環境は戻ってくるのだろうか。
先に結論となるが、脱ロシアにかじを切った日本企業が再びロシアに回帰するようなビジネス環境が到来することは考えにくい。ロシアでは3月に大統領選挙が行われるが、プーチン大統領の再選は確実視されており、2030年までプーチン政権が続くことが濃厚だ。その間にロシアが欧米との関係改善に動き出す可能性はゼロに等しく、ロシアとの経済的分断、貿易摩擦が解消されることはないだろう。
そして、“アフタープーチン”の世界になっても、次の指導者が欧米や日本との関係改善に乗り出す保証はどこにもない。プーチン大統領は自らの考えやイデオロギーを継承するような政治家が大統領選で勝利できるよう、大統領在任中から“後継者育て”に努めるといった方が現実的かもしれない。
日本企業としてはロシア事業を巡る環境が今後改善される余地があると判断せず、東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなどグローバルサウスとの関係強化、接近をより重視していくことが戦略的にも重要となる。の意味で、2年を迎えるウクライナ侵攻は、ロシアビジネスにとって大きな転換点となった。
●北朝鮮の弾道ミサイル24発使用 ロシア、ウクライナで 2/17
ウクライナのコスチン検事総長は16日、ロシアがウクライナに対して使用した北朝鮮の弾道ミサイルは少なくとも24発になったと述べた。インタファクス・ウクライナ通信が報じた。昨年12月30日以降、首都キーウ(キエフ)、東部ハリコフ、南部ザポロジエ州などで使われ、市民14人が死亡して70人以上が負傷したという。
コスチン氏は24発について、北朝鮮の短距離弾道ミサイル「KN23」「KN24」系列で、ロシア南部ボロネジ州から発射されたとみられると指摘。最大射程は650キロだという。ミサイルは住宅地に落ちるなどしており、「命中精度は疑わしい」と述べた。 
●ナワリヌイ氏の死因?ロシア政府の暗殺未遂関与を暴いたジャーナリスト推論 2/17
ロシアの反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏が獄中で死亡したとの一報に、各国の指導者らから非難の声が上がった。
ロシア連邦刑務所サービスは16日、ナワリヌイ氏は散歩中に気分が悪くなり、意識を失ったと説明。刑務所の医師らがすぐに救急車を呼び、必要な蘇生措置をすべて施したが効果がなかったとした。
バイデン大統領は記者会見で「驚き、憤慨している」と述べ、「間違いなく、プーチンはナワリヌイ氏の死に責任がある。ナワリヌイ氏に起きたことは、プーチンの残虐性のさらなる証拠である」と厳しく批判した。
フランスのマクロン大統領は、X(旧ツイッター)を更新し、「今日のロシアでは、自由の精神はグラーグ(旧ソ連の矯正労働収容所)送りにされ、死刑に処される。怒りと憤りだ」と投稿した。
安全保障会議でミュンヘンを訪問中のウクライナのゼレンスキー大統領は「反体制派の指導者であれ、標的となるいかなる者でも、プーチンは自分が望む人物を殺害する」と述べ、「ナワリヌイ氏の殺害後もプーチンがロシアの国家の正当な長とみなすのは馬鹿げている」と語った。
マンハッタンのロシア総領事館前ではナワリヌイ氏の支持者や死を悼む人々による集会が行われた。午後5時過ぎに数十人でスタートした集会は最終的に数百人の規模に膨らんだ。遺影に花束を捧げるとともに、「ナワリヌイは死んだのではない。殺された」「プーチンは殺人鬼」といった掛け声やプラカードを掲げた。
死因は?
ナワリヌイ氏は、2020年にロシア国内を飛行機で移動中に神経剤を盛られて倒れた後、ドイツに搬送され奇跡的に回復した。当時、ナワリヌイ氏とともに、暗殺未遂へのロシア連邦保安庁(FSB)の関与を突き止めたジャーナリストのクリスト・グローゼフ氏は、当局の発表に不審な点を指摘している。
同氏は17日、Xの投稿で、当初の発表は「血栓」だったが「突然死」に変更されたと説明。さらに「不明」に変わり、遺体が「再鑑定」に送られたとした上で、「再鑑定の連中が、ロシアでは毒殺者であることを思い出してほしい」と投稿した。
「再鑑定の連中、つまりFSBの刑事科学捜査研究所について、われわれは2020年のナワリヌイ暗殺未遂の背後いたことを暴いた」と続け、「同じ奴らが、ボリス・ネムツォフ氏の再鑑定を行った」と加えた。ウクライナへの軍事介入に抗議していた野党指導者ネムツォフ氏は、2015年、モスクワの中心部で銃撃され、死亡している。
グローゼフ氏はCNNのインタビューでも、違法な独房監禁を含む3年におよぶ「拷問」が健康を破壊した可能性もあるとする一方で、毒殺の可能性が最も高いと語った。
毒が盛られている可能性については、以前にも指摘があった。
ワシントンポスト紙によると、ナワリヌイ氏が収監されてから2年以上が経った昨年4月、同氏の弁護士ヴァディム・コブゼフ氏は、当時のナワリヌイ氏の健康状態を「あからさまで非常に奇妙な状況」と疑問を呈した。「これまで何の兆候もなかった発作」があり、徐々に健康が悪化するように「ゆっくりと毒を盛られている可能性を排除することはできない」とSNSに投稿した。
懲罰房入りを繰り返していたナワリヌイ氏は、当時、急性の腹痛と発作に苦しみ、体重が17ポンド以上減少したという。しかし、医師は病気を診断せず、本人には「春には誰もが健康上の問題を抱えている」などと告げていた。
このほかにも、不十分な医療や拷問の可能性が指摘されてきた。
ガーディアンによると、ナワリヌイ氏は刑務所で緊急治療を拒否されたことで、ハンガーストライキを行ったことがあった。当局による心理的な圧迫や睡眠剥奪の対象にされていると窮状を述べ、片足がしびれ、体重をかけられないと苦痛を訴えていた。
過剰な懲罰を受けていたとされ、もう一人の弁護士キラ・ヤルミシュ氏は今年1月、ナワリヌイ氏は25回目の独房入りになったと述べ、すでに独房の生活は合計283日になるとしていた。
12月にはモスクワから250km離れたメレホボの刑務所から、列車で44時間、1,200km離れたヤマロ・ネネツ自治区にある特別刑務所に移送された。施設は、スターリン時代に鉄道建設のために建てられた囚人の労働収容所を継いだもので、ロシアで最も過酷な環境の刑務所の一つとして知られているという。
●ロシア国内で追悼の動き、210人超拘束 プーチン政権反論「落ち度なし」 2/17
ロシア北極圏の刑務所で死亡した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)を追悼する動きが17日までにロシア国内に広がり、人権団体「OVDインフォ」によると16日以降で212人が拘束された。プーチン政権は死因などの状況確認を進める一方、刑務所の健康管理に落ち度はなかったとの立場を強調し、政権側の迫害によって死に追いやられたとの欧米側の非難に反論した。
ナワリヌイ氏は、言論や集会の自由を制限して強権的支配を続けてきたプーチン大統領を公然と批判する最も著名な活動家だった。死亡が伝えられた16日午後から、モスクワをはじめ各地で追悼の動きが自然発生的に起き、大勢がソ連時代の政治弾圧犠牲者の記念碑などに献花した。
政権側は抗議デモに発展することを懸念して治安部隊を配置。市民が追悼集会に参加しないよう検察当局が警告するなど神経をとがらせている。
ナワリヌイ氏の広報担当者は17日、同氏が16日午後2時17分に死亡したと母親が正式に通知を受けたとX(旧ツイッター)で明らかにした。母親と弁護士が通知された同管区の遺体安置所を訪れたが遺体はなかったといい、即時に家族へ引き渡すよう求めている。
ウクライナ侵攻で対立を深める欧米の非難はプーチン政権にとり織り込み済みだ。だがナワリヌイ氏が収監されていたヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所は永久凍土帯に位置し、ロシアで最も北方の重罪者用刑務所の一つ。無罪を訴えながら獄中死した衝撃は大きく、「支援疲れ」が目立ち始めた欧米を再び結束させる可能性がある。
国内でも、反政権のカリスマ的存在として計約30年の懲役刑判決を受けたナワリヌイ氏を政権の迫害対象と見る国民は多い。3月の大統領選で圧勝し、今後の政権運営と侵攻継続に弾みを付けたいプーチン氏の戦略に狂いが生じる懸念もある。
ペスコフ大統領報道官は16日夜「死因も確認されないうちの欧米の異常な反応は受け入れがたい」と不快感を表明した。
●ロシアで反プーチン派の不審死続く ナワリヌイ氏、プリゴジン氏ら 2/17
ロシアのプーチン政権と対立した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏が16日、収監先の北極圏の刑務所で死亡した。ロシア司法当局は16日、死因などを確認する調査委員会を設置し、要員を現地のヤマロ・ネネツ自治管区に派遣した。ウクライナ侵攻などで対ロ批判を強める欧米諸国からは非難の声が相次いだ。
ロシアのプーチン政権下では、プーチン大統領に反対した人々が相次いで不審な死を遂げている。直近ではウクライナ侵攻に参戦し、武装蜂起した民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が昨年8月に搭乗機墜落で死亡した。
野党指導者ネムツォフ元第1副首相は、プーチン氏が主導した2014年のウクライナ南部クリミア半島の併合や、東部ドンバス地域の親ロシア派武装勢力への支援を批判し、15年2月に暗殺された。暗殺を指示したとされる人物は明らかになっていない。
22年からのウクライナ侵攻で東部の激戦地バフムトなどに部隊を送ったプリゴジン氏は、軍事的、政治的な影響力を高め「クレムリンを脅かした」との見方が出ていた。
プーチン氏を批判した元連邦保安局(FSB)職員のリトビネンコ元中佐は06年、亡命先の英国で放射性物質ポロニウムによって毒殺された。
英国のスパイとして活動していたとして有罪判決を受け、プーチン氏から「裏切り者」とされた元情報機関員スクリパリ氏は18年、神経剤で襲撃された。
●東部要衝から撤退開始か ウクライナ軍兵士「捕虜に」 2/17
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は17日、東部ドネツク州の要衝アブデーフカからの撤退を表明した。3月のロシア大統領選を前に、東部での戦果獲得を狙ったロシア軍が猛攻をかけ、ウクライナ軍は弾薬不足などから苦戦を強いられていた。約4カ月にわたる攻防の末、同国軍は要塞化した重要拠点を失う痛手。
ロシア軍にとっては昨年5月にドネツク州の激戦地バフムトを制圧して以来の大きな前進。撤退は既に始まったとみられ、ウクライナ軍の現地部隊司令官は17日、兵士の一部がロシア軍の捕虜にされたと明らかにした。
シルスキー氏は「包囲されるのを避け、兵士の命を守るため」の戦略的な撤退だと強調した。

 

●ナワリヌイ氏死因 ロシア当局は遺族らに「突然死症候群」 陣営は強く反発 2/18
ロシアの反体制派指導者・ナワリヌイ氏の死因について、ロシア当局は遺族らに「突然死症候群」だと伝え、ナワリヌイ氏陣営は強く反発しています。
ナワリヌイ氏の陣営幹部は17日、ナワリヌイ氏が死亡した刑務所を訪れた遺族らが、当局側から死因は突然死症候群だと告げられたと明らかにしました。陣営側は「彼らはいつもうそをつく」と強く反発しています。また、ナワリヌイ氏の陣営は遺体の引き渡しを要求したものの、当局側は調査があるとして拒否したということです。
ロシア国内ではナワリヌイ氏を追悼する動きが広がり、人権団体によりますと、これまでに400人以上が拘束されたということです。
ナワリヌイ氏の死亡について、西側諸国も反発していて、G7外相は17日の会合の冒頭で黙とうをささげたのち、ロシア側を批判する議長声明を出し、死亡の経緯を明らかにするよう求めています。
●侵攻から2年 ゼレンスキー大統領「プーチンは被告席に座るか、殺されるかだ」 2/18
ロシアの侵攻からまもなく2年を迎える中、ウクライナのゼレンスキー大統領が各国首脳らが集まる会議で演説し、支援継続を訴えるとともに、ロシアのプーチン大統領を非難しました。
「『戦争がいつ終わるのか』ウクライナに尋ねないでください。『なぜプーチンは戦争を続けることができるのか』自問してください」(ゼレンスキー大統領)
17日、ドイツのミュンヘン安全保障会議でゼレンスキー大統領は、「残念ながらウクライナは、特に長距離射程兵器の不足に直面しているため、プーチンの激しい攻撃を許してしまっている」と述べ、欧米諸国に武器支援の加速を求めました。
また、ロシアの反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が死亡したことに触れ、「プーチンは望む者は誰でも殺す。ナワリヌイ氏が殺害された後、プーチンをロシアの合法的な元首と見なすのは馬鹿げている」と非難しました。
そして、ICC(=国際刑事裁判所)が戦争犯罪の疑いでプーチン大統領に逮捕状を出していることを念頭に、「彼は、ハーグ(国際刑事裁判所)の被告席に座るか、彼のために殺人を犯している共犯者の誰かに殺されるかだ」と糾弾しました。
演説後の公開インタビューでは、アメリカのトランプ前大統領の再選について問われ、「トランプ氏がウクライナに来てくれたら一緒に最前線に行く準備が出来ている」と述べました。
●中国、ナワリヌイ氏死亡にコメントせず 「ロシア国内の問題」 2/18
中国外務省は17日、ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が収監先の北極圏の刑務所で死亡したことについて、「ロシア国内の問題」だとしてコメントを拒否した。
中国外務省報道官室はAFPの取材に対し、「これはロシアの国内問題だ。コメントしない」と回答した。
ロシア当局によれば、ナワリヌイ氏は16日、収監先の北極圏の刑務所で死亡した。ロシアは3月に大統領選を控えているが、現職ウラジーミル・プーチン大統領の通算5選が確実視されている。
ロシアの反体制派や一部の西側指導者は、過酷な収容環境下で健康をむしばまれてきたナワリヌイ氏の死について、プーチン氏とその政権に全面的に責任があると批判している。
●プーチン氏「重要な勝利」 ウクライナ東部要衝の完全制圧報告受け 来月の大統領選向け戦果アピールか 2/18
ウクライナ軍が撤退を表明したウクライナ東部の要衝アウディーイウカについて、ロシア大統領府は完全制圧したと発表しました。
ロシア大統領府は17日、プーチン大統領が、ショイグ国防相からウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカを完全制圧したと報告を受け、「重要な勝利だ」と述べ、軍に祝意を示したと発表しました。
来月の大統領選に向け、この制圧を重要な戦果としてアピールする狙いがあるとみられます。
ロシア国防省はアウディーイウカの制圧により、ロシア側が支配する中心都市ドネツクから前線を遠ざけることができるとし、ドネツク州全域の制圧を目指す考えです。
こうしたなか、アメリカ政府は声明を発表し、ウクライナ軍の撤退について「アメリカ議会の不作為の結果だ」と批判しました。
●ウクライナ東部要衝、ロシアが完全制圧 プーチン氏「重要な勝利」 2/18
ロシアのプーチン大統領は17日、ショイグ国防相からウクライナ東部ドネツク州の要衝アブデーフカを完全制圧したと報告を受けた。プーチン氏は「重要な勝利」だと指摘し、軍に祝意を示した。ロシア大統領府が発表した。
ウクライナ軍の現地部隊を指揮するタルナフスキー司令官は通信アプリで、アブデーフカから撤退する最終段階でロシア軍の攻勢を受け、一定数のウクライナ兵が捕虜にされたと明らかにした。捕虜が人道的に扱われ、ウクライナへ戻れるよう求めた。
ロシア軍は昨年10月ごろからアブデーフカへの攻勢を強め、多数の犠牲をいとわない人海戦術に出ていた。ウクライナ軍のシルスキー総司令官は17日「兵士の命を守るため」だとして戦略的な撤退を表明した。
一方、ウクライナ空軍は17日、同国東部でロシア軍のスホイ35戦闘機1機と、スホイ34戦闘爆撃機2機の計3機を撃墜したと主張した。
● ロシア軍がアウディーイウカ制圧…昨秋から犠牲いとわず猛攻続ける 2/18
ロシア大統領府は17日夜(日本時間18日早朝)、プーチン大統領がセルゲイ・ショイグ国防相から、露軍がウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカを制圧したとの報告を受けたと発表した。アウディーイウカはウクライナ軍の防衛拠点で、露軍は昨年10月以来、犠牲をいとわず激しい攻撃を続けていた。プーチン氏は現地部隊に祝福のメッセージを送ったという。
これに先立ち、ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官は17日、アウディーイウカから部隊を撤退させると発表していた。露軍による包囲と兵士の犠牲を避けるためだとしていた。
●ナワリヌイ氏死亡…G7外相会合でロシアを非難する議長声明 2/18
G7(=主要7か国)は17日、ドイツのミュンヘンで外相会合を開き、ロシアの反体制派指導者・ナワリヌイ氏の死について、ロシアを非難する議長声明を発表しました。
G7外相は会合の冒頭に1分間の黙とうをささげ、ナワリヌイ氏の死を悼みました。議長声明はナワリヌイ氏の死について、「憤り」を表明し、ロシア当局に死亡の経緯を明らかにするよう求めています。
また、ロシアの侵攻からまもなく2年を迎えるウクライナへの軍事や経済面での支援継続について、「揺るぎない決意」を確認しました。
さらに、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区の南部・ラファへの地上侵攻について、市民に壊滅的な被害が出る可能性があることに深い懸念を示しています。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は会見で、人質や戦闘休止をめぐる交渉については、イスラム組織ハマスが要求を変えない限り、これ以上の交渉には意味がないとして、ラファへの攻撃を含めた軍事作戦を続ける意思を示しています。
●「ウクライナ自身がロシアの支配を望んだ」プーチン大統領の歴史認識 2/18
米保守系テレビ局FOXニュースの元司会者タッカー・カールソン氏が2月6日、ロシアのプーチン大統領に2時間に及ぶインタビューを敢行しました。西側メディアによるプーチン大統領の一対一のインタビューは2019年以降で初めてのことでもあり、大きな話題となりました。
プーチン大統領はこのインタビューの中で、「ウクライナ人は一つのロシア民族の一部だ」と主張しています。ロシア人とウクライナ人は離れ離れになってはならないというのです。歴史の事実としては、ロシア帝国がウクライナ人を17世紀末から18世紀にかけて、力により一方的に従属させたのですが、プーチン大統領は、ウクライナ人がロシア人との統合を望んだのだと主張しています。それは本当なのでしょうか?
リトアニア大公国に従属したウクライナ
プーチン大統領の言うように、ロシア人もウクライナ人も民族的には、共通の起源を持ちます。インタビューで言及していたリューリクが率いたルーシ族はロシア北部に862年、ノヴゴロド国を建国します。その後、リューリクの親族であったオレーグはビザンツ帝国との交易の拠点となっていたキエフに南下します。オレーグは882年、ノヴゴロドからキエフに本拠を移します。
さらに、プーチン大統領は「チンギス・ハーンの後継者たち、すなわちバトゥ・ハーンはロシアにやって来て、ほとんどすべての都市を略奪し、破滅させた」と述べた上で、モンゴルの支配に屈しながらも、「主権の一部を維持することができた北部ロシアのモスクワを中心として、統一ロシア国家が形成されはじめた」と言っています。彼の言う「統一ロシア国家」とは、15世紀後半に成立したモスクワ大公国のことです。
一方、この時、ウクライナはどうなっていたか。
プーチン大統領は「キエフを含むロシアの南部は徐々にもう一つの磁石、つまりヨーロッパに出現しつつあった中心に引き寄せられはじめた。それがリトアニア大公国で、ロシア人が人口のかなりの部分を占めていたため、リトアニア・ロシア公国とさえ呼ばれていた」と述べています。
リトアニア大公国は14世紀、当時、モンゴル人勢力を駆逐しながら、南方に勢力を拡大していきます。リトアニア大公国はリトアニアのみならず、ベラルーシ、ロシア西部、ウクライナにまたがる広大な領域を支配するようになります。
そして、リトアニア大公国は1386年、ポーランドを併合します。リトアニア大公ヤギェウォ(ヤゲロー)はポーランド女王と結婚し、ポーランド王とリトアニア大公を兼ね、ヤギェウォ朝を創始したことで有名です。プーチン大統領は「リトアニア大公国とポーランド王国の統合があった」と言及しています。
さらに、ウクライナはこのリトアニア大公国に従属させられたと指摘しています。実際に、これがモスクワ大公国を中心とする「統一ロシア国家」とウクライナの歴史的な分かれ目になったのです。
騎馬武装集団コサックが割拠していたウクライナ
ウクライナでは、13世紀以降、コサックという騎馬武装集団が割拠していました。コサックはもともとトルコ人の馬賊たちでした。「コサック」はトルコ語で、「自由な人」を意味します。
このトルコ人馬賊に、ウクライナ人も加わるようになります。ウクライナ人はモンゴル人支配を嫌い、自らコサックの一団に参入することにより、モンゴル人に抵抗しました。
黒海に注ぐドニエプル川流域から東ウクライナの一帯がコサック集団の勢力範囲でした。この領域には、モスクワ大公国やポーランド・リトアニアも手を出せなかったのです。
ロシア語よりポーランド語の影響を強く受ける
ただ、ウクライナ・コサックはポーランド・リトアニアに、政治形式上、従属していました。そのため、ウクライナ語はポーランド語の影響を強く受けながら、ロシア語とは異なる言語としての道を歩みます。
プーチン大統領は「数十年の間、ポーランド人はこの地域(ウクライナ)の植民地化を行い、そこに言語を導入した」と言っています。ロシア語を話すロシア人とポーランド語の影響を強く受けたウクライナ語を話すウクライナ人との明確な隔絶が生まれます。
また、「(ポーランドが)この住民(ウクライナ人のこと)に、彼らが正確にはロシア人ではなく、辺境に住んでいるからウクライナ人なのだという考えを定着させようとした。もともとウクライナ人という言葉は、その人が国家のはずれ、周縁部に住んでいる、あるいは国境警備の仕事に従事しているという意味だった。特定の民族を意味する言葉ではなかった」とも語っています。
「ウクライナ」は中世ルーシ語で、「国」という意味があるとされます。しかし、ロシア人は「ウクライナ」を「国」とは解さず、「辺境」という意味であると主張しています。
ウクライナ人は「モスクワを頼った」とプーチン大統領は主張するが
16世紀前半には、モスクワ大公国はポーランド・リトアニアと対峙します。この時、モスクワ大公国とヤギェウォ朝の勢力領域の分岐線が今日のロシアとベラルーシ、エストニア、ラトヴィアの国境線の原形となります。
プーチン大統領はポーランド・リトアニアがウクライナを支配したことを強調した上で、「ポーランド人はあらゆる手段を使って、この地域を植民地化しようとし、実際、残酷とまでは言わないまでも、かなり厳しく扱った。その結果、ロシア領であったこの地域(ウクライナのこと)は、自分たちの権利を求めて闘いはじめた」と述べています。
そして「ワルシャワ(ポーランド)がそれに応えず、実際に、彼ら(ウクライナ人のこと)の要求を拒否したため、彼らはモスクワを頼った」と説明し、「私が捏造していると思わないでほしい。これらの(証拠となる)文書をお見せしましょう」と言って、その文書ファイルを側近に持ってこさせ、インタビュアーのカールソン氏に渡します。
長々と歴史の話を聞かされていたカールソン氏が「あなたが捏造しているようには見えないが、(このような歴史経緯が)2年前の出来事(ロシアのウクライナ侵攻のこと)となぜ関係があるのかわからない」と当惑して見せました。
プーチン大統領はカールソン氏の当惑には直接応えず、「しかし、これは公文書館の文書コピーだ。当時、ロシア領のこの部分(ウクライナのこと)の権力を握っていたボフダン・フメルニツキーの手紙です。彼はワルシャワに手紙を書き、自分たちの権利を守るよう要求した。拒否された後、彼はモスクワに手紙を書きはじめた。ウクライナをモスクワ皇帝の強力な支配下に置くよう求めたのだ」と述べました。
あくまで、ウクライナ人がロシア人の支配下に入ることを望んだと強調したのです。
ロシアに抵抗し続けたウクライナ・コサック
「フメルニツキー」という人物は17世紀半ばに活躍したウクライナ・コサックの最高指導者です。彼は、プーチン大統領の言うように、ポーランド・リトアニアに対抗するために、ロシア帝国(当時はロマノフ朝)に恭順しました。そして、ロシア帝国はポーランドと戦争し、ウクライナの領土の一部を獲得します。
しかし、ウクライナ・コサックはこの時、その全体がロシア帝国に恭順したのではなく、大部分は以後も、ロシア帝国に抵抗し続けます。
17世紀末、ロシア帝国のピョートル1世はウクライナ・コサックと大規模な戦争をし、大砲の火力で、コサックの騎馬兵を打ち破ります。ピョートル1世はウクライナをロシア帝国に編入します。
さらに18世紀後半、女帝エカチェリーナ2世が黒海方面へと進出し、オスマン帝国の保護を受けていたクリミア・ハン国(モンゴル人勢力)から、クリミア半島を奪います。クリミア半島は黒海の制海権を握る上で重要な戦略拠点でした。ロシアがクリミア半島を得たことで、ウクライナ支配が確立します。
ウクライナ語の使用を禁止したピョートル1世とエカチェリーナ2世
ウクライナはピョートル1世とエカチェリーナ2世によって、従属させられました。そのため、ウクライナ人は「我らを拷問したピョートル1世、我らにとどめを刺したエカチェリーナ2世」と2人の皇帝を形容します。
2人の皇帝はウクライナ語の使用を禁止します。しかし、ウクライナ人はウクライナ語を秘かに守り続け、民族のアイデンティティを失うことはありませんでした。
ロシアへの「恭順」は一部に過ぎない
このように、実際には、ウクライナはロシア帝国により、力によって一方的に統合支配されたのです。
しかし、プーチン大統領はこのピョートル1世からエカチェリーナ2世にかけての歴史については触れていません。フメルニツキーがロシア帝国に恭順したところで、話が終わり、まるで、ウクライナ人が自らの意志で、ロシアに恭順し、そのことがロシアのウクライナ支配の歴史的正統性の証であると言わんばかりの論調に終始しています。
実際の歴史では、プーチン大統領の言うような「恭順」は一部に過ぎないのであり、全体としては、ウクライナ人はやはり、ロシア帝国に抵抗し続け、ロシア帝国は彼らを力でねじ伏せたのです。
このインタビューの後段で、プーチン大統領は「NATOがロシアを騙し、追い込んだ」経緯などを語っています。「アメリカはウクライナに対し、ロシアとの代理戦争をする役割を負わせている」とも語り、ロシアの言い分が披歴されています。真実を語っているところも多く、世界中の共感を呼んでいます。
しかし一方で、ロシアがウクライナを支配した歴史的経緯や歴史認識については、自分たちにとって都合のいいところだけを抜き取ったと見られても仕方ないでしょう。
政治指導者にとって、公正な歴史認識とその表明は欠かすことのできない重要な要因です。
●「爆弾の音は聞こえない」、学校を地下鉄の駅に移設 ウクライナ 2/18
ロシアの戦車が国境を越えてウクライナに侵入した日。それはエルミラ・デルグソワちゃんにとって特別な1日、5歳の誕生日だった。
プラスチック製の王冠を頭に乗せ、エルミラちゃんは「アナと雪の女王」のデコレーションケーキに飾られたキャンドルを吹き消した。
母親が急いで写真を撮ると家族は地下室へと急いだ。エルミラちゃんの笑顔にも、不安と恐怖がありありと見て取れた。
ロシア軍の砲撃はすでに街中に着弾していた。
2022年2月のあの日以来、ウクライナ各地で暮らす子どもたちの生活の変わりようは計り知れない。ロシアとの国境から数キロしか離れていない北部の都市ハルキウはとくに変化が激しかった。
ほぼ毎日のようにロシアの砲弾とミサイル攻撃にさらされつつも、街は不穏な日常を取り戻した。一部の住民は帰還し、店は営業を再開し、日常生活はこれまで通り続いている。
だが無作為とも思えるロシアの攻撃に脅かされ、学校は危険地域となった。あまりにも危険なため、市内の学校はどこも授業を行えずにいる。そこで市は地下に着目し、地下鉄や新設の防空壕(ごう)を校舎にして授業中の子どもたちを守ろうとしている。
「ここなら何も聞こえない。爆弾の音も聞こえない」とエルミラちゃんはCNNに語った。教室を覆う二重ガラス窓が外界の騒音を遮ってくれる。
「なんとか順応している」
アスファルトの道路から地下数メートル、古い地下歩道にしつらえられた教室は居心地がよく、色彩にあふれている。
派手なアニメのキャラクターや九九早見表が壁に貼られ、横断幕には「不滅のハルキウ」と書かれている。
教室の隅、つまり地下の遊び場には、休み時間に備えてレゴブロックや玩具が待機している。だがまずは国歌が流れ、登校日の始まりを告げる。
「自然があるからウクライナが大好き」とエルミラちゃんは教室でCNNに語った。「他の国にはいない、いろんな生き物がいる。たぶん、そのせいで攻撃された」
新しい学校の壁に守られた空間での、あどけない瞬間だ。
だがエルミラちゃんも戦争の意味を痛いほど理解している。父親は前線で戦闘のまっただ中。本人も母親と1年間ポーランドで避難生活を送った。
エルミラちゃんの母親オレーナ・デルグソワさんがCNNに語った話によれば、ハルキウでは空襲警報が1日に十数回も鳴ることもある。22年の侵攻直後の数カ月、近所の家はことごとく空襲の被害に遭ったという。
地下鉄校舎の空間は限られているため、2日に1度はエルミラちゃんも自宅学習を余儀なくされる。その際には、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中に導入されたソフトウェアとタブレットを活用する。
ハルキウ市役所によると、市内には地下鉄駅構内に設けられた地下鉄校舎が5カ所あり、2200人近い生徒が授業を受けている。昨年9月の開設当時は1000人だった。保護者が希望すれば誰でも通える。
19の地下鉄教室で対応するのは、小学校1年生から中学生までの合計106クラス。市内で暮らす数万人の就学児童のごくわずかにすぎないと市長は言う。
だが地下で勉強すれば爆弾から守られ、空襲警報におびえることなく、何にも邪魔されずに学校生活を送ることができる。
「おそらく今では子どもたちも慣れてきているようだ」とエルミラちゃんの担任教師オレーナ・ルダコワ氏は言った。「なんとか順応している」
空からの死
ロシア政府がウクライナの都市やインフラへの攻撃に多用しているS300型ミサイルは、発射から40秒とかからずにハルキウに着弾する。ハルキウ市のイーホル・テレホフ市長がCNNに語った。
「空襲警報は役に立たない」(テレホフ市長)
緊急避難所はウクライナ各地に広がっているが、それぞれの町や都市にあるコンクリートの教室は、地上から見える限りロシアの空爆を免れることはできない。
「始めのころ、向こうはエネルギーインフラを狙った。今では同じ手法で、市民を脅しにかかっている。住宅地や民間企業、団地が攻撃の対象とされ、多くの犠牲者を出している」(テレホフ市長)
エルミラちゃんが以前通っていた学校も、戦争初期にロシアの砲撃に遭ったため、今は板囲いがされている。当時は多くの家族が地下に避難したが、幸いけが人は出なかった。
だが多くの人々はそこまで運がよくなかった。
国連ウクライナ人権監視団が昨年11月に発表したところでは、22年2月にロシアがウクライナを全面侵攻して以来少なくとも1万人の民間人が命を奪われた。そのうち560人以上が子どもだ。
負傷者は1万8500人以上にのぼる。
国連によれば、戦闘が続いている地域では死者数の確認作業が難しく、時差が生じているため、実際の数字はこれをはるかに上回ると見られる。
すでに市の地下鉄網は貴重な空間となっているため市長は昨年、専用の地下校舎の建設を民間に委託した。ハルキウ市教育課によれば、22年には16万人前後が地下鉄の駅に避難した。
3月に開校予定の校舎は、見るからに防空壕だ。
CNNが1月に取材した際、サッカー場ほどの広さの平屋で、まだ骨組み状態だったが、学校管理者はすでに教室の壁の色を検討していた。
収容人数450人の校舎で、可能な限り生徒が快適に楽しめるようにと、学校側は照明、防音、換気にいたるまでさまざまな計画を練っている。
新しい校舎に通う予定の生徒たちは「屋外と同じように呼吸できなければならない」とテレホフ市長は語った。
「大人びた子どもたち」
いまや地下鉄の駅には精神科医が常駐し、戦時教育には必要不可欠な存在となった。
「子どもたちは爆撃を生き延び、つらい思いや身内の死を経験してきた。子どもたちにとっては非常に大変な時期だ」。エルミラちゃんの担任教師ルダコワ氏は休み時間にCNNにこう語った。
昨年9月に生徒たちが授業に戻ってくると、変化の色がありありと見て取れた。
「子どもたちはみな大人びた顔で戻ってきた。つらい思いをした大人のような表情だった」とルダコワ氏は言う。
「すっかり大人になってしまった」(ルダコワ氏)
ルダコワ氏によれば、授業内容は遊びが中心で、できる限り楽しく学べるように努めているという。
教師も生徒たちの心をかき乱すような話題を注意深く避けている。クラスには父親を亡くした子どももいるため、父親を話題にする際には慎重にするとルダコワ氏はCNNに語った。
ルダコワ氏も言うように、学校はかつてないほど重要な存在となった。だが地下鉄校舎は安らぎの場ではあるものの、子どもたちが本当に望む学校ではない。
「子どもたちは平和を望み、昔の学校に戻りたいといつも言う。前の学校には遊び場、体育館、食堂など、子どもに必要なものがなんでもそろっていた」とルダコワ氏。
「今の状況を子どもたちも十分理解している」(ルダコワ氏)
●兵器の「人為的不足」がプーチン大統領を助ける、ゼレンスキー氏 2/18
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、欧州の「壊滅的な」状況を避けるため、さらなる兵器の提供を緊急に訴えた。
ゼレンスキー氏はドイツでの国際会議で、「人工兵器不足」はロシアを助けるだけだと語った。
米国の重要な支援が議会のドナルド・トランプ前大統領の支持者によって妨げられているため、ウクライナ軍は弾薬が不足している。
ゼレンスキー氏はトランプ氏とともに前線を視察する用意があると述べた。
ウクライナ大統領は「もしトランプ氏が来れば、私は彼と一緒に最前線に行く用意がある。それが何を意味するのか、インスタグラムではなく本当の戦争、本当の戦争だ」と語った。
ホワイトハウスは声明で、ジョー・バイデン大統領が土曜日の電話会談でゼレンスキー大統領に対し、米国はロシアの「残忍な侵略」に対するウクライナの戦いを支援することにコミットしていると確約したと発表した。
バイデン氏はまた、その日の初めに「議会の無策の結果、物資の減少によりウクライナ軍兵士が弾薬の配給を余儀なくされたため、ウクライナ軍はアヴディイウカからの撤退を余儀なくされ、その結果、ロシアは数カ月ぶりに顕著な戦果を上げた」とも述べた。
ゼレンスキー大統領はX(旧ツイッター)への投稿で、両首脳が最前線の現状について話し合ったと述べた。
同氏は「バイデン大統領の全面的な支援に感謝している」と述べ、行き詰まっているウクライナ支援策の承認について議会が「賢明な判断」を下すことを期待すると付け加えた。
カマラ・ハリス米国副大統領は以前、キエフへの支持を繰り返し表明していた。
同氏はミュンヘン安全保障会議でのゼレンスキー氏との共同記者会見で、米国は軍事援助を巡って「政治的駆け引きをすることはできない」と述べた。
世界の指導者と国防高官らの会合は、ロシアによるウクライナへの大規模侵攻から2周年を迎える1週間前に開催される。
大統領は代表団に対し、ウクライナの努力は「我々の権限の適切性とその範囲の長さによってのみ制限される」と語った。
さらに、「特に大砲と長距離能力の不足を考慮すると、ウクライナを人工兵器の不足に保つことで、プーチン大統領は現在の戦争の激しさに適応することができる」と付け加えた。
さらに、「ウクライナ人は、我々がロシアに撤退を強いることができることを証明した」と付け加えた。 「私たちは自分たちの土地を取り戻すことができます。」
同氏は続けて、西側世界がロシア指導者に立ち向かわなければ、ロシア指導者は今後数年間を多くの国にとって「悲惨な」ものにするだろうと警告した。
「戦争がいつ終わるかウクライナに尋ねないでください。なぜプーチン大統領がまだ戦争を続けることができるのかを自問してください。」 ゼレンスキー氏は会見で次のように語った。
ウクライナは、豊富な砲弾を保有するはるかに大きな軍事大国であるロシアとの戦闘を続けるために、米国や他の西側同盟国からの武器供給に大きく依存している。
英国のデービッド・キャメロン外相は、英国、欧州連合、米国がウクライナに提供する支援はロシアとの戦いに「真の変化」をもたらすだろうと述べた。
退任するオランダのマルク・ルッテ首相はミュンヘンでの会議で、欧州はウクライナの利益にかなうためウクライナをさらに支援すべきであり、「トランプ氏に対するこうした不平や文句」をやめるべきだと述べた。
NATO事務総長のイェンス・ストルテンベルグは、ウクライナでのプーチン大統領の勝利は「ウクライナ国民にとって悲劇であるだけでなく、プーチン大統領だけでなくロシアにもメッセージを送るものだ」と述べた。 [Chinese President] 何か [Jinping]そして軍事力を行使すれば、彼らは望むものを手に入れることができます。 つまり、今日ウクライナで起こっていることは、明日台湾でも起こる可能性がある。 したがって、私は米国のウクライナ支援は良いことだと強く信じています。 「これは慈善活動ではありません。彼ら自身の安全への投資です。」
●バイデン大統領“ウクライナ支援予算案 議会が早急に承認を” 2/18
アメリカのバイデン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、激しい戦闘が続いていた東部のアウディーイウカからのウクライナ軍の撤退を受け、追加の軍事支援のための予算案をアメリカ議会が早急に承認する必要があると強調しました。
ウクライナへの軍事支援をめぐって、最大の支援国アメリカでは追加支援に必要な予算案の議会での審議が野党・共和党の反対で暗礁に乗り上げ、支援が滞った状態が続いています。
こうした中、アメリカのホワイトハウスは、バイデン大統領が17日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談したと発表しました。
発表によりますと、バイデン大統領はロシアが攻撃を強めていた東部ドネツク州の拠点、アウディーイウカからのウクライナ軍の撤退について「弾薬の供給が減少したことによるもので、アメリカ議会の怠慢が招いた結果だ」と議会の対応を批判したうえで、議会による予算案の早急な承認が必要だと強調したとしています。
また、バイデン大統領は滞在先の東部デラウェア州で、記者団から「アウディーイウカ以外の場所がロシア側に掌握されないという確信はあるか」と問われたのに対し「確信は持てない」と答えたうえで「ウクライナが弾薬不足に陥っているときにアメリカが立ち去るなどというのはおろかなことで、倫理に反する」と述べて支援の必要性を訴えました。
一方、ゼレンスキー大統領はSNSに「私も、アメリカ議会が賢明な判断をすると信じている」と投稿し、ウクライナ支援のための予算案が早期に承認されることに期待を示しました。
●ゼレンスキー氏、最前線にトランプ氏招待の用意 「本物の戦争」見せたい 2/18
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日、ドナルド・トランプ前米大統領が再選した場合のウクライナ支援継続が不安視される中、同氏を最前線に招待する用意があると述べた。
ゼレンスキー氏はドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議で、為政者は本物の戦争とはどのようなものか知っておくべきだとして、「トランプ氏が(ウクライナに)来れば、最前線に連れて行く用意がある」と語った。
ゼレンスキー氏は英語で演説し、「この戦争をいかにして終わらせるかを協議するなら、インスタグラムを通じてではなく、本物の戦争がどのようなものかを為政者に見せなければならないと思う」と訴えた。
米議会で昨年以来、党派間の対立により600億ドル(約9兆円)規模の対ウクライナ軍事支援がまとまらないなど、西側諸国による支援の長期的見通しは不透明となっている。
ジョー・バイデン大統領の対ウクライナ支援に反対を表明しているトランプ氏が返り咲く可能性があることも、米国の支援継続の行方に暗い影を落としている。
●ロシア「1日に砲弾1.5万発」でウクライナ打倒と試算 現在1万発 2/18
1日あたり1万5000発。2025年にウクライナ軍を打倒し、ウクライナでの戦争に勝利するために必要とロシアが試算している砲弾の数だ。これはロシア軍の火砲が現在、ウクライナで1日に発射している砲弾数よりも5000発多く、ロシアの産業界が1日に生産している砲弾数よりも9000発多い。
不足分を補うためにロシアには2つの選択肢があるが、どちらも制約がある。1つは、国内で長期保管されている古い砲弾約300万発の一部を再び使用できる状態にすること。
もう1つはイラン、より重要なのは北朝鮮から、これまでに取得した計200万発かそこらに加えて、砲弾をさらに確保することだ。
どちらもいうほど簡単なことではない。英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の新たなレポートによれば、ロシア軍は2025年、主力砲弾である152mm砲弾の「大幅な不足」に直面するとみられている。
ロシアが2022年2月にウクライナに対する戦争を拡大して最初の数カ月、ロシア軍の榴弾砲数千門は砲弾を惜しみなく撃ちまくった。エストニア国防省によればその数は1日6万発に達した。
凄まじい集中砲火を続けた結果、ロシア軍はたった数カ月で砲弾を数百万発消費した。全面戦争の開始前に保有していた152mm砲弾や122mm砲弾をほぼ撃ち尽くしたことになる。
1年半後の2023年後半、ロシア軍が1日に発射する砲弾数は1万発程度となっていた。ウクライナ側の発射数は、米国が韓国から買い上げてウクライナに供与した砲弾100万発のおかげで、それにほぼ並んでいた。
2022年以前、ロシアの産業界が生産もしくは戦時備蓄から充当できる砲弾数は年間40万発程度だったとエストニア国防省は推定している。古い砲弾がなくなれば、ロシアは新しい砲弾を生産して補わなくてはならない。
実際そうしている。2年間の投資によって、ロシアの122mmと152mm砲弾の年間生産能力は計210万発まで拡大した。これらの支出のために、ロシアの国内総生産(GDP)に占める国防費の割合は以前の2〜3倍に増えている。
とはいえ、RUSIによるとロシア当局は、ウクライナで「勝つ戦略」を2025年にかけて維持するには2024年に砲弾560万発が必要になるとみており、現状の年産能力では半分も満たせないことになる。
リポートの執筆者である軍事アナリストのジャック・ワトリングとニック・レイノルズは、ロシアには古い砲弾がさらに300万発保管されている可能性があるものの「大半は状態が悪い」と説明している。
イランと北朝鮮は、さらに数百万発の砲弾をロシアに引き渡す用意があるだろうか。ロシアは数十億ドルにのぼるその代金を支払う余裕があるのか。いずれも不明だ。
この厳しい見通しに関してロシア側に慰めがあるとすれば、ウクライナ側は砲弾の確保にもっと苦労しているということだろう。ウクライナはとりわけ、2023年末に唐突に打ち切られた米国からの援助を何らかの方法で埋め合わせる必要がある。
この戦争の最初の1年半にウクライナに砲弾をおよそ200万発譲渡した米国は、ウクライナにとって最大の砲弾供給国だった。だが昨秋、米議会でロシア側に同調する共和党議員らがウクライナへの追加援助を阻んだ。
その結果、1日1万発あったウクライナ軍の砲弾発射数はわずか2000発程度まで落ち込んでいる。
米陸軍は新たなウクライナ向け援助予算によって、テキサス州にある主力弾薬工場の生産能力を大幅に増強する計画だった。2025年末までに、155mm砲弾の生産能力を年間120万発に増やすことをめざしていた。
計画の実現は危ぶまれている。もし生産を増やせても、共和党が採決に応じない限りウクライナに向けて出荷されることはないだろう。
●「人為的な武器不足の解消を」 ゼレンスキー氏が欧米諸国に訴え 2/18
ウクライナのゼレンスキー大統領は17日、ドイツ南部ミュンヘンで開かれているミュンヘン安全保障会議にロシアによる侵攻後初めて対面で参加した。ロシア軍がウクライナ東部で猛攻を仕掛ける中、欧米諸国の支援に陰りも出ており、ゼレンスキー氏は演説で「人為的な武器不足」の解消を求めた。
武器支援を巡っては、ウクライナへの供給が追いつかず、弾薬不足が深刻化している。ゼレンスキー氏は「戦争がいつ終わるのかウクライナに問うのではなく、なぜプーチン(露大統領)が戦争を続けられるのかを自問してほしい」と述べ、結束してロシアに対抗するよう訴えた。
ゼレンスキー氏は同日、ミュンヘンでハリス米副大統領とも会談した。ハリス氏はゼレンスキー氏との共同記者会見で「バイデン大統領と私は、あなた方の成功に必要な資源と武器を確保するために働き続ける」と述べ、支援を継続する意向を伝えた。
ゼレンスキー氏は同日付のX(ツイッター)でバイデン米大統領と電話協議したことを明かし、「バイデン氏の全面的な支持に感謝する。米議会が賢明な決断を下すと信じている」と投稿した。
米国ではウクライナやイスラエルへの軍事支援を盛り込んだ緊急予算案が上院で可決された。しかし、下院では共和党の反対で採決が滞っており、成立の見通しが立っていない。
●ロシア国防省 “アウディーイウカの完全掌握を報告” 2/18
ロシアのショイグ国防相は、激しい戦闘が続いていたウクライナ東部のアウディーイウカを完全に掌握したとして、プーチン大統領に報告しました。プーチン政権としては来月に大統領選挙が行われるのを前に重要な成果だとして国民にアピールしたい思惑もあるとみられます。
ロシア国防省は17日、激しい戦闘が続いていたウクライナ東部のアウディーイウカについてロシア軍が完全に掌握したことをショイグ国防相がプーチン大統領に報告したと明らかにしました。
掌握の結果として、アウディーイウカの15キロほど南にある、ロシアが支配する州の中心都市ドネツクから前線を遠ざけることができると強調しています。
その上で、「ドネツク州の解放を進めるため攻撃を続ける」として、ドネツク州全域の掌握をねらう方針を改めて示しました。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、プーチン大統領がアウディーイウカの掌握に成功したとしてロシア軍を祝福したと発表しました。
ロシア軍は去年10月ごろからアウディーイウカへの攻勢を強めていて、プーチン政権としては来月に大統領選挙が行われるのを前に、アウディーイウカの掌握をウクライナ侵攻の重要な成果だとして国民にアピールしたい思惑もあるとみられます。
一方これに先立ち、ウクライナ軍はアウディーイウカから部隊を撤退させると発表していて、ウクライナ軍のシルスキー総司令官は17日、長期間にわたってロシア側と激しい戦闘を続けてきた兵士をたたえるとともに、「アウディーイウカはいずれ取り戻す」と述べて、今後奪還を目指す姿勢を強調しました。
●集中攻撃続くウクライナ第2都市 「意外な場所」へ移った学校 2/18
ロシアによる侵攻が続くウクライナの第2の都市、北東部ハリコフ市では、空襲から子供たちを守るため、一部の学校を地下鉄駅の施設内に設置して対面授業を続けている。ロシア軍は今年に入り、国境から約30キロのこの街にミサイルや無人航空機(ドローン)による攻撃を強化。空襲警報が鳴り響いて市民の緊張が高まる中、どんな環境で授業をしているのか。「地下鉄学校」を訪ねた。
ハリコフは旧ソ連時代から工業都市として発展してきた。東部の文化・教育の中心地で、交通の要所でもある。侵攻当初から首都キーウ(キエフ)に次ぐ標的となり、一時はロシア軍による地上侵攻もあった。
地下でも元気に授業を受ける子供たち
市の中心部から北西約10キロの地下鉄「ペレモハ(勝利)」駅。13日、地上の入り口から緩やかな階段とスロープを下りていくと、地下1階の一部が通行止めになっていた。扉を開けて中に入ると、子供たちの笑い声が聞こえてきた。
「キャット(猫)! ドッグ(犬)!」。1年生(日本の小学1年生に相当)のクラスでは英語の授業が行われていた。担当の男性教諭がテレビ画面で動物の絵を次々に見せると、約20人の児童たちが我先にと元気な声で答えていた。
廊下から地下鉄の発着を眺められる構造
学校があるのは歩行者用通路だった場所だ。新たに壁や窓が設けられ、複数の教室に分かれている。日本の小・中・高校に相当する1〜11年生の児童・生徒477人が2日に1回、午前か午後に組まれた時間割に従って通学している。
地下鉄のプラットホームは、教室の下にあたる地下2階部分にある。学校の廊下からは、発着の様子を間近に見下ろすこともできる。ただ、走行音や振動は教室ではほとんど気にならず、外の景色が見えないことを除けば地上の教室にいるかと思うほどだ。
●G7、ウクライナ支援継続で一致 2/18
ドイツ南部ミュンヘンで17日、G7外相会合が開かれた。ロシアの侵攻を受けるウクライナに対する軍事、経済面での支援継続で一致。パレスチナ自治区ガザ情勢では、イスラエル軍が準備する最南部ラファへの地上侵攻について「壊滅的な結果をもたらす」と憂慮を示し、自制を求めた。
議長国イタリアのタヤーニ外相が会合後、議長声明を発表。ロシアの反政府活動家ナワリヌイ氏が死亡した状況について「ロシア当局に対し、完全に解明するよう求める」とした。ナワリヌイ氏の死を悼み、会合冒頭で1分間の黙とうをささげた。
会合ではウクライナへの揺るぎない支援で一致し、対ロシア制裁強化で結束を確認した。北朝鮮によるロシアへの武器輸出を非難し、ロシアから核・ミサイル関連技術が北朝鮮に渡る可能性に懸念を表明した。
ガザでの戦闘停止と人道支援の必要性も強調。イスラエルとパレスチナの「2国家共存」に向けて取り組む必要があるとした。ラファには避難民ら約150万人が密集し、地上侵攻による民間人の犠牲拡大が懸念されている。
●キーウ近郊に巨大クレーター 北朝鮮製ミサイル着弾か FNNのカメラが現場に 2/18
ウクライナの首都キーウ近郊でミサイルが着弾してできた巨大クレーターの現場にFNNのカメラが入った。ミサイルは、北朝鮮製の可能性が指摘されている。
田中雄気記者「巨大なクレーターの直径は約14メートル、周りの木々は焼き尽くされていて、その威力のすごさを物語っています」
地元メディアによると、2月15日、ウクライナ全土でロシアによるミサイル攻撃があり、1発がキーウ郊外の村に着弾した。
建物5棟が被害を受け、数人がけがをした。
自宅が被害を受けた住民「今でもショックで震えが止まらない。全てのミサイルをプーチンに打ち返してやりたい」
一部メディアは、着弾したのは北朝鮮製の弾道ミサイルの可能性があると報じている。
ウクライナは、2023年末から少なくとも24発の北朝鮮製ミサイルを使った攻撃があり、これまでに14人が死亡したとしている。 
●ナワリヌイ氏、ロシア極北で獄死 毒殺未遂にあっても政治生命を懸け帰国… 2/18
ロシア極北で獄死した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は、通算3、4期目のプーチン政権批判の急先鋒(せんぽう)だった。2020年の毒殺未遂後、療養先ドイツにとどまるとみられたが、政治生命を懸け、拘束されると分かっていてあえて21年に帰国。「勇気、忍耐力、楽観主義」(人権団体)から一目置かれ、一定のカリスマを誇った。
虎の尾踏む
プーチン大統領が首相から返り咲く12年、モスクワで大規模デモが吹き荒れた。クレムリン(大統領府)に近い会場に身長190センチ弱の男が姿を見せると、参加者は「ナワリヌイ氏だ」と声を弾ませた。
ブロガーとして政権与党「統一ロシア」を「詐欺師と泥棒の党」と糾弾し、閉塞(へいそく)を感じる都市部の中間層から喝采を浴びた。既存メディアではなく、SNSを通じた情報発信は新しかった。反汚職を看板とした人気は「ポピュリスト」のそれだったと言える。
13年モスクワ市長選に出馬を許され、クレムリンは国民の不満の「ガス抜き」に利用していたほど。しかし、批判の矛先を政権与党からプーチン氏周辺に向けてエスカレートさせ、虎の尾を踏む形となった。
ロシアが14年にウクライナに軍事介入し、南部クリミア半島を一方的に「併合」すると、反戦がテーマの一つに。15年、戦争反対を唱えた盟友のネムツォフ元第1副首相が凶弾に倒れた。ナワリヌイ氏は暗殺現場を訪れたり、追悼デモを先導したりした。
22年にウクライナへの本格侵攻が始まった際は既に獄中。ソ連崩壊の一因となったアフガニスタン侵攻と同じだ―。開戦直前にこう警告した上で「現実問題からロシア国民の関心をそらす」のが狙いだと主張した。
「諦めるな」と遺言
プーチン氏が大統領1期目に就任したのは47歳。旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のスポーツマンで、若さと強さが「売り」だったが、1カ月後の大統領選で通算5選を目指す今は71歳だ。自分が失ったものを、47歳のナワリヌイ氏が持っていると感じたとしても不思議ではない。
国際社会の非難にさらされるロシアの獄死事件は、内務省高官の巨額横領を暴露した弁護士マグニツキー氏(09年)以来。反体制派の死亡はネムツォフ氏暗殺以来で、プーチン氏は重い十字架を背負ったことになる。
「諦めないでほしい」。ナワリヌイ氏は自身を追った22年公開の米ドキュメンタリー映画で「もし殺されたと仮定して、国民への遺言はあるか」と質問されてこう答えていた。ロシア人がこの言葉にどう反応するかが問われている。
●露がウ東部要衝を"完全制圧" 2/18
ロシアのショイグ国防相は17日、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地アウディイウカを完全制圧したとプーチン大統領に報告した。国営タス通信が伝えた。プーチン氏は軍に対し、祝意と謝意を表明。通算5選を目指す大統領選を3月に控え、国民にアピールできる「戦果」と捉えているもようだ。
アウディイウカは、2014年から親ロシア派が拠点とする州都ドネツクから約15キロ離れたウクライナ軍の陣地。ロシア国防省は、完全制圧によって「ドネツクから前線を遠ざけ、テロ攻撃(ウクライナ軍の攻撃)から防御できるようになった」と強調。昨年10月からの制圧作戦の最終局面において、ウクライナ軍の戦死傷者は1日1500人以上に上ったと主張した。
●ロシア軍がアウディーイウカ「完全制圧」… 2/18
ロシア大統領府は17日、露軍がウクライナ東部ドネツク州の激戦地アウディーイウカを完全制圧したと発表した。セルゲイ・ショイグ国防相から報告を受けたプーチン大統領は現地部隊に「重要な勝利だ」と祝意を示した。同州の要衝バフムトを昨年5月に制圧して以来となる主要拠点の攻略とされ、3月に大統領選を控え戦果を国民に誇示した形だ。
これに先立ち、ウクライナ軍は17日、露軍による包囲と自軍の犠牲拡大を避けるため、アウディーイウカから部隊を撤退させると発表していた。
露軍が占領するドネツク市の北約15キロに位置するアウディーイウカは、ウクライナ軍にとって最前線の防衛拠点だった。露軍は昨年10月以降、ドネツク州全域を制圧する拠点とするため、猛攻を続けていた。猛攻に伴う露軍の犠牲者も数万人に上るとされる。ロイター通信によると、ウクライナ側には撤退の過程で捕虜になったり、近くの工場に立てこもったりする兵士が出ているという。
米政策研究機関「戦争研究所」は、露軍が空爆を重ねてウクライナ軍の戦力を損耗させた上で地上部隊が前進を図ったと分析する。露軍がこうした「近接航空支援」と呼ばれる戦術を使ったのは初めてとみられる。ウクライナの防空能力の低下を示唆しており、同研究所は米欧の軍事支援の停滞が続けば、露軍が今後この戦術を大規模に展開する可能性があると指摘した。
アウディーイウカ撤退について、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日、「他の前線に転戦するための決断だ」と述べ、戦略的な判断だと強調した。ルステム・ウメロフ国防相は「近代的な防空システムが必要だ」とSNSで訴えた。
●ナワリヌイ氏追悼の動き “少なくとも36都市 400人以上拘束” 2/18
ロシアではプーチン政権を批判する急先鋒として知られ、刑務所で死亡したナワリヌイ氏を追悼する動きが全国の少なくとも36都市に広がり、ロシアの人権団体は、これまでに400人以上が拘束されたとしています。
ロシアのプーチン政権への批判を続けたナワリヌイ氏は、16日に収監されていた刑務所で死亡しました。
当局はこれまでに詳しい死因を発表していませんが、支援団体の幹部によりますと、刑務所を訪れた母親と弁護士は「死因は『突然死症候群』だ」と言われたということです。
しかし、母親らが遺体を受け取るために、刑務所の職員から伝えられた場所に向かったものの、そこに遺体はなく、独自に死因を確認することができない状態が続いています。
こうした中、ロシア各地では17日もナワリヌイ氏を追悼する動きが各地で続き、このうち、第2の都市サンクトペテルブルクではソビエト時代の政治弾圧の記念碑の前に集まった人たちが、治安部隊による警戒の中、祈りをささげたり花を供えたりして、死を悼みました。
人権団体によりますと、17日までの2日間で国内の36の都市で合わせて400人以上が当局に拘束されたということです。

 

●ロシア国民に「自家栽培」を奨励...エクアドルからのバナナ輸入を禁止 2/19
ロシアでバナナが不足する見通しとなり、国民が自家栽培を奨励されている。2月上旬にウラジーミル・プーチン大統領は、最大の供給国だったエクアドルからのバナナ輸入を禁止した。これは兵器の移転をめぐる争いに起因しているようだ。
消費者監視機関、ロシア連邦動植物検疫局の産業専門センター長は現地メディアのガゼタに対し、あと1カ月で全国的にバナナが不足するだろうと予測。バナナの自家栽培を始めるよう国民に促した。
これに先立ちプーチン大統領は2月2日、エクアドルの5社からのバナナ輸入を停止した。バナナの貨物から害虫が検出されたことを受けた措置と説明している。その数週間前にエクアドル政府は米政府との間で、旧ソ連時代の軍装備品を米国製の新鋭兵器と交換するという2億ドル相当の取引に応じていた。
米政府によると、ロシアが2022年2月に始めた戦争が続く中、エクアドルが保有していた旧ソ連時代の装備品はウクライナに送られる。
この取引についてロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、「国外の利害関係者の圧力に屈した無謀な判断」としてエクアドルを非難。「もしそれがエクアドルの言うような『くず鉄』だったとすれば、ワシントンが新鋭装備品との交換を持ちかけるはずがない。しかも相当の量だ」と強調した。
地元メディアによると、ロシアはバナナの90%をエクアドルから輸入している。国営RIAノーボスチ通信は、ロシアの輸入禁止でエクアドルは年間最大7億5400万ドルの損失が出る可能性があると伝えた。
本誌はロシアとエクアドルの外務省に電子メールでコメントを求めている。
あと1カ月で不足に陥るという予測についてクニャツコフは、禁輸前にエクアドルから輸入され、まだロシアの店頭に出回っていないバナナがあると説明した。
ただし不足は一時的なもので、バナナの一部はインドからの輸入を確保しているものの、まだ物流面の問題があるとしている。
一時的な不足はロシア国内でのバナナ栽培で補うことができるとクニャツコフは言い、クラスノダールで熱帯植物を順化させる実験に成功したと指摘した。
ロシア全土で品薄によって物価が高騰している実態は、本誌の取材で明らかになっていた。
プーチン大統領は昨年末の記者会見で珍しく謝罪。輸入品の不足と需要増大が原因で卵の値段が急騰したと述べていた。
「この問題については申し訳なく思う。政府の仕事が追い付かなかった」。プーチン大統領は12月14日の記者会見でそう語った。「近い将来、この状況は是正されると約束する」
●ナワリヌイ氏の死に怒り…バイデン大統領「プーチンと彼の悪漢の行動」 2/19
ロシアのプーチン大統領の政敵アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄中死亡をめぐり米国とロシアの間で緊張が高まっている。
バイデン米大統領はナワリヌイ氏の死をめぐり「プーチンと彼の悪漢の行動による結果ということに疑いの余地はない」と非難した。
米日刊紙ニューヨークタイムズ(NYT)によると、16日(現地時間)、バイデン大統領は日程になかった記者会見を開き、ナワリヌイ氏の死はプーチン大統領に責任があるとして強く非難した。
バイデン大統領はナワリヌイ氏の死に怒りを表しながら「プーチンはウクライナなど他国の国民を攻撃するだけでなく自国の国民にもひどい犯罪をしている」と批判した。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)はこの日、米公営ラジオNPRに出演し、「ロシア政府が政治的反対者たちに危害を加えてきた醜悪な歴史を考慮すると、ナワリヌイ氏の死亡をめぐりいかなることが起きたかについて明白な疑問を感じる」と述べた。
これに対しロシアは狂気に近い主張だとして反発した。ロシア大統領府のペスコフ報道官は「死亡の原因に関する情報はまだない。しかしそのような声明が出ている」とし「明らかにこれは完全に狂気だ。我々はそのような声明を決して受け入れられない。容認できない」と強調した。
ロシア当局は「ナワリヌイ氏は散歩後に体の状態が悪化し、ほとんどすぐに意識を失った」とし、医療スタッフが応急処置をしたが、ナワリヌイ氏の死亡を確認し、手続きに基づいて正確な死因を調査中と明らかにした。
●ナワリヌイ氏死去 毒殺未遂を経て獄中からプーチンを震撼させた実像と闇! 2/19
ロシア当局が命じたとされる毒殺未遂事件、療養先から帰国直後の収監。その安否がロシア国内だけでなく、国際的な注目を集めてきたロシア最大の反体制派指導者ナワリヌイ。「自由なロシア」のための長年の活動からノーベル平和賞の有力候補とされ、2021年には人権擁護や思想の自由、民主主義の発展に貢献した個人・団体に与えられるEU「サハロフ賞」を受賞しました。
「怖くないのですか?」
ベルリン・ブランデンブルク空港でポベーダ航空DP936便に搭乗するとき、アレクセイ・ナワリヌイはそう問いかけられた。2021年1月17日の日曜日のことだ。
同機は、帰国するナワリヌイに同行するジャーナリストで満席だった。反汚職活動を展開してきたこの44歳の野党政治家が妻、弁護士、広報担当と客室に入るとき、その瞬間をとらえたり、ライブ配信したりしようと、いっせいに無数のスマートフォンが掲げられた。世界が見ていた。
ナワリヌイは陽気で楽天的だ。だが、恐れるだけの理由はたしかにある。ロシアに戻れば、ただちに拘束されると、ロシアの法執行機関が事前に警告していた。2014年に詐欺罪で執行猶予付き有罪判決を受けたのち、ナワリヌイが執行猶予の条件に違反したためだという。何年も収監されるかもしれなかった。ナワリヌイが自分の意思で飛行機に搭乗できるだけでも、奇跡だった。その前に自分の意思で飛行機に乗ったのは、2020年8月20日のことで、シベリアのトムスクからいつものように首都モスクワへ戻るはずだった。当時、彼はトムスクの役人と市議会議員のビジネス活動を調査していた。また、9月13日の地方選挙に出馬する野党勢力の選挙運動もしていた。この選挙により、与党候補を打ち破りたいと考えていたのだ。
しかし、機内で異変が生じた。ナワリヌイは具合が悪くなり、やがてあまりの苦痛にうめき出したのだ。ある同乗者によると、ナワリヌイは「言葉を発していたわけではない。ただ絶叫していた」という。客室乗務員が、医療関係者は同乗していないかとアナウンスしたところ、ひとりの看護師が名乗り出た。そして、客室乗務員とともに応急手当を施し、ナワリヌイの意識を保とうとした。
トムスクの西約750キロメートルで同じくシベリアにあるオムスクの空港には謎の爆弾テロ予告があったものの、パイロットは同空港への緊急着陸を決断した。ナワリヌイはストレッチャーに乗せられて飛行機から降り、救急搬送された。
ナワリヌイの広報担当キラ・ヤルミシュは、その日ナワリヌイがおなかに入れたものといえば、フライト前に空港で飲んだプラスチック・カップ入りの紅茶だけだ――したがって、そのカップの紅茶に毒が混入されていたのかもしれないといった。ナワリヌイにはとくに健康問題はなく、煙草も吸わず、酒もほとんど飲まない。急に体調を崩すようなタイプではないはずだと。
ヤルミシュが抱いた恐れは、ロシア政治に注目している者なら、なじみ深い。それまでにも、クレムリンに批判的な著名人が体調不良を訴えたことがあった。そういった人たちは毒を盛られたのではないかという疑惑が広まっていた。同時に、ナワリヌイは、実業家、地方政治家、高官といったエリートたちの汚職を調査していたために、大勢の敵がいた。疑わしき人物を挙げれば、長いリストになる。
病院に到着するとすぐ、ナワリヌイは「精神異常発現薬の急性中毒」と予備的診断を受けた。人工呼吸器を取り付けられ、医療行為で意図的に昏睡状態にされて、アトロピンを投与された。容体は「重体だが安定している」とされ、通常の治療が行われていた。
だが、そこから事態は思わぬ方向へ転がっていく。
病院に法執行機関の職員が押し寄せてきた。私服警官もいた。すると、彼らはナワリヌイの所持品を押収しはじめたのだと、ヤルミシュはいった。
一方、ナワリヌイの乗っていた飛行機がやっとモスクワに着陸すると、そこでは、警官たちが飛行機に乗り込もうと待ちかまえていた。彼らはナワリヌイの近くに座っていた乗客に対して、ほかの乗客が降りてもそのまま動かないように指示した。ある乗客は、その対応に首をかしげた。
「その時点では、犯罪ではなさそうでした。[それなのに]警官たちは明らかに犯罪が起きたと決めつけていました。
オムスクでは、ナワリヌイの妻ユリヤ・ナワリナヤが夫のもとに駆けつけられずにいた。病院当局によると、ナワリヌイがユリヤの訪問にはっきり同意していないからとのことだった。しかも、医師団はナワリヌイが同行チームと一緒にいる状況をあまり歓迎していなかった。ナワリヌイ・チームはドイツでの治療を希望していた。入院翌日の8月21日、ナワリヌイをベルリンのシャリテ大学病院へ搬送する準備を整えた飛行機がオムスクに着陸した。
奇妙なことがあったと、ナワリヌイの側近イワン・ジダーノフとユリヤが報告している。病院の院長と話していたとき、ナワリヌイや他の乗客たちにも「危険な物質が発見された」と女性警官にいわれたという。だが、それがどんな物質なのかは、「捜査上の秘密」だとして教えてもらえなかった。
同日、ロシア全国紙がセンセーショナルな記事を掲載した。匿名情報源の言葉を引用する形で、法執行機関の職員がナワリヌイをトムスクまで尾行していたという。毒物の混入はあったのかという問いに対しては、情報提供者は「毒物の混入につながるような余計な、あるいは疑わしい接触はなかった」と答えていた。この記事は、ロシアの連邦保安庁(FSB)の管理下でリークされたものだというのが大方の見方だった。
一方、オムスクの医師団も当初の診断を訂正した。ナワリヌイは深刻な代謝性疾患の症状を呈しており、毒物による中毒症状ではないと見解を変えたのだ。病院の医長によれば、この症状は「機内で血糖値が急激に下がったために生じた可能性があり」、それによって意識を失ったと考えられるとのことだった。また、医師団は、ナワリヌイの両手と頭髪の検体から見つかった物質はよくある工業製品の成分であり、プラスチックのカップ内の液体に混入されていた可能性があるとも語った。さらに、ナワリヌイの容体は「不安定」であるから、ドイツへの移送は適切ではないとも主張した。
ナワリヌイの主治医は、その主張にははっきりした動機があると見ていた。「彼らは体内から毒素の痕跡が抜けるように、三日間待つのでしょう。ユリヤ・ナワリナヤはウラジーミル・プーチン大統領に掛け合い、夫の海外移送の許可を求めた。
はじめは抵抗に遭ったが、ドイツ医師団はナワリヌイへの面会が許され、ナワリヌイはベルリンに移送できる状態だといわれた。ロシアの医師団も容体が「安定した」といい、移送に同意した。8月22日、飛行機はナワリヌイを乗せてオムスクを発った。
ベルリンに到着して二日後、ドイツ医師団は、ナワリヌイは中枢神経系の働きに介入するコリンエステラーゼ阻害薬を投与されたと考えていると語った。この毒物は一般的な殺虫剤のほか、兵器級の神経剤にも使われている。この情報により、ロシアの国家的関与の疑いが強まった。
しかし、非難の矛先が数多く向けられるにつれて、ロシア高官は反撃した。「なぜ 、われわれがそんなことをするのか? しかも、こんなみっともないへたくそなやり方で?」。ロシアのある上級外交官は、8月24日にそうツイートしている。9月はじめには、ドゥーマ(ロシア連邦議会下院)議長も、「例の」毒殺未遂事件なるものは「新しい対ロ制裁を科し、わが国の発展を阻止するために計画された行動」であると主張している。
一方、ロシアの警察当局には、この事件の捜査を急ぐ様子は見られなかった。トップの法執行機関とはとてもいえない地方の交通警察が「予備捜査」を行った。ナワリヌイがトムスクで滞在していたホテルには、地元警察とFSB職員の捜査が入ったが、地元マスコミによると、ほんの「二日」で終わったという。警察の聴取を受けたナワリヌイの仲間の目には、すべてが不作為だと――もっといえば、隠蔽だと――映った。
9月2日、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)は、ナワリヌイにノビチョクと同系の神経剤が使われたのは「疑いの余地もない」とし、のちに、その主張が化学兵器禁止機関(OPCW)によって確認された。これは、2018年3月にイングランドのソールズベリーで起きた毒殺未遂事件で、ロシア人元二重スパイのセルゲイ・スクリパリとその娘ユリヤ・スクリパリに対して使われたものと同じタイプの神経剤だった。イギリス政府によれば、プーチン大統領がその暗殺命令を出した「可能性がきわめて高い」という。
●ナワリヌイ氏を追悼する市民まで連行…プーチン政権、遺体も家族に渡さず 2/19
ロシアの代表的な野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が獄中で突然死亡したことを受け、暴圧統治を続けているウラジーミル・プーチン政権の「正当性の危機」がさらに深まる見通しだ。ロシアの国際的な孤立も深まり、ウクライナ戦争終結の糸口を見出すことも期待できなくなった。
ナワリヌイ氏が収監されていたシベリアのヤマロ・ネネツ自治区の刑務所で16日(現地時間)に突然死亡した後、モスクワに設けられた臨時の追悼場所で静かな追悼の列が続くなど、ロシア全域でナワリヌイ氏の死を悼む動きが広がっている。ロイター通信が17日付で報じた。ロシアの人権団体「OVDインフォ」は、同日午後までで全国36都市で追悼者401人が警察に連行されたと明らかにした。
追悼者は強い怒りと絶望をあらわにした。モスクワの追悼所で献花したウラジーミル・ニキチンさん(36)はロイターのインタビューで、「ナワリヌイ氏の死はぞっとするものだ。希望が粉々に砕けた」と語った。また別の追悼者は「彼が未来に何かを成し遂げる人物と期待してきた」と言い、死を悼んだ。追悼所には「私たちは忘れない、容赦もしない」と書いたメモなどが貼られていた。
弁護士出身で2000年に政治に飛び込んだナワリヌイ氏は、政府の腐敗と人権弾圧を強く批判し、プーチン大統領の最大の政敵として浮上。その後、生死をさまよう危機を乗り越え、プーチン大統領に対抗するロシアの良心として大きな注目を集めてきた。2020年8月20日、シベリアからモスクワに向かう飛行機で毒物中毒症状で意識を失い、ドイツに移って治療を受けた。しかし、亡命ではなく翌年1月17日に帰国を選んだ。多くの人々が懸念したとおり、ロシア政府は2014年の金品違法取得容疑で下された有罪判決の執行猶予決定を取り消し、ナワリヌイ氏を収監した。その後、氏は過激主義扇動などの疑いで30年以上の懲役刑を宣告された。氏は獄中でもウクライナ戦争に反対する声をあげるなど、政府批判を続けた。
ナワリヌイ氏の突然の死は、ロシア政府の弾圧で大きく萎縮した民主陣営の終末につながるという憂慮を生んでいる。米シカゴ大学のコンスタンチン・ソニン教授(政治経済学)は、「もはやロシアでプーチンの言葉に疑問を呈したり、反対の声をあげることさえ、どうやったら可能なのか不明になった」と懸念を示した。
ロシア連邦捜査委員会は、最長30日にわたりナワリヌイ氏の死亡に対する「手続き的検討」に入るとし、遺体を家族に引き渡していない。ロシア政府が死因を隠ぺいするだろうという懸念が高まる中、クレムリン宮(ロシア大統領府)の内外でも、現在の状況を気にかける声があがっている。ロシアの独立メディア「メドゥーザ」は、クレムリンの政治戦略家と政権与党「統合ロシア党」の関係者らが、来月15〜17日に予定された大統領選前に発生した今回の事態がプーチン大統領にとって「非常に否定的な状況」になるという見通しを示したと報じた。別の政府関係者も「(プーチン)大統領は(西側から)再び手を血に染めた独裁者であり殺人者と呼ばれることになるだろう」と述べた。消息筋は、「ナワリヌイ氏の死去後、西側諸国ではプーチン大統領との対話を決して容認できないというムードが強まり、丸2年となるウクライナ戦争を終結させるための交渉の可能性もほぼ消えた」と診断した。
実際、米国のジョー・バイデン大統領はナワリヌイ氏死亡のニュースが流れた直後、「ナワリヌイ氏の死がプーチンとその側近のならず者たちが行った何らかの行動にともなう結果だということは疑う余地がない」と述べた。欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長も「ナワリヌイ氏の死に対するロシアの責任を問うための努力を惜しまない」と約束した。英国のデービッド・キャメロン外相も、西側の主要7カ国(G7)とともにロシアに対する対応措置を検討すると宣言した。
ロシアの反体制派は、西側の強力な対応を求めた。英国で亡命生活を送っているロシアの民間石油会社ユコスのミハイル・ホドルコフスキー元会長は、政治専門メディア「ポリティコ」への寄稿で、3月の大統領選でプーチンが再選しても西側諸国は絶対に結果を認めてはならないと述べた。さらに、西側がプーチンといかなる接触をしたとしても平和の試みを引き出すことはできないとし、ウクライナに対する強力な軍事支援だけが戦争を終わらせることができると強調した。
ナワリヌイ氏の死は、ロシアの閉鎖性と排他性をさらに強めるものとみられる。メドゥーザは、プーチン大統領の側近の言葉を引用し「政府はナワリヌイが死亡した時に備えた対応策をすでに準備している」と伝えた。また、ロシア政府が「西側が過激な反政府派の人物の死を機に、プーチン大統領に打撃を与えようと大騒ぎするだろう」や、「ナワリヌイの死は西側だけに利益を与える」、「ロシア内の強硬派がナワリヌイを除去したことでウクライナ戦争を終わらせるための交渉を座礁させた」などの主張を同時多発的に広めるだろうと予想した。
●<ウクライナ戦2年>プーチン救ったのは軍隊ではなかった… 2/19
「ロシアが西側の制裁を崩した」。
ロシアのプーチン大統領は2日、軍需産業の中心地であるトゥーラで大衆向けの演説中にこう叫んだ。彼は「西側はロシアの衰退・失敗・崩壊を予測したが、われわれは成長した。激しい制裁を耐え抜いただけでなく、欧州のどんな国よりも大きくなった」と意気揚々だった。
世銀「ロシアのGDP、ドイツ抜き欧州1位」
実際に2年にわたり戦争をしているロシア経済が予想外に善戦し世界の耳目が集中している。トゥーラでの演説時にプーチン大統領は世界銀行の資料を提示した。それによると2022年基準でロシアの購買力平価(PPP)基準国内総生産(GDP)は5兆5000億ドルで、ドイツの5兆3100億ドルより高かった。順位では欧州1位、世界5位だった。
これだけではない。国際通貨基金(IMF)はロシア経済が昨年3%成長したのに続き今年も2.6%成長すると予想した。米国を含む主要7カ国(G7)のGDP成長率を上回る。
2022年のロシアのウクライナ侵攻直後、米国と欧州連合(EU)、G7など西側陣営は前例のない対ロ制裁を実施した。全方向的な制裁でロシア経済の息の根を止め、クレムリンの戦争機械を止めるという戦略だった。このため米国など西側諸国はルーブルを国際銀行間通信協会(SWIFT)から締め出し、ロシア産原油価格の上限を引き下げた。また、海外にある300億ドル相当のロシア指導層の資産、3000億ドルに達するロシア中央銀行の資産を凍結するなどの制裁を継続した。
効果も一部で現れた。戦争序盤にルーブルが急落し、ロシア国営ガス輸出会社ガスプロムとロシア最大国営銀行ズベルバンクの企業価値は97%下落した。ロシア人はモスクワの現金引き出し機の前に長い列を作り、オリガルヒと呼ばれる新興財閥はヨット、サッカーチーム、大邸宅、クレジットカードまで差し押さえられた。
「プーチン政権救った財務省と中央銀行」
だがロシア経済はまもなく回復傾向に入り込んだ。戦争2周年を控えたプーチン大統領は「ロシア経済は依然として発展中であり、(戦争を継続する)十分な余裕がある」と大声を上げている。
専門家らは「プーチン政権を救ったのはロシア財務省と中央銀行。これらはプーチンにとって軍隊より有用な存在」と伝えた。
実際にシルアノフ財務相とロシア中央銀行のナビウリナ総裁は開戦後に国の主導で銀行システムを強化し追加支出を抑制しながら積極的に対応した。フィナンシャル・タイムズはこうした素早い対処が西側の制裁の初期衝撃を緩和する防波堤の役割をしたと伝えた。
ウィーン国際経済研究所(WIIW)のエコノミスト、ワシリー・アストロフ氏は「ロシア財務省・中央銀行の活躍でロシア経済はさらに大きな萎縮を避けられ、戦時経済へ効果的に転換できる時間を稼いだ」と説明した。
戦時経済への転換に成功して軍需産業が疾走し、ロシアは戦争によりGDPが反騰する逆説的状況が現れた。ロシアのマクロ経済分析・短期予測センター(CAMAC)は2022〜23年のロシアの産業生産量増加分のうち60〜65%がウクライナとの戦争のおかげだと説明したほどだ。
すでにロシアは軍備支出を通じて経済が成長する「軍事ケインズ主義」に入り込んだというのが専門家や外信の分析だ。今年ロシアの国防費は連邦政府総予算36兆6600億ルーブル(約60兆円)の3分の1である10兆4000億ルーブルに達する。これは侵攻前最後の年である2021年と比べ3倍に増加した数値だ。2022〜23年に戦争関連財政浮揚策に投入された財政はGDPの10%に相当する。
「ロシア経済の耐久…年末までは維持」
だが政府の過度な軍備支出が経済全般に新たな亀裂を起こしているという警告も出ている。WIIWの先月の報告書は「戦争が長引くほどロシア経済は軍備支出にさらに中毒になるだろう。これは戦後のロシア経済を完全な沈滞・危機に陥れるだろう」と伝えた。
インフレが7.0〜7.5%に沸き上がり、中央銀行の政策金利がウクライナより高い16%台まで上がったのもロシア経済の圧迫要因だ。米財務省の元官僚で英公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)議長のマーク・ソーベル氏は「インフレと高金利は実質所得を食い潰し投資を萎縮させる。さらに大きな孤立と経済悪化がロシア経済と国民を待っている」と説明した。
ロシア内部からも現状が質的・持続的成長とは距離があるとの指摘が出ている。ロシア中銀のナビウリナ総裁は昨年12月「自動車の設計が許容するよりアクセルをさらに強く踏み込めば、近くエンジンが過熱されるだろう。(いまのやり方のままなら)速く行くことはできるが、長続きできないだろう」と明らかにした。
CAMACの経済専門家らはすでに自動車生産と建設部門で景気低迷の兆候が現れ始めたと伝えた。フィンランドの新興経済研究所もやはりロシアの自動車生産が戦争前より3分の1水準に落ちたと強調した。
ただロシア経済の粘り強い耐久は少なくとも年末までは続けられるとBBCは伝えた。メディアは「この時期は11月に米国大統領が変わる可能性、ウクライナに向けた西側の資金支援が減る時期などを考慮したクレムリンの明確な戦略」と説明した。IMFはロシアの来年の経済成長率が1.1%に落ちるものと予測した。
●NATOは「今後10年以内に」ロシアと戦争状態に陥る可能性がある —— 2/19
・ロシアは「西側諸国との対決」に備えている可能性があると、エストニアの情報機関は指摘している。
・北大西洋条約機構(NATO)は今後10年以内にロシアと戦争状態に陥る可能性があるという。
・「ロシアは長期的な対決の道を選んだ」とエストニアの情報機関のトップは語った。
NATOは今後10年以内にロシアと戦争状態に陥る可能性があると、エストニアの情報機関が指摘している。
ロシアは「西側諸国との対決」に備えている可能性があると、同機関は2月13日に公表した報告書の中で述べている。
報告書には「クレムリンは恐らく、今後10年以内にNATOと衝突する可能性を予測している」とあり、エストニアは「今後数年以内に、エストニア国境付近でロシア軍の大幅増強」を見込んでいるという。
同機関を率いるカウポ・ロジン(Kaupo Rosin)氏は報道陣に対し、ウクライナで戦争が続いていることを考えれば、ロシアの攻撃は短期的には「まずあり得ない」と語った。
ただ、NATO加盟国が防衛を強化しなければ、攻撃は起こり得るとの考えを示した。
ロイターによると「ロシアは長期的な対決の道を選んだ」とロジン氏は語った。
「もし我々が備えていなければ(ロシアによる軍事攻撃の)可能性ははるかに高くなるだろう」
この数日前には、米大統領選で共和党の最有力候補となっているトランプ前大統領がサウスカロライナ州で開かれた選挙集会でNATOを批判していた。
トランプ前大統領は2月10日、ロシアは拠出金を払わないNATO加盟国について「好きなように」すればいいと発言した。
前大統領のNATOに関する発言は、これまで厳しい批判を浴びてきた。ホワイトハウスは10日夜、トランプ前大統領の発言を「恐ろしく、錯乱している」として批判した。
米欧州陸軍の元司令官ベン・ホッジス(Ben Hodges)氏は 「トランプは同盟を嫌う。彼は自分が何かに従わなければならない義務を嫌う」と2月12日、イギリスのThe Timesに語った。
「マフィアタイプの彼は、誰にも自分の選択肢を制限されたくないのだ」
「道義的責任はどうでもいい。彼は全てを投げ捨てるつもりだ」
●「ナワリヌイ氏死亡前に刑務所の監視カメラ遮断」…遺体も行方不明 2/19
ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の疑問死が大きな波紋を起こしている。米国をはじめとする西側ではロシアのプーチン大統領が背後にいると主張する。
ナワリヌイ氏は3月15〜17日のロシア大統領選挙を1カ月後に控えた16日に死亡した。ロンドン大学ロシア研究所のマクシム・アリュコフ研究員は17日、英インディペンデントに「ナワリヌイ氏の死は3月の大統領選挙を念頭に置いた政治的殺人」と指摘した。彼は「プーチン政権によって今回の選挙が徹底的に統制されても、ナワリヌイ氏は潜在的に平和的な政権交代を熱望する反対の声の求心点になれる人物だった。反体制派に抵抗がどれだけ無駄なことかを見せるために殺害された可能性が高い」と付け加えた。
ナワリヌイ氏は2021年1月に極端主義活動などの容疑で収監された後も弁護士を通じて外部に自身のメッセージを活発に伝えてきた。ガーディアンの日曜版オブザーバーも「ナワリヌイ氏の死は大統領選挙を控えたプーチン政権が反対派の意志を折る内部引き締め用」と指摘した。
ウォール・ストリート・ジャーナルは「ナワリヌイ氏の死でロシアに実質的に残っていたプーチンの最後の政敵が除去された。プーチン大統領の位置付けをさらに強固にするだろう」と予想する。人権弁護士だったナワリヌイ氏は2011年に反腐敗財団を創設してからロシア高官らの不正腐敗を暴露し反政府運動を牽引してきた。
ロシアに有利に動くウクライナ戦争周辺の状況も影響を及ぼしただろうという分析も出ている。西側のウクライナ支援は戦争初期とは違い弱まっており、再執権を狙うトランプ前米大統領は防衛費問題などで北大西洋条約機構(NATO)を圧迫する状況だ。
ナワリヌイ氏の遺体の行方はわからない状態だ。ナワリヌイ氏の側近は「彼は殺害され、ロシア当局がその痕跡を隠すため遺体を意図的に引き渡さずにいる」と主張した。ロシア当局はナワリヌイ氏の正確な死因調査に向け死体を検視しているという。ナワリヌイ氏が服役中だったヤマロネネツ自治管区第3刑務所は16日、「ナワリヌイ氏が散歩の後に倒れ意識を失い死亡した」と明らかにした。ナワリヌイ氏が死亡する2日前にロシアの情報機関である連邦保安庁(FSB)当局者が、彼が服役する刑務所を訪ね一部監視カメラなどの接続を遮断したとの主張も出ている。タイムズによるとロシアの反政府活動家は「ロシア連邦刑執行庁支部報告書にこうした言及がある」と主張した。
ナワリヌイ氏死亡の責任をめぐり米国とロシアは正面からぶつかり合っている。バイデン米大統領は記者会見を行い「ナワリヌイ氏の死がプーチンとその一味がやった行動による結果ということに疑う余地はない」と話した。これに対しロシア大統領府のペスコフ報道官は「こうした狂気に近い主張は容認できない」と強く否定した。
ロシアと欧州全域ではナワリヌイ氏追悼の熱気が広まっている。ロイター通信によるとモスクワとサンクトペテルブルクなど32都市で追悼行事が開かれ、これまでに400人以上が当局によって拘禁された。彼らはナワリヌイ氏を賛える記念碑に花とキャンドルを置いて追悼し連行された。
前日ドイツのベルリンにあるロシア大使館前では500〜600人がナワリヌイ氏を追悼した。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「ナワリヌイ氏はプーチン大統領とその政権により徐々に殺害された」と話し、ドイツのショルツ首相は「ナワリヌイ氏は勇気の代償を命で払った」と哀悼した。
●野党指導者の死めぐる相次ぐ疑惑…極寒の監房、毒物中毒、疑惑の注射まで 2/19
「わずか4日前(面会で)会った時は元気に生きていたし、幸せそうだったのに…」
「プーチンの唯一の政治的対抗馬」と呼ばれたロシアの野党指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)の突然の死に、母親のリュドミラさんは息子の死が信じられない様子だった。40代の若い政治家がロシア大統領選挙をわずか1カ月後に控えた16日(現地時間)、シベリアのヤマロ・ネネツ自治区のハルフ入植地にある第3刑務所(IK-3)に移監されてから2カ月後に突然死亡したことをめぐり、様々な疑惑が持ち上がっている。
ロシア政府はナワリヌイ氏が死亡した状況について「刑務所で散歩をしている途中、『体調が良くない』と言った後、意識を失って倒れてから、回復できずそのまま死亡した」と発表した。ナワリヌイ氏が倒れて2分後に刑務所の医療スタッフが到着し、再び4分後に救急車が到着したが、命を救うことができなかったという。ロシアのインタファクス通信は「医療スタッフがナワリヌイ氏を助けるために30分近く努力したが無駄だった」と報じた。ナワリヌイ氏は同日午後2時17分に死亡した。
ナワリヌイ氏の死をめぐり、欧米のマスコミはさまざまな推定をしている。 2021年2月、ロシア当局によって逮捕され収監された後、3年間にわたり300日間も独房に閉じ込められていたことから、ロシア政府が今回の死を意図した可能性が高いとみられている。ニューヨーク・タイムズはナワリヌイ氏が「収監期間の4分の1以上を『冷凍処罰監房』で過ごした」とし、「何が入っているか分からない注射を打たれたこともある」と報道した。昨年末、世界で最も過酷な刑務所の一つとされ、「北極オオカミ」という異名を持つ第3刑務所に移監されたことが、健康に致命的な影響を及ぼした可能性もあるという指摘もある。英国のBBC放送は、同刑務所は冬の気温が氷点下20度まで下がり、収監者に対する刑罰として、真冬にコートなしで外に立たせたり、冷水を浴びせかけたりする場合もあると報じた。5月になってようやく気温がマイナスからプラスに上がるが、夏には夜のない長い昼が続くなど、天気も収監者の健康に深刻な打撃を与えるという。
ナワリヌイ氏は2021年に逮捕される4カ月前、旧ソ連時代に使われていた神経作用毒物「ノビチョク」によるテロで3週間にわたり死の淵をさまよった末に回復した。矯正当局は、ナワリヌイ氏にこれに対するきちんとした治療を施さなかったという。最近立っていられないほどの深刻な腰の病気で、足の片方が麻痺し、椎間板ヘルニアが疑われる状況もあったものとみられる。
しかし、前日の15日、法廷に出席した時の映像では、精神と健康状態に異常がないように見えた。刑務所に収監されていたこの3年間にも、「プーチンのいないロシア」というウェブサイトを開設して反プーチン運動を行い、3月の大統領選挙でも有権者1人が他の10人を説得して反対票を投じるよう督励するなど、プーチン大統領にとって「目の上のたんこぶ」のような存在だった。BBCは「ナワリヌイ氏は法廷で余裕を見せたが、実際にはかなり憔悴した様子だった」と報じた。毒物中毒後、まともな治療を受けられない状態で、血管の中の血の塊(血栓)が固まって死亡に至ったのではないかという見方もある。日本経済新聞も18日付で、「(ロシアの捜査当局が)死因については調査中だが、過酷な環境での収監に伴う(事実上の)『殺人』という見方も出ている」とし、「3月のロシア大統領選挙を控えたプーチン政権がナワリヌイ氏の排除に動いたとの疑念も深まっている」と報道した。
ナワリヌイ氏の死亡で、ロシアのプーチン大統領に対する国際社会の非難世論が高まっている。ジョー・バイデン米国大統領はナワリヌイ氏死亡のニュースが流れた直後、「ナワリヌイ氏の死がプーチンとその側近のならず者たちがした何らかの行動にともなう結果であることは疑う余地がない」と述べた。欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長も、「この死に対するロシアの責任を問うため、努力を惜しまない」と約束した。英国のデービッド・キャメロン外相も、西側の主要7カ国(G7)とともにロシアに対する対応措置を検討すると宣言した。ロシアと戦争中のウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「プーチンは野党指導者であれ、自分にとって標的とみられる人であれば、誰でも殺す」と非難した。
世界の世論も悪化している。BBCは17日、「ナワリヌイ氏は、ウラジーミル・プーチン大統領の統治に挑戦して死亡したロシアの著名人の中で、最も直近の事例になった」と説明した。ニューヨーク・タイムズは「プーチン大統領の反対勢力はほとんど逮捕されたか、海外に逃避したが、新たな殉教者(ナワリヌイ氏)の登場はプーチンに対する疑問と非難に力を与え、『プーチン神話』を維持することははるかに難しくなるだろう」と見通した。ただし、大統領選挙を控えた状況で「意図的他殺」でプーチン大統領が得るものはないという反論もある。ワシントン・ポストは「ロシアのエリート層の間では、ナワリヌイ氏が『殉教者』とみなされる可能性と、これを通じて西側がプーチン政権に対する決議を強化し、ウクライナ支援を増やす危険性があると指摘している」と報じた。
●日・ウクライナ経済復興推進会議 外相「渡航制限 一部緩和も」 2/19
ロシアによるウクライナへの侵攻開始からまもなく2年となる中、東京でウクライナの復興に向けた会議が開かれ、官民一体となってインフラ整備などを支援するため、50余りの協力文書が交わされました。また、この中で行われた演説で、上川外務大臣は、復興支援に携わる企業・団体関係者が首都キーウに渡航する場合に限って、渡航制限を緩和したことを明らかにしました。
日本 官民挙げて復興後押しの姿勢
「日・ウクライナ経済復興推進会議」は午前10時から開かれ、政府関係者に加え、両国の企業およそ130社が参加しました。
岸田総理大臣は「ウクライナでは今この瞬間も戦争が続いている。状況は容易ではないが、経済復興を進めることは『未来への投資』であり、官民一体となって強力に支援する」と述べました。
続いて、ウクライナのシュミハリ首相が「両国間の関係を発展させる次のステップになる。お互いの力をあわせて取り組むことで、現在の挑戦を成長と繁栄の機会に変えることができる」と述べました。
会議では日本が、地雷の除去やがれき処理、農業の生産性向上、電力・交通インフラの整備など7つの分野で支援策を打ち出しました。
また、両国の間で企業が二重に課税されないよう租税条約に署名するなど56の協力文書が交わされ、投資協定の見直しに向けて交渉を開始することなどでも合意しました。
欧米各国の間でウクライナへの「支援疲れ」も指摘される中、日本としては官民挙げて復興を後押しする姿勢を打ち出し、国際的な機運を高めたい考えです。
シュミハリ首相「日本の経済政策から学びたい」
シュミハリ首相は会議の中の基調講演で「日本の復興の経験と経済発展の奇跡は、われわれにインスピレーションを与えるものだ。日本の経済政策から学びたい」と強調しました。
そのうえで「ウクライナの経済復興の原動力は民間セクターだ」と訴え、エネルギーや農業の分野で日本の技術や投資に期待を示すとともに、ロシアの侵攻で被害を受けた道路や鉄道、橋などのインフラ整備に参加するよう求めたほか、日本の自動車メーカーに対してウクライナに製造拠点を設けるよう呼びかけました。
さらに復興には巨額の資金が必要だとして、各国が凍結したロシアの資産を復興の財源に充てるよう訴えました。
また、去年3月の岸田総理大臣のウクライナ訪問について触れ、勇気とリーダーシップのあらわれだとして謝意を示した上で、「ウクライナを再度訪問するよう招待したい」と述べました。
シュミハリ首相は最後に「ロシアの残虐行為や国際法違反に対して、世界がどう反応するかに注目が集まっている。きょうのウクライナはあすの東アジアかもしれない。ウクライナは暗い時代を生きているが、希望の光も見えている。希望は人がつくるものだ。日本の力、リーダーシップ、優しさを、ウクライナ人は決して忘れない」と強調しました。
上川外相 渡航制限を一部緩和
上川外務大臣は経済セッションで演説し、「ウクライナの復旧・復興に参画する企業・団体の取り組みとして、真にやむをえない事情でキーウに渡航する必要がある場合、当該組織が安全対策を講じるとの観点から危険情報の内容を一部改訂した」と述べ、企業からの要望を踏まえて渡航制限を一部緩和したことを明らかにしました。
具体的には、ウクライナ全土に出している「退避勧告」を維持したまま、復興支援に携わる企業・団体関係者が首都キーウに渡航する場合に限って渡航制限が緩和されました。
実際に渡航する場合は、各企業が安全対策を講じた上で、2週間前までに連絡先や宿泊先など渡航計画を届け出るよう求めていて、外務省は相談窓口を設置しました。
日本とウクライナが交わした協力文書 内容は?
会議で日本とウクライナの官民が交わした協力文書は、生活の再建やインフラの整備など7つの分野にわたり、あわせて56に上ります。
【大手はメーカーや商社が】
日本の農機具メーカーや機械メーカー、商社などは、農業の生産性向上やエネルギーや交通のインフラ整備、商用車の供給など幅広い分野の協力文書をウクライナ政府や現地の企業などと交わしました。
このうち大手機械メーカーの「IHI」は、ウクライナの復興インフラ発展庁との間で、寸断された道路の復旧や、近隣の国へとつながる大規模な橋の建設事業に関する協力文書に署名しました。
【スタートアップ】
一方、今回の協力文書には、大手企業だけではなく、日本のスタートアップ企業も参画しています。
このうち、植物由来の界面活性剤を製造する技術を持つ静岡県沼津市の「アライドカーボンソリューションズ」は、ウクライナの農業法人などとの間で、原材料の調達や実証実験に関する協力文書を交わしました。
この企業は、ウクライナで生産される菜種やひまわりの種を使ったヨーロッパ向けの界面活性剤の量産を計画していて、長引く軍事侵攻で荒廃したウクライナの農地の復興にも役立てたいとしています。
また、沖縄県恩納村のスタートアップ企業、「EF Polymer」は、農地にまく「ポリマー」と呼ばれる材料の生産などに関する協力文書を現地の企業との間で結びました。
ダムが破壊され、ウクライナの農地の水不足が懸念される中、吸水性が高く、オレンジの皮など自然由来の原料を使った自社のポリマーを普及させ、環境にも配慮しながら少ない水や肥料で作物を生産できるようにしたいとしています。
このほか、3Dプリンターを使って、短時間で住宅を建設する事業に取り組む兵庫県西宮市の「セレンディクス」も、医療施設や公共施設の提供に向けて、現地の建設会社と協力文書を交わしました。
3Dプリンターを使って建設した住宅
【NEXIも】
さらに政府系の保険会社「日本貿易保険」も、日本企業がウクライナに進出しやすい環境を整えようと、欧州復興開発銀行との間で協力文書を交わしました。
日本貿易保険はこのほか、19日の会議の中で、企業が被害を受けた場合に保険料に応じて損失を補填(ほてん)する「海外投資保険」の引き受け枠をウクライナ向けで新設し、1500億円規模とすることも明らかにしました。
女性・平和・安全保障をテーマにしたセッションも
午後には、紛争の予防や和平に女性が主体的に参画することが重要だとする「WPS(Women, Peace and Security)」という考え方をテーマにしたセッションも開かれ、両国の政府関係者のほか、ウクライナから日本に避難している女性8人が参加しました。
上川外務大臣は演説で「女性や子どもを含むウクライナの人々に寄り添い、WPSの視点を踏まえた取り組みを推進する」と述べ、WPSの視点を復興支援に取り入れる考えを強調しました。
そして、ウクライナから避難してきた人たちの家族が、一定の期間内に何度でも日本に入国できる「数次ビザ」を新たに発給する方針を発表しました。
これに対し、ウクライナのユルチェンコ次官は「復興は女性の参画なくしてかなわない。ジェンダーの視点を復旧プロセスに組み込むことが必要だ」と述べました。
セッションの最後には、避難してきた女性たちにウクライナの代表的な花である「ひまわり」をデザインしたTシャツが贈られました。
●ウクライナを脱炭素技術で支援 戦争で温室効果ガス1億トン以上排出 2/19
環境省は19日、温室効果ガスの削減につながる技術を他国で普及させることで自国の削減分として算入できる「二国間クレジット制度」(JCM)をウクライナと締結した。ロシアによる侵攻が続くが、復興とともに脱炭素化が進むことを後押しする。
JCMは温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で認められた国家間の排出量取引制度。日本のJCM締結はウクライナで29カ国目で、これまでは東南アジアを中心に太陽光やバイオマス発電、省エネ設備などの約240件の導入支援を採択してきた。ただ、現状では2030年までの削減実績は2千万トンの見込みで、目標とする1億トンにはまだ遠い。 ・・・
●アゾフ連隊など“捕虜の早期解放”求めてデモ 元捕虜の兵士も訴え「支援しなければロシアはあなたの国に」 2/19
ロシアによる侵攻からまもなく2年となるなか、ウクライナではロシアの捕虜となっている兵士らの早期解放を求めてデモが行われました。
記者「ロシア側に拘束されているウクライナ兵を取り戻そうということで、多くの人たちが集まっています。車で通りかかる人たちも賛同の意志を示して、クラクションを鳴らしています」
ウクライナの首都キーウで18日、ロシアの捕虜となっている軍事組織「アゾフ連隊」の隊員の家族などが集まり、捕虜の早期解放を求めてデモを行いました。
アゾフ連隊はプーチン政権が「ネオナチ」と敵視していて、ウクライナメディアによりますと、これまでの捕虜交換でも限られた人数しか解放されていないということです。
デモには捕虜となっていた兵士も参加していて、まもなくロシアの侵攻開始から2年になることについては「ロシア軍が占領した領土を奪還するまで戦い続ける」としたうえで、次のように訴えました。
元捕虜の兵士「ヨーロッパの国々に言いたいのは、この戦争でウクライナを支援しなかったら、ロシアはすぐにあなたたちの国にやってくるということだ。我々の勝利は、民主的な世界の国々全体の勝利となる」
デモは毎週開かれていて、主催者側によりますと、今も2000人から3000人の兵士らが捕虜となっているとしています。
●中立維持のタイ、ロシア人に人気 「戦争反対」の声も―ウクライナ侵攻2年 2/19
ロシアによるウクライナ侵攻から2年を迎え、日本や欧米が制裁を続ける中、「中立」を保つタイはロシア人に人気で、新型コロナウイルスの感染拡大で急減した観光客らが回復傾向にある。ロシアからタイを訪れた人々は取材に対し、侵攻について明言を避ける人が多かったが、一部では「戦争反対」の声も聞かれた。
タイの首都バンコクから車で約2時間の東部のリゾート地パタヤは2月上旬、ロシア人を含む観光客でにぎわっていた。ロシア語が表示された薬局や旅行代理店などもあった。
パタヤや南部のプーケットは以前からロシアの避寒地として人気で、タイの観光・スポーツ省によると2019年には約285万人のロシア人がタイを訪れた。新型コロナの影響で22年は約42万人に減少したが、23年は約148万人にまで回復した。
背景には、ウクライナ侵攻を巡りタイが中立的な立場を堅持し、ロシアとの直行便を再開したことなどがある。タイのセター首相は23年10月、訪問先の中国でロシアのプーチン大統領と会談し、緊密な関係の維持で合意した。
タイを訪れるロシア人の中には、観光だけが目的でないケースもある。パタヤの不動産業者は「侵攻後、戦地に行きたくない若者が多く来て長期滞在するようになり、賃貸物件の需要が増えた」と明かした。
パタヤでは複数のロシア人が取材に応じた。ロシア正教会の教会を家族と訪問していたプログラマーの男性(41)は、2年以上前から滞在する。「侵攻については政治的な話で何も言えないが、できる限りタイにいたい」と話した。ビーチにいたエンジニアの女性(55)は「プーチン大統領を支持する」と述べた。
自営業の男性(51)は「ロシアとウクライナは『兄弟』だった。全てが解決し、平和になることを望む」と強調。普段はロシア人の妻とロシアで暮らすイラク出身の男性医師(50)は「イラクでも戦争があった。戦争は多くの悲しみを生み出し、どんな目的でも反対だ」と訴えた。
●ロシア軍、また捕虜射殺か ウクライナ、戦争犯罪で調査開始 2/19
ウクライナ当局は18日、ロシア軍がウクライナ兵捕虜を射殺した疑いがあるとし、戦争犯罪に該当するか調査を開始したと明らかにした。
ウクライナ軍は同日、ロシア兵が至近距離からウクライナ兵2人に発砲したとされる様子を上空から捉えた画質の粗い動画を投稿。
動画では、ウクライナ兵とされる2人が塹壕(ざんごう)の中でロシア兵とされる人物に近づいている。2人はその後、立ち止まったように見えるが、相手につかまれ、何度も発砲された。抵抗している様子は見られなかった。
AFPはこの動画の撮影場所・日時を含め信ぴょう性について検証できていない。
ウクライナの検事総長はこの日、動画をめぐり、戦争犯罪が行われた可能性に関して調査を開始したと発表。現場は、東部ドネツク州ベスリ村付近だとしている。
検事総長はさらに、ウクライナ軍が東部の激戦地アウディーイウカから撤退した際、重傷を負い取り残されていた6人の負傷兵がロシア軍に処刑されたとするウクライナの軍事メディア「ディープステート」の報告についても調査していると述べた。射殺されたのは15日とみられている。
検事総長は「戦争捕虜の殺害はジュネーブ条約の重大違反であり、重大な国際犯罪の一つだ」と非難した。
●「ロシア、アウディイウカ掌握し、負傷したウクライナ戦争捕虜を処刑」 2/19
ロシア軍が「完全掌握」を宣言したアウディイウカで負傷したウクライナ軍人が処刑されたという疑惑に関連し、ウクライナ当局が戦争犯罪調査に着手した。
ロイター通信などが18日(現地時間)に報じた内容によると、ウクライナ・ドネツク検察はこの日、テレグラムを通じて「アウディイウカとヴェセレで発生した非武装ウクライナ戦争捕虜銃撃事件に対する調査が始まった」と明らかにした。
検察は「アウディイウカで6人の捕虜が処刑された」とし「この捕虜は負傷が深刻で、後送を待っていた」と説明した。
続いて「アウディイウカの南側のヴェセレでロシア軍人が捕虜になったウクライナ軍人2人に銃撃をする姿が入ったドローン撮影映像がある」とし「捕虜を救いたくなかった占領軍は自動化武器で捕虜を殺害した」と伝えた。
同日、ウクライナ陸軍はテレグラムを通じてロシア人と見られる者がウクライナ人とみられる2人に接近して銃撃する姿が入った映像を掲示した。制服を着て狭い塹壕に立っていた2人は防御もできずに倒れ、その後、別の者が現れて2人にまた銃を撃ったとみられる場面があった。ただ、当局はこの事件がいつ発生したかについては明らかにしなかった。
ウクライナは17日、東部ドネツク州の真ん中にあるアウディイウカから撤収すると明らかにし、ロシアは翌日、完全な掌握を宣言した。ウクライナ軍はアウディイウカから急いで退却する過程で軍人の一部が捕虜になったと明らかにしていた。アウディイウカは最近、ロシアとウクライナがの最大の激戦地だったが、ウクライナはロシアの猛烈な砲撃と兵力投入に勝てず後退を決めた。
しかしニューヨークタイムズ(NYT)の報道によると、戦争前の人口3万人のうち約900人は依然としてアウディイウカに残っているという。爆撃を避けて地下で生活し、救護活動家が搬入した食料と医薬品で延命していたが、ウクライナ軍が撤収した後は連絡がほとんど取れないと、NYTは伝えた。現地の救護活動者は「脱出を強く望む住民らがいるが、砲撃が続いて出ていけない状況であり、出る方法がない」と話した。
一方、ロシアはアウディイウカを占領し、西側地域に対する攻勢を強化している。しかしウクライナ側は「ロシアの攻撃を防いでいる」という立場だ。
AFP通信によると、ウクライナ軍の報道官はこの日、「ロシア軍がアウディイウカ北側から西に約2キロ離れたラストクキネを攻撃した」と明らかにした。続いて「ロシアの14回にわたる攻撃が失敗した」とし「そこには我々の相当な兵力がある」と話した。
●ミュンヘン安全保障会議、危険な政治家ほど会議にはいない! 2/19
ドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで16日から3日間、「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)が開催され、50人以上の国家元首、政府首脳たちが集まった。同会議では戦争や地域紛争の対策などについて話し合われたが、今回の主要テーマはウクライナ戦争そしてイスラエル軍とパレスチナ自治区ガザのイスラム過激テロ組織「ハマス」との中東紛争問題だ。
ウクライナからはゼレンスキー大統領が参加したが、ロシアからは政治家の参加はなかった。中東紛争問題ではイスラエルからヘルツォグ大統領、パレスチナ自治区政府からシュタイエ首相のほか、エジプト、ヨルダン、カタールから政府関係者がミュンヘン入りした。米国からはハリス副大統領が参加し、17日演説した。
MSCはスイスの世界経済フォーラム(通称ダボス会議)の軍事・安全保障会議版と呼ばれ、世界から元首・首脳級の参加者を集めて戦争、地域紛争地などの諸問題について話し合う。MSCでは政治文書や声明文を採択するということはなく、あくまでも純粋な討議、意見の交換の場だ。今年で既に60回目を迎えた。
ゼレンスキー大統領は16日、MSC開幕直前にベルリン入りし、ショルツ独首相と会談、ウクライナとドイツ両国間の安全保障協定に署名。その直後、パリに飛び、マクロン大統領と会合し、ウクライナ・フランス間の安全保障協定を締結した。そして17日、ミュンヘン入りし、MSCでウクライナ戦争の現状を報告し、欧米諸国に武器の供与を強く要請した。
ゼレンスキー大統領やショルツ首相はプーチン大統領が世界の民主主義に如何に危険かをアピールし、ウクライナへの武器供与の重要性を訴えた。また、オランダのルッテ首相、ノルウェーのストーレ首相、欧州連合(EU)のウルズラ・フォンデアライエン委員長らは参加者との討論会でウクライナ支援の継続を強調していた。
MSC開催初日、モスクワからショッキングなニュースが飛び込んできた。ロシアの著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏が16日、収監先の刑務所で死去したというのだ。
ドイツの軍事専門家は「ナワリヌイ氏が16日に亡くなったのは決して偶然ではない。プーチン氏はウクライナと独仏間の安全保障協定の締結を意識し、欧米で良く知られているロシア反体制派指導者ナワリヌイ氏をMSC開幕日に合わせて殺害したのではないか」と推測していた。すなわち、ナワリヌイ氏の16日の死はモスクワが計算した政治的殺人だというわけだ。プーチン氏はミュンヘンのMSCに参加する代わりに、ナワリヌイ氏死亡というニュースを欧米社会に向かって発信し、「ロシアはウクライナ戦争を勝利するまで戦い続ける」というメッセージを送ってきたというのだ。
一方、MSC会議の直前、トランプ前米大統領が今月10日、サウスカロライナ州の選挙集会で、「北大西洋条約機構(NATO)がロシアから攻撃されても、米国は軍事支出が少ない加盟国を守らない」と受け取れる発言をしたことが報じられると、欧州で大きな動揺と困惑が生じた。MSCではトランプ発言をシリアスに受け取り、米国抜きで欧州独自の安保体制を如何に構築するかについてホットな討議が行われた。
例えば、MSCに参加したドイツのガブリエル元外相は16日、ドイツ民間ニュース専門局ntvのインタビューの中で「欧州には信頼できる核の抑止力が不可欠だ」と語っている。同氏は、「このテーマを考えなければならない時が来るとは考えてもいなかったが、欧州の抑止力を高めるためにはEUにおける核能力の拡大が必要な時を迎えている。米国の保護はもうすぐ終わりを告げる。欧州の安全の代案について今すぐ議論を始めなければならない」と主張していた。
ちなみに、トランプ氏の発言が流れるとNATOのストルテンブルグ事務総長は「18カ国の加盟国が今年、GDP比で2%の軍事費を支出する予定だ」と声明し、トランプ氏の苦情に答えた、といった具合だ。
いずれにしても、プーチン大統領もトランプ前米大統領もミュンヘン入りしていないが、不在の2人の政治家が良し悪しは別として大きな波紋を投じていた。「危険な政治家ほど会議にはいない」といわれるが、今回もそれが当てはまる感じだ。
なお、中国からは王毅共産党政治局員兼外相が17日、MSCに出席し、ウクライナ戦争とパレスチナ問題で中国が調停役を演じる意向があると表明する一方、「台湾統一は必ず実現する」と述べたが、不在のプーチン大統領とトランプ氏のような反響はなかった。
●米欧や韓国、ウクライナへの積極投資を後押し…「安全保障と経済」 2/19
米欧諸国は武器供与や兵員訓練でウクライナを支えると同時に、国内企業にウクライナへの積極投資を呼びかけている。「安全保障と経済は密接に絡み合っている」(米政府高官)という共通認識がある。
米バイデン政権は昨年9月、大物財界人として知られるペニー・プリツカー元商務長官をウクライナ経済復興担当特別代表に任命した。毎月のようにキーウへ足を運んでウクライナ政府の閣僚に米企業経営者を引き合わせ、民間投資の旗振り役を務める。
昨年6月にロンドンで開かれた復興支援会議には、米欧や日本など59か国の政府や企業が参加した。英政府によると、拠出表明された復興資金は総額600億ドル(約9兆円)にのぼった。
会議では、米欧企業の関係者がウクライナに従業員を派遣する際にかかる保険料の高さについて問題を提起したという。英政府はこれを受け、復興支援に携わる技術者らの保険加入を容易にする制度を整えた。
米欧以外では韓国の動きが目立つ。昨年9月には韓国政府と公営・民間企業18社による「ウクライナ再建協力代表団」が現地を訪問した。キーウ一帯の交通網の復旧、決壊したカホフカ水力発電所のダム再建支援など、六つの復興事業で協力を進めている。
韓国政府はウクライナへの資金協力として、今年3億ドル(約450億円)、25年以降に20億ドル(約3000億円)以上を拠出する方針を表明している。
●アウディーイウカ制圧「ロシアは大きな犠牲を支払った」 2/19
ウクライナ軍は2月17日、ロシアとの攻防戦が続いていた東部ドネツク州の主要都市アウディーウカからの撤退を発表した。しかしこの攻防戦で、ロシア側は4万7000人の兵士と360両の戦車を失った、とウクライナ軍は指摘した。
アウディーウカを管轄するウクライナ軍タブリア部隊の司令官、オレクサンドル・タルナフスキー准将が18日に語ったところによれば、ロシア軍の大規模な攻撃が始まった昨年10月10日〜今年2月17日の間に、ロシア側は4万7186人の兵士と360両の戦車、748台の装甲戦闘車両を失ったという。
ロシアはさらに、248基の砲撃システム、ジェット機5基を失ったとも、タルナフスキーは述べている。
本誌はこの数字の真偽を確認できていない。ロシア国防省にも電子メールでコメントを求めたが、回答は得られていない。
ともあれこの数字は、ロシア軍がアウディーウカ制圧のために支払った代償がいかに大きかったことを示している。ロシア大統領府は18日、ロシア軍がアウディーウカを完全に「解放した」と発表した。
ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官は17日、「包囲を回避し」、兵士たちの命を救うための撤退だと述べた。
「わが軍の兵士は軍人としての義務を立派に果たした。ロシア軍の最強部隊を打倒するためにやれることはすべてやり、敵の人的資源や装備に大きな損失を与えた」とシルスキーは声明で述べた。
戦いは10年前から始まっていた
戦闘の激しさから、アウディーウカは「挽き肉製造機」と呼ばれた。それほど多くの死傷者が出たということだ。
アウディーウカの攻防戦ではウクライナ軍も多くの兵士と兵器を失った。親ロ派の武装勢力が活動していたアウディーウカでは、戦闘は約10年前から続いていた。2022年秋にはロシア政府が一方的にドネツク州を含むウクライナ東部4州の併合を宣言したが、ロシアはその全域を掌握するには至っていない。
今回の攻防戦の初期段階で、ロシアは数多くの装甲車両を失った。欧米の専門家は、装甲車両を温存するためにロシア軍が歩兵中心の攻撃に移行すると考えた。
だがタルナフスキーは今月に入り、ロシア軍がアウディーウカ周辺で「こちらの歩兵部隊を攻撃するため装甲部隊投入を進めている」と述べていた。タブリア部隊の報道官も当時、ロシア軍が「アウディーウカの攻撃に、装甲車両の使用を増やし始めた」と本誌に語っていた。ウクライナ軍の防衛線を突破するため、温存すべき装甲車両も投入してきたのだ。
英国防省は16日、アウディーウカの攻防戦でロシア軍は戦車と歩兵戦闘車を少なくとも400両失ったとの見方を示した。
「ウクライナの防衛部隊は多大な損害を敵に与え、侵攻作戦の前線となっている他の地域で使うはずだったロシアの予備部隊にも、かなりの打撃を与えた」とタルナフスキーは18日に述べた。それは、今後の作戦にひびくかもしれない。
そうは言っても、ロシアにとってアウディーウカの制圧は象徴的な意味でも戦略的にも大きな戦果だ。これにより、ロシアは兵站を拡大し、さらに西の重要拠点に向けた進軍の道を開けることになる。
●地雷除去・農業・バイオなど7分野でウクライナを重点支援へ…政府 2/19
政府は19日午前、東京・大手町の経団連会館で、ウクライナの復旧・復興策を協議する「日ウクライナ経済復興推進会議」を初めて開催し、地雷除去や農業などの7分野で官民が連携した重点的な支援を行っていく方針を打ち出した。具体的な支援に向け、両国の企業などが計56本の協力文書に署名した。
日ウクライナ経済復興推進会議でシュミハリ首相(左)と握手する岸田首相(19日午前10時28分、東京都千代田区で)=古厩正樹撮影
会議には、岸田首相とウクライナのデニス・シュミハリ首相をはじめ、両国の政府・企業関係者ら約300人が出席した。ロシアによるウクライナ侵略から24日で2年となるのを前に、国際的な支援の機運を高める狙いがある。
岸田首相は基調講演で、ウクライナの経済復興は世界にとって「未来への投資」だと訴え、「大いなる潜在性を有するウクライナの経済成長につながる経済復興・産業高度化に向け、官民一体となって強力に支援する」と強調。シュミハリ氏は「日本の支援のおかげで数百万人ものウクライナ人が生き残ることができた」と謝意を表し、参加企業などに「ウクライナ経済の奇跡の一部になってほしい」と投資を呼びかけた。
両政府間では、「(日本は)ウクライナ経済の安定を確保するために必要な長期的支援を提供する」と明記した共同声明が採択された。声明には、〈1〉日本企業の投資を促進する新たな租税条約締結〈2〉ウクライナ企業関係者向けの商用ビザの発給要件の緩和〈3〉首都キーウでの日本貿易振興機構(ジェトロ)事務所開設――などが盛り込まれた。
重点支援を行う7分野は、▽地雷除去・がれき処理▽医療など人道状況・生活改善▽農業▽バイオなど新産業創出▽デジタル▽電力や交通インフラ(社会基盤)整備▽汚職対策。協力文書は、重工大手IHIによる道路復旧事業への協力や、農業機械大手クボタによる農業機械の供与などが交わされた。
政府は19日、ウクライナの復旧・復興に関与する日本の企業や団体を対象に、首都キーウへの渡航制限を緩和した。外務省が発出する危険情報は4段階のうち最高レベルの「退避勧告」を維持しつつ、安全対策の徹底などの条件付きで渡航を容認する。
●ウクライナ外相と会談した中国・王毅外相「火に油を注ぐことしない」… 2/19
中国外務省は18日、 王毅 外相(共産党政治局員)が17日にドイツ・ミュンヘンでウクライナのドミトロ・クレバ外相と会談したと発表した。王氏は「国際情勢がどのように変化してもウクライナとの関係を正常に発展させたい」と述べた。
ウクライナ侵略を巡り「ロシア寄り」とされるのを避ける狙いとみられる。発表によると、王氏は会談で、侵略に関する中国の立場を説明した上で「火に油を注ぐことはせず、紛争地域や紛争当事国に武器を売却しない」と主張した。
クレバ氏は「我々はあらゆるレベルで接触を維持し、対話を続ける必要性で合意した」とX(旧ツイッター)に投稿した。
●中国 春節 国内旅行者数コロナ流行前上回る 消費も好調と発表 2/19
中国政府は、旧正月「春節」の連休期間中に中国国内を旅行した人の数が新型コロナ流行前の2019年を上回り、消費も好調だったと発表しました。中国では、不動産市場の低迷などを背景に景気回復は力強さを欠く状況が続いていますが、国営メディアは中国経済が好調だとアピールしています。
正月を旧暦で祝う中国では、今月10日から17日までの8日間は旧正月の春節に合わせた大型連休でした。
中国の文化観光省は、この期間中に中国国内を旅行した人の数は延べ4億7400万人だったと発表しました。
これは、新型コロナ流行前の2019年の連休を19%上回るとしています。
国内旅行の観光収入は6326億元、日本円で13兆3000億円余りと、去年の連休と比べ47%余り、2019年と比べ7%余り増加したとしています。
中国では、不動産市場の低迷などを背景に景気回復は力強さを欠く状況が続いていますが、国営メディアは中国経済が好調だとアピールしています。
また春節の連休中に海外旅行に出かけた人の数は延べ360万人で2019年に近い水準にまで回復したとしていて、行き先は、香港やマカオ、日本、韓国、東南アジアの国が多くを占めたということです。
●ロシア侵攻で「現地の安全確保」や6兆円推測の「不透明な支援額」…日本・ウクライナ復興会議 自国の安全保障と増税への懸念 2/19
ロシアの侵略を受けるウクライナの復興について話し合う「日・ウクライナ経済復興推進会議」が19日、東京都内で開催される。日ウ両政府や、企業関係者ら計約300人が参加し、復旧・復興や産業高度化を後押しするため、当局や企業間の協力文書に署名する。ただ、ロシアの侵攻が続く限り、現地での支援には危険が伴う。支援額も明確ではなく、増税や自国の安全保障が手薄になる懸念も指摘されている。
「わが国が率先してウクライナへの連帯を示す観点からも極めて重要」
上川陽子外相は16日、会議の意義をこう強調した。
会議は、日ウ両政府と経団連、日本貿易振興機構(ジェトロ)が共催する。岸田文雄首相が基調講演し、ウクライナのデニス・シュミハリ首相もスピーチを予定。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領=顔写真=はビデオメッセージを寄せるという。
支援の柱には、「地雷対策・がれき処理」「農業の発展」「電力インフラ」など7分野を掲げる。医療関連企業による復興支援やサイバー対策、風力事業、衛星データによる営農支援などの事業開始で合意する見通しだ。
ドイツ南部ミュンヘンで17日に開かれたG7(先進7カ国)外相会合では、ウクライナへの軍事、経済面での支援継続で一致した。日ウ会議は「力による現状変更は認められない」との立場を明確にするうえで重要だ。
ただ、課題もある。
日本政府はウクライナ全土に、最高度の危険情報「レベル4(退避勧告)」を出している。ロシアの侵攻が続くなか、支援活動の安全確保は不可欠である。
支援額も明確ではない。
世界銀行は15日、ウクライナが今後10年間で復興に4860億ドル(約72兆8000億円)が必要との試算を発表している。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は夕刊フジ連載「ニュースの核心」(16日発行)で、日本の支援は《すでに「6兆円に上るのではないか」などという推測も飛び交っている》と指摘している。
日本周辺の安全保障環境が悪化するなか、まず自国の防衛力強化が重要ではないか。
福井県立大学の島田洋一名誉教授は「ウクライナでは戦闘が続いており、支援額もどこまで膨らむか不透明だ。日本が復興の先頭に立てば、中東のガザ地区復興でも国際社会から青天井で支出を求められる可能性もゼロではない。日本の防衛力強化や、国内の災害復興に費用も必要で、対外的支援が増えれば、増税の懸念も拭えない。『ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)の守備範囲であり、日本は台湾問題はじめ東アジアでの抑止力強化に集中する』と戦略的な役割分担を訴えるのが、岸田政権がとるべき姿勢ではないか」と語った。
●ウクライナ侵攻のロシア戦費、最大2110億ドル=米高官 2/19
ロシアがウクライナ軍事作戦のために使用する装備や部隊配置、維持の戦費が最大2110億ドルに達し、武器輸出の取りやめや延期に伴う損失も100億ドル以上に上っていると、米国防総省高官が16日、匿名を条件に明らかにした。
高官によると、2026年までの経済的損失は1兆3000億ドルになる見通し。また、これまで約31万5000人のロシア軍兵士が死傷した。
ウクライナは黒海で少なくとも20隻の中・大型ロシア海軍艦船とロシア籍タンカー1隻を破壊・損傷させており、これもロシア側への打撃となっているという。
●ウクライナ渡航制限で特例措置 政府、キーウへ復興目的 2/19
外務省は19日、ウクライナへの渡航制限の特例措置を公表した。日本企業の投資促進が目的で、退避勧告を維持した上で復旧・復興に寄与する企業や団体が必要な安全対策を準備して渡航計画を提出すればキーウ市に入ることを可能とする。
渡航を計画する企業や団体は目的や日程、連絡先などの情報を2週間前までに外務省に届け出る必要がある。
外務省は渡航日程について、必要最小限の期間としている。安全対策としてシェルターを備えた宿舎の確保、信頼できる警備会社が手配する車両による移動、警備員の同行を求める。
日本の経済界から「退避勧告が投資の足かせになっている」との指摘が出ており、政府が対応を検討していた。 

 

●プーチン氏がHSBCのロシア事業売却承認、完全撤退実現へ 2/20
ロシアのプーチン大統領は19日、英金融大手HSBC(HSBA.L), opens new tabがロシア事業をエクスポバンクに売却することを認める大統領令に署名した。
HSBCは2022年6月、ロシア事業の株式100%を民間のエクスポバンクに売却することに合意したと発表。その後、プーチン氏はウクライナ侵攻に伴ってロシアに制裁を発動した「非友好的」な国の投資家がロシア国内のエネルギー、銀行といった重要セクターの持ち分を売却するのを原則として禁止し、売却には特別な許可を必要とする措置を講じた。
この大統領令でHSBCにこの特例が適用されたことで、同社はようやくロシアからの撤退を完了する道が開かれた形だ。
ただHSBCは既に撤退を発表していた上に、事業規模を縮小し、プーチン氏の許可を待っている状態だったことから、今回の動きが金銭面で及ぼす影響は乏しいとみられる。
●プーチン氏、金正恩氏にロシア車プレゼント 北朝鮮メディア 2/20
北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は20日、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領から同国製の専用車を贈られたと報じた。
KCNAによれば、金氏の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長は、「この贈り物は、両国首脳の個人的な特別の関係を明確に示している」と述べた。
車種は明らかにされていない。
金氏は高級車好きで知られており、「レクサス」のSUV(スポーツ用多目的車)やメルセデス・ベンツのSクラスなどを利用しているのが目撃されている。
車両の輸入は、国連安全保障理事会が北朝鮮の核・ミサイル開発計画に対して科した制裁決議に違反する可能性がある。
●金正恩総書記へプーチン大統領がロシア産の車贈呈 北朝鮮が明らかに 2/20
ロシアのプーチン大統領が金正恩総書記に乗用車を贈ったと北朝鮮が明らかにしました。
けさ、北朝鮮の朝鮮中央通信は、プーチン大統領から金正恩総書記へ、ロシア産の「専用の乗用車」が贈られたと伝えました。
贈呈された詳しい場所は明らかにしていませんが、車は18日、金総書記の妹・金与正党副部長らが受け取ったとしています。
その際、与正氏は「朝ロ両国の首脳の間に結ばれた格別な親交の証で、最も立派な贈り物だ」と述べ、金総書記の感謝の言葉を伝えたということです。
ロシア プーチン大統領「私たちの車『アウルス』です。ロシアで生産が始まりました」
去年、ロシアで行われたのロ朝首脳会談では、プーチン大統領がロシア産の車を金総書記に紹介し、一緒に乗車していました。
この時のやり取りをもとに、韓国メディアは、今回贈られた車は2人が一緒に乗ったロシア産の「アウルス」の可能性があると分析しています。
北朝鮮とロシアは去年9月の首脳会談以降、軍事や経済分野で連携を深めていて、今回の専用車の贈呈で蜜月ぶりをアピールした形です。
●「プーチンが夫を殺した」 ナワリヌイ氏の妻、遺志を継ぐと表明 2/20
ロシアの刑務所で死亡した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)の妻、ユリア・ナワルナヤ氏が19日にSNSに投稿した動画の中で、ロシアのプーチン大統領が夫を殺したと訴えた。ナワルナヤ氏は「幸せな美しいロシアのために」、夫の遺志を受け継ぐ意向を示している。
ナワルナヤ氏は夫のSNSアカウントに8分間の動画を投稿。プーチン大統領が「私の子どもたちの父親を殺した」と訴え、「私の最愛の人だった最も大切な存在をプーチンが奪った」と非難した。
ナワルナヤ氏はさらに、ロシア当局が死因を覆い隠すためにナワリヌイ氏の遺体を隠して「下手なうそ」をつき、「また1人、プーチンのノビチョクの痕跡」が消えるのを待っていると主張している。
その上で、「私はアレクセイ・ナワリヌイの仕事を続ける」と宣言し、「私は恐れない。あなた方は何も恐れる必要はない」とロシア語でロシアの人たちに語りかけた。
ノビチョクは旧ソ連時代の神経剤で、ナワリヌイ氏は2020年8月、下着にノビチョクを仕込まれる被害に遭っていた。
ナワリヌイ氏は極北の刑務所で16日に急死した。同氏に対して再びノビチョクが使われたと主張する根拠について、ナワルナヤ氏は明らかにしていない。
「なぜ3日前にプーチンがアレクセイを殺したのか、われわれは知っている。間もなくそれについて語る。誰がどうやってこの犯罪を犯したのかを必ず突き止める。その名を名指しして顔を見せつける」。ナワルナヤ氏はそう語った。
同氏は亡命生活を送りながら夫の遺志を継ぐ意向で、19日にベルギーのブリュッセルで欧州連合(EU)諸国の外相と会談した。
ナワリヌイ氏の広報によると、遺体の返還は14日後になる予定で、この間に「何らかの化学検査」が行われる。
●なぜ最強の政敵ナワリヌイ氏をいま「排除」したのか…プーチンの描く野望 2/20
大統領選を前に政権側に排除された?
反プーチン運動の指導者で、ロシア当局に拘束、収監されていた活動家のアレクセイ・ナワリヌイ氏が16日、刑務所内で死亡したと報じられた。直接の死因は不明だが、3月15〜17日のロシア大統領選を前に、邪魔者として政権側によって排除されたという見方が多い。
圧勝が確実なプーチン大統領の5期目の目標は、ウクライナ南東部とベラルーシを併合し、「スラブ新国家」を創設することかもしれない。
プーチン氏は最近、実効支配するウクライナ東部・南部4州を、5期目の任期が切れる2030年までに完全統合するよう通達した。昨年公開されたロシア政府の内部文書は、2030年までにベラルーシを吸収合併する計画を明記していた。
プーチン氏は2021年に発表した論文で、ロシア、ウクライナ、ベラルーシを「三位一体のロシア民族」と強調しており、新スラブ国家の創設を5期目の最大目標に掲げている可能性がある。欧州の地政学がさらに激変しかねない。
併合したウクライナ領に1兆7500億円を投資
プーチン氏は1月31日、ロシアが併合したウクライナ南東部4州の社会経済開発会議を主催し、「2030年に4州の生活の質を全ロシアの水準に引き上げねばならない」と述べ、経済、インフラ、医療、教育、文化などのプロジェクトに毎年1兆800億ルーブル(約1兆7500億円)を投資し、復興を急ぐと強調した。
プーチン氏は東部のドンバス、ルガンスクを「ドンバス」、南部のヘルソン、ジャポリージャを「ノボロシア」と呼び、高速道路や住宅、学校の修復を行い、今後新産業や雇用の創出を行うよう指示した。
昨年6月からのウクライナ軍の反転攻勢が失敗し、戦況がロシア優位に転換したことへの自信が背景にあり、併合地域を恒久支配する意思を誇示した。
ロシアは2022年9月、武力制圧した4州の併合を一方的に宣言し、憲法にもロシアの構成体と明記した。しかし、ルガンスクを除く3州は全体の6〜7割しか制圧できておらず、ヘルソン、ジャポリージャの州都はウクライナ領のままだ。
ロシア化教育に反対する人々は拷問、弾圧されている
支配地区では戒厳令が導入され、住民へのロシア国籍付与、ロシア語教育、通貨ルーブルの流通、法律導入など強引な「ロシア化政策」が導入された。一方で、反露分子の拉致・拷問や反露デモの弾圧が行われ、パルチザン活動が続くなど治安はよくない。戦火による破壊、労働力不足など占領地の経済は停滞している。
5期目は戦場で支配地区を拡大しながら、連邦予算を投入して復興を図り、完全統合を目指す意向のようだ。
一方、ロシアは2030年までに隣国のベラルーシを統合し、吸収することを狙っていることを示す内部文書が昨年2月、国際ジャーナリスト連合によって暴露され、ドイツ紙などで報じられた。
「ベラルーシでの戦略目標」と題した17ページの機密文書は、クレムリンの「内部戦略文書」とされ、2030年までにベラルーシを政治・軍事、経済、文化の3部門で統合し、「連邦国家」を創設するとしている。
文書は政治・軍事分野で、ロシア軍のベラルーシ駐留を段階的に増やし、統合司令部を設置。外交・国防政策もロシアが管轄する。経済面では、ルーブルによる単一通貨、関税・税制の統一、発電システムの統合を行う。文化面でもロシア化教育を浸透させるとしている。米政府高官はこの文書について、「ロシアの最終目標はベラルーシの完全編入だ」と指摘した。
“弟分”のルカシェンコ政権のうちに併合に踏み切るか
ロシア、ベラルーシ両国は1999年に将来の統合をうたった「国家連合条約」を締結している。当初はベラルーシのルカシェンコ大統領が病弱なエリツィン大統領に代わってロシアを牛耳ろうとしたが、2000年にプーチン政権が登場すると攻守交代し、プーチン氏が条約を盾に統合を主張。ルカシェンコ大統領はこれを懸命にかわしてきた。ロシアと統合すれば、国家元首から「州知事」に転落するためだ。
しかし、2020年の大統領選の不正で大規模な反政府デモが起きると、ルカシェンコ氏はロシアに支援を求めてかろうじて政権を維持。ロシアに頭が上がらなくなった。ロシアは昨年、戦術核兵器をベラルーシに配備するなど、軍事面での統合を確実に進めている。
ベラルーシは面積20万平方キロで、人口約900万人。ソ連崩壊で初めて独立したが、文化的、歴史的、経済的にロシアに近く、ロシア語が主流だ。産業に乏しく経済規模はロシアの4%。農村部や高齢者はロシアへの帰属意識が強いが、若者や都市部住民はロシアより欧州連合(EU)との統合を望むようだ。
ルカシェンコ後に親欧米政権が誕生すれば、ロシアにとって悪夢であり、併合を急ぐかもしれない。ベラルーシの軍、情報機関など暴力装置はロシアと関係が深く、一方的な併合も不可能ではない。
「ソ連邦崩壊の屈辱を晴らす」プーチン氏の野望
仮にロシアがウクライナ南東部とベラルーシを併合すれば、ロシア連邦の領土が拡大し、欧州との緩衝地帯がなくなる。欧州にとって、安全保障上のロシアの脅威が一段と高まることになる。ロシアにとっては、領土拡張でソ連邦崩壊の屈辱を晴らすことができる。
実は、ベラルーシ併合文書が作成された2021年7月、プーチン氏は「ロシアとウクライナの歴史的一体性」と題する長文の論文を発表している。
論文は、「ロシア帝国では、大ロシア、小ロシア(ウクライナ)、ベラルーシの3民族が団結した」とし、3民族を「三位一体のロシア民族」と称した。しかし、旧ソ連の民族政策の結果、3民族は別個の共和国に分断されたと旧ソ連の政策を批判。現在の国境線の正当性を疑問視し、ウクライナがロシアの歴史的領土を占領したと指摘した。
さらに、「3民族は共通の遺産と運命を共有する」とし、3国の歴史的一体性を強調した。
主権国家の独立と領土保全を尊重する戦後の国際秩序を真っ向から否定する歪んだ歴史認識ながら、この論文がウクライナ侵略の理論的支柱となったようだ。
だとすれば、2021年夏の時点で、クレムリンはウクライナ侵攻とベラルーシ併合を同時に決断した可能性がある。
トランプ前大統領との結託で戦争を終わらせる?
プーチン氏は昨年12月の国民対話・記者会見で、ウクライナ戦争がいつ終わるのかとの質問に対し、「ロシアが目標を達成した時に平和が訪れる」と述べ、ウクライナの中立・非ナチ化・非軍事化を目指す目的が不変であることを強調した。
「オデッサがロシアの都市であることは皆が知っている」「ウクライナ南東部全体はロシアの歴史的領土だ」とも述べ、南東部併合に続いて、南部の港湾都市オデッサ(ウクライナ語読みは「オデーサ」=編集部注)などの制圧を目指す意向を示した。
首都キーウ攻略は軍事的に困難だが、11月の米大統領選でのトランプ前大統領の勝利を見越し、米露の取引による戦争終結やゼレンスキー政権の事実上の降伏を目指す可能性がある。その場合、ロシアは首都キーウとドニプロ川の東側を支配する目論見だろう。
帝政時代に「ノボロシア」と呼ばれたドニプロ川左岸とベラルーシを併合し、「新ロシア帝国」を創設することが、21世紀の新ツァー(皇帝)、プーチン氏の5期目の野望かもしれない。西側からはすでに最大級の制裁を受けており、欧米の反発を無視して暴走しかねない。
●殺害されたロシア人ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤの娘の語るプーチン 2/20
ロシアの闇を明るみに出すべく、プーチン政権を怯むことなく批判し、不正を告発しつづけたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ。アンナが自宅アパートで殺害されると、その姿はたちまち「言論の自由の象徴」となりました。彼女が娘にしか見せなかった母の顔、常に弱者の側についてペンで戦う強い意志……母亡きいま、ウクライナに侵攻したロシアで再び家族の身に危険が迫ったことを感じ、国外へ移り住むことを余儀なくされた娘が、その目で見たロシア社会の現実とは?
プーチンの王国
プーチンは「元チェキスト」だ。ロシアでは、かつてKGB〔ソ連国家保安委員会〕で働いていた人物のことをこのように呼ぶ。チェキストという呼称は、1917年にウラジーミル・レーニンが設立した秘密警察である悪名高き治安組織、「非常委員会」の通称「チェーカー」に由来している。とはいえ、実際には元チェキストなど存在しえないことを、ロシア国民であればほぼだれもが知っている。
大統領に選出されると、プーチンはチェチェンでの戦争を継続した。その後、2008年に側近のドミートリー・メドヴェージェフが大統領となり、プーチンが首相を務めた。この時期は、いわゆる「キャスリング〔チェスで、キングとルークを入れ替えて守りを固める特殊な指し手〕」の期間(2008〜2012年)で、この間に、ロシアはジョージアに対して戦争を仕掛けた。攻撃の名目は、一部の国境地帯(自称国家であるアブハジア共和国と南オセチア共和国)における「平和活動」というものだった。プーチンが大統領の座にかえり咲いたあとの2014年にはクリミアを占領、その後併合し、ついには2022年のウクライナ侵攻に至る。
2020年、プーチンは「憲法改正」と称する一連の手続きにより自らの権力を強化したが、その内実は、とうてい「改正」と呼べるようなものではなかった。ロシア連邦の基本法である憲法の変更によって、現職の大統領にさらなる広範な権力が付与されたのみならず、なにより、それまでの国家元首の在任期間がリセットされたのである(当初、大統領職は一期4年、連続二期までだったが、2008年の憲法改正によって、2012年からの任期は一期6年、連続二期までとなっていた)。その結果、プーチンは、新たに大統領職に連続二期(五期目も六期目も)、つまり2024年も2030年も立候補できることになったのだ。言い換えると、2036年までロシアの指導者に居座れるということだ。とんでもない状況だというのに、2020年当時、この変更に反対した人はごくわずかだった。
欧米でもっとも名の知られたプーチンの敵は、アレクセイ・ナワリヌイだろう。完全にはリベラルといえない思想をもつブロガーで、何年も前から権力の中枢にいる者たちの汚職を告発している。ナワリヌイが2011年に設立した〈反汚職基金〉は、ロシアで唯一の、この手の調査をおこなう団体だ。彼が大量に公表した調査内容のうちのいくつかは、べつの国であれば政治家がこぞって辞職しかねないほどのインパクトをもつものだが、ロシアでは、そうはならない。
2020年8月20日、ナワリヌイと広報担当のキラ・ヤルミシュ、補佐のイリヤー・パホモフは、トムスクからモスクワへ向かうS7(エスセブン)航空の旅客機に搭乗していた。目的地へと向かう機内で深刻な体調不良を訴えたナワリヌイは、そのまま意識を失った。同機はオムスク空港に緊急着陸し、彼はいったんオムスク市立第一病院中毒センターの集中治療室に収容された。その後、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領が介在し、ベルリンの病院へと移送された。移送後ほどなく、ドイツ政府は多くの人の推測が正しかったことを認めた。すなわち、ナワリヌイは、過去にもクレムリン〔連邦政府当局〕と敵対した政治家に対して使用されたことのある神経剤、ノビチョクを摂取させられていたのだ。
ナワリヌイは、ある意味、ロシアにおける反体制派のシンボル的な存在となった。政治的アジェンダが不明瞭で、過去には外ゼ ノフォビア国人嫌悪や人種差別主義を思わせる言動があったにもかかわらず、欧米で殉教者扱いされたのだ。快復すると、彼は自ら祖国に戻ることを選び、世界を驚かせた。国に戻れば、収監され、詐欺罪および横領罪で裁かれることになる。いずれの起訴内容も、彼を完全なる政治犯に仕立てあげるための口実でしかないというのに。
ナワリヌイがなぜそのような選択をしたのか、ロシアに戻ることによって何を得ようとしたのか、わたしにはいまだに謎だ。帰れば投獄され、しかも長期にわたって収監されることは明らかだったはずだ。わたしは、彼ほどの人物なら、自由の身でさえあれば、たとえ国外からでもロシアの未来に多大な貢献ができると信じている。だが、塀の中にいては何もできない。彼はいま、モスクワから約250キロ離れたメレホヴォの強制収容所に収監されている。ほかに少なくとも四件の刑事手続が進行中で、刑期が延長される確率は高い〔2023年8月、新たに19年の懲役が科された〕。所内では、雑居房よりも懲罰房に収監されている時間のほうが長いらしい。
ナワリヌイ自身が明らかにしたように、懲罰房というのは、「幅2.5m、奥行き3mの、コンクリート製の野犬収容所みたいな場所で、たいてい寒くて耐えがたいほどじめじめしている。床には水が溜まり、通気性が悪く、ベッドは壁に固定されている。朝5時になるとマットレスと枕が没収され、金属フレームが折りたたまれて壁に収納される。そして、夜9時にふたたびフレームがひろげられ、マットレスが返却される。日中は、鉄製の小さな机と長椅子、それに洗面台を使用でき、床には穴が開けられている」。
こうした扱いは、監獄内で服役囚の心を蝕(むしば)むための試みとしか思えないし、その試みは成功していると言えるだろう。2021年の1月から2月にかけて、ロシア国内の二百近くの都市で、ナワリヌイの支援、および汚職と政治的迫害に対する抗議活動がおこなわれた。これにより、一万一千人以上が逮捕され、九千件以上の行政手続と約九十件の刑事手続が実施された。モスクワだけでも、そのわずか数十日で、過去15年の三倍にのぼる人数が逮捕されたのだ。デモの最中には、百五十人以上のジャーナリストと数百人の通行人まで拘束された。警察署や特別拘置所では、拘禁者に対して、暴行、拷問、脅迫といった非人道的な処遇がみられたケースが無数にあったと、人権活動家たちは指摘している。
ロシアで収監されている政治犯は、アレクセイ・ナワリヌイだけではない。その数は数百人にものぼり、リストは長くなるいっぽうだ。一例をあげるなら、政治家でありジャーナリストでもあるウラジーミル・カラ=ムルザ、野党指導者のイリヤー・ヤシン、〈ロシア開放財団〉の元リーダー、アンドレイ・ピヴォヴァーロフだが、ほかにも多くの人が、いま現在、身柄を拘束されている。それがどのような状況を意味するのかを理解するには、2022年9月に逮捕された、詩人であり市民活動家の若者、アルチョム・カマルディンの一件を思い出してもらえば十分だろう。警官に殴られ、ダンベルで肛門に暴行を受けた彼の罪状は、モスクワの中心地にある広場で、政治的な内容の詩を朗読したことだった。
●追加の対ロ制裁呼び掛け 侵略続けば「戦争拡大」―ウクライナ首相 2/20
来日したウクライナのシュミハリ首相は20日、東京都内で記者会見し、日本などに対し、ロシアに追加の経済制裁を講じるよう呼び掛けた。ロシアの侵略を阻止しなければ「より多くの紛争や戦争が世界で起きる」と警告した。
バイデン米大統領は19日、ロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏の獄死を受け、同国への「追加制裁を検討している」と記者団に説明。欧州連合(EU)も新たな制裁措置を議論している。
ウクライナ支援を巡っては、EUの弾薬供給計画が遅れているほか、米議会では与野党が対立し、追加支援の法案成立が滞っている。首相は砲弾や長距離ミサイルの供与、防衛システムの構築などに対する支援の必要性を訴えた。
●ウクライナ首相、ナワリヌイ氏死亡受け新たな対ロ制裁要請 日・EUに 2/20
ウクライナのシュミハリ首相は20日、ロシアの反政府活動家ナワリヌイ氏が刑務所で死亡したことを受け、新たな経済制裁をロシアに科すよう欧州連合(EU)と日本に促した。
来日中のシュミハリ氏は、岸田文雄首相とウクライナ復興について会談した都内で記者会見を開いた。
EUは19日、ブリュッセルで外相会合を開き、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対する制裁第13弾での合意に向けて前進。ドイツやリトアニア、スウェーデンなどはナワリヌイ氏死亡に対応する新たな制裁導入を求めた。
シュミハリ氏はまた、特に長距離の弾薬不足に直面するウクライナへの軍事支援で米議会の支持を得ることに期待を示した。
「われわれは民主主義世界のために戦っている。これは民主主義の存亡に関わる独裁主義との戦いだ」と語った。
ロシアは18日、軍がウクライナ東部ドネツク州の要衝アブデーフカを掌握したと発表した。同州バフムトを掌握した昨年5月以来の大きな戦果となった。
●侵攻開始後ウクライナ・ロシア両国で2万3000人が消息不明に 2/20
ロシアによるウクライナへの侵攻が始まってから約2年間で、両国の消息不明者の数が2万3000人に上ることが明らかになった。
国際赤十字委員会が19日に発表した報告によりますと、戦争で捕虜になったり殺害されたり、また避難したことなどによって消息が分からなくなった人の数がウクライナとロシアで合わせて2万3000人に上るという。
赤十字委員会では軍事侵攻開始直後から、家族を探す手助けをするための専門部局を設置して、両国から捕虜や拘束された市民などに関する情報を収集し、家族に伝達する役割を担ってきた。
消息不明の家族に関する問い合わせはウクライナ、ロシア両国から合わせて11万5000件を超えた。
赤十字委員会では引き続き約50カ国の赤十字や赤新月社と協力し、消息不明者の捜索にあたるという。
●中国外相、紛争当事国に殺傷力のある武器「売らない」 2/20
中国の王毅(ワンイー)外相が、先にドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議で、ウクライナのクレバ外相と会談し、紛争当事国に対しては殺傷力のある武器を売らないと伝えていたことがわかった。
中国外務省の18日の声明によれば、王氏は、中国政府は「火に油を注ぐ」ことはせず、ロシアとウクライナの戦争を終結させるために建設的な役割を果たし続けると述べた。
中国は、ロシアとウクライナの戦争をめぐり、中立の立場を主張しているものの、ロシア政府による違法な侵攻を非難することは拒否している。中国は、制裁の影響を受けるロシア経済にとって重要な命綱となりつつある。
米当局者は、中国企業がロシアにウクライナで使う殺傷力のない装備品を売却していることを示唆する証拠について、繰り返し懸念を表明している。昨年の米情報機関の報告書によれば、中国はロシアに技術や装備を提供しており、それらはロシアの戦争にとってますます重要になっている。
中国政府はロシア政府との距離が近いにもかかわらず、ウクライナでの戦争で、自国を和平の仲介役として売り込もうとしている。王氏もこれに沿った発言を行った。
王氏は「中国は和平の促進をあきらめたり、対話を促す取り組みを緩めたりすることはない」と述べた。王氏は、習近平(シーチンピン)国家主席がロシアとウクライナを含む世界各国の指導者らと綿密な意見交換を行い、危機への対応に建設的な役割を果たしていると指摘した。
クレバ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、王氏と、二国間関係や貿易、ウクライナにおける公正で永続的な和平の回復の必要性について協議したと述べた。
●ウクライナ軍は圧倒的戦力差に苦境…ドニプロ川の渡河作戦 2/20
ロシアがウクライナに侵略してから24日で2年となる。ウクライナ軍の兵士が激しい戦闘の様子などを読売新聞の取材に証言した。
「最も過酷」戦場の実態
ウクライナ軍は、ロシア軍との圧倒的な戦力差で、苦境が続いている。
「背水の陣」。南部ヘルソン州ドニプロ川の渡河作戦は、まさにそんな戦いだ。
「前方は兵力100倍の露軍、横は地雷原、後方は川。少しも引き下がれない自殺任務だ」。昨年12月末までドニプロ川東岸沿いの村クリンキで戦ったイーホル(44)は「最も過酷」とも言われる戦場の実態を語った。前線で負ったトラウマ(心の傷)からか、証言している途中も腹部はけいれんしていた。
クリンキは、ウクライナ軍にとって露軍が占領している地域奪還に向けた橋頭堡(きょうとうほ)だ。ウクライナ軍はクリミア半島に通じる露軍の補給路断絶を狙っている。昨年6月からの大規模な反転攻勢では南部ザポリージャ州からの突破に失敗しており、新たな突破口として期待されている。
今は防衛戦、ひたすら攻撃に耐えるだけ
昨年9月、最初の部隊がクリンキ付近に到達した際には、「最大の戦果になる」との高揚感があった。だが、状況は変わった。「今は防衛戦。ひたすら露軍の攻撃に耐えるだけだ」
イーホルが初めて渡河に臨んだのは昨年12月中旬だった。すでに多数の死傷者が出ていた。「家庭に事情がある者は行かなくていい」。司令官は離脱の機会を与えたが、全員が「苦楽を共にした部隊は家族と同じだ」などと固い決意だった。
東岸には約1万人の露軍兵士が待ち構える。深夜、6人乗りの小型ボートで1時間かけて渡るが、半分ほど渡ったところで露軍に気づかれ無人機攻撃や砲撃が始まるのが通例だ。川岸には大量の地雷も敷設され、3隻に1隻は到達できない。
イーホルの耳には、70メートル先にいる露軍兵士の笑い声や音楽も聞こえてきた。だが、気は抜けない。露軍の突撃部隊「ストームZ」の兵士が「ゾンビのように次々と襲ってくる」かもしれないためだ。両軍部隊がにらみ合う境界線一帯には、露兵の遺体が積み重なったまま放置されているという。
10倍もの砲弾に多様な無人機攻撃
攻撃は地上だけではない。露軍が放つ砲弾や銃弾の数はウクライナ軍の約10倍に上る。無人機の運用パターンも多様化させている。ウクライナ側の陣地に無人機を着陸させて、搭載しているカメラで監視し、兵士が近づくと爆発させる手法が一例だ。クリンキに1か所しかない水飲み場の上空では、常に無人機が目を光らせる。
最もつらいのは、本来助けられたはずの仲間も救えないことだ。負傷者の搬送手段もボートのみ。負傷者が複数いれば優先順位を決めざるを得ない。昨年12月に迫撃砲で負傷した同僚も、手当てが遅れボートの上で死亡した。
「死を覚悟し何度も人生に別れを告げた。神に祈ることしかできない」。イーホルは今、後方の基地で再度の出撃命令に備えている。
●アルメニア首相 ウクライナ侵攻反対の立場明言 ロシア離れ鮮明 2/20
旧ソビエトのアルメニアのパシニャン首相は、18日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関して「アルメニアはロシアの同盟国ではない」と述べ、ウクライナ侵攻に反対する立場を明言し、ロシア離れの動きをいっそう鮮明にしています。
アルメニアのパシニャン首相は、18日、安全保障の国際会議のため訪問していたドイツで行われた会合で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「アルメニアはウクライナ問題に関してロシアの同盟国ではない。ウクライナの国民はわれわれにとって友人だ」と述べました。
アルメニアは、ロシアが主導する軍事同盟CSTOに加盟するなど、安全保障や経済分野などでロシアの強い影響下にありますが、ウクライナへの侵攻について反対の立場を明言したかたちです。
これについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、19日「ウクライナの問題でわれわれが正反対の立場にあることは秘密ではない。ロシアの立場が正しいと説明していく」と述べ、立場に違いがあることを認めました。
アルメニアは、隣国アゼルバイジャンとの間で長年、争ってきた係争地ナゴルノカラバフをめぐり、去年9月に敗北し、パシニャン政権は、同盟国のロシアが軍事的な支援を行わなかったとして不満を強め、欧米に接近するなどロシア離れの動きをいっそう鮮明にしています。
●ウクライナ戦争の帰趨を決めかねないイーロン・マスクの功罪 2/20
米国の宇宙開発の発展は、米航空宇宙局(NASA)をはじめとして国家主体で行われてきた。
この潮流を大きく変えたのはイーロン・マスク氏が設立した宇宙開発企業スペースXである。
スペースXの輝かしい業績(打上げロケット「ファルコン9」、宇宙船「クルードラゴン」、衛星通信網「スターリンク」など)は、マスク氏の優れた才能の結実であることは明らかだ。
米国の宇宙開発はスペースX抜きには考えられない。
ロシア・ウクライナ戦争におけるウクライナ軍の作戦遂行は、スペースXが開発したスターリンク抜きには考えられない。
マスク氏は、ロシア・ウクライナ戦争という国家間の戦争に決定的な影響を与える存在になっているのだ。
ところが最近、「ロシア軍もスターリンクを使っている」という情報が流れ、大きな話題になっている。
戦争を遂行するためには多くのドメイン(戦う空間)を使用するが、本稿においては宇宙ドメインと情報ドメインに絞って、スペースX、スターリンク、マスク氏の影響力の大きさとそれに対する懸念について考えてみたい。
スペースX
スペースXは2002年、マスク氏が人類を火星に送ることを目的に設立された会社だ。
マスク氏は「スペースXは、あらゆることを火星に行くというレンズを通して考え、決断する」と言っている。
彼の遠大な野望には驚きしかない。
彼は「命がけの戦いこそ、前に進み続ける原動力だ」と言う。寝食を忘れたハードワークこそスペースXやテスラの成功の根源である。 
スペースXは、NASAから国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送契約を獲得した。その原動力になったのが打上げロケット・ファルコン9と宇宙船クルードラゴンだ。
その当時、スペースXが保有していたロケット「ファルコン1」は、低周回軌道への打上げ搭載量が670キロであり、ISSへの物資輸送のためには能力不足だった。
そのために開発したのがファルコン9であり、低周回軌道への打上げ搭載量が2万2800キロに大幅に能力アップした。
ファルコン9の打ち上げは2010年6月4日に行われて成功した。ファルコン9はマスク氏の厳しい指導により、徹底的に低コスト化されつつ高い信頼性を誇る優秀なロケットである。
スペースXの優れた点は、大量の小型衛星を大量・迅速・安定的にしかも安価に宇宙に打ち上げる点にある。
これを可能にしたのがロケット第1段再利用技術の獲得である。
スペースXは、2015年12月、「ファルコン9」のロケット第1段の逆噴射による着陸・回収に成功した。その後も継続的に、第1段ロケットを回収し再利用することに成功している。
他の国や組織が大量の小型衛星を打ち上げようとした際に、頼らざるを得ないのがスペースXである。ここにスターリンクが低軌道通信衛星コンステレーションに圧倒的に強い理由がある。
スペースXは2020年、ファルコン9を使い宇宙船クルードラゴンを打上げ、宇宙飛行士をISSに送り届けることに成功した。
米国は、スペースシャトルを2011年に退役させて以来、宇宙飛行士のISS往復のための手段を持たなかった。
そのため、ロシアの宇宙船を利用せざるを得なかったが、スペースXが米国のロシア依存の状況を一変させた功績は大きい。
ウクライナに必須のスターリンク
スターリンクは、スペースXの一事業として、2014年末に設立された衛星インターネット・サービスだ。
マスク氏は「インターネットの市場規模は年に1兆ドル。その3%を獲得できれば300億ドルで、NASAの予算以上になる。だからスターリンクを立ち上げ、火星に行く資金の足しにしようと思った」と証言している。
マスク氏とロシア・ウクライナ戦争とは、スターリンクを通じて密接不可分な関係にある。以下、詳しく説明する。
   図1 スターリンクの仕組み
スターリンクは、5000基以上(2023年8月現在)の小型衛星で構成され、スターリンク衛星は地球を周回する全活動衛星の約53%を占めている。マスク氏は今後数年間で4万2000基もの衛星を軌道に乗せる計画だ。
この多数の衛星群を衛星コンステレーションという(図1参照)。
つまり、スターリンクは衛星コンステレーションによるインターネット網であるが、ウクライナがロシア・ウクライナ戦争を遂行する際に必要不可欠な存在になっている。           
スターリンクがウクライナに導入されたのは、ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月24日から数日後のことだ。
ロシア軍は、侵略開始直後にサイバー攻撃によって、高速通信会社ヴィアサット(Viasat)が運営する衛星システムをダウンさせてしまった。
ヴィアサットによると、同社の「KA-SAT」というネットワークが攻撃されてサービスが中断したという。
攻撃者は、KA-SATネットワークの管理部分へのリモートアクセス権を手に入れ、地上からネットワークに侵入し攻撃した。衛星自体や衛星地上インフラそのものが直接被害に遭ったわけではない。
ウクライナはこのヴィアサットを使用していたために、ウクライナのインターネット網は寸断され、ウクライナ軍のみならず国内のあらゆる組織がインターネットを使用できなくなった。
ウクライナの副首相兼デジタル担当大臣のミハイル・フェドロフ氏は、この緊急事態にマスク氏に助けを求めるメールを送信した。
フェドロフ氏に成算があったわけではないが、マスク氏はメール受信から数時間後にフェドロフ氏に「スターリンクがウクライナで起動した」と伝えた。
その数日後、大量のスターリンクの端末がウクライナに無償で到着し、ウクライナのインターネット網が復活したのだ。
スペースXは、ウクライナ全土にインターネットアクセスを提供し、ウクライナ軍が攻撃を計画したり、自衛できるようにしていた。
スターリンクのお陰で、司令官、ドローンのパイロット、砲兵部隊がオンラインでチャットしながらドローン映像を共有することができるようになった。
目標を発見してから攻撃するまでの時間は、それまで20分近くかかっていたのが1分程度に短縮されたという。
フェドロフ氏は「スターリンクが救った人命は数千人にのぼる。これは我々の成功にとって不可欠な切り札である」と、その重要性を強調している。
ウクライナには現在、4万2000個以上のスターリンク端末が存在し、軍、病院、企業、援助団体によって利用されている。
広範な停電を引き起こした2022年のロシアの爆撃作戦中でも、ウクライナの公共機関はスターリンクを利用し、インターネットを維持することができた。
ウクライナ軍の使用地域はマスク次第
スターリンクが機能する地域は、原則としてウクライナの支配地域に限られており、ロシア支配地域ではサービスを提供していない。
2022年秋にウクライナ軍がロシア軍支配地域を奪還した際に、サービスを受けられない時期があった。
ウクライナ軍とロシア軍の双方が攻撃と防御を繰り返したために、スターリンクにアクセスできるか否かは両軍の動きによって変動した。
戦線が移り変わるにつれ、スターリンクはジオフェンシング(Geofencing)と呼ばれる手法を使っている。
ジオフェンシングとは、特定地域に仮想的な「フェンス(柵)」を作ること。
スターリンク側は、フェンスを設定することにより、特定ユーザーがインターネット端末を持ってフェンス内に出入りする際に、ユーザーの情報を入手することができる。
スターリンク側は、その情報を使って、ユーザーがスターリンクを利用する場所を制限できる。
つまり、スターリンク側は、自社のサービスによって収集された位置情報を使って、ジオフェンシングによる制限を実施できるのだ。
ジオフェンシングによるコントロールは、マスク氏の決定次第で、ウクライナ軍のスターリンクの使用をコントロールできることを意味する。そういう事態が実際に起こったのだ。
ウクライナ軍が2022年、「黒海に停泊しているロシア船に対して爆発物を満載した海上ドローンで攻撃したい。ついては、クリミア半島付近へのスターリンクのアクセス権を提供してもらいたい」とマスク氏に要請したのに対して、彼はその要請を拒否したのだ。
マスク氏はのちに、「スターリンクは平和的な良いことをするもので、長距離無人機攻撃をするものではない」と述べている。
彼は2023年2月、「第3次世界大戦につながるような紛争の激化は許さない」とツイートした。
一方、ウクライナ大統領府顧問ミハイロ・ポドリヤク氏はX(旧ツイッター)で「マスク氏がドローン攻撃を許さなかったことで、ウクライナの民間人や子供たちが殺されている」とマスク氏を非難した。
米国防省は2023年6月、国防省が新たに400〜500台のスターリンク端末とサービスを購入した。
この購入により、国防省はウクライナ国内でスターリンクのインターネット信号が機能する場所を設定し、ウクライナ軍が「重要な能力と特定の任務」を遂行できるようにコントロールできるようになったという。
つまり、マスク氏の介入に対抗して、ウクライナが中断を恐れることなく重要な作戦を遂行することが可能になったのだ。
ロシア軍もスターリンクを使用
ウクライナ国防省情報総局(GUR)は2月10日までに、ロシア軍がスターリンクを使用していることを確認したと発表した。
この発表には驚かされた。
もしも、ロシア軍もスターリンクを使用しているのであれば、ウクライナ軍だけが持っていた戦争遂行上の切り札がなくなることを意味するからだ。
スターリンクを使用するためには専用の通信端末が必要だが、ロシアは第三国(中東諸国など)を通じて端末を入手したと言われている。
一方、スペースXは「ロシアの政府や軍とは一切取引がない」と主張している。
また、マスク氏も2月11日のX(旧ツイッター)で、「私の知る限り、スターリンクはロシアに直接的または間接的に販売されたことはない」と投稿している。
しかし、ウクライナ側は、ドネツク州の占領地に展開するロシア軍第83空中強襲旅団のインターネット接続にスターリンクが使われていることを示す通信を傍受したと主張している。
また、XなどのSNSにはロシア軍が使用している端末の写真がたくさん投稿されている。
スペースXは「ロシア領内でのスターリンクのサービスはできない」と説明したが、ウクライナ領土内のロシア占領地で使えるか否かについては言及しなかった。
図2は「スターリンク利用可能地域(Starlink Availability Map)」を基に作成した図である。
ダークブルーの地域がウクライナの領土で、その中に赤い枠の部分(ウクライナ領土をロシアが占領した地域)があるが、ロシア軍は赤枠地域でスターリンクを使っているそうだ。
   図2 スターリンク利用可能地図
もしも、ロシア軍もスターリンクを使っているのであれば、既述のジオフェンシングを使ってロシア軍の使用を拒否できるはずだ。
ウクライナ軍には制限を加え、侵略軍であるロシア軍にはスターリンク使用を認めるのであれば、それは大きな問題である。
情報戦の観点でのマスクに対する懸念
ロシア・ウクライナ戦争では、スターリンクの力、そしてマスク氏の影響力の大きさが明らかになっている。
マスク氏がこの戦争をコントロールする影響力を持っている状況に、多くの安全保障関係者が懸念を表明している。
さらに情報戦の観点では、マスク氏はプーチン氏の「使い勝手の良い駒」になっているのではないかという懸念がある。
セントアンドリュース大学のフィリップス・オブライエン教授はXに投稿し、米国下院共和党、ドナルド・トランプ前大統領、元FOXニュースの司会者タッカー・カールソン氏、マスク氏を列挙し、「彼らはプーチン政権のために活動し、擁護している」と論評した。
つまり、彼らはプーチン氏の「使い勝手の良い駒」になっているということだ。
マスク氏には、プーチン氏やロシアに対する好意的な言動が目立つ。
彼は「クリミア半島はロシア領だ」と明言し、ロシアの土地占領継続を認める早期停戦論を主張している。
これはプーチン氏の主張に沿った発言だ。
また、彼は「プーチン大統領は、戦争を続けなければならない圧力を受けている。プーチン氏に敗北はない。米国のウクライナ追加支援予算法案には反対する」と発言している。
また、彼はXを通じて陰謀論的な主張を繰り返している。
彼は、Xへの「ユダヤ人社会が白人への憎悪を助長している」というユダヤ陰謀論的な投稿に賛同したために、ホワイトハウスのみならず、ディズニーやIBMなどの大手企業の批判を浴びた。
これらの大企業はXへの広告掲載を中止した。
つまり、情報戦の観点からマスク氏を評価すると、本人は否定するであろうが、彼はプーチン氏の影響工作、認知戦の餌食になり、プーチン氏の「使い勝手の良い駒」になっている。
以上のようなマスク氏への批判が、今回のロシア軍のスターリンク報道によってさらに強くなっている。
スペースXは現在、NASAが米国内から宇宙へクルーを輸送する唯一の手段であり、この状況はしばらく続くだろう。
マスク氏は、戦略的に重要な衛星インターネットの分野でも着実に力を蓄え、宇宙に関する最も支配的なプレーヤーとなった。
その才能は認める。
しかし、彼は時に予測不可能な方法で権威を振りかざすなど、その不規則で個性的なスタイルは、世界中の軍や政治指導者を不安にさせている。
ウクライナや欧米の政府関係者の間では、マスク氏が宇宙技術を掌握していることに対する懸念が高まっているのは事実だ。
その意味で、ロシア軍のスターリンク使用は、決して小さな問題ではないのだ。
●ウクライナ侵攻、ロシアに対し国際法は「現時点で無力」それでも考える意義 2/20
「ロシアの『国際法違反』のオンパレード」――。ウクライナ戦争をめぐり、国際法学の第一人者、村瀬信也・上智大名誉教授は、こう述べる。彼が指摘する国際法違反とは、ロシア軍の住民拘禁、子供のロシアへの強制移送、民間施設へのミサイル攻撃などだ。村瀬氏は国連機関の要職に就き、条約の草案などを作ってきた国際法の専門家だ。それだけに、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった当初から、ロシア指導部の違法行為を痛烈に批判してきた。侵攻開始から間もなく2年。村瀬氏に改めて批判の真意と国際機関がこの戦争で果たしうる役割について尋ねた。
   
村瀬信也(むらせ・しんや) / 国際法学者、上智大名誉教授
1943年、名古屋市生まれ。1972年、立教大学法学部専任講師に。1980年から2年間、国連本部事務局法務部法典化課で法務担当官を務めた。立教大学法学部教授(1982〜1993年)、上智大学法学部教授(1993〜2014年)。アジア開発銀行行政裁判所裁判官(1998〜2004年)。北京大学法学院客員教授(2014〜2023年)。さらに、国際法の草案などを作る国連の組織「国際法委員会」の委員を2009年から2022年まで務めた。同委員会の委員は国の代表としてではなく、個人の資格で、国連総会により選ばれる。
   
――2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった当初、国連でロシア指導層の刑事責任を追及したそうですね。
私は当時、国連の国際法委員会(34人)の委員でした。この委員会は国際法の原案となるものを作成、明文化する専門家からなる国連総会の付属機関です。
4月にスイス・ジュネーブであった委員会の席で、「プーチン大統領とその部下たちは裁判にかけられ、刑事責任を問われるべきだ。しかるべき国際法廷で、国際法の規範がきちんと考慮されると信じる」と発言しました。
――ロシアによる侵攻は具体的にどの法律に違反するのでしょうか。
国際法の柱は国連憲章です。その大原則として、武力の行使と威嚇を禁止しています(第2条4項)。ただ、その例外として、自衛権が認められています(51条)。しかし、武力攻撃に対する反撃だけがゆるされている。でも、ロシアに対するウクライナの武力攻撃はなかった。それなのに「自衛権」というのは成り立たない論理で、「侵略以外の何ものでもない」のです。
――「裁判にかけられるべき」と村瀬さんが考える、「大統領の部下」は誰のことですか。
プーチン大統領の下にいるショイグ国防相とラブロフ外相です。少なくとも、この2人には刑事責任がある。実際に侵攻したのはロシア軍なので、国防相以外に、軍参謀総長も含めた幹部たちの「指導者責任」が問われます。
日本の戦後の極東国際軍事法廷(1946〜1948年)の場合も、被告の28人には軍事、外交を指導した幹部が含まれていました。それと同様のことだと思います。
――ロシアの本格侵攻が始まった日、女性のロシア外務省報道官がメディアに緊急出演し、「『特別軍事作戦』です」と発表しましたが、自宅らしき場所からスマホなどで中継し、化粧もほぼしていなかった。外務省は侵攻を事前に知らされていなかったのかもしれません。
戦争の開始は常に、非常に少数の人間しか知らない形でやるので、ラブロフ外相が知らなかった可能性はあるでしょう。しかし、外相は、ウクライナ侵攻後に、その正当化のため国内外で活動している。その点で明確に責任があります。
――戦争における「刑事責任」とは何ですか。
戦争犯罪などを処罰する国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)が裁く刑事責任です。同裁判所は1998年にできました。第2次大戦中のドイツのユダヤ人虐殺などを裁いたニュルンベルク裁判などを先例として作られた裁判所です。その設立の根拠は、同年に結ばれた、多国間条約(ローマ規程)で、集団殺害(ジェノサイド)など裁くべき戦争犯罪を詳細に定めています。
国家ではなく、戦争犯罪を起こした個人が裁く仕組みができました。
「国家責任」とは、ロシアの国としての責任。賠償責任や、戦争被害などの原状回復です。「刑事責任」は、個人が問われる責任です。それは、ジェノサイド、戦争犯罪のほか、侵略犯罪、人道に対する罪の4類型です。いずれも、ロシア指導層が問われる罪状です。
ラブロフ外相については、規程で「犯罪の実行のほう助をした者も裁かれる」(25条)とされています。仮に、彼が直接、侵攻決定に加わっていなかったとしても、この条項が適用されえます。
――この2年間、ウクライナが奪還した土地で人権侵害の例が報告されています。ブチャでは拷問の後に殺された人が多数見つかり、ウクライナ南部をめぐっても、国連人権調査委員会が「死に至る拷問」「強姦」があったとする報告書を出しています(2023年9月)。
「集団殺害犯罪」「人道に対する罪」などに該当します。国際刑事裁判所が逮捕状を出すとすれば、それら多くの罪が複合的にとわれるでしょう。
――なぜ、国連の国際法委員会という場で批判をなさったのですか。
この委員会では、条約の草案などを専門家が議論し、文書化します。そこへ、ふだんは欠席の多いロシアの委員、ザガイノフ氏が出席してきました。
委員会は、世界にインターネットを通じて生配信もされ、日本の国際法関係者からは「ロシア出身の委員がいますね」と批判の声もありました。若い時から国連の法制定に携わってきた私としては黙っておれず、「ウクライナのことを見て見ぬふりをするのは偽善的だ」と主張しました。
――ロシアの委員は何を言いましたか。
特に何も。彼が学者出身の委員ならまだしも、ロシア外務省の国際法局長なのです。政府の「法律顧問」であり、しかも、会議が休憩に入るたび、室外のロビーの隅へ行き、携帯で電話するので、「ラブロフ外相に報告し、助言を送っている」と我々は見ていました。国連の委員会は、各国の出身委員の情報収集の場であるのも確かなのですが、露骨な感じがしました。
――ロシア批判に他国出身の委員から賛成する声は出ましたか。
いいえ。大国であるロシアと問題を起こしたくないということもあったのでしょう。ただ、もちろん私への反論はなく、分かっている人は分かってくれている、という雰囲気でした。
――国際刑事裁判所が昨年3月、プーチン大統領と、その補佐官であるマリア・リボワベロワ氏に逮捕状を出したことはどう評価しますか。
画期的です。占領地からの住民の追放・移送は「戦争犯罪」です。
一方、これは子供のロシアへの強制移送に限られます。私は、ロシアの国防相や外相、他の幹部も含めた指導層に逮捕状を出さなければ、戦争責任を問ううえでは、意味が薄いだろうと思います。
――2024年に入っても、ウクライナの民家などへのミサイル攻撃が続きます。多くの民間人が死傷しました。
学校、教会や博物館などの文化財の破壊も国際人道法に違反しています。
――さきほど、日本の戦争犯罪人が裁かれた極東国際軍事裁判を引き合いに出していましたが、日本とドイツが裁かれた例が、ロシアにも当てはまるということでしょうか。
私は国連の国際法委員会で「ロシアのウクライナ侵略と日本による満州事変(1931年)は類似点がある」と述べました。私は、弁論の仕方として「自分の国がこういうこと(侵略戦争)をしたけれども、戦後、徹底的に反省して、その上で、今こういう批判をしているのだ」というほうが、説得力が増すと考えています。
また、国際刑事裁判所の規程をつくるにあたり、日本は法律家・外交官のグループを送り込むなど、積極的な役割を果たしました。それは、国の指導者の戦争犯罪が裁かれた極東国際軍事法廷を日本が受け入れた経緯もあったからです。
プーチン大統領は侵攻後、数日のうちに、自らの力でウクライナに親ロシアの「政治家」を政権にすえ、片が付くと考えたのではないかと言われています。
一方、満州事変は、南満州鉄道の線路の一部が爆破され、関東軍がそれを「中国兵がやったに相違ない」として侵攻を始め、翌年、満州国を作り上げた。自作自演を狙ったという意味でウクライナ侵攻とよく似ているのです。
――一方で、日本には侵略戦争に反対した人もいました。
今のロシアと違うと思う例は、国際法学者の横田喜三郎・東大教授です。彼は満州事変後、新聞に「軍部は自衛の行為と主張するが、自衛権で正当化できないのではないか」と主張する論文を書きました。当時、彼は「国を裏切った」と批判を受け、命の危険にもさらされ、冷遇されたが、節を曲げなかった。戦後、日本の国連加盟と同時に国際法委員会の委員になり、最高裁長官も務めました。
――今のロシアにそういう人はいますか。
反体制派はいますが、ほとんどが監獄の中か、海外に亡命している。まあ、戦中の日本も似た状況でしたけれども。
国際法委員会の開催地のジュネーブで2022年5月、国連ロシア政府代表部の参事官がウクライナ本格侵攻に反対して辞任し、話題になりました。ロシアの国際法関係者で抗議したのは彼だけです。
彼はその時、「自国をこれほど恥と思ったことはない」と声明を出しましたが、ロシアにいた家族をジュネーブに呼び寄せるまで、その参事官は沈黙していた。ロシアでは反体制派が毒をもられたりしますので、我々の想像を超える厳しい状況下で、亡命の決断を迫られたのでしょう。
そうした亡命の状況について、ロシア在住の知り合いの若い国際法研究者にメールで尋ねたことがあります。外交問題についての話題だといつも返事をくれるのですが、それにはリプライがない。沈黙せざるをえないロシア人の苦悩を感じました。
――ロシアは国際刑事裁判所(ICC)の加盟国ではなく、逮捕状を無視しています。プーチン大統領らが逮捕される可能性はありますか。
国際刑事裁判所も、ロシアのような、規程を締約していない国では、刑事責任追及の権利を行使できません。そこには限界があります。逮捕は実際には簡単ではない。
――国際法が禁止しているはずの民間人への攻撃や侵略行為を、ロシアはやめる気配がありません。それどころか、2024年になってからウクライナ東部で攻勢を強め、支配地域を広げようとしています。国際法の存在意義が問われているのではありませんか。
国際刑事裁判所(ICC)の規程は124カ国が締約しており、プーチン大統領は旧ソ連構成国以外での外遊はほとんどしていません。プーチン大統領が締約国に入国したら、その政府が逮捕する義務があるからです。ICCの逮捕状には、それなりの効果はある。
国連憲章違反に対応する機関は安保理ですが、常任理事国の拒否権の行使で何もできないのは確かです。常任理事国の五大国の権限を制限するルールも提言されているが、見通しは立たない。国連総会に場を移して国際世論に訴えるという、拘束力のない二次的な方法しか、できていない。国際社会はまだそういう段階までしか発展していない証左といえるとは思います。
国際法は現時点では無力と言えますが、しかし、長期的に見れば、ロシアも戦後のドイツ、日本と同じように国際法で裁かれるはずです。
国際法は今現在の世界を変えることはできません。しかし、国際法に照らして、何が正しく、何が間違っているかを世界の人々に伝えることはできます。
●ウクライナ軍 新たな防衛ライン築く ロシア軍攻撃に備える構え 2/20
ロシアとの攻防で激戦地だった東部の拠点、アウディーイウカからの撤退を表明したウクライナ軍は、新たな防衛ラインを築いたとして、さらなるロシア軍の攻撃に備える構えを強調しました。
ウクライナ軍のタルナフスキー司令官は19日、SNSで部隊がロシア軍の攻撃に備えて東部の拠点、アウディーイウカ近郊で新たな防衛ラインを築き、ロシア側の攻撃に備えていると明らかにしました。
ウクライナでは、激戦地だったアウディーイウカからウクライナ軍が撤退を余儀なくされています。
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は19日、ロシア軍がアウディーイウカを掌握したあと周辺にいるウクライナ軍への砲撃が大きく減っているとするウクライナ軍の報道官の発言に触れたうえで、「ロシア軍は大規模な攻撃を再開させる前にいったん作戦を休止するか、異なる前線から追加の部隊を増援させなければならないだろう」との見方を示しました。
一方、スペインなどのメディアはロシア軍のヘリコプターのパイロットとして去年8月にウクライナ側に投降した元兵士が今月13日、滞在先のスペインで何者かに銃で撃たれて死亡しているのが見つかったと報じました。
ロシアの国営テレビは去年10月、ロシア国防省のGRU=軍参謀本部情報総局の特殊部隊の隊員が元兵士について「この人物を見つけ出し、裏切り者は罰する」と話すインタビューを放送していて、ロシア政府の関与があったのかどうかに関心が集まっています。
ゼレンスキー大統領 東部の前線を視察 兵士を激励
ウクライナ大統領府は19日、ゼレンスキー大統領がロシア軍との間で激戦となっている東部ハルキウ州のクピヤンシクの前線を視察に訪れたと発表しました。
ゼレンスキー大統領は、現地の司令官から戦況の報告を受けるとともに兵士に勲章を授与するなどして激励したということです。
ウクライナ軍はロシア軍との間で激しい戦闘が続いてきた東部ドネツク州の拠点アウディーイウカから部隊の撤退を表明したばかりでゼレンスキー大統領としては、みずから兵士たちを鼓舞し、徹底抗戦する構えを強調するねらいとみられます。
一方、ロシア側はアウディーイウカの完全掌握を発表し、今後、ドネツク州全域の掌握を目指す構えです。
ロシアの前の大統領で安全保障会議のメドベージェフ副議長は19日、訪問先のロシア南部のチェチェンで「ことし1月1日以来、5万3000人以上が兵役についた」と述べ、ウクライナへの戦闘地域で兵力を増強していると強調し今月24日で軍事侵攻から2年となる中、攻勢を強める構えを示しています。
●ハンガリー首相がウクライナ支援を拒否、スウェーデンのNATO加盟は批准せず 2/20
欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)に加盟する東欧ハンガリーが、ロシアの侵略を受けるウクライナへの支援に異を唱え、スウェーデンのNATO加盟にもブレーキをかけている。欧州の安全保障を揺さぶるビクトル・オルバン首相の外交手法への批判が強まっている。
ハンガリーのオルバン首相=ロイター
オルバン氏率いるハンガリーの右派与党フィデスは今月5日、野党の求めで開かれた臨時議会をボイコットし、スウェーデンのNATO加盟承認が見送られた。手続きを先送りしていたトルコが1月に承認に転じ、全加盟国で批准していないのはハンガリーのみ。傍聴に駆けつけた米国などの代表は肩すかしを食った。
オルバン氏は2022年、首相として連続で4期目入りし、権力基盤を強固にした。メディア統制や反難民など強権的な手法を強め、中露との連携に傾斜している。ウクライナ侵略に「ハンガリーは関わりたくない」と公言してウクライナへの軍事支援を拒否し、ロシアから天然ガスの輸入を継続する。
EUで孤立しつつも、対立局面を逆手に全会一致が必要な重要案件で拒否権を振りかざし、譲歩を引き出してきた。最近も、ウクライナのEU加盟交渉開始に反対し、「法の支配」の欠陥を理由に凍結された補助金の一部解除を約束させた。
欧州の結束を揺るがすオルバン氏への風当たりは強まっている。
「ウクライナ(への支援)疲れなどない。あるのは『オルバン疲れ』だ」。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は今月1日のEU臨時首脳会議でウクライナへの財政支援に反対を貫くオルバン氏を非難し、翻意を迫った。ハンガリーの投票権停止も辞さないとの報道も流れ、オルバン氏は容認に転じた。
スウェーデンのNATO加盟批准に対しても、同盟国から「我々の忍耐は無限ではない」(米高官)と早期批准を求める声があがる。
ダニエル・ヘゲドゥス氏…米ジャーマン・マーシャル財団上級研究員
オルバン首相が奇妙な外交姿勢を取る狙いは、国内で権威主義的な体制を強化することにある。内政に口を挟ませまいと、中露との緊密な協力関係をテコに、EUやNATOの共同決定事案を阻止すると脅してハンガリーとの「対立コスト」を引き上げ、パートナーに対立か譲歩かの損得勘定を迫っている。
米ジャーマン・マーシャル財団上級研究員のダニエル・ヘゲドゥス氏=中西賢司撮影
ウクライナ危機は、オルバン氏に対し、凍結補助金の解除に向けてEUを揺さぶる機会を提供している。
ウクライナが危機を乗り切れば、民主的な統治と親欧米路線が国家成功につながる証しになる。オルバン氏にとってウクライナの成功は、自らの正当性に根本的な疑問を投げかける脅威だ。ウクライナの敗北と欧米的な民主改革の挫折に関心があるのだろう。
ごね得が許されれば全体の利益が損なわれかねない。対抗手段はEUでの投票権の停止しかない。その姿勢を見せつければ、対決姿勢の緩和につながる可能性もある。
●日本は「経済復興のリーダー」 ウクライナ首相、東京で記者会見 2/20
ロシアの侵攻が続くウクライナのシュミハリ首相は20日、東京の外国特派員協会で記者会見した。19日の「日ウクライナ経済復興推進会議」で、ウクライナに対する新規の投資や協力に日本の経済界から「高い関心を感じた」と強調。災害復旧などの経験を生かし、日本が「経済復興のリーダーの一員になると確信している」と述べた。
欧米ではウクライナへの「支援疲れ」が出ていると指摘される。シュミハリ氏は「ウクライナは自分たちのためだけでなく、世界の民主主義や安全保障秩序のために戦っている」と国際社会の支援の意義を強調。予算案の議会通過が見通せない米国からも「支援が続くと信じている」と期待した。
●ウクライナ情勢の「現状維持」を望む中国の思惑 2/20
戦略科学者の中川コージが2月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国の今後の外交リソースについて解説した。
中国の王毅外相がロシアへ武器を売却しないと述べる
中国の王毅共産党政治局員兼外相は2月17日、訪問先のドイツでウクライナのクレバ外相と会談し、ロシアによるウクライナ侵攻を協議した。中国は紛争地域や当事者に殺傷力のある武器を売却しないと伝えた。
飯田)王毅外相はミュンヘン安全保障会議に出席しており、そのタイミングに合わせて行われました。
ウクライナ情勢は現状が維持された方が欧米の外交資源を削ぐことができ、中国にとって得
中川)時事通信の記事を見ると、このように書かれています。
『王氏は会談で、紛争解決へ向けた「対話」促進を訴え、中国は早期停戦のために「建設的な役割」を果たし続けると伝えた』 〜『時事通信』2024年2月19日配信記事
中川)しかし、他の報道では、「和平交渉はこのタイミングではない」ということを強調しているのです。そのように重きが置かれているということは、従前通り、中国としては諸外国、特に米国や欧州諸国がウクライナ情勢に外交資源を取られてくれた方がいい。むしろ和平を目指すよりも、「現状が維持された方が得だ」と天秤にかけた上で考えているのです。
飯田)なるほど。
中川)これはもともとやっていたことです。和平に傾くのか、もしくはミスリーディング戦略、つまり他国の外交リソースを消耗させるなど、どちらに転んでもいい形にしていました。少なくとも現状では、まだ和平よりも他国の外交リソースを削いだ方がいいという考えになるので、決して「自分たちでは和平の話はできないから」というだけではないのです。もちろん、できるかできないかで言えば、まだ中国にできないのは間違いありませんが、消極的理由よりも、積極的に和平を目指す方針ではないのだと思います。
北朝鮮の武器売却によってロシアから軍事技術が入ることを中国が許す理由
飯田)ロシアへの武器売却というと、北朝鮮が武器を相当売却しているという話があります。中国がこのような姿勢を示すことで、北にも「お前らもやめろよ」という形になるのでしょうか?
中川)ロシアから北朝鮮に対し、軍事的な技術が入るのを中国はよしとしません。軍事技術が上がれば、北朝鮮の対北京に関する交渉力が上がってしまいます。小型狂犬が大型狂犬化してしまうので、それはやめて欲しい。一方で、その方が対日・対米の関係において、台湾と北に関する両方のリソースを削げることになります。
飯田)二正面作戦を強いることができる。
北朝鮮が軍事技術をつけることで日米に二正面作戦を強いることができる
中川)この数年は米軍や自衛隊も含め、だんだんと台湾にシフトし始めた現状があります。しかし、再び北に対してもリソースを割くことになるので、ベースとしては北に力を付けて欲しくはないけれど、二正面作戦を強いるという意味では、北京にもメリットがあるのです。そのバランスを考えると、むしろ狂犬化してくれた方がいいので、黙認している状況なのだと思います。少なくとも本気で嫌なら本気で止めにくると思いますが、決してそのような感じには見えません。しかし、ベースとしてはOKではないはずなので、おそらくはそのような計算が働いているのでしょう。
飯田)中国なりに、どこかでリミットの線があり、まだそこまでは行っていない。天秤がそこまで振れていないのでしょうか?
中川)「より狂犬、マッドマンであった方が対米・対日ではいいだろう」と踏んでいるのだと思います。
ウクライナ、東アジアに対する外交リソースは割かず、中南米と東南アジアへホットな視点を向けている
飯田)ウクライナに対してもリソースは割かず、現状維持でよい。東アジア、朝鮮半島もいまのところはこのままでよい。では、外交パワーのようなものは別のところに使っているのですか?
中川)そうですね。ウクライナ、ロシアに対して現状維持をさせておきながら、基本的には中南米、中東、東南アジアへの外交リソースを割くというのが、ウ露戦争が始まって以降の一環した流れです。中東に関してはイスラエルとハマスの紛争が始まってしまったので棚上げだと考えると、それ以外のパワーは中南米、東南アジア諸国連合(ASEAN)の辺りに最も力点が置かれると思います。アフリカはいままで通りです。17日にもアフリカ連合の会議に習近平さんが祝電を送っており、アフリカに対しては磐石だという感覚でしょう。東アジアもこのような状況なので、対米・対日では「ステータスクオ」を狙うのだと思います。
飯田)現状維持を。
中川)中南米と東南アジアは、彼らが最もホットな視線を向けているところです。中央アジアについては、G7広島サミットのタイミングで「中国・中央アジアサミット」を開いたので、ある程度は安定した。そう考えると圧倒的に東南アジア、中南米が力点だと思います。
飯田)2024年のG20議長国はブラジルでもありますね。
●米国、ロシアに追加の経済制裁を検討 ナワリヌイ氏の死去を受け 2/20
バイデン米大統領は19日、ロシアの反政権派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の死去を受けて、ロシアに追加の経済制裁を検討していることを明らかにした。ホワイトハウスで記者団に語った。
ロシアの侵攻を受けるウクライナ支援の法案が、共和党が多数派の下院を通過する見通しが立たないことについて、「ロシアの脅威、NATO(北大西洋条約機構)、そして我々の義務を果たすことから目を背けている。彼らは異常だ。こんなことは見たことがない」と語り、ウクライナ支援に反対する共和党下院の一部に強い不満を表明した。ナワリヌイ氏の死がこうした議員の姿勢を変えるかどうかについては「そうあってほしいが、何かが変わるかはわからない」と述べた。
●中国 中央銀行 住宅ローンなど長期貸し出し目安金利 引き下げ 2/20
中国の中央銀行は、事実上の政策金利のうち、住宅ローンなどの長期の貸し出しの目安となる金利を引き下げると発表しました。不動産市場の低迷の長期化で、景気の先行きに不透明感が広がる中、追加の金融緩和で住宅の購入などを促し、景気を下支えするねらいがあるとみられます。
中国の中央銀行、中国人民銀行は20日、事実上の政策金利とされる「LPR」という金利のうち、住宅ローンなどの長期の貸し出しの目安となる5年ものの金利をこれまでより0.25%引き下げて3.95%にすると発表しました。
5年ものの金利の引き下げは去年6月以来、8か月ぶりとなります。
中国では、不動産市場の低迷の長期化で、景気の先行きに不透明感が広がっていて、内需の停滞が続く中、消費者物価指数が4か月連続でマイナスとなるなどデフレへの懸念も強まっています。
中国人民銀行は、2月5日に金融機関から強制的に預かる資金の比率、「預金準備率」を引き下げましたが、さらなる金融緩和に踏み切ることで住宅の購入やインフラ投資などを促し、景気を下支えするねらいがあるとみられます。
一方、金融機関が企業などに融資を行う際の目安となる1年ものの金利は3.45%のまま据え置きました。
●ウクライナ支援は未来への投資 2/20
ロシアによるウクライナ侵略開始から2年が経過。わが国は昨年、G7(先進7カ国)議長国としてウクライナ支援に関する議論を主導し、財政支援を含む強力な支援をしてきました。侵略が長期化する中、力による一方的な現状変更を許容せずにウクライナ支援に関する国際的な機運を盛り上げる機会とするべく、日・ウクライナ両政府主催の「日・ウクライナ経済推進復興会議」が2月19日、東京都内で開かれ、岸田文雄総理が出席し、「ウクライナへの支援は未来への投資」と呼び掛けました。
日・ウクライナ経済推進復興会議を開催
同会議には上川陽子外務大臣やウクライナのシュミハリ首相らが出席しました。
岸田総理は同会議で基調講演を行い、冒頭、ロシアによるウクライナ侵略から自由と独立を守るために奮闘しているウクライナ国民の勇気と忍耐に改めて敬意を表しました。
さらに、同会議の原点はG7議長として行った昨年3月のウクライナ訪問であるとし、キーウでの滞在中、ゼレンスキー大統領から長期にわたるウクライナ復興に向けて、わが国の持つ経験・技術や民間投資に対する期待を何度となく聞いたことを明らかにしました。その上で、「わが国ならではの貢献ができるはずだ」と考え昨年5月、政府にウクライナ経済復興推進準備会議を設置し、準備を進めてきました。
また、大いなる潜在性を有するウクライナの経済成長につながる経済復興・産業高度化に向け、農業、製造業、IT(情報技術)産業といった第1次産業から第3次産業に至る網羅的な経済発展を目指し、わが国が官民一体となって強力に支援する考えを表明しました。
復興はわが国・国際社会全体の利益
その上で、わが国ならではの貢献を実現するため、(1)包摂性(2)パートナーシップ(3)知見・技術―の3原則を示しました。
(1)では、人間の尊厳を重視し、全てのウクライナ国民に寄り添い、女性・平和・安全保障(WPS)の視点も交えて、ウクライナの自立的な発展と復興を息長く支援。(2)では、わが国による一方的な支援ではなくウクライナ側のニーズに沿った、きめ細やかに対応。(3)では、わが国の戦後・災害復興の知見、民間の先進的技術・ノウハウ等を活用して、官民一体のオールジャパンで取り組みます。
これらに加え、わが国の民間投資を促進し、ウクライナでの雇用を生み出す5つの行動を起こしていくことを表明。具体的な約束としては、スタートアップを含む日本企業とウクライナのパートナーとの間で50本以上の協力文書を署名しました。
これらの成果を踏まえ、岸田総理は「ウクライナが復興を成し遂げ、活力を取り戻すことは、わが国、そして国際社会全体の利益」と強調。
さらに、「ウクライナの復興を支える国際社会の連帯を一層強固なものにしていく」と語り、G7をはじめとする各国との緊密な連携を軸としつつ、国際機関を含むパートナーと協力していく決意を示しました。
●ロシア、ザポリージャ近郊に大規模兵力を集結 ウクライナ南部前線 2/20
ウクライナ南部前線のザポリージャ州で、ロシア軍が大幅に兵力を増強していることが分かった。ロシア、ウクライナ双方の情報筋が明らかにした。
ザポリージャ州は昨年夏にウクライナが反転攻勢を試みた地域。
一部のアナリストによると、5万人規模のロシア兵が集められているという。
ウクライナの東部前線では、ロシア軍がドネツク州アウジーイウカの複数の場所に旗を掲揚した後、優勢を生かしてさらに攻め込む機会をうかがっている。
●ウクライナ軍、アブデーフカ失陥後に新防衛線構築でロ軍撃退 2/20
ウクライナ軍は19日、東部ドネツク州の要衝アブデーフカ失陥後、新たな防衛線を構築してロシア軍の攻撃を撃退し続けていると明らかにした。
先週末にウクライナ軍が撤退したアブデーフカはロシア側が完全に掌握。ロシア軍にとっては昨年5月にバフムトを制圧して以降で最大の戦果となった。
この事態は、ウクライナが兵力補充に苦しみ、米国が野党共和党の反対で新たなウクライナ向け軍事支援を実行できない中で、戦局がロシア有利に傾いてきたことをこれまでで最も明確に物語っている。
それでもウクライナ軍のオレクサンドル・タルナフスキー准将は通信アプリに「軍は幾つかの新しい防衛線を築き、攻勢を意図するロシア軍の撃退に成功している」と書き込んだ。
ロシア軍は現在、部隊を再編してアブデーフカで残敵を掃討しつつ、既に占領しているマリンカ付近や、ウクライナ側が保持している南西側の複数の村落付近で攻撃を行っている。
キーウのコンサルティング会社ディフェンス・エクスプレスの専門家は、ロシア軍が今後、マリンカ周辺で戦線を整頓した上で、ウクライナ側のウフレダルに向かって新たな攻勢を開始するだろうと予想。またバフムト周辺にはおよそ8万人、アブデーフカ付近にはさらに4万人が展開しており、これらはチャシウヤルに向かう公算が大きいとみている。
ロシア側は、アブデーフカからのウクライナ軍の撤退は混乱し、急速に行われたため一部の兵士や武器装備が置き去りにされたと説明している。
ただディフェンス・エクスプレスの専門家によると、撤退作戦は非常にうまくいったもようだという。
先週の兵力増強に伴ってアブデーフカに投入された第3独立強襲旅団の一部部隊はある時点でロシア軍に完全包囲されたものの、何とか突破することができた、と副司令官の1人が明かした。
ウクライナ側に立って戦争に参加しているロシア人民兵組織のある司令官は、自分たちがウクライナ軍の撤退を支援したとしている。
●ゼレンスキー氏、前線激励 東部情勢「極めて困難」 2/20
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、東部ハリコフ州の要衝クピャンスク方面の指揮所を訪問した。17日に東部ドネツク州の要衝アブデーフカをロシアに制圧されたばかりで、前線の兵士と会って「団結」を改めて訴え、激励した。
クピャンスクはロシア軍が掌握を狙う都市の一つで、昨年秋ごろから周辺で戦闘が激化している。ゼレンスキー氏は前線の幾つかの場所で「状況は極めて困難だ」と指摘。大砲や防空、長距離兵器が不足しており「ロシアが支援の遅れにつけ込んでいる」と述べた。
ウクライナ軍は19日、ロシア軍のスホイ戦闘機2機を撃墜したと発表した。 
●プーチンに「行列は好きじゃない」と言うゼレンスキー 風刺で分かる侵攻2年 2/19
なぜプーチンはウクライナに侵攻し、なぜ戦争は2年も続いているのか。世界で流行る「ロシア人ジョーク」から、プーチンとロシアの真相に迫る。
2022年2月24日、ロシア軍がキーウに向け侵攻を開始した。その後は一進一退があり、多くの犠牲者を出し、ウクライナ軍が反転攻勢をするも膠着。ロシア・ウクライナ戦争はいまだ先の見えない状況にある。
戦況と同様、議論も停滞気味であり、ネットには悪口や誹謗中傷もあふれる。他にあるのは関心の薄れか。
そんな今だからこそ、ユーモアや風刺の力を大切にしたい。
筆者はこのたび、『世界のロシア人ジョーク集』(中公新書ラクレ)を上梓した。『世界の日本人ジョーク集』をはじめ、累計100万部を突破しているジョーク集シリーズの最新刊となる。いま世界で交わされている秀逸なジョークを集め、まるでマトリョーシカのような謎の国ロシアの中身に、風刺と笑いで迫った。
ロシアの詩人、フュードル・チュッチェフは、こう書いている。「知にてロシアは解し得ず」。だとするならば、小難しい学術論文よりも、ジョークを通じた鋭い風刺のほうが、理解への良きヒントになるかもしれない。
ジョークでかの国を、かの人を笑い飛ばそう。
   天国
プーチンが国民への演説の場でこう語った。
「戦争など恐れることはない。なぜなら、愛国的ロシア人は皆、死んだら絶対に天国へ行けるのだから!」
その演説を聞いた天国側は、NATOへの加盟を申請した。
ロシアがウクライナへの侵略を始めて、はや2年ほど。もっとも、ロシア側の呼称は「特別軍事作戦」。その目的は「侵略」ではなく、自国の安全保障と、ウクライナの「ナチス」を打倒することだという。これはジョークか真実か。
ロシアには「舌の上にハチミツ、舌の裏に氷」という諺がある。「口先では良いことを言っていても、心は裏腹」という意味である。
長期化する戦争
開戦前のロシアの軍事予算は、ウクライナの約10倍。圧倒的な戦力差をもって、ウクライナ全土を一挙に占領するシナリオだった。
しかし、現実は思い通りに進展しなかった。祖国防衛で一丸となったウクライナと、それを支える欧米諸国の結束により、プーチンの目論見は外れた。
短期戦の見込みが崩れて長期戦に陥るというのは、歴史が伝える「定番のシナリオ」である。4年以上にわたり、約1000万人もの犠牲者を生んだ第一次世界大戦でさえ、当初は短期戦の予測のもとに始まった。支那事変(日中戦争)も然りである。
   ライフル
ウクライナ人の一家。居間で父親がライフルの掃除をしていると、学校から帰ってきた息子が言った。
「お父さん、先生が言ってたんだけど、ロシア人が宇宙に行ったんだって」
父親はライフルを机に置いて聞いた。
「全員?」
子どもが答えた。
「いや、3人くらいかな」
父親は再びライフルの掃除を始めた。
欧米諸国は「レオパルト2」や「M1エイブラムス」といった主力戦車をウクライナへ供与。レオパルト2はドイツが誇る主力戦車で、旧ドイツ陸軍が誇ったタイガー(虎)戦車の後継として、レオパルト(豹)と命名された。アメリカの第三世代主力戦車である「エイブラムス」は、第二次世界大戦時におけるバルジの戦いの英雄、クレイトン・エイブラムス大将に由来する。
一方、ロシア軍の戦車は、T−72やT−90など。T−72は被弾すると搭載している弾薬が誘爆を引き起こし、砲塔が高く吹き飛ぶため、「ビックリ箱」なる屈辱的な渾名を冠されている。
   農村
ウクライナ東部のとある村。村長が言った。
「我が村は、今や世界で4番目の戦車保有数を誇る」
   戦車大隊
問い・ウクライナからロシアに帰還した戦車大隊のことを何と呼ぶ?
答え・歩兵小隊
プーチンの未来は?
終わりの見えないロシア・ウクライナ戦争。プーチンとしては、(こんなはずではなかった)というのが正直なところか。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、もともとはコメディアンであり、「局部でピアノを弾いているように見せるコント」といった際どい下ネタまで披露していた人物だったが、開戦後はすっかり「戦時大統領」に。一方、プーチンは今や「ジョーク界の主役」である。
すなわち、ロシアによるウクライナ侵略は、一人のコメディアンを消し、一人のコメディアンを生んだ。
もちろん、プーチンを単にコメディアンと言い切ってしまえば、世界中のコメディアンに悪い。
   
プーチンがゼレンスキーに電話で言った。
「もし私が死んだら、あなたは私の墓に小便をかけにくるだろうね」
ゼレンスキーが答えた。
「いや、そんなことはしませんよ」
プーチンが驚いて聞いた。
「なぜ?」
ゼレンスキーが答えた。
「行列に並ぶのは好きじゃないんだ」
神出鬼没の世界的アーティストであるバンクシーはウクライナを訪れて、瓦礫の壁に作品を描いている。小さな子どもが柔道着を着た大人を投げ飛ばしている絵である。子どもはウクライナ、大人は柔道家であるプーチンを表していると思われる。
国際柔道連盟の名誉会長職にもあったプーチンだが、今回の侵攻の結果、その職は停止の処分に。柔道界をも敵に回したのである。
プーチンが挑んだこのたびの戦争、その行方はいかに。「一本勝ち」とはいきそうにない。
   1年後の世界
クレムリンが空爆され、プーチンは意識を失った。意識が戻ったのは、実に1年後のことであった。
体調の回復したプーチンは、モスクワの様子を確認しようと、変装して街に出た。プーチンはバーに入り、バーテンダーにさりげなく聞いた。
「クリミアは私たちのものですか?」
「ええ、もちろん」
「ドンバスは?」
「無論、私たちのものですよ」
プーチンは安心して笑みを浮かべた。満足したプーチンはウォッカを飲み干し、バーテンダーに聞いた。
「いくらになるかね?」
バーテンダーが言った。
「10ユーロになります」
●追加の対ロ制裁呼び掛け 侵略続けば「戦争拡大」 ウクライナ首相 2/20
来日したウクライナのシュミハリ首相は20日、東京都内で記者会見し、日本などに対し、ロシアに追加の経済制裁を講じるよう呼び掛けた。
ロシアの侵略を阻止しなければ「より多くの紛争や戦争が世界で起きる」と警告した。
バイデン米大統領は19日、ロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏の獄死を受け、同国への「追加制裁を検討している」と記者団に説明。欧州連合(EU)も新たな制裁措置を議論している。
ウクライナ支援を巡っては、EUの弾薬供給計画が遅れているほか、米議会では与野党が対立し、追加支援の法案成立が滞っている。首相は砲弾や長距離ミサイルの供与、防衛システムの構築などに対する支援の必要性を訴えた。
●ウクライナ最新情勢 「首都キーウ、防空は持ちこたえている」専門家が解説 2/20
東京都内で2月19日に開かれた「日ウクライナ経済復興推進会議」に出席した神戸学院大経済学部教授でウクライナ研究会会長の岡部芳彦氏が20日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。ウクライナの最新情勢について、「最近行われた首都キーウ(キエフ)に対するロシアによる空襲では、ウクライナ軍が全弾撃墜した。防空はなんとか持ちこたえている」と解説した。
24日でロシアのウクライナ侵攻から2年となる。日本政府は19日、ウクライナ支援を話し合う「日ウクライナ経済復興推進会議」を東京都内で開いた。ロシアによる侵攻が続く中、初期の緊急復旧から経済復興まで日本がウクライナを継続的に支援することを盛り込んだ共同声明を出した。
辛坊)アメリカでは共和党の反対によってウクライナに対する支援予算案がなかなか通らないとか、ウクライナ軍は砲弾が尽きてきているのではないかとったニュースも流れています。戦線はどうなっているのでしょうか。
岡部)ウクライナ政府はこの言葉を使いたがらないのですが、戦線は膠着状態です。一方で、最近行われた首都キーウ(キエフ)に対するロシアによる空襲では、ウクライナ軍が全弾撃墜しました。防空はなんとか持ちこたえているといえます。
西側諸国によるウクライナへの武器供与については、2年間も同じことが続いているわけですから、支援疲れはあります。一方で、イギリスやフランスなどはウクライナとの2国間で安全保障協定を結んでおり、実は日本も現在、協議中です。各国によって内容は違いますが、今のところイギリスやフランスは軍事支援の額や供与する武器などは決まっています。

 

●ロシア、アフリカ6カ国に穀物20万トン無償提供 プーチン氏が昨年表明 2/21
ロシアのパトルシェフ農相は20日、アフリカ6カ国に20万トンの穀物を無償提供する作業を完了したと明らかにした。
ロシア大統領府(クレムリン)のウェブサイトによると、パトルシェフ氏はプーチン大統領に対し、ソマリアと中央アフリカ共和国に各5万トン、マリ、ブルキナファソ、ジンバブエ、エリトリアに各2万5000トンを輸送したと報告した。
プーチン大統領は、昨年7月に行われた「ロシア・アフリカ首脳会議」で6カ国への穀物無償提供を約束。それに先立ち、ロシアは黒海経由でウクライナ産穀物を輸出させる国際合意「黒海イニシアティブ」から離脱していた。
パトルシェフ氏は「ロシア・アフリカ首脳会議以後、アフリカ諸国との関係を維持し、協力関係を構築してきた。その結果、これらの国にこれだけの量の穀物を極めて迅速に届けることができた」と述べた。
●ウクライナ軍のアウジーイウカからの撤退、「無条件の成功」 プーチン氏 2/21
ロシアのプーチン大統領は20日、クレムリン(ロシア大統領府)で、ショイグ国防相と会談し、ウクライナ軍がウクライナ東部の要衝アウジーイウカから撤退したことについて「無条件の成功」と述べた。
プーチン氏は、アウジーイウカでの成功を「発展させる必要がある」とし、ロシア軍は、人員や武器、装備、弾薬を十分に準備して、さらに前進しなければならないと語った。
プーチン氏によれば、こうした分野での軍の需要を満たすために、ショイグ氏と改めて協議を行うという。
ショイグ氏もウクライナ軍のアウジーイウカからの撤退について、成功だったとの認識を示した。
ショイグ氏によれば、9年間にわたって、地下通路やコンクリートの建造物を作り、地上に出ずに移動できる特別な動線が作られた。空軍や陸軍、航空部隊もアウジーイウカの占領に大きな役割を果たしており、ウクライナ軍の撤退前には毎日約460回の空爆が行われたという。
ショイグ氏は、ウクライナ軍の兵士がすでにアウジーイウカを離れていたときに、ウクライナ軍の指導部は撤退を命じられたと主張し、「無秩序な撤退」と指摘した。ショイグ氏によれば、撤退の際に多くのウクライナ軍兵士が負傷し、逃げ遅れて捕虜になったという。
●バイデン大統領「対露追加制裁を23日に発表」ナワリヌイ氏の死亡受け 2/21
アメリカのバイデン大統領は20日、ロシアの反体制派指導者・ナワリヌイ氏が死亡したことを受け、ロシアへの追加制裁を23日に発表することを明らかにしました。
バイデン大統領「ロシアへの制裁について、23日に大規模なものを発表します」
追加制裁は、ナワリヌイ氏の死亡に加え、ウクライナ侵攻から2年にあわせロシアに圧力をかける狙いがあります。カービー大統領補佐官は追加制裁について、「ナワリヌイ氏に起きたことや、ウクライナとの戦争における全ての行動について、ロシアに責任を負わせる」と強調しました。
死亡したナワリヌイ氏をめぐっては、母親のリュドミラさんが20日、プーチン大統領に遺体を早く引き渡すよう求めました。
ナワリヌイ氏の母・リュドミラさん「この問題の解決はあなた(プーチン大統領)にかかっています。早く息子に会わせてください。アレクセイの遺体を直ちに引き渡すことを求めます」
ナワリヌイ氏の遺体については、ロシアの独立系メディアが、母親の到着前に刑務所から搬出された可能性を指摘しています。捜査当局は母親に「14日間は引き渡せない」と説明していて、支援者は「殺人の痕跡を隠すためだ」と批判していました。
●政敵ナワリヌイ“獄中死”…「プーチンのロシア」はスターリン時代に先祖返り 2/21
2月16日、ロシアの反体制派アレクセイ・ナワリヌイが収監されていた極寒の北極圏の刑務所で死亡した。死因を含め不明なことが多く、世界中で抗議の声が上がっている――。
3月の大統領選挙を前に
ナワリヌイの母、リュドミラはヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所を訪ねたが、ナワリヌイの遺体はなかった。近くの中心都市サレハルドの病院に安置されており、2週間の調査が終わるまで引き渡されないという。死因は「突然死症候群」と伝えられたというが、国営テレビは「血栓症」と報道した。
さらに、医療関係者の話として、遺体に複数のあざがあったそうである。あざの一つは胸にあったが、「蘇生のために心臓マッサージを行った」という当局の発表を裏付けるものという。死亡時刻も、当局が発表した「16日午後2時17分」よりも前だったという証言もある。いずれにしても、真相は不明である。
アメリカのバイデン大統領が、ナワリヌイの死亡は「プーチンに責任がある。プーチンの残忍さをさらに証明するものだ」と批判するなど、世界中で抗議の輪が広がっている。
ロシアでは、3月17日には大統領選が行われるが、プーチン大統領の5選はほぼ確実と見られている。プーチンの目標は8割以上の票を獲得することである。そのためには、一定の票をとりそうな反プーチン候補を排除する必要がある。
元下院議員のボリス・ナジェージュジンは、立候補が認められなかった。ナワリヌイの存在も、プーチンの圧勝を演出するのに邪魔になると政権側が考えたとしても不思議ではない。
ナワリヌイは、2013年のモスクワ市長選に立候補が許された。それは、プーチン側近のソビャーニン市長の当選が確実であったため、野党指導者を立候補させて公平な選挙であるとのイメージ作りをプーチン政権が狙ったからである。ところが、ナワリヌイが予想以上の票を取ったため、警戒して、以後は選挙への立候補を認めないようにしたのである。
ナワリヌイは、2018年の大統領選挙に立候補しようとしたが、当局に拒否された。2020年8月には、西シベリアのトムスクからモスクワに戻る機中で体調不良を訴えた。猛毒ノビチョフ系の神経剤による暗殺未遂事件である。ドイツのベルリンで治療を受けたが、2021年1月に帰国すると、空港で拘束され、モスクワに近いウラジーミル州の刑務所に収監された。そして、2023年12月には、北極圏の刑務所に移送された。
ウクライナ戦争の戦況
大統領選での勝利に弾み付ける材料としては、ウクライナ戦争での軍事的勝利がある。
17日、ウクライナのシルスキー総司令官は、ロシア軍の猛攻を受けて、ドネツク州のアウディーイウカから部隊を撤退させたと述べた。ロシア側が制空権を確保して地上部隊を支援した初の作戦が成功したという。
ウクライナは欧米からの軍事支援に依存しており、最近は支援が遅れがちで、とくに防空システムの補充が間に合っていないという。それが、今回のような敗退につながっているという。
ショイグ国防相はアウディーイウカでの勝利をプーチンに伝えており、この成果にプーチンは満足している。この勝利によって、ロシア軍は他方面への部隊の展開が可能になり、ウクライナ軍への攻撃を激化させることが可能になる。
一方、ウクライナ軍は、昨年10月以降のアウディーイウカでの攻防戦で、ロシア軍の兵士5万人を死傷させ、戦車64両、戦闘機5機を破壊したという。
スターリン時代の政敵の抹殺
スターリンは、政敵を1000万人以上抹殺した。1937年春〜1938年秋の「大テロル」の1年半に160万人が逮捕され、うち70万人が処刑された。実に1日に1500人を殺していたのである。
その前後も含め、スターリン体制下で処刑された者の数は正確には分からないが、1000万人前後に上るとされている。
第二次世界大戦後も、スターリンは秘密警察・KGB(ソ連国家保安委員会)を駆使して政敵を殺害する。支配下に置いた東欧諸国でも締め付けを図り、共産党政権に梃子入れをし、反共産主義分子を政権から排除した。
たとえば、チェコスロバキアでは非共産党員で自由主義者のヤン・マサリク外相が、モスクワに呼び出され、帰国した直後の1948年3月10日に、外務省の中庭で、死体で発見された。
公式には窓から飛び降りて自殺したとされているが、ソ連の保安機関によって窓から突き落とされて殺害されたという説もあり、近年の調査では、殺害説のほうが有力である。
また、1947年末からパレスチナの地にユダヤ人国家を建設しようとする動きが強まると、スターリンは、ソ連のユダヤ人が反ソ的行動に走るのではないかと危惧する。
そこで、スターリンは、1948年1月、「ユダヤ人反ファシスト委員会」の議長で俳優・舞台監督のソロモン・ミヘルスを、自動車事故を装って殺害した。そして、11月には、「委員会は反ソ宣伝センター」であるとして解散させ、主要メンバーを逮捕した。
スターリンを手本にするプーチン
KGB出身のプーチンが手本としたのはスターリンである。
第二次世界大戦後、1953年3月にスターリンが死去した。その後も、反体制派は弾圧され、国内流刑や国外追放に処せられた。しかし、スターリン後継のフルシチョフ、ブレジネフ時代以降、処刑された者はいない。
ところが、プーチン時代になって、反体制派は、裁判によらずに、毒殺されたり、射殺されたり、不審な死を遂げたりするようになった。スターリン時代に先祖返りである。
たとえば、2006年10月には『ノーヴァヤ・ガゼータ』紙のアンナ・ポリトコフスカヤ記者が自宅アパートのエレベータ内で射殺された。彼女はチェチェンでの人権抑圧について報道し、プーチン政権やFSB(ロシア連邦保安庁)を厳しく批判していた。
翌月には元KGB・FSB職員のアレクサンドル・リトビネンコが亡命先のイギリスで死亡した。放射性物質ポロニウム210による殺害である。リトンビネンコは、チェチェン介入の口実にされた連続爆破事件はFSBの謀略だったと告発した人物である。
2015年2月には、エリツイン時代に第一副首相に抜擢されたボリス・ネムツォフが、モスクワ川の橋の上で銃撃されて死亡した。ネムツォフは、プーチン政権を厳しく批判し、とくにウクライナへの軍事介入に強く反対していた。
2023年8月には、民間軍事会社ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジンが、自家用ジェット機の墜落で死亡した。
これらの事件には、FSBが関与していると見られている。
また、反体制派活動家ウラジーミル・カラムルザが、2023年4月に国家反逆罪などで禁固25年の判決を言い渡された。1999年にプーチンが大統領代行に指名されて権力を掌握して以来、最も重い実刑判決である。
カラムルザは、ロシアとイギリスの国籍を持つジャーナリストで、ロシアのウクライナ侵攻を厳しく批判し、2022年4月に警察に拘束された。カラムルザは、2015年と2017年に意識不明の重体になったが、FSBによって毒を盛られたと主張している。彼もまた、ナワリヌイと同じ運命を辿る可能性がある。
プーチンは、「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥に対しても「飴と鞭」で対応した。
たとえば、大統領選で自分を支援したボリス・ベレゾフスキーがキングメーカー気取りの振る舞いをしたため、検察に不正を追及させた。そのためベレゾフスキーは2000年にイギリスに亡命するが、2013年に3月25日、ロンドンの自宅で「自殺」している。
さらに、プーチンは、石油会社「ユーコス」社に狙いを定めて、CEOを務めるミハイル・ホドルコフスキーを脱税などの容疑で2003年10月25日に逮捕し、シベリアの刑務所に収監した。その結果、ユーコスは破産し、国営石油会社「ロスネフチ」の手に渡った。ホドルコフスキーは、2013年に恩赦で釈放され、イギリスに亡命した。
プーチンは、自分に忠誠を誓い、献金するオリガルヒは弾圧しなかった。
プーチンのロシアは、民主主義からますます離れた地点に向かっている。
●ロシア国防相「ドニエプル川東岸を回復」「ウクライナ軍の掃討完了」と報告 2/21
ウクライナ侵略を続けるロシアのショイグ国防相は20日、プーチン大統領と面会し、南部ヘルソン州のドニエプル川東岸に位置する集落クルインキで露軍がウクライナ軍部隊の掃討を完了し、東岸全域の支配権を回復したと報告した。ショイグ氏は同日、タス通信のインタビューにも応じ、ウクライナ軍が昨年6月に着手した反攻に終止符が打たれたとの考えを示した。
ウクライナ軍は現在、露軍の前進を食い止める防衛戦術に移行。突出部となっていたクルインキの重要性は低下しており、露軍による奪取が事実だったとしても戦局への影響は限定的だとみられる。ウクライナ側は20日時点でクルインキの状況に言及していない。
ショイグ氏のインタビューの様子は国営テレビも放送した。3月に大統領選を控えるプーチン政権は、今月17日の東部ドネツク州アブデーフカ制圧に続くクルインキの奪取で露軍が優勢であると国民に示し、プーチン大統領の再選に弾みをつける思惑だとみられる。
ヘルソン州では2022年11月、ウクライナ軍が州都ヘルソンを含むドニエプル川西岸を奪還。以降、ドニエプル川東岸を支配する露軍と、西岸を保持するウクライナ軍が川を挟んでにらみ合いを続けてきた。
ウクライナ軍は23年秋、ドニエプル川を渡河し、クルインキ周辺に拠点を確保。ロシアの実効支配下にある南部クリミア半島方面に進軍するための足掛かりとする狙いが指摘された。
東部の戦況に関し、ウクライナ軍の現場部隊の副司令官は20日、アブデーフカを掌握した露軍が次の目標として西方の集落ラストチキノの制圧を狙っているとの見方を示した。ウクライナ軍高官は20日、南部ザポロジエ州の最前線の集落ロボティネ周辺でも露軍が攻勢に出ていると報告した。
●ナワリヌイ氏の母親「息子に会わせて」死因は… 政権批判で“謎の死” 2/21
急死したロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏の妻ユリアさん。「プーチンが夫を殺した」と語り、夫の遺志を継ぐと宣言しました。さらに20日夜、公開されたメッセージで、ナワリヌイ氏の母は「息子に会わせて」と訴えています。
ナワリヌイ氏が死亡したとされる今月16日、夜中に撮影された防犯カメラの映像です。
ロシアの独立系メディアは、後ろのミニバスにはナワリヌイ氏の遺体が乗せられていて、遺族らが刑務所に確認に来る前に、意図的に隠そうとしたのではないかと指摘しています。
19日、ロシア当局は、遺族に遺体は14日間引き渡さないと通告。20日夜に公開されたビデオメッセージで母親は、次のように話しました。
ナワリヌイ氏の母親「私は5日間息子に会えていません。彼の遺体を引き取ることができていません。どこに遺体が安置されているのかすら教えてくれません。私の息子に会わせてください」
いまだ明らかにされていない、ナワリヌイ氏の死因。活動をともにしてきた妻のユリア氏は19日に公開されたYouTubeで…
ナワリヌイ氏の妻 ユリア氏「3日前にプーチンが私の夫を殺害しました」
“プーチン大統領が最愛の夫を殺害した”と強く訴えました。
“反プーチンのカリスマ”で反体制派の指導者として知られていたナワリヌイ氏。去年12月からは政権を批判した「過激主義」などの罪で北極圏にある刑務所に服役中でした。
亡くなる前日にはオンライン裁判に参加。裁判官に笑顔で冗談を言う様子もありましたが、この翌日、ナワリヌイ氏は亡くなりました。
遺族らはロシア当局から「突然死症候群」だと告げられたといいますが、ロシアの独立メディアは遺体に「あざ」があったと救急隊が語っていると伝えています。
ロシアではこれまでもプーチン政権を批判し、“謎の死”を遂げた人がいます。
去年8月、乗っていた小型機が墜落し民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が死亡。さらに、ウクライナメディアは、去年ロシアからウクライナに亡命した元パイロットがスペインで死亡したと伝えました。男性は何者かに殺害されたとみられています。
ロイター通信によると、ロシア側は殺害への関与についてコメントはしていません。
ナワリヌイ氏の妻 ユリア氏(YouTubeより、19日公開)「私は夫の活動を引き継いで我が国のために戦いを続ける。自由で平和で幸せなロシアの未来、素晴らしいロシア、それを私の夫は夢見ていました。みなさんも何も恐れないでください」
そして、タス通信によると、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、日本時間20日夜、ナワリヌイ氏の死にプーチン大統領が関与しているという疑惑について「全く根拠がない」と述べています。
●ロシア軍、攻勢強化 アブデーフカの成功推進=プーチン氏 2/21
ロシアのプーチン大統領は20日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝アブデーフカでの成功をさらに推し進めるために、ロシア軍は攻勢を強めると述べた。
プーチン氏は、ウクライナがアブデーフカからの撤退を発表したのは兵士が混乱して敗走し始めた後だったと指摘。ショイグ国防相に対し「アブデーフカの全体的な状況は絶対的な成功だった」とし、「さらに発展させなくてはならない」と述べた。
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は17日、アブデーフカから部隊が撤退したと表明。ロシアにとって同州バフムトを掌握した昨年5月以来の大きな戦果となった。 もっと見る
ウクライナのクレバ外相はCNNに対し、米議会が大規模な支援策を承認し、ウクライナが米国から兵器の供給を受けていれば、アブデーフカは陥落しなかったとし、「ロシアは一時停止も撤退も視野にない。アブデーフカ制圧後は間違いなく別の都市に対する攻撃を始める」と語った。
●「帰りたくても帰れない」ウクライナ避難民 日本での長期滞在の希望者が増加 2/21
ロシアによる軍事侵攻からまもなく2年となる中、日本に逃れた2000人余りのウクライナ避難民のうち、長期の滞在を希望する人が増えています。きょう、避難者のひとりは「帰りたいが帰ることはできない」と複雑な思いを語りました。
ウクライナ避難民 ボヤルチュック・ジュリアさん(30)「帰りたくても帰れないです。自分の両親のためにも体を大事にして、頑張りたいと思います」
きょう都内で会見したウクライナ避難民の女性。家族はウクライナ西部にいますが、ともに来日した夫の出身地がロシアに併合されたことなどから日本への長期滞在を希望しています。
きょう発表された日本財団の調査によりますと、日本に逃れたウクライナ避難民のうち、こうした希望を持つ人は回答者の4割近くにのぼり、2022年12月に比べ大きく増加していることがわかりました。
きょうの会見には、ウクライナに残してきた母親が病に倒れたため帰国を決めたという22歳の女性も参加し、「帰国するのは悲しいがやむをえない」と語りました。
日本財団では今後、帰国を希望する避難者への支援も行っていくとしています。
●欧州の本気、遅すぎたか ウクライナ砲弾支援「北朝鮮に負けるのか」 2/21
11月の米大統領選に向けて同盟国を軽視するトランプ前大統領が勢いを増し、欧州はロシアに侵略されるウクライナへの軍事支援で窮地に立たされている。欧州連合(EU)ではドイツを中心に兵器増産の体制づくりが急ピッチで進むが、砲弾供給は目標に遠く届かない。「対応が遅すぎた」との焦りが広がる。
ドイツでは最近、防衛大手ラインメタルが新たな砲弾工場の建設を始めた。年間20万発の生産ラインができる。ショルツ独首相は隣国デンマークの首相と12日の起工式に出席し、「欧州は砲弾の大量生産が必要だ」と意欲を語った。
需要に応じるまで「10年」
ただ、工場のフル稼働は2年以上先だ。同社の経営トップは英BBC放送で、ウクライナと欧州の需要に応じる態勢が整うまでには「10年かかる」と述べた。
ドイツの軍事専門家は「砲弾供給問題は1年半前に分かっていた。欧州政治のせいで対応が遅れた」と指摘する。EUはウクライナ支援総額で昨年、米国をしのいだが、軍需産業は短期間で育成できない。
ドイツはこれまで常に米国の動きを見ながら軍事支援を決め、EU内では慎重派だった。バイデン政権の下で米国の支援にブレーキがかかったのは誤算であり、EU最大の経済国として突然、旗振り役を担わざるをえなくなった。
ロシアの製造力は10倍に
EUを震撼(しんかん)させたのは、北朝鮮が昨年8月以降、ロシアに砲弾100万発を送ったことだ。韓国の報告で明らかになった。
EUは今年3月までの1年間でウクライナに砲弾100万発を送る計画だったが、実際に1月までに提供できたのは33万発。目標には遠く及ばない。ボレルEU外交安全保障上級代表は1月末の記者会見で「域内の砲弾製造力は2年で4割増し、年間100万発になった。年末には140万発になる」と釈明した。
エストニアの分析によると、ロシアの砲弾製造力は今年、年間450万発になり、3年前の10倍に増える。性能や安全性で米欧製に劣っても、消耗戦では物量がモノを言う。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2月1日、EU首脳会議で北朝鮮の対露支援に触れ、「負けてはならない」といらだちを語った。
独仏の足並みはそろわず
ロシアの脅威が強まり、欧州各国はウクライナ支援と国防強化を同時に迫られることになった。
EUではフランスのマクロン大統領が「米国依存からの脱却」を掲げて独自安保を唱道してきた。だが、独キール世界経済研究所によると、フランスはウクライナ軍事支援の上位10カ国に入っていない。総額ではドイツの約25分の1。ウクライナ支援を主導する米国とは距離がある。
ショルツ氏は「欧州の支援は不十分」と言い、フランスを暗に批判した。そのドイツも慎重姿勢が抜けない。ウクライナの要求をかわし、長射程巡航ミサイル供与を拒んでいる。
仏独の国防費は今年、ようやく北大西洋条約機構(NATO)の目標である国内総生産(GDP)比2%に達する。ロシアがウクライナ戦争で勢いを得て、「数年内にNATO加盟国を侵略する」という予測がドイツやデンマークで飛び交う中、欧州は「トランプ氏再登板」のシナリオにおびえている。
欧州、米国に兵器調達の6割依存
国防増強を進める欧州各国は、兵器調達では域外に依存する。フランスの研究機関、国際関係戦略研究所(IRIS)によると、2023年6月までの1年間、欧州連合(EU)加盟国の兵器は78%がEU域外で調達された。米国だけで63%に上る。
ウクライナ戦争は最新鋭兵器の「見本市」の様相を呈した。米国の高機動ロケット砲システム「ハイマース」はポーランドやバルト諸国が購入を決定。自爆型の無人機「スイッチブレード」はフランスやリトアニアが契約意欲を示す。
米最新鋭戦闘機F35の購入も進んだ。ロシアのウクライナ侵略前、欧州配備は約120機だったのが、2030年には600機になる見込み。欧州としては、ウクライナ侵略を受けNATOで指導力を発揮する米国との関係をさらに強化しようとの狙いもあった。
EUの域外調達では、韓国が米国に次ぐ。ウクライナ支援で枯渇した欧州の武器庫を迅速な供給で支えた。韓国製のK2戦車はポーランドが大量購入。K9自走砲はノルウェーやフィンランドに続き、ルーマニアが購入意欲を示す。トルコの攻撃型無人機バイラクタルもロシア軍戦車への攻撃で威力を発揮し、注目を集めた。
●ロシア、東部戦線で攻勢も…戦死者増加 ウクライナ侵攻からまもなく2年 2/21
ウクライナ侵攻からまもなく2年を迎える中、ロシアは東部戦線で攻勢をかけていますが、多くの死傷者もでているとみられます。サハリン州知事の公表では、去年の秋以降、死者の数が増え続けています。
サハリン州の州都では去年12月、英雄と刻まれた戦死者の慰霊碑がたてられ、追悼式が行われました。
サハリン州・リマレンコ知事「私たちは息子たちの最後の旅を見送る場所に集まりました」
サハリン州のリマレンコ知事は、ロシア政府が死者数を明らかにしない中、毎日のように地元出身の戦死者名をSNSで公表しています。
侵攻以降の戦死者をNNNで集計したところ、20日までに443人。東部で「人海戦術」が始まったとされる去年秋以降は、多い月には43人とそれまでに比べて倍増しています。
リマレンコ知事は、プーチン大統領の「部分的動員」発表後、異例の早さで兵士を集めるなど、大統領に忠実な姿勢を示してきました。
情報を公開している背景には、戦死者を英雄としてたたえることで、軍事作戦に対する市民の反発を抑える狙いがあるとみられます。
戦死者の友人「彼は今、良い場所(天国)にいると思う。英雄的な死を遂げた。とても正しい人生を送った」
ウクライナ東部の戦闘で優位にたちつつあるとされるロシア側でも、戦死者は増え続けています。
●G20外相会合でガザとウクライナが大きくクローズアップされる 2/21
・停戦に関する国連安保理の新決議案は、ハマスが拘束している人質の解放など、現在進行中の交渉を危うくするとして、火曜日に米国によって拒否された。
・日曜日にルーラがイスラエルのガザ戦争をヒトラーのユダヤ人扱いと比較した後、イスラエルは月曜日にルーラは歓迎されないと述べた。
G20外相会合は水曜日、ブラジルで2日間の日程で開幕する。ガザとウクライナの戦争から二極化の進展に至るまで、紛争と危機という茨の道程の進展には暗い見通しがある。
アントニー・ブリンケン米国務長官とセルゲイ・ラブロフ・ロシア外相は、今年最初のG20ハイレベル会合にリオデジャネイロで出席する。
紛争と分裂に引き裂かれた世界において、12月にインドから持ち回りでG20議長国を引き継いだブラジルは、ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領が言うところの “国際的なアジェンダにポジティブな影響を与える最大の能力を持つフォーラム “への期待を表明している。
しかし、このベテラン左翼が日曜日に、ガザ地区での軍事作戦をホロコーストになぞらえ、イスラエルを「ジェノサイド(大量虐殺)」と非難したことで、外交的大炎上となった。
この発言はイスラエルの怒りを買い、イスラエルはルーラを「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」と宣言した。
「ルーラがイスラエルやウクライナの和平決議案を提案すると思っていたのなら、それはテーブルから消えただけだ」と国際関係の専門家イゴール・ルセナはAFPに語った。
10月7日のハマスによるイスラエルへの前代未聞の攻撃で始まったガザ紛争から4ヶ月以上が経過し、イスラエルは報復としてイスラム主義グループを一掃すると宣言しているが、和平に向けて前進する兆しはほとんどない。
停戦に関する新たな国連安全保障理事会決議は火曜日、ハマスが拘束している人質の解放を含め、現在進行中の交渉を危うくするとしたアメリカによって拒否された。
ロシアのウクライナでの戦争についても、G20メンバーの意見は分かれている。
欧米諸国がプーチン大統領のウクライナ侵攻を非難するよう働きかけたにもかかわらず、9月にニューデリーで開催された前回のG20サミットでは、武力行使を非難するものの、インドやブラジルといったG20メンバーと友好関係を維持しているロシアを明確に名指しすることはなく、水増しされた声明に終わった。
ウクライナの同盟国であるイギリス、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、アメリカからなるG7は、ロシアの侵攻から2周年となる土曜日に、戦争に関する独自の仮想会合を開催する予定だ。
リオのウォーターフロントにあるマリーナで開催されるG20会合は、「国際的緊張への対処」に関するセッションで幕を開ける。
国連、IMF、世界銀行といった機関において、グローバル・サウス(南半球)の発言力を高めたいと考えているブラジルにとっては、お気に入りの問題である。
「紛争の数と深刻さは冷戦のレベルに戻っている。G20政治交渉におけるブラジルのトップ外交官、マウリシオ・リリオ氏は、「この問題は新たな緊急性をもたらしている。
「新たな紛争を防ぐために、国際システムを適応させる必要がある。「いまは火消しをしているだけだ」。
ブラジルはまた、G20議長国として貧困や気候変動との闘いを推し進めたいと考えている。
しかし、ロシアの野党指導者アレクセイ・ナヴァルニーの獄中死に対する緊張が爆発していることを考えると、ブリンケンとラブロフが会談する可能性は低そうだ。
ブリンケンとラブロフが最後に直接会談したのは、2023年3月にインドで開催されたG20の会合だった。
1999年に設立された20カ国・地域(G20)は、世界最大の経済大国のほとんどが参加している。
もともとは経済フォーラムだったが、国際政治への関与が強まっている。
しかし、アメリカやロシアといったG20の主要メンバー国を含む約50カ国で選挙が行われる今年は、このグループを通じた大きな前進の見込みは薄いとルセナは言う。
「大きな合意に達するのは難しいだろう。
「紛争を解決するのに有利な環境ではない。それどころか」。
あるブラジル政府筋によると、最近のG20ではコンセンサスを得るのに苦労したため、11月にリオで予定されている年次首脳会議を除いて、すべての会議で共同声明を発表することを義務づけたという。
●米露、国連最高裁判所でイスラエル占領について発言へ 2/21
・50カ国以上が2月26日まで弁論を展開
・今回の審理は、イスラエルのガザ戦争に対する政治的圧力を高める可能性がある。
米国とロシアは水曜日、国連最高裁判所でイスラエルのパレスチナ地域占領の合法性を検証する手続において弁論を行う。
世界裁判所としても知られる国際司法裁判所(ICJ)は、2022年に国連総会から、占領の法的結果について拘束力のない意見を出すよう要請された。
参加しないイスラエルは、裁判所の関与は交渉による解決に悪影響を及ぼす可能性があると文書でコメントした。ワシントンは2022年、裁判所が意見を出すことに反対し、水曜日には占領の合法性について裁定することはできないと主張する見込みである。
2月26日まで50カ国以上が弁論を行う。エジプトとフランスも水曜日に発言する予定である。
月曜日、パレスチナの代表は、イスラエルによる占領を違法と宣言するよう裁判官に要請し、その意見は2国家解決に役立つと述べた。
火曜日には、南アフリカを含む10カ国が、占領地におけるイスラエルの行為を圧倒的に批判し、その多くが裁判所に占領の違法を宣言するよう求めた。
ハマスによる10月7日のイスラエル攻撃に続くガザでの暴力の急増は、中東におけるすでに根深い不満を複雑化させ、和平への道筋を見出そうとする努力にダメージを与えている。
国際司法裁判所(ICJ)の15人の裁判官からなる委員会は、イスラエルの「占領、入植、併合……聖地エルサレムの人口構成、性格、地位を変更することを目的とした措置を含み、関連する差別的な法律や措置の採用から」見直すよう要請されている。
裁判官たちは、占領の法的地位と国家への影響についても検討するよう求めている。
イスラエルは2004年、ヨルダン川西岸地区におけるイスラエルの分離壁は国際法に違反し、撤去されるべきであるとした世界法廷の意見を無視した。それどころか、壁は拡張されている。
今回の公聴会は、ハマスが10月7日にイスラエルを攻撃して以来、ガザの保健当局によれば約29,000人のパレスチナ人を死亡させた、イスラエルのガザにおける戦争に対する政治的圧力を高める可能性がある。
イスラエルは、1967年の紛争でヨルダン川西岸地区、ガザ地区、東エルサレム地区(パレスチナ人が国家建設を望む歴史的パレスチナ地域)を占領した。イスラエルは2005年にガザから撤退したが、隣国エジプトとともにいまだに国境を支配している。
イスラエルの指導者たちは、領土は主権を持つパレスチナからではなく、1967年の戦争中にヨルダンとエジプトから獲得されたものであるとして、正式な占領地であることに長い間異議を唱えてきた。
●ウクライナ外相、民主主義への関与を改めて表明 戦争で選挙日程不明も 2/21
ウクライナのクレバ外相は20日、CNNの取材に対し、ロシアとの戦争が続くなかで今年選挙が実施されるかどうか見通せないものの、ウクライナはしっかりと民主主義に関与すると述べた。
ウクライナでは通常、5年ごとに選挙が行われる。最後に選挙が行われたのは2019年で、このときに、ボロディミル・ゼレンスキー氏が大統領に選出された。22年2月にロシアによる全面侵攻が始まって以降、ウクライナには戒厳令が敷かれており、選挙が実施されることはない。
ゼレンスキー氏は昨年11月、戦時中に選挙を実施することは「無責任」だとの見方を示した。選挙は今年の3月31日に予定されていた。
クレバ氏は「人々はただ投票に行くのを恐れるだろう」と述べた。
選挙が行われないのであれば、ウクライナにとって民主主義は何を意味するのかとの質問に対し、クレバ氏は「まず、民主主義国でなければ、ロシアからの攻撃を生き延びることはできないし、我々が民主主義国であり続けなければ、この戦争に勝つことはできない」と述べた。
クレバ氏は「選挙を実施する気があるのかないのかの問題ではない。これは非常に具体的な質問に対する答えを見つける問題だ。投票所に行く有権者の安全をどう確保するのか」と語った。
●ウクライナ侵攻2年 揺れるEU諸国 ロシアの隣国エストニアは 2/21
ロシアによるウクライナへの侵攻からまもなく2年。先週、激しい戦闘の末、東部の拠点がロシア軍に掌握されました。
しかし、最大の支援国アメリカでは、秋の大統領選挙で返り咲きを目指すトランプ前大統領が支援に消極的な姿勢で、不透明感が一段と増しています。
こうした中、重要度が増しているのが、EU=ヨーロッパ連合です。しかし、そのEUでも足並みの乱れ、「支援疲れ」が表面化してきています。
EU加盟国のエストニアとイタリアの状況を取材しました。
エストニア “ウクライナ支援以外の選択肢ない”
ロシアと国境を接するバルト三国の一つ、エストニアは1940年以降、およそ50年にわたって旧ソビエトに併合され、7万5000人を超える人が命を奪われたり強制移住させられたりしたとしています。
1991年の独立後もロシアに対する警戒感は強く、エストニアの情報機関は2月13日に公表した報告書で、ロシアがこの先数年で、エストニアとの国境近くに配置する部隊を侵攻開始前の2倍に増強する可能性を指摘しました。
エストニア軍は国内に駐留するNATO=北大西洋条約機構の多国籍部隊と演習を重ねていて、2月10日に行われた合同演習は厳しい寒さの中、国の南部から敵が侵攻してきたという想定で行われました。
エストニア陸軍第1歩兵旅団のアンドルス・メリロ司令官は「演習は実際の戦争に備えたものだ。ロシアに対する優位性を高めようとしている」と強調しました。
ロシアについて市民からは「これまではロシアに攻撃されるかどうかが問題だったが、いまの問題はいつ攻撃されるかだ」とか「エストニアはロシアとヨーロッパの緩衝地帯のようなものなので攻撃を受けやすい。とても懸念している」などという声が聞かれました。
エストニアはウクライナがロシアに負ければ自国にとっての脅威がさらに増すと考え、ウクライナに対する軍事支援を積極的に行ってきました。
これまでの軍事支援はりゅう弾砲や対戦車ミサイル、対戦車地雷など5億ユーロ、日本円でおよそ800億円に上ります。
GDP=国内総生産に占める割合は1.4%でEU=ヨーロッパ連合のなかでもっとも高い国の一つです。
エストニアはいま、EU加盟国をはじめ欧米諸国に毎年、GDPの0.25%をウクライナへの軍事支援に充てるよう呼びかけています。
NHKのインタビューに応じたペフクル国防相はこの支援額について「過去2年に各国が供与した軍事支援の総額を上回る規模になり、ウクライナを勝利に近づけるのに大いに役立つ。またプーチン大統領やロシア軍の参謀本部に対し、そっちがやるならこっちもやるのだというメッセージにもなる」と意義を強調しました。
そして「ロシアは今もこれからもNATOすべての加盟国にとって脅威だ。われわれにはウクライナを支援する以外の選択肢などない」と述べ、各国に対し支援の強化を改めて訴えました。
イタリア “軍事支援より生活守って” インフレ加速
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻でヨーロッパでは天然ガスの価格が高騰しインフレを加速させました。
イタリア有数の工業地帯、北部ミラノの近郊で自動車のエンジン用のボルトを作っている会社では、強度を増すための加熱処理に大量のガスを使います。
ガスの値上がりの影響はいまも続いているといいます。
ブルーゴラ社長は「エネルギーとガスのコストは侵攻前の2倍以上になっていると言わざるをえない。すべてが、わが社にとって大きな打撃となった」と話していました。
まちの人からも「ウクライナは大変な状況なので支援するのは正しいと思うが、国内の現実に目を向けることも必要だ」とか「今回の侵攻の影響で生活が困窮しているイタリア人が国内にたくさんいる」など、ウクライナへの軍事支援よりもイタリアの人々の生活を守るために予算を使うべきだという声が聞かれました。
イタリアの連立与党「同盟」のロメオ上院議員によりますと、こうした世論を背景に与党内からも戦争を終わらせるための外交努力をするべきだという声が出ているといいます。
ロメオ上院議員は「こう着している戦況を、軍事的に解決することはできない。ヨーロッパだけでなく世界中で人々は戦争の影響を感じている。外交交渉を早く始めれば始めるほど、戦争を早く終わらせられる可能性がある」と話していました。
EU世論調査 軍事支援への支持は国によって差
EUの世論調査からは、ウクライナへの軍事支援に対する支持は全体として時間がたつごとに下がる傾向にあり、国によって差があることが見てとれます。
侵攻が始まった2022年の6月から7月にかけて行われた調査では、EU全体でウクライナへの軍事支援を支持すると答えた人は68%、それが去年の1月から2月にかけて行われた調査では65%、去年の10月から11月にかけて行われた調査では60%でした。
また去年10月から11月の調査の結果を国別にみると、スウェーデンが91%、フィンランドが90%、ポーランドが85%など、ロシアの脅威をより強く感じているヨーロッパの北部や東部の国で支持が高い一方、ブルガリアやキプロスでは31%、ギリシャでは37%など、ロシアとの経済的なつながりが強かった国などでは低い傾向となっています。
このうち、ことしのG7議長国でもあるイタリアは、おととしの6月から7月に比べて「支持する」と答えた人が57%から51%に減る一方で、「支持しない」と答えた人が37%から44%に増え、その差が縮まってきています。
EUによる支援の遅れ指摘も
EU=ヨーロッパ連合の加盟国はこれまで軍事支援として各国がそれぞれ、戦車や防空システム、りゅう弾砲や砲弾などをウクライナに供与してきました。
EUとしても、侵攻当初から、加盟国がウクライナに兵器を送る費用の一部を負担することで各国の支援を支えてきました。
EUによると加盟国とEUによる軍事支援の総額は、ことし1月末の時点で280億ユーロ、日本円にして4兆5000億円規模に上ります。
一方でEUはことし3月までにウクライナに100万発の砲弾を供与する目標を掲げましたが、3月までに供与できるのはおよそ半分の52万発余りにとどまるとみられ、支援の遅れも指摘されています。
また、加盟国の兵器供与を支援するためのEUの基金についても、50億ユーロ、8000億円余りの積み増しを目指して協議を続けていますが、一部の国の反対で合意できていません。
こうした中、フランスやドイツなどが2月に相次いで追加の軍事支援を発表するなどウクライナ支援を継続していく姿勢を打ち出しています。
専門家「欧州各国の立場が二分化する傾向強まる」
EU本部があるベルギーのシンクタンク、ヨーロッパ政策研究センターのブロックマンズ上席研究員は、ウクライナへの軍事支援をめぐるEU加盟国間の議論について「当初は基本的に早く進んだが、戦争が今後も相当期間続くとみられ、ますます資金が必要となる中、交渉に時間がかかるようになっている。ウクライナについてのニュースが絶え間なく報じられた2年がたち、人々は国内の問題に目を向けるようになっている」と述べ、加盟国の間で支援疲れも見られるという認識を示しました。
そして「戦争に疲れ、これ以上、資金を負担したくないと思っている国は、さらにアメリカでのトランプ氏の返り咲きの可能性も視野に入れ、ロシアに対して融和的な動きを見せるだろう。停戦合意、さらには和平協定に向けた交渉により前向きになるだろう。一方でそうした動きに自国の存在にかかわる危険を感じている国もある」と述べ、ことしはヨーロッパ各国の立場が二分化する傾向が強まると指摘しました。
ブロックマンズ氏は今後のEUでの議論について「バルト三国などはロシアの脅威を繰り返し訴え、侵攻直後は正論と受け止められてきたが、今後はこうした国に対する疲れもヨーロッパのほかの国に出てくる可能性がある。バルト三国などは今後の議論で脇に置かれてしまうリスクが出てきている」としています。
その上で「2024年は、ウクライナにとっても厳しい年になるし、ヨーロッパにとっても、軍事支援に必要な予算を確保する政治的意思を奮い起こすことが、難しい年になるだろう」と述べことしはEUとしてまとまって軍事支援を続けていくうえで正念場になるという見通しを示しました。
●制裁 忍耐と執拗さ必要…英王立防衛安全保障研究所 2/21
対ロシア制裁に関して先進国は過ちを二つ犯した。一つは、いくつかの国の指導者が誤ったメッセージを発し、「制裁がロシア経済を壊滅させる」という印象を与えたことだ。実際以上の効果を国民に期待させたばかりか、「国内総生産(GDP)を見てみろ。制裁は何の影響も及ぼしていない」とロシアが反論する余地を作ってしまった。
もう一つは、制裁の波及的な影響を受ける国々に適切な支援を行わなかったことだ。食料やエネルギーの価格が高騰した際、ロシアはいち早く外相らをアフリカに派遣し、「あなたたちが苦しんでいるのは西側諸国の制裁のせいだ」と言って手を差し伸べた。ロシアは外交上、大きな成果を得た。
ある欧州の外交官は、対露制裁を徐々に空気が抜けていくタイヤのパンクにたとえた。制裁によって一夜にしてロシア経済が立ち行かなくなるとか、欧州経済が突如としてロシア経済と分断するといったことを期待するのは無理がある。忍耐強さと 執拗 さが必要だ。
我々は(ロシアがウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合した)2014年にも制裁を発動したが、圧力を維持できなかった。当時のように制裁をやめることはないとロシアに示さないといけない。
制裁の目的についても現実的になるべきだ。最も重要なのはロシア軍が資金や資源を得にくくし、ハイテク兵器を製造する能力を削減することだ。新興・途上国に制裁を履行するよう迫るのではなく、ロシアの収入を減らす方法を考えればいい。
たとえば先進国が支援を増やせば、多くの国はロシア産小麦の輸入を減らせる。制裁回避を手助けする企業や個人に対しては、更に 毅然 とした対応を取るべきだ。我々にできることはもっとある。
●投降のロシア軍元兵士 “スペインで何者かに銃撃され死亡” 2/21
スペインなどのメディアは、ロシア軍のミル8型ヘリコプターのパイロットとして去年8月にウクライナ側に投降したロシア軍の元兵士について今月13日、スペイン南東部のアリカンテ近くの町にある地下駐車場で、何者かに銃で撃たれて死亡しているのが見つかったと19日、報じました。
メディアによりますと、死亡したのは、ロシア軍の元兵士、マクシム・クジミノフさん(28)で、偽のパスポートを使ってウクライナからスペインに身を移し暮らしていたということです。
ロシアの国営テレビは去年10月、ロシア国防省のGRU=軍参謀本部情報総局の特殊部隊の隊員がこの元兵士について「必ず見つけ出し、裏切り者は罰する」と話すインタビューを放送していました。
また、プーチン大統領の側近で、対外情報庁のナルイシキン長官は20日、ロシアメディアに対し、元兵士が遺体で見つかったことについて「この裏切り者の犯罪者は、汚らわしい犯罪を計画していた時に、すでに道徳的には死んでいた」と述べ、ウクライナ側に投降したことを激しく非難しました。
元兵士が殺害された背景などは分かっていませんが、ロシアでは今月16日にプーチン政権を批判していた反体制派の指導者ナワリヌイ氏の死亡が発表されたこともあって欧米メディアは、元兵士の死亡についても関心を持って伝えています。
●ウクライナ東部の拠点制圧、プーチン氏「完全な成功」… 2/21
ロシアのプーチン大統領は20日、セルゲイ・ショイグ国防相と面会し、露軍によるウクライナ東部ドネツク州アウディーイウカの制圧作戦について「完全な成功だった」と強調した。プーチン氏には自国軍がアウディーイウカの制圧に多大な犠牲を払ったとの印象を 払拭 する狙いがあるとみられる。
ショイグ氏も20日のタス通信のインタビューで、アウディーイウカを「最小限の損害」で攻略したと主張した。
ウクライナ軍は、昨年10月以降のアウディーイウカを巡る戦闘での露軍の損失が、「約4万7000人」に上ると主張している。
英国防省は20日、アウディーイウカを攻略した露軍部隊の戦闘能力が低下していると指摘した。露軍は部隊の再編と回復に一定期間を充てた上で、占領地の拡大を徐々に狙うとの見方を示した。
●プーチン大統領 “アウディーイウカ掌握 重要な戦果” 2/21
ロシアのプーチン大統領は激戦となっていたウクライナ東部のアウディーイウカを掌握し、重要な戦果だと強調した上で「この成功を発展させる必要がある」と述べ、軍事侵攻を推し進める姿勢を示しました。
ロシアのプーチン大統領は20日、クレムリンでショイグ国防相からウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカをロシア軍が掌握したと報告を受け国営テレビなどがこの様子を伝えました。
プーチン大統領は「すべての兵士たちに最高の栄誉を与えたい。ロシアの軍事作戦の歴史で特別な1ページとなった」とたたえました。
そのうえで「間違いなく成功だ、おめでとう。この成功を発展させる必要がある。兵力や武器、弾薬などを十分に準備しなければならない」と述べ軍事侵攻を推し進める姿勢を示しました。
ウクライナへの侵攻から今月24日で2年となるのを前にアウディーイウカの掌握は重要な戦果だとして国民にアピールする思惑があるとみられます。
また、プーチン大統領は、ウクライナ軍が去年、奪還したとしていた南部ヘルソン州のドニプロ川の東岸地域にある拠点クリンキの集落について、ロシア軍が再び掌握したと主張しウクライナ側の反転攻勢を撃退していると強調しました。
一方、アメリカのメディアが今月、複数の議会関係者の話としてロシアが宇宙空間に核兵器を持ち込み、人工衛星を標的にする可能性があるとする情報をバイデン政権が得ていると伝えていますが、プーチン大統領は「アメリカなどが最近騒いできたが、われわれは宇宙での核兵器の配備は断固として反対している」と否定しました。
米カービー大統領補佐官「ロシアは侵攻当初から補給面で苦労」
ロシア政府がウクライナ東部のアウディーイウカを掌握したと発表したことについてアメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は20日、記者団に対しロシア軍はアウディーイウカが東部ドネツク州などでの軍事作戦の補給や司令の拠点になると考え、攻勢を強めてきたという見方を示しました。
そして「ロシアは侵攻当初から補給面で苦労してきた。アウディーイウカを掌握したからといって戦場で軍を維持することに成功するとはいえない」と指摘しました。
その上で「ゼレンスキー大統領が撤退を決断したのは賢明な判断で、ウクライナ軍は貴重な資源を守ることができた」と述べ、アウディーイウカからの撤退はウクライナ軍にとって軍事作戦全体の変更を迫られるものではないとの見方を示しました。
一方で「撤退はウクライナが勇敢でなかったからではなく、アメリカ議会が対応をとらなかったからだ」と述べ、ウクライナへの軍事支援を盛り込んだ緊急予算案に反対する野党・共和党を批判しました。
●プーチン大統領 ウクライナ東部要衝制圧“重要な成果”アピール 2/21
ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部の要衝アウディーイウカの制圧を重要な成果だとしたうえで、「この成功を発展させる必要がある」と述べ、侵攻を継続する姿勢を示しました。
ロシア プーチン大統領「(アウディーイウカの制圧は)文句なしの成功だ。おめでとう。この成功を発展させていく必要があるのは明らかだ」
プーチン大統領は20日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝アウディーイウカ制圧についてショイグ国防相から報告を受け、「この成功を発展させていく」として、兵員や武器、弾薬の準備を指示しました。
ウクライナ侵攻からまもなく2年を迎え、来月には大統領選を控える中、アウディーイウカの制圧を重要な成果として国民にアピールするとともに、侵攻を継続していく姿勢を示した形です。
一方、ロシアが宇宙空間に核兵器を配備しようとしていることをアメリカ政府が把握したと現地メディアが報じたことについて、プーチン氏は「ロシアは宇宙での核兵器配備に断固反対している」と述べて否定しました。
ショイグ氏は、バイデン政権にはロシアによる核の脅威をあおることで、ウクライナへの軍事支援で議会の同意を得るなどの狙いがあると主張しました。
●「ロシアは10倍の砲撃」ウクライナ首相が訴える危機とは? 2/21
ウクライナの復興に関する会議に出席するため来日したウクライナのシュミハリ首相。
ロシア軍による軍事侵攻からまもなく2年となる中、NHKとの単独インタビューで語ったのは、前線に迫る“危機”でした。
東部の要衝アウディーイウカからの撤退を余儀なくされるなど、苦境が伝えられるウクライナの危機とは?
話を聞いたのは
今月19日に東京で開かれたウクライナの復興に関する会議「日・ウクライナ経済復興推進会議」に出席したシュミハリ首相です。
シュミハリ首相はロシア軍による侵攻直後に公開された動画で、ゼレンスキー大統領のそばにいた人物です。
兵士の犠牲をいとわないロシア軍の攻撃を受け、東部の要衝アウディーイウカからの撤退を発表したウクライナ。
今後、ロシア軍にどう対抗するのか。そして、日本には何を期待しているのか。その考えを聞きました。
アウディーイウカからの撤退 何が起きている?
いま、戦場ではロシア軍が制空権を握っています。先週、ロシア軍は何千発もの誘導爆弾をアウディーイウカに投下しました。
戦争というものは勝利や成功だけというわけにはいきません。命を守るためには撤退など、戦術的な決定をすることもあります。アウディーイウカは小さくも重要な都市です。
しかし、人命を守るため、総司令官は撤退の決断をしたのです。
残念ながら、パートナー各国からの弾薬の供与は減り、1月のウクライナ軍への弾薬の供給はこれまでよりもはるかに少ないものでした。
自国で生産する無人機や新たな技術によって、その不足を補おうとしていますが、私たちにとって決定的に重要なのは特に射程が長いミサイルや弾薬です。
それがあれば、後方にあるロシア軍の補給拠点や司令部を攻撃できるのです。その不足が、前線において私たちが劣勢にある理由の1つです。
弾薬不足の原因は?
理由はいくつかありますが、そのうちの1つはアメリカやEUなどを含め、各国での弾薬の生産量が十分な量に達していないということにあります。そして、もう1つの客観的な理由はアメリカからの軍事支援の停滞です。
このことは、これから3月にかけて、戦場に直接、決定的で深刻な影響を与え始めることになるでしょう。
ウクライナも自国での無人機の製造を100倍に拡大したほか、弾薬の生産にも取り組んでいますが、必要な量には達していません。
ロシアは大きな兵器工場を持ち、イランや北朝鮮からも弾薬を調達していて、ウクライナの10倍もの砲撃を行っているのです。
去年6月に開始した“反転攻勢”の評価は?
反転攻勢はまだ続いていますが、残念ながら、友好国やわれわれが望む結果にはなっていません。
一方で、この経験はどうやってロシアと戦うかという点で新たな知見をもたらしていて、私たちは戦闘、抵抗を続けています。
ウクライナ軍はロシア軍の艦艇や戦闘機を攻撃し、艦艇を毎週のように破壊しているほか、戦闘機も撃墜しています。
私たちは戦場で弾薬不足という問題を抱えていますが、無人機やロボット、そして電子戦といった新しい技術によって、その問題を乗り越えています。
ことし中には非常に重要な、興味深い結果を出すことができると信じています。
それは反転攻勢でというより、新しい技術を使い始めるということであり、その成果は黒海で見られ、その後、戦場でも見られるようになるでしょう。
ロシア、アメリカで行われる大統領選挙への懸念は?
ロシアのプーチン大統領にとっては、前線でいくつかの成功を収めていると示すことが重要になります。
アウディーイウカではロシア軍は多くの兵士を失いましたが、これはロシアにとっては“選挙のコスト”です。選挙の代償を、人命で払っているのです。
ことしはアメリカだけでなく、ヨーロッパなどの多くの国で選挙が行われ、新しい政治の方向性や決断が示されるでしょう。
すべての選挙に重大な関心を持っていますが、私たちにはパートナー各国と協力する以外に選択肢はありません。
本当に大切なのは、一般の人たちからの支援だと思います。選挙でどんな政治的な勢力が勝とうとも、それぞれの国の社会がウクライナを支援してくれるなら、それは私たちに勝利をもたらしてくれます。
日本に軍事支援を求めることはあるか?
それが不可能であることは承知しています。
しかし、ロシアによる軍事侵攻が始まったばかりのころ、日本はヘルメットなどの殺傷能力のない装備品をウクライナに供与するという、前例のない決断をしてくれました。
これにより、何千もの若い命が救われました。心から感謝しています。
経済的な支援や避難民の受け入れについても、忘れはしません。
これまでに日本がしてくれた支援はなにものにも代えがたい、すばらしいものでした。
日本へのメッセージは?
日本の皆さんがウクライナを支えて下さっていることに感謝しています。ご支援を決して忘れません。本当にありがとうございます。
この戦争は、ゼレンスキー大統領が提唱する「平和の公式※」の10項目によってしか終結させることはできません。ロシアは核保有国であり、たとえ私たちが領土の大部分を奪還したとしても、軍事的な意味で勝てないことは分かっています。
戦争の終結は、パートナーにも呼びかけて外交的な手法で行う必要があります。ただ、その唯一の方法は「平和の公式」にのっとることです。
世界の多くの独裁者がロシアとウクライナのどちらが勝つかを見極めようとしています。
ウクライナが負けたらそれで終わりではなく、世界各地で大小さまざまな戦争が数多く勃発するでしょう。
ウクライナとロシアだけの戦争ではないのです。だからこそ私たちは勝ち、主権と領土を回復し、戦争を終わらせなければいけません。
「平和の公式」 ウクライナが提唱する10項目の和平案
(1)核と放射線の安全
(2)食料安全保障
(3)エネルギー安全保障
(4)すべての捕虜と連れ去られた人たちの解放
(5)ウクライナの領土の一体性、世界の秩序の回復
(6)ロシア軍の撤退と戦闘の停止
(7)正義の回復
(8)環境の保護
(9)エスカレーションの防止
(10)戦争終結の確認
取材を終えて
おなじみのカーキ色の服ではなく、スーツ姿で現れたシュミハリ首相にそのことをたずねると、「ウクライナにいるときは戦場で戦っている兵士たちへの連帯を示すためにあのような服装をしていますが、外国に行くときは“外交”のためのスーツです」と、その理由を説明してくれました。
日本の民間企業がウクライナの復興に積極的に関われるよう、様々な分野で協力を深めることが目的だった今回の会議。
シュミハリ首相がインタビューで強調していたのは「日本にとっても、復興への参加が利益になる」ということでした。 「本当に大切なのは、一般の人たちからの支援」だと語るシュミハリ首相。欧米を中心に“支援疲れ”や関心の低下が指摘される中、日本の社会の関心をつなぎとめたいという、切実な意志が感じられました。 
●遺体返還、3月4日に審理 ナワリヌイ氏母訴え、プーチン氏責任回避―ロシア 2/21
ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄死で、刑務所に近い極北ヤマロ・ネネツ自治管区サレハルドの裁判所は、遺体の即時引き渡しを求める母リュドミラさんの訴えを3月4日に審理することを決めた。タス通信が21日に伝えた。
真相究明には独立した早期の調査が必要とされるが、裁判所の手続きに従えば、2月中の返還は絶望的で、さらに先送りされる可能性もある。リュドミラさんは20日、息子の獄死後初めて動画メッセージを出し、プーチン大統領に直接対応を迫っていた。
プーチン政権は、当局や影響下に置く裁判所を通じたプロセスに委ねることで、責任回避を図った格好。3月中旬の大統領選前に遺体を引き渡し、追悼や葬儀が抗議デモに転化する事態を回避したいもようだ。
●プーチン氏、「核兵器の宇宙配備」計画を否定 2/21
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は20日、宇宙空間への核兵器の配備に同国は「断固として反対」していると述べた。ロシアをめぐっては、アメリカ政府高官が先週、新型対衛星兵器を開発していると指摘していた。
プーチン大統領は、テレビ放映されたセルゲイ・ショイグ国防相との会議の中で、宇宙空間への核兵器の配備を否定する発言をした。ショイグ氏も、ロシアにはそのような計画はないと述べた。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は15日、ロシアが「厄介な」新型対衛星兵器を開発中だと述べた。ただ、配備に至るのはまだ先だとした。
この兵器は核弾頭を搭載し、宇宙を拠点に運用されるものだと、米メディアは報じた。
カービー氏は、政権はこの開発を「非常に深刻に」受け止めており、ジョー・バイデン大統領がこの脅威をめぐり、「ロシアとの直接的な外交関与」をすでに命じているとしていた。
核兵器の宇宙配備に「断固反対」
プーチン氏は、宇宙兵器に関する国際協定を順守するよう求めた。そして、ロシアはその強化に共同で取り組むことを何度も申し出てきたとした。
「我々の立場は明白かつ明確だ。宇宙空間への核兵器配備には常に、断固として反対してきたし、いまも反対だ」
ショイグ国防相は、「第一に、我々はこのようなもの(宇宙へ配備する核兵器)を持っていない。第二に、向こうは私たちがそれを持っていないことを知っている。それにもかかわらず、まだ大騒ぎしている」と述べた。
ロシア当局はアメリカの発表について、米議員を怖がらせてウクライナへの追加援助を承認させるための策略だとしている。ショイグ氏もこの日、この主張を繰り返した。
米下院ではウクライナへの600億ドルの支援を含む予算案が、共和党議員の反発を受けて数カ月にわたり棚上げされている。
カービー氏はロシア政府の主張を強くはねつけた。
議会下院では14日、情報委員会のマイク・ターナー委員長が、深刻な国家安全保障上の脅威について謎めいた警告を発し、さまざまなうわさを呼んだ。
この翌日、カービー氏は米国民にとって直ちに脅威となるものではないと、記者団に説明。
「地球上で人間を攻撃したり、物理的な破壊を引き起こしたりする兵器の話をしているわけではない」と述べた。
宇宙兵器というと、SF小説や、「スーパーマンII」や「007/ゴールデンアイ」のような映画の世界のことのようにも聞こえるが、軍事専門家は以前から、テクノロジーへの依存が高まる世界では、宇宙が次の戦争フロンティアになる可能性が高いと警告してきた。
また、米政府関係者や航空宇宙の専門家らは何年にもわたり、ロシアと中国がアメリカに追いつこうと、宇宙での軍事力を着実に開発していると警告してきた。
宇宙兵器にルールはあるのか?
アメリカ、ロシア、中国はすでに、世界中の人工衛星を攻撃する能力をもっている。しかし、理論上は、核兵器で攻撃することはできない。
これら3カ国はすべて、1967年発効の宇宙条約に加盟している。この条約は、加盟国が「核兵器やその他のいかなる種類の大量破壊兵器を搭載した物体」を、地球を回る軌道に乗せることを禁じている。
元米国防次官補代理のミック・マルロイ氏は、現在の地政学的状況では、この条約は安全を保証するものではないと話した。
「ロシアは署名した条約を完全に無視し、あらゆる国際的な法律や規範に反して、ウクライナで軍事力を行使する意思を示している」、「ロシアは約束を守らず、条約の義務を果たしもしない」。
●ロシア大統領、戦果拡大を指示 ドネツク州全域制圧狙う 2/21
ロシアのプーチン大統領は20日、モスクワでショイグ国防相と会談し、ロシア軍によるウクライナ東部ドネツク州の要衝アブデーフカ制圧は「疑う余地のない成果だ」と述べ、戦果の拡大を指示した。ロシアはドネツク州全域の制圧を狙っており、プーチン氏が通算5選を目指す3月の大統領選を前に攻勢を強める構えだ。
ロシア国防省は21日、軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長がアブデーフカ制圧を受けて現地を視察したと発表。ゲラシモフ氏は現地司令官から報告を受け「一層の進撃を期待する」と述べた。
ショイグ氏は会談で、ウクライナ軍がアブデーフカに多数の死傷者や兵器を残したまま「混乱の中で敗走した」と報告。今月17〜18日だけで2400人の兵員を失ったと述べ、ロシア軍はさらに前進しているとした。
昨年6月に始まったウクライナ軍の大規模反転攻勢で、ウクライナ軍は16万6千人以上が死傷し、戦車800両以上を失ったと指摘。ウクライナに供与されたドイツ製戦車レオパルトの半数も、ロシアが既に破壊したと主張した。
●ロシア大統領、戦果拡大を指示 ドネツク州全域制圧狙う 2/21
ロシアのプーチン大統領は20日、モスクワでショイグ国防相と会談し、ロシア軍によるウクライナ東部ドネツク州の要衝アブデーフカ制圧は「疑う余地のない成果だ」と述べ、戦果の拡大を指示した。ロシアはドネツク州全域の制圧を狙っており、プーチン氏が通算5選を目指す3月の大統領選を前に攻勢を強める構えだ。
ロシア国防省は21日、軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長がアブデーフカ制圧を受けて現地を視察したと発表。ゲラシモフ氏は現地司令官から報告を受け「一層の進撃を期待する」と述べた。
ショイグ氏は会談で、ウクライナ軍がアブデーフカに多数の死傷者や兵器を残したまま「混乱の中で敗走した」と報告。今月17〜18日だけで2400人の兵員を失ったと述べ、ロシア軍はさらに前進しているとした。
昨年6月に始まったウクライナ軍の大規模反転攻勢で、ウクライナ軍は16万6千人以上が死傷し、戦車800両以上を失ったと指摘。ウクライナに供与されたドイツ製戦車レオパルトの半数も、ロシアが既に破壊したと主張した。

 

●プーチン大統領 国際競技大会を開催 ロシアの国力誇示か 2/22
ロシアのプーチン大統領はロシア中部で大規模な国際競技大会を開催して、同盟関係にあるベラルーシや中央アジアの首脳たちも招待しました。ウクライナへの軍事侵攻から今月24日で2年となるなか、ロシアの国力を誇示するねらいがあるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は21日、ロシア中部タタルスタン共和国の中心都市カザンをショイグ国防相とともに訪問し、航空機の工場を視察しました。
プーチン大統領はこのなかで、核兵器を搭載できる戦略爆撃機について担当者から説明をうけるとともにみずから機体にも乗り込み、ロシアの核戦力を誇示しました。
また、カザンではこの日からスポーツなどの大規模な国際競技大会を開催しました。
開会式には、ロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領や、中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスなどの首脳たちを招待し、プーチン大統領は演説で「ロシアはこれまでもこれからも世界有数のスポーツ大国であり続ける」とアピールしました。
さらにこのイベントにあわせて訪れた各国の首脳たちと個別の会談も相次いで行い、連携を強調しました。
ウクライナへの軍事侵攻から今月24日で2年となるなか、プーチン政権としては大規模なイベントを開催してロシアの国力を誇示するとともに、勢力圏とみなす旧ソビエト諸国の結束を打ち出したいねらいもあるとみられます。
●相次ぐ疑問死と反逆罪逮捕… 来月の大統領選挙控え恐怖政治強化 2/22
ロシアのプーチン大統領の最大の政敵であるアレクセイ・ナワリヌイ氏が獄中で突然死した中で、ロシア当局が反体制人物に対する弾圧を強化している。目前に近づいたロシア大統領選挙とウクライナ戦争長期化局面で、反対勢力に対する容赦ない報復を通じて不満世論の芽を絶とうとするロシア政府の試みという分析が出てきた。
ロシア国営タス通信は20日、ナワリヌイ氏の実弟であるオレグ・ナワリヌイ氏がロシア内務省の手配リストの2番目に上がったと報道した。内務省関係者は警察がオレグ氏に対する新たな刑事事件を捜査し始めたとしたが具体的な容疑については公開しなかった。今回の措置はナワリヌイ氏の遺族らが彼の遺体を見せてほしいと訴える渦中で出てきた。当局はロシア全域でナワリヌイ氏を追悼する市民を無差別に逮捕し、このうち一部は2週間以上の拘禁刑を宣告された。
ナワリヌイ氏の母親リュドミラ氏は21日に刑務所があるサレハルドの裁判所に息子の遺体を引き渡してほしいという訴訟を提起した。これと関連した審理が来月4日に開かれる予定だ。
英紙タイムズは20日、ロシアから亡命した人権運動家ウラジミール・オセキン氏の発言を引用して「ナワリヌイ氏の死因は心臓に一瞬で強い衝撃を与えたワンパンチ処刑だろう。ソ連のKGB(ロシア連邦情報局FSBの前身)要員が使う特有の手法で殺害された」と報道した。
欧州全域のロシアからの亡命者も恐怖に包まれた状態だ。開戦直後ウクライナに亡命したロシア空軍操縦士のマキシム・クズミノフ氏がスペインで殺害されてだ。スペイン警察はロシア情報当局とロシアマフィアの犯行である可能性を念頭に置きながら捜査に着手した。ガーディアンは「ロシア政府はこれまで欧州全域で一連の暗殺を行った」と伝えた。2019年にドイツのベルリンの公園でFSB要員のワジム・クラシコフ氏がチェチェン独立派勢力の元司令官ゼリムカン・カンゴシュビリ氏を射殺した。
ロシア保安当局は「反逆罪」というカードも切り出した。FSBは20日、ウクライナを支援したという理由でロシアと米国の二重国籍者であるクセニヤ・カレリナさんを反逆容疑で逮捕した。容疑が確定すれば最大20年の懲役刑を受ける恐れがある。だが現地法律団体はカレリナさんがウクライナの慈善団体に51ドル(約7664円)を寄付したのが逮捕理由だとして不当さを訴えた。
ニューヨーク・タイムズはロシア政府がこのように無差別弾圧を続けていることに対し、「来月15〜17日の大統領選挙を控えたプーチン大統領が弾圧強度を下げるだろうという国際社会の予想と異なり、さらに広範囲で強い圧迫を予告したものかもしれない」と懸念する。
米国がロシアの資金源をふさぐ強力な追加制裁を予告した。AP通信などによると米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は20日のオンライン会見で「プーチン大統領とその政府はナワリヌイ氏の死亡に明らかに責任がある。バイデン大統領の指示により、ナワリヌイ氏に起きたことと2年にわたる邪悪で残忍な戦争過程でのすべての行動に対してロシアに責任を負わせる重大制裁パッケージを23日に発表するだろう」と明らかにした。今回の制裁はロシアの軍需産業に打撃を与えロシアに流れる資金源を遮断することに集中するものとみられる。
●「妙に元気過ぎた」 プーチンの120分インタビューの狙いとは? 2/22
2月8日に公開されたプーチン大統領のインタビュー動画が話題を呼んでいる。聞き手は米国人ジャーナリストのタッカー・カールソン。トランプ前大統領と近いといわれる人物だ。インタビューは約2時間にも及ぶが、主な内容は次の六つ。
1、歴史的にウクライナ人はロシア民族の一部である。今のウクライナは旧ソ連によって作られた人工国家であり、正統性はない。
2、ソ連崩壊後、ロシアはアメリカに歩み寄ろうとしたが、拒絶された。それどころかNATOがウクライナまで拡大してきた。
3、ドンバス地方で起きた紛争は2014年に停戦合意したが、それを破って戦争を続けているのがウクライナだ。いまロシアが行っていること(22年2月からの侵攻)は、この戦争を終わらせる試みである。
Tucker Carlson Network YouTubeより
4、ウクライナ政権はネオナチを信奉している。彼らが英雄視しているのはナチスの協力者でロシア人虐殺に手を染めた人物。ナチスと戦ったロシアがこれを見逃すわけにはいかない。
5、ノルドストリーム(ガスパイプライン)を破壊した犯人は、これを実行できる者だ。そしてCIAにアリバイはない。
6、アメリカが戦争を支援しており、ゼレンスキー大統領はその指示下にある。しかし、彼は国家元首なのだから、決断して交渉に入ろうではないか。
「エリート層を引き付ける狙い」
新しいことは何も言っていないのだが、巷間指摘されたような重病という雰囲気はなく、妙に元気過ぎるほど。このタイミングでのロングインタビューをどう見るべきか。拓殖大学特任教授の名越健郎氏が言う。
「考えられるのは、3月17日に行われるロシア大統領選挙に向けた国内向けのアピールです。“停戦の準備がある”というメッセージを強調することで、動揺しているエリート層を引き付ける狙いがあるのでしょう。そして、今秋に大統領選を控えるアメリカの共和党に向けたものでもある。政府が抱える33兆ドルにものぼる債務を指摘し、武器供与の停止はアメリカの国益にかなうというメッセージです」
ワシントン・ポストなど西側メディアはインタビューを大批判したが、YouTubeでの動画再生数は1560万回に上った。自由主義陣営の隙を突いてきたプーチン大統領、次はどんな手で揺さぶりを仕掛けてくるのだろうか。
●3年目に突入したウクライナ戦争と3.6%成長を実現したロシア経済の死角 2/22
・3年目に突入するロシアとウクライナの戦争。戦時経済体制への移行が進むロシアでは、民需の反発と軍需の増大という2つの側面から2023年に3.6%の経済成長を実現した。
・もっとも、輸出の低迷と輸入の高止まりで経常収支の黒字は縮小しており、戦争を継続するには、政府部門の赤字を民間部門の黒字でカバーするしかない。
・石油・ガスの輸出が低迷する中で民間部門が黒字を出すには、輸入を抑制する以外になく、それは国民生活に直結する。ナワリヌイ氏の獄死で厭戦ムードも漂う中、ロシアはどこまで戦争を続けることができるのだろうか。
今年の2月24日で、ロシアとウクライナの戦争は3年目に突入する。目下、戦局はロシアに有利なようだが、戦争の終幕に向けた具体的な展望は依然として見えない。
ロシアでは戦争の長期化を受けて戦時経済体制への移行が進み、経済運営は統制色を強めている。そのロシアの2023年の実質経済成長率は、3.6%増であった。
ロシア連邦統計局によると、生産面では製造業が活況を呈して、その付加価値は前年比7.0%増と好調だった。
輸入が困難になった民生品の代替生産も低付加価値品を中心に行われたようだが、戦争の長期化に伴って増産された軍需品が、製造業の活況につながったようだ。一方で鉱業は、原油の自主減産の影響から、同2.0%減にとどまった。
需要面では、個人消費が前年比6.1%増、総固定資本形成が同10.5%増と堅調だった。また政府支出も同3.6%増と、大きく伸びた。
開戦後、ロシア連邦統計局は国民経済計算(SNA)ベースでの輸出入を公表しなくなったが、内需とGDPの成長率の兼ね合いから判断して、輸出以上に輸入が大きく増えたことに間違いはないだろう。
つまるところ、2023年の経済成長は、民需の反発と軍需の増大という2つの面から実現したと評価される。
欧米日から科された経済・金融制裁を受けて、2022年にロシアの民需は圧迫されたが、それを多少なりとも取り戻したことが景気回復につながった。さらに、戦争の長期化に伴って軍需が急増したことが、経済を動かしたのだ。
とはいえ、経済を運営するに当たって必要なヒト・モノ・カネという要素は有限であるから、軍需を優先するなら民需を犠牲にしなければならない。したがって、民生品の供給が不足し、インフレ圧力が高まる事態にロシアは陥っていると判断される。
民生品の需要が強いのではなく、あくまで供給が少ないという点に、ロシア経済の足腰の弱さがある。そのロシア経済の足腰の弱さは、経常収支の形の変化として表れている。
ロシアの経常収支が縮小した要因
2022年第2四半期に、ロシアの経常収支は四半期としては過去最高となる800億米ドル超の黒字を記録した(図表1)。2022年通年でも、ロシアの経常収支は過去最高となる2380億米ドルの黒字となったが、その後、経常収支の黒字幅は急速に縮小することになった。
   【図表1 ロシアの経常収支】
そして、直近2023年第4四半期の経常収支は約150億米ドルの黒字にとどまり、ピーク時の5分の1程度まで縮小した。2023年通年の経常収支の黒字幅も502億米ドルと、前年から8割減少するとともに、クリミア侵攻直後の2015年からコロナショック直前の2019年までの平均水準である612億米ドルを大きく下回っている。
ではなぜ、ロシアの経常収支の黒字は縮小したのか。それは経常収支の黒字をもたらす源泉である貿易黒字が、輸出の不調のため縮小したことに起因する(図表2)。
   【図表2 ロシアの貿易収支】
四半期ごとに見たロシアの輸出は2022年第1四半期の1644億米ドルをピークに減少が続き、直近2023年第4四半期には976億米ドルと、ピーク時から4割も減少した。
他方で、輸入のピークは2023年第1四半期の815億米ドルだったが、直近2023年第4四半期でも712億米ドルと、輸出ほどは減らなかった。足元の輸出は2019年の水準まで減少したが、輸入は2021年の水準を維持し、高止まりしている。そのため貿易黒字が縮小、ひいては経常収支の黒字が縮小することになったのだ。
輸出の低迷は、やはり石油・ガス輸出の低迷にあったと言える。欧米日からの制裁に加えて、原油需要そのものが世界的に低迷したことが、ロシアの輸出の重荷になったのだろう。
そして、輸入の高止まりは民生品の供給不足に起因すると考えられる。ロシアは国内で不足する民生品を、中国などの友好国からの輸入でまかなわざるを得ないようだ。
経常収支の黒字縮小に隠された意味
それでも、ロシアの経常収支は、貿易黒字に支えられて一定の黒字幅を確保しており、ロシア経済は引き続き貯蓄超過の状況にある。
ただ、既にフローベースでの貯蓄の水準はコロナショック以前まで減少しており、余力があるとは言えない。それに経常収支の黒字の縮小は、戦時経済体制への移行を進めるロシアにとって不利に働く。
そもそも経常収支とは、政府部門の収支と民間部門の収支を合算したものだ。
戦争の長期化でロシアの歳出は増加したため、政府部門の収支は赤字が拡大している。一方で、民間部門の収支は黒字であり、政府部門の収支の赤字を補うことができている。この流れを維持するためには、民間部門の収支で黒字を確保し続けなければならない。 
それには、民間部門が収入を増やすか、支出を減らすか、あるいはその両方を実現する必要がある。しかし商品市況が軟調であるため、輸出が増えず、民間部門は収入を減らしている。
一方で、民生品が不足しているため、輸入も減らせず、民間部門の支出も高止まりしている。結果的に、民間部門の収支は黒字を拡大することができない。
それでも戦争を優先するなら、政府部門の収支の赤字を賄うため、民間部門の収支の黒字を無理矢理ねん出しなければならない。輸出が増えればいいが、増えない場合は輸入を抑制する必要がある。
つまり民需をより圧迫しなければ、政府部門の収支の赤字を補填することができないため、国民はより辛い生活を強いられることになる。
経常収支が赤字でも、他国から貯蓄を安定的に調達できるなら特に問題はないが、今のロシアにそれは不可能な話である。一般的に、戦時経済体制への移行は民間部門の犠牲を伴うものだが、それでも経常収支の黒字が潤沢なら、経済はまだ運営しやすい。しかし、経常収支の黒字が縮小すれば、経済の運営は着実に難しくなる。
ロシアが巨額の歳出を伴う戦争を続ける条件
繰り返しとなるが、経常収支の動きが示すように、ロシア経済は着実に余裕を失っている。しかし見方を変えれば、ロシアは民間部門の収支の黒字を「食い潰す」ことができる限り、政府部門に活動を維持し続けることができる。
つまり、一段と経済の統制を強めれば、マクロ経済運営上は、巨額の歳出を伴う戦争を継続することが可能となる。
とはいえ、それはあくまで机上の話であり、現実がそれを許すかどうかはまた別の話だ。
現にロシアでは、厭戦ムードが強まっている。2月16日、反体制派指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ氏が獄中で死亡したが、3月の大統領選を控えて政府が目を光らせているにもかかわらず、多くの市民が様々な場所で献花を行っているようだ。
こうした状況に鑑みても、国民生活にさらなる犠牲を強いるような決断を、ロシア政府が下すのかどうか。その回答を持ち合わせてはいるわけではないものの、確実に言えることは、ウクライナとの戦争が既に開戦から2年が経過し、3年目を迎えるに当たって、ロシアは経済的にも政治的にも、大きな岐路に立っているということである。
●ロイター通信「イラン、ロシアにウクライナ攻撃する弾道ミサイル400発供与」 2/22
イランがウクライナと戦争中のロシアに弾道ミサイル数百発を供与したという海外の報道があった。
21日(現地時間)のロイター通信は、イランが最近ロシアに供与した地対地弾道ミサイルは約400発で、その大半は「ゾルファガール」と同じ「ファテフ110」系列の弾道ミサイルだったと、情報筋6人の話として伝えた。ファテフ110は射程距離300キロほどの短距離弾道ミサイルで、イランが中国の支援を受けて開発した。イランはファテフ110を改良して射程距離を700キロまで伸ばしたゾルファガールも開発した。
イラン情報筋はロイターに「ロシアに供与するイランのミサイルの輸送が今年1月初めに始まった」とし「その間、ミサイル輸送は少なくとも4回あった。数週以内に追加の船積みがあるだろう」と伝えた。別のイラン当局者によると、ミサイルの一部は船に積まれてカスピ海を経て運搬され、残りは航空機で輸送された。これに関連し、イラン国防省と革命防衛隊は論評を拒否し、イラン国防省も応答しなかったと、ロイターは伝えた。
ただ、ウクライナ空軍のイフナト報道官はこの日、国営放送に「公式情報筋によると、これまでロシアがイランから大量の弾道ミサイルを受けたという情報はない」と明らかにした。
これに先立ち開戦初年度の2022年にもイランがドローンに続いて弾道ミサイルもロシア軍に供与するという報道があった。当時ワシントンポスト(WP)は米国とウクライナの情報当局を引用し、イランがファテフ110とゾルファガールをロシアに供与する準備をしているという情報を共有したと伝えた。
イラン・ロシアが軍事協力強化
今回の弾道ミサイル取引が実現する場合、米国の制裁を受けているイランとロシアが軍事的により一層密着したという意味と解釈できる。
米ミドルベリー国際学研究所のジェフリー・ルイス研究員はロイター通信に「イランのファテフ110系列ミサイルは精密武器」とし「この弾道ミサイル400発がウクライナ戦争で使用されれば相当な被害を与えかねない」と述べた。
イランは中東国家の中で短距離・中距離弾道ミサイルを保有する数少ない国の一つ。過去には正確性、射程距離などが落ちるという評価を受けたが、最近は技術レベルが相当高まった。特に一部のミサイルには先端電子誘導装置などが装着され、正確性を高めたという評価もある。
米国と欧州連合(EU)がイランの弾道ミサイルプログラムに関する制裁を維持しているにもかかわらず、最近ロシアが多量の弾道ミサイルをイランから受けているという懸念が西欧国家を中心に出ていた。
イランはウクライナ戦争の勃発以降、ロシアにドローン(無人航空機)を供与するなど軍事的に密着している。イランは当初、ドローン供与を否認していたが、2022年11月にロシアにドローンを供与した事実を初めて認めた。ただ、イランはドローン供与はウクライナ戦争の前と主張した。ウクライナ空軍は昨年12月、ロシアが2022年9月以降イラン製シャヘドドローン3700機をウクライナ攻撃に使用した、と明らかにした。
●ウクライナ戦争が気付かせた冷酷な国際政治 2/22
24日はロシアがウクライナに侵攻して2年になる日だ。ロシアのプーチン大統領は2014年にウクライナのクリミア半島を併合しドンバスで内戦を助長した。8年間低強度戦争を継続し2022年2月24日に首都キーウをはじめとするウクライナ全域に対する全面攻撃を開始した。
当初ロシアはゼレンスキー大統領率いる反ロシア性向のウクライナ政府をすぐに倒し「親ロ傀儡(かいらい)政権」を樹立できると計算しただろう。だがプーチンの野心は一致団結したウクライナ国民の強力な抵抗に阻まれ水の泡になった。
ウクライナ国民は核を保有する世界2位の軍事大国であるロシアの侵略を防がなければならない不可能に近い状況でも米国と北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)の軍事的支援と対ロ経済制裁などの支援で耐えた。この2年間にウクライナ戦争はそうでなくてもコロナ禍など弱さを露出した世界の供給網に大きな打撃を与えた。「欧州のパンかご」と呼ばれる世界的穀倉地帯であるウクライナの黒土地帯が戦争の渦中で戦場に急変した。黒海を通じた穀物輸出の道が戦争で大きな影響を受けると多くの開発途上国が大きな苦痛を味わった。韓国も小麦粉価格急騰とエネルギー価格上昇などでインフレに苦しめられている。ウクライナ戦争が対岸の火ではなかった形だ。
企業の打撃も大きかった。韓国は脱冷戦期に推進した「北方外交」によりロシアと修交し韓国企業はロシア市場に進出して自動車、家電、携帯電話などの業種で大きな成果を上げた。だが韓国政府が米国と欧州など西側主導の対ロシア制裁に参加し、ロシアがこれに報復する過程で大きな打撃を受けた。力を入れて構築したロシア工場などを安値で売り払い撤収したりもした。
それなら戦争で地政学が揺れ動いた状況で韓国政府はうまく対処してきたのだろうか。文在寅(ムン・ジェイン)政権末期にロシアの顔色をうかがったために米国主導の対ロシア輸出統制への参加を遅らせた。
そのため主要国のうち韓国だけ米国の海外直接生産品規制(FDPR)にともなう30カ国ほどの例外国に含まれず、韓国企業はしばしあわてふためくことになった。自由陣営と権威主義陣営の対立構造へと急速に再編される冷酷な国際政治の現実にしっかり対処できなかった代表的事例と言えよう。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は昨年7月にウクライナを訪問し対ロシア制裁に参加する姿勢を見せた。ポーランドなど東欧の防衛産業市場に韓国企業が進出する契機も作った。
ウクライナ戦争は韓半島(朝鮮半島)安保にも暗雲をもたらした。戦況が不利になったロシアが北朝鮮の在来式砲弾とミサイル支援を要請すると金正恩(キム・ジョンウン)が呼応した。昨年9月の朝ロ首脳会談を前後して危険な武器取引疑惑が提起された。
実際にウクライナに北朝鮮製弾道ミサイルが落ちた。北朝鮮がウクライナ戦争を武器の実戦テストに利用し、ロシアが先端軍事技術を北朝鮮にこっそりと移転するならば韓国の安保に大きな脅威に違いない。
政敵ナワリヌイ氏の疑問死後に行われる来月のロシア大統領選挙でプーチンは無難に当選するだろう。問題は11月に近づく米国大統領選挙だ。バイデン大統領が敗れトランプ前大統領が勝利すればまたウクライナ戦争の地図が揺れ動く可能性がある。
ウクライナ戦争はユーラシアの「巨大なチェス盤」で起きた地政学的地震だ。ウクライナは冷戦終息過程で核を放棄する代わりに領土と主権を保証されたが、ロシアの侵略で安保保証書は紙切れになった。韓国戦争(朝鮮戦争)の経験を考えれば痛切な反面教師としなければならない問題だ。
韓半島安保に影響を与える米国と中国の覇権争いは昨年11月の米中首脳会談を契機に一息ついた。だが米中対立は近くまたふくらむ公算が大きい。結局曖昧な中立路線は国家安保と国民の安全を保証できないという事実をウクライナ戦争がリアルに見せた。
同盟を強固にして友邦との関係を強化し、自主国防能力を育てる道だけが安保を守る近道ということがウクライナ戦争の最も大きな教訓ではないか。
●米欧、停戦後押し必要…米外交問題評議会上級研究員 2/22
米国にも欧州にも「ウクライナ疲れ」があり、政策に変化が必要だ。第一にウクライナに防衛に集中させる。防御は攻撃よりもコストがかからず、弾薬の使用量が少ない。兵士の損失も少ない。
米欧は停戦を後押しする必要がある。戦争が長引くほど西側諸国の支援減少のリスクが高くなる。領土は奪われたが、今も約8割はウクライナ領のままだ。そこをしっかり守り、経済とインフラ(社会基盤)の原状回復が現実的で達成可能な目標となる。ウクライナは国家再建に集中すべきだ。
「魔法の弾」は存在しない。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「必要な武器をくれ」と言うが、ウクライナに東部の占領地を奪還する能力があるとは思わない。兵力も軍事力も足りない。我々は現実に向き合わなければならない。
ウクライナもロシアも疲弊している。2024年末までにほぼ現状のままで戦闘が小康状態に入る「凍結した紛争」になるだろう。ウクライナにとって現時点で最も重要なのは「激しい戦争」の停止だ。
ウクライナは安定した防衛線構築のため、十分な防空と弾薬が喫緊に必要だ。米議会は支援予算を早期に成立させなければならない。
バイデン政権は、ウクライナ侵略に非常にうまく対応したが、米国内の反動を過小評価した。バイデン政権は国内の有権者に向けて戦場の現状を正直に語り、説得力を持って支援継続に理解を求める必要がある。
●ウクライナ侵攻から2年。日本に暮らす2000人の避難民がいま、望むこと 2/22
ロシアによるウクライナ侵攻の開始から、2024年2月で2年になります。日本財団はこの間、日本で暮らす約2000人のウクライナ避難民を支援してきました。侵攻が長期化するなか、いま必要な支援とは何か。避難民が働くウクライナカフェ「クラヤヌィ」(東京都武蔵野市)で、ウクライナ避難民支援に携わる佐治香奈さん、川上萌さん、ウクライナ人スタッフのカルジリオ・リュボフさんの3人に、お話を伺いました。
「自立」に向けた支援、まずは日本語習得から
──侵攻開始から2年。現場で今求められている支援とは。
佐治 戦争が長期化するなか、多くの避難民の方々が中長期的に日本で暮らすことを見据え、就労を望んでいます。そのための最初のステップが日本語の習得です。日本財団は皆さまから寄せられたご寄付から、日本語学校に通うための奨学金を支給してきました。多くの人がウクライナで培ってきたスキルや資格を生かせる仕事を希望していますが、日本語が壁となり、悩まれているのが現状です。
川上 日本財団では、希望の仕事ではなくても、まずは働いてみることも一つの方法だと考えています。日本の職場の雰囲気に慣れることもできるし、働きながら日本語の力もつきます。その後、より希望に近い仕事を目指していく。そのようにステップを踏んでいくという考え方です。
カルジリオ 日本語の習得には、仕事を見つける他にも大きな意義があります。同じウクライナ人として避難民に接していると、避難民の多くが「ずっと支えてもらうのは申し訳ない」と感じていることがわかります。自立することは、本人にとって大きな自信になります。ですから、日本語習得のサポートは、避難民の人生を大きく変えてくれる支援策だと思います。
大切なのは地域で支える仕組み、ウクライナカフェもその一つ
──そのほかに、日本財団はどのような支援に取り組んでいますか。
佐治 私たちは日本財団が目指す「みんながみんなを支える社会」を実現するため、「両輪」で支援を続けています。一つは、避難民への直接的な経済支援です。日本に避難する際の渡航費や、日本における生活費などを継続して支援しています。避難生活が長期化し、ウクライナへ帰国することを決意した方もいらっしゃることから、新たに帰国支援も始めるなど、ニーズに合わせて支援を検討、実行しています。
両輪のもう片方が、避難民を地域で支える仕組みづくりを支援すること。この観点から、様々な非営利団体を助成しています。このウクライナカフェ「クラヤヌィ 」を運営するNPO法人「日本ウクライナ友好協会KRAIANY」も、その一つです。このカフェでは、避難民の方々がボルシチなどのウクライナ料理を提供するほか、地域の日本人も参加できるイベントを開いています。雇用、そして交流の機会を創出しているのです。
──日本財団が支援を打ち出したのは侵攻開始の1ヶ月後、2022年3月でした。
カルジリオ 侵攻が始まり、私も含め世界中のウクライナ人が大変なショックを受けました。ましてや、被害が特に大きな南部や東部出身の避難民は私よりも100倍くらい不安だったと思います。そんな中、日本財団が具体的な支援策を発表したことで、暗いトンネルの向こうに少し光が現れた思いがしました。
佐治 わたしたちは国内外で人道支援や社会課題の解決に取り組んできました。ウクライナのためにも、自分たちにできることがあるのではないかと考えていた中で、当時、日本には約1900人のウクライナ人が住んでいることから、その方々が家族や友人を呼び寄せたいのではないか、そうであるならば避難のお手伝いをできるのではないかという議論から始まりました。
ただ、当初は避難先として日本の需要がどの程度あるのか分からなかったので、このカフェを運営するKRAIANYさんにも相談に乗っていただきました。日本財団の強みは、国や自治体、企業、専門家、NPO団体等、さまざまなプレーヤーとのネットワークです。今回も、政府や在日ウクライナ大使館、自治体、そして在日ウクライナ人コミュニティ、専門家などと情報交換をしながら「ハブ」となり、支援の輪を広げるように意識してきました。支援を通じて得た知見を報告書にまとめ、先々につなげていく包括的なサポートを続けています。
──日本財団は定期的に避難民へのアンケートを実施しています。
佐治 お金や物資以外で必要な支援を尋ねると、多くの方が心の安らぎを求めていることがわかります。多くの方が夫や父親を国に残し、毎朝電話で無事を確認するような日々を送っています。
川上 特に子どもたちは、大きな不安を抱えています。事情も十分に飲み込めないまま、家族と離れ、住み慣れた所から異国へ避難し、日本語がわからない状態で、日本の学校に通い始めました。時には自然と戯れたり、アミューズメント施設に行ってみたり。ニーズを把握しながら、そんな機会を提供することで、ほんの一時でも不安を忘れ、日本にも楽しいことがたくさんあるということを知ってほしいのです。
──侵攻開始から時間が経ち、ウクライナ情勢への関心が薄れているように感じます。
佐治 まず伝えたいのは、世の中の関心が高かった2年前よりも、日本に暮らす避難民の数は増えているという事実です。居住エリアは北海道から沖縄まで全国各地に及びます。つまり、避難民はどこか遠くの存在ではなく、皆さんと共に暮らしているということです。
カルジリオ 今も戦争が続いていることに何ら変わりはありません。国の現状を、いかに日本の皆さんとシェアできるか。それには、交流会やワークショップなどを通じて人々が触れ合う機会が大切です。「クラヤヌィ」で開かれたウクライナ刺繍のワークショップもその一つです。講師を避難民が務めることもあります。
言葉の壁があっても、刺繍という共通項があれば、刺繍を通して、「ご出身はどちらですか?」といったさりげない質問から始まり、やがて「ウクライナの現状は?」とやりとりが始まる。現地の様子を日本の多くの方々とシェアできるだけで、避難民の心は安らぐと思います。
──クラヤヌィで働く皆さんも、社会とつながることの大切さを感じているようです。
カルジリオ その通りです。彼女たちは日本に来た当初、「働く場所もなく、自分は必要とされていない人間なのでは」と落ち込んだといいます。料理やイベントを通じて日本の皆さんと交流ができ、「自分にもできることがある」と思うと気持ちが楽になったそうです。
「日本は素敵な国」・・・気軽な交流から広がる共感
──日本がウクライナを支援する意義をどう考えますか。
佐治 今回は戦争という不幸な出来事を機に、ウクライナの人々を受け入れました。しかし、今回のような有事に限らず、日本は今後も多様な人々を受け入れていくことになるでしょう。異なる文化、背景の人々を受け入れられる社会を作っていかなければなりません。ですから、表現は大変難しいのですが、今回の支援で得られる経験は日本にとって大変意義深いと思います。
川上 私たちが定期的に実施しているアンケートで、多くの避難民の方々が「日本は何て素敵な国なんだ」と書いてくれています。今後、ウクライナに帰ったとしても、こうした気持ちを周りに広げてくれるといます。それから、これまでの支援を通じて、日本の社会に何らかの疑問や課題が見つかったとすれば、海外から人を受け入れるためのより良い制度や仕組みを考える機会になると考えています。
──日本財団で支援活動に携わることで、どんな気づきがありましたか。
佐治 私は元々、雑誌の編集をしていましたが、伝えるだけでなく、社会をより良くするために、世の中の流れを大きく変える力があることに魅力を感じ、日本財団に入りました。昨今、社会貢献がしたいと考える若い方も少なくないと思います。ここでの仕事は、国内外におけるあらゆる分野での活動を通じて、多くの人と関わり、多様な視点を得られることも魅力の一つです。そして、困難に直面する人々へ思いを寄せられる視野の広さが身につくと思っています。
川上 私はちょうど2年前大阪府箕面市から日本財団に出向してきました。今回の支援を通して感じたのは、これまでの活動によって日本財団は市町村と比べて企業やNPOとの強いつながりを持っているということです。また、行政だけでは動きにくい部分、足りない部分に対して、先んじて取り組むスピード感があります。これは今回のウクライナ避難民支援の中でも活きていたと思います。
──避難民への支援は今後も続きます。
佐治 緊急的な支援から、共に暮らしていくための支援へとシフトしていく時期に入っています。避難民の支援基金には、すでに2億円近いご寄付が寄せられています。これだけの人たちが想いを寄せてくれている──。それ自体が、避難民の方々にとって心強く感じられるものだと思います。
川上 支援というと何か大それたことのように感じてしまいがちですが、ウクライナにまつわるイベントや交流会に参加してみることも支援の一つの形だと思います。「支援しなきゃ」という気持ちが強すぎると、いわゆる支援疲れにも繋がってしまうと思うので、できる範囲で支えていただくことが一番だと思います。
●ウクライナでの戦争、「こう着」からロシア有利に傾く−3年目突入へ 2/22
プーチン・ロシア大統領が開始したウクライナ侵攻は3年目に入ろうとしている。ロシア軍は攻勢に転じ、激しい戦闘が数カ月続いたウクライナ東部のアウディーイウカを制圧。これまでにも攻守の切り替わりは起きているものの、ウクライナ政権内の雰囲気は今、目に見えて暗くなった。
ゼレンスキー大統領は新たな徴兵や戦場での戦略を巡り異論のあった軍幹部を交代させた。西側諸国の政治的内紛で支援が滞る中、ウクライナ軍は弾薬や兵器の不足に悩まされている。
数百万人のウクライナ市民は依然、自宅に戻ることができていない。死者数は欧州での戦争として第2次大戦以降最大に上るが、ロシア、ウクライナとも国家機密として具体的な数字を伏せている。
過去1年間に起きた主な出来事をタイムラインでまとめた。
アウディーイウカ陥落 2024年2月17日
ウクライナ軍はアウディーイウカから撤退し、前進するロシア軍にとって戦場での大きな勝利となった。ウクライナ軍のシルスキー総司令官は、「より有利な戦線」の防衛に移ると説明した。
ナワリヌイ氏が獄死 2024年2月16日
戦争反対を強く表明していたロシア反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が、厳戒態勢の収容所で体調を崩し死亡したと同国の当局が発表。世界中で怒りが巻き起こった。
ウクライナ、軍総司令官を交代 2024年2月8日
ゼレンスキー氏が軍総司令官をザルジニー氏からシルスキー氏に交代させた。同国指導部の不和を巡る臆測に終止符を打った格好だが、戦争の方向性に対する不透明性も強まった。
EU、ウクライナへの資金提供を承認 2024年2月1日
欧州連合(EU)加盟国首脳はウクライナに対する500億ユーロ(約8兆1000億円)規模の金融支援パッケージで合意に達した。ハンガリーのオルバン首相が他国の要求に屈し、反対を取り下げた。
ウクライナ全土に大規模な攻撃 2023年12月29日
ロシアが全面的な侵攻開始後最大規模のミサイルとドローンでウクライナを攻撃。攻撃対象の大半は民間施設で、住宅や学校、ショッピングモール、助産院などが被災し、少なくとも33人が死亡した。ロシアはこの数日前、クリミアでロシアの軍艦が攻撃を受けたとしてウクライナを非難していた。
EU、ウクライナ加盟交渉を開始 2023年12月14日
EU首脳はウクライナの加盟交渉を開始することで合意した。ミシェルEU大統領はX(旧ツイッター)に、「ウクライナ国民とわれわれの大陸にとって明確な希望のシグナルだ」と投稿した。
プーチン氏、5期目に立候補 2023年12月8日
ロシアのプーチン大統領は5期目への立候補を表明し、選挙運動を開始した。立候補は広く予想されていた。ロシア政府は大統領選で戦争が市民の幅広い支持を得ていることを示したい考え。
ウクライナ軍総司令官、戦争は「こう着状態」 2023年11月1日
ウクライナ軍のザルジニー総司令官(当時)は英誌エコノミストとのインタビューで、戦争は膠着(こうちゃく)状態に陥ったとし、第1次大戦の塹壕(ざんごう)戦になぞらえた。この発言はゼレンスキー大統領が使っていた表現と明らかに反するものであったため、同大統領を激怒させた。
米国で懐疑論広がる 2023年9月22日
ワシントンを訪問したゼレンスキー大統領は、ウクライナは秋から冬にかけて反転攻勢を継続し、ロシア軍に圧力をかけ続けると表明した。だが戦争開始直後の訪問とは打って変わり、議会の共和党を中心に懐疑的な見方が米国で広がっていることをゼレンスキー氏は目の当たりにした。
ゼレンスキー氏が国防相交代 2023年9月4日
ゼレンスキー大統領は汚職撲滅を進める中で、大規模な戦時内閣改造を発表した。
ウクライナ当局、南部戦線で前進と報告 2023年8月28日
ウクライナ軍は南東部にロシア軍が築いた第1の防衛線を突破した。だが、塹壕やバンカー、対戦車障害物などで構成されるロシアの主要防衛ラインを大規模な軍で攻撃するための回廊設置が遅れているとウクライナ国防省は説明。ロシア軍が仕掛けた大量の地雷の除去に時間がかかっていることを理由に挙げた。
ロシア、黒海の警戒水準を引き上げ 2023年8月5日
ウクライナはロシア軍に石油を供給しているとされるタンカーを攻撃し、コモディティー拠点を含む港は黒海周辺地域の緊迫化で影響が及ぶ恐れがあると警告した。
ロシア、ウクライナ産穀物輸出合意の延長を拒否 2023年7月17日
ロシアはほぼ1年続いたウクライナ産穀物の輸出合意を打ち切り、世界の食糧供給を巡る不透明性と地域の緊張を高めた。
プリゴジン氏の反乱 2023年6月24日
エフゲニー・プリゴジン氏率いる民間軍事会社ワグネルの部隊がモスクワまで200キロ以内に迫ったが、プリゴジン氏がプーチン氏と合意を結び、部隊は撤収。プーチン氏はこの日の夜遅くに国民に向けて演説し、ワグネル幹部らを裏切り者だと非難した。プリゴジン氏は2カ月後、搭乗していたプライベートジェット機が墜落し、同乗者全員と共に死亡した。
ウクライナが反転攻勢開始 2023年6月9日
ウクライナが待望の反転攻勢を開始。戦場からの映像には西側諸国から供与された北大西洋条約機構(NATO)基準の戦車や戦闘車両が登場した。
カホフカ水力発電所ダムが破壊 2023年6月6日
ロシアが巨大ダムを爆破し、洪水で環境災害を引き起こしたとウクライナは非難。ロシアは責任を認めず、ダム爆破はウクライナの仕業だと主張した。
バフムト陥落 2023年5月21日
数カ月にわたる激しい戦闘の末、ウクライナ軍はバフムトから撤退。ワグネルの部隊がバフムトを制圧したとロシアは主張した。
国際刑事裁判所、プーチン氏に逮捕状 2023年3月17日
国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナの子供の拉致に関与したとしてプーチン氏に逮捕状を発行した。この措置をロシア政府は重大視していない。この1年前には、ウクライナ北部やキーウ周辺で一時占領していたロシア軍が残虐な行為をしていたことも明らかになっている。
●ロシア勝利で2000万人が避難民になる可能性 今、米国がなすべきこと 2/22
ロシアがウクライナに全面侵攻して2年になる。2022年2月24日以来、600万人を超える人々がウクライナを離れ、そのうち27万人超が合法的に米国に移住した。さまざまな国の専門家の大半は、移住という観点だけから見てもロシアの侵攻は人道面で悪夢だという認識で一致している。だが今、米ワシントンで起こっていることからすると、そうした移住はこれから起こることの前置きに過ぎない。
というのも、マイク・ジョンソン下院議長は先週、ウクライナ支援を盛り込んだ予算案の採決を行わず、2月28日まで下院を休会としたからだ。そうした対応は米国のリーダーシップの失敗の新たな決定的瞬間となった。
下院が再開し次第、2024会計年度の予算案が優先される。議員らは連邦政府の支出を削減するための3月初めという期限に間に合わせようと必死になる。そうなれば、ウクライナ支援は議会の議題から外され、やがてうやむやになってしまうだろう。それこそがドナルド・トランプ前大統領とジョンソン下院議長がずっと望んでいたことだと見る向きもある。バイデン大統領のぶれないウクライナ支援の宣言や、独ミュンヘンでのハリス副大統領の支援継続の強調にもかかわらず、下院ではブレーキがかかっている。
第二次大戦前の欧州の歴史をなぞる今後の展開
米国の指導者たち、特にMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大な国にする)を声高に叫ぶ共和党員の中には、ウクライナにとって戦争は悪いことだが、ウクライナは米国から遠く離れており、自国は南部での不法移民の流入という緊急性の高い問題を抱えていると考える者もいる。
実際、最近の世論調査で、米国人の半数近くが、米国はウクライナに金を使いすぎていると考えていることが明らかになっている。そうした金の90%は米国内で使われているにもかかわらずだ。結局のところ、そうした人々は北大西洋条約機構(NATO)と欧州がまだウクライナを支援しており、またそうするのは当然であり、ウクライナは技術的に優れた能力を駆使して直面している問題の多くに対処していると考えている。
だが、第二次世界大戦前の欧州の歴史、特にナチス政権下のドイツを率いたヒトラーが戦争へと突き進んだ過去に詳しい人なら、ここで何が問題になっているかがわかるだろう。
ロシアの現体制のナチス政権との相似、そしてプーチン大統領の指示のもとでのロシアのシリアでの行動やモルドバとジョージア(旧グルジア)への侵攻、ウクライナ南部クリミアの一方的な併合、ウクライナ東部ドンバス地方での10年にわたる戦争、そして2年にわたるウクライナへの侵攻などを考えれば、今この時期にウクライナだけでロシアの進攻を食い止めさせるという判断がいかに大きな誤りなのかがわかるだろう。第二次世界大戦では5000万人超が亡くなった。現在の流れでいくと、今後どうなるのか。
欧州での事態の展開を予測するのは簡単だ。プーチンはウクライナを支配下に置くやいなや、バルト三国を攻撃するだろう。表向きはそこにいる少数派のロシア人を守るという名目だ。そして次はポーランドが標的となる。実際、プーチンはそう脅している。そうなれば、世界は戦争に巻き込まれる。好むと好まざるとにかかわらず、たとえトランプが再び大統領になったとしても、米兵は欧州での戦いに投入される。財政的、経済的な損失は莫大なものになり、そして多くの命が失われるだろう。
移民問題と安全保障にかかる支出、予想される影響
例として、今後の展開を移民の面から考えてみよう。ロシアによる侵攻が始まって以降、600万人がウクライナから脱出し、800万人が国内で避難していることからするに、プーチンが今勝てば、2000万人超が西側諸国へ逃れることになると、信頼できる試算では示されている。
ロシアが勝利した場合にウクライナから欧州に流出する人々は2000万人超にのぼると仮定して、米シンクタンクのランド研究所の試算を用いると、そうした移民を支援する費用は年1兆ユーロ(約162兆円)を超える可能性がある。たとえ流出が300万〜400万人だったとしても、負担はかなりのものになる。これは、世界での米国のリーダーシップの失敗が移民面でもたらす結果にすぎない。
米政治サイトのポリティコは、欧州連合(EU)加盟国の国内総生産(GDP)の安全保障にかかる支出が冷戦時代の水準に戻ると仮定して、安全保障の強化には毎年4100億ユーロ(約66兆円)が追加で必要になると試算した。別の言い方をすれば、米国が巻き込まれることになるロシアとの長期にわたる新たな冷戦には、10年間で4兆ドル(約600兆円)以上のコストがかかると推定される。
共和党のシンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所のクリティカル・スレット・プロジェクトは、『ウクライナを失うことの高い代償』と題した記事の中で「ロシアの冒険主義を抑止し、ロシアの攻撃に打ち勝つ準備をするために、バルト海から黒海までのNATO加盟国の東部の国境全体にかなりの数の米兵を送ることになる」と言及している。「米国はまた、保有するステルス航空機の多くを欧州に常駐させなければならなくなる」とも指摘。そして「核を保有するロシアから脆弱(ぜいじゃく)なNATOの同盟国を守るために米軍を派遣するコストは計り知れない」と結んでいる。
参考までに、2001年9月11日に発生した米同時多発テロ事件以降、米国が紛争に費やした費用を研究したブラウン大学の研究者たちの集計を見れば、新たな冷戦のコストがどれほどのものになるか見当をつけることができる。集計によると、アフガニスタンやイラク、シリアでの20年にわたる戦闘で、米国は8兆ドル(約1200兆円)を費やした。したがって、ロシアがウクライナとの戦争に勝った場合、今後20年間で米国が負担する額は8兆ドル近くか、それを上回ることは間違いない。
一方で、中国や北朝鮮、イラン、その他の国の独裁者らが米国のリーダーシップの失敗によって勢いを増し、攻撃される国や人々を守るために戦う米国のリソースにも負担をかけるような圧力を加えてくることも忘れてはならない。同様に、西側諸国の迎合主義者や過激主義者も一層勢いづき、要求をエスカレートさせることが予想される。
状況を正す最後のチャンス
MAGA共和党の考えに反して、トランプが大統領に再選してもこれらの問題がすべて解決するわけではない。トランプとプーチンのリーダーシップの下で、我々は独裁政治の闇に突入する。ジャーナリストは書く内容に注意を払わなければならず、人権活動家は嫌がらせを受け、黙らされる可能性が高く、民主主義を主張するために政治の舞台に立つ者は安全やセキュリティに用心しなければならなくなる。所得と富の不平等によって突き進む強権政治の国への移行は、米国だけでなく他の国でも始まっている。それを止めることはまだできるのだろうか。
現在、米議会では超党派で対外支援と南部の国境警備強化の案をまとめる動きがある。だが、トランプとジョンソンが阻む限り、たいしたことにはならなさそうだ。このような状況では、ロナルド・レーガン元大統領がかつて国民に警告した言葉に耳を傾けるのが賢明だろう。「平和と自由を守るという困難だが必要な仕事をとるのか、それとも自由の敵が日々増長する中で責務を無視して盲目的に最善を望むという誘惑に流されるのか、その間で賢明な選択をするかどうかは現代に生きる私たち次第だ」
●東部アブデーフカ近隣へのロシア軍の侵攻続く=ウクライナ兵 2/22
ウクライナ東部ドネツク州の要衝アブデーフカを先週掌握したロシア軍は近隣の町への攻撃を続けている。アブデーフカ郊外に新たな陣地を構えているウクライナ軍兵士らが明らかにした。
ある兵士は、ロシア軍は人数も砲撃も多く、KAB(誘導式空中爆弾)による爆撃が以前と同じようにあると語った。
現地のウクライナ部隊幹部は21日、「アブデーフカ前線の状況は極めて明確だ。ロシア軍は力の限り前進するだろう」とテレグラムに投稿した。
前線の兵士らはアブデーフカ撤退で意気消沈していないが、休息するために任務の交替を望むと述べた。
●ウクライナで「領土断念」が増加、ロシアでは「勝利信じる」7割 2/22
国際社会を揺るがす「プーチンの戦争」は戦況の膠着状態に入り、先行きが見通せぬ事態に陥っている。プーチン政権によるクリミア半島の一方的併合(2014年)から今年で10年。ロシア軍の大規模侵攻は、ウクライナに甚大な被害を与え、ロシアに対するウクライナ人の憎悪を修復不可能なレベルまで押しあげた。一方、ロシアでは現状把握が困難になる中、人々は将来への不安を募らせている。双方の世論調査の結果からは、長期化する戦争のリアルな両国民の胸の内が見えてきた。
ウクライナで「領土奪還を断念」派が増加?
ウクライナのゼレンスキー大統領は2月上旬、国民に人気の高いザルジニー総司令官を解任した。昨年春から開始された反転攻勢で領土奪還が適わず、指揮官を交代して巻き返しを図ろうとしている。
しかし、ロシア軍による相次ぐ都市空爆などによって犠牲が膨らむと、領土奪還を望む国民の士気や戦意には陰りが見え始めてきた。
調査機関キーウ国際社会学研究所は、ロシアがウクライナに侵攻して以降、ロシアから奪われた領土奪還について計8回、世論調査を実施している。その中で「ロシアとの和平を達成するため、妥協の可能性についてより多くの点で同意できるのは、次の二つの選択肢のうちどちらですか」と同じ質問を続けている。
二つの選択肢とは以下の通りだ。
できるだけ早く平和を達成し、独立を維持するために、ウクライナは領土の一部を放棄することができる
たとえ戦争が長期化し、ウクライナの独立が脅威にさらされるとしても、ウクライナはいかなる状況においても領土を手放すべきではない
昨年12月に行われた最新の調査では、2と回答した人は74%に上ったが、82%だった最初の調査(ロシア軍による大規模侵攻が始まった直後の2022年5月)や、どちらも過去最高の87%を記録した2022年9月(ハルキウ州を奪還した直後)と2023年2月(大規模侵攻の開始から1年後)の調査と比べると減っている。
一方、1と回答した人は最新の調査では19%に達し、調査開始以来、最高となった。
つまり直近では、ウクライナ国民の5人に1人が「国家の独立が維持され、平和が達成されるなら領土奪還断念を受け入れる準備がある」と言える。激しい戦闘が繰り広げられている南部、東部ではその割合が高く、特に東部地域では4人に1人が「領土断念」もやむを得ないと考えていることがうかがえる。
キーウ国際社会学研究所によると、1と回答した人のうちの69%が、今後懸念される「西側諸国からの援助が大幅に削減された場合の行動」として「強固な安全保障を確保して(ロシアとの)敵対行為を停止することが得策」と考えているという。
これに対し、2と答えた人のうち70%は「リスクがあったとしても敵対行為を継続する」考えで、「敵対行為停止」と回答した人(22%)を大幅に上回った。
このことから、ゼレンスキー政権が国民の支持を受けながら領土奪還のための戦闘を続けているが、ウクライナ社会ではたとえ一部の領土を放棄したとしても、早期の平和を望む声が大きくなっていることがわかる。
昨年12月に行われた同研究所の別の調査でも、勝利が得られない状況がにじみ出ている。
「ウクライナ情勢は間違った方向に進んでいるか、それとも正しい方向に進んでいるか」との定例調査において、2022年5月において「完全に正しい方向」(全体の32%)「どちらかと言えば正しい方向」(同36%)の「正しい」派は68%だったのに、2023年12月には双方合わせて54%(「完全に」13%、「どちらかと言えば」41%)に減少した。
これに対し、「間違った方向」派は増えた。「どちらかと言えば」または「完全に」間違った方向に進んでいると答えたのは2022年5月は16%だったが、2023年12月には33%になっている。
キーウ国際社会学研究所のアントン・フルシェツキー氏は、戦況の悪化に伴うウクライナ国民の意識の変化について「楽観主義に下降傾向が見られる」と指摘する。そのうえで、まだ国民の大多数がいかなる譲歩にも反対しており、西側諸国が支援を適切に続けることが「国民感情の(推移の)鍵を握ると考えて間違いない」と訴えている。
ロシアでは「軍事行動支持」派が多数
一方、北大西洋条約機構(NATO)配備の最新鋭兵器に支えられたウクライナ側の反撃をしのいでいるロシア。西側の制裁網を潜り抜けて、BRICS(新興5カ国)やグローバルサウス国との資源取引を活発化させ、戦時下の経済も当初予測より停滞を見せなかった。
ロシア連邦統計局が発表した2023年の国内総生産(GDP)は前年比3.6%増で、同1.2%減だった2022年から大幅にプラスに転じた。世論調査の結果には、そうしたことを背景にした楽観的な国民意識が反映されている。
独立系調査機関レバダセンターが毎年年末に行っている定例調査によれば、「翌年は今年に比べてどんな一年になるか」という問いで、「完全に良くなる」「良くなることを期待する」の「良くなる」派は、71%となり、2022年末に行われた調査に比べると、3ポイント増えた。
制裁の影響を受けた大規模侵攻1年目よりも2年目の方が、暮らしが落ち着いたからこうした結果が出たとも考えられるが、そのうち「完全に良くなる」と答えた層が14%となり、2009年から行われているこの調査で過去最高になったことは目を引く。
さらにこの調査で「来年は悪くなると思う」と答えた層も3%しかいなかった。
また、プーチン政権による軍事行動を支持する国民意識も高止まりのまま推移している。
レバダセンターの定期調査によれば、侵攻開始直後の2022年3月から月1回行われている「ウクライナでのロシア軍の軍事行動を支持しますか」という問いかけに対して、直近の2024年2月で「絶対に支持」「どちらかと言えば支持」の「支持」派は77%を記録した。
「不支持」派が最も多かったのは2022年3月の23%で、20%前後を推移している。
軍事行動支持派を年代別にみると、55歳以上では81%に達した。国営メディアに占められたテレビをよく視聴するとされる層と重なる。年代別では最も不支持派が多い18〜24歳の層でも、直近の「不支持」派は23%に止まる一方、支持派は61%を占めた。
調査では、軍事行動の結末についての考えも質問している。これに対し、「ロシアの勝利で終わる」と答えた人は2024年1月で77%に上った。この数字は2022年4月の73%の状態から、2年近くほとんど変わっていない。
ただ、ロシア人は戦争が長期化することもひしひしと感じ取っているようだ。
レバダセンターが戦争の終結時期について「1か月以内」「2か月以内」「2か月から半年以内」「半年から1年以内」「1年以上先」という選択肢から回答を求めたところ、2022年11月からは「1年以上先」を選んだ人が40%以上を占めるようになっており、直近の2024年1月には46%に達した。
ロシア軍は、戦闘の前線である南部・東部だけでなく、キーウやオデッサ、リビウなどの大都市で度重なる都市空爆を行っている。ウクライナ国内での民間人の犠牲者は1万人を超えたとも報告されている。
調査では、民間人を巻き込むロシア軍の軍事行動の賛否も質問。「ウクライナでの破壊行為と民間人の犠牲に対して、自分たちのような人々は道徳的な責任を負っているか?」との問いに、「完全に責任はない」は62%で「責任がある」を大幅に上回っている状況にある。
ウクライナでは連日のように、学校や病院、高層アパートなどが空爆の被害に遭ったり、子どもを含む多くの犠牲者が出ていることが報告されているが、ロシア国内では情報統制がなされ、戦争の酷い現実を知らされていない市民も多いと思われる。
ロシア人、不安も
しかし、だからといって、ロシア国民に不安がまったくないわけではない。
同じくレバダセンターの「軍事行動を続けるべきか?または平和交渉を開始すべきか」との定期調査で、直近の2024年1月には回答者の52%が「平和交渉開始」を支持し、「軍事行動の継続」を支持する人たち(40%)を上回った。
ただ、調査の結果は2022年9月の開始時からあまり変化を見せていない。その理由は「戦争の代償」に関するレバダセンターの調査からうかがいしることができる。この調査では「あなたは特別軍事作戦の参加で、ロシアは高い代償を払っていると思うか」との質問があり、2023年1月の定例調査開始以来、「間違いなく高い代償を払っている」「どちらかと言えば払っている」を合わせた「高い代償」派が65〜82%の間を推移している。
直近の2024年1月は66%で、最も高い数値(82%)を記録したのは2023年7月だった。この頃、民間軍事会社「ワグネル」のトップ、エフゲニー・プリゴジン氏(同8月に飛行機墜落で死亡)をめぐる混乱が起きていた。ロシアでは厳しい情報統制がなされているとしても、戦争をめぐる犠牲について、当局も抑えられない重大情報が露見すれば、国民も揺れ動くことがわかる。
さらに戦争の犠牲や損失の悪影響は、社会的弱者や貧困者、大都市に比べ経済規模に開きがある地方都市の住民ほど、より大きく受けると考えているようだ。
大規模侵攻2年目の2023年は、1年目の2022年に比べ「あなたやあなたの家族にとって、全体的にどんな1年だったのか」というレバダセンターの質問に対して、全体的には「2023年は2022年より困難になった」が33%、「2023年は2022年より改善した」が12%、「2023年と2022年の状況は一緒だ」が54%という結果が出た。
しかし、「食費をまかなうゆとりがない」貧困層では、「より困難になった」と答えた人が53%を占めた。
一方で、モスクワのような大都市ほど「より困難」は比較的少なく、居住地の人口が少なくなればなるほど、「より困難」派が増える。それを裏づけるかのように、モスクワでは「2023年は2022年より困難だった」と答えた人は28%しかいないのに、人口10万人までの街に暮らす住民は52%が「より困難だった」と答えている。戦争の長期化に伴い、都市部の富裕層と地方の貧困層の格差が広がってきていることが浮かび上がる。
ロイター通信によれば、2023年の経済成長は軍事予算頼みの面が非常に大きく、ロシアのエコノミストの次のようなコメントを引用している。
「防衛企業がミサイルや砲弾を製造すれば、それらはどこかで使われ、GDPは伸びる。だが、民間経済がその過程で享受する恩恵は乏しい」
足元の実体経済が悪化すれば、国民の不安は増大する。そうしたリスクも抱えながら、ロシアは3月の大統領選挙を迎えることになる。
●EU、「ロシアにミサイル支援」北朝鮮を制裁…ウクライナ戦争後初 2/22
欧州連合(EU)27カ国が、ウクライナ戦争時にロシアにミサイルを提供したという理由で、北朝鮮を制裁案リストに追加した。EUはこれまで人権侵害、国連安全保障理事会(安保理)決議違反などの理由で北朝鮮に制裁を課してきたが、ウクライナ戦争に関連して北朝鮮への制裁を推進するのは今回が初めてだ。
EU上半期の循環議長国であるベルギー政府は21日(現地時間)、X(旧ツイッター)を通じてEU27カ国の常駐代表が第13弾となる対ロシア制裁パッケージに合意したとし、「これまでEUが採択したもの中で最も広範にわたるパッケージ」と明らかにした。また今回のパッケージがウクライナ戦争2周年である24日に合わせて公式に承認される予定だと説明した。
AFP通信は入手した草案を引用し、北朝鮮の国防相がロシアに対するミサイル提供に関連制裁リストに新たに追加されたと報じた。北朝鮮の一部企業も同じ理由で制裁リストに含まれたという。確定した第13回制裁パッケージの全文は、公式承認時に公開される予定だ。
●ロシア、国内弾薬生産不十分 ウクライナ制圧との目標は維持=西側当局者 2/22
西側諸国の当局者は21日、ロシアは制裁措置の影響でウクライナでの戦争に必要な弾薬を国内で十分に生産できていないとの見方を示した。ただ、プーチン大統領はそれでもウクライナを制圧するという目標を変えていないとしている。
当局者は、西側諸国の制裁措置で部品調達ができなくなっているため、ロシアの軍需企業が新しいシステムを導入したり、古いシステムを修理したりすることができなくなっていると指摘。「ロシアの弾薬の国内生産能力はウクライナでの戦争のニーズを満たすには十分でない」と述べた。
その上で、プーチン大統領はこうした問題に直面しているにもかかわらず、ウクライナを征服するという目標を変えていないとの見方を示した。
●ウクライナ侵略2年の国連総会、ロシア非難決議案は採択されない見通し… 2/22
ロシアによるウクライナ侵略2年に合わせて23日(日本時間24日未明)に予定されている国連総会の会合で、ロシアを非難する決議案が採択されない見通しになっている。複数の国連外交筋が21日、明らかにした。イスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザを巡る情勢に関心が分散していることが影響している可能性がある。
侵略1年に合わせた昨年の緊急特別会合では、ロシアによる戦争犯罪を念頭にウクライナでの「戦争を巡る重大犯罪の調査と訴追」の必要性を盛り込んだ決議を全193か国のうち、141か国の賛成で採択していた。決議案はウクライナが共同提案国を募って提出した。
ところが、国連外交筋は、今年は「決議案が配布されておらず、根回しもない」としている。国連総会で採決される決議案は、提出国による事前説明があるのが一般的で、今年は決議案自体が提出されない公算が大きくなっているという。別の外交筋は「決議案が採択されなければ、ロシアに対する国際社会の圧力低下を招く」と懸念を示した。
●ウクライナ 反転攻勢の成果あがらず 守勢に回る状況も 2/22
注目されたウクライナの反転攻勢は思ったような成果があげられず、逆に兵士の犠牲をいとわないロシア側の攻撃で、東部の拠点を奪われるなど守勢に回る状況も出ています。
反転攻勢 想定より進まず
占領された領土の奪還を目指し、ウクライナの反転攻勢が始まったのは去年6月。
東部ドネツク州のバフムト周辺、ドネツク州西部、南部ザポリージャ州の西部の主に3つの地域で進軍を開始しました。
当初からドイツ製の戦車レオパルト2など、欧米から供与された戦車や歩兵戦闘車が投入されました。
しかし、ロシア軍が支配地域に地雷原やざんごうなどを組み合わせた強固な防衛線を幾重にも築いたことなどで、戦闘はこう着状態に陥りました。
さらに、砲弾や兵力不足などを背景に、ウクライナ軍の反転攻勢は当初の想定よりも進んでいないと指摘されています。
去年12月にはアメリカの有力紙ワシントン・ポストが反転攻勢は失敗したとした上で、その背景には最大の支援国アメリカとウクライナで作戦の進め方や開始時期をめぐる意見の相違などがあると指摘しました。
具体的には、アメリカ側は南部ザポリージャ州に集中させた戦力をアゾフ海に向けて南下させて、ロシアの補給路を断つよう主張したのに対し、ウクライナ側は3方面での作戦を主張したとしています。
一方、ロシアは侵攻開始以降、30万人余りの兵士が死傷したとも伝えられる中、兵士の犠牲をいとわない大規模な攻勢を続けています。
ロシアへの越境攻撃とみられる動きが目立つ
領土の奪還では思うような成果がみられていない反転攻勢。
一方で、ロシア領内への無人機による越境攻撃とみられる動きが目立っています。
ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州やクルスク州、それにロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアなどに無人機攻撃が相次ぎました。
ロシアはいずれもウクライナ側による攻撃だと主張しています。
ゼレンスキー大統領も「無人機の運用の質を高め、敵に先んじることがことしの課題の1つだ」と述べるなど、今後も無人機による攻撃の応酬が激化することも予想されます。
ロシア 東部の拠点を掌握
侵攻を続けるロシアは去年5月、侵攻開始当初から激しい戦闘が繰り広げられてきた東部ドネツク州のバフムトについて、「完全に掌握した」と発表。
広島でG7サミットが開催され、ゼレンスキー大統領も参加する中でのことでした。
さらに、今月、ロシア国防省は東部ドネツク州の拠点、アウディーイウカをロシア軍が完全に掌握したことを明らかにしました。
ロシア側は「ドネツク州の解放を進めるため攻撃を続ける」として、ドネツク州全域の掌握をねらう方針を改めて示しています。
ロシアのプーチン大統領はアウディーイウカの掌握を「重要な戦果」だと強調した上で、ウクライナ軍が去年、奪還したとしていた南部ヘルソン州のドニプロ川の東岸地域にある拠点クリンキの集落を再び掌握したと主張し、ウクライナ側の反転攻勢を撃退していると強調しました。
ロシア側 軍内部でも足並みの乱れ指摘
ロシア側が「一枚岩」でないことを示す事態も起きました。
去年6月、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が国防省との対立を深める中で武装反乱を起こしました。
ワグネルの部隊は一時、ロシア南部から北上し、首都モスクワでは対テロ作戦が宣言され、軍の装甲車両なども投入して厳戒態勢を敷くなど緊張が高まりました。
プリゴジン氏は武装反乱の2か月後の去年8月、乗っていた自家用ジェット機が墜落し死亡。
プーチン政権側はジェット機の機内で手りゅう弾が爆発したとしていますが、詳細は明らかにしていません。
アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルはプーチン大統領の最側近であるパトルシェフ安全保障会議書記が指示した暗殺だったと報じました。
また、プリゴジン氏と関係が近いとされ、軍事侵攻でロシア軍の副司令官を務めたスロビキン氏が武装反乱の計画を事前に把握していたとも伝えられ、軍内部でも足並みの乱れが指摘される事態になりました。
ウクライナ 軍体制刷新
反転攻勢の失敗が伝えられる中、ウクライナ軍でも大きな動きがありました。
ゼレンスキー大統領は今月、ロシア軍の侵攻を食い止めてきたとされ、国民の間で人気が高かったザルジニー総司令官を解任。
新しい総司令官に陸軍のシルスキー司令官を任命しました。
ゼレンスキー大統領とザルジニー氏の間では戦況の認識や動員などをめぐってあつれきが生じているという指摘が出ていました。
新たに就任したシルスキー総司令官は、前線のニーズを踏まえた部隊の行動計画作りや、迅速で合理的な補給などを軍の重要課題に挙げていて、改革が戦況の打開につながるかが注目されています。
今後の戦況は
今後の戦況について、アメリカのシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所は「ウクライナは去年握っていた軍事的な主導権を失った」とした上で、ロシア側がこの春にも東部ルハンシク州などを中心にハルキウ州やドネツク州の北部に向けて攻勢を強めるという見方を示しています。
その上で、ウクライナが欧米の軍事支援を継続的に得られるかや、無人機や航空戦力に重点を置いた戦略を成功に導けるかが、かぎになると指摘しています。
●G20外相会合、ウクライナ侵略巡り対立…非難強める日米欧にロシアは反発 2/22
主要20か国・地域(G20)外相会合が21日、ブラジルのリオデジャネイロで2日間の日程で開幕した。初日は国際情勢を議論し、ロシアのウクライナ侵略への非難を強める日米欧と、ロシアとの対立が改めて浮き彫りとなった。パレスチナ自治区ガザで戦闘を続けるイスラエルとイスラム主義組織ハマスに即時停戦を求める声も相次いだ。
現地報道などによると、ウクライナ侵略を巡って、先進7か国(G7)が一致して対露批判を展開したが、その他の国は戦闘自体を非難するにとどめた。セルゲイ・ラブロフ露外相は「西側の偽善だ」と反発した。
一方、多くの国がガザでの即時停戦を訴えた。南アフリカの外相にあたるナレディ・パンドール国際関係・協力相はイスラエルのガザ侵攻を「国際法違反」と非難し、G20として具体的な対応を求めた。
日本の上川外相はイスラエルによるガザ南部ラファでの軍事行動について、「深い懸念」を表明した。
パレスチナへの人道支援のため、3200万ドル(48億円)規模の新たな緊急無償資金協力を検討していることを明らかにした。
22日は、ブラジルが優先課題の一つに掲げる国連安全保障理事会の改革などについて議論される。日米欧と中露の対立が深まる中、成果文書は昨年に続いて見送り、議長総括をとりまとめる予定だ。
議長国ブラジルのマウロ・ビエイラ外相は21日の会合冒頭、「軍事力の行使によって対立が解決される世界は受け入れられない」と安保理の機能不全を指摘し、改革の必要性を訴えた。
●G20外相会合始まる ウクライナ・中東情勢めぐり非難の応酬 2/22
G20=主要20か国の外相会合が始まりました。ロシアによる侵攻開始からまもなく2年を迎えるウクライナや中東情勢などをめぐり、参加国が非難の応酬を繰り広げた模様です。
アメリカのブリンケン国務長官やロシアのラブロフ外相らが出席する外相会合は、ブラジルのリオデジャネイロで21日に開幕しました。
初日はウクライナ情勢や中東情勢について意見が交わされ、日本の上川外務大臣がロシアのウクライナ侵攻について、「G20の協力の基盤を揺るがす暴挙」と批判しました。
参加各国はそれぞれの紛争で立場が異なり、意見の取りまとめは難航すると見られています。
議長国ブラジルの外相は国連安保理について、「常任理事国による拒否権の発動で機能していない」と指摘していて、2日目の会合では国際機関の改革に関する議論が行われる予定です。
●G20財務相会議出席へ ウクライナ支援継続を表明―米財務長官 2/22
米財務省は21日、イエレン財務長官が28、29両日にブラジルのサンパウロで開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席すると発表した。ロシアの侵攻が続くウクライナへの支持を改めて表明し、支援を継続する姿勢を示す。議長国ブラジルをはじめとした「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国との関係強化も図る。
イエレン氏はG20会議で、ロシアの侵攻開始から2年を迎えるウクライナ情勢を巡って意見交換したい考え。声明では「戦争の悪影響を緩和しながら、協調と協力を強化する」と説明した。
●「ウクライナにあげる金などない」…トランプ氏が復帰すれば「終わりの鐘響く」 2/22
「ウクライナにあげる金などない」「我々の国を立て直すことから始めるべきではないか」
20日、米サウスカロライナ州で行われたFOXニュースの集会で講演するトランプ氏=AP。ウクライナ支援に否定的な考えを示した
今月12日、米議会上院の本会議場では野党・共和党議員が入れ代わり立ち代わり、ウクライナ支援に否定的な演説を夜通し続けた。採決を故意に遅らせるフィリバスター(議事妨害)を展開したのは、ウクライナ支援予算約600億ドル(約9兆円)を含む緊急予算案に反対するためだ。
上院は与党・民主党が多数派で、予算案は翌朝にもつれ込んだ採決で可決された。バイデン大統領は13日、ホワイトハウスで「この法案への反対は、プーチン(露大統領)の意のままになるのと同じだ。歴史が見ている」と訴えたが、下院は共和党が多数派で、現状のままでの予算成立は絶望視されている。
ロシアによる侵略開始以降、米議会はウクライナに超党派の強い支持を示してきた。米国が提供した軍事支援は440億ドル(約6兆6000億円)超で、国別支援額では突出している。
米議会を変質させたのは、秋の大統領選で返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領だ。「米国第一」を掲げるトランプ氏は、ウクライナに欧州よりも遠い米国が多額の支援をしていることに不満を抱き、援助停止を促している。
トランプ氏に忠誠を誓う保守強硬派のマイク・リー上院議員は12日、X(旧ツイッター)オーナーのイーロン・マスク氏らとのオンライン討論番組で、汚職が深刻な問題になってきたウクライナの国民を「汚職の世界記録を樹立した人々だ」とののしった。番組は120万回以上、再生されている。
オースティン国防長官は20日、ウクライナのルステム・ウメロフ国防相らと電話で会談し、弾薬供給を「緊急課題の一つ」として協議した。だが、予算が枯渇している米国は、今のままでは弾薬を供給できない。ドイツの調査機関・キール世界経済研究所は最新報告書で、「トランプ氏が政権復帰すれば米国の対ウクライナ援助に終わりの鐘が鳴り響くだろう」と予測した。
支援強化が期待される欧州でも、内向き傾向がじわじわと強まっている。
旧ソ連の「衛星国」として苦しんだ歴史を持つスロバキアでは昨年秋、ウクライナへの軍事支援反対を掲げる左派ポピュリズム政党が政権を奪還した。昨年11月のオランダの総選挙で第1党になった極右の自由党は移民・難民の受け入れに反対し「オランダ第一主義」を主張する。
ウクライナのアンドリー・イェルマーク大統領府長官は危機感を隠さない。「全ての武器支援が遅れずに届くことが重要だ。さもなくば、残念ながら、我々はこの戦争で負ける」
●侵攻から2年 終わりの見えない戦闘 領土断念という「不確かな選択肢」は 2/22
ロシアがウクライナに全面的な軍事侵攻してから2月24日で丸2年になる。ウクライナでは東部や南部の要衝を中心に今も激しい戦闘が続き、兵士や市民の犠牲は日々増え続けている。間もなく3年目に突入する戦争の終わりが見えない中、現地の世論調査では「停戦のために領土を諦めることもあり得る」という意見が以前よりも増えているという。ウクライナの人々は今、どのように日々を過ごし、「今後」についてどう考えているのか。2022年3月下旬から約2カ月、ハルキウやザポリージャなどウクライナ各地を取材したディレクターが、あらためて現地の人たちの思いを尋ねた。
「みな疲れて燃え尽きてしまった感じ」バフムトで見た光景
ウクライナで会ったのは2年前、ビデオ会議のZoom画面越しに1年ぶりに見るマキシム・バイネル(27)は、少しやつれているようだった。2022年のロシア軍によるウクライナへの全面的な侵攻開始から2月24日で丸2年を迎えるにあたって話を聞きたいと伝えると、「そうか、もう2年になるんだね」と今、初めて気づいたように答えた。ウクライナ南東部に位置し、ロシアが占拠する欧州最大規模の原発があるザポリージャ州にマキシムは住んでいる。彼の家があるザポリージャ市は占領を免れているため、侵攻開始当初から、ロシアによる占領から逃れてきた人たちに避難所で衣食を提供したり、外国のNGOの通訳をしたりするボランティア活動に奔走してきた。そんな彼にとって「2年」という節目は特に大きな意味を持つものではなかったようだ。
昨年の今ごろは、ウクライナ東部の激戦地バフムトなどの前線近くで、「医療避難」のボランティアをしていた。治療を必要とする兵士や一般市民を迎えに行き、設備の整った比較的安全な地域にある病院まで救急車で運ぶ。アメリカのNGOが主体となって活動する中、通訳や連絡調整の業務を担っていたという。
「バフムトの近くには、砲撃で破壊されて廃墟みたいになった村もあった。ずっと砲撃の音が聞こえているんだ。僕もけが人や兵士を運んだ。亡くなった人もいたよ」
ドネツク州バフムトは、領土奪還を目指すウクライナ軍と民間軍事会社ワグネルが加わったロシア軍との間で激しい戦闘が繰り広げられた場所でもある。しかし、住み慣れた場所を離れたくないという思いから避難せずに残り続ける住民も5000人近くいたという。多くは地下シェルターで日々を過ごしていた。マキシムにはシェルターで見た忘れられない光景がある。
「昨年1月ごろのこと。そのシェルターには大きなプロジェクターがあってテレビ映像が流れていた。まだクリスマスムードが残っていて明るい内容のコマーシャルや、ゼレンスキー大統領の新年の挨拶が映っていた。慰問に来た教会の人たちは希望についての歌を歌っていた。でも、それを見ているシェルターの人たちはみなボロボロの服を着て疲れ切って座っているんだ。みんな死んだような表情だった。明日ミサイルに当たって死んでも構わない、というようなね。本当にシュールな、奇妙な光景だったよ」
怒りとも悲しみとも違う感情をマキシムは口にした。2年という月日が経ち、しかしこの先どこに向かうかわからない戦争に人々は翻弄されていた。
ここ最近、マキシムは自分の生活に時間を使うことが増えたという。NGO活動も資金不足で継続できなくなり、また占領地から避難民が逃げて来られなくなったからだ。
「みな疲れてきている。燃え尽きてしまったような感じさ。自分たちの世界は、他の世界から隔絶されているみたい。でも、やれることがあったらやるし、今は知り合いが運営しているシェルターをときどき手伝いに訪ねてもいる」
マリウポリを思い出すのがつらい孫と帰りたい祖母
マキシムが以前、ボランティアとして英語を教えていた大学生、カテリーナ・イブチェンコ(17)は、アゾフ海に面したウクライナ南部マリウポリからの避難民だ。
マリウポリは、ロシア軍によって激しい包囲攻撃が行われ、製鉄所をめぐる攻防のほか、産科病院への攻撃や多数の民間人が避難した劇場への爆撃などが報じられた街だ。現在はロシアの実効支配下にある。カテリーナは今、首都キーウの大学に通いながら、ともにマリウポリから避難してきた71歳の祖母、一足早くマリウポリを出ていた父親と暮らしている。「空襲警報があること以外、日常生活にそれほど問題はない」とは言うが、精神的な苦しさを抱えていた。
「大学には(東部の)ハルキウやドンバスから避難してきた人たちもいて、彼らは逃げてきたときのことを話します。でも、私はマリウポリのことはあまり話しません。思い出すとつらいから。私が『マリウポリ出身』とわかると友達も察してくれて、それ以上は聞いてきません」
一方、祖母は長年暮らした場所への思いを断ち切れないでいるという。
「おばあちゃんはずっと『マリウポリが恋しい。帰りたい』と言っています。私はあまり自分のつらさはおばあちゃんに見せず、彼女の話を聞いて支えるようにしています」
一度、祖母がマリウポリまで戻るチケットを買おうとしたことがあった。マリウポリに帰らないように父親と必死に説得したという。一度戻れば、もう二度とキーウには戻ってこられない可能性があるためだ。ただし、カテリーナの母親は今もマリウポリで暮らしている。
「母は私たちと一緒に一度はマリウポリから逃げたんです。でも『自宅が心配だから』と、避難して3カ月ほど経った2022年6月にマリウポリへ戻ってしまった。私はとても怒ったし、数カ月ずっとつらかった。でも今は、なるようにしかならないと思うようにしています」
母親の話によると、状況はよくなく、最近のマリウポリには電気も通って食料もあるが、物価が高くなり、酔っ払ったロシア兵があちこちにいて、若い女性に嫌がらせをしているという。
攻撃続くキーウ 空襲警報に慣れてしまった娘
アレクサンドル・ミハイレンコ(45)とはキーウで話を聞いて以来、2年ぶりに連絡を取った。彼はドネツク出身で、2014年にドネツクが親ロシア派に占拠されたことを受けて避難、キーウで家族と暮らしていた。
「2年の間にあったよいことは息子が生まれたことだね。悪いことは20年来の友人が従軍して亡くなったことだ」
キーウの街の様子についてアレクサンドルは、昨年の5月が特にドローンやミサイルによる攻撃がひどかったと振り返った。
「子どもたちの精神状態が心配だった。隣のマンションが攻撃されて2階がほぼ焼けてなくなってしまった。自分のマンションの前にドローンの破片が落ちていたこともある。娘は今では空襲警報が鳴っても、気にせず寝るようになった。慣れるしかないんだ」
アメリカなどが提供する防空システムのおかげで現在は、市街が被害を受ける回数は減った。しかしその分、一つひとつの攻撃の規模が大きくなったと感じている。この年末年始の攻撃は特に激しかったという。
アレクサンドルは故郷のドネツクの知人たちと今も連絡を取っているが、彼らの話では街は「マシ」になったという。
「現在のドネツクは(2014年の南部クリミア併合後、親ロシア武装勢力が一方的に独立を宣言した)『ドネツク人民共和国』ではなく、“ロシア領”になった。けれど、政治や各種制度はまだ完全にロシアの統治のやり方になっておらず、中途半端な感じらしい。戦争が始まった頃は、断水して水が来なかったけれど、今は2日に1回は給水が来るみたいだね」
ドネツク市では今もロシアとの交戦状態が続く。基本的にはウクライナ軍による攻撃だが、ウクライナかロシアかどちらの攻撃かわからない場合もあるという。住民は苦しい思いを抱えている。
「ドネツクにとどまりたい人と、ウクライナでもロシアでもどちらでもいいから安全な場所に逃げたい人の両方がいるよ。でも若い男性はロシア軍に徴兵されてしまうから、ずっと家の中で隠れていると聞いた」
領土を諦めるという「選択」が意味すること
2年間続くこの戦争。国連によると、ウクライナの市民だけで少なくとも死者1万人(ロシアによる占領地での死者は不明)、報道によると、兵士ではウクライナ側は3万人から7万人、ロシア側では4万人から12万人の死者が出ているとされる。死傷者ばかりが増え、戦況は膠着しているのが実情だ。
こうした状況のもと、キーウ国際社会学研究所(KIIS)が行う世論調査にも変化が出始めている。「領土は諦めるべきではない」という考えが多数派ながら、「できるだけ早く平和を手にいれ独立を維持するために領土の一部を諦めることもあり得る」と答える人の割合が、2022年12月には8%だったのが、2023年12月には19%と2倍以上になった。
この数字について、アレクサンドルは深層的な世論が反映されていない可能性を指摘する。
「実際は『諦めるしかない』と考えている人はもっと多いと思う。でも、社会的に認められている答えを言ってしまう。調査の数字は慎重に扱わないとね」
国として一致団結してロシアと戦おうという状況の中、それに反対する意見や疲弊を口にするのは憚られる雰囲気があり、世論調査に正確に反映されていないというのだ。
同時に、領土を諦めるという選択肢がそもそもないとの見方をする人もいる。
ボランティアを続けてきた前出のマキシムは、「人々の感情」と「実現可能性」の違いを指摘した。
「人々が『諦めるしかない』と考えてしまうのは仕方がない。死者もたくさん出ているし、戦争を止められる『魔法』がほしいと思ってしまうから」
そのうえで自身の意見を語った。
「仮にウクライナが『領土を諦める』と言っても、ロシアが戦争をやめるだろうか。僕の意見は、今ロシアは勝っているから、プーチンは絶対やめないように思う」
たとえ一時的に停戦したとしても、再び侵攻してくる可能性があると懸念する。
「みんな死者を減らしたいと思っている。現実の問題としては『どう思っているか』ではなくて、『死者を減らせる道具があるか』なんだ。死者を減らすには、欧米からもっと武器を得て勝つことしか方法はないと思う」
アレクサンドルも、簡単にこの戦争が終わらないと考えている。戦いの本質は領土ではないからだと話す。
「ロシア政府の狙いは、領土ではなく、ウクライナを服従させること。だから、ヨーロッパがどうウクライナをサポートするかが関係してくる。戦争を終わらせるには、プーチンがいなくなることと、欧米の支援の両方が必要だ」
ウクライナ政府内部の問題もある。長年、ウクライナでは汚職の問題があり、今後の方針をめぐっても大統領と軍総司令官の対立が取りざたされ、軍総司令官が今月、解任された。マキシムは「私たちはロシアと戦っているのに、なんで内輪で対立しているのかわからない」と残念そうに言う。
マリウポリ出身のカテリーナは、彼らとは少し違う感情を持っていた。こう言うのは本当につらいけれど、とためらいながら思いを吐露する。
「たくさんの人たちがもう十分苦しんだし、若い人が毎日死んでいる。戦争を終わらせないといけないし、それには領土を諦めるしかないと思う。もし、そうなったら母はマリウポリに、私はキーウに残ることになると思うけれど」
そして、言葉を継ぐ。
「絶対に領土を諦めないと主張しているのは、中部や西部など、直接的な戦闘があまりない場所の人たちです。マリウポリを含めた東部ドンバスなど、ロシアに占領された地域に近い人たちのほうが諦めるべきだと思っている。生きるか死ぬかという経験をしているし、戦争の現状がどれだけひどいかを知っているから」
地域による意識の違いは、先のキーウ国際社会学研究所の調査でも示されている。前線地域の人たちは、ロシア軍の威力もウクライナの被害も、身をもって知っている。だから「諦める」という選択を考える。故郷を失い、その土地にもっとも愛着があるはずの人たちが「諦めるしかない」と言わねばならない状況を強いられている。
カテリーナは、しかし、諦めるということにも疑問を覚えている。
「もしウクライナが領土を諦めると言っても、ロシアは攻撃をやめるかどうか……。やめるかもしれないし、やめないかもしれない。私にはわかりません」
ウクライナの人々は、自分たちの力だけではどうにもならない状況の中で、疲弊と祈りの間に立っている。
●ウクライナ、抗戦継続を7割支持 24日で侵攻2年、長期化必至 2/22
ロシアによるウクライナ侵攻は24日、開始から2年を迎える。全土奪還を掲げるウクライナ国民の7割以上が依然として戦争継続に賛成する。国内で高い支持を集めるロシアのプーチン大統領に譲歩の余地はなく、長期化は必至だ。犠牲が拡大し、社会に疲労が蓄積するウクライナは難局が続く。
キーウ国際社会学研究所が今月上旬、ウクライナで約1200人を対象に実施した世論調査によると、侵攻開始当初の2022年5月と同水準の73%が「必要な限り戦争に耐える」と回答した。ロシアが併合した南部クリミア半島や東部ドンバス地方(ドネツク州とルガンスク州)を含む全土を奪還して終戦すると信じる人は65%に上った。
南部ヘルソンや東部ハリコフ各州を相次いで奪還した軍の躍進は22年秋以降に停滞。昨年の反転攻勢は失敗とされ、社会に落胆が広がった。ゼレンスキー大統領は欧米の支援強化に奔走するが、求心力は下り坂だ。
即時停戦を望む声は圧倒的に少ないが、一部の領土損失を見込む人も侵攻当初より7ポイント増の32%となった。
●ロシアの攻勢許すウクライナ、増兵要する状況も招集拡大に異論噴出 2/22
再びロシア軍によるミサイル攻撃の脅威に直面するウクライナの首都キーウで、少人数の女性グループが抗議活動を行っている。その中の1人、アントニーナさんは、3歳の息子のサーシャちゃんを連れている。
「お父さんが家に帰ってこない。戻ってくるのを待っている」と、サーシャちゃんは話す。
「動員に公平な期限を」と書いた紙を掲げたアントニーナさんは、現在従軍中の夫について、ウクライナ東部バフムート近郊で戦う迫撃砲部隊に加わっていると明かした。5カ月会っていない夫の不在を、サーシャちゃんにはこう説明している。
「お父さんは働いている。軍隊にいて、お金を稼いでいる」
ウクライナ軍による動員は現在無期限で行われており、中断を命じる法令はない。アントニーナさんの夫は、ロシアによる全面侵攻が始まった直後の2年前に軍に志願した。現在の年齢は43歳で、もう十分従軍したとアントニーナさんはCNNの取材に語った。
抗議の女性たちが立つすぐ近くでは、議員たちがウクライナ軍の動員規則の改正について議論している。彼らは厳重に守られた議事堂の中にいる。数週間以内に成立する可能性のある新たな法律は、徴集される兵士数の大幅な増加に道を開くとみられている。
2022年の前半、新兵を募集するウクライナ国内の事務所には長蛇の列ができていたが、それも過去の話だ。政府はかねて志願兵に補足する招集システムが機能していないと不満を漏らしていた。各州当局も動員規則を執行できずにいる。
戦闘に参加できる年齢は18歳から60歳まで。ウクライナでは女性の従軍も認められているが、当該の招集の対象は27歳以上の男性のみだ。議会で審議されている法改正には、対象年齢の下限を25歳に引き下げる案が盛り込まれている。ただ1990年代と2000年代に国外移住が増加し、出生率の低下にも見舞われたウクライナでは、現在20代の人口が30代や40代と比較して著しく少ない状況にある。
法案では兵役年齢に該当する全男性に対し、住所や雇用状況に関する詳細を登録する新たな義務も課す見通し。これらの中央データベースを軍にとってより確認しやすくすることで、招集の透明性や効果を確実に高める狙いがある。
招集命令に応じない場合の罰則は、運転免許の停止や銀行口座の取引停止を含んだ一段と厳しいものになる可能性がある。
ただ警察は、招集逃れを取り締まっても、当該の案件が司法制度で裁かれるまでには非常に時間がかかることを認めている。過去2年間で違反が認められた2600件のうち、評決に至ったのはわずか550件だという。ある警察幹部は「この犯罪で罰則を逃れるのは不可能だと人々に悟らせるため、裁判所にはまだやるべきことがある」との見解を示した。 
●消耗するウクライナ軍、兵力も弾薬も不足 ロシア軍の優位鮮明に 2/22
対ロシア戦争が3年目に突入する中、ウクライナ軍の第59歩兵旅団は厳しい現実に直面している。戦うための兵力と弾薬が尽きつつあるのだ。
ある小隊長によると、開戦時に数千人規模だった旅団の兵員数は、死亡や負傷、老齢や病気による除隊が相次ぎ、残存しているのは60─70%と推定される。
ロシア軍の攻撃で多くの死傷者が出ている上、東部戦線は季節外れの気温上昇で凍土がぬかるみと化して兵士の健康を蝕み、事態は一段と悪化している。
旅団の中隊長は「天候は雨、雪、雨、雪の繰り返し。そのためインフルエンザや狭心症が広がっている。罹患した兵士は一時的に任務を離脱するが、その穴を埋めることができない。兵員不足はどこの部隊でも喫急の課題だ」と述べた。
ロシアのウクライナ侵攻から24日で丸2年。第一次世界大戦を彷彿とさせる塹壕を使った消耗戦と、何万台もの機器が投入されているハイテク無人機戦が組み合わさった今回の戦争は、現段階ではロシアが優位に立っている。
この数カ月に小規模な勝利を収めてきたロシア軍は先週末に東部ドネツク州のアブデーフカを制圧。この地域の防衛にあたっていたウクライナ第3特別強襲旅団の広報担当者は、ロシア軍が圧倒的に優勢で兵力比率は1対7だったと認めた。
ロイターはウクライナ東部と南部の1000キロに及ぶ前線のさまざまな区間で、歩兵部隊や無人機部隊、砲兵部隊の兵士や指揮官20人余りに話を聞いた。
ウクライナ軍の士気は依然として高い。しかしゼレンスキー大統領の要請にもかかわらず西側諸国からの軍事支援が鈍っているため、規模と補給能力で上回るロシア軍を食い止めるのは難しいという。
第59歩兵旅団の別の指揮官は、5人から7人のロシア部隊による執拗な攻撃について、襲撃は1日に最大10回に達し、「1つか2つの守備陣地が1日中こうした攻撃を防いでいると、兵士たちは疲弊してくる。兵器は壊れる。弾薬や兵器の補充ができなければどうなるのかは明らかだ」と語った。
ウクライナのハブリロフ国防次官はロイターの取材に書面で回答、ウクライナ側は大砲の弾薬とロケット弾の不足で守勢に立たされており、ロシアは幾つかの前線で攻撃を強める見通しだと述べた。「必要な軍事援助がさらに遅れるようなら、前線の状況はさらに困難になる可能性がある」と警戒する。
兵士と弾薬が不足
ウクライナ政府は戦費の多くを海外から提供される資金と装備に頼っている。しかし米国からの支援610億ドルの議会審議が難航している今は、外国頼みの実態が一段と露わになっている。
ロケット砲兵部隊の兵士によると、この兵士のロケットランチャーのロケット弾はウクライナの同盟国がほとんど保有していない、旧ソ連が設計したもので、現在の稼働率は30%程度だ。
対ロシア戦争が3年目に突入する中、ウクライナ軍の第59歩兵旅団は厳しい現実に直面している。
戦闘が長引き、西側諸国が出荷ペースを維持できないため、砲弾も不足している。米国の供給が止まっているほか、欧州連合(EU)も3月までに100万発を供給するとの目標を半分近く達成できないと認めた。
米シンクタンク、カーネギー国際平和財団の上級研究員でロシア軍事専門家のマイケル・コフマン氏の推定では、ロシア軍の砲撃規模はウクライナの5倍に達する。「ウクライナは防衛上最低限必要な砲弾を手にしておらず、この状態を続けることは不可能だ」という。
ウクライナ政府関係者によると、同国軍の兵力は約80万人。プーチン大統領は昨年12月、ロシア軍の兵力を17万人増員して130万人とするよう命じた。
ロシアは国防費でもウクライナを凌駕しており、2024年にはウクライナの目標額(438億ドル)の2倍以上となる1090億ドルを見込んでいる。
ウクライナも兵力増強に向けた法案を議会で審議中だが、前線の兵士の間には大幅な増強は期待するのは難しいと受け止める雰囲気が漂っている。
ウクライナのウメロフ国防相は最近、EUに宛てた書簡で、ウクライナの砲弾不足を「危機的」と指摘、各国に供給強化の取り組みを強めるよう求めた。
無人機戦争
ウクライナ戦では前線で戦闘機を見かけることが少ないが、これは防空システムが抑止力として機能しているのが主な理由だ。ただ、空域では両陣営が無人機技術で優位に立とうと争っている。
ウクライナは無人機の生産と技術革新の向上に取り組み、先進的な長距離無人機を開発している。一方、ロシアも巨額の投資により、ウクライナの初期の優位を帳消しにした。
その規模は驚くべきものだ。ウクライナのフェデロフ・デジタル変革相によると、ウクライナは昨年30万機余りの無人機を発注し、10万機余りを前線に送った。
一方、第59旅団の中隊長は、ロシアが無人機の使用を広げたことで、ウクライナ軍が要塞陣地を構築したり強化したりすることが難しくなったと述べた。「ウクライナ軍が何かしようとすると無人機に見つかり、2機目が何かを投下してくる」という。
ウクライナ軍の無人機パイロットに聞くと、ロシア軍も無人機のせいで貴重な車両や兵器を数キロ後退させざるを得なくなっている。
ただウクライナの3つの部隊のパイロットの話では、ロシアは無人機の数が既にウクライナを大幅に上回っている。ロシア国防省は今月、この1年で軍事用無人機の生産が急増したと発表したが、数値は明らかにしていない。
●「キーウ再侵攻が必要」 ウクライナ侵攻「目標達成のため」 2/22
ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長はタス通信などが22日報じたインタビューで、ウクライナ侵攻に関し、軍事作戦の目標達成のために、ウクライナの首都キーウ(キエフ)への再侵攻が必要になる可能性があると主張した。
メドベージェフ氏は「われわれはさらに多くのことに真剣に取り組む必要がある」と指摘。「紛争の発展段階で」キーウ到達が必要だと主張した。ロシア軍は2022年2月の侵攻開始後、一時キーウ周辺に迫ったが、同3月末から4月初旬にかけて撤退した。
メドベージェフ氏は侵攻以来、ウクライナの攻撃に対する報復に核兵器の使用を示唆するなど過激な発言を繰り返している。

 

●また不審死…ロシア軍の損失規模を暴露した軍事ブロガーが急死 2/23
ロシアの軍事ブロガーが先ごろ、ウクライナとの戦闘によるロシア軍の損失規模を投稿で暴露した後に死亡したことが分かった。ロシアの反政府活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏が16日に急死してから1週間もたたずに、新たな不審死のニュースが伝えられたのだ。プーチン大統領が再選するとみられる今年3月の大統領選を前に、ロシアが反プーチン派の人物に対する大々的な粛清に乗り出したとの分析が示されている。
米紙ニューヨーク・タイムズなど外信は21日、ウクライナ戦争を支持してきた親クレムリン(ロシア大統領府)のブロガー、アンドレイ・モロゾフ氏(44)が同日死亡したと報じた。モロゾフ氏は先ごろ、ロシアが最近占領したウクライナの都市アウディーイウカを攻撃する過程で1万6000人の兵力と300台の装甲車を失ったと投稿したが、これが問題視されたようだ。アウディーイウカは今回の戦争で最大の激戦地の一つだったが、17日にウクライナの軍隊が作戦上の理由で撤退したため、ロシア軍が掌握するに至った。
モロゾフ氏は20日に突然、この投稿を削除し、翌21日に別の内容を投稿して自身の暴露のせいでロシア軍司令部と親政府宣伝家らから圧力を受けていると主張。さらに、脅迫が続くのなら自ら命を絶つともつづった。その直後に死亡のニュースが伝えられたのだ。現段階で死因は明らかにされていないが、ロシア国営メディアとロシア国内の親クレムリン軍事ブロガーらは、モロゾフ氏が自ら命を絶ったと一斉に明らかにした。
モロゾフ氏の死が衝撃的な理由は、これまでに命を落とした反プーチン派の人物たちとは異なり、モロゾフ氏が基本的にロシアのウクライナ侵攻を一貫して支持してきた人物だからだ。ロシア軍の深刻な被害状況を暴露したことについても、ロシア軍が置かれている苦境にもっと関心を持ってもらうために、公益的な目的から暴露したのだと明かしていた。ニューヨーク・タイムズは「戦争の初期には、戦争ブロガーらがロシアの軍隊を批判することがあっても、彼らがロシアの軍隊を支持して軍隊の問題に対する関心を呼び起こすというプラスの効果があるためロシア政府はさほど問題にしていなかった」とした上で「しかし昨年、民間軍事会社ワグネルのトップ、エフゲニー・プリゴジン氏が反乱を起こしたのを機に、基調が正反対に変わり、ロシア軍に反対の立場を取ると激しい弾圧を受けるようになった」と指摘した。主に戦況を生配信し、自軍と敵軍の作戦について論じる軍事ブロガーらに、ロシア軍に有利なニュースだけを伝えるよう圧力がかかっているという意味だ。
ナワリヌイ氏の死後、ロシアは残る反プーチン勢力への弾圧を強めている。ロシア政府がナワリヌイ氏の追悼行事に参加した男性らに軍入隊を強要したとのニュースも伝えられた。モスクワ・タイムズは21日、テレグラムのニュースチャンネル「ロトンダ」などの内容を引用し、サンクトペテルブルクの警察の拘置所から釈放された追悼行事参加者のうち少なくとも6人が入隊通知書を受け取ったと報じた。逮捕された6人が受け取った通知書には「数日以内に入隊事務所に申告し、軍服務の登録をするように」と書かれていたという。ロシア当局はナワリヌイ氏の死後、少なくとも400人の追悼行事参加者を逮捕したという。
●バイデン米大統領「プーチンXXX」の悪口に…プーチン露大統領「やっぱりトランプ氏よりましだ」 2/23
ロシアのプーチン大統領が自分に赤裸々な悪口を言った米国のバイデン大統領に対して「バイデン氏がロシアにとってより良い大統領であることを証明した」と反論した。これに先立ち、バイデン大統領は前日、政治資金募金行事で「プーチンのような狂ったXXX(son of xxx)」として荒い表現を使った。
プーチン大統領は22日(現地時間)、ロシア国営放送とのインタビューで、バイデン大統領の悪口について「我々はどの大統領とも働く準備ができているが、私はバイデン氏がロシアにとってより良い大統領だと信じていると述べた」とし、「彼が言ったことをみると、私が完全に正しいということが分かる」と述べた。プーチン大統領は14日のインタビューで、次期米国大統領としてトランプ前大統領よりバイデン大統領がロシアにより有利だと述べ、様々な解釈を生んだ。
プーチン大統領はこっそりと微笑みを浮かべ、バイデン大統領の悪口は自分の発言に対する適切な反応だったと評価した。プーチン大統領はウクライナの「特別軍事作戦」を契機にロシアと米国など西側の対立が激化する状況を指摘し、「バイデン氏は私の言葉に『ヴォロージャ(プーチンの愛称)、よくやった。助けてくれてありがとう』と言えなかっただろう」と皮肉った。また「どの大統領が我々にとって良いかという質問に、私は依然としてあの時の回答を繰り返すことができる」として「バイデン」と再び言及した。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は「米国大統領が他の国家の首長に対してそのような表現を使うのはプーチン大統領を傷つけるのではなく、米国の価値を貶めること」と批判した。同時に「ハリウッドカウボーイのように行動しようとしているのかもしれないが、正直に言ってその可能性はないと思う」と批判した。また、「プーチン氏があなたを下品な言葉で呼んだことがあるか? そのようなことは全くなかった」とし、「恥ずかしいこと」と指摘した。
今回の悪口騒ぎを口実に、バイデン氏の高齢問題と次男ハンター・バイデン氏の脱税疑惑などの問題に対する批判もあった。ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は「バイデンが『狂ったXXX』と声を上げることを決心した時、米国人の心の中でその言葉は主にハンター・バイデン氏と関係があるということを記憶しなければならない」と指摘した。ロシアのミハイル・シェレメト下院議員(ドゥーマ)は「バイデン氏のこのような野蛮な発言は老人狂気にしか説明できない」とし「米国人が大統領選挙でミスを繰り返さないと確信している」と話した。
●「バイデン氏が望ましい」 ロシア大統領、改めて見解 2/23
ロシアのプーチン大統領は22日、ロシアにとってバイデン米大統領の方がトランプ前大統領より望ましいとの見解を改めて示した。国営テレビが報じた。バイデン氏とトランプ氏は11月の大統領選で再対決する公算が大きくなっている。
プーチン氏は今月14日にも、米国の大統領としてバイデン氏の方が望ましいと述べ「予測可能な古いスタイルの政治家だ」と評していた。ロイター通信によると、バイデン氏は21日の集会でプーチン氏を「狂ったろくでなし」と呼んだ。
プーチン氏は22日、視察先の中部タタルスタン共和国で「米国の内政状況を考えれば、バイデン氏が私に助けてくれてありがとうなどと言うはずがない」と指摘。自身の14日の発言を踏まえ「彼の反応は全く妥当だ。つまり私は正しかった」と皮肉を交えて語った。
タス通信によると、ロシアのアントノフ駐米大使は22日、バイデン氏の発言について米国務省に厳重に抗議したと明らかにした。
●侵攻完遂の意思表明 核戦力の増強も誇示 「祖国防衛者の日」でビデオ演説 2/23
ウクライナ侵略の開始から24日で2年を迎えるロシアのプーチン大統領は「祖国防衛者の日」の祝日とする23日、ビデオ演説を発表し、ウクライナの最前線にいる将兵を「真実と正義のために勇気と果敢さを発揮し、祖国を守っている」と称賛した。「諸君が任務を達成できるようわれわれはあらゆることをする」とも述べ、作戦を完遂させる意思を改めて示した。
プーチン氏はまた、現代世界には憂慮すべき課題やリスクが多いとし、軍事力こそが「ロシアの安全と自由、主権的な発展を保証する」と主張。核弾頭を搭載可能な極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」の量産が始まったほか、戦略原潜や長距離戦略爆撃機ツポレフ160Mの軍への引き渡しが最近行われたと述べ、核戦力の増強が進んでいることを強調した。
●ナワリヌイ氏の母親、安置所で遺体と対面 当局から「密葬に」と脅迫か 2/23
死亡したロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏の母親が22日、遺体と対面したとSNSで明らかにしました。当局から葬儀をひそかに行うよう、脅迫されているということです。
ロシア当局が16日、北極圏の刑務所での死亡を発表した反体制派指導者ナワリヌイ氏については、依然、遺体が親族に引き渡されていません。
こうした中、現地入りしている母親のリュドミラさんは、21日夜に安置所で遺体と対面したことをSNSで明らかにしました。当局は遺体の引き渡しをめぐり、埋葬場所などについて条件をつけてきたということです。
リュドミラさん「彼らは葬儀もなくひそかに埋葬することを望んでいる。彼らは埋葬してしまった後で、私に“あなたの息子はここに眠っている”と言いたいのだ。私は同意できない」
ナワリヌイ氏の死を巡っては、改革派政党がモスクワで追悼デモを計画するなど、各地で追悼の動きが広がっています。
●なぜ西側諸国の制裁でプーチン氏を止められないのか―独メディア 2/23
2024年2月21日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、ロシアのウクライナ侵攻から始まった戦闘が間もなく2年を迎えることについて「なぜ西側の制裁でプーチンを止められないのか」と題した文章を掲載した。
文章は、2年前のロシアによるウクライナ侵攻以後、西側諸国がロシア中央銀行の対外資産凍結やSWIFT国際決済システムからの除外など、ロシアの金融システムに厳しい制裁を科したことでロシアに大きな影響を与えたものの、崩壊するには至っていないと伝えた。
また、石油・ガスに対する制裁ではロシアへの過度のエネルギー依存によりEUの対応が遅れ、戦争初年はロシアがなおもエネルギーで大もうけしたと指摘。その後、EUがロシアの石油・ガス製品禁輸を決定するとともに、ロシアの石油価格に上限を設け、2023年1〜6月にはロシアの石油販売収入が前年同期比47%減るなど効果が出たものの、ロシアは輸送にG7にもEUにも属さない船舶を利用するという制裁回避方法を見いだすと同時に、輸送商品が制裁の対象外であるかのように文書を偽造してG7の船会社をだますなどの行動に出ており、制裁の効果が弱まったとしている。
さらに、ロシアには中国とインドという大口の石油の買い手が存在しており、ロシア経済はある程度の安定を保ち続けていると紹介したほか、中国は石油だけでなく半導体などのテクノロジー製品によりロシアとの貿易を拡大していると解説。「中国とインドがロシアに堂々と武器を売って西側の制裁を受けるリスクを冒すことはないだろうが、ロシアとの貿易拡大を通じて両国はプーチン大統領の戦費調達に手を貸しているのだ」と評した。
文章は、戦争が長引くのに伴い「欧米のウクライナ支援がいつまで続くのか、ますます多くの人々が疑問を抱き始めている」と指摘するとともに、経済制裁でロシア経済を苦境に追いやることによりプーチン大統領の戦意を削ぐというのは「少し甘い考えではないか」とした。そして、ロシアに詳しい専門家の多くが「ロシア経済が完全に破壊されない限り、プーチンは息を引き取るまでこの戦争を続けるだろう」との認識を持っていると伝えた。
●バイデン氏、ロシアに好ましい米大統領 「狂った野郎」発言受けプーチン氏 2/23
ロシアのプーチン大統領は22日、自身を「狂った野郎(crazy SOB)」と呼んだバイデン米大統領の発言を受け、ロシアにとりバイデン氏がトランプ前大統領よりも米大統領として好ましいことが改めて浮き彫りになったと述べた。
バイデン氏は21日に開いた選挙資金集めのイベントで「プーチンのような狂った野郎がいて、核戦争の懸念は常にあるが、人類にとって最後の存亡の危機は気候(変動)だ」と語った。
プーチン大統領は国営テレビで「われわれは大統領が誰であれ協力する用意がある」とした上で、笑みを浮かべながら、「ロシアにとり、バイデン氏の方が好ましい大統領だと確信している。今回の彼の発言から判断すると、私は断然正しい」と述べた。
プーチン大統領は先週放映されたインタビュー番組でも、トランプ前米大統領よりも、予見可能なバイデン現大統領の方が好ましいという考えを示していた。
●疲弊するウクライナ 長引く戦争で課題は“徴兵逃れ”「誰もが生きたい」 2/23
ウクライナではロシアとの戦いが2年におよび兵士不足が深刻となるなか、徴兵から逃れようとする人が増えるなど課題が浮き彫りとなっています。
これは、徴兵担当者が街中で男性に声をかけ、動員しようとしているとされる映像です。嫌がる男性を車に乗せようとしています。
こうした動画がSNSで拡散し、ウクライナ政府は動員の方法が強引だとして非難を浴びましたが、一方で、兵士不足の深刻さを物語っています。
ウクライナ ゼレンスキー大統領(去年12月)「軍が45万人から50万人の追加動員を要請した」
「兵士の確保」が必要とされるなか問題となっているのが、違法な手段で動員を逃れる「徴兵逃れ」です。
ウクライナでは総動員令により18歳から60歳の男性は原則、出国が禁止されていますが、国外に出ようとする男性が後を絶ちません。
ウクライナ語の検索サイトに「国外脱出」「男性」と入力すると…
「6つ見つかりました」
あらわれたのは“合法に出国すること”などをうたうサイトです。そのうちの1つに電話をかけ、「夫が徴兵を逃れるため、国外に出る方法はないか」と架空の相談をしました。すると…
出国斡旋業者「(お子さんは)10か月ですか。親権喪失の決定を得られれば、あなたの夫は国境を越えられます」
提案されたのは、「母親の親権を失わせる」というもの。総動員令では、子どもを1人で育てる男性は対象外で、動員を免除されるのです。
出国斡旋業者「全て合法であることを保証します」
費用は3000ドル、およそ45万円と告げられました。
こうした“徴兵逃れ”、前線の兵士はどう受け止めているのでしょうか。侵攻開始から2日後に兵士に志願したというイワンさん(33)に聞きました。
ウクライナ兵 イワンさん「最前線にいると多くの仲間の死を目の当たりにし、心を閉じてしまう。恐怖で人がどうなるかを知っているので、(徴兵逃れが)良いとも悪いとも言えません。誰もが生きたいのです」
イワンさんは、戦闘中に頭を打った後遺症で記憶力が低下してしまいました。DJをするほど大好きだった音楽を聞いても楽しめません。それでも、こう決意を新たにしています。
ウクライナ兵 イワンさん「100%、戦争が終わるまで兵士であり続けます。何があっても意志は変わりません」
終わりの見えない戦いに、ウクライナの人たちは疲弊しながらも挑み続けています。
●ゼレンスキー氏 下がる信頼度 あす侵攻から2年 町の声は 2/23
ロシアがウクライナに侵攻して、2月24日で2年となる。戦況の膠着状態が続く中、ウクライナが守勢に回る場面も出ている。
こうした中、ウクライナでは戦闘継続への支持や、ゼレンスキー大統領への信頼度が下がっている現状が浮かび上がってきた。
FNNは首都キーウを始め、前線に近いヘルソン州など5カ所で、人々に話を聞いた。
前線での苦戦が伝えられる中、戦闘を続けるべきか尋ねると...。
戦闘継続支持・オデーサ市民「ロシアの進軍は止まらない。だから打ち勝たないと」
戦闘継続不支持・リビウ市民「土地のために人の命を失うことに反対だ」
約7割の人が「ロシアに勝利するまで戦闘を続けるべきだ」と答える中、約5人に1人が戦闘継続に反対を訴えた。
たとえ一部の領土を放棄したとしても、早期の戦争終結を望む声もある。
戦闘継続不支持・ハルキウから避難「ある程度の譲歩をして、領土をあきらめるべきかもしれない」
一方、ゼレンスキー大統領を信頼するかどうかについては、約7割の人が「信頼する」と答えた中、3割が「信頼しない」または「わからない」と答えた。
ゼレンスキー大統領信頼する・キーウ市民「わたしはウクライナを愛しているし、ゼレンスキーはみんなに選ばれた若いリーダー。もちろん信じてるわ」
ゼレンスキー大統領信頼しない・現役兵士「ゼレンスキーは約束したことをしてくれなかった。半年後に戦争が終わるといったのに」
2023年末の世論調査でも、ゼレンスキー氏を「信頼する」と答えた人は62%と、1年前の84%から大幅に減少していて、大統領自身も正念場を迎えている。
●ウクライナ軍に入る女性4割増 一方で女性兵士が戦場で直面する課題とは 2/23
ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく2年。長引く戦闘で、兵士不足が大きな課題となる中、軍に入る女性が増加しています。彼女たちは、なぜ前線に向かうのか。戦場で直面する課題について、取材しました。
ウクライナ侵攻2年 軍に入る女性4割増 しかし所属部隊ではハラスメントの標的に
ロシアとの激しい戦闘が続くウクライナ前線で戦うのは女性たちです。ウクライナ国防省によりますと、ウクライナ軍の女性の数は現在6万人を超え、ロシアの侵攻前と比べ40%増加しました。男性に総動員令が敷かれた後も、兵力が不足しているのです。
ウクライナ軍の衛生兵 ハンナ・ヴァシクさん「初めまして。私の名前はハンナと言います」
前線で衛生兵として活動するハンナ・ヴァシクさん。9か月前は、現代アートや音楽のクリエイティブマネージャーをしていましたが、なぜ兵士になったのでしょうか。
ハンナ・ヴァシクさん「傷ついた人たちを助けるために、戦場での医療の勉強を始めました。けが人が苦しんでいるのを見るのは本当に辛いです。戦闘による傷で体が切断されていたり、腹や頭に傷を負っていたり、恐ろしいものです」
入隊後、南部ザポリージャなどで実戦を積んだハンナさん。軍での生活は戦闘以外も困難の連続でした。所属する隊で、上官から日常的に侮辱的な言葉をかけられ、ハラスメントを受けてきたといいます。
ハンナ・ヴァシクさん「屈強で大柄な相手には決してやりません。だから細く弱そうで怖くない私を標的にしたんだと思います」
女性兵士がパワハラやセクハラを受けた場合、男性が多数を占める組織の中で理解を得ることが難しく、内部告発はリスクを伴うといいます。
ハンナ・ヴァシクさん「今、軍内部で暴力やハラスメントを受けた場合、どうすればいいのか明確な仕組みがありまん」
こうした課題を共有するため、ハンナさんは、2月にキーウで開かれた「女性兵士のための集会」に参加しました。会場には同じような悩みを抱えた女性たちが集まりました。
“命の重さは男性と対等”妊婦向けの軍服も
会を主催した国会議員のイリーナ・ニコラクさんは、「軍服」を作ることが最初の課題だったと話します。
女性兵士支援団体「Arm Women Now」イリーナ・ニコラク代表「軍では全てのものが男性のために作られていました。軍服はおしゃれとか、そうした話ではなく、命に直結する話なんです」
サイズが合わない軍服では俊敏に動くことができず、戦場では一寸の差が命取りになります。ただサイズを合わせるだけでなく、女性たちに“自分たちの命の重さが男性と対等である”と感じてもらうことが重要だといいます。
イリーナ・ニコラク代表「この軍服を作ることによって、女性が男性と対等な軍の一員だと実感し、キャリアを築こうと思ってもらいたいです」
イリーナさんたちのプロジェクト「Arm Women Now」では、これまでに6500人の女性に軍服を提供してきました。また、「妊娠しても軍の活動を続けたい」そんなニーズに応え、こんな軍服もあるといいます。
岡村佐枝子記者「妊婦の人向けの軍服は、お腹まわりの部分に伸縮性のある素材が使われています」
さらに国内では、女性を取り巻く環境に変化が起きています。ウクライナ政府は、兵士不足に対応するため、2023年10月に女性の医療従事者に対し、動員に備える「兵役の登録」を改めて義務付けました。
ハンナさんは、女性の動員は体制が整ってからにすべきだとしつつ、「ロシアとの戦いが終わるまで自分自身は前線に立ち続ける」といいます。
ハンナ・ヴァシクさん「自分たちを守るためには強力な軍隊を持つ以外選択肢はないんです。戦争が終わったら犬を飼って、緑に囲まれ静かに暮らしたい、そんなささやかな夢があります」
●あす ウクライナ侵攻2年 反転攻勢から膠着 2/23
ロシアがウクライナに侵攻して、2月24日で2年となる。
戦況の膠着(こうちゃく)状態が続く中、ウクライナが守勢に回る場面も出ている。
ウクライナは2023年6月に、領土奪還に向けて反転攻勢に転じてから、ロシア軍の防衛ラインの一部を突破した。
ただ、その後は膠着状態が続き、2月17日には、防衛の重要な拠点であった東部ドネツク州のアウディーイウカからの撤退を表明し、厳しい戦況に置かれている。
そんな中、ゼレンスキー大統領は22日、Xで、日本を含む各国の代表との集合写真や動画とともに支援への感謝を投稿した。
欧米諸国の軍事支援が先細りしつつある中、あらためて連帯を求めた形。
●「ゼレンスキー大統領の信用は落ちている。今年中に政権が代わるかも…」「今後戦争を続けても対価が高すぎる」来日したウクライナ人・ボグダンさんの本音 2/23
ウクライナでボランティア活動を続けるボグダン・パルホメンコ 氏が5年ぶりに来日し、夢を語った。とはいえ、ロシアの侵攻が続くウクライナには問題も山積しているという。
――日本の民間からの支援物資は、いまも届いているのだろうか。
ボグダン:毎週、届いています。いまはポーランドとの国境が封鎖されているので、なかなか郵便が届きにくくはなっていますが。
――以前のインタビューでは、日本から届いたインスタント食品や使い捨てカイロが助かるとおっしゃっていた。
ボグダン:この間も日清のカップラーメンが1箱届きましたし、みんな大好きですよ。最初に日本の使い捨てカイロを届けたのは、たぶん僕たちなんですよ。当時はまだ、ウクライナでは普通に売られているものではありませんでしたから。最近はキーウ市にトラック一台分のカイロが届けられたりするようになりました。どこから送られたのかわかりませんが、日本製のカイロです。
――お金の寄付もあるのだろうか。
ボグダン:そうですね。郵送できないもの、バッテリーであるとか医薬品などは寄付してもらったお金で購入し、届けるようにしています。
――この冬は気候的には恵まれているとおっしゃったが、ウクライナの人々はどんな様子だろうか。
ボグダン:追い込まれています。特に今年が危ないと思います。すでに国内に製造生産はなく、経済がボロボロの中、アメリカからの支援も途絶えました。兵士はもちろん一般国民も精神的にボロボロで疲れも溜まっています。そんな中、国は法律を変え、兵士の大規模招集をしやすくしようとしています。もちろん国民からの反発も大きくなっています。
ザルジニー総司令官の解任
――2月8日、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はヴァレリー・ザルジニー軍総司令官を解任した。ウクライナの人々はこれをどう思っているのだろう。
ボグダン:不満は大きいですね。彼はウクライナ人にとって英雄なんです。2014年のロシアによるクリミア併合の頃から彼はずっと戦っており、大きな成果を残し、軍からもウクライナ人からも支持されています。メディアに全く出ない人でもあり、不言実行タイプなところも尊敬されている。そして、権力を乱用するとか汚職の話も一切ない。もちろん好みはあるでしょうが、彼以上の軍人はいないという意見が多い。
――ボグダンさんはザルジニー総司令官から勲章をもらうはずだったという。
ボグダン:兵士への支援活動もあって、総司令官勲章がもらえることが決まっていました。あとは受章式の連絡を待つだけでしたが、ザルジニーさんが解任されてしまったので、新しいシルスキー総司令官からの受章になるでしょう。
――後任のオレクサンドル・シルスキー総司令官はどうだろう。
ボグダン:正直言って、人気はないですね。シルスキーさんはもともとロシア生まれであり、ロシアの軍事学校を卒業していることもある。また、ザルジニーさんは人の命を大切にすることでも有名でした。彼がゼレンスキー大統領の攻撃命令に反対したのも、人が死んでしまうからでした。一方のシルスキーさんは、大統領に忠実だと言われています。
――ゼレンスキー大統領の人気はどうなのだろう。
今年、何かが起こる
ボグダン:下がっています。言っていることは綺麗ですけど、信用は落ちています。年内に政権が代わるかもしれません。
――そこまで?
ボグダン:本来ならば今年3月31日に大統領選が行われるはずなのです。昨年秋には国会議員の選挙が行われるはずでしたが、戦時下のために延期されたままです。3月の大統領選挙も行われなければ、大統領はじめ議員も正式なステータスがないまま続けていることになります。国民から見れば、自分たちが選んでいない人たちが政権を握り続けていることになります。新しい招集法案も議会にかけられ、さらに不満が大きくなったら……軍事クーデター、革命だってないとは言い切れません。
――もし大統領選が行われたら?
ボグダン:ザルジニーさんが出馬すれば、間違いなく当選するでしょう。他に候補者はいません。もっとも、彼を押す勢力には前大統領のペトロ・ポロシェンコ 氏がいる。ポロシェンコ氏が大統領に戻ることはなくても、ザルジニーさんが大統領になれば彼が首相になるかもしれません。そうなると再び汚職まみれの国に戻ってしまうかもしれません。
――ゼレンスキー政権で汚職はなくなったのだろうか。
ボグダン:それについてはノーコメント! もちろんゼレンスキーさん自身にそういった話は聞きませんが、彼の右腕・左腕が何をやっているかはわかりません。結局、彼は今もマネージャーに使われる芸能人なんだと思います。ウクライナの汚職は警察官から裁判官まで繋がっていますから根が深い。その点、日本は汚職がないじゃないですか。
――いやいや、現在、日本の国会は裏金問題で揉めていますし……。
領土に拘るべきでない
ボグダン:それでもウクライナのような酷い汚職はない。僕はそういう日本で教育を受けました。僕たちが支援活動をする上で、お金で渡さない、団体を介さずエンドユーザーに渡しているのは、そうした汚職を恐れているからです。
――汚職のない国は作れるのだろうか。
ボグダン:膿を出し切って、一からやり直さないと無理でしょうね。
――戦況はどうなっていくのだろう。
ボグダン:今後も戦争を続けるのなら、対価が高すぎると思います。戦争って勝ったほうも負けたほうもどちらも損をするものです。これまでウクライナは頑張ってきたけれども、これ以上やっても人の命がなくなるばかりでしょう。多くの若者を招集し、何かを生産するのではなく誰かを殺すために自分の力を使うわけです。その力は、いま占領されているウクライナの領土を取り戻すために使われるわけですが、本当にそこまでする価値があるのだろうか。そこまでして戦争を続ける意味があるのだろうか。むしろ、領土は現状のまま停戦して、ウクライナの製造業や軍需産業なども立て直し、5年、10年先に安定した後で取り戻してもいいのではないかと考えています。ウクライナの人口2500万人程度で、あれだけ広大な領土を維持するのは難しいと思います。ロシアだってウクライナに勝てないことはわかっているはず。ですから、永世中立国家として行くのがいいのではないかと考えています。
――ロシアがそれを許すだろうか。
プーチン大統領には代わってほしい
ボグダン:ロシアの望みは、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟しないことです。ウクライナはロシアに対してはNATOに加盟しない、ヨーロッパに対してはロシア側につかないことを約束する。その上でヨーロッパとロシアにお金を供出させ、ウクライナは永世中立国になればいい。
――そんな都合よく行くだろうか。
ボグダン:NATOはポーランドにウクライナ軍との訓練拠点を作ることを発表しました。それってウクライナ軍がロシアから得たノウハウを学ぶところです。それくらいの価値があるのですから、そのお金を別に使ってもらいたい。
――ロシアも来月には大統領選が行われる。ウラジーミル・プーチン大統領は、政敵を排除し当選は確実とみられている。
ボグダン:そろそろ変わってほしいですね。ただ、いまのプーチンは彼自身ではなく、みんなが作り上げた虚像だと思います。もしロシアがそろそろウクライナから手を引きたいと考え出したら、新しいキャラクターの大統領が生まれるかもしれません。もしそうなれば、ウクライナとの終戦は一気に近づくことになる。ロシアだって戦争を続けることにメリットはないのですから。
――戦争がさらに続いた場合、ボグダンさんが招集される可能性は?
ボグダン:あります。ただ、僕らがやっているボランティアの仕事が軍にも認められるようになり、一兵士になるよりもいまの活動を続けたほうが役に立ちますから、このままボランティア活動を続けることになるかもしれません。
――この2年、危険な目にも遭ったのだろうか。
ボグダン氏の宿命
ボグダン:私の住む隣の建物にドローンが直撃したことがありました。あまりに揺れたので僕の家が攻撃されたかと思いましたが、戒厳令が明けて外から見たら隣の家だったこともありました。また、ウクライナ北東部ハルキウ州のロシアと隣接した地域に支援物資を届け、人々を避難させている時に偵察ドローンがやって来て、逃げた直後に攻撃されたこともありました。僕らだけじゃなくウクライナに住んでいたら誰でも経験することです。
――そんな中、ボグダン氏は、いまも日本に向けたYouTube「BOGDAN in Ukraine」で現状を伝えると同時に、ウクライナ人にカツ丼や納豆を食べさせたリアクションなど楽しめる動画も配信している。
ボグダン:戦争の話ばかりでは疲れます。ウクライナ人だって戦争に疲れているのに、日本の人からしたら関係ない話ですから。なのでバラエティ要素も入れ、日本の方によりウクライナを身近に感じてほしいんです。
――ネタには困らないだろうか。
ボグダン:困ってます。でも、2年間やってきて、ファンの人もついてくれて、ありがたいですよ。
――ウクライナに物資を送った日本人の多くは、あなたのYouTubeを見た人かもしれない。
ボグダン:それが僕の宿命かもしれません。日本とウクライナをつなげるという。今日のオフ会だって、20人、30人来てもらえたら十分と思っていました。それが100人以上の方に来てもらえました。ボグダンという名前には「神が与えた人」という意味があるんです。私は日本とウクライナの架け橋になるために生まれたのかもしれません。
●ウクライナ侵攻への「関心低下」調査で46% 世界で続く争いに「負の連鎖」「日本が心配」、あなたの平和への思いは? #平和を願って 2/23
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、2024年2月24日で2年がたちます。いまも前線では戦闘が続いており、ウクライナから世界各地に避難した人は640万人以上に上ります(UNHCR、24年2月時点)。
Yahoo!クラウドソーシングで3000人にアンケートを行ったところ、侵攻への関心について、81%の人が今も「関心がある」と答えた一方で、関心の度合いが低くなったという人が46%に上りました。この2年で関心が高まったという人は10%にとどまりました。
ウクライナに限らず、世界各地で今も戦争や紛争が続いています。平和への思いについて聞くと、「ウクライナのことが起きたときは、簡単に戦争が始まってしまうことにあぜんとした」(20代女性)、「戦争がなくなることはないのであきらめている」(30代男性)、「戦争はしてほしくないがどうしたらよいかわからない」(50代女性)、「戦争に何を見いだせるというのか。絶望しかない」(30代女性)、「これからの日本が心配」(40代女性)などさまざまな声が寄せられました。
国連の発表によると、ウクライナで死亡した民間人の数は1万人を超えました。戦況がこう着し終息が見えない中、燃料価格や食料品の値上がりは止まらず、私たちの暮らしへの影響も大きくなっています。
今回のアンケートで、ウクライナ侵攻による日常生活への影響を聞いた質問に、物価高騰と答えた人からは、「食べ物の値上げキツすぎる」(20代男性)、「円安と原材料高がかさんで会社の業績が悪くなっている」(20代女性)、「昼食のグレードを落とした」(20代男性)、「買い物を控えるようになった」(40代男性)などの声が寄せられました。
●エマニュエル・トッドと池上彰が語るウクライナ戦争 2/23
「停戦はあり得ない」と見るワケ 
(2023/6/15)
池上:今後、停戦は何らかの形で成立するのでしょうか。もし停戦するのであれば、どのような形なら、停戦の可能性があるんでしょうか。
トッド:これについてはロシアもアメリカも、「停戦したくない」と思っているはずなんですね。つまり、いま、戦争は確かに「ウクライナ」で起きています。
でも、実際の戦争というのは、ロシア対アメリカなんですね。
そして、ロシアとアメリカの間では、アメリカは負けを認めないだろうと思いますし、ロシアも自分が勝ったと言えるような状況ではないわけです。そうすると、停戦というのはあり得ないと私は見ています。
つまり戦争が長期化する。第1次世界大戦や第2次世界大戦のような長期戦になるでしょう。そしてそうなってくると、どちらかがつぶれるまで戦争は続くというわけですね。
ただ、これに関しては、私が間違っているかもしれない、もしそうだったらどんなにいいかと私は思います。しかしながら、ヨーロッパにいて、いま、より感じられるのは、戦争の泥沼化というか深刻化の可能性です。
池上:停戦の可能性については私もまったく悲観的です。
プーチン大統領は22年6月9日、同日生誕350年を迎えたロシア皇帝、ピョートル1世に敬意を表して「北方戦争」(1700〜21年)の話をちょっと演説で取り上げたんですよね。つまり、この北方戦争ではピョートル大帝がスウェーデンに勝ったと。
「10年戦争」を覚悟
その戦争によってスウェーデンの支配下にいたスラブ人を、ロシア帝国の元に迎え入れたんである、彼は「それはスウェーデンから領土を奪い取ったんじゃない。そもそも、スラブ人が住んでいるところをスウェーデンが占領していたのだ」と言っていたんです。
そこを「取り戻したにすぎないんだ」と、こういう言い方をした。ウクライナ侵攻をしたプーチンは、そのときにピョートル大帝がスウェーデンの支配下にいたスラブ人を救い出したということを、今、自分がウクライナ東部にいるロシア人を助けようとしているんだってところと、二重写しにしているような気がするんですね。
この北方戦争は、21年間続きました。プーチンはおそらく、ウクライナに対して最初は3日間でカタがつくんだろうと思ったけれど、それができなくなってしまった。そして、NATOが全面的にウクライナを支援しているということは、もう少なくとも10年戦争を覚悟しているんだろうと思うんですね。
なので、プーチンが健在である限り、残念ですが、戦争はまだまだ続くと私も現時点ではそう思っています。
アメリカはウクライナを見捨てるのか 「国内的利益を追い求める」アメリカの姿
(2023/6/25)
NATOの兵器供与が戦争を長引かせているのか
池上彰 とくにこれからのウクライナ戦争がどうなるのかというときに、ウクライナに対して、アメリカも含めてNATOが兵器供与をしていますよね。
これについては、「それをやっているから戦争が長引いているんだ」という考え方がある一方で、「援助しなければ、あっという間にウクライナが負けてしまって、ウクライナはロシアの植民地のような従属国になってしまうんじゃないか」という意見もある。それを考えたら、NATOが軍事的に支援をするのは、仕方のないことではないかと、こういう考え方もあります。これについては、どうお考えになっていますか。
エマニュエル・トッド そうですね、その点に関しても分析をしようと、いろいろ試みているんです。私はこれをすべきだとか、すべきではないといったようなことを言う立場ではないと思うんですが、アメリカがなぜウクライナで戦争をこういう形で展開しているのかということを考えると、まず国際政治におけるアメリカの態度というものを一度振り返ってみる必要があると思うんですね。
まず、アメリカの外交政策の特徴の一つとして、「同盟国を見放す」という点があります。
たとえばですけれども、もし台湾で対中国の戦争があったとします。その場合、アメリカが介入してきたとしても、もし西側が負けそうだとなったら、おそらく日本と台湾を、アメリカは簡単に見放すだろうと私は見ているわけです。
そういった意味から、ウクライナでも同じようなことが起こり得るだろうと、私は思っています。
アメリカが、そしてNATOが、なぜウクライナを支援し続けるのか。それは、ウクライナが負けてしまったら、自分たちの勢力としての面目がつぶされてしまうからだと。まあ、ただそれだけの話なんだと思うんですね。
アメリカの国内的な利益というものを追い求めているだけといいますか、「道徳的によいことをしなければ」とか、そういう問題では全くないと思います。
ただし、そこには、アメリカの工業的なシステムが、どこまで機能し続けるのかという問題があるというわけです。
仮に、兵器をいつまででも生産できるというような保証を、もしアメリカが得ることができたとしたら、それはもう最後のウクライナ人が生き残るまで戦争を続けるということをアメリカはするのではないでしょうか。
池上 となると、とくにアメリカは24年が大統領選挙になります。もし、共和党のトランプ前大統領、あるいは「賢いトランプ」と呼ばれているフロリダ州のロン・デサンティス州知事が選挙で勝った場合、25年以降、アメリカはウクライナに対する支援をやめ、ウクライナの戦争は一挙にロシア有利に戦況が逆転するんではないか、大きく変わるんではないかという見方もあると思うんですが、この点についてはどのようにご覧になっていますか。
トッド そうですね、アメリカの大統領選に関しては、アメリカの「交代制」という側面に注目しすぎてはいけないのではないかと思うんですね。全体の政治システムのロジックを見るべきだというふうに考えます。
たとえば、トランプ前大統領ですが、彼は大統領になった時点で、ほかの人に比べてそこまでロシア嫌いではなかったはずなんです。けれども結局、ウクライナの再武装化というのは、なされました。
つまり、当選する大統領とは無関係な何か仕組みと言いますか、ロジックがあるというふうにも言えると思うんですね。
なので、外の世界にいる私たちは、これは「アメリカフォビア(米国嫌悪)」の観点なんですけれども、まるで「アメリカ劇場」みたいな、マリオネットか何かの劇場みたいな感じでアメリカの大統領選を見るというのが一番いい方法なんじゃないかと。大統領選などよりもむしろ、アメリカのCIA(中央情報局)とかNSA(国家安全保障局)とか、金融システムとか、それから無責任なエリートとか、それを含めた全体についてのほうに注目すべきなんじゃないかと思うわけです。
私は確かに、トランプが当選したときはちょっと気になっていたんです。これからどうなるのだろうかと。彼は我慢ならないような側面、下品な側面なんかもいっぱいあったんですけれども、それでももしかしたら、このアメリカを立て直す力があるのかと考えたりもしたわけです。
ただまあ、そういうふうにはいかなかったということがあります。確かにアメリカの大統領選挙は大事ではあるんです。けれども、国際的な観点からして「誰が選ばれるか」というような点は、そこまで重要ではないのかもしれないですね。これはまあ、完全にアメリカフォビアの私の観点ではありますが。
ただ、私がアメリカフォビアの話をしているときは、半分ユーモアを含んでいるということもご理解いただけたらというふうに思います。完全に、根拠のあるデータに基づいて言っているわけではないので。ユーモアも含んでいるということも含めて、ご理解いただけたら。
ウクライナ戦争の五つのファクター ロシア、アメリカ、中国以外にも注目すべき国 
(2023/6/26)
ウクライナでの戦闘は、まだまだ続きそうなのか、どうなのか。本当に予測は難しいところですけれども、トッドさんはいま、どのようにご覧になっていますか。
エマニュエル・トッド 個人的にウクライナ戦争に対しては、非常に絶望しているのですけれども、それは置いておくとして、何が重要かというと、主要なファクターが五つあると考えています。
一つ目は、ロシアですね。
いま自信を持って、自分のリズムで戦争を展開しているという、ロシアという国があります。ただ、合計特殊出生率が「1.5」にとどまり、5年以内に人口ピラミッドに大きなくぼみが生じるという人口問題を抱えています。
その点においても、ロシアは5年以内にアメリカとNATOに勝利する必要があると私は考えています。
二つ目に中国です。
中国はアメリカやNATOに対して、ロシアと同じような関心を持っているんですけれども、この戦争がある意味よい機会となり得るわけですね。
つまり、この戦争はアジアの人々全体にとっても、「実はアジアで起きたかもしれない戦争」が避けられて、いまはウクライナで起きている、というように見ることもできるわけです。
そうすると、アジアの人々にとってもこの戦争はよい機会、というように見ることもできます。想像もしていなかった遠いところで、アメリカと中国との対立が行われている、ということになる可能性があるというわけです。
そして三つ目、これがアメリカです。
アメリカはひじょうに混迷しています。ロシアが侵攻することで願わくばウクライナがつぶれて、アメリカがそこを支配できればというような目的を、最初は持っていたんだと思うんです。そして、ロシア経済が崩壊するだろうと。いろんなことを想像したはずですけれども、結局それらはまだ実現していません。
自分たちも結局、この長期戦に巻き込まれることになってしまって、経済危機に向かっているという状況があります。ここには、オルタナティブ(もう一つの選択肢)というのがあまり見えてこないわけですね。
このウクライナ戦争に負けてしまったら、アメリカの面目というのはつぶされてしまう。そして、アメリカという一種の帝国も、崩壊してしまうおそれがある。非常に危険な立場にいるわけで、不確実性を含んだファクターというふうに言えると思います。
四つ目がポーランドです。
これは歴史的な背景を踏まえても、対ロシアの戦争を必要としている国ですね。もう実際に、数万人の兵士がウクライナ側で戦っているというような情報もあるわけですので、ポーランドについてはひじょうにこれからも注目していくべきですね。
ロシアがたとえば、核攻撃の話などをぶちあげるときは、ポーランドのことを踏まえての話なんじゃないかというふうに私は見ています。
そして五つ目、最後がドイツです。
ウクライナ戦争におけるアメリカのそもそもの目的は、私からすると「ロシアとドイツを引き離すこと」だったわけですね。
22年9月26日にロシアとドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム」が人為的に爆破された事件にも、それが如実に表れていました。西側のメディアでは「ロシア側の工作だ」という論調ですが、私はアメリカとイギリスが破壊したと確信しているんです。
ドイツは、ここまではアメリカにひじょうに従順だったわけです。けれども、アメリカの工業面での弱さというのが本当に表れてきたときに、ドイツがどういった行動に出るかというのは注目していくべき点ですね。
ドイツは日本と同様で、第2次世界大戦でアメリカに占領された「保護国」みたいなところがあるわけです。そういったドイツが、どういう動きを見せるか。
そして、これはある意味ひじょうに遠い、予測レベルの仮説なんですけれども、このウクライナ戦争から「抜け出す」ドイツというのも、想像することはできると思います。
●G20外相会合閉幕 ロシアの軍事侵攻で各国間に意見の隔たり 2/23
ブラジルで開かれたG20=主要20か国の外相会合が22日、閉幕しました。議長国ブラジルの外相はロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「いくつかの国が侵攻を非難した」と述べるにとどめ、意見の隔たりの大きさをにじませました。
ブラジルのリオデジャネイロで開かれたG20の外相会合はウクライナや中東情勢、それに国連などの国際機関の改革をテーマに各国の外相が議論を行い、日本時間の23日未明に2日間の日程が終了しました。
閉幕後に会見した議長国ブラジルのビエイラ外相はロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「いくつかの国がこれまでと同様に侵攻を非難した」と述べるにとどめました。
ウクライナへの軍事侵攻からまもなく2年となりますが、鋭く対立するG7=主要7か国とロシア、それに中立的な立場をとるグローバル・サウスの国々の間で意見の隔たりがあることをにじませました。
一方、イスラエルが軍事作戦を進めるガザ地区を巡っては「多くの国が懸念を表明し、紛争が近隣諸国に広がるリスクを指摘した。南部ラファへの地上作戦の中止を多くの国が求めた」と述べ、懸念を共有したとしています。
さらに機能不全が指摘されている国連の安全保障理事会などの国際機関についても、改革が必要だとする認識で一致したとしていて、議長国のブラジルはことし9月、ニューヨークの国連総会の場で第2回の外相会合を開き、議論を深めたい考えです。
上川外相 国連改革を訴え
G20の外相会合では、地球規模の課題解決に向けた話し合いが行われ、この中で上川外務大臣は「気候変動や食料などの課題に効果的に対処するためには、グローバル・ガバナンスの改革が急務であり、『人間の尊厳』という原点に立ち返って人間中心の国際協力を推進していく必要がある」と強調しました。
また、国連改革について、機能の強化が不可欠だとした上で「安全保障理事会の構成に国際社会の現実を反映させるためには、常任理事国と非常任理事国の双方の拡大が必要で、具体的な行動に移していくべきだ」と訴えました。

さらに、急速に普及する生成AIについて、去年のG7広島サミットで合意した新たな枠組み「広島AIプロセス」に基づいて国際社会のルールづくりに取り組んでいることを説明し、安全で信頼できるAIの実現に向けて、G20での議論にも貢献していく考えを示しました。
会場近くでパレスチナ支持者らがデモ イスラエルを批判
G20の外相会合が開かれたブラジルのリオデジャネイロではパレスチナを支持する人たちが参加するデモが行われ、ガザ地区で軍事作戦を続けるイスラエルを批判しました。
リオデジャネイロで開かれたG20外相会合の会場近くで22日に行われたデモには、パレスチナを支持する人たちおよそ100人が集まりました。
警察が厳重な警備態勢を敷くなか、参加者は横断幕を掲げたり旗を振ったりしながらガザ地区で軍事作戦を続けるイスラエルに対する非難の声を上げていました。
参加した40代の男性は「パレスチナの完全な自由を支援するために来ました。G20の国々はイスラエルを国際社会から孤立させる必要がある」と話していました。
また、女性のひとりは「ガザ地区でパレスチナの人たちに行われている集団殺害に反対だ」と訴えていました。
ガザ地区の状況を巡ってはブラジルのルーラ大統領が、かつてユダヤ人を虐殺したナチス・ドイツのヒトラーを引き合いに出して軍事作戦を続けるイスラエルを非難したのに対し、イスラエル側が強く反発してルーラ大統領の入国を拒否する姿勢を示すなど両国の外交問題に発展しています。
●上川外相 “G20外相会合 ウクライナ情勢の重要性改めて確認” 2/23
ブラジルで開かれていたG20=主要20か国の外相会合は一連の討議を終えて、閉幕しました。上川外務大臣は記者団に対しロシアも参加する中でウクライナ情勢が中心的な議題として取り上げられ、改めてこの問題の重要性が確認されたという認識を示しました。 G20
の外相会合はブラジルのリオデジャネイロで2日間の日程で開かれ、国際情勢や国連改革などを議題に討議が行われ、閉幕しました。
上川外務大臣は初日の会合で、ロシアの侵攻開始からあすで2年となるウクライナ情勢をめぐり「ロシアが今なお侵略を継続していることはG20の協力の基盤を揺るがす暴挙であり、法の支配への大いなる挑戦だ」と述べ、強く非難しました。
また最終日の会合では、今の国連安全保障理事会の構成は国際社会の現実を反映していないとして理事国の拡大が必要だと訴えました。
一連の日程を終えたあと、上川大臣は記者団に対し「ロシアが参加する中で、ウクライナ情勢が正面から扱われ、この問題の重要性が改めて確認された。日本がウクライナとともにあるという立場は決して揺るがず、永続的な平和を実現すべく、引き続きリーダーシップを発揮したい」と述べました。
また、グローバル・サウスと呼ばれる新興国や途上国への対応について「急速に発言力を増しており、今後もこうした国々と積極的に会談を重ね、共通の課題に関して率直に意見交換したい」と述べました。
●「停戦論」も戦火やまず 24日にウクライナ侵攻2年 反攻に「終止符」とロシア 2/23
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから24日で丸2年となる。
民間人を含めて多大な死傷者を出した21世紀の戦争は、支援国も間接的に巻き込んで長期化し、国際社会では「停戦論」も議論されるようになった。しかし、当事国の双方はこう着状態の中で一歩も引かない構えで、戦火がやむ気配はない。
「ウクライナ東部ドネツク州アウディイウカの化学工場を解放した」。ロシアのショイグ国防相は20日、プーチン大統領に戦況を説明。前線の化学工場は「9年間にわたって要塞(ようさい)化」されたウクライナ軍の拠点だったと主張し、「成果」を誇った。
ショイグ氏は、双方が両岸でにらみ合うドニエプル川で、ウクライナ軍が橋頭堡(きょうとうほ)とした東岸の一部を、ロシア軍が奪い返したとも報告。昨年6月からのウクライナ軍の反転攻勢に終止符を打ったという認識を示した。
プーチン政権は長期戦と経済回復をにらんで軍需産業をフル稼働させ、イランや北朝鮮からも兵器・弾薬供給を受けたとされる。一方のウクライナは、西側諸国の支援の先細りに危機感を抱く。ゼレンスキー大統領は19日、ロシア軍が再占領を狙って攻撃を強化する北東部ハリコフ州クピャンスクで部隊を激励。24日には、先進7カ国(G7)のオンライン首脳会議で支援継続を強く訴える見通しだ。
ただ、勇ましく響く「戦争継続」は双方の政府の論理。両国民とも長期戦に疲れが見え、ウクライナでは追加動員法案を巡って紛糾したほか、ロシアでは交代要員が来ずに帰還できない予備役の妻らが、事実上の反戦運動を始めた。
「ウクライナの勝利を信じる欧州連合(EU)市民はわずか10%」。21日の英紙ガーディアン(電子版)が伝えたEU加盟12カ国を対象とした世論調査では、2年間の侵攻を見詰めた上での「支援疲れ」が浮き彫りとなった。ロシアが勝つという回答は20%。「妥協による解決」を予想する人が37%と最多だ。
こうした世論の変化を背景に、プーチン政権は昨年暮れごろから「停戦交渉の用意」を再び持ち出しているが、ウクライナと支援国の結束にくさびを打つ心理戦を展開しているもよう。プーチン氏は最近、今年の米大統領選を意識して米テレビの元看板司会者のインタビューに応じた。「本当に戦いを止めたいのなら、(米国は)武器供給をやめる必要がある。すべては数週間以内に終わる」と持論を述べた。
●IMF ウクライナ支援1300億円以上の追加融資へ 事務レベル合意 2/23
IMF=国際通貨基金はウクライナを支援するため、およそ8億8000万ドル、日本円にして1300億円以上にのぼる追加融資を行うことで事務レベルの合意に達したと発表しました。アメリカからの追加の支援が滞る中、IMFとしてはウクライナへの支援継続を強調するねらいもあると見られます。
IMFはロシアによる軍事侵攻が始まったおととし2月以降、ウクライナへの支援を続けていて、去年3月には被害を受けたインフラの復旧や経済の再生などに向けて4年間で156億ドル規模の資金支援プログラムを承認しています。
この融資は、政府の汚職対策に向けた制度改革などを踏まえて実施されることになっていてIMFは22日、およそ8億8000万ドル、日本円にして1300億円以上にのぼる融資を行うことで事務レベルの合意に達したと発表しました。
今後、理事会の承認を経て、融資が行われることになります。
IMFは発表の中で「ウクライナの経済は2023年に力強い成長とインフレ率の低下、準備金の増加がみられたが、戦争が続いていることにより2024年は高い不確実性が続く見通しだ」とコメントしています。
ウクライナへの支援をめぐっては、アメリカでは追加の軍事支援に必要な予算案の議会での審議が野党・共和党の反対で暗礁に乗り上げ、支援が滞った状態が続いていてIMFとしてはウクライナへの支援継続を強調するねらいもあるとみられます。
●“今も攻撃続くウクライナ 支援継続が不可欠”国連高官が訴え 2/23
ウクライナの人道支援を担当する国連の高官が、NHKの単独インタビューに応じ、ロシアによる軍事侵攻が始まってから2年となる今もウクライナでは毎日のようにミサイル攻撃などが続いていると指摘し「人々は疲れ、暮らしは非常に厳しい」と述べて国際社会からの継続した支援が不可欠だと訴えました。
ウクライナの人道支援を担当する国連のブラウン人道調整官は、21日、首都キーウでNHKの単独インタビューに応じました。
この中で、ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘などで国際社会のウクライナへの関心が低下していると危機感を示したうえで「ウクライナでは戦争は終わっていない。首都をはじめ多くの都市で毎日のように、ミサイル攻撃などを受け、前線近くの地域では砲撃されている。人々は苦しみ、疲れ、暮らしは非常に厳しい」と訴えました。
そして、前線に近い東部のドネツク州などでは、飲料水や食料も足りず、電気もない生活を余儀なくされていると指摘し、こうした人々のための人道支援に30億ドル、日本円でおよそ4500億円の資金が必要だとしています。
そのうえで、これまでに必要な資金の10%しか届いていないと明らかにし「われわれが提供するすべての支援が徐々に、あるいは急速になくなっていく」として国際社会からの継続した支援が不可欠だと訴えました。
●上川外相、北朝鮮との「対話の道は開かれている」 日米韓外相会合で 2/23
主要20カ国・地域(G20)外相会合のためブラジルを訪問中の上川陽子外相は22日(日本時間23日)、米国のブリンケン国務長官、韓国の趙兌烈(チョテヨル)外相と会談し、北朝鮮や中国への対応などをめぐり協議した。
会談は約1時間行われた。日本外務省によると、上川氏はミサイル開発を続ける北朝鮮の挑発的な軍事行動に深刻な懸念を表明。一方で「同時に、緊張緩和に向けて対話の道は開かれている」とも言及した。拉致問題に関する米韓からの支持に謝意も述べた。
3者は、日米韓の連携を引き続き重層的に進めていくことで一致した。中国をめぐっては、「台湾海峡の平和と安定が重要」との認識を確認。中東情勢については、上川氏から「ガザ地区のラファにおけるイスラエルの軍事行動は、民間人の安全に甚大な影響を及ぼしかねない」として懸念を表明した。
●欧米諸国の結束に綻び…東大教授 遠藤乾氏 2/23
ロシアによるウクライナ侵略が始まった最初の1年と比べ、直近の1年では欧米諸国の結束を維持することが難しくなっている。
要因の一つが、昨年10月から続くパレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦闘だ。イスラエルを擁護する米国は、殺りくや人権侵害といった問題に対し、ウクライナ戦争とは正反対の姿勢を見せている。「虐殺される側」を支援するのではなく「虐殺する側」に加担し、失望を招いた。
欧州各国もそれぞれ異なる立場をとり、同じ国の中でも意見が割れている。国際秩序において正しさを示す羅針盤の針が揺らいでいると言える。
ロシアの侵略は、〈1〉現状変更への意思〈2〉現状変更を可能にする軍事力〈3〉独裁の深化――の3点がそろえば、暴挙が起こりうることを世界に示した。
これからの1年で大きな曲がり角に差しかかるだろう。ウクライナ支援の足並みは乱れており、11月には、大きな変数である米大統領選が控えている。もし、トランプ前大統領が返り咲けば、米政治はますます流動化し、ウクライナ支援や対露制裁の背骨が折れるような事態さえ危惧される。
戦況面では、ロシアにさらに押し込まれる状況も想定できる。それでも日本や欧米各国は粘り強く「戦争犯罪は許さない」とのメッセージを発信し続けなければならない。米国がぐらついている時こそ、日本が一貫した主張を展開していくことが重要になる。
●ウクライナ世論調査“ロシアに領土を譲歩すべきではない”7割 2/23
ウクライナ国内で行われている世論調査では、侵攻を続けるロシアに対して7割以上の人が「領土を譲歩すべきではない」と答え、依然として多くの人が政府の徹底抗戦の方針を支持する考えを示した形です。ただ、最新の調査では最も高かった時と比べると13ポイント下がりました。
この調査は、ウクライナの調査会社「キーウ国際社会学研究所」がおととし5月から行っていて、去年12月までに合わせて8回実施されています。
対象はロシアが支配している南部クリミアなどを除くウクライナ全土で、毎回、1000人以上が回答しています。
この1年でみると、ロシアに対して「領土を譲歩すべきではない」と答えた人は、去年の▽2月が87%、▽5月が84%、▽10月が80%、▽12月が74%となっていて、依然、7割以上の人が政府の徹底抗戦の方針を支持する考えを示した形です。
一方で3回連続で減少し、減少の幅も大きくなっていて、最新の調査の12月は、最も高かった去年2月と比べて13ポイント下がりました。
また、ゼレンスキー大統領を「信頼している」と回答した人は去年の▽10月が80%、▽12月が77%と高い支持率を維持しています。
ただ、今月、ゼレンスキー大統領が国民に人気の高い軍のザルジニー総司令官を解任した8日の前後に行われた調査では「信頼している」と回答した人は64%となっています。
ロシア世論調査 軍事侵攻「支持」70%台で推移
ロシアでは独立系の世論調査機関「レバダセンター」が毎月、ロシア国内の1600人余りを対象に対面形式で調査を行っています。
それによりますと、ロシアが「特別軍事作戦」とするウクライナへの軍事侵攻について「支持する」と答えた人はこの1年、70%台で推移しています。
また、「プーチン大統領の活動を支持する」と答えた人は80%台となっています。
一方で、「軍事行動を続けるべきか」「和平交渉を開始すべきか」という質問では、「和平交渉の開始」と答えた人のほうが1回の調査を除き「軍事行動の継続」より多くなっています。
このうち、去年11月では「和平交渉の開始」と答えた人は57%で、プーチン政権が予備役の動員に踏み切った後に行われたおととし10月と並び最も高くなりました。
「レバダセンター」は、政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも独自の世論調査活動や分析を続けています。
米 世論調査 ウクライナへの支援“過剰” 増加
ウクライナへの「支援疲れ」も指摘される中、最大の支援国であるアメリカの世論はどうなっているのか。
アメリカの世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」が行った世論調査によりますと、アメリカによるウクライナへの支援について「過剰だ」と答えた人は去年12月は31%で、軍事侵攻が始まった直後のおととし3月時点の7%から24ポイントも増えています。
こうした傾向は野党・共和党支持者で顕著となっていて、支援について「過剰だ」と答えた人は9%から39ポイント増えて48%になっています。
一方、与党・民主党の支持者では5%から16%と11ポイントの増加にとどまっています。
また、ロシアのウクライナへの軍事侵攻がアメリカにとって「深刻な脅威である」と答えた人は33%で、軍事侵攻が始まった直後の去年3月の50%を17ポイント下回っています。
こちらも野党・共和党支持者で顕著で、「深刻な脅威である」と答えた人は51%から半減し27%となっています。
一方、与党・民主党支持者では、50%から40%と10ポイントの減少にとどまっています。
西側諸国の軍事支援 現状は
西側諸国は、ウクライナに対してこの一年も巨額の軍事支援を続けてきました。しかし、戦闘が長期化する中で、支援の先行きは不透明となっています。
ドイツの「キール世界経済研究所」は、各国が表明した軍事支援や人道支援などを含む支援額について、おととし1月24日からおよそ2年間の総額を公表しています。
それによりますと、支援額が最も多いのは、EU=ヨーロッパ連合で849億ユーロ、日本円でおよそ13兆7500億円に上ります。
次いで、アメリカが677億ユーロ、およそ10兆9600億円、ドイツが220億ユーロ、およそ3兆5600億円、イギリスが156億ユーロ、およそ2兆5200億円、デンマークが87億ユーロ、およそ1兆4000億円、ノルウェーと日本が75億ユーロ、およそ1兆2100億円などとなっています。
このうち軍事面での支援で見るとアメリカが最も多く、422億ユーロ、およそ6兆8300億円で、次いでドイツが177億ユーロ、およそ2兆8600億円、イギリスが91億ユーロおよそ1兆4700億円などとなっています。
一方、軍事侵攻2年となる中、欧米各国では「支援疲れ」も指摘されていて、支援の先行きが不透明になっています。
最大の支援国のアメリカでは、追加支援に必要な予算案の議会での審議が、野党・共和党の反対で暗礁に乗り上げ、支援が滞った状態が続いています。
こうした中、EU=ヨーロッパ連合は今月、ウクライナに対し、今後4年間で500億ユーロ、日本円で8兆円規模の資金支援を行うことで合意しました。
しかし、アメリカの支援の滞りによる影響への懸念は大きく、「キール世界経済研究所」は、「ヨーロッパ各国がアメリカの軍事支援の埋め合わせをするためには今の2倍の支援が必要だ」と分析しています。
戦闘の長期化は避けられない見通しの中、西側諸国からの支援が続くかどうかが戦況を大きく左右することになります。 
●軍事侵攻 24日で2年 プーチン大統領 “核戦力を増強”強調 2/23
ウクライナヘの軍事侵攻から24日で2年となるのを前に、ロシアのプーチン大統領は軍人をたたえるロシアの祝日に合わせて動画を公開し、通常兵器に加えて核戦力を増強しているとして強気の姿勢を強調しました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から24日で2年となる中、戦闘が収束に向かう見通しは見えておらず、ウクライナでは23日もロシア軍の攻撃が続いています。
ウクライナ軍などによりますとロシア軍の無人機31機による攻撃が行われ、このうち23機は撃墜したものの、南部オデーサ州で3人が死亡したということです。
一方、ロシアのプーチン大統領は23日、「祖国防衛の日」と呼ばれる軍人をたたえるロシアの祝日に合わせて、動画を公開しました。
この中でプーチン大統領は「祖国への忠実かつ私欲を捨てた奉仕に感謝する」と述べ、兵士をたたえるとともに、国民に結束を呼びかけました。
続いて、無人機や戦車など通常兵器の生産を強化しているとしたうえで核戦力も増強していると強調しました。
そして、最新型に更新された戦略核兵器の割合が95%となったことや、核兵器搭載可能な戦略爆撃機ツポレフ160、4機が軍に引き渡されたことをアピールしました。
ウクライナが最大の支援国アメリカからの軍事支援が揺らぎ、弾薬などが不足する中、プーチン大統領は軍事力の増強をアピールし、強気の姿勢を強調しました。
アメリカの支援継続にトランプ前大統領が影響
ウクライナの最大の軍事支援国、アメリカの支援の継続に大きな影響をおよぼしているのが、ことし秋の大統領選挙に野党・共和党から立候補しているトランプ前大統領です。
「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ氏は、事実上の公約「アジェンダ47」の中で「兵器も備蓄も空っぽだ。“いかさまバイデン”はアメリカを第3次世界大戦に引きずり込もうとしている」と述べて、アメリカの国境管理強化の必要性を訴えるとともに、ウクライナへの軍事支援の継続に消極的な姿勢です。
バイデン政権がウクライナ支援を継続するためには、議会で緊急の予算案が承認される必要があります。
今月上旬には、アメリカ議会上院の与野党はウクライナ支援と国境管理の強化を抱き合わせた案でいったんは合意しました。
しかし、トランプ氏が国境管理が不十分だとして、反対を表明すると、共和党の議員も同調して7日の上院の採決では合意をほごにして反対に回り、この予算案の審議を進めることは否決されました。
これを受けて上院では13日、国境管理を切り離し、ウクライナなどへの軍事支援を盛り込んだ総額950億ドル余り、日本円で14兆円以上にのぼる緊急予算案を可決しました。
しかし、トランプ氏に近い共和党のジョンソン下院議長は、この予算案についても否定的な考えで、予算案承認の見通しは、立たないままです。
トランプ氏を支持し、みずからもウクライナ支援に反対する共和党のビッグス議員はNHKのインタビューに対し「バイデン政権が最初に支援を表明したときは一時的な人道支援と軍事援助だった。それが『必要なかぎり』に変わった。バイデン政権は目的も明言しないしどう達成するかも言っていない」と指摘しました。
その上で、ビッグス氏はトランプ氏の影響力について「共和党の候補者になるのがわかっているので、議員たちは『トランプ氏を支持する』と言うだろう。トランプ氏はすでに共和党内で大きな影響力を持っていると思う」と話していました。
さらに、トランプ氏はウクライナ支援の重要なパートナーであるヨーロッパとの連携にも水を差し始めています。
今月14日、選挙集会で「NATO各国は軍事費を十分に負担していない。彼らが払わないのであればわれわれは防衛しない」と述べトランプ氏が再び当選すれば、ヨーロッパに対する防衛上の関与を低下させるのではないかとの受け止めが広がっています。
一方、バイデン政権の支援戦略そのものも、ウクライナ軍の反転攻勢が思うように進まないなかで見直しを迫られています。
米元大使「ウクライナはこの先1年防衛に重点」
アメリカの元駐ウクライナ大使のウィリアム・テイラー氏はNHKの取材に対し、先月下旬キーウで、ゼレンスキー大統領の側近のイエルマク大統領府長官と今後の戦略について意見を交わしたと明らかにしました。
その上で「ウクライナ側と議論してわかったのは、ウクライナはこの先1年、防衛に重点を置くことだ。訓練に力を入れ、兵力を増強し、F16戦闘機などの新しい兵器を使いこなせるようにして、再び攻勢をかけるための準備を進める。これは去年、反転攻勢がうまくいかなかったからだ。バイデン政権は、このウクライナの戦略決定に基づいて支援を行うことになるだろう」と話していました。
●プーチン 「軍事力がロシアの安全と自由を保証」 軍事力増強を進める考え強調 2/23
ロシアのプーチン大統領は23日、軍人に感謝する祝日にあわせてメッセージを発表し、「軍事力がロシアの安全と自由を保証する」と述べて軍事力の増強を進める考えを強調しました。
プーチン大統領「わが国の陸海軍の強力な潜在力と高い戦闘態勢は、ロシアの安全と自由で主権ある発展を保証する」
プーチン大統領は、軍関係者に感謝する祝日「祖国防衛者の日」のビデオ演説でこのように述べ、あらためて軍事力の増強を進める考えを国民に示しました。
プーチン大統領はさらに、「現在、戦略核兵器の更新は95%まで進んでいる。海軍はほぼ100%だ」として、戦略核兵器の近代化が進んでいることを強調しました。
22日には、プーチン大統領自ら、核兵器を搭載可能な長距離戦略爆撃機に搭乗する様子を公開していて、ウクライナ侵攻2年を前に、核戦力の増強も進んでいることを欧米に誇示する狙いがあるとみられます。

 

●バイデン氏、プーチン氏に激しい罵倒浴びせる ロシアは強く反発 2/24
米国のバイデン大統領は24日までに、ロシアのプーチン大統領を「狂った最低野郎」などと罵倒、ロシア大統領府が強く反発する事態となった。
政治資金を募るため訪れた米サンフランシスコで口にしたもので、同行する代表取材団によると「プーチン(氏)のような狂った最低野郎を抱えており、常に核戦争を心配しなければならない」と発言した。
その上で、「人類存亡の危機は気候問題にある」とも続けた。
バイデン氏の今回の痛罵に対しロシアのペスコフ大統領報道官は「粗野な内容の言動は他国の元首、特にプーチン大統領を決して傷つけたりしないだろうが、ロシアには甚大な不名誉となるものだ」と主張。
ロシア国営の放送局の取材に、「バイデン氏は明らかに、国内政治の利害を考えハリウッドのカウボーイの流儀で振る舞っている」と揶揄(やゆ)した。
これに対しロシアのアントノフ駐米大使は、バイデン氏によるプーチン大統領に対するののしりは「単純な謝罪」で氷解するような問題ではないと強調。米国務省に強い調子での抗議を伝えたとも述べた。
●プーチン大統領「軍需産業の次はAI導入武器」 2/24
ロシアのプーチン大統領が武器に人工知能(AI)を取り入れる計画を公式的に明らかにした。ロシア国営スプートニク通信によると、プーチン大統領は23日(現地時間)、軍事装備にAI技術を導入する計画だと明らかにした。
プーチン大統領はロシアの祝日「祖国防衛の日」を迎えて公開した画像演説で、この数年間にロシア軍需産業の生産力が高まったし、「さらに向上した軍事装備の開発と製造、そしてAI技術を軍需産業に導入するというのが次の順序」と述べた。
国際社会ではAIが武器と結びつく場合、生死決定権が人間でなく機械に渡るとし、殺傷力がはるかに強まるという懸念が強まっている。バイデン米大統領と習近平国家主席は昨年11月の米中首脳会談の議題に、核兵器にAIを導入してはならないという案件を含めた。
昨年12月には世界150余国が「武器体系のAIと自動化」など新しい軍事技術が「深刻な挑戦と懸念」をもたらすという内容の国連決議案を支持した。
●アメリカ、ロシアに追加制裁 500以上の個人・団体に 2/24
アメリカのジョー・バイデン大統領は23日、ロシアの500以上の個人・団体を対象にした追加制裁を発表した。24日に開戦2年を迎えるウクライナ全面侵攻と、野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄死を理由にしている。欧州連合(EU)も同日、軍事技術の入手を制限する新しい制裁を発表した。
バイデン大統領は声明で、「ロシアがウクライナに対する征服戦争を継続していることと、アレクセイ・ナワリヌイの死去に関連し、ロシアに対して500以上の新しい制裁を発表する」と述べ、ナワリヌイ氏について「勇敢な反汚職活動家で、プーチンに最も激しく対立する野党指導者だった」と評価した。
「一連の制裁は、ナワリヌイの収監に関与した個人のほか、ロシアの金融セクター、防衛産業の地盤や調達網、複数の大陸にまたがり制裁を回避する者たちを標的にする」と大統領は説明し、制裁は「国外への侵略と国内への抑圧について、プーチンがより一層の代償を必ず払うようにする」ものだと強調した。
バイデン大統領はさらに、「プーチンは2年前、ウクライナを地図上から抹消しようとした。その殺害と破壊の代償をプーチンが払わないなら、このまま続けることになる」とも述べた。
アメリカ国務省と財務省の発表によると、追加制裁の対象にはロシアの主要なカード決済システム、金融機関、防衛産業団体、ナワリヌイ氏の収監にかかわった刑務所当局の幹部3人などが含まれる。
追加制裁は、ロシアの金融やエネルギー、防衛産業の団体やその団体に関わる個人が中心で、100以上の企業・個人が、禁輸制限を受ける。攻撃ドローン開発でイランと協力する企業も対象となる。
ロシア軍に資材を提供する企業に関係するとして、中国、アラブ首長国連邦(UAE)、ヴェトナム、リヒテンシュタインの個人を含むロシア国外の20以上の個人・法人も制裁対象とされた。
今回の追加制裁によって、アメリカ政府によるロシア関連の制裁対象は4000以上の個人・団体となる。
ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報担当調整官は同日、記者団に対して、政府は今後さらにロシアに対して追加の措置をとる計画だが、協力国との調整が必要で、実施には連邦議会の承認が必要だと話した。
ロシアの刑務所当局は16日、ナワリヌイ氏が北極圏の刑務所で急死したと発表した。
バイデン大統領は22日に米サンフランシスコで、妻ユリア・ナワルナヤ氏や娘ダーシャさんと面会した。ナワリヌイ氏が亡くなったのは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の責任だと「疑いようもない」と、バイデン氏は述べている。
EUは北朝鮮国防相も制裁
EUも同日、軍事技術の入手を制限する新しい制裁を発表。ロシアの武器調達やウクライナの子供誘拐にかかわるとする200以上の企業・個人を対象にしている。ロシアはウクライナの子供誘拐について否定し続けている。
EUの追加制裁には、北朝鮮の武器をロシアに輸送する取り組みに関与した10のロシア企業や個人が含まれる。北朝鮮の強純男(カン・スンナム)国防相も制裁対象にされた。
EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相)は、「ロシアの戦争マシーンをへこませ、ウクライナが正当な自衛戦争に勝つのを支援するため、我々は断固として団結し続ける」と述べた。
2年前の開戦以来、EUは2000人以上の個人を制裁している。
これに対してロシア外務省は、ロシア渡航を禁止するEU関係者や政治家の数を増やしたと発表。
「欧州連合は一方的な制限措置によってロシアに圧力をかけようとする、無意味な行為を続けている」とロシア政府は批判した。
欧米諸国は2022年2月24日のウクライナ全面侵攻開始を受け、これまでにウラジーミル・プーチン大統領個人や娘たちなど、ロシア政府幹部とその関係者を制裁し、資産を凍結している。
国際刑事裁判所は昨年3月、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑でプーチン大統領に逮捕状を出している。
他方、プーチン大統領は欧米からどれだけ制裁されても、ロシア経済は堅調だと繰り返している。今年1月に極東のチュコト自治管区を訪れた際には、「我々は成長している、(西側は)衰退している」と述べ、「我々が向こうを必要としている以上に、向こうは我々を必要としている」のだと強調した。
ロシア経済は2022年2月に比べて約1%成長している。ロシアの原油や天然ガス、鉱物資源に対する需要は、今もアジアを中心に持続している。これに対して西側諸国は、経済制裁の影響が出るには時間がかかるが、ロシアとの戦いは短距離走ではなくマラソンに匹敵する長期戦なのだと位置づけている。
●バイデン氏「プーチンに屈しない」、ウクライナ支援継続訴え… 2/24
米国のバイデン大統領は23日、ホワイトハウスでロシアのウクライナ侵略について演説し、「米国は自由のために立ち上がる。プーチン(露大統領)に屈することはない」と述べた。
ウクライナ支援予算が米議会下院で承認されず、支援が中断していることについて、「この重要な時にウクライナ支援に失敗することが、歴史上、忘れ去られることは決してない」と指摘し、「下院は法案を通さなければならない」と訴えた。
米政府は23日、侵略開始後では最大規模となる対露制裁を発表した。バイデン氏は先進7か国(G7)首脳とオンラインで会談し、対露制裁などでの連携を確認する意向も示した。
●ロシア産原油、制裁で市場より19ドル安…米政権「プーチン氏の利益を減らす」 2/24
米国のバイデン政権は23日、ロシアのウクライナ侵略を受けて先進7か国(G7)などがロシア産原油を対象に導入した制裁の効果を検証した結果を公表した。「ロシアの原油販売価格は著しく下落し、プーチン大統領の利益を減らしている」として、制裁の意義を強調している。
G7と欧州連合(EU)、豪州は2022年12月、ロシア産原油に1バレルあたり60ドルの上限価格を設ける措置を発動した。米財務省によると、23年1〜9月のロシアの石油関連税収は前年同期比で40%以上減り、23年10月のロシア産原油の1バレルあたりの販売価格は市場価値よりも12〜13ドル安くなった。直近の1か月間は、差額が19ドルまで拡大しているとしている。
上限価格設定には、ロシアの収入を減らして戦費調達に打撃を与える狙いがあった。23年10月からは、所有国が不明の「影の船団」を使ったロシアの制裁逃れを防ぐために監視や手続きを厳格化している。米財務省は「市場の安定を維持しながらロシアの利益を減らす制裁は、うまく機能している」と分析している。
●侵攻から2年 プーチン大統領、兵士を称える「諸君は真の国民的英雄」 2/24
ロシアによるウクライナ侵攻から24日で2年になります。プーチン大統領は演説でロシア軍の兵士を称えるとともに、国民に結束を呼びかけました。
「諸君は真実と正義のために戦っている。ロシアの防衛で勇気と勇敢さを示している。諸君は真の国民的英雄だ」「我々は諸君が与えられた任務を完遂できるよう全力を尽くす」(プーチン大統領)
プーチン大統領は23日、「祖国防衛の日」の祝日にビデオ演説を公開し、ウクライナとの戦闘に参加している兵士は、「真実と正義のために戦っている英雄だ」と称えました。欧米の分析ではロシア軍の死者は31万人を越えていると指摘されていますが、プーチン大統領は「われわれも全力を尽くす」と述べ、ロシア国民に結束を呼びかけました。
OHCHR(=国連人権高等弁務官事務所)の発表によりますと、ロシアの軍事侵攻が始まってからの2年で、ウクライナ国内における民間人の死者数は1万582人、負傷者数は2万人近くに上っています。
●プーチン氏、支持率85%で侵攻開始後最高 ロシア大統領選で侵略正当化へ 2/24
ロシアによるウクライナ侵略は24日で3年目に入った。直近の露世論調査でプーチン大統領の支持率は侵略開始後で最高となる85%を記録。対ウクライナ軍事作戦の支持率も一貫して70%を超えている。プーチン氏は3月の大統領選で「圧勝」し、自身の政治的正統性を演出した上で、ウクライナを降伏に追い込むまで軍事作戦を続ける思惑だとみられる。
露独立系機関「レバダ・センター」の1月の世論調査によると、プーチン氏の支持率は昨年11月に続いて85%を記録し、2022年2月のウクライナ全面侵攻後、過去最高となった。軍事作戦の支持率も77%に上った。
プーチン氏や軍事作戦への高い支持率の背景には、ウクライナ侵攻後に露国内で反政権的・反戦的な言動への抑圧が極度に進み、国民が世論調査に本音を明かしにくい風潮が続いていることや、国営メディアを通じた政権のプロパガンダ(政治宣伝)があるとみられる。ただ、こうした抑圧的な政策の影響だけでなく、「欧米側はウクライナを取り込み、ロシアを弱体化しようとしてきた」とするプーチン氏の持説に共感する国民が多いという面もある。
露政府系機関「全ロシア世論調査センター」によると、今月15日に実施した「仮に大統領選が今週末に行われた場合、誰に投票するか」とした質問で、79%が「プーチン氏」と回答。政権側に融和的な「体制内野党」3党がそれぞれ擁立した候補者に投票するとした回答はいずれも4%以下だった。
大統領選で政権側はナデジディン元下院議員ら反戦派の出馬予定者を軒並み排除。大統領選はプーチン氏への圧倒的支持を演出する「形式的儀式」となる見通しだ。
●プーチンは自分たちが「世界を救う存在」だと信じている 2/24
ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく2年が経つが、いまも両国間での激しい戦闘が続いている。プーチンが暴挙に出つづける本当の理由を理解するにはロシアという国の背景を知る必要がある。
『ロシア全史:帝国とその敵国』を刊行したフランスのジャーナリスト、フランソワ・レナートがロシアの迷走の根本的な要因について仏「レクスプレス」誌に語った。
ロシアを特徴づける「膨張主義」
──ロシアの歴史が始まったのは1000年以上前です。かつては、現在のウクライナ周辺の公国の緩やかな連合でしたが、いまは1700万平方キロメートルもの広大な領土を持つ大国となっています。20世紀には領土が2200万平方キロメートルもありました。
ロシアの膨張主義を理解したいなら、まずは地図を見るべきです。ロシアの子供たちは地図を見ると、世界一大きな国であることを誇りに思う一方、不安にも駆られます。こんなに広大な領土はとても守りきれないのではないかと考えるのです。
ロシアでは、16世紀に領土を広げたイヴァン雷帝の時代から、「防衛的膨張主義」がよく見られます。同国には自分たちを守る山や海や大河がありません。だから領土を広げると、そこを守るために、さらにその先の土地も征服しなければならないと感じてしまうのです。
プーチンが2016年のロシア地理学協会のイベントで口にした冗談がわかりやすいです。彼は、9歳の小学生に「ロシアの国境はどこにあるかわかるかい?」と質問しました。その子は授業で学んだとおり、「北東部はベーリング海峡まで」と答えました。それに対し、プーチンはこう言ったのです。「間違いですね。ロシアの国境はどこまでも広がるのです」
ロシア人作家ウラジーミル・ソローキン:1955年ロシア生まれ。コンセプチュアリズム芸術運動に関わったのち、83年『行列』で作家デビュー。「現代文学のモンスター」の異名をとる。
ロシア人作家ウラジーミル・ソローキンが語る「プーチンはいかに怪物となったのか」
自らが「世界を救う存在」だと信じている
──ロシアの歴史には、メシア思想の影響もつねにあるとのことですが、どんな背景があるのでしょう。
西洋ではあまり知られていませんが、ロシアには「第3のローマ」という神話があります。西洋人にとって、ローマは聖ペトロの唯一の後継者である教皇がいる場所であり、キリストまで遡れる伝統の中心地です。カトリック教会が提示する歴史観です。
一方、正教会では、キリスト教の中心地は最初はエルサレムにあり、それからコンスタンティノープルに移ったと考えられています。ビザンツ帝国(東ローマ帝国)の首都である同都市が15世紀にオスマン・トルコに滅亡させられてからは、モスクワにキリスト教の中心地が移りました。最後のビザンツ帝国皇帝の姪と結婚したモスクワ大公に、帝国の王権を象徴するレガリアが譲られたのです。
こうした背景から、モスクワ大公がローマ皇帝の称号・カエサルに由来する「ツァーリ」を自称し、モスクワを第3のローマと呼ぶようになりました。16世紀前半には、ある僧侶がモスクワこそが最後のローマであり、それが崩壊したら世界は終わりを迎えるという終末論を語り出したのです。それゆえ、モスクワ大公国とツァーリの天命は「世界を救う」ことになりました。
20世紀になると共産主義が登場しますが、それも世界を救うものとされました。ロシアでは、自国が世界の歴史で特別な役割を担っていると考えられ、それが膨張主義に繋がるのです。自国が隣国を征服するのは人類のためだと考える傾向も見られます。
皇帝に従属し続けたモスクワ正教会
──ロシアでは世俗権力と宗教権力が分離されなかったのですか。
4世紀にコンスタンティヌス帝がローマ世界でキリスト教を公認し、キリスト教の組織化が始まりました。このとき、宗教権力は政治権力に服従していました。ところが、7世紀にビザンツ皇帝からの保護を期待できないと考えたローマ教皇が、フランク王国から支援を得ると、状況は一変しました。
教皇は800年に同国王のカールにローマ帝国皇帝の戴冠をし、「西ローマ帝国」のようなものを再建させたのです。しかし、カール大帝は戴冠後、ゲルマン世界に戻りました。その結果、ローマにいる教皇と皇帝それぞれが、自分の領域で帝国に君臨したのです。
中世の西ヨーロッパでは、教皇と皇帝の間で紛争が繰り返され、宗教権力と世俗権力がはっきり分かれました。近代の政教分離の理念も、ここに端を発しています。
ロシアでは、宗教権力と世俗権力の分離が一度も起こりませんでした。指令を出すのは政治であり、宗教はそれに服従するのです。プーチンがウクライナでの戦争を宣言したとき、モスクワ総主教のキリル1世がその宣言に祝福を与えました。もともとそういう構造なのです。
「西欧派」と「スラブ派」の根深い対立
──ロシアでは昔から西欧派とスラヴ派の対立があるとおっしゃいます。この対立は何に起因しているのでしょう。
13世紀のモンゴル帝国によるロシア侵略まで遡る必要があります。征服されたロシア世界はキプチャク・ハン国(ジョチ・ウルス)となり、2世紀半もの間、モンゴル人に支配されました。ロシアは、この時代を「タタールのくびき」と呼びます。
この時代に西ヨーロッパと交易を続けていたのは北西部のノヴゴロド公国のみです。ほかの公国には、当時のヨーロッパでどんな大きな変化があったのか伝わりませんでした。技術や経済の進化も知らず、イタリアでルネサンスが始まったことにも気づかなかったのです。15世紀末にモンゴル人が去っても、ロシアには慣習や伝統の面でアジアの影響が色濃く残りました。
それが17世紀の終わり、ピョートル大帝の登場でガラッと変わります。彼は青年期にスコットランド人やジュネーヴ人の仲間とともに過ごしたことで、ヨーロッパに興味を持ちました。西ヨーロッパの世界がどんなところなのか見たいと考え、ツァーリになってから組織したのが「大使節団」です。彼はそこにお忍びで加わりました。
その後、彼は、野蛮で時代遅れに見える風習を捨て、ロシアを西欧化していくと決めました。まず服装をヨーロッパ風にし、あごひげをのばす時代も終わりました。軍制も改革されました。それから「西洋に開かれた窓」とされた新首都サンクトペテルブルクを建設したのです。
とはいえ、残忍だったピョートル大帝は、これらの改革を非常に乱暴に実施しました。それに対し、西欧化政策を拒否するロシア貴族もいました。自国のルーツを見失い、異邦の風習を強引に持ち込もうとする試みだと彼らには捉えられたからです。こう考える人たちは後に、「スラヴ派」となりました。
この対抗関係が、19世紀に「西欧派」と「スラヴ派」の対立になりました。西欧派を代表するのは作家のイワン・ツルゲーネフです。ロシアはヨーロッパに目を向け、リベラルな価値観を採り入れ、自由を尊重する体制に変え、社会の進歩を図るべきだと主張しました。
一方、スラヴ派を代表するのは、作家フョードル・ドストエフスキーです。彼らからすると、西ヨーロッパの価値観は退廃しています。正教会の伝統に連なる聖なるスラヴ人のロシアは、運命を自らの手で切り拓くべきだというのです。
プーチンの発言からは、このスラヴ派の思想が見られます。ロシア特有のアイデンティティを奮い立たせながら、ヨーロッパは同性愛やジェンダー・イデオロギーで堕落したと彼は非難していますからね。
●ロシア人が“専制君主”のほうがマシだと支持してしまう歴史的背景 2/24
ロシア人は「専制君主」のほうがマシだと考える
──ロシアでは、歴史上、政治的リベラリズムが根付くチャンスがまったくなかったのでしょうか。西欧化を進めたピョートル大帝でも、当時発達しはじめていた議会主義や自由拡大の流れを輸入しませんでした。
ロシアの歴史を形作ってきたのは、専制支配の伝統です。その伝統を体現するのがイヴァン雷帝です。彼は「地上の神」とでもいえばいいのか、西欧の絶対君主すら圧倒する存在でした。想像を絶する暴力や残酷さを強いることもあり、叛乱を起こした都市ノヴゴロドは血の川にされました。彼の民兵は気晴らしに村を略奪できたほどです。
そんな君主は民衆に嫌われそうですが、そうでもありません。彼の死後、ロシアで「動乱の時代」が始まったからです。陰惨な後継者争いが始まり、大飢饉などのさまざまな災厄も重なりました。ロシアはポーランドに侵略されて弱体化したものの、民衆が奇跡的にポーランドを追い出したことで落ち着きを取り戻しました。その混乱の歴史ゆえ、動乱に比べれば、苛烈な専制君主のほうが良いという考え方が、ロシア人の精神には根付いています。
実際、つらかったソ連時代よりも、崩壊後の時代のほうがつらかったと考えるロシア国民がいます。共産主義時代を懐かしむ気持ちは、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの『セカンドハンドの時代──「赤い国」を生きた人びと』などで描かれるとおりです。
ロシア人にとって1990年代の民主化の時代は、イヴァン雷帝後の動乱の時代と同様でした。血みどろの権力闘争が繰り広げられ、汚職が跋扈し、民衆の苦しみは言い知れませんでした。それで国民の過半数が、国内の平和と経済の安定を期待し、新しい専制君主を受け入れることにしたのです。
ロシアの歴史には明るい時代がまったくありません。つねに悲劇的です。1905年のロシア第一革命では専制君主制を打破し、議会を基盤とした立憲君主制の樹立が目指されました。しかし、ドゥーマと呼ばれた議会を、ツァーリが支配できるような体制にしてしまいました。
1917年の二月革命では、「人権宣言」に心酔していた社会主義者の弁護士、アレクサンドル・ケレンスキーなどが政権に入りました。しかし、戦争と物資不足のなかでの統治はうまくいかず、結局、ボリシェヴィキによる十月革命で一掃されてしまいました。レーニンが率いていたボリシェヴィキは自由選挙を実施するという約束を破り、数ヵ月後には完全な独裁制を敷きました。
根深い「反ユダヤ主義」の発祥
──ロシア語で「破壊」を意味する「ポグロム」という言葉が再び注目されています。なぜ東ヨーロッパとロシアでは反ユダヤ主義の虐殺が起こったのですか。また、それに対抗したシオニズムはどうやって生まれたのでしょう。
広大な領土を誇った中世のポーランドには数多くのユダヤ人が暮らしていました。いまのウクライナもその支配下にありました。当時、西ヨーロッパの国々は反ユダヤの方針を掲げており、ユダヤ人を受け入れていたのはポーランドだけだったのです。16世紀には、同国でユダヤ人の小さな議会のようなものまで作られ、自分たちの利益も守れていました。ほかの国では、考えられなかったことです。
ところが17世紀、ウクライナのコサックの反乱が起こり、力関係が変わります。この反乱では、自由な軍事共同体だったコサックと、正教会のウクライナ人農民が、自分たちを搾取するポーランドの貴族に反旗をひるがえしました。その結果、後にウクライナの英雄と拝められるようになったボフダン・フメリニツキーというコサックが、ウクライナの自治を勝ち取りました。
しかし、争いのなかで、憎しみや宗教的偏見から、同地域に住んでいたユダヤ人も虐殺されました。数十万人が殺されたとされ、レイプも拷問もあり、村や町が焼き払われました。想像を絶する暴力です。大きなトラウマとなって、ユダヤ教自体を変えていくきっかけになりました。
その後、この地域は、17世紀から18世紀末にかけてロシアに征服されました。それまでロシア帝国内にはユダヤ人がほとんどおらず、征服した領土に暮らしていたユダヤ人たちをどうするのか、問題になりました。当時の皇帝エカチェリーナ2世は啓蒙専制君主として近代化を進めましたが、ユダヤ人に対してはあまり進歩的ではありませんでした。ユダヤ人の「居住区域」を設定し、そこから出ることを禁じたのです。
しかし、その居住区域内にはポーランド人やウクライナ人もいました。19世紀に入ると、そこでは宗教や民族を基盤に、彼らのナショナリズムが盛り上がりました。その結果、ユダヤ人たちは、同地で数百年も暮らしてきたにもかかわらず、よそ者扱いされるようになったのです。彼らに対する宗教的偏見も、この憎しみに油を注ぎました。
ツァーリは、この憎しみを都合よく利用しました。民衆が政権に不満を抱いたら、その怒りをユダヤ人に仕向けたのです。スケープゴートとされたユダヤ人は、1880年代、悲惨な「ポグロム」(集団的迫害)に何度も遭いました。
ツァーリのもとで動く秘密警察は、反ユダヤ主義を煽った『シオン賢者の議定書』という文書を偽造し、1903年に出版させます。数名のユダヤ人の権力者がフリーメーソンと手を組んで全世界を支配する計画を進めている陰謀論を記したものです。
ロシア帝国内で迫害を受けたユダヤ人は、対抗するために2つの構想を持ちました。一つは「シオン」の地、すなわち現在のパレスチナに戻らなければ自分たちは救われないという考えです。この一派がだんだんと影響力を持って、初期のシオニズムができあがりました。19世紀末には、テオドール・ヘルツェルというウィーンのジャーナリストがこの運動に近代的な政治形態を与えます。
もう一つの構想は、「インターナショナリズム」です。シオニズムよりも多くの支持者を集めました。問題の根源がナショナリズムにあると考え、全人類を友愛で団結させようとしたのです。
今も続くロシアによる「植民地主義」の影響
──ロシア帝国は19世紀、西洋の列強と同じように領土を大幅に拡大しました。それにもかかわらず、ロシアに対する脱植民地化の運動はあまり話題になりません。
プーチンはグローバル・サウスの国々を引き寄せるため、ロシアは植民地支配をしなかったと主張しています。でも、ポーランドやウズベキスタンの人々に話を聞いてみるといいでしょう。
ロシアは19世紀、中央アジアのブハラやサマルカンドといった歴史ある都市を中心に植民地帝国を築きました。ツァーリは領土を征服すると、すぐに入植者を送り込みました。フランスがアフリカでやっていたことと、そこまで変わりません。
レーニンは権力の座につくと、「諸民族の牢獄」となっている帝国を終わらせると言いました。各民族が自由かつ平等に団結するというソ連の連邦制の理念を生み出したのです。しかし、実際にはソビエト連邦の共和国に自治権はまったくなく、各民族のアイデンティティも尊重されませんでした。
スターリンは「分割統治」をするため、民族少数派が集まる地域があちこちにできるようにわざと国境線を引きました。その影響は現在も残っています。アルメニアとアゼルバイジャンが延々と戦争をするのも、ナゴルノ・カラバフという飛び地をスターリンが設定したからです。タジキスタン、ウズベキスタン、キルギスの間でも、少数派をめぐる同じ問題があります。
──新著はロシアの歴史についての本なのに、ポーランドなど、隣国の歴史について書かれているのが独特だと思いました。
それはうれしいですね。ポーランドの歴史は非常に興味深く、その重要性を伝えたいと考えてきました。ポーランドはリトアニアと連合して「二民族の共和国」を形成し、17世紀までヨーロッパで最も強い国の一つだったといえます。しかし、その歴史はあまり知られていません。
他の近隣国であるウクライナやスウェーデン、チェコ、ルーマニアの歴史についても含めました。フランス人は、自国の歴史だけを見るのではなく、こうした国々にも関心を持ってもいいのではないでしょうか。
●プーチン大統領は“今がチャンス”と? あす軍事侵攻2年、ロシアの今 2/24
ロシアによる軍事侵攻から24日で2年。ロシアはどうむかえようとしているのでしょうか。モスクワから東郷達郎記者が中継。
プーチン大統領は、欧米の支援疲れのなかで戦況が好転した今がチャンスだとみていると思われます。
ロシアは23日、「祖国防衛者の日」という祝日で、プーチン大統領は恒例のメッセージで「軍事力がロシアの自由を保証する」と強調しました。今ロシアは、国内で武器や弾薬などを増産する態勢をととのえています。長期戦になれば、物量でウクライナ側を圧倒できるとみています。
この武器の増産は、景気の下支えにもつながっていて、国民の間に不満は広がっていません。
独立系機関の「世論調査」では、「軍事作戦」支持が77%、「プーチン大統領」支持は85%と、去年秋からは伸びているということなんです。
──プーチン大統領にとって、政権運営に不安材料は見当たらないということでしょうか?
「全くない」というわけではありません。その一つは、反プーチンの急先鋒ナワリヌイ氏の獄中死に対する「追悼」の動きです。
しかし、こうした動きに対して当局が徹底的に抑え込みにかかっています。来月のロシア大統領選挙ではプーチン大統領が圧勝する、というシナリオ通りに事が運ぶ可能性が高いとみられます。
そして、その後に見据えているのは、秋のアメリカ大統領選挙です。ウクライナを支援するアメリカが揺らげば、ロシアがさらに有利になると考えているとみられます。
プーチン大統領は、長期戦の体制を万全に整えつつ国内世論を抑え込み、秋以降のアメリカの出方をうかがう構えだとみられます。
●ウクライナへの軍事侵攻から2年 各地の動き 2/24
軍事侵攻2年 これまでの概要は
ロシアは、おととし2月24日、ウクライナへの軍事侵攻を始めました。
ロシア軍は、東部や南部などでウクライナ軍と激しい攻防を続け、一時掌握した領土を奪還されるなど、劣勢に追い込まれることもありました。しかし契約軍人などで兵力を増強するとともに、国産の兵器のみならず北朝鮮やイランなどから購入したミサイルや無人機、大量の弾薬も使いながら攻勢を強めて一部で主導権を取り戻し、今月ウクライナ側の拠点、東部アウディーイウカの掌握を発表しました。
一方、ウクライナ軍は去年6月、東部や南部で反転攻勢を開始しましたが、ロシア側が築いた強固な防衛線の前に進軍を阻まれたほか、砲弾など欧米の軍事支援が停滞するなどして作戦は思うように進んでいません。このためゼレンスキー大統領は、欧米各国に対して支援の継続を強く求めるとともに、軍の総司令官を交代させるなど、立て直しを図っています。
ウクライナ軍は、ロシア軍を撤退に追い込み勝利するまで徹底抗戦する構えですが、武器だけでなく兵員の不足も深刻とされ、ウクライナにとって厳しい局面が続くとみられます。
首都キーウの朝 市民が亡くなった人たちを悼む
ロシアによる軍事侵攻から2年となった24日、ウクライナの首都キーウでは、朝から亡くなった人たちを悼む市民の姿が見られました。
このうち亡くなった兵士などの写真が壁に掲げられている修道院を訪れていた40代の兵士の男性は「女性や子どもを含む多くの罪のない人が犠牲になりました。プーチンは悪です」と話していました。
30代の女性は「すべてのウクライナの人は誰かを亡くしています。これは悲劇です。世界が団結し、悪に打ち勝つことを願っています」と話していました。
また、犠牲になった友人を追悼するため、市の中心部の広場に家族で訪れた30代の女性は「私のきょうだいはいまも戦地にいます。すべての人が家に戻り、平和が訪れてほしいです」と話していました。
イタリア メローニ首相などキーウへ到着 G7首脳会議へ
ロシアによるウクライナの軍事侵攻から2年となるのに合わせて24日、G7=主要7か国のことしの議長国を務めるイタリアのメローニ首相などがウクライナの首都キーウに到着しました。
ロイター通信などによりますとウクライナを訪れたのはイタリアのメローニ首相や、EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長、それにカナダのトルドー首相とベルギーのデクロー首相です。
首脳たちはこのあとオンラインで開かれる予定のG7首脳会議に、キーウでウクライナのゼレンスキー大統領とともに対面で参加し、連帯を示すものとみられます。
フォンデアライエン委員長は、SNSに「ウクライナが最終的に自由になるまでわれわれはこれまで以上にウクライナのそばにしっかりと立っている」と投稿しました。
ウクライナ “和平案” 新興国などから理解得られるか
ウクライナは、ロシア軍の撤退や領土の回復など10項目からなる和平案「平和の公式」を提唱し、各国にも賛同してもらいたいと去年6月以降、欧米や新興国などの政府高官を集めた協議を4回開催してきました。
ゼレンスキー大統領は、1月15日、スイスのアムヘルト大統領とともに記者会見を行い、和平案をより実効性のあるものにするため、これまでの協議を首脳級が参加する形式に格上げしスイスで開催すると発表しました。
ただ、外交筋によりますと、ウクライナは、当初この首脳級協議をロシアによる軍事侵攻から2年となる24日にあわせて行いたい方針でしたが断念し、4月以降に先送りすることがわかりました。
ロシアとの関係も重視する国々から和平案への賛同が得られる見通しが立たなかったことなどが背景にあるとしています。
和平案をめぐっては、去年12月の非公式協議で中東やアジアの国々などからウクライナに対しロシアとの停戦にできるだけ早く応じるよう説得する発言が相次ぎました。
ウクライナとしては、欧米だけでなくグローバル・サウスと呼ばれる新興国などからも和平案に対する理解を得たうえでウクライナに有利な形で戦争を終結させたい考えです。
ただ、エネルギーなど、経済分野でロシアと強く結び付いている国々も多い中で、関係国が一致して戦争の終結に向けた道筋を見いだすことができない状況となっています。
東京 渋谷でウクライナ人などが集会 軍事侵攻に抗議
ロシアによる軍事侵攻から2年になるのにあわせ、日本に住んでいるウクライナ人などが東京 渋谷で集会を開き、軍事侵攻に抗議するとともにウクライナへの継続的な支援を訴えました。
24日午後、JR渋谷駅前で開かれた集会には避難してきた人も含め日本に住んでいるウクライナ人や支援者など、100人余りが参加しました。
参加者はウクライナの国旗や「ロシアを止めろ」などと書かれたプラカードをかかげ、2年となるロシアの軍事侵攻に抗議しました。
そしていまも多くの民間人が犠牲になっているウクライナの現状を忘れないでほしいなどとスピーチで呼びかけていました。
集会では最後にウクライナ国歌を斉唱し、人々は「ウクライナに自由を」などと声を上げ、継続的な支援を訴えました。
参加したウクライナ人の女性は「キーウでは防空警報が毎日何度も鳴っていて、ミサイル攻撃があることが当たり前になってしまっている。戦争が今も続いているということを忘れないでほしい」と話していました。
また、おととし4月から2人の子どもと日本に避難している女性は「家族がウクライナにいるのでとても心配です。まさかこんなに避難生活が長引くとは思っていませんでした。日本での生活は安全ですが、子どもたちの教育や将来のことを考えるととても不安です」と話していました。
東京 港区でも集会 「侵攻の早期終結を」
東京 港区でも侵攻の早期終結を訴える集会が開かれました。
この集会は市民グループが開き、主催者側の発表でおよそ500人が参加しました。
集会ではウクライナの民族楽器「バンドゥーラ」の演奏家として日本で活動している、ウクライナ出身のカテリーナさんが、母国をテーマにした楽曲などを披露しました。
カテリーナさんは「私たちウクライナ人にとってこの2年間はずっと止まっている状況で、たくさんの友達や知り合いが犠牲になりました。世界もだんだん疲れてきていると思いますが、ウクライナは自分の国のためだけでなく世界のため、そしてどの国でも戦争を起こさせないために戦っています」と訴えたあと、平和や自由への願いを込めて「翼をください」を日本語でうたい上げました。
集会のあと参加者たちはプラカードやウクライナの国旗などを掲げながらデモ行進し、「ウクライナに平和を」とか「すべての戦争に反対」などと訴えました。
参加した20代の看護師の男性は「医療に携わる身として子どもや市民が亡くなっていく状況を聞くのは受け入れがたく、日本もいつか同じ状況になるのではないかという不安も感じています。とにかく今は平和的に解決することを願っています」と話していました。
ウクライナ 一般市民が装備品提供など軍を支援する動き
ウクライナでは、欧米の軍事支援が停滞する中、一般の市民が軍を支援する動きが広がっています。
このうち、キーウ州内にある工場では、軍事侵攻が始まる前までは、公共交通機関や救急車などに使われる座席を作っていましたが、現在は、小型の車両や防弾チョッキなど前線の兵士向けの装備品を作り軍に無償で提供しています。
特に戦地で重宝されているのが、ぬかるんだ地面や傾斜でも走ることができる自動車で、戦闘に使うことはできないものの、けがをした兵士を運ぶためなどの用途でこれまでに30台以上が実際に戦地で使用されているということです。
ただ、この工場ではもともと70人ほどの従業員が在籍していましたが、徴兵などの影響で現在はおよそ20人しか働いていません。
従業員はほとんど休みもとらずに作業にあたっているということですが、生産できる車両の数は限られているほか、資金不足も課題だということです。
工場の担当者は「すぐにでもほしいという問い合わせが少なくとも10件入っているが生産する資金が足りず、要望には応えられていない」と話していました。
こうした工場を支援しているのが、現地のNPOです。
このNPOでは、前線の兵士たちから需要を聴き取ったうえで、必要な物資を製造できる民間の工場や企業に対して資金を援助しています。
資金は、海外などから集まった寄付金などでまかなっているということです。
団体の共同代表を務めるアナトリー・アクロブさんは「前線の兵士たちを支援するため毎週のように新しい民間企業が参画している。私たちとしてもさらに広い分野で軍を支援できるよう信頼できるパートナーを探している」と話していました。
そのうえで「海外からの支援の量は劇的に減っている。民間が軍事的な支援に加わることは残念ながらウクライナがこの戦争に勝つことには不可欠だ」と話し、欧米の軍事支援が停滞する中、こうした取り組みをさらに拡大していく必要があると強調していました。
軍事アナリスト「ロシア軍は軍事力を立て直した」
ポーランドを拠点に戦況の分析を続ける軍事アナリスト、コンラッド・ムジカ氏がNHKのインタビューに応じました。
この中でムジカ氏は「ロシア軍は、侵攻当初の損失を補い、軍事力を立て直した」と述べ、ロシアにとって、おととし9月に始めた予備役の動員の成果がようやくあらわれているという見方を示しました。
そして「ロシアは計画に時間がかかってもいったん決めれば、そのとおりに装備品などを大量生産できる」と述べ、戦時体制下のロシアは、軍事装備品の製造を急ピッチで進めているとした上で「なんとか戦場での主導権を再び握ることができた」という見通しを示しました。
一方、ウクライナについてムジカ氏は「ことしはウクライナにとって極めて重要な年だ。なぜならロシアとの戦力の差が戦争が始まって以来最も大きくなるからだ」と述べました。
そのうえで「兵員と弾薬それに兵士の訓練が必要だ」と述べ、大規模な動員の必要性などを強調し、欧米各国による軍事支援に関しては「兵器の品質はすぐれているが問題は量だ。ウクライナの要求に応えられる量がない」と述べ兵器や弾薬の増産を急ぐことが必要だと指摘しました。
ウクライナ軍が今後反転攻勢に再び出る可能性があるかについてムジカ氏は「ことしは確実に無理だ。ウクライナ軍が目指すのは『積極的防御』という前線での限定的な反撃と、PR効果の大きいロシア国内やクリミア半島への長距離無人機の攻撃だ」と述べました。
そして「大規模な動員もせず戦車などの戦力の支援もなければ向こう2年あるいはそれ以上大規模な反転攻勢の実施は難しい」と述べ、ウクライナは、動員を進めるとともに、まとまった量の軍事支援を受け続けないかぎり、戦況を好転させることは難しいという見方を示しました。
専門家「ロシア 歯止めがかからない状況」収束の兆し見えず
ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の長谷川雄之研究員は、去年6月からのウクライナ軍の反転攻勢について「ロシア側が築いた防御線が非常に強固で、反転攻勢はアメリカやヨーロッパが思ったようには進んでいない」と分析しています。
そのうえで、ウクライナ軍が東部ドネツク州のアウディーイウカからの撤退を表明したことについて「ロシア側が人のリソースと火力を使って長期戦に持ち込んだことが大きい。ウクライナにとっては相当な痛手だ」と述べ、ウクライナとしてはこれ以上兵力を失わないよう撤退先で強固な防御ラインを築くねらいがあると指摘しています。
そして、欧米からの支援が先細りしつつある中、ウクライナは兵員と弾薬が不足しているとして「ウクライナ側はアメリカとヨーロッパの支援にかなり依存している。西側諸国からの兵器や弾薬などが必要だ」と強調しました。
また、プーチン大統領が来月の大統領選挙を前に戦果をあげようと攻勢を強める可能性があるという見方を示したうえで「ロシアは占領地域全体に部隊を展開し、ウクライナ側にはかなり厳しい局面になってくる。ウクライナとしては防衛線をしっかりと築くことが重要だ」と述べ、ウクライナ軍が各地の拠点を守れるかどうかが焦点だという認識を示しました。
一方、軍事侵攻が終結する見通しについて、長谷川研究員は「ロシア軍は局所的にも戦況で有利になり、歯止めがかからない状況だ。仮に、ロシアが一方的に併合を宣言している東部の4州をすべて掌握したとしても、戦争が終わるかどうかは非常に難しい」と述べ、すぐに戦闘が収束する兆しは見えないと指摘しました。
その上で今後の停戦交渉の可能性について「停戦交渉は、ロシア、ウクライナに加え、ウクライナの最大の支援国のアメリカの内政がそれぞれ安定していないと進まない。大きな交渉があるとすれば、アメリカ大統領選挙のあとだ」と述べ、少なくともアメリカ大統領選挙が行われることしの11月までは戦闘が続くという見通しを示しました。
国連「ウクライナ 国外避難者640万人余りに」
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、今月15日の時点でウクライナ国外に避難している人の数は640万人余りでこのうち、およそ600万人がヨーロッパへ逃れているということです。
また、ウクライナ国内で避難している人の数は去年末の時点で、360万人余りとなっていて、侵攻から2年がたつ中、ウクライナの国内外で、人口の4分の1ほどにあたるおよそ1000万の人が今も家を追われています。
国連「ウクライナで少なくとも1万人以上の市民が犠牲に」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから2年となるなか、国連人権高等弁務官事務所は、ウクライナでは、1万人以上の市民が犠牲になったとしています。
それによりますと、軍事侵攻が始まったおととし2月24日から2月15日までに、ウクライナでは、少なくとも1万582人の市民が空爆や砲撃などによって死亡したとしています。
このうち587人は18歳未満の子どもだということです。
また、けがをした人は少なくとも1万9875人に上るとしています。
ただ、激しい戦闘が行われている地域では、正確な被害の実態は把握できていないとしていて、実際の死傷者はさらに上回るとしています。
さらに、国際人道法などに違反していると指摘される医療機関への攻撃も相次ぎ、これまでに59の施設が破壊され、406の施設が損傷したとしています。
このほか、教育関連施設も236の施設が破壊され、836の施設が損傷する被害を受けているということです。
仏 マクロン大統領「支持揺らぐことない」ウクライナ支援強調
フランスのマクロン大統領は、SNSに、ウクライナの国旗を掲げた女の子が戦車を踏みつける様子を描いたイラストとともに「打ちのめされ、傷ついても、ウクライナは立ち続けている。ウクライナは、みずからのため、理想のため、そしてヨーロッパのために戦っている。われわれの支持が揺らぐことはない」と投稿し、ウクライナ支援を継続する姿勢を強調しました。
国連安保理 欧米とロシア 再び非難の応酬
23日に開かれた安保理の閣僚級の会合では、はじめに国連のグテーレス事務総長が「国連憲章と国際法は戦争のない世界を作る指針だがロシアによるウクライナへの侵攻はその両方を侵害した。われわれは2年間戦い2年間苦しみ、国際関係は2年間緊張した。もう十分だ」と述べ、ウクライナの主権や領土の一体性を守る必要性を訴えました。
会合にはイギリスのキャメロン外相やフランスのセジュルネ外相、日本の辻外務副大臣が出席し、改めてロシアを非難しウクライナとの連帯を強調しました。
また、ウクライナのクレバ外相は「未来の世代がこの時代を振り返ったとき、なぜ1国が世界の平和と安全を打ち砕いているのに国際社会は行動しなかったのかと疑問に思うだろう。平和を望むのであれば防空システムや弾薬を供与してほしい」と述べ、各国に継続的な支援を求めました。
これに対してロシアのネベンジャ国連大使は、ウクライナ東部のロシア系住民を守るための軍事作戦だという従来の主張を繰り返し、ウクライナと欧米各国を非難しました。
一方、アフリカの理事国からは、この2年間に世界の途上国が食料価格の高騰などの影響を受けてきたとして、ロシアとウクライナの双方に前提条件なしで速やかに交渉に臨むよう求める意見も出され、軍事侵攻が長期化する中、各国の立場の違いも改めて表面化しました。
イギリスでのウクライナ兵の訓練公開
イギリスなど12か国の軍はウクライナ支援の一環として、兵士をイギリス国内の訓練場に受け入れ戦闘や救護の方法などを教えています。
このうち、イギリス南部の訓練場で公開されたのは小隊の指揮官を養成する2か月半にわたる訓練で、ウクライナ軍の選抜を受けた兵士たちがロシア側に占拠された住宅を奪い返し、安全を確保する手順を確認していました。
ウクライナ軍は前線での兵力や弾薬の不足などが指摘されていますが、取材に応じた兵士たちはいずれも祖国防衛への揺るぎない決意を口にしました。
東部ルハンシク州のざんごうで戦ったという23歳の兵士は「敵をどうやって襲撃するかなどイギリスで多くの新しいことを学んだ。いまではもっと経験を積んでいる」と話していました。
また、28歳の兵士は「戦いは以前より激しさを増しているが、ロシア軍を追い出せると確信している。前線に戻ることを恐れてはいない」と話していました。
イギリス軍によりますと、この2年間で延べ3万4000人以上が訓練を終えたということで、指導役の指揮官は「訓練はこの2年間、継続的に進化してきた。彼らが戦況を動かせる、より強力で、生き延びられる兵士になることを目指している」と話していました。
ウクライナ“ロシアA50早期警戒機撃墜” 先月も同型機撃墜発表
ウクライナ空軍のオレシチュク司令官は23日、ロシア軍のA50早期警戒管制機を撃墜したとSNSで発表し、上空で何らかの物体が炎を上げる映像を投稿しました。
またウクライナ国防省の情報総局は、撃墜された航空機の航跡を示したと見られる地図などを発表し、それによりますとウクライナに近いロシア南部クラスノダール地方で速度表示がゼロになっています。
一方、ロシア国営のタス通信もクラスノダール地方の当局の情報として、「航空機1機が墜落した」と伝えています。ウクライナ国防省はA50は3億3000万ドル、日本円にしておよそ496億円相当だとしてロシア側の損害を強調しています。
ウクライナ空軍は先月中旬もA50を撃墜したと発表していて、このときイギリス国防省は、A50はロシアの偵察能力にとって非常に重要で、ロシアは、航空機の作戦区域を限定することを検討せざるを得なくなるだろうと分析していました。
ウクライナ空軍は、今月17日から21日までの5日間にスホイ34戦闘爆撃機やスホイ35戦闘機をあわせて7機撃墜したと発表し、ロシアの航空部隊に打撃を与えているとアピールしていました。
NHKが現地調査機関と共同実施 意識調査結果は
ロシアによる軍事侵攻が始まって2年となるなか、ウクライナの国民の68%が「領土を奪還するまで徹底抗戦を続けるべきだ」と答えた一方で、「和平交渉を始めるべきだ」と回答した人が24%と、1年前に比べて2倍に増えたことがNHKがウクライナの首都キーウを拠点に活動する調査機関「レーティング」と共同で実施した意識調査で明らかになりました。
調査は、今月9日から3日間、ロシアが占領している東部の一部の地域と南部クリミアを除くウクライナ各地の18歳以上の市民を対象に電話で行い、1000人から回答を得ました。
【戦争によって何を失ったか】
「戦争によって何を失ったか」を尋ね生活の変化について探ったところ「健康状態の悪化」が34%、家族や親類など「近しい人を失った」が29%、「収入が減った」が25%、「家族との離散」が25%、「仕事を失った」が19%などとなりました。「近しい人を失った」が去年から12ポイント増え、戦闘の長期化で身近な人が犠牲になるケースが増えていることがわかります。地域別では「仕事を失った」「家族との離散」と回答した人は戦闘が激しい東部と南部で多くなっています。
【心身への影響は】
心や体への影響については「心身の不調が大きくカウンセリングや医師の診察などを受けた」が去年から6ポイント増えて14%、「心身に不調があり日常生活に支障を感じることがある」が去年から3ポイント増えて37%で、日常生活に支障が出るような不調を感じていると回答した人が半数を超えました。
【戦況をどうみるか】
戦況をめぐって「勝利に近づいている」または「一歩一歩勝利に近づいている」と回答した人は、半数を超えて54%に上りました。一方、「停滞している」と回答した人は30%でした。「少しずつ後退している」か「後退している」とした人は12%で「停滞」または「後退」と回答した人はあわせて42%となりました。なかでも18歳から35歳までの若い世代では「停滞」または「後退」と回答した人の割合が53%にのぼり「勝利に近づいている」と回答した44%を上回っています。
【停滞・後退の理由は】
「停滞」または「後退」と回答した人に対してその理由を尋ねたところ、「ウクライナ政府の結束やリーダーシップの不足」と回答した人が42%と最も多く「欧米による兵器の支援不足」が30%、「国際社会によるロシアへの圧力不足や連携不足」が10%でした。
【「徹底抗戦」68%も「停戦し和平交渉」24%と去年比2倍に】
今後ウクライナ政府に何を期待するかについては、「クリミアを取り戻すなど旧ソビエトから独立した時点の状況になるまで戦闘を続ける」が55%、「軍事侵攻が始まる前のおととし2月23日の時点に戻るまで戦闘を続ける」が13%と、領土を奪還するまで徹底抗戦を続けるべきだと回答した人があわせて68%にのぼりました。一方で「停戦し和平交渉を始めるべきだ」と答えた人は24%と、1年前の12%から2倍に増えました。そう回答した人を年齢別に見ますと、51歳以上が去年から6ポイント増えて18%、36歳から50歳までが14ポイント増えて27%、18歳から35歳まででは20ポイント増えて31%となりました。国民の多くが徹底抗戦を続けるべきだと考えている一方で若い世代を中心に停戦を求める声も出ていることがわかります。
【日本の役割は】
日本がウクライナを支援するため国際社会で何ができるか尋ねたところ、「欧米からの軍事支援の強化を促進する」が27%、「復興支援」が26%、「ロシアへの制裁強化」が22%、「停戦交渉の仲介」が18%となりました。一方、日本がウクライナに対して行っている人道支援を知っているかについては「はじめて聞いた」が50%ともっとも多くなりました。ただ、「聞いたことがある」が去年から4ポイント増えて35%、「よく知っている」が去年から8ポイント増えて15%でいずれも去年から増加しました。
軍事侵攻2年 ウクライナの市民の声は
18歳の男性「戦争が長期化するなかで、人々は疲れているし、恐怖も感じています。しかし、もし降参すれば、敵は、再び攻撃を仕掛けてくるでしょう。私は戦う準備ができているし、戦い続けるべきだと思います」
18歳の女性「去年はまだ、戦争が終結し、私たちが勝利するだろうという明るい兆しがありました。しかしいま、私たちは、道のりがとても長いものであることに気付いています。もちろん誰もが戦争の終結を望んでいて、これまでに失ったものを考えれば、戦争は終わらせたほうがいいと思います。しかし、2年後、3年後にプーチンが攻めてこないという保証はどこにもありません」
「多くの友人が死に、多くの親族が戦地にいます。もし自分の父親や恋人が動員されたらと考えない日はありません。平和で静かな日が訪れることを願っています」
60歳の男性「ウクライナの人たちも前線の兵士たちもみな疲弊しきっています。また欧米側からの支援も不足し、ウクライナは厳しい状況にあります。私は戦い続けるのではなく、交渉し、選択肢を探す必要があると思います。しかし、交渉だけではウクライナに未来はありません。欧米側のパートナーから将来に対する何らかの保証が必要です」
死亡したウクライナ軍兵士遺族「戦い続けるべき」
ロシア軍との戦闘で死亡したウクライナ軍の兵士の母親は、息子の死をむだにしないためにも戦いを続けるべきだと訴えています。
首都キーウに住むナタリア・イシチェンコさんは、おととし6月、ウクライナ東部で、軍の兵士としてロシアとの戦闘に参加していた一人息子のアスタムールさんを亡くしました。
アスタムールさんが生前、暮らしていた集合住宅の入り口には、住民たちの要望でアスタムールさんを追悼する銘板が飾られています。
銘板には、アスタムールさんの似顔絵も描かれ、ナタリアさんは毎日のように息子の似顔絵に声をかけているといいます。
ナタリアさんは「私たちに笑いかけていると思うこともあれば、なにかを批判しているように感じることもあります。家族としてのコミュニケーションを続けているんです」と話していました。
大切な息子を失った痛みは「世界が崩壊するほどつらいものだった」と話すナタリアさんですが、似顔絵との対話を続けるうちに、息子が生きていたら、悲しみに暮れるばかりの姿を望まないのではないかと考えるようになりました。
ナタリアさんは「亡くなった人をしのぶことで周りを憂うつにさせたり、やる気を失わせたりしてはならないのです」と話していました。
軍事侵攻開始から2年となるなか、ウクライナの市民の間では終結の兆しの見えない戦いに疲れを感じているという声が多く聞かれるようになりました。
ナタリアさんは、和平交渉を求める声に理解を示しつつも、息子の死をむだにしないために、そして、同じような悲しみを味わう人がこれ以上増えないためにも、戦いは続けなければならないと感じています。
ナタリアさんは「私自身もとても疲れています。しかし、この疲れをロシアがウクライナを占領しやすくなるきっかけにしてはなりません。絶望して立ち止まるのではなく戦い続けなければならないのです」と訴えていました。
《ロシアでは》 ロシアの世論調査 プーチン大統領の高い支持続く
ロシアのプーチン政権がウクライナへの軍事侵攻を始めてから2年となりますが、ロシアの世論調査では、侵攻を推し進めるプーチン大統領に対して高い支持が続いています。
ロシアの民間の世論調査機関「レバダセンター」が今月1日に発表した世論調査では、プーチン大統領の活動を「支持する」と答えた人が85%、「支持しない」は12%で、8割を超える高い支持が続いています。
また「ロシアが正しい道を進んでいる」と答えた人は71%で「間違った道を進んでいる」と答えた人の18%を大きく上回っています。
また今月6日に発表された調査では、ウクライナでのロシア軍の行動を支持する人は77%で、支持しない人の16%を大きく上回っています。
一方、「軍事行動を続けるべき」が40%なのに対し、「和平交渉を開始すべき」は52%となっていて、ロシアにおいて外交による解決を望む人が多いこともうかがえます。
首都モスクワでは市民からさまざまな声が聞かれ、このうち、教師だという男性は「現在行われている特別軍事作戦の目標は達成されなければならない。誰もが早く終わることを望んでいるが、あくまでそれは目標が達成された後だ」と話していました。
また数学者だという62歳の女性は「途中で諦めてしまったら犠牲は無意味になり、何も達成できなくなる。私自身も寄付するなどしてできるかぎりの協力はする。軍事作戦に対して人々の支持は拡大し、結束していると感じる」と話していました。
一方、別の女性は「すべてにうんざりしている。大統領選挙で多くの人々が戦争に反対するために列を作ったのに、候補者たちは立候補が認められなかったし、刑務所にいた人も、毒物を準備されたのか力を失ってしまい、もはや政権側も恐れていない。私は愛国心を持っていたが、今はこの国を恥じている」と話し、軍事侵攻に反対する勢力への政権側の圧力が一段と強化されているとして悲観的な見方を示しました。
「レバダセンター」は、プーチン政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています。
プーチン大統領の支持者は
ロシア南部のソチで観光会社に勤務するイワン・ミチャエフさん(64)もその1人で、プーチン大統領を支持し、ウクライナへの軍事侵攻にも賛同しています。
ミチャエフさんは、プーチン大統領について「強い指導者であり、誇りに思っている。ロシアに安定と発展をもたらした。誰もが偉大なるロシアの安定を必要としているからだ」と話し、国民に「生活の安定」を約束するプーチン大統領への信頼を支持の理由にあげました。
そのうえで、来月行われるロシアの大統領選挙でもプーチン氏に投票すると明言しました。
ウクライナへの軍事侵攻について、ミチャエフさんは、自身の母親がウクライナ出身だとしたうえで「ウクライナとロシア、双方に犠牲者が出ている。もちろん、終結するのなら、早ければ早いほどよい。しかし、私はロシア人なので最後までロシアを支持する。ロシアがこの戦争に負けることはないだろう」と話し、早期の停戦を望むとした一方で、軍事侵攻の遂行を支持する立場を示しました。
軍事侵攻に対する欧米側からの経済制裁の影響について、ミチャエフさんは「物価はある程度上がった。特にヨーロッパや日本製の自動車の部品の値段が上がっている」と話しました。
一方で「もちろん難しいこともあるが、生活することは可能だし、われわれはこうした困難に対処できる」と話し、影響は許容できる範囲で、生活に支障は出ていないと言います。
また「観光客もロシア人はいま海外に行くことがなくなったため、ソチへの国内観光客は増えていると感じる。個人的な意見だが、制裁によってむしろ国内の経済や発展にはいい影響を与えていると思う」と話し、ロシアでは制裁に対抗し、制裁下の経済状況に適応しようという動きが生まれているとする考えを示しました。
今後の見通し 専門家「おそらく4年目にもつれ込む」
今後の見通しについて、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠准教授は「戦争はまだ長く続く。3年目ではどちらも決定打を得られず、4年目にもつれ込むことがおそらく確実だ」と述べ、さらに長期化するという考えを示しました。
現状の戦況について、小泉准教授は、ロシアが攻勢を強めている段階だとして「ウクライナ軍は当面、大規模な攻勢を行う能力がないのは明らかだ。去年の反転攻勢で相当戦力を消耗している。一方、ロシア側も大規模かつ調整された攻勢を行う能力がないだろう」という見方を示しました。
そのうえで「ロシア側が少しずつ支配地域を広げていくとしても戦局を一気に変えるような決定的な行動をとることが難しいだろう。いくつかの都市がロシア軍の制圧下に入ることがあるだろうが、それによってウクライナが戦争の継続をできなくなることはない」と述べました。
停戦の見通しについては「プーチン大統領からみると、戦場の現実は全く不満足。ウクライナが国家として組織的な抵抗をしなくなるところまで戦争をするとすれば、落としどころという考えが成立しないおそれが高い。一方、ウクライナ側は国家そのものが存続できるかどうかの瀬戸際で停戦に応じにくい。話し合いのためには軍事的に有利な状況を作るしかない」と述べ、現時点では双方が停戦に向けた交渉に乗り出すことが難しいという考えを示しました。
今後については、ウクライナの最大の支援国アメリカからの軍事支援の継続が鍵を握るとして「対ウクライナ支援がこの春までに通るのであれば、ウクライナは来年以降に再び反転攻勢に出て、ロシア側から土地を取り返し、停戦交渉に入って4年くらいで戦争を終わらせられるという望みがつながる」と指摘しています。
一方、アメリカからの追加支援が得られない場合には、ウクライナはEU=ヨーロッパ連合などからの支援に限られたなかで戦闘を続けることになるとして「不可能ではないが、想定よりも時間がかかり、その前にウクライナ人の抵抗の意思や周辺の国の支援の意思がついえる可能性がある」と述べアメリカの支援継続の行方が今後の焦点になるという考えを示しました。
●侵攻から2年 反転攻勢進まず見えない終結 ウクライナ“弾薬備蓄量”がカギ 2/24
ロシアによるウクライナへの侵攻からきょうで2年です。ロシア軍が軍事力を増強し攻勢を強める一方、ウクライナ軍は反転攻勢が思うように進んでいません。現地から中継です。
ウクライナ南部のモルドバとの国境付近に来ています。フェンスがずっと奥まで続いており、この国境をわたって不法に国外へ脱出しようとするウクライナ人男性が後を絶ちません。
兵役から逃れようとする“徴兵逃れ”のためで、ウクライナでは去年6月に開始した反転攻勢が思うように進まない中、不足する兵士の確保が課題となっています。
そうした中、侵攻から2年となるのを前に、ウクライナの副国防相がJNNのインタビューに応じました。
兵士不足については、最前線で兵士の交代を必要としない無人システムに特化した部隊の創設に向け、すでに準備が始まっていると明らかにしました。
ウクライナ ハヴリリュク副国防相「革新的で技術的なプロセスに向けて一歩を踏み出しています。人は戦争の道具になるのではなく、戦争の道具を制御しなければなりません」
また、ウクライナは欧米からの支援が停滞し、兵器や弾薬不足などから苦しい戦いを強いられています。
これに対し、副国防相は「ロシア軍はウクライナ軍の6倍の弾薬を使用している」としたうえで、戦闘がどの程度続くかについては「双方が弾薬をどれだけ持っているか、その比率にかかっている。技術的に優位な兵器を持つ国が勝利するだろう」と述べました。
国連によると、ウクライナでの民間人の死者は侵攻開始以降、少なくとも1万582人に上っているほか、国外への避難民の数は647万人を超えています。
侵攻を続けるロシアとの戦いは終わりが見えていません。
●ウクライナ軍事侵攻2年 民間人1万人超犠牲に現地は 2/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で2年です。ロシアによる攻撃でなくなった民間人は1万人以上。出口の見えない戦いの中で犠牲者が増え続けています。現地から中継です。
こちらはキーウ中心部にある独立広場です。ロシア軍との戦闘で死亡した軍人らを追悼するウクライナ国旗が立てられ、この戦争の痛みを象徴する場所となっています。
今回私たちが話を聞いたほとんどの人は、この2年で人生が大きく変わってしまったと答えました。
ウクライナ市民「生まれ故郷は占領され、いとこは殺され、夫は兵役についています。(この2年で)人生が劇的に変わってしまった」
この2年のタイミングでもロシア軍の攻撃で死者が出ています。南部・オデーサで23日、住宅地が無人機で攻撃され1人が死亡したほか、他の都市でも攻撃があり、あわせて6人が死亡しました。
欧米からの軍事支援が滞る中、アメリカの議員団と23日に面会したゼレンスキー大統領は「アメリカの支援がなければ、我々は負ける」と発言したということです。
前線での兵士不足も深刻で、ある志願兵の妻は兵士が除隊できるまでの期間が定められていない現状を「入り口があって出口がない」と切実に訴えていました。
一方で世論調査では「必要な限り戦争に耐える覚悟がある」という声がいまも7割以上を占めていて、人々は多くの犠牲を伴いながら抵抗を続けています。
●兵士「誰もが生きたい」 長引くウクライナとロシアの戦争で兵士確保の難しさ 2/24
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、24日で2年となります。戦闘が長期化する中、両国で兵士の確保が難しくなっています。その実態をウクライナ・ロシアで取材しました。
ウクライナ “徴兵逃れ”の実態 強引な動員に非難も
ウクライナ南部のオデーサで撮影された映像には、徴兵担当者が街中で男性に声をかけ、動員しているようなシーンや、嫌がる男性を車に乗せようとしている様子が捉えられていました。こうした動画がSNSで拡散し、非難の声が広がっています。
(SNS動画より)
男性「何をするんだ」
女性「やめてください」
当局「徴兵を拒否しただろ」
さらに今、ウクライナで問題となっているのが「徴兵逃れ」です。国家国境庁のサイトには徴兵逃れを取り締まる映像が多数公開されています。
ウクライナでは総動員令により、18歳から60歳の男性は原則、出国が禁止されていますが、イギリスBBCの調査では、徴兵を逃れるため国外に出た男性は約2万人に上るといいます。
こうしたなか、ウクライナでは国外脱出を斡旋するという業者が増えています。そのうちの1つに電話をかけ、「夫が国外に出る方法はないか」と相談をしてみることにしました。
出国斡旋業者「お子さんは?」
女性スタッフ「はい、10か月の小さな子どもがいます」
出国斡旋業者「親権喪失の決定が得られれば、あなたの夫は国境を越えられます。私たちは合法に処理することを保証します」
子どもを1人で育てる男性は動員を免除されることから、斡旋業者は子育て放棄などの理由で母親の親権を失わせた上で、「夫が国外に出る」と提案してきたのです。
こうした状況を現役の兵士はどう受け止めているのでしょうか。
ウクライナ兵 イワンさん「最前線にいると、多くの仲間の死を目の当たりにし、心を閉じてしまう」
侵攻後から前線で戦ってきたイワンさんに、徴兵逃れについても聞いてみました。
イワンさん「恐怖で人はどうなってしまうかを知っているので、(徴兵逃れが)良いとも悪いとも言えません。誰もが生きたいのです。危険を感じると、ある人は国や家族を守り、ある人は逃れたくなる」
DJをするほど音楽好きだったイワンさんですが、戦闘中に頭を打った後遺症で記憶力が低下し、音楽を楽しめなくなったといいます。
イワンさん「100%、戦争が終わるまで兵士であり続けます。何があっても意志は変わりません」
「戦死者数」知事が異例の公表 国が公表せず・・・なぜ?
プーチン大統領はロシアの祝日「祖国防衛の日」にあたる23日、無名戦士の墓に献花を行いました。
この1年、兵力の増強を推し進めてきたロシアですが、国民の反発を招いた動員に変わり兵員確保の主な手段となってきたのが、「契約軍人」の募集です。
ロシア国防相は「契約軍人」を募集する動画を作成し、すでに50万人以上が兵役についたとされています。
ロシアの平均月収の約7万ルーブル(約11万円)をはるかに上回る、月収20万4000ルーブル(約33万円)以上の報酬を約束するとしています。
その一方で、ロシアがひた隠しにしてきたのが、兵士の損失です。2022年以降、死者に関する情報は一切発表していません。ただ、地方に行くと、ロシア側の損失も拡大していることがうかがえます。
北海道からわずか40キロ余りのロシア極東サハリン。中心都市の外れにある墓地の一角を、ウクライナ侵攻による戦死者の墓が埋め尽くしていました。その数はすでに100以上となっています。
まだ新しい墓には「民間軍事会社ワグネル」や受刑者らの突撃部隊とされる「ストームZ」の旗が掲げられているものもありました。
息子を亡くした女性「息子はいつも『母さん(戦場は)なんて恐ろしい所だろう、僕は生き延びたい、何とか生き延びたい』と話していました」
一角の中心にある慰霊碑には、ウクライナ侵攻を支持するシンボル「Z」の文字が刻まれ、「英雄たちの記憶」という言葉も記されています。2か月前に建てられたものですが、主導したのがサハリン州のリマレンコ知事です。
サハリン州のリマレンコ知事「われわれの息子たちが、ここに眠っています」
リマレンコ知事は、地元出身の兵士が亡くなるたびに、名前や階級などをSNSで公表しています。
リマレンコ知事のテレグラムより「ユジノサハリンスクとホルムスク出身の一等兵2人が任務を全うして亡くなった」
知事が公表した分だけでも、サハリン州の死者は443人(人口約46万人)にのぼり、ロシア独立系メディア「メディアゾナ」は首都モスクワの死者523人(人口約1300万人)に比べ、地方の戦死者が際立っていると指摘しています。
情報が広まりやすい地方で損失を隠すよりも「英雄」として示すことで、市民の不満を抑え込みたい狙いがあるとみられます。
サハリン州の市民「(戦死者を)隠すことに意味はありません。いずれ何らかの形で知ることになります」「真実を知る必要があります。誰もが早く終わることを望んでいます」
ウクライナから遠く離れたロシアの地方にも、終わりの見えない侵攻の代償が重くのしかかっています。
●欧州外交問題評議会(ECFR)世論調査「ウクライナがロシアに勝利すると考えるEU市民はわずか10%」!「ロシアが勝利する」はその2倍! 日本のマスメディア報道は上辺だけ! 2/24
IWJ代表の岩上安身です。
欧州外交問題評議会(ECFR、European Council on Foreign Relations)は2月21日、2024年1月に欧州12ヶ国(オーストリア、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スペイン、スウェーデン)で実施された、成人人口(18歳以上)を対象とした、「ウクライナ戦争に関する欧州世論の現状を把握する」世論調査の結果を公表しました。
・「ウクライナが戦場でロシアに勝利すると考えているEU市民はわずか10%」、「ロシアが勝利する」との回答者はその2倍。
・欧州人の2人に1人は、EUと米国の政治システムは「崩壊している」と考えている。
・ECFR「ウクライナ戦争は、親EU派と反EU派が対抗する、欧州の『文化戦争』の一部になっている」。
ECFRは言及していませんが、ロシア産天然ガスをめぐる自国の利益を死守したい、中欧・東欧南部・南欧諸国の意向も背後にあるようです。
「ウクライナの勝利を確信している欧州人は、10%しかいない」という事実は、さすがに、日本のテレビ各局のニュースや新聞でも報じられました。ただし、どれも上っ面を撫でたようなもので、どうして、このように欧州の市民達が考えるに至ったのか、という理由やプロセスが全然、報じられていません。
実は、この調査内容は、こと細かく質問しており、初めて行われたものでもありません。詳しくご紹介してゆくと、何が欧州で起きてきたか、今、何が起きているか、よくわかるレポートとなっています。
IWJでは、以下、このレポートの内容を詳しくお伝えします。
ECFRは、「概要」で、「欧州の人々は戦争の結果について悲観的である。ウクライナが勝利すると考えている欧州人は、12ヶ国平均でわずか10%にすぎない。その2倍がロシアの勝利を予想している」と述べています。
この調査は、ウクライナ東部における「天王山」となったアウディーイウカにおけるウクライナ軍の壊滅的な敗走(17日にロシア国防省が発表)の前に行われました。つまり、アウディーイウカでのウクライナ群の敗北が決定的となる前の時点ですでに、多くの欧州市民がウクライナ紛争の行方について、ウクライナが敗北することを見通していたことになります。
ECFRの世論調査は、オーストリア(調査期間1月4-11日、対象者1110人)、フランス(1月2-19日、2008人)、ドイツ(1月2-12日、2001人)、ギリシャ(1月8-15日、1022人)、ハンガリー(1月4-15日、1024人)各国に依頼され、実施されました。
その他の国々では「データプラクシス」と「ユーゴブ」の共同によるオンライン調査が行われました。イタリア(調査期間1月5-15日、対象者2010人)、オランダ(1月5-11日、1125人)、ポーランド(1月2-16日、1528人)、ポルトガル(1月3-15日、1037人)、ルーマニア(1月4-12日、1030人)、スペイン(1月2-12日、2040人)、スウェーデン(1月2-15日、1087人)となっています。
ECFRは、欧州市民のウクライナ紛争に対する見方の変遷を簡潔にまとめています。これは、特に米国、ウクライナ、EU、NATOによる、足並みをそろえて行われてきたプロパガンダとの関連で見てゆくと、重要で、非常に興味深いことがわかります。
2022年6月調査では、「ウクライナが領土を失う犠牲を払ってでも、多くの欧州人が早期解決を望んでいた」。
2023年調査(月日の表記なし)では、「ウクライナ軍の成功と米国のリーダーシップの発揮が欧州市民の認識を変え、欧州市民の過半数は、キエフがすべての領土を取り戻すまでウクライナを支援したいと考えていた」。
2024年1月調査では、「ウクライナの期待外れの反攻の余波を受け、西側諸国の支持率が低迷している現在、楽観的な見方は後退している」。
ECFRによると、2024年1月実施時点の調査では、「ウクライナの勝利の可能性に対する疑問は、欧州全土に見られる」状況となっています。
ECFRのこれまでの調査結果の変遷をみていくと、当初はウクライナが領土を一部犠牲にしても、早期解決してほしい」と望んでいた欧州各国の市民達が、ウクライナ軍による昨年夏の「反転攻勢」で、「これならいけるぞ」と一度は思い直したものの、実は劣勢だったことが発覚して、急に支援する気がなくなった、というプロセスが浮かび上がってきます。この経緯は、興味深いことに、日本でのプロパガンダ事情とほぼ同じです。
日本の大手メディアは、「どうして、このように欧州の市民達が考えるに至ったのか」について、ECFRの調査結果に沿って詳しく説明してしまえば、ウクライナ軍の「反転攻勢」にあわせて自分達も鳴物入りで大騒ぎしてきた、自分達自身の「ウクライナ軍優勢」報道も、実はプロパガンダに過ぎなかったことが発覚してしまいます。それを恐れて、調査結果の中身に深く立ちいらないのでしょう。
日本の岸田政権は、英国やドイツ並みに、強引にウクライナへ金を注ぎ込み、実態が国民にバレても瀕死のウクライナを無理やり立たせて、まだファイトさせようとしています。本来ならば、セコンドとして、タオルを投入すべきタイミングなのですが。
IWJは、ウクライナ軍の「反転攻勢」がうまくいっていないことを、昨年の1月、バフムートをめぐる攻防と陥落から以降、一貫してお伝えしてきました。「春の大攻勢」と言っていた「反転攻勢」は、十分な準備が整わず、6月まで延期された挙句、ロシアの防衛線(スロビキン・ライン)を一度も破ることができませんでした。
逆に、今や、ロシア側が、スロビキン・ラインを超えて、アウディーイウカを陥落させてしまいました。
●揺らぐウクライナへの支援、強気のプーチン氏 占領地の固定化許すな 2/24
ロシアによる全面侵攻が始まって2年が過ぎた。ウクライナの首都キーウの空気は重い。私にとって今回は2022年2月の開戦時から4回目の訪問だ。侵攻直前の時期も含めて戦時下のこの街で計約6カ月を過ごしたことになる。
昨年2月はミサイル、ドローン(無人機)攻撃で電力施設が狙われ、街は暗かった。今も攻撃が続くが、電力危機は起きていない。ウクライナが対応能力を向上させたからだ。
それでも、街では攻撃の情報をSNSで入念にチェックし、警報発令時はシェルターへ急ぐ人が増えた。気持ちを暗く、行動を慎重にさせているのは今後への不安だ。
最大の支援国の米国では、バイデン政権のウクライナ支援予算が枯渇した。トランプ前大統領の影響下にある下院共和党議員の一部が採決を拒んでいるためだ。ウクライナ軍は弾薬の節約を強いられている。今は何とか機能している都市の防空網も、やがて迎撃ミサイルが不足する恐れがある。
ウクライナ軍は昨年6月、東部や南部で大幅な領土奪還を目指す反転攻勢に着手した。米国でウクライナ支援をめぐる政争が始まった時期は、その作戦の行き詰まりが表面化した時期と重なった。
ウクライナ侵攻でロシアのプーチン大統領は自信を取り戻し、妥協する気配がない。米国の支援が滞ったままなら、首都キーウが再び大規模に攻撃される事態もあり得る。停戦・終戦の議論を始めるためには、侵略を許さないルールを明確にする必要がある。 ・・・
●ウクライナ、国連総会での露非難決議「予定せず」…支持集まらないと判断か 2/24
国連総会議長の報道官は22日の記者会見で、ロシアによるウクライナ侵略2年に合わせて開かれる国連総会で、ロシアを非難する決議案が採択されない予定だと明らかにした。
総会は23日午前(日本時間24日未明)に開始予定でウクライナのドミトロ・クレバ外相らが演説する。今回の会合について報道官は、提出を検討してきたウクライナから「決議は予定していないとの説明を受けた」と述べた。侵略1年に合わせた昨年の国連総会ではロシアを非難する決議案が採択されていた。
イスラエルとイスラム主義組織ハマスによるパレスチナ自治区ガザでの戦闘に国連加盟国の関心が分散しており、ウクライナが「決議案を提出しても多くの支持が集まらないだろう」(国連外交筋)などと判断し、提出を見送ったとの見方が出ている。
●日本政府 ロシアへの厳しい制裁とウクライナへの支援継続へ 2/24
ロシアによるウクライナへの侵攻開始から24日で2年となり、日本政府は引き続きロシアに対する厳しい制裁と、ウクライナへの支援を継続していく方針です。欧米各国の間でいわゆる「支援疲れ」も指摘される中、国際社会の結束を粘り強く呼びかけていくことにしています。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、日本政府は、G7=主要7か国と連携し、ロシアからの石油・石炭の原則輸入禁止や、個人・団体を対象とした日本国内の資産凍結など厳しい制裁を行うとともに、発電機など民生分野を中心とした物資の支援などにあたってきました。
ロシアの侵攻開始から24日で2年となるのにあわせて、G7=主要7か国の首脳会合が日本時間の24日夜から25日未明にかけてオンラインで開かれる予定で、岸田総理大臣は、今後もロシアに対する厳しい制裁とウクライナへの支援を継続する姿勢を表明することにしています。
また、東京で今週開かれたウクライナの経済復興推進会議で地雷の除去や農業の復興など、50以上の協力文書を交わしたことを踏まえ、官民挙げて復旧・復興に取り組む方針も伝える考えです。
戦闘の長期化で、欧米各国の間でいわゆる「支援疲れ」も指摘される中、日本としては、ロシアの暴挙を許すことになれば、自由や民主主義、法の支配といった国際秩序が揺らぎかねないとして、今後も首脳外交などを通じて国際社会の結束を粘り強く呼びかけていくことにしています。
●ポーランドでウクライナ産穀物の関税免除に「抗議」、地元農民が列車襲う… 2/24
気勢を上げる男たち、完全武装の警官隊――。今月20日、ポーランド東部の農村地帯に物騒な光景が広がった。隣接するウクライナから来た貨物列車が地元の農民に襲われ、積み荷の穀類が線路上にばらまかれた。
ロシアのウクライナ侵略後、欧州連合(EU)はウクライナ産穀物の関税を免除している。農民はそれが不公平だと主張する。「我々はウクライナを支持しない」と小麦まみれの線路上で声を張り上げた。2年前、欧州の人々はロシアに怒りの声を上げたが、当時の連帯感は雲散霧消しつつある。
ロシアのプーチン大統領は、欧米世論の変化につけ込み畳みかける構えだ。
「我々は交渉の用意がある」。今月8日、プーチン氏は元米保守系テレビ司会者のインタビューで、和平協議に応じるそぶりを見せた。「和平に前向きなロシア、後ろ向きなウクライナ」というイメージを演出する狙いが透ける。
和平協議は2022年前半以降、途絶える。ウクライナは協議再開については「血塗られた独裁者と何らかの合意ができるなどと考えるのはやめた方がいい」(ミハイロ・ポドリャク大統領府顧問)と 一蹴 する。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領も「ロシアが平和を望むなら、ウクライナ領から出て行けばいい」と強気な姿勢を崩さない。
14年のロシアによる南部クリミア併合後に勃発した東部紛争を巡り、ウクライナはロシアも交えて協議を重ねたが、親露派を使った「占領」の既成事実化が進むばかりで、22年の全面侵略を防げなかった。当時を知る外交官らは「もうだまされない」と口をそろえる。
英王立防衛安全保障研究所によれば、ウクライナ領内に居座るロシア軍の兵力は47万人。約1年前より11万人増えたという。
ウクライナは全領土からのロシア軍撤退を含む「10項目の和平案」への支持取り付けに躍起だ。だが、国際社会では悲観論が広がり始めている。米調査会社ユーラシア・グループが先月出した報告書は前提条件も付けずに「ウクライナは今年、事実上分割されるだろう」と断定調だ。「今よりずっと不利な条件での停戦」を余儀なくされる可能性があるとも指摘した。
●祖国の平和へ祈り、侵攻から2年 在日ウクライナ人ら各地で 2/24
ウクライナに平和と自由を―。ロシアの軍事侵攻から2年となった24日、日本各地で侵攻に抗議するデモや、平和を祈る集会が開かれた。在日ウクライナ人らは犠牲者を悼み、祖国の現状に思いを寄せた。
「ロシアは私たちに死と破壊をもたらしたが、世界はロシアを容認し続けている」。東京・渋谷のハチ公前広場では、青と黄色のウクライナ国旗を羽織るなどした約100人が集まって抗議の声を上げ「平和と自由を」と訴えた。
昨年2月におじを侵攻で亡くしたというマローワ・ナターリヤさん(28)は、現地の惨状を伝える活動を続けていて「武器はないけれど、自分なりの闘い方がある」と強調した。
●ウクライナ軍事侵攻2年 大阪で平和を願う催し 2/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから2年となる24日、大阪では平和を願う催しが開かれ、ウクライナから避難してきた人たちや市民がキャンドル型のライト、およそ1000個を並べて黙とうをささげました。
この催しはウクライナを支援する大阪の団体などが開いたもので、会場となった大阪・北区の広場には、ウクライナから避難してきた人や市民などおよそ200人が集まりました。
参加者たちははじめにカーネーションを次々に手向け、軍事侵攻で犠牲になった多くの人たちを悼みました。
このあと、キャンドル型のLEDライトおよそ1000個を英語で平和を意味する「PEACE」の形に並べ、全員で黙とうをささげてウクライナと世界の平和を願っていました。
また、会場ではウクライナの手作りの刺しゅうの販売や募金活動も行われました。
ウクライナからおととし(2022年)避難し、大阪でデザイナーの仕事をしているナタリア・ゴロドーさんは「日本は安全できれいな街なので大好きになりました。ただ、ウクライナに残っている家族もいるので、平和が早く戻ってきてほしいです」と話していました。
催しを主催した団体の高見信彦さんは「軍事侵攻から2年がたち支援疲れも出てきているが、これからも生活や就労・就学の支援などを続け、ウクライナの人たちに寄り添っていきたい」と話していました。
●市民虐殺のブチャで追悼式 教会や墓地、遺族が参加 2/24
ロシアのウクライナ侵攻開始から2年となった24日、多数の市民らが虐殺された首都キーウ(キエフ)近郊ブチャの聖アンドリー教会や墓地で犠牲者の追悼式が開催され、遺族や友人らが参加した。
ブチャは侵攻開始翌月の2022年3月にロシア軍に占領され、同月末の解放までに400人以上が殺害された。住宅街のヤブロンスカ通りには、両手を後ろで縛られた市民ら大勢の遺体が放置されていた。通りに近い建物では、民間人でつくる領土防衛隊の隊員らが銃で処刑された。
墓地の一角には、死去した日が3月上旬と記された墓標が並んでいる。一部の墓には、損傷が激しく、身元がわからないままの死者が眠る。
●続く非日常、変化した価値観 キーウから避難の女性が伝える実情 2/24
ロシアによるウクライナ侵攻から24日で2年になるのを前に、首都キーウから避難し、茨城県つくば市内で働くコルダエバ・アリョーナさん(29)が21日、水戸市の茨城大で講演した。「みんな戦争があってもあきらめず、『もう失うものはない』という気持ちで前を向いている」と話し、「早く終戦してほしいが、大切なものは犠牲にしたくない。ニュースになる新しい攻撃や出来事だけでなく、大変な日常が続いていることを理解してほしい」と呼び掛けた。
アリョーナさんは、キーウの国立大で日本語を学んだ後、筑波大大学院人文社会科学研究科に国費留学生で入学した。侵攻開始当時も同大学院在学中でウクライナに帰り、卒業を待っていた。キーウで両親と年の離れた妹の4人で暮らし、侵攻当日は近くの小学校の地下教室に避難した。混雑して人があふれる中、マットを敷いて過ごした。
翌日は郊外の親戚宅に避難。夜間は電気照明をつけていたが、近所から指摘され、照明を控えるのが常識になった。約1週間後、サイレンが鳴る中、妹が「私たち死ぬの?」と母に尋ねた。郊外でも危険を感じ、母と妹と3人で国外への避難を決めた。
通勤列車並みに混雑する避難用の列車で10時間かけてポーランドに入り、出国から2日後にオーストリアへ到着。ボランティアから食事や移動の助けを受け、オーストリアの知人は仮住まいを提供してくれた。「妹は『大人になったらボランティアをしたい』と言うほど、支援の大切さを感じた。温かいサポートは、先が見えると思えるきっかけになった」という。
その後、同大学院のウクライナ避難民向けの支援を受けて来日。再び大学に通った後、2022年10月に県内の総合商社「関彰商事」に就職した。避難から半年くらいは気持ちが混乱し、就職を考えた際には「私に幸せになる権利はあるのか。ウクライナが苦しんでいるのに、日本に居て良いのか」と葛藤したという。その後は「講演など自分にできることを考えて気持ちを保った」と話す。
23年12月には一時帰国。侵攻前はクリスマスツリーが輝く街中は大勢の人でにぎわっていたが、避難などで閑散としていた。サイレンが鳴ると、自宅の窓から遠い廊下やシェルターに避難。交通機関も停止し、街の動きが止まったようだった。「いつ何が起きるかわからない。サイレンが終わるのをただ待つしかなかった」と精神的にも厳しかった状態を振り返る。
一方、仕事やボランティアで前を向く人々の姿も。「失うものは何もないから新しいことを始めようとカフェを開いた人もいる。大変な中、ビジネスを始める人も多く、みんな頑張っている」と励まされた。
価値観にも変化があった。侵攻前はロシア語ではなくウクライナ語を話す人を「田舎っぽい」と感じることもあったが、「母国の言葉なのになぜそんな見方をしていたのか反省がある。母国語や文化を大切にする価値観を守りたい」と話す。英国にいる母も、避難中の子供たちが母国語より英語に慣れているため、「母国の言葉や文化を知ってほしい」と願っているという。
講演ではキーウ在住の友人、シリブラ・オリャさん(28)もオンライン参加。「ウクライナではサイレンが鳴る度に『今日が最後かもしれない』と思って生きていることを知ってほしい。なぜ支援を続ける必要があるか、分かってほしい」と呼び掛けた。 

 

●ロシアの行方 ナワリヌイ氏など数々の不審死 ロシアは変わるのか… 2/25
ウクライナ侵攻の開始から2年、ロシアでは3月、大統領選挙を迎えます。プーチン氏の当選が確実とされる中、ある人物の死が波紋を広げています。
ナワリヌイ氏の遺体を巡り…
2月16日、亡くなったロシアの反体制派指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏。
ロシア国外にいる妻のユリアさんは…
ナワリヌイ氏の妻・ユリアさん「私は夫の活動を引き継ぎ、祖国のために闘い続けます。私と共に怒りを分かち合ってください」
夫の死にロシア政府が関与していると訴え、EUのミシェル大統領と面会。さらにアメリカに渡って、娘と共にバイデン大統領とも会談したのです。
一方で、ロシア当局は「化学検査」のため、14日間遺体は引き渡さないと家族に通告。亡くなったナワリヌイ氏と対面した母親は…
ナワリヌイ氏の母・リュドミラさん(2月22日)「昨夜、当局は私を遺体安置所に連れて行き、アレクセイ(ナワリヌイ氏)の遺体を見せた」
対面後、母親は、当局側が自分を脅迫し、葬儀など行わせずに、遺体を秘密裏に埋葬しようとしている、と非難。
そして、24日、ようやくナワリヌイ氏の遺体が母親の元に引き渡されたことが明らかになりました。
追加制裁を科すアメリカ
ロシアの大統領選挙が3月に迫る中での、反体制派指導者の突然の死。その波紋は国際社会に広がっています。
バイデン大統領(2月23日)「アメリカは、プーチンが海外で行っている侵略と国内での抑圧の代償を払わせる」
弾圧受け続けたナワリヌイ氏
アメリカは、ナワリヌイ氏の不審死などの責任を追及するため、ロシア国内外500を超える団体や個人を対象にした追加制裁を発表したのです。
ナワリヌイ氏(映画「ナワリヌイ」より)「今の権力者は腐敗した泥棒だ。ウラジーミル・プーチンは?」 
聴衆「泥棒だ」
大規模な反政府デモを率い、一躍、反体制派リーダーとなったナワリヌイ氏。インターネットを駆使し、政権の汚職を告発、2017年には大統領選への出馬を目指しました。
しかし当局によって出馬は却下。さらに2020年には、飛行機内で神経剤系の物質によると思われる襲撃を受け、かろうじて一命を取り留めます。
ナワリヌイ氏(映画「ナワリヌイ」より)「僕が生き延びたことに奴らは怒り、刑務所送りだと脅してくる」
それでも回復後、危険を承知の上で、療養先のドイツから帰国。直後に当局により拘束され、懲役19年などの判決を受け、北極圏の刑務所に収監されます。
そして2月16日、突然、死亡が伝えられたのです。
モスクワ市民(2月16日)「ナワリヌイ氏は何かを変えるための最後の希望の光でした」
相次ぐ不審死
実際、今のロシアは、体制に背いた人たちが、相次いで不審な死に見舞われています。
2023年8月、民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏は突然の飛行機事故死。2月に入っても…
元ロシア軍パイロット・クズミノフさん(2023年9月)「私の愛する祖国が、なぜ戦争を必要とするのか。それは悪であり、恐ろしいことであり、犯罪だ」
ウクライナ侵攻に反対し、亡命した元ロシア軍のパイロットが、13日、スペイン南部で、銃弾で蜂の巣状になった遺体で発見されたのです。
市民やメディアへの弾圧
さらに体制を批判する人たちへの弾圧は、市民やメディアにも及びます。
政権に批判的報道を続け、編集長がノーベル平和賞を受賞した独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」は、編集長や記者への暴行などが相次ぎ、今も活動停止が続いたままです。
支持率85%
強権的な政治が続く今のロシア。ところが、プーチン大統領はいまだ高い支持率を保っています。直近の支持率は、独立系調査機関によると85%。その背景を専門家は…
拓殖大学 名越健郎 特任教授「ロシアでは、世論調査を拒否する人が多い。(政権に)反対と答えると報復があるんじゃないかと。一方で、ロシア人が初めてプーチン政権になって、消費社会を堪能するようになった。これが大きい。公務員給与とか年金を増やしてバラマキ政治をやった。一種の“愚民政治”」
しかし、ウクライナ侵攻に関する1月の世論調査で、和平交渉開始を求める声が52%に達するなど、ロシア社会にも停滞感や厭戦ムードが広がっているといいます。
一方で、3月のロシア大統領選は、反戦を訴えた候補予定者が排除されるなど、プーチン氏の通算5期目の当選は確実視されています。こうした状況の中、ロシアは今後変わる可能性はあるのでしょうか…
ロシアは変わるか
拓殖大学 名越健郎 特任教授「ナワリヌイ氏の死はSNSやネットで瞬く間に広がり、みんな追悼に集まった。ナワリヌイ氏の支持基盤は都市部の中間層と若い人が圧倒的に多い。そういう反プーチン、民主化の土壌は、若者や中間層の間にまだ残っている。ナワリヌイ氏が遺した遺産というか反政府運動は脈々と続く可能性がある」
3月17日、ロシア大統領選は投票日を迎えます。
●ナワリヌイ氏の遺体、母親に引き渡し 報道担当者が発表 2/25
ロシアで獄中死した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の遺体が、母親のリュドミラさんに引き渡された。同氏の報道担当者が24日に発表した。
同担当者はSNSへの投稿で、支援者らに感謝の意を表明。リュドミラさんは今も、当局が遺体を差し押さえていた極北ヤマロ・ネネツ自治管区のサレハルドにいると述べた。
ナワリヌイ氏は今月16日、同自治管区の刑務所内で死亡した。当局は、散歩の後で気分が悪くなり、直後に意識を失ったと説明した。
遺族や同僚らは、プーチン大統領の責任を追及している。
リュドミラさんは現地に出向いて遺体の引き渡しを求めた。その後、遺体との対面を認められたものの、秘密裏に埋葬するよう要求され、応じなければ遺体の腐敗が進むばかりだと脅されたことを明らかにしていた。
同担当者によると、葬儀の予定は立っていない。遺族が希望するやり方に当局が介入するかどうかは不明だという。
ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは、プーチン氏が死因を隠ぺいする意図と、葬儀に多くの人々が集まるとの懸念から、遺体の差し押さえを命じたと主張。当局はこれを否定していた。
24日はナワリヌイ氏の死後9日目に当たる。ロシア正教会ではこの日、故人に祈りをささげることが定められている。
ユリアさんは遺体が引き渡される前の24日朝に公開された動画で、プーチン氏は引き渡しを拒否することによって「人間と神のあらゆる法」を犯し、その行動は敬虔(けいけん)なロシア正教徒を名乗る同氏のイメージに反すると批判していた。
●ナワリヌイ氏遺体が母親の元へ 収監されていたシベリアで引き取る 2/25
ロシアの刑務所で死亡した反体制指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏の遺体が母親に引き渡された。
ナワリヌイ氏の広報担当者は24日、母親のリュドミラさんにナワリヌイ氏の遺体が引き渡されたと発表した。
リュドミラさんは、ナワリヌイ氏が収監されていたシベリアのサレハルドで遺体を引き取ったという。
葬儀の日程や方法は、今後検討するとしている。
遺体の返還をめぐっては、母親や妻のユリアさんが密葬にするなら引き渡すとしたロシア当局の条件を拒否して、プーチン大統領に宛てた動画メッセージで早期の引き渡しを求めていた。
●ロシアの反政権派指導者ナワリヌイ氏の遺体、母親に引き渡される 2/25
ロシアのプーチン政権への批判を続け、獄中で死亡した反政権派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の遺体が同氏の母親に引き渡された。支援団体の報道担当者が2月24日、SNSのXで明らかにし、ニュースメディアが相次いで報じた。
ナワリヌイ氏は北極圏の刑務所で死亡したと16日、当局が発表した。母親のリュドミラさんらが遺体の引渡しを求めていたが、当局は応じていなかった。
報道担当者のキラ・ヤルミシュ氏によると、当局はこれまで、リュドミラさんに「秘密裏の埋葬に同意するか、同意しなければ刑務所の敷地内に埋葬する」と迫っていたという。
24日に一転して遺体が引き渡されたことについて、ヤルミシュ氏はXに「アレクセイさんの遺体は母親に引き渡された。私たちと一緒にこれを要求してくれたすべての人々に感謝します」と投稿した。家族の希望通りに葬儀を行うことができるかどうかはまだ不明だとしている。
ナワリヌイ氏の死因について、当局は「自然死」だと発表したが、プーチン政権が関与したのではないかという疑惑が指摘された。主要7カ国(G7)の外相会合も死因の徹底的解明を求める声明を発表するなど、国際的な批判が高まり、ロシア国内でも遺体引き渡しを求める動きが出ていた。
●「プーチンの予想は間違い、米国はウクライナ離れない…ロシア新規制裁も」 2/25
米国政府が23日にロシアに対する高強度の新規制裁を発表した中でバイデン米大統領は「ロシアのプーチン大統領はわれわれが(ウクライナを)離れるだろうということにベッティングしているが、われわれはいま離れることはできない」と強調した。バイデン大統領はこの日ホワイトハウスで開かれた全国州知事会合での演説で、ウクライナに対する持続的な支援方針を明らかにしながらこのように話した。
バイデン大統領は「2年前にプーチンはウクライナに踏み込めば彼らを屈服させられると信じて進撃したが、2年が過ぎたいま彼は依然として間違っている。ウクライナ国民はプーチンの激しい攻撃にも屈することなく強く持ちこたえている」と話した。続けて「彼らの勇気と犠牲のおかげでもあるがわれわれのおかげでもある。われわれはウクライナを支援するために50カ国以上で構成された連合を結成した。われわれはいま退くことはできない」と話した。「そのためプーチンの残忍な征服戦争への対応として、またナワリヌイ氏の死への対応としてきょう500件以上を対象にした新規制裁を発表した」と述べた。米国務省と財務省、商務省はこの日、金融・エネルギー部門を含むロシアの産業全般にわたり500件以上の対象に対する制裁を発表した。2年前のロシアのウクライナ全面侵攻後で最大規模の制裁だ。
バイデン大統領はまた「欧州連合と北大西洋条約機構(NATO)のトップである主要7カ国(G7)首脳らと話すだろう」ともした。ロイター通信によると、バイデン大統領はウクライナ戦争2周年を迎えロシア問題を話し合うためにG7首脳とウクライナのゼレンスキー大統領が参加するビデオ会議をする予定だ。
「ナワリヌイ氏の死の責任、プーチンにある」
バイデン大統領はロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏の獄中疑問死と関連し、「ナワリヌイ氏の死に対する責任はプーチンにある」と直撃した。バイデン大統領は「ナワリヌイ氏は信じられないほど勇敢な人で、彼の家族も勇敢だった。米国はプーチンが海外での侵略と国内での(反体制派らの)抑圧に対する代償を払うよう努力するだろう」と話した。
バイデン大統領は下院に向けてはウクライナ支援予算が含まれた国家安保パッケージ法案の早急な通過を促した。彼は「超党派的な国家安保パッケージ法案が上院で圧倒的に通過した。下院で採決に送るならばきょうにでも簡単に通過するものだが彼らは休暇で出かけた」と話した。続けて「彼らは帰ってきてこれをやり抜かなければならない」として下院多数派である共和党を圧迫した。
ナワリヌイ氏の妻の名呼び間違えも
バイデン大統領はこの日取材陣と会い、「ナワリヌイ氏がしたことを続けていく」としながら対ロシア闘争の方針を明らかにしたナワリヌイ氏の妻のユリア氏をめぐり「ナワリヌイ氏の妻と娘がナワリヌイ氏の勇敢な姿に似ていきつつあるのは驚くこと」と話した。その際に名前を間違って呼んだりもした。
バイデン大統領は「ひとつ明らかなことはユランダがずっと戦っていく点だ。だからわれわれはあきらめないだろう」と話した。「ユリア」を「ユランダ」と呼び間違えたのだ。ホワイトハウスはこの日ホームページに上げた大統領発言録で「ユランダ」に線を引きその横に括弧とともに「ユリア」と訂正表示をした。
●アメリカ亡命のロシア人記者が語る「苦悩」と「決意」 2/25
言論弾圧により国を追われたロシア人記者は、ウクライナ侵攻から2年という節目に何を思うのでしょうか。
サタデーステーションが向かったのは、アメリカ・ジョージア州。取材に応じてくれたのは、ロシアで記者として働いていたリザさん、26歳です。侵攻開始直後、身の危険を感じ、親族が多くいるアメリカに亡命しました。しかし、ロシアから離れていても、安心は出来ないといいます。
ロシア人記者リザさん(26) 「同僚だったエレナは、去年、ドイツにいたのに毒殺されかけました。記者の仕事はあまりに危険すぎる」
リザさんがロシアで勤めていたのは、プーチン政権を厳しく批判し続けてきた、国内最大の独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」です。創設以降、6人もの記者らが殺害され、脅迫も日常茶飯事。リザさんが入社した直後には、新聞社に羊の生首が届けられたと言います。それでも「表現の自由」を守り続け、2021年、編集長のムラトフ氏がノーベル平和賞を受賞しました。しかし、この受賞からわずか4か月後に始まったのが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。数日後、リザさんたちがロシア国内で発行した紙面には、ある変化が…
ロシア人記者リザさん(26) 「わざと空白を作ったんです。“戦争”について書くことが禁じられたから」
「言葉」を検閲で奪い始めたプーチン政権への抵抗です。しかし、わずか1か月で休刊に追い込まれると、リザさんの同僚2人の命が狙われ、さらにムラトフ編集長も赤い液体を掛けられ、負傷しました。
ロシア人記者リザさん(26) 「襲撃の知らせを聞くたび、何日も動けず、動揺して泣いて、胸が張り裂けそうでした。『ノーバヤ・ガゼータ』は私の第二の家族だったから」
失意のなか、アメリカに亡命したリザさん。パソコンに向かうのも、記事を書くためではなくなりました。実は、今の職場は自動車修理工場です。
ロシア人記者リザさん(26) 「記者の仕事を探すには時間が要ります。アメリカに来た頃は、その余裕もチャンスもありませんでした。すぐに家族の生活費を稼ぐ必要がありましたから」
現在リザさんは、夫や自身の両親たちと暮らしています。両親はアメリカの民主主義に憧れ、侵攻前に亡命。リザさんと夫も侵攻後、両親がいるアメリカに助けを求めました。こうしたロシア人は、意外にも急増しています。侵攻が始まってから、アメリカには9万人以上のロシア人が逃れてきました。バイデン政権は“移民の国”アメリカらしく、敵対国であるロシアからの亡命でも歓迎すると表明しています。
リザさんには“移民の国”ならではの出会いもありました。ウクライナ人のバイラムさんです。去年7月、アメリカに逃れてきました。アメリカ国内にいるウクライナ避難民27万人の1人で、今ではリザさんの同僚です。
ウクライナ避難民バイラムさん(48) 「リザには心から感謝しているんです」
ウクライナ人のバイラムさんがロシア人のリザさんに感謝する理由とは…
この日、仕事を終えたリザさんが訪れたのは、バイラムさんの自宅です。
ウクライナ避難民ジャンナさん(45) 「こんばんは。元気だった?」
両手を広げてリザさんを出迎えたのは、バイラムさんの妻、ジャンナさんです。渡米直後に緊急手術を要する大病を患いました。一家全員、英語が話せず困り果てていたところ、無償で通訳を引き受けたのが、リザさんでした。その後も、公共料金の支払いなど、英語が不可欠な手続きを定期的にサポートしています。
ウクライナ避難民バイラムさん(48) 「リザは何というか、もはや家族です。彼女はロシア人、私たちはウクライナ人ですが、問題なんてありません」
ただ、ロシアがバイラムさん一家から日常のすべてを奪ってきたことに、変わりはありません。妻のジャンナさんが見せてくれたのは、激戦が続くウクライナ東部の自宅を撮影した動画です。屋根の至る所が3度の空爆で抜け落ち、外壁には攻撃の痕が生々しく残されていました。近隣住民が撮影したこの動画で、一家はこの惨状を知ったといいます。
ウクライナ避難民ジャンナさん(45) 「30年もこの家で暮らしたの。ここで子供たちを育てたの。苦しい」
ロシア人記者リザさん(26) 「母国がウクライナでやっていることに対し責任を感じます。『ロシア人として、記者として十分なことをしてこなかったのでは』と思ってしまうんです」
この2週間後、ある記事が公開されました。アメリカに逃れ、侵攻を批判するロシア人のトップアスリートたちが「プーチン政権から圧力を受けている」と報じた記事。書いたのは、リザさん。記者活動の再開です。
ロシア人記者リザさん(26) 「ロシア政府には不快な記事でしょう。でも覚悟しています。沈黙を続けることは戦争への賛同を意味してしまうから」
リザさんはロシア政府に再び「言葉」で抗う道を歩み始めました。
ロシア人記者リザさん(26) 「昔の私なら『言葉は戦争を止められる』と言えたでしょう。しかし、現実を知った今『言葉では戦争を止められない』と感じています。でも、人の考え方なら変えられるはずです。今もロシア国内に、事実に基づく報道を求めている人たちがいることを知っています。私に出来るのは『国外から情報を伝え続けること』ただそれだけです」
●ウクライナ人記者たちの「2年間」 2/25
ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻させて今月24日でまる2年が経過し、ロシアとウクライナ両国の戦争は3年目に入った。侵略者のプーチン大統領ばかりか、ウクライナ国民にとっても戦争が3年目に入るとは予想していなかったはずだ。
「いかに必要であろうと、いかに正当化できようとも、戦争が犯罪だということを忘れてはいけない」と語った米小説家ヘミングウェイの言葉を思う出す。どれだけ多くの命が失われ、莫大な被害と犠牲が過去730日間の戦闘で払われてきたことであろうか。特に、ウクライナ国民にとってはその思いが強いはずだ。22年2月24日を期して、これまでの日常生活は急変し、家庭はバラバラになり、人生そのものが激変していった。ウィーンに避難してきたウクライナの女性や子供たちの困惑した表情を見るのにつけ、そのように痛感せざるを得ない。
ウィーンに事務局を置く国際新聞編集者協会(IPI)から週刊ニュースレターが届いた。欧州連合(EU) 加盟国における報道とメディアの自由の侵害を追跡、監視し、対応するヨーロッパ全体のメカニズム「報道の自由迅速対応」(MFRR)は、「ウクライナのジャーナリストとの連帯を再確認し、彼らの安全と報道の完全な自由の保証と、ジャーナリストが活動を続けるために必要な財政的および技術的支援を提供する新たな取り組みを求める。ウクライナのジャーナリストたちは過去2年間、しばしば多大な個人的犠牲を払いながらも、地域社会と外の世界のためにこの戦争の恐怖を報道する中で、信じられないほどの勇気と回復力を示してきた。私たちは、ロシア軍による安全の脅威や戦争によってもたらされた経済危機に対処するために、ウクライナのメディアに対する国際支援の継続を求める。我々は、ロシアに対し、国際人道法を遵守し、ジャーナリストに対するあらゆる攻撃を自制するとともに、ロシア軍がそのような攻撃に関与している数多くの事件を調査するよう繰り返し要求する」と主張している。
IPIによると、現在までに少なくとも11人のメディア関係者が殉職し、34人が取材中に負傷したという。「戦争を取材するジャーナリストに対する直接攻撃の数は昨年は減少したが、前線のジャーナリストは引き続き大きなリスクに直面している。 昨年は戦争取材中に少なくとも12人のジャーナリストが負傷した」という。
IPIが管理する「ウクライナ戦争報道自由追跡調査」には、ウクライナでのメディアに対する攻撃件数は404件記録されており、その大部分はロシア軍またはロシア占領当局によって行われたものだ。ウクライナのメディアは頻繁にサイバー攻撃にさらされており、戦争に関する報道が妨げられている。また、占領下のウクライナ領土で働いていた少なくとも17人のジャーナリストがロシアに投獄されたままだ。
ウクライナ人ジャーナリストが直面している安全上の脅威の大半はロシア当局に責任があるが、MFRRの監視は、ウクライナ人ジャーナリストが国内で活動を続ける中で、国内関係者による障害にも直面しているという。例えば、2023年、ウクライナ当局が情報提供を拒否したり、ジャーナリストの活動を妨害したりする事件が31件記録されており、そのほとんどが戦争を言い訳になっているという。
ジャーナリストもまた、「愛国心の欠如」を理由に他の関係者から嫌がらせや脅迫を受けることが増えている。著名な調査記者ユーリ・ニコロフ氏は最近、自宅で見知らぬ人物から嫌がらせを受け、ニコロフ氏が兵役を逃れていると非難されたりしている。
ウクライナ治安局(SBU)の関係者らは、調査機関Bihus.infoのジャーナリストに対して組織的な監視を行い、ジャーナリストの信用を傷つけようとしているというのだ。
ウクライナのメディアは依然として悲惨な状況にある。ロシアの本格的な侵略が始まって以来、同国の広告市場は3分の2減少し、巨額の収入減につながっている。MFRRは、「国際社会と特に欧州の利害関係者に対し、ウクライナメディアへの長期財政支援への取り組みを新たに拡大すべきだ。継続的な支援がなければ、ウクライナのメディアは戦争の状況を世界に伝え続けることができなくなり、多くのジャーナリストが払った犠牲は無駄になってしまう」と警告を発している。
以上、IPIのニュースレターからその概要を引用した。
戦時下のウクライナでジャーナリストが直面する困難さは通常のジャーナルストでは想像できないものがあるだろう。 彼らが世界に向かって発信する情報がなければロシア軍の戦争犯罪の全容を掌握できない。戦場で命がけの取材活動する多数のウクライナ人ジャーナリストたちの健闘と安全を祈らざるを得ない。
●欧米各地でウクライナ支持デモ ロシア侵攻開始から2年 2/25
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから2年となる24日、欧米各地でウクライナを支持するデモや集会が行われた。
ドイツ、英国、フランスなど各国の首都や主要都市に集まった参加者らは青と黄色のウクライナ国旗を掲げ、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に向けて侵攻を停止するよう声を上げた。
独ベルリンのデモに参加したウクライナ人女性のワレリアさん(32)は、「世界各地で起きていることを考えるとウクライナだけ支援するのは難しいと思う」としつつ、「それでも私たちはまだそこにいて耐え続けている。支援が必要なことを世界に伝えたい」と述べた。
英ロンドンでは、市内中心部のトラファルガー広場(Trafalgar Square)へと多数の参加者が行進した。ウクライナ人女性のタニアさん(54)は「毎日、命が失われている。残念なことに欧米諸国からの兵器の支援が不足している」「約束はしてくれるが言葉だけの時もある。行動が伴わなくてはならない」と訴えた。
ウクライナを支持する声が各地で上がる一方、欧州では、ロシアを撃退できるとの見方に陰りが見え始めている。
欧州12か国で先月行われた世論調査によると、ウクライナがロシアを撃退できると考えている人はわずか10%にとどまった。一方、ロシアが勝利するとの回答は平均約20%で、37%は妥協点を見いだして終結すると予想した。
●プーチンに盗まれた2万人のウクライナの子どもたちのいま 2/25
「リハビリテーション」という名の再教育
ロシアの全面侵攻からまる2年。ウラジーミル・プーチン露大統領によって連れ去られた子どもたちを取り戻すウクライナ政府のプラットフォーム「戦火の子どもたち」によると、528人が命を落とし、1226人が負傷、2134人が行方不明となった。強制移送・移住させられた子どもは現在1万9546人。祖国に帰還できた子どもは388人に過ぎない。
ロシア軍に破壊されたウクライナ東部ドネツク州の港湾都市マリウポリで暮らしていた11歳のイリア君は母親を砲撃で失った。自身も多くの破片で負傷し、ロシア軍によって病院に運ばれた。「ロシアの一部としてのウクライナに栄光あれ」とロシア語で書くように強要されたが、ウクライナ政府と非政府組織(NGO)、祖母の協力で解放された。
ロシア軍は「リハビリテーション(再教育)」という名目で南部ヘルソン州の子どもたちを連れ出した。2週間のホリデーキャンプと偽って親に子どもたちを送り出させた。何十台ものバスがロシア占領下のクリミア半島に向かった。「夢」「友情」「光を放つ点」と名付けられた3つの収容所だけで数千人の子どもたちがいた。
2022年秋にクリミアに連れて行かれた子どもたちが親ウクライナの立場を表明すると地下室や隔離房に閉じ込められた。ウクライナ語を話すことは禁じられ、代わりにロシア国歌を聴かされ、働かされた。「親はお前を捨てた。ウクライナはもうお前を必要としていない」と嘘を吹き込まれた。クリミアに残されたウクライナの子どもたちの数は今も不明のままだ。
プロパガンダマシンと化したデニス
2月21日、ロンドンのホテルで開かれたウクライナ支援イベント「ウクライナの子どもたちのための未来」で上映された英TVドキュメンタリー『盗まれた子どもたち』を鑑賞した。参加者の中には06年、致死性の放射性物質ポロニウム210で暗殺されたロシア連邦保安局(FSB)元幹部アレクサンドル・リトビネンコ氏の妻マリーナさんの姿もあった。
国際刑事裁判所(ICC)は昨年3月、ウクライナの占領地域からロシアへ子どもを強制移送し、養子縁組をした戦争犯罪でプーチンと「ブラッディ・マリー」こと露大統領府子どもの権利担当委員マリア・ルボヴァ=ベロヴァに逮捕状を出した。ICCは「プーチンが刑事責任を負うと信じるに足る十分な証拠が存在する」と断罪するが、プーチンは意にも介さない。
『盗まれた子どもたち』ではロシアに連れ去られて洗脳され、プロパガンダマシンになる青少年が登場する。当時16歳のデニス・コステフ君。デニスはロシアが全面侵攻してきた時、ヘルソン州の児童一時保護センターで暮らしていた。デニスは1歳になる前、薬物中毒の両親が投獄され、里親や児童養護施設を転々とするようになった。
ロシア侵攻で児童保護センターの所長は子どもたちに施設内にとどまるよう指示した。子供たちはカーテンを閉め、卓球やウクライナの歌を楽しんだ。地元の学校で絵の勉強をしていたデニスはお兄さん役として幼い子供たちの面倒を見るよう努めた。デニスは米ジャーナリストに占領下のストレスとウクライナを支援する米国への感謝を雄弁に語っている。
ホリデーキャンプの朝は体操とロシア国歌演奏で始まった
「ロシアがウクライナから移送した2万人の子どもの中でデニスは際立っている。ウクライナの愛国者であることを公言していたデニスはロシアに囚われの身となり、モスクワのプロパガンダマシンのスターに変貌した。数カ月に及ぶ取材でその理由を理解した」と米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのマシュー・ラックスモア記者はX(旧ツイッター)に記す。
反ロシアのラップソングを聴いていたデニスはスマートフォンに「プーチンはアホだ」というステッカーを貼り、動画SNSのTikTokチャンネルを立ち上げてプーチンを罵った。「ウクライナに来ても死しか待っていない。来るなら来い。来たら歴史を教えてやる」と、ウクライナの独立を主張する動画まで投稿していた。
ロシア占領下にあった22年秋、デニスはヘルソン州の大学に進学したが、モスクワに任命された親露派学長はクリミアで行われる2週間のホリデーキャンプに参加するよう促した。大学の教員たちは両親の許可も得ずに学生たちを再教育施設に送り込んだ。ホリデーキャンプの朝は体操とロシア国歌演奏で始まった。
子どもたちの帰還と家族の再会に取り組む慈善団体「ウクライナを救え」によると、ウクライナ国旗は下ろされ、ウクライナの話は一切禁じられた。子どもたちがウクライナのシンボルや物を身に着けていると、恐怖心を植え付けるため剥がされて、燃やされた。授業ではロシアの歴史が教えられた。「従わなければ追放する。歩いて家に帰れ」と脅された。
「ウクライナはすべてロシアの土地」
プーチンが進めるのはウクライナのロシア化である。再教育施設では「ウクライナはすべてロシアの土地であり、これからもずっとロシア人のものだ。ウクライナ国民は奴隷となり、完全にロシアに吸収される」と刷り込まれた。言うことを聞かない子どもは隔離房に閉じ込められた。子どもたちはロシアのパスポートを取得するよう要求された。
その年の11月、ウクライナ軍はヘルソン州のドニプロ川右岸を奪還したが、子どもたちは家族のもとには戻らなかった。ロシア占領下、より良い教育の機会が与えられると吹き込まれた。ロシアの国営テレビで、ロシアの国旗をまとったデニスの姿が映し出された。
ラックスモア記者の記事(2月22日付)によると、デニスはロシア軍の栄光を祝うリボンを配り、旧ソ連製自動小銃AK-47(カラシニコフ)の分解の仕方を学び、ウクライナを歴史的にロシアの土地と説明する講義に出席する様子がソーシャルメディアへの投稿やロシア系テレビ局の報道で映し出された。
ロシア侵攻から1周年の昨年2月24日、ロシア国旗を身に纏ったデニスは「軍隊に入りたい。ロシア連邦に奉仕する準備はできている」と誓った。その後数カ月にわたって何十本ものビデオクリップに登場した。デニスは「われわれは歴史的な選択をした。ロシアとともにあるために」と子どもたちをロシアに移送する正当性をプーチンになり代わって説明した。
「愛国心の強いデニスに何があったのか。ロシアに寝返ったのだろうか」
ラックスモア記者はXに「デニスの家族は不思議に思った。愛国心の強いデニスに何があったのか。ロシアに寝返ったのだろうか。プライベートでは彼は家に帰りたいと話していた。しかし家族の友人が彼をロシアから連れ戻そうとしたところ、モスクワ空港で拘束され、強制送還された。デニスは連絡を絶った」と投稿している。
TVドキュメンタリー『盗まれた子どもたち』ではデニスの近況について触れられていないが、21日の上映会の後、ベテラン戦争特派員のシャヒーダ・トゥラガノワ監督は「実はデニスの居場所が分かった」と明らかにした。翌朝、ラックスモア記者がウォール・ストリート・ジャーナル紙でデニスのその後を報告していたので驚いた。
それによると、デニスは23年1月にクリミアからヘルソン州南部ヘニチェスクに到着すると、拳銃を構えた男に「車に乗れ」と言われた。FSBモスクワ総局のハンドラーだった。短い会話の後、男はデニスに500ルーブル(約800円)を渡した。数日後、男はクリミアのホリデーキャンプのことを録音するようデニスに求めた。デニスはロシアの協力者になった。
ロシアの占領地域で失踪事件は日常茶飯事だ。デニスは眠れなかった。羞恥心に苛まれ、家族に本当のことを話すこともできなかった。慈善団体「ウクライナを救え」の指示でモスクワからミンスク行きの夜行列車に乗ったデニスは徒歩でポーランドに入り、家族と再開した。デニスの願いは「家族と普通の平和な生活を送ることだ」という。
●ゼレンスキー大統領「我々は勝利する」 ロシアによる侵攻開始から2年…苦戦の中、国民を鼓舞 2/25
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから24日で2年となりました。苦戦を強いられる中、ウクライナのゼレンスキー大統領は「我々は勝利する」と述べ、国民を鼓舞しました。
坂井英人記者「キーウ中心部の独立広場では、軍事侵攻の開始から2年という節目で、集会が行われています」
24日、独立広場に集まった市民らは、この2年間の戦闘で犠牲になった人たちを追悼し、抵抗し続けるための支援を訴えました。
参加者「私たちは毎日ミサイルの音で目を覚ます。同じ状況になりたくないのなら、ウクライナを支援してほしい」
参加者「これはウクライナだけではなく、全ての人々の戦争であり、私たちは支援を必要としている。支援は減るのではなく、強化されなければならない」
24日は、カナダのトルドー首相やイタリアのメローニ首相など各国の首脳がウクライナを訪れ、ゼレンスキー大統領が侵攻が始まった日にロシア軍の襲撃を受けたキーウ郊外の空港で出迎えました。
ゼレンスキー大統領はSNSに動画を投稿し、「我々は勝利する」と国民を鼓舞しました。
ゼレンスキー大統領「きょう、望まなくとも全てのウクライナ人があの日を思い出す。私たちひとりひとりに、それぞれの『2月24日』がある。だが戦争の終わりはひとつでなければならない。勝利だ」
欧米の軍事支援が遅れ、一部の戦線で劣勢が伝えられるなど苦戦を強いられる中、ロシアの侵攻との戦いは3年目に入ります。
●破壊され尽くしたマリウポリ、海軍学校や住宅整備で進む「ロシア化」…衛 2/25
ロシアがウクライナ南東部の港湾都市マリウポリを占領後、海軍学校の分校建設を進めている実態が、衛星画像の分析などで明らかになった。
ロシア人向けとみられる集合住宅を整備していることも判明した。プーチン政権による「ロシア化」の一端が浮き彫りになった。
2年前の侵略開始後、首都キーウの短期陥落に失敗した露軍は、マリウポリを破壊し尽くした上で、2022年5月に全域制圧した。
宇宙新興企業アクセルスペース(東京)が23年7月4日に撮影した画像では、マリウポリ西部にあるプリモルスキー公園の緑地帯の土がむき出しになり、建設工事が進んでいる様子が確認された。約2か月後に撮影された衛星画像では、同じ場所で大型の建物群の姿が見えた。
地元報道などと照らし合わせると、建物は露海軍学校の分校である可能性が高い。今年9月に開校し560人が学ぶとの報道もある。市民の憩いの場所だった公園にあえて軍関連施設を建てている可能性がある。
衛星画像ではネフスキー地区で新築の集合住宅も確認できる。マリウポリの戦闘にウクライナ軍の衛生兵として参加したユリア・パイエブスカさん(55)は「建て直された住宅に住むのは、移住したロシア人だ」と断言した。
●キーウの大修道院で祈り 侵略2年でウクライナ軍人ら死者に哀悼、勝利誓う 2/25
ロシアによる全面侵攻から2年の節目となった24日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)にあるペチェールスカヤ大修道院の聖堂で、多数の軍人が参加して礼拝が行われた。ペチェールスカヤは東スラブ圏で最も古い歴史を持つ修道院。参列者は侵略戦争の犠牲者を悼み、ウクライナの勝利を誓った。
天井や壁面にまで多数の聖画が描かれた荘厳な聖堂内。迷彩色の防寒着に身を包んだ軍人らが、イコン(聖画像)の飾られた聖壇に向かって祈りをささげた。
「2年前、独立ウクライナに侵略者が攻め込んだ。祖国と自由のために命をささげた人々のことを神は思っている。真実はわれわれの側にあり、必ず勝利する」
礼拝を執り行う聖職者が厳かに語り、合唱隊による聖歌「永遠の記憶」が響き渡った。「ウクライナに栄光あれ」。聖職者の言葉を軍人らが声を合わせて復唱し、礼拝を締めくくった。
参列した男性軍人(43)は「死者を悼み、戦場にいる人々が健康に帰還できるよう祈った。われわれは全ての戦線で厳しい状況にある。西側パートナー諸国の支援をお願いしたい」と語った。志願兵の男性(45)は「戦争が早期に勝利で終わること、そして祖国の自由と繁栄を祈った」という。
●ウクライナ戦争3年目に突入、援助停滞で見通厳しく−G7は継続約束 2/25
ロシアによるウクライナとの全面戦争が、終わりの見えないまま3年目に突入した。ウクライナの弾薬不足、兵力不足、欧米からの軍事援助の遅れを利用しロシアが勢いを増している。
ロシア軍は先週、東部の都市アウディイウカを占領。来月の選挙で再選を狙うプーチン大統領にとっての象徴的な勝利となった。
ロシアは現在、ウクライナの防衛のほころびを探っており、ウクライナ軍は同国東部と南東部の1500キロの前線に、減少しつつある軍事物資と兵士を分散させることを余儀なくされている。
ウクライナ軍が戦闘を継続するための重要な生命線である米国の財政支援は、ウクライナ、イスラエル、台湾のための950億ドル(約14兆3000億円)の共同パッケージが数カ月遅れで上院を通過した後でも、共和党主導の下院では強い抵抗に直面している。
米上院、ウクライナ支援法案を承認−下院の支持厳しい見通し
米国の追加支援が危ぶまれる中、欧州連合(EU)諸国は新たに500億ユーロ(約8兆1400億円)の支援策を打ち出し、軍事物資の輸送を開始した。
EU、ウクライナに8兆円支援実施で合意−ハンガリーが反対撤回
軍事的な逆風にもかかわらず、主要7カ国(G7)首脳はウクライナのゼレンスキー大統領に支援継続を約束した。
首脳らは24日、ロシアの侵攻開始から丸2年が経過した節目にビデオ会議を行った。
バイデン米大統領とゼレンスキー大統領は、イタリアのメローニ首相、カナダのトルドー首相、岸田文雄首相、ドイツのショルツ首相、スナク英首相、フォンデアライエン欧州委員長、ミシェルEU大統領(欧州理事会常任議長)、フランスのセジュルネ外相と会談した。
首脳らは声明で「ウクライナへの安全保障支援を強化し、生産・配送能力を高めている」とし、また、ウクライナ政府が「緊急の資金需要を満たし、ロシアの戦争の影響により深刻な影響を受けている他の脆弱(ぜいじゃく)な国々を支援する」ために取り組んでいると強調した。
首脳らはEU、日本、カナダが約束した追加支援を歓迎し、「2024年のウクライナの残りの予算ギャップを埋めるための追加支援の承認」を促した。
ゼレンスキー氏と、ウクライナを訪れていた一部の首脳は、破壊されたジェット機や燃え尽きた機械を背景に、キエフ近郊のホストメル空港の駐機場で共同記者会見。ゼレンスキー氏はロシアのプーチン大統領の戦争責任を問うと誓った。
●ウクライナへの軍事侵攻から2年 大阪で平和を願いキャンドルに明かりを灯す 2/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から、24日で2年を迎え、大阪では平和を願いキャンドルに明かりが灯されました。
24日、大阪の梅田スカイビル前ではおよそ1000個のLEDキャンドルを使って、平和を意味する「PEACE」の文字などを浮かびあがらせました。
軍事侵攻で犠牲になった人たちを追悼したほか、ウクライナから避難してきた人たちが平和への思いを語りました。
ウクライナから避難してきたナタリア・ゴロドーさんは「ちょうど2年前、ウクライナで娘と一緒に初めてミサイルの音を聞きました。」と軍事侵攻当初を思い出し、今なお続く戦闘への苦しみを訴えました。
会場を訪れた人は「ウクライナへの支援を下火にしてはいけないと思いますし、そういう輪が全国に広がっていけば良いと思っています」と話し、支援継続の必要性を訴えました。
会場では募金活動も行われ、寄せられたお金は避難している人たちの支援などに充てられるということです。
●「我々のウクライナが終わるなど許さない」 全面侵攻2年にゼレンスキー氏 2/25
ロシアによる全面侵攻が始まってから丸2年となった24日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は演説で、「我々のウクライナが終わるなど、私たちは誰も許さない」と強調した。
西側諸国の首脳と並んで首都キーウで演説したゼレンスキー氏は、戦争終結を願うのは当然だが、それはウクライナが良しとする条件下での終戦でなくてはならないと述べた。
「だからこそ『戦争の終わり』と言う際、私たちは常に『我々の条件で』と足すのです。だからこそ『平和』という言葉には常に『公平な』という言葉がつくのです」と、大統領は強調した。
「私たちはそのために戦っている。すでに自分たちの人生のうち730日をかけて。そして勝利する日こそ、私たちの人生で最良の日になる」
この日の演説には、イタリアとベルギー、カナダの首脳に加え、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長も参列した。
指導者らは、戦死者の名前が刻まれた壁に花輪をささげて追悼した。
一方で目立った欠席者もいた。昨年はジョー・バイデン大統領が記念式典に出席したが、今年はアメリカの政府高官は出席しなかった。
ゼレンスキー大統領は23日、米連邦議会上院のチャック・シューマー院内総務(与党・民主党)が率いる代表団と面会している。この席でシューマー氏は、米政府はウクライナを支援していると述べた。
欧州連合(EU)のフォン・デア・ライエン委員長は、侵攻初期にウクライナの防衛にあたり、各国の期待を裏切って、ロシアの侵攻を食い止められると証明したウクライナ軍を称賛した。
「あなたがたはロシアがウクライナの中心部へ攻め込むのを防いだ。あなたがたは祖国と全ての欧州を守った」
イタリアとカナダはこの日、ウクライナとそれぞれ安全保障協定を締結。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟への展望が開けた。
その後、日本を含む主要7カ国(G7)の首脳がテレビ会議を行い、ウクライナへの支援と、ロシアへの新たな制裁を約束した。
欧州各地でこの日、ウクライナへの連帯を示すデモ行進が行われ、参加者はロシアのウラジミール・プーチン大統領に戦争を止めるよう要求した。
モスクワでも、動員された兵士の妻たちが反戦デモを行い、少なくとも4人が拘束されたと報じられている。
ロシアでは反体制派を取り締まる法律が制定されているため、こうした抗議はまれだ。
侵攻から丸2年を迎えたウクライナは、厳しい状況にある。1週間前には、東部の要衝アウディイウカからの撤退を発表。ロシアにとってはここ数カ月で最大の勝利となった。
ウクライナ軍による反転攻勢の失敗や、アメリカからの追加支援の取り付けをめぐる問題なども、大きな痛手となっている。
こうしたなかでも戦闘は続いている。ウクライナの都市に対するロシアの直近の攻撃では、少なくとも4人が死亡した。
一方でウクライナ政府は、24日未明にドローン攻撃でロシア最大の製鉄所の一つを攻撃したと発表した。
ウクライナは、ロシアの軍艦を撃沈したり、偵察機を撃墜したりと、この戦争でいくつかの成果を上げているが、ゼレンスキー大統領が約束した勝利はまだほど遠いとされている。
●ロンドン・トラファルガー広場をウクライナ国旗が埋め尽くす 追加支援策発表 2/25
ロシアによるウクライナ侵攻から2年を迎えた24日、イギリス・ロンドンではウクライナに連帯を示す集会が行われました。
記者「ロンドンのトラファルガー広場をウクライナの青と黄色の国旗が埋め尽くしています。集まった人々がウクライナ国歌を歌っています」
ロシアによる全面侵攻から2年となったこの日、ロンドン中心部にウクライナへの連帯を示す人々が数多く集まり、ロシアの軍事侵攻に抗議の声を上げました。
イギリスでは、これまでにウクライナからの避難民を20万人以上受け入れていて、集会では「戦争が終わり次第、国に帰りたい」と話す若い避難民の声も聞かれました。
ウクライナからの避難民「(2年前のきょう)母に起こされ『戦争に備えなさい』と言われました。私は21世紀の現代にそんなことありえないと思っていた。いつかウクライナに帰って国の再建に携わりたいです」
こうした中、イギリス国防省は24日、ウクライナに対し新たに2億4500万ポンド、日本円にしておよそ470億円の軍事支援を行うと発表。資金はウクライナで不足している砲弾の備蓄に充てられるということです。
●「領土奪還より話し合いを」 欧州、期待から失望に―ウクライナ侵攻2年 2/25
ロシアの侵攻開始から24日で2年が経過したウクライナに対し、欧州は武器供与や避難民受け入れ、対ロシア制裁で支援を行ってきた。しかし、昨年始まった反転攻勢は成果に乏しく、勝利への期待は失望に一変。領土奪還にこだわらず、ロシアとの話し合いを通じた解決を望む声が高まっている。
「戦争はいつ終わるのかと聞かないでほしい」。ウクライナのゼレンスキー大統領は今月、ドイツ南部で開かれた「ミュンヘン安全保障会議」で、戦局の行き詰まりにいら立ちを隠さなかった。
ウクライナでは昨年5月、ロシア軍の猛攻で東部ドネツク州の要衝バフムトが陥落。翌6月からの反攻でも形勢は好転せず、今月に入ると同州の激戦地アウディイウカまで制圧された。
「われわれは反攻の行方を過度に楽観していた」(エストニアのカラス首相)ため、落胆も大きい。シンクタンク「欧州外交評議会」がドイツ、フランスなど欧州12カ国の有権者ら約1万7000人から回答を得た1月の世論調査では、ウクライナの勝利はもはや難しく「欧州はウクライナに働き掛けて、ロシアと和平交渉させるべきだ」との意見が41%に上った。「ウクライナの領土奪還を支援すべきだ」は31%にとどまった。
1年前の調査では「ウクライナは戦争が長期化しても、全ての領土を取り戻す必要がある」との主張が38%を占めていた。昨年8月、サルコジ元仏大統領がウクライナによる領土の完全回復は「幻想だ」と発言した際は、批判が殺到した。だが、ロシアに有利な戦況が日々伝わる中、世論は理想と現実のはざまで刻々と変化を遂げている。
欧州では昨年、最大の経済国ドイツがマイナス成長に沈み、今年も多くの主要国で景気低迷が見込まれる。皮肉にも、制裁を科されたロシアの方が戦時体制下で好況だ。こうした欧州の懐具合も今後のウクライナ支援に影を落とすとみられる。
歴史的にウクライナとつながりが深く、欧州の軍事支援を主導してきたポーランドでは、安価なウクライナ産穀物の輸入に反対する農家の激しい抗議行動が続く。ウクライナ避難民への視線も厳しく、ポーランドにとって「脅威だ」との見方は40%に達した。
●ウクライナ侵攻から2年、G7首脳 支援継続で一致 2/25
ロシアによる軍事侵攻の開始から2年となった24日、G7=主要7か国の首脳がオンライン会議を開き、ウクライナへの支援を継続することで一致しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「(この2年間は)苦しみと同時に、希望の730日でもあった。勝利に近づくための730日間だった」
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、侵攻当初、一時ロシア軍に占拠された首都近郊のホストメリ空港で撮影した動画を公開し、国民に勝利を信じて抗戦を続けるよう訴えました。
また、この日、ホストメリ空港では、ウクライナを訪れたイタリアのメローニ首相やEUのフォンデアライエン委員長らが参加し、式典が開かれました。
EU フォンデアライエン委員長「ホストメリ空港の闘いは最も暗い歴史としてではなく、ウクライナとヨーロッパにとっての新しい時代の始まりとして記憶されるでしょう」
この後、ゼレンスキー大統領とともにオンラインで会議を行ったG7の首脳は、共同声明で「必要な限り支援を続ける」と連帯を表明しました。
また、ロシアが兵器を生産するために必要な部品の調達を支援する第三国の企業や個人に対し、制裁を強化することを強調。弾道ミサイルを供与しているとされる北朝鮮を強く非難し、イランに対しては軍事支援の停止を求めました。
●軍事侵攻2年 ゼレンスキー大統領、G7首脳テレビ会議で“支援継続を訴え” 2/25
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから24日で2年となりました。苦戦を強いられる中、ウクライナのゼレンスキー大統領は「我々は勝利する」と述べ、国民を鼓舞しました。
記者「キーウ中心部の独立広場では、軍事侵攻の開始から2年という節目で集会が行われています」
24日、独立広場に集まった市民らは、この2年間の戦闘で犠牲になった人たちを追悼し、抵抗し続けるための支援を訴えました。
参加者「私たちは毎日、ミサイルの音で目を覚ます。同じ状況になりたくないのなら、ウクライナを支援してほしい」「これはウクライナだけではなく、全ての人々の戦争であり、私たちは支援を必要としている。支援は減るのではなく、強化されなければならない」
24日は、イタリアのメローニ首相などがウクライナを訪れた上で、オンライン形式でのG7首脳会議が開かれました。会議に参加したゼレンスキー大統領は、改めて支援の継続を強く訴えました。
ゼレンスキー大統領「皆さんは我々の空を守り続け、陸上での軍備を強化するために必要なことを熟知している。皆さんは我々が、そうした支援を必要としていることを全てご存じです。その上で我々は、皆さんを頼りにしています」
共同声明では、ウクライナへの支援の継続を改めて確認した上で、議会での予算案の可決が遅れているアメリカを念頭に、支援の承認を強く求めました。
その上で、「ロシアを実質的に支援する第三国に対して、行動を取り続ける」として、北朝鮮やイランなどに、軍事支援の停止を求めました。
●ゼレンスキー大統領「独立のための戦いだ」 ウクライナ侵攻から2年 2/25
ロシア軍によるウクライナ侵攻から2年となった24日、ウクライナのゼレンスキー大統領は「独立のための戦いだ」と、あらためて国民に団結を呼びかけた。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「これからの歴史において『ウクライナ』という言葉は、常に『独立』という言葉と共にある。われわれはそのために戦っている」
ゼレンスキー大統領は24日に公開した動画で、侵攻当初、激しい戦闘が行われたキーウ近郊の空港に立ち、国民に団結を呼びかけた。
また、この日はキーウで、ロシア軍の捕虜になっているウクライナ軍兵士の解放を家族らが訴えた。
息子が捕虜になっている母親「息子には、無事で健康に家に帰ってきてほしい」
一方、ロシア側は、ショイグ国防相が戦闘地域の軍司令部を視察したほか、軍幹部が完全制圧したとする東部アウディーイウカで、約200人のウクライナ兵を捕らえたと明かすなど、攻勢を印象づけている。
●ウクライナ侵攻から2年 西側首脳らがキーウ近郊の空港で連帯示す 2/25
ロシアによるウクライナ侵攻から24日で2年を迎えました。西側諸国の首脳らが、2年前、激しい戦闘があったキーウ近郊の空港を訪問し、今後の支援継続を表明するなど、改めて強い連帯を示しました。
「ロシア軍はこの空港を素早く制圧しようとした」「だが我々はここにいる。なぜならプーチンが間違いを犯したからだ」カナダ・トルドー首相
「この場所はモスクワの失敗の象徴でウクライナの誇りの象徴だ」イタリア・メローニ首相
首脳らが訪問したキーウ近郊のホストメリの空港は、2年前の侵攻当初、ロシア軍が首都陥落を狙い奇襲をかけた場所です。ウクライナ軍は反撃し、奪還に成功しました。
「引き続きより多くの財政や弾薬、軍隊への訓練、防空システム、そしてヨーロッパとウクライナの防衛産業への投資によって支援する」EU・フォンデアライエン委員長
EU(=欧州連合)のフォンデアライエン委員長は、ロシアと戦うというゼレンスキー大統領の2年前の決断が、「ウクライナだけでなくヨーロッパ全体を救った」と強調しました。
●ウクライナ軍総司令官、国民鼓舞 侵攻「欧州最大の戦争」 2/25
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は24日、ロシアによるウクライナ侵攻から2年となったことを受けて声明を発表した。この2年間を振り返り「第2次大戦以降、欧州で最大の戦争になった」と指摘。「われわれはこれまで以上に団結を必要としている」と述べ、抗戦継続へ国民を鼓舞した。
シルスキー氏は昨年の反転攻勢を念頭に「望ましい結果は得られなかった」と認めた。民間人虐殺が起きた首都キーウ(キエフ)近郊のブチャ、ロシア軍が掌握した東部バフムトやアブデーフカを挙げ「全ての都市や村が、そのようにならないよう戦い続けている」と訴えた。 
●ウクライナ軍 ロシア中部 最大級の製鉄所を無人機で攻撃か 2/25
ウクライナ軍はロシア中部にある最大級の製鉄所を無人機で攻撃したとみられ、軍事侵攻が長期化する中、無人機を利用した攻撃の応酬が続いています。一方、ロシアでは来月、大統領選挙が行われますが、プーチン政権は一方的に併合したウクライナ南部の州で、期日前投票を始めたと主張し、支配を既成事実化するねらいがあるとみられます。
ウクライナ空軍は25日、ロシア軍が無人機でキーウ州や東部、南部などに攻撃を仕掛け、18機のうち16機は撃墜したと発表しました。
一方、ウクライナのメディアは情報筋の話として24日、ロシア中部リペツク州にあるロシアで最大級の製鉄所に対し、ウクライナ側が無人機の攻撃を行い、大規模な火災が起きたと伝えました。
製鉄所ではロシア軍のミサイルや無人機など兵器の材料が製造されていると指摘していて、地元の州知事もSNSで製鉄所で火災が起きたとしています。
ウクライナ軍はことしに入ってロシア側の石油関連施設などに対しても、各地で無人機による攻撃を仕掛けているとみられ、侵攻が長期化する中、無人機を利用した攻撃の応酬が続いています。
一方、ロシアでは来月15日から17日にかけて大統領選挙の投票が行われ、プーチン大統領の勝利が確実視されています。
ロシアの国営メディアは、選挙管理委員会の話として軍事侵攻のあと、一方的に併合したウクライナ南部のザポリージャ州で、25日から期日前投票が始まったと伝えました。
プーチン政権は一方的に併合したウクライナの4つの州で、選挙だとする活動を強行することで、支配を既成事実化するねらいがあるとみられます。
ウクライナ軍 総司令官が前線訪問“徹底抗戦を”
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は25日、前線を訪問して東部の激戦地での戦闘に貢献した兵士たちを表彰したと明らかにし、軍事侵攻を続けるロシアに対し徹底抗戦する姿勢を改めて示しました。
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は25日、SNSでウメロフ国防相とともに前線の指揮所を訪問したと発表しました。
具体的な場所は明らかにされていませんが、前線の状況について報告を受けたほか、激戦のすえ撤退した東部アウディーイウカや、バフムトなどでの戦闘に貢献した兵士たちを表彰したとしています。
これに先立ち、シルスキー総司令官はロシアによる侵攻が始まってから2年となる24日に、声明でこれまでの戦闘を振り返り「第2次世界大戦以降、ヨーロッパで最大の戦争になった」と指摘した上で、ウクライナが一部の領土を奪還し持ちこたえてきたとたたえました。
その一方で、去年6月に始めた反転攻勢については「残念ながら、客観的な状況により、望ましい結果をもたらせなかった」として思うように進まなかったことを認めました。
そして「ウクライナのすべての町や村が多くの市民が犠牲になった首都近郊のブチャや、アウディーイウカなどのようにならないよう戦い続けている」と強調し、空での攻撃を強めるなどロシアに対し徹底抗戦する姿勢を改めて示しました。
●軍事侵攻2年 フランシスコ教皇「恐怖と憎しみの波を引き起こしている」外交的解決の模索を呼びかけ 2/25
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は25日、ロシアによるウクライナ侵攻から2年を迎えたことを受け、「世界中に恐怖と憎しみの波を引き起こしている」と述べ、外交的な解決を模索するよう呼びかけました。
ロイター通信によりますと、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は25日、バチカンのサンピエトロ広場に集まった人々に向け、メッセージを読み上げました。
ロシアによるウクライナ侵攻から2年を迎えたことを受け、フランシスコ教皇は「恐ろしいほど長きにわたって、非常に多くの犠牲者や破壊、苦しみや涙が生じていて、その終わりは見えない。この戦いはヨーロッパを荒廃させるだけでなく、世界中に恐怖と憎しみの波を引き起こしている」と指摘しました。
その上で、「公正で恒久的な平和に向け、外交で解決できる状況を生み出すために、ほんの少しの人間らしい思いやりを見出すよう、請い願う」と述べ、外交的な解決を模索するよう呼びかけました。
●ミュンヘン会議で明確になった世界の現状は、良いニュースではなかった 2/26
先週末に開催された年に一度のミュンヘン安全保障会議は、世界の安全保障の脆弱性に対する強い不安に支配されていた。
地政学的な緊張と経済的な不確実性の高まりは、世界の安全がかつてないほど低下していることを意味する。さらに、この世界最大の年次安全保障会議の開会のまさにその日に、ロシアの野党指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏が獄中で急死したという悲劇的なニュースが飛び込んできた。
今回のケースの犯人はロシアのプーチン大統領である。プーチン大統領は長年、近隣諸国や自国民を激しく攻撃してきた。ロシア国民のより良い未来のために勇気をもって闘ったナワリヌイ氏と、夫の死という悲惨なニュースが伝わり始めるのと同時に同会議に出席した妻のユリア・ナワルナヤ氏の啓発的な精神は、私たちが、近年の歴史の中でも最も予測不能で不安定な時代へと進む可能性のある状況のただ中に、あるいは少なくとも始まりにいることをあまりにも明白にした。
もし、冷戦後の世界秩序はウィンウィンの国際政治という明らかな配当とともに完全に終わった、という点を思い出させてもらう必要のある人がいたとすれば、そのことは同会議の間中、大声で、はっきりと伝えられていた。
2024年の会議の成否の評価は、一回の週末で達成可能な具体的成果への期待が現実的なものかどうかにかかわってくるだろう。
約50人の国家元首や政府首脳、100人以上の閣僚、シンクタンク、非政府組織、大手企業の代表者数百人など、安全保障分野の主要な利害関係者の記録的な出席者数に加え、世界が直面する複雑な安全保障上の課題について自由に意見が交わされ、参加者の優先事項が的確に特定されることが、こうした会議の大きな価値を保証するものだ。
まず始めに、同会議の年次報告書は世界が危険な時期にあること、国々が自国の成功を他国との比較で評価する傾向が強まっており、「ルーズ・ルーズ(負け・負け)」の力学が「すでに多くの政策分野で展開され、さまざまな地域を巻き込んでいる」ことを認めている。
残念ながらこれにより、限られた資源をめぐって争っていた、より希望に満ちていた時代が、すべての人の利益のためにそうした資源の利用可能性を高めるための協力に取って代わられた。さらに、国連憲章や世界人権宣言の遵守によって達成され、価値観や利害の共通性、戦争や紛争を防止する争いの平和的解決を特徴とする、ルールに基づく世界秩序というビジョンは、今ではむしろ遠のいたように感じられる。
「世界は新たな時代の転換点に直面しており、軍事競争が激化し、それに伴って軍事費が増大している。」ヨシ・メケルバーグ
何年もの間に、数多くの悲惨な出来事の進展が国際社会の数多くの登場人物の間の信頼関係を打ち砕き、恐怖心や疑心暗鬼を増大させ、非協力的で摩擦の多い世界情勢の、より悲観的な環境を作り出してきた。
同会議の研究者たちが実施した調査により、現在、主要経済国に住む人々の多くが自国の安全や豊かさは失われてゆくと予想しており、その逆を予想する人々よりも多いことが明らかになった。
そうした人々を責めることなどできない。まず、新型コロナ感染症のパンデミックが準備不足の社会を襲い、多くの政府にこの規模の危機への対応能力がないことが露呈した。
続いてロシアがウクライナに侵攻して、生活コストが上昇し、プーチン大統領が他の旧ソ連諸国にも触手を伸ばすのではないかという恐怖が引き起こされた。
もっと最近では、イスラエルとハマスの間のガザ戦争で何千人もの市民が犠牲となった。政府の失策のため、またこのような戦争を未然に防いだり、壊滅的な結果をもたらす長期化を防いだりする力が国際社会になかったためである。
ウクライナやガザにおける紛争は獰猛さのゆえに特に注目を集めているが、他の紛争も深刻化している。インド太平洋で同様の暴力行為がエスカレートするとの恐れは主要な懸念事項だ。西側諸国は、覇権を追求する中国が同地域で軍事化を推し進めつつ、東アジアを自らの排他的な影響圏に引き込もうとする経済・外交政策を実施していることに深い疑念を抱いている。
サヘル地域の不安定な政治情勢も同様で、宗教的過激主義の蔓延が、社会的・政治的発展への努力を逆行させ、テロと闘ったり、移民を管理したりする能力を減じる恐れがある。
これらすべては、世界はより安定した予測可能な場所になろうとしていると、楽観的に考えられる状況とは言い難い。
しかし、ミュンヘン安全保障会議が取り上げたのは、覇権争いや資源獲得競争、攻撃的な国土拡大といった、従来からの安全保障上の脅威だけではない。気候変動、人工知能の発達、さらに、社会の安定を脅かし、近隣諸国との紛争の可能性を高めている、さまざまな理由による社会の倦怠感の高まりなどによって引き起こされる脅威の例も取り上げられた。
さらに、正式な議題には含まれていなかったが、トランプ大統領再選の可能性が会議にさらなる恐怖感を加えた。わずか1週間前に、NATOの国防費ガイドラインを満たさない加盟国に対して、ロシアが「やりたい放題する」よう促すとのトランプ大統領の暴言は、事実上、集団防衛というNATOの核となるコミットメントの放棄を意味するもので、他の加盟国からは、まったくの無知と狂気に基づく感情の暴発と受け止められた。
実のところ、多くのNATO加盟国が持つ、国内総生産の2パーセントという目標を達成するために国防支出を増やす必要があるという認識はすでに現実となりつつあり、トランプ氏よりも、むしろプーチン大統領の行動と関係がある。この基準は、米国とNATOの関係でむきになって争うとトランプ氏が決めるよりもずっと前に設定されたもので、加盟国31カ国のうち18カ国はすでに目標を達成しているのだ。
加盟国へのいじめ戦術で知られる不安定なトランプ氏が来年1月にホワイトハウスに返り咲くかもしれないという考えは、アメリカのNATO同盟国に本物の恐怖を植え付けている。結局のところ、トランプ氏は「相互に関わり交流する。説教をたれたり無視したりしない」というミュンヘン・ルールには従わない人物なのだ。
ミュンヘン会議の出席者たちが発した明確なメッセージがあったとすれば、それは世界が直面している課題の大きさ、安定に対する脅威の源、そして、それらを少なくとも緩和しようする試みの指針はどのようなものであるべきか、ということだった。世界は新たな「Zeitenwende(時代の転換点)」に直面しており、軍事競争が激化し、それに伴って軍事費が増大し、すでに疲弊している経済にさらなる負担を強いている。
これまでのところ失敗してきたが、この問題を実行可能な戦略へと転換させることは、紛争や摩擦よりも協調や協力を好む、考え方の似た国々にかかっている。

 

●ウクライナ戦死者、3万1000人 ゼレンスキー大統領 2/26
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は25日、ロシア軍との戦闘に伴うウクライナ軍の戦死者は3万1000人に上ると明らかにした。2年に及ぶロシアとの戦争で、自国軍の損失公表は異例。
ゼレンスキー氏は首都キーウでの記者会見で、「この戦争で3万1000人のウクライナ兵が命を落とした。(ウラジーミル・)プーチン(ロシア大統領、Vladimir Putin)やうそつきの取り巻きが言っているような30万人や15万人といった人数ではない」と強調。「しかし、犠牲になった一人ひとりがわれわれにとっては大きな損失だ」と述べた。
ロシアのセルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu)国防相は昨年12月、ウクライナ軍の死傷者は38万3000人と指摘していた。
一方、ゼレンスキー氏は「(米)議会には希望がある。必ず良い結果が出ると確信している」と語り、約600億ドル(約9兆円)のウクライナ支援を含む予算案はいずれ承認されるだろうとの見方を示した。
米国からの軍事支援が滞っている影響もあり、ウクライナ軍はここ数週間、深刻な弾薬不足に直面している。
●「米支援なければ死者数百万人に」 ゼレンスキー氏が危機感 2/26
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、CNNとのインタビューで、米国からの追加軍事支援がなければ国内で数百万人が死亡するとの危機感を表明した。
米下院でウクライナ支援を含む予算案の審議が停滞するなか、共和党のバンス上院議員が「ウクライナに支援が届いても戦争の結果は変わらない」と述べたことについての質問に答えた。
ゼレンスキー氏は、バンス氏が現状を理解しているのかどうか疑問だと述べ、実際に前線の状況を見て国民と話せば、今後の死者は数百万人に上ることが分かるはずだと主張。バンス氏が理解できないのは、自国で戦争が起きているわけではないからだと批判した。
ゼレンスキー氏はこれに先立ち、首都キーウでの演説で、ロシアによる侵攻開始からの2年間で戦死したウクライナ兵は3万1000人に上っていることを認めた。
ロシアのプーチン大統領がウクライナ側の戦死者を「30万人」「15万人」と言っているのはうそだとしたうえで、ウクライナにとっては甚大な損失だと強調した。
CNNは人数を独自に確認できていない。
ウクライナ当局はこれまで、具体的な戦死者数を積極的に公表してこなかった。
ロシアの侵攻から4カ月後の2022年6月に当時の国防相が死者「数万人」との見方を示し、同8月には総司令官が兵士9000人を失ったと発表していた。米当局は、ウクライナ兵7万人が死亡、14万人が負傷したと推定している。
一方、昨年12月に明らかになった米情報機関の見解によると、ロシア側は現役の地上兵力のうち87%を失ったとみられる。
●ロシア当局、ナワリヌイ氏の遺体を母親に引き渡し…葬儀は公開されるか 2/26
獄中で謎の死を遂げたロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の遺体が死亡から9日後に家族に引き渡された。ロシア当局が遺体引渡要求を受け入れた背景を巡ってさまざまな解釈が出てくる中で、葬儀を機にロシア大統領選挙(来月15〜17日)前に反政府運動が起きるのではないか関心が集まっている。
24日(現地時間)、ナワリヌイ氏側の報道官キラ・ヤルミシ氏はソーシャルメディアのX(旧ツイッター)に「アレクセイの遺体が彼の母親(リュドミラさん)に引き渡された」とし「我々とともにこれ(死体引き渡し)を求めてくれたすべての方々に非常に感謝する」と明らかにした。
あわせて「まだリュドミラは(ナワリヌイ氏が死亡した監獄付近のシベリアの村)サレハルトにいる。葬儀はまだ開かれていない」とし「家族が望み、ナワリヌイがそれなりの待遇を受けるべき形の葬儀を当局が邪魔するかどうかは分からない。情報が出てき次第、明らかにする」と付け加えた。
前日リュドミラさんはロシア当局が「密葬」を強要してこれに同意しなければ息子の死体に何かすると脅迫したと暴露した。ナワリヌイ氏が設立した反腐敗財団のイワン・ジダーノフ代表によると、ロシア当局の遺体引渡条件には「群衆が集まらないように家族内で葬儀を行い、遺体を指定された飛行機でモスクワに移送して指定された墓地に埋めなければならない」という内容などが含まれた。
独立的解剖検査の実施はあるか
遺体の引き渡されたナワリヌイ氏の家族が葬式をどんな形で行うのか、葬式前に独立的な解剖検査を実施するのかはまだ知らされていない。ヤルミシ氏は死亡診断書に「自然死」と記されていると伝えていた。
外信は、当局の遺体引渡決定を巡ってさまざまな解釈を出した。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は「ナワリヌイのチームが数日間ソーシャルメディアキャンペーンを行った末に、ロシア当局が一歩後退したことを示唆している」と評した。
これに先立ち、ナワリヌイ氏の妻ユリアさんはプーチン大統領がナワリヌイ氏の母親に密葬を強要してプーチンが告白する正教会キリスト教の価値を傷つけたと非難するYouTube動画を公開した。これまでプーチン大統領は自ら西欧価値観の侵入から信仰と国家を守る篤い正教会キリスト教徒というイメージを構築していた。
「プーチン、キリスト教の価値毀損」攻撃効果?
CNNなど外信によると、ナワリヌイ氏が死亡して9日経過した日は正教会キリスト教の伝統により故人のための祈祷を捧げる日だ。これに先立ち、ナワリヌイ氏の母親はロシアの伝統によりモスクワに行って公開告別礼拝を行い、野党要人を含む著名なロシア人が安置されているトロエクロフスコエ共同墓地で葬儀を行うことが自身の願いだと明らかにしたことがある。
実際の遺体引渡の決定が下される直前までロシア全域では正教会に集まってナワリヌイ氏を賛えて公共記念物に花を捧げたり1人デモを行う様子が目撃された。8万2000人余りは遺体引渡請願書に署名した。
外信は、リュドミラさんが1週間以上シベリア地域に留まって遺体引き渡しを主張しバレエスターであるミハイル・バリシニコフ氏など著名なロシア人が当局に遺体引き渡しを求める動画を公開したほか、西側国家がナワリヌイ氏の死とウクライナ侵攻2年を迎えてロシアにより多くの制裁を加えたことも背景に挙げた。ワシントン・ポスト(WP)は「(遺体引渡決定は)ロシア官僚集団に対抗して個人が珍しく勝利したこと」としながら「公開的な対立状況がクレムリン宮(ロシア大統領府)にどれくらい大きな被害をもたらすのかを示している」と分析した。
プリゴジン氏の葬式は非公開、ナワリヌイ氏は
今はナワリヌイ氏の葬儀がどのような形で行われるかに視線が集まっている。
NYTは「ナワリヌイ氏の遺体を巡る紛争はモスクワでの公開葬式が(反政府)デモの中心となることに対するクレムリンの恐れを反映している」とし、8月に反乱を主導してモスクワに進撃し、飛行機墜落事故で死亡した傭兵指導者エフゲニー・プリゴジン氏の葬儀が非公開で行われたことを取り上げた。続いて「ナワリヌイ氏の家族と補佐陣は“静かな葬儀”を受け入れないと宣言した」とし「野党指導者の葬式を、ロシア内で珍しい反対意志を表明することで変えようと努力するという信号」とした。
英紙ガーディアンも「クレムリン宮は来月の大統領選挙を控えてナワリヌイ氏の葬式が野党指導者に対する公開的な支持の表示に変質することを防ぐために多くの努力を傾けているとみられる」と指摘した。
●“ナワリヌイ氏 死因は血栓によるもの” ウクライナ情報当局 2/26
ウクライナ国防省の情報部門のトップは、ロシアの刑務所で死亡した反体制派の指導者、ナワリヌイ氏の死因について、血栓と呼ばれる血の塊によるものだとする見方を示しました。
殺害されたことが直接の原因だとする見方を否定したものですが、欧米側は、プーチン大統領に責任があるとして非難を強めています。
ウクライナ国防省の情報部門のトップ、ブダノフ情報総局長は25日、記者団に対し、ロシアの刑務所で今月、死亡した反体制派の指導者、ナワリヌイ氏の死因について「がっかりさせるかもしれないが、われわれが知っていることは彼が血栓で死亡したということだ。確認されている」と述べました。
ウクライナの情報当局としては、ナワリヌイ氏の死亡は血栓と呼ばれる血の塊によるもので、何者かに殺害されたことが直接の原因だとする見方を否定しました。
ただ、G7=主要7か国は24日に発表した首脳声明で死に至るまでの状況を明らかにするようロシアに求めるなど、欧米側は、プーチン大統領に責任があるとして非難を強めています。
一方、ブダノフ情報総局長は25日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミアとロシアをつなぐ橋について「落ちるだろう」と述べ、3月で併合から10年となるなか、ウクライナは、ロシアが併合の象徴とする橋への攻撃を強めていく姿勢を示しました。
●中国もロシアもトランプ前大統領を「いいカモ」と見なしている ──  2/26
トランプ政権時代に大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏は、アメリカのライバル国はトランプ前大統領を「いいカモ」と見なしていると語った。
中国もロシアも、トランプ前大統領が11月の大統領選で勝利すれば喜ぶだろうとボルトン氏は話した。
ボルトン氏は、トランプ前大統領は今月、すでにロシアのプーチン大統領の策略の1つにはまったとMSNBCに語った。
トランプ政権時代に大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏は、トランプ前大統領の"世界の舞台におけるポテンシャル"を酷評し、中国もロシアも前大統領が再選を果たせばアメリカを容易に利用できると考えていると指摘した。
「わたしの頭の中にある唯一の疑問は、トランプが再選を果たした場合、ロシアと中国、どちらがより盛大に祝うかということだ」とボルトン氏は2月18日に放送されたMSNBCのインタビューで語った。
ロシアのプーチン大統領が今月初め、「より予測しやすい」バイデン大統領がホワイトハウスにいる方が好ましいと報道陣に語った際に、トランプ前大統領はプーチン大統領の策略にはまったとボルトン氏は考えているという。
「これはトランプに『あれはわたしへの賛辞だと思った』と言う機会 ── 愚かにも彼はそれを利用した ── を与えるための明らかな情報操作だ」とボルトン氏は話した。
2月15日にサウスカロライナ州で開かれた集会で、トランプ前大統領はプーチン大統領の発言に飛びつき、それを演説の要点にした。
「彼はトランプよりもバイデンの方が大統領に好ましいと言った」と前大統領は語った。
「これは褒め言葉だ」
ボルトン氏は、プーチン大統領も中国の習近平国家主席も、トランプ前大統領を操りやすい「いいカモ」と見なしていると言う。
「トランプが再選を果たせば、ロシアが大いに喜ぶことは間違いない。プーチンは彼のことをいいカモだと考えているからだ」
同氏は、スタッフが同行したトランプ前大統領とプーチン大統領との会談を振り返り、通訳から2人がシリアでの紛争について話し合ったと聞いたと語った。
「プーチンがほとんど話をした。なので、わたしはあれを1つの勝利と考えている」とボルトン氏は話した。
「トランプがプーチンに実際に何か言っている時間は少ない方が良い」
トランプ前大統領は、2016年の大統領選では"中国に対する強気な発言"で選挙戦を戦い、大統領就任後は中国製品に関税をかけた。また、複数の企業について、知的財産を盗んでいる、安全保障上の懸念があるなどとしてブラックリストに載せた ── このスタンスはバイデン政権下でも続いている。
2024年11月の大統領選に向けては、引き続き中国を脅し、自分が大統領になれば全ての中国製品に60%の関税を課すとしている。
プーチン大統領との関係については、ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻した後ですら、トランプ前大統領はプーチン大統領を頻繁に称賛していると批判されることも少なくない。
ボルトン氏はまた、トランプ前大統領がすでに2つの訴訟で合わせて約4億3800万ドル(約657億円)の支払いを命じられていることを考えれば、前大統領は外国勢力から利用されやすくなる可能性もあると、2月18日に放送されたインタビューで語っている。
「これは彼が支払わなければならない金で、現実を受け入れるべきだ。ドナルド・トランプが最も気にかけているのはドナルド・トランプ… そしてドナルド・トランプの金だ」とボルトン氏は指摘した。
2018年4月から2019年9月までトランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務めたボルトン氏だが、前大統領を「毒」と呼び、世界の指導者たちは前大統領を「笑い物」と見ていると発言するなど、今ではトランプ前大統領を声高に非難する人物の1人だ。
Business Insiderはトランプ前大統領の広報担当にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
●ロシア大統領選 「プーチン支持率8割」は真実か? ロシア人の「本音」 2/26
ロシアのウクライナ侵攻が3年目に突入する。欧米諸国のウクライナへの支援疲れが鮮明になる一方、ロシア側も30万人超の死傷者を出し、戦況は膠着状態に陥った。
長期間に及ぶ戦争を続けられるかは、いずれの側も国民の意思がカギとなる。独裁的な手法で国を統治するプーチン政権であっても、国民の支持がなければ戦争継続は容易ではなく、ロシア国民が何を考えるか≠ヘ、ウクライナ侵攻の趨勢を左右する重要な要素の一つとなる。
その意味において、3月15〜17日に行われるロシア大統領選は、極めて重要な意義を持つ。有力な反体制派への弾圧が行われ、プーチン大統領の圧勝が確実視された「出来レース」ではあるが、それでも国民は自らの投票を通じ、政権の行動に加担≠キることになる。仮にウクライナ侵攻を批判的に思っていても、プーチン氏に1票を投じることでその責任の一端を担うことになり、ロシア国民はいわば「ルビコン」を渡らされることになる。
ロシアの独立系の調査機関「レバダ・センター」によれば、ウクライナ侵攻開始以降、プーチン氏はほぼ8割の支持率を維持している。ウクライナ侵攻に対しても、2023年10月時点で76%が「支持」と答え、特に55歳以上の年齢層では82%に上る。
なぜ、プーチン氏の行動は中高年層から圧倒的な支持を受けるのか。背景にあるのが、ソ連崩壊後のロシア社会、経済での未曽有の混乱の記憶だ。
ソ連崩壊後の急進的な市場経済への移行により、エネルギー関係などごく一部を除く多くのロシアの産業は立ち行かなくなり、ハイパーインフレで通貨ルーブルは紙くず同然となった。年金に頼っていた高齢者らの生活は崩壊した。1990年代にロシアに語学留学をしていた筆者も、真冬の極寒のモスクワの路上に立ち尽くしながら、必死に日用品を売る老人たちや、道端で息絶えている人の姿を何度も見た。
そのような苦しい時代の記憶を持つ中高年層のロシア人の多くは、強権的であっても、その混乱から脱した2000年以降のプーチン氏による統治を支持する。
ウクライナ侵攻開始後の22年5月にモスクワを訪れた筆者に対し、高齢の市民らはこう口々に訴えた。
「ウクライナは、第二次世界大戦が終わった直後から、ずっとナチスだったのです」
「私は戦争に反対で、プーチン大統領を支持している。そして、プーチン大統領は、戦争に反対している!」
もちろん、このような荒唐無稽な声が全てではなかった。だが、30代前後の若者らの多くは、街中で「ウクライナ情勢についてどう思いますか」と問いかけても、「ノーコメントです」「その問いには何も答えたくない」と言って、足早に立ち去っていった。
一方、声にならない批判の声を上げる若者らもいた。
「今は何かを言うには、あまりにも危険すぎます。ロシアが経済制裁を受けるのは、当然のことでしょう」
「何のためにこんな戦争を始めたのか、普通の人≠ノはまったく理解ができない。自分の子供が、だまされて戦争に連れていかれたと訴えている、シベリアのお母さんの動画をユーチューブで見たよ」
一対一の、ごく限られた場面で、若者らは本音を語ってくれた。その声は切実であり、実際に戦場に駆り出される懸念を打ち明ける少年もいた。
覆い隠された本音<vーチンはロシアを救っていない
多くのロシア人が持つ、「プーチン大統領が1990年代の経済・社会混乱から、ロシアを救った」との考えはどれほど妥当なのか。
今年3月20日に発売される拙著『空爆と制裁』(ウェッジ)において筆者は、海外に在住する30〜40代のロシア人らに取材を重ね、彼らの声を紹介している。海外在住者でなければ、ある程度自由に意見を表明することが困難との考えからだった。
その一部を紹介したい。なお、彼らは全員、安全性などを考慮し、仮名であることをご理解いただきたい。
「90年代の混乱から、プーチン氏がロシアを救ったとの見方には同意しません。彼は単に、適切な時と場所にいただけで、一時的に多くの人々にとり、領土や政治、経済の安定を提供したに過ぎないからです。プーチン氏は逆に、2010年代半ばから、権力と影響力を維持するために、それまでロシアが国際政治や経済の分野で達成したものを打ち消し始めたと思います」(オクサナさん 30代、女性)
「2000年代は1990年代と比べ、犯罪率も低下したのは事実です。それでも、組織的な犯罪などが減ったかどうか定かではないです。ロシア社会の急激な変化の基盤をつくったのは、(旧ソ連の)ゴルバチョフ大統領でした」(アンドレイさん 40代、男性)
なぜ、実際に多くのロシア人がプーチン氏を支持しているのか。アンドレイさんはこう続けた。 
「最大の理由はメディアです。テレビから発せられるメッセージというのは、『あなたは、自分を(西側から)守らなくてはならない』というもの。だから、ウクライナに軍を送れというものなのです。誰もが、そのような内容に疑問を持っています。だけど、テレビを見る人々もまた、自分の人生を肯定したい。自分たちの人生を心地よいものにしたいし、自分たちがやっていることを、良いもの≠セと感じたい。とてもシンプルなんです」
そしてアンドレイさんは「ロシアでの生活は、全ては恐怖≠基盤に成り立っています」とも証言する。他の取材相手らも、ほぼ同様の指摘を行った。ある人は、「多くのロシア人にとって、住む町で唯一の職場である工場などで働き続けるためには、プーチン氏に投票しなければならない。さもないと、解雇されるか、給与を剝奪される危険にさらされる」と指摘した。
「その話題(ウクライナ侵攻)については、何も語らないようにしている」。モスクワ取材中に何度も聞いたそのような言葉の裏には、じっと息をひそめながら、嵐が過ぎ去ることを待とうとする、ソ連時代に培われた庶民の知恵があった。
ただ、政権は国民の懸念がどこにあるかということも、明確に把握しているように思われる。今回、欧米諸国が発動した経済制裁への対応を見れば、それが分かる。
ソ連が崩壊した要因はさまざまあるが、その一つは主要輸出産品である原油価格の低迷だった。今回の経済制裁も、当時と同様の経済的なパニックが引き起こされるのではないかと、多くの国民は懸念した。
しかし、2022年のロシアの国内総生産(GDP)成長率はマイナス2.1%にとどまり、23年の成長率はプラス2%超にV字回復したとみられている。主要因は、欧米諸国が手を引いたロシア産原油などを、中国やインドなどが大量に購入して買い支えたためだ。軍需品の生産など、短期的な成長をもたらす投資拡大も後押ししたとみられているが、表面的には経済回復が鮮明になっている。
欧米のブランド品が手に入りにくくなっても、第三国を迂回して輸入されたり、日本の自動車メーカーが生産をやめても、その工場でロシア企業が中国企業と共同生産を開始したりしている。多くのロシア人に「欧米に頼らなくても生活できる」という感覚が生まれていても不思議ではない。
さらに、ロシア経済は、質が悪くても耐久性が高いカラシニコフ自動小銃に例え「カラシニコフ経済」と呼ばれることがある。国民もまた、そのような経済環境に慣れている側面がある。
プーチンへの投票で連帯責任を負わされるロシア人
また、プーチン氏が仮に政権を去ったとしても、より民主的な大統領が現れる可能性は低い。
ソ連崩壊後の経済混乱を経験した、海外在住の50代のロシア人の知人は「ロシアには多くの民族がいるから、強権的な指導者でなければ国をまとめられない。国土がばらばらにならないよう、見張らなくてはならないんだ。(ソ連の民主化を進めた)ゴルバチョフは米国に買収されたんだ」と語った。強権統治を受け入れるロシア人のメンタリティーは、半ば諦めに近い。
ロシアが将来、どのような国になるかは見通せない。しかし、われわれは今回のウクライナ侵攻で改めて浮き彫りになった通り、ロシアは日本と大きく異なる資質を持っている国であるということを認識する必要がある。
3月の大統領選でプーチン氏に投票し、プーチン氏への明確な信任という「ルビコン」を越えた場合、ロシア国民は、このウクライナ侵攻に明確な連帯責任≠負う。それにより国民の間では、さらなる虚無感が広がる一方で、それを機に一層、戦争を積極的に支持する風潮が生まれる可能性も否定できない。そのようなロシアと対峙することは、さらなる困難が伴うが、われわれは彼らと向き合うための戦略の構築を決して諦めてはならない。
●ウクライナ戦争の予測 「ロシア勝利」との回答が「ウクライナ勝利」の2倍に 2/26
今年1月、シンクタンクのヨーロッパ外交評議会が12のEU加盟国で約1万7000人を対象に行った世論調査では、この戦争が「妥協による和解」で決着すると考える人が全ての国で最も多かった。
ただし、ロシアとウクライナのいずれかの勝利を予想した人の割合を比較すると、オランダやドイツ、スペインなど10カ国でロシア勝利の予測が優勢だった。
ドイツ人が予想する戦勝国
ロシア:19% / ウクライナ:10%
フランス人が予想する戦勝国
ロシア:17% / ウクライナ:9%
イタリア人が予想する戦勝国
ロシア:19% / ウクライナ:6%
●ローマ教皇、ウクライナ戦争の外交解決訴え 侵攻2年で講話 2/26
ローマ教皇フランシスコは25日、ロシアによるウクライナ侵攻から24日で2年となったことを受け、戦争の外交的解決を呼びかけ、それが公正で永続的な平和につながると述べた。
教皇は日曜の講話で「多くの犠牲者と負傷者が生まれ、破壊と苦痛が起こり、涙が流されている。この戦争は恐ろしく長期化し、終わりが見えない。地域を破壊するのみならず、憎悪と恐怖の世界的な波を引き起こすものだ」と述べた。
その上で「公正で永続的な平和の模索に向け、外交的解決の環境を整えるためにほんの少しの人間らしさを見いだしてほしい」と述べた。
主要7カ国(G7)首脳は24日、ウクライナとともにあると表明。西側の指導者が相次いでキーウ(キエフ)を訪問して連帯を示した。
●ウクライナ大統領、ロシアは5月下旬にも新たな攻勢 2/26
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、ロシア軍について、新たな攻勢を早ければ5月下旬もしくは初夏にも試みる可能性があるとの見通しを示した。
ゼレンスキー氏は首都キーウの記者会見で、ロシア軍が準備を進めるが、ウクライナ軍も戦いに備えると語った。ゼレンスキー氏は改めて、ロシアとの戦闘を継続するため、より多くの兵器を必要としていると訴えた。ウクライナ国防相によれば、約束された軍事支援の半分について到着が遅れており、ウクライナ軍の弾薬の在庫の減少をめぐり懸念が強まっている。
ゼレンスキー氏は、米国の政治状況が不透明なことから、ウクライナにとって今後数カ月間は難しい時期になると指摘。「米国の選挙が転換点になるだろう」と語った。
●ウクライナ戦争3年目突入 中国は現状をどう見ているか? 2/26
本日2月24日でロシアによるウクライナ侵攻は3年目を迎える。中国では決して「ウクライナ戦争」とは呼ばず、あくまでも「ウクライナ危機」とか「露ウ衝突」といった言葉を使う。それだけでもプーチンへの配慮が窺(うかが)われるが、2年経った今、中国はウクライナ危機をどう見ているのか、中国側の第一次情報をご紹介したい。
環球時報:西側諸国はウクライナ危機を「戦争ビジネス」だとみなしている
中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」(の「環球資訊広播」)は2月22日、<露ウ衝突2周年:西側は結局「危機をチャンスに変えた」>(※2)というタイトルでウクライナ危機を総括している。
   EU(欧州連合)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は最近、EUは近い将来、ロシアの凍結資産から得た収益をウクライナ支援に使用することを承認する計画であると述べた。 同氏は、凍結されたロシア資産収入が「ロシアのものではない」ことを保証するためにEUが関連法的手続きを開始したと説明した。
   これは尋常な窃盗ではない。イタリア銀行のパネッタ総裁は、ユーロ圏は自国通貨を世界的な紛争の武器として使用すべきではないと警告した。なぜなら、それは最終的にユーロ自体を弱体化させることになるからだという。
   西側諸国にとっては「利益」が最優先なのだ。実際、「ウクライナの戦後復興」は、西側諸国が長い間注目してきた魅力的な「ケーキ」だった。最新の例は、日本が開催したばかりの「日本・ウクライナ経済復興推進会議」だ。
   米国の投資大手ブラックロックは昨年、ウクライナに手数料を支払うことなく、ウクライナのエネルギーインフラ、送電網、農業投資、およびすべての国営企業を正式に買収することでウクライナと合意に達した。潜入調査記者が公開したビデオで、ブラックロックの従業員が「ウクライナ紛争はビジネスにとって、すごく良いことだ」と真実を語っている。
   戦争自体もビジネスなのだ。西側の政府と企業が共謀してウクライナ危機を引き起こし、「他人の危険」を「自分たちのチャンス」に変えていることは、多国籍の巨大企業が巨額の戦争利益を得ようとしていることからも明らかだ。 ロシアのエネルギーが西側諸国によって禁輸される中、エクソンモービル、シェブロン、シェル、トタルエナジーズなど西側のエネルギー大手はいずれも莫大な利益を上げている。
   最も大きな利益を上げているのは間違いなく西側の軍産複合体だ。西側諸国が危機を煽り続ける中、危機はさらにエスカレートしており、世界の武器市場をリードする米国の軍需産業大手5社は言うに及ばず、欧州の中小軍需産業企業もこの「ゴールドラッシュ」を逃してはいない。
   ただ、皮肉なことに、バイデン政権の新会計年度のウクライナへの資金提供は、共和党強硬派によって阻止されている。それも米大統領選挙のための政治的交渉の道具に過ぎない。軍産複合体の利益に合致する限り、米国議会がウクライナへの供給を完全に遮断するとは誰も信じていない。
   しかし米コロンビア大学のサックス教授は、ロシアメディアとの最近のインタビューで、米国が巨額の戦争利益を得ていることを批判し、「米国は一方では一極支配という覇権を維持するためにNATO拡大を推進し、他方では戦争自体がビジネスになっている」と述べた。
新華社フォーラム:2024年、露ウ衝突のゆくえを決める5大要素
今年1月15日、中国政府の通信社である新華社は第14回新華網「世界の議論」国際問題シンポジウムを開き、その中で中国政府のシンクタンクである中国社会科学院ロシア・東欧・中央アジア研究所の孫荘志所長が<2024年、この5つの要素が露ウ衝突のゆくえに影響を与える>(※3)という演題で講演をした。
冒頭で孫荘志は「米国と西側はウクライナ支援に疲れの兆しを見せているが、露ウ衝突は長引くだろう」、「西側諸国はメリット・ディメリットを天秤にかけ、紛争における自国の利益をどのように守るかを検討している」とした上で、2024年の露ウ紛争には注目すべき5つの要素があるとして、以下の5項目を挙げている。
第一:ロシアとアメリカの選挙。露ウ紛争自体、大国間の地政学的な駆け引きと米露の対立の結果によって引き起こされた悲劇であるため、米露の国内政治動向が露ウの展開傾向を決定する。
第二:西側諸国の支援。ウクライナは現在、財政支出のほぼ半分を西側が支払っているが、西側からの支援は今後どんどん少なくなるだろう。この場合、ウクライナは自国の造血機能を高める必要があるが、これは無力な選択である。
第三:和平交渉を説得し推進すること。しかし、実際上、紛争は和平交渉に適した雰囲気と環境を持っていないことを示している。
第四:黒海危機。2024年には黒海地域が露ウ間の争いの焦点となる。ゼレンスキーは、今年のウクライナの主要標的はクリミア半島と黒海だと述べた。
第五:対ロシア制裁。対露経済制裁はロシアにどのような打撃を与えることができるのか? 2023年のロシア経済の全体的なパフォーマンスは良好で、2024年も昨年のような比較的良好な成長傾向を維持できれば、ロシアは耐久力を維持できる。西側諸国はロシアを弱体化させ最大限に打撃を与えたいと考えているが、制裁に関する手持ちのカードはますます少なくなっている。(新華網シンポジウムからの抜粋は以上)
中国大陸のネットに溢れる民間の見解
中国では、党と政府が言えることには限りがあるので、案外ネットで削除されずに残っている民間の見解は、「中国の本心」を表していることがあり、疎かにできない。むしろ党や政府が言えないことを一個人の名前で発表させたりする場合さえあるくらいだ。ネットに溢れる情報の中からいくつか拾うと以下のようなものがある。
   この衝突はバイデンが仕掛けた。2008年に副大統領になってから息子ハンターに金儲けさせることとロシアをやっつけるという両方の目的に適っているウクライナに目を付け、マイダン革命を起こさせてウクライナを米国の傀儡政権に創り上げた。バイデンの私利私欲のために、なぜ世界がこんなに大きな犠牲を払わなきゃならないんだ?
   ノルドストリーム破壊はバイデンの指示であることを疑う者はいない。
   バイデンはウクライナ人の最後の一人が死ぬまで戦わせるつもりだ。その意味ではゼレンスキーも同じ。戦場の癒着状態を指摘した、国民に人気の高いザルジニー軍最高司令官を更迭してセルスキー(元陸軍総司令官)に置き換えたが、結局二人とも戦場はゼレンスキーが望む勝利に向けた突撃ができる状態でないと判断。そこでアウディーイウカ撤退をミュンヘン安全保障会議に合わせて決定したのは、これ以上の支援を躊躇する西側諸国に「支援しなかったら、こういうことになる」って脅しをかけたかったからさ。
   自国の軍事力では戦えず、他国の支援だけで戦う戦争って、「あり」か?ウクライナは米国の傀儡政権であるだけでなくウクライナ衝突は「米国の傀儡戦争」で、ウクライナはバイデンのための道具に過ぎない。ウクライナが勝つわけ、ないだろ?最初から負けてる。だから「敗登(中国読み:バイデン)」なのさ。
   西洋人には本気で、この現実が見えてないのか?
   わが中国が中立を守り続けているのは賢明な判断だ。
習近平の腹づもり
ウクライナ戦争が始まったと同時に、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』を出版し、「軍冷経熱」(軍事的には冷ややかに距離を置くが、経済的には熱く支援する)というキーワードを軸に習近平の対露戦略を論じたが、その軸は今も変わっていない。
変わったのは、ウクライナ戦争によって習近平とプーチンの仲が空前絶後に緊密になったことと、非米側諸国の中露側につく濃度が、予想以上に高まったことくらいだろう。その意味で「得をしているのは中国だ」と言っていいのではないだろうか。
昨年の2月24日に習近平が提案したウクライナ戦争に関する停戦案であるところの「和平案」は「停戦ラインを明示していない」ところに特徴がある。一方、ゼレンスキーが提案している停戦案は「領土の完全奪還とロシア兵の完全撤退」という「絶対的な停戦ラインを強く要求したもの」なので、現状でゼレンスキー案が通ることはありそうにない。ここは数千年に及ぶ戦火の歴史が積み上げてきた「中国の知恵」がものを言う。
おまけに習近平の「和平案」は2023年2月23日のコラム<プーチンと会った中国外交トップ王毅 こんなビビった顔は見たことがない>(※4)に書いたように、プーチンの納得を得ている。停戦は戦争をしている両国が納得しなければ成立しないし、戦局的にウクライナ劣勢となった今、ゼレンスキー案が受け入れられる可能性は限りなくゼロに近い。
もちろんプーチンがウクライナに侵攻したことは肯定しない。
しかし「民主の衣」を着て世界中に紛争を撒き散らしてきた(今やバイデンやヌーランドの根城と化している)NED(全米民主主義基金)の罪の重さから目を背けることはできない。その意味では「戦争屋・米国」の罪が「各国の国民」によって裁かれる時代に入ったのではないかと思う。
「もしトラ」が「ほぼトラ」に変わりつつある現在、「軍冷経熱」により「中立」を守った習近平に有利に働きそうだ。
トランプが、NEDを主導するネオコンでないために、トランプ政権時代に米国は戦争を起こしていないことにも注目すべきだろう。
●国連を再び訪れた韓国 「北朝鮮の弾薬、ウクライナ戦争を長期化させる」 2/26
「北朝鮮の軍需品やミサイルがウクライナで発見されています。これは民間人の苦痛を増すだけでなく、戦争を長期化させています」
趙兌烈(チョ・テヨル)長官が23日(現地時間)、ニューヨーク国連本部で「韓国は朝露軍事協力に深刻な懸念を示す」と明らかにした。 2016年11月から2019年10月までの約3年間、国連大使を歴任した趙長官は、約4年ぶりに国連を再び訪れ、安保理理事国として韓国の貢献意志を強調した。
趙長官は23日(現地時間)、米ニューヨークの国連本部でウクライナ戦争勃発2年目を迎えて開かれた安保理公式会議に出席し、「北朝鮮が(対ロシア支援に対する)見返りとして先端軍事技術を受けたり、安保理決議の上限線を超える油類を搬入したりしたことが確認されれば、これは北朝鮮の能力を強化し、韓半島(朝鮮半島)とその向こうを脅かすだろう」と述べた。
趙長官が軍事技術の移転、油類搬入の可能性を安保理で具体的に公開指摘したのは、それだけロシアが北朝鮮に提供する「反対給付」が懸念されるという意味に読まれる。これまで北朝鮮がロシアに砲弾と軍需品をコンテナに載せて送る情況は、衛星写真を通じて数回にわたって捉えられたが、ロシアが北朝鮮に提供することは具体的に確認されていない。
また、趙長官は「安保理が内在的に欠点があり、また最近限界を見せるためにこれを克服する効率的な戦略を立てる必要がある」とも述べた。ロシアや中国などの常任理事国の拒否権乱用で、ウクライナ戦争、北朝鮮の挑発にもまったく手を打てない安保理の現実を指摘した。
最近、安保理では北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射をはじめとする重大挑発にもかかわらず、マスコミ声明など最も低い段階の共同措置すら導き出せずにいる。北朝鮮がICBMを発射する場合、油類搬入を自動的に制限する「トリガー(引き金)」条項も中ロの反対で名ばかりのものになった。このような安保理の無力な現実を指摘した趙長官は「ロシアと北朝鮮が安保理で全会一致で採択された制裁を守ることを強く促す」と強調した。
趙長官は国連大使時代にも「制裁は唯一の外交手段であり、その効果は最後の瞬間に爆発する」(2017年9月)とし、着実に制裁の効用性を強調した。北朝鮮との対話局面が繰り広げられた時も「南北事業が本格化すれば制裁違反の余地がある」(2018年10月)とし、制裁の枠組みを超える水準の南北関係を警戒した。
趙長官は同日、アントニオ・グテーレス国連事務総長とも会談し、北朝鮮問題だけでなくウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争などの国際懸案について意見を交わした。また、今年から2年間、韓国が国連安保理の非常任理事国として活動することについて、「国際平和と安保を増進する」とし、「特に韓国が安保理議長国を務める6月には、北朝鮮問題、サイバー安保などの分野で貢献したい」と述べた。
グテーレス事務総長は「安保理が陣営間対立で主要懸案について合意に至っていない状況で、韓国の架け橋の役割が重要だ」と答えたと外交部は明らかにした。韓国が安保理理事国の活動を始めて以来、外交部長官が公式会議に出席したのは今回が初めてだ。
一方、経済・通商専門家に就任後、着実に経済安保の重要性を強調した趙長官は24日、米国ニューヨークでサムスン電子など米国に進出した韓国企業と懇談会を開いた。外交部によると、趙長官はこの席で「経済・安保融合時代の中で官民が『ワンチーム』となって対応することが重要だ」と強調した。趙長官は26日ワシントンに移動し、28日アントニー・ブリンケン米国務長官と初めての対面会談を行う。
●ロシア軍、戦域全体で主導権 米戦争研究所が分析 2/26
米シンクタンク、戦争研究所は24日の戦況分析で、ロシアが戦闘で失ったのとほぼ同規模の戦力を補填する態勢を整えており、前線での部隊の増強や交代を継続して実施できていると指摘した。ロシア軍は戦域全体で主導権を取り戻しているという。
戦争研究所は、現時点で、ウクライナに必要な量の兵器を供給できるのは米国だけとの見方を示し、米国の支援が止まれば、ウクライナにとって非常に深刻な状況に陥る可能性があるとした。
またウクライナ軍は25日、東部ドネツク州の要衝アブデーフカから撤退した部隊が数キロ西の集落まで後退し、防御態勢に入ったと明らかにした。ロシア軍の攻撃が激しくなっているという。
●ホワイトハウス、下院共和党にウクライナ支援の法案採決実施呼びかけ 2/26
ホワイトハウスのサリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は25日、下院共和党に対し、ウクライナ向け緊急支援のための法案の本会議採決を行うよう呼びかけた。また、ロシアの戦時経済が底堅さを示していることを認めた。
サリバン氏はNBCの番組「ミート・ザ・プレス」で、「ウクライナに武器を提供できるようにするための資金を必要としているが、われわれには資金がない。資金を提供できるのは議会だけで、それが現実だ」と話した。
その上で、ジョンソン下院議長(共和)に対し、政権が要請するウクライナ向け追加支援600億ドル(約9兆円)強の本会議採決を行うよう訴えた。
ウクライナ向け支援は、共和党の下院指導部が米国・メキシコ国境警備と移民政策でバイデン政権を譲歩に追い込もうとし、何カ月にもわたり膠着(こうちゃく)状態にある。ロシアによるウクライナでの戦争は3年目に入り、バイデン大統領を含む主要7カ国(G7)の首脳は24日のビデオ会議でウクライナのゼレンスキー大統領に支援継続を約束した。
米国は23日、ウクライナ侵攻後で最大となる対ロ追加制裁を発表した。しかし、米国やその同盟国による一連の制裁にもかかわらず、ロシアは戦時経済への移行で工業生産が活性化し、2023年は3年連続の成長を記録した。
サリバン氏は25日のFOXニュース・サンデーで、「戦争継続のための機構としてロシア経済は底堅さを維持しており、われわれは容赦なくそれを今後も切り崩す必要がある」と語った。
●ウクライナ兵の死「プーチンや周辺がうそをついた30万人でも15万人でもない」 2/26
ウクライナ国営通信によると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は25日、キーウで記者会見を行い、2022年2月に侵略を始めたロシア軍との戦闘で、「ウクライナ兵3万1000人が死亡した」と明らかにした。ウクライナはこれまで自軍の被害をほとんど発表しておらず、異例の発言だ。
ゼレンスキー氏は死者数について、「プーチン(露大統領)やその周辺がうそをついた30万人でも15万人でもない」と強調した。米メディアは昨年8月、複数の米政府高官の見方として、ウクライナ軍は7万人近くが死亡したと報じていた。
ウクライナ軍は戦闘の長期化で、兵士の補充が課題となっている。そうした推計よりも少ない死者数を公表することで、追加動員への国民の反発を和らげる狙いがありそうだ。負傷者数については、ロシア側を利するとして言及しなかった。
また、ゼレンスキー氏はロシア軍について「約18万人が死亡した」と主張し、ウクライナ軍の死者よりも圧倒的に多いと紹介した。ロシア軍の今後の動向としては「初夏か、5月の終わり」に攻勢を強めるとの見方も明らかにした。
「戦争がどういう形で終わるかは、今年(の戦い)にかかっている」とも訴え、兵器や弾薬不足に悩まされるウクライナ軍への支援継続を改めて訴えた。ウクライナが期待する米国による追加の軍事支援は、米議会下院で多数を占める野党共和党の反対で、法案成立の見通しが立っていない。
●ウクライナ侵攻が3年目突入、甚大な犠牲と細る国際的支援で疲弊 2/26
ロシアによるウクライナへの全面侵攻開始が24日、3年目に突入した。第2次世界大戦以降の欧州で最も致命的だと言われる紛争が勃発して以来、ウクライナはかつてないほど弱体化している。
人口4000万人のウクライナは、ロシアの戦車と兵士が首都キーウ(キエフ)方面に侵攻を開始した後、数日から数週間、規模ではるかに勝る敵を撃退し、完全な敗北を免れた。大方の予想を裏切った上、ロシア政府の見込んでいた最善のシナリオを覆した。
だが戦争から丸2年が経過し、国際的な援助や軍事物資の供給は細っている。ウクライナ軍による夏期の反転攻勢は不首尾に終わり、ロシア軍が攻勢を強める戦況に影響を及ぼしている。
ゼレンスキー大統領にはまだ多くの支援者がいる。24日には主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開催される予定で、ゼレンスキー氏も参加して安全保障、対ロシア制裁などの喫緊の問題について話し合う予定だ。
米国のバイデン大統領は、政治的対立により追加支援610億ドルの議会審議が難航しているとはいえ、信頼できる支持者であることに変わりはない。
2024年末を見据えると、米国の11月の選挙で大統領が交代し、ウクライナとロシアとの戦争に対する政策が変わり、今後の見通しが不透明になる可能性がある。
ゼレンスキー大統領は昨年11月に訪米した際、ウクライナ支援を声高に批判する共和党のトランプ前大統領に対し、ロシアがもたらした被害を実際に来て自分の目で確かめるよう呼びかけた。
古い戦争と新しい戦争
ウクライナの検事総長は23日に、過去2年間における12万2000件以上の戦争犯罪容疑の捜査を開始したと発表した。ロシア側は戦争犯罪を否定している。
侵攻開始当初の衝撃は徐々に薄れ、疲労へと変化している。2022年後半にみられた、ロシアによる勝利とウクライナの見事な反転攻勢は、塹壕戦のような激しい消耗戦へ移行していった。
ロシアは兵士を補充できる人口がはるかに多く、軍事予算も多いため、長期戦の方が有利に働く可能性がある。ただ、西側による経済制裁や中国への依存拡大に対処しなければならない政府にとって、代償は大きい。
ウクライナの立場はもっと不安定だ。村や町や都市は破壊され、軍は疲弊し、弾薬は不足。一方でロシアのミサイルや無人機による攻撃は毎日のように降り注いでいる。
ロシア軍は今年2月初め、東部ドネツク州の要衝アブデーフカを掌握。数カ月にわたる市街戦に終止符を打ち、この9か月間で最大の勝利を収めた。
だがゼレンスキー大統領は挑戦的な態度を崩さなかった。
「勝利が待っていると確信している」。同大統領は今週キーウで、外交官らに対し感情に訴える演説を行った。「特に、皆の団結と支援のおかげだ」
双方で数万人の兵士が死亡、数万人が負傷し、数千人のウクライナ市民が命を落とした。ロシア政府は民間人への攻撃を否定し、軍事的・戦略的な標的だけを狙っていると主張している。
高騰する軍事コスト
ウクライナの被害は甚大だ。
最近の世界銀行の調査によると、同国の経済再建には10年間で4860億ドルの費用がかかる見込み。200万戸の住宅が完全に破壊もしくは一部損壊し、600万人近くが海外に避難している。 もっと見る
戦争を継続するための資金と武器の調達に加え、ゼレンスキー氏は最大50万人以上の追加動員を可能にする法案を議会に提出しようとしている。これが実現すれば、経済がまひ状態に陥ると懸念するエコノミストもいる。
一方でロシアの財政は、経済制裁下でも底堅いことが示された。天然ガスの輸出は低迷しているものの、原油輸出はインドと中国の買い支えによって持ちこたえている。
2023年の国内総生産(GDP)は前年比3.6%増加したが、国内エコノミストの中には国防費の急増によるものであり、停滞や景気後退が迫っていると警告する向きもある。
3月の大統領選挙では、プーチン氏の勝利は揺るがないとの見方が多い。同氏の政治的パフォーマンスや、「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ侵攻への幅広い支持の中で、地滑り的勝利が見込まれている。
●ウクライナ軍の死者3万1000人と発表…ゼレンスキー大統領 2/26
ロシアによる軍事侵攻が3年目に入ったのにあわせ、25日、ウクライナのゼレンスキー大統領が記者会見を開き、この2年間のウクライナ軍の死者が3万1000人にのぼると明らかにしました。
ゼレンスキー大統領「ウクライナ軍の死者は3万1000人。負傷者もいる。しかし負傷者数は言えない。何人が戦場から離脱したかをロシアが知ることになるからだ。私には言えない」
ゼレンスキー大統領は25日、この2年で軍の死者数が3万人を超えたと明らかにし、非常に大きな犠牲が出ていると述べました。
一方で、ロシア側の死者はウクライナ軍を大きく上回る18万人にのぼると主張しました。
また、早ければ5月末頃から、ロシアがさらに攻勢を強めてくる可能性があるとしました。これに対し、ウクライナ側にも新たな反転攻勢の計画があると述べました。ただ、去年の反転攻勢の失敗がロシア側への情報漏えいにあったことから、詳細は明らかにしないとしています。
会見でゼレンスキー大統領は、各国に対し、あらためて迅速な支援の重要性を訴えるとともに、国民には徹底抗戦の姿勢を示し団結を求めました。
●支援継続すべき7割「支援疲れ」の指摘の中「西側一致の支援」必要34% 2/26
ロシアによるウクライナ侵攻開始から2月24日で2年となった。
ウクライナは反転攻勢を続けるが、領土奪還は進まず、ロシア軍によるウクライナ領の実行支配が続く。ウクライナ軍は弾薬不足の状況にあり、軍事支援の遅れが戦況に影響しているとされる。
最大の支援国の一つアメリカでは追加支援に必要な予算案をめぐる議会の審議が暗礁に乗り上げるなど欧米各国の「支援疲れ」が指摘される。
ウクライナ支援「継続すべき」7割
FNN世論調査では、今後のウクライナ支援のあり方について聞いたところ「西側諸国が一致して支援を継続すべき」が34.3%、「各国の判断で、支援を継続するべき」37.6%となり、支援を継続するべきとの意見が7割を超え、その中でも34%は「西側諸国が一致する」必要があるとの意見だった。
【今後のウクライナ支援】
西側諸国が一致して支援を継続するべき   34.3%
各国判断で、支援を継続するべき      37.6%
各国判断で、支援を縮小しても良い     16.9%
西側諸国が一致して支援を縮小しても良い   5.4% 

日本のウクライナ支援については、直近では2月19日、東京都内で「日・ウクライナ経済復興推進会議」が開かれ、ウクライナの経済復興を官民で支援する方針を示した。岸田首相は「未来への投資だ」と掲げ、地雷除去・不発弾対策への158億円の無償資金協力やインフラ復旧・復興への協力など7分野の重点支援をまとめた。
一方で、戦闘が続くウクライナの防衛への支援については、日本は侵攻が始まった翌月の2022年3月に、防弾チョッキ、ヘルメット、その後は自衛隊の高機動車など100台規模での支援をおこなったほか、発電機や、毛布、非常食など“日本ならでは”の人道支援・殺傷能力の無い装備の支援を行った。
ただ、殺傷能力のある武器の提供は、防衛装備移転三原則で認められていないため、欧米のような弾薬、戦車の提供は行っていない。
こうした中、2023年の12月に政府は防衛装備移転三原則の運用指針を改定し、他国のライセンスで日本国内で生産する「ライセンス生産武器」について、ライセンス元の国に輸出することを可能とした。具体例では、米企業のライセンスで生産する地対空誘導弾「パトリオット・ミサイル」をアメリカに輸出することが可能となった。これに伴い、アメリカがウクライナに提供する米製の「パトリオット・ミサイル」の在庫補充を日本が担うことで、間接的に、ウクライナへのミサイル支援を支えることができるようになった。
さらに、政府・自民党内にはウクライナの対空防衛支援として第三国への武器輸出の解禁を検討する動きがあるが、与党公明党などから慎重意見もあり実現に至っていない。
日本からの防衛装備品の輸出について 7割が「条件次第で輸出を容認」
世論調査で、日本の防衛装備品の輸出方針について聞いたところ、「輸出は認めるべきではない」27.8%、「同盟国や友好国に限り輸出を認める」48.7%、「紛争が起きている国以外は輸出を認めて良い」9.5%、「紛争が起きている国を含めて輸出を認めて良い」7.7%となった。まったく輸出を認めるべきではない、との考えが3割、条件次第で武器輸出を容認する意見が7割弱となった。その条件としては、同盟国・友好国に限るというものが最も多い結果となった。
自民党支持層に限ってみてみると、輸出を認めるべきではないが2割、条件次第で輸出を容認する意見は7割5分となり、なかでもウクライナなど紛争が起きている国を含めて輸出を容認する意見は1割を超えた。また、公明党支持層に聞くと輸出を認めるべきではないとの意見は、17%、同盟国以外への輸出についは「紛争が起きている国以外は輸出を認めて良い」が15.5%、「紛争起きている国を含めて輸出を認めて良い」が18.8%と支持政党層別では、公明党支持層が装備品の他国への輸出について許容する立場を自民党層以上に強く示した。
【日本の防衛装備品の他国の輸出の方針について】
                      全体   自民支持層     公明支持層
輸出は認めるべきではない 27.8%   20.5%     16.9%
同盟国・友好国に限る   48.7%   52.7%     39.2%
紛争国以外は認めて良い   9.5%    9.7%     15.5%
紛争国を含めて認めて良い  7.7%    11.6%     18.8%

現在、自民・公明間では、日本・イギリス・イタリアで共同開発する次期戦闘機を中心に第三国への輸出解禁をめぐり協議が行われている。
前述の防衛装備品全般の第三国への輸出について、公明党支持層が自民党支持層より許容していることを示した調査結果とは違い、国会の場で公明党は、殺傷能力がある、中でも次期戦闘機の第三国への輸出解禁には慎重な立場で、自民党との協議は先行きが見えていない。
東アジアの有事に備えて
日本の防衛装備品の輸出を推進する自民党の考えは、ウクライナなど侵攻を受ける国への支援を実現させたいと言うことがある。単に侵攻を受ける国を助けたいというものではない。今後厳しさをます東アジアの安全保障情勢の中で、日米同盟を前提として、単独で防衛が難しい日本として、東アジアでの有事の際に、西側諸国からの支援を受ける防衛の基盤となる関係作りにつながるというのが理由の一つだ。
一方で、殺傷能力のある防衛装備の完成品を西側諸国と同様に、第三国に輸出することについて公明党からは「日本の安全保障にとってどういう意味があるのか」「いったん輸出を容認すると歯止めがきかなくなる」として慎重な立場を示している。
●ロシア政府、アブデーフカとドネツクで軍が攻勢強化と発表 2/26
丸2年を迎えたロシアによるウクライナ侵攻を巡り、ロシア政府は25日、プーチン大統領が軍にウクライナへの一層の進撃を命じたことを受けて、東部の要衝アブデーフカとドネツクでロシア軍が一段と攻勢を強めたと発表した。
ウクライナ側はドネツク地域でのロシア軍の進撃を報じていない。
ロシア国防省によると、ロシア軍は東部バフムトのクリシチウカなどの村近くでウクライナ軍を撃退した。ロシア側の報道によると、ロシア軍はアブデーフカ近郊でも優勢だという。
ロシア国防省は、ロシア軍がこの地域でウクライナ軍による7回の反撃を跳ね除け、ウクライナのドローン(無人機)77機を破壊したと発表した。
一方ウクライナ軍の発表によると、ウクライナ軍はアブデーフカ近郊で18回の攻撃を撃退。バフムト近郊でロシア軍の攻撃5回を食い止めた。
ロイターはこれまでのところ、ウクライナ側とロシア側の戦況に関する発表について事実の確認ができていない。
●イタリア・カナダ、ウクライナと安全保障協定 支援継続表明 2/26
イタリアのメローニ首相とカナダのトルドー首相は24日、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、それぞれ安全保障協定に署名した。
10年間の安全保障協定はウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟するまで安全を支援するのが狙いで、英国、ドイツ、フランス、デンマークが既に締結している。
メローニ氏は記者会見で「ウクライナ国民の自衛の権利を支援し続ける」とし、「これは必然的に軍事支援を意味する。『平和』を『降伏』と混同するのは偽善的で、われわれはそうした姿勢を決して共有しない」と述べた。
トルドー氏はロシアによる全面侵攻から2年が経ってもカナダのウクライナ支持は揺るぎないと強調。軍事・人道面を含めさらなる支援を約束したと語った。
カナダは2024年に30億加ドル(22億2000万米ドル)超の財政・軍事支援を提供する。
メローニ氏は具体的な支援規模などは明らかにしなかった。 

 

●トランプ氏はプーチン氏を理解していない、「戦ったことないから」 2/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日までに、米国のトランプ前大統領がウクライナ情勢でロシアを支持すれば、米国人に敵対することになると警告した。ロシアによるウクライナへの全面侵攻は3年目に入った。
ゼレンスキー氏はウクライナ首都キーウでCNNの取材に答えた。ゼレンスキー氏は、トランプ氏がロシアのプーチン大統領の側にいることが理解できないとし、「信じられない」と語った。
トランプ氏は、サウスカロライナ州で行われた共和党予備選で勝利し、共和党からの大統領候補指名を勝ち取ろうとしている。トランプ氏は以前、ロシアとウクライナのどちらに勝利してほしいのかについて言及することを避けたことがある。トランプ氏はまた、自身が大統領に選出されれば、1日で戦争を終結させることができると主張している。
ゼレンスキー氏は、トランプ氏がプーチン氏の目標を理解していないと思うと述べた。
ゼレンスキー氏は「ドナルド・トランプ氏がプーチン氏を知らないと思う」と述べた。ゼレンスキー氏は、両者が会談したことがあるのは知っているとしたうえで、「しかし、トランプ氏はプーチン氏と戦ったことがない。米軍はロシア軍と戦ったことがない、一度も。わたしのほうが、より理解している」と語った。
ゼレンスキー氏は、プーチン氏が決して戦争をやめないことをトランプ氏が理解していないと指摘した。
今回のインタビューは、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから丸2年となる週末に行われた。ウクライナ政府はさまざまな方面で苦境に直面している。
ウクライナ軍は今月に入り、およそ10年にわたって保持していた東部の要衝アウジーイウカから部隊を撤退させた。ウクライナにとって大きな敗北だった。
ゼレンスキー氏やウクライナ当局者、西側諸国の当局者によれば、アウジーイウカを失ったのは防衛に必要な十分な弾薬がなかったためだ。
米議会下院では、バイデン大統領が進めるウクライナのための600億ドル(約9兆円)規模の軍事支援について協議が進んでいない。
ゼレンスキー氏は、米国からの支援がなければ、戦場での新たな領土奪還に苦慮するだけでなく、今年ウクライナの防衛を維持することも難しくなるとの認識を示した。
ゼレンスキー氏は、新たに軍総司令官に起用されたオレクサンドル・シルスキー氏が次に何をするかの計画で2つのバージョンを練っていると説明。米国からの支援が得られればロシアに対する反攻を始めることができるが、支援が得られなければ、防衛だけに集中しなければならなくなると述べた。
●プーチン氏 NATO拡大に対抗 2/27
ロシアのプーチン大統領は26日、ロシア西部を管轄し、北欧やウクライナ方面の対応に当たる西部軍管区について、機能強化を図るため「モスクワ軍管区」と「レニングラード軍管区」に分割する大統領令に署名した。ショイグ国防相が2022年末、軍改革として提案していた。
北大西洋条約機構(NATO)北方拡大への対抗措置。昨年4月のフィンランドに続き、26日にハンガリー議会の批准によりスウェーデンの加盟が決定したばかりで、大統領令はこれに合わせた可能性がある。
●欧米の懸念「ロシアが敗北した場合」 2/27
欧米諸国はウクライナに武器を供与してきたが、戦闘機やロシア領土まで届くミサイルの供与は拒否してきた。それは北大西洋条約機構(NATO)がウクライナ戦争に介入し、NATOとロシアの戦争に発展することを恐れているからだといわれてきた。その説明には一理あるが、それ以上に欧米諸国が恐れていることがある。「ウクライナの敗北」以上に「ロシアの敗北」を恐れているのだ。
ロシア軍がウクライナに侵攻した直後、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシアとの戦争は単に我が国とロシアの戦争ではない。民主主義世界をロシアの侵攻から守るための戦争だ。ウクライナ軍は欧米諸国の安全のためにロシア軍と戦っているのだ」と主張し、欧米諸国に武器を提供するようにかなり強い口調で要求してきた。ここにきてウクライナから米戦闘機やドイツの空中発射巡航ミサイル「タウルス」の供与を求める声が強まってきている。
しかし、ロシア軍との戦闘が長期化し、消耗戦となってきた後、欧米諸国でウクライナ支援への結束が緩んできている。ゼレンスキー大統領は欧米諸国を可能な限り訪問し、国際会議に参加してウクライナ支援を訴えている。同大統領は欧米諸国の支援疲れが見られ出してきたことを感じてきたからだ。
問題は、その支援疲れは決して戦争の年月の結果だけではないことだ。プーチン大統領のロシア軍がウクライナ軍に敗北した場合、その後どのような展開が予想されるかというシナリオが現実味を帯びて差し迫ってきたのだ。プーチン大統領は敗北を甘受できないから、核兵器を導入するかもしれない。ポーランドやバルト3国に攻撃を始めるかもしれない、等々の悪夢が再び浮上してきたのだ。
ドイツ国営放送「ドイチェ・ヴェレ」の東欧専門家は25日、討論番組で、「欧米諸国はウクライナの敗北以上にロシアの敗北を懸念し出している」と述べていた。すなわち、米国を含むNATO諸国はロシアがウクライナ戦争に敗れた場合どうなるかという懸念が、ウクライナ軍がロシア軍に敗北を喫した場合より深刻なテーマとなってきているのだ。
欧米諸国のウクライナへの武器供与がキーウが望むようにスムーズにいかないのは、第2次世界大戦後、西側諸国では軍需産業が武器の生産を縮小していることもあるが、それ以上にロシアがウクライナ軍との戦いで守勢に追い込まれ、敗北が回避できないという状況になった場合、モスクワが核兵器を導入する危険性が出てくるからだ。ウクライナ戦争敗北後のプーチン政権のその後の展開が読めないため、米国を含む西側諸国は恐れを感じ出してきたというわけだ。
一方、ウクライナの敗北の場合、NATOは対ロシア国境への防衛強化に乗り出し、防備を強化することになる。すなわち、西側にとって選択の問題になる。NATO加盟国の国境警備を一層強化するか、ロシアとの全面衝突の危険を甘受するかだ。ドイチェ・ヴェレによると、欧米諸国は前者に傾いてきているというわけだ。
ところで、ロシアのプーチン大統領が2022年2月24日、ウクライナに侵攻したが、その日を期して、欧米メディアは「ウクライナ戦争2年目」の総括を特集しているが、2年目は欧米諸国には当てはまるが、ウクライナ国民にとって今年は2014年から10年目にあたる年だ。欧米諸国にとって、ロシアの2022年2月24日のウクライナ侵攻はサプライズだったかもしれないが、プーチン大統領がクリミア半島の併合後はウクライナ東部・南部だけではなく、オデーサやキーウをも占領しようとしていることをウクライナ側は知っていた。戦いは2014年から続いてきているのだ。欧米メディアは「ウクライナ戦争2年目」ではなく、「ウクライナ戦争10年目」の特集を張るべきだったのだ。
第2次世界大戦後、70年以上の戦争のない平和の時を享受してきた欧州諸国では、軍事産業は縮小し、最新兵器の開発には投資してきたが、戦車や装甲車、弾薬やミサイルといった通常兵器の生産は限定されてきた。だから、ウクライナに武器を提供するといっても即大量に戦車やミサイルを生産できる体制はない。ウクライナと武器の生産で合意して、武器の大量生産に乗り出しても戦争がいつまで続くか不明のため、軍需産業に投資する企業は出てこない。例外は、米国だけだ。
ちなみに、ロシアは現在戦時経済体制を敷いている。国内総生産(GDP)比6%の国防費を支出している。一方、NATO加盟国は軍事費をGDP比2%を目標としている。
●眠らせない、懲罰房300日、100日連続でプーチン氏の演説聞かされる…ナワリヌイ氏のあまりに過酷な受刑生活 死因は最も「簡便」な病名 2/27
ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏が2月16日、収監先の北極圏の刑務所で、47歳で死亡した。当局から死因について詳細な説明はなく、さまざまな臆測が流れるが、刑務所での過酷な環境が同氏の健康を損ない命を脅かしていたとの指摘が相次ぐ。ロシアの受刑者の人権問題にも厳しい目が向けられている。(共同通信=太田清)
ウクライナ当局「死因は血栓症」
焦点となっているのはナワリヌイ氏の死因。同氏は2020年8月、シベリアのトムスクからモスクワに向かう機内で体調不良を訴え、その後、ドイツの病院に移送。検査の結果、旧ソ連が化学兵器として開発した神経剤「ノビチョク」を使用した毒殺未遂だったとの疑いが強まった。
このため、今回も暗殺だったのではとの見方もささやかれるが、国営メディア「ロシア・トゥデー」は死亡の直後、消息筋の話として死因は血栓症だと伝えた。当局はまた、刑務所を訪れた母親と弁護士に対して、死因は「突然死症候群」だと説明した。
しかし、受刑者やその家族を支援するために設立された団体「服役するルーシ」メンバーのイワン・イワノフ氏は、人権・汚職問題を中心としたニュースを伝えるサイト「タキエ・ジェラ(ロシア語で『そういうことだ』の意)」に対し、「司法解剖もしないのに、死因を血栓症と断定することはできない。血栓症は刑務所当局にとり、最も簡便な診断だ」と主張。
さらに、ロシアの刑務所・拘束施設を運営する連邦刑執行庁元職員で人権活動家のアンナ・カレトニコワ氏はフェイスブックに、同庁の医師が「死因としての血栓症は(そうではないと)証明するのが難しく、どのような死亡例にも適用できる、万能で便利な病名だ」と話したことを紹介した。
一方、ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は2月25日、具体的な情報源は明らかにしなかったものの、ナワリヌイ氏の死因は血栓によるもので、自然死だったと語った。ある程度裏付けられた情報だとしている。ウクライナメディア、ウクラインスカ・プラウダが伝えた。
嫌がらせ
ナワリヌイ氏やその弁護士の主張によると、収監された同氏は刑務所当局からさまざまな「嫌がらせ」を受けていた。
最初に収監されたモスクワ東方ウラジーミル州の刑務所では、「逃亡の恐れのある」受刑者とされ、守衛が毎夜、1時間おきに見回りに来て顔を懐中電灯で照らし、大声で房内にいることを確認するため眠ることができなくなった。
同氏は21年3月末、激しい背中の痛みと足の感覚のまひに襲われ、医師の受診を求めたが拒否されたためハンガーストライキを開始。健康状態は悪化し4月には、モスクワの医師ら30人超がナワリヌイ氏の受診を認めるよう求める公開書簡を発表。ようやく受診が実現した。
23年1月にも高熱と激しいせきに苦しみ、投薬や入院を求めたが拒否され、500人近い医師らがプーチン大統領に対する公開書簡で、適切な医療提供を訴えた。同氏は結局回復したが、体重を7キロ減らすなど衰弱した。
精神的な矯正措置も行われた。ナワリヌイ氏は23年7月、X(旧ツイッター)で、同年2月の議会でのプーチン大統領の演説を100日間連続強制的に聞かされたと語った。刑務所当局の目的は「社会に対する敬意ある態度を養成するため」だったという。
整然と実行された殺人
22年6月に同じウラジーミル州にある警備態勢がより厳しい刑務所に移送された後、懲罰房に入れられることが頻発した。ナワリヌイ氏の広報担当者キーラ・ヤルムイシさんによると、その回数は計27回に及び、死亡の2日前に命じられた16日間の最後の懲罰房入りが終われば、計308日となるはずだった。
ナワリヌイ氏側の主張によると、懲罰の対象となった「罪」はいずれも軽微なもので、これほどの回数の懲罰房入りの理由には当たらない。
例を挙げると、「上着のボタンを留めない」「刑務所職員にきちんと自己紹介をしない」「廊下を歩く際に腕を後ろに回す規則を守らない」「同房者に猥雑な言葉で話しかけた」などの理由で、最大16日間の懲罰房入りを命じられたという。
懲罰房は独房で十分な冷暖房もなく、特に昨年12月に移送された北極圏の刑務所では寒さが厳しかったことが想像できる。受刑者は睡眠以外は横になることを禁じられる。差し入れや面会、衣服など所持品の持ち込みは許されず、房外に出られるのは散歩のため1日1時間だけ。食事は1回10分間に制限される。「服役するルーシ」のイワノフ氏は「これは拷問に等しい」と批判する。
ロシアの人権団体「OVDインフォ」はナワリヌイ氏の死後、「ナワリヌイ氏の死亡は計画的に、整然と実行された殺人だ。劣悪な環境の刑務所で、彼を毒殺したり暴力行為で殺害したりする必要はなかった。単に(彼が死ぬのを)待つだけで良かった」との声明を発表した。
はびこる暴力
刑務所当局による受刑者に対する不当な措置はかねて問題となっていた。
ロシア大統領の人権問題諮問機関メンバーで人権活動家のエバ・メルカチョワ氏によると、最高検察庁は2022年、全国の刑務所で483件の懲罰房処分が不法と認められ、1893件の懲戒措置が無効とされたことを明らかにした。
同年中に刑務所職員が受刑者に「肉体的な力」を行使した例は3892回、催涙ガスや電気ショックなど「特殊材料」を使用した例は5482回に上り、うち207件が法令違反だったとされた。
受刑者の死亡数が多いことも指摘されている。ロシアメディアRBKは21年4月、スイスのローザンヌ大学が欧州評議会に対し行った、ロシアの刑務所に関する報告を伝えた。2019年にロシアの刑務所で死亡した受刑者は2420人で、受刑者1万人当たりの指数で見ると、同評議会加盟国の中央値を2倍近く上回っていた。
「服役するルーシ」は受刑者の死亡例の多くがストレスによる自殺に加え、結核やエイズなど刑務所内でまん延する疾病に対して十分な医療を受けられないことが原因であるとして、刑務所の環境改善を訴えている。

アレクセイ・ナワリヌイ氏 モスクワ州出身の反体制活動家。改革派野党ヤブロコの党員となり政治活動を開始。その後、反汚職闘争基金を立ち上げ、プーチン政権や与党「統一ロシア」の幹部らの不正蓄財疑惑などを独自調査で暴き、インターネット上で告発。違法デモを呼びかけたなどとして何度も逮捕された。21年1月、治療を受けたドイツから帰国時に空港で当局に拘束された。モスクワの裁判所は同年2月、過去の経済事件の有罪判決の執行猶予手続きに違反したとして実刑適用を決め、刑務所に収監された。23年8月には、過激派団体を創設した罪などで新たに懲役19年を言い渡された。
●ロシア特殊作戦部隊の攻撃能力強化へ、プーチン大統領が表明 2/27
ロシアのプーチン大統領は26日、特殊作戦部隊の機動力と攻撃能力を高め、「新世代の兵器」を装備すると表明し、軍強化に向け優先事項とする考えを示した。
27日の「特殊作戦部隊の日」を前に通信アプリ「テレグラム」で動画を公開した。
プーチン氏はウクライナでの「特別軍事作戦」で戦う兵士に感謝の意を表し、前線での戦いや急襲作戦など最も危険な任務を「誇りを持って遂行し、大胆に、有能に、果断に行動した」とたたえた。
ロシアメディアRBCによると、プーチン大統領はウクライナ南部クリミア半島の政府庁舎をロシア軍が占拠してから1周年に当たる2015年2月27日に、この日を「特殊作戦部隊の日」として祝日に制定。ロシアは政府庁舎占拠から間もなくしてクリミアを一方的に併合した。
●北欧方面のロシア軍強化=NATO拡大に対抗―プーチン大統領 2/27
ロシアのプーチン大統領は26日、ロシア西部を管轄し、北欧やウクライナ方面の対応に当たる西部軍管区について、機能強化を図るため「モスクワ軍管区」と「レニングラード軍管区」に分割する大統領令に署名した。ショイグ国防相が2022年末、軍改革として提案していた。
北大西洋条約機構(NATO)北方拡大への対抗措置。昨年4月のフィンランドに続き、26日にハンガリー議会の批准によりスウェーデンの加盟が決定したばかりで、大統領令はこれに合わせた可能性がある。
●ロシア軍 東部拠点に続き さらに西の集落も掌握 攻勢強める 2/27
ウクライナに侵攻するロシア軍は東部の拠点アウディーイウカに続いて、さらに西にある集落も掌握したと発表し、攻勢を強めているものとみられます。
ロシア国防省は26日、ウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカの西にある集落、ラストチキネを掌握したと発表しました。
ウクライナ軍もラストチキネからの撤退を認め、部隊の指揮を執るタルナフスキー司令官はSNSで「ロシア軍のさらなる前進を阻止するため防衛線を強化する」と強調しました。
ロシアは今月17日に激戦となっていた東部の拠点アウディーイウカの掌握を発表しましたが、その後も部隊を西に進め、攻勢を強めているものとみられます。
また、プーチン大統領は26日、ロシア軍の国内の管轄について新たに首都モスクワを含む「モスクワ軍管区」と、北西部の第2の都市サンクトペテルブルクを含む「レニングラード軍管区」を新設する大統領令に署名しました。
北欧のスウェーデンがフィンランドに続いてNATO=北大西洋条約機構に加盟することに対し、ロシア側は警戒を強めていて、対抗する動きとみられます。
一方、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは25日、アメリカのCIA=中央情報局が10年前から秘密裏にウクライナを支援してきたと複数の欧米やウクライナの関係者の話として伝えました。
ロシアの軍事侵攻後もCIAの職員がウクライナにとどまり、ロシアの攻撃計画や兵器などの情報を伝え、重要な役割を果たしたとしています。
また、アメリカでは与野党の対立で軍事支援の継続が不透明となっていますが、CIAのバーンズ長官が今月、侵攻後10回目となるウクライナへの極秘の訪問を行ったとしていて、長年の緊密な支援の様子を報じています。
●プーチンの「ヤバい野心」に西側が打つ手はあるのか…ウクライナの窮地に動けない「バイデンの大罪」 2/27
バイデンの「自画自賛」
「(制裁逃れを塞ぐために)ロシア産原油の輸出価格にかけたプライスキャップ制の第2弾が有効に機能している」--。
先週金曜日(2月23日)のこと。翌日の土曜日に、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵略開始から2年を迎えるに当たり、米国のバイデン政権下の財務省が特別報告書を公表した。ポイントは、西側諸国が昨年(2023年)10月にロシアの制裁逃れに対抗するために講じた、原油輸出に対する制裁の「第2段階」が効果を挙げており、狙い通りに新興国へのエネルギー供給を途絶えさせることなく、プーチン大統領の糧道を細らせていると自画自賛することだった。
バイデン大統領は同じ23日、別の声明も発出した。ロシアの侵略戦争と、プーチン大統領の政敵であったアレクセイ・ナワルニーの死に対する責任を取らせるため、新たに500以上の制裁を実施するとし、「今こそ、同盟国やパートナーとともに、ウクライナのために団結して強く立ち上がる時だ」と胸を張って見せたのだ。
しかし、戦況は、ウクライナが昨年6月に開始した反転攻勢に失敗したばかりか、今月17日には東部ドネツク州の要衝・アウディーイウカからの撤退発表を余儀なくされるなど、ウクライナ軍が不利な状態に陥っている。
今週は、不利な戦況を立て直して、ロシアに早期にウクライナ戦争の経戦を諦めさせるために、何が必要なのか。西側の採るべき対応を考えてみたい。
開始から2年が経過したロシアのウクライナ侵攻に対し、米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国や日本は、ロシアとの軍事衝突を避け、その代わりに、ウクライナを間接的に支援することによって、プーチン大統領の東への領土的野心に対抗する戦略を採ってきた。
その間接的なウクライナ支援の柱は、第1が、ウクライナの戦闘能力を維持・向上させるための軍事物資などの供与だ。そして、第2の柱が、ロシアの経線能力を削ぐための経済制裁である。
このうちの経済制裁の方策は、実に多岐に及ぶ。列挙すると、ロシアの国際金融・決済取引からの締め出し、ロシアに対するハイテク製品などの輸出規制、外貨収入を細らすためのロシア産品に対する輸入規制、西側企業のロシアからの撤退促進、ロシアの「最恵国待遇」の取り消し・撤回、そしてプーチン政権の幹部や同政権と関係の深い富豪(オリガルヒ)らの西側にある資産の凍結―などとなっている。
成長軌道を取り戻す
しかし、こうした経済制裁は、どれも効果が長続きしないことが多い。というのは、ロシアが甘んじて制裁を受け続けることはなく、あの手この手で抜け道を見つけ出してきたからだ。
そうした意味で典型的なのは、ロシアの侵攻当初に、ロシア経済に壊滅的な打撃を与える効果が期待された、国際金融取引からのロシアの締め出しだろう。
まず、米国がロシアの侵攻から3日目に、いち早く、ロシアの銀行を国際決済ネットワーク「SWIFT」から締め出す措置を実施。これに欧州諸国や日本も歩調を合わせた。さらに各国は協調して自国内にあるロシア中央銀行の資産を凍結した。 
これらの措置は一時期、ロシアの通貨ルーブルを暴落させることに成功した。ルーブルが1米ドル=130ルーブル前後まで急落する場面があった。
ロシア企業は輸出代金を受け取れなくなり、ロシア経済全体の純輸出が激減。ロシアの2022年の国内総生産(GDP)が2桁のマイナスに落ち込むと見込まれた時期もあった。そうなれば、戦費を賄えなくなり、ロシアは早々に経戦能力を失うと期待されたのである。
ところが、ロシアは原油や石炭、天然ガスといった化石燃料と、小麦やトウモロコシなど穀物の輸出大国である特色を存分に活かしてきた。加えて、兵器や貴金属系の鉱物資源もあるが、これらの物品は、どこの国でも必需品だ。西側諸国がロシア産の化石燃料や穀物の輸入を減らしても、その分を中国やインドに加えて、アジア・アフリカの新興国・途上国に輸出先を変える形で、抜け道を確立、しのいできたのだ。そのために、並行して、ロシアは決済通貨を米ドルから自国通貨ルーブルや、親ロシアである中国の人民元に変更したり、外貨準備を人民元や金へシフトさせたりするといった対応策を講じていた。
また、西側がSWIFTから締め出した制裁対象が、ロシアのすべての銀行ではなく、例外を残したことも、制裁の効果を減じたとされている。
諸々の結果、ロシアの一昨年(2022年)の成長率は、1.2%減と小幅なマイナス成長にはなったものの、2桁のマイナスというような壊滅的な事態は回避してみせたのだ。さらに、昨年(2023年)は、3.6%増と、すっかり成長軌道を取り戻している。
期待されたほどの効果は出てない
昨今、外為市場でも、ルーブルは1米ドル=90ルーブル前後と、ウクライナ侵攻前の1米ドル=70ルーブル台の水準と比べればまだまだ安いものの、深刻な通貨危機は抜け出した格好になっている。
ロシア向けの禁輸措置も、期待されたほどの十分な結果は出していない。
早くから、兵器製造を阻むための工業製品のロシア向けの禁輸で、ロシアが抜け穴として、西側と対峙する北朝鮮からミサイルや弾薬、イランからドローンを調達してきたことは広く知られていた。
だが、最近になって、ロシアは第3国経由で、西側の禁輸品を取得。西側の制裁を尻目に、ちゃっかり、西側製品を兵器に組み込んでいる例も枚挙に暇がないことが判明した。
ウクライナ国家汚職防止庁が昨年12月半ばに公表した調査によると、ロシアの無人機やミサイルなど76の兵器に使用されていた2453個の部品のうち実に74%に当たる1813個が米国製だったほか、スイス製が6%相当の119個、日本製が5%の96個、それぞれ存在したというのである。
こうした部品は、中国やトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)などの第三国企業を経由してロシアに納品されたとみられている。
西側諸国は、禁輸品のロシアへの横流しが判明した第3国企業を制裁リストに加えている。しかし、こうした企業は新たな法人を設立することで再び制裁の網を回避、禁輸品の横流しを続けるケースが多く、イタチごっこが繰り返されている。このため、禁輸措置の効果がなかなか挙がらないのが実情なのだ。
もう一つ、例証しておくと、冒頭で、米財務省が自画自賛したロシア産原油のプライスキャップ制度も制裁としての効果は“中くらい”だ。
米財務省の特別報告書は、ロシア産原油の輸出価格の推移に言及。昨年(2023年)10月時点で市場価格を12〜13ドル程度下回る程度だったのが、第2弾のプライスキャップ規制の強化の結果、この乖離が「今年(2024年)1月には一時20ドル程度に拡大、その後2月後半にかけても19ドル前後と低廉な水準で安定している」と誇示する内容だった。
しかし、この制裁が船舶輸送や保険の引き受けなどに焦点を当て、新興国がロシア産原油の輸入ができなくなりエネルギー危機に陥ることを防ぐことも念頭に置いたものであり、1バレル=60ドル以上の価格でロシア産原油の輸出を引き受けてはならないという規定だったため、自ずから効果は限られていた。
先週の本コラムでも紹介したが、ロシアの2023年の原油と石油関連製品の輸出高は比率で見れば前年比23.9%減とある程度落ち込んだものの、輸出金額は8兆8200億ルーブル(円換算で約14兆円)を稼ぎ出し、これを原資にして、戦費を中心に政府支出を膨らませて前述のように2023年のGDPの伸び率を3.6%増と成長軌道に乗せることに成功している。
縷々見てきたように、経済制裁は一定の効果はあるものの、即効性は乏しい。ロシアの経線能力を奪うには、今後数年単位の制裁の継続と、ロシアが次々に編み出してくる制裁逃れの穴を埋める対策が不可欠になっている。
こうした中で重要なのは、西側諸国がロシアとの直接的な軍事衝突を避ける代わりに、対ロシア制裁と共に、西側諸国がウクライナ支援のもう一つの柱にしてきた軍事支援の維持だろう。
主要7カ国(G7)など西側がウクライナに送った軍事、人道、財政などの援助はすでに約26兆円に達し、各国では支援疲れが指摘されている。
しかし、米シンクタンクの戦争研究所(Institute for the Study of War)は昨年12月に公表した「ウクライナを失うことの高い代償」と題する論文で、「西側諸国がウクライナ支援を打ち切れば、ロシアは容易にウクライナ全土を制圧」する可能性があり、西側はその後、ロシアの脅威を取り除くまで「無制限のコスト負担を強いられる」などとの分析を披露した。
西側が打てる手
その際、「米国は欧州を防衛するために最新鋭のステルス戦闘機を重点的に配置する必要が出てくるため、台湾に対する中国の攻撃への対応能力が手薄になる」問題もあるという。日本にとっても、悪夢のようなシナリオが現実になりかねないというわけだ。
これに対し、「西側にとって有益な選択肢は、ウクライナが勝利してロシアを押し戻すことだ」と主張。西側諸国はウクライナ支援を惜しむべきではないとの見解も表明している。
さらに、「その後、ウクライナの再建を後押しすれば、NATOの防衛線の最前線にヨーロッパ大陸で最大、かつ有効的な軍事力を配備することが可能になり、西側にとって最善の選択肢になる」とし、ウクライナの戦後復興にも積極的に貢献すべきだと結んでいる。
一方、バイデン米政権では、昨年末に予算が枯渇、ウクライナへの軍事支援をまったく実施できない状況に陥っている。この元凶は、11月に迫った選挙を睨んで、600億ドル(約9兆円)のウクライナ支援を含む緊急予算案と不法移民対策をワンセットにした民主・共和両党の妥協案をご破算にしてしまった、あのトランプ前大統領だ。
現状が長引けば、ウクライナがじりじりと撤退を余儀なくされ、ロシアや中国、北朝鮮といった権威主義国家が益々、勢い付くのは確実。
トランプ氏は大統領選に敗れたとしても、アメリカ史上最悪の大統領経験者として歴史に名前を刻むことになりそうだ。
紙幅も尽きたが、もう一つ。西側に打てる手があることにも触れておきたい。それは、ロシアに対する制裁として、ロシア中央銀行のものを中心に、西側諸国が凍結したロシアの政府資産の活用だ。
西側が凍結した資産は、ドル換算で3000億ドル(45兆円)の巨額に達しているとされる。
ウクライナのゼレンスキー大統領はこの引き渡しを求めているが、ドイツ、フランスなどの欧州連合(EU)諸国は、凍結した資産の運用益をウクライナ支援に充てるための法整備を進めている。一方、米国は凍結した資産を没収して、丸ごと支援に充てるべきだと主張して来ており、英国、日本、カナダは米国案に賛同している模様だ。ただ、いずれの方策にも、国際法上で認められる措置か否かの議論が残っており、これまで実現に至っていないというのである。
こうした中で、G7首脳は、ロシアのウクライナ侵攻から2年が経過した先週の土曜日(2月24日)、オンライン会議を開催。閉幕後に、ウクライナへの揺るぎない支援を約す共同声明を発表した。その中に、「EUが制裁で凍結したロシア政府の資産から証券集中保管機関(ユーロクリアーなど)で得られる特別収入に関するEUの法的措置の導入を歓迎し、適用可能な契約義務に従い、適用可能な法律に準拠して、それらの使用を促進するさらなる措置を奨励する」とか、「担当大臣たちに、アプリリア・サミットまでに、国内法と国際法に照らして、凍結しているロシアの政府資産をウクライナ支援のために活用するのに可能なすべての手段を詰めさせる」といった文言を盛り込んだことは注目すべきだろう。
ウクライナが窮地にあることを考えれば、G7が凍結したロシア資産の有効活用を早期に実現することも極めて重要な状況なのである。
●プーチン政権、侵攻2年「沈黙」 選挙前に世論刺激せず―ロシア 2/27
ロシアではウクライナ侵攻開始から2年の24日、政権による公式行事は一切なかった。主要テレビは「節目」に軒並み沈黙。「侵攻を支持しつつ停戦交渉を求める」世論を刺激せず、プーチン大統領の通算5選を期す3月の大統領選に向けて「日常」を演出する政権の思惑が透けて見える。
昨年2月はプーチン氏が戦時体制を前面に押し出した年次教書演説(21日)、祝日「祖国防衛者の日」を控えてモスクワの競技場で開いた愛国集会(22日)と行事が目白押しだった。今年はタイミングをずらした年次教書演説(29日)にとどまる。
独立系メディア「アゲンツトボ」が25日に指摘したところによると、国営テレビも政府系「第1チャンネル」も2年たったことについてはほぼ黙殺。ショイグ国防相がロシア軍部隊を視察したことは触れたが、日々の報道の域を出なかった。
主要テレビには、クレムリン(大統領府)の担当部門から「編集方針」が伝えられている。
アゲンツトボは今回の現象について「世論の変化と停戦論の高まりを受けた」と分析した。最近のある調査では、3月に当選する次期大統領の最優先課題を「侵攻の終結」と答えた人が26%に上ったという。
独立系世論調査機関レバダ・センターの最新調査では「ロシア軍を支持する」が77%だった。国民にリベラル派より保守派が多いことを反映しているが、同時に「停戦交渉を始めるべきだ」という意見も52%に上った。プーチン氏が選挙を控えて「停戦」の可能性に改めて言及するようになった背景には、世論への配慮があるもようだ。
ロシア全土では24日、戦時の言論統制にもかかわらず、一部で政権への抗議デモが起きた。獄死した反体制派指導者ナワリヌイ氏の追悼行動が中心だったが、反戦や動員兵帰還の訴えもあり、人権団体OVDインフォによると、拘束者は14都市で52人に上った。
●ナワリヌイ氏「私の国はここだけ」 2/27
タッカー・カールソン氏がモスクワの豪華な地下鉄に感嘆していた一方で、ロシアの反体制活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏は極寒の刑務所「北極の狼(おおかみ)」で死亡した。
カールソン氏質問せず
カールソン氏は今月に入って、プーチン氏に2時間のインタビューを行った。日差しのない冬、北極圏に収容したカリスマ的ライバルについて、ロシアの独裁者は何を語ったのだろうか。
一言も話さなかった。カールソン氏(FOXニュースのトーク番組の元司会者)が質問しなかったからだ。
スターリンの言葉を引用しよう――一人の死は悲劇だが100万人の死は統計になる。
プーチン氏が責任を負うべき死者の数は、すでに数十万人に達している。すぐにこの統計の域に達する。ロシア軍は2年前、ウクライナに再度侵攻した。1度目は2014年だ。
ロシア軍の将軍は意図的に民間人を標的にしている。兵士の多くは、ロシアの中央アジアの民族から徴集されている。プーチン氏にとってこの兵士は使い捨ての弾よけだ。
ウクライナでの戦争の凄惨(せいさん)な統計は、カールソン氏にとっては問題ではないようだ。
プーチン氏との友好的なインタビューの後、モスクワの地下鉄駅を見学し、1988年の新婚旅行のバーニー・サンダース米上院議員のように、シャンデリアに感激していた。モスクワの食料品店で買い物をするところを撮影し、驚いた様子で、4人家族が1週間に必要な食料品を104ドルで買えると話していた。
ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏=2021年2月、モスクワ(AFP時事)
ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏=2021年2月、モスクワ(AFP時事)
前置きが長くなったが、ナワリヌイ氏はプーチン氏のロシアに関する事実を知ってほしかったことだろう。
ロシア人の平均月給は800ドル以下。米国人の6分の1以下だ。平均的なロシア人は稼ぎの半分以上を食費に費やす。平均的な米国人は12%以下だ。
ロシアでは5世帯に1世帯で屋内に水道がない。農村部では3世帯に2世帯だ。
そして歴史を少し。スターリンは1930年代にソ連の社会主義独裁体制を誇示するためにモスクワに地下鉄を建設した。強制収容所から労働者を調達し、英国人技術者を使った。そのうちの何人かは後に「スパイ行為」で投獄された。
同じ時期にスターリンは、ウクライナで意図的に飢饉(ききん)を引き起こし、集団化に抵抗する農民「クラーク」を罰した。ホロドモールとして知られるこの飢饉で、400万人以上が死亡した。
この残虐行為は、ウクライナ人が2度とモスクワに支配されたくないと考える理由として説明できるだろうか。それはカールソン氏が提起しなかったもう一つの疑問だ。
ナワリヌイ氏は赤軍将校の息子で、プーチン氏が台頭してきた頃に政界入りした。
2013年にはモスクワ市長選に出馬して落選。18年には大統領選に出馬しようとした。プーチン氏はナワリヌイ氏を収監し、犯罪歴に基づいて立候補を無効とした。
ナワリヌイ氏は20年8月、国内線に搭乗した直後、体調を崩した。ロシアの工作員に毒を盛られたのではないかとみられている。
昏睡状態で独ベルリンに運ばれ、ドイツの医師は、原因はノビチョクだと判断した。ソ連時代の軍用神経ガスで、薬局で手に入るものではない。
底知れぬ勇気の持ち主
治療を受け、回復し、21年1月にロシアに帰国。到着時に逮捕された。
なぜ戻ったのか。底知れぬ勇気と信念の持ち主だったからだ。新しいロシアのための戦いはナワリヌイ氏のライフワークだった。
生前「私の国はここだけだ。どこにも逃げはしない」と言っていた。
かつてロシアで最も重要な外国人投資家だったビル・ブラウダー氏は記者に「殺害された。ウラジーミル・プーチンの手で殺された」と語った。プーチン氏は、自分が「どんなレッドラインを越えても逃げ切れる」ことを証明したかったのだ。
ウクライナにも、欧州にも、それ以外にもレッドラインはある。プーチン氏は、国内でも国外でも、殺人を犯しても切り抜けられる限り、このレッドラインを越え続けるだろう。
カールソン氏は、この問題を米国の問題だとは考えていない。これは驚くべき認識の欠如だ。
●ロシア軍兵士“母親の会”がモスクワで会合 兵士の待遇改善など訴え 2/27
ウクライナでの軍事作戦で、家族をロシア軍に送り出している母親らの会が26日、モスクワで会合を開き、ロシア軍への要望を訴えました。
モスクワで26日、兵士の母親や家族らが集まる会合が開かれました。この「兵士の母親委員会」は、主に兵士の待遇改善のための活動を行っています。
ロシアのウクライナへの軍事作戦自体には反対していませんが、意見交換の場では、出席した軍関係者を前に補償を受けるための手続きへの不満や、「部分的な動員」の対象者に任務の期限を決めてほしいなどの要望を訴えました。
弟が戦死した女性「弟は39歳で子供5人が残された。彼は前線に行き死んだ」
参加者の中には、無人機攻撃でケガをした息子と一緒に参加した母親もいました。
ケガした息子と参加した母親「義務兵役だった息子には補償金が支払われなかった」
また、会合では「誰のための戦いなのか」といった疑問の声も聞かれました。
●駐日ウクライナ大使、停戦を否定 「日本は最大の復興パートナー」 2/27
セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ大使は27日、日本記者クラブ(東京都千代田区)で会見し、侵攻を続けるロシアとの停戦について、領土の返還や戦争被害の賠償などを条件に挙げつつも、「停戦はロシアに再武装する時間を与えるだけだ」として停戦の可能性を否定した。日本に対しては「復興の最大のパートナーになれる」と期待を語った。
コルスンスキー氏はかねて、日本に防空システムの供与を求める意向を示してきた。「日本に武器輸出の制限があることは理解しているが、ドローンやミサイルから文民施設や人を守るためのもので人道支援に当たると思っている。日本側にも我々の希望を伝えている」と語った。
ウクライナ軍は1月からロシア軍の早期警戒管制機「A50」を立て続けに撃墜したと発表。一方で、東部の要衝アウジーイウカからの兵力を撤退させたほか、深刻な弾薬不足に陥っているとされる。コルスンスキー氏はA50撃墜など戦果を強調し、「ウクライナは負けていない。適切な武器があれば領土を取り戻せる」と、国際社会に支援を呼びかけた。
ゼレンスキー大統領が侵攻以降のウクライナ軍の死者数が約3万1千人に上ったことを初公表したことについては「ロシアの犠牲者数は10倍以上に上る。ウクライナは対抗できている」とし、ロシアが「わずかな領土のために多くの(自国民の)命を犠牲にした。人命を軽視している」と批判した。
また、26日にスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟が決まったことについて「祝福したい。侵略に備えた防衛力の拡大は重要だ。我が国が次(の加盟国)になれることを期待する」と述べた。
日本との関係については「まず防空システム、次に経済、そして復興の支援をお願いしたい。(太平洋戦争や東日本大震災など)様々な復興を経験してきた日本は、ウクライナ復興の最大のパートナーになれる」と話した。
●「『負けつつある』はフェアではない」 現時点の停戦「平和来ない」 2/27
ウクライナのコルスンスキー駐日大使は27日、東京都内で記者会見し、3年目に入った露軍との戦いについて「ウクライナが負けつつあるといわれるのはフェアではない」と述べ、米欧で広がる悲観的な見方に反論した。
コルスンスキー氏は「艦隊を持たないわれわれが、これまでに露軍の艦船25隻と潜水艦1隻を破壊し、過去1週間でも高額な『A50』(早期警戒管制機)を撃墜した。特別な戦果を挙げている」と指摘。「われわれに兵器があればロシアを追い出せる。ウクライナは敗北しつつあるのではない」と強調した。
一部で浮上する停戦論については、「単に戦闘の一時停止でしかなく、恒久的平和をもたらすものではない。ロシアにとって軍備を増強する時間稼ぎができるだけだ」と主張。ロシアとの交渉には「奪われた領土を取り戻し、戦争犯罪を認めさせ、破壊したインフラの賠償などをさせる。それができて初めて将来の枠組みについての交渉ができる」と述べた。
19日に都内で開かれた「日ウクライナ経済復興推進会議」についても触れ、「世界でも日本ほど復興に関してベストなパートナーはいない」と改めて期待を寄せた。
●黒海の穀物回廊閉鎖も、米追加支援なければ=ウクライナ大統領 2/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、米国の新たな軍事援助がなければ、世界市場への穀物供給を可能にしてきた黒海の輸出回廊を防衛できなくなると述べた。
ウクライナは昨年、国連とトルコが仲介したウクライナ産穀物輸出合意の履行をロシアが停止したことを受け、黒海に回廊を設置した。
英外務省は今月、ロシアによる港やインフラの攻撃にもかかわらず、ウクライナは2023年に収穫した全ての穀物を輸出する見通しだとした。
ゼレンスキー氏はCNNのインタビューで「われわれは黒海に新たなルートを設けた」と述べ、これまで約3000万トンの穀物など農産物の輸出を可能にしており「大きな成功だ」と指摘した。
一方、米議会が600億ドルの追加支援を承認しなければ、輸出回廊の将来は不透明になると警告した。
「回廊は閉鎖されるだろう。防衛するためには弾薬や防空システムなどが必要になるからだ」と語った。
●ウクライナ軍、東部ドネツク州でさらに後退 「防衛ライン構築のため」 2/27
ウクライナ東部ドネツク州でロシア軍が攻勢を強めるなか、ウクライナ軍は17日に撤退を発表した同州の要衝アウジーイウカのさらに西方の村から撤退した。双方が26日に確認した。
この村はアウジーイウカの北西約5キロに位置し、激戦が続いていた地区のひとつ。アウジーイウカでは18日にロシア国旗が掲揚された。
ウクライナ軍部隊の報道官は撤退について、村の西側にあるオルリウカから南のトネンケ、北のベルディチに延びる防衛ラインを構築し、ロシア軍の西進を阻止するのが目的だと説明した。
ロシア国営RIAノーボスチ通信も、同国国防省が26日、村の掌握を発表したと伝えた。
村の周辺ではロシア軍が前日から攻勢を強めていた。ウクライナ軍の同報道官は、1日に空爆45回、砲撃897発、自爆型ドローン(無人機)83機による攻撃を受け、72回の交戦があったと報告した。
同報道官は一方で、ウクライナ軍が直近の1日に退けた攻撃はアウジーイウカ周辺で25件、その南西に位置するもうひとつの激戦地マリインカで40件に上り、ここ数日で最も多かったと強調した。
●ウクライナが「守勢」を余儀なくされている理由 2/27
ロシアによるウクライナへの違法な一方的侵攻が始まってから2024年2月24日で丸2年が経過した。ウクライナ軍は侵攻当初、ロシア軍のキーウ占領作戦を跳ね返し、次第に戦争の主導権を握った。
しかし、2023年6月に開始した反攻作戦が不発に終わったのを契機にロシア軍が盛り返し、ウクライナ軍は守勢を余儀なくされている。なぜそうなったのか。今後の戦争の行方はどうなるのか。さらにこの戦争が持つ日本にとっての意味も含めて考えてみた。
要衝アブデーフカからの撤退
ウクライナ軍の現在の苦境を象徴したのが2024年2月半ば、それまで死守していた東部ドネツク州の要衝アブデーフカからの撤退だ。
キーウの軍事筋によると、ウクライナ軍は撤退発表直前にザルジニー軍総司令官の解任とシルスキー氏の起用を発表したが、実はその際に撤退も併せて決めていた。シルスキー氏は、ほぼ完全包囲されていたアブデーフカをこれ以上、死守するのは無駄と判断したという。
同時にシルスキー氏としては、前任者に比べ、兵士の命を軽視しているとの声を意識し、人命尊重の姿勢をアピールし、軍内での求心力向上を狙ったものだ。一方でこの撤退ではウクライナ軍で深刻化している弾薬不足というという大きな要因もあった。
反攻作戦が失敗に終わった根本的要因は何かと言えば、ウクライナ軍をして、戦場でロシア軍に勝たせるという明確な「政治的意思」を、最大の軍事的後ろ盾であるバイデン政権が欠いていたことだ。
筆者は2023年12月13日付の「膠着状態のウクライナ戦争・2024年はどうなるか」で、ロシアとの軍事的エスカレーションを恐れる余り、ウクライナが求めていた武器供与に対し、小出しにしか応じてこなかったアメリカの姿勢を指摘した。
この中で、2023年5月、アメリカ政権が他のG7諸国に対し、反攻作戦開始に当たってはプーチン氏に恥をかかせるべきでないとの意向を伝えた事も紹介した。これは言い換えれば、バイデン氏が、反攻でウクライナが必要以上にロシアに対し「勝ち過ぎる」ことを懸念していたことを意味する。
この「勝ちすぎ」について、バイデン氏は具体的にどういう状況を懸念していたのか。軍事的に追い込まれたプーチン政権が核兵器の使用に踏み切る、あるいはプーチン政権が倒れ、ロシア国内の政治状況が大混乱に陥る状況を念頭に置いていたのではないか。
いずれにしても、アメリカ政権は「勝ち過ぎ」を恐れるあまり、戦況のゲームチェンジャーとなりそうな強力な兵器供与には慎重姿勢を貫いてきた。
この結果、ゼレンスキー政権が反攻作戦成功の決め手として求めたF16戦闘機や「コンクリート・クラッシャー」との異名を持つ射程300キロメートルの単弾頭型地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」の供与は本稿執筆時点でまだ実現していない。
必要なすべての武器を供給していれば…
では、現在の戦況に照らしてアメリカ政権の戦略をどう評価すべきなのか。結果的には、戦場では「勝ち過ぎ」どころか、ウクライナ敗北の可能性まで議論される状況が生じている。明らかに、バイデン政権のこの「勝ち過ぎ回避戦略」は裏目に出たと判断する。
ウクライナ問題に深く関与しているアナス・フォー・ラスムセンNATO(北大西洋条約機構)前事務総長も、基本的に同じ意見だ。
アメリカのシンクタンクとの最近のインタビューで、こう語った。「仮にアメリカが、ウクライナが必要とする武器をすべて供与していれば、反攻は大きく進展していたはずだ。これは西側の責任だ。武器供与でウクライナの必要性を満たすのに、あまりに躊躇し過ぎた。この間、プーチンはこれに付け込んだ。ロシア軍は防御態勢を強化した」と。
このため、アメリカの今後の動きの注目点は、バイデン政権がこれまで「勝ち過ぎ回避」の方向に振り過ぎていた支援戦略の振り子を、ウクライナ軍へのテコ入れ強化の方向に切り替えるか否か、だ。
2024年秋に再選をかけた大統領選を控え、バイデン氏にしてみれば、ウクライナ軍がロシア軍に押しまくられる事態は避けたいからだ。
その意味で、注目されるのが、先進7カ国(G7)首脳が侵攻開始から丸2年となる2024年2月24日に開いたテレビ会議後に発表した首脳声明だ。この中で声明は「われわれは、ウクライナ国民が将来に向けた戦いで勝利(prevail)できるよう保証できると確信している」と「勝利」に言及したのだ。
2023年の広島でのG7首脳会議の際に出されたウクライナ関係の声明には、この「勝利」の言葉は入っていなかった。
これに関連して最近、興味深い報道があった。アメリカ下院で宙ぶらりん状態になっている、ウクライナ支援(約600億ドル=約9兆円))を含む緊急予算案が今後承認された場合、アメリカ政府がただちにATACMSを供与する方針を決めたとアメリカ・NBC放送が報じた。F16も早ければ6月にも欧州から第1陣が供与されるとみられている。
ウクライナは全領土奪還を堅持
一方で、ゼレンスキー政権は東部戦線で受け身を余儀なくされつつも、ロシアへの勝利に向けた強い意思を保っている。最近発表された世論調査でも、国民の70%以上が戦争継続を支持しており、2014年のクリミア侵攻以来、ロシアに奪われた全領土奪還方針を堅持するゼレンスキー政権には十分な政治的正当性があると言える。
ロシア軍に比べ圧倒的に少ない砲弾の保有数回復や、攻撃用ドローンの一層の拡充など軍事態勢面の整備を急ぎながら、2024年を2025年以降の勝利に向けた準備の1年にする構えだ。
まずは東部・南部における前線をしっかり守る「戦略的防衛」戦略を実行する。そのうえで、何らかの反攻作戦を行う構えだ。ゼレンスキー氏もアメリカのテレビとの会見で、驚くような攻撃をするとの趣旨の発言をした。ミハイル・ポドリャク大統領府長官顧問も最近のインタビューの中で「地上戦で、より効率の良い作戦が必要だ。守っているだけではだめだ」と述べている。
その場合、どのような攻撃をするのか。執拗な水上ドローンによる攻撃で、黒海艦隊の作戦実行能力を事実上奪ったのを受け、艦隊司令部があるクリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア大橋を破壊するのか。あるいはロシア領内で大規模なインフラ攻撃を行うシナリオなどが指摘されている。守りと攻めの両立を本当にできるのか。シルスキー氏の手腕が問われる。
一方、2024年3月半ばに大統領選を控えるプーチン氏は、アブデーフカ制圧を受け軍事的にも外交的にも自らが状況を動かせる主導権を握ったと判断しているだろう。東部に加え、今後南部でも攻勢を仕掛けるとみられる。
そして、自らに対し融和的とみられるトランプ氏が大統領選で返り咲きを果たすのを待つ戦略だろう。トランプ氏がロシアに有利な、何らかの「解決案」をキーウに押し付けることも期待しているのだろう。
停戦協議をちらつかせるロシア
その意味で注目されるのは、最近ロシアがウクライナとの停戦協議に応じる可能性をほのめかすプロパガンダ(政治宣伝)戦略を世界規模で展開し始めた兆候があることだ。
最近、各国では増え続ける兵士・市民の犠牲を目の当たりにして、「戦争疲れ」の傾向も次第に目立ち始めている。これを利用して、クレムリンとしてはウクライナに対し、停戦に応じてロシアへの大幅譲歩を迫る機運を各国で盛り上げる戦略だろう。
しかし、停戦と言っても、独立国家としてのウクライナの存在を認めていないプーチン氏に、ウクライナ全土の制圧作戦を行うための再編期間を与えるだけだ。
ウクライナへの「支援疲れ」も一部で出ていた欧州もこのところ、ロシアに対する防衛問題を、アメリカ依存ではなく、より「自分事」として動き始めている。NATO加盟国への攻撃の可能性を現実問題として捉えているからだ。
欧州連合(EU)は2024年2月の臨時首脳会議で、2024〜2027年の4年間にウクライナ支援へ計500億ユーロ(約7兆9500億円)を充てることでスピード合意した。さらに軍事産業強化にも乗り出した。とくに砲弾の供給体制を強化しようとしている。
EUは2024年3月までにウクライナに100万発の砲弾を送る目標を掲げていたが、生産能力の不足から、結局期限内に供与できるのはその約半分にとどまる見通しだ。この反省から、生産能力の拡充に努めており、2024年末までに年産140万発水準まで引き上げる計画だ。
こうした欧州の懸命な動きを見て、筆者が思うことがある。日本政府は憲法上の制約があり、殺傷能力がある兵器のウクライナへの直接的供与が難しい。しかし、砲弾不足にあえぐウクライナに対し、特例として砲弾そのもの、あるいは砲弾用火薬の供与に踏み切る方向へ知恵を絞る時期にきているのではないか、と。
日本政府は先にウクライナの復興支援策を話し合う「日ウクライナ経済復興推進会議」を東京で開催し、紛争終了後の復興を主導する姿勢を明確にした。これはウクライナにも高く評価され、感謝された。しかし、ゼレンスキー政権として、今そこにある「砲弾危機」への対応として、日本からも支援を受けたいというのが偽らざる本音だ。
●2年間のウクライナ戦争を米陸軍が戦略的評価、量は質に勝りロシア優勢 2/27
ロシアがウクライナに侵略を開始してから2年が経過した。この2年間のロシア・ウクライナ戦争の状況を客観的に検証することは重要だ。
その意味で、有名な米陸軍協会(AUSA:Association of US Army)が発表している『紛争から2年後の戦略的評価』は、ロシア・ウクライナ戦争を客観的に評価しようとする注目すべき文書である。
本稿においては、『紛争から2年後の戦略的評価』を紹介するとともに、それに対する筆者の意見を述べたいと思う。
1『紛争から2年後の戦略的評価』の内容
ウクライナが勝っているのか、それともロシアが勝っているのか。ウクライナがロシアに勝つためには何が必要なのか、逆にロシアがウクライナで勝つためには何が必要なのか。
以下は、『紛争から2年後の戦略的評価』の内容である。なお、太字の文章は筆者が解説を加えた部分だ。
『紛争から2年後の戦略的評価』の概要
ロシア・ウクライナ戦争の現状を総合的に評価すると、ウクライナ軍の前司令官であるヴァレリー・ザルジニー大将が2023年11月の英エコノミスト誌とのインタビューで述べたように「膠着状態にある」と言わざるを得ない。
『紛争から2年後の戦略的評価』でも、「ロシア・ウクライナ戦争における戦略的バランスを検証すると、ロシアが優位に立っている」という結論に達している。
この評価を戦争における勝敗と言う観点でみると、「ロシアがこの戦争に勝利している」という結論だ。
ロシアが勝利しているのは、ドンバス地方、クリミアへの陸橋(陸の兵站経路でザポリージャ州とヘルソン州)、そしてクリミア自体の領有という、ロシアが最低限受け入れられる結果を手にしているからである。
なお、図1は、ロシアにとっての勝利、敗北の状態を表現している。
左上の図は、ロシアがキーウを含むウクライナの大部分を占領すること。右上の図は、ロシアがクリミア半島、ドンバス2州、ザポリージャ州、ヘルソン州を占領すること。
左下の図は、ロシアがクリミア半島とドンバス2州のみを占領すること。右下は、クリミア半島のみを占領することを示している。
   図1「ロシア軍にとっての勝利と敗北」
その他の重要な注目点は以下の諸点だ。
・ウクライナ軍がロシア軍を撃破し、占領されている地形をすべて奪還するために必要な陸上兵力の不足は、精密攻撃や長距離射撃、ドローン攻撃で補うことはできない。
・ロシアのウクライナでの作戦は、量が精度に勝るが、その逆ではないことを示している。さらに、ロシアの量(mass)の戦略を「愚か」と非難するのは的を外している。
・ウクライナが独自に実施すべきことは、占領しているロシアの陸上部隊を退去させるために、大規模な動員によりウクライナ軍を大幅に増強することである。
教訓
第1に、領土を支配するために行われる陸上戦争には、その目的に適切に合致した軍事戦略が必要である。
例えば、精密打撃を中心とした戦略であっても、精密打撃の成功を利用するための十分な陸上戦力がなければ、領土をめぐる戦争に勝つことはできない。
第2に、領土の物理的な所有が両国の政治的・軍事的勝利の重要な要素である場合、物理的な量(この場合、より多くの人員)は、精密打撃や長距離射撃よりも重要である。
物理的な量は、軍隊が領土を保持し防衛することを可能にする。軍隊の物量が多ければ多いほど、どのような種類の攻撃にも強くなり、敗北させるのがより困難でコストがかかる。
第3に、ウクライナ軍との接触線に沿ったロシアの防衛網のように、よく準備され縦深に何重にも準備された防衛網は克服するのが困難である。
攻撃側に、1占領軍を撃破する、2解放された領土に移動する、3その土地を支配する、という3つの任務を遂行できる十分な弾力性と能力を備えた陸上部隊がない場合、この難題は飛躍的に増大する。
小型軽量で分散して戦う部隊は、攻撃に成功した後、敵が撤退した領土や解放された領土に前進し続けるための戦力構造に厚みがなく、敵の反撃を食い止めることができない。
第4に、この戦争では、両軍とも相手を完膚なきまでに打ち負かすことができないため、ロシアとウクライナは長い消耗戦に陥っている。
戦争に直面したとき、国家は敵の軍隊を打ち負かすと同時に、広大な物理的地形を占領し保持することを含む最終状態の条件を達成できる十分大きな軍事力を保持しなければならない。
ロシアの戦略的評価の概要
ロシアが最低限許容できる結果、つまりクレムリンが戦争を終結させても満足できる最低限の領土保有には、クリミアとクリミアへの陸橋であるドンバスの保持が含まれる(図1参照)。
クリミアへの陸橋にはザポリージャ州とヘルソン州が含まれる。
陸橋が重要なのは、ロシア領内からドンバス占領地とクリミア占領地を結ぶ地上連結をロシアに提供することで、クリミアの統治、防衛、保持を簡素化できるからである。
戦争での勝利が、一方の国家が敵対国の政治・軍事目的の達成を拒否して、自国の政治・軍事目的を達成することによって定義されるとすれば、ロシアは2年間にわたる紛争を通じて優位に立っているように見える。
ロシアの消耗戦略と領土併合の戦略は、ロシア経済とロシア国民に多大な犠牲を強いるものの、うまくいっているようだ。
ロシアは消耗戦略を実行するために必要な軍備を維持するために権力基盤を多様化しなければならず、また領土獲得に必要な被害の大きな戦術を実行するために、国民にも多大な犠牲を強いなければならなかった。
ロシアが現在ほぼ防御態勢にあり、接触当時の立場を維持していることを考慮すると、ロシア国民の犠牲は来年には減少する可能性が高い。
さらに、非常に強化された防御陣地を考慮すると、2024 年まで戦場で優位性を維持する可能性がある。
なお、図2は戦略的評価を行うための4要素による分析結果を示している。
   図2「ロシアの戦略」
   目的
・ウクライナ国家の崩壊
・許容可能な政治的・軍事的結果の範囲をサポートするのに十分な領土獲得を維持する
・戦略的な物質的優位を維持する
・ウクライナの抵抗継続能力を枯渇させる
・紛争の異常性を正常化する
・ウクライナの作戦遂行能力を削ぎ
ウクライナの併合領土奪還作戦遂行能力の低下と侵食
   リスク
・米国および/またはNATOが陸軍で介入
・国内不安による政治的混乱
   手段
・多様な国際パートナー
・代理軍
・大規模な陸軍
   方法
・ウクライナに消耗戦を強いる
・ウクライナの陸上戦力を壊滅させる(消耗戦法)
・接触線で膠着状態を強いる
ウクライナの戦略的評価の概要
最も基本的な発見は、ウクライナ軍がドンバスを奪還するのに必要な規模と期間での攻撃作戦を実行する能力がないということである。
さらに、ウクライナ軍はロシア軍をウクライナ領土から排除するために、陸上戦力の大幅な増強を必要とする。
精密攻撃と空軍力はこの作戦に役立つだろう。
しかし、ウクライナの歩兵と機甲部隊は依然として相手の陣地内に進入し、ロシア地上軍の陣地を排除し、陣地を確保してからロシアの反撃に打ち勝たなければならない。
したがって、2024年におけるウクライナの大規模な攻撃を期待すべきではない。
ウクライナはロシアの支配地域に対して1、2回の小規模な攻撃を試みるかもしれないが、より大規模なものはウクライナの能力を超えている。
米国のウクライナ支援が長期間凍結されたままであれば、ロシアとの接触線を維持するだけのウクライナの能力はさらに悪化するだろう。
米国の武器、弾薬、軍事装備は、ウクライナの自衛能力にとって極めて重要である。
こうした支援がなければ、ウクライナ軍の補給網、砲兵力、陸上部隊は日々脆弱になっている。それは、ウクライナ軍の弱点が増大し、キーウが有益な軍事戦略を策定できないことを意味する。
つまり、2024 年はウクライナにとって、そしてその政治的・軍事的目標を達成する能力にとって暗い年になりそうだ。
しかし、米国の対ウクライナ支援が比較的早く可能になれば、ウクライナの自国防衛能力は回復する可能性が高い。
それにもかかわらず、ウクライナの人的資源の課題により、2024年中の大規模な攻勢は依然妨げられるだろう。
米国や他の西側諸国からの長距離精密攻撃、空軍力、情報源の流入は、人的課題の一部を緩和するのに役立つだろう。しかし、その懸念が完全に払拭されたわけではない。
したがって、対立する塹壕網に集結した部隊の消耗戦が、2024年を通じての紛争の特徴となる可能性が高い。
   図3「ウクライナの戦略」
   目的
・ウクライナの主権と理念の維持
・ロシアが支配しているウクライナの領土を解放する
・国際的支援の維持
   リスク
・米国内外の支援の喪失
・限られた資源を使い果たす
・クリミアは核で対応するレッドラインかもしれない
   手段
・限られた攻勢しかできない陸上戦力
・縮小する人員基盤
・国際的に供給される長距離射撃、無人偵察機、インテリジェンス
   方法
・陣地戦(戦闘力を維持するため)
・限定目標の攻撃、長距離射撃、無人機による攻撃でロシア軍に嫌がらせをする
「紛争から2年後の戦略的評価」の結論
ロシア・ウクライナ戦争は現在停滞している。この行き詰まりは、競合する両国の戦略の結果である。
ロシアは併合された領土の維持に焦点を当てている。
ウクライナはその領土を占領する敵対勢力を撃破し、排除することに焦点を当てているが、その目的を達成する手段を持っていない。
各国家の目的とのバランスを考慮すると、現在ロシアが戦争に勝利している。
ロシアはウクライナ領土のかなりの部分を支配しており、地上戦以外の手段でロシアを同領土から追い出す可能性は低い。現時点ではウクライナにはそのような余裕はない。
さらに、ロシア占領地の解放を達成するために必要な兵力、戦闘力、攻撃能力を生み出すには、ウクライナ一国だけでは難しく、国際的な連合(international coalition)が必要となるだろう。
しかし、国際的な連合が実現する可能性は極めて低い。
圧倒的な火力を発揮し、侵略軍が占領する領土に押し寄せることができる強力な陸上部隊は、20世紀の武力紛争の遺物ではなく、戦争の未来の姿だ。
ロシアのウクライナでの作戦は、量が精度に勝るが、その逆ではないことを示している。
精度は戦場の一点での戦術的勝利をもたらすかもしれないが、有限点での勝利は戦略的勝利をもたらす可能性は低い。
さらに、ロシアの量(mass)の戦略を「愚か」と非難するのは的を外している。ロシアが戦略的勝利をもたらすのであれば、その方法がどれほど疑わしいとしても、それほど非論理的ではない。
結局のところ、ロシアのウクライナでの作戦は、特に領土併合戦争における量(mass)こそが、国家が真にその利益を強化し、軍事的勝利を反撃から守る方法であることを示している。
最後に、ロシア・ウクライナ戦争は、戦術的勝利の間のシーソーのような推移から自国を守るために、敵軍を排除することがいかに重要であるかを示している。
クラウゼヴィッツは「破壊されていない軍隊は常に戦場に戻り、敵の目的を損なう可能性がある」と主張している。
ウクライナがロシア軍を撃破できず、ウクライナの戦場から排除できないことは、キーウがウクライナで積極的に目的を追求するクレムリンと絶えず格闘しなければならないことを意味する。
ウクライナは、ウクライナ国内のロシア軍を壊滅させ、解放された領土を占領・保持するために必要な破壊的な戦闘能力と相まって、大規模な戦力を生み出すことができない。
このため、この消耗戦は、1ウクライナがプーチン軍をウクライナから追い出すために必要な戦力を生み出すことができるか、2ウクライナが戦略的に疲弊して紛争をやめざるを得なくなるか、3両当事者が紛争終結を決断するまで、続く可能性が高い。
どのような結果になろうとも、2024年はロシアがウクライナを戦略的に疲弊させようとする状況が続くだろう。
一方、キーウはロシア軍を壊滅させ、自国領土を解放するために必要な軍隊を募集し、訓練しようとしながら、接触線に沿って自国の位置を維持することに全力を尽くすことになるだろう。
2「紛争から2年後の戦略的評価」に対する筆者のコメント
   評価できる点
陸戦主体の分析で、特に両軍の陸上戦力(特に兵力)の差が現在のロシア軍有利な状況になっているという指摘は適切だ。
そして、「最も基本的な発見は、ウクライナ軍がドンバスを奪還するのに必要な規模と期間での攻撃作戦を実行する能力がないということである」「2024年におけるウクライナの大規模な攻撃を期待すべきではない。ウクライナはロシアの支配地域に対して1、2回の小規模な攻撃を試みるかもしれないが、より大規模なものはウクライナの能力を超えている」などの指摘には反論の余地がない。
また、「米国のウクライナ支援が凍結されたままであれば、2024年はウクライナにとって試練の年となるであろう」という指摘も厳しい指摘だが適切だ。
   評価できない点
陸のドメイン(戦う空間)以外の分析が不十分だ。
陸戦を主体に分析しているために、陸以外の海・空・宇宙・サイバー・電磁波などの重要ドメインの分析が不十分だ。
例えば、海の戦いであれば、ロシア軍の黒海艦隊は長距離ミサイル、無人機(UAV)、無人水上艇(USV)などにより大きな損害を出している。
その結果、主要艦艇はクリミアから撤退し、黒海におけるロシアの海上優勢が喪失している。つまり、クリミア半島における海戦においてウクライナ軍が勝利をしているという見方もできる。
航空優勢の分野についても、UAVによる低空域の航空優勢の重要性が指摘されている。
ウクライナ軍の善戦の大きな要因は、UAVの徹底的な重視と活用だ。
「陸上兵力の不足は、精密攻撃や長距離射撃、ドローン攻撃で補うことはできない」という主張は言い過ぎであろう。
勝利のための新たな技術や兵器、新たな戦い方の視点が希薄すぎる
ザルジニー前総司令官の「現時点で最も優先度が高いことは、比較的安価で、高い効果を発揮する最新の無人機や他の技術的手段を取り入れた兵器全般に習熟することだ。
新しい作戦にはデジタル分野での創造性、電磁波領域の管理、攻撃用ドローンとサイバー資産の統合運用が含まれる」という主張は重要だ。
ロシア軍の「量の戦略」に対抗するには、ウクライナの「量と質の戦略」が求められている。
ロシア軍の大きな損害に対する認識が甘い
現時点においては、ロシアが優位に立っているように思うが、ロシアも多くの問題点を抱えていると言わざるを得ない。
バフムトやアウディイウカの戦いにおいて、ロシア軍は人海戦術である「肉弾戦」に依存した。
これは犠牲を顧みず陣地を占領するロシア軍の強みともいえるが、その代償はやはり大きい。
『紛争から2年後の戦略的評価』でも、「2024年2月20日現在、ロシアは40万4950人の兵員、6503台の戦車、338機の航空機、25隻の艦船、その他多くの戦闘損失を失っている」と記述されている。
特に、主要兵器の損失を経済制裁下において簡単に埋めることはできない。ロシア軍の限界はここにあるし、欧米諸国の力を結集すれば、ロシアの大勝はないであろう。
● ウクライナ支援で弾薬供与や兵器の共同生産を…マクロン大統領「ロシア打ち負かすことが欧州の安全と安定に不可欠」 2/27
ウクライナ支援を協議する欧米各国の首脳・閣僚級の会議が26日、パリで開かれ、弾薬の供与や兵器の共同生産といった軍事・財政支援を続ける方針を確認した。
26日、パリで記者会見するマクロン仏大統領=ロイター
会議はフランスのマクロン大統領が呼びかけ、ドイツのショルツ首相やフィンランドのサウリ・ニーニスト大統領、英国のデビッド・キャメロン外相らが出席した。米国からも政府高官が参加した。オンラインで出席したウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ロシアの侵略を他の国へ拡大させてはいけない」と欧米の関与強化を呼びかけた。
マクロン氏は終了後の記者会見で「ロシアを打ち負かすことが欧州の安全と安定に不可欠だと確信している」と述べ、支援の必要性を強調した。
●仏大統領 ウクライナへ地上部隊派遣 “排除されるべきでない” 2/27
フランスのマクロン大統領は、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナに対し、欧米側が地上部隊を派遣する可能性について「合意はない」としながらも、「いかなることも排除されるべきではない」と述べました。
フランスの首都パリでは26日、ロシアによるウクライナ侵攻から2年となるのに合わせ、ヨーロッパ各国やアメリカなど、20か国以上の首脳や閣僚らが、ウクライナへの支援について話し合う会合が開かれました。
この会合に先立ってロイター通信などは、ウクライナへの軍事支援に否定的な立場を取るスロバキアのフィツォ首相が「一部の欧米諸国がウクライナへの派兵を検討している」などと発言したと報じました。
会合のあと、マクロン大統領は記者会見で、欧米側がウクライナへ地上部隊を派遣する可能性について質問されたのに対し「会合では、自由で直接的にさまざまな議論が行われた。正式な形で地上部隊を派遣することについて合意はない。しかし、いかなることも排除されるべきではない」と述べました。
また「フランスは戦略を明確にしない立場を取る。ロシアを勝たせないというわれわれの目的のためだ」と述べました。
ただ、会合の中での具体的なやりとりなどについては、明らかにしませんでした。
一方、今回の会合では、参加国が、ウクライナへの中長距離ミサイルのさらなる供与を目的とした、新たな枠組みを結成することで合意したということで、ウクライナへの支援についてアメリカが与野党の対立で軍事支援の継続が不透明となっている中、フランスが主導して、各国の連携を示した形です。
●『どこかで決断する時が来ている』 ウクライナ国民に「領土を諦めてもよい」が増加 キーウから発信続ける“ボグダンさん”緊急来日で「今後」語る 2/27
2月24日でロシアによるウクライナ侵攻からちょうど2年となる。 この2年間、ウクライナの首都・キーウから日本に向けて発信を続けてきたボグダン・パルホメンコさんが22日、関西テレビのスタジオに来てくれた。戦時下のウクライナの今を語った。
侵攻から2年 終わりの見えない戦闘
幼少期を大阪で過ごして日本語も堪能なボグダンさんは、ロシアによるウクライナ侵攻以降、何度もキーウから中継を結んで現地の状況を伝えてくれた。 戦時下であるウクライナから成人男性が出国するのが難しい中、ウクライナの現状や支援を日本に伝えるということで、ボグダンさんは国から許可をもらって、今回の来日が実現した。 ウクライナ研究の第一人者、神戸学院大学教授の岡部芳彦さんにも加わっていただいた。
これまでスタジオから何度もボグダンさんと中継を結んで話をする機会はあったが、今回こうやって対面するのは初めてになる。
神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:何回も聞かれたと思いますが、5年ぶりの日本の地を踏んだ時、最初に何を思われましたか?
ボグダン・パルホメンコさん:残りたいなって。やっぱり本当に日本が故郷なんで。特に大阪に来たら心がぐっと。思い出がすべて詰まってますから。自分がここでずっと生活してたんだなって、今まで幻想だと思ってたのが、いま現実化したのですごく嬉しいです
キーウでずっと張りつめた思いを持った中で、日本に来て、少しホッとするような感覚はあったか?
ボグダン・パルホメンコさん:コンビニに行って、ツナマヨのおにぎりとカレーパンを食べて、それをアイスティーで飲んだ時の感触というか感覚が、本当に実家に戻ったなっていう感覚ですね
ロシアとの戦いにおける象徴的な町の兵士から日本へメッセージ
ロシアによる攻撃でウクライナの民間人死傷者は3万人に迫り、終わりの見えない戦争のようにも思えるが、今のウクライナが置かれている状況を改めてみていく。 ボグダンさんが住んでいる場所は首都キーウだが、ウクライナ南東部4州は依然としてロシアが支配している状況だ。
そしてウクライナ軍は2月17日に、東部ドネツク州の町、アウディーイウカから撤退することになった。このアウディーイウカは、ウクライナ軍にとってどのような場所なのか?
神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:結構、忘れられている事ですが、この戦争2年ってよく言われるのですが、実はこの戦争って2014年から始まり10年目なんです。2014年にウクライナでマイダン革命があった時に、ロシアの侵略が始まって、最初ここは占領されるのですけど、すぐウクライナ軍が取り戻して、それからずっとウクライナが保持してきた町。その意味では確かにウクライナがロシアと戦ってきたという、象徴的な町ではあります
一部メディアは、2月17日だけでウクライナ兵数百人が犠牲となったと報じている。今回ボグダンさんはウクライナ国旗をもってきてくれた。国旗にメッセージが書かれていた。
ボグダン・パルホメンコさん:実はアウディーイウカの兵士に日本に僕は行くということを伝えたときに、ぜひ、日本にこの国旗を持って行ってほしいと。メッセージが書いてあって、例えば、『ウクライナに栄光』、『日本の国民の皆さまに感謝しております』、『英雄に栄光を』ということで、本当に兵士1人1人の熱い思い、エネルギーが詰まっているものです
これを書いてくれた兵士たちは、今どのような状況なのか?
ボグダン・パルホメンコさん:本当に精神的に追い詰められていて、支援も必要なんですけど、どちらかというと、その支援で得られるエネルギーが、最後の光となって、彼らが向こうに残る意味があるというか、そこまで過酷な状況の中でずっと生活をされています
アウディーイウカの塹壕の兵士たちが、懸命にネズミと戦いながら生活している様子を撮影した映像を見ると、非常に過酷な状況の中で、まさに戦闘の最前線にいることを思い知らされる。
学生は徴兵の"対象外" 新たに学生になった男性は侵攻前の20倍に
ウクライナにとって厳しい状況が続いているが、ウクライナ国内の実態について、気になる調査結果が発表された。 現地のジャーナリストなどでつくる団体の調査結果で、30歳から39歳で新たに学生になった男性の数は、侵攻前の2021年は2186人だったが、2023年は侵攻前の20倍になった。
ウクライナでは総動員令が出ていて兵士として徴兵されるが、学生は徴兵の対象外に。 ボクダンさんはどのように受け止めているのか?
ボグダン・パルホメンコさん:非常に現実的な数というか数字だと思っています。希望者は戦争が始まったタイミングで、全員志願して入って、それで約100万人ぐらいの兵士が加盟しましたので、戦争が長期化していて、なかなか先が見えない、何のために戦うのかというのがわからない中で、戦う意味があるのか、命をささげる意味があるのかという疑問の数字の表れだと感じています
ボクダンさん自身はこの後、徴兵される可能性はあるのか?
ボグダン・パルホメンコさん:可能性としてはあります。ただ僕は大学で軍事学科を卒業していて、少尉という階級をいただいています。少尉というのは、前線で戦わず、オフィスワーカー、指揮する方ですので、軍隊の方と相談して、今のところ(人は)足りているという部分と、そしてもう1つは2年間、一生懸命に支援をやってきたということで、できればボクダンには今の活動をそのまま続けてほしいという意向があります
兵士が足りていないという状況で、徴兵をできれば避けたいという方がいるという現状については、どのようにに感じているか?
ボグダン・パルホメンコさん:非常にそれが正しいと思います。僕自身も先日、前線から戻ってきた兵士から連絡があって、病院に入院しているから遊びにおいでよと、気楽に言われたんですけど、着いて見た彼の姿というのは、片足・片腕がない。で、彼自身はよろこんでいました。なぜかというと、男性の機能というのがまだあるから、子供が作れると。それを見た時に僕は、もう本当に何を言ったらいいのか分からなかったし、その1カ月後ぐらいに、ゼレンスキー大統領のインスタグラムアカウントで、その兵士が勲章を受け取っていたんですけれども、その勲章を受け取ったとしても、その得られたデメリットを、抱えたときに、うん…。前線に行くのは…っていう気持ちにどうしてもなってしまう
長期化する戦争 ウクライナ人の心境にも変化「領土を諦めてもよい」
岡部さんは、この兵士のなり手がいないという状況をどのように受け止めているのか?
神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:昨年ウクライナに行った時に、大学3つぐらい行きました。9月だったので新学期で、確かに学生数が多いと大学担当者も言われていて、こういう背景もあるんだと思ったんですけど、全面戦争というのは、戦う兵士たちの為だけのものではなく、後方で支える人たちももちろん必要で、それぞれの役割によって、やれることは違うのかなと思います
さらに、ウクライナ国民には、こんな心境の変化が起きている。 ウクライナ国民の中で「領土を諦めてもよい」という意見が増加している。 2022年5月は10%だったが、2023年10月は14%、2023年12月は19%にまで増えている。とはいえ、ゼレンスキー大統領は戦う姿勢を崩していないし、まだ7割以上が「領土を諦めない」という結果がある。
ボグダン・パルホメンコさん:どこかのタイミングでやっぱり決断する時が来ていると思います。領土はもちろん完全勝利でウクライナのものに戻したいんですけど、その対価がどれくらいあるのか。そしてこのデータは全国民のデータです。この中から徴兵の対象になってない女性の意見を抜いた場合は、結果は大きく変わると思います。自分の命をささげてまで、すべての領土を戻すという国民の数は、非常に限られるんじゃないかなと思います
岡部さんはこのデータをどうみますか?
神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:実は質問がもう1つ付け加えられてまして、ドンバス・クリミアを含む全領土となっているんです。戦争が始まった2024年の時のラインまでか、それとも全部取り戻すかというと、ちょっとそこまでじゃなくていいんじゃないかっていう。戦争前から占領されたところまで取り戻すかって言われると、そうじゃなくてもいいんじゃないかという意見が増えてきています
停戦交渉の行方、そしてウクライナ人に求められるもの
ボグダン・パルホメンコさん:戦争が始まったタイミングでどちらも負けなんです。戦争を起こさないことが勝ちだと僕は思っていて、起きてしまったので、完全勝利パーフェクト勝ちっていうのはもう起きない。なので、今まで国民が団結するために、完全勝利だって政府はうたってきて、国民もそういう心境になってるんですけれども、ただ、もう2年のタイミングで気持ちを切り替えて、現実的な着地点というのを探して、そしてその代償がやっぱり1人1人の命、本当に多くの仲間が亡くなってますので、それを理解した上で、判断して行くことが重要なのかなと思っております
となると、選択肢として停戦という可能性もあると思われるが、停戦のあり方についてはどう考えるか?
神戸学院大学教授 岡部芳彦さん:すごく難しいところで、この戦争が2014年に始まったとすると、2年前にそれがさらに激化したような形です。なので、もう一度ロシアが侵攻してくるというのを、なんとか防ぐ形が非常に重要なのではないかと。ラインではなくて、ロシアが二度とウクライナに侵略しないという事が、一番重要だと思います
神崎デスクは、停戦交渉の行方をどう見ているのか?
関西テレビ 神崎報道デスク:去年から始まった、ウクライナ側の反転攻勢というのが、実は当初期待されていたほどの成果が出ていません。いま一部ですがロシアの優勢が伝えられる戦線もある中で、海外メディアの報道ですが、プーチン大統領がいまロシアが占領してるところでラインを引いて、そこで戦闘を休止して、停戦するという条件をアメリカ側に提示したと言われています。これをアメリカ側が拒否したというような報道が出ています。水面下では停戦に向けた交渉が行われているという事実はあるようです
今後、どのようになっていくと考えているのか?
ボグダン・パルホメンコさん:もう一度、全てを改めて見つめ直して、具体的な現実的な終戦の仕方、停戦を含めて考え直すタイミングと、改めて自分たちが望む国はどういう国なのか、その国のシステムはどういうシステムなのか、国民の生活はどうなのか、やはりそこを考え直すタイミングが、今ウクライナの人に一番求められてるものではないかなと感じています
今後、日本にはウクライナの復興を一緒に考えてほしい
今回、ボグダンさんはどうしても「日本の支援に感謝」を伝えたいと言う。
ボグダン・パルホメンコさん:僕自身も2年間、日本の方から多くのサポートを、応援をいただいて頑張ってこれました。日本がなかったら僕はとっくに多分諦めていて、何もしていなかったと思います。ですので、本当に今回は現状発信するとともに、どちらかというと、今までの2年間に感謝を伝えるということが、僕の目的です。そして本当に今を大切に生きてください。今ある普通というのは、普通じゃなくて本当に貴重なものですので、今を大切になさってください
日本にできる支援にどのようなことを求めるか?
ボグダン・パルホメンコさん:復興に関しては、日本の政府が58兆円という、本当に大きなお金を用意してくださっています。それをどういうふうに使って、ウクライナを今後サポートできればいいのかというのは、日本国民とウクライナ国民、一緒になって考えるべきだと思います。ぜひそのお力添えというのを、日本の国民1人1人にいただければと思っております
日本にしかできない支援もあるはずだ。災害大国日本ならではのやり方、地雷の撤去、がれきの除去、インフラの整備などの支援を私たちも考えていかなくてはいけない。
●ウクライナ大統領、クリミア奪還に向けた「戦い」呼びかけ 2/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、同国およびその国際的なパートナー国はロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島に対する領有権を再び得るために戦い続けなければならないと呼びかけた。
ウクライナではこの日、クリミアの中心都市シンフェロポリで開かれた、併合への道を開いたロシア側の動きに反対する集会から10年を迎えた。
ゼレンスキー大統領はビデオ演説で「現在ウクライナに対して繰り広げられているこの残酷な戦争は、まさに世界がこのような犯罪から目をそらすことができると感じたときに、ロシアの報復主義によって生み出された」と指摘。ウクライナのパートナー国に対し、国際法の完全な順守のために戦うよう要請した。 

 

●「裏切者は許さない」 獄中で“謎の死”を遂げたナワリヌイ氏 2/28
ロシアの刑務所で収監中に死亡したアレクセイ・ナワリヌイ氏の母親が、ロシアの捜査当局に対して遺体の早期返還を求めて提訴した。
妻のユリアさんもSNSを通じて「ナワリヌイ氏の遺志を継ぐ」と宣言するなど、反プーチンの姿勢を鮮明にしている。
今後、“ナワリヌイ ファミリー”はどうなるのか。ナワリヌイ氏本人に取材した経歴がある大和大学の佐々木正明教授に聞いた。
「遺志を継ぐ」妻の姿勢に称賛
――家族への影響は?
ナワリヌイ氏が亡くなった後、妻・ユリアさんは早速YouTubeやツイッターなどで、「自分はナワリヌイ氏の遺志を継ぐ」と宣言しました。
ロシア当局はナワリヌイ氏に花を手向ける人を拘束するなどしていますが、次のターゲットになるのはナワリヌイ氏の母親のリュドミラさんやユリアさん、弁護士ら「ナワリヌイ グループ」といったナワリヌイ氏の支援者になると思います。
これは大統領選挙が近いからです。
今ロシア社会がぐらつくと、プーチン政権の戦争継続の政策や大統領選挙への余波が大きくなるので、治安当局は早期にユリアさんを抑えることに裏で動いています。
――妻・ユリアさんの発言も影響力ある?
ユリアさんがYouTubeにメッセージを上げると、瞬く間に2時間で200万回再生され、今は590万回のアクセスがあります(2月26日時点)。
YouTube上ではユリアさんの姿勢を称賛し、プーチン政権を批判するメッセージが溢れています。
これは政権にとって由々しき事態で、反プーチンの導火線に火が着いて大きく燃え広がる前に、ユリアさんの口封じをする必要があるとターゲットにされています。
“ナワリヌイ ファミリー”への圧力
現地を訪れた母親のリュドミラさんに息子の遺体が引き渡されたのは、死去が発表されてから8日後だった。
ロシア当局は「検査に少なくとも14日間かかる」などとして当初は引き渡しを拒否していたが、その対応について佐々木教授は、「ナワリヌイ グループによる真実の曝露を恐れている」と指摘する。
――なぜ遺体を引き渡さなかったのか?
ナワリヌイ氏は2020年9月、シベリアに渡航中に猛毒の神経剤・ノビチョクを盛られて意識不明になりました。
ドイツの病院で命は取り留めましたが、ロシアに残っていたらうやむやのまま死に至っていたと思います。
映画「ナワリヌイ」では、プーチン氏の側近であるパトルシェフ安全保障会議書記の命令を受けて秘密工作のチームがやったのではないと示唆しています。
そのため遺族側は今回、自分たちで検査して死因を調べたいという思いがあります。
遺体を引き渡さなかったのは、プーチン政権が「ナワリヌイ グループ」が真実を暴くのを恐れているからです。
――ユリアさんへの制裁は?
ユリアさんがロシアに戻って街頭でデモをすれば、反プーチンの大きな政治勢力になりかねません。
また、ナワリヌイ氏の遺志を継いで大統領選挙に立候補したり、政治家になるといった選択肢もあると思います。
そのようなことにならないようにユリアさんには圧力がかかります。
また、弟のオレグ氏も指名手配されるなど、当局のターゲットになっています。
今反体制派の人たちはロシアを離れ、ベルリンやロンドン、パリ、アメリカなどに逃れています。
中には、ロンドンで毒殺された元KGBの職員のように命を狙われている人もいます。ユリアさんはそうしたことを覚悟して、反プーチンの旗手になろうとしています。
「裏切者は許さない」というのがプーチン政権の掟です。
プーチン氏に歯向かう者は罰を受ける、という姿勢はどんどん強まっていくと思います。
ユリアさんは命を狙われることを知りながら、夫が残した言葉を受け継いで、愛する故郷や自由と民主主義、そして、嘘でまかり通らない政治のために、信念を持って命がけの行動を海外から起こすのだと思います。
●人権活動家オレグ・オルロフ氏に実刑判決 プーチン政権を批判 2/28
ロシアの裁判所は人権活動家オレグ・オルロフ氏に対して、軍の信用を傷つけたとして懲役2年6カ月の実刑判決を言い渡しました。「ロシアはファシズムに陥った」とする投稿が罪に問われました。
「判決は私の記事が正確で真実だということを示している」(オレグ・オルロフ氏)
2022年のノーベル平和賞を受賞した人権団体「メモリアル」の幹部だったオレグ・オルロフ氏は2022年11月、SNSに投稿した記事の中で「ロシアはファシズムに陥った」などとプーチン政権を批判しました。
これを裁判所は「軍の信用を傷つけた」として2023年10月、15万ルーブル(=日本円で約22万円)の罰金刑を言い渡しましたが、検察が判決を不服として控訴し、今回、実刑判決となりました。
人権団体の「メモリアル」は、2021年12月に最高裁から解散命令を受け、2022年2月下旬に解散を表明しました。
●ノーベル平和賞のロシア人権団体幹部に実刑、ウクライナ侵攻を批判 2/28
モスクワの裁判所は27日、2022年にノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体「メモリアル」幹部だった活動家オレグ・オルロフ氏(70)がウクライナ侵攻に反対して軍の信用を失墜させたとして、禁錮2年6月の実刑判決を言い渡した。
オルロフ氏は、ウクライナ侵攻を巡る反戦デモに参加したほか、寄稿でプーチン政権が「ファシズムを望んだ」などと非難したために起訴されていた。
同氏は判決後、手錠をかけられて連行される際、「判決は私の論説が正確で真実であることを示した」と語った。
1989年に設立されたメモリアルは、ロシア国内の言論の自由を擁護し、人権侵害を記録する活動を続けてきたが、外国工作員に指定されて21年に解散した。
米国務省のミラー報道官は、オルロフ氏への実刑判決について「ウクライナに対するロシアの侵略戦争に平和的かつ勇気を持って反対の声を上げただけで、2年半の禁錮刑を言い渡された」と批判。
ヒューマン・ライツ・ウォッチやアムネスティ・インターナショナルなど30を超える人権団体も判決を非難した。
ロシアでは16日、反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が収監先の北極圏の刑務所で死亡した。
●ナワリヌイ氏急死で残る闇″鮪発表した機関の責任者が昇格 2/28
ロシアのウクライナ侵攻から2年が経過し、なおもロシアは攻撃を続けている。2月16日には反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏が急死する事件も起きた。
ナワリヌイ氏は野党系の指導者であると同時に、登録者数600万人を超えるロシア一の政治系ユーチューバーだった。2017年3月にドミートリー・メドベージェフ首相(当時)が複数の超巨大別荘を所有していることを暴露した動画は、再生回数約3100万回でロシア国民の3分の1が見たともいわれる。
20年8月、ナワリヌイ氏は毒殺されそうになったが、ドイツで一命を取り留めた。21年1月、ロシアに帰国したナワリヌイ氏は空港で逮捕されたが、彼の同志が公開した「プーチンのための宮殿。最大の賄賂の歴史」は、再生回数1億3000万回で、ほとんどのロシア国民が見たといわれている。
このように注目されているナワリヌイ氏を亡き者にした場合、ウラジーミル・プーチン大統領に不利に働くと思うが、そうした西側諸国の常識は全く通じないのかもしれない。あえていえば、ロシア国民や世界がプーチン氏に、より恐怖心を持てば好都合だというくらいにしか考えていないのだろうか。
プーチン氏は21年にロシア、ウクライナ、ベラルーシを「三位一体のロシア民族」と強調しており、対ウクライナ戦の勝利は絶対条件だ。
ウクライナは昨年6月からの反転攻勢が功を奏さず、戦況は優位ではない。他方、ロシアは22年9月、武力制圧した4州の併合を一方的に宣言し、憲法にも「ロシアの構成体」と明記したが、ロシアの完全制圧ともいえない。
今後の見通しについて、米国からの支援が切れているのはウクライナにとって痛い。頼みの綱は、今夏から投入予定の欧州からのF16戦闘機などだ。だが、11月に米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利したら、その段階の勢力図で停戦という流れになる可能性もある。
そうした提案がトランプ氏から出たら、プーチン氏も当面応じる可能性があるが、あくまで「三位一体のロシア民族」を目指すので、残りのウクライナ領を諦めないだろう。
ナワリヌイ氏が暗殺されたかどうかは不明だが、仮に暗殺だった場合、この時期に行ったのは、プーチン氏のあくなき野望を達成するという強い意志とも筆者には見える。
プーチン氏は2月19日付の大統領令で、法務省傘下にある連邦刑執行庁のワレリー・ボヤリネフ第1副長官を「大将」に昇任させたと発表した。連邦刑執行庁はナワリヌイ氏を投獄しており、獄死を発表した機関だ。その責任者を昇格させるとは、プーチン氏のやり方は、やはり西側諸国の価値観とは大きく異なっている。
もっとも、22年公開のドキュメンタリー映画『ナワリヌイ』の最後で「殺されるとしてロシア国民にどんなメッセージを残しますか?」と質問され、ナワリヌイ氏は「決してあきらめるな」と答えている。ロシアでの反体制運動は強まるだろう。
●ロシア、核で北欧威嚇か ウクライナ侵攻下のNATO拡大―軍管区改編で対抗 2/28
ロシアは、ウクライナ侵攻が招いた北大西洋条約機構(NATO)の北方拡大を深刻に受け止めている。昨年4月にNATO入りしたフィンランドとは長大な国境を接し、26日に加盟が決まったスウェーデンはバルト海を挟んで最西端カリーニングラード州と対峙(たいじ)。プーチン政権は着々と対策を講じ、核兵器による威嚇も強める構えだ。
プーチン大統領は26日、ロシア西部を管轄し、北欧やウクライナ方面の対応に当たる西部軍管区について、機能強化を図るため「モスクワ軍管区」と「レニングラード軍管区」に分割する大統領令に署名した。
西部軍管区は2010年にモスクワ、レニングラード両軍管区を統合してできたもので、元通りに2分割する。カリーニングラード州や、独立した軍管区として扱われていた北方艦隊は、北欧をにらむレニングラード軍管区に組み込まれる。
ザハロワ外務省情報局長は1月26日、スウェーデンの加盟が「北欧とバルト海沿岸の安定に極めて悪い影響を与える」と指摘。「今後、政治・軍事的な対抗措置を取る」と警告していた。
報道によると、国防省は核兵器を搭載可能なTU160超音速戦略爆撃機などを中部から北西部ムルマンスク州に一部移転。北欧と隣り合う位置で、ウクライナのドローン攻撃も避けられる。
プーチン氏は2月22日、改良型のTU160Mに試乗。NATOの北方拡大完了を前に、陸海空による「核の3本柱」の一端を誇示した。バレンツ海やノルウェー海上空での戦略爆撃機の飛行が今後、増えるとみられる。
スウェーデン加盟でバルト海が「NATOの湖」となれば、沿岸のカリーニングラード州はますます孤立する。プーチン政権は同州で、核弾頭を搭載できる地上発射型ミサイルシステム「イスカンデル」の演習を継続。昨年には同州に近い同盟国ベラルーシに戦術核を移転し、イスカンデルも引き渡した。
さらに、ロシア軍はウクライナ侵攻の進捗(しんちょく)を踏まえながら、戦時下で昨年は見送った大規模軍事演習「ザーパド(西)」を将来的に実施する見通し。過去にも起きたロシア軍機によるスウェーデン領空侵犯も、繰り返される可能性がある。
●ロシア野党指導者ネムツォフ氏殺害から9年 反政権の動き警戒か 2/28
ロシアでプーチン政権に批判的だった野党指導者が殺害されてから27日で9年となり、欧米の大使らが花を手向け追悼しました。ロシアでは今月、反体制派の指導者ナワリヌイ氏の死亡をめぐっても追悼の動きが起きていて、当局側は反政権の動きが広がることに警戒を強めているとみられます。
ロシアでは2015年に首都モスクワでプーチン政権に批判的だった野党指導者のネムツォフ氏が銃で撃たれて殺害され、実行犯が殺人などの罪で有罪判決を受けましたが、誰の指示だったのかなどはわかっていません。
事件から9年となった27日、現場となった橋では、モスクワに駐在する欧米の大使や市民が訪れて花を手向け、ネムツォフ氏の死を悼みました。
ロシアでは来月の大統領選挙でネムツォフ氏の側近だったナデジディン元下院議員がウクライナへの侵攻に反対し、プーチン大統領に対抗する候補として注目されましたが、選挙管理委員会は立候補を認めませんでした。
また今月、刑務所に収監されていた反体制派の指導者ナワリヌイ氏の死亡が発表され支援団体は告別式を開きたいとしていましたが、27日SNSで「開催場所を探しているが、ナワリヌイの名前を出すと拒否される。われわれへの協力は禁じられているとも言われた」と明らかにしました。
ナワリヌイ氏の死亡をめぐっては追悼の動きや政権への抗議デモなども起きていますが、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「支持者の動きは非常に悪質だ」などと非難していて、当局側は反政権の動きが広がることに警戒を強めているとみられます。
●ロシア外務省局長、日独などは「便利なばか」 G7声明を批判 2/28
ロシア外務省のザハロワ情報局長は27日に発表した声明で、ロシアにウクライナからの無条件完全撤退を求め、対露制裁の強化を表明した先進7カ国(G7)首脳声明を「ロシアへの不当な要求」と批判、米英両国が反露的な政策実行のために日本やドイツなど他のG7の指導者を「便利なばか」として利用しているとこき下ろした。
ザハロワ氏は、米英がG7をロシアとの闘争の本拠に変質させたと指摘。日独やフランス、イタリアなどは米英に利用されているとし、これらの国はG7への参加が本当に国益にかなうのか再考すべき時だと主張した。
11月の米大統領選を念頭に、バイデン米大統領の任期は近く終わる可能性があり、他のG7のリーダーたちも安泰ではないと指摘。岸田文雄首相が「1人で剣を振り回し続けることはないだろう」と皮肉った。
●ウクライナ抵抗部隊、南部でロシア与党の事務所を爆破 2/28
ウクライナ軍の関連組織「国民レジスタンスセンター」は27日、ロシア占領下の南部ヘルソン州ノバカホウカで、ウクライナの抵抗部隊がロシア政権与党「統一ロシア」の事務所を爆破したと発表した。
国民レジスタンスセンターは、ウクライナ軍の特殊部隊が運営する公的機関。事務所への攻撃はロシア占領地での「偽りの選挙」の進行を阻止するのが目的だったと述べた。
同センターは占領地の住民らに対し、来月予定されるロシア大統領選に参加しないよう改めて呼び掛け、選挙プロセスの手配に加担する者はその行為の責任を問われると警告した。
ロシアが任命したヘルソン州の選管責任者は27日のビデオ声明で、「ウクライナによるテロ攻撃」で被害を受けたと述べた。
また、遠隔地や前線の住民を対象とする大統領選の期日前投票は27日が初日だったと指摘した。
同責任者によると、この日は同じヘルソン州のホロプリスタンスキーでも、ウクライナが選挙関連施設への妨害工作を図った。事務所近くで砲弾1発が爆発したという。
ロシアが任命した同州トップのサルド氏も攻撃があったことを確認し、ドローン(無人機)が使われたと主張。けが人は出なかったとしたうえで、被害のあった現場のビデオをSNSに投稿した。
●ロシア兵と若者の衝突...帰還兵が路上で一方的に暴行される 2/28
酔った様子のロシア人男性と若者が路上で口論になり、乱闘に発展する動画がSNSに出回っている。ウクライナ戦争で従軍したというロシア兵は、若者に一方的に殴られていた。
動画はロシアとウクライナの戦争に関する情報を英語に翻訳する独立メディア「WarTranslated」がX(旧ツイッター)に投稿したものだ。
動画が撮影された日時や場所は不明。本誌は動画の信憑性を確認できておらず、ロシア外務省にコメントを求めている。
ウクライナの前線からロシアに帰還した兵士が暴行されたという報告は後を絶たない。1月にはロシアの捜査委員会が、同国南部チェリャビンスクで大晦日の日にロシア兵に暴行したとされる3人を、「フーリガン行為」で立件すると発表した。チェリャビンスクはカザフスタンとの国境のすぐ北側に位置する。
今回の動画では、ロシア兵が若い男性を相手に、自分はウクライナから「帰還した」ばかりだと話しかけていた。
聞きたくないと言い返した若者に対し、ロシア兵は「無礼」だと詰め寄る。「我々がお前らのために戦っているのに、お前は無礼すぎる」
若者は「オレが無礼だと?」と応じ、店内で自分を侮辱した理由を兵士に問いただして「勝手にやってろ」と言い放った。
「我々がお前のために戦っているのに、『勝手にやってろ』だと? お前みたいなヤツのために戦っているのに?」と言い返す兵士。若者が兵士にパンチを浴びせたのはその時だった。
よろめいた兵士を若者がもう1発殴ってのけぞらせ、フラフラになったところでヘッドロックをかけて地面に投げ飛ばした。続いてカメラがとらえた兵士の知人と思われる男性は、「オレは関係ない、オレは関係ない」と逃げ腰の様子だ。
ロシア兵は立ち上がったものの、再び若者に暴行されて地面に転倒。若者が怒鳴って兵士を蹴る場面の後、動画は途切れた。
WarTranslatedのドミートリーは、動画についてこうコメントしている。「ロシアで酔った『SMOの兵役経験者』が店で誰彼構わず話しかけようとして相手を侮辱した。だが思った通りにはいかなかった。まさにその『SMO』のように」。ロシア政府はウクライナの戦争を「特別軍事作戦(SMO)」と称している。
●インド人、「だまされて」ウクライナ戦地へ ロシアのため戦うはめに 2/28
少なくとも12人のインド人があっせん業者にだまされ、ウクライナと戦争中のロシア軍のために戦わされており、うち1人はミサイル攻撃で死亡した――。インドでそんな報道が出ている。
インド紙「ヒンドゥー」は先週末、グジャラート州出身のヘマル・アシュウィンバーイさんが21日にミサイル攻撃で死亡したと伝えた。
ヘマルさんの父親は23日、ヘマルさんと3日前に話をしたとBBCに説明した。ウクライナの国境から同国内に20〜22キロメートル入った地点に配属され、携帯電話がつながった時には数日おきに電話をかけてきたという。
他のインド人たちの家族は動揺し、連邦政府に帰国させるよう訴えている。
家族らによると、だまされたのは22〜31歳の男性たちで、「ロシアの軍施設のヘルパー」として雇われた。その後、「訓練」を口実に戦場に送り込まれたという。
ロシア国内のインド情報筋は、これまでに数十人のインド人がロシア軍に入隊したと話す。しかしロシア国防省の関係者は、実際には昨年100人近くが採用されたと「ヒンドゥー」に述べた。BBCはデリーのロシア大使館に取材を申し込んだが、まだ返事がない。
インド外務省は、「何人かのインド人がサポート役としてロシア軍に入隊している」と認めている。
同省は声明で、「モスクワのインド大使館に持ち込まれたこうした事案についてはすべて、ロシア当局に強く働きかけている。外務省に持ち込まれた事案については、ニューデリーのロシア大使館に働きかけている。その結果、すでに何人かのインド人が除隊となっている」と説明した。
同省はまた、「すべてのインド国民は十分に注意し、この紛争に近づかない」よう呼びかけている。
何人かの男性たちは動画で、どのようにあっせん業者にだまされて戦場に送られたかを説明しており、家族に衝撃が広がっている。家族はみな貧しく、トゥクトゥク(3輪自動車)運転手や茶の販売、手押し車での物売りなどをしている。
男性らとその家族は、数カ月の軍務につけばロシアのパスポートが手に入るとあっせん業者に約束され、30万ルピー(約55万円)を支払うよう要求されたと主張している。あっせん業者はインドやアラブ首長国連邦(UAE)、ネパール、スリランカから人を集めており、料金は最大120万ルピーに上っているという。
BBCが取材した一部の親族らは、男性たちは高い給料を約束されて誘い込まれたが、何に巻き込まれるのか分かっていなかったと話した。いまもロシアにいる男性たちは、安全のため身元は明らかにされていない。
カルナタカ州で手押し車で茶と卵を売っている父親は、「28歳の息子はドバイの包装会社で働いていた。彼は友人3人と一緒に、あっせん業者の動画を見た。ロシアで仕事があり、9万〜10万ルピーの給料を約束するという内容だった。彼らの当時の収入は3万5000〜4万ルピー程度だった。みんな借金して、あっせん業者に30万ルピーを支払った。どうか息子を連れ戻すのを助けてほしい」と、電話口で泣き崩れるようにBBCヒンディー語に語った。
テランガナ、グジャラート、カシミール、西ベンガル、ウッタル・プラデシュの各州から集められた人々も、同様にだまされたとされる。モスクワから逃れて帰国したのは1人しかいない。
ウッタル・プラデシュ州出身の男性は、1月末にモスクワの安全な場所で撮影された動画で、「(インド人が運営するユーチューブ・チャンネルの)BabaVlogによってここに連れてこられ、(月に)15万ルピーの給料を約束された。軍に徴兵されるとは聞いていなかった」と話した。BBCはこのチャンネルに連絡したが、返事はなかった。
だまされたと訴える人たちに戦闘経験はない。軍服姿で動画に登場したウッタル・プラデシュ州出身の男性は、ソーシャルメディアで採用されたと説明した。
「モスクワでロシア語で契約書にサインし、よく分からないうちに、戦地に送り込まれる兵士になっていた。私たちはだまされた」。男性はそう言い、自身と他のインド人2人は戦闘で負傷したと主張。傷を負ったとみられる右手で身振りをしながら説明した。
「どうか私たちをここから出してほしい。そうでないと前線に送られる。砲撃があるし、ドローン(無人機)がそこらじゅうに落ちてくる。私たちは戦争経験がゼロだ。あっせん業者のせいで、こんな状況に置かれている」
カシミール州出身の男性は、ロシアとウクライナの国境地帯から電話で、仲間のインド人1人と、ネパールとキューバからの計9人と共に、ウクライナ南東部のマリウポリに足止めされていると話した。この男性は訓練中に足を負傷したという。
「私の指揮官は、右手で撃て、左手で撃て、上に撃て、下に撃て、と言い続けていた」。男性はそう振り返った。
「銃は触ったこともなかった。ものすごく寒くて、左手で銃を持っていた時に自分の足を撃ってしまった」
男性たちの1人のきょうだいは、インド人たちが「ワグネルの民兵部隊にいるのか、ロシア軍にいるのか」分からないとし、こう言った。「彼らはウクライナ国境から40キロほどの地点にいる。3カ月でロシア市民権をもらえると約束されている」。
訓練や戦地への派遣をただ一人免れたのが、グジャラート州アーメダバード出身のシャイフ・モハメド・タヒールさん(24)だ。先週帰国し、「私はここの車のバッテリー工場の労働者だった」と話した。
こうした問題は、ハイデラバード市選出の国会議員アサドゥディン・オワイシさんが取り上げたことで注目を集めた。オワイシさんは1月23日に外務省に文書を送り、男性たちを帰国させるため政府の介入を求めた。
インドの主要野党・国民会議派のマリカルジュン・カルゲ党首は、過去1年間で100人ほどのインド人が「ヘルパーとしてロシア軍に採用された」と主張した。
「衝撃的なことに、その一部はロシアとウクライナの国境で、ロシア軍と共に戦わされている。パスポートや書類が取り上げられ、身動きが取れず帰国できないと話す労働者もいる」
2022年にウクライナで戦争が始まったとき、インド人数人がウクライナ軍に志願したとの報道が一部であった。だが、ロシア側で戦闘任務に就いているインド人がいると報じられたのは、これが初めてだ。
BBCは、ロシアにいるインド人で、かつてウクライナ国境付近で従軍し、現在は軍に所属していない男性に話を聞いた。彼は自らの経験から、ロシア軍は透明性があり、契約内容はオンラインで見られるようになっていたと述べた。ただ、ロシア語を知らない人はあっせん業者にだまされていたと付け加えた。
●ロシア・ウクライナ国際的武力紛争:行方不明者は23,000名 2/28
赤十字国際委員会(ICRC)は、2万3,000人の行方不明者の安否確認に努めています。捕虜になったか、殺害されたか、あるいは故郷を逃れて連絡が取れなくなったか、さまざまな事情により家族はその消息をつかめていません。戦争がもたらす筆舌に尽くしがたい損失と苦しみの上に、離れた身内を思う心の痛みが加わります。紛争激化から2年が経過した今、両国の国境周辺、また国境を遠く離れたところに避難している数百万人を含め、人道ニーズは高まっています。
「愛する人の身に何が起こったのかわからない現実は耐え難く、何万もの家族が絶え間ない苦悩の中で暮らしているという悲劇的状況です。家族には、自分の身内に何が起こったのかを知る権利があり、状況が許す場合は、連絡を取り合う権利もあるのです」 ICRC中央追跡調査局ロシア−ウクライナ紛争事務局ブヤシャニン代表
2024年1月末までに、ICRCは、ウクライナやロシアなどで活動している赤十字社、赤新月社と協力し、8,000の家族が行方不明の身内の安否と所在に関する情報を得る手助けをしました。この2年間で、行方不明の身内を探している家族から、電話やオンライン、手紙、または直接の訪問を受けるなどして、両国合わせて11万5,000件以上の問い合わせがありました。
「数千に及ぶ離散家族に対して、最愛の人との通信や安否確認ができるよう取り組んできました。しかし、いまだ多くの人が消息不明のままです。私たちは、より多くの家族を助けるために日々全力を尽くしています」と、ブヤシャニンは語りました。
家族の語り「今度夫に会ったら、昨日私たちの赤ちゃんが生まれたと伝えてください。私たちは元気で、彼を待ち続けます」「息子が生きていると聞いてとても嬉しいです。2カ月もの間何の知らせも届かず、私は死人同然でした」「涙は枯れ、今あるのは痛みだけ。心が張り裂けてしまいました」
2022年3月に中央追跡調査局がロシアーウクライナ紛争関連の窓口を設立。紛争当事者と協力して失踪を防ぎ、前線の両側で親族を探す人々を支援しています。
両国の当局は、ジュネーブ諸条約に基づいて国家情報局を設置し、保護されるべき人々(戦争捕虜や民間人の被拘束者など)に関する情報の収集、一元管理、伝達を担っています。
ICRCの中央追跡調査局は、ロシアとウクライナの中立的な仲介として、これらの情報を収集し、一元管理し、保護し、双方へそれぞれ伝達します。ジュネーブ諸条約では、当事国がその手中にあるすべての被保護者についてICRCに報告することが定められていて、これは失踪を防ぐために大きく貢献します。
「家族からの追跡依頼と国家情報局から受け取った情報が一致することで、愛する人の安否に心を煩わせる長い月日が終わるのです」とブヤシャニンは言います。
ICRCは、約50カ国で活動する赤十字パートナーと緊密に協力し、行方不明者や捕虜の家族に知らせを届けられるよう努めています。また、必要に応じて中立的な仲介役を務めることで、遺骨の回収や身元確認、移送や送還など、国際的武力紛争の当事者が法的義務を果たすことができるよう支援しています。
国際人道法は、家族が行方不明の親族の安否と所在を知る権利を支持しています。国際的武力紛争の当事者はみな、人々の失踪を防ぎ、行方不明者の家族にその安否を知らせる義務があります。紛争当事者に拘束された人々は、人道的に扱われなければならず、死者も尊厳のある方法で処置されなければなりません。
●AGC、ロシアから撤退 ウクライナ侵攻長期化のため事業を譲渡 2/28
ガラス大手のAGCは28日、ロシアでのガラス製造販売事業を売却したと発表した。約1年前から売却を検討していたが、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、先行きの不透明感が増しているため、ロシア事業から完全に撤退する。
AGCはロシアに欧州法人の子会社として二つの工場を持ち、主に建築用ガラスなどを手がける。2023年12月期の売上高は2工場で計341億円。売却額などは非公表だが、ロシアで建築用ガラスの加工メーカーを経営する実業家へ譲渡したという。
為替の影響を受けて資産が目減りした損失が2億2千万ユーロ(約350億円)発生する見込みで、24年12月期の業績見通しにはすでにおり込んでいるとした。
●アウディイウカ近郊も撤退 ロシア軍が「戦場で主導権」―ウクライナ 2/28
ウクライナ軍報道官は27日、東部ドネツク州で今月陥落したアウディイウカ近郊の2集落から部隊が引き揚げたと明かした。ウクライナメディアが伝えた。前日も別の集落から撤退したといい、ウクライナ軍は立て直しを急いでいる。前線で指揮を執るタルナフスキー司令官は27日、これら3集落の後方地点を挙げて、「防衛線は安定している」と主張した。
攻勢を強めるロシア側は、アウディイウカ周辺で、米国がウクライナに供与した主力戦車「エイブラムス」1両を破壊したとしている。国営タス通信が26日、ロシア当局者の話として伝えた。
米シンクタンク戦争研究所は26日の報告で「ロシア軍が戦場一帯で主導権を取り返している」と指摘した。
●仏大統領のウクライナ派兵巡る発言、NATO諸国に大きな波紋 2/28
フランスのマクロン大統領は26日にパリで開催したウクライナ支援の国際会合で、欧米諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性を排除しない考えを表明した。
その意図はロシアに対する「戦略的な曖昧さ」を提起することにあったが、あまりにも曖昧だったため、北大西洋条約機構(NATO)諸国に混乱といら立ちを巻き起こしている。
この発言は、タブー(禁忌)をあえて犯すことを好み、伝統的な思考に挑発的な姿勢を取りたがる「外交の破壊者」というマクロン氏の評判にふさわしいものだ。
実際、ウクライナへの派兵を否定しないことで、そうした行動はNATOとロシアが全面対決する世界戦争に発展するリスクがある、という見方に異議を唱えようとしている。
これをきっかけに、ウクライナとロシアの戦争に対する西側の直接的な関与拡大の道が開かれ、結局は先見性のある発言だったということになるかもしれない。
一方で、ウクライナ支援で西側の結束を強化したいというマクロン氏の最大の狙いが台無しになる恐れもある。
米政府はウクライナ派兵はしないと明言。ドイツ、英国、イタリア、スペイン、ポーランド、チェコもすぐさま、マクロン氏の考えに距離を置く姿勢を示した。
複数のフランス政府高官は、マクロン氏が議論に刺激を与えたかっただけで、派遣構想に含まれるのは地雷除去や国境警備、ウクライナ軍の訓練といった非戦闘部隊だと補足説明している。
フランスのセジュルネ外相は「われわれはウクライナ支援で新たな行動を検討し、非常に個別具体的なニーズに対応しなければならない。私は特にウクライナ領土での地雷除去、サイバー攻撃防止、武器保管場所の警備を考えている」と語った。
独仏関係にもあつれき
マクロン氏の発言は、欧州の政治的協調の要となるフランスとドイツとの関係という面でも、あつれきを増大させる恐れを招くことになった。
同氏は一部の国が2年前、ウクライナに「寝袋とヘルメット」しか送りたがらなかったと指摘し、ドイツに対して当初の消極姿勢を捨ててウクライナに攻撃兵器を供与するよう促している様子だった。
これに対して複数のドイツ政府高官は最近数週間、非公式の場でフランスこそウクライナに十分な支援を提供していないと非難している。
ある西側諸国の当局者は、マクロン氏がわざわざ状況をかき乱したり、あえて困惑をもたらしたりする行動を取っていると嘆く。欧州連合(EU)外交官の一人も、マクロン氏の発言で同盟諸国に不協和音が生じていると不快感をにじませた。
ただ、フランス外交筋は西側がウクライナに対して武器提供やその他の支援を宣言するだけの現在の方針を続ければ、ロシアのプーチン大統領に西側は弱いとの印象を与えかねないと主張。現実問題として、全欧州がロシアの勝利を目の当たりにする大きなリスクを背負おうとしている、と警告した。
東欧諸国などからは、西側はプーチン氏が予測しにくいような最後の一線を設けるべきだという考え自体には賛成する声も聞かれる。
ある東欧の外交官は「(マクロン氏の)発言は有意義だったと強く思う。一般の人々に対して事態が切迫していることや、何が重要かも示してくれた」と述べた。
あらゆる選択肢
オランダ国防軍制服組トップのオンノ・エイヘルセイム参謀総長は、マクロン氏が望んだのはプーチン氏にどんな選択肢もあるのだというはっきりとしたメッセージを送ることだったのだろうとの見方を示した。
チェコの武器工場を視察中、ロイターに「全ての選択肢をテーブルに載せる必要がある。地上部隊派遣は究極の選択肢で、NATO諸国はまだ、積極的に受け入れると思わない。しかし、何が起こるかは誰にも分からない」と説明した。
マクロン氏は今回の会合で、チェコがウクライナのために国外から砲弾を購入する資金にEU予算を充当する案について、フランスが反対姿勢を取り下げる意向も示唆した。
一部の欧州諸国の高官は、西側の派兵よりもこちらの方がずっと優先度が高いと評価している。
ドイツのハーベック副首相は「フランスがウクライナ支援強化の方法を考えていることは喜ばしい。だが、私が提案できるとすれば、武器をもっと多く送るということになる」と語った。
●ロシアの「現金13倍」報道も「経済制裁は効いている」ロシア専門家が主張「他国の貿易には使えない」理由 2/28
テレビ朝日「羽鳥慎一 モーニングショー」で28日、ウクライナ侵攻から2年が経過したロシア情勢について、特集した。最近では「ウクライナ侵攻前と比べて、13倍以上の現金を抱える、かつてない潤沢な状態と報じられているが、元ANNモスクワ支局長のジャーナリスト竹隈喜一氏が解説した。
現在のロシアを支える大国は、中国とインドが挙げられる。インドはロシア産の原油を積極的に購入。中国も貿易を以前より行っており、「潤沢な現金」の源は2国にある、という。
一方で竹隈氏は「インドと中国と貿易が豊かになって、ロシアの中にも現金が貯まっているんですが、インドルピーや中国元が貯まっている。ドルに換えることができない」と説明した。
そこから「ほかの国との貿易には使えない。ロシアの経済力は、その意味では限られた相手としかものの輸出入ができないという意味では、経済制裁は根っこでは効いている」と持論を述べた。 
●ナワリヌイ氏の妻 EU議会で演説 活動引き継ぐ決意示し支援訴え 2/28
2月、刑務所で死亡したロシアの反体制派の指導者、ナワリヌイ氏の妻のユリアさんが、EU=ヨーロッパ連合の議会で演説し、ナワリヌイ氏の死をめぐるプーチン大統領の責任を追及するとともに、政権を批判する活動を引き継ぐ決意を示して支援を訴えました。
2月16日に死亡が発表されたロシアの反体制派の指導者、ナワリヌイ氏の妻のユリアさんは28日、ヨーロッパ議会の本会議場で議員たちを前に演説しました。
この中でユリアさんは、プーチン大統領がナワリヌイ氏を殺害したとしたうえで、「プーチン大統領は、私の国ロシアに、平和な隣国に、そして、私の夫に何をしたのか答えなくてはならない」と述べて、プーチン大統領の責任を追及する考えを示しました。
そして、「戦争に反対し、プーチン大統領に反対し、彼がもたらす悪に反対するロシア人が大勢いる。かれらを迫害するのではなく、ともに戦わなくてはならない。夫が、もはや見ることができないロシアの美しい未来を、私たちは見なくてはならない。私は夫の夢をかなえるために力を尽くす。悪は敗れ、美しい未来が訪れるだろう」と述べて、プーチン政権を批判する活動を引き継ぐ決意を示し、支援を求めました。
ナワリヌイ氏は、ヨーロッパ議会が人権擁護に貢献した人に贈る「サハロフ賞」を2021年に受賞していて、演説を終えたユリアさんに、議員たちは立ち上がって大きな拍手を送っていました。

 

●プーチンと“敵対”した男 富豪ロスチャイルド氏の死去で「ひとつの時代」が終る 2/29
世界の支配層の1人と囁かれ、「超富豪系陰謀論」における重要人物でもあったジェイコブ・ロスチャイルド氏。そんな銀行家であり慈善活動家の顔を持つJ・ロスチャイルド氏の死が2月26日、英国メディアにより伝えられました。このニュースを取り上げているのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。J・ロスチャイルド氏とロシアのプーチン大統領との緊迫した関係性を紹介するとともに、「超富豪系陰謀論」のもう1人の主役であったデビッド・ロックフェラーに続くJ・ロスチャイルド氏の死を受け感じた、偽らざる心情を吐露しています。
ジェイコブ・ロスチャイルドの死、ロスチャイルドvsプーチン
「陰謀論」にも流行があるようです。今大流行しているのは、「ディープステイト陰謀論」ですね。なんといっても、トランプ前大統領自身が流行らせているのですから。
陰謀論にもいろいろありますが、「超富豪系陰謀論」といえば、「ロックフェラー陰謀論」と「ロスチャイルド陰謀論」が代表的でしょう。
しかし、「ロックフェラー陰謀論」は衰退しました。なぜかというと、「陰謀論者」から「世界皇帝」と呼ばれていたデビッド・ロックフェラーが2017年3月20日、101歳でなくなったからです。
では、もう一つの「ロスチャイルド陰謀論」はどうでしょうか?こちらも、これから衰退しそうです。なぜでしょうか?ロンドン・ロスチャイルド家当主のジェイコブ・ロスチャイルドが、亡くなったからです。『ブルームバーグ』2月26日。
銀行家で慈善活動家のジェイコブ・ロスチャイルド氏が死去した。87歳だった。一族の銀行を辞め、ロンドンの金融街シティーに自らの金融帝国を打ち立てた。
ロスチャイルド家は英PA通信に対する発表文で、同氏の死去を確認。死因は明らかにされていない。
ロスチャイルドvsプーチン
この世の中には、「とんでも陰謀論」もあれば、「陰謀論のようなホントの話」もあります。これからお話するのは、まさに、「陰謀論のようなホントの話」です。
ジェイコブ・ロスチャイルドとプーチンの戦いについて。
プーチンは2000年、大統領に就任しました。その後、90年代ロシアの政治経済を牛耳っていた2人のユダヤ系新興財閥、ベレゾフスキーとグシンスキーを退治しました。ベレゾフスキーは、イギリスに逃げ、グシンスキーは、イスラエルに逃げたのです。
もう一人のユダヤ系新興財閥で石油王と呼ばれたホドルコフスキー。彼は、当時ロシアの石油最大手だったユコスのCEOでした。「ベレゾフスキーとグシンスキーがプーチンにやられた!このままでは、俺もやられる!」と恐怖した彼は、ジェイコブ・ロスチャイルドに助けを求めました。
このあたり、陰謀論とはもっとも遠い、日経新聞元モスクワ駐在員、栢俊彦さんの『株式会社ロシア』を参考にしてみましょう。
新興財閥の二大大物であるベレゾフスキーとグシンスキーが2000年、プーチンによって国外逃亡に追い込まれた事件は、ホドルコフスキーにショックを与えた。(p39)
身の安全を守るため米英に庇護者を求めたホドルコフスキーは、首尾よくヤコブ・ロスチャイルド卿の知己を得、世界の有力者が集う社交界への扉を開けた。(p39)
ホドルコフスキーは、01年12月、ロスチャイルド卿と共同で慈善団体の「オープン・ロシア財団」をロンドンに設立、翌年には米国にも事務所を開いた。理事にはロスチャイルドのほか、元米国務長官のヘンリー・キッシンジャーや元駐ソ連大使のアーサー・ハートマンが名を連ねた。(p39)
つまり、ホドルコフスキーとジェイコブ・ロスチャイルドは、反プーチンで共闘することにした。
ところがプーチンは2003年10月、ホドルコフスキーを逮捕しました(させました)。容疑は「脱税」などです。これで世界は、「プーチンは、世界の支配層を恐れない」ことを知ったのです。プーチンは、「ユダヤ陰謀論者」「ロスチャイルド陰謀論者」の「英雄」になりました。
ジェイコブ・ロスチャイルドは、結局プーチンを打倒できないまま亡くなりました。それで、「ロスチャイルド陰謀論」は、今後衰退していくでしょう。
デビッド・ロックフェラーが2017年に亡くなり、ヘンリー・キッシンジャーが2023年に亡くなり、ジェイコブ・ロスチャイルドが2024年2月26日に亡くなった。
なんとなくですが、「一つの時代が終わりつつあるのだな」と感じるのは、私だけでしょうか?
●「アレクセイはプーチンに殺された」 妻ナワルナヤ氏が欧州議会で演説 2/29
ロシア北極圏の刑務所で急死したことが16日に発表された反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)の妻、ユリア・ナワルナヤ氏は28日、仏ストラスブールの欧州議会で演説し、自分の夫はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の命令で拷問され、殺されたのだと強く非難した。
ナワルナヤ氏は同日、プーチン大統領はロシアとウクライナの人たち、そして自分の夫に行ったすべてのことについて責任をとらされなくてはならないと強調。欧州首脳は、プーチン氏を普通の政治家のように扱わず、組織犯罪のトップに対してするように、本人と取り巻きの資金源を断つ対応をとる必要があると述べた。
ロシア当局は、ナワリヌイ氏は自然死だったと主張している。
●ロシアで働く北朝鮮労働者の実態 2/29
韓国統一研究院(KINU)のオ・ギョンソプ氏(Oh Gyeong-seob)はロシアで働く北朝鮮労働者の実態を報告している。それを読むと、北朝鮮の労働者は奴隷のように酷使される一方、北労働者から入る外貨で金正恩総書記は核・ミサイル開発を進めているという。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は27日付電子版で、「私たちが別のところに気を取られている間、北は世界の大きな脅威となってきた」と警告を発する記事を掲載している。
当方は10年前、このコラム欄で「金正恩氏は“現代の奴隷市場”支配人」(2014年12月9日参考)を書いた。そこで「海外で働く北労働者総数は約6万人から6万5000人、約40カ国に派遣されている。労働者海外派遣ビジネスからの総収入は年間1億5000千万ドルから2億3000万ドルと見られている。労働職種は建設業、レストラン、鉱山、森林業、道路建設などが主だ」とその実情を紹介した。オ・ギョンソプ氏の報告はその10年後のロシアでの北労働者の実情だ。
以下、オ・ギョンソプ氏の報告の概要を紹介する。
ロシアに派遣された北朝鮮労働者の数を正確に掌握することは難しい。2019年の国連安全保障理事会決議(UNSCR)2397の採択後、ロシアは2019年末までに、ほとんどの北朝鮮労働者を帰国させたと安保理に報告し、約1000人しか残っていないと報告した。しかし、米国国務省の年次「2023 Trafficking in Persons Report」によると、2022年にロシア政府が北朝鮮の海外労働を禁止する安保理決議を回避するために4723のビザを発行または再発行したことが明らかになった。これらの労働者の大多数は極東地域の建設および伐採産業に従事しており、モスクワとサンクトペテルブルクで建設に従事している数千人がいる。北朝鮮とロシアの間の関係が強化される中で、ロシアに残る北朝鮮労働者の数が約3万人から5万人に急増すると予想されている。
KINUによってインタビューされた北朝鮮の亡命者によると、ロシアに派遣された北朝鮮人労働者は3万人以上いると証言している。ロシアが北朝鮮労働者を雇用することは、安保理が課した制裁に違反している。決議2397では、加盟国に対して、24カ月以内に収入を持つすべての北朝鮮労働者を帰国させ、27カ月以内に制裁委員会に報告することが義務付けられている。これらの規制にもかかわらず、ロシアと北朝鮮は制裁を回避または回避する方法を見つけており、北朝鮮労働者を帰国させる義務を避け、新たな雇用を継続している。その理由としては、深刻な労働力不足であり、ウクライナの戦争にも従事していることが挙げられるという。
ロシアのマラット・フスヌリン副首相は、2022年9月のロシアメディア(RBC TV)とのインタビューで、ロシア建設市場の労働力不足を緩和するために最大5万人の北朝鮮労働者を配置する計画を明らかにした。北朝鮮の高麗航空が2023年8月にロシアのウラジオストクに定期便を再開したことに続き、北朝鮮労働者の流入が増加している。北朝鮮制裁を回避するため、ロシアは頻繁に北朝鮮労働者に学生ビザを発行し、観光または技術ビザの名目のもとで滞在を許可している。
ロシアでの北朝鮮労働者の問題が2023年9月12日にロシアのヴォストーク宇宙基地で開催された金正恩総書記とプーチン大統領の首脳会談で議論されたと推測されている。国家情報院は、最近の北朝鮮のロシアへの労働者派遣の動きを注視していると述べた。クレムリンのドミトリー・ペスコフ広報官は、この北朝鮮・ロシア首脳会談の前後に、必要に応じてロシアが北朝鮮との国連制裁について議論する用意があると述べた。国連制裁にもかかわらず、北朝鮮労働者のロシアへの派遣が着実に増加し続けると予想される。
北朝鮮は海外労働者の派遣を通じて外貨収入を獲得する一方、ロシアはウクライナの戦争および地方都市の欠員による労働力不足を補うために北朝鮮労働者を受け入れる必要がある。
派遣された北朝鮮労働者は、公正な賃金、安全な労働条件、強制労働からの保護など、さまざまな人権侵害に直面している。まず第1に、2016年、ロシアの建設現場で働いていた北朝鮮の労働者は、年間7万ドルを国に支払わなければならず、年間2000ドルを超える収入を得るのが難しいと証言した。第2に、北朝鮮の労働者は安全な労働条件で働く権利を奪われている。彼らはロシアで伐採や建設などの過酷で危険な仕事を行っている。
2014年までマガダン州で働いていた亡命者は、1日に16時間の勤務が義務付けられていたと証言した。2023年5月、ウラジオストクの建設現場で働く北朝鮮の労働者は、夕食休憩を取らずに午後10時まで働いており、適切な安全装置なしに高所で危険な鉄工事に従事していたと報告された。第3に、北朝鮮の労働者は強制労働を拒否する権利を否定されている。一方、北朝鮮当局は監督者と警備員を派遣し、労働者を監視している。さらに、契約終了後に北朝鮮に戻りたいと願っている労働者でさえ、しばしば海外に留まるよう強制される。
外貨は主に核開発およびミサイル開発に使用されると考えられる。北朝鮮は外国で働く労働者を送り出し、2017年には中国(約5万人)およびロシア(約3万人)に送り出された約8万人の労働者に重い税金を課し、年間5億ドル以上(約671億ウォン)を得ていると推定されている。北朝鮮の労働者は、月給の70%を北朝鮮当局に、20%を地元の管理部門に送金し、約10%しか受け取れない。
安保理の北朝鮮制裁委員会は、仮想通貨の盗難や海外労働者の派遣によって得られた資金が核開発に転用されていると語っている。専門家パネルの報告によると、2022年の北朝鮮の仮想通貨の盗難額は170億ドルを超えた。北朝鮮が仮想通貨ハッキングと海外労働者の派遣によって得た外貨を核兵器および大量破壊兵器の開発に資金提供していることが明らかにされている。
●告別式をロシア当局が妨害か ナワリヌイ氏の周辺に嫌がらせや圧力 2/29
ロシアで反体制指導者ナワリヌイ氏の死後、彼の「告別式」会場が見つからず、準備が難航している。
葬儀会社からは「協力禁止」の通達があるなど、当局による妨害が疑われる。
また、ナワリヌイ氏の弁護士が一時拘束されるなど、反体制派への圧力が強まっている。
告別式会場が見つからず
ロシアの刑務所で死亡した反体制指導者ナワリヌイ氏の広報担当者は27日、「告別式」の会場を探しているものの、見つからないと明かした。
ナワリヌイ氏の陣営によると、今週末までに実施するとしていた「告別式」の会場を探しているものの、葬儀会社から「協力を禁じられている」と告げられるなどしていて、準備が難航しているという。
抗議活動の拡大を警戒し、当局が妨害している可能性もある。
こうした中、ロシアメディアはナワリヌイ氏の遺体の引き渡しに同行した弁護士のワシリー・ドゥブコフ氏が、ロシア当局に一時拘束されたと報じた。
ドゥブコフ氏は釈放されたあと、ロシアメディアの取材に応じ、「弁護士活動の妨害と考えている」と非難している。
ここからはフジテレビ・立石修取材センター室長がお伝えする。
ナワリヌイ氏の死後、その周辺では今もなお、締めつけともとれる状況が続いている。
ナワリヌイ氏の周辺では、さまざまなことが起きており、ロシア当局の関与も濃厚とみられている。
その実態を見ていく。
まず、いまだナワリヌイ氏の告別式会場が見つかっていないという問題だ。
妻のユリアさんは、24日に公開した動画で「人間的な方法で夫の葬儀を行いたい」と強く訴えていた。
ナワリヌイ氏の支持者らによると、公営・民間かかわらず、ほとんどすべての葬儀所で断られていて、ナワリヌイの名前を出しただけで断られるところもあるという。
ロシア各地では、市民らが献花台などを作っているのだが、当局が献花台の花を撤去する姿も見られる。
さらに、集まってきた支持者などを警察や当局が強制的に排除している様子も見られ、告別式も同様に、当局から圧力がかかっている可能性は十分あると思われる。
人権団体幹部が実刑判決
さらに、反プーチンの姿勢をとる人々への締めつけも強まっている。
27日、政権批判を繰り返してきたロシアの活動家で、ノーベル平和賞を受賞した人権団体幹部のオレグ・オルロフ氏に実刑判決が下された。
その際にモスクワの裁判所で撮影された映像では、布で半分顔を隠した黒服の警察官らが、オルロフ氏に手錠をかけていた。
隣にいる奥さんとみられる女性が、不安そうな表情で見守っている。
その後、物々しい雰囲気でオルロフ氏が連行されていった。
もともとオルロフ氏は、ウクライナ戦争を批判して「ロシア軍の信用を傷つけた」として逮捕され、罰金刑を受けていた。
しかし、検察側が「量刑が軽すぎる」と申し立てると再審が命じられ、その結果「懲役2年半の実刑判決」が下された。
実はオルロフ氏は、ナワリヌイ氏が死亡した翌日も抗議活動を行い、「彼の死は自分たちすべての死だ」と、ナワリヌイ氏を支持するメッセージを送っていた。
こういった背景がある中で、ロシア当局から厳しい判決が下された。
どの刑務所に送られるかはわかっていないが、ナワリヌイ氏も獄中死しているため、オルロフ氏の今後も懸念される。
反プーチンの急先鋒だったナワリヌイ氏は死亡し、政権批判すると即逮捕。そして実刑につながる状態。
ロシアでの言論の自由はさらに厳しい状況だ。
プーチン政権は、メディアの「表現の自由」にも強い規制をかけている。
ナワリヌイ氏が亡くなったあと、モスクワに編集部を置く「ソベセドニク」という新聞は、ナワリヌイ氏を表紙に使い、「しかし希望はある」とのタイトルで2ページの特集を組んでいた。
発行部数は約5万部だ。
しかし、オレグ・ロルドゥギン編集長によると、モスクワ市内の新聞販売店に並べられた直後に、ほぼすべてのソベセドニク紙が、ロシア当局に押収されたという。
ロルドゥギン編集長は、「いかなる法的根拠もない」と強く反発している。
政治犯の粛清に着手するおそれ
── これらの動きは、3月の大統領選をにらんで、言論統制を厳しくしているということなのだろうか?
その点に関して、26日にスイス・ジュネーブで行われた国連の人権理事会で、気になる発言があった。
反プーチン派で、2023年もノーベル平和賞の候補として名前が上がった政治活動家、スベトラーナ・チハノフスカヤさんが、理事会後の取材で「ナワリヌイ氏の死によって、ほかの政治犯の殺害にも青信号、つまりゴーサインが出ているとみるべき」と話している。
つまり、反プーチンの象徴が死んだことで、単なる選挙対策を超えて、これからプーチン氏側が次々と政治犯の粛清に着手するおそれを指摘している。
ナワリヌイ氏の妻であるユリアさんの所在については、詳細は明らかにされていないが、ロシアの監視の対象になっていると考えられる。
おそらく西側諸国で警護の対象になっていると思われるが、家族や支持者を含め、警備や警戒が必要な状況だ。
スウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)加入など、世界的にロシアへの圧力が強まっている。
生前、ナワリヌイ氏が「彼らが私を殺すと決めたならば、それは私たちが強いということ」と述べていた。
今は押さえつけられているが、これらの動きが大きなうねりとなる可能性がある。
●仏大統領は「ナポレオン気取り」、プーチン氏側近が派兵発言非難 2/29
プーチン・ロシア大統領の側近は28日、ウクライナ派兵の可能性に触れたマクロン仏大統領に対し、派兵すればナポレオンの大軍が1812年のロシア侵攻で敗北したのと同じ結末を迎えることになると警告した。
ウォロジン下院議長は、マクロン氏は自らをナポレオンと見なしているようだと指摘。自身の公式ソーシャルメディアアカウントで「個人的な権力を維持するため、マクロンは第3次世界大戦を引き起こすこと以外に考えられなかったのだろう。フランス市民にとって彼の構想は危険なものになっている」と述べた。
メドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)はマクロン氏の発言について、西側の政治的思考がいかに欠陥に満ちたものになっているかを示しているとし「200年前に引きちぎられた黄金の肩章をつけようとする(ナポレオン・)ボナパルトの小心で悲劇的な後継者たちはナポレオン並みの復讐を熱望し、狂暴で極めて危険なたわ言を吐いている」と述べた。
●ナワリヌイ氏の葬儀3月1日に…妻「プーチンは犯罪組織のリーダー」 2/29
シベリアの刑務所で疑問死したロシアのプーチン大統領の最大の政敵とされるアレクセイ・ナワリヌイ氏の葬儀が来月1日にモスクワで行われる。ナワリヌイ氏への追悼の熱気が反政府デモに拡散しないか懸念するロシア大統領府が弾圧のレベルを強めており、葬儀を控え内外の視線がロシアに集まっている。
ナワリヌイ氏の妻ユリア氏は28日にフランスのストラスブールで開かれた欧州議会本会議での演説で、「葬儀があさって(1日)行われる予定」と明らかにした。16日にナワリヌイ氏が死亡してから14日ぶりだ。
ユリア氏は夫の遺体が毀損されたとも主張した。その上で「葬儀が平和に進行されるのかそうでなければ警察が夫に別れのあいさつをしに来た人たちを逮捕するのか確信できない」と懸念する。これと関連しナワリヌイ氏の広報担当者はモスクワ南東マリノ地区にある教会で葬儀が行われると発表した。埋葬地は近くの墓地に設けられたという。
ユリア氏は今回の演説でプーチン大統領を強く非難し、西側諸国がさらに積極的に対応しなければならないと訴えた。ユリア氏は「あなたたちはいま政治家を相手にしているのではない。プーチンは血で汚れた怪物であり犯罪組織のリーダーだ」と非難した。また「糾弾声明や制裁では打撃を与えられない。彼が道徳的原則と真正性がある人だと考えては打ち破ることはできない」と強調した。
その上で「みなさんの国でプーチンと彼の側近が資金を隠すよう助けている弁護士と金融家を見つけ出さなければならない」と話した。プーチン大統領の資金源を断たなければならないという意味だ。
ユリア氏は夫の闘争を継続する意志も改めて明らかにした。ユリア氏は「ナワリヌイはロシア政府の弾圧にも数百万人の人々に響きを与えた。私はアレクセイの仕事を継続し、わが国のために闘争を続けるだろう」と話した。
ナワリヌイ氏の葬儀はロシア政府の妨害で会場を用意できなかったと明らかにしていた。ロシア政府は約半月先に迫った大統領選挙を控えナワリヌイ氏に対する追悼の熱気がデモへと広がるのを防ぐため反逆罪の適用を拡大するなど反体制派と市民をさらに固く締めつけている。
●欧米はなぜもてはやすのか? 「ロシア反体制派のヒーロー」ナワリヌイの正体 2/29
ロシア国内ではナワリヌイの影響力はほとんどないが……
<非ロシア人に対する人種差別的発言を繰り返したアレクセイ・ナワリヌイが、欧米で英雄視されるフシギ。もしアメリカ人が同じような主張をしたら一発アウトなはずなのに......>
私がモスクワ以外で最後に訪れたロシアの地域はヤマロ・ネネツ自治管区だった。あまりの寒さに鼻と口が凍り、息もできないほどだった。反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイが文字どおり息絶えたのもここだ。
チャーチルはロシアを「謎の中の謎に包まれた謎」と呼んだ。それが本当なら、ナワリヌイは祖国を代表する人物だったことになる。私が教えている米ジョージタウン大学の昨年の卒業式で、ナワリヌイの娘が卒業スピーチの話者に選ばれたとき、ウクライナ人から激しい抗議があった。
ナワリヌイはロシアのクリミア併合を支持し、非ロシア人に対する人種差別的な発言を繰り返し、ロシア人とベラルーシ人、ウクライナ人は同じ民族だという反歴史的な偽りの主張もした。人種差別を理由にロシアのリベラル政党から追放されたこともある。
欧米の識者は「昔の話だ」のひと言で片付けるが、もしアメリカ人が同じような主張をしたら、たとえ過去の話でも一生批判を浴び続けるはずだ。人種差別的なナショナリズムを主張していた過去がありながら、欧米ではもてはやされる――。
この矛盾について私が数年前まで教えていたロシア国家経済・公共政策大統領アカデミーの教え子たちは、チャーチルと同様のロシアに対する無理解の典型だと言った。ロシアの平均的な有権者にナワリヌイについて尋ねれば、おそらく話すのも時間の無駄だと答えるはずだ。「得票率5%がせいぜいの政治家だろう?」と。
10年前、ナワリヌイの支持率はロシア全体で37%に達していた。だが、昨年2月の支持率はわずか9%だ。ロシア人の大多数は、ナワリヌイの投獄を公正な措置と考えている。ロシア政府にとって、ナワリヌイの死はある種の勝利だ。
私がよく話をするロシア人はこう言った。「ロシア復活ののろしが上がった。最前線での攻勢で戦局に変化が生まれ、欧米の支持は停滞し、プーチンにとって最大の『とげ』は除去された」
ロシアでの影響力はほとんどない
だが一方で、ナワリヌイが残した危機の火種もある。ロシア国民全体で見れば不人気だが、ナワリヌイはネットに精通した数百万人の反プーチン派ロシア人を味方に付けた。
ウクライナでの戦局は好転しつつあるが、侵攻開始から2年たっても、ウクライナが反ロシアの軍事的姿勢をますます強めている状況に変化はない。ロシアの軍事行動に対する否定的な見方は、日を追うごとに増えていくはずだ。
先日、ロシア大統領選に出馬表明したリベラル系政治家のボリス・ナジェージュジンが立候補登録を拒否された。ナジェージュジンはウクライナ戦争を「致命的誤り」と批判しており、無数のロシア人が極寒をものともせず街頭に出て支持を表明した。
ロシアの小説家ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』をアメリカ人監督がリメークした映画がロシアで劇場公開され、1カ月間で400万人が見た。観客は映画が終わると、大きな拍手を送っている。
国営メディアの人気司会者は、この映画を米情報機関の「特別作戦」と呼んだ。この人物の怒りは、間違いなく観客の熱狂的な反応に対する不安の表れだ。
ある識者はこう指摘した。「国家が全ての『独立した声』を本気で押しつぶそうとしている状況で、人々は明確な反全体主義、反抑圧的国家のメッセージを持つこの映画を体験し、見られたことを喜んでいる」
確かにロシア国内では、ナワリヌイの影響力はほとんどない。だがロシアにおける権力者の人気と力は、常に得体の知れないもろさと同居していることを忘れてはならない。
●スウェーデンのNATO加盟はプーチン大統領の「オウンゴール」 2/29
テレビ東京・解説委員の山川龍雄が2月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。スウェーデンの加盟が決定したNATOについて解説した。
スウェーデンのNATO加盟が決定
スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟承認について、ハンガリー議会は2月26日、関連法案を可決した。NATO加盟国で唯一未承認だったハンガリーの批准手続きが完了し、これで32ヵ国目となるスウェーデンのNATO加盟が決まった。
飯田)去年(2023年)、フィンランドが入り、そしてスウェーデンも加盟が決定しました。
ウクライナ侵略がフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を促した
山川)プーチン大統領のオウンゴールですよね。ウクライナ侵攻の理由の1つが「NATOの拡大阻止」だったのに、逆の結果を産んでしまったわけです。特にスウェーデンとフィンランドは「弱者の戦略」と言われますが、どちら側にもつかず「NATOにも入らない」とロシアにアピールすることで、「安全保障は守られる」という考え方でした。しかし、ウクライナが侵攻されたため「中立国などと言っていられない」となり、NATO加盟を急いだわけです。そういう意味では、プーチン氏が求めた結果と逆になりました。
飯田)時代がまき戻ったのか進んだのかはわかりませんが、抑止力に関し「集団的自衛権の枠組みで対応しなければダメだ」という方針に変わったのですね。
スウェーデンがNATOに入ることで、海も空もいままでのように自由に活動できなくなるロシア
山川)特にロシアにしてみると、バルト海は大事な場所だったわけです。バルト海にはカリーニングラードという(ロシアの)飛び地があり、そこを隔てて回廊がある。ベラルーシとカリーニングラードを塞いでしまえば、バルト三国は補給路が絶たれます。バルト三国は常にそれを警戒し、「ウクライナの次は自分たちではないか」と考えたわけです。
飯田)ウクライナの次は。
山川)カリーニングラードはロシアにとって大事な前線基地です。
ところが今回、スウェーデンがNATOに加盟した。周辺のバルト三国も含め、近代的な軍事設備を持っているのはスウェーデンであり、潜水艦などの水準も高い。スウェーデンがNATOに入ると、バルト海や周辺の支配権がシフトすることになりますから、ロシアは海でも空でも、いままでのように自由に活動できなくなります。
ロシアにとって痛手となる動きが続いている
飯田)バルト海のいちばん奥にサンクトペテルブルクがあり、その下にバルト三国がある。対岸はスウェーデンで、これを獲られてしまうと、バルト海は完全にNATOの海になるのですか?
山川)そうですね。よく中国の安全保障を考えるとき、日本列島から台湾、フィリピンなどが蓋をしていると言いますよね。
飯田)第1列島線ですね。
山川)中国は秘密裏に「潜水艦が太平洋に行ける航路を確保したい」と言われますが、ロシアにしてみると、バルト海や黒海は重要なわけです。今後はそのバルト海において、かなり自由が制限されますから、ロシアにとって痛手になるような動きが続くことになります。
「ウクライナだけはNATOに加盟させない」という条件のもとに停戦協議が行われる可能性も
飯田)黒海はまさにウクライナとの戦争の最前線でもあるし、出口はトルコがずっと監視しているわけですよね。
山川)ですから、ウクライナは犠牲になってしまっているところがあり、本当に気の毒です。今回はウクライナが犠牲になって、フィンランドやスウェーデンがNATOに加盟した。でも、これだけNATO加盟国が増えたので、「ウクライナだけは絶対にNATOに加盟させない」という条件のもと、いろいろな停戦協議が行われる可能性もあります。
飯田)ロシアがそういう条件を出してくるかも知れない。
山川)バルト海がふさがれると黒海がさらに大事になるので、「黒海だけは絶対に確保する」となる。そういう意味では、「ウクライナの犠牲のもとに他国が結束している」という状態です。
米下院が予算を通すかどうかがウクライナの生命線になっている
飯田)だからこそ、ヨーロッパの支援が大事になりますか?
山川)ヨーロッパはヨーロッパで動いていますが、いちばんの焦点はアメリカです。下院が支援予算を通すかどうか。ここがいま、ウクライナ情勢を考える上で生命線になっています。
飯田)予算に関しては、やはりアメリカ大統領選の行方によりますが、共和党が首を縦に振らない。
山川)共和党内にも「支援した方がいい」という意見の人はいるのですが、やはりトランプ氏にみんな忖度しているわけです。このまま下院で審議が継続して行われない場合は、また別の突破口がありますので、ウクライナへの支援予算が通るかどうかは五分五分だと思います。
●ウクライナよりツイックスに泣くロシア 4歳で死んだ猫が「民衆のはけ口」 2/29
ロシア中が、この悲劇に何日もくぎ付けになった。何百人ものボランティアが、捜索のためにいてつく寒さの中に繰り出した。連邦議会は特別委員会を招集し、事件として捜査が始まった。国営メディアは、最新の情報を生中継した。
でも、行方不明となっていた「犠牲者」は、結局は遺体となって見つかった。「ツイックス」という名の4歳の飼い猫だ。
長距離列車の車掌が、誤って車外に放り出した一匹のペット。その死を、国中が泣いて悼んだ。このできごとは、戦時下にあるロシアが感情のはけ口を必要としていること、そしてそれには限界があることを同時に浮き彫りにした。
ツイックスのことを「よく知っている」とロシア人のおよそ3人に2人が答えた――こんな全国規模の世論調査の結果が出ている。ウクライナ戦争のような暗いニュースに耳を貸さない人が増えている国としては、極めて高い数値だとデニス・ボルコフは指摘する。この調査を実施した、ロシアで最も大きな独立系世論調査機関「レバダセンター」の所長だ。
プロパガンダや反体制派への弾圧、終わりの見えないウクライナ戦争に対する市民の疲労が重なり、インターネット上の関心が何日も、いや何週間も、今回の「ツイックス事件」に集まることになった。
同じような例は、ほかにもある。2024年1月には、生後2カ月の自分の赤ちゃんを雪だまりにポイッと放り込むロシア人インフルエンサーの動画が投稿された。明らかに受けを狙った行為には、何千ものコメントが寄せられた。大半は否定的な内容で、しまいには犯罪捜査の対象になった。
ツイックスの死のようなできごとは、ロシア人にとっては警察や検閲の目を逃れ、同じような考えを持つ者同士で結束して心情を発散させるめったにない機会でもある。抑圧された感情を解き放ち、政治劇を楽しむといった意味合いが、そこには入ってくる。
「みんな面白くない政治の話にはうんざりしている。そこに、このかわいそうな生き物が現れて、これだけの大反響を呼び起こした」とオルガ・クドリャショワは語る。
年金暮らしをしながらも、ロシア中西部キーロフ州の州都キーロフで、ツイックスを捜すボランティア活動を1週間にもわたって組織した。夜には、気温はカ氏マイナス30度(セ氏約マイナス34.4度)にもなる。「あまりにひどい。みんなが怒るはず」
プーチン政権は徐々に権力の独占を進め、政敵を排除してきた。その過程で、国民の不満をガス抜きすることの大切さを学んだ。
今回のツイックスのような話は、政府が拡散したい物語としてうってつけとなる。
「この話題は緊張を和らげ、戦争の恐怖や食料品価格の値上がりといった暗い話題から関心をそらすのに役だった」と先の世論調査機関のボルコフは説明する。
地方の1匹のペットの悲劇が、いかにして全国の話題をさらうようになったのか。それは、現代ロシアで情報がどう広がっていくかの事例研究にもなる。
ツイックスを捜したボランティアのクドリャショワによると、そもそもは飼い主のエドガー・ガイフリンが2024年1月12日にSNSを通じて接触してきたことから始まった。親類の一人とともに国営ロシア鉄道に乗っていた茶トラの飼い猫が行方不明になったので、捜すのを助けてほしい、という要請だった。
ガイフリンとロシア鉄道の話では、車掌の一人が客車にいたツイックスをノラ猫と間違え、キーロフで停車していた列車から外に放り出してしまった。
そこでクドリャショワは、行方不明になった猫がいるとの情報を地元の動物愛護家グループのチャットに投稿し始めた。
ボランティアによる捜索活動が始まった。キーロフ全域から数百人もが集まった。地元の報道機関が取材を始め、やがて国営テレビがこれに注目した。
インターネットの中では、猫は世界中で人気者だが、ロシアではそれがとくに著しい。
何しろこの国では全世帯の半数近くが猫を飼っており、その比率は世界でもトップクラスに入る。猫が何か面白いことをすると、格好の話題として全国に報じられる。
ロシアのテレビでは、「Catastrophe(大惨事)」という新しい連続番組が放映されている。タイトルからウクライナ戦争のことを思い浮かべるかもしれないが、それは大外れ。言葉をしゃべれる、自由奔放な茶トラ猫の話だ。
捜索開始から1週間後にツイックスの死骸が見つかると、この「犠牲」をめぐる感情が一気に高ぶり、「一大事件」になった。インターネットでは、ツイックスを放り出した車掌の処罰を求める署名運動が始まり、短い間に38万筆もの名前が集まった。
すると、体制側のプロパガンダ機能が発動した。与党議員たちは、動物を運ぶ際の規則を全面的に見直すために、連邦議会の下院に委員会を作った。検察当局は、動物虐待の疑いがある事案として捜査するとの声明を出した。保守系の活動家は、キーロフにツイックスの像を建てようと呼びかけた。
数十人もの政権寄りのコメンテーターが、この国で「時代の精神」を形成するのにツイックスが果たした役割について熱弁を振るった。政府系の有力紙イズベスチヤの記事の一つには、「猫のツイックスの死について分かっていること〜主なできごと」という見出しが躍った。
記者たちは、見解を求めてロシア鉄道のトップに詰め寄った。これほどの高官に対しては、めったに見られないような強硬な姿勢だった。
「私も2匹の犬と1匹の猫を飼っている」。ロシア最大の従業員数を抱え、10万マイル(約16万キロ)近くもの線路を運用するロシア鉄道のCEOオレグ・ベロゼロフは、国営メディアの記者たちにこう答えざるをえなかった。
そして、「もし、どれかを失うようなことがあったら、償える人がいるのだろうか……。難しいだろうね」と付け加えた。
今回の猫の死について、ベロゼロフは「フォース・マジュール(不可抗力)」という法律用語を使った。この表現は、通常なら天災やテロ攻撃といった予見不可能な事案に用いられる。
ロシア鉄道は問題の車掌を職務停止処分にし、内部調査を始めた。ツイックスの死が判明してからわずか数日で、動物を扱うガイドラインも変えた(処分された車掌の名前は公表されず、本人のコメントも出されなかった)。
さらに、会社として声明を出し、飼い主のガイフリンに謝罪した。ただし、責任は連れていたツイックスから目を離した親類にあると主張した。
国営メディアの扱いは、飼い主が「ちょっとした有名人」になる流れをつくった。そのガイフリンは弁護士を雇い、ロシア鉄道に賠償を求めた。さらに、(訳注=ロシア発のメッセージアプリの)テレグラムにツイックスの正式なアカウントを設け、国営メディアの取材を何度も受けた。
先のボルコフによると、世論調査に応じた人のほとんどは、ツイックスが死んだ責任は連れていた飼い主の親類にあると回答した。
さらにボルコフは、ツイックスの騒ぎは、卵の不足や厳冬のさなかの暖房の不具合など、国民の間で高まっていた暮らしへの不満から話題をそらすのに役だったと指摘した。
国家が許容する民衆の怒りの矛先は、政府が不適切とか反道徳的とする言動に向けられることが多い。その結果、自らを「伝統的価値観の世界的な具現者」と位置づけるプーチンの、より幅広い取り組みを支えることになる(訳注=リベラルな価値観は時代遅れであり、分裂したロシア社会の統合に必要なのは根源的・伝統的な価値観だとプーチンは主張する)。
一方で、SNSなどで急速に広がることがらに対する政府の過剰とも思える素早い対応は、純粋に政治的な表現がますます犯罪視される中で、政府の責任感をさらに醸成していくことにもつながっている。
ロシア連邦捜査機関のトップは、セルゲイ・コセンコに対する捜査を始めると自ら発表した。容疑者は、生後2カ月の自分の息子を雪だまりに放り出したあのインフルエンサーで、インスタグラムで700万人のフォロワーがいる。「レオの初フライト」と題された問題の投稿動画は、後に削除された。
2023年12月に、セレブたちがわいせつなパーティーをモスクワで開き、保守的なコメンテーターたちが怒りの声をあげた。すると、捜査当局は参加者の一人を逮捕し、ほかの参加者たちを要注意人物のブラックリストに載せた。主催者は罰金を科され、パーティーに使われた会場はしばらく閉鎖された。
道徳的な怒りのはけ口を求める動きは、ツイックスの騒ぎにも暗い影を落とした。猫を放り出した列車の車掌とSNS上で間違われたロシア人女性には、数え切れないほどの脅迫が舞い込んだ、とこの女性の娘は嘆いた。
もちろんロシアでは、1匹の猫の死を公然と非難することは、政治的な意見を表明したり、戦争に抗議したりすることよりはるかに安全だ。
「自分自身を自由に表現し、人道的であることができた時代が懐かしい」。最近のトークショーで、ボリス・B・ナジェージュジンはツイックスの大きな写真を背景にこういった。プーチンに対抗して出馬を目指す反戦候補者だが、勝ち目はない。
「人生で一度も見たことがない猫ちゃんに同情を寄せることが、今や人間性を示すことなんだから」
●本人は冷静な反応。プーチンを「狂った野郎」呼びしたのは誰だ? 2/29
ロシアによるウクライナ侵攻から丸2年が経過し、国内外で多くのメディアがこの戦争の現状を改めて伝えました。中には、中国が「漁夫の利を得た」という見方を示すものもあったようですが、実際はどうなのでしょうか。多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、「ロシアが勝利すれば中国の台湾侵攻を助長する」との見方については「子供っぽい」と一蹴。この戦争で中国が得た教訓と、かつてないほど深まった中ロ関係について解説しています。
3年目に突入したロシア・ウクライナ戦争、中国が「漁夫の利を得た」という指摘は的を射ているのか
「狂った野郎(crazy SOB)」──。国際政治の舞台で他国のトップをこれほど悪しざまに罵るのは北朝鮮の指導層だけかと思っていたら、そうでもないらしい。アメリカのジョー・バイデン大統領だ。
発言が飛び出したのは選挙資金集めのイベントでのこと。「人類にとって最後の存亡の危機は気候(変動)だ」と強調する流れのなかで「プーチンのような狂った野郎がいて、核戦争の懸念は常にあるが」と前置きしたのだ。気候変動問題の大切さを語るためのおまけの発言ともとれるが、それにしても刺激的だ。
今月14日、ウラジミール・プーチンはロシア国営テレビのインタビューで「バイデン大統領とトランプ前大統領のどちらがロシアに望ましい大統領か」と問われ、「バイデン氏だ」と答えたばかり。そのプーチンに冷や水を浴びせかけたのだから、ロシアの反応に注目が集まった。
しかしプーチンはこれを冷静に受け止めた。国営テレビに出演し〈「われわれは(アメリカの)大統領が誰であれ協力する用意がある」とした上で、笑みを浮かべながら、「ロシアにとり、バイデン氏の方が好ましい大統領だと確信している。今回の彼の発言から判断すると、私は断然正しい」と述べた〉(ロイター通信2月23日)のである。
先週も触れたが、ロシアに「トランプ待望論がある」との見方は西側メディアに定着している。ゆえにプーチン発言はその裏をかいたものなのか。それとも「誰が大統領になってもロシア弱体化の試みをアメリカが放棄するわけではない」という意味なのか、憶測を呼んだ。
いずれにせよドナルド・トランプかバイデンかという問いにはあまり意味がない。アメリカの、どの利益を代表して他国と向き合うのかの違いであり、中国やロシアが利益を拡大しようとすれば必ずどこかでアメリカの利益とはぶつからざるを得ないからだ。
個人的な関係はその衝突を解消してくれるわけではなく、別の形になるだけのことだ。トランプは「習近平を尊敬している」と言いながら中国製品に高い関税を課し、人権問題では「無関心」と批判されながらも政権の後半にはウイグル問題で中国に強く干渉した。同じようにプーチンを高く評価しながらも、ノルドストリームを激しく攻撃し、欧州のロシアへのエネルギー依存を放棄させようと圧力をかけ続けた。
つまり中ロにとってはどちらが大統領になろうと、扱いにくさに多少の違いが生じるだけで、一長一短なのだ。ただウクライナとヨーロッパにとってトランプの再登板は、やはり悪夢かもしれない。明らかにウクライナ支援に消極的だからだ。
ロシア・ウクライナ戦争は3年目に突入し、メディアの注目もガザから再びウクライナへと戻った。報道ではウクライナの苦戦が目立った。なかには「ロシア軍を消耗させることに成功した」とか、「領土を奪い還した」といった戦果にスポットを当てウクライナの善戦を強調する報道も見かけたが、メインテーマはあくまでウクライナの苦境だった。
本来、第三者の視点に立てば「外国を当てにして戦争を起こすリスク」にも言及されるべきが、そうした問題意識は中国メディア以外でほとんど見られなかった。
また西側の報道の特徴として、ロシア・ウクライナ問題を中台問題と混同する記事も目立った。そのロジックは「ロシアの勝利は、習近平に台湾侵攻が許されるという誤ったメッセージを与える」というもので、三題噺の域を出ない子供っぽい発想だ。
なぜなら中国は「台湾侵攻こそがアメリカの国益」だと見ているからだ。中国は、民進党の裏側で独立を煽り、習近平政権が武力でそれを食い止めなければならない状況を作ろうとしていると警戒している。
アメリカは自ら直接中国と戦わず、戦争に巻き込み、国際社会から孤立させ経済制裁によって発展を遅らせようとしている、と。台湾も日本も、そのアメリカの愚かな駒に過ぎない。それこそ中国がロシア・ウクライナ戦争から得た教訓だ。
一方でロシアとの関係では、中ロ関係の強化という「棚ぼた」が中国を利したという見方もある。アメリカはロシア・ウクライナ戦争の勃発と同時に「中ロ」を一括りにして国際社会から孤立させようと動いた。中ロはその圧力の下で手を結んだとも言われるが、決してそうではない。
中ロ首脳会談が「限界のないパートナーシップ」を宣言したのは北京の冬季オリンピックでのことで、ロシアがウクライナ侵攻する3週間ほど前のことだ。そして侵攻後のロシアの孤立は、中ロ関係を未曽有の深みへと導いた。
アメリカの政治雑誌「POLITICO」はメールマガジン(2月22日)で、元国防副次官補のエルブリッジ・コルビーの発言を引用。ロシアは「北京との協力に依存する虜囚的なジュニア・パートナーになった」と評価したほどだ。つまり中国は〈2年前には想像もできなかったレベルのロシアへの経済的影響力〉を手に入れ、いまでは〈ロシアの消費財の大部分を供給する〉までになった、と。
中国の輸出業者には巨大な専用市場が生まれ、人民元決済の拡大で元の存在感も高められるだけでなく自らのアキレス腱でもあったエネルギー問題で、ロシアの石油とガスを安く入手できるルートを確保できたのだ──
●ウクライナ軍、ドニプロ川左岸でじわじわと前進 国旗の掲揚合戦も 2/29
ウクライナ軍の東部の防御拠点だったドネツク州アウジーウカ市を2週間前に攻略したロシア軍は、市の西方にある複数の集落へと前進を続けている。
ロシア軍はすでに占領していたドネツク市のすぐ北西にあるアウジーウカを落とすために、数万人にのぼる死者や負傷者を出し、数百両の車両を失った。こうした大きな犠牲を払いながらも、弾薬の枯渇した守備隊をついに撤退に追い込み、ウクライナの30平方km超の国土を奪った。ロシア軍にとってここ数カ月で最大の戦果になった。
その一方で、ある方面ではウクライナ軍が、ほんの少しずつではあるものの前進を続けている。
半年前、ウクライナ海兵隊の部隊は南部ヘルソン州で広大なドニプロ川をボートで渡り、左岸(東岸)のクリンキ村に橋頭堡を築いた。第35独立海兵旅団を中心とする部隊は現在、クリンキ周辺以外はロシア側の支配下にある左岸でなおこの村を保持しているばかりか、西に1.5kmほど離れたコザチラヘリ村へ向けて徐々に進軍している。
戦闘は通りや建物単位で繰り広げられている。ある区画をどちら側が支配できるかは、その上空に飛ばせるドローン(無人機)の数で決まることが多い。ウクライナ側がクリンキ一帯で、ロシア側のドローン操縦士を殺害した直後にとくに大きな前進を遂げているのは、理由のないことではない。
クリンキ方面作戦でのドローンの重要性はいくら強調してもしすぎることはない。X(旧ツイッター)で「Kriegsforscher」と名乗るウクライナ海兵隊のドローン操縦士は2月5日「私たちの中隊の爆撃ドローンは夜間に爆撃しているだけでなく【略】、弾薬、食糧・水、医療物資などの補給も担っている。むしろこちらが主な任務だ」と説明している。
作戦の実施では電子戦が重要な役割を果たしている。ウクライナ軍の電子戦部隊は昨年秋、海兵隊が渡河を始めるのに先立って強力なジャマー(電波妨害装置)でクリンキの戦場の下準備をした。ロシア側のすべてのドローンとまではいかないまでも、海兵たちが渡河して橋頭堡を築くのに十分な数のドローンを飛べなくした。
クリンキ一帯ではロシア側のジャマーはほとんど機能しておらず、ウクライナ側のドローン部隊のほうがより自由に動ける状態になっている。
ウクライナ側の監視ドローンは24時間体制で稼働し、クリンキの南方に配置されているロシア軍部隊(1個自動車化師団、1個空挺師団、2個海軍歩兵旅団、1個機械化旅団)が橋頭堡に対する攻撃のために部隊や車両を集結させるのを見張っている。
夜間には「バーバ・ヤハ」と呼ばれる比較的大型のドローンがロシア軍の集結地点を爆撃したり、道路に地雷を撒いたりしている。昼間はFPV(1人称視点)ドローンがクリンキに向かってくるロシア軍部隊に襲いかかる。
ロシアのショイグ国防相は「橋頭堡を掃討」と虚偽の報告
昨年12月から今年2月23日までに、ロシア側がクリンキを奪い返そうとして失った車両などの装備は222点にのぼる。それには、ロシアがこれまでウクライナで失った戦車およそ2600両を補うために、長期保管していた倉庫から引っ張り出した60年前の古いT-62戦車なども含まれる。
一方、ウクライナ側の損失数は47点にとどまっている。ドニプロ川左岸にいる海兵たちは主に徒歩で戦っており、失った装備の多くは右岸に配備されていた榴弾砲だ。いずれにせよ、この偏った損失率は、ウクライナ南部に配置され、ウクライナ側よりもはるかに大規模なロシア軍部隊の無秩序ぶりと、クリンキに張り付いているウクライナの海兵たちの並外れた勇敢さを物語っている。
ロシアがウクライナで拡大して3年目に入った戦争のおよそ1000kmにおよぶ前線で、クリンキ方面はウクライナ側に勢いがある唯一の戦域となっている。そのため、クリンキはプロパガンダ上の価値がきわめて高い。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が先週、ロシア軍が橋頭堡を掃討したと虚偽の報告をしたのもそのためだ。また、ロシア側もウクライナ側も一帯で国旗を立てることに高い価値を見いだしているのも同じ理由からだ。
ある通りや区画の支配を示すものとして、国旗には非常に強いメッセージ性がある。2月13日、恐れ知らずのウクライナ海兵がクリンキ西部の給水塔によじ登り、その上にウクライナ国旗を掲揚した。1週間後の20日には、今度はロシア兵2人がクリンキ東部まで命懸けで120mほど突っ走り、ロシア国旗を掲げている。
だが、ロシア兵らが国旗を立てたのと同じ日、ウクライナ南部作戦コマンド(統合司令部)のナタリヤ・フメニュク報道官は記者会見で、クリンキの海兵隊部隊は「引き続き橋頭堡を強化し、その拡大に取り組んでいる」と語っている。
ロシアの戦争特派員「ロマノフ」によれば、1週間後、クリンキの海兵隊部隊はコザチラヘリの方向へ短い距離だが前進した。「安定した防御がされている前線はない」とロマノフは書いている。
●前年の5倍… ウクライナとの戦争から逃れ、韓国に亡命希望するロシア人 2/29
・韓国では2023年、亡命を希望するロシア人の数が5倍に増えた。
・その多くは、ウクライナとの戦争における徴兵回避を理由に挙げている。
・中には、仁川国際空港で何カ月も立ち往生したロシア人もいた。
韓国では、亡命を希望するロシア人が急増している。Korea Heraldが政府の報告書を引用し、報じた。
2023年には5000人を超えるロシア人が亡命を申請していて、2022年の1038人から約5倍に増えた。
「5000人超」という数字は、1994年から2019年の間に亡命申請したロシア人の総数にほぼ匹敵する。
ウクライナ侵攻を受け、ロシアでは国外に脱出する人が増加した。2022年9月に部分動員令に基づき予備役約30万人が招集されると、多くのロシア人男性たちは国外に亡命することでこれを逃れようとした。
●ゼレンスキー氏、バルカンに支援求める 「兵器共同生産に関心」 2/29
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、アルバニアの首都ティラナで開催されたバルカン諸国の首脳会議に出席し、ウクライナ和平ビジョンに対する各国からの支援を求めるとともに、兵器共同生産を視野に入れたフォーラムの開催を提案した。
冒頭発言で、アルバニア、ブルガリア、セルビア、北マケドニア、コソボ、ボスニア、モンテネグロ、クロアチア、モルドバ、ルーマニアの代表団に「あなた方や全てのパートナーとの共同生産に関心がある」と語りかけた。
「ウクライナには約500の防衛関連企業が事業を展開しており、それぞれ増強しているが、(ロシア大統領の)プーチンに勝つには十分ではない。弾薬の供給に問題があり、それが戦場の状況に影響を及ぼしている」と述べた。
その上で、兵器協力を促進するためウクライナ・バルカン半島諸国防衛フォーラムを開催することを提案した。
アルバニア、ブルガリア、北マケドニア、モンテネグロ、ルーマニアはNATO加盟国で、西側の対ロシア制裁に参加し、ウクライナに兵器や装備を送っている。バルカン半島諸国の一部、特にセルビアとクロアチアには重要な兵器産業がある。
首脳会議で10カ国が署名した共同宣言によると、各国首脳は今春スイスで開催されるウクライナ主導の和平サミットに参加し、ゼレンスキー氏のビジョンについて話し合う用意があるという。
●ゼレンスキー大統領、武器の共同生産を南東欧諸国に提案…「全自由主義国家にとって危険な状況」 2/29
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は28日、アルバニアの首都ティラナで開かれた南東欧諸国の首脳会議に出席した。侵略を続けるロシアとの戦闘のため、武器の共同生産を各国に提案した。
ウクライナ大統領府によると、ゼレンスキー氏は演説で、自国に約500の防衛関連企業があることに触れつつ「それだけではプーチン(露大統領)に勝つには不十分だ。弾薬供給の問題が戦況に影響している」と訴えた。
会議後の記者会見でゼレンスキー氏は、「(ウクライナの)武器不足を見れば見るほど、プーチンは西欧諸国に圧力をかけられると考えるようになる。すべての自由主義国家にとって極めて危険な状況だ」と強調した。
会議には、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するアルバニアや北マケドニアなどの首脳らが出席した。ロシアの侵略を非難し、ウクライナへの支援を継続することや、復興支援に関わることなどを盛り込んだ共同声明が採択された。
●共和党重鎮のマコネル氏が上院トップ退任へ トランプ氏の影響拡大も 2/29
史上最長の17年間にわたり米上院共和党トップを務めてきたミッチ・マコネル院内総務(82)が28日、11月をもって退任する意向を表明した。党内の重鎮としてトランプ前大統領(77)と対立してきたマコネル氏が退くことにより、トランプ氏の影響力がさらに強まることも考えられる。
マコネル氏は28日の演説で「次世代のリーダーの出番だ」と述べ、11月の選挙を終えた2025年1月には新しい指導部に移行するとの考えを示した。1985年から務めてきた上院議員は、27年の任期満了まで続ける。
07年から上院共和党トップを務め、伝統的な保守派の立場で知られてきた。米メディアは「米政治における一つの時代の終わりの始まりだ」(ワシントン・ポスト紙)と伝えている。
ウクライナ支援に積極姿勢、トランプ氏とは対立
マコネル氏は、外交面では米国が世界に指導力を発揮することを重視し、ウクライナ支援にも積極的な姿勢をみせてきた。トランプ氏が掲げる「米国第一」に象徴される孤立主義的な考えが強まるなか、マコネル氏は党内で「防波堤」の役割も担っていた。
近年はトランプ氏との対立が目立っていた。前回の大統領選後に起きた21年の連邦議会議事堂襲撃事件では、マコネル氏は「政治的、道義的責任がある」とトランプ氏を批判。これを受けてトランプ氏が上院トップの交代を要求するなど、対立が先鋭化していた。今年の大統領選に向けても、マコネル氏は上院共和党指導部のなかで唯一、トランプ氏への支持を表明していなかった。
マコネル氏の退任表明を受け、民主党のバイデン大統領(81)は「政治的には多くの点で同意できなくとも、長年にわたって誠意をもって協力してきたことを誇りに思う」との声明を出した。
●ウクライナ派兵は核戦争リスク、プーチン大統領が演説 西側非難 2/29
ロシアのプーチン大統領は29日、議会で年次教書演説を行い、内政干渉を許さないと表明。北大西洋条約機構(NATO)加盟国がウクライナに軍隊を派遣すれば核戦争のリスクがあると警告し、ロシアが西側の標的を攻撃する武器を有すると主張した。
西側がロシアを内部から破壊しようとしていると改めて非難し、ほとんどの国民がウクライナに対する「特別軍事作戦」を支持していると主張した。
核を巡る戦略的安定について米国と対話する用意があるとも述べたが、ロシアを話し合いに強制的に引き込もうとするいかなる試みも拒否すると強調。
ウクライナでの戦闘を巡っては、ロシアは極超音速ミサイル「ツィルコン」を含む高度な兵器システムを使用しているとし、軍事的優位に立っていると述べた。
フランスのマクロン大統領は今週、欧米諸国によるウクライナ派兵に言及した。ただ米国や欧州主要国はその可能性を否定している。
プーチン大統領は「戦略核戦力は完全な準備態勢にある」と言明。
その上で、ロシアが西側の標的を攻撃できる武器を持っていることを認識すべきとし、「核兵器が使用され、文明が破壊されるかもしれない。それがわからないのか」と西側を非難。ロシアの核兵器は近代化され、世界最大だと主張した。
かつてロシア侵攻を図り失敗したヒトラーやナポレオンがたどった運命を西側政治家は想起すべきとし、戦争を漫画だと思っているようだが「今回の結果はもっと悲劇的になる」と警告した。
またロシア軍は現在、ウクライナの戦闘地域で主導権を握り前進しているとし、NATO拡大を踏まえて欧州連合(EU)との国境沿いに配備している部隊の増強が必要と述べた。
ロシア軍がウクライナを越えて欧州を攻撃する可能性が西側で示されていることについては「ナンセンス」と一蹴した。
●支援国約束の兵器、「半分は予定通り届かず」 ウクライナ国防相 2/29
ウクライナのウメロウ国防相は29日までに、支援国が約束した兵器の供与について半分が予定の時期に引き渡されていないとし、それだけ戦場で損失を被る結果になっているとの見解を示した。
首都キーウでの会議で述べた。「時間通りに届かなければ、将兵や領土を失う」と主張。「この戦争は支援国が予定通りの時期に兵器を提供することをあてにしている戦争である」と強調した。
兵器供与の遅延については「状況が常に動き、変化している」ことが要因とも続けた。
ウクライナへの軍事支援をめぐっては、米国の新たな援助が議会上院で通過したものの野党・共和党が制する下院での調整が行き詰まり、打ち出せないでいる。欧州連合(EU)は以前に約束した弾薬供給の増加分を提供できない状態にある。
ウクライナのカムイシン戦略産業相は同じ会議で、これら米欧の手詰まりを受け自国の国防産業の能力を強化させることで供給不足を埋めることを目指すとの考えを表明。生産能力は昨年、3倍に膨らんだとも説明した。
ただ、戦場では国内での製造分よりはるかに多い量が必要となっている現実に言及。「前線が欲している量は米国やEUの生産量の合計分よりも多い」とも訴えた。
一方、ウクライナのシュミハリ首相は日までに、米国から今年期待する援助は118億ドル(約1兆7700億円)相当であることを明らかにした。政権幹部らを集めた政府主催の会合で述べた。
この数字は両国の合意に基づくとし、ウクライナ国家予算の不均衡を正すのに寄与するだろうとも期待。米国は財政支援や軍事援助でウクライナを見捨てないと強く確信しているともした。
財政、軍事両面での米国の手助けには非常に大きく頼っているとし、「米議会が決定を下すことを待っている」とも締めくくった。 
 
 

 

●プーチン大統領 演説で軍事侵攻継続の姿勢強調 核戦力を誇示 3/1
ロシアのプーチン大統領は、29日に行われた年次教書演説でウクライナへの軍事侵攻を続ける姿勢を強調するとともに、ロシアの核戦力を誇示し、ウクライナへの支援を続ける欧米側をけん制しました。一方、EU=ヨーロッパ連合の報道官は「核兵器による脅しは容認できない」と非難しています。
ロシアのプーチン大統領は29日、モスクワ中心部のクレムリン近くで、内政や外交の基本方針を示す、年次教書演説を行いました。
このなかで、ウクライナへの軍事侵攻について「圧倒的な多数の国民から支持された」と述べ、正当性を主張するとともに、ロシア側が優勢だと強調し、侵攻の継続に対する国民の結束を訴えました。
また「ロシアの戦略核兵器の戦力は、確実に使用できるよう準備が完了している」と述べ、ロシアの核戦力を誇示したうえで、ウクライナへの支援を続ける欧米側をけん制しました。
こうした発言に対しEUの報道官は29日、「ウクライナへの戦争を始めたのはプーチン大統領で、世界への影響を含む全ての責任がある」と述べたうえで「核兵器による脅しは絶対に容認できず、不適切だ」として、プーチン大統領を非難しています。
一方、プーチン大統領は、去年のGDP=国内総生産の成長率が3.6%になったとして「ロシアの経済成長率は、EUの主要国を上回っただけでなく、G7=主要7か国のどの国よりも高くなった」と欧米からの制裁を受けていても経済は成長していると強調しました。
また、貧困率の引き下げや少子化対策に取り組む姿勢も示し、3月15日からの大統領選挙をにらみ、さらなる長期政権に向けて国民にアピールした形です。
ロシアの独立系新聞編集長 一時拘束 罰金刑に
プーチン政権に批判的な報道姿勢で知られるロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」は、編集長のセルゲイ・ソコロフ氏が当局に一時、拘束されたと明らかにしました。
ソコロフ氏は29日、モスクワで、ロシア軍の信頼を失墜させた疑いで拘束され、その後、モスクワの裁判所から、3万ルーブル、日本円にしておよそ5万円の罰金刑を科せられたということです。
「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長は、2021年にノーベル平和賞を受賞したドミトリー・ムラートフ氏が長く務めていましたが、ムラートフ氏が去年、ロシア政府によって、外国のスパイを意味する「外国の代理人」に指定されたことなどから、ソコロフ氏が去年11月から編集長を務めていました。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるプーチン政権は、政権に批判的なメディアに神経をとがらせ、一段と圧力を強めています。
●プーチン氏、欧州のウクライナ派兵は「核戦争招く」可能性 年次教書演説 3/1
ロシアのプーチン大統領は2月29日、連邦議会で内政、外交の基本方針を示す年次教書演説を行い、欧米がウクライナに軍隊を送れば核戦争を招く可能性があるとけん制した。
プーチン氏は、ロシアが欧州を攻撃するつもりだという主張は「ナンセンス」だとしつつ、核兵器で欧州を攻撃する可能性を警告した。
フランスのマクロン大統領が26日に、ウクライナへの派兵の可能性は「排除できない」と発言したことに言及し、「我々も西側領土を攻撃できる武器を持っていることを理解すべきだ」と述べた。
欧州の一部の首脳はウクライナ派兵の可能性を否定している。
プーチン氏は2022年2月のウクライナ全面侵攻後、これまでに何回か核の脅威を示唆している。ロシアは昨年、隣国ベラルーシに戦術核兵器を移送。また、CNNはこのほど、ロシアが人工衛星を破壊可能な宇宙核兵器の開発を試みていると報じた。
国営タス通信によると、演説は2時間を超え、これまでで最長となった。プーチン氏はウクライナでの軍事作戦について「多くの地域で前進しており、領土の解放が進んでいる」と成果を強調した。
また、フィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)に加盟したことを受けて、「脅威を無力化する」ためにNATO加盟国との国境沿いに展開する部隊を増強する考えを示した。
国内経済については、西側諸国からの制裁にもかかわらず、世界の他の国々、特に主要7カ国(G7)の国々よりも「はるかに成長している」と述べた。
ロシアでは3月17日に大統領選挙が行われる。5選目を目指すプーチン氏には事実上対抗馬はおらず、30年まで任期を延長するのは確実視されている。
●プーチン大統領、ウクライナ侵攻「国民の大多数が支持している」  年次教書演説 3/1
ロシアのプーチン大統領は、「年次教書演説」を行い、3年目に入ったウクライナ侵攻について「国民の大多数が支持している」として、戦闘を継続する考えを強調しました。
プーチン大統領「(国民の団結や祖国への献身は)軍事作戦の開始当初から大多数に支持された」
プーチン大統領は「年次教書演説」でこのように述べ、3年目に入ったウクライナ侵攻を継続する考えを改めて示しました。
また、西側諸国がロシアを軍拡競争に引きずり込もうとしていると主張した上で、アメリカが射程に入る核弾頭を搭載することができる大陸間弾道ミサイル「サルマト」を実戦配備したと明らかにしました。
また、フランスのマクロン大統領が欧米の部隊をウクライナへ派遣することを「排除しない」と述べたことを受け、「介入する者は悲劇的な結末を迎える」として、核兵器の使用を示唆してけん制しました。
さらに、反体制派指導者・ナワリヌイ氏の急死をめぐる追加制裁の動きを念頭に、「内政干渉は許さない」と主張しました。
●“文化遺産破壊は戦争犯罪” ウクライナ 国際会議でロシア批判 3/1
軍事侵攻を続けるロシアによる文化遺産の破壊や略奪は、戦争犯罪にあたるとしてロシアの責任を問う国際会議が開かれ、ウクライナの検事総長は「証拠は膨大にある」と述べ、国際社会に協力を呼びかけました。
国際会議は首都キーウで29日、ウクライナ政府などが主催し、各国の検察や市民団体、ユネスコなどの国際機関が参加しました。
はじめにあいさつしたウクライナのシュミハリ首相は、侵攻から2年の間に国内で900以上の歴史的建造物や宗教施設、教育関連施設などが被害を受けたと指摘した上で「ロシアは物理的な破壊だけでなく、遺産や民族の記憶を奪っている」と強く非難しました。
また、コスティン検事総長は「ウクライナの文化遺産に対する、破壊や略奪の証拠は膨大にある」と述べ、ロシア側の責任を追及していく姿勢を示しました。
そして「不法に略奪された遺産を取り戻すために行動しなければならない」と訴え国際社会に協力を呼びかけました。
ウクライナの検察はこの2年の侵攻で捜査対象になっているロシア側の戦争犯罪は市民への攻撃も含めて12万2000件以上にのぼるとしていて、徹底的な捜査を行うとしています。
100年以上前に建てられた博物館も被害
首都キーウ中心部の国立大学や劇場などが建ち並ぶ地区では、おととし10月にロシアによるミサイル攻撃を受け100年以上前に建てられた博物館で、議事堂としても使われた建物が被害を受けました。
この建物は1918年に、当時のウクライナの議会が独立を宣言した場所として知られ、ウクライナの50フリブニャ紙幣にも描かれています。
特徴はドーム型をしたガラス張りの屋根ですが、ミサイル攻撃による爆風でガラスは吹き飛ばされ、いまも作業員たちによる屋根の修復が続けられています。
博物館の代表のオレフ・ステシュク氏は「何よりもまず怒りがある。攻撃があった時、ここには人がいたのだ。私たちはすべてを復旧させる」と話していました。
ウクライナ検事総長「歴史さえも消し去ろうとしている」
ロシアの戦争犯罪について捜査しているウクライナのコスティン検事総長が29日、首都キーウでNHKの単独インタビューに応じ「ロシアはわれわれの歴史さえも消し去ろうとしている」と述べ、ロシア側がウクライナの文化遺産などを標的にしているとして強く非難しました。
この中で「ロシアの戦争犯罪は、民間人の意図的な殺害から、子どもの連れ去りや大規模な略奪まで、多岐にわたる」と非難しました。
そして「文化財を破壊することでわれわれの歴史さえも消し去ろうとしている」と述べ、徹底した捜査でロシア側の責任を明らかにし、被害額の賠償などをさせると強調しました。
その上で「ウクライナが戦場での戦いと正義のための闘いの両方で勝つために十分な支援を受けられれば、ほかの場所でも人々の命を救うことにつながる」と述べ、法や人権が守られる世界を実現するためにも、ロシアの戦争犯罪の追及に向けた支援を国際社会に呼びかけました。
また、コスティン検事総長は、ロシア軍がウクライナへの攻撃でこれまでに40件、北朝鮮製の弾道ミサイルを使ったケースが確認できたと明らかにし、実態の解明を目指しているとしています。 
●プーチン大統領が「侵攻継続」を強調する先にあるのは「トランプ氏再選」か 3/1
二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強が3月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。2月29日に行われたプーチン大統領の「年次教書演説」について解説した。
ロシアのプーチン大統領が年次教書演説、戦闘継続を表明
ロシアのプーチン大統領は2月29日、上下両院に対し内政や外交の基本方針を示す「年次教書演説」で、ウクライナでの「特別軍事作戦」を続ける考えを強調した。
飯田)ウクライナ侵略の継続を示し、戦略核兵器についても「完全な戦闘準備態勢にある」と威嚇するような言葉が出てきました。プーチン大統領の演説をどうご覧になりましたか?
トランプ大統領が当選すればアメリカの支援が滞るかも知れない 〜わざわざ手を止める必要はない
合六)引き続き、彼らの言うところの「特別軍事作戦」を続ける方針で、代わり映えはないと思います。最近、日本だけではなく、欧米でも即時停戦論が少しずつ増えています。支援する側もいよいよ疲れてきたなかで、いまのうちにやめた方が「より被害が少なくて済むのではないか」という観点から、即時停戦論を言う人が多い。しかし、こういう状況を見ていると、たとえ無理矢理にでもウクライナ側に「停戦交渉を受け入れなさい」と言ったところで、プーチン側が認めるかどうかという問題があるわけです。プーチン大統領からすれば、現状もしかしたらトランプ氏が大統領になるかも知れない。そうなればアメリカの支援が滞る可能性があるので、いま「わざわざ手を止める必要があるのか」と考えると思います。
西側地上部隊の派遣も「排除しない」マクロン大統領の発言に敏感に反応したプーチン大統領
合六)現実的にも停戦は考えにくいので、しっかりと支援することが重要です。先日、フランスが主催する形で「もう1回ギアを入れ直そう」というような、ウクライナへの支援会議が開かれました。その記者会見でマクロン大統領は、西側の地上部隊をウクライナに派遣する可能性について「排除しない」と答えたのです。それに対してプーチン大統領がやや敏感になったところがあり、今回、久しぶりに核の脅威を持ち出したのだと思います。
マクロン大統領の発言への牽制か 〜プーチン大統領が「戦略核」を誇示
飯田)2年前にロシアがウクライナへの全面侵略を始めたときも、小型の戦術核を使うのではないかと言われました。
合六)これまでのプーチン大統領の核に関する発言や行動を分析した研究があるのですが、一定ではなく、言葉のエスカレーションを上げる瞬間もあれば、一気にトーンダウンするような瞬間もあるのです。上げる瞬間には、あの手この手を使います。例えば開戦当時だと、自分たちには強力な兵器があることをほのめかしました。
また、隣国の友好国であるベラルーシに核を配備すると言ったり、あるいは核関連条約からの離脱を示唆した。西側に「いざというときは核を使える体制にある」と思い起こさせ、支援を止めようとしたり、直接的な介入を停止しようとしてきました。
飯田)そうでしたね。
合六)ただ、アメリカ側も内々に「もしそうなった場合はわかっているだろうな」と逆の脅しを行うことで、プーチン氏としても「危ない」と感じたのか、最近はトーンダウンしていて、核に関する言及は少なかったのです。しかし、マクロン大統領から「直接的な介入も排除しない」という言葉が出てきたので、牽制する意味もあるのだと思います。
NATO諸国に波紋を呼んだマクロン大統領の派兵発言 〜最前線にいるエストニアやリトアニアは歓迎の意を示す
飯田)さすがに地上軍を派兵するとなると、いろいろな反応が出ていて、ドイツのショルツ首相などは否定しています。一方、バルト三国のエストニアの首相は前向きに発言するなど、グラデーションがありますね。
合六)マクロン大統領の「排除しない」という言い方は、「どんな可能性もある」という形で曖昧にしているのです。それによってプーチン大統領の計算をややこしくする意図があるのだと思います。この発言に対してドイツやアメリカ、あるいは北大西洋条約機構(NATO)の事務総長も、現時点では直接的な派兵はないと明確にしています。結果的に「同盟内でまとまっていないではないか」、あるいは「またマクロン大統領のスタンドプレーではないか」と、亀裂の部分が露呈することに対して批判が出ているのです。
飯田)西側のなかでも。
合六)ただアメリカは今後、トランプ氏再選の可能性を含め、どうなるかわかりません。
マクロン大統領としては、ヨーロッパ自身が「自分たちの力で自分たちの問題を解決しなくてはならない」という、ギアアップのために言っているのでしょう。その点に関して、最前線にいるエストニアやリトアニアの首相などは、フランスの姿勢の変化に歓迎の意を示しています。
アメリカが動かない限り、ウクライナにとって厳しい状況が続く
飯田)ウクライナ側は軍の司令官が交代し、一部の都市から撤退せざるを得なくなるなど、反転攻勢というよりは防戦の方にフェーズが変わってきました。
合六)最近はずっとそうだと思います。去年(2023年)の6月以降、反転攻勢がうまくいかないなかで司令官が交代するなど、ウクライナの政治と軍の関係もギクシャクしています。今後は支援の滞りが見通されるなかで、「積極的防御」と言われますが、守勢に回りつつ、穴があるところに対して攻撃をかける。
「少しずつでも占領地を回復できるかどうか」が鍵になります。現時点では、アメリカが負担していた分を全部ヨーロッパが負えるような状況にはないので、アメリカが動かない限り、ウクライナにとって厳しい状況が続くのではないでしょうか。
●ナワリヌイ氏葬儀の教会周辺 ロシア当局が反政権の動き警戒か 3/1
刑務所で死亡したロシアの反体制派の指導者、ナワリヌイ氏の葬儀が、日本時間の1日夜、モスクワ市内の教会で営まれ周辺には多くの支持者らが集まりました。
当局は、厳しく警備にあたり、プーチン政権は、反政権の動きが広がらないか警戒を強めているとみられます。
プーチン政権の批判を続けたロシアの反体制派の指導者、ナワリヌイ氏は2月16日、ロシアの北極圏にある刑務所で死亡したと発表されました。
ナワリヌイ氏の遺体は、日本時間の1日夜8時前、モスクワ南部の教会に到着し、ナワリヌイ氏の両親や親族などが参列して葬儀が営まれました。
教会の周辺には多くの支持者らが集まり、「ナワリヌイ、ナワリヌイ」と名前を連呼したり、「ありがとう」と感謝の言葉でたたえたりして、別れを告げていました。
治安部隊や警察はフェンスを設置するなど警備を強化していますが、これまでのところ大きな混乱は起きていません。
支援団体の広報担当者によりますと、葬儀のあと、遺体は近くの墓地に到着し、埋葬される予定だということです。
ナワリヌイ氏の死亡をめぐっては、プーチン政権が関与したのではないかとも指摘され、真相究明を求める声が高まり、ロシア各地で追悼の動きや政権への抗議デモなども起きています。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は1日、記者からナワリヌイ氏についての評価を問われたのに対し「いかなる評価もできない」としたうえで、「無許可の集会は法律に違反し、参加する者は責任を問われることになる」と警告しました。
プーチン政権は、葬儀をきっかけに反政権の動きが広がらないか警戒を強めているとみられます。
●厳戒下でロシア反政府活動家ナワリヌイ氏葬儀始まる 3/1
ロシアのプーチン政権と対立して弾圧され、北極圏の刑務所で死亡した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の葬儀が1日、モスクワ南東部マリイノ地区の教会で営まれた。同氏陣営の呼びかけに応じ、市民が朝から教会前に長い列を作った。遺体は付近の墓地に埋葬された。治安当局は周辺で厳戒態勢を敷き、独立系メディアによると1人が拘束された。
ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは1日、「刑務所からでさえも私を笑わせてくれた。あなたが私を誇れるように努力する」とのメッセージを発表し、夫の遺志を継ぐ考えを示した。
タス通信によると、ペスコフ大統領報道官は1日、追悼の動きについて「無許可集会は違法で、参加者は責任を問われる」と警告した。
死後2週間を経ての葬儀となり、ひつぎは開始直前に教会に到着。両親や友人らが参列した葬儀の後、墓地に移動して最後の別れを告げ、埋葬された。
陣営は葬儀を控えた2月29日、霊きゅう車を手配できていないと明かした。陣営のボルコフ氏は「何者かが霊きゅう車の運転手全員に電話をかけ、遺体を安置所から運び出さないよう脅迫した」と訴え、プーチン大統領とソビャニン・モスクワ市長を名指しで批判した。
当局は遺体検査を理由に引き渡しを約1週間拒んだが、陣営は24日に、遺体が母リュドミラさんに引き渡されたと明かした。秘密裏の埋葬を求める当局の要求は拒否したが、葬儀会場探しが難航し、陣営は当局による妨害だと批判していた。
当局の発表によるとナワリヌイ氏は16日、刑務所内で散歩の後に気分が悪くなり、急死した。直後にモスクワなど各地で追悼の動きが広がり、当局は献花に並んだ市民など約400人を拘束した。死亡診断書には「自然死」と記されていたが、陣営は「殺された」と非難している。
●プーチン大統領、宇宙への核兵器配備計画ないと表明 3/1
ロシアのプーチン大統領は1日開いた安全保障関連会議で、宇宙空間に核兵器を配備する計画はないとする一方、宇宙空間の脅威の無力化はロ常に重要課題であるべきと述べた。国内メディアが報じた。
米情報筋は、ロシアが宇宙配備用の核兵器を開発中と指摘しているが、ロシア政府は否定している。
●「女帝の誕生」をプーチン氏は懸念?ゼレンスキー氏は「キーウ再侵攻」が心配?中国・北朝鮮のリーダーの思惑は...4人の専門家が解説 3/1
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから今年2月24日で2年。激しい戦闘が今も続いています。そうした中、周辺国の中国そして北朝鮮の首脳は一体何を考えているのか、どういう距離感なのか...。ロシア:筑波大学の中村逸郎名誉教授、ウクライナ:神戸学院大学の岡部芳彦教授、中国:ジャーナリストの武田一顕氏、北朝鮮:龍谷大学の李相哲教授の専門家4人に解説していただきました。
中村逸郎氏「ナワリヌイ氏は凍死による“死刑”か」
―――まず、現在、各国首脳が考えていることについてです。中村先生は、ロシアのプーチン大統領が「“用済み”と思ったのに…」と考えているということですが、どういうことでしょうか?
(中村逸郎氏)「(刑務所で死亡した)ナワリヌイさんは、反プーチンの急先鋒の活動家だったんですね。ですから、彼が集会を呼びかけるとたくさんの人が集まってくる。当局はその1人1人の写真を撮って、身元をあぶり出すんですね。特に職場を割り出して、職場の上司を使って『何をやっているんだ』と圧力をかけてきた。この10年間、ナワリヌイさんをずっとプーチン政権は自由にさせてきたんですが、もう来月(3月)大統領選挙ですので、全て割り出したということで、もう用なしだということなんですね」
―――2月16日に亡くなった反体制派の指導者・ナワリヌイ氏は、去年、過激派組織を創設した罪で懲役19年の判決を受け、北極圏の刑務所に収監されていました。散歩直後に体調を崩して意識を失い死亡。当局の発表は突然死症候群ということですが、中村先生の今のお話だと、殺されたということですか?
(中村逸郎氏)「そういうことだと思うんです。(ナワリヌイ氏の)お母さんの話ですが、この刑務所の横にお墓があるらしくて、そこに埋めましたと当局から言われたというニュースが入っています。実は私このシベリアの極北に行ったことあるんですよ。私が行ったのは10年前の1月中旬です。行ったときはマイナス45℃。ナワリヌイさんが亡くなったときは、私調べましたが、マイナス32℃なんですよ。どういう状況かというと、私の体験談ですが、呼吸ができないんです。なぜかっていうと、体ってだいたい36℃で、外気温がマイナス30℃40℃ですと70℃の差がある。もちろん鼻毛は凍ってしまうし、一気に冷たい空気は入れられない。だから少ししか呼吸ができない。そういうところにナワリヌイさんは置かれていた。私の見立てですが、ナワリヌイさんは実は凍死させられたんじゃないかと。刑務所と懲罰房というのがあって、刑務所でちゃんと言うことを聞かない人は懲罰房という狭い部屋に入れられるんです。それを行ったり来たりしてたんです、この1か月間。それでどうも、懲罰房にも刑務所にも入れない、マイナス30℃以下のところに放り出すと」
(武田一顕氏)「何でロシアって、特にプーチンさんってすぐ殺しちゃうんですか。中国は社会的に抹殺することはあっても、なかなかそのいわゆる直接的な形で殺すっていうことはないんですよね。だけどロシアはすぐ殺しちゃったり死なせちゃったりするが、これはなぜ?」
(中村逸郎氏)「毒殺だとか銃殺、暗殺、何でそういうことを繰り返すかっていうと、反体制派に対して恐怖を与えると。そこが実は大きなプーチン政権のすぐ殺してしまう(理由)。懸念すべきことは、こういったことをどんどんやるわけですね。このロシア政府っていうのは、ソ連が崩壊した後、事実上、死刑制度がないんですよ。死刑がないところで殺しているということなんですね」
ロシアにある“女帝待望論”
―――今までも様々な要人が亡くなった、不思議な死を遂げたことがありました。知らしめすために殺害しているのですか?
(中村逸郎氏)「恐怖心を与えると。そうした中で、やっぱりプーチン大統領にとっても心配なことってあるんですよ。このように抑圧・弾圧して暗殺してきている中で、プーチンは『“女帝”が生まれては困る…』と考えているのでは。今回、ナワリヌイさんが亡くなりましたが、妻のユリアさんが、自分は夫の意を継いで、プーチンに対する怒りっていうものをぶちまけるんだと、決して同情はいらない、立ち上がろうって言ったんですね。ロシアを振り返ってみますと、歴史的に、エカテリーナ2世っていう人が18世紀後半にいたんですね。この人はロシアという国を、単なる近代国家から広い領土を支配する帝国に変えたんですね。今でもエカテリーナ2世は大変尊敬されている。あまりにも偉大だったから、エカテリーナ2世以降ですけども、女性の皇帝が誕生してはいけないというふうに言われてきたんですね。だけども、ロシア人の中でやっぱり女帝っていう待望論というのはあるわけなんですね」
―――ユリア氏はアメリカのバイデン大統領とも面会。メッセージをしっかり発信していますが、実際にロシアでもユリア氏についていこうという動きはありますか?
(中村逸郎氏)「どんな話がロシアで出ているかというと、いろんな人が今、自分の意見をネットに流してるんですね。そうした中で私がびっくりしたのは、ある女性ですが、『ナワリヌイさんの死を聞いてずっと泣いてた。なんて幼稚な社会なんだろう』っていう声をあげている人もいるわけなんですね」
岡部芳彦氏「ウクライナにとって戦争は2年ではなく10年」
―――ナワリヌイ氏の死について、岡部先生、ウクライナではどのような受け止めですか?
(岡部芳彦氏)「ナワリヌイが亡くなった日に実はちょっと同じような経験をしました。私の知り合いの心あるロシア人から『私は泣いてる』っていうメールが来て、電話がかかってきたんですよ。それぐらいショックを受けているんですけど、実はウクライナではそうでもない。ゼレンスキー大統領がちょうどドイツの首相と記者会見をしているときにコメントを求められて、プーチンに殺されたんだろうって言いますが、この戦争自体は24日で2年って言われるんですけど、ウクライナ人にとっては、2014年にクリミア半島併合といわれるが占領ですよ、軍事攻撃で、そのときから始まっている10年戦争なんですね。それがたまたま2年前に激化した。そのときにナワリヌイはどうだったかっていうと、クリミア併合に賛成しているんですよ。あれはかつてのエカテリーナのときにロシアのものになったものだからと賛成してて、ちょっとウクライナ国内では評判があまりよろしくない」
―――そして今、ゼレンスキー大統領が思うことは「2年ではなく10年」ということだろうと。今まさにおっしゃったことですね?
(岡部芳彦氏)「そうですね。ロシアとは10年戦争してるんだと、そう考えていると思います」
ゼレンスキー大統領は「機会主義者」
―――ゼレンスキー大統領は国民にどれだけ信頼されているのか。キーウ国際社会学研究所の調べによりますと、大統領を「信頼している」と回答した人の割合は、2022年2月に37%だったのが5月に90%となり、そこから少しずつ落ちていて、今年2月で64%となっていますが?
(岡部芳彦氏)「戦争が始まったときは9割。岸田総理の支持率は今10%台だかわかりませんけど、日本もそれほど高いわけではないので、まだ比較的、ウクライナではずいぶん高いなと思います」
(中村逸郎氏)「岡部先生ね、ロシアの独立系メディアのニュースによりますと、ゼレンスキー大統領の任期が3月末で終わり、そしてゼレンスキーさんの人気が少しずつ落ちてきているということで、3月末にゼレンスキーさんの任期が終わったときに、政権内でイェルマーク大統領府長官とゼレンスキーさんの間で何かいざこざが起こるのではないかと。そういう情報がロシアの独立系メディアから出ていますが?」
(岡部芳彦氏)「イェルマークは事実上の副大統領だって言われるぐらい力があるんですね。ゼレンスキーも彼だけは信用してるっていう形なんですけど、ちょっとそれはわかんないんですね。独立系メディアに確かに出ていますね。独立系メディアは結構反ロシア的なことも書いてくれるんですけど、偽情報もロシア政府が流すと載せちゃうこともあるので、そこはちょっと用心しないといけないと思います」
―――「信頼している」という割合がちょっとずつ下がってきている。これを受けてゼレンスキー大統領は今どんなことを考えているのでしょうか?
(岡部芳彦氏)「これはですね、非常に重要なことなんですけど、『何も考えていない』です。これちょっと説明します。以前からよく言ってきたことなんすけど、よくゼレンスキーってコメディ俳優だったので人気者だからポピュリストだってあるじゃないすか。あれはちょっと間違いでして、オポチュニストなんです。機会主義者なんですね。機会主義者ってどんな政治家かっていうと、例えばAとBっていう選択肢があって、Aが有利だと思ったら自分の思想信条と関係なくAをとる。Bが有利だったらBをとっていくという手法なんです。この戦争が始まったときには、占領された領土を取り戻したらこの戦争は終わりだって言ってたんですけど、戦争の最初の年の夏頃からちょっと軍事支援が来たら、クリミアまで取り戻すぞと目標が変わるんですね。これは機会主義だから変わっていくと。『何も考えてない』というとちょっとこの人大丈夫かと思うかもしれないが、そうではなくて、その時々で有利な選択肢を選ぶ政治手法です」
(武田一顕氏)「なんかゼレンスキーさんの周りって、おべっか使いみたいになっていませんか。この間、司令官を更迭しましたよね。日本に来ていたシュミハリ首相についても、記者会見とかを見た人に聞いたら、結構数字には強いけど、別に戦時司令官というか戦時の政治家って感じは全くしないと。そうするとなんかゼレンスキーさんは長くなってきて、周りにおべっか使いばっかりになってるとかそういうことはないですか」
(岡部芳彦氏)「そう言われるとその傾向は確かにあるんですけど、汚職とかでいわゆる入れ替えが大臣はすごく多いんですね。僕が今ぱっと思い浮かぶだけで要職にあった人は10人ぐらい入れ替わっています。逆に考えると、政権を動かしてきた人なんですよ、ゼレンスキー政権を。そんな人たちでも入れ替えてるので、逆に捉えると新陳代謝があるかなと」
―――そして今後の軍事侵攻をめぐり、どんなことをゼレンスキー大統領は考えているのでしょうか?
(岡部芳彦氏)「一番心配なんじゃないかっていうのは、ロシア軍による『来年キーウ再侵攻?』ということです。今戦争が膠着状態に陥って、ロシアの軍需産業も戻ってきているんですね。戦車なんかためちゃったら、もう一度再侵攻を決断するんじゃないかと」
―――それが来年にあるかもしれない?
(岡部芳彦氏)「ロシアは今だいぶ戦車も兵力も失っているので、それを再編成するのにやっぱりこれぐらいはかかるかなと」
―――中村先生、そんな準備が進んでいるというふうに考えられる?
(中村逸郎氏)「ロシアの国内の情報によれば、ロシアっていうのは兵器不足、そして兵士も不足している。軍需産業で働いてる人たちが35%減ってしまったということで、北朝鮮に兵器を求めているという状況なんですね」
(李相哲氏)「去年の8月からですね、北朝鮮は今年1月までコンテナで5500個分くらいの武器をロシアに供与しているんです」
李相哲氏「北朝鮮にとっては政治的にも経済的にもウクライナ戦争はチャンス」
―――その北朝鮮の金正恩氏は今、「戦争が続けばいいな」と考えてるんじゃないかということですか?
(李相哲氏)「今世界で、ウクライナ戦争で一番利益を得ているのは北朝鮮なんです。武器を供与するだけではなくて、これから続けば、武器の委託生産すらありうるんですよね。それから、北朝鮮から出稼ぎ労働者を今、ロシアに送るつもりなんですけれども、様々な意味で経済的にプラスになります。戦争が続けば、ロシアはやっぱり北朝鮮に気を使って、北朝鮮とかっちりと組んでアメリカを牽制したりとかするので、政治的にも経済的にもウクライナ戦争は北朝鮮にとってはチャンスなんですよね」
―――プーチン氏が金正恩氏にロシアの高級車をプレゼントしたという話もありますね?
(中村逸郎氏)「ただねこれ、蜜月関係をアピールしているようですが、そこはロシアの怖さ、プーチンの怖さ。車をプレゼントしますが、それだけじゃなくて、その車の中に盗聴器とか位置情報とか。信頼したふりをして…。プーチンはこれまでいっぱい裏切り者を暗殺したんじゃないかと言われてるので」
(李相哲氏)「金正恩氏は車マニアで、100台以上持っていると言われている。ですから毎日乗ることはまずないと思いますけれども、彼はまだちょっと子どもっぽいところがあるので、そのような今まで触ったことのない車が来たらうれしいんでしょうね。彼の車好きっていうのは有名でね、北朝鮮の小学校の教科書に、彼は3歳のときに既に車を運転したと、8歳のときには険しい山道を疾走したっていうふうに書かれているんですよ」
―――金正恩氏はプーチン大統領のことを疑っていないのでしょうか?
(李相哲氏)「今のところはお互い利用し合っていますので、政治的にはそんなに単純ではないんですね。ただ、プーチン大統領の思惑は、中村先生がおっしゃるように、そこに盗聴器を仕掛けたのかそれは別にして、今、金正恩に何かしてほしいんですよ。彼の戦略の中の一環として、金正恩の機嫌を取っていると」
(武田一顕氏)「北朝鮮は本当にややこしくしてくれるわけですよ。中国はロシアに少なくとも武器は売ってないわけですよね。だけど北朝鮮は武器を売るから、せっかく中国が売ってないのにそれをウクライナの攻撃に使ってるから、余計ややこしくしている。中国からすると頭が痛いわけですよね」
武田一顕氏「中国人はお金が大好き。復興事業に参加したい思惑も」
―――その中国ですが、習近平氏は「今はどっちつかずにしておこう」と考えているのではないかと?
(武田一顕氏)「習近平さんはとにかくどっちつかず。プーチンさん大好きですから、習近平さんは。プーチンさんのことがまず好きで、機嫌を損ねたくないっていうのがある。電話会談もしましたよね。ただ、ウクライナにもいい顔をしたい。この間、中国の王毅外相はドイツでウクライナの外相と会いました。上手くやって、早く戦争が終わって、復興にいっちょかみしたいわけですよ。復興事業に参加したいと。中国人はお金が大好きですから、それもやりたいから別にそんなに戦争が長引いてほしいとは思ってない」
(中村逸郎氏)「実はヨーロッパと習近平主席の間で会談があったようで、水面下で。中国はロシアからの天然ガスとか石油の輸入を大幅に止めて、そのかわりにカタールとかほかのところからもらうと。つまりヨーロッパと中国が足並みを揃えてくる。そうすると、プーチンと金正恩がだんだん国際的に孤立する状況になってきているんじゃないかと私は考えているんですね」
(李相哲氏)「だからだんだん北朝鮮とロシアは密着してくると」
“もしトラ”アメリカ大統領選の行方も影響か
―――そして、この戦闘はいつ終わるのかということで、ゼレンスキー大統領はどう考えているのでしょうか?
(岡部芳彦氏)「これはロシアが始めた戦争で、ウクライナは防衛戦争。ロシアが止めない限りは終わらないので、これは『わからない』っていうのが正直なところですね」
―――今の戦況では東部4州の大部分をロシアが支配しています。これを取り返すという話ですが、どこかで妥協するようなことは考えられますか?
(岡部芳彦氏)「先ほど言った通りゼレンスキーは機会主義者です。どうしてこの戦争を2年続けられたか、あるいは続けているかというと、国民は比較的まだ停戦にネガティブな意見が大きい。全土を奪還しろという意見は最近はだいぶ減ってきているんですけど、一方でロシアには屈しないっていう世論が多いので、さっき言った通り世論が支えている限りはゼレンスキーは機会主義者だから戦争は止められないと」
―――一方のプーチン大統領は戦闘終結について「来月末」と考えていると?
(中村逸郎氏)「ゼレンスキー大統領とアメリカとロシアで水面下でこの戦争をどうやるかってことをずっと探ってきたんですが、ゼレンスキー大統領は正式に拒否、交渉拒否、(停戦交渉は)しないということをはっきり言ったんですね。ということは、この戦争をどうやって止めるかっていうと、やはりロシア国民がプーチン政権を倒すしかないっていうところまで来ているわけです。ナワリヌイさんが亡くなり、3月2日にモスクワで5万人の追悼の集会をやろうという声が起こっている。そして極東で、ハバロフスクという地方都市で反プーチンの運動、活動が活発化してきている。もしかしたらそういった人たちが地方行政府、県庁とか市役所に乗り込んでいく、その流れが3月2日に向けて進む。そして3月17日の大統領選挙。これをいわゆる反プーチンの人たちは、実施させないと。今いろんな声が上がっていますが、投票用紙にナワリヌイさんの名前を書いたり、目の前で投票用紙を破ったり、または投票所そのものを壊してやろうという動きも出てきていて、いずれにしてもこの戦争はナワリヌイさんの死を受けて、どうやら騒々しくなってきているということなんですね」
(武田一顕氏)「プーチンがひっくり返ってというのはなかなか考えにくくて、むしろやっぱり“もしトラ”、トランプ前大統領の方が鍵を握っている。トランプさんが当選するってなったら、ウクライナはもう戦えないじゃないですか。そうなったら、和平に流れていくしかないから、やっぱり今年は秋に向けて、楽観的に見れば、停戦の動きが出てくるんじゃないかと私は思っている」
(岡部芳彦氏)「実はトランプを支えるシンクタンクがあるんですね。そこにいろいろブレーンの人たちが論文を載せているんですけど、実はそこに何と書いてあるかというと、今のバイデンの支援というのは戦力の逐次投入だと。トランプが生まれたら、最初のときに強力な兵器をウクライナに提供するか、戦争をやめるかをプーチンに迫るべきだって書いてあるんですよ。これを読んだときはすごく背筋が寒くなって、強力な兵器って核兵器しかないですよね。そういうブレーンが今トランプを支えているっていう、こちらもちょっとリスクとしてあるかなと」
―――そして北朝鮮がどう絡んでくるかということですね?
(李相哲氏)「北朝鮮は戦争が続けばですね、やっぱり東アジアで暴れやすくなるんですよね。プーチンの思惑は、アメリカの関心がウクライナに来ないようにするためにアジアで暴れてほしいんですね」
(中村逸郎氏)「今年1月、プーチン大統領は北朝鮮に近々訪問することを発表したんですね。ですから、もしかしたら、ウクライナ、中東、そして朝鮮半島、極東が非常に厳しい状況になるのではないかと思っています」
●ナワリヌイの死を受けてベルリンのロシア大使館の前で抗議活動 3/1
プッシー・ライオットはベルリンのロシア大使館の前でアレクセイ・ナワリヌイの死についてウラジーミル・プーチン大統領とロシア政府が「殺人者」であるとする抗議運動を行っている。
2月16日にロシアの野党指導者だったアレクセイ・ナワリヌイが亡くなったと発表されたことを受けて、プッシー・ライオットはベルリンのロシア大使館の前で抗議活動を行っている。
アレクセイ・ナワリヌイの死を巡っては詳細が明らかになっておらず、BBCによれば、収監されていたロシアの刑務所当局は「突然死症候群」で亡くなったと述べている。国営放送のRTは情報源不明だが、血栓による死亡を示唆している。
プッシー・ライオットは抗議活動にあたって「Murderers(殺人者たち)」と描かれた横断幕を掲げている。「シンプルな一つの言葉を思いつきました。Murderers(殺人者たち)です。彼はただ亡くなったのではありません。殺されたのです」とプッシー・ライオットのナディア・トロコンニコワはソーシャル・メディアで述べている。
●プーチン氏の核戦争発言は「無責任」 米 3/1
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が2月29日の年次教書演説で、西側諸国がウクライナ紛争をエスカレートさせた場合、核戦争に発展する「現実的な」リスクがあると述べたのを受け、米政府は1日、「無責任だ」と非難するとともに、ロシアが核兵器を使う準備をしている兆候はないと述べた。
米国務省のマシュー・ミラー(Matthew Miller)報道官は記者団に対し、「ウラジーミル・プーチン氏の無責任な物言いは今に始まったことではない。だが、核保有国の指導者が発言すべきことではない」と批判した。
ただし「われわれは過去に核兵器の使用が招く結果について、ロシアと非公式だが直接コミュニケーションをとってきた」と述べた上で、「ロシアが核兵器を使う準備をしている兆候はない」と語った。
●ウクライナ、オランダと安全保障協定締結 3/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、ウクライナとオランダが安全保障協力に関する2国間協定を結んだとX(旧ツイッター)で明らかにした。
●G20財務相会議、また共同声明出せず ウクライナ侵攻巡り意見対立 3/1
ブラジル・サンパウロで開かれていた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は2月29日、2日間の日程を終え、閉幕した。先進国と途上国の格差や、途上国の債務問題などについて議論したが、ウクライナ情勢を巡って対立し、共同声明のとりまとめは見送られた。
G20の共同声明は、前回の昨年10月の会議で7会合ぶりに採択された。だが、ロシアによるウクライナ侵攻を巡る文言調整で議論が紛糾し、再び、共同声明が採択できない事態になった。
改めて浮き彫りになったのは、西側諸国、ロシア、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の間の、侵攻を巡る意見の隔たりの大きさだ。ブラジルメディアなどによると、ウクライナ侵攻について西側諸国や日本は「ウクライナへの戦争」との表記を要求。一方、ロシアは「ウクライナでの戦争」と譲らなかったという。 ・・・

 

●プーチン大統領「西側がウクライナに派兵の際は核衝突の危機」警告 3/2
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が29日(現地時間)、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナに軍隊を派遣すれば、核戦争の危機を招くと警告した。
プーチン大統領は同日、テレビ中継された年次教書演説でこのように述べ、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟に対し、ロシア西部地域のロシア軍を大幅に強化する計画だと明らかにした。ロイター、タス通信などが報じた。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は26日、将来的にウクライナ派兵も排除できないと述べたが、この発言後、米国やドイツなど西側主要国とNATOは派兵計画はないと明言した。
プーチン大統領は、西側が1980年代のような軍拡競争にロシアを引き入れようとしているとし、ロシアが欧州を攻撃する準備をしているという主張はナンセンスだと一蹴した。
この日の教書演説は、ロシア大統領選を2週間後に控えて行われ、連邦上下院議員の他に行政府の官僚、憲法裁判所長と最高裁判所長官、宗教団体の代表など、各界の人々が聴衆として参加した。
プーチン大統領は同日の演説で、米国と「戦略的安定」のために対話する準備はできているが、ロシアの国家安保問題を排除して交渉をすることはないと強調。さらに、ロシアが宇宙に核兵器を配備しようとしているというのは事実ではないと重ねて主張した。
さらに、ウクライナ戦争に対する「特別軍事作戦」を大多数のロシア人が支持しているとし、ロシアは主権と安全保障のための正当な戦いを行っていると主張した。また、戦争を始めたのはロシアではなく、戦争を終わらせるためにあらゆることを行うと述べた。
経済問題に関しては、友好的な国々とともに、政治が介入しない新しい世界金融基盤を建設する計画だとし、アラブ諸国や中南米との協力の強化が特に重要だと述べた。
プーチン大統領のこの日の教書演説は、ロシアの主権の連続性などのロシアの国内問題と、今後5年間の課題を提示することに主に割かれた。
●反体制派ナワリヌイ氏の葬儀に数千人集まる プーチン政権へ抗議の声も 3/2
1日にロシアのモスクワで行われた、反体制派指導者ナワリヌイ氏の葬儀には数千人が集まり、プーチン政権への抗議の声もあがりました。
葬儀は、警察や治安部隊が厳戒態勢をしく中で行われました。棺を乗せた車が到着すると、集まった人たちからは拍手と「ナワリヌイ」コールが沸き起こりました。棺は母親のリュドミラさんらに付き添われて教会へと運び込まれました。
ロシア当局は当初、密葬にするよう求めていましたが、支援者らは教会で葬儀を行うことを決め、市民にも参列を呼びかけました。
参列した市民「(Q気持ちは?)痛み、憤り、怒り」「(ナワリヌイ氏の)仲間がいることを示すのが重要。絶望する必要はない」
葬儀終了後、棺が墓地へと移動すると人々も後に続きました。
また、「プーチンのいないロシア」「自由な選挙を」などとプーチン政権への批判の声もあがりましたが、警察による規制はありませんでした。ロシアのネットメディアは、この日の葬儀には数千人が参加したと伝えています。
● ナワリヌイ氏葬儀 多くの支持者集まる 少なくとも50人以上拘束 3/2
ロシアのプーチン政権への批判を続け、刑務所で死亡した反体制派の指導者、ナワリヌイ氏の葬儀が1日首都モスクワで営まれ、多くの支持者らが集まり、別れを告げました。当局が厳戒態勢を敷くなか「プーチンのいないロシアを」などと叫ぶ人もいて、人権団体によりますと、ロシア各地で少なくとも50人以上が拘束されたということです。
プーチン政権の批判を続けたロシアの反体制派の指導者、ナワリヌイ氏は、2月16日、ロシアの北極圏にある刑務所で死亡したと発表されました。
葬儀は1日、モスクワ南部の教会で営まれ、ナワリヌイ氏の両親や親族などが参列したほか、教会の周辺には、治安当局が厳戒態勢を敷くなか、数千人を超える支持者らが集まったということです。
支持者らは遺体を運んだ車に花を投げ「ナワリヌイ、ナワリヌイ」と名前を連呼したり、「私たちは諦めない」と叫んだりするなど、ナワリヌイ氏をたたえ、別れを告げていました。
葬儀の後、遺体は近くの墓地に運ばれ、フランク・シナトラさんの「マイ・ウェイ」や、ナワリヌイ氏が好きだったという映画「ターミネーター2」のテーマソングが流されるなかで埋葬されました。
追悼に訪れた若い女性は「私たちとって希望でした。勇気のある人で、諦めないで戦うことを教えてくれました」とナワリヌイ氏をたたえていました。
ナワリヌイ氏の死亡を巡っては、プーチン政権が関与したのではないかとも指摘され、集まった人の中には「プーチンは人殺しだ」とか「プーチンのいないロシアを」などと、叫ぶ人もいました。
これまでのところ大きな混乱にはなっていませんが人権団体によりますと、モスクワや地方都市などロシア各地で少なくとも50人以上が当局に拘束されたということです。
プーチン政権は、葬儀をきっかけに反政権の動きが広がらないか警戒を強めているとみられます。
妻ユリアさん SNSに感謝と決意のメッセージ
ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは1日、SNSにナワリヌイ氏との思い出をまとめた動画とともにメッセージを公開しました。
このなかで「26年間の絶対的な幸せをありがとう。あなたなしでどうやって生きていけばいいのかわからないけれど、あなたが喜んでくれて私を誇りに思ってくれるように頑張るつもり」と述べ、感謝の思いとともに、ナワリヌイ氏にかわってプーチン政権を批判する運動を続けていく決意を改めて示しました。
●戦時下のモスクワ 国外脱出でしぼむ若者の声 開戦4カ月で市内の反戦ムードが沈静化した理由 根強い中高年層の「戦争賛成、プーチン支持」の現実 3/2
多くのロシア人の若者らにとって、国外脱出は決して容易な決断ではなかった。
ウクライナ侵攻を受けた欧米諸国による経済制裁により、ロシアから海外に向かう国際便の数は激減した。ロシアでは、侵攻前は1日あたり約210便あった国際便は、侵攻直後の2022年3月上旬には約90便に減少した。
航空券の価格は高騰し、私財を投げうってチケットを手に入れても、突然の飛行キャンセルで出発できないケースもあった。脱出した人々に、高所得者や子供を持たない若者らが多いのは、これらの問題をクリアできる財力があったためだ。
中には、自分の子供が将来徴兵される事態を懸念して、親が子供だけを国外に脱出させたケースも報告されている。
私の知人にも、国外脱出を目指したものの「お金がない。どうしても出国できない」との理由で、やむなくロシアにとどまった人もいた。
そのような人々は、本音を包み隠しながら、ロシア国内での生活を続けているのが実態だ。
さらに、脱出できたとしても、海外で長期間生活できる十分な財産を持っているとは限らず、職が見つからなければ、帰国を余儀なくされる可能性もある。
しかし、国外脱出者や、政権に批判的な行動をとる自国民に対し、プーチン大統領は極めて冷酷な対応をとった。侵攻開始から約3週間後の2022年3月16日には、プーチン大統領は政権幹部に対しこう語ってみせた。
「(西側は)当然、いわゆる第五列、つまり、裏切り者たちに期待をかけているのだろう」
「ロシア人は、常に本当の愛国者と裏切り者を峻別することができる。そのような者たちは、口に偶然飛び込んできたコバエのように、吐き出してやればいい」
「(彼らの)目的はただひとつ。ロシアの破壊だ」
「(裏切り者の海外脱出は)ごく自然なことであり、社会の浄化には必要なことだ。その結果として国家は強化され、人々はさらに団結し、あらゆる挑戦に対する準備が整えられるに違いない」
第五列とは、自国にいながら敵に通ずるとされる裏切り者≠フことを指す。プーチン大統領はここで明確に、たとえロシア国民であっても、欧米諸国に共鳴する者らは裏切り者だとし、徹底的に排除する姿勢を鮮明にした。
さらにハエ≠ネどと最も侮蔑的な言葉を使って彼らを形容し、叩き潰す考えすら示唆した。自国民に対し、このような発言をする最高指導者の姿勢に、ウクライナ侵攻を少しでも批判的な視線でとらえていたロシア人は、絶望的な思いを抱いただろう。
プーチン大統領はハエという表現を、ウクライナ南部マリウポリでロシア軍に徹底抗戦していた軍事組織「アゾフ大隊」にも使っていた。そのようなレッテルを貼られることがどのような意味を持つか、ロシア国民は正しく理解していたに違いない。
開戦当初、私にはひとつの疑問があった。ロシア政府がなぜ、このような若者たちの国外脱出の動きを強く阻止しなかったのかということだ。隣国ジョージアとの国境で検査を強化したという話は耳に入ったが、モスクワ市内で航空会社のオフィスの前で人々が列をなすという行為は、明らかに政権には目障りだったに違いない。
この疑問に対しては、前出のプーチン大統領の発言がほぼ答えを出した。プーチン大統領は反体制派、また積極的な反政権活動をしていなくとも、国外脱出をしてまでロシアを離れようとする国民については、むしろ国外に退去してもらった方が、その後の国内を統制しやすいと考えていたと推察される。
もちろんこれは、海外でも仕事を得られるほど有能な自国民の頭脳流出が起きるという点で、ロシア経済には大きなマイナスであることは間違いない。ただ、中長期的な国内産業の発展と、目前の戦争勝利のための国内の引き締めのどちらを選ぶかで、プーチン大統領は間違いなく後者を選んでいた。こうして、戦争に疑問を持つ若者たちの声はさらに弱くなっていった。
地方の貧困地域に偏る動員 モスクワと最大100倍近い死亡率の差
戦争に反対するモスクワの若者らの思いは、厳しく抑圧されていた。しかし、開戦から約4カ月という短期間ですでに、市内の反戦ムードが沈静化した背景には、もうひとつの理由があった。それは、ウクライナの前線に送られる兵士らが、圧倒的に地方に偏っていたという現実だ。
「3人もの子供がいた私のお父さんがなぜ、戦争に連れていかれて、死んでしまったのか理解ができない。だって、子供がいる家庭の父親は、動員されないって説明していたじゃない」
ロシア極東のブリヤート共和国の寒村、ウスチ・バルグジンから2022年9月22日に出征し、11月に戦死したドミトリー・シドロバ(享年46歳)の娘、エレーナは地元メディアにそう訴えた。彼女の家族は、途方に暮れたに違いない。しかし、ブリヤート共和国では、このような理不尽な状況に追い込まれた家族があちこちに現れ始めていた。
ブリヤート共和国は、バイカル湖の東岸に位置するロシア国内の共和国で、モンゴル系のチベット仏教徒らが多く住む場所としても知られる。しかし、ウクライナ侵攻開始以降、同共和国はロシア軍の戦死者に占める割合が最も高い地域のひとつとして知られるようになっていった。
ロシアの独立系ニュースサイト「メディアゾーナ」や、イギリスBBCのロシア語版サイトなどが共同で実施した調査によれば、2022年10月21日時点で、ブリヤート共和国からウクライナ戦争に参加して死亡した兵士数は305人にのぼった。
ロシアが併合したクリミア半島に隣接するクラスノダール地方や南部のダゲスタン共和国に次ぐ多さだった。
若年層の、人口1万人あたりに占める戦死者の割合でいえば、ブリヤート共和国は28.4人でロシア全土で首位となり、続いてブリヤート共和国の西にあり、テュルク系のチベット仏教徒が多いトゥバ共和国(27.7人)などとなった。上位のほとんどは、少数民族が多く住むロシアの地方が占めていた。
これに対し、首都モスクワの人口1万人あたりに占める戦死者の割合はわずか0.3人で、モスクワ州全体でも1.7人だった。ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルクも1.4人で、モスクワとブリヤート共和国の死亡率は、実に100倍近い差がある。
ブチャに駐留していたロシア軍の兵士らも、ブリヤート共和国やチェチェン共和国から来ていたことがわかっている。バハというまだ20歳の若年兵士は、「ウクライナに来なければ、殺されていた」と語っていた。彼もその名前から、少数民族の出身だと推察される。メディアなどの目が届かない辺境の地で、無理な動員が行われている実態が浮かび上がる。
広大なロシアの国土の辺境にある地方都市は、経済的にも大都市の住民より困窮しており、当局による動員を避けることは容易ではない。さらに、これらの地方自治体には、中央政府から派遣された元官僚などがトップに座り、中央政府に忠誠心を見せることで昇進を狙う動きもあるとされ、動員が苛烈になるとの指摘もある。
いずれにせよ、地方の若者を取り巻く環境との差≠つけることで、モスクワ市民の不満のガス抜きがなされている側面が否めない。
「ロシアは生き抜くために戦っているんだ」 プーチン支持の声を上げる中高年層
徴兵という形で戦争に直接巻き込まれる可能性がある若年層は、ウクライナ侵攻への不安を強く感じていた。しかし、モスクワの街中で人々の意見を聞くと、むしろ声を大にして侵攻への支持を訴える世代があった。40代以上の中・高年層の人々だ。
「私は戦争に反対で、プーチン大統領を支持する。なぜならプーチン大統領は、戦争には反対だからだ!」
新緑が美しいモスクワ市内の公園で、娘とともに散策していたナターリアと名乗る60代前後の女性は、「この戦争についてどう思いますか?」との私の質問に、怒気を含んだ声でそう答えた。娘も、「まったく、その通りだ」という表情で母親にあいづちを打っていた。
ノートを手に彼女の説明を書きとろうとする私に、彼女は勢い込んで語った。
「わかっているのかい。2014年(ロシアがクリミアを併合し、ウクライナ東部で紛争が激化した年)からね、プーチン大統領は誰も侮辱してこなかった。しかしウクライナの特務機関には、どこにでもナチス≠ェ侵入している」
ナターリアは、元警察官だという。職業柄でも、もともと政権寄りという部分はあっただろうが、彼女の意見はほかの同世代の人々とそう大きく変わってはいなかった。
彼女はさらに続けた。
「欧米はロシアの政権を交代させたいのだろうが、そのようなことは決して起きない。大統領は、これだけ支持されている。ロシアは今、生き抜く≠スめの戦いをしているんだ」
彼女は、戦争行為に賛成しているのではないという。しかし、ロシアが生き延びるためにやむなく$争に打って出たプーチン大統領を支持するというのだ。さらに、ロシアが戦っている相手であるウクライナ軍は、ナチスと同類だという。
このような論理の組み立てで、彼女の心には「戦争には反対」しつつ、戦争をしたくないが、ロシアを守るためにやむなく立ち上がった=uプーチン大統領を支持する」という、現実的には大きく矛盾したふたつの事柄が併存していた。
●「プーチンは人殺しだ」厳戒態勢で拘束者も… ナワリヌイ氏の葬儀モスクワで 3/2
獄中死したロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏の葬儀がモスクワ市内で行われました。厳戒態勢で拘束者も出るなか、集まった支持者らは「プーチンは人殺しだ」と抗議の声を上げました。
記者「後ろに見えるのが葬儀が行われる会場の教会です。その敷地の周りに支持者らの長い列ができています。花を持った支持者らが追悼に訪れています」
この日、プーチン政権に対峙し続けたナワリヌイ氏に最後の別れを告げるため、多くの支持者らが教会の周りを囲みました。
追悼に訪れた人「彼の最期の旅立ちを見送るために来た。彼は3年間、刑務所にいたが、私たちは彼のことを忘れていなかったと示したい」「彼は尊敬され、愛されている。これから人々の記憶に残るでしょう」
地方から追悼に訪れた人「葬儀が決まったと聞いて行かなければと思った。きのう電車で来た。(Q.どのくらいかかった?)1日」
葬儀会場周辺は多数の警察官と治安当局者が出動し厳戒態勢に。人権団体によりますと、拘束者も出たということです。
そして日本時間の1日午後8時ごろ、ナワリヌイ氏の遺体が教会に到着。
記者「いま、教会にナワリヌイ氏の遺体が運び込まれました。会場の周りの支持者らからは『ナワリヌイ、ナワリヌイ』との掛け声があがっています」
葬儀にはナワリヌイ氏の母親リュドミラさんら両親と親族らが参加しました。
遺体はその後、近くの墓地に運ばれ、親族らが見守る中、埋葬されました。
「プーチンは人殺しだ!」
プーチン政権を厳しく批判してきたナワリヌイ氏。陣営は政権側が死に関与していると主張。現在、国外にいてナワリヌイ氏の活動を引き継ぐと表明した妻のユリアさんは「幸せをありがとう。私を誇りに思ってもらうよう努力します」とSNSに投稿しました。
●和平条約草案を確認と報道 「中立、外国兵器認めず」 3/2
米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は1日、ロシアがウクライナに侵攻してから50日後に、両国の交渉担当者がまとめた和平条約の草案を確認したと報じた。ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)のような軍事同盟に加わらず永世中立国となり、外国兵器は配備しないことなどが盛り込まれていたという。
交渉は決裂し、戦争は長期化している。タス通信によるとロシアのペスコフ大統領報道官は1日、「当時と現在とでは条件が変わり、もう草案に現実味はない」とコメントした。
17ページの草案は2022年4月15日付。ウクライナが欧州連合(EU)加盟を目指すことは可能とするが、軍事同盟入りはしないとした。外国兵器を国内に配備せず、ウクライナ軍の規模縮小も盛り込まれた。ロシアは兵士や戦車の数、ミサイルの最大射程などを制限しようとしていたという。
ロシアが14年に併合した南部クリミア半島はロシア勢力圏に置くとされた。占領下にあったウクライナ東部地域は言及されず、両国首脳の交渉に委ねることになったとしている。
●中央アジア諸国敵視を強めるロシア 3/2
国家の独立性を脅かす発言
2年前の2月24日のロシアによるウクライナ全面的侵攻後、ロシアは中央アジア諸国に対しても敵対的態度を強め、国家の独立性を脅かす発言が相次いでいる。中には、ウクライナに対すると同様の「非ナチ化」の運用を中央アジアに求める発言も見られて、クレムリンのプロパガンダ攻撃が激しさを増している。
「もともと露領」と主張
その典型的な例は、ロシアの著名な歴史学者ミハイル・スモーリン氏の発言だった。1月23日に放映されたロシアのNTVテレビのトークショー「メスト・フストレーチー(出会いの場所)」で、彼は1917年の革命以前には、カザフスタンやウズベキスタンという名前の国は存在しなかったと強調した。中央アジア諸国に関するコメントの中でスモーリン氏は、カザフスタンはもともとロシアの一部であり、ウズベキスタンはソ連当局によって「幾つかの中央アジアの民族」を統合して創造されたものだ、と自説を開陳した。
スモーリン氏のスキャンダラスな発言は、最近目立って敵対的になっているロシアの中央アジアに対する物言いの最新の例である。モスクワはウクライナでの戦争開始以降、こうした言い方をするようになった。これらの発言は、ウクライナ侵攻前にウクライナに対して行われたものとそっくりで、ロシアはこれら周辺諸国の歴史と独立国としての主体性を否定し、侵略・併合すると脅迫し、さらに地域各国に対し、ロシア系住民を差別するための政策を画策しつつある、と一方的な非難を繰り返している。
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの中央アジア諸国は、長期にわたるロシアとの共通の歴史を持っている。この地域は19世紀に帝政ロシアの支配下に入り、さらにソ連の一部になった後、1991年になってようやく独立を果たした。独立後も、クレムリンはこれら諸国を裏庭の一部だと見なしてきた。モスクワはこの地域に対する自国の独占的影響力を要求、中央アジア諸国の周辺国や大国との政治、安全保障、経済上の交流を制限した。
このように、この地域諸国は、国家としての独立に対するロシアの法外な主張と無縁ではなかった。プーチン大統領は2014年に公の場で、カザフスタンが1991年以前は一度も国家として独立したことはなかった、と示唆した。また、政権政党「統一ロシア」に所属するピャチェスラフ・ニコノフ下院議員は放送で「カザフスタンは文字通り、存在したことはなかった」とし、「その領土はロシアとソ連からの大きな贈り物であった」と述べた。しかし、そのような発言は、通常は例外的なものであり、それまで公式に発言されたことは稀(まれ)であった。
ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアの公的人物とメディア関係者の中央アジアに対する物の言い方を変えた。クレムリンの高官たちは中央アジアに対して主権と独立に疑問を呈するような敵対的な発言をし始めた。彼らはクレムリンのプロパガンダ機関の攻撃文書の中で、かつては稀であった表現を通常の表現として用いるようになったのである。
侵攻の1カ月後、やはり下院議員のセルゲイ・サボスチャノフ氏は、ウクライナで行われている「非ナチ化と非軍事化の作戦」をソ連崩壊後に創設された国カザフスタンにも拡大することを提案した。この出来事の1カ月後、クレムリン・プロパガンダの中心人物で、テレビ司会者テグラン・ケオシャン氏が、カザフスタンは「恩知らずだ」と非難、第2次世界大戦でのソ連の勝利を記念する恒例のパレードを行わないという同国の決定に対する報復を知りたければ「ウクライナを見よ」と呼び掛けた。
また、クレムリンのタカ派の一人で、安全保障委員会副議長のドミトリー・メドベージェフ前大統領は2022年8月、カザフスタンをロシアが与えた土地に建設された「人工国家」と呼んだ。
強まる大国主義的発想
こうしたメディアによるカザフ攻撃は、ロシアのウクライナに対する全面侵攻以降、激しさと頻度を増した。その最新の例は、カザフスタンが自国領内の鉄道の駅名をロシア語からカザフ語の名称に変更したことを非難したテレビ司会者チーナ・カンデラキ氏が、カザフスタンは国中の公共の場所から「ロシア語を排除」している、と反応したことだ。ロシア人エリートたちの自国中心的かつ大国主義的発想はますます強固になりつつある。
●「占領地域はロシアに渡して戦争を終えて…」ポーランドに避難するウクライナ人家族の祖国への思い 長引く戦闘で心境に変化も 3/2
ウクライナへのロシアによる侵攻から3年目に入ったが、いまだ戦争が終わる道筋は見えない。こうした中、隣国ポーランドに避難しているウクライナ人一家に、避難生活や祖国への思いを聞いた。
母と4人姉妹でポーランドに避難
「サイレンが鳴り響き、家の前を戦車が走っているのを見てここは危ないと逃げました」
こう語るのは、テチアナ・ビェリツァさんだ。2年前の軍事侵攻直後、3月1日にテチアナさんは4人の娘を連れて隣国ポーランドに避難した。避難所にいったん身を寄せた後、ポーランド人のホストの家に住んだが、ポーランド政府が支援者向けの補助金を打ち切ったため、ホストから「これ以上は置いておけない」と言われて再び避難所に戻ることになった。
「もうウクライナに戻るしかないか」と思った矢先、ポーランドで避難民の支援活動をしている日本人、坂本龍太朗さんから居住できる研究所を紹介され、いまは家族でそこに住んでいる。坂本さんはワルシャワ日本語学校の教頭を務めながら、ウクライナ避難民の物心両面で支援を行っており、今回ビェリツァ一家を筆者に紹介してくれた方だ。
「占領地域はロシアに渡して戦争を終えても…」
この戦争でテチアナさんの周囲の人々も戦渦に巻き込まれている。テチアナさんは前線で戦う友人たちと日々ビデオ電話で連絡を取っているという。
「子どもたちの学校の卒業生だけでも5人亡くなっています。前線で戦っている友人たちとは日々ビデオ電話で連絡をしていますが、会話中にも砲撃の音が聞こえてきます。前線では武器が全く足りない状況で、兵士はどんどん精神的に追い詰められています。前線にいたある友人は精神的に耐えられなくなって銃で自殺しました」
テチアナさんは「ロシアがこれ以上侵攻しないという確約があれば、いま占領している地域はロシアに渡して戦争を終えてもいいんじゃないか」と最近思い始めている。
「23歳の息子がウクライナに残って寝たきりのおばあさんの介護をしていますが、いつ徴兵されるかわからず心配しています。街中を軍の車が走っていて、いまは外に出るのも怖いという状況です。息子には外出の際には必ず携帯を持ち歩き、もし徴兵されてしまったら必ず連絡してと言っています」
「いい時も嫌な時もある」現地校で“いじめ”に…
4人の娘はいまポーランドの現地校に通っている。長女のアンゲリナさん(15)は小学校8年生(ポーランドの小学校は8年制)だ。学校生活についてアンゲリナさんは、「いい時も嫌な時もある」と語る。
「24人のクラスでウクライナ人は私1人だけです。入学当初はポーランド語がわからなかったのですごく大変だったけど、習得するにつれて友達も少しずつできるようになってきました。ただ、まだ言葉が日常会話レベルでもないので、親友と呼べる人は一人もいません。今年卒業だけど試験があるので大変です」
ポーランド語については1週間に3回、課外授業を受けているそうだ。
次女のアデリナさん(14)と三女のアリビナさん(13)は、ともにいま6年生。四女のアンナさん(9)は2年生だ。3人は当初学校でいじめにあった。ポーランド語が出来ないことを嘲笑されたり、「どうせロシアが勝つ」「ウクライナに帰っても家がない」と言われたこともある。しかし、学校側がいじめた生徒たちに言い聞かせ、心理カウンセラーがケアをしてくれるようになり、以降いじめはなくなった。週末は姉妹だけで過ごすことが多い。料理や掃除、SNSへの投稿が趣味だ。
娘たちの知る昔のウクライナではない
彼女たちに今何がほしいかと聞くと、皆「ウクライナの家に帰りたい」と言う。しかし2023年11月におばあさんの看病のため一時帰国したテチアナさんは、「娘たちが知っている昔のウクライナではない」と語る。
「いまのウクライナの状況がわかっていないから帰りたいと言えるんです。ウクライナに帰国した時私はすべてが灰色に見えました。娘たちは帰国してもたぶん1週間も経たずにポーランドに戻りたいというでしょう。いま私の望みは娘たちが学校を卒業してこのままポーランドに残ること。そして息子とおばあさんがこちらに避難できることです」
ビェリツァ一家は2023年、坂本さんが支援を募って日本に連れて行き、いまでは日本の大ファンだ。しかし戦局が長引くにつれ日本でも関心が薄くなっている。テチアナさんは「関心が薄れるのは理解できる」と語る。
「いつ終わるのかわからない状況が続いているので、支援疲れは当たり前のことです。明日がどうなるかわからないので、心配なのは子どもたちの将来です。さらにもっと心配なのはポーランドがこの戦争に巻き込まれないかということです。ポーランドに戦争が広がらない保証は誰もできませんから。こんなことが自分の人生に起こるとは思いませんでした。ポーランドには親族もいないので、私だけで娘に責任を持っていることが辛いです」
戦争が長期化する中、ゼレンスキー大統領はすでに約3万1千人のウクライナ兵が死亡したことを明らかにした。ウクライナの避難民の平和と帰国への願いが叶う日はいつになるだろうか。
●「団結は人ではなく価値中心に」 ゼレンスキー氏を批判する野党重鎮 3/2
ウクライナではロシアの本格侵攻が始まって以来、国民の権利の一部を制限する戦時体制が2年間続いています。権威主義の隣国の影響から逃れ、自由と民主主義を目指したウクライナ。「団結」が強調される戦時体制と、少数意見を尊重しなければならない民主主義は両立するのでしょうか。ゼレンスキー大統領の政敵であるポロシェンコ前大統領が党首で、政権批判で知られる野党「欧州連帯」の重鎮、イリーナ・ゲラシチェンコ氏に聞きました。
――戦時体制下で議会、特に野党の活動は制限を受けているのでしょうか。
各政党は(本格侵攻が始まった)2022年2月24日、「ウクライナには野党が存在しない」ことを宣言し、勝利のために国内の団結を原則とすることを認めました。軍を中心にまとまるのは当然のことです。我々は国外ではウクライナへの支援とロシアへの制裁を勝ち取るため、多数派政党(議会で過半数議席を持つゼレンスキー氏の与党「国民のしもべ」)と同じ立場に立ちます。
一方で、今ウクライナの民主主義の発展を妨げているものについても、正直に語らなければなりません。議会は独立し、強い力を持たなければなりません。しかし、今は残念ながら、議会は主体性を失って大統領府に従属してしまっています。危険な中央集権化です。
私たちは妥協して応じることもありますし、難しい決定について大統領に協力する用意がありますが、それは対話を通じてでなければなりません。今、政権と野党の対話が欠けています。ゼレンスキー氏は全面侵攻初日以来、2年にわたって議会の各会派リーダーとの協議を行っていません。 ・・・ 

 

●ナワリヌイ氏葬儀に若者らも 3/3
獄死したロシア反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の葬儀は1日、モスクワ市南東部の墓地に向かう「数万人」(独立派メディア)の支持者の行進に発展した。プーチン政権は「無許可デモは法に基づき責任を負う」(ペスコフ大統領報道官)と事前に警告し、市内で約10人を拘束。しかし、葬送という建前上、機動隊は強制排除に踏み切らず、混乱が深まらないようあえて静観した。
死の現実
「プーチン(大統領)は人殺し」。教会に集まり、ナワリヌイ氏の名前を連呼していた支持者の声は次第に政権批判へと変わった。戦時のデモ禁止下、久々に「(ウクライナ)戦争反対」「政治犯を解放せよ」とスローガンが響いた。
午後2時、教会での祈りに立ち会えたのは親族が中心。中に入れた支持者の女性がメディアに語ったところでは「ひつぎのナワリヌイ氏はやせ細っていた」。人々は母リュドミラさんを囲んで「息子さんをありがとう」と声を掛けた。
当局は当初、死亡した刑務所に近い極北で「密葬に同意しなければ遺体を返さない」と迫ったが、リュドミラさんらが辛抱強く交渉。参列者からは密葬でなく大勢が参加できる葬儀にこぎ着けたことへの謝意も母親に伝えられた。
遺体は支持者らに死の現実を突き付けるとともに、真相究明の決意を新たにさせている。国際的調査報道機関ベリングキャットの調査員は1日、「死因は1カ月で分かる」との見通しを示した。
「諦めない」
住宅街に近い墓地では午後4時、親族が臨席し、フランク・シナトラの名曲「マイ・ウェイ」、映画「ターミネーター」のテーマ曲が演奏され、ひつぎが土中に下ろされた。約1時間後に閉門の時間を迎えても、教会から押し寄せる支持者らの人波は途切れなかった。
墓地は夜まで弔問を受け入れる異例の対応を取った。かつての反政権デモと同様、当局は機動隊でにらみを利かせつつ、参列者らを地下鉄駅まで誘導。衝突で本格的な「抗議」にこじれる事態を避けたとみられる。
「何日も拘束されるのはごめんだ」(拘束経験のある男性)と参列に様子見だった人々も、SNSで現場が安全と知り、夕方から特に若者の姿が目立つようになった。
周辺では、墓地に入らなかった花や似顔絵、メッセージカードが並んだ。その一つには「私たちは諦めない」の文字も。ナワリヌイ氏が生前、米ドキュメンタリー映画の中で残した「諦めないでほしい」という遺言への回答とみられる。
● ナワリヌイ氏が埋葬された墓地 葬儀翌日も多くの人が訪れる 3/3
ロシアのプーチン政権への批判を続け、刑務所で死亡した反体制派の指導者、ナワリヌイ氏が埋葬されたモスクワ市内の墓地では、葬儀の翌日の2日も、支持者らが多く訪れ、花を手向けていました。一方、人権団体によりますとロシア各地で100人以上が当局に拘束されたということで、当局は政権批判の動きが広がることに警戒しているとみられます。
プーチン政権の批判を続けたロシアの反体制派の指導者、ナワリヌイ氏は、先月、ロシアの北極圏にある刑務所で死亡し、1日、モスクワ南部の教会で葬儀が営まれ、近くの墓地に埋葬されました。
教会や墓地の周辺には1日、多くの支持者らが集まり、独立系メディアは1万6000人以上が追悼に訪れたと伝えています。
墓地には2日も、支持者らが多く訪れ、ナワリヌイ氏の遺影が飾られ多くの花で覆われた墓に、花を手向けて死を悼んでいました。
また、ナワリヌイ氏の母親、リュドミラさんも訪れ、静かに墓を見守っていました。
追悼に訪れた若い女性は「不屈の精神の象徴だった人に敬意を表しに来ました」と話していました。
墓地の周辺では、治安当局が厳戒態勢を敷いていますが、これまでのところ支持者らと当局との間での大規模な衝突などは伝えられていません。
一方、人権団体によりますと、モスクワのほかロシア各地で追悼の動きが行われ、100人以上が当局に拘束されたということです。
当局は、ナワリヌイ氏の追悼をきっかけにプーチン政権への批判の動きが広がることに警戒しているとみられます。
●見よ、ナワリヌイ・ラインを‼ 3/3
ロシアの著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の追悼式とミサが1日、モスクワ南東部の教会で行われ、その後、近郊のボリソフ墓地で埋葬された。外電によると、ロシア当局はナワリヌイ氏の追悼式会場の教会や墓地周辺の広範囲を封鎖し、開始の数時間前には通行人をチェック、インターネットを遮断した。にもかかわらず、ドイツ民間ニュース専門局ntvによると、数千人の国民が追悼式と葬儀に参加し、教会まで2キロ余りの参加者のラインが出来たという。
ナワリヌイ氏の棺が運ばれた霊柩車が教会前に到着すると、待機していた人々から「ナワリヌイ、ナワリヌイ」という声が出、拍手が起きた。
それに先立ち、ロシア当局はナワリヌイ氏の遺体をシベリアの流刑地の安置場からモスクワに運ぶ際、葬儀業者に「遺体の運送に関わるな」と脅迫。葬儀、告別式に参加した国民はナワリヌイ氏と同様、「過激なグループのメンバー」と見なされ、拘束されるといわれてきたが、多くのモスクワ市民はナワリヌイ氏に最後の別れを告げるために集まった。
ナワリヌイ氏のチームは1日、教会での追悼式をユーチューブでライブ中継し、数十万人のロシア国民がその画像を追ったという。ただし、ユーチューブの動画が一時途絶えるなどの妨害工作を受けた。ナワリヌイ氏の報道官は、「出来るだけ多くの国民が葬儀に参加し、強権政治を続けるプーチン大統領への抗議の意思を表明すべきだ」と呼び掛けていた。なお、葬儀にはモスクワ駐在の欧米大使たちの姿も見られた。
ナワリヌイ氏は先月16日、収監先の刑務所で死去した。47歳だった。明確な死因については不明だ。同氏は昨年末、新たに禁錮19年を言い渡され、過酷な極北の刑務所に移され、厳しい環境の中、睡眠も十分与えられず、食事、医療品も不十分な中、独房生活を強いられてきた。刑務所管理局(FSIN)は同日、「ナワリヌイ氏は流刑地で散歩中、意識を失って倒れた。救急車が呼ばれ、緊急救命措置が取られたが無駄だった」と説明している。死亡診断書には「自然死」と記載されていたという。
ナワリヌイ氏の死後、収監先の刑務所は同氏の遺体を家族側に引き渡すことを拒否してきた。ナワリヌイ氏の母親リュドミラさんは先月22日ようやく息子の遺体に対面できた。リュドミラさんの説明によると、ロシア当局はナワリヌイ氏の密葬を要求したという。
一方、ナワリヌイ氏の葬儀の前日、プーチン大統領は29日、モスクワで年次教書演説をし、内外の政策について説明、ウクライナ戦争への国民の支持を呼び掛ける一方、ウクライナを武器支援する欧米諸国を厳しく批判したばかりだ。
ナワリヌイ氏の妻、ユリア夫人は2月22日、訪問先の米サンフランシスコでバイデン米大統領と面会し、28日にはフランス東部ストラスブールの欧州連合(EU)欧州議会本会議で演説し、プーチン大統領を名指しで「ロシアの現状と私の夫の死の責任はプーチンにある」と批判し、「彼は血が滴れるモンスターだ」と呼んだ。
ナワリヌイ氏は2020年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちにモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談。そして同月20日、モスクワに帰る途上、機内で突然気分が悪化し意識不明となった。飛行機はオムスクに緊急着陸後、同氏は地元の病院に運ばれた。症状からは毒を盛られた疑いがあったため、交渉の末、2020年8月22日、ベルリンのシャリティ大学病院に運ばれ、そこで治療を受けてきた。ベルリンのシャリティ病院はナワリヌイ氏の体内からノビチョク(ロシアが開発した神経剤の一種)を検出し、何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けた。ナワリヌイ氏は2021年1月17日、ドイツのベルリンからモスクワ郊外の空港に帰国直後、拘束され、昨年末、新たに禁錮19年を言い渡された。
エリザベス英女王が亡くなった時、多くの国民が女王に最後の別れを告げるために長い列を作った。ウェストミンスター寺院まで7キロ余りの長い列ができた。英メディアは「エリザベス・ライン」と呼んだ。同じように、安倍晋三元首相が射殺された後に挙行された国葬では、同じように人々の長い列ができた。それは“アベ(安倍)ライン”と呼ばれた。そして今回、プーチン政権の強権の犠牲となったナワリヌイ氏の追悼式に2キロ余りの列ができた。これを“ナワリヌイ・ライン”と呼びたい。追悼式に参加した人々からは「ロシアに自由を」「愛は恐怖より強い」といった声が飛び出していた。ナワリヌイ・ラインを見て、クレムリンの主人プーチン大統領はどのように感じただろうか。
「一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる」(「ヨハネによる福音書第12章24節)というイエスの言葉を思い出す。ナワリヌイ氏の犠牲が近い将来、ロシアで豊かな実を結び、ロシア国民が独裁政権から解放されることを願う。
●ロシアの無人機攻撃で母子ら7人死亡 ウクライナ南部 3/3
ウクライナ南部オデーサ州の州都オデーサで2日朝までに、アパートがロシア軍のドローン(無人機)攻撃を受け、乳児とその母親を含む7人が死亡した。
母子の親族がCNNに語ったところによると、母親はアパート3階の寝室にいた。夫と娘は無事だったという。
市当局はSNS「テレグラム」を通し、1階のがれきの下から2歳の男児の遺体が見つかったと述べた。
オデーサ州のキペル知事はテレビ局とのインタビューで、男児は翌日が3歳の誕生日だったと述べた。
キペル氏はこれに先立ち、当局が子ども4人を含む12人を捜索中と話していた。
ウクライナのコスチン検事総長は、アパートの近くに軍事施設はないと指摘。民間人を意図的に狙った攻撃だと非難した。
オデーサ市当局は3日を服喪の日と定めた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、アパートの18戸が破壊されたと述べ、同国の防空能力をさらに強化する必要性が示されたと主張。防空システムと防空ミサイルの増強が命を救うと強調した。
ゼレンスキー氏は先日、CNNとのインタビューで、米国からの追加軍事支援がなければ国内で数百万人が死亡するとの危機感を表明していた。
●無人機攻撃で8人死亡 ウクライナ南部 3/3
ウクライナ南部オデッサで2日、共同住宅がロシアのドローン攻撃を受け、4カ月の乳児と2歳の子供を含む8人が死亡した。救急当局が明らかにした。
ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説で「不幸なことに、武器やミサイル防衛システムの供給の遅れがこうした被害につながっている」と訴えた。ゼレンスキー氏によると、他に8人が負傷した。
●ウクライナ オデーサをロシアが攻撃 少なくとも7人が死亡 3/3
ウクライナでは、ロシアのミサイルや無人機による攻撃があり、南部のオデーサでは生後4か月の乳児を含む少なくとも7人が死亡したほか8人がけがをしました。ウクライナのゼレンスキー大統領は「兵器供与の遅れが人命の損失につながっている」と述べ、防空システムなどさらなる軍事支援を急ぐよう訴えました。
ウクライナ軍などによりますと、1日から2日にかけて、東部や南部の都市などへ、ロシア側からミサイルや無人機による攻撃があり、このうち、南部のオデーサでは集合住宅が被害を受けました。
オデーサでは、壊れた建物からの救出活動が続けられ、ウクライナの非常事態庁などによりますと、これまでに生後4か月の乳児や3歳の子どもを含む少なくとも7人が死亡し、8人がけがをしたということです。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、ビデオメッセージを発表し「人々を脅すためのテロだ」とロシアを強く非難したうえで「防空システムなどの兵器供与の遅れが人命の損失につながっている」と述べ、欧米などに対し防空システムなどさらなる軍事支援を急ぐよう訴えました。
一方、ウクライナ空軍は、ウクライナ東部で1日、ロシア軍の戦闘爆撃機「スホイ34」を1機、撃墜したと発表しました。
ウクライナ側は、先月だけで、ロシア軍の早期警戒管制機「A50」のほか、「スホイ34」などの戦闘機、合わせて13機を撃墜したと発表していて、ゼレンスキー大統領は「何千人もの民間人の命を救い、地上部隊を助けることになる」として、ロシアの航空戦力への攻撃を続ける必要があると述べています。
●プーチンがまたもや〈戦術核〉の脅し、西側の支援ためらわせウクライナを「蛇の生殺し」にする算段 3/3 
軍事衝突の初期段階で戦術核兵器を使用する演習
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2月29日の年次教書演説で、西側はロシアの戦略的敗北を望んでおり、ロシアは核兵器を含む自国防衛の準備を整えなければならないと述べた。西側はナチスドイツやフランスのナポレオンといった過去の侵略者の失敗に学ぶべきだと警告した。
「西側の思惑はすべて核兵器を使用する紛争、ひいては文明の滅亡という現実的な脅威を生み出す」
プーチンは原子力推進型の巡航ミサイル「ブレヴェストニク」や水中ドローン「ポセイドン」、10発以上の核弾頭を搭載できる大陸間弾道ミサイル「サルマート」(射程1万1000キロメートル超)についても語った。
計ったようなタイミングで、プーチンが世界の主要国と軍事衝突した場合を想定して初期段階で戦術核兵器を使用する演習を行っていたことが英紙フィナンシャル・タイムズ(2月28日付)が入手したロシア軍の機密文書で明らかにされた。それによると、戦術核兵器使用の閾値はロシアの公式ドクトリンより低い。
機密文書は2008〜14年に作成された机上演習用のシナリオや海軍士官向けプレゼンテーションで、そこでは核兵器使用の運用原則が議論されている。注目すべき核兵器使用の基準は、ロシア領土への敵の侵攻から核ミサイルを発射できる戦略原子力潜水艦の20%の破壊まで多岐にわたる。この種の機密文書が公開されるのは初めてという。
エスカレーション削減措置としての戦術核使用のリスク
14年にクリミアを併合した際、プーチンは「ロシアが主要な核保有国の1つであることを忘れるな。われわれに干渉しないことが最善であることを理解すべきだ」と西側を牽制した。この時は核戦力を「特別警戒態勢」に引き上げなかったものの、そうすることも考えたと後に明らかにしている。
18年には「潜在的な侵略者がロシアを攻撃していると確信した時にだけ核兵器を使用する」とプーチンは明言した。20年のロシア国防文書では(1)核兵器やその他の大量破壊兵器の使用に対して報復する(2)国家の存在そのものが危うくなる――場合には核兵器使用の選択肢を検討することを再確認している。
米国は冷戦後、戦術核兵器を大幅に削減し、残りの核爆弾B61爆弾100発はドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコの5カ国(6施設)と共有されている。
一方、ロシアは通常戦力の不均衡を補うため相当数の戦術核兵器を保有し、領土全域に配備している。エスカレーション削減措置としての使用を想定している。
限定された地域や戦場で使用するため設計されたロシアの戦術核兵器の詳細はベールに覆われている。9K720イスカンデルなど短距離弾道ミサイル、大口径砲から発射できる核砲弾、核地雷、戦術爆撃機や戦闘爆撃機で運搬できる精密誘導弾、核魚雷、核爆雷、巡航ミサイル、地対空ミサイルが考えられる。
中国による侵略第2波を阻止する演習も
戦術核兵器使用を巡るドクトリンはロシアが通常戦力の均衡が自国に有利でないと判断した紛争で戦術核兵器を使用し、北大西洋条約機構(NATO)や敵国の通常戦力の優位を相殺することだ。しかし戦術核であれ大陸間の戦略核であれ、核兵器の使用には全面的な核戦争へのエスカレーションを含む莫大なリスクが伴う。
現代の戦術核弾頭は1945年に長崎と広島に投下された核爆弾よりはるかに大きな破壊力を持つ。ウクライナ戦争でプーチンは西側の制裁を回避するため中国の習近平国家主席のジュニアパートナーとしての地位に甘んじている。しかし同紙によると、ロシア東部軍管区は中国の侵攻を想定した複数の演習を行っていた。
「総司令官によって核兵器を使用する命令が下された」――。フィナンシャル・タイムズ紙によると、中国による攻撃を想定した演習の1つでは「北方連邦(ロシア)」が「南方連邦(中国)」の侵略軍による第2波の攻撃を阻止するために戦術核攻撃で対応する可能性があると指摘している。
海軍士官向けプレゼンテーションは、核攻撃の可能性があるより広範囲の基準について概説している。(1)敵がロシア領土に上陸した(2)国境地帯の警備を担当する部隊が敗れた(3)通常兵器による敵の攻撃が差し迫った――場合が含まれている。
ウクライナへの部隊派遣に否定的な西側諸国
戦術核使用の閾値は「ロシア軍が被った損失により敵の大規模な侵略を阻止できなくなる」「ロシアの国家安全保障にとって危機的な状況」となる要因が重なった場合という。大陸間弾道ミサイル戦略原潜の20%、原潜の30%、3隻以上の巡洋艦、3つの飛行場、沿岸の司令部に対する同時攻撃が例示されている。
エマニュエル・マクロン仏大統領は2月26日、27カ国が参加してパリで開かれたウクライナ支援会議で「公式に承認された方法でウクライナに部隊を派遣することについてコンセンサスは得られていないが、どんな選択肢も排除すべきではない。ロシアの勝利を阻むためにあらゆることをする」と表明した。
「部隊派遣を正当化する安全保障の必要性があるかもしれないことを排除すべきではない。フランスの戦略的曖昧さを明確に伝えた」(マクロン大統領)。ステファーヌ・セジュルネ仏外相もウクライナとロシアの現在の「戦争の閾値」を破ることなく、訓練や武器製造のために部隊をウクライナに派遣できると強調した。
漏洩した米国防総省の機密文書(昨年3月23日付)によると、ウクライナに密かに派遣された特殊部隊は英国50人、ラトビア17人、フランス15人、米国14人、オランダ1人だった。西側はウクライナの戦況を正確に把握したり、対ロシア情報を円滑に共有したりするためさまざまな形で秘密部隊を派遣している。
バイデン氏の最優先事項は「戦争のエスカレーションを避ける」こと
しかし本音と建前は異なる。11月に米大統領選を控えるジョー・バイデン大統領の最優先事項は「戦争のエスカレーションを避ける」ことだ。次にNATOの結束維持、第3にロシア軍の消耗、第4にウクライナの主権維持だ。NATOの抑止力が加盟国の結束に依存するのであれば意見が分かれる部隊派遣は逆効果である。
英首相報道官は「英国内で軍を支援する少数の要員を超えて、大規模な派兵を行う計画はない」という。トバイアス・エルウッド英下院国防委員会前委員長は英紙に「地上部隊を駐留させるというのは非常に象徴的だが、プーチンの長期的コミットメントを試す方法は他にある」と話した。
ロベルト・ハーベック独副首相は「フランスがウクライナへの支援を強化する方法を考えているのは喜ばしいが、一言アドバイスできるとすれば、もっと武器を供給してほしい。ウクライナに軍を派遣する可能性はない」と皮肉った。オラフ・ショルツ首相はX(旧ツイッター)でフランスとの立場の違いを鮮明にした。
「ドイツは欧州で最大のウクライナ軍事支援国だ。それは変わらない。しかし、一つだけはっきりしていることは、われわれは戦争の当事者にはならないということだ。この2つの原則が私のすべての決断の指針となっている」「ウクライナには武器、弾薬、防空が必要だが、欧州諸国やNATOからの部隊派遣はない」
ウクライナを「蛇の生殺し」に
フランスは射程550キロメートルの空中発射巡航ミサイルSCALP(英国名はストームシャドウ)をウクライナに提供したのに対し、ドイツはタウルス・システムズ製空中発射巡航ミサイルKEPD350(射程500キロメートル)の提供を渋る。ドイツもバイデン氏同様、戦争のエスカレーションを恐れている。
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相はフィナンシャル・タイムズ紙(2月27日付)に「自由には代償が伴う」としてウクライナを最初の標的とした帝国主義的なロシアを封じ込めるには“ウブ”な欧州大陸は1930年代の過ちを避け、防衛産業を強化、拡大しなければならないと語った。
これに対し、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は2月27日「ロシアに戦略的敗北を与える必要があるというマクロン氏の立場はよく知っている」と述べ、ウクライナにNATO軍が出現すれば、ロシアとの直接的な衝突というエスカレーションにつながると警告した。
3月の大統領選で勝利する見通しのプーチンは、ウクライナ支援に否定的なドナルド・トランプ前米大統領の返り咲きを待って、ウクライナを“蛇の生殺し”にするつもりだ。欧州の通常戦力を封印するには戦術核使用のカードをチラつかせるだけで十分というしたたかな計算が働いているに違いない。
●増える民間人犠牲、学校も破壊 ロシア軍の攻撃続くウクライナ東部 3/3
ロシアによるウクライナ全面侵攻が3年目に入る中、東部ドネツク州の最前線に近い町ではロシア軍のミサイル攻撃などによる民間人の犠牲が続いている。同州スラビャンスクを取材拠点とする写真家の尾崎孝史さんは2月中旬、被害の現場を記録した。
尾崎さんは2月17日午後7時半ごろ、スラビャンスクで飼い犬の散歩中に最初の爆発音を聞き、驚いて共同住宅へ駆け込んだという。その後、約1時間にわたって10発弱の着弾音が響いた。
攻撃を受けたのは、スラビャンスクと、南へ10キロほど離れたクラマトルスクだった。そこからさらに約60キロ南方には、この日にウクライナ軍が撤退した要衝アブデーフカがある。
ロシア軍の攻勢を受け、近隣住民は尾崎さんに「スラビャンスクからも避難しなくてはいけなくなるかも」と不安げな様子を見せたという。
尾崎さんは翌18日に被害現場で取材した。住民3人が死亡したクラマトルスクの住宅街では、知人の安否を確認しようと近所の人たちが集まっていた。
また、攻撃で大破したスラビャンスクの学校前では、女性校長のオレナさん(60)が「たとえ戦争中であっても、学校などを攻撃してはいけないと決まっているはずなのに」と悔しがった。
●なぜロシア人は「ウクライナはナチス」と信じるのか? モスクワで見た、プーチン政権の「歴史」と「戦争」の歪んだ教育……ソ連の栄光を学ばせられる小学生 3/3
2024年3月20日、黒川信雄著『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』が発刊されます。産経新聞元モスクワ特派員の筆者が、開戦後のウクライナとロシア双方に渡り、人々の本音に迫ったノンフィクションです。
私がさらに強い印象を受けたのは、ナターリアがインターネット経由で情報を集めていた事実だった。
日本を含め西側諸国ではロシアの高齢者は、国営テレビを見続けているから、政権寄りの考えを持つようになる。若い人はユーチューブなどインターネット上で情報を収集するため、より西側に近い、リベラルな考えになる≠ニいう説明がよくなされる。これは決して間違ってはいないが、現実には高齢者もまた、インターネットから情報を収集している。
ナターリアはさらに、「これを見なさい。あなたも、本当のことがよくわかるはずだ」といって、私のノートに、あるユーチューブ番組のタイトルを書き込んだ。
番組名は「ベソゴンTV」。どんな番組かと思って後で見てみると、「太陽に灼かれて」などの作品で日本でも知られるロシア人映画監督、ニキータ・ミハルコフがホストを務めていた。ミハルコフはソ連崩壊直後にはスターリン体制を批判する作品を作り、海外でも注目されたが、その後は次第にプーチン政権寄りの姿勢を強めていった人物だ。
ベソゴンTVを視聴すると、ミハルコフはやはり、「ウクライナが東部住民に攻撃を仕掛けようとしていた事実を、ロシア軍の特殊部隊は間違いなく察知していた」などと、プーチン政権の主張に沿った話を展開していた。
しかし番組全体では、例えばイギリスの歴史家、アーノルド・トインビーの言葉を用いて番組を進行するなど、単にロシア寄り≠ナはない視点であることを強調していた。世界の歴史を踏まえた、国際的な視野で語っているという印象を与えていた。
インターネット上には、政権支持者が好む、ロシア政府の主張に沿った番組があふれているのも事実だ。それらの情報もまた、どこにいてもスマートフォンからアクセスすることができる。政権寄りの考えを持つ人々は、自分の考えに沿う情報を、インターネット上からいくらでも集めることができるのが実態だった。
「そこにあるナチズム」展に見たプーチン政権による「ストーリー」
なぜ、多くのロシア人がプーチン大統領の言うことを信じて、ウクライナ人をナチス≠セと言ってはばからないのか。ソ連時代は同じ国の国民で、多くの人が相手国に親類がいる。そのような間柄で、なぜそのような考えに至るのか。日本人の私には、理解しようとしても、どうしても不可解に感じられてならなかった。
そのような疑問を抱いて取材を進めるなか、ロシアに滞在する日本人のビジネスマンから「これを見ると、ロシア人がなぜそのような考えに至ったのか、よくわかると思う」とアドバイスされ、5月下旬にモスクワ市内で開催されていた、ある展示会を訪れた。
場所は、市の西部にある「戦勝記念公園」にある博物館だった。地下鉄駅からタクシーに乗り換え、公園を訪れると、壮麗な噴水の先には天を突くような巨大なモニュメントがそびえていた。
この博物館は、普段は第二次世界大戦におけるソ連軍のナチス・ドイツ軍への勝利をたたえる内容の展示を行っている。その目的は「歴史の真実を守る」ことだという。
チケットを買って中に入ると、多くの小学生らの姿が目に入った。引率していた教師に聞くと、新型コロナウイルス禍の行動規制がなくなり、政府が補助金を出して地方から子供たちを招いていたのだという。「こんなに小さな子供たちが、ソ連の栄光≠学ばされているのか」と、無邪気に古い戦車の展示の周辺で騒ぎ立てる小学生を見て、複雑な思いに駆られた。
常設展示を行う巨大な部屋の奥に、特別展を行うための小規模な展示会場があった。
掲げられたタイトルは「そこにあるナチズム」。入口には、ワイシャツ姿の普通の男性が立っていることもあれば、なぜか防弾チョッキを着た治安機関員の女性が立っていることもあった。緊張感が漂っている事実は、覆い隠しようがなかった。
中には、年齢層もさまざまな多くの人が来場していた。「取らざるを得なかった手段」と題した入口のパネルには、ウクライナ東部の住民がロシア軍兵士らを歓迎している写真が何枚も添えられ、こう書かれていた。
「2022年2月24日、ロシアは特別軍事作戦を開始しました。その目的はウクライナの非軍事化と非ナチス化≠ノあります」
「プーチン大統領は作戦の目的についてこう語っています。キエフ(キーウ)の政権によって8年間にわたり嘲りを受け、集団虐殺の危機にさらされてきた(ウクライナ東部の)人々を救うためだ≠ニ」
「8年間」とは、ウクライナ東部での紛争が始まった2014年から、2022年までの期間を指していた。ウクライナ東部に住むロシア系住民が、ウクライナ政府により非道な扱いを受け続けてきた。その住民を救うことこそが、この特別軍事作戦の目的だ──=Bこの主張こそが、プーチン政権が自国内でウクライナ侵攻を正当化する、最大の根拠になっていた。
「ウクライナはナチス」と信じて疑わないロシアの小学校の教員
東部紛争とはどのようなものだったのか。その始まりは、プーチン大統領がクリミア併合を宣言した直後の2014年4月初旬にまでさかのぼる。
ロシアとの国境に接するウクライナ東部のドンバス地方では、「親ロシア派武装勢力」と呼ばれる身元不詳の武装集団らがドネツク州などの行政庁舎を次々と占拠し、それを排除しようとしたウクライナ政府軍との間で、戦闘が激化していった。親ロシア派武装勢力は5月には、東部のドネツク、ルハンシク両州で「独立」をめぐる住民投票を実施するなど、両州をウクライナから引き離そうとする動きを強めていった。
激しい戦闘が続いていたが、当初は親ロシア派の勢いは弱く、ウクライナ政府軍が制圧するとの見方が強まっていた。
しかし8月、今度は親ロシア派が大規模な反転攻勢に打って出る。親ロシア派は突然、ロシア軍も装備する戦車などで高度に武装してウクライナ軍を撃破していった。この時点で、ロシア軍が実質的に親ロシア派を支援していることは疑いようがなくなっていたが、ロシア側はあくまでも「ウクライナの住民が蜂起した」との主張を曲げなかった。
2015年2月にはようやく、ベラルーシの首都ミンスクでウクライナ、ドイツ、フランス、ロシアの首脳が和平合意をまとめたが、実際にはその後も戦闘は繰り返された。そのような状況が8年間も続いていたのだ。
私がモスクワ特派員を務めていた2014年以降、ロシアの国営メディアでは、「東部住民がウクライナ政府により抑圧されている」との報道が繰り返し行われてきた。実際に国土を侵略されたのはウクライナ側だったが、双方の戦闘が激化すれば現地に住む民間人が巻き込まれるのは必然だった。
ロシア国内では、あくまでも東部ではウクライナ国民が政権に反旗を翻して蜂起した≠ニの立場で物事が語られており、ウクライナ軍は自国民を攻撃する非道な軍隊であり、ナチスと同等≠ニ位置付けられた。
「そこにあるナチズム」展では、住民が戦闘に巻き込まれた凄惨な写真や彼らの遺品、さらにロシアが「ナチス思想を持っている」と主張するウクライナの軍事組織「アゾフ大隊」の旗や資料などが置かれていた。
展示ではまた、ウクライナ国内の一部の勢力が第二次世界大戦中に「ナチス・ドイツに協力した」と指摘し、それ以降、ウクライナにはナチズムが浸透したと主張。そして2014年には、ナチス≠フ影響下にある政権が登場し、東部住民が厳しい抑圧にさらされることになった──というストーリーが展開されていた。
展示会場には、戦闘に巻き込まれた公園のブランコが置かれ、天井からは、子供が亡くなったことを思わせる、小さな天使の紙細工がいくつも吊り下げられていた。ウクライナ軍の非道さ≠繰り返し強調する内容だった。
展示場を出て、ベンチに座っている女性に声をかけた。モスクワの南東にあるリャザン市から児童らを引率して来たという、小学校の先生だった。
「本当に、あの展示のようなことが起きているのでしょうか」と尋ねると、彼女は痛切な表情を浮かべ、私に言った。
「見ていて、本当につらいです。私たちには第二次世界大戦の記憶があります。あのころを繰り返しているような気持ちになるのです。子供たちには、まだわからないでしょうが」
そして神妙な表情を浮かべつつ、こう断言した。
「ウクライナにはナチズムが広がっています。彼らは第二次世界大戦以降、ずっとナチスだったのです」
●ロシア軍のネパール人傭兵は最多1万5千人、傷心の帰国多く 3/3
3年目に突入したロシアによるウクライナ侵略などを背景に、ロシア政府の勧誘に応じ同国軍に加わったネパール人が最多で1万5000人に達していることが3日までにわかった。
CNNの取材に応じた多数の関係筋が明らかにした。ロシア政府は昨年、金銭的な好条件などを材料に外国人戦闘員の募集に乗り出していた。月給は少なくとも2000米ドルとし、ロシアの旅券獲得は審査期間を短縮して迅速に実現させることも保証していた。
この従軍契約は1年で、署名した外国人兵士は月給が振り込まれるロシアの銀行に口座を設ける。多くの兵士によると、前線で長く戦えば、それだけ多めとなるボーナスも得られる仕組みのはずだった。
一部の兵士は、月給は最大で4000ドルに膨らむと期待したが、これら現金を引き出す方途を知らない者が多くいたという。
ネパール人男性のラムチャンドラ・カドカさん(37)は最近、ウクライナの前線で負傷した後、母国に戻った。外国人傭兵(ようへい)としてロシア軍に編入されたが、ウクライナへ行ったことを後悔していると打ち明けた。
実戦の場へ赴くのはウクライナが初めてではなかった。ネパールでは武装闘争を唱えたネパール共産党毛沢東主義派の一員として1990年代半ばから10年間、政府軍との交戦に明け暮れていた。
この後は民間軍事業者に雇われてアフガニスタンに行き、北大西洋条約機構(NATO)軍によるイスラム主義勢力「タリバン」などの掃討戦への支援に携わった。
カドカさんは自らのこれまでの人生で全てのつらい場面は味わったとの思いを抱いていた。流血、死者の目撃や苦痛などだ。
しかし、ネパールの毛派による武装闘争が終結した後の約17年後、母国で新たな仕事を見つけられる望みはなかった。ロシア軍の誘いに応じる決心をしたのはお金を稼ぐのが目的だったとの気持ちも吐露した。
「遊び心でロシア軍に加わったわけではない。だが、今思えば、正しい決定ではなかった」と述懐。「あれだけ早く前線につぎ込まれるとは考えていなかった。前線があれほどおぞましい状況にあったことも」と振り返った。
モスクワに到着したのは昨年9月。2週間のみの訓練を受けた後、ウクライナ東部ドネツク州バフムートの戦場へ送られた。ウクライナ軍とロシア軍が最も激しくしのぎをけずったとされる戦闘も自らの目に刻み込まれた。ロシアが支給してくれたのは銃と基本的な装備品のみだった。
●ロシア、独空軍最高幹部の会話傍受か ウクライナへ兵器支援 3/3
ロシア国営メディアがウクライナへのミサイル供給などの可能性を内密に話し合うドイツ空軍最高幹部の録音音声をオンライン上で流し、ショルツ独首相は「非常に深刻な問題」との危機感を表明し、調査する方針を2日明らかにした。
訪問先のローマで、調査は「非常に注意深く、集中的にかつ迅速に」進めると述べた。
独国防省の報道担当者はCNNの取材に、漏れた音声は本物と確認。「我々の分析では空軍内の会話が傍受された結果である」と結論づけた。SNS上で出回っている内容が録音あるいは文書化されたものに変更が加えられたものなのかは現時点で確信を持って言えないと補足した。
この録音音声を暴露したのはロシアの国営テレビ局「RT」の首脳。複数の独空軍最高幹部たちは自国製の長距離巡航ミサイル「タウルス」をウクライナへ供与する可能性について議論。このほか、ロシアが強制併合したウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を結ぶケルチ橋をタウルスを用いた攻撃の潜在的な標的にすることにも触れていた。
ウクライナによるタウルスの利用方法も取り上げられていた。
ドイツはこれまで、タウルスがロシア領土への攻撃に投入されて戦火が拡大することを恐れてウクライナへの引き渡しを渋ってきた。今回漏洩(ろうえい)した録音音声では、幹部1人がケルチ橋は難しい標的であるが、タウルスが到達できる能力はあると発言していた。
ロシア外務省報道官は、この録音音声に関してドイツ側の説明を求めているとの立場を明らかにした。「迅速な対応を望んでいるとし、回答を拒む全ての試みは後ろめたさの表れとみなす」とも断じた。
今回の漏洩は独政界にも警戒心を引き起こしており、公共放送「ドイチェ・ベレ」によると、野党・キリスト教民主同盟(CDU)の議員は公共放送「ZDF」に「他の会話の多くもきっと傍受されただろう。後日になってリークされる可能性がある」と語った。
●ドイツ軍の協議内容漏洩か 露国営メディアによる公開受け独首相調査表明 3/3
ロシアに侵略されているウクライナへの軍事支援に関してドイツ軍幹部らが協議した内容とされる音声記録がロシア国営メディアに公開され、ドイツ国内で衝撃が走っている。独国防省は軍の協議が盗聴された恐れもあるとみており、ショルツ独首相は2日、徹底して調査する方針を表明した。
欧州メディアによると、露国営メディアの「RT(ロシア・トゥデイ)」の編集長は1日、独軍の協議とみられる30分以上の音声を交流サイト(SNS)で公開した。音声では、独空軍幹部らが長距離巡航ミサイル「タウルス」のウクライナへの供給が及ぼす影響を討議。タウルス供与が決まった場合、空軍が想定する技術的支援やウクライナ軍の訓練などについて話し合われたという。
独国防省の報道官は軍内部の通信が傍受された可能性について言及。ショルツ氏は2日、「極めて深刻な問題」と懸念を示した。
ウクライナ側からロシア国内も攻撃可能な射程に入るタウロスの供与をめぐっては、ショルツ氏はロシアを過度に刺激するリスクを理由に否定的な姿勢を示している。
●ウクライナの砲弾不足問題に光明、欧州経由で100万発出荷か 3/3
ウクライナを支援する欧州の国々は気まずく思い出したかのように、ようやくウクライナが必要とする砲弾を供給するための資金と産業資源をかき集めつつある。
欧州連合(EU)の武器取引、チェコ主導の弾薬の大量購入、ウクライナと同盟国との二国間取引など、並行で進められているいくつかの取り組みにより、今後数カ月で少なくとも70万発の砲弾がウクライナに出荷されるはずだ。
ウクライナは今春、欧州経由で100万発を超える砲弾を入手するかもしれない。また、ウクライナへの追加支援を阻んできたロシア寄りの米国議会の共和党議員が最終的に来月あたり譲歩すれば、春から夏にかけてウクライナ軍は100万発以上の砲弾を思いがけず手にする可能性がある。
これは、ロシアが国内の工場や、さらに重要なことに北朝鮮から確保する弾薬の量には及ばない。だが、少なくともウクライナ軍が自軍よりも規模で勝るロシア軍を相手に戦線を維持するには十分な量だ。そしておそらく、新たな攻勢の計画を立て始めることができる。
ロシアがウクライナに対して仕かけた戦争が3年目に突入した今、どちらの国がより多くの、そして質のいい砲弾を保有しているかが戦争の行方を左右するかもしれない。
ウクライナ軍が昨夏、攻勢をかけることができたのは、米国が韓国製の砲弾を100万発購入したおかげで砲弾の数でロシア軍と対等だったからだ。そしてこの冬にウクライナ軍が戦場の勢いをロシア軍に奪われる状況になったのは、米国の支援が突然打ち切りとなり、その後おそらく10万発の砲弾が提供されなかったためだ。
一方、今年に入ってからのロシア軍の攻勢は、ロシアが昨年9月から4カ月連続で北朝鮮から毎月約40万発の砲弾を購入したことによって支えられている。
注目に値するのは、ウクライナの諜報当局者がいう、ロシア軍の砲弾の半分は不発弾だという点だ。だが不発率が高いにもかかわらず、ロシア軍は約965kmにおよぶ戦線で1日に約1万発の砲弾を発射している。これに対してウクライナ軍が1日に発射する砲弾はわずか2000発だ。
ウクライナ軍はここ数カ月、自爆型の1人称視点(FPV)ドローン(無人機)を月に5万機投入して砲弾不足をいくらか補っているが、FPVドローンは155mm砲弾に完全に取って代わることはできない。ドローンは約450gの爆薬を搭載して3kmほど飛行するかもしれない。一方、砲弾は約11kgの爆薬を少なくとも約24km先に飛ばす。
ウクライナ軍の砲撃を恐れなくなっているロシア軍は、ウクライナ軍の要塞を吹き飛ばすほどの集中砲火を行うために砲台を大っぴらに集結させている。もっと砲弾があれば、ウクライナ軍の砲兵はロシア軍の砲兵を追い散らすことができる。
EUが2023年にウクライナに砲弾100万発を供給するという約束を守っていれば、米共和党による突然の弾薬供給の阻止は、ウクライナの戦争計画にそれほど壊滅的な影響を与えるものになっていなかったかもしれない。
多額の資金や政治的資本を投じることなく砲弾の生産量を拡大するのに苦慮したEU諸国が昨年ウクライナに提供できた砲弾は結局、わずか50万発にとどまった。これは恥ずかしい裏切り行為で、EUは今、3月までに17万発の砲弾を出荷することで取り繕おうとしている。
同時に英国、フィンランド、その他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は個別に、年間を通じてウクライナに未公表の量の砲弾を提供することを約束している。おそらく月に数千発ほどだろう。
だが、チェコがウクライナ軍の砲弾不足を一変させようとしている。同国のヤン・イレッシュ国防政策局長は2月18日、ドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議で、チェコが「欧米以外の国に眠っている」砲弾80万発を特定したと発表して出席者を驚かせた。その欧米以外の国には韓国も含まれているらしい。
砲弾は15億ドル(約2250億円)で入手できる。
米政治専門サイトのポリティコの記者ポール・マクレアリーや他の情報筋によると「これらの国々のほとんどは、政治的な理由からウクライナを直接支援するのは避けたいため、仲介者が必要だ」とイレシュは指摘した。ウクライナを支援する国々が砲弾の代金を負担するなら、チェコがその仲介役を引き受けるだろう。
それから2週間して、ベルギー、カナダ、デンマーク、オランダ、そして不特定の12カ国が、砲弾の入手に必要な資金の半分以上、つまり砲弾約40万発分の資金を工面した。チェコが必要な資金をさらに確保できれば、残りの40万発も購入できるかもしれない。
チェコが仲介する砲弾とEUが約束した残りの砲弾で、ウクライナは春から夏にかけて、おそらく1日に6000発の砲弾を放つことができるだろう。
そして「極右」共和党員のマイク・ジョンソン米下院議長がウクライナへの追加支援の妨害をやめれば、1日6000発の砲弾は1万発近くに増えるかもしれない。
米陸軍はテキサス州とペンシルベニア州の工場で弾薬の生産を強化しており、月に3万6000発の砲弾を製造できる状態にある。だがそれは、議会が予算を承認すればの話だ。
希望を抱かせる動きがある。下院共和党の穏健派であるブライアン・フィッツパトリック議員は「ディスチャージ・ペティション(委員会審査省略動議)」を申し立てた。この動議では、大半の民主党議員ともう数人の穏健派の共和党議員の支持を得れば、ジョンソンをはじめとする保守強硬派の共和党議員らを無視してウクライナ支援案を早ければ今月にも採決に持ち込むことができる。
フィッツパトリックは、この動議が十分な支持を得られると確信していると米ネットサイトのアクシオスに語った。ウクライナに弾薬を送るために、指導部に逆らう共和党員は何人いるだろうか。「あなたが思っている以上に多い」とフィッツパトリックは語った。「それが正しいことだと知っている人が大勢いる」
チェコが仲介する砲弾と、それより少ないEU製の砲弾でウクライナは戦いを継続できるはずだ。そして米国製の砲弾があれば、おそらく月に何万発もの砲弾を放つことができ、ウクライナ軍は何とか持ち堪える以上の行動に出ることができる可能性がある。もしかすると再び攻勢に転じることを検討するかもしれない。 

 

●ナワリヌイ氏の墓所への献花の列、葬儀後も続く モスクワ 3/4
ロシアの反政権派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)の葬儀から2日たった3日も、同氏の墓所では大勢の人々が弔問や献花を続けた。
ナワリヌイ氏の葬儀は今月1日に執り行われ、遺体はモスクワ南部のボリソフスコエ墓地に埋葬された。
葬儀の行われた教会や墓地には、ナワリヌイ氏を追悼するために数千人の市民が集まった。多くの人が花を持ち、ナワリヌイ氏の名前や反政府のメッセージを連呼した。
教会や墓地周辺には朝からフェンスが設けられ、警察官も多数出動した。
その後の週末にも、ナワリヌイ氏に敬意を表するために何百人もが列をつくった。
ロシア国内でウラジーミル・プーチン大統領を最も激しく批判していたナワリヌイ氏は、北極圏の刑務所で急死したと2月16日に発表された。
●「露大統領のバレリーナ」スヴェトラーナ・ザハーロワ来韓公演にネットで賛否 3/4
ザハーロワ「ソウル芸術の殿堂」公演
ウクライナ侵攻以降、世界各地でロシア人芸術家の公演取り消しが相次いでいる中、ロシアを代表する有名バレリーナのスヴェトラーナ・ザハーロワ(44)が来月17日から21日までソウル芸術の殿堂のオペラ劇場で公演を控えている。ファッションデザイナー、ココ・シャネルの生涯を描いたバレエ「MODANSE(モダンス)」だ。
ウクライナ生まれでボリショイ・バレエ団のプリンシパルを務めるザハーロワはロシアのバレエ界を象徴するバレエダンサーだ。しかし、ロシアによるクリミア半島の併合に賛成し、プーチン露大統領の文化界における最側近で、政権党の連邦議員まで務めた。これに対して、「長引く戦争と犠牲者たちのことを考えれば、今回の来韓公演は不適切であり、ウクライナとの外交問題になるだろう」と懸念する声が上がっている。だが一方で、「抑圧的な体制の下、芸術家のジレンマについて考慮もせず、芸術を単なる政治問題にしてはならない」という主張もある。
●緊張高まるモスクワ…ナワリヌイ氏の葬儀に警戒強めたロシア当局 一方、プーチン大統領は年次教書演説で “核攻撃”言及 3/4
ナワリヌイ氏の葬儀を前に、モスクワ南部バリソフスカエ墓地周辺では、ロシア当局が警戒を強めており、バリケード設置や警察車両での入り口の封鎖を行っている。ナワリヌイ氏の陣営は、一連のセレモニーをYouTubeで配信する予定だ。
墓地の周辺は厳戒態勢
ロシアの反体制指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏の葬儀が日本時間の1日夜に行われるのを前に、ナワリヌイ氏の遺体が埋葬される予定のモスクワ南部のバリソフスカエ墓地にはバリケードが運び込まれ、警察車両が入り口を封鎖するなどロシア当局が警戒を強めている。
ナワリヌイ氏の陣営は、日本時間の1日午後8時から教会で葬儀を行い、遺体を埋葬すると発表している。
支持者らに「最後の別れになる」と呼びかけていることから、ロシア当局は多くの人が集まることで抗議活動や暴動に発展するのを警戒しているとみられる。
ここからは、取材センター室長・立石修がお伝えする。
ナワリヌイ氏の葬儀が数時間後に迫ったモスクワでは、緊張が高まっている。2月29日、FNNモスクワ支局の取材班が撮影した、ナワリヌイ氏が埋葬されるバリソフスカエ墓地の周辺の映像には、バリケードを準備している様子が見え、また警察車両も配備され、既に厳戒態勢が敷かれていた。
墓地の入り口には警察官が立っており、墓地の周りの電柱に監視カメラを取り付けている警察官の姿もあった。
一方で、墓地の建物の屋上では、パラボラアンテナとみられる物体を設置する人の姿が確認できる。ナワリヌイ氏の支持者らは一連のセレモニーをYouTubeで配信する予定で、それに向けて準備をしていると見られる。通常の回線が遮断されることを警戒して、衛星アンテナを準備しているのだろう。
葬儀が行われるのはモスクワ市内のマリーノ教会で、ナワリヌイ氏がかつて暮らしていた地域にある教会だという。ここも、警察がバリケードを運び込むなど厳戒態勢が敷かれている。ただ、教会の中を見てみると、ロシア正教の教会で、独特の美しさがある教会だ。妻のユリアさんは、「伝統的なロシア正教の葬儀で夫を見送りたい」と話していた。なかなか葬儀を受け入れるところが見つからなかったが、その部分に関しては願いが叶い、良かったという印象を受ける。
これまでも当局は、ナワリヌイ氏を追悼する人々を拘束してきたが、無事に行われるのだろうか。支持者らは、もちろん警戒している。妻のユリアさんも2月28日にフランスのEU議会でスピーチを行った際に、「警察が葬儀への参列者を拘束する恐れがある」と述べている。そのため、支持者らも一部始終をカメラで映し、世界に向けて生配信しようとしている。
「血塗られたモンスター」
緊迫した状況が続くロシアだが、2月29日、プーチン大統領はモスクワで年次教書演説を行い、西側と戦う姿勢を改めて強調し、核攻撃についても言及した。
プーチン大統領は「特別な軍事作戦の全ての任務を解決し、国民の主権と安全を守るためにあらゆることをする。戦略核兵器は、確実に使用できる準備が整った状態にある」と話した。またNATO軍がウクライナに派遣されれば、核戦争の危機があるとも述べた。
先日、フランスのマクロン大統領が「ウクライナへの派兵の可能性も除外するべきでない」と発言したことを受けて、慌てて他の加盟国が否定した。こういった西側の乱れをあざ笑うように、牽制している印象だ。
この年次教書演説はテレビ中継に加えて、映画館でも上映されていて、多くの市民が注目している。映画館での上映は初めてで、改めて強いプーチンを国民にアピールしようとしていると見られる。
ナワリヌイ氏の妻のユリアさんはEUでのスピーチで、プーチン大統領を「血塗られたモンスター」と述べて強く批判した。しかし、全く意に介していない印象を受ける。
そのスピーチの際、ユリアさんはEUの西側諸国に向かって「一連の制裁ではプーチンを倒せない。考えるだけではプーチンは倒せない」とも述べて、西側諸国の対応にいらだちを見せている。
同様のいらだちは、ゼレンスキー大統領などプーチン氏とダイレクトに戦っている人々に溜まってきている。こういったことを受けて、西側諸国の混乱も今後起きる可能性もあり、それをプーチン大統領は狙っているかもしれない。
反プーチンの人物が亡くなり、ウクライナ劣勢が続いているが、独裁国家が勝利すると、他の独裁国家に拡大する懸念もある。核を持っている国が強く、持っていない国は侵略されてしまう。ウクライナも核を持っていたが、放棄させられ、このような事態になっている。そのことを考えると、自分の国を守るのは自分、他の国は頼れないということを、真剣に考える必要がある。
●独軍幹部の会議、ロシアが傍受か 3/4
ウクライナへの軍事支援に関するドイツ空軍幹部の会議がロシアに傍受された可能性が浮上し、波紋が広がっている。ピストリウス独国防相は3日、「プーチン(ロシア大統領)による情報戦の一環だ」と非難した。 
●前週のロシア株、原油高やプーチンの年次教書演説に3週ぶり反発 3/4
前週(2月26日−3月1日)のロシア株式市場で、RTS指数(ドル建て)の1日終値は前日比0.44%安の1122.32、前週比では2月22日終値比5.4%高と、3週ぶりに反発した。
週明け26日は指数が上昇、翌27日は横ばい(小反落)、28日は反発、29日も続伸した。
週前半は、前週末の米国とEU(欧州連合)による対ロ追加制裁の発表にもかかわらず、インターネットサービス最大手ヤンデックスや通信最大手ロステレコム、投資会社SFIなど主要株の上昇に下支えられ、買いが優勢となった。その後は、ウクライナ情勢を巡る地政学的リスクが強まり、利益確定売りが広がった。西側がウクライナにNATO(北大西洋条約機構)軍の派遣を示唆したことが背景。ただ、ブレント原油先物が1バレル当たり83ドル超となったことや、ロステレコムが好決算で引き続き買われ、SFIも自社株買い観測で急騰したため、下値は限られた。
週後半は、原油価格が84ドルに上昇したことが好感され、買いが優勢となった。原油高はOPEC(石油輸出国機構)プラスが減産を4−6月期まで延長するとの観測が背景。その後は、ウラジーミル・プーチン大統領が年次教書演説でロシア株式市場の時価総額が30年までに2倍に拡大するとの見通しや、経済支援の国家プロジェクトを発表したことが好感され、買いが一段と強まった。
週末1日は3日ぶりに反落。通貨ルーブル安が嫌気され、利食い売りが強まり、売りが優勢となった。ただ、原油価格が83.8ドルを超えたため、下値は限られた。
今週(4−7日)のロシア市場は引き続き、中東紛争やロシア・ウクライナ戦争(22年2月24日勃発)、中東・紅海でのイエメン武装勢フーシ派による船舶攻撃、西側の対ロ制裁などの地政学的リスク、原油・ガス相場、ルーブル相場、主要企業の配当政策などが焦点。特に、ルーブルは2月末の納税期間終了を受け、下落する可能性が高い。
このほか、原油価格に影響を与える6日の米API(石油協会)週間石油在庫統計や7日の米EIA週間石油在庫統計も注目される。主な経済発表の予定は5日の2月ロシア非製造業PMI(購買担当者景気指数)など。指数は1100−1170のレンジの動きが予想される。8日は「国際女性デー」の祝日のため、休場。
●「プーチンは人殺し」 ロシア政府も統制できないSNSの力 3/4
ロシア北極圏の刑務所で先月死亡した野党指導者アレクセイ・ナワリヌイを追悼するため、雪の中、厳重な警備もものともせず、数千人が首都モスクワの通りに繰り出した。ナワリヌイの葬儀では、集まった支持者が花束やろうそく、プラカードを買い求め「プーチンなきロシアを!」「ロシアを自由に!」、さらには「プーチンは人殺しだ!」といった声を上げた。また、ウクライナ侵攻をやめるよう訴える人々もいた。
別の時代であれば、このような大物野党政治家の葬儀は黙殺されたかもしれない。だが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の指示で毒殺されたと主張するナワリヌイの支持者らは、動画投稿サイトYouTubeで葬儀の様子をライブ配信した。2011年の「アラブの春」をほうふつとさせるような画像や動画が、ソーシャルメディア上で瞬く間に広まった。
今から107年前、ユリウス暦の1917年2月、帝政ロシアでは民衆の大規模な抗議行動が二月革命に発展し、ロシア帝国はわずか数日で崩壊した。二月革命は指導者も正式な計画もないまま始まった。
少なくとも現時点では歴史が繰り返されることはないだろう。しかし、ロシア国内にプーチン大統領やウクライナ侵攻に反対する人々が存在している事実を、ソーシャルメディアは世界に示した。ロシア政府はこうした光景が国境を越えて拡散されるのを好まないかもしれない。けれども、ソーシャルメディアは誤報を広める一方で、真実を伝えることができるのも明白な事実だ。
ソーシャルメディアが国境を越えて言論にもたらす影響について、米ミシガン大学情報学部教授で副学部長のクリフ・ランプ博士は、誤った情報の拡散や礼節の低下という観点から数多くの議論がある中で、ソーシャルメディアが良い影響をもたらしている例も数多くあると指摘。
さらに次のように説明した。「その1つは、ソーシャルメディア企業は政府の支配に抵抗する傾向があり、世界中にサーバーを持っているため、政府が報道機関に対するのと同じように統制することが難しいという点だ。これに対する唯一の解決策は、中国がやったように、サービスを完全に企業から切り離し、代わりとなるものを国内で開発することだ。ソーシャルメディアでは、情報を作成し共有するための障壁が低いため、多くの人が抗議のコンテンツを共有することができる。これだけ多くの人々が投稿を拡散するから、ラジオ局や新聞社のような1つの情報源より統制することが難しくなるのだ」
ロシアに転機は訪れるのか?
二月革命が起こったのは、帝政ロシアが戦争に巻き込まれ、実質的に行き詰まっていた時だったことも忘れてはならない。現在のロシアの経済状況とは大きく異なっているが、戦争反対の声はどれだけ誇張してもしすぎることはない。
米ニューヘブン大学コミュニケーション・映画・メディア学部のスーザン・キャンベル講師は、次のように述べた。「現大統領は司法と警察を完全に支配しているようだが、この国民的な盛り上がりがロシアの転機になるかもしれないという期待がある。ソーシャルメディアによる運動という観点からは、確かにこの国を深く変える可能性がある。ソーシャルメディアは、ニュースの消費者がメディアを主体的に読み解く能力を試し、引用している情報源がプロパガンダではなく、正当なものであることを確認するのに最適な場でもある。アラブの春も同じような可能性を持っていたが、投稿に『いいね』を付けたり共有したりするだけでは不十分だ」
スマートフォンとインターネットさえあれば、誰もが世界中に情報を発信できる世の中では、専制君主や独裁者、腐敗した政府が反対意見を鎮圧することが難しくなっている。先述のランプ博士は、抗議行動やそれに代わる言説を共有する上で、ソーシャルメディアは依然として効果的な手段だと強調した。
●独が「プーチンの策略にはまってはならない」とロシアの情報戦警戒 3/4
ドイツのピストリウス国防相は3日、ウクライナへの長射程ミサイル供与に関するドイツ空軍高官の協議の内容がロシア側に漏えいしたことを受け、ドイツの分断を狙った「情報戦」だと警戒した。国防省は会話が傍受されたとして調査を進めており、ピストリウス氏は「プーチンの策略にはまってはならない」と述べた。
ドイツメディアによると、ロシア国営メディア「RT」が1日、ドイツ空軍高官のオンライン会議の音声を通信アプリで公開。ウクライナが求める射程約500キロの巡航ミサイル「タウルス」を巡り、クリミア半島とロシア本土を結ぶ橋への攻撃の有用性や、ドイツ軍の関与なしにウクライナ軍が運用可能かどうかを協議していた。
ドイツのショルツ首相は戦闘激化を懸念し、タウルスの供与をこれまで繰り返し否定している。
●ロシアのプーチン大統領、権力を強化するには戦争状態を維持し続けるしかない 3/4
・ロシアのプーチン大統領は、自身の権力を強化するには戦争状態を維持し続けるしかないと、政治学者のマリー・マンドラ(Marie Mendras)氏は最新著書で書いている。
・プーチン大統領は政治的暴力、紛争、出口の見えない戦争を通じて権力を維持してきたとマンドラ氏は言う。
・経済的、外交的に孤立していても、プーチン大統領は次の大統領選で勝利すると見られている。
パリ政治学院の教授マリー・マンドラ氏の最新の著書によると、ロシアのプーチン大統領は自身の権力を強化するには戦争状態を維持し続けるしかないという。
「彼は猜疑心の塊のような指導者の論理を持っています」とマンドラ氏は2月26日、France 24で語った。
「サバイバルモードにあるのです」
『La Guerre permanente: Ultime stratégie du Kremlin』というロシアに関する著書を2月下旬に出したばかりのマンドラ氏によると、プーチン大統領は1999年に当時のエリツィン大統領によって首相に任命されて以来、紛争や戦争だけでなく、「たくさんの政治的暴力」を使って権力の座に居座り続けてきたという。チェチェンやジョージア、ドンバス、シリア、ウクライナでの戦争もこれに含まれる。
プーチン大統領は今から20年以上前に思いがけずロシアの"トップ"に躍り出るまで、あまり知られた存在ではなかった。
「『自分の欲望と支配を受け入れさせるために、周囲を恐怖に陥れるにはどうしたらいいか?』と、彼は目先の短期的なことしか考えていません」とマンドラ氏はFrance 24に語った。
同氏によると、ロシアは「危険な独裁国家」であるため、大きな革命や反乱が起こる可能性は低いという。
ロシアのウクライナ侵攻は西側諸国による全面的な対ロ制裁につながり、ロシア経済を孤立させ、外交的にもロシアを弱体化させた。
その経済は持ち直しているように見えるものの、マンドラ氏は数字を額面通り受け取ることには注意を促した。
「経済状況も社会情勢も良くありませんし、公式の統計を信用すべきではありません」と同氏はFrance 24に語った。
ロシアは2月上旬、2023年の実質GDP成長率を3.6%と発表した。専門家は、ロシアの成長は主に戦費と補助金によってもたらされていると指摘している。
プーチン大統領は現在、3月に予定されている大統領選で5期目を狙っていて、当選が確実視されている。
ロシアでは反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏が2月16日、刑務所で急死した。ナワリヌイ氏は長チ領やその側近を声高に批判していて、EUはナワリヌイ氏の死について、ロシアに責任があると述べている。
●「西側かロシアか」をめぐり緊張が高まるモルドバと“未承認国家” 3/4
親西側政府との対立
ウクライナでの戦争が長引くに連れ、「西側かロシアか」をめぐる対立は、ウクライナの戦場以外でも大きくなるかもしれない。
2月28日、ウクライナと国境を接するモルドバのなかの、親ロシア派が自治する「沿ドニエストル共和国」の議員らが会合を開き、ロシア下院に対して「モルドバからの圧力が強まるなか、22万人以上のロシア国民が沿ドニエストル共和国に居住している事実を踏まえ、同地を防衛するための措置を実施する」ように声明を出した。
沿ドニエストル共和国は国際的にはモルドバ領に属する未承認国家だが、モルドバ政府の管轄は及ばず、独自の通貨や国旗を持っている。国際的に有効ではないものの、独自のパスポートも発行しているという。
ソ連末期のペレストロイカの時期に、言語問題でモルドバと対立して紛争が起こって以降、ロシアの支援を受けて事実上の独立状態にある。ここにはロシア軍約1500人が駐留し、ソ連時代の武器や弾薬を管理している。
欧州メディア「ユーロニュース」によると、今回のロシアへの「支援要請」は、2024年からモルドバが同地の輸出入に関税を導入したことに対する反発の延長にあるという。モルドバはEUへの加盟を目指しており、関税は経済法制をEUに合わせるための取り組みの一環のようだ。
関税が地元住民や企業に損害を与えると考える人たちは、「自分たちは西側に接近したモルドバ政府によって権利と自由を侵害されている」と主張している。
静かにくすぶり続ける対立の火種
中東メディア「アルジャジーラ」によると、2月28日の会合の前には、分離主義者がロシアへの併合を求める住民投票を呼びかける可能性があるとも言われたが、実際にはそれに至らず、「支援要請」にとどまった。また、ユーロニュースによると、声明文では国連事務総長、欧州議会、赤十字国際委員会に対しても「モルドバからの圧力」を防ぐように要請している。
声明が抑制的だったためか、モルドバ政府は、今回の会合は「単なるプロパガンダのイベントだ」として静観している。ロシア外務省も、会合をめぐってモルドバ政府とNATOがパニックに陥っているようだとコメントするにとどまった。
沿ドニエストル共和国はロシアと国境を接しておらず、ロシアがいますぐ何らかの行動に出ることは現実的ではないと見られる。親西側対親ロシアの対立の火種はくすぶり続けるが、決定的な衝突にすぐに至る心配はなさそうだ。
しかし、西側の有識者の一部からは、プーチンが沿ドニエストル共和国を西側と対峙する足がかりとして利用するのではないかという懸念も示されている。
ドイツ外交問題評議会のリサーチフェロー、アナスタシア・ポキムバンはアルジャジーラに対し、沿ドニエストル共和国はウクライナでの戦争をきっかけに「偽情報キャンペーンの大きな根拠地」になったと指摘する。実際、現地では何度か爆発事件が起こっており、ロシアと西側が相手の責任を主張し合った。
ウクライナの政治学者ドミトロ・レヴスは、「プーチンはいま、パワーバランスを変えるために何らかの手段に出る必要に迫られているが、その方法の一つは、対立と混乱を作り出すことだ」と述べ、西側に接近するモルドバに揺さぶりをかけるために、プーチンが沿ドニエストル共和国を利用する可能性はあると警戒している。
●ゼレンスキー氏、西側諸国に「政治的意思が必要」 軍事支援訴え 3/4
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、同国への軍事支援実現に向けて西側諸国の政治的意思が必要だと訴えた。
ゼレンスキー氏はビデオ演説で「ウクライナが必要な物資を確保するには政治的意思が不可欠だ」と強調し、「米国や欧州がイラン製無人機シャヘドやロシアの戦闘機に負けるようなことがあれば、それは歴史上最も恥ずべき状況になる」と述べた。
ウクライナは「極めて重要な物資の供給を待っており、特に米国の決断を待っている」と訴えた。
ゼレンスキー氏は、米議会にウクライナ支援の承認を求める姿勢を強めている。
米議会上院は先月、ウクライナ、イスラエル、インド太平洋地域への支援を盛りこんだ950億ドル規模の緊急予算案を可決した。一方、下院ではジョンソン議長が採決に消極的で成立のめどはたっていない。
●中国特使 ウクライナ問題でロシア次官と会談 「協議促進」に意欲 3/4
中国政府でウクライナ問題を担当する李輝ユーラシア特別代表がロシアのガルージン外務次官と会談し、政治的解決に向けて「協議を促進する努力を続けたい」と述べました。
中国外務省によりますと、李輝ユーラシア特別代表は2日、モスクワでロシアのガルージン外務次官と会談し、ウクライナ問題について「いかなる紛争も最終的には交渉によって解決されるべきだ」と述べました。
そのうえで、政治的解決に向けて「ロシアやウクライナ、そのほかの関係者の共通認識を構築するために協議を促進する努力を続けたい」と強調しました。
これに対し、ガルージン氏はウクライナ問題が交渉によって解決されるべきとの認識に同意し、「今後も中国側との意思疎通を強化することを希望する」と述べたということです。
李輝氏は、ロシアのほかにウクライナ、ポーランド、ドイツ、フランスなどを歴訪する予定です。
●米韓合同軍事演習始まる 「自由の盾」、英豪も参加 北朝鮮は反発か 3/4
米韓両軍は4日、朝鮮半島有事を想定した定例の合同軍事演習「フリーダムシールド(自由の盾)」を開始した。高度化する北朝鮮の核の脅威を踏まえ、核使用の抑止に重点を置く。北朝鮮は最近、韓国を「第1の敵対国」と位置付け、平和統一政策の転換を宣言。ミサイル発射などで反発しそうだ。
演習は14日までの11日間。陸海空での機動訓練を拡大し、昨年同時期に行われた訓練の約2倍となる48回実施する。北朝鮮は今年に入り、巡航ミサイルの発射を繰り返し、核弾頭の搭載が可能だと主張している。米韓演習では、巡航ミサイルを探知、迎撃する訓練も行う予定だ。英国、オーストラリアなど国連軍構成国も参加する。
●ロシア軍の無人機攻撃で集合住宅が倒壊、子供含む10人死亡… 3/4
ロイター通信などによると、ロシアの侵略を受けるウクライナの南部オデーサで2日、露軍の無人機攻撃を受けた集合住宅が倒壊し、2歳と4か月の子供2人を含む少なくとも10人が死亡した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2日夜のビデオ演説で、武器やミサイル防衛システムの供与の遅れが犠牲者を増やしていると指摘。「人々が死んでいるのにパートナーたちは国内政治の議論に興じている。到底、理解できない」といらだちをあらわにした。議会での対立で軍事支援予算を成立させられない米国や、ウクライナが望む長射程兵器の供与に慎重な欧州を指すとみられる。
●中国 あすから全人代 恒例の閉幕後首相会見 開催しないことに 3/4
中国で5日から始まる全人代=全国人民代表大会を前に4日報道官が会見し、閉幕後に行われるとみられていた李強首相の記者会見を行わないと明らかにしました。
ことしだけでなく、来年以降も当面行わないとしています。
全人代では、これまで閉幕後に首相が記者会見を行い、経済運営などを内外にアピールするのが恒例となっていました。
●西アフリカ ブルキナファソ 3つの村が襲撃され約170人死亡 3/4
西アフリカのブルキナファソで、3つの村が襲撃されおよそ170人が死亡したと地元当局が発表しました。イスラム過激派によるテロや襲撃が繰り返されていて、治安の悪化が深刻になっています。
ブルキナファソの捜査当局は、北部ヤテンガ県の3つの村が2月25日に襲撃されおよそ170人が死亡したと、3日までに発表しました。
AFP通信は現地の目撃者の話として、死者のうち数十人が女性や子どもだと伝えています。
当局は、村を襲撃した集団の特定につながる目撃情報を募るなどして、捜査を進めています。
ブルキナファソでは、2015年ごろから北部を中心にイスラム過激派によるテロや襲撃が繰り返されていて、2023年1年間でおよそ8500人が死亡し、200万人以上が国内避難民となっています。
また2022年、2度にわたるクーデターで軍事政権が成立して以降、ロシアに急接近しことし1月には、ロシア国防省傘下の準軍事組織の部隊がブルキナファソに到着し、政府軍の兵士の訓練などを行っています。
さらに、ブルキナファソの周辺国でもここ数年、イスラム過激派による治安の悪化が政情不安を招き、クーデターが相次ぐ事態となっていて、欧米諸国はこうした国々でのロシアの影響力拡大に警戒を強めています。
●パキスタン 新首相にシャリフ氏再選 混乱続く経済立て直し課題 3/4
パキスタンの新しい首相にシャバズ・シャリフ前首相が再び選ばれました。おととしの大規模な洪水のあと物価の高騰など混乱が続く国内経済の立て直しが課題になります。
パキスタンの議会下院は、先月行われた総選挙を受けて、3日、連立与党の「イスラム教徒連盟シャリフ派」を率いるシャバズ・シャリフ前首相を再び首相に選びました。
シャリフ氏は72歳。パキスタンの政治に強い影響力を持つ軍とも良好な関係を保っているとされ、去年8月に首相を退いたあと、選挙管理内閣をはさんで事実上、続投する形です。
シャリフ氏は演説で「50万人の学生がAIなど最新技術の訓練を受けられるようにするのが目標だ」などと述べ、若者の雇用の創出に取り組む姿勢を強調しました。
パキスタンでは、おととし「国土の3分の1が水没した」ともいわれる大規模な洪水が発生して農業をはじめとする主要産業が打撃を受け、物価の高騰や失業者の増加などが続いていて、大手格付け会社から一時、デフォルト=債務不履行に陥るおそれも指摘されていました。
こうした中、パキスタンは、IMF=国際通貨基金から受けてきた金融支援の期限が来月に迫っていて、継続的な支援を受けるための交渉を進めながら、混乱が続く国内経済の立て直しを図ることが課題になります。
●1年以上不在の新駐日ロシア大使 ノズドレフ氏 日本到着 3/4
ロシアの新しい駐日大使ノズドレフ氏が3日、日本に到着しました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて日ロ関係が悪化する中、1年以上不在だった大使がようやく着任することになります。
在日ロシア大使館の関係者によりますと、新しい駐日大使ニコライ・ノズドレフ氏は3日、羽田空港に到着したということです。
ノズドレフ氏は、1994年にロシア外務省に入省し、オーストラリアなどに駐在した後2018年からは、本省で日本などを担当する第3アジア局長をつとめ、ことし1月、プーチン大統領によって駐日大使に任命されました。
ロシアの駐日大使は、前のガルージン氏がおととし11月に離任した後、1年以上不在となっていましたが、ようやく大使が着任することになります。
一方、日本の新しいロシア大使として、武藤顕氏が去年12月、着任しています。
日ロ関係をめぐっては、ウクライナ侵攻を受けて日本が制裁を科したことにロシアが反発し、平和条約交渉の中断を一方的に表明するなど、悪化した状況が続いています。
●日本はウクライナ支援の中でどのような位置付けなのか―仏メディア 3/4
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて2月24日で2年となった。これに関連し、仏RFIの中国語版サイトは、「日本はウクライナ支援の中でどのような位置付けなのか」とする記事を掲載した。
記事はまず、ウクライナの復旧・復興策を協議する「日・ウクライナ経済復興推進会議」が東京都内で2月19日に開催され、両国政府間で支援策として、「地雷除去・がれき処理」「医療など人道状況改善・生活再建」「農業の生産性向上」「バイオなど産業の向上」「デジタルの展開・成長」「電力・交通インフラ整備」「汚職対策・ガバナンス強化」の7つの分野で、56の協力文書が交わされたことを取り上げた。
記事は、日本について、「欧米諸国に比べて、日本には平和憲法と法的な『防衛装備移転三原則』があるため、殺傷兵器を供与できない。これがウクライナ支援におけるボトルネックになっている」と伝えた。
記事は「米国などウクライナを支援する国々は、ウクライナのために、世界各地から砲弾を調達している。ロシアが2022年2月にウクライナへの軍事侵攻を始めて以来、米国などはウクライナに対し、需要のある155ミリ砲弾を200発以上提供してきた。しかし、米国は、砲弾の在庫が底をつき、需要を満たせない見通しとなったため、同盟国である日本に砲弾支援の要請を行ったとの報道もあるが、日本は依然としてウクライナと米国に砲弾を提供していないようだ。日本政府は昨年末、防衛装備移転三原則を改定し、日本製の地対空迎撃ミサイル『パトリオット』を米国へ輸出する方針を決定したが、米国との間で、第三国で使用してはならないことを取り決めた」と伝えた。
そして、「日本はウクライナを支援するために別の方法で最善を尽くしている」と指摘。日本政府がこれまでに表明した支援額は120億ドル(約1兆8000億円)を超えること、23年度の予算が114兆4000億円の日本にとって、この支援額は「少額」とは言えず、国単位の支援額で世界6位であることに触れた。
記事は、日・ウクライナ経済復興推進会議で、ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使が、防衛装備移転三原則の制約上、欧米のような殺傷兵器を供与できない日本の事情に理解を示した上で、経済面での支援を期待すると表明したこと、上川陽子外相が1月、北大西洋条約機構(NATO)へ資金拠出する形で対無人航空機検知システムを供与すると発表したことについて、コルスンスキー氏が「われわれが最も求めていたことだった」と歓迎したことを取り上げた。
記事はまた、「日本は、政府レベルで国際社会のウクライナ支援に積極的に参加しているだけでなく、多くの民間企業を動員し、資金、人員、物資面での政府の不足を補おうとしている。日・ウクライナ経済復興推進会議には両国の企業約130社が参加した。日本は戦後を見据え両国の将来にも投資している」とも伝えた。 
●ロシア側 先月の死傷者 1日平均1000人近く 軍事侵攻後 最多か 3/4
イギリス国防省は、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア側の先月の死傷者が1日当たり1000人近くにのぼり、侵攻後の2年間で最も多くなったとの見方を示しました。
イギリス国防省は3日、ロシア側の1日当たりの平均の死傷者の推移を月ごとに示したデータを公表しました。
それによりますと去年11月と12月に初めて900人を超え、先月は983人となり2年前の侵攻開始以降、最も多くなったとしています。
イギリス国防省は「犠牲者の増加は消耗戦をいとわないロシアの姿勢を示すものだ。人的損傷は大きいものの結果としては前線でロシアがウクライナ側への攻勢を強めている」と指摘しています。
そして、この2年間のロシア側の死傷者の合計は35万5000人以上にのぼるという見方を示しています。
一方、ロシア国営のタス通信は4日、中部のサマラ州で、何者かによって鉄道にかかる橋に爆発物が仕掛けられ、爆発が起きたと伝えました。
この爆発によるけが人はいなかったということです。
鉄道はロシア軍にとって武器や人員の輸送に欠かせない重要なインフラで、ロシアのインターファクス通信はことし1月、鉄道施設への破壊活動がこの2年間で184件起きていると伝えています。
ロシア政府はこれまでにウクライナが関与した破壊活動が相次いでいると非難しています。

 

●ナワリヌイ氏死亡で国際調査を 43か国、ロシアに要請 3/5
国連人権理事会の会合が4日開かれ、ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が北極圏の刑務所で先月死亡した件について、欧米諸国など43か国が、独立した国際調査の実施を受け入れるようロシアに要請した。43か国は、最終責任はウラジーミル・プーチン大統領にあるとしている。
会合には欧州連合(EU)加盟国や米、英、ウクライナ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、ノルウェーなどの代表が出席した。
EUのロッテ・クヌーセン大使は43か国を代表し、「われわれはナワリヌイ氏の死に憤りを感じている。最終的な責任はプーチン大統領およびロシア当局にある」と主張。
「ロシアはナワリヌイ氏急死の状況について、独立した透明性のある国際調査の実施を受け入れなければならない」とするとともに、同氏の死は「ロシアで組織的な弾圧が加速していることの表れ」だと指摘した。
●ロシア国内外で相次ぐプーチン批判者の不審死 時系列でさかのぼる 3/5
ウクライナ侵攻に異議を唱え、昨年同国に亡命したロシア軍ヘリコプター操縦士が先月13日、スペイン南部の村で射殺体で発見された。ロシアでは2022年のウクライナ侵攻開始以降、ウラジーミル・プーチン大統領の批判者や政敵が不審な状況で死亡する事件が相次いでいる。
2024年2月16日 アレクセイ・ナワリヌイ
長年にわたりプーチン大統領を批判し、懲役19年の服役中だったロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ(47)は、同国北極圏の辺地にある刑務所に予告なく移送された数週間後、施設の庭で倒れて死亡しているのが見つかった。
2024年2月13日 マクシム・クズミノフ
ウクライナ侵攻に反対して同国に亡命したロシア軍ヘリコプター操縦士のマクシム・クズミノフ(28)は、スペイン南部ビヤホヨサで複数の銃弾を浴びて死亡しているのが見つかった。クズミノフは偽名を使っていたため、身元確認まで数日間を要した。
2023年11月2日 ウラジーミル・スビリドフ
プーチン大統領を批判していたロシア空軍司令官のウラジーミル・スビリドフ中将(68)が、自宅で妻とともに死亡しているのが見つかった。米政府系メディア「ラジオ自由欧州(RFE)」が伝えた。
2023年10月1日 ウラジーミル・ネクラソフ
ウクライナ侵攻の早期終結を公然と求めていたロシア石油大手ルクオイルは、同社のウラジーミル・ネクラソフ会長(66)が急性心不全で死亡したことを明らかにした。この前年には、前任者のラビル・マガノフ会長も謎の死を遂げていた。
2023年8月23日 エブゲニー・プリゴジン
ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループの幹部を乗せた航空機が墜落し、この2カ月前に軍事クーデター未遂事件を起こしていたエブゲニー・プリゴジン最高経営責任者(CEO、62)を含む搭乗者全員が死亡した。プリゴジンCEOは、かつてはプーチン大統領の腹心として知られていた。
2023年8月16日 ゲンナジー・ロプイレフ
ロシア南部ソチにあるプーチン大統領の屋敷を監視していた元連邦警護庁(FSO)のゲンナジー・ロプイレフ中将(69)が、刑務所で死亡しているのが見つかった。ロプイレフ中将は収賄罪で懲役10年の服役中だった。刑務所関係筋に取材を試みたRFEによると、死因は特定されなかった。
2022年12月24日 パベル・アントフ
ウクライナ侵攻を批判していると報じられていた食肉加工会社の経営者で地方議員だったパベル・アントフ(65)は、インドのホテル・サイ・インターナショナルの窓から転落して死亡した。同僚のウラジーミル・ビデノフ(61)が同じホテルで心不全のため死亡したわずか2日後のことだった。
2022年9月1日 ラビル・マガノフ
ウクライナ侵攻に批判的な数少ないロシア企業の1つとして石油大手ルクオイルが浮上してから数カ月後、同社のラビル・マガノフ会長(67)が首都モスクワの病院の窓から転落して死亡した。
2022年8月14日 ダン・ラポポート
プーチン大統領を公然と批判し、ナワリヌイを支持していたラトビア系米国人の投資家でナイトクラブ経営者のダン・ラポポート(52)は、米ワシントンの高級マンションから転落して死亡しているのが見つかった。警察は不審な点はなかったと発表したが、友人や同僚は米ニュースサイト「ポリティコ」に、ラポポートの突然の死は極めて疑わしいと語った。
標的は政財界だけでなく報道機関にも
プーチン大統領が2000年にロシア大統領に就任して以降、数多くの批判者や政敵が国内外で非業の死を遂げてきた。同大統領の初期の政敵の1人で自由党の党首だったセルゲイ・ユシェンコフは2003年、モスクワの自宅を出たところで射殺された。犯人は捕まっていない。2015年にロシア大統領府(クレムリン)の近くで背中に銃弾を受け射殺された野党指導者のボリス・ネムツォフ元第一副首相も同様の運命をたどった。
ロシア国外でもかなりの数のプーチン大統領の批判者や亡命者が殺害されている。ロシア連邦保安庁(FSB)元職員のアレクサンドル・リトビネンコは2006年、英ロンドンで放射性金属のポロニウム入りのお茶を飲んで死亡した。2000年に英国に亡命したリトビネンコは、プーチン大統領の批判者として注目されていた。この事件以降、ソビエト連邦が開発した化学兵器であるノビチョクによって複数の大統領批判者が毒殺されている。その中には、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のセルゲイ・スクリパリ元大佐と娘のユリヤに対する2018年の毒殺未遂事件も含まれる。先月刑務所で死亡したナワリヌイも2020年に神経剤による攻撃を受けたが、一命を取り留めていた。
政財界の大物を標的にするだけでなく、ロシアはウクライナ侵攻を報道する記者をも厳しく取り締まっている。米国の非営利組織ジャーナリスト保護委員会(CPJ)によると、ウクライナ侵攻を取材して死亡した記者は計37人に上り、その死因の大半が「十字砲火」「危険な任務」「殺人」とされている。ウクライナ侵攻を取材したことで投獄された米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のエバン・ゲルシコビッチ記者とRFEのアルス・クルマシェワ編集長の2人の米国人を含め、少なくとも12人の記者がロシアで拘束されている。ロシアは米政府系のRFEとラジオ自由(RL)を「好ましくない」影響力として禁止している。
●ドイツ軍会議の音声、ロシア側がSNSに投稿 ウクライナ支援を議論 3/5
ドイツ当局は2日、軍のビデオ会議がロシア側に不正侵入されたと明らかにした。会議の音声が前日、ソーシャルメディアに投稿された。会議ではウクライナへの長距離ミサイルの供与や、その標的などが話し合われていた。
ドイツ軍のビデオ会議の38分にわたる音声は、ロシアの国営メディア「RT」のマルガリータ・シモニャン編集長が1日、ソーシャルメディアに投稿した。
その中でドイツ軍幹部らは、クリミアとロシアを結ぶケルチ橋をミサイルでどう攻撃できるか話し合っている。クリミアはロシアが2014年に不法併合した。
軍幹部らはまた、ドイツ製ミサイル「タウルス」をウクライナ軍が使用する可能性や、その潜在的な影響も議論している。
シモニャン氏はこの音声について、ドイツがクリミア攻撃を計画している証拠だと主張。ロシアの政治家らも、「宿敵」の攻撃計画が明らかになったとした。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は2日、この流出事案について、「非常に深刻な問題であり、そのため現在、非常に注意深く、非常に集中的に、非常に迅速に調査を進めている」と述べた。
ドイツ国防省の報道官はAFP通信に、空軍の秘密の会話が盗聴されたと説明。音声が公開前に改ざんされたかについては「断言できない」と述べた。
独誌シュピーゲルは、問題のビデオ会議は軍内部の秘密ネットワークではなく、ウェブ会議アプリ「WebEx」で開かれたと報じた。
ロシアはドイツを強く非難
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は2日、音声の中の協議について、ドイツ軍の「あからさまな自己暴露」によって「ずる賢い計画」が明らかになったと述べた。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、ドイツに「速やか」な説明を要求。「問い合わせへの回答を避けようとするなら、罪を認めたことになる」と述べた。
ロシア安全保障会議のドミトリー・メドヴェージェフ副議長はテレグラムで、「私たちにとっての古くからのライバルであるドイツ人が、再び私たちの宿敵となった」と発言。
「(ドイツ人は)なんと徹底的かつ詳細に、私たちの領土への長距離ミサイル攻撃を議論し、攻撃目標を選び、私たちの祖国と国民に最大の被害を及ぼす方法を議論していることか」と論じた。
ウクライナはドイツに対し、射程距離約500キロメートルのタウルスの供与を望んでいる。
ショルツ氏はこれまで、紛争の激化を恐れ、これを拒否してきた。
フランスとイギリスは共同開発したミサイル(フランス名「スカルプ」、イギリス名「ストームシャドウ」)をウクライナに提供している。射程距離はタウルスの半分ほどだ。
ドイツの野党・保守党のローデリヒ・キーゼヴェッター氏は、さらなる録音が流出する恐れがあると、放送局ZDFの取材で警告した。
「他の多くの会話も確実に傍受されるだろうし、後日、ロシアの利益のためリークされるかもしれない」
キーゼヴェッター氏はまた、「今回の会話は、ロシアが特定の意図を持ってこの時期に故意にリークした」と考えられると発言。その意図とは、「ドイツによるタウラスの引き渡しの阻止」だろうと述べた。
●ロシア、原油自主減産で生産削減に重き 貯蔵能力低下など影響か 3/5
ロシアが3日に発表した追加自主減産で輸出削減より生産削減に重きを置く形で決めたことについて、国内の精製・貯蔵能力の低下や、中東諸国が協調減産に一段と貢献するよう求めたことが背景にあるとアナリストはみている。
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の産油国でつくるOPECプラスは3日、一部の国による自主減産の延長を決めた。
ロシアは4─6月に生産・輸出量をさらに日量47万1000バレル減らすと発表。同国のノバク副首相が示した数字によると、減産では生産量の削減が占める割合が高まる見通し。
ウクライナとの戦争が続く中、ロシアは年初から製油所で大規模なドローン(無人機)攻撃などに見舞われており、ロスネフチやルクオイルなどが生産を減らしている。
BCS証券のシニアアナリスト、ロナルド・スミス氏は、ロシアには輸出を調整するための貯蔵能力がほとんどないと指摘する。
エネルギー調査会社リスタッド・エナジーのシニアアナリスト、ビクトル・クリロフ氏は、ロシアがOPECプラスの減産に一段と貢献することを中東諸国が求めた可能性が高いとの見方を示した。
さらに「(減産において)生産量に焦点が当てられているのは、ロシアの石油や石油製品の輸出構造が不安定であることも関係している可能性がある」と指摘。「そのため現在の状況下では、石油と石油製品の輸出に厳しい制限を課すことはおそらく効果的なやり方ではない」と説明した。
●NATO 冷戦後 欧州で最大規模の軍事演習公開 ロシアをけん制 3/5
ロシアのウクライナ侵攻が続きヨーロッパで緊張が続く中、NATO=北大西洋条約機構は東西冷戦の終結後、ヨーロッパでの軍事演習として最大規模となる演習を報道陣に公開しました。演習はウクライナの隣国のポーランドなどで行われていて、ロシアを強くけん制するねらいがあります。
NATOはヨーロッパの防衛力の強化のためことし1月から5月末まで9万人以上の兵士や1100両以上の戦闘車両などが参加する演習を行っていて、ヨーロッパでの演習としては東西冷戦の終結後、最大だと発表しています。
4日は、ウクライナの隣国のポーランドで行われている演習が報道陣に公開されました。
演習では、アメリカやドイツ、ポーランド軍などの戦車や装甲車が橋のない川を水陸両用車などにのって次々に渡り、大規模な部隊を迅速に展開するための連携を確認していました。
NATOは、ロシアを最も重大な脅威と位置づけ防衛力の強化を進めていて、今回の演習には抑止力を示してロシアを強くけん制するねらいがあります。
演習の立案に携わったドイツ軍のブリュークナー准将は計画はロシアの軍事侵攻の前に始まったものの、侵攻を受けて規模が拡大したと明らかにした上で「NATOはロシアとテロという2つの脅威への備えを進めている。演習では現実の計画に欠陥がないか確認している」と話していました。
●ウクライナ首相 “凍結したロシア資産を復興の財源に” 3/5
ウクライナのシュミハリ首相は4日、首都キーウで会見し、ウクライナの復興には巨額の資金が必要だとした上で、各国が凍結したロシアの資産を財源として活用すべきだという考えを改めて示しました。
会見の冒頭、シュミハリ首相は、ロシアの軍事侵攻開始からの2年余りで、各国からの支援は総額750億ドル以上、日本円でおよそ11兆円に上ると明らかにし、ことしは少なくとも日本円で5兆円余りが必要だという見通しを示しました。
その上で、「没収されたロシアの資産はわが国への支援、そして復興のための確かな資金源になる」と述べ、各国が制裁の一環として凍結したロシアの資産を財源として活用すべきだという考えを改めて示しました。
一方、アメリカによる新規の軍事支援が議会での与野党の対立から滞っていることについては、「支援の遅れはわれわれだけでなく、支援プログラムを進めているIMF=国際通貨基金にとってもストレスになっている」と強調し、早期の予算案の可決に期待を示しました。
さらにシュミハリ首相は2月、日本で開かれた、ウクライナの復興に向けた会議に言及し、「日本は非常に強力な支援をしてくれている。ほかのパートナーとの『行き違い』があったときも、踏み込んだ対応をしてくれた」と感謝の意を示しました。
●IAEA事務局長、ロシア訪問へ 占拠中のザポロジエ原発を協議か 3/5
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日の記者会見で、ロシアを訪問することを明らかにした。プーチン露大統領との会談が実現した場合には、ロシアが占拠するウクライナ南部のザポロジエ原発について協議する考えを示した。
グロッシ氏は5日に出発する。プーチン氏と会談するかを問われ「そのつもりだ」と述べた。テーマについては「原発の将来の稼働状況、稼働するのかしないのか、外部からの電力供給ラインはどうなっているのか。これらは重要な問題だ」と語った。
ロシア軍はウクライナ侵攻直後の2022年3月、ザポロジエ原発を占拠し、軍事拠点化しているとみられる。度重なる砲撃の被害に遭い、IAEAによると、原子炉冷却に必要な外部電源をこの1年半で8回にわたり一時喪失している。
●ナワリヌイ氏妻、献花に謝意=「国民の愛」示す―ロシア 3/5
ロシアのプーチン大統領を批判し、獄死した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が埋葬されたモスクワの墓地では4日も、花を手向ける人が後を絶たず、妻ユリアさんは「これが本当の国民の愛だ」と謝意を表明した。
X(旧ツイッター)に投稿した。
ユリアさんはナワリヌイ氏について、国民のために懸命に闘い、「決して諦めなかった」と強調。埋葬を巡って全土で約100人の拘束者が出る中、リスクを冒して墓参する人々を「勇敢で正直だ」とたたえた。 
●ロシア軍、ウクライナの新たな防衛線に攻勢 3/5
ウクライナ軍が東部の要衝アウジーイウカから撤退した後、ロシア軍は迅速に前進して、ウクライナの新たな防衛線に挑戦しており、ウクライナ政府の前線での戦術と勢いについて、懸念が強まりつつある。
ウクライナ軍は2月17日、アウジーイウカからの撤退を発表し、陣地を同市の西に移した。小さな集落3カ所がロシア軍に占領されたものの、ウクライナ政府は、そうした集落について防衛する意図はなかったと主張している。
ウクライナが後退すると明らかにした、より西側にある三つの集落を結ぶ防衛線はその後、ロシア軍による激しい攻撃を受けている。親ロシアの情報筋によれば、ロシア政府は三つの集落全てを部分的に占領したと主張している。ウクライナはこうした主張を否定している。
ウクライナ軍は軍需品の面で深刻な危機に直面している。弾薬は配給制にしなければならず、ロシアの圧力にどれだけ耐えることができるのか疑問を抱いている前線の部隊にとって、存亡の危機に近い議論となっている。
高まる不安のもう一つの兆候は、新たに軍総司令官に起用されたオレクサンドル・シルスキー氏が前線での低調な戦果をめぐり、過去1週間で2度、部下の将校を叱責(しっせき)したことだ。
シルスキー氏は約3週間前、人気の高かったバレリー・ザルジニー氏の後任として、総司令官に起用された。
シルスキー氏は、ロシア軍が勢いを取り戻した戦場を受け継いだ。戦場では、西側諸国からの援助や、ウクライナ軍の弾薬や人員が不十分で、ロシア軍はそうした状況を有効に利用している。
アウジーイウカ周辺のウクライナ軍の新たな防衛線に対するロシアの攻撃が重要なのは、小さな集落そのものの価値ではなく、ウクライナ当局がアウジーイウカからの撤退について十分に計画を立案せず、ロシア軍の進軍を食い止めることができていないことを示唆している点だ。
ロシア政府は、ウクライナ東部のドンバス地方の占領を目標に掲げているほか、ウクライナの「非武装化」も望んでいる。
複数のウクライナ軍兵士はCNNの取材に対し、アウジーイウカからの撤退の意味と今後数週間先の防衛の見通しについて、悲観的な見方を示した。
特殊部隊の兵士のひとりは、ロシア軍の勢いというよりは、ロシア軍の進軍を食い止めるための準備が不十分だったと指摘。準備の整った陣地を確保できない限り、ウクライナ軍は後退し続けることになると語った。
●トルコ2月CPI、前年比67.07%上昇に加速―前月比は4.53%上昇に減速 3/5
トルコ統計局が4日発表した2月CPI(消費者物価指数、03年=100)は前年比67.07%上昇と、前月(1月)の同64.86%上昇を上回り、4カ月連続で伸びが加速、22年11月(84.39%上昇)以来、約1年3カ月ぶりの高い伸びとなった。市場予想(66%上昇)も上回った。
同国のインフレ率はウクライナ戦争の勃発(22年2月24日)と、それに伴う西側の対ロ経済制裁により、エネルギー価格の高騰と、中銀の利下げに伴う通貨トルコリラの急落が加わり、21年6月(前年比17.53%上昇)から22年10月(同85.51%上昇)まで17カ月連続で急加速した。翌11月(同84.39%上昇)から23年6月まで減速したが、最近は再加速傾向にある。23年7ー9月は加速、10月は減速したものの、11月以降、4カ月連続で加速している。
ただ、前月比(全体指数)は4.53%上昇と、前月(1月)の6.70%上昇を下回った。23年12月(2.93%上昇)以来、2カ月ぶりの低い伸びに戻ったが、市場予想を上回った。
市場では2月のインフレ加速は最低賃金(月額報酬)の引き上げやホテル、カフェ、レストランの価格高騰が要因で、今後数カ月、前年比でインフレ加速が継続、5月には前年比70%上昇を超えてピークに達すると予想。依然、中銀に対する金融引き締め圧力が続くと見ている。
セクター別(前月比)のインフレ率は、教育が12.76%上昇(前月は3.17%上昇)と、最も高い伸びとなった。次いで、食品・生鮮飲料水が8.25%上昇(同5.19%上昇)、ホテル・カフェ・レストランは5.43%上昇(同12.17%上昇)と、全体の伸び(4.53%上昇)を上回った。
このほか、通信が4.31%上昇、ヘルス(薬局・美容)が3.64%上昇、どのカテゴリーにも入らないその他商品・サービスは3.52%上昇、天然ガス料金を含む住宅(光熱費や修理費)が3.41%上昇、レクリエーション・文化は3.19%上昇、家具・生活用品が3.01%上昇。対照的に、最も低い伸びとなったのはアパレル・靴の0.20%上昇だった。
他方、セクター別の前年比(全体指数)は、ホテル・カフェ・レストランが94.78%上昇(前月は92.27%上昇)と、最も高い伸びとなった。値上げが背景。次いで、教育が91.84%上昇(同79.81%上昇)、ヘルスが81.25%上昇(同78.57%上昇)、運輸も77.98%上昇(同77.54%上昇)と、全体の伸び(67.07%上昇)を上回った。対照的に、アパレル・靴が43.44%上昇と、最も低い伸びとなった。次いで、住宅が49.07%上昇。
他方、全体指数から値動きの激しい食品やエネルギーなどを除いたコア指数(グループC)は前月比3.57%上昇と、1月の同7.58%上昇から伸びが3カ月ぶりに鈍化。23年12月の同2.31%上昇以来の低い伸びに戻った。直近(23年7月)のコア指数のピーク9.61%上昇を大幅に下回っている。
しかし、コア指数の前年比は72.89%上昇と、1月の70.48%上昇を上回り、伸びが急加速。05年1月以降では過去最高となった。
中銀は2月8日に発表した最新の四半期インフレ報告書で、24年末時点のインフレ見通し(中心値)を前年比36%上昇、25年末時点の見通しを14%と予想、いずれも前回予想を据え置いている。ちなみに23年は64.8%上昇だった。
また、中銀が2月16日に発表した市場参加者による最新の2月経済予測調査(月報)によると、24年末時点のインフレ見通しは前月(1月)予想時点の41.89%上昇から42.59%上昇に4カ月ぶりに引き上げられた。2カ月前(12月)時点は65.41%上昇だった。1年後の見通しは39.09%上昇から37.6%上昇に4カ月連続で引き下げられた。2カ月前は40.0%上昇だった。
●中国国防費は7.2%増の34兆円 軍備増強路線変わらず 3/5
中国の2024年の国防費は1兆6655億元、日本円でおよそ34兆円に上ることが明らかになりました。伸び率は去年と同じ7.2%で、軍備拡大に引き続き力を入れる姿勢が鮮明となっています。
李強首相「軍備闘争への備えを一体的に進め、実戦を想定した訓練をしっかりと行い、国家の主権・安全・発展の利益を断固として守り抜く」
きょう開幕した全人代=全国人民代表大会で、2024年の国防予算は前の年に比べて7.2%増の1兆6655億元、日本円にしておよそ34兆円に上ることが明らかになりました。
伸び率は去年と同じで、景気の先行きに不透明感が広がる中、軍事力の強化に引き続き力を入れる姿勢が鮮明となっています。
●中国の国防予算7・2%増の1・6兆元 鈍い経済成長でも伸び維持 3/5
5日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で公表された2024年の国防予算案は、前年比7・2%増加の1兆6655億元(約34・8兆円)で過去最大規模となった。額としては米国(8420億ドル、約127兆円)に続く世界第2位で、日本の24年度予算案(7兆9496億円)の約4・4倍だった。
国防予算の額は、コロナ禍などで経済成長が鈍くなる中でも高い水準で伸びを保ち、ここ数年は6〜8%台を維持してきた。中国軍などの力による現状変更の試みや覇権主義的な動きにつながっているとして、周辺国の懸念を招いている。
全人代の報道官は4日の会見で国防費の伸びを「合理的で着実なもの」としつつ、「国内総生産(GDP)や国家財政支出に占める割合は、米国などの軍事大国に比べて低い」と強調した。
●中国、今年の成長率目標は「5%前後」 昨年と同水準、全人代開幕 3/5
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が5日、北京の人民大会堂で開幕した。李強(リーチアン)首相が読み上げる今年1年の政策方針を示す政府活動報告で、今年の経済成長率目標を「5%前後」に設定した。経済成長率は鈍化するとの予測が多い中、昨年と同じ水準に据え置いた。
中国の国内総生産(GDP)は2023年、物価の影響を除いた実質成長率が5・2%となり、当初の目標である「5%前後」を達成した。ただ、より景気の実感に近いとされる、物価の影響を含めた名目GDPの伸び率は4・6%にとどまり、22年(4・8%)から鈍化するなど力強さは見られない。
不動産不況は出口が見えない。国際通貨基金(IMF)は2月、今後10年間の新築住宅の需要が、これまでに比べてほぼ半減するという予測を発表。生活不安から人々の消費が盛り上がらず、デフレ圧力は強まる。「世界の工場」として世界から投資を集めてきたが、23年の外国企業による直接投資は前年から8割も減り、30年ぶりの低水準に落ち込んだ。
世界は中国経済の先行きに不安を抱いている。IMFは今年の実質GDPの成長率について4・6%に鈍化すると予測。市場予想の多くも4%台と、中国政府が掲げた目標よりも低い。習近平(シーチンピン)指導部にとっては過去の急速な経済成長が国力につながってきただけに、成長率目標を昨年と同じ5%前後にすることで、中国経済への悲観論を打ち消したい狙いもありそうだ。
●EU、域内防衛産業の「戦時モード」転換策を提案へ 3/5
欧州連合(EU)欧州委員会は5日、ロシアとウクライナの戦争が続く中で、域内防衛産業を「戦時モード」に転換するためにEUとしての方策を提案する。
EU高官によると、ブルトン欧州委員(域内市場担当)は、加盟各国が域内企業から共同で武器を購入することを促進するほか、これらの企業の武器増産を図り、危機時には企業が欧州内の受注を優先できるようにする、といった具体策を打ち出す見通しだ。
ブルトン氏は「われわれはパラダイムを転換し、戦時経済モードに入る必要がある。これは欧州の防衛産業がわれわれの支援を受けつつ、より大きなリスクを背負わなければならないことを意味する」と訴えた。
さらにブルトン氏は、11月の米大統領選で北大西洋条約機構(NATO)に対する米国の関与に懐疑的なトランプ前大統領が返り咲く可能性もあり、欧州は独自の防衛力を高めることが不可欠だと指摘した。
ロシアによるウクライナ侵攻後、多くの欧州諸国は防衛予算を拡大してきた。しかしEU側は、一国ごとの努力では限界があり、防衛産業関連政策ではEUがより重要な役割を果たしたいと考えている。
これらの提案を実現するためには、EU加盟27カ国と欧州議会の承認が必要となる。
●洪錫R氏「金正恩、中ロ密着は危険な賭け…キューバの選択を省察すべき」=中央日報−CSISフォーラム 3/5
中央ホールディングスの洪錫荽(ホン・ソクヒョン)会長は4日の開会の挨拶で、北朝鮮がウクライナ戦争などで有利になった国際情勢を過信して中ロに密着して周辺国を威嚇する行為を「危険千万な賭博」と懸念した。「核を持っている金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は米国が2つの戦争と大統領選挙に対応するために余力がないという弱点を狙うだろう」とする診断もあわせて出した。
続いて「中国が援助を減らすか中断する場合、北朝鮮には災難になる」としながら「ロシアの北朝鮮に対する援助も、ウクライナ状況が落ち着けば中断されるかもしれない」と北朝鮮に警告した。
洪氏はまた「北朝鮮がいくら核とミサイルで武装しても人民は衣食住不自由なく豊かに暮らすことはできない。世襲独裁政権の未来も保障されない」と述べた。あわせて最近北朝鮮の兄弟国・キューバが韓国と修交したことに言及して「北朝鮮はキューバがなぜこのような選択をしたのか、省察しなければならない」と強調した。
洪氏は「台湾海峡の緊張も高まっている」とし、中国の台湾侵攻の可能性が韓半島(朝鮮半島)にもたらす危機状況についても指摘した。「台湾海峡の危機は北朝鮮の誤判断を招く可能性がある」としながらだ。続いて「台湾を巡る米中衝突は『起きるのか、起きないのか』の問題ではなく、『いつ』の問題で、最初のAI戦争になるだろう」と展望した。また「世界の随所で戦争の可能性が高まった」とし「我々はカントが『戦争は、悪人たちを除去する以上に、むしろ悪人たちを作るがゆえに悪いものである』と話したことを覚えておかなくてはならない」と述べた。
洪氏は「今年は韓米相互防衛条約発効70年を迎える年」とし「韓米日は中ロ朝の挑発の可能性に備えて平和のための実質的な解決策を模索しなければならない」と注文した。
●ウクライナ国防相、米国防長官と協議 戦況や軍のニーズ巡り 3/5
ウクライナのウメロフ国防相は4日、ロシアとの戦況や武器供給についてオースティン米国防長官と協議したと明らかにした。ウクライナ軍のシルスキー総司令官も参加した。
ウメロフ氏は前線の現状についてオースティン氏に説明したとし、「ウクライナ軍のニーズに応え、軍の能力を高めるために協力している」とテレグラムに投稿した。
シルスキー氏はウメロフ氏と共にシャップス英国防相と英軍のラダキン国防参謀長とも協議したと明らかにした。ウクライナ軍のニーズや、パートナーの支援による海軍能力向上などを中心に話し合ったという。
●ロシア南部の鉄道橋「爆破で使用不能に」 ウクライナ当局 3/5
ウクライナ東部ドネツク州の町、クラホベで3日、ロシア軍による攻撃があり、捜査当局によると、これまでに16人の負傷が確認されました。また、ロシア国防省は4日、米国がウクライナ軍に供与した戦車エイブラムス1両とブラッドレー歩兵戦闘車3台を破壊したと発表しました。
一方で、ロシア南部サマラ州チャパエフスク近郊では、鉄道橋が損傷しました。ウクライナ国防省の情報総局は4日、「爆破されて使用不能になった」とSNSに投稿。誰が爆破したかについては言及を避けました。 ・・・
●無人艇攻撃でロ哨戒艇損傷とウクライナ 3/5
ウクライナ国防省情報総局は5日、ウクライナ南部クリミア半島脇のケルチ海峡周辺で4日夜から5日未明にかけて、ロシアの哨戒艇「セルゲイ・コトフ」を無人艇で攻撃し、損傷させたと発表した。
●ウクライナ、30カ国超と締結へ 首相が安保2国間協定で見通し 3/5
ウクライナのシュミハリ首相は4日、G7メンバー国などがウクライナと相次いで結んでいる安全保障協力に関する2国間協定について、最終的に30以上の国と締結するとの見通しを明らかにした。首都キーウで記者会見した。「日本とも交渉している」と述べ、将来的な締結に自信を示した。
ウクライナは今年、G7メンバーの英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの5カ国に、デンマークとオランダを加えた計7カ国との間で2国間協定を結んだ。
シュミハリ氏は、NATOの全加盟32カ国と協定を結ぶ見通しだと説明した上で、NATO以外の日本などとも交渉を進めているとの考えを示した。 
●ナワリヌイ氏の葬儀が「反戦デモ」に 群衆に聞いた”不服従”の声「諦めない」 3/5
3月1日、冬の分厚い灰色の雲に覆われたモスクワ南東部「悲しみの癒し」教会。2月16日に獄中で死亡したロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の葬儀には大方の想定を超える多くの市民が集まっていた。独立系の調査プロジェクト「ホワイト・カウント」によれば、その数は少なくとも1万6500人に上るという。
驚くのは、その人数の多さだけではない。集まった人たちは、葬儀が行われた教会から埋葬先の墓地までおよそ3キロの距離を「反戦」のシュプレヒコールを上げて行進したのだ。その間、治安部隊はほとんど実力を行使しなかった。むしろ交通を整理し、年寄りを気遣った。こんなことは、プーチン政権によるウクライナ侵攻後の2年間ではじめての出来事だ。
現場では、一体なにが起こっていただろうか? 集まった人々はどのような気持ちでやってきて、そしてどのような思いを共有したのだろうか? 人びとの息づかいは、ロシアが大きく変わりつつあることを予感させるものだった。
教会を包み込んだシュプレヒコール
人の集まりは早かった。
葬儀は午後2時開始予定だったが、午前11時にはすでにモスクワ市南部マリイノ地区にある教会には葬儀に参列しようと長蛇の列ができていた。列に並んでいる中年の女性は、やってきた理由を「市民の義務だと考えているからです」と胸を張った。
ナワリヌイ氏が求めたようにロシアの社会を変えることが可能だと思うかと尋ねると、こう答えた。「おそらく可能でしょう。ただし難しいです」
午後1時45分ごろ、ナワリヌイ氏の棺(ひつぎ)を載せた霊柩車が、群衆と治安部隊の隙間を縫うようにして教会に到着した。霊柩車から棺が出され教会に運び込まれる様子は、100メートルほど離れたところにいた群衆の目にも入った。
みな静まり返り、固唾をのんで棺の行方を目で追っていた。その時、不意に声が上がった。「ナーワーリヌイ!ナーワーリヌイ!ナーワーリヌイ!」
とっさに声の方を向くと、ピンクの2本のバラをわきに抱えた男性が棺に向かって叫んでいる。そのかけ声はまるで波のように周囲の人々に広がっていく。あっという間に教会の反対側に並んでいる群衆にまで伝わり、大合唱となる。
振り向くと、右隣の老女は手で口を覆い顔を真っ赤にして嗚咽するようにナワリヌイ氏の名前を呼んでいる。
群衆の目の前には、機動隊員が隊列を作ってにらみをきかせている。黒いフェイスマスクで顔を覆い、分厚い防弾チョッキを着て、警棒を持った機動隊員の姿は立っているだけで威圧的だ。さらに時間を追うごとに周辺に待機していた機動隊員が次々と投入される。
だが、掛け声の内容は、徐々に激しさを増す。「君は恐れなかった、私たちも恐れない!」
シュプレヒコールの波がいったん収まると、また他の誰かが別の掛け声を上げる。「屈さない!あきらめない!」「許さない!」
言葉の多くは、ナワリヌイ氏が生前にロシアの人びとに語り掛けていたものだ。プーチン政権に対峙してきたナワリヌイ氏の遺志を継ごうとする意志だとも読み取れる。その言葉を集まった何千もの人々が力を込めて発している。
ナワリヌイ氏の葬儀が限られた関係者のみで教会内で行われている間中、集まった人々は声を上げ続けた。ともに声を発することで、奇妙な一体感に包まれる。
興奮を隠しきれない男性が、誰かに電話をかけ始めた。友人か恋人のようだ。「思った通りだ。インターネットは全く使えない。今すぐこの映像を送ってあげたいんだけど、ネットが使えないんだ。後で必ず送るよ」
男性が言う通り、葬儀会場周辺は妨害電波が出されているようで、インターネットはほとんど機能しなかった。加えて、黒づくめの男たちがビデオカメラを観衆に向けて撮影している。顔認証で、身元を割り出そうとしているのだろう。
それでも、人々は声を上げ続け、いつしか、直接反戦のメッセージへと変わっていた。
「戦争反対!戦争反対!」
葬儀からデモ行進へ
教会の中で執り行われた葬儀は20分程度と短かった。
集まった市民らのほんの一部しか教会の中に入れないうちに、再び棺が霊柩車に積まれた。
葬儀の前日、ナワリヌイ氏の広報担当のキラ・ヤルミシュ氏はSNSに「教会から墓地への行き方」とだけ記して簡単な地図をアップしていた。霊柩車が3キロ南にあるボリソフスコエ墓地へと出発すると、ナワリヌイ氏のチームの狙い通りのことが起こった。
教会に集まった人たちが、霊柩車を追うようにシュプレヒコールを上げながら墓地へと歩き始めた。まさに大移動だ。
群衆は、どんよりと重たい灰色の冬空の中を、赤、黄色、白、色とりどりの花を頭上に掲げながら、「戦争反対!」「ロシアは自由になるんだ!」「プーチンはロシアではない」と声を上げながら墓地へと歩いた。
ナワリヌイ氏の葬儀は、事実上の「反戦・反プーチンデモ」になっていた。
「何万人もいる!」男性は興奮を隠せなかった
一体、どれほどの人が行進を始めたのか、その時、現場では全く分からなかった。「何千人くらいるのだろう?」
思わずつぶやくと、隣にいた男性が興奮気味に語りかけてくる。「“千”じゃない、少なくとも1万はいるよ。さっき数えたらあの一角だけで200人いたんだ。あそこだけで200だ。その50倍はくだらないだろ。教会の裏側にももっとたくさんの人がいるんだ。もっとたくさん来ている!」
厳しい弾圧にもかかわらず、これだけの人が集まったのは、ロシア社会に「反戦」「反プーチン」の世論が高まっていることを示している。「ロシアは変わると思いますか?」「わからない。わからないけれど、まだあいつら(治安部隊)は手出しをしていない。これだけ集まると手出しをできないんじゃないか」
男性は、治安部隊を指さしながら小声で、早口に言った。
クールな金髪の青年
そんな会話が気に障ったのか、近くにいた金髪の青年は少し冷めた様子で言った。「ネムツォフですら変えられなかったんだ」
その青年は、かつてプーチン氏の政敵だった野党指導者ボリス・ネムツォフ氏の支持者で、彼が9年前に暗殺された際には、抗議活動に積極的に参加していたという。しかし、その活動も厳しい弾圧により潰された。
それ以来、青年はプーチン支持でもなく、野党支持でもなく、政治から距離を置いてきたという。それでも、ナワリヌイ氏の葬儀がどれほどのものなのか、興味をひかれて見に来たそうだ。「思ったより多いな…」
そうつぶやき、行進する人の波にじっと見入っていた。
ナワリヌイ氏を支持するわけではないけれど…
声を上げる群衆から少し離れたところに紫の花を握りしめている髭の男性がいた。
話しかけると、コートの上着でさっと顔を隠し、「危険には巻き込まれたくないんだ」という。葬儀の場に来ることも悩んだ末のことだったようだ。それでも、質問に応じてくれた。
彼は、ナワリヌイ氏のやっていることに100%賛成しているわけではないという。そしてこう続ける。「盗人プーチンにこれだけの手を焼かせたという点において、アレクセイ・ナワリヌイは、尊敬に値します。彼は犠牲を払う覚悟があったのです。だから、この行為は彼へのオマージュです」
ナワリヌイ氏は、自らの命を懸けてプーチンと対峙した。自らもたとえ危険でも葬儀に参加することがナワリヌイ氏への追悼なのだと思ったようだ。
これまで、ナワリヌイ氏の行動に同情をしつつ、しかしただ遠巻きに見ていただけだった人たちも、いてもたってもいられず、花を手向けにやってきているようだ。
市民が治安部隊を凌駕した?
「反戦」を叫ぶ群衆が、墓地へと近づくと、治安部隊の数も一気に増える。
完全武装をした機動隊員が道なりにずらりと並んでいる。警察は拡声器で、地下鉄の駅へ向かうよう繰り返す。しかし、献花にやってくる人の波は絶えない。まるで機動隊員らを無視するかのように、墓地を目指す。
独立系メディアによると、夜9時には警察は墓地を閉めるとアナウンスを始めたが、抵抗する人々に押され、そのまま墓地を開放し続けることになったという。
プーチン政権が葬儀を許した謎
ロシアの治安当局は、デモなどを未然に防ぐ狙いで、法律で「無許可の集会」を禁止している。たとえそれがどう見ても「集会」でなくても、複数の人が集まり「反戦」の声を上げるなどすれば、途端に違法な集会だとみなして拘束してきた。
しかし意外にもナワリヌイ氏の葬儀では、治安部隊はほとんど実力を行使しなかった。治安部隊が大規模な行進を事実上認めたのがなぜなのかはわからない。
集まった人数が想定以上に多く、弾圧をすれば事態が悪化すると考えたのだろうか? あるいは、あえてナワリヌイ氏の支持者を割り出したのかもしれない。
教会と墓地には事前に多数の監視カメラが設置され、黒い服に身を包んだ何人もの男たちが熱心にビデオカメラで群衆を撮影していたのは不気味だ。顔認証システムで身元を割り出すことは難しくなく、今後、身元を特定された人が職場などで圧力を受ける可能性も捨てきれない。
ただ、当局は当初拒んだものの、ナワリヌイ氏の母リュドミラさんの芯の強い交渉により、結局は遺体を引き渡した。また、モスクワでの葬儀の実施を認めたことなどからも、政権側が絶対的ではなく、反体制側の意向を飲み込まざるをえない状況になっているとも読み取れる。
ナワリヌイ氏の埋葬後の翌日以降も、献花は続いている。墓は週末には完全に花で埋まってしまった。3月4日、月曜の昼間にもかかわらず、人々は墓に足を運び、花を供えていた。
そして、だれもが「来なければならないと思った」と口をそろえた。
大統領選挙当日に勝負をかけるナワリヌイ氏陣営
ナワリヌイ氏のチームは今、3月17日、モスクワ時間の正午に大統領選挙の投票に来るように呼びかけている。
表立ってデモを呼びかければ、治安部隊は力づくで、開催自体をつぶしにかかる。おととし9月にはデモを計画してSNSで時間と場所を告げ、参加を呼び掛けると、その時刻になる前から治安部隊が圧倒的な数でやってくる人々を次々に拘束し、人が集まることすら許さなかった。
だから「大統領選挙のための署名」や「献花」、「葬儀」といった政権が拒否することができない場を利用してナワリヌイ氏のチームは「反戦」「反プーチン」の意志を示すという手段を用いてきた。次のチャンスが「大統領選挙への投票」だ。
ロシアの国民は誰もが、投票期間に投票所に行く権利を有している。この権利を最大限利用して意思を示そうというのが、17日正午の投票行動の意味だ。職場などで電子投票を強要されたとしても、12時に投票所に集まってほしいと呼びかけている。
17日モスクワ時間の正午にロシア全土の投票所に人びとが集結した時、どのような事態が起こるのだろうか。それはロシアの分かれ道となるかもしれない。
●侵攻参加者を指導層登用へ ロシア大統領、長期戦視野に 3/5
ウクライナ侵攻を続けるロシアで、侵攻作戦の参加者を国や地方自治体、国営企業などの幹部に登用するプログラムが1日から始動した。交戦長期化を視野に作戦の経験者を社会の指導層に取り込むとともに、除隊後の昇進の道を用意して軍志願者を確保する狙いがあるとみられる。
「英雄の時代」と名付けられたプログラム開始は2月29日の年次報告演説でプーチン大統領が明らかにした。
大卒で、侵攻作戦に直接加わった国民は専用サイトを通じて願書を提出できる。選抜されれば、政府に付属する行政分野の人材育成機関で将来の幹部候補生として教育が受けられる。大統領府幹部や閣僚、知事らが直々に教官役を務めるという。
ロシア新聞電子版は2日、受け付け開始から24時間で1万4千以上の願書が提出されたと伝えた。
年次報告でプーチン氏は、前線で戦う兵士らを「真の英雄」と称賛。「彼らこそ教育機関や国営企業、国家機構や自治体で責任ある立場に就くべきだ」と強調した上で「1990年代に金もうけをし社会に何の貢献もしない連中はエリートではない」と述べた。

 

●ロがEU諸国大使を非難、ナワリヌイ氏葬儀参列も外相会談拒否で 3/6
ロシア政府は5日、モスクワに駐在している欧州連合(EU)諸国の大使が反政府活動家ナワリヌイ氏の葬儀に参列しながら、ラブロフ外相との会談を拒否したことについて、内政干渉に勤しんでいるなどと非難した。
ロシア側によると、15―17日の大統領選を前にEU諸国大使とラブロフ外相が話し合いを持つ場を設定したものの、拒絶された。
これを受け同国外務省の報道官は国営テレビ番組で、ラブロフ氏との会談拒否はこれらの大使が内政干渉を行いつつ、本来果たすべき外交官としての役割よりも「パフォーマンス」に重きを置いている様子が浮き彫りになっていると指摘した。
さらに「誰の目にも疑問が生じている。彼らは何をやっているのか。自らの最も大事な権能を行使しないとすれば、ロシアにおける自分たちの仕事をどう受け止めているのだろうかと」と述べた。
●OPECプラス「価格安定」目指す=ロシア大統領 3/6
ロシアのプーチン大統領は5日、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」が目指しているのは価格安定であり、際限のない価格引き上げではないと述べた。インタファクス通信が報じた。
プーチン大統領は「産油国にも消費国にも悪影響が及ぶため、際限のない価格引き上げは行われない。われわれは安定を望んでいる。これまでのところ安定を実現できている」とし、OPECプラスの決定は「市場価格を調整する」ためのものだったとの認識を示した。
OPECプラスは3日、日量220万バレルの自主減産を第2・四半期も延長することで合意。ロシアは第2・四半期に原油生産・輸出を追加で日量47万1000万バレル削減する。
●ICCがロシア軍司令官2人に逮捕状 プーチン大統領に続き 3/6
ICC(国際刑事裁判所)は、ウクライナの電力施設に対する攻撃が国際法上の戦争犯罪にあたるとして、ロシア軍の司令官2人に逮捕状を出した。
逮捕状が出たのは、ロシア航空宇宙軍のセルゲイ・コビラシ司令官とロシア海軍のビクトル・ソコロフ司令官。
ICCは、2人は2022年10月から翌年3月までの間に行われたウクライナの電力施設に対するミサイル攻撃について、「責任があると信じるに足る十分な根拠がある」としている。
ICCは、電力施設への攻撃は、軍事的利益と比較して過剰な被害を民間人にもたらしたと説明している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、SNS上で「このような犯罪の加害者はすべて、責任を問われることを知らなければならない」とコメントし、今回の決定を歓迎した。
ICCは2023年3月、プーチン大統領にも逮捕状を出しているが、ロシアやアメリカなどが管轄権を認めていないことから、プーチン氏や今回の2人の司令官が実際に逮捕される可能性は極めて低いとみられている。
●「誰もプーチンを止める方法を知らない。必要なのは武器、そして侵略犯罪を裁く特別法廷」ノーベル平和賞受賞団体・代表が語る ウクライナ侵攻2年 3/6
ウクライナで、ロシア軍による民間人の殺害などの戦争犯罪を特定し、立証するために記録する取り組みを続けているのが、人権団体「市民自由センター(CCL)」です。2022年、その功績が認められ、ノーベル平和賞を受賞しました。その代表を務める、オレクサンドラ・マトビチュクさんが2月下旬、ウクライナの首都・キーウにある事務所でインタビューに応じました。戦争の長期化で、彼女たちの活動はどう変化したのか。国際社会に訴えたいこととは。Q&A形式でお伝えします。
Q.ロシアによる軍事侵攻が始まってから2年が経ちます。ウクライナでは民間人の死傷者は増え続け、ロシアによる戦争犯罪も増え続けています。皆さんの活動にはどのような変化がありましたか?
ロシアによる大規模な侵略が始まり、私たちは前例のない数の戦争犯罪に直面しました。ロシアが戦争犯罪をおかすのは、恐怖を植え付けるというメッセージです。ロシアがウクライナの人々の抵抗を断ち切ろうとしているのです。
私たちは、さまざまな地域の数十の組織と力を合わせ、ネットワークを構築し、この2年で6万4000件以上の戦争犯罪を記録しました。
Q.年月が経過することで、犯罪の数も増え続け、記憶をたどること、証拠を記録することは、より困難になっているのではないですか?
専門的な側面から言えば、私たちが直面しているのは、人間の苦痛です。私たちが記録するのは、例えば、生まれたばかりの子供を失った母親の悲しみです。この母親の痛みを記録することは、肉体的にも精神的にも消耗します。私たちは、人間として普通の生活と呼ばれるすべてのものを失った、ということです。
また、犯罪の「数」も困難な点です。ウクライナ検察は12万件以上の戦争犯罪について捜査を開始しました。戦時下にあって12万件もの犯罪を捜査する責任の重さを想像できますか?世界で最も優れた組織であっても、非常に困難です。国際的な支援が必要です。
そして、一番難しいのは、これらの犯罪を記録する目的は何なのか、という問題です。ロシアのプーチン(大統領)、ベラルーシのルカシェンコ(大統領)、そしてロシアの政治指導者と軍の最高司令部を「侵略の罪」で訴追できる国際的な裁判所はありません。しかし、残虐行為はすべて、この戦争を始めた指導者の決断に起因しています。将来的に戦争が起こることを防ぎたいのであれば、このような戦争を始めた国家とその指導者を罰する必要があります。だからこそ私たちは侵略犯罪を裁く特別法廷の設置に取り組んでいるのです。
Q.国際司法裁判所(ICJ)は暫定的な措置として、2022年3月にロシアに対し軍事行動の即時停止を命じました。しかし、その後もロシアは軍事侵攻を続けています。法の支配への信頼が揺らいでいるとの指摘もありますが、「法の支配の重要性」をどう考えていますか?
国際司法裁判所の判断というよりも、広い意味で、法律が機能していないということが問題です。平和と安全保障のための国際秩序がロシアの残虐行為を止められないのであれば、他の権威主義的な指導者が、侵略戦争を始めたらどうすればいいのでしょうか。これは、法の支配が機能していないということが問題なのです。しかし、私は弁護士として、これを成し遂げられると信じています。ロシアによるウクライナへの侵略を止めることに成功すれば、国際秩序が回復し、正義が示され、将来の戦争を防ぐことができるでしょう。
Q.国際秩序が機能するために、国際社会にできることは何でしょうか?
たくさんあります。ロシアによる大規模な侵攻が始まったとき、国際社会は「ウクライナが負けないよう支援しよう」と言いました。そしてウクライナは、自衛のための武器を手に入れ、ロシアに対する制裁措置が発動されました。そのおかげでウクライナは生き延びることができました。
しかし、近代的な戦車が供与されるのを1年以上も待ち、近代的な戦闘機を持たずに反転攻勢を開始しなければなりませんでした。侵略犯罪を裁く特別法廷の設置についても議論しているだけで、手続きは進みませんでした。特別法廷を立ち上げるには2年もあれば十分でした。
「ウクライナが負けないように支援しよう」というのと「ウクライナが勝つために支援しよう」というのは、大きな差があります。我々は脅威を認識し、この現実を受け入れなければなりません。
この戦争はすでにウクライナの国境を越えています。
北朝鮮はロシアに100万発以上の砲弾を供与しました。中国はロシアの制裁逃れを支援し、イランはロシアに無人機を供与しました※。「権威主義国」が互いに協力するなら、私たち「民主主義国」は、さらに強く助け合わなければならない。これは単なる2つの国家間の戦争ではなく、「権威主義」と「民主主義」という2つのシステムの戦争なのです。
※編集注:中国側はロシアの制裁逃れの支援を否定 / イラン側はロシアの軍事侵攻後の無人機の供与を否定
Q.ウクライナが勝利するためには何が必要ですか?現在の目標は何でしょうか?
まず、ウクライナへの日本の皆様からの支援に心から感謝しています。私たちに必要なのは、ロシアの凍結資産を没収してウクライナの支援に充てることです。これに対して、日本政府の賛成の声が必要です。
そして、プーチン(大統領)を止めるには、武器、そして政治指導者の勇気が必要です。
私たちは素手では戦えません。武器なしで強力な軍事力を持つロシアとどうやって戦うことができるでしょうか。不可能です。(机に飾ってある)この花では戦えない。ロシアの戦車に花を挿すことはできません。
プーチン(大統領)は、平和や停戦を必要としていません。平和的な交渉を行うという議論はすべて希望的観測にすぎません。誰もプーチン(大統領)を止める方法を知りません。
プーチン(大統領)は最近、アメリカのキャスター、タッカー・カールソン氏のインタビューに答えて、「ウクライナは存在しない」と言いました。これは大虐殺を意味し、我々を抹殺したいというシグナルです。
プーチン(大統領)はもう70歳を過ぎていますから、いずれ死ぬでしょう。しかし、戦争はプーチン(大統領)だけのものではありません。この戦争には他の多くのロシア人が関わっています。ですから、もし侵略犯罪を裁く特別法廷が設けられれば、処罰されないままではいられないというシグナルになります。そして戦争では、何千、何万もの命を救うことができます。これは達成すべき目標です。
●激化する「ハイブリッド戦争」…ロシアに傍受され世界に暴露された「ドイツ空軍幹部の協議」の中身とは 3/6
ドイツ公共放送ARDは、3月2日、ウクライナ支援に関するドイツ軍幹部の協議が傍受され、ロシア側に漏洩したと報じた。一体、何が話されていたのか――。
ロシアによる傍受内容
3月1日にロシア国営テレビ(RT)がその協議内容をネットで暴露した。
38分間の録音内容には、ウクライナが供与を求めているドイツ空軍の射程500kmの長距離巡航ミサイル「タウルス」についての議論が含まれている。
ドイツ空軍トップのインゴ・ゲアハルツ総監らが、ピストリウス国防大臣に報告する内容を準備するために、2月19日に民間のウェブ会議システム「Webex」を使った協議を行ったが、それをロシア側に盗聴されたようである。
協議内容は、タウルスをウクライナに供与する可能性、その場合の輸送方法・輸送所要時間・ウクライナへの訓練などである。供与に必要な時間は、軍が行えば8ヵ月、民間メーカーが提供すれば6ヵ月が必要だという。また、訓練は、通常3〜4ヵ月、既に技術を持っている兵士の場合は12週間が必要だという。
また、クリミア半島とロシア本土を結ぶケルチ橋やロシア軍の弾薬庫をタウルスで攻撃するケースについても議論され、橋脚が細いので命中させるのは難しいという話もあった。
さらには、イギリス製やフランス製のミサイル使用の可能性についても議論されている。イギリスがウクライナに供与した英国製巡航ミサイル「ストームシャドー」の訓練のために、英軍スタッフがウクライナで活動しているとも語られている。
ロシア外務省は、この件に関してドイツ政府の説明を求め、「迅速な対応を拒む全ての試みは後ろめたさの表れとみなす」と強硬な態度を示している。
ウクライナへのタウルスの供与を拒否してきたショルツ首相は、「非常に深刻な問題」として危機感を示しており、「注意深く、集中的かつ迅速に調査を進める」と述べた。ドイツ政界でも大きな問題となっており、野党議員は、「他の重要な会話も傍受されている可能性があり、後日リークされるかもしれない」と批判を強めている。
古典的手法とSNS時代
この情報漏洩事件には、二つの側面がある。一つは古典的な「盗聴」という手法である。諜報の初歩的手法は電話などの盗聴である。
ソ連邦の時代には、ホテルなど全ての電話、部屋での会話が盗聴されていることを前提にして行動せねばならなかった。たとえば、1956年10月19日に日ソ共同宣言が調印されたが、平和条約交渉のために訪ソした鳩山一郎、河野一郎らは、大事な話は外の公園などで行ったという。
今のロシアや中国でも、電話が盗聴されていることを想定して行動したほうがよい。特に中国では、スマホ、AIなどの先端技術を駆使した監視社会化が進んでおり、店で購入した品物から散歩の経路まで全て当局に把握されている。
今回のドイツの事件は、Web会議が盗聴されたものである。日本でも多様なシステムが活用されているし、私もよく使う。テレビ番組の打ち合わせ、対談などであるが、国家機密に関わるような内容ではないので、利便性を優先させている。
しかし、テレビ局によっては安全性(security)の観点から、特定のWeb会議システムを排除しているところもある。ドイツ空軍が今回使ったWebexの他にもGoToMeeting、Wire、WhatsApp、Skype、Zoomなどがある。
今回のドイツ空軍の問題は、空軍内の閉鎖的システムではなく、民間のシステムを使ったことである。諜報機関にとっては、そのセキュリティを破るのは簡単であろう。
人類が電話を使うようになってから、盗聴に注意することは諜報機関にとっては当然のことになっている。その古典的基本を守らなかったドイツ空軍には呆れてしまう。スパイの存在も示唆されているが、Web会議も電話と同様な注意をしなければならない。
しかも、SNSが発展した今日、ロシア国営テレビの発信は、東京にいる私でもすぐ受信して視聴することができる。ロシアは、ドイツの恥を世界に晒すことができるのである。
また、ロシアは、ウクライナに対してドイツ、そして西側がどのような支援、工作を行っているかを世界に向かって暴いた。暴露する情報もロシアに都合の良いものだけを選択することが可能である。
フランスのマクロン大統領がウクライナへの西側の地上部隊派遣の可能性について言及した直後であるだけに、ドイツがタウルスの供与を考えていることを示すことによって、ロシアは「西側こそ戦争拡大を画策している」というプロパガンダを強化することができる。
「ハイブリッド戦争」とは何か
相手の国を攻撃し、征服しようとするとき、外交、経済的締め付け、プロパガンダ、サイバー攻撃、テロなどと正規軍による戦闘を組み合わせて戦う手法を「ハイブリッド戦争」という。
古代から戦争とはそのようなものであったのだが、最近、この用語が流行している。それは、コンピュータの発達で、サイバー攻撃が注目されるようになったからである。
たとえば、電力会社のコンピューターにハッカーが侵入し、電力供給を停止させれば、社会機能が失われる。その状況で、軍事力を使って攻撃すれば、大きな勝利を得ることができる。このように「非正規戦と正規戦の組み合わせ」で戦争を遂行することを、ハイブリッド戦争と呼ぶ。
そこで、国を防衛するためには、サイバー攻撃への対処が必要となっている。社会インフラを守るためには、敵からのサイバー攻撃を撃退せねばならないのであり、毎日のように、凄まじいサイバー戦が繰り広げられている。
このハイブリッド戦争が注目されたのは、2014年3月のロシアによるクリミア併合時である。併合の前、ロシアは民間人を装った特殊部隊をクリミアに潜入させ、通信網を遮断したり、停電を起こしたり、携帯電話を通話不能にしたり、嘘の情報をSNSに流したりして、クリミアを混乱に陥れた。
このようなサイバー攻撃によって、ウクライナ軍が抵抗できないままに、ロシアによるクリミア併合が実行されたのである。このウクライナ併合以来、ハイブリッド戦争という言葉が広く流布されるようになった。
ロシア系住民が多いクリミアで住民投票を使い、まず独立国とさせ、その上で併合させるという政治工作もまた、ハイブリッド戦争の一端だと見てもよい。
ハイブリッド戦争の最前線
モルドバもまた、ロシアによるハイブリッド戦争の戦場となっている。
モルドバのウクライナ国境周辺には、ロシア系住民が多く住む沿ドニエストル(トランスニストリア)共和国がある。国際的には独立国として承認されていないが、ロシアの支援を受け、1500人のロシア軍が駐留している。
2月28日、沿ドニエストル共和国は、「全階層の議員による会議」を開き、経済的圧力を強めている親欧米・反露のモルドバ政府による迫害から守ってくれるようにロシアに求める決意を採択した。
昨年の2月13日、モルドバのマイア・サンドゥ大統領は、ロシアがモルドバでクーデターを計画していると指摘した。
軍事訓練を受けたロシア人、ベラルーシ人、セルビア人、モンテネグロ人などが、政府機関を攻撃して人質をとり、現在の親西欧政権を打倒し、ロシアの傀儡政権を樹立しようとしているという。情報源は、ウクライナの情報機関が傍受した通信である。
これに対して、ロシアは、このモルドバのクーデター計画公表を事実無根だと反論しているが、情報が敵側の傍受によって漏れるようでは、ハイブリッド戦争の時代には論外である。ドイツ、ロシア、ウクライナのみならず、世界中で盗聴、SNSなどを活用した情報操作、AIを駆使したフェイクニュースが飛び交っている。
今回の沿ドニエストル共和国の対露支援要請は、前回の情報漏洩から1年経ってもモルドバでなおハイブリッド戦争が続いていることを示している。当然、背後にはロシアがいる。
ウクライナは、ロシア、ベラルーシ、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバと国境を接している。そのうち、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアがNATO、そしてEUの加盟国である。モルドバは、ジョージアとともに、2022年3月3日、EUに加盟を申請している。
3月17日の大統領選で勝った後、プーチン大統領は、モルドバを支配下に入れ、東のドンバスから、ヘルソン、オデーサを経る広範な地域をロシア領とし、独立国ウクライナを消滅させるという夢を実現させようとしている。
情報戦は、今後ますます熾烈なものとなろう。
●プーチンが支持される理由 / 「エリツィンは欧米の手先」GDPマイナス14.5%の経済崩壊でロシア人が抱いた民主主義への失望 そして「独裁=安定」のプーチン登場へ 3/6
私がモスクワに滞在していた1995年、大統領の座についていたのはボリス・エリツィン氏だった。
ソ連共産党書記長だったミハイル・ゴルバチョフ氏を追いやり、ロシア共和国のトップとして、ウクライナ、ベラルーシとともに「独立国家共同体」を創設してソ連邦を崩壊に追い込んだエリツィン氏。改革派の旗手と目され、国民の絶大な支持を集めてロシアの初代大統領となったが、その成果は惨憺たるものだった。
多くの国民は、ヨーロッパのような豊かな暮らしが間もなく実現すると信じて疑わなかったが、エリツィン大統領らが1992年1月に導入した、「ショック療法」と呼ばれる急激な市場経済化は、ロシアの人々の暮らしを大混乱に陥れた。
商品価格を一気に自由化したため、ロシアの消費者物価は1992年だけで2600%も上昇するという「ハイパーインフレ」が発生。実質国内総生産(GDP)は14・5%もの下落を記録した。ロシアの通貨ルーブルは紙くずとなり、外資系企業や、エネルギー資源などの貿易に携わることができたごく一部の国民を除けば、先に指摘した年金生活者や公務員などを中心に、その生活は崩壊した。
エリツィン大統領はさらに、エネルギー関係を中心とした国有企業の資産の民営化に手を付けた。「バウチャー」と呼ばれる、実質的にそれらの企業の株式である小切手≠ェ国民に配られた。ウクライナに侵攻をしかけるロシア経済が現在も維持されているのは、ロシアが保有する莫大な資源と、その資源を海外に売る巨大企業があるからだ。しかし、多くの国民は、その意義を理解しなかった。
バウチャーを手にした国民は、その重要性がわからず、次第に道端に現れるようになった「バウチャー買います」との看板をぶら下げた人々に、数千ルーブルのはした金で自分が保有するバウチャーを売り払った。こうして、破格の値段で有望な国営企業の株式を買い占めた層が、のちにロシア経済を牛耳ることになる。国民はまたしても、だまされたのだ。
当時の私の周りにいたロシアの学生らは、いわばその上層≠ノ住む人々の子弟だった。中には、西側から輸入されたばかりであろうスウェーデン製のボルボの中古車を乗り回す知人もいた。寮は2人部屋だったが、最初に相部屋になった青年は、大学に通いながらアメリカの重工業メーカーのモスクワ支店で働いていた。彼らは間違いなく、特権階級だった。そのような知人らの大半は今、ロシアを去っている。
日本や西側で報道されていた、ソ連崩壊後の壮大な民主化のうねりに感銘を受けてロシアに来た私のような学生は、その改革をリードしていたはずのエリツィン大統領の人気が凋落し、さらに目前(1996年)に迫った大統領選を前に、ロシア共産党を率いるゲンナジー・ジュガーノフ氏に大統領選で敗れる可能性が実際に浮上していた事実を、信じられない思いで見ていた。
ただ、それは多くのロシア人にとって、当然の結果だった。大統領選では最終的に、新興財閥の助けを得て、アメリカ流の選挙戦略を導入した結果、かろうじてエリツィン大統領は勝利したが、それでも多くの人々の目には、エリツィン大統領は欧米の手先と映り、彼が推し進めた「民主化」に失望した。
ウクライナの国際政治学者、グレンコ・アンドリー氏はエリツィン大統領の手法をめぐり「ロシアの民主主義というものは、ソ連末期に当時のゴルバチョフ・ソ連大統領との対立軸を作ろうとしたエリツィン・ロシア共和国大統領が、その理論武装のために掲げ、生まれたに過ぎない」と断じている。
当時は、多様なテレビ番組や新聞が現れてさまざまな勢力が主張を戦わせていたが、実際にはエリツィン大統領のもとで国家資本を牛耳ったオリガルヒ(新興寡占資本家)が政党やメディアを抱えて勢力を競っていたのが実態で、そのような「民主主義」に人々は失望した。
2005年、再びロシアへ
ロシアの地を再び踏んだのは、1996年に帰国してから9年後の2005年だった。産経新聞の姉妹経済紙、「フジサンケイビジネスアイ」の記者となり、ワールドビジネス面を担当していた経緯から国営ロシア通信などと仕事上の付き合いがあり、ロシアの産業事情を広範に取材するプレス・ツアーの申し出があったためだ。
決して、宣伝めいたことを書くつもりで行ったわけではないが、街の激変ぶりに度肝を抜かれた。
モスクワ市内には欧米やトルコのスーパーマーケットの進出が相次ぎ、市民の携帯電話保有率は100%を超えていた。日米の自動車メーカーが工場建設に動き出し、家電店は主に韓国メーカーの家電であふれかえっていた。モスクワでは、1台十数万円もするテレビが売れ筋となるなど、新興経済国としての勢いに満ちていた。日本企業もロシア市場の開拓に本腰を入れ、さまざまな企業がロシア進出を推し進めていた。
信じられない変化に愕然とする私を見て、通訳を務めた国営ロシア通信の若い記者の方が驚いていたほどだった。
私は帰国後、「ザーフトラ(ロシア語で明日の意味) ロシア経済の明日」と題した6回の連載企画を執筆した。当時の記事には、そのような強い驚きが文章にあふれている。
「トヨタ自動車が日本の自動車メーカーの先陣を切ってロシアへの工場建設を決めたのを機に、対ロシア進出に慎重だった日本企業が熱い視線を送り始めた。ソ連崩壊から15年、原油や天然ガス、希少金属(レアメタル)などの資源輸出で経済発展を遂げるロシアは今、世界の一大消費市場に変貌しようとしている。欧米企業などに比べ出遅れ≠ェ指摘される日本企業の今後のビジネスの展開と、ロシア経済の明日の姿を現地に探った」
「強い指導者」プーチンの登場
ロシア経済の急激な変化は、どのようにしてもたらされたのか。この9年間で起きた変化にはふたつの要素があった。ひとつは、エリツィン氏からプーチン氏に大統領の座が引き渡されたこと。そしてもうひとつは、原油価格の高騰だ。
1990年代の混乱のロシアを率いたエリツィン大統領は、1999年12月31日に、突如辞任を表明した。エリツィン大統領のもとで、いったんは回復の端緒を見せたロシア経済だったが、1998年8月にはデフォルト(債務不履行)に陥り、街には再び失業者があふれた。
しかしエリツィン大統領は、サンクトペテルブルクで副市長を務め、1996年にクレムリン(大統領府)のメンバーとなっていたプーチン氏をひそかに後継者と定め、権力の移譲に向け入念な準備を進めていた。大統領代行となったプーチン氏は2000年3月の大統領選で圧勝する。その背景には、エリツィン陣営による徹底的な選挙キャンペーン、メディア戦略があったが、いずれにせよエリツィン氏と異なり健康的で、精力的に業務をこなすプーチン氏は強い支持を受けた。
エリツィン政権下でプーチン氏が首相に就任する直前の1999年には、ロシア南部チェチェン共和国の過激派が隣接するダゲスタン共和国に侵攻したが、これに対しプーチン氏は大規模な攻撃をかけるなど、「強い指導者」としてのイメージを国民に植え付けた。
プーチン氏はさらに、モスクワで相次ぎテロ事件が発生したことを受けて、チェチェン共和国への軍事侵攻に踏み切る。過激派に対し、汚い言葉も使いながら徹底的な制圧を約束するプーチン氏の姿は、人々の心をとらえた。
プーチン氏にはさらに、決定的な追い風があった。ロシアの主要輸出品である原油価格の高騰である。1990年代は1バレル=10〜20ドル程度で推移していた原油の国際価格は、世界的な金融緩和を背景にした原油市場への投機資金の流入や、顕著となっていた中国の急激な経済成長による石油需要の増大、さらに2003年3月のイラク戦争の勃発などを背景に急騰。リーマン・ショック直前の2008年には一時的に約147ドルにまで上昇する。
私が訪露した2005年は、依然としてロシア経済は回復途上であったとはいえ、急激な原油価格の上昇で急成長を見せていた。ロシアはそもそも、膨大な資源を保有する国家である。その国際価格が上昇すれば、経済が上向くのは当然だった。
そして、国民はプーチン大統領を経済成長の立役者≠ニみなした。これは、決して彼が成し遂げたことではなかったが、その恩恵に最大限あずかったことは明白だった。
「もう二度と、あのような混乱はごめんだ」
「民主主義」を旗印にロシアの初代大統領の座を射止め、国民生活を大混乱に陥れたエリツィン氏に対し、多くのロシア人は「二度と、あのような混乱はごめんだ」と胸に刻んだ。そして、エリツィン氏が頼ったのは西側諸国である。ロシア人の心には、欧米への拭い難い不信が植え付けられていた。
そこに登場したのが、ソ連国家保安委員会(KGB)出身という肩書きを持つプーチン氏である。大統領就任当初は、欧米との連携も是々非々の姿勢で進めていたプーチン氏だが、次第に欧米との対立を深めていく。さらに、国内においては独裁的な姿勢を強め、メディアへの支配強化などを通じ、ゴルバチョフ氏が実現させた「言論の自由」に対する制限を加えていく。
しかし、ロシア人の大半は、そのようなプーチン大統領の姿勢に強い疑問を持たなかった。「民主派」と呼ばれる勢力は排除され、ついには公然と西側のスパイ≠ネどとみなされるようになっていく。しかし、多くのロシア人はそのような事態に直面しても、プーチン大統領を支持しなくなることはなかった。
前述のグレンコ・アンドリー氏はそのようなロシア人の心理を「独裁=安定と考えている」と断じる。その背景には、1990年代の強烈な原体験があり、「民主主義になれば、社会がどうなるかわからない」とロシア人が考えている実態がある。
欧米に騙され、その手先となったエリツィン大統領はわれわれの生活を破綻に追い込んだ。二度と、そのような轍は踏まない──。
そのような考え方は、今回のウクライナ=欧米の傀儡≠ニみなし、ナチス≠ニまで言い切るプーチン大統領の発言と、強く同調していると感じられてならない。
●服さぬ者は消し去る ウクライナ侵攻に浮かぶ「プーチンの世界観」 3/6
ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻以降、よく言及する「大祖国戦争」とは、第2次世界大戦でソ連がナチスドイツを打ち破った「独ソ戦」を指す。壮絶な絶滅戦争として知られるこの惨禍の経験は、クレムリンの世界観にどう影響しているのか。「独ソ戦」の著書がある現代史家の大木毅さんに聞いた。
――プーチン政権はこの2年、第2次世界大戦で攻め込んできたナチスドイツを撃退して勝利した「独ソ戦」(1941〜45)に、よく言及しています。
「今回の戦争はどう見てもウクライナへの侵略戦争ですから、それを祖国防衛戦争に等値するという議論は荒唐無稽です。にもかかわらず、ロシア国民にはある程度の訴求力を持ちます。ナポレオン率いるフランス軍、といってもその実態はヨーロッパ諸国の軍隊を集めた多国籍軍だったのですが、それと戦った1812年戦役や、ロシア革命後に欧米の干渉で生じた戦争(1918〜20)。そうした侵略を経験したロシアでは、欧州は隙を見せればすぐ襲いかかってくる、という被害者意識が根強いからです」
「とりわけ約2700万人の死者を出した独ソ戦は『大祖国戦争』と呼ばれ、政権はその記憶をロシア国民に繰り返し想起させ、愛国心をあおってきました。旧ソ連崩壊後、超大国の座から転落したという屈辱も、ロシア国民の欧米観に影響しているでしょう」
――類のない陰惨な戦争だった独ソ戦について、著書で「世界観戦争」に発展したと分析されています。 ・・・
●ドバイでの仕事を約束されたインドの若者、騙されてロシアへ送られ戦闘に 3/6
・仕事があると騙されて、複数のインド人がロシア軍に入隊させられている。
・実の兄弟がドバイでの仕事を約束されていたのに、最終的にはウクライナと戦う前線に送られたと話す人もいる。
・約20人のインド人が戦争に巻き込まれていると見られている。
ドバイでの仕事を約束されたのに、騙されて、ロシア軍で戦わされているインド人がいるとル・モンドが報じた。
同様のスキームに騙されて、約20人のインド人がウクライナと戦う前線に送られたと見られている。
その1人がアーザード・ユスフ・クマールさん(31)だ。大学で科学を学んだクマールさんは、インド北部の自宅からドバイへと向かった。ファイサル・カーンという名前の男性が経営する人材雇用コンサルティング会社ババ・ブログスで働くためだ。
クマールさんはアラブ首長国連邦に着いた後、ここには仕事がないので、ロシアへ行って厨房で働かなければならないと言われたとクマールさんの母親はテレグラフに語った。
ところが、クマールさんが送り込まれたのは軍事基地で、そこで武器を使う訓練を受けさせられたという。
「しばらく連絡が取れなくなりました。20日くらい経ってやっと電話があって、自分は騙されてロシアのどこかに連れて来られたと言うんです。そこで2週間、10人強のインド人と一緒に武器を使う訓練を受けたそうです」とクマールさんの兄弟はル・モンドに語った。
「ロシア軍と一緒に前線の近くに配備されたと言っていました。会話をしたのは12月26日です。ずっと泣いていました。家に帰りたいと話していました」
別の被害者は、少なくとも3人のインド人が「軍の警備補助」として送り込まれた後に、ロシア軍のために戦わされているとインドメディアThe Hinduに語っている。
この男性もファイサル・カーンという人物を通じて仕事を見つけたと言い、戦場に送り込まれることはないと「明確に伝えられた」と話している。
ところが、基本的な武器の訓練を受けた後、男性はロシアのロストフ・ナ・ドヌに送られ、それからウクライナのドネツクに送られてそこで戦闘に加わるよう強いられたという。
男性はもともと仕事の報酬として約束されていたお金も一切受け取っていないと話している。その後、紛争地域を抜け出すことができ、凍傷で入院していたという。
男性は現在、モスクワにあるインド大使館に助けを求めているものの、「何度も拒否されている」と付け加えた。
インド外務省の広報担当は、政府はロシアで身動きが取れなくなっている人々の解放を確保するために取り組んでいるとテレグラフに語った。
「我々は最善を尽くしており、ここニューデリーでもモスクワでも、ロシア当局と定期的に連絡を取り合っている」
●ロシア高官「核戦争寸前に」、仏大統領のウクライナ派兵発言批判 3/6
ロシアのナルイシキン対外情報局長官は、ウクライナに北大西洋条約機構(NATO)の部隊を派兵する可能性に言及したマクロン仏大統領の発言について、世界を核戦争寸前の状態に追いやるものだと述べた。複数のロシア通信社が5日、ナルイシキン氏が国内テレビとのインタビューで語った発言を伝えた。
マクロン氏は先週、ウクライナに欧州諸国の地上部隊を派遣することについて、現時点で各国間でコンセンサスが得られていないものの、将来的には排除しないとの考えを示した。その後、米国と主要な欧州の同盟国が、ウクライナに地上軍を派遣する計画はないと表明した。
ナルイシキン氏は、「今回は仏大統領がそれに当たるが、欧州指導者の無責任さが浮き彫りになった」と指摘。「こうした発言は極めて危険で、既にわれわれを核戦争寸前まで追いつめている」と述べた。
●ロシアによる「電力インフラ」への攻撃、その実態は国際人道法上の問題 3/6
2月24日、ロシアがウクライナに本格侵攻してから2年が過ぎた。この戦争では、ロシアが民間人と民間インフラを無差別攻撃して戦争犯罪を犯した可能性があると報道されてきた。戦争が始まってから最初の冬、ロシアはある戦略を取った。米国務長官アントニー・ブリンケンの言葉を借りれば、「(ウクライナを)凍えさせて降伏させる」戦略で、電力インフラを攻撃して、ウクライナの人々から電気と暖房を奪おうとするものだった。
このほど、衛星画像と公開情報を使って、米政府の支援を受けたイェール大学の人道研究室、スミソニアン文化救済イニシアティブ、プラネットスケープAI、マッピングソフトEsriからなる協力組織である「紛争観測所」が、このロシアの戦略がどのくらいの規模だったのかをより明確に描き出す報告書を公開した。2022年10月1日から23年4月30日の間に、ウクライナの電力インフラが破壊される事例が200件以上あったことを研究者は突き止めた。その被害総額は80億ドル以上にのぼると見積もられている。紛争観測所の報告書によると、研究者が突き止めた223件の攻撃のうち、66件は信頼できる複数の情報源とデータによって裏付けられた。
民間に影響があるに違いない規模の攻撃
「わかったのは、前線への爆撃と前線ではない地域への攻撃にはパターンがあり、民間に影響があるに違いない規模だったことです」。そう語るのは、人道研究室の共同代表でありイェール大学ジャクソン国際関係大学院で教鞭をとるナサニエル・レイモンドだ。UNOCHA(国連人道問題調整事務所)は昨冬、ウクライナの送配電網への攻撃は、全土で「何百万もの」人々から電力を奪ったと推定していた。
今回研究者たちは、ウクライナ全土24州のうち17州で電力インフラが破壊された事実を確認して検証した。
電力インフラが受けた個別の被害を特定して記録することは研究者と調査官にとって非常に難しかった。ウクライナ政府はそれ以上の攻撃を防ぐため、どの施設が攻撃を受けて、どの施設が稼働しているかに関する情報を出さないようにしてきたからだ(このため、報告書もどの施設の被害を分析したかや破壊の程度について具体的になりすぎないよう注意を払っている)。だが、この制約ゆえに国際法違反を立証するために必要なデータを集め、検証することが難しくなる恐れもある。
方法論を公開したことで、レイモンドはさらなる調査が可能になることを期待して、こう言う。「共有するデータに共通の基準をもつことは、説明責任の前提条件です」
国際人道法は、民間人や学校や病院などの民間インフラへの攻撃を禁じている。だが、イェール大学で国際法を教えるウーナ・ハサウェイ教授は、発電所や発電インフラは悩ましい存在だと語る。なぜなら、電力が軍事に使われるか民間用なのか(多くの場合、両方)区別することは難しく、場合によっては不可能だからだ。このため、電力インフラを標的とすることが正当化される場合があるとハサウェイは言う。だが、戦争関係者は停電が続くことや発電所を爆破するようなことが民間人にどのような影響を与えるのか考える必要があると彼女は説く。ダムを爆撃したり開いたりするなどの「危険な力」を解き放つことは、戦争犯罪になりうるとも。
「これは明らかな違反行為です。仮にインフラの一部が民間と軍事の両方を支えているとしても」。ハサウェイは言う。
ロシアがウクライナの電力インフラを破壊しようとするのは、物理的な攻撃によるものだけではない。22年10月、この報告書が調査対象とした期間に、ロシア軍参謀本部情報総局所属のハッカー集団「Sandworm」が、ミサイル攻撃の間、数知れないウクライナ人を明かりのないブラックアウトに追い込んだ。Sandwormがウクライナでブラックアウトを引き起こしたのは、2015年以降、3回目のことだった。
戦場から離れた場所の攻撃を正当化できるか
紛争観測所が報告書に記した攻撃のなかには前線近くで発生したものもあるが、戦場から遠く離れたウクライナ最西端の都市リヴィウで発生したものもあったとレイモンドは言う。レイモンドとそのチームが確認した攻撃のうち128件は、攻撃されたタイミングにおいては紛争の最前線ではなかった場所で発生していた。
報告書は「攻撃が意図的なものであり、民間人に不当に大きな被害を与えていることを示しており、真実であれば国際人道法と武力紛争に関する法律違反です」と言うのは、米国務省広報官ラッセル・ブルックスだ。「影響を受けた地域の多くは前線から離れた場所であり、攻撃が正当化できる軍事目的に適ったものだったのか疑問を投げかけています」
ロシア高官のなかにはウクライナのインフラは正当な標的だと主張した者がいる。22年12月、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、エネルギー網を攻撃することでウクライナが西側諸国から提供された兵器を使えなくすると公言した。またこれとは別に、ロシアの国家院議員ボリス・チェルニショフによると、複数のロシア高官がウクライナの電力供給への攻撃は「報復攻撃」であると示唆したという。
「ロシアの高官が口にする弁明は、送配電網は正当な軍事目標であるとの主張から、具体的で直接的軍事目標というより民間への打撃を狙ったものであり、一般的な報復であるとする声明までさまざまです」と、レイモンドは言う。「これを記録しておくことが重要でした。彼らの意図を示しているから。たとえ、声明だけでは国際法違反を示すものではないとしても」
声明のなかには、ウクライナ政府が敗北を認めるよう圧力をかけるためにロシアが意図的に民間人を標的にしたことを示すものが複数あるとハサウェイは指摘する。「コメントの多くが、ロシアとロシア指導者たち、および軍幹部が、電力網への攻撃を実行する上で抱いた不法な目的を示すものだと思います」
報告書の中身は、それ自体で戦争犯罪の証拠になるものではないが、独立ウクライナ国際調査委員会(Independent International Commission of Inquiry on Ukraine)のような組織に強力な基盤を提供するとハサウェイは付け加える。「(報告書は)検事たちにとって、ロードマップとなるでしょう」 
●「それが分からないのか!」... 今年度のプーチン「核威嚇の恫喝」の本気度 3/6
ロシアのプーチン大統領は2月29日に年次教書演説を行い、NATOがウクライナに軍を派遣すれば核兵器を使用すると警告した。米欧に対するこれまでで最も露骨な威嚇で、「核兵器の使用と文明の滅亡を伴う紛争が起きる恐れがある。それが分からないのか」と、恫喝した。
プーチンの発言は、フランスのマクロン大統領がウクライナへの派兵の可能性に言及したことに対するものだ。プーチンは、ロシアがヨーロッパを攻撃するという観測を「ナンセンス」だと退けたが、外国軍が派兵されれば「悲劇的な結果」が起こると述べた。
フィナンシャル・タイムズ紙が2月28日に報じたロシアの機密文書によると、ロシアが戦術核兵器を使用する基準は公に認めてきたよりも低い。
敵が領土に侵入したり、戦略弾道ミサイル搭載潜水艦の20%が破壊された場合に核攻撃の開始を検討するとしている。プーチンは、ロシアの「戦略核戦力は臨戦態勢にある」とも述べている。
●プーチンの誤算、傷だらけでクリミア半島から逃げ出す黒海艦隊 3/6
ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始してから2年以上。ロシアのウクライナにおける最大の戦利品であったクリミア半島に対する支配には、亀裂が入りかけている。
ここ数週間、ウクライナ本土の戦いではロシア軍がかなりの犠牲を払いつつも大きな勝利をおさめているが、対照的に「ウクライナは黒海の戦いにほぼ勝利した」と、ロバート・マレット退役米海軍副提督は本誌に語った。
2022年2月以来、ウクライナ軍の攻撃でロシアの黒海艦隊はかなりの損失を被っている。2014年にロシアがクリミア半島を併合して以来、ウクライナはこの半島の奪還を誓っている。
過去10年間、ロシアはクリミア半島の黒海沿いの軍港を利用し、ロシアの勢力を越えてウクライナ南部にまで投射するつもりでいた、と元ウクライナ海軍大尉のアンドリー・リジェンコは言う。
だが、クリミア周辺でのウクライナの攻撃が成功しているため、ロシアの計画は頓挫しかけている。
ロシアは開戦後早い時期にウクライナ製と思われるネプチューン・ミサイルの攻撃で旗艦モスクワを失った。2023年9月には英仏製ストームシャドー・ミサイルの華々しい攻撃でロシアのキロ級潜水艦が破壊された。
ウクライナ海軍のドローンは今年2月、ロシアの誘導ミサイル搭載コルベット艦イワノベッツを破壊し、上陸用艦船数隻の撃沈に成功している。
失われたロシアの優位性
2月中旬、ウクライナは、ロシアのセバストポリ海軍基地の南東に位置するクリミア南部の都市アルプカの近くで、大型揚陸艦シーザー・クニコフを撃沈したと発表した。この攻撃によって、元から数が少なかったロシア軍の揚陸艦の艦隊がさらに縮小した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は攻撃の直後、「今日、われわれは黒海の安全を強化し、国民のモチベーションを高めた」と述べた。この種の艦船を失ったため、ロシア軍の上陸作戦はかなり難しくなる、とリジェンコは本誌に語った。
ウクライナは、ロシアのフェオドシャ港や、クリミア半島とロシアのクラスノダール地方を結ぶ重要なクリミア大橋など、クリミア東部まで攻撃範囲を拡大している。
3月5日未明、ウクライナ国防省情報総局(GUR)は、ロシアのプロジェクト22160哨戒艦4隻のうちの1隻であるセルゲイ・コトフに、ウクライナ国産のマグラV5水上ドローンが突っ込んでいるように見える映像を公開した。ウクライナによると、同船はロシアが占領するクリミアとロシア南西部を隔てるケルチ海峡の近くにいた。地元情報筋はクリミア大橋が一晩閉鎖されたと伝えた。
GURはソーシャルメディアへの投稿で、この艦船は「船尾、右側面、左側面に損傷を受けた」と付け加えた。
イギリスのグラント・シャップス国防相は昨年12月、ロシアは過去4カ月で黒海艦隊の20%を失ったと述べ、「ロシアの黒海における優位性は、今や疑わしい」と、語っている。
海軍のドローンと西側から供与された巡航ミサイルを駆使するウクライナの執拗な攻撃は、ロシア海軍を黒海の東に押しやり、クリミア半島周辺のロシア占領地域の安全を脅かしている。
「ロシアは東に移動するしかない」と言うのは、ウクライナ軍トップの元特別顧問で、現在はアメリカン大学キーウ校の学長を務めるダニエル・ライス。だが、そうすることでロシアはクリミアに対する支配力を失うことになる、と彼は本誌に語った。
ロシアは黒海東部の港湾インフラの拡張を余儀なくされているが、それはクリミア周辺の施設(セヴァストポリにある基地や軍港など)が危機に瀕しているからだ、とマレットは言う。
ロシアは、ロシア領内と国際的に認められている黒海の港湾都市ノボロシスクにクリミアの資源の一部を移している。一部報道によれば、ロシアはジョージア領内で事実上の独立状態にあるアブハジアのオチャムチレ港に新たな軍事基地を計画しているともいう。そうなれば、黒海におけるロシアの部隊はウクライナの海岸線からさらに遠ざかることになる。
ロシアは新型の主要艦船をクリミアに留めておくことを非常に警戒するようになり、数隻をノボロシスクに移した、とリジェンコは言う。
黒海はグレーゾーンに
「侵攻前のロシアの基本的な前提は、領空の支配と黒海における海軍力の支配の2つであったはずだが、どちらも失った」と、ライスは言う。
ウクライナは黒海経由で何百万トンもの穀物を輸出することにも成功している。
だが、これはウクライナがこの周辺地域を支配下においたことを意味するものではない。ウクライナのせいで北西の隅では動きがとりにくくなっているとはいえ、ロシアは依然として黒海の大部分を支配している、とリジェンコは言う。黒海の一部が「グレーゾーン」になり、どちらの国が支配しているとも言えなくなった段階だ、と彼は言う。
●仏大統領、ウクライナ巡り同盟国の「弱腰」不適切と指摘 3/6
フランスのマクロン大統領は5日、訪問先のプラハで、ロシアの侵攻を受けるウクライナの同盟国が行動を強める時が来たと述べ、欧州で「弱腰にならない」ことが近く適切になるとの見方を示した。
マクロン氏は2月26日にパリで開いたウクライナ支援の国際会合で、同国に欧州諸国の地上部隊を将来的に派遣する可能性を排除しない考えを示し、欧米で波紋が広がった。 もっと見る
マクロン氏はチェコの首都プラハで、自身の発言は変えないとし、「戦略的飛躍」が必要だと訴えた。
ロシアのウクライナ侵攻に関し、攻撃激化の脅威がもたらされるとして「歴史に鑑みて、いま必要とされる勇気を発揮すべき」とフランスもチェコも「十分認識している」と述べた。
同氏はまた、チェコが先月発表した、ウクライナに送る砲弾・弾薬を第三国から迅速に購入する資金の提供計画を支持する考えを強調した。「われわれはこのイニシアチブを支持し、それに貢献する用意がある」と表明した。
オランダは先月、チェコの構想に1億ユーロを拠出すると発表した。

 

●広がる波紋、仏「ウクライナ派兵を排除せず」の思惑 3/7
フランスのマクロン大統領は、ロシアのウクライナ侵攻から2年が経つ2月26日、パリで開催されたウクライナへの支援について話し合う会議で、地上軍をウクライナに派遣する可能性について、「合意は得られていない」としながら、「(派遣の可能性を)何も排除しない」と発言した。
この会議には、ドイツのショルツ首相、イギリスのキャメロン外相など20カ国の首脳・閣僚が参加していた。ロシアに先頭切って制裁を加える西側諸国として地上軍派遣への言及は初めてだった。
ドイツやアメリカは派兵を否定
一方、ショルツ首相は欧州諸国やNATO諸国からウクライナに「兵士は派遣されない」と断言した。スペインやイタリアなども会議の翌日に地上軍派遣から距離を置くことを確認している。アメリカも地上軍の派遣を否定。欧州連合(EU)を離脱した対ロシアの急先鋒でもあるイギリスは医療面の支援のため、ウクライナに少数の専門家を駐留させていることを認めたうえで、「大規模な派兵は計画していない」と断言した。
その後ドイツでは、ドイツ空軍のトップらが長距離巡航ミサイル「タウルス」のウクライナへの供与について協議する音声が漏洩した疑惑が浮上したが、3月4日にショルツ首相は「ロシア領土にまで飛んでいくミサイル供与は、私が首相のうちはありえない」と否定した。
西側諸国のあまりにも早い反応の背景には、核攻撃も辞さない脅迫発言を繰り返すプーチン露大統領を過度に刺激したくない思いが現れていた。
そこで浮上する疑問は、果たして支援会議の席上で地上軍派遣が議題になったのかということだが、参加者のオランダのルッテ首相とスウェーデンのクリスターソン首相は、この問題は議題ではなかったと語った。
マクロン氏の発言を歓迎したのは当然ながら、ウクライナ大統領府だったが、今、フランス国内で起きている論争について、セジュルネ外相は「ウクライナにおける西側軍の駐留が“交戦の敷居”を超えることはない」とマクロン発言を和らげた。ウクライナへの派兵が実際の戦争への参戦を前提したものではなく、あくまで支援する軍備品をウクライナ人が使用する支援を維持するためと受け止める専門家も多い。
フランス国内では、左派と極右がマクロン氏の発言を批判している。特に左派を率いる不服従のフランス党を率いるメランション氏は、フランスを戦争に巻き込むとんでもない発言と批判している。
マクロン氏は3月4日、「われわれは議論を開始し、ウクライナを支援するためにできることすべてを考えている」「私はつねに私たちの枠組みについて明確にしているし、われわれはロシア国民と戦争状態にあるわけではなく、エスカレーションの論理に入ることを拒否する」と述べ、現時点での地上軍派遣の計画はないことを強調したが、強弁を変えていない。
派兵された場合の軍の役割とは?
フランス国防誌編集長のジェローム・ペリストランディ将軍は、派兵された場合の軍の役割について「最初に問題になるのはウクライナ軍の抵抗能力、弾薬、防衛システムを強化することだ。そしておそらくその後は、他の種類の行動が行われるだろう」と述べ、「大統領が話しているのは、ロシア軍強化を阻止するための諜報活動やデジタル戦のことかもしれない」と指摘している。つまり、ロシアと直接戦争しないという原則を守りながらも、戦場に人を送り込む可能性について言及したとの見方だ。
フランス外務省は「欧州は脅威にさらされている。ロシアの極めて攻撃的な不安定化政策に直面して、ある種の宣言をし、ロシアに明確なメッセージを送るのがわれわれの責務だ」とマクロン氏の発言を擁護した。
マクロン氏は、長年、プーチン氏との特別なチャンネル構築を模索してきた。フランスのビアリッツで開催された2019年8月の主要7カ国首脳会議(G7)直前、マクロン氏はプーチン氏を大統領保養地のブレガンソンに招き、会談して各国首脳を驚かせた。
2年前のロシアのウクライナ侵攻直前、モスクワを訪問したマクロン氏は、プーチン氏と5時間に及ぶ仏露首相会談を行ったが、侵攻阻止にはつながらなかった。その後は一貫して仲介役を買って出て、2022年6月には「戦闘がやむ日にはわれわれが外交ルートを通じて活路を築くことができるよう、ロシアに屈辱を与えてはならない」と呼びかけ、ウクライナを怒らせたこともある。
踏み込んだ発言の意図
マクロン氏が踏み込んだ発言をしたのは、戦争を終結できない場合、ロシアの帝国主義的ビジョンからすれば、数年後にはフランスをも攻撃するという脅威を感じているからだと専門家らは分析している。これは平和主義者のバイデン氏や左派のショルツ氏とは一線を画す認識だ。
国際関係戦略研究所(IRIS)のジャンピエール・モルニー副所長は、マクロン氏の発言について、ロシアと対峙する核保有国フランスの抑止戦略の一環だと指摘する。「『次のステップとしてフランス軍が現地に赴けば、“ロシア軍には勝ち目がない” 』というメッセージをマクロン氏は送ろうとした」(モルニー氏)。今までより踏み込んだ発言をすることによってプーチン氏を交渉のテーブルに着かせる狙いがあるという。
マクロン氏の政治的求心力は落ちている。昨年、支給開始年齢を段階的に引き上げる年金改革法や移民の受け入れを厳格化する移民法など、賛否が激しく対立する法律を強引に成立させたボルヌ前首相の退陣の背後にマクロン氏の圧力があったことは誰もが知っている。そして今年は農業政策で農家から激しい反発にあった。
足元の与党ルネッサンス党は下院で過半数割れしており、頼みの中道右派の協力も得られていない状況だ。最新の世論調査での支持率は27%と低迷している。
外交で得点を挙げるのが喫緊の課題
大統領が外交、首相は内政という暗黙のルールのあるフランスで、外交で得点を挙げるのがマクロン氏の喫緊の課題だ。
ウクライナ紛争で和平実現に一役買えば、大きな得点になるのは間違いない。そのためには従来のやり方では成果は出せない。さらにアメリカ大統領選の最中、トランプ氏が再選されれば、アメリカのNATO脱退の可能性もある。そうなれば、欧州の自主防衛は急を要す問題だ。
とはいえ、誰も戦争は望んでいないし、フランスのウクライナ紛争参戦は「国益にならない」ことは、専門家の意見を待つまでもない事実だ。それに世界の誰もがウクライナ紛争のエスカレーションは望んでいない。そのため、抑止という意味もあってギリギリの圧力をプーチン氏にかけてでも交渉の席に着かせるマクロン氏の差し迫った事情もあるといえそうだ。
●野党指導者の妻ナワルナヤ氏、大統領選当日の「反プーチン」行動を呼びかけ 3/7
近年のロシアで最も著名な反政権派指導者で、収監されていた北極圏の刑務所で先月死亡したアレクセイ・ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワルナヤ氏は6日、今月行われるロシア大統領選挙の当日に、ウラジーミル・プーチン大統領への抗議行動を起こすようロシア市民に呼びかけた。
ナワルナヤ氏は抗議の一環として、投票最終日の3月17日正午に、複数の投票所に長い行列をつくるべきだと訴えた。
「私たちが存在することを、私たちの多くが存在することを示すため、選挙の日を利用する必要がある」と、ナワルナヤ氏はビデオメッセージで述べた。
ナワルナヤ氏は、プーチン氏の命令で夫ナワリヌイ氏が殺害されたと非難している。
選挙当日の抗議行動の呼びかけは、「反プーチンの正午」と呼ばれている。
15日から17日にかけて実施されるロシア大統領選挙では、プーチン氏が5期目の当選を果たすと予想されている。
「非常に単純かつ安全な行動」
ナワルナヤ氏は、投票所に皆が一斉に出向くことは「非常に単純かつ安全な行動」であり、当局はこれを禁止することはできないとした。そして、志を同じくする人々が「私たちの多くが存在すること、そして私たちは強いということを知る」ことができると述べた。
プーチン氏以外の候補に投票したり、投票用紙を汚したり、投票用紙に「ナワリヌイ」と大きく書けばいいと、ナワルナヤ氏は述べた。
投票所に正午に集まるというアイデアは、ナワリヌイ氏が死亡する2週間前に提案したものだという。
ナワリヌイ氏は生前、刑務所内から弁護士が投稿するメッセージを通じてソーシャルメディアで存在感を維持してきた。選挙当日の抗議行動は、「誰でも、どこででも参加できる」真の「全ロシア人の抗議行動」となる可能性があると、投稿されていた。
「数百万人が参加できる。そして何千万人もがそれを目撃することになる」と、ナワリヌイ氏は書いた。
ナワリヌイ氏は2018年の大統領選では、公金横領事件で有罪判決を受けたことを理由に出馬申請を却下された。同氏はこれは、政治的な意図による判断だと否定していた。
長期にわたり収監されていたナワリヌイ氏は、先月に収監先の刑務所で死亡した。
クレムリン(ロシア大統領府)は、死因を「自然死」と発表したが、ナワリヌイ氏の支持者や各国指導者の多くは、プーチン氏に責任があると非難している。
ナワルナヤ氏は夫の死が発表された直後から政治的スポットライトを浴びるようになった。以来、欧州議会で演説したり、アメリカのジョー・バイデン大統領と会談している。
ナワリヌイ氏の葬儀は今月1日に執り行われ、遺体はモスクワ南部のボリソフスコエ墓地に埋葬された。 墓地には何千人もの人が足を運び続け、ナワリヌイ氏の墓が埋もれるほどの花が手向けられている。「私にとってこれがどれほど意味があるものか、言い表すことはできない」とナワルナヤ氏は述べた。
そして、「アレクセイは『美しい未来のロシア』を夢見ていた。それは、あなた方そのものだ」と付け加えた。
●「投票用紙に『ナワリヌイ』書こう」ナワリヌイ氏夫人、選挙日にデモ呼びかけ 3/7
獄中死したロシア反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻ユリアさんが17日のロシア大統領選挙での反政府デモ行動を呼びかけた。
ユリアさんは6日(現地時間)、YouTubeに公開した動画で「3日間行われるロシア大統領選挙の最終日である17日正午に一斉に投票所に出て、プーチン大統領に対する反対意志を表現しよう」と話した。
続けて「選挙日に私たちの存在と私たちのような人が多いことを示さなくてはならない。私たちは実在して、生きていて、プーチンに反対する人々だ」とし、この時刻に一斉に投票所に向かおうと訴えた。
「その次の行動は選択すればよい。プーチンではないすべての候補に投票することができる。投票紙を駄目にすることもでき、『ナワリヌイ』と大きく書くこともできる。投票所に立っていて家へ帰ってもかまわない」と話した。
ナワリヌイ氏の側近レオニード・ボルコフ氏は「これはナワリヌイが直接残した政治遺言であり、彼が最後に求めた行動」としながら「投票デモ」への参加を呼びかけた。ナワリヌイ氏も生前に大統領選挙日に投票所に集まって反政府デモをしようというアイデアを提示していた。
プーチン大統領をはじめ、ロシア高官の不正腐敗を暴露したナワリヌイ氏は極端主義容疑などでシベリアの刑務所で服役している間、先月16日突然死亡した。
ユリアさんはナワリヌイ氏の死亡3日後に映像スピーチを通じて「ナワリヌイはプーチンによって殺害された」と主張し、「ナワリヌイがしたことを受け継いでこれからも戦っていく」と宣言した。
1日のナワリヌイ氏の葬儀には彼を追悼しようとする数千人の人々が集まり、ナワリヌイ氏の墓は人々が置いて行った花で埋め尽くされた。ユリアさんは「これを見て希望を持った」と話した。
一方、クレムリン宮(ロシア大統領府)はプーチン大統領がナワリヌイ死亡の背後であるという疑惑を一蹴した。ロシア対外情報局(SVR)のセルゲイ・ナルイシキン局長は5日国営放送で「ナワリヌイは自然死した」と主張した。
●「大統領選は完全なフィクション」ロシア大統領選 反体制派指導者ナワリヌイ氏の妻 「反プーチン」を呼びかけ 3/7
ウクライナのゼレンスキー大統領が訪れていた南部オデーサをロシア軍がミサイルで攻撃しました。アメリカメディアは「大統領が標的とみられる」と報じています。
6日、ギリシャの首相とオデーサを視察したゼレンスキー大統領。
ウクライナメディアによると、2人が訪問していた際、ロシア軍のミサイル攻撃があり5人が死亡したということです。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「攻撃を目撃した。我々が相手にしているのは、どこを攻撃するかなど気にかけない人々だ」
両首脳は無事でしたが、アメリカのワシントンポストは「ゼレンスキー氏らから、およそ150メートル先に着弾した」「大統領が標的とみられる」と伝えています。
一方、ロシアでは間近に迫る大統領選挙を前に「反プーチン」を呼びかける動きが出ています。
刑務所で死亡した反体制派指導者ナワリヌイ氏の妻・ユリアさんが訴えているもので、有権者に対し選挙最終日となる17日の正午にあわせて投票所に行き、プーチン大統領以外の候補に投票するか投票用紙を破棄するよう求めています。
「大統領選は完全なフィクションだが、投票日を利用してプーチン氏に反対していることを示す必要がある」としています。
●ロシア大統領選で「反プーチン行動」呼びかけ ナワリヌイ氏の妻 3/7
北極圏の刑務所で死亡したロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏の妻・ユリアさんは、今月のロシア大統領選でプーチン大統領に反対する行動を呼びかけました。
ナワリヌイ氏の妻・ユリアさんは6日、新たな声明を公開し、ロシア大統領選の最終日となる17日正午にあわせて各地の投票所に行くよう有権者らに求め、「プーチン氏以外の候補に投票するか、投票用紙を破棄してください」などと訴えました。
そのうえで「大統領選は完全なフィクションですが、投票日を利用してプーチン氏に反対していることを示す必要があります」としています。
ユリアさんは死亡したナワリヌイ氏の遺志を継いで活動を続けることを表明しています。
今月1日に行われたナワリヌイ氏の葬儀について、独立系メディアは少なくとも2万3000人が参列したと報じています。
●IAEA事務局長 プーチン氏と会談 原発の安全確保に協力求めたか 3/7
IAEA=国際原子力機関のトップ、グロッシ事務局長は6日、ロシアのプーチン大統領と南部のソチで会談し、ロシア側が占拠し、安全性への懸念が続くウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所の安全確保に向けて協力を求めたものとみられます。
IAEAのグロッシ事務局長は6日、ロシア南部のソチを訪れ、ロシアのプーチン大統領と会談しました。
ロシア大統領府によりますと、会談の冒頭、プーチン大統領は「あなたが議題とする特にデリケートで重要な問題について話し合い、原子力に関するあらゆる点において安全確保の措置を講じる用意がある」と述べたのに対し、グロッシ事務局長は「いまは非常に重要な時期で、課題について話し合うつもりだ」と応じたと言うことです。
会談では、ロシア側が占拠を続けるウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所の安全の確保について話し合われ、グロッシ事務局長は会談後に「重要な意見交換を行った」とSNSに投稿しました。
ザポリージャ原発は、相次ぐ砲撃などによって原子炉の冷却などに必要な外部からの電力の供給がたびたび途絶えるなど安全性への懸念が続いています。
IAEAは、これまでも原発の安全確保に向けてロシアとウクライナの双方と協議を続けていますが、今回の訪問で改めてプーチン政権に協力を求めたものとみられます。
●プーチン氏、若者に公正さ要求「未来はあなた方が決める」 3/7
ロシアのプーチン大統領は6日、南部ソチで開かれた若者の国際フォーラム閉会式に出席し「未来はあなた方のような若者にかかっている」と述べ、公正な国際社会づくりに努力するよう促した。
全体会合で登壇したプーチン氏は「人は皆、生まれた時は平等だが、その後の条件は平等とはいえない。これが今の国際秩序の最大の不正義だ」とし、ウクライナ侵攻で対立を深める欧米を暗に批判。「われわれが公正を追求すれば世界はもっと安定し、公平で安全になる」と強調した。
質疑応答では、米国は冷戦終結後に握った世界の覇権を維持しようとしたが「世界の大半の国々はこれを嫌っている。同盟国にすら好まれてはいない」と主張した。
●独裁者は如何に判断を誤るか 3/7
昨年12月、筆者は中国が台湾軍事制圧を試みる可能性について「最も恐ろしいのは独裁者の誤謬(ごびゅう)だ」と書いた。されば、独裁者はいつ、如何(いか)なる理由で、戦略的判断を誤るのだろうか。
この問いに答える好著「アキレスの罠(わな)」が最近、米国で出版された。著者のS・コール氏は英エコノミスト誌編集者。フセイン・元イラク大統領に関する膨大な未公開史料に基づき、2003年にイラク戦争が起きる過程を詳述した本だ。
フセインの判断ミス
巷(ちまた)では、「イラクの核兵器保有に関する米情報機関の誤った分析により、米国はイラクに戦争を仕掛けた」が通説とされる。だが、コール氏の疑問は観点がちょっと違い、「核兵器を保有してなかったなら、なぜフセインは国連査察をかたくなに拒んだのか」である。同氏が描いたフセインの認識は次のとおりだ。
 ・米国はイランと共謀し、イラクのフセイン体制を転覆しようとしている
 ・米国とイスラエルは必ず核兵器でイラクを攻撃する
 ・全知全能のCIA(米中央情報局)はイラクに核兵器がないことを既に知っていた
 ・従って、米国の対イラク非難はイラク侵略のための口実に過ぎない…
要は、妄想癖あるフセインが、側近からの情報を信用せず、米国の意図を正確に把握できなかった、ということ。フセインに米側の懸念を直接伝えていれば、イラク戦争は回避できたかもしれない。
プーチン氏の判断ミス
コール氏の指摘をふまえると、同様の教訓はウクライナ戦争にも当てはまる。21年の米軍のアフガニスタン撤退により、米外交の優先順位が中東からアジアに移ることを懸念した中東各国は外交的主導権争いを始める。これを「戦略的機会」と誤算したロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻に踏み切り、NATO(北大西洋条約機構)の再結束、ウクライナという民族国家の再生、東欧の対露警戒感増大、北欧全体のNATO化を招くなど、ロシアにとって戦略的誤謬を犯した。プーチン氏ほどのインテリでもこんな初歩的ミスを犯すのか。
ハメネイ氏の正しい判断
これに対し、イランの戦略的判断はイラクやロシアほど稚拙ではない。昨年10月のハマスによるイスラエル奇襲攻撃は、イスラエルと一部アラブ諸国の関係正常化の流れを潰そうとする試みだった。当初、最高指導者ハメネイ師のイランは親イラン武装勢力を使って米国を牽制(けんせい)していたが、1月末、米兵が3人死亡するに至り、米国は親イラン勢力に対し厳しい報復攻撃を行った。報道によれば、それ以来、イランは親イラン勢力に自制を求め、対米軍攻撃はほとんど起きていない。直接イランを狙わないことで、これ以上の戦闘拡大をやめさせようとする米国の報復攻撃の意味を、イランは正確に理解したようだ。
金正恩氏の誤算の可能性
過去2年間で西側はウクライナでロシア抑止に失敗し、ガザでイラン抑止にも失敗した。されば、インド太平洋は大丈夫か。結論から言えば、一見挑発的な北朝鮮も、その戦略判断は意外に堅実だ。確かに核兵器は開発するが、先制核攻撃に踏み切る可能性は低い。核攻撃を仕掛ければ、その時点で北朝鮮なる体制が崩壊することを金正恩氏は正確に理解している。その点で北朝鮮は、ロシアよりもイランに近いだろう。
習近平氏とトランプ氏
では、中国共産党は大丈夫か。習近平体制の下で権力集中は進んでいるが、習近平氏にイラクのフセインほど強烈な自己愛や妄想癖があるとは思えない。やはり、中国の戦略的判断ミスを防ぐには、常に首脳レベルに正確な情報をインプットする必要がある。
昔、フセインは「自己愛は人間が賢くなる機会を奪うから危険」と述べたらしいが、米国大統領へ返り咲きを狙うトランプ氏はフセイン以上に自己愛が強烈だ。やはり最も危険な政治家は2期目のトランプ大統領かもしれない。
●欧州委員長、週内にもキプロス訪問 海上のガザ支援回廊を協議 3/7
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長が週内にもキプロスを訪問し、パレスチナ自治区ガザ地区へ物資を送る人道回廊を海上に設ける計画について協議を行うことがわかった。
欧州委員長の報道官は6日、ブリュッセルで記者団に対し、フォンデアライエン氏がキプロス首都ニコシアで、フリストドゥリディス大統領と会談するほか、ラルナカの港を訪問すると明らかにした。キプロス訪問は2日間の日程で、7日に出発するという。
キプロス外相は昨年11月、安全で完全に監視された拠点と海上回廊を構築することで、これを通じて大量かつ頻繁に援助を送ることができると提案していた。
キプロスの提案は欧州の複数の国から支持を得ており、その中にはフランスのマクロン大統領も含まれる。EUの行政機関にあたる欧州委員会の危機管理担当のレナルチッチ委員も前向きな反応を示し、EUがこの提案を支持する可能性があるとの考えを明らかにしていた。
レナルチッチ氏は、ガザの海岸沿いには陸揚げのための施設がないという物流上の重要な課題も指摘していた。
イスラエルに対しては、主要な貨物港のひとつであるアシュドッドからガザへの支援物資の輸送を認めるよう求める声が出ている。
●オデーサにミサイル攻撃、視察中のゼレンスキー氏標的か…「150m先に着弾」 3/7
ロイター通信などによると、ロシア軍は6日、ウクライナ南部オデーサの港をミサイル攻撃し、5人が死亡した。オデーサには当時、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領とギリシャのキリヤコス・ミツォタキス首相らが視察に訪れていたが、両首脳にけがはなかった。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)はギリシャ当局者の話として、ミサイルは両首脳から「約150メートル先に着弾した」と報じ、ゼレンスキー氏が標的だった可能性があると伝えた。オデーサでは2日、露軍の無人機攻撃で子どもを含む12人が死亡しており、両首脳は追悼のため現場を訪れていた。
ゼレンスキー氏はロシアを非難して「この攻撃は自分自身を守る必要性を示している」と述べ、防空システムの強化が必要との認識を示した。ミツォタキス氏は「ここで戦争が続いていることを思い起こさせるものだ」と述べ、支援継続を約束した。ロシア側は、ウクライナの水上無人艇の格納庫を破壊したと主張している。
●ゼレンスキー大統領とギリシャ首相の会談中に爆発、5人死亡 両首脳は無事 3/7
ウクライナ南部の港湾都市オデーサで6日、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領とギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相の会談中に爆発があった。ウクライナ海軍などによると5人が死亡した。両首脳や政府関係者は無事だった。
首脳会談後の共同記者会見で、ミツォタキス首相は当時の状況について、「私たちは近くで鳴ったサイレンと爆発の音を聞いた。避難する時間はなかった」と説明。
「非常に強烈な体験だ。(中略)新聞で戦争について読むのと、自分の耳で聞き、自分の目で見るのとではまったく違う」と付け加えた。
ゼレンスキー大統領は、今回の攻撃で「死傷者」が出たとし、正確な人数は把握していないと述べた。
また、ロシアについて、「誰を標的にしようが気にしない」と非難。「(ロシア政府は)気が狂ってしまっているか、テロ軍団の行動をコントロールできていない」と述べた。
ロシア国防省は同日、オデーサの商港地域でウクライナ海軍のドローン(無人機)格納庫を攻撃したと発表。「目標は達成された。標的に命中した」とした。
これが首脳会談中の爆発を指すのかは不明。BBCはロシア側の主張について検証できていない。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「オデーサでの卑劣な攻撃」を強く非難するとソーシャルメディアに投稿した。
数日前にはドローン攻撃で幼児ら12人死亡
オデーサでは2日、ロシアのドローン攻撃で子ども5人を含む12人が殺害された。死者には1歳未満の幼児2人もいた。
ゼレンスキー氏とミツォタキス氏は6日にオデーサで会談した際、この攻撃を受けた民家を訪問した。
ミツォタキス氏は、「私がここにいることは、ウクライナの人々にとっての自由な世界に敬意を示すものであり、ギリシャはウクライナの側にいるという決意を強調するものだ」とゼレンスキー氏に語りかけた。
●ロシア軍がウクライナで戦術変更 航空戦力を多用 3/7
ロシア軍はウクライナの戦線で、これまで控えていた航空戦力を活用した戦術を多用し始めているということです。
アメリカのニューヨーク・タイムズは、ウクライナ東部で進撃を続ける最近のロシア軍の戦術について、「航空作戦を強化する方向に変化しており、前線での『より積極的』な航空支援が部隊の前進に役立っている」と5日に報じました。
ロシア軍は地上部隊の進むルートを確保するため、爆撃機を前線近くまで接近させ、ウクライナの陣地に強力な誘導爆弾などを投下する戦術を増やしています。この航空機を使った戦術は、ウクライナ東部の激戦地アウディイフカの戦闘でも多用され、大きな効果があったということです。
しかし、この戦術では、航空機が前線に接近するため撃墜されるリスクが増大しますが、アメリカの研究機関戦争研究所は、「ロシア軍は航空機損失の増加を容認しているようだ」と述べています。
ウクライナ国防省は2月17日以降、ロシア軍の戦闘爆撃機や早期警戒管制機など合わせて15機を撃墜したと発表しています。
●ウクライナ、年内の反転攻勢目指す 陸軍司令官が表明 3/7
ウクライナのパブリュク陸軍司令官は6日、近く戦況を安定させ、年内に反転攻勢に向けた部隊を編成することを目指すと述べた。
ウクライナ軍は2月に東部ドネツク州の要衝アブデーフカがロシア軍に制圧されたことを受け、周辺の複数の集落からも撤退を強いられた。
パブリュク氏は「近く状況を安定させ、より積極的な行動に向けて部隊の態勢を整え、主導権を握るために全力を尽くす」と述べた。
また、現在の作業は部隊をいったん撤退させ、今年の反転攻勢に向けた戦力を今後編成するために回復させるのが目的だとした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先月、ロシア軍が今春か夏に新たな攻撃を仕掛ける準備を進めているが、ウクライナには独自の戦場計画があると述べていた。
●ロシア西部の燃料タンクで2日連続火災 「ウクライナ軍のドローン攻撃」と主張 3/7
ウクライナと国境を接するロシア西部クルスク州のスタロボイト知事は6日、州内のミハイロフスキー精鉱工場の燃料・潤滑油貯蔵タンクが同日、2回にわたりウクライナ軍のドローン(無人機)攻撃を受け、火災が発生したと交流サイト(SNS)で発表した。死傷者は出ていないとした。所有企業によると、同工場はロシアと旧ソ連圏で最大の鉄鉱石精製工場の一つ。
ウクライナメディアによると、同国国防省の消息筋は「露軍の兵站(へいたん)の弱体化を狙った作戦だった」と攻撃を認めた。
これに先立つ5日にも、クルスク州に隣接する露西部ベルゴロド州の非常事態当局が、州内の燃料貯蔵タンクで火災が発生したと発表。露オンラインメディア「マッシュ」は消息筋の話として、燃料貯蔵タンクがウクライナ軍のドローン攻撃を受けたと伝えた。負傷者はなかったという。
ウクライナ軍は最近数カ月間、露国内の燃料関連施設を標的としたドローン攻撃を激化。弾薬不足などで前線での苦戦が続く中、兵站に打撃を与えて露軍の前進を困難にする思惑があるとみられている。
一方、ウクライナ南部オデッサ市の港湾インフラが6日、露軍のミサイル攻撃を受け、民間人5人が死亡した。攻撃は同市でのゼレンスキー大統領とギリシャのミツォタキス首相の会談直前に行われた。露国防省は同日、「オデッサにあるウクライナ軍の水上ドローンの格納庫を破壊した」と主張した。
●ロシア「米大統領選に介入しない…過去にもやったことない」 3/7
ロシアのクレムリンが「今年の米大統領選には介入せず、過去にも米大統領選に干渉したことはない」と言及した。これまで米国ではロシアが過去の米大統領選に影響力を行使したという主張が提起されてきた。最近、ロシアのプーチン大統領は、次期米大統領としてドナルド・トランプ前大統領よりジョー・バイデン現大統領を好むという異例の発言を出した。
6日(現地時間)、ロイター通信によると、クレムリンの報道官は同日、学生を対象にした講演を行い「米国の選挙に介入するつもりはない」とし、「我々は誰にもどう生きるかを指示しないが、他の人々が我々に指示することも望まない」と述べた。そして、「今月末、ロシア大統領選に介入しようとする外国のいかなる試みも阻止する」と強調した。特に、プーチン大統領の勝利が確実視されるロシア大統領選に対する西側の批判にも気にしないと述べた。
これに先立って、2019年米国特別検察官のロバート・ミューラー氏は報告書を通じてロシアは2016年米国大統領選に「全方位的で体系的な方式」で介入したと指摘したことがある。米情報機関は、2020年にもロシアが米大統領選に干渉したと見ている。
2021年にはプーチン大統領が当時のジョー・バイデン候補を貶め、ドナルド・トランプ前大統領を支持すると同時に、大衆の信頼を傷つけようとする作戦を承認したという米情報機関の報告書が出たりもした。昨年も米国は、ロシアがスパイなどを活用し、全世界の民主選挙の真実性に対する国民の信頼を弱めているという報告書を発表した。
この日、ペスコフ報道官は「ロシアと米国の両国関係がこれ以上悪くなったことはなかった」とし「米国は我々を相手に戦っている」と述べた。そして、「ロシアは米国を敵と見なさず、二つの世界最大の核保有国が世界の安全保障を保障しなければならない特別な責任がある」と主張した。
ウクライナ戦争について、ペスコフ報道官は「米国の戦車がロシア軍によって破壊されており、米国の航空機がウクライナに送られれば、同じ運命を経験することになる」と警告した。これに先立ち、プーチン大統領が「西側がウクライナに派兵すれば、核戦争を起こす危険がある」と発言したのと同じ流れだ。
西側諸国はウクライナに侵攻したロシアに強い経済制裁を加えている。ペスコフ報道官は「制裁は我々を害することはできない」とし「むしろ経済と社会の内部動員を誘発した」と話した。また「昨年のロシアの経済成長率が3.6%となったのは制裁が失敗したことを示している」と評価した。
「ロシアの未来がどうなるのか」という質問にペスコフ報道官は「地政学的な地殻プレートが動いているため、容易ではないだろう」と答えた。しかし「ロシアは依然として世界に開かれている」と述べた。
●「他の日程と重なった」ウクライナのオレナ大統領夫人、バイデン大統領の一般教書演説招待を断る 3/7
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は5日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領のオレナ夫人がバイデン大統領が7日に行う一般教書演説への招待を断ったと報じた。
ロシアの刑務所で死亡した反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻ユリア氏も招待されており、同席を避けたとみられるという。ナワリヌイ氏はウクライナ侵略は非難しつつ、クリミア併合は容認していたためウクライナでは批判もあるという。
11月の米大統領選は民主党のバイデン氏と共和党のトランプ前大統領が再び対決する見込みで、同紙は「ウクライナは、ホワイトハウスを支配する可能性のある共和党を怒らせたくない」とも指摘した。
これに対し、ウクライナ大統領府はオレナ夫人の欠席理由を「他の日程と重なったため」と説明。ユリア氏も「夫を亡くしたばかりで休養が必要」(報道担当者)として欠席するという。米側にはウクライナを侵略し、国民を抑圧するロシアのプーチン大統領に対する「抵抗の象徴」として2人を同席させ、演説を盛り上げる思惑があったと同紙は伝えたが、あてが外れる公算が高まった。
●フーシの商船攻撃で3人死亡、4人負傷 11月以降初の犠牲者 3/7
米中央軍は、イエメンの反政府武装組織フーシによるミサイル攻撃で6日、同国沖を航行していた貨物船の船員3人が死亡したと発表した。ロイター通信などによると、イスラエルへの物流を妨害する目的でフーシが昨年11月に商船への攻撃を始めて以降、犠牲者が出るのは初という。
米中央軍によると、攻撃は6日午前11時半ごろ(現地時間)にあり、バルバドス船籍の貨物船が被弾した。3人が死亡したほか、少なくとも4人が負傷し、そのうち3人が重体という。
同通信は、船はギリシャに拠点を置く企業が運航しており、20人の乗組員と3人の武装警備員(フィリピン人15人、ベトナム人4人、スリランカ人2人、インド人1人、ネパール人1人)が乗り組んでいたと報じた。
船舶への攻撃を続けるフーシへの報復として、米英はイエメン国内にあるフーシの武器貯蔵施設などの拠点を攻撃してきた。今回犠牲者が出たことで、米英は攻撃をさらに強める可能性がある。
●FRB「大半の地区で経済活動増加」米経済の堅調さ示された形に 3/7
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は6日、最新の経済報告を公表し、大半の地区で経済活動が小幅ながら増加したとしていて、アメリカ経済の堅調さが改めて示された形になりました。
FRBは6日、全米12の地区連銀が各地域の企業への聞き取りなどをもとにまとめた最新の経済報告を公表しました。
それによりますと、経済活動については、8つの地区が小幅もしくは緩やかに増加したと回答し、3つの地区が変化なし、1地区がわずかに鈍化したと答えました。
大半の地区で経済活動が増加したとしていて、アメリカ経済の堅調さが改めて示された形になりました。
また労働市場では、ほぼすべての地区で労働者が確保しやすくなり、従業員が職場に定着するようになるなどインフレの要因となってきた人手不足が一段と改善されているという見方が示されました。
市場では失業率の大幅な上昇など景気後退を招くことなくインフレを抑えこむ、いわゆるソフトランディングが実現できるという観測が高まっています。
ただ、FRBのパウエル議長は低下傾向にあった物価が再び上昇に転じるケースがあったことから経済指標を慎重に見極めながら政策運営を続ける方針を示しています。 

 

●バイデン氏が一般教書演説、プーチン氏に「屈しない」 トランプ氏批判も 3/8
米国のジョー・バイデン大統領は7日、上下両院合同会議で一般教書演説を行い、11月の大統領選での再戦が事実上決まったドナルド・トランプ前大統領を激しく批判するとともに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領には「屈しない」と宣言した。
バイデン氏は冒頭からトランプ氏を激しく批判し、分裂している連邦議会に対し、停滞しているウクライナ軍事支援の予算を承認するよう要請した。
バイデン氏は「ロシアのプーチンはウクライナに侵攻し、欧州全域、そして世界に混乱をまき散らしている」「プーチンがウクライナにとどまると思っている人物がこの部屋にいるとしたら、そうはならないと私が断言する」と述べた。
さらに「ロナルド・レーガンという名前の共和党の大統領が、『ゴルバチョフ氏よ、この壁を壊しなさい』と呼び掛けたのは、それほど昔のことではない」と、東西冷戦末期の1987年にレーガン氏が独ベルリンで行った演説を引用。
レーガン氏と対比する形で、「私の前任者である共和党の大統領は、プーチンに『やりたいようにやれ』と言った」「言語道断かつ危険で、容認できない発言だ」とトランプ氏を強く非難した。
また、「付き合いの長いプーチン大統領へのメッセージは簡潔だ。われわれは引かない」と述べた上で、「私は屈しない」「文字通りの意味でだ。歴史は見ている」と続けた。
●プーチンの北朝鮮秘密支援、何であれ韓国には悪材料 3/8
米戦略国際問題研究所(CSIS)のウェブサイト(「ビヨンド・パラレル」)に最近掲載された報告書が興味深い。報告書は北朝鮮が今までロシアのウクライナ侵略戦争に約250万個の砲弾と共に弾薬を供与したと推算した。ウクライナ状況は膠着状態とみられるが、実際、双方の戦勢はきっ抗していて砲弾の脅威は核心的な要素となる。
ウクライナのゼレンスキー大統領が敗れればウクライナの国民に悲劇だ。それだけでなく北大西洋条約機構(NATO)加盟国のバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)もまたヘゲモニーを握ることを望むロシアの危険にさらされるだろう。この場合、米国は欧州でロシアを抑止するためにアジア回帰政策を遅らせるしかない。これは欧州だけでなく韓国など米国のアジア同盟国にも悲報だ。
金正恩(キム・ジョンウン)委員長はプーチン大統領を支援することで朝鮮半島の平和と安定に大きな打撃を与える。北朝鮮の大規模な砲弾支援を眺めながら、いったい金正恩は何を得るのか疑問を抱くしかない。単純な食料・燃料支援に終わらないという点は十分に考えられる。
すでに北朝鮮が要求した見返りが表れている。弾薬がロシアに移動する前にロシアは北朝鮮の衛星打ち上げに対する国連安保理措置の拒否権を行使しようとしている。ロシア軍に絶対的に必要とする北朝鮮の砲弾支援の対価として、プーチンはロシアの国連安保理拒否権の無制限使用を約束したのではないだろうか。核実験はともかく、衛星打ち上げに対する許諾はしたのではないだろうか。
北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)プログラムへの技術支援もあったかもしれない。ロシアは依然として米国に次ぐ世界2位の潜水艦技術保有国だ。北朝鮮の高度化したSLBM技術は多くの専門家を驚かせた。おそらくロシアの技術支援が関連しているのではないだろうか。
北朝鮮の衛星打ち上げ技術に対するロシアの支援も含まれる。北朝鮮はすでに大陸間弾道ミサイル(ICBM)技術を完成させた。もう北朝鮮が越えるべき最も大きいヤマは、ミサイル弾頭が大気圏に再進入した時に破壊しない技術を完成させることだ。ところがこの技術に対する支援はロシア史上前例がなく、非常に危険で無責任なことだ。プーチンが引き続きNATOに対する核戦争を脅迫するのを見ると、プーチンが従来の核兵器規範を遵守するとは断定しにくい。
上で言及した取引がすべてそうだ。しかし同時にロシアは自国の安全保障を金正恩の手中に置くことを望まない。また、こうした朝ロ取引に対して中国も黙っていないという点も重要だ。もちろん中国の習近平国家主席はロシアがウクライナを失うことを望まないだろう。習主席は同時に、北朝鮮の予測可能性を低めたり、アジアの米国同盟国間の協力、これらの国とNATOの協力を促進したりするロシアの動きを黙過しないはずだ。
まさにこの点を韓国は活用できる。韓国のウクライナ支援でゼレンスキー大統領はロシアの武器拡大に対抗することが可能になり、民主主義同盟国が独裁国家の攻撃に対抗して共同で守るということを朝中ロに見せた。
韓国のもう一つのカードは、すでに韓国の防衛産業企業とNATO加盟国の間に行われている防衛産業協力をより一層強化することだ。オーストラリア・インドと防衛産業協力を強化する機会もある。北朝鮮が「全体主義の宝庫」なら、韓国は「民主主義の宝庫」になればよい。
韓国は対潜水艦作戦カードも使用できる。北朝鮮の韓国哨戒艦「天安」爆沈挑発以降、韓国海軍は力量を改善してきた。ロシアが北朝鮮のSLBM力量を向上させるのなら、韓国は米国海軍および日本海上自衛隊との協力を通じて対潜水艦作戦力量を改善するしかない。
最後に韓国は米国・NATO、そしてその他の同盟国と強力な戦略を立てて、ロシアが北朝鮮の核力量増大を支援する「レッドライン」を越える行動をする場合、必ず代価を支払わせなければいけない。韓米同盟のスローガン「共に行こう」のように、今はもうすべての同盟国が共にする準備をしなければいけない。
●多産を奨励したプーチン大統領「女性の宿命は出産…固有の自然の贈り物」 3/8
人口問題の解決のために「多子世帯」政策を積極的に推進しているロシアのプーチン大統領が「出産は女性の宿命」という見解を明らかにした。
7日(現地時間)、タス通信によると、プーチン大統領は6日、ロシア・ソチ近郊のシリウスで開かれた世界青年学生祭典の閉会式に出席し、「女性の宿命は代を継ぐことだ。それは固有の自然の贈り物だ」と演説した。同時に「我々はこれを大きな尊敬心をもって支援する」としてロシアが母性と育児を支援する様々な政策を展開していると述べた。
ここ数年間、減少しつつあるロシアの出生率に懸念を示してきたプーチン大統領は先月「国家の生存のためには少なくとも2人の子供を産まなければならず、国家の発展と繁栄のためには3人以上の子どもを産まなければならない」と述べた。また、子ども3人以上の「大家族」を家族の標準とし、大家族に対する支援を強化する政策を展開している。
プーチン大統領は同日、ロシアの重要記念日の一つである「国際女性デー」(3月8日)を翌日に控え、女性の社会進出も奨励した。また「ロシアで女性は国家で重要な役割を担当するが、不幸にも政府には女性がそれほど多くない」とし「女性は良い意味で真面目で責任感があるため、政府に女性が多いほど良い」と話した。
プーチン大統領が代表的な女性官僚として紹介したタチアナ・ゴリコワ副首相はこの日、別途演説で「家族を作り始めるのに理想的な年齢は18歳から24歳の間」とし「24歳までが子どもを産むのに最も適した年齢」と主張した。
●プーチン氏、課題は「正統性」 国内引き締め、国外から厳しい目―ロシア大統領選まで1週間 3/8
ロシア大統領選は、15日の投票開始まで1週間に迫った。プーチン大統領の通算5選が確実な中、政権の課題は内外での「正統性」確保。国内では高い投票率と得票率を狙い、引き締めを強化している。一方、ウクライナ侵攻に絡み国際刑事裁判所(ICC)に逮捕状を出されたほか、反体制派指導者ナワリヌイ氏の獄死で国際社会から厳しい目が向けられており、選挙結果を承認すべきでないという声もある。
目標は投票率80%
戦時のロシアは昨年秋、大統領選に関する法律を改正。占領して戒厳令を敷くウクライナ東・南部4州での選挙実施を可能にするとともに、全土で主要メディアにしか投票所の撮影を許可しないことを盛り込んだ。
不正疑惑が持ち上がり、ナワリヌイ氏らの呼び掛けで大規模デモにつながった2011〜12年の一連の国政選挙では、独立系メディアや民間選挙監視団体「ゴロス」が厳しい目を光らせた。政権は法改正でメディアによる監視を制限。昨年夏にはゴロスの共同代表を拘束し、プーチン氏の圧勝に疑問を挟ませない構えだ。
「投票率の目標は70〜80%」。独立系メディア「メドゥーザ」によると、政権は無風選挙で関心が低い中でも高い投票率を達成するため、公務員や国営企業従業員らを動員する方針。近年は電子投票が普及し、選挙に参加したかどうかを確認しやすくなったことが、心理的圧力になっているという。
「政敵殺した」
「ソ連時代と同じだ。西側の人々は(まやかしに気付かないという)過ちを犯す」。ナワリヌイ氏の側近は2月14日、欧州連合(EU)欧州議会で「茶番」の選挙を認めないよう訴えた。同氏獄死後の19日には、妻ユリアさんがEU各国外相を前に「政敵を殺した(プーチン)大統領に正統性はない」と断じた。
20年のベラルーシ大統領選を巡る不正疑惑では、反政権派による大規模デモが起き、EUはルカシェンコ大統領の6選を承認しなかった。ロシアに関しては今回、東欧の議員らが問題提起。ただ、ウクライナ停戦交渉や戦後の関係再構築を見据えると、強硬対応で足並みをそろえることは容易でない。
日本を含む先進7カ国(G7)は、14年にロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島での選挙を認めなかったのと同様、東・南部4州でも承認しない立場だ。しかし、ロシア全土での投票によって選ばれるプーチン氏の正統性については、問題視しないとみられる。
●ウクライナ支援巡る米議会の不承認、プーチン氏への「贈り物」=米財務長官 3/8
イエレン米財務長官は7日、ロシアの侵攻に対抗するウクライナ軍の弾薬が不足する中、ウクライナへの新たな支援を議会が承認しないことは、ロシアのプーチン大統領やイラン、その他の敵対勢力への「贈り物にほかならない」と述べた。
ワシントンで行われたドイツのハーベック経済相との会談との冒頭で、マイク・ジョンソン下院議長に対し、ウクライナに対する610億ドルの軍事・経済支援策を速やかに可決するよう再度要請。
「下院が引き延ばしを続けている間に、ロシアは勢力を拡大し、ウクライナは弾薬や物資の制限を余儀なくされている。下院は行動し、プーチン氏の侵略に直面するウクライナへの米国の支援の強さを示さなければならない。議会が行動しないことはプーチン氏やイランなど米国およびその同盟国に敵対する勢力への贈り物にほかならない」とした。
●バイデン氏が一般教書演説、ウクライナ支援の継続呼び掛け 3/8
米国のバイデン大統領は7日夜に一般教書演説を行い、米国によるウクライナ支援の継続を改めて強く呼び掛けた。自由と民主主義が「国内外の両方で」攻撃に遭っていると訴えた。
バイデン氏は今回の一般教書演説の目的について、「連邦議会の目を覚まし、米国民に警告を発すること」と指摘。民主主義が危機に陥っていることを伝えなくてはならないとした。
その上でロシアのプーチン大統領による侵攻がウクライナで終わることはないと主張。ウクライナが求めているのはロシアと戦うための軍事支援と兵器であって、米国人の兵士たちではないとも指摘した。
「彼ら(ウクライナ)は米国人兵士を求めてはいない。事実、ウクライナでの戦争に米国人兵士は一人もいない。今後もこの状況を続ける決意だ」(バイデン氏)
バイデン氏はまた、国防費の拠出額の基準を満たさない北大西洋条約機構(NATO)加盟国はロシアに「好き放題させる」としたトランプ前大統領の以前のコメントを非難。「私の前任者、前の共和党の大統領」と、トランプ氏への名指しを避けつつ、発言は「言語道断で危険、受け入れがたいと思う」と述べた。
プーチン氏に対しては「我々は立ち去らない。我々は屈しない」とメッセージを送り、喝采を浴びた。
2021年1月6日に発生した連邦議会議事堂襲撃事件への言及では、「暴徒たちは愛国者ではなかった」と、議場の議員らに告げた。「彼らは平和的な権力の移譲を阻止するためにやってきた。国民の意思を覆そうとした」
その上で、トランプ氏と多くの関係者が、「1月6日に関する真実を隠そうとしている」と非難した。
米国経済については「世界の羨望(せんぼう)の的」と評した。実際米国では雇用の伸びが続き、昨年は歴史的な水準での成長を記録していた。消費者支出も依然として拡大している。
それでも最近のCNNの世論調査によれば、米国民の48%が経済はまだ低迷していると思うと回答した。
この他バイデン氏は、国内最上位の富裕層に対する課税を強化することを提案。これらの税収を連邦政府の赤字削減などに活用する考えを示した。
また前政権の政策はトップ1%の富裕層を利するものだったとし、共和党を批判した。
バイデン氏は聴衆の一部から上がった歓声に応え、大富豪が教師や清掃作業員、看護師よりも低い率の税金を払うべきではないと述べた。
移民問題については強硬な立場を取り、米国の起源を振り返る一方でトランプ氏の姿勢を糾弾した。
「我が国の血を汚しているなどと言って移民を悪者扱いするつもりはない」とバイデン氏は明言。「私は家族を引き離さない。宗教を理由に人々の入国を禁止することはない。前任者とは違う」と述べた。
イスラエルとイスラム組織ハマスとの紛争で人道危機が発生しているパレスチナ自治区ガザ地区の情勢を巡っては、地区の海岸に港を整備する緊急の任務を指揮するよう、米軍に命じると表明した。食料や水、医薬品などを積載した大型の船舶が着岸できるようにするのが狙いだとしている。
その上で、米軍の現地への派遣は行わないと重ねて強調。イスラエルに対しては「役割を果たし」、より多くの支援物資を地区内に受け入れるよう求めた。
●ウクライナへ80万発供給 欧州外からも砲弾調達 チェコ主導 3/8
チェコのパベル大統領は7日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対して、早ければ数週間以内に80万発の砲弾を追加供給できると発表した。
チェコ主導で欧州を中心に資金を募り、欧州外からも含めた弾薬確保を目指していた。AFP通信が伝えた。
パベル氏は「何か根本的な問題がなければ、数週間以内に届く可能性がある」と述べた。18カ国が資金提供を約束し、必要額を確保したという。総額や調達先は明らかにしていない。これまでにカナダやデンマークのほか、英独仏などが協力を申し出た。
●解任されたウクライナ軍総司令官、駐イギリス大使に任命へ 3/8
ロシアによるウクライナ全面侵攻が始まる以前からのウクライナ軍の総司令官で、先月解任したばかりのヴァレリー・ザルジニー氏(50)について、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7日夜、ウクライナの駐イギリス大使に任命すると明らかにした。
ゼレンスキー大統領は毎晩の定例メッセージで、イギリスのグラント・シャップス国防相らとキーウで会談したことについて報告した上で、ザルジニー氏のイギリス大使任命を承認したと明らかにした。
「ザルジニー将軍は、この方向へ進み、外交に取り組みたいのだと言っている」。大統領はこう言い、ウクライナ外務省が手続きを進めていると説明。これによって「我々とイギリスとの同盟関係はさらに強化される」と述べた。
ウクライナの外務省は同日、ザルジニー前総司令官の大使着任について、イギリス側に承認を求めたことを明らかにした。
ザルジニー氏は2021年7月、ゼレンスキー大統領によって、複数の年長者を飛ばして、軍の総司令官に抜擢(ばってき)された。兵士の間で人気が高く、ゼレンスキー氏の政治的なライバルになり得るとみなされている。
ウクライナの駐イギリス大使は、ゼレンスキー大統領を表立って批判したヴァディム・プリスタイコ氏が昨年7月に解任されて以来、空席となっていた。
ゼレンスキー氏は2月8日にザルジニー総司令官の解任を発表。当時は、ザルジニー氏の支持率が大統領を上回っており、二人の間に不和が生じているのではないかと、うわさされていた。
大統領はザルジニー氏の後任に、オレクサンドル・シルスキー陸軍司令官を任命。シルスキー将軍は攻撃でも防衛でも経験豊富だと、大統領は評価した。
外交経験のないザルジニー前総司令官にイギリス大使の立場を与えるのは、戦争での貢献を報いる人事なのか、何かしら政治的駆け引きの要素があってのことかは不明だ。
ただし、ゼレンスキー大統領自身が2019年に当選するまで、コメディ俳優やテレビ・プロデューサーなどとして国内で名声を得ていたものの、政治・外交経験はほとんどなかった。
ウクライナ政治では、政党や政策マニフェストより、リーダーを目指す人物の知名度やカリスマ性が重視されることが多い。
駐イギリス大使任命についてはまだ手続きが残っているものの、ザルジニー氏自身は着任に合意していることが、BBCの取材で分かった。
これによってザルジニー氏はウクライナを厚遇する同盟国の首都を拠点に、大統領の政策を代弁することになる。それに伴い、ザルジニー氏は本国でゼレンスキー氏の人気を奪うことがなくなり、大統領はウクライナ経済を守りながら大勢の兵士を動員するという厳しい課題に取り組める。
ゼレンスキー大統領はザルジニー氏を解任した際、軍のリーダーシップに「刷新」が必要だとしつつ、ザルジニー氏が「チームに残る」こともあり得ると述べていた。
他方、イギリス政府は7日、1億2500万ポンド(約237億円)相当の追加軍事援助を発表。1万機以上のドローンをウクライナに提供するという。イギリスはすでに今年に入り、包括的軍事援助の一環として2億ポンド相当のドローン提供を約束している。
キーウ訪問中のシャップス英国防相は、この追加支援を発表し、イギリスの同盟諸国にも同様にウクライナへの武器提供を増やすよう呼びかけた。
ウクライナはこのところ、西側の軍事援助が届かないこともあり、ロシアの侵略に対して苦戦している。
ウクライナのルステム・ウメロフ国防相は2月下旬、「現時点では、(武器供与の)約束は実際の配達につながっていない」と批判。「我々は可能な限りのことはして、不可能なこともしているが、時宜にかなった(兵器の)提供がないと、私たちは不利になる」と述べた。
●東欧モルドバ、仏と防衛協定 ロシアへの警戒高まる 3/8
旧ソ連圏の東欧モルドバのサンドゥ大統領は7日、フランスとの防衛協定に署名した。ウクライナと接するモルドバを巡っては、ロシアが情勢不安定化の取り組みを再開させていると懸念が高まっている。
サンドゥ氏は訪問先のパリで「侵略者を止めなければ、侵略者は進み続け、前線は近づき続ける」と述べた。
防衛協定は訓練や定期的な協議、情報共有のための法的枠組みを定めている。
マクロン大統領は、今回の合意はモルドバを守り支援するというフランスの決意を示すものだと強調した。
親欧州のモルドバはウクライナ戦争以降、ロシアとの関係が一段と悪化している。
モルドバ東部の「沿ドニエストル共和国」は親ロシア派勢力が約30年間実効支配しており、ロシアが軍を駐留させている。沿ドニエストル共和国の議会は先月、モルドバ中央政府の圧迫からの保護をロシア側に要請する決議を採択した。
●イギリス ウクライナに1万機以上の無人機供与と発表 3/8
イギリス政府は7日、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの軍事支援として、1万機以上の無人機を供与すると発表しました。
これはウクライナを訪れたイギリスのシャップス国防相が、首都キーウでゼレンスキー大統領と会談した際に明らかにしたものです。
供与される無人機は、自分が操縦しているような感覚で上空からの映像をリアルタイムで確認できるFPVと呼ばれる性能を備えたタイプや、偵察用の無人機などで、拠出額は合わせて3億2500万ポンド、日本円で600億円規模になるということです。
シャップス国防相は声明で、「世界をリードするイギリスの防衛産業から最新鋭の無人機を提供し、ウクライナへの支援を強化する。ウクライナの勇敢な国民や軍に対するイギリスの揺るぎない関与を示すことができ、うれしく思う」などと強調しています。
FPVの無人機はウクライナ軍がすでに戦地に投入し、攻撃を進めるうえで重要な兵器となっていて、イギリス政府は操縦者が動きを細かく制御でき、ロシアの防空網をう回して標的を攻撃できるとしています。
●ウクライナ副首相、軍事支援は米国の信頼性に「不可欠」 3/8
ウクライナのステファニシナ副首相は7日、米議会共和党指導部が阻止しているウクライナ向け軍事支援について、国際舞台における米国の指導的役割の信頼性にとって不可欠だと指摘した。
欧州諸国が防衛装備品の生産を拡大するまで時間がかかるとして支援継続を訴えた。米シンクタンクのカーネギー国際平和財団が主催する会議でウクライナからビデオ演説した。
共和党のジョンソン下院議長はウクライナへの600億ドルの支援を含む予算法案の採決を拒否している。
バイデン大統領はウクライナへの軍事支援を支持しているが、11月の大統領選でバイデン氏との対決が濃厚となっている共和党のトランプ前大統領はより孤立主義者的な姿勢を示している。
ステファニシナ氏はトランプ氏には言及せず、米国がロシアによる侵略から欧州を防衛する第2次世界大戦後の役割を放棄する可能性を示唆した。
その上で、そうした役割から離脱する場合、欧州が能力を拡大するまでの移行期間が必要だと指摘した。
●ウクライナ大統領らを意図的に標的か、ロのミサイル着弾で=高官 3/8
ウクライナのイーホル・ゾフクバ大統領外交顧問は、南部オデーサ(オデッサ)を訪問していたゼレンスキー大統領とギリシャのミツォタキス首相の近くにロシアのミサイルが着弾したことについて、両国の代表団を意図的に狙った可能性があるとの認識を示した。
関係者によると、着弾したのは両首脳から500─800メートル離れた場所だった。 もっと見る
ゾフクバ氏はCNNライブのインタビューで「実際のところわれわれから500メートルも離れていなかった。わが国の大統領の代表団や外国からの賓客の代表団に向けられたものであることを否定できない」と述べた。
一方、ロシアはこの見方を否定。メドベージェフ安全保障会議副議長は、代表団を標的にしたものではなかったと表明した。
ロシア国防省も6日の声明で、ウクライナ軍の海上ドローン格納庫を攻撃したと説明し、「目標は達成された」としている。
● ロシア ウクライナ軍が奪還の南部ザポリージャ州へ攻撃強化か 3/8
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、去年、ウクライナ軍が奪還したと発表していた南部ザポリージャ州の集落への攻撃を強めていると伝えられ、ロシア側が再び支配地域の拡大を図り、双方の攻防が激しさを増していると見られます。
ウクライナ軍などによりますと、7日、ウクライナ各地にロシアによるミサイル攻撃があり、このうち東部ハルキウ州では住宅に直撃して住民の女性が死亡したほか、北東部スムイ州では病院や学校などが被害を受けてけが人が出ています。
一方、ロシア国営のタス通信は7日、去年8月にウクライナ軍が反転攻勢によって奪還したと発表した南部ザポリージャ州のロボティネについて、ロシア軍が攻撃を強め、南側の一部を支配下に置いたなどと伝えました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も6日、ロシア軍がロボティネの東側に部隊を前進させたなどと指摘していて、ロシア側が再び支配地域の拡大を図り、双方の攻防が激しさを増していると見られます。
こうした中、ロシア外務省は7日、モスクワに駐在するアメリカのトレーシー大使を呼び出し、ロシア内政に干渉しないよう警告したと発表しました。
トレーシー大使は今月1日、ロシアの反政権派の指導者ナワリヌイ氏の葬儀に参列していました。
ロシア外務省はウクライナへの軍事侵攻や、来週行われるロシア大統領選挙に関して、「偽情報の拡散など内政干渉の試みがあれば、国外追放を含めて断固対応する」としていて、締めつけを強めています。
●「女性は家庭内で」? アイルランド、憲法の条文削除へ国民投票 3/8
「女性は家庭内で」――。国際女性デーの3月8日、アイルランドで87年前の憲法の条文を削除するかを決める国民投票が実施される。バラッカー首相は6日、「否決はこの国にとって後退になる」として可決させるよう呼びかけた。
1937年に制定されたアイルランド憲法は、女性が家庭内で生活することが国益に資すると規定。女性が家庭内の「義務」を怠ってまで外で働くことがないよう、国家が努める必要性を説いている。
国民投票では、この条文を削除した上で、「家族の構成員間の絆を理由とした思いやり」こそが国家に欠かせない、とする新たな条文を挿入するかを決める。
世論調査では「賛成」が過半… ・・・
●政府 国際機関などを通じミャンマーに人道支援へ 約3700万ドル 3/8
軍事クーデターから3年余りが経過したミャンマーでは多くの人が人道支援を必要としているとして、日本政府は新たにおよそ3700万ドルの支援を行うことを決めました。
ミャンマーでは軍事クーデターから3年余りが経過しましたが、今なお各地で空爆や地上での戦闘が続き、外務省によりますと1860万人が人道支援を必要としているということです。
日本政府はこれまでも国際機関などを通じて、支援を行ってきましたが、新たにおよそ3700万ドルの人道支援を行うことを決め、8日、上川外務大臣が記者会見で発表しました。
具体的には、WFP=世界食糧計画や、ユニセフ=国連児童基金などの国際機関や、NGOを通じ、食料・医薬品の配布や、医療サービスの提供、妊婦や乳幼児の栄養改善などの支援を行うということです。
上川大臣は「多くのむこの市民が死傷している状況に大変胸を痛めている。困難に直面するミャンマー国民のニーズをきめ細かく把握しながら、引き続き、しっかり寄り添っていく」と述べました。
●スウェーデンがNATOに正式加盟 「団結と連帯」を強調 3/8
スウェーデンは7日、正式に北大西洋条約機構(NATO)の32番目の加盟国となった。この日、米ワシントンの国務省で加盟手続きを完了した。
スウェーデンは2年前、ロシアのウクライナ全面侵攻を機に、NATOへの加盟を申請した。
スウェーデンのウルフ・クリステション首相は、NATOの「団結と連帯」がスウェーデンの「誘導灯」になるだろうと述べた。
アントニー・ブリンケン米国務長官は「大変な道のりだったが、(加盟申請のあった)最初の日から、ここに到達するとわかっていた」と語った。
一方で、ロシアのウクライナ全面侵攻まで続いたスウェーデンの200年にわたる中立政策に触れ、NATOの拡大は決して「予期された」ものでも「予見可能な」ものでもなかったと述べた。
ジョー・バイデン米大統領は声明で、NATOはこの日、「最も強くなった」と述べた。「NATOは前より団結し、決意を強くし、ダイナミックになった」とも強調した。
「最新の同盟国スウェーデンと共に、NATOは今後も、未来の世代のために自由と民主主義を守り続ける」と、バイデン大統領は述べた。
NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長はソーシャルメディアで、スウェーデンはNATOに「有能な軍隊と一流の防衛産業」をもたらし、同盟は「より強く、より安全」になったと述べた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領もスウェーデンのNATO加盟を歓迎し、「欧州でもう1カ国、ロシアの悪に対して、さらに守られることになった」と述べた。
11日には、ブリュッセルのNATO本部でスウェーデン加盟を祝う式典が行われ、スウェーデン国旗が掲げられる予定だ。
一方、ロシアはスウェーデンの動きに対し、政治的・軍事的対策を取るとしているが、詳細は明らかにしていない。
スウェーデンと東隣のフィンランドは長年、軍事的に中立を保ってきたが、2022年5月、NATO加盟への意向を表明した。
スウェーデンについては長らくトルコとハンガリーが反対していた。
トルコは、スウェーデンがクルド人分離主義者を支援しているとして、加盟申請に対する採決を留保していた。しかし、今年1月に議会で承認した。
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相も、スウェーデンが同国に対して敵対的だとして承認を遅らせていたが、今年2月末に議会が加盟を承認した。
NATOでは、加盟国が攻撃された場合、全加盟国に支援が求められる。
クリステション首相は、「我々は謙虚だが、誇りも持っている。我々はあらゆる期待に応えていく」と述べた。
「我々は他の同盟国と負担、責任、リスクを分かち合っている」
その上で、スウェーデンがNATOに加盟するのは、安全保障の提供と同時に、安全保障を得るためでもあると付け加えた。
フィンランドは昨年4月に正式に加盟。NATOとロシアの境界は長さが倍になっている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ全面侵攻を開始するにあたり、NATOの拡大をけん制した。
ところが実際には、スウェーデンとフィンランドがNATOに加わるなど、プーチン氏の思惑とは逆のことが起きている。
●ゼレンスキー氏、トルコへ エルドアン大統領と会談 3/8
トルコ大統領府は7日、ウクライナのゼレンスキー大統領が8日、トルコを訪問し、エルドアン大統領と会談すると発表した。ロシアによるウクライナ侵攻の行方やウクライナ産穀物の輸出などについて協議する。
穀物輸出を巡っては、トルコや国連が仲介した黒海経由の輸出合意からロシアが昨年7月に離脱した。ウクライナは独自の航路を設けて輸出を継続している。 
●NATO北方拡大、核戦力で威嚇 超音速爆撃機に言及―プーチン氏 3/8
スウェーデンの正式加盟で北大西洋条約機構(NATO)が32カ国体制になった7日、ロシアのプーチン大統領は改めて核戦力で威嚇した。2月下旬に核兵器搭載可能なTU160超音速戦略爆撃機の改良型に試乗したことに言及し、「世界で他にない」兵器だと豪語した。
8日の「国際女性デー」を翌日に控え、ウクライナに近い南部クラスノダールでロシア空軍の女性パイロットらと懇談した際に発言した。プーチン氏はシミュレーターを視察し、自らも体験した。
NATOの北方拡大を受け、ロシアは北欧方面やバルト海沿岸の飛び地カリーニングラード州の対応に当たる軍部隊を強化。バレンツ海上空などで戦略爆撃機の飛行が増えそうだ。
●スウェーデンがNATO正式加盟 32カ国に、ロシアと高まる緊張 3/8
北欧スウェーデンが7日、北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟した。スウェーデンのクリステション首相が同日、米ワシントンでブリンケン国務長官にNATO加盟の関連文書を手渡し、手続きが完了した。新規加盟は昨年4月のフィンランド以来。ロシアによるウクライナ侵攻を契機に始まった北方拡大を通じ、NATOは32カ国体制となった。
NATOは、海軍を中心に高い軍事力を誇るスウェーデンの加盟を追い風に、バルト海域や北極圏を含む北欧の防衛体制強化を進める。ただ、北欧2国のうちフィンランドは、ロシアと長い国境で接する。ロシアのプーチン大統領は先月、NATO拡大に伴い「西部方面の軍部隊強化が必要だ」と発言しており、緊張が一層高まりそうだ。
ロイター通信によると、クリステション氏はワシントンから本国に向けた演説で「スウェーデンはきょう、より安全な国になった。われわれは同盟と後ろ盾を手にした」と加盟の意義を強調した。バイデン米大統領は、声明で「NATOはこれまで以上に結束する」と述べた。NATOは11日、ブリュッセルで加盟式典を開催する。
●ロシア―ウクライナ戦争の戦線がスーダンにまで拡大 スーダンに兵を送ったウクライナのなりふり構わない姿勢 3/8
《ニュース》
ウクライナがロシア―ウクライナ戦争の一環で、スーダン内戦の国軍側に軍を派遣していることが分かりました。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが7日に報じました。
《詳細》
独立後から内戦が多発しているスーダンでは、2023年4月より、国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」との間で新たな内戦が始まっています。スーダンでは諸外国の仲介のもと「治安維持改革」が求められており、共に政府軍事部門である国軍とRSFの統合が改革の条件に含まれていました。いざ、統合に向かうなかで起きた勢力争いが今回の内戦の原因となっており、国民の半数が人道的支援を求めている状況です。
ロシアでは今年1月、民間軍事会社ワグネルの代わりに「アフリカ部隊」が創設され、今回の内戦でRSF側を支援しています。そのなかで、国軍最高司令官のアブルドルファタハ・ブルバン氏がRSFに包囲された時、ウクライナのゼレンスキー大統領に助けを求めました。
ウクライナは、ウクライナ戦争勃発時よりひそかにスーダンから軍事支援を受けていました。その経緯から、ウクライナはスーダンに軍を派遣することを決定。ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブタノフ局長はウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、スーダンに兵を送ったか否かは語りませんでしたが、「ロシアは世界各地に部隊を展開しており、ウクライナがそこを攻撃しようとすることもある」と答えています。派兵によって、間接的にロシアに悪影響を与える目的があると伝えられています。
●「ウクライナやパレスチナしか関心ないのか」 スーダン人難民の怒り 3/8
アフリカ北東部スーダンで昨年4月からつづく戦闘により、国内外に避難した人が1千万人を超えました。とくに首都周辺や西部で多くの人が避難を強いられています。戦闘の背景には、中東諸国のほか、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の存在もあるとされていて、スーダンを舞台にした「代理戦争」のような状況になっています。
スーダン西部ダルフールと国境で接するチャドのアドレ難民キャンプ。スーダン人難民の男性(40)は、「ダルフールで助けてくれる人はいない。国連はどこにいったのか。ウクライナやパレスチナにしか関心がないのか」と、怒りをあらわにしました。
国際移住機関(IOM)は昨年末時点で、スーダン国内外に計1070万人が避難し、「世界最大の避難民危機」が起きていると報告しました。国内で900万人、国外に170万人が避難しているとみています。 ・・・
●若者だましウクライナ戦場に投入、インドが人身売買組織摘発 3/8
インド中央捜査局(CBI)は7日、仕事を約束して若者をロシアに呼び寄せ、ウクライナ戦争へ送り込む「大規模な人身売買ネットワーク」を摘発したと発表した。
これまでに35人前後がロシアに送られたという。少なくとも2人の男性が前線での戦闘中に死亡したと遺族が明らかにしている。
CBIによると、人身売買組織はインドの複数の州で活動し、ソーシャルメディアや現地のエージェントを通じてコンタクトしていた。ロシアに送られた若者は意に反して戦闘訓練を受けさせられ前線基地に配置されていた。
当局はニューデリーやムンバイなど多くの場所で捜査を行っており、複数の容疑者を拘束した。
外務省によると、インド人がだまされて戦争に参加させられたケースは全てロシアに通知している。
ロシア外務省はコメントの要請に応じていない。
●「来るな」 ロシアのため戦うネパール人傭兵、同郷人に警告 3/8
ウクライナで、ロシアのために戦っているネパール人傭兵(ようへい)がいる。彼らはロシアのパスポートと報酬欲しさに故郷を後にするが、負傷した兵士たちは「来るな」と同郷人に警告している。≪写真はネパールの首都カトマンズの通りを歩くスリヤ・シャルマさん≫
傭兵に採用されれば、ネパールでの年収の2年分を1か月で稼げる。ただし条件は過酷で、死傷者も多い。
「戦友が目の前で死ぬのを見た」と、スリヤ・シャルマ(24)は話した。法的な理由から、名前は仮名だ。
「ネパール人には戦争がどれほど恐ろしいか、おそらく想像すらつかないだろう」
ロシア軍によって基本的な訓練を施された直後、ウクライナ東部の前線に向かう途中で、部隊は攻撃にさらされた。「爆弾と銃弾の雨の中、これでもうおしまいだと思った」
「死ぬために行ったようなものだ」と言う。
ヒマラヤ山脈に囲まれ、極めて貧しい国であるネパールは、国外の戦争に従軍する勇猛な兵士を長く輩出してきた。中でも、英国軍に属するグルカ兵が有名だ。
ただし、外国軍に傭兵として応募することが合法となるのは、英国やインドとのように、政府間で取り決めがある場合に限られる。
一方、ロシアはウクライナとの戦争で、早い時期から傭兵を活用してきた。昨年6月に反乱を起こす前の民間軍事会社ワグネルもそうだ。
ロシアもウクライナも、どの程度の規模の外国人部隊を自国軍に組み入れているか公表はしないとみられる。捕虜の人数も明かされることはない。
一方、ネパール政府は、2年前のロシアによるウクライナ侵攻開始以降、200人超がロシア軍に登録されたと公表している。
シャルマは、実際の人数はその10倍の可能性があると考えている。傭兵となるのは学生や元兵士。毛沢東主義派の元戦闘員もいる。
シャルマは、「私たちが参加したのは早い時期だった。今では2500〜3000人のネパール人がいるのではないか」と語った。
魅力的な報酬
外務省は、ウクライナでネパール人少なくとも12人が死亡し、5人が捕虜になっているとしている。
戦場から戻ったネパール兵たちは、実際の死者数はやはりさらに多いと言う。国内メディアによれば、ウクライナ軍に従軍しているネパール人もいる。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は傭兵を募るため、1か月当たり最大2200米ドル(約33万円)の報酬に加え、就労が可能になる市民権の付与を提示している。
世界銀行によればネパールの1人当たり国内総生産(GDP)は1300ドル(約20万円)強と、アジアで最も低い部類に属する。一部の人にとっては魅力的な提案に映る。
動画アプリ「ティックトック」で、ロシアでネパール出身の新兵が訓練を受けている動画を見て、一人の元兵士が昨年7月、傭兵登録した。
違法のため匿名を希望した39歳のその元兵士はAFPに対し、「これは戦争だ。われわれはリスクを取ろうとしている」と話した。
元兵士はネパール軍に10年超服務した後、中東ドバイの警察でも勤務経験がある。ウクライナでは6か月間従軍し、約1万5000ドル(約225万円)を手にした。負傷したため帰国せざるを得ず、稼いだ金は家を建てるために使っている。
「ネパール国内に良い働き口があれば誰も行かないだろう」と語った。
シャルマの足には金属片が入り込んでいる。1足ごとに強烈な痛みが走る。ネパール人の代理人にだまされたと言う。
毎年、国外での就労を目指すネパール人は数十万人に上る。公式な数字は40万人となっているが、違法就労も多い。大勢が渡航手続きを手伝ってもらうため数千ドルを代理人に支払っている。
シャルマは借金をして学生ビザでロシアに渡った。だが労働許可が下りず、見つけた仕事は戦うことだけだった。
「借金の返済があったため、送金はできなかった」と、ネパールの首都カトマンズの貸部屋で言った。
「映画のよう」
軍隊経験はなかったが、「報酬が良いと聞いていたので軍隊入りを選んだ。そうしたかったわけではなく、状況がそうさせた」と話した。
2か月にわたる基本訓練を受ける前に健康診断を受けた。
「私の場合は政府に雇われたが、民兵勢力に属するネパール人もいると聞いた」
新兵のうち15人がネパール人だった。朝6時に起床し、訓練を始める。「射撃位置や塹壕(ざんごう)の掘り方、無人機の狙い方を学んだ」
ただ「言葉が問題だった」と振り返る。「彼ら(ロシア人)の指示が理解できない。戦場ではそれが命取りになる」
大半がロシア人で構成され、ネパール人は6人のシャルマの部隊はウクライナの前線に送り込まれたが、東部クピャンスクに到達する前に待ち伏せ攻撃に遭った。
爆発で隊員数人が死に、シャルマも手足に傷を負った。
「映画のようだった」
数か月入院して治癒しかけた頃、在モスクワのネパール大使館に助けを求めた。
前線には「とても戻ることはできなかった」と、シャルマは言った。「刑務所行きかネパールに帰るかのどちらかしかないと考え、国に帰る方のリスクを取った」
「準備しても無駄」
ネパールは市民が兵士として動員されるのを防ぐため、いかなる形であれロシアやウクライナで働くことを禁止している。
これまでに少なくとも12人が、ロシアのために戦う要員を送り込んだとして逮捕されている。
警察によれば、こうした人々はインドかアラブ首長国連邦(UAE)経由で派遣され、当局をだますため虚偽の申告をするよう指導される。
ナラヤン・プラカシュ・サウド外相はAFPに、「ネパールは非同盟と平和を信奉する国だ」と語った。
「わが国はロシアと協定を結んでおらず、派遣された人々の即時引き渡しを要求している」
この件についてカトマンズのロシア大使館にコメントを求めたが、返答は得られなかった。
ロシアの病院のベッド上からAFPの電話取材に応じた、負傷したあるネパール人(27)は、同郷人に向け、誘惑に屈しないよう警告した。
「どれだけ準備しようと、爆弾を落とされたり無人機攻撃を受けたりしたら役に立たない。来るな、と伝えたい」
●戦場の女性兵は「史上最多」 国際女性デーでウクライナ国防省が発表 3/8
ウクライナ国防省の広報機関は8日、国際女性デーに合わせて女性の従軍状況などのデータを発表した。軍所属の女性は6万2千人以上で、ロシアによる侵攻前の2021年に比べ40%増加。うち兵士は約4万5500人で、4千人以上が前線に配置されるという。カルミコワ国防次官は戦場にいる女性兵士数は「世界の歴史上最多」だと指摘。3年目に入った侵攻が女性の生き方に影を落とす。
ウクライナでは女性の軍参画は総じて肯定的に受け止められている。侵攻後の22年、軍における「男女の機会均等」を8割が支持したとの調査もある。
「身体的な理由で女性を拒むべきではない」「平等に戦うべきだ」との指摘がある一方、「(参画は)志願に基づくべきだ」との声は大きい。政府が動員拡大を検討する中、議論は活発化した。

 

●ウクライナ隣国モルドバの親ロ派 ロシアに「保護」求める動き相次ぐ 親欧米サンドゥ政権は警戒強める 3/9
ウクライナの隣にある旧ソ連構成国のモルドバで、国内の親ロシア派が相次いでロシアに「保護」を求める動きをみせ、緊張が高まっています。
モルドバのサンドゥ大統領は7日、フランスでマクロン大統領と会談、両国の防衛協力に関する協定を締結しました。
サンドゥ氏は「ロシアがモルドバの民主主義を弱体化させようとしている」と指摘し、欧米への接近を図ることでロシアの脅威に対抗していく姿勢を改めて示しています。
これに先立ち、モルドバでは東部を実効支配する親ロシア派勢力「沿ドニエストル共和国」の議会が先月28日、「モルドバ政府から圧力を受けている」として、ロシアに「保護」を要請する動きが出ています。
「沿ドニエストル共和国」は1990年にモルドバからの独立を一方的に宣言した地域で、20万人以上のロシア系住民が暮らし、ロシア軍も駐留しています。
また、ロシアメディアによりますと、親ロシアを掲げるモルドバ南部「ガガウズ自治共和国」のグツル首長も6日、ロシア南部のソチでプーチン大統領と会談、モルドバからの圧力を理由に支援を求めました。
こうした動向について、アメリカのシンクタンク戦争研究所は、EU=ヨーロッパ連合への加盟を目指すモルドバを揺さぶるための“ハイブリッド作戦”として、「ロシアが2つの地域を利用しようとしている」と指摘しています。
●トルコ、ロシア・ウクライナ首脳会談主催の用意=エルドアン大統領 3/9
トルコのエルドアン大統領は8日、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談後、トルコは戦争終結に向けてロシア・ウクライナ首脳会談を主催する用意があると述べた。
ウクライナおよびトルコによると、エルドアン大統領とゼレンスキー大統領は約1時間にわたる会談で、ウクライナ・ロシア戦争の動向、失効した穀物合意を含む黒海における運航の安全保障、防衛産業協力などについて協議したという。
エルドアン大統領はゼレンスキー大統領との共同記者会見で「戦争の動向について詳細に議論し、誠意を持って見解を述べた」と指摘。「われわれは交渉に基づき、戦争終結に向けて最大限の貢献をしている。ロシア側も出席する平和サミットを主催する用意がある」とした上で、ウクライナの主権に対するトルコの支持を改めて表明した。
ゼレンスキー大統領は、今後数カ月以内にスイスで開催される第1回平和サミットにロシアは招待されないが、ウクライナの同盟国と和平に向けたロードマップが合意されれば、次回の会議にはロシアの代表が招待される可能性があると語った。
トルコ大統領府によると、ゼレンスキー大統領はエルドアン大統領との会談前にイスタンブール近郊の造船所を訪れ、ウクライナ海軍のために建造されている軍艦2隻を視察した。
会談に先立ち、ゼレンスキー大統領はウクライナとトルコは食料の安全保障や黒海の航行安全保障で協力しなければならないとの考えを表明。「ウクライナはトルコの防衛関連企業との二国間協力のほか、共同生産の強化に関心を持っている」と述べた。
ゼレンスキー大統領はエルドアン大統領との会談後、短文投稿サイトのX(旧ツイッター)に「われわれはきょう、政府レベルと企業間の両方で共同防衛プロジェクトに関する合意に達した」と投稿した。
トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であると同時に、ロシアと友好的な関係を維持。ロシア大統領府によると、プーチン大統領は15─17日の大統領選後にトルコを訪問する可能性がある。
●ゼレンスキー氏がトルコ訪問 イスタンブールでエルドアン大統領と会談へ 3/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、トルコを訪問した。ウクライナの国営通信社ウクルインフォルムが報じた。トルコ大統領府によると、イスタンブールでエルドアン大統領と会談する。ロシアによるウクライナ侵攻の行方やウクライナ産穀物の輸出などについて協議する。
穀物輸出を巡っては、トルコや国連が仲介した黒海経由の輸出合意からロシアが昨年7月に離脱した。ウクライナは独自の航路を設けて輸出を継続している。ロシアは合意復帰を否定している。
トルコはロシア、ウクライナ双方と良好な関係を維持し、エルドアン氏は和平仲介に意欲を見せている。ロシアのプーチン大統領にトルコ訪問を呼びかけているが、先送りが続いている。
●ロシア関与のハッカー集団、米マイクロソフトに不正アクセス図る 3/9
米マイクロソフトは8日、ロシア政府の後ろ盾を受けるハッカー集団「ミッドナイト・ブリザード」が今年1月にマイクロソフトの電子メールをハッキングして盗んだ情報を使って、再びマイクロソフトのシステムに侵入しようとしていると発表した。
マイクロソフトは1月、ミッドナイト・ブリザードがシステムに侵入し、従業員のアカウントから電子メールと文書の一部を盗んだと発表していた。
ブログでの声明で「ここ数週間で、ミッドナイト・ブリザードが当社のメールシステムから先に盗み出した情報を使用し、不正にアクセスしようとする証拠が確認された」と明かした。
マイクロソフトによると、このデータにはソースコードリポジトリや社内システムの一部が含まれているが、顧客向けシステムがハッキングで侵害されたという証拠はないとした。
●バイデン大統領“対決”鮮明に…トランプ氏「国の恥さらしだ」SNSで“生”反論 3/9
アメリカのバイデン大統領が、年に一度、議員らを前に政策の構想を示す一般教書演説を行いました。ただ、今年は大統領選を控え、構図もすでに固まっているだけに、選挙を強く意識したものとなりました。
バイデン大統領「過去と違って、自由と民主主義が国内外で同時に危機にあります。国外では、ロシアのプーチンが、今もウクライナの侵攻を続け、ヨーロッパ内外に混乱をまいています。私の前任者と一部議員は、議会襲撃の真実を葬るつもりですが、私は違う。今こそ、真実を語り、嘘を葬るべきです」
トランプ氏の名前を出すことなく“前任者”と呼びます。議場にいないその前任者は、場外からリアルタイムで反論を繰り返しました。
トランプ前大統領のSNS「プーチンはバイデンを尊敬していないから、ウクライナに侵攻しただけだ。トランプ政権なら、絶対、起きなかっただろう」
バイデン大統領「前任者は、プーチンにこう言いました。『好きなようにしろ』と。前大統領が、ロシアの指導者に屈したのです。これは言語道断であり、危険で許されぬ発言です。プーチン大統領に一言だけ伝えます。『我々は決して退かない』」
バイデン大統領が、せきをする場面が続くと。
トランプ前大統領のSNS「薬が切れてきたぞ!せきばっかりだな!」
大統領選の焦点に浮上している移民の問題。先月、頓挫した超党派の移民対策法案について、バイデン大統領は、こう述べました。
バイデン大統領「前任者が見ているなら、政治の駆け引きをしたり、法案阻止を呼びかけるのではなく、一緒に法案通過を呼びかけましょう。移民を悪者扱いして『アメリカの血を汚す』などと、私は、絶対、言わない」
トランプ前大統領のSNS「移民の話になるまで40分以上、かかったのに、中身、ゼロじゃないか!」
81歳という高齢であることが不安視されているバイデン大統領。これを逆手に取るユーモアも見せました。
バイデン大統領「見かけによらず、ベテランなんです。私くらいの年齢になると、これまで以上に、認識できることがあります。私の知るアメリカでは、幾度となく、国の魂をかけた闘いがありました。アメリカを過去に戻したい勢力と、未来へ進めたい勢力との争いです。我が国の問題は年齢ではなく、考え方の古さにあります。憎しみ、怒り、復讐、報復など、大昔の考えでは、アメリカを未来へ導けません。可能性の国であるアメリカを進めるには、アメリカらしい未来像が必要です」
演説終了後。
トランプ前大統領のSNS「最も怒りに満ち、思いやりの欠けた過去最悪の一般教書演説だった。国の恥さらしだ!」
●トランプ氏との対決強調=「民主主義への攻撃」に危機感―バイデン氏、大統領選控え実績誇示・一般教書演説 3/9
バイデン米大統領は7日夜(日本時間8日)、連邦議会の上下両院合同会議で一般教書演説を行った。
再選を目指す11月の大統領選をにらみ、任期中の内政や経済、外交の実績を誇示。選挙戦の相手となるトランプ前大統領と対決する姿勢を鮮明にした。
今回の一般教書演説は、民主、共和両党の候補者を選ぶ予備選・党員集会が集中する5日のスーパーチューズデーの直後に行われた。バイデン、トランプ両氏の再戦の構図が固まってから最初の重要な政治イベントで、論戦の事実上の幕開けとなった。
バイデン氏は「自由と民主主義が国内外で攻撃を受けている」と指摘。トランプ氏を「私の前任者」と呼び、2021年にトランプ氏の支持者が起こした連邦議会襲撃事件を「南北戦争以来の民主主義に対する脅威だ」と批判した。
また、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援するための予算承認を議会に要求。北大西洋条約機構(NATO)の拡大を成果に挙げ、加盟国への攻撃をロシアに促すかのようなトランプ氏の発言を「言語道断で、容認できない」と糾弾した。
バイデン氏はさらに、新型コロナウイルスの流行に伴う不況から景気を回復させたと誇り、「私は瀬戸際にあった経済を(トランプ氏から)引き継ぎ、今や世界の羨望(せんぼう)の的になった」と訴えた。トランプ氏が批判を強める移民問題については「解決する準備がある。今すぐ法案を送ってくれ」と共和党に協力を呼び掛けた。
イスラエル寄りとの批判を浴びているパレスチナ問題では、自治区ガザでの即時の戦闘休止実現に取り組んでいるとアピール。ガザ沿岸に支援物資の搬入拠点を設置する計画も明らかにした。
中国に関しては「競争は求めるが、対立を求めていない」との方針を再確認。「われわれは台湾海峡の平和と安定のために立ち上がる」と語り、日本などとの同盟関係を活性化したと強調した。
このほか、最高裁が人工妊娠中絶の権利を認めた判決を覆したことを受け、中絶の権利を擁護すると表明。経済政策では、富裕層への課税強化などを打ち出した。
バイデン氏陣営は、注目を集める一般教書演説を、81歳という高齢への不安を払拭する機会と位置付けており、演説では「若かろうが老いていようが、何が長く生きるかを知っている。(それは)米国の理念だ」と反論した。 
●バイデン氏は米国の恥、歴代大統領と比較しメドベージェフ氏が批判 3/9
ロシアのプーチン大統領の盟友で前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は8日、バイデン米大統領を米国にとり「狂気の」恥だと批判し、自身をルーズベルト元大統領と比較する資格はないと述べた。
バイデン大統領は7日の一般教書演説の冒頭、ルーズベルト大統領(当時)が1941年に議会で行った演説に言及し、米国は歴史上かつてない転換期に直面していると述べた。
また国防費を拡大しないNATO加盟国に対する侵攻をロシアのプーチン大統領に促すような発言をしたトランプ前大統領について「私の前任者はプーチンに『好きなようにすればいい』と言ったが、これは言語道断で危険で、容認できない」と批判。プーチン氏に向けて「われわれは立ち去らない」とも述べた。
メドベージェフ氏はX(旧ツイッター)に「ルーズベルトは車椅子の病弱な人だったが、米国を恐慌から救った。一方、バイデンは、人類を地獄に引きずり込むことに全力を傾ける狂気の知的障害者だ」と投稿。
「ルーズベルトは、旧ソ連を含む同盟国とともに平和のために戦っていた。バイデンは積極的かつ執拗に第3次世界大戦を起こそうとしている」「ルーズベルトはファシストと戦っていたが、バイデンはファシストのために戦っている。彼は米国の恥だ」と批判した。
●リトアニア“ロシア 侵攻の一方 NATOと対立にらみ軍再編も” 3/9
歴史的にロシアへの警戒感が強いバルト三国のリトアニアの情報機関は、ロシアは、ウクライナ侵攻を続ける一方でバルト海周辺でNATO=北大西洋条約機構との対立が長期に及ぶことをにらみ、軍の再編など準備を進めているという見方を示しました。
リトアニアの情報機関は7日、自国の安全保障の脅威について評価した報告書を公表しました。
報告書では、ウクライナ侵攻を続けるロシアについて、短期的には、ルハンシク州やドネツク州など東部と南部の4つの州で支配地域を拡大することを目標とし、長期的には、ウクライナの非軍事化を含む当初の計画をあきらめていないと指摘しています。
また、軍需産業への大規模な投資や経済制裁の回避などで予測よりも好調な経済状況を背景に「2年にわたって戦争を継続するための能力を有している」と分析しています。
いわゆる「制裁逃れ」については、ロシアの対外情報庁など3つの情報機関が関与し、制裁の対象となっている機器や部品を第三国を経由して欧米側から調達しているとしています。
そして報告書では、ロシアは、ウクライナ侵攻を続ける一方で、バルト海周辺でNATOとの対立が長期に及ぶことをにらみ軍の再編など準備を進めているという見方を示しました。
●チェコ首相“30万発の砲弾購入資金を確保” ウクライナ支援に向け 3/9
ウクライナで砲弾が不足している問題をめぐり、チェコのフィアラ首相は8日、ウクライナへの支援に向け、30万発の砲弾を購入するための資金を確保したと明らかにしました。
ロシアによる侵攻を受け、ウクライナでは前線での砲弾不足が深刻化していて、ウクライナ側は、軍事支援を急ぐ必要性を訴えています。EU=ヨーロッパ連合などによる砲弾の供給が遅れる中、チェコが主導する形でウクライナへの砲弾や弾薬を供給する計画が進行しています。
こうした中、チェコのフィアラ首相は8日、ウクライナへの支援に向け、30万発の砲弾を購入するための資金を確保したと明らかにしました。
ロイター通信などによりますと、チェコが主導する計画には、カナダやデンマークなど18か国が参加していて、フィアラ首相は、「我々の目標はさらに多くの砲弾を届けることだ」と述ています。
●ウクライナでロシアとNATOは直接対峙するか? 3/9
これまで、ウクライナ戦争は戦線膠着、事実上停戦状態になるだろうと思っていた。だが、2月17日に東部のアウディーイウカをロシア軍が制圧した顚末を知ると、少し危機意識を持つ。ウクライナ軍が内部から崩れ、ロシア軍が一気呵成に占領地域を拡大するのではないか、という危惧だ。なぜそう思うか。
2月8日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、自分の思うとおりに動かない総司令官ザルジニーを更迭し、陸軍司令官のシルスキーを後任に据えた。そしてアウディーイウカの死守をシルスキーに命じ、ウクライナ支援を訴えるためミュンヘンの安全保障会議へと飛び立ってしまう。アウディーイウカは昨年10月以来、ロシア軍が攻勢を強め、天王山の戦いとされてきた。ザルジニーは、早期に撤退して後方で防御態勢を固めようと進言したが、ゼレンスキーはそれでは西側の支援を確保できないと、死守を命じたのだ。
しかしロシア軍の一層の進軍で、シルスキーは17日、突如撤退を命じる。「包囲を避け、兵士の命を守るために」という声明を出して。ウクライナ軍の戦線は乱れ、一部の報道では1000人弱が捕虜になった。
シルスキーは以前から、軍内の評判が悪いと言われる。「ソ連時代の軍教育を受けて、兵士の命は二の次」というわけだ。1986年以来ウクライナで軍務に就き、ウクライナ市民になっているものの、ロシア生まれの生粋のロシア人。ロシアで軍事教育を受けた経歴も邪魔をする。
兵力確保にロシアも苦労している
ウクライナ軍は士気が高いと言われるが、兵役を嫌う青年ももちろん多い。平均賃金をはるかに超える給料で何とかやっているが、アメリカからの資金が米議会共和党の抵抗で止まっているため、遅配も起きている。だから筆者は、ウクライナ軍の内部崩壊を恐れる。
加えてゼレンスキーは5月で任期が切れる。「戒厳令中だから大統領選挙ができない」という理屈で居座ろうとしているが、野党勢力がザルジニーも抱き込んで声を上げてくるだろう。
ではロシア軍が一気にウクライナを占領しNATOと直接対峙するかと言うと、それも難しい。ロシアも兵力の確保に苦労している。貧困地域での募集、そして囚人の動員(15万人という報道もある)でしのいでいるが、戦車を大量に破壊されて補充の生産も追い付かないから、急な進軍はできない。夏にはウクライナ軍にF16戦闘機も加わって、ロシア領内部深くにミサイル攻撃ができるようになる。
スウェーデン、フィンランドのNATO加盟で、バルト海でロシア海軍は劣勢となり、飛び地のカリーニングラードを守ることもおぼつかない。
ロシアは制裁を乗り切ったとうそぶいているが、2023年の経済成長3.6%という数字は、軍需生産の増加に多くを負う。石油・ガスの輸出収入は減少して、ルーブルは戦前より20%強減価し、労働力不足で賃金が跳ね上がって生産性上昇を超えている。これはインフレを悪化させるだろう。
パリでのウクライナ支援ハイレベル会議では、ウクライナに陸上兵力を送ることも提起されたようだが、アメリカ、ドイツ、ポーランドなどはこれに乗らない。もし送ればロシアからのミサイル攻撃などを呼び、核兵器を使用させることにもなる。だからザルジニーが言っていたとおり、当面ウクライナは下がって守りを固めるだろう。
こうやってウクライナは持ちこたえ、西半分の地域の経済開発に努め、ロシアが擦り寄ってくるのを待つのが上策だ。まるで朝鮮戦争休戦後の韓国のように。
●トルコ大統領 戦争終結に向けウクライナとロシアの仲介役に改めて意欲 3/9
トルコのエルドアン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、戦争終結に向け、ロシアとウクライナの首脳が参加する会議を開催する用意があると述べました。
エルドアン大統領は8日、トルコを訪問したゼレンスキー大統領と会談しました。
トルコ大統領府によりますと、会談で両首脳はウクライナとロシアの戦闘状況や穀物合意失効後の黒海での安全な運航、防衛協力の拡大などについて話し合いました。
会談後の会見でエルドアン大統領は、「我々は交渉による戦争終結に向け最大限の貢献をしている。ロシアも参加する平和サミットを主催する用意がある」と述べ、戦争終結に向け、仲介役を務める意向を改めて示しました。
一方、ゼレンスキー大統領は「あらゆるものを破壊し殺害する連中をどう招待すればいいのか」と述べ、ロシアの参加を拒否しました。
●中国代表 ロシアとウクライナを相次ぎ訪問 仲介役の姿勢示す 3/9
中国政府の特別代表がロシアとウクライナを相次いで訪問し、ウクライナ情勢をめぐって両国の高官と意見を交わしました。中国としては双方との外交関係をいかして仲介役を担う姿勢を示した形です。
中国外務省は、ユーラシアを担当する李輝特別代表が7日、ウクライナの首都キーウでイエルマク大統領府長官などと会談したと8日発表しました。
イエルマク長官によりますと、この中で▽ウクライナからの穀物輸出の安定や、▽ロシアが北朝鮮から兵器を調達していると見られる問題、それに▽「ロシア軍の撤退」などウクライナが提唱する和平案に基づく、ウクライナの領土と主権の回復などについて話し合ったということです。
中国外務省は「率直で友好的な会談だった」としています。
これに先だって李特別代表は2日、ロシアの首都モスクワでガルージン外務次官とも会談しました。
ロシア外務省によりますと、ロシア側は「安全保障上の国益が考慮されることなしに、政治的、外交的な解決の議論はあり得ない」としてウクライナ側の和平案は受け入れられないという姿勢を改めて示しました。
一方、中国外務省によりますと、李特別代表は「いかなる衝突も最終的には交渉によって解決されるべきだ」と述べ、和平交渉を促す努力を続ける考えを示しました。
アメリカなどは、中国について「ロシア寄りの姿勢を示している」として批判していますが、中国としてはロシアとウクライナ双方との外交関係をいかして、仲介役を担う姿勢を示した形です。
●モルドバがフランスと防衛協力協定を締結 ロシアへの脅威で 3/9
ロシアの脅威を訴える、ウクライナの隣国モルドバのサンドゥ大統領がフランスを訪れ、マクロン大統領と防衛協力協定を締結しました。
旧ソビエトのモルドバは、ヨーロッパでも特に経済規模が小さく、EU=ヨーロッパ連合への加盟を目指してきましたが、隣国のウクライナがロシアによる軍事侵攻を受ける中で欧米との関係を強化しています。
モルドバのサンドゥ大統領はフランスのパリを訪れ7日、マクロン大統領と防衛協力協定を締結しました。
記者会見でサンドゥ大統領は「ロシアの拡張主義的な目標がウクライナを越えて広がっている」と述べた上で、ロシアがサイバー攻撃を行ったり、クーデターを扇動したりしてモルドバを支配しようとしていると危機感を訴えました。
これに対してマクロン大統領は「お互いの軍の関係強化に効果的に取り組む」として今後、数か月以内にモルドバに防衛関係者を常駐させることを明らかにしました。
モルドバには、一方的に分離独立を宣言してロシア軍が駐留を続ける沿ドニエストル地方があり、ここを支配する親ロシア派勢力が先月、モルドバ政府からの圧力が強まっているとして、ロシアに住民の保護などの支援を求めました。
サンドゥ大統領としては、情勢が緊迫するおそれもあるとしてヨーロッパ各国との連携をいっそう強めていくとみられます。
●英メイ元首相 次の総選挙に立候補せず議員引退を表明 3/9
イギリスのメイ元首相は、ことし下半期に想定されている総選挙に立候補せず、議員を引退すると明らかにしました。メイ元首相が所属する与党・保守党では、次の総選挙で苦戦が予想される中、多くの議員が立候補しないことを決めたと伝えられています。
イギリスの与党・保守党のメイ元首相は、8日声明を発表し、ことし下半期に想定されている総選挙に立候補せず、下院議員を引退すると発表しました。
その理由についてメイ元首相は、強制労働問題などのライフワークに取り組む時間が増えてきたとした上で「私が正しいと信じる形で議員の仕事ができなくなると考えた」などと説明しています。
メイ元首相は、2016年、EU=ヨーロッパ連合からの離脱が決まった国民投票のあとイギリスで2人目となる女性の首相に就任しました。
その後、EUとの難しい交渉にあたり離脱の条件などで合意を得ましたが、イギリス議会で支持をとりつけることができず2019年に辞任しました。
メイ元首相が所属する与党・保守党は、議員の不祥事や経済政策への不満などを受けて支持率の低迷が続いていて、今月の世論調査では、保守党の20%に対し、野党・労働党は47%と2倍以上の差が開くなど総選挙での苦戦が予想されています。
現地メディアは、保守党では、元閣僚などおよそ60人が総選挙に立候補しないことを決めたと伝えています。
●円相場 一時146円台半ばまで値上がり アメリカの雇用統計受け 3/9
8日のニューヨーク外国為替市場ではこの日発表された雇用統計を受けて、FRB=連邦準備制度理事会の利下げが年内に行われるという観測から、ドルを売って円を買う動きが出て一時、1ドル=146円台半ばまで円高ドル安が進みました。
8日のニューヨーク外国為替市場では、アメリカで発表された雇用統計で失業率が市場の予想に反して上昇したことを受け、インフレの要因となってきた人手不足が和らいでいるとしてFRBが年内に利下げを行うという見方が強まりました。
日米の金利差の縮小が意識されて円高が進み、円相場は一時、およそ1か月ぶりの水準となる1ドル=146円台半ばまで値上がりしました。
市場関係者は「FRBのパウエル議長が7日議会上院で、『物価上昇率が持続的に2%になると確信できるまで遠くない』などと発言したこともあり、改めて年内の遅くない時期に利下げが行われるという観測が出てドル売り円買いの動きにつながっている」と話しています。 
●アルメニア、EU加盟検討 将来的な選択肢の一つ 3/9
旧ソ連アルメニアのミルゾヤン外相は、同国が欧州連合(EU)加盟を将来的な選択肢の一つとして検討していると明らかにした。インタファクス通信などが9日伝えた。
ミルゾヤン氏は、アルメニアがEUや米国の民主化支援を受けているとし、パートナー多様化の重要性を強調した。ロシアなどとの「伝統的関係」も維持しつつ、インドとも関係を強化していると述べた。
アルメニアのパシニャン首相は2月、旧ソ連6カ国でつくる「集団安全保障条約機構(CSTO)」への参加を凍結したと発言。ロシアは不信感を示している。
●ハンガリー首相、トランプ氏と会談 大統領に「戻ってきて」と投稿 3/9
ハンガリーのオルバン首相は8日、米フロリダ州でトランプ米前大統領と会談した。ロシアに融和的な姿勢をとり、ウクライナへの軍事支援を拒否するオルバン氏は、米大統領選でトランプ氏が再選すればウクライナで停戦が実現するとの見方を示す。会談後、SNSに「戻ってきて平和をもたらして、大統領」と投稿し、支持を表明した。
両氏は反移民などの政策姿勢で共通点が多く、親密な関係にある。トランプ氏の選挙陣営は会談後、「各国の主権を守るための強固で安全な国境の最重要性など、ハンガリーと米国に影響する幅広い問題について話し合った」と発表した。
トランプ氏は「大統領になればウクライナでの戦争を24時間で片付ける」としている。ウクライナへの軍事支援を拒否し、即時停戦と和平交渉を要求するオルバン氏は以前からトランプ氏に期待を示している。ウクライナを支援するドイツなど他の欧州諸国では再選すれば、米国からの支援が大幅に縮小される恐れがあると警戒が広がっている。 ・・・

 

●ナワリヌイ氏両親、支持者に感謝=妻ユリアさんが書面公表―ロシア 3/10
ロシアのプーチン大統領を批判し、獄死した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の両親が、モスクワの墓地などで同氏を追悼する支持者らに「多大な感謝と敬意」を示した。
妻ユリアさんが9日、父アナトリーさんと母リュドミラさんの連名の直筆書面をX(旧ツイッター)で公表した。
書面は、「希望をもたらすものだ」としてやまない追悼に謝意を表明した。プーチン政権の弾圧下、ナワリヌイ氏の墓を訪れたり献花したりする行為は一定のリスクを伴うとみられており、墓地に設置された監視カメラの映像から、反体制派らが拘束される例も報告されている。
●「白旗あげる勇気もって交渉を」 ローマ教皇がウクライナに停戦促す 3/10
ローマ・カトリック教会の教皇フランシスコはスイスのテレビ局のインタビューで、降伏を意味する「白旗」という言葉を使って、ロシアから侵攻を受けるウクライナに対して停戦交渉をするべきだとの考えを示した。バチカンメディアが9日、インタビューの放送に先立って教皇の発言を公開した。
同メディアによると、教皇は2月上旬に応じたインタビューの中で、記者から「ウクライナでは降伏の勇気、白旗を求める人たちがいる。しかし、それは強い側を正当化することになると言う人もいる」との質問を受け、「最も強いのは、状況を見て、国民のことを考え、白旗をあげる勇気を持って交渉する人だと思う」と述べた。
さらに、大国の協力を得て交渉を進めるべきだとの考えを示し、仲介役としてトルコに言及。その上で、「交渉という言葉は勇気のある言葉だ。自分が敗北し、物事がうまくいかないと分かったときは、交渉する勇気を持たなければならない。恥ずかしいかもしれないが、何人死んだらすべてが終わるのか。事態が悪化する前に交渉することを恥じないで」と訴えた。 ・・・
●ローマ教皇がウクライナ戦争に「交渉は恥ではない」と和平交渉を呼びかけ 3/10
ローマ教皇フランシスコがスイスの公共放送RTSの取材に応じ、ロシアとウクライナの間の戦争やガザ地区で繰り広げられているイスラエルとハマスとの戦争についての考えを述べました。この中で教皇はウクライナ戦争の当事者国に向けて「交渉は降伏ではありません」「事態悪化の前に交渉することは恥ではありません」と、停戦に向けた和平交渉を行うよう呼びかけました。
教皇庁によると、フランシスコ教皇は毎晩19時に、ガザ地区で600人が避難している聖家族教区教会に電話をかけて話を聞いているとのこと。
戦争を「恐ろしいもの」と表現した教皇は、「いかなる戦争においても、双方が常に和平交渉のテーブルに着くべき」と述べ、「交渉は決して降伏ではありません」「国を自殺に追い込まない勇気です」と付け加えました。
そして、ウクライナ戦争の当事者国であるウクライナとロシアに向けて「負けた、うまくいかないと思ったときには、交渉する勇気を持つことが大切です。恥ずかしいと思うかもしれませんが、何人死ねば終わるのでしょうか?期限内に、仲介してくれる国を探して交渉してください。こんにち、ウクライナ戦争においては調停を望む国がたくさんあります。トルコやその他の国が名乗り出ています。事態が悪化する前に交渉することを恥じてはいけません」と呼びかけました。
このほか、教皇は「戦争は常に敗北です。地理的な敗北ではなく、人類の敗北です」とも言及。
さらに戦争が生まれうる地理的状況・歴史的状況が常に存在していると認めた上で、「戦争は実際的な動機に基づいて引き起こされているように見えますが、あらゆる戦争の背後に軍需産業がいます、つまりお金の問題です。戦争は闇です。闇の力です」と語りました。
●増え続ける墓標 3/10
ロシアの侵攻が長期化する中、ウクライナでは次々と新たな戦死者の墓標が立てられている。墓標一つ一つにはためく無数の青と黄色の国旗が、戦争の現実を突き付けている。
●「戦争で富を成す」米国防長官が露骨に認める 3/10
オースティン米国防長官は先ごろ、ホワイトハウスでの会議で、ロシアとウクライナの衝突が米国経済にプラスに働いていると述べた。米国がウクライナに輸送した兵器は、全米各地の労働者によって米国内で製造されたもので、こうした投資により、米国内の施設の規模が拡大し、労働者の雇用機会が創出された。オースティン氏はさらに、米国の支援により、ウクライナ人がロシアとの衝突に関与し続けることが可能になると同時に、米国の経済に有利に働いているとも明言した。
ロシアとウクライナの衝突は、第2次世界大戦後最も深刻な欧州における局地戦で、当事国と欧州に大きな代償を払わせる一方で、米国を最大の勝者にし、軍事企業からエネルギー企業、農産物企業に至るまで、ウクライナ国民の苦痛の中から莫大な利益を得ている。
米国務省が先ごろ公表したデータによると、米国の2023年の対外兵器売却額は前年比16%増の2384億ドルと過去最高を記録した。うち、米政府が窓口となる「対外有償軍事援助(FMS)」は同56%増の809億ドルで、米企業が直接やりとりする商業販売は同2.5%増の1575億ドルだった。ある分析によると、ロシアとウクライナの衝突が米国の対外兵器売却額の伸びを促した主な原因だ。ロシアとウクライナの衝突発生以来、米国の国防・航空宇宙分野の工業生産額が17.5%伸びたという米連邦準備制度理事会(FRB)のデータは、このことを裏付けている。
戦争で成した富は不義の富であるにもかかわらず、米国防長官は相当に得意げになっているようだ。米国は、建国から240年余りのうち、戦争をしなかったのは16年だけであり、戦争で富を成すことにおいては、長い歴史を持つと言うことができる。その根源は、米国が早くから軍、軍事企業、議員、国防研究機関、シンクタンク、メディアから成る巨大な利益集団、いわゆる「軍産複合体」を形成してきたことにある。
戦争が終わることを望まないのは誰かと尋ねれば、その答えは、米国の軍産複合体とそれが操る政治権力ということになるだろう。なぜなら、戦争が1日長引けば、米国はその分の利益を得られるだけでなく、その機会を借りて国内矛盾を対外転嫁し、「借金漬け」の経済を発奮させられると同時に、欧州資本を米国に移転させ、米ドルの独占的地位を利用して「刈り取り」さえ行える。
こうした骨髄まで染み込んだ資本の冷血さと、まるで世の中が乱れないと困るかのような覇権主義的行動に、全世界は高度に警戒しなければならない。このことはまた、「国際的な公平と正義を守る力がさらに壮大化して初めて、米国という『戦争マシン』に対する効果的な抑制と均衡を形成でき、世界の平和と発展をより保証できる」ということを人々に気づかせる。
●NATOの役目が冷戦時代に逆戻り、スウェーデン加盟で32カ国・兵員331万人・国防費156兆円の巨大軍事同盟に 3/10
米国主導の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)にスウェーデンの加盟が決まりました。スウェーデンとしては、19世紀から掲げてきた中立・非同盟の外交方針の大転換です。昨年加盟した隣国フィンランドと同様、ウクライナに侵攻したロシアへの危機感を募らせたためです。では「NATO」とは、そもそもどんな組織なのでしょうか。歴史を振り返りながら、専門記者グループのフロントラインプレスがやさしく解説します。
「欧州の緩衝地帯」という立場を捨てる
スウェーデンがNATO加盟を申請したのは2022年5月、ロシアによるウクライナ侵攻から3カ月後のことです。フィンランドの申請と同時でした。
バルト海を挟んでロシアと接する両国はおよそ200年もの間、どこの軍事同盟にも属さず、外交面では中立・非同盟の立場を貫いていました。その立場を変えさせたのは、ウクライナ戦争の勃発です。
ロシアとの長い国境線を有するフィンランド、バルト海を挟んで接するスウェーデン。両国はNATOの非加盟国だったウクライナが攻撃される事態を目の当たりにして、自国の安全保障をより強固にしたいとの考えを強めました。そして「欧州の緩衝地帯」という立場を捨て、NATO加盟を選択したのです。
ところが、両国の申請はすんなりと承認されませんでした。NATOに加盟するためには構成国すべての承認を必要とします。申請時点の構成国は30カ国。親ロシア派が政権を握るトルコとハンガリーの2カ国が北欧2国の加盟を渋ったのです。
結局、フィンランドの加盟承認は1年後の2023年4月。スウェーデンの承認については、エネルギー供給を全面的にロシアに依存しているハンガリーが先送りを続けていましたが、今年2月26日に同国の国会がようやく承認しました。
キモは「集団的自衛権の行使」
NATO内でのすべての手続きを終え、スウェーデンが正式な加盟国となったのは3月7日。NATOの事務総長は「歴史的な日」とコメントしました。
これによって、32番目の加盟国となったスウェーデンは「集団防衛」の恩恵を受け、その義務も果たす国家となったのです。
NATOの基礎は全14条からなる北大西洋条約です。集団防衛は第5条に明記されています。
「欧州または北米における締約国が1カ国でも攻撃を受ければ、全締約国への武力攻撃とみなす。締約国は、武力攻撃が行われたときは、国連憲章の認める個別的または集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し、維持するために必要と認める行動(兵力の使用を含む)を個別的に、および共同して直ちにとることにより、攻撃を受けた締約国を支援する」
同盟国に武力攻撃が行われたら同盟全体への攻撃とみなし、攻撃を受けていない国も反撃に加わるという「集団的自衛権」の考え方です。
仮に、ロシアがスウェーデンに侵攻したらどうなるでしょうか。第5条が発動されると、スウェーデン以外の加盟国はロシアの攻撃は自国への攻撃であると判断。米軍を軸とするNATO軍がロシアに反撃を加えることになるのです。
誕生のきっかけはソ連の脅威
NATOは第2次世界大戦の記憶も生々しい1949年4月、米ワシントンで産声を上げました。当時の欧米はナチス・ドイツとの戦いに勝利したのも束の間、今度は共産主義と対峙する事態になっていました。
ソ連(当時)は欧州の東側で勢力を拡大。ルーマニアやハンガリーなどを次々衛星国としていきます。そうした軍事的脅威から欧州諸国を守るためとしてNATOは結成されたのです。最初の加盟国は、米国、英国、カナダ、フランス、ベルギー、オランダなどの12カ国でした。
1940年代後半に始まった東西冷戦は、核兵器も含む米ソの軍拡競争の時代でした。1949年10月にはソ連が初の核実験に成功。1955年には西ドイツ(当時)の再軍備やNATOに対抗するためとして東側の軍事同盟「ワルシャワ条約機構」が誕生し、ソ連をはじめ東ドイツ(当時)、ポーランドなど8カ国が加わりました。米ソ両陣営の外交的な接触は乏しく、1962年には核戦争寸前だったと言われたキューバ危機も起きます。
しかし、東西冷戦は1989年に終結し、1991年にはソ連が崩壊。ワルシャワ条約機構も同じ年に解体しました。ソ連の軍事的脅威に対抗する目的だったはずのNATOの設立目的も失われたはずでした。
対ソ連から対テロに
ところが、ソ連崩壊と同じ年、NATOの役割は大きく変わりました。ソ連崩壊に伴う経済や社会の混乱、民族対立、領土紛争などが頻発するようになっており、それに対処することがNATOの任務だとされたのです。
1990年代になると、NATOは旧ユーゴスラビア紛争に介入し、コソボなどの空爆に踏み切りました。NATO軍としては初めての本格的な軍事行動でした。
そして2001年にはついに北大西洋条約第5条を発動します。集団的自衛権を行使し、米国中枢を襲った同時多発テロへの報復作戦に参加したのです。
米軍が「対テロ戦争」としてアフガニスタンを攻撃すると、NATO軍も現地に兵力を展開しました。NATOはその後も欧州エリア以外の紛争に関与していきます。
2011年には、アフリカ・リビアの反政府運動に関して「人道的介入」を主張し、軍事作戦を展開。カダフィ大佐の独裁政権を崩壊に導きました。
一時はロシアと良好な関係も
実は冷戦崩壊後の一時期、NATOはかつての敵、ロシアと良好な関係を築いていました。1997年には「ロシアNATO基本文書」に署名し、双方を敵とみなさないことを宣言。2001年の米国同時多発テロ後は、国際テロや大量破壊兵器の拡散を防ぐために共同での対応も強化します。
そして東側への影響力を強めたい米国の考えもあり、1999年から2004年にかけて旧ソ連圏の国々も次々とNATOに加盟を果たしました。
潮目が変わったのは2000年代半ばです。東欧諸国で民主化運動が高まり、ジョージアやウクライナで親欧米政権が相次いで誕生しました。これに対し、プーチン政権は2008年にジョージアに侵攻。2014年にはウクライナのクリミア半島併合を宣言します。NATOの勢力圏拡大を阻止する狙いは明らかでした。
それ以降、プーチン氏は一貫して「NATO拡大反対」を主張しています。ウクライナへの全面侵攻も「兄弟国のウクライナまでがNATOと足並みをそろえれば、自国の安全保障に致命的」と考えたためとの見方が大半です。
しかし、ウクライナ侵攻によってNATOはさらに強化され、逆にロシアは孤立を深めています。
ロシアは「最大かつ直接的な脅威」
ロシアのウクライナ侵攻開始から4カ月後の2022年6月、NATOは行動指針の「戦略概念」を12年ぶりに改訂し、ロシアを「最大かつ直接的な脅威」と定義しました。改定前の「真の戦略的パートナーシップを目指す」からの大転換です。
中国にも初めて言及し、「われわれの利益、安全保障、価値への挑戦」との姿勢を示しました。
ウクライナ侵攻を機に、NATOは東西冷戦時代に戻ったかのようです。スウェーデンの加盟で32カ国体制となったこの軍事同盟は、トータルで兵員331万人、国防費1兆510億ドル(約156兆円)という規模になりました。
政治・経済の地域統合を目指す欧州連合(EU)の加盟27カ国のうち22カ国がNATO加盟国。EUの活動を軍事面で支える役割も果たしています。
各国の主張は完全に統一されているわけではありませんが、米・欧州の巨大な軍事組織の動きは今後も国際情勢の焦点であり続けるでしょう。
●トランプ氏の独裁願望を批判 バイデン氏、激戦州で火花 3/10
11月の米大統領選での再対決が確実となった民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領は9日、勝敗を左右する激戦州の一つ、南部ジョージア州で選挙集会をそれぞれ開き、火花を散らした。バイデン氏は「彼が独裁者になりたいと言った時、彼を信じることができた」と痛烈に皮肉り、強権的な姿勢を取ろうとするトランプ氏を批判した。
トランプ氏は演説で「私は民主主義の脅威ではない。バイデンこそが脅威だ。おまえはクビだ」とテレビ司会者時代の決めぜりふで非難。双方が対決姿勢を強め、米国の民主主義の在り方を巡り応酬を繰り広げた。
バイデン氏は、トランプ氏が8日に「民主主義は機能しない」と主張するハンガリーのオルバン首相と会談し「素晴らしい指導者」とたたえたと問題視した。
一方トランプ氏は、オルバン氏を「非常にたくましい」と改めて評価。オルバン氏との会談では、自身の在任中にはイスラエルは攻撃されず、ロシアとウクライナの戦争も起きず平和だったとして、返り咲きを待望されたと明かした。
●ロシア軍連隊、アウジーウカ西方で最後の大攻勢か 1日で車両84両失う 3/10
オープンソース・インテリジェンス(OSINT)アナリストのアンドルー・パーペチュアは、開戦から2年を過ぎたウクライナとロシアの戦争の約965kmにおよぶ前線で撃破または放棄された車両を確認するのに、毎日何時間もかけてソーシャルメディアや衛星画像、その他の情報源にあたっている。
平均してパーペチュアは1日に数十両の新たに大破したロシア軍の車両と、同様に破壊された少数のウクライナ軍の車両を確認している。この数は、独立系OSINTサイト「オリックス」が開戦からの700日間で数えた両軍の車両損失数と一致している。オリックスの集計ではロシア軍は1万4000両、ウクライナ軍は5000両を失った。
3月2日はパーペチュアにとって多忙を極めた日の1つになったが、その前日あたりには何が起きたのだろうか。忙しさでいえば、2月3日にわずかに及ばなかった。パーペチュアはこの日、1日としては最多となる103両の撃破または放棄された車両を確認した。70両がロシア軍、33両がウクライナ軍のものだった。
3月2日にパーペチュアが確認した車両は97両で、うち84両がロシア軍のものだった。ロシア軍が1日に失う平均の4倍だ。一方、ウクライナ軍の損失は1日平均の2倍だった。
この惨状は納得のいくものだろう。2月の車両損失が多かったのは、ウクライナ軍が拠点を置いていた東部ドネツクの北西に位置するアウジーウカをめぐり激戦が繰り広げられたためだ。結局、4カ月にわたるアウジーウカの戦いは多大な犠牲を払ったロシア軍の勝利に終わった。
ロシア軍の第2、第41諸兵科連合軍は弾薬不足に陥ったウクライナ軍の守備隊から廃墟と化したアウジーウカを奪おうとする中で兵士1万6000人を失った。負傷者は数万人、車両の損失は約700両にのぼる。ウクライナ軍側の犠牲になった兵士の数はおそらく4桁だ。
ウクライナ軍の第110独立機械化旅団は2月中旬にアウジーウカから撤退した。ロシア軍はアウジーウカに留まらず、アウジーウカの数km西にある集落群を過ぎてさらに西へと後退したウクライナ軍を追って攻撃を続けた。ロシア軍はその過程で多くの死傷者を出しながらもステポベ、ラストチキネ、セベルネをすぐに制圧した。
それらの集落のさらに西に位置するベルディチやオルリウカ、トネニケといった村々で、ウクライナ軍の第47独立機械化旅団、第3独立強襲旅団、第57自動車化旅団は戦いながらの撤退から積極的な防衛に切り替え、戦車や大砲、迫撃砲、ドローン(無人機)で反撃に転じた。
米国からの支援はなかったものの、欧州の同盟国が提供する弾薬の増加で強化されたウクライナ軍の旅団はロシア軍の前進を食い止めた。米国はロシア寄りの共和党議員らが昨年10月に支援法案の採決を阻止した直後からウクライナに追加支援を送れずにいる。
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は2月18日、こうした展開を予想していた。「アウジーウカ制圧で人員と装備に多大な損害を被ったロシア軍は、備えができている守備陣地に陣取る態勢が立て直されたウクライナ軍の部隊と対峙したとき、おそらく勢いのピークを迎えるだろう」とISWは書いている。
その証拠はアウジーウカ西方の野原や道路、樹林帯に散見される。そこには何百両もの大破したロシア軍の車両と、それよりずっと少ないウクライナ軍の大破した車両がある。パーペチュアが3月2日に確認したロシア軍の84両の損失は、アウジーウカ西方でのロシア軍の最後の大攻勢を少なくとも今のところは意味しているのかもしれない。
●ロシア核攻撃 バイデン政権、22年に「厳格な備え」 米CNN報道 3/10
米CNNテレビは9日、バイデン政権が2022年後半、ロシアがウクライナを核兵器で攻撃する可能性を懸念し「厳格な備え」をしていたと報じた。米政府高官2人の話としている。小型の戦術核をロシアが使いかねないと危惧していたという。
ロシアは22年2月にウクライナ侵攻を始めた。CNNによると、米国家安全保障会議は同年夏の終わりから秋までの間、ロシアが戦術核を使用した場合の緊急対応計画を検討した。
ロシア軍は22年夏頃、南部ヘルソン州でウクライナ軍の攻勢を受けて苦戦。部隊が包囲される危機に陥り、バイデン政権内にそうした状況が核使用の「潜在的な引き金」になり得るとの見方が出ていた。
●ドイツを揺るがすタウルスミサイル供与問題と情報漏洩の衝撃 3/10
ロシアによるドイツ国防軍傍受事件
3月2日の朝、ロシアの国営通信社RIAノーボスチが、ドイツ国防軍の会議を傍受したとして、5分間の録音を公開した。1人の中将と他3人の将校が、巡航ミサイル「タウルス」のウクライナでの展開について話し合っているもので、私も一部を聞いたが、音声は鮮明だった。もちろん、ドイツは上を下への大騒ぎになった。
同日の14時42分、RIAノーボスチは同じものを今度は38分間公開し、これにより会議の内容が詳しく漏れた。その後1時間もしないうちに、ドイツ国防省が沈黙を破り、ロシアに軍の会議を傍聴された可能性を発表。同夜8時のニュースではアナウンサーが、録音はおそらく本物であると言った。
録音は、2月19日にオンラインで行われた会議のもので、使われたソフトは米シスコ社のWebEx。ただ、これは国防軍のオンライン会議に使えるほど安全性が保証されているわけではないという。しかも、4人のうちの一人はシンガポールのホテルから会議に参加しており、漏れたのはここからと推察された。
タウルスミサイルと政治的葛藤
「タウルス」とは何か? ウクライナ戦争がなければ、私は、タウルスがミサイルの名前であることさえ知らないままに一生を終えていたに違いない。
タウルスとは巡航ミサイルで、巡航ミサイルというのは、戦闘機から落とされた後、自分で勝手に目標に向かって飛んで行って、それを破壊するのだそうだ。タウルスはドイツとスウェーデンが共同開発した優れ物で、戦闘機を離れた後、自分で500kmも飛べる。
ウクライナがこれをすでに昨年の初め頃から欲しがっていたが、ドイツ政府はガンとして首を縦に振らなかった。いや、正確に言えば、突っぱねていたのはショルツ首相で、その理由は、「ウクライナがドイツの供与したミサイルでロシアの重要施設を攻撃したりすれば、ロシアがそれをドイツからの宣戦布告と受け取りかねない」という真っ当なもの。ドイツは戦争の当事国になるわけにはいかない。つまり、タウルスのウクライナ供与など絶対にあり得ないというのがショルツ首相の考えだった。
ところが、CDU(キリスト教民主同盟)、緑の党、自民党は、タウルス供与によってドイツが戦争に引き摺り込まれるリスクなど無視し、頑強に供与を主張し続けていた。
CDUに関して言えば、彼らは野党の習性として、とにかくショルツ首相を追い詰めるためにタウルス供与を主張していたに過ぎないのだろうが、わからないのは連立与党である緑の党と自民党だ。特にこれまで平和主義を唱えていた緑の党が、一番熱心に声を張り上げ、ショルツ首相にタウルス供与を迫った。しかも、これで戦況が大きくチェンジする可能性など一切ないと言われているにもかかわらず、である。
ショルツ政権というのは、成立してから2年余り、常に党内の意見がまとまらないことが特徴で、タウルス供与に関してもその例に漏れない。ただ、2月22日、タウルス供与をめぐって国会で採決が行われたときには、いくら何でも、与党の緑の党と自民党が、野党のCDUと結託してショルツ首相に楯突くことはできなかったため、結局、タウルス供与は否決された。ロシアは胸を撫で下ろしたに違いないが、しかし、その後も、緑の党と自民党、そしてCDUのタウルス供与の主張は弱まることがなかった。
情報漏洩とその影響
ただ、ロシアが傍受していた会議は2月19日のものだったので、今、振り返ると、ロシア側はこの“爆弾”をすでに手中に収めながら、ドイツ国会のタウルスに関する採決を傍観していたことになる。こうなると、情報管理が疎かだった国防省の責任もさることながら、追い詰められるのはショルツ首相だ。というのも、タウルス供与を否定していたショルツ首相の横で、軍の将校たちはタウルスをどのように使い、ロシア領内の何を破壊するかについて話し合い、しかも国会では何食わぬ顔で採決が行われていたのだ。
しかも、ショルツ首相がタウルスの供与を拒否していた理由の一つが、タウルスの運用にはドイツの軍人をウクライナに送らなければならないから、というものだったが、この会議の中で将校らは、ドイツの軍人を送らずに、何発のタウルスで、いかにしてロシアとクリミアを結ぶ大橋を破壊できるかなどということも話し合っていた。これでは当然、ショルツ首相は嘘をついていたのかという疑問が浮かんでくる。
案の定、傍受の発表と同時に、ロシアの国営メディアは激しいドイツ叩きを開始した。特徴は、第2次世界大戦時のドイツに対する憎悪を蒸し返すような発言が盛んになされていることで、政府の報道官は「現在のドイツの指導者は、ナチの第三帝国の経験を蒸し返そうとしている。彼らは気が狂ったのか?」と言い放ち、メドヴェジェフ元ロシア大統領は、「永遠の敵ドイツ人は、再び我々の宿敵となった」と述べた。氏はさらに、「これに対して、どのような外交的手段があるのか、私にはわからない」と言っているから、完全な脅しだ。
肝心のショルツ首相は、「深刻な案件なので、慎重に、徹底的に、しかも早急に解明されなければいけない」と言っただけで、あとは音無の構え。ピストリウス国防相は、「これはロシアの情報操作を使ったハイブリッド攻撃だ。こんな謀略に引っ掛ってはいけない」と、私から見ると少しピントの外れた反撃を試みていた。氏によれば、傍受による被害はほとんどないので、「ロシアのせいで我々の大切な将校を更迭することはない」のだそうだ。つまり、ドイツ側の誰にも責任はないということか?
一方、CDUがやおら「ショルツ首相はドイツにとって安全を脅かすリスクだ!」と言い出したのは、何となく他人の褌で相撲を取っているように見える。この党は本当に落ちぶれる一方だ。
ドイツ社会の反応と今後
ところで、ロシアがこの傍受を、このタイミングで発表した目的は何だろう? まず第一に考えられるのは、ドイツ国民に「ロシアはこんなに怒っている。タウルスを送ったりしたら、本当に戦争になる」と思わせることか? あるいは、NATO内でのドイツの信用を失墜させ、最終的にドイツとフランスを引き離す作戦? これらは、マクロン仏大統領がウクライナでの地上戦の可能性をNATOで内密に相談せず、いきなり公の場で発表した理由と同じく、私にはわからない。
ただ、考えられるのは、ロシアが傍受した情報は他にもあるかもしれないことで、この話にはおそらく続きがあるだろう。
なお、最後に笑い話を一つ。大手調査会社Forsaのアンケートによると、回答者の72%はタウルス供与に反対しているという。ただし、緑の党の支持者だけが、唯一、供与に賛成という人が48%にも上り、反対の36%を大きく上回っている。
ところが、「有事の際に武器を持って国のために戦うか」という質問に対して、「絶対に戦わない」と答えたのは、緑の党が61%で一番多かった。いつも思うが、緑の党というのは、モラルで他人を縛ることが得意なわりには、自らのモラルは崩壊している人たちの集まりのようだ。
●砲弾不足のウクライナへチェコ首相“30万発分の購入資金確保” 3/10
ウクライナの東部や南部ではロシアによる住宅地などへの攻撃で市民の犠牲が相次いでいます。前線ではウクライナ側の砲弾不足が伝えられるなか、チェコのフィアラ首相は30万発の砲弾を購入する資金の確保にめどがついたとして、供与を急ぐ考えを示しました。
ウクライナでは9日もロシアによる住宅地などへの攻撃が繰り返され、このうち、東部のドニプロペトロウシク州では住宅や送電線などが砲撃され、地元の知事によりますと、16歳の少年が死亡したほか、男性1人がけがをして入院しているということです。
また、南部ヘルソン州や東部ドネツク州でも集合住宅が破壊され、あわせて3人が死亡するなど、市民の犠牲が相次いでいます。
一方、前線ではウクライナ側の深刻な砲弾不足が伝えられるなか、チェコのフィアラ首相は8日、ウクライナに供与する30万発の砲弾を購入する資金の確保にめどがついたとSNSで明らかにしました。
チェコは有志国と共同で、ヨーロッパ以外の国が保有する砲弾を購入して、ウクライナへ送る取り組みを進めようとしています。
フィアラ首相は「目標はもっと多くの砲弾を届けることだ。ロシアの侵略者に対するウクライナの勇敢な戦いを支援し続けるようにパートナーを探している」として、さらに多くの国に協力を求め、ウクライナへの供与を急ぐ考えを示しました。 
●NATO 冷戦終結後 欧州で最大の軍事演習 ロシアの攻撃を想定か 3/10
ウクライナへの侵攻を続けるロシアを最大の脅威と位置づけるNATO=北大西洋条約機構は、現在、東西冷戦の終結後、ヨーロッパで最大となる軍事演習を行っています。演習はロシアによる攻撃への対応を想定したとみられ、ロシアを強くけん制するねらいがあります。
NATOは、ことし1月から5月末にかけてバルト三国やポーランドなどロシアに近い加盟国を含む地域で9万人以上の兵士や1100両以上の戦闘車両などが参加する陸海空の軍事演習を行っていて、東西冷戦の終結後、ヨーロッパで最大の演習だとしています。
ウクライナ侵攻を受け、NATOはロシアを最大の脅威と位置づけ、有事の際に加盟国を守るためおよそ30万人の即応部隊を30日以内に展開させる計画を掲げていて、今回の演習では各国の部隊の連携と機動力の強化を目指しています。
今月上旬には前線に大部隊を迅速に移動させることを想定してポーランド北部で行われた演習が公開されました。
アメリカやフランス、それにポーランドなど9か国の軍の戦車や装甲車が、ヘリコプターや戦闘機が護衛する中、川の橋のない場所を水陸両用車などに乗って次々に渡っていました。
NATOは一連の演習について「同じレベルの敵に対する防衛計画を試し再評価する」としていて、ロシアによる攻撃への対応を想定しているとみられ、ロシアを強くけん制するねらいがあります。
今月5日に演習を視察したポーランドのドゥダ大統領は「今の最大の脅威はロシアの方角からもたらされていることは明らかだ。演習はロシアによるバルト三国やポーランドへの攻撃の可能性への対応でもある」と述べ、ロシアがウクライナだけでなくNATOを攻撃することも想定し備えを急ぐべきだと強調しました。
ヨーロッパ政府高官「ロシア NATO加盟国にも攻撃の可能性」
ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中、ヨーロッパの政府高官からは、ロシアが早ければ今後、数年以内にNATOの加盟国にも攻撃をしかける可能性があると懸念を示す発言が相次いでいます。
このうちドイツのピストリウス国防相は、ことし1月中旬に掲載された地元紙ターゲスシュピーゲルのインタビューで「過去30年ヨーロッパに存在しなかった軍事的な脅威と再び向き合っている」として、ヨーロッパが1989年の東西冷戦の終結まで直面していたロシアの脅威が復活したとの認識を示しました。
そして「プーチンがいつかNATO加盟国を攻撃することを想定しなければならない。いまロシアが攻撃してくるとは考えていないが、われわれの専門家は今後5年から8年の間にロシアはその準備が整うと分析している」と指摘しました。
さらに、デンマークのポールセン国防相も先月上旬、地元紙に対してロシアの脅威への評価が変わったとした上で「今後3年から5年の間にロシアがNATOの集団的自衛権と結束を試そうとする可能性は否定できない」と述べ、ロシアがNATOの弱体化をねらって攻撃をしかける可能性があるという考えを示しました。
このほか、ロシアの侵攻を受け軍事的中立の方針を転換してNATOに加盟したスウェーデンのボリーン民間防衛相もことし1月「スウェーデンで戦争が起きるかもしれない」と述べ、国民に備えを呼びかけています。
兵器の生産能力が課題
ヨーロッパはロシアの脅威に対抗するため域内の防衛産業の強化を掲げていて、先月行われたドイツの大手防衛企業の新工場の起工式には、ショルツ首相やデンマークのフレデリクセン首相がかけつけました。
ヨーロッパでは、ウクライナへ100万発の砲弾などを供与するとしたEU=ヨーロッパ連合の目標が実現できないなど兵器の生産能力に課題を抱えています。
背景にあるのが、1989年の東西冷戦の終結後、NATO加盟国の多くが国防費を減らしてきたことです。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所のまとめによりますとGDP=国内総生産に占める国防費の割合はフランスは冷戦下でおおむね3%台だったのが、冷戦後に徐々に減り1%台の後半に低下しドイツは2%を超えていたのが冷戦終結の3年後からウクライナ侵攻まで1%台で推移してきました。
NATOはことしは、今月加盟したスウェーデンを除く加盟31か国のうち18か国が、目標とする2%を達成する見通しだと発表し、国防費の増額に取り組んでいると強調しています。
しかし、ヨーロッパの安全保障政策に詳しいドイツ外交問題評議会のメリング氏は「NATOの2%という目標は、継続的に支出されていることが前提だ。多くのヨーロッパの国はそうしてこなかった。この1年に2%を支出しても、構造的な国防力の欠落から抜け出すことにならない」と指摘しています。
国防費の大幅な増加はほかの予算の削減にもつながるため、ロシアの脅威の認識に温度差もあるとされるヨーロッパが一致して増加に踏み切れるかが注目されます。
専門家「ロシアが攻撃の可能性指摘の発言 危機感のあらわれ」
ヨーロッパの安全保障政策に詳しいドイツ外交問題評議会のクリスティアン・メリング氏は、NATOに対するロシアの攻撃の可能性を指摘する発言が相次いでいるのは、ウクライナ侵攻で明らかになったロシアの脅威と、ヨーロッパ側の不十分な備えへの危機感のあらわれだと指摘します。
メリング氏は「いま、われわれはロシアの帝国主義的で攻撃的に目標を追求する意欲、そして、すべての分野ではなくとも兵器を生産し、再軍備できる能力を目の当たりにしている。ロシアのほうがNATOよりもすみやかに戦争の準備ができる」と話し、ロシアが戦時体制下で軍備の拡大などを早く進められるようになっていて脅威だとしています。
そして、NATOへの攻撃の可能性については、ロシアがウクライナ侵攻を通じてリスクをとることをためらわなくなっているという見方を示しました。
その上で「たとえばバルト三国のリトアニアの首都を制圧し、ドイツとフランスに『自国の兵士を犠牲にするのか』と交渉を持ちかける。ロシアはNATOやEUがこうした問題で自壊することを望んでいるのだろう」と述べ、NATOの弱体化をねらって、加盟国に限定的な攻撃を行うおそれがあり抑止力の強化が必要だと訴えます。
メリング氏は、去年11月、ロシアの脅威に関する報告書をまとめ、戦時体制で毎年28万人の兵士を訓練できるなどとして、ウクライナでの激しい戦闘が終わってから今後6年から10年の間にNATOへの攻撃準備を整える可能性があると分析しています。
一方、ヨーロッパ側の備えについては防空能力や長距離火力、戦闘車両などが不十分だとして「必要な兵器は保有しているが量が少ない。防衛産業の規模も非常に小さく質の高い兵器は生産できるが生産量は少ない。ロシアの侵攻が教えてくれたのは量は、それ自体が質だということだ」として、量を誇るロシアに対抗するためには兵器の質だけではなく物量も確保することが不可欠だと訴えています。
そして「防衛産業を立ち直らせ、ロシアを抑止できるだけの軍事力を質、量ともに手に入れるには支出を長期間増やさなければいけない」と強調しました。

 

●ウクライナ、前線で防御強化 英分析、戦車障害物や塹壕 3/11
英国防省は10日、ロシアの侵攻を受けるウクライナが前線の複数の地域で防衛拠点の構築を加速させているとの分析を発表した。「竜の歯」と呼ばれる戦車阻止用の障害物や塹壕、地雷原をつくり、防御を固めているとした。
ロシア軍は、侵攻を開始した2022年の後半から前線の防衛を強化し、23年秋ごろからウクライナ東部で攻勢を強めている。両軍が前線の防御を固める展開となっており、英国防省は消耗戦の特徴を示していると分析した。
●「ロシアはクリミア制御失敗」 大統領代表、奪還を主張 3/11
ウクライナ政府でクリミア政策を統括するタミラ・タシェワ大統領常任代表が11日までに共同通信のインタビューに応じ、ロシアは実効支配する南部クリミア半島を「制御できていない」と述べ、ロシア軍施設を狙ったウクライナ軍の作戦が成功しているとの認識を示した。欧米の支援を得られれば「軍事的に取り戻すことが可能だ」と訴えた。
ロシアが2014年にクリミア併合を宣言してから18日で10年。タシェワ氏はロシアがクリミアを軍事拠点化して22年以降の侵攻を進めたと批判し「領土だけでなく安全保障の問題だ」として奪還の重要性を強調した。
●増え続ける墓標 戦死3.1万人「信じない」 連日の葬儀、埋葬地拡大 3/11
ロシアの侵攻が長期化する中、ウクライナでは次々と新たな戦死者の墓標が立てられている。
ゼレンスキー大統領は2月下旬、ロシアの侵攻開始以降の戦死者数を3万1000人と発表。だが、実際はそれよりはるかに多いと考える国民が大半を占める。墓標一つ一つにはためく無数の青と黄色の国旗が、戦争の現実を突き付けている。
息子の死
西部リビウ中心部のリチャキフ墓地。イリナ・グレベンさん(42)は毎朝、息子が好きだったというコーヒーを買い、墓前に供える。
軍士官学校を卒業後、息子イホールさん(22)は東部で砲兵部隊を指揮していた。昨年10月、副指揮官から音声メッセージが届いた。「(イホールさんのいる場所が)ミサイル攻撃を受けた。無事かどうか確認しに行く」。持って回った言い方に、既に息子の死が確認されたのだと直感した。
「人に何かを与え、喜ぶ顔を見るのが好きな子だった」とイリナさん。生前は「僕が死んでも泣かないで。ロシアの侵略を止めるために戦わないといけないんだ」と話していたという。
2年で650基
侵攻当初、戦死者はリチャキフ墓地の旧区画に埋葬された。だが、1カ月で場所が足りなくなり、第2次大戦のソ連軍戦死者らの埋葬地が使われるようになった。
同墓地の管理者オレクサンドル・ドミトリフさんはこの2年余、自身の親族の葬儀に参列した1日を除き、すべての埋葬に立ち会ってきた。「ほぼ毎日、誰かが埋葬される。葬儀のない日があれば驚きだ」。侵攻以降に立てられた兵士の墓標は約650基。ソ連兵の遺骨を掘り起こして別の場所に移管する作業を進めており、「あと300人を埋葬できる」と語る。
こらえる涙
イリナさんは「どの町や村でも毎日葬儀がある」と指摘。ゼレンスキー氏が発表した戦死者数について「信じられない。被害の実態を敵に明かせないのだろうが、はるかに多いはずだ」と話す。
取材中、新たな戦死者が親族や友人に見送られ、葬られた。息子とおぼしき10歳前後の少年は葬儀の間、ずっと直立不動で唇をかみしめ、涙をこらえていた。
イリナさんも息子の願いに沿い、葬儀で涙を流さなかった。「多くの人が亡くなるのは悲しい現実だが、私たちは戦い続けねばならない。息子や他の人たちは、この戦争に勝つために死んでいったのだから」。 
●大統領選プーチン氏の優位動かず 15〜17日投票 3/11
今月15〜17日投票のロシア大統領選まで1週間を切った。支持率約80%の現職プーチン大統領がウクライナ侵攻を背景に国民の団結を呼びかける中、他の3候補は政権批判に及び腰で、政策論争はかみ合っていない。通算5選を目指すプーチン氏の圧倒的優位は動かない情勢だ。
テレビの候補者討論参加を拒否したプーチン氏陣営は当初、テレビ選挙公報も出さなかったが、選挙戦後半になってテレビ公報を開始。これまでの経済的達成に加え、プーチン氏の国内視察や外国首脳との会談場面などを盛り込んで実績と「安定」を強調している。
3月1〜3日の世論調査では大統領の仕事を「評価する」が83%で、1週間前から3ポイント上昇した。
●大学生に10日間の禁錮刑、ネットワーク名に親ウクライナのスローガン ロシア 3/11
モスクワの裁判所は、ウクライナを支持するスローガンを自室のWiFiのルーター名に設定したロシアの大学生に対し、10日間の禁錮刑を言い渡した。
SNSテレグラムのロシア系独立ニュースチャンネル「オストロジノ・ノーボスチ」によると、モスクワ国立大学の大学生がWiFiのネットワーク名を「スラバ・ウクライナ(ウクライナに栄光を)」に変更した。ロシア国営RIAノーボスチ通信は学生の身元をオレグ・タラソフさんと特定した。
RIAノーボスチ通信によると、モスクワの地方裁判所は7日、プロパガンダと「ナチスのシンボルを公共に掲示した」罪でタラソフさんに有罪判決を下した。ルーターは当局により押収されたという。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに全面侵攻を仕掛けて以来、政府に反対することは事実上違法とされている。
ロシアの人権擁護団体OVDインフォによると、これまでロシアでは戦争に反対する姿勢に関連した犯罪で2万人以上が拘束され、今も260人以上が収監されているという。
先月中旬に反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が北極圏の収容所で死亡したのを受け、抑圧的な雰囲気はこの数週間でますます顕著になっている。
当局が過激主義とみなす活動を主導する反政府勢力を支持するのは危険を伴う行為だ。
ロシア国営メディアはナワリヌイ氏の死をおおむね無視しているが、即席の追悼の場に集まった大勢の人々が拘束された。政治集会での逮捕者としてはこの2年で最多だった。
週内には厳戒態勢の中で大統領選が行われる。唯一反戦を掲げていた候補者はすでに立候補を抹消され、2030年代までプーチン政権が続く可能性が高い。
●「ウクライナに栄光を」Wi−Fi名変えて投獄されたロシアの名門大生 3/11
ロシアの大学生が自身のWi−Fiネットワークの名前をウクライナ支持スローガンに変えて投獄された。
英BBCが10日に伝えたところによると、ロシアの名門大学である国立モスクワ大学のある学生が7日にモスクワの裁判所で「ナチスまたは過激派組織の象徴の展示」の容疑により有罪が認められ懲役10日の刑を宣告された。
彼は大学寄宿舎の自分の部屋Wi−Fiのネットワーク名を「ウクライナに栄光を」という意味の言葉に変えた。
ある警察官がWi−Fiネットワークを発見して当局に報告し、警察官は大学寄宿舎で彼のPCとWi−Fiルーターを確保して6日に彼を逮捕した。
裁判所は被告が「Wi−Fiの電波が届く範囲内の不特定多数に『ウクライナに栄光を』というスローガンを広報するために自身のWi−Fiネットワークを利用した」と明らかにした。
ロシアでは先月シベリアの刑務所で服役中に謎の死を遂げた反体制指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏の追悼場所に献花したという理由だけで400人以上が逮捕されるなど、プーチン政権とウクライナ戦争に反対する人たちが相次いで逮捕、収監されている。
●前年比61%増、ロシア企業の倒産がますます止まらない...「経済戦争」ではすでに敗戦状態 3/11
ロシアで倒産企業が急増している。
同国の経済紙コメルサントが裁判所記録で確認したところによれば、今年1月の企業倒産件数は571件で、前年同月比57%増。2月は771件で、同61%増だった。その数は今後さらに増えると、専門家は予想している。
そんななか、ロシアのプーチン大統領は2月29日に行った年次教書演説で、インフラや社会福祉を強化する方針を表明し、企業への増税を示唆した。
米ブルームバーグの推定によれば、年次教書演説で発表した6カ年経済計画の支出規模は1640億ドル相当に上る。
3月15〜17日に予定されるロシア大統領選はプーチン勝利が確実視されており、次の任期6年に向けて布石を打った格好だ。
   571件 / 今年1月のロシアの企業倒産件数
   771件 / 今年2月のロシアの企業倒産件数
   61% / 前年同月と比べた今年2月の倒産件数の増加率
●「ウクライナは白旗あげる勇気を」 ローマ教皇の発言に批判の声 3/11
ウクライナはロシアとの戦争の終結に向けて「白旗をあげる勇気」を持つべきだというローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇の発言に批判の声が出ている。
フランシスコ教皇は9日に放送されたスイスのラジオ局RTSとのインタビューで、交渉が「強い側を正当化する」ことになるのではないかと質問された。
「それもひとつの解釈だ」と教皇は述べた。「だが、より力のある者とは、状況を判断して、人々を思い、白旗をあげる勇気を持ち、交渉に臨む者だと思う」と述べ、「現在、大国の力を借りれば交渉は可能だ」と続けた。
この発言に対し、多くの死者を出しながらもロシア占領地域の完全奪還を図るウクライナ政府はすぐに反応した。
「我々の旗は黄色と青だ。この旗のもとに我々は暮らし、死に、勝利を収めている。決して他の旗を掲げることはない」。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は10日、ソーシャルメディアにこう投稿した。
「善と悪を同じ土俵に並べて『交渉』と呼ぶのではなく、善と悪の戦いで善に味方する者こそが最強だ」(クレバ外相)
教皇の発言には欧州各国からも非難の声が上がった。
ポーランドのラドスワフ・シコルスキ外相は10日、X(旧ツィッター)に「そうであれば、(ロシア大統領の)プーチン氏にもウクライナから軍を撤退させる勇気を持つよう勧めてはどうか」と投稿した。「そうすれば交渉の必要もなく、すみやかに平和が訪れるだろう」
ラトビアのエドガルス・リンケービッチ大統領も、「悪を前にして降伏してはならない。悪と戦い、悪を打ち負かし、悪が白旗をあげて降伏するようにしなければならない」とXに投稿した。
●ウクライナ外相SNSに「私たちの旗は黄色と青だ。他のいかなる旗も揚げない」 ローマ教皇の停戦交渉促す「白旗」発言に反発 3/11
ローマ教皇フランシスコが、ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナについて、降伏を意味する「白旗」の言葉を使い、停戦交渉を促したことに対し、クレバ外相がSNSで反発した。
ウクライナのクレバ外相は10日、SNSに「わたしたちの旗は黄色と青だ。われわれは、ほかのいかなる旗も揚げることはない」と投稿した。
ローマ教皇が、「白旗を揚げる勇気を持っている者が最も強い」と、交渉による停戦を促したことに反発した形。
一方、ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ローマ教皇の発言には直接言及せず、ロシアとの停戦交渉を否定した。
●ローマ教皇 ウクライナめぐり「白旗」発言 教皇庁は釈明 3/11
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナをめぐって、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は、9日に公開されたメディアのインタビューで「最も強いのは国民のことを考え白旗をあげる勇気を持って交渉する人だ」などと述べました。これにウクライナ側は不快感を示し、ローマ教皇庁は降伏を促したものではないと釈明する事態となっています。
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は、9日に公開されたスイスメディアのインタビューで「最も強いのは国民のことを考え白旗をあげる勇気を持って交渉する人だ。負けたと分かったときや物事がうまくいかないとき、交渉する勇気が必要だ」と述べました。
一般的に「降伏」を意味する「白旗」ということばを使ったことについて、ローマ教皇庁の報道官は「インタビュアーの質問を引用したもので、敵対行為をやめ、交渉する勇気によって達成される停戦を示すためだった」とコメントし、ウクライナ側に降伏を促したものではないと釈明に追われる事態となりました。
これに対してウクライナのクレバ外相は、SNSに「最も強いのは、善と悪の戦いにおいて両者を『交渉』と称し同じ立場に置くのではなく、善の側に立つ者だ。命を懸けて戦うウクライナと国民を支援するよう強く求める」と投稿し、不快感を示しました。
教皇はインタビューの中でみずから仲介役を担う意欲も改めて示しましたが、去年8月には帝政ロシアをたたえるような演説をしたとして、ウクライナではその姿勢に懐疑的な見方も広がっています。
●ロシア 併合宣言したウクライナ東部地域で大統領選の投票開始 3/11
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、併合を一方的に宣言したウクライナ東部ドネツク州で10日、大統領選挙の期日前投票を始めたと主張し、支配の既成事実化を強める構えを見せています。
ウクライナ東部ドネツク州では10日にかけてもロシアからの無人機やミサイルによる攻撃があり、地元当局によりますと各地で3人が死亡し、12人がけがをしました。
一方、同じドネツク州内の、ロシアがおととし9月に併合を一方的に宣言した地域では、10日、大統領選挙の期日前投票が始まったとロシアの国営メディアが伝えました。
ロシアの大統領選挙は今月15日から17日にかけて投票が行われ、プーチン大統領の再選が確実視されていますが、プーチン政権はドネツク州など併合を一方的に宣言したウクライナの4つの州でも選挙だとする活動を強行し、支配の既成事実化を強める構えを見せています。
こうした中、イギリス国防省は10日に発表した戦況分析で、ウクライナが前線の複数の地域でざんごうや地雷原、さらに「竜の歯」と呼ばれる戦車の前進を防ぐ構造物の設置など、防御陣地の構築を加速させているとしました。
その上で「ロシア軍が前進したり戦術的利益を得たりする能力は低下する可能性が非常に高い」として、戦況は一層こう着するという見方を示しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍がことし5月にも大規模な攻撃を仕掛ける準備をしているとして警戒を強めていて、ウクライナ国防省も、南部ザポリージャ州方面で「竜の歯」を設置している写真などをSNSに投稿し、守りに重点を置いていることをうかがわせています。
●ロシア海軍トップ交代 侵攻との関係不明―現地紙 3/11
ロシア紙イズベスチヤ(電子版)は10日、関係者の話として、海軍のエフメノフ総司令官が職を解かれ、総司令官代行にモイセエフ北方艦隊司令官が内定したと伝えた。ウクライナ侵攻に絡む更迭か定期人事かは不明。侵攻開始後、海軍は黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が沈没するなど大打撃を受けている。
●バイデン陣営、一般教書演説後の24時間に1000万ドル調達 3/11
11月の米大統領選で再選を目指すバイデン大統領の陣営は10日、7日の一般教書演説後の24時間に1000万ドルの選挙資金を調達したと明らかにした。
バイデン氏は一般教書演説で、大統領選で対戦する見通しのトランプ前大統領が民主主義を脅かし、メキシコとの国境警備強化を妨害していると非難。また、トランプ氏が2021年1月6日の議会襲撃事件の事実を葬り去ろうとしているほか、ロシアのプーチン大統領に屈しているとも主張した。
バイデン陣営と民主党が1月全体で集めた選挙資金が4200万ドル強だったことを考慮すると、24時間で1000万ドルという額は注目に値する。
調査会社ニールセンがまとめた14のテレビ局の視聴率によると、一般教書演説の視聴者数は3220万人と前年から18%増えた。インターネットの動画配信やソーシャルメディアなどでの視聴は含まれていない。
バイデン陣営は9日、今後6週間で主要な激戦州向けに3000万ドルの広告費を投じると明らかにした。
●一般教書演説から見えたバイデン政権の「欧州第一主義」 3/11
3月8日にバイデン大統領の議会に対する一般教書演説が行われた。本来的には一般教書演説は、大統領が「国家の現状(State of the Union)」について議会に報告するイベントではあるが、テレビ中継が導入されて以降は政治的主張が第一義的な目的の場となっている。そして、大統領選挙イヤーとなる今年の一般教書演説は、事実上バイデン大統領による推定3200万人にの米国民に向けた選挙演説となった。
バイデン政権の最優先事項は?
大統領討論会や大統領就任式を除いては、一般教書演説は有権者が最も視聴する政治的イベントであり、一時間近く続いた演説の特に最初の数十分が大事であった。なぜなら、多くの有権者の中でも演説全体を聴く人は少数であるからだ。しかし、経済問題、人工妊娠中絶、移民政策など溢れんばかりの国内問題がありながらも、演説の最初の数分間を占めたのは国外の問題であるウクライナ戦争であった。
演説冒頭、バイデン大統領は、現在の欧州情勢が第二次大戦との時と類似しており、当時のヒトラーと同様にロシアのプーチン大統領がウクライナのみならず、欧州を席巻する恐れがあると警告した。そして、ウクライナ支援を可決しない、議会共和党とロシアを「好き放題」させると発言したとされるトランプ前大統領を批判し、ウクライナを支援するという大義からアメリカは「逃げない」と宣言した。
バイデン氏の演説冒頭で強調したのは、国内外の「政治的自由」を守る重要性であった。国外ではウクライナの民主主義をプーチンから守り、国内では議事堂襲撃事件に帰結した2020年大統領選の覆そうとする運動、そして人工妊娠中絶や体外受精という「選択の権利」を規制する動きからアメリカを守ると約束した。
しかし、表面的には一般教書演説の冒頭部分は「政治的自由」というテーマが埋め込まれていたが、そのあとの演説内容も総合的に見ると、演説の実態は民主党支持者向けの選挙演説であった。その証拠としてバイデン氏は人工妊娠中絶の権利を保護する法律の制定、富裕層への一律25%の所得課税、教員の昇給、製薬会社と政府が価格交渉できる製薬品の種類の拡大などを「公約」として挙げている。どの公約も国民経済活動への介入を是とする「民主党らしい」政策であった。ウクライナへの支援も民主党支持者からの支持が高いことも鑑みれば、演説の冒頭から「選挙モード」全開であったことが言えよう。
そして、共和党側が妥協できない「公約」が散りばめられた「選挙演説」であったからこそ、共和党のジョンソン下院議長が激しい嫌悪感を示したのは当然であった。
「今夜、バイデン大統領は国家の現状が強いと示唆しましたが、それが真実ではないことは誰もが知っています。我が国は、世界の舞台において、主権の観点において、そして経済の観点において、あらゆる測定可能な指標において衰退している国です。
故意に誤った情報不安でアメリカ国民を煽ることはうまくいきません。」
「欧州第一主義」が最大の公約?
だが、上記のように大統領選に向けての事実上の「公約」を散らばめた一般教書演説の冒頭部分がウクライナ戦争についての言及だったことは示唆的である。これは、バイデン政権がウクライナ支援を現状における最優先事項であると見ていると同時に、中国よりもロシアの脅威が最も喫緊の課題であると認識していることを示した。図らずもバイデン政権はアジアにおける中国の脅威ではなく、欧州のロシアへの対応を重視する欧州第一主義を追求していることが可視化された。(ちなみに中国についての最初の言及は演説開始後1時間8分であった)
また、一般教書演説は、バイデン氏に批判が集まっている問題について説明する機会であった。しかし、一般有権者がバイデン氏よりも共和党に期待を寄せる国境警備政策についての言及は演説開始から49分であった。そして、民主党左派が問題視しているイスラエル軍によって惹起されたガザの窮状についての初めての言及まで1時間かかっている。左派からするとパレスチナ人というイスラエルの「圧政」に苦しんでいる現状がありながらも、一方でロシアの「圧政」に直面しているウクライナをバイデン政権が重視しているのは、建前上では民主主義や人権、法の支配を守ることに重点を置くバイデン外交の偽善性を浮き彫りにするものであったであろう。
公約実現のカギを握る2024年大統領選
バイデン氏が「公約」として挙げた政策は今年の選挙で共和党が上院多数を獲得する状況下ではまず実現しそうにない。また、議事妨害がある以上、例え現状の上院での議席を維持するだけでは約束した政策の実現は不可能である。現状でのバイデン政権の最優先事項であるウクライナ支援は民主党が下院を獲得し、上院においてネオコンや穏健派共和党議員からの支持を得ることが出来たならば、何とか継続できるかもしれない。しかし、果たしてバイデン政権の欧州第一主義こそが有権者から求められているものなのだろうか。
●ポルトガル総選挙、移民敵視の右翼政党躍進 連立交渉に向けたカギに 3/11
ポルトガルで10日、議会(一院制、定数230)の総選挙があり、右翼ポピュリスト政党シェーガが議席数を4倍に増やす躍進を果たした。与党と最大野党はいずれも単独過半数に届かず、勢力が拮抗(きっこう)。シェーガが次期政権の成立をめぐってカギを握る情勢となった。
内務省の集計(開票率99・01%)によると、シェーガは48議席で、選挙前の12議席から躍進した。事前の各種世論調査では議席を倍増させると予測されていたが、実際の選挙結果は予測をさらに上回った。 ・・・
●ラマダン始まる 戦闘休止の見通しは立たず 3/11
激しい戦闘が続くガザ地区では、戦闘休止の見通しが立たない中、11日、イスラム教の断食月、ラマダンが始まりました。
EU=ヨーロッパ連合などは、ガザ地区で食料不足の改善を目指して海からの物資の輸送を計画していますが、すでに20人以上が栄養失調で亡くなるなど厳しい状況が続いています。
イスラム教の断食月 ラマダン始まる 戦闘休止は見通し立たず
ガザ地区では11日、イスラム教徒が日中の飲食を断つ最も神聖な月のラマダンが始まりました。
イスラエルとイスラム組織ハマスとの交渉をめぐって、仲介国のカタールとエジプトなどはラマダンまでに戦闘休止や人質の解放などをめぐる合意の実現を目指していましたが、双方の立場の隔たりが大きく交渉はまとまりませんでした。
これについてロイター通信は10日、エジプトが双方への働きかけを続けていると伝えていますが、戦闘休止の見通しは依然として立っていません。
“ガザ地区 栄養失調などで死亡 25人に上る”保健当局
一方、ガザ地区では、10日もイスラエル軍による攻撃が続き、地元の保健当局はこれまでに3万1045人が死亡したほか、食料などの物資の不足によって栄養失調と脱水症状で亡くなった人は25人に上ると明らかにしました。
食料不足の状況を改善させようと、EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長がガザ地区に向けて海からの物資の輸送を始める方針を示したことを受けて、地中海の島国キプロスでは支援団体の船が出港の準備を進めているものとみられます。
食料を輸送する支援団体によりますと、この船には200トンの食料を積んでいるということです。
ただ、食料事情の改善には程遠い状況で、戦闘休止の見通しが依然として立たない中、人道状況はさらに厳しくなり、対応が急がれています。
バイデン大統領 戦闘休止の早期実現目指す考え
アメリカのバイデン大統領は10日、声明を出し「ことし、聖なる月は計り知れない苦しみのときに到来する。ガザ地区での戦闘はパレスチナの人々をひどく苦しめてきた」として、パレスチナの人たちに寄り添う姿勢をアピールしました。
そのうえで「アメリカは引き続き、ガザ地区に陸、空、そして海からより多くの人道支援物資を届けられるよう国際社会の取り組みを主導していく」としています。
さらに、バイデン大統領は「アメリカは、人質解放に向けた交渉の一環として、少なくとも6週間の即時かつ持続的な戦闘の休止を目指し取り組んでいく」として、早期の戦闘休止の実現を目指していく考えを強調しました。
ガザ地区では住民がラマダンに向け準備
ガザ地区で11日から始まるラマダンは、イスラム教徒にとって最も神聖な断食月で、多くの人が日中の飲食を断ち、日没後に家族や親戚と「イフタール」という断食明けの食事をして連帯を強めます。
戦闘が続き食料不足が続くガザ地区でも、ラマダンに向けた準備が進められていました。
NHKが8日、南部ラファ郊外の避難者のテントがならぶ地区を取材したところ、仮設のテントで営業する菓子店が人々に少しでもふだんと変わらぬラマダンを過ごしてもらおうと、イフタールのための菓子作りに追われていました。
オーナーの男性によりますと、この菓子店はもともと北部のガザ市で営業していましたが、去年10月以降、イスラエル軍の攻撃で工場や店員の自宅が破壊されたため、南部ラファに避難してきたということです。
食料不足から砂糖やバターなどの価格も高騰していますが、ラマダンに向けて原材料をなんとか確保し、厳しい生活を送る避難者たちにイフタールを楽しんでもらいたいと、夜通しあめや焼き菓子を作っているということです。
お菓子を買いに来ていた女の子は「ラマダン中に無事、断食ができること、そしてラマダンには停戦が実現することを願います」と話していました。
オーナーの男性は「私たちが望んでいるのは一時的な戦闘の休止ではなく、この戦争が終わり人間らしい生活を送ることを望んでいるのです」と訴えていました。
ガザ地区に海から物資搬入へ準備
アメリカ政府はガザ地区に桟橋のある仮設のふ頭を建設し、海から物資の搬入を目指す方針を明らかにしていて、運用が開始されれば1日あたり200万食以上を届けることができるとしています。
アメリカ中央軍は9日、桟橋を建設するための機材を積んだ艦船がアメリカ南部バージニア州を出発し、東地中海に向けて航行していると発表しました。
一方、EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長が近くガザ地区に向けて海からの物資の輸送を始める方針を示したことを受けて、地中海の島国キプロスでは支援団体の船が出港の許可を待っています。
キプロス南東部のラルナカ港で10日に撮影された映像では、スペインのNGO「オープン・アームス」の船が支援物資を運ぶ準備をしている様子が確認できます。
このNGOによりますと、輸送される物資はアメリカが建設するものとは別の桟橋を使って荷降ろしを行うということです。 
●国際刑事裁判所長に赤根智子氏、日本人初…プーチン大統領に逮捕状でロシアが指名手配 3/11
集団殺害や人道に対する罪、戦争犯罪などに関与した個人を訴追する国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)の所長選挙が11日、非公開で行われ、赤根智子判事(67)が選出され、所長に就任した。2002年に設立されたICCの所長に日本人が就任したのは初めてとなる。
ロシアのウクライナ侵略での戦争犯罪や、イスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦闘を巡る国際法違反を追及するICCのかじ取りを赤根氏が担う。
赤根氏は電話取材に応じ、「皆の大変な思いを背負った気持ちだ。ICCの判事や検事、職員が正義を実現するための環境作りにまい進したい」と述べた。所長選は判事18人が互選した。所長の任期は3年。選挙はポーランド人のピオトル・ホフマンスキ前所長の任期満了に伴い実施された。
ICCには124の国・地域が加盟する。23年3月には、ウクライナの占領地域から多数の子供を強制移送した戦争犯罪の疑いでプーチン露大統領らに逮捕状を出した。赤根氏はこの件を審理した判事3人の1人で、ロシアは赤根氏を指名手配して報復した。
赤根氏は愛知県出身で、1982年に検事に任官した。最高検検事兼外務省国際司法協力担当大使などを経て、2018年に日本人3人目となるICC判事に就任した。
国家間の紛争を解決する国際司法裁判所(ICJ、ハーグ)では、皇后雅子さまの父・小和田恒氏が09〜12年に所長を務めた。
●“ロシア軍が核兵器使用議論 バイデン政権が対応準備” 米報道 3/11
アメリカの複数のメディアは、ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍がおととし10月ごろ、核兵器をウクライナで使用することについて具体的に議論を行っていたとして、バイデン政権がこれに対応するため綿密に準備を進めていたと伝えました。
アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは9日、アメリカ側がおととし10月ごろ、ロシア側の極秘の通信を傍受したところ、ロシア軍の内部で核兵器の使用について頻繁に議論が行われていたと伝えました。
軍の最高幹部の1人は、戦地で核兵器を爆発させるための後方支援についても話していたとしています。
核兵器が実際に移転された証拠は見つからなかったとしていますが、CIA=中央情報局は、ウクライナ軍が南部クリミアを奪還しようとすれば、ロシア軍が核兵器を使用するおそれが50%以上に高まる可能性があるとバイデン大統領に警告していたということです。
バイデン政権は、その年の11月、CIAのバーンズ長官を派遣してプーチン大統領の側近で、対外情報庁のナルイシキン長官と接触して警告したところ、ナルイシキン氏は「プーチン大統領が核兵器を使用するつもりはない」と話したといいます。
アメリカのCNNテレビも9日、政権の当局者の話としてこの時期、ロシアが核兵器でウクライナを攻撃する可能性があるとしてバイデン政権は綿密に準備を進め、具体的には戦術核兵器などの使用を懸念していたとしています。
プーチン大統領は、先月行った年次教書演説でも「戦略核兵器の戦力は、確実に使用できるよう準備が完了している」と述べ、威嚇を繰り返しています。
ロシア大統領府「臆測のたぐいの報道」と否定
アメリカの複数のメディアがロシア軍がおととし10月ごろ、核兵器をウクライナで使用することについて具体的な議論を行っていたなどと伝えたことを受けて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は11日、記者団に対し「臆測のたぐいの報道だ。コメントする必要はないと思う」と述べ否定しました。

 

●ロシア海軍の総司令官が交代、ウクライナ側の攻撃で艦船に損失…プーチン大統領が更迭決める 3/12
ロシアの有力紙イズベスチヤ(電子版)は10日、関係筋の話として、露海軍のニコライ・エフメノフ総司令官が辞任し、後任に北方艦隊のアレクサンドル・モイセエフ司令官が就任すると報じた。交代の理由には触れていない。
英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)によると、露海軍がウクライナ側の攻撃によって相次いで損害を受けた後、プーチン露大統領が更迭を決めたという。今年に入り、ウクライナ側の無人水上艇による攻撃で露軍の艦船が相次いで撃沈されており、エフメノフ氏が責任を問われた可能性がある。
●結束を強めるNATO ロシアの偽情報にだまされるな 3/12
わずか2年前、ロシアが侵攻を開始した時、米国と北大西洋条約機構(NATO)同盟国はキーウが数日で陥落すると予想していた。当時、米国の避難の提案を拒否したウクライナのゼレンスキー大統領は、「戦いはここにある。必要なのは弾薬であって、乗り物ではない」と語った。
勇敢な祖国を守ったウクライナの兵士は、不利な状況をものともせず、今も戦い続けているが、弾薬が不足している。
地元民の回復力に感銘
先日、ヘザー・ナウアート元国務省報道官に会った。ナウアート氏は同僚らと、ハリコフやクリビーリフといった戦禍に見舞われた都市を含め、1600キロ以上を移動した。ロシアが意図的に標的とし破壊した民間人居住区、特に学校や病院を目撃してきた。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナにすでに数万人の死者と数十億ドル相当もの損害をもたらし、数々の戦争犯罪を犯した。子供を誘拐し、ブチャで市民を虐殺し、マリウポリの産科病棟を爆撃した。しかし、ナウアート氏は、ウクライナ人の回復力にもっと心を打たれたという。
アパートや学校が破壊された直後から、地元住民は総出で修復と再建に取り組んでいた。
現在、米議会には、プーチン氏が決して負けることはなく、その戦争にわれわれが多額の資金をつぎ込み過ぎたと考えている議員らがいる。しかし、クレムリンの偽情報やプロパガンダにだまされるのではなく、プーチン氏のうそを公に暴き、その代償を命で支払った民間軍事会社ワグネルのエフゲニー・プリゴジン氏のケースを考えてみてほしい。
プリゴジン氏は昨年、飛行機事故で死亡する前、「ウクライナの非武装化と『脱ナチス化』のための戦争は必要なかった」と語り、ロシアのショイグ国防相と軍上層部が、ウクライナの最前線で戦うワグネル戦闘員への物資、軍備、弾薬の供与を拒否したと非難した。
誰が何と言おうとプーチン氏はこの戦争に負ける。ウクライナが自由であり続けることが、ウクライナと、それを支援する米国主導のNATO同盟にとっての勝利なのだ。
ウクライナはロシアの侵攻軍に、数十万人の死傷者と数千台の破壊された戦車という大きな代償をすでに支払わせている。ウクライナの領土の約80%は依然としてウクライナの支配下にある。ウクライナ支援は国防総省予算の5%にも満たない。だが、それによって米国の防衛産業基盤は急拡大した。防衛産業は、中国やイランといった他の敵対勢力を抑止するために必要だ。
ウクライナ侵攻でNATOは、冷戦後の眠りから目覚めた。欧州のNATO加盟国は、ウクライナに1000億ドルの経済・人道・軍事支援を提供したことで、同盟の目標を達成するために軍事費をようやく増やし始めた。ロシアの侵略を受けてフィンランドとスウェーデンが同盟に加わったことで、NATOはかつてないほど強固で結束力のあるものとなっている。
これは勝利だ。
ロシアが最近ウクライナ東部のアウディイウカを征服したことは、米国の民主・共和両党にとって警鐘となるはずだ。ロシアがウクライナで一歩一歩前進するたびに、プーチン氏の軍隊はNATOの同盟国を脅かす存在に近づいている。
ロシアに対抗し、抑止するために、ウクライナはどのNATO加盟国よりも多くのことをしてきた。世論調査によれば、米国民は圧倒的にウクライナへの支援継続を支持しており、上下両院でも多数派を占めている。
支援継続が国益に貢献
プーチン氏は公然と米国をロシアの「主敵」と呼んでいる。プーチン氏を真に脅かしているのは軍事力ではなく、民主主義体制なのだ。「丘の上に輝く都市」としての米国は、自由を愛する諸国民の道標となっている。政治的にも、軍事的にも、経済的にも、ウクライナにとどまることは、私たちの国益に大きく貢献する。
懐疑論者を教育するために、バイデン政権は、ロシアとウクライナの情勢に精通するバーンズ中央情報局(CIA)長官を含む主要閣僚による公開公聴会を奨励すべきだ。手遅れになる前に、ウクライナ紛争が欧州、世界経済、米国の国家安全保障にとって何を意味するのか、率直に語るべき時がきている。
●プーチンの次なる侵略計画か、「バルト三国の首相らを指名手配」から透けて見える“よこしまなウラ事情” 3/12
世界の“お尋ね者”が他国の首相を指名手配する愚行
2024年2月中旬、「ロシア内務省がバルト三国の首相らを指名手配に」という一部報道があり、「ロシアの警察組織が外国の元首を逮捕できるのか?」と、疑問の声が上がっている。あくまでも表向きはロシア内務省の発表だが、プーチン氏の意向であることは明らかだろう。
「新たな侵略を前に反応を見定めるロシア側の瀬踏みではないか」との憶測もあるが、“お尋ね者”になったのは、エストニアのカラス首相を筆頭に、ラトビアの法相、リトアニアの文化相など、バルト三国の政府首脳・幹部や国会議員たちだ。
罪状は、各国内の旧ソ連軍兵士の像を撤去・破壊して英雄を侮辱した罪と、ナチスを容認した平和に対する罪らしい。第二次大戦で、ナチス・ドイツの軛(くびき)から「バルト三国を解放した」と主張するソ連軍を讃える記念碑だが、ロシアのクリミア侵攻以降は、バルト三国の国民にとって憎悪の対象だった。
バルト三国は第二次大戦中の1940年にソ連に併合され、冷戦終結を機に1991年にそろって再独立を果たす。ただしロシアは依然として陸続きの仮想敵国で、三国は迷わずNATOに入り安全保障を強化している。
実は現在、プーチン氏自身が追われる身で、ウクライナ戦の最中、占領地から多数の子供を強制的にロシアへと“誘拐”した戦争犯罪の容疑で国際刑事裁判所(ICC)から国際指名手配されている。
「世界のお尋ね者が、他国の首脳を指名手配するとは恐れ入る」と、嘲笑の的になっているが、どうやら笑い話だけでは済まないようで、この指名手配には邪(よこしま)なウラ事情が透けて見えるとの説もある。ロシアの地政学に詳しい専門家はこう警鐘を鳴らす。
「指名手配宣言は、NATOの反応を窺う“リトマス紙”と言える。この先、『ロシアによるバルト三国侵略』が隠されていることに感づくか、さらに攻め入った場合、NATOは本当に伝家の宝刀である集団的自衛権を発令して全軍で猛反撃するのか──の2点を探っているのではないか」
プーチン氏にとっては、特にNATO主要国の「腹の据わり具合」が気掛かりだろう。事実、盤石に思えるNATOの結束も、今年11月の米大統領選で返り咲きを図るトランプ前米大統領の台頭で、危うさを増している。
トランプ氏は、他の加盟国が相応の国防費を負担していないと憤慨。「アメリカはNATOから脱退するかもしれない」「(ロシアが攻めてきても)NATO諸国を守らず、むしろロシアに好きなようにするよう促す」などと毒づいている。このため西側諸国は戦々恐々の状況だ。
ロシアにとって衝撃的だったマクロン仏大統領の「派兵発言」
プーチン氏は、旧ソ連時代の勢力圏を取り戻し、「偉大なロシア」の復権を夢想しており、ウクライナ侵略はもちろん、かつて旧ソ連邦の一部だったバルト三国の併呑もその一環ではないかと考えられている。NATO軍の歴史を研究する軍事専門家もこう懸念する。
「ウクライナ戦では、NATOの武器供給力の貧弱さと、アメリカの及び腰が露呈してしまったが、プーチン氏に対し『バルト三国への侵略は今がチャンス』という誤ったサインを送る格好にもなりかねない」
指名手配報道直後の2024年2月下旬、マクロン仏大統領がウクライナ支援に関する国際会合の席で、「欧米諸国の地上部隊をウクライナに派兵する可能性を排除しない」と爆弾発言をして、世界に衝撃が走った。これが指名手配報道を受けたものか否かは不明だが、米英独などNATO各国はすぐさま否定し、火消しに大わらわだ。
プーチン氏も反発し、数日後の年次教書演説で、「戦略核兵器は確実に使えるように準備が完了」と述べ、NATOをけん制した。さらに、ナルイシキンSVR(ロシア対外情報庁)長官も、「われわれを核戦争寸前まで追いつめている」と発言した。
「海外でのスパイ活動を担うSVRの長官は、仕事柄あまり表に出ないだけに異例の発言だった。ロシアは通常戦力でNATOにかなわず、西側が軍事介入すれば、プーチン氏は核のボタンを押さざるを得ない状況に追い込まれる、とのメッセージを西側に直接伝えるのが狙いではないか。
ナルイシキン発言からは、ロシア軍の戦力もかなり損耗して余力がないことがうかがえる。通常戦力が余裕なら、敵の首都を直接狙う“戦略核”という言葉を持ち出す必要はなく、そこからも逼迫さを感じる」(軍事専門家)
いずれにせよ、マクロン氏による「派兵発言」は、ロシア側にとって衝撃的だったはずだ。
なにしろ、NATO主要国の元首がウクライナ戦争への地上軍参戦をほのめかした例はおそらく初めて。しかも、これまでウクライナ支援であまり目立たなかったフランスが、一足飛びに派兵へと言及したことも驚愕である。
指名手配発表を受けたマクロン氏の発言には、「ロシアがNATO加盟国のバルト三国に攻め入れば、NATOは全力で反撃する」という“行間”も読み取れるが、もちろんロシア指導部もそうした姿勢に気付いているだろう。
ロシアによる「バルト三国侵略作戦」の一大シナリオ
「バルト三国侵略作戦」について、前出の軍事専門家は次のようなシナリオになる可能性が高いのではないかと想定する。
まずは「ロシア系住民の保護要請」「特殊部隊の奇襲」「戦車部隊の突撃」の三本柱による“ハイブリッド戦”が基本で、面積約17.5万km2(北海道2つ分)、人口600万人強(千葉県ほど)に過ぎない小国家群を短期間で制圧するというもの。
バルト三国のロシア系住民の割合は比較的多く、特にエストニア、ラトビアはともに2割を超え、3カ国合計で100万人弱に達する。この中の親プーチンの一派が反政府運動を激化させ、各国政府は警察力で鎮圧を図る。
これに対し反政府側は「ロシア系住民が弾圧されている」と、ロシアに助けを求める。「同胞保護」を常套句に近隣国に侵攻するのは、プーチン氏のいわば“十八番”だ。2008年のジョージア(南オセチア)紛争を始め、2014年のクリミア侵攻やウクライナ・ドンバス紛争は、「ロシア系住民保護」を大義名分に侵略を正当化している。
やがてバルト三国に潜伏中のロシア軍特殊部隊やSVRの秘密部員が、武装した親プーチン派のロシア系住民をともない、各国の首都で武装作戦を開始。首相府や国会議事堂、TV局、空港など重要拠点を占拠し、大義名分である指名手配者の逮捕にも乗り出す。指名手配者の全員逮捕は無理なため、最も地位の高いエストニアのカラス首相の捕捉に焦点を絞るだろう。
同時に、電波妨害やハッキング、ドローン、ミサイルによる通信・電力インフラ、レーダー基地、対空ミサイル陣地の攻撃も開始し、バルト三国の市民生活や駐留するNATO軍部隊を混乱させる。
加えて、小型の“スパイ潜航艇”や水中ドローンを使って港湾に機雷をばら撒き、NATO軍増援部隊が海から上陸するのを阻止する。
首都中心部の占拠後は、親ロ派住民組織が「臨時革命政府」を樹立し、すぐさまロシアと相互防衛条約を締結。逆に「NATOの侵略から同胞を守るため」の名目で、国境沿いに待機するロシア戦車部隊の大群が、お得意の大砲の猛烈な援護射撃をともないながら、バルト三国になだれ込む。あとは混乱中のNATO駐留部隊を蹴散らしながら、各国の首都へと突進する。
NATO軍は強力な航空戦力で反撃を試みるものの、バルト三国の東西の距離(縦深)は最大でも400km弱しかなく、ロシア領内の国境付近に布陣するロシア軍の「S-400」長距離地対空ミサイル(射程350km)の防空エリアに、バルト三国のほぼ全土が収まってしまう。このため、NATO軍が制空権(航空優勢)を完全に握るのは至難の業だろう。
またバルト三国とNATOをつなぐ唯一の地上ルートとして、ポーランドとリトアニアが距離約60kmで国境を接する「スバウキ回廊」がある。ここはロシアにとっても、同盟国のベラルーシと飛び地のカリーニングラードを隔てる場所でもあり、NATO増援部隊の来援を阻むと同時に、カリーニングラードとの連絡路確保のため、ロシア軍は真っ先に回廊確保に向かう可能性が高い。
おそらく、プーチン氏は戦場をバルト三国に限定したいところで、仮にロシア本土に戦火が及ぶ場合は、他のNATO諸国にも戦火を拡大し、核使用も辞さないと、いつもの恫喝を行うだろう。
一方NATOも、第三次大戦へと拡大して核全面戦争に陥るのを危惧し、ロシア領内への攻撃は控えるしかなくなるだろう。もちろん核兵器でロシア侵略軍を撃破するシナリオも実際は使えない。
やがてバルト三国は、犠牲を顧みず力で押しまくるロシア軍に全土が占領されてしまう。そして、ロシアは再びバルト三国を自らの版図に組み入れ、バルト海西岸からNATOの勢力圏を払拭することに成功する――。これが、軍事専門家が想定するロシアの「バルト三国侵略作戦」のシナリオだ。
パナマ侵攻でアメリカも外国指導者を逮捕した過去
「同胞保護」はともかく、独立国に軍隊を無断で送り、自国の法律や理屈でその国の元首を逮捕する行為は、まさに侵略そのもので、明らかな国際法違法として断罪されるべきだ。
だが、ウクライナ戦争でも露呈したように、国際社会は「国益優先」で、青臭い正論はむしろ無用の世界でもある。仮にロシアによるバルト三国侵略が成功し、西側が非難しても、「ロシア側が『1980年代のパナマ侵攻をまねしただけだ』と切り返されたら、欧米は黙ってしまうだろう」と、前出の地政学専門家は指摘する。
アメリカは、自国の「裏庭」と見なす中米パナマにあるパナマ運河の一帯を、戦略上極めて重要な長期間租借地として支配。1999年にパナマへの全面返還を約束するが、やがてパナマの事実上の最高実力者・ノリエガ将軍とアメリカとの関係は険悪になった。
ついにアメリカは1989年、軍事介入でノリエガ氏を逮捕する作戦を実行。圧倒的な軍事力でノリエガ氏を拘束し、アメリカ本土に送り裁判にかけ、麻薬密輸の罪で収監するとともに、パナマに親米政権を樹立した。
この暴挙に、世界各国から「侵略行為だ」との非難も出たが、アメリカは「現地の米国民保護」「パナマ運河条約保護」「ノリエガ氏の反米扇動に対する自衛権発動」などを盾に行為の正当性・合法性を強調している。
スウェーデンのNATO入りはバルチック艦隊の致命傷に
プーチン氏はバルト三国の侵略作戦をひそかに温めていると見られるが、前出の軍事専門家は、こう分析する。
「ウクライナ全土を短期制圧し、余勢でさらに隣国のモルドバも占領した後、返す刀でバルト三国に矛先を向け、一気にバルト海まで突き進むというのがプーチンの一大構想と思われる。だが、予想に反しウクライナ戦は長期戦・消耗戦になっているうえに、フィンランド、スウェーデン両国がNATO入りする番狂わせも起きている。これはいわばプーチン氏の“オウンゴール”に等しく、相当に痛いだろう」
つまり、フィンランドとスウェーデンが中立政策を破棄した結果、バルト海沿岸はロシア領のレニングラード周辺と飛び地のカリーニングラードを除き、全てNATOとなり今や“NATOの湖”とも揶揄されるほどになっている。
このため、ロシアの海軍戦略は一大変更を迫られる。大西洋を担当する同海軍の主軸・バルト(バルチック)艦隊の母港が、レニングラードとカリーニングラードで、いずれも宿敵・NATOの制海権の中だからだ。
とりわけスウェーデンのNATO加盟は深刻で、「バルチック艦隊は封印されたのも同然」と、軍事評論家はその衝撃度を語る。
内海のバルト海から外洋の大西洋に出るには、幅4km足らずの狭いエーレンスド海峡の通過が必須だ。同海峡の東岸はスウェーデン、西岸はデンマークで、両国が同海峡を半分ずつ領有する。ただし国際海峡に準じた扱いで、平時は沿岸国に脅威を与えない限り、どの外国軍艦も自由航行できる「無害通行権」が保証される。
換言すれば、ロシアがNATO加盟国に脅威を与えるような振る舞いをした場合は、NATOの一員のデンマークが、同海峡の自国領海部分に関して、ロシア軍艦の通航を認めなくても国際法上は問題なし、との解釈も成り立つという。
スウェーデンが中立国のままならば、ロシア軍艦は大手を振って東半分のスウェーデン領海を通航できた。なぜなら、あくまでも中立国のため、自国に脅威がない限り、スウェーデンがNATOに呼応してロシア軍艦の航行を妨げれば、一方の側(この場合NATO)の利益になり、中立国の振る舞いとは言えず、国際法違反となるからだ。
ところが、スウェーデンもNATO加盟に動いたため、ロシア海軍にとっては悪夢の、「エーレンスト海峡完全封鎖」が現実味を帯び始めてしまった。
「自作自演」で2036年まで大統領ポストにしがみ続けるプーチン
ロシア海軍は現在「バルト」「北方」「黒海」「太平洋」の主力4艦隊を擁するが、黒海艦隊はウクライナ戦で満身創痍の状態。そのうえバルチック艦隊も外海への出入りが不自由となれば、自由に使える艦隊は北極海に面した北方艦隊と、日本海の太平洋艦隊の2つだけとなる。
この心理的閉塞感はプーチン氏にとっても我慢できないはずで、そもそもバルト海の制海権を完全にNATO側に握られた状態では、バルト三国侵略もおぼつかなくなる。
ロシア側がどれだけ機雷をばら撒いたとしても、NATOが有する世界最高の掃海(機雷除去)技術で、あっという間に取り除かれる。その後に輸送艦が大挙して押し寄せ、増援部隊や補給物資をバルト三国に陸揚げし、ロシア侵略軍への反攻を整えるだろう。
同時にスウェーデン国内にある多数の空軍基地や飛行場は、NATO軍がバルト海上空やバルト三国上空の制空権確保に極めて重要な役目を果たす。前出の軍事専門家はこんな見方をする。
「スカンジナビア2カ国のNATO加盟は、プーチンもある程度覚悟していたはずだが、ウクライナ侵攻が短期間で終結し、バルト三国再併合も完了した後を想定していたのではないか。仮にそうだとしたら、あまりにも楽天的だ」
2024年3月15〜17日にロシアの次期大統領選挙が行われるが、出馬予定のプーチン氏は「投票率70%で得票率80%の圧倒的な支持を得て再選する」と自信満々だ。
「自作自演の大統領選で、単なるセレモニー」と酷評される中、当選確実のプーチン氏は、自らの法律改正で、さらに2期12年、2036年まで大統領ポストにしがみつくことが可能だ。
再選を果たしたプーチン氏は、ウクライナ戦の長期化に加え、フィンランド・スウェーデン両国のNATO加盟や、バルト海の“NATOの湖化”、さらにはバルト三国併合シナリオにどう対応するのか、注視する必要がある。
●プーチン大統領 「外国の代理人」指定メディアや個人の“広告禁止”法律に署名 3/12
ロシアのプーチン大統領は11日、スパイを意味する「外国の代理人」に指定されたメディアや個人が広告収入を得ることを禁止する法律に署名しました。大統領選挙を前に、政権批判を抑え込む狙いがあるとみられます。
ロシア法務省は、ウクライナ侵攻への批判など、反政府的な活動をする独立系メディアや個人を、スパイを意味する「外国の代理人」としてリストに登録しています。プーチン大統領が11日に署名した法律では、「『外国の代理人』のSNSなどへの広告配信は認められない」として、独立系メディアなどが、広告収入を得ることを禁じました。
この法律についてボロディン下院議長は、「広告の禁止によって、『外国の代理人』の広告収入は50%から80%失うことになる」とその効果を強調しました。この動きを警戒して、400万人の登録者を持つSNSサイト「リダクチア」の運営者が2日、「チームの大部分と別れなければならなくなった」として、編集者の解雇を発表するなど、影響が出始めています。
15日から始まる大統領選挙を前に、政権批判を抑え込む狙いがあるとみられます。
●ウクライナ和平交渉、ロシアの侵攻停止が第1条件 バチカン指摘 3/12
バチカン(ローマ教皇庁)国務長官のパロリン枢機卿は12日、ウクライナ戦争を終わらせるための交渉の第1条件はロシアが侵攻を止めることだと述べた。
ウクライナ外務省は11日、バチカン大使を呼び出し、ローマ教皇フランシスコがロシアとの戦争について「白旗の勇気」を見せて交渉すべきだと訴えた発言に「失望」を伝えた。
パロリン氏は教皇の発言が物議を醸したことについて、イタリア紙コリエレ・デラ・セラとのインタビューで「(教皇は)公正で永続的な平和を求める中、外交的解決への条件をつくりたかった」と釈明した。
ロシアを侵略国と見なしていると明言した上で、「ウクライナに対して起こされた戦争は自然災害の影響ではない」と指摘。「この悲劇を引き起こした同じ人間の意志には、この悲劇を終わらせ、外交的解決への道を開くための措置を講じる可能性と責任もある」と述べた。
●ロシア軍の新たな滑空爆弾、前線のウクライナ軍に多大な被害もたらす 3/12
ロシア軍が、ウクライナ軍の防衛を破壊し、前線の均衡を崩す強力な空中からの爆弾を使い始めたことがわかった。ソ連時代の基本的な兵器を幅15メートルのクレーターを生み出す滑空爆弾に改造することでそれを実現している。
爆弾は「FAB―1500」で重さは1.5トン。その約半分が爆薬だ。ウクライナの防空網の大部分にとって圏外である約60〜70キロの距離から戦闘機によって上空から投下される。FAB―1500は、ロシアがウクライナでどのように戦争を戦っているかを示す新たな事例であり、領土を奪う前に大規模な破壊を引き起こしている。
ウクライナ東部ドネツク州で撮影された最近の映像には、ウクライナ軍が防衛を調整する火力発電所や工場、高層ビルを直撃した爆弾の計り知れない威力が捉えられていた。
FAB―1500は誘導システムと広げられた翼によって目標に向かって滑空する。爆弾の開発に関する著書のあるジョセフ・トレビシック氏は、こうした滑空爆弾について、ロシアの戦術戦闘機の多くに対して、新しく、はるかに破壊的なスタンドオフ攻撃の選択肢を提供し、操縦士がウクライナ軍の防御から距離を置くことにも役立つと指摘した。
ウクライナ軍の第46空中機動旅団の兵士のひとりは先に、ドネツク州の前線の町からCNNの取材に答え、以前は砲撃だけだったが、現在はロシア軍が積極的に町を攻撃し、特にFAB―1500を使い始めたと語っていた。
この兵士によれば、FAB―1500による被害は深刻で、もし生き延びたとしても打撲傷を負うことになるという。
FAB―1500の使用は、ドネツク州におけるロシア軍の攻勢、特に2月に陥落したアウジーイウカとその周辺のウクライナ軍の防御を根こそぎ破壊するうえで、重要な要素となっている。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の専門家は、滑空のための部品の製造が障害となっているものの、基本的な爆発物は大量にあると指摘した。ロシア軍は固定された防衛線に対して非常に強力な火力を投じ、ウクライナ軍の死傷者が増えているものの、まだ前線を根本的に変えるほどではないという。
ロシアの軍事ブロガーがFAB―1500について言及し始めたのは、その精度が試験されていた昨年9月だった。軍事ブロガーはSNSへの投稿で、何カ月にもわたる試行錯誤の末にFAB―1500が初めて目標に正確に命中したと述べていた。
●ロシア、欧米の3倍砲弾生産か 年300万発、戦闘優位に 3/12
米CNNテレビは11日、北大西洋条約機構(NATO)の分析として、ロシアの砲弾生産能力が欧米の3倍近くの年間約300万発に達している可能性があると報じた。ウクライナ軍は深刻な弾薬不足に苦しんでおり、今後の戦闘でロシア軍が優位だとした。
ロシアが核攻撃に踏み切ったらアメリカはどこに報復するか? 米政権内で行われていた机上演習の衝撃的な中身
欧米がウクライナ向けに生産する砲弾は年間約120万発。発射数は1日当たり約1万発のロシア軍に対し、ウクライナ軍は約2千発にとどまる。NATO高官は「われわれは生産戦争に直面している。ロシアの生産面での優位性が、戦場での優位性をもたらしている」と危機感を語った。
●ロシアの砲弾生産量、欧米のウクライナ向け生産の3倍に 3/12
ロシアの砲弾生産量が欧米のウクライナ向け生産の3倍近くに上る見通しとなった。年内に予想されるロシアの新たな攻勢を前に、大きな優位点となる。
CNNに共有されたロシアの国防能力に関する北大西洋条約機構(NATO)の推計値や、西側の対ウクライナ軍事支援の状況に詳しい情報筋によると、ロシアは月間約25万発の砲弾を生産しており、年間では約300万発に上る。
一方、欧州の情報当局高官がCNNに明らかにしたところによると、米国と欧州のウクライナ向け生産能力は合計で年間約120万発にとどまる。
米軍は2025年末までに月間10万発を生産する目標を掲げているが、これはロシアの月間生産量の半分にも満たない。米軍高官は先週、600億ドル規模のウクライナ支援予算案の協議が連邦議会で難航する中、月間10万発も手が届かない数字になりつつあると報道陣に指摘していた。
NATOの高官はCNNに対し、「我々はいま生産戦争のただ中にある」「ウクライナ戦争の帰趨(きすう)は戦争遂行のための装備を双方がどれだけ整えられるかにかっている」と述べた。
複数の当局者によると、ロシアが1日に発射している砲弾の数は1万発に上るのに対し、ウクライナ側は1日2000発にとどまる。欧州の情報当局者によると、約960キロに伸びる前線の一部ではさらに分が悪い場所もある。
ウクライナの戦況は現在、ロシアが2022年2月にウクライナ首都キーウへ進軍を開始して以降、最も危険な局面を迎えている。米国の対ウクライナ軍事支援予算は枯渇しつつあり、共和党議員の反対でこれ以上の支援は事実上ストップしている状況だ。
一方、ロシアは最近ウクライナ東部アウジーイウカを奪取し、戦場で主導権を握っているとの見方が多い。ウクライナは弾薬だけでなく、深刻化する前線の人員不足にも悩まされている。
米国や同盟国はM1エイブラムス戦車などの高度なシステムをウクライナに多数供与しており、近くF16戦闘機の供与も始まる見通しだ。しかし軍事専門家の間では、この戦争の勝敗はどちらがより多くの砲弾を発射するかで決まる可能性が高いとの見方が出ている。
●ウクライナに「びた一文」出さずとトランプ氏 ハンガリー首相明かす 3/12
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は、先に米国を訪れドナルド・トランプ前大統領と面会した際、自分ならウクライナをめぐる紛争に「びた一文支出しない」とトランプ氏が語ったと明かした。
オルバン氏は8日、フロリダ州にあるトランプ氏の邸宅「マーアーラゴ」を訪問し、同氏と会談した。
10日夜の公営放送M1 のインタビューでオルバン氏はその際の様子について、「彼(トランプ氏)には同意せざるを得ない明確なビジョンがある。『第一にウクライナ・ロシア戦争にはびた一文出さない』と言った」と振り返った。
オルバン氏はさらに、「そうすれば戦争を終わらせられる。ウクライナが自力でやっていけないのは明白だからだ。仮に米国が金を出さなければ欧州単独ではこの戦争を支えられなくなる。そうして戦争は終わる」と主張した。
オルバン氏はまた、トランプ氏は「戦争を終わらせるための詳細なプラン」を複数持ち合わせているとしながら、詳細には触れなかった。
AFPはトランプ氏側に取材を申し込んだが、コメントは得られなかった。
トランプ氏は11日、CNBCのインタビューでは、オルバン氏について「タフな男」だと称賛。また、もし自分が米大統領だったらウクライナ侵攻は起きなかったとオルバン氏は信じていると話した。
オルバン氏は、欧州連合(EU)加盟国首脳の中で唯一、ウクライナ侵攻開始後もロシア大統領府との関係を維持している。
●ハンガリー首相「トランプ氏、『執権すればウクライナ支援中断』と発言」 3/12
最近トランプ前米大統領に会ったハンガリーのオルバン首相が「トランプ氏が再執権すればウクライナに対する軍事支援を中断するはず」と述べた。オルバン首相は10日(現地時間)に放送された自国放送M1の録画インタビューで、トランプ氏との面談結果を説明しながらこのように明らかにした。オルバン首相は8日、トランプ氏が所有する米フロリダ州マールアラーゴリゾートで1時間ほどトランプ氏に会った。
オルバン首相は放送で「トランプ氏は『自分が復帰すればウクライナに一銭も支援しない。したがって戦争は終わる』と話した」とし「トランプ氏は欧州の人たちに代わって欧州の安保のための財政支援をすることを望まない」と伝えた。
そして米議会で共和党がウクライナ支援案にブレーキをかけている根拠を挙げた。現在、共和党はウクライナ支援より米国南部の国境から流入する移民者問題を処理するのが至急だとしてバイデン政権に圧力を加えている。
またオルバン首相は「トランプ氏が大統領だった当時、ウクライナと中東で軍事的な衝突はなかった」とし「我々は彼が大統領職に復帰すればどんなことが起こるかを明確に知っている」と露骨にトランプ氏を支持した。続いて「(ウクライナ戦争を終わらせるための)トランプ氏の計画はハンガリー政府の計画と大部分一致する」と話した。ただ、その計画がどういうものかは具体的に明らかにしなかった。
「東欧のトランプ」と呼ばれるオルバン首相が率いるハンガリーはNATO(北大西洋条約機構)加盟国でありながらも、その間、ウクライナを支援する西側とは路線が異なった。ウクライナ戦争が続く状況で、昨年、ロシアと天然ガス追加供給契約まで結んだ。
これに対しバイデン米大統領は8日の演説で「自ら独裁を追求するオルバン首相は、プーチン大統領がウクライナを侵攻した後にも連帯関係を続けてきた」と激しく非難した。
これに先立ちオルバン首相は7日、ワシントンを訪問したが、ホワイトハウスには行かず保守シンクタンク「ヘリテージ財団」で開かれた討論会に参加した。米国の同盟国の首班が米首脳を避けてライバル候補に会ったのも異例と評価される。
専門家らはオルバン首相が今後もトランプ氏とプーチン大統領、中国の習近平国家主席など「グローバルストロングマン」との関係を強調しながら国際社会でハンガリーの存在感を高めると予想している。このため今年の米大統領選でトランプ氏が当選すれば欧州内でオルバン首相の影響力がさらに強まるという見方も出ている。
●トランプ氏再選なら「ウクライナに一銭も出さない」とハンガリー首相 米支援停止で戦争終結と 3/12
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は10日、ドナルド・トランプ前米大統領が11月の米大統領選で再選した場合、ロシアの軍事侵攻に対抗するウクライナに資金を提供しないだろうと述べた。
オルバン首相は、「(トランプ氏は)ウクライナとロシアの戦争には一銭も出さないだろう。だからこの戦争は終わる」と述べた。オルバン氏とトランプ氏は8日に米フロリダ州で会談している。
トランプ氏はこれまで、自分が大統領選で当選すれば「24時間以内に」戦争を終結させると約束している。ただ、その詳細は明らかにしていない。
オルバン氏はトランプ氏の長年の盟友で、今年の米大統領選をめぐりトランプ氏への支持を公然と表明している。
「アメリカの資金提供が止まれば戦争が終わる」
オルバン氏は10日遅くに放送されたハンガリーのテレビチャンネルM1で、「ウクライナが自力で立っていられないのは明らかだ」と述べた。
「もしアメリカが欧州諸国と並んで資金と武器を提供しなければ、この戦争は終わる。もしアメリカが資金を提供しなければ、欧州だけでこの戦争への資金をまかなうことはできない。そうすれば、この戦争は終わる」
また、ロシアとウクライナの戦争を終わらせる方法について、トランプ氏には「かなり詳細な計画」があると付け加えたが、詳しくは語らなかった。BBCはトランプ氏の陣営にコメントを求めている。
トランプ氏が大統領に再選されれば、大統領として議会から提出される歳出法案に署名することになる。同氏は過去に、ウクライナの防衛にアメリカが拠出することに懐疑的な見方を示したことがある。
異例の訪米、現職大統領と面会せず
フロリダ州にあるトランプ氏の私邸マール・ア・ラーゴで8日に行われた会談で、トランプ氏はオルバン氏を称賛。「ヴィクトル・オルバン氏ほど優秀で賢く、優れた指導者はいない。彼は素晴らしい」と述べた。
オルバン氏は今回の訪米で、米大統領選でトランプ氏との対決が予想される、現職大統領のジョー・バイデン氏とは面会しなかった。
アメリカを訪れた外国首脳が現政権の指導部に面会を求めず、前大統領と会談するのは極めて異例。
オルバン氏は2022年2月24日にロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの全面侵攻を開始して以降、プーチン氏と緊密な関係を維持しており、欧州連合(EU)加盟国の首脳らから繰り返し強い批判を浴びている。
ほかの多くの西側諸国とは異なり、オルバン氏は隣国ウクライナへの武器の輸送を拒否。ウクライナは核武装したロシアには勝てないと繰り返し述べている。
「第2次トランプ政権」に懸念
EU各国の指導者は、第2次トランプ政権が誕生すれば、ウクライナや北大西洋条約機構(NATO) に対するアメリカの軍事・財政援助が大幅に削減されるのではないかと懸念している。
ウクライナへの軍事支援を含む総額950億ドル(約14兆3000億円)余りのアメリカの外国支援包括案は、米下院で共和党の反対を受け、可決の見通しが立っていない。
共和党は、下院で最後のハードルを越えるには、まずアメリカの国境警備への追加予算で合意する必要があると主張している。
トランプ氏は先月の支持者集会で、無条件で資金を提供するのではなく貸付金にすべきだと語った。
「(バイデン政権は)さらに600億ドルあげたいんだと言っている。だったらこうすればいい。その金を貸すんだ。(ウクライナが)うまくやれるなら、我々に金を返す」
ロシア軍は最近、ウクライナ東部で相次ぎ戦果を挙げている。一方でウクライナ側は深刻な弾薬不足に直面している。
はるかに強力な軍事力と、豊富な火砲弾薬を持つロシアとの戦闘を継続するため、ウクライナはアメリカなどの西側同盟国から提供される兵器に大きく依存している。
●ロシアに「勢いシフトしつつある」、ウクライナ侵攻−米情報機関 3/12
米情報機関トップらは11日に開かれた上院情報特別委員会の公聴会で、ウクライナ情勢について、情勢の行き詰まりによってロシアに「勢いがシフトしつつある」と指摘した。
米国が直面する主要な「世界的脅威」に関して年1回のプレゼンテーションを行ったもので、ロシアは2023年終盤以降、継続的かつ漸進的に戦果を上げており、ウクライナに対する米国と同盟国からの今後の軍事支援に関する不確実性が恩恵になっているとの見解を示した。
「この行き詰まりは、戦略面でのロシアの軍事的優位につながっており、ロシアに有利な方向に勢いがますますシフトしつつある」とした。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は「ウクライナ人は勇気と不屈さを失いつつあるのではない。彼らは弾薬を切らしつつあり、われわれは彼らを助けるための時間切れになりつつある」と証言した。
また米軍の追加支援がなければ「ウクライナは24年に形勢が不利になる可能性が高く、恐らく大いに不利になる」と警告。ロシアは戦争終結を巡る「交渉の舞台」に関心があり、大きく妥協する用意はないと述べた。
米情報当局者は、世界的脅威に関する公聴会で率直かつ政治的にデリケートな評価を下すことが多いが、今回も報告書、証言の双方で例外ではなかった。公聴会ではバーンズ長官のほか、ヘインズ国家情報長官や連邦捜査局(FBI)のレイ長官らが証言した。
ハマスの抵抗
共同の報告書は、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が域内でエスカレートするリスクに警鐘を鳴らした。イスラエルに対するハマスの武力抵抗は何年も続く公算が大きく、「パレスチナ自治区ガザでの武力衝突がテロに世代を超えて影響する可能性が高い」とした。これは、イスラエルの現在の攻撃によってハマスが壊滅するとのネタニヤフ首相の主張を暗に否定するものだ。
数カ月に及ぶ戦闘の発端となった昨年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃について、「イラン指導部は画策も、予見もしていなかった」との判断を下した。
また中国については、習近平国家主席は経済成長の鈍化と人民解放軍の腐敗の広がりに引き続き直面しているとし、「野心的だが不安も抱えている」との認識を示した。
●ウクライナ、ロシア各地をドローン攻撃 大規模製油所で火災 3/12
ロシア国防省によると、ウクライナは12日、ロシア各地をドローン(無人機)やミサイルで攻撃した。攻撃では少なくとも25機の無人機と9発のロケットが使用され、ロシア当局者によると、大規模な製油所で火災が発生している。
ロシア国防省は、モスクワ、レニングラード、ベルゴロド、クルスク、ブリャンスク、トゥーラ、オリョールなどの上空でウクライナの無人機25機を撃墜したと発表。
ロシア当局者によると、石油大手ルクオイルのNORSI製油所で火災が発生するなど、エネルギー施設が攻撃を受けた。ロシアで2番目に大きい製油所があるキリシの郊外でもドローンが撃墜された。
NORSI製油所は通常、国内のガソリンの11%を生産している。
●ポルトガル中道右派が政権樹立へ準備、極右は不安定化を警告 3/12
ポルトガルで10日実施された議会(一院制、定数230)選挙で僅差の勝利を収めた中道右派勢力「民主主義同盟(AD)」は、少数政権の樹立に向けて準備している。一方、躍進した極右の新興政党「シェーガ」は、政権に参加できなければ不安定化につながると警告した。
開票率99.1%の時点でADは79議席、中道左派の与党社会党は77議席、シェーガは48議席をそれぞれ確保した。
ADを率いる社会民主党のモンテネグロ党首は10日、レベロデソウザ大統領から正式に組閣を要請されるとの見方を示した。大統領は12─20日に各党と会談する予定。
シェーガのベントゥーラ党首は選挙結果について、国民がADとシェーガによる政権を求めていることを明確に示したと記者団に述べた。また、テレビ局TVIのインタビューで、ADが予算案についてシェーガと交渉しない場合は反対票を投じると述べた。
リスボンの社会科学研究所(ICS)を率いるマリナ・コスタ・ロボ氏は、モンテネグロ氏が公約を守り、シェーガとの正式な合意を結ばないと予想。ただ両者が今後、部分的な合意を結ぶ可能性はあるとの見方を示した。また、ポルトガルでの極右勢力躍進は6月の欧州議会選で想定される展開を示唆している可能性があると指摘した。
●ウクライナ支援「対岸の火事でない」=ODA実績2.3兆円―開発協力白書 3/12
上川陽子外相は12日の閣議で、2023年版開発協力白書を報告した。白書は「世界のどこかで起きた危機は、必ずしも『対岸の火事』ではない。地域の安定化やグローバルな課題に対応する政府開発援助(ODA)は不可欠な貢献だ」と記し、ロシアの侵攻を受けるウクライナなどへの支援を訴えた。
22年のODA実績は、約174億9994万ドル(約2兆3000億円)。経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)の中で、前年に引き続き米国、ドイツに次ぐ3位だった。
●“ヨーロッパの兵器輸入 5年で倍近く増”スウェーデンの研究所 3/12
世界の軍事情勢を分析しているスウェーデンの研究所は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、ヨーロッパ各国の兵器の輸入が去年までの5年間でその前の期間と比べて倍近くに増加したとする報告書をまとめました。
ウクライナ情勢を受けた防空システムに対する需要の高まりなどが背景にあると分析しています。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は兵器の生産にかかるコストなどに基づく独自の指標で兵器の輸出入などの流れを分析していて、11日、2019年から2023年の5年間の世界の兵器の取り引きの状況について報告書を発表しました。
それによりますと、ヨーロッパ各国の兵器の輸入は2014年から2018年までの5年間と比べて94%増加し、およそ2倍になったということです。
このうち輸入が最も多かったのはウクライナで、60倍以上と大幅に増加していてロシアによる軍事侵攻以降、少なくとも30か国が軍事支援として戦闘機やミサイルなどの兵器を供給したためだとしています。
ヨーロッパ全体の状況について研究所は「ロシアによるウクライナへのミサイル攻撃により、ヨーロッパでは防空システムに対する需要が高まっている」と分析しています。
一方、日本については輸入が155%増加したとしていて研究所は「おもに中国や北朝鮮との緊張の高まりから長距離攻撃能力に多額の投資を行っている」と指摘しています。
●ウクライナ支援停止なら「歴史的過ち」 米CIA長官が警告 3/12
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は11日、上院情報委員会の公聴会に出席し、ロシアの侵攻が続くウクライナへの支援を継続しなかった場合、「米国にとって歴史的に大きな過ちとなる」と警告した。その上で、バイデン政権が求める対ウクライナ軍事支援を可能とする緊急予算の承認を議会に求めた。
バーンズ氏は米国の武器・弾薬支援が続かなければ、ウクライナが「2024年中に広範な領土を失う恐れがある」と述べ、「より厳しい未来が待っている」と予測。支援が継続されれば年末から来年初めにかけ、主導権を奪うことができると主張した。 

  

●プーチン氏「核戦争への準備万端」とけん制、切迫性は否定 3/13
ロシアのプーチン大統領は、ロシアは戦闘態勢にあり核戦争への準備も万端に整っているとしつつも、現時点では差し迫ってはいないと述べた。国営メディアとのインタビューでの発言が13日に報じられた。
主権が脅かされれば核兵器を使用する用意があると強調。核戦争への準備ができているのかとの質問に対し、テレビ局ロシア1と国営通信社RIAに「軍事技術の観点からは用意ができている」と応じた。
米国がロシア領もしくはウクライナに派兵すれば、ロシアは介入と見なすということを米国も理解していると指摘。
「(米国には)ロシアと米国の関係や戦略的抑制に関する専門家が十分にいる」と指摘。「よって、全てがそこ(核による対決)に急いで向かっているとは思わない。しかし、われわれに備えはある」とした。
核使用に関する方針はロシアの軍事ドクトリンに明記されていると改めて言及し、「兵器は使うために存在する。われわれには独自の基本原則がある」と語った。
米が核実験を実施すれば、ロシアも行う可能性があるとも語った。「必要があるわけではなく、検討がなお必要だが、同様の行動を取り得ることは否定しない」とした。
ウクライナに関しては「交渉の用意がある」とした上で「現実に基づいて交渉する必要があり、向精神薬を服用後の強い欲求に基づくようなものであってはならない」と述べた。
米CNNは9日、2022年にロシアがウクライナで戦術核を使う可能性をバイデン米政権が懸念していたと報じた。
しかし、プーチン氏はウクライナで核兵器を使う必要性を感じたことはないと指摘。「大量破壊兵器を使う必要がなぜあるのか。一度も必要は生じていない」と言明した。
フィンランドとスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟については「無意味」と断じた上で、フィンランドとの国境に派兵し破壊システムを配備すると述べた。
また、北朝鮮は独自の「核の傘」を持っているとし、北朝鮮が核についてロシアの支援を求めたことはないと主張した。
●プーチン氏、米大統領に誰が選ばれても協力と発言 「選挙干渉せず」 3/13
ロシアのプーチン大統領は、どの国の選挙にもロシアは干渉しないとし、米国で選出される大統領が誰であれ協力するとの考えを示した。国営メディアが13日公表したインタビューで述べた。
プーチン氏は国営ロシア通信(RIA)とロシア1テレビに対し、「われわれはいかなる選挙にも一切干渉しない」と強調。「何度も言っているように米国の有権者である国民から信頼される指導者であれば、誰とでも協力する」と述べた。
また、トランプ氏が大統領任期の最後の年、バイデン氏に「同調している」と自身を非難したとも発言。「トランプ氏は会話の中で、眠たいジョー(バイデン氏)に勝ってほしいのかと私に尋ねた」と語った。
「そして驚いたことに、ロシアが候補者としてトランプ氏を支持したとされ、彼らはトランプ氏を迫害し始めた。全くナンセンスな話だ」と続けた。
プーチン氏は2月、米大統領にはトランプ氏よりバイデン氏が望ましいと述べ、バイデン氏の方が経験豊富で予測可能だと語っていた。
●米国が2カ月半ぶりにウクライナに軍事支援 3/13
戦争犯罪の根絶を目指して設立された「国際刑事裁判所」(ICC、オランダ・ハーグ)は11日、赤根智子裁判官(67)を所長に選び、発表しました。日本人が所長になるのは初めてです。
ICCはロシア軍がウクライナの占領地から違法に子どもを連れ去ったとして、プーチン大統領らに逮捕状を発出。審理を担当した裁判官の一人である赤根氏は、ロシアから指名手配されています。
一方、ウクライナの国会議員は12日、「キーウに1千回目の空襲警報が出された」とX(旧ツイッター)に記しました。3年目に入った侵攻は出口の見えない状況が続いています。
米国が2カ月半ぶりにウクライナに軍事支援 砲弾など
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は12日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに3億ドル(約440億円)相当の軍事支援をすると発表した。米国による軍事支援は昨年末以来で、約2カ月半ぶりとなる。対航空機用のミサイルや砲弾など直近で必要とされるものだという。
米国のウクライナ支援用の予算は枯渇した状態が続いている。バイデン政権は予算権限を握る連邦議会に600億ドルの確保を要請しているが、共和党の反対で採決のめどは立っていない。今回の支援は、以前の軍事支援での業者との価格交渉で浮いた「値引き分」を原資にするという。国防当局の高官は記者団に、この形での支援は「1回限り」で「持続可能ではない」と述べた。
サリバン氏は今回の支援は緊急のもので「ウクライナの戦場でのニーズを満たすには到底足りず、数週間後の砲弾不足を防げるものではない」と強調。議会に改めて予算の速やかな承認を求めた。
●プーチン氏、ウクライナとの取引にはロシアへの安全保障が必要 3/13
ロシアのプーチン大統領はウクライナでの戦争を終結させる協議をロシアが検討するには安全保障が必要になると述べた上で、「現地の実情」を交渉の基礎とするべきだと国営通信社RIAノーボスチとのインタビューで語った。
RIAノーボスチが13日に伝えた同インタビューでプーチン氏はロシアとして「この紛争を平和的な手段で」解決する用意があるとあらためて述べた。ウクライナ政府はこれまで、ロシアの侵攻に報いる形になる領土の譲歩に関してはいかなる取引も拒否してきた。
プーチン氏は終戦交渉について、「この場合、われわれは主にロシアの安全保障に関心がある。われわれはそこから話を進めるだろう」と発言。西側との 「公正な取引」は可能かとの質問に、 「私は誰も信用しないが、われわれには保証が必要だ」と答えた。
また同氏は、ウクライナでの戦争中に戦術核兵器を使用する必要は全く生じなかったし、自分は考えたこともないと話した。またロシアと米国が核戦争に向かっているとは思わないとした。
●米軍がウクライナに入れば干渉者と見なす─プーチン大統領=RIA 3/13
ロシアのプーチン大統領は、米軍がウクライナに入れば干渉主義者として扱うとの立場を示した。ロシアの国営通信社RIAが13日にインタビューの発言内容を報じた。
プーチン氏はRIAと国営テレビのインタビューでまた、米国が核実験を実施すれば、ロシアも行う可能性があると語った。
さらに、ロシアは軍事技術の観点から核戦争の用意ができているが、現在のところ「全てがそこに急いで向かっているわけではない」と述べた。
●ウクライナ拠点のロシア人準軍事組織、ロシアに入り交戦と発表 3/13
ウクライナに拠点を置くロシア人準軍事組織が12日、国境を越えてロシアに入り、政府軍と交戦したと発表した。
「自由ロシア軍団(FRL)」と「シベリア大隊(SB)」は、ロシア南西部ベルゴロド州とクルスク州にいるとされる戦闘員らの映像を公開した。
また、FRLと亡命中のロシア人政治家は、この地域の2カ所の村が「解放軍」の手にあると主張した。
一方、ロシア軍は侵略を阻止したと発表。ウクライナ兵234人を殺害し、複数の戦車を破壊したとした。
ベルゴロド州のヴャチェスラフ・グラトコフ知事は、ロシア地域軍の兵士1人が殺されたほか、民間人10人が負傷したと述べた。
BBCはこれらの数字について独自に検証できていない。
ウクライナ軍は、12日の襲撃への関与を否定している。軍情報機関のアンドリイ・ユソフ報道官は、ロシア人による「独立した組織」である準軍事組織が「自国」で活動しているとの見方を示した。
「プーチン氏の独裁からの解放」が目的と
FRLはこの日、ロシアとウクライナの国境で撮影したという映像を投稿。
映像では、武装したFRLの戦闘員が、「すべての市民がそうであるように、我々もプーチンの独裁から解放されたロシアを夢見ている。だが、我々は夢を見るだけでなく、その夢を実現するためにあらゆる努力を惜しまない。我々は1センチずつ、政権から我々の土地を奪い取っていく」と言っているのが聞こえる。
SBは、「ロシア連邦領内で激しい戦闘が行われている」とし、ロシア政府軍と交戦中の戦闘員らを撮影したとする映像を公開した。
また、15〜17日に予定されている大統領選を非難。この選挙では、ウラジミール・プーチン大統領が勝利を宣言すると予想されている。
SBは、「この選挙の投票用紙や投票所はフィクションだ。武器を手にしてこそ、自分の人生を本当に良い方向に変えることができる」と主張した。
同じくウクライナを拠点とするロシア人準軍事組織「ロシア義勇軍団(RVC)」も、ロシア政府軍との戦闘の模様だとする映像を公開。「クレムリン(ロシア大統領府)の軍は、戦闘が始まる前に武器を下ろした」と述べた。
これらの映像は、第三者によって検証されていない。
国境沿いの村を掌握と主張
クルスク州の国境沿いにあるテトキノ村は、12日の襲撃の標的の一つだったようで、FRLは「解放軍」がこの集落を完全に支配したと主張している。
BBCは、テトキノでの装甲兵員輸送車への攻撃を映したFRLの映像を検証し、実際ののものだと確認した。
州都クルスク市のイーゴリ・クツァク市長は「最近の出来事に関連し」、13日から15日まで、同市のすべての学校をリモート授業にするよう命じた。
また、40万人以上の人口を抱える同市では、「ミサイル警戒」体制がまだ続いていると警告した。
12日未明には、ウクライナを拠点とするロシアの野党政治家イリヤ・ポノマレフ氏が、ベルゴロド州の国境沿いの村ロゾヴァヤ・ルドカが「解放軍の完全な支配下にある」と主張した。
ロシア国防省は12日の声明で、軍が国境警備隊とロシア連邦保安庁(FSB)の治安部隊と共に、ロシアに侵入しようとするウクライナの試みを阻止したと述べた。
声明によると、戦車や装甲兵員輸送車に援護された敵の戦闘員が、「ベルゴロド州の三つの集落に同時に」侵入しようとしたという。
さらに、テトキノを狙った4件の攻撃もあったが、「撃退された」と付け加えた。
ウクライナを拠点とするロシア人の武装集団は、ロシアのウクライナ全面侵攻が始まって以来、国境を越えた襲撃をたびたび行っている。
昨年5月にもベルゴロド州で同様の襲撃があったが、ロシア軍は武装反乱軍を撃退したとしている。
ウクライナのドローン攻撃を阻止と発表
ロシア政府はこの日、ウクライナがロシア各地に計25機のドローン(無人機)による攻撃を仕掛けたが、阻止したと発表した。
しかし、ロシア国内のいくつかの石油施設で火災が発生している映像が浮上している。
また、ロシアの国営通信社によると、ロシア国防省はこの日、モスクワのすぐ東に位置するイヴァノヴォ州で、乗客7人乗員8人が乗った軍輸送機「IL-76」が離陸直後に墜落したと発表した。
同省はエンジン火災が墜落の原因だとしているという。生存者についての詳細は不明。
炎上した飛行機が上空を旋回し、その後、墜落現場から黒煙が立ち上る様子を映したとされる映像も浮上している。
ロシアがアパートをミサイル攻撃
一方、ウクライナでは、中部のクリヴィー・リフで12日夜、ロシアのミサイルが2棟のアパートを直撃した。イホル・クリメンコ内相によると、少なくとも3人が殺され、38人が負傷した。
クリメンコ内相は、犠牲者の中には子供も含まれていると発表。捜索・救助活動が続けられており、死者数はさらに増える可能性があると述べた。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナは「対抗措置としてロシアに損失を与えるだろう。まったく当然だ」と述べた。
ロシアのプーチン大統領が開始したウクライナへの本格的な侵攻は3年目に入った。第2次世界大戦以降のヨーロッパで最大の戦争は、すぐに終わる兆しはない。
●ウクライナ「反転攻勢」停滞により 各国が恐れる「プーチン氏の復讐」 3/13
日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が3月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ジョージアの国際会議に出席して感じた各国の「ロシアに対する見方」の変化について解説した。
マニラ、ジョージアの首都トビリシの国際会議に出席
飯田)秋田さんのX(旧Twitter)を見ていると、いろいろな国に行っていますね。
秋田)すべて会議のためですが、2月下旬にインドへ行き、2月末からつい3日ぐらい前まではマニラとジョージア・トビリシの会議に出席していました。
昨年とはロシアに対する見方が激変した中央アジアや旧ソ連の国々
飯田)ジョージアの首都トビリシは東欧ですよね。日本にはあまり馴染みがないかも知れません。
秋田)去年(2023年)も2つの会議があり、それぞれ呼ばれたので行きました。今回行って感じたのは、去年とは激変していたのです。最大のテーマは当然、ロシアによるウクライナ侵略問題です。去年の会議は5月に開催されましたが、そのときはウクライナの反転攻勢がこれから始まるという時期で、中央アジアやコーカサス諸国など旧ソ連の国々も、ロシアは劣勢に立たされて「苦戦するだろう」と思っていました。
各国が恐れる「ロシアの復讐」
秋田)だから侵略するような国とは距離を置き、西側、さらには中国とも「関係を深めていこう」というような感じだったのです。それを受けて私は「プーチン氏、裸の王様」と題し、「旧ソ連圏で距離を置かれている」という記事を書きました。ただ、今年(2024年)も去年来ていた人たちがいたので、その人たちの議論を聞くと、ロシアの見方が激変しているのです。今年のキーワードは「ロシアの復讐」ですね。
飯田)復讐。
秋田)記事を書くとしたら、「ロシアの復讐を恐れる国々」というようなコメンタリーになるでしょうか。そういうイメージです。ウクライナはここへ来て反転攻勢もままならず、すぐには勝てそうにない。ロシアが一息ついて、下手をするとトランプ氏が当選してしまい、ロシアが勝ってしまうかも知れない。
飯田)ウクライナへの支援が止まって。
秋田)そういう最悪のシナリオも考えると、いまロシアと距離を置けば報復されるかも知れません。反体制派のナワリヌイさんが獄中で亡くなりましたが、国家としてもロシアは怖いので、「毒を盛られるかも知れない」というような話題が多かったです。
飯田)空気がガラッと変わってきた。
秋田)岸田総理も「きょうのウクライナは明日の東アジアだ」と言っていますが、ウクライナの戦況が変わると、「こうも空気が変わるのか」ということを体感しました。
●ナワリヌイ夫人を目覚めさせた4年前の毒殺未遂事件 3/13
 「プーチンは私の心の半分を殺した」
ロシアで反プーチン派の旗印となっていたアレクセイ・ナワリヌイ氏が、2月16日、北極圏の刑務所で獄死。ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは夫亡き後も気丈に政治的発言を続けている。ユリアさんについての報道を調べた今井佐緒里さんは「ユリアさんの経歴は、日本だけではなく、欧米のメディアでもあまり知られていない。それは彼女が『内助の功』的な役割に徹していたからだ」という――。
夫がプーチンの監視下で獄中死したとき、妻が発したメッセージ
「こんにちは。ユリア・ナワルナヤです。今日初めてこの(夫の)チャンネルであなた方にお話します。私はこの場所にいるべきではなかった。このビデオを録画すべきではなかった。私の代わりに別の人がいるはずだった。しかし、その人はウラジーミル・プーチンによって殺されました」
獄中死した、ロシアの反体制野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ(1976年6月4日〜2024年2月16日)。妻のユリア・ナワルナヤ(47歳)は、この言葉でYouTubeに語りかけ始めた。とても毅然とした態度で。夫の遺志を継ぐ決意を表明する動画メッセージである。
「アレクセイを殺すことで、プーチンは私の半分、私の心の半分、魂の半分を殺しました。しかし、私にはまだ残りの半分があります。それは私にあきらめる権利がないことを告げています」
「私はアレクセイ・ナワリヌイの仕事を続けます。私は、私たちの国のために闘い続けます。私たちを捉えて離すことのない悲しみと、終わりのない痛みを共有するだけではありません。私の怒りを共有してください。私たちの未来を殺そうとする者たちに対する怒り、憤怒、憎しみを共にしてください」
ロシア国内に戻れば命が危険で、夫の葬儀には参列できず
この動画でユリアは、暗い紺色の上衣を身に着け、薄化粧だった。背景は暗く、幾つかろうそく型の電気が灯されていた。しかしマニキュアは、彼女の決意を表すかのように真っ赤だった。
「私たちはあらゆる機会を利用して、戦争、汚職、不正と闘わなければなりません。公正な選挙と言論の自由のために闘い、私達の国を取り戻す闘いです」
「ロシア、夫が心から夢見ていた自由で、平和で、幸せで、美しい未来のロシア。それが私たちが必要とするロシアです。そんなロシアに住みたいのです。アレクセイと私の子供には、そんなロシアに住んでほしいです。私はアレクセイが心に思い描いていた、そんなロシアをあなた方と一緒に築きたいのです」
夫アレクセイの葬儀が3月2日にモスクワで行われたが、ユリアの姿はどこにもなかった。現在国外にいて、もし戻ったら二度と出られず命の危険があると言われている。
しかし、そんな彼女の経歴は、日本だけではなく、欧米のメディアでもあまり知られていない。彼女は「内助の功」的な役割に徹していたからだ。夫と一緒にデモに参加しても、政治的な主張をすることはたいへん稀だった。いったい、どのような女性なのだろうか。
美男美女カップル、アレクセイとユリアの出会い
アレクセイとユリアは1998年にトルコでの休暇中に出会った。二人とも1976年生まれなので、当時は22歳くらいだったことになる。そしてモスクワに戻った後も交際を続け2年後の2000年に結婚、二人の子供に恵まれた(1999年に出会い1年後に結婚という報道もある)。
ユリアは、将来の夫が、世界中のメディアで取り上げられるほどの有名人になるとは思わなかったと語っている。「私は有望な弁護士や野党指導者と結婚したのではありません。私はアレクセイという名の若い男性と結婚しました」。これは彼女が頻繁に言っていることだという。
未来の夫のほうは、トルコで休暇を過ごしたとき、ユリアが現在の閣僚全員の名前を言えるという事実に魅了されたと語っている。
結婚前のユリアの経歴は、ほとんど知られていない。
確かなのは、ロシア経済大学国際経済関係学部を卒業したこと。その後インターンシップに海外に行き、大学院に進み、モスクワの銀行の一つで働いたと言われる。しかし卒業年も勤務先の名前も、明確には知られてない。
経済大学を卒業、大学院にも進んだが、結婚後は専業主婦に
ユリアは、夫アレクセイの両親のもと、枝編み細工の仕事を手伝っていたと語ったという。優れた教育は、キャリアに全く役に立たなかったようだ。
ただし、『ソベシェドニク』紙によれば、この会社の元従業員の女性は、ユリアがいたことを覚えていなかった。おそらく、彼女は単に家族経営の民間会社に登録されていただけで、実際には専業主婦として、家事と子育てにすべての時間を捧げていたのだろうと、同紙は述べている。
夫は結婚した2000年にヤブロコ党に入党したが、妻のほうも党員歴がある。この党は欧米的なリベラル志向のある党とされ、冷戦が終わった1990年代初頭に結成された。一時は三大政党の一つと言われたこともある。むしろ他二つ(プーチン氏の統一ロシア党、共産党)以外の勢力の結集だったようだ。この党のメンバーだったことは政治経歴になりうるものだ。
アレクセイがヤブロコ党を去った2007年は、一家にとって転機となった。アレクセイは国営企業の横領の捜査を開始し、ユリアは第2子を妊娠していた。その時から、彼らの人生が公になり始めたのだ。ちなみにユリアは4年後の2011年に離党したという。
妻はロシアの新しい有名人の第一秘書であり、助手であり、親友になったのだ。公式には彼女は、自分の役割を「日常生活と子育てを担当すること」と定義していた。
政府を糾弾する夫を支え、国家親衛隊のトップに「卑怯者」
ユリアが政治的に注目され始めたとしたら、それは2018年のことである。ロシア大統領選挙が行われた年である。ナワリヌイ氏の出馬は、過去の有罪歴を理由に禁じられてしまった。ここから二人の命を賭けた激しい闘いが始まる。
夫アレクセイを有名にしたものは、汚職の告発だった。彼は「汚職防止財団(FBK)」を設立していた。例えば東シベリア・太平洋石油パイプライン建設中に、パイプライン公共企業であるトランスネフチの指導者らによって、約40億ドルが盗まれたと告発した。
2016年12月に、次の大統領選(2018年)に立候補することを表明した。2017年2月にはサンクトペテルブルクに最初の選挙事務所を開設、4月には何者かに緑色の化学物質が混入された液体をかけられ、右目の視力が一部失われた。
出馬が禁止されてしまったナワリヌイ氏は、2018年1月大統領選挙のボイコットを求める抗議活動を主導した。5月には、プーチン大統領が4期目で就任する2日前に行われた抗議デモで拘束、警察に従わなかった罪で懲役刑に処された。
そんな8月、氏は、国家親衛隊の新たな食料供給業者が、食料価格をつり上げているとする資料を発表。トップであるヴィクトル・ゾロトフ氏が、ロシア国家警備隊の調達契約から少なくとも2900万ドルを盗んだと主張した。
その直後、釈放されていた氏は再度、1月の無許可で違法な抗議活動の罪で拘束されてしまった。9月初旬に年金の対象年齢の引き上げに抗議するために、全国規模の集会を行うと呼びかけていたところだった。この年金問題は、幅広いロシア人を激怒させ、団結させようとしていたものだった。
夫を「ジューシーでおいしい細切れ肉にする」という脅迫
夫が服役中の9月中旬、ゾロトフ氏はナワリヌイ氏に決闘を挑むビデオメッセージを公開した。「あなたは私を侮辱的で中傷的な発言の対象にしました。将校の間では単に許すという習慣はありません」「リングの上でも柔道マットの上でも、どこでもよろしい。そしてあなたをジューシーでおいしい細切れ肉にすることを約束します」。
この「決闘」に対して、ユリアがインスタグラムで答えたのだ。
「私はこれをアレクセイと私たち家族全員に対する脅迫だと考えています。これは、自分が処罰されないことを喜ぶ、傲慢な強盗からの脅迫です。私たち家族は、捜索、逮捕、脅迫が日常茶飯事の環境で長年暮らしてきました。私は恐れていません。そして私は皆さんにも恐れないよう強く勧めます」とユリアは書いた。
そして、ナワリヌイ氏が「答えるだけでなく見ることさえできない」期間に、このような訴えを公表して、ゾロトフ氏は「卑怯者(臆病者)」だと指摘した。ユリアは「彼に対して抱いている唯一の感情は軽蔑です」と述べた。「彼は臆病者です。なぜなら、汚職防止財団によって提起され、鉄壁の証拠によって裏付けられた汚職の告発に対して、彼は一度も返答していないからです」と書いた。
そして、夫が釈放されたらゾロトフに答えるだろうと強調した。
このような断定的なものの言い方は、人々を驚かせるのに十分だった。しかし、彼女の発言は、あくまで夫が自由に行動できない場合の代弁者として、という形だった。
2020年夫の毒殺計画が実行され、身を挺して夫を守った
決定的な転機は、2020年8月の夫の毒殺未遂だった。
アレクセイは、シベリアのトムスクからモスクワへ向かう飛行機の中で苦しみ始め昏睡状態に陥った。飛行機はシベリアのオムスクに緊急着陸した。その後、彼の支持者は、空港で飲んだお茶に毒を盛られたと考えていたが、後日もっと恐ろしい事実が判明した。
欧州各国やEUの首脳、国連組織やNGOが反応する中で、メルケル独首相とマクロン仏大統領は、ナワリヌイ夫妻を助ける用意があると述べた。そしてメルケル首相が、ドイツからナワリヌイ氏の搬送機と医療チームをロシアに派遣したのだ。
夫をドイツの診療所に移送し、救出活動を主導したのはユリアだった。
2020年に夫が毒殺されかけ、ユリアはプーチンに手紙を書いた
2020年8月20日、シベリアのトムスク発モスクワ行きの飛行機の中で、夫アレクセイは突然苦しみだした。
このときの様子は携帯で撮影された。彼が苦しみ叫ぶ声が、ドキュメンタリー映画『ナワリヌイ』の中でも生々しく登場している。
ちなみにカナダ人ダニエル・ロアー監督のこの作品は、第95回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。
ユリアのツイッター(現X)やインスタグラム(現在ロシアでは禁止されている)での発信は、欧米のメディアでよく引用された。
特にツイッターに投稿した、プーチン大統領へ宛てた手紙は大きな話題になった。
「私は、アレクセイ・アナトリエヴィチ・ナワリヌイにはドイツ連邦共和国における適切な医療が必要であると信じています。8月21日正午から、トップレベルの監督の下、アレクセイをただちに搬送するあらゆる機会が与えられました」と書き、ドイツからの医師が到着して、搬送準備が整ったことを簡潔に指摘している。そして夫をドイツに移送する許可を求める形で「あなた(プーチン大統領のこと)に正式に訴えます」と発信したのだ。夫が倒れた翌日、21日のことだった。
同じ日に、記者会見が開かれた。政権側のペスコフ報道官は、この事件に対し、搬送するか否かは医者の判断である、ナワリヌイ氏の病気は調査中である、という主張を繰り返した。そしてナワリヌイ氏の代理人から訴えは受け取っていない、SNS上にメッセージがあっただけと述べた。
この頃はまだ、ロシアには言論の自由が機能していたのだ。独立系メディア『メドゥーザ』等だけではなく、ロシア最大の経済新聞『コメルサント』も、中立的な表現ではあるがこの事件を報道していたし、米CNNなどの外国のメディアも、ペスコフ報道官に質問ができる状況だった。
ロシアの医師団が毒殺計画を隠蔽しようとするのを痛烈に批判
ユリアは、ロシアの医師団が、化学物質の検出を防ぐためにナワリヌイ氏の移送を遅らせたとの見方を示した。
ナワリヌイ氏の側近は、移送に協力的だった医者たちが、突然協力するのを拒みだしたと述べた。「まるで治療モードがオフになって、隠蔽工作モードがオンになった感じだった。妻にさえ情報を提供するのを拒否した」と述べた。
ロシアの医師レオニード・ロシャル氏は、アレクセイの症状の原因を解明するために、ドイツとロシアの共同の専門家グループを設立するよう提案した。しかし、ユリアはインスタグラムに書いた。「私の夫はあなたの所有物ではありません」。
そして、ドイツとは異なる、ロシアの医療の体質を批判した。「ロシアの病院に患者が入院すると、突然、地元行政がその患者を自分たちの所有物だとみなしていることが判明します」「そして同時に、親族を欺き、患者に会わせず、自分たち独自の裁量で規則を発明し、文字通り病院をロシアの刑務所の類似物に変えるのです」。
さらに、近年のロシャル医師の公の活動は、彼を信頼する理由にはならないと指摘した。「あなたは医師としてではなく、国家の代弁者として行動して」いると批判した。「特にそのような立派な年齢では、自分の魂に罪を負わないでください」と結んだのである。
ナワリヌイ夫妻に助け船を出したドイツ首相メルケルの元へ
高名な医師に向かって、信頼できない、国家親衛隊のトップに向かって、卑怯者。彼女の政治的な言葉は少ないが、非常に断定的で人々の心に残るものだった。
そして、ユリアはナワリヌイ氏と共にベルリンへと旅立つことに成功し、22日に到着した。この8月は奇しくも、二人の結婚20周年だった。ユリアは昏睡状態に陥ったアレクセイの隣で祝った。
アレクセイは、ベルリンのシャリテ診療所で一命を取り留めた。
検査によって、使われた毒物はノビチョクと判明した。1970〜80年代にソ連で開発された化学兵器としての神経剤。ノビチョクは夫の下着に付着していたと、ドキュメンタリー映画の中で明かされている。9月、メルケル首相は記者会見を開き、「ロシア政府しか答えられず、同政府が答えなくてはならない深刻な疑問」が持ち上がったと述べた。そして、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)の加盟国と連携して、ロシアの対応を見ながら、一致して適切な対応を求めてゆくと述べた。
最悪の事態を乗り越えたユリアに「強い女性」というイメージが
昏睡状態から回復した後、アレクセイは「ユリア、あなたは私を救ってくれた」と、妻への愛の告白のような長いメッセージ書いた。ユリアの類まれな復活力を持つ強い女性のイメージは、この言葉によってさらに強化された。そしてユリアに新たな人気の波をもたらしたと、女性のスタイルマガジン『Woman.ru』は評している。
しかし、彼女が強くなったとしたら、最悪を覚悟したからだ。ユリアはインタビュービデオで、「この物語の後、私は『死』と『死ぬ』という言葉を言えるようになりました」と述べた。彼女はこの言葉が嫌いで、家族がそのような言葉を使うと、ひどく悪い言葉で反応していた。しかし「彼はおそらく死ぬだろうとわかり、どういうわけかこの言葉を使うのが簡単になりました」と語った。
回復後、ナワリヌイ氏は何度か妻と一緒にインタビューに応じている。その中で、彼女は一度だけ悲劇的な展開で泣いたことがあると認めた。夫が拘束され、娘の卒業式に出席できなかったときだったという。
夫の回復期、二人は、ドイツでほんの束の間の穏やかな日々を過ごすことができた。
政治的発言をするユリアに対してバッシングが始まる
ユリアに対する注目が集まれば、バッシングも始まる。
彼女の父親ボリス・ボリソビッチ・アブロシモフが「KGB職員」であると発言した人がいる。ナワリヌイ夫妻は否定している。
これはロシアのテレビNTVで、同局のオレグ・カシンという人の調査によるものだという。この人物によると、ユリアは複雑な英国の家庭の出身で、継父は亡くなったが、実父は生きているという。
「(ユリアの)実父はロンドンに住んでおり、KGB(ソ連の諜報機関)またはGRU(ソ連とロシアの軍の情報機関)の将軍です。そして今、彼はいくつかのファンドを運営しています。おお、おお。この家族には本当に隠しごとがある!」
しかし、夫アレクセイは、完全なウソであると主張した。妻の実父の死亡証明書まで公開した。そして、この御用ジャーナリストが言うことで事実なのは、何度も誕生日に招待されたが、行きたくなかったし、断る口実をつくったことだけだ、という。そして実在の人物を、ユリアの親のようにでっちあげていると主張した。
ユリア自身もこの情報を否定した。彼女はインタビューで、研究所職員と軽工業省職員の家庭で育った、と語った。小学5年生の時に両親が離婚し、18歳の時に実父が亡くなったことを知ったという。
2021年夫はロシアに帰ることを選び、当局に拘束された
そのまま二人は、ドイツに暮らすこともできただろう。ドイツ政府は、ナワリヌイ家の人が亡命申請をするなら、すぐさま受け入れたに違いない。しかし、二人は母国に帰ってきた。
2021年1月、夫は空港で拘束された。ベルリン発モスクワ行きのポベダ航空便は、当初ヴヌーコヴォ空港に到着する予定だったが、ナワリヌイ氏の到着前に到着便の受け入れが禁止された。そして便は、ロシア最大のシェレメチェボ空港に到着した。
ユリアはナワリヌイ氏を迎えに殺到していた支持者に感謝の気持ちを述べた。
「お越しいただいた皆様、本当にありがとうございました。彼らはアレクセイを恐れるあまり、今夜モスクワのほぼすべての飛行機を麻痺させました」「そして最も重要なのは、アレクセイが『恐れていない』と言ったことです。そして私も恐れていません。そして、皆さんも恐れないでください。皆様のご支援に心より感謝申し上げます」と、パスポート審査での逮捕前に短い演説を行ったナワリヌイ氏の言葉を引用して述べた。そして、動揺を極力見せようとせずに言い終えるや否や、車に乗って去っていった。
拘束直前、二人は抱き合った。これが最後の抱擁だったのだろうか。
「ナワリヌイ氏の妻」として生きてきたユリアが政治家に?
拘留の名目は、民事裁判のはずだったイヴ・ロシェ社の横領事件における執行猶予違反と、シャリテ病院退院後の管理逃れを挙げている。この事件は、ナワリヌイ氏が、逮捕は政治的動機によるものだとして、欧州人権裁判所に訴えたケースである。
アレクセイの逮捕後も、家族への監視は続いた。「彼らは人民の敵の妻のように私を尾行しています」とユリアはインスタグラムに投稿した。家族のアパートの外にある標識のないパトカーの写真をつけて。「1937年が到来したのに、私たちは気づかなかったのです」。それはスターリンの粛清の年だった。
二人が最後に会ったのは2022年2月。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった月だった。ユリアが最後に行ったのは3月だった。しかし夫は厳しい管理下におかれ、もう面会ができなくなってしまっていた。
アレクセイの死亡の連絡は、それから約2年後のことだった。
ユリアの物語は続く。
ユリアは本当に夫の代わりに立ち上がる事ができるだろうか。
「ファーストレディ」の条件をクリアしていると賛美された
確かに彼女は頭が良く、強く、正義感も強い。彼女の呼び名は「野党の大統領夫人」「デカブリスト(註1)の妻」。今までユリアを称える賛辞はファーストレディとしてのものだったし、彼女自身も「ナワリヌイ氏の妻」として生きてきた。
「ユリア・ナワルナヤは、真の『ファーストレディ』の条件をとっくの昔にクリアしている」。故ゴルバチョフ元大統領が援助して創設されたロシアの独立系新聞『ノーバヤ・ガゼータ』は、「彼女は、本物のファーストレディのように、これらの敵に対して、生意気で無礼ではなく、冷血な威厳をもって話す方法を知っています」とユリアを賛美する。
「ナワリヌイ氏は、ユリアさんの人生における並外れた役割を決して否定しない。彼は妻を隠すことなく、誇示することなく公然と愛を告白し、彼女の写真をインスタグラムに投稿し、彼女を崇拝し、守り、人生で自分を救うのは彼女であるという事実を隠さない。男性は自分のことと自分のビジネスのことだけを話すべきで、妻のことについて話すべきではないと信じている幼稚な男性の時代に(うぬぼれとプライドがそれを許さないのです、ご存知のとおり)、これはまれな資質です。政治家にとってこれは、二重に珍しい資質です」と。
そして、「ロシアの政治はソ連時代から、なぜか『二列目』に恵まれていない」というのである。「奇跡が起きたのは、これまでゴルバチョフ家とナワリヌイ家の2回だけです」。
(註1)1825年にロシアで皇帝専制と農奴制の廃止を目指して、貴族の青年将校たち「デカブリスト」が武装蜂起したが、あえなく失敗してシベリアに送られた。貴族の妻二人が、夫と運命を共にするためにシベリアに向かったという史実をもとにした、詩人ネクラーソフの作品名。
女性が政治のトップに立つ欧州でユリアも躍進するか
今までは、夫の危機の時だけ前面に出て、夫を支える強く賢い妻だったからこそ、ユリアは称賛されてきた。貞淑で、ひたすら夫のためを思う「デカブリストの妻」だったから、男性の一定の支持も得られた。今後は、夫の遺志を継ぐのなら、第一線に立つ「生意気な女」にならなければいけない。ロシア人はそんな彼女を受け入れるだろうか。
ユリアがEUの舞台や西欧にいると、このロシアの遅れは一層浮き彫りになるように見える。夫妻を救ったメルケル首相は、女性である。EUの内閣にあたる欧州委員会の委員長は女性のフォン・デア・ライエン氏である。アメリカにはまだ一度も、女性のトップは登場していないが、EU加盟国では女性の首脳は全く珍しくない。
2月27日、ユリアは欧州議会の演説で、スタンディングオベーションを受けた。そのEU議員の4割は女性である。
女性は男性の後ろにいるべきという「常識」は、消え果てているEU内の世界。ユリアへの同情と反体制派への支援の気持ちは本物だとしても、「夫の代わりの妻」への関心はどれだけ続くのだろうか。もし彼女が西欧に生まれていたら、彼女自身が政治家やNGOの重要な人物になったかもしれない。
しかし彼女はロシアで生まれ育った。そしていまや伴侶もなく、子どもたちの安全に不安を抱えながら、亡命者として生きていかなければならない。
3月17日の大統領選でプーチン再選阻止を呼びかける
亡命者が政治家に立候補することはできないのだから、夫が創設した「汚職防止財団」の活動を続ける以外に、夫の遺志をつなげてゆく方法はないかもしれない。汚職告発の窓口となり、協力者たちを束ね、汚職告発のシンボルとなる難しい仕事になるのではないか。
ユリアは、3月6日、動画を投稿し、ロシア大統領選の最終日となる17日に「反プーチン行動」への参加を呼びかけた。プーチンの再選が確実視される大統領選について、「完全な作り話でウソです。プーチンは好きなように結果を描けます」と批判。
「アレクセイが教えてくれたように、選挙を通じて私たちの存在を示す必要があります」「17日正午に投票所に来て、プーチン以外の候補者に投票するか、ナワリヌイと書いてもいい。これはとても簡単で安全な行動です」と訴えた。
ユリアの服装は、今までには見たことがないような、真っ赤な服に真っ赤なマニキュア姿だった。彼女は今まで、かなり抑制された装いをしてきたのに。
国外から祖国ロシアに呼びかけるユリアは、今後どのような変貌を遂げるのだろうか。それとも人々の記憶から薄れてしまうのだろうか。彼女の選択と運命を見守り続けたい。
●ドローン25機以上がロシア西部を攻撃 反プーチン政権の武装集団「ロシア義勇軍」などが攻撃声明を発表 3/13
ロシア西部に25機以上のドローンによる攻撃があり、ウクライナを支持するロシア義勇軍が越境攻撃したと発表した。
ロシア国防省によると、12日未明から朝にかけて「ウクライナ側が越境攻撃を試みた」として、首都モスクワの隣のモスクワ州や西部ベルゴロド州など7つの地域に、あわせて25機のドローンが飛来し、軍とFSB=連邦保安局が撃退したという。
一方、ベルゴロドでは地元当局が市役所庁舎がドローン攻撃を受け窓ガラス36枚が割れるなどして4人が負傷したと発表。また、オリョール州でも石油貯蔵所が被害を受けて、ガソリンが入った大型タンクが炎上したという。
一連の攻撃を巡っては、反プーチン政権のロシア人による武装集団「ロシア義勇軍」などが12日、ウクライナ側からベルゴロド州とクルスク州を攻撃したとする声明を発表し、戦闘の様子とされる映像をSNSで公開した。
●ウクライナ側の露義勇兵、ロシアに越境攻撃 集落2カ所制圧と報告 露側は完全否定 3/13
ロシアによるウクライナ侵略で、プーチン露政権の打倒を掲げてウクライナ側で参戦している複数のロシア人義勇兵組織は12日、ウクライナ国境と接する露西部クルスク州とベルゴロド州に越境攻撃を行い、クルスク州の集落チョトキノを制圧したと交流サイト(SNS)で報告した。チョトキノから露軍兵が敗走する様子を撮影したとする動画も公開した。
義勇兵の取りまとめ役とされる元露下院議員、ポノマリョフ氏も12日、義勇兵組織がベルゴロド州の集落ロゾバヤ・ルドカを制圧したとSNSで報告した。
一方、露国防省は同日、両州でウクライナ側の「テロ部隊」が越境攻撃を試みたものの、露軍が全て撃退し、越境を許さなかったと主張。「テロ部隊」が234人の人員やブラッドレー米歩兵戦闘車3両などを喪失したとも主張した。
双方の主張が食い違っており、越境攻撃の成否は不明だ。ただ、ロシア人義勇兵組織は過去にも「露国民にプーチン政権と戦う勇気を与える」などとして越境攻撃を行ってきた経緯がある。義勇兵組織は15〜17日の露大統領選を前に、同様の目的から越境攻撃を実施した可能性がある。
●ウクライナ、2夜連続でロシア各地にドローン攻撃=知事 3/13
ウクライナが2夜連続でロシアの複数の州を無人機(ドローン)で攻撃した。各州の知事が13日に明らかにした。ベルゴロド州ではガス供給ラインが損傷し、いくつかの村で停電が起きた。
ウクライナと国境を接する同州のグラトコフ知事はメッセージアプリを通じ、ウクライナが発射した4機のドローンが上空で破壊され、落下した破片で被害が出たと説明した。グブキン町で複数の家屋が損傷した。
また、シェベキノ町ではウクライナ軍の攻撃で男性1人が負傷し、同町と近隣の村の送電線が損傷したという。
同じくウクライナと国境を接するクルスク州のスタロボイト知事は、ウクライナが発射したドローン4機を防空システムが破壊したと明らかにした。被害については触れていない。
ロシア南部のボロネジ州知事によると、ウクライナの無人機攻撃を撃退するために防空システムが数回作動したが、攻撃による「民間施設への影響」はなかった。
ロシア国防省によると、ウクライナは12日、ロシア各地をドローンやミサイルで攻撃。攻撃では少なくとも25機のドローンとロケット、ミサイルが使用され、大規模な製油所で火災が発生した。
●アメリカ政府、ウクライナに443億円相当の軍事支援 弾薬やロケット弾など 3/13
アメリカ政府は12日、ウクライナに3億ドル(約443億円)相当の軍事支援を提供すると発表した。これには弾薬やロケット弾、対空ミサイルなどが含まれる。米議会下院でウクライナへの追加支援を含む予算案が行き詰まっている中での突然の発表となった。
アメリカがウクライナに武器・装備を供与するのは約3カ月ぶり。ウクライナがロシアとの戦いで劣勢に立たされるのを避けるのが狙い。
ジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)は今回の支援について、「ウクライナの戦場でのニーズを満たすには到底足りない」規模だと述べた。
「今回提供する弾薬によって、ウクライナ側は一定期間、銃を撃ち続けられるようになる。ただそれは、ほんの短い期間でしかない」と、サリヴァン氏は12日に記者団に語った。「ウクライナ側の弾薬切れを防ぐことはできない」。
米上院は先月、ウクライナのほかイスラエルや台湾に対する支援を含む総額950億ドル(約14兆3000億円)余りの外国支援包括予算案を可決した。このうち対ウクライナ軍事支援は600億ドル。
ホワイトハウスは現在、下院での同予算案の可決を求めている。
マイク・ジョンソン下院議長(共和党)はこれまでのところ、同予算案の審議を拒否している。ドナルド・トランプ前米大統領の盟友であるジョンソン氏は、下院で審議するには、まずアメリカの移民制度を徹底的に見直す予算を可決する必要があると主張している。
下院の超党派グループは12日、上院で可決された予算案の採決を強行できる異例の手続き上の戦術を試みようと、請願を開始した。この手法の成功例は2015年以来ない。
ジョー・バイデン米大統領はこの日、ホワイトハウスでポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領と会談し、ウクライナを支援する姿勢を見せた。
デンマークも同日、約3億3600万ドル相当の弾薬と大砲をウクライナへ送ると発表した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は先月、同国はこの数カ月間、武器の「人為的な不足」が原因で劣勢になっていると述べていた。 

 

●プーチン氏続投濃厚、ロシア大統領選の概要 3/14
ロシアの大統領選挙が、3月15ー17日に実施される。予期せぬ事態が起こらない限りは現職のプーチン大統領(71)の勝利が確実視されており、2030年まで6年間の続投が決まれば、クレムリンの最高指導者としては旧ソ連指導者スターリン時代以来で最も長い在任期間を更新することになる。ロシア大統領選の概要を以下にまとめた。
日程
3月15ー17日にかけて投票が実施される。結果はすぐに発表され、当選者は5月に大統領に就任することになる。
投票は、ロシアが新たに自国の領土だと主張する、ウクライナのロシア軍占領地域でも行われる。ウクライナは、全てのロシア兵が国土から退去するまで手を緩めないと表明している。
今回は、ロシアの大統領選としては初めて、オンライン投票システムも導入される予定だ。
有権者数
今回の選挙における有権者の総数は約1億1230万人。国外でさらに約190万人、カザフスタン国内に位置しロシアが宇宙基地として管理するバイコヌールでは約1万2000人が投票権を持つ。
実際に投票するのは通常およそ7000ー8000万人だ。2018年大統領選での投票率は67.5%だった。
候補者
現職プーチン氏のほか、共産党のハリトノフ氏、極右・自由民主党のスルツキー党首、政党「新しい人々」のダワンコフ氏が出馬を表明している。
反戦を掲げるボリス・ナデジディン氏と、独立系の女性ジャーナリスト、エカテリーナ・ドゥンツォワ氏の2名は、立候補を認められなかった。
プーチン氏について
旧ソ連国家保安員会(KGB)の諜報員だったプーチン氏は1999年12月31日、エリツィン元大統領の辞任に伴い、大統領代行に指名された。2000年の大統領選では53.0%、04年には71.3%の得票率で勝利した。
08年の選挙でメドベージェフ氏が大統領となり、プーチン氏は首相に就任。その後、12年の大統領選で63.6%の票を獲得したプーチン氏が大統領に再選された。18年の選挙でも76.7%の得票率で勝利している。
ロシア大統領の任期は
プーチン大統領は既に、旧ソ連のブレジネフ共産党書記長の18年も上回り、スターリン時代以来で最も長い期間、ロシア最高指導者の座にある。
1993年に制定されたロシア憲法は、一部の西側諸国からはソ連崩壊後のロシアの民主主義を主導する進歩だと見なされていた。
憲法では当初、大統領の任期は4年で、連続で最長2期まで務めることが可能だと明記されていた。
ただ、2008年の憲法改正で任期は6年に延長された。20年には、プーチン氏が任期満了を予定していた24年以降、同氏のこれまでの大統領在職期間をゼロに戻し、最長36年までの続投を可能にする法律が成立。法改正には領土割譲の禁止も盛り込まれた。
民主主義か独裁か
プーチン大統領は西側諸国から「戦争犯罪人」や「殺人者」、「独裁者」として非難されているが、国内の世論調査では支持率がウクライナ侵攻以前より高い85%との評価を受けている。
ロシア大統領府は、プーチン氏が国民から圧倒的な支援を得ており、西側諸国から民主主義に関する説教を受けるのは望まないとしている。また、政府高官は西側諸国がロシアにおける選挙の正当性に疑念を呈することでロシアの弱体化を図っているとも非難した。
支持者らは、プーチン氏が1991年の旧ソ連崩壊以降続いてた「負のスパイラル」を止め、米国をはじめとする西側諸国に立ち向かい、旧ソ連を率いた歴代の書記長らが持っていた影響力を少なくとも部分的に回復させたと賞賛する。
強硬派の共産主義勢力から急進的ナショナリストまで幅広い野党の多くは、厳格に管理された政治システムの規則を順守する傾向にある。議席は持っているものの、主要事項について大統領府に異議を唱えることはない。親欧米でリベラル派の立候補者は議席を獲得できていない。
ロシア北極圏の刑務所で死亡した同国の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の支持者の多くは現在、投獄されるか亡命している状態だ。元石油王のミハイル・ホドルコフスキー氏ら反体制派も海外での生活を続けている。
反体制派はプーチン氏を、汚職に依存しながら自身による支配システムを確立しており、マフィアのゴッドファーザー的だと批判する。反対勢力は1999年以降、プーチン氏の支配するシステムはいずれ混乱が起きて崩壊すると予測してきた。
抗議活動
ナワリヌイ氏の妻ユリヤさんは、夫の死後に広がったナワリヌイ氏に対する支持活動の規模が、同氏の信念が生き続けていることを示していると語った。
ナワリヌイ氏は生前最後に発信したメッセージの一つで、大統領選当日となる17日の正午に一斉に投票することで、投票所に混乱を起こすよう呼びかけていた。
ユリヤさんは夫の遺志を引き継ぎ、選挙当日にプーチン氏に対する抗議行動を起こすよう呼びかけた。
「とても単純かつ安全な行動だ。(当局はこれを)禁止できない。そして数百万人が同じ考えを共有しており、一人ではないと気付くことができる」とユリヤさんは語る。
「私たちは戦争に反対し、腐敗に反対し、無法状態に反対している人々に囲まれているのだ」
ロシア連邦保安局(FSB)元大佐のイーゴリ・ギルキン氏は1月、過激派扇動の罪で禁錮4年を言い渡された。同氏は今回の選挙について、勝者が既に明白で「見せかけ」でしかないと非難した。
戦争推進派のギルキン氏はウクライナを主権国家として認めず、その大部分はロシアの領土であると主張している。同氏はロシアが指揮官のトップを解任し、真剣に戦い始めない限り、ウクライナ戦争で敗北することになるだろうと述べている。
選挙監視当局の見解は
欧州安全保障協力機構(OSCE)の民主制度・人権事務所(ODIHR)は1月、ロシアが今回の大統領選挙にOSCEの監視チームを招待しないとの決定を下したことについて、遺憾だと指摘した。
「3月の大統領選挙に監視チームを送り込むことができないほどまでロシア連邦の状況が悪化してしまっていることを遺憾に思っている」とOSCE議員会議のピア・カウマ議長は語った。
「OSCE議員会議が最初の選挙監視ミッションを行ったのは、1993年のロシアの選挙だった。以来、同国で10回の国政選挙を監視してきた。今年は現地で実際に選挙を監視することが許されず、民主主義がそこまで深刻に後退しているのは非常に望ましくないことだが、今後も状況をしっかりと追い続けたい」
2018年の大統領選について、ODIHRは、投票率向上のための懸命な努力が行われ、多くの国民が票を投じたと評価した。
一方で、「集会・結社・表現の基本的自由や候補者登録の上限は、政治に関わる場を制限し、真の競争は行われなかった」と指摘。
「候補者は一般的な選挙活動を自由に行うことができた一方、多くのメディアが現職大統領に関して重点的に無批判な内容の報道を行ったため、競争の公正さを欠いていた。投票の秘密性や集計の透明性に関する不備はあったが、全体的には選挙当日は整然と進められていた」 とした。
●ロシアに核兵器準備の兆候なし プーチン氏「核戦力」発言で米見解 3/14
米ホワイトハウスは13日、ロシア政府がウクライナで核兵器を使う準備をしている兆候は見られないと述べた。ウラジーミル・プーチン大統領が同日のテレビインタビューで、核兵器の使用について言及したことを受けての発言だ。
インタビューでプーチン氏は、ロシア側の核戦力の高さを誇示し、主権が脅かされることがあれば核兵器を展開する準備もできていると話した。
プーチン氏の発言についてカリーヌ・ジャンピエール大統領報道官は「米国が核態勢を見直す必要はなく、ロシアがウクライナでの核兵器使用に向けて準備をしている兆候も見られない」と述べた。
ジャンピエール氏は「挑発を受けてもいないのに、正当性もなくウクライナに容赦なく侵攻したのはロシアだ。われわれは、ロシアの侵略から国民と領土を守らんとするウクライナへの支援を続ける」と話した。
●毒が入った「習近平との抱擁」…プーチンはグローバルサウスを眺める [プーチン執権5期目] 3/14
ロシアの「ツァー」に浮上するプーチン大統領の敵と友人は誰なのか。執権5期目に入るプーチンのロシアが米国と欧州に対抗して中国とより一層密着するとみられる中、非同盟外交路線に固執してきた国から北朝鮮のように孤立した国まで最大限に接点を増やそうとするはずだ、という分析が出ている。
プーチン執権5期目の外交戦略の核心は一言でいうと「多者外交」だ。中国を中心に上海協力機構(SCO)とBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)加盟国など、いわゆるグローバルサウス(南半球)に目を向けて政治・経済的に突破口を探ると予想される。
中国と過度な密着、プーチンには毒
最も注目すべき点は中国との密着だ。ロシアはウクライナ戦争以降、西側の制裁が強まると、中国に依存して戦時経済に入った。両国の貿易額は戦争前の2021年に1468億8000万ドルだったが、2022年には1900億ドルに、昨年は2000億ドル(約30兆円)を超えた。
プーチンと中国の習近平国家主席は米国と西側国家に対抗して政治的連帯も強めている。両国首脳は2月の電話会談でも「内政に対する外部の干渉に断固反対し、多者連携を目指す」という考えで一致した。
しかし多くの専門家はこうした関係がロシアにはむしろ「毒」になると分析した。対等な関係でなくロシアが中国に従属していく姿だ。中国の人口(14億人)はロシアの人口の約10倍で、経済規模も比較にならない。中国が世界国内総生産(GDP)に占める比率は約20%であるのに対し、ロシアは2、3%にすぎない。ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は「ロシアはエネルギーと原材料のほかに中国に供給できるものがない」とし、両国関係のカギは中国が握っていると説明した。
ロシアと中国の密着は米国と欧州国家が最も警戒することでもある。英テレグラフは「習近平はプーチンと権力を共有する考えがないため、なおさら危険だ」とし「中国の支援を受けて戦争が長期化する場合、ロシアが弱まるだけでなく、西欧も弱まって分裂するおそれがある」と懸念した。中国の覇権ばかりが強まり、西欧にはより大きな脅威になるという警告だ。
インドとの関係を重視、「グローバルサウス」に求愛
プーチンのもう一人の友人はインドだ。伝統的に「非同盟主義」を守ってきたインドは戦争期間、ロシア産石油を購入してプーチンの「金脈」になった。インドは米国・日本・オーストラリアと共にする安保協議体「クアッド(Quad)」に参加するなど米国とも近く、プーチンにとって戦略的価値が高い。プーチンとインドのモディ首相は1月の電話会談で、互いに今年の選挙での勝利を祈り、協力案を議論した。インドでは4、5月に総選挙がある。
中東ではイランなど反米国家との連帯を強めている。「仲裁」役から抜け出し、より積極的な「友人」づくりを進める姿だ。ロシアは11日(現地時間)、アラビア海オマーン湾で中国、イランと共に連合訓練「海上安保ベルト2024」を始めた。
何よりもプーチンの関心事は「グローバルサウス」と呼ばれる中南米・アジア・アフリカの国々だ。民主主義など価値を重視する西欧とは違い、非同盟主義を基盤に実利を考慮する開発途上国が多いため、ロシアにとって協力の余地が多い。特にアフリカでは「軍事協力」を基礎に勢力を強めて久しい。ロシアはここを最大の武器輸出国とし、54カ国のうち35カ国と軍事協力を結んでいる。金・ダイヤモンドなど各種資源採堀権も確保中だ。
長い間「ロシアの裏庭」と呼ばれたが戦争後に米・中・ロの間で均衡外交に入った中央アジア5カ国との関係改善にも注力している。制裁物品の迂回貿易路を提供しているこれらの国はロシアが捨てることのできないカードだ。韓国の立場では北朝鮮との密着に注目せざるを得ない。「韓国の対外政策に不満を抱くロシアが今後、北朝鮮を前面に出して韓半島(朝鮮半島)の安全をかく乱すれば韓国と米国に追加の安保費用を負わせることができる」(外交安保研究所、「2024国際情勢展望」)という診断が出ている。
さまざまな面でカギはプーチンの「敵」である米国で11月に行われる大統領選となる。バイデン大統領が再選に成功する場合、対ロ制裁とウクライナ支援は続く見込みだ。トランプ前大統領が再執権する場合、ウクライナ支援基調は変わる可能性がある。イ・ヤング元駐ウクライナ大使は「米国は大統領がすべてのことを一人で決める国ではないため、、トランプが当選するとしても支援が完全に中断することはないだろう」と予想した。
●プーチン、「スターリン29年統治」超える…「韓ロ関係最悪? 変わる可能性も」 3/14
「主権が脅かされればロシアは核兵器を使用する用意ができている」。ロシアのプーチン大統領(72)は13日(現地時間)に公開された国営メディアのインタビューでこのように話した。15日からの3日間行われるロシア大統領選挙の直前に出てきた発言だ。投票はまだ始まっていないが、プーチンの再執権という結果を疑う人はいない。このため「ロシアやウクライナに米軍を配置すれば介入と見なす」「武器は使用するために存在する」というプーチンの激しい警告に世界が緊張している。
2000年の最初の当選以降、大統領を4回、首相を1回務めたプーチンは、今回の大統領選を通じて5期目を開いて2030年まで30年間執権することになる。旧ソ連時代のヨシフ・スターリンの29年独裁(1924−53)よりも統治期間が長い。ロシアは2020年に憲法を改正し、プーチンが2036年まで執権できる道を開いておいた。プーチンが84歳まで権力の座に就く可能性がある。このため西側メディアはプーチンを帝政ロシア時代の皇帝ツァーに比喩している。
プーチン体制は先月16日、「最大の政敵」に挙げられた野党圏活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄中死にも揺らぐことはなかった。1日の葬儀には数千人が集まって「プーチンがいないロシア」などと叫んだが、組織的な反政府デモにはつながらなかった。夫人ユリア・ナワルナヤ氏が大統領選挙の最後の日の17日にデモを行うというが、どれほど参加するのかは未知数だ。12日にナワリヌイ氏の最側近レオニード・ボルコフ氏がリトアニアで襲撃されるなど反体制要人に対する脅威も続いている。
西側の制裁も再執権を防ぐのに無力だ。先月24日にウクライナ戦争2年を迎え、西側はより一層強化されたロシア制裁を出したが、西側メディアさえも効果がすぐに出るとは見ていない。支持率も高い。11日、政府寄りのロシア世論調査センターVTsIOMは大統領選の予想投票率を71%、プーチンの得票率を82%と予想した。
それでも大統領選挙はプーチンに必要な手続きだ。米国外交問題評議会(CFR)のトーマス・クラハム上級研究員は報告書で「プーチンには勝利だけでは十分でない。ロシア政治システムの主であることを示すために圧倒的な得票率で勝利しなければいけない」と伝えた。2年を超えたウクライナ戦争に対する内部支持を確認する必要もある。
成熟段階に入った「プーチン主義」
プーチンが構築した体制を専門家らは「プーチン主義(Putinism)」と呼んできた。ロシア民族主義、宗教、保守主義、国家資本主義(国家の経済掌握)、メディア掌握の結合で、その目標はプーチンが2000年の最初の大統領選で強調した「偉大な強大国ロシアの復活」だ。カーネギーロシアユーラシアセンターのアンドレイ・コレスニコフ研究員は7日、外交専門誌フォーリンアフェアーズへの寄稿で「今回の大統領選で後期プーチン主義が成熟段階に入ることになった」と表現した。
ロシア式民主主義であるプーチンの「主権民主主義」は民族、ロシア正教会を前に出して非民主性を包装する。実際、戦争に反対した野党候補ボリス・ナデジディン氏の大統領選出馬資格が選挙管理委員会の決定で剥奪され、戦争に反対しない他の候補3人がプーチンの「サクラ」となった。
コレスニコフ研究員は「(初めて大統領に当選した)2000年にすでにプーチンはスターリン主義国家を復活させた」とし「差があるとすれば当時は反近代的権威主義を一部隠したが、今は完全に表している点」と指摘した。
専門家らは西側との対決を通じてプーチンが権力維持の動力を得ていると話す。ロシア出身で韓国に帰化したノルウェー・オスロ大のパク・ノジャ教授はウクライナ戦争について「米国の覇権が弱まった隙を狙ったプーチンの帝国再建プロジェクト」(『戦争以後の世界』)と指摘した。過去に「スターリン帝国」の一部だったウクライナを取り戻し、資源と工業インフラ、熟練人材を確保して「ソ連式重工業複合体」を再建しようとする、という説明だ。
国防費151兆ウォン…3年間に3倍に
予想外に善戦しているロシアの戦時経済もプーチンには執権延長を助ける踏み台になった。国際通貨基金(IMF)はロシア経済が昨年3%成長したのに続き、今年は2.6%成長すると見込んでいる。
専門家らはロシアが軍費支出で経済が成長する「軍事ケインズ主義」に入ったと分析する。ロシアのマクロ経済分析および短期予測センター(CAMAC)は2022−23年のロシアの産業生産量増加分のうち60−65%がウクライナとの戦争のためだと明らかにした。今年のロシア国防費は予算全体(36兆6600億ルーブル、約61兆円)の3分の1の10兆4000億ルーブルにのぼる。侵攻前の最後の年(2021年)に比べ3倍に増えた。
もちろんプーチンの5期目には少なからず障害物がある。過度な軍費支出は「両刃の剣」だ。ロシアの物価上昇率(1月)は7.4%、中央銀行の政策金利(2月)は16%台だ。政府の投資への依存度が高まり、石油・ガス輸出は西側市場の閉鎖と割引販売で収益が減少した。
対外関係はさらにこじれた。プーチンは2022年、NATO(北大西洋条約機構)の東進を防ぐとしてウクライナを侵攻したが、むしろフィンランドとスウェーデンが中立国の地位を捨ててNATOに加入した。バルト海の隣接国がすべてNATO加盟国としてロシアを包囲する形勢になった。旧ソ連国家を欧州と区分するユーラシア圏というアイデンティティーでまとめて軍事・経済、ソフトパワーなどを包括しようとしたプーチンの「ユーラシア主義」も難しくなった。
先端技術の退歩、中国依存も危険要素
別の障害もある。政治的な面では長期執権に対する国民的な疲労感、経済産業的な面では西側との交流断絶による先端技術および経済産業分野の退歩をどう克服するかが重要だ。中国に対する依存度が強まるのも危険要素だ(外交安保研究所、「2024国際情勢展望」)。中国は原油・ガス購買、消費財・工業製品の供給を通じてロシア経済に相当な力になった。ロシアはその代わり自動車市場に中国企業の進出を認め、ウラジオストク港など要衝地を中国に開放した。
最も大きなカギは米国との関係設定だ。11月の米大統領選でトランプ前大統領が勝利すれば、対米関係の転機が訪れる可能性もある。しかしトランプの大統領在任当時、プーチンとトランプの国益が多方面で衝突し、両国は新冷戦から抜け出せなかったという指摘もある。外交安保研究所は「今後プーチン体制は対内的には統制強化と自立的経済構造の構築、対外的には米国主導秩序に対抗する新しい国際秩序構築に向けた勢力糾合に力を注ぐだろう」と予想した。
ロ朝は密着、韓ロは?
プーチン5期目は韓半島(朝鮮半島)にも影響を及ぼす見通しだ。ロシアと北朝鮮はウクライナ戦争をきっかけに急速に近づいた。当初ロシアは非友好国のうち唯一韓国とノービザ協定を維持するなど、韓国との関係復元意志を見せてきたが、状況は急変した。
ロシアが対北朝鮮軍事技術支援を本格的に実行したり、北朝鮮がロシア提案の合同軍事訓練に応じる場合、韓ロ関係の新たな葛藤要因となり得る。さらにロシアが年初に韓国人宣教師をスパイ容疑で逮捕して取り調べ中という事実が11日に公開された。ロシアが韓国のウクライナ戦争支援拡大を阻止するために「人質外交」をするという見方も出ている。このため「韓ロ修交34年史上最悪の関係」(コ・ジェナム元国立外交院教授)とも指摘されている。
しかし韓ロ関係の悪化を放置してはいけないというのが専門家、元外交官の指摘だ。イ・ソクベ元駐ロ大使は「韓米同盟を強化しながらロシア、中国との関係を管理することが重要であり、高度な外交力が必要な時」と話した。
イ・ヤング元駐ウクライナ大使も「ロシアは韓国の重要性をよく知っている。脅威にならず経済発展にプラスになる国と信じているため、韓国との関係を開いて考えるはず」とし「我々は自由民主主義、市場経済、法治主義など原則と価値を守りながら空間を探さなければいけない」と助言した。コ・ジェナム教授は「今はロシアが北と密着しているが、韓半島で米国の影響力が強まるのを望まないため現在の状況を改善しようと努力するだろう」と述べた。
●ナワリヌイ氏妻「ロシアの全員がプーチンを支持してると思わないで」…国際社会に訴え 3/14
ロシア北極圏の刑務所で死亡した反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻ユリア氏は13日、米紙ワシントン・ポストに寄稿し、15〜17日に行われる露大統領選の結果を承認しないよう国際社会に呼びかけた。
ユリア氏は、プーチン露大統領が不正な選挙で権力を握り続け、批判勢力を殺害しているとして「なぜ世界の民主主義国家は彼の正当性を認めるのか」と疑問を投げかけた。
ユリア氏は投票最終日の17日正午に投票所で抗議の意を示す「反プーチンの正午」と称する運動への参加を露国民に呼びかけている。ユリア氏は「アレクセイは選挙の違法性と露国民の抵抗の意思を示すことを望んでいた」と運動の目的を説明し、「ロシアにいる全員がプーチンと彼の戦争を支持していると思わないでほしい」と国際社会に訴えた。
●ロシアの核兵器「どの国よりも最新型」プーチン大統領がウクライナ支援の欧米をけん制 核戦争への備え「できている」と発言 3/14
15日からのロシア大統領選挙を前にプーチン大統領は、ウクライナ侵攻をめぐり欧米との対立が深まる中、核戦争への備えは「できている」と語りました。
ロシア プーチン大統領「軍事技術的な観点から、我々は(核戦争の)準備ができている」
プーチン大統領はこう述べたうえで、ロシアの核兵器は「どの国よりも最新型だ」として、ウクライナを支援する欧米をけん制しました。
また、ウクライナや欧米側との交渉については「用意はあるがロシアの安全保障が確保されなければならない」と強調しています。
一方、首都モスクワ近郊の石油施設で13日、4機のドローンによる攻撃があり、大規模な火災が発生しました。
今年に入りエネルギー関連施設を狙ったウクライナ側からとみられるドローン攻撃が相次いでいて、国防省は、この2日間で100機以上のドローンを迎撃したとしています。
●プーチン氏「大統領選の妨害」 ウクライナへの攻撃活発化 3/14
ロシアのプーチン大統領はウクライナ側が国内への攻撃を強めていることに、「ロシアの大統領選を混乱させようとしている」と主張しました。
プーチン大統領は13日に放送された国営メディアのインタビューで、ウクライナによるロシア領内への攻撃が最近、活発化していることについて「間違いなく大統領選を妨害しようとしている」と述べました。
また、「自由ロシア軍団」などウクライナ側で戦うロシア人部隊が、国境地域に侵入したことに触れ、この部隊が地域の占領に成功した場合、ウクライナが領土を取り戻すための交渉の切り札にしてくるとの見方を示しました。
自由ロシア軍団などウクライナを支持する複数のロシア人部隊は12日、ロシア国内で戦闘をしていると明らかにしました。
ロシア国防省はこれらを撃退したと発表しましたが、自由ロシア軍団は、戦闘員が今もクルスク州の村を占領していると主張しています。
●プーチン大統領 “国家存続の危機なら核兵器使用を辞さず” 3/14
ロシアのプーチン大統領は13日に公開された国営メディアへのインタビューで、国家存続の危機にさらされれば核兵器の使用を辞さないとの立場を改めて示し、ウクライナへの支援を続ける欧米側に対して核戦力を誇示して威嚇しました。
ロシア大統領府は13日、プーチン大統領が国営テレビなどへのインタビューに応じた内容を公開しました。
この中で、プーチン大統領は核戦争の準備があるのかとの質問に対して、「軍事技術の観点から言えば、もちろん準備はできている」と述べ、核戦力は常に臨戦態勢にあると強調しました。
一方、プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻において、これまでに核兵器使用の必要性に直面したことは一度もないという認識を明らかにしました。
ただ、「主権や独立が損なわれる事態になれば、核兵器も含め、あらゆる兵器を使用する準備ができている」と述べ、国家存続の危機にさらされれば核兵器の使用を辞さないとの立場を改めて示し、ウクライナへの支援を続ける欧米側に対して核戦力を誇示して威嚇しました。
プーチン大統領としては今月15日からの大統領選挙を前に、国民に対して強いロシアの指導者としての姿を示すねらいもあったとみられます。
外国の部隊や南部の都市オデーサについても言及
プーチン大統領はインタビューの中で、ウクライナ侵攻をめぐってフランスのマクロン大統領が、ウクライナへ地上部隊を派遣する可能性に言及したことについて、「外国の部隊が派遣されても、兵器の供与と同様、戦況を変えることはできないと確信している」と述べた上で、「深刻な地政学的な影響を引き起こす可能性がある」として警告しました。
一方、ロシアはウクライナ東部や南部に支配地域を拡大させているとしたうえで、南部の都市オデーサについて、「ロシアの都市として期待があるか」と聞かれたのに対し、プーチン大統領は「もちろんだ。人口密度がとても高く、気候は素晴らしい」と述べ、今後の侵攻を示唆した発言の可能性もあります。
また、プーチン大統領はウクライナ侵攻について、「平和的な手段で解決する用意がある」と述べた一方で、あくまでもロシアの安全保障の確保が前提だと主張し、和平交渉に応じる構えも示して、欧米側に揺さぶりをかけるねらいとみられます。
●新しくロシア人義勇軍に加わった「シベリア大隊」は、プーチン体制下で地獄を味わってきた 3/14
ウクライナ軍と共に戦うため、ロシア人義勇兵が新たに結成した民兵組織「シベリア大隊」が今週、志を同じくする同胞たちの軍団と合流し、ウクライナからロシア西部に向け一連の越境攻撃を開始した。
ウクライナ側に付いたロシア人義勇兵の3つの組織──自由ロシア軍団、シベリア大隊、ロシア義勇軍団はロシアの大統領選挙を5日後に控えた3月12日、ロシア領内への越境攻撃を開始し、引き続き作戦を展開していると発表した。これに対し、ロシア国防省はウクライナとの「国境地帯に位置するロシアの2つの州、ベルゴロド、クルスクに侵入しようとする試み」を阻止したと主張している。
2022年2月のロシアによるウクライナへの本格的な侵攻開始直後に結成された自由ロシア軍団とその後に結成されたロシア義勇軍団は、これまでも度々、ウクライナからベルゴロド州に越境攻撃を行ってきた。
今週初めてこの2軍団の越境攻撃に加わったのが、昨年10月の創設以来、拡大を続けてきたシベリア大隊だ。この組織は主としてシベリアにあるロシア連邦の共和国や自治管区の少数民族──ヤクート人、ブリヤート人、トゥバ人、カルムイク人らで編成されている。
ロシア軍は「クズの集まり」
地元メディアの報道によると、シベリア大隊はウクライナ国防省情報総局の指揮下にあるウクライナ領土防衛部隊外国人軍団の一部として活動しているという。
これについて本誌はウクライナ当局にメールで確認中だ。
大隊のメンバー数人が昨年11月、チェコのプラハに本拠を置くロシア語チャンネル「カレント・タイムTV」の取材に応じ、少数民族として不当な扱いを受けていたことや、ウクライナ侵攻に踏み切ったロシアのウラジーミル・プーチン大統領への怒りから、祖国を捨て、反プーチンの戦いに加わる決意をしたと語った。
メンバーの1人、「詩人」と名乗る男は、「自分はロシアで生まれ、ロシアで育ったが、ロシア人じゃない。これまでずっとロシア人に踏みつけられていると感じてきた」と話した。「不公正がまかりとおり、俺たちが稼いだカネはみんなモスクワに吸い取られる」
「バルガン」と名乗る戦闘員は「ロシア人は腐っている」と吐き捨てた。「生活が苦しいからだ。彼らはカネのためなら母親を売ることだってためらわない。(ロシア軍には)ありとあらゆるクズが集まっている。血に飢えたモンスター、サディストたち。奴らが非人道的な残虐行為をやりまくっている」
「モスクワから50キロ程先まで行けば、ロシアの本当の姿が分かる」と話すのは「ブリヤート」と名乗る戦闘員だ。「(地方の)暮らしは酷いものだ。何もかもボロボロで、誰もが補助金頼みで生活している。われわれの共和国は本来はとても豊かなんだ......金鉱もありヒスイも採れるし、森林資源もある。だが資源は全てモスクワのもの。われわれは彼らから施しを受けるしかない!」
ロシアのウクライナ侵攻は「恥ずべきことだと思った」と、ブリヤートは言う。
「自分は(侵攻に)一切関わりたくなかった。国を出ようと決め、最初はアルメニア、次にジョージアに向かったが、(ウクライナに)行って、共に戦おうと覚悟を決めた。鏡に映った自分に『俺はやった』と言えるように。戦争に加担しないだけでなく、それに反対する人たちをこの手で助けた、と」
バルガンも、「ロシアで動員が始まったとき、最初はモンゴル、次にトルコに向かったが、最終的にウクライナ行きを決意した」と話す。「クレムリンは世界中をめちゃくちゃにしようとしている。俺たちの力で何とかして止めないと」
住民に避難を呼びかける
越境攻撃を行ったロシア人義勇兵の3つの組織は3月13日、ウクライナと国境を接するロシア南西部のベルゴロド州の住民に避難を呼びかける合同声明を出した。
「プーチンの殺人部隊は、あなたがたの家や子供たちが通う学校、役所の建物がある地域に陣取って、人々がただ静かに暮らしてきたウクライナの諸都市に大規模攻撃を仕掛けている」と、声明は訴える。
「ベルゴロドからの砲撃で、罪のないウクライナの民間人が日々何十人も死んでいる。その大半は女性と子供だ。ベルゴロドからのウクライナへの砲撃は、何としてもやめさせなければならない!」そう述べた上で、声明はこう続ける。「そのために、われわれはベルゴロドにある軍事拠点をたたかざるを得ない。どうか直ちに町から出てほしい」
●ローマ教皇、ウクライナ名指し避けて戦争非難 ロシアは賞賛 3/14
ローマ教皇フランシスコは13日、サン・ピエトロ広場で定例の一般謁見を行い、あらゆる戦争を非難し「狂気を克服する恵みを求める祈り」を呼びかけた。ただ、ウクライナの名指しを避けた。
教皇は9日公開のスイスメディアとのインタビューでロシアの侵攻を受けているウクライナに向けて「白旗の勇気を示す」という言葉を発したばかり。ウクライナや西側の政府はウクライナに対ロシア降伏と和平交渉入りを求める示唆と受け止めて激怒していた。
12日になってバチカンの国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿がイタリアメディアの取材に、ロシアがまず侵略を停止するべきだと語って釈明していた。
13日の一般謁見は「白旗」発言後では初めての公の場での教皇の発言だった。今回はウクライナや他の紛争地域を特定しないまま「大勢の若者が(戦争での)死に向かっている」などと聴衆に語りかけた。
一方、在バチカンロシア大使館は13日、教皇在位11年の祝意を表明し「世界問題に関し真に戦略的な視点を持つ数少ない政治指導者の一人」などと賞賛するコメントをX(旧ツイッター)に投稿した。
教皇は一般謁見で、戦死した男性のロザリオの数珠と福音書を渡されたと述べた。ただ、戦闘地域は特定しなかった。
事前に拝謁していたアルゼンチンのルシア・カラム修道女はソーシャルメディアに投稿し、その男性は先月ロシア軍が制圧したウクライナ東部の要衝アブデーフカで死亡した23歳のウクライナ兵だったと書き込んだ。
ロザリオは元々教皇に祝福されたもので、カラム修道女が教皇に返したという。教皇はその際「彼はウクライナを愛している。侵略され、残酷な攻撃を受けた人たちの殉教に苦しんでいる」と述べ、ロザリオにキスし感動したようだった、と明らかにした。
●ロシア石油大手幹部、また急死=ウクライナ侵攻に懸念、4人目 3/14
ロシア石油大手ルクオイルは13日、ビタリー・ロベルトゥス副社長(53)が急逝したと発表した。死因は公表されていない。同社取締役会はウクライナ侵攻開始翌月の2022年3月、声明で侵攻への懸念を表明。以来、現職を含む幹部経験者の急死は今回で4人目となる。
現地メディアによると、22年5月に元幹部が「カエルの毒を用いたシャーマン(呪術師)の民間療法」の末に不審死を遂げた。同9月には当時の会長が病院の窓から転落死。昨年10月に現職の会長が「急性心不全」(同社)で死亡した。
●【ウクライナの士気を保つには】ロシアは決して戦争に強くない、軍事支援で「死の谷」は越えられる 3/14
デイヴィッド・イグネイシャスが、2月20日付のワシントン・ポスト紙に、「ウクライナは『死の谷』に直面している。 バイデンにはそれを越えるように助ける道がある」との論説を寄せている。
先日開催されたミュンヘン安保会議でのメッセージは明確で、ロシアは前進し、ウクライナは生き残りに苦労しており、西側は多くの軍事援助を提供する必要があると言うものだった。超党派上院議員団団長、シェルドン・ホワイトハウスは、西側はキーウの勇敢な兵士が「死の谷」を超える道を見つけるよう支援する必要があると言った。
ゼレンスキーは、長距離ATACMS-300ミサイルが必要だと議員団に示した。バイデンがATACMSを送るのを躊躇しているのは、米国がそれを自国防衛に必要としているのと、ロシアとの対決を望んでいないからだと言われる。
しかし今、米国の安全保障のためにロシアの勢いをウクライナが止めることが重要である。ウクライナはロシア領攻撃に米兵器を使わないとの約束を守ってきた。立法を待たずに、ミサイルを送るべきである。
先週の二つの出来事はプーチンの恐ろしさを強調した。シベリアの牢獄でのナワリヌイの死は、プーチンが「限度のない」攻撃をしていることを示した。
東部ウクライナでのアウディイウカの制圧は、プーチンが「肉弾戦」で数万の兵士を犠牲にすることを示した。ロシアの航空機はアウディイウカに好きなように精密爆弾を落とせた。もしウクライナが新しい防空能力を得ないと、この脅威はウクライナの他の都市に拡大される。
ロシア軍は二つの民族的資源、暖かい身体と冷血な忍耐力を使って、前進している。これがナポレオンからヒトラー、いまに至るロシアの戦争の仕方である。プーチンが兵士を送り続けられるのはロシア人の禁欲主義だけではなく、彼が賢くも兵士をロシアの最も貧しく恵まれない地域から連れてきているからである。
ナワリヌイの死はプーチンの計算をあきらかにする。彼はエリート世論を気にしない。彼の統制に脅威を与えないからである。何年か前にクレムリン高官は、ある欧州の大使に、百万人以下のデモは取り扱えると述べた。
米議会が軍事援助を引き続き支持することが重要である。それでウクライナが防衛を固め、戦闘を続けてロシアを阻止することは一種の勝利である。
この戦争は西側についてのテストである。欧州は米国より賞賛すべき強さを示している。バイデンは、もっとやるべき時である。
トランプ前大統領の気まぐれに乗ってウクライナを見捨てようとしている議会の共和党については、悲しみを感じるだけである。下院共和党員には、恥をかく前にし っかりすることを希望したい。
すぐにでも踏み切れる長距離ATACMSの供与
今年のミュンヘン安全保障会議は、ウクライナ戦争の現状が主たるテーマであったが、この論説は、イグネイシャスがその会議に参加しての感想を書いたものである。戦況はロシア有利になってきている中で、米議会下院が共和党の反対でウクライナ支援措置を可決できていないことについてのイグネイシャスの憤慨が良く書かれている。
彼の論には賛成できる。米下院の共和党には、しっかりしてもらう必要がある。
しかし、議会の決議なしにも、バイデンはゼレンスキーが渇望している長距離ATACMSをウクライナに米国の在庫から供与することは大統領権限で出来るはずである。アウディイウカの陥落でウクライナ側が意気消沈している状況を踏まえ、それに踏み切るべきだろう。
ウクライナ国民の70%以上が領土を回復するまで戦い続けるとしている。ウクライナの士気を高く保つことが何よりも重要である。
米国の防衛のためにATACMSを手元に置いておく必要があるという論は、現在の情勢に鑑み間違っていると思われる。ウクライナでのロシアの勝利が米国への安全保障上の最大の脅威になると考えるべきであろう。
イグネイシャスの論説の中で、必ずしも賛成できないのは、ロシア人はナポレオン戦争でも第2次世界大戦でも多くの犠牲を出しつつ も結局勝利した、ロシアは戦争に強いとしている部分である。ナポレオン戦争も第2次世界大戦時の対ドイツ戦も、祖国防衛のための戦争であり、 ここではロシアは強かった。しかし、例えばアフガニスタン戦争では、ロシア遠征軍の戦死者が2万人近くになった段階でロシアは撤退した。
ロシアは日露戦争でも第1次世界大戦でも敗北している。防衛戦争には強いが、遠征戦争などにはそう強くない。
ロシアとウクライナ、異なる国民の戦争への姿勢
今次のウクライナ戦争はどうなのか。プーチンはこれを祖国防衛戦争にしようと宣伝活動をしているが、 それに成功していない。総動員をかけられず、さらなる部分動員も国民の予想される反発で出来ない状況にある。
ウクライナにとっては、この戦争はまさに祖国防衛戦争である。したがって士気は高い。
クレムリンの高官が百万人以下のデモは対応できると言ったという点についても、異論がある。ナワリヌイの遺体を母親に渡さず、母親に秘密で埋葬するように、そうでないと刑務所の敷地に埋葬すると言っているのは、ナワリヌイの葬儀がデモにつながることを怖れているからである。ナワリヌイの遺体は結局母親に引き渡されたようであるが、ロシアの自信ある態度の裏にある不安を過小評価している嫌いがある。
●ウクライナ戦争「制御不能に」、NATO「無思慮な行動」なら=ロ外務省 3/14
ロシア外務省のザハロワ報道官は13日、一部の北大西洋条約機構(NATO)加盟国の「思慮に欠ける行動」によって、ウクライナでの戦争が制御不能になり、地理的に拡大する恐れがあると警告した。
ザハロワ報道官は記者会見で、ウクライナを巡る情勢は危険な状態になりつつあり、リスクは増大していると警告。「欧州連合(EU)、またはNATO加盟国のうち、ほんの1、2カ国でも思慮に欠ける挑発的な行動を起こせば、ウクライナ危機は地理的な国境を越えて完全に異なる規模に拡大し、制御不能な事態に発展する恐れがある」と述べた。
その上で、西側諸国は「奈落の底に落ちる崖っぷち」を歩いているとし、ウクライナを巡る行動で世界をも「崖っぷち」に追いやっていると指摘。「現在、一段のエスカレーションの回避が焦点になっている」とし、西側諸国にロシアを戦略的に打ち負かすという考えを断念し、ウクライナに対する資金と武器の提供を止めるよう呼びかけた。
ロシアのプーチン大統領は15─17日の大統領選を前に国営メディアのインタビューに応じ、ロシアは戦闘態勢にあり核戦争への準備も万端に整っていると述べたほか、米国がウクライナに派兵すれば紛争は大幅にエスカレートすると警告した。
●プーチン氏、大統領選で投票呼びかけ ウクライナ併合地域も 3/14
ロシアのプーチン大統領は13日の演説で、ロシアの将来を決めるために団結し、15日に始まる大統領選挙で投票するよう訴え、ウクライナ併合地域の住民にも投票で愛国心を示すよう呼びかけた。大統領選ではプーチン氏の当選が確実視されている。
プーチン氏は同日放送されたビデオ演説で「われわれの結束と決意を強調し、共に前進することが重要だ。あなたが投じる一票には価値があり、意義がある」と語り、「投票権を行使してほしい」と呼びかけた。
プーチン氏は71歳。2000年以来大統領または首相として権力を握ってきた。大統領選でウクライナ戦争の終結を訴えた候補は不適格として除外され、プーチン氏を批判する候補は残っていない。
世論調査によると、国民の大多数がプーチン氏を支持している。
プーチン氏は演説で、全ての有権者が生活の水準と質を上げるために強く、豊かで、自由なロシアを望んでいると主張。投票行為そのものが「愛国心の証明」とし、ロシア軍が新たに掌握したウクライナ東部と南部の地域と2014年に併合された地域ではとりわけ愛国心が試されると語った。
●ウクライナ司法相“ロシアの凍結資産で支援を”欧米に呼びかけ 3/14
ウクライナのマリウスカ司法相は欧米や日本も経済面などでロシアの軍事侵攻の被害を受けており、国際法上の対抗措置をとることができるとしたうえで、凍結したロシアの資産をウクライナの復興に向けて活用するよう呼びかけました。
ウクライナのマリウスカ司法相は13日、訪問先のアメリカの首都ワシントンで、欧米や日本などがロシアへの経済制裁としてロシア中央銀行が保有するおよそ2850億ドル、日本円にして41兆円余りの資産を凍結したことについて記者会見を開きました。
この中で、マリウスカ司法相は「ロシアは国際法に違反し、ウクライナだけでなく、ほかの国々に対しても経済や難民の受け入れで被害を与えた」と述べ、欧米や日本もロシアの軍事侵攻の被害を受けたと指摘しました。
そして、「こうした被害を受けた国々はロシアに対抗措置をとることができる。国際法でも認められている」と述べ、凍結したロシアの資産を没収することもできると主張しました。
その上で、マリウスカ司法相は欧米や日本が資金を拠出し、ウクライナの復興に向けた支援に取り組んでいることを踏まえ、こうした支援にロシアの資産を活用するよう呼びかけました。
●原油先物3%高、米原油在庫減とウクライナのロシア製油所攻撃受け 3/14
米国時間の原油先物は約3%上昇し、4カ月ぶりの高値を付けた。米原油在庫が予想外に減少したほか、ウクライナによるロシアの製油所への攻撃を受け、原油供給を巡る懸念が広がった。
清算値は、北海ブレント先物は2.11ドル(2.6%)上昇の1バレル=84.03ドル。米WTI先物は2.16ドル(2.8%)上昇の79.72ドルで取引を終えた。
北海ブレントは終値ベースで11月6日以来の高値となった。
米エネルギー情報局(EIA)によると、米原油在庫は3月8日までの1週間で増加予想に反し約150万バレル減少した。
ウクライナは13日、ロシア各地をドローン(無人機)で攻撃し、石油大手ロスネフチの最大の製油所で火災が発生した。
●ウクライナ、ロシア各地にドローン攻撃 大統領選前に越境攻撃強化 3/14
ウクライナは13日、前日に続いてロシアへの越境作戦を展開し、少なくとも製油所3カ所をドローン(無人機)で攻撃した。
ロシアのプーチン大統領の再選が確実視されている大統領選を数日後に控える中、ウクライナはこのところ越境攻撃を激化させている。
ウクライナの国防関係の情報筋はCNNに、「ロシア経済の潜在能力を損なうことを目的とした綿密に練られた戦略を実行している」と明らかにした。
今回攻撃を受けたのはロシア西部のリャザン州とニジニノブゴロド州、北西部のレニングラード州にある石油精製施設。情報筋によると、これらの施設はロシア国内で最大級の規模だという。
●ガザ地区の国連機関施設に攻撃 5人死亡と報道 3/14
国連機関施設に攻撃 少なくとも5人死亡
イスラエル軍は連日、ラファへの空爆を行っています。
地元メディアは13日、ラファにあるUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関の倉庫に攻撃があり、少なくとも5人が死亡し、けが人も出ていると伝えました。
これについてUNRWAは声明で、少なくとも職員1人が死亡し、22人がけがをしたと明らかにし、「われわれは毎日、ガザ地区の施設の位置情報を共有している」として、イスラエル側を批判しました。
また、国連のデュジャリック報道官は、13日、「戦闘が始まって以降、UNRWAの職員や施設は前例のない数の被害を受けている」と述べ、ガザ地区でこれまでに165人のUNRWAの職員が犠牲になっていると懸念を示しました。
イスラエル首相府によりますと、ネタニヤフ首相は13日、オランダのルッテ首相と会談し、ハマスの壊滅を目指して強行する構えを見せている南部ラファへの地上作戦は不可欠なものだと強調したということです。
ガザ地区の保健当局 “死者3万1272人に”
ガザ地区の保健当局は13日、過去24時間に88人が死亡し、これまでの死者が3万1272人にのぼったとしています。
一方で、ガザ地区北部ではイスラエル軍による検問などで物資の搬入が難しい状況が続き、深刻な食料不足となっています。現地の保健当局は北部では27人の子どもが栄養失調のため死亡したとして、ガザ地区北部に乳児用の粉ミルクを搬入するよう訴えています。
米ブリンケン国務長官「地上作戦行うなら民間人保護の計画を」
アメリカのブリンケン国務長官は13日、記者会見で、ガザ地区でUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関の施設への攻撃が報じられたことについて、「イスラエル軍が調査していると聞いており、その結果を注視したい。ただ、イスラエル政府や軍には人道支援の従事者が仕事ができるよう、可能なかぎりのことを行う責務がある」と述べました。
また、イスラエルのネタニヤフ首相がガザ地区南部のラファへの地上作戦を行う考えを示していることについて、ブリンケン長官は「イスラエルには地上作戦を行うのであれば、ラファに避難する多くの民間人を保護する計画がなければならないと伝えている。まだ計画は示されていない」と述べ、民間人の保護を優先すべきだとする考えを改めて強調しました。
●イスラエルがガザの食料配給施設攻撃 国連機関職員1人死亡、22人けが 3/14
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は13日の声明で、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ最南部ラファの食料配給施設を攻撃し、職員1人が死亡、22人が負傷したと発表した。ラザリニ事務局長は「国連や職員は常に保護されなければならない」として攻撃を批判した。
UNRWAを巡っては、スタッフがイスラム原理主義組織ハマスによるイスラエル奇襲に関与した疑惑が浮上。イスラエルが解体を求めている。
ハマス壊滅とハマスが拘束する人質の奪還を目指すイスラエルのネタニヤフ首相は13日、目標達成にはラファへの軍事侵攻が極めて重要だとの考えを改めて示した。
ラファには多くの避難民が集まり、イスラエルが侵攻すれば、民間人の犠牲が拡大する恐れがある。ガザでは人道状況が悪化しており、食料や飲料水、医薬品が不足。餓死者も出ている。
●EU ウクライナへの軍事支援基金 8000億円余り積み増しで合意 3/14
EU=ヨーロッパ連合はウクライナに軍事支援を行うための基金について、ことし分として50億ユーロ、日本円で8000億円余りを積み増すことで合意しました。
EUの加盟国は13日、大使級会合で、ウクライナに軍事支援を行うための基金について協議しました。
その結果、ことし分として50億ユーロ、8000億円余りを積み増すことで原則合意したと、EUの議長国を務めるベルギーはSNSへの投稿で明らかにしました。
この基金からはこれまでに9800億円余りがウクライナへの軍事支援にあてられてきましたが、積み増しをめぐっては、加盟国の一部が反対して協議が難航してきました。
ベルギーは今回の合意を受けて、「EUはウクライナが自衛のために必要な軍の装備を確保できるよう、継続して支援することを固く決意している」としています。
ウクライナのクレバ外相も「ヨーロッパが結束し、勝利を得るため決意していることを改めて力強く、よいタイミングで示すものだ」とSNSに投稿して謝意を示しました。
ウクライナへの軍事支援をめぐってはアメリカも、緊急予算案の協議が議会で難航するなかで12日、コスト削減で捻出した440億円相当の新たな支援を行うことを明らかにしています。 
●ロ大統領選、15日投票開始 プーチン氏圧勝へ リベラル票の行方も焦点 3/14
6年に1度のロシア大統領選の投票が、15日から3日間行われる。
ウクライナ侵攻に乗じて自国で言論を弾圧し、保守派の支持を集めるプーチン大統領が、圧勝で通算5選を決めるのが確実な情勢。「反戦候補」を排除し、政権に従順な野党候補3人と形式的に争う「無風選挙」だが、行き場を失ったリベラル票の行方も焦点だ。
最終日の開票を経て、モスクワ時間17日夜(日本時間18日未明)に大勢が判明する。
「敵はさまざまな挑発を準備している」「(選挙を)妨害しようとしている」。政権の影響下にある中央選管のパムフィロワ委員長は11日、警戒を促す異例のコメントを発表した。
念頭にあるのは、獄死した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の側近や支持者らが呼び掛けた「プーチンに反対する正午」と銘打つ示威行為。投票日に投票所へ足を運んでも取り締まりを受けないという理屈で、最終日の現地時間17日昼に全土や在外の投票所へ集結する事実上の「デモ」だ。
プーチン氏に投票さえしなければ、無効票でも棄権でも自由。ただ、リベラル派の民意を可視化する効果はあるものの、選挙結果を覆すには至らないとみられる。逆に政権が「正統性」確保のために目指す投票率向上につながるジレンマも抱える。
反戦を掲げて立候補を届け出ながら却下されたナジェジディン元下院議員も10日、SNSで「選挙に必ず行き、政権に反対票を投じるべきだ」と支持者に求めた。票の「受け皿」となる候補者は示していない。
一方、2018年の前回大統領選と異なり、候補者を擁立しなかった穏健なリベラル系野党「ヤブロコ」は12日、党員ら向けに声明を発表。「投票用紙に(反戦という)選択肢はない」として、無効票を投じるか、投票に参加しないよう訴えた。投票所への集結を促すナワリヌイ氏の支持者らとは温度差がある。
●教皇、ウクライナに交渉の勇気を願う、インタビューの中で 3/14
教皇フランシスコがスイスの放送局のインタビューで、ウクライナ情勢をめぐり「白旗をあげ、交渉する勇気」という言葉を用いたことについて、バチカンのブルーニ広報局長は、「白旗」という表現は、質問者の用いた表現を返したものであり、教皇は同じインタビューの中で、「交渉とは、降伏ではない」と明言している、と指摘した。
教皇フランシスコが、スイスの放送局のインタビューにおいて、ウクライナ情勢についての質問を受け、「白旗をあげ、交渉する勇気」という言葉を用いたことについて、バチカンのマッテオ・ブルーニ広報局長がコメントした。
同広報局長は、教皇は最近のインタビューの中で「白旗」という言葉を使っているが、それは、インタビューの質問者から提示された表現を繰り返しつつ、交渉の勇気をもった敵対の中止と停戦への到達を意図するものであった、と述べた。
そして、教皇が同じインタビューの中で、他の紛争に言及しつつ、「交渉とは、降伏ではない」と明言していることを指摘した。
同広報局長は、教皇は、ウクライナ戦争勃発から2年が経過した際に述べた言葉に示されるように、苦しむウクライナの人々への心からの愛情を表され、無数の無辜の犠牲者をはじめ、すべての人々のために祈り、正当かつ持続する平和の追求のために、外交解決を可能にする条件作りに不可欠な人間性をわずかでも見出せるようにと常に願われてきた、と述べた。

同インタビューは、スイス放送協会・イタリア語放送(RSI)が、教皇フランシスコに対し、2月初旬に行ったもので、3月20日に放送が予定されている。
この中でインタビュアーは「ウクライナでは、降伏、白旗の勇気を求める人がいます。しかし、他の人たちはそれではより強い者を正当化することになると言います。これについてどうお考えですか」と教皇に質問した。
それに対し、教皇は「より強い者とは、状況を見つめ、国民を思い、白旗をあげて、交渉する勇気を持つ者です」と答えている。
また、教皇は同じインタビューの中で、「交渉とは、決して降伏ではありません。それは国を滅ぼさないための勇気です」とも述べている。
●デンマーク、女性も徴兵対象に 「戦争避けるため再軍備」 3/14
デンマークのフレデリクセン首相は13日、女性を徴兵の対象に含める意向を明らかにした。
2026年に導入する予定で、実現すれば、欧州ではノルウェー、スウェーデンに次ぐ3カ国目になる。同日発表した国防改革計画に盛り込まれた。英メディアが伝えた。
現在は18歳以上の男性が徴兵の対象。徴兵期間も4カ月から11カ月に延長する。
また、国防予算は、「国内総生産(GDP)比2%」とする北大西洋条約機構(NATO)の目標を達成するため、今後5年で約60億ドル(約8870億円)増額する。フレデリクセン氏は「戦争を望んでいるからではなく、避けたいから軍備を再編する」と強調。その上で「男女間の完全な平等」を目指していると語った。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、地理的にロシアに近い北欧では防衛を強化する動きが相次いでいる。軍事的な中立を保っていたフィンランドとスウェーデンはNATOに加盟した。
●ウクライナへの市街地攻撃で市民の犠牲相次ぐ 3/14
ウクライナでは、ロシアからの攻撃で連日、市街地が被害を受け、市民の犠牲が相次いでいます。一方、ロシアでは石油関連施設などを狙った無人機による攻撃が続いていて、プーチン政権は15日からの大統領選挙を前に警戒を強めているものとみられます。
ウクライナ軍などによりますと、13日から14日にかけて、ロシアの無人機36機による攻撃があり、このうち北東部スムイ州では、住宅12棟や学校の建物が被害を受けたということです。
12日には、ゼレンスキー大統領の出身地、東部ドニプロペトロウシク州のクリビーリフで、集合住宅がミサイル攻撃を受け、5人が死亡し、50人がけがをしたほか、13日も、東部ドネツク州などで合わせて4人が死亡するなど連日、市街地への攻撃で市民の犠牲が相次いでいます。
一方、このところ、ロシア各地の石油関連施設などを狙った無人機による攻撃が続いていて、西部ニジニ・ノブゴロド州のロシア第2の石油会社「ルクオイル」の製油所などでは火災も発生し、生産への影響も指摘されています。
ウクライナ側は攻撃への関与を示唆し、ウクライナ保安庁によるロシアの戦闘継続につながる経済力をそぐことを目的にした攻撃だとも伝えられています。
こうした攻撃について、ロシアのプーチン大統領は、13日に公開されたインタビューの中で「ロシアの大統領選挙を混乱させることではなくても、何らかの形で国民の意思表明の過程を妨害することが目的だ」と述べ非難しています。
プーチン政権は、15日からの大統領選挙を前に、警戒を強めているものとみられます。

 

●ロシア大統領選「圧勝」目指すプーチン氏 侵攻下で加速する“分断” 3/15
ロシア大統領選ではプーチン大統領の再選が確実視される一方で、社会の分断が加速しています。
ある時は支持者らと抱き合うなど、“親しみやすさ”を強調。また、ある時は爆撃機のコックピットに乗り込んだり、大型トラックを運転してみせたりと“力強さ”をアピールするプーチン大統領。国営テレビで連日、動静が伝えられています。
プーチン政権下でのロシアの発展ぶりを誇示する“大展示会”には多くの人が訪れていました。
大統領選について聞いてみると。
「プーチン氏に投票します」
「他に誰がいるのか。彼のもとでこの24年間悪いことはなかった。(Q.軍事作戦の継続支持ということですか)西側を支持しろとでもいうのですか」
「もちろんプーチン氏に投票します。私たちの歴史的領土を併合してくれて嬉しい。勝利は私たちのものです」
プーチン氏の支持率はウクライナ侵攻直後から高いままで、最新の調査では86%と近年で最も高くなっています。
先月末の年次教書演説でプーチン氏は戦況についてロシアの「優勢」を強調。侵攻を継続する姿勢を改めて示しました。
ロシア プーチン大統領「国民の団結と信頼に感謝する。我々は1つの大きな家族だ」
大統領選で“圧勝”し、“侵攻の継続は国民の総意だ”と示したいものとみられます。
一方、この演説の次の日には。
「ナワリヌイ!ナワリヌイ!」
プーチン政権を厳しく批判し、刑務所で死亡した反体制派指導者ナワリヌイ氏の葬儀が行われていました。参列者は2万人を超えたとみられます。
「戦争反対!戦争反対!」
「侵攻反対」の声もあがり、いまも献花に訪れる人が絶えません。彼らは大統領選をどう見ているのでしょうか。
献花に訪れた人「(この政権下での)選挙は“儀式”でしかありません。政権交代が可能な社会であるべきです」「公正なはずがない。葬儀で何千人もが(侵攻に)反対していると分かったでしょう。実際はもっと多いはずです」
今回、プーチン氏以外で大統領選に出馬するのは、政権に従順な「体制内野党」の3候補のみ。反戦を掲げた元議員は20万人以上の署名を集めたものの、出馬は認められませんでした。
記者「限られた選択肢の中でどのような民意が示されるのか注目されます」
侵攻に批判的な声を徹底して封じ込めようとする体制で進む、ロシアの分断。ナワリヌイ氏の陣営は抵抗の意思を示すため、選挙最終日の17日正午にプーチン氏以外の候補に一斉に投票するよう呼びかけています。
●ロシア大統領選挙15日から プーチン氏 通算5期目の当選確実視 3/15
ロシア大統領選挙の投票が日本時間の15日朝から極東地域で始まりました。プーチン大統領は、通算5期目の当選が確実視されていますが、圧倒的な支持を得ることで、ウクライナ侵攻を初めとしたこれまでの路線に対して国民の信任を得たとアピールしたい考えとみられます。
ロシア大統領選挙には、プーチン大統領などあわせて4人が立候補していて、15日から3日間の日程で行われます。
投票は、最も早い極東のカムチャツカ地方などで日本時間の15日午前5時に始まり、国内の時差に合わせて西に向かって順に行われます。
また、ウクライナの南部クリミアのほかロシアが軍事侵攻によって一方的に併合を宣言したドネツク州など、東部と南部の4つの州でも選挙だとする活動を強行するとしています。
政府系の世論調査機関「全ロシア世論調査センター」による予測では、プーチン大統領に投票する人が82%と、ほかの候補者を大きく引き離し、プーチン氏の通算5期目の当選が確実視されています。
ロシア国内では、政権の意向に沿わない個人や団体の活動が、大幅に制限されたり、監視が強化されたりして統制が強まっています。
こうした中にあって先月ロシアの刑務所で死亡した反体制派の指導者ナワリヌイ氏の妻は、有権者に対し、投票最終日となる17日の正午、プーチン大統領以外の候補に一斉に投票するよう呼びかけています。
プーチン大統領は、今回の選挙で投票率70%、得票率80%を目指しているとされ、圧倒的な支持を得ることで、ウクライナ侵攻を初めとしたこれまでの路線に対して国民の信任を得たとアピールしたい考えとみられます。
投票は、日本時間の18日午前3時に締め切られたあと開票され、大勢が判明する見通しです。
ロシアの大統領選挙で中央選挙管理委員会に立候補を認められたのは、現職のプーチン氏のほか、プーチン政権に協力的で「体制内野党」とも指摘される政党の幹部3人のあわせて4人です。
3人はいずれもウクライナへの軍事侵攻を支持する立場で、軍事侵攻を批判していた元下院議員のナデジディン氏と、女性ジャーナリストのドゥンツォワ氏は、いずれも立候補が認められませんでした。
立候補が認められた、政党「新しい人々」のウラジスラフ・ダワンコフ下院議員(40)は、2021年から下院副議長の1人を務めています。
ロシアメディアによりますと、手術などによる性別変更を原則、禁止する法律の提案者で、学校の宿題廃止や過去のSNSでの投稿に基づく処罰の禁止などを主張しているということです。
ダワンコフ氏は、立候補が認められなかったナデジティン氏との協力を望んでいると伝えられましたが、具体的な動きには至っていません。
極右政党「ロシア自由民主党」のレオニード・スルツキー党首(56)は、議会下院で、国際問題を担当する委員会の委員長を務め、おととし(2022)ウクライナへの軍事侵攻直後に行われた停戦交渉では、ロシア側の代表団に加わっていました。
選挙では、侵攻の早期終結が必要だとしてウクライナ軍に降伏を求めたり、地方の生活水準の引き上げを呼びかけたりしています。
また、過激な発言で知られ、おととし亡くなるまで30年以上党首を務めた、ジリノフスキー氏の路線を引き継ぐ姿勢も示しています。
「ロシア共産党」のニコライ・ハリトノフ下院議員(75)は、旧ソビエト時代の1990年から議員を務め、いまは議会下院の極東と北極圏の開発を担当する委員会の委員長です。
貧富の格差の是正や、住宅や生活インフラの料金に制限を導入することを訴えています。
ハリトノフ氏は2004年の大統領選挙にも立候補し、13%あまりの票を獲得して6人中2位となりました。
ロシアの大統領選挙は、18歳以上の国民による直接投票で行われます。
大統領任期 延長や制限の見直し プーチン氏の長期政権へ
いまの大統領の任期は6年で、任期の制限は2期12年となっています。
しかし、これまで任期の延長や制限の見直しが繰り返され、プーチン大統領が長期政権を担う道が開かれてきました。
2012年までの任期は4年でしたが、この年に大統領職に復帰したプーチン大統領の任期から6年に延長されました。
また2020年の憲法改正によって、プーチン大統領は任期が「リセット」され、さらに2期12年、最長で2036年まで続投が可能となりました。
投票日時は?高い投票率を期待する政権側のねらいも
今回の大統領選挙の投票日は、3月15日から17日までの3日間です。
ロシアでは、2020年以降、下院選挙や地方選挙などで新型コロナウイルス対策などを理由に3日間の投票日が設けられ、今回初めて大統領選挙にも適用されることになり、高い投票率を期待する政権側のねらいがあるともみられています。
投票時間は、それぞれ現地時間の午前8時から午後8時までで、極東のカムチャツカ地方などでは、首都モスクワと比べて9時間早い、日本時間の午前5時に投票が始まり、反対に、最も西に位置するカリーニングラード州では日本時間の午後3時から投票が始まり、18日の午前3時に投票が締め切られます。
投票方法は?一部の地域で電子投票が可能
各地の学校などに設けられた投票所で投票する場合、有権者は候補者の名前が印刷された投票用紙を受け取って、名前の横に印をつけて投票します。
また、首都モスクワなど一部の地域では、事前に登録すればスマートフォンなどからの電子投票が可能で、今回は、およそ490万人が申請したということです。
どう決まる?過半数に届かない場合 決選投票に
開票は17日の投票終了後に行われ、過半数の票を獲得すれば当選が決まります。
いずれの候補の得票も過半数に届かなかった場合には、上位2人の候補による決選投票が行われます。
これまでに決選投票となったのは1996年だけで、当時のエリツィン大統領がロシア共産党のジュガーノフ党首と激しく争ったすえ、再選を決めました。
過去の投票率は60%台で推移
現在のロシアの大統領選挙では、投票率は60%台で推移してきました。
プーチン氏が初めて立候補した2000年の大統領選挙では、投票率が68.70%、プーチン氏の得票率は52.94%でした。
2004年、プーチン氏の2期目の選挙は投票率が64.38%、プーチン氏の得票率は71.31%でした。
2008年の選挙は、当時第1副首相をつとめていたプーチン氏の側近、メドベージェフ氏が立候補し、投票率は69.81%得票率は70.28%で勝利しました。
プーチン氏が再び大統領職につくことになった2012年の選挙は投票率が65.34%プーチン氏の得票率が63.60%でした。
前回・2018年、プーチン氏にとって通算4回目の立候補となった選挙では、投票率が67.54%、プーチン氏の得票率は76.69%で、過去最も多い5600万票あまりを獲得しました。
これまでの大統領選は
ソビエト崩壊後、いまのロシアで最初の大統領選挙が行われたのは1996年です。
大統領の任期は4年で、選挙には、ソビエト崩壊にともない初代大統領を務めたエリツィン氏のほか、旧ソビエトの最後の指導者ゴルバチョフ氏など、10人が立候補しました。
投票の結果、いずれの候補も過半数の票を獲得できず、エリツィン氏とロシア共産党のジュガーノフ党首による決選投票が行われ、エリツィン氏が得票率53%あまりで、からくも再選されました。
しかし、経済政策の行き詰まりや健康不安などから、エリツィン氏は1999年、当時首相だったプーチン氏を後継者に指名し、年末に突然、辞任を表明しました。
これを受けて、2000年3月に行われた大統領選挙では、プーチン氏のほか各政党のトップなどあわせて11人が立候補し、プーチン氏が得票率52.94%で当選し、2代目の大統領に就任しました。
続く2004年の大統領選挙では、プーチン氏は日系ロシア人で改革派のハカマダ氏など5人に対し、71%を超す得票率で圧勝しました。
2008年の選挙では、当時のロシアの憲法では、大統領の連続3選が禁じられていたため、プーチン氏はいったん退き、後継者に指名された第1副首相のメドベージェフ氏が70%あまりの得票で初当選しました。
一方、プーチン氏は首相として政権に強い影響力を維持し、2012年の大統領選挙では、プーチン氏は再び大統領に立候補し、63%あまりの得票率で大統領の座に戻りました。
また憲法改正によって、大統領の任期は6年に延長されました。
ロシアでは、プーチン氏の大統領復帰に対して抗議デモが相次ぎ、5月の就任式の前日には、首都モスクワ中心部でデモ隊が警官隊と衝突し400人以上が拘束される事態にもなりました。
2014年には、プーチン大統領はウクライナ南部のクリミアを一方的に併合して国際社会の非難を浴びましたが、国内では国営メディアなどを通じて愛国心を訴え支持を高めることになりました。
前回・2018年の選挙では、反体制派の指導者ナワリヌイ氏が立候補を表明しましたが、過去の有罪判決を理由に立候補は認められず、選挙のボイコットを呼びかけました。
この選挙は、クリミア併合を宣言してから4年となる3月18日に行われ、プーチン氏は、サンクトペテルブルクの元市長の娘で、野党勢力の抗議活動に加わってきたサプチャク氏など7人を抑え、76%あまりの得票率で圧勝しました。
今回の選挙を前に、2020年に再び憲法を改正し、プーチン氏はことしからさらに2期12年、最長で2036年までの続投を可能にして、長期にわたって権力を維持できる仕組みを作ってきました。
死亡した反体制派 ナワリヌイ氏の妻 抗議の姿勢を呼びかけ
ロシアのプーチン政権への批判を貫いた反体制派の指導者、ナワリヌイ氏が死亡し、妻のユリアさんや支援団体は遺志を継いで、大統領選挙でプーチン大統領への抗議の姿勢を示そうと呼びかけています。
プーチン大統領の最大の政敵ともいわれたナワリヌイ氏は先月(2月)、収監されていたロシアの北極圏にある刑務所で死亡しました。
ナワリヌイ氏の死因をめぐっては、家族や欧米などはプーチン政権側の関与があったとして、責任を追及していますが、政権側は関与を強く否定しています。
ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは、夫の遺志を継ぐ考えを示し、今月6日、SNSで「選挙の日を利用して、私たちが存在し、大勢いることを示す必要がある」と訴え、大統領選挙でプーチン大統領への抗議の姿勢を示そうと支持者などに呼びかけています。
具体的には、大統領選挙の最終日となる17日の正午、各地の投票所を訪れ、プーチン氏以外の候補者に投票したり、投票用紙にナワリヌイ氏の名前を書いたり、投票用紙を持ち帰ったりすることなどを呼びかけています。
ユリアさんは13日、アメリカの有力紙、ワシントン・ポストへの寄稿でプーチン大統領について「政治家ではなく、ギャングだ。欧米諸国で依然として正当な政治指導者とみなされるのは大きな間違いだ」と強調し、プーチン大統領の再選が確実視されている選挙結果を認めないよう国際社会に訴えています。
また、ナワリヌイ氏の側近だったレオニード・ボルコフ氏が、12日、滞在先のリトアニアで何者かに襲撃されてけがをしたと、本人や支援団体が明らかにしました。
リトアニアの当局は、ロシアで大統領選挙が行われるのを前に、ロシア側がプーチン氏への反対運動を阻止するねらいで行った可能性があるという見方を示しています。
モスクワの市民は
ロシアの大統領選挙について、首都モスクワの市民からは、安定などを理由にプーチン大統領の続投を支持する声が聞かれた一方、政権交代の必要性を訴える声も聞かれました。
このうち高齢の男性は「プーチン大統領とともに、秩序ができた。1990年代を覚えているが、彼のもとですべてがよくなった」とソビエト崩壊の混乱から国を立て直した功績などに触れプーチン大統領に投票すると話していました。
また、サッカーチームのコーチを務める男性もプーチン氏を支持しているということで「私たちはいま、国の進路を変える必要はない。安定が常に重要だからだ。国の安定なしに、よいことは何もない」と話していました。
60代の年金暮らしの女性は、「すべてに満足している。プーチン大統領のもとで、国が発展し、経済がどのように発展してきたかを見てきた」と話した一方、軍事侵攻については早く終わることを期待しているとしました。
一方、プーチン大統領への反対の姿勢を示すために、無効票を投じるという40代の教師の女性は「投票したい人は誰もいない。いまに内部の泡のようなものが膨らんで爆発すると信じている」と述べ20年以上続くプーチン政権の下で国民の不満がくすぶっているとしています。
19歳の学生の女性は「政権交代があるべきだというのは確かだ。投票に行かなければ、政権側に同意することを意味してしまう」と話し、プーチン大統領以外に投票すると明かしました。
また別の男性は「投票は自分の声を届けるという意味で大事なことだと思う。変化を期待している」と話しましたが、口は重く、投票先や期待する変化については明らかにしませんでした。
米国務省“ウクライナ領土内で行う偽の選挙 正当性認めない”
アメリカ国務省のミラー報道官は14日、記者会見で「ロシアが、占領するウクライナ領土内で偽の選挙を行うことで、ウクライナの主権や領土保全、政治的な独立性を引き続き侵害しようとしていることを非難する。アメリカはロシアの大統領選挙の一環としてウクライナ領土内で行う偽の選挙の結果や正当性を認めることは決してない」と述べました。
その上で「こうした見せかけの行いの結果は、ロシア政府が決めるもので、ウクライナ市民の自由な意思を反映することはできない。ロシアが露骨に国際法上の義務に違反していることを改めて示すだけだ」と指摘しました。
林官房長官「ウクライナでロシア大統領選 明らかな国際法違反」
林官房長官は15日、閣議の後の記者会見で「ロシアは違法に併合したウクライナ国内の地域でも、いわゆる『大統領選挙』を実施するとしているが、明らかな国際法違反で、関連の国連総会決議とも相いれないものであり、決して認められない」と指摘しました。
そのうえで「ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序全体の根幹を揺るがす暴挙であり、G7をはじめとする国際社会と連携し、厳しい対ロ制裁を講じるとともに、強力なウクライナ支援にしっかりと取り組んでいく」と述べました。
●ロシア極東で大統領選始まる プーチン氏「圧勝」で侵攻を正当化か 3/15
ロシア大統領選挙の投票が日本時間の15日朝から始まりました。プーチン大統領は圧勝を演出して、ウクライナ侵攻などの正当化につなげる狙いとみられます。
3日間行われる予定のロシア大統領選挙の投票は、極東のカムチャツカ地方などでスマホを使った電子投票も含め始まりました。
大統領選にはプーチン大統領のほか3人が立候補していますが、3人とも体制内野党候補でプーチン氏が80%以上の得票率で圧勝するとみられています。
ウクライナ東部4州など、一方的に併合した地域では期日前投票が強行されています。
ウクライナメディアによりますと、投票箱を持った担当者が武装した兵士を伴って戸別訪問し、投票を半ば強要しているということです。
●ロシア大統領選挙、投票始まる プーチン氏の圧勝確実 3/15
ロシア大統領選の投票が15日、極東地域を皮切りに始まった。現職のプーチン大統領は通算5期目の当選が確実視され、投票率と得票率をどこまで伸ばすかが焦点となる。反体制派は17日に投票所に行き反対票を投じることを呼びかけており、動向に関心が集まりそうだ。
投票日は15〜17日までの3日間。モスクワでは15日午前8時(日本時間同日午後2時)から投票が始まる。
終盤情勢では現職で与党「統一ロシア」などが支持するプーチン氏の得票率見通しが8割に達し、同氏の当選が確実視される。プーチン氏は14日に発表した動画メッセージで大統領選に触れ「選挙の結果は今後数年間の国の発展に直接影響する」と述べ、有権者に投票を促した。
今回の大統領選では初の3日間の日程での投票となる。首都モスクワなどでは交通規制など特別の警備措置はとられていない。
ただ、今回の選挙ではロシアが2022年秋に一方的に併合を決めたウクライナ東・南部4州でも投票を実施する。ロシアメディアによると、制圧地域では警察や国家親衛隊が警備に従事し、厳戒態勢が敷かれているもようだ。
2月に獄死した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻ユリア氏はSNS(交流サイト)で、国民に投票最終日の17日正午に投票所に行き、プーチン氏以外の候補に投票するか、投票用紙の破棄を呼びかけた。
ユリア氏は夫の遺志を継ぐ意向を示している。1日にモスクワの教会で執り行われたナワリヌイ氏の葬儀では大勢の市民が献花のため教会を訪れた。反政権票の動向が投票率やプーチン氏の得票率にどういった影響を与えるかが焦点になりそうだ。
今回の大統領選では直接投票所に出向く必要のない電子投票が、大統領選として初めて導入された。事前登録したうえで、パソコンやスマートフォンなどからの投票が可能になる。ロシア大統領府はプーチン氏の得票率のほか、投票率の上昇も視野に入れており、利便性の向上で投票を促す狙いとみられる。
●ロシア大統領選、極東で投票開始…プーチン氏「権力の源は国民」 3/15
インターファクス通信によると、ロシアの大統領選の投票が15日午前8時(日本時間午前5時)、露極東カムチャツカ地方などで始まった。国内の時差に合わせて西に向かって順次行われる。投票は3日間行われ、最終日の17日に開票される。大統領選には4人が立候補しているが、プーチン大統領の通算5期目の当選が確実視されている。
2022年2月のウクライナ侵略開始後では初の大統領選。プーチン氏は圧倒的な勝利で、ウクライナ侵略など自らの政策について「国民の信任を得た」とアピールする考えとみられる。
プーチン氏は投票開始に先立ち、14日のビデオ演説で「我が国の唯一の権力の源は国民だ。祖国の運命を決めるのはロシア国民だけだということを意味する」と述べ、投票を促した。
一方、露北極圏の刑務所で死亡した反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻らは、投票最終日の17日正午に投票所を訪れ、プーチン氏以外の候補に投票する「反プーチンの正午」運動への参加を有権者に呼びかけている。モスクワの検察当局は14日、参加は「違法行為にあたる」と警告した。
●ロシア大統領選15日から投票 プーチン氏の圧勝確実、焦点は得票率 3/15
任期満了に伴うロシア大統領選(任期6年)の投票が15日、始まった。通算5選を目指す現職のプーチン大統領(71)の圧勝が確実視され、投票率と得票率をどこまで伸ばすかが焦点となる。投票期間はこれまでの1日から3日間に延長され、17日午後8時の投票締め切り後、速やかに開票される。
2022年2月からロシアがウクライナで「特別軍事作戦」を続ける中での異例の選挙となり、同9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東・南部4州の占領地域でも投票を強行。支配の既成事実化を図る構えだ。
立候補者は無所属のプーチン氏のほか、共産党のハリトノフ下院議員(75)▽極右・自由民主党のスルツキー党首(56)▽政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長(40)――の3氏がいる。いずれも政権に異を唱えない「体制内野党」の候補だ。
選挙戦では、国民に負担を強いる特別軍事作戦の早期終結を提唱する声はあったものの、論戦の機会は乏しく、これまで以上に低調となった。大統領選の実施は民主政治を演出するのが主目的との見方が強い。
一方、特別軍事作戦の継続に反対するリベラル派のナデジディン元下院議員や女性ジャーナリストのドゥンツォワ氏も出馬を目指したが、ともに事務手続き上の不備を指摘される形で立候補を認められなかった。
2月中旬には反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏が北極圏の刑務所で獄中死を遂げたが、追悼の動きは限定的で、政権を揺るがすような大きなうねりとはなっていない。
プーチン氏の陣営は、得票率で過去最高だった前回18年の77%を上回る、8割以上を目指すとされる。高い投票率と得票率を記録することで、特別軍事作戦への支持を示す根拠としたい思惑もあるとみられる。
有権者はどのような思いで投票に臨むのか。モスクワ市民に話を聞いた。
55歳の女性は「物価も住居費も公共サービスも全て高い。飢えてはいないが何とかしてほしい」と訴える。20歳の男子学生も「物価や医療費が高いので、賃金をもう少し上げる必要がある」と話した。43歳の医療従事者の女性は「経済の発展を望む」と回答。3人とも生活や経済面の課題を指摘したものの大きな不満はなく、プーチン氏を支持しているという。
プーチン氏以外に投票するという人にも話を聞いた。「意見を言うことを恐れなくてもよい、自由で民主的な国に暮らしたい」。50代の女性はこう打ち明けた。18歳の女性も「誰もが普通に話せるようになってほしい」という。24歳の男性は「何かを変える時だ」と言い切った。世論の大勢が長期政権による安定を望む一方、変化を求める声も存在している。
●ロシア大統領選、極東から投票開始 プーチン氏圧勝へ企業・大学動員 3/15
任期満了に伴うロシア大統領選(任期6年)の投票が15日、カムチャツカ地方など極東から順次始まった。投票は3日間。通算5選を目指すプーチン大統領の圧勝が確実視される「無風選挙」で、一部国民にしらけムードも漂っている。政権は国営企業や大学などの組織票を頼りに、電子投票も併用し、投票率と得票率を高めて「正統性」を内外に示す狙いだ。
投票は最終日の17日夜(日本時間18日未明)に最西端カリーニングラード州で締め切られ、即日開票で大勢が判明する。
●プーチン氏が成功と主張するロシア戦時経済、市民の不満はほぼ皆無 3/15
ロシアのウクライナ全面侵攻開始から2年が経ち、戦時経済はうまく機能しているとロシア市民の多くが感じているとしても不思議はない。
賃金は2桁の伸び、通貨ルーブルは安定し、貧困層と失業者は記録的な低水準にある。ロシア連邦統計局のデータによると、プーチン政権の主な支持者である最低所得者層の賃金の伸びは直近の3四半期で年率約20%と、他のどの社会階層よりも上昇率が大きい。
プーチン氏の5選が確実視される15−17日の大統領選挙を控え、景気に対する市民の不満はほぼ皆無だ。ウクライナでの戦争で数十万人が死傷し、目標値を上回るインフレに対応する当局者にとって長期的な課題は膨らみ続けているが、今のところプーチン氏は経済について順調だと主張できている。
ロシア発の投資銀行であるルネッサンス・キャピタルのエコノミスト、ソフィア・ドネツ氏は、現状と将来の金融状況や消費者信頼感が「非常に楽観的」であることを複数の調査が示していると指摘、ロシアは「良い形」で選挙に近づいていると述べた。調査で示されている楽観は「危機とは似ても似つかない水準だ」と語った。
政府は家庭向け社会支援や年金増額、住宅ローン補助、出征兵士らの親族への補償に多額の資金を投じている。プーチン氏は再選に向けてさまざまな公約を行ったが、その実現には総額で数百億ドルが必要になる可能性もある。
ウクライナでの戦争は労働力不足を激化させた。軍の徴用で労働者が市場からいなくなり、プーチン氏は先月、250万人分の求人があると述べていた。
結果として雇用主は人材を1人でも減らしたがらなくなり、一般的なロシア市民は短期的な職について安心していられるなど、恩恵に浴している。ロシア銀行(中銀)によると、失業率は歴史的な低さで、雇用の期待は過去最高の水準に達した。
当局にとって経済的不安の大きな種であり続けているのは、急激な物価上昇が市民の所得を目減りさせていることだ。この不安は後退していないが、巨額の政府支出と労働力不足で賃金の伸びも加速している。
昨年の平均月間賃金は7万4000ルーブル(約12万円)余りと、2年前に比べて約30%上昇した。昨年になるまで、ロシアの実質可処分所得が5%以上伸びたことは長らくなかった。
ロシアの独立系調査会社ソーシャル・フォーサイト・グループの社会学者、アンナ・クレショワ氏は「かなりの数のロシア人にとって、戦争は以前では不可能だった社会-的・経済的流動性の好機になった。一部の人は新たな事業を立ち上げた」と指摘。「出征した夫や息子の手当を受け取り、アパートや自動車の購入、農村から都市への移動がついに可能になった人々もいる」と述べた。
●ロシア西部2州、「活発な戦闘地帯」に ウクライナ国防省が指摘 3/15
ウクライナ国防省情報総局の報道官は14日、ロシアのプーチン政権に反対するロシア人の武装組織がロシア領内に侵入しており、ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州とクルスク州が「活発な戦闘地帯」になっているとの認識を示した。
ウクライナを拠点とする「自由ロシア軍団」「シベリア大隊」など3つの武装組織は、両州で武力を用いた作戦を展開しているとの声明を発表。住民に対し、安全を確保するため避難するよう求めた。
ロシア政府は過去に、こうした武装組織をウクライナ軍と米中央情報局(CIA)の操り人形と表現している。
情報総局の報道官は国内テレビに「ベルゴロド州とクルスク州は現在、活発な戦闘地帯になっている。そうした志願兵や反政府勢力が述べているように、彼らは他の選択肢を持たず、プーチン政権に反対して、武器で市民権を守っているロシア市民だ」と述べた。
ベルゴロド州のグラトコフ知事はメッセージアプリ「テレグラム」に「(攻撃を受けた地域にはもう)ウクライナ軍はいないと断言できる。戦闘は他の場所で行われている」と投稿。ただ、同州のコジンカ村が「深刻な被害を受けた」とし、住民が避難したことを明らかにした。
クルスク州のスタロボイト知事はテレグラムで「ウクライナのテロリストはわれわれの領土に破壊工作員を連れ込もうとする試みを止めていない」と指摘した。
●世界秩序二分化目指すプーチン氏、国内は弾圧強化−大統領選再選確実 3/15
6年前のロシア大統領選の直前、プーチン大統領は同国最新鋭戦略兵器のシミュレーション動画を見せて議員を喜ばせた。そのうちの一つは米フロリダ州に狙いを定めてさえいた。
今回、プーチン氏による力の誇示は勢いを増している。先月には核兵器搭載可能な最新型戦略爆撃機の試験飛行を行い、ロシア軍によるウクライナ侵攻を巡り米欧諸国に「アルマゲドン(世界最終戦争)」のリスクを単刀直入に警告した。
こうした言動は大胆さを増したプーチン氏(71)の心情を反映している。15−17日に投票が行われるロシア大統領選は再選確実で、ウクライナでの戦争がプーチン氏に有利な方向にシフトする状況にあって国内外の敵は同氏の野心を抑えることができないように見受けられる。
プーチン大統領の現行任期が同氏の好みに世界秩序を形作る試みだとすれば、再選後の新たな任期はこのプロジェクトを完成させる決意を意味するものだと、クレムリン(ロシア大統領府)の考えに詳しい複数の関係者が説明した。
事情に詳しい関係者5人は、プーチン氏が西側との長期にわたる対決に備えているとし、ウクライナでの戦争が終了したとしても、ロシアと西側諸国との関係は断絶されており、容易に回復されることはないと話す。
大統領府に近い政治コンサルタント、セルゲイ・マルコフ氏は「ロシアは新たな世界を築くため並行のグローバリゼーションを打ち立てる必要がある。それこそプーチン氏が重点的に取り組むものだ」と語った。
ウクライナを支援する西側諸国は同国への弾薬供与を続けることが難しくなっており、ウクライナ政府当局者はロシア軍進展の可能性を憂慮するなど、ロシア側が数カ月ぶりに攻勢に出ている。
ウクライナの敗北を回避するため、同国に部隊を派遣するアイデアを巡る北大西洋条約機構(NATO)加盟国間の不一致は優柔不断さの印象を強めることになった。バイデン大統領が求める600億ドル(約8兆9000億円)余りのウクライナ向け追加軍事支援は、議会共和党との対立で行き詰まったままだ。
一方でロシア政府は、ロシア系の少数派住民保護という名目でモルドバやバルト3国、コーカサス地方などに圧力をかけている。西側諸国の首脳は、ロシアがNATO加盟国を攻撃する可能性について公に警戒感を示すとともに、トランプ前米大統領が11月の大統領選でホワイトハウス返り咲きを果たした場合に同盟国を見捨てるかどうか懸念している。
プーチン氏はこのほか、新興国を中心とするいわゆる「グローバルサウス」の間でも、西側諸国に対する挑戦を続けて国際的な対ロシア制裁を弱めるための地歩を固めつつある。ロシアが穀物を供与したアフリカ6カ国の一部は国連でロシアの外交政策を支持するなどしている。
ロシアは今年、新興国から成るBRICSの議長国を務め、10月には中国やインド、南アフリカ共和国、ブラジルの既存メンバーに加え、イランやエジプトなど新規加盟国が参加するサミット(首脳会議)を開催する。
事情に詳しい複数の関係者によれば、プーチン氏は国際関係をロシアに有利な方向につくり直す機会と捉えており、それを実際に生かす意向だ。
ナワリヌイ氏
国内でプーチン氏に反対する勢力はますます無力化の様相を呈している。過去の大統領選の場合と異なり、クレムリンは今回、象徴的な意味での独立系候補者であっても出馬を認めていない。
反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が北極圏に位置する辺地の刑務所内で死亡したことで、最も強力な抵抗のシンボルもいなくなった。ナワリヌイ氏の葬儀には、当局が武装警官を配置するなど脅しをかけたが、数年人が参列。ただ、国営メディアや高官らは葬儀があったことさえ認めなかった。
旧ソ連のスターリン時代以来の長期政権となっているプーチン氏はこの数年、反体制派に対する弾圧を進めており、2022年2月にウクライナ侵攻を命じて以降は取り締まりを強化している。
戦時下のロシアは完全な忠誠を求める独裁国家となるリスクがある。こうした状況でクレムリンにとって最大の頭痛の種は、ロシア国民の間に政治的無関心が広がる状況で、高い得票でプーチン氏が圧倒的勝利を収めた体裁を整え、西側との対決姿勢でロシアが団結しているとのクレムリンの主張を裏付けられるようにすることだ。
ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワリナヤ氏は2月28日に欧州議会で演説し、ウクライナでの戦争開始から2年が経過し、「多大なる疲弊や流血、失望があり、プーチン氏はまだいる」とし、「兵器や資金、制裁などあらゆるものが活用されたが、どれも作用していない。そして、誰もが戦争慣れするという最悪の事態が生じている」と語った。
●ロシア国防省「韓国人15人がウクライナ戦争に参戦、5人戦死」 3/15
ロシア国防省は、ウクライナ軍に義勇兵として参戦した韓国人は15人で、このうち5人が死亡したと主張した。
ロシア国防省は14日(現地時間)に発表した「ウクライナ支援外国義勇兵現況」資料で、2022年2月24日の開戦後、ウクライナ軍に義勇兵として参戦した外国人は1万3387人で、このうち5962人が死亡したと述べた。
また、ウクライナ軍に最も多い義勇兵が志願した国は隣国のポーランドで、2960人がウクライナに入国し、1497人が戦死したとロシア国防省は主張した。
さらに、ジョージア人義勇兵1042人のうち561人、米国人義勇兵1113人のうち491人、カナダ人義勇兵1005人のうち422人がロシア軍によって死亡したとした。
このほか、英国人義勇兵822人のうち360人、ルーマニア人義勇兵784人のうち349人、ドイツ人義勇兵235人のうち88人が戦死したという。
ロシア国防省の資料には、韓国人義勇兵の被害も含まれていた。資料によると、韓国人15人がウクライナ軍の義勇兵として参戦し、このうち5人が戦死したという。ただ、ロシア国防省は外国人義勇兵の身元情報のような詳細な内容は公開していない。ロシア国防省は開戦初期の2022年6月にも韓国人13人がウクライナ軍の義勇兵として参戦し、4人が死亡したと主張した。
●欧州はロシアのエスカレーションに備えを、仏大統領が呼びかけ 3/15
フランスのマクロン大統領は14日、ロシアがウクライナでの戦争に勝ったとしてもウクライナで止まることはないとの見方を示し、欧州に「弱腰」にならず、対応する準備を整えるよう呼びかけた。
マクロン大統領は先月、パリで開催したウクライナ支援の国際会合で、欧米諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性を排除しない考えを表明。ロシアに対する「戦略的な曖昧さ」を提起することを意図したものだったが、さまざまな議論が巻き起こった。
マクロン氏はこの日、テレビのインタビューで「ロシアがこの戦争に勝てば、欧州の信用は地に落ちる」と指摘。ロシアに対する弱さを示し、ウクライナへの侵攻を助長させることになるため、欧州は「レッドライン(越えてはならない一線)」を引いてはならないと述べた。
フランスの野党指導者らは、マクロン氏の発言が好戦的だと批判した。
マクロン氏は全く同意できないとし「ウクライナへの支援を巡る採決で棄権したり反対票を投じたりすることは平和を選ぶことではなく、敗北を選ぶことだ」と反発した。
主要野党の極右政党は、フランスがウクライナと結んだ安全保障協定に関して今週行われた議会採決を棄権。極左政党は反対票を投じた。
マクロン氏は「欧州に戦争が広がれば、ロシアの責任だろう」と指摘。「だが、われわれが弱腰になり対応しないと決断すれば、すでに敗北を選んだことになる。私はそれを望まない」と述べた。
ただ、ウクライナへの派兵が行われる場合、どのようなものになるのか詳細については明言を避け「正確に言えない理由がある。プーチン大統領にヒントを与えるつもりはない」と語った。
その上で、フランスは決してロシアに対して攻撃を開始することはないとし、フランスはロシアと戦争状態にあるわけではないと言及。ウクライナは現在「困難な」状況にあり、同盟国のより強力な支援を必要としているとし「ロシアのどの大統領であろうと」和平交渉を行うときが来ることを望んでいると語った。
●ウクライナ戦争の結末、今春から夏にかけて決まる=EU外相 3/15
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は14日、ウクライナ戦争の結末は今春から夏にかけて決まるとの見方を示し、新たな支援を早急に確保する必要があると訴えた。ワシントンでの会合後、記者団に述べた。
ウクライナ支援に向けた欧州の取り組みについて「スピードを上げ、支援を拡大しなければならない。だから防衛産業の能力を高めている」とし、米国にも同じことが言えると指摘。
「今後数カ月が決定的になる。アナリストの多くが今夏にロシアの大規模な攻撃を予想しており、ウクライナは11月の米大統領選の結果まで待つことはできない」とした。
また、パレスチナ自治区ガザでの人道的大惨事は自然災害ではなく「人災」と指摘。世界の指導者らはガザへの人道的アクセスのために境界を開放するようイスラエルにさらに圧力をかける必要があると述べた。
●ロシア占領地での大統領選は違法かつ無効=ウクライナ外務省 3/15
ウクライナ外務省は14日、ロシアが占領地域で大統領選を実施することは違法かつ無効として、国際的パートナーに結果を認めないよう求めた。
大統領選は15─17日に行われ、プーチン大統領が再選する見込み。任期は6年で、ロシアの元首としてはスターリンを抜いて最長の在任期間となる。
ウクライナ外務省は声明で、ロシアが部分占領しているドネツク、ルガンスク、ザポロジエ、ヘルソンと2014年に編入されたクリミアで選挙戦を展開することは「国際法の指針と規範に対する言語道断な侮辱の継続」を新たに示すものと指摘。「一時占領されている地域に住むウクライナ人と、ロシア領内に拉致されたウクライナ人数百万人を強制的にいわゆる選挙に参加させることも違法」と糾弾した。
その上で占領地域にいるウクライナ人に投票しないよう求めた。
●ロシア、ウクライナ北東部の通信インフラ攻撃 「情報戦」の一環 3/15
ロシアは14日、ウクライナ北東部の通信インフラをドローン(小型無人機)とミサイルで攻撃し、5つの市町村でのテレビとラジオの信号が途絶えた。ウクライナ当局者は住民の情報アクセスの断絶を狙った攻撃だとしている。
ウクライナの特殊通信情報保護局は「ロシアはインフラを物理的に破壊するだけでなく、ウクライナのラジオやテレビの衛星信号を妨害しようとしている」と指摘。北部スムイ州と東部ハリコフ州の施設に対する攻撃はロシアの「情報戦」の一環で、住民の「真実の情報」へのアクセスを制限し、プロパガンダを共有することを目的としているとした。
ロシアはこれまでウクライナのエネルギーインフラや軍事生産施設などを標的にしてきたが、今回の攻撃は新たなパターンを示している可能性があるとの見方が出ている。
●NATOが年次報告書公表 国防費2%以上の国が18カ国 3/15
NATO(北大西洋条約機構)は2023年の年次報告書を公表し、ウクライナ情勢を受けて加盟国が軍事力の強化に取り組んでいる実態を明かした。
14日に公表された報告書は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、加盟国が軍事力の強化に取り組み、ヨーロッパとカナダで国防費が前年比11%増えたとした。
また、国防費の支出がGDP(国内総生産)と比べて2%以上の国が、2023年の11カ国から2024年初めには18カ国に増えたとして、さらなる防衛費の拡大と集団防衛態勢の強化の必要性を訴えた。
ストルテンベルグ事務総長は会見で「NATO加盟国からの前例のない援助は、ウクライナの存続に役立っている」と評価する一方、「ウクライナは弾薬が不足している」と述べ、弾薬の供給など迅速に対応するよう加盟国に求めた。
また報告書は中国について「我々の価値観を共有せず、われわれの利益に挑戦し、ロシアとの連携を強めている」と批判した。
その上で中国との貿易などは続けるとしながらも、日本や韓国、オーストラリアなどと協力関係を強化していくとしている。
●ハンガリー懐柔に補助金は「公金悪用」 欧州議会、欧州委を提訴へ 3/15
欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会は14日、欧州委員会がハンガリーに対する補助金の凍結を解除したのは公金の悪用だとして、EUの最高裁にあたる欧州司法裁判所に提訴する方針を固めた。英紙フィナンシャル・タイムズによると、欧州議会のメツォラ議長が「25日までに提訴する」と述べたという。
ハンガリーは昨年12月のEU首脳会議で、ウクライナの加盟交渉入りや財政支援に強く反対。欧州委は全会一致で議案を通すため、同国に対する102億ユーロ(約1兆6460億円)の補助金の凍結を解除した。
凍結はもともと、同国内の法の支配の欠如や人権侵害などが理由だった。議会は「状況は改善されていなかった」と主張。11日の議会法務委員会では、ほぼ全会一致で提訴する案が承認された。14日には議会の各会派代表者会議で、詰めの協議が行われた。
ハンガリーのオルバン首相の政治顧問は昨年12月、凍結されている残りの補助金約120億ユーロ(約1兆9365億円)についても、「解除されれば(ウクライナ関連の議案について)交渉に応じる用意がある」と語っており、議会からは「脅しだ」と批判する声が上がっていた。
●NATO加盟国、ウクライナ支援に「政治決断」を=事務総長 3/15
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は14日、NATO加盟国はロシアの侵攻を受けているウクライナに対する支援を行うための経済力を持っているにもかかわらず十分なことを行っていないとし、各国に対し「政治的決断」を呼びかけた。
ストルテンベルグ事務総長はブリュッセルのNATO本部で記者団に対し「NATO加盟国による前例のない支援によって、ウクライナは独立国家として存続している」とした上で、NATO加盟国が十分な弾薬を供給していないことが戦況に影響を及ぼしていると指摘。ロシア軍に進軍を許している理由の一つになっていると述べた。
その上で「われわれにはウクライナに必要な支援を提供する能力も経済力もある。ウクライナに対する支援を優先する決断を下すのは政治的意志の問題だ」と語った。
また、ロシア制圧下にあるウクライナの地域でロシアが選挙を実施すれば、法律に違反するとの考えも示した。
●中国 2月の新築住宅価格指数 主要都市84%余で下落 低迷続く 3/15
中国の2月の新築の住宅価格指数は、主要都市の84%余りに当たる59都市で、前の月から下落しました。下落した都市の数は前の月から増え、都市の規模を問わず、不動産価格の低迷が続いています。
中国の国家統計局が15日に発表した2月の新築の住宅価格指数は、主要な70都市のうち、59都市で前の月から下落しました。
下落した都市は前の月から3都市増え、その比率は主要都市の84%余りに上っています。
一方、上昇したのは8都市にとどまり、3都市は横ばいでした。
都市別に見ますと、大都市では上海は0.2%上昇した一方、広州は0.8%、深※センは0.5%、北京は0.1%それぞれ下落しました。
また、規模の小さい地方の都市も平均で0.4%下がっていて、都市の規模を問わず、不動産価格の低迷が続いています。
中国政府は、不動産事業に対する金融支援を強化しているほか、中国人民銀行が2月、住宅ローンなどの長期の貸し出しの目安となる金利を引き下げるなど相次いで対策を打ち出していて、今後、こうした対策が不動産市場の改善につながるのか注目されます。
● ロシア西部 大統領選前にウクライナ側からとみられる越境攻撃 3/15
ウクライナと国境を接するロシア西部ではウクライナ側からとみられる越境攻撃が相次いでいます。ロシアでは15日から大統領選挙が始まりますが、プーチン政権は警戒を強めているとみられます。
ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州の知事は14日、ウクライナ側から越境攻撃があり、2人が死亡したと発表しました。
ウクライナと国境を接するロシア西部のクルスク州でもロシア当局はウクライナ側から越境攻撃があったとしているほかロシア各地では最近、石油関連施設などを狙った無人機による攻撃も続いています。
プーチン大統領は13日に公開されたインタビューで「ロシアの大統領選挙を混乱させることではなくても、何らかの形で国民の意思表明の過程を妨害することが目的だ」と非難し、15日から投票が始まる大統領選挙を前に警戒を強めているとみられます。
一方、イギリス国防省は14日、ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカの西側などに攻撃を集中させていて、過去4週間、この地域への攻撃が60%を占めたと指摘しました。
そのうえで、ロシア軍は現在、戦力を再構築していて今後数週間はウクライナ側にとって厳しい戦況になる可能性が高いと分析しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」もロシア軍がアウディーイウカの西側で戦力をたくわえて新たな攻勢の機会を狙っていると指摘し、ロシア軍の攻撃が強まる可能性があるとみられます。 
●ウクライナ・オデーサにミサイル攻撃 14人死亡、多数の負傷者 3/15
公共放送「ススピーリネ」などウクライナのメディアによると、同国南部の港湾都市オデーサが15日、ロシアのミサイル攻撃を受けた。オデーサ州のキペル知事はSNSに、14人が死亡し、46人が負傷したと投稿した。
報道によると、複数の爆発があり、死者の中には最初の爆発の後、現場で救助に当たっていた非常事態庁の複数の救急隊員が含まれているという。キペル氏は負傷者の中にも7人の同庁職員がいるとした。
攻撃があったのは同日午前11時過ぎで、空襲警報が発令されてすぐに爆発が起きたという。民家や商店、車などが被害を受けた。オデーサの南の黒海方向から弾道ミサイルが発射されたとの情報がある。

 

●大統領選、初日投票率36%超す プーチン氏の支持率が80%超、圧勝は確実 3/16
17日開票のロシア大統領選で、中央選挙管理委員会は15日、投票初日の同日夜までに全有権者の36%以上が投票を終えたと公式サイトで発表した。大統領府によると、プーチン大統領はモスクワ郊外の公邸でネット投票した。16日、極東地域から2日目の投票が始まった。
通算5選を狙うプーチン氏は支持率約80%で他の3候補を引き離しており、圧勝が確実な見通し。ウクライナ侵攻反対を唱える候補はおらず、停戦を求める改革派野党ヤブロコは有権者に棄権を訴えている。政権と対立し服役中の刑務所で2月に死亡した反政府活動家ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは17日正午に一斉にプーチン氏以外の候補に投票するよう呼びかけている。
ロシアメディアによると、15日にモスクワなどの5投票所で投票箱にインクのような液体が注ぎ込まれた。モスクワでは投票用紙記入台に火を付けた女性が拘束されている。
●「プーチン氏圧勝」確実の選挙……ロシアのほかウクライナの一部でも 3/16
ロシアで15日、大統領選の投票が始まった。当局によると複数の投票所で、投票箱に放火したり液体を流し入れたりするなどの妨害行為があり、数人が逮捕された。
国営メディアによると、投票済みの用紙が入った投票箱に緑色の液体が入れられたり、投票箱に火がつけられたりした。投票所の外で花火に火をつける事態も発生した。
大統領選の投票は17日夜まで。ウラジーミル・プーチン大統領が、本格的な対立候補不在の選挙で5回目の当選を果たし、さらに6年間の任期を得ることが確実視されている。
●ロシア大統領選 反体制派が「反プーチン」デモを呼びかけ 3/16
ロシアの反体制派は市民に対し、大統領選の最終日に投票所に集まるよう呼びかけています。
反体制派が気にしているのは選挙の結果ではありません。今まで弾圧を恐れ、身を潜めていた「反プーチン」の民意がいかに大きいかを見せつける狙いです。
「もちろん(大統領選は)完全なフィクションであり、偽物です。プーチンは、自分の好む結果を描くでしょう。80%だろうが、180%だろうが、私たちはむしろ、このいわゆる“選挙”をプーチンに対して利用し、私たちの目標を達成するために利用するのです」(ナワリヌイ氏の妻・ユリアさん)
これまで反体制派は、結果は改ざんされる、選挙はボイコットするべきだと考えていました。しかしユリアさんは、むしろ選挙を利用して「反戦」「反プーチン」デモを行おうと呼びかけたのです。デモを目的に集まれば弾圧されますが、「投票に来たんだ」といえば警察は手出しができないだろうという考えです。
「私たちはシグナルを発信しなければなりません。明確な意志を示せるでしょう。人は多いほど良いです」(市民)
一方、プーチン政権は参加すれば選挙妨害とみなし、最大で懲役8年だとけん制しています。
ナワリヌイ氏の支持者も次々と拘束されています。とめどない弾圧に対して、反戦機運をさらに高められるか、重要な節目となります。
●ロシア大統領選 投票始まる プーチン氏の5選有力視 3/16
プーチン大統領の5選が有力視されるロシア大統領選挙が始まりました。有権者への圧力も指摘され、初日から高い投票率を記録しています。
15日から3日間の日程で始まったロシア大統領選挙は、現職のプーチン氏が8割を超える得票率で再選を果たす見通しです。国営企業などでは従業員に投票の報告を義務付けるなど、投票への圧力をかけているということです。
大統領選としては初めてオンライン投票も行われていて、極東の一部地域では、初日だけで投票率が63%を超えました。
一方、モスクワ市内の投票所では女性が投票箱に緑色の液体を注ぎ込む妨害工作を行い、その場で拘束されました。
●「プーチン氏再選」が確実なロシア大統領選、投票始まる 3/16
ロシア大統領選の投票が15日午前8時から始まった。ウラジーミル・プーチン大統領が当選し、5度目の任期6年を獲得するのはほぼ確実だ。
ロシア大統領選挙の投票は15日から17日まで、3日間の日程で実施される。極東のカムチャツカ半島で投票は始まり、17日午後8時に西の飛び地カリニングラードで締め切られるまで投票は続く。プーチン氏に対抗できる有力な候補者はおらず、どんな投票結果になるのかは分かりきっているのだが。
プーチン大統領が5度目の大統領選に臨むと国民に告げたのは、昨年12月に盛大に開かれた軍事表彰式でのことだった。
クレムリン(ロシア大統領府)で最も華やかな広間のひとつを舞台にしたこの表彰式は、厳粛なものだった。24年にわたりロシアを率いてきた指導者が、ウクライナでの「特別軍事作戦」(ウクライナ侵攻をロシアはこう呼んでいる)に参加した兵士たちに最高の栄誉を授けたばかりだった。
参加者の一部と談笑するプーチン氏のもとに、ウクライナ東部ドネツク州を占領した親ロシア派部隊の指揮官が近づいた。
「我々にはあなたが必要です。ロシアはあなたを必要としています!」。司令官のアルチョム・ジョガ中佐はこう言い、きたる大統領選に立候補するよう促した。その場にいた誰もが、プーチン氏への支持を表明した。
プーチン氏はうなずいた。「いまこそ決断の時だ。私はロシア連邦大統領に立候補する」。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官はその後、プーチン氏のこの決断は「まったくの自然発生的なもの」だと説明した。しかし、こうした段取りをクレムリンが成り行き任せにするなど、めったにないことだ。
実際、成り行き任せどころか、十分に準備を整えたメディアマシンが即座に動き出した。
ライバルになり得るどの候補者よりも、71歳のプーチン氏の方が国家指導者としてずば抜けているのだと、あらゆる国営チャンネルが宣伝を開始した。
「(プーチン)大統領への支持は、政党支持を超越する」と、国営テレビのニュース番組で、特派員の一人はそう報告した。「ウラジーミル・プーチン氏は人民の候補者なのだ!」と。
旧ソヴィエト連邦時代の独裁者ヨシフ・スターリンの在職期間には及ばないが、プーチン氏はすでに、スターリン以降のあらゆる支配者よりも長く権力を握っている。
プーチン氏は2000年に大統領に就任したが、当時のロシア憲法で大統領任期は連続2期までと定められていた。このため、2008年から2012年までいったん首相を務めた後、再び大統領に復帰した。
その後、大統領経験者の任期を「ゼロに戻して」リセットできるよう憲法を改正。最大2期12年、つまり2036年まで留任できる道が開かれた。これによって今年や、78歳でむかえる2030年の大統領選への再出馬が可能になった。
プーチン氏は大統領在任中、計画的にその支配力を強めてきた。同氏の支配を脅かす真の脅威はもはや存在しない。同氏を最も痛烈に批判する人物はすでに死亡したか、収監されているか、国外へ亡命している。
それでもクレムリンはあくまでも、ロシアの選挙プロセスは正当なものだと見せかけようとしている。
最終的な選挙結果がどうなるのかは疑いようもないが、当局は投票率の高さをかなり気にしているようだ。投票率が高ければ、プーチン氏の人気の裏付けとして提示されるだろう。
2018年の前回選挙の投票率は、公式発表では68%だった。しかし、国際選挙監視団は票の水増しが複数あったと報告した。
17日に終わる今年の選挙は、かつてないほど投票しやすいものになっている。
ロシアが「新地域」と呼ぶ、ウクライナ国内の占領地域では、選挙の10日前から投票が始まった。ソーシャルメディアには、投票を促す広告があふれている。
占領地域の住民は、投票に行けば一つの選択(あるいは、選択に見せかけたもの)を迫られることになる。
ソ連崩壊から30年以上がたった今も、ロシアで2番目に人気の政党は共産党だ。そして今回の大統領選には、共産党のニコライ・ハリトーノフ氏も出馬している。同党は、ソ連時代を懐かしむ、少数ながら熱心で忠実な人々から支持を得ている。
ほかの候補には、民族主義指導者のレオニード・スルツキー氏や、表向きはリベラルな「新人民党」のウラジスラフ・ダヴァンコフ氏がいる。
政治的立場は大きく異なるものの、3氏とも政府の政策を広く支持しており、現職のプーチン氏に勝てる見込みはない。
ウクライナ侵攻に反対するボリス・ナデジディン元下院議員が昨年に出馬を表明すると、野党派の有権者の間でめずらしく期待感が広がった。
ナデジディン氏は国営テレビのトーク番組に頻繁に登場し、侵攻への批判を述べていた。
しかし、戦争を支持しないと声を上げた多くの人が投獄されてきたこの国で、ナデジディン氏の名前が投票用紙に載ることはなかった。
ロシアの中央選挙管理委員会は先月、ナデジディン氏が候補者申請をした際に提出した署名の15%以上が無効だったとして、同氏の候補者登録を認めないと決めた。おそらく、同氏を支持するため数千人が行列して署名したことに、ひるんだのだろう。
ナデジディン氏が排除されたことで、番狂わせの可能性は皆無になった。
投票に向けてテレビでは討論会が行われたが、プーチン氏は参加しなかった。
その代わりにテレビ各局は、大統領が工場作業員や兵士や学生と会談する演出たっぷりのお定まりの映像を流した。2月末に中継された年次教書演説は、国民のために働く国民思いの指導者としてプーチン氏を位置づけるための、選挙演説だったと広く受け止められている。
年次教書演説でプーチン氏はウクライナでの戦争にいくらか触れたものの、その内容のほとんどは国内の話題だった。ロシア国民の多くがより気にしているのは、ロシアが戦場でいかに成果を上げているかや、いかに西側諸国と果てしなく対立しているかではなく、もっと身近な問題なのだと、それを暗黙のうちに認めていたのかもしれない。
ロシアの指導者は、ロシアの家族にとって従来より「公平」な税制改革や、低迷する出生率の回復を狙った刺激策など、さまざまな社会福祉政策の実施を提案した。
演説は、ロシアが直面する数々の問題をうかがわせる内容だった。家族を襲う貧困のほか、教育制度やインフラ、医療などの質の低下が垣間見えた。
ロシアの大統領を計20年間務めてきたプーチン氏は、こうした諸問題の多くを解決できずにいる。
むしろ今では、ロシアの国家予算の約4割が国防と安全保障に費やされている。
プーチン大統領の施策の多くは、かなりの額の資金投入や投資を必要とする。そしてロシアでは、予算が必ずしもしかるべき先にたどり着かないという深刻な汚職問題を抱えている。
しかしながらそうしたことは、今回の選挙にほとんど影響しないだろう。諸外国のほとんどのオブザーバーは、自由でも公平でもない選挙になるはずだと予測している。
投票に対する本物の熱意が国民の間にない状態で、代わりに他の候補たちの選挙動画がソーシャルメディアで話題になっている。どれも大げさに戯画化された内容で、いわゆる「ネタ」扱いされているのだが。
動画の中で共産党のニコライ・ハリトーノフ候補は、不安定な商品市場の最新ニュースを聞きながら、拳を握りしめて怒っている。「資本主義をしばらく試してみたが、もうたくさんだ!」と候補は宣言し、赤の広場を横切る。選挙に勝って、そのままクレムリンの主になるという想定だ。
もちろん、そんなことには決してならない。
別のビデオでは、ロシア自由民主党を率いる民族主義者のレオニード・スルツキー党首が主役だ。2年前に亡くなるまで30年間、同党を率いた故ウラジーミル・ジリノフスキー氏の事務所で椅子に座っていると、助手が机の上にあるジリノフスキー氏のネームプレートを交換しようとする。すると、「だめだ、そのままにしておけ!」とスルツキー氏が命令するという演出だ。
つまりこの動画は、主役はあくまでもプーチン氏で自分はわき役に甘んじることで大満足なのだと、そう表現しているに過ぎない。
ただひとつ興味深い展開になり得るのは、ユリア・ナワルナヤ氏からの提案だけだ。2月に獄死した野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻として、ナワルナヤ氏は夫が死んだのはプーチン氏のせいだと公言し続けている。
そしてナワルナヤ氏は有権者に向かって、17日正午に各地の投票所に押しかけ、だれでもいいのでプーチン氏以外の候補に投票するよう呼びかけている。
「私たちは存在する、そして大勢いるのだと示すために、投票日を使う必要がある」と、ナワルナヤ氏は動画で呼びかけた。
しかし、この運動は、実質的な変化の実現が目的ではなく、プーチン氏に反対する人同士が投票所で静かに仲間を見つけられるようにすることだと、ナワルナヤ氏が認めている。
3月18日にロシア国民が目覚めれば、プーチン氏が再選されたと知ることになるのは確実だ。
モスクワで祝賀集会に臨む大統領は、もしかして涙をぽろりと流すのかもしれない。2012年の大統領選の時はそうだったので。そして有権者に自分を信じてくれてありがとうと、熱弁するのかもしれない。
そしてこれから6年間、見せかけの民主主義がさらに続くのもほぼ確実だ。
●「ロシア大統領選挙の妨害狙ったもの」プーチン氏報復示唆 ウクライナ国境周辺で続く攻撃に 3/16
ロシア大統領選挙の投票が行われるなか、ウクライナとの国境周辺では砲撃などが続いていて、プーチン大統領は「選挙妨害を狙ったものだ」と非難し、報復を示唆しました。
ロシア大統領選は15日、全土で投票が始まり、一方的に併合したウクライナの4つの州でも選挙が強行されています。
大統領選にはオンラインを通じた電子投票が導入され、プーチン大統領も投票を行いました。
こうしたなか、ウクライナと国境を接するベルゴロド州などでは越境攻撃や砲撃などが続いています。
プーチン氏は15日、安全保障会議を開催し、「大統領選の妨害を狙ったものだ」と非難。「敵は必ず罰せられる」と述べ、報復を示唆しました。
●ロシア西部で越境攻撃 プーチン大統領「投票への妨害」と非難 3/16
ロシアでは、プーチン大統領が通算5期目を目指す大統領選挙の投票が、15日から始まりました。一方でロシア西部では、ウクライナ側からとみられる越境攻撃が続いていて、プーチン大統領は「投票への妨害だ」と非難し、ウクライナへの報復を示唆しました。
ロシアの大統領選挙には、プーチン大統領などあわせて4人が立候補し、15日、投票がロシア全土で始まり、17日までの3日間の日程で行われます。
ロシア国営テレビは日本時間の16日未明、プーチン大統領が電子投票で1票を投じた様子を伝えました。
今回の選挙では、軍事侵攻を批判する元下院議員などの立候補が認められず、通算5期目を目指すプーチン大統領の再選が確実視されています。
一方、ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州などでは、ウクライナ側からとみられる越境攻撃が続き、死傷者も出ているとロシア側は伝えています。
攻撃については、プーチン政権に反対し、ウクライナ側に立って戦うロシア人の義勇兵の組織が、越境攻撃を始めたと表明しています。
プーチン大統領は、15日、安全保障会議を開催し、2500人以上の兵士や戦車などによる攻撃だったとして「投票を妨害し、国境地帯の人々を脅すために、数多くの犯罪的な示威行為を実行しようとしている」と述べ、ウクライナによるものだと非難しました。
そのうえで「こうした敵の攻撃が罰せられないことはない」と述べて、ウクライナへの報復を示唆しました。
プーチン大統領としては、ウクライナ侵攻を含めこれまでの路線に国民の信任を得たと示すためにも、選挙で圧倒的な得票で勝利したい考えで、越境攻撃に対し強い態度で臨む姿勢を示しました。
各地の投票所で放火や投票用紙汚す行為 選挙への反発か
ロシアでは15日、大統領選挙の投票が始まった各地の投票所で、投票用紙を汚したり投票所に放火したりするなど、選挙への反発とみられる動きが地元メディアによって相次いで伝えられています。
このうち、首都モスクワの投票所では、女性が投票用紙を記入する台に放火したと伝えられ、監視カメラの映像からは女性が台に近づいたあと、台から火が出る様子が確認できます。
また、モスクワ市内の別の投票所では、投票用紙が投じられた透明な投票箱の中に、女性が緑色の染料とみられる液体を注ぐ様子が映っています。
こうした行為は、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクやシベリアの地方都市の投票所など各地で多発していると伝えられ、ロシアの中央選挙管理委員会は投票を妨害しようとした者は最長で5年の禁錮刑が科されると発表し、警告しています。
●ロシア大統領選 併合4州でプーチン氏への投票強制を懸念 3/16
ロシアでは15日から大統領選挙の投票が始まりました。
ロシアが併合したウクライナ4州ではプーチン大統領への投票が強制されることへの懸念も出ています。
15日に始まった大統領選挙の投票は、ロシアが一方的に併合したウクライナ東部ドネツク州など4つの州でも行われています。
AP通信によりますと、期日前投票の際には、銃を持った軍人と共に職員が投票箱をもって民家を回り投票を強制したり、投票しないと社会保障を受けさせないと脅したりするケースがあったということです。
占領地域において、今回の投票は、ロシアへの忠誠心を試すものだという指摘も出ています。
こうした中、ロシアメディアなどは、ウクライナ軍がロシア占領地域にある投票所を攻撃し死傷者が出たとも伝えています。
●ウクライナ支援で独仏に不協和音 “部隊派遣”発言で表面化 3/16
ロシアの侵攻を受けるウクライナへの部隊派遣の可能性に言及したマクロン仏大統領の発言に端を発し、フランスとドイツの不協和音が生じている。15日にはポーランドを加えた3カ国の首脳がウクライナに対する武器支援強化で「結束」をアピール。しかし、部隊派遣やドイツなどが開発した長距離巡航ミサイル「タウルス」提供の是非を巡り、独仏の隔たりは残ったままだ。
「今日の会談は、欧州の国々の間に相違があるという『悪意あるうわさ』がとても誇張されたものだと明確にしている」。ポーランドのトゥスク首相は15日、首脳会合後の共同記者会見で独仏の足並みの乱れを否定した。ショルツ独首相も、ウクライナ向けの武器と砲弾を世界各国から共同購入する計画や、経済制裁で凍結したロシア資産を武器購入に活用する方針で合意したと明らかにした。ただ、ウクライナへの部隊派遣には触れなかった。
独仏の不一致は、マクロン氏が2月26日、欧米諸国の部隊をウクライナに派遣するとの含みを持たせたことで表面化した。ショルツ氏は翌日、「欧州諸国や北大西洋条約機構(NATO)が派兵することはない」と明確に否定した。
するとマクロン氏は今月5日、訪問先のプラハでウクライナ支援について「臆病者にならないことが必要な時期が近づいている」と強調。部隊派遣を巡る自身の発言についても取り下げなかった。
マクロン氏の「臆病者」発言は、ショルツ氏がタウルスのウクライナへの供与に賛同していないことを当てこすったとの見方も浮上。ピストリウス独国防相は発言を「ウクライナ支援に関して、我々が抱える問題の解決の手助けにならない」と一刀両断にした。
約500キロの射程を持つタウルスが供与されれば、ウクライナはロシア国内の重要施設を攻撃する能力を高められる。ショルツ氏はロシア・ウクライナ間の戦闘に巻き込まれることを懸念し、供与を拒んでいる。
独仏関係がぎくしゃくする根底には、NATOなど多国間の枠組みを重視するショルツ氏と、安全保障面で欧州は米国依存から脱却すべきだとする「戦略的自律」を持論としてきたマクロン氏の違いもあると見られる。ロシアの脅威を受けながらも、両国が一枚岩となる見通しは立っていない。
●在キーウ活動家が予測するゼレンスキー大統領の年内退任と、ザルジニー前軍総司令官の大統領就任 3/16
ウクライナ戦争は2月24日で、3年目に入った。ウクライナ各地で民間人や軍施設への物資支援を行う、ウクライナ軍の内情にも詳しい活動家で、この度、来日したボグダン・パルホメンコ氏に現地での戦況や政権への見方を聞いた。
ザルジニー前総司令官に高い支持
── 戦争の長期化をどうみていますか。
戦争の対価があまりにも高すぎます。ウクライナ軍の兵士の数はすでに150万人くらいになっています。兵士として招集されたものの、国の財政悪化で装備品や軍服が支給されず、給料が未払いの兵士もいます。領土奪還への考えは理解できますが、ウクライナとして不可能な戦いをしていると言わざるを得ません。ゼレンスキー大統領への評価もここ1年くらいで大きく変わりました。ゼレンスキー大統領では停戦の話が出ない、ロシアと停戦交渉をするような気配が全くみえません。
── ウクライナ国内で政権への不満や批判が出ていると。
今回の戦争が始まった頃から、ウクライナには「二つの敵」があると思っています。一つはロシアという敵、もう一つはウクライナの汚職、腐敗という「内なる敵」で、これはソ連時代から続くものです。ウクライナはロシアという外敵には耐え抜き、パーフェクトに戦っています。しかし、二つ目はウクライナ内部の問題です。ウクライナ軍への支援資金が不正に使用され、例えば卵が市場価格の3倍で購入されたり、ゼレンスキー大統領が任命した前国防大臣の汚職問題などがあります。
ゼレンスキー大統領本人も、戦争が始まってから国民そっちのけで海外に向けた情報発信ばかりで、国内と海外の評価が全然違います。国内でデモも起こっています。ゼレンスキー大統領の「国民の僕(しもべ)」党の支持率は10%以下です。今年は新政権への動きがあり得ると思います。
反転攻勢の実情
── 23年6月からの反転攻勢は失敗と言われています。
ウクライナ国内での有力な説としては、反転攻勢をあのまま進めたら非常に多くの犠牲者が出る恐れがあったため、当時のヴァレリー・ザルジニー軍総司令官が反転攻勢に見せかけながら、人員を温存していた、という見方です。軍事支援は届くと言われて戦い続けていたら、兵員を失い、結局、ロシアに降参するしかなかった。アメリカはそれを意図し支援を出さずに反転攻勢させたが、ザルジニー氏はそれを分かっていた、という説です。
── ゼレンスキー大統領はザルジニー氏を更迭しました。彼に不満だったのでは。
そうです。国民からみると、ザルジニー氏の支持率は9割近くで、ゼレンスキー大統領の6割を上回っており、それが気に入らなかったのです。汚職もなく軍からも評価されるザルジニー氏と比べてゼレンスキー大統領はすべてを自分の手柄のようにみせています。このままいったら、民主主義と国民を守るという大義名分を持った独裁者になる可能性があります。国民がこのまま容認したら最終的にはプーチン政権のようになるので、どこかで政権交代という方向になると思います。
── 政権交代はいつごろに。
今年の10月あたり、ウクライナに何かが起きるかもしれません。ウクライナはだいたい10年周期で革命が起こり、その時期は9〜10月が多くみられます。農耕民族なので、種まきと収穫に影響がない時期なんですね。しかし、今の戦時下では地雷があちこちに設置され、戦争前のような種まきができる農家が少なくなっているため、もし政変が起こるとしたら従来よりも早い時期もあるかもしれません。今年中には何か起こると思います。
── その場合は、誰が新大統領になると。
今、ウクライナで濃厚な説は、前回の大統領選でゼレンスキー大統領に負けたペトロ・ポロシェンコ氏(2014〜19年の大統領)がザルジニー氏とタッグを組んで、政治経験のないザルジニー氏を後押しするというものです。
── ポロシェンコ氏は「チョコレート王」で、国内有数の富豪ですね。
富豪でオリガルヒですが、大統領として14年のドンバス紛争から兵士を支援してきたため、兵士からの支持は厚いと思います。
ロシアと接近する選択肢も
── プーチン大統領が米メディアとのインタビューで停戦交渉への関心を示しました。
ロシアは今回の戦争で、ウクライナをもう侵攻できない、侵略できないと分かったはずです。だから、今、停戦交渉をするべきなんですよ。プーチン大統領はあの発言を通して、ロシアの人たちへ、自分の後に大統領になり得る人に対して、停戦の準備を呼びかけたと思います。
── 停戦が実現したらウクライナはロシア人とどう付き合うのでしょうか。
ロシアとの関係はしばらく難しい。ロシアを許容できるウクライナ国民はいません。でも、最終的にはある程度、変わる必要があるとも考えます。ウクライナの勝利のパターンは、ロシアと仲良くすることかもしれません。そうすると欧米は焦ります。ウクライナは絶対ロシアとはくっつかないと思っていますから。もし、ウクライナが欧米をてんびんにかけようと思ったら、ロシアと近くなることです。
── ロシアから無人機やミサイルの攻撃が続く状況では、無理では。
ウクライナが全てを完全にひっくり返そうと思ったら、それしかないんですよ。EU(欧州連合)に対しては、ウクライナを支援しないんだったら、ロシアの兵隊をポーランドの国境まで行かせますと。ロシアに対しては、ちゃんと賠償金を払わないんだったら、ロシアとの国境にNATO(北大西洋条約機構)の核ミサイルを置かせますと。
── ザルジニー氏ならロシアとの関係に変化が出そうですか。
やると思います。なぜなら、彼はロシアのことを理解している部分もあるからです。だから、ロシアとの距離を近くするというのは、もしかすると一つのポイントになってくる可能性があります。私は別にロシアが好きになったわけじゃないですが。
●ウクライナで戦闘に加わったロ軍兵士、故郷に戻り無差別に13人殺害 3/16
ウクライナ戦争に従軍したロシア軍兵士が、帰郷後に自宅周辺で罪のない近隣住民を13人殺害したとして懲役20年が宣告された。ロイター通信など外信各社が15日(現地時間)に報じた。
ロシア第2西部地方軍事法院は前日、ロシア軍兵士のスタニスラス・イオンキン(23)に懲役20年を宣告したという。イオンキンは2022年11月、モスクワから北東に約370キロ離れたコストロマ市内のあるナイトクラブで酒に酔った状態で暴れ始めた。イオンキンは天井に向けて照明弾を発射して火災を起こし、13人が犠牲になったという。イオンキンの弁護士は「戦闘中の脳しんとうが犯行に影響した可能性がある」として容疑の一部を否定している。
イオンキンは2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻に兵士として戦闘に加わり、6カ月後の同年8月に砲撃で負傷したため自宅に戻ったが、それからわずか3カ月後に犯行に及んだ。検察は懲役16年を求刑し、イオンキンに授与された「勇気の勲章」の剥奪を要求した。イオンキンの受賞歴は今回の裁判で抹消されたという。
ロイター通信は「ウクライナ戦争から戻った一部兵士らによる暴行など、犯罪に関する報告が後を絶たず、ロシア政府も頭を抱えている」「彼らの多くは刑務所に服役していたが、従軍の見返りに早期に釈放された男たちだ」と伝えた。
実際にロシアでは戦争から戻った兵士たちが一般人に対して殺害や性的暴行など凶悪犯罪を起こす事例が相次いでいる。昨年は民間軍事会社ワグネルの兵士だったロソマキン(30)が地元の村に住んでいた高齢女性を暴行し殺害したとして逮捕された。ロソマキンは2019年に酒に酔った状態で女性を殺害し、路上で強盗を行ったとして懲役14年の刑で服役していたが「6カ月の従軍後に赦免」という条件で戦闘に参加した。
ロソマキンは自宅に帰るとすぐ酒に酔った状態で熊手、斧、ナイフなどを手にうろつき、「みんな殺してやる」などと言いながら日常的に周辺住民を脅迫していた。何の理由もなく駐車中の車の窓を割ることもあったという。最終的に自宅に戻ってから2日後に再び留置場に送られ、5日間拘留された後に再び殺人事件を起こした。
●ウクライナ南部オデーサにミサイル攻撃、20人死亡 「ダブルタップ」で被害拡大 3/16
ウクライナ南部の港湾都市オデーサにロシアのミサイル攻撃があり、ウクライナ当局の15日の発表によると、少なくとも20人が死亡、数十人が負傷した。オデーサで出た死者数としてはロシアの全面侵攻開始後で最多となった。
15日午前に最初のミサイルがオデーサを襲い死傷者が出た後、現場に駆けつけたウクライナの救急要員が2度目の攻撃に巻き込まれた。この攻撃方法は「ダブルタップ」と呼ばれ、2年以上続くウクライナでの戦争でロシアが使用し続けている。
オデーサ州救急当局の報道官はCNNに対し、「州内でダブルアタックが起きたのは初めてだ」と明らかにした。
現場に着いた第一対応者が直ちに消火に当たり、瓦礫(がれき)の除去や被害者の捜索を行っていたところ、2度目のミサイル攻撃があったという。救急隊員8人が死亡したことも明らかにした。
今回の攻撃はロシア各地で大統領選の投票が行われる中で発生した。選挙は慎重に演出されており、プーチン大統領の通算5選が決まるとみられている。
ウクライナ検察当局によると、死亡した20人のほかに救急隊員7人を含む少なくとも73人が負傷した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は夜の演説で、一連の攻撃を「唾棄(だき)すべき卑劣な行為」と形容。瓦礫の下敷きになった生存者の捜索が続いていると明らかにした。
「我が国の軍はロシアの殺人者に報復を思い知らせるため、あらゆる手を尽くすだろう」とも述べた。
オデーサはウクライナの穀物輸出にとって重要な港湾で、海軍の主要基地にもなっている要衝。ロシアによる攻撃が何カ月も続き、甚大な被害を被っている。
●ウクライナ南部オデーサにミサイル攻撃 少なくとも20人死亡 3/16
ウクライナでは15日、南部オデーサにロシアによるミサイル攻撃があり、地元の知事によりますと少なくとも20人が死亡し、75人がけがをしたということです。ゼレンスキー大統領は「非常に卑劣な攻撃だ」と強く非難しました。
ウクライナ軍によりますと、15日、南部の都市オデーサにロシアによるミサイル攻撃があり、オデーサ州の知事は、地元メディアに対し少なくとも20人が死亡し、75人がけがをしたと明らかにしました。
また亡くなった人のなかには、住民のほか救助隊員なども含まれているということです。
ウクライナ軍は、ロシアによる攻撃は、短距離弾道ミサイル「イスカンデル」によるもので、住宅10棟やガソリンスタンドなどが被害を受けたと発表しています。
ゼレンスキー大統領は15日、ビデオメッセージを公開し、攻撃は2発のミサイルによるもので、救助隊員や医師が現場に到着したときに2発目のミサイル攻撃があったとして「非常に卑劣な攻撃だ」と述べ、ロシアを強く非難しました。
そのうえで「ウクライナ軍は、ロシアの殺人者たちが正当な反応を感じるようにあらゆることを行う」と述べ、報復を誓いました。
15日には、ウクライナ西部ビンニツァ州でも、無人機による攻撃で住宅が破壊され、2人が死亡するなど、市街地への攻撃による犠牲者が相次いでいます。
●ロ軍がオデーサにミサイル 侵攻以来死傷者が最多93人 3/16
ウクライナ南部の港湾都市、オデーサがロシア軍のミサイル攻撃を受け、軍事侵攻が始まって以来最も多い、93人が死傷した。
ウクライナ非常事態庁は15日、“南部オデーサが2回にわたってロシア軍によるミサイル攻撃を受け、一般住宅やガスのパイプラインが被害を受けた”と発表した。
この攻撃で、市民や救助隊員など20人が死亡、73人が負傷し、地元メディアは軍事侵攻が始まって以来、オデーサ市では最も多い死傷者数だと伝えている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、“救急隊員と医師が現場に到着した際に2度目の攻撃を受けた”と主張し、「非常に卑劣な攻撃だ。わが軍が正当な対応としてあらゆる手段を講ずるだろう」と厳しく非難した。
●独・仏・ポーランド、ウクライナ支援で結束確認…武器供与の枠組み確立で一致 3/16
ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領、ポーランドのドナルド・トゥスク首相が15日、ベルリンで会談し、ロシアの侵略を受けるウクライナ支援での結束を確認した。
ショルツ氏は共同記者発表で、ウクライナへの長距離ロケット砲供与の枠組み確立に取り組むことなどで一致したと説明した。マクロン氏は「ロシアを勝たせないために必要なすべてのことを行う」と述べた。
マクロン氏は2月にウクライナへの欧米諸国の部隊派遣という選択肢を排除しないと発言し、ショルツ氏が反発していた。今回の会談は、ウクライナ支援での欧州の結束を確認する意味合いがあった。
●ウクライナ支援へ兵器調達 ドイツ フランス ポーランドが一致 3/16
ドイツ、フランス、ポーランドの3か国の首脳が会談し、弾薬不足に悩むウクライナへの軍事支援を強化するため、世界の市場でより多くの兵器を調達することや兵器の生産の拡大に取り組むことで一致しました。
ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領、それにポーランドのトゥスク首相は15日、ドイツの首都ベルリンで会談しました。
会談後の共同記者発表で、ショルツ首相は「共通の目標はウクライナがロシアの侵攻から自国を効果的に防衛できるようにすることだ」と述べ、ウクライナへの供与のため、世界の市場でより多くの兵器の調達を行うほか、ウクライナと協力して兵器の生産の拡大に取り組むことで3か国が一致したことを明らかにしました。
そのうえでヨーロッパで凍結したロシアの資産から得られる利益をウクライナの兵器の購入資金にあてる考えも示しました。
また、マクロン大統領は「われわれ3人が団結し、ロシアに負けず、最後までウクライナを支援するという決意を固めた事実は、ヨーロッパの安全保障の力にもなる」と強調しました。
ショルツ首相とマクロン大統領の間では、ウクライナへの軍事支援をめぐり立場の違いも明らかになっていますが、今回の首脳会談は結束を演出する形となっています。
●ロシア大統領選2日目 各地の投票所で反発とみられる動き相次ぐ 3/16
ロシアでは、プーチン大統領が通算5期目を目指す大統領選挙の2日目の投票が行われています。各地の投票所では、放火や投票箱に染料を流し込むなど、選挙への反発とみられる動きが相次ぎ、最終日の17日には、反体制派が抗議の意思を示す行動を呼びかけているため、政権側は警戒を強めているものとみられます。
ロシアの大統領選挙は、プーチン大統領など合わせて4人が立候補して3日間の日程で行われ、2日目の16日も投票が続いています。
ロシアの中央選挙管理委員会は初日の15日、有権者の36%以上が投票したと発表し、国営メディアは高い投票率が見込まれると伝えています。
今回の選挙では、軍事侵攻を批判する元下院議員などの立候補が認められず、通算5期目を目指すプーチン大統領の再選は確実視されています。
一方、各地の投票所では、建物の中で放火したり、投票箱に染料を流し込んで投票用紙を汚したりと選挙への反発とみられる動きが相次いでいます。
また先月死亡した反体制派の指導者、ナワリヌイ氏の妻、ユリアさんは、支持者に対し、投票最終日の17日正午に一斉に投票所を訪れて、プーチン氏以外の候補者に投票するなど、プーチン政権に抗議の意思を示す行動を呼びかけています。
これに対しロシアの当局は、投票妨害などにあたる行為は、処罰の対象になると警告していて、プーチン大統領の圧勝だったと演出したい政権側は反政権の動きが広がらないよう、警戒を強めているものとみられます。 
●ロシア大統領選17日開票、獄死したナワリヌイ氏の妻らは「反プーチンの正午」運動を展開 3/16
ロシア大統領選は17日に3日間の投票期間が終わり、開票が行われる。通算5期目の当選を目指すプーチン大統領(71)の大差での勝利が確実視されている。反体制派は17日正午に抗議の意思を示すよう国民に呼びかけている。
2月に獄死した反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻らは、17日正午に投票所に足を運ぶ「反プーチンの正午」という運動に参加し、プーチン氏以外の候補を選ぶか白票を投じるよう求めている。
プーチン政権は運動の広がりを警戒している。モスクワ市検察は15日、特定の時間を指定して投票所に集まることが「違法な集会」に該当すると警告した。露独立系選挙監視団体「ゴロス(声)」によると、選挙立会人に対し、投票所で3人以上が立ち止まった際に警察に通報するよう指示した州があるという。
15日には、ロシア各地で市民による抗議行動とみられる投票所への放火などもあった。
一方、国連安全保障理事会で15日、ロシアがウクライナの占領地で大統領選を強行していることを受けた緊急会合が開かれた。日米など約50か国が「ロシアによる非合法な大統領選」を非難する共同声明を発表した。
●開票前、プーチン氏に「祝意」=選択肢なし、強烈皮肉―EU大統領 3/16
「ウラジーミル・プーチン(ロシア大統領)の地滑り的な勝利を祝福したい」。
欧州連合(EU)のミシェル大統領は15日、同日投票が始まったロシア大統領選について、X(旧ツイッター)に投稿し、早くも「祝意」を表明した。開票は17日だが、反体制派が弾圧される中、プーチン氏の圧勝が確実視される情勢を強烈に皮肉った。
プーチン政権は政敵を封じ込め、圧倒的なプーチン氏の勝利を演出する構えだ。ミシェル氏は「反対なし。自由なし。選択肢なし」と批判した。
●ウクライナ、ロシア領への攻撃激化 プーチン氏圧勝を妨げる狙いか 3/16
15日に始まったロシア大統領選に合わせ、同国領へのウクライナ軍からの攻撃が激化している。砲撃やドローン(無人機)攻撃のほか、ウクライナ側で戦うロシア人部隊も攻撃への参加を主張している。ロシア側は「撃退した」としているが、投票最終日の17日に向けて緊張が高まっている。選挙はプーチン大統領の再選が確実視されている。
「投票を混乱させ、国境沿いの住人を威嚇するため、ロシア領の平和な集落を攻撃している」。プーチン氏は15日、国家安全保障会議でウクライナ側を批判した。
攻撃が激しくなったのは12日以降。プーチン氏は、ウクライナ軍が特殊部隊や外国人傭兵(ようへい)らを使い、ロシア南西部ベルゴロド州とクルスク州で計5回、侵入を試みたが、これらを撃退したと主張した。ロシア国防省もこの間、ウクライナ軍に550人以上の兵士と戦車16両などの損害を与えたと発表した。
●ロシア西部 越境攻撃で死傷者 ウクライナ北部 住民が集団退避 3/16
ロシア西部では、ウクライナ側からとみられる越境攻撃が続いていて、ロシア側は死傷者が出ていると伝えています。国境を接するウクライナ北部でも住民が集団で退避を始めたということで、国境地帯では戦闘が激しくなっているとみられます。
ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州などでは、ウクライナ側からとみられる越境攻撃が続いていて、ベルゴロド州の知事は16日、ミサイル攻撃で2人が死亡、3人がけがをしたと明らかにしました。
この地域に対しては、プーチン政権に反対し、ウクライナ側に立って戦うロシア人の義勇兵の組織が越境攻撃を始めたと表明していて、プーチン大統領は、前日の15日、ロシア大統領選挙に対する「ウクライナからの妨害行為だ」として、報復を示唆しました。
一方、ベルゴロド州などと国境を接するウクライナ北部のスムイ州の当局は、15日、ロシア側からの攻撃で少なくとも3人が死亡、13人がけがをしたと発表し、「緊迫した状況にある」としています。
攻撃を受けた地域の住民は、この3日間で180人以上が退避し、州内全体ではこれまでに22の集落から、4500人以上が退避を余儀なくされたとしていて、両国の国境地帯では戦闘が激しくなっているものとみられます。

 

●全土で投開票、プーチン氏5選へ 妨害や反体制派デモ―ロシア大統領選 3/17
ロシア大統領選(任期6年)は17日、3日間の投票の最終日を迎えた。極東カムチャツカ地方から締め切られ、最西端カリーニングラード州で17日午後8時(日本時間18日午前3時)に終了。プーチン大統領(71)の通算5選が確実視される中、即日開票で大勢が判明する。
2000年に大統領に就任して首相時代も挟み、通算4期目が満了するプーチン氏の新たな任期は30年まで。
3年目に入ったウクライナ侵攻で西側諸国と対立し、昨年3月17日に国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出された。今年2月に反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が獄死し、長期政権に内外から厳しい目が注がれている。
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島を含め、各地では15日以降、投票箱に緑色の液体が注ぎ込まれたり、記載台が放火されたりといった妨害が相次いだ。背景の政治信条は不明。侵攻前から散見される行為だが、社会不安が拍車を掛けた可能性もある。西部ベルゴロド州ではウクライナ軍による砲撃で死傷者が出た。
ナワリヌイ氏の支持者らは各地の17日正午、投票所に集結する事実上のデモを呼び掛けた。大統領選で初めて導入された電子投票は「親プーチン」の組織票を促して投票率と得票率を引き上げる一方、不正の温床と懸念されている。
●「プーチンは人殺し」=投票用紙に落書き、拘束―ロシア大統領選 3/17
15〜17日投票のロシア大統領選では、保守派の組織票を固めるプーチン大統領に対し、投票用紙に落書きして静かな抗議を試みるリベラル派の有権者が相次いだ。
「プーチンは人殺し」。ウクライナ侵攻や反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏獄死を念頭にモスクワでこう記し、警察に見つかって拘束された若者もいる。
ナワリヌイ氏の支持者らは、ロシア各地の現地時間17日正午に投票所に集結して「反プーチン」の民意を可視化することを狙っていた。無効票でも棄権でも自由。ただ、落書きは15日から多数報告された。
「ウクライナに平和を、ロシアに日常生活を」。独立系メディアは、国内の読者が落書きして自分で撮影した無効票の写真を紹介。「プーチンを(逮捕状を出した国際刑事裁判所がある)ハーグに」という主張もあった。これらは街頭でプラカードに記せば即座に摘発される文言だ。
●ロシア大統領選挙に「透明投票箱」…プーチン氏に入れるかプーチン氏に目を付けられるか 3/17
ロシアのプーチン大統領が5期目に挑戦する大統領選挙が議論の中、15日から3日間の日程で始まった。
AP通信など外信によると、今回の選挙には4人の候補が出たが、プーチン大統領を除いた残りの候補らの支持率がわずかな水準のためプーチン氏の当選が確実視される。したがって今回の大統領選挙の最大の関心事のひとつはプーチン氏の得票率が80%を超えるかだ。これまでの最高得票率は2018年に記録した76.7%だった。
一部外信は今回の選挙で透明な投票箱が使われたことをめぐり秘密選挙の原則が損なわれたと指摘した。内部が透けて見える透明の投票箱に投票用紙を折らずに入れなければならないためだ。実際にAP通信など外信が撮った写真を見ると、投票用紙が折られずに投票箱の中に入っており、だれに投票したのか確認できるほどだ。秘密投票ではなく公開投票をしている格好だ。
また、ロシアが2022年に新たに領土に編入したと主張するドネツク、ルハンシク、ザポロジエ、ヘルソンのウクライナ地域4カ所でも投票が行われ議論が起きている。ウクライナ外務省は声明を通じ「ロシアが一時的に占領した地域で実施する選挙は無効」と強調した。
プーチン氏が今回の大統領選挙で勝利する場合、2030年まで執権することになる。任期を終えると彼の執権期間は6年増え合計30年になる。これは旧ソ連のスターリン共産党書記長の29年の執権記録を超えることになる。
一方、ユーロニュースはこの日、ウクライナ侵攻を批判してきたロシア最大の民間石油企業ルクオイルのビタリー・ロベルトゥス副社長が急死したと伝えた。ロシアの一部メディアは自ら首を吊って死亡したと報じたがまだ正確な死因は公開されていない。同社はウクライナ戦争後の米国の経済制裁により苦しい状況に置かれていた。同社ではウクライナ戦争勃発後に最高経営責任者(CEO)、理事会議長ら経営陣3人が相次いで急死している。
●ロシア大統領選挙 投票最終日 政権側は反体制派の抗議に警戒か 3/17
ロシアの大統領選挙は、3日間にわたる投票が17日、最終日を迎え、日本時間の18日未明までに締め切られます。プーチン大統領の通算5期目の当選が確実視されている一方、反体制派は現地時間の17日正午にあわせて抗議の意思を示すよう呼びかけていて、政権側は警戒を強めているとみられます。
ロシアの大統領選挙には、プーチン大統領などあわせて4人が立候補していて、3日間にわたる投票は17日、最終日を迎え、日本時間の18日午前3時までに締め切られたあと、直ちに開票されます。
今回の選挙では、ウクライナへの軍事侵攻を批判する元下院議員などの立候補が認められず、プーチン大統領の通算5期目の当選が確実視されています。
一方、先月死亡した反体制派の指導者ナワリヌイ氏の妻のユリアさんや支援団体は、現地時間の17日正午にあわせてプーチン大統領以外の候補者に投票したり、投票用紙にナワリヌイ氏の名前を書いたりして、プーチン政権に抗議の意思を示すよう支持者に呼びかけています。
これに対し、ロシアの当局は、投票妨害などにあたる行為は禁錮刑を含む処罰の対象になると繰り返し警告していて、プーチン大統領の圧勝を演出したい政権側は、抗議の動きが広がらないよう警戒を強めているとみられます。
706人を選挙監視員に ロシア側一部の受け入れ認めず
ロシアの国営通信社によりますと、中央選挙管理委員会は15日、106か国の706人を選挙監視員として認定したと発表しました。
監視員は、選挙を実施する国の同意を得て各国や国際機関が派遣するもので、公正で民主的な選挙が行われているか、投票や開票作業などを監視します。
ロシアメディアなどは、今回、監視員は、アメリカや中国、中東のイラン、シリア、南米のウルグアイなどから訪れていると伝えています。
旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体によりますとベラルーシやカザフスタンなど各加盟国からも派遣されるということです。
また、ロシアの国営メディアは、今回、監視員は、ロシア国内だけでなくウクライナ東部や南部のロシアが支配する地域にも入っていると伝えています。
一方、外務省によりますと、今回日本からは監視員を派遣しないということです。
日本はこれまでもロシアで行われる選挙に監視員を派遣し前回6年前の大統領選挙ではロシア政治が専門の学識経験者と総務省選挙課の職員を派遣していました。
また、OSCE=ヨーロッパ安全保障協力機構はこれまでも監視員を派遣し、立候補の受け付けから、選挙期間中のメディアによる候補者の扱い、投票所や開票所の担当者が手順に従って作業を進めているかに至るまで監視し問題点を指摘してきました。
OSCEによりますと今回、ロシア側は監視員の受け入れを認めなかったということで「大変遺憾だ」とする声明を出しました。これに対してロシア外務省は「OSCEの監視がなくても国際監視活動の質は損なわれない」などと主張しました 。
●ロシア兵の戦闘意識を下げる作戦? 3/17
ウクライナとロシアの戦争が始まって丸2年が過ぎた。
その中で、ロシアは北朝鮮とより強い友好関係を結んでいる。北朝鮮では長い間食料不足が続いている。木の根であっても食べるくらいのレベルだ。ロシアは北朝鮮に食料を提供することの見返りに、殺傷能力のある武器類を北朝鮮からもらう。武器になる材料が足りなければ、北朝鮮に渡すまでしている。今更ここで書くこともなく、世界中が知っていることだ。
だが、ウクライナ側は、「北朝鮮製の武器は、武器の威力がない」と語り始めた。北朝鮮の飢えた国民が一生懸命作ったとしても、頭も体も満足に動かなければ不良品を出す率は高い。ロシアも納期までにいくらそれくれ! とノルマは出しているだろう。北朝鮮政府も、国民にそれを強いているだろう。武器の一部に1970年から80年代に作られたものも含まれていて作動しないという説もある。ノルマが足りなくて古い在庫があれば混ぜるのは当たり前かもしれない。
ただ、逆にウクライナが、北朝鮮製の武器に威力がないと喧伝することによって、ロシア兵たちが「俺たちはいったいなにをしているのか」「使えない武器で戦い、逆に殺されるかもしれない」など士気が下がるといった、心理戦ではないかという説もある。
もちろん、ロシアにもウクライナにも味方する国があるから、その各国の識者と呼ばれる御仁が色んなことは言う。だって、その御仁たちは、戦いには参加しないのだから。
北朝鮮の武器生産能力を見くびってはいけないという説もある。毎年大規模砲撃訓練を行っているだけに、レベルが低ければそこでバレているはずだということだ。
自国の強さを誇示するのと、生死なんかどうでもいい国民の食料の見返りの質とでは違いがあってもおかしくないとは思うが。
そんなことよりも、人には言葉がある。そろそろ、きちんとした話し合いを持って、愚かな戦争を臨終にしてしまう気はないのか。
●200年の中立を捨てスウェーデンがNATOに加盟 バルト海を“封じられた”プーチン大統領 次なる一手は“核の脅し”⁉さらに、期待する「トランプ氏の再選」 3/17
2月26日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟をめぐる採決が行われ、加盟が承認されました。スウェーデンはロシアのウクライナ侵攻を受け、200年超続いていた軍事的中立の立場を転換し、フィンランドと共にNATO加盟を申請していました。スウェーデンがNATOに加わったことで、ロシア海軍にとって要衝であるバルト海がNATO加盟国に囲まれることになり、ロシアへの抑止力を高めることにつながるとみられています。果たしてウクライナとの戦争に影響はあるのか?「読売テレビ」特別解説委員・高岡達之が徹底解説します。
ウクライナ戦争から2年、“軍事大国”スウェーデンがNATO加盟 
ロシアが支払う「高い代償」
「読売テレビ」特別解説委員・高岡達之「ウクライナの戦争が始まって約2年、全く終結の方向が見えていませんが、2月26日さらに世界情勢を揺るがす大きなニュースが入ってきました。予想されていたことですが、NATO(北大西洋条約機構)への加盟を申請していたスウェーデンの加盟を全加盟国が賛成したということです。『平和を愛する“軍事大国”』のスウェーデンがNATOに入ったということは、ロシアからすると『入られてしまった』ということになります。ロシアは大変高い代償を払うことになった、というのが今回の解説です」
高岡「世界がトップニュースにする理由は、スウェーデンは、200年以上『どこの陣営の味方もしない』中立の方針を続けてきましたが、それを切り替えて、NATO 陣営に入るということです。最後まで反対をしていたのがハンガリーです。それはハンガリーの悲しい歴史を見れば分かります。ハンガリーは、今NATOの加盟国ですが、ずっとスウェーデンの加盟に反対していました。ハンガリーは、今はロシアと接していませんが、ソ連時代はソ連に接していました。ウクライナの戦争が始まったとき『「ロシアには腹が立つし、抵抗して欲しいが勝てないだろう。だからロシアを刺激しない方がいい」とハンガリーの政治家たちはずっと言っていました。ハンガリーは1989年、旧ソ連が崩壊するまで30年近くに渡ってロシアの戦車によって自分たちの国を事実上占領されるような時代を過ごしました。ものすごく市民は戦って、たくさんの人が亡くなりました。アメリカが支援するといったのですが結局アメリカ軍は来ませんでした。今のウクライナと全くそっくりの流れでした。だからハンガリーは『ロシアを刺激しない方がいい』と言っていたのです」
高岡「そのハンガリーが、最終的にスウェーデンの加盟に合意をした理由について、ハンガリーの首相は、『とてつもない信頼をスウェーデンからもらった』と言っています。スウェーデンの民話に出てくる翼を持った架空の獅子『グリペン』の名を冠する戦闘機があるのですが、そのかなり新しい型をハンガリーに渡します。これはロシアにとってか大変な脅威です。この戦闘機は、機体が小型で、整備も3人でエンジンが交換できるほど簡単で、電子戦に強いものです。ロシアを想定してロシアに勝つために作られた戦闘機だといわれています。ロシアが得意なのは、色んな電波を使って相手をかく乱することですが、この戦闘機はロシアの能力をさらに上回るといわれています。例えば、1機しかいないのにロシアのレーダーには何機にも映るという技術を持っているといわれています」
高岡「また、この戦闘機は雪の中でも離着陸できます。雪の中の作業にも慣れています。しかも、スウェーデンの高速道路は幅17mに統一されていて全部滑走路になり、高速道路に離発着できます。そして、普通の戦闘機は1回作戦が終わると次まで3時間ぐらい準備がいるのですが、この戦闘機は最短10分でまた空に上がれます。そういった恐ろしいものをスウェーデンは作って、それを諸外国に渡すことで力を維持してきました」
高岡「もう一つロシアが嫌なのは『浮かんでこない潜水艦』です。ロシアとスウェーデンの間にはバルト海という海があります。日露戦争で有名なバルチック艦隊の名前はこのバルト海から来ています。このバルト海はロシアにとっては“自分たちの海”なんです。同時にスウェーデンはたくさんの小型の潜水艦を持っています。この小型潜水艦は浮かび上がらなくてもいいんです。普通ディーゼルエンジンだと空気がいるのですが、大きなバッテリーが開発されて、酸素も液体で積んでいるので、原子力じゃないのに上がってこない。そしてロシアの潜水艦の動きが筒抜けということになります」
高岡「さらに、スウェーデンはロシアの飛び地・カリーニングラードの真正面に細長い島『ゴットランド島』を持っています。ここはアニメ『魔女の宅急便』のモデルにもなった、大変穏やかで豊かで静かな島なんですが、ここにはグリペン戦闘機が悠々と離発着できる空港があります。現在、基地はありませんが軍人は居ます。スウェーデンはNATOに入ってしまったので、この島の空港の滑走路を伸ばしてアメリカ軍の大きな偵察機が降りられるようになったら、ロシアとしては全部筒抜けになるので、プーチン大統領としては、大変高い代償を払わされたということになります。ロシア軍を再配備するとなると大変なお金が掛かりますし、動員令までかけてウクライナに投入しているロシアの若い人をここへ持ってこないといけなくなります。ですので、この次に欧米が警戒しているのが『核の脅し』をまた言いだすのではないかということです」
プーチン大統領が期待するのは「トランプ氏の再選」⁉アメリカ大統領選へ介入の可能性も…
高岡「そんな中、やっぱりプーチン大統領はトランプ前大統領の再選を期待しているんだろうと思います。トランプ前大統領は、良い悪いは別にして現状を変えてしまう人です。この人はもともとNATO嫌いで有名です。どういう思い込みか知りませんが、『NATOはカネを出さない。なんで俺たちが守ってやらなければならないんだ』というのが自説の人です。2月にも『軍事費を払わないNATO加盟国は守らない。ロシアに好きに振る舞うように促す』とまで発言しています。プーチン大統領は『バイデン氏が勝つ方が望ましい』といっていますが、『バイデン氏は予測しやすい古いタイプの政治家だ。』とも言っています。ということはバイデン大統領が続投すると、結局はアメリカのウクライナ支援は変わらないということです。しかし、トランプ前大統領が大統領になればウクライナへの支援は止めるということです。『バイデン氏が勝つ方が望ましい』というのは裏返して、トランプ前大統領に勝って欲しいと解釈する専門家の方が多いわけです」
高岡「そうすると、アメリカでこれから警戒されてくるのが『ロシアのアメリカ大統領選への介入』です。ロシアは以前にもコンピューターやSNSを使って介入した疑惑があります。プーチン大統領は『是が非でもとなると何でもする人だ』といわれています。今後スウェーデンのNATO加入がどういう波紋を巻き起こすのでしょうか?」
●ロシア支配に抵抗、偽札まく 「クリミアはウクライナ」 3/17
ウクライナ南部クリミア半島でロシア編入の是非を問う住民投票が実施されてから10年となった16日、ロシア支配に抵抗するウクライナ女性の運動「ズラ・マウカ」の協力者が半島各地で「クリミアはウクライナ」と書かれた偽のロシア紙幣千枚以上をまいた。
ロシアの200ルーブル札を模したもので、色もデザインもそっくりだが、ウクライナ国旗や沈没するロシア軍艦が描かれている。ズラ・マウカの代表は取材に「クリミアに占領者の居場所ははない」と訴えた。
ズラ・マウカは2022年9月に始まった。100人ほどの女性が反ロシアのビラを配ったり、ロシア兵が買う酒に下剤を混入したりする活動を続けている。
●ロシアとウクライナの国境地帯で攻撃の応酬が激化か 3/17
ロシア西部ではウクライナ側からとみられる越境攻撃が続き、ウクライナ北部を含む国境地帯で双方による攻撃の応酬が激しくなっているとみられます。一方、ロシアの石油関連施設に対する無人機攻撃も相次ぎ、ウクライナメディアは、ロシアの経済力をそぐことをねらった、ウクライナ保安庁による攻撃だと伝えています。
ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州では、16日、ウクライナ側からとみられる越境攻撃が続き、地元の知事によりますと、少なくとも2人が死亡したということです。
一連の攻撃について関与を表明している、ウクライナ側に立って戦うロシア人義勇兵の組織は16日、SNSで声明を発表し、ロシアで投票が行われている大統領選挙を「茶番劇だ」と批判した上で、プーチン大統領の退陣などを要求しました。
また、ベルゴロド州と国境をはさんで接するウクライナ北部のスムイ州でも、15日にロシア側からの攻撃で少なくとも3人が死亡したほか、住民が集団で退避を始めたと地元当局が明らかにしていて、国境地帯で双方による攻撃の応酬が激しくなっているとみられます。
一方、ロシアの石油関連施設に対する無人機攻撃も相次いでいて、中部のサマラ州の知事は16日、地元にあるロシア最大の石油企業「ロスネフチ」の2つの製油所が攻撃を受け、このうちの1つで火災が発生したと明らかにしました。
ウクライナメディアは、ロシアの戦闘継続を支える経済力をそぐことをねらった、ウクライナ保安庁による攻撃だと伝えています。 

 

●ロシア大統領選 プーチン氏圧勝 “過去最高の得票率” 3/18
ロシアの大統領選挙は開票がほぼ終わり、プーチン大統領は得票率が90%に迫り、圧勝しました。
国営メディアは過去最高の得票率だと伝えていますが、欧米からは公正な選挙ではないという批判が相次いでいます。
今月15日から17日にかけて投票が行われたロシアの大統領選挙は、中央選挙管理委員会によりますと、開票率98%の時点で、プーチン氏は得票率が87.34%で、ほかの候補を圧倒して勝利しました。
国営メディアは、旧ソビエト崩壊以降のロシアの大統領選挙で最も高い得票率だとしています。
また、投票率は投票を締め切った日本時間の18日午前3時の時点で74.22%です。
首相時代を含めておよそ四半世紀にわたって実権を握り続けてきたプーチン氏は、大統領としては、通算5期目に入ることになります。
新たな任期は、2030年までの6年間です。
極東の中心都市ウラジオストクではプーチン氏の勝利を歓迎する声が聞かれ、このうち50代の男性は「プーチン大統領は国を正しい方向に導いてくれると思います。ウクライナの状況についても賛成しています。大統領に感謝しています」と話していました。
一方、今回の選挙では、各地の投票所で放火など選挙への反発とみられる動きや、先月、刑務所で死亡した反体制派の指導者ナワリヌイ氏の妻のユリアさんや支援団体の呼びかけで抗議の意思を示す投票も行われました。
欧米や人権団体などからは対立する主要な候補の立候補などが認められず、公正な選挙ではないという批判が相次いでいます。
プーチン氏は日本時間の18日朝に行った勝利宣言で「誰が私たちを威嚇し、抑圧しようとしても国民がまとまれば、成功することはない」と述べ、欧米との対決姿勢を改めて鮮明にしていて、選挙で圧倒的多数の国民から信任を得たとして、ウクライナへの軍事侵攻などこれまでの路線を続けるものとみられます。
“ウクライナ東部や南部4州でもプーチン氏 9割前後得票”
ロシアのプーチン政権は、軍事侵攻によって一方的に併合を宣言したウクライナ東部や南部の4つの州でもロシアの大統領選挙だとする活動を強行し、中央選挙管理委員会は開票の結果、プーチン大統領がそれぞれ9割前後を得票したと発表しました。
これを受けて、ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派の代表プシリン氏はロシア国営メディアに対し「プーチン大統領は、この地域の住民にとって、真の祖国の擁護者で、責任を恐れない人だ。その行動によってロシア全土を結束させた」などと述べ、地域の住民からも支持された結果だと主張しています。
ロシアがウクライナ東部や南部で大統領選挙だとする活動を行ったことについて、日本やアメリカなど55か国以上は共同声明で「国際法上、何の効力も持たない」として、ロシアを非難しています。
プーチン大統領 勝利を宣言
プーチン氏は、日本時間の午前5時半すぎ、首都モスクワ市内にある選挙対策本部で、支持者の前に姿を見せ「私たちは1つのチームで家族だ。この選挙は、国民からの信頼の結果だ。感謝する」と述べ、勝利を宣言しました。
また、ウクライナへの軍事侵攻について「特別軍事作戦における主導権は、ロシアにあり、日々前進している」と述べ、継続する考えを改めて示しました。
また、反体制派らがプーチン政権への抗議の意思を示す行動を実施したことについて「投票の呼びかけは称賛する。しかし影響は何もなかった」と述べ、効果はなかったとする見方を示しました。
そのうえで、各地の投票所で建物の中で放火したり、投票用紙を汚したりと選挙への反発とみられる動きが相次いだことを念頭に「投票用紙を台なしにした人は人々を混乱させるもので民主主義ではない。罰せられるべきだ」として、非難しました。
このほか、ロシアの反体制派の指導者ナワリヌイ氏が死亡したことについて「ナワリヌイ氏の死は悲しいことだ」と述べ、名前に言及し、死を悼む姿勢を示しました。
そのうえで、ナワリヌイ氏が死亡する前に、欧米側で拘束されている人と交換する交渉があったとして「私は同意すると言った。しかし、死亡し、できることは何もない」と述べました。
ナワリヌイ氏については、支援団体の幹部がナワリヌイ氏が死亡する前日、ドイツに収監されているロシアの元工作員の受刑者と交換し、釈放する交渉が最終段階にあったと主張していました。
さらに、ウクライナ侵攻をめぐりフランスのマクロン大統領が地上部隊の派遣の可能性を言及したことについて問われたのに対し「今の世界ではあらゆることがあり得る。これが第3次世界大戦の瀬戸際になりうる」と述べ、けん制しました。
一方、「ロシアは和平交渉に賛成しているが、敵の弾薬不足のためではない」と述べて、和平交渉に応じる構えを示しました。プーチン大統領は、これまでもロシアの安全保障を前提にした和平交渉に応じる構えを示していて、欧米側に揺さぶりをかけています。
北朝鮮メディア “キム総書記がプーチン大統領に再選のお祝い”
北朝鮮は18日、キム・ジョンウン(金正恩)総書記がプーチン大統領に再選のお祝いをおくったと、国営の朝鮮中央通信を通じて発表しました。
お祝いの詳しい内容は明らかにしていません。
プーチン大統領からは、キム総書記に先月、ロシア製の乗用車、アウルスが贈られ、国営メディアは、先週15日に初めて公開行事で使ったと伝えるなど、両首脳の蜜月ぶりは際立っています。
ロシア大統領府はことし1月、大統領選挙以降、プーチン大統領が北朝鮮を訪れるとの見通しを示しています。
ナワリヌイ氏の妻 ドイツロシア大使館の前で抗議
ロシアの大統領選挙の投票最終日となった17日、ドイツの首都ベルリンでは、在外投票が行われている現地のロシア大使館の前に、2月に死亡した反体制派の指導者ナワリヌイ氏の妻ユリアさんら多くの人が集まり、プーチン政権への抗議の意思を示しました。
ベルリンにあるロシア大使館の前には17日、在外投票に訪れた人たちの長い行列ができ、中にはプーチン政権の批判を続け、先月死亡した反体制派の指導者ナワリヌイ氏の妻、ユリアさんの姿もありました。
訪れた人たちは「ユリア。私たちは共にある」と声を上げて連帯を示したり「戦争をただちに止めろ」などとウクライナ侵攻に反対するシュプレヒコールを繰り返したりしていました。
ユリアさんや支援団体は、投票用紙にナワリヌイ氏の名前を書くなどして、プーチン政権への抗議の意思を示すよう呼びかけていて、ユリアさんは訴えに賛同する人たちから握手を求められていました。
ユリアさんは、多くの支持者らを前に「私と一緒に並んでくれてありがとうございました」と話し、プーチン政権への抗議の意思を示す行動に参加した人々に謝意を示しました。
またユリアさんは「ナワリヌイ」と書いて投票したことを明かしたうえで「大統領選挙の1か月前に、すでに投獄されていたプーチンの主要な政敵が殺害されることなどありえない」などと述べ、改めてナワリヌイ氏はプーチン政権によって「殺された」という認識を示し、強く非難しました。
投票に訪れた26歳の男性は「これまでの大統領選挙で在外投票にこのような長い行列ができたことはないと思います。ほとんどの人はプーチン氏に反対していると思います」と話していました。
また、25歳の女性は「プーチン氏は本当に悪い人物で多くの人の命を奪いました。ロシアで本物の選挙が行われないことをとても残念に思います」と話していました。
一方、ロシアの人権団体によりますと、投票を妨害したなどとして17日に国内21の都市で少なくとも85人が当局に拘束されたということです。
ヨーロッパ各地で抗議の声
17日、ヨーロッパ各地でプーチン政権に抗議の意思を示す集会などが開かれました。
このうち、フランスのパリでは、エッフェル塔前の広場におよそ80人の市民などが集まり、プーチン大統領について非合法な活動をしていると非難したり「ウクライナと連帯を」などと声をあげたりしていました。
このあと、参加者たちはプーチン大統領と違い「ロシア人は戦争に反対だ」などと書かれたプラカードを掲げながらパリ市内を行進しました。
また、イギリスのロンドンでは在外投票が行われている現地のロシア大使館前に大勢の市民などが集まり「ロシアに自由を。ウクライナに平和を」などと声をあげていました。
投票のために大使館を訪れたロシア人の女性は「ウクライナへの支持を示すため、ウクライナの国旗を身に着けて来ました。私はこの戦争に反対です」と話していました。
キーウ市民 “選挙は公正なものではない”
ロシアの大統領選挙でプーチン大統領が当選する見通しとなったことについて、ウクライナの首都キーウでは、市民から選挙は公正なものではないなどと指摘する声が聞かれました。
このうち63歳の男性は「武装した人間に『ここにサインしろ』と言われそうしない人がいるだろうか。民主主義の国に住む私たちには理解できない」と話し、選挙は当局の圧力のもとで行われたとして批判しました。
48歳の女性は、プーチン氏が9割近い得票率を得たとされていることについて「そんなのはうそだ。ありえない。ロシア国民は彼のことを恐れているのだ」と話していました。
その上で「ロシアで変化が起きることを信じている。革命のようなものが必要だ」と話し、ウクライナへの軍事侵攻を正当化しているプーチン政権を終わらせる必要があると主張しました。
また、23歳の男子学生は「あまり注目していなかった。私たちにとっては、アメリカ大統領選挙のほうが関心がある」と話し、ウクライナへの軍事支援が1つの争点となる、ことし11月のアメリカ大統領選挙のほうが重要だという見方を示しました。
ゼレンスキー大統領 “正当性などあるはずがない”
ロシアの大統領選挙でプーチン大統領が当選する見通しとなったことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は17日新たな動画を公開し「この選挙まがいの行為に正当性などあるはずがない」と述べ、選挙に正当性はないと非難しました。
そして「この人物が、ただ権力に溺れていて、永遠の支配を手にするためあらゆる手段を講じているということを、世界中の誰もが理解している。個人的な権力を長引かせるために、悪事を尽くしている」と述べたうえで、プーチン大統領は戦争犯罪で裁かれるべきだという考えを改めて示しました。
ホワイトハウス NSC “選挙 自由でも公正でもない”
アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議の報道官は17日、声明で「結果は驚くものではなかった。プーチン氏が政敵を投獄し、対立候補が立候補するのを妨げてきたことを考えれば、選挙が自由でも公正でもないことは明らかだ」としました。
イギリス キャメロン外相「自由で公正な選挙とは言えない」
ロシアの大統領選挙について、イギリスのキャメロン外相は17日、SNSに投稿し「ロシアで投票が締め切られた。 ウクライナ領内で違法に選挙が実施された。有権者の選択肢は限られ、独立した監視もなかった。これでは自由で公正な選挙とは言えない」として、軍事侵攻によって一方的に併合を宣言したウクライナ東部や南部でも選挙だとする活動を強行したなどとして、選挙の正当性に疑問を示しました。
ヨーロッパ各国から批判相次ぐ
ロシアの大統領選挙について、ヨーロッパの各国からは批判が相次いでいます。
このうち、G7=主要7か国の議長国、イタリアのタヤーニ外相はXへの投稿で「ロシアの選挙は、自由でも公正でもない。選挙は不法に占領されたウクライナの領土でも行われた」と批判しました。
またドイツ外務省はXへの投稿で「偽の選挙であり、誰も結果に驚きはしない。プーチン大統領の統治は権威主義的で、検閲と抑圧、暴力に頼っている」と指摘しました。
ポーランドの外務省もホームページで声明を発表し、「ロシアでは、ロシア側が、大統領選挙だとする選挙が実施された。ウクライナの一時的な占領地域で選挙を実施するというクレムリンの不法な決定は、特に非難に値する」と強く批判しました。
林官房長官“ウクライナ国内でも『大統領選挙』認められない”
林官房長官は、午前の記者会見で「わが国としてロシアで実施された選挙についてコメントすることは差し控えたい」と述べました。
そのうえで「ロシアは違法に併合したウクライナ国内の地域でも、いわゆる『大統領選挙』を実施したとしているが、明らかな国際法違反で決して認められない。1日も早くウクライナに公正かつ永続的な平和を実現するべく、国際社会と連携して厳しい対ロ制裁と強力なウクライナ支援にしっかり取り組んでいく」と述べました。
北方領土の元島民 “交渉の進展を”
ロシアの大統領選挙でプーチン大統領が圧勝したことを受けて、北海道の根室市に住む北方領土の元島民からは領土問題の解決に向けて交渉の進展を望む声が聞かれました。
歯舞群島の勇留島出身で千島歯舞諸島居住者連盟 根室支部の角鹿泰司 支部長(86)は、プーチン政権継続の是非について明言を避けました。
そのうえで、ロシアが一方的に中断すると表明した北方領土問題を含む平和条約交渉について「プーチン大統領は安倍元総理大臣とも20回以上にわたり会談をしているので、交渉を続けるうえでは北方領土問題をよく知っているのだと思う」と話していました。
そして「今生きている元島民は一日でも早く島に渡って墓参がしたいと願っている。このままこう着状態を続けるのではなく日本とロシアの双方が打開のために声をかけ合ってほしい」と話していました。
プーチン氏とは
ウラジーミル・プーチン大統領は、71歳。
大学で法律を学んだあと、旧ソビエトの治安機関、KGB=国家保安委員会に所属し情報工作員として旧東ドイツなどでも諜報活動にあたりました。
ソビエトの崩壊後、ロシア第2の都市で生まれ故郷のサンクトペテルブルクの副市長をつとめた後、大統領府の副長官やFSB=連邦保安庁の長官を歴任し、1999年、当時のエリツィン大統領に首相に抜てきされました。
この年、南部チェチェン共和国の武装勢力に対して軍事作戦を行い、その断固とした姿勢が国民に広く支持されました。
この年の12月31日に任期の途中で突然辞任を表明したエリツィン大統領から大統領代行に指名され、翌2000年の選挙で初めて当選を果たし、大統領に就任しました。
大統領就任後は「強いロシアの復活」を掲げてソビエト崩壊後の混乱した政治と経済の立て直しをはかり、国益を前面に押し出した外交を進めました。
3期連続で大統領を務めることが憲法で禁じられていることから、2008年の選挙では側近のメドベージェフ氏を後継者に据え、自身は首相に就任して影響力を持ち続けました。
そして、2012年、プーチン氏はメドベージェフ氏とポストを交換する形で大統領に復帰しました。
この選挙でプーチン氏は、64.2%の得票率で当選しましたが、前年12月の下院議会選挙での政権側による不正疑惑をきっかけに、かつてない批判の声にさらされ、勝利を宣言した際には涙を流す場面もありました。
2012年からは大統領の任期が1期4年から6年に延長され、プーチン氏は2018年に行われた選挙でも当選しました。
ウクライナを巡っては、2014年に南部クリミアを一方的に併合したのに続き、2022年2月に全面的な軍事侵攻に踏み切りました。
軍事侵攻に対して欧米側などは激しく非難し制裁を科しているほか、ICC=国際刑事裁判所は戦争犯罪の疑いでプーチン大統領に逮捕状を出しています。
プーチン氏は、これまで20年余りにわたって実権を握り続けてきましたが、4年前に憲法が改正され、2036年、83歳まで続投することが可能となっています。
●プーチン大統領、圧勝で5選 87%超、史上最高得票 3/18
ロシア大統領選は17日夜(日本時間18日未明)に開票され、中央選挙管理委員会の開票率約99%の暫定集計で現職のウラジーミル・プーチン大統領(71)が87.33%を得票して他の3候補を圧倒、通算5選を決めた。プーチン氏はモスクワの選対本部で「国民の信頼に感謝する」と勝利宣言。ウクライナ侵攻を目的達成まで続けると明言した。
2000年の初当選以来、政治の実権を握り続けてきたプーチン氏の任期はさらに6年延びて統治期間は30年となるが、投票妨害など一部で政権への反発もうかがわれた。長期化する侵攻の今後の展開や日米欧との厳しい対立が続く外交、制裁下の経済強化などが新たな任期の焦点となる。
プーチン氏の得票数は7400万票を超え、自身が前回18年の選挙で達成した約5642万の史上最高得票を上回った。
プーチン氏は22年2月に開始した侵攻を「国の独立と安全を確保する戦い」と正当化。政権は高い得票率を侵攻への「信任」とみなし、軍事力を強化して欧米との対決姿勢を強める構えだ。
●プーチン投票で宝くじ!? 仕事よりも選挙、SNS投稿を義務化、ロシア大統領選は国家ぐるみの強制投票 3/18
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の5選が決まった。中央選挙管理委員会の集計からみると、最終的な得票率は85%以上に達する可能性がある。しかし、今回、初めて3日間の投票期間が設けられたロシア大統領選挙は、民主主義国家で行われているような公平・公正な選挙ではない。ウクライナ侵略を始めたウラジーミル・プーチン大統領を、あたかも民主的に選ばれたかのように装い、国家ぐるみで5選を強行させるロシアの「儀式」だろう。
反戦派の候補の出馬は許されず、プーチン氏以外の候補者は「体制内野党」と政党候補者ばかり。プーチン氏の圧勝が約束されているのに、政権はあの手この手で有権者にプーチン氏への投票を強制する。いったい何故なのか。
プーチンに投票すればくじに当たりやすい
今回の選挙でも、日本や欧米諸国のような民主主義国家では信じられないような「選挙」の実態が明らかになった。
プーチン体制下にも、公明正大な選挙が行われるよう投票所などの動きをチェックしている独立系の選挙監視団体がある。
2000年に設立されたNGO「ゴロス」(ГОЛОС、ロシア語で「声」を意味する)。これまであらゆる国政選挙の監視活動を行い、不正が横行するプーチン体制の選挙の実態を告発してきた。
ゴロスの共同代表のスタニスラフ・アンドレイチュク氏は今回の大統領選投票が始まる前に声明を出し、「33年前のソ連邦崩壊以来のロシアの歴史の中で最も透明性の低い」選挙と糾弾した。
ゴロスは特設サイトにホットラインを設けて、有権者に今回の選挙の「違反」を告発するよう呼び掛けている。寄せられた情報には、プーチン氏を高得票率で当選させようとする政権の各国営企業などへの圧力や、民主的選挙とはいえない、とんでもないような投票強制の実態が明らかになっている。
テレグラムのSOTAは南部ヴォロネジ州の航空製造会社が従業員に対して、投票すれば「手当」を出すことを確約する呼びかけを行ったと伝えた。内部文書によれば、投票日の平日は正午に帰宅できるとし、投票した従業員に対しては、空軍博物館への旅行があたる抽選会へのくじを付与するという。ただし、そのくじは「投票所にある投票用紙をスマホで撮影した写真」に基づいて、発行されるのだという。
当選のからくりは詳しく明らかにされていないが、投票用紙にプーチン氏を投票すれば、くじが当たりやすくなることをにおわせているようだ。
同様に、中部トムスク州では投票率を挙げる仕組みとして、投票した有権者に「エメラルドハート」宝くじを付与することが行われている。初日の15日に投票した人は3回、宝くじに参加でき、最終日の17日に投票した人は1回しかできない。情報提供者は「3月15日に投票率を上げることを目的としたイベントだ」と指摘する。
クルガン州では、この選挙に「家族に春が来た」という宝くじキャンペーンが行われており、投票者に「スマートフォン、スクーター、家電、車、さらには市内のアパート」などが当たるという。
ロシアでは投票所やその近くに選挙運動資料を置くことが禁止されている。
中部バシコルスタン共和国タトリバエヴォの投票所では、投票箱の上に地元の首長とプーチン氏の写真が並んで掲載されている。人々は投票する際に記念撮影をすることも許されており、この地区では投票を済ませた有権者たちが次々に「投票箱の上にあるプーチン」写真をSNSに挙げている。
こうした事例は、公的施設が投票所に使われているためで、そもそもそうした施設にプーチン氏の写真が掲げられ、投票が始まっても撤去されなかったことが原因とみられる。ゴロスのサイトには、北部ムルマンスク州選管が公式声明で投票所のプーチン写真は国家の象徴であり、違法な選挙活動ではないと判断したとも伝えている。
「反対運動」を摘む圧力
プーチン政権は今回、投票率70%、得票率80%という高い目標を設定し、戦争を継続するプーチンのロシアが一枚岩であることを見せようとしている。
投票率を上げる最も効率いいやり方が、全労働者数の3割を占めるとされる公務員や公共インフラの従業員に投票を強要することだ。これまでのロシアの選挙でも公的機関の上司らに投票と投票した証拠を提出するよう強制された実態がゴロスによって明らかになっている。
反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(2月に獄中死)のグループは、プーチン体制に抗議するため、3日目の17日に正午に投票所に集合し、プーチン大統領以外に投票しようと呼びかけた。「正午の反プーチン」キャンペーンだ。
しかし、政権側は有権者の3割、4割(3000万〜4000万人ほどか?)とされる公務員と、国営企業の従業員に初日の15日正午までに投票を義務付けたようだ。「正午の反プーチン」ならぬ「投票第1日の親プーチン」だ。
ゴロスにもその実態が告発されている。
中部サマーラ州の「社会保障局」では初日の15日正午まで従業員全員に投票することを強制、2日目の16日、3日目の17日に投票することを認めないと命じた。従業員は投票所からの写真を撮って、ハッシュタグをつけてSNS上の公開することも強要され、さらに投票に行かなかった人はボーナスをはく奪することも示唆されているという。
ゴロスは各州や地方自治体などの公的機関がソーシャルネットワークを利用して、プーチン大統領を支持するキャンペーンを行っていると指摘している。投票前の3月14日に外務省のSNSがプーチン大統領の演説を掲載したことを問題視している。公的機関が、ほかの3人の候補者の演説をSNSで紹介した例はないからだ。
その結果、シベリアの各地域では2日目が終わった時点で、投票率が90%を超えた地域が続出した。異例の結果にはこうした圧力がかかったことをうかがわせる。
当局は「正午の反プーチン」の動きにも目を光らせた。
東部ブラゴベチェンスクでは「正午の反プーチン」を動画上で呼びかけた少女が5日間拘束されたという。同様に西部レニングラード州でもSNSで呼びかけた女性が一時拘束された。この女性は「軍の信頼を傷つける」ことが拘束理由と示されたという。
実際には17日正午に多くの列ができた。反プーチンの支持者が可視化された。
今回の選挙で出馬を断念させられた反戦派のボリス・ネデジュディン氏の支持者が、この陣営のバッジをつけて出口調査に参加したことを口実に第2の都市サンクトペテルブルクで拘束されたとの情報もある。
プーチン政権も政変を恐れている
プーチン政権がこうした圧力をかける理由は、過去の歴史的政変やこれまでの反プーチン運動の教訓があるからだ。
1917年のロシア革命や91年のソ連邦崩壊は人々の生活上の不満が政権打倒へと向かい、雪崩を打つようにして全土的なうねりとなり起こった。
今もこうした政変が起こりかねないリスクがあることは間違いないだろう。
2022年に始まったウクライナ侵略では、強権的な姿勢を強めており、「反戦」を訴えただけでも投獄されるリスクがある。プーチン政権としてはなんとしてでも、戦争を勝利に導き、政権維持を図りたい。そのため、反プーチン派をそれぞれ孤立させて、小さな芽のうちに摘む弾圧を実践している。
そもそも、選挙では有権者への強制をしなくても、現下の国内情勢では、プーチン氏が当選することは確実だろう。こうして、必要以上に投票率やプーチン氏への得票率を高めようとする姿勢そのものが、一歩間違えば政変が起こりうるリスクが高いと政権が判断している表れではないだろうか。
ゴロスが明らかにした今回の選挙「不正」の実態は、その説を裏打ちしているようにも思える。
有権者の声を擁護しようとするゴロスの姿勢を、プーチン政権は嫌い、米国から資金援助を受けていたことを口実に、12年、「外国のスパイ」(Иностранный агент)を意味する「外国の代理人」に指定。組織に罰金刑を加えたり、メンバーを拘束するなどしてきた。
こうした姿勢に、ゴロスは1988年に欧州議会が創設した「思想と自由のためのサハロフ賞」を授与されている。英紙テレグラフはゴロスについて「(クレムリンの)詐欺と脅迫の試みを明らかにして、目録を作ることができる数少ない組織のうちの1つ」としている。
●プーチン氏が圧勝 30年まで5期目就任へ―ウクライナの占領地でも強行・ロシア大統領選 3/18
6年の任期満了に伴うロシア大統領選は17日、全土で3日間の投票が終了して即日開票され、中央選管の暫定集計結果(開票率98%)によると、ウラジーミル・プーチン大統領(71)が約87%の得票率で通算5選を確実にした。プーチン氏はモスクワの選対本部で「われわれは一つのチームだ」と国民に謝意を示し、勝利を事実上宣言した。
全ロシア世論調査センターの予想得票率82%を上回る圧勝。投票率は約74%だった。
プーチン氏は2000年に大統領に就任し、首相時代を挟んで現在通算4期目。就任式は5月で、新たな任期は30年まで。
3年目に入ったウクライナ侵攻で西側諸国と対立を深め、昨年3月には国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状を出された。今年2月に反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が獄死。強権体質の政権長期化に、内外から厳しい目が注がれている。
選挙は占領下のウクライナ東・南部4州でも強行された。プーチン氏の得票率は「90%前後」とされるが、西側諸国などは「無効」として認めていない。
●各国のロシア大使館前で反プーチン運動 大統領選最終日に行列 3/18
ロシア大統領選の投票最終日となった17日、ウラジーミル・プーチン大統領の続投に向け仕組まれた選挙だと抗議する人々による「反プーチンの正午」運動が各国のロシア大使館前で行われた。先月死亡した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワルナヤ氏も、ドイツ・ベルリンで参加した。
ナワリヌイ氏の支持者は、17日正午に投票所に集まり、プーチン氏への抗議を表明するようロシア人に呼び掛けた。
ベルリンのほか仏パリ、オランダ・ハーグ(The Hague)、米ワシントン、トルコ・イスタンブールなど各地のロシア大使館前では、同国の野党を象徴する青と白の服を身に着けた有権者らが政権批判のプラカードやウクライナ国旗を掲げ、プロテストソングを歌う姿が見られた。
ベルリンでは、「ユリア、ユリア、私たちはあなたと共にある」とシュプレヒコールが上がる中、ナワルナヤ氏は投票に臨んだ。投票後、「もちろんナワリヌイと書いた」と語った。
パリでは、数千人が大使館前に列をつくった。
エリート養成機関のパリ政治学院で要職に就き、ナワリヌイ氏と親交があったセルゲイ・グリエフ氏は、パリ在住歴が長いが「これほどの行列は見たことがない」と話した。多数のロシア人がプーチン氏に反発しており、投票では不正が行われているのは明らかだと指摘した。
ただ、すべての有権者がプーチン氏の再選に反対しているわけではない。
パリ在住のロシア人男性は、「どうしてプーチンに反対できるのか」「彼は世界を救っている」との考えを示した。教師の女性も「史上最高の大統領だ」と語った。
●プーチン氏、圧倒的勝利でロシア大統領5選 アメリカの民主主義をあざける 3/18
ロシア大統領選挙で17日、ウラジーミル・プーチン大統領が政府寄りの3候補者を相手に地滑り的に勝利し、5選されることが確実となった。
選挙管理当局は、プーチン氏の得票率が87%を超えたと発表した。プーチン氏は、ロシアの民主主義は西側の多くの国のものより透明性が高いと述べた。
ただ現実には、今回の選挙で本来の意味での対立候補は1人も立候補を認められなかった。
プーチン氏を厳しく批判していた故アレクセイ・ナワリヌイ氏の支持者らは、象徴的な抗議活動を展開した。
「反プーチンの正午」と名付けられたこの抗議活動では、モスクワやサンクトペテルブルクなどの国内都市や、諸外国のロシア大使館の前で、有権者らが長い列を作った。だが、選挙結果に影響は及ぼさなかった。
人権監視団体「OVDインフォ」によると、今回の選挙では少なくとも80人のロシア人が拘束された。投票初日の15日には一部の投票所で妨害行為があったが、その後にそうした行為はみられなかった。
西側各国はそろって、今回の大統領選を自由でも公正でもないと非難した。ドイツは、検閲、弾圧、暴力を利用する権威主義的な支配者の下での「擬似選挙」だと批判した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「ロシアの独裁者はまたしても、選挙をしたふりをしている」と述べた。
故ナワリヌイ氏の盟友で、亡命先のリトアニアにおいて先週、肉用ハンマーで襲撃されたレオニード・ヴォルコフ氏は、「プーチンの得票率は、もちろん現実とは何一つ関係ない」とコメントした。
ロシア各地の有権者は3日間、投票が可能だった。ロシアが占領しているウクライナの地域では、さらに長い投票期間が設定され、当局が住民らに投票を働きかけた。
報道などによると、占領下のウクライナの都市ベルディアンスクで17日、選管職員1人が殺害された。住民らは、親ロシアの協力者らが投票箱を持って、武装兵士を連れて家々を回っていたと話した。
当局によって慎重にコントロールされている国営テレビ局は、今回の選挙結果を勝利だとたたえた。
記者の1人は、「ウラジーミル・プーチンという人物を中心とした、驚異的なレベルの支持と団結だ」、「西側諸国にシグナルを送るものだ」と興奮状態で伝えた。
プーチン氏は当選が確実になった後、記者団からの質問に答え、控えめな態度を見せた。ただ、ロシアの大統領選はアメリカよりはるかに進んでいると称賛し、800万人が投票したとされるオンライン投票の活用に言及した。
今回の選挙ではプーチン氏自身もキーボードを押してオンライン投票し、その様子が映像で紹介されていた。
「透明性があり、完全に客観的だ」とプーチン氏は述べた。「票を10ドルで買えるアメリカの郵便投票とは別物だ」。
プーチン氏はまた、有権者にこぞって投票するよう呼びかけた反政権派の運動家らをたたえる余裕も見せた。一方で、投票を妨害しにした人々を非難し、相応の措置が取られるとした。
プーチン氏はこの日、自らのことを強く批判してきたナワリヌイ氏の名前を初めて口にした。ナワリヌイ氏は先月、北極圏の刑務所で死亡した。
プーチン氏は、ナワリヌイ氏の殺害を命じたとの疑惑を打ち消そうとしてか、西側で収監されているロシア人とナワリヌイ氏の交換を検討していたとの報道について、正しいと認めた。ナワリヌイ氏が二度とロシアに戻らないことが条件だったという。
「私は賛成だと言ったが、残念なことに、ああいうことが起きてしまった。どうしようもない。それが人生だ」
ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワルナヤ氏は、抗議の投票活動として、ドイツ・ベルリンのロシア大使館の前で6時間並んだと話した。投票用紙には亡き夫の名前を書いたとし、集まった人々について、「すべてが無駄ではないという希望」を与えてくれたと称賛した。
イギリス・ロンドンで抗議の投票をした1人は、票を投じるために7時間以上並んだと話した。
ロシアの大統領選は決して公平ではなかった。クレムリンは政治制度、メディア、選挙を、厳しい統制下に置いている。
共産党の候補ニコライ・ハリトーノフ氏の得票率は4%強だった。他の候補はさらに低い得票率だった。
対立候補3人は誰も、実質的な選挙運動をしなかった。ハリトーノフ氏は選挙前、プーチン氏を称賛すらしていた。
ハリトーノフ氏は、「(プーチン氏は)すべての地域での勝利を目指して、国をまとめようとしている。これは実現するだろう」とBBCのスティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長に話した。
何百万人ものロシア人が通算5期目を迎えるプーチン大統領に投票したのは、他にまともな選択肢がなかったのも理由の一つだ。
ただそれは純粋に、挑戦者となる可能性がある人物をクレムリンが政界から排除してきた結果だ。反政権派は、投獄されるか、国外に逃れるか、命を落とすかしている。
一時期、ウクライナ侵攻に反対する政治家ボリス・ナデジディン氏の立候補が認められる可能性が取り沙汰されていた。しかし、同氏のメッセージに共感し、支持を表明するロシア人が増えるなか、選管は先月、同氏を選挙から排除した。
●プーチン氏が勝利宣言 ウクライナ侵攻継続の姿勢を改めて示す 大統領選挙 3/18
開票が進むロシア大統領選挙で、プーチン大統領が17日、勝利を宣言しました。次の任期の主要課題もウクライナでの軍事作戦だと述べ、侵攻継続の姿勢を改めて示しました。
プーチン大統領「国民の信頼のもと、すべての任務を確実にこなし、すべての目標を確実に達成するために全力を尽くす」
プーチン大統領は17日、自身の選対本部で勝利を宣言し、「私の勝利でロシアはより強くなれる」と述べました。
71歳のプーチン大統領は5期目の当選となり、憲法上、2036年、83歳まで続投が可能です。
また、演説の中で、ウクライナでの軍事作戦の目標達成が、次の任期中の主要な課題だと表明しました。戦場ではロシア軍が主導権を握っていると自信を示し、侵攻継続の姿勢を改めて強調した形です。
また、先月死亡した反体制派指導者・ナワリヌイ氏の名前を呼ぶ異例の発言もありました。その死について、「悲しい出来事だ」とした上で、死亡前、囚人交換での釈放に合意していたと明らかにしました。
17日正午には、ナワリヌイ氏陣営の呼びかけで市民が各地の投票所で抗議行動をしましたが、プーチン大統領は、「効果はなかった」と、気にしていない姿勢を見せました。
●ロシア大統領選、プーチン氏の圧勝確実 30年間の支配固め 3/18
ロシアで行われた大統領選挙で、現職のウラジーミル・プーチン大統領の圧勝が確実になった。ロシア中央選挙管理委員会の17日の発表によると、開票率約50%の時点でプーチン氏の得票率は87.3%となっている。
旧ソ連の独裁者スターリン以来、最も長く政権の座にとどまり続けているプーチン氏の支配は、これで少なくとも同氏が77歳になる2030年まで30年間にわたって続くことになる。
対立候補はほとんどが死亡、投獄、亡命、または出馬を阻まれている。22年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、反体制派は実質的に非合法化され、プーチン支配に対抗できる勢力は存在しない。
プーチン氏は17日遅く、陣営本部で演説を行い、選挙で国民の団結が強まったとして勝利を宣言。今後も西側に対抗し続ける姿勢を鮮明にし、「相手がどれほど我々を脅かそうとしても、我々の意思や意識を抑圧しようとしても、歴史上、それができた者は誰もいない。現在も未来も、そうしたことは決して起きない」と力説した。
勝利演説の中でプーチン氏は、これまでの前例を破り、2月に獄中死した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏に言及した。「ナワリヌイ氏は亡くなった。常に悲しい出来事だ。獄中死の事例はほかにもある。米国でも起きており、それも一度ではない」。プーチン氏はそう語り、ナワリヌイ氏が死亡する数日前、西側諸国で服役している受刑者との囚人交換を持ちかけられていたことも確認した。「相手が最後まで言わないうちに私は同意した」とプーチン氏は述べ、「だが残念ながらああなった」「そうしたことは起こるもので、自分にはどうしようもない。それが人生だ」と言い添えている。
●反プーチン武装勢力がロシア西部の村を占拠か、映像公開 3/18
ウクライナを拠点とする武装勢力が17日、ロシア西部ベルゴロド州の国境の村、ゴルコフスキイを制圧したと発表した。 「自由ロシア軍」がソーシャルメディアで公開した映像には、戦闘員が学校の建物からロシア国旗を持ち去ったところとみられる様子が映っていた。
ロイターはこの映像がゴルコフスキイで撮影されたものと確認したが、撮影日時を独自に確認することはできなかった。
ロシアは16日、ウクライナが大統領選挙を妨害するために「テロ活動」を行ったと非難した。
ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長は16日、武装組織「自由ロシア軍」、「シベリア大隊」、「ロシア義勇軍団」が統一された主義を持つ「勢力になりつつある」と述べた。またこれらの組織は「非常によく」戦っており、ウクライナとしても「可能な限り」支援する方針であることを明らかにした。
●ロシアとNATOの衝突は第3次世界大戦の一歩手前とプーチンが西側に警告 3/18
ロシアのプーチン大統領は月曜日、西側諸国に対し、ロシアと米国主導のNATO軍事同盟が直接衝突することは、世界が第3次世界大戦の一歩手前にあることを意味すると警告したが、そのようなシナリオを望む者はほとんどいないと述べた。
ウクライナ戦争は、モスクワと西側諸国との関係において、1962年のキューバ危機以来の深刻な危機を引き起こした。プーチン氏はしばしば核戦争の危険性を警告しているが、ウクライナで核兵器を使用する必要性を感じたことはないと述べている。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は先月、将来的にウクライナに地上軍を派遣する可能性は否定できないと述べた。
マクロン大統領の発言と、ロシアとNATOの衝突のリスクと可能性についてロイター通信から質問されたプーチン大統領は、次のように答えた: 「現代世界ではあらゆることが可能だ。これは第三次世界大戦の一歩手前であることは誰の目にも明らかだ」プーチン氏は記者団にこう語った。
しかし同氏は、NATOの軍がすでにウクライナに駐留しており、ロシアは戦場で英語とフランス語が話されているのを聞いたと付け加えた。
「何よりも、彼らはそこで大勢死んでいる」
緩衝地帯
3月15日から17日にかけてのロシア選挙を前に、ウクライナはロシアに対する攻撃を強化し、国境地帯に砲撃を加え、さらには代理勢力を使ってロシアの国境を突き破ろうとした。
プーチン氏は、ウクライナのハリコフ地方を占領する必要があると思うかと問われ、攻撃が続くようであれば、ロシアはウクライナの領土から緩衝地帯を作り、ロシアの領土を守るだろうと述べた。
今日起きている悲劇的な出来事を念頭に置き、適切と判断した時点で、キエフ政権下の領土にある種の『緩衝地帯』を作らざるを得なくなる可能性も排除しない」とプーチン氏は述べた。
彼はそれ以上の詳細については明言を避けたが、そのような地帯は外国製の兵器がロシアの領土に到達するのを防ぐのに十分な大きさでなければならないかもしれないと述べた。
プーチン大統領は2022年2月にウクライナへの本格的な侵攻を命じ、ウクライナ東部で8年間続いている、一方はウクライナ軍、もう一方は親ロシア派のウクライナ人とロシアの代理勢力との間の紛争の後、ヨーロッパでの大規模な戦争を引き起こした。
プーチン氏は、マクロン大統領がウクライナの戦争を悪化させることを止め、和平を見出す役割を果たすことを望むと述べた「フランスは役割を果たすことができるようだ。まだすべてが失われたわけではない」という。
「何度も何度も言っているが、もう一度言う。我々は和平交渉に賛成だが、敵の弾が尽きたからという理由だけではない」とプーチン氏は言った。
「もし彼らが本当に、長期的に両国の間に平和的で善隣な関係を築きたいのであれば、単に1年半から2年の間、再軍備のために休みを取るのではない」
米国の民主主義
プーチン氏は、ホワイトハウスが自由で公正ではなかったいう選挙に対するアメリカや西側の批判を退け、アメリカの選挙は民主的ではないとし、ドナルド・トランプ元大統領に対する国家権力の行使を批判した。
同氏はアメリカについて、「全世界がそこで起こっていることを笑っている。まさに大惨事だ。民主主義ではない。いったい何なんだ?」と評した。
2月16日に北極圏にあるロシアの刑務所で原因不明の死を遂げた野党指導者アレクセイ・ナヴァルニー氏の運命について尋ねられたプーチン氏は、公の場で初めてナヴァルニー氏の名前を使い、単に「亡くなった」と答えた。
彼は、ナヴァルニー氏の死の数日前に、彼を囚人交換することで合意したと述べた。ロイター通信は2月、ナヴァルニーの死の直前に囚人交換が合意されたと報じたものだ。
私は「『同意する』と言った」とプーチン氏は囚人交換の承認について語った。「交換しても、彼は決して戻ってこない」
ナヴァルニー氏の未亡人ユリア氏は、プーチンが夫を殺したと非難している。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は記者団に対し、その主張は単に間違っていると述べた。
●ロシア「茶番」大統領選は、ウクライナ占領を「既成事実化」するため 3/18
ロシアの大統領選挙で現職のウラジーミル・プーチン大統領が圧勝し、2030年まで権力の座にとどまることが決まった。
投票は3月15日から3日間おこなわれ、17日に開票が始まった。ロシアの中央選挙管理委員会によると、開票率75%の時点でプーチンの得票率が87%を超えた。
この結果を受け、プーチンは17日夜に勝利を宣言。国民から「信頼」を得たと述べ、ウクライナとの戦争を継続する意思をあらためて明確にした。
対立候補はプーチンの「操り人形」
プーチンの地滑り的勝利は投票前から確実視されていた。戦争に反対するなど政権に批判的な候補の多くが投獄されたり立候補を妨げられたりするなか、出馬が許された対立候補3人はプーチンの脅威にはならない存在だったからだ。
英紙「ガーディアン」は、その3人について「クレムリンの操り人形」にすぎず、彼らの出馬を認めたのは選挙に「正当性を与える」ための演出であり、「茶番」だと報じている。
ナワリヌイが呼びかけた「反プーチンの正午」
とはいえ、プーチンに一矢を報いようとする動きもあった。投獄され、獄中で死亡した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイの支持者たちだ。
米紙「ワシントン・ポスト」によれば、17日の正午、モスクワやサンクトペテルブルクなど主要都市の投票所で長い列を作るナワリヌイの支持者の姿が見られた。ナワリヌイは生前、日曜日の正午にプーチンに反対票を投じるよう呼びかけていたのだ。
彼の遺志を継いだ妻のユリア・ナワルナヤは滞在先のドイツ・ベルリンからこの「反プーチンの正午」を呼びかけ、これに応じた支持者らが一斉に投票所に現れた。彼らはプーチンの対立候補に投票したり、投票用紙を汚したり、ナワリヌイの名を記入したという。
ウクライナ東部でも「ロシア大統領選」
投票はロシアの占領下にあるウクライナ東部でもおこなわれたが、武装したロシア兵による監視の目が光るなか、住民たちにとって「プーチンしか選択肢はなかった」と、米紙「ニューヨーク・タイムズ」は報じている。
投票を拒んだり、プーチン以外の候補に投票したりすれば、「危険分子」と特定されてしまう。占領地での大統領選は、占領を「既成事実化」して、それに異を唱える「反体制派」をあぶりだす目的もあったと同紙は指摘し、次のように書いている。
「クレムリンにとって大義名分を高めるのは、どれだけの大差で勝利したかよりも、選挙プロセスそのものである。占領した地域で選挙を実施することは、たとえそれがいかに画策された不公正なものであっても、(ここはロシアの一部であるという)プーチンの主張を強固なものにするのだ」
●独仏の間に隙間風が吹く 3/18
人と人の関係はスムーズにいく時とそうではなく刺々しくなることがある。同じように、国と国との関係でも良好な時もあれば、対立する状況も出てくる。欧州の代表国フランスとドイツの関係もそうだ。ミッテラン大統領とコール首相が政権を担当していた時代、両国の関係は良好だった。しかし、独仏関係がここにきてウクライナ戦争での対応で意見の相違が表面化し、両国間で刺々しい雰囲気すら出てきたのだ。
華やかな国際会議を主催することを好み、大胆な政策を表明するマクロン大統領に対し、派手なパフォーマンスは少ないが、着実に政策を推進するタイプのショルツ首相とはその言動が好対照だ。英国がまだ欧州連合(EU)の一員であった時、フランスとドイツの関係に大きな波紋は立たなかったし、問題があれば英国が両国の間で仲介的な役割を果たせた。しかし、英国のEU離脱(ブレグジット)後、フランスとドイツ両国は迅速に決断を下せるメリットもあるが、両国が対立する状況では英国のような調停役がいないため、関係の険悪化に歯止めがつかなくなるといった状況に陥る。
マクロン大統領がパリで開催されたウクライナ支援国際会議で演説し、北大西洋条約機構(NATO)の地上軍をウクライナに派遣する提案をした時、ショルツ首相は表情を曇らせ、「そのようなことは出来ない。戦闘をエスカレートさせるだけだ」と一蹴した。米国からの独立を模索するマクロン大統領はこれまでも欧州軍の創設を提案してきた。マクロン氏は、「フランスは地上軍をウクライナに派遣する用意がある」と指摘し、「ロシア側に戦略的曖昧さを与える」と説明する。
ロシア軍とNATO軍の衝突でウクライナ戦争が欧州全域に拡大することを懸念するショルツ首相にとってマクロン氏の提案は危険過ぎる。それ以上に、マクロン大統領がショルツ首相とそのテーマで事前協議することなく、国際会合の場で地上軍の派遣の用意があると公表したことに、ドイツ側は不快を感じているのだろう。
一方、フランス側に不快感を与えたのは、ショルツ首相が、イギリスとフランスの両国軍関係者がウクライナで自国の巡航ミサイル「ストームシャドウ」と「スカルプ」の使用に関与していることを公に語ったことだ。この種の軍事情報はコンフィデンシャルだが、それを公の場で語ったショルツ首相に対し、マクロン大統領は「外交上の慣例を破る」として不快感を露わにした、といった具合だ。
マクロン大統領はウクライナ支援の重要性を強調し、ウクライナ問題では先駆的な役割を果たしているといった思いが強いが、欧州諸国のウクライナ支援ではドイツが米国に次いで2番目の支援国だ。実質的な欧州最大の支援国はドイツだ。実際より大げさに語るマクロン大統領に対して、ドイツ側はイライラしているといわれる。
インスブルック大学のロシア問題専門家マンゴット教授は15日、ドイツ民間ニュース専門局ntvでのインタビューの中で、「マクロン大統領は大口をたたくが、実際の行動は僅かだ」と指摘し、「フランスとドイツ両国間の歴史的に強固な枢軸は益々重要性を失いつつある。パリとベルリンの間の対立はその明らかな証拠だ」と説明する。
例えば、マクロン氏はウクライナ支援では「無制限な支援」を強調する一方、ショルツ首相は「レッドラインを維持しながら可能な限りの支援」を主張してきた。地上軍のウクライナ派遣問題についても、マクロン大統領は「戦略的曖昧さ」政策を強調するが、NATOは既にロシアとの全面的戦争はしないと表明済みだから、今更戦略的曖昧さと言っても意味がないというわけだ。
ドイツがウクライナの要請にもかかわらず、巡航ミサイルタウルスの供与を拒否していることに、マクロン大統領は批判的だ。一方、フランス側のドイツの軍事供与への批判に対し、ドイツ側は「フランスの納入量はドイツよりはるかに少ない」と反論してきた。
ウクライナ支援問題で意見を調整するために15日、ベルリンでドイツ、フランス、そしてポーランド3国のワイマール・トライアングルの首脳会談が開催された。それに先立ち、ショルツ首相はマクロン大統領と2時間余り首相官邸で会談している。ベルリンとパリの間で議論すべき多くの議題があったからだ。
参考までに、フランスとドイツの両政府は、ショルツ首相とマクロン大統領の間に亀裂があることを否定している。ちなみに、フランスのセジュルネ外相は3月初め、「仏独間に対立はなく、問題の80%で合意している」とメディアに語っている。一方、ショルツ首相は13日、連邦議会で野党「キリスト教民主同盟」の議員から「マクロン大統領との関係」を問われ、「フランスとの意見の対立はない」と否定している。
興味深い点は、仏紙フィガロの分析によると、ロシア軍のウクライナ侵攻直後、マクロン大統領は、「ロシアに余り屈辱を与えるべきではない」と、プーチン大統領に融和的な姿勢を取っていたが、ここにきて、「ヨーロッパとフランス人の安全がウクライナで危機に瀕している。もしロシアが勝てば、フランス国民の生活は変わり、ヨーロッパの信頼性はゼロになる」と警告し、ロシアに対して強硬姿勢を取ってきていることだ。その点、ショルツ首相のロシア観はロシア軍のウクライナ侵攻から今日まで変わらない。ロシアとの軍事衝突を回避するということだ。
このようにウクライナ政策でマクロン大統領とショルツ首相との間で政策の相違が見られ出した。その違いが決定的な亀裂となるか、それとも外交上のニュアンスの相違に留まるか、ここ暫くは両国のウクライナ支援の動向を注視する必要があるだろう。
●学校や店舗を閉鎖、ウクライナ軍の攻撃増加で ロシア・ベルゴロド州 3/18
ロシア南西部ベルゴロド州で、ウクライナ軍による越境攻撃が増加していることを受けて、学校や大学、ショッピングモールが一時的に閉鎖されることがわかった。同州のグラドコフ知事が明らかにした。
知事によれば、同州の一部地域では、18日と19日にすべての学校と大学が休校となる。ショッピングモールも17日と18日に閉鎖される。影響を受ける地域はウクライナとの国境沿いに位置しており、同州の州都であるベルゴロド市も対象となる。
頻発している攻撃は、ウクライナでの紛争からほとんど隔離されていたロシアの人々に戦争をもたらしている。
ウクライナ国防省情報総局トップのブダノフ氏は16日、ウクライナと国境を接するロシアのベルゴロド州とクルスク州を攻撃している破壊工作のグループの中にロシア人がいると明らかにした。
ブダノフ氏は「これは、ロシア人がこの国内問題をどうやって解決するかについての物語だ。彼らの中にもっと好きなロシア人もいれば、そうでないロシア人もいるかもしれない。それでも、どちらもロシア人だ」と述べた。
ブダノフ氏はロシアへの越境攻撃は今後も続くと言い添えた。
ロシア国営RIAノーボスチ通信によれば、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ベルゴロド州とクルスク州に対する攻撃について、大部分は失敗に終わったと述べたほか、ロシアのプーチン大統領が状況について常に最新の情報を受け取っていると明らかにした。
ウクライナ軍は2023年前半からベルゴロド州を断続的に攻撃していたが、1週間ほど前から越境攻撃を強化している。
●ロシア大統領選は「茶番」 結果「不当」とウクライナ 3/18
ロシアの侵攻が続くウクライナでは、プーチン大統領の当選が確実視されていたロシア大統領選は「茶番」(ウクライナ外務省)と一蹴され、関心は低かった。ロシアの占領下にあるウクライナ東部・南部4州や南部クリミア半島で強行された選挙は「違法で無効」との立場で、選挙結果の不当性を訴えている。
ロシア西部やウクライナ国内のロシア占領地では17日の投票最終日にかけて攻撃が相次いだが、ウクライナ側による選挙妨害かどうかは不明だ。ウクライナ外務省はロシアが危機をあおる「挑発活動」を行う可能性があるとして、占領地の住民に対し、人混みを避けるよう呼びかけていた。
●ロシアの「クリミア併合」10年、元住民「もう故郷に戻れない」…反攻失敗で「奪還の期待消えた」 3/18
ウクライナ南部のクリミア半島をロシアが2014年に一方的に併合してから、18日で10年となる。露政府はインフラ(社会基盤)建設や露本土からの移住で「ロシア化」を進めた。22年2月にはロシアによるウクライナの侵略が始まり、クリミアの元住民は「もう故郷には戻れない」と悲観している。
ウクライナ語の授業「消滅」
「クリミア併合は序章にすぎなかった」。クリミア南西部セバストポリの出身でITエンジニアの男性(35)は滞在先のキーウで電話取材に応じ、こう振り返った。所用で訪れたキーウからクリミアに戻る途中で露軍の侵略が始まり、帰れなくなった。地元には妻や家族が残る。
10年前、ロシア編入の是非を問う「住民投票」には行かなかった。武装した露軍兵士が監視し、反対票を投じられる状況ではなかった。「併合なんて実際に起きるわけがない」とも思っていたという。
だが、併合後は国際的な承認がないまま、「ロシア化」が進んだ。通貨がロシアのルーブルに替わり、物価は2倍になった。米欧諸国の制裁で外国企業が撤退し、ロシアの銀行や企業が進出した。ウクライナメディアが遮断され、ロシアの身分証を取得しなければ、医療などの公的サービスを受けられなくなった。
温暖な観光地のクリミアには、ロシア人の移住が進んだ。露政府は、ロシア国籍の取得を拒否したウクライナ人から没収した住宅を提供したり、住宅ローンや給与を優遇したりして移住を促進しているとされる。
ウクライナの人権団体によると、ロシアから80万人が移り住み、クリミアから出たウクライナ人は10万人に上る。男性は「親ウクライナの人々が去り、ロシア人が王様のように振る舞っている。常に監視され、街が『強制収容所』のようだった」と語る。
ロシアの統治を誇示するかのように、露本土に通じるクリミア大橋や高速道路などの建設が進んだ。露政府系「全ロシア世論調査センター」が14日に発表した調査によると、クリミア併合についてロシア国民の73%が「ロシアに利益をもたらした」と答え、86%が肯定的に評価した。
教育の「ロシア化」も進んでいる。男性によると、併合後は各学校に露連邦保安局(FSB)の職員が配置された。「心理カウンセラー」が学校内で子どもたちの言動を監視し、問題があればFSBの担当者に報告するという。ある学校では、掲示板にウクライナ国旗を描いた8歳の女児が転校処分になったという。
授業では、「ロシアを愛する理由」を題にした作文を書かせるなどの「愛国教育」が進んでいる。ウクライナ語の授業は、ほぼ消滅した。クリミアの教育団体の調査では、併合前にはクリミア半島の全児童がウクライナ語を学び、約7%がウクライナ語による授業を受けていた。
ロシア軍による22年2月のウクライナ全土への侵略の開始により、クリミアは露軍占領地や前線への補給地やミサイル攻撃の拠点となった。ウクライナはクリミアを拠点とする露海軍の黒海艦隊への攻撃を強化している。
男性によると、昨年6月にウクライナ軍の大規模反攻が始まる頃には、地元に残る親ウクライナの住民の中でクリミア奪還への期待感が高まった。反攻は失敗に終わり、「その期待は消えた」という。
クリミアでは、10年間にわたって「ロシア化」が進んだ。男性は「故郷は変わってしまった。いつか訪れたいが、住むことは二度とないだろう」とさみしそうに語った。
[Q]ロシアのクリミア重視、なぜ?
Q クリミア半島はどのような場所か。
A 面積は、日本の四国の1・4倍にあたる約2万6000平方キロ・メートル。併合前の人口は約200万人で、約6割がロシア系だった。反露感情が強いイスラム教徒のタタール人もいる。米、英、ソ連の首脳が第2次大戦後の国際秩序を議論するために会談したヤルタもある。
Q ロシアに併合された経緯は。
A ウクライナで2014年2月に親露派政権が崩壊し、危機感を強めたロシアのプーチン大統領が軍をクリミア半島に派遣して制圧した。クリミアでは3月16日に「住民投票」が行われた。9割超がロシアへの編入に賛成したと主張し、2日後の18日に併合を宣言した。
Q どのような歴史があるのか。
A 18世紀にオスマン帝国から帝政ロシアに併合され、旧ソ連時代の1954年にフルシチョフ共産党第1書記が半島の管轄をソ連内にあった「ロシア共和国」から「ウクライナ共和国」に移した。91年のソ連崩壊でそのままウクライナ領となった。独立の主張が強まり、ウクライナはクリミアを「自治共和国」とし、強い権限を与えた。
Q ロシアはなぜ重視するのか。
A ロシアから見てクリミア半島は黒海から地中海につながる戦略上の要衝にあり、海軍艦隊の拠点として重視してきた。ロシアはウクライナとの協定に基づき、ソ連崩壊後も黒海艦隊を駐留させた。 

 

●ロシア大統領選で圧勝したプーチン氏、次の6年の主な課題 3/19
ロシアのプーチン大統領はライバル不在の中、今回の大統領選で圧勝した。プーチン氏が向こう6年間の任期中に直面する主な課題をまとめた。
ウクライナ戦争
課題:さらなる攻勢に踏み切るのか。また、いつ戦争をやめるのか
ロシアはウクライナのほぼ5分の1を掌握しているが、この状況は2022年終盤からほぼ変わっていない。プーチン氏は領土的な目標を明確にしていないが、側近のメドベージェフ前大統領は先月、ウクライナ南部オデーサ(オデッサ)や、最終的には首都キーウなどウクライナの大部分の併合を目指していると述べた。
プーチン氏が取り得る選択肢は以下の通りだ。
まず、時間が味方になると計算し、11月の米大統領選の結果を待ちながら、戦争を長引かせる可能性がある。ロシアは2月に要衝アブデーフカを制圧して9カ月ぶりに戦闘で大きな成果を上げており、プーチン氏はさらに攻勢をかけると述べている。ウクライナは、米議会で大規模な支援策の承認が滞っているため弾薬が不足。西側内部に不協和音が流れ、決意が揺らぐ兆しが出ていることから、ロシアは自信を深めている。
次に、2022年9月に命じた30万人の招集に加えて、新たな兵力増強に着手し、一段と攻勢を拡大する可能性がある。
第一波の兵力てこ入れは混乱を引き起こして不評を買い、何十万人ものロシア人が海外に逃亡する事態となった。ロシア政府は、再び招集する必要はないと繰り返し表明している。
さらに、プーチン氏は交渉により停戦を図る可能性もある。ロシアは、その場合にはウクライナがロシアの条件を飲む必要があると主張。ロシアが掌握した領土はロシアが支配するべきだとしているが、ウクライナ政府はこうした条件の受け入れを拒否している。ロイターは先月の、プーチン氏が現在の占領ラインに沿って戦闘を凍結する停戦案を米政府に提示し、米国は拒否したと伝えた。
通商とエネルギー
課題:通商のルートを変え、制裁の打撃を緩和できるか
ロシアは欧米による経済制裁とノルドストリーム・ガスパイプラインの爆発により、うま味のある欧州エネルギー市場の大半を失った。以下の3つの主要プロジェクトの進捗状況は、ロシアが通商の軸足を東方に移すことに成功したかどうかを見極める指標となる。
1、ロシアがガス輸出ルートを変更するための、トルコでの新たなガス集配拠点建設
2、年間500億立方メートルのロシア産ガスをモンゴル経由で中国に送るための新たなガスパイプライン「シベリアの力2」の建設
3、北極海の海氷の融解によって可能となった、ノルウェー国境近くのムルマンスクとアラスカ近くのベーリング海峡を結ぶ北極海航路の拡張
核兵器
課題:米国と新たな安全保障の枠組みを構築するか、または新たな軍拡競争に突入するのか
米国との新戦略兵器削減条約(新START)は2026年2月に失効する。そうなればロシアと米国は核兵器を無制限に拡大することが可能になる。
プーチン氏は、ロシアは国防費投入の成果を最大化し、冷戦中にソ連を疲弊させたような軍拡競争を防ぐべきだと述べている。また、ロシアは「いくつかの新しい兵器システム」の開発を続けていると述べる一方、ロシアが核兵器を宇宙に配備する計画だとの米国の主張を否定した。
プーチン氏は核実験再開の可能性を示唆しているが、それは米国が先に実験を行った場合だけだとしている。また、米国と「戦略的な対話」をする用意はあるが、その際にはウクライナ問題を含むロシアの安全保障に影響する全ての課題を協議の対象とすべきだと主張している。
国内経済
課題:インフレ、労働力不足、人口減少への対応
ロシアの1月経済成長率は前年同月比4.6%だった。軍需生産の大幅な増加が成長に寄与したが、労働力不足と生産性の低さが課題だ。国防と安全保障が予算の約40%を占め、教育や医療など他の分野を圧迫している。
特に防衛産業が集中している地域では賃金が上昇しているが、プーチン氏は生活水準を大幅に改善するという2018年の公約を実現できておらず、実質所得は全体として過去10年間、足踏み状態が続いている。
当面の優先課題は7.6%に達しているインフレを抑え、財政ひっ迫を緩和することだ。プーチン氏は企業や富裕層への増税を示唆している。また平均寿命を延ばし、家族支援策で出生率を上げる方針を示しているが、長期減少傾向にある人口を上向かせるのに苦戦している。
指導陣の刷新
課題:高齢化する指導陣を若返りさせられるか
プーチン氏は新任期が終わるときに77歳になるが、それでも米大統領就任時のバイデン氏よりも若い。
プーチン氏周辺には今週74歳になるラブロフ外相など、プーチン氏より年長の有力者もいる。ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長(ともに68)は、ウクライナ戦におけるロシアの軍事的失策を巡り一部の戦争推進論者から猛烈な批判を浴びているが、それでも更迭を免れている。プーチン氏は以前から指導陣の刷新に消極的で、能力よりも忠誠心を重視していると指摘されている。
●過去最多得票率…ロシアはなぜプーチンをまた選択したのか 3/19
「87%」。17日に終了したロシア大統領選挙での現職のプーチン大統領の得票率だ。2000年に初めて当選してから大統領4期、首相1期を歴任したプーチン氏のこれまでの最高得票率は2018年の大統領選挙で記録した76.7%だったがこれを上回った。
プーチン氏はこうした大統領選挙の結果により2030年まで30年間執権できることになった。「21世紀のツァーリ」の戴冠式にロシア国民は表向きは圧倒的支持を見せた。ロシアが「新しい領土」と呼ぶウクライナの占領地でも88〜95%の支持を得た。秘密投票を保障できない透明な投票箱と操作の懸念が提起されたオンライン投票が導入された中でだ。
こうした結果は選挙前に出ていた西側の観測とはずれがある。西側ではウクライナ戦争にともなう高強度の経済制裁、先月のロシア野党指導者ナワリヌイ氏の死亡などでプーチン氏に対するロシア国民の支持が多少揺らぐと予想した。ロシア当局が反プーチン候補者の出馬を妨げ批判勢力を弾圧しただけではこのような圧倒的な勝利は説明できない。実際に選挙前にプーチン氏は各種民間世論調査機関の調査で80%前後の支持率を維持してきた。
「プーチン氏が大国にした」論理注入
ロシア国民の堅固なプーチン氏支持にはさまざまな要因が挙げられる。まずロシア国民は「プーチン氏がロシアを繁栄する世界大国にした」と話す。プーチン氏に票を入れたモスクワの有権者は17日、ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「プーチン氏はだれもわれわれを不快にできないようにするほどわれわれを世界的に引き上げた」(イリーナ、59歳)、「プーチン氏が西側の敵を凌駕する」(ピョートル、41歳)と主張した。
こうした論理はロシア国営放送のおなじみのナラティブだ。プーチン氏が2000年に初めて大統領に当選してから「強いロシア」政策を展開し、石油やガスなどでロシア経済を引き上げたという論理だ。これは事実、国際原油高と天然ガス価格上昇によるところが大きかった。
「プーチン前」と比べたりもする。ゴルバチョフ氏の改革開放政策にもかかわらず経済難を克服できず1991年にソ連が崩壊し、ロシア初代大統領のエリツィン氏のモラトリアム宣言などでロシアの地位が失墜したという認識が広がっている。
これに対し最近のロシア経済は西側の制裁にもかかわらず悪くない方だ。軍備支出で経済が成長する戦時経済のおかげで、国際通貨基金(IMF)はロシア経済が昨年3%成長したのに続き今年は2.6%成長すると予想する。
西側に対抗して伝統的価値を守るという民族主義的メッセージも効果があった。西側との対立が深まり、「ナチス除去」「北大西洋条約機構(NATO)東進阻止」などプーチン氏が掲げた戦争の名分に同調する世論も大きくなった。
こうした要因が重なりプーチン氏の「30年執権」が可能になったと分析される。この場合ソ連時代のスターリンによる1924〜53年の29年独裁より統治期間が長くなる。ロシアは2020年に憲法を改正しプーチン氏が2036年まで執権できる道を開いており、プーチン氏は84歳まで権力の座にとどまることができる。
もちろんプーチン氏の「終身執権」は楽観的なばかりだけではない。現在金利が年16%に達するなどインフレ管理が容易ではない。戦争長期化の疲労度も不安要素だ。
プーチン氏、特有の曖昧な話法
西側ではプーチン氏が今回圧倒的支持率を得ただけに今後追加徴兵などでウクライナ戦争にさらに力を注ぐかもしれないと予想する。プーチン氏は大統領選挙の勝利が確定した直後、今年のパリ五輪期間に休戦しようというフランスの提案に対し「対話に出る準備はできているが、戦線でロシアの利益を考慮しなければならない」と話した。特有の曖昧な話法で、休戦と戦争持続のどちらの可能性も排除しない発言だ。
西側ではロシアが西側のウクライナ武器支援の空白でできた利点を逃そうとしないだろうという側にウエイトを置く。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、大統領選挙後にロシアが新たな動員令を出すという見通しが出続けている。モスクワに住んでいるマリア・アレクサンドルさん夫婦は最近ニューヨーク・タイムズに「夏に計画された攻撃があり兵力交代が必要という動員消息を聞いた」と伝えた。徴兵を逃れ海外に逃避して最近帰国した夫は「再逃避」を考慮しているという。
ロシア国内では大統領選挙後も反プーチン派勢力に対する弾圧が続くだろうという見通しも出ている。プーチン氏はこうした懸念を払拭しようとするかのようにこの日「政敵」のナワリヌイ氏の死亡について「悲しいこと」と言及したかと思えば、「統合」に言及して内部結束を試みた。
しかしこれはロシアの情報・保安機関が最近見せた動きとは違いがある。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、欧州政策分析センターのアンドレイ・ソルダトフ選任研究員は「最近ロシアの情報・保安機関の活動が増加しており、これは非常に積極的。今後数カ月間この方法を使い続けることが懸念される」と予想する。
●ロシア人義勇兵、ロシア領内で進撃 「選挙圧勝」プーチンのメンツ潰し狙う 3/19
ロシアとウクライナの戦争でウクライナ側に立って戦うロシア人義勇兵の3部隊は、17日もウクライナと国境を接するロシア2州への越境攻撃を続けた。ロシア人部隊は約1週間前から越境攻撃を行っており、これまでで最も深くロシア側に攻め込んでいる可能性がある。
自由ロシア軍団、ロシア義勇軍団、シベリア大隊は12日ごろ、ロシア南西部のクルスク、ベルゴロド両州に越境攻撃を仕掛けた。
自由ロシア軍団はクルスク州の国境の町チョトキノへ越境した際、地雷でT-64戦車1両を失ったものの、町からロシアの警察や準軍事組織を駆逐することに成功した。
また、ベルゴロド州では3部隊の共同作戦でコジンカ村を占拠。地元当局は住民に退避勧告を出すことを余儀なくされた。
一連の越境攻撃は、ポーランド東方研究センター(OSW)のシニアフェロー、ピョートル・ジョホフスキーが昨年、ウクライナ側の仕掛ける「破壊・心理戦」と指摘した作戦の特徴と合致する。ロシア人部隊は、ロシアがウクライナに全面侵攻した2年あまり前からウクライナで活動している。
越境作戦の目的は土地の占領ではない。むしろ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に恥をかかせ、権威を失墜させるのが狙いだ。今回の侵攻のタイミングが、15〜17日に実施された「いかさま」のロシア大統領選と重なったのは偶然ではない。
ジョホフスキーはロシア人部隊の以前の越境攻撃について「軍事的な重要性はあまりないにせよ、ロシア国境守備兵の弱さ、なかんずく、こうした事態に即応する能力が限られていることを露呈させた」とコメントしている。
ロシア軍の主力部隊は、ウクライナ東部と南部での攻勢を維持するため薄く引き延ばされた状態になっており、その攻勢も現在はおおむね頓挫している。そのためロシア側は、クルスク州やベルゴロド州に大部隊、つまり連隊や旅団を丸ごと移転させての対応には積極的でない。
米首都ワシントンにあるシンクタンク、戦争研究所(ISW)は「ロシアはウクライナとの国境を限定的な侵攻から守るのに徴集兵を用いている」と指摘。「ウクライナの前線から部隊を引き離したくないからだろう」と推測している。
ロシア側は、訓練の不十分な小規模の現地部隊がどうにかロシア人義勇兵部隊を抑え込んでくれることに賭けているようだ。義勇兵部隊はそれぞれ数百人と小規模であり、ウクライナ軍とは別個に行動しているため遠距離の兵站支援もない。ウクライナ国防省情報総局とつながりがあるものの、緩やかな連携にとどまっている。
ロシア側の賭けが成功するかどうかは現時点では見通せない。ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)の17日の戦況評価によれば、現地のロシア軍はコジンカの北で義勇軍部隊の前進を阻んだ。一方で、義勇軍部隊はコジンカの西のゴリコフスキー村に進撃している。
ロシア側と同様に、ウクライナ側もこの越境作戦に多くのリソースを費やしていない。反プーチンのロシア人義勇兵部隊の戦果は、彼らが自ら主導し、ウクライナ政府から最小限の支援しか受けずに成し遂げているものである。
とはいえ、今回の侵攻の深さと持続性は、ウクライナ情報総局にとっても驚きだったようだ。キリロ・ブダノウ情報総局長は16日、地元メディアのウクラインシカ・プラウダの取材に、ロシア人義勇兵部隊が「面目躍如を果たしているのは疑いない」とし、「われわれもできる限りの支援をするつもりだ」と語っている。
情報総局は、志願兵部隊の攻撃作戦に対し、軍が航空支援を行う方向で調整にあたっている可能性がある。17日には、コジンカと国境を接するウクライナ北東部スミ州で、ウクライナ軍のMi-24攻撃ヘリコプターがロシア軍の防空システムによって撃墜されたもようだ。
●30年「独裁」確定…ロシア国民はなぜプーチンを圧勝させたのか 3/19
何が起きているのか
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(72)は、17日まで行われたロシア大統領選で圧倒的な得票率で5度目の当選が確定した後、「ロシアはより強く効率的でなければならない」と述べた。(…)ロシアのタス通信は開票率90%の段階でプーチン氏の得票率が87.21%に達したと、ロシア中央選挙委員会の発表結果に基づいて報道した。これは、ロシア大統領選史上で最高の記録だ。しかし、今回の選挙では、ウクライナ戦争に反対した候補は登録できないなど、不公正に行われたという批判が国際社会では非常に強い。(3月18日ハンギョレ)
Q.政権在任30年。すごいものだ。
A.プーチンがロシアの最高権力に上り詰めたのは、1999年12月31日だ。前の千年期が終わり新たな千年期が到来する直前に登場した。彼はロシアを確かに変化させた。プーチンの政権掌握力がいかに優れているかは、大統領3選を禁止した憲法条項を避けて首相に降格し、ふたたび大統領に復帰したことからもよくわかるだろう。自身は首相(2008〜2012年)に降格し、代理人であるドミトリー・メドベージェフを大統領として前面に出し、事実上「上王」の役割を務め、2012年にふたたび大統領にカムバックした。ソ連の鉄拳統治者だったスターリンですらできなかったことだ。
さらに、2020年7月には、憲法改正によって、大統領の任期を4年から6年に延ばし、再選も可能になった。自ら2036年まで政権の座に就く道を開いたのだ。2036年には84歳になる。とはいえ、今再選を狙っている米国のジョー・バイデン大統領が81歳であることを考えれば、さほどおかしなことではないが。
Q.ところで、プーチン本人の話によると、ボリス・エリツィン大統領がはじめに自身に権力を渡そうとしたときには固辞したそうだが、どうしてこれほどの長期政権を続けることになったのか。
A.プーチンが旧ソ連時代の秘密情報機関である国家保安委員会(KGB)の要員として働いたことは知っているだろう。ソ連崩壊後に生計を立てるために、短期間タクシーの運転手もしていたそうだ。サンクトペテルブルク市長の選挙運動を助け、1996年にモスクワに移り住んだ後、大統領財産管理局の副責任者、大統領府副秘書室長へと昇進を繰り返した。プーチンが引き受けたのは、旧ソ連の資産をロシアに移転することだった。当時のロシアは、ソ連解体後に国有財産を受け継いで富を築いた新興財閥「オリガルヒ」と官僚の癒着と腐敗が絶頂に達した時だった。プーチンは当時のロシアの矛盾の核心である金権が動く過程をまるごと把握したのだろう。
プーチンは快進撃を続けた。1998年5月、KGBの後身にあたるロシア連邦保安庁(FSB)のトップに就くと、翌年1999年8月9日には第1副首相兼首相代行に任命された。ボリス・エリツィン大統領(当時)は、プーチンが後継者になるという衝撃的な発表までした。同日、プーチンは大統領選出馬に同意したと明らかにし、権力が突然プーチンに渡ることになった。
当時のエリツィンは、アルコール中毒による肉体的・精神的問題に加え、政権の座に就いた10年の間に続いた社会的混乱と経済的疲弊のため、人気はどん底だった。本人と家族が関与した不正腐敗問題も浮上し始めた。エリツィンとしては、刑務所行きを避けなければならないところまで追い詰められ、退任後を保障する人物はプーチンしかいないと考えたのだろう。
1999年12月31日に大統領代行になった初日、プーチンは分離独立を主張してロシアに抵抗していたチェチェンを訪問し「徹底的に戦う」ことを誓う。「大国ロシアの復活」を宣言したのだ。そして、エリツィンの家族の不正腐敗事件を赦免する第1号大統領命令に署名した。その後2000年5月26日の大統領選で53%の得票率を得て、正式に大統領になった。
Q.ロシア国民はなぜこれほどまでプーチンが好きなのか。
A.本人の実力とロシアの状況によるものだ。プーチンはソ連崩壊後、オリガルヒと官僚の間の政経癒着をある程度は整理した。もちろん、これは政敵除去の意味もあったのだろう。自分に友好的なオリガルヒに再編したのだ。また、土地・税金・労働関連法を整備し、国家運営システムを築いた。こうしたところに石油などの原材料の価格が上昇し、ロシア経済が復活した。プーチンが就任した2000年以降をみると、石油価格は2000年には1バレルあたり20ドル程度だったが、2回目の任期を終えた2008年には140ドルまで上がった。石油だけでなく天然ガスなどの豊富な原材料も国庫を満たした。世界銀行の統計によると、2000年のロシアの国内総生産(GDP)は実質購買力基準で1兆ドルだったが、8年後には3兆ドルになった。ウクライナ戦争の直前までには5兆3270億ドルに増加していた。
法と秩序が回復し、経済も好転して、ロシアがふたたび大国に復活する希望を見いだせたのであれば、人気が上がったのは当然ではないか。
Q.なるほど。プーチンが経済を復活させたことは理解できる。でもプーチンは残忍な独裁者ではないか。ロシア国外に隠した財産も莫大だという。そうした非好感的リーダーがどうして長期政権を維持できるのか。
A.今度は歴史的流れで説明してみよう。「21世紀のツァー、プーチン大帝」は、ロシアに内在する伝統的な安全保障の不安、それに対処するための膨張主義と警察国家化の産物だとする分析がある。「ソ連封じ込め」を主張した冷戦時代の著名な理論家であるジョージ・ケナンは「国際問題に対するクレムリンの神経強迫的な見解の根底には、ロシアの伝統的かつ本能的な安全保障への不安がある」と述べた。
モスクワ大公国以来、ロシアは限りなく膨張を追求してきた。広大な平原に端を発し、自然の防壁がない状況のもと、周辺の好戦的な遊牧勢力が脅かしてくるため、先制的に領土膨張を試みたのだ。領土が増えれば征服地に居住する数多くの異民族の挑戦を抱え込み、管理が必要となる負担が増えてしまう。そのため、ロシアは常に国内の治安と安全保障のための専制的な指導者や強力な国家主義を作りだしてきたということだ。
第2次世界大戦後、ソ連は実質的な領土を東ドイツからサハリンまで拡張し、過去最大規模になった。西側勢力の侵略を防ぐために東欧全体を防御壁としたわけだが、これによってまたソ連が東欧を管理しなければならない負担を抱え込むことになった。
ケナンはソ連のこのような矛盾と不安を看破し、ソ連に対する封じ込めを求めた。封じ込めが続けば、その不安と矛盾が崩壊につながるというのだ。ケナンの言葉どおりソ連は崩壊したが、だからといって不安−膨張−崩壊で繰り返されるロシアの地政学的なサイクルが終わったわけではない。
ソ連崩壊に続く10年間の混乱と不安が、プーチンという専制的な指導者を排出した。帝政時代のツァーやスターリンのような独裁者の遺産である秘密警察などの保安機構を復活させ動かすことができる人物、それがまさにプーチンだった。
2009年8月3日、ロシアのプーチン首相(当時)がシベリアのタイガの森林地帯で馬に乗っている。強いロシアを掲げるプーチンは、マッチョイズムを示す筋肉を露出する写真を公開していた=AP/聯合ニュース
Q.さきほど大統領代行に就任した日にチェチェンに行ったと言ったが、プーチンがあまりにも残忍にチェチェンを弾圧したことを皆知っているのではないか。
A.チェチェンの分離独立は、ソ連崩壊後のロシアの影響圏の縮小の象徴だった。さらにチェチェンは、ロシアの南側の安全保障ラインであるカフカス(コーカサス)山脈にあり、イスラム圏であるチェチェンが独立すれば、これはロシア国内のムスリム住民にかなり強い影響を及ぼすことになる。イスラム主義拡大の爆弾になるということだ。
プーチンはエリツィンのように腰が引けてはいなかった。軍事力を総動員してチェチェン戦争を遂行した。チェチェンのイスラム主義軍閥の指導者、モフサル・バラエフは、2002年にモスクワ劇場を占拠し、約1000人を人質にとったが、プーチンは人質129人の犠牲を出して事態を鎮圧した。
プーチンにとっては決定的な瞬間だった。ロシアの地政学的なサイクルがふたたび膨張に旋回する瞬間であり、「大国」の郷愁に浸っていたロシア国民はプーチンに熱狂した。
Q.ところで、経済が良くなれば民主主義も発展するというのが定説ではないのか。プーチンの人気が高いということは、反プーチン勢力を徹底的に弾圧している現実を隠しているのではないか。大統領選の直前にナワリヌイが獄死したことを考えると、プーチンも内心は反対勢力を恐れているのではないか。
A.ロシアにプーチンに反対する勢力があることは確実だ。プーチンがそうした人たちを弾圧しているのも事実だ。しかし、このような反政府勢力は、プーチン体制を揺さぶれるほどではないことも明らかだ。ロシアは、かつてのスターリン時代のように、反政府の声を口に出すこともできない殺伐とした場所ではない。最近、ウクライナ戦争反対デモが、モスクワやサンクトペテルブルクでも大規模になされた。プーチンとウクライナ戦争を露骨に批判する放送の司会者も登場した。
しかし、国民の大半はプーチンを支持している。プーチンに対する好き嫌いは別にして、こうした現実を直視してこそ、ロシアを正しくみることができる。
Q.ウクライナ侵攻で西側がロシアへの経済制裁を強化したが、それでもロシア経済は大丈夫なのか。
A.ロシア統計局(FSSS)によると、ロシアは2023年にGDPは3.6%成長した。国際通貨基金(IMF)もロシア経済が昨年3%成長したのに続き、今年も2.6%成長すると見通した。これは、米国を含む主要7カ国(G7)のGDP成長率を上回るものだ。
米国などの西側は、ウクライナ戦争後、前例のない制裁を加えた。ロシアの海外資産3000億ドルの凍結、国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済網からのロシア排除、ロシア産石油・ガスの輸入縮小および禁止、西側企業の撤収などだ。戦争初期にロシアのルーブルが暴落して生活必需品が枯渇し、戦争初年度の2022年には経済成長率は-1.2%だった。
しかし、ロシアはその後、産業生産力を急速に回復させた。中国やインドなどに石油とガスを安く売り、相手国は西側の制裁に参加せず、ロシアとの関係を深めた。米国の同盟国であるサウジアラビアも対ロシア制裁には参加せず、むしろ石油価格を上昇させてロシアを助ける結果をもたらした。
ロシアに潜在した重工業生産力が戦争で回復した側面もある。ロシアはソ連時代から軍需産業を中心とする重工業が発達した国だった。戦争で生産量がフル稼働する戦争特需を迎えた。
2月15日、ロシアのプーチン大統領がロシアのニジニ・タギルにある軍需産業企業「ウラルヴァゴンザヴォート」を見学している=タス/聯合ニュース
Q.軍需産業だけをみればそうだろうが、西側との交流断絶で先端技術の開発などが遅れ、経済全体が退歩するのではないか。
A.単純にみればそうだ。しかし、今のロシアと中国は、西側と「別れる決心」をして、独自の経済体系を構築しようとしている。それがまさに「多極化体制」だ。中国とロシアの2023年の貿易量は2401億ドルで、前年度より26%増えた。中ロはガスなどのエネルギー分野で協力を拡大する一方、新興大国の集まりであるBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ共和国)を中心に、ドル主導の国際決済網に代わる独自の通貨決済網を試みている。BRICSは昨年、サウジ・イラン・エジプト・アルゼンチン・エチオピア・アラブ首長国連邦の6カ国を新たな加盟国として受け入れ規模が拡大した。
西側の先端技術や商品が中ロに供給されなければ、当然打撃はあるだろうが、今後見守らなければならない。豊富な資源と科学技術を備えたロシアと、強大な生産力と人口・市場を有する中国に加え、インドやブラジル、南アフリカ共和国などが加勢すれば、無視できなくなる。
Q.選挙が終わったから、プーチンはまもなく北朝鮮にも行くだろう。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は祝電を送るだろうか。
A.おそらく北朝鮮には4〜5月頃に訪問するだろう。北朝鮮としては、最近の情勢は、1990年代初めの社会主義圏の崩壊後で最も有利な条件だ。2019年のハノイでの朝米首脳会談の決裂後、米国および韓国との交渉をあきらめ、核戦争力の強化に突き進んでいる。中ロ多極化体制のもとで新たな空間が開かれたわけだ。
プーチンは13日に国内メディアのインタビューで「朝鮮民主主義人民共和国は独自の核の傘を有している」と述べた。北朝鮮を核保有国と認定することを暗示したのだろう。ロシアとの関係を強化すれば、北朝鮮は韓米との対話や交渉にしがみつく必要性が減る。
尹錫悦大統領は候補時代から中国とロシアを悪く言い、就任後には韓米日3カ国協力に集中している。尹大統領は昨年4月にウクライナへの軍事支援を示唆し、韓ロ関係はほぼ破綻に至った。尹大統領は、米国や日本がプーチンに祝電を送るならばそれに続くだろう。しかし、西側がプーチンに祝電を送るだろうか?
●プーチン氏勝利で5期目へ 米政府批判「自由も公正さもない選挙」 3/19
ロシアで行われた大統領選挙で、プーチン氏が5期目となる再選を決めたことを受け、アメリカのホワイトハウスは「この選挙には自由も公正さもない」などと批判しました。
アメリカ サリバン大統領補佐官「選挙結果については予想外なことは何もない。なぜなら、プーチンは政治的空間を閉鎖し、政敵を封じ込めていたからだ」
サリバン大統領補佐官は18日の会見でプーチン氏が5選を決めたロシア大統領について「自由も公正さもなく結果はあらかじめ決まっていた」と批判しました。
そのうえで「プーチンがロシアの大統領であるという現実に対処し続ける」と強調しました。
また、国務省のパテル副報道官も18日の会見で、「信じられないほど、非民主的なプロセスだった」と非難し、「彼がロシアの大統領だからと言って、独裁政治が許されるわけではない」と釘を刺しています。
●プーチン大統領、西側に「ロシアとNATOの衝突時は第3次世界大戦」脅威 3/19
87.28%。
18日(現地時間)、ロシアのプーチン大統領(71)がソ連崩壊後、ロシア史上最高得票率で簡単に5選を確定した。プーチン大統領は2018年の大統領選挙で自分が立てた最高得票率76.7%を10%以上上回った。特に、プーチン大統領は、ロシアが「新領土」と呼ぶウクライナ占領地でドネツク95.23%、ルハンスク94.12%、ザポリージャ92.83%、ヘルソン88.12%など90%前後の支持を得た。
スプートニク通信によると、他の3人の候補は3〜4%台の得票率にとどまった。プーチン大統領は今回の大統領選挙の勝利で2030年までに政権を握ることになり、ヨシフ・スターリン共産党書記長の「29年独裁」を越えることになった。
プーチン大統領は17日夜、勝利が確定すると、選挙運動本部で取材団の前に立った。プーチン氏は「わが戦士たちに感謝する」としてウクライナ戦線で戦っている軍人たちに言及した。ロシア国民に対しては「我々は皆ワンチーム」とし「ロシアはもっと強く効率的でなければならない」と内部の結束を強調した。
プーチン大統領は西側に対しては強く警告した。そして、「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)同盟の直接的な衝突は、第3次世界大戦から一歩離れたことを意味するだろう」とし、「誰もこのシナリオを望まない」と述べた。最近、フランスのエマニュエル・マクロン大統領のウクライナ派兵の可能性に関する発言に対する質問にこのように答えた。
大統領選挙の勝利で自信を得たらしく、先月16日に獄中で疑問死した最大政敵アレクセイ・ナワリヌイ氏ついても初めて言及した。またそれまで「彼」「ブロガー」と呼んでいたナワリヌイ氏の名前を「ナワリヌイさん」と公に言った後、「彼は亡くなった。これはいつも悲しいことだ」と追悼した。
権威主義的な統治スタイルで独裁者を意味する「ストロングマン」の評価が付きまとうプーチン大統領は、今回の大統領選挙で抵抗を受けた。選挙初日の15日には、投票箱に緑色の液体をこぼしたり、投票所の放火を試みたりする人々が登場した。ウクライナのドローン攻撃と国境地侵入の試みも続いた。
また、野党関係者は候補登録から遮られ、秘密投票を保障できない透明な投票箱が動員された。最終日の17日正午には、ナワリヌイ氏支持者らが主導した「プーチンに対抗する正午(Noon against Putin)」沈黙デモが国内はもちろん全世界で開かれた。しかし、プーチン大統領はこれについて、「(デモは)いかなる効果もなかった。投票を促したことは褒めたい」と述べた。
西側メディアは、プーチン大統領が1人支配体制を確固たるものにしたと評価した。米CNNは「これといった反対勢力なしに段階別に管理された選挙を通じて1人支配を延長した」と伝えた。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は「大統領選挙の圧勝で大胆になったプーチンが新たに兵力動員に乗り出し、内部の反対意見への弾圧を強化し、ウクライナ戦争を激化させる恐れがある」と懸念を示した。
英国王立国際関係研究所ロシア・ユーラシアプログラムのジョン・ロフ研究員は「多くのロシア人はプーチンが彼らの未来を奪ったとみられる」とし「プーチンが掘り、ロシアが陥った穴が今後5〜10年間にさらに明確になるだろう」と見通した。
●ロシア大統領選、プーチン氏勝利 欧米からは批判の声 中国や北朝鮮は祝意 3/19
ロシア大統領選挙でのプーチン大統領の勝利を受け、欧米からは批判の声が相次いだ一方、中国、北朝鮮は祝意を伝えています。
アメリカ サリバン大統領補佐官「選挙には自由も公正さもなく、結果はあらかじめ決まっていた」
アメリカのサリバン大統領補佐官は18日の会見で、「プーチン氏がロシアの大統領だという現実があり、ウクライナ戦争などを通じて対応を迫られてきたが、今後もその現実に対処する必要がある」と述べました。
また、イギリスのキャメロン外相は「ウクライナ領内で違法な選挙が行われ、有権者に選択の余地もなかった」と非難。ドイツやポーランドからも批判が相次ぎました。
一方、中国の習近平国家主席は当選を祝うメッセージで「国民の十分な支持を反映している」と述べたほか、北朝鮮の金正恩総書記もプーチン氏に祝電を送っています。
●得票率87%、「永世大統領」化するプーチン、戦時体制強化でロシアはさらに暴走する 3/19
驚愕の得票率
3月17日開票が行われたロシア大統領選で、ウラジーミル・プーチン大統領が87%の得票率(投票率は74%)で通算5選を果たした。前回2018年大統領選の78%を上回る過去最高の得票率だ。
プーチンはこれで36年、83歳まで大統領を務める道を開いた。
ウクライナ戦争に反対を表明した候補者は誰1人として立候補を許されなかった。電子投票では不正はいくらでもできる。
ロシア独立系メディアによると、クレムリンが地方当局に設定した目標は投票率70〜80%、得票率75〜85%とされる。投票率100%を達成した投票所もあった。
勝利演説で北極圏の刑務所で獄死した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の名前を初めて挙げたプーチンはナワリヌイ氏と西側で捕らえられている捕虜の交換を検討したことを認めた。
「私は賛成だと言ったが、残念ながら起きてしまったことは起きてしまった」と開き直った。
部隊派遣の可能性に言及したエマニュエル・マクロン仏大統領についてロイター通信に質問されたプーチンは「いま世界ではあらゆることが起きる。フルスケールの第三次大戦の一歩手前であることは誰の目にも明らかだ。これに興味のある人はまずいまい」と威嚇した。
プーチン「和平交渉には賛成だ」
ウクライナ北東部ハルキウ州を占領する考えはあるかとの質問に、プーチンは「攻撃が続くようであれば、ウクライナの領土に緩衝地帯を作り、ロシアの国土を守る。ウクライナの領土にある種の『衛生地帯』を作らざるを得なくなる可能性も排除しない」と答えた。
和平交渉について「われわれは賛成だが、敵の弾が尽きたからという理由ではダメだ。ウクライナが 1年半から2年、再軍備の時間稼ぎをするのではなく、 本当に長期的に両国間に平和的で善隣な関係を築きたいのであれば、交渉する可能性はある」と話した。
「私が大統領ならウクライナ戦争を24時間以内に片付ける」と語るドナルド・トランプ前米大統領を念頭に置いた発言だ。
英誌エコノミスト(3月17日付)は「プーチンの選挙運動の主な手段は脅迫と強制だ。ウクライナの被占領地で住民は事実上、銃を突き付けられて投票させられた。ロシアの識者が名付けた『特別選挙手続き』が計画通り行われることを確実にするだろう」と報じた。
疑われる不正、投票率が全く同じ投票所も
ナワリヌイ氏の妻ユリアさんはプーチンに抗議の意思を表明するため17日正午の投票を呼びかけ、モスクワや他の都市の投票所に長い行列ができた。ロシア独立選挙監視団体ゴロスのもとには1500件を超える不正行為が報告された。
サッカー試合チケットや記念品で学生を誘惑したり、有権者にスナック菓子を勧めたりする例も報告されている。サンクトペテルブルクでは投票率が全く同じ投票所があった。投票済み用紙のすり替え疑惑もある。一方、投票箱にペンキをかけたり爆竹を鳴らしたりする抗議もあった。
ロシアに詳しいカーネギー国際平和財団ロシアユーラシア研究センターのタチアナ・スタノバヤ上級研究員は「ウクライナ戦争がロシアの権力体制にもたらした主な結果の1つは支配層がさらなるタカ派に変質したことだ」と分析する。
スタノバヤ氏によると、戦争反対派エリートは沈黙させられたが、図々しい反対派は転向し、万歳愛国的なレトリックを唱えている。プーチンの新たな6年任期の始まりはタカ派の台頭を加速させる。選挙後に大幅な人事刷新が行われるとスタノバヤ氏はみる。
プーチンのロシアは憲法に制度化された
最後の人事刷新は憲法改正に先立つ20年1月に行われた。「この時、プーチンのロシアは憲法に制度化された。片腕とみられたドミトリー・メドベージェフ氏は権力の縦割り構造から外された」とスタノバヤ氏。しかしプーチンは平時の権力構造のままウクライナ戦争に突入した。
このため政府と権力の縦割りを戦争に合わせて調整しなければならない。ロシアは軍事経済に移行している。「プーチンはマクロ経済の安定と社会情勢の統制を維持しながら国防を実現する上で効率的な政府を期待している」という。
結果として官僚のタカ派体質は強化される。今年1月、プーチンは人事の完全中央集権化を図った。すべての候補者はロシアの情報機関「連邦保安局」(FSB)によって厳しく選別され、管理されることになった。候補者は心理テストを受け、国益へのコミットメントが試される。
「愛国心、戦争と政権への支持、『伝統的価値観』への固執が重視される。親欧米的あるいはリベラルな考えを持つ候補者は政治的なふるいにかけられる。積極的な戦争支持の立場をとり、本質的に反リベラルな候補者が人事で優先される」とスタノバヤ氏は解説する。
権力集中はロシアをさらに危険な存在にする
スタノバヤ氏によると、戦時体制の強化と権力の集中は逆にプーチンを追い詰めるかもしれない。「“特別軍事作戦”を軸に社会の統合を固めたいというクレムリンの願望は、ウクライナを降伏させることの難しさを背景に矛盾を抱えるようになる」
プーチンが全面的な軍事的解決をあきらめ、和平交渉を優先するなら国民にとっての戦争の重要性は薄れる。エリートもプーチンの優柔不断さを感じ取る。“特別軍事作戦”の目標はますます曖昧になり、プーチンの役割は軽んじられ、エリートの重要性が増す可能性がある。
しかし「プーチンが本格的な軍事オプションを追求すれば、22年2月のウクライナへの全面侵攻が簡単で平和な散歩に思えるような前例のない大惨事が起こるかもしれない」とスタノバヤ氏は警告する。プーチンへの権力集中はロシアをさらに危険な存在にするのは間違いない。
英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサエティー」のスティーブン・ホール研究員は「西側諸国はプーチンの非合法性を宣言すべきだ。プーチンが非合法だと宣言すれば、ウクライナは戦争に勝利するためのより多くの支援を得ることができる」と呼びかける。
「非合法宣言によって西側諸国はロシアの近隣諸国におけるプレゼンスを高め、安全保障や支援、経済協力の拡大を提供できるようになる。モルドバは欧州連合(EU)に完全に統合され、安全保障が与えられるべきだ」という。
世界は独裁者アドルフ・ヒトラーの暴走を止められなかった第二次大戦前夜と同じ状況下にある。
●「国難乗り切るにはプーチンしかいない」ロシア世論は安定重視、戦争には反対なのに支持する人も 3/19
17日開票のロシア大統領選で通算5選を果たしたプーチン大統領は、ウクライナ侵略を始めた2022年2月の直後から現在まで、8割前後の高い支持率を維持する。露独立系世論調査機関「レバダセンター」のデニス・ウォルコフ所長は、背景に「国難を乗り切るにはプーチンしかいない」と感じる人の存在を指摘する。
モスクワ市内の投票所に15日に訪れた写真家(28)はプーチン氏に票を投じた。「ロシアに安定を取り戻して発展させた」からだ。ウクライナ侵略でも「自国の利益を守っているから支持している」と述べた。「こういう時期こそ国民は結束すべきだ」と力を込めた。
プーチン氏の支持率は14年のクリミア併合と同様、ウクライナ侵略でも上昇している。調査で本心を打ち明けているとは限らないものの、一般的には国難に直面すると、愛国心が喚起され、現在の指導者をより支持する傾向が強まる。
ウォルコフ氏によれば、ロシアの世論は、「母国や我々の大統領を支持する」という層が約50%という。このうちの20%程度は特に固い岩盤支持層だ。ただ、それとは別に全体の30%ほどは消極的支持とも言える「弱い支持層」もいる。
モスクワの投票所で話をした英語教師(65)は「戦争は反対で、毎日平和を望み祈っている。ただ、政治の安定も大事。プーチン大統領は経験豊富で安定をもたらしている」と語り、プーチン支持者だと明かした。
最近、ウォルコフ氏が注目するのは、プーチン政権がネット上の情報統制を巧みに展開している点だ。若年層が情報源としているネットは、「10年前は自由な言論空間だったが今は違う」という。政権は親プーチン派の論客を支援し、若者への浸透をはかる。政権の意に沿わないリベラルな独立系ブロガーなどは「外国の代理人」に指定して弾圧を強めている。
●ロシア、米の批判一蹴 プーチン氏再選は「国民の団結明示」 3/19
ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は18日、プーチン大統領の再選について、「大統領に対する国民の支持および大統領を中心とした団結を雄弁に物語っている」という認識を示した。
出口調査によると、17日に開票されたロシア大統領選ではプーチン氏が87.8%という過去最高の得票率で圧勝した。
米ホワイトハウスが、反体制派の投獄や対抗馬の立候補阻止などを指摘し、ロシアの選挙は「明らかに自由でも公正でもない」と批判したことについては、ペスコフ報道官は「米国のこうした評価に強く反対する」と反発。「米国が事実上、ウクライナでの戦争に深く関与している国であることを踏まえれば、予測できる評価だ。米国は事実上、われわれと戦争状態にある国だ」と述べた。
さらに、西側諸国がロシアの選挙の不当性を訴えるのであれば、プーチン大統領に投じられた87%超の票が不当であると言っているのに等しく、「ばかげている」とも述べた。
●トランプ氏まで平和要求…ネタニヤフ氏に向け「ガザ地区の戦争早く終わらせろ」 3/19
11月の米国大統領選挙でバイデン大統領との再対決が確定したトランプ前米大統領がイスラエルのネタニヤフ首相にガザ地区の戦争を終わらせるよう促した。昨年10月にイスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスの戦争が勃発してからトランプ前大統領が戦争終息に直接言及したのは今回が初めてだ。
トランプ前大統領は17日に公開された米フォックスニュースとのインタビューで、「ネタニヤフ首相にガザ地区の戦争についどんな話をしたいか」という質問に、「早く終わらせて平和の世界へ戻らなければならない。われわれには世界平和と中東平和が必要だ」と強調した。ただ人質解放など休戦交渉の条件に関する具体的な意見は明らかにしなかった。
トランプ前大統領はまた「イスラエルは恐ろしい侵攻を受けた。私が大統領だったらそんなことは起きなかっただろう」としながら戦争勃発にはバイデン大統領の責任もあると主張した。
合わせて民主党のシューマー院内総務がネタニヤフ首相の退陣に言及したことに対し「彼は突然イスラエルを捨てた。『どこから票がもっと出てくるのか』を問い詰めている」と批判した。14日にシューマー院内総務は上院演説でネタニヤフ首相に向け「イスラエル最善の利益より自身の政治的生き残りを優先した」と批判し、「選挙を通じた交代が必要だ」と主張した。
バイデン政権だけでなくトランプ前大統領まで休戦を要求しているが、ネタニヤフ首相はガザ地区最南端のラファに対する攻撃に固執している。彼は17日の閣議でパレスチナの民間人被害に対する国際社会の強い懸念はあるが、ハマス殲滅という目標達成を防ぐことはできないとして強行する意向を示した。
一方、トランプ前大統領はウクライナ戦争と関連する質問に対しては具体的な回答を避けた。ロシアのプーチン大統領が大統領選挙で勝利する場合、ウクライナに武器支援を続けるのか、ロシアがウクライナの一部を占領するのを許容するのかなどに対する質問に、「ロシアは強力な軍隊を持っており、ウクライナ国民は非常に勇敢だが交渉と妥協を模索する必要がある」と答えた。
続けて「自分が(戦争勃発当時に)大統領だったなら、プーチン氏はあえて侵略できなかっただろう。ウクライナ戦争問題は私に非常に苦痛なこと」と付け加えた。
●インドのモディ首相「プーチン氏との協力を楽しみにしている」 再選に祝意 3/19
ロシアのプーチン大統領が大統領選で勝利したことについて、インドのモディ首相は18日、X(旧ツイッター)に「長い実績があるインドとロシアの特別な戦略的パートナーシップをさらに強化するため、協力することを楽しみにしている」と祝意を投稿した。
インドは兵器調達を通じてロシアと関係が深く、ウクライナ侵略を巡っても直接的な対露批判を控えている。モディ氏は早々にプーチン氏再選に祝意を示し、ロシアとの関係維持を目指す姿勢を改めて示した。
●プーチン大統領、クリミアの不法併合を称賛 5選決めた翌日 3/19
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は18日、ウクライナからクリミアを併合して10周年を祝うコンサートで、クリミアのロシアへの「帰還」を称賛した。
ロシアは2014年、黒海のクリミア半島を不法に併合した。ウクライナに本格侵攻し、ドネツク、ルハンスク、ヘルソン、ザポリッジャの東部4州を掌握する8年前のことだった。
プーチン氏は、大統領選挙で圧勝を決めた翌日の18日、モスクワの赤の広場で開かれたコンサートに姿を見せ、数千人を前に演説。クリミアは「母港に戻って」おり、ロシアと共に前に進んでいくと訴えた。
また、ウクライナ東部4州のロシアへの「帰還」は、クリミアよりも「はるかに重大で悲惨な」なものだったと主張。「だが私たちは最後にはそれを成し遂げた。私たちの国の歴史における大きな出来事だ」と述べ、それら占領地を「新ロシア」の一部だと呼んだ。
聴衆からは「ロシア、ロシア」のかけ声が沸き起こった。
プーチン氏は演説で、ロシア南西部の都市ロストフ・ナ・ドヌから占領しているウクライナを経由し、クリミアに至る新たな鉄道の建設も発表した。
これは、ロシア本土とクリミア半島を結んでいる現在の連絡橋の代替ルートとなる。既存のケルチ橋は2018年開通で、ウクライナでの戦争が始まってからは攻撃の対象となっており、2度閉鎖されている。
プーチン氏は、「私たちはこうして手を取り合って前進していく。これが私たちを本当に強くする。言葉ではなく行動でだ」と述べた。
演説ではこのほか、ロストフ・ナ・ドヌからウクライナで占領下に置いているドネツク、マリウポリ、ベルジャンスクの各市への鉄道路線が復旧し、今後クリミアの港湾都市セヴァストポリまで延伸されると話した。
対立候補もそろって壇上に
プーチン氏は大統領選で、得票率87%の圧勝によって通算5選を果たした。
この日のコンサートでは、聴衆らに支持への感謝を表明した。ステージには、対立候補となることが許された野党の3人も一緒に姿を見せた。
ロシアでは3日間にわたって投票が実施され、ウクライナのロシア占領地域ではさらに長い期間、住民に投票が働きかけられた。
2000年からロシアで実権を握り続けているプーチン氏は、今回の選挙の結果、少なくとも2030年まで権力の座にとどまる見通しとなった。ソヴィエト連邦時代の独裁者ヨシフ・スターリン以来の長期リーダーとなる。
今回の大統領選は、まともな対立候補の立候補が許されなかったことなどから、西側諸国がでたらめだと非難している。
イギリスのデイヴィッド・キャメロン外相は、「プーチン大統領の政権下での弾圧の深さを浮き彫りにした」と批判。ロシアが占領しているウクライナの領土で選挙を実施したのは、「国連憲章とウクライナの主権に対する許されない違反」だと強調した。
ドイツは今回の選挙を「擬似選挙」だと非難。アメリカは「明らかに自由でも公正でもない」とした。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、プーチン氏がまた新たな選挙を「したふり」をしたと断じた。
ロシアの独立選挙監視団体ゴロスは、今回の投票では監視を禁じられた。それでも、選挙での不規則行為や、公共部門で働く人々が投票所かオンラインで投票するよう圧力をかけられたとの報告が表出している。
ゴロスは、有権者らが「自由な意思を形成して表明することも、投票の真の結果を確定することも」できなかったとした。
プーチン氏は反政権派の運動家らを、多くの有権者に投票を呼びかけたとしてたたえた。一方で、投票を妨害した人々を非難し、相応の措置が取られると述べた。
●圧勝のプーチン、ウクライナ最前線の緊迫の日常 3/19
先週末に大統領選挙が行われたロシア。得票率が9割に迫る圧勝という結果を受け、ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ4州の完全併合を目指し軍事作戦を強化している。
戦争の長期化が避けられない中、前線近くに残る住民の命を誰が守るのか。人道支援団体と連携し、危険地帯へ向かうウクライナ人医師を紹介する。
前線地域の支援に向かうボランティアたちの実際
国際女性デーの3月8日、ハリコフ市の病院で家庭医をしているエレナ・エフレモバ(38歳)は四輪駆動車の助手席に乗っていた。目指すのはウクライナ東部ドネツク州にあるディブロバ村。片道200キロ、4時間以上の長旅だ。
「今日はこんなに待たされるのね」
ウクライナ軍が管理する検問所でエレナがつぶやいた。ドネツク州の要衝アウディーイウカが陥落したことで、ロシア軍の攻撃が激しくなっていた。やむなく、ウクライナ軍は前線に向かうボランティアの身元確認を強化していた。
エレナが出張診療を始めたのは先月2日、激戦地バフムートの北にあるシベルスク市でのことだった。その日はボランティアセンターに医薬品を持ち込み、住民16人に薬を処方した。砲撃音が響く前線を訪れたのも、防弾ベストやヘルメットをかぶったのも初めてだったエレナ。帰り際、こう話していた。
「多くの年老いた住民が病を抱えていて、悲しくなりました。住宅も爆撃を受けてボロボロでしたし、幹線道路の橋も破壊されていたし」
「前線へ行かないか」とエレナに声をかけたのは、ハリコフ在住のボランティア、ビタリーだ。ビタリーは筆者と同じ人道支援団体、マリウポリ聖職者大隊に所属している。昨年、オランダへ避難している薬剤師の妻に協力を仰ぎ、医療支援の計画を立てた。海外からも資金を募り、薬を揃えたものの、いざ現地で住民に向き合うと苦労の連続だった。そこで、幼なじみのエレナに白羽の矢を立てたのだ。
「見ての通り、俺は即断即決の行動派。逆にエレナは慎重すぎるくらい慎重だ。だから、『来週行こう!』と直前に連絡をしてみたのさ」と、ビタリーは振り返る。
私たちを乗せた車は予定より2時間遅れてディブロバ村に着いた。開戦1年目はロシア軍に占領されていたため、いたるところに地雷が埋められている。地雷撤去の作業中、「ズドーン」という爆音とともに黒煙があがることもある。これまでロシア軍の砲撃で亡くなった住民は10人。いまも14キロ先にロシア軍の支配地域が迫っている。
バスの停留所に住民が集まっていた。人口500人ほどだったディブロバ村に残るのは現在72人。いずれも中高齢者だ。
「薬を持ってきたので、ここに並んでください」とビタリーが声をかける。2000ドルの募金で調達した150種類ほどの薬を前に、長い列ができる。
つえをついた老婆がエレナにこう訴えた。
「最近、咳が止まらなくなって。足の関節も痛くて辛いんです」
夫と死別し、一人で暮らすアレクサンドラ(80歳)は心臓に持病があるという。エレナはクリアケースに仕分けした薬の中から数種類の錠剤を選び、「これを飲んでみてください」と言って、手渡した。
「医師が来ると聞いて、飛んできた」と話すのは元警察官のワディム(69歳)。不眠症に悩む妻のため、エレナに薬を処方してもらった。毎日5、6発、隣の村にロケットが飛んでくる。決して安住できる場所ではないが、留守宅に置いてあった農機具が盗難されたため、避難先から戻ってきたという。
インフラ施設が破壊され電気、ガス、水道が途絶えた村に残る理由は様々だ。「高齢のため長距離移動が心配だ」「避難先での滞在費が工面できない」という人も多い。開戦後、診療所も薬局も閉鎖したディブロバ村の住民は、主治医から処方されていた薬を書いた紙を手に、順番を待っていた。
ロシア軍の攻撃ドローンを警戒しながら、テンポ良く診察を済ませるエレナ。終わりの見えない戦争について尋ねると、こう答えた。
「先週オデッサが砲撃を受けたでしょ。実は、私の兄の友人もそこで亡くなりました。私には軍事的なことはわかりませんが、いたたまれない思いでいます」
開戦から2年、ウクライナ政府は従軍医療者に対する対応を重視してきた。2022年8月には、負傷兵の治療をする女性看護師のために、軽量の防弾ベスト50万着を供給すると発表した。しかし、前線の街で医療を必要とする住民に向けての政策を耳にすることはない。エレナが知る限り、知り合いの医師数人が自主的に足を運んだケースがあっただけだという。
3月10日、シベルスク市の秘書アーニャから連絡が入った。前線への支援活動を円滑にするため、特別な通行許可証を発行してくれるという。エレナ医師を連れて再訪する計画を立てていた私たちにとって、この上ない朗報だった。
翌日、筆者はボランティアのメンバーと一緒にシベルスク市の臨時庁舎を訪ねた。すると、市長のボロビヨフが神妙な面持ちで職員と話し込んでいる。そして、私たちにこう伝えた。
「街の周辺が激しい攻撃を受けている。残念ながら今日から3週間、民間人の立ち入りを禁止することにした」
ロシア軍が突破を狙うルハンシク州ビロホリウカでの戦闘が激化し、ウクライナ兵2人が負傷したという情報も届いた。シベルスク市からわずか6キロのところにある要衝だ。
これまでボランティアが届ける食材や医薬品で、何とか体調を維持していた1000人ほどの住民はどうなるのか。昨年の3月にはウクライナの南東部で大雪が降り、地下室で避難生活を送っていた高齢者が命を落とす事例もあった。エレナとビタリーは1日も早く支援活動が再開できるよう準備を続けている。
●プーチン氏は独裁者の道を突き進む 3/19
欧州連合(EU)のシャルル・ミシェル大統領は15日、ロシアのプーチン大統領の5選に対して祝意を表明した。投票は始まったばかりでまだ当選が確定したわけでなく、その前だ。プーチン氏はEU大統領からの祝意表明を「あなたの祝意は第一号です」と歓迎しただろうか。そそれとも「ロシア大統領選挙は仮想選挙に過ぎない。真の対抗候補者はなく、プーチン氏の5選は英国のブックメーカーも掛け率(オッズ)が良くないから関心が低い」と欧米メディアで報じられていることを受け、「EU側の精一杯の皮肉を込めた祝電」と感じ、不快感を漏らしただろうか。
ロシア大統領選(任期6年)は15日から17日までの3日間実施された。モスクワの中央選挙管理委員会によると、ほぼ半数の開票が終わった時点でプーチン大統領の得票率は87・3%だった。プーチン大統領の2018年の選挙結果(76・7%)よりも10ポイント以上高い。国営テレビはその直後、プーチン氏の当選確実の速報を報じた。
有権者総数は約1億1400万人、暫定投票率74%はロシア大統領選では最高の数字。投票はロシアが2014年に併合したクリミア半島やウクライナ東部・南部の占領地でも実施され、今回初めて電子投票が行われた。選挙管理委員会によると、800万人の国民がオンラインで投票したという。
ロシア大統領選の当落は重要ではない。なぜならば、投票前に既にその結果は決まっているからだ。プーチン大統領の公式の対抗候補者は共産主義者のニコライ・ハリトーノフ氏、民族主義者の自由民主党党首レオニード・スルスキー氏、新人民党のウラジスラフ・ダワンコフ氏だった。彼らは大統領選が民主的に実施されたことを見せるためのクレムリンのマリオネットに過ぎないからだ。他の2人の候補者、戦争反対派のボリス・ナデジディン氏とエカテリーナ・ドゥンソワ氏は、選挙管理委員会によって候補者から除外された。最も有名な反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は2月16日、ロシアのシベリアの捕虜収容所で死亡した。
興味深い点は、プーチン氏は当選確実となった直後、「ナワリヌイ氏は囚人交換のリストにアップされていた」と語り、ナワリヌイ氏の名前を初めて公の場で言及し、「起きたことは仕方がないが、残念だ」と述べたことだ。当選が決まって余裕が出たために飛び出した発言かもしれないが、どのようにカムフラージュしたとしても、これはプーチン氏の一種の犯行告白だ。
プーチン大統領は17日、当選確実後、「大統領選挙に参加してくれた同胞に感謝する。投票所に来て投票したロシア国民全員は団結したチームだ」と述べた。そして選挙の勝利を「現在の道を選んだことが正しかったことを示している。ロシアは今、より強く、より効率的になれる。社会を統合し、誰もロシアを抑圧することはなくなるだろう」と強調し、勝利宣言をしている。
ロシア大統領選には国際選挙監視団は派遣されていないから大統領選に不正があったか否かは不明。ナワリヌイ氏の腹心レオニード・ヴォルコフ氏はテレグラムを通じて、「選挙管理委員会が発表した数字は架空だ」と批判。ナワリヌイ氏の支持者らは17日正午、各地の投票所に集結する事実上のデモを呼び掛け、一部で行列ができた。大統領選挙から除外された野党政治家のボリス・ナデジディン氏も平和的な抗議活動に参加した。この抗議活動でロシア全土で少なくとも74人が一時的に拘留されたという。公民権ポータルサイトOVD-Infoが17日午後に報じた。
ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワリナヤ氏も17日午後、ベルリンのロシア大使館前の列に加わり、投票した。ナワリナヤ氏は「投票用紙にナワリヌイの名前を書いた」と述べている。外電は、欧州各地でロシア大使館前にはプーチン氏の独裁に抗議する人々の長い列ができた、と報じた。
プーチン大統領(71)は1999年以来、大統領と首相を交互に務めており、新たな6年の任期を満了すれば、独裁者ヨシフ・スターリンの29年間の最長任期期間(1924年〜53年)を超える。憲法改正のおかげで、プーチン大統領は2030年にさらに6年間大統領を務めることができる。最長の場合、2036年まで大統領職に留まることができる。
プーチン大統領は選挙での勝利を背景に、「自身の反西側・権威主義路線は国民の支持を得た」として、今後6年間の任期中にウクライナに対する侵略戦争を更に強化すると予想される。数十万人の予備兵が再び動員され、戦争や社会政策事業への高額な支出を賄うために増税が予定されているため、国民の経済、未来への不安はこれまで以上に深まることが考えられる。
プーチン氏の5選が決まった直後に“ポスト・プーチン”を考えることは本人には失礼かもしれないが、多くのロシア国民ばかりか、ウクライナ国民もプーチン時代が早く幕を閉じることを願っている。“ポスト・プーチン”がプーチン時代よりいいという保証はないが、プーチン氏の独裁政治は歴史上稀に見る非人道的な政治だ。世界はシリア内戦、そしてウクライナ戦争でプーチン氏の戦争犯罪を目撃しているからだ。
●ウクライナ支援は融資で実施を、米共和議員がゼレンスキー氏と会談 3/19
米共和党のリンゼー・グラム上院議員は18日、議会がウクライナ支援策を近く承認すると確信していると述べた。ただ、支援は低金利で免除可能な融資の形で行うべきとの見方を示した。
ゼレンスキー大統領と会談後に記者会見し、ウクライナ支援延長を完全に支持するとしつつ、米国の国境警備など国内問題を考慮する必要があるとウクライナ側に説明したことを明らかにした。
グラム氏ら共和党議員はウクライナ支援がより持続可能で理解を得られるものになるよう、資金供与ではなく融資を行うというトランプ前大統領が掲げる案を支持している。
バイデン大統領はウクライナに600億ドルの追加支援を行う法案を可決するよう議会に求めている。民主党主導の上院は通過したが、共和党主導の下院でも可決が必要だ。
グラム氏は下院が法案を支持することを「これまでで最も楽観している」とし、無利子で免除可能な融資が非常に理にかなっていると述べた。ウクライナ訪問前にジョンソン下院議長と協議したとし、下院が同案を盛った法案を数日内に打ち出すことを期待すると語った。
●ロシア ウクライナ領土内に緩衝地帯つくる考えを一方的に示唆 3/19
ロシアとウクライナの国境付近での戦闘が激しさを増す中、ロシア側はウクライナ領土内に緩衝地帯をつくる考えを一方的に示唆し、ウクライナ側は警戒を強めています。
ウクライナ北東部のスムイ州では、連日ロシア軍によるミサイルや迫撃砲などの攻撃が続いていて、17日にも住宅や病院などが被害を受け、ウクライナ軍の報道官は「砲撃が大幅に増え住民の避難が困難になっている」としています。
一方、スムイ州と国境を接する、ロシア西部のベルゴロド州にも、連日、ウクライナ側からとみられる攻撃が続いていて、地元の知事は、18日には4人が死亡したとしています。
ベルゴロド州には、ウクライナ側に立って戦うロシア人義勇兵が越境攻撃を仕掛けていて、17日には州内の集落の行政庁舎を掌握したと主張しています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は17日、「ウクライナの領土に『衛生地帯』を設ける考えを排除しない」と述べ、ロシア国内の被害を防ぐため、ウクライナ領土内に緩衝地帯をつくる考えを一方的に示唆しました。
これに対して、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は「ロシアが他国の主権を考慮していないことの証拠だ」として、警戒を強めています。
●プーチン氏、ウクライナ併合4州の統合加速を強調 3/19
ロシアのプーチン大統領は18日夜、ウクライナから一方的に併合したクリミア半島の併合10年を記念したモスクワでの集会で演説した。2022年9月に併合を宣言したウクライナ東・南部4州について、制圧地域の統合を加速する考えを強調した。
プーチン氏は4州について「(住民は)祖国に戻りたいという希望を表明していた」と持論を展開。侵攻が長期化する中、併合は「困難で悲劇的なものとなった。だが我々はそれを成し遂げた」と演説で主張した。
今後、ロシア南部のロストフ州から、ウクライナのドネツク州など東・南部を経由してクリミア半島に至る鉄道を建設するとの考えを示し、クリミア半島に続いて4州の制圧地域の統合を進める方針を示した。
併合から10年となったクリミア半島については「戦略的に重要な領土であるだけでなく、歴史や伝統においてロシアの誇りだ」と述べた。同半島はロシア黒海艦隊が拠点を置く軍事面の要衝だが、ウクライナ側の攻撃で艦船の損失が続いている。
17日まで3日間にわたって投票が行われたロシア大統領選で、プーチン氏は87.3%を得票し通算5選を決めた。18日夜の集会にプーチン氏は大統領選挙に立候補した3人と共に登壇した。
得票率が4.3%と2位だったロシア共産党のハリトノフ下院議員は「プーチン大統領はクリミアの人々が故郷に戻れるよう、あらゆることを行った」と称賛した。
今回の大統領選ではプーチン氏に批判的な候補は立候補できなかった。他の候補とともに登壇することで、プーチン政権のもとでの国民の結束を強調する狙いとみられる。
●マクロン仏大統領、なぜハト派からタカ派へ……ロシアのウクライナ侵攻に対し 3/19
いったいエマニュエル・マクロン仏大統領に何があったのか? なぜいきなり、ロシアとウクライナの問題について姿勢を変えたのか。かつては和平仲介を模索していたはずが、なぜここへきて、欧州全体を巻き込むような好戦的な発言をしたのか。
欧州各国の首脳が、マクロン氏の変化に首をかしげている。そしてマクロン氏本人は自ら率先して、反プーチン勢力の欧州代表となった。
バルト諸国やポーランドといった国々は、マクロン氏が自分たちと同じように、ロシアの意図を「現実的」に見極めるようになったと、その転身を歓迎している。
他の国では、特にドイツのオラフ・ショルツ首相を筆頭に、フランス大統領がいきなり好戦的になったと、あっけにとられて青ざめている。
誰もが混乱して、不安な思いでいる。マクロン氏のこの新しい姿勢は、どこまで本物なのか? 最近になって彼がウクライナ派兵の可能性を排除しなかったのは、人の意表を突くことが好きなマクロン流の立ち回りなのか? 外交舞台でどうしても目立ちたがる、そうせずにはいられない彼特有の。
あるいは、この新しい姿勢はどこまで純粋に政治的なものなのか?
欧州では今年6月に欧州議会選挙が行われる。フランスでは現時点で、極右マリーヌ・ル・ペン氏とジョルダン・バルデラ氏が、マクロン派の候補たちを打ち負かす勢いだ。
だとすると、マクロン氏は自陣と対立陣営の間にくっきりと線を引くために、ウクライナを利用しているのだろうか。自分は明確にウクライナ支持だと示すことで、ル・ペン氏が過去にいかにロシアと曖昧模糊(あいまいもこ)とした協力関係にあったか、対比を鮮明に示そうとしているのか。
フランスで14日夜に生中継されたインタビューで、確かにこうした大事な問題も議論の俎上(そじょう)に上っていると、大統領は認めた。
しかし、典型的なマクロン話法で、大統領は聞き手をなだめようとするどころか、持論をむしろ力説した。ロシアへの危機感を新たにしたのはなぜか、主張を薄めるどころか、むしろその危機感をマクロン氏は解説した。
自分がハト派からタカ派に急に転身したことについて、大統領は特に悪びれる様子もなく、どちらかに転じるにはまずは逆の立場でいる必要があったのだと説明した。
敵に手を差し伸べるため万策を尽くして初めて、この敵は和睦の余地などないどうしようもない相手だと、結論することができるとマクロン氏は述べた。
さらに……と、マクロン氏は自分の正当性を説明し続け、ロシアによる侵略行為は新しい段階に突入したと語った。
クレムリン(ロシア大統領府)はこの数カ月で「あからさまなほど強硬姿勢」に転じたと、マクロン氏は指摘した。永続的な戦時経済体制を確立し、国内の反体制派の抑圧を強化し、フランスなど諸外国へのサイバー攻撃を激化させていると。
ウクライナの苦境が悪化し、アメリカがもはや協力国として頼れなくなった以上、欧州は新しい世界に足を踏み入れているのだとも、マクロン氏は述べた。
そしてそれは、「かつてあり得ない思っていたことが、実際に起きてしまう世界」だと。
だからこそ、この新しいマクロン主義によると、フランスと欧州は備えなくてはならないのだという。死にゆく時代に確かだったはずの安穏な状態から、いっきに目覚めて、頭を切り替え、新時代の厳しい現実に立ち向かわなくてはならないと、マクロン氏は述べた。
あえてチャーチル的な物言いでマクロン氏は、平和を維持するためには欧州は戦争に備えなくてはならないと力説した。
そしてマクロン氏は常にそうだが、彼の論理に非の打ちどころはない。その主張には常にすきがない。
しかし、マクロン氏は常にそうなのだが、この疑問もつきまとう。彼の言うことに相手は納得するかもしれないが、果たして相手を説得できるのだろうか?
このフランスの指導者は常に、その頭脳力においてはずば抜けて優れている。それは明らかだ。しかし、その傑出した英明ぶりを、指導力という別の能力に転換できるのか。その点において、マクロン氏はたえず苦労してきた。彼に人は従うのだろうかという、そのリーダーとしての力の部分で。
そしてこの問題について言うなら、他の諸国がマクロン氏に続くのかどうか、とてもではないがはっきりしない。
特に顕著なのが、欧州で最も近い関係のはずのオラフ・ショルツ独首相との温度差だ。
フランスとドイツは長年の慣習に沿って、今では表向きは関係を修復し、共同戦線を張っている。そうでなくてはならないからだ。だからこそマクロン氏は15日にベルリンを訪れた。
しかし、両首脳がどれだけ男らしく抱擁(ほうよう)し合ったとしても、根本的な不和は隠しようもない。
フランスは、ドイツのウクライナ支援がのろのろしすぎていると批判する。そして、ドイツがわざと現実に目をつぶり、アメリカの安全保障の傘は恒久的なはずだとしがみついていると。
逆にドイツは、フランスが無謀に好戦的で、偽善的だと批判する(実際にはフランスからのウクライナへの武器提供はドイツよりはるかに遅れている)。そして、いかにもこれみよがしなマクロン流のスタンドプレーだと。
しかしフランス国内でも、マクロン大統領の対ウクライナ方針への支持は、本人が期待するほど確かなものはない。
世論調査によると、約68%が西側の部隊をウクライナに派兵するという大統領の案に反対している。さらに全般的な話では、調査会社IFOPの世論調査によると、ほとんどの人はロシアに明確に反対しているものの、「ウクライナへの支持は低下を続けている」のだという。
そして、マクロン氏がいきなり対ロ強硬姿勢をとったことの背景に、選挙という文脈があるとするなら(極右の対ロ姿勢がいかに矛盾に満ちたものかを強調するためという)、それはあまりうまくいっていないようだ。世論調査では、ル・ペン氏率いる「国民連合(RN)」の支持率は右肩上がりだ。
欧州筆頭の反・融和リーダーに転身することで、マクロン大統領はまたしても新境地に足を踏み入れた。
彼は先頭に立ち、欧州人に自分たちの安全保障について熟慮するよう迫っている。まもなくどういった犠牲が必要になるかもしれないか、しっかり考えるようにと。
これはいずれも、歓迎すべきことだ。
しかし、彼のやることに否定的に反応する人が、あまりに多い。それが、マクロン氏にとっての難題だ。
マクロン氏は自分を信じている。それを大勢が毛嫌いしている。そして、欧州や世界にとって正しいことを、フランスにとって正しいこと、あるいは自分にとって正しいことと混同しすぎではないかと、多くの人がいぶかしんでいる。
●米 バイデン大統領 イスラエル首相に高官の派遣を要請 3/19
アメリカのバイデン大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で会談し、イスラエル軍によるガザ地区南部のラファへの地上作戦に懸念を示し、大規模な作戦に代わる計画を協議するため、イスラエルの高官からなるチームをワシントンに派遣するよう要請しました。
イスラエルのネタニヤフ首相が、ガザ地区南部で150万人近くが身を寄せるラファへの地上作戦の計画を承認する中、バイデン大統領は18日、ネタニヤフ首相と電話で会談しました。
会談後、ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官が記者会見し、イスラエル軍が先週、ガザ地区のハマスのナンバー3にあたるとされるマルワン・イーサ副司令官を殺害したと明らかにし、「イスラエルは大きな進展を遂げている」と強調しました。
一方でサリバン補佐官は、ラファから市民を安全に移動させる計画が示されていないなどとして、バイデン大統領がラファへの地上作戦の実施に深い懸念を伝えたことを明らかにしました。
そして、大規模な地上作戦に代わる計画を協議するため、イスラエル軍の高官などからなるチームを数日中にワシントンに派遣するよう要請し、ネタニヤフ首相も同意したということです。
サリバン補佐官は「ラファやいかなる場所もハマスにとって安全な逃げ場所にしてはならないというのが、われわれの立場だが、大規模な地上作戦は間違いだ。協議が行われるまでラファへの作戦は着手されないと信じている」と述べました。
●ラファ侵攻に「深い懸念」 イスラエル首相に翻意迫る―米大統領 3/19
バイデン米大統領は18日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、パレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの軍事侵攻に「深い懸念」を表明した。ラファ侵攻の構えを崩さないネタニヤフ氏に翻意を迫った形だが、応じるかは不明。米政府高官が明らかにした。
バイデン氏はまた、イスラエル政府高官を数日以内に訪米させ、ラファに本格侵攻せずイスラム組織ハマスの幹部だけを標的とする代替策に関する協議に応じるよう要請。ネタニヤフ氏は派遣に同意したという。
●エネルギーの国際会議 バイデン政権のLNG輸出一時凍結が焦点に 3/19
世界各国から政府高官や企業トップが集まる、エネルギーの国際会議がアメリカで始まり、バイデン政権が、LNG=液化天然ガスが環境に及ぼす影響を評価するとして、新たな輸出許可を一時凍結した措置が、ひとつの焦点となっています。
「CERAWeek」と呼ばれるこの国際会議は、アメリカの金融サービス企業S&Pグローバルが毎年主催していて、およそ90か国から政府高官や企業トップなどおよそ7000人が参加します。
18日、テキサス州ヒューストンで始まった会議では、アメリカ エネルギー省のグランホルム長官が講演しました。
この中でグランホルム長官は、ことし1月にバイデン政権が発表した、LNGの新たな輸出許可の一時凍結の措置に言及し、「LNGの輸出拡大が地球環境に及ぼす影響をデータに基づき評価している」と述べ、クリーンエネルギーへの移行は避けられないとして、再生可能エネルギーへの投資の重要性を訴えました。
一方でグランホルム長官は、「凍結は一時的な措置だ」として、今後の判断は明確に示しませんでした。
アメリカはLNGの最大の輸出国で、この措置をめぐっては、化石燃料の廃止を求める環境保護団体から「画期的な判断」という声があがる一方、エネルギー業界からは「天然ガスのロシア依存からの脱却を遅らせ、エネルギー価格の上昇にもつながる」という懸念が出ています。
会議は今月22日まで開かれ、気候変動対策とエネルギー安全保障の観点から議論が行われる見通しです。
●国連安保理 日本主催で閣僚級会合 核軍縮・不拡散テーマに 3/19
国連の安全保障理事会で、今月の議長国、日本が主催して、核軍縮・不拡散をテーマにした閣僚級会合が開かれ、各国から核軍縮の必要性を訴える意見が相次ぐ一方で、核保有国のアメリカとロシアや中国が互いを非難する応酬となりました。
国連安全保障理事会は15の理事国が1か月ごとに交代で議長を務め、今月、議長国である日本は、日本時間の18日夜から19日未明にかけて核軍縮・不拡散をテーマに閣僚級会合を開きました。
会合には、核兵器国である常任理事国5か国と、非常任理事国10か国の外相や国連大使らが出席しました。
冒頭、グテーレス事務総長が「核保有国は対話のテーブルについてない。戦争の手段への投資が平和への投資を上回っている」と述べ、核軍縮が停滞する現状に強い危機感を示しました。
議長を務めた上川大臣は「国際社会の分断が深まり、核軍縮をめぐる状況も一層厳しくなっている。『核兵器のない世界』の実現に向けて、現実的で実践的な取り組みを着実に進めることが重要だ」と強調しました。
そして、核戦力の透明性の向上や、核兵器の減少傾向の維持などに危機感を持って取り組むよう訴えました。
また、核兵器の原料となる物質の生産を禁じることなどを目的としたFMCT=兵器用核物質生産禁止条約の交渉開始に向けて、日本が主導し、関心のある国が議論を行うグループを立ち上げることを表明しました。
このほか、ロシアによる核の威嚇や北朝鮮の核・ミサイル開発、中国を念頭にした核戦力の急速な増強などについて、「核兵器のない世界に逆行する動き」だと指摘し、国際社会が一致して声をあげるよう呼びかけました。
閣僚級会合では、各国からも核軍縮に取り組む必要性を訴える意見が相次ぎました。
その一方で、核保有国どうしの対立もみられ、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は「ウクライナへの侵攻以降、ロシアは無責任に危険な核をめぐる主張を続け、核の軍備管理の義務も放棄してきた。その間に中国は急速かつ不透明に核兵器を蓄積し多様化させてきた」と述べ、ロシアと中国を非難しました。
これに対して、中国の張軍国連大使は「アメリカの主張は全く根拠がない」と反発したうえで、より多くの核兵器を保有するアメリカこそ核軍縮を進めるべきだと主張しました。
また、ロシアのポリャンスキー国連次席大使は「いまや西側諸国は、わが国を戦略的に敗北させようとする意図を隠していない。アメリカとその同盟国の反ロシアの政策がエスカレートすれば、核保有国どうしの直接対決に発展しかねない」と述べ、アメリカを強くけん制しました。
米の国連大使 宇宙に核配備しないよう求める決議案提出の考え
国連安全保障理事会の会合で、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は、宇宙空間に核兵器やその他の大量破壊兵器を配備しないよう求める決議案を、日本とともに提出する考えを明らかにしました。
トーマスグリーンフィールド国連大使は「地球の周回軌道上に核兵器をおくことはこれまでなかったことで、危険であり容認できない」と述べ、決議案では、地球の周回軌道上に配備するための核兵器やその他の大量破壊兵器を開発しないよう、国連加盟国に呼びかけると強調しました。
アメリカ ホワイトハウスの高官はことし2月の会見で、ロシアが人工衛星を標的にした軍事計画を進めているとして、宇宙空間の平和利用などを定めた「宇宙条約」に違反していると指摘していました。
●プーチン大統領 選挙圧勝から一夜 軍事侵攻進める姿勢を強調 3/19
ロシアの大統領選挙で圧勝したプーチン大統領は、選挙から一夜明けた18日、ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合してから10年になったのにあわせて開かれた集会で演説し、クリミアの支配を続けるとともに、支配地域の拡大に向けて軍事侵攻を進める姿勢を強調しました。
今月17日までの3日間投票が行われたロシアの大統領選挙は、プーチン大統領が87%余りの得票率でほかの候補者を圧倒して勝利しました。
選挙から一夜明けた18日は、プーチン政権が2014年の3月にウクライナ南部のクリミアを一方的に併合してから10年となり、首都モスクワの中心部の赤の広場では大規模な集会が開かれ、プーチン大統領が演説しました。
この中でプーチン大統領は、クリミアについて「戦略的に重要な領土ということだけでなく、われわれの歴史であり、誇りだ」と述べ、ウクライナ軍が奪還を目指す中、ロシアが支配を続けると強調しました。
また、ロシア南部ロストフ州から、すでに掌握したウクライナ東部や南部をつなぐ鉄道を復旧させ、まもなくクリミアまで路線がつながる予定だと明らかにしました。
会場のステージには、大統領選挙に立候補したほかの3人の候補者も登壇し、プーチン大統領のもとに国民が結束していると印象づけるねらいとみられます。
プーチン大統領としては、選挙で圧勝した直後に、国民の多くが支持するクリミア併合の意義を改めて訴えかけることで、ウクライナの支配地域の拡大に向けて軍事侵攻を進める姿勢を強調したものとみられます。
クリミアの一方的併合から10年 モスクワ市民は
ロシアがウクライナ南部クリミアの一方的な併合を宣言してから10年となったことについて、首都モスクワの市民からは「ロシアに戻った記念日だ」という声が多く聞かれるとともに、一方的な併合に至った経緯に疑問を抱く声も聞かれました。
60代の女性は「18日は記念日です。とてもうれしいことで、クリミアはずっと私たちのものでした。すべてが正常に戻ったことに感謝します」と話していました。
ロシアによる併合前にクリミアに住んでいたことがあるという21歳の学生は、「住民の生活や医療水準はずっと良くなり、多くの病院が建てられ、道路が修復され、都市は復興しました。クリミアはいま、生き生きと繁栄しています」と話し、ロシアのもとで発展を遂げているという考えを示しました。
一方、23歳の男性は「私には関係ないことです。おそらく住民の多くが本当に望んでいたのでしょう。ただし、住民投票は公正だったのか、よくわかりません」と話し、ロシアが併合する前に行った住民投票の方法に疑念を示しました。
40代の女性は「矛盾した思いを抱いています。どのようにして併合が実現したのかが大きな問題です」と話し、一方的な併合に至った経緯に疑問を抱いていました。
●EUがウクライナ軍事支援の基金 8100億円拠出 3/19
欧州連合(EU)加盟国は18日、ウクライナに対する軍事支援のため新たに50億ユーロ(約8100億円)を拠出し、ウクライナ支援に特化した基金を設けることを決めた。軍事装備の供与やウクライナ兵の訓練を実施する。
EUの基金「欧州平和ファシリティ」の中に、ウクライナ支援向けの基金をつくる。EUの外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は「ウクライナを守るために必要な支援を続ける」と強調した。加盟国は13日の大使級会合で50億ユーロの拠出に大筋合意していた。 

 

●プーチン氏、情報機関FSBにロシア企業支援を指示 西側に対抗 3/20
ロシアのプーチン大統領は19日、連邦保安局(FSB)に対し、ロシア企業が西側諸国が導入した制裁措置に対抗し、世界各地の新たな市場で勢力を拡大するのを支援するよう指示した。
FSBはソ連時代の国家保安委員会(KGB)の流れをくむ治安・情報機関。大統領選で圧勝したプーチン氏は首都モスクワ中心部のルビャンカにあるFSB本部で開かれたFSB年次会合で行った演説で、西側諸国はプロパガンダ、ハイテク技術、金融などの手段を用いてロシアに不和をもたらす危険な敵だと指摘。
FSBに対し「西側諸国の公然とした敵対行為に直面しながらも、新たな市場を開拓し、積極的に発展しているロシアの企業を支援する」よう指示した。
●やはり怪しかったロシア大統領選、プーチン氏得票「2200万票水増し」で圧勝演出か 監視団体が指摘 3/20
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(71)が通算5期目の当選を決めた大統領選で、同氏の得票数に大幅な水増しがあったとの分析結果が発表された。独立系選挙監視団体「ゴロス」は「史上最大」の2200万票が上乗せされたと推計した。「圧勝」は演出されていた可能性がある。
中央選挙管理委員会によると、15〜17日に行われた投票でプーチン氏が得たのは7627万票を超え、得票率87.28%。投票率も過去最高の77.44%だった。
ゴロスは中央選管ウェブサイトのデータなどを分析し、時間の経過とともにプーチン氏の得票だけが跳ね上がる「異常な投票」の存在を指摘。プーチン氏の「得票率85%以上」と「投票率70%以上」を目標に数字が操作されたと主張した。
ロシアが侵攻するウクライナとの早期和平交渉入りを訴えた政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長の得票が不正に低くされ、3位に沈んだとも指摘した。共産党のハリトノフ下院議員(75)や極右、自由民主党のスルツキー党首(56)が立候補したが、得票はいずれも5%未満だった。
独立系選挙監視団体の「ゴロス」は2011年の下院選で政権与党「統一ロシア」の不正を指摘し、大規模な反政権デモが起きた。法務省は21年にゴロスを「外国の代理人として活動する非登録組織」に指定。メリコニヤンツ共同代表は昨年8月に拘束された。
ロシア大統領選をめぐっては、ウクライナ侵攻に反対した野党候補のナデジディン元下院議員は中央選管に候補者登録を拒否された。2月には反政府活動家のナワリヌイ氏が刑務所で死亡した。欧米諸国は大統領選を「自由でも公正でもない」と非難している。
●「史上最大の選挙不正」 プーチン氏2千万票上乗せ―ロシア監視団体分析 3/20
ロシアの民間選挙監視団体「ゴロス」は18日、圧勝で通算5選を果たしたプーチン大統領の得票数のうち約2200万票が不正に上乗せされたとみられるという専門家の分析を公表した。操作は「史上最大」規模だと主張している。
15〜17日投票の大統領選について、中央選管は18日、投票率が過去最高の77.44%、プーチン氏の得票率が87.28%だったという暫定結果(開票率100%)を発表。同氏の得票数を7627万7708票としていた。
19日付のロシア各紙は、中央選管の暫定結果を大きく報道。経済紙ベドモスチは「有権者の総数の3分の2がプーチン氏に投票したことになる」と指摘し、白紙委任が与えられたという識者の見方を伝えた。
●プーチンはロシア大統領選を勝利したが、これはロシアの未来の敗北を意味する 3/20
この先、うまくいかない勝利
15〜17日、ロシアで大統領選挙が行われ、プーチンは投票率74%強で得票率87%強。どう数えたのかは知らないが、プーチンの文句なしの大勝利。
これでプーチンはウクライナ東部の占領を拡大しての停戦、そして国内では国民生活のレベルを飛躍的に引き上げる「ナショナル・プロジェクト」の完遂を目標とするだろう。しかし以下に説明するように、そのいずれも、うまくいくまい。そしてそれより心配なことは、国家、文明としてのロシアの将来だ。
ロシアは、人口の43%を34歳以下の若年層が占める(2019年時点)「若い国」だ。今の政府は計画経済と帝国主義のソ連時代の過去に向かってまっしぐらだが、そんなソ連時代を知らない世代が、権力の座につく一歩手前にある。今後の課題は、権力の若返り、そして世界とのよりを取り戻すことなのだ。
以下、大統領選後の課題、つまり政府人事から始めて(1)、ロシアの置かれた外交環境(2)まで話を進める。
入れ替わりの政府人事だが人材がいない
プーチンの次の任期は5月にスタートする。通常、ほぼ同時に内閣は入れ替わり、次の首相が任命される。今の首相はミシュースチン。彼は2020年1月、メドベジェフ前首相が大型経済・社会インフラ建設計画(「ナショナル・プロジェクト」)の実行で手こずるのにじれたプーチンに、国税庁長官から二段飛び、三段飛びで急遽引き上げられた人物。ITを駆使して集税率を大いに高めたやり手だ。
彼は就任早々コロナ禍に巻き込まれたし、それが下火になった途端、今度はウクライナ戦争。原油価格が暴落・暴騰を繰り返し、それに従って政府の歳入も上下動する中、国防費を2.6倍に増やし、労働力を軍需工業に傾斜配分――と言っても軍需部門の賃上げで――するという荒業を迫られた。諸州政府、諸省庁から、それで大きな文句が出ることもなく、数字上はプラス成長を演出している。マクロ経済でハイパー・インフレ等大きな問題を起こさずに来られたのは、ナビウリナ中央銀行総裁の功績なのではあるが。
次の首相は、政治的な意味を持つ。と言うのは、プーチンは71歳と、平均寿命の短いロシアでは後期高齢者。ナヴァーリヌイのように突然死ということもあり得るのだが、そのような場合、大統領代行を務めるのは首相、と憲法に書いてあるからだ。
そもそもプーチン自身は、1999年8月、国家安全保障会議書記から首相に引き上げられると、9月からのチェチェン制圧戦争を指揮。それで支持率がうなぎ上りに上がった同年12月、エリツィン大統領から権力を禅譲されたのだ。だから今回も、と思うわけなのだが、残念ながらそのような人材は見当たらない。メドベジェフ元大統領・首相は閑職につけられた今でも、マスコミを呼びつけて大型インタビューをするなど、アピールに余念がないが、彼が大統領では世論が反発するし、下僚も言うことを聞かないだろう。
あと内閣の人事では、何名か若返りが課題だ。ラブロフ外相は74歳、飛行機のタラップを上り下りする姿が痛々しい。ショイグ国防相は68歳。彼らはウクライナ戦争で、体力的にも精神的にもよれよれだろうと思う。
そして今回の政府人事には含まれないが、ナビウリナ中央銀行総裁の去就が注目される。彼女はまだ60歳で頭脳も手腕も切れるが、1月は長期にわたって入院している。元々リベラルな同総裁は、ウクライナ戦争に懐疑的だし、大統領の足元ではグラジエフ大統領顧問が彼女の市場経済アプローチを批判してソ連型経済――計画・指令型――の復活を運動してきた。ナビウリナをソ連型人士で替えるようなことがあれば、ロシア経済は下り坂を転げ落ちることになるだろう。
内外両政策でのプーチンの最側近、パトルシェフ国家安全保障会議書記も72歳。元国家保安庁長官で、ロシアを一つに束ねることのできる公安勢力の親玉である。彼に代わり得る人材も見当たらない。
ウクライナ戦争の落としどころ
プーチンがまず取り組まなければならないのが、ウクライナ侵攻の収拾だ。ロシア軍は兵員も兵器も限界に達している。
昨年6月からのウクライナの攻勢が失敗したのに付け込んで、東ウクライナ占領を拡張しようにも、そのために動員を拡大すれば青年たちは22年9月の動員令発布の時のように、国外に逃げてしまう。国防費は戦前の2.6倍に拡充されて、工場は増産に励んでいることになっているが、数千両の戦車を失ったと言われる中で、平時は年間100両ほどの生産能力を3倍にしたところで、大規模作戦はできない。しかも、戦車はドローン等にやられやすくなっているから、平原での戦法は一大変革を迫られていて、ロシア軍有利とは言い切れない。
そして、プーチンの歴史的な業績であるところの「クリミア併合」も、ウクライナ軍ミサイル等の射程距離に収まってきたため、補給・防衛が難しくなっている。
つまり今のロシアは、停戦協定に応じていい程の領土をウクライナから奪っていないし、奪える見通しもない。他方ウクライナはロシア軍を自領から完全に駆逐できるわけではないし、そうである以上、本格的な停戦協定は結ばないだろう。応ずるのは、ゼレンスキーが代わった時くらいのものだ。
トランプは、大統領になれば一日でウクライナ戦争を終わらせると言っているが、米国世論は「ロシアに負ける」格好での収拾を嫌う。世論に敏感なトランプは、ウクライナを安易に捨てることはしないだろう。従って、ウクライナ戦争は膠着状態で推移して、ロシアの体力を消耗させることになるだろう。
「ナショナル・プロジェクト」は腰砕けか
もう一つの大きな課題は、「ナショナル・プロジェクト」、つまりロシア人の生活を大幅に改善するためのインフラ建設・教育・社会保障の拡充だ。プーチンは今期の就任演説でこの面での目標数字を打ち上げるだろう。それは2018年の時には、「5月布告」と総称されて、コロナが襲うまでは主要な課題であり続けた。まるで、ソ連時代の5か年計画のようなのだが、諸州、諸省庁間の資源配分を決めていないから、予算争いが激化するばかりで、なかなか進まない。
今回は、ウクライナのミサイル・ドローン攻撃が次第にロシア深部に及んでいること、そして資源、労働力を軍需工業に取られること、後述のようにおそらくインフレが亢進することで、「ナショナル・プロジェクト」は腰砕けとなるだろう。
ロシアは近代以前の国家モデルだ
プーチンは課題と認識していないだろうが、ロシアにとってはもっと根本的な問題がある。それは、ロシアの国家モデル・経済モデルをどうするのか、という問題だ。ソ連の時代から、ロシアの「民主主義」にはフィクション性が強い。選挙はやるが、それは当局のコントロール下に行われている。
本気で民主主義を導入し、経済を民営化すると、ロシアは1990年代前半のように国家としての態を成さない混乱状態に陥ってしまう。雇用も住宅も年金も国営企業や地方当局が提供していたのに、このシステムを壊したからだ。経済力を欠くロシアは、対外関係も軍事力に頼りがちになる。
これは、19世紀に成立した欧州の近代国家からは一つ前の国家モデルで、ロシアはここから抜けられなくなっている。国家モデルが行き詰っているのは米欧日でも同様だが、ロシアは周回遅れの中で行き詰っているのである。
ロシアは西側の経済制裁を乗り切ったとうそぶいているが、体が腐り始めていることに気が付いていない。財政の垂れ流し、労働者賃金の上昇、補助金つき住宅ローンの垂れ流しは、悪質のインフレをこれからもたらすだろう。
ロシアは、電気・電子製品の供給はほぼ100%、輸入に依存し、IT技術ではソフト面で優れたものがあるも、ハード面では輸入にほぼ100%依存しているから、経済面での「主権」はない。西側製航空機にその80%以上を依存してきた国内航空は、制裁で部品とメンテの提供を止められて、欠航が増えている。
ロシアの大企業は西側のものに比べて小ぶりで、開発資金力を欠く。そして多くは国営で、活力を欠く。ITのソフト等、アイデアはあっても、それを製品にするための機械を持っていない。
また、ウクライナのミサイルが精油所や軍需工場等を正確に破壊し始めているのも、不安要因だ。国内にスパイがいて場所を通報しているからだ、取り締まりを強化せよ、という声が徒に高まるだろう。そもそも第2次世界大戦の際、スターリンはウクライナの工場と労働者をロシア領内深くに疎開させ、彼等の多くはそのまま残った。ロシアにとって重要な工場ほど、ウクライナ系のエンジニア、労働者が多いのだが、彼等を一律に取り締まることもできない。
●チョン書記長、ロシアのプーチン大統領に祝意 3/20
ロシアの大統領選挙で、ウラジーミル・プーチン大統領が87%を上回る得票率で通算5選を果たした。
これを受けて、ベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長は、ベトナム共産党と政府を代表し、18日付けで祝意の書簡を送った。
チョン書記長は2018年9月にロシアを公式訪問し、プーチン大統領と会談した。また、2020年6月には電話会談を行っている。
●「ロシア人はプーチン氏守った」 鈴木宗男氏、タス通信にコメント 3/20
ロシア国営タス通信は19日、プーチン大統領が通算5選を決めた大統領選に関する鈴木宗男参院議員のコメントを伝えた。鈴木氏は「史上最高の得票率での圧倒的勝利は、プーチン氏の手腕と能力が評価された結果だ」と指摘。西側メディアが反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄死に関連してロシアに対する批判を強めたことによって、ロシア国民が「プーチン氏を守りたい」という思いを強めたと分析した。
●実は「ウクライナの次」は起きそうもない、あまりに分が悪いプーチンのロシア 3/20
西側では、「ロシアはウクライナの次は、NATO、中央アジアを攻撃してくる」という話しで持ち切りだが、ロシアにそれだけの力の余裕はない。順番にさらってみよう。
ウクライナの次の焦点、カリーニングラード
今、ロシアが一番危機感を持つべきなのは、カリーニングラードのことだ。ここは元々、ドイツの一部。ソ連が第2次世界大戦末期に占領し、住民を入れ替えて以来、そのままになっている。日本の北方領土に酷似した法的地位にある場所だ。ドイツは表立って返還を要求することはしないが、ロシアの領有を条約で認めたわけでもない。
ここの住民は日常的に周囲のポーランド領と往来し、EUとの経済関係で経済、生活を回してきた。それがコロナ、次いでウクライナ戦争での対ロ制裁で駄目になって、経済は不振を極める。ロシア本土との往来は、リトアニア領を突っ切る鉄道、バルト海の海路のいずれかしかない。バルト海はスウェーデン、フィンランドのNATO加盟で、NATOの内海化した。平時には何ともないが、今後カリーニングラードで分離主義の風潮が高まると、ロシアにとっては心配でたまらないことになるだろう。
過度に敵対できないバルト3国
バルト三国とポーランドは、ロシアが攻勢に出てくることを恐れている。エストニアはロシアとの領土問題を抱えているし、ロシアがカリーニングラードの分離主義を抑えるために軍を送るような場合には、ベラルーシからポーランドとの国境沿いのスワルキ回廊が戦場になるとも言われている。
しかしロシアは、NATOに入っている国に簡単には手を出さないだろう。NATO防衛には米国がコミットしているからだ。これら諸国はロシアへの抑止力を強化するだけで十分で、国内のロシア系住民を抑圧する等、ロシアを不必要に刺激して、敵対をエスカレーションさせるのは得策でない。一方、米国で「NATOの東方への拡大」を提唱する向きは減っているので、ロシアもバルト諸国に過度に敵対することは適当でない。
NATOはベラルーシには手を出さない
ベラルーシは、ルカシェンコ大統領が69歳で老化の兆候(肥満)が目立つことが懸念材料だ。
ここは2020年8月、反政府勢力が大統領選挙開票での「不正」を言い立て、騒動を起こしたのだが、公安機関がしっかりしていたこと、国民の多くが国営企業等、政府の資金で生活していること、反政府勢力がお決まりの内部分裂で力を発揮できなかったこと、ロシアがベラルーシの安定維持のために軍を送る姿勢を示したこと等によって、今の小康状態に至る。
このもろい安定が、ルカシェンコの死によって崩れると、ベラルーシは混乱するだろう。
ロシアが武力介入することも考えられる。ベラルーシはウクライナと同様、NATOとロシアの間の緩衝地帯として重要な戦略的意味を持つからである。しかもウクライナと違って、西側との関係は希薄だし、ベラルーシはロシアと同盟関係にあるので、ロシア軍が介入したとしても、NATOが「自由ベラルーシの防衛」で立ち上がることはない。
西側が騒げども火の手は上がらないモルドヴァ
モルドヴァも、ロシアの「次の標的」だとされる。親西側のサンドゥ大統領はウクライナ戦争後、ロシア警戒姿勢を明確にし、ロシア系住民が独立を主張する沿ドニエストル地域を支配下に組み込もうとしている。これに対して沿ドニエストルのロシア系勢力は2月、ロシア政府に支援を要請した。
しかしこれは、武力紛争にはなるまい。と言うのは、沿ドニエストル、モルドヴァ、ウクライナ、ロシアの間は天然ガスと電力等をめぐって利益共同体ができており、これをあえて壊すのは避けたいからだ。ロシアはウクライナに通過料を払って天然ガスをモルドヴァに輸出。これは実際は沿ドニエストルの発電所でほとんど使われて、モルドヴァ本体に電力が安値で供給されている。ロシアはこの天然ガスの料金をモルドヴァから取ろうとしているが、モルドヴァは沿ドニエストルでの消費分は払おうとしない。
そしてEUは、親EUのサンドゥ政権を本気で助けようとはしていない。モルドヴァのEU加盟の交渉は進んでいない。モルドヴァ経済は小さい上に、国内の腐敗度が高いからだ。EUの中でモルドヴァに強い関心を示しているのは、同一民族のルーマニアだけで、それもロシア軍介入を招いてまで助けようという強いものではない。
ならばロシアがモルドヴァを武力で制圧するチャンスかと言うと、それも難しい。そのためにはウクライナ南部の回廊を西進してオデッサ方面も制圧しなければならないが、ロシア軍にその力はない。
沿ドニエストルには約400人の「ロシア平和維持軍」がいるし、ソ連時代からの大規模武器庫がコバスナにあって、兵器の供給には事欠かない。しかし彼らが事を起こせば、沿ドニエストルはウクライナとモルドヴァ本体との挟み撃ちにあって制圧されてしまうかもしれない。
以前なら、ロシアは黒海艦隊と海兵隊を使って、モルドヴァに海から攻め込む――ただしウクライナ領を数キロ程突っ切らなければならない――こともできただろう。しかし、黒海艦隊はその拠点、クリミアのセヴァストーポリ軍港をもう使えないでいる。ウクライナからのミサイルの射程に入って、何隻かを撃破されているからだ。ロシアの黒海艦隊は揚陸艦を中心にその兵力の3分の1程度を破壊されており、セヴァストーポリを失ったことも相まって、黒海地域での力を失っている。
これは、ロシアのトルコ、ルーマニア、ブルガリア、ジョージアとの関係だけでなく、中近東諸国との関係にも影を投げる問題なのだ。だから「モルドヴァの危機」は、西側メディアが言い立てるだけのものになっている。
ロシアの影が薄れたコーカサスの今後
コーカサス諸国との関係はどうか。ここはトルコ、イラン、イスラエル等との関係もからんで、非常に複雑なことになっている。ロシアが長期退潮傾向にあることは、複雑な歴史・領土問題を抱えるコーカサス地方でも抑え役としてのロシアの力を弱めている。
まずアゼルバイジャンが原油生産大国としてめっきり力をつけ、首都バクーは湾岸諸国のような活況を見せている。アリーエフ大統領はロシアに歯向かうことはなく、西側とも良好な関係を維持しながら、長年の敵アルメニアとの領土紛争を続けている。
2020年9月にはトルコ軍人の支援も得て、アルメニアに開戦。ソ連崩壊直後にアルメニアに奪われた領内のナゴルノ・カラバフ地域を僅か40日余の戦争で奪還した。ロシアはアルメニアと同盟関係にありながら介入せず、21年にはアゼルバイジャンがトルコと同盟関係を宣言するのをみすみす許している。アゼルバイジャンは現在、アルメニア領内のアゼルバイジャン族集住の地ナヒチェヴァン自治共和国と本土の間に自由往来の回廊を確保するべく、アルメニアに圧力をかけ続けている。
アルメニアのパシニャン首相は2018年、反政府大規模デモを組織して超法規的に権力を奪った人物。西側寄りと目されながら、ナゴルノ・カラバフを狙うアゼルバイジャンから守ってもらうため、ロシアとの同盟関係を維持し――今でも数千人のロシア軍が常駐――、ロシア傘下の集団安全保障条約機構とユーラシア経済連合の加盟国であり続けてきた。
それが、2020年の戦争でロシア軍が助けてくれず、ナゴルノ・カラバフをアゼルバイジャンに奪われた時から、パシニャンはロシアとの距離を取り始めた。既に集団安全保障条約機構の活動には参加を停止している。
一方、米欧諸国に移住しているアルメニア人は居住国でかなり強い政治勢力となっており、それぞれの国の議会、政府に親アルメニア政策を取るよう働きかけている。そのためアルメニアは昨年9月、米軍と共同演習を行うなどしているのだが、これはこれまで良好な関係にあったイランを怒らせてしまった。
欧米諸国のアルメニア人勢力、そして彼らの働きかけを受けている欧米諸国政府・議会も、アルメニアを本気で支える力と気概は持っていない。パシニャン首相は、いわばそういった仮想支持勢力に軸足を置いて、ロシア、イランといったリアルな勢力を敵に回しつつある。
ロシアはこうしてアゼルバイジャン、アルメニアの両国では影響力を減退させているのだが、それはロシアにとって致命的なことではない。ロシアという大きな塊が北方に接している限り、コーカサス諸国は適切につきあわざるを得ないし、時にはロシアから利もあげている。現にアルメニアは、対ロシア制裁品目の貿易を中継することで利益をあげている。ウクライナ開戦後、アルメニアの対ロシア輸出額は2倍以上に伸びている。
コーカサスの中では面白いことに、2008年8月にはロシアと戦火を交えたジョージアが、今ロシアに傾斜を強めている。それは2008年当時、NATOに加盟しようとしてロシアを挑発してしまったサカシヴィリ政権が去って、今は経済利益優先のイワニシヴィリが主導する「ジョージアの夢」党の政権になっているからだ。
元々、ジョージアにとって、ロシアとの経済関係は重要だし、今のジョージアには、2022年9月軍に動員されるのを避けるために避難してきたロシア人青年達(十万人を越えると言われる)が事業を展開し、ジョージアの経済を引き上げている。またジョージアはトルコ、アルメニア、アゼルバイジャンと並んで、西側の対ロ禁輸物資を並行輸入する拠点となっており、ここでも大きな利益を上げている。政治的には、ロシアとの関係強化が親西側のサカシヴィリ勢力の復活を抑える力にもなっているのだ。
中央アジアではロシアは「腐っても鯛」
中央アジアも、西側メディアではロシア離れや対中傾斜、あるいは米国の進出などが喧伝される地域だ。しかし実際の事態はそれほど大きくは動かない。中央アジアの諸国は海千山千で、大国の力、意図、関心度を十分見極めて動いては、いいとこ取りをする。
そして北方に大きく覆いかぶさり、いつでも兵力を送ってこられるロシアは、腐っても鯛であることを、彼等はよく心得ている。2022年1月、カザフスタンが内乱一歩手前の情勢になった時、ロシアはトカエフ大統領の要請に応えて、僅か数日で2000名を越える兵力を送ってきたのだ。
米国は、兵站の難しい内陸の中央アジアに介入することを嫌うし、それだけの経済的・政治的利益も持っていない。中国は、演習を除いては海外に兵力を送ることをしていないし、その能力も未開発である。
つまり中央アジア諸国にとってロシアは重要な存在だし、不可欠の外交・経済カードでもある。中央アジアをロシアから引きはがすのは難しいし、米欧、日本にとってそんなことをする意味もない。
中央アジア5カ国の中で、ロシアとの関係をいろいろ言われるのは、カザフスタンである。カザフスタン北部には工業地帯があり、そこにロシア系住民が集住する。その数は300万人を越える。カザフスタンではカザフスタン系が人口の過半数をやっと越えたことで、カザフ民族主義をもてあそぶ政治家が増えてきた。これがカザフ北部のロシア系住民の安全や利害に及ぶと、ロシアの介入を招きかねない。
更にカザフスタン北方のロシア領内には、タタール、バシキール等のイスラム自治体がある。タタールは経済・文化水準が高く、ロシアのイスラム人口にとっては中心的存在である。そしてタタールとカザフスタンは以前、一つにつながっていたのだが、スターリンが間にオレンブルク州を置いて人為的に関係を断っている。これをつなげろという運動が現在見られるのだが、これが現実になると、ロシアはほぼ真ん中でイスラム勢力にくさびを打ち込まれることになってしまう。しかし、右運動はまだ小規模のものに留まっている。
西欧で近代国家モデルが成立してかれこれ200年余。どの国も、国を一つに維持するのに苦労している。国を二つに分断して多数決で決める米国。民主主義を標榜した結果、ポピュリズムの蔓延で行き詰ったEU諸国。民主主義の建前と金権政治の現実の相克で立ちすくむ日本。ロシアだけが不安定というわけではない。
しかし宗教改革等による個人の権利の確立、民間企業の活力による経済建設を経ていない、ロシアが抱える課題の重さは並大抵のものでない。ウクライナ戦争のような対外拡張はしっかり抑え込んだ上で、若い世代に新たな国づくりをする余裕を与えたいものだ。
●ウクライナ国民に選択の余地なし プーチン政権が続くとは戦争が続くこと 3/20
サラ・レインズフォード、BBC東欧特派員、キーウ
ウクライナの人たちがロシアの大統領選挙について書くとき、「選挙」という部分をカギカッコに入れる。
選挙結果は最初から分かりきっていたので、ここウクライナの人たちは、ハラハラしようもなかった。
ただひとつ未知数だったのはウラジーミル・プーチン氏の得票率だけで、たとえプーチン氏にしても87%という結果はたいしたものだった。
しかし、ウクライナでそれを笑う人などいない。
表向きの結果はどうであれ、ウクライナへの影響は明白だからだ。
ミサイル攻撃によってますます人が死ぬ。ドローン攻撃が続く。砲撃が続く。プーチン氏が2年前に命令した全面侵攻は、今後も続くのだ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日夜、ロシア大統領選の公式結果についてこう述べた。ロシアの指導者は「権力にまみれて病んだ」人間で、彼を止めることは誰も、何も、できないのだと。
そして、プーチン氏が自らの行動についていずれ責任を取らされるよう、確実に行動するよう、ゼレンスキー大統領は協力国に求めた。
ゼレンスキー氏はソーシャルメディア「X」(旧ツイッター)に、英語でこう書いた。
「この者は、ハーグで収監されなくてはならない」と。ハーグとはつまり、国際刑事裁判所のことだ。
プーチン大統領はすでに、ハーグの国際裁判所に起訴されている。戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所は、ウクライナ占領地域から子供たちを強制的にロシアへ移住させた罪で、プーチン氏の逮捕状を出している。
ロシアの選挙はもう長年、年を追うごとに厳しく管理されてきた。今回の大統領選では、本格的な対立候補は誰もいなかった。
クレムリン(ロシア大統領府)は長年かけて、ほかに選択肢などないのだという印象を作り上げてきた。プーチン氏はロシアそのものなのだと。
しかしウクライナの人たちにとっては、プーチンとはすなわちマリウポリであり、ブチャであり、バフムートだ。
ウクライナであらゆる町の墓地に新しい墓が並ぶのは、プーチン氏のせいだ。何百万人もの人が家を追われ、国内に残った人たちがシェルターや地下室で夜を過ごすのも、彼のせいだ。
私は北部チェルニヒウで、ミサイル攻撃のため重傷を負った女の子に会った。彼女の兄は軍に志願し、そして前線で戦死した。その原因となった戦争を始めたのは、プーチン大統領だ。
その戦争でまたひとり、ウクライナの兵士がきょう前線に戻った。出発前に彼は私に、開戦当初に30人はいた自分の仲間のうち、「まだ歩いている」のは自分だけだと話した。
もちろん、プーチン氏がすべて一人でやったことではない。
だからこそ今のウクライナでは、すべてのロシア人について好意的なことを言う人はほとんど見つからないのだ。隣り合う両国の関係は台無しだ。この状態は今後何十年も、あるいはそれより長く続くだろう。
ロシアのウクライナ侵略は何年もかけて進行したことで、それを阻止するためのロシア人の努力が足りなかった――。ウクライナでは多くの人がそう考えている。そして、ロシア人の努力不足の代償を、今やウクライナ人が払っているのだと。
同じように思っているロシア人が複数いることを、私は知っている。プーチン氏による国内の抑圧と外国への侵略行為に抗議して、母国ロシアで刑務所に入れられた人たちさえいることも。
ロシアを逃れて、できる限りのことをしてウクライナを助けようとしている亡命ロシア人もいる。
ウクライナのために武器を取って前線に立ち、自分と同じロシア人と戦う人たちもいる。
良心の問題なのだと、彼は私にそう話した。自分は罪の意識にさいなまれているのだと。
この人は、戦い続ける。
しかし、ロシアも戦い続ける。プーチン大統領のもとで。
そして、ウクライナも戦い続ける。ウクライナはそうするしか、ほかにどうしようもないのだ。
●米国防長官「ウクライナ存亡危機」緊急予算の早急な可決求める 3/20
アメリカ議会でウクライナへの追加の軍事支援のための緊急予算が暗礁に乗り上げるなかオースティン国防長官は「ウクライナの存亡の危機だ」と述べ、議会に対し、緊急予算の可決を急ぐよう求めました。
アメリカ議会では、野党・共和党の一部がウクライナへの軍事支援に消極的な姿勢をとり、追加支援のための緊急予算が暗礁に乗り上げていて、新たな支援のめどは立っていません。
こうした中、アメリカのオースティン国防長官は19日、訪問先のドイツで、欧米などがウクライナへの支援について話し合う会合に出席したあと記者会見しました。
この中で、オースティン長官は「われわれが戦場で目の当たりにしたのは、ロシアが少しずつ前進を続けているということだ」と述べました。
そのうえで「ウクライナの存亡の危機だ。アメリカの安全保障も危機にひんしている。ウクライナにもわれわれにも1日たりともむだにする時間はない」と述べ議会に対し、緊急予算の可決を急ぐよう求めました。
また、アメリカ軍制服組トップのブラウン統合参謀本部議長は「ロシアの計画は、ウクライナを支援するという西側諸国の意志がなくなるのを待つことだ。この戦略を成功させてはならない」と述べ欧米の結束を訴えました。
●米国防長官「ウクライナ生存の危機」支援枯渇で兵器不足が深刻化 3/20
米国のオースティン国防長官は19日、ロシアの侵攻を受けるウクライナについて「(国家として)生存の危機にひんしている。米国の安全保障も危険にさらされている」と述べ、米国の軍事支援予算の枯渇がウクライナの兵器不足を深刻化させている現状に警鐘を鳴らした。ドイツでの発言をロイター通信が報じた。
オースティン氏はドイツ西部のラムシュタイン米空軍基地で、ウクライナの防衛を協議する関係国会合に出席。終了後の記者会見で語った。
バイデン米政権が連邦議会に確保を求めている約600億ドル(約9兆円)のウクライナ追加支援の予算案は、与野党の対立で宙に浮いている。ロイターは、高位の米国防関係者の話として「我々が供給できない結果、ウクライナは(武器・弾薬の)不足に陥っている」と伝えた。
一方、ドイツのピストリウス国防相はこの会合で、ウクライナに追加で5億ユーロ(約820億円)規模の軍事支援を行うと発表した。独連邦軍が保有する弾薬1万発のほか、歩兵用の装甲車両100台、輸送車両100台などを提供する。チェコが主導して各国に資金を募り、計約80万発の弾薬をウクライナへ送る計画にも加わり、18万発分を供与するという。
●NATO事務総長 ロシア離れ加速のアルメニア訪問 関係強化で一致 3/20
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は、ロシア離れの動きを加速させている旧ソビエトのアルメニアを訪れ、双方は関係を強化させていく考えで一致しました。
NATOのストルテンベルグ事務総長は19日、アルメニアの首都エレバンを訪れ、パシニャン首相とそろって記者会見しました。
パシニャン首相は「これまでも行ってきた政治的対話を発展させ、NATOとも、それぞれの加盟国とも協力を広げていくことを強く期待している」と述べました。
これに対し、ストルテンベルグ事務総長も、アルメニアがロシアから軍事侵攻を受けているウクライナへの連帯を示していると歓迎したうえで、「協力をさらに強化し、地域の平和と安定、発展のためにともに取り組みたい」と述べ、双方は関係を強化させていく考えで一致しました。
旧ソビエトのアルメニアは、ロシアが主導する軍事同盟に加盟し、安全保障や経済分野などでもロシアの強い影響を受けてきました。
しかし近年、ロシアのプーチン政権との対立を深め、欧米への接近を強めていて、2月には、ロシアが主導する軍事同盟への参加を凍結したと表明したほかウクライナで行われた戦争犯罪の疑いで、プーチン大統領に逮捕状を出している国際刑事裁判所の加盟国となっています。
ストルテンベルグ氏が、NATOの事務総長としてアルメニアを訪れるのは、初めてだということで、ロシアは警戒を強めています。
ロシア大統領府 “NATOの試み 安定性高めるものではない”
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長が、旧ソビエトのアルメニアを訪れたことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、記者団に対し「NATOが、この地域で影響力と存在感を高めたいという試みは安定性を高めるものではない」とけん制しました。
アルメニアは、ロシアが主導する軍事同盟CSTOに加盟していますが、パシニャン首相は2月に参加を凍結すると表明するなど、ロシア離れの動きを加速させていて、旧ソビエト諸国をみずからの勢力圏とみなすプーチン政権は、警戒を強めています。 
●プーチン大統領 今後も治安機関が中核担う見通し示したか 3/20
ロシアのプーチン大統領は、圧勝した大統領選挙のあと、ロシアの治安機関の役割を称賛し、ウクライナ侵攻を続けるプーチン政権で今後も、治安や国防に関係する機関が中核の役割を担うという見通しを示したとみられます。
ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州で、ロシア国防省は20日、ウクライナ軍の無人機を撃墜したと発表し、ウクライナ側からの越境攻撃とみられる動きが続いています。
また、ロシア南部サラトフ州のエンゲルス上空でも無人機を撃墜したとしていて、独立系メディアは、ロシア軍の戦略爆撃機が配備されている空軍基地が狙われた可能性があると伝えています。
一方、プーチン大統領は19日、ロシアの治安機関FSB=連邦保安庁の会合で演説し、「敵の部隊や外国のよう兵、敵に寝返った者からなるテロリストたちが、ロシアへの侵入を試みたがすべて失敗した」と述べ、ウクライナからの攻撃を撃退していると主張しました。
また、「憲法の秩序を守り、選挙中も内政干渉をおさえこみ、公共の安全を確保した」と述べて治安機関の役割を称賛しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は19日、「プーチン大統領は大統領選挙の勝利に続く演説で、FSBをロシアの安全保障と主権の重要な保証人だと示した」と指摘しました。
そのうえで「みずからの5期目やウクライナでの戦争で、『シロビキ』が固く結束して支えることを示したとみられる」と分析し、ウクライナ侵攻を続けるプーチン政権では今後も「シロビキ」と呼ばれる、治安や国防に関係する機関の職員や出身者が中核の役割を担うという見通しを示したとみられます。
●「裏切り者は処罰する」プーチン大統領“越境攻撃”激化受け ナワリヌイ氏妻「世界が正当な大統領と認めないように」 3/20
ウクライナと国境を接するロシア西部の州への攻撃が激化する中、プーチン大統領はウクライナ側に立って戦うロシア人武装組織に対し、「裏切り者は処罰する」と述べました。
ロシア プーチン大統領「どこにいようと、時効なしで処罰する」
プーチン大統領は19日、情報・治安機関のFSB=連邦保安局の会合に出席し、西部ベルゴロド州などへの越境攻撃を受け、ウクライナ側に立って戦うロシア人の武装組織に対し、「裏切り者は処罰する」と述べました。
現地での戦闘が激化する中、地元知事はこの1週間で住民16人が死亡、98人が負傷したとしていて、地域の子どもたち9000人を避難させる決定をしたと明らかにしました。
一方、プーチン氏が圧勝したロシア大統領選をめぐり、先月死亡した反体制派指導者ナワリヌイ氏の妻のユリアさんは新たな動画を公開し、「世界中がプーチンを正当な大統領だと認めないようにする」と述べ、抗議活動を続けるよう訴えました。
また、独立系の選挙監視団体「ゴロス」は、プーチン氏の得票数のうち2200万票が水増しされたものだとする専門家の分析を公表。「歴史上、最も汚い選挙だった」としています。
●5選のプーチン氏、ウクライナ侵攻継続へ協力を要請 下院の各会派代表と会談 3/20
ロシアのプーチン大統領は19日、モスクワの大統領府で下院各会派の代表と大統領選終了後に初めて会談した。プーチン氏は国防と安全保障の強化が最重要課題だと述べ、ウクライナ侵攻継続への協力を求めた。
プーチン氏は少子化対策や経済の安定、地方の発展などを今後の優先課題として列挙。「重要なのは幹部の刷新ではなく、アプローチを変えることだ」と述べ、重要閣僚の顔ぶれは維持する考えを示唆した。
自身が87%を超す得票率で5選を決めた大統領選については「文明的に行われた」と自賛。「ロシアの敵は期待とは逆の結果を得た。ロシアは団結した人々の共同体だ」と述べ、選挙を不公正とみなす欧米に反論した。
会談で最大野党、共産党のジュガーノフ委員長は「いま重要なのは祖国をウクライナのナチズムから守ることだ」と述べ侵攻を明確に支持した。
大統領選では侵攻に公然と反対した候補はいなかった。
●プーチン氏の不正票、「史上最大」2200万票か…ユリア氏「世界中が正当な大統領と認めないように」 3/20
ロシア大統領選で勝利したプーチン大統領について、反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻ユリア氏は19日、SNSで公開した動画で「世界中の誰も正当な大統領と認めないようにする」と述べ、反政権運動の継続を訴えた。
露中央選挙管理委員会の発表では、プーチン氏の得票率は全体の87%を占めた。ユリア氏は、ロシア各地で投票最終日の17日に多くの有権者が抗議の意思を示すため投票所を訪れたと称賛し、「プーチンが我々の大統領ではないことを証明した」と強調した。
欧米各国は、選挙結果が公正ではないと非難している。露民間選挙監視団体「ゴロス」は18日、専門家の分析として、プーチン氏が獲得した約7627万票のうち、約2200万票は不正に上乗せされた疑いがあると指摘した。票数の操作は「史上最大」規模だと主張している。
●ロイター「プーチン、当選後の初の海外訪問は中国…5月に習主席と会う」 3/20
5期目を迎えるロシアのプーチン大統領が今年5月に訪中し、中国の習近平国家主席と首脳会談を行う可能性が提起された。実現する場合、プーチン大統領5期目の最初の海外訪問となる見込みだ。
ロイター通信は19日(現地時間)、複数の消息筋を引用し「プーチン大統領が5月に中国の習主席と首脳会談を行うため中国を訪問する」と報じた。
最近の大統領選挙で87%という圧倒的な得票率で長期執権に成功したプーチン大統領は5月7日に就任式を行う。その後に訪中する可能性が出ている。ある消息筋は「習主席が5月上旬にフランスを訪問する予定であるため、プーチン大統領は5月下旬に中国に行く可能性がある」と述べた。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は19日、これに関する質問に対し「プーチン大統領の海外訪問計画がいくつかあるが、これは適切な時期に発表される」と答えた。
中国外務省は論評を出さなかった。
これに先立ち習主席も昨年3月、3期目に入ってからロシアを国賓訪問し、最初の海外首脳外交を行った。ウクライナ戦争が依然として続く状況でプーチン大統領の訪中は、最も強力な友軍である中国との協力を強調するメッセージとなる可能性がある。
可視的な経済・外交成果が出るという見方もある。特に中ロ間では供給価格問題のためモンゴル経由の新しいガスパイプライン(POS−2)建設に関する交渉が進まない状況だが、プーチン大統領の訪中に合わせて電撃的に合意するという見方も出ている。
この場合、2019年12月に開通した両国間の最初のガスパイプライン(POS−1)物量と共にロシア産ガスが中国に大量供給される。
ロシアの立場では輸出が中断した欧州向け天然ガス物量を中国に回す機会になると予想される。このため西側の対ロシア経済制裁効果が半減するという分析が出ている。
中国も石炭の代わりに大規模な天然ガスの供給を安定的に受けるという利点がある。
一方、プーチン大統領は昨年9月、ロシア極東で北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と会談し、訪朝の招請を受け入れた。それ以降もロシア側は具体的な時期を明らかにしないまま答礼訪問の意思を繰り返し確認してきた。
プーチン大統領が北朝鮮を訪問する場合、金正恩委員長の執権後初めての訪朝となる。プーチン大統領は2000年7月に北朝鮮を訪問し、当時の金正日(キム・ジョンイル)総書記と首脳会談を行った。
●再選したプーチン大統領、クリミア併合10年集会でウクライナ4州の併合は「偉大な出来事」と演説 露国民はクリミアなどの併合を評価している 3/20
露大統領選で通算5選を果たしたプーチン大統領は18日夜、首都モスクワ中心部の「赤の広場」で開かれたクリミア半島併合10年の記念イベントに参加し、ウクライナ東・南部4州(ドネツク、ルハンスク、ザポリッジャ、ヘルソン)のロシアへの併合の正当性を訴えました。
会場のステージに、プーチン氏が大統領選に立候補した他の野党政治家3人とともに登壇すると、数万人の参加者で埋まった会場から「ロシア」コールが沸き起こりました。
プーチン氏は演説で、「クリミアは戦略的に重要な領土であるだけでなく、私たちの歴史、伝統、ロシアの誇りでもある。なによりも人々だ」「彼らは何十年も祖国を信じ、ロシアから離れたことはなかった。だから我々の家族の一員に戻れた」と話し、クリミア併合について「母港への帰還」と語りました。
2022年9月に併合を宣言したウクライナ東・南部4州については、「祖国への道は、より困難で悲劇的だったが、我々はそれを成し遂げた。我が国の歴史の偉大な出来事だ」と指摘。そしてロシア南部のロストフ州からドネツクやマウリポリに延びる鉄道を復旧させ、クリミア半島南西部の軍港都市セバストポリまで路線を延伸する計画だと述べました。
今回の大統領選は、ウクライナ東・南部4州やクリミアでも投票が実施されたため、ウクライナや欧米からは非難の声が上がっていました。また、「今後、ドネツク、ルハンスクなどの4州はインフラ整備や教育などを通じて『ロシア化』されていく」との批判の声も出ています。
2014年3月にクリミアで行われたロシアへの編入の是非に関する住民投票でも、2022年9月にウクライナ4州で行われた同様の住民投票でも、ロシアへの併合に賛成票を投じた人は9割を超えました。少なくとも地域住民の多くは「ロシアへの併合」を望んでいたと言えます。 ・・・

 

●プーチン氏、ロシア人武装勢力に「厳罰」=越境攻撃への対策命令 3/21
ロシアのプーチン大統領は19日、ウクライナ侵攻でゼレンスキー政権側に立つ武装勢力「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団」を「裏切り者」と断じた上で、「どこにいても時効なしで厳罰に処する」と述べた。
モスクワでの連邦保安局(FSB)幹部会拡大会合で訓示した。
ロシア人勢力はウクライナを拠点に、同国軍と共闘。今月15〜17日のロシア大統領選前からロシア西部ベルゴロド州などへの越境攻撃を再開しており、プーチン氏は対策強化を命じた形だ。
●プーチン氏、欧州15カ国で敗北=ロシア大統領選の在外投票 3/21
ロシアの独立系メディアは20日、大統領選で通算5選を果たしたプーチン大統領が、欧州15カ国とアルゼンチン、パラグアイ、イスラエルの在外投票で敗北していたと伝えた。これらの国々では、4年前に誕生した政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長が「受け皿」として得票1位となった。
獄死した反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の支持者らは、無効票を含む「反プーチン」の投票行動に加わるよう国内外に広く呼び掛けた。特に反ロ感情の強い東欧の在外投票所では長い行列ができた。
タス通信によると、在外投票総数は38万票以上で、無効票は6.8%もあった。中央選管のデータによると、在外投票でのプーチン氏の得票率は72.3%。2位のダワンコフ氏は16.7%だった。
●米が後退、欧州VSロシア鮮明に ウクライナにとって悪夢のトランプ再選 3/21
11月の米大統領選に向けた共和党の指名候補争いで最大の山場となるスーパーチューズデーを3月5日に迎えた。全米15州で一斉に投票が行われ、これまで圧勝してきたトランプ氏がバージニア州やテキサス州、マサチューセッツ州、カリフォルニア州など14州で勝利し(バーモント州のみ敗北)、選挙戦を繰り広げてきたヘイリー元国連大使は選挙戦からの撤退を表明した。これで秋の本選は、トランプ氏とバイデン大統領の再戦となる。
厳しい立場のウクライナ
今日の状況は大きくロシア有利に傾いている。ウクライナ軍は昨年夏に大規模な反転攻勢を仕掛けたが、上手く成果をあげられず、欧米諸国では支援疲れが広がっている。ゼレンスキー大統領などウクライナ政府高官は、欧米の支援が滞れば我々はこの戦争に負けると述べている。
そういった状況に危機感を覚えてか、フランスのマクロン大統領は2月末、西側諸国の地上部隊をウクライナへ派遣する可能性を排除するべきではないと踏み込んだ発言をした。しかし、ドイツのショルツ首相や北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長らは、NATO加盟国の兵士が戦場に派遣されることはないとマクロン発言を否定するなど、欧米の間では動揺が広がっている。
トランプ再選はウクライナにとって悪夢か
今後のポイントになるが、アメリカ大統領選の行方である。トランプ政権が再発足することになれば、ウクライナはさらに厳しい立場に追いやられることになるだろう。トランプ氏は「24時間以内にウクライナ戦争を終わらせる」「ウクライナへの支援を最優先で停止する」などと述べ、大統領に返り咲けばアメリカの脱ウクライナが進むことだろう。
トランプ政権の再来によって想定される一つのシナリオは、トランプ氏がウクライナに対して支援停止とともにロシアとの停戦を要求し、ロシアのプーチン大統領には攻撃の停止を呼びかけることが考えられる。そして、ロシアはそれに応じ、トランプ氏にウクライナとの停戦で仲裁役を求め、その結果、ウクライナが仕方なく停戦に応じるという形だ。
だが、これはウクライナにとっては強制的な停戦にしかならず、ロシア軍に休息期間を与えることにしかならない。プーチン大統領が目指しているのはウクライナの属国化であり、先日の大統領選挙で国民から政治的なお墨付きを得たという自尊心から、時間が経過すれば攻撃を再開させることだろう。
避けられない欧米内の分断
このシナリオが進めば、アメリカと欧州の関係悪化は避けられない。トランプ氏は「防衛費を相応に負担しないNATO加盟国は守らない」「ロシアに自由にやるようけしかける」と発言しており、アメリカの脱ウクライナは欧州諸国の対米不信をいっそう強めることになるだろう。
同時に、欧州各国はウクライナとの二国間安全保障面協力などを強化し、欧州対ロシアの構図が鮮明になってくるだろう。海を挟んでウクライナの戦場から遠く離れたアメリカと、ロシアと陸続きの欧州が感じる脅威はまるで異なる。トランプ再選はウクライナ、欧州にとっては厳しいシナリオだろう。
日本にとっても対岸の火事ではない
これは日本にとっても対岸の火事ではない。近年、台湾をめぐって軍事的緊張が高まっているが、台湾有事は日本有事とも言われるように、日本のシーレーンや先島諸島の安全などへの影響は避けられない。
トランプ氏が今後台湾についてどのような姿勢を示すかはわからないが、ウクライナ同様に台湾への軍事支援の縮小や停止に言及することも否定できない。台湾有事で中国が最も注意しているのはアメリカ軍の関与であり、トランプ氏が関与しないという姿勢を鮮明にすれば、それは中国の軍事侵攻というハードルを大幅に下げてしまうおそれがある。
●ウクライナ戦争を巡る「風刺と皮肉」 3/21
ドイツのショルツ首相は欧米諸国の対ウクライナ支援では「対応が遅い」といった批判を受けてきた。ウクライナ側がドイツの主力戦車「レオパルト2」の供与を強く要請した時もそうだった。最終的にはバイデン米大統領との間で米国の主力戦車「M1エイブラムス」と同時に供与することで合意して、「レオパルト2」をキーウに供与することを決めた。そして現在、長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与問題でウクライナ側の重なる要請をも今日まで拒否し続けている。イギリスとフランス両国は自国の巡航ミサイル「ストームシャドウ」と「スカルプ」を既に供与済みだ。両国からはドイツの優柔不断な姿勢に批判的なトーンが聞かれる。
それに対し、ショルツ首相は、「タウルスは射程距離500キロだ。ウクライナ領土を超えてロシア領土まで飛行した場合、ロシア側の反発が予想される」として、対ウクライナ武器支援では常に「ウクライナ戦争をこれ以上エスカレートさせない」というレッドラインを堅持しなければならないという論理だ。
そのショルツ首相は19日、与党社会民主党(SPD)関連のイベントで激しいプーチン大統領批判を展開した。ロシア大統領選でプーチン大統領の5選が確定した後、このように厳しい批判を公の場で吐露した欧米首脳はショルツ首相が初めてではないか。
以下、ドイツメディアに報じられた首相の発言を紹介する。
「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナに死と破壊をもたらしただけでなく、自身の『権力への狂気』のために多くのロシア兵士を犠牲にした。プーチン大統領は自国の兵士たちを犠牲にし、その代わりに歴史書に『プーチン大統領はさらに10センチの追加領土を征服した』と記されることを願っている。プーチン大統領は、国境はもはや力によって動かされないという、ヨーロッパに数十年にわたって存在してきた原則を破った。だからこそ私たちは必要な限りウクライナを支持するつもりだ」
興味深い点は、欧米諸国の政府首脳はプーチン大統領に対して従来の外交的批判といったカテゴリーから出て、皮肉と風刺を込めて批判する傾向が見られることだ。欧州連合(EU)のシャルル・ミシェル大統領は15日、ロシアのプーチン大統領の5選に対して祝意を表明したが、投票が始まったばかりでまだ当選が確定していない時にだ。ロシア大統領選挙は仮想選挙に過ぎない。真の対抗候補者はなく、プーチン氏の5選は英国のブックメーカーも掛け率(オッズ)が良くないから関心が低いことを知った上で、ミシェル大統領は投開票が終わっていない前に「おめでとう」という祝意を表明したわけだ。
同じように、ショルツ首相は、「プーチン大統領は10センチの追加領土をウクライナから奪ったロシア大統領という称号を受けるために権力の狂気に動かされている」と、辛辣に批判しているのだ。すなわち、ミシェル大統領もショルツ首相も3年目に入ったウクライナ戦争の責任者プーチン氏に対して、もはや外交上やプロトコール上の儀礼、規則を重視することをやめ、皮肉を込めて相手国首脳を酷評しているわけだ。ウクライナ戦争での政府首脳陣のコミュニケーションは既にエスカレートしてきているわけだ。
風刺や皮肉はシンプルな批判より時には相手を傷つける。風刺や皮肉の対象となったプーチン氏は心穏やかではないかもしれない。嘲笑を受けたと思って激怒するかもしれない。それとも「あなたは自分が正しいと思う事をしなさい。どのみち批判されるのだから」といったルーズベルト米大統領の夫人の言葉を引用して、プーチン氏は納得顔で「私のことをいっている」と思って笑い出すかもしれない。
ウクライナ戦争も3年目に入ると、戦争は消耗戦となり、関係者にも疲れが見え出し、もはや何も建設的なことが思いつかなくなる。だから、政府指導者は相手を直接批判するより、気の利いた風刺や皮肉のひとつでも、ということになる。ただ、その間も戦場では多数の兵士たちが犠牲となっている。
参考までに、親ロシア派の鈴木宗男参院議員はプーチン氏の5選を祝う祝意を表明し、「史上最高の得票率での圧倒的勝利は、プーチン氏の手腕と能力が評価された結果だ。西側メディアが反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄死に関連してロシアに対する批判を強めたことによって、ロシア国民が『プーチン氏を守りたい』という思いを強めた」(時事通信)と述べたという。このようなプーチン崇拝のコメントが日本の参院議員から出てきたことに驚いた。欧州の左派系政治家もきっと顔負けする異次元なコメントだ。
●EU首脳会議、ウクライナ軍事支援にロシア凍結資産の収益を活用する案協議へ ロシア側は反発 3/21
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は20日、ウクライナ侵略を受けて欧州で凍結されたロシア中央銀行の資産から得た収益について、ウクライナの軍事支援に活用する案を加盟国に提案したと発表した。21日に開幕するEU首脳会議で議論される。正式に合意すれば、7月にも収益の活用が可能になる見通しだ。
ロシアが2022年2月にウクライナへの侵略を開始して以降、西側諸国は約3000億ドル(約45兆円)の露中銀資産を凍結。3分の2はEU域内にある。ボレル氏は凍結資産から得られる利息収入が年間30億ユーロ(約4900億円)だとし、このうち9割についてはウクライナへの兵器調達資金を提供するEUの基金「欧州平和ファシリティー」で活用する方針を提案。残りはEU予算を通じてウクライナの防衛産業支援に回すとした。
ボレル氏の提案を実施するには加盟国で構成する理事会での正式決定が必要で、同氏は20日、「理事会での迅速な採択を期待する」と表明。提案の実現は「EUの団結とウクライナ支援への関与を示せる」と加盟国に呼びかけた。ロイター通信によると、露外務省の報道官は20日、同案について「強盗や窃盗に等しい」と非難した。
ロシアとの戦争の長期化を受け、ウクライナでは兵器や弾薬が不足。EU欧州委員会は当初、凍結された露資産から得られる収益を主にウクライナの復興支援に充てる考えを示していたが、ウクライナ支援を盛り込んだ米国の緊急予算案が宙に浮く中、軍事支援への活用に方針転換したとみられる。ボレル氏の提案にはドイツなどが賛成しているという。
一方、露資産の活用を巡っては、米国などが資産の没収を支持。ウクライナのシュミハリ首相も20日、「(利息収入の)活用は最初の一歩に過ぎない」と凍結された全ての資産の没収を主張した。ただ、一部のEU加盟国は凍結資産を没収、活用することに法的な問題点を指摘している。
EU首脳会議は22日まで開催され、加盟国はウクライナ支援や緊迫する中東情勢などを討議する。
●米大統領補佐官がウクライナ訪問 軍事支援やり遂げると強調 3/21
アメリカ ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は、20日、ウクライナを訪れ、アメリカ議会で追加の軍事支援のための緊急予算が暗礁に乗り上げていることについて、「やり遂げられると確信している」と強調しました。
アメリカ ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は、20日、ウクライナの首都キーウでイエルマク大統領府長官と会談したあと、会見しました。
この中でサリバン大統領補佐官は、アメリカ議会で野党 共和党の一部がウクライナへの軍事支援に消極的な姿勢をとり、追加支援のための緊急予算が暗礁に乗り上げていることについて、「議員、そしてアメリカ国民の間には、今もウクライナへの深く、強い支持がある。現在、可決に向け下院と取り組んでいるが、必ずやり遂げられると確信している」と強調しました。
サリバン大統領補佐官はゼレンスキー大統領とも会談し、ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナを支援し続ける方針を伝えるものとみられます。
一方、イエルマク大統領府長官は、ウクライナが各国と進めている2国間の安全保障協定について、すでに40か国近くと結んだことを明らかにした上で、アメリカとも署名の準備を進めているとし、「歴史的な合意になるだろう」と述べました。
●プーチン氏5選、露朝密着加速し韓半島緊張の恐れ 3/21
ロシアのプーチン大統領が17日、大統領選挙で圧倒的支持を得て当選した。2000年に権力の座に就いたプーチン氏は30年まで在任する。
スターリン旧ソ連共産党書記長の29年執権期間を超えて30年間ロシアを統治することになったのだ。今年71歳の年齢を勘案すると、事実上終身執権の道を開いたといっても過言ではない。現代版「ツァー」(皇帝)の登板に全世界は憂慮の視線を送るほかはない。
今回の選挙は87%という圧倒的な得票率を記録しても、ウクライナ戦争に反対する人物は候補者登録をできないなど、不公正に行われたという国際社会の批判が激しい。米ホワイトハウスは「明らかに自由でも公正でもない選挙」という立場を表明し、ウクライナのゼレンスキー大統領も「(プーチン氏が)永遠に統治するためにすべての手段を動員している」と批判した。それでもプーチン大統領は全く意に介さない様子だ。彼は当選が確定した後、「ロシア軍隊をもっと強くして、ウクライナで起こっている特別軍事作戦を解決するために最善を尽くす」と述べた。ウクライナに対する攻勢をより一層強化することは明らかだ。
西側との対立の深化、中国・北朝鮮との反西側連帯の強化も分かり切ったことだ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは最近、「プーチン大統領の大統領選挙勝利は彼の侵略戦争を合法化し、残る反対派の立場を弱めて、今後6年間、自身のビジョンを牽制(けんせい)なく実行できるようにするだろう」と分析した。昨日の英紙フィナンシャル・タイムズも、「プーチン氏の5期目の任期は欧州と世界に対する脅威になるだろう」と、憂慮を示した。プーチン氏は当選直後、「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の衝突は、第3次世界大戦に近づくもの」と警告し、それが杞憂(きゆう)でないことを裏付けた。
世界はロシアのウクライナ侵攻で引き起こされたエネルギー危機とグローバル供給網の崩壊を経験した。プーチン氏の世界平和破壊行為を阻止しようとするなら、国際社会が声を一つにしなければならない。そうでなくとも、秘密の武器取引や北核黙認発言などで韓半島の緊張まで加重させてきたのだ。彼が北朝鮮訪問を受諾したので、先端兵器の技術移転など、露朝密着は一層加速化するに違いない。北朝鮮政権を勢いづかせることになり、突発的な事態で韓半島の安保が泥沼に陥る恐れがある。韓中会談などの対外政策多角化と共に自らの核保有力確保など、対策作りを急がなければならないことは言うまでもない。
●「戦争反対」女性、8日間の拘束処分 投票用紙に書き込み―ロシア大統領選 3/21
ロシア北西部サンクトペテルブルクの裁判所は20日、ウクライナ侵攻に抗議して大統領選の投票用紙に「戦争反対」と書き込んだ女性に8日間の身柄拘束処分と罰金4万ルーブル(約6万6000円)を言い渡した。裁判所は「国家の財産に損害を与え、ロシア軍の信用を失墜させた」と決め付けた。
裁判所によると、女性は投票の最終日、反体制派が抗議行動を呼び掛ける中で書き込みを行った。通算5選を決めたプーチン大統領は勝利演説で、投票用紙への落書きは「処罰されなければならない」と警告していた。
●ロシア西部州への侵入認める 国防省、残存部隊を壊滅と発表 3/21
ロシア国防省は20日、ウクライナ国境にある西部ベルゴロド州南西部の村コジンカにいたウクライナ側の残存部隊を壊滅させたと発表した。ロシア側はこれまで、西部での越境攻撃の試みを全て撃退したと主張しており、ロシア領内への侵入を認めたことになる。
プーチン政権と敵対しウクライナ軍と共闘する「ロシア義勇軍団」は19日、コジンカへの侵入に成功したと主張し、動画も公開していた。
ロシア国防省は、航空機や砲撃により過去24時間で敵方の約650人を戦闘不能にし、装甲車2両などを破壊したと表明。コジンカの支配を完全に取り戻したとしている。
●キーウにミサイル、31発迎撃 破片落下12人負傷、ウクライナ 3/21
ウクライナの首都キーウ(キエフ)に21日未明、ロシア軍のミサイル攻撃があった。ウクライナ軍によると、飛来した極超音速ミサイル「キンジャル」や弾道ミサイル「イスカンデルM」、巡航ミサイルの計31発すべてを首都上空で迎撃した。キーウ市当局は、ミサイルの破片が落下し、12人が負傷したと発表した。首都への攻撃は約1カ月半ぶり。
破片は幼稚園の敷地や住宅などに落下し、火災が起きた。
攻撃があった同日未明には一時、ウクライナ全土で空襲警報が発令された。
●ポルトガル、野党党首を新首相に 8年ぶり、中道右派政権へ 3/21
ポルトガルのレベロデソウザ大統領は21日、中道右派の野党社会民主党のモンテネグロ党首(51)を新首相に指名し、政権樹立を要請した。ロイター通信が報じた。モンテネグロ氏は10日の議会(一院制、230議席)総選挙で同党中心の中道右派勢力を率いて勝利した。約8年ぶりの中道左派政権からの交代となる。
中道右派勢力「民主主義同盟」は過半数に届かなかったが、モンテネグロ氏は極右的な政策を掲げる新興政党「シェーガ」との連立を否定。少数政権を発足させる方針で、不安定な政権運営を強いられそうだ。
ロイターによると、モンテネグロ氏は4月2日に新政権発足の見通しだと語った。
●インドネシア大統領選、プラボウォ氏勝利に対立候補が異議申し立て 3/21
インドネシア大統領選でプラボウォ国防相の圧勝が発表されたことを受け、落選したアニス前ジャカルタ特別州知事は21日、憲法裁判所に選挙結果への異議を申し立てた。
アニス氏は、訴訟は民主主義の改善を確実にする狙いがあり、選挙には是正すべき多くの問題があったと述べた。
選挙管理委員会が20日発表した公式集計によると、プラボウォ氏の得票率が59%だったのに対し、アニス氏は約25%、ガンジャル前中部ジャワ州知事は16%だった。アニス氏は敗北を認めていない。
アニス陣営はこれまで、政府が重要選挙区で米や肥料、現金の配給など社会的支援を幅広く実施し、投票に影響を与えたと訴えてきた。ジョコ政権側はこれを否定している。
同陣営はまた、憲法裁が昨年、選挙戦の開始直前に規則を変更し、ジョコ大統領の長男ギブラン氏がプラボウォ氏の副大統領候補として出馬することを可能にしたと批判してきた。
●NY株式市場 ダウ平均株価史上最高値を更新 FRB会合受け 3/21
20日のニューヨークの金融市場では、FRB=連邦準備制度理事会が示した今後の金利の見通しやパウエル議長の会見を受けて、ことし利下げが想定通り行われるとの見方から円相場が一時、1ドル150円台後半まで値上がりしたほか、ダウ平均株価は史上最高値を更新しました。
20日のニューヨーク外国為替市場ではFRBの会合の参加者による政策金利の見通しは年内に3回の利下げが行われるという内容で、従来の見通しと変わらなかったことや、パウエル議長の会見での発言を受けて、ことし利下げが想定通り行われるとの見方が広がりました。
このため、日米の金利差の縮小が意識されて円買いドル売りの動きが出て、会合の結果の公表前には1ドル=151円台半ばだった円相場は一時、1ドル=150円台後半まで値上がりしました。
その後はドルを買い戻す動きもあって円相場は1ドル=151円台を再びつけるなど荒い値動きとなりました。
また、ニューヨーク株式市場では利下げへの期待から買い注文が増え、ダウ平均株価の終値は前日に比べて401ドル37セント高い3万9512ドル13セントと史上最高値を更新しました。
また、ハイテク関連銘柄の多いナスダックの株価指数と、主要な500社の株価で算出する「S&P500」の株価指数もそれぞれ史上最高値を更新しました。
市場関係者は、「インフレへの懸念からことし行われる利下げの回数が従来の想定の3回から減るのではないかと警戒する投資家もいたが、利下げの回数が維持されたことで安心感が広がった」と話しています。
●バイデン大統領インテルに1兆円超の補助金 半導体工場建設費に 3/21
アメリカのバイデン大統領は、半導体メーカーのインテルに対し工場の建設費用などとして、日本円にしておよそ1兆3000億円の補助金を出すと明らかにしました。秋の大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領としては、国内の製造業を強く後押しする姿勢を強調するねらいもあるとみられます。
アメリカのバイデン大統領は20日、西部アリゾナ州にある半導体メーカー、インテルの施設を視察しました。
視察後、演説したバイデン大統領は、インテルに最大で85億ドル、日本円にしておよそ1兆3000億円の補助金を出すと明らかにしました。
補助金は、アリゾナ州やオハイオ州などで最先端の半導体工場を建設する費用などにあてられるということです。
バイデン大統領は「アメリカ国内で投資を行えば国の未来を変えるとともに世界を再びリードすることができる」と述べ、半導体産業の立て直しをはかると強調しました。
補助金は、バイデン政権が2022年に成立させた国内の半導体の生産や開発を後押しする法律の枠組みが使われ、この制度では最大の額となります。
また、今回の投資によっておよそ3万人の雇用創出につながるとしています。
秋の大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領としては、最先端の半導体をめぐり国家主導でばく大な予算を使って技術開発を進める中国に対抗するとともに、製造業を強く後押しする姿勢を強調するねらいもあるとみられます。 
●「強権」を続けるしかないプーチン大統領の「劣等感」と「恐怖心」 3/21
外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が3月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシア大統領選で過去最高の得票率で勝利したプーチン大統領について解説した。
ロシア大統領選挙、プーチン氏が過去最高の得票率で圧勝
3月15日から17日にかけ投票が行われたロシア大統領選挙は開票率99%以上の時点でプーチン大統領が約7600万票を獲得し、得票率87%超とロシア大統領選挙で最も高い得票率で勝利した。
飯田)投票率は18日の時点で77.44%だそうです。
宮家)おめでたいことですよね。あの大きな国で5回も続けて勝てるものではないです。二十数年も独裁を続けるのは並大抵のことではありません。
飯田)スターリン超えだという新聞の見出しもあります。
西側への憧れが強いプーチン大統領
宮家)習近平さんも祝電を送ったそうですし、実は私もお手紙を書きました。「おめでとうございます。大変でしたね。予想通り得票率が9割近くになりましたね。でも、これで本当にロシア国民は幸せなのですか?」というような感じで、とても丁寧に書きました。それが21日の産経新聞に出ます。
飯田)産経新聞で連載されているコラム「宮家邦彦のWorld Watch」ですね。
宮家)「あわれプーチン」ですよね。彼は私より1歳年上なのですが、ドイツのメルケル前首相は私と同い年です。我々の世代から見ると、冷戦終了前は東ドイツにメルケルさんがいて、彼女は科学者から政治家になりました。同じ時期にプーチンさんはKGBの工作員として東ドイツにいて、冷戦後はロシアのトップになっています。だから彼はドイツ語とロシア語が話せるのです。でも、メルケルさんは長くドイツの首相を務めて退任しましたが、プーチンさんはまだ続けているのですよ。各国で世代交代が起きていますよね。起きていないアメリカのような国もありますが、基本的にヨーロッパでは世代交代しているわけです。どちらもすごい政治家だと思いますが、プーチンさんを見ていると前時代的と言うか、「あれしかできないのか」と感じますよね。
飯田)全体構造を維持するため、トップにずっと同じ人が君臨する必要があるのはなぜか。
宮家)いろいろ考えたのですが、やはりロシアは西側、西欧世界への憧れが強く、憧れの塊のような人たちなのだと思います。
民主化できないロシアは強権でいくしかない
宮家)劣等感の裏返しですよね。ただ、私はお手紙にも書きましたが、中国だって怖い国ですよ。「やはりロシアは中国に少し譲歩しているのですか? 二流国になってしまったのではないですか? ロシアの誇りはどこへいったのですか?」というような内容を書いてしまいました。中国とはあれだけ国境線が長いですから、ロシアは本当は怖いのだと思います。
飯田)そうですね。
宮家)しかし、今はそれどころではない。北大西洋条約機構(NATO)と対峙していて、「NATO、何するものぞ」と思っている。東欧の国も含め、西側諸国は民主化して自由を享受しているわけです。でもロシアは、何回やってもそれができないから、強権でいくしかない。プーチンは良きにつけ悪きにつけ、愛国者ですよ。古き良きロシアを何とか維持し、再興したいと思っているのでしょう。
ウクライナが獲られてしまったら、「NATOは目と鼻の先」という恐怖心も
宮家)彼の理想はピョートル大帝ですよね。お手紙でも「あのピョートル大帝と同じくらいの快挙ですね」とお褒めの言葉を申し上げました。あれくらい悪い奴だという意味です。ロシアは南方にもあれだけ領土を拡大したのですから。
飯田)やはりモスクワやサンクトペテルブルクにいると、西からの圧力が怖いため、バッファーゾーン(緩衝地帯)をつくりたくなるのかも知れない。
宮家)ソ連崩壊で、300年かけてつくった東ドイツまでの緩衝国がなくなり、身内だと思っていたウクライナも西側に獲られそうになってしまった。ウクライナがNATOに入れば、モスクワは目と鼻の先になるので、強い恐怖心があるのでしょうね。劣等感と恐怖心の塊です。しかし、プーチンはきわめて伝統的、かつ強力な独裁者であり、「やはりロシアの統治はこれしかないのか」という感じがします。
力によって安定を求めるしかないロシア
飯田)ウクライナへの侵略は2年を超え、ロシアは世界を敵に回している状況ですよね。
宮家)逆効果になっています。わかってはいるけれど、やめられないのです。可哀想な人ですね。
飯田)ここでやめると、やはりロシアの政権は揺らぐのでしょうか?
宮家)やめたら弱さが先に出て、おそらくロシア人は彼を見捨てるのでしょうね。
飯田)強いリーダーを求めているのですか?
宮家)そうだと思います。日本は安定が嫌いではありませんが、彼らは日本人以上に安定を求めています。
飯田)ロシア人はその安定を、力によって求めるところがあるのでしょうか?
宮家)それしかないのです。日本は島国で海に守られていますが、陸続きで周りにはおかしな奴しかいないとなると、緩衝地帯を広げていくしかありません。
飯田)かつてモンゴルに攻められた記憶などがDNAに刻まれているのでしょうか?
宮家)そうですね。地理的環境の影響は大きいと思います。

 

●ロシア中央選挙管理委員会、プーチンの当選を公式承認…得票率87.28% 3/22
ロシアのプーチン大統領の大統領選挙での勝利が公式に承認された。5選に成功したプーチン大統領は、2030年までにさらに6年間ロシアを率いることになる。
ロシアのエラ・パンフィロワ中央選挙管理委員長は21日(現地時間)、「委員会は全会一致で同意した。プーチン大統領がロシア連邦の大統領に選出された」と宣言した。
選挙管理委員会が15〜17日に行われた大統領選挙の結果に対する決議案を採択したことにより、プーチン大統領の5期目の当選に対する公式認定の手続きが終わった。
プーチン大統領の公式得票率は87.28%で、18日に委員会が発表した大統領選挙予備結果数値と同じだ。投票率も77.44%で、歴代最も高かった1991年6月12日の大統領選挙の74.66%を上回った。
ロシア連邦共産党のニコライ・ハリトーノフ氏は4.31%、新人民党のウラディスラフ・ダバンコフ氏は3.85%、ロシア自由民主党のレオニード・スルツキー氏は3.20%の得票率で2〜4位を占めた。
今回の選挙をめぐり、西側では自由でなく公正でない不正選挙だと批判する中で、パンピロバ委員長は「彼らは決して私たちを理解できない」と反論した。
また「西側の堕落した高官らは急いで『選挙は非民主的で自由ではなく不法』と宣言した」とし、多くの国家で民主主義の主な特性である直接選挙を採択していないが、ロシアの大統領は直接選挙を通じて選出されたと強調した。
●「プーチン氏の計画を台無しにした」 ロシア人義勇兵、大統領選前に越境攻撃 3/22
ロシアのウクライナ侵略に対し、ウクライナ側で参戦するロシア人義勇兵組織「自由ロシア軍」幹部、バラノフスキー氏は21日、記者会見し、今月中旬に着手したロシアへの越境攻撃により、露大統領選前に占領地域の拡大をアピールしようとしたプーチン大統領の「計画を台無しにした」との見解を示した。ウクライナメディアが伝えた。
自由ロシア軍を含む複数のロシア人義勇兵組織は今月12日、ウクライナと国境を接する露西部クルスク州とベルゴロド州への越境攻撃に着手したと発表。国境地帯の複数の集落を制圧したとしている。
バラノフスキー氏は「露軍は両州防衛のために(最前線の一つであるウクライナ東部)ハリコフ州クピャンスク方面から戦力を移転させた」と説明。この結果、15〜17日の大統領選前に戦果を出すよう命じられていた露軍は攻勢をかけられなくなったとした。
バラノフスキー氏は越境攻撃で露軍1500人超を死傷させ、170を超す戦闘車両を無力化したとも明らかにした。
自由ロシア軍など義勇兵組織は21日、共同声明を発表し、ロシアに自由をもたらすための戦いに加わるよう露国民に呼び掛けた。
一方、ショイグ露国防相は20日、越境攻撃に関し、「ウクライナの武装部隊を国境外に追い返した」と主張。過去8日間の戦闘で武装部隊の3500人超を死傷させ、50両以上の戦闘車両を破壊したとした。
プーチン氏は18日、義勇兵組織に参加しているロシア人の総数を「約2500人だ」と指摘。19日には露連邦保安局(FSB)幹部との会合で「裏切り者を特定せよ」と指示し、「彼らがどこにいようがロシアは時効なしで罰するだろう」語った。
前線の戦況を巡り、露国防省は21日、2月に制圧したウクライナ東部ドネツク州アブデーフカ方面の集落1カ所を新たに制圧したと主張した。アブデーフカ制圧後、露軍は周辺の複数集落を制圧したが、ウクライナ軍も抗戦し、露軍の前進を遅らせているもようだ。
●大統領選「5勝」のプーチンが乗り出す世界戦略 西側と決別、12年かけ「軍事国家」の完成目指す 3/22
ウクライナ侵攻が続く中、2024年3月15日から17日に行われたロシア大統領選でプーチン氏は「記録的圧勝」で、通算5選を果たした。なぜ今回このような結果になったのか。また今後プーチン・ロシアはどういう方向に進むのか。
プーチン氏の得票率が過去最高の87%。今回の大統領選の結果を見て、筆者はある言葉を思い出した。「選挙で大事なのは、誰が投票するかではなく、誰が票を数えるか、だ」。
2000年の大統領選でプーチン氏が初当選した際に、クレムリン高官が口にしたとされる有名な言葉だ。つまり開票作業を操作すれば、自分たちに有利な選挙結果に変えられるとのプーチン陣営の本音の選挙論を漏らしたものだ。
それ以来、プーチン・ロシアの大統領選はそのほとんどが「公正な選挙」とは無縁だった。開票不正はもちろん、大統領以外の候補者選定から、どの程度大統領を勝たせるか、などすべてをクレムリンが振り付ける、いわば「特別軍事作戦」ならぬ「特別政治工作作戦」に過ぎない。
だが、今回の選挙戦はその不正の規模において、これまでとは状況が違ったようだ。ロシアの民間選挙監視団体「ゴロス」が選挙直後発表した声明で、今回の大統領選は「選挙のまがい物」であり、「過去ロシアでの選挙において、これほどの規模で不正が行われたことはない」と強く批判したのだ。
「記録的圧勝」が意味すること
では、今回なぜプーチン氏は、このような大規模不正に対する批判を承知で圧勝劇にこれほどこだわったのか。その狙いはいくつかある。
まず目の前の目的としては、3年目に入ったウクライナ侵攻に対し、初めて国民から選挙で強い信任を得ることだった。そして、今回の「最高得票率」でそれを果たした。選挙後初の記者会見で、プーチン氏が侵攻継続への強い意志を表明したのも、この目標を実現したという満足感の表れだろう。
そしてもう1つの狙いは、軍への第2次動員実施に向けた環境整備だ。第1次部分動員は2022年9月に行ったものの、動員を忌避する国民の大量出国騒ぎにつながった。
これまでプーチン氏は大統領選への悪影響を恐れて、追加実施をためらって来た。今回の選挙圧勝で、国民との間で、侵攻支持という一種の「社会契約」を結ぶことができたプーチン氏は追加動員に踏み切る可能性が高いとみられている。
さらにウクライナに対しては、本来なら2024年3月に予定されていた大統領選をゼレンスキー政権が戦争継続のため延期したことを受け、プーチン氏は自らと対比する形で、選挙を延期したゼレンスキー政権には「政治的正統性がない」と外交的攻撃を始めるだろう。
だが、侵攻への国民の支持確保という当面の目標を達成したプーチン氏には、その先にしっかり見据えている別の「大目標」がある。それは、西側民主主義陣営と全面的に対峙する強権軍事国家としての純化の道を歩み始めた「プーチン・ロシア」の国づくりの総仕上げをすることである。
筆者は2024年1月13日「2024年・ロシアのプーチン大統領はどこへ行く?」で、プーチン政権が2023年から、法律・教育・イデオロギー面などで、西側との全面対決に向けた国家改造に着手したことを報告した。
プーチン氏の次の任期は2024年5月から2030年までの6年間。さらに憲法規定によりさらにもう1期、2036年まで大統領の座に留まることができる。プーチン時代はまだ、あと12年続く可能性が高いのだ。
「ロシアの要塞化」という国家改造
この間、プーチン氏は、政治・社会面で米欧的価値観を排除する、「ロシアの要塞化」とも呼べる国家改造を完遂するつもりだ。
この国家改造に沿った新たな動きとして、筆者が注目しているのが、2024年2月末にプーチン氏が行った年次報告演説の一節だ。
演説の中でプーチン氏は、ロシア軍がウクライナ軍に一時主導権を握られながらも、態勢を立て直し、盛り返したことを高く評価。そのうえで、戦闘で功績を挙げた軍人がロシア社会における新たな「エリート」になるべきと述べ、今後新設される政府の人材養成プログラムの中で次代の幹部として育てていく考えを明らかにしたのだ。
ここで、プーチン氏の念頭にあるのは、軍人出身の優秀な人物を今後政府や地方自治体などのロシアの統治機構の中で、積極的に登用することだろう。
ではなぜプーチン氏は、このような新方針をこのタイミングで表明したのか。その背景には、2023年6月に起きたロシアの民間軍事会社ワグネルの指導者プリコジン氏による武力反乱事件があるとみる。
ロシア南部ロストフ州で始まったワグネルの武装部隊による進軍は誰にも阻まれず、モスクワ近郊まですんなりと来ることができた。もちろん、プリゴジンの進軍をすぐに止められなかった責任は、基本的には軍部にあるのだろう。
しかし、プーチン氏からすれば、現在の地方自治体の首長は自分への忠誠心も行動力も足らず、今後再び、何らかの反乱事件や社会的騒乱が起きた際に頼りにならないと危惧したのではないか。
なぜ危惧したのか。現在、ロシアの地方知事の半数以上が、セルゲイ・キリエンコ大統領府第1副長官が創設した「知事の学校」と呼ばれる知事養成プログラムの出身者で占められている。
ウクライナ政策や内政全般を仕切っている大物キリエンコ氏と似た、若き「能吏系実務者」ばかりで、とても修羅場への対応で力を発揮できるタイプではない。
そのため、プーチン氏としては、今後は戦場での指揮経験もあり、大統領に忠誠心がある軍出身者を、積極的に登用していく構えだとみる。
この地方指導者への軍人登用は、動き出すとしても数年以上先の話だろうが、プーチン氏としてはこれによって、ロシアの軍事国家化と強権化を強める戦略だろう。
キリエンコ氏と言えば、先述したように、プーチン氏にとって最大の政策立案者であり知恵者だ。しかし、今回の大統領選の過程で、プーチン氏は彼の戦略をひっくり返したと言われる。
プーチン氏の元スピーチ・ライターで大統領府内の実情に詳しい政治アナリスト、アッバス・ガリャモフ氏などによると、その顛末は以下のようだった。
側近らの政策遂行に驚いたプーチン
2023年後半、プーチン氏はウクライナ戦争や外交にかかり切りになっていた。ウクライナの反攻作戦が止まったのを受け、キリエンコ氏に任せていた内政を点検してみて、プーチン氏は驚いた。
戦争反対を表明していたボリス・ナデジディン元下院議員が多くの支持を集め、大統領選候補となりそうな状況が生まれていたからだ。また北極圏の刑務所に収監されていた反政権派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏を出国させるため、米欧との間で囚人交換の交渉が進んでいたことも知って怒ったという。
キリエンコ氏は西側からのロシア批判を和らげるため、政権ナンバー2であるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記の反対を押し切って、こうした動きを進めていた。
結果的にナデジディン氏の候補者登録も、ナワリヌイ氏の出国も、プーチン氏が反対し、見送られた。プーチン氏は一時、ナワリヌイ氏の出国を許すことも検討したが、結局殺害することを命じたという。
かつてプーチン政権は、強権的政治を進める一方で、反政権派のデモや独立系メディアの存在を容認するなど、部分的に西側的な民主主義風の政策も取り入れる「ハイブリッド民主主義」を進めて、米欧からの批判を交わしてきた。
しかし、西側の政治的価値観を一切拒絶する国家建設に踏み出したプーチン氏には、もはや西側の反応など気にする必要はなくなったのだ。
だからこそ大統領選が近づき、ナワリヌイ氏の処遇に国際的関心が集まっていたこの時期にその殺害を命じるという、米欧への挑発とも言える行動に出たのだ。
こうしたプーチン政治の劇的な変化の背景について、ロシアの有力なリベラル派政治アナリストであるアンドレイ・コレスニコフ氏はこう指摘した。
「プーチン氏にとって、ウクライナ戦争における『勝利』とは、もはやウクライナを『ロシア帝国』に引き戻すという軍事的勝利だけを意味していない。ロシアの国家存立をかけて、西側との対決に勝利することなのだ」
「西側主敵論」と「新植民地主義」
この「西側主敵論」について、プーチン氏は2024年1月1日にこう語っている。「西側自身がわれわれの敵なのだ。数世紀にわたりそうだったし、今も続いている。ウクライナ自身はわれわれの敵ではない。国家としてのロシアを消滅させることを望む西側こそ敵なのだ」と。
外交面でも、ロシアはこの西側との対決路線に沿って、活発な攻勢を仕掛けている。北朝鮮やイランから弾薬や無人攻撃機の供与を受ける一方で、両国との経済的つながりも強化している。
中国との間でも提携協力関係を強めている。またソ連時代、社会主義国や左派政権だったアフリカ諸国や南米諸国に軍事支援を行った歴史的つながりを生かして、両地域の諸国を取り込む動きを展開している。
この外交を象徴するキーワードとして、ロシアが使い始めたのが、米欧による「新植民地主義」だ。プーチン氏は2024年2月半ば、アフリカ、中南米、アジアから50カ国を集めて、モスクワで開催した国際会議でこう訴えかけた。
「集団としての西側は今でも(かつて植民地だった)アフリカ、中南米、アジアにおける優越性をどんな手段を使っても維持しようとしている。自分たちの価値観や文化を押し付けようとしている」
植民地時代のネガティブな記憶も強く残っているアフリカに対して、ロシアは先述したワグネル社が一時軍事訓練ビジネスや経済面でのビジネスを展開するなど、権益のネットワークを広げている。
これを象徴する出来事が最近起きて、アメリカにショックを与えた。アフリカ西部ニジェールの軍事政権が、アメリカと締結している軍事協定の破棄を通告してきたのだ。
軍事政権はロシアやイランと軍事協定を結ぶ可能性があるとみられている。ロシアは、侵攻に関して多くが中立的立場を保っている新興・途上国群(グローバルサウス)とも友好的な関係を維持している。
これに対して、アメリカの外交は明らかにロシアに後れを取っている。ウクライナのほかに、ガザでのイスラエルによる非人道的攻撃への対策に毎日、追われているのが現状だ。
ロシア外交に後れを取るアメリカ
アフリカ諸国などの取り込みに戦略的に動いているロシアと比べた場合、その差は残念ながら歴然としている。
では、このプーチン政権の「ウクライナ戦勝プラス反西側国家建設」戦略に対し、民主主義国家側はどう対抗すべきなのか。
結局のところ、まずは目の前のウクライナの戦場でロシアを敗北に追い込むしかない。第2次チェチェン戦争での勝利を背景に生まれたプーチン政権は、2014年のクリミア併合も含め「戦勝」の実績を国民に誇示して、政権の求心力を維持してきた。
今回の大統領選での記録的勝利の背景にも、ウクライナの反攻作戦を食い止めたという軍事的実績があった。
だからこそ、今後ロシアがウクライナで事実上の敗北を喫する事態となれば、「ロシアを率いることができるのはプーチンだけ」との長年のロシア国内でのイメージが崩れるのは間違いないだろう。
それなれば、政権が動揺し、結果的に反西側国家建設という野望実現も難しくなるだろう。その意味でウクライナ侵攻は、ロシアとウクライナとの戦争ではなく、西側全体にとって重大な分かれ目となる脅威なのだ。
●プーチン大統領5選 正統性なき「長期独裁」 3/22
ロシア大統領選でプーチン氏が予想通り圧倒的な支持≠獲得し、通算5期目の当選を決めたと発表された。
ロシアのウクライナ侵略が続く中で行われた「選挙」は自由でも公正でもなく、独裁者が権力の座に居座ることを自ら正当化する「儀式」に過ぎない。さらに6年間続投するプーチン大統領は正統性を欠くと言わざるを得ない。核大国ロシアの独裁体制の長期化は世界の大きな不安定要因だ。
大統領選では、ウクライナ戦争反対を主張した候補らが中央選管に排除され、プーチン氏のほか体制に迎合する3候補のみが出馬。まともな討論はなかった。公務員や国営・政府系企業の社員、大学生らに投票を強要する組織的圧力が各地で加えられたことが判明。選管の開票作業にも不正疑惑が出ており、プーチン氏の得票率「87%超」に信ぴょう性はない。
投票は、ロシアが一方的に「新たな領土」として併合したウクライナの東部、南部の4州でも強行された。占領地のウクライナ国民にロシア大統領選への投票を強制したことは、選挙の合法性を否定するものだ。戦闘が続くこれら地域では正確な有権者数すら把握できていなかった。
「ウクライナはロシアの歴史的領土」と主張するプーチン氏は、「国民の信任」を錦の御旗にして戦争を継続する構えだ。日米欧など先進民主主義諸国と対立する中で、独裁体制を維持していくには、ロシア社会を一層締め付けて戦争を継続する以外にない。
ロシア軍の最高司令官であるプーチン氏には、占拠したウクライナ領から子どもを連れ去った容疑で国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。さらに市民多数の殺害、民間施設攻撃など戦争犯罪の全面的な責任を問うべきだ。
ソ連で1980年代後半に始まった民主改革を引き継ぎ、新生ロシアで育まれてきた脆弱(ぜいじゃく)な民主制度は、ロシアの最高実力者として24年間も君臨するプーチン氏により完全に破壊された。
新型コロナウイルス禍の20年7月に憲法改正を強行、大統領任期に例外規定を設け、自らの2期12年の続投を可能にした。22年2月のウクライナ侵攻後は独立メディア、民主勢力を徹底弾圧し、恐怖と個人崇拝が支配する独裁体制を築き上げた。現在ロシアで投獄されている政治犯の数はソ連末期ブレジネフ時代の水準を上回っている。
大統領選の期間中にプーチン氏の最大の政敵だった反政府活動家ナワリヌイ氏が獄中死したことで、戦争と独裁に反対する市民らが抗議行動を起こし、その存在をアピールした。しかしナワリヌイの死で民主勢力は求心力を失っており、ロシアの民主体制回復の展望は暗い。
プーチン氏は核兵器使用をほのめかして米欧を威嚇している。米欧のウクライナ支援が中途半端なのは、ロシアを刺激して核攻撃を誘発することを恐れるからだ。日米欧は一致してプーチン氏の暴走を抑え込まなければならない。
ただ、11月の米大統領選で「米国の国益第一」を主張する共和党のトランプ前大統領が勝利した場合、日米欧の共同歩調は困難になりそうだ。北方領土問題解決を最優先してきた日本は、安全保障の観点から対ロシア戦略を抜本的に見直す必要がある。
●「歴史的な道をともに歩もう」プーチン大統領 過去最高得票で通算5選確定受け 3/22
ロシア中央選挙管理委員会は大統領選の最終集計結果を発表し、プーチン大統領の当選が確定しました。プーチン氏は「歴史的な道をともに歩もう」と国民に団結を訴えました。
ロシア中央選挙管理委員会が21日に発表した最終集計結果によりますと、大統領選の投票率は77.49%、プーチン氏の得票率は87.28%でいずれも過去最高でした。
これでプーチン氏の通算5選が確定し、新たな任期は2030年までとなります。
結果確定を受け、プーチン氏はビデオメッセージを出し、「ロシアは今さらに強くなっている。我々が選んだ歴史的な道をともに歩もう」と述べ、国民に団結を訴えました。
今回、大統領選では初めて投票日が3日間となったほか、電子投票も導入されました。
一方、独立系選挙監視団体「ゴロス」は、プーチン氏の得票に大幅な水増しがあった可能性を指摘しています。
●日本人記者が見たマリウポリの現実 残った市民がロシア支配下で生きるそれぞれの理由 3/22
ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリ。ウクライナ兵がアゾフスタリ製鉄所で数週間にわたって籠城戦 を続けたことを覚えている人も多いだろう。最終的に彼らは投降、町は廃墟と化し、2022年5月にロシアの支配下に移った。ロシアによるウクライナ侵攻から2年が過ぎた今、町は大きな変化に直面している。
あちこちに寿司店やラーメン屋
1月下旬にマリウポリを訪れたドイツ公共放送「ZDF」の取材班は、ロシアがいかに膨大な資金を投じ、町を再建しているかをリポートした。「戦争を両サイドから報じることが重要」と主張するZDFに対しウクライナ外務省は、政府の許可を得ずリポートを行ったとして反発している。
ZDFとほぼ同じタイミングでマリウポリを訪れた。最初に目につくのは統一感の無さである。東日本大震災の復興事業のように区画ごとに整理されるのではなく、建物ごとに責任者が異なるため、完璧に修復された家の隣に瓦礫があったりする。チェチェン人やウズベク人の労働者が数多く行き交っている。
スーパーなどの商業施設は問題なく営業し、商品も充実しているので、その中にいる分には戦争の気配は全く感じない。特に肉類は新鮮で美味しそうだ。マリウポリ近郊から仕入れているのだという。数は少ないもののカフェやレストランも営業している。
以前はギリシャ料理店が多かったが、今では日本料理店が追い抜いたという。あちこちに寿司店があり、マグロやサーモンなど決して質は悪くない。ラーメンを頼むとうどんスープのようなものが出てきたが、それはそれで美味しかった。食事を楽しんで店を出ると崩れかけた建物が目に入り、現実を再認識する。
政権移行による手続きの山と混乱
80代の男性は、もう4カ月も年金を受け取っていない。事務所に電話をしても埒が開かないとこぼす。これまでウクライナから年金を受け取ってきたが、これからはロシアから受け取ることになる。移行作業はスムーズとは言い難い。
ある女性は、製鉄所で何十年も勤務してきたのに、その勤務年数が部分的にしか年金に反映されていない、なぜだかわからないと話す。別の女性は逆に、ロシアになってから年金額が増えたので満足していると話した。
しかし、年金が増えたと話した女性は、損壊した自宅を修理するための補償金をまだもらっていない。補償金を受け取るには、担当者が出向いて被害状況をチェックする仕組みになっている。しかし、女性の家は補償金の申請が却下された。女性は、いつ担当者が来たのか、なぜ損壊なしと判断されたのかわからないと言う。クレームを入れる書類を作るにも、素人では難しく、法律家に有料で頼む必要がある。この女性の場合はボランティアでやってくれる弁護士を見つけた。これはレアケースだ。
手続きにはロシアのパスポートが必須
ロシア国籍(パスポート)の取得は、一時期、大混雑だったが、2023年3月にプーチンがマリウポリを訪問してからスムーズになった。ロシア南部のロストフ州から追加の職員が派遣され、多くのパスポート申請所が開設された。
パスポート申請に人が殺到するのは、ロシアを愛しているという感情的な問題ではなく、ロシア国籍がなければ何も手続きができないからである。戦争で全壊した住居の代わりに他の家をもらうのにも、前述の補償金を受け取るにも、パスポートが必要だ。市民のほとんどが、ウクライナとロシア、両方のパスポートを持っている。
家が全壊し、かつ不動産の権利書も失っている場合、裁判を通して権利を復活させなければならない。長期にわたる 複雑な手続きに疲弊する人々は口を揃えて「ドネツク人民共和国から抜けて、ロストフ州に入りたい」と言う。マリウポリが属するドネツク人民共和国は行政機能が弱いため、ロストフ州が直接管理してくれることで手続きが少しでも早く進むのではという期待があるのだ。
多くの市民がマリウポリに残った
2014年のマイダン革命の後、ウクライナが支配権を失ったドネツク市などと違って、マリウポリはウクライナ側に残った。つまり市民は、ロシアは敵であるというウクライナ当局の報道に8年間も触れてきた。国営テレビの報道を信じるならば、ロシアと共存するなんてまっぴらだと、ほとんどの市民が逃げ出していてもおかしくはない。
しかし、現実には、かなりの数の人がどこへも行かずに戦禍を耐え抜き、最近では避難した人が戻って来ているのである。
マリウポリの人口について正確な最新の数字はないが、ちょうど1年前、2023年3月の時点で、ドネツク人民共和国の前首長デニス・プシーリン はマリウポリの人口を「28万人」と発言している。戦争前には42万5000人が暮らしていたことがわかっている。とすると、出稼ぎ労働者の人数を差し引いたとしても、もともと住んでいた市民の少なくとも半分は何らかの理由で町に残ったことになる。多くの場合、それは個人的な体験から来るものだ。
ロシア支配下で生きていく理由
マリウポリ生まれマリウポリ育ちの40代の女性に話を聞いた。彼女は、マリウポリ経済は前大統領のポロシェンコ政権下で急激に悪くなったと言う。製菓メーカー「ロシェン」のオーナーであるペトロ・ポロシェンコ がマリウポリの製菓工場を買収・閉鎖したため、政権には不信感があったと話す。マリウポリ製菓工場は市民に広く愛されており、ロシェンにとってはライバル会社だった。しかし、マリウポリ経済が悪化しても、「それでも自分はウクライナ派だった。報道の影響は大きかった」と振り返る。
その考えは戦争中に変わった。
避難中に文字通り子どもが道に「落ちて」おり、周囲に大人はいなかった。子どもの顔は真っ赤に腫れ上がり、高熱があった。自身も二児の母であるためその子を置いておけず、一緒に市内から脱出を試みた。「ウクライナ兵に、私たちを町から出してください、それがダメなら何か薬をくださいと頼んだけれど、何もしてくれなかった。それどころか、それ以上粘ると撃つぞと脅された」と言う。彼女は市内中心部に引き返した。今では彼女は、プーチンを支持している。
同じくマリウポリで生まれ育った年金生活者の男性は、ロシアもウクライナも好きでも嫌いでもない、自分にとってはこの町に残ることが大事だったと話した。
彼は少し歩行が困難なので、避難中に手を貸してほしいとウクライナ兵に頼んだが、断られた。その後でロシア兵にも会ったので頼んだが、やはり断られた。彼はかつてロシアとの国境にいたウクライナの警備隊のことを「バンデラ主義者」と呼んで嫌っている。一般的にバンデラ主義者とはウクライナのネオナチ、民族主義者のことを指すが、彼は「泥棒」の意味で使っているようだった。「ロストフ州に行こうとすると、ウクライナ側の検問を通るたび、必ずモノを盗まれた。ロシア側の検問で盗難にあったことはなかった」と言う。
アゾフ連隊とは、結局、何だったのか?
マリウポリといえば、冒頭に触れた籠城戦で主要な役割を果たしていた「アゾフ連隊」が有名だ。彼らはウクライナにとっては対露徹底抗戦の象徴であった一方、ロシアにとってはネオナチであり、忌むべき存在だった。そこで地元の人々に、アゾフは善か悪か、結局どっちだったのか?と聞いてみると、全ての人から「あいつらはヤク中だった」と答えが返ってきた。
アゾフ連隊が2014年にマリウポリを拠点にし始めてから、薬物の蔓延がひどかったそうだ。と言うよりは、一切、検挙されなくなった。一時期、売買に関わっていたという20代の男性は、実際の取引現場を見せてくれた。薬物は主に通信アプリ「テレグラム」を通して取引されていた。売買すれば罪になるが、「売り手が土に埋め、買い手がそれをたまたま発見した」という形にすれば、見つけただけなら犯罪にはならない。テレグラムは通信記録が消せるので、証拠は残らないというわけだ。
50代の女性は、同じ集合住宅の住民がアゾフにスカウトされ、隊員になってから見るからに健康を害したため、除隊してどこかへ引っ越していったと話した。近所では、薬物のせいだともっぱらの噂だった。
また別の人は「アゾフの奴らが、個人商店で代金を払わずに商品を持っていくのを見た」と言う。店主が黙っているので何故かと聞くと、「無駄だ」と一言。アゾフはもともと民兵だったが、ウクライナ内務省の直轄組織である親衛隊となった。親衛隊は治安を維持する警察と軍の中間のような役割を果たすが、それが堂々と万引きするのだから抵抗したくても訴える先がないし、向こうは銃を持っている。だから、無駄だというわけである。
これらの話は全て戦争が始まるより前の出来事であり、当時はまだ国際社会の注目は集まっていなかった。戦争が始まってから日本では町を守るヒーローのように報道されていたが、そのことを筆者が指摘すると人々は「そもそも治安維持とは逆のことをやっていた。絶対あり得ない」と話すのであった。
今は平和
町に出て会話をすればウクライナ派の市民がいるのではないかと思っていたが、そのアテは外れた。実際は、どこの国になってもマリウポリで生きていくと決めた人、ウクライナに恨みがある人、ロシアのほうがまだ見通しが明るいと考える人など、それぞれがそれぞれの理由で現状を受け入れているように見えた。
そして、そうでない人は、戦争の序盤に町を離れ、戻って来てはいない。例えば、ロシアを支持する女性は、自宅が全焼したため知人の家に身を寄せているが、知人本人はマリウポリにはいない。その人は、マリウポリが「無血開城」してまたウクライナの一部となった時に戻ってくる、それまで住んでいて構わないと話している。2人は全く違う政治的意見を持っているが、それはそれとして友情は続いている。また、信頼のおける人に不動産を管理しておいてもらわないと、誰かが勝手に住み着いたり、結果として物件を失ってしまったりという懸念もある。
筆者がマリウポリに滞在していた間、市内に2回砲撃があった。しかし、それでもマリウポリの人たちは、今の状態を平和だと考えている。会話の端々に「平和になってから1年半が経つ」とか「もう戦争は二度と体験したくない」といった表現が出てくるのである。戦争そのものはもちろん続いているのだが、マリウポリの人々にとって戦争はとりあえず終わったことになっているようだ。
●IMF理事会、ウクライナ支援8.8億ドル承認 年内の戦闘収束見込む 3/22
国際通貨基金(IMF)理事会は21日、ウクライナ向け融資プログラムに基づく3度目の審査を行い、同国に対する8億8000万ドル相当の金融支援を承認した。これで支援規模は54億ドルに達した。
IMFは、ロシアとの戦争を巡る先行き不透明感や対外資金調達見通しなどを踏まえると、ウクライナが直面するリスクは引き続き極めて高いと指摘した。
ただ、IMFのウクライナ担当高官ギャビン・グレイ氏は、ロシアとの戦争は2024年末までに収束するとIMFは引き続き見込んでいると述べた。
ウクライナは過去1年間に融資プログラムが求める要件で税収以外全てを満たしたと説明した。ウクライナは数日以内に資金を受け取る見通しという。
米議会でウクライナ支援に関する補正予算通過のめどが立っていない中、ウクライナにとって歓迎すべきニュースとなる。
23年のウクライナ経済は予想を上回る回復力を見せた。ただ、IMFは、24年には逆風が再び強まり、成長率が3─4%に鈍化すると予想している。
●東京円、151円台半ば 22年の介入水準迫る 3/22
22日午前の東京外国為替市場の円相場は、1ドル=151円台半ばで取引された。好調な米経済指標を背景に日米金利差の拡大を意識した円売りドル買いの動きが強まり、政府・日銀が為替介入を実施した2022年10月の水準に迫ってきた。
午前10時現在は前日比31銭円安ドル高の1ドル=151円53〜54銭。ユーロは62銭円高ユーロ安の1ユーロ=164円64〜66銭。
22年10月には一時、約32年ぶりの水準となる151円94銭まで円安が進んだ。市場では「為替介入への警戒感がくすぶり、152円の手前で足踏み状態が続きそうだ」(外為ブローカー)との声があった。
●ボスニア加盟交渉で合意 EU、ロ接近阻止狙う 3/22
欧州連合(EU)首脳会議は21日、ボスニア・ヘルツェゴビナとの加盟交渉を行うことで合意した。EUのミシェル大統領が明らかにした。EUはボスニアを含む西バルカン諸国でロシアの影響力が強まることを警戒している。加盟交渉の決定を急ぐことでロシアの接近を阻止する狙いとみられる。
EUは既に、西バルカン諸国のアルバニアとセルビア、モンテネグロ、北マケドニア(旧マケドニア)と加盟交渉を行っている。ボスニアと加盟交渉を開始するにはEU欧州委員会が交渉枠組みを加盟国に提案し、全27加盟国が承認しなければならない。
●国連は無用の長物か?:ウクライナ戦争の教訓 3/22
ロシアの侵攻によりウクライナ戦争が勃発してから2年1カ月、またパレスチナ自治区のガザ地区でイスラエル・ハマス戦争が突発してから6カ月。いずれの戦争も簡単には決着せず長期化の様相を呈していますが、その間にも、多くの一般市民が犠牲になっています。
この悲惨な状況を私たちは日々テレビなどでつぶさに見ながら、戦争が一日も早く終わってほしいと願う以外に具体的に何もできないことに無力感を抱かざるをえません。
機能不全に陥った国連安保理
それにしても、この重大な時期に一体全体、国際連合(国連)は何をしているのか、なぜウクライナ救援や停戦仲介に乗り出さないのか、機能不全に陥っているような国際組織なら不要ではないか、どうすれば国連改革ができるのか、という素朴な疑問が噴出するのは当然でしょう。
そこで今回は、改めて国連とは何か、とくに安全保障理事会の改革はできるのかどうかなどについてじっくり考えてみたいと思います。
そもそも現在の国連という組織は、ナチス・ドイツと日本の降伏により第二次世界大戦が終了するわずか2カ月前の1945年6月、サンフランシスコ会議に出席した連合国50カ国が採択した国連憲章によって創設されたもの(憲章の発効は同年10月)で、正式名称は「連合諸国機関」(United Nations Organization)。
それを日本では、「国際連合」と呼んでいるわけですが、元々日独伊など「枢軸国」と戦った連合国(United Nations)中心の国際機関であることは明らか。その証拠に日独伊などは憲章上は今でも「旧敵国」と明記されています(第53条など。ただし、現在ではこの条項は死文化されているとされます)。
周知のように、国連には六つの主要機関がありますが、最も重要なのは、国際平和と安全の維持に主要な責任を負うとされる「安全保障理事会」で、米、英、ソ連(現在はロシア)、仏、中国(当時は中華民国)の5大国(常任理事国)とその他の10カ国(2年任期の非常任理事国)によって構成されています。
常任理事国の5カ国には「拒否権」が特別に与えられており、一カ国でもこの拒否権を行使すれば、たとえ他のすべての理事国が賛成しても、決議はできない仕組みになっています。
実際に、ウクライナ戦争でロシアを、ガザ紛争でイスラエルやハマスを非難したり、制裁を課そうとしたりした時も、ロシアや米国などが拒否権を行使したので、非難決議は採択できませんでした。これこそが現在の国連が機能不全に陥っている最大の原因です。では、なぜこのような厄介な拒否権制度ができてしまったのでしょうか。
拒否権制度の歴史的背景
それを理解するためには、1世紀以上前の第一次世界大戦までさかのぼって考える必要があります。第一次世界大戦後のベルサイユ平和条約会議(1919年)で、米国のウィルソン大統領の提唱により「国際連盟」(League of Naitons)が創設され、英、仏、日本、イタリアなど当時の一流国が常任理事国になりました(その後ドイツとソ連も理事国に。米国は自国の議会の承認が得られなかったために不参加)。
ところが、その後日本が、満州問題で国際連盟を脱退(1933年)。続いてドイツも脱退したために、国際連盟は弱体化し、重大な国際紛争を解決する権威と能力を失い、ついに第二次世界大戦の勃発を阻止することはできませんでした。
こうした苦い経験にかんがみ、米国のルーズベルト大統領、英国のチャーチル首相、ソ連のスターリン書記長の三巨頭は戦時中に何度も会談し、戦後創設されるべき国際組織の仕組みについて話し合った結果、新しい国際連合の安全保障理事会の5大常任理事国には「拒否権」を認めることに合意しました。特にスターリンがそれを強く望んだといわれますが、ルーズベルトとチャーチルも、安保理を真に実効性のある国際紛争処理機関とするために拒否権制度は必要と考えたようです。
特にルーズベルトは、思想的にも、大恐慌(1929年)後のニューディール政策にみられるように容共的なところが多分にあり、戦後は米英とソ連ががっちり一致団結すれば、日独などの再興を抑え国際平和を維持できると信じていたようです。実際には彼は1945年4月に死去しましたが、彼の遺志はトルーマンにそのまま引き継がれたわけです。
似て非なる「国連軍」
こうした経緯からみて、国際連合の安全保障理事会に拒否権制度が取り入れられたのはやむを得なかったし、その時点では合理性もあったと認めざるを得ませんが、そうした当初の期待は、戦後まもなく裏切られます。
ソ連がヨーロッパで東欧諸国を「鉄のカーテン」の内側に抱え込み、それに対抗して米欧が北大西洋条約機構(NATO)を結成したために東西冷戦状態が表面化。またアジアでは北朝鮮が、ソ連と中国の支援を得て韓国に侵攻して朝鮮戦争(1950〜53年)が勃発したからです。
特に朝鮮戦争の場合、国連安保理が憲章に従って「国連軍」を組織し派遣しようとしましたが、ソ連が反対したため、動きが取れませんでした。そこで、安保理に代わって、国連総会(全加盟国が1票を持つ)が緊急会議を開き「平和のための結集」という題名の決議を採択。それに基づいて、西側の有志諸国が自発的に軍隊を派遣することになりました。
これは国連憲章に基づく正式の「国連軍」ではありませんでしたが、その最高司令官には、当時日本を占領していた連合国最高司令官のマッカーサーが就任し、仁川上陸作戦などで活躍したことはご存じの通り。
安保理改革は行き詰まり
その後も、国際紛争が起こるたびに、国連安保理の積極的な対応が求められましたが、常任理事国のいずれかが拒否権を発動したため、正式の「国連軍」が編成されることはありませんでした。
また、このような安保理自体を改革するために常任理事国の数を増やしたり(現在15カ国の理事国を25カ国に増やし、常任理事国も6カ国追加するなど)、拒否権の発動に一定の制限を設けるなどの改革案が提案されましたが、いずれも実現していません。日本も、ドイツ、インド、ブラジルと組んで「G4」として独自の改革案を提出し、各国に働きかけましたが、残念ながら不首尾に終わっています。
安保理を改革するためには、当然国連憲章を改正しなければならず、そのためには常任理事国すべての同意が必要ですが、現在の常任理事国が既得権を手放すことはもちろん、同じ特権を持った国を増やすことにも反対して拒否権を行使するので、憲章の改正が成立するわけがありません。例えば日本国憲法も改正が極めて難しい仕組みになっていますが、それ以上に国連憲章の改正手続きは難しくなっており、事実上不可能といえます。
全く新しい国際組織を創る?
ということであれば、この際、大変な荒療治になりますが、現行の国連(特に安保理)を潰してしまって、新しい国際組織を創るということも考えてみるべきではないか。具体的な方法としては、安保理改革に反対する常任理事国だけを残して、他の一般の加盟国は一斉に国連を脱退し、全く新しい国際組織を創設する(現行の憲章にはそのような集団的脱退を禁止する規定はありません)。
新国際組織では、すべての加盟国が対等で、原則的に1国1票。あるいは、人口やGDPにある程度比例した票数を割り当てる。そうすれば、日本の国会や他の民主主義国の議会のように多数決で議決ができるようになるはずですし、本来の意味での国際軍隊も持つことができるはずです。
さてそうなった場合に、実際に国際紛争が発生したとき迅速に対応できるでしょうが、その紛争の当事国が現在の5大国の一つであると、どういうことになるか。相手は核兵器を持っているので、最悪の場合はそれを使う恐れがあります。
それに対応するためには新国際組織も核兵器を持たざるを得なくなるでしょう。当然現行の「核兵器不拡散条約」(NPT)は完全に有名無実化するので、核兵器を持つ国が続々と出てくる可能性があります。そうなると世界平和どころの話ではなくなります。それで良いと考えるわけにもいきません。
国連は人類を天国に導くものではない
ここまで考えてくると、結局、不満足ながら現行の国連制度の方がまだましということになるのではないでしょうか。そもそも現実の国際社会は、弱肉強食とまではいわずとも、それに近い状況であり、ある程度の不合理は容認せざるをえません。ならば、多大な困難を伴うだろう抜本的な荒療治よりも、現在の国連制度の下で地道に辛抱強く改善の努力をしていく以外にないと思います。
現に国連には、政治・軍事担当の安全保障理事会のほかに、経済・社会・衛生・労働・文化問題などを扱ういろいろな機関があり、それなりに真面目に活動しています。私自身も若い頃、外務省から新設の「国連環境計画」(UNEP)事務局に4年間出向して地球環境問題に取り組んだ経験があります。
こうしたことは国連がなければできない仕事です。安保理のような派手さはありませんが、こうした仕事が一歩一歩積み重なって世界平和が保たれていくのだと思います。
国連は決して理想的な、完全な組織ではないということを喝破した有名な言葉があります。第2代の国連事務総長を務め、在任中に飛行機事故(爆破されたとの説もある)で殉職したダグ・ハマーショルド(1953〜61年在任)の言葉です。
「国連は人類を天国に連れて行くために作られたものではない。地獄に落ちるのを防ぐために作られたものだ」
ウクライナ戦争の教訓
最後にもう一点。今回のウクライナ戦争から分かるように、国連の安保理は頼りにならず、NATOという地域安全保障条約にも加盟していないウクライナは、外国からの軍事物資の支援は受けられても、地上戦は自国軍隊だけでやらねばならず、苦戦を強いられています。
結局国を守るのは自力と、条約ではっきり同盟関係にある国からの加勢(共同防衛)に頼る以外にないということ。国連による集団安全保障は少なくとも現状では画餅にすぎません。日米安保条約の重要性もそこにあります。ウクライナ戦争の教訓の一つとして、そのことを日本人は肝に銘じておかねばなりません。
●EU首脳会議 ロシア凍結資産の収益活用に向け「合意」 7月にも実施か 3/22
欧州連合(EU)は21日、ブリュッセルで首脳会議を開き、ウクライナ侵略を受けて欧州で凍結されたロシア中央銀行の資産から得た収益をウクライナの軍事支援に活用する案について討議した。EU首脳は同案の実現に向けた「作業を進める」方針を明記した文書を採択した。
EU欧州委員会は20日、年間30億ユーロ(約4900億円)に上る凍結資産から得られる利息収入の9割をウクライナへの兵器調達資金に活用する方針を加盟国に提案していた。提案を実施するには加盟国で構成する理事会での正式決定が必要となる。
フォンデアライエン欧州委員長は21日、文書採択後の記者会見で、EU首脳が欧州委の提案を実現するための「道を開いた」と歓迎。提案が迅速に決定すれば、7月1日に10億ユーロ(約1650億円)の利息収入をウクライナの軍事支援に活用できるとの見方を示した。
露資産の活用をめぐっては、米国やウクライナなどが資産の没収を主張していた。ウクライナのゼレンスキー大統領は21日の首脳会議にオンラインで参加し、凍結された露資産が生む収益だけでなく資産そのものも兵器の購入資金に充てるようEU首脳に求めた。
●ロシア凍結資産の活用、EU首脳が合意 「利益」でウクライナ支援 3/22
欧州連合(EU)は21日の首脳会議で、ロシアの凍結資産から生じる利子や配当をウクライナ支援に活用することで合意した。今後、作業部会が合法性などを精査し、早ければ7月にも最初の資金をウクライナに提供したいとしている。
フォンデアライエン欧州委員長はこの日の記者会見で、「首脳たちの支持が得られたことをうれしく思う」と述べた。欧州委員会は会議前日の20日、域内で凍結されているロシア中央銀行の資産から生じる利子や配当などの「利益」から、手数料や税金などを引いた25億ユーロから30億ユーロ(約4112億〜4935億円)の活用を提案。このうち9割を武器調達の基金に、1割を復興などが目的の基金に配分するとし、今回の首脳会議の議題の一つになっていた。
ただ、資産から生じる「利益」であっても活用する法的根拠を明確にする必要があることや、使途が人道目的だけでないことへの抵抗感から、オーストリアとハンガリーがこの提案に反対。今後、加盟国の閣僚らでつくるEU理事会の作業部会で合法性や使途を検討した上で、EU理事会で諮られる。そこで全会一致が得られれば、ロシアの凍結資産に関連する資金を活用する世界初の試みとなる。
●キーウなどにミサイル攻撃 ゼレンスキー大統領は軍事支援訴え 3/22
ウクライナでは首都キーウなどにロシア軍の大規模なミサイル攻撃があり、13人がけがをしました。ゼレンスキー大統領は攻撃を非難するとともに、防空システムなどさらなる軍事支援が必要だと訴えました。
ロシア国防省は21日、極超音速ミサイルだとするキンジャールを含むミサイルでウクライナ軍の補給拠点などを攻撃し、すべて命中したと主張しました。
これに対してウクライナ軍は、ロシア軍が発射した31発のミサイルをいずれも迎撃したと発表しました。
ただウクライナの国家非常事態庁によりますと、首都キーウでは落下したミサイルの破片などによって子どもを含む13人がけがをしました。
このうち少なくとも6人がけがをした住宅街では、落下したミサイルの一部によって交差点の真ん中に直径5メートルほどの穴があき、周りにある集合住宅のほとんどの窓が窓枠ごと吹き飛んでいました。
ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSで「毎日、毎晩、こうした恐怖がある」と、攻撃を非難しました。
その上で「ロシアのテロリストは、パトリオットなどを回避できるミサイルは持っていない。ウクライナはこうした防御を必要としている」と述べ、地対空ミサイルシステム「パトリオット」をはじめとしたさらなる軍事支援が必要だと訴えました。
ロシア人義勇兵
ウクライナ側に立ってプーチン政権と戦っているロシア人義勇兵の組織が21日、ウクライナの首都キーウで会見し、今後ロシア国内に向けてさらに攻撃を続けていく方針を示しました。
会見を行ったのは、ロシア西部ベルゴロド州などへ越境攻撃を続けている「シベリア大隊」や「自由ロシア軍」などロシア人義勇兵の3つの組織の代表です。
この中で「シベリア大隊」の代表は「われわれは、まもなくほかの都市へ進む。各国にいるロシア人などに参加を呼びかける」と述べ、ロシア国内に向けてさらに攻撃を続けていく考えを示しました。
その上で「われわれには、ウクライナ兵と同じ権利と義務が与えられている」と述べ、ウクライナ側から武器の供与を受けていることを明らかにしました。
ロシア人義勇兵の組織をめぐってはウクライナ国防省のブダノフ情報総局長が21日、地元メディアに対し「われわれは支援し、助言している」と述べ、ウクライナ側と連携していることを認めています。
一方、ロシアのプーチン大統領は「裏切り者はどこにいても罰せられる」と述べ、国境の防衛を強化するよう治安当局に指示していて、国境付近の攻防がいっそう激しくなる可能性があります。
●キーウに大規模ミサイル攻撃、31発すべて迎撃も17人負傷=ウクライナ当局 3/22
ウクライナ当局は21日未明、首都キーウにロシアのミサイル攻撃があったと発表した。ロシア軍が発射した31発のミサイルはすべて迎撃したものの、落下した破片などで子供を含む少なくとも17人が負傷したという。
キーウでは21日午前3時ごろに最初の空襲警報が鳴り響いた。それから2時間後に1回目の爆発音が聞こえた。
ポディルスキー地区、シェフチェンキフスキー地区、スヴィアトシン地区で破片が落下し、変電所の屋根やいくつかの住居ビル、複数の車が燃えたと、キーウのセルヒイ・ポプコ軍事行政長官はメッセージアプリ「テレグラム」で述べた。
「戦闘作戦は成功し、敵のミサイルをキーウ上空で、そしてキーウへ向かう途中ですべて撃ち落とした」
現段階ではロシアが何を標的にしていたのかは分かっていない。
ウクライナ当局によると、負傷者のうち4人は病院で手当てを受けている。
この日のロシア軍の攻撃は、ここ数週間で最大規模のもの。ウクライナ側からは最近、ロシア側の国境地帯への攻撃が相次いでおり、ロシア政府は報復を宣言していた。
攻撃を受け、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は軍事援助のさらなる拡大を、西側の支援国に改めて求めた。
ルキアニウカというキーウ市内の住宅街では、路上に大きなクレーターができた。爆風と衝撃波で窓ガラスが割れ、あちこちで建物が損傷した。
コーヒー店はめちゃくちゃに破壊された。食料品店や診療所なども廃墟と化した。店員らは動揺を隠せないまま、粉々になったガラスを片づけていた。建物の上層部はアパートになっており、住民たちががれきの中から所持品を持ち出そうとしていた。
多くの市民は早朝から、安全を確保するため地下室や地下鉄駅で過ごした。
母親の50歳の誕生日に合わせてキーウを訪れていたソフィアと名乗る女性は、攻撃から間もなく現場に足を運び、涙を流していた。
「彼ら(ロシア)は私たちの過去を、そして未来を破壊している」とソフィアさんは話した。ウクライナが受けている痛みに世界が無関心であること、あるいは関心が薄れていることに、彼女は憤っていた。
「(関心を得るには)もっと多くのウクライナ人が死に、苦しみ、血を流さなければいけないというのか?」
キーウで暮らすテティアナさんは、「むこうでは車が燃えていて、あらゆるものが爆発していた。(中略)私は猫用のキャリーを持って、飼い猫を探しに戻ったけど、見つけられなかった」と話した。
追加の軍事援助求める
ゼレンスキー大統領は20日、東部ハルキウ州にロシア軍の攻撃があり、5人が死亡したと発表した。
近郊のスーミ州当局によると、先週からロシア軍の砲撃や空爆が激化しており、300人以上が避難を余儀なくされたという。
ゼレンスキー氏はここ数日、さらなる軍事援助が必要だと繰り返し訴えている。特に防空システムの追加提供を西側諸国に求めている。
21日には欧州連合(EU)加盟国の首脳とビデオリンクを通じて会談し、ウクライナ兵が使用できる砲弾の量は「欧州にとって屈辱的な」量しかないと述べた。
「ロシアはいまだ制限なく、欧州の農業市場にアクセスできている」
「ウクライナの穀物が路上や線路に投げ出されている中、ロシアの製品はいまも欧州に運ばれ、(同国大統領のウラジーミル・)プーチンの支配下にあるベラルーシの製品も欧州に運ばれている」
21日の攻撃から数時間後、ゼレンスキー氏は「このようなテロが連日連夜続いている。世界が団結し、防空システムで我々を助けてくれるのなら、これを食い止めることができる」と、テレグラムに投稿した。
「いまウクライナではこうした防御が必要だ。(中略)パートナー各国に十分な政治的意志があれば、十分に実現可能だ」
先月にドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議でも、武器の追加供与が緊急に必要だと訴えていた。
「ウクライナを人為的な兵器不足、とりわけ大砲や長距離戦闘能力が不足した状況に陥れるなら、現在進行している激しい戦争にプーチンが適応するのを許すことになる」
ロシア側への攻撃相次ぐ
ウクライナと国境を隔てたロシアの複数の町も攻撃を受けている。
今週初めには、ロシア西部ベルゴロド州への攻撃で16人が死亡し、98人が負傷したと、同州のヴャチェスラフ・グラドコフ知事が発表。今後数週間にわたり、数千人の子供たちをベルゴロド市とその周辺地域から避難させる方針だとした。
ロシア大統領選挙で5期目の当選を果たし、任期を2030年まで6年延ばしたプーチン氏は、ウクライナでの戦争を継続すると誓っている。
プーチン氏は先週、ウクライナ側からのロシアへの攻撃について、「罰せられないまま放置されることはない」と述べていた。
この発言はウクライナの人々にとっては、さらに神経をとがらせながら夜を過ごし、より多くのミサイル攻撃や破壊行為に直面することを意味する。
ロシア凍結資産の活用を協議
こうした中、ベルギー・ブリュッセルではEU首脳会議が開かれ、経済制裁の一環で凍結された数十億ユーロのロシア資産をウクライナ支援に活用する案など、対ウクライナ軍事・財政援助の強化について協議が行われた。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は改めて、この案への支持を表明した。
欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は、EU首脳会議に先立って各国首脳に送った書簡の中で、EUは「極めて重要な瞬間」に直面しており、この会議はウクライナに軍事援助を送るためのEUの取り組みを「加速」させるチャンスになるだろうと述べた。
また、EUはEU経済を「戦時下の体制」に置く必要があるとした。 
●「ロシアは戦争状態」 国民に覚悟促す プーチン氏報道官 3/22
ロシアのペスコフ大統領報道官は、ウクライナ侵攻について「われわれは戦争状態にある。
誰もが自分の『内なる動員』のため、このことを理解する必要がある」と国民に覚悟を促した。22日の週刊紙「論拠と事実」(電子版)のインタビューで強調した。
政権は建前上、侵攻を「特別軍事作戦」と位置付けるが、プーチン大統領らはこれまでも西側諸国から仕掛けられた「戦争」という表現を多用。ペスコフ氏の発言も、その延長線上と言える。22日には政権として戦争状態に正式に変更するのかという記者団の質問に「法的には特別軍事作戦だ」と述べ、否定した。
●上川外相、ロシア大統領選結果に「コメント控えたい」 参院外防委 3/22
プーチン氏が再選されたロシア大統領選を巡り、上川陽子外相は22日の参院外交防衛委員会で「他国の国内大統領選に対してのコメントは控えたい」と正当か不当かの判断を避けた。
日本維新の会の松沢成文氏(神奈川選挙区)への答弁で、同氏は「世界中に誤ったメッセージとなる。選挙無効を主張すべきだ」と批判した。
大統領選に対しては西側諸国を中心に「独裁体制下にあって自由で公正な選挙ではなかった」と批判の声が上がっている。ウクライナ侵攻を踏まえ「強制併合地での選挙の実施は国際法上も認められない」との指摘もある。
上川外相は後段の指摘については「強制併合先での選挙は認められない」と説明したが、大統領選の有効性を巡っては言及しなかった。
松沢氏は「プーチン氏は侵攻地での投票を含め選挙の正当性を訴えているのだから絶対に認めてはいけない」とし、「正当な大統領と認めないことこそが日本政府としてのロシアへの厳しいメッセージとなるはずだ」と主張した。
●ウクライナ「ロ製油施設は正当な標的」、米が攻撃停止要請との報道で 3/22
ウクライナのステファニシナ副首相は22日、軍事上の観点からロシア製油施設はウクライナ軍の正当な標的という認識を示した。米国がウクライナに対し、無人機(ドローン)によるロシアのエネルギーインフラへの攻撃を中止するよう促したという報道を受けた発言。
ステファニシナ副首相は「米国の呼びかけを理解しているが、われわれが持つ能力やリソース、技術を駆使して戦っている」と述べた。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は関係筋の話として、米国はウクライナの攻撃がロシアの報復を招き、石油価格を押し上げる恐れがあると警告したと報じた。
ウクライナがロシアのエネルギーインフラへの攻撃を始めた12日以降、石油価格は4%近く上昇している。米国でガソリン価格がさらに上昇すれば再選を目指すバイデン大統領に打撃となる。

 

●プーチン政権にどう対峙するか 戦争確率が高い専制・独裁国家 日本の「AUKUS」加入、安全保障の枠組み拡大の検討を 3/23
ロシア大統領選は15〜17日に投票が行われ、ウラジーミル・プーチン大統領が87・28%の得票率で圧勝した。投票率は77・44%だった。旧ソビエト連邦崩壊以降のロシアの大統領選で得票率、投票率ともに最高だったとしている。
事前に投票率70%、得票率80%という「目標」が示されたようなので、この数字には驚かなかったが、やはり手段を選ばずに達成されたようだ。
もちろん欧米からは「公正な選挙ではない」という批判が相次いでいる。例えば、対立候補は、決して10%以上の票は取らない、プーチン大統領の「かませ犬」だった。得票率も、各地方にはノルマが課されていたのか、投票すると豪華景品という「エサ」もあった。
ただし、一部の地域では、投票所への放火や、反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏死亡に対する抗議行動もあった。
プーチン政権は、軍事侵攻によって一方的に併合を宣言したウクライナ東部や南部の4つの州でも、ロシアの「大統領選」を強行した。これに対し、日本や米国など55カ国は共同声明で「国際法上、何の効力も持たない」としてロシアを非難した。
25年間にわたってロシアを支配してきたプーチン氏は、大統領として通算5期目に入り、新たな任期は2030年までの6年間となる。
習近平国家主席の中国、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の北朝鮮と、日本の北西部には、専制・独裁国家が控えているという事実をあらためて認識しておく必要がある。国際政治の中で唯一の理論とされる民主的平和論からみると、専制・独裁国家の周りの戦争確率は高い。
これに対抗するには、今の日米同盟に加えて、英国とオーストラリアとの準同盟を同盟に格上げするか、いっそのこと、米国、英国、オーストラリアの3カ国による安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に加入するしかない。
その一方で、中国とロシア、北朝鮮が相互に協力しないように楔(くさび)を打ち込むのがいい。最もくみしやすいのが北朝鮮だ。ただし、日本との間では拉致問題があるので、その完全解決が前提になる。
11月の米大統領選の結果、ドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲けば、北朝鮮の切り崩しも選択肢の一つになるかもしれない。
次には極東には手が回らないロシアだ。安倍晋三元首相は、日本として、中露北の三正面作戦は無理とみて、ロシアの懐柔に出ていった。今のウクライナ侵攻問題がない時だったこともあり、西側諸国とは基本は同調路線であるが、個別問題では是々非々という態度だった。これを復活させるのも一案だ。スウェーデン、フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟でバルト海を封じられたロシアは極東重視になるかもしれないので、日本にも勝機はある。
いずれにしても、対ロシアだけを考えるのではなく、極東アジア全体を俯瞰(ふかん)した視点で戦略を考える必要がある。
●モスクワ郊外のコンサート会場で銃乱射 40人死亡、100人超けが 3/23
モスクワ郊外で開かれていたコンサート会場に22日、自動小銃で武装した正体不明のグループが突入した。インタファクス通信は、ロシア連邦保安局(FSB)の情報として、少なくとも40人が死亡し、100人以上が負傷したと伝えた。建物は大きな炎に包まれており、死傷者がさらに増える可能性もある。
ロシアメディアの報道では、グループは迷彩服姿の2〜5人組で、警備員に発砲して突入し、観客に向けて銃を発射した。その後、爆発音がして火災が発生し、建物の屋根の一部も崩れ落ちたという。
ロシア連邦捜査委員会はテロ事件として捜査を開始した。ペスコフ大統領報道官は、プーチン大統領が直ちに報告を受け、「必要な指示をした」と明らかにした。 ・・・
●ウクライナ、関与否定 プーチン氏が指示と主張 3/23
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は22日、モスクワ郊外のコンサートホールで起きた銃乱射への関与を否定した。通信アプリに投稿した。ウクライナ国防省情報総局は声明で、ウクライナとの戦争を激化させるため、プーチン大統領の指示を受けたロシア特殊部隊による「計画的かつ意図的な挑発だ」と主張した。
ポドリャク氏はウクライナにとっては「戦争を終わらせるためにロシアの正規軍を破壊することが重要だ」と述べ、テロの手段を用いたことはないと強調した。
●モスクワ郊外襲撃「ウクライナ関与の形跡ない」と米補佐官「過激派の計画ある」と米大使館事前に警報 3/23
モスクワ郊外のコンサートホールでの襲撃について、カービー米大統領補佐官は22日の記者会見で、ロシアの侵略が続くウクライナが関与した可能性について、「現時点でウクライナ、あるいはウクライナ人が関わった形跡はない」との見解を示した。
駐露米国大使館は今月7日付で「コンサートを含むモスクワの大人数の集会を標的にした過激主義者の差し迫った計画がある」として、米国人に群衆を避けるよう勧告する警報を発していた。
ただカービー氏は、この警報が今回の襲撃と関連しているかどうかには、否定的な見方を示した。ロシア国内やプーチン政権内の不穏な情勢が襲撃の背景にある可能性についても、「見極めるには、より多くの時間と情報が必要」と述べるにとどめた。
●EU ナワリヌイ氏死亡でロシア刑務所トップなどに制裁 3/23
EU=ヨーロッパ連合は、ロシアの反体制派の指導者ナワリヌイ氏の死亡に関わりがあるとするロシアの刑務所のトップや裁判官など30余りの個人と団体に制裁を科すと発表しました。
ロシアのプーチン政権の批判を続けた反体制派の指導者、ナワリヌイ氏は2月、ロシアの北極圏にある刑務所で死亡しました。
EUは22日、ナワリヌイ氏の死亡に関わりがあるとする33人の個人と2つの団体に制裁を科すと発表しました。
対象としたのは、ナワリヌイ氏が死亡した刑務所とそのトップや、ナワリヌイ氏に去年、長期の禁錮刑を言い渡した裁判官などで、ナワリヌイ氏が暴力をふるわれたり非人間的に扱われたりして人権を侵害されたことへの責任があるとしています。
制裁の対象者にはEUへの渡航が禁止され域内の資産が凍結されます。
ナワリヌイ氏の死亡について、プーチン大統領の側近で対外情報庁のナルイシキン長官は地元メディアに「自然死だ」と述べましたが、EUの外相にあたるボレル上級代表は22日、声明で「ナワリヌイ氏はプーチン政権によってゆっくりと殺された。彼らがいかに人命を軽視しているかを明確に示すものだ」と述べ、プーチン政権に責任があるとの考えを改めて強調しました。
●ロシア、「戦争状態にある」 プーチン大統領報道官発言 3/23
ロシアのペスコフ大統領報道官は、長期化するウクライナ軍事侵攻について「我々は戦争状態にある」などとロシアメディアが22日に公開したインタビューで述べた。ロシアが継続するウクライナ侵攻の一層の拡大に向け、国民に対し意識の変化を促す狙いがあるとみられる。
ペスコフ氏はロシアメディア「論拠と事実」のインタビューで述べた。ロシアではウクライナ侵攻について、戦争ではなく「特別軍事作戦」と位置づけている。
だが、プーチン大統領らはウクライナでの軍事作戦について、これまでも西側諸国がしかけてきた「戦争」だと言及したことがある。ペスコフ氏の発言も同様の文脈での発言となる。
ペスコフ氏は22日に記者団に戦争状態との表現に変更するのかと問われ「法的には特別軍事作戦」と明言した。あえてインタビューで「戦争状態」に言及することで西側諸国による脅威が高まっていると国民に示し、侵攻の長期化などに備えるよう国民に働きかけた可能性もありそうだ。
プーチン大統領は3月15〜17日にかけて投票されたロシア大統領選で87%超と過去最高の得票率で通算5選を決めた。ロシアの独立系メディアは高い支持を背景に、次期任期で追加の動員に踏み切る可能性について指摘している。
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は22日の記者会見で、ペスコフ氏が「戦争」という単語を使ったことについて「ロシア政府がこの2年間戦争状態にあることを否定することでロシア国民をだましてきたことの証明だ」と皮肉った。
●ウクライナの発電所などに「最大の攻撃」…ロシア側は“報復”と声明 3/23
ウクライナのエネルギー省は22日、ロシアが発電所などに大規模な攻撃を行い、「最近では最大の攻撃だ」と明らかにしました。ロシア側は、ウクライナからの砲撃などへの報復だとの声明を出しています。
ウクライナのガルシチェンコ・エネルギー相は22日、「ロシアがウクライナのエネルギー施設に対し、ここ最近で最大の攻撃を仕掛けてきた」と述べました。その上で、「大規模な混乱を引き起こそうとしている」と非難しました。
攻撃は、ザポリージャ州のほか、ハルキウ州、オデーサ州などの施設に及び、停電が発生して、全土で100万人以上が影響を受けたとしています。
ゼレンスキー大統領は、「ロシアが無人機やさまざまなミサイルで、発電所や住宅などを狙い、普通の人々の生活を戦場にしている」とSNSで批判しました。
この攻撃についてロシア国防省は、「ウクライナがロシア本土への砲撃や国境突破を企てたことに対する報復で、軍事施設などを攻撃した」との声明を出しています。
●ロ軍、ウクライナのエネ施設に戦争開始以来最大の攻撃 ダムも被害 3823
ロシア軍は22日、ウクライナのエネルギーインフラを標的とするミサイル・ドローン(無人機)攻撃を仕掛けた。攻撃規模は戦争開始来最大。ウクライナによると、同国最大のダム「ドニプロHES」が被害を受け、各地で少なくとも5人が死亡したほか、7地域の100万人以上が停電に見舞われている。
ウクライナ空軍によると、ロシアは88発のミサイルと63機のドローンを発射。撃墜されたのはそれぞれ37発と55機で、ミサイルに関しては通常よりも撃墜率が低下しており、撃墜が困難な極超音速弾道ミサイルの使用が拡大している可能性がある。
ウクライナの水力発電公社ウクルヒドロエネルホによると、南東部ザポロジエ州にあるドニプロHESが攻撃を受けた。決壊の恐れはないという。
同社は「現在、発電所で火災が発生している。救急隊とエネルギー作業員が現場で作業を進め、多数の空爆の影響に対処している」と述べた。
ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は同国のエネルギー・インフラに対する攻撃としては最大規模だと指摘。「目的は単に損害を与えることだけではない。昨年のように国のエネルギーシステムに大規模な障害を引き起こそうとしている」とフェイスブックに投稿した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は攻撃を非難し、「ロシアのテロリストの標的が明確に分かるだろう。それは発電所やエネルギー供給ライン、水力発電ダム、民間の住宅用建物から、トロリーバスに至る」と述べた。
ロシア国防省はこの日の攻撃について、プーチン大統領が再選を決めた大統領選中にウクライナ側がロシアに仕掛けた攻撃に対する報復という認識を示した。
さらに、ウクライナの電力インフラへの攻撃について、敵の軍事力を弱めることを目的とした正当な攻撃だとしている。
ウクライナの内相は22日、国内全土で少なくとも2人が死亡、14人が負傷したと発表。3人が行方不明という。
これとは別に、ザポロジエ州のフェドロフ知事はテレビを通じ、同州で国内3人目の死亡者が確認されたと明らかにした。
また、ハリコフ市のイーホル・テレホフ市長によると、電力施設が攻撃され、市内の信号機が機能していない。
公共放送のススピーリネによると、ウクライナ最大の民間エネルギー会社DTEKは、ロシアがエネルギー施設に大規模な攻撃を行い、複数の火力発電所に被害が出ているとし、南東部ドニエプロペトロフスク州で停電が発生する可能性があると述べた。
●ロシア大規模攻撃 ウクライナのインフラ被害 100万戸超で停電 3/23
ロシア軍は22日、ミサイルや無人機による大規模な攻撃を行い、ウクライナ各地で発電所などエネルギーインフラ施設の被害が相次ぎ、全土で少なくとも100万戸の停電が起き、各地で復旧作業が行われています。
ロシア側はウクライナの越境攻撃に対する報復だと主張しています。
ウクライナ空軍は22日、ロシア軍が、ウクライナ各地でミサイルや無人機であわせて151の攻撃を行い、このうち、37発のミサイルと55機の無人機については迎撃したと発表しました。
この攻撃で南部ザポリージャ州ではザポリージャ原子力発電所の送電線が1本遮断されたということですが、原発を監視しているIAEA=国際原子力機関は原発への電力供給は続いているとしています。
また、ドニプロ川にある水力発電所では施設で火災が起きるなど被害が出たということです。
ウクライナ国家警察によりますと西部フメリニツキー州で2人が死亡、ザポリージャ州では9歳の女の子を含む3人が死亡し、全土であわせて5人が死亡したということです。
また、ウクライナ大統領府のクレバ副長官は全土で少なくとも100万戸が停電する影響が出たと明らかにし各地で復旧作業が行われています。
これについて、ロシア国防省はウクライナのエネルギー施設などを標的に大規模攻撃を行ったとしたうえで「ロシア領への砲撃や占領しようとする試みに対抗し極超音速ミサイル、『キンジャール』などで49回、攻撃を実施した」としていて、ウクライナ側がロシア西部ベルゴロド州などで行っている越境攻撃への報復だと主張しました。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は22日に公開されたロシアメディアのインタビューでロシア軍はウクライナ東部と南部の4つの州の全域掌握を目指していると強調しました。
そのうえで「特別軍事作戦として始まったが欧米がウクライナ側に加わったため、われわれにとってすでに戦争となった」と述べ軍事侵攻を続ける姿勢を一段と強めています。
●ロシア軍、ウクライナで複数のエネルギー関連施設を攻撃…5人死亡・150万人に停電の影響 3/23
ウクライナ国防省によると、ロシア軍は22日未明、無人機とミサイル計約150を使ってウクライナ南部ザポリージャ州などに大規模な攻撃を展開し、複数のエネルギー関連施設が被害を受けた。英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」によると、一連の攻撃で少なくとも5人が死亡、30人以上が負傷し、約150万人が停電の影響を受けた。
ウクライナ国防省は露軍が発射した無人機やミサイルのうち、約90を迎撃したとしている。ザポリージャ州ではドニプロ川の水力発電所の一部が被害を受けた。露軍が占拠するザポリージャ原子力発電所も、送電線1本が一時遮断された。電力不足に対処するため、隣国のポーランドやルーマニアなどから電力の緊急援助を受けたという。
ウクライナのヘルマン・ハルシチェンコ・エネルギー相は22日、SNSで「ここ最近で最大規模のエネルギー分野への攻撃」だとし、ロシアを非難した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、米欧諸国による支援停滞を念頭に「決断の遅れや先送りの代償を理解することが重要だ」と指摘し、支援の遅れが被害拡大を招いていることを示唆した。
●EU ロシア産の一部農産物に高い関税課す方針 3/23
EU=ヨーロッパ連合によるウクライナ支援によって、比較的安価なウクライナ産の農産物がEU域内に流入していることに地元農家が不満を強めるなか、EUはロシアからの一部の農産物の輸入に高い関税を課す方針を明らかにし域内の農家とウクライナ、双方に配慮する姿勢を示しました。
EUは、ロシアによる軍事侵攻が始まったおととしから、ウクライナへの支援の一環として輸入品への関税を停止していますが、その結果、比較的安価なウクライナ産の農産物が流入しているとして域内の農家が不満を強め、各地で抗議行動を行っています。
こうした中、EUは22日、ロシアが今後、農産物の輸出を大幅に増やす可能性があるとしてロシア産の農産物の一部に高い関税を課す方針を明らかにしました。
EUはロシア産の農産物を制裁の対象にしていませんが、今回の措置で、輸入は制限され、域内市場向けについては事実上、制裁に似た効果を持つとしています。
一方で、食料安全保障のため、世界のほかの地域に向けて輸出されるロシア産の農産物については、これまでどおり域内の通過を認めるとしています。
EUは今回の措置によって、域内の農家を守るとともに、ロシアが不法に占領したウクライナの地域からの農産物の輸入も防ぐとしており、域内の農家とウクライナ、双方に配慮する姿勢を示した形です。
ロシア大統領府報道官「ヨーロッパの消費者が間違いなく苦しむ」
これについてロシア大統領府のペスコフ報道官は22日、記者団に対し「これは、不当な競争の明白な例だ」と批判しました。
そのうえで「ヨーロッパの消費者が間違いなく苦しむだろう」と述べ、ロシアからの農産物の輸入に高い関税をかけたらEU域内の人々にとっても不利益になるとけん制しています。
●ロシア駐日大使 “日ロ関係 戦後最低の水準” 国営ロシア通信 3/23
3月、日本に着任したロシアの駐日大使が国営メディアのインタビューに答え、日本との関係について「戦後最低の水準にある」と述べウクライナ侵攻をめぐり日本がロシアに制裁措置を科していることを非難しました。
国営ロシア通信は22日、ノズドレフ大使が3月上旬に日本に着任してから初めてだとするインタビューを掲載しました。
この中でノズドレフ大使は、ウクライナ侵攻をめぐる日本の制裁措置が両国の関係を壊していると非難し日ロ関係の現状について「戦後最低の水準にある」との認識を示しました。
その上で、ロシアに制裁を科しつつ、平和条約を締結する方針を維持している日本の姿勢について「非常に奇妙に映る。どうやって同時に実現できるか日本側もはっきりわかっていないだろう」と述べました。
ウクライナ侵攻は日本とロシアの経済関係にも大きな影響を与え、三井物産などが出資しロシアの北極圏で進められてきたLNG=液化天然ガスの開発プロジェクト「アークティックLNG2」は、アメリカの制裁の対象となっています。
これについて、ノズドレフ氏は「非常に有望なプロジェクトだが日本は、アメリカとの連帯によりとてもいやな状況に陥った」と述べ、日本側は事業への参加を見直さざるをえなくなるだろうという見通しを示しました。 
●ウクライナ軍、迎撃能力低下か…ロシアがエネルギー関連施設に大規模攻撃 3/23
ロシアがウクライナへの侵略を開始して24日で2年1か月となるのを前に、ウクライナに対するミサイルや無人機を使った攻撃を激化させている。米政策研究機関「戦争研究所」は22日、厳冬期が過ぎたタイミングでの露軍によるエネルギー施設への攻撃に関し、米欧の対ウクライナ支援の停滞を踏まえ「防空ミサイル不足の状況を利用している可能性が高い」と分析している。
ウクライナのデニス・シュミハリ首相は「2年間の戦争で、エネルギー部門に対する最大の攻撃の一つ」だとし、ロシアを非難した。
22日には各地のエネルギー関連施設を標的に大規模な攻撃を展開し、少なくとも5人が死亡、30人以上が負傷した。停電では約150万人が影響を受けた。シュミハリ氏の声明によると、22日の攻撃では約20の変電所や発電所が被害を受けた。南部ザポリージャ州ではドニプロ川の水力発電所の一部が被害を受け、露軍が占拠するザポリージャ原子力発電所の送電線が損傷した。
露軍は20〜21日には東部ドネツク州やハルキウ州など広範な地域をミサイルで攻撃し、キーウ一帯にも21日、約40日ぶりとなる大規模なミサイル攻撃を行った。
ウクライナ軍の迎撃能力が低下しているとの指摘もある。ウクライナ国防省によると、22日未明に露軍が発射した無人機とミサイル計約150のうち、迎撃したのは約90だった。ロイター通信は「迎撃率が通常よりも落ちている」と報じた。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日夜のビデオ演説で、米欧諸国の「政治的意思の欠如」がロシアの攻撃を可能にしているとの強い表現で、米欧諸国に支援強化を訴えた。
●モスクワ郊外銃撃 プーチン大統領「野蛮なテロ攻撃」死者133人 3/23
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで22日、銃撃のあと火災が起きたテロ事件で、捜査当局はこれまでに133人が死亡したと発表しました。プーチン大統領は国民に向けたビデオ演説で「野蛮なテロ攻撃だ」と激しく非難したうえで、国民に結束を訴えました。
死者 133人に
ロシアの首都モスクワの北西にあるクラスノゴルスク市のコンサートホールで22日夜、建物に侵入した複数の人物が銃撃を行い火災が発生しロシアの連邦捜査委員会は、これまでに133人が死亡したと発表しました。
国営テレビは、23日午後、日本時間の23日夜、プーチン大統領のビデオ演説を放送しこの中でプーチン大統領は「血なまぐさい野蛮なテロ攻撃だ」と述べ激しく非難しました。
そして、実行犯とみられる4人を含めて11人の容疑者を拘束したとした上で「彼らはウクライナに向けて移動した。ウクライナ側には国境を越えるための窓口が用意されていた」と述べ、ウクライナ側による協力の可能性を示唆しました。
プーチン大統領は「ロシア国民の結束を揺るがすことはできない」と述べて結束を訴え、24日をロシア全土で追悼の日にすると明らかにしました。
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナ側は、関与を否定する一方、過激派組織IS=イスラミックステートとつながりのある「アマーク通信」は「ISの戦闘員がキリスト教徒の群衆を襲撃し、数百人を死傷させた」などとして犯行を認めています。
ロシア議会下院の幹部は、ロシア西部で拘束された容疑者らが乗った車から銃などの武器と中央アジアのタジキスタンのパスポートが見つかったとしていてロシアの捜査当局が事件の背後関係などを調べています。
一夜明けた現場は
コンサートホールがある建物は事件から一夜明けた23日午前中、屋上部分が焼け落ち、建物の内部の様子もむき出しとなり、黒い煙が上がっている様子もみられました。
建物の敷地近くには多くの消防車両がみられ、周辺は治安当局や警察などが封鎖しています。
また現場には市民が訪れてろうそくをともして犠牲者を悼んでいて、「悲劇が起きてしまいお悔やみを申し上げたい。私の知り合いには昨夜、コンサートに行く予定だったひともいた。犠牲になった子どもたちには罪がないのにこのようなことが起きて一体誰が得をするというのか」と悲そうな様子で話していました。
現場のコンサートホール 会場には最大6200人いた可能性
ロシアの英字紙、「モスクワ・タイムズ」によりますと、現場の「クロクス・シティー・ホール」は、モスクワ中心部からおよそ16キロ北西にあり、当時会場には、最大で6200人がいた可能性があると伝えています。
また、イギリスの公共放送BBCなどによりますとコンサートホールは、商業施設やホテルなどが入った大規模な複合施設の一部で、世界的なアーティストの公演も行われる場所だということです。
ロシア “ウクライナ関与なら攻撃強める” ウクライナは否定
ロシア国営通信は22日、ロシア議会下院のカルタポロフ国防委員長が「テロ攻撃でウクライナの痕跡の情報が確認されれば、戦場で明確な答えがあるはずだ」と述べたと伝え、ウクライナ側が関与したとすれば、ウクライナ侵攻での攻撃を強めることを示唆しました。
ロシアの治安機関FSB=連邦保安庁は、容疑者についてロシアから国境を越えてウクライナ側に逃げようとしていたとし「ウクライナ側とコンタクトをとっていた」と発表しています。
これに対して、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は23日「ロシア当局の『ウクライナの痕跡』は予想していた」と指摘しました。
そのうえで「ウクライナとテロを結び付けようとする試みは全く通用しない。ウクライナはこの事件と少しも関係がない」と改めて関与を否定し、ロシア側を批判しました。
ウクライナ側は今回のロシアのテロ事件をプーチン政権がウクライナ側と関連づけることでロシア国内でウクライナ批判を高め、動員兵を増やすなど、攻撃強化に利用することに警戒感を強めています。
プーチン大統領の側近 “関与した者は必ず報いを受ける”
ロシア国営のタス通信は23日、プーチン大統領の側近、パトルシェフ安全保障会議書記が「多くの犠牲者を出したこの事件に関与した者は必ずその報いを受けることになる」と述べたと伝えました。
そのうえで「この犯罪はテロが重大な安全保障上の脅威であることを示している。テロを防ぐために、すべての市民、情報機関、治安機関などが連携する努力が必要であると改めて示している」と述べたということです。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、プーチン大統領が、同盟関係にある隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領と電話会談を行ったと発表しました。
ペスコフ報道官は、ルカシェンコ大統領が事件を受けて哀悼の意を示したとしたうえで「両首脳はテロとの戦いで協力する用意があることを確認した」としています。
米 “ロシア側に事前に情報伝えた”
ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のワトソン報道官は22日「今月初め、アメリカ政府は、モスクワで、コンサートを含む大規模な集会が標的となる可能性のあるテロ攻撃が計画されているという情報を入手した」とSNSに投稿し、その情報をもとに国務省がロシア国内のアメリカ国民に対し注意を呼びかけたとしています。
その上で「アメリカ政府は長年の『警告義務』にしたがってロシア当局にもこの情報を共有した」として、ロシア側に事前に情報を伝えていたことを明らかにしました。
在ロシアアメリカ大使館「過激派の計画あると注意呼びかけ」
今月7日、在ロシアアメリカ大使館は、アメリカの国民に対し、「過激派が、モスクワでコンサートなどの大規模な集会を標的にする差し迫った計画があるとの報告がある」として、7日からおよそ2日間にわたって大規模な集会への参加を避けるよう注意を呼びかけていました。
また、アメリカの有力紙、ワシントン・ポストは、アメリカの当局者の話として注意の呼びかけは、「ISIS-K」(アイシス・ケー)と呼ばれる組織が、ロシア国内で活動している可能性があったためだと伝えています。
ISIS-Kは、過激派組織IS=イスラミックステートの地域組織で、アフガニスタンやパキスタン、それにイランで活動していたとしています。
一方、アメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は22日、記者会見で「今回の攻撃について事前に情報を把握していたとは私は認識していない。大使館の呼びかけは今回の特定の攻撃とは関連していない」と述べました。
イスラミックステートとは
過激派組織IS=イスラミックステートは、シリアの内戦などの混乱に乗じて勢力を拡大し、2014年に「イスラム国家」の樹立を一方的に宣言して、一時は、シリアとイラクにまたがる広大な地域を支配しました。
ISはインターネットを駆使して、過激な思想を広めることで、世界各地から戦闘員を募集して勢力の拡大を図り、日本の公安調査庁によりますと、各地からISに合流した人数は、戦闘員の家族も含めて一時、4万人以上に上ったとしています。
ISは、支配地域でイスラム教の極端な解釈に基づいて多くの決まりを設けて従わない住民を処刑し、2015年には現地で拘束していた日本人を殺害するなど残虐な行為を繰り返しました。
さらに、ISや関連する組織は世界各地で大規模なテロを相次いで行いました。
2015年には、
・10月にエジプトでロシアの旅客機が墜落して220人以上が死亡し、ISに関連する武装組織が犯行を認める声明を出したほか
・11月にはフランスのパリやその近郊でコンサートホールなどが相次いでISのメンバーに襲撃され、あわせて130人が死亡しました。
ISの脅威が高まる中、シリアやイラクの政府軍、クルド人の部隊、それにシリアの反政府勢力などが各地でISとの戦闘を開始し、アメリカ主導の有志連合やロシアもそれぞれISの拠点への攻撃を行いました。
包囲網は次第に狭まり、2017年にはイラクの最大の拠点だったモスルや、ISが「首都」と位置づけてきたシリアのラッカが相次いで制圧されて弱体化し、2019年にはシリア東部に残っていた最後の拠点も失いました。
しかし、勢力が衰退したあとも各地でISのメンバーによるテロや攻撃が繰り返されていて、公安調査庁は、ISは依然として組織的なテロを行う能力を維持していると指摘しています。
ロシアで起きたテロ事件
ロシアでは1990年代以降、首都モスクワや南部などで、たびたび、テロ事件がおき、多くの犠牲者が出ています。
1999年9月には、モスクワで高層アパートが相次いで爆破されてあわせて200人以上が死亡し、当時、首相だったプーチン氏は南部チェチェンの武装勢力によるテロ事件と断定して、軍を派遣しました。
2002年10月には、チェチェンの武装グループがモスクワ市内の劇場で、観客らを人質にとって立てこもり、治安部隊が突入した結果、およそ130人が犠牲になりました。
2004年には、
・2月にモスクワで走行中の地下鉄内で自爆テロがおきおよそ40人が死亡したほか、8月には、モスクワ郊外の空港を離陸した旅客機2機がほぼ同時に爆破され墜落し、乗客乗員90人全員が死亡しました。
・さらに9月にはロシア南部の北オセチア共和国のベスランの学校で、武装グループが児童や生徒など1200人以上を人質にとって立てこもり、治安部隊との銃撃戦のすえ、子どもを含む300人以上が犠牲となりました。
2009年11月にはモスクワからロシア第2の都市サンクトペテルブルクに向かっていた急行列車の線路脇で爆発があり、28人が死亡しました。
2010年3月には、モスクワの地下鉄の2つの駅で自爆テロがおきたほか2011年1月、モスクワ郊外の国際空港でおきた爆弾テロでは、北カフカス地方に拠点を置くイスラム過激派の武装勢力の指導者がそれぞれ犯行声明を出しました。
ソチオリンピックの開幕を直前に控えた2013年にも南部のボルゴグラードで路線バスや鉄道の駅を狙った連続爆弾テロがおきたほか、2017年にはサンクトペテルブルクの中心部を走行中の地下鉄の車内で爆発があり、多数の死傷者が出ました。
日本の外務省は、ロシア国内では各地で爆発物や銃などを用いたテロ計画の摘発が続いていて、警戒が必要だとしていました。
ウクライナ大統領府顧問 事件との関与否定
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は22日SNSに「ウクライナは、コンサートホールでの銃撃・爆発とは無関係だ」と投稿し、事件への関与を否定しました。
そして「ロシア軍と2年以上戦っているが、この戦争は戦場でしか決まらない。ウクライナはテロという手段に訴えたことはない」としています。
また、プーチン政権打倒を目標に掲げ、ウクライナ側に立って戦うロシア人義勇兵の組織「自由ロシア軍」も22日、声明で「われわれはロシア市民と戦争しているのではないことを強調する」として、市民を対象にした攻撃は行っていないとしています。
ウクライナ外務省が声明を発表
ウクライナ外務省は22日、ウクライナが関与したとするロシア側の主張を「断固として拒否する」と声明を発表しました。
その上で「反ウクライナをさらにあおり、ロシア国民がウクライナに対する侵略に参加する動員を増やすための、クレムリンによる計画的な挑発だ」としてプーチン政権によるものだと主張しました。
またウクライナ国防省の情報総局は22日、声明で「モスクワでのテロ攻撃はプーチン氏の指示を受けたロシア特殊部隊による計画的かつ意図的な挑発だ」とした上で「その目的は、ウクライナに対するさらに厳しい攻撃とロシア国内の総動員を正当化することだ」と発表しウクライナへの攻撃を強化するためにプーチン政権が仕掛けたものだと主張しています。
米ホワイトハウス大統領補佐官「ウクライナ関与を示す情報ない」
アメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は22日、記者会見で「われわれはより多くの情報を得ようとしている。恐ろしい銃撃事件の犠牲者に思いを寄せている」と述べました。
そのうえで、カービー補佐官は「現時点でウクライナやウクライナ人が銃撃に関与したことを示す情報はない」と述べました。
タジキスタン外務省 声明を発表
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで発生したテロ事件で、一部のロシアメディアは、拘束された容疑者の車から中央アジアのタジキスタン人のパスポートが見つかったなどと伝えています。
タジキスタン外務省は23日、SNSで「偽の情報だ」とした上で「ロシア当局からの確認を受けていないことを強調する」とする声明を発表しました。
その上で「検証されていない信頼性の低い情報を流すことはいま国外にいるタジキスタン人に危害を及ぼす可能性があることを念頭におくべきだ」としています。
国連事務総長「可能な限り強い言葉で非難する」
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きたテロ事件を受けて国連のグテーレス事務総長は22日、報道官を通じて声明を出し、「可能な限り強い言葉で非難する」とした上で遺族やロシアの国民、そしてロシア政府に深い哀悼の意を示し、けがをした人たちの一日も早い回復を祈るとしています。
モスクワの日本大使館 “日本人の被害情報 入っていない”
在モスクワの日本大使館は23日、これまでのところ日本人が被害にあったという情報は入っていないとしています。
中国 習主席が哀悼の意 “ロシア政府の努力を強く支持”
中国国営の中国中央テレビによりますと、習近平国家主席は、ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きたテロ事件を受けてプーチン大統領にお見舞いのメッセージを送り、事件の犠牲者や遺族に哀悼の意を示しました。
そして「中国は、あらゆる形のテロに反対するとともに、テロ攻撃を強く非難し、国家の安全と安定を守るためのロシア政府の努力を強く支持する」と強調したということです。

 

●「強いロシア復活のために…有権者『プーチン独裁』6年延長受け入れ」 3/24
ロシアのプーチン大統領が5選に成功した。得票率87%を超える圧勝だった。透明投票箱など一部議論があったりしたが西側の評価とは違いロシアの有権者がプーチンに熱狂しているという証拠だ。プーチンは今回の大統領選挙で2030年まで大統領を務められるようになった。任期を終えれば執権期間は30年になる。ロシア人はなぜ人権弾圧を行い独裁者として君臨しているプーチンを支持するのだろうか。ウクライナ戦争を行っているプーチンの対外政策はどのように展開されるだろうか。ロシア専門家である韓国外国語大学国際地域大学院のホン・ワンソク教授と21日に会った。
――プーチン大統領が5選に成功した。どう評価するか。
「クレムリン周辺にはこうした話がある。最高権力者がクレムリンから退くのは死ぬか追い出されるかの2つだけだ。自ら退くことはほとんどない。実際にレーニンは死んでクレムリンを出たし、ゴルバチョフは事実上追い出されたケースだ。これはロシアでは権力者が簡単に権力を手放さないという話でもある。プーチンもこれに当たる。事実今回のロシア大統領選挙の意味は『プーチン主義』に同意するかどうかを問うものだった。簡単に言えば『プーチンが強力なリーダーシップを発揮してロシアの安定と経済成長、対外的地位を高めるために市民の政治的自由と権利を少し留保しようとするがこれを受け入れるか』を問う選挙だったとみることができる。これに対しロシア人が賛成したのだ」
――プーチンが87%を超える圧倒的な得票率で当選した。西側の視点で見れば理解できない側面がある。こうした得票率が出る背景は。
「個人的に不正選挙はないとみる。西側の見方で今回の大統領選挙を見てはならない。プーチンが大勝した理由はいくつかの理論で説明できる。最初に、『包囲された城砦論』だ。プーチンは西側諸国が絶えずロシアを包囲し攻撃しようとするという主張で有権者に愛国主義を訴えてきた。また、多くのロシア人は胸中に第2次世界大戦の際に872日間孤立した状態でドイツ軍と戦った『レニングラードの戦い』を大事にしまっている。こうした感情に訴えたのが説得力を得たのだ。2番目に、ロシア人は『帝国症候群』を持っている。強盛だった過去の栄光を取り戻そうというものだ。ロシアを脅かす北大西洋条約機構(NATO)の東進にブレーキをかけ、ウクライナに侵攻したのもロシア人の立場では帝国の力を見せたという意味で解釈できる。3番目に、プーチンが西側の強力な制裁にもかかわらず、昨年国内総生産(GDP)成長率3.6%という実績を出した点だ。もちろんこれは中国とインドという巨大市場が助けになったので可能だった。4番目に、プーチンの対西側政策が非常に戦略的ということだ。プーチンは過去のアフガニスタン侵攻(1979年)による10年戦争のように国力を浪費する無理を強いなかった。ウクライナ侵攻で見るように黒海全体ではなく一部地域だけを目標にして攻略するなど国力を効率的に活用した」。
――ウクライナ戦争に対する見通しは。
「さまざまなシナリオがある。最も可能性が大きいシナリオは韓国戦争(朝鮮戦争)のように当事者間の平和協定が締結されず終わらない戦争として残ることだ。ロシアが占領地を返して撤収する状況は発生しないだろう。米国も戦争疲労感によりウクライナ支援に対して渋くなっている。こうした状況で妥協点は現状を維持することが最善かもしれない。予測だがウクライナ東部をロシアが占領したまま、残りの地域は中立地帯またはNATOとの緩衝地帯として残すことが現時点では最も現実的だ。だがトランプ氏が再選に成功しウクライナから完全に手を引く場合、身動きの幅が大きくなったロシアの戦略が変わるかもしれない」
――プーチンは第3次世界大戦に言及したりもした。今後米国など西側との関係はどのように予想するか。
「11月の米国大統領選挙でだれが大統領になるかにより変わるだろう。ひとまずバイデン大統領が再選するならば米ロ関係はとても悪化するだろう。プーチンは米大統領選挙介入疑惑などによりバイデン氏が所属する民主党とは悪縁が深い。これに対しトランプ氏がホワイトハウスに再入城することになるならば米ロ関係は良くなるだろう。トランプの孤立主義外交路線により両国の衝突が減るためだ。だがこれにより国際社会での不確実性も大きくなるだろう」
――北東アジアでは韓米日対中朝ロの対決構図が強化されるだろうという懸念もあるが。
「私は少し違う見解を持っている。北東アジアの対立構図を韓米日と中朝ロとみるケースが多い。大きな枠組みでは合っているかもしれないが、細かく調べれば正確な表現ではない。2つのグループを国家代表で構成された合同チームとみるならば、韓米日は同じ種目をする3カ国合同チームとみることができる。これに対し、中朝ロは種目が異なる選手で構成された合同チームだ。したがって韓米日に比べて中朝ロが国益の側面で積集合がはるかに小さい。反米という旗の下で集まったが、互いの足並みがそろわない余地が多い。こうした点を綿密に把握して対応することが必要だ」
――北朝鮮とロシアが蜜月関係を維持しているが。
「ロシア政府が韓国に送る警告のメッセージとみることができる。ロシアが国益の側面で南北を評価するならば北朝鮮は相手にならない。だがウクライナ戦争後に米国が主導する対ロシア制裁に韓国が積極的に参加し、また戦争物資まで間接的に支援することに対する不満が北朝鮮との密着で表現されているのだ。ロシアは韓国との関係悪化を望まない。極東地域開発などにおいて活用価値が大きいためだ」
――韓ロ関係がウクライナ戦争後良くない。管理が必要なようだが。
「両国関係は修交以降で最悪だ。管理が必要な時期だ。もちろん韓国の安保の核心は韓米同盟だ。この基調が損なわれない範囲でもう少し外交の幅を広げることが必要だ。私はこれを『外交の自律性』『外交の内的均衡強化』と呼びたい。バスケットボールにはピボットプレーというものがある。片足を固定してもう片方の足をあちこちに移動してパスをしたりシュートする技術だ。韓国の外交にもこうした技術の導入が必要だ。韓米同盟を軸とするが別足は自律性を持って動かなければならないという意味だ」。
●プーチン氏はウクライナの関与示唆 ゼレンスキー氏「責任転嫁」と非難 3/24
プーチン大統領は事件後、初めて国民に向けて演説し「実行犯らにはウクライナ側に逃げるための窓口が用意されていた」と、テロ事件とウクライナとの関係を示唆しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「プーチンはロシア国民と向き合い演説する代わりに丸一日沈黙し、(テロ事件を)ウクライナとどう関連付けるかを考えていた。すべては完全に予測できたことだ」
一方、ゼレンスキー大統領は23日、このように述べ、プーチン氏がウクライナをテロ事件と結び付けようとすることは「完全に予測できたこと」として「責任を転嫁している」とプーチン氏を非難しました。
・モスクワ郊外のテロ死者133人に プーチン大統領がウクライナ関与を示唆
・銃撃テロ真相は?「イスラム国」犯行声明との情報も…プーチン氏はウクライナ関与指摘
・プーチン氏 モスクワ銃撃テロとウクライナの関連性に言及
●モスクワ テロ事件 ウクライナ関与をゼレンスキー大統領は否定 3/24
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きたテロ事件をめぐり、プーチン大統領がウクライナ側の関与を示唆したのに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領はこれを否定し、ロシアが責任をなすりつけようとしていると非難しました。
ロシアの首都モスクワの北西にあるクラスノゴルスクでは、22日、コンサートホールに複数の人物が侵入して銃を乱射し、火災も発生して、ロシアの連邦捜査委員会はこれまでに133人が死亡したと発表しています。
プーチン大統領 ウクライナ側の協力の可能性示唆
この事件を受けて、プーチン大統領は23日午後、国営テレビでビデオ演説し「野蛮なテロ攻撃だ」と激しく非難して、24日を追悼の日にすると明らかにしました。
また、実行犯とみられる4人を含めて11人の容疑者を拘束したとした上で「われわれは事件に関与した全員を特定し、処罰する」と強調しました。
そして「彼らはウクライナに向けて移動した。ウクライナ側には国境を越えるための窓口が用意されていた」と述べ、ウクライナ側による協力の可能性を示唆しました。
ゼレンスキー大統領は関与を否定「プーチン いつも同じ方法」
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、SNSのテレグラムに動画を投稿し「プーチンやそのまわりの連中は誰かのせいにしようとしているだけだ。彼らはいつも同じ方法を使う。ウクライナでもわれわれの都市を焼き払い、それをウクライナのせいにしようとしている」と非難するとともにウクライナ側の関与を否定しました。
そして「彼らは何十万人ものテロリストをウクライナに送り込んで戦わせているのに、自分の国内で起きることは気にしない。プーチンは事件のあとロシア国民に向き合う代わりに1日沈黙し、どうやってウクライナになすりつけるか考えていた。すべては完全に予測可能なことだ」と指摘しました。
その上で「テロリストは必ず負けなければならない。テロと戦っているすべてのウクライナ国民に感謝する」と述べました。
モスクワ郊外銃撃 死者133人に
「アマーク通信」 実行犯だとする4人の写真公表
過激派組織IS=イスラミックステートとつながりのある「アマーク通信」は、今回のテロ事件がISの戦闘員による犯行だと認め、実行犯だとする4人の写真も公開しました。
またロシア内務省の報道官は、拘束された実行犯とみられる4人の容疑者全員がロシア国籍ではないと明らかにしたうえで、事件の背後関係などを調べているとしています。
4人はいずれも帽子をかぶり、覆面をしているうえ、写真にはぼかしが入っていて表情などを確認することはできませんが、「ロシア人キリスト教徒への攻撃を行った実行犯」と説明しています。
また、別の写真とともに掲載された記事では「情報筋によると首都モスクワ郊外のクラスノゴルスク市でキリスト教徒の群衆に対するIS戦闘員による組織的な攻撃が行われた」としたうえで、「攻撃は武装した4人のIS戦闘員によって実行され、3人が群衆に向けて発砲し、別の1人が火をつけた。攻撃によって少なくとも300人のキリスト教徒が死傷した。攻撃は、ISとイスラム教徒と戦う国との間で激化する戦争を背景に起きたものだと情報筋から確認した」などとしています。
米 ホワイトハウス IS単独による犯行の見方示す
アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のワトソン報道官は23日、声明を発表し「攻撃はIS=イスラミックステートに唯一の責任がある。ウクライナによるいかなる関与もない」としてIS単独による犯行だとの見方を示しました。
また、ホワイトハウスのジャンピエール報道官は声明で「ISは世界中で打倒しなければならない共通の敵だ」としています。
●ロシア・モスクワ銃撃、各国から非難の声 3/24
ロシアの首都モスクワのコンサートホールが武装集団に攻撃され130人以上、数十人が負傷した22日の事件をめぐり、各国から非難の声が上がっている。
国連(UN)のアントニオ・グテレス(Antonio Guterres)事務総長や米国のアントニー・ブリンケン(Antony Blinken)国務長官、中国の習近平(Xi Jinping)国家主席、フランスのエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領らが攻撃を非難する声明を発表した。
事件が起きたのは、コンサートホール「クロッカス・シティー(Crocus City)」。翌23日には、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」がテレグラムで「4人のIS戦闘員が攻撃を行った」との犯行声明を出している。
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は23日、国民に向けテレビ演説を行い、「野蛮なテロ行為」で「ロシアとその国民に対する残虐行為」だと非難。報復を誓った。
また、実行犯4人をすでに拘束していると明らかにした。4人については、ウクライナに向かっていたとしている。
一方、2年間にわたりロシアの侵攻を受けるウクライナのミハイロ・ポドリャク(Mykhailo Podolyak)大統領府顧問はテレグラムで、攻撃についてウクライナは「無関係」だと述べた。
さらにウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は23日、プーチン氏の実行犯がウクライナに向かっていたとの発言について、ロシアは責任転換をしようとしているだけだと指摘した。
●銃乱射プーチン大統領の発言遅れ、ウクライナへの責任転嫁「考えていた」とゼレンスキー氏非難 3/24
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日の動画声明で、モスクワ郊外のコンサートホールでの銃乱射についてロシアのプーチン大統領が発生翌日まで発言しなかったことに触れ「どうすればウクライナに罪をなすりつけられるか考えていた」と指摘した。責任をウクライナに転嫁しようとしていると非難した。
ウクライナは銃乱射への関与を強く否定している。ゼレンスキー氏は、ウクライナ侵攻を続けるプーチン政権が「国内のことに対処できていない」とも述べた。
プーチン氏は23日の演説で実行犯らにウクライナの国境を越えるための「窓口」が用意されていたと発言。ウクライナ国防省情報総局のユソフ報道官は「国境地帯は地雷があり、監視も厳しく、世界中の誰もがそのことを理解している」として関与を改めて否定した。
●プーチン氏、ウクライナ侵攻にモスクワテロ利用の可能性 3/24
ロシアの首都モスクワ郊外で22日夜に発生した銃乱射事件では、23日時点で100人以上が入院しており死者が増える恐れがある。プーチン大統領は今回のテロを、ウクライナへの軍事侵攻強化を正当化するために使う可能性がある。
モスクワ州のボロビヨフ知事は23日夜、被害者の救出活動を終えたと発表した。死者133人のうち50人の身元を確認した。「医療機関では医師たちが107人の命を守るために戦っている」と明らかにした。
ロシア連邦捜査委員会はテロ容疑で捜査を始めた。容疑者4人をウクライナとの国境に近いロシア西部のブリャンスク州で拘束したと23日に発表した。ロシア内務省によると容疑者4人は全員外国籍という。
プーチン氏は23日の国民向けの演説で事件をテロだと非難し「共犯者全員を処罰する」と強調した。「彼らは逃亡をはかり、ウクライナに向けて移動していた」とウクライナが関与しているかのように主張した。24日を国民の服喪の日にした。
ロシアメディアではウクライナが銃撃事件に関与しているとの報道が出ている。ロシア通信は23日、ロシア連邦保安局(FSB)による情報として容疑者がウクライナ側と接触していたことや、50万ルーブル(約82万円)で買収されたなどと伝えた。
国営メディアでこうした情報を流すことで、国民のウクライナへの敵対心を高める方向に誘導し、侵攻の強化に向けた理解を求める狙いがあるとみられる。
3月の大統領選では過去最高の87%超の得票率で通算5選を決めたプーチン氏は高い支持を背景に、国民に不人気の政策を実行しやすくなるとみられる。
ロシアの独立系メディアはテロが発生する前から、戦時経済下の財源を確保するための所得増税や、侵攻拡大を視野に軍の兵員を増やすための再度の部分動員の可能性について伝えている。
ロシア軍は現在、志願兵である契約軍人の採用を優先して進め、前線に投入している。22年9月に発令した部分動員令では30万人超を招集し、発令後に招集を回避しようとする人の出国が相次いだ。
ウクライナ側はテロへの関与を否定している。ゼレンスキー大統領は23日の声明で「プーチンや周囲の連中は誰かのせいにしようとしているだけだ」とロシアを非難した。
事件翌日まで演説しなかったプーチン氏について「どうすればウクライナに罪をなすりつけられるか考えていた」と断じた。「何十万ものテロリストをウクライナに送り込んで戦わせている」と指摘し、ロシアの侵攻を改めて批判した。
実行犯は犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)とみられる。欧米メディアによると、ISは23日、実行犯が現場で撮影した映像を公開した。複数の男が銃を乱射したり刃物で切りつけたりしているという。ロシア政府はISに言及していない。
米国はプーチン政権がテロをウクライナ侵攻に利用するのを警戒しているとみられる。米メディアによると、米国家安全保障会議(NSC)はIS単独の犯行であり「ウクライナの関与はまったくない」との声明を出した。
モスクワでは23日、コンサートホール近くで献花など犠牲者を追悼する人々や、入院する市民に提供するための献血に応じる人々の姿がみられた。24日も献花の動きは続いた。
モスクワの北西クラスノゴルスクの音楽ホール「クロッカス・シティ・ホール」で22日夜に起きた銃撃事件ではコンサート前に迷彩服を着た犯行グループが警備員を撃って侵入し、観客に銃撃した。爆発も発生し建物から黒煙と炎が上がった。
●ロシアがダーイシュ過激派に狙われる理由 3/24
金曜の夜、ロシアの首都モスクワ郊外の人気コンサート会場に武装集団が押し入り、115人が死亡、多数の負傷者が出て建物が炎上した数時間後、過激派組織ダーイシュがテレグラムで犯行声明を出した。
この攻撃は、アフガニスタン支部であるダーイシュ・ホラサンによって実行されたもので、1月にイランで発生し、元コッズ軍司令官カセム・ソレイマニの廟で94人が死亡した2つの爆弾テロと同じグループによるものだという。
「ダーイシュ・ホラサンはロシアの標的を攻撃した実績がある」とハドソン研究所のルーク・コフィー上級研究員はアラブニュースに語った。「例えば、彼らは2022年9月のカブールのロシア大使館に対する攻撃の背後にいた。また、彼らはモスクワとタリバンの関係が深まっていることに不満なのだろう」
イスラム教の極端な解釈を広めるため、より暴力的な方法を模索し、不満を募らせたパキスタンのタリバンの元メンバーによって2015年に設立されたダーイシュ・ホラサンは、主にアフガニスタンの農村部の無政府空間で活動してきた。
このように当初は無名だったダーイシュ・ホラサンだが、2021年8月、タリバンが政権に復帰した混乱の中、そのメンバーがカブールのハミード・カルザイ国際空港を爆破し、170人以上(うち米軍関係者13人)が死亡したことで、世界的な注目を集めた。
アメリカの作戦によってダーイシュ・ホラサンの数は大幅に減少したが、2021年に西側諸国がアフガニスタンから撤退した後、彼らは再び勢力を拡大した。タリバンは現在、統治能力を脅かす同組織との戦闘を定期的に行っている。
ダーイシュとその関連組織は以前にも、自分たちが直接関与していない無差別攻撃の責任を主張しており、モスクワの攻撃における彼らの役割について当初は懐疑的な見方もあった。しかし、米国の諜報機関はその後、その主張の信憑性を確認した。
実際、米国は3月7日の時点で、在ロシアの国民に警告を発し、「過激派がモスクワの大規模な集会(コンサートを含む)を標的とする差し迫った計画を持っているという報告」を強調している。
在モスクワ米大使館がこの警告を発した同じ日、米中央軍中東司令部(CENTCOM)のマイケル・クリラ司令官はブリーフィングで、アフガニスタンからの攻撃の危険性が高まっていると述べた。
米国防総省が発表した声明によると、「私は、ダーイシュホラサンは、わずか6カ月で、ほとんど何の警告もなしに、海外の米国と西側の利益を攻撃する能力と意志を保持していると評価している」
また、「ダーイシュは現在、アフガニスタンだけでなく、その外でも強い。現在、タジキスタンとの国境沿いに戦闘員を配置し、ヨーロッパとアジアで攻撃を実行する能力を保有している」と述べた。
ロシアの安全保障機構と防衛インフラがウクライナとの戦争に集中しているため、ダーイシュのような過激派グループは、政府が気を取られている間にカムバックを果たし、大胆な攻撃を計画する機会を得たようだ。
ダーイシュがウクライナにおけるロシアの混乱に乗じていることは間違いない。ロシアの侵攻から2年以上が経過し、ウクライナでの戦争は、ロシアの情報機関、軍隊、治安サービス、そして法執行機関の注意と資源のほとんどを消費している。
「ダーイシュはおそらく、ロシアが弱体化している間に攻撃する好機と見たのだろう。過去には、アル・ナバのようなダーイシュの出版物には、ロシアとウクライナの間で起きている “十字軍対十字軍の戦争 “についての記事が掲載され、そのような戦争は彼らにとって好機であるとさえ示唆していた」
政治アナリストであり、テロと過激派組織の専門家であるハニ・ナシラ氏は、ロシアとウクライナの紛争が、注意をそらした地域への奇襲攻撃のための肥沃な土壌を作り出しているというコフィー氏の見解を支持した。
「ウクライナ紛争が始まって以来、ダーイシュ・ホラサンは当初の活動拠点であったシリアからその出身国に向かい、ウズベキスタンやタジキスタンといった北コーカサスや中央アジア諸国で活動を再開することで、戦争に参加した戦闘員の流れを活発化させている」とナシラ氏はアラブニュースに語った。
「ウクライナでの戦争は、アフガニスタンで起こったことの再発の出発点であり、世界中から外国人戦闘員がウクライナと一緒にロシアとの戦争に参加した」
チェチェン系の過激派の中には、ロシアを支持し、ダーイシュのメンバーから『裏切り者、チェチェン民族の恥』と評されたラムザン・カディロフ・チェチェチェン大統領の部下が残した屈辱的な汚点を取り除くために、ウクライナでロシアと戦っている者もいる。
ダーイシュ・ホラサンが主張するように、ロシア軍はチェチェン、シリア、アフガニスタンでイスラム教徒を殺害した前科があるため、ロシアもダーイシュ・ホラサンにとって特に関心があるようだ。
2002年のノルド・オスト劇場包囲事件や2004年のベスラン大虐殺は、最も悪名高い攻撃である。
ウクライナ戦争が国防の中心である限り、ロシアは、南部から出現した大胆さを増す過激派グループのさらなる攻撃をかわすのに苦労することとなるだろう。
●プーチン大統領、モスクワ襲撃の銃撃犯はウクライナに逃亡を図っていたと発表 キエフは関与を否定 3/24
ウラジーミル・プーチン大統領は土曜日の国民向け演説で、少なくとも133人が死亡したモスクワ郊外のコンサートホール襲撃事件に関与した疑いのある4人をロシア当局が逮捕、彼らはウクライナに向かっていたと見ていると述べた。
一方キエフは、金曜日にクラスノゴルスクの音楽ホール「クロッカス・シティ・ホール」が襲撃された事件への関与を強く否定した。この事件は、アフガニスタンのダーイシュ・グループの関連組織が、同グループに関連するソーシャルメディア・チャンネルに投稿した声明で犯行声明を出したものである。キエフは、プーチンと他のロシアの政治家たちが、3年目に突入したロシアのウクライナ戦争への戦意を煽るために、ウクライナを襲撃事件と偽って結びつけていると非難した。
米国の諜報機関関係者はAP通信に、米国機関がダーイシュの犯行であることを確認したと語った。
プーチン大統領は、このテロ事件で当局は11人を拘束したと発表した。プーチン大統領は、このテロを「血なまぐさい野蛮なテロ行為」と呼び、ロシア当局は、4人の容疑者が国境でウクライナに逃げようとしていたところを捕らえたと述べた。
プーチン氏はまた、ロシア全土に追加の安全対策が敷かれ、日曜日は喪に服すと宣言した。
土曜日、捜査当局はホールの黒焦げの残骸を調べ、さらなる犠牲者を探していた。ロシア保健省によれば、土曜日の早朝、モスクワでは何百人もの人々が献血のために列を作っていた。
「我々は、徹底的かつ冷酷に準備されたテロ攻撃に直面した。平和で罪のない人々が、組織化された大量殺人に直面した」とプーチン氏は語った。
ウクライナでの戦争が長引く中、このテロは彼の権力掌握を確固たるものにした、プーチン氏が選挙で大勝した数日後に起こった。
テロ直後、ロシアの議員の中にはウクライナを非難する者もいた。しかし、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領の顧問であるミハイロ・ポドリャク氏は、いかなる関与も否定した。「ウクライナはテロリズムの手段に訴えたことはない」と彼はXに投稿した。
ウクライナ外務省は、モスクワが自国の戦争への戦意を煽るためにこの攻撃を利用したと非難した。
「このような非難は、ロシア社会における反ウクライナ・ヒステリーをさらに煽り、わが国に対する犯罪的侵略に同意するロシア市民を増加させ、国際社会の目からウクライナの信用を失墜させるための、クレムリンによる計画的な挑発であると考える」と同省は声明で述べた。
ロシアの国営メディアが土曜日に公開した画像には、クロッカスホールの廃墟の外にまだ緊急車両の一団が集まっている様子が写っていた。この市庁舎は6000人以上を収容することができ、ドナルド・トランプや他のVIPが参加した2013年のミス・ユニバース・ビューティ・ページェントを含め、多くの大きなイベントが開催されてきた。
ネットに投稿されたビデオには、会場にいた銃撃者が至近距離から市民を撃ち殺している様子が映っていた。ロシアのニュース報道は、当局と目撃者の話として、攻撃者が爆発物を投げつけ、火災が発生したと伝えている。ロシアのロックバンド、ピクニックの公演のために群衆が集まっていた劇場の屋根は、消防士が何時間もかけて消火活動をしていた土曜日未明に崩れ落ちた。
ダーイシュのアフガニスタン支部は、Aamaq通信社が掲載した声明の中で、クラスノゴルスクの「キリスト教徒」の大規模な集まりを攻撃したと述べた。
アメリカの諜報機関関係者がAP通信に語ったところによると、アメリカの諜報機関はここ数週間、ダーシュの支部がモスクワでの攻撃を計画しているという情報を集めており、アメリカ政府関係者は今月初め、その情報をロシア政府関係者と内々に共有していたという。
この政府関係者は、この件について説明を受けたが、情報に関して公に話す権限はなく、匿名を条件にAP通信に語った。
憤り、衝撃、そして犠牲者とその家族への支援のメッセージが世界中から寄せられている。
金曜日、国連安全保障理事会は「凶悪かつ卑怯なテロ攻撃」を非難し、犯人の責任追及の必要性を強調した。アントニオ・グテーレス国連事務総長も「可能な限り強い言葉で」テロ攻撃を非難した。
今週の大統領選挙で、反対派を徹底的に弾圧し、ロシア支配をさらに6年延長したプーチン氏は、西側諸国がテロ攻撃の可能性を警告したことを、ロシア人を威嚇するための試みだと公然と非難した。「そのすべてが公然たる恐喝であり、われわれの社会を恐怖に陥れ、不安定化させようとする試みだ」と彼は今週初めに述べた。
2015年10月、ダーイシュが仕掛けた爆弾によってシナイ上空でロシアの旅客機が墜落し、乗員乗客224人全員が死亡した。シリアとイラクを中心にアフガニスタンやアフリカでも活動する同グループは、過去数年間、ロシアの不安定なコーカサスやその他の地域でも何度か攻撃を主張している。かれらはロシアや旧ソ連の他の地域から戦闘員をリクルートしている。
●戦時下の「日常」暗転=ロビーに犠牲者、来場者パニック―モスクワ銃撃 3/24
「逃げろ」「何ということだ」。
22日に銃撃テロが起きたロシア・モスクワ郊外のコンサート会場。ウクライナ侵攻中、市民は戦争やプーチン政権を批判さえしなければ、平穏な日常生活が保障されていたが、大統領選も終わり春が訪れた週末の夜が突如暗転した。
犯人がまず襲ったとみられるのは1階ロビー。現地メディアの映像によると、おびただしい数の犠牲者が血を流して倒れる中、来場者はパニックとなって出口に押し寄せた。
ヘリコプターが旋回し、緊急車両の回転灯に照らされる会場外では、混乱から複数の人が拘束された。取り押さえられたのは襲撃犯ではなく、会場警備員やジャーナリストだと伝えられている。
ロシアで死者を伴う大規模テロが起きたのは、2017年の北西部サンクトペテルブルクの地下鉄爆破以来。戦火が西部の国境州に及び、ウクライナの「破壊工作グループ」が攻撃を仕掛ける危険性も指摘されていたが、占領政策や戦時景気に伴う人手不足で、首都の警戒がおろそかになった可能性もある。
「われわれではない」「関与していない」。プーチン政権と敵対するロシア人武装勢力やウクライナ高官は、直ちに声明を出し、戦争とテロは別だと主張した。しかし「ウクライナによる破壊工作」(ロシアのメドベージェフ前大統領)との臆測は消えず、過激派組織「イスラム国」(IS)の犯行説も飛び交った。
●ロシア軍、東部州で前進か 集落掌握を主張 3/24
ロシア国防省は23日、ウクライナ東部ドネツク州バフムトの西方にある集落を新たに掌握したと主張した。タス通信などが報じた。ロシア軍は2月に同州の要衝アブデーフカを制圧後、徐々に攻勢を強めており、この集落の近くにある町チャソフヤールが攻略目標だとみられている。
欧米によるウクライナ支援が停滞する中、ロシア軍のミサイルや無人機での攻撃も激化している。米シンクタンク、戦争研究所は、22日のウクライナ各地のエネルギー施設に対する大規模攻撃は「ウクライナの防衛産業の能力を低下させることを目的とし、ウクライナの防空ミサイルの不足を利用しようとしている可能性が高い」とした。
●トルコ大統領も哀悼の意 プーチン氏と電話会談 3/24
トルコのエルドアン大統領は23日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、モスクワ郊外のコンサートホールで起きた銃乱射について深い悲しみと哀悼の意を伝えた。トルコ大統領府が発表した。エルドアン氏はテロ対策でロシアと協力を進める用意があると表明した。
電話会談に先立ち、エルドアン氏は23日、首都アンカラで開いた集会で「ロシア国民の痛みを分かち合う」と強調し「凶悪なテロ攻撃を強く非難する」と述べた。
●ウクライナ、大統領選実施で賛否の声 侵攻で戒厳令続く 3/24
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは戒厳令が敷かれ、当初は2024年3月末に予定されていたウクライナ大統領選は延期された。市民からは当面の大統領選実施には反対する声が多い一方で、選挙の早期実施を求める指摘もあがる。24年は世界各国・地域で重要な選挙が相次ぐ中、11月の米大統領選への関心も高まっている。
キーウ国際社会学研究所の最近の世論調査によると、国民の69%が戒厳令が終わるまでゼレンスキー大統領は留任すべきだと考えている。一方で戦時中の選挙実施への賛成は15%にとどまった。
23年10月に予定されていた議会選挙は戒厳令が続いているため実施されなかった。24年2月にはウクライナ議会が全土に発令している戒厳令を5月中旬まで延長する法案を可決した。当面の間、選挙は延期される可能性が高い。
米国など西側諸国の一部からは大統領選挙の実施を求める声が上がっていた。ウクライナの首都キーウ(キエフ)で教師として働く教師、ミハイル・ポリシュクさんは「大統領選実施には反対だ。米欧が民主主義の実現には選挙実施が不可欠と指摘しているというが、ウクライナ人は自分たちの意見をもっと重視すべきだ」と指摘する。
一方で早期の大統領選の実施を求める声も出ている。南部オデッサから来たという船舶の船長、アナトリー・サヴィツキーさんはゼレンスキー氏の支持率低下を受けて「彼らのチームではウクライナに良いことは何もない」と述べた。
ネット上でも選挙で国民の信を問うべきだとの声が出ている。リュドミラさんはSNS(交流サイト)で「国は人気があったザルジニー総司令官を解任した。(信を問うため)選挙を実施すべきだ」と投稿した。
11月の米大統領選の動向に関心を寄せるウクライナ人は多い。トランプ前大統領は共和党の候補者指名が確定し、民主党のバイデン大統領と再戦する構図となっている。
前大統領はロシアとウクライナの戦争を「24時間以内に終わらせる」と発言するなど、ウクライナに警戒心を抱かせる発言が多い。
市民からも懸念の声は上がる。サヴィツキーさんは「かつてトランプ氏はウクライナに対戦車ミサイル『ジャベリン』を提供するなど良いこともした。だが、それでも私は彼に勝ってほしくない。予測不可能な政治家は信用できない」と述べた。
仮に前大統領が次期大統領になった場合に停戦交渉が進む可能性への期待も出ている。
ウクライナの政治評論家、イリヤ・ククサ氏は「おそらく、彼はウクライナとロシアの交渉に向けた条件を作り始めるだろう。紛争は凍結に向かう可能性が高い」と分析する。ただ「(ロシアによるクリミア半島併合以前の)1991年の国境線に戻ることはできないという事実を受け入れなければならないだろう」との懸念も示した。
3月15〜17日にかけて投票されたロシア大統領選では現職のプーチン大統領が87%超を得票し、通算5選を決めた。ロシアで言論統制や体制の引き締めを続けるプーチン氏の勝利は事前に予想され、投票率向上のため国営企業や自治体職員らの組織動員も伝えられた。同氏の当選そのものについては、ウクライナ人の間では関心はほとんどない。
●モスクワテロ、ウクライナは「何の関係もない」…民間人への攻撃正当化の「口実」利用を警戒 3/24
ウクライナは、モスクワ郊外のコンサートホールで起きたテロ事件には関与していないと強調する一方、ロシアがウクライナへの攻撃を強化する口実に利用する可能性があるとみて警戒している。
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は22日、テロ事件に「ウクライナは何の関係もない」としたX(旧ツイッター)への投稿で、「この戦争は戦場で決まる。テロ攻撃はいかなる問題も解決しない」と述べ、ロシアに抵抗するためにテロという手段は選ばないと強調した。
ポドリャク氏は、今回の事件が、ロシアの軍事的なプロパガンダの急増や動員の拡大、ウクライナの民間人に対する攻撃の正当化などに使われるとみている。
ウクライナは、露国内のエネルギー施設などへの無人機攻撃を強化しており、今回のテロと結びつけられることを危惧している可能性がある。ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」によると、ロシアの国営ガス企業ガスプロム系のテレビ局NTVは23日未明、ウクライナのオレクシー・ダニロフ国家安全保障国防会議書記が「ウクライナがテロ事件に関与した」と認めたと主張するフェイクニュースを放映した。
●NATOと北欧 ロシアの誤算が招いた拡大 3/24
ロシアのウクライナ侵攻を受け、北欧のスウェーデンが今月、北大西洋条約機構(NATO)に加わった。隣国フィンランドに続き、32カ国目の加盟国となった。
高まるロシアの脅威に対抗するため、200年以上続いた中立政策に終止符を打ち、米欧との軍事同盟に踏み出した。NATOの対ロ抑止力が大幅に高まる一方、偶発的に軍事衝突が起きる懸念は拭えず、緊張緩和に向けた外交努力が欠かせない。
スウェーデンは19世紀初頭のナポレオン戦争以降、他国と交戦せず、非同盟・中立を国是としてきた。
だが、ウクライナ侵攻は北欧では同盟国を持たない国の悲劇と受け止められた。その衝撃が国是の転換に慎重だった国内世論を動かしたと言えよう。
一昨年5月、同じく中立政策を貫いてきたフィンランドと共に加盟を申請した。ところが、トルコとハンガリーが国内事情やロシアへの配慮もあってスウェーデンの加盟に難色を示し、想定以上に批准が遅れていた。
スウェーデンは、有数の軍事大国として知られる。高性能の兵器を開発し、高い防衛力を築いてきた。
ロシアに対抗する欧州安全保障体制は新たな段階に入る。ロシアと欧州に面するバルト海をNATO加盟国が取り囲むことになり、ロシアの軍事戦略にとって大打撃に違いない。
ロシアのプーチン大統領は、NATOの拡大阻止をウクライナに攻め入る口実の一つとしていたが、逆に対ロ包囲網の拡大を招いてしまった。自らの浅慮と誤算がロシアの孤立を深めたことを認めねばなるまい。
北欧全体が集団的自衛権を定めるNATOの領域となり、ロシアと欧州が「緩衝地帯」なしに直接向き合い、軍事的脅威がより身近に迫る。
プーチン氏はNATO拡大に対し、国境付近での兵力増強を指示するとともに、戦略核兵器の配備で威嚇する。危険な挑発と軍事対立を激化させてはならない。
ロシアの侵攻後、2年以上にわたり戦闘が続くウクライナのNATO加盟は早々には難しいとみられるが、支援は欠かせない。
現在の膠着(こうちゃく)状態が続けば、ロシアによるウクライナ領土の実効支配が固定化する恐れがある。力による現状変更を認めれば、国際秩序を揺るがしかねない。
戦闘の長期化に伴う「支援疲れ」もあって、NATO加盟国の対ロ政策に温度差が目立つ。足並みの乱れはロシアを利することになろう。
とりわけ、11月の米大統領選に向け、共和党の候補者指名を確実にしたトランプ前大統領が米国第一主義を掲げ、加盟国の軍事費増額を求めてNATOを軽視する姿勢が気がかりだ。 

 

●モスクワ銃乱射、プーチンは事前の「テロ情報」を無視していた 3/25
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで3月22日、銃乱射事件が発生し、100人以上が死亡した。
ロシア当局はテロ容疑で捜査を始め、実行犯4人を逮捕したという。また24日の発表によれば、これまでに137人の死亡が確認され、負傷者は180人を超えている。
事件は22日夜、モスクワ北郊クラスノゴルスクのコンサート会場で起こった。武装集団が会場に押し入り、観客に向けて銃を乱射し、同時に大規模な火災も発生した。
「ISホラサン州」による犯行か
テロ攻撃からほどなくして、過激派組織IS(いわゆる「イスラム国」)が犯行声明を出した。ISは組織内のどの分派による犯行かは明らかにしていないが、米紙「ワシントン・ポスト」は匿名を条件に語った米当局者らの話として、「ISホラサン州」の可能性を示唆している。
ISホラサン州は、アフガニスタンを拠点とするISの分派であり、最近はロシア国内での活動を活発化させていると米情報機関は分析していた。
米政府は3月初め、ISがロシアでテロ攻撃を計画しているとの情報をつかみ、ロシア政府に警告していた。
しかし英紙「ガーディアン」によれば、攻撃のわずか3日前、ウラジーミル・プーチン大統領はこの警告を「我々の社会を怖がらせ、威嚇しようとする脅迫だ」として公の場で一蹴していた。
ISはこれまでにもロシアに対して大規模な攻撃をおこなってきた。2015年には、224人を乗せたロシア航空機がエジプトのシナイ半島上空で爆発し、乗員全員が死亡。2022年には、ISホラサン州がアフガニスタンのロシア大使館を襲撃している。
ISがロシアを敵視する背景には、プーチン政権によるロシア南部・北カフカスのイスラム教徒の弾圧や、シリアのアサド政権に対する軍事支援があるとされる。
「強いロシア」を掲げるプーチンに打撃
米紙「ニューヨーク・タイムズ」は、ロシア国内で起きたテロとして過去20年で最悪の被害を出した今回の攻撃について、「国家の安全を最優先すべき指導者としてのプーチンのオーラに打撃を与えた」と報じている。
プーチン大統領はわずか1週間ほど前に、ロシア史上最高の得票率で再選されたばかりだった。「その自信に満ちた勝利の余韻のなかで、突然このような屈辱的な事件が起こったのです」と、ロシアの政治学者アレクサンドル・キネフは同紙に語っている。
攻撃を受けた後、プーチンが国民の前に姿を現して演説するまでに19時間以上もかかった。さらにその演説ではISにいっさい触れず、代わりにウクライナが黒幕である可能性をほのめかした。
おそらくプーチンは自身が米国の警告を無視したことや、テロ攻撃を未然に防げなかった失態から国民の目をそらそうとしたのだろう。
● モスクワテロ、ロシア各地で追悼…プーチン大統領も教会で犠牲者悼む 3/25
130人以上の死者を出したモスクワ郊外のコンサートホールでのテロ事件を受け、ロシアのプーチン政権は24日を「追悼の日」と定めた。焼け落ちたホールの近くには慰霊碑が設けられ、花を手向ける人やろうそくを供える人などが絶え間なく訪れて犠牲者を追悼した。
大統領府によると、プーチン大統領も、モスクワ郊外の教会で犠牲者を悼んだ。露メディアによると、24日はモスクワ市内でのイベントは中止され、弔意を示す半旗が掲げられた。被害者の回復の助けになればと、献血を希望する人も相次いだ。
●「裏切者を忘れずに名前を特定しろ」プーチン氏7600万票で圧勝も…2200万票が不正との指摘 開票作業中映像も物議 ロシア 3/25
ロシア大統領選でプーチン大統領が87.28%の得票率で圧勝し、投票率は77.44%と史上最高を記録。しかし、約2200万票が不正に上乗せされたと指摘。選挙不正を示唆する映像も公開され、選挙の公平性を疑問視する声が上がっている。
約7600万のうち約2200万票が不正との分析結果も
ロシア中央選挙管理委員会は21日、大統領選の集計結果を確定し、投票率は77.44%、プーチン大統領の得票率は87.28%だったと発表した。いずれもソ連崩壊後のロシア大統領選で過去最高だ。
プーチン氏の得票数は、約7600万票だった。民間の選挙監視団体は、プーチン氏に約2200万票が不正に上乗せされたとの分析結果を公表したが、ロシア中央選挙管理委員会は「非常にクリーンな選挙だった」と総括した。
プーチン大統領が9割近い票を獲得する圧勝で「クリーンな選挙だった」と強調しているが、様々な不正を指摘する映像も出てきている。今回の再選で、プーチン大統領がどう変わるのかを詳しく見ていく。
プーチン大統領は、選挙結果が確定したことを受けて、21日のビデオメッセージで「選挙結果はロシアがひとつの家族だと示している」と国民に感謝を示した。
また選挙管理委員会は立派な仕事をしたとも発言し、選挙は公正なものだったとプーチン氏はアピールしているが、反体制派への弾圧などもあり西側からは「不公平」「民主的ではない」と批判の声が上がっている。
ロシアの民間選挙監視団体は、プーチン大統領が獲得した約7627万票のうち約2200万票は不正に上乗せされた疑いがあると指摘しており、票数の操作は「史上最大規模」だと主張している。
そんな中、ロシアの独立系メディアは、不正の現場を撮影したとされる映像や音声を公開している。
ロシア大統領選の投票用紙には、4人の候補者の名前が並んでおり、プーチン大統領は2番目に名前がある。有権者は投票したい人の一番右側の四角にチェックを入れ、投票する形になっている。
ロシア北西部のレニングラードの開票作業中に撮影された映像を見ると、係の女性が投票用紙を1枚ずつ確認していき、手にしていた全ての投票用紙をプーチン大統領への票がまとめられた場所に置いた。
しかし、先ほど女性が仕分けしていた紙を見てみるとプーチン大統領ではない一番上の候補者にチェックが入った投票用紙が含まれていた。この映像からだけでも複数枚、確認できた。
開票場は厳重な監視下にある訳でもなく、かなりラフな感じで緊張感がない。こうした不正は常習的に行われていたのではないかと思われる。
さらに、選挙管理委員会の会話の音声も公開されている。
そこでは、無効票が多すぎる事が判明したため、それをプーチン大統領の票に追加することが話し合われていた。
「裏切者を忘れずに、その名前を特定しろ」
プーチン大統領は、自らを守るために、ますます攻撃的になるだろう。つい最近、こんな発言があった。
プーチン大統領は、今週行われた治安当局との会議で「裏切者を忘れずに、その名前を特定しろ」と指示を出した。そして「裏切者がどこにいようが、時間がどれだけかかろうが彼らを罰する」と話している。
この発言は反体制派への強烈な威嚇だ。獄中死したナワリヌイ氏の夫人であるユリアさんは、ベルリンで投票する姿が確認されたが、今もYouTubeでプーチン批判を続けている。プーチン氏の発言は、海外にいる反プーチン派にも恐怖感を与える狙いだ。
最近1年ぶりにモスクワを訪れた人に話を聞くと、経済制裁の効果はなく、町にはものが十分揃っているという。つまり経済的な市民の不安はないため、反プーチンの声が強まるのは難しい状況かと思われる。
また1年前と比べて「戦争をやっている国」感が増しているという。以前あまりみられなかった兵士募集のポスターが空港や市街地などいたるところに張られている。 
兵員不足が考えられる一方で、より軍事国家としての側面を強めていくことも懸念されている。
●ロシア銃乱射、死者137人に…当局は拘束の4人を起訴 プーチン大統領、安全保障会議を開催へ 3/25
ロシアのコンサート会場で起きた銃乱射事件の死者は137人にのぼっています。ロシア当局は24日、拘束した4人を起訴しました。
今回の事件は過激派組織「イスラム国」のグループの一つ、「イスラム国ホラサン州」によるものとみられていて「イスラム国」系のメディアが犯行時のものとする動画を公開しました。
これまでの死者は137人にのぼり、182人が病院で治療を受けているということです。
ロシア当局は、これまでに実行犯ら11人を拘束していて24日、4人をテロの罪で起訴しました。
ロシア・メディアは起訴された男らが法廷に連行される映像を公開しました。起訴された4人は中央アジアのタジキスタン出身で、そのうち3人は犯行を認めたと報じています。
プーチン大統領は今後、安全保障会議を開催し、テロを受けた対応を協議するということです。
今回の事件をめぐってプーチン大統領は「実行犯はウクライナに向かっていた」などと発言し、ウクライナ側の関与を示唆しています。これに対しゼレンスキー大統領は、責任転嫁しようとしていると反論しています。
●モスクワテロ、「犯人はIS」は本当なのか、ロシアが疑っている「真犯人」とアメリカに「都合がいい犯人」 3/25
3月17日のプーチン大統領の大統領選挙勝利宣言からわずか5日後の22日に、モスクワ郊外のコンサートホール「クロックス・シティ・ホール」で凄惨なテロ事件が発生した。捜査委員会によれば、死者は24日時点で137人に上った。
容疑者11人は23日にウクライナ国境の手前100キロほどの地点で拘束され、その中に実行犯4人が含まれていたことが連邦保安局によって発表された。すでに裁判が開始され、24日時点で2人は罪を認めている。ただし、金銭目的でやったとしており、誰の指示だったのかなど、詳しい事件の背景は今後捜査が進められる。
アメリカ政府は、今回の事件は「イスラム国(IS)」によるものと見ている一方、ロシア政府はこれに懐疑的な見方を示している。それぞれにとって「都合のいい・悪い犯人」は誰なのか。
アメリカによる警戒情報との関連性
今回のテロ事件は、大統領選挙直後に行われたという点で、プーチン政権に対する挑戦、挑発という意味合いが推察される。
モスクワのアメリカ大使館は3月7日時点で、モスクワで過激派によるテロ事件が計画されている可能性について警戒情報を発出しており、今回のテロ事件との関連性について臆測を呼んでいるが、詳細は不明だ。
関連性があるとすれば、今回のテロは大統領選挙前に実施される計画だった可能性もあるだろう。そうだとすれば、テロ行為の目的は、ロシア国内を混乱させ、プーチン政権の威信を失墜させようとしたものだったことになる。
さらに事件後、アメリカCNNなどは、イスラム過激派であるイスラム国(IS)に関連した通信社であるアマーク通信を通じて、ISが犯行声明を出したと報じ、『ニューヨーク・タイムズ』もアメリカ政府関係者の話として、アフガニスタンを拠点とするISIS-Kと呼ばれるグループの仕業だと報じている。ただし、前述のアメリカ大使館の警戒情報の時点では、ISに関する言及はなかった。
「ISが犯人」は本当なのか
確かに、ISはロシアのプーチン政権を憎んでいる。2013年、シリア内戦にロシアが介入し、空爆によりシリア国内のIS勢力に甚大な打撃を与えたことで、シリアのアサド政権は、ISの支配地域を奪回することに成功したからである。ただ、疑問が残るのは、アフガニスタンに拠点を置くISの1グループが、モスクワでこれだけの規模のテロを実行する目的は何かという点である。
もちろん、ISのような過激派武装組織の行動原理をわれわれの基準で判断すること自体が誤りかもしれない。しかし、仮にISIS-Kがプーチン政権の威信を低下させたとして、ISの支配地域をシリアなどの中東地域で拡大することにつながるだろうか。そうした実質的な成果にはつながりそうもない。
また、ロシアは中東において、イランやシリア、エジプト、イスラエルとも良好な関係を築いており、アメリカのように中東各地で敵視されているというわけではない。つまり、ロシアを標的にしたところで、アメリカを標的にした9.11の同時多発テロのような象徴的な意味を持つわけではなさそうだ。
確かに、ロシアには国内にテロリズムとの戦いという大きな課題がある。チェチェンをはじめとするイスラム過激派との戦いがそれだ。
1990年代後半から2000年代にかけて、プーチン大統領はチェチェン内戦を主導していた。前述の2010年モスクワ地下鉄爆破テロ以前にも、2002年モスクワ劇場占拠事件、2004年ベスラン学校占拠事件といった大規模なテロを経験し、多大な民間人犠牲者を出しているのだ。
だが、今回の事件はロシアのイスラム過激派との関係については何も情報がない。政治的な声明もなく、拘束された容疑者も金目的にやったと自供しており、チェチェンやISといった過激派の行動パターンとは大きく異なっている。犯人がISやチェチェン独立派であれば、金目的のケチな犯罪者を雇って実行するだろうか。犯行声明自体の信憑性が疑われる理由である。
ロシアはウクライナ関係者の犯行を疑っている
事実、ロシア政府はアマーク通信で流された犯行声明について何も言及しておらず、犯行声明自体に信をおいていないようだ。ロシアはむしろ、ウクライナ関係者の関与を疑っている。
例えば、メドヴェージェフ安全保障会議副議長は、「もしこれがキエフ政権のテロリストだとしたら、国の要人であったとしても見つけ出して抹消する。死には死を持って償わせる」と強い調子で述べている。
一方、ウクライナのポドリャク大統領補佐官は、ウクライナの関与を即座に否定している。それどころか、この事件がロシアによって、戦争のプロパガンダの強化、軍国主義化の加速、動員の拡大、そして最終的には戦争の開始の正当化に使われることは疑う余地がないとまで述べている。
ウクライナ側は、今回のテロリズムがウクライナに結び付けられて、報復の口実とされ、最悪の場合は開戦理由とされることを恐れているのである。これこそが、ロシアによる自作自演説が生まれる理由ともなっている。
それはともかく、ウクライナにとって最悪なのは、ウクライナ政府の正式な指示とは無関係に、ウクライナ側の何らかの勢力がテロリズムに関与しているという事態だ。
例えば、2022年9月に起きたロシアとドイツをつなぐ海底ガスパイプライン「ノルドストリーム」の爆破事件の際、実行犯についてはロシア自作自演説など諸説が流されたが、昨年11月、実はウクライナ特殊作戦軍の大佐だったという調査報道をアメリカのワシントンポストと、ドイツのシュピーゲルが報じている。
さらに、同年11月にはポーランドにミサイルが落下した事件で、ウクライナ側は即座にロシアを非難したが、実はウクライナ側のミサイルだったことが判明したこともあった。
ウクライナ関係者による犯行で困るのは…
今回のテロ事件で仮にウクライナ側関係者の関与が明るみに出れば、国際社会のウクライナに対する支持が揺らぐだろうし、何よりも、ポドリャク補佐官が言うように、ロシアが軍事作戦のレベルを強化する可能性もある。
ハマスが人質を取ったことに対してイスラエルが過剰報復をしていることをアメリカやドイツは支持しているが、万が一モスクワの銃撃テロがウクライナ側の関係者であった場合には両国はどのように反応するべきだろうか。
その意味でもアメリカにとって、テロの実行犯は決してウクライナであってはならず、ISであるほうがいいということは間違いない。そうだとすると、アメリカメディアが政府高官の話としてIS犯行説を報じているのもうなずける。
しかし、残念ながら肝心のプーチン大統領はウクライナの関与を強く疑っているようだ。プーチン大統領は23日午後、容疑者の拘束を受けて、国民向けに談話を発表した。
その中で、「テロの実行犯は拘束された。彼らは逃亡しようとしてウクライナのほうに移動していた。現時点での情報では、国境を越えるための通路がウクライナ側によって実行犯のために用意されていた」と述べ、さらに今回のテロ行為をナチスが占領地域で行った処刑のようだと述べた。
ちなみにプーチン大統領はゼレンスキー政権をナチズムだと非難している。そのうえでテロリストの背後にいるものを見つけ出すとの決意を繰り返し、テロリストの背後にウクライナの存在をほのめかしている。
犯人が本当にISだった場合
しかし、仮に犯人が本当にIS(アフガニスタンのISIS-K)だった場合には、ロシアはより複雑な対応を迫られることになる。ウクライナにおける軍事作戦を引き続き実行しながら、ISIS-Kへの報復をするとなれば大変である。
9.11に際してアメリカはアルカイダを支援したとしてタリバンに戦争を仕掛けた。しかし、現在タリバンはISIS-Kと対立関係にあるため、ロシアはむしろタリバンとの協力に踏み込むことになるのか。
しかし、ロシアでタリバンはテロ支援国家として非合法化されているため、それも困難と思えるが、敵の敵は仲間という国際政治の常套手段が使われるかもしれない。いずれにせよ、ロシアにとってテロリストがISだったというシナリオは、まったく新しい敵を相手にすることになり望ましくない。
現状ではさらなる捜査結果を待つしかないが、現時点で言えることは、アメリカにとって犯人はISであるほうがよく、ロシアにとって犯人はウクライナであるほうがいい。そして、ロシアの捜査当局は犯罪者たちがウクライナでコンタクトをとっていたとしており、ISが主犯だった場合でもウクライナの関与が疑われることになる。
さきほどのプーチン大統領のナチス発言と、ウクライナの非ナチ化というプーチン大統領が掲げる侵攻目的を考えれば、今後、停戦交渉どころか、ゼレンスキー政権の打倒という具体的な目的が掲げられる可能性も出てくるだろう。
●金正恩氏、ロシアに見舞い電 モスクワでの襲撃事件受け 3/25
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記が、モスクワ近郊で起きたコンサート会場での襲撃事件を受け、ロシアのプーチン大統領に見舞い電を送ったことがわかった。北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が24日、伝えた。
KCNAによれば、金氏は、モスクワで起きた大規模なテロ攻撃によって多くの犠牲者が出たとの報道を受け、プーチン氏やロシア国民、犠牲者とその家族に深い哀悼の意を示した。
金氏はまた、北朝鮮があらゆる種類のテロに反対し、人命を脅かす凶悪なテロを正当化できるものは何もないと述べた。
●ISのテロで130人が死亡…プーチン氏はウクライナ背後説を主張 3/25 
ロシアのウラジーミル・プーチン氏の大統領5選成功直後、モスクワで超大型テロが発生した。
23日(現地時間)、タス通信・CNNなどによると、ロシア連邦保安局(FSB)は前日にモスクワ北西部クラスノゴルスクのクロッカス市庁舎の公演会場で銃器を乱射して爆発物を爆発させた容疑者4人ら関連者11人全員を検挙した。死亡者は子ども3人を含め130人超える。負傷者120人余りのうち44人が重傷だという。今回のテロは2004年9月チェチェン反乱軍がロシア南部ベスラン小学校を占領してロシア軍と対立し、人質334人とテロ犯31人が死亡して以降、最悪の事件となった。
容疑者は22日夜、モスクワから南西に340キロ離れたブリャンスクで警察の停止命令に従わずに逃走したが検挙された。彼らが乗った白のルノー車両からマカロフ拳銃をはじめAK−47小銃改良型のAKM突撃小銃弾倉、タジキスタンのパスポートなどが見つかった。ロシア国営放送RTによると、1988年生まれだと明らかにしたある容疑者はテレグラムを通じて誰かの指示を受け、テロの対価として50万ルーブル(約82万円)を受け取ることになっていたと主張した。
22日のテロはロシアのロックバンド「ピクニック」の公演に集まった観客を狙った。客席6200席は完売した状態だった。ロイター通信によると、テロ犯は防弾チョッキを着て午後7時40分ごろルノー車両に乗り込み公演会場近くに到着した。4人のテロ犯は公演開始5分前に出入口に乱入して無差別銃撃を始めた。ガラスの出入り口が割れて扉の前を通行していた人々が倒れた。続いて公演会場中に入って観客を照準射撃した。生存者のアナスタシア・ロディオノワさんはロイター通信に「テロ犯は沈黙の中で体系的に銃殺していった」としながら「冷静にただ一人ひとり殺していった」と話した。パニックに陥った数千人の観客が一度に出口に集まり生き地獄に変わった。一部の観客は死体を踏み越えて逃げた。
テロ犯は公演会場のカーテンや椅子などに引火性物質をまいた後、手榴弾と白リン弾を投擲した。建物はあっという間に巨大な炎に包まれた。死亡者の一部は火災による有毒な煙を吸い込んで亡くなった。公演会場の2階が全焼し、屋根の一部が崩壊した。
イスラム極端主義武装勢力のイスラム国(IS)のアフガニスタン支部イスラム国ホラサン州(ISIS−K)は22日、テレグラムを通じた声明で「(IS戦闘員が)攻撃を加えて数百人を殺して負傷させた」と明らかにした。最近数年間にわたってプーチン大統領を批判してきたISIS−Kは今年1月、イラン革命防衛隊傘下コッズ部隊司令官だったソレイマニ氏の4周忌追悼式の爆弾テロによって80人余りを殺害するなど数件のテロを起こしている。しかしプーチン大統領は23日の演説で「彼らはウクライナ方面に逃走したが、初期情報によると、ウクライナ側の国境を越えることができる窓口が用意されていたという」とし、ウクライナ背後説を示唆した。
ISは23日、自分たちが運営する通信社アマクを通じて犯行映像の一部を公開した。動画によるとテロリストが観客を1カ所に追い詰めて銃撃を加えるために非常階段に火を付けるなど緻密に犯行を計画した情況が明らかになった。これに対してホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のエイドリアン・ワトソン報道官は「今回の攻撃に対する全面的な責任はISISにある」と話した。ワトソン報道官は「米政府は今月初めにモスクワでテロリストの攻撃計画に関する情報を入手してロシア当局と共有した」と明らかにした。プーチン大統領は米国の警告に関連して大統領選挙直後、「ロシア社会を脅し、不安定にさせようとする狙いで作られた明白な脅迫」と受け返していた。ウクライナのゼレンスキー大統領は「プーチンと他の人間くずたちが他人に責任を転嫁しようとしている」と批判した。
国連安全保障理事会、米国・英国・フランス・ドイツ・韓国などはテロを糾弾し、慰労のメッセージを伝えた。北朝鮮の金正恩国務委員長と中国の習近平国家主席もプーチン大統領に慰労の電文を送った。韓国人被害者は報告されていない。
●「イスラム国」が犯したテロなのに…ウクライナに銃を向けるプーチン大統領 3/25
少なくとも280人余りの死傷者を出したロシア・モスクワのコンサートホールでの銃乱射テロは、ウラジーミル・プーチン大統領が実権を握った1999年以来、ロシアで発生した最も悲劇的な事件の一つとして記録される見通しだ。テロ発生直後、イスラム教スンニ派の過激派武装勢力のイスラム国(IS)の分派「イスラム国ホラサン州」が、自らの犯行だと発表したにもかかわらず、ロシア政府がウクライナ連携説に触れたことで、ウクライナ戦争の行方にも影響を及ぼすものとみられる。
22日(現地時間)金曜日夕方、モスクワ州近郊のクラスノゴルスクのコンサートホール「クロッカス・シティ・ホール」で、ロックグループ「ピクニック」のコンサートを見るために集まった6200人余りを対象にした残酷なテロが発生し、少なくとも133人が死亡し150人余りが負傷したと、ロシアのタス通信が24日付で報道した。ロシアの調査委員会は、モスクワから南西に約300キロメートル離れた国境地域のブリャンスクで、主要容疑者4人を検挙するなど、容疑者11人を捕らえて調査していると明らかにした。主要容疑者らの逃走車からは、サイガ狩り用の小銃、マカロフ拳銃、カラシニコフ突撃小銃や弾倉、タジキスタンのパスポートなどが見つかった。ロシア国営放送「RT」が公開した尋問映像によると、ある容疑者は事件直後の実況見分で50万ルーブル(約80万円)を受け取ることを約束して犯行を行っており、事件後に100万ルーブル(約160万円)をさらに提案されたと供述した。捜査当局は容疑者らの国籍は明らかにせず、いずれもロシアの市民権を持っていないという事実だけを確認した。
事件直後、イスラム国ホラサン州はテレグラムを通じて「(我々が)モスクワ近郊で開かれた大型のイベントを攻撃した」と明らかにした。ロシアは2015年、シリア内戦への介入などで、イスラム国の主要攻撃対象国に挙げられてきた。しかしプーチン大統領はテロ発生から19時間後の23日午後に行った国民向け演説で、イスラム国については言及せず、「彼らはウクライナ方向に逃走したが、初期情報によればウクライナ側に国境を越えられる窓口が用意されていたという」とし、「ウクライナ背後説」を前面に押し出した。ロシア連邦保安局(FSB)も「容疑者らがロシアとウクライナの国境を越えようとした。ウクライナ側と関連接触をした」と主張し、ロシア下院のレオニード・スルツキー国際関係委員長は「残酷なキーウ政権がテロリストを雇用したと信じるに足る理由がある」と話した。 これに対しウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「モスクワで起きたことでプーチン大統領などクズたちはすべて人のせいにしようとする」として、(関与説を)強く否定した。今月初め、ロシア側にテロの可能性を伝えたと明らかにした米情報当局も、「ウクライナは全く関与していない」(エイドリアン・ワトソン米国家安全保障会議報道官)と強調した。
ロシアは、今回の事件を3年目に入ったウクライナ侵攻戦争で攻撃を強化するための口実に利用する可能性が高い。ロシアは24日、ウクライナの首都キーウと西部の都市リビウにミサイル数十発を発射した。米CNNは「(プーチン大統領は)この瞬間を利用してウクライナ戦争を自国民の安全に対するより強く差し迫った脅威として正当化するだろう」と報じた。
このようなウクライナ非難には、ウクライナ戦争に没頭するあまり、内部の対テロ活動への対策がおろそかになったとしてプーチン大統領の責任を問う声の拡散を防ごうとする意図もあるようだ。米ハーバード大学デービスセンターのベラ・ミロノワ研究員は英フィナンシャルタイムズに、イスラム国ホラサン州がモスクワを攻撃した理由は「目標物にしやすかったため」だと指摘した。
米紙ニューヨークタイムズは、大統領選挙(3月15〜17日)で5期目の当選を果たし、「30年政権」を確定してから1週間も経たないうちに発生したテロ攻撃が、プーチン大統領にとって悪材料として働くとみている。ロシアの政治学者、アレクサンドル・キネフ氏は「選挙では自信のある勝利を見せたが、突然このような屈辱に遭った」とし、「プーチンが前面に掲げたのが『秩序の復元』だったため、ロシア人は衝撃に包まれた」と語った。ただし、プーチン大統領が2000年以降の大型テロをむしろ内部掌握の機会にしてきたため、今回も同様の方向に動き、内部での批判を防ぐ可能性が高い。
●ウクライナ侵攻で加速?プーチン氏のゆがんだジェンダー観 母性と出産を賛美 3/25
ロシア大統領選は現職プーチン氏の「圧勝」で終わったが、そもそも野党勢力が立候補すらできないなど、その正統性には疑問符がつく形になった。ロシア国内でも反発の動きは相次ぎ、投票日には抗議活動が起きたが、その中にはフェミニストの女性たちの姿もあった。彼女たちが身を危険にさらしながら「街頭」へと繰り出したのはなぜなのか。背景には、ウクライナ侵攻で加速するプーチン政権のゆがんだジェンダー観があるようだ。
プーチン氏「母性は女性の使命」
「子供を育てる大変さは、基本的に女性が担うもの。男性の役割も極めて大事だが……」
プーチン大統領は選挙戦の「地方遊説」の初日、極東のチュコト地方でこう述べ、6人の子を持つ女性と面会した。ロシア有力紙ベドモスチ(1月11日)によると、この女性から「子だくさんの親に社会保障費がほしい」と要望されたが、それに対する答えがこの発言だった。
こうした言葉遣いに潜むのは、女性を「産む性」とみる価値観だ。ロシア生まれの米国人女性歴史家、アナスターシャ・エデル氏は次のように指摘する(米外交誌「フォーリン・ポリシー」、1月20日)。
「中絶の規制が拡大したため、ロシアの女性はキャリアを築くことよりも、母になる道を選ばざるをえない状況が強まった。彼女らは将来の兵士を育て、教育するというタスクを担うようになる」
「そして、そうした役割を担う女性を守護しようと、プーチン支持者のロシア正教会が『伝統的家族観』を称え、『家庭の面倒をみる』女性を祝福するようになった」
「伝統的家族」とは何か。プーチン氏は「子だくさんが伝統だった」と、次のように述べた。
「ロシアで祖母たち(の世代)は、子供を7、8人、あるいはもっとたくさん産んだ。大家族が、ロシア人の生活様式の基本になるべきだ」(インドのメディアNDTV、昨年11月末)
3月8日の「国際女性デー」はロシアでも伝統的に祝われており、プーチン大統領も毎年、祝辞を述べている。世界的にはこの日に合わせて、ジェンダー不平等について考えさせるメッセージが相次ぐようになっているが、プーチン大統領は今年の祝辞で、女性に敬意を表しつつも「何よりもまず、女性たちに天から与えられた才は、子供を産むことだ。母性は女性の持つ最良の使命だ」などと発言。ジェンダーや多様性の問題をめぐる世界的な動きに逆行するような姿勢を見せた。
「母性を賛美するプーチン氏の本音はセクシズム(性差別)だ」。ロシアで生まれ育った歴史家エデル氏は、そう指摘する。
同氏によると、プーチン氏はしばしば、公の場でも女性を見下すかのようなセクハラ発言を口にすることがあるという。例えば2006年、強制性交の容疑がかけられた中東の国家元首に対し、プーチン氏は「10人も女性がいるとも思えないが」と述べた。
また、ウクライナへの侵攻を本格化させる直前、ウクライナを念頭に「(俺の)言うことを聞けよ、(俺を)気に入ろうと、気に入らなくとも」とフランス大統領との共同会見の場で述べた。この発言は、1970年代にレニングラード(現サンクトペテルブルク)ではやった戯(ざ)れ歌の歌詞の一部を引用したとされ、女性に乱暴する男性をテーマにした内容だったという。
日本人を標的としたセクシズムの例も、エデル氏は引用する。故・安倍晋三首相も出席した会見の場で、プーチン氏は「チェチェンやダゲスタン(ロシア南部)の出生率は高い。それに比べ、日本人は、自分のエネルギーをどこで放出しているんだい」と、からかいの言葉を発した(2016年)。
フェミニスト団体が反戦運動
こうした風潮にあらがうロシアのフェミニスト組織「フェミニスト・反戦抵抗運動」は、ロシア大統領選の最終日(3月17日)に行動を起こした。
SNSのテレグラムを通じて、女性たちにプーチン氏以外の候補に投票するよう呼びかけた。それは反体制派の活動家で獄中死したナワリヌイ氏のグループが主導した抗議活動に加わる形で進められた。
「フェミニスト・反戦抵抗運動」は2022年2月に始まった。ウクライナ侵攻開始直後、あるロシア人ジェンダー研究者が国内約45のフェミニスト団体に結集を呼びかけたのがきっかけだ。SNSで拡散した「決意表明」は次のとおりだった。
「戦争は、ジェンダーの不平等を強め、達成されてきた人権を損ないかねない。あらゆる女性が性暴力に遭遇する危険が、何倍も高まってしまう」
「(プーチン氏の)価値観の根底には...女性の生き方や自己決定や活動が、家父長制に収まらないという人間(女性)への敵意がある。隣国(ウクライナ)にゆがんだ基準とデマゴーグ的な『解放』を押し付けようとの欲望や占領政策に、ロシア全土のフェミニストが抵抗すべきだ」
一方、女性による反戦活動も起きている。ウクライナ侵攻に駆り出された兵士たちの帰還を求める母親や妻らのグループ「故郷への道」だ。彼女たちは街頭に繰り出し、「夫を戻して。もう、くたくたです」などと呼びかけている。参加者たちは白いスカーフをかぶっており、南米のフェミニズム運動をほうふつさせる。
ワシントンポスト紙によると、「故郷への道」はSNSテレグラムの公式チャネルで、プーチン大統領に「戦争をやめなさい。でなければ、あなたが前線に行きなさい」と呼びかけたこともある。
しかし、こうした女性たちに対し、治安機関のロシア連邦保安庁(FSB)が、「あなたの親戚を逮捕する」と脅すなどして、圧力をかけたという。
エデル氏はこうした状況について、「運動に参加する女性たちは、わが子や夫の帰還を求める際でさえも、それを言う前に、戦争に賛成している、と言わせられている」と指摘。その上で「女性たちは今、抵抗するよりも、息子や夫を兵隊にとられないよう、ニセの病気の診断書を医者から(わいろを使い)もらうことのほうに力を注ぐようになっている」と明かした。
●スロバキア大統領選、決選投票へ ロシア融和姿勢の政権の評価焦点 3/25
中欧スロバキアの大統領選が23日に行われた。主要野党が推すコルチョク元外相(59)が得票率42・5%でトップに立ち、フィツォ首相を支えるペレグリニ元首相(48)が37・0%で続いた。投票率は約52%。当選に必要な有権者の過半数の得票には届かず、2人による決選投票が4月6日に行われる。
9人が立候補した選挙では、昨年10月に発足したフィツォ政権への評価が焦点になった。ロシアに融和的なフィツォ政権はウクライナへの武器供与を停止し、停戦交渉を求めている。汚職などを捜査する特別検察官事務所の廃止を決めたほか、公共メディアへの影響力を強める改革を進めようとしており、法の支配や民主化の後退への懸念が出ている。
●ウクライナ、「戦争支援企業」リストを廃止 中国などの反発受け 3/25
ウクライナは22日、ロシアでの事業を通じて間接的に戦争を支援しているとして主要企業約50社を掲載していた「戦争支援企業」リストを廃止したと発表した。オーストリアや中国などの反発を受けた対応。
ロシアとの戦争で国際的な支援の継続を望む中、リストを巡る批判に屈した形だ。
リストを巡っては独断的で主観的との批判がある一方、ロシアに対する産業界の忠誠心を明らかにするものだとして支持する向きもあった。
リストの廃止で、関連ウェブサイトの一連の情報も削除された。
市民団体「B4ウクライナ」はリスト廃止に失望の意を表し、大方の政府はロシアとの関係を断つよう企業に圧力をほとんどかけてこなかったと指摘した。
リスト廃止に至るまでの協議に詳しい関係者によると、自国企業が掲載されたことに反発する国々から協調的な圧力があったという。
ある関係者は「中国だけではない」と語り、フランスも圧力をかけたと明らかにした。
別の関係者は圧力をかけた国としてオーストリア、中国、フランス、ハンガリーを挙げた。
●欧州極右政党、移民政策で強硬姿勢打ち出す ローマで会合 3/25
欧州の極右政党各党が23日、イタリアのローマで会合を開き、欧州大陸への移民を抑制し、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長の2期目続投に反対する方針を表明した。
各世論調査では6月の欧州議会選挙で民族主義政党や極右政党が躍進する可能性が高いことが示されている。
イタリアの同盟、フランスの国民連合(RN)、オーストリアの自由党(FPO)、ポルトガルのシェーガなどが会合に参加。極右系の会派「アイデンティティーと民主主義」(ID)は現在、欧州議会で6番目の勢力だが、世論調査では支持率で4番目に上昇している。
同盟を率いるイタリアのサルビーニ副首相は「国境を守らない国、境界を守らないEUは市民に対して殺人を犯している」と強調した。
一方、ロシアのウクライナ侵攻を巡ってはIDの政党間で明確な見解の一致はみられていない。
IDは昨年12月に続き会合を開いたが、独政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は主要メンバーに人種差別の疑いが浮上しているため、今回招待されなかった。
●デンマーク海運マースク、EUの艦船派遣でも引き続き紅海迂回 3/25
デンマークの海運大手マースク(MAERSKb.CO), opens new tabは22日、紅海海域は欧州連合(EU)が安全回復の取り組みを行っているが、引き続き危険が高く、同海域の航行再開は時期尚早との認識を示した。
マースクはウェブサイトに掲載した声明で、他の海運会社が紅海の航行を継続したり、航行再開計画を発表したりしているのは認識しているが、「当社は現状では同様の決断を下せない。現時点では、喜望峰経由のルートが最も合理的な解決策であり、サプライチェーン(供給網)の安定を確保できる方法だ」と説明した。
マースクは1月5日、紅海を迂回し喜望峰を回るルートへと航路を切り替えた。
EUは2月、紅海航路をイエメンの親イラン武装組織フーシ派によるドローンやミサイルによる攻撃から守るために艦船の派遣を開始した。
●ウクライナ軍、ロシア大型揚陸艦2隻を攻撃 クリミア 3/25
ウクライナ軍は24日、ロシアが支配するウクライナ南部クリミア(Crimea)半島でロシアの揚陸艦2隻を攻撃したと発表した。
ウクライナの戦略コミュニケーション・情報セキュリティーセンターは、「揚陸艦『ヤマル(Yamal)』『アゾフ(Azov)』と通信センター、黒海艦隊のインフラ施設に対する攻撃を行い、成功した」と主張している。
現地当局者は攻撃について、23日夜に大規模なウクライナ軍の空爆があったが、多くを迎撃したと述べた。クリミアの当局者は、2014年にロシアに併合されて以降は同国政府に任命されている。
同当局者によると、攻撃により65歳の男性1人が死亡した他、4人が負傷した。ロシア艦が攻撃されたことには言及しなかった。
SNSに投稿された映像では、クリミア市内で大きな爆発が起き、炎と黒煙が立ち上る様子が確認できる。また、ロシア軍の防空システムによって迎撃される、ミサイルとみられる複数の飛翔体も捉えられている。
一方ウクライナ当局は、24日早朝に首都キーウと西部リビウ(Lviv)州に対する「大規模」な攻撃があったと発表した。犠牲者は報告されていない。
発表によると、巡行ミサイル29発、無人機28機による大規模攻撃で、ミサイル18発、無人機25機を撃破したとしている。
●トランプ氏は欧州への刺激 「露崩壊」恐れるな ウクライナシンクタンク国際部長 3/25
ウクライナの有力シンクタンク「ラズムコフ・センター」国際部長のアレクセイ・メリニク氏(61)が産経新聞の取材に応じ、ウクライナを取り巻く国際情勢について語った。11月の米大統領選で「米国第一」のトランプ前大統領が返り咲くかもしれないことは「欧州諸国が真剣に安全保障を考えるための刺激になる」と指摘。バイデン現大統領についてはウクライナ支援が後手に回ったと批判的に評し、ロシアの敗北や崩壊を恐れるべきではないと強調した。
小出しで遅い支援
――米議会では昨年来、野党・共和党の反対でウクライナ支援の予算が通らない。トランプ氏が大統領選で当選する可能性もある
「状況は望ましいものではないが、禍福はあざなえる縄のごとしだ。米国の優先事項からウクライナが消えたときにどうするかを考えさせる冷水シャワーの効果がある。欧州諸国がトランプ氏の(前政権期の同盟軽視の)言動を思い出し、もっと成熟して真剣に自分の安全について考えるための大きな刺激だ」
「欧州連合(EU)首脳会議は(親露の)オルバン・ハンガリー首相の反対を克服して(2月1日に)ウクライナ支援の予算を承認した。意志が大事、なせば成るということだ。ドイツのこの2年間の(安保重視への)進化も驚くべきものだ。欧州諸国は安保のリーダーシップを引き受ける覚悟を示した」
――バイデン政権をどう評価するか
「バイデン政権の重点は1ウクライナを負けさせないこと2紛争を北大西洋条約機構(NATO)に拡大させないこと3プーチン(露大統領)に核兵器を使わせないことだ」
「1に関し、米国の全ての支援に感謝するが、それは不十分だった。いつも小出しで、しかも遅れた。ウクライナを負けさせないようにすると同時に、ロシアを負けさせないようにと考えたからだ。しかし、この2つがどうしたら両立するのかが私には理解できない。共和党がバイデンに要求したのは、戦争の(明快な)プランを示すこと、ウクライナ支援の結果としてどんな目的を達成するのかを示すことだ」
「2についてだが、紛争をNATOに拡大させないためには、ロシアを軍事的・経済的に弱体化させることが必要だ。そうすれば、ロシアの脅威はなくならないにせよ、力を蓄えるのに数年はかかる」
惰性での前進
――プーチン氏にとってウクライナは特別な意味を持つため、彼はウクライナ領を得れば止まるという見方もある
「ロシアがウクライナを獲得した場合、戦争マシンは惰性で欧州諸国へと前進する恐れがある。プーチンは自信だけでなく巨大な人的資源を手に入れるからだ。すでに占領地で起きていることをわれわれは知っている。この2年間、露軍で最も高い比率で死傷者が出たのは東部ドネツク、ルガンスク両州の露占領地で動員され、戦線に送られた人々だ。彼らの大半は戦いたくなどなかったが、占領地の男性に選択肢は多くない」
――3の核の脅威に絡み、西側には「弱いロシア」を恐れる意見がある
「バイデン政権が恐れているのは、プーチンが追い込まれて権力を失いそうになったとき、核兵器使用に訴えることだ。だが、(米国は)クリミア半島やクリミア橋の攻撃はだめ、露本土攻撃はだめだとレッドライン(越えてはならない一線)を引いてきたのに、実際は何も起きなかった」
「ロシアが解体・分裂状態になれば、(露南部チェチェン共和国の首長)カディロフや(民間軍事会社ワグネルを率いた)プリゴジン、(ウクライナ東部紛争で役割を果たした元情報機関員)ストレルコフのような者の手に核兵器が渡るのではという危惧もある。しかし、(国際社会は)ソ連崩壊を経験しており、この問題は何とかできる」
「抗議の破裂」どこでも
――ロシア崩壊の可能性は
「西側が理解していない重要な点は、西側が何もしなくてもロシアは崩壊する可能性があるということだ。英国のサッチャー元首相が著書『ステートクラフト』(2002年)で記していることだが、米英や他の国々はソ連を崩壊から救おうと試みた。(1991年8月に)ブッシュ米大統領(父)がウクライナ議会で演説し、ソ連から離脱しないよう説いたのが一例だ。しかし、ソ連崩壊のプロセスを止めることは不可能だったとサッチャーは結論づけている」
「今日のロシアも同じだ。プーチンはウクライナ侵略戦争を始めたことで墓穴を掘った。西側の指導者たちが崩壊を避けようとしても、それは彼らの意思にかかわらず起きうる。この事実を恐れるべきではなく、シナリオの一つとして認めるべきだ。全ての権威主義と独裁の体制は、崩壊する瞬間まできわめて安定し、強固なのだ」
「映画『戦艦ポチョムキン』(1925年)に水兵たちがボルシチを食べる場面がある。悪い前兆など何もなかったのだが、水兵の誰かが肉の中にうじ虫を見つけ、そこから容赦ない反乱が始まった。いつもの光景が突如として破裂につながるということだ。ルーマニアのチャウシェスク共産党書記長の結末(89年12月)もそうだった。今日のロシアでも、抗議の破裂がどこで起きてもおかしくない」
――ウクライナ侵略戦争の教訓は
「この戦争の教訓は必ずシステム化し、メカニズムの変更につなげねばならない。第1に必要なのは、侵略者を事前に抑止するメカニズムだ。世界レベルの国連でも、地域組織や同盟のレベルでも。侵略を始めない方がはるかに得だというメッセージを明確に送れないといけない。第2に、仮に侵略が始まってしまった場合に、できるだけ早い段階で止める手段が必要だ。第3は、侵略者の処罰、正義の回復ということだ。国家レベルでは、長期的な集団安全保障の仕組みをつくっておかなくてはならない」
●ドローン攻撃、電力施設などに被害広がる 3/25
ウクライナ軍南部作戦管区によると、同国南部ミコライウ州やオデーサ州で24日深夜から25日未明にかけて、ロシア軍によるドローン(無人機)攻撃があり、電力施設や住宅などに被害が広がった。ミコライウ州では電力施設が炎上。州都ミコライウでは撃墜されたドローンの残骸で2階建て住宅が破壊された。オデーサ州のキペル知事は州都オデーサで電力供給が止まったとSNSに投稿した。
同管区によると、ロシア軍はドローン攻撃の直前に黒海上空からウクライナ軍の防空システムを狙ってミサイルを発射したが、オデーサ州上空でウクライナ軍によって無力化されたという。
「夏には深刻な電力不足に陥る可能性」
ウクライナ最大の民間電力会社「DTEK」幹部は24日夜、ウクライナのテレビ番組で、ロシア軍による22日のミサイルとドローン(無人航空機)による攻撃で同社が持つ発電能力の50%が失われたと述べた。ニュースメディア「ウクライナ・プラウダ」が伝えた。この幹部は、国営送電会社「ウクルエネルゴ」の送電設備も各地で大きな被害を受けたと指摘、「夏には深刻な電力不足に陥る可能性がある」と語った。
ロシア軍は22日、ウクライナ各地の電力施設を攻撃。ウクライナ最大の中南部ドニプロ水力発電所は1日で8回ミサイル攻撃を受け、発電が止まった。北東部ハリキウ州ではすべての変電所が破壊されたという。
●ロシアが10万人の兵力準備とウクライナ司令官、今夏に攻勢も 3/25
ウクライナのパブリュク陸軍司令官は22日、ロシアが10万人の兵力を準備しているとし、今夏にウクライナでの新たな攻勢か部隊の補充に充てる可能性があるとの見方を示した。
「攻勢を仕掛けるとは限らない。おそらく戦闘能力を失った部隊を補充するだろう。だが、初夏に攻撃作戦を実施する幾らかの部隊を持つ可能性がある」と述べた。
ロシア国防相は20日、今年末までに2つの軍と30の編隊を新設することで軍備を増強すると表明していた。
●モスクワ襲撃事件、容疑者4人勾留 タジキスタン出身の10〜30代 3/25
モスクワ郊外のコンサート会場で多数の死傷者が出た襲撃事件で、モスクワの裁判所は24日夜、実行犯とされる容疑者4人の逮捕、勾留を認めた。地元メディアによると4人は10〜30代で、全員が中央アジアの旧ソ連構成国タジキスタンの出身という。
ロシア当局は事件直後、実行犯4人を含む容疑者11人を事件に関与した疑いで拘束したと発表。テロの容疑で捜査を進めていた。裁判所は容疑者ら4人について、いずれも5月22日までの勾留を認めたという。裁判で有罪となれば、最大で終身刑が言い渡される。
裁判所に出廷した容疑者らの顔は腫れ上がり、目の周りにはあざのようなあとがみられた。SNS上では、容疑者らが治安機関の職員に拷問を受けた様子とされる写真や動画も出回っている。
襲撃事件は過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。熱心なイスラム教徒の多いタジキスタンではかつて、ISによる戦闘員の勧誘が盛んに行われていたとされる。
●ロシアとウクライナ 双方がエネルギー施設へ攻撃 攻防激しく 3/25
ロシアによるウクライナへの侵攻から24日で2年と1か月となり長期化する中、ロシアとウクライナの双方がエネルギー施設に対する攻撃を行い、攻防が激しくなっています。
ウクライナ空軍は24日、ロシア軍が合わせて57にのぼる巡航ミサイルや無人機などを使ってウクライナ各地に大規模な攻撃をしかけ、このうち43のミサイルなどを撃墜したと発表しました。
西部リビウ州では、ロシア側が極超音速ミサイルだとするキンジャール2発がエネルギー関連施設に着弾し火災が発生したということでロシア国防省は「電力施設やガス産業などに集中的な攻撃を行った」と発表しました。
一方、ロシアの独立系メディアは23日、ロシア中部のサマラ州にある製油所が無人機による攻撃を受けて損傷し、操業を停止したと伝えました。
ウクライナ側は最近、ロシアに対抗するため石油関連施設などを狙った無人機による攻撃を続けているとみられ、双方のエネルギー施設への攻防が激しくなっています。
イギリス国防省は23日「最近の攻撃でロシアの石油精製能力の少なくとも10%が破壊された可能性が高い。大規模な修復は時間や費用がかかり、制裁による影響も増している」と指摘し、ロシアのエネルギー生産に打撃を与えていると分析しています。
ロシアの侵攻開始から2年と1か月となった24日、ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSで「760日間にわたる全面戦争だ。ロシアはこの戦争に負けなければならない。それだけが命を確実に守る方法だ」と述べ、徹底抗戦を呼びかけました。 
●ロシアがミサイル・無人機攻撃でハルキウの火力発電所と全変電所破壊…水力発電所やガス貯蔵施設も被害 3/25
ウクライナの英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」によると、東部ハルキウ市の市長は24日の国営テレビで、ロシア軍によるミサイルと無人機の攻撃で火力発電所と全ての変電所が破壊されたと明らかにした。露軍はエネルギー施設への攻撃を強化しており、市民生活に影響が出ている。
ハルキウ市長は「最も厳しいエネルギー環境を経験している」と述べ、停電が解消したのは市民の4割程度にとどまると語った。
露軍は22日、南部ザポリージャ州にあるドニプロ川の水力発電所にも損傷を与え、100万人以上が停電の被害にあった。西部リビウでも24日に地下ガス貯蔵施設が被害を受けている。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日のビデオ演説で、露軍が過去1週間で約190発のミサイルと約140機の無人機、約700発の誘導弾で攻撃を繰り返したと非難した。
●「犯行証拠」ISが次々公開 モスクワテロ関与、信ぴょう性高まる 3/25
ロシアのモスクワ近郊で22日に起きたテロ事件で、プーチン露政権がウクライナ関与説を打ち出した一方、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)は犯行場面とみられる動画などを矢継ぎ早に公開した。ウクライナ侵攻を続けるロシアがテロを「政治利用」する恐れも指摘される中、IS犯行説の信ぴょう性が高まっている。
「アラー・アクバル(神は偉大なり)」。IS系列のニュースサイト「アーマク通信」が23日公開した動画で戦闘員はこう勝ち誇った。動画はテロ実行犯の一人が撮影したとみられ、銃を乱射したり、倒れた男性の首をナイフで切りつけたりする様子が至近距離から撮影されている。戦闘員の顔にはぼかしが入り、音声も加工されて不明瞭だが、アラビア語の字幕によると「やつらを殺せ。慈悲は無用だ」などと叫んでいる。
毎日新聞が簡易的に分析したところ、動画に映るロビーの柱や床のデザインは、グーグルマップの「ストリートビュー」で確認できる事件現場のコンサートホールと一致した。動画は実際の犯行時に撮影された可能性が高いと言える。
ウクライナ侵攻に利用する露
露当局は11人を拘束し、実行犯とされる4人を24日にテロの罪で起訴した。プーチン大統領は23日、「犯人はウクライナへと逃げていた」などと語り、ウクライナ関与説をほのめかした。さらに、同国のゼレンスキー政権を「ネオナチ」と呼んで敵視するのと重ねるように、今回のテロ実行犯を「かつてのナチスさながらだ」と非難した。
だが、米政府は23日、ISの関与を断定。ウクライナ側も一貫して否定する。ロイター通信は「ISの犯行声明は信ぴょう性がある」との専門家の見方を報じている。プーチン氏がウクライナの関与を示唆した背景には、ウクライナ侵攻への国民の支持を高めるなどの思惑がありそうだ。
今回の事件に先立ち、タス通信は7日、露連邦保安庁が、ISの分派「ISホラサン州」によるモスクワのユダヤ教礼拝所襲撃計画を阻止したと報道。在ロシア米大使館は同日、過激派組織による大規模イベント襲撃の恐れを警告していた。また、今回の事件はイスラム教のラマダン(断食月)の金曜日に発生しており、イスラム過激派によるテロの懸念が最も強まるタイミングでもあった。
●ロシア、エネルギー施設攻撃 ウクライナ大手の生産半減 3/25
ウクライナ軍は25日、南部オデッサ州とミコライウ州にロシア軍の無人機攻撃があり、エネルギー施設が被害を受けたと明らかにした。ロシア軍は22日に侵攻後最大規模とされるエネルギー施設攻撃を行い、ロイター通信によると、ウクライナのエネルギー最大手DTEKは電力生産能力の半分を失った。輸出を停止し、輸入を増やしたという。
オデッサ州では停電が発生し、交通機関が一部停止した。ウクライナ国営石油・ガス会社ナフトガスによると、24日には西部の地下ガス貯蔵施設が攻撃を受けたが、供給に影響はないという。

 

●「ウクライナ側の関与、強調を」銃乱射テロでロシア政府が国営メディアに指示か プーチン氏“ウクライナ関与”示唆 「イスラム国」が犯行声明も… 3/26
137人が死亡したロシアでの銃乱射テロ事件。「イスラム国」が犯行声明を出していますが、プーチン大統領はウクライナの関与を示唆し、ロシア国営メディアも「犯行声明の真偽は疑わしい」と同調して報じています。独立系メディアは、国営メディア関係者の話として「ウクライナ側の関与を示す痕跡を強調して報じるよう、クレムリンから指示があった」と伝えています。
モスクワ 銃乱射テロ 死者137人 悲鳴上がる現場で何が?
銃声が響くコンサートホール。22日の夜、モスクワ郊外で起きた銃乱射テロ事件。
観客「火が放たれた。ホールが燃えています」
逃げ惑う人からは悲鳴が…
6200席のホールはほぼ満席で、コンサートが始まる直前、わずか18分の間に起きた惨事でした。
建物に侵入した武装グループはその場にいた人に向け発砲。ホールの入り口でも発砲し、火花が飛び散ります。
さらに…ホールの中でも無差別に銃を乱射。映像からは実行犯とみられる4人の姿が確認できます。
ロシア当局によりますと、これまでに137人が死亡、182人が負傷をしたとしています。
現場にいた人「犯人たちは出口に立っていて人々を撃ち始めました。私は床に倒れて死んだふりをした。近くにいた女性は殺されました」
プーチン氏「ウクライナ関与」示唆 「イスラム国」動画公開も…
24日を「追悼の日」と定めたロシア。現場には多くの花が…
プーチン大統領も教会で追悼の意を示しました。
ロシア プーチン大統領「テロリストの背後にいる者、われわれ国民への攻撃を準備した者、全員を見つけ出して処罰する」
実行犯4人を含む拘束した11人が「ウクライナに逃げようとしていた」と主張。ウクライナ側の関与を示唆しました。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は…
ゼレンスキー大統領「プーチンはロシア国民と向き合い演説する代わりに、1日中沈黙し、事件をどう結びつけるかを考えていた。全ては完全に予測できたことだ」
こうしたなか、ロシアメディアは容疑者として拘束された男の尋問の様子とされる動画を公開。
拘束された男「撃ち殺した」
――誰を?
拘束された男「人々を」
――何のため?
拘束された男「お金のためだ」
――何のため?
拘束された男「約50万ルーブル(約82万円)」
容疑者が圧力を受けて発言した可能性もありますが、約82万円の報酬を約束されて銃撃事件を起こしたということです。
大野慎二郎記者「テロ事件の実行犯らの逮捕の手続きが取られるということで、一帯が封鎖され厳戒態勢が取られています」
ロシア国営・タス通信などによりますと、テロ行為の疑いで拘束されていた実行犯4人全員が逮捕されました。いずれも中央アジアのタジキスタン国籍だということです。
過激派組織「イスラム国」側は実行犯が撮影したものとする映像を公開。
さらに、この事件をめぐっては「イスラム国」が犯行声明を出しています。
ロシアは2015年にシリア内戦に武力介入し、「イスラム国」を攻撃していました。
ロシア国営メディア「イスラム国」の声明「疑わしい」
小川彩佳キャスター: では、事件現場にいるモスクワ支局長の大野さんと中継を結びます。ロシアでは今回の事件はどのように報じられているのでしょうか?
大野慎二郎 モスクワ支局長: 事件が起きたのは私の後ろにあるコンサートホールです。黒い焦げた跡が今も生々しく残っています。そして、建物の前には市民らによって手向けられた花が山のように積みあがっています。
今回、過激派組織「イスラム国」が出した犯行声明についてロシア国営メディアの報道では「真偽が疑わしい」といったトーンが多くを占めています。
プーチン大統領は事件翌日の声明で「イスラム国」には一言も触れず、ウクライナ側の関与を示唆。
独立系メディアは、国営メディア関係者の話として「ウクライナ側の関与を示す痕跡を強調して報じるようクレムリンから国営メディアに指示があった」と伝えています。
侵攻が続く中だけに、今後のウクライナへの攻撃激化も懸念されます。
一方、先の大統領選で圧勝したプーチン氏としては「安定」を売りにしていただけに、事件を防げなかったという声が強まれば政権にとっては打撃となりそうです。
「テロの可能性」米の“事前伝達”にみる情報戦
小川キャスター: 星さんは、今回のテロを巡ってアメリカ側の動きをポイントと見ているんですね。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩氏: そもそもテロがあってから、プーチン大統領の反応が19時間後という点で、危機管理上いろいろ問題があったんですが、アメリカが「テロがありそうですよ」という通告をしてたんですね。それをプーチン大統領は無視していたということもあって、アメリカとロシアの情報収集能力の違いというのを見せつけられたということもあります。
やはり、ロシアの大統領としては「治安を守る」というのが一つの売りですから、今回、「治安」を守れなかった大統領ということで、ロシア国内でじわじわとプーチン大統領の足元が揺れてくる可能性はあると思いますね。
小川キャスター: 一方、プーチン大統領はウクライナ側の関与があると示唆しています。
小説家 真山仁氏: これしか言いようがないですよね、言い訳するとしたら。
アメリカから情報があったとしても、プーチン大統領はそれをどう信じればいいのか、彼からしたら敵ですから。
そういう意味では、情報戦の中の不幸なのか、逆に言うとこれをどうチャンスに生かすのか考え方の転換の早さみたいなことも、いかにもプーチン大統領っぽいですけど、それでこれだけの方が亡くなったというのは、あんまりですよね。
小川キャスター: 137人の方が亡くなっているわけです。
●ロシアはNATOとの全面戦争に備えていて、それは当初想定されていたよりも近い —— 米シンクタンクが報告 3/26
・ロシアは北大西洋条約機構(NATO)との「大規模な」戦争に向けた準備を強化していると、アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)が指摘した。
・ISWによると、ロシアの経済復興に向けた取り組みはウクライナとの戦いのためだけではない。
・ロシアはNATOとの戦争 —— 思ったよりも早く起こるかもしれない —— に備えている可能性があるという。
ロシアのプーチン大統領がロシア経済の復興に力を入れているのは、ウクライナ戦争の資金繰りのためだけではないと戦争研究所(ISW)が指摘した。
「ロシアの金融、経済、軍事に関するいくつかの指標は、ロシアがNATOとの大規模な通常戦争の準備を進めていることを示唆している。差し迫ってはいないが、西側諸国の一部アナリストが当初想定していたよりも短いタイムラインで起きる可能性が高い」とISWは3月20日付のレポートに書いている。
ISWは、プーチン大統領が3月19日に国会の各政党党首と行った会談を引用している。この直前には、プーチン大統領が17日に行われた5回目の大統領選で地滑り的な勝利を収めていた。
19日の会談で、プーチン大統領は5期目となる自身の任期中に注力したい分野について話し合った。最も重要なのは、「人々を救う」ことと「家族を助ける」ことだと大統領は語ったという。
「もちろん、これらはいずれも経済発展に基づいてのみ可能だ」とプーチン大統領は19日に話した。
「これは我が国の発展にとって重要な問題だ。技術的主権と社会発展に関するその他全ての問題が解決されなければならない」
プーチン大統領はまた、ロシアの裕福なエリート層を攻撃し、議員たちに「企業や政党の利益」に誘導されないよう呼びかけた。
ISWによると、プーチン大統領の発言は自身の政治基盤の一部で、裕福な元治安関係者「シロビキ」との関係を危険にさらす意思があることを示唆している。これはロシアのエリート層に対して、国の財政安定のためには彼らも「多少の痛み」を感じなければならないというプーチン大統領の"シグナル"なのだろうとISWは指摘している。
「ロシアの経済と財政を安定させるための条件を整えようとするプーチン大統領の試みは、ウクライナでの長引く戦争だけでなく、将来起こりうるNATOとの大規模な紛争に向けたロシアの財政的、国内的準備の一環である可能性が高い」とISWは20日付のレポートに書いている。
ロシアとNATOとの戦争が迫っているとアナリストが指摘するのは、これが初めてではない。
エストニアの情報機関は2月、ロシアが「西側諸国との対決」に備えていると報告している。
ロイターによると、「ロシアは長期的な対決の道を選んだ」と同機関を率いるカウポ・ロジン(Kaupo Rosin)氏は報道陣に語った。
報告書には「クレムリンは恐らく、今後10年以内にNATOと衝突する可能性を予測している」とある。
●プーチン氏、イスラム過激派の犯行と認識 「依頼は誰か」 3/26
ウクライナ最大の民間電力会社「DTEK」幹部は24日夜、ウクライナのテレビ番組で、ロシア軍による22日のミサイルとドローン(無人機)による攻撃で同社が持つ発電能力の50%が失われたと述べました。国営送電会社「ウクルエネルゴ」の送電設備も各地で大きな被害を受けたと指摘し「夏には深刻な電力不足に陥る可能性がある」と語りました。
また、ウクライナ軍南部作戦管区によると、同国南部ミコライウ州やオデーサ州で24日深夜から25日未明にかけて、ロシア軍によるドローン攻撃があり、電力施設や住宅などに被害が広がりました。ミコライウ州では電力施設が炎上しました。
プーチン氏「犯行はイスラム過激派によるもの」
130人以上が死亡したモスクワ郊外のコンサート会場への襲撃事件で、ロシアのプーチン大統領は25日、犯行が「イスラム過激派」によるものとの認識を初めて示した。一方で、ウクライナが事件に関わったとの見方は維持した。ウクライナ側は否定している。
事件をめぐっては過激派組織「イスラム国」(IS)が襲撃時の様子とする動画を公開し、米国もISを非難するなどISが実行したとする見方が強まっている。プーチン氏はこれまで実行者について言及を控えていたが、政権幹部らとのビデオ会議の場で、「この犯罪が過激なイスラム主義者によってなされたことは分かっている」と踏み込んだ。
その上で、プーチン氏は「我々が関心があるのは、(犯行を)依頼したのが誰なのかということだ」と述べ、「(ロシアがウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合した)2014年以来、ネオナチのキエフ(キーウ)政権の手によって我が国と戦っている者たちのたくらみの一環に過ぎないかもしれない」と主張した。ロシアの侵攻を受けるウクライナが事件に関与したとの見方を改めて示した格好だ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日夜のビデオ演説で、「(プーチン氏は)この20年間、テロを利用して力を蓄えてきた」と述べ、プーチン氏の主張を否定した。
事件の犠牲者数は治療中だった負傷者2人の死亡が25日までに確認され、計139人に上っている。02:00(イスタンブール25日20:00)
モスクワ襲撃、容疑者らはトルコ経由でモスクワ入りか
ロイター通信は25日、トルコ治安当局関係者の話として、22日にロシアのモスクワ近郊で発生した襲撃事件の実行犯とされる中央アジアのタジキスタン出身の容疑者たちがトルコ経由でモスクワに向かったとみられると報じた。
報道によると、容疑者たちはロシアの滞在許可証を更新するために一時的にトルコに滞在し、容疑者2人は3月2日、トルコを出発しモスクワに向かったという。関係者によると、容疑者たちは長期間モスクワに住んでいたという。
130人以上が死亡した22日の事件をめぐっては、実行犯とされるタジキスタン出身の容疑者4人が逮捕、勾留されている。
●プーチン氏、露銃乱射テロのウクライナ関与説に再び言及 新たに3人起訴 死者139人に 3/26
ロシアの首都モスクワ近郊のコンサート施設で起きた銃乱射テロで、プーチン大統領は25日、治安当局高官らが出席するビデオ会議を開いた。プーチン氏はイスラム過激派が事件を実行したとした上で、「依頼主に関心がある」「(事件で)誰が利益を得たのか。悪行はキエフ政権(ウクライナ)による一連の企ての一環に過ぎないのかもしれない」などと述べ、事件の首謀者としてウクライナを疑う姿勢を改めて示した。
タス通信によると、露捜査当局は25日、実行犯としてテロ罪で既に起訴したタジキスタン国籍の男4人に住居や自動車を提供したとして、新たに男3人を同罪で起訴した。3人はロシアに在住するタジク出身の親子。父親はタジク国籍で、息子2人は露市民権を保持している。息子の一人は容疑を否認しているという。
また、捜査当局は同日、事件の死者数が139人に増えたと発表した。
事件ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、事件現場で実行犯が撮影したとする動画も公開した。一方、ウクライナは事件への関与を否定。米国もウクライナが関与した形跡はないとしている。
しかし、プーチン氏はこの日のビデオ会議で「中東情勢の解決に向けて努力しているロシアをイスラム過激派が攻撃対象とするのは疑わしい」などと発言。「反攻作戦に失敗したキエフ政権が国民にまだ負けていないとアピールするために」事件を組織した可能性があるとも主張した。
プーチン氏は23日にも、実行犯とウクライナの間で「国境通過のための窓口が用意されていた」と主張。ロシアは事件をウクライナに結び付け、国民のウクライナへの敵意をあおると同時に同国の信用を低下させる思惑だとみられる。
●プーチン氏 ウクライナがテロ関与疑いと主張 攻撃激化のおそれ 3/26
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きたテロ事件について、ロシアのプーチン大統領は25日、イスラム過激派が実行したとする一方で、その背景にウクライナ側の関与が疑われると主張しました。ロシア側が、これを口実にウクライナへの攻撃をより激化させるおそれもあるとみられます。
ロシアの首都モスクワ郊外のクラスノゴルスク市にあるコンサートホールで22日起きたテロ事件で、ロシアの連邦捜査委員会は子ども3人を含む139人が死亡し、182人がけがをしたと明らかにしました。
ロシアの当局は容疑者として拘束した11人のうち、実行犯とされる4人をテロに関与した罪で起訴し、25日もテロを支援した罪などで新たに3人を起訴したとしています。
ロシアのプーチン大統領は25日、捜査当局や治安機関のトップなどが参加した安全保障会議を開催し、この中で「この犯罪がイスラム過激派によって実行されたことはわかっている」と述べました。
今回の事件について、過激派組織IS=イスラミックステートとつながりのある「アマーク通信」は、ISの戦闘員による犯行だと伝えていて、プーチン大統領は初めてイスラム過激派による犯行だったと明言しました。
一方、プーチン大統領は「われわれは誰が指示したかに関心がある」としたうえで「これによって誰が利益を得るのか。この残虐行為はロシアと戦ってきたウクライナ側の手による一連の企てと関連しているのかもしれない」と主張しました。
さらに、ウクライナとの国境地帯でロシア側への攻撃が相次いでいることをあげ「モスクワで起きたテロ攻撃のような脅迫行為は、この流れと論理的に合致する」などと述べ、今回のテロにウクライナ側の関与が疑われると主張しました。
ウクライナ側は、これまでテロへの関与を全面的に否定していますが、プーチン大統領は、ウクライナ側が関与したとする主張を一段と強めた形で、これを口実にウクライナへの攻撃をより激化させるおそれもあるとみられます。
●プーチン氏「イスラム過激派」の襲撃認める ウクライナ関与説は維持 3/26
130人以上が死亡したモスクワ郊外のコンサート会場への襲撃事件で、ロシアのプーチン大統領は25日、犯行が「イスラム過激派」によるものとの認識を初めて示した。一方で、ウクライナが事件に関わったとの見方は維持した。ウクライナ側は否定している。
事件をめぐっては過激派組織「イスラム国」(IS)が襲撃時の様子とする動画を公開し、米国もISを非難するなどISが実行したとする見方が強まっている。プーチン氏はこれまで実行者について言及を控えていたが、政権幹部らとのビデオ会議の場で、「この犯罪が過激なイスラム主義者によってなされたことは分かっている」と踏み込んだ。
その上で、プーチン氏は「我々が関心があるのは、(犯行を)依頼したのが誰なのかということだ」と述べ、「(ロシアがウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合した)2014年以来、ネオナチのキエフ(キーウ)政権の手によって我が国と戦っている者たちのたくらみの一環に過ぎないかもしれない」と主張した。ロシアの侵攻を受けるウクライナが事件に関与したとの見方を改めて示した格好だ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日夜のビデオ演説で、「(プーチン氏は)この20年間、テロを利用して力を蓄えてきた」と述べ、プーチン氏の主張を否定した。
事件の犠牲者数は治療中だった負傷者2人の死亡が25日までに確認され、計139人に上っている。
●ロシア、テロ容疑者4人拘禁…プーチンはウクライナ3日連続攻撃 3/26
ロシアのモスクワの公演会場で発生したテロによる死者数が25日(現地時間)137人に増えた中、ロシア当局が逮捕されたテロ容疑者4人を残酷に拷問する姿が入った写真と映像を公開した。
事件直後にイスラム国(IS)が、アフガニスタン支部イスラム国ホラサン州(ISIS−K)の犯行と主張して攻撃当時の映像まで公開したが、ロシアのプーチン大統領はウクライナを背後にいるとみて3日連続で空襲をした。
ロシア国営RIAノーボスチ通信などによると、モスクワのバスマニー地方裁判所は24日、集団テロの容疑を受けるダレルジョン・ミルゾエフ(32)、サイダクラミ・ラチャバリゾダ(30)、シャムシディン・ファリドゥニ(26)、ムハマドソビル・ファイゾフ(19)に対して5月22日まで公判前拘禁処分とすると明らかにした。通信によると、4人のうち3人は容疑を認め、有罪判決が出れば最大で終身刑となる。
4人は尋問の過程で激しい拷問を受けたとみられる。4人とも顔にひどいあざがあり、腫れた状態だった。ある容疑者は車椅子に乗って医療関係者と共に法廷に現れ、別の容疑者は耳に包帯を巻いていた。モスクワタイムズはオンラインに登場した映像にロシア要員が容疑者の耳を切る場面が含まれていたと伝えた。
4人はロシアに居住するタジキスタン国籍者と確認された。ファリドゥニとファイゾフは法廷でモスクワ近隣の工場と理髪店で働いていたと話した。タジキスタンのラフモン大統領はプーチン大統領との電話で「テロリストには国籍も、祖国も、宗教もない」とし、自国民でないと主張した。
ISはこの日、アマーク通信を通じてテロ当時に撮影したとみられる映像を公開した。映像でテロリストはクロックスシティーホールのロビーでコンサートの観客を追いかけながら近距離で銃を乱射した。ある銃撃犯は他の銃撃犯に「やつらを殺せ、慈悲はいらない」と話した。
旧ソ連国家のタジキスタンは親ロ性向が強い。人口約1000万人のうち90%以上がムスリムで、ISの拠点アフガニスタンと国境が接している。ガーディアンはISが昨年からタジキスタンなど中央アジア地域で金銭を対価に組織員を募集するなど勢力を拡大していると報じた。実際、テロ容疑者の一部は尋問で「50万−100万ルーブル(約80万−160万円)を受けることにした」と述べた。
しかし24日を国家哀悼の日と宣言したロシアは連日、ウクライナが背後にいると主張し、23日から25日まで3日連続でウクライナ全域に大規模な空襲を加えた。こうした中、巡航ミサイル1発がポーランド領空を侵犯し、ポーランドの激しい反発を招いた。
海外メディアは警察国家のロシアの監視網が反体制運動やウクライナのスパイ活動に集中してテロへの対応は後回しになり、今回のテロを防げなかったプーチン大統領が国民的な批判を避けるためにウクライナによる犯行にしていると指摘した。ウクライナのゼレンスキー大統領はウォールストリートジャーナル(WSJ)のインタビューで「今ウクライナに投入されている数十万人のロシア人ならいかなるテロもすべて防ぐだろう」と批判した。
●実行はイスラム過激派 ウクライナ黒幕説も唱える―プーチンロ大統領 3/26
ロシアのプーチン大統領は25日、モスクワ郊外のコンサート会場で22日夜に起きた銃乱射事件について「イスラム過激派が実行した」と初めて認めた。ただ「誰が依頼したか」「誰が利益を得るか」と疑問を提起。ロシアが侵攻するウクライナに「黒幕」がいるとの説も唱えた。
事件では過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、系列メディアを通じて実行犯が現場で撮影したとする動画も公開した。
プーチン氏は23日の国民向け声明で、テロを非難した上で、関与した全員を処罰すると約束。実行犯に関してはISと言及せず、ウクライナ側に逃亡を試みたと主張して、同国とのつながりを示唆していた。
25日は閣僚や治安機関幹部と対策会議をオンラインで開催。この中でもプーチン氏は「(ウクライナのゼレンスキー政権は)反転攻勢が失敗し、最も汚い手段を使うことを決してためらわなかった」と述べ、実行犯とつながるイメージを植え付けようとした。
●モスクワテロでプーチンの面目丸つぶれ!?警察治安国家ロシアの失敗はなぜ起きた? 3/26
正しく深刻なテロ事件が起きた。3月22日、モスクワ郊外のコンサートホールで銃撃が発生し、200人以上の死傷者が出た。事件の真相は不明だが、わずか1週間前にプーチン大統領が国民の87%の支持を得て再選されたばかりの出来事だ。
鉄壁のロシアの治安という神話が一つ崩壊したといえる。「ロシア国民は自分に黙ってついて行けば万事大丈夫だ」というプーチン大統領の国民へのメッセージも大きく揺らいだ。 警察治安国家ロシアの信頼が揺らいだと言える。
プーチン圧勝でもなくならない「崩壊論」
ロシア大統領選挙のプーチン圧勝に、欧米からは公正な選挙ではないという批判が相次いだ。選挙の前にプーチン大統領の最大の政敵アレクセイ・ナワリヌイ氏が獄中で急死した。また反戦を掲げて立候補したボリス・ナデジディン氏には、出馬に必要な署名に不備があったとして立候補資格が与えられなかった。
しかし、ぺスコフ報道官は 「ロシアの民主主義は世界一だ。 批判は許さない」と宣言していた('Kremlin: Russia’s democracy is ‘the best’ in the world' POLITICO, MARCH 6, 2024)。 ロシアは世界の民主主義ランキングで既に大幅に順位を下げている('Russia suffers biggest global fall in the Democracy Index following its invasion of Ukraine' Thu, 02nd Feb 2023)。ランキングをまとめているエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は2023年、ロシアを167カ国中114位とした。これはニカラグアやベネズエラよりも下だ。
また、アメリカのシンクタンクFreedom Houseはロシアを「自由ではない国」としている。「政治的権利」は40点満点中4点で、「選挙」は自由かつ公正ではなく、「政府」は透明性を欠き、「汚職に対するセーフガード」はほとんど無いという。
現代ロシアの研究者として世界的に令名の高いアレクサンダー・モティル博士(ラトガース・ニューアーク大学教授)は2024年1月、「ロシアはいつ最終的に崩壊するか?」と題する論文(’When Will Russia Finally Collapse?’ Alexander J. Motyl, The National Interest, January 9,2024)を発表した。要旨はこうである。
ウクライナ戦争は、ロシアを崩壊させる可能性がある。政権、軍、経済は弱体化している。すぐに改善することはまず無い。
一方プーチン政権は弱まるどころか、むしろ強くなっているという意見もある。ロシア崩壊論を批判する評論家は、2年後ロシアは驚くほど健全な状態にあるはずだと述べている。でも本当か? 本当なら、外国はロシアがさらに強力になる前に、今すぐロシアと交渉したほうがいい。
ロシアはいつ崩壊するのか? 政権崩壊に関するほとんどの議論は、ロシアで何か深刻な不安定化を予想している。それは明日かもしれない。今から5年後になるかもしれない。でも兎に角崩壊は近づいている。
ロシアが強くなっているという主張は、人々がプーチン政権、戦争、経済、ロシア国民を独特な方法で解釈していることに由来する。プーチン大統領は自信を示しているが、大統領は、自信過剰と同じくらい無知だ。
彼は治安組織を強化し、リベラル派や右派を逮捕し、彼のプロパガンダ機関はフル稼働している。しかしこれらは強さの表れではない。大統領は理由があるからそうしているのだ。
プーチンの弱点はロシアの弱点
ウクライナ開戦でロシアの経済指導者、軍部、有力エリートの不満を買った。プリゴジンのクーデター未遂は軍内部の不満を物語っていた。しかも治安機関の貢献がなければ、彼のクーデターは不可能だったという事実も大統領にとっては心配の種だ。 
プーチン大統領の弱点はロシアの弱点でもある。すべての権威、全体主義、ファシズム、独裁体制は、大統領に集中化されている。最高指導者が全能の王者なら兎も角、この集中化は致命的な弱点だ。
大統領は変化や改革に抵抗し、お調子者を寵愛し、カリスマ性を失い、戦略的な間違いを犯しやすい。プーチン大統領の最も重大な誤りは、13年末にウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領に欧州連合との連合協定から撤退するよう圧力をかけ、「尊厳革命」を引き起こしたという事実だ。
進行中のウクライナ戦争はロシアにとって悲惨なものだ。ウクライナの反撃は昨年の冬の間ドンバスとザポリージャで停滞したが、キーウ、ハリキウ、ヘルソンでロシア軍を破った後、ロシア陸軍は壊滅しつつあり、海軍は黒海の西部から押し戻されている。
2年間の戦闘で、ロシアはウクライナに侵攻した約36万人の地上軍の内、少なくとも31万5000人の死者または重傷者を失った。また、約 3500 両の戦車のうち 2200 両と装甲車両の 3 分の 1 を含む、装備品にも多大な損失を被った。これらは単なる偶発的な問題ではない。ロシア軍の根本的かつ構造的な破壊を物語っている。
経済状況も同様に憂慮すべき状況だ。反政府派のロシアの経済学者ウラジーミル・ミロフは、国家が戦争に直接関係する4つの部門(弾薬、鉄道、軍事安全保障、機械製造)に巨額投資を行っている一方で、消費財部門への投資は削減、あるいは最小限の増加にとどまっていることを示した。
したがって、国内総生産(GDP)は成長しインフレは低いというプーチン大統領の主張は、平均的な国民が軍国主義の祭壇で犠牲にされているという現実を隠している。ミロフ氏は「ロシア人は過去5年間、特に過去2年間で著しく貧しくなった」と論じている。
以上がモティル博士の議論だ。
ロシア問題の著名な専門家であるのヤヌシュ・ブガイスキ―氏(ジェームスタウン財団)は24年3月23日付のポスト(ツイート)で、ロシア帝国の解体を予告して次のように書いている。「ウクライナを侵略することによって、ロシアは自ら手に負えない嵐を引き起こし、結局ロシア帝国を解体させるだろう。テロやサボタージュ、治安当局への挑発、権力闘争、経済の破綻、市民戦争、地方の反乱などがモスクワの政府を圧倒するだろう」と。
警察治安国家ロシアの失敗
そして、3月22日のテロ事件で、プーチン大統領は事件発生後20時間も経過してからやっと事件を国民に報告し、犠牲者に弔意を示した。国際世論はこの遅延に強く注目している。今後多くのことが明らかになるだろう。
今回のテロ事件に関しては既に多様な議論が巻き起こっている。米国が事前にテロを警告したが、ロシアが無視したという報道もある。無視した理由はロシアの筋書きに合致しなかったからだという。
プーチン大統領の自作自演だという議論もある。 ウクライナ戦勝利に向けて兵力大動員を正当化する為の仕掛けだったという議論まで起きている。 イスラム過激派組織(IS)は自分たちがやったと云っているのにプーチン大統領はウクライナを非難している点も議論になっている。 
以前からプーチン政権と対立しロシアの民主化運動を進めてきたロンドン在住の富豪のホドルコフスキー氏はこのテロ事件に関し、X(旧ツイッター)でこう論じている。
「プーチン大統領は抑々特別の支持層というものが無い。誰にも答える責任を負っていない。国民の支持にも依存していない。依存しているのは唯一警察・治安組織だけである。今回はその当の警察治安国家ロシアが失敗したということだ」 と。
米国のNew Yorker 誌はテロ事件の前日、ロシアは完全な軍事独裁国家(full-blown military dictatorship)になったと論じた(’Has Putin’s Invasion of Ukraine Improved His Standing in Russia?’ The New Yorker, March 22, 2024)。 
プーチン政権、そしてロシアはどうなるのか?
私見ではこれは明らかにプーチン政権にとって最大の危機である。ウクライナ侵攻開始以降、ロシア人にとっては俗にいうと「これまでいいことは全くなかった」。
今回のテロ事件はロシア国民のプーチン氏への信頼をぶち壊し、既に疑問符が付いていたロシアという国の将来を一層予見困難なものにした。 事件後ガーディアン紙は「プーチンは強硬策で打開しようとするだろうがロシア人は大統領の言い分を信用しないだろう」と論じている(’Putin will be ruthless after the Moscow attack but Russians don’t trust him to keep them safe’ The Guardian, 24 March 2024)。
ロシアは今後どうなるか? 歴史的な転換が起きるかもしれない。一切予見は出来ない国がどう動くか? 目が離せない。 
●実行はイスラム過激派=ロシアのプーチン大統領 3/26
ロシアのプーチン大統領は25日、モスクワ郊外のコンサート会場で22日夜に起きた銃乱射事件について「イスラム過激派が実行した」と初めて認めた。
●ロシア銃乱射 男らの映像公開 プーチン氏「実行犯ウクライナに向かった」 ゼレンスキー氏“責任転嫁”と反論 3/26
22日、ロシアのモスクワで銃乱射テロ事件が起き、137人が死亡しました。その後“拘束された容疑者たち”の映像が、新たに公開されました。また、プーチン大統領は「実行犯は逃亡する際、ウクライナに向かっていた」と強調し、“ウクライナの協力”を示唆しました。ゼレンスキー大統領は、責任転嫁しようとしていると反論しています。
日本時間25日午後10時前、ロシアのモスクワ郊外には、次々と献花に訪れる人の姿がありました。
近くのコンサートホールで事件が起きたのは、22日、ロックバンドによる公演が始まる前のこと。
「銃を持ってこい! 全員殺せ!」
突如、男たちが侵入し、銃を乱射したのです。
当時、会場には最大で6200人がいた可能性があり、観客はパニックに――
「落ち着いて! 落ち着いて!」
現場は、モスクワ中心部から車で30分ほどの複合施設の一角です。銃撃だけでなく、爆発物によるとみられる火災も発生しました。
これまでに、今回の事件の死者は137人、負傷者は182人にのぼっています。
実行犯とみられるのは、過激派組織「イスラム国」のグループの1つ、「イスラム国ホラサン州」です。
ロシア当局はこれまでに、実行犯ら11人を拘束。そのうち4人を起訴しました。
法廷に現れたときには、顔があざだらけに。ほかの男たちも顔や耳にけがをしていて、車いすでぐったりしている様子も見られました。
4人は、中央アジアのタジキスタン国籍または出身で、そのうち2人は犯行を認めているといいます。
事件はなぜ起きたのか――
――ホールで何をしていた?
「銃撃した」
――なんで? どうして?
「お金で」
「50万ルーブル(約80万円)くらい」
実行犯とされる1人は、拘束された際、“指示”を受け、金と引き換えに、人々を殺したと話しています。
プーチン大統領は、事件から約19時間後にコメントし、「実行犯は逃亡する際、ウクライナに向かっていた」と強調。“ウクライナが容疑者に協力した”と示唆しました。
一方、ゼレンスキー大統領は、責任転嫁しようとしていると反論しています。
ロシアの独立系メディアは、“ロシア大統領府が国営メディアに対し、ウクライナ人の痕跡の可能性を強調するよう、指示を出していた”などと伝えています。
●ロシア抜きのウクライナ和平会議、失敗に終わる=大統領報道官 3/26
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ロシア抜きでウクライナ和平に関する国際会議を開催するのは「ばかげて」おり、失敗に終わるとの認識を示した。
26日公表された国内メディア「論拠と事実」のインタビューで見解を示した。インタビューはモスクワ郊外のコンサートホールで銃乱射事件が発生する前日の21日に行われた。
ペスコフ氏は西側諸国から自国を守るため、ウクライナで戦争を続けていると発言。
「ロシアの参加なしにウクライナの問題を解決できるか。答えは明らかだ。できない」とし「というのも、ウクライナは西側集団の手中にある道具と化したからだ。西側集団はロシアにさらに圧力をかけ、ロシアを抑圧し、発展の外に追いやるつもりなのだろう。万が一彼らが成功を収めれば、ロシアを終わらせることができる」と述べた。
スイス政府は今年、ウクライナのゼレンスキー大統領の要請を受け、ウクライナに関する「世界平和サミット」を開催することに合意したと発表。日程などの調整が進められている。
ペスコフ氏は、欧州連合(EU)などがロシアの凍結資産から発生する利益をウクライナに移管する案を検討していることも批判。
「欧州諸国はわれわれがそのような決定に異議を唱えることを理解していると思う。これは恐らく1年の問題ではなく、数十年の問題だ」と述べた。
●ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサイル領空侵犯問題で 3/26
ロシアがウクライナ西部を狙って発射したミサイルがポーランド領空に侵入した問題で、ポーランド外務省は25日、ロシアの駐ポーランド大使が事情説明を求めるための呼び出しに応じなかったと発表した。
ポーランド軍によると、24日に防空レーダーがロシアのミサイルがポーランド領空に入って39秒間、2キロほど飛行した後、ウクライナ領空に戻ったという。
外務省の報道官は「ロシア大使は本日、当省に説明のために姿を現さなかった」と述べた。
ブワディスワフ・コシニャクカミシュ副首相兼国防相は、呼び出し無視のような「侮辱」は断じて許容できず、数日中に次の対応策を決めると表明した。
ロシア側は、ポーランド政府が大使を呼び出し、これに応じなかったことを認めた上で、大使はポーランド政府に領空侵犯の証拠を提示できるか問い合わせ、提示がなさそうだったので説明に出向くのを拒否したとしている。
●ロシア揚陸艦に「深刻な損害」 クリミア攻撃でウクライナ 3/26
ウクライナ国防省情報総局は25日、ロシアが支配するウクライナ南部クリミア半島セバストポリへの23日の攻撃で、ロシア黒海艦隊の大型揚陸艦ヤマルに「深刻な損害」を与えたと主張した。甲板に穴が開き、船体が右舷側に傾いているとした。
ウクライナ軍は24日、ヤマルのほか、別の大型揚陸艦アゾフを攻撃したと発表していた。
ロシア軍によるウクライナへの攻撃も激化しており、25日には過去5日間で3回目となる首都キーウ(キエフ)へのミサイル攻撃があった。英字紙キーウ・ポストは、ウクライナ保安局が標的だったとの見方を報じた。
● ロシア極東の「サハリン2」、ガスプロムが新たに株式取得へ…ウクライナ侵略でシェルが撤退 3/26
ロシア極東の石油・天然ガス事業「サハリン2」について、ロシア政府は23日付の文書で、国営ガスプロムがサハリン2の運営会社の株式の約27・5%分を948億ルーブル(約1500億円)で取得することを承認した。ロシアのウクライナ侵略に伴い、撤退を決めた英資源大手シェルの出資分を引き継ぐ。
ガスプロムのロゴ(ロイター)
タス通信によると、当初はロシアのガス大手ノバテクがシェルの出資分を取得すると表明していたが、取引が進まなかったという。ガスプロムの保有割合はこれまで50%超だったが、77・5%超まで増える。
サハリン2から液化天然ガス(LNG)を積み込んだタンカー(2021年10月29日撮影)=AP
ロシア政府は2022年6月、ガスプロムやシェル、三井物産、三菱商事が出資するサハリン2の旧運営会社を事実上接収し、新設する会社に事業を移管すると決めた。三井物産と三菱商事は新設された運営会社に出資を続けている。
●“選管へサイバー攻撃 中国企業など関与”イギリスが制裁措置 3/26
イギリス外務省は、選挙管理委員会へのサイバー攻撃に関与したとして、中国企業などに対して制裁を科したと発表しました。
イギリス外務省は25日、複数の下院議員や選挙管理委員会へのサイバー攻撃に関与したとして、中国の湖北省武漢の企業とハッカー2人に対して、制裁を科したと発表しました。資産を凍結するほかイギリスへの渡航を禁止するとしています。
このうち、選挙管理委員会のシステムについては、おととし10月までのおよそ1年の間に不正アクセスを受けたとしていて「中国政府に関連する組織や個人が、イギリスの政治手続きを攻撃の標的にしたことは、まったく容認できない」と非難しています。
イギリス外務省は選挙への影響はないと強調しています。
一方、公共放送BBCは、選挙管理委員会のシステムにはおよそ4000万人の有権者の名前と住所が掲載された選挙人名簿があり、多くの個人情報が中国側に渡ったおそれがあるとしています。
また、今回の制裁を受けて、中国政府が何らかの形で報復する可能性が高いなどと伝えています。
林官房長官「イギリスの取り組みを支持」
林官房長官は閣議の後の記者会見で「民主主義の基盤を揺るがしかねない悪意あるサイバー活動は看過できず、こうした活動を明らかにするためのイギリスの取り組みを支持する。わが国としても関連の状況を注視し、引き続きイギリスを含む同盟国や同志国と緊密に連携して自由で公正かつ安全なサイバー空間の発展のための取り組みを進めていく」と述べました。
●ロシア軍が極超音速ミサイル使用か、キーウ攻撃で16歳少女含む10人負傷 3/26
ロシア軍は25日午前、ウクライナの首都キーウをミサイルで攻撃した。ウクライナの英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」などによると、ウクライナ軍が撃墜したミサイルの破片が落下し、16歳の少女を含む10人が負傷した。
ウクライナ空軍は、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島から弾道ミサイル2発が発射され、いずれも撃墜したとしている。米国のブリジット・ブリンク駐ウクライナ大使はX(旧ツイッター)で、攻撃に極超音速ミサイルが使われたとの見方を示した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ウクライナは、都市に安全を提供し、人命を救う防空システムを更に必要としている」とXに投稿し、米欧の支援を求めた。
南部オデーサ州では25日夕方、ロシア軍の弾道ミサイルによる攻撃があり、キーウ・インディペンデントは4人が負傷したと報じた。
●ロシア、ウクライナを空爆…「モスクワでのテロ関与説」で攻撃の名目作りか 3/26
300人以上の死傷者が出たロシア・モスクワのコンサートホールでのテロ後、ロシア軍がウクライナの首都キーウと西部の都市リビウに大規模な空襲を行った。多くの人命被害で窮地に追い込まれたプーチン大統領が、ウクライナへの攻撃で突破口を見出そうとした場合、両国の衝突は最悪へと突き進むという懸念が提起されている。
ウクライナ空軍は24日(現地時間)、ロシア軍が首都キーウやポーランドの国境近くの都市リビウに29発のミサイルと28機のドローン攻撃を行ったと発表した。ロイター通信などが報じた。空軍はこのうちミサイル18発とドローン25機を撃墜したと説明した。
リビウのマクシム・コジツキー州知事はソーシャルメディアのテレグラムに「占領軍が夜の間に標的にした主要エネルギー施設が相次いで2回打撃を受けた」と書き込み、この攻撃には撃墜が難しい極超音速ミサイル「キンジャール」が使われたと明らかにした。ウクライナのエネルギー省は、リビウの重要なエネルギー施設内の装備に火災が発生し、電力が遮断されたと明らかにした。エネルギー省とコジツキー州知事が言及した施設が同じ施設なのかは不明だ。
キーウのセルヒー・ポプコ軍事行政庁長は、ロシアの攻撃によりキーウでも数カ所で爆発が起きたと明らかにした。ただし今回の攻撃で大きな被害は発生しなかったと補足した。一部の住民らは空襲が起きるとキーウ中央地下鉄駅舎に避難し、ある公園ではロシアの巡航ミサイルKh-55の残骸が発見されたとロイターが伝えた。
この日のロシアのウクライナ攻撃の過程で、ロシア軍の巡航ミサイルがポーランド領空を侵犯した。ポーランド軍が明らかにした。軍はソーシャルメディアのXを通じて「この物体は(ポーランド東部のルブリン州)オセルドフ近くの領空に侵入し39秒間飛行した」と説明した。
これに先立ち、ウクライナ軍はロシア黒海艦隊が駐留しているクリミア半島のセバストポリに攻撃を加え、2隻のロシア戦艦を打撃したと主張した。軍は同日の声明で「ウクライナ防衛軍が大型揚陸艦艇の『アゾフ』と『ヤマル』を破壊し、通信センターといくつかのインフラを攻撃した」と明らかにした。セバストポリ州政府は、ロシア軍が10発以上のミサイルを撃墜したと主張した。
ロシアが22日にモスクワ近隣の「クロカス・シティ・ホール」で起きたテロについて、ウクライナが背後にいるという説を示した後から両国の空襲攻防が続き、両軍の衝突が激化する懸念が強まっている。
AP通信は、プーチン大統領がこれまで築いてきた「強靭な指導者」というイメージを損なったとし、プーチン大統領が今回のテロをウクライナの仕業だと直接非難した場合、これをウクライナに対するより強力な攻撃の理由として利用しうると指摘した。プーチン大統領は前日の国民向け演説で、テロ犯がウクライナ側に脱出しようとしたと述べ、ウクライナ関与説をほのめかしたが、ウクライナを直接非難することはなかった。
イスラム・スンニ派の過激派武装勢力である「イスラム国(IS)」が自らテロ攻撃をしたと明らかにしたにもかかわらず、ロシア内の過激派は反ウクライナ世論の扇動に没頭している。過激民族主義放送「ツァーグラードTV」の所有者コンスタンチン・マロフェエフ氏は、ロシア政府に向けて、ウクライナ主要都市への総攻撃を宣言し48時間の避難時限を通知することを主張した。極右の哲学者のアレクサンドル・ドゥーギン氏も、キーウなどを「解放」するための総動員令を求めた。 
●5選のプーチンは「民主主義国の衰退」を熟知、西側は「ロシア知識」が足りない 3/26
2024年の最も驚きの少ないニュースかもしれない。ウラジーミル・プーチンがロシア大統領選で通算5選を決め、権力の座にもう6年座ることになった。
6年後、プーチンは77歳。だが20年に自身が行った憲法改正により、2036年まで続投することも可能だ。
首相時代も含めて、プーチンの統治は既に24年に及んでいる。同じ期間、アメリカでは大統領が5人、イギリスでは首相が7人入れ替わった。
西側諸国の場合、選挙の結果を決めるのは有権者であり、その結果が正当かどうかの判断は独立した選挙管理委員会が行う。だが、ロシアは違う。イギリスの元駐ロシア大使ローリー・ブリストウが指摘したように「ロシアでは、選挙の目的は統治者の決定を正当化することであり、民意を把握することではない」。
当面、プーチンが大統領の座を去ることはないだろう。近代のロシアとソ連で、存命中に退任した指導者は4人しかいない。残りは死を迎えるまで権力の座にとどまった。
しかもプーチンはここ2年余り、ロシアを権威主義から「準・全体主義」に移行させる動きを取ってきた。彼はウクライナ侵攻を、西側との長期的な代理戦争と明確に位置付けている。
プーチンは今の西側は決断力に欠け、衰退の道をたどっており、重要な焦点にも集中できていないとみている。事実、今年の米大統領選でホワイトハウスへの返り咲きを目指すドナルド・トランプは、軍事費を応分に負担していないNATO加盟国を攻撃していいとロシアに促した。西側政府の間では、ウクライナへの追加軍事支援をめぐる決断にも遅れが出ている。
民主主義の弱さを熟知
こうした西側の態度はプーチンを増長させるだけだ。彼は今回の形式的な勝利に勢いづき、さらに危険で挑発的な姿勢を取るだろう。プーチンとそのイデオロギーである「プーチニズム」によって、西側の政府と指導者は重大な課題を突き付けられる。
ロシアから亡命したジャーナリストのミハイル・ジガルが指摘するように、プーチンの政治手法は西側の超保守的な政治勢力を利するものだ。さらには、社会正義を目指すグローバルな取り組みに対抗し、ウクライナへの支持を押しとどめ、ロシアの領土的野心への抵抗を抑えることに向けられている。
プーチンは、民主主義に内在する不安定さと、移り気な有権者の支持を得る必要性から、民主主義国の政府には長期的計画を実現する難しさがあることを熟知している。
しかも民主国家の政治文化では、問題に対して「解決」を求めがちだ。だがロシアや中東諸国が引き起こす大きな問題は、解決など望むことができず、同盟国やパートナー国の協力を得て何とか現状を維持することで精いっぱいということもある。
そのようなときは、短期的な政治工作やネット世論の突発的な盛り上がりにいちいち動じてはいられない。さらには、第2次大戦の流血と惨事を経て設定されたヨーロッパの国境線をも越えて、真の危機は何なのかを大衆に理解させなくてはならない。その理解を持続させるための継続的な投資も必要だ。
いま西側は過去50年のどの時点にも増して、固い信念を持つ指導者を必要としている。そして私たちが民主主義社会の何を重んじ、その社会に対して何を望むのか、それを実現し維持するためにどれだけの代償を払う用意があるのかという点について、継続的で十分な情報に基づく公の議論が必要とされている。
ロシア・リテラシーが必要
民主主義の諸制度が外部からの情報操作や干渉の標的になっている今、こうした議論は極めて重要だ。これら外部勢力は人々の間に疑念や不信を植え付け、民主的な政府に対する国民の信頼を損なおうと狙っている。
そこで問題になるのが、ロシアに関する知識の不足だ。例えばオーストラリアでは、もともと少なかったロシア関連の専門知識が絶滅寸前ともいえる状況になっている。私が籍を置く大学も、もっと早いうちにロシア語教育やロシア研究に再投資すべきだった。
ロシアは今後も目が離せず、混乱をもたらし続ける国だ。私たちは「ロシア・リテラシー」を向上させて、この国への理解を深めなくてはならない。さらに西側は、ソ連崩壊後のロシアに対する政策の効果を時として台無しにしてきた誤解や無関心を真摯に、そして批判的に評価すべきだ。
ロシアは、破壊工作を行う西側の欺瞞と裏切りの「無実の被害者」だ──プーチンと彼を支持する諸外国の首脳やメディアはそんなプロパガンダを唱えているが、私たちはこれに屈してはならない。
プーチンは、ウクライナはアメリカとイギリスにだまされており、ロシアはかつて植民地にされた国々の味方だとも主張する。この言い分が一定の支持を得ていることは、対ロシア制裁への支持が広まらないことから明らかだ。私たちが暮らすインド太平洋地域でも、プーチンの主張は間違いだと全ての国が考えていると思い込むべきではない。
ロシアは国家の存亡を懸けたともいえる西側諸国との戦争において、歴史や道徳、さらに神までもが自らの側に付いていると確信している。それが今、私たちの目の前にある現実だ。しかも元駐ロシア英大使のブリストウが指摘したように、「ロシアの若い世代が今後の展望について、より民主的で西側寄りの見方を受け入れると仮定するのも危険」だろう。
それでも私たちは、ロシアの未来は輝かしい過去の延長線上にあるというプーチンの見方に賛同しないロシアの人々に、背を向けてはならない。彼らは決して無視できる少数派などではない。
今後、西側の課題はロシアにとってよりよい未来がどのようなものかを、対立を超えて明確に示すこと。そしてその選択肢をしっかりと視野に入れ続けていくことだ。
●「この戦争で最大の攻撃」ロシアのミサイルがウクライナ最大の水力発電ダムに命中...「大爆発の瞬間」も映像に 3/27
ロシアのミサイルがウクライナの防空網をすり抜け、ザポリージャ州にあるウクライナ最大の水力発電ダムを攻撃する様子とみられる映像が3月22日に公開された。親ロシアの報道機関や軍事ブロガーらが同日の午前中にこの動画を共有した。
ドニプロ市の南に位置する「ドニプロHES」は、ウクライナ最大の水力発電ダムで欧州でも有数の規模を誇る。ドニプロにあったもう一つの重要施設カホフカダムは2023年6月に破壊され、広範囲の洪水と荒廃につながった。当時、ウクライナと独立系の専門家はこの攻撃の背後にはロシアがいると主張していた。
ドニプロHESが攻撃されたのはロシアが大規模な攻撃を仕掛けた中でのこと。この攻撃についてウクライナのエネルギー相、ヘルマン・ハルシチェンコは「ウクライナのエネルギーセクターに対するこの戦争で最大規模の攻撃」と形容している。
ウクライナ国営の水力発電公社ウクルヒドロエネルホは22日、ザポリージャ州にあるドニプロHESが攻撃されたことは認めたが、決壊のリスクはないと述べている。
エネルギーシステムの混乱を狙うロシア
ウクライナ検察庁で戦争犯罪担当部門の指揮を執るユーリィ・ベロウソフは国営テレビで「ドニプロHESは8回にわたって砲撃された」と話したと、ウクラインスカ・プラウダは報じている。
テレグラムに動画を投稿した親ロシアのニュースチャンネルSHOTは、「今朝のドニプロHESへのミサイル攻撃の瞬間」と伝えている。
エコノミスト誌の外国特派員オリバー・キャロルはX(旧ツイッター)で、動画を見るかぎり、ロシアはこの攻撃において「囮熱源のフレア」を使ってウクライナの防空体制に対抗したと述べている。
ウクルヒドロエネルホのイゴール・シロタ総裁はドニプロHESが攻撃のため閉鎖されたと述べ、被害の規模について「きわめて大きい」とした。
エネルギー相のハルシチェンコはフェイスブックで、「敵の目的は(発電所)そのものを破壊するだけでなく、わが国のエネルギーシステムに大規模な混乱をもたらすことにある」と述べている。
「一部の地域では停電が起きている。エネルギー各社はすでに電力供給の復旧にとりかかっている。一刻も早く国民への電力供給を再開できるようにベストを尽くしている」
ウクライナの元駐オーストリア大使オレクサンドル・シェルバはX上で、「プーチンは欧州最大規模の水力発電所およびダムであるドニプロHESを標的にした」と述べている。「スターリンが1941年に(ドニプロ川の)ダムを破壊したとき、溺死者数は2万〜12万人にのぼった(スターリンは犠牲者を正式には数えなかった)」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアから自国を守るためのさらなる武器の提供を西側同盟諸国に求めている。

 

●「テロの背後にウクライナ」主張続けるプーチン…ロシア各地で「テロ後遺症」 3/27
ロシアのプーチン大統領がモスクワの公演場でのテロがイスラム過激派の犯行と認めながらもウクライナが背後にいるという主張を続け、紛争拡大の口実にするという懸念が出ている。ロシアでは各地で爆弾が設置されたという虚偽の通報が増え、反移民情緒が強まるなど「テロ後遺症」で混乱が続く状況だ。
25日(現地時間)のロイター通信などによると、プーチン大統領はこの日、クロッカスシティーホール公演場テロ対策会議後の演説で「今回の犯罪は過激イスラム主義者の犯行であることを知っている」と述べた。今回のテロがイスラム武装団体の犯行という点を初めて認めた発言だ。テロの直後、イスラム極端主義武装勢力イスラム国(IS)の分派イスラム国ホラサン州(ISIS−K)が犯行を認めたが、プーチン大統領は背後にウクライナがいると主張してきた。
現在もプーチン大統領はこうした主張を続けている。「我々は誰の犯行かは知っているが、今は誰がそれを命令したかを知りたい」と述べながらだ。また「テロリストがなぜウクライナに逃避しようとしたのか、そこで誰が待っていたのか把握する必要がある」と強調した。続いて「2014年からネオナチウクライナ政権の手により我々と戦争をしてきた者たちが続けてきた試みの一つかもしれない」とも語った。
ウクライナ戦争と関連する発言も続いた。プーチン大統領は「ウクライナは反撃に完全に失敗し、主導権はロシアにある」とし、ウクライナの追加徴集は「ヒトラー青年団創設」と似ていると批判した。また、テロ発生前から関連情報を入手してロシアに警告した米国に対しても非難した。米国は「今回のテロはウクライナと関係がなくISがした」という主張を他国に注入しようとしているということだ。
ロシア側のこうした主張に対し、米ホワイトハウスはこの日の声明で「今回の攻撃は全面的にISの責任」とし、改めて反論した。ジョン・カービー大統領補佐官はこの日、「今回の攻撃はISが実行し、ウクライナとはいかなる関係もない」とし「プーチン大統領がウクライナを非難する方法を探すことに驚かない」と批判した。ウクライナのゼレンスキー大統領もテロ直後の演説で「ロシアの指導者は20年間もテロをしてきたが、自らを除いたすべての人をテロリストとみる」と皮肉った。
プーチン大統領がイスラム武装団体の犯行であることを認めたのは、ウクライナと関連する証拠を発見できなかったためとみられる。ポリティコ欧州版は「プーチン大統領はウクライナをテロ勢力に追い込もうとしたが、キーウが攻撃の背後であることを裏付ける証拠がなく、ISが自らの犯行であることを繰り返し主張すると、これを認めた」と分析した。にもかかわらずウクライナへの言及を続けるのは、今回のテロを紛争拡大の口実にする可能性があるという説明だ。ロシアの保安・情報当局に非難が向かうのを防ぐ狙いもある。
各地で「爆弾設置」通報…反移民情緒の懸念も
テロ容疑者として拘禁された者が中央アジアのタジキスタン国籍と確認され、ロシア国内の「反移民情緒」が強まるという警告も出ている。英日刊ガーディアンは「今回のテロでロシアのムスリム少数民族が弾圧を受ける危険が高まった」と懸念した。長い同盟のタジキスタンとの関係にも亀裂が生じるとみられる。タジキスタン政府は今回のテロと距離を置いているが、プーチン大統領が背後を徹底的に調べると公言したからだ。
こうした中、中央アジア国家キルギス出身の15歳の少年イスラム・ハリロフ君がテロの現場で約100人の命を救ったことが伝えられ「英雄」になった。テロ当日に公演場のコート保管所でアルバイト中だったハリロフ君は悲鳴をあげて逃げる人たちを安全な建物に避難するよう案内したという。
現在ロシア各地ではショッピングモールなどに爆弾が設置されたという虚偽の通報があり、人々が避難するなど「テロ後遺症」が続いている。タス通信などによると、この日、モスクワ北東部のゴロドショッピングセンターに爆弾が設置されたという通報があり、約350人が建物の外に避難する騒ぎがあった。このほか別の大衆施設でも似た騒ぎがあり、混乱が続く状況だ。ロシア下院は対テロ対策が必要な施設に民間セキュリティー会社が武装して職務を遂行できるよう法律の改正を進めている。
22日にモスクワのクロッカスシティーホールで発生したテロで、現在まで約130人が死亡、約180人が負傷した。25日には容疑者3人が追加で拘禁された。1人はタジキスタン国籍、2人はロシア国籍であり、今回のテロに関連してロシア人が容疑者として捕まったのは初めてだ。
一方、ISがロシアに報復を暗示する内容のポスターもSNSで広まっている。このポスターには覆面をかぶった男が刃物を持つイメージと共に「プーチンを含むすべての残忍なロシア人に脅威」と書かれている。また「人質になった我々の兄弟の恨みを晴らす機会が我々にないと思うな」「拷問される映像で数千人の兄弟の血への意欲が強まった」などの内容もあった。「あなたはあなたたちの子ども、女性と共にみんな虐殺される」とも書かれているが、「あなた」がプーチン大統領を暗示しているかについては明確でない。ロシア大統領府はこれに言及していない。
●プーチン氏は「病的」=ゼレンスキー氏、ウクライナ関与説に反論 3/27
モスクワ郊外で起きた銃乱射事件に関し、ウクライナのゼレンスキー大統領は25日のビデオ演説で、同国の関与を主張し続けるロシアのプーチン大統領を「病的で皮肉な生き物」と非難した。
プーチン氏こそが「過去20年間、テロを糧にしてきた」と反論し、内外にテロをもたらしている張本人だと強調した。
プーチン氏は同日、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した22日夜の銃乱射事件について「イスラム過激派が実行した」と初めて認めつつ、ウクライナに「黒幕」がいるとの説を唱えていた。
プーチン氏の最側近パトルシェフ安全保障会議書記も26日、事件の背後にいるのは「もちろんウクライナだ」と地元メディアに語った。 
●中国「金正恩氏のロシアへの傾斜」懸念 3/27
北朝鮮最高指導者・金正恩総書記は2019年2月、ベトナムのハノイでトランプ米大統領(当時)と首脳会談を行ったが、その外交は成果なく終わった。北朝鮮の最大の外交課題は当時、米国との関係改善、対北制裁の解除だった。金正恩氏にとって米朝交渉の失敗は大きな痛手となって残ったという。金正恩総書記はその後、核戦力の強化に乗り出す一方、中国、ロシアとの関係拡大に腐心してきた。
ハノイの米朝首脳会談の暗礁後、北は非核化交渉を放棄し、韓国を最大の敵対国とし、核保有国のステイタス獲得を目指してきた。北側の国家戦略が大変化したわけだ。
その北朝鮮が大きく転換したのはロシア軍のウクライナ侵攻だった。ウクライナ戦争が長期化していった事を受け、プーチン大統領は武器不足を解決しなければならなくなった。プーチン氏から金正恩総書記に声がかかった。昨年9月、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で行われたプーチン大統領と金正恩総書記の首脳会談は米朝首脳会談とは180度異なり、多くの成果を北側にもたらした。
露朝首脳会談後の両国の関係は急速に深まっていった。目に見える実績は、1北朝鮮は7000個のコンテナに弾薬(約250万発と推定)をモスクワに輸送、2それに引き換え、ロシアからは軍事衛星関連技術の支援、食糧などの物質援助が行われた。
プーチン大統領と金正恩総書記は昨年9月、首脳会談でロシアと北朝鮮間の軍事協力の強化などで合意したといわれている。その最初の成果は北朝鮮の軍事偵察衛星「万里鏡1号」の打ち上げ成功だろう。過去2回、打ち上げに失敗してきた北朝鮮はロシアから偵察衛星関連技術の支援を受けた結果、昨年11月21日の3回目の打ち上げに成功した。ちなみに、北側がロシア側に期待している軍事分野での支援は衛星関連技術、原子力潜水艦、核開発の向上などだ。ただしロシアと言えども、核関連ノウハウを北側に譲渡することは現時点では考えにくい。
米国情報当局者らによると、ロシアは、ロシアの金融機関に預けられている北朝鮮の凍結資産3000万ドルのうち900万ドルの放出を許可した。また、ロシアは北朝鮮にロシアの地方銀行に口座を開くことを承認するなど、金融分野でも北側を支援している。その結果、北側はロシア国内で開いた銀行口座を利用して貿易取引が可能となる道が開かれた、と受け取られている。
露朝間の関係はそれだけではない。韓国統一研究院のオ・ギョンソプ氏はロシアで働く北朝鮮労働者の実態を報告している。それを読むと、ロシアは国連の制裁にもかかわらず、多数の北朝鮮の労働者を受け入れている。北労働者から入る外貨で金正恩総書記は核・ミサイル開発を進めているという。一方、ロシアはウクライナの戦争による労働力不足を補うために北朝鮮労働者を受け入れる必要があるわけだ。
●ロシア高官、西側諸国とウクライナの関与を示唆 コンサートホール襲撃事件 3/27
ロシア政府の高官らは、22日に首都モスクワ郊外のコンサートホールが襲撃された事件について、ウクライナと西側諸国が関与していたと直接非難した。この事件をめぐっては、武装勢力「イスラム国(IS)」が犯行声明を出している。
ISは動画を投稿しているが、ウラジミール・プーチン大統領は、ジハーディスト(聖戦主義者)らは西側諸国とウクライナの情報機関の支援を受けていたと主張した。
ウクライナは、ロシアの「うそ」だとしている。
ロシアの主張するシナリオは、アメリカが事件の15日前にロシアに襲撃が迫っていると警告していたことからも、信憑(しんぴょう)性は低い。
ロシア当局によると、22日夜の「クロクス・シティー・ホール」襲撃事件の死者は139人に上っている。また、子ども2人を含む22人が重体だという。
事件を受け、タジキスタン出身の4人がテロ行為の罪で起訴され、出廷した。
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、襲撃犯についての事実と、「ロシア治安当局の失敗した無能さは、議論の余地がない」と述べた。西側諸国も、クレムリン(ロシア大統領府)のシナリオを一蹴している。
イスラム主義者の背後に……とプーチン氏
プーチン大統領は25日にテレビ放送された会議で、「この犯罪が過激派イスラム主義者の手で行われたと知っているが(中略)我々が知りたいのは、誰が命じたかだ」と述べた。
大統領は、多くの疑問が残っていると述べ、襲撃者らがウクライナ南部へ逃げようとしていたという根拠のない主張を繰り返した。
「誰がそこで待っていたのか?」、「この残虐行為は、2014年以来、わが国と戦争状態にある者たちによる、一連の試みの一端に過ぎないのかもしれない」と、プーチン氏は話した。
また、アメリカがこの襲撃にウクライナ政府は関わっていないと世界を納得させようとしていると主張。西側がロシアと戦うためにウクライナを利用していると続けた。
プーチン氏の長年の側近であるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記も、この主張を支持。襲撃の背後にいるのはISかウクライナかという質問に、「もちろんウクライナだ」と答えた。
連邦保安庁(FSB)のアレクサンドル・ボルトニコフ長官は、「この襲撃は過激派イスラム主義者ら自身が準備し、もちろん、西側の特殊部隊が助けた。ウクライナの特殊部隊が直接かかわっている」と主張した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアの非難に対し、「プーチンはまた自分自身に話しかけている。(中略)彼はまたウクライナを批判している。病的でひねくれた人物だ」と述べた。
プーチン大統領に近しいベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領も、ロシアの主張に疑問を投げかけているようだ。ルカシェンコ大統領は、襲撃者らはまずベラルーシに入国しようとしたが、「その方法はない」と気づいたのだと示唆した。
アメリカは、モスクワの事件の責任は「唯一」ISにあると指摘。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ロシアがこの状況を悪用してウクライナに敵対しようとするのは「皮肉であり、逆効果だ」と述べた。
イタリアのアントニオ・タヤーニ外相は、プーチン氏がウクライナ政府を攻撃する口実を探しているのは明らかだとし、襲撃時の映像は明確であり、ISが関与しているという説を複数のISの主張が裏付けていると述べた。
襲撃事件は、在ロシア・アメリカ大使館が「過激派がコンサートを含むモスクワの大規模な集会を標的にする差し迫った計画を持っている」と警告してから2週間後に起こった。プーチン氏は先週、この警告を挑発的なものとして拒否したばかりだった。
事件の3日前には、アメリカが差し迫った攻撃の警告を「我々の社会を威嚇(いかく)し、不安定化させる」ために利用していると非難していた。
夏のスポーツイベントを前に警戒
アメリカの情報当局は、この襲撃がISの支部組織「イスラム国ホラサン州(IS-K)」によるものとしている。西欧ではモスクワでの事件を受け、夏の国際スポーツイベントを前に、イスラム主義者の謀略が再燃するとの懸念が高まっている。
夏季オリンピックが開催されるフランスのジェラルド・ダルマナン内相は25日夜、フランスは前日夜から最大限の警戒態勢を敷いていると述べた。ガブリエル・アッタル首相は、今年に入ってから2件の攻撃を未然に防いだと述べた。
アッタル氏はまた、今後数日のうちにフランス全土に兵士4000人を追加配備すると述べた。
ドイツは、6月に開催されるサッカーのUEFA欧州選手権に向け、臨時の国境管理を導入すると発表した。ドイツ政府はすでに、欧州に移民を密入国させるギャングに対処するため、一部の国境で取り締まりを実施している。
●ルカシェンコ大統領がプーチン氏と矛盾する発言、モスクワ襲撃犯は「ベラルーシを目指した」 3/27
ロシアの同盟国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は26日、モスクワ郊外のコンサート会場襲撃事件をめぐり、ロシア側の主張に疑問を投げかけるような発言を行った。
139人の犠牲者を出した今回の事件については、過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS)が犯行声明を出している。しかしロシアのウラジーミル・プーチン大統領は事件翌日の23日、襲撃犯がウクライナへ逃れるための「窓口」が用意されていたと発言し、根拠を示さないままウクライナが事件に関与したと主張していた。
ベラルーシの通信社ベルタによると、ルカシェンコ大統領は26日、襲撃犯は当初、ウクライナではなくベラルーシに入るつもりだったとの見方を示し、「彼らはベラルーシに入れなかった。ベラルーシが直ちに治安対策を強化したことから、ベラルーシに入国を試みるのは非常に悪い考えだと認識した」と述べた。
さらに、コンサート会場襲撃が始まった「数分後」にロシア当局から連絡が入り、ベラルーシの部隊が戦闘態勢に入って襲撃犯の入国を阻止するため道路に検問所を設けたと説明。「つまり彼らがベラルーシに入国するチャンスはなかった。彼らはそれを知って引き返し、ウクライナとロシアの国境へ向かった」としている。
中央アジアのタジキスタン共和国出身の容疑者4人は事件当日の22日夜、ウクライナとベラルーシの国境に近いロシアのブリャンスクで逮捕された。
●銃乱射、ウクライナ関与「確認」 ロシア連邦保安局長官 3/27 
ロシア連邦保安局(FSB)のボルトニコフ長官は26日、モスクワ郊外のコンサートホールで22日に起きた銃乱射テロについて、起訴された実行犯らの証言によりウクライナの関与が「確認されている」と述べた。国営テレビの取材に語った。
テロでは139人が死亡した。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出したが、プーチン大統領はウクライナが関与した可能性を繰り返し指摘している。
一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領は26日、テロ発生直後にプーチン氏の要請でロシアとの国境地点を封鎖し、実行犯の入国を防いだと述べた。インタファクス通信が伝えた。
●プーチン「誰がテロを命令した…ウクライナのネオナチ政権が関与の可能性」 3/27
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、22日にモスクワ郊外で発生したテロはイスラム過激派の犯行であると認めながらも、テロを指示した背後にはウクライナがいるという主張を繰り返した。
プーチン大統領は25日、モスクワのクレムリン(大統領府)で、捜査当局の関係者と「クロカス・シティ・ホール」でのテロに関するビデオ会議を開き、「イスラム世界が数世紀にわたり理念的に戦ってきたイスラム過激派の手によってこの犯罪が行われたと知っている」としたうえで、背後にウクライナがいるという疑いを再び示した。プーチン大統領は「我々はロシアとロシア国民を相手にしたこのテロが、誰の手によって行われたのかを知っている」として、「今は、誰がそれを命令したのかを知りたい」と述べた。
プーチン大統領はさらに、「誰がそれ(テロ)から利益を得るのかに関心がある」としたうえで、「こうした残忍なテロは、2014年以降、ネオナチのキーウ政権(ウクライナ)と手を握ってロシアを相手に戦っている者たちの一連の試みと関連したものである可能性がある」と述べた。
英国ガーディアン紙は、プーチン大統領がこの日、イスラム過激派などによるテロ実行を認めながらも、イスラム国(IS)には言及しなかった点を指摘した。ISの分派である「ISホラサン州」が自ら犯行を実行したことを認め、米国情報当局もまた彼らがテロを行ったことを確認したが、プーチン大統領は依然として責任をウクライナ側に回し、2年を超えたウクライナ戦争での攻撃を強化しようとする意図だとみられる。ホワイトハウス国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官はこの日声明を出し、「(テロは)ウクライナとは関係ない。これは単なるクレムリンの宣伝扇動にすぎない」として一線を引いた。
コンサート会場の銃乱射テロによる死亡者数は、この日までに139人に増えた。ロシアのタス通信は、死亡者のなかには子どもも3人含まれていると報じた。負傷者は182人に達した。
ロシアの調査委員会は、前日に逮捕したタジキスタン国籍のダレルジョン・ミルゾエフ容疑者などテロ容疑者4人に続き、兄弟であるディロバル・イスロモフとアミンチョン・イスロモフ、2人の父親であるイスロイル・イスロモフを逮捕し、拘束してることを明らかにした。ディロバルとアミンチョン兄弟はロシア国籍だ。
これに先立ち、逮捕されたテロ実行犯の一部の身元も追加で公開された。シャムシディン・ファリドゥニ容疑者はモスクワ郊外のポドリスクにある工場の労働者で、ムハマド・ソビル・ファイゾフ容疑者はモスクワ北東側で理髪師として働いていたと報じられた。ロイター通信によると、テロ実行犯のうち2人はロシアでの滞在許可を更新するためにトルコに入国し、2日に同じ飛行機で再出国したことが把握されたが、トルコ現地で過激化したわけではないとみられる。
●テロへのウクライナ関与ない、ロシア指導部内に異なる見解−関係者 3/27
139人が殺害されたモスクワ郊外のコンサートホール襲撃事件で、プーチン大統領はウクライナが関与した可能性を主張し続けている。だが、大統領側近の中には異なる見解を持つ者もいる。
ロシア大統領府に近い4人の関係者は、ウクライナが関与した証拠はないと明言。ウクライナに関連はないと当局者が同意した協議にプーチン氏も出席していたが、同氏はこのテロ攻撃を利用して対ウクライナ戦争で市民を結束させようと引き続き決意していると、取り扱いに注意を要する問題だとして匿名を要請した関係者の1人が明らかにした。
関係者によると、ロシア大統領府当局者は22日のテロ攻撃を保安当局が防げなかったことに衝撃を受けている。この関係者が知る限り、ロシアの政治・経済エリートの間でテロ攻撃がウクライナの企てだと考えている者はほとんどいないという。
この事件はモスクワとその周辺で発生したテロとしては過去20年余りで最悪の規模となり、過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を発表した。プーチン氏はそれでも2回にわたってウクライナと関連付けようとした。
25日遅くにテレビ放送された安全保障責任者との会合では、イスラム過激派が実行したと認めつつ、「誰が指示したのかに関心がある」と発言。米国は「自国の情報機関のデータによれば、モスクワのテロ攻撃にウクライナの痕跡はないと考えられると、衛星国や他の国を納得させようとしている」と述べた。
プーチン氏の最側近らも、この説を持ち上げることに熱心だ。
パトルシェフ安全保障会議書記は26日、テロの責任があるのはISかウクライナかと問われ、「ウクライナに決まっているだろう」と記者団に語った。
ボルトニコフ連邦保安局(FSB)長官は同日、攻撃を実行したのはイスラム過激派だが、ウクライナと米英の情報機関が関与したと、証拠を示さずに主張した。
ロシア情報機関やFSBに詳しいアンドレイ・ソルダトフ氏は「情報機関はISの犯行だと理解しているが、プーチン氏の発言を受けて命令に従い、ウクライナまたは西側の関与があったと証明する以外に選択肢がなくなっている」と分析した。
米国は今月7日、モスクワのコンサート会場などでテロ攻撃の「差し迫ったリスク」があると公に警告し、情報をロシアとも共有したと説明した。だがプーチン氏はその後のFSB当局者との会合で、この情報を「社会を不安定化させようとする試み」だとして取り合わなかった。その3日後にテロは発生した。
●プーチン氏、大統領選圧勝で事実上の「スターリン超え終身独裁」へ ウクライナ戦争は長期化必至、注視すべきはロシア優位を支える北朝鮮とイラン  3/27
ロシアのプーチン大統領が90%近い得票率で5選を果たした。2036年まで続投が可能となったプーチン氏の野望は何か。同国に詳しい軍事評論家で、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠・准教授に訊いた。
今回の選挙は、2000年の初当選以来、過去4回の選挙と比べても全くの無風に終わりました。
反戦的な候補・ナデジディンの出馬は認められなかったが、それをもって「プーチンが無理矢理に民意を捻じ曲げた」と言うのは早計で、多くのロシア人が不満こそあれプーチンを支持していることは厳然たる事実です。
背景にはロシア経済の好調があります。西側の経済制裁が直撃した2022年はマイナス成長でしたが、2023年は中国やインドなど制裁に加わらなかった国への輸出や、国内の軍需産業の生産が増えてプラス成長に転じました。
選挙を控えた今年2月、2時間にわたる教書演説でプーチンが多くの時間を費やしたのは、国民の生活関連の事柄でした。税制の近代化や年金の確実な支給を唱え、改革を実行できるという信頼性をアピールした。ウクライナ戦争の長期化があるなかでも、生活がよくなるという実感が多くの票に結びついたのです。
選挙前には反体制派指導者・ナワリヌイが獄中死し、追悼に訪れた市民が拘束されました。彼は一定の支持を集めたが、他方で「プーチン後」のロシア像を提示したわけではなかった。いわば“壊し屋”で、プーチンに代わる国家像を語れる人はいないという現実もある。
この地には同じ民族同士が争う動乱を重ねた歴史があり、理想を語るリベラル派に政治を委ねた1990年代には経済が崩壊した記憶もある。「多少強権的でも、頼れる指導者でないと」という意識はあるはずです。
今回の勝利でプーチンは2期12年、2036年まで在任が可能となった。独裁者スターリンは31年間ソ連トップの座に君臨したが、その執政期間を超える事実上の「終身独裁」の信任を国民から得た選挙だったと言えます。
「貧しい階層の人々を動員」
3年目に突入したウクライナ戦争の戦況は膠着しているが、プーチンに戦争を止める理由はありません。彼の目的はウクライナという国を支配下に置くことにあり、領土の約18%を占領したに過ぎない現状で戦争を止めることはしないでしょう。
ウクライナが昨年6月に始めた反転攻勢は失敗に終わり、ロシア軍は今年2月、東部の街・アウディーイウカを制圧し優位に立っている。
ウクライナ側にとって、西側の軍事支援が滞っている影響は大きい。
11月の米大統領選に向けてトランプ前大統領が共和党候補に決まったが、その共和党が多数を占める米議会下院ではウクライナ支援法案が可決されず、新規の軍事支援は3か月停止されました。
弾薬不足に陥るウクライナに対し、ロシア軍は航空戦略で優位を確保している。しかし、ロシア軍も兵士の練度や装備、指揮通信能力が整っていない。当面は大規模な進軍をせず、現在の占領地域に近い街での戦闘が繰り返されるでしょう。戦争は長期化の様相を呈しています。
前述したアウディーイウカでは、1日500人から1000人ものロシア兵が犠牲になったといわれます。彼らの多くは元受刑者らの動員兵であり、こうした多くの犠牲を伴う作戦は一時的な措置と考えるべき。むしろロシア軍は長期戦に持ち込むことで、軍需産業能力を上げながら追加動員で兵力を増やし、態勢を整えるはずです。
そもそも平時のロシア陸軍の兵力は30万人前後ですが、開戦から約半年後の2022年9月に予備兵ら約30万人の部分動員をかけた。さらにショイグ国防相は、2023年の1年間に集めた志願兵の数は約60万人に達すると発言しており、現在の兵力は約120万人とみられます。
ショイグ国防相は2022年12月の国防省の幹部会議で、海空軍を含めた兵力を2026年までに150万人まで増強する方針を示している。今後1〜2年で増員をかけながら、ウクライナ側に長期戦の綻びが見えたところで一気に攻勢をかけるシナリオが描けます。戦争が4年目(2025年)、5年目(2026年)にもつれ込むことは確実でしょう。
性急な動員はロシア国内の反発を招きますが、批判を避けるために「経済徴兵制」を敷くと考えられます。社会全体から平等に集める普通の徴兵とは異なり、貧しい人や囚人、移民や少数民族をターゲットに、平均年収の数倍という待遇で兵士を集める方法です。
ロシアは格差社会なので、階層が違えばお互いのことを見ていないような側面が大きい。中心階層の人には戦争の被害が及ばないようにして、それ以外の階層の人々から徴兵すれば、プーチンの権力は盤石のまま──それが四半世紀、ロシアを舵取りして会得した国民操作術なのだと思います。
兵力増員の大統領令に署名
選挙で信任を得たプーチンが、例えば5期目の任期がスタートする5月7日の直後、動員のギアを上げる可能性も排除はしません。ただ、兵力を150万人まで増員する大統領令に近く署名し、2025年いっぱいをかけて実現させるというのが現実的な見立てではないか。
今後、米大統領選の行方とともに注視すべきは、北朝鮮とイランの存在でしょう。2国が現状のロシア優位を支えている側面があるからです。
国連常任理事国であるロシアは、こと核ミサイルについては両国に制裁をかけ、あるいは非核化を議論する立場にありながら、戦争で事欠いて北朝鮮から実に約100万発もの弾薬を調達したとされている。イランからは自爆ドローンや榴弾砲を調達しているようです。
ロシアとこの2国との緊密化は過去に例のない水準に達しており、新たな「悪の枢軸」の結びつきにも映ります。しかし、その関係は同盟ではなく、国益に反すればすぐに離反するような脆さを孕む。2国に対し、ロシアへの援助はデメリットしかないと示すことが、抑止への近道となります。
例えば現在、北朝鮮からの弾薬の輸送は海上自衛隊と海上保安庁が連携して監視を強化している。米国ではロシアの経済パートナーに対して二次制裁が議論されているが、G7が足並みを揃えることが重要です。
地道なウクライナ支援を継続することも、日本周辺における力による現状変更の試みを抑止する手段になるでしょう。
●モスクワ・コンサートホール襲撃事件、ロシアの主張の誤りを暴く 3/27
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで先週起きた襲撃事件について、ウラジーミル・プーチン大統領が「イスラム過激派」の犯行だと認めた。
この事件では、武装勢力「イスラム国(IS)」が犯行声明を出している。しかしプーチン氏は、ウクライナの関与を主張し続けている。
ウクライナに責任があるとするキャンペーンはどのように展開されたのか。ロシア当局の声明、メディア報道、ソーシャルメディアへの投稿をもとに、BBCヴェリファイが検証した。
最初の非難
モスクワ郊外の「クロクス・シティー・ホール」襲撃の第一報がソーシャルメディアに流れたのは、22日午後10時15分(現地時間)だった。そのほぼ直後から、ウクライナを非難する声が上がった。
親ロシア政府のブロガーや当局者らは、事件発生から1時間もしないうちに、メッセージアプリ・テレグラムへの投稿でウクライナを批判した。
政権寄りの政治アナリストのセルゲイ・マルコフ氏は午後11時25分、襲撃者は「イスラム過激派」のようだとした。そして根拠を示さず、攻撃は「キーウから組織された可能性が高い」と付け加えた。
それから約40分後、タブロイド紙「モスコフスキー・コムソモレツ」が軍事専門家ロマン・シュクルラトフ氏の発言として、襲撃はウクライナの治安部隊と軍情報機関の支援を受けて組織されたかもしれないと報じた。
23日午前0時27分には、ドミトリー・メドヴェージェフ前大統領が、ウクライナが関与していれば報復すると述べた。
責任を示す偽の主張
さらに数時間たった23日午前3時13分、ロシアの主要テレビ局NTVは、ウクライナ高官が関与を認めたとする映像を放送した。
映像では、ウクライナのオレクシー・ダニロフ国家安全保障・国防会議書記が、「今日のモスクワは楽しい。楽しみがたくさんあったと思う。このような楽しみを、もっと頻繁に用意してあげられると信じたい」と述べているように見える。
しかしBBCヴェリファイは、この映像について、ウクライナのテレビ局が1週間前に行った2本のインタビュー映像を加工したものだと突き止めた。
そのどちらの映像もユーチューブで見ることができる。一つは3月19日、ダニロフ氏へのインタビュー。もう一つはその3日前に公開されたもので、ウクライナの軍事情報長官キリロ・ブダノフ氏が登場する。
NTVが放送した映像でのダニロフ氏の発言は、元のインタビューでは聞き取れない。
英リヴァプール・ジョン・ムーア大学の先端法医学技術調査グループがBBCヴェリファイの委託を受けて行った音声分析では、NTVの映像の音声が加工されていることが示唆された。
音声の周波数データに見られる溝が、音声が編集されたことを示している。一方で、音声が人工知能(AI)で生成されたとは断定できなかった。
BBCヴェリファイはまた、音声ファイルに埋め込まれている情報から、この音声が編集ソフトを通したものだと突き止めた。
越境のための「隙間」
ロシアのプーチン大統領は24日に公の場でウクライナを非難した。
プーチン大統領は、襲撃者がウクライナへ逃亡しようとするところを拘束したと述べ、「そこには国境を越えるための隙間が用意されていた」と主張した。
しかし、ロシアはこの「隙間」に関する証拠を示していない。
BBCヴェリファイは、容疑者らがどこに向かっていたかを独自に確認することはできない。しかし、彼らが逮捕される様子を撮影した映像や写真をいくつか検証・確認した。プーチン氏の主張とは裏腹に、逮捕はウクライナ国境から遠く離れた場所で行われていた。
逮捕された容疑者のうち2人は、背景の状況などから、ウクライナ国境から約145キロメートルの地点で撮影されたことが分かった。
ウクライナは襲撃への関与を否定している。一方、武装勢力「イスラム国(IS)」が、メッセージアプリ「テレグラム」上のチャンネル「アマク」を通じ、犯行声明を発表した。
ISが公表した証拠の中には、顔をぼかされた襲撃者4人の写真や、加害者の一人の視点から撮影された非常に生々しい映像が含まれていた。
コンサートホールの特徴や攻撃者が使用した銃といった複数の詳細が、攻撃当時にインターネットに投稿された動画と一致している。
しかし、こうした証拠にもかかわらず、ロシアはウクライナを非難し続けている。
ロシアのテレビ局RTのマルガリータ・シモニャン編集長はソーシャルメディアで、襲撃者らが自爆ベストを着ておらず、「死ぬ意図がなかった」として、ISに所属していないと指摘した。
ISは攻撃者に生きたまま拘束されないよう繰り返し警告しているが、これまでに逃走した例もある。
例えば、BBCモニタリングが視聴したISのメディアによると、2022年末、アフガニスタンの首都カブールのホテル攻撃に関与した武装勢力の1人が逃走に成功し、後に自爆攻撃を行った。
容疑者について分かっていること
襲撃者らは逮捕されるまで、白のルノー車に乗っていた。これは、別の映像に映っていた、コンサートホールからの逃走に使われた車両と一致している。
ロシア国家院(下院)のアレクサンドル・キンシュタイン議員は、ソーシャルメディアで、1人は車両の近くで拘束されたと説明。他の3人は近くの森の中へ逃げ込み、捜索の末に逮捕されたとした。
車両の中からは、武器とタジキスタンのパスポートが押収されたという。
24日には、逮捕された4人がモスクワの法廷に出廷する様子が公表された。ロシア当局はこの4人を、ダレルジョン・ミルゾエフ容疑者、サイダクラミ・ムロダリ・ラチャバリゾダ容疑者、シャムシディン・ファリドゥニ容疑者、ムハマドソビル・ファイゾフ容疑者としている。
ISが公表した写真には、容疑者のうち3人が薄い茶色のTシャツ、薄い緑色のTシャツ、そして灰色のポロシャツを着て写っている。
これらの服装は、拘束時に容疑者3人が着ていたものと一致しているように見える。
たとえば、ラチャバリゾダ容疑者が着ている薄茶のTシャツのロゴは、ISの映像でも確認できる。この人物は、その後の取り調べでも同じ名前を名乗っている。
他の2人の容疑者のシャツも、ISが公開した映像で着用していたものと一致するようだ。
ミルゾエフ容疑者の服装はISの写真には写っていないが、拘束時には長袖の緑色のシャツに青いジーンズ、黒いベルトを着ていた。ISの映像に映っている銃撃者の1人が、この三つのアイテムを身に着けていた。
ISの犯行声明の信憑性(しんぴょうせい)は?
襲撃者らが殺害状況の非常に生々しい映像を撮影していること、その映像でISの襲撃者に共通するスローガンが唱えられていること、ISの公式メディア・チャンネルが映像を配信していることは、ISのこれまでの手口と一致している。
また、襲撃の2週間以上前に、襲撃者の1人がクロクス・シティ・ホールにいた画像がロシアのメディアによって公開された。これは、襲撃が事前に計画されていたことを示唆している。
ISはしばしば、声明を発表する前に襲撃者の生死確認を待つ。死亡すれば、情報機関が尋問や拷問で情報を引き出すことができなくなるからだ。
そのため、犯人が逃亡している間に犯行声明を出したことは異例であり、ISが自らの役割を表明することに熱心なことを示している。
ISがロシアを標的にしたのは今回が初めてではない。2015年と2018年にも大規模な攻撃を実行しており、ここ数年でも規模の小さな攻撃があった。
●モスクワ郊外銃乱射テロ事件“背後にウクライナや米英” ロシア治安機関トップが一方的主張 ウクライナ大統領府長官顧問は「プーチンは嘘をついている」と反発 3/27
ロシアで起きた銃乱射テロ事件について、ロシアの治安機関のトップはイスラム過激派の犯行の背後に、アメリカやイギリスがいると主張しました。
事件については、過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出していますが、ロシアのFSB=連邦保安局の長官はメディアのインタビューで、「イスラム過激派が準備し、西側の情報機関が促した。ウクライナの情報機関は直接関与したと考えている」と発言。
記者から「背後にアメリカとイギリスがいるのか」と問われ、「そう考えている」と答えました。
具体的な根拠は示していません。
一方、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問はSNSで関与を否定するとともに、「プーチンは嘘をついている。FSBなどによって嘘が広められた」として、ロシアの主張に強く反発しています。
事件をめぐり、これまでに139人の死亡が確認され、実行犯とされる4人を含む8人が逮捕されています。
●「ウクライナ関与の証拠なし」=モスクワ乱射、ロ政権内で結論か―米報道 3/27
ロシア・モスクワ郊外のコンサート会場で22日に発生した銃乱射テロ事件で、米ブルームバーグ通信は26日、プーチン政権高官らは「ウクライナ関与の証拠はない」という見方でおおむね一致していると報じた。
関係者によると、プーチン大統領はこうした議論を承知の上で「ウクライナにおける戦争へのロシア国民の支持を固めようと、惨事を利用する方針だ」という。
事件では、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、実行犯として中央アジア・タジキスタン国籍の容疑者4人が拘束された。タジクの隣国アフガニスタンを拠点とするIS系の「イスラム国ホラサン州」(IS―K)が関わったと伝えられる。
ブルームバーグによれば、政権当局者らは討議の場で、テロ実行犯とウクライナ政府の間につながりはないという見解で一致した。この場にはプーチン氏も同席していたという。
●ハンガリーで抗議デモ、オルバン首相らの辞任要求 3/27
ハンガリーの首都ブダペストで26日、数千人がオルバン首相や検察トップの辞任を求めて抗議デモを行った。政権幹部の側近が汚職事件の捜査に介入を試みたとの疑惑が浮上したことを受けた。
これより先、法相だったユディト・バルガ氏在任中の会話の録音を当時夫だった人物が公表。会話の中でバルガ氏は、元法務省高官を巡る汚職事件に関する文書の一部を消去しようとする政権幹部側近の試みを詳細に語っている。
検察当局は2023年1月に録音したとされる会話の記録を分析するとともに、さらなる証拠を収集すると表明。「検察文書の消去や介入は法的にも物理的にも不可能だ」とも述べた。
●佐藤優が「ここだけの話“トランプ大統領”の方が世界は安定する」と考える理由 3/27
「世界は、気候変動、感染症、法の支配への挑戦など、複雑で複合的な課題に直面しています」――昨年9月の国連総会の一般討論演説で、岸田首相は「イデオロギーや価値観で国際社会が分断されていてはこれらの課題に対応できない」と述べた。長引くウクライナ戦争、秋に予定されるアメリカ大統領選など、新たな勢力均衡線を見据え、日本は何を意識すべきか。
第一の焦点はアメリカ大統領選
2024年は激動の年になる。
第1の焦点は11月に行われるアメリカ大統領選挙だ。「もしトラ」(もしトランプが大統領になったら)という言葉をちらほら見かけるようになったが、ドナルド・トランプ氏が大統領に当選したら、アメリカの内外政に大きな変化が生じる。「もしトラ」を意識して私は本書を作った。
ここだけの話だが、私はトランプ氏が大統領に当選したほうが、世界は安定すると考えている。バイデン現大統領は、民主主義VS権威主義(もしくは独裁)という価値観外交を展開している。アメリカ人はこの価値観が普遍的であると考えているが、私はそう思わない。
フランスの人口統計学者で歴史学者のエマニュエル・トッド氏が繰り返し強調しているように、自由、民主主義、市場経済というアメリカ人が普遍的と考える価値観は、アングロ・サクソンの家族類型並びに文化と結び付いた特殊なものだからだ。アメリカ人やイギリス人がそのような価値観を信奉することは自由だ。しかし、日本人やドイツ人、ロシア人、中国人などは、自らの文化に基づいた価値観を堂々と主張すべきだ。各国は他国の主権、伝統、文化を尊重する棲み分け外交を展開したほうがいい。
トランプ氏はウクライナ戦争を止められるのか
トランプ氏は自分が当選したらウクライナ戦争を止めると宣言している。賢明な方針だと思う。外務省国際法局長、インドネシア大使をつとめた石井正文氏はこう述べている。「ウクライナの戦地で多くの命が失われている状況は、昨今、日本政府が唱えている人間の尊厳にも反しています。これ以上、戦争を続けるのはやり過ぎでしょう。欧米には『支援疲れ』が広がり、米大統領選で共和党のトランプ前大統領は『自分が大統領になればウクライナ戦争を止める』と明言しています」(2024年1月20日「朝日新聞デジタル」)
「トランプ氏が返り咲くかはまだわかりませんが、いずれにせよ欧米の支援が細っていけばウクライナは戦えなくなります。こうした事態を想定し、停戦を模索すべきタイミングです。ロシアが侵略で得をした形にならないような停戦条件を各国が話し合い、共通認識を築くことが必要です」(同上)
石井氏は、「ウクライナの戦地で多くの命が失われている状況は、昨今、日本政府が唱えている人間の尊厳にも反しています」と述べているが、これは日本外交の方針転換を踏まえた上での発言だ。2023年9月19日、ニューヨークの第78回国連総会において岸田文雄首相が一般討論演説を行った。その内容が実に興味深い。
新たな勢力均衡線は日本に不利である
「議長、世界は、気候変動、感染症、法の支配への挑戦など、複雑で複合的な課題に直面しています。各国の協力が、かつてなく重要となっている今、イデオロギーや価値観で国際社会が分断されていては、これらの課題に対応できません。
我々は、人間の命、尊厳が最も重要であるとの原点に立ち返るべきです。我々が目指すべきは、脆弱な人々も安全・安心に住める世界、すなわち、人間の尊厳が守られる世界なのです。
国際社会が複合的危機に直面し、その中で分断を深める今、人類全体で語れる共通の言葉が必要です。人間の尊厳に改めて光を当てることによって、国際社会が体制や価値観の違いを乗り越えて、人間中心の国際協力を着実に進めていけるのではないでしょうか」(2023年9月19日、「首相官邸」HP)
米国は、民主主義という普遍的価値観を世界的規模に拡大する価値観外交を展開している。日本もウクライナ戦争では民主主義陣営のウクライナを支援し、権威主義的なロシアと対決するという姿勢をとってきた。
しかし、この国連演説で岸田氏は、「イデオロギーや価値観で国際社会が分断されていては、これらの課題に対応できません」と明確に述べている。これは価値観外交からの訣別だ。この外交方針の転換を踏まえてウクライナ戦争への対処方針を練り直すと石井氏の言説になるのだ。
もっとも誰がアメリカ大統領になろうとも、アメリカの影響力が国際的に低下する方向は変わらない。この空白から、新たな勢力均衡線が引き直される。日本を取り巻く環境を見ると、20年前と比較して中国、ロシア、韓国、北朝鮮が国力を強化したのに対して、アメリカと日本はそうならなかった。従って、引き直される勢力均衡線は日本にとって不利になる。
この現実を冷静に見据えた上で、国益(そこには国家益、国民益双方の意味がある)の極大化を図らなくてはならない。
●ロシア、今月だけで少なくとも5回北朝鮮に石油を供給…「国連制裁正面攻撃」 3/27
北朝鮮がウクライナ戦争に使う軍需品を提供するなどロシアとの軍事協力を強化している中で、今月だけで少なくとも5隻のタンカーが北朝鮮とロシアを行き来したことが明らかになった。
26日(現地時間)、フィナンシャル・タイムズ(FT)は英国シンクタンク「王立防衛安全保障研究所(RUSI)」の衛星写真を単独入手し、3月だけで少なくとも5隻の北朝鮮タンカーがロシア極東ボストチヌイ港から石油を積み出したと伝えた。衛星上、ボストチヌイ港から北朝鮮清津(チョンジン)港に移動して荷物の積み下ろしをしたことが確認された。3月7日、10日、13日、14日、22日など合計5回往復した。ボストチヌイ港を行き来しながら国際法上、海上で必ずつけておかなければならない船舶位置発信装置も消して航行していたことが明らかになった。
該当の船舶のうち「ペクヤンサン1号」は国連が2018年北朝鮮の石油密輸にかかわったと把握した船舶だ。RUSIのジョセフ・バーン(Joe Byrne)研究員は「国連の北朝鮮制裁名簿に入った船舶は石油輸送だけでなく外国港入港自体も許可されていない」と指摘した。
北朝鮮が今年ロシアから輸送した石油規模は具体的に確認されていないなかった。RUSIは問題の船舶が今月移動させた量だけで12万5000バレルにのぼり、国連が定めた年間上限の4分の1に達すると推定している。
FTはロシアが北朝鮮に海上で石油を直接供給したのは2017年国連安全保障理事会(安保理)制裁以降初めてだと伝えた。安保理の北朝鮮制裁決議は北朝鮮の精製油輸入量を年間50万バレルに制限している。また、北朝鮮に精製油を供給した国家に毎月30日まで前月の供給量を報告させている。北朝鮮に石油を供給しているのは主に中国で、ロシアは国連に2020年8月以降、北朝鮮に石油を供給していないと報告した。
元安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル調整官のヒュー・グリフィス氏は「北朝鮮とロシアのこのような石油取引は崩壊寸前の国連北朝鮮制裁システムに対する正面攻撃」としながらロシアが国連制裁を無視して北朝鮮に直接石油供給を開始し、北朝鮮を牽制(けんせい)しようとする国際的な取り組みを壊していると懸念した。
●世界最高の知性が指摘「いまや世界的な対立は西対東ではなく、西洋対世界である」極端なフェミニズム、道徳的なリベラリズムの強要「西洋は私たちが思っていたほど好かれていない」 3/27
フランスの人口統計学者・歴史学者・人類学者であり、世界最高の知性の一人とされるエマニュエル・トッド氏。氏いわく日本人にとって当たり前に感じられる「ロシアは悪者」「ウクライナ人は善人」というウクライナ戦争の構図は、経済的な観点からみると違うという。
西側諸国から実際の生産手段を奪ったグローバル化
――現在の世界情勢について、お聞きしたいと思います。ウクライナでの戦争は依然として続いており、アメリカ、イギリス、EU、日本などの西側諸国は、多額の軍事、財政、人道支援を行っています。
しかし、報道を見る限り、戦況は依然として流動的です。あなたは著書の中で多くの国が中立的な立場にとどまることさえせずに、ロシア寄りに傾いていると述べています。
また、あなたは世界的な対立を「西側対東側」ではなく、「西洋対世界」であると表現しています。国際秩序に反するロシアの侵略に、怒りを感じている日本人にとっては、非常に驚くべきことでしょう。
こうした動きを踏まえて、現在の国際情勢をどのように受け止めていますか。また、この戦争は国際秩序のどのような変化を象徴していると思いますか。
まず、現在の状況からお話ししましょう。戦争によって、私たちは現実をより良く認識するようになったと思います。とくに経済の現実です。
もちろん、戦争は恐ろしいもので、ウクライナの人々は、私たちが想像するのも難しいような苦しみを味わっています。多くの人々が殺され、負傷し、障害を負っています。戦争は嘆かわしいものです。
また当然ながら、戦争はロシアの侵攻によって始まりましたので、人々は「ロシアは悪者」「ウクライナ人は善人」と考える傾向を持っています。
しかし、私が基本的に関心を持っているのは、経済的な観点から見た「現実への落とし込み」です。
私たちは、西側諸国――あなたがおっしゃったようにアメリカ、EU、イギリス、日本など――が、GDPの面で途方もない経済力を持っているという考えに取りつかれていました。
たしかに、ロシアのGDPとベラルーシのGDPを合わせると、世界の西側のGDPの4.9%くらいだったと思います。
しかし今、私たちが目の当たりにしているのは、戦争がしばらく続いているということ、そして、西側諸国は信じられないほどの生産力不足に陥っており、アメリカは同盟国とともに、ウクライナ軍に必要な155ミリ砲弾を供給できていないという事実です。ミサイルなども同様です。
今、私たちが直面しているのは、もはや存在しないも同然と考えていたロシア経済や、ロシアの産業システムの力です。実際、ロシアの産業は西側諸国全体よりも生産性が高いようです。しかも、ロシアがより多くの武器を必要となった場合には、中国には提供できる力があります。
これは、この戦争の「最初の教訓」となりました。
つまり、西欧経済に対する私たちの認識は、バーチャルで、架空で、あるいはまったく非現実的であるという教訓です。ごく当然のことですが、これこそがグローバル化の要点でした。なぜなら、グローバル化は、現実には工場を海外に押し出し、西側諸国から実際の生産手段を奪ったからです。
私にとっては、これが中心的かつ本当に深刻な問題のように思えます。
西洋はもはや、「世界の嫌われ者」である
あなたは「西洋対世界」と、私がこの1年以上、言い続けてきたことをまとめてくださいました。ただまずはっきり言いますが、私は自分自身を西洋人だと思っています。私はフランス人で、イギリスともつながりがあります。だから、私が西洋人の視点から話していることは、念頭に置いて下さい。
そのうえで、私たち西洋人が今気づいたことは、「西洋は、私たちが思っていたほど好かれていない」という事実です。
ここでは、アメリカを例に挙げましょう。ここ数年、「世界中の人々はアメリカを嫌っており、ロシアの勝利を心から望んでいる」ということが、少しずつ見えてきました。
これは、驚くべきことです。
これに関して、多くの例を挙げることができます。ただ中国は良い例ではありません。ロシアと中国の間には古いつながりがあるからです。
またインドは現在、世界で最も人口の多い国ですが、これも良い例ではありません。旧ソ連時代のロシアとインドの間には、古くからのとくに軍事的なつながりがありますから。
そうではなくて、私にとって最も驚きだったのは、イスラム諸国が、ロシアを好んでいるように見えることです。最近では、イランだけではなく、サウジアラビアのようなアメリカの長年の同盟国もロシアとの取引を好んでいるようです。
実際、石油価格も、イスラム諸国やロシアが求めるものになっており、アメリカの石油はあまり考慮に入っていないかのようです。
さらに、NATO(北大西洋条約機構)の一員であるトルコとロシアとの間に生まれた新しい関係は、とても興味深いものです。また、フランスの元植民地である西アフリカでは、群衆がロシアの旗を振っています。この旗が彼らにとって何を意味するのかは、私にはわかりません。しかし、その光景は実に興味深いものです。
これらの事実は、私たちを現実に引き戻します。繰り返しますが、これこそがグローバル化の現実でした。
グローバル化が産み落とした「新たな搾取」
もともとグローバル化は、世界に繁栄をもたらし、生活水準の向上をもたらすと言われていました。たしかに、それは真実と言えるでしょう。
例えば、グローバル化のおかげで、中国やインドをはじめとする、多くの発展途上国には、新たな中産階級が生まれたという事実もあります。
ただ人々が見ようとしなかったのは、グローバル化とは、新しい種類の「グローバルな労働者階級」として、世界中の労働者を利用することを意味していたという点です。これによって生み出されたのが、フランス語や他の言語で言うところのまさに「プロレタリア」です。
そしてグローバル化の名の下に、「不労所得者国家」と化した欧米列強によって、グローバルな労働者階級に対する新たな搾取が行われているのです。
世界全体と西欧の間、西欧とそれ以外の国々との間には、19世紀のヨーロッパと同じような対立が生じています。
19世紀、ブルジョワジー(上流階級や中流階級)と、労働者階級の間には対立がありました。なぜなら、そこには搾取のメカニズムがもともと内在しているからです。
だから、新たな搾取を行う西洋に対して、それ以外の国が敵対心を抱くのは、当たり前のことなんです。
もちろん、西洋が生み出しているイデオロギー、極端なフェミニズム、道徳的なリベラリズムの強要などは、西洋以外のより保守的な国の多くを不快にさせています。
そして、もはや共産主義国ではないロシアは、近寄りやすい国になりました。かつての共産主義は、イスラム教徒や信仰心の厚い国々にとって恐ろしい存在でした。
しかし今の世界各国からすれば、プーチンのモラルの面における保守主義は、「ゲイの問題こそが組織や社会の最重要問題である」と強いる西欧の新たな傾向や、トランスジェンダーの問題に対する西洋の固執よりも、はるかに身近に感じられるのです。
西洋人である私は、どちらに賛同すると表明しているわけではありません。私は、欧米で起きていることにはショックを受けていません。ただ、周囲の人々が私たちをどのように受け止めているのかを、理解するべきだと言っているのです。
このように、「西洋対世界」の対立にはたくさんの理由があります。しかし、何よりも驚くべきは、私たち自身が驚いていることそのものです。
ロシアが世界から好かれる理由は、たくさんあります。それにもかかわらず、こうした指摘に対し、私たちが驚いていることに、私はただ驚いています。
●戦争を続ければウクライナという国家も危うくなる 3/27
ウクライナ、国家存亡を賭けた戦いの果てに
戦争は一度始まると終えることが難しい。正義と現実のはざまで、私たち自身もまた揺れる。力による国境変更を許してはならないが、最後はリアルな現実が帰趨(きすう)を決めるのが戦争でもある。戦争は不条理にして、かつ冷酷である。
残念ながらウクライナにとり、近い将来のある時点で、ロシアの支配地域を追認する形で停戦に動くのが現実的な選択になりつつあるように思う。
ただし、それを決めるのはウクライナ国民であって、私たち西側ではない。
侵攻3年目、立ちはだかる苦境
すでに2年以上にわたり、この国は西側から巨額の資金と膨大な量の武器の供与を得て、国力をはるかに超えるコストをかけてロシアの侵略に抗してきた。
だが、戦況はしばらく膠着(こうちゃく)し、ここへきて守勢に転じている。アメリカと西側による武器と弾薬の供与も十分ではない。兵力の損失と疲弊は、私たちが日々のニュースで窺い知るよりずっと深刻であるにちがいない。
開戦後2024年2月までの戦死者数は3万1,000人だった、とゼレンスキー大統領は言う。
多分、そんなはずはないだろう。米NYT(ニューヨークタイムズ)紙が、米政府高官の発言として、7万人近い(ロシア側は約12万人)と報じたのは23年8月だ。同じ8月、英BBCは、手足を切断した傷痍兵の数は23年前半だけで1万5000人にのぼる、と報じていた。
たとえ支援が続いたとしても、これから先さらに一年、戦い抜くだけの力を回復できるかどうか、定かではない。
猛々しい野性を隠さないロシア
対するロシアは、資源大国から軍事大国へと化している。
西側は、3月中旬におこなわれた大統領選挙の正当性を糾弾するが、不正を考慮して得票率(87.28%、7627万票)はいくらか下がるにしても、「圧勝」という現実は揺るがない。プーチンの戦争は「ロシアの戦争」へと化した。
国際通貨基金(IMF)は毎年1月に世界経済見通しを発表して、その後4半期ごとにそれをアップデートしている。23年のロシアの実質GDP(国内総生産)成長率見通しは、同年1月時点の見通しプラス0.3%から始まって上方修正を繰り返した。つまり、景気が予想以上にいいことをIMFも追認した一年だった。結果はプラス3.6%の成長だった。
もっとも、ロシア経済に不安がないわけでは決してない。
インフレ圧力は高まっているし(ロシア中銀は政策金利を16%まで引き上げている)、東部ウクライナの支配地域の維持・開発コストはこの先、国民に巨額のコスト負担を強いるだろう(所得税の見直し論が出ているのも、おそらくそのためだ)。戦時の傾斜経済で民間セクターの活力は削がれ、制裁で技術革新のリソースも失われた。長期的にみれば、経済が長い停滞のトンネルへ入っているだろうことは想像に難くない。
だが、それでも持ち堪えている。
ちなみに、23年の先進国全体の実質GDP成長率は1.6%。ユーロ圏全体でプラス0.5%、ドイツはマイナス0.3%。支援の継続を訴える西側首脳たちの表明には、依然として崩れないロシアへの苛立ちが滲む。
西側が表向きはどうであれ、いまや猛々しい野性を隠さないロシアを前に、自らを危険にさらすような戦争のエスカレーションを望まないことは明らかだ。それにアメリカにとり、大西洋を隔てたウクライナは、ロシアが抱くほどのコアなインタレスト(関心事)ではないだろう。
西側にとり、これは自国の戦争ではない。言うなれば、理念のための戦争だ。その限りでこの戦争は、管理されたものでなければならないのだ。
国民は一つにまとまっているように見えるが・・・
もともとウクライナの独立は、宗主国ロシアを相手としておこなわれる、ウクライナ人による民族解放運動の戦いの末に勝ち取られたものではなかった。独立は、ソ連が消滅して自ずと実現された。多くのウクライナの人々にとり、それはまるで霧が晴れでもするかのような、静かな変化だったはずである。
半面、まさにそのことが、この国で生きる人々が本来は抱くべきはずの、独立に寄せるオーナーシップや国家に対する帰属意識といったものを希薄にし、あるいは国民のあいだの政治意識のまとまりを欠くことの一因ともなって、その後の改革と社会の刷新に大きな影を落とすことになったのではないかと思っている。
いま、キーウの街に、1991年12月の独立を記念する英雄の像はない。代わりにあるのは、黄金色に輝くミハイル修道院(スターリン時代に壊されたが、独立後、98年にウクライナの復興を象徴する国家プロジェクトとして復元された)脇の坂道に沿って延々と飾られた、2014年2月のマイダン政変の犠牲者と、現下の戦争で尊い命を落とした夥(おびただ)しい数の兵士たちの遺影である。
誤解を恐れずに言えば、この度のロシアによるウクライナ侵攻と、奪われた領土を取り返すための戦いを通じてはじめて、この国で暮らす人々は(いまは国外へ避難している600万を超える人々も含めて)、ウクライナ語を話すことの意味に目覚め、ウクライナ国民であることを自覚し、また国家の危機を自分事としてとらえて一つにまとまりつつあるように思われる。
だが、それも脆(もろ)いかもしれない。ゼレンスキー大統領への国民の支持は、西側へ寄せる期待とセットであるからだ。多くの国民は、西側の援護が続いて、ロシアとの戦いが有利に終わることを期待している。
巨大な産業利権が生んだ汚職・腐敗体質
他方、ここへきて囁かれる西側の揺らぎは、支援疲れのせいばかりではないだろう。
この30年、私はこの国の人々の口から、ロシアからの独立や欧州への統合について幾度となく聞かされた。
しかしロシアから独立し、自由で開かれた公正な社会をめざすためには、まずこの国の社会を厚く幾重にも覆う古い遺物を剥(は)ぐ必要があるのだが、その解は示されなかった。改革は滞り、経済は浮上せず、行政の汚職と社会の腐敗が滓(おり)のように蔓延(はびこ)った。
ソ連は世界第一位の鉄鋼生産国だったが、その約35%をウクライナ一国が担っていた。石炭生産で約25%、鉄鉱石の生産量では約45%を占めた(数字は1989年実績)。すでに30年以上前のソ連崩壊時、主としてドニプロ川左岸の東部と南部を地盤とする共産党が、この莫大な経済利権ともども西ウクライナの民族独立派に合流して、この国の政治はスタートした。
共産党の合流は、巨大な産業利権のウクライナ化、民族化をともなっていた。
独立後、旧共産党官僚がおこなった漸進的な改革は、ロシアとつながる東部ウクライナに巣食う古いシステムを温存させた。
同時に、産業利権のあるところ、ロシアにおけるのと同様、新興資本家(オリガルヒ)が群がった。利権の規模が大きいだけ、その影響も大きかった。政治は少数のオリガルヒに支配され、改革は遅々として進まなかった。公正な社会の実現は遠のいて、汚職と腐敗の体質が社会全体を蝕(むしば)んだ。
いまのウクライナは、その延長線上にある。5年前、ゼレンスキー大統領は「ロシアとの和解」と「公正な社会の実現」を掲げて大統領選挙に勝った。その彼の選挙戦のスポンサーが、ユダヤ系資本家のコロモイスキー氏だったことはよく知られている。
国民の希望である欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への加盟は、依然として蜃気楼のように見え隠れするだけだ。
果たして一年後、この国の姿は?
財政の破綻は、かねて指摘してきた通りである。
ロシアによる侵攻が始まる前、この国の経済は石炭と鉄鋼によって大きく支えられていた。東部と南部でGDPの30%以上を占めていた。経済のその屋台骨の多くがロシアに占領され、あるいは戦渦によって廃墟と化した。開戦後の2022年のGDPがいっきに30%近くも減少したのはそのためだ。
この状態が、いつまで続くのか。武器の供与はおろか、金融支援なしに、政府機能(公務員の給与、教育・医療サービスの提供、年金の支払いなど)を維持するための財政を運営できる状態にないのである。私は、このまま戦争を続ければ、やがて反転攻勢どころか、ウクライナという国そのものの存立を危うくしかねない事態も起こり得るのではないか、と案じている。
かたや、西側からの支援が有限であることも明らかになりつつある。
もはや誰もが勝てないとわかる戦争を、いったい何のために続けるのか、という虚しい疑問が国民のあいだに広がるとき、政治が再び混乱するリスクは大いにあり得る。最悪の場合、歴史的に非ロシアだった西ウクライナへ重心を移して分裂することもあり得るのではないか。
ロシアに奪われた領土を取り返すための戦いは、国家の存亡を賭けた戦いのフェーズへ移りつつあるように思う。
果たして一年後、ウクライナという国はどうなっているか。
3月22日にモスクワのクロッカス・シティで起きた銃乱射テロ後のロシアの動向も気にかかる。
西側は、ロシアと戦うための支援だけでなく、この戦争の終結と、ウクライナ自体の安定にもっと注意を向けるべきときが来ているように思う。ウクライナで生きる人々の真の強さが試されるのは、これからである。
いまや自壊寸前のウクライナ、プーチンは待つだけ!
●ウクライナ、安保高官を解任 後任は対外情報局長官に 3/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、ダニロフ国家安全保障・国防会議書記を解任した。後任はオレクサンドル・リトビネンコ対外情報局長官。解任の理由は明かされていない。
ウクライナでは先月、ウクライナ軍のザルジニー前総司令官が更迭されていた。
ダニロフ氏はゼレンスキー氏の大統領就任からわずか数カ月後の2019年10月から国家安全保障・国防会議書記を務めていた。
後任のリトビネンコ氏は公の場でほとんど知られていない。
●トルコ当局、IS関与疑いで147人拘束 モスクワ襲撃で高まる警戒 3/27
トルコ当局は過激派組織「イスラム国」(IS)の活動に関与した疑いがあるとして、全国で147人を一斉に拘束した。イェルリカヤ内相が26日、X(旧ツイッター)の投稿で明らかにした。
ISは、モスクワ郊外のコンサート会場で130人以上が死亡した襲撃事件について犯行声明を出している。ロイター通信によると、実行犯としてロシア当局に逮捕されたタジキスタン出身の容疑者4人のうち2人が、事件前に滞在手続きの関係でトルコに一時的に入国してからモスクワに向かっていたといい、警戒感が高まっている。
イェルリカヤ氏によると、トルコでは昨年6月以降、1300回以上の対IS取り締まり作戦を実行し、武装活動や資金援助をしていたとして今月25日までに2919人を検挙したという。同氏は「全てのテロリストが無力化されるまで、テロとの戦いを断固として継続する」と述べた。
●フランス ウクライナ軍事支援で自国軍需企業に生産拡大要請も 3/27
フランスのルコルニュ国防相は26日、記者会見し、ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナへの支援を継続するため、自国の軍需企業に対し、武器などの生産拡大を要請する可能性があるという考えを示しました。
フランスのルコルニュ国防相は26日、パリにある国防省で記者会見を行いました。
この中でルコルニュ国防相は、ウクライナへの支援を継続するため今後必要に応じて、武器や弾薬を製造する自国の企業に対し、生産の拡大を要請する可能性があるという考えを示しました。
そのうえで「ことしはウクライナ軍向けに8万発、フランス軍向けに2万発、あわせて10万発の155ミリ砲弾を生産する計画だ」と述べ、自国向けよりもウクライナ向けの生産に優先的に取り組んでいるとアピールしました。
ルコルニュ国防相は「ヨーロッパの安全保障の課題には、われわれが自ら対処しなければならない」と述べ、アメリカのウクライナへの追加の軍事支援の継続が見通せない中、フランスが支援を主導する意義を強調しました。 
●フランスとポーランド、ウクライナ産農産物のセーフカード強化訴え 3/27
フランスとポーランドは26日、ウクライナ産農産物の輸入が欧州連合(EU)の関税免除措置により急増した場合の緊急輸入制限(セーフガード)を強化するよう呼びかけた。域内農業市場の不安定化や農家のさらなる反発を防ぐために必要と主張した。
フランスのフェノ農業・食料相はブリュッセルでEU農業・漁業相理事会が開かれるのを前に記者団に、市場不安定化が市民のウクライナ支持低下を招く恐れがあり、それはEU、ウクライナ双方にとって得策ではないと強調。
ポーランドのシェキエルスキ農相は、ウクライナの近隣国の農家が高すぎる代償を払っていると述べた。
ブリュッセルに向かう幹線道路などEU本部の周辺は農民が抗議のため約250台のトラクターで埋め尽くした。
欧州委員会は関税免除措置を2025年6月まで延長することを提案。鶏肉や卵、砂糖については輸入量が22─23年の平均を上回った場合にセーフガードを発動する。
その後、オーツ麦、トウモロコシ、蜂蜜などがセーフガード対象に加えられたが、フランスとハンガリーは小麦も追加するよう求めた。
フランスとポーランドはまた、21─23年の平均を輸入量の比較基準にするよう働きかけている。
●チェコ、150万発の砲弾供与も ウクライナに、外相が見通し 3/27
チェコのリパフスキー外相は砲弾不足に苦しむウクライナに対し、150万発の供与の可能性も視野に入れていると述べた。米ブルームバーグ通信が27日までに、リパフスキー氏のインタビューを報じた。チェコ政府は砲弾確保計画を主導し、80万発の調達先が見つかったと明らかにしていたが、リパフスキー氏は当初の想定よりも多数を供与できそうだとの考えを示した。
チェコは各国の資金協力を得て、欧州連合(EU)域外から砲弾を調達する計画だ。
ウクライナ軍は27日、夜間にロシア軍の無人機13機による攻撃があり、うち10機を撃墜したと発表した。

 

●プーチン氏、NATO攻撃否定 ウクライナへのF16供与けん制 3/28
ロシアのプーチン大統領は27日、軍パイロットとの会合で、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国を攻撃する意図はないが、西側諸国がウクライナにF16戦闘機を供与したらロシア軍はそれを撃ち落とすとけん制した。
NATOはソビエト連邦崩壊後に東方に拡大しているが、ロシアはNATO加盟国を攻撃する計画はないと述べた。
「これらの国に対して攻撃的な意図は持っていない」とし、「ポーランドやバルト三国、チェコも警戒しているが、ロシアが他の国を攻撃するという考えは全くのナンセンスだ」と指摘した。
西側諸国がウクライナに供与を確約しているF16戦闘機については、供与されてもウクライナの戦況が変わることはないとの見方を示した。
「戦車や装甲車、多連装ロケットランチャーを含むその他兵器を現在破壊しているのと同じようにF16を破壊するだけだ」と述べた。
F16戦闘機は核兵器の搭載が可能であることを考慮しなければならないとし、「当然、第三国から使用されるのであれば、どこに配備されようとわれわれにとっては合法的な標的になる」と説明した。
ウクライナのクレバ外相はこれに先立ち、数カ月以内にウクライナにF16が届くと述べていた。
ベルギー、デンマーク、ノルウェー、オランダなどがF16の供与を表明。諸国連合がウクライナのパイロットにF16訓練を提供すると約束した。
●「ロシアは2月にテロ計画把握」=ウクライナ高官が主張 3/28
ロシア・モスクワ郊外のコンサートホールで22日夜に起きた銃乱射テロで、ウクライナ国防省情報総局のブダノフ長官は27日、「ロシアは2月15日には(計画を)把握していた」と主張した。「(ロシアが軍事介入した)シリアにいる情報担当が入手し、モスクワにもたらされた」との見解を示した。
プーチン政権は「イスラム過激派が実行した」と認める一方、ウクライナに「黒幕」がいるという説に固執している。名指しで非難されているブダノフ氏は「ナンセンスだ。原則として民間人に対するテロは容認しない」と否定した。
●モスクワ銃乱射事件、死者143人に ロシアは“ウクライナ関与”を依然主張「イスラム国」の犯行は「信じがたい」 3/28
ロシアのコンサート会場で起きた銃乱射事件で、死者は143人に達しました。ロシア外務省は過激派組織「イスラム国」による犯行との見方について「信じがたい」と述べ、改めて否定しました。
ロイター通信によりますと、ロシア当局は27日、モスクワのコンサート会場で先週起きた銃乱射事件で、亡くなった人が143人になったことを明らかにしました。
また、ロシア外務省は会見で「イスラム国」が首都モスクワの施設を攻撃する能力があったとは「非常に信じがたい」と述べ、改めて否定的な見方を示しました。
事件をめぐっては、襲撃の際に撮影したとみられる映像を系列のメディアを通じて公開している「イスラム国」の犯行との見方が各国の間で固まりつつありますが、ロシアはウクライナの犯行への関与を繰り返し主張しています。
一方、事件の際にコンサートを行っていたロシアのロックバンドが27日、追悼コンサートを行い、厳戒態勢の中、ファンたちが会場に足を運びました。
●プーチン政権は四面楚歌 モスクワでテロ事件、中露関係にヒビ 3/28
モスクワ郊外コンサート会場でのテロ事件、犯行を即ウクライナに擦り付け
ロシアのプーチン大統領が今月18日、再選を果たした直後にモスクワ郊外のコンサート会場でテロ事件が発生。これまでに143人が死亡しました。瓦礫の下からまだ新たに遺体が発見されていて死亡人数はさらに増えると思われます。
現段階では、過激なイスラム組織ISIS-Kによるものと見られており、犯行を認めています。モスクワ当局は11人の容疑者を拘束。そのうち4人は直接銃を撃ったテロリストでした。24時間以内にロシアメディアが一斉に、「これらのテロ事件はウクライナ政府が裏で画策したものだ」というニュアンスで報じましたが、全く根拠のない声明であり、後にすべてデタラメだと証明されました。
逮捕された容疑者の車両のナンバープレートが「ウクライナのものである」と報じられましたが、後にベラルーシ政府がその車両のナンバープレートは「ベラルーシのもの」と確認しました。
なぜロシアのメディアがこのテロ攻撃をウクライナが仕組んだものだと報じたのでしょうか?
それは独裁国家にありがちな手法であり、国民を扇動して独裁政権の敵対国に対する憎悪を煽ることにあります。
3月25日、逮捕されたテロリスト3人が裁判を受ける映像をロシアの国営放送が放送しました。
その映像たるや、なんと恐ろしい光景だったでしょうか、一人の容疑者は殴られ顔が腫れあがっていました。もう一人の容疑者の歯は全部抜かれたのではないかと思うほどひどい顔になっていました。
さらに、恐ろしいのは、もう1人の容疑者は担架に乗せられたまま出廷しました。その容疑者は、両目が潰されていて、拷問で両目が刺されたようです。すでに失明の状態でした。
さらに下半身には、おしっこ用のチューブがつけられていました。それはもしかしたら男性器が切断されたのではないでしょうか。
ロシアの国営放送によると、3人は最初から素直に自分の犯行を認めましたが、果たして犯行を認めた容疑者に対して拷問する必要があったのでしょうか?
それともロシアの警察が別の理由で拷問したのでしょうか?
しかも今回の事件では、劇場警備員に被害者は1人もいなかったという不審点があります。
本来コンサート会場の入り口には金属探知機が設置されているはずですが、今回は使用されていませんでした。しかも室内の消火装置は、全て作動しませんでした。
あたかもコンサート主催者が、この事件を事前に知っていたので、わざと死傷者を増やすために警備を怠ったのではないかと推測されます。
さらに25日、ISIS-Kは最新の映像を公表しました。「全てのテロリスト(戦闘員)は、既に基地に帰還した」と。ということはテロリストは1人も逮捕されていなかったのでしょうか?
ロシアが逮捕したというのは誰なのか、益々謎が深まるばかりです。
ロシア独立系メディア、ロシア政府の闇を暴露
プーチンは、こうした被害を受けたロシア市民を利用し、ウクライナへの憎悪を煽っているのです。
情報統制されているロシア国内では、信じてしまうロシア市民が多いことでしょう。これは私の推測ではなく、ロシアの独立系メディアの2人のジャーナリストが、自分たちの良心に従って真実を明らかにしたものです。
この2人のジャーナリストは、ラトビアに本拠地を置くメドゥーザ(MEDUZA)というメディアに勤務。「クレムリンの情報機関FSBが事件発生後数時間も経たないうちに、ロシアのすべてのメディアに対し、このテロ攻撃を報じる際にテロ攻撃の主犯はおそらくウクライナ政府であり、捜査および逮捕の過程でウクライナからの多くの痕跡が見つかった」といったデタラメを報道するようにロシアメディアに通達したと証言しています。
メドゥーザ新聞はロシアの独立系メディアとして、“ロシア政府の闇”を暴露する良心のメディアです。
2023年1月26日、ロシア当局は、独立系メディアサイト「メドゥーザ」を「好ましくない組織」と指定。ロシア国内での運営を事実上禁止しました。
また、ロシア国民がメドゥーザやそのジャーナリストに協力することも禁じました。
このようにロシア政府によるメディア統制が一段と強まっていると言えます。
当然ながら、ウクライナ政府はすぐにモスクワの主張を否定。ウクライナは民主主義国家であり、こうした極端な手法でロシアに報復することはありません。
ウクライナ政府は、「あくまでも敵はプーチン政権であり、一般のロシア市民ではない」と明言しました。
ウクライナはロシアの一般市民との友好的な関係を維持することを強調しています。
ISテロリストとロシアは“目くそ鼻くそ”に等しい犯罪者
このテロ組織の行為は非常に残忍ですが、ロシアの治安当局もこれらのテロリストに対して非常に残酷に対処していると報じられています。
FSBが銃撃犯を拘束する様子を映した動画がSNSで拡散しました。なんと特殊部隊隊員は現場で容疑者の耳を切り落としたとのこと。
民主主義国家では、容疑者が有罪か否か確認されていない段階で、容疑者の体の一部を切断するということは絶対あり得ないでしょう。さすが日本人がよく言う「おそろしあ、おそろしあ」です。
このように言うなればロシアとISテロリストは“目くそ鼻くそ”のようなものです。
そもそも、プーチン大統領がウクライナで行っている戦争こそ、国によるテロ行為だと言っていいでしょう。
影落とす露中領土問題の真実
次は習近平とプーチンの関係についても話してみましょう。
プーチンが5回目の再選を果たした直後、最初に祝電を送ったのは習近平でした。そして、プーチンは再選演説の中で「台湾は中華人民共和国の不可分の領土である」と述べました。これはロシアの選挙とは全く関係がないことです。プーチンが自身の再選後に、中国共産党に取り入る必要は全くありません。
習近平がプーチンに祝電を送った際、世界に向け台湾は中国の固有の領土だと認識させるよう、プーチンに要請した可能性があります。
またこれはプーチンが、ウクライナの戦争で非常に不利な状況にあり、北朝鮮と中国から経済的および軍事的支援を受ける必要性があることを示唆しています。
したがって、プーチンは再選後すぐに習近平に取り入ることで、中国政府からの支援を得ようとしたのでしょう。
しかし、習近平とプーチンの関係が蜜月期であるように見える一方で、中国とロシアの間には緊張が生じていると報じられています。特に中露国境地帯で緊張が生じています。中国はこの地域を「海参●(=威の上に山)」と呼んでいて、ここはロシアの極東地域にある「ウラジオストク」を指します。
ロシアのメディアによると、中国の黒竜江省は経済的に非常に苦しんでおり、また非常に寒冷地域。この地域の農民の多くは新しい場所での農業活動を求めており、彼らは中露国境に接するウラジオストクを選択しています。現在、多くの黒竜江省の住民がウラジオストクへ移住し、そこで近代的な大規模農業を行い、大豆を生産しています。
そしてそこで生産された大豆は、中国に輸出されています。ウラジオストクは橋一本隔てているだけです。こうしてウラジオストクで生産した産品を、トラックで中国に輸送し、中国国内で販売しています。
現在、ウラジオストクに移住した中国の農民たちは、そこに定住し、その経済活動を完全に支配しています。
ウラジオストクは非常に寒冷であり、ロシア人の人口が非常に少ないため、次第にウラジオストクは中国人によって支配される土地となっています。この状況下、プーチンは対ウクライナ戦争を維持するため、習近平に取り入る一方で、中国人がウラジオストクの領土を奪うのでは?と警戒しています。
実際、ウラジオストクは元々中国の領土であり、そこで多くの漁民がナマコ漁を生業としていました。中国でナマコのことを「海参」と呼びます。その地域は「海参●」と呼ばれていました。
しかし、清朝とロシア帝国が1860年に締結した北京条約により、この地域はロシアに割譲され、「海參●」は「ウラジオストク」に改称されました。
「ウラジオストク」は、ロシア語で「東方を支配する」という意味に由来しています。ロシアは、この地域を侵略し、中国の清朝から奪ったことを隠さずに誇示しているのです。
したがって、ウラジオストクという地名自体が、ロシア帝国が清朝からこの地域を奪ったことを証明しています。「東方を支配する」という名前は、ロシア帝国がウラジオストクを利用してアジア、日本を含む地域に対して侵略を行ったことを示しています。
実際、ソビエト連邦時代には、ウラジオストクを拠点として日本に対する侵略を行うための軍港が設立されました。この侵略の歴史として、ロシア帝国の軍隊がウラジオストクに住んでいた中国の原住民の大虐殺を行い、その地域をロシア帝国のものとしたという記録があります。
これはロシアが日本の南樺太などの北方領土を侵略する際、行ったのとほぼ同じであり、力を行使して原住民を絶滅させ、土地を強制的に占拠したのです。
現在、ロシアは戦争状態で経済が崩壊、そのいっぽうで中国からは首を絞められている状況にあるということになります。
そのためプーチンは、習近平に「中国の黒竜江省の人々が我々のロシアの領土を占拠するな」とは言うことができないのです。
これは非常に興味深いことです。中国も経済が崩壊している状態ですが、それでもロシアよりはるかにマシな状況にあります。元々ウラジオストク地方政府にとっては、この状況は良いことだと考えられています。
なぜなら、元々そこに住んでいたロシア人は非常に少なく、ウラジオストク地方政府の財政が悪化して、経済が停滞していたため、多くの中国人がやってきて経済を活性化させ、人口も増加することによりウラジオストク地方政府の問題が解決されたからです。
中国の日本領土侵略を許すな
こうした考え方は、沖縄、北海道などの人口の少ない地域でも同様だと言えます。
日本の地方政府は、中国からの投資や開発によって、人口が不足している地域の経済活力を活性化させることを歓迎していると考えられます。
しかし、彼らは中国共産党の侵略性を見落としており、ある程度の時間が経過すると、中国人の定住地となってしまう可能性があります。これは一種の人海戦術と言えます。
実際、2023年9月1日に習近平が南シナ海支配を示す「10段線」を発表した後、ウラジオストクは中国の領土であるとは明言しませんでしたが、中国政府は新しい地図を制作しました。この新しい地図では、「10段線」の内側はすべて中国の領土であると印刷されているだけでなく、今まではロシアの「ウラジオストク」と記載されていたにもかかわらず新しい地図では、ウラジオストクを「海参●」という中国語の名前に変更したのです。
この出来事はすぐにロシアに伝わり、習近平が「海参●」を取り戻そうとする意図が非常に明確であることが明らかになりました。プーチンはこれについてわかっているはずです。
その半年後には中国・黒竜江省に多くの市民が移住を始めました。この現象は非常に興味深いものであり、国際社会では中国とロシアが蜜月関係で邪悪な枢軸同盟であるように見えますが、実際には彼らはテーブルの下で互いに蹴り合っているのがよくわかります。
●なぜロシア人はプーチン大統領に「過去最高の投票」をしたのか…「強くて本音の政治家」が支持される理由 3/28
3月15日から17日にかけて投票が行われたロシアの大統領選挙では、プーチン氏が過去最高の得票率で当選した。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「日本人から見ると、プーチン氏のような独裁的な政治家が30年も大統領をつづける状況は考えにくい。しかし世界的に見れば、EUではハンガリーのオルバン首相、アメリカではトランプ氏といった強権的な政治家が支持を集めつつある」という――。
過去最高87%の得票率でプーチン大統領が再選
ロシアで3月15日から投票がはじまった大統領選、投票率77.5%は過去最高であり、7627万票を獲得したプーチン大統領の得票率も87%を超えて過去最高となった。通算5選目のプーチン大統領は、77歳になる2030年まで長期体制を維持することになる。
プーチン氏にとって、選挙の目的はもはや勝つことではない。圧倒的な勝利を示すことで、彼の永続的な支配と終わりなき戦争の正統性を刷新できると考えているように見える。「反対派は少数であり、自分を支持するロシア民衆の意思には逆らえない」と主張できることが重要なのだ。
プーチン氏は今回の選挙に向け、粛清や言論弾圧を重ねて着々と準備を進めてきた。
特に反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が、昨年12月に北極圏の刑務所に収監され、2月に急死したことは国際的な非難の的になった。ロシア各地で開かれたナワリヌイ氏の追悼集会では少なくとも397人が逮捕され、モスクワ南部で葬儀があった3月1日は19都市で128人が拘束されたと報じられている。
葬儀には数千人の市民が集結し、墓地まで約1万6000人が行進して「戦争反対」「プーチンがいないロシアを」などの声をあげたと報じられた。映像を見ると3万〜4万人に見えるほど多くの市民が集まっていたが、心配されたほど騒ぎは大きくならなかった。機動隊は出動したものの強制排除はなく、モスクワ市内で拘束されたのは17人だった。
なぜ「プーチン・マジョリティー」は戦争について語らないのか
ナワリヌイ氏は女性人気が高かったせいか、葬儀や行進は女性の姿が多かった。男性の場合、万が一捕まるとそのまま戦場へ送られるという政府の“飛び道具”を恐れたからという話もある。
大統領選が近づくと、言論弾圧の動きが加速した。反体制派の新聞は販売店に並ぶとすぐロシア当局が押収し、編集長が拘束されたと伝えられている。
反プーチンを掲げる人たちはごく一部であり、生命の危険を顧みずデモに参加する人は国民全体から見れば微々たるものだ。今回の選挙結果にも表れたように、プーチン氏の支持者が多数を占めることは確かだ。
この支持者たちを「プーチン・マジョリティー」と呼ぶメディアもある。静かな大衆、物言わぬ多数派という意味の「サイレント・マジョリティー」をもじったもので、実際、彼らはプーチンを支持すると積極的に発言することはない。ウクライナ戦争についてもほとんど何も語らない。あえて沈黙することで、逆説的に戦争を支持している人が多数派を占めているというのがプーチン・マジョリティーである。
経済制裁でも、1年でマイナス成長を克服
ロシア経済が持ち直したことも、プーチン支持が揺るがない理由の1つだろう。アメリカを中心にG7、EU、オーストラリアなどが経済・金融制裁をつづけてきたにもかかわらず、2023年の実質GDPはプラス3.6%だった。ウクライナ侵攻がはじまった2022年はマイナス1.2%だから、1年でマイナス成長を克服したことになる。
経済制裁が効いてない一方で、EUの盟主であり、ロシアからのエネルギー輸入を見合わせているドイツがマイナス成長だから、ロシア経済の堅調さが目立つ。
ロシア経済の回復は、戦争継続による軍事関連需要の高まりが最大の理由と見られている。また、原油の輸出先は中国、インド、トルコなどの“友好国”にシフトし、非ドル取引の拡大によってロシア貿易は安定的に継続されている。
ただし、強い軍需によって経済が過熱し、深刻な人手不足とインフレ率7%台の物価高を招いて、国民生活を圧迫していることも事実だ。
プーチン氏は選挙の2週間前(2月29日)に「年次教書演説」で内政や外交の基本方針を示した。彼の演説は2時間を超え、国民の大多数がウクライナ侵攻を支持していること、ウクライナで多くの領土を解放したことなどを強調した。
2時間もの演説で語った「欧米との戦い」
安全保障については、西側諸国がロシアを軍拡競争に引きずり込もうとしていると述べている。
また、2月26日にフランスのマクロン大統領が「欧米の部隊をウクライナに派遣する考えを排除しない」と述べたことを受け、ロシアには「彼らの領土を攻撃する能力がある」と語った。大陸間弾道ミサイル「サルマト」の実戦配備を進めていることにも触れている。サルマトは核弾頭を搭載できて、アメリカが射程に入るミサイルだ。
プーチン氏が年次教書演説で主張したのは、ウクライナ戦争の継続だけでなく、NATO加盟国をはじめとする欧米各国との戦いである。永続的につづく「欧米との戦い」は、ロシア国内の容赦ない粛清や弾圧、検閲など抑圧の根拠となる。
プーチン氏にとって、87%もの得票率で再選した今回の選挙は、国民が年次教書演説の内容を承認し、支持したことを意味するのだろう。ウクライナ戦争の終結後も「欧米との戦い」は継続されることになる。
EUとNATOを疲れさせるハンガリーの独裁政治
日本人から見ると、プーチン氏のような独裁的で強権的な政治家が30年も大統領をつづける状況は考えにくい。
しかし世界には、独裁的で強権的なリーダーはほかにもいる。EUでいえば、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相も強権的なリーダーのひとりだ。
オルバン首相は、3月8日にアメリカのトランプ前大統領と会談して話題になった。後日、地元テレビ局のインタビューに応えて、トランプ氏が「ウクライナとロシアの戦争には『一銭も出さない』と言った」と語り、トランプ氏が再選すれば、ウクライナ支援を打ち切るという見通しを明かしたからだ。
さらにオルバン首相は「この戦争は終わる。ウクライナが自力では立てないからだ。ヨーロッパだけで支援を継続することはできない」という自身の考えも示した。
ハンガリーはEUとNATOの加盟国でありながら、「オルバン首相による独裁国家」といわれる。ウクライナ支援についても、西側諸国の足並みを乱していると問題視されている。昨年12月に欧州理事会(EU首脳会議)で500億ユーロ(約7兆9500億円)の追加支援策が検討された際も、オルバン首相が拒否権を行使し、今年2月の特別欧州理事会まで合意が見送られた。
スウェーデンのNATO加盟についても、オルバン首相ひとりが承認に反対しつづけてきた。2月26日にようやくハンガリー議会で承認され、オルバン首相の署名を待つ状態になっている。議会承認の3日前、スウェーデンが自国製の戦闘機4機をハンガリーに売却すると両国が合意したため、裏工作ではないかと噂されているが、オルバン氏は否定している。
「駆け引き」の材料にされるウクライナ支援
EUのウクライナ支援とNATOのスウェーデン加盟は採択に全会一致が必要なため、オルバン首相ひとりに撹乱されている。特にEUはハンガリーとの駆け引きがつづき、“オルバン疲れ”が見られるほどだ。
背景には、ハンガリーへのEU補助金が凍結されたことがある。EUの補助金はコロナ禍による経済的ダメージへの復興基金で、ハンガリーが2021年5月に提出した復興計画から総額58億ユーロ(約7兆5400億円)の補助金が決まった。しかしハンガリーはEUが求めた改革措置を達成せず、2022年に補助金75億ユーロ(約9兆7500億円)の一時凍結が決定された。特に「法の支配」の欠如や人権侵害などが指摘されている。
昨年12月の欧州理事会では、ハンガリーがウクライナ支援などに強く反対したことから、全会一致で議案を通すためにハンガリーへの補助金102億ユーロ(約1兆6460億円)の凍結を解除した。オルバン首相は「凍結されたままの補助金約120億ユーロ(約1兆9365億円)も解除されたら、ウクライナ支援などの交渉に応じてもいい」と語り、さらなる駆け引きを示唆していた。EUが“オルバン疲れ”に陥るのも理解できるだろう。
EUで唯一の「独裁国家」
EUの加盟国は「自由」「平等」「法の支配」「民主主義」などの価値観を共有していることになっている。しかしハンガリーは、国際NGOフリーダムハウスの「自由度評価の指標」から見て、「自由(free)」な国ではなく、EUで唯一「一部自由(partly free)」にランクづけされている。
また、民主主義の度合いを自由主義、選挙制度、平等、参加、熟議の観点から測定するV-Dem研究所の指標でも、ハンガリーはEUで唯一の「独裁国家(選挙独裁主義)」と認定されている。
オルバン氏は1998年に35歳で首相となって2002年まで務め、2010年に再び就任して現在に至るので、通算18年の首相経験がある。政治手法はかなり強権的で、特徴を列挙すると以下のようになる。
   ○ 司法機関の独立性を弱める
   ○ 言論と報道の自由を侵食する
   ○ 汚職対策を打たないどころか政府上層部も不正行為に手を染める
   ○ 自由でない不公正な選挙を黙認(または率先)する
   ○ 少数民族を抑圧する
   ○ 学問の自由を制限する
   ○ ジェンダー平等を軽視する
   ○ 性的少数者を抑圧する
4年に一度の国政選挙で選ばれてきた首相なので、表面的には民主的な手続きによる施政といえる。しかし、自由でない不公正な選挙の結果ともいえ、オルバン氏が党首の政党フィデスは、常に議会で3分の2ほどを占めている。
なぜ独裁的な政治家は仲がいいのか
オルバン首相は親ロ、親中でも知られる。プーチン大統領と仲がいいことから、野党は「ハンガリーのプーチン」と呼んで批判している。
オルバン首相が奇妙な外交姿勢を取るのは、国内の権威主義的な体制を強化することを狙ってのことだろう。ロシア、中国との緊密な関係をテコに、EUやNATOの共同決定事案を阻止すると脅して、ハンガリーとの「対立コスト」を引きあげていく。EUはじめ他国から内政に口出しできない状況をつくり、自分の権威主義的な体制を強化しているのだ。
かなりの親ロ、親中とはいえ、ハンガリーの脱EU、脱NATOは考えられない。オルバン首相の親ロ、親中はEU内でゴネ得するためのカードに過ぎないからだ。
オルバン首相の政治ポリシーは「ハンガリー第一主義」だ。自国の利益、自分の利益になれば、ロシアや中国とも良好な関係を築く。
現在のハンガリーにとって、最大の仮想敵国はアメリカだといわれる。トランプ時代のアメリカとは蜜月の関係だったのが、バイデン政権では仮想敵国とされているのだ。3月初めにトランプ氏と会談したのも、11月の大統領選で再選したらまた蜜月関係に戻るという意味なのだろう。「自国ファースト」「強権的な政治姿勢」「反ポリコレ」など共通点が多いふたりが意気投合しても不思議ではない。
不安と恐れを煽り、独裁を正当化する
1月30日配信の「プレジデントオンライン」の記事でも説明したように、トランプ氏の高い支持率は「自国ファースト」「強権的な政治姿勢」「反ポリコレ」などの政治姿勢、政治手法が国民に歓迎されている面がある。“強くて本音のトランプ”に熱狂する支持層は確実にいるだろう。強権的な政治が意外なほど支持を集めることは、プーチン大統領の得票率を見てもわかる。
TBSのドラマ「不適切にもほどがある!」(金曜22時)の視聴率が高いのも、ポリコレという現代のテーマを扱っているためかもしれない。テレビドラマで“あけすけな本音”や“昭和の感覚”を面白がるのはいいが、現実の政治で強権的な政治や反ポリコレが強く支持されるのはおそろしいことだ。
強くて本音の政治家はたしかにウケる。しかし本音だけでは社会が成り立たないから、法律やモラルといった制約があるのだ。
強くて本音の政治家は、筆者がコーチングで学んだ考え方から見ると、人間の潜在意識にある「安全安心の欲求」を刺激している。プーチン氏が「欧米との戦い」を強調するように、不安や恐れを煽って自分の強権的な政治手法を受け入れさせるからだ。人種や性的少数者などへの差別も同様だろう。不安が高まれば、国民は強いリーダーを求め、多少の抑圧にも耐える。
たしかに独裁的、権威主義的な政治手法には魅力、魔力があって、世界的に独裁の魔力が伝染しているようにも見える。しかし、独裁者の多くが最後に暴走し、破滅していくことは過去の歴史が証明している。自分に諫言する人間を近くに置かないことも理由の1つだ。
独裁者の末路は、企業の経営者にも教訓を与えてくれる。まずは独裁の魔力を警戒して、部下の諫言に耳を傾けるところからはじめてはどうだろうか。
●「ロシアでテロのISIS−K、組織員6500人超…追加の攻撃ある」 3/28
約140の死者が発生したモスクワ公演場テロ事件を起こしたイスラム極端主義武装勢力「イスラム国ホラサン州(ISIS−K)などが今後さらに多くの攻撃をするという警告が出ている。組織員が6500人を超えるISIS−Kが規模を拡大させているうえ、今回のテロが他のイスラム国(IS)分派とテロリストまでも刺激しているからだ。今回のモスクワ公演場テロは昨年10月に発生したパレスチナの武装組織ハマスのイスラエル攻撃から影響を受けたという分析も出ている。
25日(現地時間)のワシントンポスト(WP)によると、対テロ専門家は今後さらに多くのテロが発生する可能性があると警告した。「ウクライナ戦争、ガザ地区戦争で隠れていたISIS−Kとその他の団体が最近、規模を拡張している」と伝えながらだ。
匿名を求めた欧州情報機関の関係者は「今回のモスクワ公演場への攻撃は資金や認定のために競争するイスラム国の分派に新たな刺激になる可能性がある」とし「ガザ地区の戦争に怒ったテロリスト志望者がモスクワ公演場テロからヒントを得るかもしれない」と懸念を表した。続いて「不幸にも我々はまた別のテロが起こり得るというシナリオに備えなければいけない」と強調した。
過去にISIS報道官がハマスの10月7日のイスラエル攻撃について「多くの死傷者を出し、メディアの大きな関心を呼んだ低技術(low−tech)テロキャンペーンのモデル」として絶賛した点も注目されている。
アラブ情報機関の関係者は「ハマスが数カ月間にわたりメディアに登場することに成功し、これによって他のジハード団体も強大国を攻撃する可能性があることを証明する必要性を感じる状況が形成された」と話した。
IS、年間1100件の攻撃、死傷者5000人
米ワシントン近東政策研究所(WINEP)によると、過去1年間にイスラム国(IS)は世界的に約5000人の死傷者を出した1100件以上の攻撃が自らの犯行だと主張した。
ロシア連邦保安庁(FSB)のボルトニコフ長官はISIS−Kの組織員が6500人にのぼると昨年10月、明らかにした。またISIS−Kは昨年、タジク語、ウズベク語宣伝ネットワークを構築し、現地の人を募集している。
フィナンシャルタイムズ(FT)は26日、ISIS−KがISのアフガニスタン支部という点に関連し、ISIS−Kが2021年8月の米国のアフガニスタン撤収後に勢力を強めたと分析した。FTは「タリバンは執権後、宿敵のISIS−Kと激しい反乱戦をしてきたが、分析家はISIS−Kが米国の撤収後に相当な力を得て、最近は国際活動を強化している」と伝えた。
特にISIS−Kがロシアを標的にしたのは意図的だ。2015年にロシアがシリアの内戦に介入してIS組織員を攻撃し、2000年代初めにムスリムのチェチェン分離主義者に対するプーチン大統領の過酷な対応に復讐するという意味でだ。
ロシア当局は追加のテロを懸念している。プーチンはテロ発生の翌日、IS勢力が組織員を募集するところとして知られるカザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルコ、シリアの指導者に電話をかけた。
欧州国の緊張感も高まっている。イタリアは今週末、復活節につながる聖週間を控えていて、ドイツは6月の欧州サッカー選手権大会(ユーロ2024)、フランスは7月のパリ夏季オリンピック(五輪)を準備している。
ドイツは自国で暗躍するISIS−K組織員を数百人と推定し、国境統制を強化することにした。フランスはテロ対応に従来の3000人の軍人に加えて追加で4000人を動員する計画だ。トルコは今年1月のイスタンブールカトリック聖堂IS組織員銃撃事件などIS関連事件を捜査し、26日に147人をIS関与容疑で逮捕した。
ベラルーシ大統領、プーチンと食い違う主張
一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領はこの日、記者らに対し、モスクワ公演場テロ犯が当初ベラルーシに逃げようとしていたと明らかにした。これは、プーチン大統領がこれまで主張してきたウクライナテロ背後説と食い違う。
ロイター通信によると、ルカシェンコ大統領は「ベラルーシが迅速に国境検問所を設置したため、彼ら(テロ犯)はベラルーシに来ることができなかった。彼らはそれ(検問所)を見て方向を変え、ウクライナの国境に向かった」と説明した。プーチン大統領と協力関係を誇示してきたルカシェンコ大統領は、テロ犯逮捕のために睡眠も取らずプーチン大統領と意思疎通を続けたと強調する過程でこのように明らかにした。
しかしこの日、FSBのボルトニコフ長官は、記者らの「米国、英国、ウクライナが攻撃の背後にいるのか」という質問に「そう信じる」と答えた。続いて「イスラム過激主義者がテロを準備したとしても、西側の情報機関がこれを助け、ウクライナ情報機関は直接関与したという情報がある」と述べた。
●プーチン大統領、マリ暫定大統領と電話会談 安全保障協議 3/28
ロシアのプーチン大統領と西アフリカ・マリのゴイタ暫定大統領は27日に電話会談し、安全保障と経済協力について協議した。両国が発表した。
ゴイタ氏は「2国間問題、特に安全保障と経済の分野について話し合った」とXに投稿。「テロ対策の協力強化で一致した」と説明した。
ロシア政府も電話会談を確認し、両首脳はより緊密な関係構築で合意したと述べた。
マリは近年、ロシアとの関係強化に動いており、ロシアの民間軍事会社ワグネルがマリのイスラム過激派勢力と戦うために派遣されている。
ロシアもアフリカ諸国との連携を深めている。ロシア大統領府によると、同日にコンゴのサスヌゲソ大統領とも電話会談し、政治や経済、人道分野における協力で合意した。
また、ニジェール国営テレビによると、プーチン氏は26日にはニジェールの軍事政権トップ・チアニ将軍と電話会談を行い、安全保障協力について協議した。
●モスクワ襲撃死者143人に 「100人超不明」 ロシア当局 3/28
ロシアの連邦調査委員会は27日、モスクワ郊外のコンサート会場で先週発生した襲撃事件について、これまでに143人の死亡が確認されたと明らかにした。行方不明の報告が100件超あることから、死者はさらに増える可能性がある。
調査委員会は同日、死者名簿を公表した。これより前に、行方不明の報告が143件あることを明らかにしており、このうち何人の死亡が確認されたのかは不明。
襲撃事件は22日に発生した。武装したグループがコンサート会場に侵入し、居合わせた人々を銃撃し、建物に火をつけるなどした。過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS)が犯行声明を出し、事件を撮影したとする動画を公開した。
事件発生時、会場には多くの人がおり、SNSには行方がわからなくなっている親戚や友人の情報を求める投稿が多数みられる。
ロシアはこれまでに、この事件で11人を逮捕。うち4人は中央アジアの旧ソ連構成国タジキスタンの出身で、24日にモスクワの裁判所に出廷した。4人はテロの疑いで起訴された。最大で終身刑が言い渡される可能性がある。
事件について、ロシアのプーチン大統領は23日に襲撃犯がウクライナへ逃れるための「窓口」が用意されていたと発言し、根拠を示さないままウクライナが事件に関与したと主張した。
ウクライナは事件への関与を全面否定している。また、ロシアの同盟国ベラルーシのルカシェンコ大統領は26日、襲撃犯らはまずベラルーシへの逃亡を図ったが、警備が厳重だったためにウクライナに向かったと述べ、プーチン氏の主張とは異なる見方を示した。
●米国財務省が複数のロシア企業に制裁逃れの仮想通貨使用を告発 3/28
米国財務省は、デジタル資産を利用した制裁逃れのほう助に関与するロシアの業務について、13の企業体と2人の個人を制裁対象としたことが明らかになった。
最近発表されたプレスリリース(米国財務省外国資産管理局)は、ロシアの金融およびテクノロジー部門における特定の企業および個人の活動に警告を発した。声明によると、リストアップされた企業の大半は、資産の移動を促進したり、OFAC指定人物の制裁逃れを手助けしていたとのことだ。
同機関は、5つの企業がOFAC指定団体によって完全所有され、事業を支配されていることを明らかにしており、ブライアン・E・ネルソン(Brian E. Nelson)財務次官(テロ・金融情報担当)は、ロシアは米国の制裁を逃れるために他の金融ソースに軸足を移していると説明したうえで、次のように述べている。
「クレムリンが金融テクノロジー分野の事業体を活用しようとしている中、財務省は制裁を受けたロシアの金融機関が世界の金融システムに再び接続できるよう手助けしようとする企業を摘発し、混乱させ続けるだろう。」
対ウクライナ戦争における資金増を抑制
この動きは、米国が対ウクライナ戦争で資金が増えるのを防ぐため、ロシアの金融企業を制裁の対象にしようとしていることに起因しており、長年にわたり、世界の規制当局は、世界的な制裁を回避し、特定の活動に資金を供給するための仮想通貨の使用を嘆いてきた。
指定された企業には、Joint Stock Company B Crypto、Masterchain、Laitkhaus、Atomaiz、Token Trust Holdings、TOEPなどが含まれているとのこと。また声明で、OFACが指定した企業はすべて、ロシアの金融セクターにおけるブロックチェーンベースのサービスの構築や運営を支援したり、仮想通貨決済を可能にしたりしており、潜在的な制裁逃れを可能にしていると付け加えた。
これに従い、同社の米国内の資産または米国人の支配はブロックされることになり、さらに、これらの資産はOFACに報告されなければならず、米国内のこれらの資産に関わる取引も、OFACの承認がない限りすべてブロックされる。実際、ロシアによるウクライナ侵攻以来、米国は同国市場で事業を展開する特定の企業に制裁を課し、デジタル資産による資金移動を促進する企業に制裁を拡大し続けている。
2023年、取引高で世界最大の仮想通貨取引所バイナンス(Binance)は、ロシア市場からの撤退につながる規制騒動の渦中にあり、同社のロシア法人はCommExに買収されたが、CommExも5月10日までにウェブサイトを閉鎖すると発表している。
●ロシア軍攻撃、東部で20人死傷 ウクライナ、防空支援要請 3/28
ウクライナ東部ハリコフに27日、ロシア軍の攻撃があり、市によると1人が死亡し、19人が負傷した。ロシア軍はウクライナへのミサイルや無人機での攻撃を激化させており、ハリコフでの被害も相次いでいる。ウクライナ政府は、各国に防空システムの供与を求めた。
クレバ外相は外国メディアとのオンライン記者会見で、ロシア軍は「高速で目標に到達する弾道ミサイルを多用しているため、人々が避難する時間がほとんどない」と訴えた。
ウクライナメディアによると、東部ドニエプロペトロフスク州ニコポリでは、ロシア軍の攻撃で男性1人が死亡した。
●進むも地獄、引くも地獄。有利な状況でウクライナ戦争「停戦」が困難な状況に立たされた西側 3/28
開戦から2年以上が経過するも、依然膠着状態が続くウクライナ戦争。しかし政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは、広い意味で「NATOは既にロシアに勝利している」として、そう判断できる根拠を解説。その上で、たとえウクライナ戦争の「停戦」が実現したとしても、プーチンに「勝利宣言」をさせてはいけない理由について詳述しています。
ロシアとウクライナ、本当に“負けた”のはどちらか?
スウェーデンが、北大西洋条約機構(NATO)に正式に加盟した。22年のロシアによるウクライナ侵攻開始を受け長年の中立政策を転換し、昨年加盟したフィンランドに次いで、32カ国目のNATOメンバー国となった。
両国のNATO加盟によって、NATO加盟国とロシアの間の国境が、従来の約1,200キロメートルから約2,500キロメートルまで2倍以上に延長された。ロシアの領域警備の軍事的な負担は相当に重くなった。
海上でも、ロシア海軍の展開において極めて重要な「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になった。NATOの海軍がバルト海に展開すれば、ロシア海軍は活動の自由を厳しく制限されてしまうことになる。
この連載では、ウクライナ紛争が開戦する前の段階で、既にロシアは不利な状況にあったことを指摘していた。東西冷戦終結後、約30年間にわたってNATOの勢力は東方に拡大してきた。その反面、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退した。
ウクライナ紛争開戦後も、NATOはさらに勢力を伸ばし、ロシアの後退は続いている。すでに敗北していると言っても過言ではない。ロシアがウクライナの領土を一部占領したとしても。「NATOの東方拡大」「ロシアの勢力縮小」という大きな構図は変わらないようにみえる。
一方、大きな構図とは別に、ウクライナでの戦闘自体は、膠着状態が続いている。ロシア大統領選が行われ、ウラジーミル・プーチン大統領が約87%という過去最高の得票率で圧勝した。大統領はモスクワで演説し、大統領選の「勝利宣言」を行った。10年に及ぶウクライナ南部クリミアの支配を誇示し、ウクライナでの「特別軍事作戦」をさらに進める姿勢を強調し、軍を強化すると表明した。
昨年始まったウクライナの反転攻勢は成果に乏しい。ウクライナの正規軍は壊滅状態にある。NATO諸国などから志願して集まってきた「義勇兵」や「個人契約の兵隊」によって人員不足を賄っている状態だ。
NATOはさまざまな兵器・弾薬類をウクライナに送り、支援を続けてきた。しかし、その支援で戦局を抜本的に変えるのは難しいだろう。ロシアに大打撃を与え、ウクライナが失った領土を回復させ、戦争を終わらせるほどの支援ではないからだ。むしろ、武器供与を中途半端に小出しにするのでは、戦争が延々と続いてしまうだけである。実際、今年2月には東部ドネツク州の激戦地アウディイウカがロシアに制圧されてしまった。
要するに、外国の武器を使って、外国の兵士が戦い、苦戦が続いているのがウクライナ陣営の現実だ。このままでは、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」が既成事実化されて、ウクライナが領土を回復できないまま、停戦に追い込まれる懸念が高まってしまう。
条件次第ではロシアとの「停戦」に応じても構わない状況にあるNATO
他の日本の識者の方々と異なる見解かもしれないが、筆者は、「NATOは、ウクライナ戦争がいつ停戦してもいいという状況」と考えている。繰り返すが、ユーラシア大陸における勢力圏拡大の争いという「大きな構図」では、さらなる東方拡大を実現したNATOは、既にロシアに勝利しているといえるからだ。
具体的にNATO加盟国の事情を考えてみる。
まず、ウクライナ支援を主導してきた米国、英国にとって、ウクライナ戦争は、損失が非常に少なく、得るものが大きい戦争だ。ロシアがウクライナと戦い消耗している一方で、米英は直接戦っていない。その上、欧州各国はロシア産の石油・天然ガスの禁輸措置を始めた。米英にとって、欧州の石油・天然ガス市場を取り戻す千載一遇の好機となっている。
次に、一方、ウクライナ紛争が勃発する前まで、天然ガスの4割をロシアから輸入していたフランス、ドイツなどEU諸国は、その代替となるエネルギー調達先を確保しつつあるものに、エネルギーコストの増大による経済の悪化に苦しんでいる現実がある。既にNATOの東方拡大を実現しているのだから、これ以上の戦争は必要ない。早期停戦して、ロシアからの天然ガス輸入が再開できる方がいいという「本音」がある。
要するに、NATOは、条件次第ではロシアとの「停戦」に応じても構わない状況にある。ロシアによる「力による現状変更」を絶対に認められないウクライナとは、実はまったく違う立場にある。
ウクライナ戦争停戦の本当の焦点は、ロシアの「力による一方的な現状変更」によって奪われた領土を取り戻せるかではない。NATOにとって真の問題は、ロシアがウクライナ領を占領したままで停戦することで、ロシアが「勝利宣言」をし、それで起こることではないか。
それは、ロシアが何度もやってきたことだ。ジョージア、グルジアなどに侵攻し、領土を一部占領することで、プーチン大統領が「大国ロシア」を強くアピールした。東西冷戦終結後のロシアの勢力圏の後退をみれば、「大国ロシア」など「幻想」にすぎないことは明らかにもかかわらずだ。
今回ばかりは幻想だと楽観視することはできない「大国ロシア」アピール
だが、今回については「大国ロシア」は幻想だと楽観視することはできない。国際社会で中国を中心とする「権威主義」の国々が台頭しているからだ。例えば、中国にブラジル、ロシア、インド、南アフリカの5カ国で構成されるBRICSと呼ばれる連合体が勢力を拡大している。5か国の経済力の拡大で世界人口の40%を占め、世界経済の26%のシェアを占めている。
24年1月からはサウジアラビア、イラン、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、アラブ首長国連邦(UAE)を招待している。これまでG7(主要先進国首脳会議)など自由民主主義陣営の先進国が主導してきた国際社会で、権威主義的な新興国が存在感を主張する機会が増えている。
スウェーデンの独立調査機関「V-Dem研究所」は、公正な選挙や三権分立、表現・結社の自由などの状況に応じて179か国を民主主義と権威主義に区分し、「民主主義リポート」を発表している。24年3月7日の最新版では、自由民主主義陣営は91か国に対して、ロシアや中国など権威主義陣営は88か国だ。
しかし、人口では民主主義陣営の29%(約23億人)に対し、権威主義陣営が71%(約57億人)と大幅に上回り、10年前の48%よりも割合を増やしている。
世界を無秩序に陥らせるプーチン大統領の「勝利宣言」
経済をみてみよう。国際通貨基金(IMF)によれば、世界の名目GDPに占めるG7のシェアは、ピークの86年に68%から2022年に43%まで下がった。そして、44%の新興・途上国に初めて追い越された。
ハンガリーなど東欧、インド、パキスタンなど南アジア、ブラジルなど米州など、民主的な政治制度を整えながら、強いリーダーによる権威主義的な制度の運用が行われている国が増えている。
新興・途上国は「グローバルサウス」と呼ばれている。元々「サウス」とは、国際社会における格差など「南北問題」の「南」のことである。しかし、近年は実際に領土が南半球に位置しているかにかかわらず、政治的・経済的に国際社会での影響力を急速に増している新興国全般を意味する言葉となっている。
ナレンドラ・モディ・インド首相は「グローバルサウスの声を増幅させる」と訴えている。インドは23年1月にオンラインで「グローバルサウスの声サミット」を開催し、125カ国の代表者が参加した。
ウクライナ戦争でも、インド、トルコなどグローバルサウスがロシアの石油・天然ガスなどを輸入し、欧米のロシアへの経済制裁の効果が減じられている。また、国連決議などの場面でもグローバルサウスの動向は無視できないものとなっている。
この状況下でウクライナ戦争を停戦し、プーチン大統領が「勝利宣言」をしたとする。権威主義的な指導者が次々と大統領の宣言に支持を表明する。本当の勝者であるはずのNATOの中からさえも、トルコやハンガリーなどプーチン氏の宣言を支持する国があるかもしれない。
NATOや日本など自由民主主義陣営は「大きな構図」では「勝者」であるにもかかわらず、ウクライナ戦争の「敗者」とみなされてしまう。そして、自由民主主義のあり方に対する世界中からの批判が高まる。自由、平等、基本的人権の尊重という自由民主主義の価値を否定する主張が世界中に広がっていく。
強い指導者による強権的な手法の優位性の主張、自由貿易のルールを無視した保護主義の横行、隣国との揉め事を「力による一方的な現状変更」で解決することの正当化が世界中で起こっていく。中国が台湾に攻め込んだり、ベネズエラがガイアナに侵攻したり、北朝鮮が韓国への軍事的挑発を強めたりすれば、世界は無秩序に陥る。自由民主主義陣営は、それを制御できなくなるだろう。
NATOは、この最悪事態を避けたいはずだ。ウクライナの領土を一部切り取ったからといってロシアの勝利ではないこと、戦争を通じてロシアの勢力圏が後退し、国際政治経済における衰退が起こったという現実を、国際社会全体に強く認識させるために、どういう形で停戦するべきかが、NATOが抱えた本当の課題なのだということだ。
米英得意の工作活動でプーチン政権を内部崩壊へ
NATOにとってどのような停戦の形が望ましいのかを、考察してみたい。まず、プーチン政権を内部崩壊させるような工作活動だ。独裁政権を転覆させて、民主化することは、米国、英国の諜報機関の得意分野である。
ウクライナ戦争開戦後も、ロシアを民主化するべく、ロシア人の民主主義者から「ポスト・プーチン」を担ぎ出そうと裏工作を続けてきたはずだ。だが、プーチン大統領は長期政権の間に、反体制派や民主化勢力を徹底的に弾圧してきた。民主化勢力を作り出すのは困難な状況ではないだろうか。
プーチンをウクライナ戦争に引き込んだ中国
一方、中国も水面下で「親中派のポスト・プーチン」の擁立を画策していたと考えるべきだ。思い返せば、開戦のきっかけとなった「ウクライナ東部独立承認」をロシア議会に提案したのは、ロシアにおける野党「ロシア共産党」だった。この党は、中国共産党の強い影響下にあると指摘されている。やや疑り深い見方をすれば、中国共産党がプーチン大統領を「進むも地獄、引くも地獄」の戦争に引き込んだと考えることもできるのだ。
しかし、前述の通り、プーチン大統領は、大統領選で圧勝した。筆者の推測だが、「ポスト・プーチン」を巡る米英VS中国の水面下の駆け引きが、民主化勢力、共産主義勢力双方の「ポスト・プーチン」の台頭を阻み、結果的にプーチンの延命を利することになっているのではないか。
NATO軍の投入で一挙にロシア軍を追い出すという選択肢
プーチン政権の内部崩壊という形が難しければ、武力による停戦も選択肢とならざるを得ない。最もわかりやすい形が、ロシアが「力による一方的な現状変更」で侵略したウクライナ領を完全に取り返すことで停戦を実現することだ。
2年間膠着した戦況を打開して領土奪還するのは不可能ではないかと言われそうだが、方法はある。NATO軍の全面的なウクライナへの投入で、一挙にロシア軍を追い出すことである。実際、エマニュエル・マクロン仏大統領はパリで開催されたウクライナ支援の国際会合で、NATO諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性を排除しない考えを表明している。
英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」が毎年発行する『ミリタリーバランス(2023年版)』を参考に、2022年時点のNATO加盟国の軍隊を単純に合計した戦力とロシア軍を比較する。総兵力は326万人対119万人、戦車は1万1,100台対2,050台、戦闘機/攻撃機は5,600機対1,100機など、NATO軍が数倍上回っている。
NATOの戦力は米軍頼みである上に、米軍は「欧州、インド太平洋、中東」の3正面を主戦場と想定していて、すべての戦力を欧州に投入できるわけではない。それでも、NATO軍がロシア軍を戦力的には圧倒している。それを大規模に投入すれば、長引く戦争で消耗したロシア軍を一挙に追い出すことが可能かもしれない。
しかし、マクロン大統領の発言に関して、米国、英国、ドイツ、イタリア、スペイン、ポーランド、チェコが、ウクライナ派兵をしないという姿勢を示した。フランス政府高官までもが、大統領の派遣構想地雷除去や国境警備、ウクライナ軍の訓練といった非戦闘部隊だと補足説明した。
プーチン大統領は、「NATOがウクライナに軍隊を派遣すれば、核戦争のリスクがある」と警告した。NATOとロシアが全面対決する核戦争に発展するリスクを避けるために、NATO加盟国は、マクロン大統領の発言を打ち消そうとしている。現時点では、NATOの全面的な参戦というオプションは、現実的ではない。
それでは、NATO軍の全面的な参戦は難しくとも、NATOからウクライナへより大量の武器供与と、小規模だが精鋭部隊の参戦により、ロシア軍に大打撃を与える。ウクライナ領土の完全な回復はなくとも、ロシアにNATOと全面的に戦うことへの恐怖を植え付けて、停戦に持ち込むという戦略があるかもしれない。
これは、第二次世界大戦末期に、敗色濃厚な日本が、米国に大打撃を与える作戦を決行し、国体の護持など有利な条件を認めさせたうえで講和を結ぼうとした「一撃講和論」のようなものかもしれない。しかし、これまで武器供与など支援を続けてきたが、膠着状態が続いてきたわけだ。その状況を変えて停戦に持ち込むほどの一撃を与える支援をせねばならない。
あまりに軽く扱われるウクライナという国家と市民の命
要するに、NATOにとって有利な状況を作って停戦するのは困難な状況だということだ。結局、話は振出しに戻るのだが、プーチン政権の存続を前提に、今後の戦略を考えざるを得ない。そうすると、ロシアの「敗北」という明確な結果のために、NATO参戦の検討に行きついてしまうまさに堂々巡りである。
停戦を巡る状況は、ウクライナが領土奪還できるかというシンプルなものではなく、まさに現実は泥沼で、「進むも地獄、引くも地獄」なのかもしれない。
1つだけ言えることは、ウクライナ戦争とは、NATO対ロシアの大国間の思惑で動いている。ウクライナはその戦場であり、街は破壊され、市民は生活を奪われ、次々と亡くなっていく。真に憤らなければならないのは、ウクライナという国家とその市民の生命が、なんと軽く扱われてしまっていることかということである。
●ロシア軍はもう「クリミア大橋を使っていない」──ウクライナ高官 3/28
ロシア軍はもうクリミア大橋を使っていないと述べている──ウクライナ政府はそう述べる。全長約19キロメートルのクリミア大橋はこれまで、ロシア軍がクリミア半島やウクライナ南部の部隊に兵器や弾薬を供給するための主な補給路として利用されてきた。
ウクライナ保安庁のバシーリ・マリュク長官はインタファクス・ウクライナ通信に対して、ウクライナ軍の攻撃により、ロシア軍の物資補給は途絶えていると説明。だが橋の構造上の安全性が確認されれば、軍事物資の補給が再開される可能性が高いとも述べた。
ケルチ大橋とも呼ばれるクリミア大橋は、ロシア南部のクラスノダール地方と、ロシアが2014年に併合したクリミア半島を結ぶ戦略的に重要な橋だ。ロシアとウクライナの間で2年以上にわたって続く戦争の中で、クリミア大橋は何度もウクライナ軍の標的にされ、ロシア当局によって一時閉鎖されていた。
マリュクがインタファクス・ウクライナに語ったところでは、ウクライナ軍が攻撃する前は毎日、兵器や弾薬を積んだ列車46本がクリミア大橋を渡っていた。だが現在では、一日に橋を渡る列車の数は5本のみで、そのうち4本が乗客を運び、残る1本は一般消費財を運んでいるという。
繰り返し標的に
「敵は現在、兵器や破壊手段の供給にクリミア大橋をまったく使っていない」とマリュクは述べ、だが橋の復旧が終われば「おそらく彼らは橋を使った弾薬の補給を再開するだろう」とつけ加えた。
本誌はこの件についてロシア国防省にメールでコメントを求めたが、これまでに返答はない。
ロシアは2023年8月、ウクライナ軍がクリミア大橋を複数のミサイルで攻撃したと発表。その前月には、爆発物を積んだウクライナ産の水上ドローン(無人艇)がクリミア大橋を攻撃していた。
2022年10月には、爆発物を積んだトラックがクリミア大橋を走行中に爆発。インターネット上で拡散された動画には、爆発によって破損した道路橋と鉄道橋が映っていた。クリミア大橋では2023年7月にも爆発があり、ウクライナが後に攻撃を行ったことを認めている。
マリュクは2023年11月、「クリミア大橋は崩壊する運命にある」と述べていた。
クリミア大橋は、ロシアがクリミア半島を一方的に併合した後直ちに建設された。2018年の開通時にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自らトラックを運転して橋を通行。これによってクリミア大橋はロシアにとってのプロパガンダツールとなり、ウクライナにとっては軍事標的となった。
2月後半には、ウクライナ国防省情報総局のキーロ・ブダノフ局長がウクライナの一般市民に対して、クリミア大橋を使わないようにと遠回しに警告を発していた。
ウクライナはNATO加盟国でウクライナを支援しているドイツに対して、長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与を求めている。この「タウルス」について複数の専門家は本誌に対し、フランスとイギリスが既にウクライナに供与した「ストームシャドウ/SCALP」ミサイルと類似の機能を持つが、弾頭の設計がやや異なるためクリミア大橋の攻撃により適していると指摘していた。
●ウクライナ人元捕虜39人がロシア軍による性暴力を証言 国連調査 3/28
国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)は26日、ロシア軍から釈放されたウクライナ人捕虜だった男性60人に聞き取り調査をしたところ、半数以上が性暴力を受けたと証言した、とする報告書を発表した。国連が詳細に調べることができた事例では、ロシア軍によるウクライナ人捕虜への電気ショックや殴打などの拷問が日常的に行われていたという。
HRMMUは2023年12月〜24年2月、ウクライナ人の元捕虜60人と面談した。うち58人がロシア軍から拷問や虐待を受けたと詳しく証言し、最も一般的な拷問の方法は殴打や電気ショック、処刑の脅迫などだった。
ある元捕虜は、ウクライナ中南部ザポリージャ州で拘束され、民家の小屋で3人のロシア軍人から軍事情報について尋問された。顔や体を殴られ、ナイフを耳に押し当てられて耳を切り落とすと脅されるなどしたという。 ・・・
●ロシア、新型滑空爆弾を使用か…防空ミサイル不足のウクライナに新たな脅威 3/28
ロシアの侵略を受けるウクライナ東部ハルキウ州の警察幹部は27日、露軍が州都ハルキウの集合住宅や病院などを攻撃し、1人が死亡し19人が負傷したことをSNSで明らかにした。攻撃には新型の滑空爆弾が使われたとの見方も示した。防空ミサイルの不足が指摘されるウクライナにとっては新たな脅威となる。
露軍は最近、誘導装置が付いた空中発射型の滑空爆弾を多用している。ハルキウ州知事は27日の爆弾について、地上の多連装ロケット砲からも発射できる新型だった可能性が高いとSNSで指摘した。ハルキウへの使用は初めてという。
新型の滑空爆弾について、ウクライナの軍事専門サイト「ディフェンス・エクスプレス」は、露軍が最近になって戦闘前線から離れた地域への使用を始めたと分析している。ジェットエンジンを搭載したタイプは射程が90キロ・メートル以上になるとみられている。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は27日、X(旧ツイッター)で米製戦闘機F16の早期供与などが「決定的に重要だ」と強調し米欧諸国に支援を訴えた。
●ロシア、ハリコフ攻撃で新型爆弾使用か 少なくとも1人死亡 3/28
ロシアがウクライナ北東部の都市ハリコフに対して27日に行った攻撃で、新型爆弾が使用された可能性があり、少なくとも1人が死亡した。現地当局者が明らかにした。
負傷者は4人の子どもを含めて19人に上ったもようだ。
ハリコフ州警察のトップは、ロシアが新たな誘導爆弾を使ったかもしれないと指摘。「最近(ロシアが)使っている滑空誘導爆弾とミサイルの中間的なものだ」と述べた。
同州のシネグボフ知事も新型爆弾が使用された可能性を示唆するとともに「ロシアが改良した爆弾を民間人の住宅でテストした」と非難した。
ロシアはこうしたウクライナ側の主張に対しては直接コメントしていない。
●立ちはだかるトランプ氏 影響力拡大の源は? 3/28
「“いかさま”バイデンはアメリカを第3次世界大戦に巻き込もうとしている」
ウクライナ支援の継続を訴えるバイデン大統領に対して、トランプ前大統領はこのように非難しています。
こうしたトランプ氏の意をくんで、アメリカの議会では支援反対に回った共和党議員も少なくなく、ウクライナ支援の予算案は暗礁に乗り上げたままです。
トランプ氏の影響力の源はどこにあるのか。アメリカの支援はどうなるのか。取材しました。
ウクライナよりもアメリカの国境を守れ
2月29日、トランプ氏が訪れたのは、南部テキサス州のメキシコとの国境でした。
現地で演説したトランプ氏は、バイデン大統領の政策を痛烈に批判しました。
トランプ氏「これは、バイデン氏がもたらした侵略だ」
トランプ氏が「侵略」と呼んだのは、法的な手続きを経ずにメキシコとの国境を越えて大勢の人がアメリカへの入国を試みている状況です。
昨年度は247万人に達し、3年連続で過去最多を記録しました。
移民や難民に“寛容な姿勢”を示すバイデン政権が2021年に発足して以降、急増。こうした状況をトランプ氏は厳しく批判し、ウクライナよりも「アメリカ国境を守れ」と訴え、保守層の間で共感を呼んでいるのです。
テキサス州で、国境近くに住むマリア・ナップさん(77)もこうしたトランプ氏の主張を強く支持する1人です。
ナップさんはおととし、外出先から自宅に戻ると、冷蔵庫を物色する見知らぬ人と遭遇しました。
ナップさんが恐る恐る尋ねると、国境を越えて来たアルゼンチンの女性で、空腹のあまり、食べ物を探していたのだといいます。
知らぬ間に家に侵入されて恐怖を感じたナップさんは、国境警備隊に通報しました。そして、この件をきっかけに、国境管理を厳しくして、不安を取り除いてほしいと、トランプ氏を支持する思いを強くしたと話していました。
ナップさん「わたしは100%トランプ氏を支持する。バイデン大統領は国境問題にまったく対処できていない。ウクライナを守るのに、自国の国境は守っていない」
国境管理の問題は、いまや全米の関心事となっています。
テキサス州の知事は、国境を越えてきた人たちを次々にバスに乗せ、与党・民主党がトップを務め、移住を目指す人たちに寛容とされる州や都市に送り込んで、受け入れを迫っているからです。
テキサス州が受け入れを迫った州や都市は、東部のニューヨークや中西部のシカゴ、西部のロサンゼルスなど各地にまたがっています。
一方、バイデン大統領もトランプ氏と同じ日に、テキサス州の別の国境沿いを訪問。
国境管理を厳しくしようにも、それを阻んでいるのはトランプ氏だと主張しました。
バイデン大統領「トランプ氏は、国境問題で政治的な駆け引きをしていないで、わたしと一緒に、議会に対し、国境管理の強化に向けた超党派の法案を可決するよう呼びかけてほしい」
しかし、トランプ氏は耳を傾ける様子はありません。
それどころか、バイデン政権の国境政策について「アメリカを転覆させようとしている」などと批判を強めています。
ことし秋の大統領選挙を前にトランプ氏は、国境政策でバイデン大統領が成果をあげることを阻んでいます。
その背景には世論の変化があります。
2月に実施された世論調査では「アメリカの最も大きな脅威はなにか」を尋ねた質問に、28%が「移民」の問題を選びました。去年8月の調査では9%に過ぎず、半年で「経済」(12%)と「物価上昇(インフレ)」(11%)を上回る問題に浮上し、大統領選挙でも大きな争点となるとみられています。
暗礁に乗り上げたウクライナ支援
かねてから、共和党は、ウクライナへの軍事支援の継続よりも、メキシコとの国境管理の強化を優先すべきだと民主党やバイデン政権に迫ってきました。
議会上院の与野党は、総額600億ドルあまりのウクライナ支援と、メキシコとの国境管理の強化を抱き合わせた緊急予算案でいったんは合意。
2月7日には、議会上院で、この案の審議を前に進めるかどうかの採決が行われました。しかし結果は、共和党の議員が合意を反故にして反対に回り、49対50の1票差で否決。
ウクライナ支援は、暗礁に乗り上げました。
圧力かけた?!トランプ氏
共和党議員が反対に回った最大の理由は、トランプ氏の存在でした。
トランプ氏が採決前に集会で演説し、国境管理が不十分だとして共和党議員に対し、法案に反対するよう圧力をかけたことが影響したのです。
トランプ氏を支持し、ウクライナ支援に反対する共和党の下院議員の1人に話を聞きました。
ビッグス下院議員「トランプ氏が大統領だったとき、メキシコとの国境政策は安定していた。世界におけるアメリカの存在感は大きく、国際情勢も安定していた。共和党の大統領候補者がトランプ氏になるのに、トランプ氏を支持しないのであれば、自分の有権者に説明できない。トランプ氏はすでに確実に議会共和党で影響力を持ち、ますます影響力を拡大させている」
連邦議会の下院議員は2年に1度、全員が改選されます。
大統領選挙が実施される11月5日は、下院議員選挙の日でもあり、共和党議員のなかには、保守層で高い人気を誇るトランプ氏の方針に従うのが得策だと考える議員が多くいるのです。
トランプ氏は、有権者が抱く、バイデン政権の国境政策に対する不満や、ウクライナへの“支援疲れ”を巧みにくみ取り、政治的なエネルギーに転換して影響力を行使しているのです。
バイデン政権に突破口はあるのか
2月13日、議会上院は国境管理の強化策を切り離したうえで、ウクライナやイスラエルへの支援を含む総額950億ドルあまりの緊急予算案を可決し、下院に送りました。
上院は任期が6年で、11月に改選されるのは3分の1の議席にとどまることもあって、共和党議員でも、下院ほどはトランプ氏の言動に左右されないと言われています。
一方、下院で採決をするかどうかの権限を持つ共和党のジョンソン下院議長は、この予算案に否定的な見方を崩していません。
3月の末になっても、緊急予算案は審議されていません。
「歴史が見ている」
バイデン大統領は3月7日に、アメリカ連邦議会で今後1年の施政方針を示す一般教書演説に臨み、ウクライナ支援の重要性を訴えました。
そのなかで触れたのは、第2次世界大戦中の1941年1月、当時のルーズベルト大統領が行った一般教書演説でした。
このとき、ルーズベルト大統領は「こんにちほど、アメリカの安全が外からの深刻な脅威にさらされたときはない。アメリカ史上、前例がない瞬間だ」と強調し、ナチスドイツに抵抗を続けるイギリスへの支援を誓いました。
バイデン大統領は、このルーズベルト大統領の歴史的な演説を引用し「アメリカ史上、前例のない瞬間に直面している」と訴えたのです。
バイデン大統領「歴史が見ている。もし、アメリカが手を引けば、ウクライナは危険にさらされる。ヨーロッパも危険にさらされる。
自由な世界が危険にさらされ、われわれに危害を加えることを望むものたちを勇気づけることになる」
各国も注視
アメリカのウクライナ支援の行方と、トランプ氏の影響力については各国も注視しています。
ドイツ南部で各国の首脳や閣僚が参加して毎年2月に開かれる「ミュンヘン安全保障会議」。
過去2回はいずれも、ヨーロッパで力を背景に現状変更を試みるロシアに対し、欧米の結束を確認する場となってきました。
ことしは、ゼレンスキー大統領が参加して演説し、40か国以上の首脳に直接、支援の継続を訴えたことで、脚光を浴びましたが、ここでも、もう1人の主役は会場には来ていないトランプ氏でした。
登壇したパネリストや集まった記者から出されたのは、トランプ氏をめぐるさまざまな質問でした。
「もし、トランプ氏が大統領選挙で返り咲いたら、ウクライナ支援はどうなるのか」「アメリカのウクライナへの関与の仕方はー」「アメリカとヨーロッパの同盟関係はー」。
ウクライナへの対応をめぐって、欧米を結束させ、軍事支援をリードしてきた「扇の要」ともいえるアメリカが、いまや最大の不安要素と受け止められていることが、ひしひしと伝わってきました。
会議の直前、トランプ氏がNATO=北大西洋条約機構について、求められている負担金を払わなければアメリカは防衛しないという趣旨の発言をしたことも大きな波紋を広げました。
トランプ氏に注目しているのは、ヨーロッパ各国だけではありません。
アジアに目を転じると、トランプ氏は大統領時代、韓国に駐留するアメリカ軍の経費をめぐって、韓国側に負担の大幅な増加を求めたこともあります。
もし、大統領に返り咲いたら、「ディール=取り引き」を重視するトランプ氏は同盟国に何を求めてくるのか。
ウクライナ支援に“待った”をかけ、それがアメリカ政治だけでなく国際情勢にも大きな波紋を広げているトランプ氏。その強い影響力に今後ますます、世界の目が注がれることになりそうです。 

 

●韓国、ロシアの拒否権行使を非難「無責任」 3/29
国連安全保障理事会(UN Security Council)で、北朝鮮に対する制裁の履行を監視する専門家パネルの任期を1年間延長する決議案が採決にかけられたが、ロシアの拒否権行使により否決されたのを受け、韓国は「無責任」だと非難した。
韓国外務省は声明で「ロシア連邦が国連安保理の常任理事国であるにもかかわらず、無責任な決定をしたことを、(韓国は)はっきりと指摘する」と述べた。
ウクライナのドミトロ・クレバ(Dmytro Kuleba)外相は、拒否権行使をロシアによる「有罪答弁」と呼んだ。米国は、「ロシアと北朝鮮の共謀に関するパネルの報告を葬り去るための利己的な試みだ」と非難した。
今回の動きは対北朝鮮制裁を解除するものではないが、パネルは活動を停止することになる。パネルの任期は今年4月末まで。
採決では、中国は拒否権を行使せず棄権。他の13か国は、任期延長に賛成した。
●「殉教」を避け逃走するテロリスト:ロシアのテロ事件の死者は140人に 3/29
ロシアの首都モスクワ北西部で22日夜(現地時間)ロックバンドのコンサート会場「クロッカス・シティー・ホール」で発生した襲撃テロ事件で死者数が140人となった。ムラシコ保健相が27日、発表した。
実行犯4人はモスクワに移送され、テロ罪で起訴された。テロ現場で2人のテロリストが殺害されていたことから、実行犯グループは6人と見られる。全員が中央アジアのタジキスタン出身だ。事件は実行犯がコンサートが始まる前に会場に突入し、集まっていたファンたちに銃撃し、火炎瓶を投げ、会場に火をつけた。
同テロ事件では、現場から逃走した実行犯がウクライナ方向に向かったという情報が報じられると、ロシアのプーチン大統領は、「テロ事件の背後にはウクライナが関与している」と主張したが、事件当時のビデオや実行犯への尋問などを通じて、ロシア治安関係者は「イスラム過激派テロリストの仕業」でほぼ一致したという。ただし、プーチン大統領は、「大量殺害の命令はイスラム主義者が実行したが、首謀者は別の場所にいる」と強調、依然ウクライナ関与説を捨てていない。
犯行直後、イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)がSNS上で犯行を表明した。今回テロを実行したのは、隣国のアフガニスタンで活動しており、パキスタン近くのホラサンに拠点を置いているIS分派「イスラム国ホラサン州」(IS-K)だ。「ホラサン州」は1月3日、イラン南東部ケルマン市で100人余りを殺害、数百人以上の負傷者が出るというテロ事件を起こしたばかりだ。
興味深い情報は、1ベラルーシのルカシェンコ大統領は26日、記者団に、「モスクワ近郊のコンサートホール襲撃事件のテロリストたちはベラルーシへ逃亡しようとしたが、国境検問所があったため引き返した」と証言している。この発言はウクライナ関与説に拘るプーチン大統領の主張とは矛盾している。
2トルコの安全保障関係者らの情報によると、襲撃犯とみられる2人はロシアの首都に滞在する前にトルコに滞在していた。襲撃容疑者の1人は2月20日にトルコに入国し、もう1人の容疑者は1月5日にトルコに入国した。2人は別々の時間にイスタンブールのホテルに滞在し、3月2日に同じ便でモスクワに入ったことが分かっていることだ。
特に、2は、トルコにIS-Kの拠点があることを示唆している。トルコ内務省によると、昨年6月1日以降、トルコ国内でIS所属またはISに近い容疑で合計2919人が逮捕されている。ロシア治安関係者は事件後、トルコ側のテロ担当官と協議している。エルドアン大統領は、「テロがどこから来たのか、攻撃者が誰であろうとも、テロは容認できない。トルコはロシアの苦しみを共有している」と語っている。
西側テロ専門家たちは、「イスラム過激派は欧州で大規模なテロを計画している」と警告を発している。昨年末、ドイツのケルンやウィーンのシュテファン大聖堂を襲撃するテロ計画が発覚した。IS-Kによって計画されたものと思われている。彼らはタリバンが政権を握った後、避難の波に紛れてヨーロッパ入りした。6月に入るとドイツでサッカー欧州選手権(6月14日〜7月14日)が、その直後、パリで夏季五輪大会(7月26日〜8月11日)が開催されるだけに、要注意だ。
ちなみに、パリでは2015年11月13日、同時多発テロが発生した。パリ北郊外の国立競技場スタッド・ド・フランスの外で3人の自爆犯による自爆テロが起き、続いてパリ市内北部のカフェやレストランで銃の乱射や爆弾テロが起きた。そして、パリ11区のコンサート中のバタクラン劇場に乱入したテロリストが銃撃と爆発を起こし、130人が死亡、300人以上が重軽傷を負う史上最大規模のテロ事件となった。
ところで、パリ同時テロ事件では犯人はほとんど自爆するか、突入した警察によって射殺されたが、モスクワのテロ事件では実行犯6人のうち、2人は射殺されたが、4人は逃走後、拘束された。自爆したテロリストはいない。
IS-Kのテロリストらは自爆テロを恐れない狂信的なイスラム過激テロリストという従来のプロフィールとは少し異なっている。彼らは殉教者として死ぬことを回避しているのだ。1人は金銭を約束されていたと供述したという。例外は、イラン南部ケルマン市でのテロ事件では1人のIS-Kメンバーが自爆テロを行った。
アフガニスタン専門家のエリノア・ゼイノ氏はドイツ民間ニュース専門局ntvのインタビューで、「イスラム国は厳格なサラフィ主義者、スンニ派の組織だ。IS-Kは2015年に設立され、その後、数年間、アフガン国内全域を支配したが、その後、タリバンと西側諸国の軍隊によって押し戻された。他のイスラム過激テロ組織とは違って、IS-Kには外国人戦闘員がほとんどいない。彼らは主にタジク民族グループのアフガニスタン人だ」という。
ゼイノ氏によると、自爆テロリストを確保するのは非常に困難で、費用がかかる。これには通常、薬物、そして家族への金銭の約束が必要となる。だから自爆したり、殉教することを回避するテロリストが出てくるという。
英国のキングス・カレッジ・ロンドン(KCL)で教鞭を取るテロ問題専門家のペーター・ノイマン教授は、「IS-K現在最も活発なテログループであり、その起源はアフガニスタンで、過激で暴力的なジハーディスト(イスラム聖戦主義者)武装集団だ。おそらく現在、西側諸国で大規模なテロ攻撃を実行できる唯一のIS分派だ」と説明している。
●ロシア連邦捜査委、ウクライナ関与確認と発表 銃乱射テロ、米国は否定 3/29
ロシア連邦捜査委員会は28日、モスクワ郊外のコンサートホールで起きた銃乱射テロにウクライナの民族主義者が関与した証拠を得たと発表した。実行犯らにウクライナ国内から多額の資金が提供され、犯行の準備に使われたことを示すデータを確認したとしている。詳細には触れていない。
既に犯行声明を出している過激派組織「イスラム国」(IS)は28日、報道官の音声メッセージで実行犯らを称賛し、ISによる犯行だと誇示。米国のカービー大統領補佐官も28日、ロシアが唱えるウクライナ関与説を改めて否定した。
ロシアの連邦捜査委は、実行犯に資金提供した疑いで新たに1人を拘束したと明らかにした。テロに絡んで拘束されたのは計12人になった。
テロは22日に発生し、143人の死亡が確認された。プーチン政権はウクライナの関与説を繰り返している。
連邦捜査委は、実行犯として起訴された4被告らの取り調べや所持品の解析などにより、ウクライナ側からの支援が裏付けられたとしている。ウクライナのゼレンスキー政権は関与を否定している。
実行犯はロックコンサート開演前のホールに侵入し、観客に向けて自動小銃を乱射。ガソリンをまいて火を付け、車で逃走した。ロシア当局はウクライナ国境の西部ブリャンスク州内で実行犯らを拘束。ウクライナに逃亡を企てたとしている。
●ロシア軍、5月末から6月にかけ「大規模な攻勢」か…ゼレンスキー氏「今こそ助けが必要」訴え 3/29
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は28日に放送された米CBSとのインタビューで、5月末から6月にかけてロシア軍がウクライナで大規模な攻勢に出るとの見方を示した。「今こそ助けが必要だ」と述べ、米国による軍事支援の強化を訴えた。
ゼレンスキー氏は、露軍の攻勢に備え「準備を進める必要がある。さらに大きな力が必要だ」とも語り、防空システムや砲弾の追加供与を呼びかけた。戦況については、弾薬不足が特に深刻だった数か月前に比べ安定してきているとの認識も示した。
一方、ゼレンスキー氏は28日、米共和党のマイク・ジョンソン下院議長と電話で会談したことも自身のSNSで明らかにした。会談では、露軍による無人機やミサイルを使った攻撃が増加している現状などを説明し、ウクライナ支援予算案の迅速な可決を要請した。
●「犯罪者が監視カメラを破壊」…北朝鮮製兵器支援を受けるロシア、「国連監視網」を無力化 3/29
対北朝鮮制裁が履行されているかどうかを監視してきた国連の専門家パネルが15年ぶりに消える。28日(現地時間)、国連安全保障理事会・対北朝鮮制裁委員会傘下の専門家パネルの任期延長のための表決で、ロシアが拒否権を行使したからだ。
ロシアが拒否権を行使して対北朝鮮制裁モニタリング機関を無力化した背景は、北朝鮮製戦争兵器を取り引きするなど、制裁を露骨に違反する状況を隠ぺいするためだという見方が出ている。実際、専門家パネルの最近の年次報告書には朝露の兵器取り引きの情況を写真とともに具体的に指摘したこともある。韓国のファン・ジュングク国連大使はこの日、延長案が否決された直後「犯罪が摘発されないために監視カメラを破壊したのと同じ」とし、ロシアを猛非難した。
2009年、北朝鮮の2回目の核実験を機に発足した専門家パネルは、安保理の対北朝鮮制裁委を補助し、北朝鮮の制裁違反事例を調べて毎年2回にわたって深層報告書をまとめた。毎年3月ごろ、決議案採択の方式で任期を1年ずつ延長してきたが、決議案は毎回全会一致で可決した。
ところが、ロシアは今年の表決を控えて「対北朝鮮制裁に日没条項を新設しよう」と主張し始めた。時間が経てば制裁が解除される装置が必要だということだ。性格の異なる日没条項と任期を結び付けた強引な主張であり、拒否権行使のための名分づくりである可能性が大きい。
ただ、ロシアの反対でこの日の表決が否決されたが、安保理の制裁自体が無力化されるわけではない。問題は、専門家パネルが来月30日に消えれば、北朝鮮への制裁が履行されているかどうかを監視するシステムがなくなるという点だ。
このため、米国のロバート・ウッド国連副大使は否決直後、「ロシアの拒否権行使は、専門家パネルが昨年からロシアの安保理決議案に対する露骨な違反を報告し始めたため」とし、「パネルの独立的かつ客観的な調査を沈黙させようとする目的」と述べた。英国のバーバラ・ウッドワード国連大使も「ロシアの拒否権はウクライナを不法侵攻するのに使う弾道ミサイルの移転など朝露の兵器取り引きのため」とし「ロシアは(北朝鮮から)戦争兵器を確保するために制裁を回避し違反する自由を得ることになった」と指摘した。
韓国政府消息筋はこの日の電話インタビューで「専門家パネルが消えれば、制裁違反を指摘する公式チャンネルが消える」として「韓米日の連携を通じて制裁違反を確認しても、朝中露が『一方的主張』と否認したら何も言えなくなる」と述べた。また「専門家パネルがなくても対北朝鮮情報・監視網が消えるわけではないが、確認された制裁違反を問題視することが難しくなるのは深刻な問題」と説明した。
このような深刻な状況を受け、韓国政府もイム・スソク外交部報道官の名義で「『ロシアの拒否権』行使で否決されたことに深い遺憾を表明する」とし、異例にもロシアの国家名を特定した声明を出した。政府はこれまで外交関係を考慮して、批判的な声明では国家名を表記しなかった。これに対して、政府関係者は「中露の反対で国連の機能が麻ひした中で、事実上専門家パネルに代わる代案はない」とし「今後、対北朝鮮制裁の違反に対する監視は国連ではなく、韓米日と残りの安保理理事国との連携で行われるしかない」と伝えた。
米ハドソン研究所アジア太平洋安全保障部長のパトリック・クローニン氏はこの日、中央日報との書面インタビューで「表面的にはロシアのプーチン大統領が戦争物資を供給する金正恩(キム・ジョンウン)委員長の『忠誠心』に応えるためと考えられる」と述べた。
また、11日、米国家情報長官(DNI)が公表した年次報告書で、北朝鮮がロシアに兵器を支援する背景について「核保有国として認められる目標を達成するため」と分析し、「ロシアは米国主導の国際秩序に攻勢をかけるための適切な時点が今だと判断している」と指摘した。
さらに「ロシアは大統領選挙を控えた米国がウクライナ戦争に成果を出せず、ガザ休戦に対する拒否権を行使しないなど同盟国を全面的に支持できない状況を狙ったものとみられる」とし、「特に、ロシアが米国に挑戦する中国を支持する動きを鋭意注視しなければならない」と話した。同時に「米国主導の世界秩序で力の空白が生じた点は否認できない事実」と述べた。
米シンクタンクのスティムソン・センターのジョエル・ウィット首席研究員も中央日報に「専門家パネルがロシアによって事実上廃棄されたというのは、30年間続いてきた北朝鮮に対する非核化の試みが失敗しかねないという意味」とし「特に、国連などの国際社会との連携を通じて非核化を試みてきたバイデン政権の対北朝鮮政策が成功的でないというシグナルとも受け止められる」と説明した。
一方、米議会の公式シンクタンクである議会調査局(CRS)はこの日、「米朝関係」という報告書で「国務省は北朝鮮がロシアに1万コンテナ分の弾薬と弾道ミサイルを提供したと報告した」とし、「中露の支援で金正恩氏の活動範囲が広くなった」と指摘した。報告書は「北朝鮮人口の40%以上が栄養失調状態とみられるが、経済的困難で体制が脅かされたり、韓米との対話に圧力をかけたりする外部の動きはほとんど見られない」とし、中露の支援を土台に北朝鮮体制が維持されていると分析した。
特に、報告書は「中露は2006年と2017年に北朝鮮の核・ミサイル実験による制裁には賛成したが、2022年に北朝鮮産石油の輸入に対する制裁強化には反対した」として中露が自ら同意した北朝鮮に対する制裁の原則を変えた点について懸念を示した。
●プーチン氏のG20参加「まだ検討せず」と露大統領報道官 ICC加盟国ブラジルが議長国 3/29
ロシアのペスコフ大統領報道官は28日、タス通信に対し、11月にブラジルで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議にプーチン大統領が出席するかどうかはまだ検討していないと述べた。
ブラジルはロシア、中国などでつくる「BRICS」のメンバーで、ウクライナ侵攻後もロシアと友好関係を維持している。一方で、侵攻に絡んでプーチン氏に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)加盟国でもあり、プーチン氏が訪問した場合に逮捕される可能性が指摘されている。
ブラジルのルラ大統領は昨年9月、プーチン氏が首脳会議に参加しても「逮捕されない」と述べて批判を浴び、対応は「司法が決める」と発言を修正した経緯がある。
●乱射に露"ウと関係示す証拠 3/29
ロシアの首都モスクワ郊外で起きた銃乱射テロ事件をめぐり、プーチン大統領がウクライナの関与が疑われるとの主張を強める中、ロシア捜査当局は「実行犯とウクライナとのつながりを示す証拠を得た」と発表しました。
銃乱射テロ事件から29日で1週間となり、これまでに143人の死亡が確認されています。
ロシア連邦捜査委員会は28日、実行犯への取り調べや押収した機器を解析した結果、「実行犯らとウクライナとのつながりを示す証拠が得られた」と発表しました。
「実行犯らはウクライナから送られた多額の現金や暗号通貨を受け取り、テロの準備に使用した」としています。
これに先立ち、アメリカのブルームバーグ通信は26日、政権に近い複数の関係者の話として、プーチン氏の側近らの中で「ウクライナが関与した証拠はない」との見方が出ていると報じていました。
一方、関与を否定しているウクライナは、情報部門トップのブダノフ情報総局長が27日、ロシア側がテロの計画を「遅くとも2月15日には把握していた」としたうえで、わざと見逃したとの見解を示しました。
その理由について、「事件の規模がもっと小さいものだと想定し、すべてをウクライナのせいにしようとした」と主張しています。
●プーチン大統領 F16戦闘機 出撃の飛行場「第三国でも攻撃対象に」 ウクライナへの供与で欧米側けん制 3/29
ロシアのプーチン大統領は、オランダなどがウクライナへの供与を決めているF16戦闘機をめぐり、出撃する飛行場が第三国にあったとしても攻撃の対象になると警告し、欧米側をけん制しました。
プーチン大統領は27日、軍のパイロットらとの会合に出席し、F16戦闘機についてウクライナに配備された場合も「戦場の状況は変わらない。ほかの兵器同様に破壊するだけだ」と述べました。
そのうえで、F16が出撃する飛行場について「第三国であっても、我々にとっては正当な標的になる」と述べ、欧米側をけん制しました。また、プーチン氏は「F16は核兵器が搭載可能なことを考慮して対応する必要がある」とも述べています。
F16をめぐっては、これまでにオランダやデンマークが供与を決定し、パイロットへの訓練が始まっています。
●プーチン大統領「ウクライナF−16、NATO飛行場から出撃すればロシアの標的になる」警告 3/29
プーチン露大統領はロシアがウクライナに続いて欧州の他の国まで攻撃する計画だという西側の一部の主張に対して「全くのナンセンス(utter nonsense)」と一蹴した。また、西側がウクライナに支援を約束した米国製F−16戦闘機が北大西洋条約機構(NATO)の飛行場から出撃すれば該当国家はロシアの「合法的な標的」になるだろうと警告した。
タス通信は28日(現地時間)、プーチンが前日ロシア中西部トゥベリ州トルジョーク村を訪ねてパイロットたちと会った席でこのように話したと伝えた。プーチン大統領のトルジョーク訪問は先日行われた大統領選挙(3月15〜17日)で5選を確定させた後行われた初めての地方歴訪だ。
プーチン大統領「ウクライナ戦争はNATOの東進のせい」繰り返し主張
この席でプーチン大統領は「(ロシアが)ウクライナに続いて欧州の他の国まで侵攻する計画という彼らの主張は、単に自国民を脅迫してさらに高い費用を取り立てようとする意図で全くナンセンス」と強調した。
さらに「西側国家は景気低迷と生活水準の悪化に苦しめられていて、これが(ロシア侵略)主張の背景」と主張した。プーチン大統領は特にポーランドとバルト3国、チェコを名指しして「自国民をだまして追加的費用を引き出して負担を負わせようとするもう一つの手法」と繰り返し強調したとスプートニク通信は伝えた。
また、ウクライナ戦争勃発原因をNATOの東進のためだという従来の主張を繰り返した。プーチン大統領は「我々はNATOに属している国々に対して刺激することはなかったが、彼らは我々に向かって近づいてきた」としながら「我々はただ国民と我々の歴史的領域を守っているだけ」と主張した。あわせて「米国の国防費支出は全世界の国防費支出の39%を占めている反面、ロシアはたった3.5%を占めているにすぎない」としながら「このような状況にもかかわらずロシアがNATOに戦争を仕掛けているという主張はナンセンス」と説明した。
この日プーチンは西側のウクライナに対するF−16戦闘機の供給計画に対しては「彼らがF−16を提供しても戦況は変わらない」と強調した。続いて「該当の戦闘機には核兵器の搭載が可能なことから、F−16が実際にウクライナに引き渡されればロシアはこれに相応して軍事計画を変更する」と話した。
ロシアがウクライナ軍に提供されたF−16戦闘機がNATO飛行場で使用された場合、攻撃するのかを尋ねる質問には「当然第三国の飛行場からロシア軍に対して使われるなら、それがどこであろうと我々の合法的な標的になる」と警告した。
ウクライナ「韓国、パトリオットの支援を」
一方、この日ウクライナのドミトロ・クレーバ外相はオンライン上で行った記者会見で「この場を借りて、韓国政府がウクライナにパトリオット迎撃ミサイルを提供する方法を模索するよう要請する」と明らかにした。
クレーバ外相は「北朝鮮はロシアに砲弾を提供してウクライナを破壊するのを助けているが、韓国はウクライナがロシアを防御するにあたり必要な武器を送らないと言っている」と指摘して「ウクライナの勝利が世界の安定を意味する一方、ウクライナの敗戦は韓半島(朝鮮半島)を含む全世界の不安定を意味する」と主張した。
これまでウクライナは韓国に防御用武器の支援を繰り返し要請してきたが、韓国政府は「殺傷武器の支援は行わない」という立場を維持して線を引いてきた。28日、韓国国防部のチョン・ハギュ報道官は定例会見で「ウクライナ支援に対する政府の立場に変動はない」と明らかにした。
ウクライナの「韓国パトリオット支援要請」が正確にどのような意味なのかも確認されていない。韓国軍と在韓米軍に配置されているパトリオット(PAC−2、PAC−3MSE)の一部を移転してほしいという趣旨の可能性がある。だが、米国製武器のパトリオットを外国に移転するには米当局の承認が必要で、何より北朝鮮のミサイル脅威が実存する状況で韓国が自国の主要対空防御武器を外国に支援するというのは現実的に容易ではないという限界もある。
● モスクワ郊外 テロ事件1週間 プーチン政権 ウクライナ関与主張 3/29
ロシアの首都モスクワ郊外で起きたテロ事件は29日で発生から1週間となります。プーチン政権はウクライナ側が背後でテロに関与した疑いがあるとする主張を展開していて、国民の結束を図るとともに、ウクライナへの軍事侵攻で攻撃を強める可能性もあるとみられます。
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで22日に起きたテロ事件で、ロシアの当局は、これまでに死者は143人、けが人は360人と発表し、ロシアで起きたテロとしては過去20年で最悪の規模となっています。
事件では4人の実行犯がテロに関与した罪で起訴され、過激派組織IS=イスラミックステートとつながりのある「アマーク通信」はISの戦闘員による犯行だと伝えています。
しかし、プーチン大統領や側近たちはウクライナ側が背後でテロに関与した疑いがあると相次いで発言し、ロシアの連邦捜査委員会は28日、押収品などを分析した結果、「実行犯とウクライナの民族主義者とのつながりの証拠が得られた」と主張しています。
これに対し、ウクライナ側は関与を全面的に否定し、ウクライナ国防省の情報総局は27日、ブダノフ局長の発言を伝え、「ロシア政府は少なくとも2月15日にはテロの準備が進められているという情報を得ていた」とした上で、テロを防がなかったのはウクライナ側に責任を負わせるためだったと主張しています。
プーチン大統領は先の大統領選挙で圧勝しましたが、その直後に起きたテロ事件がみずからの威信を傷つけかねないだけに、ウクライナ側が関与したとする主張を展開することで国民の結束を図るとともに、ウクライナへの軍事侵攻で攻撃を強める可能性もあるとみられます。
米 ホワイトハウス「テロ攻撃の全責任 ISにあること明白」
アメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は28日、記者団に対し、プーチン政権がウクライナ側がテロに関与した疑いがあるとする主張を展開していることについて、「ここ数日間、ロシア政府から発信されているデタラメやプロパガンダについて反論したい。テロ攻撃のすべての責任はIS=イスラミックステートにあることは明白だ」と述べました。
そして、「アメリカはテロを防ぐ手助けをしようとしたし、ロシアもそれを知っている。アメリカはロシア当局に対してテロの脅威に関する明確で詳細な情報を提供していた」と述べ、テロ事件が起きる15日前の今月7日に、アメリカ政府からロシアの治安当局に対して文書で警告を伝えていたと明らかにしました。
●銃乱射、資金調達で1人拘束=「ウクライナとつながり」―ロシア 3/29
ロシア連邦捜査委員会は28日、モスクワ郊外で22日夜に起きた銃乱射事件に絡み資金の調達に関わったとして、新たに容疑者1人を拘束したと発表した。同委は「事件の実行犯はウクライナ民族主義者とつながりがあり、(今回拘束した容疑者を通じて)多額の金銭と暗号資産(仮想通貨)が提供された」と主張した。
事件後、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、ロシア当局も、中央アジアの旧ソ連構成国タジキスタン国籍で実行犯とされる4人を含む容疑者11人を拘束したと説明している。しかし、ウクライナへの侵攻を続ける中、プーチン政権はあくまで「ウクライナ関与説」を訴え、国民の結束を固めることを狙っているもようだ。
●ロシアが支援するネットワーク、欧州政治家に金銭提供か チェコなどが摘発 3/29
ロシアが支援する「プロパガンダ」のネットワークが、ヨーロッパで反ウクライナの情報操作を展開し、政治家らに金銭を渡していたとして解体された。数カ国の当局が明らかにした。
捜査関係者によると、このネットワークは人気ニュースサイト「ヴォイス・オヴ・ヨーロッパ(VOE)」を通して、政治家に金を支払っていた。
チェコとポーランドは、このネットワークの狙いはヨーロッパの政治に影響を与えることだったとした。
VOEはBBCのコメントの求めに応じていない。
チェコのメディアは情報筋の話として、ドイツ、フランス、ポーランド、ベルギー、オランダ、ハンガリーの政治家がVOEから金銭を受け取っていたと報じた。欧州議会の次期選挙に影響を及ぼすのが目的だったとされる。
ドイツ誌シュピーゲルは、金銭はチェコの首都プラハで現金で手渡されたか、暗号資産(仮想通貨)交換所を通じて送られたと伝えた。
欧州議会の議員らも対象か
チェコ当局は、親ロシアのウクライナ新興財閥ヴィクトル・メドヴェチュク氏が、このネットワークの背後にいるとしている。同氏はロシアによるウクライナ侵攻の直後、同国で逮捕されたが、その後の捕虜交換でロシアに移送された。
チェコ保安情報庁(BIS)は声明で、「モスクワからの金は、ロシアのプロパガンダを広める政治家らへの支払いに使われている」と説明。その額は「数百万」コルナ(1コルナは約6円)に上るとした。
BISはまた、このネットワークは「ウクライナの領土保全、主権、独立に反対する活動を目的としていた」とした。
関与したとされる政治家の名前は、BISは挙げていない。しかし、ベルギーのアレクサンダー・ドゥ・クロー首相は、欧州議会の議員が含まれているとしている。
一方、ポーランドの情報機関は、首都ワルシャワと南部ティヒで捜索を実施し、4万8500ユーロ(約790万円)と3万6000ドル(約550万円)を押収したと発表した。
サイトはアクセス不可に
VOEのサイトは28日にはアクセスできなくなっていた。アーカイブ記事には、欧州諸国の内部分裂を強調するものや、ウクライナ支援に疑いの目を向けるものなどが確認できる。
それらの中には、「プラハで抗議行動:汚職、ウクライナへの軍事支援、政府に反対する人々の声」、「ウクライナ軍、困難な状況が続く中で兵力不足の悪化に直面」といった内容の記事がある。
VOEのX(旧ツイッター)のフォロワーは18万人を超えていた。
●中国、オーストラリア産ワインの関税撤廃 関係改善進み 3/29
中国商務省は28日、オーストラリア産ワインに対する高い関税を29日から撤廃すると発表した。両国の関係改善を示す、新たな重要な動きとなった。
中国政府は2020年、オーストラリア産ワインに税率200%超の関税を課し、豪経済にとって打撃となっていた。
オーストラリアとの政治的対立を受け、中国政府は同年に、オーストラリア産の石炭や大麦、木材、ロブスターに対する関税や輸入制限措置も導入した。
しかし、2022年5月にアンソニー・アルバニージー新政権が誕生して以降、中豪関係は改善に向かっている。
アルバニージー首相は28日、中国商務省の発表を歓迎し、自身の政権はこれまでにも、ほかの貿易障壁も削減してきたと述べた。
中国は昨年8月、オーストラリア産大麦に課していた関税を撤廃している。大麦は中国の貿易障壁の対象となっていた重要品目の一つ。
アルバニージー氏は声明で、「こうした結果は、アルバニージー率いる労働党政権の冷静かつ一貫したアプローチを裏付けるものであり、オーストラリア産大麦に対する関税の撤廃という成功に続くものだ」と述べた。
アルバニージー氏は牛肉やロブスターなどの関税撤廃についても中国に働きかけているとした。
豪産ワインの最大市場
中国はかつて、オーストラリアのワインメーカーにとって最も収益性の高い市場だった。ワインの輸出先の3分の1近くを中国が占めていた。
オーストラリア産ワインの業界代表者によると、同業界は中国が関税を課した後の1年間で21億豪ドル(約2000億円)もの損失を被ったという。ほかの市場に軸足を移したものの、ワインメーカーは中国以外の国に大量のワインを販売するのに苦戦し、近年では供給過剰状態になっていた。
   対中輸出量と中国関税の影響
中国のワイン市場の「変化」が理由と
こうした状況で、中国商務省は28日、「中国における関連ワインの市場状況の変化」を理由に、豪産ボトルワインへの関税を29日から撤廃すると発表した。
中国政府はこれまで、豪産ワインに対する関税について、経済的威圧だとの指摘を否定し、反ダンピング(不当廉売)および反補助金措置だと正当化していた。
そのため、オーストラリアは世界貿易機関(WTO)に対し、このような罰則行為の有効性について提訴していた。ただ、両国関係が改善しているとして昨年には提訴を取り下げた。豪政府は28日、提訴に基づく手続きが停止されていることを認めた。
「報復的な経済的威圧」
中国政府は2020年後半、貿易や生産上の問題を理由に、10以上のオーストラリア製品などに一連の関税や制限を課した。
豪政府はこれを、同国の政治的措置に対する、報復的な経済的威圧キャンペーンだと受け止めた。豪政府は西側諸国として初めて、中国・華為技術(ファーウェイ)による第5世代移動通信システム(5G)構築を禁止したり、新型コロナウイルスの起源に関する調査を要求したりするなどしていた。
特定の産業が打撃(約200億豪ドル相当の損失と推定)を受けたにもかかわらず、中豪の貿易関係は一貫した水準を維持しており、貿易額は12%増加している。
3170億豪ドル相当の貿易関係の大部分は、中国が依存する、鉄鉱石などのオーストラリア産原料が支えている。
●米株高の裏に軍需≠り ウクライナ戦争勃発後「防衛・宇宙機器生産」が上昇 鉱工業生産全体が頭打ちも実体経済支える 3/29
米ニューヨーク・ウォール街は市場投機の総本山だが、そうなるきっかけは、1861年勃発の南北戦争だった。巨額の政府紙幣が発行されてばらまかれ、投機マネーが膨張する。投資家の熱狂は株式にとどまらず金、銀、銅など金属、小麦など農産物、原油など全商品に及び、先物取引が盛んになる。遠隔地でも相場情報をいち早く入手するための手段として電信網が全米に拡大した。
現代はどうか。戦争は当事国には容赦ない破壊と殺戮(さつりく)が降りかかる大災厄となり、支援国は国民を養うためのカネや資源が割かれてしまう。エネルギー、食料価格も高騰する。従って景気にはマイナスであり、株式は「売り」だとする見方が一般には定着しているのだが、データをみると実際には「買い」を誘っているように見える。
グラフは米国の鉱工業生産総合指数、それを構成する分野の一つである防衛・宇宙機器の生産指数とダウ工業平均株価について、各月までの12カ月平均値の推移である。防衛・宇宙機器生産は1980年代末の東西冷戦終了後に大きく落ち込んだ後、2000年代初めの「反テロ戦争」以降徐々に回復し、2010年代前半には再び下がったが、10年代後半には回復し始め、ウクライナ戦争勃発の2022年2月以降はかなりの速度で上昇し続けている。これに比べ、鉱工業生産総合は2020年の新型コロナウイルス・パンデミック(世界的大流行)時に大きく下がったあと回復しているが、23年以降は横ばいで推移している。ウクライナ戦争のもとで防衛・宇宙機器生産が抜きんでて伸びているわけである。
株価のほうは、総じて右肩上がりだが、22年4月以降はしばらく軟調になった。米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅な利上げが影響したが、23年春に底を打って以来上昇が続いている。FRBの利上げが一段落したことも株高の要因には違いないが、見逃せないのはやはり防衛・宇宙機器生産である。鉱工業生産全体の伸びが頭打ちになっている中で、防衛産業の生産が急拡大していることで、実体経済が支えられている。ちなみに、鉱工業生産に占める防衛・宇宙機器生産のウエートは自動車生産の五割を超えている。軍需の拡大はウクライナ支援用の武器増産による。米議会はウクライナへの追加武器援助で意見が分かれているが、欧州からの武器需要が米国に寄せられる。
ウクライナに限らず、軍民両用の情報技術(IT)関連需要の高まりも防衛・宇宙生産を押し上げる。ITなどハイテクを駆使するサイバー戦争の今では人工知能(AI)を使う中国の台頭が目覚ましく、米国は警戒を高めている。生成AIは今やイノベーションの推進軸だが、AI用半導体で圧倒的な競争力を誇るのが米エヌビディア社であり、米国株の花形だ。宇宙を舞台にした中国の脅威にも対抗する必要がある。こうみると、広い意味での軍需が米景気のみならずや株価を左右しているといえそうだ。
●トランプは「面白い」、バイデンは「失望した」…アメリカのZ世代が"トランプ推し"に変わった理由 3/29
いったいいつの間に復活したのか?
3月5日、アメリカはスーパーチューズデーを迎えた。全米の州のうち15州で同じ日に大統領選予備選が行われ、共和党はトランプ元大統領が圧勝した。
しかも、11月の本選に関する世論調査では、支持率は民主党の現職バイデン氏とほぼ拮抗しているか、リードしているものさえある。
4つの刑事事件の被告という前代未聞のネガティブな要素があるにもかかわらず、大統領候補に返り咲いたトランプ氏。この強さには当のアメリカ人も驚愕している。
いったいいつの間に? どうやって? なぜトランプは復活したのか?
その経緯と、彼を支える新たな支持層を探っていくと、外からはなかなか窺い知ることができないアメリカの激変が見えてくる。
Z世代がバイデン氏から離れ始めた
トランプ氏台頭の最大の要因のひとつ、それはバイデン大統領への幻滅だ。スーパーチューズデーではそれが明確になった。7つの州で一定数の民主党支持者が、「支持者なし」に投票したのだ。
そもそもバイデン氏が2020年に立候補したのは、トランプ再選を阻むには元副大統領という知名度と、白人男性というアイデンティティが最も有効であろうという計算からだ。その結果、僅差ではあったが民主党は政権を奪還できた。
しかし今年は4年前とはまったく状況が違う。バイデン氏を当選させた民主党支持者たち、特に若者の気持ちが離れているからだ。
昨年11月末に出たNBCニュースの全米世論調査は衝撃だった。18歳から34歳の若い有権者の間で、トランプ前大統領の支持率が46%に対し、バイデン大統領は42%。僅差とはいえ、なぜ若者の支持はバイデン氏からトランプ氏に移行したのか?
彼が高齢すぎるという理由だけではない。筆者が主宰する「NY Future Lab」のZ世代に聞けばその理由がわかってくる。
「パレスチナ危機が大きい。バイデン政権がイスラエルを強く支援しているから、若者がバイデンに対する嫌悪感を募らせている」
もともとアメリカは親イスラエルだ。しかし今回はハマスのテロがきっかけとはいえ、パレスチナ人に多くの犠牲を出したことに対し「バイデンはパレスチナ人の大量虐殺を許している」と、新世代の間で怒りが沸き起こった。
「高学歴エリート向けの政策ばかり」と失望
さらにこんな意見も聞かれた。「最初はバイデンにみんなすごく希望を抱いていたのに、多くの人を失望させてしまった」
彼らは学生ローンの救済や温暖化対策など、バイデン氏の公約に期待していた。しかし4年目に入った今も、その変化は緩慢に見える。
また一般庶民にとって最も切実なのは経済問題だ。パンデミックからの経済復興が進んだとはいえ、高いインフレに賃金上昇が追いつかない。富裕層だけが豊かになり、さらなる格差が生まれている。このままでは自分たちは将来結婚できるのか、マイホームを持てるのか? という不安も広がっている。
中でも最もインパクトを受けているのは、低学歴の若者たちだ。彼らから見るバイデン氏のメッセージは、トランプ氏による民主主義へのリスクや、妊娠中絶問題、LGBTQの権利など、「高学歴なエリートの若者」が関心を持つ問題に偏っている。
そうではなく、もっと社会保障やホームレス救済などの、本来なら民主党がやるべき施策をやってほしいのに、自分たちの声が届いていないという不満がある。
Z世代は史上最も高学歴の世代といわれている。しかしそうでない若者から見ると、民主党は「高学歴のリベラルのための党になった」という反感も強いのだ。
トランプ氏が事実上下院を動かしている
一方のトランプ氏は、この3年間政治の舞台から姿を消していたわけではない。2020年は、負けたとはいえ7400万票を獲得するという記録を叩き出している。(バイデン氏は8100万票)
この僅差があり、選挙に不正があったという主張(ビッグ・ライ)を共和党支持者の過半数が信じた。そのために議会襲撃事件まで起こった。
一方バイデン政権になってからも、前任のトランプ氏が指名した3人の保守判事が動き、2022年には50年近く続いた女性の人工妊娠中絶の権利は覆された。トランプ氏が大きな公約を果たしたことになる。
また下院では、トランプ派の議員らが力を伸ばしていった。共和党がわずかに多数派となった下院では、彼らの投票に議決が左右される。
それを利用した彼らは、今やトランプ氏の指示で動いている。下院議長もトランプ氏と昵懇だ。移民法やウクライナへの援助を含む法律が成立しないのも、選挙前にバイデン氏に手柄を立てさせたくないトランプ氏の意向が働いている。
さらに共和党自体が今や「トランプ党」だ。2020年の選挙結果を覆すために中心になって動いたのは共和党全国委員会だ。その委員長もトランプ派で、共同委員長はトランプ氏の義理の娘。共和党に入った寄付金はまずトランプ氏の裁判費用にまわる。
こうした中で、トランプ派ではない中道の共和党議員も黙らざるを得ない。トランプ氏につかなければ、自分も次は当選できないかもしれないからだ。
「刑事事件の被告」だからパワーアップした
それにしても、4つの刑事事件の被告であり、計91もの罪に問われているトランプ氏が、なぜここまでのパワーを保てるのか。
実はトランプ氏がパワーアップしたのは、むしろ起訴のおかげなのだ。
トランプ氏は起訴された当初から、法廷に積極的に顔を見せた。そのたびにあらゆるメディアが取り上げ、一挙一動を報道した。
そのたびに「これはバイデン政権による魔女裁判だ、自分は犠牲者だ」と繰り返し主張した。時には裁判官に歯向かい、体制に反抗するイメージを作り出した。
トランプ氏の岩盤支持者は、地方の白人低所得者層だ。彼らはもともと、大きな政府で社会保障を重視する民主党の支持基盤だった。ところが、クリントン政権のあたりから民主党の政治が富裕層やエリート寄りになり、オバマ政権が若者の支持を受け、LGBTQの権利拡大など、文化的価値観が進むにつれ、取り残されたと感じるようになった。
ビッグ・ライを信じたこうした岩盤層には、トランプ氏が体制の暴挙にも負けず、自分たちのために再び戦ってくれる戦士に見えているのだ。
“トランプ離れ”したエリート層も戻ってきた
また、膨れ上がるトランプパワーに引き付けられて新たな支持者も増えている。2016年のトランプ当選に貢献した「隠れトランプたち」だ。
年長白人男性を中心とした中道右派であり、昔からの共和党支持者だ。トランプの岩盤支持者とは違い、高学歴で高収入の富裕層も多い。
共和党はもともと、小さな政府で減税志向、特に富裕層と規制緩和による大企業優遇を基本としてきた。逆に社会保障などの予算はできるだけカットしたい。
そのため高所得者になるほど、共和党政権のほうがメリットがある。おのずと白人で高所得の保守主義者が共和党支持者になる。トランプ政権時代の減税の恩恵を受けたのもこの層だ。
実は、彼らは今回のスーパーチューズデーまでずっと迷っていた。2021年の議会襲撃事件の後、この層は急激にトランプ離れを起こしている。事件以降、共和党のデサンティス・フロリダ州知事や、ニッキー・ヘイリー元国連大使など、多くの若い候補が立ったのも、こうした層がトランプ以外の候補者を求めたからだ。
ところが若い候補はどうしてもトランプに勝てない。本戦でもバイデンに勝てないだろう――。どうしても共和党政権を奪還したい彼らは、トランプ支持に戻った。彼のモラルのなさや、議会襲撃事件への加担の疑い、民主主義へのリスクなど、多くのマイナス要因以上に、得られるメリットのほうが大きいと考えたからだ。
黒人、ヒスパニック、アジア系も流れている
お金持ちの保守層が共和党を支持するのは理解できる。しかしなぜ、低所得者がトランプを支持するのか? それは、共和党が伝統的に白人の党だからだ。
辺境地域に住み経済的に持たざる層にとって、「白人であること」は唯一の、最も重要なアイデンティティなのだ。この傾向は、アメリカで白人の人口比が減り続け、2045年にはついに少数派になる(マジョリティ・マイノリティ)と予測される中で、さらに強まっている。
そのためトランプ氏は、自らが白人至上主義者であることを、はっきり打ち出している。多くの批判を受けつつも、白人であることにしがみつく人々にとっては、むしろプラスの要素になっている。
さらにもうひとつ、今回の大統領選には前回と違う不確定要素がある。黒人やヒスパニック、アジア系などマイノリティが、わずかだがトランプ支持に移行しているという調査結果があることだ。
彼らのようなマイノリティは、以前は圧倒的に民主党支持であり、前回選挙でバイデン勝利に貢献した。そんな彼らの気持ちが民主党から離れたとしたら、冒頭に述べた若者のバイデン離れと共通の理由なのか? また移民がある程度の経済力を得たために、共和党支持に変わったのか? 宗教的な要素も考えられるが、今のところ明確ではない。
トランプ氏の狙いは若者・マイノリティに向いている?
では、トランプには弱みはないのだろうか?
実は彼は共和党支持者の中でも、中道保守に弱い。スーパーチューズデーまで食い下がって撤退したヘイリー候補は、得票率では3割を超えた州が8州、そのうちユタ州などでは4割を超え、バーモント州では得票率5割を超えてトランプ氏に勝っている。
つまりトランプ氏圧勝とはいえ、ヘイリー候補がここまで頑張ったことで、共和党支持者にも反トランプ勢がある程度いることがハッキリした。
特に高学歴の白人女性は、中道保守からリベラルに寄りつつあることもわかっている。この層が、11月の本選でバイデン氏に入れる可能性もある。
しかしトランプ氏は、こうした層が離れても問題ないと考えているフシがある。選挙人制度を採用する大統領選は、今や激戦州の少数の得票差で決まるといっていいからだ。
こうした州で、少数でも若者やマイノリティ票をバイデンから剝ぎ取れればいい。あるいはバイデン氏を嫌って第三党に入れる人、または棄権する人が増えた場合も、自分の有利になる――そう読んでいてもおかしくはない。
しかし、こうした票の動きをはっきりと見極めるのは困難だ。
アメリカは大きく多様化している。その中で同じ人種でも若者でも、環境や学歴、階層によって、政治的な考え方が異なっている。しかもその状況は非常に流動的だ。2024年のアメリカは、2016年とも2020年ともまったく違う世界になっているのだ。
「トランプは面白いから」
最後に、最も説明しがたいが、トランプ氏がここまで人気を集める理由をお話ししたい。
「NY Future Lab」のZ世代はこう言う。「トランプは面白いから」
これを聞いたのは初めてではない。2016年の大統領選でも、タイムズスクエアで出会った若者が「トランプは面白い」と言っていたことを思い出す。
トランプ氏は支持者集会で、音楽と共に踊りながら登場するのがお決まりだ。そもそも彼は若い頃は、マンハッタンのクラブでよく姿を見かける夜遊び好きのセレブだった。それがNBC局のリアリティ番組『アプレンティス』の「You Are Fired(お前はクビだ)」の台詞で全国区の人気を得た。カリスマ性があるエンターテイナーで、理屈抜きに人の心を掴むツボを心得ているポピュリストなのだ。
感情に訴える演説、社会の不安を煽る扇動的な発言、虚偽の主張で大衆の心を掴み、自らの権力を強化する。ポピュリストの域を超えた、デマゴーグと呼ぶ人もいる。
支持者を前にした強烈で過激な発言の数々がそれだ。
“もしトラ”は、日本の防衛の危機でもある
「不法移民は人間ではない」
「議会襲撃で投獄された人々は、実は愛国者でバイデンの人質だ。大統領就任初日に恩赦する」
「自分が当選しなかったらアメリカは流血の惨事になる」
「NATO加盟国がお金を払わなければ、ロシアにいくらでも好きにしていいと伝える」
支持者には大ウケだが、不法移民を非人間化することで合法な移民までも危険に晒し、白人至上主義者の暴力を煽り、法の信頼を失わせ、国際秩序をも混乱に陥れる非常に危険な発言だ。またトランプ氏は先日、独裁者として悪名高いハンガリーのオルバン首相を歓待し「素晴らしいリーダー」と絶賛した。
再選されればアメリカの民主主義は脅かされる。ウクライナや台湾、そして日本の防衛さえ危うくなると考えるのは、決して大袈裟ではない。
こうした危機感が、バイデン氏を再び浮上させるのか、それとも何が何でもトランプ共和党に勝たせたいという力がそれを凌ぐのか? 大統領選までの今後7カ月は波乱が続きそうだ。
●安保理「北朝鮮制裁パネル」任期延長ならず 韓国が拒否権行使のロシア批判 3/29
国連安全保障理事会が28日(現地時間)、北朝鮮制裁委員会専門家パネルの任期を1年延長する決議案をロシアの拒否権行使で否決したことについて、韓国の黄浚局(ファン・ジュングク)国連大使は「犯罪を犯している状況で防犯カメラを破損したのと同じ」と批判した。
また、「専門家パネルが(安保理)常任理事国であるロシアの人質になった」として、「ロシアが国際平和と安全保障の維持という安保理の集団的責任より盲目的な利己主義を前面に押し出し、安保理で最もダイナミックで重要な組織が活動を中止することになった」と指摘した。
専門家パネルは安保理の北朝鮮制裁委員会を支え、北朝鮮の制裁違反の事例を調べて毎年2回、制裁違反に関する報告書をまとめてきた。任期延長が否決され、任期は4月30日に終了する。
黄氏は「ロシアは核兵器の不拡散体制の維持や安保理の機能維持より、ウクライナ戦争に必要な弾薬や弾道ミサイル調達のため、北の肩を持つことにもっと関心があるように見える」とも批判した。
●ウクライナ和平案は無意味とロ外相、占領地からの撤退要求一蹴 3/29
ロシアのラブロフ外相は29日公表されたインタビューで、ウクライナが提案した和平案は制圧地域からのロシア撤退など受け入れがたい概念を土台にしており無意味だと述べた。
ロシア紙イズベスチヤに対し、和平サミットはロシアの参加を認めるなど基本部分が修正されるまで成功しないと語った。
「われわれは話し合う用意があるが、ゼレンスキー(ウクライナ大統領)の『平和の公式』に基づく協議はしない」と強調。
2014年に併合したクリミアを含めロシアが占領地域から撤退し、1991年のソ連崩壊後のウクライナ国境を回復することを求める条項は受け入れ難いと一蹴した。和平案はロシアに22年2月の軍事侵攻の責任を取らせる方法も求めている。
ゼレンスキー氏は自身の和平案に基づかない交渉を拒否している。
ラブロフ氏は和平サミット開催に同意しているスイスの当局者と会談したとし、サミットにはロシアも参加し、現実的な条件で行われるとの確約を得たと述べた。
同氏によると、スイス当局者はロシア抜きでは何も解決しないと理解を示した。和平計画が「集団的産物」になった段階でロシアが招待されるという。
●米商務省、追加の対ロシア制裁 国内20社に輸出停止要請 3/29
米商務省は28日、国内企業少なくとも20社に対し、海外の約600組織への製品出荷を自主的に中止するよう要請した。製品が横流しされロシアのウクライナ侵攻で利用される恐れがあるとしている。
ウクライナで回収されたミサイルやドローン(無人機)から当該製品が見つかった。
マシュー・アクセルロッド次官補が28日、ワシントンで開催された同省の年次輸出管理会議で明らかにした。
過去数週間で少なくとも20社に書簡を送り、警告を発した。製品が積み替えられ、ロシアに送られるリスクが高いとしている。
商務省、国務省、財務省の高官も国内企業の幹部に直接接触し、製品がロシアに流入しないよう追加の対策を協議しているという。
●ウクライナ外相、インドにロシアとの関係再考促す=FT紙 3/29
ウクライナのクレバ外相は、インドのロシアとの緊密な関係はソビエト連邦時代の遺産に基づくものだとし、ウクライナ支援に向け再考するようインドに促した。英紙フィナンシャル・タイムズが29日に報じた。
クレバ氏は28日、インドの首都ニューデリーを訪問。ウクライナの和平に向けて政府の見解を推進し、両国関係の強化を目指す。
インドは伝統的にロシアと経済や防衛面で深い結び付きがあり、2022年にロシアがウクライナに侵攻した際にはロシアへの批判を控えた。
クレバ氏は、貿易や技術分野でウクライナとの関係を強化することでインドが得られるものは多いとし、ウクライナの戦後復興におけるインド企業の役割に言及した。
インドとの貿易を回復させ、ウクライナ産ひまわり油など農作物の輸出再開、インド産品の輸入拡大を進めたいとしたほか、インド製重機の輸入に関心があるとも述べた。
●ロシア撤退の外国企業、損失1070億ドルに 値引き強要も 3/29
ロシアによる2022年のウクライナ侵攻以来、ロシアからの撤退によって外国企業が被った評価損と売上高の減少分が計1070億ドル(約16兆2000億円)余りに上っていることが、ロイターの分析で明らかになった。
損失額は昨年8月の集計から約33%増加しており、企業財務への打撃の大きさを物語っている。ロシアから欧米の専門知識が突然失われていることもはっきりしてきた。
グローバル・リスク・コンサルタント会社S―RMのEMEAコーポレート・インテリジェンス部門責任者イアン・マッセイ氏は「欧米の(ウクライナに対する)軍事援助が減る中でロシアの侵攻が続き、また、欧米の制裁体制の精度が上がるにつれ、ロシアからの撤退を目指す企業はさらなる困難に直面し、より大きな評価損や損失を受け入れざるを得なくなるだろう」と述べた。
再選を果たしたばかりのプーチン大統領は、さらなる資産の差し押さえや政治的圧力など、西側諸国からの孤立を進める新たな権限を得た、と同氏は付け加えた。
ロシア政府は外国企業の資産売却に少なくとも50%の値引きを要求するとともに、出国条件を着々と厳しくしている。
今年これまでに、英石油大手シェル(SHEL.L), opens new tab、鉱山会社ポリメタル・インターナショナル(POLY.MM), opens new tab、ロシアのインターネット検索大手ヤンデックスの親会社であるオランダのヤンデックス(YNDX.O), opens new tabが所有する総額100億ドル近い資産の売却が発表され、値引き率は最大90%にも達している。仏食品大手ダノン(DANO.PA), opens new tabは先週、ロシア資産の処分について規制当局の承認を受け、総額13億ドルの損失を計上したと発表した。
これまでに撤退した外国企業は約1000社に上る。
ただ、米イェール大経営大学院の分析によると、仏小売業者オーシャンや伊アパレル大手ベネトンなど数百の企業が、ロシアでまだ操業しているか、事業を維持している。
ロシアの報復
西側諸国はロシアの侵攻後、ロシア中央銀行の金(ゴールド)と外貨準備、約3000億ドル相当を凍結した。凍結した資産から得られる数十億ユーロの利子を再分配するという欧州連合(EU)の提案に対し、ロシアは報復を通告し、破滅的な結果を招くだろうと警告を発している。
欧米の銀行もまた、資産を没収した場合の法的紛争を懸念している。
「ロシアが戦争を続ける限り、ロシアにある西側の資産で安全と考えて良いものはない」とマッセイ氏は言う。
ロシアは既に、幾つかの西側企業が所有する資産を一時的に管理下に置いている。
国営ロシア通信(RIA)は、ロシアが報復措置をとれば、西側諸国は少なくとも2880億ドル相当の資産と投資を失うとの試算を示した。
これは、EU、主要7カ国(G7)、オーストラリア、スイスによるロシアへの直接投資総額が22年末時点で2880億ドルだったことを示すデータに基づいた数字だという。
ロイターは、RIAが引用したデータを確認できなかった。
しかし、ロシアの強硬姿勢は同国自体にもダメージをもたらす。
制裁専門家である弁護士のジェレミー・ザッカー氏によると、自身の事務所の顧客のうち、幅広い産業にわたって驚くほど多くの企業がロシアからの完全撤退を決めており、戦争が終わってもロシアに戻ることをちゅうちょする可能性が高い。
その結果、大量の技術が国外に流出し、ロシアは特定のハイテク生産を維持できなくなるかもしれない、と米法律事務所デチェルトの国家安全保障プラクティス責任者、ザッカー氏は言う。
同氏は「ロシア経済が相当な打撃を受けることは確かに思われる」と語った。
日用品企業は事業継続
22年の政令で、ロシアに制裁を科す「非友好的」な国の投資家が、プーチン大統領の明確な承認なしに主要なエネルギープロジェクトや銀行の株式を売却することは禁じられている。
一方、日用品や消費財メーカーの多くは、ロシアの一般市民が自分たちの製品に頼っているとして、完全撤退を控えている。
現在もロシアで事業展開している企業は、米菓子大手モンデリーズ・インターナショナル(MDLZ.O), opens new tab、フランスのオーシャン、スイス食品大手(NESN.S), opens new tabネスレ、英日用品大手ユニリーバ(ULVR.L), opens new tabなど。
また、イタリア大手銀インテーザ・サンパオロ(ISP.MI), opens new tabのように、撤退を試みながら行政手続きのハードルに直面している企業もある。
●モスクワテロで露捜査当局、実行犯が「ウクライナの民族主義者とつながっている証拠得た」主張 3/29
モスクワ郊外のコンサートホールで発生したテロに関し、ロシア連邦捜査委員会は28日、タス通信に対し「テロリストがウクライナの民族主義者とつながっている証拠を得た」と主張した。テロの兆候に関する情報を把握していたとされる米国は改めてウクライナの関与を否定している。
連邦捜査委は、詳細は明らかにせず、ウクライナ側から実行犯に「多額の資金や暗号資産が送られ、犯罪の準備に使われた」としている。押収した機器などを分析し「計画性や周到な準備、犯罪の首謀者からの財政的な支援が完全に裏付けられた」と強調した。ウクライナの民族主義者が具体的に何を指すかは明らかにしなかった。
ウクライナが関与したとの見方に関し、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は28日、記者団に「非常識なプロパガンダだ」との認識を示し、イスラム過激派組織「イスラム国」が「単独で起こした」と改めて指摘した。
一方、「イスラム国」の報道担当者は28日に公表した録音メッセージで、テロの実行犯を称賛し、戦闘員らに対し、米国や欧州、イスラエルを標的にしたテロを実施するよう促した。 
●ウクライナ関与説に市民ら「情報がない」 モスクワテロ1週間 3/29
モスクワ近郊のコンサートホールで22日に起きた大規模テロから29日で1週間となった。ロシアのプーチン政権は「ウクライナや欧米が関与した」との主張を強固にしている。ウクライナで「特別軍事作戦」を続ける政権には、事件を奇貨として国民の結束を図りたい思惑もあるとみられる。
露連邦捜査委員会は28日、事件と「ウクライナの民族主義者たち」を関係づける証拠が得られたと発表した。実行犯がウクライナ国内から多額の資金を受け取り、犯罪の準備に使用したとのデータが確認されたと主張している。ただ、詳細は明らかにしていない。
事件では、29日までに実行犯とされる4人を含む約10人が拘束され、144人の死亡が確認された。実行犯として起訴された4人はいずれもイスラム教徒が多い旧ソ連・タジキスタンの出身だった。
事件後に過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、事件の様子を撮影したとみられる動画も系列メディアで公開した。米政府はISが関与したと断定、ウクライナは自国の関与を全面否定している。だが、露政権内では、25日にプーチン大統領がウクライナ関与説を強く打ち出したのを皮切りに、側近の高官らからも同調する発言が続く。
他方で、米ブルームバーグ通信は26日、露政権高官らは「ウクライナが関与した証拠はない」との見方で実は一致していると報じ、「プーチン氏が“悲劇”を利用して、国民を団結させようとしている」との関係者の話を伝えた。これに対し、露外務省のザハロワ情報局長は「全て偽情報だ」と反発し、27日の記者会見では「ISにモスクワでテロを起こす能力があるとは考えにくい」と主張した。
イスラム過激派の単独犯行説に対しては、プーチン氏も25日、事件の対策会議で「イスラム過激派による犯行」としつつ、「中東の紛争に公正な解決策を示すロシアに対し、彼らが攻撃しようと思うだろうか」と疑義を呈し、「黒幕」の存在をほのめかした。だが、ロシアは2015年にシリア内戦へ介入し、空爆などでISを攻撃してきた経緯がある。欧米では、ISには今回のテロの動機があったとの見方が強い。
一方のウクライナ関与説について、ロシアの在外・独立系メディア「メドゥーザ」は23日、事件関連の報道に関して、露大統領府の指図があったと報じた。国営メディアなどに「ウクライナの痕跡」を強調するよう指示したとのメディア関係者の話を報じている。
また、「実行犯らがウクライナ国境を越えようとした」との露治安当局の主張について、ロシアの同盟国であるベラルーシのルカシェンコ大統領は26日、「実行犯らは当初、ベラルーシに向かおうとしていた」と言及。理由は不明だが、プーチン政権の論調に足並みをそろえなかった。
真相を巡って情報が交錯する中、ロシアの市民の間では、政権の主張に同調する動きが広がっているわけでもないようだ。
テロ現場となったモスクワの北西クラスノゴルスクの「クロクス・シティ・ホール」周辺では、事件から7日目を迎えた28日も、犠牲者を悼む人たちが献花し、祈りをささげていた。
中部オレンブルクから来たというイスラム教徒の中年女性は「ロシアには大勢のイスラム教徒が暮らす。ウクライナがロシア国内の民族を分断しようとしている」と訴えた。ただ、追悼に訪れていた男女10人に話を聞いた限りでは、ウクライナ関与説に触れたのはこの女性だけだった。
今回のテロの背後に何らかの謀略があると思うかを問うと、ほとんどの人が「判断できるだけの情報がない」などと答えるか、返答を避けた。妻と現場を訪れた中年男性は「恐怖しかない。当面、コンサートはもちろん、水族館に行くことさえ考えられない」と言葉少なに語った。
●ウクライナ6州のエネ施設損傷 ロシア、再び各地インフラ攻撃 3/29
ウクライナ軍は29日、ロシア軍が同日未明にかけて各地のエネルギー関連施設を攻撃したと発表した。ミサイル39発のうち26発、無人機60機のうち58機を迎撃した。シュミハリ首相によると、東部ドニエプロペトロフスクのほか中部や西部を含む計6州の施設が損傷し、一部地域で緊急停電が実施された。ロシア軍は22日にも、インフラ施設を標的とした侵攻後最大規模の攻撃を行ったばかり。
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、X(旧ツイッター)への投稿で、米共和党のジョンソン下院議長と電話会談し、ウクライナ支援を含む緊急予算案を可決するよう要請したと明らかにした。ウクライナ軍のシルスキー総司令官も、米軍制服組トップのブラウン統合参謀本部議長と戦況について協議した。
米下院では共和党議員の間で緊急予算案への反対論が根強い。ゼレンスキー氏は米CBSテレビのインタビューで、ロシア軍の大規模攻勢が5月下旬か6月に予想されると指摘。「今すぐに支援が必要だ」と訴えた。
●モスクワ襲撃事件に関与容疑、タジキスタン当局が9人拘束 現地報道 3/29
タジキスタンのメディア「アジアプラス」は29日、タジキスタン治安当局の情報筋の話として、モスクワ郊外の襲撃事件に関連して、少なくとも9人を拘束したと報道した。今週、首都ドゥシャンベ近郊の町「バフダット」で拘束したという。容疑の詳細などは伝えていない。
襲撃事件は22日発生し、ロシア当局はタジキスタン出身の実行犯とする4人らを拘束・逮捕している。

 

●「戦争が現実の脅威に」、欧州は準備できていないとポーランド首相が警告 3/30
ポーランドのドナルド・トゥスク首相は29日、欧州は「戦前の時代」に突入しており、ロシアの侵攻を受けるウクライナが敗れれば、欧州では誰も安心してはいられなくなると、はっきり警告した。
「誰も怖がらせたくはない。しかし、戦争はもはや過去の概念ではない」とトゥスク首相は欧州メディアに語った。「これは現実だ。2年以上前に始まったことだ」。
ロシアがウクライナに対して新たに、ミサイルによる集中砲火を行う中、トゥスク氏は警鐘を鳴らした。
ロシアはここ数週間、ウクライナへの砲撃を強めている。ウクライナ空軍は29日未明にかけてドローン(無人機)58機とミサイル26発を撃墜したと発表した。ウクライナのデニス・シュミハリ首相によると、同国の西部、中部、東部の6つの地域にあるエネルギーインフラが被害を受けた。
ウクライナの国営エネルギー会社「ウクルエネルゴ」は、ドニプロペトロウシク、ザポリッジャ、キロヴォグラードの3州で緊急停電の実施を発表し、電力の使用を制限するよう消費者に呼びかけた。同社は「ロシアによる夜通しの、ウクライナの発電所への大規模」を非難した。
欧州各国の自衛力強化を訴え
元欧州理事会議長のトゥスク氏は、ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールがジハーディスト(聖戦主義者)に襲撃された事件について、ウラジーミル・プーチン大統領が何の証拠もなしにウクライナによるものだと非難していることに言及。プーチン氏は「明らかに、ウクライナの民間の標的へのますます攻撃的な攻撃を、正当化する必要性を感じている」とした。
また、ロシアが25日に、昼間に初めて、極超音速ミサイルを使ってキーウを攻撃したことも指摘した。
昨年末にポーランド首相に返り咲いて以降、初めて応じた海外メディアのインタビューで、トゥスク氏は欧州各国の指導者たちに、自国の防衛力を強化するためさらに取り組むよう直接訴えかけた。
11月のアメリカ大統領選挙でジョー・バイデン現大統領とドナルド・トランプ前大統領のどちらが勝利するかに関係なく、欧州が軍事的にさらに自立すれば、アメリカにとってより魅力的なパートナーになり得ると、トゥスク氏は主張。
これは、欧州がアメリカからの軍事的自立を達成することでも、「NATO(北大西洋条約機構)に並立する別の構造」を作ることでもないとした。
ポーランドは現在、国内総生産(GDP)の4%を防衛費に充てている。NATOには、加盟国が一定の防衛努力をするためにGDP比2%を国防費に充てるという基準があり、欧州連合(EU)全体がEUの安全のために戦う心構えをすべきだとしている。
ロシアが他国を攻撃する可能性は
プーチン氏は今週、ロシア政府はNATO諸国に対する「攻撃的な意図はない」と述べた。それでも、ロシアがウクライナへの全面戦争を開始してから、西側諸国との関係は冷戦以来の最悪の水準にまで落ち込んでいる。
ロシアがポーランドやバルト三国、チェコを攻撃するのではないかとの考えは「まったくナンセンス」だと、プーチン氏は述べた。しかし、ウクライナが他国の飛行場から西側のF-16戦闘機を使用すれば、「場所がどこだろうと、正当な標的」となるとも警告した。
欧州が「戦前の時代」に突入したとトゥスク氏が警告するのは、今回が初めてではない。先のEU首脳会談でも、中道右派の欧州指導者たちに対して同様のメッセージを発していた。
しかし、スペインのペドロ・サンチェス首相が、市民は脅威を感じたいとは思っていないとして、EU首脳会議の声明で「戦争」という言葉を使わないよう各国首脳に求めていたことを、トゥスク氏は明らかにした。トゥスク氏は、欧州の中でも自分がいる地域では、戦争はもはや抽象的な考えではないと述べた。
「どんなシナリオもあり得る」
ウクライナに緊急の軍事援助を提供するよう求めるトゥスク氏は、この戦争におけるこれからの2年間が、あらゆることを決定づけるだろうと警告した。「我々は第2次世界大戦終結後で最も重大な瞬間を生きている」。
そして、いま最も心配なのは、「文字通り、どんなシナリオもあり得る」ということだとした
トゥスク氏は欧州の複数主要紙によるインタビューを受けながら、ポーランドの実家の壁に飾られている一枚の写真に言及した。写真には、同氏が生まれたグダニスクに近い、バルト海南部に面するソポトのビーチで笑う人々が写っていたという。
この写真は1939年8月31日に撮影されたもので、撮影から十数時間後、5キロ離れた場所で第2次世界大戦が始まった。
「特に若い世代には悲惨な話に聞こえるだろうが、我々は新しい時代の到来に、精神的に慣れておかなければならない。この戦前の時代に」
身も凍るような発言とは裏腹に、トゥスク氏が「欧州全体の精神的な真の革命」とするものについては、より楽観的だった。
2007〜2014年の第1次トゥスク政権当時は、ポーランドとバルト三国以外の欧州指導者で、ロシアの潜在的な脅威を認識している人はほとんどいなかったという。
トゥスク氏は何人かの欧州指導者を称賛し、ポーランドとフランス、ドイツの3カ国による安全保障協力「ヴァイマール三角連合」の重要性を強調した。また、かつては平和主義と中立の模範国で、現在はNATO加盟国のスウェーデンとフィンランドについても言及した。
こうした中、今年2月にウクライナ軍総司令官に任命されたオレクサンドル・シルスキー将軍はウクライナ国営ウクルインフォルム通信に対し、ロシア軍が前線で、ウクライナ軍を「約6対1」で圧倒していると認めた。シルスキー氏が取材に応じるのはめずらしい。
「防衛部隊は現在、広大な前線全体で任務を遂行しているが、武器や弾薬はほとんど、あるいは全くない状態だ」とシルスキー氏は述べ、一部地域の状況は「緊迫」しているとした。
また、ウクライナは「十分な数の防空システムと砲弾」があれば「間違いなく維持できた」はずの領土を失ったとし、ウクライナは追加の援助とミサイルが届くことを望んでいると語った。
●欧州は「戦前」、ポーランド首相が警鐘 ロシアの脅威理由に 3/30
ポーランドのトゥスク首相は29日掲載のインタビューで、欧州は「戦前の時代」に入っているものの、ロシアの脅威に対抗する準備が整うまでにはまだ「長い道のり」があると警鐘を鳴らした。
トゥスク氏はドイツ紙ディ・ベルトのインタビューで、「もはや戦争は過去の概念ではない。これは現実であり、2年あまり前に始まった。いま最も心配なのは、あらゆるシナリオが起こりうるという点だ。1945年以降、このような状況を目にしたことはなかった」と述べた。
「若い世代にとっては衝撃的な発言かもしれないが、新しい時代、戦前の時代が始まったという現実に慣れる必要がある。大げさに言っているわけではなく、この点は日に日に明白になりつつある」とも語った。
2022年2月にロシアがウクライナ全面侵攻を開始して以降、欧州の指導者や軍関係者は国境を接する他国に紛争が飛び火する可能性に懸念を深めている。ロシアのプーチン大統領はこれまで、北大西洋条約機構(NATO)加盟国を攻撃する意図はないと繰り返し表明してきた。
ロシアの戦争で、冷戦後の地政学的秩序は一変。数十年にわたり軍事予算を削減していた欧州も国防を真剣に捉えざるを得なくなり、ロシアと国境を接する国は従来より思い切った措置を取ることを余儀なくされている。
スウェーデンとフィンランドは最近NATOに加盟した。中立姿勢で知られる両国にとって、2年前までは考えられなかった事態だ。バルト3国ではエストニアとリトアニアが国防予算を増額し、国内総生産(GDP)比2%というNATOの求める最低限の拠出をはるかに上回る水準に引き上げた。
一方、「ワイマール・トライアングル」と呼ばれるフランス、ドイツ、ポーランドの3カ国はロシアのさらなる侵攻に備えた再軍備を進める欧州の努力を主導してきた。
トゥスク氏は昨年の選挙で首相の座に返り咲き、ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「法と正義」による権威主義政権が10年近く続いたポーランドを再び欧州の主流に引き戻す取り組みを進めている。
●ロシア、イスラエルのシリア空爆非難「容認できない」 3/30
ロシアは29日、イスラエルによるシリア空爆を「断じて容認できない」と非難した。これに先立ち、イスラエルがシリアを空爆し、40人以上が死亡したと監視団体が報告していた。
ロシアは、シリアのバッシャール・アサド大統領の主要支援国で、同国の内戦にも政権側で介入している。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は声明で、「シリアに対するこうした攻撃行動は、同国の主権と国際法の規範の甚だしい侵害に当たる。断じて容認できない」と主張。
「こうした武力による挑発行為は極めて危険な結果をもたらし、パレスチナとイスラエルの紛争地帯の状況を急激に悪化させる」として「強く非難」した。
英国を拠点とし、シリアに情報網を持つNGO「シリア人権監視団」は同日、イスラエルがシリア北部を空爆し、同国兵36人、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員6人が死亡したと伝えていた。
●ロシア治安機関、襲撃前にISISの脅威を認識か 英拠点の調査団体 3/30
ロシアの首都モスクワ近郊のコンサート会場が襲撃を受けた事件で、英国を拠点にする調査団体は30日までに、ロシアの治安機関が過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS)の脅威について事前に認識していた可能性を示唆する文書を入手したと明らかにした。
ロンドンを拠点にするドシエセンターによると、一連の文書には、中央アジアにおけるISISの分派組織「ISIS―ホラサン州(ISIS―K)」の影響で過激化したタジク人が事件に関与する可能性が示されている。
22日の事件では少なくとも143人が死亡し、ここ数十年にロシアで起きた襲撃で最悪の規模になった。襲撃犯はコンサートの開始直前、銃や焼夷(しょうい)兵器で「クロクス・シティー・ホール」を襲った。
ISISは声明や襲撃犯の撮った写真、プロパガンダ動画を公開して、事件への関与を主張している。
ドシエセンターはロシアの調査グループで、ロシアの石油王から政権批判に転じた亡命中のミハイル・ホドルコフスキー氏から支援を受ける。以前にもプーチン大統領や政権に関する詳しい情報を掘り起こした実績があり、文書やロシア政府内部からのリークを活用するケースが多い。
ドシエセンターは最新の報告書で「テロ攻撃の数日前、ロシア連邦安全保障会議のメンバーは国内の攻撃にタジク人が使われる可能性があるとの警告を受け取っていた」と明らかにした。
CNNはロシア大統領府にドシエセンターの報告書に関するコメントを求めたものの、これまでのところ返答はない。
事件の容疑者4人は中央アジアのタジキスタン共和国出身だが、一時ビザ(査証)や期限切れのビザを使いロシアで働いていた。テロ容疑で今週出廷した際には負傷の痕が明らかだった。ロシアメディアによると、このうち3人は有罪を認めている。
●聞こえるプーチンの高笑い。ロシアが描く物語から作り上げられるモスクワのテロ「ウクライナ黒幕説」 3/30
140名以上の死者を出し、現在も100名を超える市民が行方不明となっているモスクワ郊外のコンサート会場で起きたテロ事件。過激化組織「イスラム国」が犯行声明を出しましたが、事件の背景を巡ってはさまざまな情報が飛び交っているのが現状です。
孤立が描き出す”戦争”の行方
「モスクワの北西部クラスノゴルスクのクロックス・シティ・ホールでのテロ事件は、再選されたばかりのプーチン大統領の統制の衰えの証拠だ」
そのような論調で報じる(報じたい)内容を訪れる先々で耳にしますが、皆さんはどう思われますか?
「FSBがテロの兆候をつかみ切れていなかったに違いない」という声も聞きますが、それもどうでしょうか?
アメリカ政府、英国政府、そしてロシア政府からも入る情報によると、「CIAやMI6はロシア大統領選前にロシア政府に対してモスクワを含むロシア国内の大都市で大規模なテロの兆候があると報告し、ロシアのFSBも内々に警戒度を高めていた」そうですが、警戒網をくぐり抜けてタジキスタン出身の4人(ISとの関与あり)が観客と守衛さんに対して機関銃を乱射し、劇場に放火するという大惨事につながりました。
ロシアに否定的な見方をする識者グループは「これはFSBの能力が低下し、大統領選挙に気を取られていたが故の失態だ。各国から寄せられた情報を受け入れず、みすみすプーチン大統領の顔に泥を塗った」とFSBに対する非難を行っています。
反対に、若干主張の飛躍を感じざるを得ない内容ではありますが、「これは事前に知っていて起こさせたものであり、プーチン大統領とその周辺は卑劣なテロ行為への怒りで他国の目をごまかし、ウクライナの関与の疑いにしつこく言及することで、対外的にはウクライナの卑劣さをクローズアップし、国内に対しては、ウクライナ侵攻を本格化させ、ウクライナを打倒するというunpopularな方針を明確化して実施する口実を作った」という分析というか、見解も入ってきています。
FSBの能力低下という評価と、大ボスのプーチン大統領にネガティブな情報を伝えられない人材ばかりが集まるグループ心理が、外部から提供される情報の真偽の判断と、迅速な行動の実現を妨げているという批判は、よく耳にしますが、それでもFSBの持つ情報力・情報操作力・工作力は決して侮ることはできません。
後者を推す人たちが持ち出すのは「9/11の同時多発テロ事件は、別にCIAとFBIが無能だったのではなく、あれは政治的なplotだ」といういかにも陰謀論と受け取れる主張もありますが、今回、いろいろな人たちからウクライナの関与の可能性が繰り返し持ち出され、ロシアの描くストーリーが「ウクライナ黒幕説」を作り上げていくシナリオは、とても気になります。
これに対してウクライナ政府のポドリャク大統領府顧問も、アメリカ政府も「ウクライナの関与はない」と明言するものの、関与をそれなりに怪しんでいる勢力が次第に増えている気がする状況には懸念しています。
プーチン大統領の孤立解消を「後押し」するアメリカ
対ウクライナ戦争(特別軍事作戦)が長期化し、欧米からの支援にもかかわらず、ウクライナに対してロシアが有利な状況に置かれ始めたことと、「ロシアを除外するか、自らが除外されるか」という二分論で対ロ包囲網への参加と、制裁の遵守を迫る欧米諸国とその仲間たちに対する嫌気を明言する国々が増えてきたこと、そしてその欧米がウクライナに対する支援疲れを明らかにし、ウクライナを見捨てる動きを強める状況に危機感を感じて、ロシアとの関係修復と強化に入る国々が増えてきています。
その結果、ロシアが発するウクライナ黒幕説が、次第に拡張されて、いつの間にか信憑性を増し、各国のウクライナ離れを引き起こしているという分析も出てくる始末です。
いろいろな批判や憶測が飛ばされる中、中・北朝鮮、イラン、キューバ、ベネズエラをはじめ、グローバルサウスの主であるインドやブラジル、南アをはじめとするアフリカ諸国や中東諸国も挙ってプーチン大統領の再選を祝い、2030年まで続くプーチン大統領の統治に対する支持を表明しています。
こうすることでロシア優位な状況でロシア・ウクライナ戦争が終焉した暁には、復興事業を始めとする様々な分野での利益の拡大を見返りとして得ようという魂胆が見え隠れします。
まさに実利主義のグローバルサウスの国々の決定方針に沿う動きが起きているものと思われます。
そしてそのロシアへの接近とプーチン大統領の孤立の解消を後押ししているのが、皮肉にもイスラエルによる頑ななまでのガザ侵攻とハマス壊滅へのこだわりと、明らかなダブルスタンダードを自らに適用してイスラエルを守っても、ネタニエフ首相を説得しきれないアメリカの限界だと言えるかもしれません。
そのネタニエフ首相は、友達が返ってきたプーチン大統領のケースとは異なり、次第に孤立を深めています――。
●ロシア当局、銃乱射テロで9人目を起訴 死者144人に 発生から1週間 3/30
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサート施設で起きた銃乱射テロから1週間となった29日、露捜査当局は事件に関与したとするタジキスタン出身の20代の男をテロ罪で新たに起訴した。タス通信が伝えた。事件での起訴は9人目。起訴内容の詳細は不明だが、捜査当局は28日、実行犯を金銭的に支援した人物を新たに特定し、起訴する予定だと発表していた。
当局の発表によると、事件での死者は29日までに144人に増えた。負傷者は約380人。
事件は22日夜に発生。露当局は28日までに実行犯とするタジク国籍の男4人と、実行犯に住居や自動車を提供したとするタジク国籍や露国籍の男4人の計8人をテロ罪で起訴していた。
事件ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を発表。だが、ロシアは「イスラム過激派は実行役を担ったにすぎず、事件を首謀したのはウクライナだった」と主張。実行犯がウクライナ側から多額の金銭や暗号通貨を受け取っていたとも主張した。ウクライナは関与を否定している。
●大量の武器提供でロシア接近 国連パネル廃止なら核開発加速―北朝鮮 3/30
北朝鮮はウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、大量の武器や弾薬の提供をテコに接近を強めてきた。北朝鮮の国連安保理制裁逃れを調べてきた専門家パネルが廃止されれば、ロシアの「庇護(ひご)」の下、核・ミサイル開発が加速しかねない。
「現行犯が捕まらないよう、監視カメラを壊すようなものだ」。韓国の黄浚局国連大使は28日の安保理会合で、ロシアの拒否権行使を厳しく非難。「核不拡散体制や安保理の機能維持よりも、ウクライナ侵攻に必要な弾薬や弾道ミサイルを調達するため、北朝鮮をかばうことに関心があるようだ」と指弾した。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は昨年9月に訪ロしてプーチン大統領と会談し、連携強化で一致した。これと前後して北朝鮮は、ウクライナ侵攻で不足する弾薬や短距離弾道ミサイルの提供を始めたとされる。韓国国防省によると、これまでに7000個超のコンテナがロシアへ運ばれた。
核開発を進める北朝鮮との武器取引は、安保理の制裁決議に違反する。専門家パネルは今月公表した報告書で、船による輸送ルートやコンテナの数に触れ、北朝鮮から武器が運ばれたとみられる様子を詳述。ロ朝間を行き交う船などを捉えた人工衛星画像も公開した。
「安保理常任理事国として同意してつくったルールを自ら破っている」(韓国政府関係者)とされるロシアには、専門家パネルが目障りな存在になっていたようだ。
黄氏は「ロシアの利己主義によって、重要な組織が活動を中止することになる」と訴え、制裁が骨抜きとなることに危機感を示した。韓国軍によると、北朝鮮は最近、安保理決議で禁止された軍事偵察衛星の打ち上げを準備。打ち上げに必要な技術をロシアが提供したとの見方も出ている。
●テロ事件 ロシアのウクライナ関与主張 民族的緊張懸念の見方も 3/30
ロシアの首都モスクワ郊外で起きたテロ事件で、実行犯は、中央アジア出身だと伝えられています。プーチン大統領は、国内に中央アジア出身の人たちも多く暮らすことから社会で緊張が高まることを懸念し、ウクライナ側が関与したとする主張を強調しているという見方も出ています。
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで22日に起きたテロ事件は29日で発生から1週間となり、これまでに144人が死亡したと発表されています。
過激派組織IS=イスラミックステートとつながりのある「アマーク通信」はISの戦闘員による犯行だと伝え、実行犯とされる中央アジアのタジキスタン国籍の4人が起訴されました。
さらに、ロイター通信は29日、タジキスタンの治安当局の関係者の話として、ISとの関係が疑われる9人を新たに拘束したと報じました。
事件当時、現場にいた男性は29日、NHKの取材に対して「テロリストたちはホールに入ると廊下や階段付近にいる人を撃った。自動小銃で無防備な人々を至近距離から撃ち始めた」と緊迫した状況を証言しました。
事件を巡ってプーチン大統領は、ウクライナ側が関与したとする主張を続けていますがウクライナは全面的に否定しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は28日「プーチン大統領は民族的な緊張が高まることを懸念し、ウクライナと欧米側を非難している可能性がある」と指摘しました。
プーチン大統領は、ロシア国内に中央アジア出身の人たちも多く暮らすことから社会で緊張が高まることを懸念しウクライナ側が関与したとする主張を強調しているという見方も出ています。
●モスクワ銃乱射“事件に関与”実行犯の出身地タジキスタンで新たに9人拘束 3/30
ロシア・モスクワ郊外での銃乱射事件から1週間たちました。
タジキスタン当局は29日、事件に関与した疑いで、新たに9人を拘束したと明らかにしました。
乱射事件の実行犯をめぐっては、タジキスタン国籍や出身の実行犯4人を含む9人が起訴されています。ロシア・メディアは29日、実行犯と接触していたとみられる9人が、タジキスタンで新たに拘束されたと伝えました。
市民「このテロ事件の黒幕が誰なのか。真実を知ることはできない」
ロシア当局は、ウクライナ側が資金を提供したとするなど、背後にウクライナがいるとの主張を強めています。
●弾薬数はロシアの「6分の1」 ウクライナ軍総司令官 3/30
ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー(Oleksandr Syrsky)総司令官は29日に配信された異例のインタビュー記事で、同軍の弾薬数はロシア軍の6分の1にすぎず、そのために兵員や拠点を失っていると明らかにした。
シルスキー氏は国営通信社ウクルインフォルムに対し、「数日前に発射された弾薬で比べると、敵軍との差は6対1だ」と指摘。
「防衛部隊は現在、広大な前線全体で任務を遂行しているが、武器・弾薬はほとんどないか、全くない状態だ」として、一部の場所では状況が「切迫」していると付け加えた。
また、ロシアが最近、航空戦力の活動を大幅に拡大し、誘導滑空爆弾を使ってウクライナ側の拠点を破壊していると主張。
「パートナーからの防空兵器の追加供与を望む。最も重要なのはミサイルだ」と訴え、ウクライナは「十分な数の防空システムと砲弾」があれば間違いなく保持できたはずの領土を失っているとの考えを示した。
●米ネオコン外交の終わりと日本の矜持 3/30
3月5日、ビクトリア・ヌーランド米国務次官(国務省のナンバー3)が辞意を表明し、ブリンケン国務長官は彼女の長年の勤務に感謝する談話を発表した。欧州のマスコミは、これをアメリカのネオコン外交時代の終わりと評した。
ネオコンとは「新保守主義」の意味だ。2001年9月11日の同時多発テロ事件をきっかけに、「自由と民主主義を世界に広めよう。独裁・権威主義の政権は、力を使ってでも覆そう」という主張がアメリカで強くなる。当時のチェイニー副大統領を筆頭に、ウォルフォウィッツ国防副長官などが主導してイラクに侵攻。その後は03年にジョージア、翌年にウクライナと次々に「レジーム・チェンジ」を仕掛けた。
ヌーランドはその生き残りだ。祖父が帝政ロシア時代のモルドバ出身で、ロシアへの根深い敵意を持つ。夫はネオコンのイデオローグとされるロバート・ケーガンでもある。彼女は13年12月、反政府運動で揺れるウクライナの首都キーウを訪問すると(当時は国務次官補)、反政府集会を訪れて激励し、クッキーを配って有名になった。
トランプ時代は野に下っていたが、バイデン時代に返り咲き、副長官代行にまで上り詰める。しかし、何かの事情で彼女がナンバー2の副長官に昇格することはなく、バイデンは昨年11月カート・キャンベル大統領副補佐官を国務副長官に指名。ヌーランドはその後もウクライナを訪問したりしていたが、3月5日に辞意を表明した。
米国務省の対ロシア・タカ派はこれで扇の要を失った。アメリカがウクライナ支援に危険なほど引きずり込まれる可能性は、低下した。9.11以降のネオコン外交時代は終わったとみていいだろう。
中ロとの過度の対立も転換点に
そして、ネオコン外交が引き起こしていたロシア、中国との過度の対立、つまり「新冷戦」の動きも転換点を迎える。対立は続くように見えても、「抑止と協力の使い分け」路線が目立つようになるだろう。
今のアメリカは内向き姿勢で、それは大統領選で誰が勝とうが変わらない。中国はアメリカと力不相応に対立して経済停滞を生んだことを認識し、今はよりを戻したいところだろう。ロシアはウクライナ戦争の帰趨にかかわらず、国力をますます低下させ、ユーラシア北西部でしか力を持たない存在に堕していく。
日本はこの新しい状況に応じて外交、ものの考え方を変えないといけない。安全保障面でアメリカに大きく依存してきた日本は、その借りを返すために外交では「アメリカに貢献」することを柱としてきた。安倍政権初期の「自由と繁栄の弧」なども、その一例である。しかし今の日本は、そこまでアメリカに「忖度」する必要はない。「自由と民主主義」は自分のためにあれば十分で、それを途上国に上から目線で押し付ける必要もない。そしてアメリカに過度に依存したり、中国に脅されたりしないよう、自前の防衛力を強化することだ。
その上で、日本とはどういう国で、世界で何を欲しているのか、マジョリティーの世論を形成していく。その過程で、戦前は議会の権能が不十分だったために、軍部の専横がまかり通ってしまったことへの反省を、若い世代も含めて広くシェアすることが必要だ。
脱イデオロギーの時代。外交は理念の良し悪しではなく、結局、政官民での付き合いの広さ、深さ、そして国全体が持っているイメージの良し悪しで決まることになる。外交官も含め、上から目線、そして手続き優先の官僚主義を捨て、人と人としての付き合いをしていかないといけない。
●「親ロ心理」はあっても欧州を向くブルガリアの本音 3/30
ロシアによるウクライナ侵略から2年。かつて「EUとロシアの狭間」と言われたブルガリアで今、政権の枠組み作りが模索されている 。
EUの一員としての地歩を固め政治も安定軌道に乗るかどうか。「ヨーグルトの国」は今どう動いているのか、現地での個人的見解を記してみたい。
かつて共産圏の優等生だった
ブルガリアは近隣国と違い、歴史的経緯から親ロシア感情が強い。第1に、オスマントルコからの解放・独立(1878年)を助けたのは、露土戦争の勝者ロシアだった。
第2に、社会主義時代に2つの近隣国であるルーマニアと旧ユーゴスラビアが「自主路線」を歩んだのに対し、ブルガリアは共産圏の「優等生」としてソ連に近いスタンスを取り、そのためソ連からの経済支援は厚く、近隣国より生活水準や技術水準が高かった。
これらロシアからの2つの「恩義」で、国民に(とくに地方は)親ロ感情が残る。ただブルガリアが北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)に加盟して20年近い。国の舵取りは明確にEU路線へとEU側に切られ、国家運営もEUの枠に沿って動いてきている。
「社会は二重構造だ。基本はヨーロッパ志向だが、心理の底、古層には親ロがある」とブルガリアの識者は言う。もっともロシアに憧れたり子女を留学させたりはせず、留学はドイツやフランスなど欧米諸国が人気だ。
「ロシアのウクライナ侵略は、そんな便宜的な“住み分け”はもう通じない、はっきりしろとの問いをブルガリアに突きつけた。ここ2年強の国内政治の不安定も、そのきしみが原因。趨勢として古層は薄れるだろう」と前出の識者は分析する。
一方で、エネルギー面ではロシアへの依存が大きい。政治面で、国内の不満層は「ドイツ、フランスなどの西欧の大国やブリュッセルのEU官僚に操られる」ことへの不満感がある。
1989年以降の体制変革で国営企業の民営化において混乱があり、それまで親ソで発展を続けてきたブルガリアは、このときは近隣国の発展を横目で見ることになった。社会主義時代へのノスタルジーを語る庶民もいないわけではない。実は、ロシアはそこを見ている。
「ヨーロッパ的発展」を共通項に持つ保守・進歩の2会派が現政権を支えるが、以前は与野党に分かれ争ったことがあり、議席を合計しても安定多数ではない。
トルコ系政党や社会党、親ロ政党が一定の勢力を持ち、2023年6月までの2年間に内閣が5回替わった。うち2回は政党協議による多数派形成ができず、大統領が臨時内閣を指名した。
内閣を「リシャッフル」する政治
2023年6月に主要2会派が連立政権として、デンコフ首相、ガブリエル副首相というツートップの内閣が始動した。2人は9カ月経てば交替し、相互のポストを9カ月務めるリシャッフル計画だ。
欧州委員を務め、「EUの星」だったマリア・ガブリエル氏は、第1党(保守)の要請を受けブリュッセルから祖国の内閣中枢に移った。EU時代に、日本の重要性を深く認識したという。
「アメリカと中国の動向や欧州の景気も背景にあるが、私たちは日本が持つ大きな価値に気づいた。ブルガリアは対日関係を戦略的パートナーシップに格上げしたい。首相として訪日したい」と、2024年初に私に熱く語った。
デンコフ首相(次期副首相)は研究者時代に茨城県のつくばで1年過ごし、「娘は日本の学校に通ったんです」。教育相の経験があり、日本の学校教育に関心を寄せる。
2人とも政党の党首ではない。政党はそれぞれの思惑のうえに、連携して多数派を形成し内閣を組んだ。あまり例のない「ツートップ交替による内閣リシャッフル」が実現するか、もう一度総選挙で民意を問うか。予想されたことだが、この1カ月 、改革の方針や閣僚人事について 、内閣を支える政党間の折衝が続いている。
ここでブルガリアと日本との関係を振り返ってみよう。 1970年に開催された大阪万博のブルガリア館が、後の「明治ブルガリアヨーグルト」開発の契機になった。社会主義体制下で長く最高指導者だったジフコフ書記長は日本の発展に目を見張り、「日本に学べ」と各界に指示した。
日本に関する本が広く読まれ、日本語や空手、柔道、生け花を学ぶ人は今でも多い。1990年代に始まった民主化の時代には、政治やビジネス、学術、文化、スポーツ、観光交流がさらに活発になった。ソフィア大学に日本学科が設置され、地方を含めいくつかの大学・中高校でも日本語を教えている。
「日本には憧れと純粋な敬意を持つ」
高名なテレビジャーナリストに「なぜ日本に?」とたずねた。「ブルガリア人は日本に、そうなりたくてなれなかった自分の姿を投影している。東洋と西洋の狭間で揺れ動いた近代史の200年間、ブルガリアはうまくいかず、成功した日本に憧れと純粋な敬意を持つ」という。
こちらが襟を正す答えだったが、一方で彼は「ここ10数年日本の姿が見えない」と心配もする。
かつて5大商社を含む10商社がソフィアに支店を構え、三菱重工業や東芝、大成建設といった日本の大企業も拠点を置いていた。水力・風力発電所や、ODA(政府開発援助)ではソフィア地下鉄建設、環境設備、港湾開発、文化・教育など多数実施している。
しかしODAの供与が終了し、2010年までにほぼすべて撤退した。今も矢崎総業をはじめ自動車部品やセガ(SEGA)といったゲーム関連、海運業で6500人ほどを雇用している。だが、インフラ案件に欧州各国や米中韓が手を挙げる中、日本企業の名は聞かない。
EU加盟から17年経ち、経済も政治も外交もEUとの歯車がかみ合ってきた。2025年初めのユーロ加盟を目指し、財政健全化、物価の安定が進んでいる。
ブルガリアの技術人材は優秀だ。それは社会主義時代から知られていたし、今も当地日系企業は声をそろえる。
INSAIT(インサイト、Institute for Computer Science, Artificial Intelligence and Technology)という東欧初のAI研究機関が注目されている。この研究所はソフィア大学や政府、スイスの連携で設立され、グーグルやアマゾンからの出資を受けた。
AIやロボット開発で日本企業と協力
INSAITと日本の大企業がロボット開発を進め、理化学研究所がMOU(了解覚書)を結んだ。2023年5月には日本の西村康念経産相(当時) と日本企業のグループが来訪し 、「ブルガリアは新しい風が吹いている。安い労賃の国という古い印象を改めた。技術が優秀で有望だ」と述べた。実際に、ブルガリアはバルカン半島におけるイノベーションハブへの道を歩んでいる。
「ブルガリアは経済も外交も活発な国。ODAが終わったといって大企業が撤退したのは日本だけ」というのが、現地での私の実感だ。
外国からの投資は10年間で2.6倍に増加。EU基金も活用し、近隣国との東西南北の回廊(鉄道、道路)、クリーンエネルギー、空港、港湾等の大きなEU案件が多い。ドイツ、オーストリア、イタリア、スイス、オランダ、ギリシャ企業の存在感は大きく、投資額は日本の25倍から70倍に達する。
ある大臣いわく、「インフラ案件をスペインと中国が競ったり、ドイツとトルコが組んだり、皆よく手を挙げてくれる。韓国は原発受注が確実。日本企業の名を長年聞かず、残念です」。
駐ブルガリア・アメリカ大使は、「発電、機械、医薬品、ホテル等各業界に、非常に多数のアメリカ企業がいるのがわれわれの強み」と胸を張る。中国のブルガリア進出は近隣国ほど熱心でないが、教育、メディアへの浸透を進めている。
ODA終了 を受け、スイスはEU新規加盟国の困難を支援する新たなスキームを作った。インフラや教育等、従来のODAと同様の支援を続けている。「EUメンバーでないスイスの貢献がブルガリア国民の目に見える、最大のツールだ」と大使が話す。みな工夫しているのだ。
ブルガリアはウクライナからの戦火から遠く離れている。ウクライナからブルガリアに入国した避難民は累計225万人。現在も5万人がブルガリア国内に残る。夏には黒海沿岸で就職の機会が増えるので8万人になる。
ブルガリア政府のウクライナ支持・支援は非常に明確だ。弾薬・軽火器を含め、ウクライナの戦闘継続を実質的に支援している。国防相はこの点を強調しつつ、「ウクライナがもちこたえて反転に転じるまで、今後1年の各国支援が肝要だ」と指摘する。
「ウクライナ戦争には中立」が約7割
一方、世論調査では「ブルガリアはこの戦争に中立たるべき」が68%、ウクライナ支持が16%、ロシア支持が9%だ(2022年10月)。また、「ウクライナへの武器供与に賛成」が17%、「すべきでない」が65%だ(2023年8月)。なお派兵はしないと政府は明言している。
ロシアによるウクライナ侵略は、程度の差はあれ中東欧各国に「EUか、親ロ並存か」の問いを改めて突き付けた。親ロ土壌が強いブルガリアが注目されるのは当然であり、日本やアメリカから見て、ブルガリアの外交戦略上の重要性は増している。アメリカ人の大使館員数は91と、日本の10倍だ。
最近、元大統領が公開セミナーでEUの歴史的意義を強調したうえで、「20年前なら、プーチンはルーマニアやブルガリアを自陣営に組み込もうとしたろう」と述べた。
ロシアや中国について「自分たちも同じ社会主義だったからよくわかる」と識者が批判的に語るのも、興味深い。死傷者が出てもロシア市民の厭戦感情を抑え込み、戦争動員を続けるロシアの手法がよくわかるという。
また、豊かになったのはすべて共産党のおかげと教育する中国のやり方もそう。かつて自分たちが経験した社会主義の特質だという。
ガブリエル副首相は「ブルガリアはバルカン半島の安定化要因になる」「アジア各国でビジビリティーが低いので向上させたい」と力説している。
かつて存在したブルガリア王国の最後の国王であったシメオン2世(1937〜)にお会いした 。第2次世界大戦中の1943年、6歳で国王に即位。ソ連が入り1946年に王制廃止、9歳で亡命(親族の処刑もあった)後、半世紀以上経って帰国し、2001年から首相を務めた波乱万丈の人生だ。
「私を含めブルガリア人はみな日本を尊敬しています。元気な日本の姿をぜひ再びブルガリアで見せてください」
今回の戦争が外交安保、政治、経済に及ぼした影響を把握するには、ウクライナだけでなく、ヨーロッパ各国の葛藤と克服努力を見たほうがいい 。親ロ心理を抱えつつ、EUのメンバーとしての地歩を固めているブルガリアは格好の例だろう。
「バラとヨーグルトの国」というイメージはすでに大きく変わり、IT・デジタル人材を強化して国のリブランディングを進めているのが現状だ。
ブルガリアにとって、EU域内の人の国境移動を促す「シェンゲン協定」は2024年3月末にまず海路と空路に適用され、2025年初めにはユーロに加盟予定だ。東部EUの要の一つとして、黒海に臨む南北回廊を構想している。
日本はヨーロッパの安定的発展のためにも、再びこの国に目を向け、期待に応えた貢献をすべきではないだろうか。
(注)3月27日現在政党間折衝は続く。当初プランの内閣「リシャッフル」実現は厳しく、総選挙になるのではとの見通しが多い。
●ウクライナの発電施設狙い大規模攻撃…電力不足の6州で計画停電実施へ 3/30
ロシアの侵略を受けるウクライナ空軍は、露軍が29日未明、ウクライナ国内のエネルギー施設を主な標的にした大規模攻撃を実施したと発表した。デニス・シュミハリ首相は東部ドニプロペトロウシク州や西部リビウ州など6州のエネルギー関連施設が被害を受けたことを明らかにした。
空軍の発表によると、露軍はミサイル39発と自爆型無人機60機を発射した。ウクライナ空軍はこのうち、ミサイル26発、無人機58機を撃墜したとしている。
ウクライナ最大の民間エネルギー企業DTEKは火力発電所3か所が攻撃を受け、設備に深刻な被害が出たと発表した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はSNSで西部にある二つの水力発電所が標的だったことを明らかにした。
国営電力会社ウクルエネルゴは電力不足のためドニプロペトロウシクなど6州で計画停電の実施を発表した。ウクライナは厳冬期が終わっているが、エネルギー施設を狙った攻撃が増えている。ウクライナはロシアの石油精製施設への攻撃を繰り返しており、応酬が激しくなっている。
米国家安全保障会議(NSC)の報道官は29日、ウクライナの発電施設を狙った露軍の攻撃について、約2年1か月前の侵略開始以来、最大級のエネルギー網への攻撃だとする声明を発表した。「ウクライナ国民を暗闇に陥れようとしている」と非難した。
●ゼレンスキー大統領が危機感 米軍事支援なくなれば“少しずつ撤退も” 3/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカ有力紙のインタビューに応じ、アメリカからの軍事支援がなくなれば、ウクライナ軍は「少しずつ撤退することになる」と危機感を示しました。
アメリカの有力紙・ワシントンポストは29日、ゼレンスキー大統領のインタビュー内容を掲載しました。
ゼレンスキー大統領は、アメリカからの支援がなくなれば、防空ミサイルや砲弾が不足し、「我々は少しずつ撤退することになる」と危機感を示しました。
戦闘の長期化で、ウクライナ軍の武器や弾薬の不足が続く中、アメリカ議会では、ウクライナへの軍事支援を盛り込んだ予算案の可決が難航しています。
ゼレンスキー大統領は、「ロシアを押し戻すには、より多くの武器が必要だ」と述べ、支援の継続を改めて訴えました。
さらに、ウクライナ軍は新たな反転攻勢の準備を進める必要があるとして、「準備の一歩を踏み出さなければ、ロシアが前進することになる」と警告しました。
●ウクライナ隣国のNATO加盟国 ルーマニアに無人機落下か 3/30
ロシアがウクライナへ激しい攻撃を続ける中、ウクライナの隣国でNATO=北大西洋条約機構に加盟するルーマニア政府は、無人機の一部とみられるものが領内に落下したと発表しました。ルーマニアでは同様の事態がこれまでも起きていて、警戒を強めているとみられます。
ルーマニア国防省は、3月28日、ドナウ川を挟んでウクライナと国境を接する東部の農地に無人機の一部とみられるものが落下しているのが見つかったと29日、発表しました。
ただ、この無人機がロシアのものかウクライナのものかは明らかにしていません。
AFP通信はけが人はいないと伝えています。
ドナウ川沿いにはウクライナの農産物を運び出す拠点があり、去年9月のロシアによる無人機での攻撃の際にもルーマニア領内で無人機の一部とみられるものが見つかっています。
NATOに加盟するルーマニアはこうした事態に抑制的に対応していますが、警戒を強めているとみられます。
また、同じくNATO加盟国のポーランド軍も3月24日、ロシア軍のミサイルがおよそ40秒にわたって領空に入ったと発表していて、ロシア軍によるウクライナへの激しい攻撃が周辺のNATO加盟国との不測の事態につながらないか懸念されています。
● ロシアの攻撃受ける最前線都市…ハルキウの今 市長語る「地下の学校」 3/30
2月、ロシアによる軍事侵攻は3年目に入った。ロシアとの国境に近い東部の大都市ハルキウは、日常的に砲撃や無人機による攻撃の脅威にさらされている。侵攻が長期化するなか、子ども達の学ぶ場が地下に移るなど、「新たな日常」を模索する動きも。戦時下の学校教育や市民生活を守るため指揮をとるイホル・テレホフ市長がNNNの単独インタビューに応じた。
隣り合わせの「日常」と「戦争」
ロシアとの国境からわずか30キロほどに位置し、侵攻開始直後には市街戦が展開されたハルキウ。侵攻開始前の人口約200万人から大きく減ったものの、いまも約130万人が暮らすウクライナ第2の都市だ。2月、NNNの取材班がハルキウに入った際は、破壊された建物は目につかず、店舗も営業し人通りもあるなど、一見すると通常の市民生活が維持されていた。
しかし、市内を取材し始めると、生々しい攻撃の爪痕が次々に現れる。そして、直前に滞在していたキーウに比べ段違いに多い空襲警報の数が、ここがロシアの攻撃の脅威にさらされる最前線の街であることを如実に物語っていた。
「地下」で学ぶ子ども達
ハルキウ市内では相次ぐミサイル攻撃のため学校での授業ができなくなり、全面的なリモート授業を余儀なくされている。その中で去年9月に始まったのが、地下鉄の施設に教室を設置した「地下鉄学校」だ。5つの駅にそれぞれ1クラス20人ほどの教室が複数あり、日本の小学校から高校にあたる1年〜11年生、約2200人が通っている。
シェルターも兼ねた地下の教室では空襲警報も聞こえず、友達と席を並べて楽しく授業を受ける子ども達の笑顔があった。ただ、市内の学校に在籍する約10万9000人のうち、この地下鉄学校に通えるのはほんの一握りだ。
ハルキウ市は地下鉄学校に加え、より多くの子ども達が一度に通える専用の地下校舎の建設も進めている。こうした計画の陣頭指揮をとるハルキウ市のイホル・テレホフ市長が今回、NNNの単独インタビューに応じた。
「子ども時代」を奪わせない・・・地下鉄学校のわけ
――なぜ「地下鉄学校」を作ったのか?
ハルキウ市 イホル・テレホフ市長「これは(不本意だが)やらざるを得なかったことです。我々は子ども達の学ぶ機会を確実にするために、できる全てをしなければなりません。砲撃が続き、ハルキウの空が完全に守られない現状では、子ども達がそうした学びの機会を得ることができません。だから『地下鉄学校』を作らざるを得なかったのです」
――リモート授業ではなく、実際に通える場を作ることの意義をどう考える?
ハルキウ市 イホル・テレホフ市長「人生は一度きりです。敵(ロシア軍)が我々の子ども達の『子ども時代』を奪うことはできません。学校という場は子ども達にとってとても大切です。(去年)9月1日に(地下鉄)学校を開いてから、私たちは子ども達同士のふれあいを目にしてきました。最初はおびえていた子ども達が、今は全く違った姿になりました。彼らは楽しそうに、互いに関わり合っています。これは私たちにとっても非常に重要なことです」
――専用の地下校舎も建設している。こうした地下の学校を今後も増やす?
ハルキウ市 イホル・テレホフ市長「残念ながら、その通りです。敵(ロシア軍)はどこにも去って行かないし、ハルキウへの攻撃はさらに頻度が高まっています。子ども達にとって大きな危険があり、命を守るためにも本来の(地上の)学校は再開できません。しかし子ども達は学ばなければなりません。今後も徐々にこうした(地下の)学校を作っていくことになると思います」
地上で授業再開のためにも「防空システムを」
インタビュー中、テレホフ市長は地下の学校について「作らざるをえなかった」「残念だ」などと、本来あるべき学校の姿ではないとの思いを言葉の端々ににじませた。地下鉄学校には子ども達が遊ぶためのおもちゃが用意されるなど、できるだけ快適に過ごせるよう工夫がこらされているが、走り回るスペースもなく、外も見えない閉鎖的な空間だ。テレホフ市長は本来の地上の校舎での授業を再開するために最も必要なのは、ミサイルや無人機攻撃を防ぐ最新の防空システムだとして、西側に供与を求めた。
ハルキウ市 イホル・テレホフ市長「『2年』という節目は2月24日というこの1日にしかありませんが、実際のところハルキウは2年間、戦時下にあるのです。静かな日は1日もありませんでした。空襲警報や、爆発のない日は1日もありません。私たちは自分たちや子ども達の生きる権利のために戦っているのです」
「我々の空を(防空兵器で)『封鎖』することは可能です。実現するためには、現代的な防空システムが必要で、世界にはそれを持つ国があり、いま非常に必要とされています」
「空を『封鎖』することができれば、人々は安全だと感じ、本物の(地上の)学校も再開できます。だからこそ、今日のハルキウが抱える第一の戦略的な課題は防空なのです」
「この街は我々のふるさと」
侵攻開始前より人口が減ったものの、今なお130万人が暮らすハルキウ市。ロシアによる攻撃が日常的に行われる中、人々がこの街で暮らし続けることについてテレホフ市長は、「街の防衛能力にも貢献し、住民もそれを理解している」と話した。
ハルキウ市 イホル・テレホフ市長「いままでもハルキウは快適な都市でしたし、私たちは清潔さを非常に重視しています。これは私たちの精神に関わることです。市は人々に(暮らしやすい)環境を作り出しています。戦争がもたらす諸々の恐ろしさに関わらず、暖房・温水・電気は供給されています」
「2022年2月24日以降、多くの人が街から逃れました。戦争前に200万人近かったハルキウの人口が30万人あまりにまで減った時期もありました。しかし(ウクライナ軍のハルキウ州での反転攻勢が成功したあと)人々は戻ってきました。まず第一に、この街は我々のふるさとだからです。我々はこの街を非常に愛しているのに、なぜそのふるさとを離れなければいけないのでしょう?確かに戦争が続いています。人々はこの街に暮らし続けることがお互いを助け、ひいてはハルキウやその防衛能力の支えにもなると信じているのです」
最後に、日本の支援について感謝の言葉も口にした。
ハルキウ市 イホル・テレホフ市長「日本政府と日本の人々の支援に感謝しています。(日本は)軍事的な支援はできませんが、我々はすでに(発電機など)公共事業向けの様々な機器を受け取っています。我々の地下の学校についても、空調設備の支援について日本と話し合いが行われています。こうした支援に非常に期待しています」
「壊れない街 ハルキウ」
「2年間、静かな日は1日もなかった」とテレホフ市長は語った。ハルキウにはあちこちに攻撃の爪痕が残り、増え続けている。にも関わらず地下鉄が運行し、インフラが機能し、130万人が暮らし続ける現実をみると、地下鉄教室に掲げられていた「壊れない街 ハルキウ」というフレーズには単なるスローガン以上の重みを感じた。
新たな地下校舎は基本的な工事が完了し、早期の運用開始を目指して準備が進められている。ロシアの侵攻によって子ども達の学びの場が大幅に制限されるなか、長期化という現実に向き合い、理想の形でなくとも「子ども時代」を守ろうとするハルキウ市の戦いは、残念ながらこれからも続くことになる。
●ウクライナ外相インド訪問 首脳級協議へ協力求めたか 3/30
ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナのクレバ外相がインドを訪問しました。ウクライナがことし6月にも開催したいとしている和平案をめぐる首脳級協議について、グローバル・サウスの代表格として存在感を高めるインドに協力を求めたものとみられます。
ウクライナのクレバ外相は、28日から2日間の日程でインドの首都、ニューデリーを訪問していて、29日には、ジャイシャンカル外相と会談しました。
会談後、クレバ外相は「誠実で包括的な話し合いができた」とした上で、ゼレンスキー大統領が提唱する、ロシア軍の撤退や領土の回復など、10項目からなる和平案について話し合ったことをSNSで明らかにしました。
和平案をめぐっては、ウクライナがことし6月にもスイスで首脳級協議を開催したいとしていて、クレバ外相は、インドに協力を求めたものとみられます。
ウクライナは、ロシアに対抗するため、グローバル・サウスの国々との関係強化を目指していて、とりわけその代表格として存在感を高めるインドに接近したい考えです。
また、インドが、伝統的な友好国であるロシアとの関係を保ち、軍事侵攻に対しても中立的な立場を堅持していることからウクライナとしては、自国の立場に理解を求めるねらいもあるとみられます。
●ロシア連邦捜査委「実行犯らキーウで報酬」 モスクワ近郊テロ 3/30
モスクワ近郊のコンサートホールで22日に起きた大規模テロで、ロシア連邦捜査委員会は29日、実行犯として起訴された4人が「ウクライナの首都キーウ(キエフ)で報酬を受け取る約束だった」と発表した。事件では過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、欧米諸国もウクライナの関与を否定しているものの、プーチン政権はウクライナ関与説を強調している。
実行犯らはウクライナとベラルーシの国境に接する西部ブリャンスク州で捜査当局に拘束された。捜査委は、テロの準備や逃走は、匿名の男が通信アプリ「テレグラム」を通じて実行犯に命じていたと指摘。「実行犯はこの男の指示でウクライナ国境に逃走した」と説明している。
事件ではこれまでに144人の死亡を確認。捜査委はテロに関与したとして新たに男性1人を拘束したと明らかにした。テロを巡っては、ロシア同盟国のベラルーシのルカシェンコ大統領が「実行犯らは当初、ベラルーシに向かおうとしていた」と主張しており、情報が交錯している。 
●WSJ記者拘束1年で空白紙面 ロシアに抗議、バイデン氏も非難 3/30
29日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、ロシアが同紙のエバン・ゲルシコビッチ記者を拘束してから1年に合わせ、1面で「彼の記事がここにあるべきだ」との見出しで中央部分に大きな空白を残し、抗議の意を示した。バイデン大統領も声明で「完全に不当で違法な拘束だ」とロシアを強く非難した。
WSJによると、ゲルシコビッチ氏は昨年3月29日にロシアで拘束され、ロシア連邦保安局が翌日発表した。ロシアの軍産複合体に関する情報を入手しようとしたとして同年4月にスパイ罪で起訴された。冷戦終結後、米メディアの記者がロシアで拘束されるのは初めてで、米ロの火種となってきた。
●NATO首脳会議に岸田首相を招待 米政府調整、出席なら3年連続 3/30
4月10日の日米首脳会談を前に、米政府が首都ワシントンで7月に開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に岸田文雄首相を招く方向で日本政府と調整していることが分かった。日米首脳会談ではロシアによるウクライナ侵略問題を協議する予定。NATO首脳会議では露中の抑止を目的に、欧州とインド太平洋地域の連携強化を図る。日本側は政治日程を精査し参加の可否を最終判断する。
バイデン米大統領は国賓待遇で訪米する岸田首相と4月10日に首脳会談を行う。ロシアの侵略を受けるウクライナへの支援や対露制裁の継続などで一致する見込みだ。
バイデン氏は、ウクライナ支援の継続や新たな侵略の抑止という観点でNATO加盟国とインド太平洋地域の連携を重視している。ウクライナ問題で積極的に貢献する日本をNATO首脳会議に招き、地域間の結束や協力を促したい考えだ。
今年はNATO発足から75周年の重要な首脳会議で、米国が主催して7月9〜11日に開く。
岸田首相は2022年6月、スペインでのNATO首脳会議に日本の首相として初めて出席。ワシントンでの参加が実現すれば3年連続となる。日本にとっては、中国の覇権主義的な行動や台湾問題、北朝鮮の核・ミサイル開発などへの対応で欧州との連携強化を図る機会となる。
昨年のリトアニアでのNATO首脳会議にはインド太平洋地域から日本の他に韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳らが参加した。
●「あの場にいれば助けられたのに」 襲撃事件、ロシア正教会が追悼式 3/30
モスクワ郊外のコンサート会場襲撃事件の現場で30日、ロシア正教会による追悼式が開かれた。犠牲者の数は144人に増え、負傷者も500人を超える大惨事となり、手に花などを持った大勢の市民が現場を訪れて祈りを捧げた。追悼式は、翌週とその次の週の土曜日にも行われる。
追悼式は同日正午に始まった。警察が厳重に警戒する中、正教会の大主教や、犠牲者の遺族らが参列した。家族連れの人も多く、涙を流す人も目立った。
ロシア正教会では、死後3日目、9日目、40日目に故人を追悼する。匿名を条件に取材に応じた60代の女性は「1年前にここのコンサートに来たので、犠牲者がどれほど恐ろしかったか分かる」と、目に涙を浮かべた。ここに来るのは「危ない」と息子に止められたが、「犠牲者を見送るのは私の義務だ」と考え、現場に来たという。 ・・・
●在露アメリカ大使「ロシア当局はテロ情報を軽視した」 3/30
ロシア・モスクワ郊外で起きた銃乱射事件について、ロシアに駐在するアメリカ大使は29日、「ロシア当局はアメリカから提供されたテロの情報を軽視した」と指摘しました。
在露アメリカ大使館・トレーシー大使「今月初め、アメリカはロシア治安当局に『イスラム国』の脅威に関する情報を提供したが、残念なことに複数のロシア当局者がこの有用性を誤って伝え、公に否定している」
モスクワに駐在するアメリカのトレーシー大使は29日、動画を公開し、アメリカが今月初めに提供したテロに関する情報をロシア当局が軽視したと批判しました。
22日にモスクワ郊外で発生した銃乱射事件では、これまでに144人の死亡が確認されていて、事件直後に、過激派組織「イスラム国」のグループの1つ「イスラム国ホラサン州」が犯行声明を出しています。
アメリカ大使館は今月7日、SNSで「コンサートホールを含む人が集まる場所でテロの情報がある」と注意を促していて、トレーシー大使は情報を書面でロシア当局に伝えていたと明らかにしました。
この事件をめぐっては、プーチン大統領も25日、イスラム過激派が関与したことは認めましたが、“ウクライナが背後にいる”との主張を繰り返しています。ロシア国防省も実行犯の拘束に貢献した軍人を表彰する映像を公開するなど、国内世論の鎮静化に努めています。
●ロシア軍が発電所を一斉攻撃、ウクライナのエネルギー企業「発電能力の半分が失われた」 3/30
ロシア軍がウクライナの火力・水力発電所を標的に大規模な攻撃を繰り返し、電力不足の懸念が広がっている。ウクライナ最大の民間エネルギー企業DTEKは29日、一連の攻撃で「発電能力の半分が失われた」と明らかにした。ウクライナ側は防空システムを強化する支援を米欧に繰り返し求めている。
ウクライナ南部ドニプロペトロウシク州はロシアから激しいミサイル攻撃を受けた(29日)=ロイター
ウクライナ軍によると、露軍は29日未明、ウクライナ東部ドニプロペトロウシク州や西部リビウ州など6州のエネルギー関連施設を一斉攻撃した。ミサイルは39発中26発、無人機は60機中58機を撃墜したが、発電所などが被害を受けた。
DTEKは火力発電所3か所で深刻な被害が出たと発表し、「攻撃がより正確で集中的になっている」と指摘した。DTEK幹部は防空能力強化に向けた支援を米欧各国に訴えた。
米国家安全保障会議(NSC)の報道官は29日、ウクライナ侵略開始以降で最大級のエネルギー網に対する露軍の攻撃だとする声明を発表し、「ウクライナ国民を暗闇に陥れようとしている」と非難した。
露軍は22日にもウクライナ各地のエネルギー関連施設に大規模攻撃を行ったばかりだった。国営電力会社ウクルエネルゴはドニプロペトロウシクなど6州で計画停電を行うと発表した。
ウクライナもロシアの石油精製施設への攻撃を繰り返している。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は29日付の米紙ワシントン・ポストのインタビューで、石油施設攻撃について「米国の反応は肯定的ではなかった」と明らかにした。米国は原油価格上昇を懸念し、攻撃に否定的だったとされる。ゼレンスキー氏は「我々は自分たちの無人機を使った。誰も『使えない』とは言えない」と述べ、攻撃は正当な権利だと主張した。
●ウクライナ軍、米支援なければ「徐々に」退却へ=ゼレンスキー氏 3/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は29日に掲載された米紙ワシントン・ポストとのインタビューで、米議会で審議が滞っている軍事支援が得られなければ、ウクライナ軍は「徐々に」退却を余儀なくされると述べ、迅速な可決を訴えた。
ゼレンスキー氏は、「米国からの支援がなければ、われわれには防空能力も、パトリオットミサイルも、電子戦妨害装置も、155ミリ砲もないということになる。それは、一歩ずつ、徐々に退却を強いられるということだ」と述べ、「退却しなくて済む方策を考えている」と明らかにした。
ウクライナ支援法案は、共和党の反対で米下院により数カ月にわたり成立が阻まれている。

 

●ロシア銃乱射テロ現場で追悼行事 モスクワ郊外、市民ら献花 3/31
3月22日に銃乱射テロが起きたモスクワ郊外、クラスノゴルスク市で30日、犠牲者の追悼行事が営まれた。世界的指揮者ゲルギエフ氏率いるオーケストラが追悼の曲を演奏。大勢の市民が参列し、現場となった「クロッカス・シティ・ホール」が入る複合施設の一角に献花した。
追悼行事はホールで銃撃があった午後8時前に始まった。屋外の仮設舞台でオーケストラが演奏する中、複合施設の外壁に犠牲者の顔写真が次々と映し出された。テロでは144人が死亡。ロシア非常事態省は30日、確認された負傷者が551人になったと発表した。
テロ発生翌日から、市民らは複合施設の一角に花束やぬいぐるみをささげている。
●143人殺害の「モスクワテロ」、イスラム過激派がロシアを標的にした理由 3/31
3月22日、モスクワ郊外のクラスノゴルスク市のコンサートホールに武装したテロリストが侵入し、銃撃して143人を殺害し、180名以上を負傷させた。また、その後火災が発生し、建物が炎上した。
アメリカは事前に情報入手
イスラム過激派のIS(Islamic State、イスラム国)と関係のある「アマーク通信」は、今回のテロ事件がISの戦闘員によるもので、「ロシア人キリスト教徒への攻撃だ」と伝えている。
実行犯4人はタジキスタン人であるが、タジキスタンは旧ソ連邦で最貧国である。それだけに、生活苦からISに走る若者が多い。
アメリカは、事前にテロ情報を入手し、ロシア政府に伝えるとともに、在露のアメリカ人にコンサートなどの大規模イベントに参加しないように警告していた。
しかし、ロシアはこれを真に受けず、アメリカの警告を「ロシア社会を不安定にする挑発だ」と反発していた。アメリカの情報を有効に活用しなかったプーチン政権への批判が今後強まるであろう。
●眩い光を発して爆発・炎上するロシア「スメルチ2」迫撃砲…ドネツクで激戦続く中、ウクライナが動画公開 3/31
ウクライナ軍がロシア軍の迫撃砲を攻撃し、破壊した瞬間を捉えた動画が公開された。この空撮映像は、ウクライナ国防省が3月28日に公開したもの。そこには、ロシア軍の213ミリ口径対潜迫撃砲RBU6000「スメルチ2」が標的にされ、攻撃を受けて爆発・炎上し、分厚い煙が立ち上る様子が映っている。
「第45砲兵旅団と第80空中強襲旅団のチームワークにより、対潜迫撃砲RBU6000スメルチ2が破壊された」とウクライナ国防省は述べた。本誌はこの動画が撮影された時期や場所について独自に確認を取ることはできなかった。
今回の戦争におけるロシア軍の兵士や装備の損失について推定値を公表しているウクライナ軍参謀本部は、28日に情報を更新し、ロシア軍が一日で砲兵システム32基、戦車10両、装甲兵員輸送車21両と巡航ミサイル2基を失ったとの推定値を発表した。また過去24時間におけるロシア軍の死傷者数は780人で、戦争が始まってからの合計が43万9970人にのぼるとも述べた。
ウクライナ側もロシア側も、死亡した兵士の数を詳細に、あるいは定期的には公表していない。本誌はこれらの数字について独自に確認しておらず、ロシア国防省にメールでコメントを求めたが、これまでに返答はない。
ロシア軍の1日あたりの死者が1000人超に
死傷者数に関する推定には開きがあり、ウクライナの推定値は通常、西側の同盟諸国の推定値を上回っている。ロシア政府が今回の戦争での死傷者数に関する情報を共有することは滅多にない。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は2022年9月、ウクライナとの戦争が始まってから死亡したロシア兵の数は5937人だと述べていた。
ウクライナ政府もロシア政府と同様に、死傷者の数に関する最新情報を提供することはない。2023年4月に流出したある米国防情報当局の評価によれば、その時点までのウクライナ軍の死傷者は12万4500人から13万1000人で、このうち死者は1万5500人から1万7500人だった。
ウクライナ政府は1週間少し前、ロシア軍の1日の死者数が日常的に1000人を超えていると述べていた。
ドネツク地方で続く激しい攻防
ロシア軍は何カ月にも及んだ戦いの末、2月にウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカからウクライナ軍を追い出すことに成功し、現在はドネツク地方での進軍に力を注いでいる。アウディーイウカをめぐる戦いは長期にわたり多数の死傷者を出し、またかなりの資源が費やされたことから「肉挽き器」と呼ばれた。アウディーイウカは、近くにあるロシア占領下のドネツク市への「玄関口」と言われている。
ウクライナ軍がアウディーイウカから撤退して以降、ロシア側はネベルスケ、オルリウカ、クラスノエやイバニフスケをはじめとする数多くの村を制圧したとしている。
ウクライナ軍参謀本部は3月28日、ウクライナ軍がドネツク地方のベルディチ、セミニウカやネベルスケの集落近くでロシア軍からの14回の攻撃を撃退したと述べた。
●おいおい、日本が米英豪連合「AUKUS」に加わるって!? 3/31
大谷翔平問題よりもずっと重要な課題があるにもかかわらず、日本のマスメディアは十分な報道をしない。その結果、日本はますます戦争への道に引きずり込まれようとしている。
FTの報道
3月24日、FT(フィナンシャルタイムズ)は「日米安全保障協定、過去60年で最大の改定を計画」というショッキングな記事を公表した。ジョー・バイデン大統領が4月10日にホワイトハウスで岸田文雄首相を迎える際に、両者は在日米軍司令部を再編する計画を発表する予定だというのだ。
具体的には、ハワイのインドパコムにある司令部のひとつ、米太平洋艦隊に所属する米軍の統合任務部隊の新設が検討されている。これにより、艦隊の四つ星司令官は、現在よりも多くの時間を日本で過ごし、日本での支援体制を強化することになる。「やがて、米軍のさまざまな部門を含むタスクフォースは、日本に移っていくだろう」と書かれており、東京から19時間遅れ、6200km離れたハワイにあるアメリカ・インド太平洋軍司令部との連携強化のための再編が行われることになるのは確実な情勢だ。
日本は2025年、自衛隊の各部隊間の連携を強化するため、「統合作戦司令部」を設置する予定だ(2025年3月までに自衛隊の恒久的な統合司令部を設置することを約束し、さまざまな部門からなる自国の軍隊をよりよく調整することを積極的に求めている)。これにより、日米双方の軍事協力が強まることになると解説されている。
ロシアの報道
興味深いのは、ロシアの報道機関は日本のマスメディア以上にこの問題を迅速かつ的確に取り上げ、詳細に分析している点だ(たとえば、「FT、中国の脅威を理由に防衛条約を更新する日米の決定を知る」や「日米両国は、より高速な技術を活用することを決定した」を参照)。
後者によると、考えられる構想の一つは、「米太平洋艦隊の一部である米統合軍事任務部隊の新設である」とされ、「その司令官は日本での滞在時間を増やし、より大きな権限を持つことになるだろう」とのべている。「そしてやがて、米軍のさまざまな部隊を含むタスクフォース全体が日本に移転することになる」という。
第二の選択肢は、在日米軍司令部の権限拡大である。現状によれば、日米共同作戦の主要な司令部は、ハワイにある米軍インド太平洋軍司令部である。この機能の一部を日本に移転しつつ、日本における日米両軍の連携強化をはかろうとしているというわけだ。
記事の最後の段落三つを紹介すると、つぎのようになる。
「日本の懸念は常に米国でも共有されてきたが、中国の脅威をそらすことに重点が置かれていた。先週、5月に退任した米インド太平洋軍司令部のジョン・アキリーノ司令官は、米下院軍事委員会で演説し、中国が「第二次世界大戦以来の規模」で軍備を増強していると警告した。過去3年間で、中国軍は戦闘機を400機以上、軍艦を20隻以上増やし、ミサイルの数を倍増させたという。
ここからアメリカが導き出した結論は、北京は必ずしも台湾との戦争を望んでいるわけではないが、それでも2027年までに台湾を侵略する準備を整えておきたいということである。そのため、アメリカは「より迅速に行動する」必要があると司令官は考えた。たとえば、極超音速ミサイルや巡航ミサイル防衛システムを、昨年12月にアメリカ議会が決定した2029年ではなく、早ければ2027年にグアムに配備するのだ。
このような背景から、東京とワシントンは、日米両国の軍隊がこの地域で起こりうるあらゆる紛争に、より迅速に対応できるようになることは、決して余計なことではないと考えたようだ。」
AUKUSに引きずり込まれる日本
ロシア語の報道機関「ヴェードモスチ」は3月21日付で、「日本とカナダはAUKUSに引きずり込まれる」という記事を公表している。「日本とカナダが、軍事・政治ブロックAUKUS(アメリカ、イギリス、オーストラリア)に部分的に参加するかもしれない」というのである。この記事は、3月19日付の「ポリティコ」の記事「日本とカナダが2024年末までにAUKUSに参加する可能性」を受けたものだ。
「ポリティコ」では、AUKUSに参加する3カ国の協議関与しているある上級外交官は「ポリティコ」に、「日本とカナダは2024年末か2025年初頭までに、広範な軍事技術協力に署名するAUKUS協定のいわゆる第二の柱(Pillar 2)と呼ばれるセクションに参加する可能性があると語った」と報じられている。AUKUS安全保障協定は2021年9月に初めて発表された。その最初の部分である第一の柱(Pillar 1)では、米英がオーストラリアの原子力潜水艦建造を支援する。協定のPillar 2は、3カ国が人工知能、極超音速ミサイル、量子テクノロジーなどの分野で高度な軍事技術を開発するための取引に合意することだ。
Pillar 2への協力体制構築が急がれている背景には、ドナルド・トランプが新大統領に就任する場合を見越して、彼の就任前に強固な体制を形成し、後戻りをしにくくするためだとされる。
英国とオーストラリアは3月21日、新たな防衛・安全保障協力協定に調印した。これを紹介するロシア語の報道では、「東京がAUKUSに参加するという話は、この同盟が創設された直後からほとんど始まっていた」と指摘されている。とはいえ、オタワも東京も、AUKUSに正式に加盟すべきかどうかについては、まだコンセンサスを得ていない。他方で、「AUKUSに将来加盟する可能性のある国としてよく名前が挙がるのがニュージーランドである」と紹介されている。他方で、先に紹介した「ポリティコ」には、「日本、カナダ、ニュージーランド、韓国が参加を表明している」と書かれている。
日本、AUKUS部分的参加へ
実は、「産経新聞」は2022年4月12日付で「AUKUS参加、米英豪が日本に打診 極超音速兵器など技術力期待」という記事を公表している。どうやら、岸田首相の訪米に合わせて、AUKUSへの部分的参加表明があっても不思議ではない情勢なのだ。
先の「ヴェードモスチ」では、「日本のAUKUSへの完全加盟はまだ問題になっていないが、部分的な参加は政治的、経済的、軍事産業的に日本にとって有益である」、という国際関係大学の中国・東アジア・SCOセンターのオレグ・パラモノフ上級研究員の見方が紹介されている。第一に、トランプ大統領がホワイトハウスに復帰し、その結果、ワシントンが同盟国への対応により厳しく、より指示的なアプローチをとる危険性がある場合に備えて、この方法で日本は米国との制度的結びつきを強化する。第二に、東京はまた、AUKUSを通じて、「AUKUSの第2の柱」(原子力潜水艦開発は含まれない)からのより機密性の高い技術や有望な開発品へのアクセスも期待できるという。
記事では、「日本の防衛産業の国際化も進み、貴重な新しい経験を得ることができる」と指摘されている。最後に、「日本の保守派は、AUKUSで採択された基準への準拠を口実に、サイバーセキュリティ分野での規制強化を正当化する好機だと考えている」、とパラモノフの結論が紹介されている。
さらに、私の友人、国立研究大学高等経済学院複雑欧州国際研究センターのヴァシリー・カーシン所長の見解として、「日本は非常に大きな科学技術的潜在力を持っており、オーストラリアよりもAUKUSに多くの利益をもたらすことができるだろう」との意見も記されている。
どうだろうか。これがいまの日本の直面するもっとも重大な問題なのではないか。
●ゼレンスキー氏が内閣改造で側近を更迭、ロシアがウクライナ空爆を開始 3/31
ロシア・ウクライナ戦争のニュース
解任された者の中には、上級補佐官セルヒイ・シェヴィル氏のほか、大統領顧問3名と大統領代理2名も含まれていた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は土曜日、進行中の内閣改造で長年の側近と数人の顧問を解任したが、ロシアは一夜にして新たな攻撃を開始した。
ゼレンスキー大統領は、2019年から務めてきた側近セルヒイ・シェフィール第一補佐官の職を解任した。
ウクライナ大統領はまた、ボランティア活動と兵士の権利を監督する大統領補佐官と代表3人を解任した。
ここ数カ月間に大規模に行われたスタッフ再編における最新の変更については、すぐには説明がなかった。
この決定には、2月8日に国家安全保障・国防会議書記だったオレクシ・ダニロフ氏とワレリー・ザロズヌイ氏の軍司令官の職からの解任が含まれていた。
ザロズヌイ氏は今月初め、駐英国ウクライナ大使に任命された。
ウクライナ全土に無人機とミサイルが発射
ウクライナ空軍は土曜日、ロシアが夜間にシャヒド無人機12機を発射し、うち9機が撃墜され、ウクライナ東部に向けてミサイル4発を発射したと発表した。
ウクライナ軍はソーシャルメディアへの投稿で、ロシアが過去24時間にミサイル38発の集中砲火、空爆75回、多連装ロケットランチャーによる攻撃98回を行ったと発表した。
ウクライナ・ドネツク地方のワディム・ヴェラシキン知事は本日土曜日、部分的に占領されたドネツク地方に対するロシアの爆撃で2人が死亡、1人が負傷したと発表した。
ウクライナのエネルギー会社センターネルゴは、ハリコフ東部最大規模の火力発電所の一つであるズミエフ火力発電所が、先週のロシアの爆撃により完全に破壊されたと発表した。
3月22日に原発が被災した後、70万人が停電した同地域では、約12万人に対して停電計画が継続されている。
ロシアはここ数日、ウクライナのエネルギーインフラへの攻撃をエスカレートさせ、複数の地域で深刻な被害をもたらしている。
ポルタヴァ地域当局は土曜日、インフラ施設で「数回のストライキ」があったと述べたが、それがエネルギー施設かどうかは明らかにしなかった。
一方、金曜日にウクライナ全土の地域を襲った99機の無人機とミサイルによる大量爆撃による被害が土曜日に明らかになり、ヘルソン地域の地元当局は民間人1名が死亡したと発表した。 同地域のセルヒー・ライサク知事によると、ドニプロペトロウシク地域の住民1人が負傷により病院で死亡した。
●IMF、エジプトの80億ドルの融資プログラム拡大を承認 3/31
・ガザ危機はエジプトの観光産業に影響を与え、フーシ派による紅海船舶への攻撃はスエズ運河の収入を鈍らせている。
・観光業と海運業はエジプトの主要な外貨獲得源である。
カイロ: エジプトは金曜日、国際通貨基金(IMF)の理事会から、80億ドルの金融支援プログラムの拡大を承認された。
IMFは、エジプト経済がガザ危機によってさらに打撃を受け、観光業の成長が鈍化し、紅海の海運に対するイエメンからの攻撃を引き起こし、スエズ運河の収入が半減したことを受けて、協定を拡大することに合意した。観光業と海運業はエジプトの主要な外貨獲得源である。
「ロシアのウクライナ戦争によって生じた困難な外部環境は、その後、ガザとイスラエルでの紛争、紅海での緊張によって悪化した」とIMFの声明は述べている。
この合意は、2022年12月に締結された30億ドル、46ヶ月のIMF延長ファシリティを拡大したもので、エジプトが通貨の固定を解除し、国有資産の売却を加速し、その他の改革を実施するという誓約を守らなかったため、保留された。
エジプトの中央銀行が主要金利を6ポイント引き上げ、同国の通貨が対ドルで急落した3月6日に、この拡大合意が初めて発表された。
IMFは、「政策の遅れを是正するため、強力な経済安定化計画が実施されている」と述べ、外国為替制度の自由化、財政・金融政策の引き締め、公共投資の削減、民間セクターの余地拡大に焦点を当てた。
これには、政府支出の大部分を占める補助金の継続的削減も含まれる。先週、エジプトは幅広い燃料製品の価格を引き上げた。
IMFの声明は、「持続的な燃料価格調整パッケージの一環として、非対象の燃料補助金を対象を絞った社会支出に置き換えることが引き続き不可欠である」と述べた。
IMFはまた、エジプトは公共投資を監視・管理する新たな枠組みを確立し、過剰需要の管理に役立つだろうが、国家と軍は経済活動から撤退する必要があるだろうとも述べた。
「予算外の投資を透明性をもってマクロ経済政策の意思決定に組み込むことが重要になる」とIMFは付け加えた。
エジプトは、大規模な公共プロジェクト、特にカイロ東部の砂漠に建設している600億ドルの新首都への支出を削減するよう圧力を受けている。
エジプトは先月、地中海沿岸のラス・エル・ヘクマの一等地を開発する権利をアラブ首長国連邦に240億ドルで売却することに合意した。また今月、エジプトは世界銀行グループから60億ドル、欧州連合から81億ドルの融資の確約を得た。
声明では、エジプトの成長率は2022/23年の3.8%から2024年6月末までの会計年度には3%に減速し、その後2024/25年には約4.5%まで回復すると予測している。
●露の攻撃相次ぐ ウクライナ、電力供給に深刻な影響 3/31
ロシアによるウクライナの発電施設を狙った攻撃が相次ぎ、電力の供給に深刻な影響が出ています。
侵攻を続けるロシアはこのところ、ウクライナ国内にある火力発電所や水力発電所といった発電施設への攻撃を強めています。
ロイター通信によりますと、ウクライナ最大の民間エネルギー企業のトップは30日、この2週間のロシアによる攻撃で発電施設6つのうち5つが損傷するなどし、発電能力の80パーセントが失われたと明らかにしました。
この企業は、ウクライナ全土の電力需要のおよそ4分の1を供給しているということです。
アメリカのシンクタンク、「戦争研究所」は、工場などの電力に影響を与えることで、ロシアが「ウクライナの防衛産業の能力低下を目的としている可能性がある」と指摘しています。
ゼレンスキー大統領は30日、「ウクライナの力を消耗させるために凶悪な攻撃を行っている」と強く非難しました。
●ウクライナに装甲車「数百両」新たに供与へ 仏国防相 3/31
フランスのセバスチャン・ルコルニュ(Sebastien Lecornu)国防相は30日夕発行の同国紙トリビューンに掲載されたインタビュー記事の中で、同国はロシアの侵攻を受けるウクライナへの新たな軍事支援パッケージの一環として、装甲兵員輸送車「数百両」と対空ミサイルを供与する方針だと述べた。
ルコルニュ氏は、「ウクライナ軍が長く延びた前線を保持するには、例えばわが国の兵員輸送車(VAB装甲車)が必要となる。部隊に機動力を持たせるため極めて重要だ」と語った。
フランス軍は現在、一部は製造から40年以上経過した既存の兵員輸送車と、新型装甲車「グリフォン(Griffon)」の入れ替えを進めている。
ルコルニュ氏はただ、旧式の兵員輸送車も「なお運用可能だ」とし、「2024年中と2025年の早い時期に数百台(供与すること)を検討している」と述べた。
フランスはまた、防空システム「SAMP/T」用の対空ミサイル「アスター30(Aster 30)」の供与も増やす方針。
さらにルコルニュ氏は、「遠隔操作可能な武器弾薬の開発が近いうちに終わり、今夏からウクライナへの供与を始める予定だ」と話した。
●高官更迭続くウクライナ、政権内不和か 「ロシアと変わらぬ」危惧も 3/31
ロシアから侵攻されているウクライナでは、軍や政権の高官が相次いで更迭されている。2月にザルジニー軍総司令官が交代させられたことに続き、3月26日、ダニロフ国家安全保障国防会議書記も解任された。度重なる要職の交代は、政権内部の結束にほころびが生じている可能性も示す。
ダニロフ氏は、ゼレンスキー大統領が議長を務め、主要閣僚が参加する国家安保国防会議を統括。大統領側近と位置づけられながらも、欧米諸国を相手にして歯にきぬ着せぬ物言いを続けてきた。
2月下旬に毎日新聞の取材に応じた際にも「西側諸国はロシアを恐れ過ぎている」と発言。解任理由は明かされていないが、一連の発言が問題視されたともみられている。近く駐ノルウェー大使に転出するとも報じられている。
今回の解任劇に先立ち、ゼレンスキー氏がザルジニー氏を更迭した背景には、その人気を脅威に感じていたとの指摘もある。2023年12月の世論調査で、ザルジニー氏の支持率は88%を記録し、ゼレンスキー氏の62%を上回った。
2割弱の領土がロシアに占拠されている事態を踏まえ、ゼレンスキー政権は当初3月末に予定されていた大統領選を延期させた。今後、どこかの段階で選挙を実施する場合、ザルジニー氏が競争相手になるとの観測が消えていない。この点を考慮したのか、解任された後のザルジニー氏は駐英大使に任じられて、国内から遠ざけられる形となった。
ザルジニー氏の解任を巡っては、戦況についてのメディアへの情報発信などで意見の相違があった可能性もある。
ザルジニー氏は23年11月の英誌エコノミストのインタビューで、「戦況が行き詰まった」と発言したが、ゼレンスキー氏がすぐに否定。両者の不和が明るみに出た。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は同年12月、大統領府や軍関係者の証言を基に、国内への投資や支援を呼び込むために報道統制を強めて楽観的な戦況を伝えようとする大統領府と、より現実に即した情報発信を主張する軍との間に溝が生まれていると指摘していた。
ゼレンスキー氏への権力の集中を懸念する声も出ている。ウクライナ最高会議(議会)野党のホンチャレンコ議員は23年12月の独有力誌シュピーゲルに「ウクライナではゼレンスキー氏とイエルマク大統領府長官の2人がすべてを決めている」と証言。首都キーウ(キエフ)のクリチコ市長は「私たちはいずれ、1人の男性の機嫌にすべてが左右されるようになり、もはやロシアと変わらなくなるだろう」と危惧した。
国力で劣るウクライナがロシアへの抵抗を続けてこられた理由の一つには、国内が結束してきた点が挙げられている。一方でロシアによる侵攻開始以来、ウクライナ政府はテレビ局を統制下に置き、政権批判が生まれにくい状況となっている。
●中国 製造業の景況感 景気判断の節目「50」半年ぶりに上回る 3/31
中国の3月の製造業の景況感を示す指数は、企業の生産が増えたことなどから、景気判断の節目となる「50」を半年ぶりに上回りました。
中国の国家統計局が製造業3200社を対象に調査した2月の製造業PMI=購買担当者景況感指数は50.8となりました。
前の月から1.7ポイント改善して、景気のよしあしを判断する節目となる「50」を去年9月以来、半年ぶりに上回りました。
これは、輸出の伸びなどで生産が増えたことが主な要因で、内需拡大に向けて中国政府が打ち出した家電製品や自動車などの買い替えを促す対策への期待感も景況感の改善につながったものとみられます。
企業の規模別では、
   ・大企業が51.1
   ・中規模な企業は50.6
   ・小規模な企業は50.3となっていて、
大企業だけでなく、中小企業も節目の「50」を上回りました。
また、サービス業などの非製造業の景況感指数は前の月から1.6ポイント改善して53.0となりました。
中国では不動産市場の低迷の長期化で、景気の先行きに不透明感が広がっていて、企業の景況感の改善が今後も続くかどうか注目されます。
●パリ市長、ロシアとベラルーシの選手は五輪で「歓迎されない」 3/31
仏パリのアンヌ・イダルゴ市長は30日、今夏のパリ五輪でロシアとベラルーシの選手は「歓迎されない」と述べた。
ウクライナの首都キーウを訪れ、練習施設を視察したイダルゴ市長は、「ロシアとベラルーシの選手に対してはパリでは歓迎されないということ、逆にウクライナの選手とウクライナ国民の皆さんには、強くサポートするということを伝えたい」と話した。
ロシアとベラルーシの選手は、ウクライナへの軍事侵攻を積極的に支持しないことを条件に、中立の立場でパリ五輪参加を認められているが、7月26日の開会式での入場行進は認められなかった。ロシア側はこれに強く反発し、自国選手への制限は「ネオナチズム」だと国際オリンピック委員会(IOC)を非難している。
●モスクワ郊外 テロ現場でアメリカ大使ら各国の外交官が追悼 3/31
ロシアの首都モスクワ郊外で起きたテロ事件の現場を30日、ロシアに駐在する各国の外交官らが訪れ、花を手向けて犠牲者を悼みました。
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで22日に起きたテロ事件では、これまでに144人が死亡、551人がけがをし、ロシアで発生したテロとしては過去20年で最悪の規模となりました。
事件の現場には30日、アメリカの大使などロシアに駐在する各国の外交官が訪れ、花を手向けて犠牲者を悼みました。
これまでに、実行犯として中央アジアのタジキスタン出身の4人が起訴され、過激派組織IS=イスラミックステートとつながりのある「アマーク通信」はISの戦闘員による犯行だと伝えています。
一方、プーチン政権は今回のテロ事件にウクライナが背後で関与した疑いがあるとの主張を続けていて、連邦捜査委員会は29日、実行犯らは約束された報酬をウクライナの首都キーウで受け取ろうと、調整役の指示でウクライナ国境の方向に車で向かったと主張しました。
こうした中、タジキスタンの労働次官はタス通信に対し、テロ事件の後、ロシア国内で暮らすタジキスタン出身者の間で不安が高まり、帰国する動きが出ていると明らかにしました。
日常生活で嫌がらせを受けたとの相談も寄せられているものの、こうした帰国の動きは一時的なものと見ているということです。
●米国からイスラエルに戦闘機25機や2300発以上の爆弾…水面下でバイデン政権が売却を承認 地上作戦の自制を求める一方で軍事支援 米報道 3/31
アメリカのバイデン政権が、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を続けるイスラエルに対し、戦闘機などの武器を売却する手続きを水面下で進めて承認していた、とアメリカ・メディアが報じました。
29日付けのワシントン・ポストは、バイデン政権が今月、イスラエルに対し最新鋭のステルス戦闘機、25機や2300発以上の爆弾の売却を承認した、と伝えました。去年10月末、100人以上が死亡した難民キャンプへの空爆で使われたとされる爆弾も含まれているということです。
これらの武器の売却については過去に議会で同意を得ていたため、新たに議会に通知をせずに水面下で手続きを進めていたとしています。
バイデン政権がイスラエルに対しガザ南部ラファでの地上作戦について自制を求める一方で、軍事支援を着々と行っているとの報道に、パレスチナ自治政府は声明で「道徳的矛盾だ」と批判しています。 
 
 
 

 



2024/1-

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