ウクライナ 分断

終戦 プーチンの妥協

ウクライナの分断


 


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第三次世界大戦  プーチン大統領の「夢」  戦争終結の道 ・・・   孤立するロシア  プーチンの新冷戦  どこへ行くプーチン大統領  プーチン大統領の冬支度
 
 

 

●ウクライナ侵攻で数々の「新語」が誕生…戦争が「Z」の意味まで変えた 9/1
ロシアのプーチン大統領が起こした戦争により、数々の「新語」が誕生した。それだけ、世界に激動のニュースがあふれ、ウクライナでは国の命運や人の生死が日々語られたということだろう。後に歴史家だけでなく、辞書編集者も悩ませることになるかもしれない。
記者が分からなかった「ラシスト」
2月下旬の侵攻開始直後、過去に世話になった首都キーウの知人にオンラインで取材していて、分からない言葉が出てきた。空襲警報や爆発音が聞こえるという中、彼女は「ラシスト」と繰り返してロシア軍を非難した。
プーチンは「同一民族の兄弟国」と口にしながら、明らかに差別感情を持ってウクライナ人の頭の上に爆弾を落としている。筆者はレイシスト(人種差別主義者)のスラブなまりだと思って勝手に納得していた。が、後で違うことを知った。言葉に神経を使う職業人として失格だ。
実はロシア(侮蔑的に英語発音でラシャと呼ぶ)とファシストの造語だった。独裁者を重ね合わせた「プトラー」などは、クリミア半島併合時からあったものの、あくまでスラング。対照的に「ラシスト」は現地の主要メディアでも多用されていたから、新語と判別できなかった。もはや辞書に載るレベルだろう。
こんな具合で、戦争取材やウクライナ各紙で謎の単語が頻出するものだから、骨が折れたし、やや不謹慎ながら興味深くもあった。時代や社会の反映なのだ。
なお「ラシャ」の最高指導者は、アルファベット26文字の一つにすぎない「Z」にかぎ十字のような意味を付与しただけでも、歴史に名を残した。
死語は自国民に響くか
新語というより、真実を覆い隠す珍語の「特別軍事作戦」。100日目の6月3日、侵略を受ける側のゼレンスキー大統領が動画で国民向けに演説した。
内容はいつもの戦況報告と異なる。コメディー俳優らしく、ぬくもりのある言葉で傷ついた人々を癒やし、勇気づけるもの。「百日百語」と題し、戦争で生まれた言葉、悲しみの言葉、希望の言葉を一つ一つ紹介した。
そして普遍的な言葉として「平和」「勝利」「ウクライナ」を列挙。「(2014年の軍事介入から)8年後の100日間、われわれはこの3語のために戦っている」とも強調していた。
翻って、プーチンは? そもそも第2次大戦直後の用語である「非ナチ化」など、時代遅れの「死語」が多い。自国民にさえ響くかどうか……。生きた言葉の力では、かつて小ロシアと呼ばれたウクライナに負けている。・・・ 
●ロシア 極東 北方領土 日本海などできょうから大規模軍事演習  9/1
ロシアは、ウクライナへの軍事侵攻を始めてから初めてとなる大規模な軍事演習を、1日からロシア極東や北方領土、日本海などで行います。侵攻の影響で規模の縮小を余儀なくされたとも指摘される中、ロシアとしては、参加する中国をはじめ各国との連携をアピールするものとみられます。
ロシア国防省は、極東地域などで4年に一度行っている大規模な軍事演習「ボストーク」を1日から7日までの日程で行います。
ことしは、7か所の演習場で予定されていますが、北方領土の択捉島と国後島も含んでいるほか、日本海やオホーツク海の海上や沿岸でも行われるとしています。
ロシアは毎年、大規模な軍事演習を行っていますが、ウクライナへの侵攻を始めてからは初めてです。
31日は、沿海地方の演習場で開会式が行われ、ロシアに加えて、演習に参加する13か国のうち、中国やインドなどの部隊が行進しました。
今回の演習には、兵士5万人以上のほか航空機140機や艦船60隻が参加するということですが、専門家などからはロシア軍は極東からもウクライナに部隊を派遣していて演習の規模の縮小を余儀なくされたとも指摘されています。
こうした中で、ロシアとしては、今回の演習を通じて、各国との軍事的な連携を強調し、対立するアメリカや日本などをけん制するとともに、国際的に孤立していないとアピールするねらいもあるとみられます。
●ゴルバチョフ氏とプーチン氏の「冷たい関係」 互いに批判繰り返し 9/1
8月30日に亡くなったゴルバチョフ元ソ連大統領は、後継国となったロシアのプーチン大統領との間で、お互いを批判するような発言を繰り返し、冷たい関係があらわになってきた。ゴルバチョフ氏がプーチン政権下で民主化が後退したことを取り上げる一方で、プーチン氏はゴルバチョフ大統領時代に起きたソ連崩壊を否定的に語ってきた。
共産党が一党独裁を続けたソ連の最高指導者を務めた過去を持ちながら、ゴルバチョフ氏はしばしば民主主義の価値を説いてきた。2000年に大統領に就任したプーチン氏と初めて会談した同年8月には「ロシアに秩序と責任感が必要とするプーチン大統領の路線を支持する」と明言した。
ところがプーチン氏が当時の最大の任期である2期8年を全うした後に首相に横滑りしたことから、批判的な発言を漏らすようになった。11年8月に毎日新聞と会見した際、ロシアは「(長期独裁国が多い)アフリカのような状況といえる」と批判。プーチン氏についても「今なら多くの業績を残した人物として(政界から)退くことができる」とも語った。15年12月に再度、毎日新聞とのインタビューに応じたときも、3期目の大統領に返り咲いたプーチン氏による統治を「個人による権威主義的な統治と反民主的傾向が続いている」と評した。
一方で、プーチン氏によるゴルバチョフ氏の評価も手厳しい。15年7月に米国の映画監督オリバー・ストーン氏とのインタビューに答え、ゴルバチョフ氏がソ連の最高指導者に就いた当時は「国に変革が必要であることは、ゴルバチョフにもその側近にも明らかだった」と指摘。しかしゴルバチョフ氏や周辺が「どのような方法で実現すべきかはまるでわかっていなかった」「だからこそ国に甚大なダメージを与えるようなことをいろいろとやった」と酷評した。
プーチン氏によるゴルバチョフ批判は、現在のロシアのウクライナ侵攻の遠因の一つとも言える北大西洋条約機構(NATO)に関する問題にも及ぶ。米国は1990年のドイツ再統一を前にして、ゴルバチョフ氏の同意を取り付けようとして、当時の共産圏にNATO加盟国を拡大しないと約束したとされる。しかし90年代後半以降、この「約束」はほごにされて、東欧諸国やソ連に組み込まれていたバルト3国などが次々とNATOに加盟したことから、ロシアが対米不信を募らせる一因となった。
米国の「約束」について、プーチン氏はストーン氏とのインタビューで次のように触れている。「約束は書面にされてはいなかった。その誤りを犯したのはゴルバチョフ氏だ」「政治の世界では何事も書面に残さなければならない。だがゴルバチョフ氏はペラペラしゃべっただけで十分だと判断した」。こう語り、米国の口約束を安易に信じた結果、NATOの東方拡大を許してしまったとの見解を示した。
90年にノーベル平和賞を受賞したゴルバチョフ氏は、欧米諸国で高く評価されたが、ソ連崩壊を防げなかったこともあり、ロシア国内の評価は高くなかった。一方で、ロシア国内ではプーチン氏がソ連崩壊後の混乱を収めたことなどを評価されてきたが、欧米諸国からは強権的な統治方法や隣国ウクライナへの軍事侵攻などを批判されている。両氏のコントラストは鮮明だ。
ただしゴルバチョフ氏は欧米寄り一辺倒の政治家だったわけでもない。プーチン政権が14年にウクライナ南部クリミアを強制編入すると、これに支持を表明した。またソ連末期のリトアニアで独立運動が激しくなると、武力鎮圧を試みた結果、死者を出したことにも批判が残されている。
●ゴルバチョフ氏の国葬、ロシア報道官「まだ決まっていない」… 9/1
30日に91歳で死去したミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領は、帝政ロシア、ソ連の最高指導者につきまとう冷酷なイメージを覆す笑顔と柔軟性を武器に、硬直化したソ連の内外政策を転換した。第2次大戦後、半世紀近くに及んだ東西冷戦を終結に導いた。ゴルバチョフ氏は国際的に称賛を浴びる一方、1991年に超大国だったソ連を崩壊させた張本人として、後継国家ロシアでの評価は低い。
90年ノーベル平和賞
ゴルバチョフ氏は85年3月、54歳でソ連の最高指導者ポストだった共産党書記長に就任した。ソ連は当時、アフガニスタンへ侵攻中で、ソ連を「悪の帝国」と非難した米国と軍拡競争を繰り広げていた。ゴルバチョフ氏の書記長就任時、国家予算の約40%を軍事費に充てていたとの指摘もある。内外政策の転換に踏み切った背景には、ソ連の経済と社会の疲弊が深刻で改革が急務だったことがある。
米欧との和解にかじを切った「新思考外交」では、85年にレーガン米大統領(当時)とスイス・ジュネーブで初会談に臨み、核軍縮に道筋をつけた。89年11月に「ベルリンの壁」が崩壊し、翌12月には米ソ首脳による冷戦の終結宣言、90年の東西ドイツ統一の実現にも貢献した。この年、ノーベル平和賞を受賞した。
国外では「ゴルビー」との愛称が定着し、政界引退後の2000年代にはフランスの高級ブランドの広告に登場したこともある。
ゴルバチョフ氏が共産党の再建を目指し、86年に掲げた「ペレストロイカ(立て直し)」は日本でも流行語になった。共産党の一党独裁を放棄し、90年に大統領制も導入した。
ソ連構成国だったウクライナで86年に発生したチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所の爆発事故では、事故を隠して被害が拡大したことを批判され、「グラスノスチ(情報公開)」を加速させた。言論の自由拡大や民主化の推進は、ソ連崩壊後のロシアで民主化や人権運動の機運が醸成される種をまいた。
ゴルバチョフ氏自身は91年12月のソ連崩壊と同時に失脚し、政治的影響力が回復することはなかった。露国営テレビは8月31日、経済学者の見方として、「(ゴルバチョフ氏が)何もしなくてもソ連は10〜15年は存続できた」と報じた。プーチン大統領もソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と評している。
ゴルバチョフ氏の政敵で新生ロシアのエリツィン初代大統領が2007年に死去した際には国葬が営まれた。タス通信によると、ロシアの大統領報道官は8月31日、ゴルバチョフ氏の国葬を執り行うかどうかについては「まだ決まっていない」と述べた。国葬が行われた場合のプーチン大統領の参列についても未定という。 
●ロシア プーチン大統領 ゴルバチョフ氏の葬儀に参列せず  9/1
ロシア大統領府は、9月3日に営まれる予定のゴルバチョフ氏の葬儀に、プーチン大統領が参列しないと明らかにしました。
旧ソビエトの最後の指導者で東西冷戦を終結に導いたミハイル・ゴルバチョフ氏は8月30日、91歳で亡くなりました。
ゴルバチョフ氏が代表を務めた財団によりますと、葬儀は今月3日、モスクワ市内の施設で営まれる予定です。
これについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、1日「残念ながらプーチン大統領は公務の都合で葬儀に参列できない」と述べ、プーチン大統領がゴルバチョフ氏の葬儀に参列しないことを明らかにしました。
また、報道陣から、葬儀は国葬という扱いになるかどうか質問されたのに対しては「その要素はあるだろう。政府は、葬儀の手配を支援する」と述べるにとどめました。
葬儀を前に、1日、プーチン大統領は、ゴルバチョフ氏が安置されている病院を訪れて遺体と対面し、国営テレビは、プーチン大統領が花を供え、無言で遺体や遺影を見つめたあと胸の前で十字を切り、ゴルバチョフ氏に別れを告げる様子を公開しました。
ゴルバチョフ氏は近年、プーチン政権の統治手法が強権的だと懸念を示し、ウクライナへの軍事侵攻に対しても憂慮していたと伝えられています。
●ウクライナへ軍事支援続く、スペインは初の対空兵器 英はドローン 9/1
スペイン国防省は9月1日までに、ウクライナへ対空砲や対空ミサイルを供与すると発表した。スペインがこの種の兵器の引き渡しに応じるのはロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、初めて。
声明で、野砲用の弾薬1000発、1000トン規模のディーゼル油、様々な装甲車両や冬季用の軍服3万着も送ると表明。侵攻から半年を経過したことなどを踏まえ、ロシアの侵略に抵抗し平和と自由を守る戦いに挑むウクライナを支え続けるとの決意も示した。
スペインは対空砲の操作に必要なウクライナ軍の訓練を同盟国内で実施する方針も明かした。ウクライナ空軍兵士の訓練も行うとした。
スペインは今年4月、弾薬類約200トンと他の装備品のウクライナへの譲渡を発表してもいた。
北欧スウェーデンのアンデション首相も9月1日までに、ウクライナに10億スウェーデン・クローナ(約130億円)相当の軍事、民生両面での追加援助を実施する方針を示した。半分は軍事支援に充てるとした。
首都ストックホルムにウクライナのクレバ外相を迎えた後の記者会見で表明した。「国境は力の行使あるいは戦争で決して変えてはいけない。ウクライナ支援は我々の責務であり名誉の行動である」と説いた。
クレバ外相は、スウェーデンに対し榴弾(りゅうだん)砲、防空兵器やより多くの砲弾の供与を求めた。理由は明確とし、ウクライナ自衛だけでなく欧州全体を守るためだと強調した。
一方、ウクライナを最近、電撃訪問したジョンソン英首相は、6600万米ドル相当の軍事援助の実施を発表した。英首相官邸の報道発表文によると、ウクライナ軍による長距離の監視能力や敵兵力の動向を把握し攻撃に転じる防御能力の向上につながり得る援助と説明した。
今回発表の援助には、最新型のドローン(無人機)など2000機が含まれた。敵の兵力の位置を知った後、攻撃に転じるドローンなども入っている。
敵兵力の前進を監視などする小型ドローンの「ブラック・ホーネット」850機も提供される見通し。このドローンは特に町村部での投入に効果的とも評した。ノルウェー国防省によると、ブラック・ホーネットは同国企業が開発したものでウクライナへの供与は英国と共同で実施する。
ジョンソン英首相の先月24日のウクライナ訪問はウクライナ侵攻が今年2月下旬に始まって以降、3度目だった。英国の政変で同首相は近く退任の予定だが、ウクライナのゼレンスキー大統領はジョンソン氏の支援を高く評価し、「自由勲章」の授与を発表した。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 9/1
IAEA調査チーム ザポリージャ原発へ到着 砲撃の情報も
ウクライナ南東部にあるザポリージャ原子力発電所に向かっていたIAEA=国際原子力機関の専門家チームが1日、日本時間の午後8時過ぎに到着しました。原発の周辺の地域では朝から砲撃の情報が相次ぎ、稼働中の原子炉の1つが安全装置が作動して停止するなど、緊迫した状況が続いています。
ウクライナの原子力発電公社「安全装置作動で5号機停止」
ウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所をめぐり、ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」は9月1日、「きょう再びロシア軍による砲撃があり、安全装置が作動して5号機が停止した」と発表し、稼働中の2基の原子炉のうち、1基が停止したとホームページで明らかにしました。これに対しロシア国防省は9月1日、「ウクライナ軍が挑発行為を行い、原発の1号機から400メートルの距離で4発の砲弾が爆発した。けさは、ウクライナ軍の工作部隊が7隻のボートに乗って、原発を奪還しようとしたが撃退した」などと主張し、原発の周辺の地域では戦闘が続いている模様です。
ロシア外相 「IAEAに期待するのは客観的な調査」
ロシアのラブロフ外相は9月1日、首都モスクワで講演し、IAEA=国際原子力機関によるザポリージャ原子力発電所の調査について、「われわれがIAEAに期待するのは客観的な調査だ」とけん制しました。また「ウクライナ軍は原発で挑発行為を続けるが、大事故につながらないことを願う。ロシアはIAEAが安全に任務を達成できるようあらゆる措置をとっている」と述べ、ロシア側はIAEAの任務を妨害しないと主張しました。
IAEA調査チーム ザポリージャ原発へ出発
8月31日、ウクライナ南東部のザポリージャ市に到着したIAEA=国際原子力機関の調査チームは9月1日、ザポリージャ原子力発電所に向けて出発しました。出発を前に現地時間の午前8時すぎ、グロッシ事務局長は「大きなリスクがあることは把握している。われわれには達成するべき非常に重要な任務がある」と記者団に述べました。一方、ザポリージャ州の知事は1日、「IAEAの調査が行えるよう、事前に合意していた原発までのルートをロシア側が砲撃している。われわれはロシアに対し、挑発をやめ、IAEAによる原発の施設への立ち入りを認めるよう求める」とSNSに投稿しました。IAEAが、原発の安全確保に向けた調査を始めようとしているにも関わらず、周辺では砲撃が続いているとみられ、調査が順調に行われるかどうかが焦点となっています。
米国防総省 IAEAの専門家チームの調査開始を歓迎
アメリカ国防総省のライダー報道官は31日、ウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所でIAEA=国際原子力機関の専門家チームが調査を始めることを歓迎するとしたうえで、「現地では散発的な砲撃が続いており、われわれはすべての当事者に原発の安全を確保するよう要請するとともに、IAEAのチームが作業を行えるようロシアに求める」と述べました。またウクライナ南部の戦況について、「ウクライナ軍がヘルソン州で若干前進し、一部ではロシア軍が後方へ退いたことを把握している」と指摘しました。さらに来週、ドイツ西部にあるアメリカ軍の基地で、オースティン国防長官らが主催してウクライナへの軍事支援について各国が協議する会合を開くと明らかにし、「世界50か国以上の国防相らと話し合い、ウクライナ側にロシアの侵略から自国を守るために必要な手段を提供するため、引き続き緊密に連携していく」と述べました。また、ホワイトハウスの高官は31日、記者団に対し、今後数日中にアメリカとして、ウクライナへの新たな軍事支援を発表すると明らかにしました。
EU ロシア人へのビザ発給手続き簡素化停止で合意
EU=ヨーロッパ連合は外相会議を開き、ウクライナへの侵攻を続けるロシアへの圧力を強めるため、ロシア人へのビザの発給手続きを簡素化するための協定の履行を停止することで合意しました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、EUはすでにロシア政府の高官や経済界の有力者などがEUに渡航することを禁止しています。EUは8月31日、チェコで外相会議を開き、ロシアへの圧力をさらに強めるためとして、一般市民を含めたロシア人へのビザの取り扱いについて協議しました。その結果、ビザの発給手続きを簡素化するためにロシアと結んだ協定の履行を停止することで合意しました。EUの外相にあたるボレル上級代表は記者会見で、「今後、発給手続きはより厳しく、より時間がかかるようになり、新たに発給されるビザは大幅に減るだろう」と述べました。軍事侵攻を受けて、EUがロシアの航空会社の乗り入れを禁止したことなどから陸路でEU域内に入るロシア人が増えていて、EUによりますと、2月24日から8月22日までの半年間で100万人近くに上るということです。ロシアと国境を接するエストニアやフィンランドは、すでに個別に観光目的などのロシア人に対するビザの発給を大幅に制限する措置の導入を決めていますが、EU全域でこうした措置をとることには慎重な立場の国もあり、合意には至りませんでした。
ロシア 北方領土や日本海などで大規模な軍事演習
ロシア国防省は、極東地域などで4年に1度行っている大規模な軍事演習「ボストーク」を9月1日から7日までの日程で行います。ことしは、7か所の演習場で予定されていますが、北方領土の択捉島と国後島も含んでいるほか、日本海やオホーツク海の海上や沿岸でも行われるとしています。ロシアは毎年、大規模な軍事演習を行っていますが、ウクライナへの侵攻を始めてからは初めてです。31日は、沿海地方の演習場で開会式が行われ、ロシアに加えて、演習に参加する13か国のうち、中国やインドなどの部隊が行進しました。今回の演習には兵士5万人以上のほか、航空機140機や艦船60隻が参加するということですが、専門家などからはロシア軍は極東からもウクライナに部隊を派遣していて、演習の規模の縮小を余儀なくされたとも指摘されています。こうした中で、ロシアとしては、今回の演習を通じて、各国との軍事的な連携を強調し、対立するアメリカや日本などをけん制するとともに、国際的に孤立していないとアピールするねらいもあるとみられます。
ロシア・イラン外相会談 欧米の制裁に対抗する姿勢鮮明に
イランのアブドラヒアン外相は8月31日、ロシアの首都モスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談しました。会談後の共同会見でラブロフ外相はイラン核合意を巡る交渉について「イランを完全に支持する。合意文書の最終案にわれわれは満足している」と述べ、交渉が大詰めを迎えているという認識を示しました。これに対し、アブドラヒアン外相はイランとロシアを結ぶ鉄道を整備する計画のほか、金融や貿易などの分野での協力を議論したとしたうえで「近い将来、長期的で包括的な協定を結ぶだろう」と述べ、アメリカなどが両国に制裁を科すなか、結束して対抗する姿勢を鮮明にしました。一方、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは無人機が不足しているとみられていて、アメリカ政府は、イランがロシアに対し、数百機の無人機の供与を進めていると指摘しています。両国はこれを否定していますが、欧米側はイランとロシアが経済だけでなく、軍事面での協力関係も深めようとしているとして、警戒を強めています。
IAEA 9月1日からザポリージャ原発の調査開始へ
ウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所では、安全性の確保に向けてIAEA=国際原子力機関の専門家チームが、9月1日から原発の調査を始める見通しです。ただ、原発や周辺では砲撃が続いているとみられ、IAEAの調査が順調に進められるかが焦点となっています。ウクライナ南東部にありロシア軍が掌握するザポリージャ原子力発電所では、相次ぐ砲撃によって一部の施設に被害が出ていて、重大な事故につながりかねないという懸念が高まっています。この調査を行うため、ウクライナに入っているIAEAの専門家チームが8月31日、原発から60キロほど離れたザポリージャ市に到着しました。ザポリージャ市で、記者団の取材に応じたIAEAのグロッシ事務局長は、原発の調査を9月1日から開始して数日間行うことを明らかにし、「現地の状況を評価するため技術的な作業を行う予定で、従業員と話す必要もある」と述べました。そのうえで、「IAEAの常駐化を目指す」として現地の状況を常に把握できる仕組み作りに向けて調整を進める考えを示しました。これについて、ウィーンに駐在するロシアのウリヤノフIAEA大使は「ロシアは歓迎する」として、認める可能性を示しました。一方、原発や周辺での砲撃について、ロシア国防省は31日、「ウクライナ軍がIAEAの任務を妨害する目的で30日も挑発行為を続け、原発の敷地内に砲撃があった」と主張するなど戦闘が続いているとみられます。またロシア軍が、原発の従業員らに対し、敷地内に駐留する部隊について口外しないよう圧力をかけているとも指摘されていて、IAEAの調査が順調に進められるかが焦点です。
ウクライナ南部へルソン州でウクライナ軍の攻勢続く
戦闘が続くウクライナでは、南部ヘルソン州のロシア軍が占領する地域でウクライナ軍が新たな攻勢に乗り出しています。ロシア国防省は31日、「ウクライナの攻勢は失敗した。ウクライナ兵は1700人以上が殺害された」と主張しましたが、イギリス国防省は、「ウクライナ軍は、ロシア側の防御が薄い地点で部隊を後退させている」と分析しています。ウクライナ軍の攻勢に対し、ロシア軍は部隊の再編や統合を進め、南部の防衛強化に取り組んでいると指摘されていて、南部での攻防が一段と激しくなるとみられています。
ウクライナ オデーサ「歴史地区」世界遺産登録申請へ
ユネスコ=国連教育科学文化機関は、ウクライナ南部の港湾都市オデーサの「歴史地区」について、ウクライナ政府から、世界遺産への登録を申請する方針を伝えられたと発表し、ユネスコとしてもウクライナ国内の文化財の保護に力を入れるとしています。ユネスコによりますと、この方針は、フランスのパリにあるユネスコ本部で、アズレ事務局長に対し、ウクライナのトカチェンコ文化情報相から8月30日、伝えられたということです。オデーサの「歴史地区」は、侵攻したロシア軍との戦闘が行われている前線から数十キロしか離れていないということで、ことし7月には、この地区にある19世紀に建てられた美術館の屋根の一部などが破壊されたということです。ユネスコは、ウクライナ政府の方針を受けて、登録の申請を緊急的に進められるよう、技術的な支援を行う専門家をウクライナに派遣したということで、ロシアの軍事侵攻で危機的な状況にさらされているウクライナ国内の文化財の保護に力を入れるとしています。
●日本は非友好国...ロシア北方領土演習に中国参加?高まる地政学的リスク  9/1
ロシア軍が占領しているザポリージャ原発をめぐってロシアとウクライナのつばぜり合いが続いています。一方、大和大学の佐々木正明教授によると「ウクライナ軍が原発を急襲し、制圧した」との情報があるということで確認が待たれます。またロシアが9月1日から始める『ボストーク2022(極東軍事演習)』が北方領土でも展開されることについて、佐々木教授は「日本は非友好国となり、プーチン大統領と安倍元総理の関係性がなくなった今、ロシアはより強硬に、より攻撃的になるのでは」と警戒しています。加えて北海道の目と鼻の先の択捉島、国後島の軍事演習に中国軍が参加する可能性もあり、北方領土でにわかに「中露との不測の事態」という、軍事的リスクが高まりをみせています。
―――緊張が続くザポリージャ原発にIAEA(国際原子力機関)が調査に入ります。ウクライナ南部の町で、欧州最大級の大きな原発があります。
(佐々木正明教授)ウクライナは原発大国です。チョルノービリ原発事故があった後も、エネルギーミックスの中のパーセンテージが増え、最も大きな原発がこのザポリージャです。
―――IAEA調査の受け入れをロシアも認めているということですよね?
はい。ロシアにとっても重要な基幹施設です。なぜかというと占領地が南部2州増え、クリミア半島には大事な軍港があります。ここのエネルギー源として最も大事な場所で、ロシア軍もここは失いたくない。そしてもし原発事故があれば被害や放射能漏れが、ロシア側にもやってきますので、ここは絶対ロシア軍が失いたくない、大惨事を起こしたくない意図があるんだと思います。
―――現在はロシア軍が占領。いっぽうウクライナは軍の管理下に完全に戻したい。双方が、攻撃は相手側によるものと主張しています。佐々木教授によりますと、「この原発は国内の半分に当たる電力を生む大事なエネルギー源だということと、これを盾にして攻撃ができるんじゃないか」と?
なぜザポリージャ原発の砲撃が相次いだかと言いますと、背景に、南部のウクライナ軍の反転攻勢があるんです。6〜7月になってから強まりました。新しいロシアの報道を見たんですけども、ロシアの国防省が発表したんですが、ザポリージャ原発にウクライナ軍が急襲して制圧作戦を始めたという報道があります。ロシア国防省が発表していますので確認はもちろん取れないですけども、少しきな臭い情報もあります。
―――IAEAの査察はいつくらい?
原発の対岸にザポリージャ市がありまして、そこを出発したという報道もあり、早ければ現地時間の午前中には入っている可能性もありますが、「ウクライナ軍の急襲」という情報もありますので、実際は私もわからないです。
「中露との不測の事態」軍事的リスク
―――続いては、ロシア軍の大規模軍事演習「ボストーク2022」の話です。参加した兵士、4年前は30万人だったんですけども、今年は5万人という規模です。
5万人という数字も実は大きいんです。30万人は、少し多すぎる数字で、実際は10万人ぐらいだったのではないか。5万人に減った理由は、やはり西部でウクライナ軍と戦っていますので、それほど兵士のゆとりはない。
―――演習場所には、北方領土の択捉島と国後島も含まれているということです。非友好国となった日本に対し、北方領土の演習が攻撃的なものになるのではないかというのが先生の懸念ですね。
今年、中国軍の海軍が参加しているんですが、もしかしたら北方領土付近で中国軍が参加して、中露の軍事演習をやるかも知れない。そうなりますと日中国交正常化、今年50年になりますので、中国に対しても少し軋轢が生まれる。そこで中国軍がどうなるかっていうのも一つの注目です。
―――9月3日、ロシアでは対日戦勝記念日です。これまでは9月3日に大規模な軍事演習はしてこなかったんだそうです。なぜか、安倍元総理とプーチン大統領の関係性があったから。
「晋三」「ウラジーミル」という関係を作り上げて、ちょうど9月3日付近にですね、ウラジオストクで東方経済フォーラムが開かれて、安倍さんは4年連続で行ってプーチン大統領と経済的結びつきを強めようとしていた。そこで配慮というか毒消しがされて、9月3日をあまり、ロシア国内でもプロパガンダとして日本の軍国主義をアピールすることはなかったけれど、安倍さんが亡き今、さらに非友好国ということですので、おそらく挑発的な発言、軍事演習を3日にぶつける可能性があります。
―――三澤解説委員によりますと、日本はロシアの「足の長いミサイル」にどう対応するか?
(三澤肇解説委員)軍事演習の内容にもよると思うんですが、実際に択捉島なんかに、ミサイルを配置していますので、実際にそういったものを打ったときにどうなるのか、中国が台湾周辺で軍事演習したときに日本のEEZ内にミサイルが着水しました。北海道にはとても近く、不測の事態が起こらないのか、非常に心配です。今後、過熱すると日本もミサイルを北海道などに置いた場合、また軋轢が深まる可能性があります。
(佐々木正明教授)今年はまず、ウクライナへの日本側の支援度によって、おそらく今回の9月3日の演習をやると思いますが、来年以降は、おそらく5月9日の対独戦勝記念日のような、日本への政治的アピールをやるような日になるかもしれません。
●EU加盟国のハンガリー、ロシア産天然ガス輸入増で合意… 9/1
東欧ハンガリーのペーテル・シーヤールトー外務貿易相は8月31日、ロシア産天然ガスの輸入量を増やすことでロシア側と合意したと発表した。ハンガリーは欧州連合(EU)加盟国だが、ビクトル・オルバン首相はロシアのプーチン大統領と親密な関係にある。EUが結束してエネルギーの脱ロシア依存を進める難しさが露呈している。
シーヤールトー氏がSNSに投稿したビデオ声明などによると、ハンガリーは露国営ガス会社ガスプロムから、9〜10月に日量最大580万立方メートルの追加供給を受ける。
ハンガリーは天然ガスの大半をロシアに依存している。昨年にはウクライナを迂回(うかい)するパイプラインを通じて、年間計45億立方メートルを輸入する長期契約を結んだ。ガスプロムは8月にも、トルコを通るパイプライン「トルコストリーム」経由で日量260万立方メートルを追加供給していたという。
EUは対露経済制裁として年内をメドにロシアからの石油輸入を禁じる方針だが、天然ガスではまとまっていない。オルバン氏は「苦しむのは欧州の方だ」とEUの制裁方針に公然と異議を唱えている。
●「孤立していないアピール」軍事演習大幅縮小もプーチン氏の狙いは? 9/1
IAEA=国際原子力機関の調査団が、ウクライナ南部のザポリージャ原発に到着しました。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.ザポリージャ原発の周囲では砲撃が続いていますが、国際機関の視察が入ることで、原発の安全性は確保できるのでしょうか)
原子炉1基が緊急停止するなど、危険な状態が続いています。ウクライナ軍は、アメリカなどから提供された兵器などで、ロシア側の軍事拠点を効果的に攻撃しています。ロシアは、原発を砦にした形にしていて、ウクライナ側が攻撃しにくいだろうと。ここから軍事的な動きを強めていくと思います。だから、IAEAの調査団が一次的に立ち入ったとしても、ロシア側が原発を明け渡すということには残念ながらならないと思います。
一方、ロシア本国では、本格侵攻後初となる大規模軍事演習が始まりました。今回の軍事演習は『ボストーク』と呼ばれ、ロシア語で『東方』という意味です。4年に1度行われていますが、これまでよりも大幅に規模を縮小しています。兵士の数は5万人以上で、前回の約30万人から6分の1に縮小。また、訓練場所も当初の13カ所から7カ所にほぼ半減しています。一方、参加国はロシアをはじめ、中国、インド、ベラルーシなど14カ国で、前回よりも増えています。
(Q.規模を縮小した軍事演習をどうみたらいいでしょうか)
いま、ロシア軍はウクライナに6〜7割の兵力を投入しているとみられています。4年に一度、行われる極東地域の大規模軍事演習ですが、今回、兵士を少なくし、訓練場所も半減させる形となっていますので、ロシア側は無理してやっていると思います。つまり、それくらいウクライナ戦争に兵力・兵器を取られてしまっている状況があると思います。
(Q.無理してでも軍事演習を行うプーチン大統領の思惑はどこにあるのでしょうか)
2つあると思います。1つ目は、ウクライナ戦争を行っていても、国際社会から孤立していないということをアピールすることです。前回は、ロシアを含めて3カ国の参加だったのが、今回は14カ国に増えました。友好国の中国、インドのみならず、ニカラグアなど地理的に離れた国もかき集めた。決して、国際社会から孤立していないというアピールする狙いがあると思います。2つ目は、今回、中国の海軍が初めて参加しています。日本海で演習が行われるとみられています。国後、択捉島でロシア軍が軍事演習をやる構えを崩していませんので、日米をけん制する狙いもありそうです。
今回、大幅に規模を縮小しているというものの、5万人規模で、13カ国を招く形で、これだけの軍事演習をできるということをアピールしながら、今すぐ兵器・兵力不足でウクライナ戦争ができない状況ではないということを国際社会にアピールするという意図もあると思います。プーチン大統領は長期化の考えは崩していないところがありますので、引き続き、ウクライナでの犠牲者の拡大が懸念されます。

 

●プーチンの大誤算…実は「ウクライナの動き」を根本から見誤っていた! 9/2
ウクライナ出身、核問題の専門家
ハーバード大学識者インタビューの3回目は、核問題の専門家、マリアナ・ブジェリン(Mariana Budjeryn)博士の話を紹介する。彼女は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の思惑や、ウクライナの安全保障が裏切られたブダペスト覚書などについて語った。
ウクライナ出身のブジェリン氏はキーウの大学を卒業後、ブダペストにある中央ヨーロッパ大学で博士号を取得、米タフツ大学で訪問教授を務めた後、ハーバード大学ケネディスクールのベルファーセンター上席研究員に就任した。
ウクライナの侵略戦争をめぐっては、6月24日公開コラムで紹介したように、「西側で肘掛け椅子に座っている訳知り顔の評論家が、ウクライナ人に対して『ああすべきだ、こうすべきではない』などと指図すべきではない」と手厳しく批判している。
――ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が核兵器を使う可能性はある、と思うか。
〈私の見立てでは、可能性はあるが、そんなに高くはない。とはいえ、心配なのは、核の抑止力が彼の決定を妨げることはできない、という点だ。ウクライナは1994年に核を放棄した。(NATO=北大西洋条約機構の)拡大抑止にもカバーされていない。安全保障の真空地帯なのだ〉
〈(核の抑止力で)プーチン氏の決定を妨げられないとすれば、また、彼が合理的でないなら、核を使うかもしれない。たとえば、黒海で核を爆発させる「デモンストレーション・ショット」の議論がある。ただ、それで、ウクライナの人々の戦う意思を変えられるかと言えば、私は変えられない、と思う。とりわけ、ブチャの惨劇以降は〉
――ウクライナの人々は、戦うことをすでに決意している。
〈そう、決意している。橋は焼かれ、道路が破壊された以上、戦いはしばらく続く〉
「個人的な試み」で始まった戦争
――プーチン氏をどう評価しているか。
〈ロシアには戦争をどう進めるか、はっきりしたビジョンがあった。だが、いまや計画通りに進んでいないのは、あきらかだ。彼らは戦略を変え、ウクライナで達成しようとした政治目標さえ変えている。それは、オリジナルの計画ではない〉
〈私には、この戦争がプーチン氏の個人的な試みであるように思える。プーチン氏は非常に小さなグループで開戦を決定した。私はロシアの同僚と交流しているが、彼らは非常に驚いていた。彼らは、本格的な侵略が起きると予想していなかった。単なる演習か、限定的な作戦があるかどうか、と思っていたのだ。彼らの驚きが、非常に小さなサークルで決定されたことを物語っている〉
〈自分の個人的な評判を賭けた人物が戦争を始めたとき、歴史は「指導者としてのオーラや名声、信頼度のために、すべてを賭ける可能性が高い」ことを示している。だから、敵対する2国が意見を異にして始めた戦争よりも、今回はリスクが高い。彼が核を使う可能性はある〉
――プーチン氏は合理的だろうか。
〈それを判断するのは、非常に難しい。彼には特定の目的があり、目的を追求する手段を動員している、という点では合理的だ。とんでもない計算違いやウクライナ人に対する誤解があるが、私には「ウクライナという国をなくそうとする一貫した努力」であるように見える〉
〈彼は脅威を感じていた。だが、ウクライナ軍を見れば、まったく脅威ではなかった。ウクライナは核保有国ではなく、軍事国家でもない。彼にとっては、ウクライナの体制や統治型が脅威だったのだろう。私たちは法の統治を求めた。私たちが望んだ自由は、プーチンが自分の国で作ろうとしていたものと、非常に違っていたのだ〉
〈プーチン氏はウクライナとロシアは一体であり「ウクライナ人が自分の国家と統治権を持つべきではない。機能不全に陥っている」と考えている。彼は、自分が信じているものをデッチあげたか、宣伝に使おうと思ったか、のどちらかだ。「ウクライナ全体がナチに支配されている」などとは言えない。私は「狂っている」と思うが、それが事実なのだ〉
――プーチン氏はウクライナ人を誤解していた。
〈彼は、ウクライナの人々と国がどう動くか、まったく誤解していた、と思う。彼は街をロシア軍が行進していけば、人々が歓迎してくれる、と思っていた。それが、大規模な侵攻をするのに十分な軍隊を動員しなかった理由だ〉
〈軍隊の経験則は、攻撃と防御が3対1だ。彼は15万人を動員したが、ウクライナは10万人いた。彼は、最後の抵抗を予想していなかったのだ。それで、いま戦略を変えて、再調整している。彼は合理的に対応している〉
核戦争は起こりうるのか?
――核兵器を使うハードルは下がった、と思うか。
〈彼は繰り返し、核を使うと脅している。核を安売りして、ルーズトーク(散漫な話)にしてしまった。ロシアとNATOの核抑止の関係は何十年も存在していたのに、今回の戦争では起きていない。彼は「我々は偉大で強力な核保有国」とか「誰も歴史で見たことがないような結果を招く」などと言ったが、そんなことを言う必要はまったくなかった。NATOは、彼が核をちらつかさなくても、同じ対応をしただろう〉
〈冷戦を通じて、2つの敵対国が核のエスカレーションを恐れて、直接対決を恐れきた歴史がある。1956年のハンガリーやベルリン危機でもそうだった。多くの代理戦争があったが、軍隊は直接対峙しなかった。YouTubeをシャットダウンしたり、パイロットを殺害したが、そこまでだ。配慮があったのだ〉
〈それは、いまも適用されている。誰も核戦争を望んでいないからだ。だが、通常戦争も核戦争になる可能性はある。ロシアがそんな軍事力を保有しているのは、非常に不安だ。彼らは通常戦力を埋め合わせるために、核カードを使ってきた〉
〈冷戦の終了後、戦術目的の戦域核を使うしきい値は低くなったが、米国は韓国やその他の地域から、それらを撤去した。だが、ロシアはまだ2000個もの戦術核を保有している。それらは未配備で、たぶん5つの貯蔵庫にあるが、再配備するのに大した手間はかからない〉
〈冷戦後、米国とロシアは核兵器の役割を最小限に抑えようとした。それでも、ロシアは警戒態勢を解除しなかった。60年代から80年代まで、NATOとソ連には戦場での核使用計画があった。幸い、何も起きなかったが、計画はあった。冷戦後、戦場での使用は無意味になったように見えた〉
〈だが、いまや核問題が再び、テーブルに戻ってきた。だから、私は核を使うハードルが低くなったとは思わない。とはいえ、いくらか良き時代の遺産もある。戦場で戦術核を使えば、NATOもロシアも関係なく、エスカレートするということだ〉
ブダペスト合意の「真相」
――米国と英国、ロシアは1994年にブダペスト覚書に調印した。核放棄と引き換えに、ウクライナとベラルーシ、カザフスタン3カ国は国の安全が約束されたはずだった。ところが、結局、裏切られた。何があったのか。
〈ウクライナが受け継いだ遺産は、すぐ核抑止に使えるものではなかった。それはNATOと米国を抑止するための、別の国の核戦略の一部であり、ウクライナは完全な作戦統帥権を持っていなかった。完全な核燃料サイクルもなかった〉
〈ウクライナには、十分な科学者や産業能力があったが、2つの障害があった。1つはお金だ。ソ連が崩壊したとき、私はキーウの学生だったが、インフレ率は10000%に達していた。1度に5ドル以上は交換できなかった。カネがなく、新たに投資できなかった〉
〈もう1つは、国際的な反応だ。NPT(核不拡散条約)に加えて、米国は韓国や西ドイツの核保有を阻止しようとした。イランやイラク、北朝鮮についてもそうだ。ウクライナが核を保有すれば、米国や国際社会から好意的に思われない、と十分に予想できた〉
〈私たちは独立したばかりの新しい国で、民主国家を望んでいた。国際社会の好意を得て、良き国際市民でありたかった。北朝鮮や東欧のように、孤立したくなかった。私たちは、明確な言葉で言われた。「ウクライナでありたいなら、核放棄計画に参加すべきだ」と。それで、私たちは「分かりました、放棄する」と言った。もちろん、チェルノブイリ原発事故の影響もあった〉
〈一方、私たちには取引する権利もあった。1つは弾頭内の核分裂性物質を放棄する代償だ。3000個の戦術核弾頭と2000個のICBM(大陸間弾道ミサイル)と巡航ミサイルに含まれる高濃縮ウランとプルトニウムを手放す代わりに、ロシアは低濃縮ウランにダウンブレンドして、原発の燃料集合体としてウクライナに提供した〉
〈もう1つは、安全保障だ。ウクライナはブダペスト覚書で国の安全保障を求めたが、それは上手くいかなかった。ロシアは協力的でなかったし、米国にとって、安全保障とは北大西洋条約の第5条(集団防衛の規定)のようなものだ。日本や韓国、NATO同盟国に対する誓約だ〉
〈ポーランド、ハンガリー、チェコのNATO加盟でさえ、物議を醸した。米国が提供する安全保障に法的拘束力があれば、米国議会が承認する必要もある。政治的な戦いになる。米国はウクライナに圧力をかけた。結局、私たちにできた最善の選択は、文書に署名することだった。それは政治的保障にすぎず、国連の文書からコピペしただけのものだった〉
〈ただ、ブダペスト覚書はウクライナのNPT加盟とともに、核不拡散体制の一部になった。私は「覚書に対する違反は、NPT体制に打撃を与える」と批判している。完全な抑止ではないが、ウクライナが核を放棄する条件として、非核保有国と国際的核秩序の間で合意された取引の一部だったのだ〉
●ロシア石油大手の会長が「病院の窓から転落死」 企業重役の不審死相次ぐ 9/2
ロシアの石油大手ルクオイルのラヴィル・マガノフ会長(67)が1日、死亡した。モスクワ市内の病院の窓から転落したと報じられている。
ルクオイルはマガノフ会長の死を認めたものの、「重病の末」と説明している。ロシアのメディアは、マガノフ氏はモスクワの中央病院でけがの手当てを受けたが、同病院で亡くなったと報じた。ロシアではこのところ、大手企業の経営者などが相次いで謎の死を遂げている。
捜査当局は、現場で死因を調べていると説明。国営タス通信が取材した関係者によると、マガノフ氏は1日午前に6階の窓から転落したという。タス通信はその後、同氏が自殺したと報じた。
今年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始した際、ルクオイルの役員会は紛争の早期終結を求めると表明。「この悲劇」の犠牲者に同情すると述べた。
4月にはワギト・アレクペロフ社長(当時)が、侵攻への対応を理由にイギリスから制裁を科されたことを受け、辞任している。
ロシアではここ数カ月で、エネルギー企業の重役やオリガルヒ(富豪)が不審死している。
・4月には、天然ガス大手ノヴァテクの前社長セルゲイ・プロトセーニャ氏と妻子の遺体が、スペインの別荘で発見された
・同月、石油大手ガスプロム傘下の金融機関ガスプロムバンクのウラジスラフ・アヴァエフ前副社長と妻子の遺体が、モスクワのマンションで発見された
・5月には、ルクオイルの大物役員アレクサンデル・スボティン氏が心不全で亡くなった。報道では、シャーマン(宗教的職能者)による代替医療を探していたという
ルクオイルは、ロシア最大の民間企業。 世界最大級のエネルギー企業に成長したのはマガノフ氏の経営手腕によるものだと、同社は声明で述べている。
マガノフ氏は1993年に入社し、2年前に会長となった。3年前にはウラジーミル・プーチン大統領から生涯の功労をたたえる勲章を授与されている。
●「旧来型の戦闘」で冷笑されるロシア軍の瀬戸際 9/2
ロシアがウクライナへ侵攻を開始してから半年が経過した。ここに来て、ウクライナ戦争の戦局が大きく動き出した。
兵力・装備の不足などで継戦能力の減退が目立ってきたロシア軍に対し、主導権を握ったウクライナ軍は2022年8月29日、ついに地上部隊による本格的な反攻作戦に乗り出した。ロシアに3月から制圧されている南部ヘルソン州などの奪還を目指したものだ。
ウクライナのゼレンスキー政権がこの時期に反攻作戦に踏み切った背景には、今年冬までに大きな勝利を実現したうえで、優位な立場でロシアとの停戦交渉を模索するという短期決戦の戦略がある。
アメリカのバイデン政権もウクライナを強力に支えるため、2022年10月にも大規模な軍事援助体制を発足させる構えだ。これは、アメリカがウクライナと事実上の「連合国」体制を構築することを意味する。
一方、プーチン政権は2022年7月以降の苦戦を受け、戦争を2023年以降へと長期化させ、粘り勝ちを狙う戦略に転換した。しかし反攻作戦の開始を受け、一層受け身に立たされる形となった。
反攻作戦を始めたウクライナ軍
2022年8月末現在、ウクライナ軍は反攻作戦の内容について厳しい箝口令を敷いており、詳細は不明だ。それだけ重大な決意で臨んでいる作戦であることを物語る。ヘルソン州に加え、ザポロリージャ(ザポロジェ)州でも始まったとみられるが、反攻作戦がどこまでの領土奪還を狙ったものかは現時点でははっきりしない。
反攻作戦の時期をめぐっては、これまで2022年6月末説など、さまざまな臆測が流れていた。最近では「本格的な反攻を延期する」との情報が欧米メディアで流れ、延期説が広がっていた。このため、今回の反攻は一種のサプライズとなった。ウクライナ側の陽動作戦だったとみられる。
この間、ウクライナ軍は周到に反攻への準備を進めてきた。まず、ヘルソン州のドニエプル川西岸に配置されているロシア部隊を弱体化させるため、司令部、弾薬庫を集中的に砲撃した。
さらに、ヘルソンへの主要な物資供給の出発点である南方のクリミア半島からの補給路にも執拗に砲撃を加えた。中でも補給路の要所である、ドニエプル川に架かる4つの橋をアメリカが供与した高性能兵器である高機動ロケット砲ハイマースで叩いている。その後もロシア軍が橋を修理したり、浮き橋を作るたびに攻撃している。この結果、この補給路はほぼ断絶状態だ。
軍事筋によると、反攻作戦を前にウクライナ軍は巧妙な砲撃でヘルソンのロシア軍自体も追い込んでいた。
当初、1万2000人のロシア軍部隊がいたが、ウクライナ軍はヘルソンにある司令部と通信施設をハイマースで激しく砲撃した。このため司令部は部隊を残したまま、約200キロメートルも離れた東岸のメリトポリまであっさりと後退した。
ウクライナ軍はその後、メリトポリの司令部にも再三砲撃を加えている。このため司令部と部隊が通信上も完全に切り離された状態になった。部隊には応援に来た3000人規模の部隊も合流したが、司令部と切り離されたことで士気喪失状態という。
補給が苦しくなったにもかかわらずロシア軍がヘルソンへ部隊を増強したことについて、ロシアの有力な軍事評論家であるユーリー・フョードロフ氏は2022年8月半ばに、ウクライナの「戦略的罠」にはまり降伏するか敗走するしか道がなくなる可能性を指摘していたが、文字通り、そうなってしまったようだ。ハイマースは、約70キロメートルの射程と精度の高さ、使い勝手のよさで優れており、ウクライナ軍にとって「ゲーム・チェンジャー」となっている。
旧来型の戦闘に終始するロシア軍
さらにウクライナ軍は2022年8月初旬から、クリミア半島の軍事施設や交通要衝を標的に地元のウクライナ人住民と協力して、パルチザン攻撃も継続している。この結果、クリミアから鉄道で軍事物資を送り出すことが一層難しくなった。同時にヘルソンなどでは住民の事前避難も進めていた。ウクライナ人住民に多数の死者を出した東南部マリウポリへのロシア軍の凄惨な攻撃を念頭に、反攻作戦での民間人の死者をなるべく少なくする配慮なのだろう。
ロシア軍は多数の将兵、民間人の死者を顧みずに砲撃戦を繰り返す、旧ソ連軍型戦争を採用している。軍事筋は、ウクライナ軍がこれとは一線を画した「頭を使った21世紀型の新たな戦争」をしようとしていると指摘する。ウクライナ軍は、兵力消耗型のロシア軍の将兵について「大砲の餌」と憐れんでいる。
反攻開始に当たって2022年8月30日にテレビ演説したゼレンスキー大統領も、ロシア軍兵士に対し「生きたければ自宅に戻るか、捕虜になるしかない」と部隊離脱を呼び掛けた。これはただでさえ士気低下が著しいと言われるロシア将兵の動揺を誘う心理戦とみられる。
反攻作戦開始を受け、戦況の行方とともに焦点になるのは、プーチン政権が2022年9月11日の実施に向け最終的準備をしている占領地での住民投票だ。東部ドンバス地方のルガンスク、ドネツクの両「人民共和国」に、南部ヘルソン州とザポリージャ州を加えた4地域で行うべく準備が進んでいる。プーチン政権としては、形だけの「住民投票」を経て違法にクリミア併合を宣言した2014年の「クリミア・シナリオ」を再現する狙いとみられる。
しかし、ウクライナ軍がヘルソンなどで奪還地域を広げてくれば、住民投票は事実上延期、ないし中止される可能性が高い。そうなればロシアへの「編入宣言」どころではなくなるだろう。
ゼレンスキー政権はなぜ短期決戦の戦略を選んだのか。その大きな要因としては、戦争が長期化すればするほど、ロシアに有利に働くとの判断がある。泥沼化すれば、ロシア産天然ガスの供給削減でエネルギー危機に見舞われているドイツを含め、欧州からウクライナに対し、不利な条件での停戦を求める圧力が出かねないとの危機感があるからだ。
さらに、人口1億4000万人のロシアと4500万人のウクライナの国力の差もある。現時点で軍事力が「ようやく肩を並べた」と主張するウクライナ軍だが、やはり国力の差を意識しているだろう。
では、反攻作戦が目指す領土奪還のゴールはどこなのか。現時点でゼレンスキー政権は発表していない。これもロシア軍の動揺を引き出す心理戦の一環だろう。常識的には、ヘルソン州や、一部が制圧されているザポリージャ州の奪還がゴールと考えるのが妥当だ。
これを実現して、侵攻開始時の地点までロシア軍を押し返すことで、とりあえず「戦勝」と宣言する構えとみられる。それだけでも、プーチン氏にとっては政権発足以来、最大の政治的敗北となる。その勝利をバックにプーチン政権に対し、力の立場で停戦交渉を呼び掛ける計画だろう。東部2州とクリミアの奪還はより長期的スパンで実現する2段階戦略とみられる。
クリミア奪還をも宣言したウクライナ
しかし、ゼレンスキー大統領は2022年8月24日、南部のみならず、大半を実効支配されている東部ドンバス地域とともにクリミアも奪還する宣言を出したばかりだ。多くの国民もこれを支持している。
今後の戦況次第だろうが、クリミアにも大掛かりな攻撃を仕掛ける可能性はあると思う。ゼレンスキー氏は2022年8月16日のテレビ演説で「クリミアなど占領された地域のすべての人々はロシア軍の施設に近づかないでほしい」と呼びかけた。
当面の焦点は、ロシア本土南部とクリミアを繋ぐ唯一の陸路、クリミア大橋だ。現時点で、パルチザン攻撃でパニックとなり、クリミアから逃れようとするロシア軍脱走兵を一人でも多く、橋を渡ってロシア側に逃がすほうが得策とウクライナ側は判断しているようだが、橋の破壊を狙った突然の攻撃も否定できない。
ここまでゼレンスキー政権が強気になった背景には、ウクライナに対し、アメリカが、先述した事実上の「連合国」体制構築に踏み出したからだ。この体制の骨格になるのが2022年5月にアメリカ議会が成立させた「武器貸与法」だ。「レンドリース法」とも呼ばれる武器貸与法は、2023年9月末までの間、手続きを簡略化し、迅速にウクライナに大量の軍事物資を貸与することを可能にする法律だ。
「武器貸与法」は第2次世界大戦中にも制定された。アメリカはナチス・ドイツと戦うイギリスなどに対して武器や装備を提供し、これが連合国勝利の要因の1つになった。同法成立以来、ウクライナ側は早期の実行をアメリカに求めていたが、ようやく2022年10月にも正式に動き出す見通しだ。これにより、アメリカとウクライナが事実上の「連合国」的関係になる。同法は大戦中、ドイツと戦った旧ソ連にも適用された。それが今回はロシアとの戦争で適用されることなる。歴史の皮肉だ。
ウクライナ側によると、2022年10月にはアメリカ国防総省内に武器供与と輸送に関する本部が設置される予定という。これまでは航空機で武器を運んでいたが、大幅に輸送量が増えるため、船舶輸送が主力になるという。
これに伴ってアメリカ製の高性能兵器の供与が大幅に増える見通しだ。F16 などアメリカ製戦闘機の供与が初めて始まる可能性もあるという。すでにアメリカではウクライナ兵士約1万人がアメリカ製兵器の操作の訓練を受けており、ウクライナ軍の装備面でのNATO(北大西洋条約機構)化が事実上進むことになる。
こうしたアメリカのウクライナ防衛への本格的関与の姿勢は、ウクライナが一定の戦勝を果たすことで、プーチン政権に継戦を断念させるとの米欧の戦略に基づくものだ。同軍事筋によると、仮にロシアとの間で何らかの停戦協定が実現した後、ロシアが協定を破り攻撃してきても守る態勢構築を意図しているという。
援助疲れを感じないアメリカの支援
ウクライナ独立記念日の2022年8月24日、アメリカ政府は30億ドル(約4100億円)規模の追加軍事支援を発表した。侵攻後、アメリカが1回の発表で明らかにした軍事支援としては最大規模だ。この中にはウクライナが強く望んでいた防空システムが初めて盛り込まれた。
この援助発表の際、アメリカ国防総省のカール国防次官(政策担当)は「プーチンの戦略は、ウクライナ国民やウクライナの同盟国が諦めるのを粘り強く待つことだ。今回の援助はこのプーチンの理論に直接挑むものだ」と強調した。当面アメリカ政府に「支援疲れ」がありそうもないことを示す発言だ。
同じことが、実は軍事支援に消極的と言われてきたドイツにも当てはまる。支援計画を発表しながら、なかなか実行しないショルツ首相に対してウクライナに同情的な国民ばかりか、連立政権内からも批判が出ていた。しかし2022年7月頃から本格的支援が動き出した。ドイツを当初批判していたウクライナ政府関係者からも批判が出なくなった。
フランスは相変わらず消極的だが、英国は軍事支援については米欧全体をリードするほどの積極姿勢だ。チェコなどの東欧諸国も支援に積極的だ。
これに対し、ロシア軍は反攻作戦を軍事的に撃退するとの強気の姿勢だ。しかし、苦しい実情を端的に示す事態が2022年8月24日に起きた。この日は侵攻開始からちょうど半年で、同時にウクライナの旧ソ連からの独立記念日という二重の意味で節目となった。
ゼレンスキー政権は政治的打撃を狙ってロシア軍が首都キーウの政府庁舎などに大規模なミサイル攻撃を行うのでは、と厳戒態勢を敷いた。
しかしこの日、ロシア軍が弾道ミサイル「イスカンデル」で攻撃したのは東部ドニエプロペトロフスク州の駅だった。25人もの死者が出たが、拍子抜けの印象は否めなかった。現地の事情に詳しい軍事筋は筆者に対し「精密誘導ミサイルの不足が理由だろう。東部への攻撃に回すためキーウにミサイルを撃たなかった」と指摘した。
ウクライナ軍情報部の発表によると、ロシア軍の主力ミサイルであるカリブル型巡航ミサイルの現在の保有数は「非常に少なく」、短距離巡航ミサイル「イスカンデルM」の場合、残っているのは保有数の当初の20%しかないという。しかも西側制裁のため、ロシアでのミサイル生産能力は大幅に減っている。西側からの輸入精密部品が多く使われているからだ。
火砲の弾薬についても、専門家からはすでに2022年内には極めて不足すると指摘されている。同軍事筋は「新たな兵員集めもうまくいっていない。ロシアの戦力を分析すると、年内で継戦能力が失われるだろう」と指摘する。
しかしプーチン政権としては、ウクライナに主導権を奪われたまま、侵攻が失敗する事態を受け入れるわけにはいかない。強気なプーチン氏は、受け身になりながらも何とか粘って情勢逆転のチャンスを狙うはずだ。欧州へのガス供給を絞って、米欧間の離反も狙うとみられる。
長期戦への世論形成を急ぐロシア
そのためには国民に長期戦が必要な理由を説明し、高い戦争支持を引き続き保つ必要がある。これを目的にクレムリンが最近、世論形成のために行っているのが、戦争の相手はウクライナだけではなく、NATO全体だとのプロパガンダだ。一日中、国営テレビで放送されるトークショーでこれを宣伝している。NATO相手の戦争だから長引くのは仕方ないという理屈だ。国民に覚悟を求める狙いだ。
だが、ショイグ国防相は2022年8月24日、ロシアの進軍が遅れているのは民間人の犠牲を避けるための意図的な選択だと説明した。この苦しい弁解は、西側諸国ばかりか国内でも失笑を買った。プーチン政権を支えてきた保守民族派からもクレムリン批判の声が出始めた。
このためショイグ発言の翌日、プーチン氏はあわてて保守派向けにダメージ・コントロールの手を打った。ロシア軍の総定員を2023年1月から約14万人増やして、約203万9700人とする大統領令に署名したのだ。クレムリンが具体的な増強策を打っていることを示す狙いだ。
しかし、この定員増が実際に兵力強化につながるとの見方は少数派だ。ロシアの軍事専門家であるルスラン・レビエフ氏は「徴兵逃れや脱走で、今ロシア軍は前例のない規模の定員割れが起きている。大統領の増員令が状況を変えるとは思えない」と冷ややかにみている。
どこを見ても打開の糸口が見当たらないプーチン政権。その中で起きた南部ザポリージャ原子力発電所での砲撃事件は、クレムリンにとって米欧から何らかの譲歩を引き出すための「瀬戸際作戦」とみられる。
しかし、原発事故という恐怖をちらつかせるロシアに対し、米欧は冷ややかだ。放射線が仮にポーランド領内で感知されればNATOへの攻撃とみなすとの強硬姿勢で対応している。侵攻作戦のみならず、原発危機を演出した脅迫戦術でもロシアは行き詰まっている。 
●ウクライナ戦争批判のロシア石油企業幹部 病院の窓から転落死、他殺疑う 9/1
ロシアの石油第2位「ルクオイル」は1日の声明で、会長のラビル・マガノフ氏(67)が死亡したことを明らかにした。
ロシアのインタファクス通信が、情報筋の話として伝えたところでは、マガノフ氏は1日朝、中央臨床病院の窓から転落し、それによる怪我で死亡したという。
同社によると、ルクオイル社は、会長不在となった場合、取締役会の副会長が会長の役割を果たすとされている。今年の取締役の構成は発表されていないものの、モスクワ州立法科大学の学長が副会長に再指名を受けているという。
ルクオイルはプーチン大統領のウクライナ侵攻の決定に反発を示した企業で、侵攻開始直後、紛争は「外交的手段による、交渉を通じて」解決するべきとの声明を発表していた。
中央臨床病院は、政財界のエリートが利用することで知られ、マガノフ氏が死亡した日、プーチン大統領は同病院で、ソ連最後の指導者で30日に死亡したゴルバチョフ元大統領の弔問に訪れたという。
ロイター通信によると、ロシアのタス通信は捜査当局者の情報をもとに、自殺と伝えている。マガノフ氏は心臓発作を患い、抗うつ剤を服用していたという。
一方、ウクライナ侵攻をめぐってクレムリンに反発していた会長の死に、ネットでは、自殺を疑う声が投稿されている。
ノース・ウェスト・イングランドの首席検察官、ナジル・アフザル氏はツイッターに「プーチンの批判的な人々の周りでは、欠陥の窓がよく見られる」と暗殺の可能性を指摘した。
4月、ロシアの天然ガス企業ノバテクの元幹部のセルゲイ・プロトセーニャ氏とその家族がスペインで死亡しているのが発見された。当時、現地の捜査当局は家族を殺害して、自殺をはかったとみて捜査を進めていると伝えられたが、ノバテク社はこれを疑う姿勢を示していた。同月、ロシア三大銀行のガスプロムバンクの元幹部、ウラジスラフ・アバエフ氏(51)も、妻と13歳の娘とともにモスクワのアパートで死亡しているのが見つかった。現地メディアは、アバエフ氏が二人を殺害した後、自殺した可能性があると伝えていた。
先月14日、プーチン氏に批判的で知られたラトビア系米国人の実業家、ダン・ラパポート氏(52)が、ワシントンD.Cの高級アパートから落下して死亡した。警察は他殺の可能性を否定しているものの、「プーチン最大の敵」ことビル・ブラウワー氏は、ポリティコの取材に「死の状況は、極めて疑わしい」と主張している。
●ロシア軍がミサイル発射「大失敗」、ロシア国内の住宅地に着弾 9/2
ロシア軍によるミサイル発射が「大失敗」した瞬間を捉えたとみられる動画が、インターネット上に出回っている。
ウクライナ軍の当局者によれば、8月31日の夜、ロシア軍は北東部のハルキウ(ハリコフ)で地対空ミサイル「S300」6発を発射したものの、このうち1発が軌道を外れ、国境に近いロシア・ベルゴロドの住宅街に着弾した。ベルゴロドの住民数人が、その瞬間をカメラで撮影していたという。
オープンソース・インテリジェンスのアカウントOSINTtechnicalが、失敗したミサイル発射を捉えたとされる動画の一部を共有。「誘導システムに何か深刻なトラブルが生じたようだ」と示唆した。
19秒間のある動画は、問題のミサイルが打ち上げられた後に進行方向を変えて軌道を逸れ、最終的には地上に落下して爆発を起こす様子を捉えている。
ロケットが着弾した正確な場所はまだ分かっていないが、メッセージアプリ「テレグラム」の複数のチャンネルによれば、ベルゴロド南西部のコムソモルスキー村とみられる。
ベルゴロド州のビャチェスラフ・グラトゴフ知事は自らのテレグラムのチャンネルで、市内で複数の爆発が報告されており、同州の防空システムが作動したと説明。投稿時点までに入った情報によれば、被害や犠牲者は出ていないと述べた。
ロシア軍の設備が誤作動したとみられるのは、今回が初めてではない。6月には、ロシアの防空システムが誤作動した瞬間を撮影した動画が、ソーシャルメディア上に出回った。
ミサイルが発射地点に引き返してくるように見える瞬間を捉えた動画もあった。ウクライナ東部のルハンスク(ルガンスク)州アルチェフスクから発射された地対空ミサイルが、発射後に軌道を変えて引き返し、発射地点の近くに着弾したのだ。
テレグラムのチャンネル「Kyiv Operative」が最初に投稿したこの動画には、ミサイルが発射された直後に向きを変えて逆戻りし、着弾して大規模な爆発が起きる様子が映っている。爆発後には、サイレンやアラームの音が鳴り始めている。
この爆発で破壊された、あるいは損傷した設備があるのかどうかは不明だ。被害者の中に、ロシアが支援する分離独立主義者が含まれていたかどうかも分かっておらず、この奇妙な誤作動の原因も分からなかった。
また6月には、ロシア軍が同市でミサイル発射を試みたものの、ウクライナの報道機関24TVの当時の報道によれば、1発目が発射後すぐに空中で爆発してばらばらになり、住宅街からさほど離れていないところで火災を引き起こしたということだ。
●“侵攻継続と和平交渉で意見が二分” ロシア 世論調査  9/2
ウクライナ侵攻をめぐってロシアの独立系の世論調査機関は、ロシア国内では侵攻の継続と和平交渉への移行で意見が二分しているとする調査結果を発表しました。
ロシア軍によるウクライナ侵攻後、ロシアの世論調査機関「レバダセンター」は毎月下旬に全国の1600人余りを対象に対面形式で調査を行っています。
1日、8月の調査結果を発表し、この中で「軍事行動を続けるべきか和平交渉を開始すべきか」という質問に対して、
「軍事行動の継続」と答えたのが48%、
「和平交渉の開始」が44%で、意見がほぼ二分しました。
このうち40歳未満では過半数が「和平交渉」を選んでいて、若い世代ほど和平交渉への移行を望んでいることがうかがえます。特に18歳から24歳までの若者の30%は「ロシア軍の行動を支持しない」と答え、情報統制が強まる中でも、およそ3人に1人が侵攻への反対姿勢を示した形です。
「レバダセンター」はいわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、政権の圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています。
●ウクライナ 輸出再開後 穀物など100万トン超も今後収穫厳しく  9/2
ウクライナ南部の港から8月に農産物の輸出が再開して以降、これまでに輸出された穀物などが100万トンを超えたと、国連が発表しました。ただ、ウクライナの農業生産者の中からは、軍事侵攻の影響で種や肥料が買えず、来年の収穫の減少は避けられないという厳しい見方が出ています。
黒海に面するウクライナ南部の港では、ロシア軍による封鎖で、農産物の輸出が滞っていましたが、8月、ウクライナとロシアとの合意に基づいて輸出が再開し、国連は、これまでに輸出された穀物などが100万トンを超えたと8月27日に発表しました。
輸出の再開が進む一方、ウクライナでは、今後の収穫や作付けに厳しい見通しを示す生産者もいます。
スコルニヤコウ氏が経営する大手穀物会社は、ウクライナ東部に12万7000ヘクタールの農地を所有していましたが、そのうち、およそ7割は軍事侵攻後にロシア側に掌握されたり、畑に地雷を埋められたりして、小麦などの収穫ができずにいるということです。
さらに、多くの農地で「穀物と農業用機械のすべてを奪われた」と述べ、失った穀物や農業用機械などの被害総額は、およそ1億ドル、日本円にして、およそ140億円に上ると訴えました。
軍事侵攻の影響で資金繰りが厳しくなる中、スコルニヤコウ氏は「来年の作物の種をまく資金がない。肥料も買えない。来年の収穫量は劇的に減少するだろう」と述べ、今後の作付けへの影響は避けられないという厳しい見方を示しました。
●「軍の大半はプーチンを嫌っている」パスポートをトイレに流し…ロシア兵暴露 9/2
ウクライナ侵攻に加わり、その後、フランスに逃れたロシア兵がJNNの単独インタビューに応じました。政府の言っていたことは「完全なウソだ」。決意の告発です。
侵攻開始から半年が過ぎたウクライナ。
ロシア軍による占領が続く南部ザポリージャ原発にはIAEA=国際原子力機関のチームが1日、ようやく調査に入りましたが、同じ日に再び周辺で砲撃が伝えられています。
一方、終わらない侵攻に加わっていた男性は今、別の場所にいました。
ロシア軍兵士 フィラティエフさん「目にしたのは、街が破壊され、平和な生活が壊されている様子です」
JNNの単独インタビューに応じたパベル・フィラティエフさん(34)。ロシアの親衛空挺連隊の隊員でしたが、砲弾で目を負傷後、今はフランス・パリにいます。
空港に到着した際には、自国のパスポートを破り捨て、ロシアへの強い不満を示すフィラティエフさん。
2月のウクライナ侵攻の際は南部ヘルソンに派遣されましたが、ほぼ命令は受けていなかったと証言しました。
ロシア軍兵士 フィラティエフさん「我々は誰からもどこを攻撃する、目的は何か、命令を受けていませんでした」
また、過酷な戦地の状況と兵士たちの行動については…。
ロシア軍兵士 フィラティエフさん「人がいない店があり、すべての軍人が店を通りがかる時にたばこ、水、食料を盗んでいきました。生死にかかわる問題だったのです」
そして、時間の経過とともに兵力は不足し軍の士気も低下。多くの兵士が次の戦地に行くことを拒否していたといいます。
ロシア軍兵士 フィラティエフさん「軍の大半はプーチンを嫌っているし、9割は軍に勤めたこともない国防相を笑っています」
ロシアで軍への批判は「偽情報」の流布として犯罪扱いとされますが、戦地を逃れたフィラティエフさんはSNS上に141ページに及ぶ手記を公表し、ロシア軍の内情を暴露。
今はフランスに政治亡命を求めています。彼が思うことは…。
ロシア軍兵士 フィラティエフさん「この戦争は誰にも必要ではないし、単に民間人が死んでいるだけだということを皆わかっています。(ロシア政府の言うことは)完全なウソであることは明らかです」
軍の実態を明らかにして「戦争を一刻も早く終わらせたい」。フィラティエフさんはそう訴えています。
●ロシアや占領地域の学校、政府承認の歴史教育が重要=プーチン氏 9/2
ロシアの学校で新学期が始まった1日、プーチン大統領は西部カリーニングラード州の学校の教室で全土から選抜され集まった子どもたちと面会し、政府が認めた歴史を教えることの重要性について語った。
プーチン氏は1時間の質疑応答の中で、ウクライナ東部の子どもたちがウクライナはかつてロシアとともにソ連という同じ国の一部だったことを理解していないことを知り、自分はショックだったと述べた。これを正すことが極めて重要な作業になるとし、ロシアや、ウクライナのロシア占領地域で学校がロシア政府の承認した教科を教えることが重要だと強調した。
ウクライナ侵攻後に愛国教育化を大きく推進しているロシア政府は、この新学期からすべての小学校で週初には授業の前に国旗などを掲揚するセレモニーを行い、国歌を演奏することを義務化。プーチン氏はソ連時代の共産党青年団「コムソモール」や少年団「ピオネール」にならった政府主宰の新たな青少年組織の理事会トップにも就任した。
●ロシア大統領、西部の飛び地を訪問 EUとの緊張高まる中 9/2
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は1日、バルト海(Baltic Sea)沿岸にある飛び地カリーニングラード(Kaliningrad)を訪問した。新学期を迎えた生徒と面会し、ロシアによるウクライナ侵攻や経済、宇宙探査などの質問に応じた。
欧州連合(EU)に加盟するポーランド、リトアニア両国に挟まれたカリーニングラードは、軍事拠点化されている。ウクライナ侵攻開始後、ロシアとEUの間で緊張が高まり、同地には8月に極超音速弾道ミサイル「キンジャル(Kinzhal)」を搭載した戦闘機3機が配備された。
プーチン大統領はテレビ放送された映像の中で「わが国の兵士の任務は、この戦争を止め、国民を守り、当然ながらロシアを守ることだ」と語った。さらに「ウクライナはわが国を脅かす反ロシアの飛び地を構築し始めた」とも述べた。
リトアニアは6月、EUの制裁対象となっている物品を積みカリーニングラードへ向かうロシアの列車の国内通過を禁止し、ロシアはこれに反発。EUは7月、武器を除けば、制裁対象であってもロシアの貨物を通過させる義務がリトアニアにはあるとの指針を発表した。
●対ロシア制裁に加わらない「非欧米世界」の存在感…進む世界の分断 9/2
ロシアがウクライナ侵攻してから半年が過ぎた。プーチン大統領はウクライナでロシア系住民が迫害されていることを侵攻の正統性として強調しているが、これを機にロシアへの圧力は一斉に強化された。米国を中心とする欧米諸国はロシアへの経済制裁(原油や天然ガスなどの輸入停止、ロシア高官の入国禁止など)を強化し、マクドナルドやスターバックスなど世界的企業はロシアから完全撤退した。政府による制裁より、企業の完全撤退や事業縮小という自主制裁の方が効果的との意見も多いが、これらによってロシア経済は大きな損失を被ることになった。
また、欧米諸国は軍事面でもウクライナへの支援を強化し、今日までロシア軍の攻勢を食い止めることに成功している。侵攻当初、プーチン大統領は数日程度で首都キーウを掌握できると計算していたが、プーチン大統領が描く侵攻計画は既にフィクションと化し、ロシア軍は一進一退の攻防を余儀なくされている。
戦況が長期化することでロシア兵の疲労や不満も強まり、攻撃も無計画、無差別的なものになり、軍事戦略に基づく攻撃から逸脱したテロの様相も呈している。また、ロシアが使用する高性能武器も一部の材料で調達先が欧米諸国となっており、経済制裁に直面することで軍事開発面でも大きな制限が出ているという。欧米とロシアという構図のみでみれば、ロシアは経済的にも軍事的にも大きなダメージを受ける形になったことは間違いない。
しかし、それを支える空間が拡大している。実は、ウクライナに侵攻したロシアに対して経済制裁を実施しているのは欧米や日本など40か国あまりに留まり、中国やインド、ASEANや中東、アフリカの殆どの国は独自のスタンスを維持している。
ロシアへの経済制裁によってロシア産エネルギーが値下がりすることで、中国はロシアとのエネルギー貿易を強化する傾向にある。また、ASEANや中東、アフリカには一帯一路によって中国から多額の経済支援を受ける国も多く、道義的には欧米に追随したくても、そうすれば経済支援を停止、減額されることを警戒している国も少なくない。今年秋にG20を開催するインドネシアは、同会議にプーチンを招待することを発表し、インドは安価なロシア産エネルギーの輸入は避けられないとし、ロシアと距離を置くよう求める欧米の要請を一蹴した。
こういった「非欧米世界」の拡大、自国の国益を第一に、国益が合致すればロシアとも実利的接近を試みる各国の姿はプーチンを強く後押ししている。これがこの半年でプーチンが発見した最大の収穫と言っていいだろう。
米韓による軍事演習が8月22日から始まったなか、韓国軍は23日、ロシアの軍用機2機が韓国の防空識別圏に進入したと明らかにした。ロシア側の意図は明らかになっていないが、米韓による軍事演習を威嚇する狙いがあった可能性が高い。ロシアによるウクライナ侵攻から半年が経過するなか、日米などの間ではロシアが極東地域で軍事的活動を活発化させる懸念を強めているが、韓国で親米的な政権が誕生したこともあり、今後はロシアと韓国との間でも安全保障上の緊張が高まる可能性がある。
ロシアによるウクライナ侵攻から半年経って明らかになったことは、世界の分断が一層進み、しかもそれが長期化する様相を呈していることだ。プーチン大統領は強硬な態度を崩しておらず、「非欧米世界」陣営は先鋭化することで、今後一層欧米に対して強気の態度で対抗してくることだろう。グローバル化したサプライチェーン網のなか、経済のデカップリング(切り離し)は非現実的だ。しかし、日本としてはウクライナ侵攻で一層進んだ分断社会のなかでどう経済を支えていくかを考えていく必要がある。
●G7財務相、ロシア産石油価格の上限設定で合意 9/2
主要7カ国(G7)の財務相は2日開催したオンライン会合で、ロシア産石油および石油製品の価格に上限を設定する措置を導入する方針で合意した。原油価格の高騰を回避しつつ、ウクライナ侵攻を続けるロシアの戦費調達を阻む。
しかし、バレル当たりの価格上限については「技術的インプットの範囲に基づき」今後詰めるとし、重要な詳細は盛り込まれていない。
G7財務相は声明で「ロシア産原油および石油製品の海上輸送を可能にするサービスの包括的な禁止を決定し、実施するという共同の政治的意図を確認する」と表明した。
価格上限を超えるロシア産石油や石油製品の海上輸送への保険・金融サービスなどの提供は禁止される。
声明はまた、「欧州連合(EU)の第6次対ロシア制裁に含まれる関連措置のスケジュールに合わせて実施することを目指す」としている。EUは12月からロシア産石油の禁輸を施行する。
米国財務省の高官によると、ロシア産原油については特定のドルの価格上限を設け、石油製品については別の2種類の上限を設ける見通し。価格は必要に応じて見直すという。
議長国ドイツのリントナー財務相は会見で、ロシアの石油価格に上限を設けることで、ロシアの歳入が減少するとともに、インフレが抑制されるとし、「われわれはロシアの収入を制限したい。それと同時にわれわれの経済への打撃を軽減したい」と語った。
さらに、G7は上限設定でコンセンサス形成を目指しており、EUの全加盟国が参加することを望んでいるとした。
イエレン米財務長官も声明で「世界のエネルギー価格に下押し圧力をかける、ウクライナでの残忍な戦争の財源となるプーチン大統領の収入を断つという2つの目標」達成に役立つという認識を示した。
ロシア大統領府のペスコフ報道官はG7の声明を受け、世界の石油市場を不安定化させる措置という見方を示し、上限価格を設定する国国への石油販売を停止すると述べた。
G7の高官は、ロシア産石油価格の上限設定を巡り、他国からも参加に向け「前向きなシグナルを受け取っているが、確固としたコミットメントには至っていない」と述べた。同時に「われわれはロシアや中国などに対する結束のシグナルを送りたかった」と述べた。
ウクライナのゼレンスキー大統領のウステンコ上級経済顧問は、ロシアの収入を減らすためにまさに必要な措置」とし、G7財務相会合での決定を歓迎。価格上限が40━60ドルのレンジになるという見通しを示した。
ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ロシアの天然ガス輸出にも上限を設けるべきと訴えた。

 

●長期化するウクライナ侵攻がもたらしたロシア経済の本当の姿〜 9/3
ウクライナ侵攻の長期化は、西側諸国経済を中心に低成長とインフレ率の上昇という暗い見通しにつながっている。しかし、ロシアは原油や非エネルギー製品の輸出が健闘したうえ、中銀の機敏な危機対策もあり、経済は予想以上に持ちこたえている。公開統計情報が取捨選択されているとの指摘もあるが、少なくとも自動車生産については大幅減産を示す連邦統計局の発表が出ている。ロシアが制圧した東南部では、秋口にロシア編入を巡る住民投票実施に向け準備が進められている。しかし、ウクライナの反発は必至であり、停戦交渉の道筋は見えない。今後も、ウクライナ発の世界的な食糧危機の懸念が続くのか注目されている。
ロシア経済は想定以上に持ちこたえている?
ウクライナ侵攻長期化の懸念が現実のものとなり、世界経済に暗い影を落としている。ウクライナ侵攻のショックは、ロシアからのエネルギー輸入に大きく依存するEUに直接・間接的な大打撃を与え、経済の低成長とインフレ率の上昇という軌道を強いている。エネルギーおよび食糧価格の急騰は世界的なインフレ圧力を強め、家計の購買力を圧迫し、これまで想定されていたよりも速いペースでの金融政策引き締めに繋がっている。
IMFの2022年7月の見通しでは、西側主要国のほぼすべてが下方修正されたものの、ロシア経済は原油や非エネルギー製品の輸出が予想以上に持ちこたえ、2022年は6.0%縮小と上方修正された(前回4月見通しでは8.5%縮小)。金融セクターへの制裁の影響を緩和する措置を導入し、労働市場の弱体化も懸念されたほどではなく、国内需要は幾ばくかの強靭性を見せている。
さらにロシア中銀も、景気低迷は長期化するものの、これまでの予想ほど深刻にならないとして7月に景気見通しを上方修正している。企業活動も、6月予想時ほど停滞しておらず、ロシア企業が新たなサプライヤーや市場を開拓し、景況感も徐々に回復している。GDPの縮小幅が小さくなると予想されたのは、主に輸出の減少が想定よりも小幅だったためである。その結果、ロシア中銀は供給サイドの要因によってGDPは2022年に4〜6%縮小(4月時には8〜10%縮小を予想)するものの、2024年には拡大に転じると予想している。
一方、IMFは、景気後退の規模は相当なものであり、ロシアの経済成長率は2023年に前年比マイナス3.5%とリバウンドも期待はできないとみている。さらに米国イエール大学の調査では、ロシアは想定以上に制裁の影響を被っていることが判明したと指摘している。2月24日の侵攻以降、ロシアはエネルギー価格の高騰により、エネルギー輸出で数十億ドルの利益を得てきたが、他のセクターに関する指標からは、多くの国内経済活動が停止していることが示唆されているという。
同調査ではロシア国内の生産は完全に停止しており、失われたビジネス、製品、人材を他で代用する能力がロシアにはないことも指摘されている。また、ロシアでは、輸入はほぼ消滅し、人材や部品、技術が極めて不足しており、プーチン大統領を政治的に支援している中国からの重要な輸入でさえ、半分以下に減少しているという結果が示されている。ロシア国内の技術革新と生産基盤の空洞化は、価格の高騰と消費者の不安につながっていると同調査は結論付けている。
海外企業の撤退が続き、輸出が不振になったという調査結果は、ロシア経済が依然として堅調であり、「経済的消耗戦」に勝利しているというロシア政府の主張に真っ向から対立するものである。ただし、海外企業の撤退といっても、英米とそれ以外とでは大きな乖離がある。イエール大学はロシアからの企業の撤退状況についても侵攻開始から継続して調査を行っており、それによれば「通常通り」の業務を続けている英国企業は1社のみだが、EU企業は100社超と対照的である。フランスのラコステ、イタリアのアルマーニやベネトン、オランダのフィリップスなど、国を代表するような企業は、ロシア市場からの撤退や業務削減を求める声にもかかわらず、これまで通りの業務を続けている。
自動車販売不振はロシア当局も認めざるを得ない?
ロシアは、貿易統計を含む公式な経済統計の発表を停止または検閲し、ロシアにとって都合の良い統計のみを公表しているとイエール大の調査では指摘している。ただロシア側の統計でも特に自動車に関する指標は大きく悪化していることが読みとれ、同調査の指摘が全て正しいとも言い切れない。
ロシア連邦国家統計局によると、2022年5月にロシアでの乗用車生産はほぼ停止し、前年比96.7%減、ロシア国内で生産された乗用車はわずか3,700台に留まっている。また、トラックの生産も減少しており、重量トラックの生産は5月に前年比39.3%減となった。ウクライナ侵攻当初の3月初めに、主要海外自動車メーカーの多くが、ロシア国内での活動の一時中止を発表した。このため、工場での自動車生産は休止し、国内ディーラーへの新車供給も止まった。
それに伴いロシアの乗用車販売市場も同様に厳しい数字を示している。2022年7月の新車販売は前年比74.9%減(32,412台)、1〜7月でも同60.5%減(368,850台)となり、人気24ブランドを含むほぼ全てのメーカーの新車販売数は急落を示している。その主因はディーラーのもとに新車が供給されていないことである。
プーチン大統領は6月末にサンクトペテルブルクで開催された自動車業界発展に向けた会合で、自動車価格の上昇に関連し、市場に十分な数の自動車を供給することが必要と述べた。また、自動車業界が現在直面する主要なタスクとして、1工場操業を継続し、必要とされる部品を供給し、専門人材の雇用を確保すること、2価格が急騰している自動車の供給を大幅に増やすことを挙げた。さらに問題は乗用車に限らず、商用車でも確認されていると指摘している。商用車は買い手である企業や輸送業界が、不安定な状況下での投資を控えているためであり、特に、4月半ばから欧州へのロシアの輸送トラックの入国・滞在が禁止されていることが大きいという。プーチン大統領は、商用車市場の現状について、需要が不足している可能性があると認め、需要を支えるべく様々な支援プログラムを検討することを提案した。
住民投票でウクライナ紛争に決着はつくのか?
今後のロシア経済を予測する上でも欠かせないのが、ウクライナ侵攻がどのような形で、いつ終了するかの見通しであろう。2月15日、ロシア下院がドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を国家承認したことは、両共和国のロシア系住民保護の口実をロシアに与えた。それを理由に始まったウクライナにおけるロシアの軍事活動は、キーウ攻略の失敗後に東部制圧へと焦点を移した。激戦が繰り広げられ、ロシア軍の制圧下にある地域が徐々に拡大している。両共和国では、ロシアへの編入是非を問う住民投票の準備が進められている。既に投票の枠組みは整っており、選挙人名簿も作成され、選挙委員の任命も済んでいるという。
また、投票日を1日ではなく、2日間にするとの案も検討されている。7月に隣接するロシアのロストフ州の選挙委員がその準備のためにドンバス地方に派遣された。7月時点で同地方には77カ所の投票所が設置されているという。8月前の投票実施も示唆されていたが、ロシア軍が両共和国とウクライナ側との行政国境にまで撤退し、(ウクライナ軍が侵攻できない)安全保障ゾーンが作られてから実施される予定のため、軍部からの合図待ちの状態にある。両共和国はロシアでは一つの地域として認識されており、ロシア政府が独立を同日に承認したことから、住民投票も(両共和国が)同日に実施というのが基本的な考えである。なお、両共和国の世論においてはロシア支持が明確だが、ドンバス地方でもウクライナ侵攻開始後にロシア支配下となった地域では、併合を巡る世論は一定ではないという。正確な日付は設定されていないが、東部地域の制圧が進めば住民投票は9月15日までに実施されるとの報道もある。
またロシア軍はウクライナ南部でも同様に激戦を続けながら、制圧地域を拡大しており、7月末の時点でウクライナ領土の約20%がロシアの支配下にあると報じられている。これまでロシアは南部よりも東部制圧を重視する姿勢をみせてきたが、7月20日にラブロフ外相は南部を長期的に支配する方針を明確に示している。一部報道によれば、南部の主要都市、ヘルソンやザポリージャ、北東部のハルキウなどロシア制圧地域では、約半数が編入支持だが、その大半は消極的な支持という。つまり積極的な支持はその10〜15%にすぎず、2割が反対に回る可能性があり、残り3割はウクライナ残留時よりも暮らし向きが楽になるのであればという条件での支持だという。これは公式な世論調査ではなく、住民投票の準備に携わっている関係者の見方にすぎない。7月23日にロシアが任命したザポリージャの暫定トップは、ロシア編入を巡る住民投票の第一歩となる選挙委員会を設立するための政令に署名している。ロシアは当初、制圧地域の編入ではなくウクライナからの分離を目指していたが、これら地域における親ロシア派への信頼感が薄れたこともあり直接的な支配へと戦略変更に出たと考えられている。
イスタンブール協定は、世界的な食糧危機を回避できるか?
さらに侵攻の長期化で最も懸念されているのが、食糧問題であろう。ウクライナは「欧州のパンかご」と称されるように、穀物やひまわり油の主要生産・輸出国である。農業はウクライナの全輸出額の4割以上を占め、侵攻前には雇用の15%を担っていた。アフリカや中東の発展途上国が主要輸出先であり、黒海からボスポラス海峡を経由してサハラ以南へと向かうルートが一般的であった。例えばレバノンでは小麦輸入に占めるウクライナ産小麦の割合は8割にも及んでいた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻により、トルコやレバノン、シリアやソマリアといった国をはじめ世界的に食糧価格が高騰したうえ、ロシアが黒海を海上封鎖したため、穀物を積んだ輸出船が出港できず、ウクライナに滞留している穀物は2,000〜2,600万トンとみられている。ウクライナ最大の港湾都市であり、穀物輸出のターミナルであるオデーサではこれまで主要な戦闘は回避されていたが、港を守るためにウクライナは機雷を敷設し、ロシアが海上封鎖に踏み切っていた。
世界的に数百万人が飢饉の恐れに直面するなか、ロシア政府はその責任をウクライナや西側諸国に負わせようとした。アフリカ諸国の首脳に対し、これら諸国での食糧難はロシアの農作物輸出に対し西側諸国の制裁が発動されたためだと、虚偽の主張を展開していたため、ロシアのその後の動きが注目されていた。しかし7月に国連とトルコが仲介し、ロシアとウクライナが侵攻開始後初めて合意した協定により、8月1日に5カ月にわたるロシアの黒海封鎖が解かれ、オデーサからウクライナの穀物輸出船が出港することができた。このいわゆるイスタンブール協定では、機雷が敷設された港湾付近の海域では、ウクライナの船が穀物輸送船を誘導し、その間ロシアは輸送船を攻撃しないこと、またウクライナに向かう輸送船が武器を密輸するのではないかというロシアの懸念から、輸送船を検査することが合意された。今後も順調に穀物輸出船がウクライナを出港し、迫りくる世界的な食糧危機の緩和につながるか、協定の効果が注目されている。
滞留していた穀物船の無事な航行が続けば、協定に対する信頼性が高まり、また海外から貨物船が入港するスペースも確保され、定期的な船舶の往来が再開されることが期待されている。サハラ以南の港湾は浅瀬が多く、小型船が多用されるため、ウクライナ入港時の検査には長蛇の列ができるとみられているほか、状況が急変する可能性がある以上、ウクライナ入港に抵抗を覚える船主も少なくない。このため、ウクライナからの穀物輸出が侵攻前の水準に戻り、食糧危機が緩和されるには数カ月かかると、ウクライナのクブラコウ・インフラ相は慎重な見方を示している。なお、協定合意前にはこの黒海からのルートによる輸出再開の見通しや、世界的な景気後退への懸念、ロシアでの過去最高となる作物の収穫などにより、農作物商品の価格は下がってきていた。ただしウクライナのゼレンスキー大統領がロシアとの徹底抗戦の姿勢を見せているため、年内に停戦交渉が開始される可能性も低い。今後も、ウクライナ発の世界的な食糧危機の懸念が続くのか注目されている。
●ロシア、西側のハイテク製品への制裁回避に失敗=米政府高官 9/3
米国務省のオブライエン制裁調整官は2日、ロシアが西側諸国による軍事目的などに使用されるハイテク製品への制裁をかいくぐろうとしているものの失敗し、海外からの資金調達に苦しんでいるという認識を示した。
オブライエン氏は、欧州連合(EU)当局者との会合のために訪れているブリュッセルで記者団に対し、対ロシア制裁が「機能している」とし、「ロシアが機器や資金を入手しようとしていることは把握しているが、うまくいっているとは考えていない」と語った。
ロシアのプーチン大統領はこれまでに、制裁によるロシア経済への影響を認めつつも、西側の「経済電撃戦」は失敗したと発言している。
一部のEU当局者は、中国やインドが軍事目的に使用できる機器をロシアに販売し、制裁回避を手助けする可能性を懸念している。しかしオブライエン氏は、そうしたロシアの試みは失敗しているとし、「ロシアは見知らぬ業者から不確かな価格で品質の不明な機器の入手を強いられている。このような方策では近代経済は成り立たない」と述べた。
また、西側諸国は今後数カ月でロシア政府への圧力を強め、制裁の抜け穴をふさぐと同時にロシア経済の「要衝」に焦点を当てるという認識を示した。 
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 9/3
ロシアは愛国教育強化 学校で国旗掲揚と国歌斉唱義務づけ
ロシアのプーチン政権は愛国教育を強化しています。
ロシア政府は、新しい学年が始まった今月から愛国心を育むためだとして、毎週月曜日に、学校での国旗の掲揚と国歌の斉唱を一斉に義務づけたほか「大切なことを話そう」という名の授業を新たに設け、ロシア独自の歴史観などを教えていくとしています。
今月1日、首都モスクワ市内の学校で行われた始業式では、国歌とともに国旗掲揚が行われ、新入生たちが真剣な表情で見つめていました。
生徒の1人は「今の時代に愛国心を育むことは、とても重要です。現状についてはさまざまな意見がありますが、祖国への忠誠心を持ち続けることが必要だ」と話していました。
プーチン大統領自身も1日、各地から集められた子どもたちを前に特別授業を開き、ウクライナ侵攻を重ねて正当化したあと、出席した子どもたちとともに、その場で国歌を斉唱しました。
プーチン政権としては、若者の間で軍事侵攻に否定的な意見が比較的多く聞かれる中、「愛国心を育む」という名目のもと、子どものころから政権側の主張を教え込むねらいがあるとみられます。
ザポリージャ原発 “ロシア側の妨害でIAEAは公平な評価難しい”
IAEAの専門家チームは、ロシア軍の部隊が展開するウクライナ南東部のザポリージャ原発に今月1日から入って調査を進めています。
チームを率いたグロッシ事務局長は2日、IAEAの本部があるオーストリアのウィーンに戻って記者会見し「IAEAが現場で何が起きているかを確認することは、事態の安定化に向けて重要な効果がある」と述べ、6人の専門家が現地にとどまり、2人が来週以降も常駐する方針を示しました。
一方、原発を運営するウクライナの原子力発電公社エネルゴアトムは2日「ロシア側は兵士のいる危機管理の施設に専門家が立ち入ることを認めなかった」として、IAEAは公平に評価するのが難しい状況に置かれているという見方を示しました。
これに対してグロッシ事務局長は「見せてほしいと頼んだ場所を見ることができた」と述べ、独立した調査ができているという認識を示し、来週前半に報告書をまとめるとしています。
運転停止のザポリージャ原発5号機 運転を再開
ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」は2日、前日の砲撃により運転を停止していたザポリージャ原子力発電所5号機について「送電網に接続し、出力を上げている」とSNSに投稿し、運転を再開したことを明らかにしました。
これで、稼働中の原子炉は合わせて2基になったということです。
●侵攻反対派の石油王が ロシア国内でまた不審死? 強硬派暴走か 8/3
非情なウクライナ侵攻を続けるロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、国内ではより過激な「強硬派」に脅かされている。新興財閥オリガルヒ関係者の不審死が相次ぎ、「プーチンの頭脳」と呼ばれる思想家の娘も殺害された。「プーチン氏が最も恐れる存在」の影がちらついている。
会長が転落死
ロシアの石油大手ルクオイルは、ラビリ・マガノフ会長(67)が「重病で死去した」と発表した。ロイター通信は、1日に病院の窓から転落したと伝えた。
ウクライナ侵攻前後から、オリガルヒ関係者の不審死や自殺未遂が立て続けに起きている。
ルクオイルは3月、ウクライナ侵攻を「悲劇的出来事」とし、早期停戦や交渉による問題解決を呼びかけていた。強硬派の不興を買っていたことは確実だ。
8月19日にロシアの思想家、アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘、ダリア・ドゥーギナ氏が爆殺された事件では、ウクライナ国家安全保障会議のオレクシー・ダニーロフ書記がロシアの諜報機関、連邦保安庁(FSB)の関与を示唆した。「ロシアでは戦争への支持が低下しており、クレムリン(大統領府)は国民の動員を必要としている。FSBはロシアの都市でテロ攻撃を組織し、大量の民間人の死傷者を出すとみられ、ドゥーギナ氏はその列の最初だ」と指摘した。
原発攻撃も
筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「FSB内には反戦派と強硬派双方があるが、強硬派の犯行だった場合、反戦感情を防ぐ狙いや、主戦論を勢いづけるメッセージになる」と指摘する。
プーチン氏が掲げた「特別軍事作戦」が泥沼化するなか、全面的な「戦争」に踏み切るべきだと圧力をかけるのが強硬派のスタンスだ。
ウクライナ南部ザポロジエ原発への攻撃についても、「核攻撃を主張する強硬派の圧力を反映している可能性がある。より過激な強硬派の存在は、プーチン氏の悩みの種になっている」と中村氏は分析する。
プーチン氏の側近にはウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官やニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記ら強硬派とみられる人物は多い。
前出の中村氏は「パトルシェフ氏の息子、ドミトリー氏が後継候補に噂されたこともある。強硬派の思い通りにならない場合、プーチン氏の退場に動く可能性は十分にある」と語った。
●IAEA ザポリージャ原発に専門家常駐の方針も南部で激しい戦闘 9/3
ロシア軍が掌握するウクライナのザポリージャ原子力発電所について、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は2日、原発の安全を確保するため、現地で調査を行ったうえで専門家を常駐させる方針を示しました。一方、原発に近いウクライナ南部では今も激しい戦闘が続いているとみられ、順調に調査が続けられるかは予断を許さない情勢です。
IAEAの専門家チームは、ロシア軍の部隊が展開するウクライナ南東部のザポリージャ原発に今月1日から入って調査を進めています。
チームを率いたグロッシ事務局長は2日、IAEAの本部があるオーストリアのウィーンに戻って記者会見し「見せてほしいと頼んだ場所を見ることができた」と述べ、独立した調査ができているという認識を示し、来週前半にも報告書をまとめることを明らかにしました。
そのうえで「IAEAが現場で何が起きているかを確認することは、事態の安定化に向けて重要な効果がある」と述べ、専門家2人を来週以降も常駐させる方針を示しました。
ただ、イギリス国防省は2日に発表した分析で「ロシア軍が掌握するザポリージャ原発に近いウクライナ南部で激しい戦闘が続いている」と指摘していて、順調に調査が続けられるかは予断を許さない情勢です。
●逆襲され巨額損失、「万策尽きた」プーチン大統領 9/3
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、これまでにウクライナでの戦争で被った最も大きな5つの損失が、合わせて10億ドル以上にのぼることが分かった。
米フォーブス誌の計算によれば、ロシア軍にとって最大の痛手となったのは、ロシア黒海艦隊の旗艦であるミサイル巡洋艦「モスクワ」の沈没だ。4月に沈没した「モスクワ」の価値は、7億5000万ドル相当とされている。ウクライナ側は自分たちが対艦ミサイルを命中させて沈没させたと主張したが、ロシア側は艦上での火災が原因だったと主張している。
残る4つの重大損失は、8600万ドル相当のイリューシンIL76輸送機、7500万ドル相当の大型揚陸艦「サラトフ」、5000万ドル相当のスホーイSu30SM戦闘機、4000万ドル相当のスホーイSu34戦闘機で、これらを合計すると10億ドルを上回る計算になる。
フォーブスの計算によれば、軍事侵攻を開始した2月24日から8月24日までの6カ月間で、ロシア軍は1万2142点の軍事装備品を失い、その価値は合計で165億6000万ドル相当にのぼる。ミサイルは、この合計額には含まれていないという。
「迅速な勝利」の目論見が崩れた
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、ウクライナの独立記念日でもあった8月24日に、開始から半年の節目を迎えた。ロシアが迅速に勝利を収めるだろうという一部の予想は、西側諸国の支援を受けたウクライナ側の粘り強い抵抗によって打ち砕かれた。この数週間は、ウクライナがアメリカの高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)など、西側諸国から供与された兵器を駆使して、ロシア側の標的への攻撃を成功させている。
ウクライナ側が次々と攻撃を成功させるなか、ロシア政府は兵員を補充するために強制徴用を行い、今いる兵士にも、士気を上げるために現金支給のインセンティブを与えているとみられる。
元米陸軍大将のバリー・マッカフリーは8月22日、ツイッターへの投稿で、プーチンは「万策尽きて」おり、彼にとっての状況は今後、急速に悪化していくだろうと述べた。マッカフリーはまた、ロシア軍は「作戦面で困難な状況にあり」、ロシア全体に「軍事的な損失と経済的な孤立の深刻なひずみが生じ始めている」とも指摘した。
ロシアは「目標達成」の強気姿勢を崩さず
だがマッカフリーの評価とは対照的に、ロシアはこの「特別軍事作戦」を成功させる自信があると主張し続けている。ロシア外務省情報出版局のイワン・ネチャーエフ副長は、18日の記者会見の中で、ウクライナにおけるロシアの目標は達成されるだろうと語った。
「ロシアの目標が達成されて初めて、地域の平和、安定と安全を保障することが可能になる」とネチャーエフは述べた。
ロシア軍と比較して、ウクライナ軍が今回の戦闘でどれだけの損失を被ったのかは、はっきり分かっていない。米議会調査局は6月後半に発表した報告書の中で、ウクライナ軍が装備の半分を失ったという、地上部隊後方支援司令官ウォロディミル・カルペンコ准将の推定を紹介した例があるぐらいだ。
●ロシアの特殊軍事作戦「継続」48%・「和平協議へ」44%…世論二分 9/3
ロシアでプーチン政権と一線を画す独立系世論調査機関レバダ・センターは1日、8月下旬に実施したロシアのウクライナでの「特殊軍事作戦」に関する世論調査で、作戦継続か和平協議に移行すべきかどうかを巡る意見が二分したとの結果を発表した。
ロシアのウクライナ侵略開始から半年が経過し、厭戦(えんせん)ムードがじわじわと広がり始めている可能性がある。
作戦を継続すべきだとの回答は48%だったのに対し、44%が和平協議の開始を支持した。40歳未満では、和平協議への支持が作戦継続を上回った。
作戦への支持自体は76%と高止まりした。ウクライナ南部ヘルソン、ザポリージャ両州の露軍占領地域の将来についての調査では、45%がロシアへの併合を支持した。プーチン政権によるプロパガンダの浸透をうかがわせる。
●プーチン氏命令の軍増強の達成は「無理」、米国防総省高官 9/3
米国防総省高官は3日までに、ロシアのプーチン大統領が最近命令した同国軍の規模拡大に触れ、実現する可能性は少ないとの見方を示した。
ロシア軍の過去に言及しながら、規模拡大の目標値を達成した事例はないと強調した。プーチン氏は先に、ロシア軍の規模を現行の約190万人から204万人に拡大する大統領令に署名した。この大統領令は来年1月1日に発効する。
米国防総省高官は、新兵を集めるために年齢制限の撤廃や刑務所の受刑者の取り込みなどの措置を講じても、ロシア軍の戦闘能力の向上にはつながらない可能性に言及。これらの新たな新兵募集を打ち出したものの、より高齢で軍務に不適格な人物の採用、不十分な訓練につながった事態に直面したことも考えられると指摘した。
ウクライナへの軍事侵攻の前、ロシア軍は目標としていた人員規模に既に15万人足りない水準にあった可能性もあるとした。
●トルコのエルドアン大統領が再び「仲介役」を申し出 9/3
緊迫した状況が続くウクライナのザポリージャ原発を巡り、トルコのエルドアン大統領がロシアのプーチン大統領に再び仲介役を申し出ました。
トルコのエルドアン大統領は3日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談しました。
トルコ大統領府によりますと、エルドアン大統領はロシア軍が占拠を続けるウクライナ南部のザポリージャ原発を巡り、事態の打開を目指して仲介役を果たす意向を伝えたということです。
先月30日に亡くなったゴルバチョフ元大統領の葬儀が行われた日でもあり、エルドアン大統領は哀悼の意を示したということです。
両首脳は今月15日からウズベキスタンで行われる上海協力機構の会議で会う予定です。
トルコはこれまでロシアとウクライナの停戦協議のほか、ウクライナの黒海からの穀物輸送を巡っても仲介役を果たしてきました。
●“クリミア奪還”はどこまで本気? ロシアの侵攻から半年 膠着続く… 9/3
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから、8月24日で半年が経過した。長引く戦闘は今、新たな局面を迎えている。
侵攻開始から半年 現在の戦況
2月24日、プーチン大統領が「特別軍事作戦を決定した」と宣言した直後、ロシア軍がウクライナ国内に侵攻した。プーチン大統領は当初から“核の使用”をちらつかせていて、かつてない事態に世界が衝撃を受けた。
現在の戦況や今後の見通しについて、ロシア政治に詳しい慶應義塾大学の廣瀬陽子教授に話を聞く。
Q. 侵攻開始から3カ月の5月と8月現在では、ロシア軍の制圧地域がほとんど変わっていないように見えます。なぜでしょうか。
廣瀬陽子教授: ウクライナ側が非常に善戦しているということは挙げられます。欧米の支援や兵器が功を奏していて、ロシアは想定外だった抵抗にあっています。また、ロシアの兵力も足りていません。お金で兵士を集めてはいますが、訓練を十分にしないまま前線に送り込んでいますし、士気も低い。補給もうまくいっておらず、命令系統もうまく機能していません。このために戦況が膠着(こうちゃく)していると考えられます。
クリミアでの攻防活発化 ウクライナの考えは
一方、8月に入って攻防が激化しているのが、2014年からロシアによる実効支配が続くクリミア半島だ。
9日にはロシア軍用飛行場で大規模爆発、16日に弾薬保管場、18日には半島東部で2カ所の爆発が起き、さらに20日にはロシア黒海艦隊司令部にドローンが飛来して屋根の上に落下し炎上した。これらの攻撃は、正式な表明はないがウクライナ側によるものとみられている。
Q. 廣瀬教授はウクライナ側の狙いを「クリミア半島ではなく、今回侵攻された南部の奪還」と考えられていますが、どういうことでしょうか。
廣瀬陽子教授: ロシアは9月上旬に南部と東部を合わせて住民投票をしようとしていました。今の状況では無理という話も出ていますが、いずれにせよウクライナが南部を取り返せば、ロシアによる住民投票の実施は難しくなります。だから、ウクライナは南部を取り返そうと必死なんです。南部の戦線については、ロシアはクリミアを拠点にしているので、その拠点を攻撃すれば南部へのロシアの攻撃が難しくなるということがあります。住民投票が行われれば、クリミア併合時のようにロシアがそのまま自国化してしまう可能性が高いので、ウクライナからロシアへの「南部をクリミアのようには取らせないよ」というようなメッセージもあると思います。
Q. 8月23日の会議で、ゼレンスキー大統領は「全てはクリミアから始まりクリミアで終わる」といった発言をしたようです。文字通り読めば「クリミアを奪還するまでこの戦争は終わらない」と取れますが、これは本音ではないということですか。
廣瀬陽子教授: ここに来て、クリミア奪還までを視野に入れた動きも出てきているように思います。戦線が難しい状況になり、ロシア軍が残虐な行為をたくさん行っていますので、このままみすみす引くということもできない。そもそも問題の発端はクリミアから始まっているというのもあります。ウクライナの方向性の転換というのが最近色濃く見えてきていて、欧米が呼応している動きもあります。
廣瀬陽子教授: 欧米は今回の侵攻が始まった時、「クリミアは諦めて東部2州で決着を」といった雰囲気でしたが、最近はクリミア奪還に向けても協力的な姿勢が見えてきています。ただ、クリミアが戦場になると、ロシアも相当な規模で戦闘を展開します。ロシアが“戦争宣言”をして国一体となって戦ってくる可能性が高い。そうなると第三次世界大戦、核使用の恐れもありますので、欧米も「クリミア奪還まで支援してあげたい」という思いがありつつ、まだそこまで決意できないというところだと思います。
ポイントは“この冬” 欧米の支援続くか
Q. 戦闘が長引けば、どちらが優位になりますか。
廣瀬陽子教授: ロシアです。現在、ロシアはエネルギーの輸出を欧米に対して止めています。今ですらエネルギー価格は相当高くなっていますが、冬になると暖房でエネルギーの需要が増すので、ヨーロッパが受ける負担はより高くなります。そうなると、ウクライナ支援に音を上げる国が増える可能性が高い。ロシアは“ウクライナ支援疲れ”を狙っています。
●プーチン氏、6日に軍事演習視察 ロシア極東ウラジオストクで 9/3
ロシアのペスコフ大統領報道官は2日、プーチン大統領が大規模軍事演習「ボストーク(東方)2022」を6日に極東ウラジオストクで視察すると明らかにした。
タス通信が伝えた。ウラジオストクで開幕する東方経済フォーラム(5〜8日)の7日の全体会合で演説する前に立ち寄ることになるという。
プーチン氏のボストーク視察は2回連続。前回4年前は兵員約30万人が参加したが、今回はウクライナ侵攻の影響とみられる規模縮小で約5万人にとどまる。
それでも大統領自ら視察することで、軍を鼓舞するとともに、ウクライナや後ろ盾の西側諸国への強硬姿勢をアピールする狙いがあるもようだ。また、対米で共闘する中国のほか、ロシアの伝統的友好国インドも参加しており、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」にくさびを打ち込みたい考えとみられる。 
●ゴルバチョフ氏葬儀・告別式、「国葬」ではなく静かな別れ… 9/3
8月30日に91歳で亡くなったミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領の葬儀・告別式が3日、モスクワ中心部で営まれた。ソ連最後の最高指導者として東西冷戦を終結に導いた偉業にもかかわらず「国葬」ではなく、プーチン露大統領も公務を理由に欠席した。
タス通信によると、ハンガリーのビクトル・オルバン首相が参列したが、米英やドイツは駐露大使にとどまった。ロシアによるウクライナ侵略も影を落とす静かな別れとなった。
露大統領府に近い労働組合会館「円柱の間」での告別式は大統領府儀典局が支援し、国葬に準じる形で行われた。露国内ではゴルバチョフ氏が1991年のソ連崩壊をもたらした張本人との批判が根強いことを反映したとみられる。露国営テレビもほぼ通常どおりの放送だった。
ゴルバチョフ氏はモスクワ市内のノボデビチ墓地で、99年に死去したライサ夫人の隣に埋葬された。墓地にはソ連の後継国家ロシアのエリツィン初代大統領ら著名人も埋葬されている。2007年に死去したエリツィン氏は、国葬だった。
●ゴルバチョフ氏に最後の別れ 大統領不在、モスクワで葬儀 9/3
8月30日に91歳で亡くなったゴルバチョフ元ソ連大統領の葬儀が3日、ロシアの首都モスクワで営まれた。市中心部の歴史的なホールで告別式が行われた後、政治家や著名人が多く眠るノボデビッチ墓地で、ライサ夫人(1999年死去)の隣に埋葬。ソ連崩壊による自由を懐かしむ市民らが列をつくり、最後の別れを告げた。
葬儀は連邦警護局(FSO)などが支援し「国葬的な要素もある」(ペスコフ大統領報道官)と説明されたが、プーチン大統領は他の国内日程を優先させるという理由で参列しなかった。タス通信によると、日本の上月豊久駐ロシア大使のほか、米英独仏とスペインの各大使、ハンガリーのオルバン首相が姿を見せた。
●モスクワでゴルバチョフ氏葬儀 欧米首脳の参列少なく 9/3
モスクワで3日、8月30日に死去した故ミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領の葬儀が営まれた。市内の催事場で告別式が行われた後、ひつぎは墓地に運ばれ、1999年に先立ったライサ夫人の隣に埋葬された。「国葬」ではなく、プーチン大統領も職務を理由に参列しなかった。
ゴルバチョフ氏は89年の冷戦終結や90年の東西ドイツの統一を導き、同年にはノーベル平和賞を受賞した。8月30日、療養していたモスクワの中央クリニック病院で「重く長期の病気」(同病院)で死去した。91歳だった。
モスクワ中心部の労働組合会館で営まれた告別式には、花束を手にした市民らが相次ぎ訪れた。告別式の後、エリツィン初代ロシア大統領や作家のニコライ・ゴーゴリら多数の著名人が眠るモスクワ市内のノボデビチ墓地に埋葬された。
ロシアのウクライナ軍事侵攻が続くなか、欧米首脳の参列者はロシアと友好関係を保つハンガリーのオルバン首相だけだったようだ。タス通信によると、日米英独の駐ロシア大使が参列した。
2007年4月に死去したエリツィン氏は国葬で、政府は葬儀の日を「国民服喪の日」と宣言した。ゴルバチョフ氏の葬儀は「国葬の要素がある」(大統領府)とされ、政府は儀仗(ぎじょう)兵らを参加させるなど葬儀を支援した。
プーチン氏は3日の葬儀には参列しなかった。外国要人との電話協議や5〜8日にロシア極東で開く東方経済フォーラム出席のための準備など職務があるとしている。代わりに、ゴルバチョフ氏の遺体が安置されている病院を1日に訪れ、ひつぎに花をささげた。
欧米では「ゴルビー」の愛称で親しまれたゴルバチョフ氏だったが、ロシア国民の間では1991年のソ連崩壊をもたらしたとして批判的な見方が多い。ソ連崩壊について「20世紀最大の地政学的悲劇」と発言したことがあるプーチン氏とも疎遠だったとみられている。

 

●民間犠牲者、2万2000人超=復興コスト105兆円―冬にかけ被害拡大 9/4
ロシアのウクライナへの軍事侵攻は、第二次世界大戦以来、欧州で最大の陸上戦を引き起こした。軍事侵攻が始まって8月24日で6カ月が経過。国連の発表によると、侵略されたウクライナでは5000人超の民間人と9000人超の将兵が犠牲となった。一方、ロシア軍の死傷者数に関しては諸説あるが、米国防総省は7万〜8万人と推定。ウクライナにおける物的損害も大きく、復興費用には7500億ドル(約105兆円)かかると試算されている。
ウクライナ経済の復興コスト、7500億ドル超に
国連はウクライナ戦争で少なくとも5614人の民間人がウクライナで殺害されたと発表したが、同時に国連関係者は実数はこれを大幅に上回ると言う。アゾフスターリ製鉄所をめぐって激しい攻防が続いた南部の都市マリウポリでは、目撃者の証言や衛星画像などから民間人の死者は2万2000人に上るとウクライナ政府関係者はみている。
難民や国内避難民となることを余儀なくされたウクライナ人も多い。国連によると、外国に逃げて難民となった市民は670万人、国内避難民は660万人に上る。さらに、戦闘地域で道路や橋が破壊されたり、手元が不如意で逃げられず、戦闘地域に留まっている市民が1300万人に上ると試算されている。米紙ニューヨーク・タイムズが伝えた。
一方、ウクライナでは2月24日に侵略が始まって以来、ロシア軍による砲撃やミサイル攻撃で、18万戸の建物が破壊された。その中には11万5000戸の個人住宅、2290の教育施設、934の医療施設、1991の商店、27のショッピングセンター、715の文化施設、511の行政施設、28の石油貯蔵所、18の民間空港が含まれる。さらに、311の橋が破損、18万8000台の自家用車が破損するかもしくは押収され、2万4800キロに及ぶ道路が破損した。ウクライナにおける建物やインフラの被害総額は1136億ドルに上ると推定されている。
ウクライナ政府は、住民への基本サービスを維持し、経済を回していくためには毎月50億ドル必要だとしており、この数字は秋から冬にかけて増加し、いずれウクライナ経済の復興コストは7500億ドルに膨れ上がるとみている。
軍事支援は米英が突出
こうした中で西側諸国はウクライナへの軍事支援を継続しており、金額では米英が突出している。米国は最近、29億8000万ドルと過去最高となる新規援助を発表し、累計額は日本円換算で1兆円を超える。英国が続き40億ドル、3番目が欧州連合(EU)諸機関で25億ドル、4番目がポーランドで18億ドル、5番目がドイツで12億ドルとなっている。ただ、西側はプーチン政権を過度に追い詰めないために、ロケット砲などの射程をロシア領に届かない距離に制限したり、戦車や戦闘機などの供与は控えている。
ところで、戦争はウクライナの農民やアグリビジネスに230億ドル分の利益機会の逸失や、農業機械の破壊、余分の輸送コスト負担に直面させている。ロシア軍による黒海封鎖で、ウクライナでは約2000万トン分の穀物が輸出できずに港湾施設などで滞留している。国連とトルコの仲介により、8月初めから穀物輸送船の黒海の港からの航行が再開され、8月中に100万トン超の穀物が運び出されたが、今後も輸送が順調に進むのかどうか予断を許さない。
ウクライナ戦争が始まって半年、欧州で第二次世界大戦後、最大規模の戦争となったが、戦況は膠着状態が続き、終わりは見えず、長期化が懸念される。 
●ウクライナ軍 南部で攻勢強める ロシア軍の補給路断つねらい  9/4
ロシアの軍事侵攻をめぐり、ウクライナ軍はヘルソン州など南部を中心に攻勢を強めています。ウクライナ大統領府の顧問は当面はロシア軍の補給路を断ち戦闘能力を低下させることに重点を置いているとねらいを明らかにしました。
ロシアはウクライナ東部や南部で攻撃を続けています。
東部ドネツク州の知事はSNSで3日に市民4人が死亡したと伝えたほか、南部ミコライウ州の知事は4日、深夜に大規模なミサイル攻撃があり、医療機関や教育施設などに被害が出たとしています。
これに対してウクライナ軍は、ロシア軍が掌握したとするヘルソン州など南部を中心に攻勢を強めています。
これについてウクライナ大統領府の顧問、アレストビッチ氏はメディアへのインタビューで「砲撃によりロシア軍の作戦上の物流を体系的に破壊している」と述べ、ウクライナ軍が支配地域の奪還に向け、当面はロシア軍の補給路を断ち戦闘能力を低下させることに重点を置いていると明らかにしました。
一方、ロシアのプーチン大統領はウラジオストクで開かれる「東方経済フォーラム」などに参加するため、4日から極東を訪問します。
そして6日にはロシア軍の大規模軍事演習「ボストーク」を視察する予定で、軍事力に余力があることを内外に示すねらいもあるものとみられます。
●「ウクライナより国民」 首都でデモ チェコ 9/4
チェコの首都プラハで3日、約7万人が参加して、国民よりもウクライナにばかり関心を払っていると政府を批判するデモが行われた。
デモ隊は物価高に加え、新型コロナウイルスのワクチン接種、移民問題で不満を訴え「チェコ国民ファースト」と連呼した。冬の暖房費高騰が予想され「セーターを2枚くれ」と要求するプラカードもあった。
●「ウクライナ軍のロケット弾が奇跡的に180度回転」…露側がIAEA調査団に釈明  9/4
ロシア軍が占拠するザポリージャ原発での国際原子力機関(IAEA)の調査では、露軍占領地域から発射されたとみられるロケット弾の残骸に関し、露側専門家が「ウクライナ軍のロケット弾が奇跡的に180度回転した」と調査団に強弁する動画が拡散している。ロシアはウクライナ軍が原発を攻撃しているとの主張を浸透させようと躍起になっている。
動画では、メディアを引き連れて調査団を案内した露国営原子力企業ロスアトム幹部が1日、ロケット弾の着弾角度に疑問を持ったIAEAの調査団に釈明している。ロシア通信も画像を配信し、ウクライナのロケット弾だと強調した。
ウクライナの内務相顧問は2日、自身のSNSに動画を投稿し「これがロシアのやり方だ」と皮肉った。米政策研究機関「戦争研究所」は、ロシアが調査団の訪問に合わせ、原発に脅威を与えているのはウクライナ軍だと印象づける取り組みを加速させるだろうと指摘している。
●ミャンマー国軍総司令官、3度目のロシア訪問へ出発 プーチンと初対面か?  9/4
現地からの情報によると、ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官は4日、ロシア極東ウラジオストクで5〜8日に開かれる「東方経済フォーラム」へ出席するため首都ネピドーを出発した。11日に帰国する。
3日付のミャンマー国営紙によると、ロシア側からフォーラムの招待を受けた。総司令官は経済分野などの協力関係をさらに強化するため、政府関係者と会談する予定。
昨年2月のクーデター以降、国軍はロシアへの傾斜を強めており、総司令官の訪ロは3回目。今年7月にもロシアを私的に訪問し、政府高官や国営原子力企業の幹部らと面会したが、プーチン大統領との会談は実現していない。
●右からも圧力…侵攻長期化でプーチン氏にかかる重圧 9/4
“プーチンの戦争”がプーチンを追い詰め始めている。半年が過ぎまだまだ終わりが見えないウクライナ侵攻。長期化するにつれウクライナの前線でも、ロシア国内でも、プーチン大統領への不満が見えてきた。プーチンが立たされた“苦境”、様々な面からその現実を見た。
「軍をやめたい人を支援する施設がありますが、実は逃げようとした軍人の監獄」
フランスに亡命を希望するロシア軍人が、フランス、シャルル・ドゴール空港で自らを撮影した映像がSNSにアップされた。
ロシア・第56親衛空挺襲撃隊 パベル・フィラティエフさん「若者が国のためだと信じていたことが、実際には我々を利用して操っている政権のためだった。」
と言って、彼は空港のトイレでロシアが発行した自分のパスポートを細切れに破り、便器に捨てた。そして言う・・・。
「ロシアが好きで、ロシア人すべてが好きです。しかしプーチンや今の政権はロシアではありません。プーチン、くそくらえだ。」
除隊を希望するロシア兵は後を絶たない。それに対しロシアはある団体を設立して精神的にも支援する態勢を整えたという。しかしそこの実態は全く別のものだった。
ロシア兵人権保護NGO タバロフ代表「1か月の戦場での軍務が終わりローテーションで交代要員、休暇要員になると多くの軍人が配置を離れ、契約を破棄して軍を辞めています。こうした流れが既に大規模になり国防省は神経を尖らせています。(中略)ルハンシク人民共和国のブリャンカには軍をやめたい人を支援する『軍人心理支援センター』がありますが、実はロシアに逃げようとした軍人の監獄でした。そこで兵士たちは心を入れ替えて前線に戻るよう肉体的にも精神的にも圧力を加えられました。ロシアに戻れた人もいますが、戻れなかったり行方が分からなくなったりする人もいます。」
総動員ができない現状、ロシア兵は絶対数が足りないといわれる。軍としては一人も逃がしたくない。だが、はじめから士気が高くない兵士たちは、すでに限界に達していた。前出の亡命希望のフィラティエフさんは手記に記している。“勇気を振り絞って戦闘態勢に入れという司令官の目も怖気づいていた。軍隊の大多数はそこで起きていることに不満を持ち、政府の指揮に不満を持ち、プーチンの政策に不満を持ち、軍隊にも入っていなかった国防大臣に不満を持っている”と。 
「プーチンの本音はリベラルな西洋主義者ですが、もし彼が自分の望むことを実現し始めたら、クレムリンから追い出されるでしょう」
侵攻長期化は戦場だけでなくロシア国内でも様々な影響をもたらしている。そこにどう関係しているのかは不明だが、先月20日、ロシアの極右思想家の娘が乗った車が爆破された。犯人はわかっていないが、いくつか想定されている犯人像がある。
(1)ウクライナ犯行説。すでにFSBがウクライナ側の容疑者を特定したとされるが、これはウクライナのメリットが考えられない
(2)反プーチン勢力犯行説。国民共和国軍が犯行声明を出したとされるが、国民共和国軍なる組織の存在すらはっきりしていない。
(3)ロシアによる自作自演説。目的は何なのか。
現在(3)である可能性が高いという専門家は少なくない。そしてその理由は、極右勢力が“特別軍事作戦”など生ぬるい対応でなく、戦争を宣言して総動員して戦争をしろと主張していることがプーチン氏にとって都合の良くないものだとみられるからだという。番組では、これまであまり知られていない極右思想家ドゥーギン氏に注目した。
スタジオゲストの朝日新聞、駒木明義氏は、2018年、この人物にインタビューしている。そこでプーチン氏に対し意外な見方を彼がしていることが分かった。
ロシア極右思想家 アレクサンドル・ドゥーギン氏「スターリンと大違いでプーチンは非常に実利的な政治家です。スターリンはまさに本物の大きくて強い独裁者でしたが、プーチンがどちらかというとプラグマティスト(実用主義者)です。リベラルの準備ができていない国ではリベラリズムはあり得ないということを理解しているので見せかけの保守主義を実行しているのです。プーチンの本音はリベラルな西洋主義者ですが、もし彼が自分の望むことを実現し始めたら、プーチンはクレムリンから追い出されるでしょう。」
クリミアを併合し、欧米と対抗し、ウクライナに侵攻したプーチン氏が、本来は西洋主義のリベラルな人物だという。駒木氏の解釈によれば、それが本心かは不明だが、ドゥーギン氏はそう見ていると。
朝日新聞社 駒木義明 論説委員「エリツィンの後継者として出てきた時は確かにリベラルなことを言っていた。しかし、ロシアの国民が“強いロシア”を望んでいるのでプーチンはそれを与えている。プーチンは優秀な広告マンであり、社会が望むものを与えるんだと、本質とは違うことをやっているんだと、ドゥーギンは言っている。」
真のリベラル派からは独裁者と非難されるプーチン氏。右派からは西洋主義、広告マンと揶揄されるプーチン氏。意外にも板挟みの実態が見えてきた。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「私は軍の中にも右派的な思想の人はいると思う。プーチンは生ぬるいと。このまま長期化してはロシア兵の犠牲がどんどん拡大する。プーチンはもっと強硬に総動員かけてすべきだっていう人は、中枢に近い人にもいるんじゃないかと…」
この強硬派の声は、実は反対派の声よりも厄介だというのは服部倫卓氏だ。
ロシアNIS経済研究所 服部倫卓 所長「戦争反対の声はプーチンとしては弾圧すればいいんですが、強硬派の“もっと徹底的にやれ”っていうのを弾圧するのは矛盾しているわけです。」
悩ましいプーチン氏は、果たしてどこへ向かうのだろうか?そのロシアで今、軍事侵攻の報道が減少しているという。どういうことなのか?
「ロシア経済は、地獄の1丁目に差し掛かってる。」
『イズベスチヤ』という新聞がある。ソ連時代の政府機関紙で、今も政権寄りの姿勢を続けている。その新聞で軍事侵攻に関する記事が減ってきている。1面トップでウクライナ情勢を伝えた回数を数えた。すると、今年3月4月は90%がウクライナ関連だったのに対し、6月は50%。7月には30%を切った。ここに見える政権側の思惑とは?
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「国民が戦況に関心を向ければ、リベラル、右派両方からいずれ批判される。いつまで軍事作戦をやるのか。犠牲の実態は伝えなくても徐々に国民の知るところとなる。世論を喚起しないために報道を減らしているんじゃないか…」
戦争に目が向けばどっちに転んでもプラスにはならない。関心を持たせないに越したことはないのだ。一方で増えている報道もある。
朝日新聞社 駒木義明 論説委員「私自身もロシアのテレビを見ているんですが、戦争そのものをニュースで扱わなくなっている印象を持っています。戦争を扱うんじゃなく、ザポリージャ原発をウクライナ軍が攻撃したとか、ロシアへの経済制裁で欧米が物価高で困っているとか…。ロシア経済も多少行き詰まっているが、敵はもっと苦労しているとか。」
プーチン氏としてはロシア国内の不安を払拭し、反戦ムードを抑えることが最大の課題だ。来年には事実上大統領選がスタートする。戦争の行方とともに、今後、ロシア国内の経済の行方が左右することになる。
ロシアNIS経済研究所 服部倫卓 所長「私は間違いなくロシア経済はこれからどんどん悪くなると思う。地獄の1丁目に差し掛かってる。プーチンとしては選挙までだましだましやっていくんでしょうけど、どこかの時点でボロが出始める。そのボロが出るタイミングと選挙のタイミングに個人的には注目しています」
●ザポロジエ原発巡り仲介役、トルコ大統領がプーチン氏に意欲伝達 9/4
トルコのエルドアン大統領はロシアのプーチン大統領との電話会談で、ウクライナのザポロジエ原子力発電所を巡り、自国が仲介役を果たすことができると伝えた。トルコ大統領府が3日、発表した。
大統領府によると、両首脳はウクライナの穀物輸出問題を話し合ったほか、トルコのアックユ原発建設を計画通り継続する決意を表明。15─16日にウズベキスタンで行われる首脳会議の際にこれらの問題を詳細に協議することで合意した。
●堅調そうなロシア経済、疑わしい公式データ  9/4
ロシアがウクライナに侵攻するとまもなく、米国や欧州各国は矢継ぎ早にロシアに経済制裁を科した。
これを受け、ロシア国家統計局をはじめとする政府機関は、さまざまな経済統計の公表を停止した。輸出入、債務、原油生産量、銀行、航空会社や空港の利用者数など、それまで定期的に報告されていたデータが次々に姿を消した。
だが戦争が長引くにつれ、不可解なことが起きた。ロシア経済は予想以上に堅調だとメディアが報じ始めたのだ。4-6月期の国内総生産(GDP)が前年同期比4%減にとどまったことや、失業率が3.9%と過去最低を更新したことなどがそれを裏付けているという。
このデータの出どころは、米政府や欧州連合(EU)が制裁の効果を測れないよう、わずか6カ月前に経済データの公表をやめたロシア国家統計局だ。
ワシントンの国際金融協会(IIF)で首席エコノミストを務めるロビン・ブルックス氏は「データの質は急降下している」と話す。
戦争が始まるまでに、総じて西側諸国は「もはや手遅れなほど(ロシア大統領ウラジーミル・)プーチンにだまされていた」。イエール大学経営大学院チーフ・エグゼクティブ・リーダーシップ・インスティテュート(CELI)のリサーチディレクター、スティーブン・ティアン氏はこう指摘する。「今やエコノミストやメディアまでがロシア国家統計局のデータを信用し、だまされている。信用するのはまずそうだという、あらゆる警告サインが出ているにもかかわらずだ」
ティアン氏によると、彼らは経済データを額面通りに受け取っている。それがそこにあるから、というのが理由の一つだという。「定量モデルにとって必要なのは、モデルに入れられる時系列データだけだ」
ロシア国家統計局は内訳データの多くを公表していないにもかかわらず、GDPと失業率を算出している。その数字をエクセルに打ち込んでチャートを作成すると、足元の経済収縮は2008年の世界金融危機時ほどひどくはないように見える。
IIF副主席エコノミストでロシア経済専門家のエリナ・リバコワ氏によると、これは偶然ではない。プーチン氏は以前から、国際制裁に耐えうる経済を意味する「要塞(ようさい)ロシア」をスローガンに掲げてきた。「ロシア経済が2008年以上に落ち込んでいるところを見せれば、敗北を認めたことになる」と同氏は話す。
ソ連時代の経済データは信ぴょう性が極めて低かった。今週死去したソ連最後の最高指導者ミハイル・ゴルバチョフ氏は1989年、同国が軍事費の規模を過小報告していたことを暴露。実際は公表値の4倍だったが、ソ連の指導者の多くは実態を知らなかった。同氏の側近は当時、記者団に「自分たちの支出について初めて知った」と語っていた。
ロシアが市場経済に移行し、西側諸国との関係が深化するにつれ、経済データの質は改善した。ロシア中央銀行など一部の経済機関は、プーチン氏が国内で統制を強める中でも、その専門性と独立性が高く評価されていた。
一方でロシア国家統計局は、戦争が始まる前から、独立性とインテグリティー(誠実性)を疑問視されていた。プーチン氏が2017年、同局を経済省の管轄下に置いて以降、公表するデータの質が疑問視されることが増えていった。今も公表されている数少ない統計について、データが中断されていたこと以外にも、信ぴょう性を疑うべき理由がある。
ロシアには制度上の「隠れ失業者」がいることが知られている。従業員の解雇は法的に難しいが、企業は景気悪化時に従業員に無給「休暇」の取得を強制できる。この場合、その従業員は仕事も収入もないにもかかわらず、就業者としてカウントされる。その数は少なくない。2015年の失業率は、隠れ失業者を含めると約2.5ポイント高くなるとの推計がある。
前出のティアン氏や、CELI創設者のジェフリー・ソネンフェルド氏らは7月の論文で、欧米企業の撤退や制裁はロシア経済に壊滅的な打撃を与えているとして、ロシア政府のデータとは相反する見方を示した。ロシアから撤退した企業は1000社以上に上り、売上高合計はロシアのGDPの40%を上回るという。
撤退した事業の一部はロシア人が経営を引き継いでいるため、GDPへの打撃は40%には届かないだろうが、間違いなく4%以上だろう。
CELIの推計では、撤退した企業のうち約500社が完全に事業をやめ、ロシアの労働力人口の最大12%が失業した。一部はおそらく再就職したとみられる。ティアン氏は「失業率は12%とは言わないが、4%よりははるかに高い」と述べた。

 

●ロシアで国際経済会議 中国などと連携強調 欧米対抗のねらいか  9/5
ウクライナへの軍事侵攻をめぐり欧米がロシアに厳しい制裁を科すなか、ロシア極東のウラジオストクでは5日、プーチン大統領も出席する国際経済会議が開幕します。プーチン政権としては、中国などとの連携を強調することで国際的に孤立していないと内外に示し、欧米に対抗するねらいがあるとみられます。
ロシア極東のウラジオストクでは、5日から4日間の日程でロシア政府主催の「東方経済フォーラム」が開催され、60以上の国と地域から企業の代表や政府関係者の参加が見込まれているということです。
ことしのテーマは「多極化する世界への道」で、フォーラムの期間中、ロシアは▽中国とロシアが主導する枠組みの上海協力機構や、▽ASEAN=東南アジア諸国連合に加盟する各国との経済連携の強化などに向け意見を交わす予定です。
ロシアのプーチン大統領は開幕に先立ちメッセージを公開し「時代遅れの一極集中モデルは、新しい世界秩序に取って代わられようとしている」として、アジア太平洋地域、とりわけ中国を重視する姿勢を鮮明にしています。
ウクライナへの軍事侵攻をめぐり欧米がロシアに厳しい制裁を科すなか、プーチン政権としては、会議を通じて中国などとの連携を強調することで、国際的に孤立していないと内外に示し、欧米に対抗するねらいがあるとみられます。
中国 共産党の序列3位 栗戦書委員長が出席へ
中国国営の新華社通信によりますと、ウラジオストクで開催される「東方経済フォーラム」には、中国から共産党の序列3位で全人代=全国人民代表大会の栗戦書委員長が出席するということです。
栗委員長は7日に開かれる「東方経済フォーラム」の全体会合に出席し、その後、今月17日にかけてモンゴル、ネパール、韓国も訪れるということです。
中国では習近平国家主席をはじめ、共産党の最高指導部のメンバーは、おととし、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大して以降、海外への訪問を控えてきました。
中国としては、新型コロナの感染拡大以降、もっとも高い序列の人物をロシアに訪問させることで、台湾情勢などを巡ってアメリカとの緊張が高まる中、ともにアメリカと対立するロシアとの関係を重視する姿勢を示すねらいがあるとみられます。
●プーチンの“怒りの炎”に油を注ぐ「クリミア攻撃」ゼレンスキーが犯した大失策 9/5
世界中の戦闘終結の願いも虚しく、開戦から7カ月目に突入したウクライナ戦争。現在膠着状態が続くこの戦争はまた、地球上の至る所に「綻び」を表出させているようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、それら綻びの数々を列挙し各々について詳しく解説。さらに日本が置かれている厳しい安全保障環境を紹介するとともに、それが決してウクライナ戦争と無関係ではないことを強調しています。
混乱を極める世界で何が起きているか?
先週末より、これまであまり報じられなかったが、実はずっとくすぶり続けていた懸念事項が一気に爆発し、表出してきた気がいたします。
報道はそれでもロシアによるウクライナ侵攻をめぐる情報ばかりですが、その裏では、先週、触れたコソボ問題をはじめ、イラク・イラン、アフガニスタンの混乱と悲劇から、中台間の緊張の高まり、軍事演習を通じた中ロ印の間での綱引き、タイのプラユット政権の揺らぎやロヒンギャ問題をはじめとするミャンマー情勢の混乱など、今後、国際情勢を一気に極限の混乱に陥れ、まさにカオスを引き起こしかねない題材が勢ぞろいです。
それらすべてをカバーすることは不可能ですが、今週号ではすでに情報が得られたものをピックアップしてお伝えします。
最初は「ウクライナ情勢」についてです。
このところ欧米から供与された武器が功を奏し、ウクライナ軍がロシア軍に対して反攻を加え、南部へルソン州やクリミア半島で勢力を挽回しているというニュースが伝えられています。
「ロシアの弾薬がもう底をつき始めている」
「欧米諸国と友人たちによる制裁が効き始めている」
「アメリカから供与されるハイマースなどの武器が、ウクライナ軍に力を与え、今ではロシアを押し返している」
いろいろとウクライナの善戦を伝える内容がもたらされ、その勢いに乗るかのように、ゼレンスキー大統領は「ウクライナに属するすべての領土・権益を取り戻すまで戦う」と再度、勇ましいコメントを配信しています。
ロシアによるウクライナ侵攻から半年が過ぎて、ウクライナ疲れが目立ちだした中、再度、国際社会の関心をウクライナに向けさせ、支援レベルを復活させようという狙いが見えますが、私たちは少し落ち着いて状況を見極める必要があるかもしれません。
その一例が「ロシアの弾薬は底をつき始めている」という情報ですが、これに対してはNATOの一角を担い、対ロシア強硬姿勢を取るドイツの連邦軍幹部が「ウクライナ軍はNATOの支援を受けてロシア軍を押し返しているが、ロシア側の弾薬が切れ、かつ戦意を喪失しているというのは恐らく正しくはない。ロシアは一日数万発の弾薬をウクライナに対して用い、そのなかには旧式でありつつも威力がかなり大きいものがあり、無差別攻撃に投入するだけの余力は持っているようだ」との見解を示しているのは、一考の価値があるのではないかと思います。
ハイマースなどの射程が長く、誘導機能も優れている武器を、トルコから供与されているドローンによる位置把握と合わせることで、確かにロシアの弾薬庫を破壊したり、補給路を断ったりする戦果は挙げていますが、まだまだロシアは量でウクライナに勝っており、一気にウクライナ軍が失地を挽回できるほど事態は甘くないということを物語っているのだと考えます。
そして今回、ロシア側の闘争心に再度点火する可能性がある事態が、クリミア半島への攻撃です。
プーチン氏の怒りの火に油を注ぐクリミア半島への攻撃
2014年に「ロシア人同胞の権利を守る」という旗印の下、緑の戦車部隊と情報戦でロシアが一気にクリミア半島を併合してしまいました。その後、「クリミア半島を取り戻せ」がNATOやその仲間たちの合言葉になり、反プーチン大統領勢力の旗印になっていますが、普段からよく意見交換をしているストラテジストたち曰く、「ウクライナがこの時点でクリミアに触ってしまったのは、戦略上、賢明とは思えない」とのことで、「これを機に、まとまりを欠いてきていたロシア軍の眠りを覚まし、ウクライナに対して決定的な攻勢に出させる機運を高めることにつながるのではないか」と考えているようです。
2014年のクリミア半島の併合は、プーチン大統領にとってはサクセスストーリーとして扱われており、また同時に、旧ソ連解体後一度は近づこうとした欧米諸国との決別を意味する大事な契機と言え、今でも続く高い支持率の基盤となっている事項だと考えられています。ロシア海軍の港での相次ぐ爆破事件は、実行犯は公にはなっていませんが、恐らくウクライナ軍の特殊部隊(注:英国に訓練されているグループ)による仕業と言われており、ウクライナ側もそれを否定していないことから、プーチン大統領とその周辺、そしてロシア軍内での怒りの火に油を注ぐことになったという見解です。
個人的にはクリミア半島をロシアが一方的に併合したことは受け入れられないことですが、戦略的には、「今回のロシアによるウクライナ侵攻の失敗を印象付けるための最後のトドメ」として残しておいてもよかったのではないかと考えます。
ちなみに、一説によると8月30日に亡くなったゴルバチョフ大統領も、それまではプーチン大統領の方針を非難していたにもかかわらず、2014年のクリミア半島併合については支持していたほどで、今回のウクライナ侵攻への非難とは、あえて分けていたとのことですから、「ロシア国内でも反プーチン大統領の勢力が増えてきている」と嬉々として伝える報道内容がどこまで信頼に値するかは疑問ではないでしょうか。
ペスコフ大統領府報道官のようにプーチン大統領のスポークスマンとして表立って発言する人は別としても、クリミア半島へのロシア人の思い入れは侮れませんし、特に自らのサクセスストーリーに泥を塗ったウクライナにどのような一撃をプーチン大統領が加えようとするのか、とても気になります。
次に非常に気になるのがウクライナ南部にあり、欧州最大の原発であるザポリージャ原発を巡る攻防の行方です。
ロシア軍が原発内に駐留し、発電所と関連施設を手中に収めている中、ザポリージャ原発内の施設への攻撃が増加しています。原子炉から100メートルの位置に砲撃が…という背筋が凍りそうな情報も多数ありますが、それが誰の仕業か、こちらもまた真相はわかりません。
一説には「ロシア軍はかなり追い詰められており、やむを得ず原発を盾にウクライナからの攻勢を弱めようとしている」といった内容や、「ウクライナのみならず、ウクライナを支援する周辺国、欧州各国も、場合によっては巻き添えを食らうという状況を作り出しているのだ」という情報もありますが、強ち(あながち)偽りとは言えないでしょうが、これもまた事実とも異なるような気がしています。
ただ原発への偶発的な攻撃が生みかねない影響は、福島第一原発事故の記憶およびチェルノービレ(チェルノブイリ)原発事故の記憶が鮮明に残っている私たちにとっては恐怖以外の何でもなく、原発を戦闘に巻き込もうとしていることは行き過ぎだと思われます。
国際社会の懸念の高まりを受け、原子力の平和利用の確保を司るIAEAの調査団(グロッシー事務局長を含む)がザポリージャ原発の状況を調査すべくウクライナ入りしていますが、その効果は未知数です。
ロシアがザポリージャ原発に駐留し続けている理由
一応、ロシア政府は協力の姿勢を示していますが、原発からのロシア軍の撤退は「今回の受け入れの議題にはない」と受け入れない姿勢で、現在、原発をコントロールしているロシア軍がどれほど協力的かはわかりませんし、恐らくさほど期待はできないでしょう。
そうすると、IAEAの調査団による調査の有効性に疑問が呈されることになります。
今回の調査は本格的になるのか?それともただの見せかけなのか?
それはこれから見えてくると思いますが、各国の原子力の専門家は「本気なら、長期にわたって調査団はザポリージャ原発に残り、事態を見極めないといけない」と発言し、IAEAが計画している数日間の“調査”の有効性に疑問を呈しています。
とはいえ、長期に原発内に留まるのは、言い換えると国際的な専門家たちを今回の紛争における“人間の盾”化してしまうことも意味しますので、今回の調査団を“いかに有効的に使うか”を戦略的に考える必要があります。
ロシアが原発に駐留しているのは、切羽詰まっているからというよりは、戦闘とは別にウクライナ経済の生活インフラを締め上げるという別の作戦であると思われます。
それは、ちょっと強引かもしれませんが、ロシアに重度の制裁を課す欧州各国への“復讐”としてパイプラインのバルブを閉め、欧州各国(ドイツ、フィンランドなど)を締め上げている戦略に似ている気がします。
そしてロシアが切羽詰まっているか否かについては、4年ぶりに開催される大規模な軍事演習(東方戦線対応)の様子を見ればわかってくるかと思います。
そこに中国のみならず、中国を警戒し、ロシアとの適切な距離を保ちたいインドも参加し、他にスタン系の国々を含め、計12か国の軍が参加するのを、私たちはどう評価すべきでしょうか?
ロシアにはまだ余力があるのか?ロシアの関心は、中国と共に、東にも向けられているのか?ロシアとしては制裁を嘲笑うかのように、自らの支持者の存在を示したいのか?
これらの問いへの答えは、しばらくすると見えてくると思います。
さて、ここでウクライナ情勢から離れますが、ウクライナを舞台に鮮明化した綻びは至る所で表出してきています。
その一例が、イラクで爆発した大規模な武力対立です。
先の総選挙で多くの支持をえたサドル派(シーア派)は経済的に困窮する民からの支持を得ており、現政権がアメリカ撤退後のイラクの状況を改善できていないことに反発して、派の長であるサドル師(自らは議員ではない)が現政権の無能さに抗議するために政治からの引退を表明し、それに呼応した支持者たちが大規模デモを起こし、それが今週、武力による対立に発展したというシナリオです。
サドル師の“引退”宣言は実際にはサドル派を支持する民衆を動員するための作戦だと思われますが、結果として、ただでさえ政治基盤が脆弱な現政権の無力さがクローズアップされ、元々問題視されていた民族間・宗派間のいざこざに再点火して、今や、全土的な対立に発展しています。
まさしく内戦状態です。
その異常さは、首都バクダッドで政府機関が集まり、かつ外国の公館が集まるGreen Zone(イメージでは、東京の永田町・霞が関!?)まで紛争の火の粉は及んでおり、政府機能がマヒしていることを国内外に示す羽目になっています。
異常な状態を受け、イランは国境を閉じ、イラクへの直行便も止めるという措置を取っていますし、各国も大使館員を国外に避難させる措置を取ったようです。
ちなみに、サドル師はシーア派ですので、イランの暗躍が疑われそうですが、サドル派はイランとも対立関係にあるとされ、イラン政府も公式にも非公式にも関与を否定し、火の粉が飛んでこないように気を付けているようです。
一度は勢力を失ったとされるイスラム国が復活か
これが何を生むかと言えば、残念ながら一度は勢力を失ったとされるISの復活の兆しで、それはイラクの国としてのintegrityを失わせ、周辺国に対して再度、恐怖を投射することに繋がっています。
そしてそれは、滅茶苦茶にするだけして立ち去ったアメリカ政府とアメリカ軍への非難にもつながっているのですが、その影響については、またの機会に。
アメリカが立ち去り、ISが台頭し始めたと言えば、アフガニスタンを襲っている悲劇から目をそらすわけにはいきません。
8月30日で米軍の最後の飛行機がカブール国際空港を飛び立ってからちょうど1年が経ちますが、支配を取り戻したタリバン勢力は、国際的に正当な政府として承認されていないばかりか、日々、ISなどからのテロ攻撃に遭い、アフガニスタンに安定をもたらすことができていません。
アフガニスタンも例外なく、コロナのパンデミックの影響を受け、そこに大地震などの災害にも見舞われたことで、国民生活は破綻し、栄養失調の子供の割合が異常なレベルに達しているようですが、タリバン勢力に対する政府承認がまだほとんど存在しない中、国連も緊急安保理会議を開催したものの、懸念が表明されるだけで具体的な策が講じられないという悪循環に苦しめられています。
タリバンと言えば、女性の権利をはく奪しているという点がよく非難対象でクローズアップされますが、それ以外にもまったく国を動かすにあたってのキャパシティーが足りていない点を無視することはできません。
結果的にISによるテロを生み、それを抑えるために、一度は縁を切ったはずのアルカイダとの接触が噂されるなど、状況は悪化の一途を辿っています。
「イラクの状況や、アフガニスタンの状況のひどさについては分かったけど、それがウクライナとどう関係があるのか?」という質問があるかもしれませんが、これらのケースでも、ウクライナでの戦争で生じた国際社会の分断が影響しています。
イラクやアフガニスタンのケースに対しては、ウクライナ前は、主導権争いは存在しても、欧米諸国も、日本も、ロシアも中国も、そして周辺国も、経済的な権益の拡大という狙いの下に支援が行われてきました。それらの支援は国連を通じたものが多く、必ずしも効率的に支援が行われたとは言えませんが、まだ“協調介入”という特徴は残っていました。
ウクライナでの戦争がはじまり、世界が三極化する中、イラクやアフガニスタン、ミャンマーなどでの混乱や悲劇に対する非難や懸念の表明は行われるものの、支援とは程遠く、あくまでも“自らのサイド(極)に引き付けるため”という政治目的を持った接触に過ぎず、腰の据わった寄り添う形の支援は行われていません(ちなみに、ミャンマーのケースは別として、この寄り添い型の支援が上手なのが実は日本で、支援は継続されています)。
「とても気にはなるし、懸念を持っているけれど、今は具体的な策は講じられない」
ウクライナでの戦争をめぐる“陣地争い”の下、イラクもアフガニスタンも、じつは国際協調や支援が行き届かない悲劇の象徴になってしまっています。
これにはいろいろな方からご批判や非難があるかもしれませんが、もし私の思い過ごしや誤解であれば、指摘してくださいね。
しかし、私の知る限りでは、イラクやアフガニスタンの惨状については、皆、話すたびにため息をつき、懸念を述べるのですが、手は差し伸べられていないのが現状でしょう(そして、先週号で触れた第3極の国々にとっても、イラクやアフガニスタンは対象外のようです)。
振り上げた拳を下げるタイミングを逸している中台
イラクやアフガニスタンから国際的な関心や具体的な策を奪っているのが、中台間で目立ってきた緊張の高まりです。
ペロシ議長の訪台に始まり、私の記憶が正しければ、8月末までに4回、アメリカの連邦議会議員団が台湾を訪れ、アメリカの台湾支持を明確に打ち出しています。
これはペロシ議長の訪台後の「台湾は、アメリカにとって本当に支援する相手かどうかを見極めに行ったが、まさに中国に面しつつ、民主主義を堅持する友人であることが明らかになった」という発言を受けての大きな波ですが、10月16日に5年に一度の共産党大会を控え、自らの3期目の承認を控える習近平国家主席とその指導部にとっては、看過できない状況を作り出しています。
実弾を用いた大規模かつ本格的な軍事演習の実施や、経済的な制裁措置などを用いて台湾への圧力をかける北京政府ですが、アメリカの後ろ盾を得たと信じている蔡英文総統も負けじと最前線に赴き、中国への徹底抗戦を宣言して、もう双方、振り上げた拳を下げるタイミングを逸している状況になっています。
どこまでバイデン政権の対中・対台湾政策と合致しているかは精査が必要ですが、確実に11月以降の火種が生まれていることは確実でしょう。
ここでカギとなるのが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて欧米諸国がロシアに課した経済制裁が“本当に”どれほど効いているのかという内容についての精査結果です。
全く効果がないとは言えませんが、かといって当初、予定していたほどの効果は出ておらず、天然ガスというエネルギー資源、金属や木材の資源、穀物…様々な“もの”を武器に、対ロ制裁の包囲網が崩されているのは事実です。
欧州各国については、エネルギーというインフラを握られ、ノルドストリームI経由のガス供給をテコに、プーチン大統領との我慢比べを強いられています。結果として、口先では厳しい口調でも、実際の制裁措置については及び腰になっているNATOの国もあります。
そこに第3極のインドがロシア産の石油と天然ガスを引き受けて、精製の上、国際マーケットに流すという“穴”が生じていますし、エネルギー需要が増え続ける中国も安価にロシアから供給を受けることで恩恵を被っています。そしてトルコについては、ウクライナにドローン兵器を売りつけながら、ロシアともしっかりと交易を続けていますし、UAEもサウジアラビア王国もロシアと非常に密接な関係を保つことで、経済的な恩恵を受けています(UAEについては、ドバイ─モスクワ間でエミレーツ航空が毎日7便直行便を運航しており、ほぼ満席だとか)。
このような距離感は、中国との距離感や台湾との距離感にも直接的に反映されています。
以前にもお話ししましたが、サウジアラビア王国もUAEも、多くのアフリカ諸国も、中国との関係を重視して、台湾関連の国際案件にはことごとく反対票を投じますし、中国が主張する“台湾観”に対して賛同し、欧米諸国を中心に、台湾海峡の問題を国際案件にすることに強く反対するという勢力となっています。
この勢力、ロシアによるウクライナ侵攻に対する各国の反応をベースに見えてきた第三極の国々と見事に一致します。
そうしてみた時、ちょっと注意深くシナリオを練ってみてくださいね。
仮に中台間で武力衝突が起きた際、どのような状況が見られるでしょうか?
中国への対峙の最前線を台湾と日本に押し付ける米国
一つ目は国際的な対中制裁の発動にどれほどの国々が賛同するかですが、これはほぼ、今回のロシアに対する制裁への賛同国・反対国・棄権国のリストと一致してくるものと思われます。
おまけにロシア経済の規模(世界第10位か11位)に比べると、中国の経済規模はかなり大きく、どこまで世界1位か2位と言われる中国経済に“楯突くことができるか”を考えた際、ロシアに対するケースよりも、経済制裁の効果は薄れるでしょう。
そして、インドは知りませんが、中東諸国は、中国と25年間にわたる戦略的パートナーシップ協定を結ぶイランも含め、中国をバックアップすることになると予想されます。ゆえに、対中経済制裁は、さほど影響を持たないと思われます。
二つ目は、軍事的な視点です。これは今回のロシアによるウクライナ侵攻の状況を見れば分かります。ロシアの侵攻に対しては各国から非難が寄せられ、欧米諸国については、NATOの枠組みを通じた武器弾薬の支援が行われていますが、ロシアと直接的に軍事的な対峙は行っていません。
この状況に鑑みると、仮に中国が台湾に対して軍事侵攻を行った場合、各国からの非難は寄せられるでしょうが、軍事面では直接的に対中戦に参加せず、あくまでも台湾支援に限られるように思われます。
言い換えると、アメリカは台湾を全面的に支援するというものの、台湾有事の際に軍事介入はしてくれないと思われます。
勝手な妄想かもしれませんが、菅政権時代にバイデン大統領との間で「日本の防衛力強化」と「アジア太平洋地域における役割の増大」について合意されていますが、少し穿った考え方をしますと、台湾有事が勃発した際、極論を言えば、米軍は直接的には動かず、台湾と日本に軍事的な支援を行って、中国への対峙の最前線を台湾と日本に“押し付ける”ような気がしてなりません。
以前、中国の軍関係者やストラテジストと話した際には「日本と戦うなんて大それたことは考えていない。中国は中越戦争以降、実戦を経験していないし、ましてや世界を相手に戦ったことは近代においてはない。負けてもアメリカや世界と戦った日本の恐ろしさはよく知っている」とのことでしたが、有事の際、もし日本が意図せず、アメリカに支えられる形式で前線にいて、中国と対峙していたとしたらどうでしょうか。
そしてそこに北朝鮮がちょっかいを出して来たら?そして、その時、韓国はどちら側についているのか?そして、今回の4年ぶりの大規模軍事演習が“東”を対象にしているロシアはその時、どのように動くか?
このように考えたら、大げさかもしれませんが、我が国日本を取り巻く安全保障環境はとてつもなく厳しいものであることは想像できるかと思います。
そして、それは、決して現在進行形のウクライナでの戦争とは無関係ではないこともお分かりになるかと思います。
まとまりのない内容になったかもしれませんし、突拍子もないようなお話だとお感じになるかもしれません。
しかし、国際情勢を俯瞰的に眺めてみた際、このような分析もあるのだとお考えいただき、皆さんのお考えの一助にして頂ければ幸いです。以上、国際情勢の裏側でした。
●軍事作戦「継続」48%、「和平協議」44%で世論二分 ロシア世論調査 9/5
ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」は1日、ウクライナ侵攻について最新の世論調査結果を発表した。プーチン政権が「特別軍事作戦」と呼ぶ侵攻について、「継続」と「和平交渉」で意見が二分している状況が明らかになった。2月の侵攻開始から半年以上が経過し、えん戦ムードが拡大している可能性もある。
今回の調査は8月下旬に実施され、約1600人を対象とした。調査結果によると、「作戦を継続すべきだ」との回答は48%だったのに対し、44%は「和平協議を開始すべきだ」と答え、「ほぼ二分した」(同センター)形となった。このうち40歳以上は作戦継続支持が多かったが、18〜39歳では過半数が和平交渉を望んでおり、若い世代ほど戦闘終結を願っている傾向が浮き彫りとなった。
一方、「特別軍事作戦」自体への評価は「支持」が46%、「どちらかといえば支持」が30%で、7割以上が軍事行動を支持していた。
●オリガルヒ不審死¢ア出のウラ側 「プーチンの指示とみて間違いない」 9/5
ロシアの新興財閥幹部=オリガルヒの死亡報道が止まらない。ロシアの国営タス通信は1日、ロシアの石油大手ルクオイルのラビル・マガノフ会長(67)が入院先の病院の窓から転落して死亡したと報じた。ロシア当局は自殺としているが、今年に入ってオリガルヒ幹部は少なくとも8人が不審死を遂げており、世界中で反プーチン派を狙った暗殺を疑う声が上がっている。
自殺、一家心中、原因不明…。今年に入ってロシアではさまざまな形でオリガルヒ幹部の死亡が相次いでいる。旧ソ連崩壊後、現在のプーチン大統領ら政府が支援する形で急成長したオリガルヒだけにプーチン氏とは蜜月関係だったが、今年2月のウクライナ戦争勃発以降、急速に関係が悪化していった。
元警視庁刑事で日本安全保障危機管理学会インテリジェンス部会長の北芝健氏はこう話す。
「プーチンがオリガルヒの急成長を支援する見返りに資金面で援助を受けていたのは有名な話。しかし、プーチンの独断で始まったウクライナ戦争で、西側諸国の制裁を受ける立場になったオリガルヒは、ウクライナ戦争反対を表明するようになった。これがプーチンに裏切りと映り、次々に不審死を招く結果になっていると欧米の情報機関は見ている」
1日に自殺したとされるマガノフ氏は表だってウクライナ戦争を批判していたオリガルヒの一人だった。
4月にはロシア大手銀行ガスプロムバンクの元副社長が、拳銃で無理心中をはかり死亡したと当局が発表したが、使われた拳銃はロシア特殊部隊のものだったことが明らかに…。さらにこの翌日にはエネルギー大手ノバテク社の元副会長も無理心中で死亡したとされ、にわかに信じがたい事件が連続している。
「プーチン政権下では銃や毒物のほか、放射性物質まで使用した不審死事件が数多く起こっており、一連のオリガルヒの不審死はプーチンの指示とみて間違いない。過去にプーチンは人を殺したことがあるか聞かれ、『それは、自分の手を汚したことがあるか、ということか?』と答えたが、反逆者を抹消するためなら何でもアリな人間だ」(北芝氏)
一方で反プーチン派も「目には目を」の強硬策に出始めている。先月20日、プーチン氏を支えると言われる極右思想家が乗る予定だった車が爆発炎上。乗っていた同思想家の娘が爆死した。
かなり近いとされる人物を狙った暗殺未遂だけに、プーチン氏にも暗殺の手が近づいているのかと思いきや、北芝氏は「超厳戒態勢を敷くプーチンを狙撃で暗殺することは不可能。また毒見役が存在するため毒殺もできない」とプーチン暗殺の可能性を否定した。
一方で「今後もウクライナ戦争に反対するオリガルヒ幹部の暗殺は続くでしょう。ガスプロムバンクの副社長の死亡現場にロシア特殊部隊の拳銃が残されていたのは、『私に反逆したらこうなるぞ!』という暗示だ」と示唆。まだまだおそロシア≠ネ状況は続きそうだ。
●ロシア産ガス、上限価格設定必要=フォンデアライエン欧州委員長 9/5
欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は2日、ロシアのプーチン大統領にEU域内のエネルギー市場を操作するもくろみがあり、これを頓挫させるにはロシアからパイプラインで供給される天然ガスに上限価格を設けるべきだとの考えを表明した。
また、ガス供給危機によって電力会社が棚ぼた式に得た利益の一部を徴収し、苦境にある市民や企業の支援策に活用する政策を策定するよう促した。
フォンデアライエン氏は、記者団に対して「パイプラインで欧州に供給されるロシア産ガスについて、価格に上限を設ける時期が来たと固く信じている」と語った。
その上で「価格上限は欧州レベルでの提案が可能であり、危機的な時代に緊急対策として一時的利益を徴収する法的根拠も欧州レベルで存在する」と付け加えた。
ロシアのメドベージェフ前大統領はフォンデアライエン氏の発言を受けて、EUがロシア産ガスの上限価格設定を進めた場合には供給を停止する可能性を警告した。 
●ウクライナ・ヘルソン州の住民投票、治安理由に中断=タス通信 9/5
ウクライナのヘルソン州で実施予定のロシア編入の是非を問う住民投票について、ロシアが設置した行政当局者は5日、治安情勢を理由に「一時停止」されたと述べた。ロシア国営通信タスが報じた。
報道によると、ヘルソン市近郊のドニプロ川に架かる重要なアントニフスキー橋は、数週間に及ぶウクライナの砲撃で車両の通行ができない状態という。
ヘルソン州は、ロシアの侵攻開始後まもなくロシア側に制圧されたが、ウクライナは先週、奪還を目指し本格的な反攻を開始したと発表した。
●ウクライナ軍、南部と東部で3集落を奪還… 9/5
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4日のビデオ演説で、ウクライナ軍が南部と東部ドネツク州で露軍から計3か所の集落を奪還したと宣言した。ウクライナ軍は8月29日にヘルソン州など南部の領土奪還に向け反転攻勢に乗り出しており、戦果を強調することで士気を鼓舞する狙いがあるとみられる。
ゼレンスキー氏は南部で2か所、ドネツク州では1か所の集落を「解放した」と述べ、ウクライナ軍の奮闘を称賛した。南部の集落はヘルソン州内とみられる。ドネツク州は露軍が全域制圧を目指しているものの、攻略に手を焼いている。
大統領府長官や副長官は4日、それぞれのSNSに、自国兵士が建物の屋上でウクライナ国旗を掲げる写真を投稿した。大統領府長官は「一歩一歩」とのメッセージを付けた。写真は、東部ドニプロペトロウシク州と隣接するヘルソン州北部の集落で撮影されたとみられている。
ウクライナ軍は、露軍が3月に全域制圧を宣言したヘルソン州を中心に多方面で反撃を強化しているが、領土奪還作戦の進展状況については情報統制を敷いている。ゼレンスキー氏もビデオ演説で奪還した集落の詳細には触れなかった。
露国防省は4日の戦況に関する発表で、ウクライナ軍の反撃を「成功しない試み」と表現し、領土を奪還されたことを認めていない。露軍はミサイル攻撃や砲撃で対抗している。
ウクライナ国営通信によると、ヘルソン州に隣接する南部ミコライウ州の穀物貯蔵施設が4日、砲撃を受け、穀物数千トンの被害が出た。ウクライナ軍参謀本部は4日、露軍がミサイル14発を発射し、15回以上の空爆を行ったと説明した。
●プーチン大統領、「志願兵」集めで大企業にノルマ… 9/5
ロシアで徴兵問題を専門に扱う人権団体の幹部は3日、自身のSNSで、プーチン露大統領がウクライナ侵略作戦に派遣する兵員を確保するため、国内の大企業などを対象に契約軍人として志願させる従業員数のノルマを割り当て始めたと暴露した。国営のロシア鉄道は1万人を集めるよう指示されたとしている。
ロシア鉄道の内部情報として、待遇などの詳細が書かれた文書も公表。契約軍人となれば、会社側と露国防省が計40万ルーブル(約92万円)の一時金を支払い、従軍中は月給30万ルーブルやボーナスの支給などを約束しているという。プーチン政権は、強制動員による国民の反発を警戒し、様々な手法で「志願兵」を集めているが、難航が伝えられている。
●ロシア極東で経済フォーラム開幕 中印接近、7日にプーチン氏演説 9/5
ロシア極東ウラジオストクで5日、第7回東方経済フォーラムが開幕した。ウクライナ侵攻で欧米の対ロシア制裁が強化される中、経済活動の維持や非欧米諸国との協力について話し合う。プーチン大統領は7日の全体会合で演説し、制裁に屈しない姿勢を改めて強調する見通しだ。
7日の全体会合には親ロシア的なアルメニアのパシニャン首相、モンゴルのオユーンエルデネ首相、中国の栗戦書・全国人民代表大会常務委員長(国会議長に相当)、ミャンマー国軍のミンアウンフライン総司令官らが参加する。2国間会談も予定されている。
さらに、インドのモディ首相、マレーシアのイスマイルサブリ首相がビデオメッセージを寄せるという。ウクライナ侵攻で孤立するロシアは、中国に続いてインドにも接近しており、インド太平洋地域を重視する米国が懸念している。
今回のフォーラムは「多極化する世界へ」をテーマに据え、米国の一極支配に強く異を唱えている。開幕に先立ち、ペスコフ大統領報道官はタス通信に「欧米の非論理的でばかげた行動が世界的な嵐を引き起こしたが、ロシアはマクロ経済の安定を維持している」と主張。物価上昇や食料危機は、制裁に起因するとの認識を示した。
プーチン氏は6日にウラジオストクで、中印も参加する大規模軍事演習「ボストーク(東方)2022」を視察する。1日の最西端の飛び地カリーニングラード訪問に続き、5日は極東カムチャツカ半島に滞在。11日の統一地方選を前に地方重視の立場をアピールし、政権与党「統一ロシア」を支援する狙いとみられる。
●プーチン政権、反ロ路線に警戒 英保守党首選 9/5
ロシアに強硬姿勢で臨むトラス英首相の誕生をプーチン政権は警戒している。タス通信によると、スルツキー下院外交委員長は5日、「トラス氏の立場に幻想を抱くことはあり得ない」と述べ、現実的に対応する考えを表明。「ロシア嫌いでエネルギー・食料価格上昇を解決できるとも思えない」と皮肉った。
下院外交委所属のベリク議員も、ジョンソン政権で生まれた反ロシア路線がトラス氏によって「継続・強化される」と厳しい見通しを示した。
●習近平氏が2020年1月以来の国外、カザフ訪問へ… 9/5
インターファクス通信によると、中央アジア・カザフスタン外務省報道官は5日、中国の習近平(シージンピン)国家主席が14日、カザフスタンを訪問することを明らかにした。新型コロナウイルスへの感染を強く警戒しているとみられる習氏が国外に出るのは、新型コロナ感染拡大前の2020年1月にミャンマーを訪問して以来となる。
習氏は、翌15日にウズベキスタンのサマルカンドで開幕する上海協力機構(SCO)の首脳会議に出席するものとみられる。SCO首脳会議には、ロシアのプーチン大統領が出席する見通しとなっている。習氏とプーチン氏は、ロシアがウクライナに侵略する前の今年2月初旬に北京で対面会談している。それ以来、初めてとなる対面での中露首脳会談が開催される可能性がある。
中国は対露制裁を行う米欧を非難している。台湾問題を巡っても米国との対立が深まる中、習氏は外遊を通じてロシアとの連携を強化する考えとみられる。中露が主導するSCOにはインドやパキスタン、中央アジア各国が参加する。欧米とは一線を画す立場の国々との協力も確認する見通しだ。
中国は10月に、5年に1度の共産党大会を控えている。習氏がこのタイミングで外遊に踏み切るのは、異例の3期目入りに向けた党内の調整などが順調に進んでいることの表れとも言えそうだ。
カザフ外務省報道官は、習氏がカシムジョマルト・トカエフ大統領の招請に応じたと説明した。中国は、エネルギー資源が豊かなカザフとの関係を強めてきた。巨大経済圏構想「一帯一路」の要衝とも位置づけ、重要視している。
●ロシア国民が持つロシアン・イデオロギーの正体 9/5
ウクライナ侵攻による経済制裁後もロシアでのプーチン大統領の支持は、堅持されている。数年ごとに軍事行動を起こす指導者をなぜロシア国民は支持し続けるのか。
本稿では元ロシア外交官である亀山陽司氏著『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』より、ロシア正教とロシアン・イデオロギーについて説明する。
イワン・イリイン(1883-1954年)は、ソビエト政権に否定的であったため、祖国を追放された思想家である。彼は在外白系ロシア人の組織である「ロシア全軍連合(ROVS)」のイデオローグとしても知られる。スイスで死んだが、ソ連崩壊後、その遺骨はモスクワに埋葬された。
現在、ロシアでその著作が次々に発刊されている。プーチン大統領もその演説の中でしばしばイリインに言及しており、プーチン大統領の政治思想に大きな影響を与えている人物であると考えられる。
正教会の信仰は“ロシア”そのものへの信仰
イリインは熱心な正教会の信徒であり、正教信仰をロシア国家にとって最も重要な思想だと考えていた。イリインが「ロシアのナショナリズムについて」という書の中で「我々はなぜロシアを信じるのか」と問うている。イリインはソ連を否定していたが、祖国に対する愛は強く抱いていた。
「我々ロシア人は、どこに住み、どんな状態にあったとしても、祖国ロシアに対する悲しみを逃れることはできない。これは自然で避けがたいことだ。この悲しみは我々を見捨てることはできないし、そうするべきではない。それは祖国に対する我々の生き生きとした愛情と信仰の現れなのだ」と書いている。
イリインによれば、ロシア人であるということは、ロシア語を話すことだけを意味するのではない。「ロシアを心から受け入れ、愛をもってロシアの価値ある独自性を見て、その独自性がロシア人に与えられた神の賜物であることを理解する」ことである。
イリインは、チュッチェフの「ロシアをただ信じるのみ」というフレーズを挙げ、ロシアへの信仰は不可欠であり、ロシアへの信仰なくしては生きることもロシアを復興させることもできないという。そして、ロシアを信仰するとは神においてロシアを見ることだとする。
イリインは反共主義者として、ロシア帝国の再興を望んでいたわけだが、その思想にはロシアン・イデオロギーの核心が表現されていると思われる。ここでいうロシアン・イデオロギーとは、ロシアの歴史を通じてロシアの権力および国民の中で自然に形成されてきたロシア固有のナショナルな価値観のことである。
ロシアの政治的イデオロギーや文化的イデオロギー、そして宗教的イデオロギーは、このロシアの基盤的イデオロギーに結びついていると考えられる。ロシアン・イデオロギーをあえて定義するとすれば、以下のようなものとなるだろう。
“ロシア”とは偉大な祖国であり、この祖国“ロシア”への愛と信仰によって、ロシアの偉大さを擁護し、発展させようとする愛国主義的価値観である。この“ロシア”とは、国土、歴史、文化、そしてロシア正教によって形成された1つの文明圏であり、大国である。大国であるとは、ロシアの偉大さの政治的表現であり、世界の命運の鍵を握っていることである。
少し大げさなようだが、ロシア人の価値観というものは、まさに祖国に対するパトリオティズムである。2008年のジョージア(グルジア)紛争も、2014年のクリミア「併合」も、2022年のウクライナ侵攻も、日本を含め欧米の自由民主主義の価値観から見ればまったく理解できない行動である。それにもかかわらず、ロシア国民はプーチン大統領を支持し、祖国ロシアの行動を肯定している。
これは、プーチン個人への信頼というわけではないだろう。そうではなく、ロシアという祖国に対する信頼であると考えざるを得ないのである。
2020年憲法改正で注目すべき側面
2020年の憲法改正については、プーチン大統領の5期および6期を可能にする修正ばかりがクローズアップされたが、むしろ、ロシアン・イデオロギーの定式化という側面こそが重要だったのではないだろうか。
このロシアン・イデオロギーは、祖国愛、パトリオティズムに立脚するものであり、ナショナルな価値観である。ソ連社会において支配的であったような政治的な国家イデオロギーではないことに注意が必要である。これについては、大統領就任直前にプーチン大統領が発表した論文「千年紀の境にあるロシア」(1999年12月30日)で明記されている。
プーチンは、「ロシア的理念」と題された章で、ロシアは内的分裂状態にあるが、こうした内的分裂状態は1917年のロシア革命の時代、1990年代のソ連崩壊後の時代に見られるものだとし、ロシアの現状をロシア革命の時代になぞらえる。
そして、ある種の政治家や学者が呼びかけている「国家イデオロギー」の創設について、こうした用語は知的、精神的、政治的自由がなかったソ連時代を連想させるため適切ではないとし、国家の公式イデオロギーの復活に反対するのである。そして、いかなる社会的合意も自発的なものでしかありえないとする。
プーチンにとっては、分裂したロシア社会の統合に必要なものは政治的な公式(官製)国家イデオロギーではなく、根源的で伝統的な価値観なのである。そして、そのような価値観として、パトリオティズム、大国性、国家主義、社会的連帯を挙げる。
根源的で伝統的な価値観4つの意味
パトリオティズムは、大部分のロシア人にとって肯定的な意味を有しており、祖国、歴史、そして偉業に対する誇りである。パトリオティズムを失えば、ロシア人は偉業を達成することができる民族としての自己を喪失するだろうというのである。
大国性については、ロシアは偉大な国家であったしそうあり続けるという。大国性は、ロシアの地政学的、経済的、文化的存在と分かちがたい性質である。大国としての能力とは、軍事力である以上に、自らの安全を確保し、国際社会における国益を擁護する能力であるという。
国家主義については、ロシアはアメリカやイギリスのようにリベラルな価値観が歴史的伝統となっている国の焼き直しにはならないという。ロシアにおいて、国家(権力)とは、国や国民の生活において極めて重要な役割をはたしてきた。強力な国家権力はロシア人にとって異常なことではなく、秩序の保証であり、改革の主唱者であり主要な原動力なのだ。
最後に社会的連帯だが、ロシアにおいては個人主義よりも集団的形態が優先していたとされ、ロシア社会では家父長的な傾向が根付いていたという。生活の改善というものを自己の努力よりも国家と社会の支援に結びつけて考えたのである。こうした傾向は現在も支配的であり、これを考慮して社会政策を考えなければならないとする。
その上で、ロシアには強力な国家権力が必要であると結論付けるのである。
こうしたプーチン統治の初期のプログラムを改めて振り返ると、そこに通底する思想が見えてくるのである。パトリオティズム、大国性、国家主義、集団性といった要素は、スラヴ主義者の主張に通じるものである。先に定式化した基盤的イデオロギーとしてのロシアン・イデオロギーにも妥当するものである。民主主義と資本主義といった西側の(普遍的な)価値観を受け入れはするが、それはあくまでもロシアの伝統に則った形でなければならないのである。
●ユーラシアも支配する…「プーチンの教祖」が解説する大統領の野望 9/5
ロシアの著名思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリヤ・ドゥーギナ氏が、8月20日、モスクワ郊外で自動車ごと爆殺された。この車をドゥーギン氏が利用する予定だったことから、犯行はドゥーギン氏を狙ったものとみられている。ドゥーギン氏とは一体どんな人物なのか。ロシア思想を専門とするフランス人哲学者、ミシェル・エルチャニノフの著書『ウラジーミル・プーチンの頭のなか』(すばる舎)より紹介する――。
プーチンを知る上で重要な「ユーラシア主義」という野望
ウラジーミル・プーチンがまだロシアの大統領代行だった2000年、「ロシア 東側諸国の新しい展望」と題された記事で、このように言っている。
「ロシアは自らをユーラシアの国であると認識してきた。私たちはロシアの大部分がアジアの中に位置しているという事実を忘れたことはない。しかし、私たちがこれまでその事実を有効に活用してこなかったことも確かである」
つまり、これからのロシアはヨーロッパではなく、アジアの方を向いた政策に切り替えていく、という姿勢がここで示されたのだ。アジアへの歩み寄りはある計画の始まりを意味する。
ヨーロッパに対抗するような新たな勢力をアジアと協力して作り上げる、という計画だ。ヨーロッパともアジアとも異なる新たな枠組み、ロシアを中心としてヨーロッパとアジアにまたがる地域、つまりユーラシア地域をロシアが支配するという、「ユーラシア主義」のことである。
なぜシベリアやロシア極東地域の発展を最優先したのか
13年後、大統領としての第3期目が開始した日、プーチンはその新たな一歩を踏み出す態度を表明している。
「私たちは長く困難な道を共に歩もうとしています。私たちは自分自身や自分たちの力に自信を持ち始めました。これまで私たちは国を強く育て上げ、大国としての誇りを取り戻したのです。全世界がロシアの復活を目の当たりにしているのです。(……)私たちはあらゆる手を尽くしてさらに前進してまいります」
いったい彼は何を目標として前進していくというのか。それは、「リーダーとしてユーラシアを束ねていく」ということだ。しかし、この後プーチンが具体的にどのような計画を打ち出すことになるかなど、誰にも予測できてはいなかった。
一人プーチンのみがそれをほのめかしていたのである。
「これから数年間のうちに起こることは、さらにその先、数十年のロシアの行く先を決定する重要なものごとです」。
プーチンの壮大な計画が示されることとなるのは、その年の終わりのことである。プーチンはこの時、シベリアやロシア極東地域の発展こそが、「21世紀ロシアにとっての最優先事項」であると語った。
こうして、東欧、アジア、極東・シベリアというユーラシア地域をまとめるリーダーとなる野望が示されたのだ。
「ロシアこそがユーラシアを一つにまとめている」
ユーラシア主義の誕生は1920年代である。
ロシア革命の後、プラハやウィーン、ブルガリアのソフィア、ベルリン、パリといった都市へと移住していった思想家たちによって構想されたのだ。その代表者の一人が、地理学者で経済学者のピョートル・サヴィツキーである。
彼によれば、ウラル山脈によってヨーロッパとアジアとを分割するのは誤りであり、両者を合わせたユーラシアをアメリカ、アフリカに次ぐ“第三の大陸”と考える必要がある。その地域は一つのまとまりとして、「地理的に見た場合の独自の世界」を形成している。
そのまとまりが「ユーラシア」であり、ロシアこそがその中心となる。
サヴィツキーはその根拠として、植物相が共通していることを挙げる。ユーラシア地域は東から西にかけて、ツンドラ、タイガ、ステップ、砂漠といった地帯が絡み合い、三つの平原がそれらのユーラシア一帯を北から南までつないでいる。
このような条件下で、ユーラシアは植物相の観点からも一つの地域として見ることができるというのだ。地理的な起伏から言っても(ウラル山脈が便宜的にヨーロッパとアジアを分かつ「偽りの境界線」となっているのを除いて、この地域には大きな起伏は存在しない)、気候から言っても、この一帯には共通性が認められる。
ユーラシア大陸内では多様な要素が共存するだけではない。だからこそ、世界の中でユーラシアを地理的な一つの大きなまとまりとすることができるというわけだ。サヴィツキーはまた、ロシアこそがユーラシアを一つにまとめているとも言う。
「ロシア=ユーラシアは、旧世界(アメリカ大陸発見前の世界、ヨーロッパ・アジア・アフリカ)の中心である。この中心を取り払ってしまえば、ユーラシア大陸の辺境地域(ヨーロッパ、近東、イラン、インド、インドネシア、中国、日本)は『雑多な組み合わせ』に過ぎなくなる」
「ロシアは、ヨーロッパの国々の東と、『古い定義における』アジアの北に広がる広大な国で、ヨーロッパとアジアとをつなぐ重要な位置にある。ロシアこそがユーラシアを一つにまとめているという事実はこれまでも明らかであったが、将来、より重要な事実として認識されることになるだろう」
プーチンの教祖・ドゥーギン
ユーラシア主義はソビエト時代には注目を集めることはなかったが、冷戦終結後、1990年代になって、再評価されることとなる。
そんな新たなユーラシア主義(ネオ・ユーラシア主義)の思想家の中で、最も有名な人物はアレクサンドル・ドゥーギンだ。
彼はまた、さまざまな誤解にさらされている人物でもある。預言者のような髭を生やし、真っ青な瞳を持つ風貌からくる印象も相まって、プーチンの「教祖」とも呼ばれることもある。2人の個人的交流はそれほど深くないようだが、プーチンがネオ・ユーラシア主義を熱狂的に持ち上げるメディアの影響をいやが応にも受けていることは確かである。
ネオ・ユーラシア主義の中身
それでは、ネオ・ユーラシア主義の代表者であるドゥーギンの思想を見てみよう。
ドゥーギンの思想は、ユーラシア主義と極右的な思想とを混ぜ合わせたものだ。
2009年に書かれた『第四の政治理論の構築』と題された本の中で、ドゥーギンはユーラシア帝国の理想を掲げ、西側諸国の自由主義や民主主義と争う姿勢を表明している。内容を紹介しよう。
この本の中で彼は、「グローバル化した自由主義」が価値観の多様化をもたらし、「ポストモダン的な分裂を引き起こし、世界を破滅へと導く」と主張する。
「世界の若者たちは既に、破滅の一歩手前まで来ている。自由主義によるグローバル化が、人々の無意識に働きかけ、習慣を支配し、広告、娯楽、テクノロジー、ネットワークといったさまざまな分野に深く浸透している。その結果、世界の人々は自分の国や文化に対する愛着や、男女の違いを喪失し、人間としてのアイデンティティまでをも手放してしまっているのだ」
ドゥーギンの立場は、ユーラシア主義と極右勢力の掲げる「新しい社会秩序」の理論とを掛け合わせたものだ。それだけではない、神秘主義とメシア信仰の混在した思想も彼の特徴である。例えば、彼の著作のある章にはこんな題が付けられている――「反キリストの王国としてのグローバルな民主主義」。
彼によると、ロシアの進む道は二つに一つだ。悪しきグローバル化の波に飲み込まれるか、グローバル化への抵抗運動を主導していくか、である。
「ウクライナをめぐり西側との争いは避けられない」
2012年以前のプーチンはまだどちらも選択してはいなかった、と彼は言う。
「ロシアの権力者(プーチン)は露骨な西欧主義を取ることはなかったが、かといって別の立場(スラブ主義、ユーラシア主義)を選択することもなかった。態度を決めかねていたのだ」
しかし、「いつまでも問題を先延ばしにしているわけにはいかない。今後の西側諸国との関係を決定づけるような決断を迫られる日がやってくるだろう」。
現在、かつてソビエト連邦の一員だった国々がロシアを離れてヨーロッパやアメリカの方へ歩み寄ろうとしている。そして、それらの国々をめぐって、ロシアは西側諸国と対立している。ドゥーギンはこのような事態を早くから予見していたのである。彼は言う。
「もしもウクライナとジョージアがアメリカ帝国の一員となったならば(……)ロシアの進める領土拡大の計画にとって大きな障害となるだろう」
「ロシアによるウクライナ併合を阻止するという、アメリカ陣営の目論見が既に始まっているのである」
一方、ロシアも2008年にジョージアへ侵攻したのを皮切りに、次なる一歩に向けて準備を固めた。「クリミア半島とウクライナ東部をめぐっての西側諸国との争いは避けることができない」、こう彼は結論づけている。
ドゥーギンが見た大統領の頭の中
以上、簡単にドゥーギンの思想を紹介したが、私は彼に直接取材を行っている。
プーチンに影響を与えた哲学者について、彼に話を聞いたのだ。彼によれば、プーチンの中には、いくつかのイデオロギーのモデルが何層にも重なって存在している。
「まず、プーチンはソビエト時代に教育を受け、KGBで経験を積んだ、典型的な『ソビエト人』です。ソビエト人としての心性がプーチンの哲学思想の第1の層です。
ソビエト人としての彼は、資本主義世界が敵であるという世界観を持っています。この土台に重なる層として、ロシア革命後の移民たちによって展開された白軍運動、つまり帝政ロシアへの回帰を目指すナショナリズム・保守主義思想があります。
この思想の代表者としては、イワン・イリインが挙げられます。イリインはユーラシア主義と対立する思想家です。しかし、彼は独創的な思想家であるとは言えません。新しい考えを何も提示してはいないのです。哲学者としての彼は無能な人物です。イリインがプーチンへ与えた影響も限定的です。イリインは反共産主義者でしたが、プーチンはそうではありません。イリインはプーチンに思想的な影響を与えたというよりも、国内をまとめる技術を提供したに過ぎません。彼の思想は教養のない人々に向けた、教養のない人間によって生み出された思想なのです」
つまり、イリインの思想は権力に素直に従う人々を生み出すための道具というわけだ。ドゥーギンによればこれがプーチンの哲学思想の第2の層である。
第3の層として、ドゥーギンはジャン・パルビュレスコの著作や、ジャン・ティリアートの革命的ナショナリズム運動との交流から導き出した考えを披露している。キリスト教を土台とした保守主義連合への野望だ。
「プーチンはヨーロッパのキリスト教国同士の連合を実現させたいと願っています」
この野望の元となったのは、ロシアの哲学者ウラジーミル・ソロヴィヨフが提唱したとされる「保守主義的ユートピア」という概念である。
その理想は、キリスト教の価値を再認識したヨーロッパの伝統的な国々が集まり、「反キリストに戦いを挑む」ことである。それだけではなく、「ロシアがそれらの国々を主導して戦いを展開していく」必要があるというものだ。
最も重要な「第4の層」
ドゥーギンによれば、次の第4の層こそが最も重要なものである。
それこそがユーラシア主義なのである。
ユーラシア主義は、「他のイデオロギーとは全く別のものです。この理想はスラブ主義、特に第2世代スラブ主義と呼ばれる、コンスタンチン・レオンチェフやニコライ・ダニレフスキー、そして作家のドストエフスキーの思想が元になっています。
しかし、ユーラシア主義はスラブ主義よりも完成されたものです。ユーラシア主義の思想家たちはロシアの文化をより理論的に、より知性的に研究しています。ユーラシア主義はロシアの歴史の最も奥深いところにまで響く思想です。それは白軍や赤軍、帝政支持や社会主義、どんな立場にも当てはまる要素を持っています」
彼によると、ユーラシア主義は、歴史上のどのような時代にも有効な思想である。
「アメリカを中心とした西側諸国とユーラシアとの対立が激しさを増している中で、ユーラシア主義の思想は最も現代性のあるものなのです」
ドゥーギンによれば、プーチンは、ソビエト人としての心性、イリインの反共産主義・帝政支持、キリスト教に基づいた保守主義、そしてユーラシア主義、これらの要素を併せ持っている。
ウクライナ侵攻の理由
また、忘れてはならないことがある。
これらの思想を持ちながらも、「国際舞台において、プーチンは現実を見据えた行動を取っている、ということです。だからこそ、ロシアという国が世界に対して強い影響力を行使することができているし、タイミング良くクリミア半島を併合することができたのです」
ユーラシア主義はプーチンの理想を体現するだけではなく、現実を見据えた戦略なのだ。アメリカの勢力に対抗する政治的な戦略として「プーチンはユーラシア帝国の建設を宣言したのです」
さらに、ドゥーギンはユーラシア主義をめぐって、ロシアとウクライナの複雑な関係を指摘している。「3年以内にプーチンは、ウクライナの一部、ドニエプル川右岸の地域をロシアに統合するでしょう」(インタビューはウクライナ侵攻以前に行われたため、ドゥーギンの予想は現実となった)
プーチンはウクライナを一つの国家として認めていない。プーチンにとって、キーウを中心としたウクライナの親ヨーロッパ地域は、「もはやウクライナという国を象徴する地域ではありません」
「これらの地域は民俗学的な意味においてはウクライナとしてのアイデンティティを残してはいるでしょうが」、もはや政治的な独立を手放してしまった、とドゥーギンは言う。
つまりユーラシア連合の実現にとって、ウクライナの親ヨーロッパ地域こそが、大きな障害になっている、ということである。

 

●強気のプーチン戦略、欧州に巨額エネ危機コスト強いる 9/6
ロシアのプーチン大統領がほんの少し動いただけで、欧州はエネルギー安全保障の面で後戻りができない地点に達した。
プーチン氏は、西側が経済制裁を解除しない限り、ロシアからドイツに天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム1」を止め続ける構えを見せた。
その結果、ロシアはもはや信頼できるガス供給者ではないのではないかという欧州側の「疑念」を「確信」に変えてしまったのだ。これで欧州各国は、エネルギー危機対策をぐずぐずと先送りできない立場に追い込まれたのは間違いない。
ノルドストリーム1の稼働率は最近数カ月、500億立方メートル超という年間輸送能力のおよそ20%で推移している。それでも欧州の指導者は、ロシアが技術上の障害と説明していた問題が解決されれば、通常の供給規模に戻るだろうと、わずかな望みをつないでいた。
ところが、実際にはノルドストリーム1は無期限で停止され、欧州は今年必要とするガス需要5700億立方メートルの約2割が不足する事態になった。
同時に、ロシアから別ルートで送られてくる年間500億立方メートル分も、供給がにわかに不安視されている。これらの不足分は、欧州がこれまで何とかひねり出した対策で節約できた需要と比べると、はるかに大きい。
そして、北半球のこの冬が平年以上の寒さになれば、欧州は新たに130億立方メートルが不可欠になるかもしれず、1400億立方メートルの液化天然ガス(LNG)を求めてアジアの買い手との競争を強いられることになる。
つまり昨年3月の水準と比べて既にそれぞれ14倍と10倍に達している欧州のガスと電力の価格は、来年とそれ以降も高止まりする。
バーンスタインのアナリストチームが懸念するのは、ドイツの各家庭の燃料費が年間で1万ユーロ超と昨年の4倍になり、英国でもエネルギー支出が3倍余り膨らんで6000ポンド強に跳ね上がる事態だ。
フランス、ドイツ、英国の3カ国だけで世帯数は1億を上回り、彼らが向こう2年間でそれぞれ年間2000ユーロ余計に支払うとすれば、負担額は4000億ユーロにもなる。
これほどの負担を国民にそのまま背負わせるというのは、現実味を欠く。そこで1つの選択肢として浮上するのは、エネルギー企業への資金融資で当面の価格を抑え、将来の価格引き上げを通じて国民に返済してもらう方法で、英国で提案されている。
さらに、電気料金に上限を設け、利用者から賦課金を徴収するというスペインで既に実施されている手法もある。
ドイツが渋々受け入れたような、石油・ガス生産者と再生可能エネルギーの発電事業者が得た思いがけない利益に課税するというのも効果があるかもしれない。あるいは政府が借金を増やして国民の負担の一部を吸収するのも対策になるだろう。
とはいえ、各国が消費者を市場の力から守るとしても、エネルギー需要自体を減らす手も打たなければならない。それには例えば、強制的な電力の割り当ても必要になるのではないか。
いずれにせよ欧州各国は、エネルギー危機で生じる金銭面と社会的なコストを釣り合わせるためのさまざまなやり方を見つけ出すことだろう。
少なくともプーチン氏が、そうすべきだとの考えに対する一切の疑心暗鬼を解消してくれたのだから。
●ウクライナ侵攻のロシア、戦略的目標を「何も達成していない」 英国防相 9/6
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから半年以上が経過するなか、英国のウォレス国防相は5日、英下院で、ロシアが戦略的目標を何一つ達成していないと述べた。
ウォレス氏は、ロシアがウクライナ侵攻で装備と人員を大量に失い続けていると指摘。こうした損失が、ロシアの将来的な軍事上の有効性に長期的な影響を及ぼすとの見方を示した。
ウォレス氏は「現在までに2万5000人を超えるロシア兵が命を落としたと推定される」と指摘。そのほか、負傷者や捕虜となったもの、数万人と報じられている逃亡兵などを加えれば死傷者などは8万人を超えると述べた。
ウォレス氏はロシアのプーチン大統領について、エネルギーを「兵器化」しているとして非難し、議員に対しては有権者に状況を説明するよう促した。
ウォレス氏は、皆が直面している非常に不愉快な状況は、ロシアの全体主義的な政権が意図的に危害を加えようとし、エネルギー費用のために我々の価値を犠牲にするかどうか試そうとしていることが原因だと有権者に伝えることが重要だとの見方を示した。
●全村民360人が「人間の盾」、地下室に監禁1か月…  9/6
ロシアの侵略が続くウクライナに、約360人の住民ほぼ全員が地下室に閉じ込められ、「人間の盾」となった村がある。監禁は1か月近くに及び、10人が暗闇の中で命を落とした。村人が負った傷は深く、侵略が始まって半年となる今も癒えていない。(ウクライナ北部ヤヒドネ 伊藤崇)
湿った空気、暗闇
「空気がひどく湿り、普通に息ができる状態ではなかった。ここで、たくさんの人が死んでしまった」。8月中旬、チェルニヒウ州の村・ヤヒドネに一つしかない学校の地下室で、雑貨店経営スビトラーナ・ミネンコさん(51)が重い口を開いた。
ロシア軍は2月24日、ウクライナへの侵略を始めた。ヤヒドネに攻め入ったのは、3月3日。スビトラーナさんは村に迫る砲撃の音を聞き、家族ら7人で自宅の地下室へ逃げ込んだが、2日後、機関銃を持ったロシア兵に見つかった。スマートフォンを踏みつけて壊すよう命じられ、部隊が拠点とした学校の地下室に行くよう指示された。
そこは普段、倉庫として使われ、水道も電気もガスも通っていなかった。大小七つの部屋に分けられた計200平方メートルの空間に集められたのは、生後半年から93歳までの347人。スビトラーナさんの部屋には、車のバッテリーにつないだLEDがともっていたが、ほかの部屋はろうそくだけだった。真っ暗な廊下にまで人があふれ、大人は椅子や床に座ったまま寝た。
外は凍えるような寒さだったが、地下室は場所により蒸し風呂のように暑く、服を脱ぐ人もいた。1日にわずかな時間しか外に出られず、住民たちは部屋の片隅に置いたバケツで用を足した。
食べ物は、ロシア兵が持ってくる冷凍のパンや2人でコップ1杯のスープが頼りだった。全く配られない日もあり、「おなかをすかせた子どもたちを見るのが一番つらかった」とスビトラーナさんは話す。
「ロシア兵憎い」
監禁が長期化するにつれ、住民は次々に体調を崩した。意味不明なことを叫び始めると、その人はまもなく死んだ。
住民たちは、監禁が始まってからの日付を書き込んだ扉の横の壁に、亡くなった人の名前を記録した。ムジカ、ルダニ、ボイコ……。刻まれたのは10人に上った。
そんな日々が終わったのは、3月30日朝のこと。砲撃の音と揺れが突然やみ、辺りが静かになった。外に出てみると、ロシア兵の姿はなかった。その日は地下室にとどまり、翌31日、住民はウクライナ軍によって解放された。
ェ店員リュボフ・イワシェンコさん(50)は監禁中に、69歳の母ナディヤ・ブドチェンコさんを失った。体のどこにも不調はなかったが、地下室での生活が1週間ほどになると歩けなくなった。独り言を繰り返すようになり、解放の2日前に亡くなった。「とても愛していたのに……」と涙ぐむ。
リュボフさん自身も腎臓が悪くなり、週に3回、病院で透析を受けるようになった。「解放されなければ私も死んでいただろう。手にかけるのでもなく、自由を奪うことでこれ以上ないほどの恐怖をもたらした、ロシア兵が憎い」と語る。
主婦オルガ・マトビエンコさん(68)が夫と2人で暮らした学校そばの家は、戻ると焼け落ちていた。「全てが破壊されてしまった」と途方に暮れる。半年前まで、子どもたちのにぎやかな声が飛び交っていた学校を目にしても、「拷問部屋にしか見えない」という。
学校は侵略から半年がたっても、再開していない。地下室の壁には、監禁中に子どもたちが描いた太陽や花などの絵と共に、メッセージが残っている。
「戦争はいらない」
「人間の盾」条約違反
ヤヒドネの住民監禁について、全欧安保協力機構(OSCE)は7月にまとめた報告書で「非戦闘員を『人間の盾』に利用しており、ジュネーブ条約に反する」と指摘している。同条約は、戦闘の当事者が攻撃を阻止するために民間人を利用することを禁じており、ロシアも批准国だ。
捜査にあたるチェルニヒウ地検によると、監禁は3月3日〜30日の28日間に及んだ。地検は村人ら約300人から聴取し、現場からロシア兵の名前や階級などが記録された日記や写真などを収集。少なくとも9人のロシア兵が監禁に関与したと特定したが、いずれもロシアに戻っているという。セルヒー・クルプコ検事(33)は「国際法に基づいて起訴し、法廷で有罪判決が出れば、9人は国際指名手配される。何としても逮捕し、責任を追及したい」と話している。
●ロシア政府 “ビザなし交流などの協定を破棄” 一方的に発表  9/6
ロシア政府は、北方領土の元島民らによる、いわゆる「ビザなし交流」などの日本との合意を破棄したと、一方的に発表しました。ウクライナへの軍事侵攻を受けて、日本政府が制裁を科してきたことに反発した形です。
ロシア政府は5日、北方領土の元島民らによる「ビザなし交流」や、元島民が故郷の集落などを訪問する「自由訪問」など、これまでに日本との間で結ばれた合意を破棄したと、一方的に発表しました。
そのうえで、ロシア外務省に対して、この決定を日本政府に通知するよう指示したとしています。
「ビザなし交流」などの交流事業をめぐっては、ことし3月、ロシア外務省がウクライナへの軍事侵攻を受けて、日本政府が制裁を科したことに反発して、停止する意向を明らかにしていました。
その際に、北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明していて、「すべての責任は、反ロシア的な行動をとる日本側にある」と一方的に非難していました。
「ビザなし交流」は、日本人と北方領土に住むロシア人がビザの発給を受けずに、相互に訪問する枠組みで、1991年に合意され、1999年からは「自由訪問」の枠組みも作られ、「ビザなし交流」と合わせて、これまでに双方およそ3万人が参加しています。
根室 石垣市長「容認できるものではない」
ロシア政府が、北方領土の元島民らによるいわゆる「ビザなし交流」などの日本との合意を破棄したと発表したことについて、北海道根室市の石垣雅敏市長は6日午前、職員に向けて行った訓示の中で「この協定は当時のゴルバチョフ大統領からの提案であり、30年以上、時計の針を戻す行為は容認できるものではない」と非難しました。そのうえで「一度開いた扉は閉じ切ることはできないとも考えている。北方領土の隣接地域として一喜一憂することなく、返還運動原点の地の役割をしっかりと果たしていきたい」と述べました。
松野官房長官「極めて不当 ロシア側に改めて強く抗議」
松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「極めて不当なもので断じて受け入れられない。現在までのところロシア側からの通知はないが、きょう、ロシア側に対し、改めて強く抗議した」と述べました。そのうえで「日ロ関係の現状は、すべてロシア側に責任があるが、北方四島の交流事業などを行う状況にはない。もちろん、高齢になった元島民の方々の思いに何とか応えたいという考えに変わりないが、このような対応を取らざるをえないことについて、ご理解を賜りたい」と述べました。
林外相「極めて不当 改めて強く抗議」
林外務大臣は閣議のあとの記者会見で「極めて不当であり、断じて受け入れられない。現在までのところロシア側からの通知はないが、きょう外務省の欧州局参事官から、在京ロシア大使館の次席に対してこうした考えを伝え、改めて強く抗議した」と述べました。
●プーチン大統領、新たな外交方針承認 海外の「同胞」支援を重視 9/6
ロシアのプーチン大統領は5日、「ロシア世界」という概念に基づく新たな外交方針を承認した。外国に介入してロシア系住民を支援する行為を正当化するために保守派が唱えてきた概念で、公式に明文化した。
「人道方針」として31ページに及ぶ文書にまとめられた。ロシアは「ロシア世界の伝統と理想を守り、保護し、前進させる」べきと記された。
ロシアはウクライナ侵攻で一部地域を制圧したほか、東部を部分的に実効支配する親ロシア派を支援している。これらの行為を正当化するために強硬派の一部が唱えてきたロシアの政治や宗教に関する考え方が盛り込まれた。
「海外に住む同胞の権利行使、利益保護、文化的アイデンティティーの維持のためにロシア連邦は支援を提供する」とし、海外の同胞とのつながりが「多極化世界の実現に努力する民主主義国家としてのロシアのイメージを国際舞台で強化」することを可能にしていると主張した。
また、ロシアはスラブ系国家や中国、インドとの協力を拡大し、中東、中南米、アフリカとの関係を一段と強化すべきだとした。
2008年に起きたロシアとジョージアの軍事衝突後、ロシアが独立を認めたアブハジアと南オセチア、並びにウクライナ東部の一部を実効支配する親ロシア派「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」との関係を一段と深化する必要があるとも記された。
●プーチン氏「日出づる国は日本ではなくロシア」、中国ネット「その通り」  9/6
ロシアのプーチン大統領が「日出づる国はロシアだ」と発言したことが、中国のSNS上で反響を呼んでいる。
タス通信など複数のロシアメディアによると、プーチン氏は5日にカムチャツカで開かれた環境フォーラムで、廃棄物のリサイクルや処理の問題に言及した際、「地理的なことを言えば、やはりカムチャツカについて話すべきだ。一般的に、私たちの隣国である日本は『日出づる国』と呼ばれているが、私の考えでは、カムチャツカあるいはサハリンは日本よりも東にある。さらに東にはニュージーランドがあり、ニュージーランドのさらに東にはチュコトカがある」とし、「その意味で本当の『日出づる国』はロシアだ」と述べた。
中国メディアの環球網がこれを伝えると、中国のネットユーザーからは「その通りだ」「日本は『日出づる国』との呼称を控えるべき」「はははは。根本から日本をぶった切る気だな」「あの弾丸のような形をした日本が『日出づる国』とは(笑)」「そんなに緯度が高ければ確かに早く日が昇るだろうけどね(笑)」「5000年の文明を持つ華夏(中国)こそが真の『日出づる国』」「『日出づる国』って、そもそも中国の地理的位置を基準にした呼び方でしょ」といったコメントが書き込まれた。
●ロシア独立系紙「ノーバヤ・ガゼータ」の発行認可取り消し モスクワの裁判所 9/6
編集長がノーベル平和賞を受賞したロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」について、モスクワの裁判所は新聞発行の認可を取り消す判断を示しました。
独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」をめぐっては、ロシアの通信監督当局が7月に、報道機関としての認可を取り消すよう求める訴えを起こしていました。
インタファクス通信によりますと、モスクワの裁判所は5日、「ノーバヤ・ガゼータ」に対し、新聞を発行する認可を取り消す判断を示しました。
「ノーバヤ・ガゼータ」は声明を出し、「新聞はきょう殺された。読者は知る権利を奪われた」と批判。
ノーベル平和賞を受賞した編集長のムラトフ氏は、「この決定には法的根拠がない」と述べ、上訴する考えを示しています。
「ノーバヤ・ガゼータ」はプーチン政権に批判的な報道で知られ、ウクライナ侵攻後の3月から新聞の発行と電子版の配信の停止に事実上、追い込まれています。
一方、機密情報を漏らしたとして国家反逆罪に問われていた有力紙コメルサントの元記者イワン・サフロノフ氏に対し、モスクワの裁判所は5日、懲役22年の判決を言い渡しました。
サフロノフ氏は軍事機密をNATO=北大西洋条約機構側に漏らしたとして、おととし7月に拘束されましたが、事件をめぐっては独立系メディアや海外から「根拠がない」と批判する声が出ています。サフロノフ氏側は上訴する方針だということです。 
●ザポリージャ原発 砲撃による火災で外部電源失う 冷却機能維持  9/6
ロシア軍が掌握するウクライナのザポリージャ原子力発電所では5日、砲撃による火災の影響で外部電源が失われました。原子炉などを冷却する機能は維持されていますが、IAEA=国際原子力機関が現地入りしたあとも安全性が懸念される状況が続いています。
ザポリージャ原発を運営するウクライナの原子力発電公社エネルゴアトムは、5日、砲撃による火災の影響で、稼働している6号機が、外部の電力網から切り離され、電力供給を受けられなくなったと発表しました。
6号機は出力を下げたうえで運転を続け、原発施設内で必要な電力を供給しており、原子炉などを冷却する機能は維持されているということです。
IAEAによりますと、原発と外部電源を結ぶ送電線自体に損傷はなく、エネルゴアトムは、消火のため、意図的に外部の電力網から切り離したものの、火災が消し止められしだい、再び接続する見通しだということです。
エネルゴアトムは、外部電源が失われるのは先月25日以来だとしています。
これについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、動画を公開し「ザポリージャ原発は、ロシアの挑発によって放射線災害の一歩手前まできている」と危機感を示しました。
そして「原発への砲撃は、ロシアがIAEAや国際社会を軽視していることを意味する」と述べ、各国に対してロシアへの制裁を強化するよう求めました。
原発立地市の市長 ロシア軍の撤退が必要と訴える
砲撃が相次ぎ安全性への懸念が高まっているウクライナのザポリージャ原子力発電所が立地するエネルホダル市の市長が、NHKのオンラインインタビューに応じ「占領者の部隊がとどまるかぎり危険なままだ」と述べて、原発や市民の安全のためにはロシア軍の撤退が必要だと重ねて訴えました。
ロシア軍が占拠するザポリージャ原発周辺では、先月以降、砲撃が相次いでいて、今月1日には、IAEA=国際原子力機関の専門家チームが現地に入り調査を行いました。
しかし、5日には、砲撃の影響で、稼働していた6号機の外部電源が失われる事態となっています。
避難先のザポリージャ市で対応にあたっているエネルホダル市のドミトロ・オルロフ市長はNHKのインタビューに対し「IAEAの調査が行われたことは一歩前に進んだと言える」と一定の評価を示しながらも「残念ながら砲撃は続いていて、状況は変わっていない」と述べ依然として、原発や市民の安全が脅かされていると訴えました。
原発周辺への砲撃については「発射音が聞こえた直後に、爆発音が聞こえる。砲撃がロシア軍の占領地域内からなのは明らかだ」と述べ、ウクライナ軍の信用失墜などを狙ったロシア側による挑発行為だと非難しました。
またオルロフ市長は、市内には今も、およそ2万5000人の市民が残っているとしたうえで「市民が誘拐されるケースが増えている。携帯電話などを奪われ拷問された人もいる」と指摘したほか、食料や医薬品などの支援物資を送ろうとしてもロシア側が認めなかったと明かしました。
そのうえで「占領者の部隊がとどまるかぎり危険なままだ」と述べて、原発や市民の安全のためにはロシア軍の撤退が必要だと重ねて訴えました。
●プーチン氏、極東で軍事演習視察 中露の結束誇示 9/6
ロシアのプーチン大統領は6日、露極東沿海地方のセルゲエフスキー演習場を訪れ、露国防省が実施している大規模軍事演習「ボストーク2022」を視察した。タス通信は、演習場に到着したプーチン氏がショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長と非公開の会談を行い、その後、核搭載可能な弾道ミサイル「イスカンデルM」の発射演習などを監督したと伝えた。
露国防省によると、1日から7日までの演習には、中国やベラルーシ、インドなど13の外国が軍部隊やオブザーバーを派遣。ロシアは演習を通じ、ウクライナ侵攻で国際的に孤立したとの印象を払拭する狙いがあるとみられている。中国との結束を誇示し、ウクライナや台湾を支援する日米両国を威圧する狙いもあるもようだ。
演習では、サハリン(樺太)に上陸した仮想敵の部隊を多連装ロケットシステムで撃破する訓練や、戦闘機「ミグ31」による迎撃訓練などが行われた。ロシアが不法占拠する北方領土の国後(くなしり)島と択捉(えとろふ)島でも上陸阻止訓練が実施された。演習の一環として、日本海海域で露海軍と中国海軍による合同対潜訓練や、仮想敵の艦艇に対する合同射撃訓練なども実施された。
ただ、今回の演習に参加したのは計約5万人で、30万人超が参加したとされる2018年の前回演習からは大きく規模が縮小。ウクライナ侵攻には極東を管轄する東部軍管区からも兵員や装備が派遣されていることが要因だとみられている。
プーチン氏は7日、極東ウラジオストクで開催中の露主催の国際会議「東方経済フォーラム」の全体会合に出席する。ペスコフ露大統領報道官によると、プーチン氏はウクライナ情勢や極東の発展について演説する予定だという。
●ロシア大統領、核搭載可能ミサイル視察 極東演習、ウクライナ侵攻の軍鼓舞 9/6
ロシアのプーチン大統領は6日、極東ウラジオストク近郊で、大規模軍事演習「ボストーク(東方)2022」を視察した。ボストーク視察は4年前の前回から2回連続。ウクライナ侵攻開始から半年が過ぎ、戦闘が長期化の様相を示す中、ロシア軍を鼓舞するとともに、欧米などとの対決姿勢をアピールする狙いがある。
タス通信などによると、プーチン氏はショイグ国防相、ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長と非公開会合を開いた。演習場では、核弾頭搭載可能な弾道ミサイル「イスカンデルM」の発射を視察した。
演習には、対米で共闘する中国のほか、ロシアの伝統的友好国インドも上海協力機構(SCO)加盟国の立場で参加。プーチン政権としては、中ロの結束を誇示して日米同盟をけん制するとともに、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」にくさびを打ち込む思惑もあるとみられる。
●「極めて不当」林外務大臣 ロシアの「ビザなし交流」“一方的破棄”受け抗議 9/6
北方領土の「ビザなし交流」を巡り、ロシア側が一方的な失効を発表したことについて林外務大臣は「極めて不当だ」と抗議しました。
林外務大臣:「極めて不当なものであり、断じて受け入れられないと考えております」
今のところロシア側から外交ルートでの通知はないものの、外務省は6日朝、事務方がロシア大使館のナンバー2に対して、電話で強く抗議したということです。
「ビザなし交流」は、ビザを持たずに日本人と北方領土に住むロシア人との相互訪問を可能としていますが、ロシア側はウクライナ情勢を巡る日本政府の制裁に反発し、3月に一時停止を発表していました。
外務省幹部は「今回も協定の破棄とは捉えていない」として、時機をみて再開に向けた交渉を行う方針を示しています。
●美化してはいけない、骨の髄まで「大国主義者」だったゴルバチョフの実像 9/6
旧ソ連の初代にして最後の大統領を務めたミハイル・ゴルバチョフが8月30日、モスクワの病院で死去した。テレビのワイドショーなどを見ていると、「こんな時期だからこそ、いてほしい政治家だった」とか、「平和と民主主義を追求した人だった」などの発言がコメンテーターからしばしば聞かれる。プーチンとは大違いというわけだ。強い違和感を持った。
ゴルバチョフは私がまだ日本共産党にいた1985年にソ連共産党書記長に就任し、民主主義の要素を取り入れるグラスノスチ(開放)政策、経済の効率化を図るペレストロイカ(再構築)政策に取り組んだ。だがこれらの政策は、アメリカとの軍拡競争や、一党独裁政治のもとでの経済的疲弊、政治的行きづまりから、やむを得ず行われたものだった。軍拡競争でも、経済発展でも、アメリカ・資本主義陣営に負けたというだけの話だ。
骨の髄まで染みついた大国主義
しかもスターリン以来の「大国主義」(軍事力や経済力などが強大な大国が、他国や他民族に対して自国の立場や主張を支配的、強権的に押し付けること)は、ゴルバチョフ時代もまったく変わらなかった。
スターリン時代のソ連の大国主義は世界にとって有害そのものだった。ヒトラー・ドイツがヨーロッパへの侵略戦争を開始しようとするその時に、スターリンはヒトラー・ドイツと不可侵条約を結んだ。この不可侵条約には、両国が東ヨーロッパとバルト3国を分け合う秘密協定まで結ばれていた。ソ連は戦後、ファシズムと戦った国とされ、プーチンもそれを自慢しているが、そのファシズムの跋扈(ばっこ)を許してきたのもソ連なのであった。
この問題では、ゴルバチョフもスターリンとなんら変わることはなかった。元共産党議長の不破哲三氏は著書『新装版スターリンと大国主義』(2007年5月初版、新日本出版社)で次のように指摘している。
〈ゴルバチョフ政権は、バルト3国で民族的規模での強大な運動が起こるまで、ヒトラーと結んだ東ヨーロッパ・バルト3国再分割の「秘密議定書」について、それが存在することさえ頑強に否定しました。その存在を認めざるをえなくなると、今度は、バルト3国のソ連への加盟は「秘密議定書」とは関係なく、合法的な手続きでおこなわれた正当なものだと言い張り続けました。他の分野でのスターリンの悪事は認めても、大国主義の誤りは認めないというのが、後継者たちの一貫した“信条”だったのです。〉
北方領土返還問題でも、ゴルバチョフは耳触りの良さそうなことは述べたが、一歩も前進はしなかった。スターリンによる千島列島や歯舞・色丹の略奪は、当時、国際的にも承認されていた「領土不拡大の原則」に反するものであった。だがゴルバチョフも返還など毛頭考えなかった。
スターリンからゴルバチョフ、そしてプーチンと、ロシアの大国主義は骨の髄まで染みついたものなのだ。
そして、これこそロシア革命の指導者レーニンが最も恐れたことだった。
ロシア革命の直後、ロシア共産党内で問題になったのが他民族の民族自決権を認めるかどうかであった。多くの指導的幹部は権力を握っていない民族には自決権を認めないという態度をとった。その時レーニンは、「ある種の共産主義者を一皮むけば、大ロシア人排外主義があらわれる」「この大ロシア人排外主義者は我々多くの者の心に潜んでおり、これに対して戦わなければならない」と強調した。だがスターリンによってこの主張は葬られてしまった。
ロシアには、歴史的に積み上げられてきた根深い大国主義が、現在も存在し続けているのだ。
ウクライナ侵略を支持していた
9月1日付朝日新聞に編集委員・副島英樹氏のゴルバチョフ評伝が掲載されている。この評伝では、ゴルバチョフが総裁を務めてきたゴルバチョフ財団がロシアのウクライナ侵略に対して、「世界には人の命より大切なものはない。相互の尊重と双方の利益の考慮に基づいた交渉と対話のみが、最も深刻な対立や問題を解決できる唯一の方法だ」と呼びかけたことが紹介され、「対立ではなく協調を模索し、人類共通の利益を優先する理念が、この声明に込められている気がした」と結ばれている。
本当にそうだろうか。2014年3月、プーチン政権がウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合した際、「私がプーチン大統領の立場だったら、まったく同じことをしただろう」と全面的に支持している。プーチンと同じ侵略者の立場に立っていたのがゴルバチョフなのである。
副島氏はゴルバチョフの思想の柱は、「相互の尊重」「対話と協調」「政治思想の非軍事化」と述べ、「今世紀も人類の指針になりうる」などと評論している。なぜここまでゴルバチョフを持ち上げるのか不思議でならない。ちなみにウィキペディアによると世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の資金援助によりゴルバチョフ財団(ゴルバチョフ友好平和財団)を設立したそうである。
そもそもゴルバチョフはソ連の崩壊を望んでいたわけではない。多少の民主化は図ったとしても、基本的にはソ連共産党による一党独裁政治をやめる気などなかった。しかし、東欧の社会主義国で民主化の動きが強まり、ブレジネフ時代のように社会主義圏全体のために一国の主権を制限できるという「ブレジネフ・ドクトリン」は放棄せざるを得なくなっていた。
プーチンはゴルバチョフを「どんな改革が必要で、どうなされるべきかを分かっていなかった」と批判しているが、この批判は的を射ているだろう。結果として冷戦体制が終結し、ソ連が崩壊してしまったというだけのことなのだ。
ソ連の維持を目指した共産党のエリート
1991年8月にソ連共産党の解体が決定的になった際、日本共産党常任幹部会は、9月1日付で「大国主義・覇権主義の歴史的巨悪の党の終焉を歓迎する──ソ連共産党の解体にさいして」と題する声明を発表した。ここには、次のような指摘がなされている。
〈ソ連共産党は、7月末に開かれた中央委員会総会で決定された新綱領草案にもしめされているように、科学的社会主義の世界観を放棄して社会民主党化の宣言をおこなうなど、科学的社会主義の党としての実体を自ら否定していた党であった。しかも、こうして「転向」を宣言したソ連共産党は、新綱領草案にのべられているように、ソ連だけではなく世界中でもはや階級闘争や革命は不要だと主張し、世界の党にたいしても変節を事実上おしつける態度をとった。世界に大国主義の巨悪をふりまいてきたこの党は、自らの存在をやめる最後まで、それにふさわしい否定的な役割をはたそうとしたのである。〉
あきれた話で、ソ連共産党は“自分たちは共産党をやめるし、革命やめる。だから世界の共産党も同じようにすべき”というのだ。
産経新聞(9月4日付)に前モスクワ支局長の遠藤良介氏による「民族自決の志 見えぬ2人」と題して、ゴルバチョフとプーチンの評論が掲載されている。
〈プーチンが批判するゴルバチョフもまた、目指したのはソ連の維持であり、ウクライナの独立は認めがたいと考えていた。このことを振り返るとき、今日に至るロシア大国主義の桎梏(しっこく)を思い知らされる。〉
〈ペレストロイカ(再建)によるソ連民主化、米ソ核軍縮、東西冷戦の終結―。ゴルバチョフが世界史に残した巨大な足跡は決して過小評価されるべきではない。ただ、もともと共産党のエリートだったゴルバチョフが念頭に置いていたのは社会主義の枠内での改革だった。事態が急展開し、意図しないソ連崩壊に帰結したのは歴史の皮肉である。〉
まったく同感である。

 

●ロシア 兵器の供給不足か “イランや北朝鮮から兵器を調達か”  9/7
ウクライナ軍は、ロシア側に支配されていた地域の奪還を目指し、南部を中心に反転攻勢を続けています。一方、ロシアはウクライナの戦闘で兵員や装備品の損失が深刻化しているとみられ、欧米と対立するイランや北朝鮮から兵器の調達を進めているとも指摘されています。
ウクライナを軍事侵攻するロシアの国防省は6日、巡航ミサイル「カリブル」で攻撃し、東部ドニプロペトロウシク州で燃料庫を破壊したと発表しました。
これに対し、ウクライナ軍は、南部ヘルソン州を中心に反転攻勢を続け、ロシアに支配されていた南部と東部の複数の集落を解放したと強調しています。
イギリス国防省は6日、ヘルソン州でロシア軍の無人機の出撃回数が先月と比べて、大きく減っていると指摘しました。
その要因として欧米の制裁によってロシアで無人機の部品が不足していることなどを挙げ「無人機の運用が限られ、ロシア軍の作戦に影響が出ている」と分析しています。
一方、アメリカ政府は、ロシアと友好関係にあるイランが、ロシアに対して数百機の無人機の供与を進めていると懸念を示しています。
また、アメリカ政府高官は6日、記者団に対し「ロシアは北朝鮮から数百万発のロケット弾や砲弾の購入を進め、ウクライナで使用しようとしている」と明らかにしました。
そのうえで、この高官は「ウクライナにいるロシア軍が兵器の供給不足に陥っていることを示すものだ。ロシアは北朝鮮からさらなる兵器の購入を進める可能性がある」として、注視する考えを示しました。
また、アメリカ国防総省のライダー報道官も6日、記者会見で、「われわれはロシアが砲弾を求めて北朝鮮に接触したという情報を持っている。これは物資の供給や維持の能力について、ロシアの置かれた状況を示すもので、北朝鮮に接触したという事実は何らかの課題を抱えていることの現れだ」と指摘しました。
こうした中、ロシア大統領府のペスコフ報道官は記者団に対し「ウクライナでの軍事作戦への参加を望む市民にこれまで通りの仕事が保証されるよう、大統領は政府に指示するだろう」と説明しました。
これについてアメリカのシンクタンク、「戦争研究所」はロシア軍は兵員不足が深刻化していて、志願兵の確保に向けてプーチン政権の中枢にあたる大統領府が直接、動き始めていると指摘しています。
●ウクライナ戦争長期化でメリットを享受するロシアとトルコの強かな戦略… 9/7
ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始してから半年が経過した。多数の兵員と兵器を投入した両国の間の戦いは膠着状態になりつつあり、長期化する懸念が強まっている。ウクライナのゼレンスキー大統領は8月下旬、「ロシアの侵略との戦いに勝利し、クリミアを占領から解放することが必要だ」と表明するなど徹底抗戦の姿勢を崩していない。
ロシアも長期戦を辞さない構えを見せている。当初、短期での決着を目指していたロシアだが、侵攻の長期化した今、2014年から紛争が続いた東部ドンバス地方と同様、戦闘を続けることでウクライナを曖昧な立場にとどめておくことができるというメリットを見いだしているとの指摘がある。
ロシアが長期戦に移行できた背景には、西側諸国が科した厳しい制裁にもかかわらず、ロシア経済のダメージが小幅だったことがある。ロシアの今年第2四半期のGDPは前年比4%減となり、5期ぶりのマイナス成長となったが、落ち込み幅は予想されたほど大きくなかった。ロシア経済省は「今年のGDPは4.2%減にとどまり、当初想定したほど落ち込まない」との見通しを示している。堅調な資源輸出がロシア経済への制裁の影響を和らげていることに加え、ロシアからの外国企業の撤退も下火となり、輸入されなくなった消費財などの国内代替が進んでいることが功を奏した形だ。楽観できる状況ではないものの、プーチン大統領は「ロシアは長期戦に耐えられる」との自信を深めていることだろう。
ロシアには長期戦を志向する別の理由があるのかもしれない。プーチン大統領は「米国主導の世界秩序は終わった」とかねてから主張してきたが、ウクライナでの紛争状態が長引けば長引くほど、米国一極集中時代の終焉の可能性が高まっているからだ。
ウクライナ危機はこれまで「自由や民主主義を守る戦い」と称されてきたが、紛争が長期化するにつれて、「国際秩序に変革が起きる」との認識が広まりつつある。米ニューヨーク・タイムズは8月下旬、「西側諸国の関心がウクライナに集中しているため、国連の人道支援機関は記録的な資金不足に直面している」と報じた。米国が主導する制裁のせいで深刻な打撃を受けている発展途上国の反発は高まるばかりだ。ウクライナ侵攻に中立を保つ国々の人口は世界の3分の2を占めるが、これらの国々の行動基準は民主主義の価値よりも自国にとって損か得かだ。
米誌ナショナル・インタレストのコラムニストも8月下旬、「ロシアとウクライナのどちらが勝ったとしても、戦略的敗北を喫するのは米国だ」との分析を示した。「ロシアは中国やインド、ペルシャ湾岸諸国とより緊密な関係を築き、西側諸国と永遠に関係を断つだろう」とした上で「米国は多極化が進む世界の現実に向き合わざるを得なくなるだろう」と悲観的な未来を予測している。
経済的な利益を拡大させるトルコ
米国の影響力低下を尻目に国際社会で存在感を高めているのは、黒海の対岸に位置するトルコだ。黒海を挟んで隣接するロシアとウクライナとの関係の深さを生かして、激しく対立する両国の間を取り持つ役割を演じている。3月に両国の外相会談を実現させたトルコは、8月の穀物輸出に関するロシアとウクライナ間の合意を国連とともに実現させている。これに自信をつけたからだろうか、トルコのエルドアン大統領は9月3日、ロシア軍が占拠を続けるウクライナ南東部ザポリージャ原子力発電所をめぐって核災害の懸念が高まるなか、調停役に名乗りを上げた。穀物輸出の際に培った経験が生かせるというのはその理由だ。
ウクライナ危機の深刻化を回避することに貢献しているトルコは、ロシアや欧州との関係を強化し、実利を得ている。トルコは欧米の制裁で割安となったロシア産原油の輸入を増加させている。今年第2四半期は前年同期に比べ3倍になった。7月の首脳会談ではエネルギー貿易の決済通貨にトルコリラを活用する案も議論されている。
西側諸国の制裁下にあるロシアの企業はトルコを拠点化する動きを強めている。トルコは西側諸国の制裁に参加していないことから、トルコを拠点に国際的な調達や販売を続けようとするロシア企業が増加している。トルコ商工会議所連合によれば、ロシア企業のトルコ国内の設立数は今年1〜7月に600社を超え、昨年通年の177社を大きく上回る。
トルコの製造業は欧州向け輸出も増加させている。世界的なサプライチェーン(供給網)混乱のせいで調達先の近場シフトが進み、これまでアジアから供給されていた衣料品や家具などを代替生産することで輸出額を71億ドル増加させたといわれている(9月4日付日本経済新聞)。厳しいインフレに悩まされるトルコだが、国際社会における存在感の高まりをテコに経済的な利益を拡大させるというしたたかさを発揮しているのだ。googletag.cmd.push(function() { googletag.display('div-gpt-ad-1635733543229-0'); });
現在ロシアが占拠しているウクライナ南東部は、もともとオスマン・トルコが約600年にわたり支配していた地域だ。西側諸国が主導する国連が機能不全となり、世界が再び群雄割拠の時代に逆戻りすることになりつつある状況下で、地の利をいかしてトルコのような地域大国が影響力を持つようになっている。
ウクライナ危機の長期化により、米国一極時代の終焉が現実味を帯びてきている。日本もこうした国際政治の現実を直視しなければならないのではないだろうか。
●米、ロシア「テロ支援国家」指定見送り 9/7
米国のジョー・バイデン(Joe Biden)政権は6日、ロシアを「テロ支援国家」に指定しない方針を明らかにした。ウクライナや米議員らが指定を求めていたが、カリーヌ・ジャンピエール(Karine Jean-Pierre)大統領報道官は、「ロシアに責任を負わせる」上で「最も効果的または強力な道筋ではない」との考えを示した。
ロシアのテロ支援国家指定をめぐり、政権幹部は数か月にわたって明確な回答を避けてきた。これについてバイデン大統領は5日、記者団の問いに「ノー」と答えていた。
報道官は、ロシアをテロ支援国家に指定すれば、ロシアの侵攻で荒廃したウクライナの一部地域への支援物資の供給が妨げられたり、国連(UN)とトルコが仲介したウクライナの港からの穀物輸出協定に支援団体や企業が参加できなくなったりする可能性があると指摘。「(ロシアのウラジーミル・)プーチン(Vladimir Putin、大統領)に責任を取らせる上で非常に効果的な前例のない多国間(連携)を弱め、われわれの(交渉を通じて)ウクライナを支援する能力も損ないかねない」とした。
ナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)下院議長ら超党派の議員グループは、経済制裁を科してきたロシアへの圧力をさらに強めるためとして、バイデン氏にテロ支援国家指定を求めてきた。
米国によるテロ支援国家指定はさまざまな影響を及ぼす。企業や銀行としては、世界一の経済大国である米当局による法的措置を警戒し、リスクを取れなくなる。
現在指定されているのはイラン、シリア、北朝鮮、キューバの4か国のみで、いずれも経済規模はロシアと比べてはるかに小さい。 
●プーチン大統領 対決姿勢 “欧米の制裁が世界経済を弱体化”  9/7
ロシアのプーチン大統領は、極東のウラジオストクで演説し、この中で欧米がロシアに科した制裁が「世界経済を弱体化させた」と主張し、対決姿勢を鮮明にしました。そのうえでエネルギーの輸出などを通じて、中国をはじめとする友好国との連携を強化する姿勢を示しました。
ロシアのプーチン大統領は7日、極東のウラジオストクで、国際経済会議「東方経済フォーラム」の全体会合に出席し、演説しました。
このなかで「欧米は、自分たちにとってのみ有益な世界秩序を維持しようとしているが、制裁が、世界経済を弱体化させた」と主張し、欧米がロシアに科した制裁を批判しました。
そして、ロシア軍の封鎖で滞っていたウクライナから農産物の輸出が再開されたことについては「そのほとんどが、貧しい途上国ではなく、ヨーロッパ諸国に運ばれている。これでは人道的な大惨事につながる。ヨーロッパへの穀物輸出を制限する必要がある」と主張し、ロシアと対立を深めるヨーロッパをけん制しました。
また、ロシア産のエネルギーについて「ヨーロッパは長年、ロシア産の天然ガスの恩恵を受けてきたが、その利点をもはや必要としないのならば、それでもかまわない。世界はロシアのエネルギー資源を必要としている。ロシアはどんな国とも協力していく」と述べました。
そして「ノルドストリームを利用して、ロシアが『エネルギーを武器化している』と批判するが、制裁によってみずからを追い込んでいる」と述べ、ロシアが、豊富な天然ガスを利用してヨーロッパに揺さぶりをかけているという批判に反論しました。
また「ウクライナへの特別軍事作戦を開始してから、ロシアは何も失っておらず、今後も失うことはないと信じている。ロシアにとっての利益という観点では、われわれは主権を強化することができた。確かに、世界でも国内でもある種の二極化が起きたが、それはわれわれに利益をもたらすだろう」と主張しました。
そのうえで「ロシアの目的は、東部ドンバス地域の住民を助けることだ。われわれは最後までこれをやり遂げる」と述べ、軍事侵攻を継続する考えを改めて強調しました。
また、砲撃が相次ぎ安全性への懸念が高まっているウクライナのザポリージャ原子力発電所について、ウクライナ軍が原発を攻撃していると主張したうえで「IAEA=国際原子力機関は、原発から軍の装備を撤去するよう指摘するが、そこにロシア軍の装備はない」と述べました。
会議の全体会合には、中国の共産党の序列3位で、全人代=全国人民代表大会の栗戦書委員長や、ミャンマーで実権を握る軍のトップ、ミン・アウン・フライン司令官らが出席し、プーチン大統領は友好国との連携を強化する姿勢を打ち出しながら、欧米との対決姿勢を鮮明にしました。
「ザポリージャ原発にロシア軍の装備はない」
プーチン大統領は7日、ウラジオストクで開かれている国際経済会議の全体会合に出席し、ウクライナのザポリージャ原子力発電所で調査を行った、IAEA=国際原子力機関に言及しました。
プーチン大統領は「IAEAの報告書は信頼しているが、IAEAの専門家は、アメリカやヨーロッパから圧力を受け、ウクライナが原発を攻撃しているとは言えないのだ。欧米製の兵器が使われ、原発の安全性に脅威をもたらしている」と述べました。
そのうえで「IAEAは、原発から軍の装備を撤去するよう指摘するが、そこにロシア軍の装備はない」と述べ、ザポリージャ原発の非武装化に否定的な姿勢を示しました。
ロシア 中国との連携 一層強調
ロシア政府が、ロシア極東で開催している国際経済会議では、ウクライナへの軍事侵攻をめぐり欧米などとの対立が深まる中、中国との連携が一層強調されています。
ことしのプログラムでは、ロシアと中国の間の貿易や、若者の交流、それに中国とロシアが主導する枠組み、上海協力機構の重要性など、両国の連携強化をテーマにしたセッションが目立ちます。
このうち、7日に行われた今後の中ロの経済協力に関するセッションでは、中国と国境を接する極東のアムール州の知事が「中国側と経済分野などで、すばらしい関係を築いている」と述べたうえで、ことし6月に、国境に新たに橋が開通したことや、州内の公立学校で、ことしから中国語の授業を始めたことなどを紹介し、あらゆる分野で関係が強化されていると強調しました。
また、オンラインで出席したロシアに駐在する中国大使は、ことし7月までの両国の貿易額は977億ドル、日本円でおよそ14兆円に拡大したことなどをあげて「私たちの関係は、これまでの歴史で最高の時期に突入した」と評価しました。
●「ロシアは何も失わず」 プーチン氏、ウクライナ侵攻正当化 9/7
ロシアのプーチン大統領は7日、極東ウラジオストクで開催中の第7回東方経済フォーラムの全体会合で演説した。司会者の質問に対し、プーチン氏はウクライナ侵攻開始から半年以上が過ぎた現状認識について「ロシアは何も失っていない。むしろ主権を強化した」と強調。欧米の対ロシア制裁に屈しない姿勢を改めて示した。
また、「われわれは軍事作戦を始めたのではなく、(2014年以来の危機を)終わらせようとしている」と主張。問題は親ロシア政権が倒れたウクライナ政変に端を発するとして、国際社会を揺るがす侵攻をあくまで正当化した。
演説では、欧米の制裁が「全世界に脅威をもたらしている」と発言。食料輸出国ロシアを標的とすることで「人道危機につながる」との持論を展開した。対ロ制裁に加わっていない中国やインドを含むアジア太平洋地域などとのつながりを念頭に「ロシアを孤立させることはできない」とも語った。
●プーチン大統領、ウクライナ戦争でロシアはさらに強くなると主張 9/7
ロシアのプーチン大統領は、同国がウクライナ侵攻を経て一段と強くなって台頭すると述べ、欧米諸国の「制裁フィーバー」を非難した。
プーチン大統領は7日、ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、会議進行役からウクライナ侵攻に関する質問を受け、「ロシアは何も失っておらず、この先も何も失わないと確信する」と述べた。プーチン大統領は質問前の演説ではウクライナでの戦争に一切言及していなかった。「主に得られるものは、ロシアの主権強化だ」とも語った。
大統領はさらに、新型コロナウイルスがもたらす経済への影響について「新型コロナ禍は別の問題に取って代わられた。それは地球規模の問題であり、世界全体を脅かしている」と述べ、「それは西側諸国の制裁フィーバーだ。ある種の行動様式を他国に押しつけ、主権を奪い、意のままに従わせようとする攻撃的な試みだ」と主張した。
ロシアを孤立させることは「不可能」だと強調した上で、「われわれはリスクも理解しており、その注視を続ける必要がある」とも述べた。
●「エネルギーを武器に利用」との批判に反論 ロシア大統領 9/7
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は7日、ウクライナ侵攻を理由とした制裁に対する報復としてロシアがエネルギーを「武器」に使っているとの批判に反論し、停止している天然ガスパイプラインについて、タービンがロシアに返還されれば直ちに稼働させると述べた。
プーチン氏は極東ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、「彼ら(欧州)はロシアがエネルギーを武器として使っていると主張している。ばかげたことだ。われわれは要請に基づいて、必要なだけ供給している」と述べた。
ロシアの国営天然ガス大手ガスプロムは2日、ロシア産天然ガスをドイツへ供給するパイプライン「ノルドストリーム」について、修理のため稼働再開を延期すると発表した。
ロシア大統領府は、カナダで修理中だった独電機大手シーメンス製タービンが西側諸国の制裁で返還されないと主張。プーチン氏は「タービンを提供すれば、あすにもノルドストリームを稼働させる」と述べた。
一方、ロシアとウクライナ、国連(UN)、トルコの合意により再開されたウクライナからの穀物輸出に関して、「ウクライナから輸出された穀物の大半は、貧しい開発途上国ではなく欧州に送られた」との見解を示した。
さらに「欧州諸国はここ数十年、数百年と、植民地主義者として行動してきた」とし、「彼らは今も同じように行動し続けている」と批判。欧州諸国は途上国を欺いており、「こうした手法を取れば、世界の食糧問題はさらに深刻化する」と主張した。
●川を泳いで敗走か。ウクライナの反撃に重火器を破棄して退却するロシア軍 9/7
南部地域の領土を取り戻すべく、8月29日に反転攻勢に出たウクライナ軍。9月4日にはゼレンスキー大統領が東部と南部の3つの集落を奪還したと表明しましたが、この先紛争はどう展開していくのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、さまざまな情報を整理しつつ戦況を解説。さらにロシア・ウクライナ両国の思惑と、この戦争が鮮明化させたものについて考察しています。
ウクライナ軍がヘルソン市に迫る
ウクライナ戦争はウ軍がヘルソン市の奪還を目指し、29日より総反撃を開始した。今後を検討しよう。
ウクライナ独立記念日の8月24日後の29日から南部ヘルソン州のドニエプル川西岸地域の奪還に向け、ウ軍は総反撃を開始した。
この反撃とともに、引き続き、ウ軍はクリミア半島やヘルソン州、ザポリージャ州のロ軍の弾薬庫や兵站拠点、司令部、空軍基地などを撃破して、ロ軍の補給をなくす動きをしている。
ロ軍は、戦争資源が枯渇してきたので、ドンバス方面に優秀部隊を集めて、この地点での突破を志向しているようだ。このため、ロ軍はイジューム西のノバ・フサリフカから突然、ドネツ川の橋を破壊して、対岸まで撤退した。
イジューム周辺の優秀な正規兵をドネツク周辺に移動させるようである。この正規兵の代わりに募集兵を充当するので、防衛の難しい地点を放棄するようだ。その募集兵も少なく、この地域は手薄になっている。
そのため、ウ軍は徐々に前進している。偵察隊を出して、ロ軍の空白地帯を見つけて、そこに浸透する方法で前進しているようだ。
プーチン大統領はドネツク州の完全制圧の期限を8月31日から9月15日に延期して、ロ軍に絶対命令を出したという。このため、ドネツクへの兵員増強がロ軍も必要になり、イジューム周辺やハルキウ周辺、スラビアンスク東側から多くの経験豊富な正規兵を移動させて募集兵に置き換えているようだ。
この2週間を見ると、ロ軍が前進できたのは、ドネツク近郊のピスキーだけであり、一度は押し戻したウ軍は、耐えられなくなり完全撤退した。
しかし、ピスキーから先に攻撃できない程ロ軍も消耗したようである。この情報でプーチンが動いた可能性がある。ドネツクに兵員を集めろと。現地指揮官と直接連絡しているので、全体戦局を見ずに、一部地域の戦術レベルで動員の命令を出したようだ。
これに関連して、多大な犠牲を払って前進したので、ロ軍は休戦をウ軍に申し出たが、時間稼ぎのような気もする。ドネツクに部隊を集める方向でロシア軍は動いているので、危ないような気がする。
このような動きから見ると、ロ軍の戦略は、南部も捨て、イジューも捨て、ドネツク市周辺を確保ということになる。
一方、ウ軍は、ドニエプル川のヘルソン市とノバ・カホフカの中間地点のリボグのポンツン・フェリーを破壊した。アントノフスキー橋やその付近のフェリー、カホフカ橋や付近の船橋も攻撃して、ドニエプル川西岸への補給を止める攻撃を継続しているが、フェリーの破壊もできるようになったようである。
これは、射程70km、誤差1mの「ボルケーノ」GPS誘導弾がウ軍に供給されて、PzH2000の155mm榴弾砲から打てるようになったことで、この弾は最後の段階で熱追尾ができるので動く目標でも狙えるからである。これで、ロ軍の補給は完全に止まることになる。
クリミア半島に補給している兵器・弾薬は、ヘルソン州に送れずにザポリージャ州のトクマク付近に蓄積したが、ここもHIMARSで破壊されている。しかし、ロ軍はドニエプル川西岸への大量の補給・援軍を諦めて、ザポリジャー州で新たな攻撃をするのではないかと見られている。新しく編成されたロ軍の第3軍団もザポリージャ州に正規部隊を送り込んで、募集兵はハリキウ近郊やイジュームに送っている。
このことでは、ドイツ軍ツォルン総監が、ロシア陸軍には第二戦線を開く余地があるとし、西側諸国はロシアの軍事力を過小評価すべきでないと警鐘を鳴らしている。まだ、ロシア軍は豊富な兵器を持っているということだ。
ウ軍の主力部隊がいる南部ヘルソン州では、29日より総攻撃になり、3方向で反撃している。1つにはヘルソン市の北からロ軍に占領されたブラホダトネを奪還し、高速道路M14を一直線でキセリフカ、そしてヘリソン市郊外のチェルノバイフカまで攻撃が及んでいるようである。
この攻撃軸にウ軍はかなりの戦力を投入している。HIMARSも昼からチェルノバイフカへの攻撃に使用している。しかし、チェルノバイフカから先のヘルソン市方面は要塞地帯になり、ここからの攻撃は容易ではないし、配備のロ軍も多い。しかし、ウ軍の攻撃がすごいことにロ軍は、ビックリしたようである。
この攻撃と同期して、ヘルソン市内の特殊部隊も市内で銃撃戦を開始しているが、市内の銃撃戦は収まったようである。
ヘルソン州中北部のロゾベの橋頭保からロ軍を攻撃して、スクイー・スタボクを奪還し、コストロムカも奪還でT2207号線で両軍が激戦中である。ロ軍の戦車中心BTGが集中しているので、ここではウ軍の前進速度は遅いことになっているが着実に前進している。
ヘルソン州北東部では、アルハンヘルスク、オリヘネを奪還して、ビソコピリアで激戦になっている。しかし、ここのウ軍は攻撃し奪還した地点を再度、ロ軍に奪われるなど、苦戦もしているようだ。しかし、ロ軍がヘルソン州東中部のゾルイ・バクカに砲撃をしているということは、ウ軍が10kmも南下した可能性がある。
しかし、このヘルソン州全体でウ軍もロ軍も情報統制しているのでよくわからない。両軍の攻撃地点やSNSの情報等で推測するしかない。
そして、混戦模様でもある。広い範囲に1万8,000千のロ軍では、点しか守れていないので、ウ軍が進撃しても、ロ軍陣地を避ければ、前進できる可能性が高い。
どちらにしても、ドニエプル川西岸地域のロ軍30BTGの1万8,000名分の補給ができなくなっているが、それでも、ロ軍は、今までに貯め込んだ大砲や戦車、ヘリコプター、迫撃砲と弾薬を大量に持ち戦っている。ウ軍兵士は「奴らの装備は豊富だが兵士は少ない」という。
補給は、ウ軍戦闘機に見つからないように、クリミアから輸送ヘリ2機と護衛の攻撃ヘリ2機の4機編隊で細々としているようであるが、非常に少ない。補給線を維持できずに空からの補給になっている。それと、孤立したロ軍が多数存在しているようだ。
このため、長期の戦闘になると、ロ軍の大量投降になる可能性が出てきた。いつまで、ロ軍が持つかという問題になっている。
事実、ロシアの独立系メディアThe Insiderによるとロシアはすでに誘導ミサイルをほとんど保有せず、戦争がこのまま維持されれば、砲弾と装甲車両は2022年末までにほとんどが払底するという。
そして、戦車ですが、ロ軍の車両損失合計は5,415両だが、1,756両(31%)がロ軍放棄でウ軍が鹵獲したものだ。これを修理して戦線に送り出しているようだ。ロ軍戦車のメンテナンスがないことで故障率が高いことになっている。
最後に、敗走するロ軍は、フェリー乗り場に押し寄せることになるが、ドニエプル川西岸地域では3ケ所のフェリーや橋しかない。後は川を泳いで渡るしかない。重火器は放棄することになる。
それと、AGM-88対レーダーミサイルでロ軍の防空レーダーが破壊されて、ロ軍のS300は機能しなくなっている。このため、バイラクタルTB2が偵察活動や対砲兵戦で、ロ軍の火砲を攻撃できるようになってきた。TB2でT-72戦車を破壊する動画も出てきた。
特にドニエプル川左岸のヘルソン市などの西側の一帯では、ウ軍が制空権を確保した可能性があり、この地域でロ軍戦闘機の活動は、非常に少なくなってきた。
このため、ウ軍攻撃機もロ軍地上部隊を空爆できるので、ウ軍陸上部隊は、砲兵と空軍の支援を受けて、ロ軍を攻撃している。これで、ヘルソン市郊外までウ軍は到達した模様である。
それでも、ロ軍の待ち伏せ攻撃で、ウ軍戦車隊などが被害を受けているようであり、相当な犠牲を払って前進している。
しかし、全体的には、ロ軍が不利な戦いになり、戦意の低い部隊は、ウ軍の攻撃ですぐに逃亡している。前線にいたドネツク109連隊は、ウ軍が攻撃開始したら、即撤退した。しかし、これも待ち伏せ攻撃の誘導の可能性もあり、注意が必要である。
英国と米国のウ軍軍事顧問団も、ウ軍の総反撃の前進速度を早めると、損害が多くなり、継戦能力を低くすることに警戒している。数か月という侵攻速度にして、ロ軍の弾薬を枯渇させるべきであるという。それと、ポーランドの全戦車PT-91も、まだ届いていない状況であり、攻撃兵器も十分とは言えないことも考慮しているようだ。
現在、オランダから供与された兵員輸送装甲車YPR-765APCsが多く、T-72、T-64などの戦車の台数が少ないことがネックである。この戦車の多くをヘルソン市奪還作戦に投入しているが、それでも損害が多いと数が足りなくなる。
このため、ウクライナのアレストビッチ大統領顧問によると、政府は多くのウ軍兵士が命を落とすことを望んでいないとし、ウ軍がロ軍に対し素早く勝利することを期待しないで欲しいとした。
しかし、ウクライナのレズニコフ国防相は、冬まで戦争を続けると、援助疲れで、EUからの支援がなくなることを心配している。このバランスが必要になっているようだ。
これに対して、ドイツのショルツ首相は、冬の燃料について、確保できたと言っているが、多くの国では冬の燃料の不足が心配な状況である。
プーチン大統領は、欧州への天然ガス供給を止めて、欧州でのエネルギー不足から停戦をウクライナに要求するのを待つ方向である。このため、ノルドストリームを止めた。
しかし、南部ヘルソン州のウ軍総反撃の経過で自信を持ったゼレンスキー大統領は、ウクライナ東部の紛争解決のための交渉グループにおける同国の代表団を廃止し、戦争で決着させるという。
このため、ゼレンスキー大統領は、ドイツに対して、ウクライナから電気の供給を行うとして、欧州のエネルギー不足を緩和して、支援の継続を図りたいようである。
そして、このウ軍の総反撃で、占領地のロ連邦編入のための住民投票は、統一地方選と同日の9/11に実施するのは不可能で、次の候補は11/4の「国民団結の日」になるのではないかと言われている。
一方、ザポリージャ原発には、IAEAの査察団が到着した。これで、ロシアは自分が占拠する原発への攻撃を控えると、期待したい。
この矛盾した根拠が出てきた。IAEAが「なぜ原発に飛んできたミサイルはロシアが打ったような方向を向いているの?」と言う質問に対して、ロシア側の担当者は、「着弾する際にミサイルが180度方向転換するからだ」と真顔で答えたという。
このようなロ軍の行動監視に、IAEAのグロッシ事務局長は、ザポリージャ原発にスタッフ2人を常駐させると発表した。
そして、ロシア軍が占拠するザポリージャ原子力発電所の安全性に関する報告書を9月9日までに発表すると述べた。
ショイグ国防相は、ウクライナが「核テロ」を実行していると非難し、ロシアが同原発に重火器を配備したというウクライナと西側諸国の主張を否定し、国連安保理でも、ロシアは原発の安全をウ軍が阻害したと、議題提案があり、IAEAの報告書後、審議されることになる。ロシアの嘘が、国連安保理でも暴かれることになる。
ロシアは9月1日から大規模な軍事演習「ボストーク」を、ロシア極東や北方領土、日本海などで行い、兵士5万人以上のほか航空機140機や艦船60隻が参加する。中国、アルジェリア、インド、ラオス、モンゴル、ニカラグア、シリア、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンが参加する。
この狙いは、ウクライナ戦争でも、ロシアは中国とともに。米欧や日本への対抗ができると見せつける狙いがあるとみられるが、反対に、中国は艦船の参加もさせて、台湾進攻時にロシアの支援を得る狙いがあるようだ。
ロシアは、極東ロ軍もウクライナに70%程度送っているので、参加人数は1万人レベルのようである。恒例の大演習を行うことで、ロ軍が余裕あることを示したようだ。
世界は、確実に東西の分離になってきている。先進国群と専制主義国+新興国+発展途上国群の2つに割れている。温暖化防止などの先進国の規制で、新興国の発展は阻害されている。
それを嫌がる新興国は、両方の中間に位置することになる。そのよい例がインドだ。インドは、「ボストーク」に参加することで、欧米に対する不満を表しているように感じる。
さあ、どうなりますか?
●ウクライナ軍、北東部バラクレヤで反攻 ロシアの作戦に打撃も 9/7
ウクライナ軍が北東部ハリコフ州の町バラクレヤで反攻の動きを見せている。
ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力「ドネツク人民共和国」幹部は7日、通信アプリ「テレグラム」で、「バラクレヤがウクライナ軍部隊の攻撃を受けている」と認めた。
バラクレヤはロシア部隊が補給拠点とする交通の要衝イジュームの北西に位置し、ロシア軍が3月から占拠していた。親ロ派幹部は、ウクライナ側が以前から砲撃の準備を進めていたと指摘。ウクライナが奪還すれば、ロシア軍がハリコフ州で作戦を展開する上で打撃となる。
ウクライナ当局は反攻について明言を避けているが、現地の記者もテレグラムなどにバラクレヤで交戦が起きていると相次いで投稿した。
ウクライナ大統領府のアレストビッチ顧問は7日、テレグラムへの投稿で「ハリコフ州で電光石火の変化が起き、ロシア軍は東方へ退いている」と主張。ウクライナ軍は南部ヘルソン州でも攻勢を強めているとされ、アレストビッチ氏は作戦を「同時並行で進めている」と強調した。
ウクライナのメディアによると、ハリコフ州の別の町クピャンスクの当局者は6日、ビデオメッセージで「ウクライナ部隊が近くクピャンスクを解放する」と訴えた。 
●ウクライナ軍、ハルキウ東方に進軍か 最近までロシア占領の町に兵士の姿 8/7
ウクライナ軍が同国第2の都市ハルキウの東に進軍していることが分かった。CNNが位置情報を確認したSNSの動画には、最近までロシア軍に占領されていた町にウクライナの兵士がいる様子が映っている。
もしウクライナ軍がこの町で地歩を固めることができれば、隣接するバラクレヤに駐留するロシア軍を包囲することが可能になる。
ウクライナ、ロシア双方の情報によると、バラクレヤでは自称「ルガンスク人民共和国」の民兵やロシア国家親衛隊の兵士が守備に就いており、こうした民兵や兵士の置かれた状況は危うくなっている可能性がある。
CNNはこうした情報を独自に検証できていない。この地域でのウクライナの攻勢に関しては、ロシア政府もウクライナ政府も言及していない。
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は6日、ウクライナ軍がバラクレヤに迫り、ロシア軍をドネツ川などの左岸に追いやっている可能性が高いとの分析を示した。
●ウクライナ、東部ハルキウ州でも反攻…ロシア軍が南部へ戦力移動か  9/7
ロイター通信は7日、ロシア軍の占領地域奪還に向け、南部で反転攻勢に乗り出しているウクライナ軍が、東部ハルキウ州でも反撃を始めたと報じた。ウクライナ軍が8月29日に開始した反攻が広範囲に及んでいる可能性がある。ウクライナ軍は6日、南部ヘルソン、ザポリージャ両州でも露軍拠点への攻撃を強めており、戦闘の主導権がウクライナに移り始めているようだ。
ロイター通信によると、東部ドネツク州の親露派武装集団幹部は6日、SNSに、露軍が占拠するハルキウ州バラクレヤに対し、ウクライナ軍が激しい攻撃を始めたと投稿した。バラクレヤは、露軍がドネツク州攻略の拠点としているハルキウ州イジュームに近く、奪還されれば、イジュームを防衛することも難しくなるという。ウクライナ大統領府幹部も反攻を認めた。
米政策研究機関「戦争研究所」は6日、東部に配備されていた露軍の精鋭部隊が南部で初めて確認されたと指摘した。露軍が南部の防衛を強化するため戦力を移動したことが、東部でもウクライナ軍の反攻を可能にしたとの見方だ。
ウクライナ軍参謀本部は7日、空軍が地上部隊の攻撃支援のため、約40か所の露軍拠点などに被害を与えたと発表した。6日には、ザポリージャ州ベルジャンシクの親露派「司令官」が車ごと爆殺されたとの情報も流れた。

 

●ウクライナ軍、クリミアのロシア軍基地攻撃認める「ロシア軍機10機が行動不能」 9/8
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は7日、ロシアが2014年に併合したクリミア半島のロシア軍基地に対する一連の爆発について、ウクライナによるミサイルもしくはロケットによる攻撃と認めた。国営通信社ウクルインフォルムへの寄稿から明らかになった。
クリミア半島西部のロシア軍の基地では8月9日、複数回の爆発があった。ウクライナは、これまで攻撃を公式には認めていなかった。
一方、ザルジニー氏は寄稿でウクライナ軍が攻撃したことを認め、攻撃によりロシア軍機10機が「行動不能」に陥ったと述べた。
さらに、特定の状況においてロシア軍が核兵器を使用するという脅威があると指摘。ウクライナ戦争が来年まで続く可能性が高いとの見方を示した。
●国連安保理 欧米各国“ロシアはウクライナ市民拘束 強制移送”  9/8
ウクライナ情勢をめぐる国連の安全保障理事会の会合が開かれ、欧米各国は、ロシアがウクライナ東部などで市民を拘束したりロシア国内に強制的に移送したりしていると非難し、ロシアに対して国連による調査を受け入れるよう迫りました。
ウクライナ情勢をめぐり、欧米各国や国際的なNGOは、ロシア軍が支配下に置いたウクライナ東部などに市民を尋問する施設を設け、その後拘束したりロシア国内に強制的に移送したりしていると指摘しています。
これについて国連安保理で7日、会合が開かれ、国連人権高等弁務官事務所の担当者が報告を行い、ロシア軍がウクライナ市民を尋問していることを確認したとしたうえで、「信頼できる情報によればその過程で多数の人権侵害があった」と述べました。
このあと、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は「こうした活動はロシアの支配に従わない個人を特定するのが目的で、ロシアへの併合に備えるものだ。見せかけの住民投票を行おうとしている」と述べ、ロシアが併合を目指す地域で住民投票を行い、都合のよい結果が出るよう準備しているという見方を示しました。
そのうえで、強制的な移送などは国際法上の戦争犯罪に当たるとしてロシアを厳しく非難し、国連による調査を受け入れるよう迫りました。
これに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は、現地で行われているのは尋問ではなく登録の手続きだと反論し、欧米はロシアをおとしめるために新たな偽情報を広めていると主張しています。
●プーチン氏「損はない」「主権強化された」 ウラジオの国際会議で 9/8
国際経済会議に、プーチン大統領が登壇し、ウクライナ侵攻について「主権が強化された」と強調した。
東方経済フォーラムに登壇したプーチン大統領。
ウクライナへの軍事侵攻後に、ロシアから撤退した企業が多いことを司会者から指摘され、プーチン大統領は「われわれは何1つ損はしていない。これからも損はしない。われわれの主権が強化されたことが利益だ」と強調した。
また、穀物輸送の再開について、プーチン大統領は、「ウクライナを出た87隻のうち、発展途上国には2隻しか届いていない。発展途上国への裏切りだ」と欧米を批判した。
3年前のフォーラムには、安倍晋三元首相が参加するなど、日ロの経済関係を深める場となっていたが、今回は、日本は代表団を派遣しなかった。
●「ロシアは何も失っていない」プーチン氏、ウクライナ侵攻巡り強気姿勢崩さず 9/8
ロシアは、ウクライナでの紛争から得ていることこそあれ、失っているものはない――プーチン氏は7日、こう語った。ロシアは国際的な影響力回復に向け、新たな道を歩んでいるという。
ロシア プーチン大統領「私たちは何も失っていないし、これからも失うことはないと確信している。
もう一度言っておきたい――これはよく言われることだが、全く正しい。軍事行動という点では、我々が何か始めたわけではない。ただそれに終止符を打とうとしているだけだ。」
ロシア極東のウラジオストクで開催された、東方経済フォーラムでプーチン氏はこう述べた。その一方で、この紛争が世界とロシアの双方に「ある種の二極化」を引き起こしたとの認識を示した。
7日、砲撃を受けたウクライナ・ハリコフの住民にとっては、得るものなどなく失うばかりだ。この女性は、激しく損壊した職場を見せてくれた。あらゆるものが破壊されたと語った。
同国南部で続いている奪還作戦について、ウクライナ当局者の口は堅い。だがへルソンでは着実な成果が報告されている。
これは、5日SNSに投稿された動画。ウクライナ軍が奪還したとするヘルソン地方のビソコピリヤで、兵士がウクライナ国旗を掲げる様子を撮影したという。ロイターはいつ撮影されたものか確認できていない。
一方ロシア側は、ウクライナ側の反撃を撃退しており、ロシア軍が撤退した事実はないとしている。
だが親ロ派の自称「ドネツク人民共和国」の関係者はハリコフと、ロシア側が掌握するイジュムとの中間にある町、バラクリアで戦闘があったと明らかにした。この町が失われると、イジュムに駐留するロシア軍は脆弱になるという。
ロイターは戦況に関する情報の真偽を、独自に確認することはできなかった。
●ロシア孤立化は「不可能」 プーチン氏、ガスなど供給停止を警告 9/8
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は7日、同国を孤立させることは「不可能だ」とし、同国産石油とガスの輸入価格に上限を設ける国に対しては供給を停止すると警告した。
西側諸国による一連の制裁を受け、アジアや中東、アフリカとの関係強化を模索するプーチン氏は、極東ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで演説し、「ロシアをどれだけ孤立させたい人がいようと、それは不可能だ」と言明。新型コロナウイルスの世界的大流行に代わって、「西側諸国の制裁熱」などが世界全体を脅かしていると述べた。
また、ロシア産の石油やガスの輸入価格に上限を設定することは「全く愚かな決断だ」と断言し、同国の経済的利益に反する場合は「一切何も供給しない」と述べた。
2日には先進7か国(G7)が、ウクライナに侵攻するロシアの軍事費の資金源を断ち切るために、同国産石油の輸入価格への上限設定を早急に進める方針で合意。同国にエネルギー源を大きく依存している欧州連合(EU)でも7日、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長が、ロシア産石油とガスの輸入価格に上限を設けるよう加盟国に提案した。
●ウクライナ戦争の情報戦で引っ搔き回されたプーチン 9/8
出口の見えないウライナ戦争――。プーチン露大統領の手痛い誤算の背景として、同国情報機関による終始楽観的な戦況見通しがあったことが、米ワシントン・ポスト紙特別チームによる調査報道でこのほど明らかにされた。侵攻の動きを事前察知し、世界に向けて警告していた米側インテリジェンスとの質的差も浮彫りにされた。
周到な情報準備も、報告は楽観的なものばかり
ワシントン・ポスト紙は先月、ウクライナ戦争がロシアによる軍事侵攻開始から6カ月の節目を迎えるのを機会に、ベテラン記者を総動員し、米欧、ウクライナなど各国政府、軍・情報関係者を中心に精力的なインタビュー、背景取材に着手、その分析結果を数回に分け大々的に報道した。
この中で特に注目されるのが、冷戦時代の国家保安委員会(KGB)に代わり、クレムリンの戦争立案・遂行に中心的役割を演じてきた「連邦保安庁(FSB)」の存在だ。
FSBは2019年まで、部内の「ウクライナ課」に30人程度のスタッフを擁してきたが、その後、思い切った改革に乗り出し、今年2月の侵攻直前には、160人に大幅増員された。ウクライナ各州に専従要員を送り込み、国じゅうにスパイネットワークを張り巡らした。
プーチン大統領がひとたび「ウクライナ侵攻」を決断すると、FSBは、ゼレンスキー政権や軍内部に潜伏させていたスパイ網を通じ、ロシア軍が展開すべき具体的侵攻作戦、予想されるウクライナ側の反応などについて、クレムリンに詳細にわたる報告を行ってきた。
その核心部分は「同国政権は(侵攻後)短時間のうちに崩壊する」というものだった。
ウクライナ側の執拗なレジスタンスの可能性については、ほとんど言及しなかった。
ゼレンスキー政権の「短期崩壊」を前提に、「傀儡政権」樹立準備も完了、それを支えるウクライナ側の中心人物たちまで根回ししていた。その中には、かつてウクライナ大統領を務め、政変で2014年にロシアに逃亡したビクトル・ヤヌコビッチ氏、ウクライナ野党党首でプーチン氏とも親交を深めてきた新興財閥のビクトル・メドベチュク氏らが含まれていた。一方、ウクライナ現政権の情報機関はすでに、彼らについては「FSB同調者」としてマークしていたという。
しかし、FSB本部は、こうしたウクライナ情報機関の警戒ぶりに気づいた様子はなく、ロシア軍侵攻開始「最終段階の数日間」には、首都キーウ周辺に潜伏する工作要員たちのために用意した「居住用アパート案内」や「傀儡政権」樹立後に続々とモスクワから潜入が予想される要員たちのための受け入れに関する細かな指示を現地に頻繫に送っていた。
ワシントン・ポスト紙が入手したウクライナ側の機密情報ファイルによると、FSBのウクライナにおける主たる任務は、「政権の内部崩壊」「ゼレンスキー大統領追放」「親露政権樹立」にあり、同政権内部に潜伏させる要員たちの活躍に期待を寄せていた。そのうちの何人かは指示に従い、ウクライナ国防省の作戦妨害に乗り出したが、中には、秘密工作資金を着服したり、侵攻開始直後に嫌気がして謀反を起こしたりした者もいた。
FSBの戦況見通しも全体として、楽観に満ちたものであり、ゼレンスキー大統領の強靭な反抗姿勢や、同大統領に対するウクライナ国民の我慢強い忠誠ぶりに関しては、ほとんど言及がなく、戦争が困難に直面し、長期化することについては、プーチン大統領にまともな報告を上げてこなかった。
なぜか伝えられなかった「実際の」情報
FSBが、なぜ見通しを誤ったかについては、いまだミステリーとなっている。
特に、侵攻決定に先立ち、FSBはひそかに、ウクライナ国民を対象に広範囲にわたる独自の世論調査を実施していた。
それによると、回答者の大多数が「ロシアに占領されたら徹底的に抵抗する」と答えており、ロシア軍を解放者≠ニして歓迎する空気は当初から存在しなかった。にもかかわらず、FSB展望は「侵攻部隊は市民から歓迎され、すみやかに親露体制が回復される」との楽観論に立っていた。
しかもFSBは、「首都キーウに向けた電撃作戦により、ゼレンスキー政権は数日間で転覆され、大統領は殺害、身柄拘束あるいは直前の国外逃亡により、政治空白が生じ、新体制樹立が可能となる」ことを前提とした戦争計画まで作成していた。
ところが、実際には、FSB要員たちがロシア軍部隊とともにキーウ近郊に迫った時点で、早くもウクライナ軍の反撃に直面、撤退を余儀なくされるに至った。
ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)もほぼ、FSBと同様の報告をクレムリンに挙げていたという。
このようにロシア側のウクライナ侵攻作戦に関するインテリジェンスがいかに間違いだらけだったかは、その後の戦況が如実に物語っている。
ロシア軍は首都キーウ制圧を断念後、当初の作戦を転換、ウクライナ南部および東部諸州攻撃に主力を注入してきた。そしていったんは、ドネツク、ヘルソン各州を占拠したとみられていた。
しかし、ウクライナ軍は「首都制圧」というロシア軍側の出鼻をくじいたばかりか、去る8月29日、南部などでも領土奪還目指し猛烈な反撃攻勢に転じ、特にヘルソン州周辺では、集結した数万人規模の露軍部隊相手に今なお五分五分の戦いを続けている。
ウクライナ軍は、東部ドネツク州のいくつかの集落についても、すでに奪回したと伝えられる。さらに、ゼレンスキー大統領は今月4日の演説で「われわれはすべての領土を解放する」とさえと述べ、ロシアが併合した南部クリミアの奪還にも乗り出す姿勢を明らかにした。
一方のウクライナ側の治安・保安体制も、当初は堅固とは程遠い状態であり、ロシア側のスパイ潜入摘発、かく乱工作回避にかなり手を焼いていた。しかし、米中央情報局(CIA)、英秘密情報部(MI6)などからの情報支援を得て、去る7月には、ゼレンスキー大統領陣頭指揮の下に、小学校時代からの友達だった身内のイワン・バカノフ同国情報局長を突如解任、他にも内通者の一掃など、非常措置がとられている。
いずれにしても、プーチン大統領は、FSBによる「早期傀儡政権樹立」という見通しを真に受けてきた結果、今や、まったく出口の見えない長期戦を強いられていることは間違いない。
「ロシア侵攻説」を伝えるも西側諸国は懐疑的態度
これと対照的な活躍を見せてきたのが、米英両国のインテリジェンスだった。
特に、CIAを中心とする米側各情報機関は、ロシアの侵攻開始に先立つ1年以上前から、クレムリン、軍部、情報機関内部にスパイを潜り込ませ、プーチン大統領が着々とウクライナ侵攻作戦の準備に乗り出し始めていることを察知していた。
そして、2021年10月には、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)、ウイリアム・バーンズCIA長官らが、バイデン大統領に対し、より具体的なロシア側の侵攻着手のための「ウォー・プラン」について極秘ブリーフィングを行った。
これを受けて、バイデン大統領は早速、数人からなるインテリジェンス・チームをモスクワに派遣、プーチン大統領に直接面談した上、「わが方は、すでにクレムリンが何をしようとしているか、すべて把握している。侵攻に踏み切った場合、(ロシア側に)深刻な結果を招くことを知るべきだ」と警告していた。
しかし、プーチン大統領は現実にはこれを無視して、侵攻計画を強行したことになる。
ワシントン・ポスト紙の調査報道によると、米側情報チームは、プーチン大統領のみならず、英仏独など西側同盟諸国首脳に対しても、同様の事前ブリーフィングを行い、それぞれの外交チャンネル通じ、クレムリンにウクライナ侵攻を思いとどまらせるよう働きかけを促していた。
このうち、英国政府はMI6を通じ、ロシアの侵攻計画について米側と同様の情報をある程度まで把握しており、米側インテリジェンスより確度の高い情報と突き合せた上で、他の同盟諸国に対しても、ロシア軍による早期ウクライナ侵攻について警戒を呼び掛けていた。
ところが、ドイツ、フランス両国首脳は、ロシアのウクライナ侵攻に直前まで懐疑的態度を示していた。
特に両国当局者は、説明に当たった米情報機関のトップであるアブリル・ヘインズ国家情報長官に対し、かつてジョージ・ブッシュ政権権時代に米側インテリジェンスによる「イラク核保有」説で振り回された苦い経験にも言及した上で、「今回の場合も、ロシアが実際に侵攻に敢えて踏み切るとは思えない」「わが方の情報機関もそうした動きを察知していない」などと否定的見解に終始していたという。
しかし、米政府当局者たちが、「ロシア軍侵攻切迫」を信じ込ませるのに最も手を焼いたのが、ゼレンスキー大統領以下、当事者であるウクライナ政府側だった。
特に昨年11月、ブリンケン国務長官がゼレンスキー大統領を英スコットランドのグラスゴーにひそかに呼び出し、ロシア軍侵攻開始が時間の問題となりつつあることについて、クレムリン内部の動き、ロシア軍の国境沿いの展開など詳細にわたる情報を示しながら、厳重な警戒を促したが、このときも、大統領は「過去に何度も、ロシアは似たようなフェイントをかけてきた」などと述べ、半信半疑だった。
その数週後、大統領は側近のドミトロ・クレバ外相、アンドリー・イェルマク首席補佐官をワシントンに派遣、そこでも米側からさらに克明なブリーフィングを受けさせたが、それでもウクライナ政府側は、去る2月24日の侵攻開始の直前まで信じていなかった。
米側情報当局者は侵攻後、最近になって、「ウクライナ側情報機関にはロシア側のモグラたち≠ェ入り込んで暗躍していることは見え見えなので、あれ以上の核心に触れる機密を事前提供することは避けた」「しかし、侵攻後は、わが方はより積極的にウクライナ側に情報提供するようになった」と語っている。
その後去る7月、ゼレンスキー大統領が同国情報機関のトップであるバカノフ情報局長の解任、局長以下の思い切った人事刷新に踏み切ることになったが、これは決して偶然のことではなく、米情報機関の後押しがあったことは間違いない。
し烈極める米露情報戦の中にあって、かつてKGBで活躍し、情報活動を最大の武器にしてロシア最高指導者にまで上り詰めたプーチン氏が、今回のウクライナ侵攻作戦では、結果的に米側のインテリジェンスに引っ掻き回され、思ってもいなかった苦戦を強いられていることは、まことに皮肉というほかない。 
●米国連大使、ウクライナ人強制連行は戦争犯罪と非難 ロシア反発 9/8
米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は7日、ロシアが自国にウクライナ人を強制連行しているとし、戦争犯罪に当たると非難した。
国連安全保障理事会で「これらの作戦はロシアが自国の支配に十分に従わない、あるいは適合しないと見なす人物を特定することが目的だ」と述べた。
モスクワを含むさまざまな情報源からの推定として、ロシア当局がウクライナ侵攻後に90万─160万人のウクライナ人を「尋問し、拘束し、(ロシアに)強制連行」していると指摘。7月だけで1800人以上の子どもがウクライナのロシア支配地域から連行されたという情報を持っていると述べた。
その上で「被保護者を占領地から占領者の領土へ強制連行することは戦争犯罪を構成する」とし、「では、なぜ彼らはこのようなことをするのか?それは併合に向けた準備のためだ」と述べた。
一方、ロシアのネベンジャ国連大使は、この安保理会合は時間の無駄で、「ウクライナとその西側支援国が繰り広げる偽情報キャンペーンの新たなマイルストーン(標石)だ」と反発した。
●ウクライナ軍が「奇襲」成功か 激戦続くハルキウ州 「領土を奪還」 9/8
米戦争研究所(ISW)は7日、激戦が続く北東部ハルキウ州でウクライナ軍がロシア軍に奇襲を行い、約400平方キロの領土を奪還したとの分析を発表した。ウクライナのゼレンスキー大統領も同日夜の演説で、「ハルキウ州からよいニュースが入ってきた」と述べた。
ISWによると、ウクライナ軍は6〜7日、交通の要衝イジュームの北西で「非常に効果的な反撃」を実施。同軍がロシアの支配地内に入り、少なくとも20キロ前進した模様だとしている。
ロイター通信によると、戦闘があったのは、イジューム北西に位置する町バラクリヤ周辺。ウクライナ大統領府のアレストビッチ顧問は「ロシアはバラクリヤが包囲されていると言っているが、(ウクライナ軍は)さらに先に行っている」と指摘。「クピャンスクへの道路を封鎖した」として、ロシア軍の補給路に対して打撃を与えたと強調した。
ゼレンスキー氏はビデオ演説でハルキウ州での勝利に言及しつつ、「今は(奪還した)集落の名前を挙げる時ではない」と具体的な地名は明らかにしていない。
●露軍飛行場の大規模爆発、ウクライナ軍の攻撃と総司令官が認める… 9/8
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は7日、ロシアが2014年に併合した南部クリミアで8月に発生した露軍のサキ軍用飛行場での大規模爆発が、ウクライナ軍の攻撃によるものだったと国営通信への寄稿で認めた。ザルジニー氏は、露軍とのミサイル戦力の差が縮まらなければ「戦争は何年にも及ぶ」と述べ、戦闘が長期化するとの見通しも示した。
クリミアでは8月9日のサキ飛行場での爆発以降も、別な露軍飛行場などで爆発が相次いだが、ウクライナ軍は関与を公式に認めていなかった。ザルジニー氏は寄稿で「ミサイルで攻撃した」と説明した。
ザルジニー氏の寄稿は「2023年の軍事作戦の展望」と題した共同論文で、ロシアとの長期戦を念頭に、クリミアの奪還作戦にも意欲を示した。
ただ、射程2000キロ・メートルのミサイルでウクライナ領土のどこでも攻撃可能な露軍との「戦力の不均衡」が変わらない場合、ロシアが侵略を断念するとは考えにくいと強調した。ウクライナ軍が8月末に南部ヘルソン州などで着手した反転攻勢だけでは侵略終結には持ち込めないとの認識を示した発言だ。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7日のビデオ演説で、東部ハルキウ州の複数集落を露軍から奪還したと宣言した。
タス通信によると、ロシアの政権与党幹部は7日、露軍占領地域のロシアへの併合に向けた住民投票について、ロシアの「民族統一の日」にあたる11月4日の実施を提案した。住民投票は当初は5月の実施が取りざたされていたが、再三、延期されている。
●ウクライナ軍 東部でもロシア軍を押し戻す 反撃の動き続く  9/8
ロシア軍に支配されている領土の奪還を目指し、ウクライナ軍が南部で反転攻勢を強める中、アメリカのシンクタンクはウクライナ軍が東部ハルキウ州でもロシア軍の部隊を押し戻す動きが出ていると分析していて、ウクライナ軍による反撃の動きが続いています。
ウクライナ軍は、南部ヘルソン州などで反転攻勢を強めていますが、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は6日、ウクライナ軍が東部ハルキウ州でも反撃し、ロシア軍の部隊を押し戻したと指摘しました。
そして「ロシア軍がハルキウ州など東部から南部へ部隊を展開させたことで、ウクライナ軍はハルキウ州で反撃の機会を得たとみられる」としていて、ロシア軍が南部での防衛に追われる中、ウクライナ軍が東部でも反撃に成功したと分析しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領も7日に公開した動画で「今週、ハルキウからいいニュースがあった。いま、集落の名前は明らかにしないがウクライナ軍がいくつかの集落を奪還した」と述べていて、ウクライナ軍による反撃の動きが続いています。
また、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は7日、地元の通信社への寄稿で、ロシアが一方的に併合したクリミアの軍の基地で先月9日に起きた爆発について、ウクライナ側による攻撃だと初めて公に認めました。
この攻撃で駐留するロシア軍の複数の航空機が破壊されましたが、ザルジニー総司令官はクリミアについて、ロシア軍の部隊の展開や補給、それにウクライナへの空爆の拠点になっているとしてクリミアを奪還する重要性を強調しました。
一方、ロシア軍が掌握するウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所と周辺では依然として砲撃が続いています。
IAEA=国際原子力機関は声明で、原発と近くの火力発電所を結ぶ予備の送電線が、6日砲撃によって損傷したと明らかにしました。
IAEAは、この送電線の損傷により直ちに原発の運転に影響は出ていないとしていますが「施設がさらされる重大な安全のリスクを浮き彫りにしている」として、原発への外部からの電力供給に影響を与える軍事行動をやめるよう求めています。
●ロシア軍の士気低下、改善せず 給与未払いも 英国防省 9/8
英国防省は8日までにウクライナ情勢に関しロシア軍は戦闘疲れによる士気の低下や指揮統制の乱れに依然悩み、給与支払いの問題も抱えているとの分析結果を示した。
同省はSNS上の声明で、ロシア軍はウクライナへ送り込んだ兵力に基本的な物資を継続的に補給出来ないでいると指摘。これら物資には制服、武器、食料などが含まれ、給与未払いもあるとした。この後方支援態勢の不備が兵力の大半を襲う貧弱な士気につながっているのはまず間違いないとも見立てた。
ロシアは自軍部隊に通常、「適度な水準」の基本給や複雑な仕組みがある様々なボーナス金や手当を支給していると指摘。
その上でウクライナでは相当な額とみられる「戦闘ボーナス」が供与されていない深刻な問題が生じている可能性があると言及。軍内のお役所仕事、ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と称する異例の法的な位置づけや少なくとも司令官級での汚職体質が背景にあるだろうと分析した。
米欧当局者は先月下旬、ウクライナ軍はロシア軍の攻勢に対し互角の勝負を挑んでいるとみられるとの戦局判断も示していた。米欧が引き渡した先端兵器の威力、優勢な士気の維持、部隊の団結力、機敏な戦術採用や優れた臨機応変さなどをその要因とした。
米国防総省当局者は、ウクライナ侵攻でロシア軍が被った死傷者は7〜8万人と推定している。
この中でウクライナ軍情報総局当局者は8日までに、ロシア軍の新たな部隊の投入は11月下旬まで不可能の状態にあると述べた。訓練を受けた職業軍人や装備品の不足を根拠にした。
新たな部隊には旧ソ連時代の兵器をあてがわれているとし、多くの場合、実戦には不適格な種類ともした。同当局者はSNS上で、職業軍人の補充が問題となっており、この事態を乗り切るための訓練には3〜4カ月要するとも述べた。
さらにロシア軍は今年の2、3両月に被った大規模な兵力損失で先端的な装備のほぼ全てを失っている状況にあるともした。このため新たな編成部隊には旧ソ連時代の古びた兵器が与えられているとも主張した。軍装備の4割は戦場に投入出来る状態にはないとし、修理などが必要ともした。
●ウクライナに970億円の追加軍事支援、榴弾砲など 米 9/8
米政府は8日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、榴弾(りゅうだん)砲など6億7500万ドル(約970億円)に上る追加軍事支援を実施すると発表した。
ロイド・オースティン米国防長官は、ドイツ南西部ラムシュタインにある米空軍基地で開かれたウクライナ防衛に関する関係国会合に出席。「われわれは戦場での共通の努力の成果を実証している」と述べ、ウクライナはロシア軍に抵抗しているのみならず、南部では反転攻勢に出ているとの見方を示した。
追加支援には、105ミリ榴弾砲や、標的を正確に攻撃できる誘導型多連装ロケット発射システムの砲弾などが含まれる。
米国が最近ウクライナに供与した兵器で大きな戦果を挙げているのは、高機動ロケット砲システム「ハイマース」で、GMLRSの砲弾は最大80キロ離れた標的を正確に攻撃できる。
ただ、ウクライナが供与するよう要求している射程300キロの地対地ミサイル「ATACMS(エータクムス)」については、ミサイルがロシア領内に着弾して戦線拡大の懸念があるとして、米政府は供与を拒んでいる。
ウクライナ政府は西側諸国に対し、より強力な兵器の供与を重ねて要請。ウクライナのデニス・シュミハリ首相は4日にドイツを訪問した際も、改めて武器の供与を求めていた。
●EU、ロシア産天然ガス価格に上限案…プーチンは発動なら供給完全停止示唆  9/8
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は7日、EU域内に輸入されるロシア産天然ガスの価格に上限を設置する案を明らかにした。ガス価格の高騰に歯止めをかけるとともに、ロシアのエネルギー収入に打撃を与えるのが狙いの制裁の一環となる。
上限設置案は、9日に開かれるEU各国のエネルギー相会合で協議される。フォンデアライエン氏は記者団に「ウクライナでの非道な戦争の資金源であるロシアの収入を削り取らなければならない」と述べた。
AFP通信によると、ロシアのプーチン大統領は7日、EUの発表に先立って「(上限設置案は)極めて愚かな決断だ」と述べた。発動させた場合には、欧州へのガス供給を完全に停止する考えも示唆している。上限設置がガスの供給不足につながり、さらなる価格高騰を招く恐れがある。
欧州委は、再生可能エネルギーや原発などの発電関連事業者について、一定以上の利益に対して追加課税する案も明らかにした。ガス価格高騰が電気料金全般の値上げにつながり、業者が恩恵を受けているためだ。課税で得た収入は各国の企業や世帯に還元する。
●ロシア、モンゴル経由の中国へのガス供給を協議=プーチン大統領 9/8
ロシアのプーチン大統領は7日、モンゴルを経由して中国に天然ガスを供給するための新たな大規模インフラ計画について協議していると明らかにした。
プーチン氏は国営テレビで放映されたモンゴルのオヨーンエルデネ首相との会談で「モンゴル経由で中国にロシア産天然ガスガスを供給するための主要なインフラプロジェクトの可能性について協議している」と述べた。
プーチン氏はこのほか、ロシアの国営石油会社ロスネフチがモンゴル政府と石油製品の供給を巡る協力の拡大で合意したことも明らかにした。
両首脳はロシア極東ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムで会談。プーチン氏は同フォーラムで行った演説で、ロシア産ガスへの上限価格設定を呼びかけている欧州は「愚かだ」とし、ロシア産エネルギーに上限価格が設定されれば、ガス・石油供給を停止すると表明している。
2019年末に稼働開始したロシアと中国を結ぶガスパイプライン「シベリアの力」の年間輸送能力は610億立方メートル。ロシア国営ガスプロムは、モンゴルを経由してロシア産天然ガスを中国に輸送する新たなパイプライン「シベリアの力2」建設の可能性を何年も前から検討してきた。
ガスプロムによると、提案されている「シベリアの力2」の年間輸送能力は500億立方メートルと、ドイツ向けに供給する「ノルドストリーム1」を若干下回る。ただ、ロシアによるウクライナ侵攻を受け欧州諸国がロシア産エネルギーへの依存度を低下させる中、中国向けの新たなパイプラインはロシアの重要な収入源になるとみられている。

 

●米国務長官がウクライナ訪問、22億ドルの支援表明… 9/9
米国のブリンケン国務長官は8日、ウクライナの首都キーウを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。ウクライナや周辺の18か国に対し、22億ドル(約3100億円)の長期的な安全保障支援を行う方針を伝えた。
ウクライナへの軍事支援をめぐっては、ドイツ南西部のラムシュタイン米空軍基地で8日、米国のオースティン国防長官が主宰する国際会合が開かれた。オースティン氏は、22億ドルの支援とは別に、りゅう弾砲や装甲車など6億7500万ドル(約970億円)相当の追加軍事支援をウクライナに対して行うと表明した。
会合の開催は5回目で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国など約50か国の閣僚らが参加した。
●プーチン露大統領に焦燥の兆し  9/9
ロシアの対ウクライナ戦争は、ウクライナ側にわずかに有利な展開になったようだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が新たな脅しをかけていることと、ロシアが従来は兵器を供与してきた国々からの兵器調達に奔走していることは、それを示す一つの兆候だ。
ロシアは2月の電撃作戦が早期の勝利で終わると予想していたが、紛争はこう着状態となり、ウクライナは現在、ロシアの兵たんを破壊し、領土を取り戻すために南部で反転攻勢に出ている。ロシアは軍需物資の備蓄を取り崩さざるを得なくなった。特にスマート兵器の補充に苦労しているのは、西側諸国による制裁で、最新兵器に使われるコンピューターチップなどの部品の対ロ輸出が禁止されているためだ。
こうして、世界最悪のならず者国家であるイランと北朝鮮を相手にした、ロシア政府の「物乞い作戦」が始まった。米情報当局者らは5日、「深刻な供給不足」を緩和するため北朝鮮がロシアを支援していると記者団に語った。これは、イランがロシア政府にドローン(無人機)を供給しているという先月の報道に続くものだ。大国の地位を主張する国は通常、必要とする国々に兵器を提供するが、その逆はない。
プーチン氏は7日、ロシアのエネルギー輸出をさらに減らす可能性を示唆したほか、黒海を通じたウクライナ産の穀物輸出を容認するという、自らが結んだ合意の破棄をも辞さない姿勢を示した。このことからも、プーチン氏の不安の度合いを測ることができる。ロシアは最近、パイプライン「ノルドストリーム1」を通じた欧州への天然ガス供給を停止した。プーチン氏は供給停止を延長して、その対象に石油と石油精製品を加えるとの脅しをかけた。同氏は寒い冬に向かう欧州の指導者にさらなる政治的圧力をかけたいと考えている。しかし、そのような供給停止はどんなものであれ、戦費となるロシア政府の収入にも打撃を与える。
穀物に関して言うと、プーチン氏は今夏、ロシアが世界の食料不足の責任を問われないようにするために、ウクライナからの輸出を容認する合意を締結した。同氏は7日、西側諸国が途上国への食料供給を口実に、さまざまな面で自分たちを利するために合意を利用しているのは「あからさまな詐欺」だと非難した。
しかし、プーチン氏は食料の市場がグローバルであることや、穀物輸出合意の目的の一つが、供給拡大を通じた食料価格の押し下げだったことを分かっている。価格が低下すれば、貧しい国々にも恩恵が及ぶ。プーチン氏はウクライナ産穀物の輸出を本当に停止させれば、それが引き起こす苦難について、責任を問われることになる。
プーチン氏がウクライナ産穀物の輸出を本当に阻止した場合には、米国はプーチン氏に対し、ウクライナ産穀物輸送船の艦船による護衛を、有志連合諸国が検討するだろうと警告することも可能だ。同様の計画は、1980年代にイランの脅威への対策としてペルシャ湾から石油を運び出すタンカーを護衛するという形で、実施されたことがある。ロシア軍が人員と物資の不足に苦しむ中、平和的な護衛任務を遂行している西側諸国の船舶への威嚇に、プーチン氏が乗り気になるとは考えられない。
ウクライナでの戦争の終結までの道のりは遠い。そしてプーチン氏は、残虐行為と脅しをエスカレートさせるかもしれない。しかしロシア政府のから騒ぎぶりは、ウクライナ側の抵抗とウクライナへの外国の支援の効果が表れていることを示している。プーチン氏が侵攻を継続するならば、ウクライナと最前線に位置する北大西洋条約機構(NATO)諸国に対するその策略を止めるためには、最新兵器の供給を続けることが極めて重要となる。ウクライナだけでなく、ロシアもまた苦しい状況にある。 
●ウクライナ軍 欧米の支援で東部でも反転攻勢 複数の集落を奪還  9/9
ウクライナ軍は南部に続き、東部のハルキウ州でもロシアが支配した複数の集落の奪還に成功したと発表していて、欧米の軍事支援を受けながら反転攻勢を強めています。
ウクライナ軍は、ヘルソン州など南部に続いて、東部ハルキウ州でも反撃に向けた軍事作戦を続けていて、軍の参謀本部は8日、ロシア側が占領した地域に最大で50キロ攻め入ったほか、20の集落を解放したと明らかにしました。
また、東部ドネツク州のクラマトルシク近郊などでも、ロシアが占領した地域に攻め入ったとしていて、欧米の軍事支援を受けながら、反転攻勢を強めています。
ゼレンスキー大統領も8日、「9月に入ってからこれまでに、合わせて1000平方キロメートル以上に及ぶ領土を解放した」と戦果を強調しました。
ロシア軍が、南部の防衛のため東部から部隊を展開させる中、ウクライナ軍の反撃につながったと指摘されていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は8日、「ウクライナ軍がハルキウ州の反撃に成功したことに対し、ロシア国防省は沈黙している」と分析しました。
ロシア国防省は8日、東部のドネツク州やハルキウ州、それに南東部ザポリージャ州などで、ウクライナ軍の兵器や弾薬庫を破壊したとしていますが、軍の作戦指揮について、ロシア側の一部の軍事評論家からも疑問視する声があがっています。
●ウクライナ軍 ハルキウで複数の集落奪還 さらなる奪還へ米支援  9/9
ウクライナ軍は、東部ハルキウ州でロシアが支配していた複数の集落の奪還に成功したと明らかにし、反転攻勢を続けています。こうした中、首都キーウを訪問したアメリカのブリンケン国務長官はウクライナなどに対し、日本円にして4000億円規模の軍事支援を表明するなど、さらなる領土奪還に向けて支援する姿勢を強調しました。
ウクライナ軍の参謀本部は8日、これまでに東部ハルキウ州などでロシア側が支配していた20の集落を解放し、700平方キロメートル以上の領土を奪還したと明らかにしました。
また、東部ドネツク州のクラマトルシク近郊などでも、ロシアが占領した地域に攻め入ったとしています。
ゼレンスキー大統領も8日、「9月に入ってから、これまでに合わせて1000平方キロメートル以上に及ぶ領土を解放した」と述べ、反転攻勢を強調しています。
こうした中、アメリカのブリンケン国務長官は8日、首都キーウを事前に発表することなく訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。 ブリンケン長官は、ウクライナ軍が東部や南部で反転攻勢を強めていることを念頭に「今が重要な局面だ。ロシアの軍事侵攻は6か月以上続いているが、ウクライナ軍の反撃は今も続き、成果を上げている」と述べました。
そのうえで、砲撃に使うりゅう弾砲や、高機動ロケット砲システムのロケット弾など、合わせて6億7500万ドル、日本円にしておよそ970億円相当の新たな軍事支援を行うと伝え、さらなる領土奪還に向けて支援する姿勢を強調しました。
これに対し、ゼレンスキー大統領は「アメリカが、ウクライナとともにあるという非常に重要なシグナルだ。われわれにとっては、領土を取り戻せるという保証だ」と応じました。
また、ブリンケン長官は、この支援とは別に、ロシアの脅威にさらされているとして、ウクライナや隣国のモルドバなど19か国に対し、22億ドルの軍事支援を行うと発表し、今回表明した支援額の総額は日本円にして4000億円規模に上ります。
●プーチン氏、英女王の葬儀欠席へ 大統領府 9/9
ロシア大統領府は9日、前日に死去した英国のエリザベス女王の葬儀にウラジーミル・プーチン大統領が参列する予定はないと発表した。
ドミトリー・ペスコフ報道官は同日の定例記者会見で、「ロシア人は女王の英知を尊敬していた」としつつも、女王の葬儀へのプーチン氏の参列は「検討されていない」と述べた。
●エネ供給武器のプーチン戦略、「ロシアにも痛手」の試算 9/9
「西側へのエネルギー供給を場合によっては、完全に停止する」――。ウクライナ侵攻を巡って欧米との関係悪化が続くロシアのプーチン大統領によるこうした脅しは、ロシアにとってもろ刃の剣となる恐れがある。
欧州連合(EU)は7日、ロシア産ガスの価格に上限を設ける案を表明。その直前にプーチン氏は、そうした上限が導入されるならロシアは供給を止めるとほのめかし「われわれにできるのは、ロシアの有名な民話のように(氷に穴を開けて尻尾で魚を釣っている)オオカミに尻尾が凍ると警告することのみだ」と言い放った。
サウジアラビアに次ぐ世界第2位の産油国で、同時に世界最大の天然ガス輸出国であるロシアから欧州へのエネルギー供給が途絶えれば、世界中のエネルギー市場は一層混乱し、国際価格はさらに跳ね上がる公算が大きい。
ロシア国営ガス会社・ガスプロムのミレル最高経営責任者(CEO)は8月、欧州のガス価格は今後1000立方メートル当たり4000ドルまで高騰する可能性があると発言している。7日時点の価格は約2200ドルだった。
ただ、EUがエネルギー調達で脱ロシア化計画をこのまま推進していけば、ロシアも痛手を受けることになる。
8月30日にミシュスチン首相が主催した非公開会合に提出された、ロシアのエネルギー戦略をまとめた文書には、ウクライナの戦争に付随するエネルギーセクターの「制約やリスク」の概要が記されている。ロイターが全体の内容を確認して明らかになった。
「2030年までの新たな情勢下での事業活動の戦略的方向性について」と題された文書は、外国顧客への供給を減らすと低価格に設定した国内販売の損失を輸出収入で補うという従来の仕組みが崩れると指摘。その結果として、各地域でのガス開発に必要な資金が不足しそうだとの見方を示した。
同文書はEUが2027年までにロシア産ガス輸入をやめると、1)30年までに年間で4000億ルーブル(65億5000万ドル)の減収になりかねない、2)27年までにガス輸出が年間1000億立方メートル減ってもおかしくない――と分析。その上で、30年までのロシアのガスセクター向け投資は約410億ドル目減りするとみている。
エネルギーが切り札
ロシアにとって欧州への石油とガスの販売は、ずっと主な外貨調達源だった。そして、1999年末にボリス・エリツィン氏から大統領の座を引き継いだプーチン氏が目指してきたのは、自国のエネルギー資源を切り札として、旧ソ連崩壊後に弱まったロシアの力を取り戻すことだった。
今回のウクライナを巡る欧米との対立局面でも再びエネルギーを武器に外交を展開するプーチン氏は、この戦争でロシアは新たな道に踏み出しているので何も失っていないし、むしろ得をしていると強気の言葉を発している。
プーチン氏が繰り返しているのは、欧州がロシア産石油・ガスを買いたくないのなら、あるいは価格に上限を設定するのであれば、ロシアは中国やインドに主要顧客を切り替えるというメッセージだ。
だが、これを実行するためには、東方に向けたパイプラインの建設を加速させなければならない、と同文書は指摘する。
現在、ロシアから中国への主要ガスパイプラインは「パワー・オブ・シベリア1」のみ。今年全体で見込まれる輸送量は160億立方メートルと、通常時に毎年欧州に輸送する量の11%にとどまる。
ヤマル半島にあるボバネンコボ、ハラザベイ両ガス田から中国につながる「パワー・オブ・シベリア2」はまだ完成していない。
最悪シナリオ
欧州がロシアに代わるエネルギーの調達先を見つけられた場合、ロシアは相当大きな試練に直面する。
同文書が描く最悪シナリオに基づくと、27年までに欧州諸国はロシア産石油への依存を完全に断ち切ることが可能で、「ドルジバ」石油パイプラインとバルト海沿岸の港が深刻な打撃を受ける。
ドルジバは昨年3600万トンを運び、バルト海沿岸の港は2019─21年で年間6000万─8000万トンの原油を取り扱ってきた。
同文書によると、ロシアのエネルギー業界は採掘の難しさなどに伴う生産コスト増加という旧来の課題に、輸出先切り替えコストとタンカー需要の高まりという新たな逆風が加わるという。
また、特に液化天然ガス(LNG)と石油精製の分野では、西側の技術が利用できなくなることで、ロシアのエネルギー業界は厳しい選択を迫られるだろう。
同文書は、LNG生産プロジェクトから技術面のパートナーが撤退すると、新規施設を稼働させるタイミングが遅れると警告。石油製品輸出は昨年の約55%相当、8000万トン分が減少し、精製活動は25─30%低下して国内向けの十分なガソリン生産も確保できなくなり、燃料価格を押し上げると懸念している。
このところは事業が順調で、今年1─6月の利益が2兆5000億ルーブルの過去最高だったガスプロムも、長期的には暗雲が立ち込める。
アナリストによると、世界全体の埋蔵量の約15%、ロシア全体の68%を握る同社は、いずれガス田の操業を停止するか、未利用ガスの燃焼処分が必要になるかもしれないという。

 

●ロシア、年内に3000万トンの穀物輸出へ=プーチン大統領 9/10
ロシアのプーチン大統領は9日、ロシアが年内に3000万トンの穀物を輸出する見通しで、いずれは5000万トンに拡大する用意があると表明した。
プーチン氏は安全保障会議で行ったテレビ演説で、国連とトルコの仲介によって締結したウクライナからの穀物輸出再開に関する合意について、ロシアや世界の低所得国が不利益を被っているという考えを改めて示した。
7月に締結した合意は、ロシアやウクライナが延長で合意しなければ、11月に失効する。
プーチン大統領は7日、ウクライナとの穀物合意を修正し、穀物を輸入できる国を制限したいとの意向を示していた。
●プーチンが大失政、ロシアのエネルギー産業崩壊の危機 9/10
プロローグ/漂流するプーチン・ロシア号
ロシア(露)のV.プーチン大統領(69歳)を船長とする「プーチン・ロシア」号は、目的地不明の羅針盤のない航海に出た結果、ロシアの国家戦略とエネルギー政策が漂流しています。
旧ソ連邦復活を夢見て、羅針盤のない航海に出た「プーチン・ロシア」号がどこに到着・漂着するのか現状では不明です。
しかし、沈みゆく船から真っ先に鼠が逃げ出すがごとく、鼠は既に逃げ始めています。
漂流の途中で食料が尽きる可能性もあり、座礁するか、無人島に漂着するかもしれません。
戦艦バウンティ号のように、近い将来、船内反乱が起きることもあり得ましょう。
プーチン新ロシア大統領が2000年5月に誕生した時、彼のスローガンは強いロシアの実現と法の独裁でした。
ロシアの大統領は弱いB.エリツィン大統領から強いプーチン大統領に代り、ロシア国民はプーチン大統領誕生に期待を寄せていました。
当時サハリン(旧樺太)に駐在して、現場で「サハリン-1」プロジェクトに従事していた筆者も、新大統領登場によりロシアは変わるだろうと期待しておりました。
その22年後の2月24日、ロシア軍はウクライナに軍事侵攻開始。
結果として、弱いロシアの実現と大統領個人独裁の道を歩んでおり、プーチン大統領は自らロシアの国益を毀損することになりました。
これを歴史の皮肉と言わずして、何と言えましょうか。
ロシアの国益を毀損するプーチン大統領
本稿では、プーチン大統領がいかにロシアの国益を毀損しているのか、ロシアは今後どうなるのか、筆者の独断と偏見と想像を交えて予測してみたいと思います。
筆者は、プーチン大統領は3本のルビコン川を渡ったと考えます。
1本目のルビコン川はロシア・ウクライナ国境、2本目のルビコン川は天然ガスパイプライン(P/L)を政治の道具に使ったこと、3本目のルビコン川は大統領令によりロシア連邦法を破ったことです。
旧ソ連邦と新生ロシア連邦は欧州大手ガス需要家にとり信頼に足る天然ガス供給源として、過去50年以上の長きにわたり、天然ガスを安定供給してきました。
しかし、これは当然です。他に主要外貨獲得源がないゆえ、信頼に足る石油・ガス供給源としての地位確立は旧ソ連邦・新生ロシア連邦にとり国益そのものでした。
ところが、露プーチン大統領は旧ソ連邦・新生ロシア連邦が過去50年以上の長きにわたり営々と築いてきた信頼を一日にして喪失。
文字通り、「築城五十年、落城一日」となりました。
次に、プーチン・ロシア号の近未来を予測します。
プーチン大統領に対しもはや諫言する側近はおらず、治安情報関係の身内しか信用していないと言われています。
ゆえに、早晩内閣を改造して、実質戦時内閣を組閣するものと筆者は予測します。
ただし、羅針盤なき航海の到着地は未定・不明にて、今後も漂流を続けることになるでしょう。
3油種油価動静(2021年1月〜2022年8月)
最初に、2021年1月から22年8月までの3油種(北海ブレント・米WTI・露ウラル原油)の週間油価推移を概観します。
油価は2020年後半から2022年2月末まで上昇基調が続きました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。
ゆえに、ウラル原油は英語では「URALs」と複数形のsが付きます。
ちなみに、日本が輸入していたロシア産原油は3種類(S-1ソーコル原油/S-2サハリンブレンド/ESPO原油)のみで、すべて軽質・スウィート原油です。
しかし、日本は今年2022年6月以降、ロシア産原油の輸入を停止しました。
今年(2022)8月29日〜9月2日の平均油価は北海ブレント$95.31/bbl(スポット価格)、米WTI $90.79(同)、ウラル原油(黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$74.34となりました。
ブレントとウラル原油には大きな値差があります。
この超安値の露産原油を買い漁っているのが中国とインドで、ロシアは現在、アジア諸国に対し市場価格より3割安い油価でオファーしていると報じられています。
日系マスコミではよく、「ウクライナ開戦後、油価は上昇した。ロシアは油価上昇を享受しており、石油収入は増え、戦費の問題はない」という解説が掲載されたり話されたりしていますが、これは間違いです。
上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線はロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日です。
この日を境として、北海ブレントや米WTIの油価はいったん上昇しましたが、8月末の時点では侵攻前の油価水準を割りました。
一方、露ウラル原油はウクライナ侵攻後に油価下落。
8月末現在では、侵攻前と比較してバレル約$20低い水準で推移しています。すなわち、露ウラル原油は侵攻後下落したのです。
プーチン大統領の思考回路
ソ連邦は今から100年前の12月に誕生しました。
1917年の「2月革命」(旧暦)で帝政ロシアが崩壊して、ケレンスキー内閣が樹立。その年の「十月革命」でケレンスキー内閣が倒れ、レーニンを首班とするソビエト政権が誕生しました。
その後ロシアは赤軍と白軍に分かれた内戦状態となり、ソビエト連邦が成立したのは1922年12月30日でした。
ですから、今年(2022)12月はソビエト誕生100周年記念の年になります。
ロシアのV.プーチン大統領が何を目指してウクライナに全面侵攻したのか様々な説が流れていますが、本人の頭の中にはソ連邦復活の夢(夢想)が蘇っていたことでしょう。
露プーチン大統領は2000年5月7日新大統領に就任、7月8日に第1回大統領年次教書を発表しました。
最初の大統領年次教書は「ロシアは分裂の危機に瀕している」と悲壮感にあふれる内容であり、「強いロシアの実現を目指す」と国民に訴えました。
その後、プーチン大統領は2005年4月25日の本人にとっては6回目の大統領年次教書の中で、「ソ連邦崩壊は20世紀最大の地政学的惨事である」と述べています。
この頃から、ソ連邦復活の思考回路にスイッチが入ったのかもしれません。
ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は2022年2月24日に発動され、この記事公開日の9月10日で侵攻開始後199日目となりました。
既に7か月目に入り、戦争は長期戦・消耗戦の様相を呈しています。
侵攻開始2日後には首都キエフ(現キーウ)を制圧し、ロシア傀儡政権樹立構想でしたから、プーチン大統領にとり現在の戦争長期化・泥沼化は想定外の大誤算と言えましょう(後述)。
戦争泥沼化によりプーチン大統領は国内マスコミ統制強化と実質「戦時経済」への移行を余儀なくされ、露マスコミ報道は太平洋戦争中の日系マスコミ同様、「大本営発表」であふれることになりました。
S.ショイグ国防相は8月24日、「ロシア軍は民間人の犠牲を抑えるべく、進軍速度を落としている」と発言。
国防相が誰でもすぐ分かる嘘をつかざるを得ないところに、ロシア軍の苦戦・苦境が透けて見えてきます。
NATO(北大西洋条約機構)東進を阻止すべくウクライナ侵攻開始したのに、逆にフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を誘発。
従来は対ノルウェー国境170キロがNATO対峙線でしたが、新たに1269キロのフィンランド国境がNATO対峙線となり、結果としてNATO東進を促進。
これはプーチン大統領の戦略的失敗と言えます。
ウクライナ軍によるクリミア半島攻撃が激化。従来、戦場ではなかった場所が戦場となり、クリミア半島に住むロシア人も戦争を意識せざるを得ない状況になりました。
ウクライナのゼレンスキー大統領はクリミア半島奪還を表明しましたので、ロシア軍によるウクライナ全面侵攻作戦は新局面に入りました。
これも、プーチン大統領にとり不都合な真実と言えましょう。
短期全面制圧を目指してウクライナ電撃侵攻作戦を開始したプーチン大統領にとり、ウクライナ全面侵攻後半年経っても何一つ目的を達成できないとは、誰が想像し得えたことでしょうか?
ロシア軍がウクライナに全面侵攻したとき、露プーチン大統領は「戦争」ではなく「軍事作戦」と称しました。
旧日本軍が中国に侵攻した時、日本軍は「戦争」ではなく「事変」と称しました。
とすれば、今回の侵攻は「ウクライナ事変」と呼ぶのが相応しく、プーチンにはウクライナ事変がよく似合うとなりましょうか。
日本が日中戦争の泥沼から抜け出せなくなったように、ロシアはウクライナ戦争から抜け出せなくなり、国家衰退の道を歩むことになるだろうと筆者は予測します。
世界の耳目を驚かすプーチン大統領
今年(2022)6月から8月にかけ、ロシアでは世界の耳目を驚かすビジネス関連事件が3件、唐突に続発しました。
   1ノルト・ストリーム1(以後、NS1)天然ガス輸送問題
   2「サハリン-2」問題(大統領令416号)
   3「サハリン-1」問題(大統領令520号)です。
本稿では、世界の耳目を驚かせた、ロシアによるこの3つの暴挙を概観することにより、問題の本質は何かを考察したいと思います。
ロシアからバルト海経由ドイツ向け天然ガス海底パイプライン(以後、P/L)輸送量が今年6月、突然削減されました。
理由は、「ノルト・ストリーム1用ガス・タービンを修理に出したが、戻ってこない」との露ガスプロム側説明でした。
この結果、2022年8月の段階ではNS1の年間輸送能力55bcmに対し2割の天然ガス輸送量になっていましたが、露ガスプロムはさらに、「8月31日から3日間、定期修理のためNS1を全面停止する」と発表。
3日間の定期修理後にはまた不具合が見つかったとして、2022年9月8日現在、NS1の操業は全面停止されています(bcm=10億立米)。
しかし、このガス・タービン問題により、天然ガスP/L輸送が不可能になったのではありません。それは、あくまでも口実にすぎません。
すべての石油(原油・石油製品)P/Lや天然ガスP/Lは毎年必ず、保守点検や定期修理のため一時稼働を停止します。
しかし、事前に供給者(輸出者)は需要家(輸入者)に連絡して、迂回路で供給したり、備蓄施設から融通したり、最悪需要家に供給量削減で納得してもらいます。
NS1の場合、ロシア側出荷基地には予備含め計8基のコンプレッサーステーションがあり、毎年順番に保守点検・定期修理を実施しています。
ですから過去10年以上の長きにわたり、何の問題もなくロシアからドイツに天然ガスが供給されてきました。
今回、ロシアは天然ガスP/Lを政治利用したのです。
付言すれば、このガス・タービンは英ロールスロイス製の「Trent60」というモデルです。
本来は航空機用ジェットエンジンですが、これを地上用に改造したのが独シーメンス社の「SGT65」モデルで、仏ドレッサー製コンプレッサーと組み合わせて使用しています。
ロシアの石油・ガス産業
欧米メジャーが抜ければ、気象条件の厳しい海洋鉱区における石油・天然ガス生産は持続困難です。
厳しい海洋気象条件下の原油・天然ガス鉱区の探鉱・開発・生産・輸送には、欧米メジャーとシュランベルジャーやハリバートン、独ジーメンスや英ロールスロイス、米ベーカーヒューズGE(ゼネラル・エレクトリック)など、欧米の最新技術とノウハウの総合力が必要になります。
サハリン-2プロジェクトの場合、英シェルが抜ければ、LNGの原料となる天然ガス生産自体が困難になります。
当面は一匹狼の技術者雇用により短期間凌げますが、持続的生産は不可能です。
「欧米による対露経済制裁は効果ない」と書いたり・話したりしている評論家もいますが、現実は正反対です。
対露経済制裁措置が強力に効いているがゆえに、プーチン大統領は外資に対して「ロシアから出ていけ」と言ったが(大統領令416号)、外資が出ていくと石油・ガス生産に支障がでることを理解すると、今度は「出ていくな」という矛盾した大統領令(大統領令520号)を乱発しているのです。
上記より、欧米メジャーが撤退すればロシアのLNG構想は全面崩壊の可能性大となり、ロシアの国益を標榜するプーチン大統領自身が、図らずもロシアの国益を毀損していることが判明します。
すなわち、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人との結論に至ります。
露大統領令416号と政令1369号
ロシアの法体系の優先順位は1憲法 2連邦法 3大統領令 4政令にて、「平時」において大統領令により連邦法を修正することはできません(「戦時」は別)。
このことを報じている日系マスコミは存在しませんが、問題の本質は露大統領自身が露連邦法に違反する大統領令を発令したことです。
なぜなら、サハリン-1と2のPSA(生産物分与契約)は実質、ロシアの法律になっているからです。
大統領が自国の法律を破る国に新規投資する企業は皆無となりましょう。
露プーチン大統領のエネルギー政策が漂流しており、今年に入り6月30日付け大統領令416号と8月5日付け大統領令520号と、相反する趣旨の大統領令を乱発しています。
本稿ではまず、6月30日付け大統領令416号と8月2日付け露政令1369号を概観します。
プーチン大統領は2022年6月30日、大統領令416号に署名しました。 これは、サハリン島北東部沖合のオホーツク海にて原油・天然ガスを探鉱・開発・生産しているサハリン-2プロジェクトに対し、事業会社「サハリン・エナジー社」の権益を、今後新規に設立されるロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」に無償譲渡させる内容です。
しかし上記の通り、この大統領令自体がロシア連邦法に違反しています。
大統領令416号を受け、露政府は新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」設立に関する8月2日付け政令1369号を発布。
新ロシア法人有限責任会社「サハリンスカヤ・エネルギア」が8月5日、サハリン州の州都ユージノ・サハリンスク(旧豊原)に登記されました。
日本政府は三井物産と三菱商事に対しS-2権益維持を要請し、三井・三菱はS-2新会社「サハリンスカヤ・エネルギア」に権益参加継続を決定。権益維持すべく、新会社に申請して許可されました。
ここで重要なことは、商社の権益維持とS-2「サハリンスカヤ・エネルギア」による対日LNG供給は別次元の問題であり、直接の関係はありません。
LNG供給契約は日本の需要家とサハリンスカヤ・エネルギア間の契約になり、三井・三菱はLNG契約の当事者ではないのです。
三井・三菱が権益参加継続すれば対日LNG供給が継続されると考えているとしたら、それは大いなる幻想にすぎません。
三井・三菱はS-2事業会社への出資者であり、事業会社が利益を出せば権益に応じて利益配分を受け、事業会社が赤字になれば権益に応じて赤字負担します。
LNG工場自体は新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」に移管されますが、英シェルは既にS-2プロジェクトからの撤退を表明しています。
英シェルが抜ければ工場の保守・点検を担当する技術者もいなくなり、定期修理に必要な資機材も入手不可能になり、早晩LNG生産は低下・停止するでしょう。
売上減少しても運転資金は必要ですから、事業会社は赤字となり、権益参加者は赤字負担を強いられることになります。
筆者は、1〜2年後にはこの様な事態が表面化するものと予測します。
もっと重要なことがあります。
サハリン-2プロジェクトでは、サハリン島北東部沖合のオホーツク海サハリン-2鉱区(ルニ鉱区とピルトン・アストフ鉱区)で石油・ガスを探鉱・開発・生産していますが、シェルが抜ければ石油・ガス生産は徐々に停滞・減少することでしょう。
換言すれば、たとえLNG工場が稼働していても、原料となる天然ガスが不足する事態が早晩出現することになるでしょう。筆者は1〜2年後にはそうなると予測しております。
仮に、「英シェルが抜けても、サハリン-2の石油・ガス生産やLNG生産は問題ありません」と言っている人がいたとしたら、それはこのプロジェクトの実態を知らないか、あるいは「不都合な真実」を隠しているかのどちらかになります。
日本政府は三井物産と三菱商事に対しS-2権益維持を要請し、三井・三菱はS-2新会社「サハリンスカヤ・エネルギア」に権益参加継続を決定。権益維持すべく、新会社に申請して許可されました。
ところがその後、事態は急展開。9月7日付けロイター電は以下のごとく報じました。
「「サハリン2」新会社出資に大規模LNG事業の経験要求=ロシア政府
ロシア政府は6日、極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」を担う会社への出資について、年間生産能力が400万トンを超える液化天然ガス(LNG)プラントの操業経験がある事業者に限るとする条件を法令で示した。」
しかし、筆者はこのロシア側新基準は当然だと思っております。
上述のとおり、気象条件の厳しい海洋鉱区においては、欧米メジャーや石油サービス会社の参画なしには探鉱・開発・生産・輸送などは不可能です。
シェルが抜ければ、鉱区現場での石油・天然ガス生産も、LNG工場稼働も徐々に困難になり、最終的には生産停止必至となりましょう。
ロシア側も、遅ればせながらやっとこの事情を理解したのだと思います。
これが、ロシア側が急遽、権益参加基準を変更したゆえんと筆者は考えます。
ロシア側ではもう一つ、面白い動きが出てきました。
サハリン-2から撤退を表明しているシェルに代り、北極圏グィダン半島で「Arctic LNG 2」プロジェクトを推進している露Novatek社がシェルの権益譲渡を引き受けたい旨を申し出たと報じられました。
しかし、露Novatek社自体はLNG操業経験もありません。LNG操業経験のあるのは、Novatek社に10%の資本参加している仏トタールです。
ですから、Novatek社のサハリン-2権益参加は、仏トタールにオペレーター(主操業者)としてサハリン-2の運営・操業を委託したいというのがロシア側意向である、と筆者は推測しております。
では、仏トタールがサハリン-2の運営を引き受けるかどうかということになりますが、これは現状不明です。
ウクライナ戦争の進展次第と思いますが、恐らくトタールは辞退するでしょう。
トタールがサハリン-2のオペレーターになれば、米国から経済制裁対象会社に指定されてしまいます。
かくして、サハリン-2プロジェクトも漂流開始することになるでしょう。
露大統領令520号
世界最大の石油会社、露ロスネフチのI.セーチン社長は欧米メジャー撤退の意味を理解しています。
ゆえに、彼がプーチン大統領に出させた大統領令こそ520号にほかならないと筆者は考えます。
プーチン大統領は8月5日、露大統領令520号に署名。これは、サハリン-1プロジェクトから外資撤退を禁じる内容です。米エクソンモービルが抜ければ、サハリン-1プロジェクトも困難な時代を迎えることになるでしょう。
この大統領令の有効期限は今年末までですが、何時でも・何回でも有効期限延長可能と大統領令の中に明記されています。
すなわち、外資を絶対にロシアから撤退させないとのロシア側の強い意思が感じられます。
ウクライナ戦況
今から102年前の2月24日、ドイツのA.ヒトラーはミュンヘンのビアホール「ホーフブロイハウス」にて、ナチス党の旗揚げ式を挙行。
その2月24日に、反ナチズムを標榜するプーチン大統領麾下のロシア軍がウクライナに全面侵攻開始したのです。
これを歴史の皮肉と言わずして、何と言えましょうか。
この記事の公開日9月10日はロシア軍が2月24日ウクライナに全面侵攻開始以来199日目となり、ウクライナ戦争は丸半年を超えました。
短期電撃作戦の筈が長期戦・消耗戦となり、一番困惑しているのはプーチン大統領その人と筆者は想像します。
短期全面制圧を目指してウクライナ電撃侵攻作戦を開始したプーチン大統領にとり、この戦争長期化・泥沼化は想定外の大誤算となりました。
ウクライナ全面侵攻後半年経っても、プーチン大統領は何一つ目的を達成できていないのです。
9月8日のウクライナ大本営発表によれば、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日から9月8日朝までの187日間におけるロシア軍の累計損害は以下の通りです。
ウクライナ参謀本部発表:ロシア軍累計損害/2022年9月8日朝現在
・戦死者:約5万1250人(前日比+640人)
・戦車:2112輌(同+15)/装甲車:4557輌(同+37)/火砲:1226門(+32)/トラック:3344台(+24)
・多連装ロケット発射台:239基(+2)/対空火器管制システム159基(+3)/巡航ミサイル214発(−)
・軍用機:239機(+2)/ヘリ 210機(+2)/ドローン 884機(+4)/軍艦 15隻(−)
ウクライナ大本営発表によれば、7月27日にロシア軍戦死者は遂に4万人を、9月8日には5万人を超えました。
一方、8月22日のウクライナ大本営発表によれば、ウクライナ軍の戦死者は約9000人の由。ロシア軍の戦死者と比較してウクライナ軍の戦死者数は5分の1、とちょっと少なすぎる感じがします。
もちろん、ウクライナ大本営発表ですからこのまま上記の数字を信じることは危険ですが、話半分としてもロシア軍の戦死者は既に2万5000人以上に達しています。
逆に、ウクライナ軍の戦死者は2倍と仮定すると、1万8000人になります。この辺がより真実に近い数字ではないでしょうか。
戦場では、戦死者1に対し、戦傷者は3の割合で発生すると言われています。この場合、ロシア軍の戦死傷者数は約10万人となり、初期投入戦力の半数以上が戦死傷者になります。
戦闘部隊は3割の戦死傷者数で「戦闘不能」となり、5割を超えると「全滅」と見做されるそうです。
とすれば、ロシア軍の対ウクライナ初期投入戦力は「全滅」したことになります。
露ショイグ国防相は8月24日、「民間人の被害を抑えるため、ロシアの進撃は遅れている」と発言しました。
これは図らずも、ロシア軍の進撃が停滞・失速していることを自ら認めたことになります。
日系マスコミではよく「ロシア国民は戦争による耐乏生活に慣れている」と話している人がいますが、そのように主張している人は重要な事実を見逃しています。
それは、ナポレオン戦争もドイツのソ連侵攻もロシア側にとり祖国防衛戦争であった点です。ロシアの祖国防衛戦争で負けたのは侵略軍です。
しかし、今回の戦争はロシアの祖国防衛戦争ではなく、ロシアの他国侵略戦争です。
ロシア側にとり、ウクライナ侵攻は意味も意義も大義もない戦争です。
一方、ウクライナ側にとっては祖国防衛戦争になります。これが、両軍戦闘部隊の士気に影響を与えないはずはありません。
最前線は消耗戦となり、勝敗の行方は兵站補給いかんとなりました。
ゆえに欧米が対ウクライナ軍事支援を継続する限りウクライナ軍有利となり、欧州が天然ガス不足の今冬を乗り切れば、ロシアには長い・寒い・暗い冬が待っていることでしょう。
プーチン大統領は高い代償を払うことになると予測します。
ロシア軍とウクライナ軍の戦力比較
ご参考までに、ロシア軍とウクライナ軍の戦力比較は以下の通りです。
ウクライナ参謀本部はロシア軍の被害を毎日発表しており、筆者は毎日記録しています。
9月8日のウクライナ大本営発表によれば、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日から9月8日朝までの197日間におけるロシア軍の戦死者は遂に5万1250人になりました。
旧ソ連邦時代のアフガン戦争は10年間(1979年12月侵攻〜1989年2月撤退完了)続きましたが、この時のソ連軍戦死者は約1.5万人と言われています。
アフガン戦争では10年間で戦死者1.5万人でしたが、ウクライナ戦争では半年で5万人を超えました。
一方、ロシア軍の自軍被害に関する大本営発表は3月25日に発表したロシア軍戦死者1351人が最初で最後です。
これはすなわち、ロシア軍戦死者があまりにも多すぎて、公式発表できないことを意味します。
もちろん、しょせん大本営発表ですからそのまま信じることはできませんが、話半分としてもロシア軍は大被害を受けていることが透けて見えてきます。
参考までに、ロシア軍の被害割合は以下の通りです。
ここで1点、ロシア軍の戦死者数に関し付記したいと思います。
ロシア軍の場合、ロシア正規軍の戦死者将兵の遺体が戻ってきた場合のみ、戦死者と認定され、年金支払い対象になります。
換言すれば、行方不明者やロシア民間軍事会社ワグネルの傭兵部隊(ワーグナー独立愚連隊)、ウクライナ東部2州の民兵組織、チェチェン私兵軍団の戦死者などはロシア軍の戦死者に入っていないことになります。
ウクライナ戦場に露軍兵隊が少なくなったので、プーチン大統領はロシア企業に赤紙召集令状を出した由です。
戦闘現場からロシア軍がいなくなると、プーチンは愈々戦術核を使用するか、あるいはザポリージャ原発に手を出すかもしれませんね。
エピローグ/「ロシアは何も失っていない」
露プーチン大統領は9月7日、露極東経済フォーラム(於ウラジオストク)にて「ロシアは何も失っていない。何も失わない」と演説しました。本当でしょうか?
上述のごとく、ウクライナ大本営発表によれば、ウクライナ戦争におけるロシア軍死者数は既に5万人を超えています。話半分としても、死者数は2万5000人を超えています。
米国防省筋の発表でも、8月の時点でロシア軍の戦死傷者数は7万〜8万人と報じられています。
ロシア黒海艦隊の軍艦は15隻沈没しています。その中には、黒海艦隊旗艦たるミサイル巡洋艦「モスクワ」号も含まれています。
それでも「ロシアは何も失っていない」と言えるのでしょうか?
K.マルクスは「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」の中で次のように述べています。
ヘーゲル曰く、「歴史は繰り返す」。しかし彼は、「1度目は悲劇として、2度目は茶番劇として」と付け加えることを忘れた。
今もしマルクスが生きていれば、彼はプーチン大統領をどのように表現するのでしょうか?
マルクスは恐らく、次のように記述するだろうと筆者は想像します。
プーチン曰く、「ロシアは何も失っていない。何も失わない」。しかし彼は、「自分の思考回路以外は」と付け加えることを忘れた。 
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 9/10
イギリス国防省 “ウクライナ軍 最大で50キロ前進”
戦況を分析するイギリス国防省は10日に「ウクライナ軍は今月6日からハルキウ州南部で作戦を開始し、ロシアが占領していた地域に最大で50キロ前進した。ロシア軍は奇襲を受けた」と指摘しています。
さらにウクライナ軍が東部ドンバス地域の最前線で戦うロシア軍の補給路となっているハルキウ州のクピヤンシクに迫っていて、奪還に成功すればロシア軍に大きな打撃になると分析しています。
ウクライナ軍の攻勢受け ロシアの“併合向けた住民投票”延期か
ロシア軍が支配してきた東部や南部では、ロシアで11日に行われる統一地方選挙にあわせて、併合に向けた住民投票を実施する計画があったとみられています。しかし、今月になってプーチン政権の与党幹部が住民投票を11月に実施するよう提案していて、ウクライナ軍の反転攻勢を受け投票を延期せざるを得なくなったと受け止められています。
ゼレンスキー大統領 「ハルキウ州で30以上の集落奪還」
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、新たに動画を公開し「ウクライナ軍が東部ハルキウ州で30以上の集落を奪還し、支配下に置いた」と明らかにしました。9日にハルキウ州にある奪還した集落の1つで撮影された映像では、住宅や教会などが砲撃によって大きく壊れていて、ウクライナ側の警察が住民への支援のほか、ロシア軍による戦争犯罪について捜査を始めたということです。ウクライナ軍は先月下旬からヘルソン州など南部で反転攻勢を開始し、今月8日には東部ドネツク州のクラマトルシク近郊などでもロシアが占領した地域に攻め入ったと発表していて、各地で軍事作戦を展開し、反撃に転じているとみられます。ゼレンスキー大統領は動画のなかで「少しずつ新たな集落を奪還し、ウクライナの国旗と安全をわれわれの国民に返還する」と述べ、攻勢を続ける姿勢を強調しています。
ロシア国防省「部隊をハルキウ州に再び展開」
ロシア国防省は9日、ハルキウ州をミサイルなどで攻撃し、ウクライナ軍の指揮所を破壊し、兵士を殺害したと発表しました。さらに「ロシア軍の部隊をハルキウ州に再び展開している」として、戦車や軍用車が移動する映像を公開しました。ウクライナ軍の反撃に対応する姿勢を強調したいねらいとみられ、ウクライナ南部だけでなく東部でも激しい攻防が続いています。
プーチン大統領 自国産農産物や肥料の輸出拡大指示
プーチン大統領は9日、クレムリンで開いた安全保障会議で、ロシア産の農産物と肥料の輸出を拡大するよう関係閣僚に指示し「制裁によって、アフリカやアジア、南米へのロシア産の肥料の輸出が妨げられている。これは差別だ」と批判しました。また、ウクライナからも農産物の輸出が再開されたものの多くがヨーロッパ向けで、貧しい国に届いていないと主張し、ウクライナやヨーロッパ諸国の対応を批判しました。プーチン大統領は来週、ウクライナからの農産物の輸出再開の仲介役をつとめたトルコのエルドアン大統領と会談し、ヨーロッパ向けの農産物の輸出を制限するよう提案する考えを示しています。プーチン大統領としては、食料危機に直面するアフリカなど途上国に寄り添う姿勢を強調するとともに、ヨーロッパに揺さぶりをかけるねらいとみられます。
●モスクワ区議「プーチン氏は辞任を」 故郷サンクトペテルブルクでも 9/10
ロシア・モスクワの区議グループは9日、ウクライナ侵攻の責任を問い、プーチン大統領の辞任を要求した。モスクワに125ある地区の一つのリベラル系区議らが要請書をまとめた。少数派だが、長期化する侵攻に不満がくすぶっていることを示していると言えそうだ。
要請書は「(プーチン氏の)言動がロシアを冷戦時代に引き戻し、世界を核兵器で脅すことにつながっている」と批判。経済成長は実現せず、有能な人材が海外へ流出していると指摘した。
米政府系放送局によると、プーチン氏の故郷サンクトペテルブルクでも7日、区議グループがロシア下院に対し、「国家反逆」を理由に大統領を弾劾するよう訴える要請書を公表。ウクライナ侵攻によって若い兵士を死なせ、北大西洋条約機構(NATO)拡大も招いたと非難した。区議グループは、警察への出頭を求められたという。
●いったい何が? ロシアの政府寄りTV司会者が、傷だらけで番組に出演の怪 9/10
ロシア政府が流す「プロパガンダ」の拡散役を担っていることで知られるテレビ司会者のウラジーミル・ソロビヨフが最近、傷だらけの顔でロシア国営テレビに出演した。見るからに「何か」あったのは明らかだが、ソロビヨフ自身がその原因について語るのを拒否していることもあって、注目は高まるばかりだ。
ウクライナのニュースサイト「ザ・ニュー・ボイス・オブ・ウクライナ」のニカ・メルコゼロバのツイートによれば、ソロビヨフは顔に傷を負った経緯について説明を拒んだという。ソロビヨフはロシア政府寄りのテレビ司会者で、その立場と影響力から「プーチンの声」とも呼ばれている。
メルコゼロバが投稿したスクリーンショットを見ると、ソロビヨフの額と鼻、両頬には、赤みを帯びた傷跡がみられる。「彼は悲しそうな様子で、どこで傷を負ったのか説明を拒んだ。仲間の扇動家たちに向かって、『お前らには関係ない!』と言った」とメルコゼロバは書いている。
これを受けてツイッターユーザーの間では、ソロビヨフが傷を負った経緯について、さまざまな仮説が飛び交っている。
あるユーザーは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「ソロビヨフは(プロパガンダ拡散について)努力が足りないと不満を持ったのだろう」のだと書き込んだ。また最近、ロシアで著名な企業経営者などの「謎の転落死」が相次いでいることを思い浮かべた人も多かったようだ。ある人物は「1階の窓から転落したに違いない」とコメントした。
扇動家に労働の安全衛生などない?
脚本家でジャーナリストのナターリア・アントーノワは、次のように投稿した。「素晴らしい推察をしている人が大勢いるから、私の退屈な仮説はさらっと書いておこう。コカイン密売人との価格交渉が激しい段階に突入したのでは?」
ジャーナリストのクイントン・ムティヤラは、「プーチンのプロパガンダを担う人々に、労働の安全衛生などというものはないのだろう。出勤の際には、文字どおりパンチをかわして来なければならないのだ」
ソロビヨフは最近のテレビ出演の中で、ソビエト時代の強制労働収容所がナチス・ドイツの強制収容所と比べて、いかに恵まれた環境だったのかについて長々と自説を披露していた。
メディアサイト「デイリー・ビースト」のコラムニスト、ジュリア・デービスの翻訳によれば、ソロビヨフは「ソビエトの強制労働収容所は、管理者たちが収容者の名前を知っていて、収容者たちはソビエトの法律の下に収容所に入れられていた」と説明。「収容者は個人として扱われていた。一方でドイツの強制収容所では、収容者に『個』などなかった」と述べた。
さらに彼は「ソビエトの収容所が目指したのは再教育だった」が、ドイツの強制収容所が「目指したのは人としての収容者を破壊し、ばらばらにすること」だったと主張した。
また8月下旬には、ロシアはNATO全体を相手に戦っているのだと述べ、ロシアは「ウクライナの領土の20%以上」と「ウクライナ市民およそ1000万人をナチス化したウクライナ体制から解放」したと主張した。
一方でソロビヨフは、ロシアの姿勢に混乱も表明している。「西側は急速に、ロシアとのあからさまな対決に向けて動きつつある」と彼は述べ、さらにこう続けた。「失礼のないように言っても、我々の行動は奇妙だと思う。NATOがいずれ我が国と直接的な軍事衝突に衝突するのではないか、という考えが少しでもあるのだろうか?」
●志願兵“ノルマ1万人”の衝撃 戦闘拒否の兵士多数か ロシア軍 9/10
ロシア極東地域で行われていた大規模軍事演習が7日、閉会式を迎えました。大規模、とは言うものの前回とは比べ物にならないほど縮小しています。今回、演習は北方領土でも実施されました。公開された映像では、およそ70年前に開発された軍用車両が確認できます。ウクライナ侵攻の影響でしょうか、物資も人も足りていない実情がうかがえます。
こうした中、兵士を確保するためプーチン大統領が、大企業に対し驚きの命令を出していたことが明らかになりました。
「『ロシア鉄道』には1万人を割り当てます」(内部文書から)
プーチン大統領が、志願兵を集めるよう大企業にノルマを課したというのです。この内部文書を暴露したロシアの人権団体の幹部は…。
ロシアの人権団体幹部 アレクセイ・タバロフ氏「書類のスタイルにしても専門用語にしても、この書類はフェイク(嘘)ではないと言えます。ロシアの大企業や国営企業では兵士募集が行われていることを何回か聞きました」
ロシア鉄道の従業員は72万人。そこから1万人の志願兵を派遣するのは簡単なことではありません。最前線の部隊で何が起こっているのでしょうか…。
ロシアの人権団体幹部 アレクセイ・タバロフ氏「戦闘継続を大勢の人が拒否しています。3カ月の短期契約をして従軍した人も1〜2カ月過ぎると逃亡しようとしています」
一方、モスクワ市内の地方議会では、公然と反プーチンを打ち出す動きも出てきました。
ロモノフスク区議会「モスクワ・ロモノフスク区の議員一同は、プーチン大統領の辞任を求めます」
その理由として経済的な問題をあげたうえで…。
ロモノフスク区議会「ロシアはまたしても怖がられ憎まれる存在になりました。我々は再び全世界を核兵器で脅しています」
●統一地方選、11日投開票 ウクライナ侵攻も延期せず―リベラル派「平和」訴え 9/10
ロシア全土で11日、統一地方選の投開票が行われる。ウクライナ侵攻中で延期論もあったが、プーチン大統領の決断で封印されたもようだ。ロシア軍に関する「偽情報」を広めた場合、最高15年の禁錮刑が科される法律があり、政権与党「統一ロシア」の中に侵攻を批判する声は皆無だ。少数派のリベラル勢力は「平和」を訴え、無風選挙の中でも「戦争」が見え隠れする。
首都モスクワでは区議選を実施。期日前投票は9日に始まったが、関心は低そうだ。
独立系メディアによると、今回の統一地方選に際して「シロビキ」と呼ばれる軍・治安機関出身者が延期を検討。しかし、ウクライナ問題を担当するキリエンコ大統領府第1副長官がプーチン氏を説得し、実施にこぎ着けたという。
有事とはいえ、国内で戦争ではなく「特別軍事作戦」という位置付け。ロシア軍に多大な損害が出ていると欧米が推計する中でも、政権は国民の反発を恐れて「総動員」を宣言していない。統一地方選の延期論を封じた背景には、制裁下でも「正常な国民生活」を演出し、プーチン氏の再出馬が見込まれる2024年の大統領選に向けて環境を整備する狙いもあるもようだ。
選挙監視団体「ゴロス」は8月の報告書で、統一地方選が「過去10年間で最も競争のない選挙の一つ」になると指摘した。それでも、リベラル政党「ヤブロコ」は「平和のために!」というスローガンを掲げ、反戦を訴えている。
収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の陣営は「過激派組織」に指定され、選挙に参加できないが、統一ロシア候補を落選させる戦術「賢い投票」をモスクワ区議選で呼び掛けた。ナワリヌイ氏は最近、収監先を頻繁に変えられ、弁護士との面会も制限されているもようで、統一地方選に絡んだ圧力の可能性がある。
●プーチン氏の「弾劾」呼び掛け、自治体当局者に罰金か ロシア 9/10
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクの自治体の当局者がプーチン大統領の弾劾(だんがい)訴追を呼び掛け、警察に呼び出された。罰金が言い渡されるとみられている。
ロシアで反体制的な見解が示されるのは異例。サンクトペテルブルクにあるスモルニンスコエ地区の議員は連邦議会下院に対し、プーチン氏を反逆容疑で弾劾訴追するよう求めた。
要望書を執筆したドミトリー・パリュガ氏は、ツイッターにプーチン氏の容疑を列挙。軍隊よりも職場で活躍すべき健康なロシア人男性の大量殺りく、ロシアの景気低迷と頭脳流出、フィンランドとスウェーデンの加盟を含む北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大、「特別軍事作戦」が逆効果に終わったことを挙げている。
パリュガ氏ともう1人の議員はツイッターに、サンクトペテルブルク市警が出した召喚状を投稿。罪状は「支配層の信用をおとしめたこと」だった。
その後のパリュガ氏の報告によると、警察に呼び出された議員4人のうち2人は釈放された。全員に罰金が言い渡される見通しだという。
ロシア政府はウクライナ侵攻に対する批判を封じ込めようと躍起になっている。人権団体「OVDインフォ」によると、ロシアでは侵攻開始以来、1万6437人が反戦活動で逮捕または拘束された。

 

 

●ロシア軍 ウクライナ東部のイジュームから “事実上の撤退”  9/11
ロシア国防省はウクライナ東部の重要な拠点となっているイジューム周辺の部隊の再配置を決めたと発表し、事実上、イジュームからの撤退を表明したものとみられます。
ウクライナ軍がイジュームを奪還すれば、ロシア軍にとって大きな打撃となるとみられ、ウクライナ軍は領土奪還に向けた反撃を強めています。
ウクライナの治安機関は10日、東部ドンバス地域の最前線に展開するロシア軍部隊への補給路となっているハルキウ州クピヤンシクをウクライナの部隊が奪還したことを明らかにしました。
これに続いて、イエルマク大統領府長官は10日、さらに南へ60キロほど離れたイジューム郊外にいるウクライナ軍部隊の写真をSNSに投稿しました。
ハルキウ州にあるイジュームは、ロシア軍が東部ドンバス地域に部隊を展開するうえで補給などの重要な拠点になっています。
そのイジューム周辺に展開するロシア軍について、ロシア国防省は10日、「ドネツク方面への作戦強化のために部隊の再配置を決めた」と発表し、事実上、イジュームからの撤退を表明したものとみられます。
また、イジュームの親ロシア派の幹部も「ウクライナ軍による砲撃を受け非常に厳しい状況にある」としたうえで、動画を通じて、避難を名目に、地元の住民をロシア領へ移す考えを示しました。
ウクライナ軍がイジュームを奪還すれば、東部ドンバス地域の広い範囲に部隊を展開させるロシア軍にとって大きな打撃になるものとみられます。
ウクライナ軍は欧米諸国から供与された兵器などを使って、ロシア軍が支配する地域の奪還に向けて8月下旬からヘルソン州など南部で、9月に入ってからはハルキウ州など東部でも反転攻勢に乗り出していて、領土奪還に向けた反撃を強めています。
●ウクライナで荒稼ぎ ロシア特殊部隊員は急ごしらえでも「給与は平均の3-4倍」 9/11
ロシア連邦チェチェン共和国にある「ロシア特殊部隊大学」。現在ここで軍事訓練を受けているのは、ロシア各地から集まった“志願兵”たちだ。彼らは2週間の訓練を終えると、ウクライナの戦場へと送られるという。野蛮な侵攻作戦の開始から半年、見えてくるのはロシアの粘り強さだった――。
侵攻開始から半年、ロシア側にも数万の死傷者が出ているとされる。兵力不足もささやかれる中、苦肉の策だろうか、5月には志願兵の年齢制限が撤廃された。
「私が7月下旬にこの訓練施設を取材した際は、チェチェン人やカザフ人、アルメニア人の志願者がいました。ただ、やはり一番多いのはロシア人で、私が話した中で最年長の人は56歳でした」
そう話すのは、ロシア在住ジャーナリストの徳山あすか氏だ。彼らが志願する“動機”は何なのか? 
「取材に対しては“非ナチ化のため”と答える場合が多いですね。とはいえ、もちろん金銭面に引かれて応募する人もいると思います」
実際、志願兵に支払われる月給は平均的なロシア人の3〜4倍。そのおかげか、現在では応募しても訓練所への「入校待ち」になるケースもあるという。侵略直後は、ロシア兵がすぐに不足してしまう、といった楽観的な見方もあったのだが、そう簡単にはいかないようである。
“プーチンの頭脳”の娘が爆殺された事件
一方で、8月20日にはモスクワ郊外で異変が。“プーチンの頭脳”とも呼ばれる思想家ドゥーギン氏(60)の車に爆弾が仕掛けられ、娘、ダリア氏(29)が爆殺されたのだ。直後に反プーチンを掲げる組織が犯行声明を出したものの、ロシア政府は「ウクライナ人による犯行」と発表。欧米では「プーチンによるロシア側の自作自演説」も出るなど、真偽不明の情報が飛び交っている。徳山氏は、
「そもそも爆弾がドゥーギンを狙ったものだったのかもはっきりしません。ドゥーギンはロシア国内ではインテリ層以外にはほとんど知られておらず、仮に暗殺しても影響は限定的ではないでしょうか」
逆にダリア氏は政府寄りのジャーナリストとして知られていたという。
「私もドンバスでの現地取材で一緒になりましたが、アゾフ大隊の残虐性などウクライナ批判をよどみなく展開していました。標的は最初から娘だったという説さえあります」(同)
戦場ではロシア兵が砲弾に「ダリア」と書いて発射しているとも。犯人の意図は不明なままだが、少なくともロシア側はある種の戦意高揚に利用しているということだろうか。ここでもロシア側のしたたかさが見え隠れする。
世界の期待とは裏腹に、この戦争はまだまだ終わりが見えない。 
●ウクライナ、東部で反攻強める ロシア軍は「再編成のため」要衝から撤退 9/11
ウクライナで侵攻を続けるロシア軍は10日、ウクライナの急速な反攻を受けて東部の要衝から撤退した。
ウクライナ当局はこの日、ウクライナ部隊がロシア軍の重要な補給拠点となっている東部ハルキウ州クプヤンシクに入ったと明らかにした。
ロシア国防省はその後、自軍が「再編成」するためにクプヤンシク近郊のハルキウ州イジュームから撤退したと発表した。
また、ドネツク地方の前線での「取り組みを強化する」ために3番目に重要な町バラクリヤから部隊が撤退したことも認めた。
ウクライナ軍のこの前進が維持されれば、ロシア軍がキーウ周辺から撤退して以降の最も重要な動きと言える。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日、毎晩定例のビデオ演説で、ウクライナ軍が今月初めに新たな反撃を開始して以降、2000平方キロメートルもの領土をロシア軍から奪還したと述べた。
ゼレンスキー氏は8日夜のビデオ演説で、過去1週間で1000平方キロメートル以上の領土を奪還したと発表しており、それからたった48時間でさらに1000平方キロメートを取り返したことになる。
軍事拠点から撤退
ロシアはこれまで、イジュームを主要軍事拠点にしていた。そのため、ロシア部隊がこの町から撤退したとするロシア側の発表は重要な意味を持つ。
ロシアの声明によると、「イジューム=バラクリヤ部隊をドネツク人民共和国領へ撤退・組織的に移送させるための軍事作戦が3日間実施された」と説明。「ロシア部隊への被害を防ぐため、敵に強力な射撃による敗北を与えた」とした。
ロシア国営タス通信によると、それから間もなく、ロシアが任命したハルキウの行政当局トップが住民に、「命を守るために」ロシアへ避難するよう勧告した。
隣接するロシア西部ベルゴロド州の知事は、国境を越えようと列を作る人々に携帯電話や暖をとれるもの、医療支援を提供する予定だと述べた。
ウクライナ政府が西側諸国に軍事支援を求め続ける中、今回の前進は、ロシアの占領地域を奪還する能力がウクライナ軍にある証左だと評価される見通し。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、最近の展開はウクライナ軍がロシア軍を倒すことができることを示しており、西側諸国の武器をさらに確保できればより早期に戦争を終わらせられると述べた。
ウクライナ当局はウクライナ軍がクプヤンシクの市庁舎前で国旗を掲げているとする写真をソーシャルメディアに投稿した。兵士の足元にはロシア国旗があるように見える。
ゼレンスキー大統領は9日、自軍が「新たな集落を徐々に支配している」、「ウクライナの国旗を返還し、すべての国民を保護する」と述べた。
また、国家警察が解放された集落に戻りつつあるとし、ロシアによる戦争犯罪の疑いについて報告するよう市民に呼びかけた。
この呼びかけは、ウクライナの国連人権監視団がロシア軍による「捕虜に対する様々な違反行為を記録した」とする報告書を発表したことを受けてのもの。
同報告書はまた、ウクライナ軍が「捕虜を拷問したり不当に扱った事例」もあると非難している。
●ロシア軍 東部重要拠点の撤退表明か ウクライナは反転攻勢強調  9/11
ロシア国防省はウクライナ東部の重要な拠点、イジューム周辺の部隊の再配置を決めたと発表し、事実上、イジュームからの撤退を表明したものとみられます。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、イジュームについて言及しなかったものの「およそ2000平方キロメートルのわれわれの領土が解放された」と述べ、反転攻勢を続けることを強調しました。
ウクライナの治安機関は10日、東部ドンバス地域の最前線に展開するロシア軍部隊への補給路となっているハルキウ州クピヤンシクをウクライナの部隊が奪還したことを明らかにしました。
これに続いて、イエルマク大統領府長官は10日、さらに南へ60キロほど離れたイジューム郊外にいるウクライナ軍部隊の写真をSNSに投稿しました。
ハルキウ州にあるイジュームは、ロシア軍が東部ドンバス地域に部隊を展開するうえで補給などの重要な拠点になっています。
そのイジューム周辺に展開するロシア軍について、ロシア国防省は10日「ドネツク方面への作戦強化のために部隊の再配置を決めた」と発表し、事実上、イジュームからの撤退を表明したものとみられます。
ウクライナ軍がイジュームを奪還すれば、東部ドンバス地域の広い範囲に部隊を展開させるロシア軍にとって大きな打撃になるものとみられます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日に公開した動画で、イジュームについて言及しなかったものの「9月はじめからのウクライナ軍の攻勢により、およそ2000平方キロメートルのわれわれの領土が解放された」としたうえで「東部ドネツク州はいずれ全域が解放される」と述べ、反転攻勢を続けることを強調しました。
●英、プーチン氏に反論 穀物、貧困国に輸出されず?  9/11
英国防省は11日、ウクライナの穀物はほとんど貧困国に輸出されていないと主張したロシアのプーチン大統領の発言について、事実ではないと反論した。
プーチン氏は7日、国連とトルコの仲介で実現しているウクライナ産穀物輸出に関し、これまで出港した87隻のうち2隻しか貧困国に向かっていないと非難していた。
11日のウクライナ戦況分析で英国防省は、国連の統計を根拠に、約3割はアフリカや中東、アジアの貧困国や中所得国に向かっていると指摘した。プーチン氏は数字の根拠を示していない。英国防省は、ロシアが食料危機や侵略の責任を逃れるため故意に誤情報を流していると批判した。 
●ザポリージャ原発が完全に停止 「より安全な状態にするため冷却」 9/11
ロシア軍の占領下にあるウクライナ中南部のザポリージャ原発について、ウクライナの原子力企業「エネルゴアトム」は11日、「完全に停止している」とSNSなどで発表した。六つある原子炉のうち唯一稼働していた6号機をより安全な状態にするため停止させ、冷却して安定させる作業を進めているという。
発表によると、同原発では原子炉と外部とをつなぐ送電網がロシア軍の砲撃で損傷を受け、6号機は原発内で必要な電力を供給するために発電していた。外部とつなぐ送電網は10日に復旧し、6号機の停止が可能になったという。
同原発をめぐっては、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が9日、声明を発表。相次ぐ攻撃で復旧が困難になり、最悪の場合、現在稼働している唯一の原子炉の停止をウクライナ側が検討していると明らかにしていた。
●プーチン政権、支配地域の住民投票を無期限延期か ウクライナで苦戦 9/11
ウクライナの東部や南部の占領地域でロシアが計画しているロシアへの併合を問う住民投票について、プーチン政権が無期限の延期を決めたと、国外に拠点のあるロシア系の独立メディア「メドゥーザ」が11日、ロシア大統領府に近い筋の情報として伝えた。最近の東部ハルキウ州でのウクライナ軍の攻勢が決定的な理由になったとしている。
ロシアが住民投票を計画していたのは、親ロシア派が支配する東部のドネツク州、ルハンスク州のほか、ウクライナ侵攻後に占領した南部ヘルソン州、北東部ハルキウ州、中南部ザポリージャ州の占領地域だ。
これらの占領地域のロシア側幹部らは当初、5月にも住民投票を実施できると主張。だが、ウクライナ軍の予想外の抵抗に苦戦して具体的な日程を決められず、最近も9月11日のロシアの統一地方選に合わせて実施する考えを表明していたが、実現できなかった。
●ロシア統一地方選挙 ウクライナ侵攻後初めて 「最も競争のない選挙」 9/11
ロシアでは、ウクライナ侵攻後初めて民意を問うことになる統一地方選挙が行われています。
ロシア全土で実施されている統一地方選挙には、14の地域の知事選やモスクワ区議選などが含まれていて、2月のウクライナ侵攻開始後、初めての大型選挙となります。
モスクワでは8日、一部の区議のグループが侵攻をめぐり、「ロシアを冷戦時代に逆戻りさせた」としてプーチン大統領の辞任を求める要望書をまとめました。一方、侵攻に批判的な野党候補の立候補が当局側から認められないケースなども相次いでいて、独立系選挙監視団体は「過去10年で最も競争のない選挙だ」としています。
独立系選挙監視団体「ゴロス」アンドレイチュク共同代表「(数字上の競争率だけでなく)実際の選挙の内容自体が低調です。政権の反対勢力とみなされた候補者は事実上、選挙に参加していないのです」
選挙戦を通してウクライナ侵攻への反発が広がることを避けようとするプーチン政権側の狙いも伺えます。投票は11日夜まで行われ、即日開票されます。
●押し黙るロシア人 9/11
ウクライナ侵攻から半年になるのを前に、約10年ぶりにロシアに出張した。かつて勤務していたモスクワ支局で最後の仕事になったのが、プーチン氏が国のトップに復帰した2012年3月の大統領選だった。
直前の11年12月に行われた下院選では不正疑惑が噴き出し、首都モスクワで行われた反政権デモには10万人以上が参加した。政治と距離を置いてきた民衆に変化の兆しが表れたと思った。
しかし、今回訪れたロシアで見たのは、再び沈黙した市民の姿だった。久しぶりに夕食を共にした友人の男性は、2時間話しても侵攻に関してほとんど語らなかった。対面取材で侵攻を非難した女性は、「表立っては言えない。記事にするなら匿名で」と後から連絡してきた。
露独立系マーケティング会社「ロシアンフィールド」が7月下旬、約2万7千人を対象に侵攻に関する世論調査を電話で行ったところ、90%が回答を拒否した。同社は有名な世論調査機関ではないし、電話番号からは容易に身元が判明する。監視を恐れる市民が黙って受話器を置く姿が目に浮かぶようだ。
モスクワの市街は発展して様変わりし、レストランは笑顔で乾杯する人々でにぎわっていた。だが、みな自分の意見を言わず、見えない殻に閉じ籠もっているように感じた。
●大規模な経済制裁を受けた「ロシア経済」は、なぜいまも崩壊しないのか 9/11
ウクライナ侵攻後、ロシアは西側諸国から過去に例のないほど大規模な経済制裁を科された。当初は混乱したロシア経済だが、いまも崩壊していない。何がロシア経済を支えているのか──英誌「エコノミスト」が、ロシア経済が持ち堪えている理由を解説する。
経済制裁は効いているのか
ロシア経済の実態は見えにくい。平時でもその透明性はシベリアの吹雪レベルだ。ウクライナ侵攻以来、ロシア中央銀行やロシア連邦統計局は、あらゆるデータの公開を停止している。今も同国経済に関する数字は多少あるものの、その信頼性は低い。多国籍企業も同国からエコノミストを引き上げた。投資銀行はロシア企業に関する助言ができなくなったため、調査活動を縮小している。
実体がよくわからないなか、ロシア経済の状況について、いま激しい議論が巻き起こっている。
最近共同で論文を発表したイェール大学の5人の研究者は、欧米企業の撤退と制裁がロシア経済を「不自由」にしていると主張する。経済的な強さはすべて見かけ上のものに過ぎないとするこの論文は、広い層に注目された。
「プーチンが選んだ統計は、メディアを通じて軽率に広く伝えられている。また、それは良識はあるのに不注意な専門家に利用され、非現実的なほどクレムリンに有利な予測を算出させている」と彼らは述べる。
一方、それほど暗くない見方もある。コンサルティング会社マクロ・アドバイザリーの創業者で、ロシア通として知られるクリス・ウェイファーは「ロシアの経済は崩壊に向かっているわけではない」と、最近の論文で書いている。
一体何が真実なのだろうか?
確かに不調なロシア経済
ウクライナ侵攻後、ロシア経済は大きく混乱した。ルーブルの価値は対ドルで4分の1以上も下落。株式市場も暴落したため、規制当局は取引を停止させた。欧米企業は次々と撤退し、各国政府は制裁を強化した。
それから1ヵ月も経たないうちに、2.5%の成長とされていた2022年の同国のGDP予想をアナリストたちは10%近く下方修正した。さらに悲観的な予想もある。ホワイトハウスは、「ロシアのGDPは今年最大15%減少し、過去15年間の経済的利益を一掃すると、専門家は予測している」と発表している。
どの議論においても指摘されるのは、ロシアはまだ苦しんでいるということだ。ルーブル安定のために春に行われた大幅な金利引き上げと、外国企業の撤退によって、ロシアは不況に追いやられた。
公式発表によると第2四半期のGDPは前年同期比4%減となった。300ほどある単一産業都市の多くは制裁によって傷つき、本格的な不況に陥っている。また、高学歴の人々を中心に多くの市民は国を去り、資産を海外に移す者もいる。
2022年第1四半期には外国人が150億ドル相当の直接投資を引き揚げ、過去最悪となった。2022年5月のロシアからグルジアへの送金は、ドル換算で前年の10倍という驚異的な数字を記録した。
欧州よりも経済好調?
しかし、今回多様なデータを分析したところ、ロシア経済は、もっとも楽観的な予想よりも好調であることがわかった。石油や天然ガスなどの炭化水素資源の輸出によって経常黒字が大幅に増加しているためだ。
たとえば、リアルタイムの経済成長を示す、投資銀行のゴールドマン・サックスによる「経済活動指数」(図表1)が参考になる。ロシアの数値は2022年3〜4月には大きく低下したが、その後数ヵ月で回復した。この下降は、2007〜09年の世界金融危機時や2014年のクリミア併合後ほどのレベルではない。
他の指標も同様の状況を示す。ロシアの前年度比GDP変化率(図表2)を見ると、現在の景気は悪いものの、もともと不安定な同国経済からすると、それほどひどいわけではない。
JPモルガン・チェース銀行によると、2022年6月のロシアの工業生産は前年同月比で1.8%減少した。一方、企業アンケートを元にしたサービス業の成長指数は、以前の危機時ほど打撃を受けていない。当初減少した電力消費も再び増加しているようだ。モノの需要を示す鉄道の積荷数も持ち直している。
さらに、インフレは緩和されている。2022年初頭から5月末までの消費者物価の上昇率は約10%にもなった。ルーブルの下落で輸入品が割高になり、欧米企業の撤退で供給が減ったのだ。
しかし、ロシア連邦統計局によると、現在物価は下落している。コンサルタント会社のステート・ストリート・グローバル・マーケッツとデータ会社のプライススタッツがオンライン価格を元に算出したデータでも、同様の傾向が見られる。
ルーブル高によって輸入品のコストが下がり、今後のインフレ見通しも低下している。クリーブランド連邦準備銀行とコンサルティング会社のモーニング・コンサルト、ブランダイス大学のラファエル・ショーンレが算出した、今後1年間のロシアの期待インフレ率(図表3)は、2022年3月の17.6%から7月には11%に低下している。
ガスが豊富にあるロシアでは、エネルギー価格の上昇による高インフレが起こる可能性も低い。
家計の助けになっているのは、物価の下落だけではない。ロシア最大銀行のズベルバンクによると、実質賃金の中央値は春以降に急激に上昇している。多くの企業が従業員の一時解雇や無給労働を行ったため、現状を正確には示していないであろうが、2022年6月の失業率は3.9%と過去最低を記録した。
労働市場が持ちこたえているため、人々は支出を続けられる。スベルバンクのデータによると、2022年7月の実質的な個人消費は年初とほぼ同じだ。春に輸入が減ったのは、多くの欧米企業が供給を止めたせいでもある。しかし、この落ち込みは近年の不況に比べれば深刻ではなく、輸入額(図表4)は急速に回復している。

 

●ウクライナが北東部ハルキウの奇襲で大戦果、戦況の転換点となる可能性大 9/12
「この24時間、ウクライナ軍は北東部ハルキウ州で大きな戦果を上げ続けている。ロシア軍はこの地域から部隊を撤退させたようだが、戦略的に重要な都市であるクピャンスクとイジューム周辺では戦闘が継続している」
英国の国防情報参謀部は9月11日のツイートでウクライナ戦争の戦況をこう報告した。
ウクライナ軍の奇襲に逃走するロシア軍
英国防情報参謀部(10日時点)によると、ウクライナ軍は9月6日、ハルキウ州南部で作戦を開始した。狭い前線でロシア軍が占領していた地域に最大50キロメートル攻め入った。ロシア軍は奇襲を受け、それほど守りを固めていなかった町をウクライナ軍に奪還されたり、包囲されたりしている。
イジューム周辺のロシア軍はますます孤立していく可能性が高い。ウクライナ軍は東部ドンバスの前線への補給路に位置するクピャンスクの町を脅かしている。クピャンスクがウクライナ軍によって奪還されればロシア軍にとって大打撃となる。南部ヘルソン州でもウクライナ軍の作戦は続いており、ロシア軍の防衛線は北と南の両方で圧力にさらされている。
米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は10日深夜(米東部標準時)の時点で「ハルキウ州におけるウクライナ軍の反攻はロシア軍を追い詰め、ロシア軍が占領する東部ドンバスの北軸を崩壊させつつある。ロシア軍は統制がとれないまま撤退しており、イジューム周辺で包囲されるのを避けるため急いで逃走している」と分析した。
「軍事的敗北も破産も突然やってくる」
ISWは「ウクライナ軍は最大70キロメートルもロシア軍の陣地に入り込み、6日から5日間で3000平方キロメートル以上の地域を奪還した。これはロシア軍が4月以降の戦闘で奪った地域よりも広い。ウクライナ軍は今後48時間以内にイジュームを奪還する可能性が高い。ウクライナ軍にとって3月キーウの戦いに勝利して以来、最も重要な戦果となる」という。
ウクライナ軍はハルキウ州北東部、イジュームの北郊外、リマンの南・南西郊外で露・ウクライナ国境から15〜25キロメートル以内の地点に到達し、クピャンスクの西半分を奪還した。電光石火のようなウクライナ軍の進撃で、ロシア軍の東部ルハンスク州北部での活動を支えてきた後方連絡線を切断し、ロシア軍と親露派分離主義武装勢力の活動を大きく阻むことになる。
英国の戦略研究の第一人者でイラク戦争の検証メンバーも務めた英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は最新の有料ブログで「徐々に、そして突然に」と題しウクライナ戦争の戦況についてこう解説している。
「破産と同じように軍事的敗北も突然やってくる。長く苦しい戦いに見えるものが、敗走に一転することがある」
「ここ数日、ハルキウでウクライナ軍の驚くべき攻勢を目の当たりにしている。壊された車列の残骸、放棄された車両、捨てられた陣地、散乱する装備、惨めな捕虜…潰走する軍隊の画像や映像がSNSにアップされている。数十平方キロメートルが数百、数千になり、解放された村や町はほんの一握りから数十になった。その進撃の速さには目を見張る」(フリードマン氏)
「すでに負けが決まっている戦争で誰が殉死者になるのか」
フリードマン氏はこう書いている。
「この数日間に起こったことは歴史的な重要性を持つ。前線が静止しているように見えても、その状態がいつまでも続くとは限らない。特に、自分たちが戦っている戦争の大義が不確かで、将校への信頼を失っている場合に顕著なことを思い起こさせる。すでに負けている戦争で誰が殉死者になりたいというのだろうか」
8月29日、ウクライナ軍は南部の要衝ヘルソンの「奪還作戦」を開始した。ロシア軍はウクライナの20%を占領しており、前線はハルキウからヘルソンまで2500キロメートルに伸びる。その1300キロメートルで戦闘が繰り広げられている。ロシア軍がかなりの兵力をヘルソン防衛のため移した隙を利用して、ウクライナ軍は突如、手薄になったハルキウに奇襲を掛けた。これが大成功した。
ハルキウ奇襲は日和見的な作戦だったのか、それともヘルソン奪還は計画された陽動作戦だったのか。「確かなのはハルキウでの反攻は決して衝動的なものではなかったということだ。その意図があからさまにならないように部隊と装備を所定の位置に配置するなど、ウクライナ軍は周到に準備していた」とフリードマン氏は分析する。
ハルキウ奇襲の目的は、まず道路と鉄道の要衝であるクピャンスクを手に入れること。もう一つはロシア軍が部隊の大部分と司令部を置くイジュームの奪還である。ロシア軍の現地司令部は奇襲の兆候に全く気付いていなかった。ウクライナ軍の進撃を防ぐロシア軍の航空戦力も無力だった。すでにハルキウのロシア軍兵力は空洞化していたことがうかがえる。
日露戦争の趨勢を決めた奉天会戦
2014年の東部ドンバス紛争で親露派分離主義武装勢力を指揮した悪名高きロシア民族主義者イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官は自身のテレグラムチャンネル(約53万5000人が登録)に「現在の状況を日露戦争になぞらえて表現するならば『奉天会戦』という言葉しか思い浮かばない」と投稿している。
1905年、旧満州(中国東北地方)の奉天(現在の瀋陽)で、満州軍総司令官、大山巌に率いられた25万人がアレクセイ・クロパトキン大将率いるロシア軍35万人を包囲しようとした。ロシア軍26万人が撤退し、日本軍が勝利した。死傷者は日本軍7万人、ロシア軍は捕虜を含め9万人にのぼった。日本海海戦とともに日露戦争全体で日本軍勝利の決め手となった。
イジュームからのロシア軍撤退についてガーキン氏は「最後の逃げ道が遮断の脅威にさらされている状況で完全に包囲されるのは犯罪に近い冒険主義だ」と理解を示す。
「性急な撤退は必然的に装備や兵員が大きく損なわれる。ロシア軍は必要な物資が極度に不足し、直ちに戦闘することができなくなるが、包囲を避ける撤退は戦略的に正しい」
しかし「戦線の広い範囲で深刻な作戦上の危機が続いており、それはすでに大敗北に発展している。いま実際、私たちにできることは、いかにしてこれ以上、敗北が深まるのを食い止め、作戦上の敗北が戦略上の敗北に転化するのを防ぐかということだけだ。主導権争いではすでに敵が勝っている」とガーキン氏は戦略的敗北を避けるよう求めている。
「ロシアは負けつつあるが、まだ負けてはいない」
ウラジーミル・プーチン露大統領は冬を前に欧州への天然ガス供給をシャットアウトし、欧州のエネルギー危機をさらに悪化させる作戦をとる。一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ジョー・バイデン米大統領の浮沈を決める米中間選挙、米欧の結束が乱れる恐れがある冬を前にヘルソン奪還とハルキウ奇襲という大勝負に出た。
兵站基地のクリミア半島を分断するヘルソン奪還作戦でロシア軍を南部に釘付けにし、手薄になったハルキウを奇襲で取り戻す作戦は奏功した。
「ロシアは負けつつあるが、まだ負けてはいない。戦争はすぐには終わらないという慎重さが求められる一方で、私たちの想定をはるかに超えるスピードでロシア軍の敗北が進む可能性もある」(フリードマン氏)
ウクライナ軍事支援連絡グループには約50カ国が参加。ウクライナへの武器供与と訓練、北大西洋条約機構(NATO)欧州加盟国の国防力を強化する武器製造のサプライチェーンが効率的に稼働し始めた。ウクライナ軍がM142高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」(射程80キロメートル)で400以上の目標を攻撃したのはその好例だ。
陸戦に詳しい英シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所」(RUSI)のジャック・ワトリング上級研究員はハルキウ奇襲作戦が始まる前のコメントでこう指摘している。
「厳しい冬が予想される中、ロシア軍は濡れ鼠になり寒さと飢え、惨めな状況に耐えなければならなくなる。士気のさらなる低下を招きやすくなるだろう」
日露戦争、第一次世界大戦、冷戦に敗れ、体制が崩壊したロシア
ワトリング氏は、ウクライナは3つの相反する要求と戦っていると解説する。(1)冬を前に武器供与が戦いを有利にしていることを支援国に示す政治的要請、(2)ロシア軍が主導権を取り戻さないよう継続的に混乱させる必要性、(3)ロシア軍をウクライナ国内から追い出す究極の目的――があり、作戦も3段階に分けて考えるべきだと提言する。
2500キロメートルにも及ぶ前線の長さ、ウクライナの国土の20%というロシア軍が占領する面積の広さを考慮すると、「ウクライナ軍が十分な機動部隊を編成するにはまだ時間が必要だ。冬に予定される作戦休止期間と合わせると、ウクライナ軍の作戦は2023年まで実施される可能性が最も高い」とワトリング氏は分析する。
戦争はプーチン氏が思い描いていたようには進んでいない。しかしプーチン氏やその側近はウクライナ軍の進撃にロシア軍が撤退しているという現状認識を欠いている。
「キーウやズミイヌイ(蛇)島放棄の際もそうだったが、ロシア指導層はより大きな失敗が目前に迫っていると見れば、手を引く覚悟があることを示唆している」(ワトリング氏)。
ワトリング氏が指摘するように楽観は禁物だ。しかし私たちはこの冬、悲観的になりすぎる必要もない。旧ソ連時代を含めロシアは日露戦争、第一次世界大戦、冷戦に敗れた時、体制が崩壊した。ウクライナ戦争でプーチン氏が敗北を認めざるを得ない状況に追い込まれた時、ロシアにとってそれは何を意味するのだろうか。 
●ロシア大敗、反攻猛進撃のワケ ウクライナが東部要衝奪還 9/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、同国軍が東部ハリコフ州の要衝イジュムを奪還したと宣言した。今月に入って猛烈な勢いで領土を奪還している同国にとって戦略上、大きな戦果となった。ロシア軍は統制が取れず敗走しているとみられる。侵攻から200日、プーチン大統領は厳しい状況に追い込まれた。
イジュムはロシア軍の補給路で、支配地域で「最重要」とされる。米シンクタンクの戦争研究所は10日、ロシア軍が統制の取れていない形で敗走していると分析。ウクライナ軍が南北から補給路を断った場合、周辺のロシア軍が崩壊する可能性があると指摘した。
ロシア国防省は10日、州内のイジュムとバラクレヤに展開していた軍部隊をドネツク州方面に再配置すると発表、事実上の撤退表明となった。
ウクライナ軍は先月下旬から南部で奪還作戦を展開していた。元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は「南部奪還作戦に焦ったロシア軍が、東部のエリート部隊を南部に転用し、イジュムなどに穴ができた」と分析する。
東部でも今月6日以降、最大で70キロ前進し、東京都の約1・4倍の広さに相当する約3000平方キロメートルを奪還したとみられる。「ロシア軍の弱点が生じた地域に戦車など機甲戦力を投入した。ロシア軍は主導性のない作戦や、規律の乱れ、士気の低下などで自ら危機を招いた」と渡部氏。
これまで米国が装甲兵員輸送車「M113」、ポーランドが旧ソ連製戦車「T―72」をウクライナ軍に供与。さらにオースティン米国防長官は今月8日、榴弾(りゅうだん)砲や弾薬、対戦車兵器など6億7500万ドル(約970億円)の追加軍事支援をすると発表した。
渡部氏は「ロシア軍は志願兵も召集できず、新たな攻勢に出られない状況だ。プーチン氏が始めた戦争は本人以外、意義を見いだせず、四面楚歌だ。今後は欧米がウクライナ側が求める戦車や戦闘機などを迅速に与える必要がある。今がチャンスだ」と強調した。
●ウクライナ軍 東部ハルキウ州ほぼ全域を奪還か ロシア軍守勢に  9/12
ウクライナ軍は、東部ハルキウ州で大規模な反転攻勢を続けていて、州内のほとんどの地域をすでに奪還したという分析も出ています。イギリス国防省は、ロシア軍が守勢に追い込まれていると指摘しています。
ウクライナ軍が、東部ハルキウ州で反転攻勢を続ける中、ロシア国防省は10日、州内の重要拠点イジューム周辺に展開する部隊について「再配置を決めた」と発表し、イジュームからの撤退を事実上、表明したと受け止められています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は11日「ウクライナ軍が急速な反転攻勢によって、ハルキウ州のほぼ全域を奪還し、ロシアの作戦に大きな敗北をもたらした。ウクライナの成功は、欧米から供与された兵器を最大限活用し、巧みな軍事作戦を実行したことにある」とする分析を公表しました。
そして「戦争研究所」は、ウクライナ軍がイジュームも奪還したと指摘したうえで「ロシアが、東部ドネツク州の全域を掌握するという目的を達成できる見通しがなくなった」としています。
また、イギリス国防省は12日、ロシア軍がハルキウ州だけでなく南部ヘルソン州でも、ウクライナ軍から物流拠点の橋の攻撃を受け補給面で苦戦していると指摘しました。
そのうえで「ロシア軍の大部分の部隊は、急きょ防衛を優先させることを余儀なくされている可能性が非常に高い。ロシア軍の上層部の指揮官に対する信頼は、さらに悪化するだろう」として、ロシア軍が守勢に追い込まれていると指摘しています。
●日本とサウジアラビア 原油市場の安定化など協力で一致  9/12
ウクライナ情勢などを背景に原油市場の不透明な状況が続く中、岸田総理大臣は、サウジアラビアのムハンマド皇太子と電話で会談し、市場の安定化などに向けた協力をいっそう進めていくことで一致しました。
電話会談は、12日午後6時前からおよそ20分間行われました。
この中で、岸田総理大臣は、ウクライナ情勢などを背景に原油市場の不透明な状況が続いていることを踏まえ、市場の安定化に向けてサウジアラビアが指導的な役割を果たすよう強く期待していることを、ムハンマド皇太子に伝えました。
そして、両氏は、原油市場の安定化に加え、グリーンエネルギーの活用促進などを通じたカーボンニュートラルの実現に向けた協力を、いっそう進めていくことで一致しました。
また、岸田総理大臣は、日本はサウジアラビアとの関係を極めて重視しているとして、経済や社会制度の改革を全面的に支援する考えを伝え、両国の戦略的パートナーシップをさらに強化するため、首脳級や閣僚級の往来などを通じて、引き続き、緊密に連携していくことを確認しました。
●ロ軍の戦略 カディロフ首長が「批判」 9/12
ロシア国防省が北東部ハルキウ州の部隊の再編成を発表して要衝から撤退したことに対し、プーチン大統領に忠誠を誓うチェチェン共和国のカディロフ首長がロシア軍の戦略を批判しました。
ロシア国防省は10日、ハルキウ州のバラクレヤとイジューム地域の部隊を再編すると発表しました。
この地域からの撤退を認めたものとみられます。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、イジュームを奪還したと明らかにしました。
また、ウクライナ軍は今月以降、約3000平方キロメートルの領土を奪還したと主張しています。
こうしたなか、ウクライナ侵攻に加わっているチェチェン共和国のカディロフ首長は11日、自身のSNSで「もしロシアが望んだとしたら、一歩も後ずさりしなかったはずだ。そのための訓練を受けている者がいなかったのだろう」と述べました。
また、「間違いがあった。彼らはいくつかの結論を出すだろう」と指摘し、ロシア側の軍事戦略に疑問を呈しました。
さらに、カディロフ首長は「特別軍事作戦の戦略に変更がなければ、私は国防省の指導部と国の指導部に出向いて状況を説明しなければならない」と述べ、戦況次第ではプーチン大統領に直談判すると訴えました。
●習主席 上海協力機構 首脳会議出席でプーチン大統領と会談へ  9/12
中国外務省は、習近平国家主席が今月15日と16日に中央アジアのウズベキスタンで開かれる上海協力機構の首脳会議に出席すると発表しました。習主席が外国を訪問するのは、おととし1月以来で、ウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン大統領との会談で、どのような姿勢を示すのか注目されます。
中国外務省は、習近平国家主席が14日から16日までの日程で、中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンを公式訪問すると発表しました。
このうち、ウズベキスタンでは、中国とロシアが主導する枠組み、上海協力機構の首脳会議に出席するということです。
ロシアのプーチン大統領は、この首脳会議にあわせて習主席と対面で会談を行う見通しだと明らかにしています。
習主席が外国を訪問するのは、おととし1月のミャンマー以来で、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、初めてとなります。
習主席とプーチン大統領は、ことし2月4日、北京オリンピックの開会式にあわせて対面で首脳会談を行い、その20日後の2月24日に、ロシアがウクライナに軍事侵攻したあとも2度、電話での会談を行っています。
今回の中ロ首脳会談では、習主席が来月、党のトップとして異例の3期目入りするかが焦点となる共産党大会を前に、プーチン大統領に対して、どのような姿勢を示すのか注目されます。
“共産党の序列3位 ロシア訪れプーチン大統領らと会談”
中国国営の新華社通信は、共産党の序列3位で全人代=全国人民代表大会の栗戦書委員長が、今月7日から10日までロシアを訪れ、極東のウラジオストクでプーチン大統領と会談したあと、モスクワで上下両院の議長やロシアの各政党の代表と会談したと伝えました。
栗委員長は、ウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」にあわせて、プーチン大統領と会談し、このなかで「習近平国家主席とプーチン大統領の指導のもと、新時代の中ロ関係が新たな段階へと進み、それぞれの国家の発展と民族の復興という偉大な目標を実現すると確信している」と述べたということです。
そして、来月16日から開かれる共産党大会について説明したとしています。
続いて訪れたモスクワでは、ボロジン下院議長やマトビエンコ上院議長、それに主要な政党の代表とも会談し、台湾をめぐる中国の立場への支持に謝意を示したうえで、中ロの協力関係を全面的に発展させていくことを確認したとしています。
●「調停者」トルコに欧米困惑 対露輸出増でも批判避け 9/12
ロシアによるウクライナへの侵略を巡り、トルコのエルドアン政権の動きに欧米が頭を痛めている。トルコが、ロシアとウクライナの「調停者」を自任して対露制裁に加わらず、ロシアとの関係を強化して経済制裁の抜け穴になっているからだ。だが、トルコはウクライナ、ロシア双方と対話のパイプを持つ。眉をひそめる欧米もトルコを頼りにせざるを得ない事情がある。
英紙フィナンシャル・タイムズは8月中旬、トルコの5〜7月の対露輸出が前年同時期比で46%増の20億ドル(約2900億円)に達したと伝えた。欧米がロシアに制裁を科し、千社以上が市場から撤退したとされるが、外国企業の穴をトルコが埋めている形だ。
欧州連合(EU)欧州対外活動庁のスタノ報道官は、同紙に「欧州が対露関係を縮小しているときに関与を深めるのは適切とはいえない」と述べ、くぎを刺した。
バイデン米政権もトルコの対露輸出増加にいらだちつつ、調停への期待からトルコへの表立った批判は避けているものとみられる。
制裁を科していないトルコはロシアの富豪の資産逃避先となり、ロシアが制裁で輸入できない高性能の電子機器などを迂回(うかい)して入手する拠点にもなっている。トルコでは露通貨ルーブルの決済システム「ミール」のカードも使用可能だ。
漁夫の利を得るトルコを欧米が表立って批判できないのは、トルコのエルドアン大統領の「調停外交」が成果を挙げた実績があるからだ。エルドアン氏は8月にロシアのプーチン大統領と会談する一方、国産無人機を供与してウクライナとも関係を築き、同国のゼレンスキー大統領とも会談。8月初めには、戦闘で停滞したウクライナ産穀物の輸出再開にこぎ着けた。
エルドアン氏が調停に熱心なのは、来年6月のトルコ大統領選を見据えた動きだとの見方が根強い。同氏は立候補を表明したものの支持率は低迷している。大きな理由が経済不振だ。
景気浮揚を優先するエルドアン氏は、中央銀行総裁を相次いで解任して利上げを阻止。トルコの通貨リラが対ドルで急落し、8月のインフレ率が24年ぶりに前年同月比80%を超えた。急速な物価高で同氏への反感が強まっている。
こうした中で戦争が起き、エルドアン氏は「国際社会に不可欠な指導者像」を誇示して、支持回復を図る思惑とみられる。
侵攻に端を発するスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題でも、エルドアン政権は、スウェーデンとフィンランドが、トルコが重視するテロ対策に非協力的だと横やりを入れ、両国の加盟承認に難色を示した。
トルコも一員であるNATOは、全加盟国が批准しないと新規加入ができない。エルドアン氏は、6月下旬のNATO首脳会議で態度を一変させ、加盟を歓迎する姿勢を示したが、数日後には「合意事項が履行されなければ批准を見送る」と表明した。
NATOに加盟する30カ国の内、数カ国は批准手続きが完了していない。その一国であるトルコは、いわば加盟問題を「人質」に取っている形だ。エルドアン氏の支持率が思うように上がらない中、トルコが批准するまでに「まだドラマが起きる可能性がある」(米紙)との懸念がくすぶる。
トルコが批准せず、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟が遅れれば、欧米から非難を浴びることは必至。支持率改善に向けた「内政ありき」のエルドアン氏の外交は危うい段階に差しかかっている。

 

●ロシアがサハリン2で再び「脅し」の恐れ、日本企業のジレンマは深まる公算 9/13
日本企業で拡大する 政治と経済のジレンマゾーン
ウクライナ侵攻によって日露関係が悪化する中、ロシア極東の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」について、ロシア政府は8月31日、三井物産と三菱商事が新たに設立したロシア企業に出資することを承認した。
プーチン大統領は6月末、サハリン2について事業主体を新たにロシア政府が設立するロシア企業に変更し、その資産を新会社に無償で譲渡することを命じる大統領令に署名し、ロシア政府は8月5日に新会社を設立して事業を移管し、両社に対して新会社に同様の出資比率で参画するかどうかを9月4日までに通知するよう求めていた。その後、三菱商事と三井物産は8月末までに、新たな運営会社に参画する意向をロシア政府へ通知する意向を表明していた。
三井物産は12.5%、三菱商事は10%をそれぞれ出資していたが、両社とも慎重な検討を重ね、総合的な観点から判断したと発表している。だが、緊迫化するエネルギー事情、世界的な物価高、そして何より日本は輸入する液化天然ガス(LNG)の9%近くをサハリン2に依存しており、両社とも日本のエネルギー安全保障を考慮し、非常に難しい決断を下したといえる。
しかし、世界経済の中で戦う日本企業にとって、今回のような“政治と経済のジレンマゾーン”はいっそう拡大する恐れがある。
ロシアがサハリン2で さらなる「脅し」の可能性も
今回のケースでロシア政府は両社の参画を承認したわけだが、ロシア外交官の日本からの国外追放、日本外交官のロシアからの国外追放、ロシア向けぜいたく品禁輸、ビザなし交流の失効措置など、今日、日露間では制裁措置の応酬が展開されており、今後も日露関係の冷え込みの長期化は避けられない。
こうした中、ロシア側が日本を政治的に揺さぶるため、サハリン2において第2弾、第3弾の脅しを見せてきても不思議ではない。エネルギー事情などロシア側も日本の政治、経済、社会情勢を日常的に分析し、日本にとって痛い部分を突いてくる可能性がある。
政治と経済のジレンマゾーンの拡大は、今日の大国間競争によっていっそう拍車が掛かりそうだ。
ロシアによるウクライナ侵攻から半年が経過するが、欧米や日本などによる対露制裁の限界が色濃くなっている。実際、ロシアに制裁を強化したのは40カ国あまりしかなく、中国やインドを筆頭に、東南アジアや南アジア、中東やアフリカ、中南米カリブなどの国々はほとんど制裁に加わっていない。
ウクライナ侵攻で拍車が掛かった世界的な物価高もあり、アジアやアフリカなどの中小国の中には米中対立、米中露の大国間競争などに巻き込まれたくない、疲れたと思う国々も少なくなく、各国とも国益を最大限引き出すため独自のスタンスで行動している。
こういった国際政治の動向が、プーチン大統領の強気の姿勢を助長している。最近ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでも、プーチン大統領は欧米陣営を強く非難し、中国やインド、ミャンマーなどとの結束を強く示した。中国にとっても対米という中ではロシアと共闘する大きなメリットがあり、9月に入っても両国軍が日本海やオホーツク海で合同軍事演習を実施するなど日本や米国を強くけん制したように、今後は政治・経済の両面で中国とロシアの結び付きが顕著にみられることだろう。
欧米陣営と非欧米陣営で 部分的な経済デカップリングも
そうなれば、米中経済の完全なデカップリング(切り離し)は非現実的だが、経済圏で米国主導の欧米陣営、中露主導の非欧米陣営という形である程度のブロック化が顕著になってくる可能性を、我々は考える必要がある。
今日の台湾情勢がさらに緊迫化すれば、安全保障的に対立軸にある日中の関係が冷え込む可能性が高く、中国で操業する日本企業の経済活動に制限が出てくる恐れが考えられよう。2010年9月の尖閣諸島における中国漁船衝突事件の際、中国側は報復措置としてレアアースの対日輸出を停止させたことがある。中国にとって尖閣諸島も台湾も絶対に譲ることのできない核心的利益であることから、日本としては台湾有事の際に中国からどういった対抗措置が取られるか、2010年9月の経験から戦略的に考える必要がある。
しかし、こういった政治リスクが現実的に考えられるものの、企業にとって撤退や規模縮小というのは決して簡単な経営判断ではない。また、今回のサハリン2のように日本のエネルギー安全保障、また経済安全保障に絡むような極めて公益性が高い問題となると、“リスクがあっても継続しなければならない”という場面がある。こういった日本企業を悩ます政治と経済のジレンマゾーンは、今後拡大する可能性が高い。
中国は依然として日本にとって最大の貿易相手国であり、日本企業の脱中国には限界がある。しかし、日中間で政治リスクが高まる恐れがあり、日本企業を悩ます政治と経済のジレンマゾーンが拡大する可能性を我々は認識する必要がある。
●ゼレンスキー大統領 “東部と南部で6000平方キロ以上を解放”  9/13
ウクライナ軍が東部で反転攻勢を続ける中、ゼレンスキー大統領は12日、「東部と南部で6000平方キロメートル以上を解放した」と述べたうえで、反撃をさらに進める考えを示しました。一方、ロシア側は軍事侵攻を継続する構えを改めて強調していて、今後のプーチン政権の出方が焦点になります。
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、東部でウクライナ軍の反転攻勢の動きが鮮明になっています。
ロシア国防省は東部での戦線の重要拠点となっているハルキウ州イジュームからの撤退を事実上、表明していて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は11日、ウクライナ軍がイジュームを含むハルキウ州のほぼ全域を奪還し「ロシアの作戦に大きな敗北をもたらした」と指摘しています。
こうした中、ゼレンスキー大統領は12日に公開した新たな動画で「われわれの兵士たちはすでにウクライナの東部と南部で6000平方キロメートル以上を解放した。わが軍の移動は続いている」と述べ、反撃をさらに進める考えを示しました。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は12日「すべての目標が達成されるまで作戦は継続される」と述べ、軍事侵攻を継続する構えを改めて強調しました。
プーチン大統領は、今月15日から行われる上海協力機構の首脳会議に出席するため中央アジアのウズベキスタンを訪問する予定ですが、大統領府に近い情報筋によりますと、これを前に戦況などについて分析する安全保障会議が開かれる可能性があるということで、今後のプーチン政権の出方が焦点になります。
一方、ウクライナが奪還したとされるイジュームの状況について12日、地元の市議会議員がオンラインで会見を開き、戦闘に巻き込まれるなどして少なくともおよそ1000人の市民が死亡したと明らかにしました。
今後、ロシア側の占領や、戦闘などによる住民の被害の実態解明が急がれることになりそうです。
ゼレンスキー大統領 さらなる反転攻勢を強調
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日に公開した動画で「9月初めから今日までにわれわれの兵士たちは、すでにウクライナの東部と南部で6000平方キロメートル以上を解放した。わが軍の移動は続いている」と述べ、さらなる反転攻勢を強調しました。
また、11日と12日の2日間にロシア軍が行ったエネルギー関連のインフラへの攻撃により、数十万人が停電の影響を受けたとしたうえで、ロシア軍が民間施設をミサイルで攻撃していると非難しました。
そして「これはこの戦争をたくらんだ者の絶望の表れであり、ハルキウ州での敗北への反応である。彼らは戦場でわれわれの英雄に何もできないので、民間のインフラに卑劣な攻撃をしている」と述べました。
米軍高官 “ロシア軍 ハルキウ市近郊から撤退”
アメリカ軍の高官は12日、記者団に対し、ウクライナ軍が反転攻勢を続けるウクライナ東部の戦況について、ロシア軍がハルキウ市近郊で掌握していた地域の大部分を明け渡し、撤退したという分析を明らかにしました。
撤退したロシア軍の部隊の多くは国境を越えてロシア領内に移動したとしています。
そのうえで、この高官はウクライナ軍がハルキウ州内の重要拠点のイジュームも奪還した可能性が高いという認識を示しました。
この高官は、アメリカなどが供与している兵器がウクライナ軍の反転攻勢に役立っていると指摘し、国際社会と連携しながらウクライナに対して必要な軍事支援を続けていく考えを強調しました。
松野官房長官「引き続き対ロ制裁とウクライナ支援を柱に」
松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「戦況の見通しについて確定的な評価や予測を示すのは困難だが、国際社会が長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げてきた国際秩序の根幹がロシアのウクライナ侵略によって脅かされており、平和秩序を守り抜くため、G7=主要7か国をはじめとする国際社会が結束して、断固たる決意で対応していく必要がある」と述べました。
そのうえで「わが国は、主権と領土そして祖国と家族を守ろうと懸命に行動するウクライナの国民とともにある。引き続き、強力な対ロ制裁とウクライナ支援の2つの柱にしっかりと取り組んでいく」と述べました。
●ウクライナが奪還した東部イジューム、住民1000人以上死亡か…拷問情報も  9/13
ロイター通信などは12日、ウクライナ軍が奪還を宣言した東部ハルキウ州イジュームで、戦闘により住民1000人以上が死亡した可能性があると報じた。同州でロシア軍が占領していた地域では、拷問が行われていたとの情報もある。キーウ周辺ブチャで明らかになった多数の民間人殺害に続き、露軍兵士による新たな戦争犯罪行為が判明する可能性がある。
東部ドネツク州に近いイジュームは露軍が軍事拠点としていたが、ウクライナ軍の反攻で撤退を余儀なくされた。露軍にとっては4月のキーウ周辺からの撤退に次ぐ痛手となる。
イジュームの市議によると、現在の人口が1万人程度の市内ではインフラ(社会基盤)の8割以上が破壊され、少なくとも1000人の市民が犠牲になった。侵略当初の3月に露軍が市内の医療機関を全て破壊し、健康面で影響を受けた人も多いという。
また、ウクライナの検察当局によると、ハルキウ州の村の民家や工場の敷地内で、拷問を受けたような痕がある4人の遺体が見つかった。露軍撤退後、地元住民の通報で発覚したという。ウクライナ内務相顧問はSNSで、露軍が撤退した地域で殺人や拷問の情報が集まり始めていることを明らかにした。
一方、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は12日夜のビデオ演説で、ウクライナ軍は「9月初めから、東部と南部でウクライナの領土6000平方キロ・メートル以上を解放した」と述べた。反攻を始めて以来、奪還した地域が急速に拡大していることを強調し、「我が軍の展開は続いている」と作戦継続を訴えた。ウクライナ軍参謀本部は12日、ウクライナ軍が前日に20を超える集落から露軍を撃退したと発表している。
露軍が占拠する南部ザポリージャ原子力発電所を巡っては、国際原子力機関(IAEA)が12日、近隣の火力発電所と結ぶ非常用の送電線3本のうち2本目が復旧したと発表した。安全確保のため運転を停止した6号機が冷温停止状態になったことも公表した。
ただ、外部電力網とつながる通常用の送電線全4本は停止したままだ。ラファエル・グロッシ事務局長は「紛争地域の真ん中に位置する原発の安全・保安状況は、依然として不安定だ」と強調した。
●アゼルバイジャン・アルメニア間で再び軍事衝突 戦闘拡大の恐れも 9/13
南カフカス地方の旧ソ連構成国、アルメニアとアゼルバイジャンは13日未明、両国の国境地帯で軍事衝突が起きたと発表した。両国は相手側による挑発が発端だと主張した。タス通信が伝えた。銃撃や砲撃の応酬で死傷者が出ているという。両国の仲介役を担ってきたロシアはウクライナ侵攻に追われており、戦闘は拡大する恐れがある。
タスによると、アルメニア政府は13日、パシニャン首相が軍事同盟を結ぶロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、衝突の情報を共有したと発表した。
両国間では2020年秋、係争地ナゴルノカラバフ自治州を巡る大規模な紛争が発生。両国に影響力を持つロシアの仲介で停戦が成立したが、その後も双方が相手側の攻撃を報告するなど緊張が続いてきた。
アルメニアは今年3月下旬にも、アゼルバイジャン軍が同自治州のアルメニア側支配地域に侵入したと非難。この際もロシアの介入によって、本格的な戦闘の再開は回避された。
ただ、ロシアは同自治州に駐留させていた停戦監視部隊の一部をウクライナ戦線に送ったとされ、ロシアの停戦維持能力の低下を指摘する声も出ている。
●8月の企業物価指数 過去最高 前年同月比 上昇率は9.0%  9/13
企業の間で取り引きされるモノの価格を示す企業物価指数の先月の速報値は、前の年の同じ月と比べて9.0%上昇しました。2020年の平均を100とした水準で115.1と過去最高で、原材料価格の上昇を背景に幅広い品目で値上げが進んでいます。
日銀が発表した企業物価指数の先月の速報値は、2020年の平均を100とした水準で115.1と、5か月連続で過去最高となりました。
指数は前の年の同じ月を18か月連続で上回り、先月の上昇率は前の月に続いて9.0%と高い水準となっています。
これは、ロシアのウクライナ侵攻を受けた原材料価格の上昇を背景に、小麦粉などの「飲食料品」や電気料金、それに「鉄鋼」の価格が上昇したことなどが主な要因です。
対象となった515品目のうち、8割以上の431品目が値上がりし、企業の間で原材料費の上昇分を販売価格に転嫁する動きが広がっています。
また、前の年の同じ月と比べた輸入物価の上昇率は円換算で42.5%となり、急速に進む円安も指数を押し上げています。
日銀は「価格転嫁の動きが幅広く見られる。引き続き資源や穀物の市況のほか、原材料高の動きなどを注視したい」としています。
松野官房長官「追加策を速やかに実施 影響緩和図っていく」
松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「原材料価格が高い水準で推移し、事業用電力などの価格が上昇したことによるものだ。消費者物価についても、国民生活に欠かせない食料品とエネルギー価格を中心に物価が上昇している」と指摘しました。
そのうえで「物価高騰に対する追加策を速やかに実施し、食料品やエネルギーなどの価格高騰の抑制や特に影響が大きい低所得者への支援、地域の実情に応じたきめこまやかな支援などを進め影響緩和を図っていく。さらに、岸田総理大臣が総合経済対策を策定すると表明しており、10月中の取りまとめに向けて検討を進めていきたい」と述べました。
●西側諸国による「経済電撃戦」、ロシアには効果なし プーチン氏 9/13
ロシアのプーチン大統領は12日、西側諸国がロシアに行った「経済電撃戦」の戦術について失敗したとの見方を示した。
プーチン氏はテレビ中継された会合で、「ロシアは自信を持って外圧に対処している。実際、一部の国々から財政的、技術的な攻撃を受けているといえるかもしれない」と述べた。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて西側諸国がロシアに対して行った経済制裁に言及しているとみられる。
プーチン氏は「経済電撃戦の戦術は、彼らが頼りにしていた突然の攻撃は、うまくいかなかった。これはすでに誰の目にも明らかであり、彼らにも同様だ」と付け加えた。
プーチン氏は、ロシア政府が即座に実施した効果的な保護措置のおかげで、ロシア経済は急激なリセッション(景気後退)を回避できたと指摘した。
物価上昇についても早期に安定し、インフレ率は4月のピーク時の17.8%から、9月5日時点で14.1%にまで下落したという。
プーチン氏は、インフレ率が年末までに約12%になるとの見通しを示した。経済活動も成長を始め、企業も通常通りの営業に戻るとしている。 
●崖っぷちロシア、習氏に支援懇願≠ゥ 兵器や弾薬、兵士の不足 9/13
中国の習近平国家主席と、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は今週、中央アジアのウズベキスタンで会談する見通しだ。ロシアによるウクライナ侵攻に対し、欧米諸国はロシアへの経済制裁やウクライナへの兵器供与で対抗している。ウクライナによる反転攻勢でロシアは苦境に陥っており、中国に支援などを呼びかける狙いが浮かぶ。習政権はウクライナ情勢に慎重な姿勢を貫くが、ロシアの懇願≠ノ応えるのか。
中国外務省は12日、習氏が14〜16日、カザフスタンとウズベキスタンを訪問すると発表した。習氏の外国訪問は新型コロナウイルスの流行後初めて。習氏とプーチンの直接会談は、上海協力機構(SCO)首脳会議が行われるウズベキスタンのサマルカンドで実施されるようだ。
ウクライナ情勢では、ロシア軍の劣勢が伝えられている。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、東部ハリコフ州の要衝イジュムをロシア軍から奪還したと宣言した。米シンクタンク「戦争研究所」も、ロシア軍に制圧された同州のほぼ全域を取り戻したと分析した。
ロシアは兵器や弾薬、兵士の不足に苦しんでおり、北朝鮮がロケット弾や砲弾計数百万発を提供する手続きを行っていると米国防総省が発表した。北朝鮮が10万人規模の志願兵をウクライナに派遣するとの情報もある。
ただ、ロシアが最も頼りにしたいのは、ロシアの極東地域で実施した大規模軍事演習「ボストーク2022」にも参加した軍事大国・中国だ。国防費を毎年上げ続け、世界屈指の陸軍力を誇っている。
中国共産党機関紙、人民日報(海外版)は12日付で、中国共産党序列3位で、習氏の最側近として知られる栗戦書・全人代常務委員長が7〜10日、ロシアを訪問してプーチン氏と会談したと伝えた。栗氏からウクライナに関する直接的な言及はなかったようで、習政権の慎重な姿勢は継続されているようだ。
習氏は、プーチン氏から支援要請があった場合、動くのか。
国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「欧米などの監視もあり、中国が直接の支援に動く可能性は低い。一方、中国やロシアと並び『新・悪の枢軸』という枠組みで語られるイランや北朝鮮は、戦闘用の無人機(ドローン)や弾薬の販売に積極的だ。中国がロシアに武器を供与するとすれば、イランや北朝鮮を経由することになるだろう。中国としては、ロシアから石油や天然ガスを安く購入できる利益もある。現在の両国関係は、中国が完全に優位なかたちに傾いている」と分析している。
●ロシア軍敗走で強まるプーチン批判 9/13
ウクライナ軍の反転攻勢でロシア軍の敗走が重なるなか、ロシアの当局者の間でウラジーミル・プーチン大統領の辞任を求める声が広がっている。政権が反体制派を厳しく取り締まるロシアでは異例の事態だ。
プーチンは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻を開始。圧倒的な兵力を誇ったロシア軍は数日で首都キーウを陥落させる勢いだったが、アメリカをはじめとする同盟諸国の支援を受けたウクライナの強力な抵抗に遭った。これにより、ロシア政府はウクライナ侵攻の当初の目標を達成することができずにいる。
ウクライナ軍は先週から、南部ヘルソンや東部ハルキウ(ハリコフ)でロシア軍部隊を奇襲し、1600平方キロ以上の領土を奪還した。とくにこの週末、ロシア軍はイジュームなどの主要都市から撤退を余儀なくされた。
この一連の敗北が「反プーチン」機運の広がりにつながっているようだ。サンクトペテルブルクのスモルニンスコエ地区の区議であるクセニア・トルストレムは、9月12日にツイッターに投稿を行い、ロシア地方議会の区議35人がプーチンの辞任を求める要請書に署名したと明かした。プーチンによるウクライナ侵攻が、ロシアに「害を及ぼしている」というのが理由だ。
プーチンは「ロシアに害を及ぼす」
モスクワなど複数の主要都市の区議グループも要請書に署名している。トルストレムはこの要請書について、誰の「名誉を傷つける」ものでもないとしている。
ロシア下院は3月、軍に関する「偽情報」の拡散を禁止する新法を可決。当局はこの法律を利用して、ウクライナへの「特別軍事作戦」を批判した者を取り締まり、軍事侵攻について異を唱えるのは危険な行為になった。
区議たちは今回、ウクライナでの軍事作戦に具体的に言及こそしていないものの、要請書共に添えた短いメッセージの中でプーチンの行動を非難した。
要請書は「我々ロシア地方議会の区議グループは、ウラジーミル・プーチン大統領の行動がロシアと市民の未来に害を及ぼすと確信している」と述べ、さらにこう続けている。「プーチンがロシア連邦の大統領の座を退くことを要求する!」
スモルニンスコエ地区では、これまでにも複数の議員がプーチンを批判する声明を出していたが、今回はロシア政府の「お膝元」であるモスクワを含むほかの複数の自治体の区議も要請書に署名した。ウクライナでの敗北が続くなか、ロシアの当局者たちの間で不満が高まっていることを示唆している。
スモルニンスコエ地区の議会は9月上旬にも、プーチンを反逆罪で弾劾することを提案していた。同議会のニキータ・ユレフェフ区議は、ウクライナに対する特別軍事作戦がロシア軍の兵士たちを死なせ、経済に打撃をもたらし、NATOの拡大を招いていると批判した。
ユレフェフによれば、その後同議会の複数の議員が、ロシア政府の「信用をおとしめた」として警察に呼び出された。9月にはロシア軍の兵士2人も同様の罪に問われている。
今回も政権側の圧力があって、それが勝つのか予断を許さない。
●プーチン大統領と正恩氏、イランを交え核で結託=I? 9/13
ウクライナ侵攻で消耗が激しいロシアに、北朝鮮がロケット弾や砲弾計数百万発を提供する手続きを行っていると米国防総省が発表した。北朝鮮が10万人規模の志願兵をウクライナに派遣するとの情報もある。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は親密で、核兵器で周辺国を威嚇する手法も共通している。核や武器供与について両国と関係の深いイランを交えた「悪の連携」が加速するのか。
「輸出規制や制裁の影響もあり、ロシアが深刻な供給不足に苦しんでいることを示している」
米国務省のパテル副報道官は、6日の記者会見でこう指摘し、ロシアが北朝鮮から調達を増やすとみられると述べた。
ウクライナ軍は欧米の軍事支援を受けて東部や南部で反撃を継続、ロシアの支配地域の奪還を進めている。
西側諸国から厳しい経済制裁を受けたロシアが頼るのは北朝鮮だ。米ウォールストリート・ジャーナルなどによると、北朝鮮の申紅哲(シン・ホンチョル)駐ロシア大使は8月、ロシア国営タス通信に「共通の脅威である米国に対抗するために北朝鮮とロシアの協力を深めていく」と語ったという。正恩氏は6月12日の「ロシアの日」に合わせ、プーチン大統領に「両国の戦略・戦術的協力がさらに緊密になると確信する」と祝電を送ったが、現在も良好な関係にあるようだ。
評論家でジャーナリストの潮匡人氏は「北朝鮮はかつてロシア側から支援を受け、互換性の高い武器を多く所持している。弾薬不足のロシアにとって一刻も早く取引したい相手だ」と指摘する。
ロシアが頼るもう一つの国がイランだ。すでにイラン製ドローン(無人航空機)がウクライナの前線に投入されている。米財務省はドローンの運搬や人員の手配を行ったイラン企業4社などを制裁対象とした。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「半導体不足などを背景にロシアの武器不足は深刻だ。関係の近い中国は国際的な影響力が強いため、現状は軍事支援に慎重だ。そこで、同じく国際的な制裁を受けるイランや北朝鮮が積極的な軍事支援に動いている」と解説する。
また、米紙ニューヨーク・ポストによると、ロシア国営放送のチャンネル・ワンで、ロシアの国防専門家が「10万人の北朝鮮の志願兵が紛争に参加する用意があるとの報告がある」と発言したという。ロシアのマツェゴラ駐北朝鮮大使は、ウクライナ東部ドンバス地域について、破壊された施設の復旧作業で北朝鮮の建設労働者が重要な役割を担えると述べた。
米大手シンクタンク「ヘリテージ財団」のクリングナー上級研究員は8月に公表した報告書で、「北朝鮮によるロシアへの軍事支援は、2006年に可決された国連安保理決議1718にも違反する」との見解を示した。決議では北朝鮮が戦車、大砲、ミサイルなどの重火器を輸出することを禁止し、国連加盟国にその移転防止を求めている。ロシアは安保理の常任理事国でありながら、みずから決議破りに出ていることになる。
前出の世良氏は「北朝鮮はロシアに人員を派遣することで外貨を稼ぎたい。労働力を皮切りに、武器の売買や事実上の傭兵としての志願兵の派遣も時間の問題だろう」との見方を示す。
ロシアはウクライナで核兵器の使用に踏み切るとの懸念がくすぶる。北朝鮮は核兵器の使用条件などを定めた法令を採択。正恩氏は「絶対に核を放棄できない」と述べた。イランの核開発には北朝鮮が技術供与しているとも指摘が根強い。
ロシアや北朝鮮と日本海を挟んで向き合う日本も人ごとではない。前出の潮氏は、「国連安保理の非常任理事国である日本は、制裁決議に違反する北朝鮮の武器の輸出について先陣を切って批判する立場にある。岸田文雄政権がどこまで具体的な動きに出るかわからないが、声を挙げれば米国や英国は賛同する見込みが高く、西側諸国で一致してロシアの武器補給に圧力をかける機運が高まるだろう」と指摘した。
●ウクライナ反転攻勢も ロシア軍事侵攻を継続する構え強調  9/13
ウクライナ軍が東部ハルキウ州で反転攻勢を続ける中、ロシア大統領府は12日「すべての目標が達成されるまで作戦は継続される」と軍事侵攻を継続する構えを改めて強調し、今後のプーチン政権の出方が焦点になります。
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、東部でウクライナ軍の反転攻勢の動きが鮮明になっていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ウクライナ軍がハルキウ州のほぼ全域を奪還した」と分析しています。
ハルキウ州にいる親ロシア派の幹部は12日、国営ロシアテレビで、現地でウクライナ軍の部隊の規模がロシア軍の8倍に上ったという見方を示すとともに、市民およそ5000人が国境を越えてロシア国内に避難したと明らかにしました。
ロシア国防省はウクライナ東部での戦線の重要拠点となっているハルキウ州イジュームからの撤退を事実上、表明していて、「戦争研究所」はウクライナ軍がイジュームも奪還したと指摘しています。
そのイジュームの状況について12日、オンラインの記者会見を開いた市議会議員は戦闘に巻き込まれるなどして少なくともおよそ1000人の市民が死亡したと明らかにしました。
こうした中、ロシア大統領府のペスコフ報道官は12日「すべての目標が達成されるまで作戦は継続される」と述べ、軍事侵攻を継続する構えを改めて強調しました。
プーチン大統領は、今月15日から行われる上海協力機構の首脳会議に出席するためウズベキスタンを訪問する予定ですが、大統領府に近い情報筋によりますと、これを前に戦況などについて分析する安全保障会議が開かれる可能性があるということで、今後のプーチン政権の出方が焦点になります。
●プーチン氏は変わるのか ウクライナでロシア支配地が減少 9/13
1週間のニュースを伝えるロシア国営テレビの看板番組は通常、政府の成果を強調する。だが、この前の日曜日(11日)の放送は、珍しく告白で始まった。「(ウクライナでの)特別作戦の前線では、これまでで最も厳しい1週間になった」。司会者のドミトリー・キセレフ氏が、沈痛な面持ちで述べた。
「特にハルキウの戦線では、数で勝る敵軍の猛攻を受け、(ロシア)部隊はそれまで解放していた町から撤退を余儀なくされた」
「解放」とは「制圧」のことだ。ロシアは数カ月前にそれらの地域を占拠したが、ウクライナ軍が電光石火の反攻を実施。ロシア軍は、ウクライナ北東部でかなりの支配地を失った。
しかし、ロシアの国営メディアは平静を装っている。ハルキウ州で起きたことを、公式には「撤退」と呼んでいない。
政府発行紙ロシースカヤ・ガゼータの最新号は、「ロシア部隊がバラクリヤ、クプヤンシク、イジュームから不名誉にも逃げたといううわさを、ロシア国防省は否定した」とし、こう報じた。「部隊は逃げていない。これは事前に計画された再編成だ」。
タブロイド紙モスコフスキー・コムソモーレツでは、軍事アナリストが別の見解を示した。「敵を過小評価していたことはすでに明らかだ。(ロシア軍は)対応に時間がかかりすぎ、崩壊した。(中略)その結果、私たちは敗北を喫し、部隊を撤退させ包囲されないようにして損失を最小限に抑えようとした」。
有力者からも警告
この「敗北」は、親ロシアのソーシャルメディアチャンネルや、「愛国的」なロシア人ブロガーの間で怒りを呼び起こした。自分たちの軍が過ちを犯した、という非難が噴出している。
ロシア・チェチェン共和国の有力指導者、ラムザン・カディロフ氏も同様だ。
「一両日中に戦略が変更されなければ、国防省や国の指導者に、現地の本当の状況を説明しなければならなくなるだろう。非常に興味深い状況であり、驚くべき事態だ」と、カディロフ氏は警告した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの本格侵攻を命じてから、半年余りがたった。ロシアの政治家、コメンテーター、アナリストたちは当初、政府が「特別軍事作戦」と呼ぶものについて、数日以内に終わるとテレビで予想していた。ウクライナ国民はロシア軍を解放者として迎え、ウクライナの政府は簡単に崩壊するだろうと話していた。
だが、そうはならなかった。
それどころか、半年以上たった今、ロシア軍は支配地を失い続けている。
この状況で重要な問いとなっているのが、プーチン氏は政治的な影響を受けるのかということだ。
プーチン氏は20年以上にわたり、ロシアのエリートたちの間で評判を得てきた。勝者であり、いつも窮地からの脱出に成功しており、要するに無敵である、という評判だ。
私はプーチン氏のことを、有名な脱出奇術師ハリー・フーディーニ氏のロシア版ような存在だと考えることがよくある。どんな結び目や鎖でつながれても、プーチン氏はいつも逃げてきた。
だが2月24日を境に、それが変わった。
この半年間は、ウクライナを侵攻するというプーチン氏の決断が大きな誤算だったことを示している。ロシアは素早い勝利を果たせず、長く血なまぐさい攻撃に陥り、不名誉な敗北を繰り返している。
権威主義的な指導者から無敵のオーラが失せると、問題が生じる。プーチン氏は、ロシアの歴史を思い知ることになるだろう。戦争をして勝利できなかったロシアの過去の指導者は、良い結末を迎えていない。
ロシアが日本に敗れたことで、1905年に最初のロシア革命が起きた。第1次世界大戦での軍事的失敗が、1917年のロシア革命を招き、皇帝を退位させた。
ただ、プーチン氏は公に敗者となるつもりはない。
ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は12日、「(ロシアの)特別軍事作戦は続いており、当初設定したすべての任務が完了するまで継続される」と記者団に話した。
ここでもう1つの重要な問いが生じる。プーチン氏は次に何をするのかだ。
プーチン氏の考えと計画を知っている人を探すのは困難だ。彼が軍や情報機関のトップから得ている情報がどれだけ正確かが、それを大きく左右しているかもしれない。
だが、分かっていることが2つある。プーチン氏はめったに間違いを認めない。そしてめったにUターンしない。
国営メディアの報道からは、戦地での失敗を西側によるウクライナ支援のせいにする兆しが、すでに見えている。
「NATO(北大西洋条約機構)の支援を受けたキーウ(ウクライナ)が反攻を開始した」と、ロシア国営テレビは伝えた。
そして、落ち着かない気分にさせる問いがもう1つ、数カ月前から後景に漂っている。通常兵器で勝利できなければ、プーチン氏は核兵器を使うのか、というものだ。
ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジヌイ総司令官はほんの数日前、「特定の状況でロシア軍が戦術核兵器を使うという直接的な脅威はある」と警告した。
今のところ、ロシア政府にパニックの明確な兆候はない。国営テレビは前向きな言葉を発信。ウクライナのエネルギーインフラに対するミサイル攻撃については、「特別作戦における転換点」と表現している。
ロシアが支配地を失っているとの報道がウクライナから届いていた10日、モスクワではリラックスした様子のプーチン氏が、ヨーロッパで最も高さのある新型観覧車のオープニング式典に参加していた。
プーチン氏はなおも、自らの「特別作戦」がモスクワの新たな大観覧車のように、自分に有利に動くと信じているようだ。
●ウクライナ軍が要衝イジューム“奪還” 露ではプーチン氏を“公然批判”…… 9/13
反転攻勢を強めたウクライナ軍が、ウクライナ北東部・ハルキウ州の要衝イジュームを奪還しました。半年ぶりに町が取り戻され、市民に喜びの声が広がりました。一方、ロシアではプーチン大統領を批判する声が上がりはじめる“異例の事態”になっています。
ウクライナ北東部・ハルキウ州。11日に公開された映像では、住民らがウクライナ国旗を広げながら、安堵(あんど)の声を上げました。
「(この日を)待ってた! ありがとう!」
市民らは半年ぶりに町が取り戻され、喜んでいました。
ウクライナ兵士「ここは以前も、未来もウクライナだ。ロシアの世界はもう来ない!」
さらに要衝のウクライナ・イジュームでは、「イジュームはウクライナの領土だ! バンザイ!」と、市庁舎の屋上で兵士らが国旗を掲げ、「ロシア側から街を取り返した」と宣言しました。
実は、イジュームの奪還は、ウクライナ側にとって大きな意味を持つといいます。その背景は、イジュームの地理的な位置関係にありました。
イジュームは、ウクライナ東部・ドネツク州の完全掌握を目指すロシア軍が、前線に物資を送る重要な補給拠点の一つでした。
9月に入り、ハルキウ州で反転攻勢を強めたウクライナ軍は、わずか1週間ほどで、イジュームを含む、ハルキウ州のほぼ全域を奪還。ロシア側は、前線への補給路を断たれ、作戦は“破綻した”と指摘されています。
しかし、地元市議によると、イジュームでは市民約1000人が犠牲になったということです。
さらに、奪還された村では、ロシア軍が仕掛けた地雷の撤去が続くといいます。
ウクライナの当局者「完全に(爆発物を)除去するには、1か月はかかると思う」
ウクライナは、南部での反撃に重きを置く構えをみせつつ、奇襲する形で北東部のハルキウを奪還しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領(12日公開のSNSより)「9月初めから今日までに、わが戦士たちはすでにウクライナ東部と南部で、6000平方キロメートル以上を解放した」
9月だけで、東京都の実に3倍近くの領土を、ロシア側から取り戻したと主張しました。
イギリス国防省は「ウクライナの成功は、ロシアの作戦に大きな影響を与える」と指摘しました。
こうした中、ロシア国内では、プーチン大統領を公然と批判する声も聞かれるようになりました。
「ウラジーミル・プーチンのロシア大統領辞任を要求する!」
プーチン氏に辞任を突きつけたのは、モスクワやサンクトペテルブルクなどの地方議員グループです。体制批判が取り締まり対象になりうるロシアで、こうした声が上がるのは異例のことです。
さらに、プーチン大統領に忠誠を誓うチェチェン共和国のカディロフ首長も、作戦に「間違いがあった」とロシア軍を批判しました。
劣勢ともいえる状況に、ロシアのペスコフ大統領報道官は、「すべての目標が達成されるまで、作戦は継続する」と強気の姿勢を崩していません。
イギリスの有力紙タイムズは、「手負いのプーチン大統領の方が危険だ」と指摘しています。
●ウクライナ快進撃“要衝の町”奪還 “プーチン氏辞任要求”に30議員署名 9/13
ウクライナの反転攻勢を受け、ロシアが大きく揺らいでいます。専門家はロシアの核兵器使用について、「今までの中で一番近づいている」としています。
半年にわたりロシア軍に制圧された街で、笑顔と共にウクライナの国旗が掲げられました。
デルガチ地区長「(彼女は)本日から通常の業務に戻ることになりました」
ウクライナ北東部で広がる歓喜の声。今、ハルキウ州でウクライナ軍の快進撃が続いています。
ゼレンスキー大統領「9月初めから今まで我々の兵士は、ウクライナ東部と南部で6000平方キロメートル以上を奪還しました。そして反攻作戦は続いています」
9月に入った時点では、ハルキウ州の多くが赤で示されたロシア軍に制圧された地域でした。
ターニングポイントは6日です。ウクライナ軍はそれからわずか5日ほどでロシア軍の補給路につながる要衝イジュームを奪還。ハルキウ州の大部分を取り戻したのです。その面積は東京都の2.7倍に及びます。
奪還した地域に残されていたのは、ロシア軍の戦車や兵器です。ロシア軍の一部の兵士は、軍服を脱ぎ捨てて私服姿になり、地元住民に紛れ込んで逃走しているといいます。
わずか5日の“奪還劇”はなぜ成功したのでしょうか。専門家は、ウクライナ軍の巧みな作戦があったと指摘します。
防衛研究所・高橋杉雄氏「ウクライナ側がロシア側をだました」「当然ロシアも人工衛星があるので、ハルキウ方面にウクライナ軍が集結していたのは分かっていた。分かっていたが本命はヘルソンだと頭が最初にできているから、判断するのは人間なので、人間がだまされてしまうと、衛星情報やサイバーの情報があろうと正確な判断はできない」「(Q.この展開は予想できた?)まったく予想はしていなかった」
世界を欺いたというウクライナの進撃を受けてロシア側は大きく揺らいでいます。
高橋杉雄氏「決定的な敗北を回避する目的での核使用。今までの戦争の展開の中で一番近づいている」
ウクライナ軍はわずか5日でハルキウ州の大部分を取り戻す快進撃をみせています。それを受けてロシア側は大きく揺らいでいます。
ロシア国防相はハルキウ州の部隊を再編成すると発表しました。この地域からの撤退を認めたものとみられます。
こうした動きにプーチン大統領の熱烈な支持者からも批判の声が。
チェチェン共和国、カディロフ首長「最新情報を得ているが、具体的な説明がない」
プーチン大統領に忠誠を誓うチェチェン共和国のカディロフ首長。自身が指揮する部隊をウクライナに派遣するなど、ロシア軍を支援していますが、今回の戦略には不満があり、状況次第では直談判すると訴えました。
カディロフ首長「私は国防省のように戦略を考える専門家ではないが、今回間違えてしまったことがあると思う。今後、戦略の見直しをしてくれることを期待する」
そしてロシア国内でもプーチン大統領に逆風が。地方議会で反プーチンの動きが広がっているのです。
12日、サンクトペテルブルクの地方議員がプーチン大統領に辞任を求める声明を発表しました。そのなかで、「プーチン大統領の行動がロシアと市民の未来に害を及ぼすと信じている」と指摘。この声明にはモスクワなど、およそ30の地区の議員が署名しています。
専門家は“核の緊張”が軍事侵攻開始以来、最も高まっていると警鐘を鳴らしています。
●モスクワなどの地区区議、プーチン大統領の辞任要求 9/13
ロシアの首都モスクワやサンクトペテルブルクなど18カ所の地区区議からプーチン大統領の辞任を求める声が上がっていることがわかった。要請書が12日、ツイッターに投稿された。
サンクトペテルブルクの区議が投稿した要請書には、「我々、ロシアの地区区議は、ウラジーミル・プーチン大統領の行動が、ロシアとロシア市民の将来にとって有害だと信じている。我々は、ウラジーミル・プーチンのロシア連邦大統領職からの辞任を要求する」とあった。
ロシアではこのほど、ウクライナ侵攻が始まってから初となる地方選が行われ、プーチン政権支持の候補者が大量に当選した。
投稿者は今回の要請書について簡潔で誰の信用も傷つけないとし、参加したい区議は歓迎すると述べた。
モスクワの区議も、プーチン氏の見解と政府のモデルは時代遅れであり、ロシアとロシア人の発展の可能性を妨げているとして辞任を求めている。

 

●独ロ首脳が電話会談、ウクライナ戦争巡り協議 9/14
ドイツのショルツ首相は13日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナ戦争について、停戦とロシア軍の完全撤退に基づく外交的解決策を可能な限り早く模索するよう求めた。ドイツ政府のヘベストライト報道官が述べた。
90分間の電話会談で、ショルツ首相はウクライナのザポロジエ原子力発電所の安全性を確保する必要性を強調したほか、プーチン大統領に対し、国連が支援する穀物協定の完全履行を継続するよう要請。ヘベストライト報道官は「ショルツ首相は、ロシアがこれ以上併合を進めることは許されず、いかなる状況下でも認められないと強調した」とし、両首脳が今後も連絡を取り合うことで合意したと語った。
●ウクライナ戦争、転換点に達したか判断難しい=米大統領 9/14
バイデン米大統領は13日、ウクライナ戦争が転換点に達したかとの質問に対して「その判断は難しい」とした上で「ウクライナ国民が大きな進展を遂げたことは明らかだ」と指摘した。今後については「長い道のりになる」との見方を示した。
●原発を人質に世界を脅すロシア、ウクライナ大攻勢の先にある暗い命運 9/14
ロシアによる侵攻当初に制圧され、ロシア軍が拠点化してるウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所で事故、攻撃が絶えない。9月1日にはIAEAが調査団を派遣。冷却用の電源が不安視される状況が続いており、原子炉の稼働を全面的に停止している。ロシアは、核事故の可能性を見せつけるという、核兵器によらない、これまでに世界が経験したことのない手法の「核恫喝」を行っている。ロシアの目算は何なのか、そしてその効果はどこにどのように表れているのか、侵攻開始直後の3月6日に公開の「もはやプーチンには追い詰められた上での『核恫喝』しか手は残っていない」の筆者が、この前代未聞の行動とロシアの命運を解き明かしてみる。
最初から「核」を匂わせる
今回のウクライナ戦争では開始直後から、プーチンは核の特別警戒態勢についての発言を行っていた。また、戦争の最初のフェーズは、ロシアによる、キエフ、東部、南部の3正面での侵攻でキエフがメインのターゲットだったが、その侵攻の過程で1986年に事故を起こし、封じ込め状態にある旧チェルノブイリ原子力発電所を制圧するなど、核施設を戦争に巻き込むことを匂わせるような行動を取ってきた。
この戦争当初の核を巡るプーチンの狙いは、西側諸国に対する過度な介入への牽制ということで考えていい。
当初、アメリカ側は、不測の事態を回避するため、ロシア側に、ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長らと、軍のトップ同士のコミュニケーションのラインは開きたいと、何度かコンタクトを試みたが、ロシア側は出てこなかった。
4月に入ってロシア軍は東部と南部に兵力を再配置すると、5月半ばにショイグとオースティン米国防長官、さらにゲラシモフとミリー米統合参謀本部議長の電話会談が相次いで行われた。
また、5月30日に、バイデン大統領は、長射程の多連装ロケット砲HIMARS供与の議論に対し、この装備から発射できるロケット弾の内、射程70キロの通常弾は供与するが、最大射程300キロのロケット弾ATACMSは供給しないということを言明した。
歯止めは確かにかかった
さらにその翌日の31日、バイデン大統領はニューヨークタイムズにオプエドを発表して、ウクライナがロシアの領土に対して攻撃するようなことをアメリカは促さないと表明した。
注目しなければならないのは、このオプエドには、ウクライナの「sovereignty(主権)」への言及はあったが、「territorial integrity (領土の一体性)」という言葉は入っていないことだ。
ここには、ウクライナとロシア双方に対するメッセージがある。最終的にどういう形でこの戦争を終わらせるかは、当事者同士の問題でアメリカはそれに関与しない。ウクライナには武器の支援をする。しかし、ウクライナが侵略された全ての領土を取り戻すまで支援するかというと、それをここで約束するわけではない、という意味であったと思う。
つまりアメリカには同時に達成しなければならない2つのタスクがある。1つは、ウクライナを負けさせてはいけないこと。これは絶対にやらなければならない。しかし、同時に、核戦争になるところまでこの問題をエスカレートさせないことだ。
そういう文脈の中で出されたのが、5月31日のニューヨークタイムズのオプエドだった。アメリカのウクライナへの軍事支援には、やはり一定のリミットがあるということだ。プーチンが積極的に海外へ出だすのは、このオプエドが公表されて以降だ。
米ロ間だけに成立する会話
ロシアはアメリカとは、核の戦略的安定性の問題で、ある種のコミュニケーションをとっているといえる。「我々は核をもっている」ということを示し続けることで、アメリカに「ウクライナに侵攻したからロシアをたたきのめせばいい」ということだけではない、別の考えを余儀なくさせている。カードとして「核」は確かに効いている。核を中心とした戦略的安定の問題はアメリカにとっても非常に重要であるということだ。
ニューヨークタイムズのオプエドから3日後の6月2日、バイデンは軍備管理協会(Arm Control Association)の設立50周年にメッセージを送って、その中で、ウクライナに対してはしっかり支援をしなければいけないが、この核の戦力的安定の問題に関してはアメリカはロシアと関与していく必要があるというフレーズの入ったメッセージを送っている。ロシア側も見ている。
これに呼応する形でプーチンは、6月末のサンクトペテルブルクでの経済フォーラムのメッセージで、戦略的安定性の問題について対話する用意があるという発言をしている。
この流れの延長で考えると、今回のザポリージャ原発を巡る様々な動きは、ウクライナでの現実の戦闘とそれを巡る駆け引きというものとは別に、むしろアメリカとの綱引きということで解釈することが出来る。つまり原子力発電所の核を使った脅しということになる。
ただし脅しのレベルにとどめている。原発施設の中に軍用車両を集め、ロシア側から撃ったとしか思えないような砲撃が起こり、原発の設備に被害が発生する。一方で、IAEAの要員を受け入れて、しかもウクライナの攻撃であるという宣伝をしつづけている。もし本当にロシアが一連の攻撃や破壊を行っているとすれば、西側に対するぎりぎりの脅しを行っていることになる。一つ間違えば原発事故に繋がるかも知れない非常に危ない行為である。
2026年が天然ガスの脅しのリミット
ロシアは今、原子力発電所だけではなく、エネルギーと食糧も人質にとって、西側諸国に対して揺さぶりをかけている。
今、情勢は有利になってはいるが、それでもウクライナ側がロシアに対して圧倒的な軍事的勝利をするというのは簡単には出来ないだろう。
もしかしたらヘルソンの都市部は獲れるかも知れないけど、ヘルソンの東側を流れるドニエプル川を越えて攻めこむことは簡単なことではない。また直近ではハリコフ東方での攻勢が大成功し、オスキル側以西の地域からロシア軍を駆逐したが、これからさらに失地を大きく回復できたとしても、ドネツク、ルハンシク全体を取り戻すにはまだほど遠いだろう。
一方、ロシア側からすれば、今のペースで戦闘を続けることができるのは、長くてもあと数ヵ月だろう。兵力や兵器の損耗が激しいので、どこかで立ち止まり停戦する必要がある。ただそれはロシア側の都合であって、停戦を求めても、そううまく運ぶ保証はない。いずれにしても、ロシア側はある種の長期戦を覚悟せざるを得ない。
ロシアの基本的な戦略は、エネルギー、食糧、原発を人質に取って脅しをかけながら、西側のウクライナへの支援を抑制し、長期戦に持ち込み、同時に、それによって西側諸国の「ウクライナ疲れ」を待つということであり、それくらいしかない。
特に、脱炭素の問題があることから石炭火力を放棄した西ヨーロッパ、特にドイツは、原発廃止も政策としているので、ロシアの天然ガスパイプラインを前提にしなければエネルギー政策が成り立たない状況であり続けた。それ故、エネルギーが有効な「脅し」の材料になっている。
世界全体で見ても、現状ではロシアのガス供給を考慮しないと、ガス需要全体に対し、供給の絶対量が足りない。だから、例えば、日本も対ロ制裁とは正反対の行為であり、確実に供給される保証もないのだが、だがサハリン2の権益を手放せないのである。ガスに関しては世界的に需給が逼迫しているあと数年は、ロシアはゲームのカードにし続けることが出来る。
ただこれにもタイムリミットがある。特に天然ガスに関しては2026年以降、ロシア以外の地域の新規のガス増産プロジェクトからの供給が始まる。
それまでの間に、欧米諸国がウクライナ疲れをする、アメリカではトランプが復活する、それによって西側のウクライナへの支援が積極的でなくなる、などの事態の好転があることを期待するしかないのだ。
そして、ドンバスやクリミアを粘って維持し、今回新たに侵攻した南部地域を確保して居座り続ける事を狙うしかない。侵攻開始当初のゼレンスキー政権を倒すという目標に比べると大きく後退しているが、事ここに至ると、それしかない。
プーチンは出来れば全面的な大動員はやりたくない。今のロシア国内において、なぜ、政府の特別軍事作戦が、まかりなりにも約70%の国民に支持されているのか、というと、少数民族や貧しい人々が戦地に行っているため、国民のほとんどが自分たちが戦争をやらなくてもよいという前提があるからだ。そのためこの長期の人質戦略を採り続けるしかないだろう。
西側との関係を壊してしまったことのツケ
我々世界は、今後大きく国力を弱めたロシアと向き合うことになる。ウクライナの戦争が、大きな進展なく膠着状態がつづく形で終わったとしてでもある。
ロシアは西側との経済関係を大きく壊してしまった。そして制裁も解除されないで続くことになる。
ロシアという国はこれまで西側の技術を取り入れる事で国の近代化を進めてきた。それが18世紀初頭からのピョートル1世の時代からの歴史的な流れであった。だが、その流れは止まる。
ただこれまでと唯一違うかもしれない要素がある。中国が台頭しているということである。プーチンの、ロシア側の、一つの頼みの綱は、中国を筆頭にした、いわゆるグローバルサウスといった国々が、必ずしもアメリカの制裁に加わっていないことだ。そこに一縷の希望をつなげている。
確かにこれを機に、西側が圧倒的に世界的な求心力を取り戻す、ということではないだろう。今後の世界を規定していくのは、やはり米中関係ということになる。
その米中関係の中で、多分ロシアはこのまま行くと、中国のジュニアパートナーになって行かざるを得ない。ロシアが本当にそれを望んでいるかどうかは別にして、それ以外に選択肢はないだろう。
国際戦略の足場を失っていく
仮に日本や西側とエネルギーで繋がり続けるとしても、ロシアの資源がどこまで安定的に供給されるのか確かな保証はない。
地政学的な問題だけではない。資源開発もまた西側の技術に頼って行われてきた。この先、この西側の技術が供与されない中で、供給の信頼性は大きく揺らぐことになる。中国が西側の代替を出来るかというと、彼らも西側の技術で資源開発を行っているということはかわりない。
石油の生産、精製、エネルギー効率を回収する技術、海底資源開発の技術、こういった技術は西側にしかない。天然ガス関連の技術も基本的に西側に頼ってきている。既存のものは当面動いていくだろうが、メンテナンスや修理などもストックがある内はいいが、それが途切れていったとき、どこまで生産を維持できるのか。
ロシアの軍事産業にしても、西側の半導体を含めた技術が入ってこない中で、維持できるのであろうか。ウクライナとの戦いをするくらいのストックはあるだろうが、それでは輸出産業として今後も維持できるのだろうか。
ロシアはこれまで武器輸出国として国際的に戦略的な関係を構築してきた。インド、中国、ベトナムへの関係がそうだ。東南アジア諸国もかなり購入している。そういう武器供給国としてのロシアの存在感は、薄れていくことになる。
今後、エネルギーの供給者としてのロシア、武器の供給者としてのロシア、両方ともロシアにとって重要な戦略的なアセットだが、西側との協力関係無しで、どこまで維持することが出来るか。このことがロシアの今後の世界での立ち位置を決めていくことになる。この件に関してはあまり楽観的ではない。
当面のウクライナ情勢を見ると、西側は楽観出来ない。2026年までの時間軸で見ても、ロシアは、資源、食糧、原発などをツールとして使っていくことが出来る。一方、西側は民主主義であるが故にふらつく可能性がある。しかし、長期的に見て、以上の点からロシアは確実に国力を落としていくことになる。
●プーチンが戦況悪化に激怒! 国内200万人の予備兵を投入できない事情 9/14
ロシアによるウクライナ侵攻開始から半年余り。9月に入ってウクライナが東部ハルキウ州で大攻勢をかけて奪還し、ロシア軍は「東部ドンバス地方の解放を達成するため、戦力をドンバスに再編成する」としてハルキウ州からの撤退を認めた。
ロシア本土からドンバス地方への兵たん補給路である要衝イジュームも奪還したことから、世界中のメディアがこの戦争のターニングポイントになる可能性を報じている。
今回の大規模作戦前、ウクライナはロシアによって制圧されていた南部ヘルソン州への攻勢を宣言。これを受けてハルキウ州に展開するロシアの主力部隊がヘルソンへ移動した隙をついて大攻勢をかけたため、一部ではロシア軍をあざ笑う陽動作戦が成功した結果と見られている。
軍事評論家の黒井文太郎氏は、メンツを重んじるプーチン大統領について「ブチギレてるでしょうね」と分析しつつ、ハルキウ州を奪還できた要因を「欧米から供与された戦車など装甲車の存在と、米英などによる情報戦での勝利が大きかった」と指摘。ロシア軍の今後については「補給路を断たれたロシア軍が短期的に巻き返すのは難しい。そもそも兵士の数が少なすぎる」と分析した。
実際、70万人のウクライナ軍に対してロシアは36万人と言われ、火力で勝るもののマンパワーが不足している。しかも、戦闘を放棄して逃走する兵士も少なくないとされるだけに深刻だ。一方でロシアには約200万人の予備役兵がいると言われるだけに、メンツをつぶされたプーチン氏が一気に予備役兵を投入してマンパワーで逆転してくる可能性はないのか?
「プーチンはそれがしたくてもできないんです。予備役兵を動員すれば、ロシア国内を戦時体制にしなければいけない。しかし、国内が侵略されてないのに戦時体制に移行したら国内の不満が高まることになるので、プーチンでも実行することができない」(黒井氏)
陽動作戦に引っかかり、一杯食わされたプーチン氏の次の一手はいかに――。
●ロシアとベラルーシ、英女王国葬から排除 政府筋 9/14
英ロンドンで19日に執り行われるエリザベス女王の国葬に、ロシアとベラルーシが招待されていないことが英政府筋の話で分かった。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が理由とされる。
国葬には各国の元首ら100人以上が参列する見通し。政府筋によると、2か国以外にも、旧英植民地だが軍政下にあるミャンマーと、長年にわたり国際的に孤立している北朝鮮も招かれていない。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8日に女王が死去したのを受け、「英国民の愛と尊敬を集め、世界の舞台で権威を認められてきた」と弔意を表する一方、国葬には参列しないと明言していた。
プーチン氏とベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領はウクライナ侵攻を受けての制裁の一環として、英国への入国を禁止されている。
●ドゥーギンの娘爆殺、企業幹部不審死−ロシアはテロで革命前夜なのか 9/14
ロシアでは、テロ事件がよく起きる。
民族問題、宗教問題等々、タネはいつでもある。今回のウクライナ戦争の前も、ロシアでは小規模なテロ行為が相次いでいた。2017年には学校、駅等に爆破予告の電話が相次ぐ事件があったし(一部の電話はウクライナ発と報道されている)、2018年には右翼勢力がアルハンゲリスクのFSB(公安警察)支所を爆破している。
昨年8月にはモスクワ南部のヴォロネシで乗り合いタクシーが爆破され1名が死亡、9月にはペルミの大学で発砲事件があり6名が死亡している。そして秋には、刑務所での騒動が相次いでいる。
もともとロシアの政治は荒っぽい。2006年にはチェチェン問題等に関わっていた女性記者ポリトコフスカヤが、自宅アパートのエレベーターで射殺されているし、2015年にはリベラル系野党指導者のボリス・ネムツォフが路上で射殺されている。
ひさびさの爆殺事件
ウクライナ戦争が始まってからは、当初、全国の大都市で青年たちの反戦デモが行われた他、10ヵ所以上の兵士徴募センターに火炎瓶が投げ込まれる事件が発生した。しかし総動員令が発令されず、大々的な徴兵が行われていないことから、多くの市民にとって戦争は遠くのできごと。
だから3月以降のロシア社会は平静だったのだが、8月20日モスクワで、右翼民族主義のイデオローグ、アレクサンドル・ドゥーギンの車が爆破され、運転していた娘ダリヤが犠牲になった。これは郊外での右派の集会に父を連れて参加したダリヤが1人で帰宅しようとした――ドゥーギンはスポンサーの車に乗って別途帰宅――ところ、車につけられていた爆弾が爆発したものである。
ドゥーギンは1962年生まれ。父親は秘密警察KGBの幹部だが、ドゥーギン自身は反ソ連活動に転じ、有名大学を退校処分となった後は、掃除夫を務めつつ英語、フランス語を独習している。
ロシア民族至上主義を掲げ、ウクライナ人を敵視。プーチン大統領のイデオロギー指南と見なされているが、過激の度が過ぎ、プーチンと会ったというニュースを見たことはない。最近では、ウクライナでのロシア軍の劣勢を指摘。ロシアが崩壊する可能性にも言及しつつ、保守愛国主義に沿ったラジカルな変革を政府に呼びかけていた。
飛び交う犯人説
今回の殺害の犯人については、諸説がある。治安担当のFSBは事件の翌々日には「犯人はウクライナ諜報機関が放ったナタリヤ・ヴォーフクという工作員だ。彼女はドゥーギナを殺害したその足で、エストニアに出国した」と写真付きで発表したのだが、その手際の良さでかえって疑われる羽目となった。ヴォーフクをそれほどフォローしていたのなら、犯行を止めることができただろうにと思う。
だから、「この事件はFSBの自作自演だ。国内引き締めの口実にする魂胆だ」という説が出てくる。しかしFSBがしかけるなら、もっと大型のテロを仕組むだろう。
1999年9月、モスクワなどの都市で集団アパートが数件、夜中に爆破され、100名を超える死者が出た。FSBはこれを直ちにチェチェン独立運動によるテロと決めつけ、チェチェンの独立運動弾圧作戦開始を正当化するとともに、その作戦を新任のプーチン首相に指揮させることで彼の人気を押し上げ、同年末エリツィン大統領からの権力禅譲に結び付けたのである。
このアパート爆破については、FSBの自作自演といううわさが当時根強くあった。この件と比べると、ドゥーギン殺害は情勢の転換点となるほどの衝撃は生まなかったことだろう。
一方、ロシア人によるテロだという説もある。野党指導者の1人イリヤー・ポノマリョフは、「民族共和軍」なる組織が関与したものだと公言している。この「民族共和軍」という存在は、今回初めて表に出たもので、その実体については何も情報がない。
しかし、これがロシア人によるテロだとすると、19世紀以来のロシアの歴史が記憶に蘇ってくる。テロは革命の代名詞だったのである。
テロの伝統
ロシアでは、権力者を狙うテロが多かった。社会の矛盾・格差をテロでひっくり返そうと言うのである。
19世紀初めにはナポレオンとの戦いでパリにまで進軍した将校たちが、進んだ西欧文明に触れて一念発起、改革を志して「12月党事件」(1825年)を起こしたし、1849年には社会主義者ペトラシェフスキー一味が検挙されている。この時は、作家のドストエフスキーも巻き込まれて、死刑を執行される直前までいく。
19世紀後半は、独りよがりの暴力的知識分子「ナロードニキ」たちが、農奴解放を実現した皇帝アレクサンドル2世を暗殺(1881年)しているし、その後も「社会革命党」分子による内務大臣暗殺(1902年及び1904年)、様々の勢力が暴力的反政府運動を群発させて革命的状況をもたらした1905年の「ロシア第一次革命」、それを自営農創設など前向きの改革で収拾しようとしたストルイピン首相の暗殺(1911年)等、枚挙にいとまがない。
1901〜1911年、革命運動によって殺された者は1万5000人を越え、その中には知事、警察長官、将軍、警察官、工場所有者などが多数いる。
ロシアのテロは、体制のたがが緩む時代の変わり目に起きている。経済が弱いために、社会は荒れやすく、テロは体制のたがを一層ほどいていく。
20世紀の初めには、それが1917年のロシア革命の土壌となった。このテロの波は、皇帝ニコライ2世一家の虐殺(1918年)、それを命じたレーニンへの暗殺未遂(1918年)、彼を祭り上げて権力を簒奪したスターリンによる大粛清で一応の幕を閉じる。
体制のたがが緩む時には、外国の勢力がつけこむ。1905年の全国騒擾状態は、日本軍の明石元二郎大佐がストックホルムを拠点にロシア反政府運動を支援したのもその一因で、日露戦争の停戦につながった。だからこそ、プーチン政権は欧米の諜報機関が国内の反政府運動を煽ることを極度に警戒しているのである。
ロシアは再び革命前夜といえるのか?
逆説のように聞こえるかもしれないが、「平民」によるテロは19世紀民主主義の登場とともに起きるようになった。中世は、平民が国王を殺すことなど考えられなかった。平民にとって身近の権力は領主で、国王ははるか彼方の抽象的な存在だったのである。
ところが近代は、領主のような中間的存在がなくなって、国のトップと市民がいわば直結する。平民は自分の不満を国のトップに直接ぶつけるようになった。アメリカでは1865年にはリンカーン大統領が一俳優に暗殺され、1901年にはマッキンリー大統領が生活に不満を持つ移民の息子に暗殺されている。
日本でも政党政治の父とされる原敬首相が1921年、右翼の鉄道員に刺殺され、1930年には浜口雄幸首相が右翼活動家に銃撃されたのがもとで死去、1932年には元蔵相の井上準之助が生活に不満を持つ右翼活動家に銃撃されて死去している。
今のロシアで要人へのテロが明日起きるというわけではないが、一般市民と中央権力の間の関係はかなり不安定なものとなっている。
ロシア人男性の平均寿命は70歳未満だが、プーチン大統領は今年70歳になる。2024年の任期切れを契機に退場するかもしれない。退場すれば、有象無象入り乱れた権力闘争が野放しになって、流血と陰謀の絶えない内政状況を生むだろう。
また経済は、ウクライナ侵攻に対する西側の制裁で、質・量両面で下降に向かう境目にある。つまりロシアは「時代の境目」にあって、「社会のたがが緩み」やすい時代にある。
既述のように、4月以来、いくつかの兵士徴募センターに火炎瓶が投げつけられる事件が発生、5月1日にはペルミの火薬・兵器工場での爆発で2名が亡くなっている。モスクワでは、歴史教科書の出版社の倉庫が火災になっている。
これらは反戦リベラルの青年によるものとは限らない。ロシアの右翼の中には跳ね上がり、現在の政府の対ウクライナ政策を生ぬるいとする者たちもいるからだ。
また最近、ロシアのエネルギー関連企業幹部が時には家族ぐるみ死亡、あるいは「自殺」する例が相次いでいるが、これの背景が不明である。あるいは、彼らはウクライナ戦争に反対で、反政府勢力に資金を出していたのかもしれないが、何か薄気味悪く、時代が変わり目にあることを感じさせる。
ウクライナ戦争では、ロシア、ウクライナ両軍とも消耗の極み。銃後の体制がどれだけしっかりしているかが、今後の勝敗を決める。ウクライナでは、ゼレンスキー大統領が軍隊、公安警察等への抑えをいつまで維持できるかが勝負だし、ロシアの場合、テロがブラックスワンになり得る。 
●ウクライナ軍の進撃は「迅速で衝撃的」 米ホワイトハウス 9/14
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官は13日、ウクライナ軍がロシア軍の実効支配地域で進撃を続けていることについて、「迅速で衝撃的」と語った。ホワイトハウスは慎重ながらも楽観的な見方を繰り返し示している。
カービー氏はテレビ番組に出演し、「彼らには確かに一定の勢いがある。特に北東部のドンバス地方で勢いがある。あなたもウクライナ軍の進撃がいかに迅速で衝撃的だったか報道で目撃したと思う」と述べた。
カービー氏はそれでも、さらに戦闘が続くとし、特に南部ではウクライナ軍がヘルソン市近郊への突破を図っていると指摘。ウクライナ軍は南へ向かう際にはロシア軍からのさらに厳しい抵抗に直面しているものの、北東部について前進しており、そこではウクライナ側に一定の勢いがあることは間違いないと述べた。
カービー氏によれば、何週間にもわたる計画が実行に移されたという。
カービー氏は、ロシア国内でのプーチン大統領に対する脅威について質問されると、米国は状況を注視していると述べた。
カービー氏は、プーチン氏に対して、反体制派からだけではなくロシア国内で選出された議員からも批判が出ているとして、成り行きを見守っていると語った。反対意見を述べた一部の議員に対して取り締まりが始まる兆候がすでにあるという。それでも、選挙で選ばれた地区議員でさえプーチン氏に対する批判の声を上げているのは注目に値すると述べた。
カービー氏は、米国が外交的解決の状況が整ったと考えているかと質問されると、分からないとし、ウクライナのゼレンスキー大統領の考えに従うと述べた。
●兵隊を置いて司令官クラスの士官たちが逃げてしまったロシア軍 9/14
慶應義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人が9月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ゼレンスキー大統領が「東部と南部で6000平方キロメートル以上を解放した」と発表したウクライナ情勢について解説した。
ゼレンスキー大統領「東部と南部6000平方キロ以上を解放」と発表
ロシアによる侵略が続くウクライナでは、東部でウクライナ軍の反転攻勢の動きが鮮明になっている。ウクライナ軍が東部で交戦を続けるなか、ゼレンスキー大統領は9月12日に「東部と南部で6000平方キロメートル以上を解放した」と述べ、反撃をさらに進める考えを示した。
飯田)特に東部ではハルキウ州イジュームを解放したということが、昨日(13日)辺りのニュースでも出ていましたが、もはやそこを越えてルハンシク州に入っているという話もあります。
兵隊を置いて司令官クラスの士官たちが逃げてしまったロシア軍 〜兵隊は制服を脱いで一目散にいなくなってしまった
鶴岡)進軍スピードが速すぎます。おそらくウクライナにとっても、ここまで早く行けるとは思っていなかったでしょうし、驚きの状況だと思います。注目すべきなのは、ロシア軍と正面から戦って勝った結果、進んでいるのではないということです。
飯田)戦いに勝って進んだわけではない。
鶴岡)ロシア側は「再配置だ」と強がっていますが、そもそも部隊としての退却すらできていません。戦車を含めた車両もすべて置いて、一目散に個人が逃げています。しかもヨーロッパなどの報道によると、まずは司令官クラスの士官たちが逃げてしまったようです。
飯田)そうなのですね。
鶴岡)下士官である兵隊たちを置いて逃げてしまったので、兵隊はどうしたらいいかわからない状況なのです。そうなると、部隊として整然と退却するのは無理です。ですから報道にもあるように、地元の人たちの車や自転車を盗んで逃げているとのことです。自転車でどこまで逃げられるのかは疑問ですが、制服も脱いで普通の洋服を奪い、それを着て逃げている人たちもいたそうです。個人が一目散に逃げていなくなってしまったから、ウクライナ軍は進めたということです。
手薄な場所がわかった上で進軍させたウクライナ軍の頭脳と分析の勝利
飯田)ウクライナ軍としても、「抵抗がないぞ? 進めるぞ?」という状況のまま、ここまできているのですね。
鶴岡)これほどのロシア軍の崩れ方は、ウクライナの想定以上だったと思いますけれど、徹底的に計画していたのは確かです。南部ヘルソンがおとりだったとは思いませんが、二正面ということだったのでしょう。
飯田)ハルキウとヘルソン・ザポリージャの。
鶴岡)東部ハルキウと、南部ヘルソンやザポリージャの両方で反転攻勢する。ただ、「南部をやるぞ」と言い続けた結果、ロシア軍の主力部隊が東部から南部に移動し、東部が手薄になっていました。そこをウクライナは虎視眈々と狙っていたのです。ロシア軍がどこにいるのか、おそらくアメリカも含めて衛星情報で徹底的に確認し、ロシア軍が手薄なことをわかった上で進軍させた。ですから、頭脳と分析と計画の勝利だと思います。
飯田)単なる偶然ではなく、状況をつくってきていた。二正面で戦うと負担がかなり大きくなるので、一正面で突破するのが常道だと言われますが、ウクライナ軍は予備が分厚くあったということですか?
鶴岡)部隊を温存してつくり、しかも少しずつ分けていた。数万人単位で移動するとロシア側に伝わってしまいますから、数千人ずつぐらいに分かれて準備していたようです。
ロシア人に対する心理的インパクトが強かったクリミアへの攻撃 〜国内から見ていればいいというものではない
飯田)8月末に南部で攻勢を強めたぐらいから、ゼレンスキー大統領がしきりに「これから勝負をかけるため、あまり情報を表に出してくれるなよ」と訴えていました。ここが肝だったのですね。
鶴岡)私は完璧に騙されました。ただ、重要なのは、南部もウクライナにとっては死活的に重要だということです。8月に南部への攻勢を強めた結果、ロシアが一方的に行おうとしていた住民投票が、事実上の延期になりました。
飯田)そうですね。
鶴岡)そういう成果はあったのだと思います。クリミアへの攻撃も8月に相当やりましたが、あれもロシア人に対する心理的インパクト、つまり、いままで安全だと思っていたところが安全ではないと思わせる。今回の戦争は「異国の地で行われていて、ロシア国内には影響がない」というのがロシア人の印象でした。それに対して「違いますよ」と。クリミアでもどこで爆発が起こるかわからないし、クリミア以外のところでも国境を越えてウクライナが攻撃していると思われる事案がいくつかあります。そういうものを含めて、「外から見ていればいいわけではないですよ」という強いメッセージがあるのだと思います。
プーチン政権がどこまでロシア国民に動員をかける気があるか 〜直接的な影響の少ない大都市圏の国民
飯田)ロシア国内の動揺がどこまで広がっていくのか。いまのところ、ウクライナに入っているロシア軍の兵隊などを見ると、西の方の貧しい地域から動員してきた人が多い。まだモスクワやサンクトペテルブルク辺りの人への影響はないという指摘もありますが、それも変わってきますか?
鶴岡)プーチン政権がどこまで動員をかける気があるのかということです。いままでは戦争ですらないという立場ですよね。「特別軍事作戦だ」と。この意味は一般人……特に政権にとって重要な一般人は、モスクワやサンクトペテルブルクにいる大都市圏の人たちですが、彼らは直接影響を受けない。ものがなくなったり、スターバックスがなくなるというような影響はありますが、モスクワで「家族が今回の戦争で死にました」という人はまだ少ないです。そうすると「自分たちの戦争ではないのだ」という認識になる。
EUのロシア人に対するビザの制限への不満の矛先がプーチン政権に向かう可能性も
飯田)一方で、ロシアでは11日に統一地方選挙の投票があったということです。そこでプーチン政権に対して反旗を翻す人も出てきている。徐々に崩れてきているということでしょうか?
鶴岡)まだ先行きはわかりませんが、モスクワやサンクトペテルブルクの一定階層以上の人たち、特に富裕層がどういう形で動くのか、政権は気にしていると思います。
飯田)富裕層がどう動くか。
鶴岡)興味深いのは、先週、合意された欧州連合(EU)のロシア人に対するビザ発給の話です。いままで日本を含めた欧米は、「悪いのはプーチン大統領やロシア政府だ」という発想で制裁を行ってきました。一般市民を直接ターゲットにすることはなかったのですが、今回、EUが決定したビザ発給の制限は、まさに一般市民を対象にした初めての制裁です。
飯田)今回のビザの制限は。
鶴岡)いままでの「悪いのは政府であり、一般市民は悪くない」というロジックから少し外れます。その結果、一般市民も反西側で固まってしまうという懸念もありますが、いまこの状態でEUへ旅行に行く人は相当な富裕層です。本来はクレジットカードも使えないはずですから、海外の銀行口座に紐づいたクレジットカードを持っているような人たちしか、現実的には海外旅行ができないのです。
飯田)ロシア人は。
鶴岡)該当するのは、モスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市の富裕層です。彼らにとって、ヨーロッパへ旅行や買い物に行くのは生活の一部なのです。彼らがヨーロッパに行きにくくなると、不満を抱えるはずです。不満がどこに向かうかはわかりませんが、もしかすると政府の方針へ矛先が向くのではないかという期待も、ヨーロッパ側にはあるということです。
アメリカはビザの制限に反対だった
飯田)心理的な効果も狙いつつ、一方で向こう側に追いやって固まってしまうという懸念もありますが、制限に反対するような意見も出ていたのですか?
鶴岡)アメリカはビザ制限に反対していました。「悪いのは政府であって一般市民ではない」というラインが崩れてしまうからです。EUでも意見が分かれていて、制限に積極的な人とそうでない人がいました。ただ、これだけロシアがウクライナのなかで破壊と殺戮を行っている状況で、「何事もなかったかのようにロシア人がEU諸国のビーチリゾートで寝転がっていていいのか?」と。それは道徳的な気持ちとしてよくわかります。
EUからのロシアへの直行便は経済制裁によってない 〜エストニアやフィンランドから飛行機に乗るため、ロシアからの入国者が多く、安全保障上のリスクになっていた
鶴岡)もう1つは、安全保障の問題でもあったのですね。
飯田)安全保障の。
鶴岡)現在は経済制裁によって、ロシアとEU諸国の直行の航空便がありません。そうするとロシア人は、地続きであるフィンランドやエストニアに陸路で入り、そこから飛行機に乗るのです。
飯田)なるほど。
鶴岡)イスタンブール経由などもありますが、より直接的にヨーロッパへ行くとなると、そういう方法になります。その影響でエストニアやフィンランドに対し、ロシアからの入国数が増えているのです。ロシアからの入国者が増えていることが、安全保障上のリスクではないかという側面の議論もあります。
●ウクライナ侵攻直後に和平合意、プーチン氏拒否で幻に=関係筋 9/14
ロシアのウクライナ侵攻が始まった時点で北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないとの約束をウクライナから取り付けていたにもかかわらず、プーチン大統領が軍事侵攻を進めたことが政権中枢部に近い3人の関係筋の話で明らかになった。
関係筋によると、ロシア交渉団を率いたドミトリー・コザク氏は、ウクライナとのこの暫定合意により大規模なウクライナ領土の占領は不要になったとプーチン氏に報告した。
プーチン氏は当初コザク氏の交渉を当初は支持していたが、同氏から合意案を提示された際に譲歩が不十分と主張し、目標を変更してウクライナの領土の大部分を併合する意向を示した。その結果コザク氏がまとめた合意は採用されなかったという。
ロシア大統領府のぺスコフ報道官はロイターの報道について「事実と全く関係がない。そうしたことは起こらなかった。確実に間違った情報だ」と述べた。
ウクライナ大統領府のポドリャク顧問はロシアが侵略の準備のために交渉を煙幕として利用したと述べたが、交渉の内容に関する質問には答えず、暫定合意があったかどうかも確認しなかった。
関係筋2人は、2月24日のウクライナ侵攻開始の直後から合意を正式なものにする動きがあったと明かした。コザク氏はロシアが求めていな主要な条件をウクライナが受け入れたと考え、プーチン氏に署名するように勧めたという。
ある関係者によると、コザク氏は2月24日以降に白紙委任されたが、本国に持ち帰ったところ全て取り消された。「プーチン氏は計画を変更した」と語った。
3人目の関係者は、コザク氏がプーチン氏に暫定合意について提案し、プーチン氏が拒否したのはウクライナ侵攻前と述べた。
プーチン氏がコザク氏の助言を聞き入れていたとしてもウクライナ戦争が終結していたかは定かでない。ロイターはウクライナのゼレンスキー大統領や政府高官がこの合意に関わっていたかを独自に確認することはできなかった。
●ウクライナ ロシア軍撤退の地域 住民が拷問加えられていた疑い  9/14
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナでは、東部や南部でウクライナ軍が反転攻勢を続けています。こうした中、東部ハルキウ州の警察幹部は、ロシア軍が撤退した地域で、多くの住民が拘束され、拷問を加えられていた疑いが明らかになったとして、被害の実態解明を急いでいます。
ウクライナ軍は東部のハルキウ州で反転攻勢を続け、マリャル国防次官は13日、ロシア軍から奪還したハルキウ州のバラクリヤで記者会見し、州内およそ300の集落と15万人以上が解放されたと強調しました。
ウクライナ軍は南部でも反撃を続けていて、南東部ザポリージャ州の中心都市メリトポリのフェドロフ市長は13日、SNSで、ロシア軍の車列が市内から離れ、ロシアが一方的に併合したクリミア半島に向かったと主張しました。
こうした状況を受けて、ゼレンスキー大統領は13日に公開した動画で、これまでに4000平方キロメートル以上の地域で、領土の統治を回復したと明らかにするとともに、これとは別に解放したほぼ同じ面積の地域でも、治安の安定化を進めていると強調しました。
一方、ハルキウ州の警察本部の幹部で、捜査を指揮するボルビノフ氏は13日、SNSに、バラクリヤでロシア軍が住民を不当に拘束し、拷問を加えていた疑いがあるとする情報を投稿しました。
警察署の地下などに、ウクライナ軍に協力したとして常時少なくとも40人を拘束し、電気ショックなどの拷問を加えていたという目撃情報を得ているとしたうえで「世界にロシア軍の非道ぶりを伝えるため、われわれはバラクリヤでの悲劇を明らかにする」と強調しています。
同じハルキウ州では、12日にも、ウクライナの検察当局が、ロシア軍が撤退した地域で拷問の痕がある4人の遺体が発見されたと明らかにしていて、ウクライナ政府は被害の実態解明を急いでいます。
●ゼレンスキー大統領 “解放の地域で治安の安定化進める” 9/14
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナでは、東部でウクライナ軍が反転攻勢を強めていて、ゼレンスキー大統領は、ロシアの占領から解放した地域で治安の安定化などを進めていると強調しました。
また、アメリカのバイデン大統領は「ウクライナ側が大きな進展を見せたのは確かだが、まだ長い道のりが待っている」と述べ、慎重に見極める姿勢を示しました。
ウクライナ軍は、東部のハルキウ州で反転攻勢を強めていて、マリャル国防次官は13日、州全域の解放に向け意欲を示しました。
ウクライナ軍は南部でも反撃を続けていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ウクライナ軍が「ヘルソン州で大きな戦果をあげていて、この地域のロシア軍の士気と戦闘能力を着実に低下させている」という見方を示しています。
こうした中、ゼレンスキー大統領は13日に公開した動画で、これまでに4000平方キロメートル以上の地域で、領土の統治を回復したと明らかにしました。
さらに、これとは別に、解放したほぼ同じ面積の地域でも、ロシア側の残存勢力を捜したり拘束したりするなどして、治安の安定化を進めていると強調しました。
一方、アメリカのバイデン大統領は13日、記者団にウクライナ軍が東部で反転攻勢を強めていることが転換点になるかどうか聞かれ「まだはっきりはわからない。ウクライナ側が大きな進展を見せたことは確かだが、まだ長い道のりが待っている」と述べ、慎重に見極める姿勢を示しました。
●ウクライナが「非軍事化」を拒否 安全保障基本計画公表、徹底抗戦を掲げる  9/14
ウクライナ大統領府は13日、ロシアの軍事侵攻を受けて策定した国家安全保障の基本計画を公表した。自衛のための軍事力を保有する必要性を明記し、ロシアが要求する「非軍事化」を拒否。欧米諸国に対しウクライナが侵略された際の軍事介入も求め、ロシアへの徹底抗戦を掲げた格好だ。
計画では国家安全保障の根本を「自衛のための軍事力」と明記。ウクライナ軍が北大西洋条約機構(NATO)などの軍事訓練に参加する必要性を説いた。米英独仏、トルコ、東欧諸国などにウクライナ軍支援の義務を負う同盟国になるよう求め、制裁でロシアに圧力をかける国々も募った。
ウクライナは首都キーウ陥落の恐れがあった3月、関係国の安全保障を条件にNATO加盟断念を含めた「中立化」を受け入れる方針を示し、ロシアとの停戦交渉に臨んでいた。一方、今回の安保計画では、東部と南部で領土奪還に成功していることを背景に、武力でロシア軍を排除する姿勢を強く打ち出した。
ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長はウクライナの安保計画について「第三次大戦の序曲だ」と警告した。
●ウクライナ北東部で退却、プーチン氏の次の一手は 9/14
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ北東部においてロシア軍が素早く部隊を退却させたことについて、まだ、公式にコメントしていない。ただ、国内のナショナリスト勢力からは、戦争の主導権を奪い返せと迫られている。
西側情報当局者の話や公開情報の分析結果が正しいとすれば、プーチン氏に事態を早急に収拾できる方法は乏しい。行使可能な手段のほとんどは、ロシア国内絡みや地政学的な側面でリスクを抱えている。
1999年に権力の座についたプーチン氏がこれまで相手にした中で最も手ごわかったのは、チェチェンや北コーカサス地方のイスラム勢力だったが、これらの軍事作戦では部隊増強という道を選んだ。
ウクライナの戦争で同氏が持つ主な選択肢は、以下の通り。
戦線の安定化と部隊再編後に反撃
ロシアと西側の軍事専門家の意見が一致しているのは、ロシア側の立場で見ると、ロシア軍は早急に戦線を安定させてウクライナの進撃を食い止め、部隊を再編し、可能ならば反撃作戦を展開する必要があるという点だ。
しかし、西側諸国の間では、ロシアがこれまでのウクライナ軍との戦闘で多くの兵力を失い、遺棄ないし破壊された装備も多数に上る以上、果たして新たに投入する十分な地上兵力や兵器があるのか疑問視されている。
ポーランドのロチャン・コンサルティングのコンラッド・ムジカ所長は、ロシア軍のウクライナ北東部からの後退を受け「兵力は枯渇している。志願兵部隊は戦力が低下し、募兵活動によっても想定された規模の人数を届けられていない。入隊希望者が少なくなっているので、状況は悪化する一方だと思う。もし、ロシアが兵力を増やしたいなら、総動員が不可欠だ」と話す。
国家総動員
ロシアは過去5年以内に軍務経験がある予備役兵約200万人を動員できるが、彼らを訓練して実戦配置するには時間がかかる。
大統領府は13日、「現時点で」国家総動員は議論されていないと明らかにした。
総動員はナショナリストの支持を得られるとしても、都市部で暮らす一般の成人男性には歓迎されないだろう。彼らは戦争参加に消極的と伝えられている。
政府としても総動員となればウクライナ問題に関する公式メッセージを修正し、目的を限定した「特別軍事作戦」ではなく、全面戦争と呼ぶしかなくなる。そうなると大半のロシア国民のウクライナ侵攻前の日常生活を確保するという政府の方針も、撤回しなければならない。
全面戦争に移行した場合、徴兵に対する世論の反発という国内政治の上でのリスクも生じる。また、同じスラブ民族に全面戦争を仕掛けるというのも、プーチン政権の印象を悪くすることになる。
ロシア外務省に近いシンクタンク、RIACを率いるアンドレイ・クルチュノフ氏は以前から、ロシア政府は総動員には消極的だとの考えを披露してきた。
同氏は「大都市では多くの国民が戦争に行きたがっておらず、総動員が人気を博する公算は乏しい。しかも、今回の全事態を限定的な軍事作戦と説明することこそが、プーチン氏の利益になるのは明らかだと思う」と説明する。
英国の元駐ロシア大使、トニー・ブレントン氏は、総動員がロシア軍の戦力強化をもたらすには何カ月も必要になると発言している。
ロシアのエネルギー戦略で欧州が動揺することに期待
ロシア大統領府の考えに詳しい2人のロシア人関係者は先月ロイターに、プーチン氏の期待する展開を明かした。それによると同氏は、この冬のエネルギー価格高騰と供給不足によって欧州諸国がウクライナに対してロシアに都合の良い条件での休戦を強く働きかけてくれるのを待ち望んでいる。
もっとも欧州の何人かの外交官は、ウクライナが最近何度か軍事的な成功を収めたことで、一部の欧州諸国がウクライナに譲歩を促す取り組みは意味が薄れたとみている。
また、ドイツなどはここ数週間でロシアに対する姿勢が一段と強硬になり、冬のエネルギー危機を乗り切る決意をより固めているようだ。
ミサイルの標的拡大
ウクライナ北東部で退却したロシア軍は、ウクライナの電力施設へのミサイル攻撃に移行している。これにより主要都市・ハルキウや、その周辺のポルタバ、スミなどで一時的な停電が発生。水道やモバイル通信ネットワークにも被害が出ている。
こうした作戦をロシアのナショナリスト勢力の一部は称賛し、彼らはロシア軍が巡航ミサイルでウクライナの各インフラをより恒久的に破壊するのを望むだろう。ただ、それは国際的な非難を浴びかねない。
ロシアのナショナリスト勢力は、ウクライナの首都キーウ(キエフ)や各地の「意思決定」の中枢に攻撃をかけろとも長らく主張してきた。実行されれば、重大な副次的被害を招くのは避けられない。
穀物輸出再開合意の破棄ないし縮小
プーチン氏は、国連とトルコの仲介で合意したウクライナの穀物輸出再開を巡り、ロシアと貧困国にとって公平さに欠ける内容だと不満を表明し続けている。
今週にはプーチン氏がこの合意の修正を議論するため、トルコのエルドアン大統領と会談する予定。プーチン氏が直ちにウクライナに打撃を与えたいと考えるなら、合意を停止もしくは破棄するか、11月の期限到来時に更新しないという選択肢がある。
西側諸国や中東・アフリカの貧困国はプーチン氏が世界的な食料不足を深刻化させたと非難するだろうが、プーチン氏はウクライナに責任を押しつけるとみられる。
和平協定
ロシア大統領府は、適切な時期がくれば何らかの和平協定締結に向けた条件をウクライナに通知する意向だ。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、軍事力を駆使してロシアの制圧地を解放すると明言した。
ゼレンスキー氏が挙げる解放対象には、ロシアが2014年に強制編入したクリミア半島が含まれる。ロシア側は、クリミア問題は永久に解決済みと繰り返している。
ロシアは、ウクライナ東部の親ロシア勢力の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家として正式に承認しており、これらの地域をウクライナに譲り渡すことも政治的には不可能に見受けられる。
ロシアがウクライナ侵攻で最初に「大義名分」に掲げたのが、この2つの地域で迫害されている親ロシア住民を全面的に「解放する」ことだったからだ。
もちろんロシアは、部分的に制圧しているウクライナ南部の返還も国内世論に受け入れさせるのは難しい。南部ヘルソン州はクリミア北部と直接つながっている上に、クリミア半島に必要な水のほとんどを供給する要地。
また、ヘルソン州は、隣接するザポロジエ州とともにロシアがクリミア半島に物資を供給できる陸上回廊の役割も果たしている。
核兵器使用
複数のロシア政府高官は、ロシアがウクライナで戦術核を使うのではないかという西側の見方を否定した。それでも西側には不安が残っている。
戦術核が投入された場合、大規模な被害が生じるだけでなく、事態がエスカレートして西側とロシアの直接戦争に発展しかねない。
ロシアの核ドクトリンは、ロシアが核兵器ないし他の種類の大量破壊兵器の先制攻撃を受けた場合、あるいは通常兵器によって国家の存亡につながる脅威がもたらされた場合、核兵器使用を認めている。
元駐ロシア英大使のブレントン氏は、プーチン氏が追い詰められ、面目を保てないほどの屈辱的敗北に直面したなら、核兵器を使う恐れがあると警告した。
ブレントン氏によると、ロシアが敗北、しかもひどい負け方をしてプーチン氏が失脚するか、それとも核兵器の威力を誇示してこうした事態を回避するかの選択を迫られるとすれば、プーチン政権が核兵器使用に踏み切らないと断言できないという。
米国の駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジス氏も、そのリスクはあると認めつつ、実際に核兵器が使われる確率は乏しいとの見方も示した。「使っても実際に戦場で優位に立てるわけではなく、米国が座視して何の対応もしないのは不可能なので、プーチン氏ないし彼の側近が自滅的行動に走るとは思わない」という。
●全人代常務委員長、ロシアを訪問しプーチン大統領と会談 9/14
新華社の報道によると、中国の栗戦書・全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員長(中国共産党中央政治局常務委員で党内序列第3位)は9月7日から10日にかけてロシア極東のウラジオストクを訪問した。期間中、栗委員長はロシアのウラジーミル・プーチン大統領やビャチェスラフ・ボロジン下院議長などと会談したほか、7日に行われた第7回東方経済フォーラム(2022年9月12日記事参照)全体会合に出席してあいさつした。
栗委員長はその中で、今回の東方経済フォーラムのテーマである「多極化世界への道」はまさにタイムリーなものと評価した上で、世界の多極化は歴史の発展の大きな流れであること、中国でも習近平国家主席が2021年以降、世界発展イニシアチブや世界安全保障イニシアチブを提唱していると紹介し、国際社会とともに、同イニシアチブが定着して成功するよう推進していくとした。その上で、中国は世界の多極化の確固たる支持者であるとともに積極的な推進者であり、ロシアを含む域内各国とともに「一帯一路」構想の共同建設を深化させていくとした。
また、栗委員長は、今後ロシアと貿易やエネルギー、農業、インフラ建設、科学技術、教育、医療、文化などの分野で全方位の協力を強化するとともに、極東での中ロ協力の成果を得るため、中国東北地域の全面的振興とロシアの極東開発国家戦略との連携を進めていくとした。
東方経済フォーラムの開催期間中には、中ロの資源取引でも動きがみられた。中国石油天然気集団(CNPC)は、同集団の戴厚良董事長がロシア・ガスプロムのアレクセイ・ミレル会長と9月6日にオンラインで会談し、天然ガス分野の協力について協議したほか、「中ロ東線天然ガス売買契約書」(注)の付属協定に署名したと発表した。中国メディアでは、ガスプロムは中国向けの天然ガス輸出の決済通貨を今後ドルとユーロから人民元とルーブルに変更すると発表したと報じられている。
(注)中国・ロシア間を結ぶ天然ガスパイプラインはロシア・サハ共和国(ヤクーチヤ)南部のチャヤンダ鉱区(埋蔵量1兆2,000億立方メートル)から中国東北部にガスを輸送するもの。2014年5月にガスプロムとCNPCが年間380億立方メートルの天然ガスを30年間供給する売買契約を締結し、2014年9月1日から建設が開始された。ロシア国内の「シベリアの力」から中国国内に連結する「中ロ東線」は、2019年12月に北区間(黒竜江省黒河市から吉林省松原市長嶺県)が稼働し、2020年12月に中央区間(吉林省松原市長嶺県から河北省廊坊市永清県)が稼働、南区間(河北省廊坊市永清県から上海市)は2021年1月に全面的に建設が開始された。稼働は2025年予定とされている。
●プーチン大統領の解任要望書を公表…ロシア主要都市でも政権批判強まる 9/14
ウクライナ軍がロシアに占領された地域を次々と奪還する中、特別軍事作戦と称して侵攻を続けるプーチン大統領に主要都市からも批判が出ています。
プーチン大統領のお膝元であるサンクトペテルブルクの地方議員の一部は、先週ウクライナ侵攻でのロシア軍の損失やNATOの拡大などを理由に、プーチン大統領が国家反逆罪にあたるとし解任を求める要望書を公表。ロシアの裁判所は13日、議会解散につながるとの見方を示しました。
政権批判は取り締まりの対象になるため、こうした動きは異例とも言えますが、8日にはモスクワでも一部の区議のグループが大統領の辞任を求める要望書をまとめていました。
現在、ウクライナ軍は急速に領土の奪還を進め、北東部ハルキウ州においてはロシアが事実上の撤退を表明。こうした中、プーチン大統領に忠誠を誓っているとされ自身の部隊も侵攻に参加しているチェチェンのカディロフ首長は、作戦について「間違いがあった」と批判。プーチン大統領を支える勢力がこれまでと違う流れを可視化しています。
●プーチン弾劾♀機 「国民の反戦機運加速…終了宣言考える可能性」 9/14
ロシア軍が危機的状況だ。ウクライナ東部ハリコフ州の支配地の大部分を奪還され、未確認ながら軍トップレベルの将官とされる人物が捕虜になったとも報じられた。敗色濃厚のなか、ロシア国内ではプーチン大統領の辞任や弾劾を求める声が出始めた。一方、強硬派は総動員令を出して本格的な戦争に突入するよう要求するなど、左右からの圧力が強まっている。
ウクライナ現地メディア「リヴィウ・ジャーナル」はツイッターで、丸刈りで迷彩服姿の軍人が、額から眉間にかけて出血した状態でひざまずき、後ろ手に拘束された様子の映像を投稿した。この人物がロシア軍のアンドレイ・シチェボイ陸軍中将(53)とみられると推測している。
現地英字紙の「キーウ・ポスト」も「ウクライナに配備された部隊の半分を担当するロシアのトップ将軍を捕らえた可能性が高い」「第二次世界大戦以降、捕虜となった最高位のロシア将校となるだろう」と報じた。
シチェボイ氏は侵攻開始直後の2月28日、第8親衛諸兵科連合軍の中将兼司令官として欧州連合(EU)の制裁リストに掲載された。シリアの軍事作戦にも関与した経験があるという。
捕虜とされる映像の人物が本当にシチェボイ氏なのかは不明だが、これに先立つ8月26日、ウクライナ国防省情報総局がシチェボイ氏から別の人物に司令官が交代したと伝えており、関連も注視される。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「司令官レベルで通常、捕虜になることは考えにくく、事実ならばロシア軍の崩壊を意味するに等しい。士気の低下や戦意喪失も加速するだろう。ロシア軍の敗北が近づいている」とみる。
国内でもプーチン政権への反発が強まる。首都モスクワ南西部の区議らが「国を事実上、冷戦時代の状況に陥れた」としてプーチン氏の辞任を求めた。サンクトペテルブルク中心部の区議も、プーチン氏を弾劾するよう下院に求めるアピールを公表したという。
プーチン氏は侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、「戦争」ではないと位置付け、職業軍人のみを前線に投入していると説明してきた。
しかし、政権与党「統一ロシア」に所属するクリミア選出のシェレメト下院議員は12日、「総動員令を出して全ての力を結集しなければ作戦の目的は達成できない」と述べた。
中村氏は「国民の反戦機運も加速するだろう。11月のG20(20カ国・地域)首脳会議への参加を見据えてプーチン氏は軍事作戦の終了宣言を考える可能性もある。これに対し、強硬派はウクライナの原発を人質≠ノとる戦略に出るとの見方もあり、妥協案をめぐってプーチン政権との確執が生じるかもしれない」と強調した。
●「非欧米」諸国が首脳会合へ 習近平主席、プーチン大統領ら一堂に 9/14
中ロが主導する上海協力機構(SCO)の首脳会議が15、16両日、中央アジア・ウズベキスタンのサマルカンドで開かれる。新型コロナウイルスの流行以降、初の外遊となる中国の習近平しゅうきんぺい国家主席や、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相ら「非欧米」の首脳が一堂に会する。中ロ両首脳は欧米に対抗し、エネルギーや食料の価格高騰問題で国際的議論をリードする狙いとみられる。
習氏は14日にカザフスタンを訪問。トカエフ大統領と会談する。15日にはプーチン氏とも会談し、ウクライナ情勢や対米関係を協議する見通しだ。カザフは習氏が2013年、初めて中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱した場所。コロナ禍の影響や中国が多額の借金を負わせて影響力を強める「債務のわな」への反発から、一帯一路の開発路線は停滞気味と伝えられるなか、習氏の訪問でてこ入れを図る。
外務省の毛寧副報道局長は、5年に1度開かれる共産党大会を約1カ月後に控えたタイミングでの習氏外遊について「中国がSCOや中央アジア諸国との関係を重視していることを十分体現している」と説明。SCOとの関係強化を通じ、台湾や人権問題で圧力を強める米国をけん制する狙いとみられる。
毛氏はSCOでは「加盟国間の協力で新たな共通認識を得て次の段階に進めることに重点を置く」とも発言。加盟国拡大を呼びかけるとみられる。ロシア紙によるとエジプトやエネルギー産出国のカタール、サウジアラビアを提携国「対話パートナー」に迎える可能性が高い。イランの正式加盟も決まりそうだ。
日米豪印の協力枠組み(クアッド)の一角インドのモディ首相も会議に参加し、16日にプーチン氏と会談する予定だ。
兵器購入などでロシアと伝統的に関係が深いインドはウクライナ侵攻後もロシアを非難せず、全方位外交を継続。欧米や日本がロシア産の原油や液化天然ガス(LNG)の禁輸や段階的な輸入削減を決めたのに対し、インドは逆にロシアからのエネルギー関連物資の輸入を増やしている。
両首脳は貿易促進に加え、ロシア産肥料の購入や食料の相互供給について協議する。インドはロシアと3年間の肥料輸入契約の締結を模索。ロシアはクアッドの枠組みにくさびを打つ思惑も透ける。
モディ氏と習氏が会談する可能性もある。両国は20年、国境未画定のカシミール地方で衝突して以降に関係が冷え込み、首脳会談は実現していない。
●独首相、プーチンと1時間半もの電話会談…停戦と露軍撤退要求も平行線か  9/14
ロシアのプーチン大統領とドイツのショルツ首相は13日、電話会談し、ロシアのウクライナ侵略を巡って協議した。ショルツ氏は会談で、戦闘の停止と露軍の完全撤退を改めて求めたが、プーチン氏は侵略を正当化し、協議は平行線に終わったとみられる。
独政府の発表によると、会談は約1時間半に及んだ。ウクライナの南部と東部で、露軍の占領地域をロシアに併合するための住民投票が画策されていることなどについて、ショルツ氏は「認められない」と非難した。露軍の占拠が続く南部ザポリージャ原子力発電所を巡っては、国際原子力機関(IAEA)が求めた安全確保措置を取るよう要求した。
露大統領府の発表によると、プーチン氏は東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)やザポリージャ原発を攻撃しているのはウクライナ軍だと主張し、戦闘継続の責任をウクライナ側に転嫁する立場を崩さなかった。
一方、ザポリージャ原発に関して、IAEAは13日、近くの火力発電所と原発を結ぶ非常用の送電線3本のうち3本目も復旧したと発表した。ラファエル・グロッシ事務局長は、原発周辺で最近数日は砲撃がないと指摘した上で、「原発の現状は依然として不安定だ」と懸念を示した。
ウクライナ軍は東部と南部で反攻を続けている。露軍が7月上旬に制圧を宣言した東部ルハンスク州でも、同州の知事が13日、ドネツク州との州境に近いクレミンナを露軍が放棄したとの認識を示した。
ウクライナ軍が反転攻勢を強めたハルキウ州では今月、露軍が火力発電所などを攻撃し、大規模停電が発生していたが、ウクライナ大統領府の高官は13日、SNSで「電力供給は100%回復した」と説明した。
●「NATO加盟しない」 侵攻時点で和平合意案、プーチン氏が却下か 9/14
ロイター通信は14日、ロシアがウクライナへの全面侵攻を始めた時点で、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないという暫定合意案を取り付けていたにもかかわらず、ロシアのプーチン大統領が侵攻を進めた、と報じた。プーチン政権指導層に近い3人の話として伝えた。ペスコフ大統領報道官は「事実無根」と否定したという。
報道によると、ウクライナ生まれのコザク大統領府副長官が特使として和平交渉にあたり、ウクライナがNATOに加盟しないことで暫定的に合意。コザク氏は、ロシアによる大規模なウクライナ占領は不要になる、とプーチン氏に伝えたという。
プーチン氏は当初この案を支持したが、内容が十分ではないとして、ウクライナの領土の一部併合が侵攻の目的に加わったという。プーチン氏が和平案を却下した時期について、情報源の3人のうち2人は侵攻が始まった2月24日の後で、もう1人は直前だと話したという。
●中国・習主席、コロナ後初外遊 党大会前に対外成果誇示 9/14
中国の習近平国家主席は14日、中央アジアのカザフスタンを訪れた。習氏が外国を訪問するのは2020年の新型コロナウイルス流行後で初めてで、15日にはウズベキスタンでロシアのプーチン大統領と会談する。第20回中国共産党大会の開幕を10月16日に控える中での外遊には、外交成果を誇示し、最高指導者として異例の3期目続投につなげる狙いがあるとみられる。
中国外務省の毛寧(もう・ねい)報道官は13日の記者会見で「党大会開催前の最も重要な外交活動だ」と強調した。
中国の指導者を巡っては、外遊中の国内の動きが失脚につながった故趙紫陽・元共産党総書記らの例がある。中国メディア関係者は、習氏が外遊に出たのは「党大会での3期目に向けた権力掌握を確実にしたという感触を得たからではないか」とみる。
コロナ後初の訪問先にカザフを選んだのは、最高指導者就任から10年間の対外成果を示す狙いからだ。習氏は13年のカザフ訪問時、巨大経済圏構想「一帯一路」につながる「シルクロード経済ベルト」を提唱した。習氏は今回の訪問前にカザフメディアに送った文章で、一帯一路を「国際社会に歓迎されているグローバルな公共財だ」と自賛した。
習氏は、ウズベクで15、16の両日開催される上海協力機構(SCO)首脳会議に出席する。中露主導のSCOやプーチン氏との個別会談で結束を確認し、「対中包囲網」の構築を進める米国を牽制(けんせい)する思惑だ。
中国としては、インドネシア・バリ島で11月に開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議に向け、関係が比較的良好な国々との連携を確認する機会ともなる。
一方、香港メディア「香港01」は14日、ウクライナ問題を巡りロシアとカザフスタンの間に隙間風が吹いていると指摘。習氏には、プーチン氏との会談前にカザフでトカエフ大統領と会うことで「中国の地域内での影響力」を示す狙いがあると分析した。中露は対米では一致しているものの、両国の力関係を巡る水面下の駆け引きがうかがわれる。

 

●国連事務総長 “冷戦期以降で最大の分断 対話を通じ打開を”  9/15
国連のグテーレス事務総長は来週から始まる国連総会の首脳演説について「希望を与え、分断を克服するものでなければならない」と述べ、ウクライナ情勢をめぐって国際社会の対立と分断が深まる中、対話を通じて事態の打開に向けて協力するよう加盟国に呼びかけました。
第77期の国連総会は13日に開幕し、来週20日からは各国の首脳や外相らによる演説が行われる予定です。
これを前に国連のグテーレス事務総長が14日、ニューヨークの国連本部で記者会見し「今回の国連総会は大きな危機の時期に開催されている。地政学的な分断は冷戦期以降、最も大きくなっている」と述べウクライナ情勢をめぐって国際社会の対立と分断が深まっている現状に強い危機感を示しました。
さらに、グテーレス事務総長はウクライナ情勢を背景に世界的に食料価格が高騰して貧困層が影響を受けるなど、国際社会は多くの課題に十分対応できていないと指摘しました。
そのうえで来週から始まる首脳演説について「希望を与え、分断を克服するものでなければならない。その希望は対話と議論を通じてのみもたらされる」と強調し、事態の打開に向けて協力するよう加盟国に呼びかけました。
●ウクライナ軍、ヘルソン州「要衝を奪還」 南部でも反撃進む 9/15
ロシアによるウクライナ侵略で、南部ヘルソン州当局者は14日、ウクライナ軍が州都ヘルソン市から北西約15キロに位置する要衝キセリョフカを露軍から奪還したと発表した。ウクライナメディアが伝えた。東部ハリコフ州で反攻を成功させたウクライナ軍は、南部でも奪還作戦を進めているもようだ。
キセリョフカに関し、米シンクタンク「戦争研究所」は12日、衛星写真データに基づき露軍部隊の大半が撤退したと指摘。キセリョフカを喪失した場合、露軍はヘルソン市の防衛が困難になると分析していた。
ウクライナ国防省情報総局は14日、露軍はヘルソン市周辺に増援部隊を派遣しようとしているものの、士気の低下や人員不足により成功していないとする諜報結果を明らかにした。
ウクライナは南部での反攻を機密とし、進展の詳細は即座に公表しない方針。ただ、同国軍高官は12日、領土500平方キロメートルを奪還したと明らかにしている。
同国のゼレンスキー大統領は14日、奪還に成功したハリコフ州の要衝イジュムを訪問。「侵略者は領土を一時的に占領できても、国民を征服することはできない」と演説し、前線の兵士らに感謝を表明した。
●ローマ教皇、ウクライナ情勢巡る「仲介」不発…露正教会と会談できず  9/15
ローマ教皇フランシスコ(85)は13日、世界の宗教指導者が集まる会議に参加するためカザフスタンを訪問した。ロシアとウクライナの仲介役を果たそうと、外遊中に露正教会トップのキリル総主教との会談やウクライナ訪問が取り沙汰されたが、空振りの旅路となりそうだ。
教皇は、ロシアのウクライナ侵略を深く憂慮し、信徒に向けた祈りなどでも度々戦禍を憂えてきた。
外交面でも教皇は積極的に動き、ロシア国内で大きな影響力を持つキリル総主教との会談を働きかけてきた。総主教はプーチン大統領と親しく、侵略に同調する発言をしている。今回の会議には約50か国から宗教代表者が集まり、総主教の出席が見込まれていたため、教皇は会談で直接憂慮の念を伝えようとしたとみられる。だが、総主教は8月下旬に欠席を表明し、会談は実現しなかった。
今回の外遊に合わせ、教皇はウクライナ訪問も希望していたとされる。だが、8月下旬、プーチン氏に影響を与えたとされる思想家の娘が爆死した事件を巡り、教皇が「無実の女性が亡くなった」と発言すると、ウクライナが反発した。このため、訪問は当面見送られることになった模様だ。
一方、中国の 習近平シージンピン 国家主席は14日、教皇が訪問中のカザフスタンを訪れた。教皇は習氏との会談の可能性について13日、ローマからの機上で記者団に対し、「予定はわからないが、中国に行く用意は常にある」と述べた。
●ロシア排除・中立化拒否、ウクライナが「安全の保証」で新提案  9/15
ウクライナ大統領府は13日、ロシアに再侵略を許さないことを目的にした自国の「安全の保証」に関する作業部会の提案を公表した。安全の保証を確約する国際条約からロシアを排除し、自国の中立化も拒否しているのが特徴で、3月末の提案から様変わりした。タス通信によると、露大統領報道官は14日、提案が「ロシアにとって主要な脅威になる」と反発した。
作業部会は、ウクライナの大統領府長官と北大西洋条約機構(NATO)のアナス・フォー・ラスムセン前事務総長が共同議長を務めており、13日にウォロディミル・ゼレンスキー大統領に提案内容を勧告した。ゼレンスキー氏は13日のビデオ演説で、「ロシアがウクライナに戦争を仕掛ける幻想を持たせないようにする」ことの重要性を強調し、国際条約の準備を進める意向を表明した。
提案ではウクライナが侵略されないようにするため、米英仏独やカナダ、トルコ、豪州などと「キーウ安全保障盟約」と名付けた法的拘束力のある国際条約の締結を提唱した。ロシアの参加には言及していない。
安全の保証は、ウクライナのNATO加盟が実現するまで「暫定的に」必要だと強調し、ウクライナは「中立化」などの義務を負わないとも明記した。
ウクライナが3月29日のロシアとの停戦協議で提示した安全の保証に関する国際条約案では、ウクライナのNATO加盟を嫌うロシアに配慮し、ウクライナが「中立化」を確約する見返りに、自国の安全を保証してもらう内容だった。
新たな提案では、条約の適用範囲についても、「国際的に承認された領土」と位置付け、ロシアが2014年に併合した南部クリミアや、東部の親露派武装集団が実効支配する地域にも対象を拡大した。日本にも対露制裁など非軍事での貢献に期待感を示した。
ウクライナの副首相は13日、フランスのテレビ局とのインタビューで、ロシア側から、改めて停戦協議の打診があったことを明らかにし、ウクライナは拒否したと説明した。双方の停戦協議は5月中旬以降、中断している。
●ロシア軍 「拷問部屋」で40日間拘束され電気ショックなどの拷問… 9/15
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、ウクライナ軍が反転攻勢で解放した東部ハルキウ州の要衝イジュームを訪問した。ハルキウ州では、露軍の支配が約半年間に及んだ地域もあり、戦争犯罪とみられる行為が次々と指摘されている。
ゼレンスキー氏は現地で兵士を激励している写真をSNSで公開した。地元メディアによると、ゼレンスキー氏は、露軍の撤退後に多数の民間人の殺害が発覚したキーウ近郊ブチャに触れながら「何の驚きもない。同じことが起きていた」と述べ、ロシアを非難した。
一方、ハルキウ州の警察幹部は13日、SNSを通じ、イジューム北方のバラクレヤで露軍が地元住民を拘束し、拷問したとみられる施設の存在を確認したと明らかにした。
露軍はバラクレヤで、建物の地下にウクライナ軍に協力したなどの疑いで地元住民を常時約40人拘束し、拷問を加えていたという。英BBCは、スマートフォンに軍服姿の兄弟の写真を保存していたため、約40日間拘束され、電気ショックなどの拷問を受けた男性の証言を伝えた。
●プーチンにどう接する? コロナ後初外遊で習近平が臨む「厄介な会談」 9/15
2020年1月暮れに新型コロナ肺炎がアウトブレイク(感染拡大)して以来、香港を除いてかたくなに海外に出て行かず、引きこもり生活を続けてきた中国の習近平国家主席が、およそ2年8カ月ぶりについに外遊に出た。
行先は中央アジア、カザフスタンとウズベキスタン。9月14日、まずカザフスタンを訪問し、トカエフ大統領と会談を行い、続いてウズベキスタンのサマルカンドで開かれる上海協力機構(SCO)サミットに15、16日に出席する。このサミットはロシアのプーチン大統領も出席する予定で、おそらくロシアによるウクライナ侵略戦争後、初めての中ロ首脳対面会談が開かれる見通しだ。
国内外のチャイナウォッチャーたちが注目するのは、習近平が第20回党大会直前に外遊することの意味だ。
習近平は8月の北戴河会議が終わったのちにサウジアラビアを訪問する予定が一部で報じられ、サウジアラビア側は「2017年5月のトランプ米大統領訪問以来、最も盛大な歓迎行事」を準備していたにもかかわらず、結局実現しなかった。これは党大会前に習近平が中国を離れるのが困難なほど、党内権力闘争が激しいからだろうとみられていた。
ならば、今回、習近平が外遊に踏み切ったということは、権力闘争が一段落つき、習近平が総書記の3期目連任が固まり、目下の政治情勢に自信を持っているということの裏付けなのだろうか。それとも党内の権力闘争よりも、中国共産党として習近平がわざわざ自分で行かねばならない重要な問題が、国外にあるということなのか。その辺について、考えてみたい。
ボロボロの「一帯一路」に党内でも批判の声
今回の外遊の見どころは2つある。1つは「一帯一路」だ。
外交部の毛寧報道官は9月13日の定例記者会見で次のように説明した。
「今回の歴訪は中国にとって、中国共産党の第20回党大会を前に行う重要な元首外交活動である」「SCOサミットで、習主席は各国首脳と共に、SCOの枠組みでの包括的協力や重大な国際・地域問題について踏み込んで意見交換し、協力の新たな共通認識を形成し、協力の新たな章を記す」「カザフスタンとウズベキスタンは中国にとって友好的な隣国、包括的な戦略的パートナーであり、『一帯一路』の重要な沿線国でもある。中国と両国は国交樹立後の30年間、常に、相互尊重、善隣友好、同舟相救う、互恵・ウィンウィンの原則に従い、相互関係が新たな成果を挙げ新たな段階へ上るよう、絶えず後押しをしてきた。習主席による両国への国賓としての訪問は、中国・カザフスタン関係、中国・ウズベキスタン関係が新たな発展段階に入ることを意味する」
この外交部の解説から想像するに、習近平は国家戦略として党規約にまで書き込み推進してきた「一帯一路」の立て直しを1つの目標としている。
実は「一帯一路」は、経済構想的にも政治戦略的にもボロボロで、党内でも批判的な声が上がっている。中国経済の減速、世界経済の減速による資金不足に加え、新型コロナや地域の政変、紛争などによって、プロジェクトそのものが「爛尾楼」(未完成で野ざらしにされた建築物の意味)化しているだけでなく、一帯一路が沿線国を債務の罠に落とし入れてきたやり方や、華僑マフィアによる人身売買や詐欺、マネーロンダリングの温床となっていたことなどが暴露され、そのイメージは地に落ちてしまった。習近平としては、このまま「一帯一路失敗」の印象を放置しておくわけにはいかないので、中央アジアで改めてテコ入れする必要がある、というわけだ。
一帯一路と「グローバル発展イニシアチブ」
では習近平はどのように一帯一路の印象悪化を食い止め、テコ入れを図るのか。
9月12日に米国のシンクタンク「CSIS」(戦略国際問題研究所)が主催したシンポジウムで話題になったのが、昨年(2021年)の国連総会一般弁論で習近平が打ち出した「グローバル発展イニシアチブ」だ。シンポジウムでは、習近平はこのグローバル発展イニシアチブを使って一帯一路の失敗印象を薄めようとするのではないか、という見方が出ていた。
アジア基金会国際発展協力高級主任のアンテア・ムラカラ氏が、グローバル発展イニシアチブと一帯一路は目的がよく似通っており、同じ名目で、中国が世界各地の発展計画に参与し連携させることができる、と指摘。ただ、一帯一路は経済成長とインフラ建設に重点を置いているのに対し、グローバル発展イニシアチブは発展とソフトパワーに重点を置いている。また、一帯一路は中国政府が全権を掌握しているが、グローバル発展イニシアチブは民間機関も参与する余地があるのが違いだという。
シンポジウムでは、この一帯一路、グローバル発展イニシアチブを議題に取り上げ、グローバル発展イニシアチブの国連ブランドを使って、評判が地に落ちた一帯一路の代わりに、海外に安定したプロジェクト建設環境を整備し、中国が新たに地政学的な影響力を持てるように仕切り直すつもりではないか、などといった見方も出ていた。
グローバル発展イニシアチブでは一帯一路の失敗の教訓を汲み、小さく精緻なプロジェクトを推進していくだろう。その成功によって「中国が一帯一路沿線国を債務の罠にはめた」という批判をうまくかわすことができれば、一帯一路の失敗という印象は緩和できるかもしれない。
だが一帯一路もグローバル発展イニシアチブも、狙いが習近平の「中華民族の偉大なる復興」のための地政学的影響力拡大の野望であることには変わりない。だから、一帯一路仕切り直しは、中央アジアおよびロシアというエネルギー国から始めたい、ということになる。
「プーチンを切る」という選択肢
外遊のもう1つの見どころは、習近平とプーチンの会談の行方だ。
この数日、ウクライナ軍が6000平方キロに及ぶ領土奪還とロシア軍撤退のニュースが大きく報じられた。ウクライナのゼレンスキー大統領はクリミア半島の奪還まで言い出している。これが成功するしないにかかわらず、プーチンの敗北は決定的に見える。そのようなプーチンと習近平が対面して何を話すのか。
2人は今年2月4日の北京五輪開幕日に会談して以来、初めて直接対面する。この2月の首脳会談の時に出した共同声明では、中ロ協力について「上限もタブーもない」と言い、一部でこれは準同盟関係宣言ではないか、という見方も出た。だが、後から聞いた周辺情報を総合すると、プーチンにあまりに肩入れした習近平の対ロ外交姿勢について党内では強い反発があり、それがロシアのウクライナ侵攻後、さらに強くなり、結局、習近平の対ロ外交は失敗と言われ、その責任を取る形で習近平お気に入りのロシア通外交官で将来の外交部長(外相)と目されていた外務次官の楽玉成が更迭されることになった。
今、プーチンの敗北が誰の目にもはっきりしてきた段階で、習近平としてはロシアとの関係を改めて自らの責任で仕切り直さなければならない。
おそらく習近平としてはプーチンを見捨てたくない。もしプーチン政権が倒れれば、親欧米政権が代わりにできて、ロシアが西側陣営とともに中国包囲網に加わることになりかねない。それは中国としても避けたいだろう。
だが、すでに改革開放路線維持を掲げる李克強ら共産党の反習近平勢力は、米国との関係改善を望んでいるだろうし、少なくとも米国の対ロ制裁に中国が巻き込まれることは絶対に避けたいはずだ。ならば、かつて中国の著名国際学者、胡偉が主張したように「プーチンを切る」必要が出てくる。
この難しい判断を、結局、習近平が責任をもってやらざるを得なくなったのが、おそらくは今回の外遊の最大の見どころだろう。
事前にプーチンと会談した習近平の腹心
習近平外遊直前の9月7〜9日には、習近平の腹心の栗戦書(全人代常務委員長、序列3位)がロシア極東のウラジオストックで開催された東方経済フォーラムに出席し、プーチンと会談している。
栗戦書は2020年の新型コロナアウトブレイク以降、最初に外遊した政治局常務委員となった。なぜ李克強でもなく、汪洋でもなく、韓正でもなく栗戦書かというと、プーチン対応は習近平の事案であり、他に誰も肩代わりできない、ということなのだ。栗戦書は腹心として、習近平の本音をプーチンに事前に伝える役目であろう。
ロシアメディアによると栗戦書はプーチンに対し、「ロシアのウクライナ進撃を支持し、必要な支援を提供したい」と語ったとか。ほぼ同じタイミングで9月12日、外交担当政治局員の楊潔篪が北京でデニソフ・ロシア大使と会見している。
その上で習近平がサマルカンドでプーチンと会う。
おそらくはプーチンは、追い詰められ屈辱で意気消沈しているか、あるいは怒り心頭かのどちらかだろう。ひょっとすると、敗北の原因を中国のロシアに対する軍事、経済支援が足りなかったからだと思って、その怒りを習近平にぶつけてくるかもしれない。
習近平としては、それをなだめつつ、今後、中国としてロシアをどのように支援していくかについて言質を取られることになろう。
栗戦書が実際にロシアメディアの報じるように発言したのなら、習近平はプーチンと本当に一連托生すると腹を括ったのかもしれない。とすると、習近平の今回の外遊は、その中身によっては、国内で展開される権力闘争以上に習近平の権力基盤に大きな影響があろう。
つまり、党内にすでに存在する“2つの司令部”、習近平派(劣化版毛沢東)vs.李克強派(劣化版ケ小平)の対立に、それぞれロシアと米国という外交要因がリンクし、一見、習近平連任で決着がついて迎えると見られる党大会の大きな変数になるかもしれない。
外遊に出る習近平の心境は?
多くのチャイナウォッチャーは、習近平が権力闘争で優勢に立ち、連任が決まり、その状況に自信をもっているからこそ、ようやく外遊に出られたのだ、と考えている。だが、ニューヨーク在住の華人評論家、陳破空は「習近平はむしろ絶望的な気分で外遊に出ざるを得ない状況だったのではないか」と言う。
つまり、2月以降の親ロ外交の責任を負う形でプーチンと対面し、プーチンの負け戦に最後まで支持を表明し、一連托生となるしか習近平には選択肢がなく、それはプーチンが失脚したときに習近平も失脚する可能性をはらんでいるという意味で。
もちろん、習近平が外交の天才であれば、ウクライナとロシアの間に立って和平交渉を主導するなどウルトラCの解決法でプーチンの面子を守りつつ中国の利益も守るという方法も考えられるのだが、習近平にそこまでの手腕があるならば、これほどの外交失策を積み重ねてはいまい。党大会まで50日あまり。まだ見通しは霧に包まれている。
●9人目の不審死…ロシア実業家 遺体発見「粛清か」 9/15
死亡したのは、ロシア極東・北極圏地域の開発を担当する、イバン・ペチョーリン氏(39)です。ウラジオストクの近海で、高速のボートから転落し、その後、遺体で発見されたということです。
ロシアでは、今年に入り、実業家などの要人が、自殺や原因不明の事故で次々と命を落としています。CNNによりますと、ペチョーリン氏で9人目だといいます。
ロシアに詳しい専門家は、不審死した人の多くが、国家プロジェクトに参加している人たちだと説明しています。
ロシア政治学者・中村逸郎氏「欧米から厳しい経済制裁を受けている。非常に窮地に追いやられてしまっている状況。そうした人たちが、プーチン大統領に批判とか不平を抱く。そして、そういう言動を見せるだけで、実は(プーチン政権から)粛清されてきている、その可能性が高い」 
●強力な反攻作戦で追い詰められるプーチン大統領 9/15
2022年8月29日に始まったウクライナ軍の反攻作戦は、開始からわずか2週間で西側専門家も驚くスピードで領土奪還を進めている。ロシア軍を翻弄するウクライナ軍の巧妙な戦略の前に完全に、戦局の主導権を奪われたプーチン政権はいよいよ追い込まれている。
この背後には、ウクライナと米欧が「連合国体制」をがっちり組んだ強力な軍事支援がある。ゼレンスキー政権は米英との間で戦争終結に向けた大戦略でも一致し、今後の攻勢に自信を深めている。さらに米欧は反攻作戦開始前から、ロシア敗北を前提に「戦後処理」の検討も密かに始めている。
ウクライナ軍の陽動作戦
このスピード進撃を象徴するのが、ハリコフ州の交通要衝イジュムの奪還だ。イジュムはロシアの軍事集積地のベルゴロドから南下してウクライナに入り、東部ドンバス地方に至る補給路の要所。ロシア軍が2022年3月に制圧して以来、ドンバスへの攻撃の拠点になっていた。
2022年9月10日にウクライナ部隊のイジュム到達が明らかになったが、翌11日にはゼレンスキー大統領が奪取を宣言した。ロシア軍は陥落直前に、武器などを置いたまま慌てて逃げており、2022年2月末の侵攻開始以来、最も屈辱的な敗走となった。
この奪還劇の裏には、今回ウクライナ軍による巧みな陽動作戦があった。反攻作戦で当初、焦点になったのは南部ヘルソンだった。ロシア軍はドニエプル川西岸でウクライナ軍により半ば包囲された状態で、いつ掃討作戦が始まるのかが注目されていた。
そのような中、2022年8月14日にウクライナ政府がヘルソンの住民に対し避難を要請した。これを知ったロシア軍は「ヘルソンでの掃討作戦が近い」と焦り、本来ドンバス地方攻略へ投入する予定だったイジュムの部隊をヘルソンに移動させた。この結果、イジュムには小規模の非正規部隊が残るのみとなった。これを見計らってウクライナ軍は奇襲の形でイジュムを制圧した。「住民避難要請」はロシア軍を誘い出す、完全な罠であった。
ウクライナの軍事専門家は、このロシア軍の狼狽ぶりについて、2022年8月初めにクリミア半島のロシア軍基地に行ったウクライナによるパルチザン攻撃が影響したと指摘する。不意を突かれたことで、ロシア軍はその後、冷静な判断力を失ったという。
イジュム陥落により、ドンバス地域を完全制圧するというプーチン政権の軍事目標の実現は完全に遠のいた。2022年2月末に侵攻を開始したプーチン政権は、当初狙った首都キーウの制圧に失敗。その後目標をルハンスク州とドネツク州を合わせたドンバス地方の完全制圧に目標を切り替えていた。それだけに今回のイジュム陥落は大きな権威失墜の事態だ。
ロシア国防省は2022年9月10日、イジュムとバラクレヤに展開していたロシア軍部隊を東部ドネツク州方面に「再配置する」と発表した。敗走を認めたくないクレムリンの苦しい言い訳と言える。
このウクライナ軍の巧妙な戦略を支えているのは総力戦体制だ。正規軍、軍情報機関、そしてパルチザン的な協力を行う住民が連携している。住民はロシア軍の移動をスマホで映像に撮って軍に伝えている。今回のイジュムから南部への増援派遣も、住民からの通報でウクライナ軍に筒抜けになっていた。
軍服脱いで脱走図るロシア兵
これとは対照的なのが、ロシア軍の明らかな士気低下だ。イジュムへのウクライナ軍の接近に気づかなかったことからして、「偵察がずさんだった」とロシアのメディアも指摘するほどだ。最前線から逃亡しようとする兵士が、これを止めようとする上官を射殺するケースも報道されている。
ヘルソンでは包囲から密かに抜け出そうとする兵士らが軍服から私服に着替えて、ドニエプル川西岸から東岸に逃げようとしているという。西岸には最近、ロシア・チェチェン共和国から部隊が投入されたが、任務は戦闘というよりロシア兵の脱走阻止と言われている。
ロシア軍の指揮統制の混乱は、ウクライナ側も指摘している。2022年6月に侵攻作戦を指揮していたドボルニコフ司令官が解任されて以降、誰が後任なのか明らかになっていない。ウクライナは大規模な地上戦一本やりという、ソ連時代以来の戦略を引きずるロシア軍最高幹部の作戦立案能力の欠如を指摘している。ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、セルゲイ・ショイグ国防相はじめロシア軍最高幹部の「知的レベルが低いのはわが国にはよいこと」と皮肉っているほどだ。
さらに今回のイジュム陥落で露呈したのは、ロシア軍部隊の兵力不足だ。ウクライナ軍の反攻は、1ハリコフなど北東部、2東部ドンバス地方、3ヘルソン、ザポリージャの南部という3方面に展開している。先述したイジュムからヘルソンへの部隊急派が示しているのは、反攻をこの3方面でそれぞれ食い止めるだけの十分な兵力がロシア軍にないことを露呈した。
キーウの軍事筋は、正規軍や領土防衛隊などを含めた全兵力数の面で「ウクライナ軍はもはやロシア軍に勝っており、火力でもロシア軍との差を縮めている」と指摘する。
プーチン政権にとって芳しくない情報はまだある。ロシア軍が主導権を取り戻す切り札として編成し、投入したはずの「第3軍団」の動向が不明だからだ。同軍団は2万人規模で志願兵から成り、最新兵器も装備しており、南部に派遣されると言われていた。しかし現状ではどの戦線に配備されたのかは報道されておらず、今後どこに投入されたとしても同軍団に戦局を変える力はないとウクライナ側はみている。
一方、主導権を握ったウクライナ軍は、反攻作戦の今後の戦略の全容を明らかにしていない。今後もロシア軍の意表を突くような陽動作戦を展開する可能性がある。しかし、イジュム奪還を踏まえると、方面ごとに異なる戦略で奪還作戦を進めると筆者はみる。北東のハリコフ州全域を奪還したことで、当面は東部のドンバス地方(ルガンスク、ドネツク両州)で奪還作戦を急ぐとみられる。
2014年のクリミア併合時に、親ロ派分離地域としてロシアがドンバス地方に設置した「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」は、ウクライナからすれば8年間に及ぶ屈辱のシンボルだ。それだけにポドリャク顧問はドンバス奪還が「今や中心的課題であり、奪還できればロシア軍は戦意を喪失する」と述べた。
南部ヘルソンでは、すでにロシア軍部隊をほぼ包囲しており、制圧作戦をすぐに開始することはないとみられる。ロシア軍が弾薬・食料が尽きて、降伏あるいは逃亡するのを待つ作戦だろう。事実、ヘルソンの一部ロシア部隊から、戦争捕虜の人道的扱いを決めたジュネーブ条約を守る条件で、投降の用意があるとウクライナ軍に伝えてきたとの情報もあるとロシアの軍事専門家が指摘する。
米欧との連携深めるウクライナ
勢いに乗り始めたウクライナには、さらに強い追い風が吹いている。米英をはじめとするウクライナ支援の枠組みである連合国側との連携緊密化だ。公表されていないが、反攻作戦開始直前、アメリカとの間でウクライナは高官協議を開催、作戦の概要について調整を行った。
アメリカ側からはジェイコブ・サリバン大統領補佐官(安全保障問題担当)、アメリカ軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長が、ウクライナ側からはアンドリー・イェルマーク大統領府長官とヴァレリー・ザルジニー総司令官が参加した。ここで戦争の進め方について合意できた。今後も両国は、ロイド・オースティン国防長官とオレクシー・レズニコフ国防相の間でも、今後適宜、意見や情報を交換するという。
さらに2022年9月8日には、アメリカのブリンケン国務長官が事前の予告なしにキーウ入りして、ゼレンスキー大統領と会談した。ここで、両国は戦争をめぐる大戦略ですり合わせができたといわれる。合意内容は公表されていないが、同じ時期にキーウで開催されたウクライナ情勢に関する国際会議での議論が合意内容を反映したものになっている。
最も注目されるのは会議にオンライン参加したサリバン大統領補佐官の発言だ。「ウクライナはこれ以上戦争を続けないで、占領された領土をめぐってはロシアと交渉すべきだ」とのアメリカのキッシンジャー元国務長官の提案についてどう思うかとの質問に対し、サリバン氏はこの提案を明確に否定した。
「民主的に選ばれたウクライナの大統領が戦争の処理について決めなくてはならない。アメリカは、ウクライナが交渉であれ戦場であれ、領土の一体性を回復することを支持している。これがアメリカの主要な関心事だ」と述べた。さらに「アメリカの仕事はウクライナの戦場での力を強化することであり、戦闘において支援することだ」と強調した。
つまり、ブリンケン氏がゼレンスキー大統領との会談で合意したのは、侵攻されたウクライナの今後の選択をアメリカ政府が全面的に尊重するということである。全領土回復のため戦争でロシア軍を敗退に追い込むというのであればその選択を支持するし、戦争の途中で交渉を開始するならば、それも支持するということだ。いずれにしても停戦交渉に入るならば、ウクライナが出す条件通りにすべきとの立場だ。
戦後処理を水面下で検討開始
このバイデン政権との合意をゼレンスキー大統領は非常に喜んだという。これに気をよくした大統領はさっそくCNNテレビのインタビューで、ロシアに対し「ロシアがウクライナから完全に出ていくまでは何も話すことはない」と非常に強硬な立場を表明した。つまり、今回の侵攻が始まった2022年2月24日以前の状態ではなく、クリミアを併合した2014年年以前の国境までロシアが完全に撤退することが話し合いの条件だということだ。
つまりゼレンスキー政権が設定した和平交渉開始のマジックナンバーは「1991」だ。つまり旧ソ連から独立した1991年にさかのぼってウクライナ領土を原状回復することをロシアに要求したことを意味する。ゼレンスキー大統領は先述した国際会議で、2023年春までの反攻作戦が非常に重要だと述べ、短期決戦の構えでロシアを軍事的に追い詰めるとの意志を明確にした。
プーチン政権に対する米欧の厳しく非妥協的な姿勢を象徴するのがNATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長の、2022年9月9日の発言だ。ウクライナへの連合国による武器支援問題を協議するため、ドイツのラムシュタイン空軍基地で行われた会議で「もしロシアが戦闘をやめたら平和が来るだろう。もしウクライナが戦闘をやめたら、ウクライナは独立国としての存在をやめるだろう。われわれは、ウクライナと自分たちのために今の路線を継続する必要がある」。
この継戦戦略の一方で、米欧が水面下で検討を始めているのが「戦後処理」問題だ。近い将来、具体的な検討課題として浮上してくるのが、ウクライナへのロシアの賠償問題やプーチン大統領の戦争犯罪を問う国際法廷の設置問題だ。ロシアが国連安保理常任理事国である以上、これらの問題が国連で正式に協議されるかは予断を許さないが、議論自体は水面下で関係国間で始まっている。
「戦後処理」問題で一番の焦点は、プーチン氏の扱いだ。ゼレンスキー大統領はこの問題でプーチン氏の排除を求める立場を明確にしており、米欧も「ポスト・プーチン」のロシアをめぐり検討している。戦後処理と言えば、アメリカが1941年の太平洋戦争の開戦から2年後には対日戦後処理問題の検討を始めていたことが有名だ。今回の米欧によるロシアに対する検討開始もそれとよく似た展開だ。
この戦後処理問題の結論が出るのはまだ先の話だろうが、今後のプーチン政権との関係を考える時、日本も考慮に入れるべき要素だろう。
●ウクライナ軍、南部の州都ヘルソン近くの集落奪還…南部でも反転攻勢進展  9/15
ウクライナ南部ヘルソン州議会の議長は14日、ウクライナ軍が州都ヘルソンから約20キロ・メートル北西の集落を露軍から奪還したと明らかにした。ウクライナ軍の南部での反転攻勢が進展している可能性がある。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は15日未明のビデオ演説で、東部ハルキウ州で約400の集落を奪還し、約15万人を解放したと宣言した。
ウクライナ軍がヘルソン州で奪還した集落は、交通の拠点だ。露軍との激しい戦闘が15日も続いているとの情報もある。ウクライナ軍はヘルソン州の奪還に向け、ヘルソンがあるドニプロ川西岸を遮断するため、露軍の補給路や弾薬庫を集中的に攻撃してきた。
ウクライナの国防次官は14日、ハルキウ州で6日以降に約8500平方キロ・メートルを露軍から奪還したと説明した。広島県の広さに相当する。ハルキウ州知事によると、露軍占領地域は州全体の約6%に減少した。ウクライナ軍は、南部の反攻を本格化させるタイミングととらえている模様だ。
ウクライナ大統領府副長官によると露軍は14日、ヘルソン州に近い南部クリビー・リフに巡航ミサイル8発を撃ち込み、ダムを破壊した。インフレツ川の水位が急上昇しており、住宅の浸水被害が伝えられている。
露軍は、発電所など市民生活に直結する重要施設への攻撃を強化しているが、米政策研究機関「戦争研究所」は、露軍が、インフレツ川の下流にあるウクライナ軍の浮橋を使用不能にして反攻を妨害しようとした可能性を指摘した。
●親ロ派ウクライナ人が国境越え ロシア軍撤退で  9/15
ロシア軍が2月下旬にウクライナ北東部のハリコフ州に侵攻した際、町を占領したロシア兵たちは地元住民に対し永続的な駐留を約束していた。
ところが、ウクライナ軍は今月、ロシア軍をこの地域の大半から撃退し、ほんの数日で約9000平方キロメートルの領土を奪還した。電光石火の進軍を受けて、ロシア軍は撤退を急ぎ、親ロシア派のウクライナ人たちは国境を越えてロシアに逃れ、ロシア市民はウクライナが国境沿いの領土を奪還したことに困惑している。
この撤退は、ロシア軍が開戦後間もなくウクライナの首都キーウの攻略に失敗して以来、最大の敗北の一つだ。戦争が7カ月目に入る中、ロシア政府は政治的・軍事的に厳しい課題に直面している。ロシアは数週間にわたる動きの鈍い攻勢で、人命と物資を費やして領土を占領してきたが、ウクライナ侵攻以降に奪った領土の10%以上を数日のうちに失った。
ウクライナ国境から約40キロ北に位置するロシアの都市ベルゴロドで行われたインタビューで、6人のウクライナ人と彼らに人道支援を行っている地元住民たちは、ロシアに流れ込んだ人の多くはロシアによる占領を最初は歓迎していたと語った。
ロシア発行のパスポートを受け取った人もいれば、定期的な収入を求めて州立病院や学校に就職した人もいたという。
ロシアの撤退に驚いた人もいる。ボランティアが運営する衣類バンクで話を聞いたウクライナ人女性は、ウクライナのクピャンスクにロシアが設立した行政機関の経理部に就職していたと話した。戦闘が同市に拡大したのを受けて、先週10日にすべてを置き去りにして逃げた。ロシア人に協力したことで訴追されることを恐れたという。
ウクライナの法律では、ロシア人に協力した罪で有罪となれば、10年から15年の禁錮刑に処せられる。
この女性は「人々は私たちに『特別作戦』についてどう感じているかを尋ねてくる」と話した。特別作戦とは、ロシア政府がウクライナでの戦争に言及する際の婉曲表現だ。「私たちは不確実性を感じており、今では一体なぜこのようなことが起きているのか理解できない」。国境から約100キロのクピャンスクに残る親族の安否が心配だという。
地元当局者によると、ロシア占領地にいた何百人もの住民がベルゴロド州に逃げ込んだ。地元メディアが先週末に公開した動画では、国境付近に車が列を成していた。バチェスラフ・グラドコフ州知事によると、同州は避難してきた1300人近くのウクライナ人を受け入れている。
ウクライナ軍が押し寄せる中、先週バラクレヤから逃れたという男性は、「ロシア軍が『あなたたちを置き去りにしない』と言ったとき、人々はそれを信じていた」と話した。「われわれ自身も、何が起こったのか理解できない」。男性の両親はバラクレヤに残っている。
ロシア政府は軍の後退に関して沈黙を続けている。国防省は、ウクライナ東部ドネツク州に向けて軍を後退させたとだけ述べている。2014年のクリミア半島併合を機に紛争が始まって以降、ロシアはドネツク州の一部を支配している。
ロシア政府と米ワシントンにあるロシア大使館にコメントを要請したが、回答は得られていない。
ロシア国営メディアは後退に関する報道を最小限に控えているが、一部の専門家はテレビでロシアの軍事戦略の再考を求めている。
インタビューに応じたベルゴロドの住民の大半は、ロシア政府の計画を信頼し、政府を支持していると答えた。しかし、一部の住民は軍事作戦が効果的に実施されているのか疑問視している。
地元の破産専門弁護士アンドレイ・ボルジク氏は「妨害行為や怠慢、能力不足がないかを判断するための調査が必要だ」と話した。「いくつかの明確な誤算があった。それは戦術的なものかもしれないし、戦略的なものかもしれない」。同氏は前線にいるロシア兵のためにドローンや暗視ゴーグル、新しい靴下などの装備をクラウドソーシングする手伝いをしている。
ベルゴロドのある住民は装甲仕様のバンを購入し、ここ数カ月間、ロシアの国境警備員がいることを意識しながら、ウクライナのクピャンスクやボルチャンスクに医薬品を運んでいる。この男性によると、両都市の住民には何カ月も水や電気が供給されていない。住民は当初、ロシアによる占領を歓迎していたが、その支配に幻滅し始めているという。
「人々は恐怖の中で暮らしている」と男性は話した。「第一に、外部とのつながりがない。人々はコミュニケーションを取れず、親族とも話せない。第二に、絶望と貧困がある」
「こうしたことがロシア軍の失敗の一つだと思う。彼らは物事を通常の状態に戻さなかった。だからウクライナ軍が戻ってくると、住民はすぐに受け入れた」
ベルゴロドの中心街のある市場では、ハリコフから撤退してきたばかりだというロシア軍の兵士らが、軍事用品を売る露店の間を歩き回っていた。革製の軍用ブーツや防寒帽子を試着し、凍った地面に座る際に使うクッションを選び、フライパンなどの基本的なキッチン用品を購入していた。
3人の兵士によれば、ぎりぎりの段階で自陣から撤退する命令を受けた後、近いうちに国境地帯に再配置されることを伝えられたという。
兵士の1人は「あのタイミングで撤退していなければ、われわれは包囲されていただろう」と語った。「ウクライナ側の装備は大幅に強化されている」
ある兵士は、今回の撤退によって、2月下旬にウクライナに侵攻して以来始めての休みが取れたと語った。最近ベルゴルドの中心街をぶらついていた兵士の一部は、明らかに酔っ払っていた。
別の兵士は、侵攻が計画通りの結末を迎えることに自信を示した。
「米国との戦いになっていなければ、われわれはずっと以前に勝利を収めていたはずだ」と語った。「それでもわれわれは勝つ」
多くのベルゴルド住民は今回の撤退を受けて、この戦争で次に何が起きるのかと神経をピリピリさせている。40万人近い人口を抱える同市では、頻繁に防空システムが作動している。
弁護士のボルジク氏は、自家用車の中に防弾チョッキとヘルメットを準備している。ビジネスマンのデニス・カティン氏は、ウクライナ侵攻開始後、自宅の裏庭に爆撃に備えたシェルターを作った。彼のビジネスパートナーは、中心街で共同経営するレストランの窓が吹き飛ばされることを想定して、ベニヤ板を購入したという。
ベルゴロド州のグラドコフ知事は今週、国境付近のいくつかの村が砲撃を受けたとして、住民に避難を呼び掛けた。
今週のある日の午後、ベルゴロド中心街の市場では遠方の爆発音が2回立て続けに聞こえた。買い物客らによれば、市の防空ミサイルシステムが作動した音だという。
ロシア軍支持を表す「Z」や「V」の文字をあしらった記章や、迷彩服を3月から販売している店の店主は、今回の撤退を招いた責任はロシア政府上層部にあると話した。
それでも彼女はプーチン氏の侵攻の決断を支持しているという。
「これほど多くの同胞が死んだのが無駄だったなどということはあり得ない」と語った。「このすべてが無駄だったということがあるはずがない」
●ウクライナでの後退、ロシア国内でも議論に 批判の矛先は国防省 9/15
ロシア軍がウクライナ・ハルキウ州で後退したことを受けて、ロシア国内では珍しく、コメンテーターや政治家が議論し、公の場で批判の声が上がっている。ただ、批判の矛先は主に国防省だ。
ロシアがウクライナで行っている「特別軍事作戦」に関する公の場での批判は、これまで起きたロシア軍の撤退とは対照的だ。例えば、ロシア軍の黒海のスネーク島からの撤退は善意の印とされていた。
コメンテーターは、国防省が週末に発表した軍のハルキウ州からドンバス地方への軍の「再移動」という説明を受け入れていない。
ロシア政府の民族融和に関する評議会のメンバーの1人は、ウクライナ軍の攻撃が差し迫っているとの情報を無視した軍当局者に責任を取らせるべきだと指摘した。
同メンバーは国営メディアで「2カ月前からウクライナ軍と軍事物資が当該の地域に集まっていた。全てテレグラムに書かれていた」と指摘した。
同メンバーは「限定的な動員」を呼びかけたほか、ウクライナでの後退について「戦術的な敗北」と述べた。
国民の動員に関する議論と、特別軍事作戦を「戦争」と呼ぶことの議論も議会で始まりつつある。
共産党のジュガーノフ委員長は「特別軍事作戦と戦争と何が違うのか。軍事作戦はいつでも止められる。戦争は止められない。勝利か敗北かで終結する」と述べ、戦争が起こっているとの見方を示した。
ペスコフ大統領報道官は先に、政府は国民の総動員について検討していないと述べていた。
●チェチェン・カディロフ首長 ロシアの各首長に自己動員」呼びかけ 9/15
ウクライナ侵攻でロシア側を支持するチェチェン共和国のカディロフ首長が、ロシア国内の各首長に戦闘への「自己動員」を呼び掛けました。
ウクライナ軍が反転攻勢を強めるなか、カディロフ首長は15日、自身のSNSで「クレムリン(=ロシア政府)の戒厳令を待つ必要はない」として、各地域の首長が自主的にウクライナの戦場に向け、動員を行うよう呼び掛けました。
カディロフ氏は、各地域にはそれぞれ少なくとも1000人の志願兵を準備し、訓練、配置する能力があるなどと主張しています。
一方、ロシア国内では軍の兵力不足は深刻化しているとみられています。
ウクライナ北東部・ハルキウでのロシア軍の撤退を機に、与党「統一ロシア」から本格的な動員を求める声が上がっています。
ただ、世論の反発は必至でプーチン政権は動員を実行できないままでいます。
兵士の動員を巡っては、プーチン氏に近い民間軍事会社「ワグネル」の経営に関わっているとされるオリガルヒのエブゲーニー・プリゴジン氏がロシアの刑務所で受刑者に志願を促す動画がSNS上で拡散しています。
調査報道サイト「インサイダー」はその後、この刑務所からおよそ150人の受刑者がウクライナの戦場に派遣されたと報じています。
プリゴジン氏が経営するケータリング会社は映像について、「本人に非常に似ている」とコメントしています。
●ロシア敗北 プーチン大統領10月に終戦宣言≠ゥ 9/15
ウクライナ東部ハリコフ州のロシア側支配地域をほぼ取り戻したウクライナ軍は、南部でも奪還作戦を展開している。ロシア国内でも「敗北」を認める声が強まっている。国際社会でも孤立を深めるプーチン大統領が「作戦終了を宣言する場合、10月末が期限だ」と専門家は指摘する。
ゼレンスキー大統領は14日、ハリコフ州の要衝イジュムを訪問。「侵略者は領土を一時的に占領できても、国民を征服することはできない」と演説し、前線の兵士らに感謝を表明した。
ウクライナ軍は南部ザポロジエ州でも前線に大部隊を集結させているとみられる。
ロシア国内では「敗退」との受け止め方が広がり、国営テレビの番組などで激論も交わされている。米シンクタンクの戦争研究所は13日、プーチン政権が世論の批判の矛先を軍に向けようとしており、敗退を軍の動員強化に利用するもようだと分析した。ただ、国内外で窮地に追い込まれており、特別軍事作戦を継続できるのか、不透明さが増してきた。
ロシア政治に詳しい筑波大学名誉教授の中村逸郎氏は「ロシア軍にとって侵攻開始後、最大の痛手となっている。G20(20カ国・地域)の枠組みを重視するプーチン氏は11月の首脳会合への出席に意欲をみせているが、侵攻継続の状態なら他国がボイコットし、国際的孤立を深める可能性もある。終了宣言を考える場合、10月末ごろまでがタイムリミットになりそうだ」と分析した。
●習氏とプーチン氏、侵略後初の直接会談…米国へのけん制と連携誇示  9/15
中国の 習近平シージンピン 国家主席とロシアのプーチン大統領は15日、中央アジア・ウズベキスタンのサマルカンドで会談した。ロシアが2月24日にウクライナ侵略を開始してから初めての直接会談となった。両首脳は中露の覇権主義的行動への非難を強める米国へのけん制として、会談を通じて連携を誇示した。
会談はサマルカンドで15日に開幕する上海協力機構(SCO)の首脳会議に合わせて開催された。習氏の外遊は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まって以来初めてで2年8か月ぶりだ。
露大統領府の発表によると、プーチン氏は会談の冒頭で、ウクライナ情勢に対する「中国のバランスの取れた立場を高く評価している」と述べた。台湾情勢を巡っては「『一つの中国』原則を強く支持し、台湾海峡での米国などによる挑発を非難する」と強調し、習政権の立場を擁護した。
中国外務省によると、習氏は会談で「双方の核心的利益に関わる問題で互いに力強く支持したい」と述べた。中国が絶対に譲ることのできない核心的利益と位置づける台湾問題を提起するとともに、ウクライナ侵略を巡るロシアの立場への理解を示唆した可能性がある。一方で、習氏のウクライナ問題についての発言は伝えられていない。
プーチン氏はウクライナの反転攻勢で戦況が悪化する中、中国のさらなる支持を取り付けたい思惑がある。一方、中国としてはロシアとともに国際社会からの孤立がさらに進む事態は避けたい考えで、習氏は直接的な軍事面の支援などには踏み込まなかった模様だ。
プーチン氏は会談で「昨年の中露の貿易総額が35%増の1400億ドル(約20兆円)超となった」とし、対露制裁が続く中、「今年、我々は記録を更新するだろう」と述べて貿易の拡大に期待を示した。
SCOには日米と連携するインドも加盟し、イランの正式加盟に関する手続きも進められている。習氏は1か月後の共産党大会で異例の3期目政権発足をにらむ。その直前の外遊に拡大が進むSCOの会議を選んだのは、米国との対立長期化を見据え、ロシアなどと対抗軸構築を改めて打ち出す狙いがあるとみられる。

 

●米、ロシアを支持しないよう中国に要請 ウクライナ戦争巡り 9/16
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は15日、中国に対し、ロシアによるウクライナでの戦争を支持しないよう求めた。また、ロシアのウクライナ侵攻に対して全世界が一丸となるべきで、傍観者であってはならないと述べた。
CNNのインタビューで「誰も傍観者であってはならない。全世界が一列に並び、ロシアのプーチン大統領の行いに対抗すべきだ」と指摘。「プーチン氏と通常通りのやり取りをしている場合ではない」と語った。
上海協力機構の会議に出席するためサマルカンドを訪れているプーチン大統領と中国の習近平国家主席はこの日、ロシアのウクライナ侵攻後初の直接会談を実施した。
カービー氏は、中国がロシアによるウクライナでの戦争をどの程度支援するかはまだ分からないとし、中国政府はプーチン大統領を実質的に支援する動きも、ロシアに対する制裁措置に違反することもなかったと指摘した。
これとは別に、カービー氏はMSNBCで、米国はウクライナに対し、新たな安全保障支援策を実施する準備を進めていると言及。時期などの詳細については明言を避けていたが、CNNでは「非常に近いうちに」発表される見込みとした。
●ロシアの財政黒字が急減、原油安とウクライナでの戦争で打撃 9/16
エネルギー価格が下落し、7カ月近くに及ぶウクライナでの戦争の費用が増すにつれ、ロシア経済に新たな緊張の兆しが見えてきた。
ロシア財務省が今週発表したデータによると、ロシアの財政黒字は夏の間にほぼ消えた。6月末の黒字は1兆3700億ルーブル(約3兆3000億円)だったが、先月末にはわずか1370億ルーブルにまで落ち込んだ。
歳入が圧迫されている。従来、ロシアの予算では天然ガスよりも石油の方が大きな割合を占めているが、指標となるブレント原油価格は6月上旬のピーク時から約25%下落した。
これが大きな打撃となっている。欧州連合(EU)によるロシアからの海上石油輸入の禁止や主要7カ国(G7)のロシア産石油の価格上限規制が12月に実施される前にもかかわらずだ。また、欧州の天然ガス価格は異常に高いままだが、EUおよび英国へのガス供給は年初から49%減少したとロシアの天然ガス会社ガスプロムは先週発表した。
ドイツ国際安全保障研究所の上級研究員、ジャニス・クルゲ氏によると、軍事費と、西側諸国の厳しい制裁の影響から経済を守るための対策費が大幅に増えているという。
ロシア政府のリアルタイムのデータは予算が現在赤字であることを示しているとクルゲ氏は指摘し、軍事費の上昇に伴いロシアの赤字はさらに膨らむ可能性があると付け加えた。
「軍事費はもともと今年3兆5000億ルーブルを予定していたが、今月すでに超えた可能性が高い」とCNNにコメントした。
ロシアの経済紙「ベドモスチ」は15日、政府に近い情報筋の話として、財務省が政府機関に対し来年10%の支出削減が必要だと伝えたと報じた。しかし国防費は増加する見込みという。
●大誤算…頼みの中国・習近平も冷ややかで、「四面楚歌」に追い込まれた! 9/16
ロシアが核を使う可能性
ウクライナが8月下旬から始めた反転攻勢で、ロシア軍を圧倒し、9月11日までに東部のハリコフ州のほぼ全域を奪還した。戦況はウクライナ優勢で動いていくのか。それとも、ロシアが形勢逆転を狙って、核や化学兵器に手を伸ばす可能性はないのだろうか。
まず、8月下旬からの展開を振り返ろう。
米国のジョー・バイデン政権は8月24日、29億8000万ドル(約4200億円)に上るウクライナへの追加軍事支援を決めた。これは1回の支援額として過去最大だっただけでなく、防空システムや長距離砲、弾薬など、中身も数年がかりの大規模な支援だった。
バイデン大統領は、支援を発表した声明で「米国はウクライナの人々が主権を守るために戦い続ける限り、彼らを支援することを約束する」と述べた。この言い方は、ほとんど「同盟国扱い」したも同然である。
それまでの支援は、言ってみれば「負けないように、しかし勝ちすぎないように」というような、中途半端なものだった。たとえば、5月30日に表明した支援では「ハイマース」と呼ばれる高機動ロケット砲システムも、わざわざロシアまで届かないように射程を短くしていた。
それに比べれば、8月の支援は、かなり本腰を入れてきた印象がある。なぜ、そうなったかと言えば、1つには、米国内でバイデン政権の姿勢に対して「いかにも中途半端」という批判が高まっていたからだ。
たとえば、ウォール・ストリート・ジャーナルは「ウクライナ支援で曖昧なバイデン氏」と題した5月31日付の社説で「これでは戦争に勝つことも、ウクライナに有利な形で膠着(こうちゃく)状態を強いることもできない」と批判した。
それだけではない。
私は、米国がロシアのウラジーミル・プーチン大統領は結局「核を使わないし、使えない」という判断に傾いてきたから、とみている。もしも、プーチン氏が本気で核のボタンに手を伸ばす可能性を本気で心配していたら、大胆な軍事支援を躊躇したはずだ。
米国は軍事衛星による偵察や通信傍受、あるいはロシア内部からの情報で、かなりの程度、ロシア軍の動向を把握している。たとえば、5月4日付のニューヨーク・タイムズは「米国の機密情報が、ロシアの将軍たちの殺害に役立っている」と報じた。
そうした実績もあって、米国は「ロシアが核兵器を使おうとすれば、事前に把握できる」という自信を深めているのではないか。
ウクライナ軍が優勢だが…
ウクライナ軍が本格的な反転攻勢に踏み切ったのは、まさに米国が積極的な支援姿勢に転換した直後だった。CNNが特ダネとして、反転攻勢の第1報を報じたのは、バイデン政権の発表5日後の8月29日だ。
9月13日付のニューヨーク・タイムズによれば、ジェイク・サリバン米大統領補佐官やマーク・ミリー米統合参謀本部議長が、数カ月前からウクライナ側のカウンターパートと協議し、作戦を練り上げていた。米国の支援はその一環だ。つまり、今回の作戦は事実上、米国と英国、ウクライナの3カ国による共同作戦だったのだ。
ウクライナは、このまま優勢を維持できるのだろうか。楽観できない。
元米国防長官のレオン・パネッタ氏は9月12日、ブルームバーグ・テレビのインタビューに答えて「(今回の攻勢は)重要な岐路(pivotal)であると同時に、危険でもある」と、次のように語っている。
〈我々は、重要な岐路にさしかかっている。プーチン氏を追い詰めれば、彼は反撃に転じるだろう。モスクワには、今回の攻勢で撤退を余儀なくされたことで、彼を批判する人々もいる。プーチン氏は実際、インフラを攻撃した。彼は戦域核に手を出すかもしれない〉
攻勢直前のタイミングで、核戦争に発展する可能性を警告する専門家もいた。攻撃的現実主義の大御所、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授だ。
教授は8月17日、外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に「ウクライナにおける火遊び」と題した論文を寄稿し、楽観的な見方を厳しく戒めた。次のようだ。
〈西側の政策担当者は、次のような見解で一致しているように見える。すなわち「対立は膠着状態に陥る」「弱体化したロシアは結局、米国とNATO(北大西洋条約機構)、ウクライナに有利な平和協定を受け入れる」「米国もロシアも戦争をエスカレートさせて得られる利点を承知しているが、破局は避けられる」というのだ。米国が直接、戦闘に介入したり、ロシアが核を使うなどとは、ほとんど誰も思っていない〉
だが、それは「あまりに軽率」と批判する。
〈破局的なエスカレーションを避けられたとしても、戦闘集団がそんな危険を管理する能力があるかどうか、まったく不確実だ。常識で考えるよりも、はるかに危険は大きい。欧州が核戦争で全滅する可能性を考えれば、特に注意しなければならない〉
戦略を大転換した米国
教授はロイド・オースチン米国防長官が「我々はロシアを弱体化させたい」と語った発言に注目した。私は4月29日公開コラムで、この発言を引用して「米国が戦略を大転換した」と書いたが、教授はこう指摘している。
〈米国はロシアを大国の座から引きずり下ろして、ノックアウトする意図を表明したのだ。国防長官は7月「支援は効果を上げている。ロシアは我々を潰せる、と思っているが、彼らの計算違いだ」と語っている。もはや、妥協の余地はない〉
教授は具体例を挙げて、米国の方針転換を指摘した。ハイマースと呼ばれる多連装ロケットシステムの提供、スロバキアを通じたミグ29戦闘機の提供、さらに、ニューヨーク・タイムズが報じた「米国の隠れ戦闘員、スパイ網の構築」などだ。
このニューヨーク・タイムズの記事(6月25日付)は、興味深い。米国や西側同盟国はドイツやフランス、英国に設けた基地で、ウクライナの特殊部隊を訓練している。米中央情報局(CIA)の担当者はキーウで、ウクライナ軍に極秘情報を提供している、という。
そのうえで、教授はこう指摘した。
〈プーチン氏が核を使うシナリオは3つある。1つは、米国やNATOが戦闘に加わるケースだ。そうなったら、脅しで核を爆発させるかもしれない。2つ目は戦場で形勢を逆転するために使う場合だ。ウクライナがロシア軍を打ち負かし、領土を奪還しそうになったら、モスクワは脅威が迫ったとみるだろう。3つ目は外交的解決が見込めず、戦争がロシアに非常に過酷な膠着状態に陥った場合だ〉
〈多くの人々が、戦争がエスカレートする危険性を、あまりに過小評価している。戦争はそれ自体のロジックを持っており、行方を予測するのは難しい。我々にできるのは、指導者が破局的エスカレーションを避けるために、戦争を管理するよう願うことだけだ〉
世界中が注目する中ロ首脳会談
戦争の行方を占ううえで、大きな鍵を握っているのは、中国である。
プーチン氏と中国の習近平総書記(国家主席)は9月15日に上海協力機構の首脳会議が開かれるウズベキスタンで会談した。プーチン氏は戦況の悪化を受けて、軍事支援にとどまらず、可能ならば「核の使用」についても、習氏から事前に「暗黙の了解」を取り付けたかったはずだ。
本稿執筆時点(15日午後9時)で、会談の詳細は明らかになっていないが、軍事支援も核の使用容認も、習氏は要請に応じないだろう。中国がロシア支持に大きく舵を切った後で、ロシアが大敗北を喫したら、習近平体制の基盤が揺らいでしまう。10月の共産党大会で総書記3選を至上命題にしている習氏に、そんなリスクを犯せるわけがない。
中国が了解を与えた後で、ロシアが本当に核を使ってしまったら、中国も世界から非難を浴びるのは避けられない。そうなったら、中国の「台湾奪取」という大目標にも、悪影響を及ぼすのは必至だ。
中国は核の「先制不使用」を宣言している。それがタテマエにすぎなくても、西側の中国批判に格好の武器を与えてしまう形になる。米国との対決で「ロシアと中国のどちらが主導権を握るのか」という問題もある。それは、戦後の世界秩序作りに直結する。
頼みの中国からもつれなくされ、プーチン氏はいよいよ「四面楚歌」状態に追い込まれてきた。
●ウクライナのNATO加盟問題は侵略の名目か…プーチン氏「断念合意」拒否  9/16
ロイター通信は14日、ロシアが2月24日にウクライナ侵略を始めた時点で、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念する暫定合意が両国間でまとまっていたにもかかわらず、プーチン露大統領が合意を拒否し、侵略を続行したと報じた。プーチン氏にとって、ウクライナのNATO加盟問題は、侵略の名目にすぎなかったとの見方が強まっている。
ロイター報道は、露政権指導部に近い3人の証言に基づいたもの。侵略を開始した直後か直前に、ウクライナとの協議を担当していたドミトリー・コザク大統領府副長官が、ロシアによるウクライナの大規模な占領を回避するため、ウクライナとの暫定合意をプーチン氏に打診したと指摘した。
プーチン氏は「不十分だ」と指摘して当初の合意支持を撤回し、侵略目的にウクライナ領土の併合を追加したという。露大統領報道官は「事実と全く異なる」と述べた。
●中ロ首脳が関係強化を確認 ウクライナ情勢めぐり中国は慎重姿勢も 9/16
ウクライナ侵攻後初めてロシアと中国の首脳が対面で会談しました。関係強化を確認する一方、ウクライナ情勢をめぐっては中国の慎重な姿勢が目立つ形となりました。
ロシア プーチン大統領「ウクライナ危機における中国のバランスが取れた姿勢を高く評価する。この問題に関する疑問や懸念があることを理解している」
プーチン大統領は15日、習近平国家主席と会談し、ウクライナ情勢をめぐる中国の姿勢を評価しました。そのうえで、台湾情勢について「『一つの中国』の原則を支持し、アメリカとその陣営による挑発を非難する」と述べ、中国を支持する姿勢を強調しました。
これに対し、習主席は「互いの核心的利益に関わる問題で強力な相互支援を行い、協力を深化させる」と応じ、「我々はロシアとともに、変動する世界を発展へと導く主導的な役割を果たす用意がある」と述べました。
一方でウクライナ情勢に関しては明言せず、態度を明確にしないなど、中国の慎重な姿勢が目立つ形となっています。この会談について、アメリカ政府は…
アメリカホワイトハウス ジャンピエール報道官「これまでも中国のロシアとの連携、関係の深さへの懸念を示してきました。ロシアがウクライナで侵略戦争、残忍な戦争を行っているにもかかわらず今回の会談はその連携を示す一例です」
●プーチン氏、ウクライナ巡る中国の懸念に理解表明 習氏の姿勢評価 9/16
ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が15日、訪問中のウズベキスタン・サマルカンドで会談した。プーチン大統領はウクライナ情勢を巡る中国側の疑問や懸念を理解しているとした上で、習氏の「バランスの取れた姿勢を高く評価している」と述べた。
首脳会談は上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせ行われ、ロシアのウクライナ侵攻開始後としては初の対面会談となる。
習氏は「旧友」と再会できたことをうれしく思っていると述べた上で、「世界や時代、歴史が変化に直面する中、中国はロシアと協力し、大国の責任を示す上で主導的な役割を果たすと同時に、混乱する世界に安定と前向きなエネルギーをもたらす考えだ」と語った。
国営の中国中央テレビ(CCTV)によると、中国政府は会談に関する声明でウクライナには言及せず、中国はロシアの中核利益に絡み、ロシアを支援する用意があると表明した。また習氏によるウクライナに関する公の発言もなかった。
プーチン大統領は、一極集中化の世界を目指す米国の試みは失敗に終わるという見方を示した上で、「ウクライナ危機に関して、中国の友人たちのバランスの取れた姿勢を高く評価している」とし、「親愛なる同志の習近平氏、親愛なる友人」と呼びかけた。
その上で「この件に関する中国側の疑問や懸念を理解している。今日の会談では、もちろんわれわれの立場を説明する。この問題について以前にも話したことがあるが、われわれの立場を詳しく説明する」と述べた。
プーチン氏がウクライナ戦争に対する中国の懸念について言及したのは初めて。
こうしたプーチン大統領の発言は、ウクライナ侵攻を巡り慎重姿勢を維持してきた中国が批判的な見解にシフトしている可能性を示唆しているという。
米コロンビア大学のイアン・ブレマー政治学教授はプーチン大統領の発言について、「引き下がることを余儀なくされる圧力をプーチン氏が認識したことを示す初の公的なサイン」と指摘。「ロシアはウクライナ侵攻によって主要7カ国(G7)ののけ者となった。中国はそれに関わることは望んでいない」と述べた。
中国はロシアのウクライナ侵攻開始後、西側諸国による対ロ制裁を批判する一方、ロシアへの非難を控えると同時に、ロシアの軍事作戦に支持は表明せず、支援も供給していない。
一方、ロシアのラブロフ外相は記者団に対し、非公開の中ロ首脳会談は素晴らしい内容だったと言及。「国際情勢に関するわれわれの評価は完全に一致しており、食い違いは全くない」とし、「近く開催される国連総会を含め、われわれの行動を引き続き調整していく」と述べた。
プーチン大統領はまた、台湾を巡り中国への支持を明示。「われわれは『一つの中国』政策の原則を堅持する」とし、「米国とその衛星国による台湾海峡での挑発を非難する」と表明した。
習氏は2013年の国家主席就任以降、プーチン大統領と行った対面会談は39回。一方、21年に就任したバイデン米大統領とはまだ対面会談を行っていない。
また、モンゴルのオヨーンエルデネ首相はプーチン、習両首脳との会談で、モンゴルを経由しロシアから中国に石油・ガスを供給するパイプラインを建設する構想に支持を表明した。
●ウクライナ軍 ハルキウ州で攻勢も ルハンシクなどで警戒強める  6/16
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナでゼレンスキー大統領は、東部ハルキウ州の大部分を奪還したとして「大きな勝利だ」と強調しました。一方で、隣接する東部のルハンシク州やドネツク州ではロシア軍が激しい攻撃を続けていて、地元当局は警戒を強めています。
ウクライナでは東部や南部でウクライナ軍が反転攻勢を続けていて、ゼレンスキー大統領は、東部ハルキウ州では、ほぼ全域を解放したと強調しました。
15日には首都キーウを訪れたEU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長と会談し、ウクライナ大統領府によりますと、この中でゼレンスキー大統領は「われわれは町や村をロシア軍の支配から日々解放し、士気を高めている。大きな勝利だ」と述べて自信を示しました。
一方、ハルキウ州に隣接するルハンシク州のハイダイ知事は15日、地元メディアのインタビューで「ルハンシク州を含む多くの地域では今も激しい戦闘が続いている。ハルキウ州のような速攻のシナリオが繰り返されることはない」と述べ、警戒を強めています。
また、ドネツク州のキリレンコ知事は15日、ウクライナ側の拠点の1つバフムトで5階建てのアパートがミサイル攻撃によって破壊されたほか、別の町では病院が攻撃を受けてけが人が出ているとSNSに投稿し、住民に避難を呼びかけています。
ロシア外務省のザハロワ報道官は15日の記者会見で、ウクライナに兵器を供与する欧米に敵意を示しながら「軍事作戦の目的を達成するという緊急性は日増しに強まっている」と主張し、今後、ロシアが攻撃を激化させる可能性もあるとみられます。 
●旧ソ連諸国で情勢不安定化 ロシア、軍をウクライナ動員で 9/16
米シンクタンク、戦争研究所は15日の戦況分析で、ロシアがウクライナ侵攻に伴い旧ソ連諸国の基地に駐留する部隊を動員したことで、同諸国でロシアの影響力が弱まり、地域情勢が不安定化している可能性を指摘した。
ウクライナ侵攻後に中央アジアのタジキスタンとキルギスの国境での軍事衝突や、アルメニアとアゼルバイジャンとの間で係争地ナゴルノカラバフを巡る争いが再燃している。
戦争研究所は欧米メディアを引用し、タジキスタンのロシア軍基地からは約1500人がウクライナに派遣され、さらに600人が動員される予定とした。
●ウクライナ侵攻で存在感増す「上海協力機構」 さらなる拡大目指すプーチン氏 9/16
中国とロシアが主導する枠組み「上海協力機構」の全体会合が開かれています。ウクライナ侵攻をめぐり欧米が制裁で足並みを揃える中、プーチン大統領にとって国際協調をアピールする舞台ですが、微妙な温度差もうかがえます。
中央アジア、ウズベキスタンで開かれた上海協力機構の首脳らによる全体会合。ロシアや中国、インドなどの加盟国のほか、オブザーバーなど含め過去最多の15か国が参加しました。
上海協力機構は加盟国だけでも世界の人口の半分近くを占める巨大な枠組み。今回、イランが正式加盟に関する文書への調印を行うなど拡大を続けています。
ウクライナ侵攻をめぐり対ロ制裁を科す欧米とは一線を画し、「多極的な世界」を掲げるプーチン大統領にとっては「孤立していない」とアピールする恰好の場といえます。
ロシアは中国やインドへ、エネルギーの輸出を拡大。制裁下で経済的な結びつきも強めています。
またプーチン氏は、きのう行われた中国との首脳会談で、枠組みのさらなる拡大に意欲を示しました。
ロシア プーチン大統領「建設的で生産的な枠組みとして、さらに強化していく必要がある」
ただ、ウクライナ情勢に関する微妙な“温度差”も浮かび上がっています。中国の習近平国家主席はウクライナについては明言せず、態度を明確にしませんでした。
ウクライナ側による領土奪還の動きが広がる中、一連の首脳会議ではウクライナ情勢に深入りしないという各国の姿勢が目立つ形となっています。
●中露、ウクライナで温度差 プーチン氏「懸念を理解」 9/16
ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席は、15日にウズベキスタンで行われた首脳会談で中露の良好な関係を高く評価した。ただ、ロシアが侵攻したウクライナの情勢に関しては、習氏が公の場での言及を避けた。プーチン氏も「中国側の疑問と懸念は理解している」と述べるなど、ウクライナを巡る両国の温度差が透けてみえた。
会談冒頭でプーチン氏は「この半年間で世界は劇的に変化しているが、変わらないものが一つある。それは中露の友情だ」と発言。台湾情勢に関しても「ロシアは米国や従属国による挑発を非難する」と述べ、中国への支持を鮮明にした。習氏も「激変する世界で、中国はロシアとともに大国の模範を示し、主導的役割を果たす」と応じるなど、蜜月ぶりをアピールした。
しかし、ウクライナ情勢に話が及ぶと、プーチン氏は「中国の中立的立場を高く評価する」と述べ、中国がロシアを完全には支持していないことを暗に認めた。習氏はウクライナに言及せず、ウクライナ情勢を念頭に置いたとみられる発言すらしなかった。
ウクライナ侵攻で中国は、対露制裁を発動した米欧などを非難する一方、ロシアへの支持も表明していない。ロシアに巻き込まれる形で国際社会で孤立したり、米欧の制裁対象とされたりすることを避けたいのが本音だ。タス通信によると、米国務省のプライス報道官は15日の記者会見で「現時点で中国がロシアに軍事支援や制裁回避手段を組織的に提供している兆候は見られない」と述べた。
他方で習氏には、米国への対抗軸を形成する上でロシアとの連携を必要としている事情がある。
ウズベクで16日に行われた上海協力機構(SCO)首脳会議で、習氏は米国による対中包囲網の形成を念頭に「陣営対立を作り出すことや、地域の安定を破壊する企てを食い止めるべきだ」と発言した。SCOの参加国拡大にも意欲を見せている。
習氏は同日、ウズベクでイランのライシ大統領とも個別に会談し、「内政不干渉の原則を守り、途上国の共通の利益を擁護したい」と強調した。
「地域の安全や広範な途上国、新興国の共通利益を守る必要がある」。プーチン氏との会談でこう訴えた習氏は、ロシアと連携し、米国と異なる価値観を持つ発展途上国をまとめ上げていく考えとみられる。
●ロシア、途上国に無償で肥料提供の用意=プーチン氏 9/16
ロシアのプーチン大統領は、ウズベキスタンで開催された上海協力機構(SCO)首脳会議で演説し、欧州が対ロシア制裁の一段の緩和に合意すれば、欧州の港に滞留しているロシア産肥料30万トン以上を途上国に無償で提供する用意があると述べた。
プーチン氏は欧州がロシアの肥料輸出を妨げている制裁を「部分的に」しか解除していないと指摘。欧州連合(EU)がロシアの輸出品の輸送に対する一部の制裁を緩和したことは歓迎するが、EUは加盟国のためだけに「身勝手に」制裁を解除していると非難した。
同氏は「ロシア産肥料を購入できるのは彼らのみだ。途上国や世界の最貧国はどうなるのか」と述べた。
●IAEA評議会がロシアに占領の中止求める決議 9/16
国際原子力機関(IAEA)理事会は15日、ロシアに対してウクライナ南部ザポロジエ原発の占拠を中止するよう求める決議を採択した。欧州連合(EU)や日米韓など42カ国は8月、ロシア軍が原発から即時撤退するよう共同声明を出していたが、国際機関も続いた形だ。
欧米メディアによると、35カ国で構成する理事会のうち、決議案には26カ国が賛成、ロシアと中国の2カ国が反対し、インド、パキスタン、エジプト、ベトナムなど7カ国は棄権した。
決議では、ザポロジエ原発と他の核施設に対するあらゆる行動を即時に停止するようロシアに要請。併せて「ウクライナの核施設に対するロシアの執拗な暴力を非難する」とし「原発の占領が事故のリスクを高めている」と指摘した。
一方、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナが核武装をもくろんでいる」と主張。ザポロジエ原発周辺で起きる砲撃や火災は「ウクライナの仕業であることは明白」と述べている。
●ロシア天然ガスを中国へ パイプライン建設で合意 9/16
中国、ロシア、モンゴルはロシアの天然ガスを中国に運ぶパイプラインの建設を進めることで合意しました。
中国外務省によりますと、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、モンゴルのフレルスフ大統領が15日会談し、ロシアの天然ガスをモンゴル経由で中国に運ぶパイプラインの建設を進めることで合意しました。
ウクライナ侵攻後、ヨーロッパ諸国に代わり中国がロシアの天然ガスを購入するなど経済的に中国がロシアを支える構図となっていますが、今回の新パイプライン建設により、その関係性がより一層深まることが予想されます。
このほか、3か国は経済や金融などの分野での協力を深めることでも一致しています。

 

●なぜプーチンは8割の国民に支持されるのか…「愛国心」が生み出される背景 9/17
なぜロシア国民はプーチン大統領を支持しているのか。元外交官の亀山陽司さんは「ロシア国民は、ロシア正教会の神に守られた『ロシア』という国家を信仰している。プーチンを支持する理由は宗教事情と密接に関係している」という――。
なぜロシア人はプーチンを支持し続けるのか
ロシア軍によるウクライナ侵攻は長期化の様相を見せ、ウクライナは粘り強い抵抗を続けている。その影響で石油や天然ガス、食品の価格が高騰。世界経済は深刻な物価高に直面することになった。
米国もNATOも長期戦を覚悟し、8月末にはプーチン大統領が軍の拡充のための大統領令を発出した。ウクライナは東部や南部をロシア軍に占拠され、女性や子供たちは国内外に避難している。ロシアも軍事面で多大なコストと人命の損害を出している。
このような悲惨な実情を前にしても、渦中のロシア国民はこの戦争や、プーチン大統領に対する支持をし続けている。
ロシアの世論調査機関「世論基金」によれば、プーチン大統領の支持率は、ウクライナ侵攻前には60%前後だったが、侵攻後は80%前後で推移している。同じく世論調査機関であるレヴァダセンターによれば、ウクライナにおける「特別軍事作戦」について、今なお約80%の人が支持している。
また、ロシア国民の約60%は、ウクライナの惨状に個人的には道義的責任を感じていないとの調査結果が出ている。つまり、ロシア国民の多くは、ロシアのウクライナ侵攻を自分たちの責任と感じることなく、軍事行動自体を支持しているというわけだ。
政府の立場を人々が共有する土壌
これは、ロシア国民の大半が、ロシアのウクライナにおける軍事行動は「正当なもの」であると感じていることを意味する。
実際、4月末のレヴァダセンターの世論調査によれば、ウクライナの惨状の責任は米国とNATOにあると答えた人が実に57%、ウクライナ自身にあると答えた人が17%、ロシアにあると答えた人は7%であった。
要するに、ロシアは米国やNATOによる脅威に対抗するためにウクライナに侵攻するほかなかったというロシア政府の立場を共有しているということである。
これが、ロシア国民が隣国への侵攻というロシア政府の暴挙を支持する一つの答えなのであるが、問題は、なぜロシア国民は政府の立場を共有するのか、という点にある。それがわからない限り、この紛争を理解することはできないだろう。
ロシア人の戦争観
拙著『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』(PHP新書)でも詳しく解説したが、ロシア国民の立場を理解するためには、ロシアにおいて支配的な考え方、ロシアン・イデオロギーと呼ぶべきものについて考察することが必要である。
まずロシア人にとっての戦争とはどのようなものなのかを考えてみたい。
我々日本人は第2次世界大戦、連合国による占領を経験して、平和を掲げる国家として再生した。従って、戦争は国際紛争を解決する手段としては放棄するとの立場をとっている。また、国連も平和と安全を守るという目的を持ち、武力行使を原則的には禁じている。日本では戦争は決して起こしてはならないものだという認識が一般的となっている。
しかし、ロシアでは若干事情が異なる。
もちろん、ロシアでも戦争は望ましいものではなく、できることならば避けたいと考えていることに変わりはない。第2次世界大戦でソ連が被った人的損害は2000万人以上といわれ、文字通り桁違いの犠牲者を出しているのである。
それでもロシア人は、日本人のように戦争をタブー視していない。それを示す好例が、法律によって定められた19に上る「軍事的栄光の日」だろう。
法的に刻まれ、受け継がれてきた
それは、13世紀のドイツ騎士団との戦いから始まり、14世紀のモンゴル・タタールとの戦い、18世紀のスウェーデンとの大北方戦争、二度にわたるロシア・トルコ戦争、19世紀のナポレオンとの戦い、クリミア戦争、そして第2次世界大戦の主要な戦闘まで続く長いリストだ。中には、対日戦争勝利に関する「第2次世界大戦終了の日」もある。
このようにロシア史における数々の戦争は法的にも記憶されているのである。
戦争は多大な犠牲を伴うが、それは祖国の防衛という輝かしい行為でもある。従ってそれは記憶され、語り継がれ、追体験されなければならない。そうすることによって、ロシアという国の偉大さと誇りを受け継いでいかなければならない、ということだ。
こうした戦争観は、ロシアの国家観と密接に結びついている。
専制、ロシア正教会、国民性の3本柱
近代的なロシアの国家観は19世紀の前半期に、特にニコライ1世(在位:1825〜55)の治世に形成されていった。それは、ロシア・ナショナリズムと皇帝専制主義との結合を特徴とするイデオロギーである。
ヨーロッパではフランス革命に端を発するリベラリズムの思潮が勢いを見せている中、ロシアはそうした動きを武力介入も辞さない構えで牽制したため、ニコライ1世は「ヨーロッパの憲兵」と恐れられた。
ニコライ1世はヨーロッパ的な価値よりもロシア的な固有の価値を重視した。そのイデオロギーは、専制、ロシア正教会、国民性(ナロードノスチ)の3本柱である。
専制というのは、皇帝権力の絶対性を擁護し、皇帝権力はなにものにも制約されないということである。また、ロシア正教会は、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)からロシアが受容したキリスト教であり、西ローマ帝国からヨーロッパが継承したカトリック、そしてそこから派生したプロテスタントとは異なる流れである。国民性というのは、専制と正教会への全面的献身こそがロシア国民の国民性であるという考え方である。
こうしたニコライ1世の時代の国家的なイデオロギーは、実は現代のロシアにもある程度通じるものがある。
ロシア革命によって皇帝はいなくなったが、専制的な強権政治はソ連時代も現代ロシアでも同じだ。そして、先の世論調査に見たように、ロシア政府の立場を支持しているロシアの国民性にも共通点があることがわかるだろう。
愛国心が無尽蔵に生み出されるカラクリ
また、正教信仰もソ連崩壊とともに輝かしい復活を遂げ、今や正教会はプーチン政権と一体となっている。
正教会は同じキリスト教でもカトリックやプロテスタントとは色合いが違う。カトリックにおけるローマ教皇のような普遍的な権威はなく、あくまでもロシア正教会のトップである「モスクワおよび全ルーシの総主教」がトップである。
カトリックの普遍主義とは異なり、土着主義であり、民族教会を基本としている。民族教会の自治独立権が尊重され、民族語での礼拝が認められていた。ロシアの正教徒は他の総主教ではなく、あくまでもロシアの総主教に従うのである。このように正教会はそもそもナショナリズムと結びつきやすい土台を持っていると言える。
政権支持の背景にある「ロシアに対する信仰」
実はロシア国民が信じているのは、プーチンという個人でもなければ、なおさら政府でもない。また、一般的で普遍的なキリスト教の神というのでもない。それは、ロシア正教会の神によって守られた「ロシア」という国家なのである。
ロシアに対する信仰、これがロシアの国民性の根幹にある。ナショナリズムに裏打ちされたパトリオティズム(愛国主義)と言ってもいい。このロシアへの信仰の中身は、次のようなものだ。
「ロシアは偉大な祖国である。ロシアは、国土、歴史、文化、そしてロシア正教によって形成された一つの文明圏であり、世界の命運の鍵を握る大国である」
このロシアという偉大な祖国を擁護し、発展させること。これがロシア国民の使命というわけだ。こうした国民性は、政権が変わったらなくなるというものではない。従って、プーチン大統領を引きずりおろせばロシアが変わるとは言えない。
プーチン大統領が支持されるのは、ロシアの偉大さを擁護するその姿勢が共感されるからなのである。
プーチンの圧政より、西側への敗北を恐れる
プーチン大統領はそのことをよく理解している。
プーチン大統領が2000年に大統領に就任する直前に発表した「千年紀の境にあるロシア」という論文には「ロシア的理念」という章がある。ここで、根源的で伝統的な価値観として、パトリオティズム、大国性、国家主義、そして社会的連帯を掲げている。
国家主義とは、強力な国家権力がロシアにとって必要だということであり、社会的連帯とは、個人主義よりも集団的形態が優先されており、個人の努力よりも国家による支援が求められているということである。ここからロシアには強力な国家権力が必要だと結論付けている。
確かに、ロシア政府は言論の自由に制限を加えている。政府はウクライナでの戦争を「特別軍事作戦」と呼ぶことをメディアに強制しており、例えば昨年のノーベル平和賞を受賞したメディア「ノーバヤ・ガゼータ」紙は「作戦」に批判的であるとして活動停止に追い込んだ。
しかし、現時点でロシア国民が恐れているのは、プーチン政権による「圧政」ではなく、米国やNATOといった西側勢力に再び「敗北」することである。
ロシア人が重視する「誇り」と「偉大さ」
米政府は、プーチン政権はロシア国民の敵であると主張することで、ロシア国民の政府からの離反を期待しているが、世論調査の結果が示すとおり、ロシア国民にとっては、敵でありウクライナの惨状の責任者であるのは、米国でありNATOなのだ。
ロシア軍はウクライナ軍と戦闘はしているが、戦っている相手はウクライナというより、背後にいる米国とNATOということになる。
親露派であるドンバス地域やヘルソン州、ザポロージエ州を制圧することで、ロシアが取り戻しているのは歴史的な領土(18世紀のエカテリーナ2世の時代にオスマン帝国との戦争でロシア帝国が獲得した領土)なのではなく、冷戦での「敗北」で失った「誇り」、そしてロシアの「偉大さ」に他ならない。
米国とNATOがウクライナを明確にバックアップし続ける限り、こうしたロシア国民の認識を変えることは難しい。
●ゼレンスキー氏、戦争犯罪を非難 東部集団墓地で遺体450人確認 9/17
ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、ロシア軍から奪還した北東部で民間人ら多数の遺体が発見されたことを受け、ウクライナ市民への拷問や戦争犯罪を非難した。
ゼレンスキー大統領はロイターとのインタビューで「現時点で450人の遺体が埋葬されていることが確認されたが、他の場所にも多くの人が埋葬されている。拷問を受けた人々や、家族全員のケースもある」と語った。
戦争犯罪の証拠はあるかという質問に対しては「一定の証拠があり、ウクライナや国際チームによる調査が行われている。世界がこの状況を認識することがわれわれにとり非常に重要だ」と応じた。
東部ハリコフ州知事は16日、同州イジュムで見つかった集団墓地の一つから、手を後ろに縛られた遺体が発見されたと明らかにした。
ゼレンスキー大統領はまた、戦争の終結は迅速な武器供給にかかっているとし、主要各国にウクライナへの武器供与を拡充するよう改めて要請した。
ウクライナ軍が攻勢を増し、ロシア軍が掌握した地域を奪還していることを称賛しつつも、約7カ月となる戦争の流れが変わったと断言するのは性急とし、「戦争の終結に関し話すことは時期尚早だ」と慎重な見方を示した。
●印首相、ウクライナ侵攻を公に批判 「今は戦争の時でない」 9/17
インドのモディ首相は16日、ロシアのプーチン大統領と訪問先のウズベキスタン・サマルカンドで会談し、「今は戦争の時ではない」と述べ、約7カ月に及ぶウクライナ侵攻について公に批判した。
プーチン大統領はモディ首相の発言に対し、口をすぼめ、モディ氏に視線を向けた後下を向いた。そして「ウクライナ紛争に関するインドの立場や懸念は理解している」とした上で、「われわれは可能な限り早期の停戦に向け全力を尽くしている」と言明した。ウクライナが交渉を拒否したとも述べた。
プーチン大統領はこれまで、西側諸国と対立しているものの、中国やインドなどアジアの大国に目を向けることができるため、ロシアは孤立していないと繰り返し述べていた。
15日に行われた中国の習近平国家主席との会談では、プーチン大統領はウクライナ情勢を巡る中国側の疑問や懸念を理解しているとし、ウクライナ戦争に対する中国の懸念に初めて言及した。さらに、習氏の「バランスの取れた姿勢を高く評価している」と述べた。ウクライナ戦争に対する中国の懸念に言及するのは初めて。
また、習氏は16日、当地で開かれている上海協力機構(SCO)の首脳会議で演説し、旧共産圏で発生した民主化運動「カラー革命」が外国勢力の扇動によって引き起こされることがないよう、加盟国は協力する必要があると訴えた。
●プーチン大統領 インド首相と会談 “一刻も早く終結へ尽力”  9/17
ロシアのプーチン大統領とインドのモディ首相が会談し、モディ首相はウクライナ情勢をめぐり「今は戦争の時代ではないと思う」と、率直に懸念を伝えました。
これに対してプーチン大統領は、「一刻も早く終結させるため全力を尽くす」と述べたものの、停戦交渉を拒否しているのはウクライナ側だと主張し、侵攻を継続する構えを崩していません。
プーチン大統領とモディ首相は、中央アジアのウズベキスタンで16日、首脳会談を行いました。
対面での会談は、ロシアがウクライナに軍事侵攻して以降、これが初めてです。
会談の冒頭、モディ首相は「今は戦争の時代ではないと思う。民主主義、外交、対話こそ、われわれが平和の道をどのように進むのかを世界に示す手段だ」と、率直に懸念を伝えました。
インドはロシアの伝統的な友好国で、これまでウクライナへの軍事侵攻を直接的には非難してこなかったことから、今回、モディ首相がプーチン大統領に直接、懸念を伝えたことは異例と受け止められています。
これに対してプーチン大統領は、「あなたの懸念は承知しており、一刻も早く終結させるため全力を尽くす」と述べました。
その一方で、「ウクライナの指導者が交渉を拒否し、軍事的な手段で目的を達成したいと表明している」と主張し、侵攻を継続する構えは崩しませんでした。
●米、中ロの「足並み」けん制 サハリン2に否定的―ドンフリード国務次官補 9/17
ドンフリード米国務次官補(欧州・ユーラシア担当)は15日、時事通信の単独インタビューに応じ、ロシアのプーチン大統領と会談した中国の習近平国家主席に対し「ウクライナに全面侵攻したロシアと足並みをそろえないことが重要だ」とけん制した。また、制裁に苦しむロシアに中国が軍事支援を提供しないよう注視していくと述べた。
ドンフリード氏は、ウクライナ情勢をめぐり「中国側とさまざまなレベルで対話を継続し、ロシアの行動が根本的に間違っていると明確にしてきた」と説明。「これはウクライナの存立、世界の安定と主権、領土保全の原則に関わる問題だ」とも強調した。
ウクライナ軍が今月に入って北東部ハリコフ州などで攻勢に転じたことについては、「この目覚ましい成功は、ウクライナ人が数カ月の間に示してきた勇気と立ち直る力のたまものだ」と称賛した。
一方、戦争終結への出口戦略に関しては「(ウクライナの)ゼレンスキー大統領とバイデン大統領は、ウクライナがロシアとの交渉のテーブルに着いたとき、できるだけ強い立場にいることがその方法だと明言している」と指摘。ただ「現時点でロシアは誠実な交渉に関心を示していない」と述べた。
日米欧の先進7カ国(G7)は、ロシア産石油の取引価格に上限を設ける追加制裁を導入する方針で合意している。ドンフリード氏は「対ロシアでの日本の協力に多大な感謝を表する」としつつも、日本企業が参画するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」について「ロシアの行動は、エネルギーに関し信頼できるパートナーでも供給者でもないことを示し続けている」と否定的に言及した。
さらに「プーチン氏がエネルギーの供給で戦争資金を調達するのを阻止し、エネルギー価格の高騰も抑えなければならない」として、ロシアを一層の孤立に追い込むことが非常に重要だと念を押した。
●習近平はどうして「死に体」プーチンとの連携を強化するのか 9/17
ウラジーミル・プーチン露大統領と中国の習近平国家主席は15日、ウズベキスタンで開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせて会談し、「中露の友情」と包括的・戦略的協力パートナーシップを改めて強調した。中露首脳が対面方式で会談するのは北京冬季五輪に合わせた2月以来で、ロシアによるウクライナ侵攻後は初めて。
ロシア軍がウクライナの占領地域から潰走、その跡から440遺体を超える集団墓地が見つかるなど残虐行為がさらに浮き彫りになる中、習氏が敢えてプーチン氏と会談した理由は何なのか。ロシア大統領府の発表によると、プーチン氏は会談冒頭、「ウクライナ危機に関する中国の友人のバランスの取れた立場を高く評価している」と習氏に感謝の意を伝えた。
しかし戦局の混迷に「中国の疑問や不安は理解できる。この問題に関するロシアの立場を詳しく説明する」と取り繕った。ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台をきっかけに緊迫する台湾情勢について「ロシアは『一つの中国』の原則を堅持している。台湾海峡における米国とその衛星国の挑発を非難する」と中国の立場を支持した。
プーチン氏は「一極集中の世界を作ろうとする試みは醜く、圧倒的多数の国家にとって容認できないものだ」とする一方で、「昨年、中露の貿易額は35%増加し、1400億ドルを突破した。今年に入ってからの7カ月間で2国間貿易はさらに25%増加した。近い将来、貿易額を2000億ドル以上に増やせると確信している」と経済関係の強化に胸を張ってみせた。
習氏「相互の核心的利益に関わる問題で相互支援を拡大する」
中央アジアに一帯一路の一部である「シルクロード経済ベルト」を構築したい習氏は「歴史上前例のない地球規模の急激な変化に直面し、中国はロシアの仲間とともに責任あるグローバルパワーとしての範を示し、世界を持続可能な発展の軌道に乗せるために指導的役割を果たす」「相互の核心的利益に関わる問題で相互支援を拡大していく」と応じた。
中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」は「中露関係は歴史上最高の状態にある。首脳会談は2国間関係の着実な発展のための保証であり、中露関係が外部の雑音に影響されないことを示すものだ。中露を政治的・軍事的に結びつけて他の世界との間に楔を打ち込もうとする米欧の試みに対しても中国は警戒を強めている」という専門家の見方を伝えた。
「ロシアのウクライナ侵攻前、米欧は中露の接近を恐れて、その間に楔を打ち込もうとした。侵攻後は中露を一つの陣営とみなして国際社会と対立させようとしている。中国は自主外交を堅持し、ブロック対立やいわゆる同盟に反対している。中露関係はウクライナ紛争や(冷戦マインドの)米国の封じ込めに対応したものではない」との分析も紹介している。
環球時報は論説で「中露の包括的・戦略的協力パートナーシップは『非同盟、非対立、いかなる第三者も標的にしない』という原則に基づいている。中露はいわゆる反米同盟を形成したわけではない。米国はインド太平洋版NATO(北大西洋条約機構)を作ろうとしている。覇権主義に反対しながら、米欧の政治的なウイルスに抵抗するために団結した」と非難した。
プーチン亡き後のロシア
ウクライナ戦争は、わずか2〜3日のうちにキーウを陥落して親露派政権を樹立するというプーチン氏の所期計画が破綻、士気が低いロシア軍は北東部ハルキウや南部ヘルソンでウクライナ軍に戦術的な敗北を喫している。プーチン氏はまさに「死に体」である。
米コンサルティング会社ウィキストラットは8月、プーチン氏が死亡した場合、ロシアがどうなるかというシミュレーションを実施している。
ロシアが西側に回帰するという劇的な戦略転換がない限り、ロシアの中国依存度は時間とともに高まるという点で参加した23カ国の専門家56人の見方は一致した。ウクライナ戦争がいくら長引いても中国は漁夫の利を得る。制裁が西側へのロシア産原油・天然ガス輸出に重大な影響を与えるため、ロシアは貿易面で中国に頼らざるを得なくなるからだ。
ウィキストラット社の報告書は「プーチン氏が死んでもロシアの戦争継続の決断に影響を与えるとは考えられない。プーチン氏の後継者が2014年にウクライナから奪取した領土について妥協することもないだろう。短期的には政権の安定が唯一の目標になる。ロシアの外交政策は他の利益や目標より体制の安定確保を優先させるだろう」と予測している。
報告書は「中国はプーチン氏の死を南シナ海でより積極的な政策を追求する好機とみるかもしれない。習氏は権力掌握と政治的抑圧をさらに強める可能性がある」「プーチン氏の後継者は北コーカサス、ヴォルガ地方や近隣諸国の緊張に対処しなければならない。新政権はモスクワとの関係を再定義しようとする国々にタカ派的な戦略を取る可能性が高い」という。
北朝鮮化するロシア
中国については「ウクライナ戦争が継続すれば、プーチン氏の後継者は中国からエネルギー価格の引き下げを迫られる可能性が高い。中国はプーチン氏の死とそれに伴う不安定な状況を自国の経済的立場を強化する好機ととらえるだろう」と分析する。ロシアは、中国に従属する北朝鮮の状況にますます似てきていると指摘する専門家さえいた。
『モスクワ・ルール ロシアを西側と対立させる原動力』の著書があるロシア研究の第一人者で、英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)上級コンサルティング研究員のキーア・ジャイルズ氏はシミュレーションの中で「ウクライナ戦争の行方がどう転んでも中国の利益になる」と話している。
ウクライナで早期和平が実現した場合、世界は安定と予測可能性を取り戻し、ロシアとの包括的・戦略的協力パートナーシップが軌道に乗り、中国に経済的利益をもたらす。戦争が継続すれば、ロシアの経済力・軍事力が弱体化し、ロシアがウクライナに侵攻したように、中国がロシアとの現・国境線の「歴史の過ち」を正す日が近づいてくることになる。
米欧との対立が深まる習氏にとって太鼓持ち役を担ってくれるプーチン氏ほどありがたい存在はいない。体制を維持する上でもプーチン氏は強力な盾になってくれている。
しかし「ロシアの国際秩序に対する破壊的な影響力が中国自身の政治的、経済的利益を侵害し始めたと認識すれば、中国は現在の立ち位置から一歩前進せざるを得なくなるかもしれない」とジャイルズ氏は指摘する。
●ウクライナの反撃、ロシアの計画を変えはしない=プーチン氏 9/17
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は16日、ウクライナの最近の反転攻勢について、ロシアの計画を変更するものではないと述べた。この件で公式にコメントしたのは初めて。
ウクライナ軍は、北東部ハルキウ州で6日間のうちに、領土8000平方キロメートル以上をロシアから奪還するという、驚異的な結果を出したとしている。
プーチン氏はこの日、ウズベキスタンで上海協力機構(SCO)首脳会議に臨んだ後に会見。ウクライナの反攻に慌ててはいないとし、東部ドンバス地方でのロシアの攻勢は順調なままだと述べた。
また、「ロシア軍は全軍が戦っているわけではないことを指摘しておく。(中略)職業軍人しか戦っていない」と説明。
「ドンバスでの私たちの攻勢は止まっていない。あまり速いペースではないが前進している。徐々に獲得領土を広げている」とした。
そして、ウクライナが攻撃を続ければ、「より深刻な」対応を取ると威嚇した。
工業地帯のドンバス地方は、ロシアによる侵攻の焦点となっている。プーチン氏は、ロシア語を話す住民を集団虐殺から救うために攻め込む必要があると、誤った主張をしている。
ドンバス地方の一部は2014年以降、ロシアの支援を受ける分離派が支配している。ウクライナが最近反撃を見せているハルキウ州は、ドンバス地方には含まれない。
兵士募集に苦労か
ロシアが支配地を失っていることを受け、ロシアの政府寄りの論者たちからは、より多くの兵士を動員すべきだとの声が出ている。
最近流出した動画には、ロシアの民間軍事会社が囚人を採用しようとしているとみられる様子が映っている。これは、ロシアが兵士の募集に苦労していることを示唆している。
プーチン氏は2月に侵攻を開始してから、ほとんどロシアを離れていない。今週、SCO首脳会議に出席し、中国の習近平国家主席と会談したことは、西側諸国から見放されたプーチン氏が、アジア諸国との関係強化を必要としていることを浮き彫りにした。
ただ、SCOに集った指導者らも、ロシアの侵攻への懸念を表明した。
インドのナレンドラ・モディ首相は、「今は戦争の時ではない」とプーチン氏に伝えた。
前日には、プーチン氏が中国の習氏に対し、「あなた方の疑問や懸念は理解している」と発言。習氏がロシアの侵攻を支持していないことをほのめかした。
●プーチン大統領 ウクライナ軍反転攻勢でも東部侵攻継続の考え  9/17
ロシアのプーチン大統領は記者会見で、ウクライナ軍の反転攻勢について「どのような終わりを迎えるか見てみよう。われわれの作戦の主要な目標は、東部ドンバス地域の解放だ」と述べ、侵攻を継続する考えを改めて示しました。
中央アジア・ウズベキスタンのサマルカンドでは、中国とロシアが主導する枠組み、上海協力機構の首脳会議が16日まで行われ、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領、それにインドのモディ首相などが参加しました。
このうちプーチン大統領は、首脳会議の全体会合で「上海協力機構は世界最大の地域の枠組みであり、国際的な問題解決への役割が大きくなっている」と述べ、欧米への対抗軸として上海協力機構の勢力拡大を図りたい意向を強調しました。
プーチン大統領は全体会合のあと、一部のメディアを集めて会見し、「欧米側は何十年にもわたって、ロシアを崩壊させるという考えを培ってきた。そのために欧米側はウクライナを利用し、これを防ぐために特別軍事作戦が始まった」と主張し、軍事侵攻を重ねて正当化しました。
そのうえで、「ウクライナは活発な反撃作戦を開始すると発表したが、どのような終わりを迎えるか見てみよう。特別軍事作戦の主要な目標は、東部ドンバス地域の解放だ。われわれは急いでおらず、本質的に変わることはない」と述べ、侵攻を継続する考えを改めて示しました。
またウクライナ側との停戦交渉が暗礁に乗り上げていることについては、「ウクライナが何をしようとしているのか、わからない。彼らがほぼ毎日、立場を変えるからだ」と主張しました。
そのうえで、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談の可能性について「彼らが拒否している。第1の条件は彼らが同意することだが彼らは望んでいない」と述べ、交渉はウクライナ次第だとする主張を展開しました。
このほかプーチン大統領は、ロシア軍が掌握したウクライナのザポリージャ原子力発電所だけでなく、ロシア領内の原子力施設やその周辺に対しても、ウクライナ側がテロ行為を試みたと一方的に非難しました。
●「こわもて」プーチン氏、旧ソ連構成国に低姿勢外交…笑顔で出迎え  9/17
ロシアのプーチン大統領が16日閉幕の上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせ、ロシアが「勢力圏」と位置付ける旧ソ連構成国への影響力確保に腐心している。ロシアのウクライナ侵略以降、カザフスタンなどがロシアと距離を置く姿勢を見せているためだ。ここに来て、旧ソ連構成国同士の武力衝突も相次いで勃発し露軍主導の安全保障も揺らいでいる。
ロシア通信は、プーチン氏が15日、個別会談のため、キルギスのサディル・ジャパロフ大統領の到着を会場で待つ様子を収めた動画を配信した。プーチン氏は、遅れて到着したジャパロフ氏を満面の笑みで出迎えた。
今月8日に死去したエリザベス英女王を含め、世界各国の要人との会談に遅刻することで知られるプーチン氏だが、首脳会議が開かれたウズベキスタンの古都サマルカンドでは、旧ソ連構成国の首脳に対しても「平身低頭」の姿勢が目立つ。
15日に会談したウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領には、ロシアとの友好関係強化への功績をたたえ、勲章も授与した。
こわもてイメージの強いプーチン氏の腰が低いのは、ウクライナ侵略に伴いロシアから一定の距離を保とうとする「遠心力」が強まっていることが影響している。
代表格がカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領だ。6月に露サンクトペテルブルクで開かれた国際経済会議の全体会合にプーチン氏とともに出席したトカエフ氏は、ウクライナ東部の親露派武装集団が実効支配する地域を「正式な国家とはみなさない」と断言し、ロシアによる一方的な国家承認を批判した。トカエフ氏は中国や欧州との関係強化を模索する動きを活発化させている。
旧ソ連構成国の情勢も不安定化している。タス通信などによると14日以降、タジキスタンとキルギスの国境地帯では両国の国境警備隊員らによる衝突が続いている。米政策研究機関「戦争研究所」は15日、情勢不安定化の要因に関し、ロシアが両国の露軍基地に配置していた兵士をウクライナ戦線に投入したことが影響しているとの見方を示した。
ロシアの同盟国アルメニアと、アゼルバイジャンの国境地帯でも最近、大規模な軍事衝突が発生した。ロシアがウクライナ侵略に集中している隙をついて、トルコを後ろ盾にするアゼルバイジャンが仕掛けたとの見方が根強い。米国のナンシー・ペロシ下院議長が近くアルメニアを訪問すると取りざたされており、旧ソ連構成国を巡る影響力争いが激しくなっている。
●プーチン、東部制圧の目標「修正はない」…「戦果は急がない」と長期戦決意 9/17
ロシアのプーチン大統領は16日、訪問先のウズベキスタン・サマルカンドで記者会見し、ウクライナの侵略作戦に関し、ウクライナ軍の反転攻勢を受けても、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の全域制圧を目指す目標の「修正はない」と表明した。
上海協力機構(SCO)の首脳会議閉幕後、記者会見に臨んだプーチン氏は、ドンバス地方の制圧に向けた「露軍の攻勢は続いている」とも語った。「ペースは遅いが占領地域は拡大している」と主張した。
露軍はウクライナ軍の反攻で、ドネツク州に隣接するハルキウ州の占領地域の大部分を失った。プーチン氏の一連の発言は長期戦を前提に侵略を続ける決意を表明したものだ。
プーチン氏はウクライナでの戦闘に参加しているのは「露軍の一部にすぎない」と指摘し、戦果も「急がない」と述べた。「反攻が最終的にどうなるのか見てみよう」とも繰り返した。反攻への露軍の対応は「非常に抑制的だ」と説明し、「深刻な対応」に変わる可能性を警告した。発電所など生活に直結する重要施設への攻撃を強化する予告との見方が出ている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との直接会談については「ウクライナが拒否している」として否定した。
プーチン氏は記者会見に先立ち、トルコのタイップ・エルドアン大統領と会談した。会談では、ウクライナ産穀物の海上輸出に関する合意の見直しが議題になったとみられるが、プーチン氏は記者会見で、具体的な方向性に踏み込まなかった。国連がロシア産の肥料原料の輸出促進を後押しする姿勢を見せたことが関係している可能性がある。
●ウクライナ 奪還した街の集団埋葬地を捜査 拷問の証拠も 9/17
ロシア軍が撤退したウクライナ北東部ハルキウ州の重要拠点イジューム。そこで見つかった集団埋葬地の多数の遺体について捜査が行われました。
ウクライナ当局は16日、イジュームで見つかった集団埋葬地の捜査を始めました。
これまでにおよそ400の遺体が埋められているとしていますが、現場に同行したハルキウ州知事は、「子供の遺体も多い。後ろ手に縛られていた死体もあった」としています。
これについてゼレンスキー大統領は、以前400人以上が殺害されたとみられる首都キーウ近郊のブチャを引き合いに、「拷問の証拠がある。ロシアはブチャで行ったことをイジュームで繰り返した」としてロシアを厳しく非難。また国連が現地へ調査団を派遣する準備していると明かしました。
●ロシア軍、将兵不足埋めるため士官学校の卒業前倒し 9/17
ウクライナ軍参謀本部は17日までに、ロシア軍は下級将校の不足を埋めるため一部の士官学校の卒業時期の前倒しを実施していると主張した。
これら士官学校には黒海高等海軍学校などが含まれるとした。欧米の軍事専門家らはこれまで、ウクライナに侵攻したロシア軍は司令官級あるいは兵士の補充に苦労し、様々な対応策をこらしていると指摘してきた。
ウクライナ軍参謀本部によると、ロシア軍内の戦術レベルでの司令官の不足は最近のウクライナ戦況などを受け予備役士官が軍務契約への署名を拒んでいるのも原因となっている。
ロシア軍兵士の士気や精神状態も低下し続けていると主張。休暇を終えた兵士が所属部隊に復帰しない事例も相当な数に達していると述べた。
●ハルキウ州から撤収急いだロシア軍、大量の装備品失う 9/17
ウクライナ軍参謀本部などは17日までに、同国北東部ハルキウ州からロシア軍が大規模な撤収を急いだ際、失ったり、放棄したりした軍装備品は数百規模に達すると報告した。
その量の特定は難しいとしたが、置き去りなどされたのは戦車や装甲車両も含む。専門家は、保有していた戦車の半数を失ったかもしれない戦車師団の存在も指摘。慌ただしく撤退したロシア軍が放置した戦車などを映した画像や動画も最近、多数出回っていた。
ウクライナ軍参謀本部は、今月6日からの1週間で破壊したロシア軍の装備は590と主張。戦車86両、装甲戦闘車両158両、砲門が106丁や車両159台などとした。
CNNはこれら数字を独自に確認出来ていないが、独立系のメディア「オリックス」は今年8月に比べ、ロシア軍の損害が大きく増加したことは立証出来ると説明。これら打撃の大半はハルキウ州で受け、南部ヘルソン州や東部ドネツク州でも生じたとした。同メディアはウクライナ侵攻が始まって以降、ロシア軍の損害などを照合する作業を続けている。
オリックスによると、今月11日の1日で破壊や損壊を受けたほか、捕獲もされていたロシア軍の装備は計102。戦車23両、装甲兵員輸送車13両に歩兵戦闘車両25両などだった。ロシア軍は翌日、さらに99を失ったともした。
これらは確認などが可能な損害のデータ分のみとなっており、実際の数字ははるかに多いともみている。
9月の第2週を対象にしてまとめた移動平均値によると、ロシア軍が1日あたり失った装備は平均で60以上。8月の最終週では約15だった。60以上との数字は、今年5月にウクライナ・ドネツ川の渡河を複数回図り無残な結果に終わった作戦以降では最も高い喪失率となった。
半面、ウクライナ軍が9月第2週で被った装備の損失は約10で推移していた。
ロシア軍がなくした装備の一部は、同国の正規軍ではなく、ウクライナ東部ルハンスク州で親ロシア勢力が名乗る「人民共和国」の民兵組織のものともみられる。これらの装備は旧式の可能性があるが、相当な数の最新型の兵器もあったという。
位置情報が確認された画像は、多数の改良型のT80型戦車が破壊などされた姿も示していた。地雷除去用の車両や装甲兵員輸送車の残骸も収められていた。
英ロンドン大学キングズカレッジで戦争研究に当たる軍事アナリストはSNS上で、2連隊を指揮下に置くロシア軍第4戦車師団がハルキウ州の要衝イジュームでの直近の敗北に伴う損害に言及。1連隊が持つ改良型のT80U型戦車のほぼ全部、あるいは同師団に属する予備の分も含めない全戦車の半分を奪われたとも分析した。
ロシア軍はこのほか、敵の火砲の位置を追跡する対砲兵レーダーも失った。ウクライナ軍兵士がハルキウ州で捕獲した短距離用地対空ミサイルを示す動画も流れた。また、性能に問題がないとみられるロシアのドローン(無人機)も回収していた。
ロシア軍がこれら装備を捨て去った理由について一部の専門家は燃料不足との見方を示した。
米シンクタンク「戦争研究所」は、非常に慌ただしく実行されたロシア軍の撤収は組織的な手法を講じられなかったことを意味すると指摘。今回の撤収に伴いロシア軍がこれほど多くの兵器や装備を失ったことは、ルハンスク州での同軍の戦力編成や新たな防衛ラインの構築を困難にする可能性もあるとした。
●プーチン大統領 反撃認めるも“新たな領土を獲得していく”  9/17
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ軍による反撃を受けていることを認めつつも「ゆっくりと、しかし一貫して、ロシア軍は新たな領土を獲得していく」と述べ、あくまで侵攻を継続する考えを強調しました。
ウクライナ東部でウクライナ軍が反転攻勢を続ける中、イギリス国防省は17日の分析で「ロシアはドンバスの支配地域を失わないために頑強な防衛を試みるだろうが、前線部隊に余力や士気があるかは不明だ」という見方を示しました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は16日、上海協力機構の首脳会議で訪れていたウズベキスタンで、一部のメディアを集めて会見し「ウクライナ軍は反撃を試みているが、われわれはドンバス地域での攻撃作戦をやめているわけではない。ゆっくりと、しかし一貫して、ロシア軍は新たな領土を獲得していく」と述べ、反撃を受けていることを認めつつ、あくまで侵攻を継続する考えを強調しました。
さらにプーチン大統領は、ウクライナ側がロシア領内でテロ行為を試みたとする主張を一方的に展開しながら「同じような事態が繰り返されれば、その答えはより深刻になる」と警告しました。
プーチン大統領としては、強気の姿勢を示すことで、ウクライナ側の反転攻勢に対して、ロシア国内で動揺が広がるのを抑えたいねらいがあるものとみられます。
●プーチン、「報復」砲撃を示唆 ウクライナがロ民間施設攻撃と 9/17
ロシアのプーチン大統領は16日、ウクライナ軍がロシア国内の民間インフラを攻撃していると主張し、「つい最近、ロシア軍はいくつかの攻撃を行った。これは警告と言える」と述べた。ウクライナ南部のダムや変電所への砲撃を指すとみられる。ウクライナの「テロ行為」が続けば「対応はより深刻になる」とも警告した。
ウクライナ軍は南部や東部のロシア制圧地域への反撃を強めており、インフラ施設を狙ったロシア側の「報復」が増加する可能性がある。
南部ヘルソン州の州都ヘルソンでは16日、ロシアが一方的に設置した「軍民行政府」が利用する建物で爆発があった。
●バイデン氏、プーチン氏の化学・核兵器使用をけん制 9/17
バイデン米大統領は16日、ロシアのプーチン大統領に対しウクライナでの戦闘の激化をあおる行動をけん制し、化学兵器あるいは核兵器の使用に踏み切った場合、相応の結果を招くだろうと警告した。
米CBSテレビとの会見で述べ、その内容の一部が16日に放映された。
バイデン氏はこの中で、化学兵器や核兵器の投入について「するな」の言葉を3回繰り返し、「第2次世界大戦以降、なかったような形で戦争の顔を変えるだろう」と主張した。
ロシアがこれら兵器を用いた際の米国の対応を問われ、当然の結果があるだろうとも指摘。「ロシアは今まで以上に世界でのけ者になるだろう。彼らがするであろう事柄の程度で対応の内容も決まる」と強調した。

 

●プーチン「参謀本部が決めている」…ハルキウ州での大敗、自身の責任回避 9/18
ロシアのプーチン大統領が16日、ウズベキスタンで臨んだ記者会見でウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の制圧を目指す方針の堅持を表明したのは、戦況の悪化で動揺する国内の沈静化を図る狙いがあった。プーチン氏は、軍部批判を強める強硬派に突き上げを食う形ともなっている。
「作戦の進め方は、軍参謀本部が決めている」
プーチン氏は記者会見で、一時はロシアへの併合の準備まで進んでいた東部ハルキウ州で露軍が大敗した責任は、自身にはないとアピールする発言が目立った。
大敗を受け、強硬派の批判は国防省や軍参謀本部に向いている。11日には、ウクライナに部隊を派遣している南部チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長がSNSへの投稿で「戦い方をすぐに見直さなければ、失敗を犯した国防省や軍参謀本部の指導層と談判する」と激烈な批判を展開したことが注目を集めた。
カディロフ氏はその後、地域ごとに「志願兵」を集め、計約8万5000人を追加派兵すると提唱し、ひとまず矛を収めた。強い忠誠を誓うプーチン氏の立場に配慮した可能性がある。
だが、強硬論はそれにとどまらない。最大野党・共産党のゲンナジー・ジュガーノフ議長も13日、政権が「特殊軍事作戦」だと主張している侵略が「全面戦争に発展した。戦争は最後まで戦わねばならない」と総動員の必要性を示唆した。
●中ロ首脳会談でくっきり、習近平がプーチンに見せつけた圧倒的立場の差 9/18
「一帯一路は沿線の国の国民に福をもたらす平和の道」
今回の外遊を総括した中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』(9月17日付)の記事のタイトルも、「ヌルスルタンからサマルカンドへ、総書記とともに見る『一帯一路』成功の実践」。長文の記事の書き出しは、こんな調子だった。
<2013年も金秋の9月だった。習近平主席は、カザフスタンのナザルバエフ大学で行った演説で、重要な発表をした。演説の中で、習近平主席は初めて、『シルクロード経済ベルト』をともに築こうと提唱したのだ。それから1カ月も経たずして、習近平主席はインドネシアで、『21世紀海上シルクロード』を共同で建設していこうと提唱した。一本の陸路と、一本の海路。世界の版図の上で、二本の道が中国を起点として、交通の大動脈として壮大に広がり、万里に延びて、千年の旧シルクロードが、再び世界の視野に現れたのだ。この9年来、理念は行動となり、壮大に描かれた『意図』は、精密な『工芸画』となった。『一帯一路』はまさに、沿線の国の国民に福をもたらす平和の道、繁栄の道、開放の道、緑色の道、創新の道、文明の道となったのだ>
続いて、9月14日から16日まで行われた習近平主席の外遊について、具体的に綴っている。習主席が、サマルカンドで開かれた第22回SCO(上海協力機構)メンバー国元首理事会(首脳会議)に出席したことや、カザフスタンとウズベキスタンを国賓として訪問したことなどだ。
習近平主席の功績を持ち上げる論調
そして結びは、以下の通りだ。
<現在まで、すでに140カ国余りの国が、『一帯一路』をともに建設しようという(中国の)提起に、加入しており、世界の3分の2の人口をカバーしている。『一帯一路』をともに建設することは、すでに沿線の各国の国民に福をもたらす大事業となっているのだ。中国が提唱した『一帯一路』は、スローガンや伝説ではない。成功した実践であり、精彩のある現実なのだ。歴史の指針であり、新たな方向を指し示すものなのだ。現在、世界は100年なかった大変局が加速して進んでいる。世界と時代と歴史の変化に直面して、『一帯一路』の重大な提唱をともに建設していくことは、まさに『時代の問い』に対する中国の答案なのだ>
以上である。言いたいことは、習近平主席が9年前にカザフスタンで提唱して始めた「一帯一路」は、中国と世界に平和と発展をもたらした正しい選択だった。そのような英明な指導者を、1カ月後の共産党大会で、3たび総書記に推戴しようではないかということだ。
首脳会談で見せたプーチンとの距離感
ちなみに、この長文の記事には、「普京」(プーチン)という2文字が入っていない。穿った見方をすれば、このロシア大統領の名前を入れると、「平和と発展の道」である「一帯一路」の名を汚すものとなってしまうと考えているかのようだ。
「中ロ、共同声明出さず 首脳会談、かりそめの結束」(『日経新聞』9月17日付1面トップの見出し)
まさにそのような感じの、9月15日午後の中ロ首脳会談だった。CCTV(中国中央電視台)は、41回目となる習近平・プーチン会談を映像入りで報じていた。だが、コロナ対策として十分なソーシャルディスタンスを取ったテーブルの配置が、かえって中ロの「距離感」を感じさせた。
向かって右手に座った習近平主席は、皇帝然として、笑顔の一つもなく、机上の紙に書かれたことを読み上げていた。対する左手に座ったプーチン大統領は、まるで追い詰められた狼のような苦悶の表情で、イラつきながら落ち着きなく聞いている。その両サイドに座った側近たちも、暗く俯いたままだ。
CCTVのアナウンサーは、両首脳は「核心的利益の相互支持を再確認した」と述べていた。これは、前回6月15日の両首脳のオンライン会談でも確認し合ったことだ。アナウンサーはその例として、「台湾は中国の不可分の領土」であることを挙げていたが、「ウクライナはロシアの不可分の領土」とは言わなかった。
プーチンへの冷淡な態度は「総書記3選」への仕掛け
今回の外遊は、習近平主席にとって、重ねて言うが、「来たる党大会に向けて、『一帯一路』という自らの外交実績を中国国内に見せつける旅」だった。これに対して、プーチン大統領にとっては、「ウクライナ戦争の苦境を中国に救ってもらいたい旅」だった。両者には、はじめから齟齬があったのである。
習近平主席にとっては、もう一つ、8月前半の「北戴河会議」(共産党の非公式重要会議)の影響もあったことだろう。前任の胡錦濤政権と、その前任の江沢民政権の時代の長老(引退幹部)たちは、明らかに習近平総書記の「3選」に反対している。
その表向きの理由は、国内の経済運営に失敗したことと、あまりに「プーチンべったり」の外交に傾斜したことだ。このままでは中国は「第二のロシア」と化し、世界から孤立して経済が失速すると懸念しているのだ。
そのため習近平主席としては、長老たちに向けて、「プーチンべったりではない」ことを示す必要があったというわけだ。こうした「長老対策」もまた、自らの「総書記3選」のためである。
今回の中ロ首脳会談は、9年半の習近平政権を経て、「中国>ロシア」というユーラシア大陸2大国の秩序が、今後定着していくことを予感させるものでもあった。プーチン大統領はつくづく、「愚かな戦争」を起こしてしまったものだ。
それでも、『日経新聞』が付けた名文句「かりそめの結束」のまま、今後も中ロ関係が展開していくかと言えば、私はそうも思わない。丸10年、習近平総書記の公の動向をウォッチしてきた私からすれば、今回の中ロ首脳会談には、「来月の党大会が終わるまで待っていてほしい」という習主席のプーチン大統領に対する「暗黙のメッセージ」が込められているように思えてならないからだ。
むしろ、かつてのヨシフ・スターリン書記長と毛沢東主席のような友好関係が、今後とも続いていくと思われる。当時の「ソ連>中国」という関係が、逆になってはいるが。 
●ウクライナ最大の攻勢、新長距離砲にロシア敗走  9/18
ウクライナがあらゆる場所で攻勢に出る
<南部と東部の同時反抗作戦により、ロシア軍は後手に回っている。ゼレンスキー大統領の顧問は「ロシア軍を崩壊させることができると思う」と言った>
ウクライナ軍は南部と東部の同時反攻作戦で約700平方キロ以上の領土を奪還した。ここ数カ月で最も重要な前進と言えるかもしれない。
東部ドンバス地方では数週間にわたり戦線が膠着していたが、ウクライナ軍は9月初めに国内第2の都市ハルキウ(ハリコフ)からロシア軍を押し戻し始め、重要な補給線の遮断にも成功しそうな勢いだ。
ウクライナは東のハルキウ方面と南のヘルソン方面の2正面で攻勢をかけ、ロシア軍は後手に回っている。
ウクライナのゼレンスキー大統領の顧問ティモフィー・ミロバノフは、「私の理解では、あらゆる場所で攻勢に出ている」と語る。
ここ数日のウクライナ軍の素早い前進は、ロシア軍を首都キーウ(キエフ)近郊から追い出して以来、おそらくこの戦争最大の攻勢だろう。そのスピードには一部のウクライナ政府高官も驚いている。
ウクライナ軍は9月8日、ハルキウ州の20以上の集落を奪還したと発表。攻勢が可能になったのは、一部にはアメリカの長距離砲のおかげだ。
「ロシア軍に打撃を与える新しい長距離砲に加え、お粗末なタイミングで兵力を再配置しようとしたロシア軍の薄い防衛線を突いた」と、スウェーデン国防大学のオスカー・ヨンソンは指摘する。
ウクライナ軍は今回の攻勢で、4月に奪われた要所イジュームの奪還と、補給拠点クプヤンシクの遮断も視野に入った。
ロシアのプーチン大統領は8月25日、1月以降の13万7000人の兵力増員を発表した。おそらくウクライナでの損耗を埋め合わせるためだ。
ウクライナ当局者は今回の攻勢で優位に立てている理由について、欧米から供与された多連装ロケットシステム(MLRS)の射程内にあるヘルソンにロシア軍がハルキウから増援部隊を送っている最中で、防御線が手薄になっていたためだろうとの見方を示した。
ロシアはハルキウ近郊の兵員に、普段は国内の治安を担当する「国家親衛隊」のような実戦経験の浅い部隊も補充していると、ウクライナ議会のオレクシー・ゴンチャレンコ議員は指摘する。
ロシアの兵員不足はもっと深刻だという見方もある。大統領顧問のミロバノフは、「ウクライナ東部には住民全員が補充兵にされた村もある。誰も残っていない」と語る。
今回の攻勢の背後には、奪われた土地の奪還を急ぎたいウクライナの事情もある。厳しい冬が来れば、大量の雪が降り、気温は氷点下になる。
1週間以内にヘルソン攻略を開始するだろう
冬が終わるまでヘルソン解放を待つつもりはないと、ウクライナ政府当局者はフォーリン・ポリシー誌に語った。1週間以内に攻略を開始するだろうとウクライナ議会のオレクサンドラ・ウスチノワ議員は予測する。「ロシア軍は文字どおり敗走しつつある」
9月8日には、アメリカが6億7500万ドル分の追加軍事支援を発表した。これには南部戦線で威力を発揮した高機動ロケット砲システム(HIMARS)が含まれる。
それでもウクライナ政府高官は、まだ武器が足りないと訴える。とくに深刻なのは旧ソ連時代の152ミリ砲の不足だという。そのため欧米はNATO標準の155ミリ砲の供与で穴を埋めようとしている。
「補給ラインを弱体化させ、ロシアの軍事作戦能力を低下させるというのが一貫した戦略だ」と、大統領顧問のミロバノフは言う。「それをやり続ければ、ロシア軍を崩壊させることができると思う」
●上海協力機構、参加国間で紛争 ウクライナ侵攻でロシア影響力低下 9/18
中ロが主導する上海協力機構(SCO)首脳会議は16日、ウズベキスタンの古都サマルカンドで2日間の日程を終えた。
イランの正式加盟も決まり、採択された首脳宣言は「SCO拡大は地域安定に寄与する」と結束を強調した。しかし、現実には開幕直前からアルメニアとアゼルバイジャン、キルギスとタジキスタンという参加国同士の国境紛争が起き、不安要素が残った。
「情勢悪化を非常に懸念している」。プーチン大統領は16日、サマルカンドで会談したアゼルバイジャンのアリエフ大統領に訴えた。SCO首脳会議を欠席したアルメニアのパシニャン首相とは事前に電話で協議しており、双方に自制を呼び掛けた形だ。13日に再燃した両国の係争地ナゴルノカラバフの紛争は沈静化に向かったが、戦死者はアルメニア側135人、アゼルバイジャン側80人の計215人に上った。
キルギスとタジクは14日から国境地帯で交戦。相手による攻撃で始まったと非難し合った。ロシア紙コメルサントによると、衝突は「過去12年間で150件以上」と珍しくないが、SCO首脳会議に合わせてキルギスのジャパロフ、タジクのラフモン両大統領が急きょ会談する事態に。18日までにキルギス側46人、タジク側38人の計84人が死亡した。
衝突したのはいずれも旧ソ連構成国。ロシア軍は、ウクライナ侵攻が長期化し、戦闘による死傷者が「7万〜8万人」(米国防総省)とも推計される。ロシアはナゴルノカラバフに派遣した平和維持部隊などからも兵士をかき集めていると言われ、それが地域の不安定化につながっているもようだ。
米シンクタンクの戦争研究所は15日、プーチン政権が2月に侵攻開始後、「旧ソ連圏に駐留するロシア軍部隊の大半が流出した」と指摘した。ロシアは今も勢力圏と見なすアルメニアやキルギス、タジクなどに在外基地を置くが、戦争研究所は引き揚げの動きが「旧ソ連圏でロシアの影響力を低下させるとみられる」と分析した。 
●ザポリッジャ原発が外部電源と再接続 9/18
国際原子力機関(IAEA)は17日、ウクライナ南東部のザポリッジャ原子力発電所が再び外部電源と接続したと発表した。一方、ロシア軍から解放された東部イジュームで集団埋葬地が見つかった件をめぐり、欧州連合(EU)では戦争犯罪を裁く国際法廷を開くべきだとの声が上がっている。
ロシアはウクライナ侵攻の初期に、欧州最大の原発、ザポリッジャ原発を占拠。同原発はその後、繰り返し攻撃にさらされており、送電線が破壊されていた。
ウクライナとロシアは互いに、相手が原発周辺で戦闘行為を続けていると非難している。
6基ある原子炉は全て停止されているが、原子炉を冷却し、メルトダウンを回避するため、電源が必要だった。
IAEAは今回、同原発の状況は改善しているものの、なお危険だとしている。
IAEAは9月初めに現地を視察した後、状況のモニタリングのために永続的に施設にとどまるとしていた。
視察団は16日、砲撃によって損傷を受けていた4本の主要送電線のうち1本が修復され、国内の電力網につながったと報告した。
集団埋葬地発見で「国際法廷を」=EU
東部イジュームで集団埋葬地が見つかったことをめぐっては、EU議長国から戦争犯罪の国際法廷を開くべきだとの声が上がった。
イジューム郊外の森で発見された集団埋葬地からは、数百人の遺体が発見された。多くは市民で、女性や子供も含まれているという。
ウクライナは、イジュームで戦争犯罪が行われたと主張している。
チェコのヤン・リパフスキー外相はツイッターで、「21世紀に市民に対するこのような攻撃が行われるのは想像もできず、いまわしいことだ」と述べた。
「これを見過ごしてはいけない。全ての戦争犯罪者への罰を支持する(中略)迅速に侵略犯罪を裁く特別国際法廷を要求する」
東部でウクライナの反撃続く
ロシア軍が占領を続ける東部ドネツク州では、16日も激しい戦闘が続いた。
ドネツク市の分離派の市長は、ウクライナ政府による爆撃で市民4人が死亡したと主張。一方のウクライナ側は、ロシア軍がミコライウの地熱発電所を砲撃し、この地域の飲料水供給が断たれたと訴えた。
イギリス国防省によると、ウクライナ軍はここ数日、北東部での反撃に成功しており、現在も反攻を続けている。また、ロシアはウクライナ国境近くの補給地ベルゴロドへつながる経路を守るため、防衛線を張っているという。
こうしたなか、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は16日、ウクライナの最近の反転攻勢について、ロシアの計画を変更するものではないと述べた。この件で公式にコメントしたのは初めて。
●東部で“拷問場所10か所以上発見” ゼレンスキー大統領が非難  9/18
ウクライナ軍は、ウクライナ東部に加え南部でも反転攻勢を強めています。一方、ゼレンスキー大統領は、ほぼ全域を解放した東部ハルキウ州で、拷問が行われたとみられる場所が10か所以上発見されたとして「ロシアに占領された地域で、広く拷問が行われていたことを示している」と述べ、ロシアを非難しました。
ウクライナ軍は、東部ハルキウ州のほぼ全域をロシア軍から解放し、南部でも反転攻勢を強めています。
これについてウクライナ軍は17日に「南部ヘルソン州では占領者たちは退去ルートを準備している」とSNSに投稿し、ロシア軍が撤退に向けた動きを見せているとしています。
一方、ロシア国防省は17日、東部ドネツク州や南部ヘルソン州など、各地で攻撃を行ったと発表し、ロシアのプーチン大統領は16日、「戦っているのは軍のすべてではなく、一部でしかない」と述べ、兵力には余裕があるとアピールしました。
こうした中、ゼレンスキー大統領は17日に公開した動画で、ハルキウ州で、拷問が行われたとみられる場所が鉄道の駅など10か所以上、発見されたことを明らかにし「拷問で使う電気器具も見つかった。ロシアに占領された地域で、広く拷問が行われていたことを示している」と述べ、ロシアを非難しました。
ハルキウ州ではこれまでに重要拠点イジュームで、多くの住民が殺害され、埋められたとみられる集団墓地が確認されていて、ウクライナ当局が捜査を進めています。
●旧ソ連圏の紛争地をペロシ米下院議長が訪問 プーチン氏の責任論も浮上  9/18
アルメニアなど旧ソ連圏で勃発した紛争の対応にロシアが苦慮している。ロシアにとっての「勢力圏」だが、ウクライナ侵攻の苦戦を背景に軍事力で仲介する余裕がないためだ。侵攻の長期化に対しても、国内でリベラル、保守派の双方からプーチン政権の責任を問う声が上がり始めている。
係争地ナゴルノカラバフを巡って対立するアルメニアとアゼルバイジャンの国境で12日から続く戦闘では、双方合わせて200人以上の死者が出た。ペロシ米下院議長は18日、訪問先のアルメニアで「アゼルバイジャンがアルメニアに死をもたらす攻撃をした」と非難した。パシニャン首相との協議も行う見通しで、アゼルバイジャンの反発は必至だ。アルメニアはロシアの軍事同盟国で、米政府系ラジオによると米下院議長の公式訪問は初めて。
アルメニアは、旧ソ連圏の軍事同盟「集団安全保障条約機構」にこれまで2度戦闘の介入を要請したものの、ロシアに断られたためペロシ氏受け入れに傾いたとみられる。米国にはアルメニア系移民が多く暮らす一方、アゼルバイジャンの石油・天然ガス権益との関わりも強く、ブリンケン国務長官もロシアに代わって停戦仲介を急いでいる。
一方、14日に始まった中央アジアのタジキスタン、キルギスの国境警備隊の銃撃戦は、16日には重火器による砲撃戦になり、停戦合意が破られている。米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は、旧ソ連の紛争地にあるロシア軍基地の兵士がウクライナに派遣されており、ロシア軍の不在で停戦継続が困難になっているとの分析を公表した。
こうした状況を受け、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでは、プーチン氏の侵攻は国に悪影響として区議が辞任を求めるネット署名活動を開始。欧米メディアによると、極東サハ共和国を含め全土で区議数十人が賛意を示した。
南部チェチェン共和国のカディロフ首長は、ウクライナ東部ハリコフ州で占領地が奪われたことを受け、11日に「ロシア軍の戦略に誤りがあった。私が国の指導部に出向いて状況を説明したい」と軍を批判。体制内野党の共産党からも「総動員で戦うべきだ」と突き上げられている。
●プーチン氏最側近が訪中 ウクライナ・台湾協議か 9/18
中国外務省は、ロシアのプーチン大統領の最側近、パトルシェフ安全保障会議書記の中国訪問を発表した。日程は18日からの2日間。ロイター通信が18日、伝えた。タス通信によると、外交担当トップの楊潔※(※竹カンムリに褫のツクリ)共産党政治局員と「戦略的安定対話」を行う。パトルシェフ氏の訪中は2019年12月以来で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まってから初めてとなる。
ロシアによるウクライナ侵攻や米中が対立する台湾情勢を話し合うとみられる。プーチン氏と中国の習近平国家主席は15日、対面で約7カ月ぶりとなる会談をウズベキスタンのサマルカンドで実施。中ロの結束を誇示し、米国などをけん制する立場で一致したばかりだ。

 

●米軍トップ、戦況劣勢受けたロシアの反応に備え警戒強化呼びかけ 9/19
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は18日、ウクライナの戦力を支援するポーランドの軍事基地を訪問した。ロシアがウクライナでの戦況の劣勢を受けてどのように反応するかは依然として不明だと述べ、米軍に警戒強化を呼びかけた。
ミリー氏は基地訪問後、ワルシャワで「戦争は現在、ロシアにとってあまりうまくいっておらず、われわれは高度の準備態勢と警戒態勢を維持する必要がある」と語った。
基地ではロシアの攻撃に備えたパトリオットミサイルなどの防空システムを視察した。
また、安全なテレビ会議を通じた米国製兵器の遠隔保守支援など、同基地の駐留米軍がウクライナに提供している重要な支援について説明を受けた。
ミリー氏は欧州に駐留する米軍への脅威が高まっているというわけではないとした上で、準備は必要だと指摘。「戦争では次に何が起こるか分からないものだ」と述べた。
ミリー氏に同行した記者団は、基地の名称や場所を公表しないよう要請された。
ミリー氏はプーチン大統領の次の行動については言及しなかったが、戦争は新たな局面を迎えており、ウクライナ軍が戦略的な主導権を握っていると指摘。「そのため、ロシアの反応がどうなるかを注意深く見守る必要がある」と述べた。
●ウクライナ、東部で進軍 ロシア軍、増援足りず守備が脆弱 9/19
ウクライナ軍は18日、東部ハリコフ州で、同州を南北に流れるオスキル川の両岸の支配をロシア軍から取り戻したと発表し、川に架設した臨時の橋を戦車が渡る動画を公開した。米シンクタンクの戦争研究所は、ロシア軍が同州と東部ルガンスク州に大規模な増援部隊を送れず、ウクライナ軍の反攻に対して守備が脆弱だと分析した。
東部ドニエプロペトロフスク州のレズニチェンコ知事は、ニコポリで18日、ロシア軍の激しい砲撃により住民2人が死亡、3人が負傷したと発表した。ニコポリはロシア軍が占拠するザポロジエ原発からドニエプル川を挟んで対岸に位置する。
●ロシアが民間標的拡大 ウクライナ情勢で警告―英国防省 9/19
英国防省は18日付のウクライナ情勢をめぐる戦況報告で、ロシア軍が民間施設を標的にする事例が過去7日間で増加したという見方を示した。各地でウクライナ側の反攻が続く中、「ウクライナの人々や政府の士気をくじく」のが狙いだと分析し、警告を発した形だ。
報告は「ロシアは前線で失敗に直面する中、攻撃対象を広げたようだ」と指摘。ウクライナ南部のダムや送電設備が攻撃される一方、「直ちに軍事的影響が出ないような施設」も標的になっているという。
北東部ハリコフ州のシネグボフ知事は18日、州内の病院から患者を避難させようとしていた医療関係者4人がロシア軍の砲撃で死亡し、患者2人が負傷したと述べた。
ウクライナ軍は最近、ロシアが3月から占領していたハリコフ州の各地で進撃を強化。11日までに同州の要衝イジュムを奪還した。イジュムではその後、民間人ら400人以上が埋葬されたとみられる集団墓地が発見された。
ウクライナのゼレンスキー大統領は17日のビデオ演説で「ウクライナ軍が解放したハリコフ州の各地では10以上の拷問施設が見つかった。ナチスと同じ行為だ」と非難した。ロシア軍をめぐっては2月のウクライナ侵攻開始以降、占領地で住民殺害に関与した疑いが繰り返し指摘されている。
一方、国際原子力機関(IAEA)は17日、ロシア軍が占拠するウクライナ南東部のザポロジエ原発について、主要送電線の一部が2週間ぶりに復旧したと発表した。敷地内の6基の原子炉については、冷温停止状態が続いている。
●ロシア軍の失態、プーチン氏と世界にどう影響?  9/19
ロシアの極右政治家、ウラジーミル・ジリノフスキー氏は昨年12月、議会の閉会にあたり、演説である予測を唱えていた。同氏は政府が内々に考えていることを暴露することが多い人物だ。
ウクライナとの戦争が2月22日の夜明け前に始まる――。今年4月に新型コロナウイルス感染で死亡したジリノフスキー氏は、こう予想した上で、その結果として「ロシアは再び偉大な国になるだろう」と息巻いた。「誰もが口をつぐみ、われわれを尊敬せざるを得なくなる」
欧州に第2次世界大戦以降、最も破滅的な流血の惨事をもたらす引き金となったウクライナへの侵攻は、ジリノフスキー氏の予想から2日後に始まった。しかし、すでに7カ月目に突入したこの戦争は、強国ロシアの復活どころか、ロシアの弱点をまざまざと露呈させた。
ロシア軍はかつて本気で敵だとも考えてこなかったウクライナを相手に、足元で手痛い敗北を喫しており、ロシアという国自体と世界におけるその役割を巡って、根本的な疑問が生じている。
ウクライナでのロシア軍の苦戦を受けて、パートナーや同盟国、武器の輸出相手国はロシアとの関係を見直しており、表だって批判することは避けつつも、陰ではショックを隠しきれずにいる。外交関係者はこう指摘する。
「ロシアの評判は地に落ちた」。こう話すのはコンサルティング会社キッシンジャー・アソシエーツのマネジングディレクター、トーマス・グラム氏だ。ブッシュ(子)政権時代に国家安全保障会議(NSC)のロシア担当幹部だった同氏は「ウクライナでの戦闘泥沼化により、ロシア自身の能力、将来的な力強さ、そして国際舞台でどれほど重要な影響力を持つかについて疑問符がついた」と述べる。
ロシアは今月、ウクライナ軍の急襲を受けて東部ハリコフ州で惨敗を喫した。ロシアが自国のパスポートの配布を開始し、最近ではロシアの教育課程に準じた学校を開設していた地域だ。早急な撤退を迫られたロシア軍は、わずか数日でウクライナ占領地の約1割を失った。ロシア兵は数百の戦車や自走式榴弾砲、装甲車などを放置したまま背走し、多数の兵士が戦争捕虜として拘束された。
ロシア軍は4月にも、同じように首都キーウ(キエフ)や北東部の2地域から撤退を余儀なくされている。ドンバス地方ではそれ以降、制圧地を幾分広げたが、ここ数日に一部はウクライナに奪還された。
それでも、ロシアはウクライナ領土の約2割(2014年以降に支配下に置いた7%も含む)を占領しており、都市や発電所、橋などに長距離巡航ミサイルで攻撃を加え続けている。ウクライナは今月、南部ヘルソンでも反撃に出たが、ハリコフほどは成功しなかった。ロシアは国内で強制動員に踏み切れば、兵力を著しく増強できる。ただ、これは国民の反発を呼ぶ可能性があり、ロシア政府はこれまで検討していないと述べている。また究極の手段として戦術核兵器を有しているが、そこまでエスカレートさせれば、ロシアにも予期せぬ悪影響が及びかねない。表明している核のドクトリン(原則)にも矛盾する。
ロシア軍司令官の指揮がまずいことに加え、数十年ぶりに西側の最新兵器と対決することなったロシア製兵器が、期待されていたほどの効力を発揮できていないことも足かせとなっている。ウクライナは武器保有でロシアに圧倒的な差をつけられているが、西側の技術に支えられ、正確に標的をとらえる能力を磨いており、その差は縮まっている。ロシア空軍はウクライナが支配する領土の上空でほぼ全く展開できておらず、ロシアの防空システムはクリミア半島を含め、前線から遠く離れた重要拠点をウクライナの攻撃から守り切れていない。
米国製の高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」が毎日のように大手を振ってロシア軍の標的を破壊し、ロシアは戦場における弱点に対処するため、武装ドローン(小型無人機)の調達でイランに協力を求めた。ロシア製武器の買い手は確実にこれに気付いている。トルコはこのほど、ロシア製の最新鋭地対空ミサイルシステム「S400」について、追加購入を見送ることを決定。インドやフィリピンはロシアからの軍用ヘリを購入する大型契約を撤回した。ロシアは2017〜21年において世界第2位の武器輸出国であり、世界で市場シェア19%を握る。インド、中国、エジプトが買い手の上位3カ国だ。武器販売に関する研究機関シピリ(ストックホルム)が分析した。
駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジス氏は「ロシアの軍需産業はこのすべてについて代償を支払うことになるだろう」と述べる。米国が2度の湾岸戦争でロシア製の軍装備をいとも簡単に破壊すると、ロシア側はイラク軍の錬度と運用に問題があるためだと説明していたという。ホッジス氏は「ところが、ロシア軍のメンバーが運用しても、やはりロシア製の軍装備は破壊された」と話す。「買い手にとっては、真の実力が丸見えになった」
「意外にもロシアが弱い」との見方が浮上していることで、ロシアにとっては、味方についてくれるパートナーや同盟国がさらに少なくなりそうだ。しかも、西側の制裁措置による痛みがじわりと経済に広がり、先端技術が枯渇しつつあるタイミングにも重なる。
中国は西側がウクライナに最新鋭兵器を供与する中でも、ロシアへの支持を表明する以上に肩入れすることは慎重に避けている。華為技術(ファーウェイ)など中国企業は、米国の制裁に違反することを恐れ、実質的にロシアへの販売を停止。ロシアが重要テクノロジーを入手する道はさらに狭まった。中国ドローン大手DJIは中立性を理由に、それまでロシア、ウクライナ両軍が偵察目的で使っていた商用ドローンの供給を打ち切っている。
中国のシンクタンク、全球化智庫(CCG)の創設者、王輝燿氏は、中国にとって優先課題はロシアを助けることではなく、世界経済に悪影響をもたらしているウクライナ戦争を終結させることだと話す。
米国という共通の脅威があるため、中国は「ロシアと便宜上の関係」を維持しているだけで、ウクライナの国家主権と領土保全を支持するとの立場を中国は繰り返し表明していると同氏は指摘する。
また「ロシアで西側企業の撤退に伴う空白を埋めようとする中国企業は皆無で、むしろ多くの企業はロシアとの取引を避けている」という。
2月24日の侵攻以降、15日に初めて中国の習近平国家主席と顔を合わせたプーチン氏は、中ロの間に吹く隙間風を自ら認めたようだった。プーチン氏はテーブルの反対側に座る習氏に向かって、ウクライナの危機を巡り「あなたの疑問と最大の関心事をわれわれは理解している」と語りかけた。中国政府が会談後に公表した声明には、ウクライナ問題に関する言及はなく、両首脳は互いの「中核利益」を支えることで合意したと説明している。
ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の加盟国も、ロシアと距離を置きつつある。ウクライナ侵攻開始の足場を提供したベラルーシを除き、全ての国がロシアを非難する国連総会の決議案採決を棄権した。
1月にロシア軍の介入で反政府デモを鎮圧し、政権崩壊を逃れたカザフスタンは、ロシアで戦争支持のシンボルとなっている「Z」の文字を違法にするという踏み込んだ措置に出た。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領も、8月24日のウクライナの独立記念日に祝賀メッセージを送付。「平和な空」を祈っていると述べ、ロシア政府のひんしゅくを買った。
もっとも、ロシアがかなり弱体化しても、世界各地でなお大きな影響力を持つことは確かだろう。自国軍が旧ソ連の武器に大きく頼るインドにとっては、ロシアから軍装備の部品や弾薬を今後も確保することは最重要課題だ。インドはウクライナ侵攻を巡り、表だってロシアを批判することを控えている。また、アジアの2大国としてインドと中国は互いにライバル視する傾向を強めており、ロシアが中国の側に完全につかないようにすることもインドの目標だ。
ブルッキングス研究所のインドプロジェクト責任者、タンビ・マダン氏は「ロシアと中国をできるだけ遠ざけ、少なくとも中ロ関係が深まらないようにすることが、かねてインドの戦略目標だった」と話す。「自国の都合で西側に接近するインドよりも、中国はロシアにより多くのものを提供できる」という。インドにとって、ロシアが衰弱しつつも、自国に友好的な姿勢を保つことの副次的な利点の1つは、ロシア産原油が大幅なディスカウント価格で購入できることだと同氏は述べる。
イタリアと同程度の国内総生産(GDP)であるロシアは、世界で人気を集めるようなポップカルチャーもなく、近年テクノロジーや科学の分野で大きな偉業を成し遂げてもいない。そのため、通常および核戦力の双方において、軍事力だけが長らく世界の超大国だと主張する根拠になってきた。
プーチン氏は折に触れ、ロシア製兵器の素晴らしさを誇示している。ロシアはその武器を活用して、2008年にジョージア(旧グルジア)、2014年にはウクライナのクリミア半島とドンバス地方、その翌年にはシリアで軍事的な成功を収めた。
米海軍分析センター(CNA)のロシア研究責任者、マイケル・コフマン氏は「ロシアは歴史的に経済の基盤が比較的弱く、大国として扱われるべき大きな理由の1つとして軍事力に頼ってきた」と話す。「だが、軍事力に関する印象は急激に変化し得る。ウクライナでのロシア軍のひどいありさまをみれば特にそうだ」
またロシアの巨大な軍事力は長年、プーチン政権の正統性を支える要素でもあった。プーチン氏の就任当初10年こそ繁栄したロシア経済だが、クリミア半島やドンバス地方への軍事介入以降は経済が低迷、縮小しており、軍事力に頼る傾向が一層強まっている。
ロシアでは日々、(ユダヤ人大統領が率いる)ウクライナ国家は現代のナチスであり、足元の「特別軍事作戦」は第2次世界大戦の再来だとのプロパガンダが大量に流されている。そのため全面的な勝利を収めなければ、ナチスドイツに勝利した1945年の歴史的偉業への裏切りとなり、まさにプーチン体制の根本を揺るがしかねない。
だからこそ、ロシア軍幹部やプーチン氏自身も「特別軍事作戦」は極めて順調に進んでいるとのセリフを繰り返しているのだ。ロシア国防省はハリコフでの敗退について、ドンバス地方の「解放」を容易にするための計画されていた部隊の再配置だと説明している。
プーチン氏は今月、ウラジオストクで開催された経済フォーラムで「われわれは何も失っておらず、これからも何も失わない」と言い放った。その上で、ドンバスでの任務を「最後まで」全うすると表明し、こう加えた。「これは最終的に、国内外においてわが国を一段と強くする」
ロシアの世論は総じて、プーチン氏の説明を受け入れている。カーネギー国際平和財団のシニアフェロー、アンドレ・コレスニコフ氏(在モスクワ)はこう述べる。「プーチンのプロパガンダは敗北を勝利として伝えることができている」と同氏。「世論はあまにも無関心で、単に適切な言葉を見つければ済む」
とはいえ、プロパガンダにも亀裂が生じつつある。国家主義的な評論家や軍事ブロガーらは、ロシアのハリコフでの敗北について、1942年に旧ソ連が当地で喫したような、目も当てられない大敗北だと断じている。
ラトビアのエドガルス・リンケービッチ外相はインタビューで「ロシアは計画では失敗したようだが、戦争はまだ終わっていない。プーチンも、軍幹部らも弱腰、または負けつつあるといった印象を与えることは許されない」と話す。
弱さを露呈すれば命取りになりかねない。リンケービッチ氏によると、旧ソ連の指導者、ニキータ・フルシチョフは、1962年のキューバ危機で米国側に譲歩しすぎたとの認識がエスタブリッシュメント(支配層)の間で広がったため、「宮廷クーデター」で追放されるに至った。「どの支配者も強い指導者だと考えられている限りは強い」と話すリンケービッチ氏。「弱いとの印象を与えれば、挑戦者が必ず現れる」 
●ウクライナ軍の反攻続く 東部ドンバスのロシア軍もろく 9/19
ロイター通信によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は、東部ドンバス地方のロシア軍を脅かす北東部ハリコフ州のオスキル川東岸に軍が前進したと表明した。
18日夜の演説で「一連の勝利の後、現状は小休止しているように見えるが、これはさらなる(勝利への)準備だ」と宣言した。
米シンクタンクの戦争研究所は17日、ロシアがハリコフ、ルガンスク両州に大規模な援軍を出せなかったとして「ウクライナ北東部の大部分で、ロシア軍はウクライナの反攻に対し非常に脆弱(ぜいじゃく)な状態になっている」と分析した。英国防省によると、ロシア軍は攻撃対象を民間施設などに拡大している。
●ゼレンスキー大統領 攻勢の構え ロシア軍 原発に向け攻撃か  9/19
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍に占領された地域のさらなる解放に向けて攻勢を強める構えです。一方、ロシア軍は南部ミコライウ州にある南ウクライナ原子力発電所に向けて攻撃を行った可能性があり、安全性への懸念が高まりそうです。
ウクライナ軍は東部ハルキウ州のほぼ全域をロシア軍から解放したと発表し、さらに東のドンバス地域に部隊を進めているものとみられます。
ゼレンスキー大統領は18日、これまでの戦果を強調したうえで、南部のヘルソンや東部のマリウポリなどロシア軍に占領された地域の解放に向けて、攻勢を強める構えを示しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は18日、「ロシア軍は、ハルキウ州でウクライナ軍の反撃を受け、人員と装備で大きな被害を受け複数の装甲車部隊が、事実上壊滅した可能性が高い」と指摘しています。
一方、ゼレンスキー大統領は19日、「ミコライウ州にある南ウクライナ原子力発電所からおよそ300メートルの場所にミサイルが落下し、短時間の停電が発生した」と明らかにしました。
ウクライナの原子力発電公社エネルゴアトムによりますと、施設内の建物の窓ガラスが割れましたが3基ある原子炉に損傷はなく、職員などにけがもないということです。
ゼレンスキー大統領は「ロシアは全世界を危険にさらしている。手遅れになる前に止めなければならない」と述べ、非難を強めています。
今月に入って、ウクライナでは発電所やダムなどインフラ施設への攻撃が相次ぎ、イギリス国防省はロシア軍がウクライナの士気をくじこうと、標的を拡大した可能性が高いと分析しています。
ウクライナでは南東部のザポリージャ原子力発電所で砲撃が相次いでいますが、南ウクライナ原発に向けてロシア軍が攻撃を行った可能性があり、安全性への懸念が高まりそうです。
●ロシア、別の原発も攻撃 原子炉に損傷なし―ウクライナ 9/19
ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムは19日、ロシア軍が南部ミコライウ州にある南ウクライナ原発を攻撃したと通信アプリ「テレグラム」で発表した。3基ある原子炉に損傷はなく、通常運転を続けているという。
エネルゴアトムによると、ロシア軍は「ミサイル攻撃」を実施。原子炉から約300メートル離れた場所で爆発が起き、周辺の建物の窓を吹き飛ばした。また、原発近くにある水力発電所と送電線が損傷したという。
ウクライナのゼレンスキー大統領はテレグラムへの投稿で、原発ではロシアの攻撃により短時間の停電が発生したと指摘。「ロシアは全世界を危険にさらしている。手遅れになる前に止めなければならない」と非難した。
●ロシアと中国は戦略的提携深化を、プーチン氏最側近が楊氏と会談 9/19
中国を訪問したロシアのニコライ・パトルシェフ連邦安全保障会議書記が19日、中国外交担当トップの楊潔チ共産党政治局員と会談し、戦略的提携を深化して防衛協力を拡大し、主要な地政学的問題で両国が連携を強化するよう要請した。
ロシアがウクライナ侵攻を開始する直前にプーチン大統領と習近平国家主席は「無制限」のパートナーシップを宣言。しかし先週のウズベキスタンでの会談では、プーチンが、ウクライナ情勢を巡る中国側の疑問や懸念を理解していると述べていた。
プーチン大統領の最側近の一人であるパトルシェフ氏と楊氏は、プーチン氏と習氏の合意内容の履行について討議した。
連邦安全保障会議は「中国との戦略的パートナーシップの構築は、ロシア外交政策の無条件の優先事項だ」と声明で述べた。
両氏は、朝鮮半島や台湾、ウクライナについても意見交換。「共同演習やパトロールを中心に、さらなる軍事協力と参謀本部間の連絡強化で合意した」という。
●“同床異夢”の中露首脳会談 表向きは対欧米での共闘 …「プーチンリスク」 9/19
ロシアがウクライナに侵攻してから半年が経ち、8月のペロシ訪台で中露と欧米との対立が深まる中、プーチン大統領と習国家主席が9月15日に中央アジアのウズベキスタンで会談した。ウクライナ侵攻や緊張が高まる台湾情勢などで協議し、両国の関係を深めていくことで一致した。両者が対面で会うのは、北京五輪開催直前にプーチン大統領が北京を訪問して以来となった。
昨今、中露の結束は2つの側面から顕著になっている。1つは軍事面で、この直前も9月1日から7日にかけ、ロシア軍と中国軍は日本海やオホーツク海など極東海域で大規模な軍事演習「ボストーク2022」を合同で実施し、プーチン大統領も6日に同軍事演習を視察した。北海道・神威岬の西およそ190キロの日本海ではロシア海軍のフリゲート艦3隻と中国海軍のミサイル駆逐艦など3隻が航行しているのが発見され、同6隻の艦隊は周辺海域で機関銃の射撃演習を行うなどした。
もう1つは経済面で、たとえば中国税関総署は6月、5月のロシアからの原油輸入量が前年同月比で55パーセント、天然ガスが54パーセントそれぞれ増加したと発表し、最近は8月の貿易統計で世界各国からの輸入の伸び率が前年同期比(去年8月)で0.3%に留まった一方、ロシアからの輸入が60%増加したと明らかにした。こういった中露の政治と経済の両面での接近は、欧米との対立が収まる気配が見えない中、今後さらに深まることが予想される。
しかし、中露両国にとって、対欧米で共闘という戦略が重要であることは間違いないが、両国が全く同じ立ち位置にあるわけではなく、相思相愛ではない。少なくとも、「中国にとってのロシア」と「ロシアにとっての中国」には違いがある。
まず、中国にとってのロシアだが、習近平指導部としては対欧米でロシアとの協力が重要と感じている一方、そうすることによって欧米だけでなく、ASEANやアフリカなど第3諸国からどう思われるかということを気にしている。中国が最も懸念しているのは米国の存在以上に、諸外国の中国からの離反であり、ウクライナ侵攻という国際法違反を犯したロシアを第3諸国がどう見ているかを注視している。習政権としては、“国際法違反を犯したロシアに隠れ蓑を与える中国”というイメージが先行することは避けたく、何が何でもロシアとの共闘というわけではない。
一方、ロシアにとっての中国だが、今日、習氏がプーチン大統領を必要としている以上に、プーチン大統領は習氏を必要としている。国際法違反を犯したロシアのイメージが悪化したことは間違いなく、欧米主導のロシア制裁、それに付随する欧米企業による撤退や規模縮小などの自主規制により、ロシア経済は一定のダメージを受けた。プーチン大統領としては経済大国中国との関係を強化することで、被った経済的ダメージを相殺したい狙いがある。また、一帯一路によって中国の世界的な影響力が高まる中、中国との結束を示せば、中国の影響力が強い国々(カンボジアやミャンマー、ラオスなど)との間でも政治的摩擦を少なくできるとプーチン大統領は考えているはずだ。
プーチン大統領は、北京オリンピックとパラリンピックの間に侵攻を決断した。習氏は北京五輪の偉大な成功を開催前に強調していた。こういった観点からは、中国はロシアに泥を塗られた形になったと言え、習氏の中にはプーチンリスクというものも存在するだろう。今後も表向きには中露共闘が進むのは間違いない。しかし、それは相思相愛ではなく、今後両国の間で亀裂や不和が拡がる可能性も十分にある。
●IMF――岐路に立つ国際社会の「最後の貸手」 9/19
新型コロナウイルス感染症と ロシア・ウクライナ戦争 で、世界経済の先行きにかつてない暗雲が漂っている。そのなかで、各国政府、中央銀行と共に岐路に立たされているのが国際機関である。本稿では国際機関のうち経済分野で最も影響力の大きいIMF(国際通貨基金)についてこれまでの歩みを振り返り、今後を展望する。
コロナと戦争はサプライチェーンを混乱させ、物価高などを通じて新興国・途上国を中心に流動性の危機をもたらした。政府債務がデフォルト(債務不履行)寸前だったパキスタン(パキスタンはこれに洪水も加わった)、経済悪化への抗議活動が激化するなか大統領が出国してしまったバングラディシュ、あるいはまさに戦争そのものによる打撃を受けているウクライナなど、今年に入ってからでもIMFの金融支援によって辛うじて破綻を逃れた国家が相次いでいる。
世界190カ国が加盟し、6200億ドル(約88兆円)の資金基盤を持つ「最後の貸手(レンダー・オブ・ラスト・リゾート)」は今、「ドルの基軸通貨」に代わる国際金融システムの大転換もその視界に収めながら未来への岐路に立っている。・・・

 

●ウクライナ戦争で起きたEU分断と力学変動 9/20
仏ル・モンド紙コラムニストのシルヴィ・カウフマンが、ロシアのウクライナ侵攻で、欧州連合(EU)内の力学が変化している旨を、2022年8月30日の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で書いている。
ロシアのウクライナ侵攻の結果、EU内の力学は変わりつつある。ソ連の占領下にあった加盟国及びウクライナとロシアに地理的に近い加盟国の見解は、今日、従来以上に真剣に受け取られている。
この傾向はロシア人に対する入国ビザの禁止を巡る議論に明瞭である。ポーランド、フィンランド、チェコおよびバルト三国は、禁止を支持した。ドイツはこの禁止に反対した。リトアニアは、合意が得られなければ、地域的な合意を作ると脅かし、結局、独仏両国は妥協に向けて動くこととなった。ポーランドとバルト三国は今やフィンランドやスウェーデンのような北欧諸国を当てにすることが可能で、独仏両国は守勢に回っている。
今年になって、独仏首脳は共に厳しい批判に直面した。ドイツはウクライナへの武器送達を躊躇したこと、フランスはプーチンとの電話会談を続けることに固執したことである。両者とも、とりあえず、ウクライナを軍事的に支持するとのコミットメントを再確認する必要を感じた。
しかし、EUがウクライナを含む新たな加盟国を統合するという仕事に取り組んでいる折、ドイツのショルツ首相は、プラハで、EUの多数決への「漸進的な移行」を呼び掛けた。独仏両首脳は、これに反対するポーランドに抵抗する十分な力はあると思っている。
もう一つ潜在的な不確定要素がある。9月25日のイタリアの選挙で極右が勝てば、欧州の変動する力学は更なる変化を見ることとなろう。

8月31日にプラハで開催された非公式EU外相理事会は、ロシアとの間の2007年のビザ発給円滑化協定を停止することを決定した。ロシアのウクライナ侵攻以降、EUに流入したロシア人旅行者は100万人に達するが、大多数はフィンランド(33万3000人)、エストニア(23万4000人)、リトアニア(13万2000人)経由でEUに流入した。ロシアとの間の空路は閉ざされているとされているのも、その所以であろう。
ウクライナ国民が苦境にある中で、ロシア人観光客の流入が通常通りであるべきではないとして、ポーランド、フィンランド、チェコおよびバルト三国は、EUが全面的なビザ発給禁止に踏み切ることを要求し、プーチン政権とロシア市民一般は区別すべきことを主張して全面的な禁止に反対する加盟国と対立した。ビザ発給円滑化協定の停止は、妥協の産物である。
ただ、妥協ではあるが、これら諸国の勝利である。この結果、全面的な禁止ではないが、ロシア市民に対するビザ発給は困難を増し、時間を要し、発給件数は顕著に低下するとされている。EU加盟国が独自の制限措置を講ずる余地も排除されていない。
プーチンの揺さぶりにEUは耐えられるか
このような事態は、ロシアのウクライナ侵攻の結果生じたEU内の力学の変動の象徴的な事例である。この他にも、ハンガリーのオルバン首相がプーチン大統領と近い関係を頑強に維持していることが、ヴィシェグラード・グループ(ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロヴァキア)を麻痺させ、ポーランドを含むその他EU加盟国との分断を招いた状況もある。
このような力学の変動――それに加えて従来からの東西あるいは南北の潜在的な対立もある――が重要視されねばならないのは、ガス供給を絞り込んで揺さぶりをかけ、EUを分断と不決断の冬に追い込み、出来ればEUを破壊するのが、プーチンの戦略だと思われるからである。
エネルギー価格の急騰、インフレの昂進、迫る不況が喫緊の問題に浮上し、加盟国は国内問題に注意を削がれ、それぞれの事情を抱えてEUとしての結束した行動の困難性が増しているように思われる。その困難性は、去る7月、ガス需要が高まる冬を前に、EUがガス消費の15%削減に合意するに至る過程で既に顕在化したところである。
EUはロシアへの対抗とウクライナに対する支援、更にはプーチンの計略を挫くためのガスのロシア依存からの脱却について、その結束を引き続き試されることになろう。ウクライナ戦争は、EU内の力学を揺さぶり、仏独連携は挑戦を受けているようにこの論説は書いているが、EUを率いる力は依然としてドイツとフランスにあると言うべきであろう。
望むならば、イタリアがドラギの路線を踏襲することであるが、予想される右派連立政権の外交政策あるいは財政政策は攪乱要因となる恐れがあろう。
●戦争犯罪は「うそ」 イジューム集団埋葬地 ロシアが全面否定 9/20
ウクライナ北東部ハリコフ州イジュームで多数の民間人らの遺体が発見されたことを巡り、ロシアのペスコフ大統領報道官は19日、「(ウクライナ側の発表は)うそだ」と述べ、ロシア軍の責任を全面的に否定した。
ペスコフ氏は、露軍が多数の民間人を虐殺した疑いがある首都キーウ(キエフ)近郊のブチャの事例を挙げ、ウクライナ側の発表を「ブチャと同じシナリオであり、うそだ。我々は真実を守っていく」と述べ、露軍は戦争犯罪に関与していないと主張した。
ロシアは4月に発覚したブチャの「虐殺」について「暴力行為による地元住民の被害は一件もない」と否定。ブチャで撮影された動画や写真の遺体は露軍の撤退後に置かれたものだと示唆し、「映像はデマ」「演出された挑発行為」などと主張している。
一方、ウクライナ政府は民間人ら400人以上が埋葬されたイジュームの集団墓地で発掘調査を進めており、19日までに146遺体を確認した。ロイター通信によると、ハリコフ州のシネグボフ知事は19日、発掘された遺体に2人の子供が含まれていたほか、一部の遺体には両手を縛られて拷問を受けた痕跡があったことを明らかにした。
●プーチンの大誤算…蜜月の中国・習近平が突然冷ややかに… 「完全孤立」 9/20
「孤立」が浮き彫りに…
加盟国合計の人口が世界の半数近くを占める巨大地域協力組織「上海協力機構(SCO)」は9月15、16の両日、ウズベキスタンのサマルカンドで首脳会議を開いた。今回の首脳会議は、新型コロナウイルスの感染拡大後、初めての対面形式をとり、新たにイランを加えて10カ国体制にする成果を挙げた。
ところが、会議に集まった首脳たちが繰り広げた外交では、ロシアのプーチン大統領が孤立1歩手前の苦境に立たされていることが浮き彫りになるハプニングもあった。本来ならば、中国とSCOを主導してきた功績でロシアの影響力が拡充してもおかしくない状況なのに、ウクライナに軍事侵攻したことが災いし、プーチン大統領に苦言を呈したり、明確に距離を置いたりする首脳が現れたのである。
何と言っても冷ややかだったのは、中国の習近平・国家主席だ。事前には、両国の蜜月関係の演出に腐心するとの見方もあったが、15日に開かれた両首脳の会談で目立った同主席の発言は、具体的な項目を示さずに「中ロの核心的利益に関わる問題について、相互に力強く支援する」と述べたことぐらい。ウクライナ侵攻に対する直接的な言及を避けた。
また、インドのモディ首相は16日、プーチン大統領との会談で、面と向かって「いまは戦争の時代ではない」と苦言を呈した。そのうえで、民主主義や外交、対話の重要性を説き、返す刀で食料や燃料の確保といった問題に触れて「解決の方法を見つけなければならない」と早期停戦を迫る発言もした。
プーチンの思惑とは正反対に
このところ、ウクライナ軍の反攻により、ロシアはウクライナ東部の広い範囲で領土を奪還される憂き目もみている。それだけに、プーチン氏は今回のサマルカンド会議で、ロシアが国際的に孤立していないことを内外に示したかったはずだ。ところが、結果は、その思惑とは正反対に終わった格好である。
SCOの前身「上海ファイブ」は、1996年の設立だ。旧ソ連の崩壊後、中国と国境を接していたロシアと旧ソ連の3カ国が結集した。結成当初の主目的は、それぞれの国の間にできた新しい国境の管理だった。
その後、2001年にSCOに衣替え。本部は北京に置く。各国間の国境地域の安定、信頼の醸成、加盟国間の協力促進を目的とし、緩やかな協力を目指している。現在は、中ロ2カ国のほか、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの中央アジア4カ国とインド、パキスタンの8カ国が正式に加盟している。加盟国のGDPは世界の約2割、人口は半数近くを占めている。
すでにベラルーシが加盟申請を終えているほか、今回、米欧との核合意を巡って孤立感を深めていたイランが加盟の覚書に調印した。これにより、インドで開催する来年の首脳会談から正式な加盟国として参加することになった。
SCOには、正式な加盟国のほかに、オブザーバー国(アフガニスタン、ベラルーシ、イラン、モンゴル)や対話パートナー国(アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール、トルコ、スリランカ)もある。このうちトルコは正式加盟を希望しているという。
習近平の“プーチン冷遇“
一連の首脳会合に臨み、習主席は、事前に目されたほどプーチン氏との蜜月の演出をしようとしなかった。首脳会談の順をみても、開催国カザフスタンを最初にし、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタンの中央アジア4カ国と会談。次いで、モンゴルを挟み、ようやく6番目にプーチン氏と会談した。
冒頭で記したように、習主席はウクライナ問題に沈黙。これに対し、プーチン氏は「中国のバランスの取れた立場を高く評価している。我々は中国側の懸念を理解している」と慮るかのような発言をした。
そればかりか、プーチン氏はあえて台湾問題に言及。「我々は『ひとつの中国』の原則を堅持している。台湾海峡における米国とその衛星国の挑発を非難する」と習主席をバックアップした。これに対して、習主席は「評価する」と述べるにとどまったのだ。
習主席の“プーチン冷遇“ぶりは、中国共産党の機関紙「人民日報」の報道を見ても明らかだ。同紙は、習主席のウズベキスタン訪問やウズベキスタンのトップとの首脳会談などの様子をトップ記事や2番手で扱った。その一方で、プーチン氏との首脳会談の扱いは3番手に抑えた。しかも、ウズベキスタンのトップとは固く握手する写真を掲載したのに、プーチン氏との会談はそれぞれが正面を直視している写真を載せるにとどめたのである。
「いまは戦争の時代ではない」
こうした冷遇ぶりには、ロシア軍のウクライナ侵攻によって、日米欧豪韓などの西側が結束、中ロと対峙する冷戦の構図が固まってしまったことに対する中国の焦りや、軍事面での中ロ関係強化や軍事、武器支援を打ち出すことによって中国が西側の制裁対象になっては堪らないという、中国の思惑が反映されているとみられている。
また、インドのモディ首相が首脳会談で「いまは戦争の時代ではない」などと苦言を呈したことに対し、プーチン氏は「あなたの懸念は理解している」と応じた。停戦交渉を拒否したのは、ウクライナの方だと釈明しつつも、「すべてが一刻も早く終わるよう手を尽くしていく」と約さざるを得なかったという。
よく知られているように、インドは伝統的なロシアの友好国だ。ウクライナ問題を巡っては、これまで、その関係の維持を優先して直接的な批判を控えてきた。
例えば、国際原子力機関(IAEA)が15日に開いた理事会で、ロシアに対して、占拠中のウクライナ南部ザポロジエ原子力発電所からの退去を求める決議を35カ国中26カ国の賛成で採択した際も、インドはロシアに配慮して採決を棄権した。ところが、今回は豹変、これまでと違い、モディ首相が真正面から苦言を呈したのだ。それだけに、プーチン氏は決して心中穏やかではなかったと推察される。
当のプーチン大統領は16日のSCO首脳会議後の記者会見で、ウクライナ侵攻に言及した。ウクライナ軍が東部ハリコフ州の要衝を奪還するなど攻勢に転じているものの、「(東部ドネツク州とルガンスク州を指す)ドンバス全域の解放が最大の目的」であり、「計画を変更することはない。ドンバスでの攻撃活動は停止しておらず、ロシア軍は徐々に新しい領土を占領している」と強気を装ったのである。
しかし、直近は、ウクライナが奪還した東部ハリコフ州の複数の場所で民間人を含む約500人の遺体が確認され、ウクライナのゼレンスキー大統領は国際社会に向けて「ロシアはテロ国家だ」とSNS(交流サイト)での非難を強めている。
強気一辺倒だったプーチン・ロシアの姿勢が一朝一夕に変わるとは考えにくい。が、今回の習主席やモディ首相との首脳会談での発言がロシア軍のウクライナからの早期撤退に向けた序章になることを期待したい。
●末期的なロシア軍、追い込まれたプーチン大統領 9/20
現実を見ないプーチン大統領
2月24日にロシア軍はウクライナへ侵攻した。一時はウクライナ首都キーウに到達したがウクライナ軍に撃退される。ロシア軍はウクライナ北部・東部・南部を占領し勝利するかに見えた。だがウクライナ軍の逆襲で北部のロシア軍は敗走。開戦から3ヶ月で1万人を超える戦死者を出したと言われる。
ロシア軍は敗走した部隊を東部に集めて乾坤一擲の攻勢を開始。だがウクライナ軍の抵抗で一進一退の攻防が続いた。ところが、9月に入ると急変する。ウクライナ軍はハルキウ付近で突破作戦を行い、7日後にはハルキウ周辺を奪還していた。ロシア軍は武器を捨てて敗走しウクライナ軍に戦力を与えてしまう。
プーチン大統領はロシア軍の敗走の現実を受け入れていない。ウクライナにおける軍事作戦を続けると同時にロシア軍の攻勢を続けることを公言。実際にウクライナ東部ではロシア軍による無意味な攻撃が確認されている。だがロシア軍の攻撃は突破作戦ではなく、無駄な時間を消費する攻撃に終わっている。
無意味なロシア軍の攻撃
9月になるとウクライナ情勢が急激に動いた。ウクライナ軍はハルキウ周辺で突破作戦を実行し成功させた。基本的に中央突破は戦車の集中か、敵軍の3倍以上の戦力優越が必要になる。何故ウクライナ軍はハリコフで突破に成功したのか?
戦車の集中とロシア軍よりも局地的に3倍以上の戦力にしたからだ。
ウクライナ軍の戦力はロシア軍よりも少ない。それでも局地的に敵軍よりも多くすることは可能。実際に欧米の軍隊は、攻撃と防御の戦力配分を行っている。防御の場合は成功すれば攻撃側の半分の戦力で戦える。戦線が安定すると防御側は半分の戦力を攻撃部隊に配分できる。これで各地から予備兵力を集めて攻撃部隊に集中する。すると局地的には敵軍よりも多い戦力で突破作戦を行える。
では攻撃しているロシア軍は?
攻撃している間はウクライナ軍に拘束されている。しかも戦線を突破できないから燃料・弾薬を消費するだけ。ロシア軍は自らウクライナ軍に強力な打撃力を与えることをしていた。
このことはISWで確認されており、しかもハルキウ付近を失っても攻撃を続けていることが確認されている。本来なら戦車部隊を集め、敵軍よりも多い戦力で突破作戦を行うはず。だがロシア軍は部隊を並べただけの攻撃を続けている。しかもウクライナ軍の防御は成功しており、ウクライナ軍は次の突破作戦に備える準備と予備兵力を得たことを意味する。つまり、次の突破作戦は前回よりも大規模になることを示唆している。
   ジョミニの原則
   1:主力を戦場の決勝点か、または敵の後方連絡線に対して継続的に投入する。
   2:我軍の主力を敵の個別の戦力と交戦するように機動させる。
   3:戦場において我軍の主力を決勝点か敵の緊要箇所に対して打撃させる。
   4:主力は決勝点に投入されるだけではなく交戦のために準備する。
ジョミニの原則は欧米軍の士官に基礎的な思考の土台を提供している。ジョミニはナポレオン戦争の時代に当時のロシア帝国で採用された人物。さらにロシア帝国軍の近代化と教育に関わった人物。だから今のウクライナ軍とロシア軍の士官も採用している思考の土台。
双方に共通している原則を基準に使うと、ウクライナ軍はジョミニの原則に従っている。それに対してロシア軍は原則に反することが多い。ウクライナ軍の突破作戦はジョミニの原則に則しているが、ロシア軍は行き当たりばったりなのだ。実際にウクライナ東部における攻勢の最中に、南部が危険と判断し、ロシア軍の一部を南部に移動させている。これでロシア軍は戦力不足になり東部での攻撃力を失った。
ロシア軍の現実と未来
ウクライナ軍がハルキウ付近で突破作戦を行うとロシア軍は敗走した。作戦開始時はロシア軍が反撃すると思われたが、実際には反撃することなく敗走した。戦争史から得られた経験則として以下の2点が挙げられる。
   指揮官の判断で防御戦闘を中止する理由
   1:敵の包囲・突破などの「敵の機動攻撃」
   2:予備戦力が尽き果てて戦闘力が低下した
つまりロシア軍は、ウクライナ軍の突破作戦で予備戦力が尽き果てていた。ウクライナ軍に反撃したくても防御すらできないまで戦力が低下していたのだ。ロシア軍は逃げるしか選べないまで士気が低下していたのだ。これは末端の兵士だけではなく、現場指揮官まで士気が低下していたことになる。
第一次世界大戦の塹壕戦で凄惨な突撃が繰り返された。これで一度失敗した作戦線で再攻撃をしないことが基本となった。だが今のロシア軍は同じ作戦線で何度も同じ攻撃を繰り返している。これは将官・左官クラスが第一次世界大戦以前のレベルであることを示唆している。
こうなるとロシア軍は大軍であってもウクライナ軍に粉砕されるだけ。しかもロシア軍は敗走するたびにウクライナ軍に武器弾薬を提供している。これではウクライナ軍は戦うたびに戦力を強化していることになる。実際の損害は戦後にならないと判明しないが、ロシア軍は約2000両以上の戦車を失っている。一個戦車師団は約400両の戦車で運用されるから、ロシア軍は5個戦車師団を失ったことになる。これは打撃力を失ったことを意味しており、ロシア軍は大規模な攻勢と突破作戦を行えないことを意味している。
プーチン大統領が選ぶ道
ロシア軍はウクライナ軍に粉砕されて弱体化。本来ならウクライナ軍に対して大規模な反撃と突破作戦を行わなければならない。だがロシア軍は無意味な攻撃を散発的に行うだけ。南部への侵攻は戦線の拡大であり戦力の分散に至った。そのため、南部を撤退させ戦力の集中と反撃を行うことになる。
これができないならウクライナから撤退となる。だがプーチン大統領は今も攻勢を行うことを公言している。今のロシア軍でウクライナ軍を撃破することは難しい。そうなると、プーチン大統領は戦術核を使い逆転勝利を選ぶ可能性が高い。
核保有国が通常戦力で勝てないなら残されたのは戦術核だけ。敵国の都市を攻撃する戦略核では規模が大きすぎる。ならば戦術核で戦力不足を補うことになるだろう。それに戦術核を使わなければロシアの未来はない。何故なら、ロシア軍の脅威がなくなればロシアの地位は低下する。外交でも無視されるので恐怖がなくなることはロシアの未来を潰す。
これが判っているから、プーチン大統領は戦術核を使って世界に恐怖を撒き散らすだろう。これで戦後もロシアに対する恐怖が残る。恐怖が残ればウクライナとの戦争に負けても、戦後のロシアの地位は保てる。
それにロシア軍がウクライナで戦術核を使っても欧米の核保有国は核兵器で報復しない。何故なら自国を核攻撃されたら報復するが、ウクライナは外国だしNATO加盟国でもない。ウクライナは空白地帯だからロシアは戦術核を使える条件を持っている。だからプーチン大統領は戦術核を使うはずだ。これを止められるのはロシア内部でのクーデターだけだ。 
●ロシア劣勢、兵士集めに躍起 受刑者も投入、総動員には慎重 9/20
ウクライナ軍の反撃によって東部ハリコフ州から撤退を余儀なくされるなど劣勢に陥ったロシアが、兵士の確保に躍起となっている。国内では総動員令を求める声も出始めているが、プーチン政権は慎重な構え。世論への影響を見極めつつ、民間軍事会社を通じて受刑者を戦線に投入するなど補充を図っている。
ハリコフ州でのロシア軍の後退が明らかになった直後の13日、政権の「体制内野党」、共産党のジュガーノフ委員長は下院で「戦争が起きている。総動員が必要だ」と訴えた。党は発言を修正したが、ウクライナ侵攻を戦争でなく「特別軍事作戦」と位置付けるプーチン政権の一線を踏み越えた発言だった。
●戦争犯罪の申し立ては「うそ」、ウクライナを一蹴 ロシア 9/20
ロシアのペスコフ大統領報道官は19日、ウクライナのゼレンスキー大統領が同国北東部でロシア軍が戦争犯罪を行ったと主張していることについて、「うそだ」と一蹴した。ペスコフ氏は、ウクライナ首都キーウ近郊のブチャで行ったものと同様のシナリオを実行しているとして、ウクライナ政府を非難した。
ペスコフ氏は「これはブチャと同じシナリオだ。これはうそだ。我々はもちろん、この物語全体の真実を守る」と述べた。
ロシア軍がウクライナ・ハルキウ州から後退した後、解放されたイジュームで集団墓地が発見され、ウクライナ国防省は少なくとも440人分の無名の墓が見つかったと明らかにしていた。
ゼレンスキー氏は16日、遺体の一部には拷問の痕跡が見つかったとして、残虐行為とテロ行為でロシアを非難した。
2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降、民間人に対する虐殺行為の疑惑が数多く浮上している。ブチャでは調査官や記者によって、ロシア軍によるものとみられる虐殺行為がロシア軍の撤退後に明らかになっている。
ロシア側は、ブチャで民間人を殺害したとの申し立てについて、仕組まれた挑発行為だと一蹴している。
●ウクライナ情勢に国連グテーレス事務総長「世界がとてつもない機能不全」 9/20
国連のグテーレス事務総長はニューヨークの国連本部で各国首脳らによる一般討論演説に先立って演説し、ウクライナ情勢を念頭に「国連の安全保障理事会の機能が弱体化している」と訴えました。
グテーレス事務総長はさらに、国家間の分断によって「世界がとてつもない機能不全に陥っている」と警告し、協力と対話が進むべき唯一の道だと強調しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日にビデオで演説し、ロシアへの厳しい対応を各国に求める予定ですが、プーチン大統領は出席しない方針です。
●バイデン米政権、ロシアに追加制裁、輸出管理も強化 9/20
米国のバイデン政権は9月15日、ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、ロシアの主要な軍事組織やハイテク産業の企業など複数の事業体・個人を制裁対象の「特別指定国民(SDN)」に指定した。また、ロシアとベラルーシに対する輸出管理も強化した。
今回の制裁は財務、国務、商務各省がそれぞれの権限の下で発動した。SDNに関しては、財務省が事業体2組織と個人22人を指定した。財務省が指定したSDNには、ウクライナでロシア軍とともに戦闘に参加した準軍事組織とその幹部や、ロシア中央銀行が所有するカード決済網運営事業者の幹部が含まれる。国務省指定のSDNには、宇宙やエレクトロニクス産業のロシア企業が入っている。
制裁対象には、在米資産の凍結や米国人との資金・物品・サービスの取引禁止などを科す。SDNが直接または間接的に50%以上所有する事業体も当該制裁の対象となる。各省のSDN指定の詳細については、財務省のウェブサイトと国務省のファクトシートを参照。
商務省も9月15日、ロシアとベラルーシ向けの輸出管理を強化する一連の措置を発表した。正式には翌16日付の官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公示したが、措置は15日に有効となっている。同省は今回、輸出管理規則(EAR)でEAR99に分類される品目のうち、化学・生物兵器の生産・開発に使用され得る品目や量子コンピュータに関連する機器などについて、ロシアまたはベラルーシに輸出・再輸出・国内移送する際の許可要件を新設した。これら品目群には、米国製のソフトウエア・技術を用いて米国外で生産された製品についても、事前の許可申請を求める、いわゆる外国直接製品(FDP)ルールも適用する。そのほか、軍事エンドユーザー規制の拡大などを行った。
一方、財務省は商務省による措置を補完するかたちで、米国からロシア国内の個人・事業体への量子コンピュータサービスの輸出、再輸出、販売、提供を禁止すると発表した。所在地を問わず、米国人による輸出なども同様に禁じる。これはジョー・バイデン大統領が4月に署名した大統領令に基づく措置で、10月15日に有効となる。
●南ウクライナ原発周辺でミサイル攻撃 安全性に懸念高まる  9/20
ウクライナでは南部の南ウクライナ原子力発電所の周辺でミサイル攻撃があったとして、砲撃が相次いだ南東部のザポリージャ原発に続き、原発の安全性に懸念が高まっています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、SNSにメッセージを投稿し「ミコライウ州にある南ウクライナ原発からおよそ300メートルの場所にミサイルが落下し、短時間の停電が発生した」と述べました。
そのうえで「ロシアは全世界を危険にさらしている。手遅れになる前に止めなければならない」と訴えて、ロシアを非難しました。
ウクライナの原子力発電公社エネルゴアトムによりますと、施設内の建物の窓ガラスが100枚以上割れましたが、3基ある原子炉に損傷はなく、職員などにけがもないということです。
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、19日、声明を発表し「ザポリージャ原発での事故を防ぐ活動に集中してきたが、ウクライナのほかの原発が直面する潜在的な危険を浮き彫りにした」と述べ、原発を危険にさらすいかなる軍事行動も許されないと訴えました。
今月に入って、ウクライナでは発電所やダムなどインフラ施設への攻撃が相次いでいます。
イギリス国防省は、ロシア軍がウクライナの士気をくじこうと標的を拡大した可能性が高いと分析していて、砲撃が相次いだ南東部のザポリージャ原発に続き、南ウクライナ原発の安全性にも懸念が高まっています。
南ウクライナ原発とは
南ウクライナ原子力発電所は、ウクライナ南部のミコライウ州に立地しています。
ロシア軍が掌握し砲撃が相次いだザポリージャ原発からは西におよそ250キロの距離にあります。
原子炉は3基あり、出力はいずれも100万キロワットで、合わせて300万キロワットはザポリージャ原発の6基600万キロワットに次ぐ国内2番目の規模の原発です。
ザポリージャ原発と同じウクライナの原子力発電公社、エネルゴアトム社が運営し、今月19日現在、3基すべてが運転中です。
また、エネルゴアトム社によりますと、南ウクライナ原発は、国内の総電力の10%以上をまかなっているということです。
一方、IAEA=国際原子力機関によりますと、今月19日に南ウクライナ原発から300メートルほど離れた場所で砲撃による爆発があり、施設の窓ガラスが割れるなどの被害がありましたが、原発の運転への影響はないということです。
松野官房長官「許されない暴挙 即座に停止を求める」
松野官房長官は、午後の記者会見で「原発の占拠を含めたロシアの一連の行為は決して許されない暴挙で、原発事故を経験したわが国として強く非難し、このような蛮行を即座に停止することを求める。ロシアによる侵略を一刻も早くやめさせるため、国連総会の機会を含め、引き続き、G7をはじめとする国際社会と適切に連携し、発信を行っていく」と述べました。
●ロシア支援なら対中投資冷え込むと習氏に警告していた−バイデン氏 9/20
バイデン米大統領は中国の習近平国家主席に対し、対ロシア制裁に違反する行動を取れば「大きな間違い」になると警告していたと明らかにした。ウクライナに軍事侵攻したロシアへの中国による武器供与の兆候は今のところないとしている。
バイデン氏は18日放送されたCBSの番組「60ミニッツ」とのインタビューで、北京冬季五輪が開幕した2月4日に北京で習氏がロシアのプーチン大統領と会談した直後に習主席に電話したと述べた。北京五輪閉幕後の同月24日、ロシアはウクライナ侵攻を開始した。バイデン氏の発言はインタビューの抜粋に基づいている。
バイデン氏は習氏との電話会談がいつ行われたかについては特定しなかったが、「ロシアに科された制裁に違反した中国に米国などの人々が投資を続けると思うなら、大きな間違いを犯している」と伝えたと話した。
バイデン氏はCBSに対し、これまでのところ中国によるロシアへの実質的な支援の兆候はないと説明したが、詳細には触れなかった。中国とロシアの関係が米国を「複雑さを増した新たな冷戦」に陥らせる可能性があるかと問われたバイデン氏は、「複雑さを増した新たな冷戦だとは思わない」と答えた。
中国外務省のウェブサイトによると、王毅外相はニューヨークでキッシンジャー元米国務長官と19日に会談し、台湾に関係する問題は適切に管理されなければならず、そうでなければ、中国と米国の関係に「破壊的な影響」が及ぶと述べた。抑制のない台湾独立派の力が増せば、平和的な中台統一の可能性が低下するとも警告したという。
一方、中国の税関当局が20日発表した統計によれば、ロシアのエネルギー商品に対し中国が8月に行った支出は前年同月比で68%増え、83億ドル(約1兆1900億円)と過去最高を更新。石炭が記録を塗り替えるなどした。ロシアがウクライナ侵攻を開始した後の6カ月間では前年同期比74%増の440億ドル近くに達した。
●プーチン派圧勝のウラで... ロシアの選挙で不正告発 9/20
ウクライナの反撃が伝えられる中でも、自信が揺らがないように見えるプーチン大統領。先週行われた統一地方選挙でも、プーチン派は圧勝した。しかし、その裏で、さまざまな不正が告発されていた。
投開票の前の日に投稿された動画。野党の候補が、投票所の副所長に詰め寄っている。
野党候補「投票用紙を隠し持ってるでしょ? 確認させて」
副所長「どうやって?」
野党候補「立つのよ」
かたくなに立ち上がることを拒む副所長。見かねた警察官が促すと...。
野党候補「股の間に紙がはさまっているわ」
尻の下にあったのは、プーチン大統領を支持する与党「統一ロシア」にチェックが入った投票用紙の束。投票所の副所長が、不正に投票しようとしていたとみられる。トラブルは、ほかにも...。ある投票所では、投票箱の板の隙間から、投票用紙の束を不正に入れられるようになっていた。
一方で、プーチン大統領を批判するメッセージが書かれた無効票も、各地で見られたという。選挙結果は、本当に国民の圧倒的支持を表しているのか。それとも...。
●プーチン氏、欧州との「エネ戦争」でも遠のく勝利  9/20
ロシア産天然ガスの供給を大きく絞ることで、欧州諸国にウクライナへの支持を断念させようとするウラジーミル・プーチン露大統領のもくろみが外れつつある。ガス価格がピークから下げているほか、ロシア政府の財政は着実に悪化。欧州諸国はガス価格高騰による家計や企業の痛みを和らげる対策をまとめている。
ロシアが果たして、長期的に欧州との経済戦争に勝利できるか。双方はこの問題が、ウクライナでの戦争がどんな結末を迎えるかを大きく左右する要因になると考えている。だが、ここにきてプーチン氏の経済的な戦略は行き詰まりの様相が色濃くなってきた。ウクライナ軍が一部で領土を奪還するなど反転攻勢を強めているばかりか、プーチン氏はウクライナ侵攻を巡り、中国、インド両首脳が懸念を抱いていると認めざるを得なかった。
プーチン氏は天然ガスの供給を削減することで、欧州の家計や企業に打撃を与え、対ロシア制裁やウクライナへの軍事・経済支援に対する反対機運が域内で高まるとの賭けに出た。欧州諸国の政府はこうプーチン氏の戦略を分析している。
ロシアはこの経済戦争に負けると決まったわけではない。とはいえ、当局者やエネ専門家、エコノミストの間ではプーチン氏の読み通りの展開とはなりそうにないとのコンセンサスが広がりつつある。つまり、ロシアの供給削減は各地で深刻な打撃をもたらすとみられるものの、欧州はガス枯渇の事態に陥ることなく冬場を乗り切れるとの見立てだ。冬を乗り切れば、欧州のエネ供給に対するプーチン氏の影響力は決定的に弱まるだろうという。
プーチン氏は8月下旬、ガスパイプライン「ノルドストリーム」経由の欧州向けガス供給の無期限停止に踏みきることで、最大の「切り札」を切った。S&Pグローバル副会長でエネルギー歴史学者のダニエル・ヤーギン氏は「これは彼(プーチン氏)の勝負どころだ。最強の交渉カードを切った瞬間であり、完全なる賭けに出た」と述べる。
ウクライナの反撃で戦況が改善していることも、欧州諸国にとっては軌道修正に動きにくい要因だとの指摘も出ている。キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授(戦争研究)は「終わりの見えない膠着(こうちゃく)状態が続くとの見方が広がれば、(ウクライナ支援からの)出口を探る動きが出るかもしれない」と話す。だが「当局者の間で(プーチン氏に)降伏することが唯一の方策だと示唆する声は皆無だ」という。
ウクライナ侵攻を受けた石油・天然ガスの価格高騰は、エネ輸出国のロシア財政を大きく潤した。だが、足元ではガス輸出の急減や石油価格の落ち込みによって、ロシアにとってはまたとない追い風が弱まりつつあるようだ。原油価格の国際指標となる北海ブレントは6月のバレル当たり120ドル余りから、最近では90ドル程度に下落。これに伴い、ロシア産石油の価格もバレル当たり約65ドルに値下がりしている計算だ。
ロシア政府が19日公表したデータによると、8月の財政収支は大幅な赤字に転落した。1-8月の財政黒字は1370億ルーブル(約3300億円)と、黒字幅は1-7月までの約4810億ルーブルから大幅に縮小した。
欧州諸国はロシア産ガスの代替調達先の確保にも成功している。さらに、価格高騰を背景とする工場閉鎖や家計の消費削減によって、ガス消費は減る可能性が大きいとみられている。エコノミストが「需要の崩壊」と呼ぶ現象だ。
欧州連合(EU)は先週、電力消費の強制カットも含め、消費者への圧力軽減に向けた提案を打ち出した(今後各国政府の承認が必要)。ただ、エネ専門家の間では、各国政府が補助金を提供することで光熱費の負担を減らそうとすれば、エネ需要を抑制する取り組みを損ないかねないとの懸念も出ている。
これからやって来る冬場は、欧州政府にとって最も危うい期間になりそうだ。気温が例年を下回れば、エネ消費が増え、楽観論が消えかねない。また欧州諸国が結束して冬場を乗り切るには、在庫に余裕のある国が他国に融通する必要が出てくるだろう。
ロシアにとって一つの代償は、ガスを決して政治的な兵器として使わないという、旧ソ連時代から積み上げてきた「信頼ある供給国」としての評価を失うことだ。前出のヤーギン氏は「今では政治的な武器としてのみならず、戦争の兵器としても使っている(中略)頼れる供給国という評価は完全に消滅した」と述べる。
すでにロシアの影響力が後退している兆候も出てきた。ガス・電力価格は、ノルドストリーム経由の供給停止の発表直後こそ反射的に跳ね上がったものの、その後は急速に押し戻されている。
16日時点のガス卸売価格はメガワット時185ユーロ程度と、1年前の約3倍、ロシアがノルドストリーム経由の供給を絞り始めた6月初旬からはおよそ2倍の水準だ。それでも8月26日につけた終値ベースの最高値からは45%余り下落しており、7月下旬の水準に戻っている。
電力価格はピークから約半値に落ち込んだ。オランダの電力販売会社DCエナジー・トレーディングの共同創業者、デービッド・デンホランダー氏は「状況は安定化しつつあるようだ」と述べる。欧州中央部のガス貯蔵庫がほぼ満タンに近いことに加え、鉄鋼や肥料などエネ大量消費型産業が工場閉鎖に動いているほか、オランダなど各地で液化天然ガス(LNG)輸入ターミナルの設置が進んでいるためだという。
ロシアが再びガス供給で揺さぶりをかけないよう、欧州諸国は調達先の分散を目指し、LNGターミナル施設の新設を急いでいる。
その結果、米国などからのLNG輸入によってロシア産ガス削減の影響は和らいでいる。地下のガス貯蔵量は目下、能力の85%に達しており、10月末までに80%を達成するというEUの目標をすでに超えている。
英投資ファンド、ジェムコープ・キャピタルの首席エコノミスト、サイモン・クイジャーノエバンス氏は、ロシアがガス供給を完全に停止したとしても(ロシアは今もウクライナや「トルコストリーム」パイプライン経由でEUに1日当たり8000万立方メートルのガス輸出を継続)、EUは冬場を乗り切るだけのガスを確保できると分析している。「厳しい状況であり、天候にも左右されるだろうが、絶対に可能だ」
同氏によると、10月から3月のEUの天然ガス消費量は2018〜21年の平均で2560億立方メートル。一方、供給はロシア以外からの調達や在庫の切り崩しで推定2420億立方メートルを確保できる見通しだ。残る不足分についても、暖房の温度を若干下げるといった省エネ努力で吸収できると同氏は分析している。
EU諸国や英国などの政府も、エネ高騰に対する支援策を実施することから、「各国政府がプーチンに白旗を上げざるを得ないような暴動が発生する事態は考えにくい」。こう述べるのは、イタリアの元外交官で、ジョルジオ・ナポリターノ元大統領の外交顧問を務めたステファノ・ステファニーニ氏だ。
イタリアでは9月25日に総選挙が予定されており、世論調査によると、ジョルジャ・メローニ氏が率いる中道右派政権が誕生することが有力視されている。だが、マッテオ・サルビーニ、シルビオ・ベルルスコーニ両氏といったプーチン氏に近い右派政党の党首が連立政権に加わったとしても、イタリアの政情が何らかの問題をもたらす可能性は低いとステファニーニ氏はみている。
また前出のフリードマン教授は、プーチン氏が欧州諸国に対して実行可能な譲歩策を提示していないことも、欧州諸国が引き下がらない要因の一つだと指摘する。プーチン氏はこれまで、制裁解除をガス供給再開の条件にすることを目指している。
しかしながら、ウクライナでロシア軍によるとみられる民間人への残虐行為の疑惑が深まっていることで、欧州諸国の態度をさらに硬化させている、と同氏は指摘する。こうした中、プーチン氏は欧州諸国が現実的に支持できる合意を示せていない。
フリードマン氏はその上で、欧州がロシアへの対応を変えなければ、「確実にロシアの立場が弱まることになるだろう」と述べる。

 

●国連事務総長「ウクライナ背景に国際社会が分断」 総会演説で  9/21
ニューヨークの国連本部で国連総会の一般討論演説が始まり、冒頭、グテーレス事務総長は、ウクライナ情勢を背景に国際社会の対立と分断が深まっている現状に強い危機感を示したうえで、食料危機など共通の課題に一致して取り組むよう加盟国に呼びかけました。
国連本部では20日午前、日本時間の20日夜から、各国の首脳らによる一般討論演説が始まり、冒頭、グテーレス事務総長が演説しました。
この中でグテーレス事務総長は「私たちの世界は危機にひんしていて、まひしている。地政学的な分断は国連の安全保障理事会の機能を弱らせ、国際法を弱体化させ、あらゆる国際協力を衰退させている」と述べ、ウクライナ情勢を背景に国際社会の対立と分断が深まっている現状に強い危機感を示しました。
また、ロシアによる軍事侵攻は大規模な破壊をもたらしたと指摘する一方、ウクライナ以外でも紛争や人道危機が広がりつつあるとして、アフガニスタンやミャンマー、それにシリアやエチオピアなどで多くの市民が苦しんでいると訴えました。
そのうえでグテーレス事務総長は「協力と対話がわれわれの進むべき唯一の道だ」と述べ、食料危機など共通の課題に一致して取り組むよう加盟国に呼びかけました。
一般討論演説は今月26日まで行われ、焦点であるウクライナ情勢をめぐり、各国がどのような立場を示すのか注目されます。
●ウクライナを甘く見たツケ。戦争長期化で影響力“凋落”のプーチン 9/21
東部ハルキウ州では露軍を大敗北に至らしめるなど、反転攻勢の勢いを維持するウクライナ。押されるばかりのロシアですが、国内でもさまざまな声が上がり始めたようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ紛争の最新の戦局とロシアの強硬派らの主張を紹介。さらにもはや隠すことができなくなった、国際社会における「ロシアの影響力凋落の証拠」を記しています。
ロシアの影響力がなくなる
ウクライナ戦争で、ロ軍がハルキウ州で総崩れの状態になり、アゼルバイジャンがアルメニア本国を攻撃、しかし、ロシアは集団安全保障締結国アルメニアの出動要請を拒否。今後を検討しよう。
ウ軍は、東部ハルキウ州のほぼ全体を奪還したが、クピャンスク市西側の奪還後、オスキル川を渡河して東側も奪還して、オスキル川東岸を攻撃しているようだ。
そのほか、ドボリジナでも渡河して、橋頭保を築き、東に向かって攻撃して、トロイツクに達したという。またオスキル市でも渡河して市内で戦闘中である。もう1つがボロバ付近でも渡河したようで、都合4ケ所で渡河に成功しているので、オスキル川を防衛線としたロ軍の防衛線を突破していることになる。
しかし、ロ軍も体制を立て直しつつある。逆に、ウ軍は広範な地域を短時間に奪還したことで、奪還地域でのロ軍の残党刈に多くの兵を投入中であり、攻撃に回せる部隊が少ない。
このハルキウ州の大反撃で鹵獲したロシア軍兵器は、以下の通り
歩兵戦闘車:79両 / 無人航空機:5機 / 戦車:45両 / トラック等:41両 / 装甲戦闘車両:15両 / 自走砲:11両 / 装甲兵員輸送車:8両 / 指揮所:6両 / MLRS:5両 / 対空ミサイルシステム:1両 / 多数の弾薬類
信憑性は不明ですが、事実だとしたらかなりの戦力増強になった。
そして、スラビアンスク東側の攻撃でウ軍の前進は緩やかである。リマンでの戦闘も数日も続き、ロ軍は援軍を送り守備力を上げている。また、クレミナでロ軍が退却したが、ウ軍が到着できずに、再度ロ軍が入ったようである。
ヤンピルでも数日前から戦闘が続き、イジュームから撤退したロ軍が投入されて、ウ軍は前進できなくなっている。
ルハンスク州防衛で、ロ軍が体制を立て直しつつあるようである。残念であるが、ウ軍は、ロ軍の防衛線構築を阻止することで戦果を拡大できると思ったが、それは実現できなかったようである。
しかし、このセベロドネツク方面への鉄道網は、クピャンスクから伸びているので、ここの補給はクピャンスクを失ったロ軍は補給路としては、ルハンスク市から山超えで車で運ぶことになる。
このため、補給路の道路を監視して、輸送のトラックをPzH2000自走榴弾砲とボルケーノ弾やバイラクタルTB2で狙うと、この地域への補給ができなくなる。
ということで、この地域の防衛は難しいようである。ウ軍もじっくり攻撃して、相手の消耗を待つようだ。
一方、ロ軍はウクライナへの新しい派兵は、当分停止するという。十分な訓練をしなかった兵が、先に逃亡して戦局を悪くしたことが認識されて、訓練を行う時間が必要だということである。
ロ軍もウ軍の実力を思い知らされて、慎重に戦争遂行を考え始めたようである。戦闘を広範囲に行うのではなく、兵力を集中して1ケ所で攻撃を行うようになってきた。その成果がバクムット方面のコデマを制圧したロ軍が攻撃を強化して複数方向に進撃している。
ロシア国内では、戦争宣言をして総動員を掛けろいう強硬派の声が大きくなってきた。もう1つが国防省の責任を追及する方向で、議会は動き、ショイグ国防相の下院議会への召喚を要求する声も出ている。ショイグ国防相の解任を議会は要求する可能性もある。
一方、ウ軍は南部ヘルソン州での攻撃では、3軸で行っている。1軸は、ヘルソン市の北キセリフカからでロ軍が撤退したので、ウ軍が奪還した。ウ軍は前進して、チョルノバイフカ付近、ヘルソン空港あたりまで来ているようであり、ヘルソン周辺の要塞群の先端辺りにいる。また、西端のオレクサンドリフカをウ軍は奪還した。徐々にヘルソン市に近づいている。そして、ヘルソン市庁舎への砲撃もウ軍は開始した。
ドニエプル川の橋やフェリーは相変わらず攻撃しているので、ポンツン・フェリーで細々と補給をしている状況ではある。このため、食料や飲料水が思うように確保できず、戦場を離脱する部隊もあるようだ。
2軸は、ヘルソン州中北部のロゾベの橋頭保からロ軍を攻撃する軸であり、ベジメンネを奪還後、T2207号線脇を南下しているが、ロ軍はクリヴィー・リフ貯水地の堤防を破壊して洪水をおこし、橋頭保の船橋を押し流そうとしたが、失敗している。
3軸は、ヘルソン州北東部では、ビソコピリア奪還し南下しているが状況が見えない。ノヴォヴォスクレセンスキ奪還もしている。
そして、ウ軍はサポリージャ攻撃で大軍を集結していると、ロ軍は見てメルトポリからクリミアに軍民政府やロ軍の一部も移動させている。
次の大攻勢は、ザポリージャ州とロ軍は見ているようだ。ここのパルチザン活動は盛んであり、多くのウ軍特殊部隊が潜入しているとロ軍はみているようだ。
しかし、ウクライナは米議会や米国防総省に長距離ミサイルシステムや戦車を要望しているが、米国はウ軍が要望する長射程のATACMSを供与する考えはないという。ロシアもATACMSの供与はレッドゾーンだと再三宣言している。ということで、当面は地道にザポリージャ州を奪還して、アゾフ海の海岸線をめざすしかない。
また、黒海艦隊の母港をクリミア半島のセヴァストポリからノボロシスクに変更した。ザポリージャ州を奪還されると、セヴァストポリへの砲撃も可能になり、艦隊の安全がキープできないからでしょうね。
他方、ロシアの集団安全保障条約(CSTO)加盟国アルメニアが、国境付近で、アゼルバイジャン軍に攻撃されて、停戦監視をしていたロ軍は撤退し、軍の派遣をロシアに要請したが、ロシアもカザフスタンも要請を拒否した。
しかも、上海協力機構で、アゼルバイジャンとアルメニアのトップともプーチンは首脳会談をしたが、有効な調停をしていない。アルメニアへの支援を行わないようである。しかし、トルコとロシアが協議して、停戦には持ち込んだようである。
もう1つ、中央アジアのタジキタンとキルギス間の国境紛争も起こり、キルギスの飛び地のバトケンでは、住民らが政府に武器を配るよう要求している。
キルギスはクルグズ人の国家であり、キルギス政府は、タジクとの停戦発効後も「激しい戦闘」が続いているという。キルギスは、バイラクタルTB2で、侵攻してきたタジク軍のT-72戦車を攻撃しているようだ。
しかし、ここでもロシアが調停に乗り出さない。ロシアの影響力は行使できない。このため、中央アジアでの紛争を止められるのは、中国しかいないことになる。
もう1つ、シリアに展開していたロ軍もすべて撤収したという。ロシアの海外での影響力はなくなっていく。
一方、ウクライナが勝ち始めたので、欧州に逃れた800万人中500万人のウクライナ難民がすでに帰国したようだ。ロ軍のミサイルが防空システムで打ち落ちされれば、ウクライナに戻る人は増えるでしょうね。さあ、どうなりますか?
●トルコ大統領「戦争に勝者はいない」仲介への意欲を示す  9/21
トルコのエルドアン大統領は国連総会で演説し、「戦争に勝者はいない」と述べ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり事態の打開に向けた仲介への意欲を改めて示しました。
トルコのエルドアン大統領は20日、国連総会で演説し「戦争に勝者はいないし、公正な和平に敗者はいない。いま求められているのは、解決に向けた対話と外交だ」と訴えました。
そのうえで、トルコが関与して実現したロシアとウクライナの外相会談や、ウクライナからの船舶での農産物の輸出再開を引き合いに出し、事態の打開に向けた仲介への意欲を改めて示しました。
また、「ザポリージャ原子力発電所でも同じ働きができる」として、原発の安全確保でも仲介の準備があると述べました。
一方で、エルドアン大統領は「国連安全保障理事会のより民主的で透明性のある構造の確立は、全人類が平和を求める上で重要な転機になる。世界は5か国よりも大きいということをあらゆる場で強調する」とし、常任理事国の中国やロシアが拒否権を行使することで機能不全に陥っているとして、改革が必要だという認識を示しました。
●ウクライナの支配地域でロシア編入へ向け住民投票の実施発表  9/21
ロシア軍が侵攻を続けるウクライナで、親ロシア派の勢力は今月23日から27日にかけてロシアへの編入に向けた住民投票の実施を決めたと表明しました。ウクライナ軍の反転攻勢を受けてプーチン政権が急きょ、支配地域の一方的な併合に動き出したかたちですが、ウクライナ側は「偽りの住民投票だ」と強く反発しています。
ウクライナの親ロシア派勢力は20日、東部のドネツク州とルハンシク州、南部のヘルソン州それに南東部のザポリージャ州の支配地域で、それぞれ今月23日から27日にかけてロシアへの編入に向けた住民投票の実施を決めたと表明しました。
ロシアのプーチン政権が支配地域の一方的な併合に向けて動き出したかたちです。
8年前にはウクライナ南部クリミアでもロシア軍が派遣される中で親ロシア派が住民投票を実施し、その結果を根拠にプーチン大統領はクリミアを一方的にロシアに併合しています。
住民投票の動きについて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は19日、「ウクライナ軍の反転攻勢が続く中、親ロシア派勢力やクレムリンの意思決定者の一部がパニックに陥っていることを示唆している」と分析していました。
ウクライナ軍の反転攻勢を受け、プーチン政権は、危機感を強めているものとみられ、ロシアの前の大統領で、安全保障会議のメドベージェフ副議長は20日、SNSで「ロシアの領土を侵すことは犯罪であり、ロシアは自衛のためにあらゆる力を行使できる」と主張しました。
また政権与党の幹部で、ロシア議会下院のボロジン議長は「住民がロシアの一部になりたいという意思表示をするなら、われわれは支持する」と述べました。
一方、ウクライナのゼレンスキー政権は強く反発していて、クレバ外相は声明を出し「偽りの住民投票では何も変わらない。ロシアは侵略者であり、ウクライナの土地を違法に占領している。ウクライナは国土を解放する権利があり、ロシアがなんと言おうとも解放を続けていく」としています。
アメリカ政府も、ロシアが住民投票に踏み切れば追加の制裁を行うと警告していて、国際社会からの批判がさらに強まるとみられます。
背景に「ロシア側の危機感」か
ウクライナ東部や南部のロシア軍が掌握する地域で親ロシア派がロシアへの編入に向けた一方的な住民投票の実施を急いだ背景には、ウクライナ軍の反転攻勢を受けたロシア側の危機感があるものとみられます。
東部ドネツク州の親ロシア派の指導者プシリン氏は8月、住民投票はロシア軍が州全域を掌握したあとに実施する意向を表明していたほか、南部ヘルソン州の幹部は9月5日、治安上の理由から実施を見送る考えを示していました。
しかしプシリン氏は20日、国営ロシアテレビで方針の変更を認めたうえで、親ロシア派の支配地域以外の住民も投票に参加させる考えを示唆しました。
一方、ロシアの前の大統領で、安全保障会議のメドベージェフ副議長は20日、SNSで「住民投票は歴史的な正当性を回復するためにも非常に重要だ。ロシアの領土を侵すことは犯罪であり、ロシアは自衛のためにあらゆる力を行使できる」と主張しました。
また、政権与党の幹部で、ロシア議会下院のボロジン議長は「住民がロシアの一部になりたいと意思表示をするなら、われわれは支持する」と述べ、支配地域の一方的な併合に向けて動きだした形です。
こうした動きについてロシアの独立系ネットメディア「メドゥーザ」は「クレムリンは直ちに併合することを決定した」としたうえで、実施を急いだ背景には、ウクライナ軍が反転攻勢を強める中で、プーチン政権が支配地域をロシア領とすることを急いだという見方を示しています。
アメリカ国務長官「偽りの住民投票だ」
アメリカのブリンケン国務長官は20日、イギリスのクレバリー外相との会談に先立ち、「偽りの住民投票だ」と非難するとともに「プーチン大統領がロシアの予備役をさらに動員しようとしているという報告もある」と述べました。
そのうえで「もし住民投票が進められ、ロシアがウクライナの領土の併合をもくろんでいるのなら、アメリカは決して認めることはない。国連憲章を支持する他の国々にとっても、それを明確にすることは非常に重要だ」と述べ、住民投票などが進められた場合、国連の加盟国に対し反対の立場を示すよう呼びかけました。
アメリカ大統領補佐官「領土併合を主張するために利用」
アメリカのサリバン大統領補佐官は20日、記者会見で「この住民投票は、国際社会の基礎である主権と領土の一体性をないがしろにするものである。投票が操作されることは分かっているし、ロシアはこの偽りの住民投票を領土の併合を主張するために利用するだろう」と述べ、ロシア側を非難しました。
そのうえで「仮に実施されても、アメリカは決してロシアがウクライナの一部を併合したとする主張を認めることはないだろう。そして、ウクライナの領土であること以外、認めることはないだろう。ロシアの行動を明確に拒否し、われわれは引き続き同盟国とパートナーとともにロシアに対価を支払わせ、ウクライナへの支援を行っていく」と述べました。
ウクライナ軍 ハルキウ州のほぼ全域を奪還と発表
ウクライナ軍は、東部ハルキウ州のほぼ全域をロシア軍から奪還したと発表したほか、南部ヘルソン州でも反転攻勢を続けています。
さらに、東部ルハンシク州のハイダイ知事は19日、ウクライナ軍が、リシチャンシク郊外の集落ビロホリウカを奪還したと明らかにしました。
ルハンシク州では、ことし7月、ウクライナ側にとって最後の拠点とされたリシチャンシクをロシア軍が掌握し、ロシア国防省は州全域を掌握したと宣言していて、今後、ウクライナ軍はリシチャンシクの奪還に向けて攻勢を強めていくとみられます。
●フランス マクロン大統領 軍事侵攻は「帝国主義への回帰だ」  9/21
フランスのマクロン大統領は国連総会で演説し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「帝国主義や植民地の時代への回帰だ」と述べ、厳しく非難しました。
フランスのマクロン大統領は20日、国連総会で演説し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「安全保障理事会の常任理事国であるにもかかわらず、国連憲章に故意に違反し、併合のための戦争へ道をひらいた」と指摘しました。
そのうえで「いまはヨーロッパだが、あすはアジアやアフリカだ。これは帝国主義や植民地の時代への回帰だ」と述べ、厳しく非難しました。
そして、軍事侵攻によるエネルギーや食料の危機で国際社会に分断が生じかねない状況だとして「いくつかの国は中立の立場を維持しているが、いま沈黙することは歴史的な責任を負うことになり、新たな帝国主義を利する」とし、国連憲章のもとですべての加盟国が結束するよう訴えました。
一方で「和平についてのフランスの立場は明確だ。ロシア側とも開戦前から数か月にわたって対話を続けてきた」と述べ、軍事侵攻を終結させるため今後も対話を続ける姿勢を強調しました。
●プーチン氏演説、急きょ延期 総動員の観測くすぶる―ロシア 9/21
ロシア紙RBK(電子版)は20日、複数の大統領府筋の話として、プーチン大統領がウクライナ南東部のロシア併合に向けた「住民投票」に関し、同日中に国民向けに演説する可能性があると伝えたが、延期されたもようだ。一部メディアは21日に放映されると報じている。
ショイグ国防相もこれに合わせて演説するといい、ウクライナ軍の反転攻勢でロシア軍が苦戦を強いられる中、国民の「総動員」が宣言されるのではないかという観測がくすぶっている。下院では20日、「戦時」の規定を盛り込んだ刑法改正案が通過したが、カルタポロフ下院国防委員長は現地メディアに対し、総動員を意味するものではないと火消しを図っている。  
●プーチン氏は戦争を終わらせる気がある=トルコ大統領 9/21
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、19日放送の米放送局のインタビューで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナでの戦争の終結を望んでおり、「重要な前進」があるとの見方を示した。
エルドアン氏とプーチン氏は16日、上海協力機構(SCO)首脳会議があったウズベキスタンで会談した。エルドアン氏は米公共放送局PBSのインタビューで、「非常に多岐にわたった協議」をしたとし、その際に受けたプーチン氏の印象について語った。
エルドアン氏は、「彼はできるだけ早くこの戦争を終わらせる意思があることを、実際に私に示した」、「それが私の印象だ。現在の状況は(ロシアにとって)かなり問題があるからだ」と述べた。
ウクライナでは今月になって、同国がロシアから領土を次々と奪還している。
エルドアン氏はまた、ロシアとウクライナの間で「人質」200人が近く交換されるだろうと述べた。捕虜交換の対象などの詳細は明らかにしなかった。
エルドアン氏はインタビューで、ロシアが侵攻で獲得した領土を維持するのを認めるべきか、また和平協定にそれを含めるべきか問われると、「いや、間違いなくノーだ」と答えた。
同氏はさらに、「侵略された国土はウクライナに返還される」とも述べた。ロシアが支援するウクライナ分離派が2014年以降に支配している地域も含めた発言なのかは、明らかではない。
ロシアは2014年に併合したクリミアの保持を認められるべきかと質問されると、エルドアン氏は、「正当な所有者」への返還についてプーチン氏と話し合ってきたと説明。ただ、進展はなかったと述べた。
エルドアン氏は、ウクライナでの戦争が始まって以降、たびたび調停を試みてきた。先週には、ロシアとウクライナによる直接の停戦協議の実現を目指していると述べた。
トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国だが、「バランスのとれた」立場を示そうとしており、西側諸国をロシアに対して「挑発」政策を取っていると非難。ロシアへの制裁にも反対してきた。
エルドアン氏は今月、戦争は「すぐにも」終わる可能性は低いと警告していた。
ウクライナ東部の情勢
ウクライナ東部ルハンスク州のセルヒイ・ハイダイ知事は、ロシア軍がビロホリウカ村から撤退し、他の場所で守りを固めようとしていると述べた。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「占領者は明らかにパニックに陥っている」と話した。
ロシアのプーチン大統領は先週、ゼレンスキー氏との会談に前向きだが、同氏がそうではないと発言した。また、インドのナレンドラ・モディ首相には、「できるだけ早く」戦いを終わらせたいと語っていた。
しかしロシアは、ウクライナ領土からの完全撤退という、同国の要求を受け入れる姿勢は示していない。ウクライナは、ロシアが2014年に併合したクリミアからも撤退するよう求めている。
東部2州で住民投票の動き
ロシアのドミトリー・メドヴェージェフ前大統領は、同国の支援を受けているウクライナの分離派が、ルハンスク州とドネツク州のロシア併合について「住民投票」を実施すべきだと述べた。メドヴェージェフ氏は現在、ロシアの安全保障会議副議長を務めている。
ルハンスク州とドネツク州は、「ドンバス」と呼ばれる東部地方を構成している。プーチン氏は、ドンバス地方の「解放」がロシアの主要目標だと繰り返し表明している。
ルハンスク州とドネツク州の親ロシア派指導者も、緊急の住民投票を求めている。ウクライナ国防省顧問のオレクシー・コピツコ氏は、こうした動きについて、ロシア側の「ヒステリーのしるし」であり、プーチン氏に行動を起こさせる試みだと述べた。
ウクライナ軍は、北東部ハルキウ州の大部分を奪還したほか、南部ヘルソン州で反撃を開始。ロシアが据えた現地指導者らがロシア加盟に関して住民投票を開くのを遅らせている。
●プーチン大統領 “予備役”の部分的動員表明 ウクライナ侵攻で  9/21
ウクライナへ軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は国民向けのテレビ演説を行い、戦地に派遣する兵士について、職業軍人だけでなく、有事に招集される、いわゆる予備役を部分的に動員する大統領令に署名したことを明らかにしました。ウクライナ軍の反転攻勢を受け、プーチン政権は危機感を強めているものとみられます。
プーチン大統領は21日、日本時間の午後3時すぎから国民向けのテレビ演説を行い、「東部ドンバス地域を解放するという主な目的は今も変わっていない」と述べ、軍事侵攻を続ける考えを改めて強調しました。
そして「ロシア国防省などが提案した部分的な動員を支持する必要がある」と述べ、戦地に派遣する兵士について、職業軍人だけでなく、21日からは、有事に招集される、いわゆる予備役を部分的に動員する大統領令に署名したことを明らかにしました。
プーチン大統領は、招集するのは、軍務経験がある予備役に限定されるとしています。
また、ショイグ国防相は、部分的な動員の規模について、30万人としています。
ウクライナの東部や南部でウクライナ軍が反転攻勢を続ける中、プーチン政権は危機感を強め、厳しい戦局を打開するために部分的な動員に踏み切ったとみられます。
さらにプーチン大統領は「欧米側の反ロシア政策は、一線を越えた」と述べ、ウクライナ軍が、欧米側から軍事支援として供与された兵器を使って、一方的に併合したウクライナ南部のクリミアや、ウクライナとの国境地帯にあるロシアの領内を攻撃していると主張しました。
そのうえで「欧米側は、核兵器でわれわれを脅迫している。ロシアの領土保全に対する脅威が生じた場合、国家と国民を守るために、あらゆる手段を行使する。これはブラフではない。核兵器でわれわれを脅迫するものは、風向きが逆になる可能性があることを知るべきだ」と述べ、核戦力の使用も辞さない構えを示し、欧米側を威嚇しました。
プーチン大統領が署名した大統領令は
プーチン大統領が署名した大統領令は「ロシア国民の部分的な動員を宣言する」としたうえで、動員された国民はロシア軍との契約に基づき軍人の地位を得るとしています。
そして、年齢の制限や健康状態を理由に不適格とされた場合などを除き、動員期間が終了するまで軍隊との契約は継続するとしています。
今回の大統領令は21日から発効するとした一方、部分的な動員がいつまで継続するのか、具体的な期間は示されていません。
大統領令ではこのほか、ロシア政府に対して、部分的な動員のための資金を拠出することや、ロシア軍の要請に応じて必要な措置を講じるよう求めています。
部分的動員の対象者は
イギリスの有力なシンクタンク、IISS=国際戦略研究所の年次報告書「ミリタリー・バランス」は、ロシア軍の予備役の数を200万人としています。
一方、ロシアのショイグ国防相は21日、ロシアには2500万人という膨大な動員のリソースがあり、今回の30万人は1%余りにすぎないと述べました。
ロシア編入に向けた住民投票 支持の考え
ウクライナのロシア軍が支配する地域では、親ロシア派の勢力が、今月23日から27日にかけてロシアへの編入に向けた住民投票の実施を一方的に決めています。
プーチン大統領はテレビ演説で「ロシアは、投票の安全な状況を確保するためにあらゆることをする」と述べ、住民投票を支持する考えを示しました。
ウクライナ大統領府顧問「プーチン体制崩壊を加速させるだけ」
ロシアの部分的な動員について、ウクライナ大統領府の顧問、アレストビッチ氏は、戦局に大きな変化が起きることはないという考えを示したうえで「プーチン体制の崩壊を加速させるだけだ」と批判しています。
また、ウクライナのポドリャク大統領府顧問はSNSへの投稿で「ロシアが3日間で終わるとしていた戦争は、結局、動員にまで拡大した」としたうえで「それでも、まだすべてが計画どおりだというのか」などとしてロシア側の対応を痛烈に皮肉りました。
専門家「ある意味でプーチン大統領は追い詰められている」
プーチン大統領が、国民を部分的に動員すると発表したことについて、ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治 政策研究部長は「ある意味でプーチン大統領は追い詰められている。東部でウクライナ軍による奪還が始まる中、ロシア側も兵力不足が深刻で、このままでは戦況が悪化するという予想もある」と指摘しました。
そして「部分的な動員に踏み切り、戦況を有利な形で展開したい意図がある」と分析しました。
そのうえで「『特別軍事作戦』に対する疑問の声が、ロシア国内でもあちこちからあがっている状況で、何らかの対応を迫られたということだが、国内の世論の反応をかなり気にしていたのは間違いない。直前まで世論の動向を見極めながら、今回の決定に至ったのではないか」と指摘しました。
兵頭氏は「動員の対象となる30万人が十分なのか、兵士の練度がどの程度なのか、未知数なところが残っている。動員によってロシアが有利になるかは、今後の戦況を見極める必要がある」と述べています。
●ユーロ 一時約2円下落 ウクライナ情勢悪化の懸念受け  9/21
21日の東京外国為替市場は、ロシアのプーチン大統領が予備役など国民を部分的に動員する大統領令に署名したことを明らかにし、ウクライナ情勢の悪化が懸念されたことから、ユーロは、円に対して一時、およそ2円下落しました。
ロシアのプーチン大統領は21日、戦地に派遣する兵士について、職業軍人だけでなく、予備役など国民を部分的に動員する大統領令に署名したことを明らかにしました。
これを受けて、東京外国為替市場ではウクライナ情勢の悪化を懸念してユーロを売る動きが急速に強まり、ユーロは円に対して、一時、およそ2円値下がりしました。
午後5時時点の円相場は、ユーロに対しては、20日と比べて1円52銭、円高ユーロ安の1ユーロ=142円45銭から49銭でした。
ドルに対しては、20日と比べて28銭、円安ドル高の1ドル=143円74銭から76銭でした。
また、ユーロはドルに対して、1ユーロ=0.9910から11ドルでした。
市場関係者は「プーチン大統領の発言で円やドルなど多くの通貨に対してユーロを売る動きが出た。今後さらに地政学リスクが高まれば、ほかの主要通貨にも大きな影響が出る可能性がある」と話しています。
●プーチン氏、部分動員令に署名 30万人規模 9/21
ロシアのプーチン大統領は21日午前(日本時間同日午後)、国営テレビを通じて国民に演説し、ロシアによるウクライナ侵攻に関して、戦闘継続のために部分的な動員令に署名したと明らかにした。ウクライナの親ロシア派武装勢力幹部らがロシアへの編入の是非を問う住民投票実施を一方的に表明したことについて「決定を支持する」と述べ、事実上の併合に踏み切る考えを示した。
プーチン氏は演説で、欧米の目的は「わが国を弱体化し、分断し、最終的に絶滅させることだ」と主張した。米欧のウクライナ軍への軍事支援でロシア軍が後退していることに危機感を表した。
「すべての(東部)ドンバス地域の解放は特別軍事作戦の揺るぎない目的だ」と国民に呼びかけ「部分的な動員令に署名した」と語った。対象は有事の兵役義務がある国民すべてではなく、特別な軍事技術・経験などを持つ予備役になる見通しだ。ショイグ国防相によると約30万人を動員し、深刻な兵員不足を補う。部分動員令は、武器など軍需物資の生産拡大も定めている。
核兵器使用の可能性も示唆した。プーチン氏は「わが領土の一体性が脅威にさらされる場合」には「もちろん、われわれが保持するすべての手段を利用する」と述べた。「これははったりではない」とも付け加え、核の脅しを強めた。
ウクライナ東部と南部の占領地域の親ロ派幹部らは20日、23〜27日にロシアへの編入の是非を問う住民投票を実施すると発表した。プーチン氏は演説で「ドネツク州とルガンスク州、ザポロジエ州、ヘルソン州の住民の大部分が自らの将来について決定することを支持する」と強調した。
ロシアが親ロシア占領地域の住民投票に踏み切った背景には、ロシアの領土に組み込むことで、核兵器の利用を可能にする狙いがあった。14年に承認した軍事ドクトリンでは、核兵器の使用要件について「国家の存在が脅威にさらされた時」と明記し、大統領が決定すると定めている。
プーチン氏は2月のウクライナ東部への軍事侵攻など国家にとって重要な決定をする際に、国民向けに演説してきた。今回もウクライナ軍の反転攻勢で戦況が悪化するなか、予備役の部分動員と親ロシア派地域の事実上の併合に踏み切る意向を強調した。
●プーチン氏の軍動員令、戦争をエスカレート=NATO事務総長 9/21
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は21日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を巡り軍動員令に署名したことは戦争をエスカレートさせるという認識を示した。さらに、核兵器使用の脅しは「危険で無謀なレトリック」と批判した。
ロシアのプーチン大統領は21日、軍の部分動員令に署名したと明らかにした。動員令は第2次世界大戦以来で即日適用される。ショイグ国防相によると、30万人が召集される見通し。
ストルテンベルグ氏はロイター通信のアレッサンドラ・ガローニ編集長とのインタビューで、プーチン大統領の動員令署名に驚きはないとした上で、こうした行動は「戦争が自身の計画通りに進んでいない」状況を示しており、プーチン大統領にとっては「大きな誤算」であることは明白と述べた。
また「軍隊の増強は紛争をエスカレートさせ、苦しみを増やし、より多くの命が失われる。ウクライナ人の命だけでなく、ロシア人の命もだ」とした。
ロシアによる核兵器使用については「われわれがどのように反応するかについて、ロシア側に誤解がないことを確実にしたい」とした上で、「最も重要なことはそのような状況に至ることを防ぐことで、われわれはロシアとのコミュニケーションで、先例のない結果について明確にしてきている」と語った。
同時に「ロシアがウクライナを主権国家、そして独立国家として認めない限り、短期間で解決策を見いだすことは難しい」とし、「この戦争を終わらせる唯一の方法は、プーチン大統領が戦場では勝てないことを証明することだ。プーチン氏がそれを理解すれば、ウクライナと理にかなった協定の交渉を余儀なくされる」と述べた。
NATO加盟国はウクライナに対し前例のない支援を提供しているが、足元では加盟国が武器や弾薬の在庫を補充する必要があると言及。ロシアへの対応が「長期間」に及ぶことを覚悟しており、現在は防衛関連企業と緊密に連携し、軍備品の在庫を確保しているとした。
●“軍事侵攻で世界の食料供給悪化” 欧米がロシアを非難  9/21
アメリカやEU=ヨーロッパ連合などの首脳や閣僚らが参加して食料安全保障に関する国際会議がニューヨークで開かれ、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが世界の食料供給を悪化させているとして、非難の声が相次ぎました。
この会議は、国連総会に合わせてニューヨークで20日開かれ、アメリカやEU=ヨーロッパ連合、それにセネガルなどの首脳や閣僚らが出席しました。
この中で、アメリカのブリンケン国務長官が演説し、ことし初めの時点で、1億9000万人以上が深刻な食料不足にあったと指摘したうえで「国連のWFP=世界食糧計画によると、ロシアのプーチン大統領の残忍なウクライナへの軍事侵攻によって、さらに7000万人が食料不足に陥るかもしれない」と述べ、世界の食料供給を悪化させているのは、ロシアだと非難しました。
また、スペインのサンチェス首相も「ロシアは、不法なウクライナ侵攻を終わらせなくてはならない。世界の重要な食料供給源を脅威にさらしている」と述べ、強く批判しました。
一方、EUのミシェル大統領は「飢餓は世界の多くの地域に差し迫っている。私たちは、いまこそ政治的な約束を具体的な行動に移すときだ」と述べ、各国に対し食料危機の解決に向けて行動を起こすよう呼びかけました。
●相次ぐ“ロシア批判”と“国連の危機感” ウクライナ侵攻後初の国連総会 9/21
国連総会の一般討論演説では、ウクライナ情勢を受け、ロシアへの批判が相次いでいます。現地から中継です。
ウクライナ侵攻後初めてとなる今回の一般討論演説では、フランスのマクロン大統領をはじめとしたヨーロッパ諸国からロシアへの批判が相次ぎました。ただ、国連加盟国の間ではロシア批判への温度差があるのも確かで、むしろ、食料危機やエネルギー危機への対応の重要性を強調する発言もみられます。
こうしたなか、このあと演説を行うアメリカのバイデン大統領は「国連憲章の精神が脅威にさらされている」と強調する見通しです。特に、世界の安全を守る責任を持つ安全保障理事会の常任理事国の一つであるロシアが、国連憲章の精神の根幹を揺るがす他国への侵攻を行ったことを強く非難し、国連や安保理の機能を強化する必要性を訴えるものとみられます。
ただ、アメリカは時に国連を軽視した過去もあり、改革の機運が盛り上がる可能性は高くはありません。
●岸田首相 “力による現状変更許されず” トルコ大統領に伝える  9/21
ニューヨークを訪れている岸田総理大臣は、ウクライナ情勢をめぐり、停戦に向けて仲介に当たってきたトルコのエルドアン大統領と会談し、力による一方的な現状変更の試みは、いかなる地域でも許されないとする日本の立場を重ねて伝えました。
会談は、日本時間の21日未明、およそ40分間行われました。
この中で、岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナ侵攻について、主権と領土の一体性の尊重に反し国際秩序の根幹を揺るがす暴挙だと非難したうえで、力による一方的な現状変更の試みは、いかなる地域でも許されないとする日本の立場を重ねて伝えました。
また、岸田総理大臣は、ウクライナからの農産物の輸出が再開したことについて、国連とともにロシアとウクライナの仲介に当たったトルコの粘り強い外交努力で実現したものだと敬意を示しました。
このほか、両首脳は、両国のEPA=経済連携協定の早期妥結に向けて協議を加速させるとともに、エネルギーや宇宙などさまざまな分野で2国間関係を発展させていくことで一致しました。
●ドイツ首相 国連総会でロシアを「帝国主義」と厳しく非難  9/21
ドイツのショルツ首相は、国連総会で演説し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのふるまいを「帝国主義」と厳しく非難するとともに、侵攻をやめさせるため国際社会がウクライナへの支援を続けることが重要だと訴えました。
去年12月に就任したドイツのショルツ首相は20日、国連総会で初めて演説し、ウクライナへの侵攻を続けるロシアのふるまいについて「帝国主義以外のことばは見つからない。帝国主義や植民地主義とは対局にある世界平和への災いだ」と厳しく非難しました。
そのうえで、ウクライナが自衛できるようにドイツは兵器の供与も含めてウクライナへの支援に力を入れていると強調しました。
そして、ショルツ首相は「プーチンは勝つことができないと認識するまで戦争と帝国主義的な野望を諦めることはない」と述べ、侵攻をやめさせるためには国際社会がロシアを非難するだけでなく、ウクライナへの支援を続けることが重要だと訴えました。
ヨーロッパ最大の経済大国ドイツは、ロシアに天然ガスなどのエネルギーを大きく依存してきましたが、侵攻後は依存からの脱却を進め、ウクライナへの軍事支援についても積極姿勢に転じていて、ショルツ首相は国連の場でロシアへの厳しい姿勢を改めてアピールした形です。
●ロシア大統領、ウクライナ戦争に勝てないと認識すべき=独首相 9/21
ドイツのショルツ首相は20日、ロシアのプーチン大統領がウクライナとロシアを破壊する恐れのある「帝国の野望」を捨てるのは戦争に勝てないと認識した場合のみだという見解を示した。
国連総会で初めて演説し、「だからこそ、われわれはロシア主導のいかなる平和も受け入れず、ウクライナはロシアの攻撃をかわす必要がある」と述べた。
プーチン氏のウクライナ戦争による帝国主義の復活は欧州だけでなく、ルールに基づいた世界の平和秩序にとって大きな災いとなると警告。「強者が弱者を支配する」世界を望む者に立ち向かうよう国連に呼びかけた。
「戦争が政治の一般的手段で、独立国はより強い隣国や植民地主義国の支配下に置かれなければならず、繁栄と人権は幸運な少数者の特権という世界に引き戻そうとする向きを、なすすべもなく傍観するのか。それとも、21世紀の多極化した世界が多国間世界であり続けるよう、共に対処していくのか」と問いかけ、「対処しなければならないというのがドイツ人、欧州人としての私の答えだ」と述べた。
また、10月25日にウクライナ復興に関する会議をドイツで開催すると発表。ウクライナ政府の国家再建に向けた「膨大な費用」を援助すると表明した。
●ウクライナ東・南部4州、ロシア編入問う「住民投票」を今週実施 ロシア発表 9/21
ロシア軍の支配下にあるウクライナの4つの地域が20日、ロシアへの編入の是非を問う緊急の「住民投票」を今月23日〜27日に実施すると発表した。
ウクライナで侵攻を続けるロシア軍の攻勢はこの数カ月停滞しており、ウクライナ軍は北東部で広大な領土を奪還している。
こうした中、ロシアの支援を受けるウクライナ東部と南部の4つの行政当局は、「住民投票」を実施する考えだと明らかにした。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は20日夕に国民向けの演説を行う予定だったが、ロシア政府に近い情報筋は後に、演説が延期されたことを示唆した。延期の理由は明かさなかった。
ロシアは2014年にウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合する前にも、同様の「住民投票」を実施。国際的な非難を浴びた。
国際社会はロシアのクリミア併合を認めていない。しかし、ロシアがほかの占領地域についても、同じ形で「編入」させるつもりでいることは、かねて明らかだった。
ウクライナ領土を多く併合すればするほど、ロシア政府はロシアそのものが北大西洋条約機構(NATO)の兵器に攻撃されているのだと主張しやすくなる。
「見せかけの投票」では何も変わらない
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は20日、「見せかけの『住民投票』では何も変わらない」と述べた。
ウクライナ国防省顧問のオレクシー・コピツコ氏は、投票計画はロシア政府の「ヒステリーのしるし」だと示唆した。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日夜、「占領者は明らかにパニックに陥っている」と語っていた。
ドイツのオラフ・ショルツ首相も、投票は「でっちあげ」だと指摘。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、この案は「シニカル」かつ「パロディ」だとし、国際社会から認められないのは明らかだと非難した。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、投票に正当性はなく、「プーチンの戦争をさらにエスカレートさせる」ものだと述べた。
大規模動員の可能性も
ロシアのコンサルティング会社R・ポリティク創設者でロシア人アナリストのタチアナ・スタノヴァヤ氏は、今回の動きはロシアからウクライナと西側諸国に対する「明確な最後通告」だと見ている。適切な反応がなければ、ロシアは戦争のために軍隊を総動員するだろうと、スタノヴァヤ氏は指摘した。
併合が実現すれば、ロシア政府がロシアの領土とみなす場所を保護するためにあらゆる武器を使用する権限をプーチン氏に与えることになる。
ウクライナでの軍事力を強化するため、ロシア軍が大規模な動員を発表するのではないかとの憶測が流れている。
ロシア議会は20日、動員や戦闘の最中に脱走したり、軍用資産にダメージを与えたり、指示に従わないなどといった犯罪行為に対する処罰を重くする法案を可決した。
ロシア安全保障会議のドミトリー・メドヴェージェフ副議長は先に、ウクライナ東部ドンバス地方のドネツクとルハンスクで投票を行うことは「歴史的正義」を正す、不可逆的なものだと述べた。
「我が国の憲法改正後、ロシアの将来の指導者も役人も、これらの決定を覆すことはできない」と、メドヴェージェフ氏は話した。
4地域が「住民投票」実施を表明
この発言から間もなく、ロシアが後押しするドネツクとルハンスクの行政当局は、9月23日〜27日に投票を行うと発表した。この2地域は侵攻開始3日前にプーチン氏から独立国家として承認された。
南部ヘルソンやザポリッジャのロシアに任命された行政当局も同様に、投票の実施を宣言した。ロシア国営メディアは、住民は直接または遠隔での投票が可能だと伝えた。
この数カ月間、ロシアに任命された行政当局は「住民投票」と称する投票を行おうとしてきたものの、自由かつ公正な投票が行われる見込みはない。また、戦争が続いていることから、完全にロシアの支配下には置かれていない地域を併合しようとすることさえ非現実的だといえる。ウクライナ軍の反転攻勢はそれをさらに困難なものにしている。
7月以降、ルハンスクの大部分はロシアの手中にあったが、ルハンスクのウクライナ側の指導者は19日、ウクライナ軍が同州ビロホリウカ村を奪還したと発表した。
ドネツクの大部分は今もウクライナ軍の支配下にある。一方のロシア軍は、アゾフ海沿いの海岸地帯を占領している。
開戦当初にロシア軍に占領されたヘルソンは、その後ウクライナ軍が奪い返した。ロシアに任命された行政当局は度重なる攻撃にさらされ、投票が複数回延期された。
ザポリッジャの大半は、同名の州都を含め依然としてウクライナの支配下にある。
ウクライナ軍はドネツク市からそれほど遠くない場所まで到達している。ロシアの支援を受ける市長は19日、市内で爆発が相次ぎ、少なくとも13人が死亡したと発表。ウクライナ軍の砲撃だと非難した。
●ロシア軍、ウクライナでの死者5937人 国防相 9/21
ロシアのセルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu)国防相は21日、同国が2月にウクライナに侵攻して以降、自国軍の死者は5937人に上ったと発表した。ロシア政府が軍の犠牲者数に言及するのはまれ。
ショイグ国防相はテレビ放映された会見で、「われわれのきょう時点の死者は5937人だ」と述べた。
国防相はまた、ウクライナ国内でロシアが戦っている相手は「ウクライナというよりも、むしろ西側」だと主張した。
ウクライナでの軍事作戦の激化を受け、国民の「部分的な」動員を可能とする大統領令に署名したロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領も同日、領土を防衛するために利用可能なすべての手段を用いると言明。西側諸国は「わが国を弱体化させ、分割して最終的に破壊」しようとしていると非難した。
プーチン大統領は、ロシア側の最大の目標が「(ウクライナ東部の)ドンバス(Donbas)地方全域の解放」であることに変わりはないと強調した。
●プーチン大統領、予備役の部分的動員表明 「あらゆる手段」でロシア防衛と 9/21
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日、ウクライナをめぐり国民向けのビデオ演説で「部分的な動員令」の発動を宣言した。国営タス通信が伝えた。プーチン氏はロシアの領土的一体性が脅かされれば、「あらゆる手段を使ってロシアと国民を守る。これは、はったりではない」と強調した。
プーチン大統領は国民向けのビデオ演説で、西側諸国はロシアとウクライナの和平など望んでいないとして、ウクライナ国民を犠牲にしてでもロシアを滅ぼすことが西側諸国の目的だと明らかになったと批判した。
その上で大統領は、ロシアの目的はドンバスの解放だとして、「解放された土地」の住民を守るため緊急の判断が必要だと説明。「だから私は国防省に、部分的動員に合意するよう要請した」と述べた。
またプーチン氏は、ロシアが制圧したウクライナ領の住民は「ネオ・ナチのくびきの下にいたいとは思っていない」と、侵攻開始前からの主張を繰り返した。
予備役の部分的動員令はすでに署名済みで、21日から実施されるという。招集される市民は全員、戦闘員としての資格を完全にもつことになるともプーチン氏は説明した。
プーチン氏はさらに、西側諸国はロシアを脅し、ゆすり続けているが、ロシアには対抗するための武器がたくさんあると指摘。「この国の領土的一体性が脅かされるなら、ロシアと国民を守るため、我々は持てるあらゆる手段を使う。これは、はったりではない」と強調した。
「わが祖国の領土的一体性、我々の独立と自由は、繰り返す、我々が持つあらゆる手段で確保する。我々を核兵器で脅し、ゆすろうとする者たちは、やがて自分たちに向かい風が吹き、劣勢になることもあると知るべきだ」ともプーチン氏は述べ、「みなさんの支持を信用している」と結んだ。
30万人を段階的に
国営テレビはこの後、事前録画されたセルゲイ・ショイグ国防相の説明を放送。軍務経験がある予備役約30万人を段階的に招集すると述べた。
BBCのサラ・レインズフォード東欧特派員によると、ロシアの予備役は2500万人に上る。
国防相はさらに、学生は招集しないと述べ、学生は「落ち着いて」「授業に出続けるように」と呼びかけた。徴集兵を前線に送り込むこともしないと述べた。ロシア政府は侵攻開始当初、同様の発言をしていたものの実際には多くの徴集兵を前線に配備していた。
ショイグ国防相はさらに、これまでウクライナでロシア兵5937人が戦闘中に死亡したと発言。この人数は西側情報機関の推計や公開情報をもとにした集計よりも、はるかに少ないが、ロシア政府が公式の戦死者数を発表するのは数カ月ぶり。
劣勢のしるしと西側反応
プーチン氏の演説を受けてイギリスのベン・ウォレス国防相は、ロシアのウクライナ侵攻が失敗しつつあるしるしだと反応した。
英国防省は、「国民の一部を動員しないという約束をプーチン大統領が自ら違え」たことで、「侵略が失敗しつつあると認めたことになる」というウォレス氏のコメントをツイート。その中で国防相は、「(プーチン氏)と国防相は何万人もの自国民を、満足な装備を与えず、粗末な指揮官のもと、死に追いやった。どれだけ脅してプロパガンダをまき散らしたところで、この戦争に勝ちつつあるのはウクライナで、国際社会は団結しており、ロシアが世界的なのけ者になりつつある事実は、隠しようがない」と述べた。
アメリカの駐ウクライナ大使、ブリジット・ブリンク氏もツイッターで、「偽の住民投票や予備役動員は、弱さのしるし、ロシアの失敗のしるしだ」と書き、「ロシアによるウクライナ領併合の主張を合衆国は決して承認しないし、我々はいつまでもウクライナを支え続ける」と書いた。
ドイツのロベルト・ハベック副首相は「ロシアがまたしても、まずい、間違った一歩を踏み出した」と批判。オランダのマルク・ルッテ首相は、予備役招集と住民投票強行はロシアが「パニックしているしるし」だと述べた。
ロシアと国境を接するラトヴィアのエドガルス・リンケヴィッチ外相は、ロシア政府による予備役招集から逃れようとするロシア人に「人道的なものを含め一切のビザを発行しない」と述べた。また、「ラトヴィアに対する軍事的脅威のレベルはまだ低い」との見方を示した。
同様にロシアの飛び地領カリーニングラードと国境を接するリトアニアのアルヴィダス・アヌシャウスカス国防相は、「ロシアの軍事的動員は我々の国境付近でも行われるため、リトアニアの即応部隊は、ロシアのあらゆる挑発を阻止するため、緊急警戒態勢をとる」とツイートした。
動員に上限は ロシア国内で懸念
BBCのレインズフォード東欧特派員によると、プーチン大統領とショイグ国防相の発表を受けて、ロシア国内ではすでに、予備役招集の規模に上限はあるのか、懸念の声が出ている。動員令の実際の文言はきわめてあいまいなため、本当に学生は招集されないのか、疑問視するコメンテーターもいるという。
モスクワで取材するBBCのウィル・ヴァーノン記者によると、予備役招集の報道を受け、ロシアの株価は軒並み急落。国外脱出のため飛行機チケットの購入が急増しているとの情報もあるという。
ロシアの野党指導者で、刑務所に入れられているアレクセイ・ナワリヌイ氏は、予備役招集の発表を受けて、刑務所内で撮影した動画を弁護士経由で発表。その中で、「これはとんでもない悲劇につながる。とんでもない人数が命を落とす(中略)自分の個人的権力を維持するため、プーチンは隣国に侵入し、そこの国民を殺し、そして今や莫大な人数のロシア市民をこの戦争に送り込もうとしている」と批判した。
プーチン政権を声高に批判し続けたナワリヌイ氏は現在、詐欺や法廷侮辱の罪などで11年半の禁錮刑に服しているが、いずれも政権批判をやめさせるために政府が捏造(ねつぞう)した罪状だと主張している。
いつロシアを出られるのか
BBCは、イギリス在住のロシア人男性エフゲニーさん(30)に話を聞いた。エフゲニーさんは、55歳になる自分の父親が動員されるのではないかと心配している。母親には、「あなたはちょうどいい時にロシアを出た、間に合ってよかった」と言われたという。
またロシアに残る友人たちと情報交換したところ、友人たちはいつロシアから出られるのか知るため、あらゆるニュースやソーシャルメディアを確認し続けているという。
「すごくショックだし、この動員がウクライナの人たちにとってどういう意味をもつのかも、想像しがたい。自分の国がとんでもなく恥ずかしい。こんな戦争はいやだ」と、エフゲニーさんは話した。
解説 / ウクライナの反攻成功にロシア警戒――フランク・ガードナーBBC安全保障担当編集委員
プーチン大統領の強気で好戦的な演説を待つまでもなく、ウクライナでの戦争はすでに危険な段階に差しかかっていた。
東部ハルキウ周辺で2600平方キロ分もの国土奪還にウクライナがいきなり成功したことで、ロシア政府は危機感を抱いた。そのため、ロシアが後押しする分離派が実効支配する東部ドンバス地方で、「ロシア編入」を決める住民投票の実施を、前倒しすることにしていた。
この住民投票は実施前からすでに、やらせだと非難されている。しかし、この投票をもってロシアはウクライナのドンバス全域と南部ザポリッジャ、ならびにヘルソンを、ロシアの一部だと宣言することになるだろう。
国際社会がその結果を承認しなくても、ロシア政府にとってそれはどうでもいいことだ。
ロシア政府にしてみれば、ウクライナはもはや自国領を守るために戦えなくなる。プーチン氏にとって、ウクライナ軍は北大西洋条約機構(NATO)に提供された武器を使ってロシアに侵攻する、侵略者になるというわけだ。
この展開が続けば、ウクライナとウクライナを支援する西側諸国という悪の徒党からロシアの国土を守るためには、極端な手段も辞さないのだという、プーチン流の理屈は、さらに勢いを増すかもしれない。
不見識なウクライナ侵攻が屈辱的な敗北で終わらないようにするための手段として、訓練不足の予備役30万人の招集だけで、プーチン氏が満足するとも思えない。
●プーチン大統領、軍動員令で30万人召集 西側の「核の脅し」批判 9/21
ロシアのプーチン大統領は21日、軍の部分動員令に署名したと明らかにした。動員令は第2次世界大戦以来で即日適用される。西側が「核の脅し」を続けるなら、ロシアは兵力の全てを用いて対応すると警告した。
国民に向けたテレビ演説で「わが国の領土保全が脅かされるなら、われわれの市民を守るためにあらゆる手段を用いる。これは脅しではない」と述べた。
複数の北大西洋条約機構(NATO)加盟国の高官がロシアに対し核兵器を使用する可能性を示したと主張、西側による「核の脅し」を批判した。
またロシアの占領下にあるザポリージャ原子力発電所に対するウクライナ軍の砲撃を許すことで、西側諸国は「核の破滅」の危険を冒していると非難した。
また、自身はロシアの領土を防衛していると発言。西側諸国はロシアの破滅を望んでいるとも述べた。
「西側の攻撃的な反ロシア政策は、あらゆる一線を超えている」とし「核兵器でわれわれを脅迫しようとしている人々は、風向きが変わり得ることを知るべきだ」と語った。
プーチン氏の演説はロシア軍がウクライナ北東部で決定的な敗北を喫した後に行われた。北大西洋条約機構(NATO)とロシアが直接軍事衝突するリスクを高めることで、欧米がウクライナへの支援から手を引くことを期待したものだ。
新ロシア派支配地域の併合
動員令は徴兵ではなく、軍務経験者全員が対象となる。ショイグ国防相は30万人が召集されるとの見通しを示した。学生は含まれず、ウクライナへ送られる前に訓練を受けると説明した。動員は前線の背後あるロシア支配下の領土を「強化」するのに貢献すると述べた。
ウクライナ東・南部の親ロシア派支配地域やロシア軍の占領地域は20日、ロシアへの編入の是非を問う住民投票を23─27日に実施すると表明した。
プーチン氏は「ドネツク、ルハンスク、ザポリージャ、ケルソンの住民の大多数による将来に関する決定を支持する」と明言した。
「(ロシアに)近い人々を処刑人に引き渡す道徳的な権利はわれわれにはない。自らの運命を決めたいという心からの願いに応えるしかない」と述べた。ウクライナの領土の約15%に相当する同地域の正式なロシア併合に道を開くことになる。
ウクライナ東部ドンバス地域の「解放」を目指しているとし、ロシアの支配下にある地域の大半の住民はウクライナによる支配を望んでいないと主張した。
ウクライナの領土を正式に併合することで、プーチン氏は核兵器を使用するための口実を得る可能性がある。
ロシアの核ドクトリンは、大量破壊兵器が使用された場合か、ロシアが通常兵器による存亡の危機に直面した場合に核兵器を使用することができるとしている。
プーチン氏は「世界の支配を目論む者たち、祖国を解体し奴隷にしようとする者たちを阻止することは、われわれの歴史的伝統であり民族の宿命だ」強調。「今それを行う」と述べて国民の支持を訴えた。
ロシア軍の死者
ショイグ氏はまた侵攻開始以来、ロシア軍の死者が5937人(訂正)になったと明らかにした。ロシア軍が戦闘で大きな損失を受けたとの見方を否定し、負傷兵の90%が前線に戻ったと述べた。
ロシアが公式に死者数を公表するのは3月25日以来。その時点では1351人としていた。
米国防総省は7月、ロシア軍の死者は約1万5000人に上るとの見方を示している。8月には7万─8万人の死傷者が出ているとの推計を示した。
●プーチン氏は「自暴自棄に」 欧州、部分動員令に厳しい反応 9/21
ロシアのプーチン大統領が21日表明した部分的動員令をめぐり、ウクライナを支援する欧州諸国からは、「自暴自棄の行動だ」(ドイツのショルツ首相)などと厳しい反応が相次いだ。
DPA通信によると、ショルツ氏は国連総会出席のため訪れているニューヨークで、プーチン氏が今回の決定により「ロシアのすべてを大幅に悪化させた」と断言した。
ウォレス英国防相は声明で、ロシアは「侵略失敗を認めた」と論評。「いくら脅しやプロパガンダを続けても、ウクライナが勝利しつつあることや、国際社会の団結、ロシアが世界ののけ者になっている事実は隠せない」と強調した。
また、ロイター通信によると、欧州連合(EU)欧州委員会の報道官は「プーチン氏が平和に関心がなく、侵略戦争をエスカレートさせることに関心があることを改めて示すものだ」と批判した。 
●予備役動員・住民投票支持 プーチン大統領テレビ演説 9/21
ウクライナ侵攻をめぐり、ロシアのプーチン大統領が、国民の部分的動員令を発表した。
プーチン大統領「国内で部分的動員を行う。国防省と軍の提案を支持する。ロシア国民と領土を守るため、持っているあらゆる手段を使う」
ロシアのプーチン大統領は、日本時間21日午後3時ごろ、テレビ演説し、有事の際に出兵する意思を示して登録している「予備役」を招集する、部分的動員令に署名したと明らかにした。
ショイグ国防相は、戦闘経験などのある30万人が対象となるとしている。学生は含まれていない。
プーチン大統領は、また、親ロシア派を通じて実効支配する、ウクライナ東部などの4つの州で近く行われる、ロシア編入の是非を問う住民投票の結果を「支持する」と述べた。
投票を根拠に、一方的な編入に向けた動きを強めるものとみられる。
さらに、プーチン大統領は、「ロシア国民と領土を守るため、持っているあらゆる手段を使う」と述べ、核兵器使用の可能性をちらつかせ、あらためて西側諸国をけん制した。
●プーチン大統領 部分的動員へ なぜ今?ねらいは?  9/21
ウクライナへ軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は国民向けのテレビ演説を行い、戦地に派遣する兵士について、職業軍人だけでなく、有事に招集される、いわゆる予備役を部分的に動員する大統領令に署名したことを明らかにしました。
ウクライナ軍の反転攻勢を受け、プーチン政権は危機感を強めているものとみられます。
なぜこのタイミングなのか。ねらいはどこにあるのか。モスクワ支局の権平恒志 支局長に聞きました。
このタイミングで部分的動員に踏み切ったねらいは?
国民世論の反発を避けながら、深刻な兵員不足を補うことにあると言えます。背景にあるのは、軍事侵攻の長期化、それにウクライナ軍の反転攻勢です。プーチン大統領の演説に合わせて、ショイグ国防相は、ロシア側の死者数について5937人と発表しました。
ことし3月に1351人と発表したあと、半年たってようやく新たな数字を出してきた形です。しかし、実際の死者数は、もっと多いという見方が大勢です。
今月、反転攻勢が伝えられると、プーチン大統領の側近の1人が、地方の知事たちに自主的に動員をかけるよう促したほか、受刑者が戦闘に勧誘されているという情報まで伝えられました。
ウクライナ侵攻はあくまで「軍事作戦」だと強弁するプーチン政権にとって、いわば「戦争状態」を意味する国民総動員をかけることは自己矛盾することになりかねません。
今回の部分的な動員は苦肉の策と言え、また、ウクライナ軍の反転攻勢を受けた焦りの裏返しとも言えます。
ロシア国内の受け止めは?
プーチン大統領の演説直後にモスクワ市内で話を聞いたところ、日本のメディアだという前提ではありますが、13人のうち11人がおおむね決定を支持するという反応でした。
それでも明確に反対するという若者や息子の動員を案じる母親の姿もありました。
ロシアでは最近、国民的な歌手が、ウクライナ侵攻を「幻想的な目標」と表現して「そんな目標のために子どもたちが殺されていくのをやめさせたい」などと批判し、高い関心を集めています。
一部の国民から動揺や反発が生じかねない動員にいよいよ踏み切ったプーチン大統領。あくまで侵攻を継続する構えですが、思惑どおりに進むのかは不透明です。

 

●ロシア動員令に抗議、1300人拘束 「無意味な戦争」市民恐れ出国の動き 9/22
ロシアのプーチン大統領が21日、ウクライナでの軍事作戦で劣勢を挽回するため部分動員令を出したことをきっかけに、ウクライナ侵攻や動員令に抗議するデモがロシア各地に広がった。人権団体「OVDインフォ」によると同日1300人以上が当局に拘束された。市民は「無意味な戦争」(予備役の男性)に動員される恐怖を口にした。出国の航空券を買い求める動きが進んでいる。
プーチン氏は反戦機運の高まりを恐れて総動員は避け、予備役を対象とする部分動員を出した。政権は近年デモを徹底弾圧しており、全国規模のデモは侵攻開始から間もない3月以来とみられる。
独立系メディア「メドゥーザ」などによると、第2の都市サンクトペテルブルクや東シベリアのイルクーツクなど38都市で抗議があり、拘束者が出た。
予備役の無職男性アンドレイさん(31)は取材に「戦争そのものと同様、動員も無意味で有害だ」と批判した。メドゥーザによると予備役は令状を受け取ると軍の許可なく出国できなくなる見通し。
●プーチン氏は犯罪的な戦争に失敗、多くの命奪う=ナワリヌイ氏 9/22
服役中のロシア反政府活動家ナワリヌイ氏は21日、プーチン大統領がウクライナ侵攻を巡り軍動員令に署名したことを受け、プーチン氏は犯罪的な戦争に失敗しているにもかかわらず、さらに多くのロシア人を死に追いやろうとしていると述べた。
プーチン大統領は21日、軍の部分動員令に署名したと明らかにした。動員令は第2次世界大戦以来で即日適用される。ショイグ国防相によると、30万人が召集される見通し。
ナワリヌイ氏は自身の弁護士によって録画・公開された刑務所からのビデオメッセージで「犯罪的な戦争が悪化し、深化していることは明らかだ。プーチン氏はできるだけ多くの人々を巻き込もうとしている」と批判。ロシア人の血で数十万人のウクライナ人を傷つけることを望んでいるとした。
また、ロシアの反戦団体「ベスナ」も「われわれの父、兄弟、夫など数千人ものロシア人男性が戦争という肉挽き器に放り込まれることになる。戦争は今、全ての家庭、全ての家族に押し寄せている」とし、動員令に反対する街頭抗議を呼びかけた。
●黒海艦隊がクリミアからロシアに「退避」、ハイマースの餌食避ける 9/22
英国防省の報告によれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、クリミア半島を拠点としてきた黒海艦隊をロシア南部に移動せざるをえなくなっている。
英国防省は、毎日更新しているウクライナ戦争の情勢分析で、ウクライナ軍がクリミア半島の奥深くまで攻撃してきたことを受け、ロシアの黒海艦隊司令部が「キロ型潜水艦」を母港のセバストポリから、ロシア南部のノボロシースクに移動させているのはほぼ確実だ、と述べている。
「ウクライナ軍の長距離攻撃能力が向上し、(黒海艦隊にとっての)安全保障上の脅威レベルが変化したためだと見られる」
黒海艦隊を脅かしたウクライナ軍のクリミア攻撃の具体例として、英国防省は、この2カ月間に起きた黒海艦隊本部および主要な海軍飛行場への攻撃に言及している。
侵攻前は黒海の支配者だった
プーチンが2014年にクリミア半島を併合した「動機」の一つは黒海艦隊にとって安全な拠点を確保することだったが、せっかく手に入れたその拠点は失われつつある可能性が高い、と英国防省は分析する。
英国防省によるこの評価は、元米欧州軍司令官のベン・ホッジスの発言を受けたものだ。ホッジスは9月19日に公開された動画で、ロシア軍はウクライナの陸海で苦戦しており、黒海艦隊は「全く役立たず」になっていると述べた。
プーチンのウクライナ侵攻以前には、黒海艦隊は「基本的に黒海全体を支配していた」と、ホッジスは言う。「だがこの半年間で、ロシア海軍もロシア陸軍と弱さでが変わらないという現実をわれわれは目の当たりにしてきた」
ホッジスは、7億5000万ドルの価値があると推定される黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の沈没に加えて、黒海で撃沈した複数のロシア艦船に言及した。
黒海艦隊は「ウクライナの海岸に近づくことを恐れ」、クリミア半島の陰に身を隠している、とホッジスは述べている。
「黒海艦隊は、潜水艦を除けば、全く役に立っていないと思う。戦いに参加していない」とホッジスは続ける。「ウクライナ軍はクリミアに迫っており、セバストポリも間もなくハイマース(高軌道ロケット砲システム)など長距離砲の射程に入る。そうなれば、黒海艦隊は手も足も出ない」
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は8月、ロシアに奪われた領土を奪還するための大規模な反撃の一環として、クリミア半島を取り戻すと宣言していた。
●ロシアの軍事侵攻に適切な処罰を、ゼレンスキー氏が国連で訴え 9/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、国連総会でビデオ演説し、自国に軍事侵攻したロシアが「適切に処罰」されることを望むと訴えた。
大統領は事前収録した演説で、ウクライナ政府が策定した持続可能な和平に向けた5項目の計画に言及。一方で、中立的立場を取る考えはなく、ウクライナが提案した以外の和平案は受け入れないことを強調した。
5項目にはロシアの武力侵攻に対する処罰、ウクライナの安全保障の再確保、同国の領土の一体性と安全の保証が含まれた。
ゼレンスキー氏は和平案の最初の項目としてロシアによる武力侵攻や国境と領土の一体性への侵害行為に対する処罰を求めているとし、「国際的に認められた国境が回復するまで、罰を与えなければならない」と主張した。
一方で、「人道と平和が攻撃されている」ため中立的立場を取る考えはないと述べた。
●バイデン大統領 国連で演説“国連憲章に違反”とロシア非難  9/22
アメリカのバイデン大統領は国連総会で演説し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアについて「国連安保理の常任理事国が、地図から主権国家を消そうとした」と改めて非難するとともに、プーチン大統領が核戦力の使用も辞さない構えを示したことについても「核不拡散体制の責任を無視した無謀な発言だ」と強く批判しました。
アメリカのバイデン大統領は21日、国連総会で演説し、ロシアについて「国連安全保障理事会の常任理事国が隣国に軍事侵攻し、地図から主権国家を消そうとした」と述べ、安保理の常任理事国であるロシアがみずから国連憲章に違反したと非難しました。
そして、ウクライナの親ロシア派の勢力が領土の一方的な併合に向けて「住民投票」だとする活動を計画していることについて「ロシア政府は、偽りの住民投票を組織し、ウクライナの領土を併合しようとしている。重大な国連憲章違反だ」と指摘しました。
さらに、プーチン大統領が核戦力の使用も辞さない構えを示したことについて「核不拡散体制の責任を無視した無謀な発言だ」と述べ、ロシアがNPT=核拡散防止条約の締約国でありながら、責任を放棄していると強く批判しました。
そのうえで「われわれは、同盟国や友好国と連携し、ロシアに代償を科す。残虐行為や戦争犯罪についてロシアの責任を追及する」と強調しました。
一方、バイデン大統領は、ロシアによる軍事侵攻で悪化した食料危機に対応するためだとして、29億ドル以上、日本円にしておよそ4180億円の支援を表明しました。
「常任理事国と非常任理事国 増やすこと支持」
バイデン大統領は安全保障理事会について「いまの世界の要求に対応するため、この機関がより包括的になるときが来たと信じている。アメリカは、常任理事国と非常任理事国の両方を増やすことを支持している」と述べ、安保理改革に前向きな姿勢を示しました。
また「安保理のメンバーは、国連憲章を守るとともに、安保理が信用され、効果的であるために、異常事態を除いて、拒否権の使用は控えるべきだ」と訴えました。
「台湾海峡 一方による現状変更には反対」
バイデン大統領は台湾海峡について「われわれは、台湾海峡の平和と安定の維持を目指す。どちらか一方による現状変更には反対し続ける」と述べました。
さらに「われわれには、『1つの中国』政策があり、それは、40年にわたって紛争を防ぐのに役立ってきた」と述べ、「台湾は中国の一部だ」という中国の立場を認識する、従来からのアメリカの政策に変更はないという考えを改めて示しました。
●トラス英首相「壊滅的失敗を正当化」 ロシアのプーチン大統領を批判 9/22
トラス英首相は21日、就任後初の国連総会での演説で、ロシアのプーチン大統領が自国防衛のために核兵器の使用も辞さないと示唆したことなどについて、ウクライナでの「壊滅的失敗を必死に正当化しようとしている」と批判した。 
●若者戦地へ…“逃避用”航空券高騰…“部分動員”ロシア国内からも反発 9/22
ウクライナ侵攻をめぐり、プーチン大統領が発表した“部分動員”。ロシアでは、反戦ムードが盛り上がる一方で、国外へと脱出する動きが加速しています。
航空券は軒並み売り切れ、値段も高騰しているそうです。アルメニアやセルビアの空港には、ロシアからの渡航者の姿があります。
ロシアからの渡航者「僕の妻はウクライナ人で、家族はキーウにもいる」
ロシアからの渡航者「何が起きたのか、なぜ起きたのか。まだ信じられません。こうしてメディアと話をするのも怖い。政府関係者や、警察が見ていて、祖国でトラブルになるかもしれない。でも言いたい。ウクライナに自由を。お願い、誰かプーチンを止めて」
今のロシアでプーチン批判は、逮捕に直結します。そんなリスクを負いながらでも、首都・モスクワなど、各地で戦争に反対するデモが行われました。
デモ参加者「我々は以前から恐れるべきだった。最悪の事態はすでに起きている」
デモ参加者「子どもの命は絶対、渡さない。(Q.デモ参加で変わると思うか)変わらないかもしれないが、私の立場を表明するのは市民の義務 」
しかし、この国では、平和を望む声を上げるのは犯罪です。この日の拘束されたのは、ロシア全土で1300人以上に上りました。独立系メディアによりますと、逮捕されて、そのまま徴兵された人もいるそうです。
国連の場では、批判が相次ぎました。
アメリカ・バイデン大統領「ロシアは、今、さらに兵士を戦地に送ろうと呼び掛けている。世界は非道な行為を直視すべき」
ウクライナ・ゼレンスキー大統領「国連加盟国の中で、私の演説を遮って、『戦争に満足だ、私の戦争だ』と言いたげな人物は1人だけ」
●焦るプーチン…怒り狂うプーチン… 9/22
ウクライナ軍の反転攻勢に焦るプーチン…「核ミサイルを撃つタイミングは今しかない」
   ウクライナ軍が仕掛けた罠
ウクライナ戦争が重大な転換点を迎えている。9月11日、ウクライナ軍は北東部のハルキウ州のほぼ全域を奪還した。取り戻した領土は4000〜6000平方キロメートルとされ、東京都の面積の1.8倍にあたる。ロシア軍は守勢に回り、部隊の再編制を余儀なくされた。被害も甚大で主力兵器である戦車『T-80』を100台以上破壊され、ロシア軍の重要な補給地点であったイジューム、クピャンスクも失った。'14年の東部ドンバス紛争で指揮を取った元ロシア軍司令官のイゴール・ガーキンは此度の敗走についてこう語っている。
「現在の状況を日露戦争になぞらえて表現するならば、奉天会戦という言葉しか思い浮かばない。ロシアは負けつつあるかもしれない」
奉天会戦は日露戦争において、圧倒的に兵力差があったロシア軍を日本軍が破り、後の勝利を決定的とした戦いだ。国内からそんな声が出るほど、ロシアは窮地に立たされているのだ。
ハルキウ州の奪還は用意周到に仕組まれた奇襲作戦だった。8月9日、ウクライナ軍はクリミア半島西部のサキ航空基地を砲撃し、20日には軍港都市セバストポリでロシア黒海艦隊司令部を爆撃した。
その際、黒海艦隊が所有する戦闘機の半数以上を破壊した。ロシア軍は南西部の要衝へルソンで反攻が始まると予測し、北部、東部に駐留していた兵力を南部に移送し、守備を固めた。
しかし、それが罠だった。ウクライナ軍は手薄になったハルキウ州を一気に攻め立てた。軍事評論家の高部正樹氏が語る。
   ウクライナが求めていた戦果
「NATO諸国にウクライナへの『支援疲れ』が漂うなか、戦地はほどなく冬を迎えようとしている。積雪や極寒で前線が膠着するし、天然ガス不足に悩むドイツなどヨーロッパ諸国からの支援が滞るかもしれない。ウクライナは、更なる支援を求めるにあたって、何としても戦果を上げたかったのでしょう」
奪還作戦において、成功のカギを担ったのが主に米国から供与された最新兵器である。まずは制空権を確保するために、攻守両面で重要な役割を果たすレーダーを破壊するミサイル『AGM-88 HARM』を導入した。
そして、それを正確に撃ち込むのに一役買ったのが高性能偵察ドローンの『スキャンイーグル』だ。昼夜問わず、24時間航行することが可能で、ロシア軍の砲撃の射程外から電子光学、赤外線を使ったセンサーで敵レーダーの位置を捉えていたのだ。
さらに、自爆特攻ドローン『スイッチブレード』『フェニックスゴースト』が装甲車両などを攻撃し、兵力を弱らせていった。
「特に戦果をあげたのは、高機動ロケット砲システム『HIMARS』です。静止したものを目標にすればGPS誘導でほぼ100%命中させることができます。1~2ヵ月前まで戦況は膠着状態で、ロシア軍がじりじりと前進していましたが、 HIMARSにより司令部、弾薬庫などが攻撃され、前線への補給が滞った。ロシア軍の圧力が弱くなったことで、ウクライナ軍が反撃するための時間・空間的余裕が生まれたのです」(防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏)
北東部を解放したウクライナ軍は、南部でも攻勢を強めていくだろう。ゼレンスキー大統領も独立記念日の前日にあたる8月23日、こう宣言している。
「クリミア半島はわれわれの領土であり、他国との協議なしにわれわれが正しいと決めた方法で取り戻す。奪還は、欧州における安全と正義の回復に向けた歴史的な反戦の一歩となる」
   領土を失うくらいなら
ロシア軍はクリミア半島を死守すると同時に、ウクライナ軍を押し戻すために北部の防衛ラインを急いで再構築しなければならない。10月下旬になれば、雪が降り始め前線は動けなくなるからだ。ロシア軍は主力部隊をへルソンに配置しているが、ドニプロ川周辺の橋を『HIMARS』により破壊されて輸送路が断たれている。
自軍が敗退するさまを眺めるプーチン大統領は冷酷な表情を崩さない。だが、その内面は怒りと屈辱、焦りで煮えたぎっているだろう。
プーチンにとって、この戦争の大義名分は「ウクライナに跋扈するネオナチを排除するための祖国防衛」だ。しかし、現状を見てみれば、実効支配していたウクライナ東部のドンバス地方、クリミア半島を失う恐れすらある。
そして、侵攻以前より領土を減らすことになれば、それはプーチンにとって明白な敗北であり、ロシア史上最大の恥となる。
19世紀にナポレオンがロシアに侵攻したとき、政治家たちは自らの指示でモスクワを燃やした。ナポレオンは『占領する意味がない』と撤退。プーチンはその逸話を『ロシアの勝利』とし、何度もプロパガンダとして利用してきた。プーチンは極端な愛国主義者だ。そして、奇しくも、その状況が現代に再現されている。
欧米の息がかかったウクライナ軍が、さらなる侵攻を企てようものなら、自国領土での損害や国際社会からの猛反発も厭わず、常軌を逸した反撃に出るだろう。そのために必要な兵器は、一つしかない。核兵器だ。
「まさに今が使用のタイミングではあります。プーチンが現在、動員している陸軍、空軍の兵力で巻き返すことができないと判断すれば、核兵器を使用する可能性は否定できません」(軍事ジャーナリストの菊池雅之氏)
「11月までに決着をつけろ!」…怒り狂うプーチンが「核ミサイルで狙う都市」
   側近はますます強硬に
国内で活発化し始めた反戦運動も核使用の現実味を高める一因となっている。ロシア軍が守勢に回っているという情報が徐々に伝わり、9月11日に行われた統一地方選では、公然と反戦の声を上げる野党政治家や有権者が目立った。
さらに「プーチンの頭脳」と呼ばれるロシアの極右思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリア氏が暗殺された事件でも、反プーチンを掲げる『国民共和国軍』が犯行声明を発表した。
今、ロシア国内ではプーチン更迭を求める動きがかつてないほどに大きくなっているのだ。筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が言う。
「プーチンは、11月にバリ島で開かれる予定のG20までに、なんとしても『特別軍事作戦』を終わらせたいという思惑が強い。今の状況のまま出席すると、当然、欠席する国は多くなり、国際社会での孤立が浮き彫りになってしまいます。そうなれば、厭戦気分が漂い始めた国内でも世論に押され、プーチン陣営の支持基盤も揺らいでくる。
一方で、ウクライナ侵攻を主導したロシア連邦安全保障会議書記のパトルシェフら側近はより強硬な手段を主張し始めています。核兵器を使い、強引にでも作戦を終わらせることもあり得なくはありません」
   プーチンが「狙う」場所
ウクライナ軍が米国から供与された最新兵器で攻勢を続けるなか、プーチンは一発の核ミサイルで戦況をひっくり返そうとしている。いったい、どこが狙われるのか。
「『威嚇』として人的被害が少なく、かつロシアの領土に放射能の影響が及びにくい地方の原野などに、広島原爆の3分の1程度の威力を持った核ミサイルを落とす可能性があります。首都・キーウとオデーサを結んだ直線から東に離れたウクライナ中央部が着弾地点になると思います」(軍事評論家の高部正樹氏)
人的被害を避けるという意味では海上で爆発させる可能性もある。その際、狙われるのはオデーサ沖合の黒海だ。海上ならば人的被害もなく、北風で放射能は南に流れていき、クリミア半島に放射能の影響が及ぶことはない。NATO諸国も報復はしてこないと踏んでいるのだ。
プーチンは原発を使った「核攻撃」を行う怖れもある。特殊部隊などの手で故意に事故を発生させ、放射能をバラまくのだ。標的になるのは南ウクライナ原発だろう。
現在ロシアが実効支配している地域にあるザポリージャ原発とちがって、ここならば、支配地域や周辺国の汚染は最小限となる。国際社会からの反発は必至だが、ロシアは「偶発的な事故」としてシラを切るだろう。いずれにしても、南部で攻勢を仕掛けようとしているウクライナ軍に対して強烈な牽制となる。
だが、さらにおぞましいシナリオもある。奪還された都市に駐留するウクライナ軍をターゲットに核ミサイルを撃ち込むことだ。先述したように、プーチンは戦争に負けるくらいなら、自国の領土を放射能で汚染させても勝利をもぎ取ろうとするかもしれない。
   「早すぎる撤退」の不気味
現在、ロシア側にとって、最も窮地に立たされている戦線は東部のドンバス地方だ。ウクライナ軍は徹甲部隊を投入し、米国から新たに供与された対地雷装甲車『マックスプロ』を駆使して一気に領土奪還を目論んでいる。
「このような状況での核兵器の使われ方はごく単純に言うと二つがあり得ます。一つは相手を引き下がらせるために『使うぞ! 』と脅して、相手が引き下がらなかった場合に使うパターン。もう一つは黙って奇襲的に使うパターンです。軍事的には黙って使うほうが効果は高い」(防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏)
その場合に狙われる地域として、候補に挙げられるのはハルキウ、イジュームなどウクライナ軍が今回の奇襲作戦で奪還した補給の重要拠点だ。ここを叩けば、ウクライナ軍の勢いは止まることになるだろう。
一つ気にかかるのが、これらの都市を奪還されたあとのロシア軍の動きである。異様に早いスピードで撤退したのだ。この急ぎ方は、核ミサイルを撃つための準備ではないかと指摘する専門家も少なくない。
「使用される核兵器は短距離弾道ミサイル『イスカンデル』と見て、間違いないでしょう。射程は500km程度で、東部の国境地帯に配備すれば、現在、戦闘が行われている地域のほとんどの主要都市が射程圏内に収まります」(前出・高部氏)
このミサイルの恐ろしいところは、複雑な軌道を描きながら超音速で巡航し、さらに本命の核弾頭を確実に着弾させるために囮の爆弾をバラまくことだ。敵の防空システムは攪乱され、迎撃が非常に難しい。また、機動性も高く、装甲車両に積み込んで敵の攻撃が届かない地域へ短時間で移動させることができる。
ウクライナ軍の奇襲作戦で敗走した3日後、ロシア大統領報道官のペスコフはこう強調した。
「特別軍事作戦は継続しており、当初の目標を達成するまで継続する」
これが本気の発言なら、目標達成のため使われる兵器はもはや一つしか残されていない。77年の歳月を経て、再び世界は核の炎による悲劇を目の当たりにするのか。
●編入領土攻撃なら「核使用」も 住民投票前にけん制―メドベージェフ氏 9/22
ロシアのメドベージェフ前大統領は22日、ウクライナ東部ドンバス地方などが住民投票を経てロシアに編入されると明言した上で「(編入された領土を防衛するため)戦略核を含むあらゆる兵器が使用され得る」と述べた。プーチン大統領の21日の国民向け演説などを踏まえ、通信アプリで警告した。
23日から親ロシア派がドンバス地方や南部ヘルソン、ザポロジエ両州で強行する住民投票を前に、占領地の奪還を目指すウクライナや、重火器を支援する米国などを強くけん制した形。極超音速兵器にも触れ、ロシアが編入したクリミア半島が攻撃されるよりも「はるかに速く」欧米に達すると記した。
●ロシアの動員令、「核のレトリック」批判 一段の制裁追求―G7外相 9/22
先進7カ国(G7)議長国のドイツは22日声明を発表し、G7外相が21日にニューヨークで行った会合で、ロシアによる部分的動員令や「無責任な核のレトリック」は遺憾であり、ロシアへの一段の制裁を追求するとの認識で一致したと明らかにした。
声明は、ウクライナ東部や南部の親ロシア派によるロシアへの編入に向けた住民投票について「偽の投票」と強く批判。編入はウクライナの主権と国連憲章への重大な違反で、各国に投票結果を認めないよう呼び掛けた。
●ウクライナとロシアが捕虜交換…計270人、侵略開始後で最大か  9/22
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日のビデオ演説で、ロシアと捕虜交換が成立し、ウクライナ内務省系の武装組織「アゾフ大隊」の司令官ら215人が解放されたことを明らかにした。米英など外国人10人も含まれているという。
ロシア側には、プーチン露大統領と親密とされる親露派政党の党首だったビクトル・メドベドチュク氏ら55人を引き渡した。交換の規模は2月の侵略開始後、最大とみられる。
プーチン政権は、ゼレンスキー政権を一方的にナチス・ドイツになぞらえ、南東部マリウポリが拠点のアゾフ大隊を象徴的な存在として敵視してきた。
ゼレンスキー氏が、捕虜交換を条件に、ロシア産アンモニアの輸出再開を支持する意向を表明したことが影響したようだ。アンモニアは肥料の原料になる。
●焦るロシア…ウクライナの土地を併合へ 「動員令」と「住民投票」 9/22
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア。9月21日、プーチン大統領は「ロシア国内で部分的動員令を行うという国防省と軍の提案を支持する」と述べ、「予備役」を動員すると宣言しました。この発表を受けてロシアでは、抗議デモや国外脱出の動きが広がっています。
またロシアは、ウクライナ領土の一方的な編入への動きも強めています。ウクライナ東部と南部の4州の一部で、ロシアへの編入について問う住民投票を行うと親ロシア派組織などが発表。プーチン大統領はこれを支持し、「ロシアの国民と領土を守るため、持っているあらゆる手段を使う」と述べ、核兵器を使う可能性までちらつかせて西側諸国をけん制しています。
ウクライナは9月6日以降、欧米の支援などを受けてロシアに制圧されたいくつかの地域を奪還し、その範囲は拡大を続けています。ウクライナ問題に詳しい神戸学院大学の岡部芳彦教授は、「動員令」と「住民投票」から、ロシアの「焦り」と「狙い」が見えると話します。詳しい解説をお聞きします。
新実キャスター「岡部教授は『動員令』について、『欧米の武器支援などに対抗』するために必要だと判断されたわけですよね?」
岡部芳彦教授「そうですね、最近のロシア軍はウクライナ軍に押されて兵員不足です。刑務所の受刑者も動員していましたが、それでも足りないので、『動員令』で兵員を確保しようとしています」
新実キャスター「ロシアは『動員令』と同時に、多くの部分を制圧しているルハンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州について住民投票を行い、賛成多数であればロシアの領土にすると発表しました。『動員令』は国民の反発を買いますが、この『併合』で戦争の成果が上がっているということを国内にアピールする意図があるんですね?」
岡部芳彦教授「そうですね。本来であれば4州をすべて占領してから住民投票を行うのが目標だったんですけど、ルハンスクは99パーセント、ドネツクとザポリージャは66パーセント、ヘルソンは93パーセント程度しか占領していない中で、成果を見せるのをかなり急いでいるようにみえます」
新実キャスター「それが『焦り』ということなんですね。住民投票を行ったからといってロシアが簡単に4州を併合できるとは考えにくいんですが、『投票結果の改ざんも可能』なので、賛成多数という結果が発表されるんですね?」
岡部芳彦教授「そうですね、2014年にはクリミア併合がありました。ウクライナ東部の指導部には、ロシアを支持する人たちがいます。しかし、住民にはそうでない人も多い。多くの人たちはロシアの占領を嫌って避難していました。そんな中で行われた投票で、賛成が96パーセント以上というあり得ない数字が出た。今回も似たような流れなので、数字で本当かどうかが分かると思います」
新実キャスター「クリミア半島の賛成『96パーセント以上』という数字は嘘なんですか?」
岡部芳彦教授「常識的にはあり得ない数字なので。クリミアのときはまだ、国際選挙監視団を呼んで正当に見せようとする余裕がありましたが、今回はそんな余裕のない混乱の中で行われるので…投票自体が実施できればの話ですが」
新実キャスター「ロシアがウクライナに領土を奪還されるような状況になり始めた『焦り』から、住民投票・編入という方向に動いているんですが、そこには確固たる『狙い』もあります。岡部教授が見るロシアの狙いとして、『4州を併合すれば“ロシアの領土”になる。そこを攻撃されれば、核を使用できる』というロジックが成立するということですが」
岡部芳彦教授「そうですね。この戦争は“ドネツク人民共和国”と“ルハンスク人民共和国”という2つの偽物の国の独立を承認する、というところから始まりました。今はフェーズとともに理屈も変わって、自国の領土にしてしまうと。プーチン大統領は6月のサンクトペテルブルクの国際経済フォーラムで『国家の主権が脅かされるときは核攻撃もあり得る』と言っています。“国家の主権が脅かされる”とは“領土を侵略される”ということになりますので、4州を併合することで核兵器の使用につながるという理屈につなげようとしています。ウクライナからすると自国の領土の奪還なのですが」
新実キャスター「今後、ウクライナは領土奪還作戦を継続するとみられていますか?」
岡部芳彦教授「そうですね、状況を静観するというのはあると思いますが、領土奪還は継続すると思います。ウクライナもロシアも、われわれほど核兵器を怖いものだと考えていません。『戦術核』のようなものが使われる可能性があるというのは、彼らはいつも考えています」
新実キャスター「今のウクライナの優勢は欧米の武器支援があってのものだと思います。ウクライナが核攻撃をその程度に考えていたとしても、アメリカが、『核を本当に使うなら…』と支援をためらう可能性はありませんか?」
岡部芳彦教授「今まではロシアの核使用を恐れていましたので、そういった側面はあったのですが、逆に武器支援のフェーズも上がるかもしれません。これまでウクライナが求めていた最新兵器は提供されていませんでしたが、近い将来、アメリカが戦闘機の提供を行う可能性も出てきたと思います」
新実キャスター「戦況が大きく動くきっかけになるかもしれないということですね」
●プーチン大統領 “予備役”部分的動員発表 なぜ? 9/22
ウクライナへ軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は2022年9月21日、国民向けのテレビ演説を行いました。この中で、戦地に派遣する兵士について、職業軍人だけでなく、有事に招集される、いわゆる予備役を部分的に動員する大統領令に署名したことを明らかにしました。演説全文は以下のとおりです。
プーチン大統領演説 [全文]
皆さん、私の演説のテーマは、ドンバス地域の情勢と、2014年の軍事クーデターによりウクライナで政権を奪取したネオナチ政権からドンバス地域を解放するための特別軍事作戦の経過だ。
きょう私が話す相手は、わが国の全国民、さまざまな世代・年齢・民族の人々、われわれの偉大な祖国の国民、大いなる歴史的なロシアが結ぶ全ての人々、いま最前線で戦い、任務についている兵士・将校・義勇兵、われわれの兄弟姉妹であるドネツク人民共和国、ルハンシク人民共和国、ヘルソン州、ザポリージャ州のほかネオナチ政権から解放された各地域の住民だ。
話すのは、ロシアの主権と安全、領土保全のために不可欠で緊急の対応について、みずからの将来を決めたいという同胞の希望と意志への支援について、そして、あらゆる手段でみずからの支配を保とうと、主権を有し自立した発展の中心を封鎖・抑圧し、ほかの国や国民にみずからの意志を押しつけ続け、偽善を植え付けようとする一部西側エリートたちの侵略政策についてである。
西側の目標は、わが国を弱体化させ、分裂させ、最終的に滅ぼすことである。彼らは1991年、ソビエトを分裂させることができたので、今度はロシア自体が、互いに致命的に敵対するたくさんの地域と州に分裂する時が来たと明言している。
そして、西側は長いことそうした構想を練ってきた。彼らはカフカスの国際テロリスト集団を鼓舞し、わが国の国境近くにNATOの攻撃インフラを置いた。彼らは全体的なロシア嫌いを武器として、特にウクライナでは数十年にわたり意図的にロシアへの憎悪を醸成し、反ロシアの足掛かりとしての運命を背負わせ、ウクライナ国民自身を大砲の餌食にしてわが国との戦争に追い込んだ。
彼らはこの戦争を2014年に始め、民間人に武力を行使し、クーデターの結果ウクライナに生まれた政権の承認を拒む人々に対して、ジェノサイド、封鎖、テロを計画した。
そして、いまのキエフ(キーウ)政権が実際、ドンバスの問題の平和的な解決を公式に拒否し、さらに核兵器を要求したあと、すでに過去2度起こったとおり、ドンバスへのさらなる大規模攻撃が避けられないことはじつに明白となった。そうなれば、ロシアのクリミア、すなわちロシアに対する攻撃へと続くことも避けられなかっただろう。
これを踏まえれば、先制的な軍事作戦を行う決定は絶対に必要不可欠であり、唯一可能なものだった。ドンバス全域の解放という作戦の主要目標は、以前もいまも変わっていない。
ルハンシク人民共和国は、すでに全域でネオナチの掃討が済んでいる。ドネツク人民共和国での戦闘は続いている。この8年間で、キエフ(キーウ)の占領政権はこの場所に深く階層化された長期的な防衛施設を築き上げた。正面突破すれば多大な損失を出すことになることから、われわれの部隊とドンバスの共和国軍の部隊は、計画的かつ有能に行動し、装備を使用し、人員をむだにせずに、ドネツクの土地を一歩ずつ解放している。町や村からネオナチを追い出し、キエフ(キーウ)政権が人質や人間の盾にした人々を支援している。
ご承知のとおり、特別軍事作戦には、契約に基づいて任務に当たる職業軍人が参加している。彼らと肩を並べて戦っている義勇兵組織は、民族も職業も年齢も異なる人たち、真の愛国者だ。彼らは心の声に従ってロシアとドンバスを守るため立ち上がった。
この点に関して、私はすでに政府と国防省に対し、義勇兵とドネツク・ルハンシク人民共和国の部隊の戦闘員の法的な位置づけを、完全かつ可及的速やかに決定するよう指示した。この地位は、物資・医療面の支援や社会保障を含め、ロシア軍の正規軍人と同じでなければならない。ドンバスの義勇兵組織と民兵部隊に装備品を供給する態勢作りに特別な注意を払わなければならない。
ドンバス防衛の主要任務の決定に際し、わが軍は、国防省と参謀本部の戦略行動全般に関する計画と決定に基づいて、ヘルソン州とザポリージャ州の相当な領域と、その他いくつかの地域をネオナチから解放した。結果として、1000キロを超える長大な戦線が形成された。
きょう、初めて公言したいこととは何か。イスタンブールでの交渉を含め、特別軍事作戦の開始後すでに、キエフ(キーウ)の代表団はわれわれの提案に非常に前向きな反応を示した。これらの提案は何よりもロシアの安全、われわれの利益に関わるものだった。ところが明白に、平和的解決は西側諸国の思惑に沿わず、一定の妥協が成立したあと、実際キエフ(キーウ)には一切の合意を潰すよう直接の命令が下されたのだ。
ウクライナにはさらに多くの武器が投入されるようになった。キエフ(キーウ)政権は、外国人よう兵と民族主義者から成る新たな武装集団、NATOの教範で訓練され西側の顧問が事実上指揮する軍隊を配備した。
同時に最も過酷な形で強化されたのが、2014年の軍事クーデター直後に確立されたウクライナ全土の自国民に対する弾圧体制だ。脅迫・テロ・暴力による政治はますます大規模で、おぞましく、野蛮な形態となっている。
強調しておきたい。ネオナチから解放された領土は、歴史的に「ノヴォロシア」の土地だが、暮らす人の大多数が、ネオナチ政権のくびきに置かれることを望んでいないとわれわれは知っている。ザポリージャ州、ヘルソン州、ルハンシク、ドネツクで、ハルキウ州の占領地域でネオナチがはたらいたような残虐行為が見られたし、まだ見受けられる。バンデラ主義者やナチの懲罰隊員の子孫は、人を殺し、拷問し、投獄し、憂さ晴らしをし、民間人に制裁を加え、嘲笑している。
ドネツク人民共和国とルハンシク人民共和国、ザポリージャ州、ヘルソン州には、戦闘開始前は750万人以上が居住していた。その多くが避難民となり、故郷を去ることを余儀なくされた。そして、残った約500万人は、いま、ネオナチ戦闘員による絶え間ない砲撃やミサイル攻撃にさらされている。彼らは病院や学校を攻撃し、民間人に対するテロ行為を行っている。
われわれは、近しい人々を苦しめるため迫害者に引き渡す倫理上の権利を持たず、運命をみずから決定したいという彼らの切実な願いに応えないわけにはいかない。ドンバスの人民共和国の議会とヘルソン、ザポリージャ両州の「軍民行政府」は、その土地の将来についての住民投票の実施を決定し、われわれロシアにこうした措置を支持するよう要請してきた。
強調しておきたい。われわれは、人々がみずからの意思を表明できるよう、住民投票の実施に向けた安全な条件を整えるためあらゆることを行う。そして、ドネツク・ルハンシク人民共和国、ザポリージャ州、ヘルソン州の住民の大多数によってなされるみずからの将来についての決定を、われわれは支持する。
皆さん。
現在ロシア軍は、すでに話したとおり、1000キロを超える戦線で活動していて、ネオナチ組織だけでなく、事実上、西側が結集した全軍事機構と対抗している。
こうした状況においては、次のような決定を下す必要があると考える。それは、われわれが直面する脅威に十分対応できるものだ。すなわち、われわれの祖国と主権、領土の一体性を守り、わが国民と解放地域の人々の安全を確保するために、ロシア連邦で部分的な動員を行うという国防省と参謀本部の提案を支持することが必要だと考える。
繰り返しになるが、言っているのは部分的な動員のことで、つまり兵役への招集の対象となるのは、現在予備役になっている国民だけで、とりわけ(ロシア)軍で勤務したことがある者、一定程度の軍事の専門知識や関連する経験を有する人だけだ。
兵役に招集された者は、部隊への派遣に先立って必ず、特別軍事作戦の経験を考慮した追加の軍事訓練を受けることになる。
部分的な動員に関する大統領令には署名した。
法令に基づき、連邦議会の上下両院には、本日、正式に書面で通知される。
動員措置は本日9月21日から開始される。各地の首長に対し、徴兵委員会の業務に必要なあらゆる援助を行うよう指示する。
特に強調したいのは、動員により兵役に招集されたロシア国民は、契約に基づき兵役に就く軍人と同じ地位、給与、あらゆる社会保障を受けるということだ。
部分的動員に関する大統領令は、国家防衛の調達を履行するための追加的な措置も規定していることを付言する。軍産複合体の役員は、兵器や装備品の増産と、追加の生産設備の配備に直接の責任を負っている。また、防衛産業に対する物的、資源的、財政的保障をめぐる全ての問題は、政府によって遅滞なく解決されなければならない。
西側は、攻撃的反ロシア政策においてあらゆる線を越えた。われわれは常に、わが国とわが国民に向けた脅威を耳にしている。西側の無責任な政治家の一部は、ウクライナに対する長距離攻撃兵器、つまりクリミアやその他のロシアの地方への攻撃を可能とするシステムの供給計画について、ただ話をしているというだけではない。
こうしたテロ攻撃は、西側の兵器を利用したものも含め、すでにベルゴロド州とクルスク州の国境付近の集落に対して行われている。NATOは、最新のシステム、航空機、艦船、衛星、戦略無人機を利用して、リアルタイムでロシア南部全域を偵察している。
アメリカ、イギリス、NATOは、軍事行動をわが国の領土へ移すようウクライナに直接働きかけている。もはや公然と、ロシアは戦場であらゆる手段でもって粉砕され、政治・経済・文化、あらゆる主権を剥奪され、完全に略奪されなければならないと、語られている。
核による脅迫も行われている。西側が扇動するザポリージャ原発への砲撃によって、原子力の大災害が発生する危険があるというだけでなく、NATOを主導する国々の複数の高官から、ロシアに対して大量破壊兵器、核兵器を使用する可能性があり、それは許容可能という発言も出た。
ロシアに対してこうした発言をすることをよしとする人々に対し、わが国もまたさまざまな破壊手段を保有しており、一部はNATO加盟国よりも最先端のものだということを思い出させておきたい。わが国の領土の一体性が脅かされる場合には、ロシアとわが国民を守るため、われわれは、当然、保有するあらゆる手段を行使する。これは脅しではない。
ロシア国民は確信してよい。祖国の領土の一体性、われわれの独立と自由は確保され、改めて強調するが、それはわれわれが保有するあらゆる手段によって確保されるであろう。核兵器でわれわれを脅迫しようとする者は、風向きが逆になる可能性があることを知るべきだ。 世界の支配を目指し、わが祖国、わが母国を解体し隷属させると脅す者を阻止するのは、われわれの歴史的な伝統で、わが国民の宿命の一部となっている。われわれは今回もそれを成し遂げ、今後もそうし続ける。皆さんの支持を信じている。
●プーチン演説、合理的判断の欠如が露呈…現実から自分を分離、国民が離反 9/22
ロシアのプーチン大統領は9月21日、国民向けのテレビ演説を行い、ウクライナで戦闘を継続すべく部分的な動員令に署名したと明らかにした。これは、戦地に派遣するために、職業軍人だけでなく、有事に招集される、いわゆる予備役も部分的に動員する大統領令である。また、ウクライナ東部と南部の占領地域の親ロシア派武装勢力幹部らがロシアへの編入の是非を問う住民投票を実施すると発表したことについて「決定を支持する」と述べた。
驚くことに、この演説でプーチン氏は「欧米側は、核兵器でわれわれを脅迫している。ロシアの領土保全に対する脅威が生じた場合、国家と国民を守るために、あらゆる手段を行使する」と語り、核戦力の使用も辞さない構えを示した。おまけに、「これはブラフ(はったり)ではない」と付け加えた。
プーチン氏がこの演説を行った背景には、ウクライナ軍が反転攻勢を強めており、東部でかなり広範囲の領土を奪還したことがあると考えられる。当然、プーチン氏は危機感を強めているはずだが、そんなことはおくびにも出さず、「一歩も引かない」という強い意志を示した。まあ、これまでプーチン氏は自ら引いたことが一度もないのだから、こういう反応をすることは予想の範囲内だった。
しかも、「これはブラフ(はったり)ではない」と凄んだのは、欧米諸国も自身の演説に耳をそばだてることを想定したうえでのプーチン氏の脅迫にほかならない。一応スーツにネクタイ姿だったが、ヤクザ映画に出てくる○○組の組長がテーブルにドスを突き立てて脅しているような印象さえ受けた。
「こいつ堅気じゃないな」と思わせる迫力で、欧米の民主主義国には、これだけ凄んで見せられる首脳はいない。日本の首相では到底太刀打ちできないだろう。さすが元KGBで、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた独裁者だけのことはあると妙に感心した。
脅迫によって欧米諸国の要心を目覚めさせることになっても、どうでもいい
脅迫について、ルネサンス期のイタリアの政治思想家、マキアヴェッリは次のように戒めている。
「ある人物が、賢明で思慮に富む人物であることを実証する材料の一つは、たとえ言葉だけであっても他者を脅迫したり侮辱したりしないことであると言ってよい。なぜならこの二つの行為とも、相手に害を与えるのに何の役にも立たないからである。脅迫は、相手の要心を目覚めさせるだけだし、侮辱はこれまで以上の敵意をかき立たせるだけである。その結果、相手はそれまでは考えもしなかった強い執念をもって、あなたを破滅させようと決意するにちがいない」
この戒めをプーチン氏が知っているかどうか、わからない。たとえ知っていたとしても、ウクライナさらには欧米諸国がこれまで以上に要心しようが、敵意を募らせようが、どうでもいいと思っているのではないか。プーチン氏は、とにかく自分が仕掛けた戦いに勝ち、強大なロシアを取り戻すことしか考えていないように見える。
こうした思考回路に陥るのは、この連載で以前指摘したようにプーチン氏がナルシシストだからである。ナルシシストが何よりも恐れるのは、自己愛が傷つくことだ。だから、せっかく占領したウクライナ東部の領土の広大な部分をウクライナ軍に奪還され、ロシア軍が東部での戦線の重要拠点からの撤退を余儀なくされたことは、プーチン氏にとって何よりも耐えがたかったはずだ。
この傷ついた自己愛を修復すべく、兵力不足を補うために、予備役まで動員する決断をしたと考えられる。しかし、プーチン氏の決断が合理的かどうか、はなはだ疑問である。プーチン氏が部分的な動員令に署名したとの発表を受け、ロシア発の航空便に予約が殺到し、週内の便はほぼ満席になっているという。
おそらくロシアから逃げ出したい人が多いのだろう。そういう願望を抱くのは、この動員令の対象者だけではないはずだ。これから統制や締めつけがさらに厳しくなり、物資不足も深刻になると思えば、逃げるが勝ちと考えるのは当然だ。
ナルシシストの独裁者にはとてもつきあっていられないというのが、逃げ出そうとするロシア人の本音ではないか。とくに「補正要素」が欠けた悪性のナルシシズムの持ち主は、「偉大さを維持するために、どんどん現実から自分を分離していく」(『悪について』)が、プーチン氏はその典型のように見える。
当然、これからも客観性と合理的判断が欠如した決断を繰り返し、さらなるロシア国民の離反を招く可能性が高い。もっとも、プーチン氏は国民と側近を恐怖で支配しているので、表立ってプーチン氏を批判する動きはそれほど盛り上がらず、嫌気がさしたロシア人が国外に脱出するだけかもしれない。
●ロシア軍の予備役部分動員、何を意味するのか? 9/22
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日、ウクライナをめぐり「部分的な動員令」の発動を宣言した。ウクライナを侵攻中のロシア軍は今月に入り、占領地を奪還されるなど大幅な後退を強いられている。国民向けのビデオ演説でプーチン氏は、ウクライナ政府を支援する西側諸国によって、ロシアの「領土的一体性」が直接脅かされていると述べた。また北大西洋条約機構(NATO)に対し、核保有国であるロシアはあらゆる兵器を使って、西側の「核の脅迫」に対応できると警告した。
この前日には、ウクライナ東部と南部の4州でロシアが任命した指導者らが、ロシアへの編入を問う「住民投票」と行うと発表している。ロシアは2014年にクリミア半島を併合した際も、同様の動きを見せていた。
部分動員、その実態は?
ロシアは、軍務経験のある予備役を30万人招集する計画。プーチン大統領は、招集されるのはウクライナでの紛争で必要となる特別技能を持つ人たちだと強調した。60歳以上の定年退職者も対象になる。ロシアには2500万人の予備役がいるため、理論上はこの人数を動員することが可能だが、その予定はまだないという。プーチン大統領とセルゲイ・ショイグ国防相は共に、徴集兵を前線に送り込むことはないと強調している。ショイグ国防相は一方で、1000キロにわたる前線を守るためには追加の部隊が必要だと述べた。部分動員は数カ月にわたって段階的に行われる予定。プーチン氏は先に、ロシアは長期戦に備えていると話していた。ロシアの国営通信は、ロシア政府が動員令を発するのは第2次世界大戦以来だと伝えているが、実際には1980年代にアフガニスタン紛争のために、その後も北コーカサスでのチェチェン紛争のために、それぞれ数千人を招集している。これらの紛争では十分な訓練を受けていない徴集兵らが多く殺された。そのためロシア政府は今回、反戦ムードの高まりを避けようと慎重になっているようだ。
ロシア軍はウクライナ軍より強いのか
ロシア軍は数の上ではウクライナ軍に勝っているが、ウクライナは戦場での戦術や西側の精密な武器などでその差を埋めている。
2月の侵攻開始時、ウクライナには19万人のロシア兵が投入されていた。これに、ウクライナ東部ドンバス地方の親ロシア派戦闘員が数千人いた。
ロシア政府はその後、金銭的な優遇と引き換えに大規模な兵の募集活動を行っている。そのため、シベリアやコーカサスといった貧しい地域から、チェチェン紛争を経験した戦闘員などが、追加の部隊員として投入されている。ロシアは平時、軍隊の規模の上限を軍人100万人余り、一般職員約90万人と定めている。しかしプーチン大統領は8月、13万7000人を追加雇用する大統領令に署名した。同国の徴兵制度では、18〜27歳の男性に対し通常1年間の兵役義務を課している。ただし、健康状態や学生であることなど、さまざまな理由で免除される。ロシア政府は当初、徴集兵をウクライナに送り込むことはないと述べていた。しかし実際には、徴集兵らに無理やりウクライナ行きの契約をさせていたことが明らかになり、当局者数人が懲戒処分を受けている。プーチン氏はその後、徴集兵は戦闘には投入されないと強調している。侵攻以前、ウクライナ軍の規模は現役の兵士が19万6600人と、非常に小さかった。しかしウクライナ政府は大規模な動員令を発令し、兵士の数を大幅に増やした。
なぜ今なのか
西側の軍事アナリストや政治家らは、東部ハルキウでのウクライナ軍の大規模な反撃によって、ロシア政府が守勢に転じたとみている。これが、プーチン氏の最近の決断を説明している。ショイグ国防相はさらに、これまでウクライナでロシア兵5937人が戦闘中に死亡したと発言した。しかし英国防省が7月に発表した分析では、ロシア側の死者は2万5000人と推測されており、これと比べてはるかに少ない。ウクライナは、敵側の犠牲者は5万人としている。最近では、兵力の大きな損失を補うため、国内の刑務所で雇い兵を募集していることも明らかになっている。1979〜1989年のアフガニスタン紛争では、旧ソ連軍は1万5000人の兵士を失っている。BBCロシア語の調査では、ロシアはウクライナでパイロットや情報専門家、特別部隊など1000人以上のエリート軍人を失っている。
プーチン氏は核戦争を警告しているのか
プーチン大統領は演説の中で、ウクライナ政府を支援する西側諸国が反ロシア的な「脅威」になっていると非難。ロシアの領土的一体性が脅かされた場合、必要であればあらゆる兵器を使用すると警告した。また、「わが国にもさまざまな大量破壊兵器があり、中にはNATO諸国が保有するものよりも近代的なものもある」、「これははったりではない」と付け加えた。ロシアの軍規では、国土が攻撃され脅かされた場合に戦術核の使用が認められている。ロシア軍はウクライナですでに、時速6000キロ超の長距離極超音速ミサイルを使っている。しかしアナリストらは、戦争の潮目を変えるには至っていないとみている。ロシアが占領地域での「住民投票」を実施し、ウクライナ領土の一部がロシアに編入されたと主張した後に、ロシアの領土がNATOの攻撃を受けていると主張する可能性がある。ウクライナ政府と西側の首脳は、この物議をかもしている「住民投票」について、ロシアによる占領の隠れみのだとみている。アメリカの駐ウクライナ大使、ブリジット・ブリンク氏もツイッターで、「偽の住民投票や予備役動員は、弱さのしるし、ロシアの失敗のしるしだ」と書いた。オランダのマルク・ルッテ首相も、予備役招集や住民投票の強行といったプーチン大統領の決定は「パニックの証し」だと述べた。その上で、「プーチン氏の核兵器にまつわるレトリックは、これまでにも聞いてきたもの」で、問題視していないと語った。その他の西側諸国の政治家も、核の脅威は高まっていないとしている。
●G7外相 ウクライナ支援で連携確認 林大臣、新たな対ロ制裁措置を発表 9/22
岸田総理とともにアメリカを訪問中の林外務大臣は、G7=主要7カ国の外務大臣らと会談し、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援でG7の連携を改めて確認しました。
林外務大臣:「強力な対ロ制裁、そしてウクライナ支援、これを継続していくためにもG7の結束をますますですね、維持することが、ますます重要である旨を述べました」
また、会談ではロシアの軍事侵攻への対応であらわとなった国連の機能強化策や東シナ海などで軍事活動を活発化させている中国について議論しました。
林大臣は記者団に対し、ロシアへの制裁として化学兵器に関連する物品のロシアへの輸出禁止やロシアの軍事関連団体を新たに輸出禁止の対象とすると明らかにしました。
また来年、広島で行われるG7サミットに先立ち、長野県で行う外務大臣会合は4月16日から3日間の日程だと発表しました。
●プーチン大統領への抗議デモ参加者に軍への召喚状を渡す ロシア報道 9/22
ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は22日、プーチン大統領が発表した「部分的な動員令」に反対し、警察署に拘束されたデモ参加者に軍への召喚状が手渡されたと報じた。
モスクワの複数の警察署では、召喚状が拘束者に直接手渡されたという。別の警察署では、近く召喚状が手渡されることになる、と拘束者に告げられているという。
メドゥーザによると、ある拘束者は、召喚状への署名を拒否すれば刑事事件で立件されることになる、と脅されたという。
プーチン氏は21日、「我が軍が対峙(たいじ)するのは事実上、西側集団の全戦争マシンだ」などと述べ、軍務経験がある予備役の市民を招集することを明らかにしていた。
●ロシア 予備役30万人動員へ 戦闘で効果発揮可能性低い指摘も  9/22
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン政権は、30万人の予備役を動員し、戦局を打開したい思惑です。一方、イギリス国防省は今後、数か月の間、動員された部隊が戦闘で効果を発揮する可能性は低いと指摘しています。
ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナへの軍事侵攻を続ける考えを改めて示したうえで、戦地に派遣する兵士について、職業軍人だけでなく有事に招集される、いわゆる予備役を部分的に動員すると表明しました。
ロシア国防省は、招集するのは軍務経験などがある予備役に限定され、動員の規模は30万人だとしています。
これについてイギリス国防省は22日「ロシアは30万人を動員するための管理や補給面で苦労する可能性が高い。今後、数か月の間、動員された兵士による新たな部隊が戦闘で効果を発揮する可能性は低いだろう」と分析しました。
そして「今回の動きは、ウクライナで戦うロシアの志願兵がもういなくなったことを事実上、示すものだ」と辛辣に指摘しています。
さらに「この限られた動員でさえ、一部のロシア国民には強い不満の声が上がっている。プーチン大統領は、戦力を必要とするため、かなりの政治的なリスクを受け入れている」として、プーチン政権が戦局を挽回するため、大きな賭けに踏み切ったと指摘しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も21日の分析で「ロシアの部分的な動員は、今後、数か月の間、戦いの方向性に実質的な影響を与えないだろう」と指摘しています。
こうした中、プーチン政権はウクライナの東部や南部で支配する地域の一方的な併合をねらい、親ロシア派勢力が、23日から27日にかけて「住民投票」だとする組織的な活動を始める予定です。
ロシアのラブロフ外相は、21日に掲載されたアメリカの有力メディア「ニューズウィーク」とのインタビューで、「住民は自分たちの運命を独自に決定する権利を持つ。ロシアと一緒にいたいという願望をわれわれは理解しており、住民の選択を尊重する」と述べ、「住民投票」だとする活動を名目に併合を推し進める考えを強調しました。
一方、ウクライナ政府や国際社会からは「偽りの住民投票」だとして非難の声が強まっています。
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、親ロシア派側は、支配地域で住民の監視を強め、ロシアを支持する住民だけを強制的に選別する作業を進めていると警告しています。
●ロシアの「脅迫」に対抗を 仏大統領、ウクライナ支援で団結訴え 9/22
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は22日に放映された仏BFMテレビのインタビューで、西側諸国は、ウクライナ侵攻で核兵器の使用を示唆したロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「脅迫」に立ち向かう必要があると訴えた。
マクロン氏は国連総会からの帰途、「われわれの任務は後ろに引かないことだ。すなわち、ウクライナが自国領土を守り、ロシアを攻撃しないよう今まで通り支援することだ」と語った。
また、「ロシアは明らかに切羽詰まっている」としつつも、「事態をエスカレートさせることにはくみしない」との考えを示した。
プーチン氏が予備役の「部分的」動員を表明した際、「利用可能なすべての手段」を使うと警告したことを受けて、欧州では警戒感が高まっている。専門家は、ウクライナ軍による最近の反転攻勢に対してプーチン大統領が予測不能な行動に出る可能性があると指摘している。
●ロシア、投降や不服従を厳罰化 法案可決、戦況劣勢で引き締め 9/22
ロシア上院は21日、戦時や動員下における兵役忌避や投降、命令不服従に対する罰をより厳しくする刑法改正案を可決した。プーチン大統領が署名し発効する見通し。2月に始まったウクライナ侵攻は公式には「戦時」ではないが、規律の引き締めと、プーチン氏が21日に発表した30万人の予備役を対象とした部分動員で、劣勢の戦況打開を図るとみられる。予備役招集は既に始まったが、効果は未知数だ。
2月のウクライナ侵攻後、ロシア兵の士気の低さや投降、上官の命令に従わない事例が伝えられ、欧米の軍事専門家は、こうした現状がロシア軍苦戦の一因とみている。

 

●ウクライナ情勢 安全保障理事会で激しい論戦が繰り広げられる  9/23
ニューヨークの国連本部では国連総会と並行してウクライナ情勢をめぐる安全保障理事会の会合が開かれ、すべての理事国の首相や外相が出席しました。ロシア側が核による威嚇を行い予備役も動員して兵力を増強する構えを示したことについて、アメリカのブリンケン国務長官が厳しく非難したのに対し、ロシアのラブロフ外相は強く反発し、激しい論戦が繰り広げられました。
国連本部では22日、国連総会の首脳演説と並行して、ウクライナ情勢を協議する閣僚級の会合が開かれ、15の理事国と参加した関係国すべてから首相や外相が出席しました。
冒頭グテーレス事務総長は、ロシアのプーチン大統領が再び核戦力の使用も辞さない構えを示したことを念頭に、「かつては考えられなかった核戦争の可能性を示唆する人々がいるが、決して認めることはできない」と非難しました。
アメリカのブリンケン国務長官は、国連総会の首脳演説が行われているさなかに、プーチン大統領が予備役を部分的に動員し兵力を増強する構えを示したことについて、「国連総会や安保理をさげすむもので、プーチン大統領は戦争を終わらせるのではなく、拡大させることを選んだ」と厳しく非難しました。
また、ウクライナのクレバ外相は、東部イジュームで新たに集団墓地が見つかるなど、ロシア軍の残虐行為が次々に発覚しているとしたうえで、「正義なくして和平はありえない」と述べ、ロシアの責任が追及されなければ和平は実現しないと訴えました。
これに対しロシアのラブロフ外相は、改めて軍事侵攻を正当化したうえで、「ロシアの安全保障を脅かす反ロシア的な主張が数多く展開されたが、いずれも断じて受け入れられない」と強く反発し、発言が終わると直ちに退席し、欧米とロシアの対立が再び浮き彫りになりました。
イギリス外相 ロシアを強く非難
国連安全保障理事会の閣僚級会合で、イギリスのクレバリー外相はロシアがウクライナの民間人に対して残虐行為を行っていることは国連の報告書からも明らかだと強く批判しました。そのうえで「ウクライナのみならず、世界中に苦難と食糧難を広げ、世界で最も弱い立場にある何百万人もの人々を飢餓や飢きんに陥れている。ロシアがウクライナの農場やインフラを破壊したことが原因で、輸出を遅らせているのはロシアのせいだが、制裁を科したわれわれに責任を負わせようとしている」と述べ、ロシアは責任を転嫁していると強く非難しました。さらに発言を終えたロシアのラブロフ外相がすぐに退席したことについて、「国際社会の非難を聞きたくないからだ」と批判し、ロシアがウクライナで支配する地域の併合をねらって「住民投票」とする活動を計画していることについて、「安全保障理事会のメンバーはロシアによるウクライナ併合の試みを明確に拒否しなければならない」と述べ、ロシアの行動を受け入れないよう各国に呼びかけました。
フランス外相 「正義なくして平和はない」
国連安全保障理事会の閣僚級会合で、議長国を務めるフランスのカトリーヌ・コロナ外相は「フランスのメッセージは明確だ。正義を追求するのはわれわれの共通の責務であり、正義なくして平和はない」と述べ、ロシアによる戦争犯罪などの責任が追及されなければ安定した和平はありえないと主張しました。そのうえで「ICC=国際刑事裁判所による捜査によって国際法上の人道に対する罪が立件される可能性がある。責任者は特定され訴追され、被害者のために裁かれる。それがわれわれの責務だ」と述べ、国際刑事裁判所の捜査などに協力するよう各国に呼びかけました。
ドイツ外相 ロシアを強くけん制
国連安全保障理事会の閣僚級会合に出席したドイツのベアボック外相は、ロシアに対して、「この戦争は勝つことができない戦争だ。ただちに戦争を終わらせるべきだ。ウクライナを苦しめることや自国の市民を死に追いやることは、やめなければならない」と述べ、強くけん制しました。そのうえで、「ロシアによる戦争が始まって200日がたち、世界中の飢餓や貧困、危険を増大させた」として、軍事侵攻がウクライナだけでなく世界に混乱を広げている現状に、強い懸念を示しました。
中国外相 中立的な立場を強調
国連安全保障理事会の閣僚級会合で、中国の王毅外相はウクライナで行われている人道状況の調査について「有罪と決めつけるのではなく、事実に基づいた客観的で公正なものでなければならず、政治的な介入も許されない。国際社会は、国連の人道支援機関が中立と公平を守ることを支持すべきだ」と述べ、あくまでも中立的な立場を強調しました。また安全保障理事会の役割について「停戦と和平交渉という正しい方向を目指し、政治的解決に向け建設的で責任ある行動をとる必要がある」と述べ、無条件での対話による解決を後押しするべきだと訴えました。
インド外相 早期停戦の実現を求める
国連安全保障理事会の閣僚級会合で、インドのジャイシャンカル外相は「グローバル化した世界では、紛争の影響は遠く離れた地域にも及んでいる。われわれも食糧や穀物、肥料などの不足、価格の高騰を経験しており、状況を懸念している。特に、発展途上国はその痛みを痛切に感じており、苦境にある世界経済をさらに複雑化させるような施策を始めてはならない」と述べ、戦闘の長期化がとりわけ発展途上国に深刻な影響を及ぼしているとして、対話を通じた早期停戦の実現を求めました。
ベラルーシ外相 欧米各国の対応を改めて批判
国連安全保障理事会の閣僚級会合で、ロシアと同盟関係にあるベラルーシのウラジーミル・マケイ外相は「ウクライナでの出来事はある日突然起こったわけではない。西側諸国がこの地域の安全保障上のリスクを無視し、関係国の懸念を考慮に入れなかった結果だ」と述べ、欧米各国の対応を改めて批判しました。そのうえで「遅かれ早かれ、すべては交渉のテーブルで決着する。交渉に着くのは早ければ早いほどいい」と述べ、ウクライナとロシアの双方がすみやかに交渉のテーブルに着くべきだと主張しました。
●世界首脳、ロシアに責任追求 ウクライナ戦争巡り ロ側は擁護 9/23
世界各国首脳は22日、ロシアに対し、ウクライナにおける人権侵害の責任を取るよう求めた。一方で、ロシアのラブロフ外相はウクライナ戦争を擁護し、ウクライナの残虐行為を非難した。
ラブロフ外相は国連安全保障理事会の会合で、2月24日のロシアによる侵攻以来、ウクライナで行われている残虐行為について演説し、ウクライナがロシアに対する脅威を作り出し、ウクライナにいる親ロシア派などの権利を「大胆に踏みにじった」と非難。「われわれは決してこれを受け入れないと断言できる」とし、「今日私が話したことは全て、特別軍事作戦の実施決定が避けられないものであったことを裏付ける」と主張した。
また、ウクライナに兵器を供給し、兵士の訓練に携わっている国々は紛争の当事者であるとし、「西側諸国が意図的にこの紛争を煽ったことは依然として罰されていない」とした。
グテレス国連事務総長は、武力による威嚇などによる他国の領土併合は国連憲章および国際法に違反すると述べ、ロシアが実効支配するウクライナの4地域で実施されるロシア編入の是非を問う住民投票に懸念を表明。核兵器を利用した紛争について語ることも「全く受け入れられない」とした。
国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン主任検察官は、ICCの管轄範囲内の犯罪がウクライナで行われたと信じる「合理的な根拠」があると述べた。ハーグに本拠を置くICCは、戦争犯罪、人道に対する罪、大量虐殺、侵略の罪などを扱っている。
米国は、ロシアを含むさまざまな情報源に基づき、ロシアによるウクライナ侵攻開始以降、当局が「尋問、拘束、強制送還」したウクライナ人は最大160万人に上ると推計。米国のブリンケン国務長官は米政府はウクライナによる自衛を引き続き支援すると表明。「国際秩序が目の前で蹂躙されているロシアのプーチン大統領をこのまま放っておくことはできない」と述べた。
クレバリー英外相は「われわれはプーチン大統領に対し、ウクライナ国民への攻撃を止めさせ、残虐行為を行う人々への免責はありえないことを明確にしなければならない」とし、世界各国はロシアによる「うその列挙」を否定する必要があるとした。
中国の王毅外相は、優先すべきは前提条件なしの対話を再開することであり、双方が自制し、緊張をエスカレートさせないことだと言及。「ウクライナに対する中国の立場は明確だ。全ての国の主権、領土保全は尊重されるべきであり、全ての国の合理的な安全保障上の懸念は真剣に考慮されるべきだ」と語った。
ウクライナのクレバ外相は22日の安保理でラブロフ外相と対話する可能性があるのかと問われ「安全な社会的距離を保つだろう」とした。
ウクライナの戦争犯罪主任検察官は先月ロイターに対し、ロシアの侵攻開始以来、約2万6000件の戦争犯罪の疑いを調査していると明らかにしている。ただロシアが米国、フランス、英国、中国とともに拒否権を持つ常任理事国になっているため、安保理はウクライナに対し有意な行動を起こすことができていない。
ウクライナ東部の親ロシア派勢力「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」ほか、南部ヘルソン州にロシアが設置した行政機関、および南部ザポロジエ州のロシア軍占領地域が20日、ロシアへの編入の是非を問う住民投票を23─27日に実施すると表明。ロシアのプーチン大統領はこの翌日、軍の部分動員令に署名したと明らかにし、西側が「核の脅し」を続ければ兵力の全てを用いて対応すると警告した。
●「憲章違反」と住民投票非難 ウクライナ情勢で安保理閣僚会合―国連総長 9/23
国連安全保障理事会は22日午前(日本時間同日夜)、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり閣僚級会合を開いた。冒頭で演説したグテレス事務総長は、ウクライナの親ロシア派がロシアへの編入に向けた「住民投票」を行うと発表したことに深い憂慮を表明。「武力による威嚇や行使で(領土を)併合することは国連憲章に反する」と非難した。
グテレス氏は、ロシアとウクライナの間で250人以上の捕虜交換が実施されたことを歓迎した一方、「ウクライナでのロシアの戦争は終わる兆しが見えない」と危機感を表明した。会合は、世界中から首脳らが集まる国連総会一般討論演説の期間に合わせ、議長国フランスが開催を要請し、ブリンケン米国務長官らが出席した。
●米「ロシアは逃れられず」 安保理、侵攻後初の閣僚会合 9/23
国連安全保障理事会は22日、ロシアのウクライナ侵攻後で初となる閣僚級会合を開き、ロシアのラブロフ外相が侵攻以来で初めて出席した。プーチン大統領が発令した部分動員令や親ロシア派がウクライナで計画するロシアへの編入の是非を問う住民投票をめぐり、米欧など各国から非難が集中した。
ブリンケン米国務長官は「プーチン氏は世界の大半が国連に集まる今週、自ら起こした火に油を注ぐために、国連憲章、国連総会と安保理を徹底的にないがしろにすることを選択した」と非難。「国際秩序そのものが目の前でずたずたに引き裂かれている。われわれはプーチン氏が(侵攻をめぐる責任追及を)逃れることを許さない」と強調した。
住民投票による事実上の併合が決まれば「プーチン氏はその土地を解放しようとするウクライナの努力を、いわゆる『ロシア領土』への攻撃だと主張することが予想される」との懸念も示した。
一方、会合に遅れて出席したロシアのラブロフ外相は演説で、ロシアへの非難は「西側諸国のプロパガンダだ」と主張。ウクライナへの武器供給や兵士の訓練などの支援をする国も紛争の当事国だと指摘した上で「西側諸国が紛争を故意にあおっていることは罰せられないままだ」と反論した。「特別軍事作戦の実施が不可避であったことを裏付けている」とも述べた。演説後には退席した。
プーチン氏は各国首脳が集まる国連総会の首脳級演説中の21日に国営テレビで国民向けに演説。戦闘継続のための部分動員を発表し、親ロシア派支配地域の事実上の併合に踏み切る考えを示した。「領土の一体性が脅威にさらされる場合」に「すべての手段を利用する。はったりではない」と述べ、核使用の脅しを強めた。
ノルウェーのストーレ首相は「ロシアに対する軍事的脅威は存在しない。ロシア軍が大規模な動員をする正当な理由は何もない」と強調した。「もしロシア国民が自由に意見を述べることができたら、彼らは戦争を選択しただろうか。そうは思わない」と述べた。
ウクライナのクレバ外相は「プーチン氏とその側近を裁判にかける唯一の方法は、ウクライナに対する侵略の罪を裁く特別法廷を設置することだ」と訴えた。会合前、ラブロフ氏と直接話す可能性を問われたクレバ氏は「安全な社会的距離を保つだろう」とも語った。
会合には戦争犯罪や人道に対する罪などを扱う国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)のカーン主任検察官も出席。ウクライナでICC管轄内の犯罪が行われたと信じる「合理的な根拠」があると明言した。意図的な民間人への攻撃や、子どもを含む住民のウクライナからの移送について優先的に調査を進めている。
カーン氏は「私がブチャに行った時に見た遺体は(ロシアが主張する)偽物ではなかった。建物や学校の破壊も現実だった」と語った。「いかなる紛争にも責任があることを示さなければならない」と訴えた。
グテレス国連事務総長は「加害者は公正で独立した司法手続きにおいて責任を負わなければならない」と語り、全ての当事者にICCの調査への全面協力を求めた。プーチン氏による核兵器使用の示唆に触れ「世界は核による大惨事を起こすわけにはいかない」とクギを刺した。
●ウクライナとの捕虜交換、ロシア国内で反発広がる  9/23
ロシアではウクライナとの間で行われた捕虜交換を巡り、国家主義者らから批判の声が上がっている。捕虜交換にはウクライナの司令官も含まれ、ウクライナ政府は「勝利」との認識を示す一方、ロシア国内には解放の決定を疑問視する声がある。
ウクライナ軍がロシア軍を劣勢に追い込み着々と反撃を進める中、トルコの仲介で捕虜交換が行われた。戦闘開始以降で外交的な進展がみられたのは久々となる。
ロシアが解放した215人の捕虜の中には、ウクライナの港湾都市マリウポリの防衛を指揮し、ロシアに対する抵抗の象徴となった司令官数人が含まれた。こうした司令官らが所属する「アゾフ連隊」をロシアはテロ集団とみなしており、隊員を裁判にかけると宣言していた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は演説で「これは間違いなくわれわれの国家や社会全体にとっての勝利だ」と述べ、捕虜交換は長期間にわたり調整が進められていたことを明らかにした。
ウクライナは引き換えに55人のロシア人と、ウクライナの親ロ派政党の指導者、ビクトル・メドベチュク氏を解放。メドベチュク氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と親しい関係にある。
ゼレンスキー氏によると、ロシアは当初、メドベチュク氏と引き換えにウクライナ人捕虜50人を解放することを提案していたが、最終的にロシアは200人以上の解放に応じた。
ロシアとウクライナがそれぞれ拘束している捕虜の総数は明らかではない。
ゼレンスキー氏によると、今回解放されたウクライナ人の中にはマリウポリ防衛に加わった戦闘員188人が含まれ、そのうち108名はアゾフ連隊の隊員だった。アゾフ連隊司令官の解放を巡る交渉は最も困難だったという。
ロシア政府関係者は捕虜交換について、おおむね沈黙している。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は国営タス通信に対し、捕虜交換にメドベチュク氏やアゾフ連隊の隊員が含まれていたかについて「大統領府はコメントしない」と述べた。
ロシアではウクライナ侵攻の支持者らの間で、政府は戦場で失態を演じているとの声が強まっており、今回の捕虜交換も批判を招いた。
2014年にウクライナ東部の分離独立運動で親ロシア派勢力を率いた元諜報(ちょうほう)員、イゴール・ガーキン氏は、アゾフ連隊司令官の解放は裏切り行為だと主張。プーチン氏が21日に予備役の動員を命じたことに関連し、動員されるロシア人への侮辱になるとの見方も示した。同氏は、解放は「犯罪より悪い」とし、「信じられないほどの愚かさだ」と断じた。
戦争支持を表明するブロガーらも政府批判に加わっている。
ロシア政府支持者に引用されることが多いジャーナリストのアンドレイ・メドベージェフは「ロシアの英雄」が人もいない飛行場で国旗や花束での出迎えもなく帰還するといった対応を受けるのは「極めて奇妙なことだ」と記した。
ロシアの対話アプリ「テレグラム」の「WarGonzo」チャンネルで意見を発信する戦争支持派のブロガー、ドミトリー・セレズネフ氏は、捕虜交換の条件としてウクライナの司令官は戦争が終わるまでトルコにとどまることになっていることに言及。「アゾフ戦闘員の交換に個人的に反対しているわけではない。ただ、アゾフ司令官が特別軍事作戦の残りの期間はトルコで休暇を取らなければならないというのは、ちょっとばかげた話だ」。
●「部分的動員」という賭けに出たプーチンの苦渋  9/23
プーチン大統領が2022年9月21日、ついに「部分的動員」という大きな賭けに出た。兵力不足が露呈したロシア軍がウクライナ軍の巧妙な反攻作戦で崖っぷちに追い込まれた中、30万人規模の予備役投入で戦局の好転を図った苦肉の策だ。
しかし、予備役の戦線投入は早くて数カ月先とみられ、戦況をただちに有利に転換する可能性は低い。おまけにこれまで「戦争は支持するが、従軍はお断り」と考えてきたノンポリのロシア国民の間で、「プーチン離れ」が進む兆候もすでに出始めている。今回の決定がプーチン氏にとって逆噴射する可能性もある。
ためらいがちな「部分的動員」発令
今回のプーチン氏の決定は、「ためらい」の色が濃いものだった。当初前日の2022年9月20日夜に行われると言われていた国民向けの声明は延期され、モスクワ時間の同21日朝にテレビ放送された。もともと大統領は、政権内で「戦争党」とも呼ばれる強硬派や民族派が求めていた国民総動員には消極的だった。クレムリンが独自に秘密裡に行う世論調査で否定的な意見が強かったからだ。
しかし、東北部ハルキウ(ハリコフ)州の要衝イジュムがウクライナ軍の奇襲によってあっという間に陥落するなど日々悪化する戦局に対し、クレムリン内では何らかの手を打つべきとの圧力が高まった。一方で大統領の個人的友人でもある新興財閥の中では「平和党」と呼ばれるグループがいて、総動員に反対していた。
このままでは政権内に大きな亀裂が走ることを恐れたプーチン氏は結局、両派の主張の間をとった妥協策として今回の部分的動員になったとみられる。
「戦争党」には政権ナンバー2のパトルシェフ安全保障会議書記やメドベージェフ前大統領、ウォロジン下院議長など大物政治家が揃っている。平和党と比べ、政治的権力は圧倒的に強い。今回の決定でプーチン氏は政権内でのガス抜きを図ったと言えよう。
しかし、実際の戦局を好転させるだけの結果を出せるかとなると疑問が残る。30万人の予備役招集は発表当日から有効とされたが、いくら軍務経験者といってもこれから訓練をし、装備・軍服を配備し戦線に送れるようになるには今後数カ月かかるとの見方が一般的だ。現在ウクライナに派兵されているロシア軍は20万人以下とみられ、それから比べると30万人という規模はかなりのものだ。
一方でウクライナ軍は、2022年末から2023年初めにかけての冬季期間中でのロシア軍への決定的勝利を目指して反攻作戦を急いでおり、ロシア側の動員が間に合わない可能性もある。おまけにロシア軍の東部・南部での士気低下や指揮系統のマヒは隠しようもないほどだ。予備役が配備されても一度壊れた態勢が回復するとはとても思えない。
現在ウクライナ軍は現在ドネツク州陥落に力点を置いており、隣のルハンシク(ルガンスク)州にはもはや重点を置いていない。ロシア軍の士気があまりに低いからだ。ドネツク州でロシア軍部隊は要衝のバフムトへの攻撃を続けているが、ウクライナ側は「無駄な攻撃」と嘲笑している。軍事的に攻略が不可能なためだ。
しかしプーチン氏はドネツク州の早期の全面的制圧を軍に厳命しており、ロシア軍の現地司令官は「不可能であることをプーチン氏に報告できずに惰性で攻撃しているだけ」とウクライナ側はみている。さらに、ミサイルなどの主力兵器の不足も決定的だ。兵力だけ増やしても戦死者を増やすだけとの批判がウクライナ側からも出ている。
部分動員が国内政治にもたらすリスク
今回の部分動員の発表と合わせ、プーチン氏はロシアへの編入を問う「住民投票」がウクライナ東部や南部の計4州で2022年9月23日から27日までの日程で実施されることを初めて認めた。編入支持が「圧倒的多数」で承認されることは確実で、プーチン氏は新たな領土拡大という戦果を誇示する狙いだろう。
しかし、部分動員という折衷的措置であっても、より広い層の国民を戦場に駆り出すことになる今回の決定は、プーチン氏にとって国内政治的にも大きなリスクをもたらした。多くのロシア国民、とくにモスクワやサンクトペテルブルクといった大都市の住民の多くは、自分たちが戦場に送られない限りにおいて、侵攻を支持するという消極的支持派だからだ。
プーチン政権の内部事情に精通する元クレムリンのスピーチライターで政治評論家のアッバス・ガリャモフ氏は「プーチン氏が国民との社会契約を破った」と指摘する。つまり、社会契約とは「プーチン政権はこれまで志願兵の募集を地方中心で行って、都市部住民にはほとんど触らずに来た。彼らには快適な生活を保障する代わりに、戦争への支持を集めてきた」ことだと説明する。
戦争中も都市部の住民は旅行したり、通常とほぼ変わらぬ生活を謳歌している。この平和な生活が破られることで、今後国民の間で政権への抗議の機運が広がる可能性も出てきた。同時に既にモスクワなどでは招集される前に国外に脱出を図るパニック的動きが出ている。
一方でウクライナ側としては、ロシア軍の追加派兵によって早期勝利への青写真が狂うことを警戒している。今後米欧に追加の軍事支援を求めることになるだろう。
同時に、ウクライナは巧妙な戦略を別途に検討し始めている。それは、前線のロシア将兵に対し、投降と同時にウクライナへの亡命を呼び掛ける作戦だ。戦線ではすでに投降の動きが出始めている。これを受け、ロシア議会では投降を処罰する法が制定された。
このため、ウクライナ軍はロシア兵に対し、プーチン体制がなくなり、徴兵も投降への処罰もなくなるまでウクライナに留まることを許す方針だ。戦死や投獄よりマシと考えるロシア兵が出てくる可能性はある。
米欧はプーチン執務室への報復も示唆
今回、国際的に衝撃をもたらしたプーチン氏による核兵器使用の警告について、アメリカをはじめとする西側は警戒しつつも、ロシアに対し、水面下で強く警告している。軍事筋によると、2022年3月の段階で米欧は核をウクライナに使用した場合、ロシア軍核部隊のみならず、「使用を決定した場所」、つまりプーチン氏の執務場所も核で報復攻撃するという警告をバックチャンネルを通してしている。今回のプーチン発言後も同様の警告をしたとみられる。
それでもプーチン氏が核使用に踏み切る可能性があるのか否か。それは本人にしかわからない。しかし、通常戦で苦境にあるクレムリンが核の脅しで米欧やウクライナを威嚇し、自国に有利な形での交渉開始を迫る戦略の可能性が高いと筆者はみる。国際社会は冷静に行動すべきだ。
●プーチンが絶体絶命…中国・習近平からも見捨てられて「万事休す」へ 9/23
中国からの「ゼロ回答」
中国がロシアから距離を置き始めている。一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は予備役の動員と核の使用も辞さない考えを表明した。ロシアが敗北すれば、台湾奪取を目論んでいる中国も戦略の見直しを迫られるのは、必至だ。中国は、どう動くのか。
私は先週のコラムで、9月15日に開かれた中ロ首脳会談について、結果が判明していなかった段階だったが、中国の習近平総書記(国家主席)はロシアが求める軍事支援や核使用容認の「要請に応じないだろう」と書いた。
結果は、その通りどころか、中国はもっと冷淡だった。プーチン氏を、ほとんど「見捨てた」と言ってもいいほどである。会談冒頭のやりとりが、実態を物語っている。
プーチン氏は、まず「ウクライナ危機に関して、中国のバランスのとれた立場を高く評価する」と述べた。問題はこの次だ。「我々は、中国が疑問や懸念を抱いていることを理解している。本日の会合で詳細に説明する」と語ったのだ。
これは、驚くべき発言である。プーチン氏が戦況の悪化を自ら認めたも同然だ。ようするに「我々は追い込まれた。だが、心配するな」と言ったのである。
習氏の返答は、そっけなかった。「世界が歴史と時代の挑戦を受けているなか、中国は主要国としての責任と主導的役割を果たすために、ロシアとともに仕事をする。そして、荒れ狂う世界に安定と積極的なエネルギーを注入する」と応じただけだ。
習氏は「ウクライナ」という言葉さえ口にしなかった。中国側は、後で「互いの核心的利益に関する問題について、双方が強力な支援を拡大する準備が整っている」という声明を出したが、これも、ただの一般論にとどまっている。
戦場で守勢に立たされたプーチン氏とすれば、喉から手が出るほど、中国からの軍事支援が欲しかったはずだ。それだけでなく、いざとなれば「核の使用」についても、可能ならば、事前に「暗黙の了解」を取り付けたかっただろう。
それは「米国の暴露」で明白である。9月5日付のニューヨーク・タイムズによれば、米諜報機関はロシアが北朝鮮に数百万発のロケット弾や砲弾を調達していた。イランからは、ドローンを購入していた。ロシアは武器弾薬を使い果たしつつある。
だが、願いは叶わなかった。
中国の「ゼロ回答」は、事前にロシアに伝わっていたに違いない。だからこそ、プーチン氏は冒頭から「あなたの疑問と懸念は理解している」と言わざるをえなかったのだ。とても、軍事支援や核使用の了解取り付けどころではなかった。
日本のメディアの大失態
私は、以上のような見立てを、9月16日発売の「夕刊フジ」のコラムに書いたが、こうした見方は、私だけではない。
9月15日付のニューヨーク・タイムズは「プーチンの戦争に対する中国の支持は、首脳会談の後、一段と揺らいでいる」と報じた。CNNも同じく「ロシアの後退は『新たな世界秩序』作りを目指す彼らの計画を台無しにしている」と報じている。
日本のメディアはどうかと言えば、まったくピンぼけだ。
たとえば、共同通信は15日に「中ロ首脳、協力深化表明 侵攻後初の首脳会談」という記事を配信した。NHKの報道も「中ロ首脳 軍事侵攻後 初の対面会談 対米姿勢で結束強化を強調」という具合である。
中ロに隙間風が吹くどころか、逆に「結束を固めた」とみていたのである。記者も担当デスクも「中ロの連携は盤石」と思い込んでいたのか、プーチン氏の冒頭発言の異様さに気づかないほど鈍感だったか、あるいは、その両方だったとしか思えない。
私は9月16日朝の「虎ノ門ニュース」で、ピンぼけぶりを指摘したが、こんな調子では、日本でマスコミ不信に拍車がかかっているのも無理はない。
プーチンを切り捨てる習近平
それはともかく、ロシアは首脳会談後の19日になって、ニコライ・パトルシェフ安全保障理事会書記が訪中し、中国共産党の楊潔篪政治局員と会談した。ロシア側の発表によれば、合同軍事演習の実施や軍事部門の協力強化、参謀本部の連絡強化で合意した、という。
プーチン大統領は21日、国民向けの演説で、部分的な予備役動員を表明した。セルゲイ・ショイグ国防相によれば「30万人を動員する」という。同時に、核の使用についても、大統領は「はったりではない」と述べ、あらためて、核を使う可能性を示唆した。矢継ぎ早の動きに、ロシアの焦りがにじみ出ている。
中国は、どうするのか。
私は「ウクライナ戦争の結末と、プーチン氏の運命を見極めるまでは動かない」とみる。その間は「台湾侵攻は当面、棚上げする」だろう。これまで国内の反対論を抑え込んで、プーチン氏に入れ込んできただけに、もしも、ロシアが敗北すれば、その衝撃波は習氏の政治基盤を根底から直撃するからだ。
戦争に敗れた後も、プーチン氏が権力を維持できるかどうかは分からない。最悪の場合、プーチン政権が倒れ、後継政権はウクライナに全面謝罪し、親米路線に大きく舵を切り替える可能性もある。そうしなければ、経済制裁を解除できず、国が立ち行かないからだ。そうなったら、習氏にとっては「悪夢のシナリオ」である。
歴史の前例もある。
米国のリチャード・ニクソン政権は1971年7月に突如、訪中を発表し、劇的な米中和解を成し遂げた(第1次ニクソン・ショック)。これによって、中国は激しく対立していた旧ソ連に対する「米中包囲網」を形成しただけでなく、米国の支援を得て、経済発展の足がかりを築くことができた。
もしも、敗北した後の新生ロシアが米国と手を組むようなことになれば、攻守所を変えて、今度は「米ロによる対中包囲網」が完成してしまうかもしれないのだ。
これは、けっして夢物語ではない。私が夏にインタビューしたハーバード大学のステファン・M・ウォルト教授は3月21日に米外交誌「フォーリン・ポリシー」に寄稿した論文で、次のように指摘している。
〈欧州の防衛能力は一夜にして、回復しない。長期的には、米国とNATO(北大西洋条約機構)、欧州連合は欧州の安定性を高め、ロシアを中国への依存から引き離すために、ロシアを除外しない形で、欧州安全保障秩序の構築に務めるべきだ。こうした展開は、モスクワに新しい指導者が誕生するのを待たねばならないが、長期的な目標であるべきだ〉
いま、ロシアの劣勢が深まるにつれて、そんな事態が現実になる可能性が出ている。先のCNN記事も、その可能性を指摘していた。もっとも真剣に考慮しているのは、習近平氏に違いない。一歩間違えれば、プーチン氏と共倒れになる可能性があるからだ。
もちろん、別の展開もありうるが、成り行きをしっかり見極めずに、台湾に突撃するほど、習氏が愚かとは思えない。古今東西、独裁者にとって最重要課題は、自分自身の生き残りと権力維持だ。台湾奪取のような夢の実現ではない。
はっきり言えば、習氏にとって「台湾奪取=中国の夢」は、単なる理想にすぎない。独裁者に、理想は2の次、3の次だ。肝心なのは、何はさておき、自分自身の権力維持である。権力を失ってしまったら、理想の実現もへったくれもないからだ。
ロシアが敗北すれば、プーチン氏と手を組んだのは、習氏の戦略的失敗になる。それは当然、国内で批判を招く。そのうえ、台湾奪取のようなリスクのある博打を打てるか。そうではなく、習氏はまず自分自身の足元を固め直すことを優先するだろう。
バイデン政権はどう動くか?
逆に言えば、米国にとって、習氏の台湾奪取計画を抑止する最良の手段は、ウクライナでプーチンを打ち負かし、できれば失脚させることだ。今回の中ロ首脳会談は、ウクライナ戦争だけでなく、台湾問題でも重大な岐路にさしかかった事実を示している。
米国の戦略目標が「ロシアの弱体化」であるのは、4月のロイド・オースチン国防長官発言で明らかになっていた。ウクライナの反転攻勢の成功で、米国は目標を達成できそうな見通しが出てきた。
米国のジョー・バイデン政権で、ウクライナ支援の指揮をとっているのは、ジェイク・サリバン大統領補佐官とマーク・ミリー統合参謀本部議長である。この2人は、反転攻勢の立案も担っていた。作戦成功に自信を深めているに違いない。
バイデン大統領は9月18日、米CBSのテレビ番組「60ミニッツ」で「米軍が台湾を防衛するかどうか」と問われ「もし実際に前例のない攻撃があれば、イエスだ」と述べた。大統領が同じ質問を受けたのは、これで4回目だ。
9月17日付のニューヨーク・タイムズによれば、大統領は「プーチン氏が核で反撃する事態を恐れて、ウクライナが求めている『ATACMS』と呼ばれる長距離射程ミサイルの提供を躊躇している」という。米議会では、そんなバイデン政権の弱腰姿勢に批判が強まっている。
バイデン氏は、どう対応するのか。大統領の決断は、プーチン氏だけでなく、台湾と習近平氏の運命も握っている。 
●ロシア「住民投票」活動始める ゼレンスキー大統領 強く反発  9/23
ロシアのプーチン政権は、23日から、ウクライナで支配する地域の一方的な併合をねらい、「住民投票」だとする活動を始めています。これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は強く反発しています。
プーチン政権はウクライナで支配する地域の一方的な併合をねらい、親ロシア派勢力が、東部ドンバス地域のドネツク州とルハンシク州、それに南部ヘルソン州などで、23日から27日にかけて「住民投票」だとする組織的な活動を始める予定です。ロシアの国営通信は23日「投票が始まった」と伝えました。
ロシアの前の大統領で、安全保障会議のメドベージェフ副議長は21日、SNSに「住民投票が行われ、ドンバスなどの領土はロシアに受け入れられるだろう」と投稿し、ロシアがこの地域を併合する可能性を示唆しました。
一方、ロシアに大部分が占領されているウクライナ・ルハンシク州のハイダイ知事は22日、NHKの取材にオンラインで応じ、「ロシア軍は占領に反対するデモ隊に発砲したあと、大勢の人をバスで連れてきてロシア軍を歓迎する住民だと称したことがある」と述べ「住民投票」だとする活動もみせかけにすぎないとの見方を示しました。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領は、22日に公開した動画で「占領地での偽の住民投票という茶番は、2014年にクリミアで起きたことと同じだ」と述べ、強く反発しています。
●ウクライナ4州で住民投票強行 東・南部、ロ編入賛成が多数確実 9/23
ウクライナ東部ドンバス地域(ルガンスク、ドネツク両州)や南部の一部を支配する親ロシア派は23日、ロシア編入を問う「住民投票」を4州で強行した。27日まで。編入賛成が多数を占めることは確実。国際社会が強く反発する中、プーチン政権は投票結果を足場に制圧地域の一方的な編入を急ぐ。
ロシアの侵攻から24日で7カ月。ウクライナ軍が東部ハリコフ州で劇的な戦果を上げ、南部でも反攻。守勢のロシアは予備役の部分動員に踏み切る一方、制圧地の支配固めや反攻抑止のための「核の脅し」も一段と強化するなど、ウクライナ情勢は新局面に入った。
●トヨタ、ロシアでの生産と販売から撤退 ウクライナ情勢で部品調達困難 9/23
トヨタ自動車はロシアでの自動車の生産と販売から撤退します。ウクライナ情勢により部品調達が困難となっていて、「半年が経過しても生産再開の可能性が見いだせず、このままではトヨタが目指す製品づくりができない」と判断しました。ロシアにあるトヨタの工場は今年3月から操業を停止していました。
●ウクライナめぐり“初”の閣僚級安保理会合 ラブロフ外相は席立ち別会合へ 9/23
国連安保理ではウクライナ情勢をめぐる初の閣僚級会合が開かれました。遅れて現れたロシアのラブロフ外相は軍事侵攻を改めて正当化、他国の演説を聞くことなく退席しています。
ロシアの軍事侵攻以降、何度も重ねられてきた安保理会合ですが、きょうは初めての閣僚級が出席します。
ウクライナ クレバ外相「きょう、我々がここで話し合うことはウクライナとロシアのことだけではない。直面している国際安全保障の危機はどんどん大きくなっている」
ロシア・ラブロフ外相は演説直前に会場入り―
ロシア ラブロフ外相「ウクライナが国際人権法の規範を踏みにじるナチスのような全体主義国家になったことは間違いない」
多くの外相が演説終了後も残るなか、ラブロフ氏は演説が終わるとすぐに会場を後にし、他国の声に耳を傾けることはありませんでした。
安保理ではこれまで30回にも及ぶ会合が開かれてきましたが、実効性のある対応をとることができず、非難の応酬が繰り広げられています。安保理では手詰まり感が強まり、事態打開の見通しは立っていません。
●自らの政権の足元に地雷を仕掛けたプーチン氏 9/30
テレビ放送された国民向けの演説で21日夜、ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻での「部分的動員」を発表した。これはプーチン氏が実質的に、ロシア人との暗黙の社会契約を破ったことを意味する。契約に基づきロシアの市民は、権力者らが利益をくすねたり争いを起こしたりするのを許す代わりに、自分たちの私生活には介入させない。
戦争が新たな段階に入りつつある中、追い詰められたプーチン氏は自分の背後にロシア人の相当な部分を引きずり込んでいる。同氏が事実上行ったのは国内に向けての宣戦布告であり、結果的に野党勢力や市民社会のみならず、ロシアの男性人口を敵に回したことになる。
なぜプーチン氏はそんな危険を冒すのか? それは本人自ら、世間の戦争に対する関心の欠如を数カ月にわたり促してきたからだ。国民の動員は深刻な不満を社会にもたらす。だからこそ総動員ではなく部分的動員を決断したわけだが、長い目で見れば自身の政権の足元に地雷を仕掛けたことに他ならない。短期的には、動員に対する妨害行為に直面するだろう。
もうずいぶんと長い間、プーチン氏は大衆の間で戦争を遠ざける姿勢を助長してきた。今やロシア人はそのつけを払い、兵士として使い捨てにされようとしている。
果たして21日の発表はどのような形でロシア人たちを安全地帯から連れ出し得るだろうか? 彼らはこれまで、現状の「特別軍事作戦」に対して関心がなかった。
少なくとも今に至るまで、この地で感じられる主要な感情(むしろその欠如というべきだが)は無関心に他ならなかった。それは様々な色合いを帯びて現れる。正真正銘の無関心もあれば、他人を模倣したものや自ら作り上げた無関心もある。
ロシア人のうち、「特別軍事作戦」を「どちらかと言えば」支持している30%(50%近くは「断固」支持、20%弱は不支持)は、自分の意見を持たない。もっぱらテレビやプーチン氏の言葉を借用し、悪いニュースや他の情報源を遮断する。それでも時には戦争自体を好ましく思わないこともあり、この30%に属する人はプーチン氏と同氏の構想に対する態度を変化させる可能性がある。
一般の人々の無関心は、プーチン氏を利する。そうした市民は政治家たちの問題に干渉しないし、彼らの構想を支持する。その代わり政治家に求めるのは、物事が正常な状態にあるとの印象を維持することだ。
プーチン氏はそれを実行している。戦争及び自分自身を支える部分的動員(それは侵攻開始後すぐに起きた)と動員解除とを巧みに組み合わせながら。娯楽番組は再びテレビで流れるようになり、年次のモスクワ市の祝日には花火が打ち上げられた(この日のジョークには、同市のソビャーニン市長がウクライナ軍の反攻開始を祝福したのだと皮肉るものもあった)。人々は普通の日常生活を送っており、ウクライナでの出来事に対する関心は今夏を通じて低いままだった。
しかしこうした無関心な人々でさえ、ウクライナの反撃は無視できなかった。ここでも真実を知ろうとしない態度は主流であり、もし当局者が退却ではなく軍の再編だと言えば、再編が真実となる。それでもクレムリン公認のトーク番組ですら、失敗を認める内容であふれる状況となった。
この状況が平和への願望を呼び起こすことはなかった。そうした願望は概ね作戦を支持する人々の気分の中にさえ表れていたが、ここで起きたのは攻撃性とヘイトスピーチの爆発だった。「なりふり構わず」、さっさとウクライナに思い知らせろという声が叫ばれた。プーチン氏はこれを受けて、発電所などインフラへのミサイル攻撃を行った。攻撃は報復心と怒りによるものだったが、後者から明らかになるのは弱さであって強さではない。
急進論者はプーチン氏に不満を抱き、戦争の徹底的な遂行と総動員とを求める。しかしクレムリンの独裁者には、迅速な勝利を可能にする資源、とりわけ人的資源が不足している(そうした理由から、現在は兵士の補充のため有罪判決を受けた受刑者まで採用している)。
ただプーチン氏にとって、中産階級の機嫌を損ねるのは得策ではない。彼らは自宅のソファからテレビで戦争を見られればいいのであって、自ら塹壕(ざんごう)に赴くつもりはない。それ以上に、総動員を掛ければ経済を回すのに必要な人的資本が戦争へと流れる。平たく言うと、働き手がろくにいない事態となってしまう。
急進派の側がプーチン氏に不満を募らせるのは今に始まった現象ではないものの、かつてそうした態度がここまではっきりと示されたことはなかった。ただ彼らがプーチン氏に太刀打ちできる可能性は皆無だ。超保守的な急進派も、親西側のリベラル派が受けるのと同様の圧力によって抑えつけられるだろう。件(くだん)の独裁者は戦争と帝国主義にかけて、いかなる敵の存在も受け入れない。
ロシア国内の世論は一向に盛り上がらず、何か並外れた事象がない限り本格的にムードに切り替わることはないだろう。同じ話は経済の問題にも当てはまる。今に至るまで、社会経済的な危機はそれほど見える形では表出していない。危機の本格的な始まりは先延ばしにされているが、一部のエコノミストが指摘するように、おそらく今年末から来年初めにかけて危機そのものが顕在化するだろう。
世論が惰性に流れる状態にある中、プーチン氏にとっては敗北を勝利だと言いくるめることが可能になる。損失を戦果と形容することで、同氏はすぐにも戦争を止められる。部分的にはそれを実行しており、ウクライナの4つの占領地域に関してはロシアへの編入を巡る住民投票を直ちに行うと発表。それによって、損失を固定化する判断を下した。
明らかにプーチン氏には自ら始めたことを止めるつもりがなく、ロシアが戦場で成功を収めるものと思い込んでいる。あるいは少なくとも、占領地域においてより強固な足掛かりを得られ、ロシア領だと宣言できると思っている。その場合、現地でのいかなる戦闘もロシアに対する攻撃とみなすようになる。そして「特別軍事作戦」を正式な戦争の状態へと移行させる機会を手にし、総動員の可能性に道が開ける。現時点でプーチン氏が発表しているのは、あくまでも制限付きの「部分的」動員だ。
だがこうしたことは全て裏目に出るかもしれない。すでに公式な場で主要な「友人」である中国の習近平(シーチンピン)国家主席やインドのモディ首相が懸念を表明している。そんな中、プーチン氏が戦争の終結を遅らせれば遅らせるほど、その分勝利と見なし得る形での後日の和平締結は難しくなるだろう。
なるほど、世論は内心長期戦を覚悟してはいるが、絶え間ない緊張がもたらす疲労感がいつ一線を越え、ムードを変えるかは誰にも分からない。そうした緊張状態は、入念に育んだ無関心によって和らげておく必要がある。プーチン氏によると自分には時間があり、ロシア軍は急いではいないという。
それでも時間が経つにつれ、敗北を勝利として示すのは一段と困難になるだろう。とりわけ例のためらいがちな層、「どちらかと言えば」同氏を支持する程度の30%に対しては。
●やはり「プーチンを裏切った」代償? 止まらないロシア富豪の「奇怪な死」 9/23
ソ連崩壊を決定付けた1991年のベロベーシ合意の立役者4人は、これで全員亡くなった──ゴルバチョフ元ソ連大統領が死去した2日後の9月1日、友人のロシア人ジャーナリストから、そんな冗談めかしたテキストメッセージを受け取った。
4人のうち、エリツィン元ロシア大統領以外の3人がロシアのウクライナ侵攻以降に死亡していると、彼は指摘した。友人は陰謀論嫌いで有名だ。だから、3人の死が何らかの意図に基づく可能性を問うことはせず、こう返信した。ウクライナでのロシアの残虐行為や失敗が明白になった時期に、3人が立て続けに亡くなったのは統計学的に不自然だ、と。
その日、ロシアのエネルギー業界の大物がさらにもう1人、謎の死を遂げていたことを、私はまだ知らなかった。
不審死した業界の重鎮はこれが6人目だ。今年4月には、天然ガス大手ノバテクのセルゲイ・プロトセーニャ元副会長がスペインの別荘で家族と共に遺体で見つかった。2月末には、原油・ガス事業で富を成したオリガルヒ(新興財閥)のミハイル・ワトフォードが、英南東部の自邸で首つり姿で発見。その3日前には、ガスプロム幹部がロシア国内で死亡している。
ロシアでの事件のうち、よく知られているのが、民間石油会社ルクオイルの役員アレクサンドル・スボティンとラビル・マガノフ会長の不審死だ。スボティンは5月、シャーマン(霊媒師)の儀式中に心不全で死亡したとされる。マガノフは9月1日、病院の窓から「飛び降り自殺」した。ルクオイルはウクライナ侵攻に対し、異例の反対を表明したロシア企業だ。
ウクライナ侵攻に抗議した人物の末路
ほかにも、エリツィン政権時代の民営化政策を率いたアナトリー・チュバイスがウクライナ侵攻に抗議して今年3月にロシア大統領特使を辞任して以来、トルコやイスラエルを転々とした末に、欧州で入院していることが先頃明らかになった。毒物を投与された可能性が指摘されている。
さらに9月12日には、ロシア極東・北極圏開発公社航空部門幹部のイワン・ペチョーリンがウラジオストク沖でボートから転落し、遺体で発見されたと発表された。
相次ぐ不審死は、エネルギー業界の人間が秘密作戦の金融面に関する情報をリークしている疑いがあるせいではないか、との見方が業界内では最も一般的だ。
一連の死は「標的殺害」なのか。あるロシア人評論家に意見を聞いたところ、ロシア政府とビジネス界トップの間の経緯を考えれば、単なる偶然ではないと誰もが思っていると、謎めいた答えが返ってきた。
エリツィンが96年大統領選で再選されたのは、オリガルヒの大規模介入のおかげだ。後継者のプーチン大統領は権力が肥大した彼らの懐柔に動き、2000年の大統領就任式の数カ月前に大物オリガルヒを招集。政府に忠実である限り、90年代の民営化で稼いだ利得に目をつぶると約束した。
ウクライナ侵攻の当日、プーチンはオリガルヒを再び招集し、今や政権への忠誠心の対価はさらに高くなっているとクギを刺した。異論は厳禁だとのシグナルだったことは明らかだ。つまり、一連の事件はオメルタ(沈黙の掟)に基づく裏切り行為への制裁だと、私たちは思っている──。
とはいえ業界内での「抗争」が原因である可能性も高いと、評論家は明言した。私は前出の友人にこの説を伝え、考えを聞いた。いつもなら自論にこだわる友人の答えは「分からない」。推測でいいから教えてくれとさらに頼むと、彼はこう返信した。「この国で起きていることはもう何も私には分からない。全然分からない」
●「戦場には行きたくない」ロシア国民大脱出=@9/23
ウクライナ侵攻をめぐり、ロシアのプーチン大統領が予備役など30万人規模の部分的動員令を出したことで、国外脱出の動きや大規模抗議デモが相次いでいる。クレムリン(大統領府)は流出阻止に苦慮するが、「前線に出れば榴弾(りゅうだん)砲の餌食」(軍事専門家)となるだけにパニックは収まらない。プーチン氏は深い墓穴を掘った。
部分的動員令を受けて、現地メディアは、アルメニアやトルコ、アゼルバイジャンのバクー、ウズベキスタンのタシケント行きの航空券が売り切れたと伝えた。ほとんどが往復ではなく片道とみられる。
露紙モスクワ・タイムズ(電子版)は、航空券が2倍から3倍以上に高騰、検索サイトのグーグルで「ロシアを脱出する方法」というタグの検索数が1日で2900%も増加したと報じた。
現地の航空券予約サイト「アビアセールス」の検索数も急増し、航空大手「アエロフロート」や「航空券」を意味するロシア語の検索ワードが一気にトレンド入りした。
露独立系メディア「メドゥーザ」のまとめでは、ロシアから渡航先に選べる国として、パスポートもビザもない場合はアルメニア、ベラルーシ、キルギス、カザフスタンの4カ国。パスポートはあるがビザがない場合(一部は電子ビザが必要)はトルコ、イスラエルやアラブ、東南アジア諸国など36カ国を挙げている。
ロシアからの大脱出について「『亡命』に近い動きだろう」とみるのは筑波大名誉教授の中村逸郎氏。「旧ソ連諸国はロシア語が通じ、知人や親戚がいる人も多いため選ばれやすい。ウクライナ侵攻に反対したカザフスタンに移動するとの声も聞かれる。富裕層はトルコやロンドン、ドバイなどへの出国も考えられる」という。
ロシアの政権中枢の混乱も伝わっている。モスクワ・タイムズによると、大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は22日、当局が国境閉鎖を計画しているか否かについて、「今すぐには回答できない」とした。元国防次官で、議会下院防衛委員会のアンドレイ・カルタポロフ委員長は、召集令状を受け取るまでは移動を制限することはないとしながらも、「どこにも出かけないように」と警告した。
ロイターによると、動員令では、戦車の操縦手や工兵、狙撃手など、過去に専門的な軍務に就いたことのある予備役を求めているというが、戦局は打開できるのか。
元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は「予備役を召集しても古い人材で、もはやロシア軍には訓練能力もなく、即効性は見込めない。現在、国境警備にあたっている要員を第一線に送り、予備役を穴埋めに配置することが考えられる」と解説する。
一方で、予備役が前線に送られる可能性もあると渡部氏はみる。「ロシアの攻撃はワンパターンなので、突撃する兵士が求められているようにみえる。前線に出れば、榴弾砲の餌食になるだけだとみる向きもある」
「総動員令」を避けて国内の反発を抑えるというプーチン氏の思惑は崩れた。中村氏は「今後はロシア難民が問題化するほか、西側への内部情報の流出も増えると想定される。(1989年の)ベルリンの壁崩壊当時を想起させる」と指摘した。

 

●ロシア動員令は「正規軍崩壊の証し」 ウクライナ、東部で要衝迫る 8/24
ウクライナのゼレンスキー大統領は22日夜(日本時間23日朝)のビデオ演説で、ロシアの部分動員令は「正規軍が耐えきれずに崩壊した」ことを認めたものだとして、攻勢の継続を明言した。
ウクライナ軍は東部でロシア軍の一部防衛線を突破し、要衝に迫っているもようだ。
ゼレンスキー氏は「ロシア指導部のいかなる決定も、ウクライナに何の変化ももたらさない」と強調した。米シンクタンクの戦争研究所は22日、ロシアは部分動員令で一部の予備役を招集するとの約束を破り、一般市民の強制的な動員にも動いていると指摘。戦力は大きく向上しない一方、国内で反発が強まっていると分析した。
戦争研究所はロシアからの情報に基づき、ウクライナ軍が東部ドネツク州リマンの北方約20キロや北西約22キロの地点でロシア軍の防衛線を突破したもようだと分析した。5月にロシア軍に制圧されたリマンは、6月に陥落した東部ルガンスク州の拠点都市セベロドネツクの西方に位置し、セベロドネツク奪還への重要な拠点となり得る。
また、英国防省によると、ウクライナ軍は北東部ハリコフ州では、撤退を続けるロシア軍が防衛線を敷こうと試みたオスキル川東岸で、複数の拠点を確保した。同省は「戦況は依然複雑だが、ウクライナ軍はロシア軍が重要と位置付ける領域に圧力をかけている」と説明した。 
●欧州はエネ高騰で戦時経済に 9/24
ロシアのウクライナ侵攻が誘発した、エネルギー価格の高騰とエネルギー供給不足への懸念が欧州経済を直撃している。欧州はグローバルな経済ショックの中心であえいでいる。こうした中で、欧州連合(EU)とEU加盟国政府は、一般家庭に助成金を支給するなど支援策を講じたり、巨額の偶発的利益を手にしたエネルギー企業から一定の利益を徴収するなど、事実上の”戦時経済体制”を取り始めている。
ガス価格は8倍に
欧州では化石燃料のうちロシアへの依存度がウクライナ戦争前に40%に達していた天然ガスの価格高騰が目立ち、同戦争が始まってから8倍となり、ロシアの国有独占国有ガス企業ガスプロムがバルト海経由でドイツに達する「ノルドストリーム1」パイプラインによるガス供給を9月初めに停止したことから今冬の暖房用需要期を控えて供給不安が強まっている。
エネルギー危機は欧州では産業競争力、市民の生活水準、社会的安定にとって数十年に一度の脅威となっている。こうした中で政策担当者らは今年の冬に深刻なエネルギー供給不足となれば工場閉鎖や計画停電,エネルギーの配給などを実施する計画を立てている。
エネルギー危機は既に欧州の経済成長の大幅減速につながっており、ドイツなど一部EU諸国では年末までにリセッション(景気後退)入りする懸念もささやかれている。
EU欧州委員会は平時にはエネルギー価格は市場原理に基づいて決められるべきとの立場を取っているが、ウクライナ戦争が続く現在のような戦時においては、一般消費者を保護するとともに、一部企業の巨額の偶発的利益の一部を吐き出させることによる「公平感」の醸成を目指すことによる事実上の戦時経済体制への移行が必要だと考えている。
欧州委はまた、ロシア産ガス価格の上限設定を検討したり、エネルギー使用量の削減を義務付けるなどエネルギー市場への介入も企てている。
1400億ユーロ徴収へ
ガス価格に連動して電気料金も急上昇。米紙ニューヨーク・タイムズによると、西欧諸国では最高値を更新し続けている。ドイツでは一日平均のメガワット時で600ユーロ、フランスでは700ユーロに達し、ピーク時では1500ユーロにまで跳ね上がった。
チェコの首都プラハでは9月に入り、高騰するエネルギー料金に抗議するデモに7万人が参加した。
こうした中で、英独仏とスウェーデンの政府は一般家庭と企業の負担を軽減するために数十億ドル規模の救済措置をそれぞれ発表した。ただ、これらの措置のコストは膨大で、国際通貨基金(IMF)はEUが財政支出/赤字の枠組みを見直すよう提案した。
欧州委のフォンデアライエン委員長は9月14日、仏東部ストラスブールの欧州議会で行った施政方針演説で、ロシアのウクライナ侵攻を背景とする電気料金の高騰で巨額の利益を得ているエネルギー関連企業から、総額1400億ユーロを徴収する方針を発表した。消費者への還元や企業支援に充当する。フォンデアライエン氏は発電コストが安い再生可能エネルギーなどの発電業者について「消費者の陰に隠れ、戦争で桁外れの利益を得ることは間違っている」と指摘、利益に一定の基準を設け、これを上回る分を徴収する考えを示した。石油やガスなど化石燃料を扱う企業にも利益の一部還元を求める。
エネルギーの”武器化
欧州各国は冬場のエネルギー不足に備えてガス備蓄の増強や代替エネルギー源の確保などに尽力しているが、ガスプロムによるノルドストリーム1パイプライン経由の天然ガス供給停止なロシアの締め付けは厳しい。
ニューヨーク・タイムズによれば、ロシアのプーチン大統領はガスの供給不足でウクライナへの欧州の支援は弱まるだろうとみている節があるという。
米国のブリンケン国務長官はロシアは欧州に対して「エネルギーを武器化」していると批判している。
ウクライナ戦争が長期化する中、欧州諸国がエネルギー危機を一致団結して乗り越えられるのかは戦争の帰趨にも影響を及ぼしそうだ。
●プーチンが“すべて暴露”した「地球環境問題」と「脱化石燃料」の真実 9/24
ロシアによるウクライナ侵攻で1989年来の束の間の平和が崩れて東西冷戦に逆戻りし、グローバル化のボーナスがことごとくオーナスに転じたばかりか、西欧消費国側が仕掛けた脱化石燃料のリープフロッグ謀略もパラドックスと化した感がある。
いまや温暖化など環境問題の解決に向けた脱化石ブームのウラで起きていた“不都合な真実”がすべてめくられた――。では、誰が何のために何をしていたのか。そんな世界中にはりめぐされた「複雑系の因果関係」をレポートするのが、流通ストラテジストの小島健輔氏だ。
インフレとカントリーリスクが世界を席巻
2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、1989年11月9日の東西ベルリンの壁崩壊に発する東西冷戦の終結という現代史における束の間の平和をいとも簡単に葬り去った。
プーチンが開いたパンドラの箱には、東西冷戦終結以来、溜まりに溜まった東西間・南北間・貧富間・先進消費国対後進資源国の格差と矛盾が詰め込まれていた。
33年間にわたって世界が享受して来たデフレと経済成長というグローバル化のボーナスが一瞬にして急激なインフレとカントリーリスクというオーナスに転じ、西欧消費国側が化石燃料供給国側(OPEC+ロシア)に対して仕掛けた脱化石燃料というリーフプロッグ謀略のプロパガンダも同時に崩れた。
ウクライナ戦争がロシアと西欧諸国(NATO)の代理戦争と化して総力消耗戦となり、化石燃料と火薬の大量消費で二酸化炭素が爆発的に発生している。
兵器とインフラの消耗で巨大な有効需要が生まれているのは、正しく戦争が即効的な有効需要政策であることを実証しており、西欧消費国側が仕掛けた化石燃料インフラの強制償却というリープフロッグ謀略の必要性にも疑問符が付いた。
西欧消費国側は償却するはずの化石燃料インフラに頼るか原発に頼るかの選択を迫られており(日本も同様)、脱化石燃料のリープフロッグ謀略はパラドックスと化した感がある。
   リープフロッグ(カエル跳び)現象
インフラ蓄積の薄い新興国は償却負担が軽く、技術革新による設備更新が加速度的に進むこと。固定電話網の普及以前に携帯電話が普及し、ATMの普及以前にスマホのネット決済が普及した中国の事例が引き合いに出されることが多い。
地球温暖化はリープフロッグのプロパガンダ…?
西欧消費国側が仕掛けた二酸化炭素を元凶とする地球温暖化説は、化石燃料文明の既存インフラを全面償却して、クリーンエネルギー文明を構築する巨額投資で停滞する西欧経済を活性化せんとする世紀のリープフロッグ大謀略だった。
産業革命以来のインフラ蓄積の厚い西欧消費国は途上国のようなリープフロッグ現象が期待できず、戦争に匹敵する大規模な既存インフラ償却という有効需要政策を必要としていた。
リーマンショックに対策して先進各国の中央銀行が大量供給した低金利資金も大半がBRICsに流れ、中国やインド、ブラジルやロシアの急激な経済成長をもたらして習近平やプーチンの権力獲得に貢献し、今や西側世界はその清算を強いられている。
「SDGs」の大合唱のウラで…
もとより地球温暖化説も二酸化炭素元凶説も科学的裏付けの怪しいプロパガンダであり、気候学者や地質学者など専門家の多くは疑念を呈している。
地球温暖化説は時間の物指し次第で逆(寒冷化)とも取れる未検証な説で、数十年というレンジでは温暖化に見えても数千年というレンジでは顕著に寒冷化しており、最終氷河期終了(1万1600年前)以来の最暖期だった8000年前に比べると平均気温は2度から3度、水面も4〜6メートル低下している。
二酸化炭素元凶説も産業革命以降の工業発展によるものではなく8000年前の焼畑農耕に発すると見る学者も多く、生態系が繁栄するにも一定レヴェルの二酸化炭素濃度は必要だ。
地球史を振り返れば現在の二酸化炭素濃度は低く、生態系を活性化させ自然の自浄力を高めるには現在より多少高い方が望ましいという見方もある。
科学的には怪しい二酸化炭素元凶地球温暖化説がSDGsの潮流に乗って西側世界の大合唱となっていったのは、行き詰まった西欧文明を既存インフラの強制償却によって再生せんとする政財界の利害が一致したからで、敢えて逆らうメリットは学者や化石燃料資本などに限られたからと思われる。
ICEV(内燃機関動力車)からEV(電気動力車)へ全面転換することが社会全体のエネルギー効率を高め環境を改善するか冷静に検証すれば極めて怪しいが、トヨタ自動車など現実を見た理性の声もポピュリズムの大合唱にかき消されつつあるのが現実だ。
欧米のポピュリズムがどれほどのものか、ディーゼル信仰から一転してのEV信仰は検証なきカルトと言っても良いだろう。
分断と対立には誰にもメリットが無い
現代史を振り返れば、第二次大戦の荒廃からの復興ボーナス(人口増とインフラ再建)が73年のオイルショックで終わって停滞期に入り、89年のベルリンの壁崩壊を契機とするグローバル化ボーナス(コストダウンと市場拡大)で新たな発展を享受したものの、08年のリーマンショックを契機に先進国経済が伸び悩む一方、BRICs諸国は爆発的に成長して力関係が激変した。
世界市場は拡大を継続したもののグローバル化はインフレ輸出というオーナスに転じ、コロナとウクライナ侵攻で分断と対立の東西冷戦に逆戻りし、劇的なインフレとカントリーリスクというオーナスが西欧諸国に繁栄の清算を強いている。
そんな中で化石燃料文明のインフラを強制償却してクリーンエネルギー文明を構築するというリープフロッグ大謀略は過ぎた重荷となり、専制国側に加えてOPECなど産油国側も対立関係に追いやるリスクとコストに耐えなくなった。
消耗する大国
ウクライナ侵攻のNATOによる代理戦争化、経済制裁と資源制裁の応酬でロシアもNATOも消耗しており、西欧側は化石燃料文明のインフラを強制償却する必要も余裕も失ったのではないか。
ロシアや中国など専制国VS.米国を軸とする西欧先進国という対立の構図はインフレとカントリーリスクが増大するだけで、化石燃料インフラを強制償却する余裕が無くなった以上はどちらにもメリットが無い。
一刻も早くウクライナに平和が戻って再び世界にデタントが訪れ、分断と対立の構図が解消されることを願うばかりだ。
●トヨタ ロシアの工場閉鎖へ 軍事侵攻長期化で生産継続困難 9/24
トヨタ自動車はロシアのサンクトペテルブルクでの生産活動を終了し、工場を閉鎖すると発表しました。ロシアのウクライナへの軍事侵攻が長期化し、現地での生産を続けることが難しくなったと判断したためで、日本の自動車メーカーがロシアの工場の閉鎖を決めるのは今回が初めてです。
トヨタ自動車はロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響で部品が調達できなくなりことし3月からサンクトペテルブルクにある工場の稼働を停止していました。その後、生産の再開に向けて設備のメンテナンスを行い従業員への給料の支払いも続けてきましたが、事態が長期化し生産再開の可能性が見込めないとして現地での生産活動を終了し工場を閉鎖することを決めました。今後、ロシアでの新車の販売は行わないということですが、車の保有者へのアフターサービスは続けるとしています。トヨタは2007年にサンクトペテルブルクの工場で生産を始め、SUV=多目的スポーツ車など年間8万台あまりを生産していました。工場で働くおよそ2000人の従業員に対しては今後、最大限の支援を行うとしています。
日本の自動車メーカーではこのほか日産自動車やマツダ、それに三菱自動車工業がロシアでの生産を停止していますが、工場の閉鎖を決めたのはトヨタが初めてです。
●「戦争に行くか、投獄か」 ロシア、逮捕のデモ参加者に選択強要 9/24
ロシアの予備役動員令に抗議するデモに参加したミハイル・スエチンさん(29)は、拘束されることは予測していたが、まさか自分が反対している軍への入隊を命じられるとは思いもしなかった。
ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が21日、国民に向けたテレビ演説で、第2次世界大戦(World War II)以来となる動員令を発表すると、国内では抗議が巻き起こった。
首都モスクワでこれまでにも反政権デモに参加してきたスエチンさんはAFPの電話取材に、「いつものように逮捕され、警察に連行され、出廷させられることは覚悟していた。ところが、『お前はあす戦争に行く』と言われ驚いた」と語った。
独立系人権団体「OVDインフォ(OVD-Info)」によると、21日に国内各地で行われたデモでは、1300人以上が逮捕された。モスクワの少なくとも15か所の警察署では、拘束された男性が徴兵用紙を手渡されたという。
大統領府のドミトリー・ペスコフ(Dmitry Peskov)報道官は翌朝の記者会見で、こうした手続きは「法律違反ではない」と擁護した。
動員令発表の前日には、招集令状を拒否した人や脱走兵への処罰を強化する法案がロシア議会を通過。まだ新法として成立はしていないが、違反者に5〜15年の懲役刑を科す内容となっている。
「戦争に行くか、10年間投獄か」
警察署に連行されたスエチンさんは一人で部屋に連れて行かれ、翌日に徴兵事務所に出頭することを求める令状に署名するよう圧力をかけられた。警察官は、「これに署名してあす戦争に行くか、10年間投獄されるかのどちらかだ」と脅したという。
スエチンさんは弁護士の助言に従い、署名を拒否。翌朝5時ごろに釈放された。だが警察は、重大事件を担当するロシア連邦捜査委員会に対し本件を通知するとし、スエチンさんは「非常にまずい」状況に置かれると警告した。
だが、招集に応じた人の未来がこれよりも明るいわけではない。
先週18歳になったばかりの大学生アンドレイさんは、モスクワでのデモで拘束された後、軍に招集された。
アンドレイさんはAFPに対し、警察署では署名を拒否する人々が警官から「脅迫」を受けていたと証言。「自分が逃げられないのは明らかだった」ことから、徴兵事務所への出頭を誓約する文書に署名してしまったと語った。
両親には伝えず
ロシアのセルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu)国防相は21日、学生は動員しないと約束しており、大学に入学したばかりのアンドレイさんは招集されないはずだった。「ロシアは無限の可能性を秘めた国だとはよく言ったものだ」とアンドレイさんは皮肉った。
22日の徴兵事務所への出頭には応じないことにしたが、今は弁護士を探しているところで、今後どうするかは分からないという。
両親には、心配をかけたくないとの理由でまだ打ち明けていない。「自分がどうなるのかがより見えてきたら、言うと思う」 
●ウクライナへの侵攻7か月 ロシアの支配地域で予備役の動員か  9/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから24日で7か月となりました。ロシアが支配する地域ではプーチン政権が一方的な併合をねらって、「住民投票」だとする組織的な活動が実施されているほか、ロシア国内で始まった予備役の部分的な動員まで行われているとされ、ウクライナのゼレンスキー大統領はいかなる手段を使ってでも動員から逃れるよう国民に呼びかけました。
ウクライナ軍が東部や南部で反転攻勢を続ける中、ドネツク州やルハンシク州、ザポリージャ州、それにヘルソン州などのロシアの支配地域では、プーチン政権の後ろ盾を得た親ロシア派の勢力による「住民投票」だとする組織的な活動が行われています。
ロシアによる一方的な併合をねらった動きとみられていて、G7=主要7か国の首脳は23日、「仮に併合と称することが起きたとしても決して認めない」とする声明を発表しました。
この動きと並行してロシアのプーチン大統領は21日、予備役を部分的に動員すると表明し、ロシアでは首都モスクワをはじめ、各地で市民が相次いで招集されています。
ロシア国防省は動員の規模を30万人だとしていますが、独立系のメディアは100万人の動員を可能とする条項が大統領令の中に非公開で含まれているとも伝えていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は23日、「年配者や学生、軍務経験のない市民など、戦闘経験を持つ男性を優先するという基準に満たない者まで動員している」と指摘しています。
ウクライナ軍は24日、「占領者はザポリージャ州やヘルソン州で、ロシアのパスポートを受け取った男性に動員の要請を始めた」とSNSに投稿し、ウクライナ国内にあるロシアの支配地域でも動員が行われていると指摘しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日に公開したビデオ演説で、「いかなる手段を使ってでも招集令状を逃れ、ウクライナの解放地域に行ってほしい」と述べ、動員から逃れるよう国民に呼びかけました。
ウクライナへの軍事侵攻が始まって24日で7か月となりますが、プーチン政権は欧米側の非難をよそに、一層、強硬な手段に出ていて、戦闘のさらなる長期化は避けられない見通しです。
“少数民族の動員活発化”人権団体が懸念
ロシアのプーチン大統領が予備役を部分的に動員すると表明したあと、ロシア国内では少数民族が多く暮らす地方でも動員の動きが活発化しているとして人権団体が懸念を示しました。
ロシア極東のブリヤート共和国の人権団体の代表は、1日で4000人から5000人が動員されたとしたうえで、「ブリヤートではプーチン大統領が言う部分的な動員ではなく全面的な動員が行われている」と述べ、貧しい少数民族に負担がのしかかっていると指摘しました。
またブリヤート共和国の人たちの中には動員から逃れるために、ビザがいらない隣国のモンゴルに出国する動きが出ているとしています。
「部分的な動員」「住民投票の実施」ロシアのねらいは
軍事侵攻の開始から7か月がたつ中、ロシアのプーチン政権が予備役の部分的な動員を始めたことについて、ロシアの外交・安全保障政策に詳しい笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員は「ロシア国民はウクライナでの戦争の現実を感じざるを得なくなった」として、今後、ロシア国内の世論に変化が生じるか注視する必要があると指摘しました。
畔蒜主任研究員は「『ウクライナでの戦争の現実』と『モスクワで続く日常生活』というパラレルワールドを維持することが、これまでロシア国民が戦争を支持する前提条件になっていた」としたうえで、「部分的な動員が始まったことで、ロシアの国民が戦争の現実を身近なものに感じざるを得なくなった」と述べて、今後、ロシア国内でプーチン大統領や戦争に対する支持が低下していく可能性があると指摘しました。
また23日からロシア側が始めた「住民投票」だとする活動については、「もともとは支配領域を拡大したうえで『住民投票』を行うはずが、ハルキウでの敗北を受けて急きょ、実施することになった。このまま何の手も打たずに戦争を続けると、すでに確保している占領地域をも徐々に失っていくという危機感がロシア側には相当ある」と述べました。
そのうえで、「プーチン政権は『部分的な動員』を行い、『住民投票の実施』を指示し、かつ、『核の使用を示唆』する形でウクライナの前進を止めるねらいがある」と指摘し、ロシア側はこの3点を組み合わせることで戦況を好転させたい思惑があるという見方を示しました。
このうちプーチン大統領が21日の演説で『核戦力の使用』を辞さない構えを示したことについて畔蒜氏は、「5月にアメリカとロシアが軍レベルで対話をして以降、プーチン大統領は核使用を示唆してこなかったが、今回、改めてそれを示唆した。この局面で米ロが再びコミュニケーションをとるのかどうか注目される」と述べました。
今後の展開については、ロシアがヨーロッパへのエネルギー供給を制限する動きも見せる中、「これから冬を迎えるドイツやフランスなどヨーロッパの国々が、どこまで団結してウクライナへの支援を続けられるのかも大きな注目点だ」と指摘しました。
●ウクライナ「住民投票」、ロシア兵が戸別訪問で編入の賛否を「集計」 9/24
ロシア軍が制圧するウクライナ東部や南部でロシア当局が、ロシア編入の是非を問う「住民投票」を開始している。現地のウクライナ人によると、武装したロシア兵が住民を戸別訪問して、編入への賛否を直接確認して回っているという。
南部エネルホダルに住む女性はBBCに対して、「やってきた兵士に口頭で、(ロシア編入に賛成か反対か)答えなくてはならない。兵士はその答えを記入した用紙を持ち帰る」のだと話した。
南部へルソンでは、街の中心部に投票箱を持ったロシア兵が立ち、住民の投票を集めているという。
ロシアの国営タス通信は、戸別訪問での票の回収は「安全のため」だとしている。「直接投票は9月27日のみで、それ以外は地域ごとに、戸別に行われる」という。
南部メリトポリの女性はBBCに対して、地元の「協力者」2人がロシア兵2人と共に自分の両親のアパートを訪れ、投票用紙を渡したと話した。その目の前で「父親は(ロシア編入に)『反対』と書き込んだ」のだという。
女性によるとさらに、「母親がそのそばにいて、『反対』と書いたらどうなるのか尋ねると、『何も』という返事が返ってきた」という。
「これからロシアに迫害されるのではないかと、母は心配している」と女性は話した。
女性によると、用意される投票用紙は1人1枚ではなく、世帯ごとだという。
ロシア当局がウクライナ東部や南部で「住民投票」を戸別訪問で実施しているという情報は、こうした個々の住民の話がもとになっているものの、ロシア兵が同行しているという話から、住民投票は自由で公平なものだというロシア政府の主張に疑問が生じている。
各地で5日間にわたり実施されるこの「住民投票」の結果、ロシアはウクライナ東部や南部の一部地域を「ロシアの一部」だと主張するだろうというのが、大方の見方だ。事実上の「併合」にあたるこの結果を、ほとんどの諸外国は承認しないものとみられるが、ロシアは対象地域への攻撃を自国への攻撃だと主張する根拠にすると予想されている。
   「住民投票」の内容は
・国際的に未承認の自称「ルハンスク人民共和国」と同「ドネツク人民共和国」では、連邦の一部としてロシアに帰属することを支持するかどうか、住民に質問している
・ザポリッジャ州とヘルソン州では、「ウクライナからの分離、独立国の樹立、後に連邦の一部としてロシアに帰属することを支持する」かどうか、住民に質問している
・ルハンスクとドネツクでは投票用紙の言語はロシア語のみ
・ザポリッジャ州とヘルソン州ではウクライナ語とロシア語が併用されている。
アメリカのジョー・バイデン大統領は23日、ロシアによるこうした住民投票を「やらせ」だと非難。「合衆国はウクライナの領土をウクライナの一部として以外、決して承認しない。ロシアの住民投票はやらせだ。国連憲章を含む国際法に甚だしく違反し、ウクライナの一部を武力で併合するための、にせの建前だ」と批判した。
イギリスのジェイムズ・クレヴァリー外相は、ロシア当局がすでに「このやらせの住民投票について、投票率も賛成率もあらかじめ決めてある」ことを示す証拠を、イギリスは得ているのだと話している。外相によると、ロシアはルハンスク、ドネツク、ヘルソン、ザポリッジャの4州の併合を、月末までに正式に決定し手続きを終えるつもりだという。
南部ヘルソンの住民はBBCに対して、ロシアの通信社が投票所の位置を説明しているほかは、ことさらに投票を呼びかける動きはないと話した。投票所は10年も使われていない港湾地区の建物だという。
ヘルソンに住む別の女性は、投票所だと思われる建物の外に「武装勢力」がいたと話す。自分は、投票させられないよう、パスポートを忘れたふりをしたと話した。
この女性は、自分も友人も家族も、知り合いは誰もがこの住民投票に反対していると話す。
「この住民投票の後、自分たちの暮らしがどうなるのかわからない。(ロシアが)何をどうしたいのか、とてもわかりにくい」と女性は話した。
ウクライナ政府は、住民投票の結果がどうなっても情勢は何も変わらず、ウクライナ軍はロシアに制圧された全ての領土を解放するため攻勢を続けるとしている。
動員避けるためロシア人男性の出国続く
他方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻をめぐり、少なくとも予備役30万人の「部分的な動員令」を発動したことを受け、ロシアの国境沿いには招集を回避するために出国しようとする人たちの行列ができている。
サンクトペテルブルクを離れてカザフスタンに逃れた若いロシア人男性は、BBCラジオに対して、自分の友人もほとんどが移動中だと話した。
「今のところ、完全崩壊みたいな感じだ。亡命を考えていない人間など、知り合いでは1人か2人しかいない」と、この男性は話した。
自分のようにロシアから出国した知り合いもいれば、小さな村に身を隠した知り合いもいるという。
「自分たちは今しきりにウクライナでの戦争について考えている。でも2月にはそれほど、この戦争について考えなかった。それがロシアの大問題だ」
●集団埋葬地から447遺体 ウクライナ搬出完了 戦争犯罪捜査へ 9/24
ウクライナ軍がロシア軍から奪還したウクライナ東部ハリコフ州イジュム近郊で見つかった集団埋葬地を巡り、同国検察当局は23日、遺体の搬出作業を完了した。子供5人を含む民間人425人と軍人22人の計447人の遺体が搬出された。首にロープをまかれるなど複数の遺体に拷問を受けた痕跡があり、ウクライナは露軍の戦争犯罪があったとみて捜査を進める。ウクライナメディアが伝えた。
ロシアの首都モスクワでは23日、ウクライナ国内の露占領地域で同日始まったロシアへの編入の賛否を問う「住民投票」を支持する集会が開かれた。集会は政権側が主催し、国営テレビが中継。警察当局は約5万人が参加したと主張した。米欧諸国が一方的な「住民投票」を非難する中、露政権は国民の高い支持をアピールする狙いとみられる。
●米、ロシアに核兵器投入を警告 非公式接触で過去数カ月間 9/24
複数の米政府当局者は24日までに、米国が過去数カ月間、非公式の接触手段を通じウクライナに侵攻したロシアに対し核兵器を使った場合、相応の結果を招くと警告してきたことを明らかにした。
この接触手段の詳細や警告した時期などは即座にわかっていない。ただ、米政府当局者は米国務省が関与していることは認めた。
バイデン米政権は、ウクライナ侵攻に備えた兵力集積や侵攻開始の時期に情報機関を通じて機微に触れるメッセージを伝えてきてもいた。
ロシアのプーチン大統領は今月21日の演説で、ウクライナにおける戦況の劣勢が目立ち始めたことを受け、核兵器使用も威嚇していた。
米政府当局者によると、プーチン氏が核兵器攻撃に触れたのは今年2月のウクライナ侵攻の開始以降、初めてではない。ただ、一部専門家は21日の威嚇は過去の類似の言動と比べ、より具体的かつ可能性の拡大をにじませたものと受け止めている。
米中央情報局(CIA)の最高幹部らは公にはロシアが核兵器の使用を準備している兆候はないと説明している。しかし、一部の軍事アナリストらはウクライナでの形勢の不利を踏まえ戦場での威力にとどめる戦術核を投入する事態を危惧してきた。
米情報機関当局者たちは、プーチン氏はロシアあるいは自らの支配体制の存在が危険な局面に陥ったと判断した場合のみ、核の選択肢に頼る可能性があるとみてきた。ウクライナ戦争での敗北への直面がこれに該当するのかどうかは不明となっている。
●「核テロ」か「亡命」か 窮鼠のプーチン大統領が狂乱状態に 9/24
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は18日のビデオ声明で、奪還した東部ハリコフ州に続き、東部ドンバス地域やクリミア半島でも、ロシア軍への反攻を続ける意思を明確にした。一方、敗走が伝えられるロシア軍は最近、ダムや送電線といったウクライナの民間インフラへのミサイル攻撃を増やしている。中国の習近平国家主席からも距離を置かれ、追い込まれたウラジーミル・プーチン大統領が「核テロ」に踏み切る重大危機と、「亡命」検討情報。中国が岸田文雄政権に仕掛ける日米分断工作とは。ジャーナリストの加賀孝英氏が最新情報に迫った。
「プーチン大統領が、キレて危険だ。ウクライナでの無差別虐殺や、NATO(北大西洋条約機構)と全面戦争となる核攻撃で、暴走する危険がある。ジョー・バイデン米大統領とNATOは警告を発した。その裏側で、中露両国は『岸田政権潰しの対日攻撃』に出ている」
外事警察関係者は、こう語った。
ご承知の通り、ウクライナ情勢が激変している。ウクライナ軍は今月上旬、ハリコフ州で反攻を強め、東部の要衝イジュムを奪還した。ロシア軍は総崩れで逃走し、戦況は一気に「ロシア敗北」濃厚となった。
こうしたなか、中国とロシアが主導して中央アジア・ウズベキスタンで開かれていた上海協力機構(SOC)首脳会議が16日、閉幕した。
外務省関係者は「世界がSOC首脳会議を注視していた。プーチン氏は戦況を逆転すべく、必死で全加盟国に『ロシアへの全面支持と支援表明。ウクライナを支援する米国とNATOへの対決姿勢の表明』を工作していた。しかし、すべて失敗した。盟友のはずの習氏も拒否した。見捨てられた格好だ。プーチン氏の権威失墜を、全世界が目撃した」と語った。
一体、何があったのか。情報をまとめると、こうだ。
1.習氏は14日、ウズベキスタンのサマルカンド国際空港に到着した。同国のシャフカト・ミルジヨエフ大統領らが出迎えた。プーチン氏は翌15日に到着し、格下のアブドゥラ・アリポフ首相が出迎えた。中国とロシアを明らかに区別して、プーチン氏に屈辱を味わわせた。
2.中露首脳会談が15日に行われた。プーチン氏は終始、習氏を褒めたが、習氏は不機嫌だった。「内心激怒していた」とされる。ウクライナ侵攻の長期化で、日本と米国、オーストラリア、NATO諸国が「台湾防衛」で結束した。習氏が企てる「台湾統一(侵攻)」を難しくさせた。すべてプーチン氏の無能のせいだからだ。
3.プーチン氏は、トルコやインド、アゼルバイジャン、キルギスタンの首脳と個別会談した。ところが、予定時刻に各国首脳が現れない。「反プーチン」の意志表明だった。一人待たされるプーチン氏の姿に、記者団から嘲笑がもれた―。
驚愕(きょうがく)情報がある。以下、日米情報当局から入手した情報だ。
「プーチン氏は狂乱状態だ。ウクライナのザポリージャ原子力発電所の破壊(核テロ)や、戦術核攻撃を『セルゲイ・ショイグ国防相や、ワレリー・ゲラシモフ参謀総長らに何度か命令した』という情報がある。プーチン氏は『勝利のためには、核攻撃しかない』と妄信している。一方で、クーデターや暗殺におびえ、『極秘裏に、シリアなどへの亡命を検討し始めた』という情報まである」
米上院外交委員会は14日、台湾への軍事支援を大幅に強化する「台湾政策法案」を賛成多数で可決した。欧州議会は15日、中国の軍事的挑発行為を非難し、台湾と欧州連合(EU)の関係強化の提言を盛り込んだ「台湾海峡情勢決議文」を採択した。
弱腰の岸田政権を狙った「中露北」日本無力化工作
日米情報当局の情報は、こう続く。
「習氏は焦っている。『台湾政策法案』は事実上、台湾を独立国と認める画期的なものだ。法案は今後、上下両院本会議で可決、バイデン大統領の署名で成立する。習氏には時間がなくなった。『台湾侵攻Xデー』が早まりかねない。中国は一方で、台湾防衛の要である日米同盟の分断工作を画策している。ターゲットは弱腰・二股外交の岸田政権だ」
「親ロシア派ハッカー集団が今月上旬、『日本に宣戦布告』し、政府系や民間企業のサイトが攻撃された。西側情報機関は『プーチン氏がバックについたハッカー集団の1つ』と認識している。中国とロシアは『日本無力化工作』で連携している。中国サイバー部隊(攻撃部隊約3万人)が参戦する。サイバー戦争だ。日本の国家機能崩壊の危機だ。中国とロシア、北朝鮮の『岸田政権潰し』の世論工作部隊も動いている。日本の一部勢力も連携している可能性がある。日本の危機だ」
岸田首相に申し上げたい。
中国とロシアと北朝鮮は、岸田政権を完全にナメている。理不尽な攻撃から逃げてはダメだ。日本の主権と民主主義を守るために、裏切り者を排除して、断固戦うべきだ。そうしなければ、日本は本当に終わってしまう。
●プーチン氏はウクライナ侵攻「あおられた」 元伊首相が擁護発言 9/24
イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ元首相(85)が22日、長年の盟友、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに侵攻したのは「取り巻きにあおられた」からだと発言した。国内で非難の声が上がり、23日に釈明に追われた。
ベルルスコーニ氏は22日、国営イタリア放送協会の番組で「プーチン氏は実に厄介でドラマチックな状況に追い込まれた」として、ウクライナ東部ドンバス地方の親ロシア派がモスクワを訪れ、ウクライナ軍から攻撃を受けたと主張して支援を求めたのだと話した。
「プーチン氏は、ロシア国民と自身の党(統一ロシア)、閣僚たちにあおられて特別軍事作戦を考え出した。(ウクライナの)キーウに入り、1週間以内に(ウォロディミル・)ゼレンスキー政権を適任者にすげ替え、次の1週間でロシアに戻るつもりだった」
この発言をめぐり、イタリア国内では抗議の声が上がり、中道左派「民主党」のエンリコ・レッタ書記長(党首)は「言語道断」だと非難した。
ベルルスコーニ氏は23日、誤解であり、他の人々が言っていたことを話しただけだと釈明。「ウクライナへの侵略は不当であり、容認できない」と述べ、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)への支持を表明した。
ベルルスコーニ氏が党首を務める中道右派政党「フォルツァ・イタリア」は、25日に実施される総選挙で、ジョルジャ・メローニ氏率いる極右政党「イタリアの同胞」主導の連立政権の一角として政権に復帰するとみられている。
ベルルスコーニ氏は主にオンラインで選挙運動を実施。家事労働の賃金を約束して中高年女性や主婦層の心をつかもうとしている。
また、短編動画投稿アプリ「ティックトック(TikTok)」で、みんなのガールフレンドは奪うつもりはないなどとジョークを飛ばして若者にもアピールしている。

 

●プーチン氏が命じた「動員」100万人規模か…対象外の大学生にも招集令状  9/25
ロシアのプーチン政権が、ウクライナ侵略の兵員を補充するため発令した部分的動員を巡り、強引な招集の実態が次々と明らかになっている。動員規模についても、セルゲイ・ショイグ国防相が21日に言及した30万人にとどまらず、100万人規模との報道が相次ぎ、国民の不満は高まるばかりだ。露独立系人権団体によると、モスクワなどで24日、再び抗議デモが行われ、少なくとも554人が治安当局に拘束された。
シベリアのメディアによると、ブリヤート共和国にある人口約5500人の村では、プーチン大統領が部分的動員を発令したテレビ演説から数時間後の21日夜、対象者宅の訪問を担当者が始め、翌日午前4時に集合するよう指示した。午前10時には男性約700人が、訓練施設に向け出発した。
極東沿海地方は約7700人の招集を24日までに終える予定だ。地方政府の迅速な対応が際立つが、粗さも目立つ。ブリヤートでは、動員対象外のはずの大学生にも招集令状が渡された。南部ボルゴグラード州では、63歳で糖尿病などの持病も抱える退役軍人が、身体検査を受けずに招集された。
動員規模の不透明感が社会の動揺に拍車をかけている面がある。露大統領府が21日に公表した部分的動員令では、規模を記載した第7項を「機密扱い」として開示していない。ショイグ氏が言及した30万人という数字も国営テレビでの発言だけだ。
動員が11月まで3段階に分けて実施されるとの情報もあり、ロシア語の独立系ニュースサイト「ノーバヤ・ガゼータ欧州」は22日、大統領府関係者の証言として、第7項は「最終的に100万人になった」と報じた。露大統領報道官は否定したが、独立系ニュースサイト「メドゥーザ」も23日、動員規模は「120万人」と報じた。
プーチン政権は、ウクライナ侵略を職業軍人や「志願兵」だけが派遣される「特殊軍事作戦」と称し、国民に関心を向けさせないよう腐心してきた。反戦運動も厳しい情報統制と弾圧で抑え込んでいた。
だが、身近な家族や同僚が強制的に戦場に送られることになれば、 厭戦えんせん ムードが高まり、高止まりしてきたプーチン氏や軍事作戦への支持率にも影響を与えるのは必至だ。プーチン氏は、国内の安定維持という難題も自ら抱え込んだ形だ。
●ウクライナ軍事侵攻中のロシア 予備役動員へ国内で抗議相次ぐ  9/25
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン政権は予備役の動員に踏み切り、各地で連日、市民を招集していますが、これに抗議する動きが相次いでいます。プーチン政権は多くの参加者を拘束し力で押さえ込んでいますが、国民の間では不満が広がっているものとみられます。
ウクライナで今月に入ってウクライナ軍が東部や南部で反転攻勢を続ける中、ロシアのプーチン大統領は21日、予備役を部分的に動員すると表明し、各地で市民が軍に招集されています。
ロシアの独立系のメディアは、優先的な招集の対象ではない高齢者や学生も動員され、国防省が示した30万人という規模を大幅に上回る100万人が動員される可能性があると伝えています。
またシベリアのケメロボ州にある村では、住民の男性すべてが動員されたとも伝えています。
こうした中、24日、動員に抗議する活動が首都モスクワや第2の都市サンクトペテルブルク、それに極東シベリアの都市などロシア各地で行われました。
抗議活動の参加者は治安部隊によって次々と拘束され、ロシアの人権団体は、日本時間の25日午前3時すぎの時点で、少なくとも32の都市で740人余りが拘束されたとしています。
拘束された参加者に招集令状が渡されることもあると伝えられていて、その合法性について記者に問われたロシア大統領府のペスコフ報道官は「何の違法性もない」と行為を正当化しています。
プーチン政権は市民の抗議活動を力で押さえ込みながら、あくまでウクライナ侵攻を続ける構えですが、国民の間では不満が広がっているものとみられます。
一方、ウクライナではロシアの支配地域で親ロシア派の勢力が「住民投票」だとする組織的な活動を強行していて、プーチン政権による一方的な併合をねらった動きだとして、ウクライナや欧米各国が強く非難しています。
「住民投票」についてロシア国営のタス通信は24日、議会関係者の話として、今月27日の投票終了後、ロシアの議会での決議を経て、30日にも併合の手続きが行われる可能性があると伝えています。
●ロシア、世論引き締めに躍起 プーチン政権、反戦に「愛国」で対抗 9/25
ロシアのプーチン政権は、最大100万人規模とも言われる予備役の部分動員令で動揺が広がる中、世論の引き締めに必死だ。
24日も全土で抗議デモがあり、国民の間で厭戦(えんせん)ムードが高まれば、ウクライナ侵攻で戦況を好転させるどころか、逆に足をすくわれかねない。再燃した反戦デモには「愛国デモ」で対抗し、あくまで主戦論をあおっている。
「仲間を見捨てない」。プーチン大統領の政治運動体「全ロシア人民戦線」は23日、こう銘打った官製デモをモスクワ中心部で開催した。ウクライナ東・南部4州でロシア編入に向けた「住民投票」が始まったのに合わせ、国民の「支持」を演出。プーチン氏は姿を見せなかったが「5万人」(警察発表)を動員した。
国内では大統領令が出された21日から、地方を中心に早くも動員が活発化。対象の「経験豊富な予備役」(ショイグ国防相)の男性らが、集団でバスに乗り込む映像などがインターネットに投稿された。軍参謀本部は「初日だけで約1万人が自主的に招集に応じた」と発表し、徴兵忌避の声をかき消すのに躍起だ。
「動員計画を254%上回って達成している」。南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長は22日、既にウクライナにチェチェン兵2万人を投入してきたと地元メディアで主張。ロシア軍の劣勢を覆すため、地方単位の「自主動員」が持論だったこともあり、プーチン氏への忠誠心を数字でアピールした。
だが、国民の間では一方的な負担の押し付けへの不満がくすぶっている。ペスコフ大統領報道官の息子ニコライ氏が21日、独立系放送局「ドシチ」の生放送で、おとり取材の電話で「翌朝10時に出頭するように」と通告された際、招集に応じない考えを明らかにすると、父子ともども厳しい批判を浴びた。
反発を恐れる政権与党「統一ロシア」幹部は23日、通信アプリに「所属する下院議員4人から、特別軍事作戦(侵攻)に派遣してほしいと申し出があった」と投稿した。もっとも、政治家を動員できるかどうかは「国防省が判断する」とも付け加えており、国民向けのポーズにとどまる可能性も排除できない。
●「住民投票」強行のウクライナ4州、ロシアが30日にも一部併合手続きへ… 9/25
タス通信は24日、ロシア議会の関係者の話として、ウクライナの東部と南部の親ロシア派勢力が一方的に「住民投票」を実施している4州の一部について、30日にもロシアへの併合手続きが行われる見通しだと伝えた。
ウクライナの東部ドネツク州とルハンスク州、南部のヘルソン州とザポリージャ州では23〜27日の日程で、露軍の支援を受ける親露派が支配地域のロシアへの併合を目指して「住民投票」を強行している。
ロシアのプーチン政権は「住民投票」の結果を支持するとの立場を表明しているが、ウクライナ政府などは「偽りの投票」と批判し、住民への圧力といった露側に都合のよい不正が行われると訴えている。
●プーチン大統領 兵役拒否・脱走者に厳罰を科す刑法改正案承認  9/25
ロシアのプーチン大統領は24日、動員や戒厳令の期間中、あるいは戦時中に、兵役を拒否したり脱走したりした者に厳罰を科すことを規定した、刑法などの改正案を承認しました。
兵役の拒否や脱走のほか命令に従わなかったり上官に抵抗したりした場合、最大で15年の禁錮刑を科すとしています。
今回の改正で法律に「戦時中」などに加えて「動員の期間中」という文言が新たに盛り込まれたほか、職業軍人だけでなく招集された予備役も重い刑事責任を負うとしています。
ウクライナでロシア軍は深刻な兵員不足に陥っているとされるほか、戦闘への参加を拒否した兵士が部隊を離れるなど士気の低下も伝えられ、プーチン政権としては、罰則を厳しくすることで軍の引き締めを図るとともに、今月21日に踏み切った予備役の動員を確実に進めるねらいもあるものとみられます。
●ロシア議会、29日に併合法案審議 プーチン氏が30日演説も 9/25
ロシアの通信各社は24日、ウクライナ東・南部の親ロシア派勢力が実効支配する4地域でロシアへの編入の賛否を問う住民投票が23日に始まったことを受け、ロシア議会下院が29日に当該地域の併合法案を審議する可能性があると報じた。プーチン大統領が30日に議会で演説する準備しているとの情報もある。
住民投票が実施されているのはウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州、南部のへルソン州とザポロジエ州の一部地域。投票は27日までの予定。
国営タス通信によると、併合法案を住民投票終了から2日後の29日にも討議する可能性があると下院関係者が述べた。
インタファクス通信は、関係筋情報として、上院が同日中に法案を審議する可能性があると伝えた。RIAノーボスチ通信によると、プーチン大統領が30日に両院臨時合同議会で正式な演説を行う準備をしている可能性があるという。
ルガンスク州の当局者によると、投票2日目終了時点で投票率は45.9%。ザポロジエ州は35.5%とロシアメディアが伝えた。 
●「ロシアを核攻撃するよう国際社会は宣言すべき」 ゼレンスキー“最側近” 9/25
“部分的”と前置きをしながらもついに動員に踏み切ったプーチン大統領。さらに核使用についても、あえて“脅しではない”と念を押した。新たな局面に突入したウクライナ戦争。ゼレンスキー大統領最側近に単独インタビュー、専門家とともにその影響と今後を読み解いた。
「今回の動員は・・・脅威にはならない」
プーチン氏が“部分的動員”の大統領令に署名した。これにより30万人の予備役が招集され、おそらくはウクライナでの軍事行動に参加することになる。人員不足が伝えられるウクライナ前線のロシア軍にとって、この動員はどれくらいの効果があるのか、番組ではウクライナ側に話を聞いた。ゼレンスキー大統領の最側近の一人、ポドリャク大統領顧問だ。
ポドリャク大統領顧問「始まった当初、ロシアは能力の高い部隊が多かったが、今はほとんど残っていない。今回動員されるホワイトカラーの人たちは十分な訓練を受ける時間もなければ適切な装備もないので脅威にはならない。(中略)それに国家に対する忠誠心が問題になる。彼らは30万人と決めているわけではなく、できるだけだけ動員したいので、50万人、100万人になる可能性もある。皮肉ですが、ロシアの唯一の才能は数で勝負することです」
確かに、頭数ではロシアにはまだまだ兵士になりうる人間はいる。だが、突然戦場に連れていかれ、忠誠心もなければ満足な装備もない。さらに大きな問題を小谷哲男教授は指摘する。
明海大学 小谷哲男教授「戦闘に入る前には十分な訓練が必要で、そのためのシステムが必要です。訓練にはそのための将校が必要です。彼らの下で招集された人は色々教えてもらう。でも、その将校が全然足りていない。(中略)頭数にはなるでしょうが、大した戦力にはならないかと・・・」
今回の動員は、戦場では大きく影響しないというが、戦場ではなくロシア国内で、大きく影響している。
「これは津波や地震のようなもの。ロシアの動員もまた自然災害なのです」
そもそも予備役とは、徴兵による兵役経験者の中で、自ら登録し定期的に軍事訓練を受けているものとされ、ロシア国内に約200万人いる。が、ショイグ国防相によれば、ロシアには軍務経験者、戦闘経験者、軍事専門性を持つ者が2500万人近くいて、部分的動員は“総動員”の1.1%に過ぎないとしている。動員数の小ささを強調することで国内の動揺を抑えようとした発言だ。
しかし、国内の動揺は動員発表直後から国民の行動に表れていた。ビザなしにロシア国外に飛べるトルコ行きなどの航空機はすでに満席。セルビアの空港でロシア人女性の話を聞いた。
ロシア人女性「私があなたと話している映像を政府や警察も見ることができるので、私自身の安全が脅かされるのではないかと怖いです。でも言いたいです。“ウクライナに自由を”と。そして“だれかプーチンを止めて”と」
航空便の他にも、陸路で国外に脱出できる道路は、モンゴルへの道もジョージアへの道も大渋滞だ。また、モスクワなど38都市で動員反対のデモが行われ、すでに1400人以上が拘束されている。さらに、拘束された若者には、徴兵事務所に出頭する旨を伝える軍の召集令状いわゆる“赤紙”が渡されるという。もちろん召集を拒めば罰則がある。
こういった事態に、戦場に我が子を送り出す母親の代表は何を思うのだろうか、話を聞いた。
ロシア兵士『母の会』メリニコワ会長「警察官が招集の年齢に当たる45歳までの男性を道端で呼び止め、令状を渡していました。(中略)母親たちは皆さん心配しています。動員がウクライナの戦闘行為のためであることは明らかです。自分の息子や近しい人を送り出したい人はいません。多くの方から電話で質問がありました。動員されないためにはどうすればいいのか・・・。(中略)ロシア兵士『母の会』が政治問題に対して回答することは危険です。私たちはいかなる政治的な色も出しません。大統領が動員令を決めたのです。どんな意見が有り得るでしょう。これは、台風や津波や地震のようなもの。ロシアの動員もまた自然災害なのです」
母の悲痛な叫びも、プーチン氏やロシア上層部には届かない。仮に届いたとして辞めるはずもない。それどころか、動員発令前日には、兵役に関する刑法の修正案が議会で可決している。
そこには「戦時・戒厳令・動員」の概念が新たに記され、徴兵忌避、軍事作戦への参加拒否などについて最長10年の刑罰など厳罰化が盛り込まれた。
「即時にロシア国内の核兵器施設を共同で核攻撃する」
動員令を発する際の演説で、プーチン氏はこうも語った。
「我が国の領土の一体性が脅かされた場合、ロシアとわが国民を保護するため我々は無条件に持っている手段のすべてを使用する。これは単なる脅しではない」
この発言から、ロシアの核使用のハードルが下がったと小谷教授は読む。
明海大学 小谷哲男教授「これまでも同じような発言はあったが、これまでは“ロシアの存続が脅かされた場合”と言っていたところを、今回は“領土の一体性が脅かされた場合”とハードルを下げていると読み解ける。そこはアメリカも注目している。(中略)ただ今のところ、核兵器を使う動きをアメリカは確認していない・・・」
核弾頭をミサイルの近くに配備するなどの動きは、アメリカは把握できるという。やはり今回も脅しなのか・・・。しかし、“領土”という言葉に懸念を抱くのは兵頭慎治氏だ。
防衛研究所 兵頭慎治政策研究部長「脅しだと思うが、かなりマックスな状態の脅しだと思う。それに領土と言っているが、住民投票を行う4州が併合された場合、ここもロシアが言うところの我が国の領土になってしまうのか、そうなると・・・」
そうなると、かなり問題は複雑化する。では、このプーチンの“核の脅威”をウクライナはどうとらえているのか、大統領側近は番組のインタビューに確固たる意見を訴えた。
ポドリャク大統領顧問「ロシアが核抑止ドクトリンに基づき、戦術的ないし戦略的な核使用を利用しようとした場合、即時にロシア国内の核兵器施設を共同で核攻撃するということを国際社会が明確に宣言するべきです。これはウクライナではなくグローバルな社会の判断です」
いまアメリカのバイデン大統領はロシアに対し核攻撃をした場合の懸念をあらゆるチャンネルを使って伝えているという。果たして国際社会、そしてプーチン大統領はポドリャク大統領顧問の発言にどう反応するのだろうか。
●プーチン氏、国防次官を解任 補給失敗が理由か 9/25
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は24日、ドミトリー・ブルガコフ国防次官(67)を解任した。国防省が発表した。ブルガコフ次官は、ウクライナ侵攻におけるロシア軍の物資補給を担当していた。補給の混乱がウクライナ南部などでのロシア軍の苦戦の原因とされているだけに、その責任を問われた可能性がある。
国防省は通信アプリ「テレグラム」で、ブルガコフ次官は新しい職務に就くことになったと説明。後任には、ウクライナ南東部マリウポリへの激しい攻勢を指揮したミハイル・ミジンツェフ上級大将が就くという。
ブルガコフ次官は2008年以来、ロシア軍の補給作戦を取りまとめてきた。ロシア軍が2015年にシリアに配備された際にも、その補給を取り仕切った。
しかし複数の消息筋は、ブルガコフ次官がここ数カ月、政府内部で隅に追いやられていたと指摘。ウクライナでのロシア軍の前進を妨げ、自軍が供給不足のまま放置されるという、補給作戦の混乱をめぐり、次官の責任を問いただす声が相次いでいたという。
ロシア政府はこのところ、数少ない同盟国の北朝鮮やイランに新たな大砲やドローンの供給を求めざるを得なくなっている。
新たに招集されたロシア人新兵がさびたアサルトライフルを装備している動画がソーシャルメディア上に出回る中、ブルガコフ次官の解任が発表された。
ロシアの戦争推進派はブルガコフ次官の解任を歓迎した。後任のミジンツェフ将軍は強硬派に受け入れられるものと予想される。ミジンツェフ氏はマリウポリでの包囲作戦を指揮したことを理由に、イギリスの制裁対象となっている。
多くのウクライナ人から「マリウポリの虐殺者」と呼ばれるミジンツェフ氏は、シリア内戦でもロシア軍を率いて、アレッポの街を壊滅させた残虐な爆撃作戦を指揮したとされる。
英外務省は3月にミジンツェフ将軍への制裁を発表した際、将軍がウクライナとシリアでの両方の紛争で「おぞましい戦術」用いて「残虐行為」を行ったと非難した。
プーチン氏はウクライナでの戦争で直接指揮を執り、ウクライナ国内にいる将官たちに自ら命令を下し始めたと報じられている。
米当局者は米CNNに対し、ロシア政府の「指揮系統の機能不全」が深刻化し、プーチン氏は戦争で従来より積極的な役割を負わざるを得なくなっていると語った。
イギリスの国防当局者は先月、プーチン氏がセルゲイ・ショイグ国防相を疎外していると示唆した。国防当局の高官がショイグ氏の「無能で現場知らずのリーダーシップ」を嘲笑し始めたためという。
こうした中、米紙ニューヨーク・タイムズは、ロシア側の現地指揮官による南部ヘルソンからの撤退要請を拒否したと報じた。ヘルソンではウクライナ軍が徐々に前進している。
同紙は米情報筋の話として、プーチン氏が撤退の検討を拒否したため、ヘルソンにいるロシア部隊の士気が低下したと伝えた。同部隊はロシアの補給線からほぼ切り離された状態にあり、頼みの綱として浮き橋の再設置を必要としている。
●マツダ ロシアの工場の生産終了する方向 現地企業と協議入る  9/25
自動車メーカーのマツダは、ロシアにある工場での生産を終了する方向で、合弁相手の現地企業と協議に入りました。ロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響が長期化し、稼働を再開できる見通しが立たないためで、日本の自動車業界への影響が一段と広がりそうです。
マツダは、2012年にロシアの自動車メーカー「ソラーズ社」と極東のウラジオストクに合弁工場を設立して、日本から輸出した部品でSUV=多目的スポーツ車などを現地向けに組み立てていました。
去年はおよそ2万9000台を生産しましたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、部品を調達できなくなり、ことし4月には工場の稼働を停止しています。
その後も軍事侵攻が長期化し、稼働を再開できる見通しが立たないことから、マツダは、この工場での生産を終了する方向でソラーズ社などと協議に入りました。
マツダは、「現状では生産は困難と考えており、中止する方向でソラーズ社、および関係各所と協議中です」とコメントしています。
ロシアで事業を展開してきた日本の自動車メーカーでは、トヨタ自動車がサンクトペテルブルクにある工場の閉鎖を発表していて、影響が一段と広がりそうです。
●プーチンの動員令は「ロシア崩壊の序章」 ウクライナ侵攻は「自殺行為」  9/25
ロシアの著名な反政権派記者で、元下院議員のイーゴリ・ヤコベンコさん(71)が23日、本紙のオンライン取材に、プーチン大統領が命じた予備役の動員令について「ロシア連邦崩壊の序章になる」と答えた。ロシア国民は「自らが肉弾として消費されると自覚した」と語るなど痛烈な現状分析を紹介する。ヤコベンコさんは現在、国外に滞在している。
警察もFSBも動員 死にたくないから政権支持せず
今回の動員令は、ロシアが戦争状態になったことを意味する。プーチンはウクライナ侵攻で宣戦布告をせず、ロシア国民はこれまで侵攻をテレビのサッカー観戦のような気分で見ていた。動員令は、戦時体制への移行を告げたことになる。
ロシア人は動員を嫌って逃げ回っている。軍事専門家によると、ウクライナ軍の反転攻勢を防ぐか遅らせるには「肉弾」となる兵士ら70万〜100万人の動員が必要とされる。こんなに兵士が集まるとは思えない。
動員によって現体制の継続は難しくなる。プーチンの権力の源泉である警察官や情報機関の連邦保安局(FSB)職員も動員命令を受けている。彼らも死にたくはないので、政権を支持しなくなる。ロシアは帝政期、ソ連期を含めて皇帝や最高指導者が突然、権力を失って劇的な体制転換が起きることが多々あった。
核使用発言は「こけおどし」
ウクライナ軍は9月に入り、東部ハリコフの奪還作戦で大成功を収めた。プーチンは上海協力機構(SCO)首脳会議で、他国の首脳に待たされるという屈辱も味わった。敗北に伴う権威の低下は明らかだ。一部のロシア退役軍人らが声明を出したように、全世界と戦争をするのは不可能だ。
ウクライナ侵攻はロシアにとって自殺行為であり、連邦政府を弱体化させる。ロシア革命、ソ連崩壊に次ぐ第三の「帝国崩壊」を引き起こす可能性がある。(多民族・多宗教の)ロシアでは体制の遠心力が強く作用し、ソ連崩壊時にチェチェンやタタールなどの民族自治共和国がロシアからの分離独立を望んだのは周知の事実だ。いまのロシアの統一は軍事力によって保たれているに過ぎない。
動員令が出るまで反戦デモが沈静化していたのは、家族や友人に死の危険が迫るまで、ウクライナ人の死は「他人ごと」だったからだ。プーチンは「核の威嚇」を繰り返すが、実際に核兵器を使えば、自分が真っ先に欧米からの反撃で殺されると分かっている。核使用に関わる彼の発言は「こけおどし」といえる。
●米、インドにロシア離れを説得 兵器とエネルギー調達で 9/25
米国務省高官は25日までに、インド政府に対し兵器やエネルギー源の輸入でロシア離れを説得していることを明らかにした。
これまでの接触をへてインド政府当局者はロシア頼みからの離反が国益に実際寄与すると理解し始めているとの感触を得ているとした。
同高官は、インドは最初に兵器、その後はエネルギー源の確保について40年余にわたってロシアに傾斜してきたと指摘。その依存度は極めて非常に大きかったともした。
その上で「米国は兵器獲得などの多様化について手助け出来る選択肢でインド側と掘り下げた意見交換をしてきた」と説明。兵器供給面ではロシアは信頼し得る相手ではないとも述べた。
エネルギー問題については、米国はロシア産石油の市場での流通は望むものの、ウクライナ侵攻を支える資金源を封じるため市場価格での上限設定に同調するよう各国に求めてきたと主張した。
米国務省高官の今回の発言は、インドのモディ首相が今月16日、ロシアのプーチン大統領と対面会談し、「今は戦争の時代ではない」との苦言を直接伝えたともされる展開を受けたものともなっている。
インド、ロシア両首脳の会談は、ウズベキスタン・サマルカンドで開かれた上海協力機構(SCO)の首脳会議に合わせて実施された。モディ、プーチン両氏の首脳会談は今年になって初めてだった。
国務省高官はインド側の対応の変化などに触れ、ウクライナ北東部イジュームで発覚した虐殺疑惑はロシアの行動をこれまで黙認してきた諸国に再考を促したことを示唆。集団墓地で頭部を撃ち抜かれた女性や子どもら約500人の遺体が見つかる世界が震撼(しんかん)した惨事を受け、ロシアと密接な関係は持ちたくないと思うだろうとした。
●「プーチン氏の発表をよく読むことだ」ロシア外相、国連会見で正当化 9/25
ロシアのラブロフ外相は24日、米ニューヨークの国連本部で記者会見し、プーチン政権が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ侵攻について、約100人の報道陣を前に1時間、正当化を続けた。
ラブロフ氏は会見で、ロシア語だけでなく時々英語での回答を交えて応答。侵攻について「あなた方は侵略や併合と呼ぶけれど、私の答えはシンプルだ。現地の人に話を聞きなさい。ニューヨークやオフィスで判断せず、クリミア(半島)などに行きなさい」などと主張した。
侵攻が終わる方法について問われると、「プーチン大統領が2月24日に発表したことをもっと頻繁に、気をつけながら読むといい。そこに全部書いてある。読めばわかる」などと諭そうとした。

 

●「プーチン氏の恫喝に耳貸すな」 英首相が西側結束訴え 9/26
トラス英首相は25日放送されたCNNテレビのインタビューで「われわれはロシアのプーチン大統領による恫喝に耳を貸す必要などなく、対ロシア制裁とウクライナへの支援を続けていかなければならない」と語り、西側諸国の結束を改めて呼びかけた。
プーチン氏は先週、予備役の部分動員を可能にする命令を出すとともに、ことさらに核戦争の脅威をあおる姿勢を打ち出した。これについてトラス氏は、プーチン氏は戦争で勝利できず、戦略的な失敗をしたからこそウクライナ侵攻をエスカレートさせていると指摘。「プーチン氏は自由世界の反撃力の強さを想定していなかったのだと思う」と述べた。
またトラス氏は米英両国に関して「特別な関係」は引き続き存在すると信じていると強調した上で「ロシアからの脅威や中国の威圧的な態度の高まりに直面している今、その重要性は増すばかりになっている。われわれがこの特別な関係をこれからもっと特別にしていけるようにする決意だ」と付け加えた。
英国は中国が台湾に軍事侵攻した場合に台湾を守るのか聞かれると「われわれは同盟諸国と協力し、台湾が自らを守れるよう万全を期すつもりだ」と答えた。
●プーチンの部分動員令が国内のパニックを引き起こしただけで「効果なし」 9/26
ウクライナへの侵攻を開始してから約7カ月。ロシアのプーチン大統領は9月21日(現地時間)、軍の部分動員令に署名したと明らかにした。
ただ、この動きがロシア軍の増強にはつながらないだろうと専門家は話している。
動員には時間がかかるし、訓練やインフラも足りない。
ロシアのプーチン大統領は9月21日、軍の部分動員令に署名したと明らかにした。ウクライナ侵攻で、明らかに不足しているマンパワーを増強するためだ。ただ、専門家によると、プーチン大統領の"決断"がすぐに戦局を変えることはないという。
2月にウクライナ侵攻を開始したものの、すでに7カ月かかっていること、最近ではウクライナ側の勝利が続いていることから、プーチン大統領は戦争をエスカレートさせた。
ロシアの専門家や西側諸国は、プーチン大統領の21日の演説 ── 核の脅しを含む ── はロシアのウクライナ侵攻がうまくいっておらず、プーチン大統領もそれを分かっていることの表れとの見解で一致している。
約30万人の予備役が招集される見込みだが、専門家によると、これだけの規模を動員するには数カ月かかるという。なお、ウクライナ側はロシアによる侵攻が始まった直後に総動員令を発令している。
「これが実際の戦場に大きなインパクトを与えることは非常に想像しがたい」とデューク大学サンフォード公共政策大学院の助教で、旧ソ連と米ソ関係に詳しい歴史学者のサイモン・マイルズ氏はInsiderに語った。
ロシアの部分動員にとって大きなハードルの1つは、軍事インフラの枯渇だ。
「予備役を召集するのも1つの方法だ。ただ、その戦闘力を高めるには少なくとも数週間はかかる、何らかの訓練過程を経なければならない」とマイルズ氏は話している。
●ウクライナ軍に撃墜され炎に包まれたロシア軍戦闘機…パイロットの運命や 9/26
ロシア軍のSU30戦闘機がウクライナのハルキウで携帯用対空ミサイルとみられるミサイルに撃墜され、その様子を撮影した動画がウクライナ軍のSNS(交流サイト)で公開された。ウクライナ戦争でロシア軍戦闘機やヘリコプターが撃墜される映像や写真はこれまで何度か公開されてきたが、今回は戦闘機が撃墜され、直後にパイロットが脱出する様子も比較的鮮明に映っていることから注目を集めている。
ウクライナ軍のSNS動画を見ると、ハルキウで低空飛行をしていたロシア軍のSU30戦闘機が米国製のスティンガーミサイルとみられる携帯用対空ミサイルで撃墜され、炎に包まれた状態で墜落した。映像には戦闘機が撃墜された直後に二つのパラシュート(映像の中の赤い円)が開く様子も撮影されている。二人のパイロットが射出座席によって脱出に成功したとみられる。
この映像を見ると、戦闘機は低空飛行中に撃墜されたにもかかわらず、射出座席とパラシュートが正常に作動したことが分かる。これについてネットでは「性能の高さに驚いた」などのコメントが相次いでいる。国際航空ショーなどで墜落事故が発生した際、ロシア軍戦闘機の射出座席は超低空からでも正常に作動するため国際的に高く評価されてきた。
SU30は地上攻撃能力を持つロシア軍の代表的な戦闘機で、ロシア版「ストライク・イーグル(F15戦闘爆撃機)」とも呼ばれている。全長21.9メートル、全幅14.7メートルで最高速度はマッハ2(音速の2倍)だ。航続距離は3000キロで最大8トンのさまざまな爆弾やミサイルを搭載できる。シリア内戦など実戦でも数多く使用されている。
ウクライナ戦争でスティンガーなど携帯用対空ミサイルが活躍していることについて韓国の専門家は「韓国にとっても対岸の火事ではない」と指摘する。ウクライナ戦争が始まった直後はウクライナ軍がスティンガーとみられる対空ミサイルを使い、「サタンの馬車」として知られる攻撃ヘリMi24「ハインド」を一発で撃墜する映像が話題になった。
北朝鮮も、圧倒的に優勢な韓国軍と米軍の空軍力はもちろんAH64「アパッチ」など韓米軍の攻撃ヘリに対抗するために、SA16などさまざまな携帯用対空ミサイルを保有している。北朝鮮軍は戦車や装甲車など機甲部隊の車両上部にも携帯用対空ミサイルを装着している。
携帯用対空ミサイルについては「フレア」と呼ばれる一種の閃光(せんこう)弾が対抗手段として数多く使用されているが、ミサイルの進化により限界も指摘されている。携帯用対空ミサイルをレーザー光線で無力化する「指向性赤外線対抗装置(DIRCM)」も新たな対策として注目されているが、1台当たり数十億ウォン(数億円)と非常に高価なことが課題だ。
韓国メーカーもDIRCM開発に成功したが、現状では巨大なサイズと性能上の限界など克服すべき課題も残っている。そのため大統領専用機や特殊作戦機など特別に必要なときはDIRCMを使用し、ヘリや戦闘機、輸送機などに本格的に搭載する際には改良された国産品を搭載するツートラック方式も代案として検討されている。
●予備役男性、出国禁止へ ウクライナ侵攻で退避相次ぐ ロシア 9/26
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン政権が、予備役の男性を28日にも出国禁止にする方針であることが分かった。
独立系メディア「メドゥーザ」が25日、大統領府関係者2人の話として伝えた。ロシア軍の人的損害を補おうと、予備役を招集する部分動員令が21日に出て以降、空路・陸路での国外退避が相次いでいた。
政権は予備役の出国禁止をルール化することで、混乱の収拾を図り、安定的に招集を進めたい考え。しかし、動員に抗議する大規模デモが起きるなど社会不安が広がっており、抑圧的な措置で国民は不満を募らせることになりそうだ。 
●インドと中国、国連演説でウクライナ侵攻に懸念表明 ロシアは両国に秋波 9/26
ロシア、中国、インドの外相が24日、ニューヨークの国連総会で演説した。ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、インドは途上国を牽引(けんいん)する立場から食料危機やインフレなどの影響に懸念を示し、ロシアへの不快感を表明。中国も戦闘長期化に懸念をにじませた。一方、露外相は、台湾情勢で中国、国連安全保障理事会の改革でインドを支持する立場を強調し、秋波を送った。国連外交筋は「中印のロシア離れを防ぐ狙いがあるのだろう」と話している。
インド「戦争と紛争の時代ではない」
インドのジャイシャンカル外相は演説で「生活費の上昇や、燃料や食料、肥料の不足は、ウクライナ紛争の結果だ」と指摘し、「南の途上国が最も打撃を受ける」と危惧を示した。ロシアの侵攻をめぐるインドの立場について従来どおり直接の対露批判を控える一方、「今は戦争と紛争の時代ではない。開発と協力の時代だ」と強く訴えた。
ジャイシャンカル氏はまた、「インドは25年以内に先進国になる」との目標を語り、日本やドイツ、ブラジルとともに常任理事国入りに名乗りを上げる安保理改革でも本格的な交渉を始めるべきだと訴えた。
中国「危機解決の努力支持」
中国の王毅外相兼国務委員も、貧困の撲滅と開発を「国際的課題の中心に据えるべきだ」と述べ、途上国への中国の支援実績をアピール。食料やエネルギー価格の高騰など地球規模で余波が広がる「ウクライナ危機の解決に向けた建設的な努力を支持する」と訴えた。
王氏は、台湾情勢について「中国が完全に統一されて初めて、台湾海峡に真の平和が訪れる。外部の干渉に対抗するために、最も強力な措置を取る」と述べた。中国が侵攻すれば台湾を防衛するとしたバイデン米大統領の発言などを念頭に米国を牽制(けんせい)した。
露はインドとブラジルの常任理事国入り支持
王氏の後に登壇したラブロフ露外相はウクライナを支援する米国を非難する中で「米国は台湾で火遊びをしている。何よりも軍事支援を約束している」と中国に加勢した。
ラブロフ氏は、インドが唱える安保理改革についても、「インドとブラジルは特に常任理事国にふさわしい」と語った。
ラブロフ氏は演説後の会見で「日本とドイツは西側諸国で、(途上国などからの代表を増やす)ロシアの改革意図にはそぐわない」と述べた。発言には日独とインド、ブラジルを分断する狙いもありそうだ。
●冬の世界エネルギー危機は決定的――劣勢ロシア瀬戸際のシナリオ 9/26
ハリコフ東方での「歴史的敗走」がもたらしたもの
9月の前半に、ハリコフ東方でウクライナ軍が攻勢に出て、短期間に失地を回復、ロシア軍は大きく後退した。ロシア側はこれを「後退」と表現しているが、プーチン政権に大きな衝撃を与えたのは間違いない。
そのことを表しているのが9月21日にプーチン大統領が行ったテレビ演説である。そこでは3つのことが打ち出された。部分的動員。占領地域の住民投票への支持の表明、すなわちこの地域のロシアへの編入。そして、核の使用を改めて示唆。住民投票への支持と核の使用の示唆は表裏一体の関係にある。住民投票を経てロシアに編入されるとなると、あの地域は「ロシア領」になる。ロシア領への攻撃は核の使用の対象になり得るということだ。
これはかなり強気の措置、発言のように見える。だが、実を言うと特に動員は部分的であれ手を付けたくない措置であり、追い込まれた結果、リスクを取らざる得なくなったというのが現実である。プーチン政権にとっては、これは戦争のシナリオを再び大きく修正せざるをえなかった結果なのである。今後の戦略の最も重要な部分は、実は、この演説で打ち出された3つの要素以外のところにあるといってよい。
強気の措置を打ち出したからといって、ロシアにとって状況が好転するわけではないだろう。30万人とも言われる動員を行ったとしても、前線に投入されるまでの訓練期間は僅か2週間と言われており、それでは即戦力としては期待出来ない。核の脅しも、これがウクライナの軍事攻勢と西側援助の牽制を狙ったものだが、核が現実に使用される可能性があるのか不透明である。
ロシアに出来ることは、これ以上の戦況の悪化を避けつつ膠着に持ち込み、何とか冬の到来を待ち、天然ガスを中心とした西側へのエネルギーの供給を絞り、危機的な状況を作り出し、西側諸国がウクライナ支援「疲れ」を起こすのを待つことしかないだろう。
つまりエネルギー危機による脅しで、軍事的敗北を回避する戦略しか選択できないところにまで追い込まれたのである。このことは、世界にとって深刻な事態を引き起こす。かつて、ナポレオン、ヒトラーを退けたロシアの「冬将軍」は、今度は特に西欧諸国を襲おうとしているのである。
プーチンへの本当の圧力
今回のロシア軍がハリコフ東方で喫した歴史的な敗北を受けて、ロシア国内でも、モスクワやサンクトペテルブルグの議会などで、プーチンが始めた戦争に反対する声が上がった。しかし、一方で、それ以上に、プーチンの戦争を賛成している人たちの間から、現在の戦争のやり方に対する批判の声が大きくなっていた。
プーチンは、今回の「特別軍事行動」を本格的な動員を行うことなしにやろうとした。当初は電撃戦でキエフを占領しゼレンスキー政権を倒すことを企図し、それに失敗した後は、東部と南部を占領し、エネルギーなどの西側への供給、つまり世界経済を人質にとり、欧米諸国のウクライナに対する支持を分断するという、ある種、時間を味方に付けて欧米がウクライナの支援疲れをするのを待つということを基本的な戦略とした。
ところがハリコフでの敗北をうけて、ロシア国内でそのような戦争のやり方に対する批判の声が上がったことで、当初考えていた戦争のやり方を大きく修正せざるを得なくなった。これが今回の演説の一番のポイントである。
ロシア国内の戦争に対する世論は、1.積極的支持、2.基本的に自分の生活とは直接関係ないという前提で消極的に支持、3.積極的反対、の3つの層がある。このうち1と2をとりまとめて、プーチン政権へのウクライナ戦争についての支持ということで、戦争推進の国内的な大義名分を得ている。1と2の支持を維持することがプーチン政権には最重要で、そちらの方に対して反応せざるを得なかった。
特に1の中の強硬派からは、「今回の戦争のやり方をもっと変えるべきだ。このままでは負けてしまう」という声が、共産党のジュガーノフ党首や、チェチェン共和国のカディロフ首長といった人たちから上がるようになっている。
しかも実際負けている。強硬派からしてみたら、今回打ち出したのは全面的な動員ではないので、これでも不満ではあるが、この部分的動員でどこまで状況が改善するのか、様子見という状態だ。
もちろん、動員に反対する声、そして徴兵忌避の混乱は一気に広がっているが、まだこれでも、反プーチン政権の勢力となるようなレベルではなく、強権的に抑え込んでいくであろう。
動員を避けたかった理由
以前から総動員の可能性が指摘されていたが、今回、部分的動員に止まった。プーチンの基本的なシナリオは国内的なハレーションを最小限に抑えつつ、この戦争に勝利するというものだ。その点からすると、本来、部分的であっても動員をやりたくなかった。
一方、戦場においてはロシア側がかなり追い詰められている。これを反転させなければならないという問題と、国内的なハレーションをなるべく回避するという問題のバランスをとった結果がこの部分動員という形だ。
プーチンからすると軍事的な要因だけでこの戦争は継続できないのである。この戦争を継続し勝利しなければならないが、継続のためにいろいろやった結果、プーチン政権の基盤が崩れてしまい、体制が維持できなくなったら、戦争は勝利とはいえない。これがプーチンが直面しているジレンマである。
部分動員をかければ、対象となる人からすると、当然、徴兵を嫌い出国したり戦争に反対するといった動きは出てくる。ただそれがどこまで体制の揺らぎに繋がるかは、これからの問題で、今、何か大きな反対勢力の形成に向かっている、と言うことではない。今、国内で起きている動きが、すぐプーチン政権の崩壊に繋がるような状況になるとは想定できない。逆いうと、そうしないレベルで今回の決定がなされた。
ただこれまではウクライナの戦争とロシア国内を分離して、パラレルワールドとして遂行するのが、プーチンの基本戦略だったが、このパラレルワールドが繋がってしまった。このことの中長期的な意味は小さくない。
だからすぐ挽回、というわけにはいかない
核の恫喝の効果についてはやってみないとわからない。だから、当面は今回の部分的動員によってどこまで劣勢を回復できるのかがポイントになってくる。
しかし、30万人の予備役というのは、名目上、特殊な軍事技術を持っている人、実戦経験がある人、ということになっているが、ほとんど訓練されていない人員と思われる。わずか2週間の訓練で実戦に投入されると言われており、どこまでの軍事的な効果を上げるのか、まだ予想がつかない。
問題は、その結果、もし後退を余儀なくされるという状況になった場合に、ロシアはどういう対応をするのか。ロシアはすでに行っている民間インフラへの攻撃を拡大するなど、戦争のやり方の強度を上げていくことは間違いない。その延長線上で核の使用があり得るのか否か。
核の脅しについては、西側はもちろん批判的である。ただアメリカは核の使用についてはプーチンがどこまで本気なのか注意深く見ている。実際の対応はそれを見極めてからである。
実際のところ、プーチンが期待しているのはアメリカを含めた西側に対する影響である。今回の措置の直接的な意図は、西側のウクライナへの支援のレベルを下げる、もしくはこれ以上向上させないということにつきる。
落としどころはまだわからない
一方、バイデン政権は、基本的にはどこかで和平の方に持って行きたいとは思っているはずである。しかし、その際の線引きをどうするのか。戦線がどこかで膠着状態になったところでその線での停戦なのか、2月24日の侵攻開始以降の占領地からのロシア軍の撤退なのか、2014年のクリミアとドンバス侵攻以前の状態に戻すのか、その答えをアメリカはまだもっていないと思う。
5月にバイデン大統領がニューヨーク・タイムズに寄稿したオプエドにあるように、アメリカは「ウクライナの領土の一体性」には言及していない。つまり、ウクライナの国土回復については何のコミットもしていないのである。もちろんアメリカが決めるべき性質のことではない。
自分がグリップしている武器の供与のレベルや量のコントロールを通じて、落とし所を探るということが、アメリカが出来る唯一の方法だと思う。
アメリカにしてみると、ウクライナを説得することが停戦、和平に向けて一番難しい点となるだろう。ウクライナにはウクライナの事情がある。ゼレンスキーにしても全権を持っているわけではない。まして、これだけ勝利してしまったので、ウクライナ側の期待値も相当高まっているでしょうし。
この冬にかけての、動員を受けての次の戦いがどういう結果を生むのかが今後を占う上での一つの焦点になる。
必ずやってくる「冬将軍」
今回、部分的な動員をかけたその先に、プーチンが描く出口シナリオが、あるとすれば、それはやはりナポレオン、ヒトラーを苦しめた冬将軍を、今度はヨーロッパにむけて襲わせることだ。つまり、天然ガスの供給を意図的に止め、冬の需要期にエネルギー危機を引き起こすことだ。ロシア側がこれを仕掛けるのは間違いない。
その結果、特にヨーロッパ側でウクライナ支援疲れが起きることを期待しているのだと思う。ヨーロッパがこの冬を超えて、エネルギー危機をどこまで耐え忍ぶことが出来るかが、実は最大の焦点であることは、開戦当初から変わってはいない。むしろ、その深刻度は増している。
2026年までは構造的に世界は天然ガス不足なのである。脱炭素の浸透で、開発が行われず新規の産出がないのである。その上で今回の事態。どこかでエネルギー危機により西側諸国がウクライナに停戦を働きかけるという可能性は、ゼロではない。こればかりは何が起こるかわからない。ウクライナは西側の支援がなければ戦争できない。少なくともプーチンはそこにかけている。
しかし、西側がエネルギー危機で音を上げるまで、一定の水準で戦況を持ちこたえなければ話にならない。そして今のままではそれ自体が危うい。それ故、動員に踏み切らざるを得なかった。もしこれでも持ちこたえられなかったら、総動員、核使用といったエスカレーションがあるのかも知れない。
プーチンとすれば、国内を不安定化させる可能性のある動員という政策に踏み切りながら、行ってみれば自らの政治的資源を食い潰しながら、悪化する戦況を支え、ヨーロッパへの冬将軍という神風が吹くことを待つしか手がないのである。
そのくらい9月のハリコフの敗退の衝撃は大きかったといえる。
●米政府高官 ウクライナ情勢めぐりロシアの核兵器使用をけん制  9/26
ウクライナ情勢をめぐり、ロシアのプーチン大統領が核戦力の使用も辞さない構えを示していることについて、アメリカ政府高官は、欧米の動きの抑止にはつながらず、核兵器を使用すれば「ロシアは破滅的な結果を招くことになる」と述べて強くけん制しました。
バイデン政権で安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は25日に放送されたアメリカ、ABCテレビの番組で、ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事支援を行う欧米側を批判し、核戦力の使用も辞さない構えを示していることについて、「われわれの行動を抑止することにはならない」と強調しました。
そして「ロシアで非常に高い地位にある人間と直接、かつ非公式に連絡をとり、核兵器をウクライナで使えばロシアは破滅的な結果を招くことになると伝えた。アメリカは、同盟国や友好国とともに断固とした対応をとる」と述べて、強くけん制しました。
一方で司会者から「ロシアと直接、戦火を交えるのか」と問われると、サリバン氏は直接の言及を避け「われわれはあらゆる不測の事態に備えている」と述べるにとどめました。
また、予備役の動員に踏み切ったプーチン政権に対し、ロシア国内で抗議活動が相次いでいることについてサリバン氏は「プーチンの行いに対する強い不満の表れだ」と述べるとともに「予備役の動員や支配地域でのいかさまの住民投票は、力と自信のなさの表れだ。ロシアとプーチンがもがき苦しんでいる兆候がある」と指摘しました。
●マツダもトヨタに追随、ロシア事業から撤退へ 9/26
ロシアがウクライナに軍事侵攻してから7か月。ロシア国内では国民の部分動員令に反対するデモも激しくなるなど混乱が続く。こうした中、ロシア事業から撤退する日本の自動車大手が相次いでいるという。
先週末、トヨタ自動車がロシア事業からの撤退を決めたほか、マツダも現地生産から撤退する方針を固めたと、9月25日付けの日経朝刊やきょうの読売などが報じている。それによると、ロシアのウクライナ侵攻でサプライチェーン(調達網)の混乱が長期化し、金融制裁も事業継続を難しくしていることが背景とみられる。トヨタはすでに販売した車の保守サービスを除き、生産・販売事業をやめると発表。マツダもロシアでの生産終了で提携する現地企業と協議に入ったなどと取り上げている。
マツダは、2012年からロシア東部のウラジオストクで、ロシアの自動車大手「ソラーズ」との合弁工場を稼働させて、スポーツ用多目的車(SUV)『CX-5』などを現地向けに生産していたが、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、操業を中止。再開の見通しが立たないため、関係機関と撤退に向けた実務的な協議を進めているという。読売によると「この工場は、日露両国の経済協力の目玉事業の一つで、撤退には慎重論もあった。ロシアへの非難が高まる中、企業イメージへの影響などを考慮したとみられる」とも伝えている。
トヨタやマツダ以外にも日本車メーカーでは、日産自動車がサンクトペテルブルクの完成車工場の稼働停止を12月末まで延長することを決めているほか、三菱自動車もカルーガ州に欧州ステランティスとの合弁工場で現地生産を行っていたが、目下稼働を休止中。トヨタ、マツダ同様にロシア事業からの撤退を視野に入れての判断が迫られている。
●ロシア抗議デモ 2000人以上拘束か 国外“脱出”で空港に長蛇の列も 9/26
ロシアのプーチン大統領が発表した動員令に対する抗議デモが、ロシア各地で続いている。モスクワ郊外の空港は、招集を逃れたい市民であふれかえっている。
動員令に反対する抗議デモは、24日もロシアの各地で行われた。治安当局は、これまでにデモに参加した市民2,000人以上を拘束したとみられている。
事態を沈静化するため、プーチン大統領は24日、学生への招集を延期する大統領令に署名したが、モスクワ郊外の空港では前と変わらず、国外に脱出しようとする人たちで長蛇の列ができている。
一方、ロシアの中西部の街では、家族が別れを惜しむ中、招集に応じ、戦線に向かう人たちがバスに乗り込んでいた。 
●ロシアの予備役動員 抗議活動相次ぐ “効果大きくない”見方も  9/26
ウクライナに侵攻するロシアのプーチン政権は予備役の動員に踏み切りましたが、ロシア国内では抗議活動が相次ぎ、国民の不満が広がっています。一方、イギリス国防省は動員された兵士がロシア軍基地に到着し始めたとしていますが、経験や訓練が不足し、動員がもたらす効果は大きくないという見方が出ています。
ロシアのプーチン大統領が今月21日、予備役から部分的に動員すると表明して以降、ロシア各地では連日、抗議活動が続いています。
ロシアの人権団体は、21日から25日までの間に少なくとも2300人以上が政権側に拘束されたとしています。また、イルクーツク州の州知事は26日、州内のウスチ・イリムスクにある徴兵事務所で若い男が発砲し、事務所の責任者が重体になっていると明らかにしました。
独立系のネットメディア「メドゥーザ」は、動員が始まって以降、25日までにロシア国内の少なくとも10か所の徴兵事務所で放火事件が相次いでいると伝え、国民の不満が広がっています。
一方、イギリス国防省は26日、動員によって招集されたロシア軍の兵士の第1陣が軍の基地に到着し始めたとしています。ただ、こうした兵士は何年も軍事経験がなく訓練も不足していて、最低限の準備だけで前線に派遣されるとみられることから、戦地で犠牲になる可能性が高いと分析しています。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は25日、今回の動員に関する分析を発表し、「動員に対するロシア国内の抗議は、プーチン大統領のたび重なる失敗を反映しているものだ。プーチン大統領は、この侵略を戦争ではなく『特別軍事作戦』と言い続け、動員されることを国民に覚悟させるような条件を整えてこなかった」としています。
そして、ロシア軍にとって動員がもたらす効果は少なくともことしは大きくなく、来年も劇的な変化はもたらさない可能性があると指摘したうえで、「プーチン大統領は、大規模な戦争を遂行する能力の限界に直面する可能性が高い」と分析しています。
大統領府報道官の息子“招集拒否したかのような動画”で物議
今回の動員に関連して、ロシア大統領府のペスコフ報道官の息子が、ロシア軍からの動員の招集を拒否したように受け止められる動画が公開され、物議を醸しています。
公開したのはロシアの反体制派のグループで、動画はペスコフ報道官の息子、ニコライ・ペスコフ氏に対し、予備役を招集する担当者を装い偽の電話をかけた際のやり取りだとしています。
この中では偽の担当者が「あなたに招集状が送られた。徴兵事務所に来るようにという紙を受け取ったはずだ」と伝えたのに対し、ニコライ氏が「もちろん、あすは行かない。私がペスコフであることを知っているなら、それがいかに間違っているか、理解する必要がある。この問題は別のレベルで解決する」などと答えるやり取りが伝えられています。
動画は今月21日に公開されたあと、340万回以上、再生され関心を集めていることがうかがえます。
これについて、ペスコフ報道官は動画の音声が息子の声だと認めたうえで「このグループは、すべての会話のやり取りを公開していない。私は息子のことを信じている」と反論しています。
ロシア⇒トルコ便は軒並み売り切れ
今月21日以降、ロシアからトルコへ向かう便は軒並み売り切れていてプーチン大統領が予備役の部分的な動員を発表したことが影響したのではないかとみられています。
トルコ航空の予約サイトでは、日本時間の26日午後5時の時点で、1日5便あるモスクワ発イスタンブール行きの直行便のチケットが、来月5日の分まですべて売り切れていました。
6日は、エコノミークラスの片道の航空券が日本円で19万5000円余りとなっています。
同じ日に運航し、飛行時間がモスクワ便の3倍以上ある羽田とイスタンブールを結ぶ便と比べても4万円近く高く、価格が高騰しているようすがうかがえます。
また、トルコ南部のリゾート地のアンタルヤにはトルコ航空だけでモスクワからの直行便が1日14便運航していますが、こちらも来月2日まで満席となっています。
トルコは欧米各国がロシアからの航空便の受け入れを停止する中、往来が続く国の一つで、ロシア人は短期滞在の際にビザは必要ありません。
ロシア隣国のフィンランドにもロシアから多くの人が
このうちロシア第2の都市サンクトペテルブルクから車でおよそ3時間のところにあるフィンランド東部の町ヴァーリマーの検問所では入国しようという人たちを乗せた乗用車やバスが数百メートルの列を作っていました。
若い男性の姿も多く、ロイター通信の取材に応じた26歳のロシア人男性は「プーチン大統領の発表の直後に荷物をまとめて出国することを決めた。EU加盟国などへの短期訪問ビザを持っているので、フィンランド経由でトルコに飛行機で向かう便を予約した」と話していました。
ロイター通信によりますと、この週末にフィンランドに陸路で入国したロシア人は1万7000人近くに上り、前の週末に比べておよそ80%増えました。
こうした状況について、フィンランド政府は「フィンランドの国際的な立場に深刻な悪影響を及ぼしている」として、ロシア人の観光目的などの入国を近く、大幅に制限する方針です。
●プーチン動員令、国内パニックだけじゃない深刻な影響 9/26
2月24日のウクライナ侵攻から約7カ月がたった9月21日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、戦闘継続のために予備役の部分的動員令に署名したことを発表した。
3日でケリがつくはずだった戦争が長引き、最近は一部地域でロシア勢の後退が伝えられるなかでのことだ。
プーチンは、かねてから総動員を求めてきた国防部門の圧力と、そんなことをすれば政情不安に陥るリスクの間で身動きが取れなくなっている。
欧米諸国の政府高官らは、ロシアがこれ以上この戦争に人員を投入しようとすれば、国内で激しい反発が生じるはずだと予想していた。
実際、30万規模とされる部分的動員令が発表されて以来、首都モスクワやサンクトペテルブルクを中心にロシア各地で大規模な抗議デモが起きている。
これまでウクライナに送り込まれた兵士たちは、貧困家庭や地方の出身者が多かった。ロシアには徴兵制があるが、裕福な家庭の子弟は免除されていることが多い。
従って動員対象を軍務経験者に限定すれば、都会のエリート家庭の子弟を動員せずに済み、大きな批判は避けられると、当局は踏んだらしい。
だが、部分的動員令が発表されるや否や、外国行きの飛行機の片道航空券が飛ぶように売れ、隣接するフィンランドやジョージア(グルジア)、モンゴルなどを陸路で目指す車が国境に列を成した。招集該当年齢の男性は出国を禁止されるのではという不安が、パニックに拍車を掛けた。
ロシアはウクライナ侵攻当初、こうした動員はないと明言していた。
それを覆す決定なだけに、プーチンが今後、この戦争は「ウクライナ東部のドンバス地方に限定された特別軍事作戦だ」と言い続けるのは難しくなりそうだ。
部分的動員令を発表した国民向け演説で、プーチンはもう1つの発表をした。
ロシアが実効支配するウクライナ東部のドネツクとルハンスク(ルガンスク)、そして南部のヘルソンとザポリッジャ(ザポリージャ)の4地域で予定されている、ロシアへの編入を問う住民投票の実施を支持すると語ったのだ。
ロシアは2014年に侵攻したクリミア半島でも同じような住民投票を強行して「住民の民主的な選択を尊重する」という体裁をつくって強引にロシアに併合した。
核使用の脅しを正当化
危険なのは、今回もこうして一応の既成事実をつくってしまえば、ウクライナがこれらの地域からロシア勢を追放する攻撃を仕掛けてきたとき、プーチンは「ロシアの領土が直接攻撃を受けた」と主張して、戦争をエスカレートさせやすくなることだ。
「プーチンとしては核の使用を正当化する口実になる」と、カーネギー国際平和財団のアレクサンデル・バウノフ上級研究員は、20日にツイッターで懸念を示した。
実際、プーチンは演説で、ロシアの「領土的一体性」が脅かされれば核を使用する可能性があるとし、「これは虚勢ではない」と明言した。
欧米とウクライナの指導者らは、すぐにこの声明を厳しく非難するとともに、はったりにすぎないと切り捨てた。
イエンス・ストルテンベルグNATO事務総長は、「これは危険で無謀な核のレトリックだ。(プーチンが)これまで何度もやってきたことで、目新しいものではない」「今のところ(ロシアの)核の状況に変化は見られない。われわれは極めて注意深く監視・警戒態勢を維持していく」と語った。
4地域で行われる住民投票についても、非難が相次いだ。「投票をしても何も変わらない。ロシアは躍起になっているだけだ」と、ウクライナのドミトロ・クレバ外相はニューヨークで記者団に語った。
ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)も20日、「見せかけの住民投票」だと非難し、「自信のある国ならこんなことはしない。こんなのは強さを示す行為ではない」と断言した。
新たに動員されることになった兵士たちがいつウクライナに投入されるのか、そして、果たして彼らがどのくらい使い物になるのかはかなり不透明だ。
ロシア軍の予備役は200万人以上いるが、日常的に訓練を受けている者はほとんどいないとされる。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、徴兵制度で集められた新兵が戦場に送られることはないと述べたが、少なくとも過去には、若い徴集兵がウクライナに放り込まれていたことが分かっている。
「戦闘能力は非常に低い」
専門家によると、新兵を訓練するには数カ月かかるが、軍務経験者ならば訓練期間を短縮できる。
「(予備役は)志願兵と同じように、1〜2カ月ほどの訓練でウクライナに送り込まれるだろう」と、戦争研究所(ワシントン)のメーソン・クラーク上級研究員は語る。
「とはいえ、ロシアが現在のような窮地に陥ったのはそのせいだ。(予備役の)戦闘能力も非常に低いだろう」
21日のテレビ演説でプーチンは、招集した予備役には戦地に派遣する前に各自の経験に応じて「追加的な訓練」を行うと述べた。
しかし30万人の兵士を訓練し、武器を与え、配備するのは、既に窮地に陥っている軍隊に兵站(へいたん)上の重い負担を与えることになると、専門家は言う。
ウクライナでの作戦に投じる兵力を30万人増やすには、既に現地で戦っている兵士の軍務契約を延長し、帰還させずに引き続き戦わせる手もある。
だが士気の面からそれは難しいと専門家は言う。戦地にいる期間が長引けば、戦意喪失は避けられないからだ。
「問題はロシア軍の指揮がまずい上、兵士がまともな訓練を受けていないことだ。基本的な訓練すら不十分で、長く軍隊にいた兵士の能力も低い」と在欧米陸軍の元トップ、マーク・ハートリングはプーチンの発表後にツイートした。
「戦況が悪化した前線に士気が低い新兵を無理やり送り込めば、もっと悲惨な状況になるのは目に見えている」
もっとも、予備役はウクライナには派遣されず、ウクライナに向かう正規軍の兵士の穴埋めに使われる可能性もあると、ロシア軍の動向に詳しい欧州の高官はみる。
予備役動員が「ウクライナの戦況に与える影響は不透明だが、戦争が計画どおりに進んでいないとプーチンが認めていることを示すサインとしては、これまでで最も明白な動きだ」と、その高官は言う。
プーチンは国連総会出席のため各国首脳がニューヨークを訪れている最中に動員令を発表した。折しもウクライナ戦争と世界の食料・エネルギー市場に与えたその深刻な影響が話し合われようとしているときに、である。
軍事侵攻のせいで西側に排除されたプーチンは国連総会には欠席したが、前の週にウズベキスタンで行われた上海協力機構の首脳会議には乗り込んだ。そして、そこで予想外の冷たい仕打ちに遭った。
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席には距離を置かれ、インドのナレンドラ・モディ首相には公共の場で批判された。プーチンは西側の制裁から経済を守るためアジア向けのエネルギー輸出を拡大しようとしているが、肝心の中国とインドに冷や水を浴びせられた格好だ。
プーチンのテレビ演説の前日、ロシア下院は兵士の脱走や徴兵忌避などに対する処罰を厳格化する法案を採択した。罰則が適用される状況も戦闘中に加え、動員令の発令時や戒厳令下にまで拡大された。
ウクライナで展開しているのは戦争や侵攻ではなく、「特別軍事作戦」だとロシア当局は言い張ってきたが、これにも新法は適用される。
新法では脱走すれば最高15年、敵国に投降すれば最高5年の禁錮刑が科される。軍需品の生産で政府の要請を断れば、企業経営者も4〜8年の服役を覚悟しなければならない。
志願兵まで戦闘を拒否
ロシア当局は見せかけの「住民投票」でウクライナ東部や南部を併合し、「国土防衛」を口実に侵攻をエスカレートさせる意向をちらつかせている。
ロシア政府内のタカ派はさらに強気で、外国の侵攻には核兵器の使用も含めあらゆる軍事オプションで対抗する構えだ。
「ロシアの領土への侵入は犯罪であり、自衛のためにはどんな手段を用いてもいい」と、ロシアのドミトリー・メドベージェフ前大統領は20日にメッセージアプリのテレグラムに投稿した。
西側当局者によれば、ロシアは侵攻初期に精鋭部隊が壊滅的な損失を受けた上、その後も増え続ける死傷者の補充に追われ、ウクライナに十分な兵員を送り込むことがますます困難になっている。
「ロシア政府は兵員不足を補おうと新兵募集に躍起になっている。ロシア軍の戦績は惨憺たるもので、ハルキウ(ハリコフ)の(ウクライナに奪還されたという)報を受けて、ロシアの多くの志願兵が戦闘を拒否するありさまだ」と、米国防総省の高官は19日に記者会見で語った。
米国防総省筋によれば、民間軍事会社のワーグナー・グループがタジク人やベラルーシ人、アルメニア人の雇い兵を募集し、ロシアの刑務所でも受刑者約1500人に戦闘参加を呼び掛けたという。だが若い未経験の兵士が多数死んでいると知り、多くの服役者が拒否しているもようだ。
一方、ウクライナ当局はロシアが住民投票実施を宣言したことを利用して、西側からさらなる武器援助を取り付けようとしている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の顧問を務めるミハイロ・ポドリャクは、前線から約300キロ離れたロシアの軍事施設などを攻撃できる陸軍戦術ミサイルシステムや最新鋭の戦車の供与、ロシアの特定の産業にさらなる制裁を科すことをアメリカに求めた。
プーチンを追い詰める包囲網は一層狭まりそうだ。
●ゼレンスキー大統領、ロシア兵に投降呼びかけ 「文明的に」扱うと 9/26
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日、ウクライナに降伏したロシア兵を「文明的な方法で」扱うと述べた。またロシア人に対し、前線に送り込まれた場合には逃亡や投降するよう呼びかけた。
ロシアではウラジーミル・プーチン大統領が21日、予備役の「部分的動員」を発表。24日には、脱走兵や命令に背いた兵士への罰を倍加する法律に署名した。
同国では現在、各地で部分動員に対する抗議活動が起きている。ロシアの人権状況を監視する独立系団体「OVD-Info」によると、治安当局に拘束された人は、先週前半には1000人以上、24日だけで700人以上に上った。ロシアでは、認可されていない集会は法律で禁じられている。
ゼレンスキー氏はこの日のビデオ演説で、自らの第一言語であるロシア語でロシア人に対し、戦争終了後に戦争犯罪人として裁かれるリスクを取るより、ウクライナ側に降伏するべきだと呼びかけた。
また、ウクライナはロシアの脱走兵などを国際協定にのっとって扱うとしたほか、ロシアに戻った際の処遇を恐れる場合には送還しないと述べた。
「我々の兵器による爆撃で死ぬより、投降してウクライナの捕虜になる方が良い」と、ゼレンスキー氏は強調した。
プーチン大統領が署名した新法では、脱走、戦闘拒否、命令違反、降伏などを行ったロシア兵に10年の禁錮刑を科すとしている。
ロシア軍はウクライナ東部や南部でウクライナの反攻を受け、退却を余儀なくされている。プーチン氏の一連の動きは、戦争の主導権を握り直すためのものだとみられている。
部分動員の発令を受け、国境には動員を免れようとするロシア人がつめかけている。
エストニアとラトヴィア、リトアニアは、動員令から逃れようとする人に自動的に亡命を認める予定はないとして、大半のロシア人の入国を許していない。
バルティック・ニュース・サービスによると、エストニアのラウリ・ラーネメツ内相は、ウクライナ侵攻は「ロシア人の集団責任」だとして、ロシア人の入国禁止がロシア国内での「不満をかきたて」ることを願っていると述べたという。
●戦争長期化で歪み続けるロシア経済 もはや修復不能 9/26
ロシアによるウクライナ侵攻から半年以上が経過し、ロシア経済も変化が見られ始めている。実質賃金が4月から前年比マイナスを継続。これに伴い、小売売上高も減少を続ける。経済の屋台骨とも言えるエネルギー資源の生産量にも西側諸国の制裁の影響が出始め、財政収支もマイナスとなりつつある。
ただ、ロシア国内では「制裁慣れ」ともとれる動きがあり、財政もしばらく持ちこたえられそうだ。ロシアの国力衰退によって戦況が大きく変わるとまでは言えない状況だ。引き続きロシア経済の実態を注視しながら、プーチン政権の動きを見定める必要がありそうだ。
ジワリと影響が出ている西側諸国の制裁
ウクライナ侵攻後、西側諸国が相次いでロシア産エネルギー資源の輸入削減や禁輸を打ち出したことで、市場では徐々にロシア産化石燃料を忌避する動きが強まり、その結果、ロシアのエネルギー資源の生産量は減少に向かっている。
西側諸国がいち早く足並みをそろえて禁輸措置を決定したのは石炭だ。この制裁により、ロシアの石炭生産量は、2022年7月に前年比5.1%減となり、1〜7月で見ると0.9%減少している。
原油生産量に関しては、5月に前年比2.4%減少。7月は同2.8%増となったが、これは中国やインドが輸入量を増やしたためとみられる。しかし、中国やインドにとってこうした取引量の拡大は、米国をはじめとした諸外国からの目線もあり、継続的になされるものではないとの見方が一般的だ。
また、現在ロシア産石油(原油および石油製品)の最大の輸入地域である欧州連合(EU)は6月、ロシア産石油輸入の約90%を年末までに停止することで合意している。この禁輸措置により、ロシアは原油生産の縮小を余儀なくされる見通しだ。
天然ガス生産量は、7月に前年比22%減少し、1〜7月でも同7.3%減となっている。これは主に、ロシア側が、外国で修理中のタービンが、西側の制裁によってロシアに戻されないこと等を理由に、最大の輸出先である欧州向けのパイプライン送ガス量を大幅に削減していることによるものだ。しかし、同時にEUも、ロシア産天然ガスへの依存からの脱却の動きを急速に強めていることに注意が必要だ。
EUは3月に、ロシアからの天然ガス輸入量を年内に3分の2削減し、2027年までに完全に輸入を停止するという目標を掲げ、省エネやエネルギー供給源の多様化に急ピッチで取り組んでいる。天然ガスの輸送は、石油のように簡単ではないため、対露制裁に同調しない中国やインドへ輸出先を転換しようにも難しい。ロシアの天然ガス生産は、原油生産以上に、輸出市場の制約による影響を強く受ける可能性がある。
筆者が試算したロシアの国内総生産(GDP)における非友好国(対露制裁に参加している国)向け石油輸出が占める割合は6%、天然ガスは1%で、計7%にのぼる。EU等によるロシア産エネルギー資源への依存からの脱却によって、この7%の大半が消失することになる。その一部は、対露制裁に同調しない中国やインドへの輸出先転換によって補われることになるが、その場合でもディスカウント(買い叩き)に遭うことは避けられない。
財政は持ちこたえるも
ロシアの国家財政は、今のところ持ちこたえている。歳入面では、石油ガス価格の高騰により「石油ガス収入」が安定的に推移していること、歳出面では、いわゆる戦費と目される「国防・安全保障・総務支出」がそれほど急拡大していないことが財政の安定に寄与している。
7月には、約1兆ルーブルと本年に入り単月では最大の財政赤字となったが、1〜7月期で見ると、4820億ルーブル(21年GDP比で0.4%に相当)の財政黒字だ。少なくとも、22年については財政が赤字になるとしても小幅赤字で、大きく崩れる可能性は低い。
また、たとえ財政赤字になったとしても、これまでの財政黒字を積み立てた国民福祉基金の残高が22年6月末時点で10.8兆ルーブル(うち流動資産部分は7.4兆ルーブル)あり、これを取り崩すことで、国債を発行せずとも財政赤字を補填することが十分可能な状態だ。
しかし、2〜3年後もロシアの国家財政が盤石かと問われると、必ずしもそうとは言えない。前述の通り、西側諸国がロシア産エネルギー資源の輸入削減を進めていることから、ロシアの石油・ガスの生産・輸出量は減少に向かうと見込まれるが、これは石油ガス収入の減少要因となる。こうした中で、今後、戦費が拡大されたり、国民の不満を緩和するために大規模な財政支出が行われたりすると、財政赤字は急拡大し、その分、国民福祉基金が底をつく時期も早まることになる。
我慢強い国民性と「制裁慣れ」
ロシア国内の小売売上高については、ウクライナ侵攻の翌々月の4月から減少が鮮明となった。4月には、前年比9.8%減少、5月は同10.1%減となり、直近の7月まで前年比約1割減の推移を続けている。
小売売上高の減少の主因となっているのは、実質賃金の減少だ。3月にルーブルが対米ドルで前月から25%下落し、インフレ率が2月の9.2%から16.7%へ急上昇したことにより、実質賃金は4月に前年比7.2%減、5月も同6.1%減と前年割れを続けている。
小売売上高、実質賃金とも前年割れを続けているものの、6月頃から、わずかながら持ち直しの動きがみられることにも注意が必要だ。こうした持ち直しの背景には、ロシアの企業や国民が、制裁を課された状態に適応してきているということがある。
その端的な例がウクライナ侵攻により撤退した米国のハンバーガーチェーン大手のマクドナルドやコーヒーチェーンのスターバックスの後継店の開店だ。ともに、ロゴや商品、サービスが酷似したものを提供している。
このほか、制裁により半導体をはじめとする高度技術品の輸入が規制されるなかで、そうした部品なしで製品を製造・販売する動きも広がっている。自動車のエアバッグやABS(アンチロック・ブレーキシステム)の製造が困難になるなかで、これらの装置を装備していない自動車を製造し、新車として販売する形だ。
世界的な信頼を失ったロシア経済の行方は
ウクライナ戦争下でのロシア経済は、歪を明らかにしつつも、しばらくは大きく悪化することなく継続しそうだ。
しかしながら、質の下がった商品が流通し、明るい将来展望を描くことができないような社会・経済状況が続く限り、若年層を中心に優秀な人材の国外流出は避けられない。こうした人材流出は、ロシア経済の今後の成長可能性を、中長期的に大きく制約する要因になるだろう。
また、たとえ戦争が終わり、西側諸国による制裁が緩和されることになっても、エネルギー資源の安定的な供給者としてのロシアに対する信頼はすでに失墜している。多くの国が、ロシアへのエネルギー依存を極力減らそうとする方向性は変わらないだろう。ロシア経済の基幹産業である石油・ガス部門の成長はもはや見込めない。
ロシアは戦争の勝ち負けにかかわらず、経済的な下り坂を進むことになりそうだ。
●OECD、世界経済はウクライナ情勢で動揺−追加利上げ見込む 9/26
経済協力開発機構(OECD)は26日、ウクライナでの戦争で世界が動揺しているとし、ほぼ全ての20カ国・地域(G20)について来年の経済成長率見通しを引き下げ、追加利上げがあるとの見方を示した。
OECDの最新経済見通しによると、世界経済は来年、2.2%成長にとどまる。G20の国内総生産(GDP)で成長見通しがやや上方修正されたのはインドネシアだけで、大半に関して引き下げた。インフレ予想はG20の多くの国で引き上げられた。
OECDは中間経済見通しで、「世界経済は打撃を受けている」とし、「世界、特に欧州はウクライナでの戦争のコストが負担だ。多くの国が厳しい冬に直面している」と指摘した。
OECDの見通しは、ロシアがウクライナで始めた戦争とその後のエネルギー不足で生じた二重の衝撃を裏付けている。エネルギー価格の高騰は生活費を巡る幅広い危機を招いた。
「多くの国でインフレが広範囲に及んでいる」とするOECDは、「インフレ期待を落ち着かせ、インフレ圧力の永続的低下を確実にするため、大半の主要国で追加利上げが必要だ」と主張。欧州一の経済大国ドイツは来年、マイナス0.7%成長になるとOECDは見込んでいる。
OECDによると、「実質所得の減少とエネルギー市場の混乱による足かせを考慮すると、ユーロ圏全体」とドイツ、イタリア、英国で短期的にGDPが減少する。
特にガスなどの燃料不足がさらに深刻化すると、来年の欧州成長率がさらに1.25ポイント下がり、インフレ率が1.5ポイント余り上昇する可能性がある。「多くの国が23年に年間ベースでリセッション(景気後退)」となり、欧州の成長は「24年も弱まるだろう」と予想した。
●ウクライナで相次ぐ農地火災「ロシア軍は狙って攻撃している」…農業者悲嘆 9/26
ロシアの侵略下で相次ぐウクライナの農地火災は、収穫前の穀物だけでなく、営農に欠かせない農機具などにも被害を広げる。「このまま戦争が続き、何もかもなくなったら、どうすればいいのか……」。農業者は悲嘆している。
「何年もかけて作りあげてきたものが全て壊されてしまった」。東部ドネツク州バフムト郊外で、小麦や大麦、ヒマワリなどを作るセルヒー・グリゴリエフさん(53)は9月中旬、読売新聞の取材に語った。
5月から続いた農地への砲撃で小麦畑が炎上し、約700ヘクタールが灰となった。砲撃は倉庫などの建物にも及び、耕運機やトラクターも壊された。セルヒーさんは「ロシア軍は、農地を狙って攻撃している」と憤る。
農地火災は、ウクライナ南部でも相次ぐ。ザポリージャ州バシリウカのパブロ・セルヒエンコさん(24)の畑では、小麦や大麦などを植え付けた約200ヘクタールが焼けた。ロシア軍は農地から3〜5キロの距離まで近付き、パブロさんは「種まきや草刈りをしている時に砲撃されたこともあった」と語る。パブロさんの損失は約2億フリブニャ(約7億6000万円)にも上りそうだという。
戦時下で燃料や肥料などの価格が高騰していることも、営農に追い打ちをかける。ウクライナは小麦を中心に世界有数の食糧供給国だが、農業者を取り巻く環境は厳しさを増す。
パブロさんは「21世紀になっても発展や繁栄を追い求めるのでなく、破壊を選ぶとは恐ろしい。いつこの戦争は終わりを迎えられるのか……」とうなだれる。
南部ヘルソン州の警察当局によると、ロシア軍による農地への砲撃は断続的に続き、消火活動には危険が伴う。このため人員を大量に動員して火を消すことは難しく、ロシア軍の占領地では消火活動自体が許可されないケースもあるという。
警察当局は「ロシアは意図的に作物を破壊し続けている」として、戦争犯罪に関する国内法に基づき、捜査を進めている。
●ロシア軍、占領下のウクライナ人にも招集令状…国際条約に違反 9/26
ウクライナ軍参謀本部は26日、ロシア軍が占領している東部ルハンスク州の一部で、18歳以上のウクライナ人男性に露軍への参加を求める招集令状の配布を始めたと表明した。ロシアが占領地域の一方的な併合を前提に、露国内で着手している部分的動員を強化しているものとみられる。占領地での住民の徴兵は国際条約に違反しており、露軍の強引な兵員補充が目立っている。
ウクライナ軍参謀本部によると、南部ヘルソン、ザポリージャ両州の露軍占領地域でも、ロシア旅券を持つ住民が動員対象になっているという。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は25日のビデオ演説で、ロシアが2014年に併合した南部クリミアで、先住民族クリミア・タタール人が主要な動員対象になっているとして、「新たなジェノサイド(集団殺害)政策だ」と非難した。
クリミア・タタール人はプーチン政権の弾圧に苦しんできた。地元人権団体は、約5000枚とされるクリミアでの招集令状の約9割がクリミア・タタール人に渡されたと主張している。
露国内では動員を巡る混乱が続いている。ロシア語の独立系ニュースサイト「メドゥーザ」は25日、動員対象になる男性の出国が28日にも禁止されると報じた。既に約26万人が出国したとも伝えられる。東シベリア・イルクーツク州知事などによると、州内の徴兵事務所で26日、男が発砲し、所長が重体になった。男は親友が招集され、動揺していたという。
一方、タス通信などは26日、ロシアが東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)と南部2州の支配地域を併合するために23〜27日の日程で行っている「住民投票」について、全4州で投票率が50%を突破し、投票が「成立した」と報じた。プーチン大統領が30日にも露議会で演説し、併合を宣言する可能性が強まった。
●「プーチンはかなり苦しんでいる」ホワイトハウス高官がロシアの窮状を指摘 9/26
プーチンはウクライナ侵攻でかなり苦しんでいる――予備役の部分的な動員などを発表したを発表したロシアのプーチン大統領について、アメリカのホワイトハウス高官が指摘した。
プーチン大統領は9月21日、半年以上続くウクライナ侵攻のために約30万人の予備役を動員するとテレビ演説で発表した。
さらにロシア当局は23日、制圧したウクライナ東部や南部地域のロシア編入を問うための住民投票を開始した。
ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は25日、こういった動きについて「間違いなくロシアの強さや自信の表れではありません。むしろ全く反対で、ロシアそしてプーチンがかなり苦しんでいることの兆候です」とABCの番組で述べた。
核の脅威は本気か、ハッタリか
プーチン大統領は21日の演説で、核兵器の使用も辞さないという考えも示している。
サリバン氏はこの問題について「アメリカが核兵器使用にどう反応するかを、ロシアは十分に理解している」とNBCの番組で述べ、使用すれば「破滅的な結果が待ち受けている」とロシアに警告したことを明らかにした。
サリバン氏によると、プーチン大統領がウクライナ侵攻に関連して核の脅威を持ち出すのは今回が初めてではなく、ホワイトハウスは深刻に受け止めている。
一方、ティム・ケイン連邦上院議員は24日に出演したMSNBCの番組で「プーチン大統領は追い込まれており危険だ」と述べながらも、核兵器の使用はロシアにも放射性降下物の危険をもたらすことから「脅しに過ぎない」という考えを示した。
「核兵器はどこで使用しようが…国際社会からの激しく非難という大打撃を招きますが、それだけではなくロシアに放射能降下物の危険性をもたらします。ですから私は、大いなるハッタリだと思います」
●民間軍事会社「ワグネル」、プーチン氏と親しい実業家が創設認める 9/26
ロシアの実業家でウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領と親しいエフゲニー・プリゴジン氏(61)は26日、民間軍事会社「ワグネル」を創設したのは自分だと公表するとともに、同社が中南米やアフリカに傭兵(ようへい)を派遣してきたと認めた。
プリゴジン氏はワグネルが出した声明の中で、2014年にウクライナ・ドンバス地方に戦闘員を派遣するために同社を創設し、後に「大隊戦術軍(BTG)ワグネル」の名称になったと説明した。
大統領府とケータリング契約を結んでいることから「プーチンのシェフ」とも呼ばれるプリゴジン氏は、これまでワグネルとの関与を否定していた。
同氏はワグネルの傭兵について「シリアやアラブ諸国の人々、貧窮したアフリカや中南米の人々を守った英雄たちが、祖国を支える柱となっている」と記した。
ワグネルは長年、ロシア政府の外国での目的を果たすために活動していると疑われてきたが、大統領府はいかなる関係もないと否定している。
●サウジ皇太子、捕虜交換で価値高める ロシアにパイプ 9/26
サウジアラビアはロシアとウクライナの捕虜交換で仲介役を果たしたことで、ロシアの孤立を図る西側諸国に対してロシアと実力者ムハンマド皇太子とのパイプは「有益だ」とのメッセージを送ることに成功、外交的な勝利を収めた。
また今回の動きは、2018年に起きたサウジ人著名ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害に関与したとの疑惑で傷ついた皇太子の国際的なイメージの回復にも、意図的かどうかはともかく、役立ちそうだとアナリストは見ている。
ロシアは21日、ムハンマド皇太子の仲介により、捕虜の外国人10人を解放した。うち5人が英国人、2人が米国人。皇太子が慎重に育んだプーチン大統領との結びつきよって解放が実現したもようだ。
時を同じくしてトルコの仲介による捕虜交換で、ウクライナ側兵士215人と親ロシア政党の指導者など55人が解放された。
米ライス大学ベーカー研究所のクリスチャン・ウルリクセン氏(政治学)は、仲介者の選択にあたりサウジとロシアのパイプが重要な要素になったようだと指摘。「ムハンマド皇太子は今回の仲介を承認し、結果を出すことにより、衝動的で破壊的な人物だという評判を覆し、この地域の有力政治家の役割を担う能力があると示すことができる」と述べた。
皇太子は当初、大胆な改革者と見られていたが、カショギ氏殺害事件でそうしたイメージは大きく損なわれた。
皇太子はカショギ氏殺害を命じていないとしつつ、自分の監督下で起きたとして責任を認めている。
人道的理由を強調
サウジのファイサル外相はBBCとのインタビューで、捕虜解放に同国が関与した動機は人道的なものだったと説明。皇太子の名誉回復のためだったとの見方については、「ひねくれている」と否定した。
ファイサル氏によると、皇太子は捕虜解放のため4月からプーチン氏と連絡を取り合っていた。当時のジョンソン英首相がサウジを訪問したのを受け、英国人5人が捕虜となっている問題を「理解」したという。
ファイサル氏はフォックス・ニュースのインタビューで「皇太子は、これは人道的行為として価値があるとプーチン氏を説得することに成功し、今回の結果を得ることができた」と振り返った。
解放された外国人には、クロアチア人、モロッコ人、スウェーデン人も含まれており、サウジ機でサウジの首都リヤドに移動した。当局者によると、米国人2人は数日以内にサウジを離れる予定。
ウクライナ戦争が世界のエネルギー市場を揺るがす中、世界最大の石油輸出国であるサウジは米国とロシアの両方にとって重要性が高まっている。
世界中の指導者が石油の増産を求めて次々とサウジを訪れているが、サウジはロシアを孤立させる取り組みに加わる姿勢を見せていない。サウジは、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国で構成するOPECプラスなどを通じて、プーチン氏との協力関係を強めている。
ロシアとの「有益な」関係
バイデン米大統領は7月のサウジ訪問で同国から原油の即時増産、プーチン氏への強硬姿勢といった課題で言質を取り付けることができず、米国とサウジの緊張関係が浮き彫りになった。
親政府派のコメンテーター、アリ・シハビ氏によると、サウジが捕虜解放を仲介したのは初めてだ。「西側諸国に対して、ロシアとのパイプも有益な目的になり得るとのメッセージを発したのだろう」と分析。「両者との関係を維持する国が必要だ」と強調した。
西側外交筋によると、捕虜交換計画は何カ月も前から進んでいたが、中東湾岸諸国のほとんどの外交筋がそれを知ったのは最終段階に入ってからだった。
ワシントンのアラブ湾岸諸国研究所のクリスティン・ディワン上級研究員は、外交的な仲介役という戦略をサウジが採るのは異例で、普通はカタールなどこの地域の小国が使う手法だと指摘。「錬金術のようなものだ。皇太子は批判を浴びている対ロシア関係を金に変えてみせた」と述べた。
●ロシア軍、動員で一層の人的損害も 「最低限」の準備で前線へ 9/26
英国防省は26日のウクライナ戦況分析で、ロシアによる予備役の部分動員令に関し「招集を受けた初期部隊が軍基地に到着を始めた」との見方を明らかにした。
また、経験や戦う意欲に乏しい兵士を前線に送り込むことで、今後一層の人的損害を受けることになると予測した。
英国防省は「西側諸国と異なり、ロシア軍は兵士たちに指定された作戦部隊内での低水準の基本訓練しか施さず、予備役の多くは何年も軍事的な経験を積んでいない」と指摘。さらに「教官不足や性急な動員状況から見て、多くは最低限の準備をしたのみで前線に駆り出される」とし、「ロシアは高い(人的な)損耗率に苦しむだろう」と警告した。

 

●習近平の「3選」確定後、中国がロシア・ウクライナ戦争の「仲裁」に動く可能性 9/27
プーチン大統領の「暴走」
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「暴走」が止まらない。先週、二つの「暴挙」に出た。
第一は、9月21日午後3時(モスクワ時間)、国民向けテレビ演説を行い、予備役の国民を軍務に就かせる「部分的動員令」を発表したことだ。第二次世界大戦でアドルフ・ヒトラー総統率いるナチスドイツと死闘を演じた際に、ヨシフ・スターリン書記長が発令して以来、実に81年ぶりの措置である。
これによって、2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始して以降、新たなステージに入ったことになる。ロシア国防省は、動員される予備役の数を30万人としているが、実は100万人だという報道もある。また、2500万人を動員する法律的解釈ができるという報道もある。実際、「自分は予備役でないのに『召集令状』が届いた」という青年の映像が流された。
第二は、ロシアが占領したウクライナの4つの地域での「住民投票」の開始である。これは9月23日から、東部ドンバス地域のドネツク州とルハンシク州、南東部のザポリージャ州、南部のヘルソン州で行われ、27日に終了するという。この手続きを経て、30日にプーチン大統領が編集手続きを行うと、ロシアのタス通信が伝えている。2014年3月にウクライナのクリミア半島を併合した時と、同様のパターンだ。
ロシアが上記4州の「併合」を完成した場合、最も懸念されるのは、引き続き起こりうるウクライナ側の反撃を、ロシアが核兵器を使用して喰いとめようとすることだ。ロシアとしては、ウクライナからの反撃は、「自国領土への攻撃」とみなすので、何が起きてもおかしくない。
国連総会のためニューヨークを訪問中のロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は24日、現地で記者会見を開いた。そこでも焦点は核兵器の使用で、ロシアの記者が質問すると、ラブロフ外相は言葉を慎重に選びながら、こう答えた。
「わが国には核兵器の安全保障に関して、基本的な原則がある。私は別にあえて、悲観的な予測をしようとは思わないが、その基本的原則は、ロシアのあらゆる地域に適用されるものだ」
このように、核兵器の使用を否定しなかった。当然ながら、こうした回答はプーチン大統領と擦り合わせて、「核の脅し」として行っているものと見られる。
こうしたロシアの「暴走」に対して、直接的な当事者であるウクライナは、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いる軍の善戦が伝えられてはいる。だが短期間に、この4州すべてを奪還することは不可能だ。引き続き、アメリカやNATO(北大西洋条約機構)からの強力な武器や情報の支援を必要とする。
プーチンの首に鈴をつけるのは誰か
アメリカは、25日にジェイク・サリバン大統領安保担当補佐官が、ABCテレビのインタビューに答えた。
「現在、ロシアの高位の人物と、直接かつ非公式に連絡を取り続けている。そのルートで、ロシアが今後万一、ウクライナで核兵器を使用すれば、壊滅的な結果を招くことになるだろうと伝えている。またその場合、アメリカは同盟国・友好国とともに、断固とした対応を取る」
威勢はいいが、これまでのジョー・バイデン政権の行動から考えると、いささか腰が引けているようにも思える。そもそも、アメリカが率いるNATO軍が拱手傍観すると判断したからこそ、プーチン大統領はウクライナ侵攻を決断したわけで、実際にNATO軍は直接の不関与を貫いている。
ヨーロッパは、さらに腰が引けている。凄まじいインフレが続く中、厭戦ムードが漂っているからだ。加えて、極寒の冬が近づくにつれ、エネルギーを依存してきたロシアへの非難が弱まる可能性がある。
アンゲラ・メルケル首相の時代に「EUの盟主」を自任していたドイツは、オラフ・ショルツ首相が現在、中東を歴訪中だ。何とか自力でエネルギーを調達し、少しでもロシア依存を減らそうということだが、「ようやく1日分調達」などと、ドイツで皮肉たっぷりに報じられている。
「EU分裂の震源地」となりそうなのが、イタリアだ。25日に行われた総選挙で、右派連合が過半数を獲得。「イタリアの同胞」のジョルジャ・メローニ党首(45歳)が、26日に「これで国民の信任を得た。今日はゴールではなくスタートだ」と勝利宣言を行った。第二次世界大戦時の独裁者ベニート・ムッソリーニ首相を敬愛すると言われる彼女が、イタリア初の女性首相に就くのは確実の情勢だ。
まさに「EU創設の崇高な理念」とは真逆の考えを持ったリーダーが、EU第3の経済国に誕生するのだ。メローニ政権誕生を、クレムリン宮殿の主は、ほくそ笑んでいることだろう。
というわけで、この広い世界に、プーチン大統領の首に鈴をつけられる人物は、たった一人しかいないという結論になる。
それは、中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席だ。両首脳は、今月15日に、ウズベキスタンのサマルカンドで、SCO(上海協力機構)首脳会議に合わせて、41回目となる首脳会談を開いたばかりである。
この時の中ロ首脳会談では、プーチン大統領の「低姿勢」と、習近平主席の「冷淡な態度」が話題を呼んだ。四面楚歌のロシアは中国にすがろうとしているが、中国は必ずしもロシアと「一心同体」を貫こうとはしていないという解釈だ。
では、中国は今後、事態の打開へ向けて重い腰を上げるのか? もし動くとしたら、どのような立場を取るのか? 
中国の動きを読み解くキーワード
結論を先に言えば、私は、10月16日から1週間ほどかけて行われる第20回中国共産党大会で、習近平総書記が「3選」を果たし、国内で権力基盤を盤石なものにしたら、中国が仲裁に乗り出す可能性はあると見ている。
その際の中国の立場は、その時点の情勢にもよるだろうが、ややロシア寄りに傾きながらも、「両者痛み分け」となる仲裁案を提案するのではないか。
実際、中国はそのための準備とも思える行動を、着々と進めている。
9月19日、中国福建省で、中国外交トップの楊潔篪(よう・けつち)氏が、プーチン大統領の最側近とされるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記と、丸一日協議を行った。協議の具体的内容は不明だが、新華社通信が伝えた全文を訳す。
〈 9月19日、中国共産党中央委員会政治局委員、中央外事工作委員会弁公室主任の楊潔篪は福建省で、ロシア連邦安全会議秘書のパトルシェフと、中ロ第17回戦略安全交渉を共催した。双方が一致して同意したのは、継続してこの戦略安全交渉の重要なプラットフォームをうまく活用していくことだ。
中ロの国家元首がSCOサマルカンド首脳会議での首脳会談で得た共通認識を実現させるのだ。相互信頼を増進し、中ロがそれぞれの国情に合った発展の道を歩むことを支持し、共同で全世界の戦略的安定を維持、保護し、両国の全面的戦略的パートナーシップ関係の内容を不断に強固にし、充実させていく。
楊潔篪が示したのは、昨今、習近平主席とプーチン大統領の戦略的リードのもとで、中ロ関係は終始、発展の勢いを保持しているということだ。両国は、それぞれの核心的利益と重大な懸念問題に関して、終始、相互支持を固めている。各分野での協力と内容は不断に豊富なものとなっている。
国連を核心とした国際システムと国際法を基礎とした国際秩序を、共同で死守していく。国際的な公平と正義を維持、保護し、相互尊重・平和共処・協力共勝の新型の大国関係の規範としていく。
楊潔篪が指摘したのは、中国はロシアとともに、両国の国家元首の共通認識を実現させていくということだ。政治の相互信頼と戦略提携を引き続き深化させ、両国の国家元首が確定した方向に沿って、双方の関係が闊歩前進していくようにする。そして中ロ各自の発展振興が、外部環境にさらなる安全安定をもたらし、両国の共同利益を維持、保護し、世界の安全安定にさらなる貢献をしていくようにする。
パトルシェフは示した。ロシア側は、中国と緊密な戦略的意思疎通を保持し、各分野での実務的協力を深化させ、国際組織の中でさらに一歩、協調と協力関係を強化させていく用意がある。
双方は他にも、全世界の戦略的安定の維持と保護、アジア太平洋地域の情勢、アフガニスタン、ウクライナなどの問題についても、深く意見を交わした 〉
この記事の中で、キーワードと思われるのは、「核心的利益の相互支持」と、「実務的協力の深化」である。
まず「核心的利益の相互支持」だが、この言葉は、2月4日の習近平主席とプーチン大統領の北京会談でも、6月15日のオンライン会談でも、中国側が強調していた。
中国にとって最大の核心的利益は台湾問題で、ロシアにとってはウクライナ問題だ。そのため基本的に、中国はロシアのウクライナ侵攻について、非難したり制裁を与えたりすることはしない。
では、中ロは何をするのかと言えば、「実務的協力の深化」だ。これは記事のニュアンスから判断して、ロシアが望んでいる中国からロシアへの武器供与は意味せず、経済関係の強化を示すものだろう。
中国海関(税関)総署の発表によれば、今年1月〜8月の中ロ貿易は1172億ドルに上り、前年同期比31.4%増だ。特にロシアから中国へは729億ドルで、前年同期比50.7%と急増しているのだ。
これは主に、原油・天然ガス・石炭・電力といったエネルギー関連である。一説によると、中国が安く買い叩いているとも言われる。
また5月に張漢琿(ちょう・かんぐん)駐ロ中国大使が、「昨年の中ロ貿易の17.9%が人民元決済だった」と述べているので、中国としては人民元経済圏を広げるというメリットもある。こうしたことをまとめて、「実務的協力の深化」と呼んでいるのだろう。
王毅外交部長が語った「中国の立場」
中国外交ナンバー2で、習近平主席の「忠実な口」と言われる王毅(おう・き)国務委員兼外交部長(外相)も、先週は国連総会が開かれているニューヨークで、活発な外交を展開した。
そのハイライトとも言えたのが、アメリカ東部時間の9月24日に国連総会で行ったスピーチだった。タイトルは、「平和と発展に尽力し、団結と進歩を担当する」。
私はインターネットの中継で、22分のスピーチを聴いたが、自身が絶対忠誠を誓う「習近平主席」の名前を7回も連呼した。
王毅外交部長は、連日の分刻みの各国との外相会談などで、さすがにお疲れの様子で、時折、声もかすれがちだった。それでも、習近平主席の「忠実な口」として、中国の立場を次のように述べた。
〈 どうやって時代の要求に対応し、歴史の潮流を把握し、共同で人類運命共同体を構築していくか。中国の主張は堅固にして明確だ。
第一に、平和が必要であり、戦乱にしてはならない。平和は一切の美しい未来の前提であり、各国の共同の安全の基礎である。
第二に、発展が必要であり、貧困を生み出してはならない。発展は各種の難題を打ち破り、人々の幸福を実現するカギである。
第三に、開放が必要であり、国を閉ざしてはならない。保護主義を取ることは自縛行為であり、サプライチェーンを切ってデカップリングすることは、必ず他者に損害を与えて自分も被害に遭う。
第四に、協力が必要であり、対抗してはならない。尽きることのない世界的なチャレンジに直面して、最強のパワーは心を合わせて協力することであり、最も有効な方法は同じ舟に乗って助け合うことであり、最も光明な前景は協力共勝だ。
第五に、団結が必要であり、分裂してはならない。平和・発展・公平・正義・民主・自由は全人類の共同の価値感であり、制度の違いは分裂を造成する理由にはならない。さらに民主と人権を政治化・道具化・武器化させてはならない。
第六に、公平が必要であり、覇権を目指してはならない。大小の国家が相互に尊重し、一律平等が国連憲章の主要な原則だ。
昨今の各種の安全へのチャレンジに直面して、習近平主席は全世界の安全を提唱した。国際社会に、共同で総合的で持続可能な安全観の堅持を呼びかけた。
各国の主権尊重、領土保全を堅持し、国連憲章の趣旨原則の順守を堅持し、各国の合理的な安全への懸念の重視を堅持し、対話を通じた協商と平和的な争議の解決を堅持し、伝統的及び非伝統的な安全のコントロールの維持、保護を堅持することを呼びかけた。
そうして人類の平和に中国の知恵で貢献、補填していく。国際的な安全のチャレンジに対して、中国の方案を提供して応対していく 〉
以上である。22分間のスピーチの中に、「ウクライナ」「ロシア」といった単語は出て来なかった。もっと俯瞰的に、中国がいかに世界の平和と発展に貢献しているかを自負した内容だった。
中国が仲介に乗り出す準備
これは一見すると、「中国は今後とも、ウクライナ戦争に直接的に関わったり、仲裁したりする意思がない」とも解釈できる。もっと穿った見方をすれば、「中国は同じ強権国家の大国でも、野蛮極まりないロシアとは違うのだ」とアピールしたかったのではとも考えられる。
だが私は、中国は来月の第20回中国共産党大会の後、積極的に仲介に乗り出す準備をしている可能性があると見ている。その証拠に、今回、王毅国務委員兼外相は、ニューヨークを舞台に、尋常でない数の会談・会議などをこなした。
中国外交部が公にしているだけでも、9月20日が8件、21日も8件、22日が11件、23日が5件、国連総会のスピーチを行った24日は9件、翌25日は7件。合計すると6日間で48件! 「世界一働くスーパー外相」と言われるゆえんだ。
特に、ウクライナ戦争に関係する重要人物――ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相、ウクライナのドミトロ・クレバ外相、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官、NATOのイェンス・ストラテンベルグ事務局長、国連のアントニオ・グテーレス事務局長らと、漏れなく会談している。
注目のクレバ外相との会談では、新華社通信によれば、王毅国務委員兼外相は、次のように発言した。
「習近平主席は、こう指摘している。各国の主権と領土の保全は、すべて尊重されるべきだ。また国連憲章の趣旨と原則は、順守されるべきだ。各方の合理的な安全への懸念は、重視されるべきだ。危機の平和的解決に至る一切の努力は、支持されるべきだ。
この『4つの当然』は、中国のウクライナ問題に対する最も権威づけた陳述であり、中国がこの問題を処理することを見守る根本的な尊重、順守すべき点である。
責任ある大国であり、国連安保理の常任理事国として、中国は一貫して交渉に尽力してきた。拱手傍観せず、火に油を注ぐこともなく、ましてや漁夫の利を得ようともしていない。われわれは終始、平和の立場に立っており、引き続き建設的役割を発揮していく。
ウクライナ政府と国民が、ウクライナ在住の中国人、とりわけ留学生の避難に助力と関与をしてくれたことに感謝し、両国国民の間の友好的な感情を顕彰したい。
今年は中国とウクライナの国交30周年だ。中国はこれを機に、両国関係をさらに発展させ、伝統的友誼を発揚させ、より一層両国の国民に恩恵を与えるよう企画する用意がある」
これに対して、クレバ外相はこう答えた。
「ウクライナは、中国の国際的地位と重要な影響力を重視している。中国がいまの危機を緩和するのに重要な役割を果たすことを期待している。
ウクライナは国益にマッチした対話交渉を行う用意がある。ウクライナは一貫して、一つの中国政策(中国と台湾は一つという政策)を支持し、中国の主権と領土保全の維持、保護を支持している。中国と各分野での交流と協力を強化することを期待している」
思えば、ウクライナにとって、昨年の最大の貿易相手国は中国だった。ウクライナとしても、「一つの中国」という「踏み絵」をきちんと踏みつつ、中国に仲介を期待しているのである。
中国が仲介に乗り出すとしたら、その「腹案」は何だろう? ドンバス地方の2州はロシアに渡して、他の2州からはロシアが撤退するということだろうか。
ともあれ、10月下旬に第20回中国共産党大会が終わると、11月15日、16日に、インドネシアのバリ島で、G20(主要国・地域)首脳会議が開かれる。この場には、プーチン大統領、バイデン大統領、習近平主席らが一堂に会する。ここが大きな大きな外交の場になりそうだ。
●「原発が炎に包まれている」IAEA事務局長 各国に協力呼びかけ  9/27
IAEA=国際原子力機関の年次総会が、オーストリアで始まりました。グロッシ事務局長は、安全性への懸念が広がるウクライナのザポリージャ原子力発電所を巡り「原発が炎に包まれている」と強い危機感を示し、重大な事故を防ぐために、原発周辺を安全な区域に設定できるよう、各国に協力を呼びかけました。
IAEAの年次総会は、本部があるオーストリアのウィーンで26日から始まり、冒頭、グロッシ事務局長が演説を行いました。
このなかでグロッシ事務局長は、相次ぐ砲撃により一時的に外部電源を失うなど、安全性への懸念が広がっているウクライナ南東部のザポリージャ原発について「ヨーロッパ最大規模の原発が炎に包まれている。信じがたいことだが、現実だ。この現実を前に、われわれは行動しなければならない」と述べ、強い危機感を示しました。
そのうえで、重大な事故を防ぐために原発周辺を安全な区域に設定する、みずからの提案に関連して、ウクライナとロシア双方との協議をさらに進めるため、両国を訪れる用意があると強調し、各国に理解と協力を呼びかけました。
IAEAの年次総会では、26日に日本やウクライナ、そして、ロシアなど各国の代表による演説が続いていて、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や原発の安全確保を巡って、どのような姿勢が示されるかが焦点となっています。
総会では各国が非難もロシアは「攻撃はウクライナ側」
総会では日本をはじめ各国の代表が演説を行い、ザポリージャ原子力発電所を占拠するロシアへの非難が相次ぎました。
このうち、アメリカのグランホルムエネルギー長官は「ロシアによる原子力施設の占拠は、原子力の平和利用に対するロシアの姿勢に疑念を抱かせる」と非難し、ロシアに対して部隊を撤退するよう要求しました。
また、日本の高市科学技術担当大臣もビデオ演説で「ウクライナの原子力施設やその付近でのロシアの軍事行為は決して許されるものではない。最も強いことばで非難する」と述べるなど、各国の代表からロシアへの非難が相次ぎました。
これに対して、ロシアの代表は「ウクライナ側が原発を攻撃している」と述べ原発には部隊を配置していないとも主張しました。
●プーチン氏、いかなる敗北も「認めず」 フィンランド大統領 9/27
フィンランドのニーニスト大統領は27日までに、ロシアによるウクライナ侵攻が危険な状況を迎えていると警告した。ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻に高い信頼性を与えていたものの、自分に不利な状況になってきているとの見方を示した。
ニーニスト氏はCNNの取材に対し、プーチン氏がウクライナ侵攻に全てをつぎ込んでいると語った。
ニーニスト氏はプーチン氏について、「戦士」だと形容。そのため、プーチン氏がいかなる種類の敗北についても受け入れるのを目撃することは非常に困難であり、そのことが状況を危機的なものにしていることは間違いないと指摘した。
フィンランドの国境警備当局によれば、24日に陸路でフィンランドに入国したロシア人の数は8500人を超えた。
国境警備当局の幹部は25日、SNSへの投稿で、24日には8572人のロシア人が陸路でフィンランドに入国したと明らかにした。1週間前の土曜日に入国したロシア人の数は5286人だったという。24日の入国数は前週比で62%増えた計算になる。
プーチン氏が失速したウクライナ侵攻を立て直すため「部分的動員」を宣言したことで一般のロシア人もウクライナ侵攻に関与する可能性が高くなり、フィンランドに入国するロシア人の数が増加している。 
●ウクライナで戦死のロシア兵、「全ての罪を洗い流される」 キリル総主教 9/27
ロシア正教会トップのキリル総主教が、ウクライナとの戦争で死亡したロシア兵は全ての罪を清められると発言した。
キリル氏は25日の礼拝で、ウクライナ戦争で多数の死者が出ている現状に言及。「兄弟殺しの戦争で殺し合う兄弟が1人でも少なくなるよう、教会はこの戦いが可能な限り早く終わることを祈っている」と述べた。
一方で、ある人が職務を果たす義務感に突き動かされているのであれば、その人は天命に従い義務を全うすると述べ、「もし義務の遂行中に命を落とした場合、間違いなく犠牲に等しい行為になる。他人のために我が身を犠牲にしているのだ。こうした犠牲により全ての罪が洗い流されるものと確信している」と説いた。
キリル氏の発言に先立ち、ロシアのプーチン大統領は30万人以上の徴兵を目的とした国民の「部分的動員」を発表し、ウクライナ侵攻をエスカレートさせていた。
●ウクライナでの戦争で世界経済は2023年も減速、OECDが見通し 9/27
ロシアとウクライナの戦争および、いまだ続く新型コロナウイルス感染症流行の影響により、世界の経済成長は予想以上に減速し、インフレが加速している。
この傾向は来年も続くだろうという悲観的見通しを経済協力開発機構(OECD)は月曜日、発表した。
パリに本部を置くOECDの予測では、今年の世界経済の成長率は3%にとどまり、2023年には世界全体の生産活動に2.8兆ドル相当の減少が見込まれることから、来年はさらに減速してわずか2.2%となる見通しである。
ロシアは世界有数のエネルギーおよび肥料の輸出国であり、ロシア・ウクライナ両国とも主要な穀物の輸出国で、世界中で飢餓の危険にさらされている数百万人の人々に食物を供給していた。
このため、ウクライナでの戦争により、世界的に食糧とエネルギー価格が高騰している。
また、中国では新型コロナウイルス感染症対策のロックダウンの影響で、経済の大部分が休止状態となった。
「戦争、エネルギーと食糧費の高騰、中国のゼロコロナ政策などが相俟って、成長は低調となるでしょう。
インフレは加速するとともに長引くと考えられます」とOECDのマティアス・コーマン事務総長はパリで報道陣に語った。
インフレとエネルギー供給の危機を考慮して、OECDは今年のアメリカの成長率を約1.5%まで引き下げ、さらに来年の成長率をわずか0.5%とした。
冬の間に一部の国ではさらに経済が落ち込むことを見込んで、OECDはユーロ圏19カ国の今年の成長率を1.25%、来年の成長率を0.3%と予測した。
OECDは住宅の暖房や発電、工場の稼働に必要な天然ガスの供給量をロシアが減らしたことで、ヨーロッパでエネルギー不足が生じるという見通しに言及している。
また、不足が現実になれば、世界的に燃料価格が上昇し、企業は活動を制限せざるを得なくなり、ヨーロッパの多くの国で来年は景気後退が起こるとしている。
中国の今年の成長率は3.2%に下落する見込みで、パンデミックが始まった2020年を除けば、これは1970年代以降でもっとも低い数字である。
OECDの予測では、中国の来年の成長率はやや上昇して4.7%である。
各国の中央銀行が利下げを続行し、世界経済が減速することで、G20諸国では、来年にはインフレ率は低下すると予想される。
消費者物価指数はG20諸国では今年の8.2%増から2023年には6.6%増に緩和される見通しだが、それでも各中銀が目標とする2%を上回る。
「経済を取り巻くこれらの困難な状況は、大胆かつ適切に策定され、十分に調整された政策を必要とするでしょう」とコーマン事務総長は指摘した。
OECDは物価上昇や中銀による利上げ、代替エネルギー源模索の結果として起きる気候変動対策から影響をもっとも大きく被る人々への短期的支援とともに、食糧供給を強化するための国際協調を呼びかけている。
●米、ウクライナに660億円の追加支援…「露軍による残虐行為の調査支援」 9/27
米政府は26日、ロシアが侵略を続けるウクライナの治安当局の能力向上のため、4億5750万ドル(約660億円)の追加支援を行うと発表した。昨年12月以降、治安当局への支援は総額6億4500万ドルとなった。
支援は、ウクライナの警察や国境警備隊など法執行機関の活動に使われる。ブリンケン米国務長官は26日の声明で、「露軍による残虐行為の調査などを行うウクライナへの支援につながる」と述べた。
●ロシア国内反発 なぜプーチン大統領は 部分的動員を決断したのか 9/27
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から7か月。ウクライナ軍が反転攻勢を強める一方で、プーチン大統領は予備役を対象とした部分的な動員令に署名しました。これにロシア各地では抗議 デモが起きています。
9月22日放送のBS日テレ「深層NEWS」では、笹川平和財団上席研究員 小原凡司さん、筑波大学教授 東野篤子さんをゲストに、当初慎重と見られていた予備役の動員をプーチン大統領はなぜ決断したのか、軍事侵攻の今後にどういった影響を与えるのかを議論しました。
右松健太キャスター「ロシア国内では部分的な動員令に対し、抗議デモ が起きています。軍事侵攻開始以降、国内世論を抑え込んできたプーチン政権ですが、対する市民の受け止めをどうみていますか?」
小原凡司氏「これまで(ロシア市民)は、自国の安全には関係ない、他国の自分たちから遠いところで行われていて、しかも勝っていると信じて、あるいは信じさせられていたわけです」「そうすると、市民というのは無関心を装えるわけですが、それが実は負け始めてるんじゃないか、そして動員というところまで来れば、今度は自分たちに直接関わってくるということが急に起きたわけですから、その衝撃と反発は大きいのだと思います」
右松キャスター「反発の大きな要因は予備役の部分的動員が示された点ですが、同時にロシアの劣勢が市民にも示された形になったのでしょうか?」
東野篤子さん(筑波大学教授)「そうですね、ここまでやらなければいけない以上、何かが起きているというふうに感じとったロシア市民は少なくないと思います」「軍事侵攻の初めから一定程度、戦争に反対する市民もいましたが、開始後、ものすごく弾圧を受け、反戦の意思を示したくても隠していた人が多いですが、それでも今回、デモが起きたということは、やはり非常に強い意志を持った反戦活動が展開されていると見た方がいいと思います」
右松キャスター「プーチン大統領の演説のポイントをこちらにまとめました」「全体を通じてプーチン大統領が、軍事侵攻始まって7か 月が経つのを前に、このような中身の演説を行ったことをどう見ていますか?」
小原氏「ロシアは2000年に発表した軍事ドクトリンで既に『エスカレーション抑止』という考え方を示しています。通常兵力でNATO(北大西洋条約機構)に 対して圧倒的劣勢に立っているロシアは、NATOを抑止するためには通常兵力では駄目だと。だから核を使ってより大きく段階を上げるんだ、というのをロシアが示すことによってNATOに手を出させないという考え方です」「これを改めてウクライナで、もう一度示さなければいけないほど、ロシアは今劣勢に立たされている可能性が高いと思います」「しかも、『エスカレーション抑止』の考え方は自国の安全が脅かされれば、相手は核を使用しなくても自分は核を使うということなのですが、それもこの2番目の『ロシアへの編入』ということにも掛かってくると思います」「ここで住民投票を行って、いくら国際社会が反対しようがロシアはロシアで勝手に編入したと言いますから、今度は『自国領に対する攻撃だ』ということになり、『核兵器を使用するぞ』ということが現実味を帯びるということになる」「ですから、そのような脅迫の中身に現実味を帯びさせるためにもこの住民投票を行うということです」「ただ『自国領に対する攻撃』ということになると、これは「戦争」ということになるので、今までのように「特別軍事作戦」と言えなくなるという、これも諸刃の剣だと思います」
東野氏「そもそもの大きな動きとして、このような演説をこのタイミングで行ったということは、やはり9月7日以降の東部に対するウクライナ軍のその反転攻勢が、2週間に及んで続いているということ。やはりこれは相当の危機感を持ったんだろうと思います」「戦況で押し込まれて いるからこういった措置を次々に出さざるを得なくなってきていると思います」
郡司恭子アナウンサー「部分的な動員令について、プーチン大統領の演説の内容がこちらです」「軍隊経験のある予備役が対象で、約30万人が招集されるとみられています。また、ロシアが動員令を出すのは第二次世界大戦以来だということです」「動員令を出したタイミングをどう見ていますか?」
小原氏「ロシア軍が劣勢に立たされている。このままだと軍事的にも今まで押さえている地域を奪還されかねない。東部2州を失ってしまえばプーチン大統領は負けを認めざるを得なくなります。負けは認めない。そのためにはさらに動員し、兵力を増強して、今までロシアが抑えたところは取らせないということにするのだと思います」
右松キャスター「予備役の動員は第二次世界大戦以来だと。ウクライナ軍事侵攻が始まって約7か月 間の情勢においての演説をどのように位置付けますか?」
東野氏「このヒントは、プーチン大統領の演説の前半部分にあったんだろうと思います」「長々と、『これはウクライナとロシアの戦いではなくて、ウクライナを完全にアメリカやヨーロッパが操っている』と。『ウクライナが和平に動こうとすることがなかったわけではないけれども、それは西側諸国が邪魔して和平させなかった』と。(この内容は)嘘八百なんですけどそういうこと言っています」「結論として、これは『ロシア対ウクライナ』の戦いではなく、ウクライナのバックにはNATOがいるのだから、段階を上げなければならない、という区切りとしてNATOに対してロシアがよりよく対処するためのものだとロジックを切り替えたんだと思います」
右松キャスター「これまでは『ロシア対ウクライナ』という構図だったものが、ロシア側は、『ロシア対NATO』あるいは『ロシア対アメリカ』という位置づけに変えていきたい?」
東野氏「元々そのようには言っていました。ただ、あくまでもこれは『特別軍事作戦』で小規模の限定的なものとしてできるはずだったのに、NATOや米欧諸国の役割が自分たちの思っていた以上に深刻だということです」「なので、今までも言ってはいましたがその要素や、その割合が上がってきたというように、徐々にロジックを変えてきてると思います」
右松キャスター「ロシア軍の総兵力は職業軍人、契約軍人、徴兵者あわせて90万人とされています。正規軍の投入を避けて、予備役の動員を判断した軍の考えは?」
小原氏「この正規軍にどのぐらい動かせる余裕があるのかというのは、わからないというのが正直なところです」「これだけ広い領土ですからそれぞれの地域に展開している部隊はそれぞれ任務を負っているので、そこから離せない部隊もあると思います」「また今回、ウクライナに投入した部隊の多くはロシア東部から持ってきているということを考えると、西部の部隊を使いたくないのではないかという心理もうかがえます」
右松キャスター「正規軍の精鋭部隊はまだ触りたくないと」
小原氏「正規軍を投入したくないという理由は、『これは戦争ではない』という主張していることにも関わっているかもしれませんし、その他にも軍内部との関係もあるかもしれません。そこのところは明確ではありません」
右松キャスター「予備役の30万人はどのような基準で選ばれると見ていますか?」
東野氏「ここが明らかではないので、この自分も当てはまるんじゃないかと今、多くの人に疑心暗鬼になっていると思います」「『私は従軍経験がないです』と言える人は、もしかしたら関係ないと思っているかもしれないですが、この従軍経験が実は非常に柔らかく解釈される可能性がある。例えば、少しでも訓練を受けたことがある人であれば従軍経験があるとみなされる。ロシアの国内でも情報が入り乱れていて非常に混乱しているわけです」「だからこそ、自分も関係あるかもしれないと思う人でお金のある人は国外に逃亡するなど、選ばれ方がまだわからないことがさらなるパニックを引き起こしてると思います」
右松キャスター「今月に入って、ウクライナ軍はハルキウ州の一部を電撃的に奪還するなど反転攻勢を強めています。ウクライナの東部・南部も今後ウクライナ軍ペースで進むと見ていますか?」
東野氏「東部と南部は分けるべきだと思います」「今のロシア軍の動きは、アメリカやイギリスなどの衛星情報からも見て取れますが、どうやらそこまでロシア側は反転攻勢の準備ができていないようだと。東部に関してはどんどん押し込んでいるけれども、南部ヘルソンに関してはやはりまだ激戦地だということです。一部ではウクライナ軍の劣勢も伝えられている。南部に関してはやはり進度は非常に遅いですし、これから苦戦する可能性もあると思います」
右松キャスター「激戦地に今回の予備役を投入するのか否か。どのように見ていますか?」
小原氏「通常であれば、予備役を最前線に送るってことはあまり考えられないですよね。よほど追い込まれている状況でない限りそういうことはしない。普通は後方の補強基地の警備などの任務に当たらせて、そこに付いていった熟練兵を前に出すというのが普通の考え方だと思います」「ただ、ロシアの場合はどこまで追い込まれているかによって、こういう人たちを最前線に送り込む可能性はあると思います」「元々、ウクライナに侵攻した時、新しい兵が多かったと聞いていますから、ロシアはそういう部隊の使い方をするんだということです。例えば消耗戦の時に『消耗していい人たち』を先に出して消耗させるといったこともやるのかもしれません」
飯塚恵子 読売新聞編集委員「玉石混交かもしれませんが兵力増強ですよね。これによって長期化は避けられず、停戦する気がないということがはっきりしたと思います」「なぜ予備役の部分的動員をと考えると、単に反転攻勢のためというだけではなく、おそらく、プーチン氏の周辺に強硬派の人たちがいるんだと思います」「この人たちが『なんでこんなに負けているんだ』とプーチン氏を突き上げている動きもあるのではないか。今まではプーチン氏も動員は慎重だったわけですが、もう少し強硬に出ざるを得ない背景に、後ろから押している人がいるのではと。国内の権力闘争や圧力も感じます」
●プーチンからの最後通牒か。ロシア軍が謎の撤退を決定した本当の意味 9/27
ついに開戦から8カ月目に突入してしまったウクライナ紛争。領土回復に向けたウクライナ軍の猛烈な反転攻勢の前に撤退を余儀なくされたと伝えられるロシアですが、この動きについては「深読み」が必要なようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、露軍の撤退と占領地域での住民投票実施が何を意味するかを考察。さらにプーチン大統領に核兵器を使用させないためNATOサイドが徹底すべきことを提示しています。
鮮明になった世界の分断‐再び協調の時代はくるのか?
「ロシアのウクライナ侵攻を非難しているのは、世界人口のわずか36%」
Economist Intelligence Unit (EIU)が発表した結果は、世界の分断を表現していました。
ここで36%の非難を“わずか”とするのか“36%も”と見るのかは、私たちがどの視点に立って分析するのかによりますが、日々、ロシアによる蛮行のイメージが強調される情報に晒されている私たちにとっては、意図的か否かは別として、確実に「たった36%しかロシアによる侵攻を非難しないのか」とショックに感じるかもしれません。
自分たちが正しいと信じていることは、世界の過半数の支持も得られていないのかと。
以前、このコーナーでも描いた世界は、すでに3極化していると申し上げましたが、今回触れた「ロシアによるウクライナ侵攻を非難する36%」は主に欧米諸国と仲間たちです。
第2極はロシアに同調するグループで、EIUによると世界人口の32%に当たります。主にロシア、中国、イラン、北朝鮮、そしてスタン系の国々といったところでしょうか。
そして中立もしくはケースバイケースで支持するサイドを選ぶ第3極は、世界人口の32%にあたるという分析でした。トルコ、インド、中東アラブ諸国、ブラジル、南アフリカなどがこの極に含まれるとされます。
実際には、侵攻を非難する人口割合はもっと高いと思われますが、対ロ制裁を課している国々の割合を人口割合で見れば、今回、最初に挙げた36%になるのだと思われます。
EIUは「分断は予想以上に進んでいる。どうしてこうなったのだろうか?」と問いかけています。
「どうしてこうなったのか?」については分析をしておく必要があると思いますが、今回の数値をもとに結論を急ぐのは拙速な気がするだけでなく、若干の情報操作のにおいがしてなりません。
そして「では、分断の時代に何をすべきなのか?」についても議論されなくてはならないでしょう。
多くの報道で「ウクライナ側の反転攻勢がこのところうまく行っていて、それに焦りを覚えたロシアサイドが停戦協議の準備があると伝えてきた」という情報が伝えられ、「ウクライナ側は拒否した」とありますが、実際のところはどうでしょうか?
いろいろと入ってきている情報を見たうえで判断すると、嘘ではないにせよ、伝える側の意図を感じる内容であると考えます。
まず、ウクライナ側が拒絶したという点については、ここ10日間ほどの反転攻勢とロシアに侵略された東部・南部の集落の奪還が進む状況下では、ウクライナサイドは勢いに乗っていますので、現時点でロシアと公式な話し合いのテーブルにつくための心理的なベースが存在しません。
ゼレンスキー大統領が鼓舞するように「ロシアに奪われたすべての領土を取り戻すまで戦いを止めない」わけですから、ある例外的な状況を除けば、ウクライナ側に利はありません。
ではその“例外的な状況”とはどのような状況でしょうか。
それはウクライナ側が交渉ポジションとして当初から掲げる「ロシア側がクリミア半島を含め、ドンバス地方もウクライナ側に返還する」という状況ですが、これをロシア側が提案することはまずありえません。
特にクリミア半島については、プーチン大統領とその側近たちが権力の座についている限りはありません。
以前にも触れたとおり、2014年のクリミア半島併合(一方的な)は、一応「虐げられているロシア人の同胞を救う」という大義名分が立てられ、情報操作を含むありとあらゆる手を駆使し、ついには迅速に住民投票まで行って一方的にロシアに編入したという経緯があり、これは今でもロシア国民にとっては、ロシア人とロシアを守るためにプーチン大統領が発揮したリーダーシップの典型例だと信じられており、プーチン大統領の支持基盤となっています。ゆえに、クリミア半島の返還は、ロシアの中では選択肢にも入っていません。
今回、真偽は分かりませんが、仮にロシアが協議を持ち掛けたとしても、クリミア半島はもちろん、ドンバス地方も含め、ウクライナへの返還が選択肢として挙げられていないようです。
その代わりに、これも真偽が明らかではないですが、協議の内容としてテーブルに乗せられたのは、あくまでも「現状を維持した形での停戦と状況の固定化」であり、撤退・退却・返還という内容は含まれていないと思われます。
考えうるトーン的には「現状を受け入れ、かつドンバス地方で住民投票を行った結果、仮にロシアへの編入が選択された場合、ウクライナ側はそれを尊重して受け入れることを条件として停戦協議に合意する」といった感じであったようです。
ちなみにロシアサイドには、今のウクライナ“での”戦争を止めるつもりはなく、あくまでもやりきるというのが路線のようで、その証拠に、今回の戦争を“終焉させる”ために予備役を30万人単位で招集し、戦線に投入するという発表に至っているようです。
予備役の部分招集に踏み切った際には「ああ、ロシアもついに一線を越えたな。かなり困っているに違いない」と感じたのですが、各国メディアにインタビューされていた市民の声の大多数は「政府がそれを必要と考えているのであれば、仕方がないだろう」というトーンだったことには驚きましたが、同時に腑に落ちた部分もありました。
先週号でも触れたのですが、現時点まで、侵略(注:特別軍事作戦の開始)から7か月が経とうとしている今でも、多くのロシア国民にとっては、これは自らが危機にさらされるロシア人の生存のための戦いではなく、あくまでも国・政府が必要性に駆られて“よその国”で実行している戦争に“すぎない”という認識に、まだ留まっていることが理解出来た気がします。
ではいかにして“その認識”を変えるか?
その答えは、実は“プーチン大統領”絡みではありません。プーチン大統領の体制が継続するか否かに関わらず、この戦争がロシア国外で行われている限りは、大多数のロシア国民にとっては、これは“政府がどこかよその国で行っている戦争であり、私たちに直接的な害はない”という認識が変わるきっかけにはなりません。
認識を変えるには、これは起こりうる結果が恐ろしいのですが、この戦いがロシア国民にとっての“生存のための戦争”にならなくてはなりません。
言い換えれば、現在行われているウクライナによる反転攻勢が、“ロシア”の領土や人々に被害を与えるものに変わった瞬間から、認識の大きな転換が行われます。
それがウクライナ軍によって行われる反転攻勢中に発射された偶発的なミサイルのロシア領内への着弾なのか、考えづらいシナリオですがNATOによるロシア攻撃なのかは分かりませんが、【ロシアへの攻撃】は大きな認識の転換をもたらし、場合によってはロシアによる総攻撃を招くこともありえます。
ところで“ロシア領内”といった場合、現在、行われている内容を見てみたら、ちょっと背筋が寒くならないでしょうか?
ロシア政府は、2014年にクリミア半島併合を一方的に併合しましたが、その際、住民投票を強行して正当化しました。今、ウクライナ軍による反転攻勢でドンバス地方の集落の奪還が報じられていますが、ここで住民投票が行われ(ロシア側による工作によって)、ロシアへの編入が“住民の意志”として示された場合、現在、ウクライナ軍による反転攻勢は、“ロシア領”への攻撃というこじつけが可能になり、おまけにNATOとくにアメリカによって提供されているハイマースなどの武器による攻撃だと認識されたら、究極的にはプーチン大統領、ショイグ国防相、そして統合参謀本部議長が持つ“核使用の権限”に国民的なサポートが示される可能性が現実化してくるかもしれません。
住民投票を急ぐ動きがルガンスク州、ドネツク州のドンバス地方に加え、ザポロジエ州、そしてヘルソン州でも進んでいることは、同様の懸念と思惑を感じさせます。
今回の「ウクライナ軍による反転攻勢」が進む直前に、シベリア(東宝経済フォーラム時)でプーチン大統領、ショイグ国防相、そして統合参謀本部議長が会合を開いており、その後、ロシア軍が謎の撤退を行い、表向きは“再配備”と主張していますが、その“決定”がもつ本当の意味を考えたことはあるでしょうか?
この戦いを別次元に持って行き、一気に決着をつけるための前置きでしょうか?それとも、ロシアの弱体化を決定づける出来事として捉えられるべきでしょうか?または、ウクライナと、その背後にいる米国などへの“旧ソ連に手を出すな”という最後通牒的な意味合いを持つのでしょうか?
いろいろなことが考えられますが、そもそもどうしてこのタイミングで一見軍事的に“不利”にも思えるような大規模な撤退に踏み切ったのか?
そして、それに合わせて、ザポリージャ原発のみならず、南部の原発にミサイル攻撃を行うのは、どのような意図が込められているのか。
それもウクライナと欧米諸国への威嚇と最後通牒なのでしょうか?
もし威嚇ならどのような内容でしょうか?それは戦略核兵器の使用を暗示しているのでしょうか。またはエネルギーインフラの支配を通じて、ウクライナ経済と欧州経済を締め上げるという脅しなのか。
その真の意図はまた後日、明かされるとして、私自身も含め、再三語られる【ロシアによる核兵器の使用】はどれほど“現実的”なのでしょうか?
ロシア政府内はもちろん、欧米諸国の政府・軍関係者などと意見交換をしてみると、【ロシア政府が世界に示す核兵器使用の脅威は深刻に捉えられないといけないと考えますが、パニックに陥る必要はない】と言えます。
その理由として、実際にワシントンDCでも懸念されだした【プーチン大統領などを追い詰めすぎると核兵器使用に踏み切るのではないか】という内容は、NATOが直接的に対ロ戦争に参戦し、かつロシア本土に攻撃を加えるという一線を越える行動に発展しない限り、起こりづらいシナリオだと考えるからです。
ただウクライナ軍による反転攻勢にドンバス地方などのロシア系住民への蛮行が含まれることが明らかになった場合、ロシア軍による軍事行動のレベルを上げるべきだとのpublic pressureが高まり、それが核使用をプーチン大統領に求めるという図式につながる可能性は否定できません。
ロシアおよびプーチン大統領に核を使わせないようにするためには、NATOサイドは「ロシアに攻めこむ意図はない」ことを明確にクレムリン(プーチン大統領)とNATO加盟各国の国民に伝える必要があります。
現時点では、アメリカが供与するハイマースなどの高度な武器を使用する条件として「ロシア領内に越境する使用は許さない」という内容が加えられていますが、それをウクライナに守らせることと、NATOはロシアを攻撃する意図はないことを示すことを徹底することが大事です。
欧州各国は、可能性は低いとしつつも、常にプーチン大統領による核兵器使用を危惧し、かつそれによって欧州にもたらされる放射能被害への恐れが常に頭にあるようです。ただその危険性を低減させるカギを、自らの側も握っているということを国民に伝えておくことで、ウクライナでの戦争が長引いたとしても、それが自国に被害が広がってくることを食い止めるために支援の継続が必要であることを伝えることもできるようになります。
現時点では、私見ではありますが、その対クレムリンと対自国民のコミュニケーションは決してうまく行っているとは言えないと考えます。また、今でも「この戦争は政府がよそで行っている戦争」という意識から“自分事”化できていないロシア国民にメッセージを届け、コミュニケーションを図ることもできていません。
欧米諸国とその仲間たちは、非常に厳しい経済制裁をロシアに課すことで、ロシア国民にもメッセージが伝わると考えたようですが、実際には「どうせ非ロシア人にはロシアの考え方は分からない。欧米諸国はただ私たちをいじめたいだけなのだ」と考える習性があるとされるロシアの国民性ですから、意図していることは伝わってはいないと思われます。
今週はNYで国連の年次総会が開催されており、各国首脳が集って様々なアジェンダについて意見を交換していますが、ロシアに対する批判だけに終始せず、自らがどのような意図を持ち、行動するのかという方向性も明らかにし、国際社会に対して明確なメッセージを出す必要があります。
G20プロセスや国連プロセスにおけるロシアはずしや批判は、恐らくそのような重要なコミュニケーションを直接ロシアと持つための機会を逸していると感じます。
ロシア、そしてプーチン大統領が行った一方的なウクライナへの軍事侵攻は決して看過できるものではないのですが、ロシアの蛮行・愚行を止めるためには、やはり話し合いのテーブルに、equal standingで座り、意見をぶつけ合う必要があると考えます。
現時点では、欧米諸国とその仲間たちはウクライナに対する軍事支援をチャンネルとしてロシアと対立していますが、協議や和平に向けた話し合いの重要性を口にしているにもかかわらず、その機会を自ら拒否しているように見えます。
意見が平行線をたどって、合意の糸口が見えなかったとしても、「一応、ロシアの考えは聞いた。こちらの考えも面と向かって伝える」という姿勢を打ち出すことが非常に重要だと考えます。
しかしできないのだとしたら…一体、皆、どのような意図を隠し持っているのか、とても勘繰ってみたくなります。
国連の役割自身は、今回の紛争解決にはさほど期待できないと思いますが(そして個人的には悲しんでいますが)、話し合いの場を提供すること、そして振り上げてしまった拳を下すためのきっかけを作ることはまだまだできるでしょうし、それは国連に向いている方策だと考えます。
それが国連にできるのであれば、今年の総会は思いのほか、“いい仕事”をすることができるかもしれません。
もう後戻りできないとさえ感じる世界の分断を、国連総会に皆が集うこの機会に、再度、協調の機運を高める機会に変えることが出来るか。
個人的にはまだ期待を寄せたいと思います。以上、国際情勢の裏側でした。
●国外へ脱出の動きやまず “盟友”のゲキにプーチン氏は 9/27
あたりが暗い中、現れた車。中から出てきた男は、何かを手に取って建物に近づいた。
そして、あたりに真っ赤な光が。男が投げたのは火炎瓶。その後、何度も建物に投げ入れた。場所は、ロシア南部の部分的動員令で招集された人たちが集められる事務所。こうした施設への放火は、動員令の発令から5日間で17件にのぼっている。
一方、別の施設では、招集された男性を涙ながらに見送る家族たち。中には招集直前に結婚した男女もいるが、表情は暗いまま。
現地の報道では、ロシア政府は予備役対象の男性を28日にも出国禁止にする方針。
そんな中、撮影された衛星写真。道路にずらりと延びているのは車の行列。場所はジョージアとの国境付近。ロシアから脱出しようとしている人たちであふれかえり、出国まで48時間待ちの事態になっている。
そうしたタイミングで、プーチン大統領のもとを、盟友のベラルーシのルカシェンコ大統領が訪問した。今のプーチン氏にとって、国際社会での数少ない味方だが、会談ではこんな言葉を...。ベラルーシ ルカシェンコ大統領「ロシアには2500万人の予備役がいる。3万人だろうが5万人だろうが、逃げるなら逃げてしまえ」この言葉に、プーチン大統領は、黙ってうなずくだけだった。
●「必要あれば核兵器を使う権利ある」ロシアのメドベージェフ前大統領 9/27
ロシアのメドベージェフ前大統領は27日、「ロシアは、必要があれば核兵器を使う権利がある。これは決して脅しではない」とSNSに投稿した。ロイター通信などが報じた。
メドベージェフ氏は、国の存続が脅かされれば「ロシアが核兵器を使うことは大統領が最近、明らかにした通りだ」と言及。また、ロシアがウクライナを核攻撃したとしても、「北大西洋条約機構(NATO)はこの紛争に直接介入してこないだろう。NATOにとっては誰にも用のない死に行くウクライナより、自分たちの安全の方がずっと重要なのだから」と記した。
ロシアのプーチン大統領は21日の国民向けのビデオ演説で、ロシアが「(欧米から)核の脅威にさらされている」として、核兵器の使用も辞さない考えを改めて示していた。一方、米国のサリバン大統領補佐官が25日、ロシアが核兵器の使用に踏み切った場合、「ロシアにとって破滅的な結果になる」と警告した。

 

●プーチンの核威嚇にたじろぐバイデン政権、「軟弱」対応に米国内で批判 9/28
ロシアのプーチン大統領がウクライナでの戦闘で核兵器を使うかもしれないと示唆したことが、米国で激しい反発を呼んだ。だが米国のバイデン政権は、ロシアが小型戦術核を使用する可能性に対して、ただ「止めろ」という声を上げるだけで、実際にどのような報復や抑止の手段をとるかについては言及しないままである。
バイデン政権の具体策に触れない態度が、プーチン大統領の核の脅しの効果をさらに高めるのではないかという懸念も、米国では広がりつつある。
「はったりではない」と脅すプーチン大統領
プーチン大統領は9月21日のロシア国内での全国向け演説で、ウクライナでの戦闘への「部分的な動員令」を宣言するとともに、「ロシア領土の保全への脅威に対しては、あらゆる武器を使ってでも防衛する。これは、はったりではない」と語った。
この「あらゆる武器」は核兵器をも含むという示唆だとの受け止め方が一般的だった。米国でも「プーチン大統領の新たな核兵器行使の威嚇」として大きなニュースとなった。
とくにプーチン大統領はこの演説で、「北大西洋条約機構(NATO)の首脳たちはロシアに対して最悪の場合、核兵器を使用してもよいと考えているようだが」とも述べた。この発言が事実に立脚していないとしても、核兵器という言葉をはっきりと口にしたことは、演説の迫力を増す結果となった。その後に出てきた「あらゆる武器を使ってでも」という言葉に、当然、核兵器が含まれるのだという見方を強くしたわけである。
プーチン大統領はウクライナ侵攻開始直後の2月24日にも核兵器使用を示唆している。この際は、米側の介入を防ぐための威嚇と解釈されたが、それから7カ月近く経った今、ウクライナでの戦況がロシアに不利となった段階での核使用示唆は、より現実的な言明として受け止められた。つまりロシアは、ウクライナでの戦況を有利にして、ロシア領だと宣言した南部各州を確保するために、戦術核兵器の使用も辞さないと威迫している、というわけだ。
プーチン大統領は今回の言明で「はったり(英語では“bluff”)ではない」と強調した。“bluff”とは、実際にはその意図がなくても、危険な行動をとるぞと言って脅かすことを意味するが、今回は、ウクライナでの戦闘でロシア軍が守勢に立った状況などから戦術核兵器使用の可能性は前回よりずっと高いとみられる。
「軟弱すぎる」バイデン政権の対応
米国ではバイデン政権のジョン・カービー報道官が「プーチン大統領がウクライナで敗北しつつある際にこんな言辞を述べるのは危険な前例になる」と批判した。同報道官は「プーチン大統領の言明は無責任であり、誰も得をしない」とも述べ、ロシア側の戦略核兵器態勢に今のところ変化はないことも明らかにした。だが米国側がどう対応するかについては、具体的な言及はなにもなかった。
公の場でのバイデン大統領自身の対応は、プーチン大統領の核兵器使用の可能性に対して「止めろ、止めろ、止めろ。そんなことをすれば第2次世界大戦以来の戦争の様相を変えてしまう」と発言するだけだった。
米国ではバイデン政権のこうした反応について多方面からの批判が噴出した。
外交関係評議会の上級研究員で著名な戦略問題専門家のマックス・ブート氏は、9月21日付のワシントン・ポストに「プーチンにはったりをかけさせるな」という見出しの寄稿でバイデン政権の対応を軟弱すぎると批判した。
ブート氏は、「ロシアの核の脅しに米国が抑止効果を有する反応を示さなければ、プーチンはウクライナ国内で戦術核の行使をするかもしれないという、さらなる威嚇でウクライナ戦で優位に立つだろう」と述べた。その上で具体的な対応戦略として、「もしロシアが戦術核兵器を使用したら、米国は少なくともNATO諸国の軍隊を動員してウクライナ領内のロシア軍に通常兵器により総攻撃をかけることを宣言すべきだ」と提案した。「核には核」の対応でなくても抑止効果のある反撃宣言はできるという考え方である。
戦略問題の権威とされる評論家デービッド・イグネーシアス氏も、ワシントン・ポスト(9月23日付)への寄稿論文で、バイデン大統領が繰り返した「止めろ」という表現はプーチン大統領に対する警告でなくて、懇願だと厳しく批判した。相手に特定の行動をとらないよう頼むという態度は、プーチン大統領を増長させ、その種の脅しがさらに効果をあげるのだ、とも同論文は説いていた。そのうえでイグネーシアス氏は「1962年のキューバ・ミサイル危機で当時のケネディ大統領がソ連に対してとった強固な態度から、バイデン氏も学ぶべきだ」と訴えていた。
保守系の有名な政治評論家のペギー・ヌーナン氏はウォール・ストリート・ジャーナル(9月24日付)への寄稿論文で、「プーチンの脅しを軽視するのは間違いだ」と題して、やはりバイデン政権への批判を表明した。同論文は、プーチン大統領がウクライナ国内の戦闘での小型の戦術核兵器の使用を、米側の推測よりもっと現実的な手段として考えているとみて、バイデン政権がプーチン言明を「はったりとみるのは間違いだ」と警告していた。
米国内部でのこうした批判は、バイデン政権が「ロシアの戦術核兵器使用は米国とロシアとの戦略核兵器での対決へとエスカレートし得る」とみて慎重な姿勢をとっているのに対して、ロシア側は「地域限定の小型核兵器の使用は米国との全面衝突を意味しない」という認識を保っているというギャップに焦点を合わせた論調が多いようである。いずれにしてもウクライナでの核問題はなお重大な危険を秘めたままと言えよう。
●核恫喝も見透かされ、終わりが近づいたプーチンの政治生命 9/28
9月6日に開始されたウクライナ軍の反転攻勢により、ウクライナ軍は、5日間でハルキウ州のほぼすべてを奪還した。
ロシア軍は、戦車や装甲車、武器、弾薬を捨てて遁走した。
依然として部隊の連携に欠陥があり、大義のない戦いに無理やり駆り出された士気の低いロシア軍が、この戦局を逆転することは極めて困難であると筆者はみている。
さて、今回のウクライナの軍事的大勝利はウラジーミル・プーチン大統領を窮地に追い込んだ。
残虐行為で知られる「カディロフ部隊」をウクライナに派遣しているチェチェン共和国のカディロフ首長は9月11日、作戦に「間違いがあった」とロシア軍を批判した。
また、ロシア国内でもプーチン大統領を批判する声が上がり始めている。
モスクワの区議グループは9月9日、ウクライナ侵攻の責任を問いプーチン大統領の辞任を求める要望書を公表した。
サンクトペテルブルクでも議員グループが9月7日、「プーチン氏の行動は、ロシアの安全保障を脅かしている」として辞任を求める要望書を公表した。
また、9月16日に開催された印ロおよび中ロ首脳会議では、インドと中国がウクライナ戦争に関する懸念を表明した。
「非西側諸国間の結束」を目指しているプーチン氏にとって大きな打撃となった。
また、思いもよらぬロシア軍の敗北に狼狽したプーチン氏は、9月21日、30万とも言われる予備役の部分的動員令を発令した。
これに対して、抗議デモがロシア全土に広がった。
さらに、占領された領土の奪還を目指して攻勢を続けるウクライナ軍の機先を制するために、プーチン氏は、ウクライナ東・南部4州でロシアへの編入に向けた「住民投票」を従来予定の11月から前倒しで9月23日から実施した。
これに対して、G7首脳は、住民投票は、ウクライナが主権を有する領土の地位を変更するための偽りの口実を作るためのものであり、また、これらの行為は国連憲章および国際法に明確に違反し、国家間の法の支配に正面から反するものであると厳しく非難した。
このように、ロシアの国際社会からの孤立化がさらに進んだ。
ところで、内憂外患を抱え、正念場にあったプーチン氏は、大きなミスを犯したと筆者はみている。
それは、極東ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでの演説(9月7日)である。
同演説で、プーチン氏は、「ロシアはウクライナでの特別軍事作戦で何も失っていない」と述べた。
ロシア軍の戦死者は、ロシア当局が戦死者数を発表していないので詳細は分からないが1万〜5万人と言われている。少なくても1万人のロシア国民が戦死しているのに「何も失っていない」とは、兵士の命を軽視しているとしか思えない。
この演説でプーチン氏が国民の信頼を失ったことは紛れもない。
ロシア国民がプーチン氏のために死にたくないと思うのは当然であり、今後、ロシア軍の士気は決して高揚することはないであろうと筆者はみている。
ところで、ロシアをあまり追い詰めると、核兵器を使用するのではないかという懸念が生じる。
筆者は米国をはじめとするNATO(北大西洋条約機構)30カ国の通常兵器と核兵器は、ロシアの核使用を思いとどまらせているとみている。その理由などは後述する。
以下、初めにウクライナ軍の反転攻勢成功の要因について述べ、次にプーチン大統領に対する国内の反発について述べ、次にロシアの国際社会からの孤立について述べ、最後に米・NATO加盟国が、ロシアの核使用を抑止している理由について述べる。
1.ウクライナ軍の反転攻勢成功の要因
ウクライナ軍は8月下旬、南部へルソンへの大規模反撃作戦があるように見せかけ、東部のロシア軍の南部への移動を誘い、手薄となった東部に奇襲をかけ、一気に東部を制圧した。
いわゆる陽動作戦の成功である。
ロシア軍が人員や物資を戦線に送る拠点として利用していた東部の交通の要衝イジュームの奪還は、今後の軍事作戦の成否に大きな影響を及ぼすだけでなく、プーチン政権にも大きな打撃となった。
ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の解放というロシアの特別軍事作戦の目的の達成の見込みが立たなくなったからである。
筆者は、今回のウクライナの反転攻勢は、プーチン氏のモスクワ不在の時を狙うなど用意周到に準備されていたとみている。
プーチン氏は、9月1日の最西端の飛び地カリーニングラード訪問に続き、5日は極東カムチャツカ半島に滞在し、6日にはウラジオストクで、中印も参加した大規模軍事演習「ボストーク(東方)2022」を視察した。
7日には極東のウラジオストクで、国際経済会議「東方経済フォーラム」の全体会合に出席・演説し、9月16日にはウズベキスタンのサマルカンドで印ロおよび中ロ首脳会議に参加した。
ウクライナ軍は9月6日に反転攻勢に出た。まさに絶妙なタイミングであり、プーチン氏は虚を突かれたのである。
次にウクライナ軍の反転攻勢を成功に導いた諜報機関による偽情報作戦について述べる。
偽情報(Disinformation)とは、意図的に作成・拡散された虚偽もしくは不正確な情報をいう。
偽情報作戦とは、敵を間違った方向に誘導するために意図的に偽情報を拡散させることをいう。
   偽情報作戦その1
「8月29日、ウクライナ南部軍司令部のナタリア・フメニウク報道官は、ロシア軍に対する反撃をヘルソン地域を含む同国南部で開始したと発表した。ブリーフィングで、最近のロシア南部の物流ルートへの攻撃により、『敵国は紛れもなく弱体化した』と指摘。ただ、新たな攻撃に関する詳細については言及を避けた」(出典:ロイター8月29日)
   偽情報作戦その2
「ウクライナはロシア軍が占領する南部の要衝ヘルソン市奪還に向け同市の周辺で反攻を開始、激しい戦闘を繰り広げている。ウクライナ大統領府が明らかにした。ウクライナ南部軍司令部によると、ウクライナ軍は前線の複数の地点で29日に反攻を開始、ヘルソン地域周辺のロシア軍拠点を砲撃した。ロシア国防相は声明で、ウクライナ軍の攻撃を認めた上で、作戦は『悲惨な失敗』に終わったとした」(出典Bloomberg News8月31日)
ロシア軍は、この(偽)情報に対処するため、東部戦線の兵力を南部に移動させ北東部の要衝ハルキウなどの防衛が手薄にならざるを得なかった。
また、ウクライナ軍のハルキウ付近の部隊が大規模な作戦を準備しているという情報がロシア側に漏れないように徹底的に情報統制した。
それとともに、地元民を装っているロシアのスパイに「ウクライナ軍は攻撃の準備ができていない」という偽情報をつかませてロシア側に伝えさせていたという。
こうして9月6日ウクライナ軍が不意急襲的に東部戦線に攻勢を開始すると、不意をつかれたロシア軍はほとんど抵抗しないまま逃走したのである。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8日夜のビデオ演説で、この1週間で同国南部と東部の1000平方キロメートル以上の領土をロシア軍から奪還したと発表した。
2.プーチンに対する国内の反発
   (1)国家主義思想家の娘に対するテロ
ロシアのプーチン大統領の世界観に大きく影響したとされる国家主義思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリヤ氏(29)は車で帰宅中、8月20日夜、モスクワ近郊で車が爆発したため死亡したという。
ドゥーギン親子は20日夜の会合から帰宅中だった。当初は同じ車に同乗する予定だったが、直前になってドゥーギン氏は娘と別の車に乗ることにしたと、ロシア・メディアが伝えている。
このため「プーチンの脳」とも呼ばれるドゥーギン氏を対象にした攻撃だった可能性が、指摘されている。
ウクライナ侵攻を支持するドゥーギン氏は2015年、ロシアによる2014年のクリミア併合に関与したとして、米国の制裁対象に加えられた。
ドゥーギン氏はかねてロシアは国際社会でもっと自己主張し積極的に活動すべきだと主張していた。
今回の犯人については、諸説ある。
ロシア連邦保安庁(FSB)は事件の翌々日には「犯人はウクライナ諜報機関が放ったナタリヤ・ヴォーフクという工作員だ。彼女はドゥーギン氏の娘ダリヤ氏を殺害したその足で、エストニアに出国した」と写真付きで発表した。
しかし、その手際の良さでかえって疑われる羽目となった。
また、「この事件はFSBの自作自演だ。国内引き締めの口実にする魂胆だ」という説もある。
一方、ロシア人によるテロだという説もある。野党指導者の一人、イリヤー・ポノマリョフ氏は、「民族共和軍」なる組織が関与したものだと公言している。
この「民族共和軍」という存在は、今回初めて表に出たもので、その実体については何も情報がない。
筆者の憶測であるが、大義なき侵略戦争に駆り立てるアレクサンドル・ドゥーギン氏に対するロシア人によるテロではないかとみている。
   (2)予備役の部分的動員に対する反発
プーチン大統領は9月21日、予備役を部分的に動員する大統領令に署名したとテレビ演説で発表した。
演説の中で「東部ドンバス地域を解放するという主な目的は今も変わっていない」と述べ、ウクライナ侵攻を続ける考えを改めて強調した。
プーチン大統領に続けて演説したショイグ国防相は、侵攻開始から死んだロシア兵の数を「5937人」と説明した。その上で「30万人の予備兵の招集を検討している」と述べた。
予備役の部分的動員に抗議するデモがロシア全土に広がった。
ロシアの人権団体は、9月22日、38都市で1400人を超える市民らが警察当局に拘束されたと発表した。
9月24日、32都市で計760人超が拘束された。デモ参加者は、「プーチンために死にたくない」「プーチンを戦場に送れ」などと叫んでいる。
ロシアによるウクライナ侵攻が発表された2月24日、国内外で「反戦デモ」が同時多発的に発生したが、プーチン政権は首都モスクワで機動隊を投入し、参加者を拘束するなど素早く弾圧した。
プーチン政権は、今回も動員への国民の反発は限定的とみて、デモを力で押さえ込み、予備役の部分動員を予定通り進めると見られる。
しかし、ロシアから出国する航空券が売り切れになったり、ロシア国境に出国待ちの長い車列ができたり、予備役招集から逃れようとロシア国民の国外脱出が加速している。
   (3)ウクライナとの捕虜交換に対するロシア国内の反発
ウクライナのゼレンスキ―大統領は9月21日、ウクライナとロシアの間で捕虜交換が行われ、外国人兵士10人を含む215人が解放されたと発表された。
ロシア側は55人の兵士が解放された。
ロシアが解放した215人の捕虜の中には、ウクライナの港湾都市マリウポリの防衛を指揮し、ロシアに対する抵抗の象徴となった「アゾフ連隊」の司令官数人が含まれていた。
一方、ウクライナは、215人と引き換えに、55人のロシア軍兵士とウクライナの親ロ派政党の指導者、ビクトル・メドベチュク氏を解放した。
メドベチュク氏はロシアのプーチン大統領と親しい関係にあることが知られている。
2014年にウクライナ東部の分離独立運動で親ロシア派勢力を率いた元諜報員、イゴール・ガーキン氏は、アゾフ連隊司令官の解放は裏切り行為だと主張。
プーチン氏が9月21日に予備役の動員を命じたことに関連し、動員されるロシア人への侮辱になるとの見方も示した。
同氏は、解放は「犯罪より悪い」とし、「信じられないほどの愚かさだ」と断じた。
戦争支持を表明するブロガーらも政府批判に加わっている。
3.ロシアの国際社会からの孤立
   (1)ロシアの国連人権理事会の理事国としての資格を停止
国連本部で4月7日、第11回国連総会緊急特別会期(注1)が開催され、ウクライナの首都近郊のブチャなどで多くの市民の遺体が見つかったことを受けて、米国などが提出したロシアの国連人権理事会の理事国としての資格を停止するよう求める決議案の採決が行われた。
採決の結果、欧米や日本など合わせて93か国が賛成し、ロシアのほか中国や北朝鮮など24か国が反対、インドやブラジル、メキシコなど58か国が棄権し、棄権と無投票を除いた国の3分の2以上の賛成で、決議が採択された。
国連人権理事会の理事国の資格が停止されるのは、2011年に反政府勢力を武力で弾圧していたカダフィ政権下のリビアが停止されて以来、2例目である。
ジョー・バイデン米大統領は声明を発表し、採択を歓迎するとともにロシアの責任追及を続けていく考えを次のように強調した。
「プーチンの戦争がロシアを国際的なのけ者にしたことを改めて示す、国際社会による意味のある一歩だ」
「ロシアは国連人権理事会にいるべきではない。残虐行為の責任をロシアにとらせるために今後も各国とともに証拠を集めていく」
(注1)現在進行中のロシアのウクライナ侵攻を議題として、国際連合総会の第11回緊急特別会期(emergency special session:ESS)が、2022年2月28日から開催されている。第11回ESSのこれまでの決議案は、ES-11/1(ウクライナに対する侵略)、ES-11/2(ウクライナに対する侵略がもたらした人道的結果)および今回のES-11/3(人権理事会におけるロシア連邦の理事国資格停止)の3つである。
   (2)モディ首相および習主席のウクライナ戦争に対する懸念の表明
9月15〜16日にウズベキスタンのサマルカンドで行われた上海協力機構(SCO)の首脳会議に合わせて実施された印ロおよび中ロ首脳会議は、ロシアが国際社会からさらに孤立していることを如実に示した。
インドのモディ首相は冒頭、ウクライナ問題を念頭に「今は戦争の時代ではない」と述べ、外交的手段での解決を求めた。
プーチン氏は「ウクライナの紛争へのあなたの立場と懸念は承知している」とし、「早期に終えるよう全力を尽くす」と述べたが、「ウクライナ側が交渉を拒否している」と強調した。
中国の習近平国家主席は、「世界や時代、歴史が変化に直面する中、中国はロシアと協力し、大国の責任を示す上で主導的な役割を果たすと同時に、混乱する世界に安定と前向きなエネルギーをもたらす考えだ」と語った。
プーチン大統領は、一極集中化の世界を目指す米国の試みは失敗に終わるという見方を示した上で、「ウクライナ危機に関して、中国の友人たちのバランスの取れた姿勢を高く評価している」とし、その上で「この件に関する中国側の疑問や懸念を理解している」と述べた。
プーチン氏が、インドと中国のウクライナ戦争に対する懸念についていて言及したのは初めてである。
ウクライナ侵攻後、インド、中国をはじめとして非西側諸国との間で結束を高めようとしているプーチン氏に大きな打撃になったと筆者はみている。
また、筆者の憶測であるが、インド・中国の両首脳、特にモディ首相は、ロシアの核使用に対する懸念を述べたであろう。
   (3)ラブロフ露外相の安全保障理事会からの退席
9月22日、国連安全保障理事会閣僚級会合では、プーチン露政権が30万人規模の予備役を動員し、占領下のウクライナ4州で露編入を問う「住民投票」を行うと発表したことや、ロシアが核兵器の使用を示唆したことへの非難が続出した。
このような中、ロシアのラブロフ外相は自分の演説直前に会場入りし、「ウクライナのネオナチ政権はロシア人とロシア語を話す人々の権利を踏みにじっている。彼らを保護するための特別軍事作戦の実施は不可避だ」などと持論を展開し、演説が終わるとすぐに会場を後にした。
各国とは議論はしないというこのラブロフ氏の姿勢は、常任理事国としての責任を放棄し、国際の平和と安全に主要な責任を持つのが安全保障理事会の役割を冒涜するものである。
会場から退席するラブロフ氏の姿は、かつて国際連盟の議場から退場する松岡洋右日本代表の姿と重なる。筆者は、ロシアの国際的孤立が一層深まったという印象を持った。
   (4)ロシアの戦争犯罪に対する国際社会の非難
4月3日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外ブチャで民間人とみられる多くの遺体が見つかったことに関し、欧州主要国はロシアを一斉に非難した。
民間人虐殺は「戦争犯罪」と断じ、捜査に協力する姿勢を示した。
7月15日、米国務省は、大量虐殺や残虐行為の防止に関する年次議会報告書を発表し、ウクライナに侵攻したロシア軍が戦争犯罪を行っていると非難した。
報告書は、ロシア軍が投降しようとしたウクライナ人の手を縛るなどして処刑・拷問し、市民を強制移住させたり、性的暴行を加えたりしているとの報告があると指摘した。
9月23日、ウクライナでの人権状況を調べていた国連人権理事会が設置した独立調査委員会は「ウクライナで戦争犯罪が行われた」と結論づける報告書を発表した。
市街地での無差別爆撃や処刑、拷問のほか、4歳の子供への性的暴行などを確認したという。
4.ロシアの核使用を抑止しているNATO
   (1)過去のプーチンの核兵器に関する発言
1 2018年のドキュメンタリーでプーチン大統領は、「ロシアを全滅させようとする者がいるなら、それに応じる法的な権利が我々にはある。確かにそれは、人類と世界にとって大惨事だ。しかし私はロシアの市民で、国家元首だ。ロシアのない世界など、なぜ必要なのか」と発言した。
2 2022年2月24日のウクライナ侵攻直前の19日には戦略核兵器を使った「戦略抑止力演習」に踏み切り、相対的に威力の小さい戦術核兵器まで動員しての大規模な演習を実施した。
3 2月24日、プーチン氏は、国営テレビを通じてロシア国民向けに「ウクライナ政府によって虐げられた人々を保護するため、『特別な軍事作戦』を実施することを決定した」と演説した。
同じ演説の中で「ロシアは、ソ連が崩壊したあとも最強の核保有国の一つだ。ロシアへの直接攻撃は、敗北と壊滅的な結果をもたらす」と述べ、核使用をちらつかせて米欧を強く牽制した。
4 2月27日、プーチン氏は、ショイグ国防相、ゲラシモフ軍参謀総長に対し「NATO側から攻撃的な発言が行われている」と述べ、核抑止力部隊に高い警戒態勢に移行するよう命じた。
5 9月21日、プーチン氏は、予備役の部分的動員を発表するテレビ演説で次のように語った。
「ロシアもまた様々な破壊手段を保有しており、一部はNATO加盟国よりも最先端のものだということを思い出させておきたい」
「わが国の領土の一体性が脅かされる場合には、ロシアとわが国民を守るため、われわれは当然、保有するあらゆる手段を行使する。これは脅しではない」
「ロシア国民は確信してよい。祖国の領土の一体性、われわれの独立と自由は確保され、改めて強調するが、それはわれわれが保有するあらゆる手段によって確保されるであろう」
「核兵器でわれわれを脅迫しようとする者は、風向きが逆になる可能性があることを知るべきだ」
   (2)米国高官のロシアの核兵器の使用に関する発言
1 2月28日、米国防総省高官は記者団に対し、ロシアのプーチン大統領による核部隊の戦闘警戒態勢命令を巡り、ロシア側の特筆すべき具体的な動きは確認できていないとした上で、米欧側の核抑止力に自信を示した。
2 9月18日、バイデン米大統領は、放映の米CBSテレビのインタビューで、ウクライナ侵攻で劣勢に立たされているロシアが化学兵器や戦術核兵器を使えば、米国も対応策を取り「重大な結果を招くことになる」と警告した。
「ロシアが何をするかによって対応策を決める」と述べ、具体策は明らかにしなかった。
バイデン氏はロシアのプーチン大統領が化学兵器や戦術核を使用すれば「第2次大戦後なかった状況へと戦争を変質させる」と指摘し「使ってはならない」と3回繰り返し、使用に踏み切れば、ロシアはさらに国際社会で孤立するとけん制した。
3 9月22日、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、9月21日のプーチン大統領の「我々の保有するあらゆる手段を行使する。これは脅しではない」とする演説について、米CNNテレビのインタビューで次のように語った。
「プーチン氏のあらゆる脅しを真剣に受け止めている」
「できる限り(ロシアを)監視している。米国の戦略的抑止態勢を変える必要があるような兆候は今のところ見られない」
4 9月22日、ベルギーのNATO本部に駐在する米国のスミスNATO大使は、9月21日のプーチン大統領のテレビ演説について、NATO本部でNHKの単独インタビューに応じ、次のように述べ、ロシアを牽制する姿勢を示した。
「現時点では、核戦力についての非常に危険で事態の悪化につながりかねない発言を耳にしているにすぎない。ロシアの状況を注視しているが、今のところ特段の変化は見られない」
「ロシアが核戦力の使用に踏み切った場合、われわれは準備ができている」
   (3)米国のロシアの核戦力の監視体制
全米科学者連盟の核情報プロジェクト責任者であるハンス・クリステンセン氏はニューズウィーク誌に対し、次のように語った。
「米情報当局はロシアの核兵器保管施設を監視しており、核弾頭がトラックやヘリコプターに積み込まれたり、核兵器を扱うための特殊訓練を受けた部隊の活動が活発化したりした場合に、それを検知することができる」
「これらの活動は、プーチンが短距離核戦力による攻撃の準備に着手したことを示すものとなる」
「一方で、地上型の移動式発射台、ミサイル潜水艦や巡航ミサイルの移動が通常よりも増えた場合には、長距離核戦力が使用される可能性があると予測できる」
「核兵器の指揮統制システムや通信全般における検知可能な活動が増えることからも、何かが起きていることがうかがえる」
「今年2月末には、核戦力を含む核抑止部隊を、任務遂行のための高度な警戒態勢に移行させると言った。だが当時はプーチンが核攻撃の準備を行っていることを示す動きはみられなかった」
「今回も米当局者たちが前回同様にロシアの動きを観察し、脅威がどれだけ差し迫ったものか否かを明らかにすると期待している」
「また米側も1000発近い核兵器を数分以内に発射できる態勢にあるため、プーチンが核攻撃を行っても、すぐに反撃できる」
   (4)筆者コメント
米国は、ロシアのウクライナ侵攻開始時から、ロシアの核戦力を完全に監視していることは間違いない。
そして、「ロシアに核戦力の使用の兆候がない」と公表し、米国の監視能力の高さを誇示し、ロシアを牽制している。
また、米軍は大統領からの命令があった場合、これに数分内に応じるため保有する弾道ミサイルの一部を高度な発射態勢の状態に置いていると筆者はみている。
常時監視と即応態勢の維持が米国のロシアに対する核抑止力の自信となっている。
さらに米国は、2月24日のロシアのウクライナ侵攻開始以降、長い時間をかけて、ロシアの核の恫喝への対抗策を検討してきたに違いない。
そして、ロシアが核兵器を使用すれば、米国をはじめNATO加盟国の30カ国は、ロシアとの武力による全面対決を辞さない、必要ならば核兵器を使用するとの覚悟を決めたのであろうと筆者はみている。
これはバイデン大統領の、米国も対応策を取り「重大な結果を招くことになる」という警告に現れている。
そして、米国は、その決意をウクライナ側に通知している。そのことは、プーチン氏の「核兵器でわれわれを脅迫しようとする者」という発言に現れている。
また、8月のウクライナ軍のクリミア半島への攻撃に対して、すなわちロシアのいうロシア領土への攻撃に対して断固とした対応策を取れなかったことで、プーチンの核使用の恫喝がブラフであることが露呈した。
これで米・NATOの通常戦力および核戦力にロシアは完全に核の使用を抑止されてしまったと筆者はみている。
ところで、筆者は核戦争の瀬戸際まで近づいたキューバ危機で、米国がいわゆる“核のチキンレース”で旧ソ連に勝利できたのは、米国ではスタッフが集団となって解決策を求めたからだという論考を読んだことがある。
独裁者が一人で核の使用を決定するプレッシャーは相当のものであろう。狂人でない限りそれは不可能である。
プーチンが狂人でないことを願っている。
おわりに
筆者は、拙稿「嘘だらけのプーチン歴史観、ロシアの対独戦勝は米国のおかげ」で、今回のウクライナ戦争でロシアを敗戦国の立場に追いやり、ロシアの常任理事国の地位を剥奪するとともに国連安保理改革につながることを願っていると述べた。
その考えは今も変わっていない。
現時点では、祖国防衛に燃え士気の高いウクライナ軍と大義がない戦いに無理やり駆り出された士気の低いロシア軍との勝敗はすでに明らかである。
しかし、プーチン氏は、予備役の動員を行い戦争のさらなる長期化も辞さない姿勢を見せている。以下、いくつかのシナリオを考えてみた。
現在、プーチン政権は窮地に陥っている。
プーチン氏が大義のない戦争を始めた。短期で終わると思っていた戦争が長期し、ウクライナ軍の予想外の頑強な抵抗を受け、何万人ものロシア兵が戦死した。
ロシア軍は深刻な兵員不足に陥り、兵員を補充するために予備役の動員令を発動した。これが国民の反発を呼び、反対するデモがロシア全土に広がった。
プーチン氏は、国内治安部隊を使って反対勢力を弾圧するが、事態はさらに悪化した。そして、国民の信頼と支持を失った。
一方、ウクライナ軍の攻勢の勢いはとどまらず、住民投票でロシアに併合した東部と南部の4州が奪還されそうになる。
そして、プーチン氏は、核使用の可否をめぐり側近と対立するようになり、ついに側近によるクーデターによりプーチンは失脚する――。
これは、筆者が理想とするシナリオである。
次に、停戦合意の可能性であるが、現在、戦いを有利に進めているゼレンスキー大統領は、クリミアの返還を要求するであろう。
プーチン氏がこの要求を呑むとは思えない。当分停戦合意の可能性はない。
次に、戦争の長期化である。
ウクライナの反転攻勢の直前には戦線は膠着状態にあり「消耗戦」の様相を呈してきたと言われていた。
戦局は一夜にして逆転するものである。ロシアが兵員を増強し、軍の体制と態勢を立て直し、また「消耗戦」の様相を呈するようになるかもしれない。
その時、プーチン氏は、天然ガスを「武器」に欧州の結束に揺さぶりをかけようとするであろう。
プーチンの揺さぶりに対して、米・NATO加盟国が結束し、ウクライナへの軍事支援を継続できるかが、ウクライナの軍事的勝利のカギとなる。
●ウクライナ4州の「住民投票」終了、露併合に暫定で「賛成約90%」… 9/28
ロシアのタス通信によると、ウクライナの親露派勢力は27日、東部・南部の計4州でロシアへの一方的な併合に向けて行ってきた「住民投票」が終了し、暫定結果として、4州とも「約90%が併合に賛成した」と発表した。ロシアや親露派が、併合の正当性を主張するため結果を操作しているとみられる。プーチン露大統領が30日にも露議会で演説し、併合を宣言する可能性が強まった。
親露派勢力は「住民投票」を東部のドネツク州、ルハンスク州と南部のザポリージャ州、ヘルソン州で23日から強行してきた。26日までは親露派関係者による戸別訪問で進めてきたが、最終日の27日は各所に設置された投票所で実施した。親露派は、同日午後4時(日本時間27日午後10時)に投票を終了したと発表した。
各州の親露派勢力は26日夜までに、「住民投票」の成立要件となる「投票率50%」を上回ったと主張している。
ウクライナ側は、「住民投票」を認めておらず、住民への圧力や不正が行われていると強く非難している。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は26日夜の国民向けビデオ演説で、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)が「我々の第1の目標だ」と述べ、奪還する意思を改めて強調した。
●ウクライナが奪還した東部ハルキウ、ロシアが「報復」攻撃…インフラ施設 9/28
ロイター通信によると、ロシア軍は27日、ウクライナ軍に奪還された東部ハルキウ州を攻撃した。州都ハルキウの市長は同日、計4回の攻撃でインフラ施設が損傷し、市内の一部で停電が起きているとSNSで明らかにした。
ウクライナ当局は、ウクライナ軍の反転攻勢で支配地域からの撤退を余儀なくされた露軍による報復との見方を示している。地元メディアによると、南部オデーサ州でも同日、露軍によるミサイル攻撃があり、ウクライナ軍が2発を迎撃した。
ロシア通信は同日、親露派の話として、露軍が占領している東部ルハンスク州で、ロシアへの併合を問う「住民投票」が実施された23〜27日にウクライナの武装勢力から計17回の砲撃があり、民間人15人が犠牲となったと報じた。
●ノルドストリームガス漏れ、破壊工作か 欧州が原因究明急ぐ 9/28
ロシアから欧州に天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」で発見されたガス漏れについて、ドイツ、デンマーク、スウェーデンは27日、破壊された可能性に言及した。ただ、不明な点が多く、欧州は原因究明を急いでいる。
ドイツのハーベック経済相は、ガス漏れはガス管を狙った攻撃によるもので自然現象や消耗が原因ではないことは確かだと述べた。
デンマークのフレデリクセン首相とスウェーデンのアンデション首相は意図的な行為によるもので、恐らく破壊工作との認識を示した。ポーランドのモラウィエツキ首相は、証拠を示さずに破壊工作と断言した。
ロシアはウクライナ侵攻を巡る西側諸国の制裁に反発し、ノルドストリーム経由のガス輸出を削減してきた。両パイプラインは現在稼働していないが、冬が到来する前にノルドストリーム1が欧州へのガス供給を再開するとの期待は失われるとみられる。
ロシアも破壊工作の可能性があるとの見方を表明し、ガス漏れで欧州のエネルギー安全保障が損なわれたと指摘した。
ウクライナ政府の高官は欧州の不安定化を狙ったロシアの攻撃と主張したが、根拠は示さなかった。
モラウィエツキ首相はポーランド・ノルウェー間の新たなパイプライン開通のイベントで「われわれにはこれが破壊工作であることは明確で、ウクライナ情勢緊迫化の次のステップに関係している」と語った。
アンデション首相はガス漏れに絡み2回の衝撃が観測されており、スウェーデンへの攻撃ではないが、NATO(北大西洋条約機構)やデンマーク、ドイツなどの近隣諸国と緊密に連絡を取り合っていると述べた。
デンマークとスウェーデンの地震学者らは、ガス漏れの現場近くで26日に2件の強い爆発音を観測したと発表。
デンマーク・グリーンランド地質調査所(GEUS)は地震とは異なる活動が検知され、爆発で通常記録される活動に類似していると分析した。
スウェーデンのウプサラ大学国立地震学センター(SNSN)は、2回目の大きな爆発が「100キログラム以上のダイナマイトに相当する」とし、爆発は海底下ではなく水中で起きたと説明した。
デンマーク軍によると、最も大きな漏えいがある場所では、直径1キロメートル以上の泡が海面が発生したという。
スウェーデン海事局(SMA)によると、ノルドストリーム 1の漏えいはスウェーデンの経済水域とデンマークの経済水域でそれぞれ1カ所見つかり、どちらもバルト海のデンマーク領ボーンホルム島の北東に位置する。船舶が現場に接近しないよう監視しているとした。
運営会社ノルドストリームは、パイプラインが「前例のない」損傷を受けたと発表した。
デンマーク・エネルギー庁のベッツァウ長官は、パイプラインの穴は非常に大きく、ノルドストリーム2からのガス漏れが止まるまでおそらく1週間かかると述べた。「海面にはメタンが充満しており、この海域では爆発の危険性が高まっている」と警告した。
●米印外相会談 対中国分野では協力も対ロシア制裁で違いか  9/28
アメリカとインドの外相が会談し中国への対抗を念頭に、安全保障や経済の分野で協力を深めていくことで一致しました。一方、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの制裁の一環として、アメリカなどが検討しているロシア産の石油への上限価格の設定をめぐっては、立場の違いが残ったものと見られます。
アメリカのブリンケン国務長官とインドのジャイシャンカル外相は27日、ワシントンで会談したあと、そろって記者会見しました。
この中で、ブリンケン長官は「自由で開かれた国際秩序を維持するため、両国関係は極めて重要だ」と述べ、ジャイシャンカル外相も「両国の協力はインド太平洋地域を越え、広がっている」と応じ、中国への対抗を念頭に、安全保障や経済の分野で協力を深めていくことで一致したことを明らかにしました。
一方、会談では、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの制裁の一環として、アメリカや日本などが検討しているロシア産の石油への上限価格の設定についても話し合われました。
これについてジャイシャンカル外相は「われわれの懸念は、エネルギー市場が緊張状態にあることで、緩和されるべきだ」と述べるにとどまりました。
ロシア産の石油への上限価格の設定をめぐっては専門家からは実効性の確保にはインドなどの主要な消費国の協力が不可欠だと指摘されていますが、アメリカと、ロシアの伝統的な友好国インドとの立場の違いが残ったものと見られます。
●プーチンがロシア軍人に直接指示の異常事態 9/28
ロシア・ウクライナ戦争を巡って、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(69)が「自滅」する可能性があると複数のメディアが伝えている。専門家が注目するのは、「BBC NEWS JAPAN」が9月25日に配信した「プーチン氏、国防次官を解任 補給失敗が理由か」という報道だ。
BBCの記事には重要なポイントが3つあるという。以下に引用させていただく。
【1】プーチン大統領は9月24日、ドミトリー・ブルガコフ国防次官(67)を解任した。次官は物資補給の担当。補給の混乱が苦戦の原因とされているため、責任を問われた可能性がある。
【2】プーチン大統領はウクライナ戦争で直接指揮を執り、ウクライナ国内にいる将官たちに自ら命令を下し始めたと報じられている。
【3】米当局者は米CNNに「ロシア政府における指揮系統の機能不全が深刻化している」と語った。
プーチン大統領は軍の人事権を濫用し、作戦にも口出しするようになったというわけだ。これはロシア軍に多大な悪影響を及ぼす可能性があると、ある軍事ジャーナリストは言う。
「古今東西の戦史を振り返ると、軍部の暴走で国家が破滅した例は枚挙に暇がありません。戦前の日本もそうでした。そのため現代の民主主義国家はで、選挙をベースに選ばれた大統領や首相などが軍の人事権などを持ち、暴走を抑止する統治システムを構築しています」
プーチン大統領の暴走
大統領や首相が安易に軍を使う懸念も根強い。そのため、参戦などに関しては、議会の同意を必要とする国も少なくない。軍隊に対して二重三重のチェック機能を用意しているわけだ。
ところがプーチン大統領の場合、【1】「補給の不手際」という理由から軍高官を解任した。なおかつ【2】大統領自ら作戦レベルの指示を行うようになった──と報道された。
この2点は、「軍の暴走を止める」どころか「むしろ大統領の暴走で、ロシアが破滅する」可能性を示唆しているという。
「戦術、作戦、兵站は、絶対にプロの軍人が担当すべき領域です。政治家が関与すると必ず悪影響を及ぼします。人事権を持つ最高責任者が現場に口出しすると、ろくなことにならないのは国家も企業も同じでしょう。プロスポーツが好きな人なら、オーナー、ゼネラルマネージャー(GM)、監督、選手の関係を思い出すかもしれません」(同・軍事ジャーナリスト)
オーナーはGMにチーム作りを一任する。GMは監督や選手を集めてチームを作る。そして、監督が選手に指示を行って試合に勝つ──これが基本と言っていいだろう。
「シン・ゴジラ」
「オーナーは強大な人事権を持っています。そんな“最高権力者”が試合で監督や選手に直接指示をしたとしたらどうなるでしょうか。現場が萎縮するのは間違いありません。選手や監督、GMは、チームを辞めるか、クビになるのを恐れてイエスマンに変貌します。そしてオーナーが喜ぶことしか報告しないようになります」(同・軍事ジャーナリスト)
その結果、オーナーには間違った情報ばかり届けられる。これでは正しい情勢判断は不可能だ。よってチームは敗北する。
この軍事ジャーナリストは、2016年に公開された映画「シン・ゴジラ」[庵野秀明総監督(62):東宝)が、この問題を解く鍵になるという。
「映画に登場した首相はゴジラの“駆除”は命じましたが、『ゴジラを多摩川で撃退せよ』などという命令はしませんでした。首相の仕事は、アメリカとの折衝や民間人の避難、そして作戦開始の決定です。作戦の立案、兵員や兵器の移動、戦闘準備、ゴジラの監視といった具体的な任務は、全て自衛隊に一任されていました」(同・軍事ジャーナリスト)
トルーマンの“英断”
実際の戦史も見てみよう。第二次世界大戦(1939〜1945)や朝鮮戦争(1950〜1953)で、アメリカの大統領と軍との関係はどうなっていたのだろうか。
「太平洋戦争終盤の1944年、アメリカの陸軍と海軍は『台湾と沖縄のどちらを先に攻略するか』という問題で議論を重ねました。そして、遅くとも10月には、台湾への上陸作戦は見送ることが決定したのです。こうした議論に、当時のフランクリン・ルーズベルト大統領(1882〜1945)が深く関与するようなことはありませんでした」(同・軍事ジャーナリスト)
朝鮮戦争の場合、大統領は重要な決断を下した。戦争末期、アメリカ軍を中心とする国連軍が優勢となっていた。そのため総司令官のダグラス・マッカーサー(1880〜1964)は、「戦争を継続したい」と具申した。
「しかし当時のハリー・トルーマン大統領(1884〜1972)は、中国やソ連との全面戦争を懸念しました。そこで彼は、マッカーサーを解任するという人事権を発動することで休戦を実現したのです。この歴史的事実から、『国の最高責任者にとって重要な任務の一つは、作戦の指導ではなく戦争の開始と終結を決定すること』だと分かります」(同・軍事ジャーナリスト)
準備不足のロシア軍
もし日本にロシアや中国が攻めてきても、首相と自衛隊の関係は同じはずだという。
「北海道や尖閣諸島に上陸したロシア軍や中国軍の撃退を首相は命じるでしょう。しかし、具体的に『北海道のここで戦え』とか、『この海域にイージス艦を派遣しろ』などと口を出すことはないはずです」(同・軍事ジャーナリスト)
一方のプーチン大統領は、こうした“セオリー”を完全に無視しているように見える。例えば時事通信は9月26日、「ロシア軍、動員で一層の人的損害も 『最低限』の準備で前線へ―ウクライナ」の記事を配信した。
この記事で軍事ジャーナリストが呆れ返ったのは、以下の箇所だ。
《英国防省は「西側諸国と異なり、ロシア軍は兵士たちに指定された作戦部隊内での低水準の基本訓練しか施さず、予備役の多くは何年も軍事的な経験を積んでいない」と指摘。さらに「教官不足や性急な動員状況から見て、多くは最低限の準備をしたのみで前線に駆り出される」とし、「ロシアは高い(人的な)損耗率に苦しむだろう」と警告した》
歴史の法則
「この報道が事実なら、事態はかなり深刻です。そもそも軍隊とは、ただ移動するだけでも訓練が必要です。加えて、ロシア軍の目標はウクライナ軍の撃退でしょう。それには砲兵と歩兵、戦車部隊との連携が不可欠であり、訓練の積み重ねが欠かせません。付け焼き刃の兵隊が前線に送られても、かえって部隊は混乱するだけです」(同・軍事ジャーナリスト)
そして重要なのは、こうした軍の実情をプーチン大統領に報告して諫言する高官は、誰もいないということだ。
「“シビリアン・コントロール”と言いますが、ロシアで本当に暴走しているのは軍部ではなく“シビリアン”であるはずのプーチン大統領です。戦史を紐解くと、最高責任者が口出しをして勝利した軍隊は皆無です。多くのメディアがロシア軍の“指揮系統の混乱”に注目するのは、歴史の法則を考えると、ロシア軍が敗北する可能性が高いからです」(同・軍事ジャーナリスト)
●ロシア国境付近は脱出する車で大渋滞…モンゴル、ジョージア、フィンランド 9/28
•ロシアのプーチン大統領は9月21日、ロシア軍の予備役を部分的に動員することを発表した。
•それ以来、多くのロシア人が国外脱出を試み、片道航空券の売り切れが続出している。
•最新の衛星画像によると、ジョージアやモンゴルとの国境に向かう道が、多くの車で渋滞している。
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は2022年9月21日、テレビ演説で予備役の兵士を部分的に動員することを発表した。これは、ウクライナでの戦況悪化が背景にあると思われる。
この発表の直後から多くのロシア人が、わずか7カ月で何万人もの兵士が死傷している戦争への派兵を避けようと、できる限りの手段で国外に脱出し始めた。「ロシアから脱出する方法について」といったGoogle検索が急増し、片道航空券は売り切れ、ロシアの国境での渋滞を示すビデオが共有され始めた。
商業衛星画像会社のマクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies)は、最新の衛星画像を9月26日にInsiderに提供した。それには、ジョージアとモンゴルとの国境に向かう車の長い列が写っている。
下の画像は9月25日に撮影されたもので、ロシアとジョージアの国境近くの道路がトラックと車で渋滞している。
マクサーは、プーチン大統領が予備役の部分的動員を発表する前の8月15日と発表後の9月23日に、ロシアとモンゴルの国境にあるキャフタ検問所の衛星画像を撮影している。9月の画像では交通量が大幅に増加していることが分かる。
北西に隣接するフィンランドに逃れようとするロシア人もいる。
フィンランド国境警備隊のマッティ・ピトカニッティ(Matti Pitkäniitty)は、9月25日に8000人以上のロシア人が入国したと26日にツイートしている。これは動員発表前にあたる9月18日に報告された人数の2倍にのぼる。
ピトカニッティによると、フィンランドへの入国者の多くが他国へ向かう途中であり、25日のうちに5000人以上のロシア人がフィンランドから出国したという。
「フィンランドとロシアの陸上国境での通行量は、以前よりも多い状態が続いている。今後についていは不確実なことが多い。フィンランド国境警備隊は、さまざまな展開、それも困難な展開に備えている」とピトカニッティは付け加えた。
●目隠し、押さえつけも......ロシアが「領事」拘束ウラジオストクで“スパイ容疑” 9/28
ロシア極東のウラジオストクで、日本の領事がスパイ容疑で拘束され、動画が公開されました。領事は目隠しされ、頭を押さえつけられる扱いを受けたといいます。ロシアが「スパイ行為」との口実が作れるのは、ウラジオストクならではの背景があるとみられます。
ロシア経済を支えるウラジオストク
有働由美子キャスター「拘束されるのもそうですが、外交官が目隠しをされたり、頭を押さえつけられたり...。こんなことはあるのでしょうか」
小野高弘・日本テレビ解説委員「こんな仕打ちは聞いたことがありません。ただ、ロシアがスパイ行為だと口実を作れるのは、場所がウラジオストクだからということもあります」「ウラジオストクはモスクワから遠く離れていますが、プーチン大統領にとってロシアの経済全体を支える大事な場所です。中国などアジアの国々との貿易の窓口でもあります」「9月にはウラジオストクで、ロシアに投資を呼び込む国際会議が行われました。このイベントはプーチン大統領肝いりで、本人も出てきました。ロシアと交流しようとする国が多く集まっていました」「つまり、ウラジオストクではロシアの対外政策に関するいろいろな情報が飛び交っていて、入手できます。ウラジオストクにある日本の総領事館は、通常の行政手続きやパスポートの再発行なども行いますが、同時にさまざまな情報収集もやっているはずです」
廣瀬教授「ロシアは動画のねつ造も」
有働キャスター「ロシアはそこに目を付けた、と」
小野委員「そうです。日本側は、違法なことは何もしていないと主張していますが、ロシアからすれば、大事なウラジオストクで非友好国である日本が情報を集めるのはスパイ行為に当たると口実を作れます。そうやって日本を脅すわけです」
有働キャスター「動画を出してまで、そういうことをするものですか?」
小野委員「『そういうことをする』と、ロシア政治に詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授は言います。『証拠だと言って動画を出すのは、ロシアのいつものやり方。動画のねつ造すらやる』と指摘します」「また『ロシアが他国の外交官を追放するのも珍しい話ではなく、日本がロシアに制裁を続けていることへの意趣返しだ』とみています」
落合さん「狙いは外交的譲歩か」
落合陽一・筑波大学准教授「外交官に手を出すのはご法度ですが、外交的な譲歩を引き出そうとするメッセージを感じます。われわれは平和的に常に外交は考えますが、(ロシア側は)こういった脅しのようなことをしてきます」「日本とロシアの関係は非常に敵対的な状況になりつつありますが、日本が譲歩しないにしても、(ロシアとしては)対立を強めて警戒しておいた方が、外交上得なメッセージなのだろうなと思います」「『これ以上は内政に関わってくるなよ』という圧力だったり、日本側が外交的なメッセージを発することに躊躇することを狙っているのではないかと、素人ながら思います」
有働キャスター「これ(拘束による圧力)をやって日本が制裁を緩めるはずはありませんし、対立を強めるようなやり方は何にもならないと思います」 
●「日本の戦争犯罪に時効なし」 ロシア外相、歴史でけん制 9/28
タス通信によると、ロシアのラブロフ外相は28日、第2次大戦の歴史をめぐり「日本の軍国主義の犯罪は時効がないものであり、忘れてはならない」と表明した。
モスクワの外務省外交アカデミーで「軍国主義日本の犯罪」と題して開かれた国際会議にメッセージを寄せた。
ロシアによるウクライナ侵攻開始後、欧米と協調してロシア制裁を強化する日本に対し、歴史問題を持ち出してけん制したとみられる。ロシア軍の「戦争犯罪」の疑いが広く伝えられる中、ロシアの国内世論や学界の動揺を抑えようと、批判の矛先を日本に向けさせる狙いもありそうだ。
日ロ関係をめぐっては、ロシア側が26日、在ウラジオストク日本総領事館の領事を一時拘束し、48時間以内の国外退去を通告。日本側が強く抗議するなど、悪化の一途をたどっている。
ラブロフ氏は日本について「残念なことに、アジア太平洋地域の国々への侵略に対する反省の弁がない一方、全く根拠のないばかげたロシア非難が聞こえてくる」と指摘。「歴史に対するこうしたアプローチは、国連中心の世界秩序を損なうもので、受け入れられない」と主張した。
●ウクライナ大統領「茶番劇だ」親ロシア派の“住民投票”に反発  9/28
ロシアの国営メディアは、親ロシア派の勢力がロシアへの一方的な編入をねらってウクライナの東部や南部で行った「住民投票」だとする活動の「開票」の作業が終了し、いずれも編入に「賛成」する票が「反対」を大きく上回ったと伝えました。これに対し、ゼレンスキー大統領は「茶番劇だ」などとして、正当性がないと強く反発しました。
ロシアのプーチン政権を後ろ盾とする親ロシア派の勢力は、今月23日からウクライナの東部や南部の支配地域でロシアへの一方的な編入をねらった「住民投票」だとする活動を強行しました。
ロシアの国営メディアは27日、東部のドネツク州とルハンシク州、南東部ザポリージャ州、それに南部ヘルソン州のすべてで「開票」の作業が終了し、いずれもロシアへの編入に「賛成」する票の割合が80%から90%に上り、「反対」を大きく上回ったと伝えています。
それぞれの州の親ロシア派の勢力は今回の結果を受けて、プーチン政権に対して編入を要請するものとみられます。
ゼレンスキー大統領 国際社会に対応求める
ウクライナのゼレンスキー大統領は、27日に動画を公開し、親ロシア派が行った「住民投票」だとする活動について「占領された地域での茶番劇は、住民投票のまねごとですらない。どういう結果にしようとしていたのかは事前にわかっていた。情報機関が活動する必要もなく、この茶番劇の内容は事前にメディアに流れていた。ロシアは隠そうともしていない」と述べ、正当性がないと強調しました。
そのうえで、「唯一の合理的な対処はウクライナに対するさらなる支援だ。防衛、財政、そして制裁での支援を確認してくれたパートナーに感謝する」と述べました。
さらに、国連安全保障理事会の緊急会合で演説したことに触れ「世界を敵に回している人物を止めてほしいと呼びかけた。最後の破壊的なステップが踏み出されていない今なら止めることができる」と国際社会に対応を求めました。
国連安保理 「住民投票」活動めぐって緊急会合
一方、国連の安全保障理事会は27日、ウクライナの東部や南部のロシアの支配地域で行われた「住民投票」だとする活動をめぐって緊急会合を開きました。
冒頭、国連のディカルロ事務次長は「紛争のさなかにロシアの支配下にある地域で、ウクライナの法的な枠組みが及ばないところで実施されたもので、真に民意を表しているとは言い難い」と指摘したほか、欧米各国を中心にロシアを非難する意見が相次ぎました。
このうち、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は「人々に銃口を向け、投票を強要している」と述べ、ロシア軍の即時撤退を義務づける決議案を、近く安保理に提出する考えを表明しました。
●プーチン氏の動員令、ロシア経済に痛烈な打撃  9/28
ウラジーミル・プーチン露大統領が発した部分動員令や原油相場の急落、西側による一連の追加制裁を受けて、すでに低迷しているロシア経済にさらなる重圧がかかりそうだ。これまでウクライナ侵攻の戦費調達を支えてきた財政が崩壊しかねない状況に追い込まれている。
プーチン氏がウクライナ侵攻にさらなる資源をつぎ込むことを決めたことで、ロシア経済に暗雲が立ちこめてきた。動員令に伴い30万人以上を新たに投入すれば、徴集兵の軍装備や訓練、給料を手当てする必要が出てくるためだ。さらに民間企業にとっては、兵役または徴兵逃れの国外脱出によって人手が奪われ、新たな問題に直面することになる。
折しも、エネルギー価格高騰による収益押し上げ効果はピークを過ぎたもようだ。ロシアの財政収支は先月、エネルギー収入の落ち込みが響き、赤字に転落した。これには足元の原油急落や、ロシアが欧州への天然ガス供給をほぼ完全に遮断した影響はまだ反映されておらず、すでにそれ以前の段階で国家財政が手当てできていないことになる。
IEビジネス・スクール(マドリード)のマクシム・ミロノフ教授(金融)は「とりわけ不透明感が増すことで、動員令がロシア経済に新たな一撃となっている」と話す。「しかも、石油・ガス収入が枯渇に向かうタイミングで起きている」
戦争では往々にして、長期的に戦費を確保できる経済力を持った側が勝利することが多い。ウクライナ経済も壊滅的な打撃を受けているが、西側から巨額の資金援助を受けている。
西側の制裁措置はロシアの商業活動に大きな打撃を与えたものの、エネルギー価格の高騰が追い風となり、ロシア政府は経済を安定させることができた。侵攻直後こそ急落した通貨ルーブルも、その後は対ドルで急速に持ち直し、インフレも落ち着いた。ロシア政府や独立系のエコノミストは目下、ロシア経済が今年、これまで想定されていたほど深刻なリセッション(景気後退)には陥らないとみている。
ロシア経済の崩壊が迫っていることを示す兆候はないが、国内の経営者や投資家の間では、部分動員令を受けて動揺が広がっている。プーチン氏の発令がさらなる徴兵に扉を開いたとの指摘もある。ほぼ国内投資家のみに限られるロシアの株式市場は、動員令の発表を受けて急落した。
動員令の発令前に公表された政府データによると、8月の財政収支は大幅な赤字となった。その結果、今年1-8月の財政黒字は1370億ルーブル(約3400億円)と、1-7月の約4810億ルーブルから大幅に縮小した。
ロシア政府は赤字穴埋めのため、エネ業界への増税を含む複数の措置を導入。今月には、2月以来となる国債の発行に踏み切った。ただ、新発債はロシア国民が買い支える必要がある。侵攻前にロシア国債の約2割を保有していた外国人投資家は、投資が禁じられている。さらにロシアは外国の債券市場から締め出されたままだ。
ロシア経済が抱える問題は、自らの政策が招いた「自業自得」の側面もある。ウクライナ侵攻によるエネルギー価格の跳ね上がりは当初、ロシアに巨額の収入をもたらしていた。国際金融協会(IIF)では、1-7月のロシア連邦予算のうち、石油・ガス収入は約45%を占めていたと分析している。
ところが、エネルギー価格の高騰は世界経済の成長に急ブレーキをかけ、各地で石油需要の減退を招いた。原油の国際指標である北海ブレントは6月の高値から約3割下げ、バレル当たり85ドルを割り込んでいる。
ロシア産原油が約20ドルのディスカウントで取引されていることを踏まえると、ロシアはすでに財政収支を均衡させるのに必要な水準を下回る価格で原油を販売していることになる。S&Pグローバル・コモディティ・インサイツは2021年に、この水準をバレル当たり69ドルと推定していた。通貨高によって石油輸出で得られる代金がルーブル建てに換算すると目減りすることも、政府にとって悩ましい問題となっている。
アナリストや調査会社によると、ここ数週間には原油価格の下落に加え、ロシアの石油輸出も減少している。世界経済の減速のほか、12月に欧州連合(EU)が実施するロシア産燃料への制裁措置も重しとなっている可能性が高い。
OilXのシニアアナリスト、ニール・クロスビー氏は、9月のロシアの原油輸出は日量およそ450万バレルと、8月の同480万バレル余りから減ったとみている。西側の制裁発動で行き場を失ったロシア産原油を大量に買っていたトルコ、中国、インド3カ国への供給が落ち込んだためだという。
キャピタル・エコノミクスでは、ロシアの石油・ガス収入が2023年に今年の推定およそ3400億ドル(約49兆1300億円)から1700億ドルに半減すると試算している。落ち込みの規模は昨年のロシア国防予算の2倍以上に相当する額だ。
西側諸国はさらに制裁を強める構えで、主要7カ国(G7)はロシア産石油に価格上限を設定する方向で調整している。
ロシアが戦場で劣勢に立たされているように、徴兵に伴うコストと障害がロシア国民の信頼感を揺らしている。
「動員令はすべてのロシア家計に降り懸かるダモクレスの剣(迫り来る危機)だ」。こう指摘するのはドイツ国際安全保障研究所のロシア専門家、ヤニス・クルーゲ氏だ。「これで平均的なロシア消費者の間で楽観論が消えるだろう」
高まる不安から、国外脱出を図る兵役年齢のロシア人男性が国境へと殺到しており、ウクライナ侵攻以降、すでに相当な規模に達していた頭脳流出がさらに加速している。 前出のミロノフ氏は「人々は行けるところに逃げている」と話す。「彼らは高い技能を持ち、教育水準の高い労働者が中心だ。そのため今回の動員令は、来年のみならず、数十年にわたって経済に重大な影響をもたらすだろう」

 

●ロシアの弔鐘となる「ウクライナ戦争動員令」〜世界の枠組みまで変わる 9/29
9月21日、プーチン大統領は「部分的な」動員令を発布した。ウクライナ侵攻の失敗で戦線が伸び切り、とうとう兵士が足りなくなったのだ。「軍務・戦闘経験や特殊な軍事スキルを持つ予備役」が対象。学生や、1年間の兵役期間中の若い徴集兵は対象外。当面30万名ほどを目標に、数カ月かけて動員していく。
ウクライナ侵攻という錯誤を取り繕うためにじたばたし、結局傷口を広げて退陣に至る……この動員令は、プーチン政権の終末を告げるトランペットとなりかねない。
「戦争に駆り出されるのは真っ平ごめん」
これまでロシア国民は、ウクライナ戦争を対岸の火事のように見てきた。ウクライナで戦っているのは遠くの地方や少数民族居住地域を中心に駆り集められた職業兵だから、一般のロシア人には切実性がない。だから開戦後もプーチン支持率は80%前後を維持し、モスクワのバーは毎晩満員の盛況を続けたのだ。
国民は、「ウクライナでネオナチが騒いでロシアに盾突くから、職業兵を送って懲らしめているのだ」という当局の説明を良しとして、あとは考えないようにしていた。
今回の動員令はそれをひっくり返した。プーチンは、「部分的な動員」だと言ったが、社会はこれを「総動員令」だと受け取った。役人も、召集のノルマをこなすためには、「軍務・戦闘経験や特殊な軍事スキルを持つ予備役」などという、しかつめらしい条件を無視するだろう。
その結果、何が起きたか? 海外(と言ってもフィンランドやジョージアなど隣接・近接国が中心)へ脱出する男性で空港・国境は長蛇の列。徴兵センターで発砲したり、女性たちが取り締まりの警官隊を包囲して動けなくさせる事例が頻発している。
「うちの夫、息子は今、用務で国内出張中。どこにいるかわからないので、召集を伝えられない」ロシア人が急増するだろう。すると議会は召集に一定期間以上反応しない者には罰則を設ける。その結果、警察が住民のアパートを訪問して、騒動が起きる。スターリンの頃と違って、公安が市民のアパートにずかずか踏み込めるご時世ではない。この結果、海外に逃げるカネやコネ、そして査証を持たない普通の国民、偽学生証を購入するカネもない貧困層が、召集のしわ寄せを食らうことだろう。
怒りと不満が社会に満ちる。そうなると、徴募が集中する少数民族地域、地方を筆頭に、知事、市長たちは、当局に物申さざるを得なくなる。この機会に、中央からの交付金・助成金をさらにふんだくろうとする知事が必ず出る。中央は、ない袖は振れない、と言うだろう。すると知事たちは、今年の税収はもう中央に送金せず、地元で全部使うと言って、地元での人気を何とかつなぎとめようとする。
そんなことが起きるのか、と思うかもしれないが、これは1991年ソ連の崩壊間際の数カ月間、ソ連で起きていたことだ。当時、モスクワの中央政府は歳入を失って、役人の給料も払えなくなり、やめていく者が続出したのだ。
兵士を確保しても兵器がない
ウクライナ戦争はこれからどうなる? 召集された兵士がまとまって戦線に着くまでには、数カ月かかる。この間ロシア軍は、合計1000キロにも及ぶ前線(ショイグ国防相の発言)を守り切れるのか。
しかも、ロシアの兵器はずいぶん破壊されている。現役戦車は全国で3000両程度だったのを、今回の戦争で既に800両以上失っている。これまでの年間生産量は100両程度。残ったものも、エンジンが稼働1000時間ほどで更新が必要だが、エンジンの生産能力も限られている。ミサイルの生産能力はもともと限られていた上に、西側が先端半導体の輸出を禁じた後は、生産自体に問題が生じていることだろう。
だからロシアはナポレオン時代の「大砲を撃ちまくってから、歩兵がつっこむ」式の戦術しか取れないのだが、肝心の大砲とその砲弾の生産能力も限られている。統計はないのだが、1999年からのチェチェン戦争の場合(当時のプーチン首相が指揮した)、首都グローズヌイ等を砲弾で真っ平にしたあげく、砲弾の備蓄がなくなっている。現在ウクライナで毎日6万の砲弾を消費しているので、右チェチェン戦争の比ではない。
砲弾はそれでも、ロシア国内にまだ大量に備蓄されているだろうが、問題はこれを輸送する能力が限られているということだ。ロシア軍の輸送は鉄道に依存している。地図を見ると、ロシアとウクライナを結ぶ幹線鉄道は数が限られている。うちハリコフからロシアへ向かうものは、今回のウクライナ軍のハリコフ州奪還作戦で、ウクライナ側の手に落ちた。残るのは(地図を見る限り)あと3本。心細い。これを、ウクライナ軍の長距離砲(砲と言うが、実質的にはミサイルだ)で破壊されたらひとたまりもない。
ドネツ・ルハンスクとロシアを結ぶ鉄道を破壊されると、ウクライナ南部のヘルソンなどのロシア軍征圧地も防護できなくなるし、ウクライナには絶対奪還できないと思われていたクリミアが意外と脆弱な姿をあらわす。鉄道輸送(クリミアへは東部のケルチ海峡の鉄橋、北部のザポロージエ経由の鉄道がある)が駄目になると、クリミアへの補給は難しいからだ。
ロシア海軍の揚陸艦の多くは、戦争の初期の段階で、ウクライナのミサイルであえない最期を遂げている。クリミア西部のセヴァストーポリ軍港に、海上経由で物資を運び込むこともできないだろう。セヴァストーポリ軍港の安全ももう保証の限りでないからだ。ロシア黒海艦隊はサポートする施設のない黒海沿岸の港たちに分散駐留することを迫られるだろう。
これを防ぐために、ロシアは原爆を使う? しかし、どこに? うっかりすれば、自分の領土を原爆で攻撃することとなってしまう。それに原爆を使ったところで、1週間もすれば放射能は薄らいで、そこにウクライナ軍は突っ込んでくるだろう。ポーランドの西側兵器集積所を撃つ? そうなれば、核のやりとりのエスカレーションは免れない。
ニコライ1世の急死、その状況とその後
プーチンはドネツ・ルハンスクなどで今、住民投票を行っていて、その結果がどうであれ、住民が望んだとか言って、これらの地域をロシアに併合してしまうだろう。ウクライナ軍がここを攻めると、「ウクライナはロシア領を攻撃した。ついては……」ということで、反撃を強化する口実にしようというわけだ。
しかしこれは何か子供っぽいやり方だし、そもそも、もう時を失したのではないか? クリミアも、ロシアが「併合」したのだが、ウクライナ軍はものともせずに攻撃の構えを見せているし、これにロシアが「自衛だ」と言い立てて作戦を強化しようにも、前記のようにどうしようもない。
やはり、2月の電撃攻撃に失敗したことが致命的だったのだ。今や戦線は伸び切ってしまい、ロシア軍はこれに対処できない。
1853年からのクリミア戦争の場合、ロシアは今と同じく孤立していて、今と同じく後れた兵備で、それでも戦況は一進一退だったのが、途中の1855年2月、皇帝ニコライ1世が肺炎で死んでしまう。これは急死で、セヴァストーポリを包囲されて敗北を予期した皇帝が、寒中の屋外イベントにわざと薄着で出席して風邪をこじらせることで、実質的に自殺したのだ、といううわさが広まった。
後継のアレクサンドル2世は1861年に懸案の農奴解放を実現。国内の改革へ向けて大きな一歩を踏み出したのだが、1881年にはテロ組織「人民の意志」党の一員に爆殺されてしまう。その後継のアレクサンドル3世の時代は、保守と弾圧、そしてこれに対抗するテロの頻発で彩られる。
1902年及び1904年には警察の元締め、内務大臣が相次いで暗殺されているし、1905年には様々の勢力が暴力的反政府運動を群発させて革命的状況をもたらした。それを自営農創設など前向きの改革で収拾しようとしたストルイピン首相も、1911年暗殺されている。1901〜1911年、革命運動によって殺された者は1万5000人を越え 、その中には知事、警察長官、将軍、警察官、工場所有者などが多数いた。
プーチン後のロシアは独裁か混乱
今回、ニコライ1世の急死に似たことが起きて、不思議でない。毎年11月4日は「国民団結の日」。赤の広場ではイベントが行われ、プーチンも出てきて献花など行う。その時プーチンが寒天下(11月初旬のモスクワの気温は零度に近づく)、薄着で出てきたら、それはニコライ1世の前例を踏襲することになるかもしれない。
プーチンがいなくなると、その後は、公安当局が多分メドベージェフ元大統領あたりを大統領に担ぎ出して、ウクライナ戦争は凍結、国内締め付けを強化する。
西側の期待する「民主勢力」は小さく、薄く、分裂していて、指導者もいないから、政治的な力にならない。たとえ民主勢力が権力を一時的に握ったとしても、彼らに実際の行政・外交能力はない。自負心の強い者が多いから、ソ連崩壊直後の1990年代も互いに争いを始めて、結局保守派に権力を取り返されている。
メドベージェフはかつて、ITにも詳しいリベラルとして知られていたが、昨年1月首相の地位から突如引き降ろされて以降は、権力にしがみつくため、保守勢力に迎合する発言を繰り返している。昨年の夏、ウクライナ侵攻のお先棒をかつぐ論文を真っ先に発表したのも彼だ。
締め付けが強化されたとしても、ロシアは結局のところ、混乱の時代を迎えるだろう。
エリツィン大統領による大混乱の後を継いで2000年、大統領になったプーチンは20年にわたる安定期をもたらしたかに見えるが、それは2000年以降の世界原油価格の高騰に助けられてのことで、ロシア経済に実力はない。
プーチンは公安を使って国内締め付けを続けてきたが、彼がいなくなると、公安・警察機関の権威・力も弱まるだろう。ロシア人の権利意識は冷戦後ほぼ一貫して高くなってきているので、締め付けも容易ではない。
中央アジア諸国がロシアから離れていく
ロシアは、ソ連時代の計画経済体制から市場経済への移行をはかろうとして果たせず、今回西側との関係を決定的に悪くしたことで、今後の発展のための資金と技術をほぼ完全にふさがれることとなった。ユーラシアにおけるロシアの権威、地位は急速に低下し、9月中旬の上海協力機構首脳会議を境に、それは誰の目にも見えるものとなった。
中央アジア諸国は、米中ロの間をうまく泳いで、自分の利益を貫く技に益々磨きをかけている。
8月中旬、タジキスタンは米国、ウズベキスタン軍等とともに共同軍事演習を行ったが、これにロシア、中国は呼んでいない。またこの半年、カザフスタンのカザフ民族主義的傾向にロシア論壇が食って掛かることが増えていたが、9月中旬カザフスタンは、上海協力機構年次首脳会議の直前に習近平中国国家主席を招請。なんと、「主権と領土保全の尊重」で合意している。これでロシアは、うかうかとカザフスタンに手を出すことができなくなった。
さらに中央アジア諸国は7月21日の定例首脳会合で、善隣友好条約を結ぶ検討を始めた。中央アジア5カ国、あるいは最大のウズベキスタンとカザフスタンだけでもスクラムを組めば、ロシア、中国、米国などの大国に牛耳られるのを防げる。
以前なら、旧ソ連諸国間の紛争はロシアが火消し・調停することも多かったが、上海協力機構首脳会議の直前、9月12日にはアゼルバイジャンとアルメニアの間の戦闘が再燃して、200名近くが死んでいる。また9月14日には、タジキスタンとキルギスの間でも武力衝突が再燃している。
そして、これまではロシアと中国が牛耳って、反米に利用してきた上海協力機構は、勢力拡張のためにインド、パキスタン、イラン、トルコ(トルコはまだ正式加盟国ではないが、エルドアン大統領は今回首脳会議に賓客として参加して、発言までしている)などを引き込んだことで、特定の色を打ち出しにくくなった。今回の共同声明を見ると、反米の「ハ」の字もない。ウクライナ戦争への言及もなく、ひたすら経済関係の推進のことばかり述べている。
ロシアを捨て米国と修好に向かう中国
中国は以前ほどはロシアとの準同盟関係を必要としていない。それどころか、ウクライナ戦争で西側と不要に対立しているロシアは、中国にとってassetではなくお荷物になっているだろう。下手にロシアを助けると、西側に制裁を食らって経済をおかしくされてしまうからだ。
それに7月ナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問で、中国軍は1週間以上にわたって台湾を包囲する軍事演習を繰り広げたが、これにロシア軍は参加していない。ロシアに重要なウクライナ問題、中国に重要な台湾問題で、両国は具体的な関与を避けているのである。9月16日サマルカンドでの中ロ首脳会談の内容にも目ぼしいものはなく、事後の記者会見でプーチンは右会談についての記者の質問を早々に打ち切っている。
中国は、ロシアによるクリミア併合を認めていないから、今回ロシアがドネツ、ルハンスク等を「併合」しても認めまい。国連総会にロシアを非難する決議が出されれば、3月にそうしたのと同じく、これに反対することなく、棄権票を投じて逃げるだけだ。
9月21日ニューヨークでラヴロフ外相と会談した王毅・外交部長は、「ウクライナ問題は話し合いで解決してください」式の発言ですませている。調停に乗り出すくらいしてもよさそうなのに、逃げの一手なのだ。
中国の対西側諸国関係に構造的変化が起きようとしている。米中首脳会談が近く実現するかどうか、それが米中接近をもたらすかどうかはまだわからないが、日中は雪解けの方向にある。8月17日には秋葉国家安全保障局長が、中国側からの要請で訪中し、楊潔篪政治局員と7時間にもわたって会談したことがその兆候。おそらく、日中首脳会談の瀬踏みなのだろう。
10月の中国共産党党大会で、習近平念願の党主席3選が実現すれば、彼は成功の望みの小さい台湾侵攻は棚上げにして、米国・日本・NATOから強まる一方の圧力を和らげることに外交の主眼を置くだろう。
いろいろな意味で、今回のウクライナ戦争はプーチン・ロシアの弔鐘になるだけでなく、世界の枠組み変化の引き金を引いたのだ。
●米、対ロシア制裁ペース緩めず ウクライナ情勢巡り=高官 9/29
米国務省のオブライエン制裁調整官は28日、ウクライナ東・南部4州で実施されたロシア編入の是非を問う「住民投票」について、ロシアに対し迅速に経済的代償を科すため、米国は同盟国やパートナーと連携していると明らかにした。
オブライエン氏は米上院外交委員会での証言原稿で、バイデン政権が平均で6週間ごとに対ロシア制裁を発表しているペースは今後も続く見通しとし、「より多くの制裁パッケージがあり、われわれは制裁の強化に取り組んでいる」と語った。
さらに金融部門やとハイテク分野を中心に「全ての選択肢が検討されている」と述べた。
ロシアがウクライナ占拠地域に設置した当局は27日、ウクライナ東南部4州の親ロシア派支配地域で実施されているロシアへの編入を問う投票で、圧倒的多数が編入に賛成したとの集計結果を発表した。
●ロシア ドイツ結ぶパイプラインガス漏れ 破壊工作の見方強まる  9/29
ロシアとドイツを結ぶバルト海の天然ガスパイプラインで起きたガス漏れについて、ヨーロッパ側では、破壊工作が原因ではないかという見方が強まり、警戒感が広がっています。
バルト海の海底を経由してロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン、ノルドストリームについて、デンマーク軍は27日、3か所でガス漏れが確認されたと発表し、デンマークの外相は28日、「ガス漏れは爆発によるもので意図的な行為だ」と述べました。
また、EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表も「意図的な行為」との見方を示し、ドイツのランブレヒト国防相も声明で「破壊工作の疑いがある」としてデンマーク側の調査に協力する姿勢を示すなど、破壊工作が原因ではないかという見方が強まっています。
さらに、ドイツの有力誌シュピーゲルは、アメリカのCIA=中央情報局がパイプラインが攻撃されるおそれがあるとドイツ政府に事前に警告していたと伝えているほか、ウクライナ情勢を巡りヨーロッパと対立するロシアが関与した可能性を指摘するメディアもあります。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「非常にばかげている」と否定し、調査にはロシア側も参加する必要があるという考えを示しました。
ヨーロッパ側では、海底の重要インフラが損傷を受けた事態に警戒感が広がっています。
天然ガスパイプライン、「ノルドストリーム」でガス漏れが起きたことをめぐり、国連安全保障理事会の今月の議長国フランスは、ロシアの要請に基づいて対応を協議する緊急会合を今月30日に開催すると明らかにしました。
また、ロシアのポリャンスキー国連次席大使は自身のツイッターに「ノルドストリームに対する破壊工作について安保理の緊急会合を要請した」と投稿しました。
●モンゴル首相、プーチン大統領と会談、天然ガスパイプラインなど協議 9/29
第7回東方経済フォーラムに出席のためロシア・ウラジオストクを訪問したモンゴルのロブサンナムスライ・オヨーンエルデネ首相は9月7日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談した。
プーチン大統領は「ロシアとモンゴルはこれまでウランバートル鉄道(注1)、エルデネット鉱山などの大型プロジェクトを協力して成功裏に収めてきた。今後も大型プロジェクトの互恵的な協力に前向きだ」と表明した。大統領は具体例として、ロシアから中国向けに天然ガスを輸送するパイプラインの962キロをモンゴル経由で建設するプロジェクト(シベリアの力2:2020年1月6日記事参照、「モンゴル経済概況(2020年6月)」参照)を挙げ、「この案件は地域発展に重要な役割を果たすことが期待されている」と述べた。モンゴル政府発表によると、双方は同パイプラインの稼働について2029年を目指して積極的に推進することについて話し合った。
オヨーンエルデネ首相はロシアの資源大手ガスプロムのアレクセイ・ミレル会長とも会談し、天然ガスパイプライン建設について意見交換した。ガスプロムはモンゴルとロシアの合同作業部会がスケジュールどおりに進んでいることに関して、モンゴル政府の協力に謝意を示すとともに、「地域を横断して実施するこのプロジェクトが相互に利益をもたらすことを確信している」と述べた。オヨーンエルデネ首相は「天然ガスの世界的企業のガスプロムとプロジェクトを共同で実施できることは喜ばしい」と述べた。
電力分野でも、エグ川水力発電所建設の問題(注2)についてロシア側と交渉の結果、モンゴルが国連の専門家調査チームと共同で環境アセスメントを実施し、その結果を基に最終的に判断すると決定した。ロシア側はエグ川水力発電所と第3火力発電所(注3)拡張のための支援を表明した。
9月15日には、モンゴルのオフナー・フレルスフ大統領はウズベキスタンで行われた上海協力機構(SCO)加盟国拡大首脳会議に出席し、プーチン大統領、中国の習近平国家主席との3カ国首脳会談を行った。モンゴル外務省によると、会談ではモンゴル経由でロシアから中国への天然ガスパイプラインを建設するプロジェクトは3カ国協力で特に重要との認識でモンゴル・ロシア・中国が一致したという。
(注1)モンゴルの北のロシア国境から、南の中国国境までを結ぶ鉄道。モンゴルとロシアの合弁企業が経営している。
(注2)モンゴルからロシアに流入するセレンゲ川の上流にあるエグ川に水力発電所のダムを建設することについて、ロシア側がセレンゲ川の水量減少やバイカル湖の水位低下などの環境に与える影響を懸念していたことにより、エグ川水力発電所建設プロジェクトはロシア側の賛同が得られずに長年停滞していた。モンゴルでは、国内の電力供給不足と世界的な脱炭素の流れの中、石炭火力発電所以外の選択肢として、水力発電所を建設する必要性に迫られている。
(注3)第3火力発電所は社会主義時代にソ連の支援によってウランバートル市に建設された電熱併給型石炭火力発電所。民主化以降もロシアの支援で数度にわたって改修・拡張が行われている。
●「住民投票」4州トップ、ロシアへの併合正式申請…プーチン30日にも宣言へ  9/29
ロシアのタス通信などによると、ウクライナ東・南部計4州の親露派トップは28日、「住民投票」の結果、ロシアへの併合賛成が多数だったとしてプーチン露大統領に併合を公式に申請した。プーチン氏は30日にもロシアへの併合を宣言する。
ロシアのウクライナ領土の併合は2014年の南部クリミア以来。対象は東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の親露派武装集団が実効支配する地域と、2月24日以降の侵略で占領した南部ヘルソン、ザポリージャ両州の一部だ。全土の約15%に当たる。
タス通信によると、プーチン氏が30日に演説して併合を宣言する方向で調整が進んでおり、露有力紙RBCによると30日夕に、モスクワの露大統領府周辺で祝賀行事も計画されている。10月4日に上院が関連法案を審議し、併合手続きを完了する日程が浮上している。
メドベージェフ前大統領は27日、併合を歓迎した上で、併合する地域が攻撃された場合の「核兵器使用の権利」に改めて言及し、ウクライナ軍を軍事支援する米欧をけん制した。
国連安全保障理事会は27日、「住民投票」を巡り緊急会合を開いた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「偽りの投票だ」と批判し、プーチン氏との直接会談を「拒否する」と述べた。米国のブリンケン国務長官は27日の記者会見で「ウクライナには、不法に占拠された地域の奪還を含め、領土全体を自衛する権利がある」と述べ、4州奪還を支持する姿勢を鮮明にした。
●親ロシア派トップら編入要請へ 「住民投票」賛成多数受け 9/29
ウクライナ東部と南部4州のロシアへの編入の動きが加速している。
3つの州の親ロシア派などのトップが、編入を要請する書類を公表し、東部2州のトップは、プーチン大統領に会いにモスクワに向かった。
親ロシア派の発表では、4つの州で行われた住民投票の結果、3つの州で賛成票が90%を超えて、ロシアへの編入が圧倒的賛成多数になったという。
親ロシア派「ドネツク人民共和国」トップ「待ちに待った瞬間が訪れた。『ドンバスはロシアだ』と言えるようになった」
親ロシア派「ルガンスク人民共和国」トップ「『ルガンスク人民共和国』のロシア編入をプーチン大統領にご検討願う」
投票の結果を受け、3つの州の親ロシア派などのトップが、編入を要請する書類を公表し、東部2州のトップは、28日にそれぞれプーチン大統領に会いにモスクワに向かったという。
プーチン大統領は、30日にも編入を宣言する見通しで、ウクライナや欧米諸国は、一方的な併合は認められないと強く反発している。 
●ドネツクでウクライナ反攻が加速 動員令、ロシア国境で混乱 9/29
米シンクタンク、戦争研究所は28日、ウクライナ東部ドネツク州で同国軍が反攻を加速し、北部リマン周辺で領土の奪還を進めつつあると指摘した。隣接するルガンスク州の知事はリマンでの攻防がルガンスク州での反転攻勢の鍵を握ると指摘しており、大きな戦果につながる可能性がある。
ロシアが部分動員令を出して以降、国境に市民が殺到し混乱が続いている。戦争研究所は、何十万人ものロシア人が出国を試みている現状を食い止めるため、当局が国境地域への移動の制限に乗り出したと指摘。ロシアの独立系メディアは、市民の不満拡大を懸念する当局が国境を閉鎖できずにいるとした。
●「汚職大国」ウクライナに供与された支援金と武器、無駄遣いで「消失」の危険 9/29
イスラム主義組織タリバンが政権を掌握したアフガニスタンから米軍が撤退し、20年にわたる泥沼戦争にようやく終止符が打たれてから1年。アメリカはまたも、戦争中の国への軍事援助と経済援助に莫大な金額をつぎ込んでいる。今度の相手は、ロシアの侵攻と戦うウクライナだ。
ジョー・バイデン大統領の就任以来、アメリカはウクライナに136億ドルの安全保障援助を約束してきた。さらに米議会は5月に約400億ドルの追加支援法案を可決しており、今後も支援は拡大しそうだ。
アフガニスタンでの経験が手掛かりになるとすれば、これらの資金の多くが流用され、悪用され、あるいはどこかに消えてしまう可能性が高いと、専門家は指摘する。「アフガニスタンに莫大な資金を投じたときと同じことが起きている」と、米政府のアフガニスタン復興担当特別査察官事務所(SIGAR)のジョン・ソプコ特別監査官は語る。
アメリカのNGOである武器管理協会のガブリエラ・イベリズ・ローザヘルナンデス研究員も、ウクライナへの援助について特別査察官事務所が設置されれば、アメリカの資金がどこ(とりわけ安全保障の領域で)に行き着いたかを追跡する助けになるだろうと語る。
ただ、援助の規模が大きいことや、軽兵器は追跡が難しいことを考えると、実際の作業は厄介なものになるだろうとローザヘルナンデスは予想する。アフガニスタンでも、タリバンがアメリカの兵器を一部入手したし、イラクやシリアでは、現地のパートナーに提供するはずの武器が過激派組織「イスラム国」(IS)のようなテロ組織の手に渡ったことがあった。
2020年のSIGARの報告書によると、アメリカがアフガニスタン政府に供与した資金約630億ドルのうち、約190億ドルが無駄遣い、汚職、乱用に消えた(ちなみにアメリカがアフガニスタン戦争に費やした金額は計1340億ドルだ)。
ウクライナへの支援金が同じような運命をたどらないようにするためには、もっと監視が必要だと、ソプコら専門家は警告する。「これだけ莫大な資金が一つの国に急に投入されるときは、最初から監視の仕組みを構築しておく必要がある」とソプコは言う。「だが、それが今は見当たらない。通常の監督機関は忙しくて手が回らないのが現状だ」
懸念されるのは、支援金の行方だけではない。ロシアから占領地域を奪還するための戦いは市街地で展開されることもあり、アメリカ製の武器を手にしたウクライナ軍が、一般市民を巻き添えにする恐れがある。
武器が敵対国や組織に横流しされる危険
アメリカが供給した武器がウクライナ経由で、アメリカに敵対する国や組織に横流しされる危険もある。「中東のテロ組織が、ウクライナから流出したジャベリン(携帯型対戦車ミサイル)を手に入れれば、甚大なダメージになる」と、米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンシアン上級顧問は語る。
過去の失敗を繰り返さないためには、ホワイトハウスと議会の両方に、ウクライナ紛争の状況を正直に説明する超党派の手続きを設けるべきだと、専門家らは訴えている。
ウクライナに対する軍事援助や経済援助の透明性を高めるために、SIGARのウクライナ版を設置するべきだとソプコは主張する。SIGARは、アフガニスタン復興事業に使われるアメリカの資金の流れを監視する政府機関として08年に設立され、四半期ごとに米議会に報告書を提出している。こうした監視体制は、シリアなどの紛争でもモデルになるはずだとソプコは言う。
「戦争中に武器援助の流れを追跡するのは非常に難しい。小火器の場合はなおさらだ」と、ローザヘルナンデスは言う。「戦場では、軍需品の管理は貧弱になりがちだ。アメリカとウクライナ双方の政策立案者が、説明責任に重点を置く必要がある」
米議会では実際、対ウクライナ援助の流れをもっと厳しく監視するべきだという声が、民主・共和どちらの党の議員からも上がっている。ランド・ポール上院議員(共和党)は5月、上院が400億ドルのウクライナ追加支援法案を迅速に可決しようとしたとき、その手続きに反対して採決を遅らせた(ファスト・トラック手続きを利用するためには満場一致の賛成が必要になるためだ)。
チャック・グラスリー上院議員(共和党)も6月、援助の監視体制が脆弱だと声を上げた。保守派だけではない。上院軍事委員会のメンバーである民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員も、強力な監視の仕組みを確立するよう求めた。
1991年にソ連から独立したウクライナは、大掛かりな腐敗に長年苦しんできた。国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の21年の汚職腐敗度指数(CPI)で、ウクライナはエスワティニ(旧スワジランド)と並び世界122位にランクされている。すぐ下にはガボンやメキシコ、ニジェール、パプアニューギニアといった国がランクされている。
ちなみにアフガニスタンは174位と、もっと下だ。イラクは157位、シリアは178位、アメリカは27位、ロシアは136位だ。ただし、「このランキングは、あくまで腐敗の認識を測定したものであって、実際の腐敗レベルとは違う」と、TIウクライナ支部のオレクサンドル・カリテンコ法務顧問は語る。
「このランキングは、あくまで腐敗の認識を測定したものであって、実際の腐敗レベルとは違う」と、TIウクライナ支部のオレクサンドル・カリテンコ法務顧問は語る。
カリテンコによるとウクライナの評価は、信頼に足る9つの国際機関が実施した調査結果に基づいており、前年よりも評価は下がったという。これはウクライナの「政府機関に腐敗を取り締まる常任の管理職が長年存在しなかったため、腐敗追放システムに対するプレッシャーが高まっている」からだ。
「腐敗取締特別検察庁(SAPO)の長官選びは1年以上かかった」とカリテンコは言う。「資産回収管理局(ARMA)のトップ選びも、前任者の更迭から2年近くたってようやく始まった」
問題はさらに2つある。司法改革に着手するための法的枠組みが採択されたのに、改革の実施が遅れていることと、いくつかの腐敗問題の徹底的な解決に寄与するはずの『反腐敗戦略』の議会での採択が遅れたことだ。
ロシアとの戦争も重荷だ。「戦争が続いているのに、腐敗撲滅に向けた改革を目覚ましく前進させることができると期待するのは非現実的だが」とカリテンコは言う。「今すぐにでも取り組まなければならない課題がある」
SAPOの長官は7月に任命されたばかりだし、ARMAと国家反汚職局(NABU)の責任者は選考中だ。トップの不在はウクライナにとって弱点だ。「各組織が独立性や、権限の基礎となる法的枠組みについて課題を抱えているならなおさらだ」とカリテンコは言う。
トップ人事の遅れは組織の効率性にも悪影響を与える。既に長官が任命されたSAPOでも「独立性を強化し、トップの権限を拡大し、不当な介入を受けるリスクを最小化しなければならない状況は残っている」。
航空防衛産業のコンサルティング会社スティーブン・マイヤーズ&アソシエイツの創業者で、米国務省の国際経済政策諮問委員会を務めた経験もあるスティーブン・マイヤーズも、ウクライナ支援の透明性の欠如を心配する1人だ。
「ウクライナには、支援の分配に関して説明責任を果たすための効果的な仕組みがない」とマイヤーズは本誌に語った。「懸念すべき状況なのは間違いない」
マイヤーズに言わせれば、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いる現政権も含む、ウクライナの過去20年間の歴代政権は腐敗の大きな問題を抱えてきた。賄賂などの違法なカネの流れが生まれがちなだけではない。「さらに深刻なのは支援を受けた軍備品や武器に関わる問題だ」と彼は言う。「戦地の指揮官が装備の一部をロシア人や中国人、イラン人といった買い手に横流しするのを防ぐ手だてがほぼない」
CSISのキャンシアンが心配するのは、腐敗の可能性や具体的な事例が、超党派で進められてきたウクライナ支援に悪影響を与えることだ。
「腐敗の実例が明らかになれば、超党派の合意に水を差すだろう」とキャンシアンは言う。「そんなことになれば深刻な影響が出る。ウクライナはアメリカとNATOからの長期にわたる高度な支援を必要としているのだから」
アフガニスタンとウクライナでは状況があまりにも違うとしながら、キャンシアンも特別査察官事務所の設置は支援の無駄遣いや不正使用の防止に役立つと考える。ただしアフガニスタンでは、SIGARの警告に耳を傾ける人はほとんどいなかったのも確かだ。
支援がなければ我々の政権は崩壊する
「アフガニスタンではどの司令官も腐敗の問題は遺憾だと言っていた」とキャンシアンは語る。「だが結局は、『支援を削減すればわれわれ(の政権)は崩壊する。支援は続けてもらわなければ困る』と言うばかりだった。ウクライナも同じような傾向にあるのかもしれない」
これまでのところ、高価なハイテク兵器の支援を求めるウクライナ政府の訴えは功を奏している。アメリカ政府は高機動ロケット砲システム(HIMARS)などの最先端の武器を供与してきた。
だが支援の増加に比例して、リスクも増えている。懸念される点は大きく分けて2つ。1つはアメリカから供与された武器がウクライナ軍ではなく、アメリカと敵対する第三者の手に渡る可能性だ。「武器に関するリスクとは、横流しの可能性だ」とキャンシアンは言う。「ジャベリンや対戦車兵器、スティンガーミサイルの一部が、ウクライナにいる誰かが第三者に横流ししたせいで、渡ってはならない勢力の手に渡ってしまうかもしれない」
第2のリスクは、アメリカが供与した兵器や武器によって民間人の犠牲が出てしまう可能性だ。侵攻開始以降、ロシアとウクライナは互いに相手の残虐行為を非難しているが、キャンシアンは「ロシア人に対してではなくウクライナ人、特にロシア語を話す人々に対して」アメリカの武器が使われるシナリオを懸念する。
ロシアが占領しているウクライナの東部や南部では、住民の多くをロシア語話者が占めている。そしてロシア政府の言う「戦争の大義」には、ウクライナ国内のロシア語話者の防衛も重点項目として掲げられている。
アメリカによる監視を強化すれば、供与された武器が必要な場所に届くのが遅れるというウクライナ側の理屈を、キャンシアンは一蹴する。「これらの(監視の)メカニズムには干渉が過ぎる印象があるかもしれないが、実際はアメリカが援助を行う際のスタンダードだ」
「アフガニスタンのときのように『この国は腐敗していて、金を出しても横取りされてしまうだけだ』という見方が出てきたら、ロシアと戦い続けるために必要な長期的な支援は消えうせるだろう」と彼は言う。
この問題について国務省の報道官は、バイデン政権はゼレンスキー政権と直接手を携え、あらゆる形の支援が必要なところに届くよう努めていると述べた。「アメリカは自国の防衛技術を守り、その横流しや違法な拡散を防ぐ責任を非常に重く受け止めている。支援に関する説明責任がしっかり果たされるよう、われわれはウクライナ政府への積極的な関与を続けている」。だがこうした言葉だけでは、さらなる透明性を伴う厳格な仕組みを求める人々を納得させることはできない。
SIGARのソプコも支援については、監視を含めて党派を超えた取り組みが大事だと考えている。「それこそが本当に必要だ」とソプコは言う。「そうでなければ、われわれは歴史のハムスターの回し車に乗って、同じ過ちを繰り返し続けることになる」
●インドの対ロ政策、距離置きつつエネルギー輸入は継続へ 9/29
インドはウクライナ戦争を巡りロシアへの対応が手ぬるいとの批判を抑えるため、ロシアから距離を置く姿勢を鮮明にしつつある。しかしロシアにウクライナ侵攻の責任を負わせるまでには踏み込んでおらず、ロシア産の安い石油や石炭を輸入する政策を変えることはないだろう。
インドはモディ首相が今月半ば、ロシアのウクライナ侵攻後初めてロシアのプーチン大統領と対面での会談を行った際、「今は戦争のときではない」と述べ、インドの立場を明確にした。
ジャイシャンカル外相も先週の国連安全保障理事会で、ウクライナ情勢を「非常に危惧」しており、核のリスクが高まっていることを「特に心配している」と述べた。
アナリストによると、わずかとはいえインドがロシアへの態度を変えた背景には、ウクライナ戦による経済的な負担の増大や、それがインドに与える影響を巡る懸念がある。
さらにインドは、ウクライナ戦争をきっかけにロシアが、インドと緊張関係にある中国に接近することを懸念していると、アナリストは指摘する。インドはロシアから距離を取ることは、ロシアに近過ぎるという欧米諸国からの批判をかわすのにも役立つと期待している。
インドの元駐ロシア大使で国家安全保障顧問会議の議長を務めるP.S.ラグハバン氏は、インドは常にウクライナでの敵対行為の終結を求めてきたが、今は公に、よりはっきりした立場を取っていると説明。「インドと中国は同じ行動をしているという言説に反論している」と述べた。
「われわれの立場は(中国とは)全く違う。やみくもにロシアを支持しているわけではない。ロシアとの間に一定の協力関係を築き、継続する必要はある。国防は最重要だが、石油も同じだ。肥料の輸入も増えている。要は、エネルギーが安く手に入るなら購入するということだ」
インドとロシアは数十年も前から密接な関係にある。インドの2018―21年の武器輸入総額124億ドルのうちロシアは55億1000万ドルを占めた。
ロシアはインドの石油輸入に占める比率が以前は小さかったが、ウクライナ戦争後に急激に高まり、今では第3位の供給国に躍り出た。ロシア産は価格が安く、インドの輸入は1年前と比べて10倍に急増。ロシア産石炭の輸入も前年比4倍に膨らんだ。
ラグハバン氏は、経済的にメリットがあるからロシアと取引しているが、だからといって「ロシアの成すこと全てに賛成しているわけではない」と強調した。
平和を支持
アナリストは、インドが対ロシア姿勢を鮮明にすることでロシアとの関係が壊れることはないと見ている。
シンクタンク、オブザーバー・リサーチ・ファウンデーションの研究者、ナンダン・ウニクリシュナン氏は「今の時点でインドはロシアと完全に決別するつもりはない」と分析。インドが兵器輸入の分散化と国産化の取り組みを進めていることに触れ、「ロシアと結ぶ橋がすぐに破壊されることはないが、橋の交通量は減るかもしれない」と述べた。
インドのジャイシャンカル外相とロシアのラブロフ外相との24日の会談後にロシアは、両外相が「相互の国益に関する問題全体にわたり二国間交流を強化する確固たる意図」を強調したと発表した。
ジャイシャンカル外相は23日の国連総会で「ウクライナ紛争が激化する中、われわれは誰の味方なのかと尋ねられることが少なくない。インドは平和の側に立ち、そこに確固として留まる」と述べたが、ロシアには直接言及しなかった。
アナリストによると、インドの最近の発信にロシアは否定的な反応を示しておらず、一方で米国からは歓迎されている。両国と戦略的な関係を持つインドにとって、外交的なバランスを取るのは必ずしも容易ではない。
アナリストによると、インドが懸念しているのは、戦争が進んでプーチン氏がさらに追い詰められた場合に、ロシアが中国に一層すり寄ることだ。
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院の上級講師アビナッシュ・パリワル氏(国際関係学)は「中ロ関係は中国に有利な方向に傾いており、ヒマラヤ地域において(インドと中国の間で)深刻な紛争が勃発した場合、ロシアがインドの懸念に応えることはないだろう」と述べた。
●ロシア プーチン大統領 支持率8割切る 予備役動員への不安か  9/29
ロシアでプーチン大統領の支持率が、ウクライナへの軍事侵攻後、初めて8割を切ったと、独立系の世論調査機関が発表し、予備役の部分的な動員に対する国民の不安や不満の表れと受け止められています。
民間の世論調査機関「レバダセンター」が、9月22日から28日にかけて、ロシア国内の18歳以上の1600人余りを対象に対面で調査したところ「プーチン大統領の活動を支持する」と答えた人の割合は77%で、先月を6ポイント下回りました。
プーチン大統領の支持率はウクライナ侵攻後のことし3月、およそ4年ぶりに80%を超えましたが今回、侵攻後初めて8割を切りました。
また「国は正しい方向に進んでいる」と答えた人の割合は60%と、先月を7ポイント下回ったのに対し「間違った道に進んでいる」は27%と、軍事侵攻後、最も高くなりました。
調査はプーチン大統領が、9月21日に予備役の部分的な動員に踏み切った直後に行われ、レバダセンターのボルコフ所長はNHKの取材に「突然の動員発表による国民の不安や恐怖、不満の表れだ」と分析しています。
「レバダセンター」は政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも独自の世論調査活動や分析を続けています。
●ウクライナ4州の親ロシア派支配地域、プーチンが「併合条約」あす調印 9/29
タス通信によると、ロシアの大統領報道官は29日、プーチン大統領が30日にモスクワの大統領府で、ウクライナ東・南部4州の親露派支配地域を一方的に併合する「条約」に調印すると明らかにした。プーチン氏は演説もする予定だ。
調印式は、モスクワ入りしている4州の親露派トップと、30日午後3時(日本時間30日午後9時)から上下両院の議員らを招いて行われる。23〜27日に実施された「住民投票」で併合支持が「多数を占めた」とする結果を踏まえたものだ。調印後、上下両院に条約の批准を求める見通しだ。
調印に先立ち、南部ヘルソン、ザポリージャ両州の親露派がウクライナから一方的に独立することも承認するとみられる。東部ルハンスク、ドネツク両州の親露派は既に独立を宣言し、プーチン氏が2月、承認していた。
30日には大統領府付近で祝賀集会も予定されており、特設ステージの設営が進んでいる。タス通信などによると、露上下両院は10月3、4両日に関連法案を審議する予定だ。米欧各国は「偽りの投票だ」などとして、併合を認めない立場だ。ロシアがウクライナ領土を併合するのは、2014年のクリミア以来となる。
一方、露独立系世論調査機関レバダ・センターは28日、プーチン大統領の支持率が77%となり、8月調査から6ポイント下がったと発表した。プーチン氏が21日に部分的動員を発令した影響とみられる。調査は22〜28日に行われた。プーチン氏の支持率が80%を割り込んだのは3月以降、初めてだ。不支持率も6ポイント増の21%となった。
ウクライナ東部ルハンスク州の知事は28日、SNSを通じ、動員で招集されたばかりのロシア兵が最前線へ投入されていると明らかにした。十分な訓練が行われていないことを示すもので、SNSでは訓練施設の劣悪な環境に関する投稿も相次いでいる。

 

●プーチン氏を止めれば最悪の結果は回避可能=ウクライナ大統領 9/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は29日、ロシアはウクライナ戦争による最悪の結果を回避することが可能だが、そのためにはプーチン大統領を止めなければならないと述べた。
夕方の演説で、ロシア大統領府が計画しているウクライナ東南部4州の併合は予想された結果を生まないと指摘。それどころか、ロシア自身が2014年に併合されたクリミアで繰り広げられたような無法の「破滅的状況」と切り離せなくなるとした。
●ゼレンスキー氏「動員に抵抗を」、ロシア少数民族に呼びかけ 9/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は29日、ロシア全土の少数民族に対して「恥じるべき戦争」で死ぬべきでないと述べ、ロシア政府による動員に抵抗するよう呼びかけた。
プーチン大統領による部分的動員令を受け、南部のコーカサスやシベリアなど少数民族が住む一部地域では、激しい抗議デモが起きている。部分動員では、こうした貧しい少数民族が徴兵対象になるケースが偏って多いとの指摘がある。
ゼレンスキー氏は「あなた方はウクライナで死ぬ必要はない。あなた方の息子はウクライナで死ぬ必要はない」と強調し、「誰も恥じるべき戦争に加わる義務はない」と述べた。
ロシアの調査機関iStoriesがまとめたデータによると、ウクライナ戦争の犠牲者の割合は、ロシア連邦を構成する共和国の1つでモンゴルと国境を接するブリヤート共和国と、主にイスラム教徒が住むカスピ海沿岸のダゲスタン共和国で最も多い。
ダゲスタンでは先週、徴兵反対の抗議デモで100人以上が拘束された。
●ロシア プーチン大統領 ウクライナの2州を「独立国家」署名  9/30
ロシアのプーチン大統領は29日、ウクライナの南東部ザポリージャ州と南部ヘルソン州について「独立国家」として一方的に承認する大統領令に署名しました。30日には東部の2つの州と合わせて4つの州を併合する文書に調印する構えで、ウクライナや国際社会の非難がさらに強まるとみられます。
プーチン大統領は29日、ウクライナの南東部ザポリージャ州と南部ヘルソン州についてそれぞれ「独立国家」として一方的に承認する大統領令に署名しました。
大統領令ではプーチン政権を後ろ盾とする親ロシア派の勢力が強行した「住民投票」だとする組織的な活動に触れ、「人々の民意を尊重する」と主張しています。
プーチン大統領はことし2月、ウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州も独立国家として一方的に承認する大統領令に署名しています。
ロシア大統領府は、プーチン大統領が首都モスクワのクレムリンで、30日の午後3時、日本時間の30日午後9時から式典を開くと発表していて、ウクライナの4つの州を併合する文書に調印し、演説で併合について表明するものとみられます。
8年前のウクライナ南部クリミアに続いて4つの州を一方的に併合する構えのプーチン政権に対してウクライナ政府が強く反発しているほか、アメリカやEU=ヨーロッパ連合は追加の経済制裁を科す方針を明らかにしていて、国際社会の非難がさらに強まるとみられます。
アメリカ バイデン大統領「決して認めない 完全なでっちあげ」
ウクライナの一部をロシアに併合しようとする動きについて、アメリカのバイデン大統領は29日「アメリカはウクライナの領土をロシアのものとする主張を決して認めない。『住民投票』と称するものは完全なでっちあげにすぎない」と述べ、非難しました。
そのうえで「プーチンの帝国主義的な野心にもとづいたウクライナへの侵攻は明確な国連憲章違反だ」と述べて批判しました。
●ロシア プーチン大統領「正当な理由なく動員の人は家に帰す」  9/30
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領はみずから踏み切った予備役の部分的な動員について「誤りがあったとすれば正さなければならない」などと述べ、動員の過程で誤りがあったことを認めました。
反発や混乱が広がる中、世論に配慮する姿勢を示すことで社会の不安定化を避けたいものとみられます。
プーチン大統領は29日、首都モスクワで安全保障会議を開き、今月21日から全土で進めている予備役の部分的な動員について発言しました。
この中でプーチン大統領は持病がある人や招集の対象年齢を過ぎた人なども動員されているという情報があるとしたうえで「誤りがあったとすれば正さなければならず、正当な理由なく動員された人は家に帰さなければならない」と述べ、動員の過程で誤りがあったことを認めました。
そして「騒がず冷静に、しかし迅速かつ徹底して対処しなければならない」と強調しました。
動員をめぐってロシア国内では各地で抗議活動が起きたり招集を逃れようと市民が周辺各国へ押し寄せたりして反発や混乱が広がっていて、プーチン大統領としては世論に配慮する姿勢を示すことで社会の不安定化を避けたいものとみられます。
ロシア世論調査 動員は半数近くが「不安や恐怖」と回答
ロシアで進められている予備役の動員についてロシアの独立系の世論調査機関は、調査した人の半数近くが不安や恐怖を感じていると回答したと発表しました。
民間の世論調査機関「レバダセンター」は9月22日から28日にかけて、ロシア国内の18歳以上の1600人余りを対象に予備役の動員について対面で調査した結果を29日に発表しました。
この中で「動員についてどう感じるか」複数回答で聞いたところ、「不安や恐怖」が47%と最も多く、次いで「ショック」と「国への誇り」がそれぞれ23%、「怒りや憤り」が13%でした。
また、今後、総動員が発令されることを恐れているかという質問に対して「間違いなく恐れている」が36%、「どちらかというと恐れている」が30%で、動員の対象が国民全体に及ぶことを恐れているのは3分の2に上りました。
ことし2月のウクライナ侵攻直後に行われた調査で総動員の発令を恐れていると答えたのは合わせて28%にとどまっていて、今回、プーチン大統領が踏み切った動員によって国民の間で不安が広がっていることがうかがえます。
「レバダセンター」は政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも独自の世論調査活動や分析を続けています。 
●ロシア、シリアで攻撃減少 死者最少、ウクライナ侵攻受け 9/30
在英のシリア人権監視団は30日、ロシアがアサド政権支持のためシリア国内で行っている攻撃件数が、ロシアによるウクライナ侵攻以降に減少したと明らかにした。監視団は「ウクライナでの戦争開始後、シリアでのロシアの役割が総じて減退した」と指摘している。
監視団によると、過去1年のシリアでのロシアの攻撃による犠牲者は241人で、うち28人が民間人。残りの大半は過激派組織「イスラム国」(IS)戦闘員だった。ロシアが2015年9月30日にシリアへ軍事介入してから丸7年が経過する中、1年間の死者数としては最少だった。
ロシアの軍事介入でアサド政権は劣勢を覆し、シリア内戦での圧倒的優位を固めた。過去7年間のロシアの空爆による死者は2万1000人超。民間人は8697人に達し、うち4分の1は子供という。
●民間車列に「ミサイル攻撃」 50人超死傷―ウクライナ南部 9/30
ウクライナ南部ザポロジエ州のスタルク知事は30日、ザポロジエ市郊外で民間の車列にロシア軍のミサイル攻撃があり、少なくとも市民23人が死亡、28人が負傷したと明らかにした。
スタルク氏は通信アプリ「テレグラム」で「人道支援目的の民間人の車列が攻撃された」と指摘。「犠牲になった人々は、ロシア軍が占領する地域に親族を迎えに行ったり、援助物資を届けたりするために車で列をつくっていた」と語った。
ウクライナのティモシェンコ大統領府副長官はテレグラムで、車列の場所に16発のミサイル攻撃があったと主張。現場映像を投稿し、軍事的目標はないとして「非道だ」と訴えた。
ロシアの独立系英字紙モスクワ・タイムズによると、ザポロジエ州の親ロシア派当局者は、ミサイル攻撃を「ウクライナのテロだ」と主張し、ロシアの関与を否定した。
このほか、南部ミコライウでもロシア軍のミサイルが9階建ての集合住宅を直撃。崩壊した建物の下敷きになるなどして複数の負傷者が出たという。
●ロシアの動員令、実は100万人?プーチン氏の大統領令に非公開の項目 9/30
敗北に次ぐ敗北――。ウクライナの一部戦線で追い詰められたロシアのプーチン大統領が9月21日、ついに動員令を発動した。
国民総動員ではない「部分的動員」だが、それで戦況を変えられるのか。「本気」を見せたプーチン氏に、ロシア人はどう応じるのか――。
ロシア軍は9月、ウクライナ北東部ハリキウ州の占領地を次々とウクライナ軍に奪還された。南部ヘルソン州でも部隊が補給路を攻撃され、数万の兵員が孤立の危機と戦っている。「動員令」発動の背景にはそうした苦戦がある。
プーチン氏はこれまで「(ロシアは)まだ本気を出していない」「まだ全ての力を出していない」などと発言してきただけに、動員令を出したことでようやく「本気」になった格好だ。
大本営発表ばかりだったロシアメディアも「本気モード」に切り替えた。敗北の本当の様子を伝え、国民に戦いを呼びかけ始めたのだ。
ロシア紙「コムソモーリスカヤ・プラウダ」(9月21日)は次のように報じた。
「動員令は状況が良くない時に発動される。(プーチン氏の)目標達成のためには、現有兵力が足りないことを認めざるをえない。戦いは(攻撃ではなく)『防衛』のフェーズに入った。前線で決定的に不足しているのは、歩兵の射撃手、操縦手、砲兵の照準手だ。複数の旅団(約4千人)で、歩兵が60人しかいなかった例がある。ある連隊では突撃兵が6人しかいなかった」
しかし、動員令はロシア国民にとっては「晴天のへきれき」だったようだ。若者らが全土で抗議活動をした。独立系ロシア語メディア「7×7」はYouTubeで彼らの声を紹介した。
「僕はプーチンのために死ぬつもりはない」(シベリアのノボシビルスク市で)
「ロシアの若者が戦場へ駆り出されるのが良いことですか?」(ロシア中南部のペルミ市で)
権力側は対抗し、「反動員」を訴えたモスクワの若者に赤紙(召集令状)を送付した。人権派弁護士チコフ氏はSNSのTelegramで「召集令状が初日から反戦運動を抑えこむ手段になった」と投稿した。
各地の若者らの抗議集会も当局が押さえこみ、初日だけで38都市で1400人が逮捕された。
ロシア人が受けたショックをロシア語メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は次のように書いた
「テレビで見ていただけの戦争が『画面から自分の家庭に飛び込んでくる』と突然ロシア人は気づいた」
動員逃れのため海外へ逃げたロシア人は数万人にのぼった。中央アジア・カザフスタンへ車で逃げた43歳の男性は「プーチン支持が本物なら、みんな逃げないさ。(プーチンの)国民への愛情なんてテレビ番組の中だけの嘘っぱちだ」と話した。
ロシアのショイグ国防相は動員数を「30万人」と述べたが、多いのか少ないのか。ウクライナでの戦争に詳しい独立系民間調査組織CITは次のように評価する。
「ロシア陸軍の職業軍人の数は15万人から18万人の間。仮に30万人が陸軍に加わるとすると、規模は3倍になる。ロシア軍の前線防衛には十分で、(ロシアが大敗した)ハリキウ州の再現は防げるようになる。西側はウクライナへの軍事支援を拡大しなければならないだろう」
動員は30万人にとどまらない、との指摘もある。10項目ある大統領令のうち、動員数を規定した第7項が非公開にされたからだ。
ロシア語メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」はクレムリン(ロシア大統領府)筋の話として、第7項目に書かれた動員数は「100万人」だと伝えた。国防相の言う「30万人」を額面通り受け止めることはできない。
部分的動員でなく「全面動員」ではないか――。実際、そんな声がロシアの地方を中心に広がっている。
問題になっているのは「深夜のノック」だ。法律上、郵送での召集令状送付は認められず、自宅などで手渡ししなければならない。極東ブリヤートでは、深夜の自宅訪問がしばしば起きている。ドイツ国営メディアDW(9月23日)はブリヤートの人権活動家の言葉を伝えた。
「朝の3時、4時にまで訪問してくる。動員がいかに『全面的』か分かります。しかも、赤紙を渡しに来るのは、教師たちなのです」
教師が駆り出されているのは、召集令状を扱う徴兵事務所だけでは人手が足りないためだ。ブリヤート以外の地域でも、午後11時に女性教師が対象者宅を訪ね、その母親が抗議する様子がTelegramに投稿されている。
「前線に行くのは年寄りばかりじゃないか」。モスクワのチコフ弁護士は9月23日、SNSでこう皮肉った。召集令状が高齢者にも渡されているためだ。
「今日、軍務経験のない男性58歳(極東ヤクート)、元軍曹61歳(西部サマラ)、元中尉55歳(西部ボルゴグラード)、元大佐63歳(モスクワ)に召集令状が渡されたという。極東ウラン・ウデでは60代の年金生活者たちがバスで徴兵手続きに連行された」
9月22日、ロシア中部に住む20代の複数の女性看護師がTelegramで「軍務経験がないのに、召集令状が来た。応じないと裁判にかけると脅された」と訴えた。看護兵は前線で最も不足している兵種だ。そのため、「無差別的な徴兵」が行われている可能性がある。
仏教徒のブリヤート人など少数民族がすむ地域で優先的に動員が行われている可能性がある。ロイター通信(9月23日)は次のように伝えた。
「ブリヤートの人権活動家は『首都モスクワで抗議活動を広げないため、動員の比重は、少数民族の住む貧しい地方が高くなっている』と怒る。ウクライナで死んだ兵士の数を見ても地方偏重がある。ブリヤートがロシアで2番目に多い259人、南部のイスラム教地域ダゲスタンが最も多い277人。それに対しモスクワは10人だ」
そのダゲスタンの徴兵事務所前に9月22日、数十人の男性が抗議に詰めかけた。地元メディア「チェルノービク」がTelegramで次のように伝えた。
男たちが「(今の戦いは)政治家のためやっていることだ」「何のために戦うのか」との声をあげた。
徴兵事務所職員が「未来のための戦いだ」と答えると、「我々は『今』でさえよくない、未来って何のことだ」。
さらに別の男が「今、敵が迫っているのか」と聞くと、職員は「まだ、ない」と述べ、答えに窮した。
地方の知事たちは釈明に追われた。SNSなどで次のように述べた。
ダゲスタンの首長は「(動員令で)皆さんが不安や苦悩をいだいていることは分かっています。しかし、今は団結すべき時なのです」。
ブリヤートの首長は「病気の人など70人に誤って召集令状を渡した。善処します」(中高年についての言及はなかった)。
ウラジオストクが州都の沿海地方の知事は「動員で企業・農業・消防が働き手を失うことを私は理解している。私の部下の公務員も150人が徴兵事務所へ出頭した。兵士を送り出すのに豪華な花火はいらない。招集令状が来た家庭に喜びはないからだ」。
「豪華な花火」とは、この11日前、モスクワで、市創設記念日を祝う花火大会があったことを皮肉っている。
「動員逃れ」はロシアでは刑法違反だ。CITや人権派弁護士は、「今の状況では、警察官などが対象者を連行して動員の手続きをさせるケースも出てくるかもしれない」と指摘した。
そうした人権無視の動員などを監視する、兵士のための人権擁護団体がロシアに10ほどある。その一つ、「アゴラ」には動員令が出た日だけで6千件の相談があった。
ロシア軍内部の人権侵害の情報は少なくない。ウクライナに派兵された将兵の家族からの通報を、ロシア語メディア「メドゥーザ」(8月24日)が次のように伝えた。
「ロシアのある大きな地方で活動する兵士の母親委員会には、本格侵攻の2月以来、400件の訴えがあった。最も多いのは『ウクライナに行った息子や兄弟と連絡が取れなくなった』というものだ」
記事では兵士の家族の声を次のように紹介している。
兵士の母親「2月、息子から、小銃を渡されて今から戦場に送られる、と電話があった。それきり連絡がない」
別の兵士の母親「2月に息子から電話が来たきり連絡が途絶えた。戦友から息子は死んだ、部隊の40人中、生き残ったのは15人だ、と聞かされた」
将校の妻「夫ともう2人の将校が6月16日、(自称)ルガンスク人民共和国で軍の命令を遂行できないとして、除隊を申し出た。すると、手錠をはめられ、ロシアの私兵集団ワグネルに身柄を引き渡された」
メドゥーザによると、この団体が救えたのは何人かの将兵にすぎず、多くの兵士の運命は不明のままだ。
こうまでしてロシア人が戦う大義を、政権側はどう説明するのか。ロシアの著名な軍事ジャーナリストは部分的動員令についてコムソモーリスカヤ・プラウダ紙に対し、こう述べた。
「私は数カ月前、NATOの直接的関与の兆候を知り、この紛争は『実存』をかけたものだと分かった。ロシアが力をセーブしていては、西側諸国とは戦えないのだ」
プーチン大統領は「動員演説」でやはり「反西側」を強調した。ロシア・エリートの間では、「もはやウクライナとの戦争ではなく、西側との戦争だ」という論調が強まっている。ロシアが先に倒れるか、西側が先か、それがプーチン流の「実存」の意味だ。
ロシア兵の士気の低さは幾度も指摘されてきた。今回、反戦派の若者や、高齢者にまで「赤紙」を渡し、囚人さえ動員する動きがある。
プーチン氏の抽象的なアジテーションが彼らの戦意を高め、戦争がロシア優位に傾く可能性はあるのか。
民間調査組織CITは「動員兵を訓練する必要があるかもしれず、数カ月様子を見るべきだ」と指摘する。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「今年は変化は起きない。来年も不透明だ」と述べ、こう警告する。
「ロシアが様々な地方で死に物狂いの動員をかけることは、社会的緊張を悪化させかねない。すでに地域による(戦争の犠牲の)不平等性が問題化しているからだ」
●プーチン氏、戦闘停止と交渉再開求める 9/30
ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナのゼレンスキー政権に対し、直ちに戦闘を停止し、交渉の席に着くよう求めた。
●「米は日独韓いまだ占領」 プーチン氏、原爆も言及 9/30
ロシアのプーチン大統領は30日の演説で「米国はいまだにドイツや日本、韓国を事実上占領している。指導者たちが監視されていることを全世界が知っている」と述べ、同盟関係が対等でないと批判した。
プーチン氏は、これらの国の指導者が米国に対し「奴隷のように沈黙し、不満もこぼさずに野蛮な行為を受け入れている」と指摘。そうした振る舞いは「恥ずべきだ」と断じた。
また「米国は2度にわたり核兵器を使った世界で唯一の国で、日本の広島や長崎を破壊した」とも述べ、核兵器使用の「先例」をつくったと批判した。
●「永遠に私たちと同じ国民になる」プーチン大統領 ウクライナ4州“併合宣言” 9/30
ロシアのプーチン大統領がクレムリンで演説し、ウクライナ4州の併合を一方的に宣言しました。
プーチン大統領「ロシア国民、ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソンの皆様、議員、議長。投票が行われて、結果はご存じの通りです。ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソンは自分たちではっきりと選択しました。数百万人の人民の意志です。ソ連はもうありません。でも戻る必要はありません。彼らは永遠に、私たちと同じ国民になります。キーウ政権に2014年から続く戦争行為をやめ、交渉につくよう言います。キーウは彼らの意志を尊重しなければいけない。それが平和につながる」
EU(ヨーロッパ連合)は即座に声明を出しました。
EU「ロシアはウクライナの独立・主権・領土保全を露骨に侵害しました。違法な併合を断固として拒否し非難します」
●プーチンのロシアと共に「敗れる」日本―残る希望は若者達? 9/30
結論から言えば、遅かれ早かれ、プーチン大統領は、ウクライナ侵攻で敗れることになる。あまりに多くのものを失い、ロシアも国家的な危機を迎えることになるだろう。そして、この戦争を契機に世界は大きく変化していく。その変化の動きに、日本がついていけるのか。この国における論議の貧困さを観ていると、日本自体もかなり危ういと言える。
既に「詰んでいる」プーチン
プーチン大統領は、既に「詰んでいる」ことを自覚するべきだ。部分動員で何十万人もの兵士を戦地に送ったとしても、ロシア軍の士気は極めて低い上、兵站、つまり兵器などの戦争に必要な物資の供給が不足している状況は変わらない。欧米等の経済制裁で、ロシア国内での生産力は落ちており、それは兵器工場も例外ではないからだ。一方で、ウクライナ軍は欧米諸国、特に米国から無尽蔵とも言える軍事支援を受けており、数で勝るロシア軍相手に善戦を続けている。プーチン大統領は核兵器の使用も示唆し、ウクライナや世界を脅そうとしているが、ロシア側が勝手に始めた侵略戦争で核兵器まで使えば、国際社会の反発はこれまでとは次元の違うものとなるだろう。ウクライナ侵攻で、どちらかと言えばロシア寄りの立場をとり、プーチン大統領が頼る中国も、ロシアが核兵器を使用すれば、かばうことは難しいだろうし、中国自体も難しい立場に置かれることになる。
例え、ロシア軍がさらなる攻勢をかけ、ウクライナでの戦闘を優勢なものにしたとしても、ロシアの抱える本質的な問題は変わらない。それは、ロシア経済が石油や天然ガス、石炭等の地下資源に依存したもので、かつ、それらの資源の最大の買い手がEU諸国であるということだ。ロシアの輸出相手国をみると、全体の約半分近い44.7%がEU諸国向けである(関連情報)。そのEU諸国に対し、愚かにもプーチン大統領はエネルギー危機を助長するような揺さぶりをかけている。それによってEU諸国は断固たる「エネルギーの脱ロシア化」を進めているのだ。
加速する欧州の脱ロシア
EUの立法・行政機関である欧州委員会は、ウクライナ侵攻を受け、今年5月に新たなエネルギー政策として、「リパワーEU」をまとめた。これは、
・再生可能エネルギーへの移行の加速
・エネルギー確保の多角化、天然ガスの脱ロシア依存
・省エネの推進
を柱とするもので、それ以前に温暖化対策として決定していた分も含め、2030年までに最大で3000億ユーロ(約40兆円)の投資を行うとしている。
とりわけ、再生可能エネルギーへの移行の加速では、「現在の2倍以上となる320ギガワット*以上の太陽光発電を2025年までに新設。2030年までに約600ギガワット分の新設を目指す」との目標を掲げている。これを可能とするため、住宅や商業施設等への太陽光発電パネルの設置を段階的に義務化するという。 さらに、再エネ由来の水素の生産を、2030年までに、現行目標の約2倍となる年間約1,000万トンに引き上げるとともに、同量をEU域外から輸入。さらに、2030年までに350億立法メートル分のバイオガスの生産を目指す。これらの対応策により、現在、年間で約1550億立法メートルのロシア産天然ガスへの依存から脱却するというのだ(関連情報)。確かに、現在のEUにおけるエネルギー危機は深刻であるが、中長期的には、脱炭素社会・経済を実現する動きを強力に推し進める要因となっているのだろう。
*1ギガワットは大型原発一基分の電力に相当。
ルサンチマンに溺れる日本の末路は?
正に生存をかけたEUの脱ロシア化への本気度に比べ、日本の動きは鈍い。ウクライナ危機は、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を国外に依存することの危うさを改めて突きつけ、実際に日本経済・社会も原油・ガス等の価格高騰の影響を受けている。だが、そうした事実を踏まえ、エネルギー安全保障を考えなおす建設的な論議よりも、EUの再生可能エネルギー推進や電気自動車の開発・普及へのルサンチマン(弱者が強者に対して抱く恨み・妬み・嫉み)に溺れた主張が蔓延しているのは残念なことだ。とりわけ、保守系の新聞、雑誌系、ネットメディアでの論議のレベルは低く、醜悪ですらある。つまり、「EUの脱炭素は失敗だった」的な主張だ。それでなくとも、この期に及んでなお、日本政府が原発や火力発電に依存し続けるエネルギー政策に固執する中で、それを助長するようなメディアでの論議は、世界的な脱炭素の潮流から、ますます日本を孤立させることとなり、それは日本経済や社会にとって、とてつもない損失をもたらす。
希望は若者達?
EUの苦しみを揶揄するだけで、その先駆的な取り組みから学ぶこともなく、現状維持を正当化しようとする日本の言説を見聞きすると、これだから日本は「失われた〇〇年」を更新し続け、衰退の一途をたどっているのだろうと暗澹たる気持ちになるのだが、希望もある。それは、若者達の行動だ。10代、20代の若者達が参加する「350NewENEration」は、現在、GENESIS松島計画見直しのため、パブリックコメントを送るキャンペーンを行っている。
この、GENESIS松島計画とは、電源開発株式会社(J-Power)が、長崎県西海市のある旧式の石炭火力発電所に、石炭をガス化する発電設備を付け加え「効率を改善」することで、今後も使い続けようとするものだ。だが、同計画で抑制されるCO2排出はわずかにすぎず、天然ガスによる火力発電と比較して2倍以上の排出係数となることには変わりはない。昨年の温暖化対策の国連会議COP26では、温暖化による破局的な影響を防ぐため、「主要経済国は2030年代に石炭火力発電所を全廃する」という国際合意が40カ国以上の賛成でまとまったが、GENESIS松島計画はこうした世界の脱炭素の流れに逆行する。そこで、350NewENErationは「石炭ゾンビ」というサイトを立ち上げ、上述のGENESIS松島計画見直しパブコメの募集や、識者メッセージの紹介、勉強会の開催を行っている。
これらの若い世代の意識や活動は、ルサンチマンに溺れる古臭いメディアでの論議とは対照的だ。ロシア軍によるウクライナ侵攻は、現地の人々にとっては勿論のこと、世界にとっても大変な悪影響を及ぼしているが、このピンチは独裁者の横暴を挫き、温暖化の破局的な影響を防ぐための社会・経済を変革するチャンスでもある。日本の大人達も、若者達の姿勢に学び、応援すべきなのだろう。
 
 

 

●「勝利はわれわれのものに」 プーチン氏、赤の広場で演説 10/1
7か月に及ぶ軍事侵攻をへてウクライナ4州の併合を宣言したロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は9月30日、首都モスクワ中心部の赤の広場(Red Square)で開かれた集会で、数千人の国民を前に演説し、「勝利はわれわれのものになる!」と宣言した。
プーチン氏はウクライナ4州の住民に対し「ロシアは私たちの兄弟姉妹に故郷の扉を開くだけでなく、心を開く。おかえり!」と語り掛けた。
●勝利を期し「万歳」三唱 祝賀集会でプーチン氏 10/1
ロシアのプーチン大統領は30日夜、ウクライナ東・南部4州併合を強行後、モスクワの「赤の広場」で祝賀コンサートとして開かれた「官製集会」に登壇した。動員された群衆に向かって「歴史的な日」「真実と正義の日」と自賛。現地で戦う兵士をたたえた上で、会場から届くように「ウラー(万歳)」と叫ぶよう提案し、3回唱和した。
スピーチでは「ロシアがウクライナをつくった」という歴史観を披露。ロシア帝国の後にソ連が成立し、崩壊したことで今のウクライナが生まれたという理屈だ。プーチン氏は、ソ連崩壊時に民意は問われなかったが「今になってロシアが選択の機会を提供した」「住民は歴史的な祖国であるロシアと一緒にいることを選択した」と述べた。国際社会から偽物と批判される「住民投票」の正当性を訴えた。
●プーチン氏「何百万人もの意思だ」…ウクライナ4州の一方的な「併合」宣言  10/1
ロシアのプーチン大統領は30日、モスクワの大統領府で、ウクライナ東・南部4州の親露派トップらを集めて演説し、4州の一方的な併合を宣言した。その後、トップらと4州を併合する「条約」に調印した。2月に始まったロシアのウクライナ侵略は、4州を自国領土として既成事実化を図るロシアに対し、ウクライナが領土奪還を加速させるという新たな段階に入った。
プーチン氏が併合を宣言したのは、親露派の支配地域がある東部ドネツク、ルハンスク両州と南部ヘルソン、ザポリージャ両州だ。4州には親露派やロシア軍が占領していない地域があるが、「条約」では4州全土を併合の対象としている。
プーチン氏は演説で、9月23〜27日に4州で強行した「住民投票」の結果を根拠に、4州からの併合要請が「何百万人もの人々の意思に基づくものだ」と述べ、一方的な併合を正当化した。4州については、「ノボロシア(新ロシア)」と表現し、歴史的なロシア領土だと主張した。
プーチン氏は今後、憲法裁判所に併合が合憲か否かの判断を仰いだ上で、議会に「条約」の批准を求める。上下両院は10月3〜4日に併合に必要な法案を審議する。
ロシアがウクライナ領土を一方的に併合するのは2014年3月の南部クリミア以来だ。ロシアが兵士動員を進め、4州の支配を固めれば、ウクライナが4州を攻撃した場合、「自国領土」への攻撃とみなし、「核による反撃」で抑止する恐れがある。米欧が反発をいっそう強めるのは必至の情勢だ。
●プーチン大統領 ウクライナ4州「併合条約」に署名  10/1
ロシアのプーチン大統領は、日本時間の9月30日の夜、モスクワのクレムリンで行われた式典で、ウクライナの東部や南部の4つの州について、ロシアが併合すると定めた「条約」だとする文書に署名しました。プーチン大統領が一方的な併合に踏み切ったことで、国際社会から一層非難が強まるのは確実です。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、日本時間の9月30日の夜9時すぎからモスクワのクレムリンで行われた式典で演説しました。この中でプーチン大統領は、▽ウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、▽南東部ザポリージャ州、▽南部ヘルソン州の合わせて4つの州で強行された「住民投票」だとする活動について「住民は、自分たちの選択を行った。この地域に住む人々は永遠にロシア国民だ」などと述べ、ロシアがウクライナの4つの州を併合することを一方的に宣言しました。そして、演説のあと、4つの州にいる親ロシア派勢力の幹部とともに、ロシアが併合すると定めた「条約」だとする文書に署名しました。一方、プーチン大統領は演説の中で、併合の正当性を強調したうえで、「われわれはウクライナに即時停戦し、交渉のテーブルに戻ることを求める。われわれの準備はできている。しかし、4つの州の人々による選択について議論の余地はない。ウクライナは、この地域の住民の選択を尊重すべきで、これが唯一の平和への道となり得る」と述べ、ウクライナ政府に対して交渉に応じるよう迫りました。また、「われわれは、あらゆる力と手段を講じてロシアの領土を守る」とも述べ、核戦力を念頭にウクライナや欧米をけん制したものとみられます。アメリカやEU=ヨーロッパ連合は、追加の経済制裁を科す方針を明らかにしていますが、強硬な姿勢を崩さないプーチン大統領は、8年前、ウクライナ南部のクリミアを併合したのに続いて、再び力による一方的な現状変更に踏み切ったもので、国際社会からいっそう非難が強まるのは確実です。
岸田首相 ツイッターで強く非難
岸田総理大臣は、みずからのツイッターに「ロシアによるウクライナの一部地域の『編入』を強く非難します。これは、ウクライナの主権と領土一体性を侵害し、国際法違反であり、決して認められません。力による一方的な現状変更の試みは看過できず、ロシアが侵略を直ちに止めるよう改めて強く求めます」と、日本語と英語で投稿しました。
林外相「国際法に違反する行為 強く非難する」
ロシアのプーチン大統領の署名を受けて、林外務大臣は9月30日の夜談話を発表し、「ウクライナの主権と領土の一体性を侵害し、国際法に違反する行為であり、決して認められてはならず、強く非難する。武力によって領土を取得しようとする試みにほかならず、無効であり、国際社会における法の支配の原則に正面から反する」としています。その上で、「力による一方的な現状変更の試みを決して看過できず、引き続きロシアに対し、即時に侵略を停止し部隊をロシア国内に撤収するよう改めて強く求め、 G7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携しながら強力な対ロ制裁とウクライナ支援の2つの柱にしっかり取り組んでいく」としています。
米大統領「この併合にはまったく正当性がない」
ロシアによる一方的な併合について、アメリカのバイデン大統領は30日、声明を発表し「ロシアは国際法に違反し、国連憲章を踏みにじった。この併合にはまったく正当性がない。アメリカは国際的に認められたウクライナの国境を常に尊重していく」と非難し、併合を認めない考えを示しました。そのうえで「ロシアを非難し、責任を取らせるよう国際社会を結集させていく。アメリカはウクライナが自衛のために必要なものを提供し続ける」として、今後も軍事支援を続けていくと強調しました。
英首相「さらなる制裁を科すことを含め行動する」
イギリスのトラス首相は30日、ロシアによる一方的な併合に関する声明を発表し「プーチン大統領は、ウクライナを併合するという脅迫で、国際法に再び違反している。われわれはさらなる制裁を科すことを含め、ちゅうちょせず行動する」と非難しました。イギリス外務省が発表した追加の制裁では、ロシアの産業にとって不可欠な数百の商品など、およそ700品目について輸出を禁止したほか、イギリスのITシステムの設計を含むコンサルティングや法律顧問などの分野で、ロシア向けのサービスを停止するとしています。そのうえで「侵攻が始まって以来、ロシアから17万人以上のIT専門家が国外に逃れていることから、これらの措置はロシアの能力をさらに減退させる」と、追加制裁の効果を強調しています。
仏大統領府「ともにロシアの侵略に立ち向かう」
フランス大統領府は30日、声明を発表し「ロシアによる非合法な併合を強く非難する。これは国際法とウクライナの主権に対する重大な侵害だ。フランスはウクライナが自国の領土全体で完全に主権を回復できるよう、ともにロシアの侵略に立ち向かう」としています。
EU「違法な併合 決して認めない」
EU=ヨーロッパ連合は9月30日、声明を発表し、ロシアによる一方的な併合を非難しました。声明では、「ルールに基づく国際秩序を損ない、独立や主権、領土の一体性といったウクライナの基本的な権利をはなはだしく侵害することで、ロシアは世界の安全を危険にさらしている。われわれはこの違法な併合を決して認めない。すべての国と国際機関にも受け入れないよう求める」としています。そして、「ウクライナには、国際的に承認された国境内で占領された地域を解放する権利がある」としたうえで、今後もロシアへの制裁を強化し、ウクライナへの経済的、軍事的な支援を続けていくと強調しました。
NATO事務総長「違法に土地を奪う行為だ」
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は30日、ベルギーの本部で記者会見を開き、今回のロシアによる一方的な併合について「違法に土地を奪う行為だ。NATOの加盟国は今も、そしてこれからも、これらの地域をロシアの一部だとは認めない」と非難しました。そのうえで「ロシアが戦うことをやめれば平和が訪れるが、ウクライナが戦うことをやめれば独立した主権国家として存在できなくなってしまう。われわれはロシアの侵攻に対して、ウクライナが戦い続けるかぎり、支援していく決意だ」と強調しました。
イタリア 右派党首「新たな帝国主義的な価値観示すものだ」
イタリアで先月(9月)行われた議会選挙の結果、上下両院で第1党となった右派政党「イタリアの同胞」のメローニ党首は30日、ロシアによる一方的な併合に関するコメントを出しました。この中で、「暴力的な軍事占領下で実施された偽の国民投票を経て行われた併合は、法的にも政治的にも価値がない。ヨーロッパ大陸全体の安全保障を脅かす、新たな帝国主義的かつソビエト的価値観を、改めて示すものだ」として、ロシアのプーチン大統領を名指しで批判しました。メローニ党首は、10月中旬以降首相に就任する見通しで、ともに連立を組む複数の政党の党首がロシアに融和的なことなどから、ロシア寄りの政権になるのではないかと懸念されていました。
●ウクライナ戦争犯罪記録者に授与 「もう一つのノーベル賞」  10/1
「もう一つのノーベル賞」と呼ばれるスウェーデンの「ライト・ライブリフッド賞」の運営財団は9月30日までに、ウクライナの民主化に貢献し、ロシアによる侵攻の中で戦争犯罪を記録し続けるウクライナ人女性を今年の受賞者の1人に選んだと発表した。財団は「活動は戦争犯罪と人権侵害を記録する上での模範を示している」と強調した。
受賞したのはオレクサンドラ・マトイチュクさん(38)とマトイチュクさんらが率いる人権団体「市民自由センター」。
賞は1980年に創設され、人権擁護や環境保護などでの貢献を顕彰している。
●ウクライナがNATO加盟申請へ、ゼレンスキー氏表明… 10/1
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は30日、ロシアによる東・南部4州の一方的な併合宣言を受け、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を正式に申請する方針を表明した。ウクライナは、加盟を激しく嫌うロシアを刺激しないよう早期加盟を事実上断念していたが、方針転換を図ることになる。
ゼレンスキー氏は、30日に緊急開催した国家安全保障国防会議で方針を決めたと説明した。会議では、プーチン露大統領とは協議せず、ロシアからの領土奪還を継続する方針なども決めた。
●国連安保理 「住民投票」非難する決議案 ロシアの拒否権で否決  10/1
国連の安全保障理事会では、ウクライナの東部や南部で行われた「住民投票」だとされる活動を違法だと非難し、ロシアによる一方的な併合などの根拠にはできないとして、ロシア軍の即時撤退を求める決議案をアメリカなどが提出しましたが、ロシアが拒否権を行使して否決されました。
決議案は、アメリカとアルバニアがまとめたもので、ウクライナの東部や南部の4つの州で親ロシア派の勢力が行った「住民投票」だとする活動を違法行為だと非難したうえで、ロシアによる一方的な併合を含む領土の変更の根拠にすることはできないとしています。
また、各国に対してロシアによるウクライナ領のいかなる変更も認めないことを求め、ロシア軍に対してウクライナからの即時撤退を求めています。
採決は30日、日本時間の10月1日午前4時から開かれた緊急会合で行われ、理事国15か国のうち10か国が賛成しましたが、中国、インド、ブラジル、ガボンが棄権し、ロシアが拒否権を行使して、決議案は否決されました。
採決に先立ちアメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は、「ロシアは武力によって他の国の一部を併合しようとしており、国際社会は断じて認めない」と厳しく非難したのに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は、「住民は投票を通じて自由な選択をした。後戻りはありえない」と強く反発しました。
アメリカはこのあと、同様の決議案をすべての国連加盟国が参加できる国連総会にも提出する方針ですが、国連の場でロシアの動きに歯止めをかけることは難しくなっているのが実情です。
●シカゴ小麦 反発=米生産見通し下げ、ウクライナ懸念で 10/1
反発。米農務省が米国産小麦の生産予想を大幅に引き下げたことや、ロシアによるウクライナの一部併合を受けた。
中心限月12月きりの清算値(終値に相当)は25.25セント高の921.50セント。一時7月11日以来の高値となる945.75セントまで上昇した。
週間ベースでは4.66%上昇と、9月9日以来の大幅な伸び率だった。
米農務省は今年の小麦生産高を16億5000万ブッシェルと従来予想から下方修正した。アナリストの平均予想は17億7800万ブッシェル。
ウクライナ情勢の緊迫化も支援材料だった。ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナ東部・南部4州の占領地での「住民投票」を受け、この地域の併合を宣言。西側諸国は住民投票は強制されたもので、住民の意思を代表していないと反発した。
●G7外相 ロシアによる併合「最も強いことばで非難」追加制裁へ  10/1
ロシアによる一方的な併合を受けて、G7=主要7か国の外相らは、日本時間の10月
1日に声明を発表し、「可能なかぎり最も強いことばで一致して非難する」として、ロシアに対し追加の制裁を科すことを表明しました。
声明では、「ロシアによるウクライナに対する侵略戦争とウクライナの主権と領土の一体性に対する継続的な侵害に対し、可能なかぎり最も強いことばで一致して非難する」としています。
そのうえで、「『併合』と称されるものも、銃を突きつける中で行われた偽りの『住民投票』も決して認めない。すべての国に対し、武力により領土を取得しようとする試みを明確に非難するよう求める」としています。
そして、「ロシアに政治的・経済的な支援を提供する個人や団体に対し、さらなる経済的コストを課す」として、ロシアに対し追加の制裁を科すことを表明しました。
さらに、ロシアに対し、直ちに軍事侵攻を止めてウクライナからすべての軍を撤退させるよう求めるとともに、ロシアが今回、一方的な併合に踏みきった4つの州と、8年前に一方的に併合した南部のクリミアについて、ウクライナの不可分の一部だと再確認したとしています。
●ウクライナ軍、東部リマンでロシア軍を包囲「進軍補給に使うルートを押さえた」 10/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、東部ドネツク州北部の要衝リマンに言及し、ウクライナ軍が東部で「重要な成果」を上げたと述べた。
ウクライナ国防省はこの日、ウクライナ軍がリマン北東10キロの地点にあるドロビシェベ村を制圧したと表明。リマンはウクライナ軍が今月に入り反転攻勢を加速させてから、両軍の新たな戦闘の中心地となっていた。
ゼレンスキー氏はビデオ演説で「東部で重要な成果があった。リマンで起きていることは周知の通りだ」とし、「こうした動きはウクライナにとって大きな意味を持つ」と述べた。ただ、詳細は明らかにしなかった。
これに先立ちウクライナ軍の報道官は公共放送で、リマンでロシア軍を包囲していると表明し、「敵の進軍、弾薬などの補給に使うルートは全て事実上(ウクライナ軍が)押さえている」と述べていた。
東部の親ロシア派組織「ドネツク人民共和国」を率いるデニス・プシリン氏は、リマンがウクライナ軍に半ば包囲されており、前線からの報告は「憂慮すべきもの」と発言。SNS(交流サイト)への投稿で、ロシアへの正式編入を前に「ウクライナ軍は、この歴史的な出来事を黒く塗り潰そうと全力で取り組んでいる」としていた。
●「住民投票」非難の決議案否決 10カ国賛成もロシア拒否権―国連安保理 10/1
国連安全保障理事会(15カ国)は9月30日、ウクライナ情勢をめぐる緊急会合を開き、ウクライナ東・南部4州で親ロシア派が強行した「住民投票」を非難する決議案を採決に付した。採択に必要な9カ国を上回る米英仏など10カ国が賛成したが、常任理事国のロシアが拒否権を行使し廃案となった。
中国、インド、ブラジル、ガボンの4カ国は「対話」を重視する姿勢を示し、棄権した。ロシアのウクライナ侵攻に絡み、安保理でロシアが拒否権を行使したのは、侵攻直後の2月、ウクライナからの軍即時撤退を要求する決議案の採決以来、2回目。
米国とアルバニアが作成した今回の決議案は、住民投票が「違法」であり「併合を含め(4州の)地位のいかなる変更の根拠となることもできない」と強調。4州のロシア編入は無効だとして、加盟国や国際機関に対して承認しないよう求めていた。
ロシアのプーチン大統領は会合に先立つ30日、親ロ派と「編入条約」に調印。各理事国からは「ウクライナの主権の深刻な侵害だ」(ガーナ)、「平和的解決をより困難にする」(アラブ首長国連邦)などと批判が相次いだ。
否決を受け、米国などは2〜4月に開いた国連総会の緊急特別会合を再招集し、改めて非難決議案の採択を目指す。総会決議は安保理決議と異なり法的拘束力を持たないが、全193加盟国で構成する総会の場でロシアの責任を追及し、孤立を際立たせたい考えだ。
●プーチン氏の動員令後、ロシア離れた国民は20万人以上 10/1
ロシアのプーチン大統領がウクライナでの兵員補充を狙う部分的な動員令を先月21日に発動した後、ジョージア、カザフスタンや欧州連合(EU)圏内へ出国したロシア人はこれまで20万人以上に達したことが10月1日までにわかった。
ロシアの隣接国を含む様々な国のデータ集計で判明した。先月29日時点での数字となっている。
カザフスタン内務省幹部によると、カザフスタンへ越境したロシア人は9月の第4週では約10万人を記録した。同国国営の通信社カズインフォルムが伝えた。
ジョージア内務省のデータによると、9月21〜26日の間に入国したロシア人は少なくとも5万3136人だった。
欧州国境沿岸警備機関(FRONTEX)のまとめでは、9月19〜25日の間にEU加盟国に渡航したロシア人は約6万6000人で、その前の週と比べ30%以上増えていた。
今回集計したデータには、モンゴルとアルメニアの分は含まれていない。この2国にも過去数日間、ロシア人の到着が確認されていた。
動員令の発動以降、ロシアでは国を離れた国民の人数に関する公式データは公には出ていない。
最大で30万人規模ともされる動員令はロシア国内での抗議活動の発生や国民の国外脱出にもつながっていた。英国防省は最近、動員令を回避するため他国へ渡ったロシア人はウクライナ軍事侵攻に駆り出された兵士の人数をおそらく上回るとの分析結果を示してもいた。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、動員令の発表後に出国を選んだロシア人の人数は承知していないと指摘。ロシアのメディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は最近、大統領府筋の情報を引用し、ロシア連邦保安局(FSB)は計26万1000人と報告したと伝えた。
●「ロシアには永遠に戻りたくない」兵役逃れで隣国ジョージアにロシア人殺到… 10/1
ロシアでは予備役の部分的な動員が発表されたあと、国外へ脱出する人が急増しています。隣国・ジョージアには1日1万人ものロシア人が入国し、混乱も起きています。
兵役逃れ隣国に殺到「永遠に戻りたくない」
ロシアとジョージアの国境付近には兵役を逃れようと出国する男性や家族が殺到し、1日に1万人のロシア人がジョージアに入国しているといいます。
ロシアから入国した男性「若者がロシアを離れるのはプーチンのために戦争に参加したくないから」
中には徒歩や自転車で国境を超える人たちも。現地メディアによると、ロシア側で出国希望者に5万ルーブル(約12万円)で自転車を売っている事例もあるといいます。
こちらのロシア人夫婦は幼い子供2人を連れて避難してきたといいます。
ロシアから入国した男性「ロシアでは何もかも厳しくなるばかり。全く先が見えない」
この後、親戚が住んでいるアルメニアに行くとのことですが…
――将来ロシアに戻ろうと思いますか?
ロシアから入国した男性「戻らないと思う永遠に。もう戻りたくない」
一方的な併合 隣国ジョージアの市民の声は?
国山ハセンキャスター「国境取材を終え、現在は首都トビリシに戻った西村記者に聞きます。ジョージアの人々はプーチン大統領の演説をどのような思いで聞いたのでしょうか?」
西村匡史記者「ジョージアは14年前にロシアに軍事侵攻された国であるだけに、今回の「併合強行」について多くの国民が、自分の国の出来事のように怒りを感じていました。」
ジョージア市民「ジョージアとウクライナでやったように(プーチン大統領は)占領できると思っているが、それはとても古い考えだ」
ジョージア市民「ロシアの多くの人がこの戦争が正当だと思っていて領土を取り戻していると言っている」
西村匡史記者「ジョージアをめぐっては2008年にロシアが一方的に独立を承認し軍を駐留させているジョージア北部の南オセチアでロシアへの編入を目指す動きがあるなど、多くのジョージア国民にとってウクライナで起こっている出来事は他人事ではありません。」
私が先ほど市民から話を聞いた場所は1989年にソ連からの独立を目指すデモで殺害された市民を慰霊するモニュメントの前です。ここには現在のロシアのウクライナ侵攻で犠牲になったウクライナ軍の兵士とともに戦ったジョージア軍の兵士を慰霊する写真が置かれていました。今回の「併合強行」は南オセチアの問題などを抱えるジョージア人にとっても大きな衝撃をもって受け止められていました。
●焦りの「強制併合」プーチン蟻地獄=@「部分動員」「無策」で求心力低下 10/1
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月30日、モスクワのクレムリン(大統領府)で上下両院議員らを前に演説し、ウクライナの東・南部4州の併合を一方的に宣言した。軍事作戦が劣勢のなか、拙速な併合に走ったプーチン氏に焦りの色もうかがえる。ロシア国内に熱狂はなく、予備役の部分的動員への反発から求心力低下は隠せない。専門家は「プーチン氏は蟻地獄に陥っている」と指摘する。
「運命はロシアと共にある。住民は永遠にロシア人になる」と演説で語ったプーチン氏。4州の親露派代表と「併合条約」に調印し、ウクライナに直ちに戦闘を停止し、交渉の席に着くよう求めた。一方で、4州の併合は譲れないと強調し、全土奪還を目指すと表明しているウクライナとの対話による紛争解決は一層困難になった。
米国のジョー・バイデン大統領は、声明で「主権国家の領土を不正に併合しようとしている」と非難。米英両政府はロシア中央銀行のエリヴィラ・ナビウリナ総裁に対する資産凍結などの制裁措置を発表した。
自由主義陣営が認めるはずもない荒唐無稽な「併合」をなぜ急いだのか。筑波大名誉教授の中村逸郎氏はプーチン氏の演説からこう分析する。
「ロシアの伝統や文化を強調し、欧米への敵対姿勢を打ち出すことで国内の結束を図る狙いがあったのだろう。だが、軍事作戦は劣勢で、併合を『戦果』として強調できなかったことが最大の弱みだ。軍事作戦の終了にも踏み込めず、新しい政策もなかった。プーチン氏の無策は国民の不安に拍車をかけるだけになった」
4州では9月23〜27日にロシア編入を求める「住民投票」と称する活動を実施、親露派はいずれも87〜99%の高い率で支持されたと主張している。ただ、投票は公正に行われたものではなく、4州のうち、親露派支配地域はドネツク州が約60%、ザポロジエ州で約70%に留まっている。
元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は「編入地域を『ロシア本土』とすることで、国民を動員して第一線の兵士を確保したり、戦術核を使う口実にしたり、西側諸国の武器供与を渋らせる狙いがあるだろう」とみる。
だが、プーチン氏は、21日に30万人規模の予備役の部分的動員令を発した以降、国内で苦境に立たされている。
大規模な抗議活動のほか、関係施設で放火や、銃撃事件にまで発展した。動員を逃れるために旧ソ連諸国などへの脱出も加速しているが、現地の独立系メディアでは、市民の不満拡大を懸念する当局が国境を閉鎖できずにいると伝えるなど、収束に手を焼いているようだ。
クレムリンのサイトによると、プーチン氏は29日に開催された国家安全保障会議で動員の過程に言及し、「市民から多くの情報が寄せられる。すべての問題は修正され、将来、発生するのを防ぐ必要がある」と事実上誤りがあったことを認めた。
露独立系世論調査機関「レバダ・センター」が9月22〜28日に1631人を対象に実施した調査では、「プーチン氏の活動を支持する」と答えた人は77%。これでも高い数字ではあるが、侵攻開始以後3月から8月まで82〜83%だったのが、前月調査から6ポイントも減らしたのは注目に値する。
ロシア国民が暴徒化も
前出の中村氏は「ジョージア国境などで脱出できず、立ち往生している国民が暴徒化する可能性もある。地方では反戦の動きが強く、プーチン氏と政権内の強硬派との間でも意見の食い違いがある。これらの勢力が『反プーチン』を旗印に組み、クーデターが起こる可能性は常に残される」と語った。
戦況も厳しさを増している。ウクライナ軍の激しい反攻が続く東部ドネツク州では、同軍が北部リマン周辺で、複数の方向から領土の奪還を進めつつあると米シンクタンクの戦争研究所が分析した。リマンは5月に親露派が完全掌握した地域で、ロシア軍の重要な拠点だ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は30日、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を正式に申請すると表明したが、戦況にどう影響するか。
前出の渡部氏は、ゼレンスキー氏の狙いについて「プーチン氏の国内向けな荒唐無稽な主張を実力で『有名無実化』する戦略だ。今後も反転攻勢の動きを加速させるだろう。プーチン氏は蟻地獄にますます落ち込んでいく」との見解を示した。
●死ぬために動員されるロシア新兵たち...「現場」は違法行為で無秩序状態に 10/1
ウラジーミル・プーチン露大統領は30日、モスクワのクレムリンで上下両院議員らを前に演説し、占領するウクライナの東部ドネツク、ルハンスク、南部ザポリージャ、ヘルソン計4州(ウクライナ国土の約15%)の併合を宣言した。最大100万人を徴兵できる予備役動員を正当化し、エネルギー危機を悪化させ、米欧とウクライナを分断させる持久戦に持ち込む狙いがある。
ロシア国営通信社タス通信によると、4州で9月23〜27日に行われたロシア編入を求める住民投票で「ドネツク人民共和国」は99.2%(投票率97.5%)、「ルハンスク人民共和国」は98.4%(同94.2%)、ザポリージャ州93.1%(同85.4%)、ヘルソン州87.1%(同78.9%)の支持を得た。投票結果を受け、各州の親露派はプーチン氏にロシアへの編入を要請した。
これに対し、ウクライナ側は「民意の捏造だ」と反発し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長も「いわゆる『住民投票』は紛争中にウクライナの憲法や法律の枠組みの外で行われたもので、真の民意ではない。 武力の威嚇や行使により、他国の領土を併合することは国連憲章と国際法に違反する。危険なエスカレーションだ」と厳しく非難した。
プーチン氏はこの日の演説で「ドネツク、ルハンスク両人民共和国、ザポリージャ、ヘルソン両地域の数百万人の選択の背景には私たちに共通する運命と千年の歴史がある。人々は精神的な絆を子や孫に受け継いできた。彼らはロシアへの愛を貫き通した。この感覚は誰にも壊されない。ソ連最後の指導者はわが偉大な祖国を引き裂き、ソ連はなくなった」と語った。
「部分動員」発表から大量のロシア人が国外脱出
「過去は取り戻せない。文化、信仰、伝統、言語によって自分たちをロシアの一部と考え、何世紀にもわたって一つの国家で暮らしてきた祖先を持つ何百万人の決意ほど強いものはない。本当の歴史的な故郷に帰ろうという決意ほど強いものはない」。プーチン氏は4州を併合した後、キーウ政権にすべての敵対行為を停止し、交渉のテーブルに戻ることを求めた。
「特別軍事作戦に参加する兵士と将校、ドンバスとノヴォロシア(黒海北岸部)の兵士、部分動員令の後に愛国的義務を果たすため軍隊に参加し、心の叫びから自ら軍の登録と入隊のためやって来た人々に語りかけたい。彼らの両親や妻や子供たちに、誰が世界を戦争と危機に投げ込み、この悲劇から血まみれの利益を得ているのかと言いたい」(プーチン氏)
クリミア半島とロシア本土を結ぶ「陸の回廊」が完成すれば戦略的な意義は大きい。しかしヘルソンでウクライナ軍に押し込まれているプーチン氏は政治的にこの戦争に勝利する道しか残されていない。4州をいったんロシアに併合してしまえば、領土割譲禁止を明記したロシア憲法に基づき、不人気な部分動員に関して領土防衛のためという大義名分が成り立つ。
プーチン氏は9月21日、国民向けビデオ演説で核兵器による威嚇を改めて行うとともに、予備役30万人の動員を表明した。英国防情報部は29日「プーチン氏が『部分動員』を発表してから1週間で招集を逃れようとするロシア人の国外脱出がかなりあった。2月にロシア軍が展開した部隊全体(推定約13万人)の規模を上回る可能性が高い」とツイートした。
大混乱を極める動員現場
「国外脱出組には裕福な人や高学歴の人が多く含まれる。動員される予備役と合わせると労働力の減少や『頭脳流出』加速による国内経済への影響は一段と大きい」(英国防情報部)。活動停止に追い込まれた露独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」のジャーナリストによる「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は部分動員で最大100万人の徴兵が可能だと伝える。
子供の多い父親や持病のある人、すでに招集年齢を過ぎている人が徴兵されたり、医師や他の高度な専門家がライフル部隊に入隊させられたり、動員現場は大混乱を極めている。プーチン氏自身、29日の安全保障会議で混乱を認めざるを得なかったほどだ。こうした「違法動員」は多くの地域で起こり、被害者家族の悲惨な体験は口コミで一気に拡散している。
米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は「クレムリンはロシア国民を落ち着かせながら、戦い続けるために十分な人数を動員する困難な仕事に直面している」と指摘する。ウィリアム・バーンズ米CIA(中央情報局)長官は「目標の30万人が動員できても後方支援を確保できず、新しく動員された兵士に十分な訓練と装備を提供することもできない」と言う。
ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ紙によると、ロシアの最貧共和国の一つで、すでに300人近い戦死者を出したダゲスタンでは徴兵制廃止とウクライナに出兵している家族と連絡が取れるよう求める反戦集会が開かれた。抗議の意思表示として高速道路も封鎖された。部分動員とは言ってもダゲスタン共和国の小さな村にとっては「総動員」に等しい。
無益な攻勢のため死ぬ運命にある消耗品
英国の戦略研究の第一人者でイラク戦争の検証メンバーも務めた英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は最新の有料ブログで「『キャノン・フアダー(大砲の餌食)』は無益な攻勢や露出した陣地の防衛のために死ぬ運命にある消耗品としての新兵のことを言う」と書いている。
現在ではウクライナでの危険な戦いに駆り出される不幸なロシア兵を表現する言葉として使われる。プーチン氏が部分動員を発表するや否やツイッターに「#キャノン・フアダー」というハッシュタグが立った。動員の狙いは軍の慢性的な人手不足を解消することにある。しかしロシア軍は兵士を指導できる将校の大半を失ってしまったとフリードマン氏は指摘する。
「ナチスとの戦いでヨシフ・スターリンは『量は質をもたらす』と語った。しかし大砲を備えた防御陣地への量の攻撃は『大砲の餌』を作り出す。その一方で防御に使えばウクライナの反攻計画を複雑にし、ロシア軍がすでに十分に潜伏している地域の攻略を難しくする可能性がある。ロシア軍司令部はより多くの兵員を投入して時間を稼ごうとしているのだ」
バルト海を通ってロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1、2」でガス漏れの発生が相次いでいる。エネルギー価格の高騰でイタリア総選挙ではかつてプーチン氏を称賛した右派3党の連合が勝利し、発足したばかりのトラス英政権がダッチロール状態に陥った。戦争が長引けば長引くほど欧州では厭戦気分が強くなるのは避けられない。
「ボルシチに入れる肉にウジがわいた」
しかしプーチン氏最大の応援団であるロシア国営放送の女性記者は動員がいかに無秩序に行われているかを伝え、1905年に黒海艦隊の戦艦ポチョムキンで起きた反乱に言及した。日露戦争の余波で起きたこの反乱はセルゲイ・エイゼンシュテイン監督の映画『戦艦ポチョムキン』(1925年公開)で描かれ、日本でも有名だ。
「ボルシチに入れる肉にウジがわいたと乗組員が抗議すると医者は食べても全く問題ないと言い放った。乗組員がスープの不味さを訴えたところ、艦長に撃たれた。艦長は海に投げ込まれ、乗組員は艦を乗っ取る。『腐った肉はもうたくさんだ』という叫びから反乱は始まった。小さな不満が大きな怒りと絶望を呼び起こすことがある」(フリードマン氏)
戦艦ポチョムキン・モーメント(瞬間)が来るのが早いか、欧州の厭戦気分ががまんの限界を超えるのが早いのか。厳しい冬を前にしたこの数週間が文字通り、勝負の分かれ目になる。結果を急いで無理に攻めれば、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領もプーチン氏と同じ轍を踏む恐れがある。
●ロシアはソ連の再興目指していない プーチン氏 10/1
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月30日、大統領府で開かれたウクライナ4州を併合する式典で、ソビエト連邦の再興は目指していないと述べた。
プーチン氏はテレビ中継された同式典で「ソ連はもう存在しない。過去を取り戻すことはできない。ロシアはもはやソ連を必要としていない。われわれはソ連を目指していない」と述べる一方、ソ連末期の指導者らが「われわれの偉大な国を破壊した」と非難した。
プーチン氏はまた、西側諸国がロシアを「植民地」扱いしたがっていると主張。「欲に駆られて、自分たちの力を制約を受けずに維持しようとしている。それこそが、西側諸国がわが国に仕掛けているこのハイブリッド戦争の真の狙いだ」「西側諸国にとってロシアは不要な存在なのだ」と訴えた。
さらに「西側諸国は、他国に寄生する新植民地体制を維持するためなら何でもしようとしている。事実、世界中から略奪している」として、「西側諸国にとって重要なのは、すべての国が主権を米国に明け渡すことだ」と述べた。

 

●ウクライナ軍、ロシア軍占拠の東部要衝を包囲・市街戦か…露「撤退」発表 10/2
バイデン米政権は9月30日、ロシアによるウクライナ東・南部4州の一方的な併合宣言を非難し、対露経済制裁を拡大すると発表した。先進7か国(G7)の外相も追加制裁の意向を表明し、ロシアと欧米との対立は一層深まった。
米財務省によると、追加制裁の対象はロシア中央銀行のエリビラ・ナビウリナ総裁や約280人の連邦議会議員、政府高官の親族など数百の個人や団体を加える大規模なものとなる。軍需産業関係者、ミハイル・ミシュスチン首相の親族らも含まれ、資産凍結や金融取引の制限を行う方針だ。
イエレン財務長官は「プーチン露大統領がウクライナの一部を不正に併合しようとするのを黙って見ていることはない」と非難した。
米商務省はロシア軍を支援するロシア国内外の57団体を米国製品の輸出規制の対象リストに追加したと発表した。国務省もロシア軍関係者ら910人をビザ(査証)発給規制の対象にすると明らかにした。
G7の外相も30日、対露追加制裁を発動する声明を発表した。内容は不明。
ウクライナ軍は、ロシアが併合を宣言した地域への攻勢を続けている。
ウクライナ軍は1日、ロシア軍が5月から占領してきた東部ドネツク州北部にある鉄道の要衝リマンを包囲した。ウクライナ軍の地元部隊の報道官は1日、部隊が市内に入っており、市街戦を展開していると説明した。
露国防省は1日、ロシア軍がリマンからウクライナ軍の包囲を逃れるため「撤退した」と発表した。ただ、約5000人とされる部隊の一部が市内に残って戦闘を続け、撤退は完了していないとみられる。
リマンはウクライナ軍にとって、ルハンスク州攻略の足がかりとなる要衝で、失えば露軍に大きな痛手となる。米政策研究機関「戦争研究所」は9月30日、ウクライナ軍が「72時間以内」にリマンを掌握する可能性があるとの見方を示していた。
●ロシア国防省 ウクライナ東部リマンからの撤退発表 10/2
ウクライナ情勢です。先月からウクライナ軍が反転攻勢を強める中、ロシア国防省は東部ドネツク州の要衝の街「リマン」からの撤退を発表しました。
ロシア国防省は1日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝リマンをめぐり、「包囲される恐れがあるためロシア軍はリマンから撤退した」と発表しました。
ドネツク州に隣接するルハンシク州の知事は「リマンでロシア軍兵士ら5000人以上をウクライナ軍が包囲している」と表明、リマンを取り戻せばルハンシク州の奪還にもつながるとしています。
一方、こちらはウクライナ側が公開した北東部ハルキウ州とされる映像です。ウクライナ当局は1日、ハルキウ州クピャンスク付近で7台の車列がロシア軍に攻撃され、子どもを含む市民少なくとも20人が死亡したと発表しました。
ハルキウ州は先月、ウクライナ側の反転攻勢でロシア軍が事実上の撤退表明に追い込まれていました。
●チェチェン首長、ロシアに「思い切った措置」呼び掛け 低出力核兵器も 10/2
ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の要衝リマンから撤退したことに対して、南部チェチェン共和国のカディロフ首長は1日、SNS「テレグラム」上でいらだちをあらわにし、ロシア側は低出力核兵器も含めた「思い切った措置」を取るべきだと主張した。
カディロフ氏はこの中でロシア軍司令官らを批判。「個人的な意見」としたうえで、国境地帯での戒厳令発令や低出力核兵器の使用を提案し、「すべての決断にあたって西側の米国グループを念頭に置く必要はない」と訴えた。
ロシアのプーチン大統領に対し、核兵器の使用に踏み切るよう求める圧力は強まっていることがうかがえる。
同国のメドベージェフ前大統領も先日、テレグラムへの投稿で核兵器使用に言及していた。
メドベージェフ氏は、ロシア国家の存続が脅かされて規定の限度を超えた場合、たとえそれが通常兵器による攻撃であってもロシアが核兵器を使うことは許されるとの考えを示し、「これははったりではない」と書き込んだ。
プーチン氏は30日、ウクライナの4州を併合すると一方的に宣言した演説の中で核兵器の話題に触れ、これまでに実戦で使用したのは米国だけだと指摘。「かれらが前例を作った」と強調していた。
●ザポリージャ原発の所長、ロシア側に連行され所在不明に…「尋問」の情報も  10/2
ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムは1日、ロシア軍が占拠している南部ザポリージャ原子力発電所の所長がロシア側に拘束され、所在不明になっていると発表した。原発はロシアが9月30日に一方的な併合を宣言したザポリージャ州にある。
エネルゴアトムによると、所長は30日午後、原発近くのエネルホダル市街に車で移動中、露側に車の停止を求められた。所長は目隠しをされた上で、連行されたという。ウクライナ外務省は「不当な拘束だ」と非難している。
ロイター通信によると、露側は国際原子力機関(IAEA)の照会に「所長を尋問している」と説明したという。
ザポリージャ原発は露軍が占拠した3月以降も、エネルゴアトムの職員が管理しているが、露国営原子力企業ロスアトムはかねて全面的な管理下に置く意向を示してきた。
●悩むプーチン氏、侵略作戦は思惑通りいかず…米欧威嚇や停戦協議提案も  10/2
プーチン露大統領はウクライナ東・南部4州のロシアへの一方的な併合を宣言した9月30日の演説で、核使用を示唆してウクライナや米欧を威嚇する一方、停戦協議をウクライナに提案し、侵略作戦が思うように進まない中で次の一手に悩む心中をのぞかせた。
プーチン氏は4州の親露派トップや政権の高官らを前に、4州の住民は「永遠に我が国民になる」と述べ、ウクライナに返還する意思が全くないことを強調した。「米国は核兵器を2度使った世界で唯一の国だ。先例を作った」と指摘し、「我々は自分たちの領土と国民をあらゆる手段で守る」と語って核使用を正当化した。
ウクライナのゼレンスキー政権に対しては、「戦闘停止を求め、交渉の席に着くよう求める」と唐突に切り出しながらも、併合する4州については協議対象にならないとも主張した。
米政策研究機関「戦争研究所」は30日、プーチン氏の一連の発言の真意について、「ウクライナの破壊」という侵略目的は維持しつつ、戦闘を一時的に停止して露軍の態勢を立て直す時間を稼ごうとしているとの見方を示した。
約40分間の演説では、激しい米国批判を展開した一方で「偉大なロシア」との表現を何度も使って愛国心をくすぐった。ウクライナ侵略を米欧を相手にした「ロシアの言語や文化を守る戦い」と位置付ける姿勢が目立った。兵員補充のために発令した部分的動員を巡る露国内の反発を和らげる意図もあるようだ。
プーチン氏は併合「条約」の調印後に大統領府付近で開かれた併合の祝賀集会に4州の親露派トップと参加し「勝利は我々のものだ」と声を張り上げたが、表情には疲労感が漂った。 
●ウクライナ、ドネツク州の要衝リマンを奪還…「国旗はさらに増える」 10/2
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2日、SNSで、ウクライナ軍が東部ドネツク州北部にある鉄道の要衝リマンをロシア軍から奪還したと宣言した。ロシアが一方的な併合を宣言するなど支配を強めてきた東部ドネツク州で、ウクライナ軍が露軍を撤退させたことは、プーチン露政権の威信低下につながりかねない情勢だ。
ウクライナ軍にとっては、ロシアがウクライナ侵略を始めた2月24日以降に占領された地域を取り戻すための反転攻勢を、さらに勢いづかせることになる。ゼレンスキー氏は1日のビデオ演説で、「ウクライナの国旗はリマンにある」と述べ、リマンを掌握したことを強調した。ウクライナ軍兵士がリマンで掲げられていたプーチン大統領の写真を外すなどの動きも見られた。ロイター通信によると、警察署ではロシア語のプレートが外される場面もあった。
露国防省は1日、リマンから露軍部隊の撤退を発表していた。撤退前は5000人規模とされた露軍部隊とウクライナ軍との戦闘は収拾した。
リマンはロシアが一方的に併合を宣言した東部ルハンスク州に近く、露軍が5月に占領し、補給拠点としてきた。ウクライナ軍はリマンを足場に、ルハンスク州の中心都市セベロドネツクなどの攻略に乗り出すものとみられる。
ゼレンスキー氏は1日の演説で、ドネツク、ルハンスク両州では「今後1週間でウクライナ国旗がさらに増えるだろう」と述べ、反転攻勢を継続する姿勢を強調した。露軍は7月にルハンスク州の「全域」制圧を宣言し、ドネツク州の約6割を支配しているとされるが、守勢に立たされた形だ。
一方、ロシア憲法裁判所は2日、ロシアがウクライナ東・南部4州を一方的に併合する「条約」について、合憲と判断したと発表した。今後は議会で「条約」が批准され、併合手続きが完了する見通しだ。
●ゼレンスキー大統領 「リマンから完全に敵を排除」奪還を宣言  10/2
ウクライナ東部ドネツク州の要衝リマンについて、ゼレンスキー大統領は現地時間の午後1時、日本時間のさきほど午後7時、SNSに動画を投稿し、「リマンから完全に敵を排除した」と述べ、リマンを奪還したことを明らかにしました。リマンについては、ロシア国防省が1日、部隊の撤退を発表していました。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 10/2
ロシア 憲法裁判所 4州併合の「条約」文書を「合憲」判断
ロシアの憲法裁判所は2日、プーチン大統領がウクライナの東部や南部の4つの州を併合すると定めた「条約」だとする文書について「合憲」だと一方的に承認する判断を示しました。プーチン政権は4つの州の一方的な併合に踏み切ったあとも「祖国の防衛」を名目に軍事侵攻を続ける構えですが、ゼレンスキー大統領はさらなる領土の奪還に強い意欲を示しています。
ゼレンスキー大統領「リマンから完全に敵を排除」
ウクライナ東部ドネツク州の要衝リマンについて、ゼレンスキー大統領は現地時間の午後1時、日本時間のさきほど午後7時、SNSに動画を投稿し、「リマンから完全に敵を排除した」と述べ、リマンを奪還したことを明らかにしました。リマンについては、ロシア国防省が1日、部隊の撤退を発表していました。
IAEA グロッシ事務局長「原発職員の拘束 原子力の安全に有害」 ウクライナの原子力発電公社がザポリージャ原子力発電所の安全管理の責任者がロシア側に連れ去られたと発表したことについて、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は1日、声明を出し「原発職員の拘束はそれ自体が深い懸念材料だが、ほかの職員への心理的な圧力にもなり、原子力の安全にとって有害だ」として強い懸念を表明しました。そのうえで、連れ去られた責任者は原発で緊急事態が起きた場合に対応を指揮する立場だと指摘し「彼の不在は原発の安全を確保するための意思決定に直ちに深刻な影響を与える」として、速やかな解放に期待を示しました。また、声明では相次ぐ砲撃により一時的に外部電源を失うなどしたザポリージャ原発の周辺を安全な区域に設定するための協議のためグロッシ事務局長が今週、ウクライナとロシアを訪れる予定だと明らかにしました。
ウクライナ国営通信「市民乗った車の列 攻撃受け24人死亡」
ウクライナの国営通信は東部ハルキウ州の警察の1日の発表として、9月の反転攻勢でウクライナ軍が奪還したクピヤンシク付近で、市民の乗った車の列がロシア側の攻撃を受け、これまでに子ども13人を含む24人が死亡したと伝えました。また、ウクライナの治安当局はロシア軍の部隊が6台の車とトラック1台を銃撃したとしていて、公開した画像では、車の窓ガラスや側面などに多数の穴があき、一部が黒く焼け焦げている様子が確認できます。ウクライナでは、南東部ザポリージャ州でも市民の乗った車の列が攻撃を受け、ウクライナ側は、9月30日、これまでに30人が死亡したことを明らかにしています。
ゼレンスキー大統領「ウクライナの旗はすでにリマンにある」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、1日に公開した動画で、ロシア軍が部隊を撤退させたと発表した東部ドネツク州の要衝リマンについて、「ウクライナの旗はすでにリマンにある。ただ、戦闘はまだ続いている」と述べ、奪還を進めていることを明らかにしました。そのうえで「ドンバスではこの1週間にウクライナの旗がさらに掲げられるだろう」と述べて、東部でのさらなる領土の奪還に強い意欲を示しました。
リマンから撤退受けプーチン大統領側近 SNSで軍部を批判
ロシアのプーチン大統領に強い忠誠心を示す武闘派の側近で、ウクライナ侵攻ではチェチェンの戦闘員を率いているカディロフ氏は1日、ロシア国防省がウクライナ東部ドネツク州のリマンから部隊を撤退させたことを受けてSNSで軍部を痛烈に批判しました。この中で「基本的な軍の補給物資が不足していたため広大な領土を放棄してしまった」としたうえで、2週間前、ロシア軍のゲラシモフ参謀総長にリマンで敗北する可能性を伝えたものの、参謀総長が否定したと主張しました。そして「われわれの領土を守るためにあらゆる武器を使え。個人的な意見だが、国境地帯に戒厳令を敷き、低出力の核兵器を使用するといった厳しい措置が必要だ」と主張しました。カディロフ氏は好戦的で、過激な主張をすることで知られ、プーチン大統領がウクライナの4つの州の一方的な併合に踏み切った直後にロシア軍の部隊が支配地域の要衝から撤退したことで、ロシア側の内部で新たな不協和音が生じた形です。
ロシア国防省 「リマンから撤退」 ウクライナ軍奪還の可能性も
ロシア国防省は1日、ロシア軍が支配していたウクライナ東部ドネツク州の要衝リマンについて、「包囲される脅威があることからロシア軍は、リマンからより有利な場所へと撤退した」と発表し、ロシア軍の部隊をリマンから撤退させたと明らかにしました。ウクライナ軍は、リマンへの攻勢を強め、部隊を進めていたことを明らかにしていて、ウクライナ軍がリマンを奪還した可能性もあります。ロシア軍が、リマンから撤退したことで、プーチン政権が目指す東部ドンバス地域の完全掌握は一層困難になるものとみられます。
●ローマ教皇「暴力と死の停止を」 ロシア・プーチン大統領に訴え 10/2
ローマ教皇フランシスコは2日、ロシアのウクライナ侵攻に関し、プーチン大統領に「暴力と死の悪循環」を止めるよう訴えた。ウクライナでの戦争開始後、教皇が公の場でプーチン氏に直接言及して停戦を求めるのは珍しい。
バチカンのサンピエトロ広場で開かれた日曜恒例の祈りの集会で述べた。教皇は同時にウクライナのゼレンスキー大統領にも「和平のための真剣な提案」に耳を傾けるよう求めた。
教皇は平和を呼びかけるためモスクワとキーウ(キエフ)を訪れたいとの意向を示していたが実現していない。
●プーチン氏が併合宣言した東部要衝リマンをウクライナが奪還宣言 10/2
ロシア国防省は1日、プーチン大統領が先月30日に併合を宣言したウクライナ東部ドネツク州の要衝リマンから部隊を撤退させたと発表した。一方、ウクライナ軍はリマン市街地に突入、最大で5000人超のロシア軍部隊に甚大な被害が出たもようだ。ロシアにとっては9月初旬の東部ハリコフ州での敗走に次ぐ痛手で、強硬派などからは核使用の議論が出ている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、「ロシア軍をリマンから完全に排除した」と述べ、奪還を宣言した。交通の拠点であるリマンをウクライナが奪還したことで、ロシアによるルガンスク州西部の支配は困難になりそうだ。
欧米メディアによるとウクライナ大統領府のアレストビッチ顧問は「プーチン氏が併合式典前にリマン撤退を認めなかったためロシア軍は1500人もの兵を失った」と主張した。リマンは29日段階でウクライナ軍に包囲されており、ロシア軍部隊がリマンから撤退できたかは不明だ。
プーチン氏と親しいロシア・チェチェン共和国のカディロフ首長は1日、リマン撤退について軍幹部を非難し「低出力の核兵器を含めて対抗するべきだ」と通信アプリに投稿した。プーチン大統領らもこれまで核使用の可能性に言及しており、「併合条約」の批准が議会で4日に完了するのに合わせて、議論が活発化する恐れがある。
米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は30日、ロシアが核攻撃に踏み切っても、ウクライナ全土の占領は困難で、逆に欧米が対抗措置でロシアを攻撃するリスクが高まると報告書で指摘した。ロシアの軍事評論家も「ウクライナの軍事拠点をすべて破壊するには多くの戦術核が必要だ」として、核攻撃は戦況の打開には有効ではないとの見方を本紙に示した。
●プーチンは「帰還限界点」に達したのか 破壊工作は捨て身の戦略 10/2
1986年4月28日、旧ソ連のウクライナにあったチェルノブイリ原子力発電所で事故が発生した2日後、スウェーデンの科学者たちは、この原発から放出された放射性物質を検出した。これに関する問い合わせに、当初は曖昧な回答で対応した旧ソ連は、結局は世界に対し、チェルノブイリ原発で起きたことを認めた。
そして2022年9月27日、歴史は繰り返された。バルト海のデンマーク領にあるボーンホルム島付近の地震計は、ロシアと欧州を結んでいる天然ガスの海底パイプライン、ノルドストリームで起きた2回の爆発を記録した。
ロシアは初め、これを単なるガス漏れと見ているようなコメントを発表した。だが、事実はその発言の信頼性を否定している。ウラジーミル・プーチンが、旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフのように真実を明らかにすることはないだろう。
ロシアが自国のエネルギー資源や通過国としての地理的な位置を武器として使うため、エネルギーインフラが受けたダメ―ジについて見え透いたうそをつくのは、(筆者の見方では)これが初めてではない。
ただ、今回のノルドストリームへの攻撃ほど、恐ろしいものはないだろう。この破壊工作は、ロシアが「帰還限界点」、もう後戻りできないところまで進んでしまったことを示唆している。
これらの攻撃がもたらす経済的損失は、欧州を2009年の世界金融危機のときのように深刻な不況に陥れる可能性がある。仮にウクライナで続いている戦闘が一瞬のうちに停止したとしても、ノルドストリームを経由したガスの供給が、交渉によって再開される見込みはない。
ロシアがなぜわざわざ破壊工作をして、それ否定をするという行動に出るのか、疑問に思う人もいるかもしれない。その答えは、欧米の金融機関の強さ、ロシアのレバレッジやソフトパワーの不足、そしてロシアに課されている経済制裁の計り知れない影響にある。
そしてまた、プーチンがこうした戦略に力を注ぐ大きな理由の一つには、国内における自身の立場のもろさにもある。
ガス供給の再開を不可能にし、西側諸国との和解をより困難にすれば、いまのところ(転落死したロシアの石油大手ルクオイルのラヴィル・マガノフ会長のように)窓から落とされてはいないものの、プーチン支持に迷いが生まれているだろうオリガルヒ(新興財閥)たちも、プーチンが指導者の立場を維持することを黙認せざるを得なくなる。
プーチンは権力を維持できるか?
プーチンがこうした捨て身の戦略に打って出ることには根拠がある一方、それ効果的だとは考えられない。パイプラインを使用できなくしたことで、ロシア経済はさらに打撃を受けることになる。
欧州は必要なエネルギーの多くをロシアに依存していたものの、すでに供給源を多様化し始めている。それに対し、ロシアが欧州各国からの製品輸入に依存する状況は当面、変わりそうにない。
ロシアの天然ガスに対する欧州の依存度と、欧州の資本やテクノロジーに対するロシアの依存度を比べれば、ロシアの方がはるかに大きく欧州に頼っていることは明らかだ。
私たちは、プーチンの行動が強さではなく必死さの表れであることを認識しておく必要がある。ロシアの経済はよろめき、軍事力は衰え、プーチンの権力支配も、数週間ではないとしても、数カ月のうちには弱まるかもしれない。
数十万のロシアの男性たちが、徴兵に応じることなく国外に脱出するという行動によって、プーチンへの「票を投じて」いる。
ロシアによる攻撃は、同国産エネルギーの購入を中止すべきことを示すサインだ。欧州はそのことを理解すべきだ。そして、ポルトガルからスペイン、フランスを結ぶパイプライン建設の推進をはじめ、天然ガスを確保するためのさらなる方法を模索すべきだ。

 

●ウクライナが東部要衝を奪還、一方的な併合宣言後のロシアに痛手 10/3
ウクライナは2日、ロシア軍に支配されていた東部ドネツク州の要衝リマンを奪還したと明らかにした。同州を含むウクライナ4州は「永遠に」ロシアの一部だと、プーチン大統領が一方的に併合を宣言した後、ロシア軍は軍事作戦上の新たな痛手を受けた。
数で勝るウクライナ軍に包囲されつつあった数千人のロシア軍部隊が週末にリマンから撤退した。
ロシア国防省は「より有利な位置に」部隊を移動させたと説明。ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、リマンからロシア軍を「完全に排除した」と宣言した。
ロシアが2月にウクライナ軍事侵攻を開始した際、プーチン大統領はドネツク、ルハンシク両州から成るドンバス地方の掌握が「特別軍事作戦」の目的だとしていた。
プーチン氏は9月30日、東部2州と南部のザポリージャ州、ヘルソン州の「住民投票」結果を受け、これら4州を一方的に併合する文書に署名。ただ、ロシア軍はこれらのどの地域も完全には掌握しておらず、数カ月にわたって支配してきた地域の一部からウクライナの反攻で押し返されつつある。
プーチン氏、ウクライナ領の併合文書に署名−「恒久的」と主張
ロシアの元陸軍司令官であるアンドレイ・グルリョフ議員はソーシャルメディア「テレグラム」への投稿で国防省を非難。「問題は状況が良好だと報告する広範囲にわたる偽りが行われていることだ」と述べた。
ロシア国内の世論は当初、ウクライナ侵攻を支持する声が多いと見られていたが、プーチン大統領が予備役の部分的な動員令を出した後、状況は変化している。独立系世論調査機関レバダ・センターの世論調査によると、部分的動員令に恐れ、ショックないしは警戒感を抱いたと10人中7人が回答した。
●長期化するウクライナ戦争 露わになるプーチンの誤算 10/3
フィナンシャル・タイムズ紙は、「プーチンの諸々の誤算」と題する社説を9月17日付で掲載している。社説の主要点は次の通り。
・ハルキウ地方でのロシア軍の敗走は、ロシアの大きさと軍事力が、より小さなウクライナを簡単に制圧でき、ウクライナ人はロシアを「解放者」として歓迎するとのクレムリンの間違った期待を再度際立たせた。
・同地方での敗走は、それまで投入した兵力をキーウ周辺と北部から同地に振り向ければ、総動員なしでも東部ウクライナ全域を占拠、保持できると考えたモスクワの過ちを明らかにした。
・西側諸国が彼ら自身の経済をも傷つける対ロシア制裁に対し意欲を欠き、西側の団結は早く壊れ、キーウに戦争をやめるように圧力をかけるという前提も誤りだった。プーチンは欧州への天然ガス供給を急激に減らしたが、欧州連合(EU)各国間に相違は残るものの、共同の準備と衝撃緩和のための大きな前進が見られた。
・西側の協調した反対姿勢は、非西側諸国、特に中国が米国中心の国際秩序に挑戦するという共通の利益のために味方になるとの、プーチンのもう一つの前提についても、後退を余儀なくさせた。
・上海協力機構会議で、習近平はウクライナ戦争への「疑問や懸念」をロシアに伝えるとともに、カザフスタンに対し「いかなる勢力の干渉」(注:ロシアの干渉が最もあり得る)に対してもカザフスタンの主権と一体性を守ると述べた。
・同じくインドのモディ首相は、今は「戦争の時期ではない」と述べ、公にウクライナ侵攻を批判した。
・プーチンの誤算は西側民主主義国には朗報であり懸念材料でもある。これまでの多くの誤算は、プーチンがウクライナでより広い敗走に直面した場合、今後の彼の決定も賢明であるとは信頼できないことを示すからだ。

この社説は、ウクライナ戦争についてプーチンが多くの誤算を重ねてきたことを指摘している。これらの指摘はかなり当たっていると言ってよい。
まず、プーチンは、ウクライナ側の抵抗を過小評価した。ゼレンンスキーはウクライナ東部でロシアから奪還した領土を訪問した際に、今でもプーチンはロシア人とウクライナ人とは一つの民族と考えているのかと皮肉っている。
西側諸国の対応についても、見誤ったと言える。
サマルカンドでの上海協力機構会議での習近平の対応とモディの批判は、プーチンにはかなり厳しい印象を残したのではないかと思われる。特に習近平がカザフスタンのトカエフにカザフスタンの主権と一体性を支持すると述べたことは重要である。
プーチンはウクライナ侵攻直前にルハンスク、ドネツク人民共和国の独立を承認したが、トカエフはこのロシアの承認行為を認められないとしてきた。カザフスタン北部のロシア人居住地の分離独立は受け入れられないと意思表示しているわけで、それを習近平が支持したことは大きな意味を持つ。
プーチンはこの首脳会議の後、ウクライナ東部全域を解放するまで特別軍事作戦を続けると言っているが、これはキーウ攻略とウクライナ全土の傀儡政権による掌握はもうあきらめたことを示している。
戦争の流れはウクライナの側に有利になって来ていることは否めない。
国内反発を受ける動きも
プーチンは国内のタカ派から総動員令の発布を求められ、9月21日に予備役の部分動員令を発した。ショイグ国防相によれば、予備役約30万人を段階的に招集するとしている。しかし、ロシア国民の反発はかなり強く、抗議デモが起きたり、招集から逃れようとする若者たちがロシアから出国するなどといった事態が起きている。
また、プーチンは、ハルキウでの敗走は自分に責任がなく参謀本部の責任であるとするなど、最高司令官としての責任感に欠ける発言も見られる。
今後のウクライナ戦争にはまだ紆余曲折はあろうが、プーチンが当初考えた戦争目的、ウクライナを国家としてなきものにし、ロシアに統合するとの目的を達成することはできないことは既に明らかであると言える。
●「核使用すれば黒海艦隊を殲滅」と警告…プーチンに「二の足」を踏ませるか? 10/3
編入でロシアの核攻撃に口実
プーチン大統領がウクライナ4州のロシアへの編入を強行し、この地方の奪回を「ロシアに対する攻撃」と核兵器で反撃する口実を与えることになったが、米国を含む北大西洋条約機構(NATO)諸国は、その場合ロシアの黒海艦隊の殲滅など壊滅的な打撃を与えると警告しているようだ。
米国を訪問していたポーランドの ズビグニェフ・ラウ外相は27日NBCテレビの報道番組「ミートザプレス」に出演し、ロシアのプーチン大統領が核兵器使用も辞さないという態度を示していることについて次のように語った。
「我々の知る限りプーチンは戦術核兵器をウクライナ国内で使用すると脅しており、NATOを攻撃するとは言っていないのでNATO諸国は通常兵器で反撃することになるだろう」
ラウ外相はこうも続けた。「しかしその反撃は壊滅的なものでなければならない。そして、これはNATOの明確なメッセージとしてロシアに伝達している」
NATO側の壊滅的な反撃とは
これに先立ち、ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障問題担当補佐官は25日の「ミートザプレス」に出演し、ロシアが核兵器を使用した場合は「ロシアに破滅的な結果を与える」と言い、これはロシアの当局者との個人的なやりとりを通じてロシア側にはっきりと伝えてあると言明した。
その「壊滅的反撃」や「破滅的な結果」をもたらすものが具体的にどんな作戦なのかは不明だが、それを示唆するような記事が英紙「デイリー・メイル」電子版21日にあった。
「独自取材:プーチンがウクライナで核兵器使用に踏み切った場合、米国はロシアの黒海艦隊やクリミア半島の艦隊司令部に対して壊滅的な報復をするだろう、元米陸軍欧州司令官が警告」
2018年まで米陸軍欧州司令官をしていて、今はシンクタンク欧州政策分析センターの戦略研究の責任者をしているベン・ホッジス退役中将がその人で、「デイリー・メイル」紙のインタビューに次のように語っている。
「プーチンがウクライナで核攻撃を命令する可能性は非常に低いと思う。しかし、もし戦術的な大量破壊兵器が使われたならば、ジョー・バイデン大統領の素早く激しい反撃に見舞われることになるだろう」
その具体的な作戦についてホッジス中将はこうとも言う。
「米国の反撃は核兵器ではないかもしれない。しかしそうであっても極めて破壊的な攻撃になるだろう。例えばロシアの黒海艦隊を殲滅させるとか、クリミア半島のロシアの基地を破壊するようなことだ。だからプーチンや彼の取り巻きたちは米国をこの紛争に巻き込むようなことは避けたいと思うはずだ」
ホッジス中将が米国の作戦を承知していたとは思わないが、米軍の元司令官と現在の作戦立案者が考えることはそうは違わないはずだ。ロシア国内に被害を及ぼさない限りでロシア軍に壊滅的な打撃を与えるためには黒海艦隊を攻撃することは効果的だろう。
ロシアは既に黒海の潜水艦を移動
それを米国がロシア側に警告したかどうかも定かではないが、ロシア海軍は最近クリミア半島のセバストポル基地に駐在させていたキロ級攻撃潜水艦をロシア南部に移動させたと英国国防省が明らかにしていた。黒海艦隊の「虎の子」をまず逃したようにも見える。
プーチン大統領「これはハッタリではない」と豪語していたが、米国やNATOの警告は核兵器使用に二の足を踏ませることができるだろうか。
●プーチンの「核の脅し」は恐怖と混乱を煽ることで、それはうまくいっている 10/3
ロシアのプーチン大統領による核の脅しは、関係各国のさまざまな反応をもたらした。
ある専門家は、プーチン大統領はこの核の脅しを使って、混乱や疑念を生じさせたいと考えていたのだろうとInsiderに語った。
ただ、アナリストらは核戦争の危険性は依然として低いと話している。
ロシアのプーチン大統領が9月21日の演説で口にした事実上の核の脅しは、世界を苛立たせた ── 専門家によると、これはプーチン大統領の狙い通りだという。
ただ、専門家やアナリストたちは核戦争の脅威は依然として低いと話している。
カリフォルニア大学リバーサイド校の政治学の教授で『Ukraine and Russia: From Civilized Divorce to Uncivil War』の著者でもあるポール・ダニエリ(Paul D'Anieri)氏は「核兵器を使用する前に、プーチン大統領には世界に自分が本気だと示し、ウクライナと西側諸国に圧力をかけるために取り得る措置がまだまだある」と話している。
しかし、だからといってプーチン大統領が不安を広めるために核兵器を使用することはない… ということでもない。
ウクライナ侵攻から7カ月が過ぎ、プーチン大統領に第三次世界大戦のリスクを冒す気はなさそうだ。ただ、9月21日のテレビ演説の脅しは、ロシアが保有する5000発以上の核弾頭や、ロケット、ミサイル、砲弾の備蓄を間違いなく思い出させた。
ただ、プーチン大統領はこの演説で軍の部分動員令に署名したと明らかにし、消耗したロシア軍に弾みをつけるべく数十万人の予備役を招集するとも発表していて、専門家は核の脅威と結びついた召集は、ロシアが合理的に勝利と見なすことのできる成果の許容範囲の幅を狭めることになっていると指摘する。
「今回の徴兵によって、この戦争はプーチン大統領にとって負けられない戦争になった」とダニエリ氏はInsiderに語った。
「その結果、プーチン大統領が核兵器の使用といった思い切った行動を取る確率が高まっている」
●ウクライナ 東部要衝を奪還 ロシアは4州併合の法案を議会提出  10/3
ウクライナのゼレンスキー大統領は東部ドネツク州でロシア軍が支配していた要衝を奪還したと発表し反転攻勢を一層強めています。これに対してロシアのプーチン大統領は2日、ドネツク州を含む4つの州を併合するための関連法案などを議会下院に提出し一方的な併合を強行する構えです。
ゼレンスキー大統領は2日、ロシア軍が支配していたウクライナ東部ドネツク州の要衝リマンについて「完全に敵を排除した」と述べ奪還したことを明らかにしました。
ゼレンスキー大統領はさらなる領土の奪還に強い意欲を示していて、ドネツク州に隣接する東部ルハンシク州のハイダイ知事は2日、SNSに「この地域でも大規模な奪還作戦が始まる日は近い」と投稿しました。
一方、ロシア国防省は1日、リマンをめぐって「包囲される脅威がある」として部隊を撤退させたと発表し、プーチン大統領に強い忠誠心を示す武闘派の側近が軍部を痛烈に批判するなど内部で不満が表面化しています。
こうした中、プーチン大統領は2日、ドネツク州を含むウクライナ東部や南部の4州を併合するための関連法案や批准を求める「条約」だとする文書を議会下院に提出しました。
この中ではロシアが併合する領域を今の4つの州のそれぞれの行政単位での境界線だとしていて、ウクライナ側がロシアの侵攻を食い止め統治できている領土についても「ロシア領」だと主張することになります。
またウクライナ南東部にありロシアが占拠しているザポリージャ原子力発電所も完全に支配下に置く構えです。
さらに併合する地域の軍の部隊はロシア軍に組み込まれるとしているほか、ウクライナの通貨フリブニャの流通を年内で廃止する方針も示され、ロシア支配の既成事実化を一方的に進めようとしています。
法案や文書は3日から4日にかけて下院と上院での審議を経たうえで、プーチン大統領が署名し併合の手続きを完了させる見通しで、ウクライナ軍の反転攻勢を受ける中にあっても一方的な併合を強行する構えです。 
●「プーチンの併合は失敗する」とウクライナ部隊 東部前線ルポ 10/3
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、広範囲のウクライナ領併合を発表し、核兵器の使用について脅し、何十万人もの予備役を動員した。しかし、東部戦線のウクライナ軍には何の変化も見られない――国土の最後の1インチまで守り抜く覚悟だ(文中一部敬称略)。
私たち取材班は、東部ドネツク州バフムート市の前線基地を訪れた。同州は、プーチン大統領が自国の領土だと不法に主張している4つの州の1つだ。私たちは段階を経て、移動を続けた。
バフムトフカ川を渡るために速度を落とし、開けた土地は速度を上げて通過。垂れ下がった電線の危険なカーテンを縫うように進む。最後の数メートルは、自分たちの足で走る。この間、砲撃は絶えない。戦争にはつきものの音の一部だ。
しかし、最前線の部隊がいる場所に到着すると、戦闘で傷だらけの建物の中から、別の音が聞こえる。小銃の細かな銃声だ。双方は、互いにライフルで狙い撃ちできるほど接近しているのだ。
ロシア軍は前方約400メートルの地点にいる。何とかこちらへと前進しようとしている。後方にもロシア軍のスナイパーがいると、私たちは警告を受ける。
地下にいる部隊長は物静かで、ぶっきらぼうな人物だ。そばに茶トラの猫がいる。
「今ここはかなり大変だ」とオレクサンドル(31)は言う。「ストレスがたまる。みんなプレッシャーにさらされている。敵はすぐそこだ。だが、こちらは立ち向かって反撃している」。
彼は、プーチン大統領が最近実施した住民投票について、「現実とかけはなれた妄想」だと断じる。そして、ウクライナ人はロシアに銃をつきつけられて、言いなりになったりしないと話す。
「私が見るところ、あの住民投票では何も変わらない。私たちはプーチンの軍隊と戦い、この国土から撤退させる」
オレクサンドルは戦争の代償を知っている。自らの戦闘経験からだけではない。
「兄弟が死んだ」と彼は言う。「だが、いつどこで死んだのかは知らない。別の州で、別の徴兵事務所によって徴兵されたからだ。私が一緒に訓練を受けた仲間や将校も、何人か死んだ。私は家族や友人を失ったわけだ」
それでもオレクサンドルは、戦闘意欲を失っていない。それはロマン(25)も同様だ。彼はこの戦争で鍵を握る兵器となっている、ドローンを操作している。
ロマンは、爆撃された2階の部屋にいる。床にはがれきと割れたガラスが散らばり、2匹の猫が住み着いている。
ロマンは、開戦後に生まれた生後5カ月の息子キリロの写真を、携帯電話の待ち受け画面にしている。この一人息子に、彼は一度しか会えていない。
「写真やビデオは見ているが、実際に会ってはいない」と彼は言う。「つらいが、ロシアが私の家族にたどりついたらどうなるか、想像するのもつらい」。
「ブチャでしたようなまねを、してほしくない。私はキーウに住んでいたので、女性たちの気持ちがよくわかる。私たちが弱ければ、ロシアは私たちの家族を襲いにくる」
ここでは、ロシアによる動員を懸念する声もある。ロシアは今後数カ月で、さらに多くの兵士を戦場に送り込むはずだ。
新兵がどれだけの訓練を受け、どれだけの装備を持ってくるかは不明だ。だが、ウクライナ側が心配しているのは質ではなく量だ。
ウクライナはすでに数の上では劣勢だ。バフムートをめぐる戦いでは、無限に補充されるかのようなロシア兵と相対してきた。軍広報担当のイリナによると、8月には立て続けに5回、ロシア兵が押し寄せて来たという。
「彼らはひたすら前進してくる。まったく止まらない。発砲や砲撃にも反応しない。捕虜にした中には、ワグネル(ロシアの雇い兵組織)から送られた人もいた。彼らはいい武器を持っていた」とイリナは言う。
ここのウクライナ部隊は、ロシアがバフムートで勝利しようと躍起になっているとみている。ロシアは最近、北東部と南部で屈辱的な敗北を喫し、ウクライナが領土約6000平方キロメートルを奪還したからだ。
バフムートは現在、プーチン大統領の喉に刺さった小骨のような状態だ。プーチン氏はドネツク州とルハンスク州からなる、鉱物資源の豊富なドンバス地方をすべて飲み込もうと狙っているが、バフムートが障害となっているのだ。ドンバス地方の完全占拠に失敗すると、プーチン大統領は両州を併合した。
かつて約7万人が暮らしたバフムートをプーチン大統領は制圧しようとしている。その過程で、バフムートに住む人は激減した。
中心部には、3カ月前の空爆で中心部がえぐられた大きな集合住宅がある。窓の多くは板で覆われている。空き家のように見えるが、私の同僚は、建物の中で女性の叫び声がするのをを耳にした。
声をかけると、2階の窓を覆っていたビニールシートの向こうからリュドミラが現れる。ロケット砲の轟音(ごうおん)が深く響き続ける中、彼女の声は最初、聞き取りにくい。
「とてもつらい」と彼女は大声で言う。「爆撃されているので。昨日は裏で男性が1人(砲撃で)殺された。建物に残っている人はほとんどいない」。
「すべてが漏れ出している。至る所が水浸しだ。壁はすべてひび割れている。とても大変。でも、少なくとも人道援助は受けている。3日に1回、パンが運ばれてくる」
年金で生活する白髪のリュドミラは、夫や他の数人と一緒に、破壊された建物で暮らしている。「私たちはどこにも行きようがない」と彼女は言う。「お金がないし、私は車いすを使っているので」。近所の人が、この建物は5回砲撃を受けたと私たちに説明する。
7月1日のミサイル攻撃の際は、リュドミラは台所にいた。「突然飛んできた」と彼女は言う。「神様が助けてくれた」。
果たして、バフムート市は救われるのか。
今のところ、前線は維持されている。ウクライナ軍はロシアの前進を阻んでいる。しかしここでは、死者さえも安全ではない。
緑豊かな郊外にある古い墓地は、飛来する砲弾の通り道にある。そこでは新しい墓に、黒っぽい土が盛られている。この街が戦場になってからの数カ月で死んだ人たちの墓だ。
数人の弔問者が見守る中、棺(ひつぎ)が地面に下ろされる。そのとき、静寂が砲撃によって破られる。最初の砲撃はこちら側から発射したものだが、まもなくすると、こちらに向かって発射された砲弾が、墓地の反対側の丘に着弾する。さらに2発目が、いっそう近い場所に落ちる。ここを去る時間だ。
バフムート市の端へと向かっている途中、私たちの100〜200メートル先の道路で爆発がある。そこで急ぎ左折し、別の出口を目指す。
ウクライナでは、いまだ多くの戦闘が繰り広げられている。プーチン大統領は一段と攻勢を強めており、もうすぐ冬がやって来る。
欧州最新の戦争は、危険な新局面を迎えている。
紛争はいつまで続くと思うかとの質問に、ウクライナ軍の広報担当者はこう答えた。「もうずっと、長いこと続くはずだ」。
●ウクライナ侵攻でロシア側戦死者に少数民族が目立つのはなぜなのか 10/3
特別軍事作戦と称したウクライナ侵攻に絡み、ロシアの「辺境」から出征し、戦死する少数民族が目立つ。多民族、多宗教のこの国で何が起きているのか。モンゴル系のチベット仏教徒やシャーマンらが暮らすブリヤート共和国を訪ねると、ロシア連邦の権力構造の一端が見えてきた。
「V」が掲げられたレーニン頭部像
バイカル湖からシベリア鉄道に揺られてブリヤート共和国へ。中心都市ウランウデに着くと、旧ソ連の革命家レーニンの頭部像が目に飛び込んできた。重さ42トン、ソ連時代の1971年に設置された。周辺には軍事作戦の支持を意味する「V」や「Z」の文字が掲げられている。
ブリヤートからウクライナに赴き、死んだ兵士は多い。独立系ニュースサイト、メディアゾーナがロシア軍の死者を出身地域で分けたところ、9月23日時点でブリヤートの兵士は276人と2番目に多い。
「共和国のトップは派兵に熱心だ。クレムリン(モスクワの大統領周辺)の御用聞きだから」。タクシー運転手のユーリーさんはそんな感想を漏らす。
ブリヤートで知事に相当するツィデノフ首長(46)は連邦の元交通官僚。軍事作戦に参加する兵士をクレムリンに倣って「英雄」と賛美してきた。
ロシアでは2000年のプーチン政権誕生後、連邦政府の力が肥大化。政権が推す中央官僚が、対抗馬のいない選挙を経て知事に就くケースが多い。知事はモスクワに戻って出世するため、地方での実績づくりに励む。「官僚にとって知事職は政治の登竜門。プーチン大統領の不興を買うことを極度に恐れている」と外交筋は説明する。
ブリヤートでモンゴル系は3割。一方、18世紀に女帝エカテリーナ2世の命令で現在のベラルーシからこの地に移住させられたロシア正教会古儀式派の信徒や、ソ連の独裁者スターリンに迫害された朝鮮民族もいる。政治抑圧の犠牲者が多い土地柄、お上に逆らう声は出ず、軍事作戦に賛成する宗教も多い。
ある宗教家は「ロシアは体制になびいて生き延びるか、弾圧で死ぬかの2択しかない。普通は前者を選ぶ」と語った。
首都モスクワの戦死者はわずか24人
プーチン氏はロシアと同じくスラブ系民族が多数を占めるウクライナを兄弟国家と呼んできた。ただ同氏が「崇高な使命」とする軍事作戦の主力は、非スラブ系の少数民族や低所得者からなる契約兵たちだ。
メディアゾーナが分析した地域別の戦死者数トップは、イスラム系のダゲスタン共和国。プーチン氏が9月21日に動員令を発動すると抗議デモが起きた。極右的な言動で知られるイスラム系のチェチェン共和国、カディロフ首長も「既にチェチェンから多くの兵を出した」として、動員発動を見送った。住民の反発を恐れたとみられる。
一方、ロシアの人口の10%を占める首都モスクワの戦死者は24人にとどまる。契約兵に志願する人間は少なく、「まともな職があれば軍事作戦に参加するはずがない」(モスクワの60代男性)との声も。
独立系メディア、メドゥーザによると、動員令でモスクワに割り当てられた人数は全国のうちのわずか1%。メディアの目が行き届かず、反体制派が少ない辺境から兵士を駆り出す意図があるとしている。

 

●露軍元兵士「動員兵は多数死ぬ」 戦局好転を疑問視 10/4
ウクライナ侵略を続けるロシアが導入した予備役を徴兵する「部分的動員」について、露国外に拠点を置く独立系メディア「メドゥーザ」は3日までに、侵攻に参加した露正規軍の元兵士らの見解を伝える記事を掲載した。元兵士らは一様に「動員された兵士は多数が戦死する」などと述べた上で、動員により露軍が劣勢を打開できる可能性は低いとの見通しを語った。
東部ハリコフ州での戦闘に参加した後、除隊した元兵士の男性は「長い軍務歴を持つ私でさえ、戦闘初日に人生最大の過ちを悟った」とし、戦闘の過酷さと軍人になったことへの後悔を語った。正規部隊すら航空機や戦車、砲兵の支援が受けられていないとし、訓練が不十分な動員兵の間で死傷者が続出すると予測。動員は戦闘を引き延ばすだけで戦局を覆さないとも述べた。
男性は自身が招集された場合は指を切り落とすか、招集を拒否して刑罰を受けるとし、「国から犯罪者にされようとも、自分の中で犯罪者にならないことが重要だ。刑務所では誰も殺さなくて済む」と述べた。
今年初め、「演習参加」のためとして国境地帯に送られ、首都キーウ(キエフ)方面での戦闘を命じられたという別の元兵士の男性は「正規軍はこの半年間で、壊滅状態にある」と証言。「動員兵にできることはない。彼らは民間人に過ぎず、無駄死にするだけだ」と述べた。男性は「ロシアが侵略者なのは明白だ」とし、侵略に加担しないよう連絡先や居住地を変え、招集から逃れていると明かした。
露軍と契約した民間軍事会社(PMC)の元雇い兵の男性は、戦場では正規部隊にさえ十分な装備品が行き渡っていない事実を指摘し「動員兵から死んでいく」と述べた。別の元雇い兵も「最前線で不足しているのは群衆(動員兵)ではなく、有能な指揮官だ」と動員に疑問を呈した。
●ロシア政府内部者「プーチン大統領、独断で決定…誰も知らなかった」 10/4
ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦線での相次ぐ支障に直面し、性急な決定を下していると、2日(現地時間)英日刊紙テレグラフが報じた。
テレグラフによると、ロシア国籍の元BBC記者であるファリダ・ルスタモワ氏は最近数週間、ロシアの公務員、議会関係者、公企業および私企業の役員などとプーチン大統領の現状についてのインタビューを行った。
最近ウクライナ東部での開戦以来、最大の敗北はロシア内部の状況を劇的に変化させ、部分動員令の宣布とウクライナ内の占領地4地域(ドネツク・ルハンスク・ジャポリザ・ヘルソン)の合併決定もこれによるものだと述べた。クレムリン宮殿に近いある消息筋は「敗戦を選択できないプーチン氏は状況を急反転させるカードが必要だった」と説明した。
しかし、この過程でプーチン大統領は自分の計画をきちんと共有せず、各界の不満を買った。ある政府筋は「誰も何かを説明しなかった」と話し、他の消息筋も「プーチン氏はすべての人に異なることを言っている。経済だけでなく戦争もそうだ。協力体系がなく、すべてがめちゃくちゃだ」と伝えた。
メディアによると、多くの内部消息筋は「すでにロシアが動員令を下すことを予想していたが、その計画が具体的に調整されず混乱を招いた」と指摘した。
また、内部消息筋は、ロシア政府の高官のうち誰もプーチン大統領に戦争を止めなければならないという意見を出していないと伝えた。
2月にウクライナ侵攻が始まって数カ月間ロシア会計検査院のアレクセイ・クドリン長官などが戦争の結果を説明するために努力したが、今はそのようなことが起きていないとしたからだ。
また、「今回の戦争に対するロシア支配層の心からの支持はほとんどない」とし、彼らが辞任しない理由を尋ねると、「国外への片道飛行便を手に入れることはできるが、その次は何か。どこへ行って何ができるのか。1万ドル(約144万円)以上は持ち込むこともできない」と答えた。
テレグラフによると、内部消息筋の中で戦争に賛成する人と反対する人は皆戦争の具体的な最終目標を計ることは難しくても勝利以外には他のシナリオがないと答えた。政府に近いある消息筋は「今は部分的な動員令が下されたが、その後は大規模な動員があるだろう」とし「その次は戦術核兵器の使用になる可能性がある」と懸念を示した。
●プーチン氏盟友2人、異例のロシア軍司令部批判 要衝からの敗走で 10/4
ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州北部の要衝リマンから撤退したことを受け、プーチン大統領の盟友2人はロシア軍司令官に対して異例の批判を展開した。
ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長は、ロシアは小型核兵器を使って防衛を強化すべきだと主張。
「軍の縁故主義は何の役にも立たない」と批判し、ウクライナ東部のロシア軍司令官は勲章を剥奪する必要があり、血で恥を洗い流すために銃を持って前線に送られるべきだと訴えた。
カディロフ氏はチェチェンの部隊を派遣してロシアのウクライナ侵攻を支えてきた。
同氏はまた、リマンで敗北を喫する可能性について2週間前にロシア軍のゲラシモフ参謀総長に警告したが、一蹴されたと明らかにした上で「国防省が最高司令官(プーチン氏)に何を報告しているか知らないが、個人的な意見としては、より抜本的な対策を講じるべきだ」と力を込めた。
ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者でプーチン氏の盟友エフゲニー・プリゴジン氏は、カディロフ氏の発言を称賛し、「ろくでなし」の軍司令官に「自動小銃を持たせ、はだしで前線に送り込むべきだ」と力説した。
国防省を批判しているのか問われると「批判ではなく、愛と支持の表れだ」と釈明した。
ペスコフ大統領報道官はカディロフ氏の発言について「困難な時であっても、感情はいかなる評価からも除外されるべき」とコメントした。
●マスク氏がウクライナ戦争終結案、ゼレンスキー大統領らがすぐに批判投稿 10/4
米電気自動車(EV)大手テスラの最高経営責任者(CEO)などを務める実業家イーロン・マスク氏が3日、ツイッターで自らウクライナにおける戦争終結計画を提案してその是非を問う投票を呼びかけたが、ウクライナのゼレンスキー大統領やリトアニアのナウセーダ大統領らから、すぐにその内容に批判的な投稿が寄せられた。
マスク氏は、ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ4州について、国連の監視による選挙を通じて改めて住民の意思を問うべきで、「住民の意思が示されればロシアは立ち退く」と主張。またロシアが2014年に強制的に自国領土にしたクリミア半島を正式なロシアの一部として承認し、クリミアへの水資源供給を保障した上で、ウクライナが中立を堅持するという考えに賛成か、反対か答えてほしいとツイッターのユーザーに要請した。
さらにマスク氏は、自分の提案が不評でも気にしないし、本当に心配しているのは「基本的に同一の結果になるのに、何百万人もが必要のない死を遂げるかもしれない」という点だと強調した。
同氏は「ロシアの人口はウクライナの3倍以上あり、ウクライナが全面戦争で勝利する公算は乏しい以上、ウクライナ国民の身の上を案じるならば和平を求める」としている。
これに対してゼレンスキー氏は自身も投票を求める形で「イーロン・マスクさん、あなたはウクライナを支持する提案とロシアを支持する提案のどちらが好ましいと思いますか」と返答した。
ナウセーダ氏は「イーロン・マスクさん、誰かがあなたのテスラ車の車輪を盗もうとしていても、その人たちが車輪や車全体の正当な持ち主になるわけではない。投票で支持が得られたとしても、それは口先だけの話にすぎない」と述べた。
●戦争の代償、ロシアが「耐えられないものに」 仏首相 10/4
フランスのボルヌ首相は3日、議会で演説し、ウクライナでの戦争は続くが、フランスは準備が整っており、ロシアにとって戦争の代償を耐えられないものにしたいと述べた。
ボルヌ氏は、ロシアがさらに違法行為の実行や紛争の激化に向かう可能性が高いと指摘。フランスは、ロシアによる侵攻に直面しても、フランス人の保護でも弱腰になることはないなどと語った。
ボルヌ氏によれば、フランスはウクライナに2億ユーロ(約280億円)の支援を行っているほか、2500トンの物資を送り届けている。
ボルヌ氏は「ロシアに対する制裁は機能している。ロシア経済が窒息状態にあるのは事実だ」と述べた。
フランスの目標は非軍事化であり、フランスは、ロシアによる犯罪行為を記録し、裁判にかけ、罰することを決意していると述べた。
●冬のガス供給に「重大なリスク」、ウクライナでの戦争で 英当局 10/4
英国のエネルギー規制当局Ofgemは3日、ウクライナでの戦争の影響で、今年の冬のガス供給が緊急事態に陥る可能性があると明らかにした。
Ofgemはエネルギー企業SSEからの要請に応じてコメントを出した。SSEはガス供給が緊急事態に陥ることを懸念しており、電力の供給ができなかった場合に多額の違約金が発生すると資金不足に陥るとしている。
Ofgemは書簡で、ウクライナでの戦争のため欧州でガス不足が生じており、2022年から23年にかけての冬にガス不足に陥る重大なリスクがあると指摘。結果として、英国がガス供給で緊急事態に陥る可能性があると述べた。
Ofgemの広報担当はCNNの取材に対し、今年の冬は、ロシアから欧州へのガス供給に混乱が生じているため、例年以上に厳しいものとなる可能性が高いと述べた。
広報担当は、英国について、ロシア産ガスの直接の輸入が少ないほか、国内でのガス生産、ノルウェーからの安定的な供給、液化ガス輸入で欧州で2番目に大きい港湾能力など良い条件に恵まれていると指摘。それでも、今年の冬は、あらゆるシナリオに対応できるよう準備する必要があると述べた。
Ofgemは、英国のエネルギーシステムがこの冬に完全に備えられるよう、緊急時の対応策を準備していると述べた。
●「ロシア軍の失策」身内から批判 米分析、敗走相次ぎ 10/4
ウクライナ軍が同国の東部に加え南部でも、ロシア軍が掌握していた集落を奪還する反攻を加速させている。露軍は後退を余儀なくされているが、米シンクタンクの戦争研究所は3日までに、露軍の従軍記者や識者らロシア内から、自国軍隊の組織的な失敗を批判する声が出ているとの分析を公表した。相次ぐ敗走に身内からも矛先が向けられているという。
ロイター通信によるとウクライナ軍は3日、南部ヘルソン州で軍事的に掌握が重視されるドニエプル川沿いを南下するなど、露軍から領地を取り戻す軍事作戦を加速させている。
要衝リマンの奪還に成功した東部だけでなく、南部でも「状況転換が加速している」(ウクライナ軍の広報官)とされる。
戦争研究所の1日の分析によると、露軍に従軍するなどして戦況を伝えるブロガーや露国内の識者から、前線への兵士の補充や物資補給を「適切な時に送ることができなかった露軍司令部の失策」が敗退の要因だとの指摘が噴出している。
露軍の官僚主義的な問題が背景にあると「公然と」批判が出ており、異例の事態となっているようだ。ただし、依然としてロシアのプーチン大統領が出した部分動員令が、戦況を好転させるとの楽観的な見方が、こうした識者らの間で根強いとしている。 
●戦況悪化でむなしいプーチンの「領土拡大」宣言  10/4
ロシアのプーチン大統領はウクライナの東・南部4州で一方的に実施した「住民投票」を受けて、2022年9月30日に4州の「併合」を発表した。しかしその直後にウクライナ軍が東部要衝を奪還するなど4州での戦況はますます悪化しており、併合の言葉とは裏腹の空しい「領土拡大」宣言となった。
「部分動員」をめぐる混乱も収まっておらず、戦争で主導権を失ったプーチン氏は、国内政治でも政権発足以来20年間握ってきた独裁者的な指導力に陰りが生じている。モスクワでは「ポスト・プーチン体制」への移行に向けた臆測も流れ始めており、プーチン政権は揺らぎ始めている。
異様な「併合宣言」の中身
今回の「併合」宣言が異様なものであることを象徴したのが、2022年9月30日にクレムリン内で行われたプーチン氏の国民向けの演説だ。40分余りの演説では、最後まで戦況に言及しなかったからだ。
本来であればルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの計4州を完全に制圧した後に、「戦勝報告」とともに併合を宣言することをプーチン氏は狙っていたはずだ。しかし、実際には制圧どころか、4州全域でウクライナ軍の反攻作戦の勢いに押されまくっているのが現実だ。このため、制圧もしていないままでの看板だけの不本意な「併合」宣言となった。
侵攻をめぐってプーチン氏は演説の中で、ウクライナ側に対し戦闘停止と交渉開始を呼び掛けたものの、併合した4州をめぐっては交渉の議題にはならないとの強硬姿勢を示した。これでは、ウクライナが交渉に応じる可能性はなく、事態打開には程遠い内容だった。演説会場の広間に集まった政権最高幹部の面々が浮かない顔だったのもこのためだ。
だが、この演説で「戦況スルー」以上に内外を驚かせたのは、プーチン氏が演説の半分以上の時間を費やして、米欧に対する憎悪、嫌悪をむき出しにしたことだ。近年、「集団的西側」などの表現で米欧への敵愾心を打ち出しているプーチン氏だが、この日の演説は米欧に対し、積年の恨みをぶちまけるような内容だった。
「西側が中世以来、植民地政策を始めた」ことから説き始め、アメリカのインディアン虐殺やイギリスのアヘン戦争にも言及しながら口を極めて批判した。さらに日本への原爆投下にも言及し、いまだにアメリカが日本やドイツを「占領している」と訴えた。西側での同性婚の広がりを揶揄して、多様性を重視する米欧文化を否定する場面もあった。
これはウクライナ侵攻を契機に対ロ包囲網を築いた西側に対する、事実上の「断絶宣言」とも言えるものだ。ロシア軍を苦境に追い込む大きなゲームチェンジャーとなった高機動ロケット砲ハイマースなど高性能兵器をウクライナに提供し続ける米欧に対し、もはや妥協をしないという宣言にも等しく、プーチン氏は外交的に退路を断ったと言える。
反西側言辞を繰り返した異様とも言える高揚ぶりに対し、ロシアの著名な反政権派ジャーナリスト、ミハイル・フィッシュマン氏は「大統領の政策演説というより、精神病者の演説だ」とこき下ろした。強迫観念に取りつかれたかのようなプーチン氏の精神状態についても、国際社会は注意深く見守る必要がある。
また、プーチン氏が2022年9月21日に発表した「部分的予備役動員」をめぐっては混乱が続いている。ジョージアやカザフスタンなど地続きの隣国との国境を通って、兵役を拒否する男性が長蛇の列を作って出国を試みている。外交筋はすでに出国者が30万人に上るとの見方を示している。この数字は、今回の動員令が対象者の数として公表した30万人と同規模だ。いかにロシア社会に大きな動揺が走ったのかを示す数字だ。
「戦死したくない」という本音
本稿筆者が注目しているのは、兵役忌避の理由やロシア国内の反応だ。ロシア内外の報道やSNSを通じた兵役忌避者の発言を見ると、プーチン政権の侵攻に反対する声は多数派ではない。もちろん、戦争批判が刑事罰の対象となるため侵攻批判を公言しにくいという事情があるにせよ、とにかく「戦死したくない」との発言が目立つ。「反戦」ではなく、自分の、あるいは家族の従軍だけは勘弁してほしいとの率直な本音だ。
これは、政権発足以来の20年間、クレムリンが安定した生活を実現する見返りに、国民にはクレムリンの政策には異議を唱えず、言論の不自由にも我慢することを求めてきたプーチン政権と国民との間の「社会契約」が大きく損なわれたことを意味する。
しかし「社会契約」は揺らいだものの、ロシア社会の伝統的な特性が結果的にプーチン政権を助けていることも事実だ。たとえ、国家が間違った戦争をしたと思っても、戦時中は政権を支持してしまう「盲目的愛国心」の強さがロシア社会の特徴だ。
今回の動員問題でも、「盲目的愛国心」のお陰で個々人が動員に不満を持っても、その不満の「粒子」が次々結合し、大きな反政府運動という社会的塊へと結集することがない。その結果、大きな反戦運動が生まれないのだ。
この背景には、西欧が長い時間掛けてさまざまな権力の横暴と戦った末に、個人の自由や権力監視など近代社会の特性である「市民社会」を築いたのに対し、ロシアではいまだに市民社会が確立できていないことがある。
市民社会への移行については、2022年8月に亡くなったミハイル・ゴルバチョフ元大統領による改革(ペレストロイカ)時代に議論が始まり、ボリス・エリツィン政権時代にその萌芽ができたが、プーチン時代では西側の価値観として葬り去られた。
動員をめぐってはその後、予備役でもない男性への招集令状発行など行き過ぎた動員の修正をプーチン氏が命令している。これは、兵役拒否の個人レベルの動きが反戦運動のうねりへと変質することを回避するための世論懐柔策とみられる。ロシアの軍事評論家であるユーリー・フョードロフ氏は、この修正発言について「社会的な不満の爆発を防ぐのが狙い」と指摘している。
動員をめぐってプーチン氏の支持率は下がっているが、今後政権を脅かすようなレベルまで下がらないよう、クレムリンはさまざまな手を打つだろう。
プーチン氏にとって戦局はいよいよ厳しさを増している。併合宣言の直後である2022年10月1日、ウクライナ軍は東部ドネツク州の要衝リマンを奪還した。リマンはドネツクとルガンスク両州での補給路のハブで、2022年5月にロシア軍が制圧していた。
約5000人のロシア軍部隊は撤退した。これにより、ウクライナ軍は当面最大の攻撃目標であるドネツク州の州都ドネツク市の攻略に向けた準備が整ったと言える。ウクライナ側は同市が陥落すれば、両州を合わせたドンバス地方のロシア軍は総崩れになるとみている。
弾薬などの兵站面でも苦しかったリマンのロシア軍部隊は、撤退前日には包囲されていた。軍事筋によると、部隊司令官は撤退前、プーチン大統領に撤退、あるいは投降したいと許可を求めたが、大統領はいったんは拒否した。しかし包囲網を破る戦力がないことは明白で、投降されるよりは撤退したほうが政治的ダメージは少ないと、最終的にプーチン氏は撤退を選択せざるをえなかったとみられる。
ゼレンスキー大統領の「プーチン外し」
投降をめぐっては、南部ヘルソンでも兵站が尽きかけているロシア軍司令官が大統領に許可を求めたが、拒否される事態となっている。ロシア軍の士気喪失を象徴する動きだ。ヘルソンでは2022年9月27日に動員されたばかりの予備役が戦線に投入されたという。ろくな軍事訓練を受けないままで派遣されたのは間違いない。
ウクライナ軍は今後、反攻作戦をさらに拡大する計画だ。軍事筋によると、すでに包囲に近い状態にあるヘルソンのロシア軍への攻勢を強める方針という。投降を呼び掛ける作戦だ。多数の投降者を収容するためにオデッサに捕虜収容施設も用意済みだ。ヘルソンを奪還し、南部に位置するクリミア半島への攻撃の出撃基地とする戦略だ。
こうした反攻作戦強化と並行して、ウクライナはロシアに対し大きな外交攻勢に出た。併合宣言直後にゼレンスキー大統領が発表した、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)への加盟申請と、「プーチン氏相手に交渉せず」の宣言だ。とくに後者はプーチン氏にとって大きな打撃となる。
ロシアに占領された全領土、つまり4州にクリミア半島を加えた地域の武力奪還を反攻作戦の目標に掲げるゼレンスキー大統領だが、最終的な戦争終結はロシアとの外交交渉で決まると認識している。この交渉の相手としてプーチン氏を受け入れないということは、プーチン氏が大統領でいる限り、ロシアは戦争終結の交渉のテーブルに着けないことを意味する。
このため、ゼレンスキー大統領の宣言は、ロシア国内で戦争終結に向け、プーチン氏排除やむなしの声が出ることを狙った巧妙な一手だ。
ウクライナ側のこうした「プーチン外し」の動きの背景には、戦況の悪化でプーチン氏の国内での指導力に陰りが出始めていることがある。プーチン氏のスピーチライターを務めた経歴からクレムリンの内部事情に精通している政治評論家のアッバス・ガリャモフ氏は、プーチン氏について「まだ政治的主導権を完全に手放してはいないが、一方で政治状況が大統領を動かし始めている」と指摘する。
例としてガリャモフ氏は、直前に急遽決まった住民投票の実施を挙げる。プーチン氏自身は制圧完了前の併合に乗り気ではなかったが、4州での親ロ派指導者たちの要求を受けて渋々実施したという。ハリコフ州の完全陥落を受け、親ロ派指導者たちは4州が奪還された場合、自分たちもウクライナ側から「対ロ協力者」として摘発されることを恐れ、併合宣言による占領体制の強化を主張したという。
戦局の好転も、交渉による解決もその見通しが立たない中、ガリャモフ氏はこう指摘する。「モスクワでプーチン氏の後継者の話が浮上する可能性がある。クーデターか、クレムリン内のエリートによる政権交代か。プーチン氏が事態打開のため自ら後継者を指名して退陣する可能性もある」と。
プーチン退陣をにらんだ発言は反政権派からも出始めている。著名な社会運動家であるマルク・フェイギン氏は、プーチン氏に代わって欧米的な政治路線を掲げる指導者が登場することはありえないと指摘する。欧米的政治スタイルに対するロシア国民全体の忌避意識が強いためだ。フェイギン氏は社会の変化には「時間がかかる」と認めている。
このため、プーチン政権上層部内で、より米欧にも受け入れられる人物が後継者として浮上する可能性があると述べた。そのうえで後継者の有力候補としては、フェイギン氏は、今まで戦争について公式の発言をしていないミシュスチン首相を挙げた。
プーチンは核兵器を使用するか
しかし、こうした周囲の思惑をよそにプーチン氏は強気の姿勢を崩していない。先述した併合演説の中でも核攻撃の可能性を示唆する場面があった。原爆投下によってアメリカが核攻撃の「前例」を作ったと述べた。つまり、ロシアが今後侵攻で核攻撃しても、前例を作ったアメリカが悪いと強弁する布石とも読める発言だ。
プーチン氏が今回、戦術核などでの核攻撃をしなかった場合、ロシアが外交上の最大の切り札にしている「核カード」の心理的抑止力は今後、大きく減退するだろう。一方で、核攻撃しても、その軍事的効果には疑問も残る。
敗色濃かった日本を最終的に降伏に追い込むためにアメリカが原爆を投下したのと異なって、今回ロシアが核兵器で攻撃してもウクライナが降伏するという保証はないからだ。逆にアメリカから強烈な報復攻撃を受けるのは必至だ。21世紀に核を使った指導者として歴史に汚名を残すことにもなる。
いずれにしてもウクライナ戦争は戦局的にも今後年末に向け、大きなヤマ場に差し掛かる。国際社会が一致してロシアに対し、侵攻停止に向け強い圧力を掛けるべき時期だ。この中でG7(主要7カ国)の中で唯一、ポーランドに大使館を避難させたまま、キーウに戻していなかった日本は近く戻す予定だ。2023年のG7議長国として日本は、平和回復や復興に向けて国際社会をリードしていくべきだ。
●ウクライナ東部の要衝リマンから退却したロシア軍に内部から批判 10/4
ロシア軍がウクライナ東部の中心的な要衝リマンで敗退する中、ロシア軍内部でもこれを巡って非難の声が上がっているという。各外信が2日(現地時間)に報じた。
米紙ワシントン・ポスト(WP)は、ロシア軍がリマンから退却して新たな防衛線を構築している中、テレグラム上の政権寄りのチャンネルでは軍指導部の無能を批判する声が噴出している、と報じた。
ウクライナ戦争に参戦しているチェチェン自治共和国のラムザン・カディロフ首長は、プーチン大統領に戦術核の使用を求めるとともに、ロシア軍指導部を露骨に非難した。カディロフ氏は「戦場には勇敢で、規律を守り、兵士たちのために涙を流せる指揮官が配置されるべき」だとし「軍で縁故主義が生きる余地はない。今にように困難な時期はなおさらだ」と批判した。さらにカディロフ氏はリマン地域の指揮官の実名を挙げ、弾薬など軍需品や通信の支援がきちんと行われなかったとも主張した。「私ならその指揮官を降格させて機関銃を持たせ、最前線に送っただろう」とも述べた。
雇い兵集団「ワグネル」の設立者でもあるエフゲニー・プリゴジン氏も声を上げた。プリゴジン氏は「カディロフ氏の表現は私のスタイルではない」としつつも、ロシアの最高司令官に言及しつつ「だが私は、こいつら全員を裸にして機関銃を持たせ、最前線に立たせるべきだと考える」と述べた。
親クレムリン系のシンクタンク「RUSSTRAT」のエレナ・パニナ局長は「ロシア軍指導部に対する公の批判は前例がない」としつつも、軍指導部の入れ替えが必要だという趣旨の主張を行った。
批判が相次いだことを受け、「テレグラム」内の政権寄りのチャンネルでは、軍に対する攻撃を控えるべきだという声も出ている。公の非難を巡って「背信よりもっと悪い」という指摘もなされた。
●ウクライナ侵攻に「参加」 ベラルーシ大統領発言、臆測飛び交う 10/4
「欧州最後の独裁者」と呼ばれるベラルーシのルカシェンコ大統領は4日、ロシアによるウクライナ侵攻に「われわれは参加している」と認めた。
一方で「誰も殺していないし、どこにも兵士を送っていない」とも述べた。国営ベルタ通信が伝えた。
ウクライナ侵攻が欧米とロシアの「代理戦争」の様相を呈する中、ロシアの軍事同盟国ベラルーシが「当事国」であることを強調した格好だ。ただ、ルカシェンコ氏は最近もロシア南部ソチを訪れて、プーチン大統領と2日連続で会談しており、ロシアの動員令に合わせて部隊を送るのではないかという臆測が飛び交っている。
ルカシェンコ氏は自国の「任務」について「第1に戦闘が領内に及ばないようにすること、第2にポーランド、リトアニア、ラトビアからの攻撃を許さないこと」だと例示した。「ベラルーシに動員令は必要ない」と否定したが、戦火が及んだ際への対応に含みを残した。
●ウクライナ情勢 10/4
ロシア側拘束のザポロジエ原発所長は解放
グロッシ氏は自身のツイッターで、「所長の解放を歓迎する。彼は家族の元へ安全に戻ったと確認した」と投稿。ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムによると、ロシア側は9月30日午後、原発から南部ザポロジエ州エネルゴダール市に向かっていたムラショフ氏の車を停止させ、目隠しをした上で連行していた。
ロシア下院が「併合法案」を可決
ロシア下院は3日、自国への併合を要請してきたウクライナ東部・南部4州と結んだ「条約案」を承認した。タス通信が伝えた。上院も4日に承認するとみられており、その後にプーチン大統領が署名して法制化される見通し。
反戦訴えたロシアのジャーナリストが指名手配に
ロイターによると、ロシア国営メディア「RT」が1日、自宅に軟禁されていたオフシャニコワさんが、娘と共に逃走したとする元夫の証言を報じていたという。オフシャニコワさんは3月、当時勤務していたロシア政府系テレビのニュース番組で、生放送中に「戦争反対」などと書かれたポスターを掲げてウクライナ戦争を非難。8月にロシア軍に関する虚偽情報を広めたとして10月9日までの自宅軟禁となっていた。
●プーチン大統領「併合宣言」は失敗か 10/4
ウクライナでロシア軍の撤退や敗走が相次ぎ、軍の指揮系統の乱れや甘い戦局見通しを批判する声が国内で噴出している。米欧からは露軍が一層窮地に追い込まれるとの見方が広がる。プーチン大統領の東部・南部4州の併合宣言は失敗に終わる可能性が出てきた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日のビデオ演説で、南部ヘルソン州の2集落を奪還したと表明した。東部ドネツク州の要衝リマン奪還を発表したばかりだが、反転攻勢が続いている。
米シンクタンク、戦争研究所は2日、ロシア国営メディアがリマンでの敗走を嘆き、部分動員令の組織的な失敗を批判するなど報道に変化が出ていると分析した。国営テレビの出演者は4州併合を非難、現状でロシアに4州を支配する能力があるのかと疑問を呈した。
「現場を離れて民兵らに戦闘を任せ、必要な通信や弾薬も供給しなかった」。ロシア軍のリマン退却を受け、プーチン氏に忠誠を誓う南部チェチェン共和国のカディロフ首長は1日、リマン防衛の責任者、中央軍管区のラピン司令官を名指しで批判した。
ラピン氏は7月、東部ルガンスク州制圧に貢献したとして、プーチン氏から「英雄」称号を授けられた。カディロフ氏がゲラシモフ参謀総長にリマン陥落の危険を訴えた際、ゲラシモフ氏がラピン氏の肩を持ち取り合わなかったとも暴露した。
戦争研究所は、カディロフ氏の発言について、プーチン大統領の指導力低下にも影響を与え、プーチン氏自身もこうした危険性に気付いている可能性が高いとした。
米国防総省高官は、露軍が士気低下などの課題に直面していると指摘。英国防省は「ロシア国民による軍上級司令官への批判と圧力がさらに強まるだろう」と予測した。
●NY ロシア領事館に赤い塗料 ウクライナ軍事侵攻への抗議か 10/4
アメリカ・ニューヨークにあるロシア領事館の壁に赤い塗料が掛けられているのが見つかりました。ウクライナ侵攻への抗議とみられています。
市民:「私はこのような表現方法は一切支持しない。建物にペンキを投げ付けるよりも、自分の意見を表現するもっと良い方法があると思う」「ウクライナでは明らかに人が殺され、建物が破壊されている。だからちょっとしたペンキは、結局のところ大したことでは無い」
地元警察によりますと、先月30日の未明、ニューヨークにあるロシア領事館に赤い塗料が掛けられているという通報がありました。
30日は、プーチン大統領が実効支配するウクライナの4つの州をロシアに併合する条約に署名した日です。
現時点でこの事件を巡る逮捕者は出ておらず、捜査が進められています。
●ロシア、西部軍管区の司令官を解任 ハルキウ州での敗北の後 10/4
3日に公開された統一国家登記簿の記録によると、ロシア当局は西部軍管区のアレクサンドル・ジュラブリョフ司令官を解任した。
統一国家登記簿では、西部軍管区の新司令官として将官のロマン・ベルドニコフ氏の名前が記載されている。
西部軍管区は5つあるロシア軍の軍管区の一つで、ロシアのウクライナ侵攻で重要な役割を果たした。
解任されたジュラブリョフ氏は、ロシア軍が最近大きな損失を出したウクライナ北東部ハルキウ州でも指揮官を務めている。ベルドニコフ氏の起用に先立ち、ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州の要衝リマンから撤退した。
ジュラビュロフ氏はシリア紛争の特に激しい局面で指揮を執ったことで知られるほか、ウクライナではロケット砲旅団の指揮官も務めた。CNNはこの旅団が侵攻当初の2月下旬、ハルキウの住宅街でクラスター弾による攻撃を行ったことを確認した。
リマン撤退を受け、ロシアの当局者からは軍指導部を批判する声が上がっている。ロシアの議員で元軍司令官のアンドレイ・グルリョフ氏は1日、親政府系のテレビで、今回の「降伏」は軍事的な観点からは説明が付かないと述べた。
ロシア国防省はこれまでのところ、西部軍管区の司令官交代について確認していない。
●ロシア、また軍の要職を解任 米研究所「プーチン氏が責任転嫁か」 10/4
ロシア政府は、ロシア軍西部軍管区のジュラブリョフ司令官を解任し、新たにベルドニコフ中将を任命した。ロシアのニュースサイト「RBK」が3日、関係者の話として伝えた。ウクライナに侵攻したロシア軍は撤退が相次いでおり、米戦争研究所(ISW)は同日、ロシア国内で高まる不満をそらすための人事だと分析した。
ISWによると、西部軍管区は過去数カ月間、ウクライナ北東部ハルキウ州で活動していたが、明確な指揮官がいない状態で、ジュラブリョフ氏もしばらく姿を見せていなかったという。
ロシア軍は9月下旬から、ハルキウ州のイジューム、東部ドネツク州のリマンなどの要衝から次々に撤退している。ISWは「ロシアのプーチン大統領は、最近のロシア軍の失敗の責任をベルドニコフ氏に転嫁するかもしれない」としている。
ロシア国防省は9月24日にも、補給作戦を担当していたブルガコフ国防次官を解任している。
●プーチン氏盟友2人、異例のロシア軍司令部批判 要衝からの敗走で 10/4
ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州北部の要衝リマンから撤退したことを受け、プーチン大統領の盟友2人はロシア軍司令官に対して異例の批判を展開した。
ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長は、ロシアは小型核兵器を使って防衛を強化すべきだと主張。
「軍の縁故主義は何の役にも立たない」と批判し、ウクライナ東部のロシア軍司令官は勲章を剥奪する必要があり、血で恥を洗い流すために銃を持って前線に送られるべきだと訴えた。
カディロフ氏はチェチェンの部隊を派遣してロシアのウクライナ侵攻を支えてきた。
同氏はまた、リマンで敗北を喫する可能性について2週間前にロシア軍のゲラシモフ参謀総長に警告したが、一蹴されたと明らかにした上で「国防省が最高司令官(プーチン氏)に何を報告しているか知らないが、個人的な意見としては、より抜本的な対策を講じるべきだ」と力を込めた。
ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者でプーチン氏の盟友エフゲニー・プリゴジン氏は、カディロフ氏の発言を称賛し、「ろくでなし」の軍司令官に「自動小銃を持たせ、はだしで前線に送り込むべきだ」と力説した。
国防省を批判しているのか問われると「批判ではなく、愛と支持の表れだ」と釈明した。
ペスコフ大統領報道官はカディロフ氏の発言について「困難な時であっても、感情はいかなる評価からも除外されるべき」とコメントした。

 

●冬本番を前に「暖房狙う」ロシアの攻撃に警戒 ハリコフではマイナス20度も 10/5
ウクライナ東部ハリコフ州で暮らす70歳のオルガ・コブザールさんは、ロシア軍の砲撃を受けて廃墟と化した団地の1室で、間もなく訪れる厳しい冬を乗り越えようとしている。
コブザールさんは1人暮らしで、自宅では電気も水道も使えない。台所のガスコンロに火をつけて暖をとっている。ここでは気温がマイナス20度まで下がる。
コブザールさんはロシア国境からおよそ32キロの荒れ果てたサルチフカ地区にある団地で暮らす、最後の住人の1人だ
オルガ・コブザールさん「できるだけ長くここで暮らすつもりだ。凍えるほど寒くなるけど、友達と長くいられるかもしれない。大事なことは、息子が前線から無事に帰ってくることだけ、ほかは何もいらない。」
7カ月に及ぶ戦争は、ウクライナの広範囲でエネルギー供給網と住宅地に甚大な被害をもたらしている。
当局は、寒さが本格化した時期にロシアが重要なインフラ施設を故意に攻撃してくることを警戒している。そのため当局は、いかなる事態にも耐えられるよう、薪や発電機の備蓄を市民に呼びかけている。
ウクライナの都市部では、天然ガスを燃料とする発電所が各家庭へと集中的に暖房を供給している。だが、窓や壁が割れた集合住宅に暖房を送ると、配管が凍結してシステム全体が破壊されかねない。
神父のヴィアチェスラフ・コユンさんは、近くに住む高齢者が暖房を使えるよう割れた窓をふさぐ手伝いをしている。
神父のコユンさん「ほとんどの住民が去ってしまって、1棟に5人ほどしか住んでいない。大半は年金生活者だ。私は年金暮らしの人々を置いて、引っ越すことはできなかった。それは正しい行いではない。」
集中暖房に障害が発生した場合、電力供給が重要になる。多くの人が電器の暖房器具を購入した。だが専門家は、市民が一斉に暖房器具を使用すれば、電力供給が圧迫される可能性があると指摘する。
ウクライナのエネルギー省は戦時中であることを理由に、インフラの現状に関する詳細なデータ公表を控えている。おそらくパニックを起こさないようにするためだろう。
だが1日、当局は珍しくインフラ被害について発表。9月下旬に起きたロシアの攻撃によって、南部の2つの変電所が「完全に破壊された」と明かした。
●動員令発令で自らの首絞めるプーチン、前線の精鋭部隊も崩壊で苦境に 10/5
いまや精鋭部隊が撤退を余儀なくされるほどロシア軍は劣勢にあるようだ。
米シンクタンク「戦争研究所」は、ウクライナ軍が10月2〜3日の48時間、東部ドネツク州の要衝リマン周辺と南部ヘルソン州で進撃を続けている、と報告した。ウクライナ軍はリマンから東進を続け、ルハンスク州境を突破した可能性がある。両地域にはロシア軍の最精鋭部隊が展開していたが、戦争の長期化で兵力が劣化していることが浮き彫りになった。
「プーチンは失敗の責任を現場になすりつけている可能性」
ウラジーミル・プーチン露大統領は9月30日、東部ドネツク、ルハンスク、南部ザポリージャ、ヘルソン計4州の併合を宣言。占領地域の防衛に集中する方針を国内外に示した。
ところが、ドネツク、ルハンスク、ヘルソン3州でウクライナ軍の進撃を止められなくなっている。ロシア軍が先に撤退した北東部ハルキウ州と同じく最精鋭部隊の崩壊が原因とみられる。
ロシアの軍事ブロガーによると、ヘルソン州のドニプロ川右岸沿いにウクライナ軍は30キロメートルも前進したが、これは「この戦争における最速の前進の一つ」という。この事態に、ロシアでは現場の司令官を更迭して責任をなすりつける動きが相次いでおり、「プーチンは軍事的な失敗の責任を自分からそらそうとしている可能性がある」(戦争研究所)という。
プーチン氏は4州併合を強行したもののウクライナ軍の進撃が続き、どこが“国境”なのか分からないという声が現場から上がっている。6月に高い代償を払ってロシア軍が獲得したルハンスク州の中心都市セベロドネツクやリシチャンスクについても、間もなくウクライナ軍が脅かす可能性がある。
徴兵逃れで26万1000人がロシア脱出
プーチン氏は9月21日、予備役30万人を動員することを表明した。ウクライナ戦争による検閲で活動停止に追い込まれた露独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」のジャーナリストによる「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は、この動員令で最大100万人の徴兵が可能だと分析している。
ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ紙によると、動員令を表明した日から自動車でロシアから出国できる国境検問所87カ所(すべて合わせると109カ所)のうち4分の1以上に当たる29カ所で交通量が増え、9日間で11万7000台の乗用車が出国した。同紙は情報筋の話として26万1000人の男性が徴兵を逃れるため国外に脱出したと報じている。
フィンランドへは2万5400台の乗用車が入国。バルト三国とポーランドへは9300台、ノルウェーへは500台強、モンゴルへは3100台以上。ジョージア(旧グルジア)へは1万3500台が出国し、9月30日朝の時点で2000台が国境検問所で列を作ったという。カザフスタンには9万8000人のロシア人が出国した。
ロシア国内の世論も変わり始めている。
ロシア軍のウクライナ侵攻を称賛してきたプロパガンダメディア「RT(旧ロシア・トゥデイ)」のマルガリータ・シモニャン編集長はロシア国営放送でこう指摘した。
「私たちはいつも戦艦ポチョムキンを思い出す必要がある。乗組員は気が狂い、凶暴になった。狂って凶暴になったことを責めることはできない。艦長らは乗組員にウジ虫がわいた肉を食べさせたからだ」
日露戦争に揺れる1905年、黒海艦隊の戦艦ポチョムキンで乗組員の反乱が起きた。セルゲイ・エイゼンシュテイン監督の映画『戦艦ポチョムキン』(1925年公開)で日本でも有名だ。
子沢山の父親や持病のある人、招集年齢を過ぎている人が徴兵され、医師など高度な専門家が間違ってライフル部隊に入隊させられるなど、予備役動員の現場は大混乱している。シモニャン氏はそうした声を公共の電波を通じて“裸の王様”プーチン氏に伝えた。国民の不満を無視できなくなったからだ。
英専門家「プーチンは完全な敗北を喫する可能性が強まっている」
戦略研究の第一人者でイラク戦争の検証メンバーも務めた英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は最新の有料ブログでプーチン氏の4州併合とリマン包囲戦について投稿している。「以前は流血を終わらせるために、可能性は低いとはいえ、何らかの外交手段が残されていることを想像できたが、今やその道は閉ざされた」という。
「ロシアにウクライナから撤退してもらうことがいかに難しくとも、ウクライナにウクライナから撤退してもらうことはできないことを、領土交渉を熱心に促す西側の人々でさえ理解すべきだ。2014年に併合されたクリミアもロシアに不法に併合された5州の一つに過ぎず、その運命は結ばれている、戦争はもはや最後まで続く運命にある」(フリードマン氏)
ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターによると、8月には48%のロシア人が戦争の継続を望んでいたが、動員令の後は29%まで低下し、和平交渉を望む声は48%にのぼっていた。プーチン氏は占領地という戦果に固執したことで、自分で自分を袋小路に追い込んでしまったのだ。フリードマン氏は次のように指摘する。
「プーチンは完全な敗北を喫する可能性が強まっている。戦争が終わった時、戦争犯罪、賠償、制裁解除などの問題がどのように処理されるかは分からない。核兵器がいかなる形であれ使用されれば、抑止力としての役割を果たせなくなることをロシアに思い知らせるため、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟申請はテーブル上に置いておくべきだ」
英国は国防費を国内総生産(GDP)の3%に増強
プーチン氏が主導したウクライナ侵攻は、欧州各国にロシアへの警戒心を呼び起こさせ、国防体制の引き締めを促すこととなった。
西側のウクライナ支援をリードしてきたベン・ウォレス英国防相は10月2日、バーミンガムでの英与党・保守党大会で演説し、こう訴えた。
「2019年に国防省の手綱を取った時、軍隊の空洞化に歯止めをかけることを決めた。30年までに国防費を国内総生産(GDP)の3%(21年は推定2.25%)にするリズ・トラス首相の公約は英国と同盟国の安全を維持するために必要だ」
「プーチンはウクライナの一部を不法に併合した。自国の貧弱な装備の軍隊がウクライナ東部から追い払われているまさにその時に彼はそれを強行した。プーチン氏は併合宣言の際、無能な将軍たちや、彼自身の不法な侵略のために夫や息子を失った何万人ものロシア人未亡人や母親には言及しなかった。負傷した5万人以上の兵士たちを見舞ってもいない」
ウォレス氏はロシア軍の侵攻翌日、ウクライナに関する最初の国際会議を呼びかけ、軍事支援を調整した。欧州から25カ国が参加し、今では35カ国に増えた。英国はデンマーク、フィンランド、スウェーデンなど9カ国と協力して今年、ウクライナ兵士1万人の訓練を実施する。来年にはさらに2万〜3万人の兵士を訓練する計画だ。
バルト海経由でロシアとドイツを直結する天然ガス・パイプライン「ノルドストリーム」で謎の事故が続いていることについて、ウォレス氏は「このようなハイブリッドな攻撃に対して、われわれの経済とインフラがいかに脆弱であるかを思い起こさせる」と指摘。海底ケーブルやパイプラインの安全を確保する“海底戦艦”2隻を調達することを明らかにした。
「プーチンは『100年後のロシア国民は自分に感謝している』と思い込んでいる」
ウォレス氏は演説に先立ち開かれた同日のミニ集会で、ウクライナ戦争とそれによって明らかになった英国の防衛体制の「穴」について振り返った。
「ウクライナ戦争で自分たちの弱点を発見した。複雑な兵器システムを使った戦争が長引き、サプライチェーンや備蓄が必要になった時、この30〜40年の間に国防が空洞化していたことを改めて痛感した。ロシアはサプライチェーンの一部をウクライナに依存しているのに、ロケットの主要な供給元の一つを爆撃した」
適切に訓練された兵士を前線に供給するパイプラインのほか、数年間に及ぶ戦争に耐えるためには資金の流れを円滑にし、十分な備蓄と国防産業基盤を維持、強化する必要があると強調した。
プーチン氏の行動原理について、ウォレス氏は「英国の街角で致死性の神経ガス(ノビチョク)が使われたのは普通ではない。つまり彼は普通じゃない。ロシア政府はNATO加盟国の英国で神経ガスを使用することを容認した。これは大きな転換点だった。理性的な人間の行動とは言えない」と語る。
「プーチンが昨年、ロシアとウクライナの歴史的一体性について書いたエッセイはソ連が世界を救ったというフィクションの傑作だ。プーチンは結局のところ政治家だ。政治家がレガシー(業績)について考え始めたら、かなり危険だ。プーチンは100年後のロシア国民は彼に感謝しているという“レガシーモード”に入っている」(ウォレス氏)
「だからこそ、『世界はわれわれ偉大なロシアを頼りにしている』という全く理性的でない妄想に行き着く。言ってみれば彼は全く非合理的なことをしている」(同)
では、誇大妄想に取りつかれたプーチンが権力の座を誰かに明け渡せばロシアの行動は変わるのだろうか。
「プーチンの後任」が必ずしもプーチンと異なる考えを持つ人物とは限らない
ウォレス氏はこう指摘した。
「先に亡くなったソ連初代大統領のミハイル・ゴルバチョフ氏はアフガニスタン戦争から撤退した。プーチンはチェチェン紛争を制圧した。プーチンの後任がウクライナ戦争から脱却すると言って誕生してもおかしくない」「しかしロシアのシステムに問題があることを忘れてはならない。彼の後任が必ずしもプーチンと異なるとは思わない。だからロシアがやっていることは国際社会では容認されないことを理解させることが本当に重要なのだ」
たとえプーチン氏が表舞台から退場しても、英国のロシアを見る目が、「ウクライナ戦争以前」に戻ることは当分ないだろう。
●「ウクライナ軍が防衛網深く侵入」「複数集落失った」ロシア国防省、苦戦認める 10/5
ロシア国防省は3日、一方的な併合を進めるウクライナ南部ヘルソン州で、ウクライナ軍が「防衛網深くに侵入した」とし、苦戦を認める異例の発表をした。地元の親露派幹部も「複数の集落を失った」と述べた。
ウクライナ軍の戦車部隊が優勢という。ロイター通信は3日、ウクライナ軍がドニプロ川西岸沿いに1日で約30キロ進軍したとし、ロシアの侵略開始後、「南部では最大の突破」と報じた。米欧が提供する武器や、衛星情報が後押ししているとみられている。
東部でもウクライナ軍はドネツク州北部の要衝リマンから、ルハンスク州の拠点都市リシチャンスクやセベロドネツクに向け進軍している。露軍側は、ウクライナ軍がルハンスク州に入ったことも確認した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日のビデオ演説で「複数の州で新たに集落を奪還した」と強調した。ウクライナ大統領府は4日、ロシアによる東・南部4州の一方的な併合宣言を受け、プーチン露大統領とは交渉「不可能」だと確認する大統領令を公表した。
一方、露上院は4日、下院に続き、東・南部4州の併合「条約」の批准を全会一致で承認し、関連法案も可決した。プーチン氏の署名で併合手続きが完了する。
英紙ザ・タイムズは3日、専門家の分析として、露国防省で核兵器を担当する部局の機材を積み、ウクライナ方面に向かう列車が、露中部で確認されたと報じた。ロシアが核搭載可能な無人原子力潜水艇「ポセイドン」の発射試験に向けた準備を進めているとの報道もある。
●ロシア、軍司令官また解任 米研究所「プーチン氏が責任転嫁か」 10/5
ロシア政府は、ウクライナ北東部ハリコフ州の攻略を担当していたロシア西部軍管区のジュラブリョフ司令官を解任した。ロイター通信などが3日報じた。反転攻勢を続けるウクライナ軍が9月にハリコフ州の広範な地域をロシア側から奪還しており、米シンクタンク「戦争研究所」は、プーチン露大統領が作戦失敗の責任を同司令官に転嫁し、ロシア国内で高まる不満をそらすための人事と分析している。
同研究所が3日に公表した分析によると、西部軍管区は過去数カ月間、ハリコフ州での作戦の際に明確な指揮官がいない状態で、ジュラブリョフ氏も姿を見せない時期があったという。後任司令官にはベルドニコフ中将が任命されたと報じられている。
ロシア軍は9月以降、ハリコフ州イジューム、東部ドネツク州リマンなどの要衝から次々に撤退するなど劣勢が目立っている。同研究所は、こうした地域での今後のロシア軍の作戦失敗についてはプーチン氏が「ベルドニコフ氏に責任転嫁するかもしれない」と分析している。
ロシアでは9月下旬にも補給作戦を担当していたブルガコフ国防次官が解任されたと報じられており、軍幹部の解任や更迭が相次いでいる。
●対ロ追加制裁と原油価格下落がロシア経済・財政に打撃 10/5
欧米が対ロ追加制裁を発表
ロシアがウクライナ東・南部4州の一方的な併合宣言を行ったことを受け、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請する考えを表明し、ロシアとの徹底抗戦の姿勢を改めて明確にしている。ウクライナのNATO加盟を認めれば、NATO加盟国は集団的自衛権に基づいてウクライナでの紛争に直接関与することになるため、NATO加盟国はウクライナの加盟を認めず、引き続きウクライナへの軍事支援を行うとみられる。
他方、一方的な併合宣言を受けて、欧米諸国は再び追加の対ロ制裁を発表している。米国の制裁措置は、議員や要人の資産凍結や金融取引の制限などが中心となる。米財務省によると、追加制裁の対象となるのはロシア中央銀行のナビウリナ総裁や約280人の連邦議会議員、政府高官の親族などである。また、米商務省はロシア軍を支援する57団体を米国製品の輸出規制の対象リストに追加したと発表し、米財務省はロシア軍関係者ら910人をビザ(査証)発給規制の対象にするとしている。
一方、欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、既にG7(先進7か国)財務相会合で合意されていたロシア産石油の取引価格への上限設定などを含む追加制裁案を発表した。制裁案にはロシア製品の新たな輸入禁止措置も盛り込まれており、欧州委員会はそれがロシア経済に最大70億ユーロの損失を与えると見込んでいる。さらに、EUからロシアへの新たな輸出制限措置も設けられ、航空用品、電子部品、特定の化学物質など軍事に使用される可能性のあるものが対象とされる。
EUは天然ガスについても輸入禁止や価格上限の設定を検討しているが、ハンガリーなど一部加盟国の反対から、今回の制裁案には盛り込まれなかった。
世界経済の減速観測から原油価格は大きく下落
ロシアのウクライナ侵攻以降、段階的に実施されてきた先進諸国による対ロ制裁措置は、ロシア経済を次第に追い詰めているものと考えられる。さらに年末からは欧州によるロシア産原油の原則輸入禁止や取引価格上限設定措置も始まる。
国際エネルギー協会(IEA)の9月のレポートによると、8月のロシアの石油輸出量は日量760万バレルで、ウクライナ侵攻前の水準を39万バレル、率にして5%程度下回っている。また輸出額は8月に177億ドルとウクライナ侵攻前の水準を12億ドル、率にして6%程度下回っている。
ただし、今後はロシアの石油収入はもっと下がっていくだろう。世界の原油市況が下落しているからである。WTI原油先物価格は、ウクライナ侵攻直後の今年3月と6月に1バレル120ドル近辺まで上昇していたが、足元では80ドル近辺での推移となっている。これは概ね今年年初の水準であり、ウクライナ侵攻直前の90ドル程度を下回っている。原油価格の下落は世界経済の減速を予見した動きである。
また、先進諸国の制裁発動で行き場を失ったロシア産原油を今まで大量に買っていたトルコ、中国、インド3か国への供給が、需要鈍化の影響から落ち込んでいるという。
原油価格はロシアの財政収支を赤字化する水準まで下落か
国際金融協会(IIF)によると、1-7月のロシア連邦予算のうち、石油・天然ガスの収入は歳入全体の約45%を占めていた。まさに財源面で財政を支える柱である。他方、政府データに基づくと、8月のロシア連邦財政収支は3,440億ルーブル程度の赤字になったと推定される。1−7月の月間平均収支は687億ルーブルの黒字、合計は約4,810億ルーブルの黒字であったことから、8月に財政環境は劇的に悪化したことになる。
ロシア政府は財政赤字の穴埋めのため、エネルギー業界への増税策を含む複数の措置の導入を決めた。また9月には、2月以来となる国債(国内債)の発行に踏み切った。6月までは、原油価格の上昇による原油・石油製品の輸出収入増加によって、ロシアの財政が支えられ、それが戦争の継続を可能にさせてきた。しかし、WTI原油先物価格が現在80ドル程度である一方、ロシア産原油はそれに対して20ドル程度安売りされていることを踏まえると、原油価格は既に、ロシアの財政収支を均衡させるのに必要な水準を下回っていると考えられる。
いよい行き詰まるロシア経済・財政
世界経済の減速や原油価格の下落に加えて、プーチン政権が打ち出した部分動員令も、ロシアの財政及び経済に逆風となっている。プーチン大統領は9月21日に、ウクライナ侵攻をめぐり予備役の「部分的な動員令」を発動した。当初、ロシアの予備役2,500万人の1%強にあたる、軍務経験がある予備役約30万人を招集すると説明していた。実際には、軍務経験がある予備役以外も対象とされたとして大きな混乱を生んでいるが、少なくとも30万人を新たに投入すれば、彼らの軍装備や訓練、給料を新たに手当てする必要が出てくる。これは追加的な財政負担となる。
他方、民間企業にとっては、兵役または徴兵逃れの国外脱出によって人手が奪われており、打撃となっている。また重要な技能を持ったロシア人の国外脱出、いわゆる頭脳流出が加速しているとの指摘もあり、中長期的にもロシア経済の逆風となるだろう。
ここにきて、ロシア経済、ロシア財政はいよいよ行き詰まり感を強め始めている。この面から、ロシアのウクライナ侵攻は新たな局面に入ってきていると言えるだろう。
●プーチン大統領 4州併合手続き強行 ウクライナ“交渉不可能”  10/5
ロシアのプーチン大統領はウクライナの4つの州を一方的に併合するための法的な手続きを強行していて、今後、「領土防衛」を名目に侵攻を継続していく方針です。これに対して、ウクライナ政府は、プーチン大統領とは交渉は行わない方針を正式に決定したと発表し、領土の奪還に向けて徹底抗戦していく構えです。
ロシアのプーチン政権は、ウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南東部ザポリージャ州、南部ヘルソン州の合わせて4つの州を併合すると一方的に定めた文書や関連法案について議会下院に続き、4日、上院にも提出して可決させました。
プーチン大統領はこの文書に署名するなど法的な手続きを強行し、今後「領土防衛」を名目に侵攻を継続していく方針です。
一方、ロシアのショイグ国防相は4日、プーチン大統領が踏み切った予備役の部分的な動員について、これまでに20万人以上が招集されて軍の部隊に入ったと発表しました。
そして、招集した兵士らを将校のもとで訓練させたうえで、ウクライナ侵攻を続ける軍の部隊に加える考えを示しています。
これに対してウクライナ大統領府は4日、ゼレンスキー大統領がロシアによるウクライナの領土の一方的な併合は無効だとする大統領令に署名したと発表し、ロシア側を強くけん制しました。
また、ウクライナ大統領府は先月30日に行った国家安全保障・国防会議の結果、「プーチン大統領と交渉するのは不可能だ」と結論づけたとしてプーチン大統領とは交渉は行わない方針を正式に決定したことを4日、発表しました。
ゼレンスキー大統領は、プーチン政権が一方的な併合に踏み切ったことに対し、強い不信感を示していて、領土奪還に向けて徹底抗戦していく構えです。
ウクライナ国防省は4日、SNSに南部ヘルソン州の村にウクライナの国旗を掲げる動画を投稿するなど奪還した地域を広げているとみられ、東部や南部で反転攻勢を強めています。
●「併合条約」ロシア上院も批准 プーチン大統領署名へ  10/5
ロシア議会上院はウクライナの4つの州を一方的に併合するための「条約」を批准しました。プーチン大統領が署名して併合手続きが完了することになります。
ロシア上院は4日、プーチン大統領らが調印したウクライナ東部と南部4つの州の併合に関する「条約」を批准し、関連法案についても承認しました。併合に関する一連の文書は大統領府に送られ、プーチン大統領が署名して手続きが完了することになります。
そうした中、ショイグ国防相は予備役の部分的動員をめぐり、「すでに20万人以上が軍に加わった」と明らかにしました。ロシア国防省は招集された兵士らがウクライナ東部に到着し、訓練を行っている様子などの映像を公開しています。
一方、ロシアメディアは4日までに北東部ハルキウ州における作戦を指揮していたロシア軍の司令官が交代したと報じました。先月の事実上の撤退を受けた更迭との見方が出ています。
●ロシア国民70万人出国か 国防相「予備役動員で20万人が入隊」 10/5
ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領が導入した予備役を徴兵する「部分的動員」を巡り、ショイグ国防相は4日、軍高官らとのオンライン会議に出席し、現時点で20万人以上の招集兵が露軍に加わったと発表した。一方、米経済誌「フォーブス」のロシア版は同日、露大統領府筋の話として、9月21日の部分的動員の発表以降、60万〜70万人の露国民がロシアから出国したと伝えた。
部分的動員について、露国防省は30万人の予備役を招集すると説明。ロシアは招集兵を、併合を宣言したウクライナ東・南部4州の「防衛」に回すほか、各地の国境警備部隊やシリアなどに駐留している国外派遣部隊を前線に投入するための交代要員として活用するとの観測が出ている。
ショイグ氏は10月4日の会議で、招集兵は国内各地の演習場で訓練を受けた後に戦地に派遣すると説明。しかし米当局者は、訓練を1日受けただけの招集兵が前線に投入された事例があり、既に戦死者も出ているとの見方を示している。
招集兵は銃などの武器を除く医療用品などを自前で調達するよう命じられているとも伝えられ、露軍の統制の乱れが指摘されている。米シンクタンク「戦争研究所」は、練度と士気が低い招集兵を動員しても、露軍が劣勢を打開できる保証はないと分析している。
動員を逃れようとする露国民の出国も続いている。フォーブス・ロシア版は4日、露国民の主な出国先は欧州連合(EU)圏のフィンランドやエストニア、南カフカス地方のジョージア(グルジア)、中央アジアのカザフスタン、モンゴルなどだと指摘した。
カザフ内務省は4日、9月21日以降に露国民約20万人が入国し、うち14万7000人が既に出国したと発表した。タス通信が伝えた。 
●苦戦続くロシア軍 強硬姿勢の私兵部隊と正規軍の対立鮮明に 10/5
ウクライナに侵攻するロシア軍が苦戦を続ける中、正規軍と私兵・雇い兵の対立が鮮明になっている。強硬姿勢の私兵部隊などから強まる正規軍への批判を考慮し、プーチン露大統領もウクライナ戦線を指揮していた司令官の更迭に踏み切った模様だ。またロシアが部分的動員令を発動してから2週間が経過したが、出国する人が後を絶たず混乱は収まっていない。
ウクライナ軍は1日に東部ドネツク州のリマンを奪還した後も周辺で攻勢を続けるほか、南部ヘルソン州でもロシアに占拠されていた集落を相次いで解放している。特に鉄道路線の要衝となるリマンの陥落がロシア側に与えた衝撃は大きかったとみられる。
プーチン氏に近く、ウクライナ戦線に私兵部隊を送っている露南部チェチェン共和国のカディロフ首長は1日、通信アプリ「テレグラム」に投稿。ウクライナ東部戦線を担当していたラピン中央軍管区司令官に言及し「私ならば、ラピンを一兵卒に降格させて、恥を拭わせるためにライフルを与えて最前線に送り出す」と批判した。雇い兵を組織する民間軍事会社「ワグネル」を設立した新興実業家のプリゴジン氏も同調する書き込みを投稿している。
3日になると、同じくウクライナ東部戦線の指揮を担っていたジュラブリョフ西部軍管区司令官が解任されたと報じられた。米シンクタンク「戦争研究所」は、プーチン氏が作戦失敗の責任を同司令官に転嫁し、ロシア国内で高まる不満をそらすための人事であるとの見方を示した。後任にはベルドニコフ中将が任命されたという。
ロシアでは9月下旬にも補給作戦を担当していたブルガコフ国防次官が解任されたと報じられており、軍幹部の解任や更迭が相次いでいる。
カディロフ、プリゴジン両氏による軍批判を受けて、戦争研究所は「プーチン氏がジレンマに陥っている」と指摘。ウクライナでの軍事作戦を継続するためには、プーチン政権として正規軍だけではなく、カディロフ氏の私兵組織やワグネルの兵力にも頼らねばならなくなっているからだと分析している。
ウクライナ戦線で劣勢が続く中、ロシア政府が部分的動員令を発動してから5日で2週間となった。徴兵を逃れるロシア人男性が相次いで出国しており、隣国カザフスタンのメディアによると、アフメトジャノフ内相は4日、この期間に20万人以上のロシア国民が入国し、14万7000人が出国したと説明している。
4日付のフォーブス誌ロシア語版(電子版)はロシア大統領府の関係者の話として、自国からの出国者が約100万人に達すると報道。60万人から70万人とみなす別の大統領府関係者の見立ても紹介している。出国先の内訳は言及されていないが、これまでフィンランドに少なくとも6万人、ジョージア(グルジア)に5万人以上、欧州連合(EU)全般に6万6000人の出国が伝えられている。
ロシア国防省は部分的動員令の対象が30万人規模になると説明したが、その後の独立系メディアの報道などにより、対象が100万人から120万人規模になるとの観測が広がり、混乱に拍車をかけた。そのためプーチン氏が9月29日の安全保障会議で、医師や専門性の高い職に就く人も招集されるなどの「問題」が起きていたことを認め、「過ち」を正すように指示して、混乱の収拾に努めているが、出国する人は途絶えていない模様だ。
またロシア大統領府は5日、プーチン氏が4日にロシア議会が承認したウクライナ東・南部4州を「併合」する「条約」の批准書や「併合」に関連する法案に署名したことを明らかにした。これにより、4州をロシア領に取り込む法的な手続きが完了したと主張しているが、ウクライナをはじめとした国際社会は併合の正当性を認めていない。
●ロシアの戦争特派員、ヘルソン州での後退認める 国営テレビで異例の報告 10/5
ロシアの著名な戦争特派員、アレクサンドル・スラドコフ氏は4日、ウクライナ南部ヘルソン州でロシア軍が大きく後退していることを認めた。
同氏は国営テレビを通し、ロシア軍がヘルソン州で17カ所の集落を失ったと報告。米国からたっぷりと提供される兵器や、人工衛星で収集された情報のせいだと語った。
ロシア側では同氏のほか、複数のジャーナリストが最近、ウクライナでの損失を報じている。
戦争特派員のアレクサンドル・コッツ氏も4日、SNS「テレグラム」への投稿で、ロシア軍が「作戦上の危機」に陥っているとの見方を示した。
国営メディアの記者、エブゲニー・ポドゥブニー氏は「当面はさらに厳しさが増すだろう」と伝えた。
スラドコフ氏は一方で、「われわれがもろくも崩れ落ちたというわけではない。戦略上の大失敗というほどのミスではない。われわれは今も学びの途上にある」と強調。プーチン大統領が先月出した動員令による増派を待っていると述べた。
●ベラルーシ大統領、ウクライナ侵攻に「参加」 10/5
ベラルーシのルカシェンコ大統領は4日、ベラルーシがロシアとウクライナの戦争に巻き込まれていると述べた。ただし、積極的な軍事行動は行っていないとも語った。
国営ベルタ通信によれば、ルカシェンコ氏は軍事関連の会合で、「特別軍事作戦への参加に関して言えば、我々は参加している。それを隠しているわけではない。しかし、我々は誰も殺していない。どこかに軍隊を派遣していない。義務に違反していない」と述べた。ロシアはウクライナ侵攻を特別軍事作戦と呼んでいる。
ルカシェンコ氏は、ウクライナ侵攻への参加について、ベラルーシに戦火が拡大することを防ぎ、ポーランドやリトアニア、ラトビアからの特別軍事作戦を装ったベラルーシに対する攻撃を阻止するためだと指摘した。
ルカシェンコ氏は「誰もベラルーシの領土からロシア人の背後を撃つことはない。それが我々の参加だ」と述べた。
ルカシェンコ氏はまた、難民の入国地点となっていることから、ベラルーシも紛争に巻き込まれているとの認識を示した。必要なら、難民らには食料を与えるなどと語った。
ルカシェンコ氏は、ベラルーシが動員を発表する計画はないとしつつ、ロシアの経験から学ぶつもりだと述べた。
ルカシェンコ氏はロシアのプーチン大統領と近しく、ロシア軍が2月に侵攻を開始した際にはベラルーシはロシア軍の出撃地点ともなっていた。
●在ウクライナ日本大使館 7か月ぶりに首都キーウでの業務再開  10/5
日本政府はロシアの軍事侵攻を受けて、ことし3月に一時的に閉鎖したウクライナの日本大使館の業務を5日に再開しました。
ウクライナの首都キーウにある日本大使館は、軍事侵攻によって、ことし3月に一時的に閉鎖し、職員は隣国ポーランドに退避したうえで、在留邦人の安全確保や国外に避難するウクライナの人たちへの支援などにあたってきました。
ほかに退避していた日本以外のG7=主要7か国は、ことし5月までに順次、大使館業務を再開させていましたが、日本政府は現地の情勢を慎重に検討してきました。その結果、安全が確認されたとして5日、大使館業務を再開させました。
業務再開に合わせて日本大使館の松田邦紀大使は5日午前9時半、大使公邸前に7か月ぶりに日本の国旗を掲げました。
松田大使は「改めて大使館業務の責任の重さを痛感し、身が引き締まる思いだ。ウクライナ政府や国際機関の関係者と対面でひざを交えた議論ができることが極めて重要だ」と述べました。
キーウの日本大使館では、ウクライナ政府や各国大使館と緊密に連携をはかり、厳しい冬を前に国内で避難している人への支援などに力を入れていくことにしています。
一方、ビザの発給などの領事業務は当面、ポーランドにある臨時の連絡事務所で続けるとしています。
●ウクライナ軍、2022年2月からロシア軍の装甲戦闘車両撃破5000台突破 10/5
ウクライナ軍では2022年2月24日にロシア軍に侵攻されてから殺害したロシア軍の兵士の数、破壊した戦車、戦闘機など兵器の数をほぼ毎日公表している。
ウクライナ軍によると2022年2月24日から2022年10月4日までの約7か月の間でロシア軍兵士の戦死者は60,800人以上で、破壊した装甲戦闘車が5000台を超えた。ウクライナ軍によると、ロシア軍の装甲戦闘車5000台はエッフェル塔11本分の重さに相当する。
ウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のためだけでなく、改造されて爆弾投下を行えるようになっている。
そしてロシア軍の装甲戦闘車両や戦車、大砲などを上空からドローンで爆弾を投下して破壊している。ミサイルも多く使用して破壊しているが、特に民生品の小型ドローンを用いて上空から撃破している。最近はロシア軍が撤退して置き去りにされた装甲戦闘車両や戦車にも、民生品ドローンから爆弾を投下して破壊している。
ウクライナ軍では上空の民生品ドローンから爆弾を投下して地上のロシア軍の装甲戦闘車や戦車を破壊している動画をSNSで公開して世界にアピールしている。民生品ドローンなので搭載できる爆弾の量が限られているので、装甲戦闘車や戦車を完全に爆破することはできない。だが、それでもエンジンなど基幹部分を破壊して使用できなくさせることは可能だ。
●ロシア、併合4州の状況「安定化させる」=プーチン大統領 10/5
ロシアのプーチン大統領は5日、併合手続きを完了したウクライナ東・南部4州のについて、ロシアは状況を安定化させると言明した。
ロシアが併合する4州のうち2州ではウクライナ軍が猛反撃をかけロシア軍が急速に撤退しており、ロシアが4州の制御で苦闘している可能性を暗に示唆する発言となった。
プーチン大統領はテレビ演説で「状況はいずれ安定し、これら地域を穏やかなペースで発展させることが可能になるという現実に基づき前進する」と語った。
また、プーチン大統領は教師らとテレビで会談し、「現在の状況」にもかかわらず、ロシアはウクライナ国民を「大いに尊敬」していると述べた。
●駐日ロシア大使が“住民投票”正当性を主張 10/5
ロシアのガルージン駐日大使が都内で講演を行い、ウクライナの4つの地域で行われた“住民投票”の正当性を主張した一方で、核兵器の使用については否定しました。
ガルージン大使は、ウクライナ侵攻はウクライナ側から虐待を受けている地域を解放する“特別軍事作戦”であるとの従来の主張を繰り返しました。また、ロシアが占領した4つの地域で行われた“住民投票”についても、「国際法に合致している」と正当性を主張しました。
一方で、プーチン大統領が示唆している核兵器の使用については、否定しました。
ガルージン大使「自分の核ドクトリン(核原則)以外の場合において、もちろん核兵器を使用することはあり得ない。 ロシアは首尾一貫して核戦争がないように努力を進める」
また、今後の日露関係については、「我々はドアを閉ざしたわけではない」と述べ、経済制裁を発動している日本側に歩み寄りを求める考えを示しました。
●“プーチン大統領 ウクライナとの国境付近で核実験計画” 英紙  10/5
イギリスの新聞「タイムズ」は3日、ロシアのプーチン大統領がウクライナとの国境付近で核実験を計画し、NATO=北大西洋条約機構が加盟国に警告した可能性があると伝えました。
タイムズによりますと核兵器を管理する秘密の部隊の列車がウクライナに向かったという見方があるとしています。
これについて、アメリカ国防総省のクーパー国防次官補代理は4日、記者会見で「報道は見たことがあるが、裏付けるものはない」と述べました。
そして、ロシアが核兵器の使用を検討していることを示す兆候が見られるか問われたのに対し「われわれは確かにプーチン大統領が威嚇しているのを耳にしているが、核に関してわれわれの態勢を変えなければならないような兆候は見られない」と指摘しました。
●北朝鮮の弾道ミサイル、ロシア核攻撃の試射か 10/5
金正恩(キム・ジョンウン)総書記率いる北朝鮮が、弾道ミサイル発射を異常なほど繰り返している。先週だけで4回強行し、4日朝に発射した弾道ミサイルは青森県上空を飛び越えて日本の排他的経済水域(EEZ)外の太平洋上に撃ち込んだ。このうち2つのミサイルには「旧ソ連の技術」が使用されているという。ウクライナ侵攻で追い込まれたロシアは最近、北朝鮮との関係を深めている。窮地のウラジーミル・プーチン大統領は生き残りのため「核戦力の使用」を示唆しており、核実験も視野に入れたと伝えられる北朝鮮との「悪の連携」を懸念する声もある。
北朝鮮の弾道ミサイル発射という暴挙を受け、岸田文雄首相は4日夜、ジョー・バイデン米大統領と電話会談を行った。
両首脳は「国際社会の平和と安定への重大な挑戦」との認識を共有し、北朝鮮を厳しく非難した。首脳会談前にも、日本政府は米国、韓国との外相電話会談を相次いで実施した。
軍事的な対抗措置もとった。
航空自衛隊と米軍は4日、九州西方の空域で、空自のF15戦闘機4機とF2戦闘機4機、米海兵隊のF35B戦闘機4機の計12機による共同訓練を実施した。防衛省は「自衛隊と米軍の即応態勢を確認し、あらゆる事態に対処する日米の強い意思と緊密かつ隙のない連携を内外に示す」とした。
弾道ミサイルの分析も進んだ。
浜田靖一防衛相は4日に発射したミサイルについて、中距離弾道ミサイル(IRBM)以上の射程を有する「火星12」と同型の可能性があるという分析結果を明らかにした。火星12は、2017年5月に初めて発射実験が行われた。今年1月の4回目の発射の際、北朝鮮は実戦配備の段階にあることを強調した。
この火星12の開発をめぐっては、ロシアの関与が指摘されている。
過去に北朝鮮で撮影された画像から、米紙ニューヨーク・タイムズが、米情報機関や英国のシンクタンクの専門家の情報をもとに、旧ソ連時代から大陸間弾道ミサイル(ICBM)用に製造されている液体燃料式エンジンが搭載されていたとの見方を伝えた。ロシア企業が技術を北朝鮮に移転させた可能性もある。
火星12に加え、北朝鮮が先月25日に発射した短距離弾道ミサイルは、迎撃が難しい変速軌道をとるロシア製短距離ミサイル「イスカンデル」の改良型だとみられている。
イスカンデルは核搭載も可能な弾道ミサイルである。先週から続く北朝鮮の暴挙の背景には、米韓海軍が日本海で実施した大規模演習や、日米韓3カ国による共同演習に対する牽制(けんせい)という見方が主流だ。
ただ、ロシアによるウクライナ侵攻とのつながりを指摘する声もある。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「ロシアは、ウクライナの反撃を阻止するため、黒海のスネーク島に低出力の核弾頭を撃ち込む可能性がある。その運搬手段として『イスカンデルが使われるのではないか』と言われている。北朝鮮の改良型ミサイルは、ロシアのイスカンデルが原型だ。改良型や、他のミサイルを試射したデータはロシアに行くだろう。ロシアがイスカンデルを使うかどうかは未定だが、ワン・オブ・ゼム(=選択肢の一つ)だろう」と語った。
ロシアと北朝鮮の絆は深い。第二次世界大戦の後、ソ連は朝鮮半島の北半分を占領した。1948年に抗日パルチザン組織を率いていた金日成(キム・イルソン)主席が、朝鮮民主主義人民共和国を建国したが、ロシアの後ろ盾があったとされる。日成氏は、正恩氏の祖父である。
ロシアが北朝鮮から砲弾やロケット弾を大量購入しているという報道もある。ホワイトハウスはこの情報を認めたが、北朝鮮は否定している。
国連安全保障理事会は5日午前10時(日本時間同日午後11時)から、北朝鮮への対応を協議する予定だが、ロシアの存在もあって一致した対応を取れるかどうかは不透明だ。
軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「米国とロシアとの直接対決の可能性が、今までよりも高まっている。こうしたなかで、北朝鮮が弾道ミサイルを発射するという動きがあれば、米国としては戦力をロシアに回す動きが制限される。ロシアとしては北朝鮮が暴れてくれることはありがたいだろう」と指摘した。
ともかく、プーチン氏が核兵器使用を決断すれば、ウクライナ侵攻の次元は大きく変わる。ロシアと北朝鮮を隣国とする日本には、「今そこにある危機」というしかない。
●北朝鮮ミサイルでJアラート発動 もう対話では解決不能 10/5
北朝鮮による中距離弾道ミサイル発射は、ウクライナ情勢で揺れる世界にあらたな脅威をもたらした。
「挑発を執拗に繰り返す」(浜田靖一防衛相)背後にどんな意図があるのか、注意深く考察すると、包括的な核兵器の体系を完成させたいという金正恩の意図が見えてくる。
日米韓3カ国、とくに日本は外交努力に加え、米軍との軍事協力によって抑止、防御能力を強化すべきだという声も聞こえてくる。
交通機関に影響、新聞は号外発行
北朝鮮は9月25日からの1週間に、短距離ミサイルを7発発射している。4日早朝の発射は、これらとは異なり、飛行距離が過去最長の4600キロメートル、日本の上空を通過して太平洋に落下した。
わが国上空通過は2017年9月以来だが、いつでも標的になりうること、不測の事態で日本国内に落下する恐れもあったことから、岸田文雄首相が国家安全保障会議を招集、林芳正外相がブリンケン米国務長官と電話協議するなど、緊張感が走ったのは当然だった。岸田首相は夜になってバイデン大統領と電話協議した。
全国瞬時警報システム(Jアラート)が発動され、東北・北海道では交通機関に影響が出て、一部新聞は号外を発行する騒ぎとなった。
この時期、中距離ミサイル発射を強行した金正恩の意図については、さまざまな見方がなされている。
9月下旬に米原子力空母「ロナルド・レーガンが加わって日本海で行われた米韓合同演習、米国のハリス副大統領が先週、韓国と北朝鮮の境界にある非武装地帯を視察したことなどへの対抗措置と指摘されている。
軍の意向?多角的な核兵器体制の推進? 
そうした見解はあながち誤りとは言えまいが、それとは別な分析も少なくない。
ひとつは、「金正恩が軍の意を迎えるために、危険な冒険主義を黙認している」(元タフツ大学助教授で元国務省北朝鮮担当官、ケン・キノネス氏)との見方だ。
米国に対して強硬姿勢をとる北朝鮮の軍部は、金正恩の強力な支持基盤で、その存在がなければ権力に留まることが不可能だ。それを考えれば、金正恩が軍部に低姿勢、主張を受け入れざるを得ないのは当然だろう。
キノネス氏はあわせて、コロナ感染などで不安、不満を高める国民の関心をそらす意図も指摘する。
もうひとつ注目すべき分析は、北朝鮮が核、ミサイルの多様な組み合わせによる核戦力体系≠フ完成をめざしているとの見方だ。慶應義塾大名誉教授の小此木政夫氏が解説する。
「金正恩が核開発を継続する目的は、一にかかって、自らの世襲の体制の安泰を狙ってのこと。そのためには米国に、核拡散防止条約(NPT)での核保有国ではないにせよ、非公式な核クラブ<<塔oーとして認めさせる必要がある。
しかし、歴史的な首脳会談にまでこぎつけたトランプ前政権との間でも結局、最後は核の扱いをめぐって交渉が決裂した。金正恩が、やはり核開発を継続、強化しなければ、自らの体制を維持できないとの判断に傾いたのは、自然なことだった。
先月下旬からの一連のミサイル発射は、米国へのけん制はともかく、むしろ多様な組み合わせによる核兵器の運用実験とみるべきだろう。今後、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の能力向上などを含む核・ミサイルシステムの完成を急ぐのではないか。
核は在韓米軍などを標的とした小規模の戦術核、ミサイルは射程を最大グアム島あたりに抑えた短中距離が開発の中心になる。核・ミサイルシステムが完成するに2、3年はかかると予想され、その間、ミサイル発射が繰り返され、7回目の核実験も強行される恐れがある」
この分析はひとつの見方だろうが、それなりに説得力を持つ。
米国、外交的解決のリーダーシップとれず
各国はどう対抗すべきか。外交、軍事両面で採るべき手段が検討されるだろうが、外交面では、国連を舞台にしたいっそうの制裁強化、6カ国協議の再開などが取りざたされよう。
それに加え、6カ国協議発足当初に機能した日米韓3カ国の政策調整グループ(TCOG)の再編成、日中関係にやや好転の兆しが見えてきたのを機に、中国に北朝鮮への働きかけを要請するなどが検討対象になるだろう。あわせて日本と韓国の情報機関同士の連携もこれまで以上に重要さを増す。
しかし、外交面でリーダーシップと影響力を行使すべきバイデン政権がウクライナ問題に忙殺され、来月の中間選挙に向けて民主党が劣勢から激しく追い上げているなかでは、効果的な外交努力に時間とエネルギーを費やすことができるかは期待薄だ。
こうした状況を踏まえ、米国内には、日本自らが抑止力、防御態勢を強化させるべきとの主張が台頭している。
日本の自衛隊が、東京の米国大使館にある相互防衛援助事務所(Mutual Defence Assistance Office,略称MDAO)を活用して装備、技術協力を促進、ミサイル防衛システムを向上させ、抑止力を強化すべき(東京勤務経験のある朝鮮半島専門家)という具体的な提案もなされている。
政府は国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を年末までに改定する方針だが、岸田首相は、「『反撃能力』を含め、あらゆる選択肢を排除せず検討する」(10月3日の臨時国会所信表明演説)として、敵基地攻撃能力を保持することを強調している。
防衛庁は2023年度予算に、現在あるイージス艦8隻に加え、あらたに最新鋭の2隻の建造費を盛り込んだ。新しいイージス艦は2万トン級の大型で、敵基地攻撃に転用できる長距離ミサイルが搭載される予定。いわば予算が先取りされた格好だ。
続く北朝鮮の挑発、日米で行動≠
北朝鮮の挑発、不法行為は容易に沈静化するとは考えられない。
敵基地能力保持については、憲法9条との関連で、国内でも議論があるが、北朝鮮の脅威がさらに拡大すれば、是非論を交わしている余裕などさらさらなくなってしまうだろう。
ミサイル発射を受けて、米軍と自衛隊のF15、F35戦闘機13機による共同訓練が4日、九州西方上空で急きょ行われた。軍事的な即応体制を北朝鮮に示してけん制する狙いからとみられる。
日米協力体制における軍事面の比重を高める直接の契機となるかもしれない。むしろ、そうでなければならないだろう。
●ロシア国防相「予備役動員20万人超」の内実は… 国外脱出「70万人」報道  10/5
ロシアのショイグ国防相は4日、プーチン大統領が9月21日に発動した予備役の部分的動員令に基づき、「20万人超がロシア軍に加わった」と明らかにした。一方、米誌フォーブスによると動員令後に国外に脱出したロシア人男性らは70万人に達した。ウクライナ軍は南部ヘルソン州で3日から猛攻をかけており、ロシア側は防戦に追われている。
ロシア国防省は4日、ヘルソン州の一部で前線を30キロも後退させた地図を公表。1日には東部ドネツク州の要衝リマンで「ウクライナ軍の脅威」を理由に部隊撤退を表明するなど、戦況悪化をうかがわせる発表が相次いでいる。ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、ヘルソン州で8集落を解放したと発表した。
ロシア政界では戦局悪化の責任を追及する声が上がっているが、批判の対象は軍幹部にとどまっている。独立系メディア、ノーバヤ・ガゼータ欧州は、国民の不満がプーチン大統領に向かうことを防ぐ「ガス抜きの演出」と分析した。
政府は各地の予備役動員に躍起で、ロシアメディアによると極東サハリン州は招集された兵士の家族に魚5キロ、シベリアのトゥバ共和国は羊や小麦粉、ジャガイモを贈ることを決めた。一方、極東ハバロフスク地方では招集した数千人のうち半数が動員の基準に合致しなかったとして、軍事委員会の責任者が更迭される事態となった。

 

●プーチン氏、チェチェン首長を上級大将に昇級 10/6
ロシア南部チェチェン(Chechen)共和国のラムザン・カディロフ(Ramzan Kadyrov)首長(46)は5日、ロシア軍で3番目に高い上級大将の称号を授与されたと発表した。
カディロフ氏はウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の支持者で、ロシアのウクライナ侵攻も全面的に支持。元軍人の同氏が統治するチェチェン共和国では、人権侵害が横行している。
同氏はメッセージアプリのテレグラム(Telegram)に、プーチン氏から「個人的に」決定を知らされたと投稿。自身にとって「大きな名誉」だとした。
ロシア軍は現在ウクライナで苦戦を強いられているが、カディロフ氏は「特別軍事作戦を速やかに終了させるため、あらゆること」を行うと誓った。チェチェンからは、同氏の私兵団として悪名高い民兵組織「カディロフツィ(Kadyrovtsi)」を含む部隊がウクライナでロシア正規軍と共に戦っている。
カディロフ氏はこれまで、ウクライナで極端な戦術を用いるよう繰り返し呼び掛けてきた。今週には、ロシア軍がウクライナ東部リマン(Lyman)撤退を強いられたことを受け、低出力核兵器の使用検討を提言。さらに、自身の14〜16歳の息子3人をウクライナの前線に送ると表明した。
●露、ザポリージャ原発を「国有化」…プーチン氏が大統領令に署名  10/6
タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は5日、ロシア軍が占拠するウクライナ南部ザポリージャ原子力発電所を国有化する大統領令に署名した。
同原発は、ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムが運営し、露軍が3月に占拠後も、エネルゴアトムの職員らが部分的に稼働させるなどしていた。
同原発があるザポリージャ州はロシアが一方的に併合した東・南部4州の一つだ。プーチン政権には、同原発の国有化でザポリージャ州の支配を強めたい狙いがあるとみられる。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は4日、同原発の所長が退任の意向を示していることを明らかにしていた。
●プーチン大統領 “原発 政府管理下に” 支配の既成事実化 加速  10/6
ロシアのプーチン大統領はウクライナの4つの州を一方的に併合する手続きを完了させるとともに、ウクライナの原子力発電所をロシア政府の管理下に置く大統領令に署名するなど支配の既成事実化を加速させています。これに対しウクライナ政府は領土の併合は無効だと強く非難し、反転攻勢を強めています。
ロシア大統領府は5日、プーチン大統領が、ウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南東部ザポリージャ州、南部ヘルソン州の合わせて4つの州を併合すると一方的に定めた文書に署名したと発表しました。
さらにウクライナにあるザポリージャ原子力発電所をロシア政府の管理下に置くことを命じる大統領令にも署名しました。
大統領令では、原発の施設などはロシア政府が所有し、安全管理や運営を担うために新たに国営企業を設立するとしています。
プーチン政権は今後、一方的に併合した地域の「領土防衛」を名目に侵攻を継続していく方針です。
プーチン大統領は5日、教育関係者とのオンラインでの会合でロシア側が行った住民投票だとする活動について、「納得のいくものであり、透明性もあり、疑問の余地がない」と正当性を改めて主張しました。
そして、一方的に併合したウクライナの地域の学校にロシア語やロシアの歴史教育などを導入すると強調し、支配の既成事実化を加速させています。
これに対しウクライナ政府はロシアによる一方的な領土の併合は無効だと強く非難するとともに、反転攻勢を強めています。
ことし7月にロシアが全域掌握を宣言したルハンシク州のハイダイ知事は5日、SNSに投稿した動画の中で「いくつかの集落はすでにロシア軍から解放されていて、そこではウクライナ軍が国旗を掲げている」と述べました。
ウクライナ軍は東部ドネツク州の要衝リマンの奪還に続き、東部のほかの地域や南部ヘルソン州などで反撃し、ロシアからの領土の奪還を進めていると見られます。
●プーチン氏、学生に徴兵猶予認める 動員令を修正 動揺抑制策か 10/6
ウクライナに侵攻するロシアのプーチン大統領は5日、9月下旬に出した部分的動員令に関して、私立大学生や一部の大学院生、宗教学校の学生にも徴兵猶予を認める大統領令に署名した。ロシアでは動員発令後に国外へ逃れる市民が数十万人規模に上っており、動揺を抑える修正策の一つとみられる。
ロシア軍は9月以降、ウクライナ北東部ハリコフ州イジュームなどの要衝から次々に撤退するなど劣勢が目立っている。こうした中、プーチン氏は兵力増強のため9月21日に部分的動員を発令。だが動員対象や規模が不明確だったことなどから、国外脱出する男性が相次いでいる。一連の混乱について、プーチン氏は29日、「全ての過ちは修正されなければならない」と語っていた。
●反戦主張のロシア元番組編集者「プーチンを裁くべきだ」と訴える動画公開 10/6
ロシア政府系テレビの生放送中に反戦メッセージを掲げて罰金刑を受けた元番組編集者マリーナ・オフシャンニコワさんは5日「ウクライナ人を虐殺し、ロシア人男性を滅ぼすプーチン(大統領)を裁くべきだ」と訴える動画を公開した。
オフシャンニコワさんは、ロシア軍に関する虚偽情報を広めたとして捜査を受け、裁判所が8月に10月9日までの自宅軟禁を決定。その後、娘を連れて自宅を離れたため、指名手配されていた。
オフシャンニコワさんは「私は無実であり、国が法令順守を拒否しているため、自らを解放した」との声明も出した。
「第1チャンネル」の番組編集者だったオフシャンニコワさんは、ウクライナ侵攻開始後の3月半ば、ニュース番組放送中に「プロパガンダを信じるな」と書いた紙を広げた。罰金刑を受けた後に出国しドイツのメディアなどで活動。7月に帰国し「プーチンは殺人者だ」と書いた紙を掲げる動画を公開し、一時拘束された。
●ロシアTV元編集者、自宅軟禁から脱出を認める 「プーチンを裁くべき」 10/6
自宅軟禁中に所在が分からなくなっていたロシアのジャーナリスト、マリーナ・オフシャンニコワさんが5日、SNS上に動画を投稿し、自宅から脱出したことを認めた。オフシャンニコワさんは、ロシア国営テレビの生放送中にウクライナ戦争に抗議するプラカードを掲げて世界の注目を集めたが、最大10年の禁錮刑が科せられる可能性がある。
オフシャンニコワさんは5日、SNS上に動画を公開し「真実を語ったために」迫害を受けていると訴えた。
マリーナ・オフシャンニコワさん「ロシア連邦刑務局の尊敬すべき同僚たちよ。(脚につけられたタグを示して)プーチンにこのような電子タグを付けてください。ウクライナの人々への大量虐殺と大勢のロシア人男性の命を奪ったことで社会から遠ざけられ、裁かれるべきなのは私ではなく彼のほうだ。」
オフシャンニコワさんは今年3月、ニュースの生放送中に「戦争をやめろ」「彼らは嘘をついている」と書かれたプラカードを掲げてカメラに映り、世界の注目を集めた。44歳のオフシャンニコワさんはこれを理由に今年8月、2カ月の自宅軟禁を言い渡されていた。
さらにオフシャンニコワさんはクレムリンの近くで、プーチン大統領は殺人者で、その兵士たちはファシストだと訴えるポスターを掲げた。
弁護士によると、オフシャンニコワさんはモスクワの裁判所に出廷を予定していたが、捜査当局は所在を確認できなかったという。国営メディアによると、オフシャンニコワさんは11歳の娘を連れて逃走したという。行き先は不明。また、どのように軟禁を逃れたのかなど詳細は分かっていない。
ロシア内務省は3日、逃走中の容疑者としてオフシャンニコワさんの写真と名前をウェブサイト上に掲載した。
●専門家の意見を“コントロール”する「ニュース番組の編集」という大問題 10/6
新型コロナウイルス感染症のパンデミック以来、連日テレビに出てワクチンの必要性を力説している「専門家」たちが注目を集めてきた。しかし、「そもそも“専門家”とは誰かということ自体、実はかなりあいまいである」と述べるのは、テレビ、新聞、雑誌などでもおなじみの生物学者・池田清彦氏(@IkedaKiyohiko)だ。
科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書を持つ池田氏が、「専門家だからこそ言えないようなこと」を、その分野の文献や客観的なデータを踏まえながら論じた著書『専門家の大罪-ウソの情報が蔓延する日本の病巣』より、「専門家という肩書の利用価値」についての章を紹介する。
「街頭インタビュー」と「専門家」の重みのちがい
NHKのニュースで流れた映像に対し、青山学院大学の袴田茂樹名誉教授が疑問を呈しているという記事を読んだ。その映像はロシアのウクライナ侵攻による戦禍を逃れて来日している女性が、ウクライナ語と思われる言葉でインタビューに答えているもので、「今は大変だけど平和になるよう祈ってる」という字幕がつけられていたのだという。
ところが、ロシアやウクライナ情勢の専門家である袴田教授の話だと、女性が話していたのは南方アクセントのロシア語とウクライナ語のミックスで、その言葉を直訳すると「私たちの勝利を願います。勝利を。ウクライナに栄光あれ」ということになるらしい。
意図的な改ざんをしたのはなぜか
外国語を、そのニュアンスを含めて正確に翻訳するのは難しいが、さすがにこれは意図的な改ざんだと言ってよい。NHKとしてはおそらく、この女性に「平和の大切さ」を訴えてもらいたかったのだろう。しかし、この女性が願っているのはあくまでも「ウクライナの勝利」なのである。
「ウクライナ=善、ロシア=悪」という前提に立てば、「ウクライナの勝利=平和」は成り立つのだろうし、私だってプーチンが正しいことをしているなんてこれっぽっちも思っちゃいないが、それは一つの見方であって、事実をねじ曲げることの言い訳にはならないはずだ。
街頭インタビューなんかの場合は、自分たちに都合のいいような意見だけを取り上げれば、世の中の人みんながそう考えているような印象を視聴者に植え付けることも難しくはない。とはいえ、さすがに見ているほうもバカじゃない。
番組の思い通りの結論を出す方法
先ほどのウクライナ女性にしろ、街頭インタビューにしろ、市井の人の言っていることなら、「自分はその考えには賛成できない」とか、「その考えはおかしいのではないか」というふうに、反論する人はたくさんいる。たまたまテレビカメラにつかまっただけの素人が言っていることなのだから、それが正しいという保証などないことくらい誰だってわかるだろう。
ところが、「専門家」という肩書をもった人たちが出てきた場合には事情はかなり変わってくる。例えば、「新型コロナウイルスの3回目ワクチンを打ちますか?」みたいな質問に対する街の人の意見を聞いて、「打ちたい」と言う人と「打ちたくない」と言う人が半々だったとしても、スタジオでその映像を見ていた専門家が「3回目のワクチンは打つべきです」と言えば、もうそれが結論になってしまう。
つまり、望みの結論に確実に導いてくれる専門家を呼んでおけば、思いどおりの結論が出せるわけだ。ある番組に「おなじみの専門家」がいるとすれば、それは番組の思惑とその専門家の意見に乖離がない証拠なのである。
ねつ造してでも使いたい「専門家の言葉」
生放送の番組でなければ、「編集」という名のもとに専門家の意見をコントロールすることも簡単だ。ある専門家が「高齢者の場合は、やはり3回目も打ったほうがいいですね」という話をしたとしても、「高齢者の場合は」というところを切り取って、「やはり3回目も打ったほうがいいですね」という部分だけを放送すれば、違うメッセージを伝えることができる。
それが日常茶飯事だとまでは言わないが、ニュースというのは、そういう恣意的な操作ができるのだということを忘れてはいけない。もちろんこれはニュース番組だけの問題ではない。アナログ情報というのは伝わっていく途中で変化するからだ。人から人への伝言ゲームだって、伝える人の意識でいくらだって変わっていく。
受け手によって、情報の読み方も違ってくる。だから専門家の発言が、本人が思ってもみなかった方向にいつの間にか転がっていくことは珍しいことではない。
真逆の話に「編集」された専門家の発言
アメリカでは、「神による天地創造によって宇宙や生命が誕生した」とする「創造論」派と、ダーウィンが提唱した「進化論」派の対立は今も続いていて、保守的な共和党支持者に限っていえば、「創造論」派のほうが圧倒的に多く、2019年の時点でも7割くらいを占めると言われている。
この論争は宗教問題が絡んでいるため、日本人にはにわかに信じがたいくらいに今も激しくやり合っているのだ。
そんななかで、「世界的に有名な生物学者だって、生物は神様が創ったと言っている」と発言した創造論者がいたのだが、実はその生物学者の実際の発言は、「生物は神様が創ったという意見があるけれども、今ではそれは完全に否定されている」ということだった。確かに「生物は神様が創った」とは言ったけれども、その後の発言をカットすれば、これはもう真逆の話になってしまう。
こういう話は日本でもあちこちに見られるけれど、つまりそれは、ねつ造してでも使いたいくらいに「専門家の発言」というものの利用価値が高いということの表れなのだ。
●ウクライナが爆殺関与か ロシア思想家の娘、米当局判断 10/6
米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は5日、ロシアの民族主義的思想家ドゥーギン氏の娘ダリア氏が8月にモスクワ郊外で車の爆発により死亡した事件について、ウクライナ政府関係者が関与していたと米情報機関が判断したと報じた。米政府は暗殺行為に加担しないようウクライナ政府を戒めたが、関与を否定されたという。
米政府筋によると、暗殺の主な標的はプーチン大統領の政策に影響を与えたともいわれるドゥーギン氏だった。ダリア氏と共にイベントに参加し、同じ車で帰宅する予定を急きょ変更したため難を逃れていた。
米政府は計画を事前に知らされていなかったという。 
●プーチン氏、追い詰められれば「非常に危険」 米CIA長官 10/6
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は6日までに、ウクライナ侵攻に踏み切ったロシアのプーチン大統領の心理状態などに触れ、追い詰められたら「非常に危険な無謀」な行動に走ることもあり得るとの見方を示した。
米CBSテレビとの会見で指摘した。ウクライナの戦場だけでなく、ロシア国内や海外で起きていることを踏まえ、逃げ場のない状況に直面しているのに違いないとの認識を表明。
長官は特に、中国から今年2月に得た「際限のない友好関係」の約束にも触れ、プーチン氏が要請していた軍事援助を中国が拒み、ロシアのウクライナ戦争に対する熱意も抑制していることに言及した。
試練の高まりにさらされているロシアの選択肢も狭まっているとし、潜在的にプーチン氏がより危険な行動に訴える事態の発生も予想できる局面にあるとした。
バーンズ長官は、プーチン氏は窮地に陥っていると感じているだろうともし、この状態にある同氏は「極めて危険で向こう見ずな行動に訴える恐れがある」とも続けた。
●イランからウクライナまで、ダビデがゴリアテを見下ろす 10/6
今月2日、ほとんど偶然にではあるが、2つの抗議デモのグループが英ロンドンで合流した。一方はウクライナ国旗を、もう一方はイラン国旗をそれぞれ振っていた。顔を合わせた際、両グループはお互いに声援を送り、スローガンを連呼した。「みんな一緒に勝利する」
イランでの抗議行動とウクライナでの戦争は、表面上全く別個の衝突に映る。しかしその核心において、それらを戦っているのは自らの生命を危険にさらす覚悟を決めた人々だ。自分たちの選ぶ生き方をする権利を守る選択をした彼らは、暴力性により確立した独裁体制への抵抗を試みる。
数十年にわたり独裁国が地歩を獲得していく一方、民主主義国はほぼ力尽き、退却を余儀なくされているように見える。それがここへ来て突然、全く予想だにしないタイミングで、猛烈な反撃が2つの最も横暴な専制国家に対して繰り広げられることとなった。ウクライナとイランで、人々は劣勢をはねのける決意を固めた。自分たちの尊厳と自由、そして自己決定権を守るために。
このダビデ対ゴリアテの戦いに見られる勇敢さは、我々他国の人間にとってほとんど想像を絶しており、同じくらい勇気あふれる支持表明をアフガニスタンのような国で引き起こしてもいる。
これらのもたらす結果は、広範囲に及ぶものとなる可能性がある。
イランでの引き金は、22歳の女性、マフサ・アミニさんが先月死亡したことだった。アミニさんは道徳警察による拘束中に死亡。拘束の理由は女性に対して控えめな服装を義務付ける執拗(しつよう)かつ暴力的、強制的な規定への違反だった。
高揚感に満ちた反抗の現場で、イラン女性たちは夜に火を囲んで踊り、頭を覆う布「ヒジャブ」を脱いで炎の中へ投げ入れた。ヒジャブは体制によって着用を義務付けられている。
彼女たちの平和的な反乱は、実際のところヒジャブについてのものではなく、圧制の束縛を断ち切ることを意味する。男性が大勢抗議に加わっているのはそれが理由だ。体制側がますます多くのデモ参加者を殺害しているにもかかわらず、こうした抵抗は続いている。
だからこそ女性たちは車に上り、ヒジャブを振り回す。さながら自由の旗のように。そして支持者と群れを成して街路や大学に繰り出す。そこでは治安部隊が銃を発砲し、彼女らを黙らせようとする。
だからこそ高齢の女性であっても抗議に加わり、残虐性を帯びた体制側の取り締まりをもってしても今のところ、この反乱の火をかき消すまでには至っていない。
プーチン氏の最強ならざる軍隊
もし成功の見通しがイランでの「女性、命、自由」を叫ぶ蜂起に関して不透明であるというなら、ウクライナについての予測がどのようなものだったか考えてみるといい。当時は世界でも最強クラスと目される軍隊が、同国の制圧に踏み切った状況だった。
結局のところ、今から10年足らず前にロシアのプーチン大統領の軍はシリアの長期内戦に突入し、同国の独裁者、アサド大統領の救済に一役買っていた(過去のイランのように)。
軍を増強していたプーチン氏は、民主主義を掲げる隣国のウクライナを2、3日のうちに征服できると考えていた。米国の諜報(ちょうほう)機関でさえ、首都キーウ(キエフ)は数時間とは言わないまでもほんの数日でロシアの手に落ちると予想した。だからこそ報道によると米国は、ウクライナのゼレンスキー大統領に対して安全な場所に避難するよう申し出た。ロシア軍の侵入直後の提案だったが、ゼレンスキー氏はこれを拒んだ。
米政府がゼレンスキー氏こそ「ロシアによる侵攻の第1の標的」と警告すると、同氏は自国と世界に向かってメッセージを発信。ウクライナ国内にとどまることを約束した。
「我々が自分たちの国を守るのは、我々の武器が真実だからだ。我々にとっての真実とは、ここが自分たちの土地であり国であるということ。ここにいるのが我々の子どもたちだということ。我々はこれら全てを守る」と、ゼレンスキー氏は結論した。「そういうことだ。私が言いたいのはそれだけだ。ウクライナに栄光あれ」
あれから7カ月余りが過ぎ、ロシアがたどっているのはさながら戦争犯罪の道だ。被弾した病院や学校などの建物、民間人の車列は数百を数え、集団墓地はウクライナ人の遺体であふれている。
そして今なおウクライナは前進しており、実際のところ非常によく戦っている。おそらくこの戦争に勝利するだろう。
西側諸国からの支援と武器がかぎを握っているのは間違いない。しかしウクライナ側のこれまでの成功に不可欠な要素は、彼らの闘争心だ。イランの女性たちと同様、彼らは道徳的に優位に立っている。彼らが戦っているのは自分たちの命のためであり、自由のためだ。相手の戦う理由は権力と、他者に対する支配に他ならない。
道徳的な優位を保っているからこそ、ウクライナ及びイラン国民の苦闘は世界中からの支援を呼び起こす。民主主義と人権を擁護する人たちが彼らを支えている。ソーシャルメディアの時代にあって、彼らの歌う反ファシズムの賛歌は急速に拡散する。それは敵側の残忍さについても同様だ。
モスクワとテヘランに拠点を置く抑圧的な政権は今や孤立し、世界の大半からのけ者扱いされている。これらを公然と支持するのは、ほぼ少数の専制国家に限られる。
ウクライナでの戦争開始以降、プーチン氏が最初に外遊に出かけた旧ソ連圏以外の国がイランだったことに何の不思議があるだろう? イランがロシア軍に訓練を施し、今やウクライナ人を殺傷するための先進的なドローン(無人機)も供与しているとみられることに何の不思議があるだろう?
これらの2つの政権はイデオロギーこそかなり異なるものの、抑圧のための戦略と他国に国力を誇示する意欲にかけてはほとんどが共通している。
どちらも民主主義国を装いながら、誰が権力を握りルールを作るのかについて、真の意味での選択権は存在しない。
イランの刑務所は、政権に批判的な人々や勇気あるジャーナリストらであふれている。前出のアミニさんに起きたことを最初に報じた記者もそこにいる。ロシアにおいてもまた、ジャーナリストは命がけの職業であり、プーチン氏への批判についてもそれは言える。反政権派指導者、アレクセイ・ナバリヌイ氏の殺害を試みて失敗した後、プーチン氏の息のかかった人々は起訴をでっち上げ、ナバリヌイ氏を囚人の流刑地から出られないようにした。無期限の措置として。
プーチン氏に批判的な何人もの人々が、これまで謎の死に見舞われている。多くは窓からの転落だ。イランとロシアはともに、国をまたぐ抑圧を率先して実行するようになった。批判者らを外国の地で殺害するこうした行為については、フリーダム・ハウスなど民主主義を調査・擁護する団体が明らかにしている。
ロシアとイランの両政府は、自分たちのイデオロギーを他国で盛り上げることを目指してきた。だからこそウクライナとイラン両国国民の苦闘は、それぞれの国を越える影響をもたらすはずだ。
レバノンやシリア、イラク、イエメンの人々にとって、ことは一時的な興味にとどまらない。イランの政権が倒れる可能性は明らかに低いとはいえ、それが実現すれば同国政府の重大な影響下にある彼らの国と生活は一変するだろう。結局のところイランの憲法は、イスラム革命の拡大を呼び掛けている。
プーチン氏の支援を受ける専制国家に暮らす人々にとって、ウクライナの戦争はありとあらゆる変化を自国にもたらす可能性がある。
世界のそれ以外の国々について言えば、今は不確実さの中で予想を巡らせる時だ。7カ月前には、プーチン氏をちょっとした天才とみなす人たちもいた。そのような説はもう跡形もない。反乱の抑え込みを助け、戦争に突入し、世界中の選挙を操作しようとした人物は、ここへ来て窮地に立たされているように見える。
次に何が起こるのかは誰にも分からない。これまでの全てがどのような終わりを迎えるのか、知る者はいない。ウクライナとイランの人々が自らの自由と自己決定権のために戦う中、世界は1つの転換点に立つ。歴史は、書き記されるのを待っている。
●欧州「政治共同体」が初会合 ウクライナ侵攻受け連携目指す 10/6
欧州連合(EU)は6日、価値観を共有するEU加盟・非加盟国が集まる「欧州政治共同体」の初会合をチェコの首都プラハで開催した。
ロシアのウクライナ侵攻で軍事的脅威が高まる中、EUを超えた新たな枠組みを構築し、欧州全体の連携強化を目指す。
EU議長国チェコのフィアラ首相は、会合の冒頭で「共通の関心事だけでなく、論争となっている話題についても率直に議論することが重要だ」と述べた。
政治共同体にはEU加盟国のほか、非加盟の英国やトルコを含め計40カ国超が参加し、この日の会合では安全保障やエネルギー・気候変動問題について意見交換。EU高官によると、ウクライナのゼレンスキー大統領はオンラインで参加した。 
●ロシア軍、イラン製神風ドローン「シャハド136」で首都キーウ近郊の建物破壊 10/6
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。
ロシア製の攻撃ドローン「KUB-BLA」や「ZALA KYB」で攻撃を行っている。だがウクライナ軍による地上からのドローン迎撃も激しく、ロシア軍の多くのドローンが破壊されたり、機能停止されたりしている。ロシア軍は最近では攻撃用のドローンとしてイラン政府から提供された「シャハド136(Shahed136)」を頻繁に使用している。
そして2022年10月にウクライナの首都から南西に約75キロの都市ビラ・ツェルクヴァの建物にイラン製の軍事ドローン「シャハド136」6機が突入して破壊したとウクライナ当局が発表した。ロシア軍がウクライナに侵攻してから首都キーウに一番近いところに神風ドローンが突入したと報じられている。
ウクライナ空軍のスポークスマンのユリー・イーナット氏によると神風ドローンはロシア軍に占領された南部地域から発射されたもので、今回突撃してきた6機とは別の6機は標的を爆破する前に上空で破壊することができたと伝えている。またウクライナ空軍のスポークスマンは「イラン製の軍事ドローンは新たな脅威であり、徹底的に抗戦していかないといけない」と語っていた。
神風ドローンなど攻撃ドローンは戦車や戦艦、軍事施設に突っ込んでいき、それらの破壊によく使用されている。今回ウクライナの首都キーウの近くの都市の建物に神風ドローンが突っ込んできたことでインパクトも大きくウクライナだけでなく、欧米のメディアも多く報じている。
「シャハド136」は標的を見つけると、標的に向かって爆弾を搭載したドローン自身が突っ込んでいき爆破するタイプのいわゆる「Kamikaze drone(神風ドローン)」である。
攻撃ドローンは「Kamikaze drone(神風ドローン)」、「Suicide drone(自爆型ドローン)」、「Kamikaze strike(神風ストライク)」とも呼ばれており、標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。日本人にとってはこのような攻撃型ドローンの名前に「神風」が使用されるのに嫌悪感を覚える人もいるだろうが「神風ドローン(Kamikaze Drone)」は欧米や中東では一般名詞としてメディアでも軍事企業でも一般的によく使われている。今回のウクライナ紛争で「神風ドローン」は一般名詞となり定着している。ウクライナ語では「Дрони-камікадзе」(神風ドローン)と表記されるが、ウクライナ紛争を報じる地元のニュースでもよく登場している。今回の「シャハド136」がキーウ近郊の都市の建物に突っ込んだことを伝えるニュースでも「Kamikaze drone」と紹介されている。
●OPECプラスの大幅減産でEUの対ロ制裁にヒビ? 10/6
OPEC(石油輸出国機構)とロシアなど主要産油国で構成するOPECプラスは10月5日、11月から日量200万バレルの大幅減産を実施する方針を決定した。これによりエネルギー価格の上昇は避けられず、冬を控えて燃料不足に耐えきれなくなったEUの一部加盟国がロシアのウラジーミル・プーチン大統領の狙いどおり、対ロ制裁の緩和に踏み切りかねない状況となった。
EUは3月末にウクライナへの軍事侵攻に対する追加制裁としてロシア産原油の輸入を禁止する方針を発表したが、一部加盟国の反発で協議は難航し、全面的な禁輸には至らなかった。EUの苦境を見かねた米政府はサウジアラビアに原油増産の継続を働きかけてきたが、その甲斐もなく、OPECプラスは世界的な景気の冷え込みを理由に大規模減産で合意。ロシア産原油の輸入を止めた国々は今後さらに燃料不足と価格高騰に苦しむことになりそうだ。エネルギーをはじめ物価の上昇が続けば、国内の政治的な軋轢が高まり、対ロ制裁の継続は困難になる。
対ロ制裁では「EUは必ずしも一枚岩ではない」と、ボストン大学のイゴール・ルークス教授(専門は歴史と国際関係)は本誌に語った。
ロシア寄りのハンガリー
ルークスによれば、多くのEU加盟国は石油禁輸でロシアの外貨収入は途絶え、戦費が底を突くとみて追加制裁を支持した。それらの国々は燃料価格の上昇に歯を食いしばって耐え制裁を続けるだろう。
一方、同じEU加盟国でもロシアと関係が深い国々はロシア産石油への依存度も高く、元々EUの対ロ制裁に非協力的だった。ウクライナへの軍事侵攻に対する非難にも温度差があり、一部の加盟国の指導者はプーチンを擁護するような姿勢も見せてきた。
「同じ旧ソ連圏でもバルト3国などは反プーチンの姿勢が鮮明だが、ハンガリーなどは元々プーチンの懐に取り込まれている」と、ルークスは言う。
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相はロシアのウクライナ侵攻に抗議し、即時停戦を呼びかけもしたが、対ロ制裁には参加していない。ハンガリーはロシア産の石油・天然ガスに大きく依存しており、ABCニュースの報道によれば、EUのロシア産石油の全面禁輸は「わが国の安定的なエネルギー供給を破壊し」、自国経済を壊滅させると主張して、最後まで反対し続けた。
EUの補助金を求める加盟国も
エネルギー価格の高騰対策として、EUからより手厚い支援を引き出すために対ロ制裁の緩和をちらつかせる加盟国もあるだろうと、専門家は指摘する。EUが値上がり分を補填する補助金を出してくれるなら制裁を続けるが、補助金なしにはこれ以上耐えられないと脅しをかけるというのだ。
ドイツは燃料価格の高騰による消費者の負担を軽減するため補助金を出しているが、全てのEU加盟国がそうした措置を取れるわけではないと、ニューハンプシャー大学で政治学の助教を務めるエリザベス・カーターは言う。財政に余裕がない国々はEUからの補助金頼みだ。
「EUがエネルギー価格の抑制とインフレ抑制のために、コロナ禍対応で実施したような緊急融資の枠組みを設ける可能性もあるが、すぐにまとまるとは思えない」
こうした枠組み作りでは、EUの協議は毎回難航するからだ。とはいえ欧州委員会のウルズラ・フォンデアライアン委員長はエネルギー価格高騰の影響を軽減するためロシアから輸入うする天然ガスに上限価格を設定する考えで、近くEU各国首脳と協議することになっている。ロイターの報道によれば、大半の加盟国は上限設定を支持しているが、ドイツ、デンマーク、オランダは供給不足になる事態を警戒しているという。
危機の早期終結もあり得る
ドイツがロシアのエネルギー資源に大きく依存していること、そしてハンガリーがロシアと親密な関係を保ってきたこと。この2つの要因が、対ロ制裁におけるEUの足並みの乱れを招いてきたと、アメリカン大学のビル・デービーズ准教授は指摘する。OPECプラスの減産でEU内の亀裂がさらに広がる可能性がある。「供給が減れば、加盟国同士の軋轢が一段と高まるだろう」
OPECプラスの主要メンバーであるロシアはサウジアラビアと共に大幅減産に同意した。今回の決定は、ウクライナで苦戦するプーチンの劣勢挽回のための戦略ともみられている。「欧州経済に打撃を与え、EUの結束に揺さぶりをかける狙いがある」と、カーターは言う。
プーチンの思惑どおり、EUに混乱が広がるとの憶測が飛び交う一方、 デービーズはこれを奇貨としてNATOの結束が固まる可能性もあるとみている。そうなれば、短期的にはガソリン価格の高騰で世論の不満が高まるにせよ、長期的に見ればアメリカにとってはプラスになる。
「EU各国がこれまで以上にアメリカの石油備蓄に頼るようになれば、NATOの結束が強化されるだろう」
「さらに楽観的な見方もできる」と、デービーズは言う。「ウクライナの反転攻勢でロシアが追い込まれている現状を見ると、これまで予想されていたほど戦争が長期化せず、危機が早期に終結する可能性もある」
●併合のウクライナ住民の市民権変更、1カ月で要求 ロシア 10/6
ロシア外務省のイワノフ次官は6日までに、同国が先に一方的に併合宣言したウクライナの占領地内の住民に対し市民権の変更を1カ月内に終えるよう要求した。
ロシア国営のRIAノーボスチ通信が伝えた。ロシアが以前に強制併合したウクライナ・クリミア半島と同様に、1カ月内に選択しなければならないと主張。新たなロシア領内で関連の文書発給が加速されるとした。
ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部・南部4州の編入を認める法案に既に署名した。
署名はロシアの司法制度に基づいて併合を終わらせる最終的な手続きだが、国際法の下では違法との解釈で、西側諸国政府は一切認めないとの立場を示している。

 

●バイデン氏、プーチン氏の核恫喝に警告 「世界最終戦争」招く恐れ 10/7
バイデン米大統領は6日、ロシアのプーチン大統領による核の脅しがはらむ危険性について厳しい警告を発した。ロシアはウクライナで軍事的な後退が続いている。
代表取材によると、バイデン氏はニューヨークで行われた民主党の資金集め会合で「今の状況が続けば、我々はキューバ危機以来初めて、核兵器使用の脅威に直面する」と訴えた。
さらに「戦術核兵器を安易に使用して、アルマゲドン(世界最終戦争)に陥らずに済む能力などというものは存在しない」とも述べた。
バイデン氏がアルマゲドンについてこれほど率直に言及するのは驚くべきことで、特に資金集め会合では異例だ。国家安全保障会議や国務省、国防総省に所属するバイデン氏の側近はもっと穏当な表現を使っており、脅威を深刻に受け止めているがロシア政府に動きは見られないとしている。
バイデン氏は会合で、「プーチン氏にとっての出口が何なのかを見極めようとしている」と説明。「プーチン氏はどこに出口を見いだすのか。プーチン氏は面目を失わず、ロシア国内で大きな権力も失わずに済む場所をどこに見いだすのか」と問いかけた。
最新の情報に詳しい情報筋3人によると、米国はロシアが戦術核を使用する可能性も含め、様々なあり得るシナリオへの対応方法を検討しているという。
●ウクライナ軍 領土奪還へ反転攻勢 ロシアでは軍部へ批判相次ぐ  10/7
ウクライナ軍はロシアに支配された東部や南部での領土奪還に向け、反転攻勢を強めています。こうしたなか、ロシア国内ではウクライナでの戦況や予備役の動員をめぐる混乱に対し国防省など軍部への批判の声が相次ぐ事態となっています。
ロシアのプーチン政権は、ウクライナの4つの州の一方的な併合に踏み切るとともにロシア軍が各地でミサイル攻撃を続けていて南東部ザポリージャ州の知事は6日、ザポリージャ市の中心部にある集合住宅が攻撃を受けたと明らかにしました。
地元メディアによりますとこれまでに3人が死亡し、12人がけがをしたということです。
これに対してウクライナ軍は、東部ルハンシク州や南部ヘルソン州などで支配された地域の領土の奪還に向け反転攻勢を強めています。
こうしたなか、ロシア議会下院のカルタポロフ国防委員長は5日、国営テレビの番組で、ロシア国防省が発表する戦況の報告について、「うそをつくのをやめるべきだ」と述べ、国防省は正確な戦況を伝えておらず、軍の信頼の失墜につながると批判しました。
また、プーチン政権が発表した予備役の動員をめぐり、ロシア国内で混乱が広がっていることについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は5日、「プーチン大統領は、ロシア国防省、特にショイグ国防相を身代わりとするようにしたようだ」として、ショイグ国防相に責任を負わせようとしているとの見方を示しています。
ロシアでは、プーチン大統領に忠誠を示す、武闘派の側近もウクライナ軍の反撃によってロシア軍が東部の要衝から撤退した直後、軍の対応を痛烈に批判するなど国防省など軍部への批判や不満の声が相次ぐ事態となっています。
●IAEA事務局長「ザポリージャ原発はウクライナの施設」  10/7
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は6日、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ロシアのプーチン大統領がウクライナのザポリージャ原子力発電所をロシア政府の管理下に置くと発表したことについて、「ザポリージャ原発はウクライナの施設だというのがIAEAの見解だ」と述べ、近くロシアを訪れ、協議する考えを示しました。
ロシア軍は各地でミサイル攻撃を続けていて、南東部ザポリージャ州の知事は6日、ザポリージャ市の中心部にある集合住宅が攻撃を受けたと明らかにしました。
地元メディアによりますと、これまでに3人が死亡し、12人がけがをしたということです。
また、ロシアの大統領府はザポリージャ原発について、プーチン大統領がロシア政府の管理下に置くことを命じる大統領令にも署名したと発表しました。
こうした中、IAEAのグロッシ事務局長は6日、首都キーウを訪問し、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談しました。
ゼレンスキー大統領は、ロシアのプーチン大統領がザポリージャ原発をロシア政府の管理下に置くと発表したことについて、「これは国際社会への襲撃に等しい」と述べ、ロシアを強く非難しました。
また、グロッシ事務局長は、ザポリージャ原発について「これは国際法に関わる問題だ。ザポリージャ原発はウクライナの施設だというのがIAEAの見解だ」と述べ、ロシアの主張は認められないとして、近くロシアを訪れ、協議する考えを示しました。
●ロシア国防相に内部からも痛烈批判、プーチン氏ジレンマ 10/7
ロシア軍のウクライナ侵攻開始から7カ月余りが経過しても目立った成果を上げられずにいる中、6日はロシアが送り込んだウクライナ東部ヘルソン州の高官が、プーチン大統領の長年の盟友であるショイグ国防相を痛烈に批判した。このところ東部でウクライナ軍の進軍を許していることに対する批判が政権内部で高まっている。
ロシアが一方的に「併合」したウクライナ東部のヘルソン地域に送り込んだキリル・ストレモウソフ次官は4分間のビデオメッセージで、ロシアの「軍高官と閣僚」は前線で発生している問題を理解していないとし、「もし自分がこうした状況を許している国防相だったなら、将校として自ら命を絶ったと言う人は多い」と述べ、ショイグ国防相を非難した。
ストレモウソフ氏は「無能な軍事指導者」らを批判する一方で、命懸けで戦っている兵士を称賛。「国防省は、閣僚や将軍、腐敗した略奪者、その他の多様なろくでなしだけで構成されているのではない。ロシアを守るために命を捧げている全ての英雄もその一部だ」と述べた。
ウクライナ軍が東・南部で反転攻勢を加速させ、ロシア軍が後退を余儀なくされる中、プーチン氏を支持するロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長はこのほど「国境地帯に戒厳令を敷き、低出力核兵器を使う強硬策を取るべき」と主張。ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者でプーチン氏の盟友エフゲニー・プリゴジン氏は、「ろくでなし」の軍司令官に「自動小銃を持たせ、はだしで前線に送り込むべきだ」などと述べている。
こうした一連の批判が調整されたものかは、現時点では不明。ただ、ウクライナ侵攻が重要局面に入る中、プーチン大統領は長年の盟友であるショイグ氏を犠牲にして軍の過ちを認めるか、ショイグ氏を留任させ自らの誤りを認めるか、ジレンマに直面している。
ショイグ氏は2012年に国防相に就任。ロイターは国防省にコメントするよう求めたが、今のところ回答はない。
●プーチン氏、混乱で非認める 動員・軍の立て直し急務―4州併合1週間 10/7
ロシアのプーチン大統領が9月末、実効支配するウクライナ東・南部4州の「併合条約」に調印して7日で1週間となる。苦戦の中で目に見える「成果」を急いだ形だが、並行して国内で進めるのが軍の立て直しだ。「見切り発車」の動員令で反戦デモや国外退避が相次ぐなど混乱に陥っており、プーチン氏も珍しく国民の前で非を認めた。
「多くの問題が生じている」。29日、最高意思決定機関である安全保障会議の冒頭、プーチン氏は調印式を翌日に控えた併合条約ではなく、喫緊の課題である動員問題を取り上げた。
30万人動員が発表された21日、対象者は「経験豊富な予備役」とされた。しかし、各地では未経験の若者や重病患者、子育て中の女性にも招集令状が届いたと報告された。大統領令に「地方首長が動員を進める」と規定されており、プーチン氏の顔色をうかがう知事らが手当たり次第の「ノルマ達成」を急いだ結果とみられる。
インターネット上には「訓練なしにウクライナに送られる」と告発する予備役の声や、ロシア軍の劣悪な住環境の映像が流出し、若者の徴兵忌避に拍車をかけた。こうした背景から、プーチン氏は29日、「過ちをすべて正し、繰り返してはならない」「追加訓練も行わなければならない」と厳重注意した。
「20万人以上が集まった」。ショイグ国防相は4日の報告で招集が順調であるとアピールした。この日、米経済誌フォーブス(ロシア語版)は「動員令から2週間で約70万人が国外に脱出した」と伝えており、国内の動揺を抑える狙いがあるとみられる。
ただ、目標通りの動員を進めたところで、欧米の武器支援を受けて反撃に出るウクライナ軍を前に、戦況を変えられる保証はない。ロシア軍が9月上旬に北東部ハリコフ州から撤退したことで、担当する西部軍管区トップ(大将)の更迭が報じられた。10月に入ると東部ドネツク州の拠点リマンを「併合後のロシア領」として初めて失い、やはり中央軍管区司令官が糾弾された。
プロの軍人が責任を負わされる一方、出世しているのがプーチン氏に忠誠を誓う政治家だ。「核兵器使用」を主張する強硬派で、ノルマを超える動員を達成した南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長は5日、「大将」の階級を受けたと明らかにした。  
●ロシアの戦争犯罪記録に平和賞 ウクライナ侵攻を糾弾 10/7
ノルウェーのノーベル賞委員会は7日、2022年のノーベル平和賞を、ロシアによる2月の侵攻後、戦争犯罪の記録に取り組むウクライナの人権団体「市民自由センター」(CCL)、ロシアのプーチン大統領の強権体制に抵抗して人権活動を続け解散させられた団体「メモリアル」、ベラルーシで拘束中の人権活動家アレシ・ビャリャツキ氏(60)の1個人2団体に授与すると発表した。
ノーベル賞委員会は「ベラルーシ、ロシア、ウクライナ3国の人権、民主主義、平和共存の擁護者を表彰したい」と強調。強権支配と隣国への侵攻を続けるプーチン氏を厳しく糾弾した。
●ことしのノーベル平和賞 ロシアとウクライナの人権団体などに  10/7
ことしのノーベル平和賞に、長年にわたり市民の基本的人権や権力を批判する権利を守る活動を続けてきた旧ソビエトのベラルーシの人権活動家と、ロシアとウクライナ、それぞれの人権団体が選ばれました。
ノルウェーの首都オスロにある選考委員会は7日、ことしのノーベル平和賞に、ベラルーシの人権活動家のアレス・ビアリアツキ氏、ロシアの人権団体「メモリアル」、ウクライナの人権団体「市民自由センター」を選んだと発表しました。
このうち、ベラルーシの人権活動家アレス・ビアリアツキ氏は、1980年代にベラルーシで始まった民主化運動を率い、人権団体「春」を創設しましたが、現在はベラルーシの刑務所に収監されています。
ロシアの人権団体「メモリアル」は、1987年に創設され、ソビエト時代の政治弾圧の告発やロシアや中央アジアでの人権侵害の監視に当たってきましたが、ことし2月に解散させられ活動を停止しています。
またウクライナの人権団体「市民自由センター」は、ウクライナの人権問題や民主化に取り組み、ことし2月、ロシアがウクライナに軍事侵攻したあとは、ロシア軍が行った疑いのある戦争犯罪を記録しようと、各地で市民の聞き取り調査を続けています。
ノーベル平和賞の選考委員会は授賞理由について「ことしの受賞者は、それぞれの国の市民社会を代表する存在だ。長年にわたり、市民の基本的人権や権力を批判する権利を守る活動を続けてきた。戦争犯罪や人権侵害、権力の乱用を記録するために卓越した努力を払ってきた。平和と民主主義のための市民社会の重要性を示している」としています。
ロシアの人権団体「メモリアル」とは
ロシアの人権団体「メモリアル」は、旧ソビエト時代の1980年代後半に活動を開始し、ソビエトの政治弾圧を記録するなど人権擁護の活動に取り組んできました。しかしプーチン政権によって、スパイを意味する「外国の代理人」に指定され、ロシアの検察当局は去年11月、最高裁判所に「メモリアル」の解散を求めて提訴しました。そして12月、ロシアの最高裁判所は検察側の訴えを認め「メモリアル」に対して解散を命じる判決を言い渡しました。判決の当日、裁判所には多くの支持者が集まり、一斉に抗議の声をあげました。「メモリアル」は裁判所に異議を申し立てましたが、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めた直後の、ことし2月28日、棄却され、「メモリアル」は解散を余儀なくされました。「メモリアル」の解散をめぐっては、国連人権高等弁務官事務所が、ソビエト崩壊から30年がたち、ロシアで人権や表現の自由に対する抑圧が一層、強まっているという見解を示すなど、国内外で懸念が広がりました。去年ノーベル平和賞を受賞したロシアの新聞の編集長、ドミトリー・ムラートフ氏は、授賞式のスピーチで「『メモリアル』は国民の敵ではない」と述べ、ロシアで言論の自由が抑圧されている現状を国際社会に訴えていました。
「メモリアル」の幹部 “これから変わると思う”
人権団体「メモリアル」の幹部として活動していたヤン・ラチンスキー氏は、7日、地元メディアに対して「ロシアには、サハロフ氏やゴルバチョフ氏など世界中から尊敬される立派な人はたくさんいる。残念ながらロシアでは、こうした人たちがしかるべく扱われてこなかったが、これから変わると思う。それは意義のあることであり、われわれの立場を強化するだろう」と述べ、ロシアの人権状況に危機感を示すとともに、今回、賞に選ばれたことが状況を変えるきっかけになると期待を示しました。
ロシア大統領府 反応なし
「メモリアル」が選ばれたことについて、ロシア大統領府は日本時間の7日午後10時現在、反応を出していません。一方、ロシア大統領府は公式サイトに「プーチン大統領の誕生日を祝う」というタイトルのコメントを掲載し、プーチン大統領が7日で70歳になったと発表しました。この中で、中央アジア・カザフスタンのナザルバーエフ前大統領や、トルコのエルドアン大統領、それに南アフリカのラマポーザ大統領などから祝意が寄せられたとしています。
モスクワ市民「よく知らない」「関心ない」
「メモリアル」が選ばれたことについて、7日、首都モスクワで市民に話を聞いたところ、団体について「よく知らない」とか「関心がない」といった声が多く聞かれました。一方、団体については知らないとしたうえで「政権に活動を禁止されたのであれば、すばらしい人たちだ」と話す若者や「ノーベル賞ほど最高の栄誉はない」と話し、受賞の決定を祝う男性もいました。また「私たちの人権を守る団体が選ばれたことは本当にうれしい」と喜びを表しながらも「ロシアは将来について考えるのが怖くなるほど、どん底に落ちた。分別のある人たちからの平和賞に込められたシグナルは、今や政権にも多くの国民にも届かない」と嘆く女性もいました。
ウクライナの人権団体「自由、平和、民主主義を守る決意」
ウクライナの人権団体「市民自由センター」の広報担当者は、NHKの取材に対し「私たちは、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、主に戦争犯罪の記録をしてきました。団体の全員にとってとても重要な受賞であり、ウクライナの自由、平和、民主主義を守る価値観に対して、私たちはこれからも活動を続けていく決意です。この受賞をすごく感謝していて、これからも大切な仕事を続けたい」と、受賞の喜びを話していました。ウクライナの首都キーウでは、受賞を歓迎する声があがっています。大学生の22歳の女性は「世界の人々にウクライナで何が起きているか知ってもらうことが必要だ。今回の受賞を知れば、きっとわれわれを支持してくれるだろう。『市民自由センター』は戦争犯罪を明らかにし、誰が犯罪者かを示してくれると思う」と話していました。また、38歳の男性の公務員は「とてもいいタイミングの受賞だと思う。世界の人々にウクライナの現状を知ってもらうために、非常に重要な出来事であり、大きなプラスになる。いま起きていることを忘れられないようにするため、今回、受賞を決めてくれた人たちに感謝したい」と話していました。そして30歳の銀行員の男性は「とても名誉なことだ。隣国のロシアは、まさにテロ国家であり、そのような隣国がある以上、われわれは全世界からの支援を必要としている」と話していました。
アレス・ビアリアツキ氏とは
ことしのノーベル平和賞に選ばれた、旧ソビエトのベラルーシの人権活動家、アレス・ビアリアツキ氏は60歳。ベラルーシの強権的な政権から市民の人権を守る活動を続けてきました。ベラルーシでは、ルカシェンコ大統領が旧ソビエト崩壊後30年近くにわたって大統領をつとめ、反政権派を徹底的に弾圧するなど、強権的な統治手法で知られ、欧米からは「ヨーロッパ最後の独裁者」とも批判されてきました。ビアリアツキ氏は、ルカシェンコ政権への抗議デモに参加し拘束された人たちを支援しようと、1996年に人権団体「春」を創設しました。その後も政権による人権侵害の実態を調査して告発したり、市民へ人権についての知識の普及に努める活動を行ったりしてきたほか、国際的な人権団体の幹部にも就任するなどして、活動の範囲を広げました。おととしの大統領選挙で、ルカシェンコ氏の6回目の当選をめぐって、各地で不正を訴える大規模な反政府デモが起きたのに対し、政権は徹底的に取締り、ビアリアツキ氏も去年7月に拘束され、現在は首都ミンスクの刑務所内に収監されているということです。
ビアリアツキ氏の妻「うれしいニュースを誇らしく思う」
ビアリアツキ氏の受賞について、ベラルーシのインターネットメディアは、妻のナターリャ・ピンチュクさんのコメントを伝えました。この中で、ピンチュクさんは「これまで夫の名前は誰も取り上げておらず、まったく受賞を予想していなかったのでとても驚きましたが、うれしいニュースを誇らしく思います。この賞は夫とその仲間、そして厳しく危険な仕事に贈られるものです。彼を祝福してあげたい」と話していました。
ベラルーシ外務省 報道官「あまりにも政治的」
ベラルーシのルカシェンコ政権を批判してきた、人権活動家のアレス・ビアリアツキ氏がノーベル平和賞に選ばれたことについて、ベラルーシ外務省の報道官は7日、国営のロシア通信に反応のコメントを寄せました。この中で、報道官は「近年、ノーベル平和賞の決定はあまりにも政治的だ。申し訳ないが、賞を創設したアルフレッド・ノーベルがひつぎの中で、何度もひっくり返っていることだろう。もはやコメントする気も起きない」と批判しました。
選考委員長「ビアリアツキ氏の解放を求める」
選考委員会のライスアンネシェン委員長は会見で「ベラルーシ政府に対し、ビアリアツキ氏を解放するよう求める。そしてオスロで平和賞を授与したい。ベラルーシには多くの政治犯がいて、この願いは現実的ではないかもしれないが、それでも解放を求めたい」と訴えました。また、ベラルーシで強権的なルカシェンコ政権への民主化運動を率いてきたチハノフスカヤ氏が、SNSで声明を発表し「すばらしい知らせだ。アレスと彼の家族にお祝いを申し上げたい。この賞はすべてのベラルーシの人権擁護者の貢献が認められたものでもある」として、祝福しました。そのうえで「ビアリアツキ氏はノーベル平和賞を受賞するためオスロに行くことはできないだろう。多くのベラルーシの人と同様、政治的な理由で収監され、政治犯と見なされているからだ。ルカシェンコ政権がベラルーシの人々の平和と自由を脅かしていることの証しだ」として、ルカシェンコ政権を強く批判しました。チハノフスカヤ氏は、おととしの大統領選挙で、政権側に拘束された夫に代わって立候補し「政治犯の解放」や「公正な選挙」を訴え、現在は、隣国リトアニアに活動の拠点を移し、民主化運動の継続を呼びかけ、ノーベル平和賞の候補にも挙がっていました。また、ベラルーシの首都ミンスクにある日本大使館の徳永博基大使は7日、NHKの取材に対し「長年にわたる基本的人権擁護に対する貢献が評価されたものとして意義深い。日本としても、ベラルーシ当局に対して市民の恣意的(しいてき)な拘束や暴力による弾圧を停止し、国民的対話に取り組むよう求めてきており、喜ばしいことだ」とコメントしました。
EUやNATOの反応は
EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は7日、ツイッターに投稿し「ノーベル平和賞の選考委員会は、権威主義的な政治に立ち向かう人々の卓越した勇気を認めた」と、歓迎しました。そのうえで「彼らは民主主義のための闘いにおいて、市民社会の真の力を示している」と活動をたたえたうえで「より自由な世界を実現するために協力しよう」と呼びかけました。NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は7日、ツイッターで受賞者に祝意を示しました。そのうえで「権力に対して真実を語る権利は、自由で開かれた社会の基本だ」として、権威主義的な政権を批判してきた活動をたたえました。
専門家「非常に大きな歴史的メッセージ」
ロシアやウクライナ、ベラルーシの研究を続けている北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの服部倫卓教授は「ゼレンスキー大統領などの政治家や著名人ではなく、人権擁護や歴史の記録に長年取り組んできた個人や団体の受賞となった背景には、今起きているロシアとウクライナの戦争の根底に、ロシアという国の歴史や、政治体制の問題があることに注意を向けるべきだという意味が込められているのではないか」と指摘しています。そのうえで「ベラルーシでの人権問題は解決しておらず、ロシアが続けてきた人権侵害が今ウクライナで行われているということを国際社会が忘れず記録にとどめるという意味で、3国の個人や団体がそろって受賞したことは、非常に大きな歴史的メッセージがあると思う」と話しています。
平和賞の選考方法は
ノーベル平和賞は、軍縮や民主主義、人権の問題、それに平和な世界の実現などに貢献した個人や団体に贈られるほか、近年は、環境問題への取り組みにも贈られています。1901年から去年までの間に109人の個人と25の団体が受賞しています。このうち、ICRC=赤十字国際委員会が3回、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は、2回受賞しています。受賞者の選考に当たるのは、ノルウェーの議会によって任命された5人の選考委員で、毎年、1月末までに世界各国の有識者や議員などから推薦を募り、推薦された候補者の中から受賞者を絞り込みます。受賞者の決定に当たっては、選考委員会の全会一致を目指し、委員の意見が分かれ期限内に決まらない場合、多数決で決定します。ノーベル委員会によりますと、ことしはこれまでで2番目に多い343の個人と団体が候補に挙がったということです。誰がどの人物を推薦したかなど選考の過程は秘密とされ、50年後にならないと公開されない仕組みになっています。ノーベル賞の6つの部門のうち物理学賞など5つは、賞を創設したアルフレッド・ノーベルが生まれたスウェーデンで選考が行われますが、平和賞だけは隣国のノルウェーで選考され、受賞者の発表や授賞式もノルウェーの首都オスロで行われます。
平和賞 例年にも増して注目される
ノーベル平和賞が発表されるのに先立ち、有力な候補を挙げているノルウェーのオスロ国際平和研究所は、ことしの平和賞について、ロシアや中国などの強権的な政権に平和的な手段で抗議してきた人物や、非暴力の民主化運動を世界に呼びかけてきた団体、国際法の秩序を維持するために力を尽くしてきた国際機関などを、有力視していました。ノーベル平和賞は毎年、1月末までに世界各国の有識者などが推薦した候補者の中から受賞者を絞り込むため、ことし2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻の動きと直接関わりのある人物や団体は、原則としてことしの授賞の対象とはなりません。ただ、ウクライナ情勢が国際社会に投げかけたさまざまな課題や問題について、長年にわたって取り組んでいる人物や団体が選ばれる可能性はあり、例年にも増して選考の行方が注目されていました。
広島と長崎 平和賞の発表見守る
広島市内では日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の箕牧智之 代表委員らが受賞者の発表の様子をタブレット端末で見守りました。記者会見で箕牧 代表委員は「今回はロシアがウクライナに侵攻してそのうちのどれかが対象になるかと思っていた。プーチン大統領にはこういうことをきっかけに、軍事侵攻をやめる決断をしてほしい」と述べました。そして、今後の活動について「私たちは核兵器廃絶と被爆者の救済をこれからも訴え続ける」と述べました。同席した高校生平和大使を務める広島国泰寺高校3年の荒川彩良さんは「ノーベル平和賞をいただけなかったが、高校生平和大使のスローガンは『微力だけど無力じゃない』です。これからも核兵器廃絶と平和な世界の実現を目指してたくさんの微力を積み上げ、核のない平和を実現できるように尽力していきたい」と述べました。また長崎市では、核兵器廃絶を求める署名を集め、国連に届ける活動などを続けている「高校生平和大使」や、活動を支えている被爆者などが発表を見守りました。ことしの受賞者の発表後、第25代の「高校生平和大使」の1人で、長崎市の高校2年生、宮崎優花さんは「私たちは受賞者にはなりませんでしたが、今後も核兵器のない平和な世界の実現に向けて活動を継続していきたい。ノーベル平和賞にふさわしい活動になるよう努力していきたい」と話していました。
平和賞 拘束下で選ばれたのは4人目
ことしのノーベル平和賞に選ばれた、旧ソビエトのベラルーシの人権活動家、アレス・ビアリアツキ氏は、現在刑務所に収監されていて、当局の拘束下にあって平和賞に選ばれたのは、4人目です。1935年の受賞者のドイツのジャーナリスト、カール・フォンオシエツキー氏は、ナチス・ドイツを批判して刑務所や強制収容所に送られていました。オシエツキー氏は授賞式に出席することなく、1938年に亡くなりました。1991年に選ばれたミャンマーの民主化運動のリーダー、アウン・サン・スー・チー氏は、軍事政権による自宅軟禁下で受賞の報を受け、家族が代わって授賞式に出席しました。民主化が進んだ21年後の2012年になって受賞のスピーチを行いましたが、去年、ミャンマー軍がクーデターを起こすと再び拘束され、現在は刑務所に収監されています。2010年に受賞した中国の民主活動家の劉暁波氏は、国家と政権の転覆をあおったとされる罪で、刑務所に収監されていました。妻も事実上の軟禁状態にあったため授賞式には誰も参加できず、賞状は空席のいすに置かれ、劉氏はその後2017年に亡くなりました。
●トルコ・ロシア首脳が電話会談、関係改善や戦争終結を協議 10/7
トルコ大統領府は7日、エルドアン大統領がロシアのプーチン大統領と電話で会談し、両国関係の改善について協議したと発表した。
エルドアン氏はウクライナ戦争の平和的な解決に貢献したいとの意欲を改めて示したという。ウクライナの最新情勢についても議論した。
トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国。ウクライナ、ロシアの双方と緊密な関係を築いている。
●ロシア国防省、ウクライナ東南部での「敗北」認める…20〜30キロずつ後退 10/7
ウクライナ軍が東部ドンバスと南部ヘルソンで相次いでロシア軍を撃退したと発表した中、ロシア国防省もこれを認める戦況地図を公開した。4日(現地時間)、ロイター通信が報じた。
ロシア国防部は同日、戦争状況を説明する動画ブリーフィングで、自国軍の後退については言及しなかったが、同時に公開した戦況地図にはロシア軍がかなりの地域を失い後退したことがそのまま示されていた。ロイターによると、東部地域の場合、戦線はハルキウ州クピャンスクから南に70キロメートルほど離れた地点で形成されたものと地図に表示されていた。これはロシア軍がルハンスク州の方に20キロメートルほど後退し、ハルキウ州で完全に根拠地を失ったことを意味すると同通信は指摘した。
ロシアと領土併合を宣言した分離主義勢力である「ドネツク人民共和国」のデニス・プシリン代表は同日、ロシア軍がドネツク州リマンから後退した後、ルハンスク州クレミンナ周辺で強力な防衛陣地を構築していると述べた。クレミンナはリマンから東に30キロほど離れた所だ。
南部ヘルソン州でも、ロシア軍の駐留地域が25キロメートルほど後退し、ドニプロ川沿いの村であるドゥドチャニ西側で戦線が形成されたと同通信は伝えた。これに先立ち、ヘルソン州現地のロシア側行政部長ウラジーミル・サルド氏は3日、ドゥドチャニがウクライナ軍に占領されたと認めている。
ロシア国防省が敗北を確実に認めるケースは多くないが、同通信によると、先月11日にもハルキウ州の大部分の地域から撤収した状況を示した戦況地図を公開したことがある。
AP通信は、ロシア軍が東部地域の重要な橋頭堡であるリマンから急いで撤収し、自国軍の戦死者の遺体も収拾できなかったことが確認されたと報道した。同通信は、ロシア軍が先週末リマンから後退し、2日後に現地を視察した結果、少なくとも18体のロシア兵士の遺体が路上に放置されていたと報じた。ウクライナ軍は戦闘後、自国軍の戦死者の遺体は収拾したが、敵軍の戦死者の遺体までは収拾しなかったものとみられると同通信は指摘した。
ロシア軍は地上戦でウクライナ軍に押され、ミサイルなどを利用した空襲を再び強化している。ロシア軍は同日、北東部によりハルキウ市で1人が死亡したと明らかにした。
一方、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防長官は、30万人の予備軍徴集対象者のうち20万人の召集を完了したと発表したと「RIAノーボスチ」通信が報じた。
●プーチンは高支持率? 真実報道だけで逮捕されるロシアの民意はどこに 10/7
「モスクワから暴走のロシアを眺めて・1 プーチンはどんな手段でもとる〜第2次大戦以来はじめての動員・不安と深い闇」で、まだ続くウクライナ戦争支持の高揚感あふれる言論と裏腹に、動員で拡がる国民の動揺をレポートしたが、それではロシア人の本音はどこにあるのだろうか。
それでも支持率77%
社会不安が広がる一方、9月29日にロシアの世論調査機関のレヴァダセンターにより、最新のプーチンの支持率が公表された。それによると、プーチンの現在の支持率は77%となっている。
8月の83%より6%落とし、「特別軍事作戦」が始まってからは一番低い数字になっているものの、侵攻前の2月の71%よりかは高い。
正直、これがどれだけ実態を正確に反映しているのかについては疑問がある。そもそもロシアでは世論調査機関に対しても圧力がかけられており、レヴァダセンターに至っては、外国から資金援助を受けているということで、「外国のエージェント」として登録されている。ウクライナへの侵攻後、こうした組織はいくつも解散させられた。
例えば、以前ベラルーシのネットの世論調査において、ルカシェンコ大統領の支持率は3%という数字が出回ったことがあるが、レヴァダセンターがこのような数字を出してしまうと活動そのものができなくなる可能性がある。
またロシアではウクライナ侵攻後に「世論調査の回答拒否率9割を超える」という旨の報道もあった。そのため、この数値がどれだけ正確なのかについては確証が持てない状況となっている。とはいえ、他に指標となる数字がないのも事実だ。
ロシア人の民意を把握することの難しさ
ロシア社会の中から見ていても、ロシアの民意を把握することは非常に困難な状況になっている。そのため、筆者もロシア人と会う際、よくお互いの周りの人たちの話をして、世論調査が肌感覚と一致しているのかを確認する。
以前メディアで働いた経験のある友人は「2011年の下院選挙の時点で、同僚が街でインタビューしていても回答拒否されまくっていて、国民が何を考えているのかわからないと言っていた」とぼやいていた。この10年でロシアの様子はかなり変わり、状況はさらに悪化している。
本来であれば、正確な民意がわからないと政権運営をする上でも支障が出るはずだが、今のロシア政府にとっては、もはやそんなことは些細な問題にすぎなくなっている。
余談だが、筆者はこの世論調査機関の出してくる数字について以前ジャーナリズムに詳しいロシア人に「どう思う?」と聞いたことがあるが、「ロシアでは真実を報道しただけで逮捕されるのよ? 相手するだけ無駄」と呆れられてしまったことがある。
そんな彼女は以前「ロシア語でパトリオート(愛国者)はイディオート(バカ)の上品な表現」という教科書に乗せたくなるような明言を残していたが、ロシアのウクライナ侵攻が始まってからは、すっかりふさぎ込んでしまい、もはや悪態すらつける状態ではない。筆者の記憶が正しければ、彼女は地方出身であり、年齢の近い弟は地元に残っている。
非日常な日常
国の現在と未来を憂いている人がいる一方で、誇らしげにロシア国旗やZの旗を一生懸命振る人たちもいる。それを見て暗くなった人がさらに暗くなっていく。この非日常な状況がすっかり日常に定着してしまっている。
街の様子も少しずつ変わってきている。気がつけば、撤退した外国のチェーン店がロシアの現地法人に取って代わられ、閉まっていたシャッターが上がっているお店も増えてきた。
有名なところでは、マクドナルドが「フクースナ・イ・トーチカ」、スターバックスコーヒーが「スターズコーヒー」として戻ってきた。元マクドナルドに至っては味の変化はまだ見られないが、ドリンクのメニューが変わり、筆者にとってなじみのある飲み物が減っていた。元スターバックスからはロシア土産で好評だったマトリョーシカのダンブラーが消えてしまっている。
とはいえ、撤退する企業の方が目立ち、日本企業だとすでにトヨタとマツダが撤退を表明している。両者の車はいずれもロシア人から絶大の人気がある。筆者が日本人であることがわかるとすぐに「俺はトヨタに乗っている」と親近感を抱かれることが多い。
コカ・コーラとペプシコーラの飲み物はまだ買えるところもあるが、先日入ったお店のコカ・コーラ社の冷蔵庫の中には、同社の飲料を探すのに一苦労してしまった。まるでコーラが飲めなくなったとしても、炭酸飲料が飲めなくなるわけではないことを象徴しているようだった。
モスクワでは個人経営のお店ではコーラの取り扱いをやめ、他の炭酸飲料メーカーの商品を仕入れだしたところも増えてきている。しかし、全てのものが代替できるわけではない。
周りの人に話を聞くと、中でも不安されているのは薬が買えなくなることだという。理由は「薬は簡単には変えられない」からだという。
実際、制裁の影響は物流にも出ており、これが近い将来解決される保証もない。必要な薬がいずれ買えなくなるという不安は出てきて当然だ。
将来子供たちからは、『薬局から薬がなくなったのは当時の大統領の頭につけるために買い占められたから? 』と言われるようなことになっていればいいが、現状を見ているとこの薬の話は「笑える冗談」ではなくなりつつある。
ロシア国民が徐々に歪になる社会で反発もせず過ごす中、プーチン政権はますます国際社会とかけ離れた世界に突き進む。その驚愕のロジックを「『これでロシアは強大に』プーチン4州併合論理のあまりに異様な世界​」で読み解いていく。
●ウクライナ、戦車の半数超をロシアから鹵獲か 練度低いロシアの失敗 10/7
英国防省は7日、侵攻が始まって以来、ウクライナ軍がロシア軍から鹵獲(ろかく)(戦場で勝利した部隊が敵から兵器などを獲得すること)した戦車が少なくとも440両に上るとの見方を公表した。このほか、約650両の装甲車も鹵獲したとみられるという。
同省によると、ロシア軍からの鹵獲品がウクライナ軍の装備のなかで大きな割合を占めている。現在、配備されている戦車群の半数以上が鹵獲したものの可能性があるという。
同省は、ロシア兵が撤退や降伏の際に装備品を破壊しなかったことを「失敗」とし、ロシア軍の練度の低さを指摘。今後も重火器を失い続ける可能性が高いとした。
●拡大するウクライナ侵攻での損害、ロシアエリート層の怒りの声 10/7
ウクライナ侵攻での失敗や敗退が増えるにつれ、ロシアのエリート層の間で怒りが広がっている。「軍事作戦」に対して引き続き支持を示しているものの、軍幹部は銃殺刑にすべきだと口にする人も出てきてる。
ウクライナ軍が反転攻勢を強めた9月以前は、軍批判の世論は珍しかった。ウクライナ侵攻は神聖で、愛国的な作戦であり、軍を批判すれば長期間刑務所に入れられる恐れがあった。
今でもロシア政府の見解やウクライナ侵攻のメリットについて、疑問を投げ掛けるエリートはいない。
だが、ロシア軍の後退や予備役の動員をめぐる問題を受け、通常はものを言わない著名人らが軍幹部を批判するようになっている。
元司令官で、下院国防委員会の委員長を務めるアンドレイ・カルタポロフ氏は5日、軍は毎日の戦況報告で自国の後退には触れず、ウクライナ軍が被ったとする甚大な損失を称賛するような「うそ」はやめるべきだと指摘。「国民は知っている。彼らもばかではない」と警告した。
同氏は、愛国者として知られる人気テレビ司会者ウラジーミル・ソロビヨフ氏のオンライン番組で、「私たちが真実の一部でさえも国民に言いたくないことは彼らも分かっている。これにより、信頼を失うこともあり得る」と述べた。
銃殺刑
欧州連合(EU)の制裁対象となっているソロビヨフ氏は、軍幹部には銃殺刑に値する者もいると主張。「罪を犯した者は罰せられるべきだ。残念ながらロシアには死刑がないが、一部にとってはそれが唯一の解決方法だ」「軍人としての誇りもない。ないから、銃で自殺しようともしない」と語った。
著名な戦争記者のアレクサンドル・コッツ氏はメッセージアプリのテレグラムに、「近い将来(前線から)良いニュースが入ってくることはないだろう」と投稿した。
ただ、ウラジーミル・プーチン大統領やセルゲイ・ショイグ国防相に対する批判は出ていない。
従軍経験のない人が前線に動員されたとの報告が相次ぐと、プーチン氏は予備役動員での「誤り」を公に認めざるを得なかった。
ロシアでは野党が事実上一掃され、中心的指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)氏は獄中にいる。
残された人々は主に国外で活動しており、国民の不満に乗じ、ロシア国内での立て直しを試みている。
ナワリヌイ氏の側近のレオニード・ボルコフ氏は、ロシア国内での活動家のネットワークを再開させるとユーチューブで発表し、「ロシアに残る数百万人はプーチンの人質であり、戦う意志はない」と述べた。
●プーチン氏の勝利の夢、ウクライナで遠ざかる 10/7
「真実は我々の側にあり、真実は力だ!」。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月30日、首都モスクワの赤の広場で、マイクに向かってそう叫んだ。
ウクライナ東部と南部の4州がロシアの一部だと宣言した、盛大な式典の後のことだ。
「勝利するのは我々だ!」
しかし現実世界では、状況はまったく異なるようだ。
プーチン大統領がクレムリン(ロシア大統領府)で違法な「併合条約」に署名した時でさえ、ウクライナ軍はプーチン氏が奪取したばかりの地域で前進し続けていた。
ロシアでは軍務経験のある予備役の部分的動員令を受け、何十万人もの男性が拡大する戦争に動員されることよりも国外へ逃れることを選ぶ事態となっている。
戦場での実態はあまりにひどく、そのためプーチン氏とその支持者たちは、かつてはウクライナの「非ナチス化」とロシア語話者の保護のためだとしていた侵攻理由を、「集団的」西側諸国全体との存亡に関わる戦いだと修正している。
これが真実だ。そのどこにも、ロシアに有利な内容はない。
「プーチン・システム」の犠牲者
「(プーチン氏)は死角にいる。彼には何が起きているのかよく見えていないようだ」と、ニュースサイト「リドル・ロシア(ロシアという謎)」のアントン・バーバシン編集長はこう主張する。
バーバシン氏は多くの政治アナリストと同様、ウクライナについてプーチン氏は完全に不意を突かれたとみている。西側諸国がこれほど強力にウクライナを支援するとは思わず、ウクライナ自体がロシアの占領にこれほど激しく抵抗するとは、まったく予想していなかったのだろうと。
20年以上にわたりロシア政治の頂点に君臨し、10月7日に70歳を迎えたロシアの指導者は、自らが生み出したシステムの犠牲者になってしまったようだ。本人の独裁スタイルのせいで、プーチン氏は確かな情報が得られなくなっている。
「彼の意見に異論を唱えるなどできない」と、ロシアのコンサルティング会社R・ポリティク創設者で、ロシア人アナリストのタチアナ・スタノヴァヤ氏は説明する。
「プーチン氏と一緒に働く人は誰もが、彼の世界観やウクライナ観を承知している。彼が何を期待しているのかもわかっている。彼のビジョンに反する情報は伝えられない。そういう仕組みだ」
金色に縁どられたクレムリンのシャンデリアの下、プーチン大統領は最新の演説で、新しい世界秩序について自らのビジョンをあらためて示した。
プーチン氏は、「現在進行中の西側覇権の崩壊は不可逆的だ。元通りには決してならない。運命と歴史が我々を呼び寄せた戦場は、我が国民のための戦場である」と述べた。
そのビジョンには、強大なロシアと、おびえて従順になった西側諸国、そしてロシア政府に再び服従させられたウクライナ政府が登場する。
これを実現するため、プーチン氏が選んだ戦場がウクライナだ。
プーチン氏の野望がこの上なく幻のように思えても、野望を縮小する気など、本人にはなさそうだ。
「ロシア政府が前提としていた重要な計算の多くは、結果に結びつかなかった。そしてプーチン氏には代替のプランBがなく、前線に人を送り込み続け、ウクライナ軍がこれ以上前進するのをひたすら人海戦術で阻止できるはずだと、そう期待するしかないようだ」と、バーバシン氏はみている。
消極的な新兵
「人を前線に送り込む」こと自体、重要な作戦の転換だ。
プーチン氏は今なおウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、その範囲は限定的かつ短期的なものだとしている。
多くのロシア人がかつては、これを受け入れ、支持さえしていた。自分に直接、影響しない限りは。ところが予備役の部分的動員令が発令され、それまで遠い抽象的な何かだったものが、きわめて身近で個人的リスクが伴うものに変わってしまった。
地方の政治家たちは、まるでソ連時代のように、どれだけ割り当てを超えられるか競い合っている。できる限り多くの男性を集めようと、必死だ。
「今が正念場だ。ほとんどのロシア人にとって、戦争は2週間前に始まったばかりだ」と、バーバシン氏は言う。
「最初の数カ月は、死んでいく人のほとんどは(ロシアの)周辺部や小さな町の人たちだった。しかし、動員によってやがてそれは変わる。モスクワやサンクトペテルブルクに、棺(ひつぎ)が次々と戻ってくるようになる」
「とにかくひどい」状況
今回の招集を受け、新兵の妻や母親たち(つまり動員発表時に国境に急いで向かわなかった人たち)が、ソーシャルメディアでどんどん発言している。
そうした投稿や、新兵たち自身が撮影した動画からは、厳しい状況が見て取れる。粗末な食事、古い武器、基本的な医療品の不足だ。女性らは、兵士たちのブーツの詰め物として生理用ナプキンを、あるいは傷口をふさぐためにタンポンを送るのはどうだろうかと、話し合っている。
クルスク州のロマン・スタロヴォイト知事は、いくつかの部隊の状況を「とにかくひどい」と話した。「現在の国防省訓練部隊がどうすればこんな状態になれるのか、困惑している。食堂は荒れ果て、シャワーは壊れてさび付き、ベッドは不足し、あっても壊れている」のだという。
こうした暴露によって、プーチン氏が特に自慢していた内容が、穴だらけにされている。
プーチン氏はこれまでロシア軍について、国を愛する国民なら誰もが入りたくなるプロの戦闘集団だと、自分がそう作り変えたのだと、主張してきた。
それでも今のところ、新兵の妻たちの大半は一生懸命、軍を応援しているようだ。
バーバシン氏は、「今はまだロシア社会のかなりの部分が、『ロシアはウクライナでNATO(北大西洋条約機構)と戦っている大国だ』と信じ、タンポンや靴下、歯ブラシを動員兵に送ることが、愛国心の表れだと考えている」と今週ツイートした。
検閲の崩壊
動員をめぐる混乱と、ロシアの軍事的な失態を受け、より多くの著名人が発言し始めている。
リベラル派がウクライナ侵攻を非難した時、その人たちは逮捕された。多くは今も拘束されている。
「戦争」という言葉を使うことさえ違法だ。
しかし、クレムリン支持者の間で、この言葉は今や当たり前になっている。ロシア軍司令部に対する激しい批判も同様だ。
アンドレイ・カルタポロフ議員は今週、国防省に対し、ロシアの困難な状況について「嘘をつくのをやめる」よう求めた。「国民は決して、ばかではない」というのがその理由だ。
国営テレビRTのマルガリータ・シモニャン編集長は、スターリンが「臆病者」や「無能な」将軍を処刑したことを引き合いに出した。
しかし、プーチン氏についてはもちろん、侵攻そのものについて、公然と疑問視する声は出ていない。
シモニャン氏はプーチン氏を「ザ・ボス」と呼んでいる。ウクライナ領土の併合は歴史的な偉業だったと語りながら、うつろな目をする。
前出のスタノヴァヤ氏によると、「反戦の政治運動は存在しない」。政治的に抑圧された環境では特にそうだという。
「動員に反対する人たちでさえ、逃げ出そうとしている。国外に出ようとしたり、身を隠したり。でも、政治的に抵抗しようという動きは見られない」
ただ、ロシアが負け続け、さらに多くの兵を必要とするようになれば、この状況は変わるかもしれないという。
「プーチンは多少は勝ってみせないと」
欧米との「聖」戦
今週はプーチン氏でさえ、併合した地域の状況を「落ち着かない」と表現し、問題があるとほのめかした。
しかし、ロシアの後退を、ウクライナを支援する「集団的」な西側諸国のせいにしようとする動きが大きくなっている。
国営メディアの司会者らは、ウクライナの土地収奪をはるかに壮大なものとして表現している。より大きな戦いに向け、国の士気を高めようとしているようだ。
「完全に悪魔主義との戦争だ」と、ウラジーミル・ソロヴョフ氏は今週、視聴者に向かって話した。
「これはウクライナをめぐる戦いではない。西側の狙いは明らかだ。政権交代とロシアの解体だ。ロシアがもはや存在しなくなることが、向こうの狙いだ」
これこそが、プーチン氏の信じる「真実」だ。そしてだからこそ、ロシアが客観的に弱っているこの瞬間こそ、リスクが高まっている。
「この戦争にはロシアの存亡がかかっている。だからこそプーチンにとっては、勝てる戦争でなくてはならない」とスタノヴァヤ氏は主張する。
しかも、「彼は核兵器を持っている」のだと。
「核の危険がエスカレートすれば、どこかの段階で西側はウクライナから手を引くと、期待しているのだと思う」
プーチン氏の口調が前にも増して過激になり、まるでメシア(救世主)のようになっていると指摘するのは、彼女だけではない。
「実際にそう信じているのではないか。これはロシア帝国の最後の抵抗で、西側との全面戦争だと」。バーバシン氏はそう話す。
「ロシアが勝つかどうかはともかくとして、状況は最終段階にあるのだと」
もちろんそれは、プーチン氏がこれまで以上に、西側に信じてもらう必要がある「真実」でもある。
●プーチン氏、ノーベル平和賞に沈黙 70歳誕生日、不名誉なプレゼント 10/7
ロシアのプーチン大統領は7日、自身を間接的に批判したノーベル平和賞に沈黙した。
10月7日は70歳の誕生日。ノルウェー・ノーベル賞委員会の発表時に記者団から「平和賞はプーチン氏へのプレゼントか」と質問が挙がったほどで、本人にとって不名誉で触れたくないテーマだったとみられる。
スルツキー下院外交委員長は「平和賞はまたも政治の道具となった」とタス通信に語った。
ペスコフ大統領報道官は5日、プーチン氏に関係する受賞が出る可能性について、仮定の質問にはコメントできないと回答。もっとも、2021年に独立系紙「ノーバヤ・ガゼータ」のムラトフ編集長らへの平和賞が発表された際は「お祝いする」と表明していた。 

 

●プーチン氏、70歳の誕生日 ウクライナ戦争の最中 総主教ら祝電 10/8
ロシアのプーチン大統領が7日、70歳の誕生日を迎えた。側近らはプーチン大統領を現代ロシアの救世主と称え、ロシア正教会最高位のキリル総主教はプーチン氏の「健康と長寿」を願うというメッセージを送った。
しかし、ウクライナ侵攻が長引き、ウクライナ軍が反転攻勢を増す東・南部でロシア軍が後退を余儀なくされるなど、最大の試練に直面する中での誕生日となった。
●ウクライナ軍、南部ヘルソン州で2400平方キロ奪還 10/8
ウクライナ当局の高官は7日、「全面戦争が始まって以降」、ウクライナ軍は南部ヘルソン州で2400平方キロの領土を奪還したと明らかにした。
大統領府のティモシェンコ副長官によると、ヘルソン地区で6集落、ベリスラウ地区で61集落が解放された。
ティモシェンコ氏によると、激しい戦闘や攻撃が数週間続いたアルハンヘルスケやビソコピリア、オソコリウカのような町では、重要インフラが大きく破壊されており、民間人の避難が続いている。地雷の除去も進められているという。
先月末に攻勢を開始して以降、ウクライナ軍はヘルソン州で着実に前進してきた。ウクライナ軍の成功を受け、親ロシア派の間ではロシア政府の戦争遂行努力を批判する声が上がっている。
ロシアが任命したヘルソン州政府の幹部、キリル・ストレムソフ氏は6日、同州の戦場に「穴」が空いているのは「無能な指揮官」の責任だと批判。テレグラムに投稿した動画で「実際、このような状況になるのを許したショイグ国防相は、将校として自らを銃で撃つこともできると言う人が多い」と述べた。
ロシア下院国防委員会のカルタポロフ委員長は6日、当局は戦況の変化について「うそをつくのをやめる必要がある」と訴えた。
●ロシア軍苦戦、ショイグ国防相やり玉…プーチン氏が責任押しつけか  10/8
ロシア軍がウクライナの反転攻勢を受けて苦戦する中、セルゲイ・ショイグ露国防相が国内で批判にさらされている。9月末にウクライナ東・南部4州を一方的に併合して以降も戦況悪化に歯止めがかからず、プーチン大統領が失敗の責任を押しつけているとの見方が出ている。
南部ヘルソン州の親露派幹部は6日、自身のSNSで「自分が今、国防相だったら銃で自殺していると多くの人が言っている」と述べ、「無能な軍指導部」との表現も使いながらショイグ氏を批判した。親露派幹部が露軍首脳を個人攻撃するのは極めて異例だ。
元国防次官でショイグ氏にとっては身内のはずのアンドレイ・カルタポロフ下院国防委員長は5日の国営テレビで、国防省が毎日発表している戦況が戦果を誇張していることを問題視した。露南部チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長も1日、ショイグ氏や軍参謀総長の責任を追及している。プーチン氏が発令した部分的動員を巡る混乱でも、ショイグ氏がやり玉に挙がっている。
プーチン氏は2月24日の侵略開始前までは、休暇をともに過ごすなどショイグ氏を重用してきた。だが、米政策研究機関「戦争研究所」は5日、プーチン氏が侵略を巡る一連の失敗をショイグ氏と国防省に転嫁する方針を決めたとの分析を明らかにした。責任論がプーチン氏に及ばないようにするため、解任時期は「なるべく遅らせる可能性が高い」と予想した。
プーチン政権は、侵略開始後、軍に関する「虚偽情報」の拡散に最高で禁錮15年の罰則を追加するなど厳しい情報統制を敷いてきた。米ブルームバーグ通信は6日、露大統領府が国営メディアに「作戦の失敗について一定の真実を伝えてもいい」と指示したと伝えており、ショイグ氏への批判は当面続きそうだ。
●プーチン大統領 旧ソビエトの国々の首脳集めた会議で結束強調  10/8
ロシアのプーチン大統領は7日、旧ソビエトの国々の首脳を集めた会議を開きました。ウクライナの戦況でロシア軍が劣勢に立たされ、欧米との対立も深まる中、勢力圏とみなす旧ソビエト諸国の引き締めを図るねらいがあるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は7日、旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の非公式の首脳会議を第2の都市サンクトペテルブルクで開きました。
冒頭、プーチン大統領は、出席した首脳たちについて「最も親しい友人で同盟国であり、真の戦略的なパートナーシップの関係がある国々の指導者」と表現し、結束を強調しました。
プーチン大統領にとって7日は70歳の誕生日で、会議に出席したベラルーシのルカシェンコ大統領が農業用のトラクターをプレゼントしたほか、ロシア大統領府によりますと、トルコや南アフリカなど友好国の首脳から祝意が寄せられたということです。
プーチン大統領は来週も、旧ソビエト諸国の首脳たちと再び会議を行う予定です。
カザフスタンなど中央アジア各国からは、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと一線を画す姿勢もみられ、プーチン大統領としては欧米との対立も深まる中、勢力圏とみなす旧ソビエト諸国の引き締めを図るねらいがあるとみられます。
一方、ウクライナの戦況で、ウクライナ側はロシア側に支配された地域の領土奪還に向け、東部や南部で反転攻勢を強めています。
イギリス国防省は7日「ウクライナ軍は少なくとも440両の戦車とおよそ640両の装甲車を獲得した。ウクライナ軍の現在の戦車部隊の半分以上がロシア軍から獲得した車両の可能性がある」と指摘し、ウクライナ軍は、ロシア軍が残した装備品を活用していると分析しました。
そのうえで撤退したロシア軍が、自分たちの装備品を破壊せずに残したことはロシア兵の訓練のレベルが低いことを示していて、ロシア軍は、今後も重火器を失い続ける可能性が高いと指摘しています。
●ノーベル平和賞 ウクライナ国内では批判的な反応も  10/8
ことしのノーベル平和賞に、旧ソビエトのベラルーシの人権活動家と、ロシアとウクライナそれぞれの人権団体が選ばれたことについて、ウクライナ国内では、喜びの声が聞かれる一方で、政府高官からは軍事侵攻を続けるロシアの団体と共同で受賞することに対して批判的な反応も示されています。
ノルウェーの首都オスロにある選考委員会は7日、ことしのノーベル平和賞に、ベラルーシの人権活動家のアレス・ビアリアツキ氏、ロシアの人権団体「メモリアル」、ウクライナの人権団体「市民自由センター」を選んだと発表しました。
このうち「市民自由センター」の受賞が決まったことを受けて、ウクライナの首都キーウでは、歓迎する声があがっていて、38歳の男性は「とてもいいタイミングの受賞だと思う。世界の人々にウクライナの現状を知ってもらうために非常に重要な出来事だ」と話していました。
一方、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は7日、自身のツイッターに「ノーベル賞の選考委員会がウクライナを攻撃した2つの国の代表者にもノーベル賞を与えるのなら『平和』ということばについて、興味深い解釈をしている」と投稿し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと、それを支持するベラルーシと共同で受賞したことを皮肉を交えて批判しました。
今回のノーベル平和賞の発表についてロシア大統領府は反応を出していないほか、ベラルーシ外務省の報道官は7日「近年、ノーベル平和賞の決定はあまりにも政治的だ。もはやコメントする気も起きない」としています。
「メモリアル」の幹部ら “この賞は新たな力を与えてくれる”
ノーベル平和賞に選ばれたロシアの人権団体「メモリアル」の幹部らが7日、首都モスクワでNHKなどの取材に応じました。
このうちヤン・ラチンスキー氏は「驚いたとともに、うれしい。ロシアの政治状況がすぐに変わるとは思えないが、この賞によりロシアの市民社会の雰囲気がよくなることを願う」と述べました。
また、オレグ・オルロフ氏は「この数か月間のうっ屈した状況を考えると、非常に重要なことだ。この賞は新たな力を与えてくれる。私たちだけでなく人権擁護の活動を続けるロシアのコミュニティ全体に対して与えられた賞だと思う」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、ロシアで人権活動家などへの圧力が一層、強まる中で、今回の決定は関係者を勇気づけるものだと評価しました。
そして、今も刑務所に収監されているロシアの反体制派の指導者のナワリヌイ氏をはじめとする活動家たちや抗議活動で拘束された人たちが数多くいることに触れ「彼らの闘争心や反戦の姿勢は私たち以上にこの賞にふさわしい」と述べ、身の危険にさらされながらも闘い続けている人たちをたたえました。
国連事務総長「平和を前進させる市民社会の力にスポットライト」
国連のグテーレス事務総長は7日、声明を発表し「ことしのノーベル平和賞は平和を前進させる市民社会の力にスポットライトを当てるものだ。市民社会のグループは民主主義にとっての酸素であり、平和や社会の進歩、経済成長の触媒だ。彼らは弱い立場の人たちの声を権力の中枢に届けている」として祝意を示しました。
そのうえで、グテーレス事務総長は、今世界中で人権活動家らが恣意的(しいてき)な拘束や暴力に直面していると危機感を示し「普遍的な価値のため活動する勇敢な人たちを守っていこう」と呼びかけました。
ベラルーシの人権団体「闘いが認められた」
ノーベル平和賞に選ばれたベラルーシのアレス・ビアリアツキ氏が創設した人権団体「春」の弁護士は7日、SNSで「今回の賞は、すばらしいものだ。人権を擁護する人たちの功績が国際的に認められ、人権擁護の価値観を支えようと訴える全世界へのシグナルとなる。この賞は、ビアリアツキ氏の数十年にわたる人権のための闘い、民主主義の価値のための闘い、そしてベラルーシ国民のための闘いが認められたものだ」とするコメントを出しました。
国連人権理事会が決議採択 ロシアの人権状況を調査へ
国連人権理事会は7日、ロシアの人権状況を調査する特別報告者を新たに任命するための決議を採択しました。
決議では、人権団体や独立系メディアなどへの取締りによって、ロシアで表現の自由が著しく制限されていることに深刻な懸念を示していて、ことしのノーベル平和賞に選ばれたロシアの人権団体メモリアルが強制的に解散させられたことにも触れています。
今後、選ばれる特別報告者が1年にわたってロシア内外で調査を進め、人権理事会や国連総会に報告書を提出する予定で、ロシア側に対しては、調査への協力者に脅迫や報復をしないよう求めています。
採決では、47の理事国のうち欧米諸国や日本、韓国など17か国が賛成し、中国やベネズエラなど6か国が反対、中東アフリカやアジアなど半数以上の24か国が棄権しました。
採決に先立ってロシアの代表は「西側諸国は、人権理事会を政治的な目的を達成するために利用している」と述べ、反発しました。
●プーチン大統領側近が「直接異論唱えた」 米紙報道 10/8
ウクライナ軍の反転攻勢が続くなか、ロシアのプーチン大統領に対し、このところ側近の一人が直接、異論を唱えているとの情報をアメリカ政府が入手したということです。
ワシントンポストは6日、アメリカの情報機関がロシアの政権内部でウクライナ侵攻への対応について、ある側近がプーチン大統領に異論を唱えているとの情報を入手していると報じました。
バイデン大統領へのブリーフィングでも共有され、注目されているということです。
情報機関の複数人から「プーチン大統領が失脚する寸前だという兆候はないが、忠誠心は失われつつあるかもしれない」という見方も示されたということです。
ロシアのペスコフ報道官は「軍事作戦について議論はある」としながらも、直接、異論を唱えたとするこの報道について「絶対に事実ではない」と否定しました。
●EU首脳、ウクライナ支援強化を確約 ガス価格上限は合意できず 10/8
欧州連合(EU)は7日にプラハで開いた首脳会議で、ウクライナに対する財政、軍事支援の強化で合意した。ただ、天然ガス価格に上限を設ける案については、今回も見解の相違を埋めることはできなかった。
今回のEU首脳会議にはウクライナのゼレンスキー大統領がビデオ形式で参加。ウクライナ大統領府のウェブサイトに掲載された原稿によると、ゼレンスキー氏は「ウクライナがロシアによる侵攻を食い止めているおかげで、特にバルト3国、ポーランド、モルドバなど、欧州の他の地域にロシアはまだ戦争を持ち込むことができていない」と述べ、EUに対し、航空システムの増強のほか、再建のための資金拠出などを求めた。
EU当局者は、EU首脳はウクライナの「軍事、財政支援の継続を確約」したとし、支援継続で一致団結していることが示されたと表明。ただ詳細については明らかにしなかった。
一方、天然ガス価格に上限を設定する案については、ドイツ、デンマーク、オランダなどが反対する中、今回も合意できなかった。ポーランドのモラヴィエツキ首相は首脳会議終了後に記者団に対し「電力価格を下げる必要があることは誰もが理解しているが、その手段については合意が得られていない」と指摘。アイルランドのマーティン首相も、合意が得られるまで為すべきことは多く残されていると述べた。
イタリアのドラギ首相によると、EUの執行機関である欧州委員会は20─21日に開かれる次回EU首脳会議に先立ち、エネルギー問題に関する提案を提示する。
●「これでロシアは強大に」プーチン4州併合論理のあまりに異様な世界 10/8
「プーチンは高支持率…? 真実を報道しただけで逮捕されるロシアの民意はどこに」で見たように、国民の表面的な戦争支持と社会の不安定化が同居しているが、それを牽引するのがプーチンをはじめとする指導層と支持層の異次元の世界観である。
プーチン第2次「併合」演説の何が衝撃なのか
9月30日、ロシアの占領しているドネツク・ルハンスク、へルソンとザポリージャの4州における「住民投票」と称する行為の結果を受けて、プーチンはクリミアに次ぐウクライナの領土の「併合」演説を行った。
クリミアと同様に、この選挙と称する行為そのものに合法性はなく、住民の意思が公平に反映されたというロシアの主張には説得力がない。
しかし、厄介なことに、プーチンは自身の行為に「正当性」があるのだと信じ込んでいる。
この演説はA4で14ページにも及ぶが、主張は非常に明確で、「悪いのはロシアではなく、西側諸国だ」と言っている。プーチンがどれだけ心酔しているのかがよくわかる内容となっているので、少々長くなるが、内容を振り返る。
併合演説の中身
まずは「住民投票」の正当化が行われた。
・この住民投票は国連憲章の第1条に基づいたものであり、人民の同権と自決権は人から奪えないものである。
・4州とロシアは運命と1000年もの歴史を共有し、この精神的なつながりというのは人々によって子や孫に受け継がれていったのであり、様々な試練があったのにも関わらずソ連崩壊後に誕生した若い世代も上の世代と同様に一体性と共通の未来のために投票した。
・この8年もの間、ドンバスの住民はジェノサイドや銃撃に耐え、へルソンとザポリージャではロシアに対する憎悪を犯罪的に植え付けられようとしてきた。
・キエフの政権とその本当の支配者である西側の人たちに聞いてもらいたい。ルガンスク、ドネツク、へルソンとザポリージャの住民は永遠にロシア人になる。
その後ウクライナのゼレンスキー政権に対して停戦交渉に戻るように呼びかけられている。
・キエフの政権よ、今すぐ攻撃と2014年から始めた戦争を止め、話し合いの場に戻れ。我々にはその用意がある。しかし、4州の選択の議論はしない。
・ロシアは4州を裏切らないし、キエフはこの自由で住人の意思を尊重しなければならない。これが平和への唯一の道だ。
・持ち合わせているありとあらゆる手段で、自分たちの住民を守るというのは我々の使命だ。必ず街を復興させ、社会インフラも復旧させる。
その後はだらだらとアメリカをはじめとした西側諸国に対する批判が繰り広げられた。プーチンの政治信条と世界観がよく表れている。
・ソ連の解体後、西側は世界に対して支配を押し付けようとしてきた。91年当時、西側は、ロシアは復興せず、さらに崩壊されるのだと期待していた。我々は空腹で、寒く、貧しく、希望のない恐ろしい90年代を覚えている。しかし、ロシアはこれを耐え、回復し、強くなって再び世界で威厳のある地位を取り戻した。
・この期間、西側は我々を攻撃し、弱めるための新しい機会を模索し続けてきた。彼らには、全ての国の主権がアメリカに都合のいいものにすることが重要である。
・彼らはロシアの考えと哲学を恐れている。我々の繁栄もだ。競合相手になるからだ。
そして最後はロシアとロシア語を愛することの大切さが訴えられ、演説の締めは「真実は我々の側にあり、我々はロシアだ」という旨の掛け声だった。
プーチンはまだ元気だ
かつて、メルケル前独首相がプーチンについて「違う世界にいる」ともらしたとされているが、現在のロシアとプーチンはさらに遠い世界まで行ってしまった。しかし、今では「同じ世界にいたことがある」という話すらも悪い冗談に聞こえてしまう。
この演説はウクライナにおけるロシアの占領地が次々と取り返され、ドンバス地域の完全掌握が達成されていない中で行われているが、プーチンはまるでそれを知らないまま原稿を読み上げたのかと疑いたくなるくらいの内容である。しかし、それでもこの演説には重要なポイントがいくつかある。
第一に、ロシアからは何があっても、折れるつもりはないことが再度主張された。少なくとも、ロシアは自身の行いが「正当である」と信じて疑っておらず、クリミアと同様に4州の住民投票は現地では歓迎されていると国内外に向けて発信できる図太さをまだ持っている。つまり、プーチンはまだ元気である。
余談だが、プーチンは10月7日に70歳の誕生日を迎える。ロシアでは5や10周年記念は盛大に祝ってもらえるという風習があるが、その日はプーチンにとっての「7回目の誕生日10周年」にあたるため、ロシア国内から注目されている。
筆者もモスクワで心の許し合っている友人と会った際、「10月7日にはロシア軍からも『プレゼント』が送られるのではないか」という話になった。とはいえ、本当に盛り上がるのは「ウクライナ軍からは、もっと忘れられない日にしてもらえるだろう」という話だが…。
関連するが、第二に、ロシアは停戦のための要求ラインを下げるつもりがないことを再度主張した。ロシアはたびたび「今すぐ降伏した方が楽になるぞ」という旨のメッセージをウクライナに対して発しているが、効果はない。それどころか、ブチャの惨劇やイジュームの集団墓地を見た後にウクライナとしては、「ロシアには絶対に負けるわけにいかない」という機運が高まっている。しかし、それでもロシアは力による現状変更を突き付けようとしている。
これは非常に厄介な問題で、ウクライナが無理難題を飲まないのなら、ロシアはより嫌な要求を突き付けている。「外交交渉が嫌なら、停戦交渉ならどうだ?」「和平文書にサインするのが嫌なら、降伏文書にするか?」というやり方だ。そして侵攻を非難されると、「交渉に応じなかったのはウクライナの方だった」と反論される。ロシアの得意技だ。
「強い我々は屈しない」
第三に、強いロシアの復活が主張された。これには「強い我々は、欧米の制裁なんかには屈しない」や「何があっても最後に勝つのは我々だ」というメッセージを発している。これにはやせ我慢も含まれているのだろう。しかし、このような態度の表明は、ロシアにとっては諸刃の剣ともなりうる。
例えば、ロシアは以前捕虜交換した際、散々「ネオナチ」と呼んでいたアゾフ大隊の隊員たちをウクライナに引き渡したが、その際国内で「なぜ憎きネオナチ主義者を?」と非難の声が一部上がった。
これまで見てきたように、ロシアはウクライナへの侵攻を一種の「聖戦」と捉えている。過度に「ドンバス、へルソンとザポリージャの住民たちは裏切らない」と言い続けることは、それが達成できない場合の代償をより大きくしてしまう。
「ウクライナに負けることは許されない」という状況を自ら作り出し、勝てる見込みがなくても「戦果」が求められる。打破できるかわからない若者の未来を含めたありとあらゆるものが注ぎ込まれる。
すでに「強いロシアには負けることが許されない」雰囲気になっている。この戦いがいつまで続くのかはわからないが、プーチンからは国内外に対して態度を変えるつもりがないことだけは明らかにされた。
何があったらここまで自分を追い込むことができるのだろうか。我々はひょっとしたら長かったプーチン・ロシアの崩壊のプロセスを目撃しているのかもしれない。
「強大な国になった」ロシアの異常な自己意識
ところで、筆者はこの演説の中継をあるロシアの番組で見ていたが、演説が終わるとスタッフたちがシャンパンをあけ、「ロシアは領土を広げ、より強大な国になった」と嬉しそうに乾杯をしていた。
あまりにも見るに堪えないものだったため、別の番組に切り替えたら、ドンバス出身の屈強な男が涙ぐみながら「今日、やっと歴史的な過ちが正された」「ロシアはより強大な国になった」「我々のやってきたことは無駄ではなかった」と声を絞り出していた。
彼らの指していた「強大な国」が何を意味しているのかは筆者にはわからないが、少なくとも筆者の思う「強い」国はこういうことはしない。そして、「偉大な指導者」は他国の領土や人々の生活をめちゃくちゃにしない。
しかし、ロシアにいると「異常者」なのは、筆者の方になってしまうという居心地の悪さがある。モスクワに住む分には治安の悪化や身の危険は感じることはないが、正直、2月24日以降は精神的にきついと感じることが増えている。
外国人である筆者ですらこのような状況だが、この戦争やプーチンを支持しないロシア人やロシアにいるウクライナ人の心境はもっと複雑なものなのだろう。
この日、暗かったロシアがさらにまた暗くなった。
歴史は自分たちの手で正す―もはや世界を遠く離れて
筆者は運悪く2014年のクリミア「編入」演説の時にもロシアに滞在していたが、その時も「クリミアにロシア軍はいなかった」「いかに選挙に正当性があったのか」「真実はいつもプーチンの側にある」と政権のプロパガンダをロシア人から散々聞かされたため、ノイローゼになりかけた。
しかし、今回もあるロシア人から「ついに私の出身地のマリウポリがロシアに戻った」と嬉しそうに言われて気が滅入った。彼女によると、「歴史の間違いは自分たちの手で直さないといけない」のだという。
この人は熱狂的なプーチン支持者で、以前、国際法が何を意味するのか知らないまま筆者に対して、「いかにクリミアの『編入』が国際法に則ったものであったのか」について語ってくれたこともある。
彼女の説明によると、「ロシア人であるという理由だけで生まれてきた国を恥じないといけないことはあってはならないし、ロシア人であるという理由だけで海外旅行に行くのを禁止されてはいけない」「現在のウクライナは、欧米の言いなりになっている」「ウクライナを『正常な状態』にするために、プーチンは必要なことをしている」「コメディアンには政治はできない」のだという。
このような人は、この国には何人もいる。特に上の世代になるとこうした話をより頻繁にしてくる傾向にある。ここは文字通り日本とは違う世界だったが、この8年間でさらに遠くに行ってしまった。
「強大な国」という自己イメージをかき立てる戦争の行き着く先は何か。「核もパイプラインも―『ありとあらゆる手段』にロシア国民は歓喜の声」で暗澹たる未来図を描いてみる。
●“サハリン1 の事業をロシア企業に” プーチン大統領が署名  10/8
日本の政府や大手商社も参画してロシア極東のサハリン沖で行われている石油と天然ガスの開発プロジェクト「サハリン1」について、ロシアのプーチン大統領は、事業をロシア企業に移すよう命じる大統領令に署名しました。
サハリン沖の石油と天然ガスの開発プロジェクト「サハリン1」についてロシアのプーチン大統領は新たにロシア企業を設立し、事業を新会社に移すよう命じる大統領令に7日、署名しました。
ロシアの国営石油会社の今の権益分を除く80%をいったんロシア政府が管理し、外国の事業者は1か月以内に新会社の株式を取得することに同意するかどうかをロシア政府に通知する必要があるとしています。
ロシアメディアは、事業の中心となってきたアメリカの石油大手「エクソンモービル」が、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてことし3月にプロジェクトからの撤退を表明したことに伴うものだと伝えています。
「サハリン1」には、日本からも、政府が50%を出資する「SODECO・サハリン石油ガス開発」に大手商社の伊藤忠商事と丸紅、それに「石油資源開発」などが参加し、この会社を通じてプロジェクトの30%の権益を保有しています。
サハリン沖の石油・天然ガス開発プロジェクトをめぐっては、大手商社の三井物産と三菱商事が参画する「サハリン2」でもイギリスの石油大手シェルが事業からの撤退を発表したあと、ロシア政府がことし8月、事業を引き継ぐ新たなロシア企業を設立し、日本の商社2社とも新会社の株式を取得して権益を維持しています。
サハリン1とは
「サハリン1」は「サハリン2」とともにロシア極東のサハリン北東沖で行われている石油と天然ガスの開発プロジェクトです。
総事業費は120億ドル、日本円で1兆7000億円を超え、アメリカ、ロシア、インド、日本が参加しています。
権益の比率は、アメリカの石油大手「エクソンモービル」が30%。それに、ロシアの国営石油会社が20%、インドの国営石油会社が20%となっています。日本勢は「SODECO・サハリン石油ガス開発」が30%の権益を保有していて、この会社には政府が50%出資するほか、大手商社の「伊藤忠商事」と「丸紅」、それに政府が出資する「石油資源開発」などが出資しています。
日本にとってサハリン1は、サハリン2に比べて政府の関与が強いのが特徴で、官民をあげて開発を進めてきました。
2005年以降、3つの油田で原油の生産が行われていて、200キロ余り離れた極東ハバロフスク地方の沿岸にある出荷ターミナルまでパイプラインで輸送したあと、タンカーで輸出しています。
また、天然ガスについてもLNG=液化天然ガスとして日本などへ輸出することなどが検討されています。
サハリン1をめぐっては、事業の中心となってきた「エクソンモービル」がことし3月、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてプロジェクトからの撤退を表明しました。
一方、ことし8月にはロシアのプーチン大統領が、アメリカや日本を含む非友好国と位置づける国の企業などに、ロシア企業の株式を売却することなどをことし12月末まで禁止する大統領令に署名したことで、事業の先行きに不透明感が出ていました。
経済産業省「中東以外の重要な調達先」
政府は、ウクライナへの軍事侵攻を受けた経済制裁の一環として、G7=主要7か国とともにロシア産の石油の輸入を原則、禁止する措置を取っています。
このため、経済産業省によりますとサハリン1から現在原油は輸入されていないということです。
ただ日本は原油の輸入の90%以上を中東に依存していて、エネルギー調達の多角化を進めることが課題となっています。
ロシアからの原油の輸入量は2021年、全体の3.6%と決して多くありませんが、経済産業省は「中東以外の重要な調達先であり、日本のエネルギー安全保障上、サハリン1の権益の重要性は変わらない」としていて、今後情報収集を進め、日本への影響の有無などを見極めることにしています。
●トラクター、メロンの山……プーチン大統領への誕生日プレゼント 10/8
ウクライナ侵攻以来、西側諸国から孤立しているロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、7日に70歳を迎え、奇妙な贈り物を受け取った。トラクターだ。
贈り主は、トラクター製造が盛んなベラルーシの盟友、アレクサンデル・ルカシェンコ大統領。ルカシェンコ氏は、プーチン氏の出身地サンクトペテルブルクを訪問した際、トラクターを贈ったことを認めた。
プーチン氏は、自らが引き起こした侵略戦争が激化する中、旧ソヴィエト諸国の首脳らをサンクトペテルブルクに招いていた。
ウクライナが反攻に成功する中、プーチン氏は今週、併合を宣言した地域の状況を「落ち着きがない」と表現。現状に問題があるという認識を示した。
だがこの日、プーチン氏の盟友たちは贈り物を携え、20年以上にわたって大統領や首相としてロシアを率いてきた人物をさかんに称賛した。
そのプーチン氏よりさらに長く、1994年から政権の座にあるルカシェンコ氏は、欧州の自称「最後の独裁者」とされ、その政権も西側諸国の制裁下にある。ルカシェンコ氏は、ベラルーシ製のトラクターのギフト券を持ってサンクトペテルブルクにやって来た。
「ミンスク・トラクター・ワークス」は、ベラルーシ産業界の旗艦企業だ。
プーチン氏がこの大型車にどう反応したかはすぐにはわからなかった。贈り物としては、ベラルーシのトラクターは、タジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領からのメロンやスイカの山と競争することになった。
しかしここ数年、プーチン氏がトラクターに乗っている姿を頻繁に見かけるようになったのは事実だ。
また、ロシア正教会のキリル総主教は、プーチン氏は「ロシアのイメージを一変させ、主権と防衛能力を強化し、国益を守った」と賞賛の言葉を送った。
ロシア政府の支援を受けるチェチェン共和国の指導者ラムザン・カディロフ氏も、プーチン氏は「世界一の愛国者」だと述べた。
遠方にあるものの、同様の国際的孤立に直面している北朝鮮の金正恩総書記は、プーチン氏が「アメリカの挑戦と脅威を打ち砕いた」と祝辞を述べている。
一方、プーチン氏と敵対する人々は、誕生日という機会を再び利用し、自国を破滅させながら他国を破壊しようとする戦争犯罪者を描き出そうとした。
ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は、ロシア軍にプーチン氏と戦争での戦闘を拒否するよう呼びかけ、プーチン氏は兵士と共に「立つのではなく、防空壕に隠れている」と批判した。
ソーシャルメディアでは、ルカシェンコ氏からプーチン氏への贈り物を皮肉と表現するユーザーもいた。ウクライナでは侵攻初期、放棄された軍用車両を牽引する素朴なトラクターが抵抗のシンボルとなっていたからだ。
チェコの首都プラハで行われたデモでは、プーチン氏を黄金の便器に座る裸の皇帝に見立てた巨大な人形が登場した。
●プーチン 併合・核威嚇で戦争膠着化ねらう 10/8
ロシアのプーチン大統領はウクライナ占領地域の併合に動き出しました。欧米、ウクライナ(宇)が非難するのは間違いなく、制裁も強化されそうです。露宇両国の事情に詳しく、ソクラに連載中の西谷公明氏に聞いた。
――ロシアのプーチン大統領がウクライナの占領地域での「住民投票」の結果を受けたと称して、ウクライナ東南部の併合を始めています。どう見ますか。
プーチン大統領は「併合」という形で、成果を出した形にして、ウクライナ戦争を膠着状態に持ち込もうとしているのでしょう。当然、国民の愛国心を鼓舞する効果もねらっているはずですが。実際、ウクライナ東部はこれから雨量が多くなって地面がぬかるみ、軍隊の機動的な移動や作戦の展開が難しい時期に入ります。さらに冬に近づけば命が危ないほどの厳しい寒さの季節になります。とても戦争を続けられる時期ではないのです。
――欧米、ウクライナは激しく非難すると思いますが。
確かに直後の非難合戦や制裁の追加などはあるでしょうが、むしろ当然で、ロシアにとっては想定済みのことでしょう。ウクライナにしても、併合は認めがたいでしょうが、季節的にも戦線を拡大できる時期ではないうえ、そろそろ弾薬もほぼ尽きている状況ではないかと思います。米国は9月28日に11億ドルの追加支援を表明しましたが、開戦以降の支援総額は162億ドルであり、追加支援額はスローダウンしています。また、威力を発揮したとされるハイマースをこれまでの16基に加えさらに18基供与するとしていますが、これまでの分は米軍の在庫から出したのに対して、今回分はこれから発注するとしています。つまり、すぐには供与されません。米国はウクライナの戦力を慎重にコントロールしています。ウクライナも戦える状態ではなく、ロシア、ウクライナ両国の事情をみれば戦況が膠着状態になるだろうと言えます。
――ロシアは核兵器の使用を排除しないと威嚇して言いますが。
併合地域を攻めさせないための威嚇の意味あいが大きいと思います。併合によって、これまでに比べれて使用のリアリティが高まりますが、膠着化させるための抑止力の面がそれだけ強くなるのではないでしょうか。
――動員令でロシア国内も動揺しているように見えますが。
ロシアは冬の間は戦況を膠着させるつもりですから、ただちにウクライナに追加兵力を投入することになならないでしょう。また、もしそうなるとしても、併合地域の防衛戦への配置で、攻略のために前線で戦わせるのではないので予備役で十分と考えているのでしょう。戦場に行かせるわけではないと国内向けには説明を始めるのかもしれません。ちなみに、動員令は100万人が対象となるという報道ですが、実際に集められる歩留まりは30万人とみて、100万人に通知しようとしているのだと思います。
――動員令へのかなりの反発はプーチンの判断に影響してきますか。
ロシア国内の動揺もありますが、より大きいのは国際的な孤立感ではないでしょうか。サマルカンドで中国の習主席からはやや距離を置かれましたし、インドのモディ首相からも、いまは戦争をしている場合ではないと苦言を呈されました。その面からも、いったんウクライナ戦争を膠着状態という形の一種の「停戦」に持ち込みたいのでしょう。併合は打ってでているのではなく、いったん小休止にするための作業に見えます。
●徴兵忌避するロシアの若者たちが見つけた「楽園」は 中央アジアの国 10/8
徴兵から逃れるために、何万人ものロシア人男性が国外へと流出している。
ロシアでは9月21日にウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻をめぐって軍隊を強化するために、部分動員令に署名した。以来、ショイグ国防相の発表によれば、10月4日までに20万人超が招集されている。一方で、国外への流出も加速しているようだ。
ロシア人の主な亡命先としては、これまでトルコやジョージアが挙げられていたが、ウクライナ侵略開始から半年以上がたったいま、中央アジアのキルギスタンへの流入が顕著であることを、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が報じている。
旧ソ連の構成国だったキルギスタンは、独立してからも長い間、ロシアから「安価な労働力」の宝庫としてみられ、まるで「貧しい従兄弟」のように扱われてきたと、同紙は書く。実際、100万人以上のキルギスタン人がロシアに出稼ぎに出ているという。
だが、いま「逆の現象」が起きている。
多数のロシア人男性が「キルギスタンで働きたい」と押し寄せているこの現象について、キルギスタンは、「まさかこんなことが起こるとは夢にも思わなかっただろう」と、ロシア生まれの中央アジアの移住に詳しい学者ヤン・マツセビッチは同紙に語っている。
同紙によれば、キルギスタンはいまのところ、ロシア人男性たちの流入を「歓迎している」ようだ。
キルギスタンの大統領サディル・ジャパロフは「ロシア人もキルギスで自由に働くことができる」、「ロシアへ引き渡されるのを恐れる必要はない」と語っており、政治家やビジネスパーソンなどは概ね、ロシア人の流入を「いまのところ害はなく、大きな利益が期待できる」とみている。
流入してきたロシア人男性らのなかには、高学歴で、比較的給与の良い仕事をしていた者も多いようだ。現在、キルギスタンの首都ビシュケクにある質の高いホテルはすべて満室で、家賃も急騰しているという。
ビシュケクのバーでは、脱出に成功した若いロシア人男性らが集い合い、宿泊場所やキルギスタンの居住証明書の取得方法、また、求人などの情報交換を行う姿も珍しくないようだ。23歳の大学生のロシア人男性は、同紙にこう語っている。
「すべてが始まったとき、(戦争の)影響を受けるのはプロの兵士と、その家族だけだと思っていた。しかし、その影響はいま、私たちロシア人全員に広がっている」
ロシアに留まるということは「刑務所に行くか、軍隊に入ることを意味する」。
また、シベリア出身の36歳のアーティストの男性は、9月末に国境を越え、キルギスタンの首都を目指して3日間、バスと電車を乗り継いできたと述べている。彼は脱出直前まで、海外のミュージシャンやブランドなどのために「アートワークを提供する、小さなビジネスを経営していた」。現在は、過密状態のホステルの一室の二段ベッドを寝床としている。そのホステルに滞在している19人のほとんどがロシア人男性だそうだ。「少なくても、ここは安全だと感じている」
ただし、これらのロシア人男性らは、決して「難民」ではない。侵略軍の攻撃から逃げている人たちではなく、侵略軍に仕えることから逃げている人たちだと、同紙は書く。
また、脱出した人たちも含めロシア人の多くはこの半年以上の間、この戦争に無関心であり、そのことはウクライナ人を憤慨させてきたとも述べている。
「いまでも脱出に成功したロシア人たちは、戦争のことをほとんど話さない。彼らの関心はそれよりも、新天地での自分たちの生活やお金のこと、慣れない習慣についてである」
同紙によれば、このロシアから亡命してきた人たちを、何と呼ぶかはまだ定まっていないようだ。ロシア人たちの多くは自分たちを難民だとは思っておらず、かといって「徴兵忌避者(徴兵をまぬがれるために逃亡した人)」とも呼ばれたがってはいない。
とはいえ「ベトナム戦争中にカナダへと渡った若いアメリカ人ほどの反戦熱もない」。
ロシアから亡命した人たちのなかで、戦争支持者は「ごく少数派」。彼らは「戦争で死ぬことは望んでいない」。
キルギスタンに逃げてきたソチ出身のIT起業家の男性は、当初はプーチンを支持していたと語っている。しばらくは反プーチンの抗議者たちを鼻で笑っていたが、いまはロシア政権への信頼を失っているそうだ。
彼は、「妻と娘をロシアに置き去りにするのは気が進まなかった」が、彼の会社の従業員たちが国外逃亡をはじめてからは「これ以上ロシアにとどまり、徴兵されるリスクを負う意味はない」と判断し、脱出を決意したそうだ。
事実上、彼はキルギスタンから会社を運営することができるため、もし、このまま戦争が続けば、家族を呼び寄せるつもりだと語っている。 
●バイデン「核戦争の脅威、キューバ危機以来最高潮…アルマゲドンの可能性」 10/8
ジョー・バイデン米大統領が、1962年のキューバミサイル危機以来、核戦争の危険が最高潮に達したと警告した。
バイデン大統領は6日(現地時間)、ニューヨークで開かれた民主党上院選挙委員会のレセプションで、「(1962年の)キューバ危機以来初めて我々は核兵器使用の脅威にさらされている」と述べたと、ロイター通信など海外メディアが伝えた。「ケネディ大統領のキューバ危機以来、アルマゲドン(聖書に描写された人類最後の戦争)が起きる可能性に直面したことはなかった」とも付け加えた。キューバ危機は、東西冷戦の真っ最中だった1962年、ソ連がキューバに中距離ミサイル基地を建設したことに対し、米国がソ連との全面戦争も辞さないという意志を示し、核戦争の危機が最高潮に達した状況をいう。当時、ケネディ米大統領とソ連のフルシチョフ共産党書記長が、キューバとトルコにそれぞれ配置されたロシアと米国のミサイル基地を相互撤収し、危機は一段落した。
バイデン大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「戦術核兵器や生物化学兵器を使用できると言及する時、それは冗談ではない。なぜならロシア軍の成果が非常に良くないからだ」と述べた。
プーチン大統領は2月24日にウクライナ侵攻開始を発表した際、「こんにち、ロシアは最も強力な核武装国家の一つ」だとし、戦争初期から核兵器使用の可能性をほのめかした。先月21日にも「わが領土の完全性が脅かされるなら、ロシアと国民を保護するために明確にすべての手段を動員する」と述べた。プーチン大統領が先月30日、ロシアのウクライナ占領地である東部ドネツク州、ルハンスク州、南部ヘルソン州、ザポリージャ州の4地域の併合宣言をした後は、核兵器使用の憂慮がさらに高まっている。ロシアがこれら占領地に対する攻撃を自国領土に対する攻撃であると見なせば「低威力核兵器」を使用する可能性もある、との懸念が高い。ウクライナ軍は最近、ヘルソン州など一部領土を奪還して反撃に出ており、ロシア軍は国内的に批判を受けている。ロシアは「国家の存立が脅かされる時」使用可能だとしていた規範を、2020年には「軍事行動の拡大を予防、あるいは終了させるための」目的で使用できるということに変え、核兵器使用の敷居を下げた状況だ。
ロシアが低威力核兵器である戦術核を使用するとしても、いったん核兵器を使用した瞬間、状況は手の施しようもなく悪化するだろうとバイデン大統領は批判した。バイデン大統領は「戦術核兵器を簡単に使いながら、アルマゲドンに帰結させない能力のようなものがあるとは思わない」と述べた。
バイデン大統領の発言は、ロシアが今年2月末にウクライナに侵攻した当時から繰り返し核の脅威を加えてきたことを指摘しつつ「現在としては核兵器の使用が差し迫っているとみなす兆候はない」と先週述べたジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安保担当)の発言とは対照的だと、米国の「ブルームバーグ」は指摘した。
●トヨタ・マツダのロシア撤退だけじゃない! ついに「中国」までもが不満を示す 10/8
活発化する脱ロシアの動き
2022年9月、日本の大手自動車メーカーであるトヨタとマツダが相次いでロシアでの生産撤退を表明した。
両社ともロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアでの操業を停止する措置を継続してきたが、従来のような環境でビジネスを再び展開することが難しいとの判断に至ったようだ。
ウクライナ侵攻以降、日本企業の間では現地での操業停止や規模縮小、ロシアとの輸出入制限、そしてロシア撤退など脱ロシアをめぐる動きが活発化した。
しかし、その後は戦況が一進一退の状況が続き(最近はロシア軍の劣勢が顕著だが)、今日まで撤退を表明する企業は限定的で、全体的には「リスクはあるものの今後の状況で判断」という企業が多かったように感じる。
しかし9月に入り、プーチン大統領が軍事的劣勢を逆転させるため部分的動員という手段に打って出たことで、ロシア国内では反プーチンの声が強まるだけでなく、それに反対する人々によるロシアからの脱出が急増した。
現在までに脱出したロシア人はカザフスタンやジョージア、フィンランドやエストニアなどを中心に20万人を超えたとも言われる。
また、プーチン大統領はドネツクやルハンシクなどウクライナ東部4州でロシア編入の是非を問う住民投票を行い、4州をロシアへ併合する条約に署名した。
核を含んだ強硬行動の恐れも
当然ながら、ロシアによる一方的併合は国際法上認められないが、ロシアにとって4州はすでにロシア領という解釈となる。今後4州へのウクライナ軍の攻撃はロシアにとっては他国からの侵略となり、核を含んだより強硬な行動に出てくる恐れもある。
また、ドネツクやルハンシクに住むウクライナ人も今後、部分的動員の対象となり、ウクライナ人がウクライナ軍と戦うという、一般的には極めて理解しにくい状況が現実となるかも知れない。
9月に入っての部分的動員とウクライナ東部4州の併合は、国際政治・安全保障的に考えれば、プーチン氏は後戻りできないところまで状況を悪化させ、戦争の激化と長期化のリスクをいっそう高めたといえる。
トヨタとマツダにとっても、これが撤退を決定付けるトリガーになったことだろう。
冒頭で述べたように、依然としてロシアでの経済活動をストップさせた状態の日本企業は多いが、プーチン氏が政治的に状況をさらに悪化させたことで、日本企業の脱ロシアに再び拍車が掛かるかも知れない。
欧米諸国はこうした状況に対抗すべく、さらなる対露制裁強化に出てくるだろう。最近もEU加盟国のポーランド、アイルランド、リトアニア、エストニア、ラトビアの5か国が、ウクライナ戦争を続けるロシアへの追加的経済制裁として、ロシアからのダイヤモンドの輸入を禁止するべきだと共同で提案した。
そして、今後は中国やインドの動きが注目される。
中印、ロシアへの不満示し始める
これまで欧米や日本が対露制裁を強化する中、中国やインドなどがエネルギー分野での対露接近を図ったことで、それがロシアに抜け道を与えてきたとの指摘があった。
しかし、インドのモディ首相は9月の東方経済フォーラムでプーチン大統領に「今は戦争や紛争をするときではない」と直接苦言を呈し、同大統領が9月にウズベキスタンで中国の習国家主席と会談した際、習国家主席はウクライナ問題で無言を貫き、プーチン大統領は「ウクライナをめぐる中国側の疑問や懸念を理解している」と発言した。
これらは、これまで政治的、経済的にロシアを支える形になっていた中国やインドがついにロシアへ不満を直接示し始め、今後は中国・インドのロシア離れも進む可能性を提示している。
欧米だけでなく中国・インドのロシア離れも進むことになれば、グローバル経済の中でのロシアの孤立はいっそう顕著になる。
そういった状況下でロシアにおいて経済活動を継続することは、日本企業にとっていっそう難しくなるだろう。
大手自動車メーカーのホンダが8月、中長期的な中国リスクを見据え、国際的な部品のサプライチェーンを再編し、中国とその他地域のデカップリング(切り離し)を進める方針を発表したが、今後はロシアシェアが大きい企業を中心に、ロシアとその他地域のデカップリングという選択肢を模索することも考えられよう。
しかし、ロシアシェアを持つ日本企業が直面するリスクは他にもある。
日本企業と欧米企業の間に亀裂も
日本企業と比べ欧米企業のロシア撤退は顕著で、マクドナルドやスターバックス、アップルやエイチアンドエムなど世界的な企業はすでに撤退している。そのような中では、ロシアリスクが日本企業と欧米企業の間に亀裂を生む可能性がある。
すなわち、日本企業と取引がある欧米企業の中には、取引先の日本企業が依然としてロシアで操業・取引を行っていることをよく思わず、その日本企業と距離を置くようになるというシナリオも十分に考えられる。
今回の部分的動員とウクライナ東部4州の併合は、欧米や日本によるさらなる制裁、中国・インドのロシア離れといったものに拍車をかけるだけにとどまらない。
多様で複雑なサプサプライチェーンを持つモビリティ企業を中心に、ロシアでの経済活動を難しくさせ、また欧米企業との関係も注視せざるを得ない状況をつくっている。
●エネルギー危機で倒産の連鎖...英経済に失政でとどめ刺したトラス政権 10/8
ウクライナ戦争でロシアのウラジーミル・プーチン大統領が欧州向け天然ガス供給を制限していることで急激に悪化したエネルギー危機で、英国のガス・電力供給会社「ナショナル・グリッドESO」はエネルギー危機がこのまま続けば、この冬、数百万世帯が1日3時間の計画停電を強いられる恐れがあると警告した。
リズ・トラス英首相は保守党大会の党首演説で「一般家庭の光熱費が年 6000 ポンド(約96万7900円)以上に高騰する恐れがあったが、2500ポンド(約40万3300円)に抑えた」と胸を張ったが、それだけでは未曾有の危機は乗り切れない。計画停電を避けるためには一般家庭はピーク時に暖房を弱める、洗濯機を使わないなど、徹底した省エネが求められる。
家電製品の電源を切れば1日当たり約10ポンド(約1600円)を浮かすことができる。詳細は11月1日に発表される見通しだ。しかし、他人に、ましてや政府にあれこれ指図されることが大嫌いなのが英国人気質。現在の状況は炭鉱や鉄道のストによりエドワード・ヒース首相(保守党)が計画停電に追い込まれた1970年代の暗い記憶を呼び覚ます。
ナショナル・グリッドESOのエグゼクティブ・ディレクター、フィンタン・スライ氏は「ベースのシナリオでは冬を通じて十分な電力供給を確保できると考えている。しかし世界のエネルギー市場における前例のない混乱や変動など私たちがコントロールできない外的要因やリスクに考慮することが必要だ」と臨時の石炭火力発電に備えていることを明らかにした。
住宅ローンは上昇し、住宅価格は下落する
英金融データ会社マネーファクツによると、住宅ローンの平均的な2年固定金利は、通貨安、債券安、株安の「トリプル安」の引き金になったクワジ・クワーテング財務相のミニ予算が発表された9月23日は4.74%だったが、26日には5.75%になり、30日には6.16%にハネ上がった。5年固定金利も同様に6.07%まで上昇した。
クワーテング氏は住宅ローン市場から引き上げたバークレイズやナットウエストなど銀行幹部と会い、取引を再開するよう要請した。2020年10月に20万ポンドの25年返済型住宅ローンを1.59%の金利で組んでいた場合、毎月の返済額は808ポンド(約13万円)。しかし今5.06%の2年固定に切り替えると返済額は1166ポンド(約18万8000円)に膨れ上がる。
英紙ガーディアンは「問題は今後数カ月の間に住宅ローンの金利が上がるのか下がるのか分からないということだ」と指摘する。住宅ローンの上昇に伴い、住宅価格に著しい下降圧力がかかる。ロイズ・バンキング・グループ傘下のハリファクスによると、住宅価格の年間上昇率はすでに11.4%から9.9%に鈍化している。
住宅取得時にかかる印紙税の引き下げ、住宅供給の不足、好調な労働市場が住宅価格を支えているものの、「生活費の危機」の中で金利が急上昇し続けるという見通しが住宅価格により大きな下降圧力をかけると予想される。「英国の住宅価格は来年に少なくとも10%下落する」(住宅ローンの仲介業者)という。
エネルギー価格の高騰で相次ぐ倒産、13年ぶりの高水準
英国家統計局(ONS)によると、エネルギーコストの高騰とサプライチェーンの停滞で今年第2四半期、イングランドとウェールズで建設業、卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業を中心に5629社が倒産した。世界金融危機で08年第4四半期、倒産件数は6943件とどん底を記録したが、今回はその影響を引きずる09年第3四半期以来の高水準となった。
倒産件数の内訳は建設業が1039件、卸売・小売業は802件、宿泊・飲食サービス業は611件だ。企業が倒産する割合はコロナ前の4年間に記録された四半期の平均値(3850件)より46%も高くなっている。英国企業の10社に1社以上が「中程度から重度」の倒産リスクを打ち明けており、これからさらに倒産が相次ぐとの懸念を抱かせた。
ONSによると、22%の企業がエネルギー価格を主な懸念事項に挙げ、今年2月下旬の15%から上昇していた。従業員10〜49人の企業では30%と増えている。倒産件数の増加は(1)エネルギー価格の高止まり(2)債務返済が困難(3)原材料費の上昇(4)サプライチェーンの混乱など、いくつかの要因が関わっているとみられている。
ガス価格指数は今年第1四半期に昨年同期比の70%増となった。エネルギー価格の上昇は英国企業にとって重大に懸念材料になりつつある。エネルギーコストは企業が値上げを検討する主な要因になっており、企業の約46%がエネルギー価格のために10月に値上げを検討すると回答した。
生活費の危機は深刻化
英中央銀行・イングランド銀行のデイヴ・ラムスデン副総裁は7日の講演で「今年第4四半期のガス先物価格は昨年8月の予想に比べ7倍になっていた。英国はエネルギーの純輸入国であるため、国民所得は減少し、英国経済は貧しくなる。1年前よりもエネルギー価格の上昇によって生活が悪化し、生活費の危機が深刻化する」と指摘した。
民間企業の定期昇給は7月時点で6%と上昇を続けているものの、8月の消費者物価指数(CPI)は9.9%とそれを上回る。インフレは10月に11%弱でピークを迎えるとみられているが、賃金の上昇はとてもインフレには追いつかない。さらに英国の労働参加はコロナ前より50万人も減少している。
米金融情報会社S&Pグローバルによると、英国経済の約4分の3を占めるサービス部門はコロナ危機によるロックダウン(都市封鎖)以来18カ月ぶりに鈍化し、景気後退の瀬戸際にあるとの懸念が強まっている。インフレ高進と生活費の危機を背景に一般家庭が一気に支出を控えたことが原因だ。
キングス・カレッジ・ロンドンのアナンド・メノン教授(欧州政治と外交)は研究プロジェクト「変わっていく欧州の中の英国」への寄稿で「トラス氏を党首に選んだことで保守党大会はいろいろな意味で奇妙な大会となった。ミニ予算は就任後1カ月足らずでトラス氏の党首としての地位を危うくした」と書いている。
トラス氏の予算案が保守党下院議員の造反により英下院で承認されなければ(1)クワーテング財務相の更迭(2)トラス氏が首相を辞任して党首選実施(3)解散・総選挙の順で政局が動く可能性がある。血の匂いを求めてトラス氏の周辺を野心的な保守党下院議員がサメのように泳ぎ回っている。
●ウクライナ侵攻の総司令官任命 ロシア軍苦戦で立て直し 10/8
ロシアのショイグ国防相は、ウクライナ侵攻を統括する「特別軍事作戦」の総司令官として、スロビキン上級大将を任命した。
国防省のコナシェンコフ報道官が8日、発表した。スロビキン氏は地上軍(陸軍)出身で、2017年から航空宇宙軍総司令官を務めている。
ロシア軍は、9月上旬にウクライナ北東部ハリコフ州から撤退するなど苦戦しており、司令官を刷新して立て直しを図る狙いとみられる。軍部の人事を公表することで作戦司令官の責任を明確にし、プーチン政権への批判をかわす意図もありそうだ。最近では、西部軍管区と東部軍管区の司令官交代が相次いで伝えられている。 
●プーチン氏に側近から反対意見、侵攻不満蓄積か 米報道 10/8
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は7日、ロシアのプーチン大統領の側近の一人がここ数週間の間に、ウクライナ侵攻の指導をめぐり、プーチン氏に直接反対の声を上げていたと報じた。米情報機関の情報を入手した。
戦闘が長期化している上、動員令で国民の国外脱出が続く中、ロシアの指導部内でプーチン氏への不満が強まっている可能性がある。報道によれば、情報はバイデン米大統領にも報告されており、側近の名前も含まれているという。
ロシアのペスコフ大統領報道官は同紙に対し、「別の措置を取るべきだと考える人もいる」と述べ、動員令のような判断の際に反対意見があったことを認めた。ただ、「通常の協議の一部だ」と説明し、指導部内に分裂はないと反論した。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、国民向けのビデオ演説で、最近の攻勢で東部ルガンスク州の一部を含め、これまでにロシアから約2400平方キロに上る領土を取り戻し、96の集落を解放したと表明した。ルガンスク州はロシアが一方的に併合を宣言した4州の一つ。
ゼレンスキー氏は演説で、今週は南部攻勢でも戦果があったと指摘し、「われわれの領土と人々を偽の住民投票から日々解放しつつある」と強調した。
ウクライナのメディアによると、北東部ハリコフ州の警察幹部は、同州イジュムで発見された400体を超える遺体も含め、これまでに計534体の遺体を回収したと発表した。このうち、19体は子どもだったという。ハリコフ州は9月の反転攻勢以降、ウクライナ軍が奪還していた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
●クリミアとロシア結ぶ橋で火災 ロシア“爆発 近くで3人死亡”  10/8
ロシアが8年前一方的に併合したウクライナ南部のクリミアとロシア南部を結び、ロシアが戦略的に重要とする橋で大きな火災が起き、橋の一部が崩落しました。
ロシア側は爆発があったと主張し、プーチン大統領が原因の究明に向けて指示を出すなど警戒を強めています。
ロシアが8年前一方的に併合したウクライナ南部のクリミアと、ロシア南部を結ぶ「クリミア大橋」で8日早朝、大きな火災が起きました。
現地からの映像や写真では、橋の付近から炎や黒い煙が上がっている様子がわかります。
ロシアの治安機関などでつくる「国家反テロ委員会」は「橋の自動車道路でトラックが爆発し、近くを走行していたクリミアに向かう列車の燃料タンクの貨車に引火した」としたうえで、橋が損傷し、一部が崩落したと発表しました。
また、ロシアで重大事件を扱う連邦捜査委員会は現場近くで3人の死亡が確認されたとしています。
事態を受けてプーチン大統領はミシュスチン首相に対し、政府委員会を設置して原因究明を急ぐよう指示を出しました。
「クリミア大橋」は4年前に完成し、クリミアを一方的に併合したロシアにとって、戦略的にもっとも重要なインフラのひとつとされ、橋の通行が難しくなれば、クリミアに駐留するロシア軍の補給などに影響が出るとみられます。
橋に設置の監視カメラ 爆発の直前に1台のトラック
ロイター通信は橋に設置された監視カメラの映像を8日、配信しました。
映像では、爆発の直前に1台のトラックが現場付近を通過しています。そして、爆発と同時に、周囲が明るくなり、炎や火の粉とともに煙が広がりました。
橋桁の一部が崩落している様子も確認できます。
また、最初の爆発からおよそ20秒後、自動車専用道路に並行する鉄道からも大きな炎が広がり、列車に積まれていた燃料に火が燃え移ったとみられます。
ロイター通信は、橋や道路の構造が衛星写真と一致したため、クリミア大橋で撮影されたことが確認できたとする一方、撮影日時は特定できないとしています。
「クリミア大橋」ロシアによるクリミア支配の象徴
「クリミア大橋」は2014年、ロシアが一方的に併合したクリミア半島と、ロシア南部のクラスノダール地方を結ぶ全長19キロの橋で、ロシアによるクリミア支配の象徴とされてきました。
黒海とアゾフ海をつなぐケルチ海峡に架かることから、「ケルチ橋」とも呼ばれています。橋は自動車専用道路に並行する形で鉄道も敷設され、2018年、自動車専用道路が完成した際にはロシアのプーチン大統領がみずからダンプカーを運転して橋を渡りました。
この時、プーチン大統領は「すばらしい成果だ。クリミアはより力強くなり、われわれの結束は一段と強まる」と演説し、ロシアによるクリミア支配を内外にアピールしています。
ことし2月、軍事侵攻が始まってからは、ロシア軍はこの橋をウクライナの南部や東部の支配地域に物資を運び込む補給路として使い、軍事侵攻を進めるうえで、戦略的に極めて重要なインフラとなってきました。
一方、ウクライナ側は「違法な建造物だ」として橋の建設そのものを非難してきました。また、ウクライナ大統領府の顧問を務めるアレストビッチ氏はことし7月、クリミア大橋について「技術的に可能となれば攻撃対象となる」と発言し、ロシア側をけん制していました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、東部や南部でロシアに占領された領土とともに、将来はクリミアも奪還する考えを示しています。
ウクライナ側は、ことし8月にはクリミアに駐留するロシア軍の基地で爆発を起こし、軍用機などに被害を与えました。
一方、ロシア側は10月、クリミアで「破壊工作やテロ行為の脅威が高まっている」と主張し警戒を強めていました。
ウクライナ高官「これが始まりだ」
火災が起きた「クリミア大橋」についてウクライナのポドリャク大統領府顧問は「これが始まりだ。違法なものはすべて破壊されなければならない」とツイッターに投稿しています。
ロシア報道官「テロリストの本質示す」
一方、ロシア外務省のザハロワ報道官はSNSに「ウクライナ政府の反応は、テロリストの本質を示している」と投稿し、ウクライナへの敵意をあらわにしました。
ウクライナ国防省「ロシアのシンボルが沈んだ」
火災が起きた「クリミア大橋」は「ケルチ橋」とも呼ばれています。ウクライナ国防省はツイッターに「ウクライナのクリミアにおけるミサイル巡洋艦モスクワとケルチ橋という2つの悪名高いロシアのシンボルが沈んだ」と投稿しました。
巡洋艦モスクワは、ロシアの黒海艦隊の旗艦でしたがことし4月、沈没し、ウクライナ側は対艦ミサイルで攻撃したと主張しています。
また今回、火災が起きた「クリミア大橋」は、ロシア側からクリミア半島への重要な補給路となってきました。
ウクライナ国防省は火災の原因について直接の言及はしていませんが、ロシアが一方的に併合したクリミア半島への補給に大きな影響を与えるだけに、双方の対応に注目が集まっています。

 

●「クリミア大橋」爆発し一部崩落…ウクライナ側は関与明言せず  10/9
ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島と露本土を結ぶ「クリミア大橋」(全長約19キロ・メートル)で8日朝、爆発が発生した。大橋は、露軍のウクライナ侵略で重要な補給路になっており、ロシア軍がより劣勢となる可能性がある。
プーチン大統領は8日、原因を究明する委員会の設置を急きょ指示した。異例の措置で、衝撃の大きさを物語っている。
ロシア連邦捜査委員会によると走行中のトラックが爆発し、並行する鉄道橋を走っていた貨車の燃料タンクに引火した。3人が死亡した。タス通信によると、橋の一部が崩落した。道路の一部は、爆発から約10時間後に通行が再開した。国民が動揺しないよう復旧を急いだとみられる。
ウクライナ政府当局者は8日、米紙ワシントン・ポストに「ウクライナの情報機関が攻撃に関与した」と述べた。ウクライナの大統領府顧問は8日、関与は明言せずに「クリミア。橋は始まりだ。違法なものはすべて破壊されなければならない」とSNSに投稿した。
クリミア大橋は18年に自動車用の橋、19年には鉄道橋が開通し、プーチン氏が渡り初めをした。ロシアのクリミア支配を象徴する存在でプーチン氏の打撃は大きい。ロシアのメドベージェフ前大統領は7月、ウクライナ軍が大橋を攻撃すれば「ウクライナは『終末の日』を迎える」と核使用をほのめかして警告していた。情勢は今後、緊迫していきそうだ。
●クリミアとロシア結ぶ橋で爆発、3人死亡 供給路に打撃 10/9
ロシアが2014年に併合したウクライナ南部のクリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア大橋で8日早朝、大規模な爆発が発生した。ロシアにとってはウクライナに展開する部隊への重要な供給ルートへの打撃となる。
ロシアの国家反テロ委員会は、午前6時7分に貨物トラックが爆発したと発表。橋の道路部分が2カ所崩壊したが、黒海とアゾフ海を往来する船舶が通る水路にかかるアーチは損傷していないという。画像では道路橋の半分が崩落している。
ロシアのプーチン大統領は、クリミア大橋と半島に電気とガスを供給するインフラの安全強化を指示。また、調査委員会の設置も命じた。
当局によると、爆発で近くを走行していた車に乗っていたとみられる3人が死亡した。また、燃料輸送列車7両も炎上した。
車両の通行道路は爆発から約10時間後に制限付きで再開され、運輸省はその後に鉄道の再開も認めた。
爆発が攻撃かどうかはまだ明らかではないが、ロシアがウクライナの戦況で劣勢に立たされる中、こうした大規模インフラへの被害は作戦が計画通りとするロシアの主張がさらに揺らぐことになる。
ロシアが統治するクリミアのアクショーノフ首長は、半島には1カ月分の燃料と2カ月分以上の食料があると指摘。また「状況は管理可能だ。不愉快だが、致命的ではない」と記者団に述べた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日のビデオ演説で、爆発には言及せず、クリミアは曇っていると指摘。「ただ、どんなに曇っていてもウクライナ人は知っている。私たちの未来は晴れだ。これはわれわれの領土全体、特にクリミアに占領者のいない未来だ」と述べた。
また、ポドリャク大統領顧問は直接の関与には言及せず、これは「始まり」で「違法な物は全て破壊する必要がある」などとツイッターで表明した。さらに、トラックがロシアからクリミアに向かっていたことから、爆発にはロシア人が関与したことを示していると述べた。
クリミア大橋は全長19キロ。クリミアをロシアにつなぐ自動車と鉄道の専用橋で2018年に開通し、開通式にはプーチン大統領も出席した。
●プーチン氏、クリミア橋の警備強化指示 ウクライナは「ロシア関与」示唆 10/9
ロシアのプーチン大統領は8日、同国が2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島とロシア本土をつなぐ自動車・鉄道橋「クリミア橋」で同日爆発が起きたことを受け、橋の警備強化を指示する大統領令に署名した。ロイター通信などが伝えた。
プーチン氏は、半島に電力・天然ガスを供給するインフラの警備も指示。爆発について調べる委員会の設置も命じた。クリミア橋は、ロシア本土からクリミア半島を経由し、先月末にロシアが併合を宣言したウクライナ南部ヘルソン州に至る補給路となっている。
ウクライナのメディアは爆発に関し、情報機関ウクライナ保安局(SBU)が関与したと報道。だがウクライナのポドリャク大統領府顧問はこの後、「爆発したトラックはロシア側から橋に進入していた。答えはロシアで見つけるべきだ」と主張し、ロシアが関係している可能性を示唆した。
ロシア当局によると、爆発で3人が死亡し、橋の一部が崩落したが、被害を免れた部分で車両通行が再開した。
●ノーベル平和賞の人権団体「すべてのウクライナ人のための賞」  10/9
ノーベル平和賞の受賞が決まったウクライナの人権団体の代表が8日、首都キーウで記者会見し、「すべてのウクライナ人のための賞だ」と述べるとともに、ロシアの戦争犯罪を記録するという団体の活動を後押しするものだと期待を示しました。
ことしのノーベル平和賞の受賞が決まったウクライナの人権団体「市民自由センター」のオレクサンドラ・マトイチュク代表が8日、首都キーウで記者会見しました。
このなかでマトイチュク代表は、時折声を詰まらせながら「自由を獲得するために戦っているすべてのウクライナ人のための賞だ」と述べ、受賞の意義を強調しました。
団体はウクライナの人権問題や民主化に取り組み、ことし2月、ロシアがウクライナに軍事侵攻したあとは、ロシア軍が行った疑いのある戦争犯罪を記録するための聞き取り調査を各地で続けています。
マトイチュク代表は「戦争が続いている中でノーベル平和賞を受賞するのは矛盾しているかもしれないが、一方で、これは希望でもある」と述べ、団体の活動を後押しするものだと期待を示しました。 
●ドイツ、ウクライナに追加の兵器供与へ 戦車100両含む 10/9
ドイツ政府は8日、ウクライナにさらに多くの兵器を引き渡すと発表した。防空システム「IRIS―T」に加え、ギリシャやスロバキアから調達した戦車計100両が含まれる。
ランブレヒト独国防相は、安全保障上の脅威が高まっていることを受け同国が新たに装甲歩兵旅団を創設する方針を示した。バルト海のリトアニアに駐留しているドイツ軍部隊を訪れた際に述べた。
この旅団は必要な事態が生じれば、リトアニアへ迅速に派遣されるだろうとも語った。
国防相はまた、北大西洋条約機構(NATO)は防衛力の強化に取り組む必要があるとの認識を表明。厳しい情勢が広がる時代に直面しており、NATOの防衛力の欠落部分を把握することが重要とし、防空面はこの一つであり緊急な行動を起こす必要性を訴えた。
一方、フランスのマクロン大統領は8日までに、ウクライナがフランスの兵器製造企業などから直接、装備品を購入できる1億ユーロ相当の基金を発足させると発表した。チェコの首都プラハで先に開かれたEU指導者の非公式首脳会議後の記者会見で明かした。
ウクライナはこの基金を利用し、侵攻したロシアへの抵抗や抗戦を支えるのに必要な装備などを直接調達できると強調した。
マクロン大統領はこれより前に、ウクライナへ榴弾(りゅうだん)砲「カエサル」を追加供与するとも発表していた。
●クリミア大橋の爆発、焦点はロシアの報復 9月には核兵器を示唆 10/9
ウクライナ南部クリミアとロシアを結ぶ「クリミア大橋」で8日に起きた爆発は、ウクライナ侵攻で行き詰まるロシアの苦境を浮かび上がらせている。ウクライナが戦略拠点を攻撃したとの見方が広がる一方で、ロシアが強硬手段で報復する可能性も取り沙汰されており、緊張の高まりは必至だ。
ゼレンスキー氏「未来は晴れ晴れ」
ロシア当局によると、8日午前6時過ぎにクリミア大橋の車道を走行中のトラックが爆発し、並行して走る貨物列車の燃料タンクに引火して炎上、車道の一部が崩落した。2014年からクリミアを実効支配するロシアの当局は復旧作業を急ぎ、午後4時から一部車道の走行規制を解除し、その後に列車の運行も再開したという。
ロシア国家テロ対策委員会は、爆発したトラックの運転手がクリミアの対岸に位置するロシアのクラスノダール地方に住む男性だったと説明しており、トラックに仕掛けられた爆弾が爆発したともみられている。
ウクライナ側からは爆発への関与を示唆したメッセージが相次ぐ。ゼレンスキー大統領は8日夜のビデオ演説で「今日のクリミアは曇りだったが、我々の未来は晴れ晴れとしている。クリミアなどで占領者を追い払った未来だ」と発言。前日の7日がプーチン露大統領の70歳の誕生日だったことを踏まえ、ウクライナのダニロフ国家安全保障国防会議書記は、橋が爆発する様子とバースデーソングの動画をツイッターに投稿して皮肉った。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は詳細に触れていないが、ウクライナの情報機関が橋を爆破したという同国の政府関係者の話を報道。ソーシャルメディアでは、遠隔操作された船が橋の下まで移動し、積載していた爆発物が爆発した可能性なども取り上げられている。
ロシア「核兵器の使用も辞さない」
クリミアの実効支配を進めてきたロシアは18年から19年にかけて、クリミア大橋の車道と鉄橋を相次いで完成させた。今年2月のウクライナへの軍事侵攻に前後して、軍部隊を大橋経由で移動させて、クリミアをウクライナ南部攻撃の拠点や補給基地としてきた。
一方で8月に入ると、クリミアのロシア軍施設で爆発が相次いで起きたことから、ウクライナが同地の奪還作戦に着手したとの見方が浮上。今回の爆発がウクライナ側の攻撃に起因するならば、ロシア軍の補給路を遮断するだけではなく、クリミア奪還に向けた動きの一環とも言えそうだ。
重要インフラが損壊しながらも、タス通信によると、ロシア国防省は陸路にとどまらず、海路による輸送を続け、ウクライナ南部での軍事作戦の継続に支障を来していないと説明している。8日夜になると、プーチン氏がクリミア大橋やクラスノダール地方のエネルギーインフラなどの警備の強化を命じた大統領令を発令。原因究明と再発防止に取り組む姿勢を前面に出している。
クリミアに続いて、9月末にはウクライナ東・南部4州の「併合」も一方的に宣言したロシアは、自国領とみなす地域が攻撃されれば、核兵器の使用も辞さないとの立場を明示する。特にクリミアが攻撃された場合には、メドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)が7月の時点で、ウクライナが「終末の日を迎える」と直接的な表現で警告していた。
クリミア大橋の爆発後には、ロシア下院のスルツキー国際問題委員長が「ウクライナの関与が確認された場合、我々の対応は厳しいものになる」と表明。今後、ロシア政府が爆発の原因をどう説明して、どのような対抗措置に出るのかが焦点になりそうだ。
ウクライナでの苦戦が続く中、ロシアの省庁間の対立がクリミア大橋の爆発に絡んでいるとも指摘されている。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は8日のツイッターへの投稿で、ロシア軍と対立を深めてきた情報機関の連邦保安庁(FSB)が爆発に関与した疑いが強いとの見解を表明。爆発したトラックがロシアからクリミアに向かっていた点に触れ、「誰が爆発を起こしたのかは明白ではないか?」と書き込んでいる。

 

●爆発は「ウクライナのテロ」 情報機関の仕業―プーチン氏 10/10
ロシアのプーチン大統領は9日、ロシア本土と2014年に併合されたウクライナ南部クリミア半島を結ぶクリミア橋の爆発を「テロ」と断定し、ウクライナの情報機関の仕業だと主張した。10日の安全保障会議を前に、連邦捜査委員会のバストルイキン委員長から報告を受ける中で語った。
8日に起きた爆発についてプーチン氏がコメントするのは初めて。一部でロシアによる自作自演説がささやかれる中、ウクライナ保安局(SBU)が関与したとして非難し、強い対応を打ち出す必要があると判断したもようだ。
●プーチン氏「ウクライナのテロ」 クリミア橋爆発 「報復」激化も 10/10
ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島と露本土を結ぶ「クリミア橋」で8日早朝に起きた爆発で、プーチン露大統領は9日、「ロシアの重要民間インフラの破壊を狙ったウクライナの情報機関によるテロ攻撃であったことは疑いようがない」と述べた。爆発に関し、プーチン氏が自身の認識を示すのは初めて。
クリミア橋はロシアのクリミア支配の象徴としてプーチン氏の肝煎りで建設。ウクライナ南部に展開する露軍部隊の主要な補給路ともなっている。プーチン氏が爆発をウクライナ側のテロだとする認識を示したことで、露軍の「報復」攻撃が激化する可能性がある。
露大統領府によると、プーチン氏は9日、露連邦捜査委員会のバストリキン委員長と面談。バストリキン氏は「ウクライナの情報機関が露国民と外国人の協力を得て、爆発を実行したと判明した」と報告した。プーチン氏は「ウクライナのテロ攻撃だ」と同意した。
一方、プーチン氏の発言に対し、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は9日、同日に南部ザポロジエ州の州都ザポロジエに露軍のミサイル攻撃があり、多数の民間人が死傷したとし、「プーチン氏がウクライナをテロで非難する? あまりにも皮肉だ。どの国がテロ国なのか、世界中が知っている」とツイッターに書き込み、反論した。
同国のゼレンスキー大統領も9日のビデオ声明で「ロシアこそがテロ国家だ」と非難。同日のザポロジエへのミサイル攻撃で少なくとも民間人14人が死亡し、子供11人を含む70人以上が負傷したと発表した。過去1週間にザポロジエへのミサイル攻撃で計43人が死亡したとも述べた。
ゼレンスキー氏は交渉による停戦を求める声が一部にあることについて「世界に問いかけたい。交渉はテロの打破に役立つのか。ロシアのテロを罰することが戦争を終わらせる唯一の道だ」「ウクライナは戦争に勝つ。だがそれには世界の団結が必要だ」と述べ、ロシアをテロ国家に指定し、制裁を強化するよう国際社会に改めて求めた。
●ロシアで報復求める声…誕生日翌日の大橋爆発にプーチン氏はメンツ失う  10/10
ウクライナ南部クリミア半島とロシア本土をつなぐ「クリミア大橋」で8日に発生した爆発を巡り、ロシア国内ではウクライナへの報復を求める声が強まっている。タス通信によると、露大統領報道官は9日、プーチン大統領が安全保障会議を10日に開催することを明らかにした。対応を本格的に検討するとみられる。
守りを強化
露下院のレオニード・スルツキー国際問題委員長は8日、SNSで「ウクライナによる攻撃と確認されれば、対応は強烈でなければならない」と述べた。野党「公正ロシア」のセルゲイ・ミロノフ党首も「特殊軍事作戦」と称する侵略を「戦争状態」に切り替えるべきだと主張し「退路はない。報復の時だ」と訴えた。
メドベージェフ前大統領も7月、クリミア大橋を攻撃されれば核兵器で報復する可能性を示唆していた。
プーチン氏は8日、情報機関に大橋の安全確保を命じる大統領令に署名した。大橋を安全保障上の重要施設と位置付け、「連邦保安局」(FSB)に警備を徹底させるという守りの強化の意味合いが強い。露本土からクリミアに向かう送電線や天然ガスのパイプラインの警備強化の指示も、併せて盛り込まれた。
誕生日翌日
クリミア大橋を巡っては、ウクライナ側は再三、攻撃する可能性を示唆。露メディアは5月、上空や海中など約20種の方法で警戒態勢を敷いているため、攻撃は「不可能だ」と強調していた。プーチン氏の肝いりで建設された大橋の爆発は、70歳の誕生日の翌日に起きた。プーチン氏としてはメンツを失った格好だ。
それでも目に付く慎重姿勢には、クリミア大橋が被害を受けたという防衛上の失態、戦況への影響を内外で過大視されたくないとの思惑があるようだ。安全確保の命を受けたのは、露軍ではなく、テロ対策を担うFSBだ。鉄道橋と自動車道の通行再開も、見切り発車の印象は否めない。鉄道は旅客車両が先行し、自動車道も軍の重装備を輸送するトラックの通行は認められていない。露軍の補給は鉄道への依存度が高いとされており、英国防省は9日、クリミア大橋の輸送量は「大幅に減少する」と指摘した。
クリミア大橋の損傷は、ウクライナ軍の反転攻勢で南部ヘルソン州の占領地を奪還されている露軍にとって中長期的な痛手になる公算が大きい。露軍としては、補給路遮断を重視するウクライナ側が今後もクリミア大橋を標的とすることへの強い警戒感もあるようだ。
●ロシア プーチン大統領 橋爆発をウクライナ側のテロ行為と非難  10/10
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミアとロシアをつなぐ橋で起きた爆発について、プーチン大統領は、ウクライナ側によるテロ行為だとする見方を示し、非難しました。
プーチン大統領は10日に安全保障会議を開催する予定で、事態の一層の緊迫化は避けられない情勢です。
ロシアが8年前に一方的に併合したウクライナ南部のクリミアとロシア南部をつなぐ橋で起きた爆発について、プーチン大統領は9日、重大事件を扱う連邦捜査委員会のバストルイキン委員長から報告を受けました。
この中でプーチン大統領は「ロシアの極めて重要なインフラの破壊をねらったテロ行為であることは疑いの余地がない。計画の立案者であり、実行者で、黒幕でもあるのは、ウクライナの情報機関だ」と述べ、ウクライナ側によるテロ行為だとする見方を示し、非難しました。
また、バストルイキン委員長は、犯行は組織的で、ロシア国内や複数の外国の協力者も関与していると主張しました。
この橋は、一方的に併合したクリミアを自国の領土だと誇示するプーチン政権にとって象徴的な意味を持つ重要インフラで、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍にとって戦略的に重要な補給路でもあり、今回の爆発によってプーチン大統領の威信が傷つけられた形になっています。
ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は、国の安全保障政策を話し合う安全保障会議を10日に開催する予定で、プーチン大統領が、橋の爆発について新たな言及を行う可能性もあり、事態の一層の緊迫化は避けられない情勢です。
ウクライナ大統領府顧問「テロ行為非難はロシアにとって皮肉」
プーチン大統領がウクライナ側によるテロ行為だとする見方を示したことに対して、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は9日、ツイッターへの投稿で「プーチンがウクライナのテロ行為を非難。それはロシアにとって、あまりにも皮肉なことだ。さきほどロシアの航空機はザポリージャの住宅街に12発のミサイルを打ち込み、13人が死亡した」と書き込み、非難されるべきはロシア側だと訴えました。
●軍人事刷新で責任回避図る ウクライナ侵攻の総司令官交代 プーチン 10/10
ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ侵攻を統括する「特別軍事作戦」の総司令官を交代させるなど、軍指導部の人事刷新に着手した。
苦戦が続く中、自身に非難の矛先が向かないよう、事実上の「更迭」で責任回避を図っているとみられる。プーチン氏を支える強硬派はショイグ国防相の解任まで要求しているもようで、戦争遂行をめぐる主導権争いの様相を示してきた。
「総司令官にスロビキン上級大将(航空宇宙軍総司令官)が任命された」。国防省のコナシェンコフ報道官は8日、ショイグ氏の決定として司令官交代を発表した。
侵攻開始から1カ月余りたった4月に総司令官ポストが新設された際、任命されたドボルニコフ上級大将(南部軍管区司令官)の人事は、報道されただけだった。これに対し、後継のスロビキン氏就任は異例の公式発表。人事を公表し、司令官の責任を明確にする狙いがあるとみられる。
9月上旬のウクライナ北東部ハリコフ州からの撤退は、責任をめぐって政界を巻き込む議論を呼んだ。強硬派が勢いづく一方、政権はプーチン氏を守ることに躍起となり、軍の問題として処理するために予備役動員につながった経緯がある。ロシア紙RBK(電子版)によると、同州方面を担当していた西部軍管区と東部軍管区の司令官2人が相次いで交代した。
強硬派は、南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長や、民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏。動員令で徴兵忌避が広がる中、私兵や傭兵(ようへい)を大量動員していることが、発言力の裏付けになっている。英国防省は8日付の戦況報告で、2人が「国防省を一斉に批判」している一方、政権への批判は回避していると分析した。
米シンクタンクの戦争研究所は5日付の分析で、ショイグ氏の解任論に触れつつ、プーチン氏は国防省に責任転嫁し続けるため、当面は更迭に踏み切らないという見通しを示している。
●インドのモディ首相がウクライナ戦争を批判した背景 10/10
9月14〜16日にウズベキスタンのサマルカンドで開かれた上海協力機構の首脳会談で、モディ印首相がプーチンに対し「今は戦争の時代ではない」と述べたことが注目を集めた。モディの発言は、プーチンのウクライナ戦争への苦言であると受け止められている。また、習近平がウクライナ戦争の成り行きへの懸念を示したこともロシア当局は認めている。
2月には中印はプーチンによるウクライナ侵略を非難する国連決議に棄権するなど、両国はプーチンを暗に支持しているように見えた。習近平は、ロシアと中国の友情に「制限」はないと宣言したばかりであった。モディは中立を示してきたが、これはプーチンへの暗黙の支持のように見えた。それだけに、サマルカンドでの首脳会談は、大きな驚きを与えた。
エコノミスト9月22日号の解説記事‘Why Narendra Modi criticised Vladimir Putin in Samarkand’は、モディがサマルカンドでプーチンを批判した背景を解説し、ロシアは友人の気分を損ない、アジアでの影響力を失っている、と述べている。主要点は次の通り。
習もモディもロシアを見捨てようとしているわけではない。両国は西側の制裁下にあるロシア原油の最大の購入者である。インドはロシアの兵器に相当依存している。しかしウクライナで示されたロシアの武器の明らかな短所はインドを心配させているほか、インドは西側からの武器購入を増やしているので、西側を疎外することを避けたいとも思っている。
プーチンの戦争で起こった食料とエネルギー価格の急上昇は習とモディにとり国内的に大きな頭痛である。インドは、ウクライナの民間人への広く記録されているロシアの残虐行為に困惑している。何よりも、強者は敗者を嫌う。プーチンは敗者のように見え始めている。サマルカンドから帰っての予備役招集とウクライナ領の併合の決定は強さではなく、絶望を示す。
モディにはプーチンに異議を唱える今一つの理由がある。インドは中央アジアを経済・安全保障上の利益がかかる隣人と長い間考えてきた。敵対的なパキスタンとタリバン支配のアフガニスタンがインドの役割を地理的に制約してきた。それでインドはロシアにユーラシア・ワゴンをつないで来た。しかしウクライナ戦争は中央アジアでのロシアの卓越した影響力を弱くし、インドの影響力もそれとともに弱まっている。
中央アジアにおける力の空白は、中国によって埋められている。習近平は上海協力機構会合に向かう途次、カザフスタンに立ち寄り、トカエフ大統領にカザフの独立、主権、領土一体性(ロシアが潜在的にそれに挑戦しうる唯一の国である)への中国の支持を再保証した。

この解説記事は、インドのモディがウクライナ戦争についてプーチンに「今は戦争の時代ではない」と説教した背景を的確に説明している。
インドは中央アジアを重視し、ロシアと提携することで中央アジアでの影響力を保持してきたが、ウクライナ戦争でロシアは中央アジアでの支配力を弱めている。ウクライナ戦争の前夜、ロシアはウクライナのルハンスク、ドネツクの二つの人民共和国を独立国として承認した。カザフスタンは自国北部にロシア人居住地があるので、そこが分離独立することを警戒し、ロシアのルハンスク、ドネツクの独立承認に反対している。
ロシアでは、クレムリン寄りのコメンテーターが、1月にクーデタからトカエフをロシアが救い出したのに、トカエフはウクライナでロシアを支持せず忠誠心に欠けると非難している由である。
中国がその状況を見て、カザフスタンに主権、独立、領土一体性の保証を約束し、影響力を強めている。経済的には一帯一路により、中国の影響力はすでに強い。インドにとって、中国は地政学上の最大のライバルである。
中国とは、中印国境で衝突したばかりであり、中国が中央アジアで影響力を強めることは歓迎できないと考えていることは明らかである。インドは、中央アジア政策をロシアとの提携を中心に構築してきたが、その見直しが必要になっている。ロシアの中央アジアでの支配力の弱まりは、キルギスタンとタジキスタンの間で最近武力衝突が起きてきていることにもみられる。ロシアによる抑えが効かなくなっている。
こうした状況を見ると、西側諸国は中央アジアの情勢にそれなりの注意を払う必要があるように思われる。
●ウクライナ 最後のチャンスにかけた外国人義勇兵たち 10/10
ゼレンスキー大統領の呼びかけを受け、ウクライナには外国人義勇兵が押し寄せた。彼らは、道徳的な怒りや冒険への渇望、贖罪の心など、さまざまな動機に突き動かされていた。
キーウにある独立広場近くの薄暗いバーのブースで、ハイネケンを飲んでいたのは、頭を丸刈りにした痩せたアメリカ人、マイケル・ヤング(36)だった。外の通りは4月の霧雨でぬかるみ、寒々しい。ヤングは数週間前に米オレゴン州ポートランドからウクライナにやって来た。ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍を撃退しようと、戦地に殺到する何千人もの義勇兵に加わるためだ。戦争が始まって2カ月足らずだったが、ウクライナ領土防衛部隊外国人軍団(以後、外国人軍団)の隊列は急速に兵士の数を増やしていた。最近攻撃に遭い、殺されたと言われている部隊が、じつは自分の部隊と合流する予定だったと知ったヤングは、危険が徐々に近づいてくるのを実感していた。
「現実味を帯びてきましたね」。15年前に、イラクやアフガニスタンで戦わないまま米海兵隊を除隊後ずっと、戦闘任務に就くことを願っていた彼は言った。2月にウクライナが侵攻された直後、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、外国人義勇兵たちに戦闘への参加を呼びかけた。「これはヨーロッパに対する戦争の始まりであり、民主主義と平和的共存に対する戦いです」。そして、義勇兵を訓練し、派遣する外国人軍団の編成を発表した。ヤングはそれに応えたわけだが、戦いに参加する道のりは容易ではなかった。最初は外国人軍団への入隊を検討していたが、結局3月にジョージア軍団に入隊した。ドンバスでロシア軍との戦闘が始まった2014年に、ジョージア人のマムカ・マムラシビリ司令官(44)が創設した1100人以上の男女からなる大隊だ。アメリカ人やイギリス人の外国人義勇兵が少数いるが、大半は2008年に同じくロシアに侵攻されたジョージアからの義勇兵だ。しかし、ヤングはすぐにジョージア軍団を離れ、2人のアメリカ人とともに、より迅速な展開が期待できる部隊に入隊した。求めていた戦闘はまだ目にしていなかったが、与えられた任務をこなせば、少しずつ近づけるように思えたのだ。
その日の朝は、南東560kmほど先のバフムートにいる部隊に、防弾チョッキやヘルメット、タバコなどを届ける任務から戻ったばかりだった。次に自分がどこへ行くのかは漠然としかわからなかったが、指揮官からは「戦闘準備はできている」とみなされているので、近いうちに東へ長期間送られるだろうと期待していた。ヤングと一緒にブースに座っていたのは、ジョージア軍団を同時に辞めた2人のアメリカ人だった。3人は、近くのホテルに泊まっていた。元アメリカ海兵隊員のマーク・ワトソン(27)は、カリフォルニア州出身のソフトウェア開発者で、眠そうな目をした細身で寡黙な男だ。ウクライナで生まれ、6歳の時に両親とアメリカに移住した。軍隊では歩兵部隊としてフィリピンに、海兵隊の対テロ部隊(FAST)としてイスラエルに派遣されたことがある。ウクライナ語を少し話し、キーウ近郊にはまだ家族が住んでいて、戦争で戦っている親戚もいる。もう1人はあごひげを生やしたダラス・ケーシー(28)で、ハスキーな声でよく話す温厚な男だ。アメリカ陸軍の衛生兵として従軍した後、イスラエルではトリプル・キャノピーという警備グループに所属して政府高官の警護に当たった。現在はソルトレイクシティのIT企業に勤めており、医学部への進学を考えていたが、ロシアが侵攻するや否や、いてもたってもいられずウクライナ行きを決意した。
バーにいたのはこの3人組だけではなかった──ここは、さまざまな民兵部隊に所属する外国人戦闘員のたまり場なのだ。ワトソンは、ビールを飲んでいるほかの男たちに目をやった。「入隊できる軍団には、右派セクターのような、よくわからないものもあるんですよ」。2013年の終わり、当時大統領だったビクトル・ヤヌコビッチへの抗議デモの最中に生まれた、準軍事組織の傘下にある超国家主義団体のことで、機動隊と戦い、ヤヌコビッチを権力者の座から引きずり下ろすのに一役買った。3人が所属する部隊には、危険好きな者、右翼の国家主義者、日和見主義者、良い戦争≠望む善良な者など、さまざまな動機と個性をもつ人間がいた。なかにはヤングのように、道徳的な怒り、冒険への渇望、贖罪の心など、簡単には理解できないような動機に突き動かされた者も。彼らは、故郷から遠く離れた土地で繰り広げられる悲惨な戦闘が、目前に迫るところまで着実に進んできた。そして、さらに深く入り込んでいくことになる。
52カ国から2万人の義勇兵
ロシア軍の侵攻から3日後、ゼレンスキー大統領は世界に支援を訴えた。ウクライナ軍の現役兵士は19万6000人と相当の数がいるが、ロシアの90万人には遠く及ばない。敵を食い止めるにはより兵力が必要だということだろう。「防衛に参加したい人は誰でも、ウクライナに来て、ともにロシアの戦犯者たちと戦いましょう」という呼びかけは、1936年にスペイン内戦が勃発した際、共和党軍が、65カ国から集まった約3万5000人の義勇兵の助けを借りてフランシスコ・フランコ将軍が企てたクーデターを撃退したのを思い起こさせる。
実際にウクライナに何人やってきて、そのうち何人がすぐ帰国したのかは定かではないが、外国人軍団編成の発表から1週間後、ウクライナ政府は52カ国から2万人が志願したと公表した。にもかかわらず、国際社会はゼレンスキー大統領の訴えに対して、一貫した反応を示さなかった。ラトビアやリトアニアなど旧ソ連の弱小国を含む数カ国の政府が、義勇兵を正式に認めたいっぽうで、オーストラリアでは、当時の首相スコット・モリソンが、国民にウクライナへの渡航を控えるよう促し、紛争で戦うことは、場合によっては違法にあたると警告した。イギリスのリズ・トラス外相は、ウクライナで義勇兵となったイギリス人を、「確実に」支持すると述べていたが、翌日、すぐボリス・ジョンソン首相に否定された。翌週、同首相は、ウクライナに行ったイギリス人兵士は軍法会議にかけられるだろうと述べ、イギリス政府は、帰国後、民間人が訴追される可能性があると警告した。アメリカ国務省は米国民に対し、ウクライナへは渡航しないよう警告しているが、義勇兵になることの合法性については確固たる声明を出していない。
戦場で外国人兵士が捕虜になる危険性もある。ロシア国防省の広報担当者は、外国人兵士は戦闘員ではなく傭兵であるため、捕虜の拷問や処刑を禁じるジュネーブ条約では保護されないと明言し「犯罪者として訴追される可能性がある」と述べた。ほかにも、義勇兵の逆風となるような動きがあった。外国人軍団が発表された翌日、ウクライナ大使館の複数のウェブサイトがサイバー攻撃を受けた。ノルウェー警察はオスロの大使館をハッキングしたのはロシア人だったと断言した。しかし、こうした圧力も、義勇兵たちの闘志は止められなかったようだ。
彼らは暗号化メッセージアプリのSignalやTelegram、WhatsAppを使って、ウクライナや隣国ポーランドにいる仲介者に直接連絡している─軍事品のロジスティクスなど、役立つ情報を共有する非公式ネットワークができているのだ。待ち合わせ場所、補給物資のリスト、紛争地域の現状───世界の裏側で行われている戦争に参戦するのに必要な情報は全部、簡単に志願者たちの手に渡った。
また3月、アメリカの反政府過激派グループ「ブーガルー・ボーイズ」のメンバーだったとされるヘンリー・ヘフト(28)は、ウクライナに渡り、ジョージア軍団に志願した。しかし数日後「武器も装備も装甲板もない状態で」外国人たちがキーウに送られ、拒否すると司令官が「背中を撃つぞ」と脅してきたと自ら訴える動画をネット上に投稿した。ジョージア軍団の義勇兵は、これを「まったくの虚偽」とし、ヘフトは軍団の審査に合格できなかったことに反応していると主張する動画をジャーナリストに提供した。
軍団創設者のマムラシビリ(総合格闘家で、アブハジア紛争と第1次チェチェン紛争を経験した退役軍人)は、彼が除籍されたのは、面接の際に過激派運動との関係が疑われたからだと反論した。しかしヘフトの動画が多くの志願者を不安にさせたのは間違いなかった。さらに、3月にロシアの巡航ミサイルがヤヴォリウの国際平和維持・安全保障センター(約1000人の軍人が訓練を受けていた)を攻撃すると、ロシア国防省はこの攻撃で最大180人の「外国人傭兵」が死亡したと主張したが、ウクライナ側は、死亡者数は35人で、外国人は1人もいなかったと断言した。
入隊に「審査なんてない」
義勇兵の間ではすぐに、ネットでの投稿がロシア軍の攻撃に一役買ったのではないかとの憶測が広がった。名字を伏せたうえで話を聞かせてくれたスコッティ(37)は、スコットランドのグラスゴー出身で、侵攻前はイギリスの空港警備会社で即席爆発装置(IED)の専門家として働いていた。外国人軍団に加わり、キーウの新しい拠点に派遣されたが、その場所もTikTokなどに不用意に居場所を明かした新兵のせいで、危険が及んだと言う。「突然警報が鳴って、逃げる準備をしていたら、迫撃砲が降ってきました。医療機器や防弾チョッキなどの装備は置いていくしかなかった。中に戻るのは危険すぎました」。この攻撃で負傷者は出なかったが、もう少しで大惨事となるところだった。
その後、スコッティは外国人軍団を辞め、ジョージア軍団の一員となった。警備を強化している彼らは、新兵から携帯電話を3日間取り上げ、訓練期間中は位置情報サービスをオフにするのを義務付け、違反した者は誰でも除籍させられるそうだ。SNSやメッセージツールは、戦闘地域においては貴重なリソースにもなっている。私はSignalのなかでも、イギリス人の戦闘経験者が始めた大きなグループに招待された。戦闘に参加する外国人にとって、入門書のように利用されているこのグループのチャットでは、様々な国から来た義勇兵が情報交換をしていた。ポーランドの良きサマリア人≠ニいうIDの人物は、ワルシャワとリヴィウ間の運び屋になると申し出ており、最新のバスと列車の時刻表や道路状況などを教えていた。給料の話も出た──あるアメリカ人は、どこかの外国人部隊での給料が月3500ドルだと聞いて喜んでいたが、1カ月後、ウクライナの通貨・フリヴニャでもらった給料は118ドルほどにしかならなかったという。
このグループは、ウクライナで外国人戦闘員を受け入れている集団の道しるべとなっていた。そのなかには、以前はアメリカ特殊作戦軍の司令官だったアンディ・ミルバーンが、狂信的な親プーチン派の傭兵組織「ワグナー・グループ」と対抗するかのように設立した「モーツァルト・グループ」などがある。また、極右の派閥もあり、もっとも名高い「アゾフ連隊」は、2014年のドンバス戦争の間に準軍事部隊として発足し、ネオナチ思想との関連があるにもかかわらず、ウクライナ軍に編入された。こうした過去の影がまだ残ってはいるが、アゾフ連隊はここ数カ月でそのイメージを一掃しており、今年の春には、マリウポリにある廃墟のアゾフスタリ製鉄所のなかからロシア軍を数週間食い止めたことで、世界的な注目を集めた。
もし、当初の2万人近い志願者が外国人軍団に入ったとすると、ウクライナの外国人軍団としては最大規模になる。しかし少なくとも当初は、兵士の質にムラがあると言われていたと、イギリス人のマシュー・ロビンソン(40)は言う。イラク戦争でケロッグ・ブラウン・アンド・ルートの請負業者として働いていた彼は、参戦するために3月に早期退職した。「不当なイラク戦争に参加してしまった償いを、ずっとしたいと思っていました」。その後、ポーランドに飛び、空港の新兵募集ブースで外国人軍団に登録した。しかしウクライナ入りする前からすでに、軍団の義勇兵たちの資質に疑問を感じていた。ウクライナに向かうバスのなかで、酔った義勇兵がリュックからナイフを取り出して運転手を襲い、車両を乗っ取ろうとしたのだ。そこで彼は、外国人軍団を辞めてジョージア軍団に入り、司令官に昇進した。
ほかにも、「外国人軍団は『不安定』な人間ばかりで、『アンフェタミンやテストステロンやステロイド、隠れて戦場に持ち込んだドラッグでハイになっていた』」とFacebookに投稿した義勇兵もいた。ロビンソンは、自分が志願した当時の外国人軍団について、「審査なんてないですよ」と教えてくれた。「『戦いたい』と言えば、経験もない人たちをすぐに戦場に送り出すのですから」
それとは違う不満を口にする義勇兵もいた。ロシア軍の戦車と戦うためにすぐに派遣されると思ってウクライナに来たのに、弾薬不足を理由に、前線行きを延々と待たされているというのだ。外国人軍団の広報担当者で、ノルウェー出身の弁護士でもあるダミアン・マグルー伍長は、これまで軍団に問題があったことを公に認めている。
そして4月にはワシントン・ポスト紙に「スタートアップのようなものですよ。やりながら学んでいきます」と答えている。ジョージア軍団のマムラシビリに尋ねると、義勇兵の戦闘準備ができているかどうかを確認するのに、新入隊員には3週間の待機期間を課しているという答えが返ってきた。「彼らは経験がなくても、到着して2日後には武器を持って前線に出ていきたいと思っています。でも私は『これは戦争だ。大勢の人が死んでいるんだぞ。準備は万全にしておいたほうが身のためだ』と言っています」
前述したマイケル・ヤングは、ある意味で誰よりも長い間、前線で戦う日が来るのを待っていた。2004年、高校2年生の時に起きたアメリカ同時多発テロ(9.11)事件をきっかけに米軍に入隊した彼は、ライフル射撃を覚え、FASTに所属し、3カ月間グアンタナモ基地の周辺警備にあたるなど、海兵隊員としての経験を積んだ。しかし2006年、「精神的な問題」に苦しむようになり、翌年に名誉除隊となった。このせいで復員軍人援護法による学費援助は受けられず、働きながらワシントン州立大学を卒業し、心理学の学位を取得すると、その後は仕事を転々とした。ウクライナ侵攻のニュースを聞いた時には、アイダホ・パンハンドル国有林で樹木管理の仕事をしていた。ロシア軍の侵攻がヤングに大きな影響を与えたのは、12歳の時、海軍を退役後にペンテコステ派の宣教師となった父親に連れられて、一家でワシントンからラトビアに移住したことにも起因する。旧ソ連邦の国々に長年ある、ロシアの権威主義への恐怖を理解した彼はこう誓ったのだ。「もし東欧で何か起きたら、助けにいく」と。
ジョージア軍団に入った後、ヤングは自分の動機と限界について思いを巡らせた。「危険や冒険に惹かれる自分がいます。それに、軍隊での経歴をあんな形で終わらせたのを償いたいと思う自分も」。また彼は、他の退役軍人から「米軍ではできなかった経験を積むためにウクライナに行く」ような戦士気取りのひとりだと揶揄されるのを恐れていた。でもいちばん気にしていたのは、指揮官たちに戦闘資格がないと言われることだった。「どこに行っても、『出ていけ、お前は気に食わない、お前なんていらない』と言われそうで不安なんです」
空襲警報が鳴り響くリヴィウ
3月に私がヤングと会ったのは、ポーランドのクラクフ中心部にあるホテルのロビーだった。ウクライナ行きのバスに彼が乗り込む数時間前のことだ。マーク・ワトソンが一緒だった。Signalを通じて知り合った2人は、一緒に戦地に向かうことにしたのだ。午前2時、底冷えのする車両に乗り込むと、バスはガタガタと音を立てながら、暗闇の中を東に向かっていった。乗車していた約20人はほとんど居眠りをはじめたが、ヤングとワトソンはたわいもない会話をしていた。冗談を言いながらもワトソンは、今後を想像して暗い気持ちになっているようだった。「戦場に着いて5分後には殺されているかもしれないし、何カ月いても何も起こらないかもしれない」
午前6時、太陽が地平線上に顔を出すと、空はオレンジ色と深紅色に染まった。夜明けの薄明かりのなか、霞がかかっている。国境検問所でポーランド人の入国審査官が乗り込んできてパスポートの手続きをすると、バスはリヴィウへと進んでいった。高速道路からは、セメントブロックでできた家々の上に、金色のドームが施された教会がそびえ立つのが見えた。砂袋を積み上げて作った検問所を通り過ぎると、ボロボロのウクライナの旗や、火炎瓶の入った木箱、「ロシア軍艦よ、くたばれ」と書かれた横断幕が見えた。リヴィウ中心部にくると、ヤングはジョージア軍団の担当者とWhatsAppでメッセージを交換しはじめ、大きな駅の前で2人はバスを降り、Googleマップを見ながら合流地点に向かった。数分後、彼らの仲介者ボーダン・ソロンコがジーンズ姿で現れた。
連日、空襲警報が鳴り響くリヴィウでは、住人はみな避難し、警報が解除されるまで何時間も待たされていた。「訓練所が攻撃された日は、夜中の2時から朝の7時まで警報が鳴り響いていましたよ」と言うと、彼は新入隊員の2人に、忍耐の大切さを説いた。防空壕に避難していた人々の多くが、しびれを切らして外に出てしまったが、そのほとんどが殺されたそうだ。その数時間後、また空襲警報が発令された。私が滞在していたホテルの3階の部屋からも、爆発音が2回聞こえ、約5キロ離れた燃料貯蔵庫から黒い煙がリヴィウ中心部に向かって流れてくるのが見えた。リヴィウ郊外の軍事基地で、ウクライナ軍の予備軍であるウクライナ領土防衛隊の隊員たちと、イギリス人やアメリカ人、数名のポーランド人やルーマニア人、フランス人、ノルウェー人など約20人の外国人の見習い戦闘員と一緒に、武器を持たないまま訓練をしていたヤングとワトソンは、警報を聞いて地下室に避難した。ヤングは、「1日に4回も空襲がある」と友人や家族にメールで伝えた。「最初は午前3時。気管支炎の男性を病院に連れて行こうとしていたんだけど、彼は今も俺らと一緒にシェルターにいる。プーチンはクソ野郎だ。はらわたが煮えくり返るね」
その後の彼は、さらに不満をつのらせていく。最初はジョージア軍団の慎重さに感心していたが、今ではいつになっても戦場に近づけないのではないかと不安を感じ始めたのだ。4月中旬には、私に「正直に言って、なんで俺たちに来てくれって言ったのかわからないですよ」というメッセージを送ってきた。その1週間後、マムラシビリとジョージア軍団の最高司令官は、新兵募集を中止し、まともな戦闘経験のない外国人志願者は前線での戦闘に加わらないように勧告した。武器不足もあり、外国人戦闘員を雇うのは、基本的な軍事技術をウクライナ領土防衛隊員たちに教えるためとするのが最善だと考えている、という説明にヤングたちは、そんなことのために入隊したのではない、という思いでいっぱいだった。数日後、ヤングは私に、3人で軍団を離れて、外国人義勇兵から成る前線への物資輸送や負傷者の救助に従事する小さな無所属の集団と合流することになったと教えてくれた。戦場の片隅で雑用に追われるようなものだったが、それでも彼らにとっては前進だった。しかしそこから彼らの日常に、新たな危険がはびこるようになる。キーウで3人に会った時、ケーシーはこう言っていた。「負傷した兵士の救出がかなり多いですね。でも、難しいです。いまだに武器を持たされていないのに、命がけの任務になるかもしれないですから。車両に乗った数人の兵士が、前線に向かう途中で殺されたこともありました」
危険はさらに差し迫っているようだった。それから数日後、イギリス人のエイデン・アスリンとショーン・ピナー、モロッコ人のブラヒム・サードゥンが、ウクライナ軍とともに戦っている間に捕らえられたのだ。ドネツク人民共和国当局を自称する人物たちが、3人を傭兵として起訴すると声明を出したため、ジュネーブ条約が戦争捕虜に約束する保護を与えなかった。数週間後、捕虜たちは見世物裁判にかけられ、死刑を宣告された(イギリス政府はこの判決を食い止めようとしている)。そして4月28日、3月にウクライナ軍とともに戦ったテネシー州出身の刑務官ウィリー・ジョセフ・キャンセル(22)の死亡が報告された。ウクライナの戦闘で死亡が確認された最初のアメリカ人だった。ヤングは友人や家族には勇ましい態度で話していたが、不安を抱いているのは明らかだった。「ここで音信不通になるかもしれない──2週間か、それ以上。連絡がなくても慌てないでくれ」
信じるべき大義
ヤング、ワトソン、ケーシーは、軍需物資の運搬や負傷者の救出など、前線との行き来に何週間も費やしたあと、新たな任務についた。援助団体のロード・トゥ・リリーフと連携して、ポーランド製の救急車やバンを手に入れ、5月末にはほぼ毎日、プリヴィリアやセヴェロドネツクなどのルハンスク州の町(当時ウクライナ軍が支配していたが、ロシア軍の機動部隊に潜入されていた)へ車を走らせた。彼らが活動する地域には、ほとんど人がいなかった。砲撃で負傷し、自力で移動できないほど弱りきった親ウクライナの市民と、外国から来た慈善家ぶった人間を敵対視する親ロシアの分離主義者が散在していた。しばしば罵声を浴びせられ、「失せろ」と言われたこともあったそうだ。「『俺たちはロシア軍が解放してくれるのを待っているんだ。おまえらは信用ならない。ロシア軍が来れば、もっといい暮らしができる』と言われました」とヤングは言った。
間近で見た戦争は、まさに予想を裏切るものだった。ある日曜の朝、ヤングは救急車のハンドルを握ってセベロドネツクに向かった。橋を渡って街に入ると、不気味なほど人の気配がなく、通りにはクレーターの跡や切れた電線があり、道路にはロシア軍の不発弾が埋まっていた。数百メートル先で発射されたミサイルの振動が伝わってきたという。彼は、地下シェルターに案内された。階段を下りて暗いトンネルに入り、金属製のドアを開けると、汗や腐食の悪臭がした。空気の通らない2つの部屋では、弱いランプの光に照らされながら、数十人がマットレスや段ボールに横たわっていた。特に子どもたちの咳や、ゼーゼーという音が充満している。シェルターの責任者は、マットレスの上でほとんど意識のないまま、浅い呼吸をしている老女を指さし、今すぐ助け出さなければ、一晩もたないと言った。ヤングは、女性を連れてクラマトルスクの病院に行った。数日後に主治医から、彼女が一命を取り留めたと知らされて胸を撫で下ろした。比較的単純な任務だったが、疑心暗鬼に陥っていた時期だったこともあり、たしかな達成感があった。
ウクライナに滞在して3カ月が経とうとしているが、彼はいまだに自信のなさに時折悩まされるという。しかし今回の戦争では、少人数の義勇兵グループのリーダーとして頭角を現すことができた。「僕は父親のような存在ですかね。みんなを正気に保って、集中させる。それがここでの僕の役割です」この話を聞いた翌日、ロシア軍の侵攻によって、避難活動の際にヤングが渡ったセベロドネツクの橋が爆破された。約56キロ先の検問所からでも、街の上にあがった煙の輪が見えるほどで、ウクライナ軍は余儀なく撤退した。ヤングからのメッセージには「いったん身を引くことにした」と書かれていた。ドンバスの戦いが激化するにつれ、ほかの外国人志願兵たちにも危険は迫りつつあった。
6月初旬、アメリカ出身の退役軍人2人が、ハルキウ郊外での小戦で、ロシア軍に支援されている分離主義者たちに捕まり、拘束されたと報じられた。また同じ週に米国務省は、4月から行方不明になっていると見られるアメリカ人義勇兵の名前を公表した。今のところ、ヤングたちの活動は人道支援に限られているが、騒然とした紛争地域の至るところに危険が潜んでいるのを痛感しているという。
たとえば、ケーシーとワトソンは、6月にクラマトルスク市内を走行中、榴弾砲を牽引している軍用トラックを避けようとハンドルを切り、車を電柱に激突させた。2人とも負傷し、ドニプロで治療を受けた。皮肉にも戦闘とは関係ない負傷だったが、彼らはこんな経験を戦地でするとは思ってもいなかった。しかしよく考えてみれば、起こるかもしれないと想像していたことは、実際にはほとんど起きていなかった。それでも、ヤングは長期滞在を希望していて、3年間ウクライナ軍に入隊できないか司令官に打診したという。戦争で戦いたかっただけの以前とは違い、今では信じるべき大義のようなものを見出していた。彼のFacebookの投稿にはこう書かれている。「まさに今、やりたいことをやれている」
●米高官、原油減産「プーチン氏に恩恵」と批判 10/10
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は9日、米MSNBCのインタビューで、主要産油国が5日に決めた減産がロシアのプーチン大統領に「恩恵をもたらすのは明らかだ」と述べた。「無謀な決定だ」と批判し、中低所得国を苦しめるだけだと断言した。
石油輸出国機構(OPEC)やロシアなど非加盟の産油国で構成される「OPECプラス」は5日、11月に日量200万バレルの減産を決めた。米国で再びガソリン価格の高騰につながる可能性があり、11月8日に中間選挙を控えるバイデン政権は決定に「失望」を表明した。
カービー氏は「石油収入で利益を上げ続けたいロシアは世界市場の供給量をコントロールしたいと考えている」と指摘。これまで米国が他の消費国とともに石油戦略備蓄を協調放出したことに触れ「バイデン大統領は今後も需給バランスを調整し(原油価格の安定に向けて)できる限りの努力を続ける」とも話した。
ウクライナ南部のクリミア半島とロシアを結ぶクリミア橋で8日、爆発が発生し一部が崩落した。橋はロシアが2014年に同半島の併合を一方的に宣言した後で建設し、18年に開通した。
カービー氏は「ロシアがウクライナ南部での作戦のための供給拠点として使用してきた」と強調。「ロシアを混乱させるのは間違いない」と表明した。
プーチン氏が核兵器の使用も辞さない構えを示していることに関しては「(核の脅威は)深刻だ。その言及を真剣に受け止めなければならない」と明言した。「米国はできる限り監視している。(現時点で)核兵器の使用を決断した兆候はない」と改めて説明した。 
●プーチン氏、報復攻撃を発表 橋爆発は「ウクライナのテロ」 10/10
ロシアのプーチン大統領は10日、ロシア本土と2014年に併合されたウクライナ南部クリミア半島を結ぶクリミア橋の爆発を受けて安全保障会議を開き、ウクライナの「エネルギー・軍事・通信施設」を長距離ミサイルで同日攻撃したと発表した。「テロが続けば、報復はより厳しく、脅威のレベルに応じたものになる」と強く警告し、あらゆる兵器の使用を示唆した。
プーチン氏は9日、クリミア橋の爆発を「テロ」と断定し、ウクライナの情報機関の仕業だと主張。一部でロシアによる自作自演説がささやかれる中、ウクライナ保安局(SBU)が関与したとして非難し、強い対応を打ち出す必要があると判断したもようだ。
ロシア国営テレビは10日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)への攻撃をトップニュースで異例の報道。「SBUが所在する通り」を現場の一つに挙げ、報復であることを印象付けた。
●プーチン氏、エネルギー施設攻撃認める 「厳しい」報復警告 10/10
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は10日、ウクライナ各地の都市にミサイル攻撃を行ったことを認め、今後もウクライナが攻撃を続けるならば、さらに「厳しい」報復を行うと警告した。
同日の攻撃では、少なくとも5人が死亡。各地のエネルギー施設が被害を受けた。
安全保障会議に出席したプーチン氏は「けさ、国防省の助言と参謀本部の計画に基づき、高精度の長距離兵器でウクライナのエネルギー施設、軍指令部、通信施設に大規模な攻撃を行った」と述べた。
また、「(ウクライナの攻撃を)放置することはできなかった。もし攻撃が続くなら、ロシアの対応は、脅威のレベルに応じた厳しいものになるだろう」とし、今回の空爆が報復だったことを示唆した。この発言は、テレビ中継された。
●ザポリッジャ市にミサイル、13人死亡 「ロシアが攻撃」とウクライナ 10/10
ウクライナ南東部ザポリッジャ市で9日、ロシアのミサイル攻撃があり、少なくとも13人が死亡、数十人が負傷した。ウクライナ当局が説明した。他方、国際原子力機関(IAEA)によると、ザポリッジャ原発の外部電源は復旧したという。
ザポリッジャ州のウクライナ側の知事、オレクサンドル・スタルク氏によると、ロシアのミサイル12発によって9階建てのビルの一部が破壊され、集合住宅5棟が崩壊した。
同氏は「がれきの下にはもっと多くの人がいるかもしれない。現場で救助活動が行われている。これまでに8人が救出された」と通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
BBCのポール・アダムス記者は、攻撃を受けた建物は明らかに軍事目標ではなく、攻撃は完全に無差別だったと様子だと伝えた。
ザポリッジャ市はウクライナの管理下にある。だが、ロシアは先月、同市のあるザポリッジャ州を含め、4州の併合を発表した。
ゼレンスキー大統領が激しく非難
ザポリッジャ市はここ数週間、繰り返し攻撃を受けている。ロシア軍は、ウクライナの南部と北東部で敗れた後、都市部で反撃に出ている。
同市と周辺では、この9日間で住民60人以上が死亡したとされる。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、今回の砲撃を、「平和な人々が再び無慈悲に攻撃された」と非難。
「この上なく下劣だ。この上なく邪悪だ。野蛮人で、テロリストだ。命令を出した者から、命令を実行した全員までがそうだ。誰もが責任を負うことになる。絶対にだ。法の下で、そして大勢の前で」と述べた。
ロシアは侵攻初期から、ザポリッジャ州の一部を支配している。ザポリッジャ市から約52キロメートル離れた原子力発電所も、ロシアが占拠している。
住民たちの証言
今回の砲撃の生存者たちは、爆発で目を覚ました状況を振り返った。
住民の女性は、部屋中に煙が充満したため、家族とともに風呂場に逃げ込んだとAFP通信に述べた。やっとのことで外の通りに出ると、隣人が「夫が死んだ」と叫んでいたという。
別の女性(38)は、「ものすごい音」の爆発で自宅ドアが「完全に破壊」されたと証言。慌てて子どもたちを起こし、安全な場所に移動させたとロイター通信に話した。
この女性の息子(10)は、叫び声で目を覚ましたと言い、ミサイル攻撃は「恐ろしかった」と話した。
原発の外部電源が復旧
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は9日、砲撃を受けて外部電源と断絶していたザポリッジャ原発について、再び送電線が接続されたとツイッターに投稿した。
グロッシ氏は、「いまだ安全維持が困難な状況で、一時的な安心が得られた」とした。
同氏はまた、原発周辺の保護区域を支持するよう、ロシアとウクライナに求めるとした。双方は7日夜にあった砲撃について、互いを非難している。
一方、クリミア半島とロシアを結ぶ橋で8日に起きた爆発をめぐって、ロシアのダイバーが精密な調査を始めている。
爆発では橋の一部が崩落。道路部分の1車線のみ、通行が再開されている。警備は強化されている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナによる「テロ」と非難。徹底的な調査を命じている。
●ベラルーシ、ロシアと合同部隊配備へ ウクライナの「攻撃計画」非難 10/10
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領は10日、ウクライナがベラルーシへの攻撃を準備していると主張し、ロシアと合同部隊を配備することで合意したと明らかにした。
国営ベルタ(Belta)通信によると、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の盟友であるルカシェンコ氏は「ウクライナはベラルーシの領土への攻撃を議論するだけでなく、計画している」と発言。「ロシア連邦とベラルーシ共和国の地域的な合同部隊を配備することで合意した」と述べた。
合同部隊の編制は2日前に始まったとしているが、この部隊がどこに配備されるかは明言しなかった。
ルカシェンコ氏はまた、「事態をエスカレートさせることなく、理解してほしい。平和を望むなら、戦争に備える必要がある。常にだ」「われわれを戦いに引きずり込もうとする、あらゆる種類の悪党に、対抗する計画を前もって立てておかなければならない」と訴え、「ベラルーシの領土で戦争があってはならない」と付け加えた。
●キーウなどウクライナ各地へ砲撃、全国で約70人死傷 電力施設も被害 10/10
ウクライナの首都キーウで10日午前8時過ぎから、複数の砲撃と爆発が相次いだ。ウクライナ当局によると、少なくとも民間人11人が死亡し、60人が負傷した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、キーウのほかにも、南東部ザポリッジャ、北東部ハルキウ、中部ドニプロ、西部リヴィウなどで、電力施設が攻撃されたと明らかにした。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は同日、砲撃を認めた。
ウクライナの緊急事態庁によると、ロシアの砲撃で少なくとも11人が死亡した。そのうち8人はキーウで死亡したという。さらにウクライナの国家警察によると、全国で約60人が負傷した。
キーウで取材するBBCのヒューゴ・バチェガ記者によると、午後4時過ぎにも空襲警報が市内で響いたという。
プーチン氏、砲撃認める
ロシアのプーチン大統領は同日午後1時すぎ、ウクライナの複数の標的を長距離ミサイルで砲撃したことを認めた。
プーチン氏はビデオ演説で、長距離ミサイルでエネルギー、軍事、通信施設を破壊したと述べ、ロシア領土へこれ以上「テロ行為」が続けば、「厳しく」反応すると述べた。
8日朝には、ロシア本土と同国が併合したクリミア半島をつなぐ橋で爆発があった。プーチン大統領は9日、ウクライナによる「テロ行為」だと非難していた。
プーチン氏は橋での爆発について、「これがロシアの重要な公共インフラの破壊を狙ったテロ行為であることに疑いはない」と述べ、「立案し、実行し、利益を得るのは、ウクライナの保安当局だ」としていた。
プーチン氏は10日のうちにロシア連邦安全保障会議を招集し、クリミア橋での爆発について協議する見通し。
83発のうち43発以上は撃墜とウクライナ軍
ウクライナ内務省のロスティスラフ・スミルノフ顧問は、キーウへの攻撃で民間人8人が死亡し24人が負傷したと、フェイスブックに書いた。攻撃で車両6台が炎上し、15台が破損したという。
ウクライナ軍は、ロシアが朝からこれまでにミサイル83発をウクライナに向けて発射したものの、そのうち43発以上を防空システムで撃墜したと明らかにした。空軍のユーリ・イーナト報道官によると、ロシアはカスピ海と黒海から、「カリブル」、「イスカンデル」、「Kh-101」などのミサイルを発射したという。
BBCのバチェガ記者が10日朝にキーウのホテル屋上から生中継中、上空を通過し背後で爆発したのも、そうしたミサイルの一つと思われる。
キーウで取材するBBCのポール・アダムス外交担当編集委員によると、午前8時前から空襲警報が続き、砲撃が絶え間なく続いた。最初の数発は首都中心部を直撃。2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、首都中心部が被害に遭うのは初めてだとアダムス記者は指摘する。
キーウのヴィタリ・クリチコ市長によると、中心部シェフチェンキウスキー地区が被害に遭った。「重要インフラ」が被害を受けたという。
エネルギー・インフラが標的=ゼレンスキー大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領は通信アプリ「テレグラム」で、キーウのほか南部ザポリッジャ、中部ドニプロが砲撃されているとして、ロシアは「我々を破壊し、地球上から消滅させようとしている」と非難した。大統領は「残念ながら、死傷者がいる」として、国民に防空シェルターにとどまるよう呼びかけた。
ゼレンスキー氏はロシアがウクライナ各地のエネルギー・インフラを標的にしていると非難。「(ロシアは)パニックとカオスを作り出そうとしている。我々のエネルギー供給体制を破壊したいのだ。なんの望みもない、どうしようもない連中だ」と述べた。これまでにキーウ、リヴィウ、ドニプロ、ヴィンニツィア、ザポリッジャ、ハルキウなど各地で、電力施設が攻撃されたという。
大統領は、ロシアの2つ目の標的は人間だとして、「このタイミングでのこの標的は、最大限の破壊をもたらすために特別に選ばれたものだ」と述べ、「私たちはウクライナ人だ。お互いを助ける。自分を信じる。破壊されたものはすべて修復される。いまは一時的に停電するかもしれないが、私たちの自信、勝利への自信は決して停止しない」、「決して忘れないで。この敵が現れる前からウクライナは存在したし、ウクライナはこの敵の後にも存在し続ける」と強調した。
ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相は、「テロリストのミサイルがたとえ首都の中心を砲撃しようとも、この国の勇気をくじくことは決してできない」、「テロリストのミサイルが不可逆に破壊できるのは、ロシアの未来だけ。世界的に唾棄(だき)されている、ならず者テロ国家の未来だけだ」とコメントした。
ミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、首都キーウ中心部や南部ザポリッジャ、中部ドニプロへの市街地への「意図的な攻撃」は「クレムリンがテロリストとして無能」だと示すのみで、「ロシアは戦場で戦うことはできないが、民間人を殺すことはできる」と非難したうえで、「話をするより我々には防空システムや多連装ロケットシステム(MLRS)、長距離ミサイルが必要だ」と、西側諸国にいっそうの武器供与を求めた。
ウクライナ各地で停電や断水
これまでウクライナではキーウのほか、北東部ハルキウ、中部ドニプロ、南部ザポリッジャ、ポーランド国境に近い西部リヴィウでも、砲撃が続いているようす。
リヴィウのアンドリイ・サドヴィ知事は住民に、防空シェルターにとどまるようよびかけ、学校の授業は空襲警報が終わったあとにオンラインで始めると述べた。市内の一部で停電しているほか、火力発電所が稼働を停止しているという。
北東部ハルキウでは、ミサイル砲3発の砲撃があり、エネルギーインフラが破壊されたとイホル・テレホフ市長が「テレグラム」に書いた。市内の一部で停電や断水が起きているという。
「戦争犯罪」の非難相次ぐ
欧州連合(EU)は、ロシアがウクライナの民間人を「無差別」に攻撃したことを、「戦争犯罪」と呼んで非難した。
欧州委員会は、「野蛮で卑怯」な攻撃だと批判。ペーター・スタノ報道官は、民間人と公共インフラ施設への「凶悪」な攻撃を「これ以上ないというくらい強く」非難すると述べた。
イギリスのジェイムズ・クレヴァリー外相は、民間人へのロシアの攻撃は「受け入れがたい」もので、「プーチンは強さではなく弱さを示した」と批判した。
ポーランドのズビグニェフ・ラウ外相は、ロシアによるミサイル砲撃を「蛮行で戦争犯罪だ」と非難し、「ロシアはこの戦争に勝てない。ウクライナ、私たちはみなさんを支えている!」とツイートした。
フランス政府によると、エマニュエル・マクロン大統領はゼレンスキー大統領と緊急に電話会談を行い、ウクライナへの支持をあらためて伝えるとともに、民間人の死傷を「深く心配している」と伝えた。
ドイツ政府によると、オラフ・ショルツ首相もゼレンスキー大統領と電話で会談し、ドイツをはじめとする主要7カ国(G7)の支持継続を約束した。ドイツは現在、輪番制のG7議長国。
ドイツ外務省によると、ドイツ領事部の入る建物もロシアの砲撃で損傷したという。ただし開戦以降、領事部のこの査証発行事務所は使用されておらず、ドイツ大使館職員に負傷者はないと、ドイツ外務省はツイートした。
ゼレンスキー大統領はツイッターで、G7の緊急会合を開くことでショルツ首相と合意したと書き、自分もそこで「ロシア連邦によるテロ攻撃について発言する」と明らかにした。さらにロシアへの圧力強化と、損傷したインフラ修復のための支援強化についても、ショルツ首相と協議したという。
ロシア主戦派が強力な反撃要求
これに先立ち南東部ザポリッジャでは9日、ロシアのミサイル攻撃があり、少なくとも13人が死亡、数十人が負傷している。
ロシア国防省は8日、ウクライナでの軍事作戦を統括する司令官に、航空宇宙軍のセルゲイ・スロヴィキン総司令官を任命したと発表している。
BBCのサラ・レインズフォード東欧特派員は、「今日はスロヴィキン将軍の着任初日だった」と指摘。「国営テレビのプロパガンダ推進者や他のプーチン信奉者は依然から、冬にウクライナを凍えさせて屈服させるため、ウクライナのエネルギー・インフラを攻撃するよう呼びかけていた」と説明する。
「その一人のウラジーミル・ソロヴィヨフは、『いつ戦い始めるのか』と問いただし、『笑いものにされるよりは恐れられたほうがいい』と宣言していた」
「朝のラッシュ時に公園や往来に直撃した今回の砲撃を、彼らはたたえている。ロシアの国営テレビRTのマルガリータ・シモニャン編集長は、クリミア橋の攻撃をロシアにとっての『越えてはならない一線』だったとして、それに対する『私たちのささやかな反応』が着地したのだと書いている」と、レインズフォード記者は説明している。
●明日は我が身…親ロシア派が実効支配するジョージア・南オセチアからみる 10/10
ロシアによる4州の併合を一方的に進められるウクライナ。同じように「親ロシア派支配地域」との境界に住むジョージアの人たちは、どのような思いでウクライナ侵攻を見ているのか、取材しました。
ロシアに接する国、ジョージア。部分的動員の発表後、多くのロシア人が逃れてきています。その北部にあるのが「南オセチア自治州」で、埼玉県と同じ程度の大きさの親ロシア派支配地域です。
記者「こちらは、南オセチアとの境界線にあります。あちらに見える家が、まさに南オセチア側の住宅です」
境界にあるジョージア側の村には、警察当局の許可を得て取材に入りました。同行した警察官は、常にライフル銃を携帯。南オセチア側には、ロシア軍が駐留しているためです。
10メートル先が境界となる家に住む女性は、畑のあった裏庭を全て奪われたといいます。
ジョージア側に住む女性「この土地とここで育てたものしか残っていないんです」
南オセチア紛争は2008年、NATO=北大西洋条約機構へ加盟の動きを見せていたジョージアにロシア軍が軍事侵攻し、南オセチアの独立を一方的に承認したもので、現在のウクライナの状況と重なる部分も多くあります。
別の村では、紛争で12人の犠牲者が出ました。
当時の状況を伝える博物館には、溶けた瓶や焼け跡から見つかったナイフやフォーク。犠牲になったジョージア軍の兵士や野戦病院で治療を受ける住民、家を失って途方にくれる女性の写真もあります。
カスラゼさん(83)は、南オセチアに住む姉と生き別れになり、連絡がとれないままです。
ビキンティア・カスラゼさん「親しい人と会えないのは辛いです」
ロシアがウクライナ4州を一方的に併合したことには、あきらめにも似た感情があるといいます。
ビキンティア・カスラゼさん「どうせロシアには勝てません。大国は戦って支配しようとするんです」
こちらの村では、2008年に南オセチアを追われたおよそ150世帯の人たちが、今もジョージア政府から提供された住宅に住んでいます。
マリカ・トリアシュビリさん「南オセチアを追われる時、涙が止まらず最悪でした。以前の方が良かったわ。ここは小屋だけです。向こうは家も庭も素敵で、良い生活だった」
ロシアに独立承認されてから14年間、そのままの状態が続く南オセチア。トリアシュビリさん(78)は、ウクライナ侵攻の責任はロシアにあるとする一方で、ジョージア側も戦争回避のための努力をもっとすれば、侵攻を防げたかもしれないと考えています。
マリカ・トリアシュビリさん「ロシアと争ってはいけなかった。話し合えば、なんでもできたのだから」
南オセチアでは、ロシアへの編入の賛否を問う「住民投票」が行われる可能性があり、引き続き、ロシアの動向を注視せざるを得ない不安な日々が続きます。
●火がついたエネルギー戦争、各国が生き残り戦略…「勝者はいない」 10/10
主要石油輸出国機構であるOPECプラスが5日(現地時間)、来月から1日の原油生産量を200万バレル減産することで合意したことから、エネルギーをめぐる覇権競争が激化するものとみられる。ウクライナ戦争でこの冬の欧州のエネルギー問題に対する懸念が続く中、各国はそれぞれ生き残りをかけた戦略を打ち出している。
この日のOPECプラスの減産幅は、市場の予想(100万バレル)をはるかに上回る水準で決定された。新型コロナパンデミックが始まり世界経済が冷え込んだことで、1000万バレル減産に合意した2020年4月以降、最大幅の減産だ。5日の国際原油価格(ブレント原油12月先物)は、OPECプラスの大規模な減産のニュースで前日より1.71%上がった93.37ドルを記録した。
米国は直ちに反発した。ホワイトハウスはこの日、声明で「ジョー・バイデン大統領は、プーチンのウクライナ侵攻の否定的な影響が世界経済に影響を及ぼす中で出たOPECプラスの近視眼的な決定に失望した」と明らかにした。減産で国際原油価格が上がればインフレを抑えるのがさらに難しくなり、ひと月後に迫った中間選挙でバイデン大統領の足を引っ張る可能性がある。米国は「OPECプラスがロシアと歩調を合わせている」という言葉で強い不快感を表わし、原油価格安定のために来月、戦略備蓄油1000万バレルを追加で放出するという計画を明らかにした。ベン・ケーヒル戦略国際問題研究所(CSIS)先任研究員は「ブルームバーグ」に対し、「今回の減産は市場の状況ではなく地政学によって決定された」として「OPECプラスはロシア産原油に対する価格上限制といった輸入国の努力を押し出しているが、これは危険な動きだ」と話した。
今現在は米国がサウジとロシアに自尊心を傷つけられたものと見られるが、「ウォール・ストリート・ジャーナル」は「エネルギー戦争の勝者には誰もなれない」と分析した。OPECプラスの減産決定は、短期的には原油価格上昇と影響力拡大につながるだろうが、長期的には米国を含む西側諸国を刺激し、逆風を受ける恐れがあるということだ。同紙は「ホワイトハウスはクリーンエネルギー転換の意志を強調した」とし「産油国がいま原油(販売)収入を最大化しようとするならば、西欧は石油からさらに早く遠ざかる方法を探すだろう」と伝えた。
米国と欧州などの主要国はエネルギー騒動を防ぐために、「自国優先」戦略に頭をひねらせている。バイデン大統領は11月8日の中間選挙を控え、「原油輸出制限」カードをちらつかせている。輸出を制限し、自国内での原油と石油製品の価格安定を図る計画だ。ジェニファー・グランホーム米エネルギー相は、石油企業の輸出拡大が米国内でエネルギー価格を引き上げる要因として作用していると思うと述べた。「ロイター通信」は4日、「業界ではバイデン政権が輸出制限を強行する可能性があるとし、ますます憂いている」と伝えた。
ウクライナ戦争以後、史上最悪のエネルギー危機に見舞われている欧州も同様だ。英国は天然ガスの供給不足を解決するために、シェールガスの採掘方法である水圧破砕法(フラッキング)禁止措置を先月解除した。米国のシェール革命を導いたフラッキングは、温室効果ガスを排出し環境問題を起こすという批判を受けているが、英国政府はエネルギー需給が「優先課題」として強行方針を決めた。欧州のエネルギー大国であるノルウェーも、今年の降水不足で水力発電が以前より難しくなり、必要な場合は電力輸出を制限しうると述べている。
●キーウへミサイル攻撃 ドイツ大使館の施設が入居の高層ビルも被害 10/10
ウクライナの首都キーウ(キエフ)で10日に起きたミサイル攻撃によるとみられる爆発をめぐり、ドイツ外務省は10日、ドイツ大使館のビザ(査証)発給業務を担う部署が入居する高層ビルが被害を受けたと明らかにした。この部署は今年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻後、閉鎖されており、巻き込まれた職員はいなかったという。
独メディアが一斉に報じた。独大使館の関連施設が標的だったのか、巻き添えで被弾したのかは明らかになっていない。
一方、ウクライナのメルニク駐独大使は10日、ツイッターで、同日の爆発によって被害を受けたとみられる公園の様子を撮影した動画をリツイートし「これは私たちの娘にとってお気に入りの遊び場だった」と記した。そのうえでショルツ独首相に対して「ウクライナ人は依然としてドイツの反応を待っている」と新たな武器支援をするよう呼びかけた。
●ウクライナ大統領「ロシアの標的はエネルギー施設」 ミサイル75発か 10/10
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、10日朝のロシアによるミサイル攻撃について、エネルギーインフラ設備を標的としたものだったとの見方を示した。イラン製の無人機を用いた攻撃もあったとしている。
ゼレンスキー氏は、国内の複数の都市で相次いだ空爆を受け、動画演説をソーシャルメディアで公開。「困難な朝だ。われわれはテロリストを相手にしている。何十発ものミサイルとイラン製シャヘドだ。標的は二つ。まず、全国のエネルギー施設…パニックと混乱を引き起こし、わが国のエネルギーシステムを破壊しようとしている」「二つ目の標的は、国民だ」と述べた。
空爆は西部リビウでも報告されている。ゼレンスキー氏によると、中部ドニプロ、ビンニツァ、西部イバノフランコフスク、南部ザポリージャ、東部ハルキウ州やスムイ州も攻撃を受けた。
「一時的な停電はあるかもしれないが、われわれの自信、すなわち勝利への自信が妨げられることはない」とゼレンスキー氏は語った。
今回の一連の空爆について、ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は、「テロ国家ロシア」が少なくとも75発のミサイルをウクライナ首都キーウと南部および西部の複数の都市に向けて発射したと発表。「うち41発は、わが国の防空部隊が撃墜した」と明らかにした。
リビウ市長によると、市内では一部で停電が発生し、温水が利用できなくなっている。これより先に、リビウ州のマクシム・コジツキー知事は、州内のエネルギーインフラ設備が攻撃を受けたとテレグラムで発表していた。
●「プーチンの弱さ示した」 ロシアのミサイル攻撃を非難 欧州 10/10
ロシア軍によるウクライナの首都キーウ(キエフ)などへのミサイル攻撃を受け、欧州各国は10日、「容認できない。プーチン(ロシア大統領)の強さでなく、弱さを示すものだ」(クレバリー英外相)など、ロシアを一斉に非難した。
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)はツイッターで、「大きな衝撃を受けている。21世紀になされる行動ではない」とした上で、EUとして追加の軍事支援を進めていると表明した。ドイツ政府は、40発以上のミサイルが撃ち込まれ、「民間インフラを中心に破壊された」と糾弾した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、ミサイル攻撃を受けてショルツ独首相、フランスのマクロン大統領と電話会談。独政府によると、ショルツ氏は先進7カ国(G7)議長国として、G7がウクライナに連帯すると伝えた。AFP通信によると、マクロン氏は民間人の犠牲が出ていることに「重大な懸念」を表明した。 
●ウクライナが「テロ行為」継続なら厳格に対応=プーチン大統領 10/10
ロシアのプーチン大統領は10日、ウクライナがロシアに対して「テロ行為」を実施したとし、そのような行為が続けば厳格に対応すると言明した。
テレビ演説で、クリミア半島とロシア本土とを結ぶクリミア大橋で8日起きた爆発の報復として、ロシア軍は10日にウクライナのエネルギー、軍事、通信インフラに対する長距離ミサイル攻撃を開始したと表明。クリミア大橋の爆発について「ウクライナの諜報機関がロシアの重要な民間インフラを破壊する目的でテロ攻撃を命じ、計画し、実行したことは明らかだ」とした。
その上で「この行動によって、ウクライナ政権は最も悪質な国際テロ集団と同列に扱われるようになった。このような犯罪を放置しておくことはできない」と述べた。
また、ウクライナによる更なる攻撃に対して、ロシアは「厳しく」対応すると指摘。「もしわが国の領土でテロ行為が続けば、ロシアの対応は厳しく、その規模はロシア連邦に生じた脅威のレベルに対応することになる。誰もそのことに疑いを持つべきではない」とした。
さらに、ウクライナがロシアの原子力発電所やロシア産天然ガスをトルコ経由で欧州に供給するパイプライン「トルコストリーム」に対する攻撃を行おうとしていると非難。根拠は示さなかったものの、ロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」損傷にはウクライナや北大西洋条約機構(NATO)の支持者が関与していると改めて主張した。

 

●全土にミサイル攻撃、14人死亡 ロシア報復、首都でも爆発―ウクライナ 10/11
ウクライナ全土で10日朝(日本時間同日午後)、ロシア軍によるミサイル攻撃があり、モナスティルスキー内相によれば、14人が死亡、97人が負傷した。地元メディアによると、爆発は首都キーウ(キエフ)中心部にある情報機関・ウクライナ保安局(SBU)本部から数百メートルの場所でも起きた。
爆発は東部ドニプロ、西部リビウなどでも発生した。ロシアのプーチン大統領は9日、ロシア本土とウクライナ南部クリミア半島を結ぶクリミア橋の爆発事件を「テロ」と断定し、ウクライナの情報機関の仕業と主張。プーチン氏は10日の安全保障会議で報復攻撃を行ったと発表した。
攻撃を受け、ウクライナのゼレンスキー大統領はツイッターで、先進7カ国(G7)緊急会合を開催することでドイツのショルツ首相と合意したと発表。フランスのマクロン大統領とも電話会談し、「欧州および国際社会の厳しい対応の必要性、ロシアへの圧力強化について話し合った」と述べた。独政府によれば、ゼレンスキー氏とG7首脳は11日にオンラインで会談する。
●ミサイル攻撃で11人死亡 プーチン大統領は報復措置と主張  10/11
ウクライナで10日、首都キーウをはじめ各地でロシア軍による大規模なミサイル攻撃があり、合わせて11人が死亡したほか、インフラ施設が被害を受けました。ロシアのプーチン大統領は、一方的に併合したウクライナ南部クリミアとロシアをつなぐ橋で起きた爆発に対する報復措置だと主張し、欧米各国からは非難が相次いでいます。
ウクライナで10日、首都キーウや西部リビウなど各地でロシア軍によるミサイル攻撃が相次ぎました。
ウクライナ警察によりますとほぼ全土が攻撃の対象となり、合わせて11人が死亡、87人がけがをし、発電所などのインフラ施設を含む、およそ70か所が被害を受けたということです。
首都キーウでは中心部の公園など市民の憩いの場も被害を受け、人々からは怒りの声が相次いで聞かれました。
このうち48歳の男性は「プーチンこそがテロリストであり、だからこそ市民を攻撃できるのだ」と話していました。
一方、ロシアのプーチン大統領は10日に安全保障会議を開き「ロシアはウクライナのエネルギー、軍事、通信施設に対して大規模な攻撃を行った」と述べました。
プーチン大統領は、一方的に併合したウクライナ南部クリミアとロシアをつなぐ橋で今月8日に起きた爆発がウクライナ側による破壊工作だったとしたうえで、その報復措置だと主張しました。
また「ウクライナの情報機関はロシア国内の発電所やガスの輸送インフラに対しても テロを試みている」などと主張したうえで「わが国の領土でテロ攻撃の試みが続くなら、その脅威のレベルに応じた規模で厳しく対応していく」と述べ、ウクライナ側を強くけん制しました。
現地のようすは
キーウでは、ミサイル攻撃によって住宅やレストランの窓ガラスが割れて破片が散乱し、片づけ作業に追われる住民の姿も見られました。
このうち39歳の女性は、いすの上に散乱した窓ガラスの破片を指し示しながら「このガラスを見てほしい。もし私が座っていたらすべて降りかかってきたかもしれない。どうにかして修理したい」と話していました。
また地下鉄の構内に避難したという32歳の女性は「爆発で目を覚ましました。建物全体が揺れ始めましたが、窓ガラスは割れずにすみました。大規模な攻撃が行われていることを知り、地下に避難することにしました。私の子どもに座る場所を与えてくれるなど皆、落ち着いて助け合っていました」と当時のようすを語りました。
ドイツの領事業務を行う事務所が入る高層ビルも被害
ロイター通信はキーウ中心部の鉄道駅の近くにある高さ100メートル余りのオフィスビルの映像を配信しています。
ドイツ外務省はこのビルには現在は使っていないドイツの領事業務を行う事務所が入っていて、ロシアのミサイル攻撃を受けたと発表しています。
ビルの下層階を中心に多くのガラスが割れ、室内がむき出しになっていました。また、ビルの前の路上には粉々に割れたガラスが散らばっています。
米バイデン大統領「違法な戦争の徹底的な残虐性を示すもの」
アメリカのバイデン大統領は「市民を殺傷し軍事施設以外を標的とする攻撃は、プーチン大統領によるウクライナの人々に対する違法な戦争の徹底的な残虐性を示すものであり強く非難する」との声明を発表しました。
この中でバイデン大統領は「家族や愛する人々を無差別に殺害された人々に哀悼の意を表するとともに負傷したかたがたの回復を心からお祈りする」としています。そして「ロシアによる攻撃はウクライナの人々とともに立ち上がるという我々の連帯をさらに強めるだけだ。同盟国やパートナーとともに、プーチン大統領とロシアによる残虐行為と戦争犯罪の責任を追及し、ウクライナ軍が国と自由を守るために必要な支援を提供し続ける」としたうえでロシアに対し直ちに侵略をやめてウクライナから撤退するよう求めました。
またバイデン大統領は10日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、ロシアによるウクライナの首都キーウなどへのミサイル攻撃を非難し、犠牲者への哀悼の意を伝えました。そしてバイデン大統領はウクライナに対し高度な防空システムを含む国の防衛に必要な支援を提供し続けることを約束しました。
また同盟国やパートナーとともに、プーチン大統領とロシアによる残虐行為と戦争犯罪の責任を追及し、ウクライナへの安全保障や経済、それに人道面での支援の提供に向けて継続して取り組んでいることを強調しました。
仏大統領がゼレンスキー大統領と電話会談 支援拡大を確認
フランス大統領府によりますと、ウクライナの首都キーウなどにロシア側による攻撃が行われたとみられることを受け、マクロン大統領がゼレンスキー大統領と急きょ電話会談を行いました。
このなかでマクロン大統領は、市民の犠牲者が出ていることに懸念を示したうえで、軍事面を含むウクライナへの支援を拡大することを確認したということです。
また、フランスのコロナ外相は「一般市民を意図的に狙うことは戦争犯罪だ」とSNSに投稿し、攻撃を非難しました。
英首相もゼレンスキー大統領と電話会談
イギリスの首相官邸によりますとトラス首相は10日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談しロシアによるウクライナ各地への攻撃を強く非難するとともに、軍事面などで引き続きウクライナを献身的に支えると強調しました。
会談後、トラス首相はツイッターに「市街地への驚くほどひどい攻撃は、プーチンが自暴自棄になっている明確な兆候だ。イギリスは、自由のために戦うウクライナを支え、重要な軍事物資を提供し続ける」と書き込み、全面的な支援を約束しました。
また、ゼレンスキー大統領も「ウクライナへの国際政治と防衛面での支援がイギリスのリーダーシップによって強固なものになると期待している。とりわけ領空の防衛とロシアのさらなる孤立化に向けてだ」と書き込みました。
国連事務総長も声明「強い衝撃」
国連のグテーレス事務総長は10日、報道官を通じて声明を発表し「多くの市民が死傷したと伝えられている大規模なミサイル攻撃に強い衝撃を受けている」としたうえで「容認できない戦争の激化であり、いつもと同じく、市民が最も高い代償を払っている」と非難しました。
モスクワの市民の反応は
ウクライナ南部のクリミアとロシアをつなぐ橋で爆発が起きたあと、ウクライナの首都キーウなどでロシア側による攻撃が相次いでることについて、ロシアの首都モスクワでは、さまざまな声が聞かれました。
このうち30代の男性は、橋での爆発について「ウクライナ側が多くの武器をもらうために戦争を長引かせるためにやったのだろう」と批判したうえで、ロシア軍による攻撃について「もっと攻撃すれば戦争がより早く終わる。この方法でしか終わらせられない」と話し、報復攻撃を支持していました。
20代の女性も橋の爆発を非難したうえで、ロシア側による攻撃について「正しい報復だと思う。戦争状態にあることは支持できないが、われわれの市民が殺害されることも受け入れられない。報復は必要だ」と述べ、戦争には反対しながらも報復は必要だという考えを示しました。
また別の男性は、橋で爆発について情報が限られていて判断が難しいとしたうえで「アメリカが絡んでいると思う。ウクライナではない誰かが得をしている。ウクライナが直接やっているわけではなく、操られているのだ」と話していました。
一方、年金生活者の女性は「こんなことになって残念だ。とても心配している。もういい加減にして欲しい。双方に大勢の犠牲者が出ている。首尾よく戦争を終わらせなければならない」と話し、双方の応酬が激しさを増している現状を嘆いていました。
●ミサイル攻撃で11州のエネルギー施設被害…キーウ4地区にも着弾 10/11
ウクライナ国営通信などによると、首都キーウで10日朝、同市内の4地区に露軍のミサイルが着弾し、少なくとも5人が死亡、50人が負傷した。露軍による首都へのミサイル攻撃は今年6月下旬以来とみられ、ウクライナ当局は、博物館や子供の遊び場などが攻撃を受けたと説明した。
10日には、キーウ以外でも、東部や西部の主要都市などで露軍の攻撃が相次いだ。ウクライナの首相は10日、計11州でエネルギー関連施設が被害を受けたと明らかにした。同国の国防次官は、露軍は10日、全土で計80発以上のミサイルを発射し、このうち約半数を迎撃したと指摘した。
8日には、ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミアと露本土をつなぐ「クリミア大橋」で爆発が起きた。露大統領府の発表によると、プーチン大統領は10日、露閣僚らと開いた安全保障会議で、大橋の爆発は「ウクライナの情報機関によるテロ行為」と改めて主張。各地への攻撃は、大橋の爆発などを受けた「報復」との立場を強調し、「ウクライナが我々の領土でテロ行為を続けようとすれば、報復は厳しいものになる」とも主張した。
ロシアのミサイル攻撃を受けたドニプロペトロウシク州の道路に残された穴(10日)=ロイターロシアのミサイル攻撃を受けたドニプロペトロウシク州の道路に残された穴(10日)=ロイター
ウクライナ国営通信などによると、東部では、ハルキウで10日朝、電力関連施設に複数のミサイルが着弾し、同市内で停電が発生した。ドニプロペトロウシク州では、露軍は複数の都市に対して計10発以上のミサイルを撃ち込んだという。
西部では、露軍はリビウ州に約15発のミサイルを発射したといい、一部が着弾し、州都リビウで大規模な停電が発生した。露軍の攻撃による停電は、フメリニツキー州でも発生した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日朝、自身のSNSの投稿で、「ウクライナ全土で空襲警報が止まらない。ミサイルが着弾している。持ちこたえてほしい」と国民に呼びかけた。
一方、露軍の激しい攻撃が続いている南部ザポリージャ州の州都ザポリージャでは、10日未明に再び住宅地が攻撃され、少なくとも3人が死亡した。
●バイデン氏、ロシアのミサイル攻撃非難 不当な戦争の「残虐性」明示 10/11
バイデン米大統領は10日、ロシアによるウクライナへのミサイル攻撃を非難し、ウクライナ市民に対するプーチン大統領の戦争の「残虐性」を明示したという認識を示した。
バイデン大統領は声明で「米国は、首都キーウを含むウクライナ各地で行われたロシアのミサイル攻撃を強く非難する」と表明。「これら攻撃は民間人を殺傷し、軍事目的でない標的を破壊した。プーチン氏のウクライナ市民に対する不当な戦争の完全な残虐性を改めて示している」と述べた。
さらに「このような攻撃は必要な限りウクライナ国民に寄り添うとのわれわれのコミットメントを一段と強化するだけだ」とし、「同盟国やパートナー国とともに、われわれはロシアの侵略に代償を科し、プーチン氏とロシアに残虐行為と戦争犯罪の責任を取らせ、ウクライナ軍が自国と自由を守るために必要な支援を提供し続ける」とした。
●米国の弾薬余剰、近く枯渇か ウクライナ支援長期化で 10/11
米国は、ロシア軍の侵攻と戦うウクライナにとって不可欠な弾薬を供与しているが、生産ペースが消費に追いついていないことから、近く一部の弾薬を提供できなくなる見通しだ。
米国はウクライナに対する最大の武器供給国となっており、これまでに168億ドル(約2兆4500億円)以上の軍事支援を行ってきた。だが米シンクタンク、戦略国際問題研究所のマーク・キャンシアン氏は最近の分析で、一部軍需品の備蓄量が「戦争計画や訓練に必要な最低レベルに到達しつつある」と指摘。侵攻前の水準まで補充するには数年かかるとの見方を示した。
匿名で取材に応じた米軍関係者は、大国が関わる戦争で必要な弾薬数について、米国がウクライナ紛争から「教訓を学んでいる」と説明。必要な弾薬数は予想より「はるかに多かった」と認めた。
米国では1990年代、ソ連崩壊を受けた国防費の削減により、国内の軍需企業が大幅な減産を余儀なくされ、その数は数十社から数社にまで激減した。だが米政府は今、軍需業界に増産を促し、2020年以降製造されていない携帯型対空ミサイル「スティンガー」などの生産を再開させる必要に迫られている。
「代替手段がない」
米国がウクライナに供与した軍需品の中には、ウクライナ軍がロシア軍の首都キーウ進軍を阻止するために使用した対戦車ミサイル「ジャベリン」や、東部・南部で現在進めている反攻作戦で重要な役割を果たしている高機動ロケット砲システム「ハイマース」など、ウクライナ戦争の象徴となっているものも含まれる。
ハイマースが使用する誘導型多連装ロケット発射システム弾は80キロ以上離れた標的を正確に攻撃できるが、米国内の在庫は減少している。
米政府の武器調達官を務めていたキャンシアン氏は、米国がジャベリンとスティンガー同様にハイマース用ロケット弾の備蓄の3分の1をウクライナに供与した場合、その数は8000〜1万発に相当すると説明。「これは数か月持つだろうが、在庫が尽きると代替手段がない」と指摘した。ハイマース用ロケット弾の生産ペースは年間5000発程度で、米政府は増産を目指して予算を割り当てているものの、それには「何年もかかる」という。
ジャベリンやりゅう弾も枯渇か
米国はウクライナに約8500発のジャベリンミサイルを供与しているが、その生産ペースは年間約1000発にとどまる。米政府は5月、3億5000万ドル(約510億円)分を発注したが、備蓄の補充には数年かかるとみられる。
同国はまた、北大西洋条約機構規格の155ミリりゅう弾を80万発以上ウクライナに供与している。米国防総省によると、この数は西側諸国からの供与分全体の4分の3に当たる。
キャンシアン氏は、米国の供与量は「おそらく自国の戦闘能力を損なうことなく提供できる限界に近い」との見解を示した。155ミリりゅう弾の米国内での生産能力は月間1万4000発だが、国防総省はこれを3年以内に3万6000発まで増やすと発表。しかしそれでも年間生産量は43万2000発となり、ここ7か月でウクライナに提供された数の半分に満たない。
●ロンドン外為10日 ユーロ、対ドルで下落 ウクライナ戦争の激化を警戒 10/11
10日のロンドン外国為替市場でユーロは対ドルで下落し、英国時間16時時点は1ユーロ=0.9700〜10ドルと、前週末の同時点に比べ0.0080ドルのユーロ安・ドル高で推移している。ロシアのプーチン大統領が10日、クリミア橋の爆破を受けてウクライナへの報復攻撃を開始したと発表した。同国の首都キーウ(キエフ)を含め複数都市への攻撃が相次いでいる。戦争が一段と激化するとの警戒感から、地理的に近い欧州の通貨ユーロを売る動きが優勢となっている。
円は対ユーロで上昇し、英国時間16時時点は1ユーロ=141円30〜40銭と前週末の同時点に比べ70銭の円高・ユーロ安で推移している。
英ポンドは対ドルで下落し、英国時間16時時点は1ポンド=1.1040〜50ドルと前週末の同時点と比べ0.0080ドルのポンド安・ドル高で推移している。英イングランド銀行(中央銀行)の緊急的な一時国債買い入れ措置が14日で終了する。英国債市場の不安定化を警戒したポンド売り・ドル買いが優勢となっている。
英中銀は10日、国債の一時買い入れ措置を秩序だって終了するために、国債購入の上限を従来の50億ポンドから100億ポンドに倍増すると発表した。流動性リスクを和らげるため、レポ取引で社債など通常より幅広い担保を一時的に受け入れることも発表した。
●円相場1ドル=145円台後半に “ウクライナ情勢緊迫化も一因”  10/11
連休明けの11日の東京外国為替市場は、日米の金利差が今後拡大するという意識から円を売ってドルを買う動きが強まり、円相場は145円台後半まで値下がりしています。
先週末に発表されたアメリカの雇用統計で失業率が改善したことで、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会による大幅な利上げが続くとの見方が広がっています。
このため、連休明けの11日の東京外国為替市場は、日米の金利差が今後、拡大するという意識から、円を売ってドルを買う動きが強まり、円相場は145円台後半まで値下がりしています。
市場関係者は「日米の金利差を意識したドルを買う動きに加え、ウクライナで大規模なミサイル攻撃があったことを受けウクライナ情勢が緊迫していることから有事に強いとされるドルを買う動きもみられる。一方、政府・日銀による市場介入が再び行われることへの警戒感も強く、投資家が当局の反応に注目している」と話しています。 
●ロシア軍は「疲弊」し弾薬が底を尽きつつある=英情報機関トップ 10/11
ロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナが「疲弊した」ロシア軍の形勢を不利に変えつつある――。イギリスのサイバー情報機関である政府通信本部(GCHQ)トップのジェレミー・フレミング氏が11日、そうした説明をする。
ロシアは10日朝、ウクライナ各地にミサイル攻撃を行い、19人が死亡した。
しかしフレミング氏は、ロシア側は弾薬がなくなりつつあるとみている。11日の王立防衛安全保障研究所での年次安全保障講演で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の意思決定には「欠陥がある」ことが証明されたと説明することになっている。
また、イギリスとその同盟国は、中国に関して決定的な瞬間にあると主張する予定。
フレミング氏は、ウクライナでの戦争がロシアにもたらした人的および装備面の犠牲は「驚異的」なものだとみている。
講演原稿には、「我々も、現場のロシア人指揮官も分かっている。ロシアの物資と弾薬が底を尽きつつあることを」とある。
さらに、囚人や経験の浅い男性が動員されている事実が「絶望的な状況を物語っている」と主張。プーチン大統領が孤立し、間違いを犯していると直接批判するとみられる。
「政権内部で効果的な異議申し立てがほとんどなく、彼(プーチン氏)の意思決定には欠陥があることが証明されている。戦略的な判断ミスを招くような、高いリスクを伴う戦略といえる」
また、ロシアの人々はプーチン氏の「選択による戦争」が引き起こす問題を理解し始めているとしている。
「人々はプーチン氏がどれほどひどく状況判断を誤ってきたのかを目の当たりにしている」
「徴兵から逃れようとし、もはや渡航もできないことに気付きつつある。近代的な技術や外部からの影響にアクセスすることを極端に制限されるようになることも分かっている」
フレミング氏は3月の講演で、ウクライナにいるロシア兵の一部が命令に従うことを拒否し、自分たちの装備を破壊したり、誤って自国の航空機を撃墜したりしていたことが明らかになったと述べていた。
中国に関する見方
11日の演説の大部分は中国に関するもの。フレミング氏は、イギリスは「扉を開ける瞬間」を迎えており、どの道を歩むかが未来を決定付けると述べるとみられる。
中国共産党については、人々の生活を支えるテクノロジーを操作することで国内外に影響力を持ち、監視機会を提供することを目指しているとしている。
また、中国は世界各国に技術を輸出することで、「取引国の経済と政府」を作り出そうとしていると警告。「隠れたコスト」を伴う中国の技術を購入すれば「将来を抵当に入れる」ことになる危険性があると指摘する。
こうしたものの中には、追跡方法や政府の管理強化を提供する可能性のあるインターネットの新基準などが含まれているという。
中国のデジタル通貨については、ユーザーの取引を監視し、ロシアに科された制裁を回避するために使用される可能性があると説明する。中国の衛星システムについては、個人を追跡するために利用される恐れがあるとしている。
これらの分野での中国の支配は避けられないわけではないと、フレミング氏は指摘し、こう述べる。「我々の将来の戦略的・技術的優位性は、我々がコミュニティーとして次に何をするかにかかっている」。
●ロシア、ウクライナ兵62人の遺体を返還 10/11
ウクライナ被占領地域再統合省は11日、ロシア側との交渉を経て、ロシア軍の砲撃を受けた東部ドネツク州オレニフカ刑務所での死者を含むウクライナ兵62人の遺骨の返還を受けたと発表した。
同省はソーシャルメディアに、交渉は難航したものの「英雄62人が帰還した」と投稿した。
両国は7月、ロシアの支配下にある同州のオレニフカ捕虜収容所に対する爆撃をめぐり互いを非難。民間施設や捕虜への攻撃を否定したウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアによる「戦争犯罪」だと指弾していた。
ロシア側によると、同施設に収容されていたウクライナ人捕虜には、南部の港湾都市マリウポリにあるアゾフスターリ製鉄所の防衛に当たったアゾフ連隊の隊員も含まれていた。
●インドが「深い憂慮」、ミサイル攻撃によるウクライナの戦火拡大で 10/11
ロシア軍が10日にウクライナの首都キーウ(キエフ)や各都市に対してミサイル攻撃を行ったことを受け、インドは紛争の拡大を「深く憂慮」していると明らかにした。
インド外務省の報道官はツイッターへの投稿で、「インドはインフラへの攻撃や民間人の死亡など、ウクライナでの紛争の拡大を深く憂慮している」と述べた。
報道官は、インドの立ち位置について、敵対行為の激化は誰の利益にもならないとし、「敵対行為の即時停止」と「対話の道」への復帰を求めた。
国連総会は12日にも会合を開いてロシアによるウクライナ領の併合を非難する決議案を採択するとみられているが、インドのジャイシャンカル外相は採択についてコメントしなかった。
ジャイシャンカル氏は豪キャンベラで行われた豪外相との記者会見で、事前に投票について予言することはないと述べた。
インドのモディ首相は9月、ロシアのプーチン大統領に対して、「今は戦争の時代ではない」として、ウクライナでの戦闘行為の停止を呼び掛けていた。
●ロシア・ウクライナ情勢の推移に中国「対話と協議を通じた解決を希望」 10/11
中国外交部(外務省)の毛寧報道官は10日の定例記者会見で、ロシア・ウクライナ情勢の最新の推移について「中国は各方面が対話と協議を通じて溝を適切に解決することを希望する。また、事態の緩和のために引き続き建設的役割を果たしていきたい」とした。
毛報道官は「中国はウクライナ問題における立場を、すでに繰り返し表明してきた。中国は常に各国の主権及び領土的一体性はいずれも重視されるべきであり、国連憲章の趣旨と原則はいずれも遵守されるべきであり、各国の安全保障上の合理的な懸念はいずれも重視されるべきであり、危機の平和的解決に資する全ての努力は支持されるべきであると主張してきた」と表明。
毛報道官はウクライナ問題における中国の立場を表明すると同時に、ウクライナ各地で発生した爆発事件に関する具体的質問に対し、「中国は関連報道に留意している。事態の早急な緩和を望む」とした。
また「各方面が対話と交渉という方向性を堅持し、事態の緩和を共に後押しすることが重要だ。中国は各方面と共に意思疎通を継続し、事態の緩和のために建設的役割を果たしていきたい」とした。
●プーチン大統領 IAEA事務局長と会談へ ウクライナの原発が焦点  10/11
ロシアのプーチン大統領は11日、ロシア第2の都市、サンクトペテルブルクでIAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長と会談する予定です。グロッシ事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所の周辺を安全な区域に設定するためプーチン大統領に直接、働きかけるものとみられ、プーチン大統領がどう応じるかが焦点です。
ロシアのプーチン大統領は11日、ロシア第2の都市、サンクトペテルブルクにUAE=アラブ首長国連邦のムハンマド大統領を招き会談しました。
このなかでプーチン大統領は「あなたの懸念と、現在ウクライナで起きている危機を解決したいというあなたの考えを承知している」と述べ、現地の原発をめぐる状況を含めてウクライナ情勢について意見を交わしたとみられます。
続いてプーチン大統領は、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長と会談する予定です。
ウクライナ南東部にあるザポリージャ原子力発電所は、相次ぐ砲撃で一時的に外部電源が失われるなど安全性への懸念が広がっています。
グロッシ事務局長は、ザポリージャ原発の周辺を安全な区域に設定するためプーチン大統領に直接、働きかけるものとみられ、プーチン大統領がどう応じるかが焦点です。
●ウクライナ全土攻撃の狙いは?激化のトリガーにも 10/11
10日、ウクライナ各地でロシアによる大規模なミサイル攻撃が行われました。首都キーウでは街のあちこちから大きな煙が立ち上り、巻き込まれた市民が救助を待っている様子も…。ウクライナ軍によりますと、10日午前にロシアから83発のミサイルがウクライナ各地に向けて発射され、うち45発を撃墜したということですが、死者は19人、けが人105人に上っています。
なぜロシアは、ここまでの攻撃を仕掛けたのか。その理由としているのがクリミア大橋の破壊です。8日、ロシア本土とクリミア半島を結ぶこの橋で大規模な爆発が発生。
これについて、プーチン大統領は…「ロシアの重要な民間インフラの破壊を狙ったテロ攻撃であることに疑いの余地はない」ウクライナによるテロ攻撃だと主張。
ウクライナ4州の「併合宣言」を受けて開かれた国連の緊急特別会合でも…。
ロシア、ネベンジャ国連大使「クリミア大橋の破壊工作は、キエフ(キーウ)が何をしでかすかを明確に示している。私たちは、このような行為が報復されずに済むことはないと警告してきた」
ウクライナ全土への攻撃についてロシア側は橋を破壊した「報復攻撃」だとしています。
一方、各国からはロシアに対して非難が相次ぎました。
そんななか、今後のウクライナ情勢を左右するかもしれない動きが…。ベラルーシのルカシェンコ大統領がロシアとの合同部隊を配備することに合意したと明かしたのです。ベラルーシは、これまでロシアと合同で軍事演習を実施したり、攻撃拠点を提供してきた一方、戦闘に参加することはありませんでした。
●日産 ロシア事業からの撤退発表 約1000億円の損失 計上見込み  10/11
日産自動車は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、生産再開の見通しが立たないとして、ロシア事業から撤退すると発表しました。撤退に伴いおよそ1000億円の損失を計上する見込みです。
日産自動車はウクライナへの軍事侵攻の影響で、部品が調達できないなどとして、ことし3月からサンクトペテルブルクの工場の稼働を停止していましたが、発表によりますと、今も生産再開の見通しが立たないということです。
このため、日産は工場を運営する現地法人の株式すべてを、ロシアの政府機関に1ユーロで譲渡し、ロシア事業から撤退することを決めました。
この工場は2009年に稼働を始め、年間およそ4万5000台のSUV=多目的スポーツ車を生産していましたが、生産設備に加えて、およそ2000人の従業員の雇用も政府機関に引き継がれるということです。
日産はロシアからの撤退に伴い、日本円でおよそ1000億円の特別損失を計上する見込みだとしています。
日本の自動車メーカーの間では、トヨタ自動車がサンクトペテルブルクにある工場の閉鎖を決めたほか、マツダもウラジオストクにある工場での生産を終了する方向で、合弁相手の現地企業と協議に入るなどロシアのウクライナ侵攻で現地でのビジネスの見直しを余儀なくされています。
●後先考えず…“無差別”ミサイル攻撃は「プーチン氏の強い焦り」 10/11
緊張が続くウクライナ情勢です。ロシアの報復による全土へのミサイル攻撃でこれまでに19人が死亡、105人がけがをしました。一方で、専門家は今回のミサイル発射で「切り札」を使ったプーチン大統領は窮地に立たされているとの見方も示しています。
道路を走っている時、町を歩いている時、そして生放送中にも…。
ウクライナに降り注いだロシアのミサイルは実に84発。ただ、そのすべてが着弾したわけではありません。
ウクライナ国防省が公開した映像です。
ウクライナ兵:「ワーニャ、やってやれ!」
携帯式の防空ミサイルシステムでロシアのロケットを撃墜した瞬間だといいます。
ウクライナ国防省によると10日、ロシアがウクライナに撃ち込んだミサイルは少なくとも84発。対してウクライナ軍は43発のミサイルと13機の無人航空機を撃墜したといいます。
ただ、被害は甚大です。
キーウ市・クリチコ市長「侵略者はいくつもの重要インフラを攻撃した。これまでのところキーウでは5人が死亡し51人が負傷した」
ロシアがミサイル攻撃を加えたのは首都のキーウをはじめ、ウクライナ全土で少なくとも16都市。
ウクライナ非常事態省によると、これまでに全国で19人が死亡し、105人が負傷しました。
キーウ在住、ボグダン・パルホメンコさん「僕自身もずっと今まではロシア人に対する、ロシアに対する怒りは出してこなかったけど、きのうは腹の中が煮えくり返るくらいの怒りが出てきた。これだけ時間が経っても何もしないロシア国民、武器の供給や支援が活発でない世界の国々。非常に怒りを感じます」
今回の攻撃を受け、G7=主要7カ国は日本時間の11日午後9時から緊急会合を開き、ゼレンスキー大統領も参加します。
ゼレンスキー大統領「ウクライナを脅すことはできない。さらに団結させるだけだ。ウクライナを止めることはできない。テロリストを制圧する決意を強めるだけだ」
ロシアは一連のミサイル攻撃を、クリミア大橋が爆破されたことに対する報復だと正当化しています。果たして、いつまで続くのでしょうか。
慶應義塾大学・鶴岡路人准教授「強い焦りというものは、ロシア側の非常に強い焦りは感じられる」
ウクライナ全土を標的に無差別攻撃を行ったプーチン大統領。この残虐行為を「報復」だと正当化しています。
プーチン大統領「情報機関からの報告や鑑識データなどから、10月8日のクリミア大橋爆破がテロ行為であることは明白だ。ロシアの重要な交通インフラが攻撃され、これを計画し実行したのがウクライナの特殊部隊であることが分かっている」
プーチン大統領はなぜ、あのような行動に出たのでしょうか。
慶應大学・鶴岡路人准教授によりますと、今回のミサイル攻撃にはプーチン氏の「面子」と「焦り」が見え隠れすると指摘。
鶴岡路人准教授「(北東部の)ハルキウ州を異常なスピードで奪還されたということで、9月の話ですけどそのあたりからだいぶ焦りが出てきた。(予備兵)動員の発表、住民投票なるものを実施して、最終的には併合なるものを行うと。このあたりの動きは準備をして整然と行ったという感じでは全くなかった。ロシアにとってはクリミア支配を続けていく意思表示として作った橋なので、それが攻撃されたというのはクリミア支配の根幹を揺るがすこと」
また鶴岡氏は、今回使用されたのが精密誘導ミサイルと指摘。経済制裁で部品調達ができないことから段数が不足しているとされています。いわば、最後の切り札を使ったのでしょうか。
鶴岡路人准教授「ロシア軍は精密誘導ミサイルが在庫がなくなってきていると言われている。ですから、今回のような攻撃を中長期にわたって続けていく能力はロシアにあるかと言われるとそこは疑問」
そんななか、今度は“ロシア寄り”の姿勢を続けるベラルーシが、ロシアとの「合同部隊」を編成することで合意。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は先週、プーチン大統領の誕生日にトラクターを送り、穀倉地帯・ウクライナには「小麦を頼らない…」などと話していました。
ベラルーシ、ルカシェンコ大統領「(Q.プーチン氏へのプレゼントは何を?)トラクターだ。私が使っているものと同じ最高級のものだよ」
ロシアはウクライナに対し、北側からの圧力を強めようとしている可能性があり、部隊編成はすでに3日前から始まっているということです。
鶴岡路人准教授「(Q.ロシアの次の一手は?)動員兵をいかに前線に速く送るかということが、今後ロシアとしては重要な鍵になってくる。とにかく人をたくさん配置して、これ以上、占領地を取られないようにすること」
その貴重な誘導ミサイルを大量に使ってまで報復と称し、ウクライナ全土に無差別攻撃をかけたプーチン大統領は一体、何を考えているのか…。その意図が読めないことが最大の不安です。
●プーチン氏、屈辱的負け戦挽回に「エスカレーション」模索 10/11
ロシアは10日、ウクライナの複数の都市を大量のミサイルで攻撃した。ベラルーシもロシアとの合同部隊を展開すると表明し、ウクライナにとって新たな脅威となった。西側の専門家は、ウラジーミル・プーチン大統領はこのところの屈辱的な負け戦の挽回に向け、「エスカレーション」を模索しているとみている。
プーチン氏は、ウクライナに対するさらなる「苛烈な」攻撃を警告。安全保障会議の副議長を務めるドミトリー・メドベージェフ前大統領も、「エピソード1は幕を閉じたが、まだまだある」と語り、攻撃の続行を予告した。
専門家は、今回の攻撃について、ロシアと2014年に併合されたウクライナ南部クリミア半島を結ぶ橋で8日、爆発が起きたことへの報復とみられると語っている。
ブルガリアのシンクタンク、ソフィア安全保障フォーラムのディレクター、ヨルダン・ボジロフ氏は、橋の爆発について、「プーチンが初めて個人的な屈辱を味わわされた」と指摘した。
爆発をめぐりウクライナは責任を認めていないが、ロシアは直ちにウクライナ側の仕業だと非難した。それより数週間前、ロシア軍はウクライナ東部の要衝リマン一帯、さらに南部ヘルソン州でも強力な反撃を食らっている。
ポーランド国際問題研究所の安保問題専門家、ボイチェフ・ロレンツ氏はAFPに対し、「ロシアは紛争をエスカレートさせる能力を依然有していることを示した。だが、それはより多くの市民を標的にすることによってのみ可能となる」と語った。
「ロシア政権は、内部でさまざまなプロパガンダや主張を唱えるグループにより、ウクライナ側の攻勢に反撃できる能力があることを示すよう圧力をかけられている」
ベラルーシ
プーチン氏の盟友、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は10日、ロシア軍と合同の「地域部隊」を展開することで同国と合意したと発表。どこに派遣するか言及しなかったが、ロシアのウクライナ侵攻にいずれ加勢するのではないかとの懸念が広がった。
ルカシェンコ氏はこれまで、自国領土をロシア軍が使用するのは容認していたが、国内から直接、部隊をウクライナに送り込むことは拒否してきた。
英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のウィリアム・アルバーク戦略・技術・軍備管理部長は、「ベラルーシが紛争に参加するかは疑問だ。ベラルーシ軍は主に自国民の弾圧に携わっている」と話した。
ロレンツ氏もベラルーシの直接的な参戦の可能性には懐疑的だ。ただ、「ウクライナとしてはある程度の(軍事)資源を(ベラルーシとの)国境防衛に振り向けざるを得なくなるだろう」と予想。ウクライナにとっては、「西・北部に数千人の部隊を割くのではなく、東部での(対ロシア)防衛に資源を集中させた方が良い」と説明する。
ふりだけ?
ベラルーシの関与拡大、核兵器使用の脅し、残虐な攻撃の増加──。これらは、戦況を転換させたいプーチン氏に残された、短期的に取り得る数少ない選択肢だ。
アルバーク氏は、10日のミサイル攻撃はウクライナと西側に対する圧力を強めたいプーチン氏の戦略の一環だと指摘する。
「ロシアは(敵に)衝撃を与えるサイクルに入っており、暴虐性のピークに達している。そのサイクルは部分的動員令、(ウクライナ4州の)併合に始まり、核兵器使用の威嚇へと続いた。今は市民に対する無差別攻撃に入っている」
ボジロフ氏も、「プーチンは発電施設や民間インフラを破壊してウクライナ社会に圧力を加えるとともに、西側諸国にも圧力をかけて結束を切り崩そうとしている」と分析した。
ボジロフ氏によると、市民への攻撃は、プーチン氏にとって「何でもやりかねない」との自身の印象を醸成するのに役立ってもいる。
しかし、ロレンツ氏は、ロシア軍が10日のような大規模ミサイル攻撃を繰り返すのはあり得ず、一方で西側諸国はウクライナの防空支援を強化する可能性が大きいとの見方を示した。
ロレンツ氏は、「ロシアの精密攻撃能力は限定的だ。国際社会の制裁もあり、それを早急に立て直すこともできなくなっている」と指摘。「力を誇示することはできるが、資源が損耗しているため、ふりにすぎない」と語った。

 

●プーチンの欺瞞を暴く元ソ連外相シェワルナゼの証言 10/12
ロシアがウクライナ侵攻を開始して約7カ月。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ東・南部4州(ルハンシク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン)の併合を宣言する一方、ウクライナは東・南部の奪還を進め、事態は混迷を深めている。プーチン氏のウクライナ侵攻は、「北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大防止」を名目に行われたが、元ソ連外相で元グルジア大統領のエドゥアルド・シェワルナゼ氏が生前、インタビューで語った証言をひも解き、プーチン氏の欺瞞を立証する。
ロシアの戦略的敗北「NATOへ加盟申請する」
長期戦となったロシアによるウクライナ侵略戦争で、劣勢のプーチン大統領が強引に、ウクライナ東・南部4州を併合したことで、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は対抗措置としてNATOへの正式な加盟申請に踏み切った。4州は「ノボロシア(新ロシア)」領土との既成事実化を進め、核兵器使用の恫喝を行うロシアに、ウクライナはNATO加盟で抑止力を強化する狙いだ。
中立を維持し続けてきた北欧スウェーデンとフィンランドもNATO加盟を申請し、年内にも北方拡大が実現する。プーチン氏は「東方拡大は安全保障上の脅威」とNATO拡大防止を理由に侵攻したものの、相次ぐ周辺国の加盟申請は、ロシアの「戦略的敗北」を示している。
東欧諸国がNATOを目指すのは、西側の集団安全保障に入り、覇権国家ロシアの脅威から身を守ろうという各国の自発的意志によるものであって、NATOから諭され、指導されたものではない。
23年前の1999年2月、グルジア(現ジョージア)の首都トビリシで行ったインタビューでのシェワルナゼ氏(1995年から2003年までグルジア大統領就任)の証言もそれを裏付ける。
「盟主となるべきロシアが求心力を失ったため、独立国家共同体(CIS)から離脱して、NATOと欧州連合(EU)加盟を目指す」
ソビエト連邦の外相(1985〜90年就任)として冷戦を終結させた立役者のシェワルナゼ氏は95年、祖国に戻り、隣国アゼルバイジャンが国際石油資本と始めたカスピ海石油開発を利用して国造りを進めていた。
ウクライナ侵攻の先例
旧ソ連15カ国のうちバルト3国を除く12カ国によって結成されたCISは機能せず、形骸化していた。
「CISの集団安保条約に加わっているのに、グルジアからの分離独立を目指すアブハジア自治共和国との紛争で駐留ロシア軍が調停役として動かない。独立国家としての立場が脅かされ、国内の安定が損なわれている」とシェワルナゼ氏は不満を漏らし、「主導すべきロシアが政治的、経済的混乱を続けているからだ。不必要な集団安保条約のみならず、CISからの離脱を考える」と述べた。
シェワルナゼ氏の発言通り、ロシア軍は紛争調停役を果たさないどころか、9年後の2008年8月、グルジアに軍事侵攻し、南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を一方的に承認し、ロシアの影響下に置いた。グルジアはアブハジアと南オセチアの支配権を喪失し、その後のクリミア併合に端を発するウクライナ侵攻でみられたロシアによる未承認国家を利用した影響圏拡大の先駆けとなった。
そこで、シェワルナゼ氏は「ロシアによる帝国主義的支配につながるCISの再統合は不可能だ」と見切りをつけ、代わりに「EU加盟を目標にし、CISに代わってNATO加盟を目指す」と明言し、ロシアの影響下から離れる覚悟を示した。
このインタビューを産経新聞で報じると、ロシア政府からインタビューした録音テープの提出を求められ、「出さなければ、査証(ビザ)を更新しない」と迫って来た。録音テープの提出を拒否すると、ロシア国営テレビがシェワルナゼ大統領の「NATO加盟発言」は「誤報」と報じた。
しかし、9カ月後の同年11月、シェワルナゼ氏は米国ワシントンで会見し、次期大統領選で再選されれば、2005年にNATOへ加盟申請すると表明し、溜飲が下がった。
シェワルナゼ氏が99年にNATO加盟を表明したのは、同年3月、ポーランド、チェコ、ハンガリーがNATO加盟したことと無縁ではない。こうした流れに乗って折からのカスピ海石油開発を背景に西側に入り、市場経済を定着させることで国造りを目指したのだった。
NATO加盟を妨害する常套手段
しかし、ロシアにとっては、旧ソ連の周辺国までNATO加盟すると緩衝地帯がなくなり、死活的脅威になると猛反発した。その強固な被害者意識こそがクリミアをはじめとするウクライナ侵攻につながった。シェワルナゼ氏は2004年の「バラ革命」で失脚したが、後任のミヘイル・サーカシビリ大統領もNATOとEUへの加盟問題を引き継いだものの、08年、ロシアのグルジア侵攻によりNATO加盟は先送りされた。NATOは紛争地域を抱える国の加盟を認めていないためだ。
インタビューでは、外相時代に取り組んだ北方領土問題についてもただした。これに先立ち、モスクワで、シェワルナゼ氏の外相補佐官を務めた元ソ連外務省職員、セルゲイ・タラセンコ氏からペレストロイカ(建て直し)の新思考外交として、東西ドイツ統一後、日本との北方領土問題を片づけることが、タイムスケジュールに入っていたことを聞いていた。2つの懸案をクリアすることで、「欧州共通の家」に入るつもりだったとも聞いた。
タラセンコ氏は「日本との関係正常化のため、障害となる領土問題の解決(北方4島返還)がクレムリンで主流だった」と証言し、「悲しいかな、時間が足りなかった」と悔しがった。これを受けてシェワルナゼ氏も、「ゴルバチョフ氏と、それ以前は存在しなかった『領土問題』を認め、オープンな議論を始めた。残念ながら完成することはできなかった。環境が整えば、解決(領土返還)できた」と打ち明けた。そして、「北方領土が黒海の中にあったら、グルジアは日本に譲っただろう」とユーモアを交え語ったのである。
東方拡大を容認していたロシア
そもそもロシアは主要8カ国(G8)入りと引き換えにNATOの東方拡大を容認していた。
97年3月、フィンランドの首都ヘルシンキで開かれた米露首脳会談で、ビル・クリントン米大統領はロシアにG8の地位と世界貿易機関(WTO)への加盟支援を約束。見返りとしてボリス・エリツィン露大統領がポーランドなど3国のNATO加盟を容認している。
エリツィン氏は同年、NATOと基本議定書を結び、互いに敵と見なさないことを確認し、3国はNATO加盟を果たした。ロシアはNATOの東方拡大を事実上黙認した。G8メンバーという大国の地位を得て、冷戦の敗者として傷ついた自尊心を回復する狙いだった。
NATOとロシアの「手打ち」を仲介したのが日本だった。米露首脳会談に臨むクリントン氏が橋本龍太郎総理に電話をかけ、協力要請している。東方拡大を受け入れたロシアの挫折感に日本が寄り添い、日露関係が進展した。クラスノヤルスク会談で、エリツィン氏が北方領土問題解決に意欲を示し、「2000年までの平和条約締結に全力を尽くす」合意が生まれたが、北方領土返還を実現できなかった。
エリツィン氏から大統領職を引き継いだプーチン氏は当初、西側に友好的だった。2000年、訪問したロンドンで、ロシアのNATO加盟は「対等なパートナーであれば、可能性を排除しない」と述べ、01年の9.11米同時多発テロでは、米主導のテロとの戦いに全面協力した。
02年には「NATOロシア理事会」新設に関するローマ宣言に自ら署名し、NATOへ接近。ローマ宣言を下敷きに04年、バルト3国など7カ国が加盟した。ロシアとNATOは2度文書を交わし、協力強化で合意している。プーチン氏自身、NATOと2度、敵とみなさない文書に署名し、ロシアのNATO加盟を示唆したことは、NATOを敵視し、東方拡大をウクライナへの侵攻理由とすることと整合性が取れない。
07年のミュンヘン安保会議でプーチン氏はNATO拡大に懸念を抱き、08年、グルジアとウクライナの将来加盟が約束されると、「ロシアへの脅威」と態度を豹変させ、同年8月、グルジアに侵攻、14年、クリミアを併合。G8の地位を失った。
狙いは民主主義の浸透阻止
NATO拡大を批判してプーチン氏の説明に理解を示す人々もいる。元ソ連大使でソ連封じ込め政策を立案した米国のジョージ・ケナン氏は1997年2月、米紙にNATO東方拡大は「誤り」と反対する論文を寄稿し、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授は「NATOの無謀な拡大がロシアを刺激した」「ウクライナ戦争勃発の第一責任は米国」と非難し、背後の軍産複合体の存在を指摘する。
筆者はシェワルナゼ氏のように、ロシア周辺国はロシアの軛(くびき)から離れ、市場経済で豊かになろうと、西側の一員になることを目指しているという認識だ。また、独立した主権国家は同盟相手を自由に選ぶ権利がある。
そもそも武力で国境の一方的変更を試みるロシアには、彼らをつなぎ留める国家としての魅力に著しく欠ける。また、東方拡大を容認していたNATOを「脅威」として侵攻を正当化するのは、身勝手にも程がある。
プーチン氏の敵意の源泉はウクライナの民主主義ではなかろうか。ウクライナ国民が経済的に繁栄し自由を謳歌すれば、それがひいてはクレムリンの体制を揺るがし、国家指導に国民から疑問符がつきかねない。同じスラブ国家として歴史と文化をともにするウクライナ国民の自由と民主主義の選択がロシアに波及することに怯え、看過できないのだ。
「NATO拡大の脅威」を理由に戦争犯罪を続けるプーチン氏の詭弁に翻弄されてはならない。77年前、当時有効だった日ソ中立条約を破って侵攻し、北方四島を不法占拠し続けるロシアの「本性」を一番よく知っている日本人は、今一度、認識を新たにすべきだ。
●厳冬を前にウクライナ戦争激化か:核への誘惑に抗せなくなるプーチン 10/12
ロシア軍は10日朝(現地時間)、ウクライナ全土に83発のミサイルを発射し、ウクライナの電力や水道のインフラを破壊する一方、民間人を無差別攻撃した。ウクライナ側の報道では14人が死去し、100人近くが重軽傷を負ったという。
ロシア本土とクリミア半島を結ぶ19キロの長さのクリミア大橋の一部が8日、破壊されたことに対し、プーチン大統領は爆発事故の政府委員会を設置し、調査を命令。そして9日、「クリミア大橋爆発事件はウクライナ保安局(SBU)の仕業だ」と発表し、報復を表明してきた。同大統領は10日、「ロシア領土のテロ行為に対する報復だ。必要ならば、今後も大規模な攻撃を行う」と警告を発している。
クリミア大橋の爆発事件については、ウクライナ側は歓迎する一方、事件への関与については何も言及していない。そのため、ロシア側の自作自演説も囁かれている。道路端と鉄道橋から成る同橋はロシアからクリミア半島への主要補給路だけに、ロシア軍の軍作戦にも支障が出てくる可能性があると予想されている。
数カ月ぶりに、ロケット弾が首都キーウやウクライナ西部のリヴィウに落ち、他の多くの都市も砲撃を受けた。ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオメッセージで、攻撃は主にエネルギーインフラを狙ったものだと述べる一方、民間人への無差別攻撃を「テロ」と強く非難している。
独民間放送は10日、ロケット攻撃を受けたウクライナ首都キーウの状況を報じていた。1人のキーウ市民は、「ここ数カ月はキーウへの攻撃がないので安心していた。早朝、ロシア軍のミサイル攻撃を受け、サイレンが鳴り響いて驚いて目を覚ました」という。ポーランドやスロバキアなど隣国に避難していたウクライナ国民はキーウやウクライナ西部リヴィウはもう安心だと考え、多くは海外の避難先から戻ってきた。ウクライナ側には「ロシア軍はもはや怖くない」と考える国民が増えてきていた。ロシア軍の10日のミサイル攻撃はウクライナ国民に再び、「ロシアは怖い」という恐怖心を与えているわけだ。
なお、ロシアが発射したミサイルの多くは撃ち落されたという。ウクライナ国防省の発表では83発中、52発のミサイルは防空システムによって迎撃された。ロシア軍のミサイルのほか、イラン製のドローン(無人機)も目撃されたという。ウクライナ軍によると、これらの無人偵察機の一部は隣接するベラルーシやクリミアから発射されたという。
オーストリアのインスブルック大学政治学者のマンゴット教授は10日、オーストリア国営放送のインタビューに答え、「モスクワ橋の破壊以降、ウクライナ戦争はエスカレートしてきた。プーチン大統領はウクライナ東部、南部の4州を併合させたが、ウクライナ軍の攻撃を受け、ロシア軍は守勢にまわり、領土の一部を奪い返されている。そこで政府や軍内の強硬派から大統領への圧力が高まってきた。プーチン氏はその責任回避のため軍の指揮に問題があるとして、軍人事を行い、軍事侵攻の総司令官に8日、スロビキン上級大将(航空宇宙軍総司令官)が任命されたばかりだ。プーチン氏にとってウクライナとの戦いは絶対に負けられない。敗北は自身の政治生命の終わりを意味するからだ」と説明。
一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ウクライナがベラルーシへの攻撃を計画していると非難し、ロシアとの合同軍の編成を発表した。ベラルーシの国営通信社ベルタによると、ルカシェンコ氏は10日、「ロシア連邦とベラルーシ共和国の地域連合を設立することを決定した」と述べた。それに対し、マンゴット教授は、「ベラルーシ軍がウクライナ北部から攻撃をすれば、ウクライナ側も東部、南部の軍の一部を北部に回さなければならなくなる。ただ、ベラルーシ軍の規模が不明だ。その上、ベラルーシ内ではウクライナとの戦闘に反対する声が強く、軍内部でも戦争には消極的だ」と分析している。
ベラルーシはロシアの数少ない同盟国の一国だ。2月末のウクライナでのロシアの攻撃の開始時、ベラルーシは自国の領土からロシア軍がウクライナに侵攻することを容認したが、ベラルーシの兵士がウクライナ戦争に直接派遣されたことはこれまでない。ベラルーシ軍には約6万人の兵士がいると推定されている。
冬の訪れが迫ってきた。プーチン大統領は9月21日、約30万人の予備兵の部分的動員令を発し、9月30日、ウクライナ東部(ドネツク州、ルガンスク州)・南部(ヘルソン州、ザポロジェ州)のウクライナの4州のロシア併合を実行、10月に入ると、8日にはクリミア大橋の爆発、そして10日はロシア軍のウクライナ全土へのミサイル攻撃と、ウクライナ戦争が急速にエスカレートしてきている。ロシア軍が今後も守勢に回るようだと、プーチン氏への批判の声が一層高まることが必至だ。その時、プーチン氏が大量破壊兵器(原爆)への誘惑に抗すことができなくなる事態も考えられる。
●数日の訓練で「囚人部隊」を最前線に送り込む"苦闘"ロシアの動員事情 10/12
先月末に配信されたデイリー新潮の記事によると、民間軍事会社「ワグネル」は兵員不足に悩むロシア軍のために刑務所の囚人から志願兵を募集。3000人を集めた後、わずか10〜14日間ほどの訓練で前線に送り、全員が戦死したと言う。
かつてアフガンに義勇兵として参戦後、アジアのカレン民族解放戦線やクロアチア外人部隊に所属、数々の激戦を傭兵として経験した高部正樹氏はこう語る。
「ボスニア内戦の超激戦の際も戦死したのは約3割。なので、3000人中900人が戦死して、残りはウクライナに脱走したと思われます。一般人にとって、敵兵を殺すか殺さないかの壁は結構大きいのですが、その点、囚人の中にはその歯止めがかからない連中もいます」 囚人部隊の小隊長殿は元死刑囚らしい。
「刑務所内には階級があります。それを軍隊に転用して、コソ泥は二等兵、強盗は軍曹、将校は死刑囚、という階級付けも考えられます。ロシアマフィアの中には何十人も人を殺した人間がいてもおかしくありませんので」
現に10月4日、ロシアのプーチン大統領は、「ワグネル」の司令官に38人殺した終身刑囚のブトリンを任命したそうだ。まさしく最恐である。
では、囚人部隊には短い時間の中で、どのような訓練が施されているのだろうか。前線に出る前にクロアチア外人部隊で行われていた訓練について、高部氏はこう語る。
「どんなベテラン兵の部隊でも、チームプレイの訓練を4〜7日間やります。しかし、囚人は軍隊の兵隊とすればド素人。ワグネルは10日から2週間程度やったとのことですが、銃を渡し、匍匐(ほふく)前進などの基本的な動きだけ教えて最前線に出すのでは、すぐ死ぬと思います。まさに自分のいたアフガン流です」
1990年代、高部氏はソ連軍と「ムジャヒディン(ジハードに参加する戦士)」として戦っていた。ある日、アジトでAK47ライフルを渡され、一弾倉分試し撃ちをし、数日歩いてとある斜面を登り切ると、そこが戦場だったことがあるという。
「アフガンでは100人新兵が来れば、そのまま100人前線に送り込みます。そのなかで一年後に10人残っていれば、彼らがベテランになる。事前に2週間も訓練してくれる『グネル』はアフガンよりいいと思いますよ」
ロシア軍の招集兵はもっと酷いらしい。9月30日のForbesの報道によれば、ロシア陸軍は招集兵をわずか1〜2日の訓練を受けさせただけで最前線に送り込んでいる。
「それは、アフガンで我々がやっていた方法をソ連軍が学び、それをいままたロシア軍がやっているとしか思えないです。30万人招集して1年後に三万人のベテランが残る。ロシア陸軍1BTG(大隊戦術軍)が600人とすると、50個BTGの凄い戦力となります。
ただ、いまは当時より兵器の質が上がっているので、死ぬ確率は2倍になっていると思います。なので、単純計算すれば30万人招集すれば、1年後に1万5000人残って25個BTGですね。100万人動員すれば5万人生き残って、ベテランの83個BTGができます」
このやり方は、第二次世界大戦でソ連軍が対ナチスドイツ戦で、自国民約3000万人を殺して勝利した戦いと同じだ。
「そうかもしれません。戦場で生き残れるかどうかは、運の要素が一番大きいです。アフガンでは10%は運良くて生き残れましたが、今のウクライナ戦争では5%程度です」
サバイブできる確率が限りなく低い中、もしロシア軍にウクライナ戦争の最前線に配備されたらどうすればいいのだろうか?
「まず、弾薬庫警備などの後方勤務はハイマース(高機動ロケット砲システム)の標的になるだけです。なので、前線勤務を希望します。しかし、前線に行くまでBTR(装輪装甲車)に乗ったら155mm777の砲撃で戦死です。
アフガン時代ならば、最前線の塹壕では、ヘリが飛んできたら地面にへばりついて動かなければ見つかりませんでした。しかし、今の無人ドローンは動かなくても見つけますからね」
これではどこにいても戦死だ。
「ですので、ウクライナ軍は、黒焦げになって悲惨な死に方をしたロシア軍兵士の死体の映像などをネットに上げます。同時に、ロシア軍捕虜を優偶する映像を流します。
すると、ロシア軍の新兵はウクライナ軍の捕虜になるまで、戦って抵抗する意思が薄れてきますね。とにかく、自分だけ何とか戦場でウクライナ軍の捕虜になって助かろうとします」
壮絶なサバイバル戦だ。
「ロシアは怖い所だと思いました。これは国軍のやりかたではなく、ゲリラの戦い方です。何の役にも立たない兵を、大量に最前線に送る意図が分かりません。プーチン大統領は通常戦では引く気はない。長期戦になりますね」
1945年、スターリンは自国民3000万人の犠牲を出して、ドイツの首都・ベルリンを陥落させた。プーチンはまた自国民を何万人も殺すことで、キーウに行くつもりなのか...。
●ウクライナのエネルギー施設3割、ミサイル被弾… 10/12
ウクライナのヘルマン・ハルシチェンコ・エネルギー相は11日、米CNNに対し、ロシアの広範なミサイル攻撃が始まった10日以降、エネルギー関連施設の3割が被弾したと明らかにした。電力遮断や計画停電になる地区が相次いでおり、ロシアはエネルギーによる揺さぶりも強めている。
ウクライナ軍参謀本部は11日、ロシア軍が巡航ミサイル約30発を撃ち込み、空爆を7回行ったと発表した。巡航ミサイル21発を迎撃し、無人機11機を撃墜したが、西部リビウ州など10地域のインフラ(社会基盤)が被害を受けたという。大統領府高官によると、11日時点で約3850市町村の電気が復旧したが、約100市町村は停電が続いている。
独誌シュピーゲルによると、ウクライナは11日、ドイツから地上発射型防空システム「IRIS―T SLM」1基の引き渡しを受けた。ドイツはさらに3基を供与する計画だ。
米ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報調整官は11日、記者団に対し、ウクライナへの供与を7月に発表していた地対空ミサイルシステム「NASAMS」について、「最初の2基を間もなく届けられるだろう」と述べた。カービー氏によると、米国はさらに6基の供与を決めている。
●無差別攻撃で情勢さらに悪化 強硬論の勢い増すロシアの次の動きは  10/12
ロシアがウクライナ全土で民間人を巻き込む無差別攻撃を行ったことに対し、欧米などは非難を強めており、ウクライナへの軍事支援を通じて関与を強化するとみられる。一方、ロシアでは強硬派の台頭が目立つ。プーチン大統領は冬を前に、インフラ施設を攻撃して暖房や電力を止める作戦とみられるが、核兵器が使われる恐れも残る。
強まるロシア包囲網
「同盟国や友好国とともに戦争犯罪や残虐行為の責任を追及し、ロシアに代償を払わせる」
バイデン米大統領は10日、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話協議で、ロシアのミサイル攻撃を強く非難した。その上で高性能防空システムの提供を含む軍事支援の継続を約束した。今回の攻撃でウクライナは約半数のミサイルを迎撃できず、防空システムの配備は「最優先の課題」(ロイター通信)だ。
バイデン氏は電話協議を前に発表した声明で、今回の攻撃が民間人を殺傷して軍事施設以外を標的にしていると指摘し、「プーチン大統領による違法な戦争の徹底した残虐性を示した」と名指しで批判した。
これまでロシア批判に抑制的だった国々も態度を変えつつある。ロシアと近いイスラエルのラピド首相は10日、「市民に対するロシアの攻撃を強く非難する」とツイートした。
過去に「残虐な作戦」指揮した司令官を起用
ウクライナ情勢は悪化に歯止めがかからなくなりつつあり、ロシア側は欧米の介入強化に警戒感を隠さない。ロイターによると、リャプコフ外務次官は11日、「西側の介入強化に必要な対応をする」と警告した。アントノフ駐米大使も「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の直接衝突のリスクを高める」と指摘した。
ロシアでは一度占領した地域が徐々にウクライナに奪還され、支配の象徴だったクリミア橋で8日に爆発があると、市民からも「新年までにウクライナ全土を制圧しろ」(北西部ウォログダ州の60代の元兵士)などと軍への批判が目立っている。
ロシア国防省は8日、ウクライナ戦線総司令官にセルゲイ・スロビキン陸軍大将が着任したと発表した。スロビキン氏は、プーチン政権が介入するシリア内戦で残虐な作戦を断行。英紙ガーディアンは「人命を顧みず冷酷」と伝えた。
厳冬を前にインフラ破壊「18世紀の生活に戻してしまえ」
プーチン氏が緊急招集した8日の安全保障会議では、ウクライナへの「報復」の方法が議論されたもようだ。メドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は7月、クリミア橋が攻撃されれば核兵器で反撃すると示唆していたが、プーチン氏は今回は核についての言及を避けた。欧米による反撃のリスクを見極めているとみられる。
ロシアは核の選択肢を温存しつつ、ウクライナ各地のインフラを破壊し、冬を前に暖房や電力を止める作戦。ロイターによると、キーウや西部リビウなど複数都市で停電が続いており、11日もウクライナ全土にミサイル攻撃に対する警報が出ている。ロシアのトルストイ下院議員は8日、「ウクライナを18世紀(の生活)に戻してしまえ。われわれが勝利してから再建しよう」とネット上に投稿した。
●ロシア軍、損害甚大 プーチン氏判断に「欠陥」 英情報機関トップ 10/12
通信傍受や暗号解読などを担う英情報機関、政府通信本部(GCHQ)のフレミング長官は11日、ロンドンでの講演で、ウクライナに侵攻するロシア軍が「甚大な人的物的損害」を被り、消耗しているとの見方を示した。
攻撃に使える武器も枯渇しつつあるとし、プーチン大統領の戦略決定には「欠陥」があると断定した。 
●岸田総理「いかなる理由であれ正当化できない」G7首脳会議で非難 10/12
岸田総理「ウクライナの民主的で繁栄した未来を確保するために引き続きG7で結束をしていくこと」
首脳会議に参加した岸田総理は、ウクライナ各地に対するロシアによる攻撃を「いかなる理由であれ正当化することができない」と強く非難。さらに、「ウクライナを新たな被爆地にしてはならない」と述べ、ロシアによる核兵器の使用や威嚇はあってはならないと強調しました。
また、ロシアへの新たな制裁については「G7をはじめとする国際社会と連携する中で、日本としても適切に対応していきたい」と述べました。
●米バイデン大統領 “プーチン大統領は状況を大きく見誤った”  10/12
アメリカのバイデン大統領はウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について「合理的な行動をする人物だが、状況を大きく見誤った」という見方を示したうえで、ウクライナ4州の併合を一方的に宣言したことを改めて非難しました。
これはアメリカのバイデン大統領が11日に放送されたCNNテレビのインタビューで述べたものです。
バイデン大統領はロシアのプーチン大統領について「彼は合理的に行動する人物だが状況を大きく見誤った」と述べてプーチン大統領が、軍事侵攻がこれほど長期化するとは考えていなかったという見方を示しました。
そのうえで「彼は自分が、ロシア語を話す全ての住民を率いるリーダーになるべきだと考えていたが、それは非合理的な考えだ」として、ウクライナ東部や南部の4州の併合を一方的に宣言したことを改めて非難しました。
またバイデン大統領は、プーチン大統領が核兵器を使う可能性について問われると、すぐに核兵器が使われる可能性は低いという見方を示したうえで、「世界最大の核保有国の1つのリーダーが核兵器を使うことを示唆するのは無責任だ」と述べ、ロシア側を強くけん制しました。
●プーチン大統領、ロシアはエネルギー市場で「誰とも」敵対していない 10/12
ロシアのプーチン大統領は11日、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド大統領とサンクトペテルブルクで会談し、ロシアはエネルギー市場で誰とも敵対しておらず、石油市場の需給バランスを模索していると述べた。
石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」の減産決定を、米国は批判している。
プーチン氏は「われわれはOPECプラスの枠組みの中で、積極的に動いている。誰に対しても問題を引き起こすようなことはしない」と話した。その上で「世界のエネルギー市場に安定性を持たせるために行動している」と強調した。
米政府はOPECプラスの減産を「目先のことしか見ていない」と批判。これに続きバイデン大統領は政府と議会に対し、米国内のエネルギー生産を拡大し、エネルギー価格に対するOPECの支配力を弱める方法を検討するよう要請した。 
●ウクライナへのミサイル攻撃、戦争犯罪の可能性を捜査=国際組織 10/12
ウクライナを支援する国際移動司法チームの首席検事は12日、ロシアがウクライナのキーウ(キエフ)などに対して行っているミサイル攻撃について、戦争犯罪の可能性があるとして捜査を進めていることを明らかにした。
ミサイル攻撃ではこれまでに少なくとも26人が死亡している。
同チームはキーウを訪れ、民間人や民間インフラの被害を検証。首席検事はロイターに「エネルギー・通信インフラに広範な攻撃があったとされているが、軍事作戦への影響は最小限のようだ。冬が近づく中、民間人の健康、苦痛、恐怖の蔓延には最大限の影響が出ているとみられる」と述べた。
●ロシア軍によるウクライナの文化財「略奪」の規模が明らかに 10/12
ロシア軍は、占領した地域で、組織的にウクライナの文化遺産を破壊したり「略奪」したりしている。その被害が想像を超えるものであることが明らかになってきた。ウクライナの文化大臣や関係者たちはロシア兵のこの暴虐行為を非難するとともに、さらなる被害の防止に努め、国際社会にも支援を呼びかけている。
ロシアが略奪したり破壊したりしているものは、現在のウクライナという国のアイデンティティと結びつくものだけではなく、現地で発掘された古代の遺物も多いという。
ロシアによって占領されているメリトーポリでは、郷土博物館の職員がロシアによる処罰を恐れて匿名で取材に応じ、1700以上の所蔵品が持ち去られたことが明らかになった。博物館側は破壊を恐れて貴重な所蔵品を秘密の地下室に隠していたが、ロシア軍はそれを執拗に捜索し、最終的に見つかってしまったという。
米政府系放送局「ボイス・オブ・アメリカ」によると、そのなかには、世界でも数少ないフン族の王冠も含まれている。ほかにも、およそ2400年前、クリミアに帝国を築いたスキタイ人の時代の黄金でできた出土品198個など、貴重な歴史的遺物がロシア兵に持ち去られたという。
メリトーポリの所蔵品について質問されたロシアの文化省はコメントを控えている、とボイス・オブ・アメリカは報じる。遺物がどこに運ばれて、どのような扱いを受けているのかはまったくわからない。もし戦争が終わっても、戻ってくる保証はないし、正当に扱われているのかすら不明なため、いまも損傷なく存在しているかどうかもわからない。ウクライナ考古学研究所の主任研究員オレクサンドル・シモネンコは「文化がなくなるようなことがあれば、それは取り返しのつかない災難だ」と非難する。
メリトーポリのほかにも、ロシア軍はウクライナ中で約40の博物館・美術館から展示品を盗んだと、ウクライナのオレクサンドル・トゥカチェンコ文化大臣は発表している。その損失は金額にして数億ユーロにものぼる。「ウクライナの文化遺産に対するロシアの扱いは、戦争犯罪だ」とトゥカチェンコは述べる。
人類全体にとって損失
戦争が始まって8ヵ月になる現在、ユネスコの統計では、ウクライナ国内の12の地域で、199ヵ所の文化施設がミサイル、爆撃、砲撃によって被害を受けているという。その内訳は、教会などの宗教施設が84、歴史的建造物が37、文化活動のための施設が37、モニュメントが18、博物館が13、図書館が10となっている。ウクライナ政府が独自に行なっている集計では、その数はもっと多い。
ユネスコのエルネスト・オットーネ文化担当事務局長補は、独公共放送「ZDF」のインタビューで、「今日では手に入らない素材を用いて建てられた建物などは、再建するのがきわめて難しい」と述べ、そのような文化財の消失はウクライナだけでなく、人類全体にとっても損失になると指摘する。
現在、ウクライナに武器を供給する欧米諸国は、戦場でロシアに勝利することに主眼を置いている。しかし、もし再び平和が訪れたとき、人々が生活の再建という新たな戦いを耐え抜くためには、文化財や美術品、歴史的遺物などがしっかり保存されていることが不可欠だ、とボイス・オブ・アメリカは指摘する。
ウクライナ国内でも、ロシア軍が進入する前に文化財を移したり、歴史的建造物を爆風から守るために鉄板や土のうで覆うといった取り組みがされているが、人員や物資の面で限界があるとZDFは報じる。
武器の供与という形での支援を行うのが難しい国や組織などでも、文化財保護のために強力な支援ができれば、それはウクライナのみならず、人類全体にとって大きな力になるかもしれない。
●トルコ・ロシア国防相が電話会談、ウクライナ停戦で「共通の認識」 10/12
トルコ国防省は、アカル国防相とロシアのショイグ国防相が11日に電話会談を行い、ウクライナ戦争の停戦に関して「共通の認識」が得られたと明らかにした。
同省の声明によると、アカル氏はこれ以上人命が失われることを防ぎ、地域の平和と安定を回復するための停戦の重要性を強調したとし、停戦に関して共通の認識が得られたことを歓迎したとしている。
両氏は穀物輸出協定や人道支援、シリア北部情勢についても協議したという。
●バイデン氏、米は既に対応検討−ロシアの核使用に備え 10/12
バイデン米大統領は11日、ロシアのプーチン大統領がウクライナで核兵器を使用した場合に備えて、米国がさまざまなシナリオを検証していることを明らかにした。
バイデン氏はCNNとのインタビューで、国防総省に有事の際の対応策策定を指示したかどうか問われ、「国防総省は指示を受ける必要がなかった」と発言。ただ「われわれが何を行い、何を行わないかを語る」のは無責任になるとして、国防総省との協議の詳細は明らかにしなかった。
バイデン氏は先週、プーチン大統領がウクライナ侵攻に絡んで戦術核兵器の使用も辞さない構えを示していることについて、脅しは本気であり、「アルマゲドン(世界最終戦争)」につながりかねないと懸念を表明していた。
バイデン氏はまた同インタビューで、11月にバリ島で開催される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でプーチン大統領と、ウクライナの戦争に関してはウクライナ政府の関与なしでは協議するつもりはないと述べた。バイデン氏はまた、プーチン氏は「合理的な行動をする人物」だが「大きな誤算」を犯したと評した。
主要7カ国(G7)首脳はオンライン会合でウクライナへの支援継続を約束し、激しさを増した今週のロシアによる攻撃を非難した。民間人への攻撃は戦争犯罪だと断じ、プーチン大統領に責任を負わせると主張した。
米国はゼレンスキー大統領からの追加軍事支援要請に応じ、高度防空システムの供与を迅速化する。
ウクライナ各地が戦争開始当初以来の集中的なミサイル攻撃を受けてから1日たち、ゼレンスキー大統領はプーチン大統領とは交渉しない方針をあらためて繰り返した。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
バイデン氏、G20サミットでプーチン氏とウクライナについて協議せず
バイデン氏はCNNとのインタビューで、11月にバリ島で開催される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でプーチン大統領と、ロシアで拘束されている米女子プロバスケットボール(WNBA)のブリトニー・グライナー選手については話し合う用意があるが、ウクライナの戦争に関してはウクライナ政府の関与なしでは協議するつもりはないと述べた。同選手は違法薬物密輸の罪でロシアの裁判所から禁錮9年の実刑判決を言い渡されている。両首脳ともG20サミットに出席すると予想されている。
バイデン氏、プーチン氏は「大きな誤算」
バイデン米大統領はCNNとのインタビューで、ロシアのプーチン大統領は「合理的な行動をする人物」だが「大きな誤算」を犯したと発言。またウクライナ侵攻の決定は非合理的だったと指摘した。バイデン大統領はさらに、プーチン氏は「ロシア語を話すすべての住民を統合するロシアの指導者になる必要があるとの考えを公言したが、それは非合理的な考えだと思う」と語った。
G7首脳:プーチン氏に責任を負わせる
G7首脳はロシアが10日行ったウクライナに対するミサイル攻撃を「可能な限り最も強い言葉で」非難するとし、民間人への無差別攻撃は戦争犯罪だと主張した。プーチン氏ら、しかるべき立場の者に責任を取らせるとも表明した。ロシアによるウクライナ領の「併合」も非難し、違法であり決して承認することはないと言明。ベラルーシにも矛先を向け、ロシア軍を支援し領内での活動を許すことで、「ロシアの侵略戦争を可能にしている」と指摘した。
●なぜ中国もロシアも手を出せない? 世界が知らぬ中央アジア「戦争」の戦況 10/12
中央アジアのキルギスとタジキスタンの国境地帯で9月半ば、両国の治安当局による武力衝突が起きた。一旦は停戦合意らしきものが結ばれたが、すぐに戦闘は再開した。
タジキスタン軍はキルギス南部のオシ州まで入り込み、橋や住宅地を爆撃したとされる。さらに隣のバトケン州にも踏み込み、地元の小学校を占拠し、タジキスタンの国旗を掲揚したとされる。バトケン州はキルギスの西端に位置し、北・西・南の三方をタジキスタンに囲まれている。
この衝突は、1991年のソ連崩壊で中央アジア諸国が独立を果たして以来、この地域で起きた最も大規模な国家間の武力衝突となった。キルギスでは市民を含む62人以上が死亡し、198人が負傷し、約13万6000人が避難する事態となった。タジキスタン側も、市民を含む41人の死亡が確認されたという。
キルギス側は、これはタジキスタンによる計画的な戦争行為だと非難し、タジキスタン側はキルギスによる侵略と人権侵害を主張している。
この衝突が起きたとき、バトケンから320キロ北西に位置するウズベキスタンの古都サマルカンドでは、中国とロシア主導の地域協力組織である上海協力機構(SCO)の首脳会議が開かれていた。
つまり、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領はもちろん、タジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領と、キルギスのサディル・ジャパロフ大統領も同じ会議に出席していたのだ。だがそこで両国の国境紛争が話題になることはなかった(ラフモンとジャパロフは別席で話し合いをしたとされる)。
SCOにもCSTOにも紛争解決の能力なし
なぜか。それはSCOの目的が、中央アジアにおける中国の安全保障上の利益(と一帯一路構想)を促進することであって、この地域諸国の対立を解決することではないからだ。
キルギスとタジキスタンは、ロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)にも参加しているが、CSTOも基本的には、加盟国間の紛争には介入しない。唯一、今年1月に燃料費高騰をきっかけとするデモ鎮圧を支援するため、カザフスタンにCSTOの平和維持部隊が派遣された。
今回のキルギスとタジキスタンの衝突を受け、CSTOは外交的仲介を申し出た。ロシアとしては、中央アジア諸国がロシアの庇護抜きで結束するのも困るが、お互いのいがみ合いが行きすぎて不安定の源泉になるのも困る。
タジキスタンのラフモンはロシア政府と親しい関係にあるから、CSTOはラフモンのキルギス侵攻に待ったをかけられない、との見方がキルギスでは強い。実際、プーチンはウクライナ侵攻後初の外遊先としてタジキスタンを選び、ラフモンと会談した。
さらに、ロシアきっての人気政治家であるワレンティナ・マトビエンコ上院議長が、ロシアがウクライナを侵攻した日にタジキスタンの首都ドゥシャンベを訪問して、ラフモンの息子ロスタム・エモマリと会談。父から子へ権力継承を承認したようにも見える。
キルギスでは、ロシアのウクライナ侵攻を明確に支持せず、中立の立場を維持してきたために、プーチンは助けてくれないのではないかと悲観する声もある。
国境問題を人気取りに利用する両国政府
キルギスとタジキスタンの国境地帯での緊張拡大は今に始まったことではない。小競り合いは日常的で、昨年4月には民間人40人余りが死亡、200人以上が負傷した。
こうした状況には多くの要因が働いている。ソ連時代、フェルガナ盆地(ウズベキスタン東部を中心にキルギスとタジキスタンにまたがる)の国境が未画定だった結果、地理が複雑に。タジキスタンとキルギスは約970キロにわたって国境を接しているが、画定しているのはその半分のみ。タジキスタンの飛び地2つがキルギスにあって両国間の緊張要因となっている。
だが真の問題は近代政治に起因する。キルギスでもタジキスタンでも政権が国境問題を内政に利用しているのだ。タジキスタンは独裁政権、キルギスはポピュリスト政権と政治体制は大きく異なるが、どちらも国境問題に対しては交渉による平和共存を模索するのではなく、ポピュリスト的アプローチを取ってきた。
キルギスのジャパロフは昨年の大統領選に先立って支持を固めるために国境問題の解決を約束。一方タジキスタンのラフモンは政権を中心に国を結束させるために拡張主義のレトリックを用いている。
タジキスタンはロシア、中国、イランから弾薬や軍事訓練の提供を受けている。中国公安部はアフガニスタンからの過激派組織の脅威に対抗するべく新たな基地の建設資金を提供し、イランは軍用ドローンの製造工場を開設した。
アフガニスタンと長い国境を接するタジキスタンは、アメリカとEUからも広範な安全保障関連の援助を受けてきた。米政府はタジキスタンに戦術兵器や軍事訓練を提供。キルギスもアメリカから安保関連の支援を受けているが、こちらは民主主義構築を目指すプログラムがほとんどだ。
ラフモンは90年代の内戦以降30年近くタジキスタンを統治してきた。投獄や国外追放、殺害という形で反対勢力を一掃。近い将来、息子に権力を移譲する意向とも伝えられている。国境とタジク人を守るという名目でキルギスとの紛争をエスカレートさせれば、世襲に備えて軍と官僚に対する支配を強化するのに役立つ。
一方、キルギスの政権は確立されたばかりでタジキスタンに比べ独裁色は薄い。ジャパロフ陣営はポピュリスト的政策を掲げて昨年の選挙で勝利。領土主権と国境警備を優先課題とし、トルコの軍用ドローンとロシアの装甲兵員輸送車を購入して軍事力のてこ入れを図った。
当事国が小国であっても、中央アジア情勢が不安定さを増すことはロシアも中国も望んでいない。だが強い経済的影響力を持つ両国でも中央アジアでの紛争は阻止できない。それどころか、キルギスとタジキスタンの衝突はSCOもCSTOも加盟国間の緊張を阻止できないことを露呈した。
今後、中央アジアにおける紛争の阻止・解決は、欧州安保協力機構(OSCE)、米政府、EUなど欧米のパートナーが紛争調停に前向きかどうかに懸かってくるだろう。
9月、ナンシー・ペロシ米下院議長はアルメニアを訪問。南カフカス地域の平和維持に対するアメリカの支持を示した。中央アジアでも今こそ欧米のパートナーが地域の平和を支持し、これ以上死者が出ないようにするべきだ。中央アジアで欧米の存在感が増すことには中ロの反発が予想されるが、代案が示せるわけではなく、より平和な中央アジアを実現するためにはほかに道はないだろう。
●ロシア「弾切れ」か クリミア大橋爆破への報復ミサイル連発が裏目 10/12
ロシア軍は10日に続き、11日もウクライナ全土への大規模なミサイル攻撃を継続した。「クリミア大橋」爆破への報復としてプーチン大統領が命じたものだが、兵器の枯渇に拍車をかけるなど戦略のなさを露呈した。西側諸国も「戦争犯罪」と非難を強めており、ロシアが戦局を挽回することは難しい情勢だ。
ウクライナ非常事態庁によると、10日以降のミサイル攻撃による死者は21人、負傷者は108人に上った。
ロシア国防省は11日、「すべての目標を破壊した」と発表したが、ロシア軍の苦戦を示唆する分析が相次いでいる。
英諜報機関、政府通信本部のジェレミー・フレミング長官は11日の講演で、「彼らの物資と弾薬が不足していることをわれわれは知っているし、現地のロシア軍司令官も知っている」と指摘、「ロシア軍は疲弊している」と明言した。
米経済誌フォーブス(ウクライナ語版)の試算によると、10日の攻撃でミサイル84基と、24機の無人機を発射し、約4億〜7億ドル(約583億〜1020億円)を費やしたとみられる。
米欧の専門家も「軍事的に大きな価値はない。ロシアは貴重な戦力をかなり消費した」(英王立国際問題研究所研究員)、「精密兵器を無駄遣いした」(米戦争研究所)と声をそろえる。
先進7カ国(G7)首脳は日本時間11日夜、オンラインで会合を開き、「市民への無差別攻撃は戦争犯罪となる」と声明を発表した。
元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は「大規模ミサイル攻撃の背景には、クリミア大橋の破壊を受けたプーチン氏の怒りと焦りがあるが、戦略なき無駄な攻撃となった。露軍はさらにミサイルが枯渇すると予想されるうえ、非軍事目標の攻撃などへの非難で西側諸国を結束させる結果にもなった。ロシアが戦局を挽回するのはほぼ不可能になった」と分析した。
●首脳会議に相次ぎ参加のプーチン氏、狙いは孤立払拭 10/12
中央アジア・カザフスタンの首都アスタナで12日、アジアと周辺地域の安全保障問題を協議する「アジア相互信頼醸成措置会議(CICA)」の第6回首脳会議が13日までの日程で始まった。ロシアのプーチン大統領は13日から全体会合に出席し、トルコのエルドアン大統領とも会談する予定。14日にはアスタナで、旧ソ連諸国でつくる「独立国家共同体(CIS)」の首脳会議にも出席する。
ウクライナを侵略して東・南部4州の併合を宣言したロシアに対しては、中国や中央アジア諸国、インド、トルコといった露友好国の間でも一定の距離を取る動きが広がっている。プーチン氏は一連の首脳会議への出席を通じて各国との連携を確認し、ロシアの国際的孤立と影響力低下を食い止める思惑だとみられる。
カザフメディアやタス通信によると、今回のCICA首脳会議には、議長国カザフ▽ロシア▽トルコ▽アゼルバイジャン▽イラク▽イラン▽カタール▽キルギス▽タジキスタン▽ウズベキスタン▽パレスチナ−の計11カ国・地域の首脳が出席を予定。前回と前々回に出席した中国の習近平国家主席は参加を見合わせ、王岐山(おうきざん)国家副主席が出席する。
CICAはナザルバエフ前カザフ大統領の提唱で1993年に発足。4〜5年ごとに首脳会議を開いてきた。中露印とイラン、トルコ、韓国、パキスタン、イスラエルなど計27カ国・地域が加盟。日米もオブザーバー参加している。
●プーチン氏、ガス管損傷は「米欧側のテロ」認識示唆 10/12
ロシアのプーチン大統領は12日、ロシアと欧州を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の損傷について「国際テロだ」とし、「受益者は明白だ。残りのパイプラインはポーランドやウクライナを通過している。米国も自国産ガスを高値で販売できるようになった」と主張、米欧やウクライナが故意に損傷させたとの認識を示唆した。モスクワで開かれたエネルギー問題をテーマとする露主催の国際会議で発言した。
プーチン氏はまた、先進7カ国(G7)や欧州連合(EU)がロシア産石油の取引価格に上限を設ける追加対露制裁に合意したことについて、「ロシアは価格上限を設けた国にはエネルギー資源を供給しない」と改めて表明。プーチン氏はエネルギー供給を武器に米欧側の結束にゆさぶりをかける思惑だとみられる。
さらに、先に石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど主要産油国でつくるOPECプラスが決めた石油の大幅減産について「世界市場のバランスを取ることだけが目的だ」と主張。ロシアがOPECプラスを通じてエネルギー価格を高騰させ、ウクライナ侵略の戦費を確保しようとしているとの見方に反論した。
●IAEA事務局長がプーチン氏と会談、ザポリージャに「安全地帯」設置求める 10/12
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は11日、ロシアでプーチン大統領と会談し、ウクライナ南部ザポリージャ原子力発電所周辺に早期に「安全保護地帯」を設置するよう求めた。露側は協議の内容を明らかにしておらず、事態が進展するかは見通せていない。
タス通信などによると、ザポリージャ州の親露派トップは12日、ウクライナ軍が同原発周辺から部隊を後退させることが「安全保護地帯」設置の条件だと主張した。
一方、プーチン氏は13日、国際会議出席のために訪問するカザフスタンで、トルコのタイップ・エルドアン大統領と会談する見通しだ。トルコはロシアとウクライナの外交交渉を仲介する立場を示している。
●プーチン氏の会談中“異変” “笑顔なき握手”の直後... 10/12
部屋に入るなり、笑顔を浮かべて握手をするプーチン大統領。相手は、IAEA(国際原子力機関)のグロッシ事務局長。そこに笑顔はなく、対照的な表情をしている。プーチン大統領は、上機嫌。
「お会いできてとてもうれしいです。お互いの関心事について、ぜひ話し合いましょう」と話している間、手は落ち着きなく、機械をいじっている。すると、手の動きに合わせて、マイクにノイズが入り続けた。
「自暴自棄になっている」といわれる、プーチン大統領。ウクライナへの攻撃は激しさを増し、首都キーウなど、あらゆる街にミサイル攻撃。この2日間で少なくとも30人が死亡し、およそ110人が負傷している。
命を脅かされる市民は、「卑劣なプーチン。誰かあいつを殺して」と怒りを隠しきれない。
一方で、“ロシア軍は劣勢”だと伝えられている。それを象徴するような光景が、ウクライナ東部で見られた。ウクライナ軍の兵士たちが修理している戦車は、ロシア軍が逃げて行った際に残していったものだという。
ロシア側が一方的に併合した地域で、ウクライナ側が着々と反撃を進めている。

 

●資金援助拡大、戦争の早期終結につながる=ウクライナ大統領 10/13
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、国際的な資金援助は対ロシア戦争をより早く終結させることにつながると強調し、さらなる資金援助を訴えた。国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会で開催されたフォーラムでビデオ演説を行った。
同大統領は「ウクライナが今より多くの支援を得れば、より早く対ロシア戦争を終わらせることができ、より早く確実に、残酷な戦争が他の国々に広がらないことを保証できる」と述べた。
来年に見込まれる財政赤字穴埋めに必要な380億ドルのほか、インフラや学校、住宅などを再建する復興資金170億ドルの計約550億ドルが必要だと説明した。
IMFのゲオルギエワ専務理事は同日、ウクライナは来年、経済活動を維持するために毎月30億─40億ドルの外部資金支援が必要になるとの見通しを示した。
ウクライナのパートナー国は2022年に350億ドルの無償資金協力と融資を確約しており、今年の資金ギャップを埋めるには十分だが、来年の資金需要はなお「極めて高水準」にあると指摘した。
米国のイエレン財務長官は、米国が向こう数週間で45億ドルの追加無償資金援助を開始すると表明。ロシアによる侵攻開始以降の支援は130億ドルに達すると述べ、他国に対して無償援助の拡大などを求めた。
●ベラルーシで相次ぐ軍事行動、参戦示唆か 西側・ウクライナ警戒 10/13
ベラルーシで今週相次いだ軍事行動はロシアによるウクライナでの戦争にベラルーシが参戦する可能性を示しているとして、ウクライナと西側諸国が警戒している。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は10日、ウクライナ政府や西側のウクライナ支援国からのベラルーシに対する明確な脅威に対抗するため、同国軍をロシア軍と共にウクライナ周辺に配置するよう命令。11日にはウクライナとの国境から20キロしか離れていないイェルスク付近で「妨害工作グループ」を排除するための軍事演習が実施された。
ウクライナのゼレンスキー大統領は主要7カ国(G7)に対し、国境付近に国際監視団を配備するよう要請。一方、フランスはベラルーシに対し、ウクライナへの関与を深めれば西側諸国からの制裁が強化される可能性があると警告した。
ベラルーシは2月、ロシア軍が自国領土からウクライナに侵攻することを認めたが、戦争には直接参加していない。アナリストによると、ロシアのプーチン大統領が参戦を求めればルカシェンコ大統領は応じざるを得ないという。
一方で、ベラルーシが参戦しても大きな変化はないとの見方もある。国際戦略研究所(IISS)によると、ベラルーシの軍隊は総勢でわずか4万8000人で、ソ連崩壊後の独立以来、30年以上にわたり一度も戦争をしていない。
「Russia's Road to War with Ukraine」の著者、サミール・プリ氏はベラルーシの軍隊について「戦闘訓練された軍隊とは言えない」と指摘。ただ、ベラルーシの参戦リスクを受け、ウクライナが東・南部の前線から北部に兵力を移さざるを得なくなる可能性があるという。
また、ゼレンスキー氏がG7に監視団を要請したのは、ウクライナがベラルーシの参戦リスクを真剣に受け止めていることの表れだが、監視団の派遣は外交的には実現不可能かもしれないと言及。ロシアは国連の動きを拒否するだろうし、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)が監視団を派遣してもロシア軍との衝突に巻き込まれる可能性があるため、監視団を派遣する主体が不確かだとした。
ベラルーシ国防省は現時点でコメント要請に応じていない。ベラルーシ国防省は11日、ロシア軍との軍配備は「国境付近での行動に適切に対応することを目的とした」防衛的措置と発表した。
●「ロシアに派遣された北朝鮮建設労働者、ウクライナ派遣説に大挙逃走」 10/13
ロシアに派遣された北朝鮮労働者が、激しい戦闘が行われているウクライナ東部地域に派遣される可能性があるとの話を聞いて大量に逃走していることが把握された。
英国デイリー・メールが11日(現地時間)、米国ラジオ・フリー・アジア(RFA)を引用して報道した内容によると、ロシアとウクライナ間の戦争渦中で命を失うことを恐れた一部の北朝鮮労働者が仕事場を離脱して身を隠している。
匿名の消息筋はラジオ・フリー・アジア(RFA)放送に「多くの労働者がウクライナの新しい建設現場に派遣されるという話を聞いて逃げた」としながら「建設労働者だけでなく(彼らを管理する)管理者も逃走している」と話した。
ウクライナ東部ドンバス〔ドネツィク(ドネツク)州とルハンシク(ルガンスク)州〕地域では深刻な戦争被害で再建需要が高く、北朝鮮労働者のような値段が安く熟練した労働力が切実だ。
だが、国連の対朝制裁によって北朝鮮労働者の公式海外派遣は相変らず不可能な状況だ。
国連安全保障理事会(安保理)が2017年に採択した対朝制裁決議2397号は加盟国が2019年12月22日まで自国内のすべての北朝鮮労働者を送りかえすように要求した。
これに伴い、ロシアも自国内で働いていた約3万人の北朝鮮労働者を本国に送りかえしたと明らかにした。
しかし一部の労働者は留学生などに登録する便法を使って引き続き現地に在留して仕事をしているという話もある。
RFAなどの報道は、彼らのうちの一部がウクライナの戦場に再派遣されることを恐れて逃走しているものと解釈される。
北朝鮮は今年7月にウクライナ東部ドンバス地域から親ロシア志向の分離主義者が宣言したドネツク人民共和国(DPR)とルハンシク人民共和国(LPR)を迅速に承認した後、戦争被害を受けたこれら共和国の再建事業に自国労働者を参加させる方案を交渉している。
LPRのロディオン・ミロシュニク駐ロシア大使は8月中旬、「北朝鮮の申紅哲(シン・ホンチョル)駐露大使と会って北朝鮮建設労働者を再建事業に投じる方案などを議論した」と明らかにした。
これに対して国連安保理傘下の北朝鮮制裁委員会員会は北朝鮮労働者投入が国連の北朝鮮制裁違反という立場を示した。
現在、全世界でDPRとLPRの独立を承認した国はロシアの他にはシリアと北朝鮮しかない。
●見えてきたプーチンと習近平の友情の限界 10/13
英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)のギデオン・ラックマンが「プーチンと習近平の友情の限界」と題する論説を9月19日付のFTに寄せ、上海協力機構(SCO) サミットの際の中露首脳会談の結果等に基づき、習近平が弱体化するプーチンとの近すぎる関係を後悔しているのではないか、と論じている。
2月4日の北京での中露首脳会談後の共同声明は両国の友情に限界が無いと表明したが、今や習は後悔しているかもしれない。9月16日の中露首脳会談でプーチンはウクライナ戦争に関する中国の「疑問や懸念」に対応することを約した。
戦争はロシアを弱体化し、ユーラシアを不安定化させ、西側同盟を強化した。中国から見れば、これは全て良くない。
SCOサミットで、インドのモディ首相は「今は戦争の時ではない」と公開の場でプーチンを窘めた。プーチンは、出来る限り早急な紛争終結に全力を尽くすと約束した。
ロシアの弱体化には中国の利益もある。現在ロシアは経済的に一層中国に依存している。
プーチンと習は明らかに相手のスタイルを気に入っており、自分たちを国家の化身と見ている。しかし、習は、プーチンをここまで全面的に支持してきたことを後悔しているに違いない。

SCOサミットの際の中露、印露の首脳会談を受け各種分析がなされているが、この論説も概ね主流の見方を反映したものだ。要は、ウクライナ戦争の現状は中国の想定外であり、中露関係に隙間風が吹き始めているということである。これについては、過度な楽観視は戒めるべきで、状況を冷静に見続けるべきだ。
第一に、確かに2月の中露首脳会談に比べ、今回の中国側の対応が後退しているのは明白だ。2月の共同声明で限界の無い友情を表明したのに、今回は共同声明も無い。
プーチンが公の場でウクライナ問題への「中国の懸念を理解」と発言せざるを得なかったのは異例だ。習は、ロシアと「核心的利益に関わる問題」で互いに支持したと述べた。これは台湾・ウクライナを念頭に置いているが、「限界の無い」友情からは後退したと言わざるを得ない。
この冷遇は会談内容以外にも見て取れる。例えば、人民日報では中・ウズベク会談がトップニュースで、中露はその次、かつ、握手をしていない写真が掲載された。
一方、第二に、米国と対峙する上で、中露共に他に意味のある協力相手はおらず、今後も協力し合わざるを得ないので、今回の動きを過度に重視すべきではない。また、天然ガスの欧州市場を失ったロシアは資源貿易で益々中国に依存し、中国にとっても安価なエネルギー供給先としてロシアは有用だ。実際、中露貿易は拡大し、2022年には約15%増の予測がある。
ウクライナ戦争後の急増は顕著で、8月の中国の対露輸入は前月比6割増で過去最大である。特にロシアからの原油輸入は5月以降サウジアラビアを超え、中国の輸入先トップになっている。一方、ロシアの対中輸出の約8割は資源で、増えているのはその部分のみであり、これはロシアの対中従属性を示している。
国力弱まるロシアへの外交戦略
第三に、今回一層明白になった注目点は、中央アジアを巡る中露の力関係の行方だ。習はSCOサミット出席前に、ロシアと隙間風があるカザフスタンを訪問した。その際のトカエフ大統領との首脳会談で、心の底ではロシアの侵攻を警戒する同国と共に「領土の一体性尊重」を強調したのは、ロシアとの関係では相当の事である。
なおトカエフは、6月のサンクト国際経済会議で、ウクライナ東部の親露派地域を正式な国家とは認めないと明言している。今回、習はカザフとウズベクスタンから勲章を授与され、ベラルーシと全面的パートナーシップを締結したのに対し、プーチン大統領はウズベク大統領に勲章を授与した。ロシア・キルギス首脳会談に遅刻したのは、常習犯のプーチンではなくキルギス大統領の方だった。
中央アジア諸国では、ロシアがウクライナに集中する中、各国間の紛争が表面化した。タジク・キルギス国境紛争は、両国駐在のロシア兵のウクライナ投入による影響もあろうし、アルメニア・アゼルバイジャン国境紛争は、トルコの支援を受けるアゼルの仕掛けという見方もある。ペロシ米下院議長がアルメニアを訪問し、米国務長官による仲介をアルメニアが発表したのは、アルメニアの同盟国であるロシアにとっては屈辱的だろう。
最後に、国力が低下し孤立を深めるロシアが中国を必要とする度合いは増加する一方、台頭する中国にとってのロシアの意味は相対的に低下する。その中で、ロシアが持つ数少ない優位性の一つである中央アジアとの関係に中国が手を突っ込みすぎると、ロシアの第三国との関係が相対的に緊密化する可能性もある。
過去の歴史から見ても、その相手は、インドではなかろうか。これは日米や西側諸国にとって悪い話ばかりではない。
●国連総会の緊急特別会合、露のウクライナ4州併合は「無効」… 10/13
ウクライナ情勢に関する国連総会の緊急特別会合は12日午後(日本時間13日午前)、ロシアと親露派がウクライナ東・南部4州で「住民投票」を強行し、一方的に併合を宣言したことを違法と非難し、無効だと宣言する決議を圧倒的な賛成多数で採択した。
賛成は、ウクライナをはじめ欧米や日米など143で、国連加盟国の約4分の3にあたる。反対はロシア、ベラルーシ、北朝鮮、ニカラグア、シリアの5、棄権は中国やインドなど35だった。総会での重要問題の採択に必要な投票の3分の2以上の賛成を得た。棄権は投票数には数えない。
国連総会はロシアがウクライナ南部クリミアを併合した2014年3月にも、クリミア併合を無効とする決議を賛成多数で採択している。総会決議に法的拘束力はないが、欧米は「偽りの住民投票」を根拠に4州の併合を認めない国際社会の声として、ロシアに圧力を高めたい考えだ。
●ロシア軍の損害「9万人以上」 内部情報、異例の報道 10/13
ウクライナ侵攻で苦戦するロシア軍の人的損害について、独立系メディア「バージニエ・イストーリー」は12日、戦死傷者と行方不明者で計9万人以上に上っているとみられると伝えた。
ロシア連邦保安局(FSB)など情報機関の現役将校とOBの話としている。欧米当局はおおむね同等の推計を示していたが、ロシアの内部情報が明るみに出るのは極めて異例。
プーチン大統領は予備役の部分動員令を出したばかりで、当面は30万人を招集している。「併合条約」でロシア領になったと主張するウクライナ東・南部4州の解放や防衛を大義名分としているが、背景に深刻な人員不足があるのは明らかだ。 
●ウクライナ ロシアによる大規模攻撃 市民の犠牲増える  10/13
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが今月11日までの2日間で行った複数の都市に対する大規模なミサイル攻撃について、ウクライナ側は死者が合わせて37人、けが人は134人にのぼったと明らかにしました。
12日にも市場でロシア軍による砲撃があったということで、市民の犠牲が増えています。
ロシア軍は、8年前に一方的に併合したウクライナ南部のクリミアにつながる橋で起きた爆発への報復だとして、11日までの2日間、ウクライナの複数の都市に大規模なミサイル攻撃を行いました。
ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は12日、前の日の攻撃で東部ドネツク州や南東部ザポリージャ州で市民合わせて14人が犠牲になったことをSNSで明らかにし、10日と11日の2日間で市民合わせて37人が死亡したほかけが人は134人にのぼっています。
また12日にはドネツク州アウディーイウカの市場でロシア軍による砲撃があり、少なくとも7人が死亡、8人がけがをしたということで、市民の犠牲が増えています。
一連のミサイル攻撃ではウクライナの首都キーウ中心部の公園なども被害を受け欧米各国から非難が相次いでいますが、ロシアのプーチン大統領は12日首都モスクワで開かれたエネルギー関係の国際フォーラムで、クリミアにつながる橋での爆発はウクライナの情報機関による破壊工作だったと重ねて強調しました。
またロシアとドイツを結ぶガスパイプラインで起きた大規模なガス漏れについては「ヨーロッパのエネルギー安全保障を損なうことを目的とした国際的なテロ行為であることは間違いない」などと批判し、アメリカが関与した破壊工作だと主張しました。
プーチン大統領は12日、一方的な併合に踏み切ったドネツク州での戦闘で死亡した親ロシア派の幹部の娘をモスクワに招き、ロシアの英雄だとする勲章を手渡す様子を公開して軍事侵攻や併合を正当化する姿勢をアピールするなど、強硬姿勢を崩していません。
●プーチン氏のG20出席、成り行き次第=大統領補佐官 10/13
ロシアのウシャコフ大統領補佐官は12日、プーチン大統領が11月にインドネシア・バリで開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席するかどうかはまだ未定と述べた。
ウシャコフ氏は11月には多くの国際フォーラムが予定されているとし、「G20までにまだかなりの時間がある。成り行き次第だ」と述べた。
バイデン米大統領はCNNとのインタビューで、G20でプーチン大統領と会談するかという質問に対し「現時点でプーチン氏と会う理由はない」と応じた。同時に「プーチン大統領が何について対話したいかによる」とし、ロシアで禁錮9年の判決を受けた女子バスケットボール米国代表ブリトニー・グライナー選手について協議する意向であれば、会談に前向きという考えを示した。
ウシャコフ氏はバイデン大統領の発言について、ロシアは常に交渉にオープンとした上で、「われわれは差し伸べられた手を押しのけるようなことはしない。しかし相手が何らかの理由で会合を望んでいないと感じれば、押し付けることもない」と述べた。 
●NATO高官、ロシアが核攻撃なら「物理的に対応」 10/13
西側の50カ国以上が12日会合を開き、ロシアが侵攻以来最大規模の空爆を行ったことを受けて、ウクライナに対しとりわけ防空面で武器支援を強化する方針を確認した。
ブリュッセルで行われたウクライナ防衛コンタクトグループの会合後、オースティン米国防長官は、ロシアによる無差別空爆は同国指導部の「悪意と残酷さ」をあらわにしたと非難した。
オースティン米国防長官「軍事目標ではない標的への攻撃は、プーチンが選択した戦争の悪意と残酷さを改めて露呈した。だがロシアの残虐行為は、ウクライナに寄り添う善意の国々の団結を一層深めた。」
ロシアは10日以降、100発以上のミサイルを発射してウクライナ全土で市民数十人を殺害した。これについてプーチン大統領は、クリミア大橋爆破に対する「報復攻撃」だと主張。
12日もウクライナ各地で空襲警報が鳴り響き、砲撃が報告された。だが前日までのような全国的な空爆は行われなかった模様。
一連のミサイル攻撃は主に民間の電力設備や暖房供給設備を狙った。そのほか交通量の多い道路や公園、観光地、キーウ中心部にも着弾した。
ドイツはすでに約束されていたIRIS−T防空システム4基のうち、最初の1基をウクライナに引き渡した。また米国もNASAMS防空システムの供与を前倒しすると発表した。
「可能な限り迅速にNASAMSを引き渡すつもりだ。(中略)われわれはまたウクライナ軍が使用している既存の兵器に追加の弾薬を供給する。」(オースティン米国防長官)
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、武器に加え国際社会からのさらなる財政支援が戦争の早期終結に役立つと述べ、国際通貨基金(IMF)の会合でオンラインを通じ、2023年に380億ドルの財政支援を要請した。
9月以降、ロシア軍が敗北を重ねる中、プーチン氏は予備役の招集を発表したほか、ウクライナ領の併合を宣言したり核兵器の使用を繰り返しほのめかすなど、戦争をエスカレートさせてきた。
北大西洋条約機構(NATO)高官はロシアが核攻撃を行えば、ウクライナの友好国やNATO加盟国から「物理的な反応」を引き起こすのはほぼ間違いないだろうと述べた。
●「アルマゲドン将軍」 ウクライナ侵攻の新総司令官スロヴィキン将軍 10/13
「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を持つロシアのセルゲイ・スロヴィキン将軍は、ウクライナとの戦争における、ウラジーミル・プーチン大統領の新戦術と言える人物だ。
ロシア本土と同国が併合したウクライナ南部クリミア半島をつなぐ橋で爆発が起きてから数時間後、ウクライナでの軍事作戦を統括する司令官に航空宇宙軍のスロヴィキン総司令官が任命されたと発表された。
司令官としての初仕事の日には、ウクライナ各地が多数のミサイル攻撃を受けた。ここ数カ月で最も大規模な連続攻撃の1つだった。
ロシアの戦争遂行ぶりは足元が揺らいでいる。しかし、スロヴィキン将軍は実は、この戦争に初めて参加するわけではない。すでにウクライナ南部で部隊を指揮していたし、開戦前日にはその軍事的影響力とプーチン大統領との関係を理由に欧州諸国から制裁を受けていた。
ロシアがウクライナでの軍事作戦全体を担う総司令官を正式に指名したのは、今回が初めてのようだ。それまでは、アレクサンドル・ドヴォルニコフ将軍が、総司令官だと複数メディアが報じていた。
では、新たな司令官は一体どんな人物なのだろうか。
シリア内戦、チェチェン紛争などに関与
1966年にシベリアのノヴォシビルスクで生まれた55歳のスロヴィキン将軍は、近年ロシアが関与した数々の戦争に従事してきたベテラン軍人だ。
1980年代後半にアフガニスタンで現役軍人としてのキャリアをスタートさせた。英イーストアングリア大学のロシア史・文化教授ピーター・ウォルドロン氏は当時について、「極めて不利な状況」、つまりソヴィエト連邦が負けている状況だったと振り返る。
そうした戦況がスロヴィキン氏の人格と評判を形成したと、ウォルドロン氏は指摘する。スロヴィキン氏は当初から、「相当な暴力行為」に大きく関与していたという。
1991年にモスクワで起きたクーデター未遂では、軍用車両と民主化運動参加者の衝突が起き、3人が死亡した。BBCロシア語サービスによると、抗議者が道路をふさぐ中、スロヴィキン氏が走行命令を出したという。
スロヴィキン氏への告訴はその後、命令に従っていたとの理由から取り下げられた。
それから4年後、フルンゼ陸軍士官学校在学中には、クラスメイトに拳銃を不法に販売したとして、執行猶予付きの有罪判決を受けた。スロヴィキン氏は「はめられた」と主張し、有罪判決は後に経歴から抹消された。
1990年代のタジキスタンやチェチェンでの紛争、そして最近では2015年にロシアがアサド政権側に付いて介入したシリア内戦に参加した。
空爆作戦の経験がないにも関わらず、ロシア航空宇宙軍の司令官として、シリア北部アレッポの大部分を消滅させた空爆を指揮した。
英イーストアングリア大学のウォルドロン教授は、ロシアはシリア内戦に介入し、無制限の空爆と民間人への攻撃を繰り広げたと指摘する。ロシア軍の攻撃の責任者だったスロヴィキン氏は、「必要などんな手段も使う用意があるのは明らか」だったという。
米ワシントンを拠点とするシンクタンク「中東研究所」のシリア・プログラム責任者、チャールズ・リスター氏は、スロヴィキン氏は「敵に対して絶対的に容赦ない態度」をとり、戦闘員と民間人を同一視していると話す。
スロヴィキン氏の指揮のもと、ロシア部隊は神経ガス「サリン」の使用隠ぺいに関与したと、リスター氏は言う。 シリア北西部ハーン・シェイフンで80人以上が死亡した化学攻撃が起きる数分前に、シリアの航空機にサリンが積み込まれるのをロシア部隊が目撃していたのだという。
2017年、プーチン氏はスロヴィキン氏のシリアでの任務を称え、ロシア最高の栄誉「ロシアの英雄」の称号を与えた。一方で国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、スロヴィキン氏が人権侵害の責任を問われる可能性があるとしている。
「残忍で、非常に強硬で不快な人物」
スロヴィキン氏の指揮下にある兵士たちは、民間人に暴力行為をしたとして幾度も非難されてきた。チェチェン紛争では戦闘員が「浄化作戦」として民間人の家に押し入り、地元住民が殴られたと複数の目撃者が証言していると、BBCロシア語サービスは伝えている。
「残忍で、非常に強硬で不快な人物」という評判は30年以上にわたって確立されてきたと、イーストアングリア大学のウォルドロン教授は言う。
こうした人間性は戦場でも、戦場以外でも垣間見える。
米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)によると、士官学校を卒業してわずか2年後の2004年、政治的見解を理由に部下の兵士1人を殴打したとされたが、兵士は後に訴えを取り下げた。
同年、親ロシア政権の新聞「コメルサント」は、スロヴィキン氏が大佐の1人を呼びつけて叱責したと報じた。直後に兵士は銃を使って自殺したという。
では、なぜプーチン氏はこの人物を司令官に任命したのだろうか。ウォルドロン教授は、物事の展開がうまくいっていないと認めたのは明らかだと言う。
「物事が計画通りに進んでいるなら、軍の司令官を変えたりしない」と、教授は付け加えた。「この段階で司令官を変えれば、部隊の中の気風は変わるかもしれない。しかし、それが(戦闘)能力に変化をもたらすかどうかは疑問だ」。
スロヴィキン氏が残酷だという評判は、必ずしも領土の獲得にはつながらないかもしれない。それでも、同氏の司令官就任を歓迎する声はある。
プーチン氏の盟友でロシア・チェチェン共和国トップのラムザン・カディロフ氏や、ロシアの雇い兵組織「ワグネル」創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、スロヴィキン氏を称賛する。「プーチンのシェフ」の異名をもつ実業家のプリゴジン氏は、スロヴィキン氏はロシア軍で「最も有能な司令官」だと述べた。
おそらくプーチン氏は「象徴的な任命」を行ったのだろうと、ウォルドロン教授は話す。
「残忍だという世評を得た人物を起用したわけだ。プーチン氏はこれ以降どのように戦争を進めていくつもりか、ウクライナに合図を送ろうとしているのだろうか」
●ロシア兵にイラン精鋭部隊が指導か カミカゼドローンで米研究所分析 10/13
米シンクタンク「戦争研究所」は12日に発表したウクライナ情勢の分析で、イランの精鋭部隊・革命防衛隊の関係者がロシア兵に対し、「カミカゼ・ドローン」と呼ばれるイラン製ドローン「シャヘド136」の使い方を教えている可能性があると指摘した。
戦争研究所が根拠に挙げたのは、ウクライナ軍の特殊作戦部隊が3月に設けた「ナショナル・レジスタンスセンター」のサイト。
同サイトによると、ロシアが占領しているウクライナ南部ヘルソン州の一部やクリミア半島では、イラン人の教官がロシア側によって連れてこられ、ロシア兵にドローンの使い方を教えている。こうした情報は、ウクライナ側の「地下組織」から得たという。
戦争研究所は、イランでドローンを主に運用しているのは革命防衛隊だと指摘。こうしたことから、ロシア側にドローンの使用法を訓練しているのは、「おそらく革命防衛隊の関係者」だと結論づけている。
●ロシアが核を使えば、アメリカも核を使う…抑止にはそれしかない 10/13
もしもロシアが核兵器を使えば、アメリカ合衆国は「強力に対応」する。ジョー・バイデン米大統領はそう言っている。だが、その際にアメリカも核兵器を持ち出すのか、それとも別な方法でロシアの核先制使用を抑止するのか。この点については政権幹部と軍部の間で見解が割れていると、事情に通じた3人が匿名を条件に本誌に語った。
「ここまで核兵器の使用に近づいたのは半世紀も前のキューバ危機以来だ」と言ったのは、米戦略軍の本部に詰める文民の計画官。「しかしわが国は、プーチンの暴走を止めるのに必要な正しいメッセージを送っているだろうか」
この核戦略計画官と2人の米軍幹部によると、仮にロシアが核攻撃に踏み切ったとしても、バイデンはアメリカの核を使わないつもりだ。3人ともそれに異論はなく、アメリカによる核の先制使用も排除している。しかしロシア大統領ウラジーミル・プーチンによる核の先制使用を本気で防ぐつもりなら、アメリカも核戦争の話をすべきであり、そこで躊躇してはならないと主張する。
「ここからは未知の領域だ」。米軍情報部の高官はそう指摘した。「強力に対応するぞ、ロシアに壊滅的な結果をもたらすぞと言いつつも、核戦争には言及しない。それで本当にプーチンを止められるか。私には、そうは思えない」
バイデンも国家安全保障会議(NSC)の面々も、アメリカに対する本格的な攻撃でも始まらなければ核のボタンを押すつもりはない。それはいいが、核抑止力の計画立案や情報発信において核以外の「使用可能な」手段しか示さないのは間違いだと、この3人は考える(3人とも核戦略の立案に関わっている)。
「はったりではない」の意味
「(核抜きの)威嚇で本当にプーチンを止められるのか、そこを熟考すべきだ」。元は爆撃機のパイロットで、今は国防総省本部に詰める武官は本誌にそう語った。
一方のプーチンはウクライナ侵攻に踏み切って以来、ロシア領への直接攻撃があれば核兵器の使用を辞さないと語り、これは「はったりではない」と念を押してもいる。第2次大戦以来となる動員令を出した日のテレビ演説でも、「わが国の領土に対する脅威が生じた場合、国家と国民を守るため、利用可能な全ての兵器システムを使うのは当然」だと述べている。
ロシア政府高官によれば、ウクライナ戦の始まるずっと前、具体的には2020年6月に、ロシアは正式の核抑止戦略を発表し、核兵器使用の条件を明示している。そこには、「国家の存立」に関わる脅威があれば、それが非核攻撃であっても核の先制使用に踏み切るとある。
前ロ大統領で「プーチン後継」の本命と目されるドミトリー・メドベージェフも、ロシアの自衛手段には「戦略核兵器」が含まれると述べ、ウクライナだけでなくアメリカ本土への攻撃を示唆している。
「米情報部は、ウクライナ領への核攻撃はないとみている」と指摘したのは元パイロットの武官だ。「(ロシアが言いたいのは)戦局の打開に戦術核を使うといった話ではない。これはアメリカと、そしてNATOに対するメッセージであり、要するにロシアの領土を攻撃するな、プーチンを脅すなということだ」
「断固として対応する」の具体的な内容
ちなみに米国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバンは9月25日にアメリカの三大ネットワークに次々と出演し、ロシアによる核の威嚇に対する政権の対応を明らかにした。まずABCニュースでは、「ウクライナで核兵器を使えば壊滅的な結果を招くぞと、極めて高いレベルでロシア側に直接、内々に伝えてある」と語った。
またNBCの報道番組『ミート・ザ・プレス』では、「ロシアがこの一線を越えたらアメリカは断固として対応する」と述べた。そしてバイデン政権はロシア側とのやりとりの中で「これが何を意味するのか、より詳細に説明している」とした。
その「断固として」が何を意味するのかは明かされていない。しかし2人の軍人は本誌に、原子力潜水艦や航空機の移動、B52爆撃機の訓練など、核の脅威に対応する微妙な動きがあると明かした。ただし、あくまでも本筋は核以外の軍事オプションだと言う。つまり通常兵器での対応や特殊部隊の投入、サイバー攻撃や宇宙戦などであり、プーチン暗殺のシナリオも含まれる。
バイデン大統領は核以外のオプションでプーチンを抑止できると考えているのか、またこの点で政権と軍のコンセンサスはあるのか。本誌はこの点をホワイトハウスに問いただしたが、具体的な回答はなく、「わが国のロシアに対するメッセージについては、ジェイク・サリバン補佐官が9月25日に語ったとおりだ」との返事のみだった。
2月にウクライナ侵攻が始まって以来、アメリカの情報機関は最優先で、ロシアに核兵器使用の動きがあるかどうかを見守ってきた。そして大統領を含む国家安全保障チームは、プーチンが核のボタンを押した場合の対応を検討してきた。
「何カ月もかけてさまざまなシナリオを想定してきた」と、前出の核戦略計画官は言う。そのシナリオには欧州西部方面への核攻撃から、高高度で核爆発を起こして電力網を完全に崩壊させる電磁パルス(EMP)攻撃までが含まれる。
この計画官によると、EMP攻撃への対応は悩ましい。そのような攻撃も核兵器の使用には違いないが、地上への物理的攻撃ではない。だから在来型の核攻撃とは同一視しにくい。そうなると、アメリカが自動的に核兵器で反撃すべきかどうかの判断が難しくなる。
「必ずしも全ての核戦争が壊滅的なものとは言えない。高高度で爆発させるEMP攻撃や、さまざまな形の示威的な攻撃など、ほとんど人命の損失を伴わないこともある」と、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所の科学者ジェームズ・スクーラスは書いている。つまりEMP攻撃の影響や、EMP攻撃が抑止戦略において果たす役割はまだ十分に検討されていないということだ。
敵が核兵器の先制使用に踏み切っても、すぐ全面的な核戦争が始まるとは限らない──このシナリオは、ここ数年で急浮上してきた。EMP攻撃を仕掛ける能力はどちら側にもある。また米軍には、わざと爆発力を弱めた小型の核弾頭があり、これを積んだ弾道ミサイルは原子力潜水艦に搭載可能だ。これなら限定的反撃にとどまり、全面的な核戦争は回避できると考えられる。
従来は核兵器こそが唯一無二の抑止力とされていた。しかし、そこに核兵器以外の抑止力のオプションが加わると、事態は複雑になり、それだけ対応は難しくなる。
弾道ミサイル搭載原潜はいつでも配備可能
「米国防総省の作戦計画も、それに必要な軍事的能力も、全ては戦略的抑止力、とりわけ核の抑止力が有効という前提に基づいている」。米戦略軍のチャールズ・リチャード司令官は今年3月、アメリカ空軍・宇宙軍協会の年次総会でそう述べた。
リチャードは、アメリカの核戦略の立案責任者だ。その人物がこういう言い方をするのは、核を抑止力とする冷戦時代のモデルがもはや通用しない恐れがあり、敵が核兵器を使った場合の対応も単純ではなくなってきたと危惧している証拠だろう。「核の抑止力が利かないなら......国防総省の戦争計画や能力の全てが狂う」。リチャードはそうも言った。
一方、NSC広報官のジョン・カービーはこう述べている。「(プーチンが核兵器の使用に言及したからといって)わが国の戦略的抑止態勢の変更を必要とする兆候は今のところ認められない」。つまり、核兵器を持ち出すのは最後の手段で、まずはそれ以外の手段でロシアの核攻撃を抑止するという姿勢を崩していない。これが政権の立場。だが米軍は既に、核兵器(とその運搬手段)の準備を始めている。
「軍部が政権の意向に背いているわけではない」と、前出の軍情報部高官は言う。むしろ問題は政権内部の「意見が割れている」ことであり、いくら上層部が核抜きでロシアを抑止できると言っても、現実に「核の脅し」は始まっていると指摘した。
プーチンが核兵器の使用をほのめかした日には戦略軍のリチャード司令官も、アメリカは「核保有国(との戦争の可能性)に対峙する態勢に立ち戻った」と述べている。そして「これはもはや理論上の話ではない」と付け加えた。
また米海軍作戦部長のマイク・ギルデーは8月に海軍大学校で講演し、ロシアのウクライナ侵攻が始まった直後に海軍は「多数の艦船」を欧州戦域に派遣したと述べ、その多くは「潜水艦も含め、今も配備中」だとしている。こうした潜水艦は、遠く離れたロシア国内まで巡航ミサイルを撃ち込むことができる。
原子力潜水艦も24時間365日体制で攻撃に備えている。ある退役海軍将校は8月に、「もちろんSSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)は通常どおり運用されており、いつでも配備できる」と本誌に明かした。SSBNは米軍にとって「最も重要な武器」だとも指摘した。
B52戦略爆撃機もノースダコタ州から4機、英フェアフォード空軍基地に配備され、ヨーロッパで前方展開している。この4機に核兵器は搭載されていないが、この数週間、2機がノルウェー周辺を飛行して北方からロシアに接近。別の2機はヨーロッパ中部を経由してルーマニア領空に入り、南方からロシアに接近して攻撃能力を示威した。
また爆撃機による核の脅威を誇示するため、戦略軍は9月23日までノースダコタ州のマイノット空軍基地で数日間の演習を実施した。この演習では、核弾頭を積んだ巡航ミサイルをB52爆撃機に搭載し、緊急発進させる訓練が行われたという。
「いかなる状況でも核兵器の使用は容認できないと明言しても、越えてはならない一線を引くことなしに、重大な結果を招くといくら警告しても、それを聞いたプーチンが核の使用を思いとどまる保証はない」。戦略軍の計画官はそう言い、こう続けた。「一般論で抑止力をちらつかせても、ロシアのウクライナ侵攻は防げなかった。プーチンが前のめりだったからではない。『手段を選ばず』と言うだけでは真の脅しにならなかったからだ。サリバン補佐官は(9月25日に)『そちらが核を使えば、こちらも対応する』と言ったが、それくらいでは抑止できない」
取材に応じた軍情報部の高官も言う。「私は(核の)抑止力を信じている。だが微妙な言い回しでこちらの真意が正しく伝わるかどうか、私には分からない。ここまで来たら、こちらも本気でハンマーを振り回すべきではないか」
●「一線を越えたくないルカシェンコ大統領の強い想い」 ベラルーシの思惑 10/13
10日、ウクライナ全土に大規模なミサイル攻撃が行われた。ロシア側はクリミア大橋を破壊した報復攻撃だとする一方、各国からはプーチン政権に対して批判が相次いだ。
そんな中、今後のウクライナ情勢を左右するかもしれないのが、ベラルーシの動き。ルカシェンコ大統領がロシアとの合同部隊を配備することに合意したと明かした。ベラルーシはこれまで、ロシアと合同で軍事演習を実施したり、攻撃拠点を提供したりしてきたが、戦闘に参加することはなかった。
戦況は今後どう変化するのか。11日の『ABEMA Prime』は専門家に話を聞いた。
「“一線を越えたくない”というルカシェンコ大統領の強い想い」
在ベラルーシ日本大使館に勤務した経験もある北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの服部倫卓教授は、実際に参戦する可能性は「現時点では低い」との見解を示す。
「ロシアとベラルーシは似たような民族だと思われがちだが、戦争への意識は全く違う。ウクライナとの戦争に巻き込まれたくないというのは、独裁者・ルカシェンコと国民との唯一と言っていいくらいの共通項だ。それを踏みにじって参戦するようなことがあれば、いくら強権的な独裁者といえども立場が持たないだろう。実は2国間では国家統合に関する条約が結ばれていて、“情勢が緊迫した時に合同軍を編成する”という規定がある。ベラルーシ軍がウクライナに行って戦うというよりは、ベラルーシにロシア兵を置くための1つの手立てではないかとみている」
ロシアとしてはベラルーシを引っ張り出したいのか。
「戦争が始まってからずっと要請していると思う。9月と10月の話し合いで、ルカシェンコはプーチンにかなり詰められたようだが、やはり最後の一線、“これは越えたくない”という思いが相当強い。プーチンとしても、ベラルーシは残された希少な同盟国で、ルカシェンコという独裁者がいるからこそついてきてくれる面がある。この戦争に参加することによって、国内の支持基盤を失い倒れてしまうようなことがあれば一大事なので、無理強いもできない」
「先ほど申し上げたような両国共同の軍事ドクトリンによって、脅威が迫った有事の時には合同作戦本部のようなものが設置されて、ロシアの傘下に置かれるということが書いてある。それが適用されて、ルカシェンコのあずかり知らないところでベラルーシが合同軍に入って動かされてしまうのではないかという指摘もあり、今のところは何とも言えない」
「ベラルーシが自国を出て攻めていくとは限らない」
ベラルーシが加わった場合、戦況はどう動くのか。防衛研究所主任研究官の山添博史氏は次のように推測する。
「ベラルーシはロシアと何度も合同軍事演習をやっているので、横に並んでやれるぐらいの練度があるとすれば、やはりウクライナも戦力として考えなければならないと思う。一方、ベラルーシは攻め込まれているわけではないので、参戦することにメリットを感じるかどうか。むしろ、ウクライナやリトアニア、ラトビアがベラルーシを攻めてくるということで『自国を守ることはロシアを守ること』と言ってる。その理屈の上での強化と編成なので、自国を出て攻めていくとは限らない」
プーチン大統領は「領土が脅かされることがあれば、国民を守るためあらゆる手段を駆使する。これはハッタリではない」と、核兵器使用を示唆している。
「これは言う時と言わない時がある。今回のクリミア大橋のように『テロリストの攻撃があったので報復する』という時には示唆していない。一方、領土が侵される時には『あらゆる手段を使う』と匂わせるようにしている。最後の手段として持っているということはかなり前に言っていて、“これで引き下がってほしい”という願望がある。我々が恐れすぎるとその願望に乗ることになるので、認めるべきではないが、本当に使うしか方法がなければ可能性は出てくるだろう。ウクライナが押していく展開はまだ続くと思うが、場合によってはプーチン大統領の判断がまずいものになる可能性はある」
●欧州の天然ガス依存急低下へ、ウクライナ侵攻で 10/13
ノルウェーに拠点を置くコンサルタント会社DNVは12日、ウクライナでの戦争を機に、欧州が天然ガスへの依存度低下を加速させるとともに、ロシア産に変わるエネルギーに移行して供給確保を強化するとの見通しを示した。
DNVはエネルギー移行に関する年次リポートで「ウクライナ戦争は、欧州の天然ガス消費に対する当社の予想に強く影響した」と指摘。2050年時点の欧州ガス消費量を年間1700億立法メートルと予想し、侵攻前となる1年前の3100億立法メートルから修正した。20年の消費は約5800億立法メートルだった。
30年時点の予想は1年前の予想を約26%下回る水準となり、エネルギーシフトの加速が見込まれている。
リポートの責任者はロイターに、「エネルギーの安全保障問題により、欧州はシステム効率化促進と再生可能エネルギーの増産に向けより力を入れざるを得なくなっている」と述べた。
●ロシアとトルコ首脳会談 “特別な協議” 内容に関心集まる  10/13
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領による首脳会談が、日本時間の13日夜、カザフスタンで行われました。ウクライナ情勢を巡り、ロシアと欧米側との仲介に意欲を示すエルドアン大統領は「これから特別な話し合いに入る」と述べていて協議の内容に関心が集まっています。
ロシアのプーチン大統領は中央アジアや中東などの首脳が集まる国際会議に出席するためカザフスタンの首都アスタナを訪問していて、同じく訪問しているトルコのエルドアン大統領と日本時間の13日夜、会談しました。
会談の冒頭、プーチン大統領は「あなたの尽力で、ウクライナの穀物を海外に輸出することができた」と述べ、輸出の再開に向けた仲介役を務めたエルドアン大統領に謝意を示しました。
一方、エルドアン大統領は「トルコとロシアが話し合うことを不満に思う国もあるだろうが、これを進めよう。これから特別な話し合いに入る」と述べました。
会談について、ロシア大統領府のペスコフ報道官は国営のロシア通信に対し、1時間半に及んだ会談で両首脳は、長時間、双方の外交団を退室させ、2人だけの会談を行ったとしています。
一方、ペスコフ報道官は「ロシアとウクライナの和解については議論しなかった」としています。
会談を前にトルコのメディアは、エルドアン大統領がトルコの仲介で、ロシアとアメリカやイギリスなど欧米各国が交渉を始めることを打診する可能性を伝えています。
両首脳が行った協議の内容に関心が集まっています。
●ウクライナ軍、南部で新たに5集落解放…ロシア軍は9万人超が戦闘不能か  10/13
ウクライナ南部ヘルソン州の知事は12日、ウクライナ軍がロシア軍から新たに5集落を解放したことをSNSで明らかにした。露軍が全国規模で展開したミサイル攻撃に対し、ウクライナ軍は反転攻勢を継続する姿勢を鮮明にした。
10、11の両日にエネルギー施設などが標的となったミサイル攻撃の影響は依然、解消されていない。ウクライナのデニス・シュミハリ首相は12日、午後5〜10時の電力消費を25%削減するよう国民に呼びかけた。国営電力会社ウクルエネルゴは、東部ハルキウ、スムイ両州と中部ポルタワ州の計3州で当面、計画停電が必要になるとしている。
一方、ロシアの独立系調査報道メディア「IStories」は12日、露情報機関「連邦保安局」(FSB)当局者らの話として、2月24日の侵略開始以降、露軍の戦死者や行方不明者、負傷による戦闘不能者の人数が「9万人を超えている」と伝えた。
露南部ロストフ州や西部クルスク州は、ウクライナへの兵員補充を目的にした部分的動員の「第2弾」を始めた。モスクワでは、徴兵当局者がホームレスの支援施設などで招集を始めたとの情報がある。
●ウクライナ南部 ロシア軍がミサイル攻撃 ウクライナ軍は進軍か  10/13
ロシア軍は、13日もウクライナ南部の都市でミサイル攻撃を行うなど、市民の犠牲が増えています。これに対し、ウクライナ軍は、反撃の勢いを強め、南部ヘルソン州では支配地域の奪還に向けて進軍していると見られます。
ロシア軍は、13日もウクライナ各地で攻撃を行い、このうち南部ミコライウ市では、未明に激しいミサイル攻撃がありました。
ウクライナの非常事態庁によりますと、この攻撃で5階建てのアパートに住んでいた2人が死亡し、5人の行方が分からなくなっているということです。
また、キーウ州の当局は、首都キーウの近郊で無人機による複数の攻撃があったと明らかにしました。
ロシア軍は、一方的に併合したウクライナ南部のクリミアにつながる橋で起きた爆発への報復だとして、大規模なミサイル攻撃を行い、ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は11日までの2日間で市民合わせて37人が死亡したほか、けが人が134人に上ったと明らかにしています。
一方、ウクライナ軍は、東部や南部ヘルソン州などで反撃の勢いを強め、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は12日、ウクライナ軍がヘルソン州北部にある5つの集落を解放したと指摘しています。
また、イギリス国防省は13日「ヘルソンを占領するロシア側の当局はヘルソンから市民を避難させる準備を指示したようだ。ロシア側は、ヘルソン市まで戦闘が及ぶと考えている可能性がある」と分析し、ウクライナ軍は、ヘルソン州では支配地域の奪還に向けて進軍していると見られます。
●ロシア「特別軍事作戦」の目標、交渉通じ達成の可能性も 10/13
ロシア政府は13日、ウクライナにおける「特別軍事作戦」の目標は変わっていないとしつつも、交渉によって達成できる可能性があるという見解を示した。
ペスコフ大統領報道官はロシア紙イズベスチヤに対し、「方向性は変わっておらず、われわれの目標達成に向け特別軍事作戦は続いている」としつつも、「ロシアは目標達成のために、交渉にオープンであると繰り返し表明してきている」と語った。
ただタス通信によると、ペスコフ氏はカザフスタンのテレビに対し、ロシアに対する西側の「敵対的」な態度を踏まえると、近い将来に西側と協議できる見込みはないと述べた。
ラブロフ外相は今週、ウクライナ侵攻を巡り、米国を含む西側諸国との協議に前向きな姿勢を示していたが、「ロシアは協議に向けた真剣な申し出を受けていない」と述べていた。
13日にはイズベスチヤ紙に対し「具体的で真剣な提案があれば、われわれはそれを検討する用意がある」とし、「何らかのシグナルがあれば、検討する用意がある」とも述べた。
●国連やNATOで対応協議も…ウクライナでロシアによる大規模攻撃続く 10/13
ウクライナ各地への攻撃を激化させているロシア。国連やNATO=北大西洋条約機構で相次いで対応が協議されましたが、ロシアによる攻撃はきょうも続いています。
10日、ロシア軍がウクライナ各地で行った大規模なミサイル攻撃。8日に起きた南部のクリミア橋爆発への報復だということですが、この日以降、ロシア軍による攻撃は激化しています。
こうした中、アメリカ・ニューヨークでは…
記者「採決の結果が出ました。賛成143、反対が5。決議案が通りました」
ロシアがウクライナの4つの州について一方的に併合を宣言したことをめぐり、国連総会で、ロシアによる試みは違法で無効だと非難する決議が採択されました。
アメリカ トーマスグリーンフィールド国連大使「ロシアの行為は国連に対する脅威であり、私たち全員に対する脅威なのです」
このアメリカの非難に対し、ロシアは住民投票の結果を根拠に4州の併合の正当性を改めて主張しました。
また、ウクライナ各地へのロシア軍による攻撃を受け、12日、NATO=北大西洋条約機構も国防相理事会を開催。
NATO ストルテンベルグ事務総長「NATOの同盟国が極めて重要な防空システムを(ウクライナに)提供していることを歓迎します」
理事会は2日間の日程で行われ、防空システムの供与などウクライナへの軍事支援を協議する予定です。ただ、ロシア軍による侵攻が始まった2月以降、欧米などが様々な場で対応を協議し、ロシアに対する厳しい非難を繰り返しても、プーチン政権は止められないままです。
13日も南部ミコライウにある集合住宅にミサイルによるものとみられる攻撃がありました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ロシアのテロ行為がより大胆で残酷になればなるほど、この時代のヨーロッパにとってウクライナの空を守る支援が人道的に重要だということがより明白になるのです」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、激化するロシア軍の攻撃を非難。欧米諸国に改めて軍事支援を求めました。
一方、NATO高官の発言としてこんな報道が…
NATO高官(ロイター報道)「ロシア軍による核攻撃は紛争の方向性を変え、“潜在的にNATOからの物理的な対応”ももたらすだろう」
プーチン大統領が、状況次第で核兵器の使用も辞さない姿勢をちらつかせるなか出てきたNATO高官の発言。「物理的な対応」と言う言葉を使ったけん制にロシアが何らかの反応を示すのか注目されます。
●ロシア軍に末期症状%熾舶敗、兵力・物資不足…プーチンは責任逃れ 10/13
ウクライナ全土にやみくもなミサイル攻撃を行ったロシア軍。民間人にも犠牲が出たが、戦略的にロシアが得たものは乏しく、プーチン大統領の国際社会での評判をさらにおとしめた。ロシア軍は予備役の動員を行うなど戦力強化を図るが、内部の腐敗もあって展望は見えてこない。
大規模ミサイル攻撃を指揮したとみられるのが、ウクライナでの軍事作戦を統括するセルゲイ・スロビキン司令官だ。
タス通信によると、スロビキン氏は、ソ連崩壊後に独立運動が起きた南部チェチェン共和国への軍事介入に参加。シリアでのロシアの軍事作戦でも指揮を執った。英フィナンシャル・タイムズは、スロビキン氏がその残忍さから「ハルマゲドン将軍」と呼ばれていると報じた。
1991年に同氏の指揮下にある部隊が非武装のデモ参加者3人を殺害したとして6カ月間投獄された後、起訴は取り下げられたほか、95年には武器密売で有罪判決を受けたが、後に覆されたなどと報じている。
勇ましい人物を起用しても、戦局はロシアにとって厳しいままだ。米シンクタンクの戦争研究所は10日付リポートで「ロシア軍は動員された部隊に物資を供給することができない。これはおそらく、兵士と指揮官による何年にもわたる物資の盗難が原因だ」と分析した。ロシア軍では物資の横流しが横行し、ネットオークションで軍事物資が販売されていると指摘されてきた。
予備役の動員を行うなど兵力の不足も課題のなか、チェチェン共和国のカディロフ首長はSNSのテレグラムで、自身の14歳から16歳の3人の息子をウクライナの前線に投入すると宣言している。プーチン氏はそのカディロフ氏を軍で3番目に高い上級大将に昇格させた。
ロシア軍は9月に東部ハリコフ州から敗走。今月には併合を宣言した東部ドネツク州の要衝リマンを奪い返されたほか、南部でも一部集落を奪回されるなど劣勢が続く。ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長の解任論も根強い。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「強硬派のスロビキン氏を起用したことでロシア軍は、ミサイルや火器を用いた激しい戦闘に持ち込み、ウクライナを焦土化させる狙いだろう。プーチン氏は責任をショイグ氏やゲラシモフ氏に負わせる流れを作りたいのではないか。上層部が混乱する中で、現場の兵士の士気は高まらず、もはや軍組織としての体をなしていない」と分析した。
●プーチン氏、露産石油の価格に上限なら「供給しない」… 10/13
ロシアのプーチン大統領は12日、モスクワで開かれたエネルギー関連の国際会議で演説し、露産石油の取引価格に上限を設ける米欧などの追加制裁について「価格を制限する国々にはエネルギー資源を供給しない」と強調した。
上限設定を巡っては、9月の先進7か国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で12月の導入を目指すことで一致し、欧州連合(EU)は今月6日、上限設定を含む対露追加制裁を採択していた。プーチン氏はEU諸国の不安をあおり、ウクライナ支援や対露制裁の足並みを乱すのが狙いとみられる。
一方、露産天然ガスを欧州に供給する海底ガスパイプライン「ノルトストリーム」で9月に発生した大規模なガス漏れについて、プーチン氏は「国際テロだ。ロシアとEUの関係を決定的に断ち切ろうとする者が背後にいる」と主張した。露産ガスの代替となる液化天然ガス(LNG)をEU域内に輸出する米国が念頭にあるとみられる。

 

●トルコ大統領「我々の目標は流血を終わらせることだ」停戦調停に意欲 10/14
トルコのエルドアン大統領は13日、ロシアのプーチン大統領も出席した国際会議の席上、「我々の目標は流血を終わらせることだ」と述べて、ロシアとウクライナの停戦交渉に意欲を示しました。
トルコ政府によりますと、会議の中でエルドアン大統領は、黒海からの穀物輸出の再開などを成功例としてあげ、「我々の努力は全世界で評価されている」とした上で、「我々の目標はこの流れを維持し、流血を直ちに終わらせることだ」と述べ、ロシアとウクライナの調停に意欲を示しました。
一方、このあと行われたロシアとトルコの2国間会談では、プーチン大統領から、トルコにガス供給のハブ施設を建設することなどについて提案があったということですが、ロシア大統領府は、「両大統領はウクライナ情勢には触れなかった」としています。
●南部の親ロシア派、住民の避難支援をプーチン氏に要請 10/14
ロシアが併合を一方的に宣言したウクライナ南部ヘルソン州の親ロシア派幹部は13日、ウクライナ軍の攻撃が続いているとして、周辺地域への住民の避難を支援するようにロシアのプーチン大統領に要請した。SNS(交流サイト)に投稿した動画で表明した。
タス通信によると、ロシアのフスヌリン副首相は13日、ヘルソン州から退避する住民への支援を決定したと発表した。無料の滞在施設や定住先となる住まいを提供すると説明した。南西部ロストフ州の知事は14日に住民の受け入れを始めると明らかにした。
プーチン氏が9月末に併合を宣言したウクライナ東部・南部4州で、親ロシア派が住民の退避を公式に表明するのは異例。ウクライナ軍の反転攻勢を認めた形で、ロシア軍が南部で占領地域の維持に苦戦していることが浮き彫りになった。
これに先立ち英国防省は13日、ロシアがヘルソン州の州都の住民の一部に避難準備を命じたようだと指摘した。ウクライナの進軍で、州都にまで戦線が後退するとロシアが予想している可能性があると分析した。
ヘルソン州の親ロシア派幹部はウクライナからの攻撃で被害が出ていると主張し、ロシア南西部や同国が2014年に併合を一方的に宣言したウクライナ南部クリミア半島への避難を住民に呼びかけた。「ロシアが同胞を見捨てないことを知っている」とも強調し、プーチン氏に支援を求めた。
●ウクライナ南部の親ロシア派 住民に退避提案 プーチン政権に支援要請 10/14
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部へルソン州の親ロシア派トップが住民に退避を提案し、プーチン政権に支援を要請しました。
へルソン州の親ロシア派トップサリド氏は声明で「ウクライナ側のミサイル攻撃で住民らに深刻な被害が出ている」として住民にロシア南部などへの退避を提案したことを明らかにしました。
そのうえで「我々はロシアが同胞を見捨てないと知っている」としてプーチン政権に対し、退避に向けた組織的な支援を要請しました。
一方、NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長はロシアがウクライナで核兵器を使用した場合について「深刻な結果を招く」と指摘。
「NATOが核兵器を使用する状況は極めて稀だ」としたほか「NATOの核抑止力は平和を守る」と強調しました。
●プーチン大統領、アジア諸国首脳らに向け反西側感情あおる演説 10/14
ロシアのプーチン大統領は13日、アジア諸国の首脳らに向けた演説で、より公平な世界を確立するためにロシア政府が西側と戦っているとの主張を繰り広げた。ロシアの軍事的勢いが衰える中、この主張を一段と強めてきている。
西側諸国の経済制裁が強化される中、プーチン氏はこれまでウクライナの「ファシスト」との戦いと訴えていたが、ロシアを犠牲にして影響力を拡大しようとしてウクライナを武装化させている「西側集団」との対決という主張にシフトしている。
プーチン氏は「世界は真に多極化している」と述べ、「新しい力の中心が出現しているアジアはその中で重要な役割を担っている」と語った。
カザフスタンの首都アスタナで開かれたアジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)で、プーチン氏は西側諸国を、他の国々の発展を妨げて貧しい国々から搾取しようとする新植民地主義国家とする主張を展開。「アジアの多くのパートナーと同様、われわれはグローバルな金融システムの見直しが必要だと考えている。このシステムのために全ての資本の流れと技術を自分たちに向けてきた自称『黄金の十億』が、何十年にもわたって他を犠牲にして生きることができたのだ」と訴えた。
しかし、CICAの加盟国にはそれぞれの思惑がある。また、ロシアにとっては西側諸国への販売が難しい石油、ガスなど商品(コモディティー)の顧客としての価値も高まってきている。
CICAには、中央アジアの旧ソビエト連邦構成国、中国、インド、西側諸国との緊密な貿易関係から利益を得てきたアラブや東南アジアの国々も加盟している。
●ロシアの4州併合「認めない」 IAEA、プーチン氏に  10/14
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は13日、訪問先のウクライナの首都キーウ(キエフ)で記者会見し、ロシアのプーチン大統領に対してウクライナ東部・南部4州の一方的な併合を「認めない」と伝えたことを明らかにした。グロッシ氏は11日にロシアでプーチン氏と会談している。
グロッシ氏は、ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発は「ウクライナの原発だ」と強調。プーチン氏との会談でも、ウクライナがザポロジエ原発を管理すべきだと訴えたという。
ザポロジエ原発の副所長がロシアに拉致されたとの問題については「受け入れられない」と指摘したと述べた。
●核使用ならロシア軍「壊滅」 米欧の軍事的対応警告 EU外相 10/14
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は13日、ロシアのプーチン大統領がウクライナに対し核兵器を使用すれば、米欧の軍事的対応によって、ロシア軍は「壊滅」に至ると警告した。
ボレル氏は、ブリュッセルの外交アカデミーで「プーチン氏は(核使用が)脅しではないと言っているし、彼にはったりを言う余裕はないだろう」と発言。「ウクライナを支援する人々とEU、米国と北大西洋条約機構(NATO)もはったりを言っていないと、はっきりさせなければならない」と強調した。
その上で「ウクライナに対するいかなる核攻撃も返答を伴う」と指摘。「核ではないが、ロシア軍が壊滅するような強力な対応」が取られると語った。 
●IMF会合、ウクライナ戦争終結を強く訴える声=スペイン経済相 10/14
スペインのカルビニョ経済相は13日、今週開催されている国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会について、加盟各国の間からはウクライナでの戦争終結を強く訴える声が上がったとロイターに語った。カルビニョ氏は国際通貨金融委員会(IMFC)の議長を務めている。
年次総会では戦争に関する深い不確実性が意識されたと指摘。戦争を受けた食料・エネルギー価格の高騰が世界に及ぼす影響に触れ、「最も支配的な感情は心配と不確実性だ。この戦争がいつまで続くか分からないし、どんな影響を及ぼすかも分からない」とした。
世界的な金融引き締めの引き金となった戦争長期化とインフレへの影響を巡って加盟国はますます懸念を強めているとし、「これは深刻な問題であり、協力しなければならないという意識が(加盟国の間に)ある。最も脆弱な国々と社会の貧困層が大きな打撃を受けることから、ロシアに戦争停止を求める声はより厳しくなっている」と述べた。
世界が直面している重複する課題はグローバルな性質を持っており、IMFのような国際機関の重要性は一段と高まっていると語った。
●ウクライナ南部で攻防激化か ロシア側は内部で混乱も  10/14
ロシアのプーチン政権が一方的に併合したとするウクライナ南部のヘルソン州では、ウクライナ軍が反転攻勢を強め、攻防が激しくなっているものとみられ、ロシア側では住民に事実上の退避を呼びかけるなど内部で混乱も見られます。
ロシアは13日も東部や南部で攻撃を続けていて、ウクライナの非常事態庁は、南部の都市ミコライウでのミサイル攻撃で、集合住宅に住んでいた2人が死亡し、5人の行方が分からなくなっていると明らかにしました。
一方、ウクライナ軍は東部だけでなく南部でも反転攻勢を強め、ロシアが一方的に併合したとするヘルソン州では、知事が12日、SNSで、州内の5つの集落が解放されたと明らかにし、ロシア軍との激しい攻防が続いているとしています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日に公開した動画で、都市部へのミサイル攻撃を非難したうえで、「テロに対しては、制裁や法的措置などあらゆるレベルで力を持って対処しなければならない」と改めてロシアと対決する姿勢を示しました。
こうした中、ヘルソン州を支配する親ロシア派のトップ、サリド氏は13日、SNSに声明を投稿し、ウクライナ軍からの反撃が各地で強まっているとしたうえで、住民にロシア南部などへの事実上の退避を呼びかけました。
サリド氏は「ロシアは自国民を見捨てず、常に困難なところに手を差し伸べてくれるはずだ」と述べ、プーチン政権に支援を要請しました。
これを受けてロシアの副首相は全面的な支援を約束すると表明したものの、ヘルソン州の親ロシア派の別の幹部が「住民の避難はないし、ありえない」などと反論し、ウクライナ軍の反撃を前にロシア側では内部で混乱も見られます。
●ベラルーシが「極秘動員」 ウクライナ念頭、対テロ態勢に移行―報道 10/14
ベラルーシの独立系メディアは13日、「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領がウクライナ情勢に絡み、極秘に国民を動員する方針を決めたと伝えた。ルカシェンコ氏はロシアのプーチン大統領の盟友。同盟国として動員に協力し、侵攻に加勢するのではないかという観測がくすぶっている。
ルカシェンコ氏は10日、ロシアとの合同部隊の展開でプーチン氏と合意したと表明した。これを受け、先進7カ国(G7)首脳は11日、こうした協力をやめるよう警告したばかり。
一方、マケイ外相は「ベラルーシ領の一部占拠に向けて周辺国が挑発を計画しているという情報がある」と主張し、対テロ作戦の態勢に移行したと明らかにした。14日のロシア紙イズベスチヤに語った。周辺国とは、ウクライナや東欧の北大西洋条約機構(NATO)加盟国を念頭に置いているもようだ。
●ロシア、ヘルソン州民に避難を勧告 ウクライナ軍の前進で 10/14
ウクライナ南部ヘルソン州で13日、ロシア側が任命した指導者ウラジーミル・サルド氏が、住民らに避難を呼びかけた。前進するウクライナ軍が連日、ロケット弾攻撃を続けているためだとした。
ヘルソン州は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が併合を宣言したウクライナ4州の1つ。州都ヘルソンは、ロシア軍が2月24日の侵攻開始以降に占拠した唯一の州都となっている。
ウクライナ軍はこのところ、ヘルソン州の北西部で複数地域を奪還し、州都ヘルソンに迫っている。アメリカから供給されたハイマース・ロケット砲システムを効果的に使い、ドニプロ川西岸のロシア軍を孤立させようとしている。ウクライナ軍は、クリミアに接するこの重要な州での前進状況について、詳細を明らかにしていない。
ロシアは、ウクライナが自国民を攻撃していると非難している。ウクライナは、この言い分をはねつけている。
こうした状況でサルド氏はこの日、州民に「レジャーと勉強」のためロシアへ行き、「身を守る」よう呼びかけた。また、「ロシアは国民を見捨てない」という決まり文句を用いて、ロシア政府に支援を要請した。
サルド氏によると、ヘルソン、ノヴァ・カホフカの2大都市を含む州内の多くの街が連日、ウクライナ軍のロケット弾攻撃を受けている。
同氏は「こうした攻撃は深刻な被害をもたらしている」とし、ドニプロ川西岸の住民をはじめ、州内全域の住民に、ロシアかクリミアへ避難するよう促した。
ロシアのマラト・クスヌリン副首相は国営テレビで、「(ロシア)政府は(ヘルソン)州民を国内の他の州に移動させるための支援を決定した」と述べた。また、「無料の宿泊施設と必要なものを全員に提供する」とした。同副首相は、ロシア南部とクリミアに関して特別な責任を負っている。
ロシアの国営タス通信によると、同国南部ロストフ州のワシリー・ゴルベフ知事は、ヘルソンからの第1団が14日に同州に到着すると説明した。また、「ロストフ州はヘルソン州からの移動を望む全員を受け入れ、生活場所を提供する」と述べたという。
南部ミコライウで死者
13日にはこのほか、ウクライナとロシアをめぐって以下の動きがみられた。
・クリミアを除くウクライナ全土でしばらく、空襲警報が続いた。キーウ州と西部リヴィウ州のエネルギーと軍事関連の施設で、ロシアのミサイル攻撃が報告された。
・南部ミコライウ市が砲撃され、2人が死亡した。破壊された家のがれきから少年が救出される劇的な映像が流れたが、当局によると、少年はその後死亡した。
・ウクライナとロシアは、相互に相手国の兵士20人ずつを交換したと明らかにした。
・ロシアは、ウクライナがロシアの国境近くの都市ベルゴロドの住宅を攻撃したと非難した。
・ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がトルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領と会談。パイプライン「ノルド・ストリーム」で問題が生じたことを受け、ヨーロッパへの供給ルートの代替として、トルコにガス関連のハブ施設の建設を提案した。
・北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、ウクライナに妨害電波発信装置を数十個提供すると明らかにした。ロシアとイランのドローンに対抗するのが目的だとした。また、ノルド・ストリームの「破壊行為」を受け、重要インフラの保護を強化することで加盟国が合意したと述べた。
●ウクライナ南部で攻防激化か ロシア側は内部で混乱も  10/14
ロシアのプーチン政権が一方的に併合したとするウクライナ南部のヘルソン州では、ウクライナ軍が反転攻勢を強め、攻防が激しくなっているものとみられ、ロシア側では住民に事実上の退避を呼びかけるなど内部で混乱も見られます。
ロシアは13日も東部や南部で攻撃を続けていて、ウクライナの非常事態庁は、南部の都市ミコライウでのミサイル攻撃で、集合住宅に住んでいた2人が死亡し、5人の行方が分からなくなっていると明らかにしました。
一方、ウクライナ軍は東部だけでなく南部でも反転攻勢を強め、ロシアが一方的に併合したとするヘルソン州では、知事が12日、SNSで、州内の5つの集落が解放されたと明らかにし、ロシア軍との激しい攻防が続いているとしています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日に公開した動画で、都市部へのミサイル攻撃を非難したうえで、「テロに対しては、制裁や法的措置などあらゆるレベルで力を持って対処しなければならない」と改めてロシアと対決する姿勢を示しました。
こうした中、ヘルソン州を支配する親ロシア派のトップ、サリド氏は13日、SNSに声明を投稿し、ウクライナ軍からの反撃が各地で強まっているとしたうえで、住民にロシア南部などへの事実上の退避を呼びかけました。
サリド氏は「ロシアは自国民を見捨てず、常に困難なところに手を差し伸べてくれるはずだ」と述べ、プーチン政権に支援を要請しました。
これを受けてロシアの副首相は全面的な支援を約束すると表明したものの、ヘルソン州の親ロシア派の別の幹部が「住民の避難はないし、ありえない」などと反論し、ウクライナ軍の反撃を前にロシア側では内部で混乱も見られます。
●国民動員ほぼ完了 ウクライナと対話用意―ロシア大統領 10/14
ロシアのプーチン大統領は14日、カザフスタンの首都アスタナでの記者会見で、ウクライナ侵攻のための国民の予備役動員がほぼ完了しつつあるという認識を明らかにした。9月21日の部分動員令が徴兵忌避や反戦デモを引き起こしたことを受け、国内の混乱を収束させる狙いとみられる。
プーチン氏は「(目標の)30万人のうち22万2000人が既に動員済みだ」と説明。今後2週間で完了するとの見通しを示した。さらに「追加動員は計画されていない」とも述べ、事実上の総動員ではないかと疑う見方を否定した。
さらに、ロシア軍が苦戦する中、ウクライナとの対話に「われわれは常にオープンだ」と強調。プーチン氏との対話の可能性を否定するゼレンスキー政権に交渉に応じるよう訴えた。「ウクライナを破壊することを(軍事作戦の)目標に掲げていない」とも主張した。
11月のインドネシア・バリ島での20カ国・地域首脳会議(G20サミット)について、プーチン氏は出席を示唆しつつ「まだ最終決定していない」と表明。米ロ首脳会談の可能性を問われると「(バイデン米大統領に)質問しなければならない。私は必要があるとは思わない」と語った。バイデン氏も先に「会談する正当な理由はない」と慎重な姿勢を示している。
●カザフ大統領が露に苦言 プーチン氏、孤立回避に躍起 10/14
中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は14日、旧ソ連圏での国境に関する問題は「もっぱら平和的な手段で解決されるべきだ」と述べた。カザフの首都アスタナで行われたロシアと中央アジア5カ国の首脳会議での発言。トカエフ氏は、ウクライナ侵略を続けているプーチン露大統領に苦言を呈した形だ。
露国営タス通信によると、トカエフ氏は国境問題について、「友好と信頼の精神で、さらに国際法の原則と国連憲章の順守によって解決されねばならない」とも指摘した。
アスタナでは14日、旧ソ連諸国でつくる独立国家共同体(CIS)の首脳会議も行われた。プーチン氏は、第二次世界大戦終結から80年となる2025年に「ナチズムに対する団結」をCISが宣言するよう提案し、各国の同意を得た。
ウクライナ侵略について、ロシアは旧ソ連諸国の大半から支持を得られていない。プーチン氏はCIS諸国に結束を確認させ、孤立感を払拭しようと躍起だ。
プーチン氏は「旧ソ連の諸国民がナチスから人類を救った」と主張し、CISが歴史的功績を再確認すべきだと発言。プーチン氏はウクライナ侵略を「ネオナチとの戦い」だとしており、各国に軍事行動への理解を求めようとしたとみられる。
12日、ロシアのウクライナ4州併合を非難した国連総会の決議案採決では、CIS諸国で反対票を投じたのがロシアとベラルーシのみだった。
●プーチン大統領 旧ソビエト諸国などと首脳会談 連携を印象づけ  10/14
ウクライナ南部などでロシア軍の劣勢が伝えられる中、ロシアのプーチン大統領は、訪問先のカザフスタンで勢力圏とみなす旧ソビエト諸国などの首脳と会談を重ね、友好的な国々との連携を印象づけるねらいもあると見られます。
ウクライナでの戦況について、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は13日、南部ヘルソン州では、奪還を目指すウクライナ軍とロシア軍による激しい攻防が続いているとしています。
そのうえで、南部クリミアにつながる橋が爆発によって損傷したことで、ロシアからのウクライナ南部への物資と人員の輸送が低下し続けていると分析するなど、ロシア軍の劣勢が伝えられています。
ヘルソン州を支配する親ロシア派のトップ、サリド氏は13日、ウクライナ軍からの反撃が強まっているとしたうえで、住民にロシア南部などへの事実上の退避を呼びかけています。
一方、イギリス国防省は14日、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つ、バフムトで、ロシアの部隊に前進があったとしています。
ただ、正規のロシア軍がウクライナで掌握した地域はことし7月以降ほとんどなく、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の部隊が局地的に領土を掌握し、バフムトの戦闘にも「ワグネル」が深く関わっている可能性があると指摘しています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は、カザフスタンの首都アスタナを訪問していて、14日からは旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の首脳会議に出席しました。
この中で、プーチン大統領は「一部の国はナチスから人類を救ったソビエトの功績を記憶から消し去ろうとしている」と述べました。
そのうえで、第2次世界大戦の終結から80年となる2025年を「ナチズムとの戦いにおける平和と結束の年」にすることを提案し、ナチス・ドイツに打ち勝った歴史を守ろうと各国に結束を呼びかけました。
プーチン大統領は、13日にもトルコのエルドアン大統領など中東や、中央アジアなど、合わせて少なくとも6人の首脳と会談を重ねています。
ウクライナでロシア軍が劣勢となり、欧米との対立も深まる中、友好的な国々との連携を印象づけるとともに、勢力圏とみなす旧ソビエト諸国の引き締めを図るねらいもあると見られます。
プーチン大統領は、国際会議での一連の日程を終えた後、14日、記者会見を行うとみられ、発言が注目されます。
ウクライナ軍 “600以上の集落 ロシア軍から奪還”
ウクライナ政府は13日、ウクライナ軍がこれまでに東部と南部で600以上の集落をロシア軍から奪還したと発表し、戦果を強調しました。
それによりますと、ウクライナ軍は、これまでに東部では、ハルキウ州で502の集落を解放したほか、ドネツク州では43、ルハンシク州では7つの集落をそれぞれ解放したということです。
さらに、南部のヘルソン州でも75の集落を解放し、ロシア側から奪還した集落は東部と南部で合わせて627に上るとして戦果を強調しています。
ウクライナ政府は、こうした地域でガスや水道などの整備、食料や医薬品の調達などの支援を行っていて、業務を再開した銀行もあるということです。
ただ、復興には時間がかかり、インフラが整っていない地域や、地雷の除去が必要な集落からは解放されたにもかかわらず、市民が避難する動きが出ていて、ハルキウ州からは2万人以上がほかの地域へ避難しているということです。
●カタール首長、プーチン氏と会談 両国の「緊張緩和」のため 10/14
中東カタールのタミム首長は13日、国際会議が開かれているカザフスタン首都アスタナでロシアのプーチン大統領と会談した。協議に詳しい情報筋はCNNの取材に対し、両国間の緊張緩和が狙いだと明らかにした。
情報筋によると、米国と欧州連合(EU)は会談について事前に連絡を受けているという。
この数カ月、両国は緊張が高まっていた。情報筋によれば、タミム氏のゼレンスキー・ウクライナ大統領との電話会談、ロシアによるウクライナ領土の併合非難、4月にドイツで開かれた北大西洋条約機構(NATO)+8の会合出席などがその要因となっていた。
こうした関係悪化で、カタールが中東地域で進める外交努力が難しくなっている状況がある。
カタールは2015年のイラン核合意の復活を進めるため、イランと米国の間で連絡役を担おうとしている。またシリア情勢では、ロシアやトルコと協力して、長引く紛争への政治的解決策を模索する三者協議を進めている。
情報筋は「カタールはさまざま調停や外交課題を進めるため、ロシアや周辺地域の他国との友好関係を必要としている」と述べた。
ロシア大統領府は声明で、タミム氏がプーチン氏に、政治レベルでの両国間の歴史的つながりを強化する機会があり、エネルギー面で協力する見込みがあると伝えたと発表した。
●バイデン大統領 プーチン大統領会談に「会うつもりも、予定もない」 10/14
アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は13日、来月インドネシアで開かれるG20=主要20か国・地域の首脳会議に合わせたバイデン大統領とロシアのプーチン大統領の会談について、「会うつもりもないし、予定もない」と述べました。
バイデン氏とプーチン氏による首脳会談をめぐっては、ロシアのラブロフ外相が、アメリカ側から提案があれば検討する考えを示しています。
これに対し、バイデン氏は、「会うつもりはない」としながら、ロシア国内で拘束されている女子バスケットボール選手の解放交渉を、プーチン氏が行うつもりなら「会うだろう」とも述べています。
こうした中、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は13日、「会うつもりもないし、予定もない」と完全に否定しました。バスケット選手の解放交渉については、「仮定の話だ」としています。
●プーチンの部分動員令でロシア経済は回復腰折れか 生産性や需要に打撃 10/14
西側諸国による経済制裁のために既に打撃を受けているロシア経済が、今度は国内的な要因でさらに痛めつけられる展開になってきた。プーチン大統領が9月21日に出した部分動員令が生産性に打撃を与え、需要と景気回復の足を引っ張る恐れが強まっているからだ。
これまでに何十万人もの男性が、徴兵されるか国外に逃亡した。西側の制裁にもかかわらず当初の想定より底堅く推移してきたロシア経済には、投資活動をまひさせてしまう不確実性という厄介な問題がのしかかりつつある。
セントロクレジットバンクのエコノミスト、エフゲニー・スボーロフ氏は「部分動員令や地政学的リスクと制裁リスクの高まりによって、経済危機の第2波が始まろうとしている」と語り、ロシア経済は年末にかけて一段と縮小すると予想した。
プーチン氏は今月6日、9月最終週の小売売上高が減少したことを踏まえ、政府に消費需要喚起の対策を講じるよう指示した。同氏は、唐突な部分動員令の発表と消費減退の関連性は一切認めていない。それでもロシア中央銀行は11日、経済活動が9月末に著しく鈍化したと指摘した。
大手銀行・ズベルバンク傘下のズベルインデックスが集計したデータに基づくと、9月19─25日の週に家計が食料品以外に支出した金額は前年比で12.7%減少し、その前の週の9.2%減から落ち込みが拡大した。9月26日から10月2日までの週も12.2%減と2桁のマイナスだ。
ルネッサンス・キャピタルのエコノミスト、ソフィア・ドネツ氏は「小売売上高、特に高額品と非食料品の分野では数カ月中に2桁マイナス圏に戻るだろう」とみている。小売売上高の前月比が直近で2桁のマイナスを記録したのは5月だった。
貴重な人的資本
ロシア経済発展省が今年の国内総生産(GDP)成長率について、12%を超えるマイナスになるとの見通しを発表したのが4月。それ以降は、原油高と経常収支の黒字拡大を追い風に、政府の経済見通しは着実に上向いてきた。
9月終盤にロイターが実施したアナリスト調査では、今年のロシアのGDP成長率の予想はマイナス3.2%で、経済発展省の予想は同2.9%。来年はアナリストの予想がマイナス2.5%なのに対して、経済発展省は同0.8%とはるかに楽観的だ。
だが、ロシアがウクライナでの軍事作戦強化を進めているのに伴って、ある程度姿を見せてきた景気回復は腰折れしかねない。
部分動員は、人的資本の喪失もたらす
ベテランのエコノミスト、ナタリア・ズバレビッチ氏は「部分動員が主としてもたらす結末は、人的資本の喪失だ」と述べ、いつトンネルの出口の明かりが見えるのか分からない以上、最大限の恐怖と何もかもが不確実という状況が、急激に広がってくると説明した。
実際、部分動員の期間や最終的な規模はなお判然としない。こうした中でロシアのメディアは、推定で70万人が部分動員令の発表以来、国外に逃げ出したと伝えている。
ロクコ・インベストの投資責任者、ドミトリー・ポレボイ氏の見積もりでは、ロシアの労働力人口の0.4─1.4%が既に逃亡したか、戦場に投入されようとしている招集兵になっているという。
ポレボイ氏は、折しもロシアは先進的な機器や技術を手に入れにくくなっている局面にあるだけに、部分動員はロシアの人口動態、労働市場、投資環境という観点で痛手になると分析。「人的資本だけが経済をけん引する力として計算できたのに、生産年齢人口の一部は徴兵され、別の一部は逃げ出している」と嘆いた。
動員作業では組織的な混乱が生じており、何人かの閣僚があわてて自分の重要な部下たちの徴兵猶予手続きに乗り出すなどの光景も見られる。その一方、中小企業が部分動員の最大の被害者になろうとしている。
ズバレビッチ氏は「最悪の事態が訪れるのは、中小企業だろう。徴兵猶予を働きかける政治的手段はなく、2人か3人の要となる従業員を失えば、事業が成り立たなくなる」と話す。
間の悪いことに物価が再び上昇する気配を見せ、中銀の利下げサイクルは幕切れを迎えそうで、部分動員が経済にショックをもたらせば、政策担当者にとって新たな頭痛の種になってもおかしくない。
●ロシア軍の損失「9万人超の可能性」独立系メディア 10/14
動員されウクライナに派遣されたロシアの予備役5人が死亡したとロシア当局が初めて認めました。また、ロシア独立系メディアはウクライナ侵攻による軍の損失について9万人を超える可能性を指摘しています。
ロシア中部のチェリャビンスク州当局は13日、ウクライナ東部に派遣された地元の男性5人が死亡したと明らかにしました。予備役の部分的動員が発表されて以降、当局が動員兵の死亡を認めるのは初めてです。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は…
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ロシアの将軍たちが兵士を『大砲のえさ』として使っていて、私たちの防衛の負担となる可能性がある」
満足な軍事訓練を受けずに動員されたロシア兵が前線に送り込まれ、上官たちは兵士らの死を顧みない状況だと指摘しています。
また、ロシアの独立系メディアは、侵攻に伴うロシア軍の死者や行方不明者、戦闘不能になった人員があわせて9万人以上にのぼる可能性があると報道。ショイグ国防相は先月、軍の死者は5937人と発表していて、欧米などから実態とかけ離れていると指摘されていました。
一方、プーチン大統領は…
ロシア プーチン大統領「我々はトルコ経由でヨーロッパにガスを送っている。トルコは今やヨーロッパ向けガス供給の最も信頼できるルートになった」
トルコのエルドアン大統領との会談で、ヨーロッパに天然ガスを供給するパイプライン「ノルドストリーム」が稼働を停止している中、トルコにガス輸送のハブ施設を建設し、ヨーロッパ向けの供給を拡大する案を示しました。
ロシアの大統領報道官は「会談では、ウクライナに関しては協議されなかった」としています。

 

●プーチン大統領 “ウクライナへのミサイル攻撃 当面行わない”  10/15
ロシアのプーチン大統領は、報復だとするウクライナ各地への大規模なミサイル攻撃について、当面は行わないという考えを示す一方で、ウクライナへの軍事支援を続けるNATO=北大西洋条約機構に対して「分別のない行動に踏み切らないことを願っている」と主張し、強くけん制しました。
ロシアのプーチン大統領は14日、訪問先のカザフスタンで、旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の首脳会議などに出席したあと、ロシアメディアなどに対して記者会見を行いました。
この中でプーチン大統領は、一方的に併合したウクライナ南部のクリミアにつながる橋で起きた爆発への報復だとして、ロシア軍が行った大規模なミサイル攻撃について、「少なくとも現時点ではさらなる大規模な攻撃は必要ない」と述べ、当面は行わないという考えを示しました。
ウクライナへ軍事支援のNATOを強くけん制
一方、ウクライナへの軍事支援を続けているNATOについて「ロシア軍と直接衝突する何らかの部隊が展開されたら、世界的な大惨事につながりかねない非常に危険な段階に入る。そのような分別のない行動に踏み切らないことを願っている」と主張し、強くけん制しました。
また記者から、ウクライナへの軍事侵攻をめぐり「後悔していないか」と質問されたのに対し、プーチン大統領は「していない」と答えたうえで、「はっきりさせたいのは、こんにち起きていることは非常に不愉快だが、いずれ同じことはやらざるを得なかっただろう」と述べ、改めて侵攻を正当化しました。
予備役動員 約22万人招集 今後2週間で完了見通し
一方、プーチン大統領は予備役の動員について、政権側が公表した30万人のうち、すでにおよそ22万人を招集し、今後2週間で完了するという見通しを示しました。
そのうえで、追加の動員の可能性について「国防省から提案はうけておらず、当面は必要だとみていない」と述べ、動員をめぐって国内で広がる市民の動揺を抑えたい思惑もあるとみられます。
米 バイデン大統領との会談には否定的
またプーチン大統領は来月、インドネシアで開かれるG20の首脳会議について、みずからが対面で出席するかどうかについては「まだ最終的には決まっていない」と述べました。
そして、アメリカのバイデン大統領と会談する可能性について、「そのような交渉の準備があるのかどうかは、彼に聞くべきだ。しかし、正直なところ、私は必要性は感じていない。当面はいかなる交渉の場もない」と述べ、否定的な考えを示しました。
●プーチン氏、部分的動員令終了を示唆 都市攻撃も停止の考え示す 10/15
ロシアのプーチン大統領は14日、9月下旬に出した部分的動員令について、2週間以内に目的の人員を確保できるとの見通しを語り、動員を終了させることを示唆した。またウクライナの約20都市を標的とした10、11両日のミサイルなどによる攻撃にも言及し、さらなる大規模攻撃について「必要はない」と述べ、停止する考えを示した。カザフスタンで開催された国際会議後の記者会見で語った。
プーチン氏は、部分的動員令について、2週間以内に30万人の目標を達成する見通しだと述べた。既に22万人を確保し、1万6000人が戦闘に参加しているという。追加動員の予定はないとしている。
ショイグ国防相は9月、ロシア側の戦死者を5937人と発表したが、実際の死者数はこれを大幅に上回っている公算が大きい。ロシア独立系メディアは、露軍の損失が9万人を超える可能性があると報じた。不十分な訓練と貧弱な装備で、動員されたばかりの兵士が戦死する例も報告されているという。こうした状況の中、動員発令後に国外に逃れる市民は数十万人規模に上った。
またプーチン氏はロシア軍が10、11日に実施したウクライナの各都市に対する大規模攻撃について、ロシア軍が設定した29カ所の目標物のうち22カ所を破壊したと説明した。そのうえで「我々の任務はウクライナを破壊することではない」と述べた。残りの7カ所については「成果を上げるだろう」とし、今後、同様の大規模な攻撃を実施する可能性について「その必要はない。我々には別の任務がある」と語った。専門家の間では、10、11日の露軍の攻撃で使用された巡航ミサイルの供給がロシアで不足しているとの見方も出ている。
●プーチン大統領「米大統領との会談 必要性感じていない」  10/15
ロシアのプーチン大統領は14日、来月、インドネシアで開催されるG20=主要20か国の首脳会議に対面で出席した場合、アメリカのバイデン大統領と首脳会談を行う可能性について、「私は必要性は感じていない。当面はいかなる交渉の場もない」と述べ、否定的な考えを示しました。
ロシアのプーチン大統領は、カザフスタンの首都アスタナで開催された旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の首脳会議などに出席したあと、14日、記者会見を行いました。
この中でプーチン大統領は、政権側が発表した予備役からの30万人の動員について、すでにおよそ22万人を招集し、今後2週間で完了するという見通しを示しました。
そのうえで、追加の動員の可能性について「国防省から提案は受けておらず、当面は必要だとみていない」と述べ、現時点では実施しない方針だとしています。
また来月、インドネシアで開催されるG20=主要20か国の首脳会議について、みずからが対面で出席するかどうかについては「まだ最終的には決まっていない」と述べました。
そのうえで、アメリカのバイデン大統領と会談する可能性についてプーチン大統領は、「そのような交渉の準備があるのかどうかは彼に聞くべきだ。しかし、正直なところ、私は必要性は感じていない。当面はいかなる交渉の場もない」と述べ、否定的な考えを示しました。
一方、ロシア軍は、ウクライナ南部クリミアにつながる橋で起きた爆発をめぐり、報復だとしてウクライナ各地で大規模なミサイル攻撃を行ってきましたが、プーチン大統領は「少なくとも現時点では、さらなる大規模な攻撃は必要ない」と述べました。
●プーチン大統領会見 「後悔していないか?」と問われ… 10/15
ロシアのプーチン大統領は苦戦が続くウクライナ侵攻に関し、「後悔していないか」と記者から尋ねられ、「していないが、今起きていることは不愉快だ」と答えました。
プーチン大統領「(Q.プーチン大統領、後悔していませんか?)いや。はっきりさせておきたい。(ウクライナで)今起きていることは控えめにいっても不愉快だ。しかし遅かれ早かれ同じことが起きていたし、最悪の状況になっていただろう」
プーチン大統領は14日、訪問中のカザフスタンの首都アスタナでロシアメディアの取材に応じました。
ウクライナ情勢を巡り、記者からは厳しい質問が飛び出しました。
また、プーチン大統領はアメリカのバイデン大統領と直接会談する必要性は感じていないと明らかにしました。
来月インドネシアで開かれるG20=主要20カ国・地域の首脳会議への出席も未定だということです。
一方、動員を巡っては、ロシア国防省が発表した30万人より多くを動員する考えはなく、今後2週間で終了すると述べました。
この日、モスクワやサンクトペテルブルクでは警察官らが地下鉄の出入り口などで若い男性にほぼ無差別に招集令状を渡そうとする様子を撮影した映像がSNSに数多く投稿されました。
この状況についてロシア大統領府のペスコフ報道官は不法な動員は行われていないとしつつ、「当局に確認する必要がある。モスクワ市内を歩くことを恐れないでほしい」などと述べたということです。
●プーチン大統領、ウクライナ侵攻に後悔ない−動員は数週間内に終了 10/15
ロシアのプーチン大統領は14日、苦戦するウクライナ侵攻に後悔はないと述べ、都市への大規模な攻撃を再開する可能性に含みを持たせた。
カザフスタンの首都アスタナで戦争への後悔はあるかと記者に問われたプーチン氏は、即座に「ない」と回答。「現在起きていることは、控えめに言ってもあまり好ましくない。だが全く同じ展開に、ロシアにとっていっそう悪い条件ですぐに直面していただろう。われわれは正しく、時宜にかなったやり方で行動している」と主張した。
一方、先月発表した30万人の予備役動員については今後数週間で終了し、拡大はしないと言明。この「部分動員」令に動揺する市民を安心させようと図った。
ロシアは今週、ウクライナの複数都市に戦争開始当初以来の大規模なミサイル攻撃を実施。プーチン氏は、このような規模の攻撃は「当面は」これ以上必要ないと述べた。ここ数週間に戦場ではウクライナ軍に押され、ロシア軍の敗走が続いていることには触れなかった。
11月の20カ国・地域(G20)首脳会議でバイデン米大統領と会談する可能性については、「バイデン氏にそのような協議をする用意があるか、聞いてみるべきだろう。率直に言えば、私はその必要性を認めていない」と語り、インドネシアでの首脳会議に参加するかまだ決定していないと続けた。
また、トルコやアラブ首長国連邦(UAE)の仲介案に応じる用意はないとし、ウクライナ側に和平交渉に応じる構えがないと主張した。
●ロシア、ウクライナ破滅の意図ない 「大規模攻撃」不要=プーチン氏 10/15
ロシアのプーチン大統領は14日、ロシアにはウクライナを破滅させる意図はなく、大部分の標的をすでに攻撃したため、ウクライナに対する新たな「大規模攻撃」の必要はもはやないと述べた。
プーチン氏は、カザフスタンの首都アスタナで開かれたアジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)後の記者会見で、予備役の部分動員を向こう2週間で終了させ、追加的な動員の計画はないと明らかにすると同時に、ロシアには協議を行う用意があると改めて表明した。ただ、ウクライナが協議に参加する場合は、国際的な調停が必要になると述べた。
ウクライナ侵攻開始から8カ月が経過し、ウクライナ軍の反転攻勢でロシア軍が後退を余儀なくされる中、プーチン氏の発言のトーンは若干和らいだようにみえる。
ただ、プーチン氏はこれまでにロシアの領土保全を守るために核兵器の使用も辞さない姿勢を表明。この日も、北大西洋条約機構(NATO)軍がロシア軍と直接衝突すれば「世界的な大惨事」になると警告した。
ウクライナ侵攻が計画通りに進まなかったことで、22年間にわたりロシアを率いてきたプーチン氏は危機に直面。ただ、後悔があるかとの質問に対しては、ウクライナに対する行動を起こさないのは悪いことだったと述べ、後悔は「ない」と回答。「現在起きていることは控えめに言っても不愉快だが、若干遅かったとしても、われわれにとって条件が悪いだけで、同様の事態になっていたはずだ。つまり、われわれは正しく、時宜を得た行動を起こしている」と述べた。
また、米国のバイデン大統領との会談は「必要ない」と表明。11月にインドネシア・バリで開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席するかどうかはまだ決めていないと語った。
プーチン氏の発言を受け、地政学的な緊張が和らぐとの観測から米株価が上昇するなどの動きが出た。
●ノーベル平和賞のウクライナ団体 “ロシアの戦争犯罪を追及”  10/15
ノーベル平和賞の受賞が決まったウクライナの人権団体が14日、首都キーウで記者会見し、軍事侵攻したロシア軍に身柄を拘束され不当な扱いを受けたウクライナの民間人が少なくとも680人以上に上ると明らかにし、ロシアの戦争犯罪だとして追及していく考えを強調しました。
今月7日にことしのノーベル平和賞の受賞が決まったウクライナの人権団体「市民自由センター」が14日、首都キーウで記者会見を開きました。
この中で担当者が団体の調査結果を公表し、軍事侵攻したロシア軍に身柄を拘束され、不当な扱いを受けたウクライナの民間人はこれまでに少なくとも686人に上ると明らかにしました。
このうち265人は解放されたものの、11人が死亡し、410人が拘束されたままだとしています。
会見には、ことし3月にウクライナ北部のチェルニヒウ州でロシア軍に拘束され、先月解放されたという女性も同席し、収容施設で毎日、ロシアの国歌を歌うよう強要されたことや、ウクライナ人の女性が髪を丸刈りにされ嫌がらせを受ける様子を目撃したことなどを語りました。
人権団体のオレクサンドラ・ロマンツォワ事務局長は「ロシアに不法に拘束された人たちは無条件で解放されなければならない。ロシアの戦争犯罪の犠牲となっている人たちの正義のために活動を続ける」と述べ、ロシアの戦争犯罪だとして追及していく考えを強調しました。
●冬までに大幅な領土奪還できない場合、現状維持狙うロシア軍「大きな成果」 10/15
ウクライナ東部ハルキウ州知事によると、ロシア軍は13日夜と14日、州都ハルキウをミサイルで攻撃した。重要インフラ施設が被害を受け、一部が停電した。露軍は冬を前にウクライナの電力供給網に打撃を与え、戦局の好転を狙っている。
米CNNは13日、戦況がこう着することが予想される冬までにウクライナ軍が大幅な領土奪還ができない場合、「現状維持を狙う露軍には大きな成果となる」と指摘した。
ウクライナ政府は13日、反転攻勢を本格化させた9月以降、露軍から627集落を奪還したと発表した。ハルキウ州で502集落、ロシアが一方的な併合を強行した東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)で50集落、南部ヘルソン州で75集落だ。
ヘルソン州では、ウクライナ軍によるドニプロ川西岸への攻撃激化を受け、ロシアが一方的に任命した「暫定知事」が13日、露政府に住民避難の支援を要請した。
一方、露軍が最近、多用するイラン製自爆型無人機に関し、ウクライナ軍の関連組織は12日、イランの精鋭部隊「革命防衛隊」関係者が教官を現地に派遣しているとの見方を示した。イランと敵対するイスラエルが無人機に関する情報をウクライナに提供しているとの情報もある。
露政府は13日、露軍が本土から南部クリミアへの主要な補給路としてきた「クリミア大橋」の全面復旧は「来年7月」になるとの見通しを明らかにした。
●ロシア、ミサイル不足か ウクライナ国防相が主張 10/15
ウクライナのレズニコフ国防相は14日、ロシア軍が今年2月にウクライナに侵攻して以来使用した精密誘導ミサイルの種類と内訳をツイッターで公表した。ロシア軍が保有しているとされるミサイルのうち、既に3分の2を使い果たしたと主張し「ロシアの非武装化」が進んでいると皮肉った。
レズニコフ氏は、侵攻前のロシア軍には計1844発があったが、今月12日時点で残っているのは609発だと指摘。「ウクライナの民間施設に対し、数百発の高精度ミサイルを使ったため、軍事目標への攻撃能力を低下させている」とし、「ロシアの敗北は避けられない」と述べた。
●軍事・外交の両面でほぼ「詰んだ」プーチン大統領  10/15
2022年10月8日に起きたクリミア大橋の爆発事件に対し、ロシアはウクライナ市街地に連日ミサイルを撃ち込むという残忍な報復攻撃を行った。しかし攻撃は日を追うごとに先細りになり、逆に戦力不足を露呈する結果に終わった。
加えて、ウクライナは交渉を拒否、先進7カ国(G7)もロシアに対して一層の対抗姿勢を打ち出し、包囲網を狭めた。これによりプーチン氏には、苦境の戦局を打開するための有効な手立てが軍事的にも外交的にもほとんどなくなってきたと言える。
小規模で終わったロシアの反撃
2022年10月10日から始まったロシアの報復攻撃は、首都キーウをはじめウクライナ全土を対象に行われた。使われたのは、高精度巡航ミサイル「カリブル」や対空用から対地用に変更されたS300などのミサイルと、「カミカゼ」と呼ばれるイラン製の攻撃用ドローンだ。
10月10日にはミサイル84発、イラン製の攻撃用ドローン24機を撃ち込み、キーウでは2022年2月の侵攻開始時以来最大規模の攻撃となった。しかしその後は日を追うごとにミサイル、ドローンの攻撃数が減っていった。ウクライナ側によると、10月11日にはミサイルとドローンを合わせて28発と大幅に減少した。10月12日には散発的な攻撃はあったもようだが、ウクライナ国防省が数字を出さないほどの小規模だった。
これは、今年の夏以降指摘されていたロシアのミサイル不足を端的に露呈したものとみられている。西側の経済制裁によって、米欧の精密部品が輸入できなくなったため、主力ミサイルの生産ができなくなり、ロシア軍はミサイルの補充が難しくなっていた。
事実、今回の報復攻撃以前からロシア軍は、攻撃に使うミサイルを明らかに節約しているとみられていた。2022年8月初めにクリミア半島のロシア軍基地がウクライナのパルチザン攻撃によって初めて攻撃された際も、これに対するミサイルによる報復攻撃の規模はウクライナが想定していた規模より、相当小さかった。
今回、爆発炎上事件が起きたクリミア大橋は、2014年のクリミア強制併合が成功したシンボルとして、プーチン政権が2019年に完成させた国家的な重要インフラだ。開通時にプーチン氏は自らトラックを運転して橋を渡るデモンストレーションをしており、「プーチンの橋」とも呼ばれている。ウクライナ側は爆発炎上事件への関与を認めていないが、プーチン氏にとって面子を潰されたという意味では、クリミア基地への攻撃以上の屈辱となった。
プーチン氏としては、国内向けには大規模な報復を実行したことで、ロシア国民に対し「戦果」を久々にアピールする狙いがあったとみられる。同時にウクライナ向けとしては、多くの市民を殺傷するとともに、発電所などのエネルギー関係のインフラを破壊することで国民の抗戦意欲を削り、停戦交渉に応じるよう圧力を掛ける狙いだったとみられている。
しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領は報復攻撃開始直後に出した声明で、2014年のクリミア併合時にロシアに奪われた全領土の武力奪還を目指すことを改めて表明し、ロシアとの交渉を拒否する立場に変わりがないことを強調した。
またゼレンスキー大統領を招いて緊急首脳会合をオンラインで開催したG7も10月11日、プーチン政権に対して厳しい姿勢をとり、ウクライナへの軍事支援をさらに強める立場を打ち出す声明を発表した。
G7もウクライナへの支援を強める
この声明のポイントとしては、1プーチン氏を名指して「戦争犯罪」の責任を取らせることを明確にしたこと、2全領土の武力奪還を目指すゼレンスキー大統領の方針を支持する姿勢をより明確に打ち出したことの2点にある。
とくに2に関して声明は、「国際的に承認された国境内でのウクライナの領土の一体性と主権を完全に支持する」と表明した。2022年9月23日にG7が出した前回の首脳声明が「領土の一体性を維持するウクライナの必要性を支持する」としていたのと比べると、「国際的に承認された国境内」を盛り込んだのが新しい点だ。
これは、2022年9月末の「住民投票」を経てロシアが併合を宣言したウクライナの東・南部4州に、クリミア半島を合わせた全併合領土の回復を支持することをより明確化したものだ。
ウクライナは全領土奪還の方針について、2022年8月末の反攻作戦開始前、すでにアメリカのバイデン政権との間では合意していたが、今回G7もウクライナに同調したことになる。これまでロシアとの対決姿勢において、アメリカやイギリスとは異なり、ドイツやフランスに対して不信感を抱いていたゼレンスキー政権は、両国との溝をかなり埋めたことになる。
同時にこれは、領土や占領地に関してロシア、とくにプーチン政権との交渉を拒否するとしているゼレンスキー大統領の方針をG7として事実上支持することを意味するものだ。
一方で、この声明内容はプーチン政権にとって大きな打撃となった。プーチン氏は、ロシアとの交渉のテーブルに着くことを拒否しているウクライナの頭越しに、アメリカなどとの間で交渉による何らかの妥協を狙っているからだ。
インドネシアで2022年11月に開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて、現地でのアメリカ・ロシア首脳会談の開催にロシアが前向きなのもこのためだ。しかしバイデン大統領は10月11日、会談に否定的な考えを示して冷水を浴びせた。アメリカはこれまでも、「ウクライナの頭越しに同国の運命について第三国と協議することはない」とゼレンスキー政権に約束している。
さらにロシアは、国連でもこれまで以上の孤立を味わうことになった。国連総会(193カ国)が10月12日の緊急特別会合で、ウクライナ東部・南部4州の一方的な併合宣言を「無効」だとする非難決議案を143カ国の賛成で採択した。決議案は欧米諸国や日本などが共同提案したもので、ロシアなど5カ国が反対、中国やインドを含む35カ国が棄権した。
ウクライナへの軍事支援を強めるG7各国
総会決議に法的拘束力はないが、侵攻直後に141カ国が支持したロシア非難決議を上回る賛成票を得たことになる。ウクライナ領土の併合拡大に対する国際社会の反発を印象付けたものだ。
先述したG7声明を受け、G7各国はウクライナへの軍事支援でもこれまでより大きく踏み込んだ。バイデン政権はウクライナへの高性能地対空ミサイルシステム「NASAMS」の供与を急ぐ意向を示した。このシステムはワシントンのホワイトハウス防衛にも使われているものだ。今回のロシアの報復攻撃を受け、ウクライナへの軍事支援の質が一歩高まったことを象徴する。キーウなどにウクライナ軍は航空機を対象とした防空システムを保有しているが、対ミサイル防衛システムはこれまで保有していなかった。
さらにドイツも、ウクライナに防空システム「IRIS-T」4基を供与する方針で、最初の1基をすでに渡したとされる。これまで軍事支援に消極的だったフランスも動き出した。マクロン大統領は2022年10月12日、防空ミサイルシステムを数週間のうちに供与すると明らかにした。供与されるのは短距離対空ミサイル「クロタル」とされている。
さらにすでに18基を供与した自走砲「カエサル」を6基追加すると表明した。北大西洋条約機構(NATO)も今後、ウクライナへの追加軍事支援を決める予定だ。
武器供与以外でも、ウクライナ軍はイギリス特殊部隊(SAS)からさまざまな訓練を受けている。SASは旧ソ連軍以来の兵力消耗型の戦法を続けるロシア軍を圧倒する最新の弾力的な戦術をウクライナ軍にもたらしている。キーウの軍事筋は「事実上のウクライナ軍のNATO加盟が実現している」と指摘している。ウクライナのNATO加盟に反対して侵攻を始めたプーチン氏にとって、皮肉な結果になった。
戦場でもロシア軍は、ウクライナ軍の反攻作戦に押されている。火力面でまだウクライナ軍を上回る東部ドネツク州では、ロシア軍が抵抗を続けて激戦となっているが、東部ルガンスク州や南部ヘルソン、ザポリージャ両州ではウクライナ軍が奪還地域を拡大している。
反攻作戦の次の標的であるクリミア半島をめぐっては、すでに一部ロシア部隊がクリミア大橋経由ではなく、南部ザポリージャ州に北上して撤退する動きが出ているという。
ウクライナ軍は反攻作戦開始に当たり、2022年の冬が終わるまでの短期戦で勝利を目指している。本格的な冬を前に、ウクライナの軍事筋は東部を除いて、南部2州やクリミアでは冬季でも攻撃は可能としている。
同時にウクライナ側はロシア軍兵士に投降を呼び掛け、銃を置かせる作戦を展開している。作戦は「私は生きたい」と名付けられ、ロシア軍兵士の動揺を誘っている。前線の兵士のみならず、「部分的動員」で従軍が決まった男性や兵士の家族からもホットラインに電話が来ているという。
このように、プーチン政権は軍事的にも外交的にも打つ手がなくなりつつある。米欧はコーナーに追い詰められた感が濃いプーチン氏が、小型核兵器の使用に踏み切る恐れがあると警戒している。バイデン大統領は2022年10月11日の米CNNテレビとのインタビューで、プーチン氏が「核を使わないと思う」と述べて牽制した。しかしその一方でプーチン氏について「理性的な政治家」と述べて、懐柔も図った。
「キューバ危機」型の収束も難しい
核をめぐるアメリカとロシア間の危機と言えば、1962年のキューバ危機という前例がある。このときは、アメリカとソ連両国指導者がメッセージのやり取りをし、最終的にアメリカがトルコに配備しているミサイルを撤去するという妥協案を提示。これを受け、ソ連がキューバからのミサイル撤去に応じるというギリギリの取引によって戦争を回避した。
今回はアメリカ政府がクレムリンに対し、核使用の場合は極めて強い報復措置を取ると警告している。キューバ危機のような水面下での事態打開の模索が始まっている可能性も否定できない。しかし、当時と比べ、軍事面での両国の力関係がアメリカ優位に大きく傾いている現状を考慮すれば、バイデン政権が何らかの譲歩をする可能性は低いと筆者はみる。
仮に戦術核を使ったとしても、アメリカの強力な反撃によってロシアが敗北に追い込まれるのは確実だろう。その意味で、プーチン政権が軍事的に逆転勝利する可能性はほとんどゼロと言っていい。
一方で、国家存亡の危機時には核を使用するとしてきたプーチン政権が核による行使に踏み切らずに、このまま軍事的に追い込まれ続ければロシア国内で強硬派から批判を受け、権威失墜は避けられないだろう。
プーチン氏は軍事・外交的にほぼ「詰んだ」状態と言える。 
●プーチン氏に唯一残る手段は「恐怖心植えつけ」、ロシア元外相 10/15
ロシアのアンドレイ・コズイレフ元外相は15日までに、同国のプーチン大統領の国政運営やウクライナ戦争などに触れ、「残された唯一の選択肢は恐怖心を植えつけることだ」とし、「世界の全てのみじめなテロリストと同様になっている」との厳しい見解を示した。
CNNの取材に述べた。ウクライナで続けているミサイルなどの大規模攻撃にも言及し、「彼の誤算が原因となっている絶望的な状況に陥っているためだ」とも断じた。
その上でプーチン氏による三つの誤算を指摘。「一つ目はウクライナは2、3日で敗北を喫し、二つ目は米欧諸国がウクライナ救援に踏み込まないとの計算だった」と指摘。
「三つ目は、部分的な動員令を発表し戦争の現実を国内に持ち込んだことだ」と主張した。
プーチン氏は絶望的な局面に遭遇しており、脅しという自らになじみのある手法に戻っているとも分析。「最終的には踏み切らないであろう核兵器の投入の威嚇であり、ウクライナやロシアでのテロ行為の威嚇でもある」と続けた。
その上で核兵器は用いないだろうとする見方の根拠について「彼は人間だ。戦略的な核兵器を使っての自殺はしたくないだろう」と述べた。
コズイレフ氏はエリツィン元大統領時代の1991〜96年に外相を務めた。ウクライナ侵攻に反発し、同国の外交官全員に対し抗議の辞任を呼びかけるなどプーチン政権批判の言論活動も行っている。
●ロシア軍、ウクライナで先端兵器の急速な消耗 米政府高官 10/15
バイデン米政権高官は15日までに、ウクライナへ侵攻したロシア軍で先端兵器の備蓄分が急速に減っており、代替品の確保もできていない状況にあるとの分析を示した。
ウォリー・アデイエモ財務副長官がCNNとの単独会見で明かした。ロシアは侵攻に対抗する西側諸国の制裁策をかいくぐって軍への補給を確保する方途を必死になって探っているとも指摘した。
副長官はこの中で、ロシアが直面する装備品不足は戦闘現場での判断にも影響を与えているとし、必要とする戦車がないため戦線で可能なことについて重大な選択を迫られる結果になっていると述べた。ロシアはウクライナへ撃ち込む高精度ミサイルに不可欠の半導体を持っていないともした。
欧米諸国らによる対ロ制裁は、以前から問題を抱えていたロシア軍をさらに窮地に追い込んでいるとも説明。兵員、弾薬、戦車やほかの物資が不足しており、部隊強化などを進めることが一層難しくなっているとした。
ロシアは制裁をかわすため代理企業やエリート層を使っているとも主張。その上で中国は大きな助けになっていないとし、「中国はみずから持っていないものをロシアに回すことはできない。中国は最先端の半導体を製造してはいない」と続けた。
これら半導体を調達するためロシアが情報機関やダミー企業を動員しているのは、米国の同盟国やパートナー国がこの半導体を手掛けているためだとも説いた。
CNNは14日、米の情報機関を束ねる国家情報長官室による新たな分析に基づき、西側による制裁はロシア軍がウクライナで用いる弾薬の補給能力を著しくそいでいると報じてもいた。
●ロシア 攻撃続けるも 装備品不足が劣勢につながっている可能性  10/15
ロシア軍は、15日もミサイルでウクライナ各地を攻撃し、被害が広がっています。一方、ロシア軍はミサイルや動員された兵士の装備品などが不足しているとの指摘が出ていて、ウクライナでの戦況での劣勢につながっている可能性も出ています。
ロシアは15日も各地で攻撃を続けていてキーウ州の知事はSNSで砲撃があったと述べたほか、南部ザポリージャ州の知事も10発のミサイル攻撃を受け、エネルギー関連施設などのインフラが破壊されたと述べました。
一方、ロシアのプーチン大統領は、14日、ロシアメディアなどに対する記者会見の中で、報復だとしてロシア軍が行った大規模なミサイル攻撃は当面は行わないという考えを示しました。
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は14日、「プーチン大統領はミサイルの保有数が減っていて長期にわたってミサイル攻撃を続けられないと分かった」としていて、ロシア軍がミサイル不足に陥っていることを裏付けていると指摘しました。
またイギリス国防省は15日の分析で、動員された人たちがウクライナへ送られているとしたうえで、「個人の装備の平均レベルが、これまで派遣されていた貧弱な装備の部隊よりも低いことはほぼ間違いない」と指摘しました。
そして動員された人たちは装備を自分で調達することを強いられているなどとしていて、こうした装備品などの不足がウクライナでの戦況での劣勢につながっている可能性があるとしています。
●4日で100機のロシア軍ドローン破壊 軍事侵攻から累計1200機突破 10/15
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。
ウクライナ軍では2022年2月24日にロシア軍に侵攻されてから殺害したロシア軍の兵士の数、破壊した戦車、戦闘機など兵器の数をほぼ毎日公表している。
ウクライナ軍によると2022年2月24日から2022年10月15日までの約7か月半の間でロシア軍兵士の戦死者は64,700人以上で、破壊したドローンは1200機を超えた。
2022年10月11日に破壊したロシア軍のドローンが1100機を突破したばかりだった。そして10月12日、13日、14日、15日までの4日間で100機のロシア軍のドローンを撃墜して1200機を突破した。以前は1日に数機程度で10機以下の日が多かったが、ここ数日では1日に20〜30機のロシア軍のドローンを破壊している。
以前に比べるとウクライナ軍が1日に破壊しているロシア軍のドローンの数がかなり増えている。両軍とも監視・偵察ドローンや攻撃ドローンをかなりの規模で飛ばしているので、カウントされずに破壊されたドローンを含めるともっと多いだろう。
2022年10月にはロシア軍はミサイルとイラン政府が提供した攻撃ドローン「シャハド136(Shahed136)」、「シャハド131(Shahed131)」で首都キーウを攻撃して、国際人道法(武力紛争法)の軍事目標主義を無視して軍事施設ではない民間の建物に撃墜して攻撃を行っていると報じられている。一般市民の犠牲者も出ていると報じられている。ウクライナ軍としてはキーウや主要都市の文民たる住民を保護するためにも、上空のドローンを徹底的に破壊しておきたいところだ。
首都キーウにもイラン製攻撃ドローンで攻撃、徹底的な破壊が急務
ドローンは攻撃用も監視用も探知したらすぐに迎撃して破壊してしまうか、機能停止する必要がある。上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル(soft kill)"と、対空機関砲のように上空のドローンを爆破させる、いわゆる"ハードキル(hard kill)"がある。
特に偵察ドローンは探知されやすく、すぐに迎撃しなくてはならない。偵察ドローンは攻撃をしてこないから迎撃しなくても良いということは絶対にない。偵察ドローンに自軍の居場所を察知されてしまったら、その場所にめがけて大量のミサイルを撃ち込まれてしまい大きな被害を招きかねないので、偵察ドローンを検知したら、すぐに迎撃して爆破したり機能停止したりする必要がある。回収されて再利用されないためにもドローンは上空で徹底的に破壊しておいた方が効果的である。
特に2022年10月に入ってからはロシア軍が首都キーウにも軍事ドローンで攻撃をしているので、上空での"ハードキル"による徹底的な破壊による国土の防衛は急務である。
ウクライナ軍では破壊したドローンのなかで、監視・偵察ドローンと攻撃ドローンの内訳は明らかにしていない。ロシア軍は主にロシア製の偵察ドローン「Orlan-10」で上空からウクライナの監視・偵察を行っており、またロシア製の攻撃ドローン「KUB-BLA」や「ZALA KYB」で攻撃を行っている。最近では「Kartograf」と呼ばれている監視ドローンも使用しており、それもウクライナ軍によって破壊されている。最近の傾向ではそれに加え「ZALA 421-16Е2」といった今まではあまり使われていなかった監視ドローンも撃墜されている。またイラン政府はロシア軍に攻撃ドローンを提供しているが、9月に入ってからイラン製の軍事ドローンが破壊された写真や動画がウクライナ軍によって多く公開されている。
ウクライナ軍では迎撃して破壊したロシア軍の偵察ドローン「Orlan-10」や攻撃ドローン「KUB-BLA」、イラン政府が提供した軍事ドローンの残骸の写真や地対空ミサイルを発射して上空で撃破する動画を投稿して世界中にアピールしている。
破壊された装甲戦闘車両が約5100台、戦車が約2500台、大砲が約1500門なのでそれらに比べると破壊されたドローンは1200機と多くはない。戦車や大砲の多くも上空からドローンで爆弾を投下したり、ドローンごと突っ込んでいき破壊したりしている。
●保有の対空兵器、必要分のわずか10% ウクライナ大統領 10/15
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日までに、ロシアによるミサイル攻撃などが連日続くなか、ウクライナが保持している防空システムは本来必要とされる水準のうちのわずか10%にとどまっていることを明かした。
欧州評議会議員会議へのオンライン演説で述べた。その上で西側諸国に対しより多くの防空兵器の供与を改めて促した。「我々は多数の装備品やミサイルを持つ大国と戦っている」とも主張した。
ロシアは最近、軍事侵攻に今年2月踏み切って以降、最大級ともされるミサイルや自爆攻撃用ドローン(無人機)の攻撃を仕掛けている。
この大規模攻撃の発生を受け、欧米諸国はウクライナへの防空システム供与を強める構えを示している。
米国のオースティン国防長官はブリュッセルで最近開かれた北大西洋条約機構(NATO)の国防相会議後の記者会見で、スペインがウクライナ側の要請に応じ地対空ミサイル「ホーク」の追加提供を申し出たと発表した。
長官は、米国による地対空ミサイルシステム「NASAMS(ネイサムス)」やドイツによる空対空ミサイル「IRIS―T」の引き渡しにも言及した。
フランスも防空システムを譲渡する方針を示している。
●プーチン 「2週間以内」とするも…ロシア軍“部分的動員”を元幹部が批判 10/15
ロシアのプーチン大統領は、ロシア国民の部分的動員で22万人が集まったとして、「2週間以内に完了する」と明らかにしました。一方、ロシア国民の動員について軍の元幹部からは、拙速な兵士集めについて痛烈な批判もあがっています。
「兵士に銃を!」
ロシア国防省は、動員した兵士に銃の扱い方などを教える動画を連日のように公開し、適切な訓練をへて派遣されることをアピールしています。
しかし、多くの戦争に参加した経験をもつロシア軍の元幹部は、訓練期間が短すぎると批判しています。
ロシア軍元幹部・クバチコフ元大佐「例えばアフガニスタン派兵では半年訓練をしました。隊として戦うためにはそれだけの期間が必要です。3日で戦場に派遣するというのは、なかば犯罪です」
13日には、動員された兵士5人が死亡したことがロシア国内でも伝えられています。
今回の動員で突然、戦争に向き合うことになった市民からは、不安とともに複雑な思いが聞かれました。
モスクワ市民「動員は望ましくありません。命にかかわるので私は行くことには後ろ向きです」「動員は少し怖いです」「逃げれば裏切り者になります。生活しにくくなるでしょう」
また、軍の元幹部は、民間人を招集することについて次のように指摘しています。
ロシア軍元幹部・クバチコフ元大佐「問題は士気です。民間人が自分の戦争だと認識しているかです」
プーチン大統領は14日、「動員は2週間以内に完了する」と説明しましたが、市民のあいだでは、戦況次第でさらに多くの国民が動員される総動員令に拡大されるのではないかとの懸念も残っています。
●プーチン 「侵攻に後悔ない」厳冬で切り札が“核兵器”から“天然ガス”に 10/15
先週のクリミア大橋爆破の報復としては10日から始まったロシアによるミサイル攻撃。ウクライナ全土の電力施設の3割が標的に。懸念されるのが、厳しい冬の乗り切り方です。今後の戦況についてポイントとなるのは、西側諸国に向けたロシアからの”エネルギー攻撃”と米アナリスト。核兵器使用の可能性は低く、エネルギー価格の暴騰で西側各地に混乱を巻き起こす「天然ガス」の輸出抑制が切り札になると分析します。
ついに、プーチン大統領に対し、ロシアメディアの記者から厳しい質問が飛び始めました。
ロシアメディア記者「Qプーチン大統領、後悔していませんか?」
プーチン大統領「いや、はっきりさせておきたい。(ウクライナで)今、起こっていることは控えめにいっても不愉快だ。しかし、遅かれ早かれ同じことが起きていたし、最悪の状況になっていただろう」
プーチン大統領は、9月に発表した部分的な動員令についても、「2週間以内に完了させる」と述べました。招集された兵士の死亡も次々と伝えられる中、混乱の収束を図る狙いがあるとみられます。
ウクライナの首都キーウでは、10月12日、計画停電の中、生後4か月の赤ちゃんの世話をする母親の姿がありました。
母親「私もシャワーを浴びられないし、懐中電灯だけで赤ちゃんを子供をお風呂に入れられない。簡単に洗うだけ」
きっかけは、クリミア大橋爆破の“報復”として10日から始まった、ロシアによるミサイル攻撃です。この日以降、ウクライナ全土の電力施設の3割が標的になったと言います。
この時、ロシア軍がミサイルと併用したとみられているのが「神風ドローン」とも呼ばれる、イラン製の自爆型無人機です。9月から投入され始め、ウクライナ軍は6日の時点で、飛んできた86機のうち、6割を撃墜したとしていましたが、今回の攻撃でもインフラ被害が相次ぎました。さらに…
ゼレンスキー大統領「我々の情報では、ロシアはイランに2400機の自爆型無人機を発注している」
そこで、NATO=北大西洋条約機構は、ウクライナにドローンを妨害する兵器の供与を決めました。さらに、ロシアのミサイル攻撃に対しても防空システムの共同購入へ動き出すなど、NATO側は結束を強めています。
米・戦争研究所アナリスト ジョージ・バロス氏「今回の(ロシアの)ミサイル攻撃は、軍事的、戦術的にはメリットはほぼなかったと言えます。ウクライナに防空システムを提供する西側諸国の意識、決断力が高まりました。これはプーチン大統領がミスを繰り返した結果です」
アメリカ・戦争研究所のジョージ・バロス氏が作成した戦況マップは、日本をはじめ、多くの国で引用され、ウクライナの大臣がヨーロッパの各国首脳に戦況を説明する際にも使われています。9月からはウクライナの奪還が目立っていますが、自身の作る地図の行く末をどう見ているのでしょうか?
ジョージ・バロス氏「最もあり得るシナリオは、ウクライナ軍の領土奪還は続きますが、破竹の勢いが出せなくなる。ロシアは守るべき領土が小さくなることで、物資の供給が少なく済み、防衛作戦が容易になるからです」
現実味を帯びる戦争の「長期化」。懸念されるのが、厳しい冬の乗り越え方です。
チェルニヒウ在住 アンドリイさん「冬にはマイナス30度以下になった時もあります。特に都市は(電気・ガスなどの)エネルギーに依存しています」
チェルニヒウでボランティア仲間と復旧作業を続けているアンドリイさん。この地域も侵攻直後に深刻な被害を受けましたが、4月上旬にロシア軍が撤退。アンドリイさんは連日、仕事の後に深夜まで復旧作業を続け、半年かけて、地域住民が電気に困らない状態にまで戻しました。しかし、今回のキーウ攻撃で、このエリアも一時停電になったと言います。
アンドリイさん「一番の心配は、またロシアにインフラを攻撃されることです。国内のどこかで発電ができなくなると、各地に影響が出てしまう可能性もあるのです」
日本政府も国際機関などを通じて、暖房器具や発電機などを提供するよう、動き出しています。
そして、きたる厳しい冬によって、ロシアがヨーロッパへの輸出を抑制している「天然ガス」が、「核兵器」よりも、現実的な切り札になると言います。
ジョージ・バロス氏「今年の厳しい冬に向け、“エネルギー攻撃”が西側諸国に十分な脅威を与えられるので、核兵器使用の可能性は低いと思います。エネルギー価格の暴騰は西側各地でデモを引き起こし、一部の政府はそのデモによって、崩れる可能性があります。戦闘が行き詰まってきた今、「今こそ交渉をする時だ」と、プーチン大統領が西側諸国に呼びかけるシナリオがすでに準備され、今から6ヶ月以内に行われる可能性が高いと考えています」
●プーチン氏、予備役動員「2週間以内に完了を」…出国相次ぐ混乱の収拾? 10/15
ロシアのプーチン大統領は14日、訪問先のカザフスタンで記者会見し、ウクライナに派遣する兵士を予備役から補充する部分的動員を「2週間以内に完了させる」と述べた。強引な招集に不満を募らせる国民の出国が相次いでおり、混乱の収拾を図る狙いとみられる。ウクライナ軍の反転攻勢が続く中、想定通りに動員が終わるかは不透明だ。
プーチン氏は「近い将来、動員拡大の必要はなくなる」と述べ、これまでに予備役約22万2000人を動員し、訓練を経た約1万6000人が戦闘任務に従事していることを明らかにした。露国防省は約30万人を動員するとしていた。
動員兵の訓練期間について、プーチン氏は「5〜10日の訓練後、専門部隊でさらに5〜15日の訓練を受け、戦闘任務にあたる部隊に送られる」と説明した。タス通信などによると、部分的動員の発令当初、国防関連の上院議員が「訓練期間は1か月以上」との見方を示していたが、短期間で部隊に派遣される実態が浮かび上がった。訓練が不十分な動員兵が死亡したケースも伝えられている。
一方、クリミア大橋で起きた爆発に対する「報復」として実施したウクライナ各地へのミサイル攻撃を巡り、プーチン氏は「(攻撃継続は)少なくとも今のところ必要ない」と述べた。
●「正恩よ お前もか」 孤立鮮明のプーチン 北朝鮮の派遣労働者、大量脱走 10/15
ウラジーミル・プーチン大統領が主導する「特別軍事作戦」の頓挫が伝えられる中、ロシアに派遣された北朝鮮労働者が次々に脱走しているという情報がある。ウクライナのロシア支配地域への動員を恐れ、身を隠しているという。金正恩(キム・ジョンウン)総書記の北朝鮮とロシアは蜜月関係にあるともいわれるが、現地で身の危険を感じる北朝鮮労働者はプーチン氏を見限り始めているのかもしれない。
衝撃のニュースは、米政府系放送「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」によって報じられた。
記事によると、ロシアが制圧を目指すウクライナ東部のドンバス地域で現在、建設需要が高まるなか、ロシア国内で仕事を放棄して身を隠している北朝鮮労働者が増加した。ロシアの消息筋は「労働者は、間もなくウクライナの新しい建設現場に移動するというニュースを受け取った後、多くの人が逃げた。建設作業員だけでなく管理職も逃げ出している」と証言。別の消息筋の話では、極東のウラジオストクの建設現場は空っぽの状態になっているという。
国連安全保障理事会は2017年の制裁決議で、北朝鮮労働者の新規受け入れを禁じ、本国送還を加盟国に義務づけた。しかし、制裁逃れのため、就労用以外のビザで入国したケースがあり、ロシアでは観光用や学生用ビザの発給件数が急増したことが国連安保理の北朝鮮制裁委員会・専門家パネルが20年に公表した年次報告書で明らかになっている。
一日中働き搾取
経済苦が伝えられる北朝鮮にとって、労働者派遣は貴重な外貨稼ぎの手段の一つとなっている。送還期限の19年12月、ロシアは制裁委員会に、17年末からの1年間で「3万23人から1万1490人に減った」と自国の北朝鮮労働者数を報告し、制裁後も多くの労働者がロシアで働いていたことが分かっている。
賃金を北朝鮮当局に搾取される労働者の生活は苦しいとされる。RFAの記事でも、「北朝鮮労働者は絶望の中、疲れ果てた生活を送っている。午前8時から午後8時まで一日中働き、夜に残業をしても貯金することができない」という話が紹介されている。
誕生日に祝電も
北朝鮮は7月に親ロシア地域を「国家」承認したり、プーチン氏の誕生日(今月7日)に正恩氏が祝電を送ったりと友好関係が伝えられている。だが、過酷な状況で働く北朝鮮労働者まで逃亡するのは現地の危険性が増していることがうかがえる。
ロシア国民の大量脱出に加え、友好国の労働者まで逃げ出してプーチン氏の孤立はより強まってきた。
●米大統領との会談「必要ない」 プーチン氏 10/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日、米国のジョー・バイデン大統領との会談は「必要ない」との見方を示した。ロシアと米国の間では、ウクライナ侵攻を含む多くの問題をめぐり緊張が高まっている。
プーチン氏は11月にインドネシアで開かれる20か国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせてバイデン氏と会談する可能性について問われると、「私と会談する準備ができているかどうか、彼の方に問うべきだ。正直言って必要ないと思う」と答え、G20サミットに自身が出席するかも未定だとした。
バイデン氏は今週、プーチン氏と会談する「つもりはない」が「状況次第」だとして、会談の可能性を留保した。
●ロシアで相次ぐ大富豪の不可解な死 「危険分子」と見なされた可能性も 10/15
9月21日、ロシアでまた企業幹部が不審死した。今度はモスクワ航空研究所(MAI)の元所長で、顧問を務めていたアナトリー・ゲラシチェンコ氏(63才)だ。MAIは公式サイトで彼の死を「事故死」と報じているという。
ロシアでは1月後半以降、影響力のある人物が自殺や原因不明の事故で亡くなったとの報道が相次いでいる。CNNによると、その数はゲラチェンコ氏を含め、少なくとも10人にのぼるという。9月12日には、ロシア極東・北極圏開発公社航空部門幹部のイワン・ペチョーリン氏(39才)が、ウラジオストク沖でボートから転落して死亡と報じられ、9月1日には、ロシアのウクライナ侵攻に反対の声を上げたロシア第2位の石油会社、ルクオイルのラビル・マガノフ会長(67才)が入院していた病院から転落して死去と地元メディアが報道。遅れて、国営メディアが自殺と報じた。
ルクオイルでは5月にも、元幹部のアレクサンドル・スボティン氏(43才)がシャーマン(霊媒師)を訪れた後、遺体で発見されている。4月には大手天然ガス会社ノボテックの元副会長セルゲイ・プロトセーニャ氏(55才)がスペインの別荘で妻と娘とともに遺体で発見され、地元警察は一家心中とみられると発表。その前日には、ロシア最大手金融機関ガスプロムバンクの前社長ウラジスラフ・アバエフ氏(51才)がモスクワのアパートで銃を握った状態で妻と娘とともに死体で発見され、一家心中だと報じられた。
ロシアの新興財閥オリガルヒの幹部や実業家たちの不審死は、ロシアがウクライナ侵攻を開始したことへの反対や、ウクライナ侵攻によるロシアへの制裁で、縮小する経済のパイの奪い合いの可能性などが噂されているが、どれも真偽は定かではない。ただロシアという国やプーチン大統領にとって敵、危険分子と見なされれば、排除される可能性は否定できないというのが一般的な見方だろう。
国家やプーチン政権を脅かすほど重要人物でなくとも、ロシアという国では警察などの組織にマークされることがあるらしい。以前、仕事でモスクワを訪問した際、ホテルで経験した出来事を、NEWSポストセブンで書いた。宿泊したのは、クレムリンの傍らにある老舗ホテル。予約していたスタンダードなツインルームにチェックイン。翌日は朝から予定していた会合に出席し、ロシア政府関係者や実業家、ジャーナリストらと名刺交換し歓談をして、夜、ホテルに戻った。
預けた部屋の鍵を頼むと、フロント係が「失礼ながら、お部屋をグレードアップさせて頂きました」と違う部屋のキーを差し出した。通された部屋は、クレムリンが見えるスイートルーム。料金はそのままだが、おそらく盗聴器だらけの部屋だと推測できた。
ロシアには取得していた業務ビザで入国した。会合は主催者から招聘状が届いたものだったが、政治家やメディアが絡んでいたため、チェックされたのかもしれない。情報機関に詳しい専門家にそう話すと、「入国直後から、おそらく行動監視されていたのではないか。理由は誰と接触するのか、どんな行動を取るのかの確認だ。危険と見なせば、なんらかの方法で排除されることになっただろうと言われた。
日本国内にある大使館でもチェックされる経験をした。ある情報機器について話を聞きに行った在日某大使館では、面会した大使館員に「敵性外国人ではないと承知していますが、事前に、写真と声を入手させてもらいました」と伝えられ、海外公館の危機管理体制の厳しさを垣間見せられた。
もう何年も前になるが、中国政府に敵性外国人とみなされ、ブラックリストに名前を載せられたことがある。理由は当時、中国が開発を推し進めていた市の幹部たちの依頼を断ったためだと思うが、米国ワシントンに本部がある戦略国際問題研究所の上級研究員から連絡を受けた時は、さすがに驚いた。「ブラックリストに名前があがっている間は、絶対に中国にはいかないように。命の保証はできない」そうアドバイスを受けた。
その後、市の幹部や権力者たちも変わり、名前はブラックリストから外されたらしいが、中国へ行こうという気にはならなかった。ところがその数年後、ある席で在日中国大使館の大使館員たちと名刺交換し、雑談する機会があった。すると今度は、大使館主催の国慶節の行事への招待状が届いたのだ。人物調査をされバックグラウンドを調べられたのだろう。
「ブラックリストとして排除するより、あなたが持っている米国やロシアとの人脈を前提に、何らかの情報を得ることができる可能性を考え、味方に取り込んだ方がメリットがあると判断したのだろう」と先の専門家は分析した。
敵か味方か、白か黒か。国によっては、相手の判断次第でオセロゲームのように対応がひっくり返る。専門家に告げられた”なんらかの方法”という表現が何を意味するのか、10人の不審死がそれを物語っているような気がした。

 

●ウクライナ反転攻勢強める 親ロシア派 南部で“退避”呼びかけ  10/16
ウクライナ軍は、ロシアに支配された領土の奪還に向けて反転攻勢を強めています。南部ヘルソン州を支配する親ロシア派の幹部は「これからウクライナ側との戦いが本格化する」として住民に事実上の退避を呼びかけ、南部での戦闘がいっそう激しくなることが予想されます。
ウクライナ南部のヘルソン州を支配する親ロシア派の幹部は15日SNSに投稿し「これからウクライナ側との戦いが本格化する」とした上で「子どもとその親に対しては、土地を離れる機会を与える」として、住民にロシアへの事実上の退避を呼びかけました。
ウクライナ政府は、南部ヘルソン州について13日までに、75の集落を解放したとしています。
またゼレンスキー大統領は14日の演説で「今後、南部のすべての都市にもウクライナの旗を取り戻し、クリミアを取り返し、領土の一体性を回復する」と述べ、南部での戦闘がいっそう激しくなることが予想されます。
ベラルーシ国防省 “ロシアの最初の部隊 ベラルーシに到着”
こうした中、ロシアと同盟関係にあるベラルーシの国防省は15日、ロシア軍とベラルーシ軍の合同部隊を編成するためロシア軍の最初の部隊が、ベラルーシに到着したと発表しました。
これに先立ちベラルーシのルカシェンコ大統領は、ウクライナやNATO=北大西洋条約機構の脅威が高まっていると主張し、合同部隊を編成することでロシア側と合意したと、明らかにしています。
ロシアのプーチン大統領としてはウクライナ侵攻での劣勢が強まるなか、盟友のルカシェンコ大統領に対して、さらなる軍事協力を求める狙いがあるとみられています。
一方、今後の見通しについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、14日「欧米やウクライナの当局はベラルーシ軍の部隊がウクライナに侵攻する可能性は低いとみている。プーチン大統領は、ウクライナ側に懸念を抱かせ、ベラルーシとの国境周辺でウクライナ軍を足止めしようとしている可能性がある」という見方を示しました。
●ウクライナ南部州都、近く奪還か ロシア「大敗北」も、動員急ぐ 10/16
ロシアのプーチン政権がウクライナ侵攻で「併合」を宣言した南部ヘルソン州をめぐる戦闘が、今月に入って激しさを増している。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は14日、欧米の国防当局者の見通しとして「ウクライナ軍が(早ければ今月後半にも)州都ヘルソン市を奪還する可能性がある」と報道。ロシアにとって「大敗北」(米国防総省)になるという見方もある。
「指導部に支援を求めたい」。ヘルソン州を支配する親ロシア派幹部は13日、ウクライナ軍の反撃が続いているとして、希望する住民にロシア本土への避難を呼び掛けるとともに、プーチン政権に協力を要請した。訴えはロシア国営テレビでも放映された。
現地でロシア軍が劣勢であると暗に認めた格好。FTがウクライナ軍による早期奪還の可能性を伝えたのはそのためだ。折しも、ロシア本土と2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島を結ぶ橋が今月8日に爆破され、地続きであるヘルソン州へのロシア軍の補給ルートが損害を被ったと指摘されている。
プーチン大統領は9月末、東・南部4州の「併合条約」に調印し、うちヘルソン州全域は「ロシア領」という立場。東部ドネツク、ルガンスク両州の州都は14年から親ロシア派を通じて実効支配。残る南部ザポロジエ州の州都はウクライナ軍が死守しており、今年2月からの侵攻の結果、ロシア軍が「戦果」として制圧している州都はヘルソン市だけだ。
ヘルソン市を失えば、プーチン氏にとっては苦戦どころか、敗北の象徴となる。9月21日の部分動員令で予備役30万人を大急ぎで招集し、その一部を訓練が不十分なままヘルソン州などに投入する背景には、こうした切羽詰まった事情があるとみられる。
併合に至る前に米紙ニューヨーク・タイムズは、プーチン氏がロシア軍幹部から進言されたヘルソン州からの撤退を拒否したと報道。「ロシア領」に併合したのはトップ判断で、ウクライナ軍の奪還を許せば、責任論に発展しかねない。ロシアの著名ジャーナリストは政権にとって「決戦」を意味すると通信アプリで警告している。 
●ウクライナ軍 南部で反転攻勢強める 大規模な反撃開始の見方も  10/16
ウクライナ軍は南部ヘルソン州で反転攻勢を強めていて、15日にも州北部で大規模な反撃を開始したという見方もあり、領土奪還に向け戦闘が激しくなっているものとみられます。
ウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合したとする南部へルソン州では75の集落を奪還したと13日発表するなど、東部だけでなく南部でも反転攻勢を強めています。
へルソン州を支配する親ロシア派の幹部は15日、SNSで住民に対して事実上の退避を呼びかけ、戦闘が激しさを増しているものとみられます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、公開した動画で「ロシア軍に、東部でも南部でも勝つ見込みはないと分からせるために、われわれは、できるかぎりのことをしている。誰を送り込もうと敗北するだけだ」と述べ、ロシア側をけん制し、領土奪還に向けた意欲を語りました。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシア側の情報として、15日の分析ではウクライナ軍がヘルソン州北部で大規模な反撃を開始したと指摘しています。
また「戦争研究所」はロシアでの予備役の動員をめぐり、首都モスクワなどで私服の当局者が自宅に来て入り口を塞ぎ、動員に関する通知の受け取りを拒否できないようにしているという報告があると指摘しました。
一方、ウクライナ側は、東部ドネツク州とルハンシク州の戦線では一部、戦況は激しくなっており、特にドネツク州にあるウクライナ軍の拠点の1つバフムト方面で厳しい戦闘が続いていることをゼレンスキー大統領も示唆しています。
●ロシア石油施設、「砲撃で火災」 ウクライナとの国境近く 10/16
ロシアからの報道によると、ウクライナと国境を接するロシア南部ベルゴロド州の石油貯蔵施設で15日、火災が発生した。
同州のグラトコフ知事は通信アプリで、「砲撃によるものだ」と主張した。
ベルゴロド州は、ウクライナが大半を奪還した同国北東部ハリコフ州に隣接する。グラトコフ知事は、数日にわたりベルゴロド州にウクライナ軍の砲撃が行われていると説明。16日にも、新たな砲撃があったと訴えた。ウクライナ側は、関与を明言していない。 
●ウクライナ、親ロシア派本拠を攻撃か 東部ドネツクで幹部が被害報告 10/16
2014年からウクライナ東部ドネツク市を占拠、支配する親ロシア派幹部は16日、市中心部が16日朝にウクライナ軍の砲撃を受け、親ロ派が本拠とする市役所庁舎が被害を受けたと明らかにした。ロシア国営ノーボスチ通信が伝えた。
この幹部によると、少なくとも男性2人が負傷した。攻撃には、米軍がウクライナに提供する高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」が使われたとしている。砲撃は市役所庁舎がある行政地区だけでなく、ドネツク市中心部の広い範囲に及んだという。
親ロ派は14年にウクライナ東部の一部を占拠し、ウクライナ軍と武力衝突したときから、ドネツク市を最大の拠点としてきた。ロシアは今年2月、親ロ派が自称する「ドネツク人民共和国」や「ルハンスク人民共和国」を「独立国」として承認し、ウクライナに全面侵攻した。
●ロシア兵が訓練受けないまま戦死 釈明に追われるプーチン大統領 10/16
ウクライナ侵攻継続のため、ロシアで動員令に基づき徴兵された予備役が訓練を受けないまま多数戦死したことが判明し、プーチン政権が釈明に追われている。ロシア軍が支給するはずの装備品が消失するなどの混乱も発生、予備役らが自前で戦闘服や軍用靴を買い求める事態も起きている。
ロシア中部チェリャビンスク州当局は13日、徴兵された予備役5人が死亡したと発表した。9月21日に発布された部分動員令は「十分な訓練を受けた後に派遣される」(ショイグ国防相)としていた。英紙によると、北西部サンクトペテルブルクの予備役の弁護士が招集直後に戦死したとされる。
プーチン大統領は14日、訪問中のカザフスタン首都アスタナで、記者団から訓練なしの派兵を問われ「国家安全保障会議で調査する」と釈明した。また動員予定の30万のうち既に22万2000人が軍務に就き2週間以内に動員を完了するとの見通しを示した。
各地の軍事委員会は、通行人の男性に招集令状を手渡すなど動員ノルマの達成に躍起だ。独立系メディア「インサイダー」は15日、ロシア極東や沿海地方では地区軍事委の責任者が自殺したと伝えており、招集業務が重荷になっていた可能性もある。
モスクワにある軍事装備品の専門店によると、冬物コートや耐寒仕様の靴の売り上げが動員令発表後、4倍以上になったという。店員(39)は「招集された男性たちが、軍できちんとした装備品が支給されるか不安になり、慌てて買い求めている」と明かした。
軍出身のグルリョフ下院議員は10月上旬、帳簿上でロシア軍が所有する150万点の軍服が行方不明になっていると暴露した。国防省担当者が装備品を横流ししたり、架空発注してカネを懐に入れた疑いがある。
志願兵訓練所では発砲、11人が死亡 中央アジアの動員兵が犯行か
ロシア国防省は15日、ウクライナに隣接する西部ベルゴロド州の演習場で、ウクライナでの軍事作戦に参加するため訓練していた志願兵が銃を発砲し、11人が死亡、15人が負傷したと発表した。発砲した2人は「テロ行為」を理由に軍当局が射殺したという。
国防省によると、発砲した志願兵は旧ソ連の独立国家共同体(CIS)諸国の出身者で、独立系メディアは、中央アジアのタジキスタン出身と伝えている。ロシアは9月21日に部分的な動員令を発令し、ロシア国籍との二重国籍を持ちロシア国内で働いている中央アジア出身の男性らも多数徴兵している。

 

●ロシアのウクライナ侵攻で、中国が軍需産業で存在感―米メディア  10/17
中国メディアの環球網は13日、中国の武器輸出に関する米外交誌フォーリン・アフェアーズの記事内容を紹介した。以下はその概要。
ストックホルム国際平和研究所のデータによると、ロシアは米国に次ぐ世界第2の武器輸出国だ。だが、ロシアとウクライナの軍事衝突以来、さまざまな要素がロシアの武器輸出能力をそいでいる。米国はハイテク武器の世界市場を主導しているが、ロシアは技術力は比較的低いが実利的(低コストで性能が良い)武器の主な供給側だ。通常、米企業はこのような実用武器市場の競争に加わらないため、ロシアが残した市場の空白は中国が埋めることになる。
中国は防衛装備の販売を利用して一部の国とより強固な関係を築き、中国の海外における関連基盤固めを確保するだろう。
中国はロシアが苦境に直面する前、すでに供給を多様化させていて、加えて実利的武器の生産で西側のハイテク軍備に取って代わるというロシアの戦略も複製した。今、サハラ以南のアフリカ諸国の多くが中国の武器を使っている。ただ、この地域に対する武器販売は中国の武器輸出の19%を占めるにとどまり、アジア諸国に75%以上が流入している。
実用武器の他、中国は最近、重要顧客に向けたハイエンド武器システムの販売も始めた。4月にはセルビアに地対空ミサイルを販売し始め、アルゼンチンは6月、中国がパキスタンと開発した戦闘機に関心を示した。現在、中国は世界最大のドローン輸出国で、米国、フランス、英国、ロシアなどの武器をよく買っていた顧客に中国産ドローンを売り始めている。この他、「導入、消化、吸収、再イノベーション」の戦略と努力は開発コストを下げ、中国産武器の質の向上に役立っている。また、レアアースは最も現代的な防衛装備の生産に極めて重要だ。そして中国は世界のレアアース貿易を主導している。
●ロシア軍、ウクライナの30か所以上を攻撃…ベラルーシから戦車70台調達  10/17
ウクライナ軍参謀本部は16日、露軍が15日に30か所以上を攻撃したと明らかにした。ウクライナの国営電力会社によると、キーウ州のエネルギー関連施設も攻撃を受けた。
東・南部では、反転攻勢を続けるウクライナ軍と、占領地維持を狙う露軍の攻防が続いている。南部ヘルソン州当局は16日、露軍が州北部で空爆を行うなど激しい戦闘が続いているとした。ザポリージャ州の知事も16日、露軍が州内2か所の学校を攻撃したとSNSに投稿した。
一方、ベラルーシ国防省は15日、露軍部隊がベラルーシに到着したと発表した。10日にロシアとの合同部隊を編成すると発表していた。
ベラルーシの独立系軍事監視団体「ガユン」は、「合同部隊編成は、ロシアの部分的動員で招集された予備役をベラルーシで訓練するためのカムフラージュの可能性がある」との見方を示した。ロシアでは、教官の人員不足も指摘されている。
また、ガユンは14日、直近の1週間で、ベラルーシ軍からロシア軍に戦車70台近くが引き渡されたとも指摘した。露軍が戦車を多数失ったことが、ウクライナの反転攻勢を許した理由の一つに挙げられており、露軍が外国から戦車を補充している可能性がある。
米紙ニューヨーク・タイムズは14日、米政府の報告書を基に「米欧の制裁がロシアの防衛産業に損害を与え、露軍は兵器の補給が消費に追いついていない」とし、部品不足で戦車などの修理が思うように進んでいないと指摘した。先端技術の輸出制限で精密兵器の製造も打撃を受け、「ロシアの情報機関が米欧の技術を不法に入手するよう命じられている」とも伝えた。
●IMF委、ウクライナ戦争終結呼びかけ ロシアが共同声明に反対 10/17
国際通貨基金(IMF)の加盟国は14日、国際通貨金融委員会(IMFC)を開き、ほぼ全ての国がロシアに対してウクライナ戦争を終結させるよう呼びかけた。
議長を務めたカルビニョ・スペイン経済相は会見で、戦争がインフレをあおり、世界経済を減速させる唯一で最大の要因と指摘した。一方、会合ではロシアが再び共同声明の合意を阻んだと語った。
また、紛争が食料やエネルギーを巡る不安、物価上昇、金融安定リスクを引き起こしており、戦争終結を求める声はIMF・世界銀行の4月会合の時よりも強かったと述べた。
IMFのゲオルギエワ専務理事も、戦争終結は「世界経済を改善するための最も簡単な方法だ」と訴えた。
ロシアが共同声明に反対したため、IMFCは議長声明を発表し、各国中央銀行に物価安定に努めるよう求めたほか、財政政策では生活費上昇から弱い立場にある人々を守ることを優先させるべきと指摘した。
通貨についてはドル高による圧力に言及し、「今年は多くの通貨がボラティリティーを高めて大きく変動したことを認識し、2021年4月になされた為替相場に関するコミットメントを再確認する」と述べた。
●G20、戦争や石油に関して意見相違−3日遅れの声明で明るみに 10/17
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁らは、ロシアのウクライナ侵攻を含む多くの問題に関してさまざまな見解を表明した。同侵攻とそれが世界に及ぼす影響を巡って意見が割れる中、3日遅れで声明が発表された。
今年のG20議長国を務めるインドネシアが16日に公表した「議長国要旨」によると、「多くの加盟国がロシアの対ウクライナ戦争を強く非難し、ウクライナに対するロシアの不法かつ正当化されない、一方的な戦争は世界の景気回復に悪影響を及ぼしているとの見方を示した」という。
この声明はワシントンで開催されたG20会合に基づいている。同会合は13日に終了した。通常こうした文書は会議終了後、数時間内に公表されるが、今回はロシアのウクライナ侵攻などあらゆる問題で意見が対立。特に世界経済見通しを曇らせているリスクが他にもある中、声明の作成が一段と困難になった。
同要旨では、「メンバーの数カ国は対ロシア制裁が食品を標的にしていないことを指摘した。1カ国はウクライナでの戦争と制裁は世界経済に影響を及ぼしてきたとの見解を示した」と説明。「1カ国はこうした制裁について、世界経済へのマイナス影響の主因だとの見解を表明した」と続けた。
G20は化石燃料や気候変動を巡っても意見が対立した。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」が最近、大幅減産で合意したことが背景だという。
●ウクライナ経済の弱み握るロシア いよいよ冬が始まる 10/17
ロシアによる侵略を受けて今年の経済成長率がマイナス30%を超えると予想されるウクライナ経済が、回復への糸口を見いだせないままでいる。ウクライナ軍との戦闘で劣勢に立つロシア軍が、電力施設など民間の経済インフラへの攻撃に軸足を移し、さらなる損失が確実視されているためだ。
ウクライナ政府はこれまで、最善のシナリオでは2023年には15%超の経済V字回復もあると見通していたが、その実現は厳しさを増している。各国政府や国際機関は巨額の支援を約束するが、ロシアとの戦争の出口が依然見えないなか、国民は長期にわたる厳しい窮乏生活を余儀なくされるのは必至だ。
経済の3分の1を消失
「7カ月以上続くロシアとの戦争は、ウクライナに深刻な人的損失と経済的な痛みをもたらしている。国民の海外流出や、住宅・インフラへの攻撃により、同国の国内総生産(GDP)成長率は今年、マイナス35%に陥ると予想されている」
10月初旬、国際通貨基金(IMF)が表明したウクライナ経済の見通しは、国際社会に厳しい現実を改めて突きつけた。国家経済の実に3分の1が消失する計算だ。
「2023年のウクライナ経済は、マイナス0.4〜プラス15.5%の成長を予想している。すべては、軍事的シナリオ次第だ」
ウクライナのスビリデンコ経済相は今夏、欧州メディアにウクライナ経済の復興の見通しをそう語っていた。しかし、「軍事シナリオ」の先行きが依然見えないなか、楽観的なV字回復≠ヘ容易には予想できない。
電力施設に攻撃、国民生活に恐怖を
軍事面でウクライナは、過去にない成功を収めつつある。ウクライナ軍は夏以降、占領地域の奪還に相次ぎ成功し、ロシア側は劣勢に立たされている。
しかし、そのような成功はロシア軍の戦略に変化をもたらしつつある。10月8日には、ロシアが14年に併合したウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を結ぶ橋が爆破されたが、それを機にロシア軍は首都キーウを含むウクライナ全土へのミサイル攻撃を行った。主な標的とされたのは、軍事上の前線ではなく、都市の住宅や電力施設などの民間インフラだった。
非人道的行為として国際社会の激しい非難を浴びるなか、ロシアのプーチン大統領は14日、「主要目標の攻撃は終了した」と表明し、これ以上の大規模攻撃は必要ないとの姿勢を示した。しかし、そのような言葉を額面通り受け止めるのは困難だ。
ウクライナ全土への攻撃は、橋の爆破をきっかけに行われたように見えるが、実際には厳冬期に入る前に電力施設などを攻撃することで暖房や電気などの欠乏を引き起こし、国民生活にさらなる恐怖と混乱をもたらすことが目的とみられている。プーチン大統領は同じ会見で、まだ破壊されていない対象物に対しては「徐々に打撃を与える」と述べるなど、民間インフラへのさらなる攻撃を示唆するともとれる発言をしていた。 
現地メディアによれば、ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は10月12日、ロシア軍がウクライナ全土へのミサイル攻撃を行った10月10日以降で、ウクライナ国内の3割の電力関連施設が攻撃を受けたと発言した。
そのような状況を受け、ウクライナ政府は急遽、停電を避けるために午後5時〜10時の間で電力消費を抑えるよう国民に要請。事態は厳しさを増しており、当局はキーウ市内において、最大40%の消費電力の削減を市民に要請したとの情報もある。このような事態が、ようやく回復していた企業活動に甚大な影響を及ぼすのは必至だ。
今回のミサイル攻撃だけではない。ロシア軍は3月、欧州最大の原子力施設で、ウクライナの電力需要の約25%を担うとされる南部ザポロジエ原発を占領。プーチン大統領は10月、ザポロジエ原発の国有化≠一方的に決定した。
ウクライナ側への電力供給は止まっているものとみられる。さらに同原発の幹部がロシア軍に拉致されるなど、ロシアは同原発を完全に支配下に置いている。
キーウ経済大の試算によれば、8月下旬時点で戦争によるウクライナの住居やインフラ関連への損失額は、総額1135億ドル(約16兆円)にのぼっていた。新たな民間インフラへの攻撃・占拠は、ようやく一部で立ち直りを見せていた民間企業の活動を阻害し、経済的な損失をもたらすことは避けられない。
ロシアによる経済支配の歴史
直接的な破壊ではないものの、経済的な圧力を通じ、ウクライナを支配するロシアの手法は、これまでも一貫して行われてきた。今回も、ウクライナの厳しい冬を前に電力施設に攻撃を仕掛けるなど、ロシアはウクライナ経済の弱みを熟知している。
ウクライナ経済とはどのような特色を持つのか。ウクライナはソ連時代、人口・経済でロシアに次ぐ規模を有していた。肥沃な国土で農業国として強みがあったほか、東部では鉄鋼業などの重工業が発展し、軍事産業でも高い存在感を示していた。
ただソ連崩壊後は、主力産業だった重工業は製品の品質の低さから国際市場では競争力に劣り、エネルギー面でもロシアに依存せざるを得なかった。1990年代後半の同国の経済規模は、ソ連崩壊時から約6割も減少したとされる。2000年代は一定の回復を見たが、これも資源輸出国であったロシアの経済回復に引きずられてのことだった。
ウクライナは財政基盤の弱さや、産業の競争力のなさ、汚職が蔓延する非効率な経済システムを抱えるなか、ロシアに対して巨額の借金をしながらエネルギー資源を輸入し、それを安価に国民や鉄鋼産業に供給してきた。そのようなロシアへの借り≠ヘ、ロシアが経済をテコに、ウクライナを政治的にもコントロールする隙を与えた。
象徴的な事例は、ウクライナ南部クリミア半島セバストポリの海軍基地の租借だ。ロシアは2010年、ウクライナに対する天然ガスの販売価格を割り引く代わりに同基地を42年まで租借する権利を得ており、黒海艦隊を駐留させていた。その基地は現在、ロシアによるウクライナ侵略の重要な拠点になっている。
13年に親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が決定した、欧州連合(EU)との連合協定調印の見送りも、ロシアからのガス輸入価格の割引交渉が背景にあったとされる。その後の反政権デモでヤヌコビッチ大統領が国外逃亡し、政権が交代したが、直後の14年3月には、ロシアがクリミア半島を併合した。
合わせて勃発した東部紛争ではウクライナの鉄鋼産業の基盤である同地域が占領され、今回の戦争でもマリウポリのアゾフスタリ製鉄所の破壊など、東部の工業インフラが徹底的な攻撃を受けている。
戦争長期化でかかる巨額の復興費用
今後、ウクライナ経済の復興にはどれぐらいの費用が必要なのか。 
ウクライナのゼレンスキー大統領は10月12日、世界銀行が主催した同国の支援をめぐる国際会議にオンラインで出席し、来年の財政赤字を補うためだけで、380億ドル(約5兆6000億円)の支援が必要だと訴えた。
世銀やウクライナ政府などが今年9月に発表した見通しによれば、ウクライナの復興には総額3490億ドル(約51兆円)規模の資金が必要だとみられている。これは、20年時点のウクライナのGDPの2倍超にあたる規模だ。
ただ、復興に必要な総額も現時点での見通しに過ぎず、戦争が長引くほどウクライナの損害は増大し、国際社会の負担も巨額になる。厳冬期に向け、国民生活が一層厳しさを増すのは必至で、戦争の早期終結に向けた軍事支援の加速とともに、ウクライナ国民の生活を守るための非軍事面での国際的な支援の拡充も、極めて重要になっている。
●負け戦をさらけ出したプーチンが「航空宇宙軍総司令官」を総司令官に任命 10/17
負け戦をさらけ出したロシアと「アルマゲドン将軍」
ロシアのショイグ国防相は、10月8日、ウクライナでの軍事作戦を統括する「特別軍事作戦」の統合司令官として、航空宇宙軍総司令官のスロビキン上級大将を任命した。
セルゲイ・スロビキン上級大将は地上軍(陸軍)出身で、2017年11月からロシア連邦軍の航空宇宙軍総司令官を務めており、軍内でも「アルマゲドン(ヨハネ黙示録による終末戦争)将軍」と呼ばれている超強硬派の人物であり、プーチン大統領の強い意向による人事と見られる。
ロシアがウクライナに侵攻したこの「特別軍事作戦」については、その当初から作戦全般を統括する司令官は不在と見られていたが、侵攻開始から1か月以上たった4月、ロシアによる公式な発表はなされなかったものの、英軍情報部などによる情報として、「統合司令官ポストが新設され、ロシア南部軍管区司令官のアレクサンドル・ドボルニコフ(地上軍)上級大将が任命された」と報じられていた。
10月に入って、ロシアの経済ニュースサイト「RBK(Russia Business Consulting)」では、ロシアの「西部軍管区司令官」と「東部軍管区司令官」の交代も伝えている。これらが事実だとすれば、最近になってロシアは、地上軍の5つの軍管区(東部、西部、南部、北部、中央)のうちの2つの軍管区(東部、西部)において司令官が解任され、残る3つのうちの1つの軍管区(南部)司令官が統合司令官を解任させられたということになる。即ち、これは、地上軍の最上級部隊指揮官の半数以上が責任を負わされたということであり、ロシアは「負け戦」を認めているも同然だ。
問題は、ここへ来て「なぜ航空宇宙軍の総司令官が統合司令官に任命されたのか?」ということである。
プーチン大統領がスロビキン統合司令官に期待するもの
新たに統合司令官に任命されたスロビキン上級大将は、中東シリアのロシアによる軍事介入(2015年9月以降)の際にも地上軍の部隊司令官などを務め、シリア反政府武装勢力の支配地域などへの(空爆を主体とした)広範な破壊作戦を実行したとされ、2017年4月に発生したアサド政権軍による化学兵器使用疑惑(カーン・シェイクン化学兵器攻撃)にも関与した可能性があると言われている人物である。
スロビキン大将は、これら2015年から2017年のシリアにおけるロシア航空宇宙軍の戦闘機(空爆)を主体とした反政府武装勢力等の潰滅作戦に、当時のシリアにおけるロシア統合部隊の指揮官として功績があったことから、地上軍出身でありながら、2017年11月に航空宇宙軍の総司令官に抜擢されたものと見られる。
つまり、プーチン大統領は、シリア内戦における反政府武装勢力を現在のウクライナ軍に当てはめて、ロシア支配地域に侵入しつつあるウクライナ軍などの潰滅作戦をスロビキン司令官に期待しているということだ。
このシリア内戦においては、民間人の犠牲をいとわないアサド政権軍やロシア軍の非人道的な攻撃が、報道などによって世界に伝えられている。今年6月28日、バチェレ国連人権高等弁務官は、シリア内戦での民間人の死者が2011年3月から2021年3月までの10年間で30万6887人に上ったとの推計を国連人権理事会に報告している。
我々が特に注目すべきは、シリア反体制地域にスタッフを置いて民間人の被害を調査している人権組織「シリア人権ネットワーク(SNHR)」が、2015年10月から2016年10月までの1年間で、ロシアの空爆によって9,364人が死亡し、その約40%にあたる3,804人が民間人(女性561人、子供906人を含む)であった、と発表していることである。このような、残虐な無差別攻撃を行った司令官を、プーチン大統領は評価しているのだ。そして、スロビキン司令官もまた、「自分がプーチン大統領に何を期待されているか」をよく知っているに違いない。
航空宇宙軍総司令官が統合司令官に任命された意味
このようなプーチン大統領の期待に応えるように、今月10日から3日間にわたり首都キーウを含むウクライナ全土に対する、大規模な主としてミサイルによる民間のインフラ施設などへの「戦略爆撃」が行われた。
ロシアはこれを、8日に発生したロシアとクリミアをつなぐ「クリミア大橋」爆破の報復としているが、ウクライナ国防省は、「この攻撃は10月2日から準備が行われていた」と指摘している。確かに、これだけの規模の広範囲に及ぶ戦略的な攻撃をたった2日で準備するというのは腑に落ちない。
クリミア大橋がロシアの自作自演によるものなのか、ウクライナの攻撃または破壊工作によるものなのか現時点では不明であるが、徐々に支配地域を取り戻されて冒頭に述べたような「敗戦色」が濃くなっているロシアにとって、このような攻撃は遅かれ早かれ実行されていたであろう。
なお、プーチン大統領は14日夜(日本時間)に行われたCIS(独立国家共同体)首脳会議のあとのロシアメディアなどに対する記者会見で、「これ以上の大規模な攻撃は必要ない」と述べたが、この発言の最後に「・・・ブードゥー・セイチャース(現時点においては)・・・」という言葉を強調していた。
つまり彼は「今回の大規模攻撃はあくまでクリミア大橋の爆破に対する報復であり、この目的は十分に果たした」ということを強調したに過ぎず、また同様のことが起これば、それをきっかけに再びこのような攻撃を実行する可能性は十分にあると考えておかなければならない。おそらく、そのためにこの時期に戦略的なターゲッティング(攻撃目標の選定)を得意分野とする航空宇宙軍の総司令官をこの「特別軍事作戦」の統合司令官に任命したのであろう。
これは、ある意味恐るべきことである。なぜならば、「戦略爆撃」の行き着く先は「核攻撃」に他ならないからだ。航空宇宙軍は、戦術核ミサイルのプラットフォームである戦略爆撃機(Tu-160,Tu-22M,Tu-95)を100機以上保有しているし、今年3月18日にウクライナ西部でロシアの戦闘機(MiG-31)から発射された、イスカンデル短距離弾道ミサイルの空中発射型(ASM)である「キンジャール(Kh-47M2)」には、核弾頭も搭載可能とされている。
戦況は再びハイブリット戦の様相
このような現状を見ていると、本年4月のロシア軍のキーウからの撤退以降、正規の地上戦が主体となっていた戦況は、9月21日のロシアによる「予備役の部分的動員」以降、再びハイブリッド戦の様相を呈してきたように見られる。
それは、ドイツやスウェーデンが現在調査中である9月26日に発生した、ロシア産ガスを欧州に輸送する主要ガスパイプライン「ノルドストリーム」の爆発に始まり、今回のクリミア大橋の爆発、並びに、これを口実としたロシアによる民間のインフラ施設や大都市の街中などへの大規模な戦略爆撃など、地上戦の劣勢を破壊工作や国際法を無視した無差別攻撃によって、情報戦(information warfare)、特に、経済情報戦(Economic information warfare)、心理戦(Psychological warfare)などで挽回しようという、プーチン大統領の焦りが読み取れる。
おそらく、今後もロシアはこのような破壊工作やこれを理由にした無差別攻撃などを続けることであろう。また、最近報道されているようなベラルーシの「極秘動員」や「ロシア軍のベラルーシ入り」などの動きが事実ならば、ベラルーシからの空・陸共同によるウクライナ(首都キーウ方面への)奇襲攻撃というような作戦を計画している可能性もある。このような、ウクライナ軍の意表を突く激しい攻撃を繰り返すことにより、ウクライナ国内の厭戦機運を醸成し、優位な形で停戦交渉に持ち込もうと企図しているのであろう。
危惧されるのは、このようなプーチン大統領の思惑が外れ、ウクライナ国民の戦意がさらに高揚し、ウクライナ軍の反撃が加速して引き続き東部や南部におけるロシア支配地域の奪還が続いていけば、先ずはこれらの地域で核以外の大量破壊兵器(生物、化学)を使用して、ウクライナ軍に壊滅的な被害を加え、次なる核兵器投入の信ぴょう性を高めようと企図することである。
繰り返すが、スロビキン統合司令官は、自分が何を期待されているのかを知っている。今月10日からのウクライナ全土に対する戦略爆撃は、まさにそれを証明するものといえよう。
我々は、彼がすでにシリアにおいて大量破壊兵器使用の実戦経験があるということを忘れてはならない。今後のウクライナへの軍事支援は、「対空能力の向上」と大量破壊兵器に対する「特殊武器防護能力の向上」に帰する装備などに重点を置く必要があろう。わが国にもできることは沢山あるはずだ。 
●IMF委、ウクライナ戦争終結呼びかけ ロシアが共同声明に反対 10/17
国際通貨基金(IMF)の加盟国は14日、国際通貨金融委員会(IMFC)を開き、ほぼ全ての国がロシアに対してウクライナ戦争を終結させるよう呼びかけた。
議長を務めたカルビニョ・スペイン経済相は会見で、戦争がインフレをあおり、世界経済を減速させる唯一で最大の要因と指摘した。一方、会合ではロシアが再び共同声明の合意を阻んだと語った。
また、紛争が食料やエネルギーを巡る不安、物価上昇、金融安定リスクを引き起こしており、戦争終結を求める声はIMF・世界銀行の4月会合の時よりも強かったと述べた。
IMFのゲオルギエワ専務理事も、戦争終結は「世界経済を改善するための最も簡単な方法だ」と訴えた。
ロシアが共同声明に反対したため、IMFCは議長声明を発表し、各国中央銀行に物価安定に努めるよう求めたほか、財政政策では生活費上昇から弱い立場にある人々を守ることを優先させるべきと指摘した。
通貨についてはドル高による圧力に言及し、「今年は多くの通貨がボラティリティーを高めて大きく変動したことを認識し、2021年4月になされた為替相場に関するコミットメントを再確認する」と述べた。
●ロシア戦略の重大欠陥 ウクライナ制空権握れず  10/17
ウクライナ侵攻で苦戦しているロシア軍は、調整不足から兵士の士気低下に至るまでさまざまな問題に直面している。だが、西側の軍事関係者によると、戦争の初期にウクライナの制空権を掌握できなかったことが致命的な要因となり、これがあらゆる面に影を落としロシアの劣勢要因となっている。
制空権を掌握できないため、ロシアは、米国からウクライナに供与された高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」などの武器によるウクライナ側の攻撃を止めることができずにいる。ウクライナ軍は、ロシア軍の限られた対応能力に乗じ、先月初めから数百平方マイルの領土を奪還してきた。
ロシアは最近、優勢なウクライナ軍に対抗するため、ミサイルやドローンを使って民間人を標的に死傷者を出す攻撃を行っている。しかし、こうした攻撃でさえも、ロシア側の航空戦略の弱点を示すものと西側の軍事アナリストは指摘する。撃墜されるのを恐れて操縦する航空機ではなく、遠隔操作の無人機などに頼らざるを得ないことを示すものだという。
「制空権を握れなかったことは、ロシアが戦争での優位性を失う決定的な要因の1つだ」。こう指摘するのは、オープンソースの情報コンサルティング会社で、戦争中の装備品の損失を追跡しているオリックスの軍事アナリスト、ヤクブ・ヤノフスキ氏だ。
ロシア国防省にウクライナでの航空戦についてコメントを求めたが、回答はなかった。
ロシアが2月24日に大規模なウクライナ侵攻を開始したとき、両国の軍事専門家は、ロシアがウクライナの防空施設を標的にし、迅速にそれを排除した後、さらに侵攻してくると想定していた。米軍が湾岸戦争やリビアでこうした方法を採ったのは、攻撃側の航空機乗組員や航空機が支援する地上・海軍部隊を守るのに有益だからだ。
ロシアは当初、部分的にウクライナの対空システムを攻撃し、通信基盤を混乱させることに成功した。しかしその後、ウクライナは防御態勢を再編成し、ロシアの航空攻撃を阻止することに成功した。3月上旬には、ウクライナはロシアの航空機やヘリコプターを撃墜していった。ウクライナ空軍は、初期の損失にもかかわらず、飛行を続け、ロシア軍パイロットと空中戦を繰り広げた。
春になると、ロシアの戦闘機はロシア領空にとどまるか、ロシア支配下にあるウクライナの一部上空を飛ぶようになった。ロシアの爆撃機は、自国防空システムの後方から巡航ミサイルを発射していた。ロシア軍ヘリコプターはウクライナ上空では一段と慎重な動きを見せた。
ロシア空軍が躊躇(ちゅうちょ)した結果、ロシア地上軍は航空機やヘリによる援護射撃を当てにできなくなり、ウクライナの航空機、ドローン、大砲による攻撃にさらされることになった。
アナリストによると、開戦直後の数週間、ウクライナの防空能力は、首都キーウ(キエフ)防衛に匹敵するもので、ロシアの執拗(しつよう)な攻撃にもかかわらず、政府と軍がウクライナの大部分を支配し続けることができたのは、その成果によるものだという。
ロンドンのシンクタンク、国際戦略研究所で軍事空域分析を担当する上級研究員、ダグラス・バリー氏は「ロシアが制空権を掌握していた場合と比べると、ウクライナ人ははるかに強い立場にある」と述べた。
ウクライナは当初から、ロシア地上軍との戦いでは、西側から供与された兵器にかなり助けられた。一方、防空面では主にソ連時代のシステムに依存しており、ウクライナは30年にわたってこれを維持、改良してきた。ロシアは、S300長距離地対空ミサイルや、小型で機動性の高い発射装置ブークやトールなど同じ兵器を使用しているため、いろいろな意味でロシアがこのシステムを無効にできなかったことは注目に値する、とアナリストは指摘する。
ウクライナの政府系シンクタンク、国立戦略研究所のミコラ・ビリエスコフ研究員によれば、ソ連が崩壊したとき、ウクライナは特に多くの兵器を保有しており、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国の標準と比較して、領土防衛システムの比率が依然として高い。
ビリエスコフ氏によると、ウクライナは航空機と防衛システムを通常の場所から移動、分散させることにより、防空と空軍の一部を維持することができたという。同氏は、ロシアによる侵攻前に米国からの情報が、ウクライナの装備を守るために十分な警告を与えたと評価する。また、侵攻初期に攻撃の時期と方向に関する情報を得たことで、ウクライナは最も有用な場所に兵器装備類を配置することができたという。
「ロシアは飛行場とSAM(地対空ミサイル)レーダーを爆撃したが、攻撃は成功しなかった」とビリエスコフ氏は話す。
ロシア政府は当初、3日程度でウクライナを掌握できると見込み、ウクライナ政府を倒した後の支持上昇を期待したため、最初の攻撃を制限した可能性があると前出のバリー氏は言う。
バリー氏は、政権転覆後に「ロシアは最初、スムーズな国家運営を望んでいたので、あまり破壊したくないようだった」と述べた。ロシア軍はまた、NATO加盟国の間で標準的に行われている、ミサイル発射台やレーダー施設、指揮統制センターなどの無効化を確認するための追撃も行っていなかったようだという。
前出のビリエスコフ氏によれば、ウクライナをさらに助けたのは、ロシア空軍が複雑な防空システム制圧の訓練を積んでいなかったことだという。このような作戦には、攻撃機とミサイル攻撃との慎重を要する電子戦の連携が必要とされる。
ウクライナはロシアよりはるかに少ない航空機で、慎重に飛行し、損失も被っている。しかし、地元住民からの支援、ドローンの広範な使用、米国からの情報提供により、制空上の劣勢を埋めることができた。さらにロシア軍はウクライナ機を撃墜する能力が限られており、その分、余裕を持って活動することができる。ウクライナ軍の航空機は最近、ロシア支配地域でロシアの防空施設を攻撃している。
現在、ロシアはパイロットが操縦する飛行機の代わりに、ミサイルやドローン(イランから大量に提供されたものも含む)を使ってウクライナの奥深くまで攻撃を仕掛けている。その多くが発電所など民間のインフラを標的にしている。多くの空爆は標的が定まっておらず、死傷者が増えている。
これに対して、NATO加盟国は12日、ウクライナに最新の防空システムを追加配備し、包括的な防空ネットワークを構築することを約束した。この複雑な技術的作業には時間がかかるが、ウクライナはあらゆる種類の空爆に対して欧州で有数の高度な防御を手に入れることができる、と軍関係者は述べている。
●ウクライナ 首都キーウで「ロシアの自爆型無人機」による攻撃  10/17
ウクライナの首都キーウで現地時間の17日朝、自爆型の無人機による攻撃がありました。キーウの市長は、被害を受けた建物からこれまでに18人が救出され、さらに救助活動を進めているとしています。
ウクライナの首都キーウで現地時間の17日朝、複数の爆発音があり、イエルマク大統領府長官は首都キーウが「ロシアによる自爆型の無人機による攻撃を受けた」と明らかにしました。
また、ゼレンスキー大統領は自身のSNSで「敵は昨夜からけさにかけて市民に対するテロを行った。自爆型の無人機やミサイルでウクライナ全土を攻撃し、キーウの住宅が被害を受けた」などと投稿し、ロシア側を厳しく非難しました。
キーウ市当局は自爆型の無人機4機が爆発したとしています。
クリチコ市長は「市の中心部の人が住んでいない建物で火災が起き、消防が対応している。人が住む建物も被害を受けた」としたうえで、壊れた建物からこれまでに18人を救出し、さらに救助活動を続けているとしています。
首都キーウでは、17日は早朝から防空警報が出されていました。
●ロシアが「核」「第3次大戦」持ち出すなか、NATOが軍事演習を始める意味 10/17
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は10月14日、 NATO軍とロシアとの間で衝突が起きれば「世界的な大惨事」につながるだろうと述べた。ウクライナ軍の反転攻勢を受けてロシアの核の脅威が増すなか、NATOは17日から核抑止能力を試すための軍事演習、「ステッドファスト・ヌーン(確固たる昼)」を開始する。
「ステッドファスト」には14のNATO加盟国が参加する。第4、第5世代の戦闘機や偵察機、空中空輸機を含めた航空機総数は60機にのぼる。14日の記者会見でプーチンは、ロシアとNATOの軍事衝突はいかなるものでも「危険な一歩」だと述べ、強い警戒感を示した。
ロシアが神経質になるのにはもう一つ理由がある。9月30日にロシアがウクライナ東・南部の4州を強引に「併合」すると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は即座にNATO加盟を申請すると表明した。ウクライナのNATO加盟は、軍事侵攻前からプーチンが恐れていたシナリオだ。ロシアの複数の高官は、NATOがウクライナの加盟を認めれば「第三次大戦」が起きかねないと述べている。
それだけにNATOがウクライナの加盟を認める可能性は低い。ウクライナがNATOの一員になれば、他の加盟国にはロシアからウクライナを守る義務が生じる。NATO対ロシアの戦争の引き金を引くことになる。
多くのNATO加盟国は今もウクライナに軍事支援を行っている。ウクライナが反攻に転じられたのはアメリカが供与している高機動ロケット砲システム(HIMARS)など西側の兵器の力に負うところが大きい。ウクライナは今、ロシアに占領された多くの地域を奪還するに至っている。
だが実戦部隊を送り込むことはしていない。直接の軍事衝突は避けているわけだ。NATOへの新規加盟には30の加盟国すべての賛成が必要で、ウクライナにとって敷居は高い。
ロシア連邦安全保障会議のアレクサンドル・ベネディクトフ副書記は13日、ウクライナのNATO加盟は「第三次大戦へのエスカレーションが確実になることを意味する」と述べた。「その一歩が自殺的性質を帯びていることは、NATO加盟国自身が理解している」
ロシアのウクライナ侵攻後、NATOはスウェーデンとフィンランドの2カ国の加盟を受け入れる方針を示した。フィンランドが加盟すれば、NATOはロシア国境近く(モスクワからの距離は約1000キロ)に核兵器を配置できるようになる。加盟国にとっては国防の強化にもつながる。国際社会は両国の加盟がロシアに対する抑止力になることを期待している。
NATOの今度の演習はロシアが侵攻を発表する前から予定されていたものだし、西欧や北海上空などロシア国境からは1000キロ以上離れた場所で行われる。それでも、国際社会からは非難の声が上がっている。
「ウクライナへの本格的な侵略という文脈の中でロシアは言語道断な核の脅しを行っているが、今NATOが演習を行うことは核兵器使用への恐怖を軽減することにはならない」と、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)でキャンペーンコーディエーターを務めるダニエル・ホグスタは以前、本誌に対し指摘していた。
一方、ノルウェー防衛研究所のカタジナ・ジスク教授(国際関係論)はこう指摘する。ロシアのウクライナ侵攻直後の3〜4月にノルウェー主導で行ったNATOの軍事演習「コールドレスポンス(冷たい反応)」には、「抑止的な要素」があった。その経験が、今度の軍事演習決行の背景にあるのではないか、というのだ。「同盟の信頼性と、抑止と防衛の確かさを示すのがその目的だ」
●EU、ウクライナ軍兵士を訓練へ 外相会合、1万5000人規模 10/17
欧州連合(EU)は17日、ルクセンブルクで外相理事会を開き、ロシアが侵攻するウクライナへの軍事支援で、EU加盟国がウクライナ軍兵士に訓練を実施することで合意した。1万5千人を訓練する目標で、期間は当面2年を想定している。EUとウクライナの連携が一層深まる。
一方、ウクライナへの軍事支援を5億ユーロ(約720億円)増額することを決めた。今回分を含め総額31億ユーロとなる。EUの外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は17日の声明で「EUは必要な限りウクライナを支援し続ける」と強調した。
ウクライナのクレバ外相もオンライン形式で参加した。
●ベラルーシ、対ウクライナ参戦示唆 ロシアの陽動戦術か 10/17
ロシアの同盟国ベラルーシがウクライナ侵略への参戦を示唆する動きを見せている。ベラルーシのルカシェンコ大統領は最近、露軍との合同部隊の編成を開始したと発表。軍に「戦闘準備点検」を指示したほか、国内に「テロ警戒態勢」を敷いたとも明らかにした。一連の動きはウクライナ軍の戦力分散を狙ったロシアの「陽動戦術」だとする見方が強いが、ウクライナ側は警戒を緩めていない。
ベラルーシ国営ベルタ通信によると、ルカシェンコ氏は10日、北大西洋条約機構(NATO)側からの軍事的脅威が強まっていると主張し、「プーチン露大統領と両国合同部隊の編成に合意した」と表明。部隊には露軍から9千人以上が参加するとされ、15日に第1陣がベラルーシ入りした。
ウクライナ外務省は9日、ベラルーシ外務省から「わが国への攻撃をウクライナが計画している」との文書を渡されたと発表し、「事実でない」と反論。ベラルーシへの警戒を呼び起こすためのロシアの計略である可能性があるとした。
11日にはベラルーシ国防省が「大統領命令で軍の戦闘準備点検を開始した」と発表。ルカシェンコ氏は14日、訪問先のカザフスタンで「国内にテロ警戒態勢を導入した」と表明した。同態勢の詳細は不明だ。
ルカシェンコ氏は7日にロシアでプーチン氏と会談しており、一連の動きはプーチン氏の意向を受けたものである公算が大きい。
だが、ベラルーシの参戦には懐疑的な見方が強い。ルカシェンコ氏は従来、基地の提供などでロシアを支援する一方、派兵を否定。同氏は参戦した場合の追加制裁や国内の不安定化を懸念しており、ロシアとの摩擦を避けつつ、自国が当事者となる事態も回避する思惑だとみられている。
さらにベラルーシ軍は小規模な上、東・南部の戦線で劣勢に立つロシアはいったん撤退した北部に再び戦線を構築する余力に乏しい。米シンクタンク「戦争研究所」も11日、ロシアはベラルーシから兵器や弾薬を南部の戦線に移送しているとし、「北部への再侵攻と矛盾する」と指摘した。
ただ、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、先進7カ国(G7)首脳会合での演説で、ベラルーシの参戦を防ぐ「監視団」の両国国境への派遣を要請。NATOのストルテンベルグ事務総長も11日、「ベラルーシはロシアの共犯者をやめるべきだ」と警告した。

 

●ウクライナが完全勝利≠ナきない戦争終結の難しさ 10/18
ジョンズホプキンス大学SAIS教授のブランズが、ワシントン・ポスト紙に9月14日付で掲載された論説で、バイデンが望む以上にウクライナが勝利する場合バイデンはゼレンスキーの要求を抑えるかもしれない、ウクライナが自由世界のために闘っていることはウクライナが獲得して然るべき全てを手に入れることを意味しないと指摘している。主要点は次の通り。
(1)米国とウクライナは敵を共有するが、ウクライナが勝利に近づけば近づく程、米国とウクライナの力や国益の相違が問題となりうる。
(2)ゼレンスキー政権は、クリミアを含め全てのウクライナ領土の解放、賠償、戦争犯罪者の訴追を目標とする。米国はこれらの目標の受け入れに躊躇しているかもしれない。
(3)米国は、ウクライナが戦線を拡大し過ぎるとコストの高い膠着状態に陥り、中国との衝突の危険が高まるなかで米国のリソース(資源)を費消することになることを懸念するかもしれない。プーチンが極端なエスカレーションに走り、戦術核の使用を考えている可能性さえある。敵を負かしたと見えても、戦争は急速に醜いことになり得る(朝鮮戦争での中国軍参戦の例)。
(4)バイデン政権は、ウクライナ戦争の目的が望ましいものかどうか、本当に不可欠なのかにつき検討しているに違いない。ウクライナが政治的に独立し、経済的に存立可能で国土防衛の力を持つこと、プーチンがこの侵略で得をしたと明白に言えないようにしておくことも不可欠だ。それは2月24日の線まで押し戻すことを意味する。しかしクリミアの奪還やプーチン等の訴追はそれには入らないかもしれない。ロシアとの和平取引でバイデンが賢明と考える線を越えてゼレンスキーが要求する場合それを抑えるかどうかが問題となる。
(5)米国の代理者が失望する事例は初めてではない(韓国の李承晩に朝鮮半島分断のままの終戦を受け入れさせた例、1990年ニカラグアのコントラに和平を受け入れさせた例)。
(6)今日ウクライナは自由世界のためにロシアと闘っている、しかし、それはウクライナが獲得して然るべき全てを手に入れることを必ずしも意味しない。

この論説は、ウクライナによる東部攻勢が大きな成功を収めていた9月中旬に書かれたものである。戦争終結の微妙さ、難しさを議論する、極めて興味深く、深刻な議論だ。
戦争の終わり方はそういうものだろう。なおブランズは、ウクライナや台湾など大きな問題につきシャープな議論を提起している新進気鋭の学者(現実主義者)のようだ。昨年には中国ピーク論と台湾等の危険を指摘する本を出版、話題になっている。
大きな賭けに出ているプーチン
しかし、ウクライナの事態は、9月21日の怒りに満ちた挑戦的なプーチン演説で一変する。9月21日、プーチンは国民向けに演説をし、1部分的な動員令に署名したことを明らかにし、2占領地域でロシアへの編入の是非を問う住民投票を実施すると述べるとともに、3「わが領土の一体性が脅威にさらされる場合」には「われわれが保持するすべての手段を利用する」と述べ核使用を示唆した。
そして29日にはウクライナ南部のザポリージャ州とヘルソン州を独立国家として一方的に承認する大統領令に署名した(ドネツク州とルガンスク州は既に独立国家として一方的に承認済み)。プーチンは、これら2州を含むウクライナ東部・南部4州の「併合」に関する「条約」に調印した。
10月4日には、ロシア議会上院が同「条約」を承認し、4州を正式に併合した。言葉が見つからない程あからさまな、国際規範に反する行為である。この独裁者の無謀さと攻撃性を国際社会は認めてはならない。
これら4州で23〜27日に実施された住民投票は、拙速で、短期間に親露勢力によって一方的に実施された茶番だ(87〜99%が併合に賛成したと主張している)。核の恫喝も余りに無責任だ。なお、プーチンへの国内の反対は増大しているようであり、注目される。
ウクライナの事態は目下プーチンが大きな賭けに出ている。クリミアとロシア本土とを結ぶ橋が爆破されたことを口実に、10月10日にはキーウを含むウクライナ各地に大規模なミサイル攻撃を加えるなどしている。しかし、上記のブランズの議論が意味を失うことはない。
ブランズは、戦争終結のジレンマ、難しさを端的に議論する。西側は、安定(力)と正義のジレンマに直面する。正義の視点を忘れることはできない。プーチンの横暴を考えると戦争犯罪の追及も重要なことである。
●バイデン米大統領「アルマゲドン」発言の衝撃と波紋 10/18
「ロシアが核使用すれば、アルマゲドン(人類破滅)を招く」――。バイデン大統領が、プーチン露大統領による対ウクライナ核威嚇に関連して漏らした一言は、またたくまに世界を駆け巡り、米国内でも大きな波紋を広げている。
波紋を呼んだバイデンの核使用への対応
バイデン大統領は去る6日、ニューヨーク市内の有力財界人宅で開かれた民主党選挙資金集めの会合で内外情勢について演説、プーチン大統領の仕掛けたウクライナ戦争に関連して、以下のように述べた:
「私はプーチンのことをよく知っているが、彼がウクライナに対し戦術核兵器か生物兵器の使用に言及したのは、けっしてジョークではない」
「われわれは、ケネディ政権当時のキューバ危機以来、アルマゲドンの可能性に直面したことはかつてなかった。私が思うに、(彼が)安易に戦術核兵器使用に踏み切った場合、それがアルマゲドンに至らないなどということはありえない」
「プーチンは一体、どこに戦争の出口を見出そうとしているのか、そしてまた、彼は著しく面目と権力を失墜させて自分自身の置き場をどう考えつつあるのか、われわれとしても、思案しているところだ」
しかし、プライベートな場での非公式コメントとはいえ、大統領の「アルマゲドン」発言は出席者たちの間で話題もちきりとなり、一部メディアでリークされるに及んで一気に波紋が広がった。
このため、政府当局者たちも、直ちに火消しに追われた。
カリーヌ・ジャンピエール大統領報道官は翌7日、大統領専用機エアフォース・ワンの機内でホワイトハウス詰め記者団に対し、「われわれとしては、米国自身の現下の核戦略態勢を変更する理由はなく、また、ロシアがただちに核兵器使用のための準備に入ったことを示す兆候も見当たらない」として、差し迫った核戦争の可能性を打ち消すと同時に、「ロシアによる核威嚇が無責任極まりないものであり、それを真剣に受け止めるべきだ、というのが大統領発言の趣旨だ」と説明した。
ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)スポークスマンのジョン・カービー氏も、「近代的核保有国の指導者であるプーチンが、最近、何度か核兵器使用の脅しをかけ、ウクライナの緊張が増大しつつある現状にかんがみ、危険が高まってきている事実を正確に反映したものだ」として、大統領発言を擁護した。
トランプらも強く批判
しかし、その後も余波は続いた。
トランプ前大統領は去る9日、アリゾナ州メサのトランプ支持派集会で早速、この問題に触れ、「指導者たる者は賢くあるべきで、自分の言葉に気をつけなければならない。馬鹿なやつら(バイデン陣営)の言う通りなら、第3次世界戦争になってしまう……。そうなれば今日存在する核という兵器類から見ても、地球上には何も残らなくなるだろう」と酷評した。
マイク・ポンペオ前国務長官も、同日のテレビ番組で「不用意極まる発言だ。より重要なことは、トランプ政権当時の4年間はプーチンの行動を抑止できたのに、現政権はそれに失敗しているということだ」と激しくかみついた。
中立的立場のマイク・マレン前統合参謀本部議長も「バイデン大統領は、(核使用について)最悪の言葉を使ったが、そうしたレトリックは引っ込め、プーチン大統領をウクライナとの交渉の場につかせるべく全力をつくすべきだ」とけん制した。
これに対し、上院外交委員会の有力メンバーであるクリス・マーフィー民主党議員は、「核戦争が起こるリスクがあることを国民に知らせる点で、大統領の言ったことは間違っていない。実際に、われわれはロシアの危険極まりない人物を相手にし、彼が一体、この先何をしでかすのか、予測もつかない状況下にあるのだ」として、大統領を弁護した。
見えてくる米国民のウクライナ戦争への世論
しかし今回、全米の主要メディアが党派を超え、バイデン発言を一斉に大きく取り上げた背景には、それが単なるセンセーショナルな失言にとどまらず、米国の対外コミットメントをめぐる国論の分断を招きかねない重大な要素をはらんでいたからにほかならない。
すなわち、米国は、ウクライナのような友好国が核攻撃を受けた場合、際限ないエスカレーションを覚悟してまでも、報復措置として相応の核使用に踏み切るのかという、いわば米軍核抑止力の本気度≠めぐる議論だ。
そしてもし、実際にロシア軍によるウクライナ国内での戦術核使用を受けて、米軍がロシア占領下にある一部地域を標的とした限定的核報復に出るとすれば、それはすなわち、米露間の直接的な核交戦を引き起こし、ひいてはバイデン大統領が言及したような「アルマゲドン」という恐るべきシナリオもありうるということになる。
そこで、最大の問題となってくるのが、米国側の実際の対応だ。この点で、保守系雑誌「National Review」の問題提起には重要な意味が込められている。
同誌は、次にように論じている:
「ロシア軍によるウクライナ領土ないしは領海における核使用は、許すべからざる蛮行であり、戦争犯罪だ。それは、ロシア国家に対しあらゆる深刻な結果をもたらす制裁が求められる。しかし、だからといって、米軍による核報復がそのうちの一つになることはなく、また、そうあるべきではない」
「ここで明確にしておく必要がある。米国はウクライナ支援を望むとしても、そもそも、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)加盟国ではなく、従って、われわれはウクライナ防衛を義務付けられてはいない。ましてや、ウクライナは米国の『核の傘』の対象外にある。ウクライナに対する核攻撃は米国に対する核攻撃と同じではなく、同一視されるべきではない」
「対露報復としては、核兵器に頼らずしてロシアに目に見えた打撃を与える選択肢がいくつもある。例えば、経済・産業を麻痺させるパワー・グリッド攻撃はそのひとつであり、そうなれば、ロシアは面目を失ってしまうだろう。いずれにしても、わが国としては、ウクライナ戦争の今後を大いに心配してはいるが、ウクライナがいくつかの都市を奪われることになったとしても、さほど気にしてはいない」
上記のような主張は、おそらく米国民の大半が抱いている率直な気持ちを代弁しているものと思われる。
それを要約すると、(1)米国民はウクライナ戦争に重大な関心を抱いてはいるが、自国が直接巻き込まれることを決して望んでいない、(2)ロシアがウクライナで核使用したとしても、米軍による核報復は、ひいては米本土が核攻撃にさらされる危険があるので、断固反対する、(3)従って、ロシアの対ウクライナ核攻撃に対する米側の対応は、米露間の核戦争に至らない他の手段によるべきである――ということに尽きる。
多くの専門家が「核報復は避けるべき」との姿勢
ところが、バイデン大統領の「アルマゲドン」発言は明らかに、こうした慎重意見に対する配慮を欠くものだった。
なぜなら、バイデン大統領は、ロシア軍がウクライナ戦争で限定的戦術核使用すれば、米側が自動的に核報復に出ることを前提とするかのようなシナリオを描き、その後は、米露両国による核戦争にエスカレートして、最後は人類の破滅を招くことを警告したからである。
しかし、現実には、「National Review」が指摘した通り、米国民の大多数は、他国間の戦争で、たとえ核兵器が使用されたとしても、米国が核戦争に巻き込まれる事態になることを望んでおらず、従って米政府としても簡単に、核報復には踏み切りにくい。
この点、長年、核戦略問題に精通し上院軍事委員会の重鎮として活躍してきたサム・ナン元民主党議員は、「The Atlantic」誌の中で、「ロシアがウクライナの戦場で核兵器を使用した場合でも、米側は厳格に通常兵器に限定して報復すべきである。たとえば、もし、ロシア海軍が艦船から核巡航ミサイルを発射した場合、米軍はただちに当該艦船を撃沈することが望ましい」として、核報復は回避すべきことを論じている。
欧州安全保障問題の権威でもあるカール・ビルト元スウェーデン首相も、ワシントン・ポスト紙への寄稿文の中で、ロシアによる核使用に対する対応について「NATO軍は、黒海およびバルチック艦隊の要衝から北極海天然ガス施設に至るまであらゆるロシアの死活的に重要な資産に対し、通常兵器による大規模攻撃を仕掛けるべきだ。この点では、西側諸国の見解は一致している」とコメントしている。
米国民が持つ核戦争の不安
その折も折、米国では国民の間で最近、ウクライナ戦争に関連して、自国が核戦争に向かっていくのではないかとの不安、恐怖感がとくに高まりつつあると伝えられる。
去る10日、公表された「Reuters/Ipsos」世論調査によると、米国民の大半(66%)が対ウクライナ支援を支持する一方で、「ロシアとの核戦争に向かいつつある」と回答した人が、58%にも達していることがわかった。
また、今春、「全米心理学会」が「Harris Poll」と実施した合同世論調査結果によると、69%の回答者が「第三次世界大戦への懸念」を表明しており、米国政治学者の間でも「核戦争への恐怖がこれほど高まってきたのは、冷戦終結以来、初めてであり、ウクライナ戦争が及ぼす影響が大きい」との見方で一致している。
それだけに、米国の最高司令官である大統領が先頭だって「アルマゲドン」説を唱え、いたずらに国民の核アレルギー≠あおることは、現に慎むべきであろう。
●“イランがロシアに供与 自爆型の無人機攻撃” ウクライナ政府  10/18
ウクライナの首都キーウで複数の爆発があり、これまでに4人の死亡が確認されました。ウクライナ政府はイランがロシアに供与した自爆型の無人機による攻撃だとしてロシアとイランを非難しています。
ウクライナの首都キーウで17日、複数の爆発があり、ウクライナのイエルマク大統領府長官は「ロシアによる自爆型の無人機による攻撃を受けた」と明らかにしました。
キーウのクリチコ市長は、この攻撃でこれまでに4人の死亡が確認されたとしています。
攻撃についてレズニコフ国防相はイランがロシアに供与した自爆型の無人機による攻撃だとして、ロシアとイランを厳しく非難したうえで各国に対し両国への圧力を強めるよう訴えました。
ロシア軍は、今月10日もキーウなどに大規模な攻撃を行い、この時にもイラン製の無人機が使用されたと指摘されていますが、イラン外務省の報道官は17日の会見で、ロシアへの無人機の供与を改めて否定しています。
一方、ロシアと同盟関係にあるベラルーシの国防省高官は17日、ロシア軍の兵士およそ9000人と戦車や装甲車などがベラルーシに到着し、ベラルーシ軍と合同で軍事演習を行うと発表しました。
これに先立ち、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ウクライナやNATO=北大西洋条約機構の脅威が高まっていると主張しています。
ウクライナでの戦闘でロシア軍が劣勢に立たされる中、プーチン大統領はルカシェンコ大統領にさらなる軍事協力を求めているとみられ、ベラルーシでの軍事演習はゼレンスキー政権に対する揺さぶりともみられています。
ウクライナ国防相 ロシアとイランを厳しく非難
ウクライナのレズニコフ国防相は17日、みずからのツイッターに投稿し、ロシアがイランから購入した自爆型の無人機をウクライナの首都キーウへの攻撃に使ったとして、ロシアとイランを厳しく非難しました。この中で「ロシアとイランはテロと死を広めようと結託している。今回、ロシアが使用したイラン製の無人機も、そのための道具のひとつにすぎない。こうした攻撃を撃退し、悪を打ち負かすため世界の民主主義の国は力を合わせ英知を結集させるべきだ」と述べ、各国に対しロシアとイランへの圧力を強めるよう訴えました。
イラン外務省 武器供与を否定
イランがロシアに無人機を供与していると指摘されていることについて、イラン外務省のキャンアニ報道官は17日、会見で「イランはウクライナとロシアの戦争でどちらの側にも立たないし、いずれに対してもいかなる武器も供与していない」と述べ、改めて供与を否定しました。そのうえで「何十億ドル分もの兵器などを戦争当事者の一方に供与してきた国々が、もう一方への供与を非難するのはブラックジョークだ。ウクライナで平和と政治的解決を支援するなら、こんなに多くの兵器を送ってどうしようというのだ」と反論し、逆にウクライナを軍事的に支援する欧米各国を非難しました。
ウクライナ非常事態庁 全土で8人死亡
ウクライナ非常事態庁は、17日のロシアによる自爆型の無人機やミサイルでの攻撃で、合わせて8人が死亡したと発表しました。それによりますと、首都キーウの中心部にある集合住宅が被害を受けた自爆型の無人機による攻撃で4人が死亡したということです。また、北東部のスムイ州にある変電所がロシアによるミサイル攻撃で被害を受け、4人が死亡したとしています。このほか、東部のドニプロペトロウシク州にある変電所もミサイルで攻撃され、1人がけがをしたということです。
●住民巻き添え6人死亡 ウクライナ近く、爆撃機墜落 ロシア南部 10/18
ロシア軍のスホイ34戦闘爆撃機が17日、南部クラスノダール地方エイスクの集合住宅の敷地に墜落し、爆発・炎上した。
現地メディアによると、集合住宅の6人が死亡、子供を含む27人が負傷した。操縦士は緊急脱出した。ウクライナで苦戦が伝えられる中、国民に衝撃を与えている。
エイスクはアゾフ海沿岸に位置し、軍事作戦が続くウクライナ東・南部に近い。ロシア国防省は、近くの飛行場から離陸時に片方のエンジンが火を噴くトラブルが発生したことが原因だと発表。「訓練中」の事故だったと主張した。
集合住宅は9階建てで、1〜5階が激しく燃えた。航空燃料を満載しており、火災が広がったとみられる。ミサイルを搭載していたという情報もある。 
●EU、ウクライナ兵に「軍事訓練」で合意 ドイツやポーランドで 10/18
欧州連合(EU)は17日、ルクセンブルクで外相会合を開き、ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍に対し、EUとして軍事訓練を実施することで合意した。期間は2年間で、当面は約1万5000人を訓練するのが目標。ドイツやポーランドなどで実施される見込みだ。
これまでもEU加盟国の一部は個別にウクライナ軍に訓練を提供してきたが、EU、ウクライナ間の軍事面での協力がさらに深まることになる。軍事訓練は11月中旬にも始まる見通し。ボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)は声明で「EUはウクライナ軍が勇敢な戦いを続けられるように訓練する」と述べた。
この日の会合では、ウクライナへの軍事支援を5億ユーロ(約730億円)増額することも決定した。2月にロシアがウクライナに侵攻を開始して以降の総額は31億ユーロとなる。
一方、イランで「ヘジャブ(髪を覆うスカーフ)」を巡る抗議デモで死者が相次いでいることを受け、EU外相らは、イランの治安当局幹部ら11人と4団体に制裁を科すことでも合意した。EU域内の資産を凍結するほか、域内への渡航を禁じる。
●ロシア軍、ウクライナ攻撃「全標的に命中」 数百集落で停電 10/18
ウクライナの首都キーウなど各地で17日に行われた攻撃について、ロシア軍は、すべての標的に命中したと発表した。ウクライナ政府によると、攻撃により数百の集落で停電が発生した。
ロシア国防省は、同国軍がウクライナの軍事指揮統制施設とエネルギー施設に対する「高精度の長距離攻撃を継続した」と説明。「すべての標的に命中した」と主張した。
ウクライナのデニス・シュミハリ首相は、ロシア軍がキーウの他、中部ドニプロペトロウシクと北東部スムイの2州の重要インフラを5回にわたり攻撃し、数百の集落で停電が発生したと発表。キーウのビタリ・クリチコ市長によると、同市中心部のシェフチェンコ地区で集合住宅が攻撃を受け、火災が発生した他、さらに数棟の建物が損壊した。
8か月前にウクライナ侵攻を開始したロシアはここ数週間、戦場で劣勢を強いられている。キーウなどに対する最近の攻撃はその報復とみられ、冬前にエネルギー施設を破壊することによって、ウクライナ軍の抵抗を弱める狙いがある。
●ベラルーシに戦車170両=合同部隊のロシア軍9000人 10/18
ベラルーシ国防省高官は17日、ウクライナ侵攻が続く中、軍事同盟国同士の合同部隊に参加するためベラルーシに入るロシア軍の規模について「兵員最大9000人、戦車約170両、装甲車最大200両、口径100ミリ以上の重火器最大100門」になるとツイッターで明らかにした。
●ロシア、プーチン氏失脚や内戦に直面も=侵攻巡り辞任の元外交官 10/18
ロシアのプーチン大統領が選んだウクライナ侵攻が、プーチン氏自身の失脚につながり、内戦や国家分裂といった混乱を引き起こす恐れがあると、元ロシア外交官のボリス・ボンダレフ氏が語った。 
ボンダレフ氏はジュネーブで国連機関代表部の外交官を務めていたが、ロシアのウクライナ侵攻に抗議し、5月に辞任した。
ボンダレフ氏は米外交専門誌フォーリン・アフェアーズへの寄稿で、ロシアのプロパガンダを反映する情報をロシア政府に報告する外交官が評価される実態に触れ、こうした「イエスマン」によって、プーチン大統領が侵攻といった大きな決断を下す土壌が作られていると指摘。「プーチン氏が失脚すれば、ロシアの将来は極めて不確実なものとなる」と述べた。
プーチン大統領の主要顧問らが国家安全保障関連の歴任者であることを踏まえると、「プーチン氏の後継者が戦争を継続する可能性は十分にある。しかしロシアにはプーチン氏ほどの人物はおらず、ロシアが政治的混乱に陥る公算が大きく、カオスに陥る可能性さえある」という見方を示した。
さらに、ウクライナとのいかなる停戦も「ロシアに軍再配備の機会を与えるだけ」とし、「完敗させる以外、プーチン大統領を実際に止めることはできないだろう」と述べた。
また、「ロシアがプーチン氏よりも好戦的な指導者の下で団結し、内戦や他国への侵攻などを引き起こす可能性もある」と警鐘を鳴らした上で、ウクライナが勝利しプーチン氏が失脚した場合、1991年のソ連崩壊後にロシア人が感じた屈辱を与えないことが西側諸国による最善の行動という認識を示した。
ボンダレフ氏の寄稿文について、ロシア外務省からコメントは得られていない。
●反戦訴えたロシア国営テレビ元職員 ロシアから出国  10/18
ことし3月、ロシア国営テレビのニュース番組の放送中、スタジオに入って反戦を訴えるなどプーチン政権によるウクライナ侵攻への抗議を続け、当局から指名手配されていた元職員がロシアから出国したことが明らかになりました。
ロシア国営の「第1チャンネル」の職員だったマリーナ・オフシャンニコワさんは、在職中のことし3月、ニュース番組の放送中にスタジオに入り、「戦争反対」と書いた紙を掲げてロシアによるウクライナ侵攻を批判し注目されました。
ことし7月にも軍事侵攻に抗議する活動を行い、ロシア軍に対するうその情報を広めた罪で起訴され、裁判所から自宅軟禁の決定を受けていましたが、今月に入って行方が分からなくなったとして、ロシア内務省が指名手配していました。
国営のロシア通信は17日、弁護士の話として、オフシャンニコワさんがすでにロシアから出国していると伝えました。
弁護士は「オフシャンニコワさんはロシアを離れることを余儀なくされた。現在はヨーロッパのある国で保護されている」と話したということです。
また、フランスのAFP通信は、同じ弁護士の話として、オフシャンニコワさんが娘とともに自宅軟禁の場所を離れた数時間後に出国したとしたうえで「公の場で話せるようになるにはまだ安全ではない」と話したと伝えています。
●鈴木宗男氏 批判受けても貫く“ロシア擁護”… 10/18
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから8ヵ月が経とうとしている。10月10日、11日にウクライナに向けて発射されたミサイルは100発を超え、少なくとも30人にのぼる死者が出たと報じられるなど、未だ終結の兆しが見えない。
そんななか、日本維新の会の鈴木宗男参院議員(74)が更新したブログが物議を醸している。
14日にロシアのプーチン大統領は会見で、「国防省は、部分的な動員を開始した当初、30万人ではなく、もっと少ない人数を想定していた」「部分的動員に関する追加的な計画はなく、国防省から新たな提案も受けていない」などと発言。
これを受けて鈴木氏は16日にブログを更新し、《ロシアが劣勢とか追い詰められているという情報が、アメリカ、イギリスの情報筋から流れ、日本のメディアはそのまま流しているが、その情報は本当に正しいのかとふと考える》と持論を展開した。
さらに、《後2カ月もすれば、どこの情報が正しかったか、テレビに出ている軍事評論家、専門家と称する人たちの発言が正確であったかどうか、はっきりすることだろう》と続けた鈴木氏。
《ウクライナの国防省は『ロシアが持つミサイルの3分の2を使用し、ロシアはミサイル不足』と指摘している》とし、《ならばウクライナはアメリカからのミサイル供与を止めて停戦すべきではないか。自前で戦えないなら即刻止めるべきである》とも主張した。
侵攻が始まった当初から国際法違反であると指摘されているロシアの一方的な軍事侵攻。しかし、鈴木氏はこれまでにも“ロシア擁護”ともとれる発言を繰り返してきた。
「7日にウクライナのゼレンスキー大統領が北方領土を日本領と認める大統領令に署名したことが明らかになりましたが、鈴木氏はブログで《単純に考えれば日本を支持する立場のように見えるが、有難迷惑な話である》と真っ向から批判しました。
また、6月にも武器を供与してほしいと求めるゼレンスキーに対し、“自前で戦えないのならウクライナ側から第三国に停戦の仲立ちをしてもらうべき”とし、ウクライナの“名誉ある撤退”を呼びかけています。また、ウクライナが戦闘を続けることで世界的に物価が上昇しているとの私見を述べ、波紋を呼んでいました」(政治部記者)
一貫してロシアに対し肯定的な発言を繰り返す鈴木氏に、インターネット上では厳しい声が寄せられている。
《米英の情報に疑いを持つのは勝手だが、ロシア発の情報には持たないのでしょうか。ここまでくると、ロシア教の強い信者のようだ。「停戦」、簡単に言うが、ウクライナ側から「どうぞ、ロシア様降参します」と言えと提案しているのかなあ。「2ヵ月すれば・・・」・今年中だよね。気にしていますので、2か月後に鈴木さん、必ず発信してください。》
《鈴木さん、言ってることが支離滅裂ですよ。米英の情報ではロシアの劣勢を伝えられているが、2か月後の戦況は間違っていることが証明されると言及しながら、ウクライナが自前の軍備で闘えないなら、降伏して速やかに戦争を終わらせとあるが、侵略戦争を始めたのはロシアで「降伏・戦争終結」を訴える相手国はロシアのプーチンである。これまでの経緯を正しく理解をすることを望みます。》
《鈴木氏のロシアによる侵略行為に対する見解は分かった。これに対して維新はどのような考えなのだろうか。次の選挙の参考にするから維新のロシアによる侵略行為に対する見解をはっきりさせてほしい。》 
●北の国境に神経とがらせるウクライナ ロシア軍がベラルーシに再流入 10/18
先週、ベラルーシのルカシェンコ大統領が自国とロシアによる合同部隊を結成し演習を行う意向を発表すると、ウクライナの首都キーウ(キエフ)に緊張が走った。
前回ロシアとベラルーシが合同軍事演習を行ったのは今年2月。ロシア軍の多くはその後ウクライナとの国境を越えて不成功に終わったキーウへの進軍に踏み切った。
ベラルーシが強力な軍隊を持っているわけではない。しかしウクライナの北側に伸びる長い国境線が今年再びロシア軍の通り道になるという予測は、すでに目一杯の戦いを強いられているウクライナ軍にとって悪夢に他ならない。ウクライナとベラルーシが共有する国境は長さ1000キロ。大半は人がほとんど住まず、深い森林に覆われている。
新たにベラルーシの部隊に加わるロシア軍兵士の第1陣が15日、ベラルーシに到着した。同国の国防省が明らかにした。国際軍事協力部門のトップによると、駐留予定のロシア軍兵士は合わせて9000人弱になるという。
現在、ウクライナ軍は東部と南部で攻勢に出る一方、ドネツク、ザポリージャ両州の一部ではロシア軍を食い止めている。戦争開始から7カ月が経過する中、ウクライナ軍も敵と同様に消耗しており、北部防衛のため軍を動かせばすでに数多くの前線で戦う部隊をさらに酷使することになる。
ベラルーシは前述の合同部隊について、あくまでも防衛のためのものだと主張。ルカシェンコ氏は先週、部隊はベラルーシに対するウクライナからの攻撃に備えた抑止力であり、そうした攻撃について警告を受けていたと明らかにした。
またマケイ外相も14日、対テロ作戦を実施中と説明。「隣国による挑発行為が差し迫っているとの報告」を受けての措置だとした。
ウクライナはこうした主張を激しく否定。外務省はロシア側の挑発の一環である可能性が排除できないと指摘した。
ゼレンスキー大統領も主要7カ国(G7)首脳とのオンライン会合で「ロシアはベラルーシを直接この戦争に引きずり込もうとしている」と非難した。
ベラルーシの鉄道を利用した装備の移動が大幅に増えているのは間違いない。ソーシャルメディアに上がった動画には、多数の鉄道車列が戦車などの装備を乗せ、国内を移動する様子が映っている。1台の車両にはモスクワ軍管区のものとみられるマークがある。
アナリストらはこれらの装備の大半について、おそらくロシアに帰属するものであり、ベラルーシ国内の備蓄から持ち出していると分析。ロシア軍がウクライナで被った損失の埋め合わせに使用されると考えている。先月は特にこうした動きが顕著だったともしている。
ルカシェンコ氏は、自国の軍隊をロシアの特別軍事作戦に投じると明言はしていない。また大半のアナリストは、仮にベラルーシ軍が投入されても影響はほとんどないとみている。
ポーランドに拠点を置く独立系の国防アナリスト、コンラッド・ムジカ氏はベラルーシ軍をつぶさに調べ上げたうえで、その戦力について「比較的弱い」と確信する。
同氏によれば現在のベラルーシ軍の人員は平時に必要とされる戦力の50〜60%で、上限を満たすには少なくとも2万人の動員が必要になるという。
それでもルカシェンコ氏は先週、いかなる動員の発表も計画していないと改めて述べた。
ムジカ氏の想定するシナリオは3つある。1つは演習が北大西洋条約機構(NATO)加盟国による攻撃に備えるものだということ。もう1つはウクライナ軍をベラルーシ国境に引き付けるためのものだということ。さらにはウクライナ襲撃への準備という見方だ。
最初のシナリオは発生する見通しがなく、最後の選択肢もベラルーシ国内で大変な不評を買うだろう。同国におけるウクライナへの敵意は、ロシア国内でかき立てられているレベルに遠く及ばない。
だが、ウクライナが北の国境に神経をとがらせるという状況はロシアにとって都合がいい。キーウが近いという大きな理由もある。
ウクライナ統合軍のセルヒ・ナイエフ司令官によれば、ベラルーシはすでにロシアのミサイル配備にとって重要な役割を果たしている。ウクライナが推計したところ、そこには弾道ミサイルシステム4基、「S400」地対空ミサイルシステム12基が配備され、先週には複数のイラン製ドローン(無人機)が国境の北から到着していた。ロシア軍の戦闘用航空機もさらに到着しつつあると、ベラルーシ国防省は明らかにしている。
ウクライナの当局者が推計するベラルーシ国内のロシア軍兵士の数は1000人程度だが、これが急増すれば再び攻勢の脅威が北部作戦地域で生まれると、ナイエフ氏は警鐘を鳴らす。とりわけキーウに対してはそうだという。
一方、最近の部分的動員令にもかかわらず、米シンクタンクの戦争研究所は14日、現時点でのロシアについて、北からウクライナを攻める軍勢を形成する能力はないと分析した。東部ドンバス地方での戦闘で消耗を続けていることが要因だとしている。
ルカシェンコ氏は戦争を通じて微妙な一線を守っている。プーチン氏の「特別軍事作戦」を支持しながら、自国軍は関与させていない。
先週には特別軍事作戦への参加を明言し「それを隠していない」としつつ、「我々は誰も殺していないし、どこにも軍隊を派遣していない。我々の義務に違反していない」と強調した。
ただルカシェンコ氏の動ける余地は小さくなりつつあるかもしれない。2020年の大統領選で物議を醸す再選を果たした後、ベラルーシ国内では大規模な抗議行動が勃発し、同氏はロシア政府への依存を一段と強めている。同政府がウクライナでの何らかの「勝利」を必要とする状況に拍車がかかれば、同盟国ベラルーシには協力を迫る強い圧力がかかるかもしれない。
同時にルカシェンコ氏には、経験の浅い自国の軍隊がウクライナで大損害を被る事態を避けたい思惑もあるだろう。自らの治安部隊が戦争に割かれたり弱体化したりすれば、混迷を増す一方の国内で我が身が危険にさらされるからだ。
●ロシア報道官 一方的併合4州 “ロシアの「核の傘」保護対象”  10/18
ロシア大統領府のペスコフ報道官は18日、ロシアが一方的な併合に踏み切ったウクライナ東部と南部の4州について、ロシアの法律や経済、そして安全保障にこれらの地域を統合するための作業が進められていると説明しました。
そして記者団からこれらの地域にロシアの「核の傘」が適用されるのか、質問されたのに対し「これらはすべてロシアの不可分の地域だ。われわれの保護の元にあり、ロシアのほかの地域と同じレベルで安全が確保される」と述べました。
ペスコフ報道官の発言は、一方的に併合したウクライナの地域もロシア軍の核戦力による「核の傘」の保護の対象だという認識を示したものとみられ、領土奪還を目指すウクライナや軍事支援を続ける欧米諸国をけん制するねらいがうかがえます。
●「発電所の3割破壊され全土で停電」…露がエネルギー施設に集中攻撃  10/18
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は18日、「国内の発電所の約30%が10日以降に(ロシア軍によって)破壊され、全土で大規模停電が起きている」と被害を明らかにし、露軍を非難した。
18日、ウクライナ南部ミコライウで、ミサイル攻撃を受けた建物の写真を撮る住民(ロイター)18日、ウクライナ南部ミコライウで、ミサイル攻撃を受けた建物の写真を撮る住民(ロイター)
ウクライナ大統領府副長官のSNSなどによると、露軍は18日、首都キーウや中部ジトーミル、東部ドニプロなどでエネルギー関連施設を集中的に攻撃した。2日連続で標的となったキーウでは東部に3回攻撃があり、3人が死亡した。ドニプロの電力施設は「深刻な被害」を受け、断水している地区があるという。南部ミコライウは18日未明の攻撃で停電し、東部ハルキウも同日、露軍の砲撃を受けた。
プーチン露大統領は14日、全土への攻撃は「必要ない」と述べていたが、同日以降もやむ気配がない。英国防省は18日、8月から続く露軍の劣勢を背景に「広範囲のエネルギー供給網に打撃を与えることが主要な目的だ」との見方を示した。
米国のカリーヌ・ジャンピエール大統領報道官は17日の記者会見で、露軍が自爆型無人機(ドローン)を多用していることに関し「プーチン氏の残虐性を示すもので、強く非難する」と述べた。イランによる無人機供給についても「軍事、民間両施設に使用された多くの証拠がある」と明言した。
露軍が占拠している南部ザポリージャ原子力発電所では、原子炉の冷却に必要な外部電源が断続的に喪失している。ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムは18日、ウクライナ人の幹部職員2人が17日に露側に拘束されたと発表した。
露軍はキーウの北側に位置するベラルーシに9000人規模とされる部隊を配備し、揺さぶりをかけている。ベラルーシ国防省幹部は17日、露軍の装備が「戦車約170両、装甲車両最大200台、口径100ミリ以上の重火器は最大100門」になると説明した。
●プーチン大統領の失脚と内戦§I元外交官が予測「侵攻は大失敗」 10/18
ウクライナ侵攻に抗議するため辞職したロシアの元外交官、ボリス・ボンダレフ氏が米外交誌への寄稿でプーチン政権の崩壊とロシアの危機について予測した。プーチン氏が始めた軍事作戦は失敗に終わり、失脚や内戦、国家分裂に発展する恐れがあるというものだ。専門家は「1917年のロシア革命以上の混乱になる」と話す。
ボンダレフ氏は スイス・ジュネーブにあるロシア国連代表部に勤務していたが、今年5月にウクライナ侵攻とプーチン政権に抗議するため、20年間勤務した露外務省を辞職した。
フォーリン・アフェアーズ(11/12月号)への寄稿でボンダレフ氏は、「プーチン大統領がウクライナを征服する試みに失敗した」と指摘、「敗北でプーチン氏は国内で危険な状況に直面することになる」とし、側近によるクーデターなどで失脚する可能性があるとした。
プーチン氏が追放された場合、「ロシアの将来は非常に不確実になる。後継者が戦争を継続しようとする可能性が十分にある」としたうえで、「多くのロシア人は国が分裂したり、経済的、政治的な大変動を経験したりした場合、精神的に限界を迎える」と言及。「プーチン氏より好戦的な指導者の下で団結し、内戦や、外部への侵攻を増やす可能性もある」との見方を示した。
一方、現状でウクライナと停戦しても「再攻撃の前に再武装の機会を与えるだけだ」と警告。プーチン氏を制止する唯一の手段は「完敗」させるしかないとした。西側諸国には「大規模な支援によってウクライナ軍はロシア軍にさらに深刻な敗北をもたらし、他の領土からの撤退を余儀なくさせる」と提言した。
ウクライナ戦線では、キーウ(キエフ)中心部で17日早朝、自爆用ドローンによる攻撃があり、当局によると、4人が死亡。イランにより対露武器供与も伝えられた。
ロシア政治に詳しい筑波大の中村逸郎名誉教授は「ボンダレフ氏の見解は国内の歴史家や評論家の意見とも一致し、現実味を帯びている。ロシアはプーチン氏と一体化してきた側面がある分、政権が崩壊すれば、連邦が混乱を起こす可能性はある。国内では、第一次大戦による困窮に起因したロシア革命以上の大混乱になるとみる向きもあるほどだ」と語った。
●旧ソ連圏、ロシアと距離 侵攻に苦言も 10/18
ロシアが勢力圏とみなす旧ソ連圏でプーチン大統領の求心力に陰りが見え始めている。プーチン氏は14日、旧ソ連諸国で構成する独立国家共同体(CIS)の首脳会議で結束を呼びかけたが、加盟国からはウクライナ侵攻を続けるロシアと距離を置く動きが表面化。9月には一部地域で加盟国同士の武力紛争も再燃し、仲介役を担ってきたプーチン氏は善隣関係のつなぎとめに腐心している。
「(対ロシアの)制裁圧力にもかかわらず、CIS諸国との経済交流は着実に拡大している」。プーチン氏は中央アジア・カザフスタンで開かれたCIS首脳会議でこう述べ、ロシアとの関係強化を訴えた。
会議にはロシアのほか、ベラルーシ、アゼルバイジャン、アルメニア、中央アジア5カ国の首脳が出席。プーチン氏にはウクライナ侵攻で苦境が続く中、経済や安全保障分野で国際的な孤立を回避する狙いがあるとみられ、カザフスタンでは別途、ロシア・中央アジア首脳会議も開催した。
だが、ウクライナ侵攻に対する加盟国の姿勢には温度差がある。カザフスタンのトカエフ大統領は旧ソ連圏の国境問題は「平和的な手段でのみ解決されるべきだ」と苦言を呈した。ロシアのウクライナ東・南部4州の一方的な併合宣言を受け、12日の国連総会で採択された非難決議に反対したのはCISではロシアとベラルーシだけで、7カ国は棄権や無投票に回った。
CIS加盟国では9月に係争地ナゴルノカラバフを巡って対立するアゼルバイジャンとアルメニアが国境付近で戦闘を再発。中央アジアのタジキスタンとキルギスの国境でも武力衝突が発生し、米シンクタンク「戦争研究所」は、ロシアが両国に駐留する自国部隊の一部をウクライナに投入したことが地域の不安定化を引き起こした可能性を指摘する。
●タジク大統領、プーチン氏に注文 最貧国が「名演説」「物乞いではない」 10/18
旧ソ連圏の関係を巡り、中央アジアのタジキスタン首脳が、ロシアのプーチン大統領に注文を付けた「名演説」が話題となっている。
ウクライナ侵攻で、プーチン氏がイエスマンに囲まれているのではないかと懸念が浮き彫りになる中、歯に衣(きぬ)を着せぬ直言はロシアでも注目を集めた。独立系メディアは珍しく演説の全文を紹介した。
「小さな民族だが、歴史も文化もある。尊重してほしい」「われわれは物乞いではない」。発言の主はタジクのラフモン大統領。14日にカザフスタンの首都アスタナで開かれた第1回ロシア・中央アジア首脳会議で、優しい語り口ながらも約8分間、プーチン氏に耳を傾けさせた。
ラフモン氏は、プーチン氏と同じ1952年10月生まれの70歳。タジク内戦中の94年から大統領を務め、国家指導者としてはプーチン氏の先輩だ。中央アジアの他の4カ国は近年、大統領が交代したばかりで、ソ連共産党活動を経験している「たたき上げ」の大物はラフモン氏だけという事情もある。
タジクは旧ソ連を構成した15カ国の中で最貧国のままだ。演説では、ソ連時代に中央アジアが経済発展から取り残されたことを挙げ「そのような政策を取ってほしくないというのがわれわれの願いだ」と訴えた。ウクライナ領の占領地を一方的に「併合」するなど、他国軽視が目立つロシアに、あくまで対等な関係を求めたものとみられる。
くしくも今月15日、ロシアのウクライナ国境近くの軍演習場で乱射が発生し、タジク人が容疑者と伝えられた。旧ソ連圏の民族共存はプーチン政権の課題だ。
5月9日の対ドイツ戦勝記念行事は近年、ウクライナ危機や新型コロナウイルス禍で、来賓は少ないが、ラフモン氏は2021年に参加してロシアの顔を立てた。この年参加した外国首脳はラフモン氏ただ一人で、今年はゼロ。今のところこの行事に参加した「最後の外国賓客」だ。「小さな民族」とはいえ、プーチン氏も一目置くリーダーとして存在感を示している。
●ロシア、動員終了は「まだ」 大統領府 10/18
ロシア大統領府は18日、ウラジーミル・プーチン大統領が出した部分的動員令について、大統領には動員を終了させる計画は「まだ」ないものの、動員が完了した地域もあると明らかにした。
大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は「今のところ(動員終了に関する)大統領令は出ていない」と述べた。
一方で、すでに設定された動員目標を達成した地域もあると明かしたが、具体的な地名は挙げなかった。
またペスコフ氏は、プーチン大統領が定めた目標の30万人を超えて動員することはないと約束した。
前日には、首都モスクワのセルゲイ・ソビャニン市長が、同市での動員を終了し、市内の徴兵事務所を閉鎖すると発表していた。
プーチン大統領は先月21日、ウクライナ侵攻の兵力増強のため、全国規模の部分的動員令を発表。男性の国外流出を引き起こし、国民の間に不満が広がった。
●キルギス、ロシアに支援要請 タジクとの国境紛争で 10/18
中央アジア・キルギスのサディル・ジャパロフ大統領が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、隣国タジキスタンとの国境紛争解決に向け支援を要請した。キルギスの国営ラジオが17日、伝えた。
国家安全保障会議のマラット・イマンクロフ副議長は、キルギス、タジキスタン両国間での問題解決は難しいと説明。「大統領はプーチン氏に支援を訴えた」と語った。
両国ともに旧ソ連構成国で、970キロにわたって国境を接している。ソ連崩壊以降、その一部をめぐり係争が続いており、軍事衝突も頻発している。
先月にも国境沿いのキルギス南部バトケン州で衝突があり、両国の治安当局によると100人近くが死亡した。
イマンクロフ氏は、旧ソ連崩壊時に国境が画定されなかったことが原因だと指摘。「ソ連の継承国はロシアであり、当時の文書や地図はモスクワで保管されている」と述べた。
タジキスタンとキルギスは共に、ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟している。プーチン氏は13日に行われたCSTO会合の際、両国首脳と会談。ロシアは「仲介の役割を果たすふりはしない」とした上で、文書や地図を見て解決策を探りたいと語っていた。

 

●プーチン氏の「私兵」ワグネル、著しい士気低下 ロシア失速に伴い 10/19
草むらにウクライナ人の遺体が並び、その横の地面には爆発でえぐられた穴が空いている。ロシアの傭兵(ようへい)に引きずられてきた遺体の腕は、死亡した場所の方を向いている。
「遺体に手投げ弾を仕掛けよう」。しゃがれたロシア語でそう話す声が聞こえる。どうやら遺体にブービートラップを仕掛ける計画らしい。
「手投げ弾の必要はない。やつらが来たら叩(たた)きのめすだけだ」。別の声の主がそう話すのも聞こえる。遺体の回収に来るウクライナ兵のことを言っているのだ。その後、傭兵たちは弾薬が尽きていることに気付いた――。
CNNが独占入手したこうした戦場の映像や音声、ウクライナで戦うワグネルの兵士への取材、そして欧州で亡命を求めるワグネル元指揮官が率直に語った異例のインタビューを総合すると、ロシア随一の傭兵集団の現状についてこれまでにない見方が浮かび上がってくる。
ロシア正規軍の補給や士気の問題、戦争犯罪疑惑に関してはよく知られているが、同様の危機はプーチン大統領の非公式の突撃部隊と言われるワグネルの傭兵にも存在しており、ロシアのウクライナ戦争に不吉な影を投げかけている。
クレムリンの影で
ワグネルの部隊はここ数年、世界に悪名を轟(とどろ)かせてきた。だが、ウクライナでのプーチン氏の「特別軍事作戦」にほころびが生じ、徴兵を目的とした「部分的動員」の発表で20万人を超えるロシア人が隣国に逃げ出すなか、精鋭とされるワグネルにも亀裂が見え始めている。
2014年の創設以来、ワグネルの任務や国際的な存在感、評判は拡大してきた。専門家の間ではクレムリン(ロシア大統領府)公認の民間軍事会社との見方が多い。ワグネルの戦闘員は14年にロシアが侵攻したウクライナや中東シリアのほか、スーダンやリビア、モザンビーク、マリ、中央アフリカ共和国を含むアフリカ諸国でも活動している。
ワグネルはロシア国内で信頼できる貴重な戦力との評判を得ており、ロシアの世界的な国益を強化したり、アサド政権支援を目的としたシリア介入で既に逼迫(ひっぱく)しているロシアの軍事資源を補強したりする役割を果たしてきた。CNNが以前報じたように、ワグネルの派遣はスーダンの金からシリアの石油に至る収益性の高い資源の支配で鍵となることが多い。
求人動画で現代的な装備を誇示し、重兵器にヘリコプターまで擁するワグネルは、米国の特殊部隊に似た存在だ。
「もしロシアが傭兵集団を大規模投入していなかったら、ロシア軍がこれまでのような成功を収めることはできなかっただろう」。かつてシリアで傭兵95人を率いていたマラット・ガビドゥリン氏はCNNにそう語った。
ウクライナで戦う元同僚と連絡を取っているというガビドゥリン氏によると、クレムリンの戦争遂行に乱れが生じるなか、ロシアによる傭兵の活用は加速している。ウクライナのレズニコウ国防相によると、ワグネルの兵士は「特に難しく重要な任務」に投入され、南部マリウポリやヘルソンにおけるロシアの勝利で重要な役割を果たしたという。
CNNはロシア大統領府にコメントを求めたものの、返答はない。
ワグネルに関する公式情報は限られており、クレムリンがワグネルの存在や国家とのつながりを長年否定してきたことから、ワグネルの悪評や魅力はいや増してきた。一方で、情報不足はワグネルの実力や活動内容に関する分析を曇らせる結果にもつながった。
だが、動画に映るワグネルの傭兵たち自身の証言を見る限り、現実にはワグネルはロシアと同じく苦戦している。
経験不足
戦闘開始から7カ月あまりが経過する中、ウクライナにおけるロシア軍の戦いぶりには厳しい光が当たっている。ロシアの戦果は開戦当初のプーチン氏の野心的な目標に比べれば小さなものだが、払った犠牲は大きい。前線の部隊は壊滅し、兵力の多くや極めて重要な経験が失われた。
ワグネルの元指揮官であるガビドゥリン氏は2019年に組織を離れた後、在籍当時を振り返る回想録を出版した。同氏は傭兵とロシア正規軍を区別する要素の一つとして実戦経験、もう一つの要素として報酬を挙げる。
「これらの傭兵組織の中心には常に、何度も戦争をくぐり抜けてきた極めて経験豊富な人材がいた」と同氏は語る。
ガビドゥリン氏はソ連時代末期に空挺(くうてい)部隊の下級将校として従軍した後、ロシアによる2014年のウクライナ東部侵攻を機に軍隊生活に復帰した。ワグネルの中心人物の多くはガビドゥリン氏と同様、ウクライナやシリアで戦った経験をおそらく持ち、大半の正規兵にはない貴重な実戦経験を積んでいるとみられるという。
「彼らは正規軍よりも重みのある重要な経験を積んでいる。正規軍を構成するのは契約書に署名せざるを得なかった若い兵士たちであり、何の経験も持っていない」(ガビドゥリン氏)
ワグネルを始め、ウクライナに展開するこれらの準軍事組織がロシアにとって貴重な存在であるのはそのためだ。
ワグネルを監視するウクライナ国防情報機関の報道官によると、ウクライナでは現在、ワグネルとつながりのある傭兵少なくとも5000人がロシア軍と活動を共にしている。フランス情報機関の情報筋もこの数字を裏付け、ワグネルの戦闘員の一部はウクライナでの作戦を支援するためアフリカを離れたと指摘した。
ウクライナ国防省によると、ロシアは強襲部隊としてワグネルの戦闘員に頼る場面がますます増えているという。ワグネルの要員はロシアの公式の死者数には算入されず、存在すら否定される作戦に投入される。プーチン氏にとって国内で政治的に敏感な死傷者数の問題をワグネルが引き受けているのだ。
米国防当局の高官は9月、「ワグネルはウクライナで多大な損失を出している。特にやはり、若い経験不足の戦闘員の死者が多い」との見方を示した。
ガビドゥリン氏によると、ワグネルの部隊が活用される背景には、「米ドルでロシアの平和を買う」という単純な計算がある。
傭兵の月給は最大で5000ドル(約73万円)に上る。
ウクライナ国防当局高官の話や、ウクライナ当局が開戦以来ワグネルについて収集してきた情報によると、ウクライナの戦車や部隊を壊滅させたワグネルの戦闘員には全額米ドルのボーナスまで支払われているという。
英国防省によると、ワグネルの戦闘員はほぼ通常の部隊として前線の特定の区域に配置されることもあり、ウクライナで別個の限定的な作戦に従事していた以前の状況からは大きな変化が見られる。
ウクライナの当局者はまた、ワグネルがウクライナの前線の穴をふさぐ役割に使われる場面が増えていると指摘。米国防当局高官もこれを確認し、バフムート制圧を目指す攻勢に集中投入されているチェチェン人戦闘員などとは異なり、ワグネルは各地の前線に投入されていると付け加えた。
このため、兵たん面で大きな課題が生じている。ウクライナがロシアの兵たんへの攻撃を強化する中で、長期作戦に必要な弾薬や食料、支援をワグネルの戦闘員に供給しなければならない状況だという。
ウクライナ国防省がCNNに提供したワグネル戦闘員のボディーカメラのものとされる8月の映像には、傭兵たちが防護具やヘルメットの不足について不満を漏らす様子が映っている。別の動画では戦闘員の1人が、弾薬切れにもかかわらずウクライナの陣地への攻撃を命じられたと不満を語っている。
補充すべき戦力
戦場での損耗もワグネルの要員の減少に拍車を掛けている。対策として、ワグネルは異例の公開求人に乗り出した。
ロシアにはワグネルの新兵を募集する看板が出現。携帯電話の番号や迷彩服を来た戦闘員の写真が掲載されている。「オーケストラ『W』は君を待っている」とのスローガンは、ワグネルの過去の通称である「オーケストラ」に言及したものだ。
ワグネルによる採用活動の拡大は、過去の秘密主義からの転換と軌を一にしている。プーチン氏に近いエフゲニー・プリゴジン氏も9月下旬、ついにワグネルのトップであることを認めた。プリゴジン氏は長年ワグネルとの関係を否定して距離を置こうと試み、自身を調査するロシアメディアを相手取った訴訟まで起こしていた。
ワグネルの採用活動はSNSやインターネット上にも広がっている。採用担当者の1人はCNNに対し、月給は「少なくとも24万ルーブル(約56万円)」で、「出張」(配備を表す隠語)期間が少なくとも4カ月あると説明。採用担当者のメッセージの多くには、がんやC型肝炎、薬物中毒など、入隊の妨げとなる医学的条件が列挙されていた。
精鋭軍事組織とのイメージとは裏腹に、ワグネルの採用担当者の1人はCNN記者の取材に驚くべき事実を認めた。軍隊経験は不問なのだという。
刑務所での採用
9月には、ロシアの刑務所で受刑者をワグネルに勧誘しているとみられるプリゴジン氏の動画が浮上した。プリゴジン氏が提示した条件は、ウクライナでの6カ月間の戦闘との引き換えに恩赦を与えるというものだった。
一時はロシア有数のプロフェッショナルな部隊と考えられていたワグネルにとって、これは数カ月前には考えられなかった動きだ。
こうした募集方法について、ワグネルの元指揮官ガビドゥリン氏は「苦肉の策」と評する。
プリゴジン氏が刑務所で進めているとみられる採用活動は、受刑者を戦闘に動員しようとするロシアの幅広い取り組みとも重なる。受刑者に提示される月給は数千ドルで、死亡した場合には遺族に数万ドルが支払われる。
ワグネルの同僚にとっても、敵側のウクライナにとっても、これは懸念すべき状況だ。
ウクライナ検察のユーリ・ベロウソフ氏はCNNに対し、「(ワグネルは)誰でもいいからとにかく派遣する構えだ」「プロフェッショナルかどうかという基準はもう存在しない」と指摘した。
ロシアの戦争犯罪を捜査しているベロウソフ氏は、緩い採用基準が戦争犯罪の深刻化につながると懸念を示す。
刑務所からの直接採用は新しい試みだが、ガビドゥリン氏によると、犯罪歴自体は以前からワグネルへの採用の妨げになっていなかった。ガビドゥリン氏自身、殺人罪で3年間服役した経験がある。ワグネルの著名な指揮官の中には、服役後に世界各地で転戦した者もいるという。
内なる敵
ウクライナでのワグネルの苦境はより大きな問題を引き起こしている。組織内の不満だ。給与と仕事内容の魅力が売りの組織にとって、これは死活的な問題となる。
ウクライナの情報機関は8月、傍受した携帯電話の通信をもとに、ワグネルの兵士の「士気や心理状態の全般的な低下」を指摘した。ウクライナ国防情報当局の報道官が明らかにした。こうした傾向はロシア軍の中に広く見られるという。
ワグネルの採用条件が緩和されている点からも士気低下がうかがえるほか、「ワグネルでの戦闘に志願しようという真のプロフェッショナルな兵士」の数も減少している。
以前の同僚とほぼ毎日話しているというガビドゥリン氏によると、こうした士気低下の背景には「全般的な戦闘体制への不満、(ロシアの指導層が)適切な判断を下せていない、戦闘体制を整備できていないという不満」がある。
助言を求めてガビドゥリン氏に連絡してきた傭兵の1人は、指導部の無能さに耐えられなくなったと語り、「限界だ。もうあそこには行かない。もう参加しない」と訴えた。
ロシアがウクライナで勝利する見込みが薄れ、前向きな戦果を主張する望みさえ少なくなる中、ロシアの傭兵としての生活には以前ほどの魅力がなくなっているのが実情だ。
ウクライナ検察のベロウソフ氏は、「給料が仕事に見合わなくなったのかもしれない」と指摘した。
ウクライナの前線から相次ぎ届く動画の一つからは、ワグネルの戦争の陰惨な現実が如実に浮かび上がる。CNNに提供されたその映像は、ワグネルの作戦の様子を捉えたものとされる。
映像では、戦死したワグネルの傭兵が安らかと言ってもいい様子で横たわり、左手で黒い土を軽くつかんでいる。周囲の戦場には煙が立ちこめ、遺体や炎上した装甲車の残骸を覆っている。時折、煙を貫いて銃声が響く。
「すまない、兄弟。すまない」。死亡した兵士の同僚はそうつぶやき、激しい戦闘で上半身裸になった遺体の背を軽くたたいた。「ここから離脱しよう。もし彼らが撃ってきたら、今度は我々が彼の隣に倒れることになる」
●ウクライナで停電 断水 ロシア軍によるエネルギー施設攻撃続く  10/19
ウクライナでロシア軍によるエネルギー関連施設などへの攻撃が18日も続き、首都キーウでは3人が死亡したほか、発電所などが被害を受けて停電や断水が起き、市民生活への影響がさらに広がっています。
ウクライナでは17日に続いて18日もロシア軍による攻撃が各地で確認され、ゼレンスキー大統領は国内の発電所の3割が破壊されたとしてロシアを非難しています。
このうち首都キーウのクリチコ市長はSNSで、市内の発電所への攻撃で3人が死亡したと明らかにしました。
発電所の周辺の一部地域では停電や断水が起きています。
集合住宅の9階に住むマクシム・ヘラシコさん(42)の部屋では、朝から停電となり、テレビで情報を集めることができずレジャー用の蓄電池でスマートフォンを充電してしのいでいました。
また停電によって水道のポンプが停止したため水の出が悪くなっていて、バケツやタンクに水をためて断水に備えていました。
ヘラシコさんは「一般市民がミサイルや自爆型の無人機の攻撃を受ける事態は、まさにテロだ。政府が復旧を急いでいるので、停電が今晩までに解消されることを願っています」と話していました。
またヘラシコさんの長男で4歳のオレシ君は「電気がつくと平和がくると感じます」と話していました。
キーウ市内では一部の地域で信号機が消えていたほか、電気で動くトロリーバスの運行ができなくなるなど公共交通機関にも影響が出ています。
運転手の36歳の男性は「電気が復旧するまで待つしかありません。復旧すれば運行を再開します」と話していました。
このほか自家発電機を使って電気を確保する店舗も見られ、本格的な寒さを迎えるのを前に、ロシア軍の攻撃による市民生活への影響がさらに広がっています。
●ウクライナ侵攻「状況緊迫」 あらゆる手段講じるとけん制―ロシア軍総司令官 10/19
ロシア軍のウクライナ侵攻作戦を統括するスロビキン総司令官は18日、ロシアのメディアのインタビューで、一方的に「併合」した東・南部4州でウクライナ軍が防衛線の突破を試みており、状況は「緊迫している」との認識を示した。スロビキン氏はその上で、「困難な決断を下すことも排除されない」と述べあらゆる手段を講じる構えを示し、ウクライナ側をけん制した。
英紙フィナンシャル・タイムズは14日、4州のうち南部ヘルソン州を巡り、早ければ今月後半にもウクライナ軍が州都ヘルソン市を奪還する可能性があると報道。親ロシア派のサリド「知事代行」は18日、州内を流れるドニエプル川のヘルソン市を除く右岸の住民を、左岸に集団退避させると発表した。ロシア軍が形勢挽回に向け大規模攻撃を行うとの見方も出ている。
スロビキン氏は、ロシア軍の苦戦を事実上認めた上で「ヘルソン市を巡るさらなる行動は、軍事・戦術の現状に左右される」と指摘。ウクライナ軍が都市への「無差別攻撃」など、禁止されている戦術に頼る恐れが大きいとも主張した。侵攻作戦の総司令官がインタビューに応じるのは異例。
●ウクライナ インフラ被害深刻に ロシアとイランの接近に警戒感  10/19
ウクライナでは首都キーウなど各地でロシア軍による攻撃が続き、発電所などインフラ施設の被害が深刻になっています。ロシア軍による攻撃には、イランが供与した無人機も使われていると指摘されていて、ロシアとイランの軍事的な接近に警戒感が強まっています。
ウクライナでは17日夜から18日朝にかけて、首都キーウを含む各地でインフラ施設や集合住宅がロシア軍のミサイル攻撃を受け、キーウのクリチコ市長はSNSで、市内の発電所への攻撃で3人が死亡したと明らかにしました。
キーウ市内は18日、一部の地域で信号機が消えていたほか、電気で動くトロリーバスの運行ができなくなるなど、公共交通機関にも影響が出ています。
ゼレンスキー大統領は「今月10日以降、ウクライナ国内の発電所の30%が破壊され、全土で大規模な停電が発生している」として、ロシア軍による攻撃で電力施設の被害が深刻になっていると非難しました。
イギリス国防省は18日、ロシア軍がミサイルとともにイランが供与した自爆型の無人機も使ってウクライナ全土への攻撃の頻度を高めていると指摘しています。
ウクライナ政府はロシアとイランへの非難を強めていて、クレバ外相は18日、ゼレンスキー大統領に対し、イランとの外交関係を断絶するよう提言する考えを明らかにしました。
一方、イラン外務省は17日、ロシアへの無人機の供与について改めて否定し、ロシア大統領府のペスコフ報道官も18日「そのような情報はない」と述べました。
しかし、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ロシアは、無人機やミサイルを入手するためイランとの関係を利用している」としたうえで、ロシア軍がミサイル不足に陥る中で、イランとの軍事協力を加速させる可能性があると分析していて、ロシアとイランの軍事的な接近に警戒感が強まっています。
米国務省副報道官 ロシアとイランの接近は“世界にとって脅威”
アメリカ国務省のパテル副報道官は18日の記者会見で、ロシアとイランの軍事的な接近について「世界全体にとって脅威と見なすべきものだ」と述べ、警戒感を示しました。
そのうえで「アメリカはイランが兵器を供与できなくなるよう、制裁や輸出規制などの実用的かつ積極的な措置をとり続ける」と述べて、イランによるロシアへの軍事支援に歯止めをかけるため、追加の措置を講じる考えを示しました。
イラン外務省「どちらの側にも立たず いかなる武器も供与せず」
これに対しイランはロシアへの武器の供与を否定していて、イラン外務省のキャンアニ報道官は17日「イランはウクライナとロシアの戦争でどちらの側にも立たないし、いずれに対してもいかなる武器も供与していない」と主張しています。
そのうえで「何十億ドル分もの兵器などを戦争当事者の一方に供与してきた国々が、もう一方への供与を非難するのはブラックジョークだ」とし、ウクライナを軍事的に支援する欧米各国を非難しています。
こうした中、アメリカ政府は無人機の供与に関わったとしてイランの企業に制裁を科すなど、ウクライナや欧米各国はロシアとイランの軍事面での接近に警戒を強めています。
ロシア イランとの関係強化に力を入れる
ロシアのプーチン政権は欧米との対立が一段と深まるなか、良好な関係を維持する中国やインドに対してさらなる接近を試みています。
ただ先月行われた上海協力機構の首脳会議では中国の習近平国家主席とインドのモディ首相から軍事侵攻に対する懸念が示されたとされています。
こうした中、ロシアがいま関係強化に力を入れている国の1つが、アメリカと激しく対立する一方、ロシアとは伝統的に友好関係にある中東の大国イランです。
プーチン大統領はことし7月、軍事侵攻後、旧ソビエト諸国以外では初めての外国訪問としてイランを訪れ、最高指導者ハメネイ師やライシ大統領と相次いで会談しました。
プーチン大統領はイランとの経済や安全保障などの分野で協力を深めることで一致し、イランの実権を握るハメネイ師から直接、侵攻に踏み切ったロシアの立場への理解を取り付けています。
またともにエネルギー大国であるロシアとイランは原油や天然ガスなどエネルギー分野で協力を深める姿勢を示しているほか、いずれも欧米の経済制裁を受けるなかで通貨ドルを排除した取引を模索するなどして経済的な結び付きを強化しアメリカに対抗しようとしています。
先月にはロシアなどが主導する上海協力機構の首脳会議で、プーチン大統領は、イランの上海協力機構の正式加盟を後押ししていて、ライシ大統領と行った会談では軍事と密接な関係がある航空宇宙分野でも協力関係を深めることで一致しました。
ロシアはこれまでイランに対し高性能の地対空ミサイルシステム「S300」を売却するなど兵器を輸出してきましたが、ここにきてウクライナに侵攻するロシアが兵器不足に苦しむ中、イランが自爆型の無人機をロシア軍に供与し、先月からウクライナの戦場で使用していると指摘されています。
イギリス国防省やアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシア軍が一方的に併合したウクライナ南部のクリミアにつながる橋で起きた爆発への報復措置だとして今月10日と11日、ウクライナ各地で行った大規模な攻撃では、イランが供与したとされる無人機「シャヘド136」が使用されたと分析しています。
17日に首都キーウで行われた攻撃にもこの無人機が使われたとみられ、ウクライナのレズニコフ国防相はロシアとイランを厳しく非難したうえで各国に対し、両国への圧力を強めるよう訴えました。
また「戦争研究所」はロシア軍がイランの精鋭部隊、革命防衛隊の要員をウクライナ南部のクリミアやヘルソン州に招いて「シャヘド136」を使用するための訓練を行った可能性があると指摘しています。
イランは無人機の供与を否定していますが、アメリカ政府は先月無人機の供与に関わったとされるイラン側の団体などに制裁を科していて、両国の軍事面の接近に警戒を強めています。
旧ソビエト諸国の間でロシアの求心力低下か
ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったことに対し、ロシアが勢力圏とみなしてきた中央アジアなど旧ソビエト諸国からは、プーチン大統領と一線を画す姿勢が目立っています。
カザフスタンのトカエフ大統領は、ことし6月、プーチン大統領を前に、ウクライナ東部2州の親ロシア派による一方的な独立宣言を認めないと発言し、先月もカザフスタン外務省は一方的な併合に向けてウクライナの親ロシア派が強行した「住民投票」だとする活動を認めない考えを示しています。
また今月14日には、ロシアと中央アジア諸国との首脳会議で、タジキスタンのラフモン大統領がロシアを念頭に「われわれにも敬意を払ってほしい」と訴えました。
この発言はプーチン大統領は中央アジア各国を影響力を行使できる自身の勢力圏の一部としか見ていないとして苦言を呈したものですが、こうした異例の発言は旧ソビエト諸国の間でロシアの求心力が低下していることの表れと見られています。
●対ウクライナ戦術核使用を決める「プーチン殿の13人」 10/19
クリミア大橋爆破事件の延長線上に「核攻撃」はあるか。謎のSNSアカウント「SVR将軍」は、プーチン大統領が核使用の是非を最高意思決定機関・安全保障会議のメンバー13人に諮る方針だと伝えた。ロシアの専門家も疑心暗鬼の状況だが、強硬派「戦争党」の動きに加え、「殉教者として天国に行く」といった発言を続けるプーチン大統領の精神状態も焦点に。
岸田文雄首相は10月11日、G7(主要7カ国)首脳のオンライン会談後、「ウクライナを新たな被爆地にしてはならない」と述べ、ロシアによる核兵器の使用や威嚇に厳しく警告した。
ウラジーミル・プーチン大統領は、10月8日のクリミア大橋爆破を「ウクライナのテロ」と断定してウクライナ各地の民間施設にミサイル攻撃を命じており、戦争は新段階に入った。プーチン氏は部分的動員令を発表した9月21日の演説で、領土保全に脅威が生じた場合、核の使用もあり得ることを改めて示唆している。
追い込まれたプーチン氏が「核の選択」に踏み切るかどうかを探った。
安保会議で核使用協議か
クレムリンの内情に詳しいとされる正体不明の「SVR(対外情報庁)将軍」は10月10日、ロシアのSNS、テレグラムに投稿し、プーチン氏が戦術核使用問題で、安保会議の常任委員が全会一致で支持するという確信を得た場合に限って、会議に諮る意向だと書き込んだ。
ロシアの最高意思決定機関、安保会議は、大統領が議長、ドミトリー・メドベージェフ前大統領が副議長、ニコライ・パトルシェフ氏が書記を務め、首相、副首相(政府官房長)、国防相、外相、内相、SVR長官、連邦保安庁(FSB)長官、大統領府長官、上下両院議長、セルゲイ・イワノフ大統領特別代表の13人が正式メンバー。
プーチン氏はウクライナ侵攻に際しても、2月21日に安保会議を異例の公開で開催して全会一致の承認を取り付けた。投稿内容が事実なら、プーチン氏は核使用を決める際も、安保会議の全会一致の形を取りたい意向のようだ。その場合、個人の責任を回避する狙いとみられ、世界の命運は、「プーチン殿の13人」にかかることになる。
ただ、「SVR将軍」の翌11日の投稿によれば、プーチン氏は一部の安保会議メンバーと協議し、クリミア大橋爆破の報復として「大規模なミサイル攻撃」を決め、戦術核使用に関する議論を議題から外したと伝えた。セルゲイ・ラブロフ外相も11日、核使用の可能性について、「ロシアの存亡の危機を高める場合の報復手段としてのみ使用を想定している」と述べ、西側諸国に核使用の憶測を広めないよう要求した。戦術核使用の可能性は当面遠のいた形だ。
「SVR将軍」の投稿はフェイクニュースも多いが、最近は部分的動員令を的中させるなど、精度が上がってきた。
9月に「核の恫喝」を再開
プーチン氏は侵攻直後から「核の恫喝」を行ってきた。侵攻3日後の2月27日、セルゲイ・ショイグ国防相、ワレリー・ゲラシモフ参謀総長の2人を呼び、長テーブルで、核抑止部隊を警戒態勢に置くよう命じた。
唐突な命令からは、ロシア軍が緒戦でウクライナ軍の返り討ちに遭い、大損害を出した焦りが感じられた。しかし、米側が核抑止部隊の異常な動きを察知することはなかった。
その後、ロシア軍が体制を整え、東部と南部で支配地区を拡大すると、プーチン氏が「核の恫喝」を口にすることはなかった。ロシアの外交官らも核の使用を否定した。
ところが、9月のハルキウ州撤退など、東部と南部で苦戦を強いられると、プーチン氏は9月21日の演説で、「西側の目標はロシアを弱体化させ、滅ぼすことだ」とし、「わが国の領土保全に脅威が生じた場合、利用可能なすべての兵器システムを必ず使用する」と警告し、「これはハッタリではない」と付け加えた。
9月30日の演説でも、ロシアに一方的に編入したウクライナ東部、南部4州を含め、「あらゆる部隊と資源を使ってわれわれの領土を守る」と強調した。戦況の不利に直面し、核の恫喝による事態打開を狙っているようだ。
「戦争党」が核使用支持
ロシアでは、「戦争党」と呼ばれる強硬派が核使用を支持している。その代表格であるメドベージェフ前大統領は7月の演説で、ウクライナ側がクリミアを攻撃した場合、「終末の日」が訪れると警告した。9月27日には、「国の存続が脅かされた時、核兵器を使うことは大統領が明らかにした通りだ。ロシアが核攻撃をしても、NATO(北大西洋条約機構)は介入しないだろう」とテレグラムで発信した。
チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長も10月1日、ロシア軍がドネツク州の要衝、リマンから撤退したことを受けて、「ロシアは思い切った作戦を取るべきだ。国境付近に戒厳令を敷き、小型核兵器を使用すべきだ」と主張した。
カディロフ発言に対して、大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ロシアでは核兵器の使用は、「それぞれのドクトリンに基づく」と述べ、「困難な時であっても、地方の長が感情をむき出しにしてはならない」と不快感を示した。
2020年に公表されたロシアの核ドクトリン最新版は、核使用のシナリオとして、次の4点を規定している。
1. ロシアに対する弾道ミサイル攻撃が確認された場合
2. ロシアに対する核兵器などの大量破壊兵器攻撃が行われた場合
3. ロシアの核兵器指揮統制システムを脅かす行動がとられた場合
4. ロシアが通常兵器で攻撃され、国家の存続が脅かされる場合
ハードルが低い戦術核の使用
では、ロシアの専門家は核使用の可能性をどうみているのか。軍事専門家のパベル・フェルゲンハウエル氏は9月、筆者らとのオンライン会見で、「破壊力の強い戦略核兵器の使用は、大統領、国防相、参謀総長の承認が必要だが、出力の小さい小型戦術核は、大統領が使用許可を出せば、現場の師団長クラスが攻撃目標や時期を決定できる」と述べ、小型核兵器使用のハードルが低いことを明らかにした。ただ同氏は、ウクライナ人は同じスラブ系民族であり、隣国だとし、「核攻撃の対象にはなり得ない」と否定的な見解だった。
野党下院議員も務めたアレクセイ・アルバトフ氏は同じオンライン会見で、「核使用の可能性が低いことは、ロシアの外交・安保当局者も公言している。しかし、ウクライナ軍がクリミアやクリミア大橋、あるいは隣接するロシアの地域に攻撃を行えば、それはロシア領土への攻撃となり、戦術核を使う可能性はかなり高まる」と述べた。
政治学者のイワン・ティモフェーエフ氏は米紙「ニューヨーク・タイムズ」(10月2日)に対し、「プーチンはNATOがウクライナに直接介入する場合にのみ核を使用する」「核の使用は、中国やインドも支持しないだろう。ロシアの国際的孤立を一段と深める」と否定的だ。
一方で、ロシアの通常戦力弱体化が暴露され、プーチン氏が一段と大量破壊兵器に依存していることは間違いない。ロシアの学者も、核使用の可能性には疑心暗鬼で、不安視していた。
聖書や天国に言及するプーチンの心理状態
核使用の決断は、最終的にはプーチン氏にかかっており、戦況や軍事バランス、安全保障観だけでなく、人生観も決断に影響しそうだ。
この点で、プーチン氏が近年、精神的に不安定な発言をしているのが気になる。2018年10月18日、各国のロシア専門家らを集めて行うバルダイ会議で、核使用に関する質問に、「ロシアがミサイル攻撃を受ければ、むろん侵略者に報復攻撃する」などと述べ、「われわれは侵略の犠牲者であり、殉教者として天国に行く。彼らは罪を悔いる暇もなく、死ぬだけだ」と語った。核戦争の結果、「天国」に召されるという異常な発言だった。
9月30日の4州併合演説でも、新約聖書に出てくるイエス・キリストの「山上の垂訓」に触れ、「イエスは偽預言者を暴きながら、『これらの毒の実によって、彼らを知るだろう』と言われた。毒の実は、わが国だけでなく、欧米を含むすべての国の人々にとって明白だ」と意味不明な発言をした。「イエス」や「天国」に触れることも気がかりだ。
プーチン氏は米国人のオリバー・ストーン監督が密着取材した記録映画、「オリバー・ストーン・オン・プーチン」(2017年公開)で、死に関する質問に、「神のみぞ知る」「だれもがいずれは死を迎える」と述べ、大事なのは「かりそめの世」で何をなしえたか、人生を謳歌したかだと答え、かすかな余裕の笑みを浮かべた。
これを紹介したロシア文学者の亀山郁夫氏は、「プーチンのこの、あまりの達観ぶりに、一瞬、背筋が寒くなるのを感じた」と書いた(「日本経済新聞」電子版、2022年7月7日)。「だれもがいずれは死を迎える」の一言は、一種のニヒリズムを感じさせる。
9月30日の演説では、「アメリカは世界で唯一、核兵器を2回使用し、日本の広島と長崎を壊滅させた国である。核使用の先例を作った」と批判した。先例があるので、2回目は許されるともとれる発言だ。
ジョー・バイデン米大統領が指摘したように、「キューバ危機(1962年)以来初めて、我々は核兵器使用の脅威にさらされている」のかもしれない。
●ロシアの「一部動員」巡りモスクワ市長が動員完了を宣言 市民は不安の声 10/19
ロシアで大規模な国外脱出や抗議デモを引き起こしている「一部動員」を巡り、モスクワの市長が早々に動員の完了を宣言するなど政権側は事態の収束を図っているが、市民の不安は高まっている。
首都モスクワでは17日、ソビャーニン市長が「動員が完了した」と発表した。しかし、市長に動員を終了させる権限はなく、多くの独立系メディアが「市長の言葉を信じるな」と警告する人権派弁護士の言葉を引用している。実際に多くの自治体では、首長がノルマ達成を表明した後に追加の動員が行われている。
動員を恐れて国外に避難しているロシア人男性は、ANNの取材に対し「信じることはできない」と述べ、避難を続ける考えを示した。動員の終了には大統領令による停止の宣言が必要だとされるが、ペスコフ大統領府報道官は18日、「大統領令については現時点では何もない」と述べていて波紋が広がっている。
●ロシア軍、南部ヘルソン州放棄も 総司令官が示唆 10/19
ウクライナ侵略を続けるロシア軍のスロビキン総司令官は18日、ロシアが併合を宣言した南部ヘルソン州でウクライナ軍の攻勢により「困難な状況」が発生しているとし、状況次第では「容易ではない決断」も排除しないと述べた。報道陣への発表をタス通信が伝えた。ヘルソン州の少なくとも一部地域を放棄する可能性を示唆した形。仮にヘルソン州の主要地域を喪失した場合、露軍の劣勢がさらに加速する見通しだ。
スロビキン氏は、高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使ったウクライナ軍の攻撃でヘルソン州内の橋などが破壊され、輸送路が使用不能になっていると説明。軍事作戦全体に関しても「軍は早急に前進するのではなく、敵の攻勢を打ち砕く戦略をとっている」と主張し、守勢に回っていることを暗に認めた。
さらに、タス通信によると、ヘルソン州の親露派勢力幹部は18日、同州の一部地域の住民を別の地域に避難させると発表した。ウクライナ軍の攻撃に備えた措置だとしている。
プーチン露政権は9月、露編入を問う「住民投票」の結果を正当だと主張し、ヘルソン州や東部ドネツク州など4州の併合を宣言。しかし直後にドネツク州の要衝リマンを奪還された。ヘルソン州でも州都ヘルソンや要衝ノバヤ・カホフカを奪還された場合、併合の拙速さが浮き彫りとなり、露政権への打撃は必至だ。
軍事的にも、ヘルソン州はクリミアと隣接する要衝で、南部に展開する露軍の主要拠点となっている。
ヘルソン州を巡っては、ウクライナ軍が8月下旬ごろから奪還作戦を本格化。これまでに約1200平方キロメートルを解放し、30以上の集落を奪還したと発表している。ウクライナ軍は同州での反攻の詳細を機密とし、逐次の公表はしていない。 
●インフラ攻撃で停電・断水=EU「戦争犯罪」と非難―ウクライナ 10/19
ウクライナで、ロシア軍によるインフラを標的とした攻撃により停電や断水などの被害が拡大している。首都キーウ(キエフ)に続き、東部ドニプロペトロウシク州でもエネルギー施設が被弾。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は19日、ロシア側の攻撃を「戦争犯罪だ」と非難した。
フォンデアライエン氏は欧州議会での演説で、ロシアの攻撃について「すでに極めて残酷な戦争に、新たな1章を加えるものだ」と指摘。「冬の到来に合わせて水や電気、暖房を断つという明確な目的を持った民間インフラへの攻撃は、純粋なテロ行為だ」と強く非難した。
●「毎日ミサイルの中で生活」警報鳴り響くウクライナ 10/19
日本時間の10月10日、11日と続いた、ロシアによるウクライナへの攻撃。死傷者は、2日間で少なくとも140人に上っている。
緊迫する状況の中、ウクライナの人々は今どんな生活を強いられているのか。首都・キーウから現地の様子を発信しつづけている、ボグダン・パルホメンコさんに話を聞いた。
――今はどんな状況なのでしょうか?
ボグダン・パルホメンコさん: 先日の攻撃で緊張感が高まった中で過ごしています。さいわい昨日と今日は、キーウ市内に着弾するような大きな攻撃はありませんでした。ただ警報は鳴っていますし、昨日も防空壕に降りて避難をしていました
――ここ数カ月は市民生活も少し落ち着き始めていたように思いますが、キーウの皆さんは今回の攻撃をどう受け止めていられますか?
ボグダン・パルホメンコさん: 2月24日に戦争が始まったときと同じくらいの緊張が走りました。一方、戦争慣れしているのか、半分の人はおどおどしていたり自分が何をしたらいいか分からなかったり、防空壕に降りることすら、するべきなのか戸惑っていたようです
――皆さんがたくましくなられたと受け止めるべきなのか…ボグダンさんは違和感のようなものをお感じですか?
ボグダン・パルホメンコさん: 多分人間の防御本能だと思いますが、ずっと危機的状況の中で生活するということが、大きなストレスになっている。なので、体が現実を受け付けないというのが事実だと思います。私が冷静に見ている中でも、おかしな状況だと思います。現在、警報は携帯やテレビで発信されます。そのタイミングで、できるだけ安全な場所に逃げるように心がけています。ただ、もう7カ月半戦争が続いていますので、それがただの警報なのか、それとも実際に攻撃があるのかというのは個人個人の判断になります。ここ数日はみんな、携帯の通知に非常に神経質になっていて、できるだけ安全な場所に身を隠すように努力しています
――寒い冬を迎える前の攻撃でしたが、今、どんなことを心配されていますか?
ボグダン・パルホメンコさん: ロシアはわれわれが早く白旗を上げるように、国民に対する攻撃というのをここ数カ月続けています。今回も発電所や水道の施設など、インフラ施設を狙って攻撃しています。今、夜中は5度くらいまで下がるなど非常に寒くなっています。暖房がないと過ごしにくかったりしますので、こういうふうに苦しめて、早くウクライナが降参するようにというのが、ロシアの考えではないでしょうか
――この事態を受けて、ゼレンスキー大統領とG7首脳が緊急会合を開き、「罪のない市民に対する無差別攻撃は戦争犯罪」「プーチン大統領らの責任を追及していく」といった共同声明を発表しました。国際社会の支援の状況はどのように感じていますか?
ボグダン・パルホメンコさん: ウクライナと世界で、非常に温度差を感じます。世界はゆっくりとしたスピードで物事を進めていますが、われわれは毎日ミサイルの中で生活していますし、多くの犠牲者が出ています。もう少し早く動いてほしいというのが、全てのウクライナ人の気持ちです
――日本に長く住まれていたボグダンさんはご存じだと思いますが、日本は武器支援が難しいです。日本の支援に対しては率直にどうお感じですか?
ボグダン・パルホメンコさん: 私自身、民間レベルで多くの日本の方から支援をいただいていて、それでボランティア活動をさせていただいているので、すごく感謝しています。一方、日本政府からの大きな支援は防弾チョッキやヘルメットです。軍事支援ができない中でも、例えば仮設住宅。これから寒くなっていく中で、家の全焼や崩壊で生活ができない人が多くいます。夏の間は、僕らもキーウ市内で屋根修理などをしていましたが、民間レベルでできることは限度があり、お金もかかります。そういうところを日本にしていただけないかなという気持ちがあります。日本とウクライナはロシアを挟んだ “お隣さん”なので、そういう気持ちもあって、日本には支援していただきたいというのが今の気持ちです
●エストニア議会、ロシアを「テロリスト政権」に指定 10/19
エストニアの議会は18日、ウクライナでの戦争をめぐり、ロシアについて「テロリスト政権」と「テロ支援国家」に指定した。
エストニア議会の議長は声明で、ウクライナ議会の各国や国際社会への呼び掛けを支持すると表明。ロシア政権をテロリスト政権、ロシア連邦をテロ支援国家とすると述べた。エストニア議会は同様の宣言を国際社会も採用するよう求めた。
エストニア議会は、民間軍事会社ワグネルの傭兵(ようへい)や、「ドネツク人民共和国」や「ルガンスク人民共和国」と自称している武装勢力についてもテロ組織とみなしていると明らかにした。
ロシアのプーチン大統領による核の脅しによって、ロシアが欧州と全世界の平和にとって最大の脅威となったと述べ、ロシアの戦争と違法な領土の併合を非難した。
エストニア議会は、ロシアを国連安全保障理事会の常任理事国から追放することも求めた。
●ザポリージャ原発の副所長解放、ウクライナ人職員2人の拘束続く  10/19
国際原子力機関(IAEA)は18日、ロシア側に拘束されていたウクライナ南部ザポリージャ原子力発電所の副所長が解放されたことを確認したと明らかにした。
同原発を巡っては、ウクライナ人職員2人の拘束が続いており、ラファエル・グロッシ事務局長は「早急に解決されることを願っている」と訴えた。
同原発の所長も一時拘束され、解放されている。
●ウクライナ軍ヘルソン州奪還へ攻勢 親ロシア派 住民を強制移住  10/19
ウクライナ軍は、ロシアが一方的な併合に踏み切った南部ヘルソン州の奪還に向け、反転攻勢を強めています。親ロシア派のトップは、地域の住民を対象にした強制的な移住とともに、統治機構も安全な場所に移していると明らかにし、ロシア側も現地の厳しい状況を認めた形です。
ウクライナ軍は、ロシアが一方的な併合に踏み切った南部ヘルソン州で支配地域の奪還に向けて反撃を続けていて、中心都市ヘルソンに向けても部隊を進軍させようとしているとみられます。
ヘルソン州の親ロシア派のトップは、19日にヘルソンなどの住民、5万人から6万人を、およそ1週間かけて、この地域を流れるドニプロ川の対岸や、ロシア側に強制的に移住させると明らかにしました。
すでに、この2日間でヘルソン州全体で住民のおよそ4割が離れたとしています。
また、占領政策を行う統治機構も安全な場所に移していると明らかにし、ロシア側も現地の厳しい状況を認めた形です。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍の新たな総司令官に今月任命されたスロビキン氏も18日、ヘルソン州の戦況について「非常に困難な状況にある」としていました。
ロシア大統領府は、プーチン大統領が19日に安全保障会議を開催し、前の大統領で強硬な発言を繰り返すメドベージェフ副議長が報告すると明らかにしていて、ヘルソン州の状況についても、何らかの対応が協議されるのかが焦点です。
一方、イギリス国防省は19日、ロシア軍の状況について、「侵攻から8か月がたち、軍の指揮統制がますます機能不全に陥っている。新たに動員された兵士を組織する有能な下士官が不足し、その指揮能力の低さが、さらに部隊の士気と結束力を低下させている」と指摘しています。
ウクライナ ロシア側と女性の捕虜の交換
ウクライナのゼレンスキー大統領は、17日に公開したビデオメッセージで、ロシア側と女性の捕虜の交換を行い、兵士や民間人など108人が解放されたことを明らかにしました。
イエルマク大統領府長官は、SNSへの投稿で、女性だけの捕虜交換は初めてだとしたうえで、引き渡された108人のうち、96人は軍の関係者で、12人は民間人だとしています。
また、今回解放された女性の中には、親ロシア派の武装勢力が活動しているウクライナ東部で、2019年から拘束されていた人も含まれているということです。
ウクライナ東部のマリウポリの防衛にあたった「アゾフ大隊」で衛生兵をしていたという女性は、解放されたあと、ロイター通信の取材に対し「娘に会いたくてしかたがない。帰って来られてとてもうれしい。まだ信じられない」と話していました。
一方、東部ドネツク州の親ロシア派の指導者、プシリン氏は、SNSへの投稿で、今回の捕虜交換によりウクライナ側からは船員と軍人、合わせて110人の引き渡しが決まり、そのほとんどが女性だと説明しています。
●追い詰められたプーチンと「弱さ」露呈したロシア 最悪の選択肢とは 10/19
ロシアによるウクライナ侵攻が転機を迎えている。プーチン大統領は部分動員に踏み切り、ウクライナのドネツク、ルハンシク、ザポリージャ、ヘルソンの4州を強制的に編入した。プーチン氏の次の選択は何か。AERA 2022年10月24日号から。
プーチン氏がクリミア編入を宣言した14年3月18日、ロシアは祭りのような高揚感に包まれていた。この日は記念日として多くの国民の胸に刻まれた。
プーチン氏は18年の大統領選の投票日を、法律を改正してまで3月18日に設定した。自らの偉業を象徴し、国民の愛国心が高揚する日だと考えてのことだろう。
だが、今回4州の編入を宣言した9月30日は、おそらくロシアの人たちの心に残ることはないだろう。
10月8日、前日に70歳になったプーチン氏を強烈なプレゼントがお見舞いした。クリミアとロシア本土をつなぐクリミア橋が爆破されたのだ。
全長18キロ以上のクリミア橋は、プーチン氏による編入宣言の翌年に工事が始まった。18年に道路橋が、19年に鉄道橋が完成。道路橋の開通式でプーチン氏は大型トラックのハンドルを握り、クリミアが名実ともにロシアの一部となったことを誇示した。
この橋は、クリミアをロシアに結びつける一本の「へその緒」のような存在だ。今年の開戦以降は、ウクライナ南部にロシア軍の人員や物資を運ぶ重要な役割を担っている。
だが、爆破の衝撃は軍事的な側面だけにとどまらない。プーチン大統領のメンツは丸つぶれとなり、揺るぎないものと思われたクリミアへの実効支配に疑問符がともった。
ロシアは報復として、ウクライナ全土をミサイルやドローンで攻撃したが、戦況への影響は限定的だろう。
思えば、ウクライナ侵略は、プーチン氏の思惑とはうらはらに、ロシアの弱さばかりを浮き彫りにした。
開戦後数日のうちにゼレンスキー大統領を拘束し親ロ政権を樹立するという当初のシナリオは、見通しの甘さと情報収集・分析能力の欠如を物語る。
ロシア軍は解放者として歓迎されるはずだという思い込み。そして、謀略を重視し制空権や兵站といった軍の運用の基本を軽視した戦術は、ソ連国家保安委員会(KGB)出身で軍事に疎いプーチン氏の弱点を露呈した。
首都キーウの攻略に失敗したロシア軍は、本来得意なはずの、平原を舞台にした領土の奪い合いとなったウクライナ東部の戦いでも精彩を欠いた。正規軍、チェチェン兵ら国家親衛隊、傭兵部隊「ワグネル」、ドネツク、ルハンシクの地元部隊がてんでばらばらに、時に足を引っ張り合いながら戦っていることが、混乱につながっている。
部分動員をめぐる騒動は、忖度(そんたく)文化にどっぷりと浸かったロシアの官僚機構の非効率性に起因する。実態を伴わない4州の編入は、ロシア憲法ひいてはロシアという国そのものの権威を大きく貶めた。
「強いロシア」の再建を歴史的使命と思い定めたプーチン氏に、20年余に及ぶ自らの統治が、実際にはロシアをすっかり弱い国にしてしまったという冷酷な現実を受け入れる冷静さが残されているだろうか。それとも、ロシアの「強さの源泉」だと繰り返し公言してきた核戦力という最悪の選択肢への誘惑に駆られているだろうか。
●メドベージェフは後継本命から後退...プーチンが信頼を置く「影の実力者」 10/19
数年前、ロシアのサンクトペテルブルクで開かれた国際会議でのこと。「外国人がロシアについて尋ねる質問で、最もくだらないと思うものは何か」と問われ、ロシアの政治評論家はこう答えた。「プーチンの後継者は誰か?だ」
ウクライナでの戦況悪化にもかかわらず、プーチンは8月末時点で83%と高い支持率を維持している。これは2014年のクリミア併合の直後とほぼ同じで、これまでのプーチンの支持率の平均と比べても15〜20%高い数字だ。(編集部注:独立系調査機関レバダセンターが9月下旬に実施した世論調査でプーチンの支持率は77%)
プーチンはウクライナ侵攻に自分の歴史的評価を懸けている。この戦いをピョートル大帝の事績になぞらえ、ロシア1000年の歴史の一ページとして位置付けようとしている。一方で世論調査のデータを詳細に分析してみると、戦争遂行に向けた国民の意欲は非常に低い。
男性の62%は動員に応じる用意ができていない。その上、喜んで戦地に行くと答えた人々の大半はソ連時代の生まれ、つまり45〜59歳で、激しい戦闘には不向きな年代だ。そして国民の69%は軍隊のために自分の金を出すのはごめんだと思っている。
右派の軍事ブロガーたちがロシア軍幹部の過失をたたき、なぜプーチンは国家総動員令を出さないのかと声高に主張する一方、一部の地方自治体の首長たちはプーチンの弾劾を公式に求めている。そんななか、プーチンの支持率が急落して退場する展開は本当にあり得ないのだろうか。
私にロシアの情報をもたらしてくれる人々の中でも一番の切れ者は、国立の名門校でエリート教育を受け、最も格の高い国家機関で働いてきた友人だ。彼に言わせればプーチンはサバイバルの天才だ。
プーチンはロシア国民が自分に依存する状況をわざとつくり、それ故に自分が表舞台から去るタイムテーブルを自らの手で完全にコントロールできると友人は言う。いつか起きる交代劇も、後継候補の人選から台本まで全てプーチンがきっちり決めたとおりになるはずだと言うのだ。
だがロシア人が戦争に負けた最高指導者に非常に冷たいのは歴史を見れば明らかだし、ちょうど10年前の大統領選後もロシア世論はプーチン批判で盛り上がったではないか──そんな私の反論を友人は一蹴した。何が起きようともプーチンをクビにするメカニズム自体が存在しないというのだ。
プーチンも最初は無名だった
彼に言わせると、プーチンのサバイバル能力の高さは20年間にわたって自分の周囲を3つのタイプの人々で固めてきた結果だ。自分にひたすら忠実な人々と、宮廷革命を起こせるような知的または政治的な力や人脈のない人々、そしてカリスマ性や魅力に欠けて高位の公人にふさわしいという印象を与えない人々だ。
この友人は過去にもさまざまな予言を的中させている。そこで私はプーチンの後継者が誰になるかについても彼の意見を聞きたくなった。「プーチンが病気に負けたと仮定して、後継は誰だろう」と私は尋ねた。
だが友人はなかなか話に乗ってこなかった。健康不安説については何年も前から報じられていると私が指摘すると、プーチンなら肉体的な問題があっても復活のすべを見つけ出すとか、もしそれが不可能な場合には憲法上は首相が後を継ぐことになっていると言葉を濁すのだ。答えに満足できずに私がさらに追及すると、国家安全保障か軍の関係者であることは間違いない、と友人は述べた。
もう1人の知人でロシア人の元ジャーナリストは、ウクライナにおけるロシア軍の後退はプーチン支持率低下の要因にはならないだろうと語った。「ロシアは民主国家ではない。われわれ(国民)は蚊帳の外に置かれている。われわれは統治される側であり、傍観者だ。われらがツァーリ(ロシア皇帝)は戦争に負けつつあり、それは彼にとってよくないことだ」と、この知人は述べた。
「略奪や強姦や殺人を犯す可能性があるにもかかわらず、彼は受刑者から新兵を募っている。ロシアでは、まともな人ならそんな行動を自分の国の出来事と考えたりしない。ツァーリが戦争に負けたら、確かに問題の一部は人ごとではなくなるだろう。増税が避けられない、という意味でだが、どうしようもないことだ」
プーチンは過去23年間、ロシアで盤石の権力基盤を築いてきた。だが24年前の彼は、エリツィンの後継者として抜擢されただけの、全国的にはほぼ無名の人物だった。この人選の決め手になったのはプーチンの忠誠心だったというのが一般的な見方だ。エリツィンとその周辺の人々は、プーチンなら退任後もエリツィンを守ってくれるだろうと思ったに違いない、と。
さて、もしプーチンが死亡するか、もしくはその前に後継者を指名するとしたら誰か。以下に挙げるのは最も有力な候補とみられている人々だ。
1. セルゲイ・キリエンコ(大統領府第1副長官)
ここで問題。史上最年少でロシアの首相になったのは誰?
答えは私も教鞭を執ったロシア国家経済・公共政策大統領アカデミーの卒業生で、1998年4月に35歳で首相に就任したキリエンコ(60)だ。首相として大規模な経済改革に挑むも失敗し、政府は同年8月にデフォルト(債務不履行)を宣言した。
責任を取って首相を辞したキリエンコは翌99年にモスクワ市長選に出馬して敗退。だが同時に行われた議会選挙で「右派連合」を率いて、下院議員に当選した。右派連合とは、民営化を推進した実業家兼政治家のアナトリー・チュバイスを頭脳に擁する右派リベラル勢力の政党だ。
プーチンが大統領に就任してからは、出世街道を突き進んだ。沿ボルガ連邦管区の全権代表を経て国営原子力企業ロスアトムの社長を10年務め、2016年に内政を統括する大統領府第1副長官に任じられた。
ウクライナ侵攻ではルハンスク(ルガンスク)州、ドネツク州の親ロ派武装勢力との連携を担当し、占領や併合に関する任務に当たる。プロパガンダまがいのスピン報道やイメージ操作を取り仕切ってもいる。
キリエンコが陰の実力者であることに疑問の余地はない。連邦の知事を選んできたのも彼で、トゥーラやカリーニングラードの州知事は次世代の後継者として名前が上がる。
プーチンはキリエンコに絶大な信頼を置いているとされ、キリエンコも大統領に取り入るのが非常にうまい。安全保障を根拠にもっともらしい言葉を連ねてウクライナ侵攻を支持しつつ、リベラルな経済改革派としての信任も厚い。
5月には「全ロシアの母」だという赤旗を持った老婆の銅像を、ドネツク州マリウポリに建立。占領地を視察する姿からは、カメラを味方に付ける才能がうかがえる。もしウクライナ侵攻がプーチンの歴史的遺産になるなら、キリエンコは同地での巧みなPR戦略により後継者争いを一歩リードするだろう。
2. ニコライ・パトルシェフ(安全保障会議書記)
プーチンが権力を掌握して以来ロシアを牛耳ってきたシロビキ(軍や情報機関のエリート)の1人。71歳という年齢を考えれば、権力を握ったところで一時的だろう。だが安全保障会議書記のパトルシェフはロシアでプーチンに次ぐ重要人物であり、安全保障分野での経歴は完璧だ。
というより彼はほかの分野を知らない。75年にKGB(旧ソ連国家保安委員会)高等学校を修了し、レニングラード(現サンクトペテルブルク)で防諜(ぼうちょう)活動に携わり、カレリア共和国保安相を経てロシア連邦保安局(FSB)へ。
98年からはプーチンの成功に便乗する形で出世した。プーチンの後任として大統領監督総局局長になり、プーチンがエリツィン大統領の第1副長官だったときはその下で働いた。プーチンのFSB長官時代には副長官を務め、プーチンが首相になると長官に昇進して10年間FSBを統括した。プーチンの人気と威光を高めた第2次チェチェン紛争では最重要の参謀だった。
08年以来、現職。プーチンは定期的に閣僚を入れ替えるが、この男だけは安泰らしい。パトルシェフは事前にウクライナ侵攻計画を知らされていたごくわずかな側近の1人だと、内部筋はみる。プーチンの身に何かあった場合、権力を移譲されるのは憲法の定めた首相ではなくパトルシェフだと予想する記者もいる。
だがパトルシェフはプーチンに輪を掛けた強硬派。プーチンが侵攻を大誤算と見なすようになれば、その権勢も揺らぎかねない。西側がウイルスを合成してパンデミックを引き起こしたと、彼は本気で信じている。そうした研究所がウクライナにあると進言したために、プーチンが侵攻に踏み切った可能性もあるのだ。
3. ドミトリー・メドベージェフ(安全保障会議副議長、与党・統一ロシア党首)
問題をもう1つ。プーチンはロシア統治の全期間、ずっと大統領だったか。答えはノー。憲法上、プーチンがいったん大統領職を退かなければならなくなったとき、つなぎ役として08〜12年に大統領を務めたのが、それまで副首相の任にあったドミトリー・メドベージェフだ。首相時代には、私の勤めていた大学で毎年1月、経済改革派の元首相エゴール・ガイダルの名を冠した会議が開催されるたびに基調講演を行っていた。
当時のアメリカの対ロ政策の根底には、メドベージェフが西側とのビジネスができるリベラル派のテクノクラートになるという考えがあった。最先端のテクノロジーに強い関心を持ち(プーチンはメールを使ったこともない)、英語も流暢で欧米流のスタイルにも通じている──大統領に就任した当初は、西側に楽観的な空気が広がっていた。現在は安全保障会議副議長、与党・統一ロシアの党首を務めている。
メドベージェフはウクライナについて、「憎い」「消滅してほしい」などと、次期指導者候補の中で最も強硬な主張を唱えている。事情通によれば、プーチンが再び大統領職の禅譲を約束した可能性もあるが、大統領時代の西側との友好ムードは一瞬の幻想だったとプーチンにアピールするため、あえて過激な表現を使っている可能性もあるという。
4. セルゲイ・ショイグ(国防相)
12年から現職のショイグ(67)は、1年前なら後継者の本命だった。
シベリアのトゥバ共和国に生まれ、プーチンと仲良くハンティングに興じる姿がたびたび報じられた。94年に非常事態相に就任。危機が起きればヘリで現場に駆け付けて事態を収拾し、国民を安心させて定評を築いた。世論調査ではプーチンに次ぐ人気政治家だったが、ウクライナ侵攻では惨憺たる失態続き。ポスト・プーチンともてはやされたのが嘘のように、今や聞こえてくるのは更迭あるいは逮捕されたのではないかという噂ばかりだ。
5. セルゲイ・ソビャーニン(モスクワ市長)
私がモスクワで過ごしたほとんどの期間、ソビャーニンは市長としてモスクワを大いに発展させた。実際、私がモスクワに住むことにしたのは、市長による街の美化運動が大きな理由だった。モスクワはロシア経済全体の40%以上を占める巨大経済圏だ。
大手チューブ圧延工場の元工場長という経歴の持ち主で、その後チュメニ州知事、大統領府長官、副首相を歴任。メドベージェフの大統領選では選対責任者を務めた。10年にモスクワ市長に就任し、現在3期目。
ソビャーニンは今回の戦争について、どちらかと言えば抑制的な発言を繰り返し、戦争がモスクワ経済に与える影響も認めている(今夏にはウクライナ東部のルハンスクを訪問したが)。その慎重姿勢はソビャーニンがプーチンの有力な後継候補と目されていることの表れではないか、という見方もある。
ソビャーニンは国際的な大都市の市長を長年務めた経験から、いつまでも西側から排除されたままではロシアは立ち行かないことを知っている。メドベージェフのような強硬発言をすれば、関係修復はほぼ不可能だ。戦争支持を表明する一方で、いずれ世界の舞台に躍り出るために自分自身の信用を保つ──ソビャーニンはそんな綱渡りを演じている。
6. ドミトリー・コバリョフ(大統領府局長)
36歳の若さで大統領府の局長を務めるコバリョフは、プーチンからの信頼が極めて厚い。数カ月前にロシアで最も重要な対独戦勝記念日の式典でプーチンと親密に会話する姿が流出すると、両者の関係をめぐる噂はさらに強まった。内部関係者によれば、最大の強みはその若さ。おかげで特定の派閥や対立関係に巻き込まれずに済んでいる。おそらくプーチンも若さを評価しており、弁舌巧みで頭の回転が速いコバリョフをかつての自分に重ねているようだ。プーチンがあと10年前後で引退した場合、コバリョフはプーチンとほぼ同じ年齢で権力の座に就くことになる。
7. セルゲイ・ナルイシキン(SVR〔対外情報庁〕長官)
ナルイシキンは書類上、下院議長時代に私の教えていた大学の学長を務めており、約半年間私の上司だった。同大学を首席で卒業した私の妻はナルイシキンから卒業証書を授与され、そのときの写真を今も自宅で毎日見ている。現在はKGBの後継機関SVR(対外情報庁)の長官。観測筋の間では21年まで、高位ポストを次々と務めた経歴がプーチンに似てきたという見方があった。
だがプーチンは侵攻前夜の会議で、ナルイシキンを叱責した。政府はこの屈辱的な映像をロシア全土(そして全世界)に公開し、ナルイシキンは世間の笑いものになった。

最終的には、この記事の冒頭でプーチンの後継者を予想するという試み自体を酷評したロシアの政治評論家の発言に戻らなければならない。その理由は、プーチンが権力を手放すことは決してない、と信じているからではない。特異な政治的サバイバルの才能を持つプーチンは、エリツィンの後継者選びの巧みさに感服したはずだと考えているからだ。
プーチンが後継者に指名されたのは唐突だった。その名前を伏せておくことで、プーチンが批判や攻撃の矢面に立つ事態を防いだのだ。プーチンも後継者の名をその時が来るまで秘密にしておき、その人物が次期指導者として正式決定するまで、あまり敵を増やさないようにする公算が大きい。個人的意見だが、プーチンはまだ自分が誰を後継ぎにしたいのかも分かっていないはずだ。

 

●「防弾チョッキもヘルメットもない」ロシア兵から不満続々 10/20
ウクライナ軍が反転攻勢を強める中、今ウクライナがロシア兵向けに設置した「投降ホットライン」に問い合わせが殺到しているそうです。一方、ロシアのプーチン大統領は、一方的に“併合”したウクライナの4州に戒厳令を出すことを明らかにしました。
不満をあらわにする“ロシア兵”の映像 SNSに続々と
ロシア兵とみられる集団「ほとんどの人は防弾チョッキもヘルメットもない!」
ウクライナに派遣されたロシア兵とみられる集団が銃を突き上げ、不満をあらわにしている映像が最近、SNSに投稿されました。
ロシア兵とみられる集団「この銃は倉庫から処分されたものだ。全部70年代〜80年代の武器だ。ここ着いた初日、雨なのに一晩外で過ごしたんだ。2日目も3日目も。ここにいる9割の人は病気だ!」
別の映像には、ロシア軍キャンプの劣悪な環境に不満を述べる様子が…。
ロシア兵とみられる男性「テントの中はこんな感じだ。夜は暖房一つしか使えない。ここではものを盗まないと生活できない。テントを一瞬離れただけで防寒具まで全部盗まれる。私の靴もお金も盗まれた」
こうした環境が戦況にも影響しているのでしょうか。18日、作戦を指揮するロシア軍の総司令官は…
ロシア軍の総司令官「敵は犯罪政権であり、ウクライナ国民を死に追いやり、我々の防衛ラインを破ろうとしている。今日の時点ですでに非常に困難な状況だ」
総司令官は南部・へルソン州が「困難な状況にある」と述べ、戦況が厳しいことを認めました。
ウクライナ国防省の“投降ホットライン”にロシア兵が殺到
こうした中、9月にウクライナの国防省が立ち上げたあるプロジェクトに問い合わせが殺到しています。
ウクライナ国防省のホームページに掲載されているのは「国家プロジェクト『生きていたい』」。電話番号を掲載し、ロシア兵に向けロシア語で投降を呼びかける、いわば“投降ホットライン”です。
プロジェクトの担当者に話を聞くことができました。
“投降ホットライン”担当者「当初、電話は少なかったです。ロシアで強制的な動員が始まってから問い合わせが増えました」
実際にあった電話の音声がこちら。
ロシア兵「自発的に捕虜になれると聞いたけど、なれますか?」
オペレーター「動員されたんですか?軍人ですか?」
ロシア兵「そうです。もうすぐへルソン州に出発する。ウクライナ兵を見たらどうすればいいかわからない。膝をつくだけでいいですか?降伏する方法を教えて欲しい」
ホットラインには、こうした問い合わせが1日100件ほど寄せられていると言います。
“投降ホットライン”担当者「『入隊したくない』『他の人を殺したくない』『自分の命を守りたい』と彼らは言います。この間は男性が泣きながら電話をしてきました。彼はただ死にに行くのだと分かっていました。このホットラインは彼らが生きるための最後のチャンスです」
自発的に投降しても、戦闘の結果、ウクライナの捕虜になったとされるので“ロシアでの処罰対象にはならない”と言います。
“投降ホットライン”を使い、捕虜になった兵士は…。
投降し捕虜になったロシア兵「グーグルでどうしたら捕虜になれるのか検索しました。殴られてないし、精神的な圧力もありません」
投降し捕虜になったロシア兵「ボルシチを食べたらどうかと言われました。とてもおいしい。対応に感動しています」
ウクライナ“併合”4州に戒厳令 プーチン大 統領が表明
そして、ロシアのプーチン大統領は19日、一方的に併合したウクライナ東部と南部の4つの州に戒厳令を出すことを明らかにしました。
現地20日の午前0時から導入されるということで、ロシアメディアは住民の動員や強制移住などが可能になると報じています。
●ロシアのウクライナ侵攻で潤う韓国の防衛産業、技術革新も 10/20
岸田文雄首相は、今後5年以内に日本の防衛費を抜本的に増額すると表明している。今後、防衛費が増額されるとしても、その潜在的可能性に関して、防衛のみならず経済、技術、情報、外交など多面的な分析が必要である。
成長産業の中核になりうる防衛産業の潜在的成長力、雇用吸収力
防衛産業は雇用吸収力が高く、乗数効果の大きく作用する分野である。
サービス産業などは、大きな生産性向上は期待しにくく、雇用吸収力はあっても低賃金にとどまる。
防衛産業は先端技術の塊であり、世界最高の技術水準を要求し国がリスクをとるため技術開発によるブレークスルーが最も起こりやすい。そのため飛躍的な生産性の向上が見込まれる。
技術者についても、官民を含め安定的に豊富な研究開発資金が保証されるため、リスクのある先端分野にも思い切った挑戦がしやすくなる。
この点は、基礎科学の分野でも同様であり、欧米でも安全保障上の要求に基づく先端的な基礎研究への予算配分が潤沢に行われている。
防衛産業は、戦車には1000社が関わると言われるほど、多くの中小企業が関連する分野でもあり、中小企業も含めたすそ野の幅広い分野であり、雇用吸収力も大きく、中小企業の雇用拡大や賃金上昇にもつながる。
また防衛産業は他の民生分野と競合するおそれがなく、民業圧迫にならない。地方の中小企業の活性化、雇用拡大、地域振興にもつながる。
中でも古来、朝鮮半島、南西諸島方面は日本にとり、軍事政略上の最重要正面だった。
これに対処するため、平時から近畿を拠点とし、瀬戸内海の海運を補給路とし、北部九州と西部九州地区に前進拠点を構築してきた。
この伝統は、天智天皇の時代の水城、元寇、秀吉の朝鮮出兵、日清・日露戦争、第2次大戦、朝鮮戦争でもみられた。
現代も今後の南西諸島有事、半島有事に備え、これら西日本の兵站拠点と補給路の整備に努めておく必要がある。
また、先島諸島と対馬、道北には必要な装備品・ミサイル・弾薬の地下備蓄施設を整備すべきである。これらの整備は関係地域のインフラ建設需要喚起にもなる。
最先端科学技術分野育成の最適の場
日本の高度成長期は、朝鮮特需やベトナム特需の時期とも重なっている。
経済的利益のために戦争を欲するのは本末転倒の誤った政策である。しかし、日本の防衛のために必要な産業基盤を育成し、日本の安全を確保するための国産の兵器体系とそれを自立的に開発し生産できる基盤を持つことは、国家安全保障上の必須の要請である。
日本以外の主要国は、GDP(国内総生産)比2%程度の軍事予算を配分し、軍需産業と軍事研究開発に長期大規模投資を一貫して実施している。
軍事研究開発の重点分野は、軍民両用である。民間への波及効果も大きい。
軍事技術の中核である極超音速推進技術、AI、量子技術、ロボティクス・無人機、3Dプリンター、先端半導体、通信電子機器、バイオテクノロジー、宇宙・海洋開発などは、すべて先端軍民両用分野である。
各国は、安全保障分野での先端技術開発力の優劣が、軍需と民需の両面で将来の優位性を左右することを熟知し、主要国は軍事研究開発に重点的に予算を投入している。
米国は年間約1000億ドルを軍事研究開発に投入している。実態は細部不明だが、中露も同様に軍事研究開発に莫大な投資をしているのは明らかである。
韓国の2022年の国防予算案総額は前年比4.5%増の55兆2277億ウォン(約5兆2500億円)となり、日本の21年度防衛費(当初予算ベース、約5兆3400億円)とほぼ肩を並べる水準となった。
今後も大幅な増額を計画しており、数年内に日本を追い抜く可能性もあると報じられている(『朝日新聞』2021年9月1日)。
また2022年の国防技術研究開発事業の内容を見ると、「未来挑戦国防技術開発」関連予算が2844億ウォンで、今年の本予算より136%増えた規模で提出された。
韓国防衛事業庁はこれを通じて、極超音速推進システム、無人自動、宇宙など8分野を「ゲームチェンジャー」に設定し、集中的に投資する計画である。
韓国防衛事業庁は2022年度国防予算に、防衛事業庁が所管する国防技術研究開発予算を、2021年の本予算に比べ76%増やした1兆4851億ウォン(約1400億円)で策定して含めたと明らかにしている。
また合同参謀本部が要求する長期の所要兵器システム開発のための「核心技術開発」事業は、今年に比べ50%増額した7668億ウォンを配分した。
これは、企業が主管する兵器システム研究開発活性化のために産学研コンソーシアムで推進する「兵器システムパッケージ型応用研究」事業を増やすということである(『ハンギョレ』2021年9月7日)。
このように韓国も軍産学が一体となり、日本の以上の研究開発予算を投入し、自主国防、兵器の国産化、特に先端兵器の開発に努めている。
防衛関連の技術漏洩と人材流出防止
一民間企業が取れるリスクと投入できる資金・人材には限界がある。
国がリスクを取り、莫大な資金を長期安定的に投資すれば、民間も安心してリスクを取り、先端技術開発に思い切った設備投資と人材育成が可能になる。
このような国がリスクを取る莫大な研究開発投資が、諸外国では軍事部門を主に為されてきたが、日本では防衛予算が対GDP比1%以下に抑制され、防衛関連研究開発予算も防衛費全体の約2.8%に限定されている。
防衛関連事業の拡大はされず、民間企業の軍事部門のシェアも逓減し、撤退が、防衛関連に特化した特殊技術を持つ中小企業などから相次いで出ている。
国内の防衛受注が少なく、一部の特殊な企業を除き、全般に売り上げのシェアに占める防衛分野の比重が小さすぎて採算がとれない。このため、防衛産業の大手企業ですら、米国の巨大軍需産業の下請け化している。
防衛装備製造に不可欠な特殊技術を持つ中小企業の開発力、その維持に必要な技術者や機械施設も維持できなくなっている。
米中などにより、このような分野の中小企業から特許が買い取られ、あるいは技術者が引き抜かれている。
特に、中国の場合は、現地進出を交換条件に技術移転を強要され、あるいはサイバー攻撃や産業スパイにより機微な技術を窃取される例が多い。
米国の場合は、中国のサイバー攻撃により、最新鋭の戦闘機や大型輸送機の設計図、試験飛行のデータ、さらには核弾頭の設計図まで盗まれ、被害総額は3兆ドルに達したと見積もられている。
スパイ防止法が未制定なこともあるが、日本国内にこれらの技術者や研究者を育成する予算、就職先、需要に乏しい。このため定年後や解雇された技術者が中韓などに引き抜かれ、企業で培った技術やノウハウを伝授する例が多発している。
日本は自らの技術開発や技術者育成に多大の投資と時間をかけながら、その成果を他国に奪われ、逆用され、それぞれの国で先端兵器に使われ、逆に日本に脅威を与える兵器になる場合も多い。
学術界でも同様の事例が多発している。
東北大学が受け入れた中国人研究者9人は、ジェットエンジンや機体の設計、耐熱材料、実験装置などを研究し、その技術が盗用され、中国の極超音速兵器開発に利用された事例も報じられている(『朝日新聞デジタル』2021年12月12日)。
同盟国・友好国も兵器開発ではライバルである。
日本が自らの防衛上の要求に基づき、国内の防衛産業を育成し、科学技術者を養成し、国内で定年後まで相応の職場と処遇を得て活躍できる場を作らねばならない。
その意味でも、日本の防衛産業育成は不可欠であり、両用技術が大半であることから、それは同時に民生分野の育成強化ももたらすことになる。
財政面から見た防衛予算確保の可能性と予算使用の効率化
現在の財政赤字の情勢下では、防衛予算を増額するのであれば、増税が必要との意見も一部にはある。
しかし、国家経済全体としての資産と負債のバランスシート上からは、国債発行の余地はまだあり、増税をしなくても6兆〜7兆円程度の防衛予算増額を実施することは可能であろう。
防衛力を充実し国家の安全を確保することは、将来世代の生存のために必要不可欠な国としての最も優先すべき責務である。
必要な防衛費確保のために発行される防衛国債は、建設国債と同様の意義を有しており、単なる赤字国債の増発ではない。防衛国債発行の可能性についても検討すべきである。
また他省庁関連予算を防衛関連予算として計上し、形式的に防衛予算を倍増させるような操作は許されるべきではない。
防衛予算の純増を行わねばならない。
特に、海上保安庁予算は、現行の法制の下では、海上保安庁法第25条により、軍隊としての機能を果たすことを禁じられている以上、防衛予算に計上すべきではない。
防衛予算に計上するのであれば、海上保安庁法第25条を改正し、軍隊としての機能も果たせる条文に改正し、同法第2条に海上保安庁の任務として防衛・警備任務を明記すべきである。
防衛施設整備費についても増額し、実弾射撃や機動訓練などの訓練・演習の効率的効果的実施に不可欠な演習場訓練施設などの整備に、さらに重点的に予算配分しなければならない。
部隊の実戦力の向上のため、装備の性能が飛躍的に向上し、宇宙空間も含めた広域の使用、様々の通信電波環境下での運用などの要求が高まっている中、訓練環境整備は急務である。
また、実験施設や試験場の整備も欠かせない。
例えば、将来のゲームチェンジャーである極超音速推進システムの開発には、極超音速風洞実験設備や試験場が不可欠である。
海外の演習場を借り受けて使用する方法もあるが、機密保持が困難であり、施設の使用時期・条件が当方の要求に合わないなどの問題点がある。輸送経費・警備・保管費用も必要となる。
補助金・交付金も騒音対策、漁業補償など防衛施設周辺の生活環境整備などのために予算が重点配分されている。
一部、地元の既得権益化している面も見られる。防衛政策に非協力的な自治体への補助金などについては、抑制的な方向で見直すべきであろう。
米軍関連経費の効率化
令和4年度予算では、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)を含めた米軍再編等関連軽費は2217億円、在日米軍駐留経費負担は2056億円に上っている。
しかし米軍の西太平洋でのマルチドメイン戦略等では、中国の濃密な中距離以下の弾道ミサイル、対空ミサイル攻撃からの損害を回避するため、日本特に南西諸島有事には在日米軍は一時グアム以東に後退する可能性が謳われている。
米軍の駐留関連経費もSACO予算も、西太平洋の軍事バランスと米軍戦略の変化に伴い、日米同盟の強靭化には必ずしもつながらない情勢になっている。
米軍再編や在日米軍駐留の関連経費は、自衛隊の予算に転用し、日本自らの防衛力増強に活用すべきである。
米軍装備の調達方式についても、対外有償軍事援助(FMS)は見直さねばならない。
FMSには、国内で製造できない機密性の高い装備品を調達できるメリットもあるが、日本の国土防衛のための戦略的要求に適した兵器体系も整備できず、
1 価格が見積りであり高くつくこと
2 前払いが原則であり履行後に精算されること
3 納期が予定であることなどの問題点もある。
国土防衛に余り有効ではないとみられるFMSによる調達装備としては、水上で脆弱な水陸両用強襲輸送車7型(AAV7)、極超音速兵器の迎撃が困難なイージスシステムなどが挙げられる。
FMSが膨らみ過ぎると、国産兵器の研究開発や調達予算が圧迫され、日本の防衛産業も育たず独自の技術開発もできないという状況が生じる。
他国の兵器に依存していては、平時には自立的に装備の改造改善もできず、維持整備費が高くなり非効率である。
国内での技術蓄積もない。外交的にも、輸入先国への依存が強まる。経済的にも高価につき不利益になる。
ウクライナ戦争でも明らかになっているように、有事には、他国の兵器に依存していると、輸入が途絶えればたちまた戦力を失い、国土戦の要求に適合しない装備で戦わざるを得なくなる。
また、他国の装備品は、国内での代替生産、部品などの補給、装備品の改修などにも限界があり継戦能力が制約される。
これらの諸要因から、兵器の国産化は、コストがかかっても可能な限り推進するのが望ましい。
武器・弾薬の備蓄施設、核シェルター・・・地下施設整備の必要性
日本の現状では、弾薬・ミサイルの備蓄は対中有事の必要量の20分の1、しかもその大半は北海道に備蓄されていて、九州・沖縄には1割弱しかないとの報道もある(『THE SANKEI NEWS』2022年8月12日)。
弾薬・ミサイルも装備品も備蓄は極めて乏しく偏在している。
仮に国内の防衛産業基盤を増強し量産体制に入ったとしても、日本の現状では、備蓄に回す必要量が多く、過剰生産・過剰設備になるおそれは当面ない。国が買い上げて備蓄に回すべきである。
備蓄用の倉庫やシェルターといった施設にも乏しい。
日本には国民の0.02%にしか核シェルターが整備されていない。世界の主要国では、平均、国民全人口の6割から7割に整備されている。
同様に、原油備蓄基地も地下備蓄が世界の常識だが、日本では、地上の石油タンクなどに備蓄されており、ミサイル攻撃や空爆により簡単に破壊される状態のまま放置されている。
兵器製造施設や研究機関の地下化の発想も日本には皆無である。
他国は重要な安全保障・軍事関連の指揮通信中枢、研究施設や工場は地下深部に建設している。日本は世界一の地下掘削技術を持ちながら、軍事的な観点からの地下利用は全く考慮されていない。
もしも国土強靭化のためこれらの地下施設を建設するならば、新たな公共事業としてもその波及効果は大きい。
平常時は、地下駐車場、倉庫、モール街など様々な活用が可能であり、防災施設などを利用し比較的安価に転用することもできる。
このようなシェルターの整備は、国民保護のためにも必須の施設である。
『国民保護法』の規定によれば、国民保護の責任は第一義的には各自治体が負うことになっている。各自治体にその必要性を説明し、建築基準法に設置基準を示し、地方自治体に必要な助成もしつつ、早急にシェルターの普及を国の施策として推進すべきである。
核戦争があっても、核シェルター内に3日間退避するとともに大規模な事前疎開を併用すれば、死傷者は約100分の1に減少するという、平島・長崎の被害状況や核実験のデータに基づく見積もり結果が冷戦期から世界的に知られている。
そのような結果を受け、世界各国は冷戦時代に核シェルターの建設を進めてきた。
世界の主要国では国民全体の6割から7割を収容できる核シェルターが、冷戦時代に建設済みである。
一部には6割から7割という普及率を誇張されたものとする見方もあるが、他国は核シェルターの整備に努めてきたのに対し、日本が政府としても自治体としても何もしてこなかったに等しいという事実に変わりはない。
唯一の被爆国である日本に核シェルターが未整備に等しい現状を看過することは許されない。
特に中朝露という3つの核大国・核開発国に取り囲まれている日本は、世界でも最も深刻な核脅威に直面している。核シェルターの整備を早急に行うべきことは明らかである。
また、核シェルターの整備は新たなインフラ建設にもつながる重要な公共投資でもある。都市部と南西諸島、対馬、道北・道東などが優先されるべきだが、全国的な課題でもある。
ウクライナ戦争でも明らかなように、全土が中朝の中距離核ミサイルの射程内にある日本は、台湾・半島有事にも当初から全国的に大規模なミサイルによる集中射撃を受ける可能性が高い。
また、日本上空数百キロでの1発の核爆発に伴う電磁パルス(EMP)により、瞬時に日本全国の電子システム、コンピューターが機能マヒするおそれもある。
これに対する電磁パルス対策も日本では一部外資企業などを除きほとんどとられていない。
日本も政府が基準を設けて規格化したEMP対策を明示し、全国の自治体、企業、病院、学校、公共交通機関などに防護を義務付けるべきである。
地下施設はEMP対策上も有利であり、地下シェルターなどを建設する際に、同時にEMP対策を義務付ければ、より効率的な整備が可能になる。
既存の防災用施設あるいは都市の地下空間の開口部を耐圧・防水扉に改造し、大量の浄水・空気清浄機・除染施設などを増設すれば、余りコストをかけずにシェルター整備が可能になる。
武器輸出促進の必要性
世界的に、日本の民生用輸出品への信頼度は高い。同様に日本製の武器についても、期待する国は多数潜在する。
特に東南アジアやインド、中東、東欧などでは、日本が武器を輸出でき、それが自国の要求に適って居れば輸入したいという国は、多くあるとみられる。
これらの地域の諸国には、中国・米国・ロシア製武器に対する過度の依存への抵抗感があり、外交バランス上からも日本の武器輸出への期待はある。
韓国は、日本が輸出できない、あるいはしないために生じたこれらの空白地域に、国を挙げて武器輸出をしている。
今年7月下旬、ウクライナと国境を接するポーランド政府は、韓国から武器を大量購入することを発表した。世界を驚かせたのは、その規模である。
韓国製の戦車を約1000両、自走砲を約600両、戦闘機を48機購入すると報じられている(『ダイヤモンドオンライン』2022年8月10日)。
韓国は、中印紛争を抱えるインドにも約1000門の国産火砲を輸出している。
日本が輸出しなければ、他国が輸出するだけで、武器輸出の自己規制は国際紛争の抑制には何も寄与しない。
「死の商人」などと言う誹謗中傷に怯えて武器輸出を躊躇するのは、そのような誹謗中傷をしている左翼勢力の背後にいる、中国、北朝鮮などの日本弱体化のプロパガンダに屈し、共産主義独裁国を利するだけである。
中朝は、何の自己規制もルールもなしに、紛争当事国や国際的な制裁対象国も含め世界中に自国製兵器を輸出、密輸している。
欧米諸国や韓国などの諸国も、武器輸出大国としての日本の台頭を抑え込む点では、利害が共通している。
日本が自ら課してきた武器輸出規制の自縄自縛から自らを解き放たない限り、武器輸出規制によるこのような制約は続く。
ちなみに、同じ敗戦国のドイツはNATO(北大西洋条約機構)を主たる対象としているものの、英仏と並ぶ世界第4位前後の武器輸出大国である。
日本政府が採ってきた従来の武器輸出3原則は、平成26(2014)年に防衛装備移転3原則として見直され、以下の3項目が禁止されている。
1 当該移転が我が国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合、
2 当該移転が国際連合安全保障理事会の決議に基づく義務に違反する場合
3 紛争当事国(武力攻撃が発生し、国際の平和および安全を維持しまたは回復するため、国際連合安全保障理事会がとっている措置の対象国をいう)への移転となる場合
しかし紛争当事国であるウクライナに対しては、例外規定が設けられ、自衛隊が保有するドローンと化学兵器対応の防護マスク、防護衣等の供与が決定された。
紛争当事国に輸出が認められたのであれば、上記地域の紛争当事国以外への武器輸出は、個別の規制は行うとしても、基本的には容認されるべきであろう。
武器輸出は、外交的にも大きな梃子になる。
単に武器輸出により経済的利益を得るだけではなく、相手国の日本製武器への依存を深めさせることにより、日本の外交的な影響力は拡大する。
友好国、同盟国にとっては、自国の必要とするものの国産化できない武器を供給してくれる信頼できる国となる。
逆に潜在的に敵性国になり得る国に対しても、日本からの武器輸出への依存を深めさせることにより、日本の利益に反する行動をとりにくくさせることができる。
また日本製の武器体系を受け容れれば、整備・補給のためにその後も継続的に日本製武器やその部品を輸入する必要に迫られる。
日本としては、このような安定的な輸出先を確保することにより、国内の防衛産業基盤を育成し、新たな防衛装備品の研究開発に予算を振り向けることができる。
国内では最新装備を配備しつつ、古い装備を輸出仕様とすることで、自国の先端技術の国外への漏洩を防止しつつ、国内の軍事技術の優位を確保することもできる。
中国の「一帯一路」は外交的経済的な発展戦略であるだけではなく、安全保障戦略と一体で推進されており、その手段として武器輸出も重点的に行われている。パキスタン、エチオピアなどはその一例である。
日本も経済援助を単独ではなく、武器輸出や武器技術支援と一体で推進すれば、受注獲得についてより有利に立つことができるであろう。
まとめ: 防衛産業育成には大きな潜在的可能性
日本は世界第3位の経済大国であり、先端技術分野でも独自の優れた技術を持っている。日本の民生品に対する信頼度は世界的にも高い。
もしも日本が、世界平均の対GDP比約2.5%前後の防衛予算を投入し、先端防衛装備の研究開発や装備品調達に総予算規模に応ずる予算を配分するならば、優れた装備品を生産できるだけではなく、軍民両用の先端技術の研究開発と人材育成、経済の成長、雇用の拡大、賃金の上昇などの経財効果を期待できるであろう。
国内の備蓄、その保管設備の建設は、新たな公共投資、インフラ整備需要を生む。武器輸出も振興すれば、韓国並みの成果を挙げることはできるであろう。
また、その外交的メリットも大きい。
しかしそれらの潜在力が今は活かされていない。日本が過去40年間世界平均以下の成長しかできなかった大きな原因の一つに、このような防衛産業基盤育成につながる諸施策の立ち遅れがあったと思われる。
なぜなら、他の主要国は、ドイツも含め軒並みこのような軍需産業基盤の育成に国を挙げて取り組み、経済、技術、情報、外交など多方面にわたり国益を追求し、経済成長を実現してきているからである。
多分野に波及効果があり、効率的で持続性のある経済成長政策として、防衛産業基盤の意義が再度見直されねばならない。
「死の商人」などというプロパガンダにとらわれていては、日本はますます世界から取り残されるばかりである。
●4州の「戒厳令」発効、親ロシア派に財産接収・一時的な移住の強要認める 10/20
ロシアのプーチン大統領が19日、一方的に併合したウクライナ東・南部4州を対象に発令した「戒厳令」が20日午前0時(日本時間20日午前6時)、発効した。ウクライナ外務省は19日、声明を発表し、戒厳令が「無効でウクライナや国民に何の法的な影響もない」とし、「ロシアの占領に反対する住民の抵抗運動を抑圧するものだ」と非難した。
18日、ウクライナ中部ジトーミルで、ロシア軍のミサイル攻撃を受けたエネルギー施設(ウクライナ非常事態庁提供)=ロイター18日、ウクライナ中部ジトーミルで、ロシア軍のミサイル攻撃を受けたエネルギー施設(ウクライナ非常事態庁提供)=ロイター
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問も19日、SNSに「ウクライナは何ら変わらない。我々は領土の解放を続ける」と投稿し、反転攻勢で領土奪還を進める意向を表明した。
18日、ウクライナ中部ジトーミルで、ロシア軍のミサイル攻撃を受けたエネルギー施設(ウクライナ非常事態庁提供)=ロイター18日、ウクライナ中部ジトーミルで、ロシア軍のミサイル攻撃を受けたエネルギー施設(ウクライナ非常事態庁提供)=ロイター
戒厳令は、プーチン氏が19日に大統領令に署名した。ロシアが一方的に任命した4州のトップに、安全確保の名目で、財産の接収や住民の拘束、一時的な移住の強要、通信の監視などの強制措置を講じる権限を付与した。住民に「特殊軍事作戦」と称するウクライナ侵略への協力を迫る内容だ。
露全土でも「必要に応じ」、同様の対応を容認する項目があり、「ロシア全体に戒厳令を敷いたに等しい」(英国のロシア専門家)との指摘が出ている。
一方、ウクライナ大統領府副長官は19日、エネルギー関連施設を狙ったロシア軍の攻撃により、一時的な停電の可能性が高まっているとし、20日から全土で電力の供給制限を実施すると発表した。都市部の街灯の点灯を制限するほか、国民に対し、午前7時から午後11時までの電力使用を最小限に抑えるよう求める。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日のビデオ演説で、エネルギー関連施設を狙った露軍の攻撃は、「我々が敵のミサイルと無人機(ドローン)を100%撃墜出来る能力を確保するまで続く」と述べ、防空態勢の拡充を急ぐ考えを強調した。
●プーチン氏、ロシア全土に警戒態勢 国内の反発封じ込め 10/20
ロシアのプーチン大統領が19日、9月末に一方的な併合を宣言したウクライナ東・南部4州に戒厳令を敷くと表明した。注目されるのは、同時に発令したロシア全土で警戒態勢を強める大統領令だ。プーチン氏は4州の戦況悪化だけでなく、ウクライナの後方かく乱工作と内政不安にも危機感を募らせ、事実上の戦時体制移行を迫られた。
「きょうの議題に移る前に、きわめて重要な問題に触れたい」。プーチン氏は19日、政権幹部を招集した安全保障会議の冒頭、いつにも増して厳しい表情を見せた。本来の主な議題は移民問題だったが、苦戦するウクライナ軍事侵攻を巡り、急きょ戒厳令とロシア全土への警戒態勢導入の発表に切り替えたもようだ。
戒厳令は軍に権限を集中し、外出禁止令や通信の規制、民間施設などの接収を可能にする非常手段だ。9月中旬までにウクライナ軍によりハリコフ州を奪還され、10月19日には南部ヘルソン州で同軍の攻勢が本格化した。9月21日に発令した一部予備役を招集する部分動員令に続いて、戦時体制の強化を迫られた。
苦境が深まる中、併合前に4州の占領地に敷いていた戒厳令を復活させたのは当然だといえる。今回はむしろ、ロシア全国に発令した警戒態勢が、プーチン氏が抱く危機感の大きさを表している。
今回の警戒態勢は3段階ある。まず、ウクライナと隣接するロシア南部の各州に「中レベル対応」と呼ぶかなり強い警戒態勢を敷いた。さらに南部連邦管区と首都モスクワを含む中央連邦管区に「高度準備態勢」を、全国のその他の地域には「基本準備態勢」をそれぞれ導入した。
「中レベル対応」では、地域防衛のために経済や行政組織を動員し、軍部隊の物資補給など全面的支援を各地域に強制する。「準備態勢」では「高度」と「基本」の程度の差はあるが、交通機関など重要な施設の安全確保や社会秩序維持への警備、取り締まりの強化が求められる。
プーチン氏は全土の警戒態勢で2つのリスクを抑え込もうとしている。ひとつは10月8日にクリミア半島とロシア南部を結ぶ「クリミア大橋」で起きた爆破事件のような、ウクライナによるとされる後方かく乱工作、もう一つは部分動員令をきっかけに広がったプーチン政権への国民の反発だ。
ウクライナは東・南部での軍事攻勢だけでなく、ロシア国内での破壊工作でプーチン政権に打撃を与えようとしている。8月には民族主義的思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリア氏がモスクワ郊外で自動車爆弾の爆発により死亡する事件があり、ウクライナの特殊機関の工作だとみられている。
プーチン氏は「内なる敵」にもおびえる。部分動員令の発令直後から、政権に抗議する街頭デモが広がり、2000人以上が拘束された。軍への招集を逃れるため国外に脱出する人も後を絶たない。プーチン氏は10月14日、国民のさらなる反発を恐れ、「動員は約2週間で終わる」と約束せざるをえなくなった。
国民の「プーチン離れ」は広がりつつあり、独立系調査機関レバダセンターが部分動員令の直後の9月下旬に実施した世論調査によると、プーチン氏の支持率は83%から77%に急落した。実際はもっと深刻だろう。警戒態勢に盛り込んだ社会秩序の維持強化には、さらなる内政の締め付けで反政権の動きを封じ込める思惑が透ける。
こうした戦時体制の構築により、プーチン政権が反対論を押し切って、新たな過激な手段に訴える恐れもある。ロシア軍を支える南部チェチェン共和国のカディロフ首長は1日、ウクライナ東部リマンからのロシア軍撤退を受け、「低出力の核兵器」を使うべきだと指摘した。
カディロフ氏らロシアの保守強硬派には、プーチン氏のやり方を「生ぬるい」とみなす人々が少なからずいる。保守系の政治家や思想家、治安組織や軍幹部ら保守強硬派は政権を支える中核であり、苦境に立たされたプーチン氏が彼らの主張を無視できず、いずれ小型核の使用や総動員令など危険な賭けに出る可能性は否定できない。
●ロシア戒厳令導入 ウクライナ大統領“住民に招集行う可能性”  10/20
ロシアのプーチン大統領は、一方的に併合に踏み切ったウクライナ東部と南部の4つの州に戒厳令を導入しました。ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアを非難するとともに、この地域の住民に対し、ロシア軍が招集を行う可能性があるとして、占領地を離れるか、仮に軍に所属することになっても直ちに投降するよう呼びかけました。
ウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合に踏み切った南部ヘルソン州で反撃を続け、今後、ロシア側に占領された中心都市ヘルソンに向けて部隊を進軍させるとみられています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は19日、一方的な併合に踏み切ったヘルソン州などウクライナ東部と南部の4つの州を対象に、戒厳令を導入する大統領令に署名したと明らかにしました。
戦時体制のもと、強権的な手段をとることで、ウクライナ軍に対し巻き返しを図りたい思惑があるとみられます。
これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は19日、「敗北が近づくにつれて強まるヒステリーのようなものだ」とロシアを非難しました。
そのうえでこの地域の住民に対し、ロシア軍が招集を行う可能性があるとして、占領地を離れるか、仮に軍に所属することになっても直ちに投降するよう呼びかけました。
また、アメリカのバイデン大統領も「プーチンができることはウクライナの国民に残虐な行為をし、脅して降伏させようとすることだけなのだろう」と批判し、反転攻勢を続けるウクライナ軍に対してロシア側が厳しい状況に置かれていると強調しました。
ヘルソン州では、親ロシア派が住民をロシア側などに強制的に移住させる動きも出ていて、戦況で劣勢に立たされるロシア側が今後、どのような行動に踏み切るのかが焦点です。
松野官房長官は、午前の記者会見で「政府としてロシア側の意図について申し上げることは差し控えるが、今後の戦局に与える影響を引き続き注視していく」と述べました。
そのうえで「ロシアによるウクライナ国内地域の違法な併合と称する行為は、主権と領土の一体性を侵害し、国際法に違反する行為であり、決して認めてはならず強く非難する。引き続き、G7=主要7か国をはじめとする国際社会と緊密に連携し、ロシアに対し即時に侵略を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう改めて強く求める」と述べました。
●4州に戒厳令、バイデン大統領「プーチン氏は極めて難しい立場にある」  10/20
ロシアのプーチン大統領がウクライナの東・南部4州に「戒厳令」を発令したことについて、米国のバイデン大統領は19日、ホワイトハウスで記者団に対し、「プーチン氏は極めて難しい立場に置かれている」との見方を示した。「プーチン氏が使える唯一の手段は、ウクライナ市民を残虐に扱い、脅して屈服させようとすることのようだ」とも指摘した。
●「ロシアが近く徴兵」ゼレンスキー大統領が住民に退避呼びかけ 10/20
ロシアのプーチン大統領が一方的に併合したウクライナの4つの州に戒厳令を導入したことをうけ、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアが近く住民を徴兵する」との考えを示し、退避を呼びかけました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ドネツクやルハンシクでやっているように、ロシアは近く住民を徴兵するだろう。できる限り徴兵から逃れてください」
ウクライナのゼレンスキー大統領はこのように述べ、戒厳令が導入された4州の住民に対し、ロシアの支配地域にいる場合は退避するよう呼びかけました。
その上で、もし退避できず徴兵され軍に組み込まれたら、武器を置き、ウクライナ側の拠点に投降する機会を見つけてほしいと話しました。
アメリカ バイデン大統領「プーチンに残された唯一の手段は、ウクライナ国民を残虐に扱い脅して屈服させようとするだけのようだが、思い通りにはならない」
一方、アメリカのバイデン大統領は「戒厳令」導入について、「プーチンは極めて難しい状況に置かれているのだと思う」と述べました。
●ロシアは大規模ミサイル攻撃で「自滅」したが、核の脅しでNATO結束に暗雲 10/20
クリミア大橋が爆破されたことへの報復措置として、ロシア軍がウクライナへの大規模ミサイル攻撃を行った。「ミクロ」な視点で戦況を見ると、この攻撃によってロシアが再び優位に立ったように思える。だが「マクロ」な視点で国際関係を読み解くと、ロシアは大規模ミサイル攻撃によって自らの首を絞めたといえる。ただし、ロシアが苦肉の策として繰り出した「核の脅し」は侮れず、NATOの結束を分断させる危険性を秘めている。そういえる要因を詳しく解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
ロシアがウクライナを「報復攻撃」 戦争は泥沼化が続く
ロシア軍は10月10日以降、ウクライナの首都キーウなどに大規模な攻撃を加えた。攻撃対象となったのは16都市で、使われたミサイルは84発に上り、120人を超える市民が死傷したと報じられている。
この攻撃は、ウクライナ南部のクリミア半島(ロシアが2014年に併合)とロシア本土とを結ぶクリミア大橋が爆破されたことに対する報復だとみられる。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、クリミア大橋の爆破をウクライナによる「テロ行為」と断じ、「仕返し」のために大規模な攻撃を命令したようだ。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアによるミサイル攻撃を「市民の殺害を狙った無差別攻撃だ」と激しく非難している。
ロシアによる大規模攻撃を受け、G7(主要7カ国)は緊急会合を開き、ミサイル攻撃を「戦争犯罪」であると断罪。ウクライナを支援していく姿勢を示した。
ウクライナおよび西側諸国とロシアの対立はさらに深まり、まったく停戦の見通しが見えない。ロシア軍による「自爆型ドローン」を使った攻撃も加速し、戦争は泥沼化の一途をたどっている状況だ。
そうした状況下で、「核の脅し」を繰り返してきたプーチン大統領が、本気で核兵器を使用するのではないかという懸念も広がっている。
今後のウクライナ情勢はどうなるのか。プーチン大統領は本当に「核のボタン」を押してしまうのか。
私はこうしたポイントを読み解く上で、ウクライナ戦争を「ミクロ」と「マクロ」の2つの視点から見る必要があると考えている。
「ミクロ」の視点とは、「どちらの国が、どの地域を攻撃し、どれだけの被害が出たか」といった日々の戦況に着目することを指す。
どちらかというとニュース番組などは、こうした解説が中心になっている印象だ。メディアを通して連日、ウクライナ周辺の戦況を示す地図を目にしている人も多いだろう。
一方、「マクロ」の視点とは、ウクライナおよび西側諸国とロシアの力関係を、中長期的な視点で分析することを指す。「ミクロ」の報道がすでに充実していることもあり、本稿では「マクロ」の観点からウクライナ情勢を解説していきたい。
「マクロ」な視点で読み解けば ロシアはすでにNATOに屈している
そもそもプーチン大統領は、今年2月にウクライナへの侵攻を決断した理由の一つとして、北大西洋条約機構(以下、NATO)の東方への拡大で、ロシアの安全保障が脅かされたことを挙げていた。
東西冷戦終結後の約30年間で、旧ソ連の影響圏は、東ドイツからウクライナ・ベラルーシのラインまで後退した。旧ソ連の衛星国だった東欧諸国、旧ソ連の構成国だったバルト3国などは、NATOと欧州連合(以下、EU)に次々と加盟した。
2014年の「クリミア危機」で、ロシアはウクライナ領だったクリミア半島を占拠した。このロシアの動きは波紋を呼んだが、かつての“仲間”が続々とNATOやEUに加わっている状況下での「窮余の一策」だったといえる。
例えるならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたボクサーが、やぶれかぶれで出したパンチのようなものだ。
その後も「ロシア離れ」の動きは進み、今年2月のウクライナ戦争開戦時、ウクライナでは自由民主主義への支持が広がっていた。具体的な動きはなかったものの、NATO・EUへの加盟のプロセスの実現可能性が高まっていたのだ。
ロシアはこうした情勢を、2014年よりも深刻な状況だと捉えていたようだ。
というのも、開戦当初のプーチン大統領は米国とNATOに対して次の「3つの要求」を突き付けていた。
その要求とは、「『NATOがこれ以上拡大しない』という法的拘束力のある確約をする」「NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない」「1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する」というものだ。
この内容からも、ロシアがNATOの東方拡大でいかに追い込まれていたかがわかる(第297回・p2)。
そしてウクライナ戦争開戦後、ロシアの苦境はさらに深刻化した。従来、ロシアとの対立を避けるためにNATO非加盟の方針を貫き、「中立政策」を守ってきたスウェーデンとフィンランドがNATOに正式加盟したからだ。
これは、単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与えた。地上において、NATO加盟国とロシアの間の国境が、従来の約1200キロメートルから約2500キロメートルまで2倍以上に延長され、ロシアの領域警備の軍事的な負担は相当に重くなった。
海上でも、ロシア海軍の展開において極めて重要な「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になった。NATOの海軍がバルト海に展開すれば、ロシア海軍は活動の自由を厳しく制限されてしまうことになる(第310回・p3)。
そして、9月30日、ウクライナはNATO加盟を正式に申請した。当初は和平交渉の条件として「NATO非加盟」を提案したとみられるウクライナだが、ロシアによるウクライナ東部・南部4州の一方的な併合を受けて翻意した形だ。
これにより、NATOによるロシア包囲網の事実上の完成という、ロシアにとっての最悪の事態となったといえる。
ロシアによる大規模ミサイル攻撃は NATOの結束を再び強めた
さらに、冒頭で述べたロシアによるウクライナ全土への大規模ミサイル攻撃は、苦境にあるロシアを経済的にさらに追い込むことになった。「対ロシア」への温度感にズレが生じ、不協和音が生じかけていたNATOを、再び結束させてしまったのだ。
ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まって以降、ロシアからの石油・ガスパイプラインに依存していない米英を中心に、欧米諸国は一枚岩となってロシアに経済制裁を科してきたように思える(第303回)。
だが実は、かつてはNATO加盟国の間で、経済制裁を巡って不協和音が生じる懸念があったのだ。その要因を順に説明していこう。
経済制裁を受けたロシアが欧州へのエネルギー供給を大幅に削減した際、今冬に深刻な天然ガス不足が起こる可能性が生じたため、欧州諸国に動揺が走った。
当時の欧州諸国は、今冬のエネルギー不安を回避する目的で、ロシアがウクライナの領土を占領した状態のまま、停戦の実現に動く可能性があった。
一方の米英は、前述の通りロシアからの輸入に依存していない。戦争が長引くほどにプーチン政権を追い込めるメリットもあり、欧州諸国ほど停戦を急いでおらず、欧米諸国の間で温度差が生じていた(第304回)。
しかし、ロシアのウクライナ全土へのミサイル攻撃は、欧米を再び一枚岩にさせた。今後はさらに強力な経済制裁が発動されるだろう。
欧州が痛みを伴いながら米英の支援で石油・ガスの「脱ロシア」を達成すれば、ロシアは石油・ガスの大きな市場を失うことになる。
ロシアの欧州向けの輸出はパイプラインで行われるため、売り先を変更できない。欧州への輸出減を、他国向けで完全に代替することは不可能だ(第304回)。石油・ガスの輸出に依存するロシア経済には大打撃となる。
さらに、西側諸国による経済制裁の一環で、約6000億ドルといわれるロシア中央銀行の国際準備資産は一部凍結されている。ロシアの有力銀行も、SWIFTやユーロクリア(国際証券決済機関)などから排除されている。
これらの2措置は、ロシア経済を次第に苦しめている(第298回・p4)。経済制裁を受けたからといって、プーチン政権がすぐに倒れるわけではないが、じわじわと追い詰められていること変わりはない。
貿易縮小や輸入品の価格上昇が起きると、ロシアの物資・戦費調達は困難になる。経済・金融面から、戦争を続けることが難しくなっていくだろう。
実は経済的にも、NATO側がロシアに対して圧倒的優位に立っている。これが「マクロ」なウクライナ戦争の現実だ。
では、ロシアがこうした状況を打破するために、核兵器を使用してウクライナを攻撃する可能性はあるのか。
ロシアの「核使用」の可能性は低くても 「核の脅し」は今後も続くだろう
ジョー・バイデン米大統領は先般、プーチン大統領が戦術核の使用可能性に言及したとき、「(プーチン氏は)冗談を言っているわけではない。もし物事がこのまま進めば、キューバ危機以来、初めて核兵器使用の直接的な脅しを受けることになる」と発言した。
決して、ただの脅しではなく、現実的な脅威であるとの認識を示したのだ。
この「核の脅威論」について、国内外のさまざまな識者が「ロシアが核兵器使用に踏み切る可能性は著しく低い」と述べているのをよく見聞きする。
彼・彼女らの論調は、「核兵器の使用は、ロシアが被る政治的なリスクが大きすぎるので、あり得ない」というものが多い。
確かに、もしロシアが核兵器を使用すれば、ロシアとの直接対決を慎重に避けてきたNATOは激しく反発するだろう。NATOが参戦すれば、ロシアの壊滅は避けられないため、核兵器使用の「可能性が低い」という指摘もうなずける。
しかし私は、たとえ実際に使わなかったとしても、ロシアによる「核の脅し」は今後も続くだろうと思う。特に、小型の「戦術核」の使用をちらつかせ続けるだろう。
現在はウクライナが反転攻勢を強めて、侵略された領土を徐々に奪い返している。これに対して、ロシアは新たに併合した「領土」を守ることを大義名分として、ウクライナに戦術核を使用すると脅している。
その目的は、ウクライナの攻勢を止める以上に、NATOを揺さぶり、加盟国の結束をバラバラにすることだ。
局地的な戦闘で使用する戦術核は、特定のエリアに核の影響を及ぼすことができる。打ち込む場所を綿密に計算すれば、ウクライナだけでなく、ロシアに非融和的な近隣諸国にも放射能被害をもたらすことが可能なのだ。
その可能性をロシアがちらつかせると、目を付けられた国は、ロシアに対して強硬姿勢を取りづらくなる。エネルギー不安に、戦術核による放射能汚染の恐怖が重なった国は、早期の停戦を求めるかもしれない。
一方、ウクライナから遠く離れていて放射能汚染の心配がなく、ロシアにエネルギーを依存していない米英は、ロシアが戦術核の使用をほのめかしても「即座のNATO参戦」というカードで対抗できる。
いわば、戦地からの距離やエネルギーの依存度によって、ロシアによる「核の脅し」への対応力も異なる。その差によって、NATOが再び一枚岩ではなくなる恐れがあるのだ。
「マクロ」な視点で論じる際も ウクライナの惨状を忘れるべからず
このように、NATOの反ロシアに向けた連帯を弱体化させることが、戦術核を使用する目的となり得る。「マクロ」な視点では完敗といっていいほど追い込まれたロシアにとって、戦術核の使用をちらつかせることは、残された数少ない「効果的な打ち手」といえるのだ。
ロシアは今後、ウクライナへの戦術核攻撃の「脅し」を続け、NATOの結束を揺さぶるかもしれない。これが長引けば、NATO側も戦争を継続する動機が薄れ、ロシアによる「力による一方的な現状変更」を認めてでも停戦を急ぐ可能性はゼロではない。
このせめぎ合いが、今後の戦局を左右する大きなポイントになるだろう。
ただし、このように「マクロ」な視点で戦争を論じる際も、忘れてはならないことがある。足元ではウクライナ戦争は泥沼化し、ウクライナ国民の生活が破壊され、命が奪われているということだ。
大国の思惑の前に、ウクライナという国が蹂躙され、ウクライナ国民の命が翻弄され、軽視されているともいえる。われわれは各国や同盟の動き以上に、この現実をしっかりと見つめて、戦争というもののくだらなさを認識すべきなのである。
●ロシア侵攻に「屈することはない」 ウクライナ国民に「サハロフ賞」欧州議会 10/20
欧州連合(EU)欧州議会は19日、人権擁護や民主主義の発展に貢献した個人や団体に与えられるサハロフ賞の今年の受賞者に「ウクライナ国民」を選出した。ロシアの軍事侵攻に対して勇敢に戦い続けているゼレンスキー大統領や議員、市民社会の全体が受賞に値する、と位置付けた。
メツォラ議長はフランス・ストラスブールの議会で「領土にとどまっている人、出国しなければならなかった人、近親者を亡くした人、すべての人たちに贈られるべき賞だ」と説明。「彼らが屈することはない。(EUの)私たちも同じだ」と述べた。
ゼレンスキー氏はツイッターに「ウクライナ国民はテロ国家ロシアとの戦いで自由や民主主義への愛着を証明した」と投稿して受賞を喜び、ウクライナが加盟を申請しているEUの支援の重要性を強調した。
サハロフ賞は、旧ソ連の共産党独裁体制と闘い、1975年にノーベル平和賞を受賞した物理学者、アンドレイ・サハロフ氏に由来し、88年に創設された。
昨年は、毒殺未遂から回復した後に実刑判決を受け、収監中の身ながらプーチン政権の追及を続けるロシアの野党指導者ナバリヌイ氏が受賞しており、2年続けてロシアの権威主義体制に立ち向かう人たちに贈られた。12月に授賞式がある。
●ロシアの「弱さ」思い知った旧ソ連諸国...「力の空白」で周辺地域が不安定化 10/20
無謀なウクライナ侵攻でロシアの国力がみるみる衰える中、周辺の旧ソ連諸国に「力の空白」が生じ、不安定化している。ウラジーミル・プーチン露大統領が自らの正当性を主張するためウクライナの占領地域にこだわれば、それだけロシアは蟻地獄にハマる。旧ソ連崩壊と同時進行形で始まったユーゴスラビア紛争と同じ悪夢が繰り返されるのか。
「アゼルバイジャンは近い将来、欧州への天然ガス供給量を倍増することを計画しており、中央アジアの国々はわが国と協力し、カスピ海を越えて欧州に至る輸送・通信回廊の整備を加速させている。(わが国と隣国アルメニアの)和平が配当をもたらす可能性は高まっているが、和平プロセスが遅れることによる機会費用も同様に増加している」
エリン・スレイマノフ駐英アゼルバイジャン大使は保守系英紙デーリー・テレグラフに「カフカスの平和を取り戻すために」と題して寄稿した。アゼルバイジャンがエスカレートさせたアルメニアとの紛争に対する西側諸国の批判をかわすためだ。スレイマノフ氏は筆者を含む西側メディアに個別取材を呼びかけ、アゼルバイジャンの主張を繰り返した。
「ロシアは疲弊し、周辺地域は不安定化するのか」との筆者の問いに、同大使は「ロシアが依然として巨人であることに変わりはない。外からどう見えるかは別問題だ。しかし安定は外からではなく、内からもたらされるべきだ」と答えた。アルメニアとの和平合意は非常に近いとの見方を示す一方で、和平が近づくにつれ暴力や挑発が起きる危険性も指摘した。
「ロシアが軍事的損失を被ったことがアゼルバイジャンを増長させた」
旧ソ連崩壊でアジアと欧州を結ぶカフカスの地政学は複雑になった。「西側諸国によるアゼルバイジャンとトルコへの大規模なエネルギー投資はアルメニアを経済的に孤立させ、バクーを支援することでアルメニアが直面する安全保障上の脅威を大きくした。ロシアがウクライナ侵攻で多大な軍事的損失を被ったことがアゼルバイジャンをさらに増長させた」
米外交誌フォーリン・ポリシーへの寄稿でこう解説するのは米国最大のアルメニア系米国人草の根支援組織「米国のアルメニア国家委員会」のプログラム責任者アレックス・ガリツキー氏。9月、アゼルバイジャンがアルメニア国内の防空・大砲システムに大規模攻撃を加え、200人以上が死亡。米航空宇宙局(NASA)が衛星から確認できるほどの激しい攻撃だった。
作戦はロシア軍がウクライナ北東部ハルキウから屈辱的な撤退を強いられた直後に実行された。ロシアは2国間防衛条約と集団安全保障条約(CSTO)に基づきアルメニア国内に基地を置いており、同国が第三国に攻撃された場合、集団防衛の義務を負っている。ロシアはアルメニアから支援要請があったものの仲裁できず、代わって外交を展開したのは米欧だった。
「2020年のナゴルノ・カラバフ紛争で圧倒的勝利を収めて以来、アルメニアに対しアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は交渉と武力を織り交ぜた『強圧外交』を行ってきた」と、欧州のシンクタンク、カーネギー・ヨーロッパのトーマス・デ・ワール上級研究員は同国幹部の言葉を紹介している。
デ・ワール研究員によると、アリエフ大統領は(1)アルメニアがナゴルノ・カラバフの領有権を放棄する「平和条約」を締結させる(2)アルメニアとの国境をアゼルバイジャンの都合の良いよう画定する(3)アルメニア領土を横断する「ザンゲツール回廊」構想を実現する――という3つの目標を掲げていたという。本当に「和平」は可能なのか。
CSTOは今年1月、ロシア指揮下の部隊を「平和維持」のため加盟国カザフスタンに兵を送り、200人以上が死亡した危機「血の1月」を鎮めるのに貢献した。ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン6カ国でつくる「プーチン版NATO(北大西洋条約機構)」と呼ばれるCSTO初の集団的自衛権行使だった。
しかしウクライナ侵攻でプーチン氏に協力したのはCSTOの中ではベラルーシのみ。ロシア依存度が高いアルメニアは「地域安全保障の保証人」としてロシアに見切りをつけ、米欧に支援を求めている。したたかなアリエフ大統領はアルメニアだけでなく、その背後にいるロシアにも狙いを定め、大規模攻撃に踏み切ったとの見方も有力だ。
キルギスは9月、同じCSTO加盟国タジキスタンとの国境紛争がエスカレートし、約100人が死亡した。プーチン氏70歳の誕生日(10月7日)、サンクトペテルブルクで開かれた旧ソ連諸国の「独立国家共同体」(CIS)非公式会合に、キルギス大統領は突然欠席し、代わりに電話で祝辞を伝えた。プーチン氏がタジキスタン大統領に勲章を与えたためと言われる。
ロシアの威信低下でユーラシアの地政学に劇的な変化が
ウズベキスタンは2012年にCSTOを離脱しており、他の加盟国が相次いで離脱するとの懸念も膨らむ。ウクライナが早期に勝利を収めるとみるのは楽観的過ぎるかもしれないが、ロシアのパワーと影響力は目に見えて弱まっている。「ロシアは撤退しているのではなく収縮している」(米カーネギー国際平和基金のダニエル・ベア上級研究員)という。
「東欧から中央アジアに至るロシア周辺では地政学的に巨大な吸引音が鳴り響いている。プーチン政権は旧ソ連圏でロシアの力を誇示しようとする権威主義的な体制になった。その背後には旧ソ連圏を再び支配下に置きたいという願望と、旧ソ連圏の民主化が自国にも伝染しかねないという根深い恐怖心がある」とベア研究員はフォーリン・ポリシー誌に書く。
「ウクライナでのプーチンの戦略的敗北はロシアの支配力を緩めることになるかもしれない。ウクライナ戦争の敗北によって、ロシアの将来の政治的発展と安全保障体制が注目されるようになった。ロシアの威信とパワーの低下によりユーラシア大陸の地政学的風景はダイナミックに変化する可能性がある」(ベア研究員)
ロシアの違法なウクライナ4州併合を非難した国連総会決議で反対票を投じたのがロシアとベラルーシ、北朝鮮、シリア、ニカラグアの5カ国。賛成143カ国で、棄権は中国やインドなど35カ国。CSTOではアルメニア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンが棄権に回った。ウクライナ戦争でプーチン氏は「張り子の虎」以下の存在に成り下がった。
●プーチンに「寝返り」へ…! なんと「サウジアラビア」が“アメリカと仲間割れ” 10/20
またまたガソリン価格が上昇
米国政府は10月11日、OPECプラス(OPECとロシアなど大産油国で構成)による減産決定を受け、サウジアラビアとの関係を再評価していることを明らかにした。
このままではアメリカとサウジの関係が抜き差しならないものになる可能性がある。
OPECプラスは10月5日、11月から日量200万バレル(世界の原油生産の2%)の減産を行うことで合意した。
実際の減産幅は日量100万バレル程度にとどまる見込みだが、大幅な減産を行わないよう働きかけていた米国の意向は無視された形だ。
国内の反対を振り切って7月にサウジアラビアを訪問したバイデン大統領のメンツも丸つぶれだ。
米国政府は代替策を検討しているようだが、SPR(戦略石油備蓄)の追加放出など打つ手は限られている。国内の原油生産が増加する可能性も低い。
OPECプラスの決定を受けて、9月下旬に1バレル=76ドル台だった米WTI原油価格は80ドル台後半に上昇。このままでは再び1バレル100ドル台に高騰しかねない。
11月8日の中間選挙を控えるバイデン政権はガソリン価格の抑制に努めてきた。
ガソリン価格は一時の高値から下落していたが、10月に入り、再び上昇しており、与党民主党が打撃を受けると懸念されている。
「ロシアが原油価格をつり上げた!」
サウジアラビア政府は「OPECプラスの決定は世界の原油市場の安定に貢献する」と強調しているが、米議会では「サウジアラビアがロシアに加担して原油価格をつり上げた」との不満が爆発しており、悪名高き「NOPEC法案」への関心が再び高まっている。
この法案は、反トラスト法(米独占禁止法)に規定されている「産油国及び国営石油会社が訴訟対象にならない」という免責条項を廃止し、サウジアラビアなどを米国の裁判所に訴える権限を司法長官に与えるという内容だ。
昨年に下院の委員会が承認し、今年5月には上院司法委員会も承認しているが、この法案が再び議会で審議されるのは中間選挙以降であり、成立するかどうかは不透明だ。
この法案以上に気になるのは、メネンデス・上院外交委員長(民主党)が10日「武器売却などサウジアラビアとの協力関係を凍結すべきだ」と発言したことだ。
7月のバイデン大統領のサウジアラビア訪問以降、米国政府はサウジアラビアの武器売却を再開しているが、見返りである「増産」が反故にされた今、武器売却を再び凍結する可能性が高まっている。
サウジアラビアにとってこのタイミングで米国から武器が調達できなくなるのは痛い。
今年4月に国連の仲介で成立していたイエメンのイスラム教シーア派武装勢力フーシとの間の停戦合意が、2日に失効してしまったからだ。
この合意は6月と8月にそれぞれ2ヵ月間延長されてきたが、「自らの支配地域の苦境が好転する兆しが見えない」としてフーシが延長に応じなかった。
国連は「引き続き停戦延長に向け取り組む」と表明しているが、フーシは「侵略国の石油会社や港などへの攻撃を再開する」と警告を発している。
侵略国とはアラブ連合軍の中核を成すサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)のことだ。
4月の停戦合意発効前、フーシは弾道ミサイルやドローンを用いてサウジアラビアやUAEの石油施設などへ越境攻撃を相次いで行っていた。
3月下旬にはサウジアラビア西部ジッダの国営石油会社サウジアラムコの石油貯蔵施設が攻撃を受けたことで供給懸念が高まり、原油価格が一時高騰している。
長年の投資不足がたたって、OPECプラスの中で増産余力があるとされているのはサウジアラビアやUAEだけだ。
イエメン各地では早速、戦闘が再開されたと報じられており、米国からパトリオットミサイルなどが調達できなければ、サウジアラビアの石油施設は再びフーシのミサイルなどの餌食になってしまうとの悪夢が頭をよぎる。
泥沼化するイエメン情勢だが、2015年にイエメン内戦への軍事介入を決定したのは次期国王を目指すムハンマド皇太子だった。
火花を散らすバイデン大統領とムハンマド皇太子
サウジアラビアでは権力の移行が最終段階に来ているとの見方が強まっている。
サウジアラビアのサルマン国王は9月27日に実施した内閣改造で、自身が兼務していた首相にムハンマド皇太子を指名した。
王位継承を円滑に進めるための布石だと見られているが、ムハンマド皇太子への権限移譲が進んでいるものの、サウジアラビア王室内では現体制への不満がいまだにくすぶっているとの観測がある。
ムハンマド皇太子とバイデン政権との関係が再び悪化しつつあり、今後サウジアラビア自体の地政学リスクが材料視される可能性も排除できなくなっている。
OPEC第2位(日量約450万バレル)のイラクも心配だ。昨年12月に米軍が事実上撤退したイラクでは政情不安が深刻化しているからだ。
昨年10月に総選挙が実施されたが、いまだに政権が樹立される目途が立っていない。
石油資源に恵まれているのにもかかわらず、インフラ不足のせいで国民は水と電気の不足にあえいでおり、各地で抗議活動が激化している。
2003年の米軍のイラク侵攻後、最悪の政治危機に陥っていると言っても過言ではないが、米軍が再びイラクの内政安定に汗を掻くつもりはないようだ。
原油はまた100ドル超えるのか…
現在生じている騒擾は石油施設が集中する南部バスラなどにも飛び火しており、イラクからの原油輸出が大幅に減少するリスクが生じている。
このように、米国の関与低下が中東地域の地政学リスクを高めている。
そうなれば、原油価格は1バレル=100ドル超えとなってしまうのではないだろうか。
さらに連載記事『国債「投げ売り」で大パニック…!  近づく「史上最大&最悪のバブル崩壊」で、世界経済を襲う「リーマン以上の危機」のヤバすぎる現実…! 』では、世界経済の“もう一つの火種”について最新レポートでお届けしよう。 
●駐米大使、ロシア・ウクライナ戦争に関するサウジアラビアの立場を表明 10/20
駐米サウジアラビア大使であるリーマ・ビント・バンダル王女は2日、ウクライナ戦争に関するサウジアラビアの立場と、占領地を併合しようとするロシアを非難する旨のファクトシートを改めて発表した。
リーマ・ビント・バンダル王女のファクトシートは、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子がウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談での、ロシア支配地域における併合に関する住民投票にサウジアラビアが反対であることについての話し合いを受けて発表されたものである。
ファクトシートは「10月14日のゼレンスキー大統領との電話会談で、皇太子殿下は、国連憲章および国際法に深く根ざした原則へのコミットメントから、併合を非難する決議への投票が生まれたことを強調された」としている。
さらに、サウジアラビアは「国家主権の尊重と善隣友好の原則、そして平和的手段による紛争解決に尽力している」とファクトシートは付け加えた。
国連総会は10月12日、先月末に行われたいわゆる住民投票を受け、ロシアが主張するウクライナの4州併合を承認しないよう各国に呼びかける決議を賛成多数で可決した。この決議は、ロシアに「違法な併合の試み」を撤回するよう要請している。
サウジアラビアはまた、ロシアのウクライナに対する侵略を非難し、ロシアが直ちに武力行使を停止し、「国際法、国連憲章、ウクライナを含む国家の主権と領土の保全を支持する道徳的立場に沿って」3月2日にウクライナ領土からすべての軍隊を撤退させることを要請する国連決議案を支持して投票した。
また、皇太子はウクライナに対して追加で4億ドルの人道的総合援助計画を発表した。
また、ファクトシートでは、皇太子の調停努力により、米国人2名を含む5カ国10名の捕虜が解放されたことも強調されている。
「ウクライナ大統領は、殿下が危機の解決を目指した調停活動を継続する用意があることに感謝の意を示し、サウジアラビアの確固たる姿勢と人道的取り組みに謝意を表明した」ともファクトシートは伝えている。
また、ファクトシートは、サウジアラビアがウクライナからの訪問者のビザを延長し、観光客や居住者がサウジアラビアに滞在できるようにしたこと、さらにサウジアラビアがサルマン国王人道援助救援センター(KSRelief)を通じて人道支援活動を行い、ポーランドにいるウクライナ難民に1,000万ドル相当の援助を提供したことを明らかにした。
ファクトシートは、皇太子が「ゼレンスキー大統領とプーチン大統領との電話会談で、危機を緩和するための取り組みへのサウジアラビアの支持を確認した」としている。
さらに、皇太子はサウジアラビアの「紛争当事者間の調停への前向きな姿勢を示しており、サウジアラビアはこの危機の政治的解決を見出すためのあらゆる国際努力を強力に支持する」と表明したという。
●プーチン氏、調整会議の立ち上げ指示 戦争の必要物資等を賄うため 10/20
ロシアのプーチン大統領は19日、ウクライナでの「特別軍事作戦」における必要物資等を賄うため、調整会議を立ち上げる命令を20日までに起草するように政府に指示した。
プーチン氏はウクライナでの戦争を「特別軍事作戦」と呼んでいる。
大統領府の声明によると、武器の供給や修繕、軍の装備や特殊装備、材料、医療維持、修繕及び建設の作業と物流などの点でニーズを賄うものとなる。
この会議は首相が主宰し、国防省、内務省、非常事態省、国家親衛隊、連邦保安庁(FSB)、対外情報庁、特別プログラム総局(GUSP)などの代表者が出席する。
国営RIAノーボスチ通信によると、初回の会議は来週前半に開かれる予定。
●西側の対ロシア制裁、軍の補給能力を痛撃 米情報機関 10/20
米情報機関を統轄する国家情報長官室は20日までに、ロシア軍がウクライナに投入している武器弾薬類の補給能力が西側諸国による制裁の効果で大幅にそがれているとの新たな分析結果を明らかにした。
この事態を受けロシア政権は情報機関に対し制裁策をかわしウクライナ侵攻を支える必要不可欠な技術や部品調達の方途を見い出すよう迫っているともした。
CNNが入手したこの分析結果によると、ロシアが今年2月下旬、ウクライナ侵攻に踏み切って以降に失った軍装備品は6000以上。ロシア軍はマイクロチップ、エンジンや赤外線画像の技術といった新たな兵器製造に必要な物資の確保に手間取っているとした。
ロシアへの輸出品に対する西側世界の広範な規制は同国の軍事産業の生産施設に大きな影響を及ぼし、定期的な操業中止にも追い込んでいる。
超小型電子技術を手掛けるロシアの最大手企業の2社は必要な外国製部品が入手できないため一時的に製造中止を強いられたともした。ハイテク技術の部品でもないベアリングも欠乏しており、戦車、航空機、潜水艦やほかの軍事的な装備品の生産にも支障を与えている。
米国家情報長官室の分析によると、ロシアの軍事産業が装備品の製造に必要な部品などの不足に直面したのは今年5月初旬にさかのぼるともされる。船舶用ディーゼル、ヘリコプター、航空機部品や消火システムの装置にもその影響が波及したという。
ウクライナ侵攻に踏み切ってから数カ月後に襲った苦境ともなっていた。
制裁効果の打撃に遭遇したロシアは保管していた旧ソ連製の戦車をウクライナへ送り込む手当ても強いられたとした。
●ロシアの「焦土戦術」、プーチン氏の勝利につながらず ドイツ首相 10/20
ドイツのショルツ首相は20日までに、ウクライナに対するロシアの「焦土」作戦は欧米の対ロシアの結束を強めているだけだとの見解を示した。
ショルツ氏はドイツ議会で、ロシアのプーチン大統領はエネルギーと飢餓を武器として利用していると指摘。「こうした焦土戦術はロシアの勝利の助けにはならない」と付け加えた。
爆弾とミサイルによる「テロ」はロシア人男性の動員と同様、追い詰められての行動だとの認識も示し、ドイツがロシアによる戦争の激化を看過することはないと強調した。
ショルツ氏の発言はウクライナのエネルギーインフラに対する最近の相次ぐ攻撃に言及したもの。
ウクライナでは一連の攻撃を受けて全土で輪番停電が始まっており、当局は20日から電力使用の制限を導入した。
ショルツ氏は今回、ドイツはロシア産ガスへの依存から脱却したとしつつも、他の国と新たにガス供給契約を結ぶなどしてエネルギー価格の抑制に努めていると説明した。
20日にはベルギーの首都ブリュッセルで、欧州連合(EU)の加盟27カ国の首脳が集う欧州理事会が開かれる。欧州におけるエネルギー価格の引き下げを目的とした会合は2週間で2度目となる。
●プーチン氏からウオッカ20本 ベルルスコーニ氏に贈り物 10/20
イタリアのベルルスコーニ元首相が、ロシアのプーチン大統領から誕生日のプレゼントとしてウオッカ20本を贈られたと明かし、物議を醸している。欧州連合(EU)欧州委員会は20日、ウクライナを侵攻したロシアに科したEUの制裁に違反していると強調した。
メディアが公開した音声によると、9月に86歳を迎えたベルルスコーニ氏は今週、自身が党首を務める中道右派政党「フォルツァ・イタリア(FI)」所属の下院議員に対して、プーチン氏から20本のウオッカと手紙を受け取ったと話した。
欧州委の報道官は、4月に合意した制裁では、ロシア産品の輸入禁止の対象にウオッカなどが含まれたと説明。贈り物も例外扱いにはならないと語った。
FIは次期政権に参加する見通し。首相に就任するとみられるメローニ氏は20日、次期政権が北大西洋条約機構(NATO)寄りであり、完全に欧州の一部だと述べた。
●「プーチンは喜んでいる」…ガソリン不足でフランス大混乱 世論分断  10/20
フランスの製油所で一部労働組合による賃上げを求めるストライキが長期化し、在庫切れのガソリンスタンドが続出し国民生活に大きな影響が及んでいる。仏政府は抑え込みに躍起だが、労組側は多分野でのゼネストで対抗。ロシアのウクライナ侵攻を背景にした物価高が続く中、新たな社会分断の火種になっている。
発端は、9月下旬に始まった仏エネルギー大手トタルエナジーズの製油所などでのストライキ。製油が滞り、仏全土のスタンドへの燃料供給量は大幅に低下して一時閉鎖が相次いだ。
一部労組は妥結したが、ストを継続した強硬派組合の仏労働総同盟(CGT)組合員に対して仏政府が業務復帰命令を出す強硬手段をとると、鉄道職員や教職員を巻き込んだゼネストに発展。10万人規模のデモも起き混乱が発生した。
パリ市内のデモに参加した医療事務職員ブルーノさん(51)は「増収企業の利益は還元されるべきだ。製油所職員らは間違っていない」と強調。ガソリンスタンドの車列に並んでいたジャックさん(61)は「誰もが物価高で苦しんでいるのに一部組合員のために社会が混乱するのは不公平だ」と指摘し「この様子をプーチン(ロシア大統領)は喜んでいるだろう」と皮肉った。
世論はストの支持派とガソリン不足への不満を嘆く不支持派で割れている。CGTは19日に一部製油所でのスト終結を決めたが、フィリップ・マルティネス事務総長は18日のデモで記者団に対し「要求が改善されなければ、このような大規模ストは今後も続くだろう」と予告した。
6月の下院選で与党が過半数を割り込み国政運営に苦慮しているマクロン政権が対応を誤れば混乱が深刻化し、フランスを中心とする欧州の対ロシア包囲網に影響が出る恐れもある。

 

●ウクライナ、ロシアの西部地方攻撃を懸念 ベラルーシ国境から 10/21
ウクライナ軍幹部は20日の記者会見で、ベラルーシへの展開を進めるロシア軍が「ウクライナ西部を攻撃する恐れがある」との認識を示した。欧州諸国から援助されている武器や物資の輸送網をロシアが遮断しようとしているとみて、警戒を強めているという。
ウクライナメディア「ウクラインスカ・プラウダ」が伝えた。ロシア軍は2月の侵攻開始直後、ベラルーシ東部からウクライナに入り、一時は首都キーウ(キエフ)に迫った。ウクライナ軍幹部によると、ロシアはベラルーシ国内にミグ31戦闘機などを配備。今回は侵攻開始直後とは異なり、ベラルーシ西部から国境を越えてウクライナ西部を攻撃してくる可能性があるとみている。
ベラルーシは16日、同国内にロシア兵約9000人を駐留させると発表。両軍が合同で軍事演習を実施することも明らかにしており、ロシアに協力する姿勢を鮮明にしている。
●プーチン氏、動員されたロシア軍部隊を視察 西部の演習場で 10/21
ロシアのプーチン大統領が同国西部リャザン州にある演習場で、最近動員された部隊を視察した。クレムリン(ロシア大統領府)が20日に公開した声明で明らかにした。
声明によると、プーチン氏は「部隊の戦闘時の連携や任務遂行に当たっての軍要員の即応態勢」を確認した。現場の演習場は、ロシアの西部軍管区に位置する。
またロシアのショイグ国防相がプーチン氏に対し、動員兵らの戦闘訓練に関する報告を行ったという。
当局者らによれば、プーチン氏が視察した実践的な演習は戦術、銃器、工兵、医療に関する訓練の一部だった。
このほか、多機能の射撃施設も視察した。声明によると同施設では、軍要員らが司令官やプロの教官の指導を受けながら様々な種類の射撃演習を行っている。
国防省は、こうした教官が新たに動員された兵士らを「強度を高めながら」訓練させていると説明。新兵らは訓練を通じて少なくとも600発の弾丸を発射し、5発の手榴(しゅりゅう)弾を使用するとした。
プーチン氏は先月、30万人の軍要員を新たに招集する意向を発表したが、ロシア国内では批判が噴出。激しい抗議行動が起こり、国外に大勢の人々が流出する事態にもなっていた。
今月初め、ショイグ国防相は20万人以上の新兵が今回の動員を通じてロシア軍に加わったと明らかにした。
●戒厳令・ロシア国内でほとんど報じられず…メディアにマニュアルか 10/21
プーチン大統領が宣言した「戒厳令」を巡り、「抑制的に報道するようプーチン政権がメディアにマニュアルを送っていた」とロシア独立系メディアが報じました。
独立系メディア「メドゥーザ」は20日、政権が作成したメディア向けのマニュアルを入手したと報じました。
マニュアルでは、市民を安心させることが重要だとして戒厳令はすでに戦闘下にある新たに編入した4州のみに出されたものと強調して報道することが推奨されているとしています。
実際は首都モスクワを含むロシア各地で警戒レベルが引き上げられていて、監視体制などが強化されるとみられます。
また、軍需産業や動員された兵士とその家族への経済的な支援に焦点をあてるよう推奨されているということです。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 10/21
米国務省 “輸出規制でロシア防衛産業は重大な影響受けた”
アメリカ国務省は20日、アメリカや同盟国などが、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対し、これまでに科した制裁や輸出規制の効果について発表しました。
それによりますと、制裁や輸出規制によってロシアの防衛産業は重大かつ長期にわたる影響を受けたとしています。
具体的には、ロシアは半導体やほかの重要な部品の調達が困難になっていて、海外から入手できなくなった航空部品については、現役の航空機から取り外して使用することを余儀なくされているとしています。
また、ロシアの極超音速ミサイルは、製造に必要な半導体が不足しているため、ほぼ生産停止の状態に追い込まれているほか、地対空ミサイルなどを製造する複数の工場は、外国からの部品が不足し、閉鎖したということです。
さらに、ロシア企業による部品の供給能力が輸出規制などによって制限されたことで、ロシア軍はソビエト時代の軍備品の在庫を持ち出しているということです。
アメリカ国務省は「ウクライナにいるロシア軍に供給する物資が大量に不足しているため、ロシアはイランや北朝鮮のように技術的に遅れた国々からの供給に頼らざるをえない」と指摘するとともに、ロシアが軍事侵攻を続けるかぎり、代償を払わせると強調しています。
ゼレンスキー大統領「効果的な防衛システム入手に力尽くす」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、20日、新たに公開した動画で、「きょう、ミサイルとイランの無人機の両方を撃墜した。残念ながらすべては撃ち落とせなかった」と述べました。
そして、「私たちはより近代的で効果的なミサイルの防衛システムなどを手に入れるために力を尽くしている」として、最新の防空システムの供与を決めたドイツなど関係国からの支援に期待を示しました。
一方、ゼレンスキー大統領は、ロシア軍がウクライナ南部の水力発電所のダムを攻撃する準備を進めているという情報があるとして「ダムを破壊することは大規模な災害を意味する。そんなことをすれば、ロシアはヘルソンはおろかクリミアを含む南部全体を維持できなくなることは分かっているはずだ」と述べ、ロシア側を強くけん制しました。
米英国防相 急きょ会談 緊迫化する情勢について議論か
ウクライナ情勢をめぐってイギリスのウォレス国防相は18日、急きょ、アメリカを訪れ、オースティン国防長官と国防総省で会談しました。
イギリスなどのメディアによりますと、ウォレス国防相は、予定されていたイギリス議会の公聴会を直前にキャンセルしてアメリカを訪れたということです。
アメリカ国防総省は、会談について、ウクライナへの継続的な支援のほか、地域の安全保障や欧米各国の協力の重要性を議論したとしています。
ウクライナでは、先週、ロシア軍が首都キーウなど各地への大規模なミサイル攻撃を行ったほか、ロシアのプーチン大統領が核戦力の使用も辞さない構えを示していることなどから緊迫化する情勢について意見を交わしたものとみられます。
アメリカ “ロシア軍 イランの支援で無人機を操作して攻撃”
アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は20日、記者団に対し、ウクライナの首都キーウなどで続いたロシアによる攻撃について、南部クリミアにいるロシア軍が、イラン軍の兵士の支援のもとでイラン製の自爆型の無人機を操作して行ったという見方を示しました。
カービー氏は、これまでに数十の無人機がイランからロシアに供与されたとしたうえで、ロシア軍が無人機を使いこなせなかったか、システムがうまく作動しなかったため、イラン側が兵士を現地に送り込み、操作の訓練や技術的な支援にあたったとしています。
さらにカービー氏は今後もイラン側から無人機が供与されるという見通しを示したうえで「ロシア側は兵器が不足しており、今後、イランから地対地ミサイルを含めた通常兵器を入手しようとするおそれもある」と述べ、イラン側の協力に懸念を示しました。
カービー氏は、ロシアとイランの双方に対してさらなる制裁を科していく考えを示すとともに、ウクライナに対する防空システムの供与など、追加の支援について国防総省が検討を始めていることも明らかにしました。
EU・英 イランに制裁 “ロシアに対して無人機を供与”
EU=ヨーロッパ連合とイギリスは20日、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対して無人機を供与し、ウクライナの領土の一体性と主権、独立を損なったなどとして、イランに対して制裁を科すことを決めました。
制裁の対象となるのは、1つの団体と3人で、EU域内とイギリス国内の資産が凍結され、渡航も禁止されます。
EUは、制裁対象の拡大も視野に入れているとしています。
イランがロシアに無人機を供与しているとの指摘について、イランは否定していますが、EUの報道官は19日の記者会見で「われわれは十分な証拠を集めた」と述べました。
そのうえで今回の制裁についてEUは「イラン製の無人機がロシアに供与されてウクライナへの軍事侵攻に使われ、人々が殺害されている事態を非難する。EUは今後もロシアによる軍事侵攻を支援するあらゆる行為に対応していく」としています。
また、イギリスのクレバリー外相は「ロシアへの無人機の供与は国際的な安全保障を不安定にさせるイランの役割を明確に示すものだ。こうした行動の責任を、われわれは確実にとらせる」としています。
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長も20日の記者会見で「われわれがもっている情報の詳細には踏み込まないが、ロシアに無人機を供与しているのはイランだと示すさまざまな情報がある」と述べました。
プーチン大統領 軍の訓練を視察 みずから射撃も
ロシアのプーチン大統領は20日、中部のリャザン州にある軍の訓練場を訪れ、動員された兵士の訓練の様子を視察しました。
ロシアの国営メディアによりますと、プーチン大統領は、同行したショイグ国防相の説明を受けながら、実戦を想定した訓練を視察したということです。
また、みずから伏せた姿勢で射撃を行う様子も公開しました。
先月始まった予備役の動員をめぐって市民の不安や反発が広がる中、プーチン大統領は今月14日、30万人だとする部分的な動員がまもなく完了し、追加の動員は当面必要ないという考えを示しています。
軍事侵攻でウクライナ軍の反撃を受け、劣勢にあると伝えられる中、プーチン大統領としては、みずから射撃まで行う姿を示すことで、兵士たちの士気を高めると共に国民に理解を求めるねらいもあるとみられます。
ゼレンスキー大統領「イランが得ているのは血にまみれたカネ」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、19日、カナダのテレビ局のインタビューで、ロシア軍による攻撃にイランが供与した自爆型の無人機も使われていると指摘されていることについて、「彼らは公には『何も売っていない』として否定しているが、インフラ施設や学校、大学で何百もの攻撃を受けた。エネルギーのシステムを止められたことで市民が冬を越せなくなっている」と述べ、市民生活にも大きな影響が出ていると強調しました。
そのうえで「イランはロシアに無人機を供与し、それがウクライナ人を殺害している。イランが得ているのは、血にまみれたカネだ」と述べ、イラン政府を強く非難しました。
ウクライナ ロシア軍の攻撃で電力の安定供給が困難に
ウクライナでは、ロシア軍による攻撃で、発電所などのエネルギー関連施設が被害を受けて、電力の安定的な供給が困難になっています。
ウクライナ政府は、全土で午前7時から午後11時までできるかぎり節電するよう強く呼びかけていて、首都キーウでは、電気で動くトロリーバスが一部の路線で運休するなど市民生活への影響が広がっています。
さらに、ウクライナ国営の電力会社は20日、東部のハルキウ州と北東部スムイ州、それに中部ポルタワ州で停電となるおそれがあるとして一層の節電を呼びかけています。
一方、国営の電力会社は18日、ヨーロッパ各国の電力会社などから復旧に向けた支援を受けているとして、発電機などが届けられたとする写真をSNSに投稿し、国民に対して一刻も早い復旧を目指す姿勢を強調するねらいもあると見られます。
南部ミコライウ 攻撃で多数の住宅被害 冬を前に復旧急ぐ考え
ウクライナ南部ミコライウ州の州都のセンケービッチ市長は、20日、オンラインで記者会見を行い、市内では攻撃を受けて住宅の窓ガラスが多数割れて被害が出ているなどとして、本格的な冬を前に復旧作業を急ぐ考えを示しました。
センケービッチ市長によりますとミコライウ市にはロシア軍による侵攻前、およそ50万人が暮らしていましたが、今は、22万人が残っているということです。
攻撃を受けて、市内では現在、節電のため電気で動くトロリーバスを一部運休させるなどしていて、公共交通機関は40%ほどしか動いておらず、20日は道路の信号機も稼働させていないということです。
また住宅など多くの建物では、窓ガラスが多数割れて、修復作業を進めていますが、全体の60%しか復旧できておらず、本格的な冬を前に市民生活への影響が広がっているという認識を示し、対策を急ぐ考えを明らかにしました。 
●「来夏までにロシア敗北=vウクライナの情報当局が明言 10/21
ウクライナの情報当局者が、年末までにロシアとの戦闘で「重要な勝利」を収め、「来年夏までに戦争を終える」との見通しを示した。クリミア半島の奪還や敗戦後のロシア分裂も示唆した。ロシアはプーチン大統領が動員兵らの訓練を視察するなどアピールに躍起だが、南部の要衝ヘルソンからの大規模撤退の可能性も高まり、攻撃もイラン頼みという状況だ。
キリロ・ブダノフ国防省情報総局長が自国メディアとのインタビューで、年末までにウクライナ軍が大きな進歩を遂げ、「重要な勝利になるだろう」と発言。それがヘルソンだと示唆した。
ヘルソン州は、ロシアが一方的に併合宣言し、戒厳令を導入した東・南部4州の一つ。米シンクタンク、戦争研究所は19日、ロシアが州都ヘルソンを含む広範囲からの撤退を計画し、撤退を正当化する情報発信しているとの分析を発表した。
英国防省も20日、ロシア軍が、ヘルソンが位置するドニエプル川西岸から東岸への大規模な撤退を検討している可能性を指摘。ただ、全ての主要な橋が損傷しており、簡易的な橋などに頼らざるを得ないとして、部隊や装備の移動には困難が伴うとの見方を示した。
ブダノフ氏はまた、「来年春の終わり、夏までに全てが終わるはずだ」との見通しを示し、「ウクライナは(ソ連から独立した)1991年の国境にまで到達することが重要だ」と発言。2014年にロシアに併合されたクリミア奪還の意欲を示したとみられる。
さらにブダノフ氏は、終戦後、ロシアからカフカス地方が分離し、その後ロシア連邦が崩壊するとの見方も示した。
苦境のプーチン大統領は20日、モスクワ南東のリャザニ州の軍演習場で、ウクライナでの軍事作戦に参加する部隊を視察した。4州での戒厳令導入を受け、自身が作戦の先頭に立つ姿を国民にアピールした形だ。
部分的動員については国民の不満が高まっている。動員回避のため数十万人が近隣諸国に出国したとされる。
ロシア軍の士気低下や兵器不足が指摘されるなか、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は20日、ロシアがイラン製ドローンを使っていると断定、イランの要員がクリミアでロシア兵に操縦訓練や技術支援を行っていると非難した。地対地ミサイルなど通常兵器も供与する恐れがあるとみている。
敗色漂うロシアだけに、何をやってくるか分からない。
●ゼレンスキーに「覚悟」が生まれた瞬間──プーチンとの「戦前対決」 10/21
今年2月24日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに侵攻を開始したとき、ウクライナがすぐに降伏するだろうと考えた人は少なくなかった。ところがウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアに屈するのを拒み、暗殺の危機を何度もくぐり抜け、国民を戦いに向けて鼓舞した。国際社会に対しては、ロシアへの制裁とウクライナへの兵器・弾薬の供与を訴えた。
ゼレンスキーはコメディー俳優から政治家になった。テレビドラマ『国民の公僕』で、やはり素人から政治家になった元高校教師を演じたことでも知られる(ネットフリックス日本版では『国民の僕(しもべ)』のタイトルで配信中)。
ウクライナのジャーナリストで政治評論家のセルヒー・ルデンコは新著『ゼレンスキーの素顔──真の英雄か、危険なポピュリストか』(邦訳はPHP研究所)で、ゼレンスキーの子供時代から戦争の始まりまでを振り返り、その人生と政治スタイルを読み解いた。以下は同書からの抜粋。ゼレンスキーがいかに変身を遂げ、プーチンという人間の本質を見定めたかを描いた核心部分だ。
初めに言葉ありき。もっと正確に言えば、『国民の公僕』というテレビドラマのタイトルがあった。
そして、同じ名前の政党が生まれた。イデオロギーもなく、地方支部もなく、党員もいない政党が。
支えてくれるものが何一つない状況で、この党は2017年12月時点で国民の4%の支持を集めていた。
支持者の多くにとって「国民の公僕」党は政治エンターテインメントだった。人々はコカ・コーラやピザ、ケバブサンドを食べながら集会に参加し、人気俳優との自撮りを楽しんだ。ゼレンスキーの大勝利も、映画の一場面のような就任式も、若くてハンサムで切り返しのうまいリーダーの存在もエンタメの一部だった。
だが支持の急速な高まりは、同党が生身のゼレンスキーというより、ドラマの主人公バシリ・ゴロボロジコのプロジェクトであるかのように受け止められていたという事実の裏返しでもあった。
自身の魅力を過信したか?
19年4月21日午後8時。ゼレンスキーとそのチームは、ドラマで使われた「私は自分の国を愛す」という曲と共に記者会見場に姿を現した。まだこのときは、ゼレンスキーと主人公のキャラクターは重なっていた。
ウクライナの第6代大統領となったゼレンスキーは「皆さんを決して失望させないと約束します」と述べた。以来、私たちはさまざまな状況下でゼレンスキーを見てきた。彼とそのチームは素人だと批判されてきた。汚職や傲慢さ、国への反逆で非難されたこともある。
だが今年2月24日、ロシアによる大規模な軍事侵攻が始まってからというもの、ゼレンスキーは全く違う姿を見せるようになった。プーチンの挑戦をひるまず受けて立ち、ロシアの侵攻へのレジスタンスを率いるリーダーになったのだ。
ロシアとの戦いの中で彼は支持者も反対勢力も、腐敗した役人も汚職撲滅の闘士も、大人も子供も、国籍や宗教の異なる人々をも一つにまとめ上げた。欧州各国の議会でもアメリカの連邦議会でも、喝采をもって迎えられる国家指導者になった。
だが、「神話」を信じがちなウクライナ人の国民性は指摘しておかなければならないだろう。昔のコサックの指導者がイギリスのどこかに大量の金を残したという伝説もそうだし、ビクトル・ユーシェンコ元大統領は救世主扱いされた。ゼレンスキーとその党が、ウクライナ人の抱える問題の全てをドラマのように解決してくれると信じているのもそうだ。
そして、ウクライナの人々が完全に忘れていることがある。「国民の公僕」党はもはやテレビドラマではなく、自分たちの代表であり、子供たちの未来だということだ。
国民はゼレンスキーとそのチームを信頼した。この決断が正しかったかどうかは、戦争が終わった後に分かるだろう。なぜなら選挙公約を果たすかどうかだけでなく、ウクライナの独立のために戦い抜くかどうかは、ゼレンスキーと「国民の公僕」党に懸かっているからだ。
大統領に就任してから数カ月間、ゼレンスキーはプーチンとの会談を望んでいた。東部ドンバス地方での親ロシア派武装勢力と政府軍との紛争に終止符を打つという選挙公約を何とか実現したいと思っていたからだ。そのためには、プーチンと交渉のテーブルに着く必要があった。
ゼレンスキーはプーチンの目を見て、人間として相手を理解したいと語った。だからこそ、ゼレンスキーはドンバスでの再停戦や前線の兵力の分散、ロシアとの再度の和解など、あらゆる対応を取る用意があった。ゼレンスキーは心底信じていたのだ。プーチンの目をじっと見つめれば、少なくとも紛争における1万4000人の死を悲しむ気持ちのかけらくらいは浮かんでいるはずだと。
ウクライナとロシアに仲介役のフランスとドイツを交えた4カ国による首脳会談は、19年12月9日に設定された。これを前にゼレンスキーは、自分の俳優としてのカリスマ性や魅力が功を奏するはずだと、そして東部紛争を終わらせる保証を得られると思い込んでいた節がある。一方で彼は、プーチンも自分と同じくらい「役者」であることを忘れていた。
プーチンは過去20年間、ジョージア(グルジア)やモルドバ東部の沿ドニエストル地域やシリアで「和平の仲介者」の役を演じていた。ロシア軍を駐留させながら、そんなものは存在しないかのように振る舞った。それはウクライナでも同じだった。
フランス大統領官邸であるエリゼ宮の入り口付近には儀仗兵が並んでいた。エマニュエル・マクロン大統領は車寄せで賓客を迎え、儀仗兵の向かい側には記者たちが立っていた。
最初に到着したのはドイツのアンゲラ・メルケル首相だった。メルセデス・ベンツが車寄せに止まると、青いジャケット姿のメルケルはマクロンにキスで迎えられた。マクロンはほほ笑みを浮かべ、優雅に立ち振る舞った。次に到着したのはゼレンスキーを乗せたルノー・エスパスで、門を入ってすぐの所で停車した。
ゼレンスキーは足早にマクロンの元に向かい、明るく挨拶した。そのときロシアのジャーナリストが大声で呼び掛けた。「ミスター・ゼレンスキー、今回は何をもって成功と考えますか? ミスター・ゼレンスキー! 答えてください! ミスター・ゼレンスキー!」
マクロンとゼレンスキーは群衆の中から叫ぶ男性を無視して、仲のいい友人同士のように建物の入り口へと進んだ。
プーチンは最後に到着した。感情を押し殺した顔をしていた。ロシア国産の防弾仕様の大統領車アウルス・セナートからゆっくりと降り、重々しい足取りでマクロンに近づいて握手をすると、建物の中に消えた。
多くを物語る場面だった。ヨーロッパと世界に恐怖を植え付けようとしている国家指導者は、年を取り、場違いに見えた。マクロンとゼレンスキーとは時代も年齢も、メンタリティーも活力も違った。
9時間に及んだ会談はドイツ、フランス、ウクライナ、ロシアの首脳が3年ぶりに顔を合わせたこと自体が大きな成果でもあった。初めて参加したゼレンスキーは、まずプーチンと、続いてマクロン、メルケルと、それぞれ一対一で非公開の会談を行った。
プーチンの目に何が映っていたか、ゼレンスキーは語らなかった。プーチンは得意の交渉術を使ったようだ。脅迫、威嚇、そしてアメとムチ。
会談前の写真撮影で、ゼレンスキーは明らかに緊張していた。プーチンの位置に向かおうとする場面もあった。続いて記者に話し掛け、交渉のテーマが記された書類を不用意に見せた。「みんなが外に出てから始めよう」。プーチンはそう言って、写真撮影の担当者を指さした。ゼレンスキーは水を一口飲んだ。
4カ国会談が終わるまでに、ロシアとウクライナの大統領がドンバス地方の将来について共通の立場を見いだすことはなかった。プーチンは容赦なかった。あくまでもミンスク合意のとおり、ORDLO(ドンバスで親ロシアの分離主義者が実効支配している地域)で地方選挙が行われた翌日以降に、再びウクライナが国境管理を担うと主張した。ゼレンスキーはこれに反発し、ペトロ・ポロシェンコ前大統領が受け入れた合意に不満を述べた。
しかし会談後に発表されたプレスリリースによれば、ORDLOに幅広い自治権を認める「特別な地位」の法的側面について全ての当事者が合意し、いわゆるシュタインマイヤー案を基に詳細なプロセスを詰めることになった。同案は、OSCE(欧州安全保障協力機構)の支援で地方選挙が行われてから、「特別な地位」を与える恒久法が発効するとしている。
4カ国会談の舞台裏で何が起きていたのか、確かなことはごく少数の関係者しか知らない。ウクライナのアルセン・アバコフ内相(当時)は、ゼレンスキーとロシアのセルゲイ・ラブロフ外相のやりとりとされる内容を記者団に語った。
「ウォロディミル・ゼレンスキーは、大部分がロシア語で行われた会話の途中でついに爆発した。『ミスター・ラブロフ、分かったような顔をするのはやめてくれ! 私はあなたと違って、自分の足で国境沿いを全て歩いて回ったのだ』」
20年3月に予定されていた次の4カ国会談は、世界が新型コロナウイルスのパンデミックにのみ込まれたために開催されなかった。ゼレンスキーが2年をかけてプーチンと交渉しようとしたことは、ことごとく空振りに終わった。
「平和大統領」になりたかった
21年春、ウクライナ大統領からドンバスで会うことを提案されたクレムリンの主は次のように答えた。「われわれが関心があるのは、ロシア語と教会とウクライナのロシア連邦市民だ。ドンバスはウクライナ国家の内政問題だ」
その5カ月後、ロシアの前大統領で現在は安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフはロシアの経済紙コメルサントへの寄稿で、ウクライナの現指導部とのいかなる接触も意味がなく、ロシアはウクライナの政権交代を待つと述べた。そして4カ月後の今年2月24日、プーチンはウクライナに本格侵攻した。
それでもゼレンスキーには、まだプーチンと会談する用意がある。ただし今となっては、目と目を合わせて話をするためではなく、ロシアの侵攻を止めるためだろう。
ゼレンスキーは「平和大統領」を目指して就任した。ドンバス地方での戦争を終わらせ、ロシア連邦との厄介な関係に終止符を打つと約束したのだ。そのためなら悪魔と交渉することも辞さない、と。
しかし、クレムリンの悪魔が交渉に応じる条件はただ一つ、ウクライナがロシアに降伏することだった。ゼレンスキーには受け入れられない条件だ。
プーチンは選択の余地を与えなかった。ゼレンスキーは平和大統領ではなく「戦争大統領」にならざるを得なくなったのだ。そしてロシア占領軍との戦いで国を導くという使命を背負うことになった。軍に所属したことがなく、19年まで政治経験もなかった人間にとって厳しい試練だ。
戦争が始まるまで、ゼレンスキーの公の場での演説には過去の演技が透けて見えた。間合い、表情、声のトーン、身ぶり手ぶり。全てが芝居がかっていた。
今年2月24日、ゼレンスキーはこれらの武器を捨て去った。私たちの前に全く別の人物がいた。くたびれた顔はひげもそっていない。カーキ色の服にネクタイはなく、メークもせず、テレビのスポットライトもない。ロシアとウクライナの戦争の渦中に陥ったあらゆる階層のウクライナ人について、心を痛めながら語る大統領。本当の感情を持った人間。自分の国の戦争を世界に訴えるウクライナ民族のリーダーがそこにいた。
第6代ウクライナ大統領は俳優から、ついにウクライナ国家の指導者になった。世界の指導者から興味と皮肉を向けられてきた男が、今や西側で喝采を浴び、世界の指導者が誇らしげに友人と呼びたくなる政治家になったのだ。

 

●長期化必至のウクライナ戦争 元スパイのプーチン氏が考えること・・・10/22
アルマゲドン将軍の異名をとり、鳴り物入りで新司令官に就任したスロヴィキン将軍がロシア軍の戦況の厳しさを公言するという異例の事態の一方で、ウクライナはロシアのミサイル、カミカゼ・ドローン、ロケット砲による連日の攻撃でインフラ施設を中心に甚大な被害を出している。
もはや長期化必至のウクライナ戦争。この戦争の展開が読めない理由の一つに戦争を始めたプーチン氏がKGB出身ということがある。大国の国家元首に元スパイという経歴はあまり聞かない。そのプーチン氏が今後考えるであろうことを読み解いた。
「プーチン氏は、負けた時に独裁者に何が起こるかよく知っている」
ロシアの現代史と政治を研究するイギリスの歴史学者が、今回のロシアの状況は第一次世界大戦時のロシアに似ているという。一体どういうことなのか。
イースト・アングリア大学 ピーター・ウォルドロン 名誉教授「1914年、ロシアがドイツ、オーストリア、ハンガリーと戦争を始めた時、ロシアは自信に満ちていた。彼らは簡単に勝てると思い込んでいた。今回もロシアは簡単に勝てると思っていた。3日以内にキーウを落とすとね…。彼らは戦勝パレードまでも計画していた。(中略〜結局最初の2か月で10万人の死傷者を出しても勝てず)戦争が巧くいかないロシアは、1915年の夏、皇帝ニコライ2世自ら軍の指揮を執り始めた。プーチン氏はまだそこまで行っていないが、最近は軍を細かく管理しているという報道がある。つまり戦争が巧くいかないとき、ロシアのリーダーは自分が現場の指揮官よりよくわかっていると思い込み現場を細かく管理しようとする」
直接指揮をふるったが戦況は好転せず、戦争開始から3年後、ロシアでは革命(3月革命)が起こりニコライ2世は失脚、翌年銃殺された。
名誉教授「戦争に負けることは独裁政権にとって非常に危ないこと。現在のロシアの指導部は帝政ロシアとの類似点を認識していると思い、プーチン氏は1915年から17年にロシアに起こった政治的混乱を繰り返したくないのだ。敗北の歴史と負けた時に独裁者に何が起こるかよく知っている。プーチンの観点から見るとウクライナの戦争が敗北に終わらないよう注意を払っている」
甘く見て始めて、巧くいかず自らしゃしゃり出て深みにはまる・・・。ニコライ2世とプーチン氏。
そこまでは似ているかもしれない。しかし・・・
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師「似ているからといって同じ展開にはならない。むしろ“歴史の一回性”(同じことは2度起こらない)というように歴史学の授業で必ず教えられる。ただメカニズムが似ていると同じような結果を招く可能性はある。第一次大戦のロシアは総力戦がうまくいかなかった。つまり様々なリソースを管理して戦争のために活かしていく能力があると思っていたら無かった。今回のロシアは、プーチン氏が国民の反発を恐れて、戦時体制だと宣言もしていないし、動員も部分動員しかできない。企業にも戦時生産命令も出していない。国内に向けて総力戦体制が取れない。その点は似ている。(中略)ただ今のロシアに、プーチンへの不満が高まったとしても革命を起こすような機運があるかっていったら全くない。だから戦争がうまくいかなくて不満が募ってロシア革命、みたいな展開になると短絡的に考えることはできない」
元スパイが独裁者として大国を運営した時にどうなるのか、それを一番わかるのは同じスパイのCIA
かつてのロシアと今のロシア、共通点を見つけることはできるかもしれないが、最大の違いは、ニコライ2世は皇族であり、プーチン氏は元KGBだということ。この点に注目するのは明海大学の小谷教授だ。
明海大学 小谷哲男 教授「バイデン政権でロシア問題の分析はCIAが中心にやっている。それはCIAが情報機関だからだけではなく、プーチン氏がKGB出身だからなんですね。元スパイが独裁者として大国を運営した時にどうなるのか、それを一番わかるのは同じスパイのCIAだと…。それでバイデン政権においてはCIAの役割が大きい。スパイというのは自分の立場、権力を一番に考える。簡単にクーデターのようなことが起こらないように十分に策を張り巡らせている。そう考えるとなかなかニコライ2世のような終わり方は無いと思う」
部下も国民も信じない、まず疑う、プーチン氏の得意技かもしれない。さらに元スパイであることと関係があるか否か不明だが、ここへ来て再び浮上してきた言葉がある。“暗殺”だ。
「プーチンにしてみれば、ネオナチ政権の親玉を倒したんだから今回の軍事作戦は完了ですって言って手を引くことができる」
クリミア橋が破壊されたことを機に、ウクライナ各地への無差別攻撃が激化した。この橋はプーチン氏にとってクリミア併合の象徴であり、成功の証だった。それを破壊したことで、ゼレンスキー大統領をはじめウクライナ要人に対する暗殺の可能性が再び高まったとアメリカは懸念している。
明海大学 小谷哲男 教授「ロシアにとってとてもシンボリックなクリミア橋が攻撃された時、元スパイであるプーチン氏は何をやるか、アメリカは考える。実際にあった民間施設へのミサイル攻撃、あるいは低出力の核使用など色々考える中で一番手っ取り早いのは、ゼレンスキー暗殺を再び仕掛けるのではないかと…。プーチン氏としてもメンツが保たれてこの戦争から手を引ける」
この話を聞いて大きく頷いたのは小泉氏だ。
専任講師「私はそういう可能性を考えてこなかったんですけど、今聞いていると確かにこの手はあるなぁと。これまで普通に戦争やってきてロシアは要人暗殺に関心を持たなかったんですが、暗殺っていうとスパイが殺しに行くとか、ノビチョク(神経剤)で…とか考えますが、ゼレンスキーの居場所を見つけてミサイルぶち込めばいいんですから。それならアメリカと直接対決になるエスカレーションは無いですし・・・。プーチンにしてみればロシアが言うところのネオナチ政権の親玉を倒したんだから今回の軍事作戦は完了ですって言って手を引くことはできる。(中略)ただ、ウクライナ国民の反応が読めない。意気消沈してくれればいいですけど、誰かが上に立ってもっと激しく反撃してくるかもしれない。そういう点では核使用シナリオと変わらない不安要素はある」
核、暗殺、はたまた長期にわたる消耗戦・・・。どの道を選ぶのか、元スパイの頭の中は常人には計りかねる。
●ベラルーシ大統領「われわれに戦争は必要ない」 10/22
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は21日、西部の軍事施設で国産無人機を視察した際、「われわれに戦争は必要ない」としてロシアのウクライナ侵攻に参戦しない意向を示した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の盟友であるルカシェンコ氏は国産無人機について、ウクライナとの国境に配備する可能性があるとする一方、「これら(無人機)がウクライナで使われるのは望ましくない」「結局のところ、(ウクライナ国民は)同胞なのだ」と述べた。
また、ベラルーシは国産無人機を「誰にでも」販売するとも述べた。
さらに「われわれはどこにも行くつもりはない。今現在、(ベラルーシで)戦争は起きていない。われわれに戦争は必要ない」として、いかなる戦争にも関与しない意向を示した。
ルカシェンコ氏は10日、ウクライナがベラルーシ攻撃を企図していると主張し、ロシアと合同部隊の展開で合意したと発表。ウクライナはベラルーシ領からの再攻撃の恐れがあると警告している。
●戦勢が入れ替わったロシア・ウクライナ戦争、どこへ向かうのか 10/22
冬の終わりに始まったウクライナ戦争が、二度目の冬の入り口に差し掛かっている。
当初、戦争は強大な軍事力を前面に出したロシアの速戦即決の勝利で終わるかと思われた。2月24日午前6時(現地時間)に侵攻を公式化したロシアが、翌日チェルノブイリ原発一帯を掌握し、ウクライナの首都キーウでも交戦が起きた。この時までは「数時間以内にキーウが陥落する恐れがある」という展望が出もした。ロシアは総攻勢を通じて、南部ヘルソンや東部ドンバス、ハルキウなどで朝鮮半島の面積を超える大きさのウクライナの土地を掌握した。
しかし、侵攻から240日あまりが経った現在、戦争は局面を変えながら長期化している。先月BBCは、ロシアが戦争序盤には主要都市キーウの一部とハルキウをはじめ南部領土まで掌握する圧倒的な様子を見せたが(第1段階)、キーウで敗退して以来、遅々として進まない局面を経たと分析した(第2段階)。さらに、戦争が半年を過ぎて、西側の全面的な軍事支援を受けるウクライナが守勢から踏み出し、むしろ逆攻勢で領土を奪還する3段階の局面を迎えたと診断した。
先月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自国民に約30万人の動員令を下したのが代表的な状況だ。戦争で被った莫大な兵力損失を挽回するために、第2次世界大戦後初めて予備軍を軍兵力に強制的に派遣する命令を下したのだ。ロシア軍の兵力損失は、死亡者と負傷者合わせて8万人を超えるという分析が出ており、また一方で、500平方キロメートルに達する南部ヘルソンの占領地などをウクライナに再び渡した。今月8日にはクリミア半島とロシアを結ぶクリミア大橋が爆破される「屈辱」を経験した。
実際、ウクライナのキリル・ブダノフ国防情報局長は、CNNとのインタビューで「今年重大な勝利がもたらされるはずであり、来年の夏に戦争を終わらせる」と自信を示している。ロシアも守勢に追い込まれた状況を否定できずにいる。ロシアのセルゲイ・スロビキン合同軍総司令官は、メディアとのインタビューで「特別軍事作戦地域の状況が非常に厳しいと言える」と吐露した。
しかし、今月12日のワシントンポスト紙で、米国防総省の元高官は「戦争での転換点はたいてい危険な地点となる。コーナーを曲がると何が出てくるか予測できない」と述べた。実際、ロシアは連日、戦術核使用の可能性に言及し、核危機をつくりあげている。また、親ロシア性向の隣接国でありウクライナ北部に国境を接するベラルーシを戦争に引き入れ、戦線拡大を推進する雰囲気だ。これを通じて、ロシアがウクライナ北部を経て首都キーウ占領を試みるなど、戦争が4番目の局面に入る可能性があるという予想が出ている。
戦線が膠着し、残酷な傷痕だけを残したまま、停戦状態である「凍結された戦争」に進むという展望もある。最近のロシアの核脅威は戦線拡大のためではなく、むしろ妥協を暗示しているという分析だ。チェ・ソンフン教授(韓国外国語大学ロシア語科)は本紙との電話インタビューで、「ロシアが戦線を再整備している状況であるだけに、今月の戦況と米国が中間選挙後にも引き続き武器支援をするかなどが、今後の重要な変数になるだろう」とし、「結局、停戦の方につながる可能性が高そうだ」と説明した。
●米国防長官、ロシア国防相とウクライナ情勢めぐり電話会談 侵攻後2度目 10/22
アメリカのロイド・オースティン国防長官とロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は21日、電話会談を行い、ウクライナ情勢について協議した。両者の電話会談はロシアがウクライナに侵攻して以来2度目。
アメリカとロシアはそれぞれ、オースティン氏とショイグ氏が電話会談を行ったことを認めた。ウクライナ情勢について協議したという。
2人が話をするのは、5月13日の電話会談以来。
電話会談後、米国防総省報道官のパット・ライダー准将はBBCに対し、アメリカは「対話できる状態を保ちたいと思っている」と述べた。
「2人が話したのは5月以来のことなので、オースティン長官は今日がショイグ国防相とつながる機会だと捉えた」と、ライダー報道官は説明した。
ロシア国防省は、「ウクライナ情勢を含め、国際安全保障をめぐる現在の課題について話し合った」と発表した。
5月に行われた前回の電話会談後、オースティン氏は即時停戦を求めていたが、今回はこの要求について言及しなかった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこれまで、ウクライナで核兵器を使用する可能性を示唆し、ジョー・バイデン米大統領はこれに警告を発している。
米英の政府関係者は、プーチン氏がこうした間接的な脅しを実行に移す可能性は低いとみている。
今回の電話会談がこうした問題への対応として予定されたのかを問われると、米国防総省のライダー報道官は、プーチン大統領が示唆した内容は「無責任で懸念すべきもの」だが、アメリカはロシアが核兵器の使用を決定したことを示す兆候を今のところ確認していないと述べた。
すでに冷え切っていた米ロ関係は、ウクライナ侵攻以降さらに悪化している。
両国の首脳が2021年6月に会談した際には、関係改善に向けた前向きな一歩だと歓迎する見方があった。しかし、ウクライナをめぐって緊張が高まり、関係改善への動きは停滞した。
プーチン氏とバイデン氏は開戦前の数カ月間にも、何度か電話会談を重ねた。その中でバイデン氏はロシア側に退くよう警告していた。
侵攻開始後、両大統領の会談は行われていない。
バイデン氏とプーチン氏は、11月にインドネシアで開催される主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席する予定だが、双方とも会談を回避する意向を示している。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、アメリカはロシアに制裁を科し、ウクライナには多額の軍事援助を行っている。
プーチン氏が19日に、一方的に併合を宣言したウクライナ4州に戒厳令を導入する大統領令に署名すると、バイデン氏はプーチン氏がウクライナ人を脅して降伏させようとしていると非難した。
バイデン氏は、プーチン氏が現在「信じられないほど困難な状況」に置かれていると指摘。「彼(プーチン氏)には、ウクライナの市民を残忍に扱い、威嚇し、降伏させようとするという手段しか残されていないようだ」と述べた。
ロシアは以前、アメリカと西側諸国がウクライナに武器やそのほかの援助を提供し、戦争に影響を与えようとしていると糾弾したことがある。
プーチン氏は先月にウクライナ4州の「編入」を一方的に宣言した際には、西側諸国は「植民地主義的」だと非難する演説を行った。これは、これまでで最も反米的な演説の1つだった。
●南部ヘルソン州 ロシア軍がダム攻撃準備か ウクライナ軍が警戒  10/22
ウクライナ軍は南部ヘルソン州で反転攻勢を続け、ロシア軍は部隊の撤退を検討しているとみられます。一方、ウクライナ側は、ロシア軍がヘルソン州の水力発電所のダムを攻撃する可能性があるとして、警戒を続けています。
ウクライナ軍は南部ヘルソン州で反転攻勢を強め、ロシア側に占領された中心都市ヘルソンに向けて部隊を進めているとみられています。
ロシア側は住民の強制移住を進めるとともに、ロシア軍はヘルソンなどがあるドニプロ川の西側から大規模な部隊の撤退を検討しているという見方が出ています。
こうした中、ゼレンスキー大統領は20日、ロシア軍がドニプロ川にある水力発電所のダムを攻撃する準備を進めているという情報があるとして、人為的に洪水を起こし、ヘルソン州など南部に大きな被害を与えようとしている可能性があると、警戒を続けています。
一方、ロシア軍のスロビキン総司令官は、ウクライナ軍がダムなどインフラ施設に攻撃を仕掛けていると主張しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、「ロシア側が攻撃を受けたかのように情報をねつ造する、いわゆる偽旗攻撃によって、ヘルソンからの撤退など混乱を隠そうとしている」などと指摘しています。
こうした中、アメリカのオースティン国防長官はロシアのショイグ国防相と21日に電話で会談し、アメリカ国防総省によりますと、ロシアによる軍事侵攻が続く中、意思疎通のルートを維持することの重要性を強調したということです。
これに対し、ロシア国防省も声明で「ウクライナ情勢を含む喫緊の国際的な安全保障の問題について議論した」としています。
●ロシア、ウクライナ侵攻終了に関心示す証拠なし=米国務長官 10/22
ブリンケン米国務長官は21日、ロシアがウクライナ侵攻を終了させることに関心を持っている証拠はなく、むしろ反対の方向に向け進んでいるという認識を示した。
また、何らかのきっかけを得られれば、米政府はロシアとの外交を進めるためにあらゆる手段を検討すると述べた。
●ロシア軍による性的暴行は軍事戦略…山賊と同じレベル 10/22
世界三大通信社のひとつAFP通信(フランス通信社)のニュースサイト「AFPBB News」(日本語版)は10月14日、「ロシア、レイプを『軍事戦略』として使用 国連性暴力担当代表」との記事を配信した。担当記者が言う。
「AFPは国連のプラミラ・パッテン特別代表(64)にインタビューを行いました。彼女はモーリシャス出身の弁護士で、国連の紛争下の性的暴力に関する調査の責任者です。AFPの取材にパッテン代表は、『ロシア軍によるウクライナでの性的暴行は軍事戦略』という認識を示し、世界中で大きな反響を呼びました」
ロシア軍が侵攻したウクライナの住民に対して、悪逆非道な性的暴行を働いていることはこれまでにも大きく報じられてきた。
「少なからぬメディアや専門家は、『ロシア軍は規律が機能していない』という文脈で理解していたと思います。ところがパッテン代表によると、ウクライナの被害者女性が『ロシア軍は兵士に勃起不全の治療薬を与えるなど、性的暴力を戦術・戦略として実行している』と相次いで証言したというのです」(同・担当記者)
すでに国連は、ロシア軍によるウクライナでの100件以上の性的暴力を確認。女性だけでなく少年を襲ったり、男性の性器を切断したりするなど、信じがたい非道な行為を組織的に行っていることが判明したという。
「国連は4歳の子供が被害者となったケースも把握したそうです。こうした調査結果から、ロシア軍が占領地の住民に性的暴力をふるうことを一種の戦術として実行していると、バッテン代表は結論づけたのです」(同・記者)
検事も批判
ある軍事ジャーナリストは、「少なくとも近代以降の軍隊で、虐殺、略奪、そして性的暴行で、これほど民間人を蹂躙したのはロシア軍をおいて他にはないでしょう」と言う。
「どこの国の軍隊でも、性的暴力に及ぶ軍人、兵士は昔から存在します。旧日本軍やアメリカ軍の記録を見れば一目瞭然でしょう。しかし、ロシア軍の蛮行は件数の桁が違います。以前から軍が組織的に実行しているとの指摘はあり、今年5月にはウクライナの検事総長が『ロシア軍はレイプを戦術の一環として利用している』と強く非難しました」
同じく世界三大通信社のひとつであるロイター(日本語・電子版)は5月4日、「ロシアはレイプも戦術利用、プーチン氏は『戦犯』=ウクライナ検事総長」の記事を配信した。
検事総長は《ロシアはレイプを戦略として利用しているか》という質問に対し、《「市民社会に恐怖を植え付け、ウクライナを屈服させるためにあらゆることを実施している」》と答えたと報じられた。
ウクライナと同じように、かつて満州や南樺太では、多くの日本人が被害者となった。当時の目撃者の中には、ロシア軍の“一貫性”を感じ取った人もいるようだ。
中日新聞の滋賀版は8月13日、旧満州のハルピンでソ連軍の略奪や性的暴行を目撃した男性のインタビュー記事を掲載した。
満州とウクライナ
男性は、ロシア軍がウクライナの占領地で行う非道な行為は、旧満州と多くの共通点があると思ったという。
《「略奪やレイプ、病院や学校を壊す。徹底的な破壊で恐怖に陥れて、屈服させる。満州の時と、考え方は変わらない」》
「ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の街であるブチャは、一時期、ロシア軍が占領していました。後にウクライナ軍の反撃で撤退すると、ロシア軍は住民を虐殺し、多数の性的暴行に及んだことが確認されました。ところが、ウラジミール・プーチン大統領(70)は、虐殺や暴行に関与した可能性が高い第64独立自動車化狙撃旅団に、『親衛隊』の名誉称号を授与したのです」(同・軍事ジャーナリスト)
常識ある軍隊なら、軍法会議で重罪が科せられて当然だという。だが、プーチン大統領は部隊に名誉を与え、指揮官を昇進させた。
「プーチン大統領もロシア軍も、兵士による虐殺や略奪、性的暴行を全く処罰する気がないのは明らかです。ソ連・ロシア軍が暴虐の限りを尽くしてきたことは、昔から数々の証言が残っています。ひょっとすると、1918年のロシア革命から一貫して、占領地における虐殺、略奪、性的暴行を戦術として採用してきた可能性も否定できません」(同・軍事ジャーナリスト)
「レイプしても構わない」
第二次世界大戦中、ソ連の指導者だったヨシフ・スターリン(1878〜1953)は、軍に略奪やレイプを奨励したと言われている。
「デリケートな話題とはいえ、兵士が使う“軍用売春宿”の問題も重要です。旧日本軍の『慰安所』は有名ですが、実はドイツ軍もアメリカ軍も様々な戦争で同様の施設を設置してきました。ところが、ソ連・ロシア軍はなぜか、全く設置したことがないことで知られているのです。ロシア軍がレイプを戦術として採用していると考えれば、この謎も解けるかもしれません」(同・軍事ジャーナリスト)
韓国の大手日刊紙・中央日報のニュースサイト(日本語版)は4月18日、「『ウクライナ女性をレイプしろ』衝撃の電話…ロシア兵士の身元が明らかに」の記事を配信した。
《「ウクライナ女性はレイプしても構わない」という内容の通話をしていたロシア兵士の夫とその妻の情報が公開された。(中略)12日、ウクライナ情報機関国家保安局(SBU)は南部ヘルソン地域で盗聴したロシア兵士とその妻の通話内容を公開した》
SBUが公表した音声によると、妻が夫に《「そこでウクライナの女とでもやれ、彼女たちをレイプしろ。私には言わなくてもいいから」》とけしかけたという。
驚いた夫が《「本当に?」》と問いかけると、妻は《「やってもいいけど、その代わりにコンドームを使って」》と答え、《笑って通話を終えた》そうだ。
ロシア人は非常識!?
「レイプと通底するのがロシア軍による略奪です。ロシア軍兵士は占領地で略奪の限りを尽くし、冷蔵庫や洗濯機、iPhoneといった盗品を家族や故郷の人々に輸送しているのです。驚くべきことに、多くのロシア市民は戦地からの“贈り物”を喜んで受け取っているといいます」(同・軍事ジャーナリスト)
十字軍やナポレオン戦争の時代なら“戦利品”という考えもあっただろう。だが今は21世紀だ。
「もし自衛隊員が海外の派遣先で略奪を行い、盗品を日本の家族に送ったとしましょう。とてもではありませんが、受け取る家族がいるとは思えません。ロシア人の妻が夫にレイプをけしかけたという報道も、本当に信じられない内容でした。どうもロシア国民は、軍人や兵士だけでなく銃後の市民も、我々とは常識が異なるのではないか、そう思ってしまうことさえあります」(同・軍事ジャーナリスト)
戦時国際法は文民と民用物への被害を最小化するよう求めている──こんな難しいことを言わなくとも、軍隊が無辜の市民を虐殺したり、性的暴行に及んだりするのは大問題だ。少なくとも西側諸国の市民なら、常識と言っていい。
ロシア軍は山賊レベル
「ロシア・ウクライナ戦争では、西側諸国の想像以上にロシア軍が弱体化していることが明らかになりました。兵士の性的暴行を戦術にするような軍隊だから弱い、という指摘は暴論に聞こえるかもしれません。しかし、因果関係はあると思っています。軍隊にとって重要な軍律を緩ませ、戦争の大義名分が失われるからです。夜盗とか山賊に等しいロシア軍が、ウクライナ軍に勝てるはずはないでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
●プーチン氏、動員兵に追加手当て 不満抑え込みに腐心  10/22
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、動員令に伴う国民の不満を和らげようと、追加手当ての提供に乗り出した。一方で、社会秩序の維持に向けて、地方当局に新たな権限を付与している。
先月以降に動員された20万人以上の男性家族に対する支援との位置づけとなっており、平均月給を大きく上回る現金が支給される場合もあれば、家畜や食料の場合もある。
ソーシャルメディアでは、このプログラムはウクライナで人命を危険にさらすことへの見返りだとの批判がある。また地方当局が支給を担当するため、一様ではなく、社会格差を広げているとの批判もある。貧しい地域では、資金捻出が難しく、連邦政府が介入している。
だが大事なのは現金や食料ではなく、愛する者の身の安全だ、と多くの家族は話している。サンクトペテルブルクの食堂で働く53歳の女性は、息子が9月に招集され、10万ルーブル(約24万円)を支給された。「このお金が人の命に値するのか」と女性は問う。
ロシアの政策に詳しいアナリストらによると、今回の手当て支給は、ロシア軍の劣勢が鮮明になる中で、戦争への国民の支持を強化することが狙いだ。侵攻開始後に政府がお金をばらまくのはこれが初めてではなく、西側からの経済制裁の影響を和らげるため、侵攻直後に子供のいる家庭や妊婦、退職者などに補助金を出している。
国民をなだめることができれば、プーチン氏は国内の不満に悩まされることなく、戦争に関する今後の方針を決めるまでの時間を稼ぐことができるとも指摘されている。 
●米長官「ロシアに外交意欲なし」 ウクライナのインフラ攻撃続く 10/22
ブリンケン米国務長官は21日、ワシントンの国務省で、ウクライナへの侵攻で軍事的な劣勢に陥っているロシアについて「意味のある外交を行う意欲を少しも見せていない」と述べ、停戦交渉に応じる情勢にないという認識を示した。
これに先立ち、米ロ国防相が同日、電話会談したものの、詳しい内容は明らかにされていない。
ブリンケン氏は国務省で、フランスのコロナ外相と共同記者会見し「ロシアが自ら始めた戦争を終結させることへ関心がある証拠はまったく見られない」と述べた。その上で「それどころか(ウクライナへの)攻撃を2倍、3倍に増やしている」と非難した。
国防総省によると、オースティン国防長官はロシアのショイグ国防相との電話会談で、意思疎通の手段を維持する重要性を強調。ロシア側は「ウクライナ情勢を含む国際安全保障問題」を協議したと発表するにとどめている。
ウクライナ軍によると、ロシアは22日も30発超のミサイルを発射し、南部オデッサなどウクライナ各地のインフラ施設への攻撃を続けた。ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相はロイター通信に、これまでに「火力発電能力の少なくとも5割」が損害を受けたと指摘。国営電力会社ウクルエネルゴはAFP通信に、一部地域で電力使用量を最大20%抑制していると明かした。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は21日の演説で、国連の仲介で穀物輸出を行う船舶の通行を「ロシアが意図的に遅らせるためにあらゆる手段を講じている」と非難した。150隻以上が列をつくって待機しているという。
●ウクライナ“火力発電能力少なくとも半分失う ロシア軍攻撃”  10/22
ロシア軍はウクライナ各地のエネルギー関連施設をねらった攻撃を繰り返しています。ウクライナ側は、火力発電能力の少なくとも半分が失われたとしていて、本格的な冬を前に市民生活への影響が懸念されています。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、ミサイルや無人機などを使ってエネルギー関連施設を標的に攻撃を繰り返しています。
ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は21日、ロイター通信に対して、これまでに、ウクライナの電力インフラの30%から40%が攻撃を受けたと述べました。特に火力発電所が標的にされ、火力発電能力の少なくとも半分が失われたとしています。
ハルシチェンコ氏は攻撃を受けた施設の復旧には数か月かかるという見方を示しています。
ゼレンスキー大統領は国民に対して節電を求めていますが本格的な冬を前に市民生活への影響が懸念されています。
一方で、ウクライナ軍は南部や東部で反転攻勢を続けていて、ゼレンスキー大統領は21日に公開した動画で「ウクライナの南部と東部では激しい戦闘が続いているが、主導権を握っているのはウクライナ軍だ」と主張しました。
また、南部ヘルソン州の状況についてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は21日の分析で州の西部からロシア軍が撤退を始めたという見方を示しました。
ウクライナ軍も21日、SNSで、ロシア軍が中心都市ヘルソンがある地域からドニプロ川の対岸へ部隊を移動させているとして、撤退と見られる動きがあると指摘し、ヘルソンの奪還に向け、反転攻勢を強めているとみられます。
●「ロシアが作戦を変えた」ウクライナ軍事侵攻は「テロとの戦い、祖国防衛」へ 10/22
ウクライナへの軍事侵攻。ロシア側の目標は当初「ナチからの解放」でしたが、クリミア橋爆破をきっかけに「テロとの戦い、祖国防衛」へと変化させているといいます。大和大学・佐々木正明教授の解説です。
真冬のウクライナを狙い…『テロ・祖国防衛へ』と作戦目標が変化
――ウクライナの広い範囲にロシア側による攻撃が続いています。攻撃のポイントは何でしょうか?
「インフラ施設を狙ってるいことは間違いないです。住宅にも(ミサイルが)落ちていますが、果たしてそこは標的通りにいったかどうかです。もう一つの狙いは戦意を喪失させるのもあります。寒さと暗闇で市民社会に影響を及ぼすというのが大きな目的だと思います」
――10日以降の攻撃で国内の発電所の30%が破壊され、大規模な停電が各地で起きているということで、特別軍事作戦ということから何か変化はありますでしょうか?
「クリミア橋の爆破以降、明らかに作戦目標は変わりました。クリミア橋爆破への報復と言っていますが、10月上・中旬ぐらいから真冬のウクライナの寒さを狙い、大規模攻撃を準備していた節があります。そして『テロ』、『祖国防衛』の戦いへとロジックを変えてきています。テロとの戦いというのはウクライナが越境攻撃をしているという話もあります。そして、ウクライナ全土にミサイル攻撃をしているということです」
本州も飛び越える「カミカゼ・ドローン」イラン人教官が発射の情報も
――今回の攻撃ではイラン製のドローン『シャヘド136』が使われていたとされています。ロシア名はゲラン2、これは一体どのようなものでしょうか?
「このドローン、ロシア語では「ゼラニウム」という花の名前を意味していますが、実はロシア国内で作っているという分析もあります」
――最長航続距離が2500km、日本列島で言うと、青森〜山口・下関市までが大体1500km〜1600kmということですが、本州を軽く飛び越えてしまうほどの航続距離です。最高速度は185km、重量が200kg、翼の幅が2.5m、「カミカゼ・ドローン」とも呼ばれています。
「クリミア半島、ヘルソン州にイラン人のドローンを使っている教官、その教官が売っている可能性もあるという報道もあります。おそらく国内に向けて売っているという情報も出てきました。となると作戦前にイラン人の教官をロシア国内に移動させて、クリミアにイラン人の教官が滞在しながらこの攻撃を行っている可能性があります。一方でイラン側はこれを否定しています」
ロシアは核軍事演習「グロム」を予定…『核の脅し』を最大化か
――NATOは核抑止を目的に毎年ほぼ同じ時期に軍事演習「ステッド・ファースト・ヌーン」を実施しています。今回はNATO加盟の14か国が参加、核弾頭を搭載できるアメリカの爆撃機など戦闘機最大60機がベルギーやイギリス上空を飛行。10月17日〜30日まで行われる予定です。対してロシアは核戦力の運用部隊の演習『グロム(雷)』が行われる予定です。ロシア側の実施の狙いはどう思われますか?
「核の脅しを最大限にするため、演習内容を曖昧にして実施するのではないかと思います。グロムはウクライナへの軍事侵攻前にも行われています。ロシアがいつ、どのような規模で行うかは言っていないんです。ロシア北方でノルウェー国境に近いコラ半島があります。ここに衛星写真で、戦略爆撃機を11機ぐらい既に駐留しているという話があります。となりますと、領空ギリギリを飛んで、戦略爆撃機が威嚇飛行する可能性がある。ウクライナ国境では例えばミサイル抑止部隊が共同作戦として動いたりすると『本当に打つのか』『本当に使うのか』という『核の脅し』になるんです。ウクライナの戦況を有利に持ち込もうとする意図が透けて見えます」
●ロシア大統領府、英国に「政治的見識」期待できない 10/22
ロシア大統領府(クレムリン)のドミトリー・ペスコフ報道官は21日、英国をはじめとする西側諸国に「政治的見識」は期待できないと述べた。英国では前日にリズ・トラス首相が与党・保守党の党首を辞任すると表明したばかり。
ぺスコフ氏は、ボリス・ジョンソン前英首相が返り咲きを視野に入れているとされる件について問われ、「もはや西側のどの国にも政治的見識は期待できない。特に今の行政府の長が(直接選挙で)国民によって選ばれていない英国には」と答えた。
ロシアが2月にウクライナに侵攻して以降、英国はウクライナに軍装備品や資金、軍事訓練を提供。ロシアと英国の関係は過去最悪レベルに冷え込んでいる。
ジョンソン氏はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と良好な関係にあり、ロシアには西側諸国の指導者の中でも特に非友好的と見なされていた。
ロシア外務省は20日、就任からわずか1か月半で辞任を表明したトラス氏について、英国史上最悪の「恥ずべき首相」と批判した。
●NATOが核戦力部隊の訓練を実施、ロシアも近く計画 10/22
ウクライナ戦争をめぐり対立する北大西洋条約機構(NATO)とロシアが核戦力運用部隊の訓練をそれぞれ実施あるいは予定していることが22日までにわかった。
複数の米政府当局者が明らかにした。双方の訓練は以前から計画されていたもので、米国防総省や米情報機関は今月末前までに開始が予定されるロシア側の演習で核兵器の異例かつ予想外の移動などを注視している。
米国防総省高官はCNNの取材に、ウクライナ戦争が続いているなかでロシアによる核兵器利用にふくみを持たせた言動と核部隊の訓練実施の決定は無責任な行為とも非難した。
ロシアの訓練は「グロム」と呼ばれ、毎年実施されている。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官はこの訓練の期間は数日間と予想している。「実際のミサイル発射や戦略的な軍事資産の配備などが実施される」と述べた。
一方、NATO側の年1回の訓練「ステッドファスト・ヌーン」は17日に始まり、米国を含め14カ国が参加。米国防総省によると訓練は過去10年余にわたって続いている。
核弾頭が搭載可能な戦闘機も動員するが、実際の核兵器の積み込みはないとみられる。米ノースダコタ州の基地所属の戦略爆撃機B52も参加する予定。主要な訓練地域はロシア側から625マイル(約1006キロ)以上離れているという。
米国防総省当局者は、訓練についてNATOの核抑止力の信頼性、効果や安全性などを見極めるのが目的と指摘。
NATOによると、訓練には最多で60機の航空機が参加。最新型戦闘機、偵察機や給油機が含まれるとし、飛行空域はベルギー、英国や北海上空とした。
ロシアの今回の演習について米国や同盟国はウクライナ戦争をめぐる緊張関係を踏まえ、その内容に対するより注意深い監視が必要と判断している。ロシアの演習の焦点は戦略的兵器の動向とみられ、同国が国際条約上で義務づけられている事前通告が必要な弾道ミサイルの試験になるとしている。
NATOと米政府当局者はロシアの演習では、核兵器に関する動きは全て正確に探知できるとの自信を表明もした。NATOのストルテンベルグ事務総長は最近、ロシア側が発する危険な核兵器利用に関する言動と婉曲(えんきょく)的な脅迫の問題に関しては警戒態勢を一切解かないとの考えも表明していた。 

 

●かくも不可解なロシア  10/23
文学や音楽に高い芸術性を発揮するロシアと、ウクライナでの野蛮な振る舞い。その落差に驚く人は多いでしょう。両極性を内包するその国民性を取り上げます。
ロシアにも「古事記」に相当する書物があります。スラブ民族の成り立ちや、ロシアの建国から十二世紀初めまでのロシア史を描いた「原初年代記」です。
寄らば強権指導者の陰
現在のサンクトペテルブルクの南方のノブゴロド周辺に暮らしていたスラブ人は、ワリャーグ人に貢ぎ物を納めていましたが、これを海のかなたへ追い払って自治を始めました。
ところがすぐに仲間割れを起こして内紛が絶えません。そこで、いったんは追い払ったワリャーグ人の元に出向きこう頼みました。
「われらの土地は広大で豊かだ。しかし、秩序がない。来たりてわれらを治め、支配してほしい」
これに応じてワリャーグ人が到来しノブゴロドから今のウクライナのキーウ(キエフ)に至るキエフ・ルーシ公国を建国しました。時代は九世紀。ちなみにワリャーグ人とはバイキングのことです。
ソ連解体後の一九九〇年代にモスクワで暮らし、身をもって味わった社会秩序の崩壊、それにロシア軍のウクライナでの蛮行や混乱を報道で知るにつけ、原初年代記を思い出します。ロシア人の希薄な規範意識は民族の歴史の始まりからなのだ、と。
もっとも、戦争という極限状況での非人道的な行為は、残念ながらこのウクライナ戦争に限った出来事ではありませんが。
原初年代記はロシア人の別の特徴も示しています。ワリャーグ人に統治と支配を任せたように、受け身の精神性です。
無秩序ぶりと受動性が相まって、ロシア人はスターリンやプーチン大統領のように、自分たちをがっちりと統率する独裁者を受け入れます。そうしないと社会がバラバラになって収拾がつかなくなる。ロシアの指導者に求められているのは、第一に強いということ。強くて外敵から自分たちを守ってくれるリーダーです。
ウクライナ戦争が起きてもロシア国内で反対運動は広がらず、人ごとのような雰囲気がありました。歴史的にも民族的にも結び付きの強いウクライナとの戦争。親類、友人にウクライナ人がいる人はたくさんいます。そんな隣国との戦争なのに無関心、あるいは無関心を装う。何も起きていないかのようなふりをする。現実逃避によって安心を得ようとしたのでしょう。
身近になった侵略戦争
それがプーチン氏が出した動員令によって、戦争が突然身近な現実として突きつけられた。たくさんの若者が徴兵逃れのために海外に脱出し、反戦に立ち上がる母親も現れました。
いまだプーチン氏が「特別軍事作戦」と言い続けているウクライナ戦争が、大義のない侵略戦争だ、と実は分かっていたからでしょう。しかも戦況が思わしくないことも。
政権が嘘(うそ)で塗り固めたプロパガンダを垂れ流しても多くの国民はだまされなかった。元軍高官の政治家も「軍は嘘をつくのをやめよ。国民はばかではない」と苦言を呈しました。
前線のロシア兵士もロシア社会も、大義のない無益な戦争にどれほど耐えられるか、というストレステストを課せられているに等しい。残酷なことです。ストレスに耐えきれなくなれば、我慢強いロシア人でも怒りを爆発させるでしょう。
ロシアでは過去百年余りの間に、民衆の反乱によって二度体制が転覆しました。帝政が倒れた一九一七年の革命と、九一年のソ連消滅につながった共産党独裁体制の崩壊です。
ベルリンの壁が崩れた八九年、プーチン氏は国家保安委員会(KGB)の情報部員として東独・ドレスデンに赴任していました。そこでKGBの協力機関の秘密警察の支部に、民主化を求めるデモ隊が押し寄せる場面に遭遇。プーチン氏が東独駐留のソ連軍に助けを求めても無駄でした。これが民衆蜂起に関するプーチン氏の原体験でしょう。
プーチン氏もロシアで動乱が起きるのは望まないでしょう。侵略戦争を打ち切るべきです。ウクライナで悲劇を積み重ね、ロシアの若者も死地に追いやる。そんな不条理は一刻も早く終わりにしなくてはなりません。
●ロシア、電力インフラ攻撃継続 南部では複数集落を放棄 10/23
ウクライナ軍参謀本部は22日、ロシア軍が電力インフラを主な標的として40発のミサイルとイラン製の突入自爆型ドローン(無人機)「シャヘド」16機を発射したと発表した。うちミサイル20発とシャヘド11機を撃墜したが、南部ザポロジエやオデッサ、ミコライフ、西部リウネ、フメリニツキー、東部ハリコフなどの各州で電力などの重要インフラが損傷したとした。
また、同参謀本部は22日、ロシアが一方的に併合を宣言した南部ヘルソン州を流れるドニエプル川の西岸地域で複数の集落を露軍が放棄したと指摘した。露軍は同川の西岸地域に位置する州都ヘルソン市で市街戦の準備を進めるとともに、同川の東岸地域に防衛線を構築し、実効支配する南部クリミア半島方面へのウクライナ軍の前進を防ぐ思惑だとみられている。
電力など民間インフラへの攻撃について、ウクライナは戦争のルールを定めた国際法規違反だと非難。ゼレンスキー大統領は22日のビデオ声明で、停電の復旧作業が進んでいるとした上で、国民に節電を要請。「停電の中でさえも、ウクライナ国民の生活はテロ攻撃を行うロシアよりも文明的だ」と述べ、国民に団結と忍耐を呼び掛けた。
ロシアはクリミアと露本土を結ぶクリミア橋で8日に起きた爆発を「ウクライナのテロ」だと主張し、「報復」として10日からウクライナ各地の電力インフラなどにミサイルやドローンによる大規模攻撃を開始。ウクライナのエネルギー当局は19日時点で、約40%の電力インフラ施設が破壊されたと発表していた。
東・南部の戦線で劣勢に立つロシアは橋での爆発を口実に電力インフラを攻撃し、ウクライナ軍の兵員・物資輸送を妨害するとともに、国民の戦意をくじく狙いだとする観測が強い。
●サイバー攻撃、24%の企業が「1年以内に被害」回答 10/23
緊迫するウクライナ情勢を受け、サプライチェーン(製品の原材料の調達から販売に至るまでの一連の流れ)を構成する企業を標的にしたサイバー攻撃が表面化する中、サイバー攻撃を「1年以内」に受けたと回答した企業が約24%に上ったことが、民間調査会社の帝国データバンクの調べで分かった。同社では「不正メール受信によるウイルス感染被害が多くみられる」と分析している。
帝国データバンクによる同様の調査は、ロシア軍によるウクライナ侵攻直後の3月以来、2回目。同社では今月7〜12日にインターネットによるアンケートを行い、有効回答企業数は1251社だった。
調査によると、サイバー攻撃を「1カ月以内に受けた」企業は8・6%で、「1カ月超から1年以内に受けた」企業(15・6%)と合計すると、1年以内に受けた企業は24・2%に達した。
被害を受けた企業からは「一部のメールに不正メールを大量に送られ、メール送受信ができなくなり、受注や顧客とのやり取りが2日間できなくなってしまった」(パン製造)、「ホームページのお問い合わせフォームより、数秒単位で大量のメールが止めどなく送られてきて、サーバーがパンクした」(旅行代理店)といった声が寄せられた。
また、サイバー攻撃を受けた際に支出した金額について尋ねたところ、「0円(サイバー攻撃を受けたが支出はない)」が77・9%で最も高く、「100万円未満」が15・1%で続いた。
3月に実施した同様の調査と比べた場合、サイバー攻撃を「1カ月以内に受けた」企業は19・8ポイント減ったものの、同社では「直近の被害状況は、ウクライナ情勢が緊迫化したその直後よりも減少しているが、依然として予断を許さない状態が続いている」と指摘している。
●プーチン政権「戦争」認める NATOに責任と主張 10/23
ロシアのプーチン大統領の側近が22日、「特別軍事作戦」と呼んできたウクライナ侵攻について、「戦争」という言葉を連呼した。
議員を除き、政権高官が戦争と認めるのは初とみられる。これまで対テロなどと同じ「作戦」の位置付けだったが、過去1カ月で部分的な動員令と戒厳令が出され、事実上の「戦時体制」に入ったことが背景にありそうだ。
この側近は、ウクライナ担当のキリエンコ大統領府第1副長官。戦争の責任を負うのは北大西洋条約機構(NATO)側と主張。ロシアが仕掛けたにもかかわらず、「被害国」だと訴えている。
●ロシア国民の心理状態「急激に悪化した」世論調査 10/23
ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターは21日、プーチン大統領が「部分的動員」を発表して以降の国民の「心理状態」について、「急激に悪化した」との調査結果を発表しました。
調査は、ロシア軍への「部分的動員」が発表されたあとの9月22日から28日にかけて行われました。その中で、いまの気持ちを尋ねたところ、「気分が良い」と答えた人は7月調査の15%から7%に下落、「普通」と答えた人65%から45%に減りました。
一方で、「緊張・苛立ち」と答えた人が17%から32%に増加し、「恐怖・憂鬱(ゆううつ)」と答えた人も4%から15%と急激に増加したということです。
レバダセンターは、「調査を始めてから、これほど劇的に国民心理が悪化したことはない」と分析していて、プーチン大統領が発表した「部分的動員」がロシア国民にとって大きなストレスになったことを裏付けました。 
●ウクライナ戦争、民間人殺害は6322人 国連 10/23
国連のディカルロ政治・平和構築担当事務次長は23日までに、ロシアによるウクライナ侵攻以降、殺害された民間人は6322人、負傷者は9634人に達すると安全保障理事会の会合で報告した。
少なくとも397人の子どもが含まれるとも述べた。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が今月18日時点でまとめた数字に依拠した。実際の数字はより高い可能性があるともつけ加えた。
また、ウクライナで起きている重要なエネルギー関連インフラの破壊行為への懸念も表明。高騰する天然ガスや石炭価格と合わせ、これら攻撃によるエネルギー関連施設の損失は今冬に数百万人規模の民間人を極めて厳しい窮境や命の維持にかかわる生活環境に追い込む恐れがあるとした。
ウクライナに関する独立国際調査委員会が先週、国連総会に報告書を提出したことにも言及。報告書は、戦争犯罪、人権侵害や国際人道法の違反行為がウクライナ内で起きていると結論づけられる合理的な理由があると指摘したと述べた。
●ウクライナ侵攻は「戦争」 プーチン大統領側近が初めて認める 10/23
ロシアのプーチン大統領の側近が、ウクライナへの軍事侵攻を「戦争」だと初めて認めた。プーチン大統領はこれまで、ウクライナ侵攻について「戦争」ではなくウクライナの非軍事化などをはかる「特別軍事作戦」と主張していた。
プーチン大統領の側近の一人、キリエンコ大統領府第一副長官は22日、モスクワで開かれたフォーラムで「NATO(北大西洋条約機構)はロシアと戦争をしている」と述べた。
NATOが仕掛けてきたとする立場の戦争について「勝つためには誰もが当事者意識を持てるような戦争でなくてはならない」と強調したウクライナの反転攻勢を受けて、守勢にたつなか、「戦争」と認めることで、団結を求め一歩も引かない決意を表明した形だ。
また、プーチン大統領が有事の際に出兵する予備役を招集する部分的動員令や戒厳令を導入したことで、事実上の戦時体制に移行したことも背景にあるとみられる。
ただ、キリエンコ氏は「ロシアはウクライナと戦争していない」とし、あくまでNATOがロシアの排除を目的に仕かけている「戦争」に対応していると強調。ロシアが先にウクライナに手を出したことを棚に上げ、ロシアの軍事侵攻を正当化する立場を続けている。
●ヘルソン州でウクライナ軍の反転攻勢続く、西部でロシア軍が撤退開始 10/23
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部へルソン州では、22日もウクライナ軍が村の奪還を発表しました。アメリカのシンクタンクは、ヘルソン州でロシア軍が撤退を始めた、との見方を示しています。
ウクライナ軍の参謀本部は22日、ヘルソン州のドニプロ川西岸にある2つの村を奪還したと発表しました。
ヘルソン州をめぐっては、21日にはウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官がSNSで「これまでに88の集落を奪還した」と明らかにしていて、ウクライナ軍が反転攻勢を強めています。
こうした中、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は21日、「ロシア軍がヘルソン州西部から撤退を始めた」とする分析を発表しました。また、ロシア軍が撤退を隠しウクライナ軍の追撃を防ぐために、ドニプロ川にある水力発電所のダムを爆破しようとする可能性が高い、と指摘しています。
●イラン、西側「挑発」に警告 ロシアへの無人機供与説めぐり 10/23
イラン政府は22日、ロシアがウクライナ攻撃に使用したとされるイラン製無人機について欧州諸国が国連(UN)の調査を求めたことについて、「挑発的なアプローチ」だと警告した。
欧州連合(EU)と英国は先に、新たなイラン制裁を発動。21日にはフランス、英国、ドイツが、イラン製無人機に関する「公正な」調査を行うよう求める書簡を国連に送付した。
イラン外務省のナセル・カナニ(Nasser Kanani)報道官は声明で、「イラン・イスラム共和国は、EUと英国が行っている挑発的なアプローチについて、政治的な思惑に基づくシナリオの一部だとみている」と主張。EUと英国による「破壊的」な手法を「全面的に拒否し、強く非難する」と表明するとともに、「(イラン政府は)いかなる無責任な行動に対しても応酬する権利を留保し、国家の利益を守ることをちゅうちょしない」と述べた。
その上で、イランがロシアに無人機を供与したとの見方について「根拠がない」と重ねて否定。「わが国は、政治的なプロセスを通じたウクライナの平和と戦争の即時終結を支持する」とした。
●イラン大使館前 ウクライナ人など抗議集会 無人機供与指摘受け  10/23
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対して、イランが無人機を供与していると指摘されていることを受けて、都内のイラン大使館の前で、日本に住むウクライナ人などが抗議の集会を開きました。
ロシア軍によるウクライナへの攻撃をめぐって、イラン政府は関与を否定していますが、EUやアメリカなどはイランが供与した無人機が使われていると指摘しています。
23日、東京 港区のイラン大使館の前で開かれた集会には、日本で生活を続けているウクライナ人や日本への避難者などおよそ30人が参加しました。
参加者たちは、非難のメッセージが書かれたプラカードやチラシを掲げて抗議の意思を示しました。
そして「ロシアに武器を送るな」「イランはテロを支援するな」などとおよそ1時間にわたって訴えていました。
集会の主催者の1人、イゴリ・イグナティエフさんは「イランが無人機や武器を送ることで、ウクライナ人を苦しめるロシアを手助けしていることを自覚し、そうした行動をすぐにやめてもらいたい。私たちは戦争が終わるまで訴え続けることをやめないし、世界の人たちもそのことを忘れないでほしい」と話していました。
●プーチン氏発令の動員で招集された41人死亡、20人が戦闘拒否… 10/23
ロシア語の独立系ニュースサイト「メディアゾーナ」は22日、英BBCなどと実施した独自集計に基づき、ウクライナ侵略を巡るロシア兵の死者数を公表した。9月21日にプーチン露大統領が発令した部分的動員を巡っては、招集された41人が死亡したという。
41人については内訳を示していないが、動員発令以降の約1か月間で、ウクライナの前線に加え、前線に送られる前に行われた訓練中にも死亡した事例があると指摘している。
ロシアの独立系記者らが情報を配信しているSNSのニュースサイト「アストラ」は22日、部分的動員で招集された約20人が、訓練を十分に受けていないことを理由に前線での戦闘参加を拒否したと伝えた。東部ルハンスク州で地下室に拘束され、当局から前線に向かうか厳罰を受けるかの選択を迫られているという。
●ロシア軍 エネルギー関連施設を攻撃 ウクライナ7州で停電  10/23
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、火力発電所など、エネルギー関連施設を狙った攻撃を続けています。ウクライナ大統領府は、西部や南部の7つの州でおよそ150万戸が停電したとするなど、市民生活への影響が広がっています。
ウクライナでは、ロシア軍が今月中旬からミサイルや無人機によるエネルギー関連施設を狙った攻撃を集中的に行っています。
ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は22日、SNSへの投稿で、西部フメリニツキー州や南部ミコライウ州など、7つの州で合わせておよそ150万戸が停電したとするなど、市民生活への影響が広がっています。
ウクライナのエネルギー相も21日、電力インフラの30%から40%が攻撃を受け、特に火力発電所が標的にされたことで火力発電能力の少なくとも半分が失われたと明らかにしていました。
ゼレンスキー大統領は22日「テロリストの主な標的はエネルギーだ。これまで以上に意識して電気を使うよう注意してほしい」と述べ、改めて節電を呼びかけました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は22日、ロシア軍によるエネルギー関連施設への攻撃について「ウクライナが戦意を喪失する可能性は極めて低いが、気温の低下に伴い、経済的、人道的な課題がさらに増えるだろう」と指摘しています。
さらに、ロシア側は、一方的な併合に踏み切った東部ルハンシク州で、広範囲に及ぶ防衛線を築いていることがわかりました。
イギリス国防省が23日に発表した分析によりますと、防衛線は、プーチン政権とのつながりが指摘されるロシアの民間軍事会社「ワグネル」が築いているもので、ざんごうを掘ったり、戦車の進撃を阻む構造物などを設置したりして要塞化しているということです。
イギリス国防省は「ロシアは、現在の戦線の後方に深い防衛線を築くことに、多くの労力を払い、ウクライナの急速な反転攻勢を阻止しようとしている可能性が高い」としていて、東部では、「ワグネル」がウクライナ軍の反撃に対抗しようとしていると指摘しています。
●ゼレンスキー大統領 エネルギー関連施設攻撃受け 節電呼びかけ  10/23
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍が22日、各地のエネルギー関連施設に大規模な攻撃を行ったとして「意識して電気を使うよう注意してほしい」と述べ、節電するよう呼びかけました。これまでにおよそ150万戸が停電するなど市民生活への影響に懸念が強まっています。
ウクライナ軍は参謀本部が22日、SNSで、ロシアが一方的に併合したとする南部ヘルソン州で、ドニプロ川の西側にある2つの集落からロシア軍が撤退したと発表するなど南部で反転攻勢を強めています。
これに対し、ロシア軍はエネルギー関連施設を狙った攻撃を続けていて、22日も各地でミサイルなどの攻撃を行いました。
ゼレンスキー大統領は22日に公開した動画で「今回の新たな大規模攻撃の範囲は非常に広い」と明らかにしました。
そのうえで「テロリストの主な標的はエネルギーだ。これまで以上に意識して電気を使うよう注意してほしい」と述べ、節電するよう呼びかけました。
今回の攻撃を受けて、ウクライナ大統領府はこれまでに7つの州でおよそ150万戸が停電したと明らかにするなど、エネルギー施設への攻撃による市民生活への影響に懸念が強まっています。
●元伊首相が物議、プーチン氏との親交誇示する音声漏出 10/23
イタリアのベルルスコーニ元首相(86)がロシアのプーチン大統領との友好関係を誇示する形で、先月の自身の誕生日にウォッカ20本などを贈ってきたことを明かし、反発も買う騒ぎをこのほど起こした。
同国の通信社「ラ・プレッセ」が録音した音声と共に報じた。ウォッカと一緒に、「非常に親切な書簡」も添えられていたとした。
元首相の事務所はCNNの取材に、音声は本物であることを確認。ベルルスコーニ氏が率いる政党「フォルツァ・イタリア」が国会内で開いた会合で秘密裏に録音されたものであることは明らかとした。
同通信が公表した音声記録によると、元首相は「(お礼として)イタリア産のスパークリングワインと共に、同様に思いやりを込めた書簡を返した」と述べたという。
また、「プーチン大統領との関係を再構築した」ともし、プーチン氏がベルルスコーニ氏を「真の友人である5人のうちの1人」と呼んだことも自慢したという。
フォルツァ・イタリアの報道担当者は、元首相がプーチン氏と接触したことは否定。自党議員に語ったことは「数年前のエピソードを紹介した古い話」だったとも説明した。
ラ・プレッセが伝えた音声記録では、プーチン氏はウクライナ戦争のイニシアチブを取ることには反対していたとするベルルスコーニ氏の発言も聞き取れていた。
イタリアでは右翼政党のメローニ党首が首相に就任したばかりで、フォルツァ・イタリアの連立政権入りも予想されている。メローニ氏はウクライナ支持を強固に主張している。ウクライナ情勢を追う関係者の間ではベルルスコーニ氏の今回の発言内容に眉をひそめる反応も出ている。
●ウクライナ侵攻でロシア国民「不安に思う」88% 急増 10/23
ウクライナ侵攻を続けるロシアで、9月21日に部分的動員令が発動された後、国民の不安感が高まっている。独立系世論調査機関レバダ・センターが今月21日に発表した9月のストレス調査では、日常的に「恐怖を覚える」との回答が15%で、7月の前回調査から9ポイント急増。「緊張する」との回答も15ポイント増えて32%となった。
一方、「気分が良い」と感じる割合は8ポイント減の7%となり「普通」は20ポイント減の45%まで下落した。動員令の徴兵枠は国防省によると約30万。地方の一部の集落では、成人男性の大半が招集されるなど社会的な混乱が広がっている。9月初めからウクライナ軍が反転攻勢を強めていることも影響したとみられる。
9月29日発表の世論調査では、ウクライナにおける現状(ロシアの軍事侵攻)を「不安に思う」と回答した割合が88%に達し、8月の前回調査から14ポイントも伸びた。「不安でない」は前回が24%だったのに対し、今回は11%に減った。
大手紙コメルサントによると動員令の発動後、大手書店チタイ・ゴロドでは第2次大戦に関する本の販売量が2割も増加。中でもナチスが統治するドイツを描いた書籍「軍事下の国家」は5倍の売り上げとなったという。2月の侵攻開始後、抗うつ剤の販売が伸びているとの報道もある。
●プーチン氏「最も温かいお祝いを」 3期目決まった習氏に祝電 10/23
ロシアのプーチン大統領は23日、異例となる3期目の続投が決まった中国共産党の習近平(シーチンピン)総書記に祝電を送った。「再選に際し、最も温かいお祝いを受け取ってください」とつづった。
ロシア大統領府が伝えた。プーチン氏は祝電で「党大会の結果は、あなたの高い政治的権威と、あなたが率いる党の結束を示した」と称賛。「大会の決定は、中国の重要な社会的、経済的な課題の達成と、国際舞台での中国の地位の強化を可能にすると確信している」と述べた。
朝鮮中央通信によると、北朝鮮の金正恩総書記も23日、習氏に祝電を送り、「習総書記と共に時代の要求に応じて朝中関係のより美しい未来を設計し、その実現を導いて両国における社会主義偉業を引き続き強力に促す」とした。

 

●米国・ロシア国防相、21日に続き電話協議 ロシアが要請 10/24
米国防総省は23日、オースティン国防長官がロシアのショイグ国防相と電話協議したと発表した。両氏は21日に電話で話したばかりで、米側によると23日の協議はショイグ氏が要請した。
オースティン氏はウクライナ紛争をエスカレートさせようとするロシアのいかなる主張も拒否する一方、意思疎通を継続する重要性を改めて強調した。21日の電話はオースティン氏の呼びかけで実施した。
ロシア国防省も23日、両氏がウクライナ情勢を話し合ったと通信アプリで発表した。詳しい会談内容は明らかにしていない。
ロシア国防省によるとショイグ氏はこれに先立つ23日、英国、フランス、トルコの国防相と相次いで電話会談し、ウクライナが放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」を使う恐れがあると懸念を示していた。オースティン氏にも同様の内容を伝えた可能性がある。
オースティン氏は23日、英国のウォレス国防相とも電話した。国防総省の声明によると、ウクライナを含む優先課題について幅広く議論した。
●ロシアのプーチン大統領、習氏続投を歓迎 対等関係維持に腐心 10/24
ロシアのプーチン大統領は、中国の習近平政権3期目入りを受け祝電を発表した。「建設的な対話と緊密な協力が続くのをうれしく思う」と歓迎し「親愛なる友よ」と呼び掛けた。欧米との関係が悪化する中、中国は数少ない頼りとなる友好国だが、ウクライナ侵攻にてこずる中、習氏の態度に変化が見られ、プーチン氏は対等な関係維持に腐心しそうだ。
2月の北京冬季五輪開幕式に出席するため訪中し、習氏と会談。共同声明で「両国の友好は無限だ」と確認した。ただ、侵攻が長期化すると習氏は「様子見」を決め込むような態度に変化。9月にウズベキスタンで行われた会談で、プーチン氏はウクライナ危機への「疑問や懸念」は理解すると伝え、習氏の機嫌を取るそぶりを見せた。
現状では、ロシアの方が中国の協力を必要とするが、ロシアは「弟分」になることは望んでいない。米中対立が続き、中国にとってもロシアとの連携は欠かせない。
ザハロワ外務省情報局長は20日、地元メディアで「中ロとも相手に従属的な立場に甘んじるつもりはない」と強調。中国が経済・軍事面で大国となる中でも、あくまで対等な関係を維持したい考えをにじませた。
●「開戦」秒読み――「総力戦体制」のロシアにどう立ち向かう 10/24
9月21日、プーチン大統領は予備役約30万人の部分動員を指示。10月5日、プーチン大統領はドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポロージエの4州の「併合」を承認した。併合演説でプーチン大統領は、核兵器を含むあらゆる手段を講じる用意があると述べた。10月8日、クリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア大橋が爆破によって損壊し、プーチン大統領はこれをウクライナによるテロと断定して、ウクライナ各地のインフラへのミサイル攻撃を行った。10月20日、プーチン大統領の指示により、新たにロシアに「併合」された4つの地域に戒厳令が敷かれた。
第三次世界大戦の回避というコンセンサス
一方で、ウクライナの地上軍は攻勢作戦を遂行しており、ドンバス北部地域及びヘルソン州で進攻している。これを受けてロシア支配地域のヘルソン州では、ドニエプル川左岸への住民の移動を開始し、さらにその他の地域への避難も推奨されている。
西側諸国は、ロシアによる戦闘の継続は困難となっている、ロシア側はウクライナ側に押される一方である、核兵器の使用は認められない、ウクライナを引き続き支援すると繰り返している。
しかし、上述のロシアの動きをみていると、大規模な戦闘の足音が着々と近づいているのが聞こえるようだ。これからどうなっていくのだろうか。先行きは不透明だが、戦後初の核兵器の使用という事態、ロシアとNATOの直接対決、すなわち第三次世界大戦といった最悪の事態は何としても防がなければならないという点については、国際社会のコンセンサスがとれているものと思われる。
「総力戦体制」のロシア
現状注目すべきは、戒厳令と同時に決定された「政府調整評議会」の設置であろう。議長はミシュスチン首相、副議長はグリゴレンコ副首相兼首相府長官とマントゥロフ副首相兼産業貿易大臣の2名。その他、ボルトニコフ連邦保安庁長官、ゾロトフ連邦国家親衛隊司令官、コロコリツェフ内務大臣、ナルイシュキン対外諜報庁長官、シルアノフ財務大臣、ショイグ国防大臣などが名を連ねる。この評議会の目的は、ウクライナにおける「特別軍事作戦」で必要とされるロシア軍の需要を満たすこと、そしてそのために関係する連邦機関及び地方政府が連携することである。軍事作戦を遂行するために必要な武器や物資を効率的に確保するため、この評議会が調整を行い、課題を挙げ、目標と計画を立て、予算を確保し、物資の供給を管理する。一言で言えば、国を挙げて組織的に軍事作戦を継続遂行していくということに他ならない。
これは何を意味するのか。「総力戦体制」そのものである。これまでの軍の活動の延長線上で行ってきた軍事作戦から、国力を総動員しての総力戦へと移行しようとしている。この調子でいけば、次に来るのは「特別軍事作戦」から「開戦」への移行である。非常に憂慮すべき事態と言わざるを得ない。
事は軍事物資の供給だけにとどまらない。4地域への戒厳令の導入に加え、ウクライナに隣接する8地域(クリミア、セヴァストポリ、クラスノダール、ベルゴロド、ブリャンスク、ヴォロネジ、クルスク及びロストフ)にも「中レベルの対応体制」を導入し、経済における動員、地域の防衛体制を整えることなどを指示した。そればかりか、中央連邦管区(モスクワを含む18地域)、南部連邦管区(クリミアを含む8地域)には、「高度な準備体制」を敷いた。対応のレベルは、上から「戒厳令(最大限の対応体制)」、「中レベルの対応体制」、「高度な準備体制」となるが、「高度な準備体制」の場合でもインフラ施設の防護や交通規制・検査といった権限を行政に与えるものだ。加えて、ロシア全土のその他の地域には「基盤的準備体制」を導入し、市民を防衛するための措置や軍事物資を確保するための措置を実施する権限を与えている。
つまり、政府には「調整評議会」を置き、同時に全国に様々なレベルの「準備体制」(レジーム)を導入することで、ロシアが軍事行動を継続するための国内体制を整えているのである。
ロシアの意図は?
では、ロシアは「総力戦体制」を整えてどうしようというのか。開戦なのか。確かに開戦(戦争)に向けた準備を整えていると言わざるを得ない状況だが、短期的には開戦そのものを目的とはしていないと思われる。ロシアの当面の目的はウクライナ軍の攻勢を跳ね返し、戦線を安定させることである。現状では物資不足、兵力不足のためウクライナ軍の攻勢に耐えきれていないロシア軍は、軍事物資の補給を確保し、徴収された兵力を投入することで、押される一方の戦線を安定させようとしている。こうしてロシアの「国境」を十分な軍事力で防衛すること、これが現時点でのロシア側の目標である。プーチン大統領自身が、30万人の部分動員は、1100キロに及ぶ前線を維持するために必要な措置だとしている。ロシア側としては、そのうえで、停戦交渉を進めたいと考えているのである。
但し、欧米に支援されたウクライナ側の軍事力がロシア側の軍事力と拮抗するとすれば、前線における戦闘は激化し、エスカレートする可能性もあろう。この場合のエスカレーションとは、ロシア軍が戦線を安定させるという目標を越えて前進しようとしたり、後背地の生活インフラにさらなる打撃を与えることでウクライナの士気と国力を奪い降伏させようとしたり、といった行動である。最悪の場合には戦術核兵器の使用である。エスカレーションを止め、戦線を安定させることができなければ停戦の機は熟さない。
エスカレーションの可能性大
また、現時点で攻勢に出ているウクライナ側としては停戦交渉に応じるつもりは全くない。ゼレンスキー大統領はプーチン大統領とは交渉しないと宣言している。ウクライナ側はロシアによる占領地域を軍事的に奪還するまでは停戦に応じたくないのだ。なぜなら、今停戦すれば、被占領地域は二度と戻ってこないということを理解しているからである。
ウクライナの停戦交渉の拒絶の姿勢は頑ななまでである。10月3日にイーロン・マスク氏が和平案を提案した際にウクライナ政府が激烈な反発を示したことがそれを示している。そのため、ウクライナを支持しているEU諸国としても停戦について大きな声で発言できない雰囲気となっている。残念ながら、現状では、エスカレーションに至る可能性が高いと言わざるを得ない。
第三次世界大戦か停戦か
ウクライナ自身が外交交渉を拒否し、軍事的手段による解決を志向している以上、第三次世界大戦の勃発を回避し、停戦により平和を回復しようとすれば、ウクライナを軍事的に支援している国々が交渉に向けて動くほかない。2014年と15年のミンスク諸合意を実現したときの独仏のようなリーダーシップが発揮される必要がある。
問題は停戦の条件である。ロシア側はウクライナ軍に十分な打撃を加え戦線を安定させた上で、ウクライナが中立化すること(NATO非加盟)を条件に出してくるだろう。一方で、ウクライナはNATOに加盟申請を提出したばかりだ。また、「併合」された地域の地位については、双方譲らないであろうから棚上げされる可能性もある。この場合にはミンスク諸合意の再現となる。ミンスク諸合意も政治的問題(ドンバスの地位、選挙の実施等)を将来の課題として定めたが、結局は実現されないまま、こうした事態に至ったのである。
つまり、停戦そのものは根本的解決ではない。根本的解決には、他の国際問題同様、非常に長い時間が必要となるだろう。しかしながら、国際問題というのは、そもそも短期間に解決されないものである。世界を見渡せば、そういう問題がごろごろしている。たとえ戦場で勝敗が決まったとしても、その後に領土問題といった問題が残されることはよくあることだ。今重要なのは、それでもなお粘り強く外交的解決を目指していくことである。このことを最も聞かせたいのは軍事侵攻に踏み切ったロシアなのではあるが。
●揺れ始めたロシアやイラン。独裁体制の実態はハウス・オブ・カード 10/24
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが独裁体制の脆弱さについて指摘する。
ロシアのプーチン大統領が発動した予備役の部分動員令は国民の混乱と反発を招き、皮肉にも現体制の脆弱(ぜいじゃく)さを露呈してしまいました。
動員令発令の直後には、決して少なくない数のロシア人が、徴兵から逃れるためにキルギスやカザフスタンなどへ脱出する様子も報じられました。
これらの国は旧ソ連圏内の"衛星国"としてロシアが見下していた存在でもありますが、この肝心なときに徴兵逃れの"裏切り者"の逃げ場となり、しかも現地では裕福なロシア人がお金を落としてくれる機会として、喜んで受け入れるケースもあったようです。
振り返ってみれば、プーチン政権に最も友好的なはずのべラルーシのルカシェンコ大統領でさえ、ウクライナ侵攻開始から半年以上もプーチン大統領の協力の求めをのらりくらりとかわし続け、「巻き込まれるのは避けたい」という本音は明らかでした。
10月になってようやく「ロシアとの合同部隊」の形成を進めると発表しましたが、それまでの経緯を考えると"従順な子分"という雰囲気でもありません。もちろんプーチン大統領に同情の余地は一切ありませんが、自分に進んでついてくる者がこれだけ少ないという孤立感を今、どう考えているでしょうか。
大規模な反政府デモが広がるイランにも似た空気を感じます。事の発端は、スカーフの着け方をめぐり風紀警察に逮捕された22歳のクルド系女性が死亡した事件と、SNSでこの問題を批判するパフォーマンスを行なった16歳の少女が当局に殺害されたとみられる事件。
イラン国内の若者たちの反政府運動に国外のセレブや著名人らも連帯し、大きなうねりを生んでいます。核開発で欧米を揺さぶろうとしていた強権的な政府が、スカーフをきっかけに国内外から重圧をかけられているのはなんとも奇妙な光景です。
ちなみに、イランの男性シンガーが政権批判のツイートを寄せ集めて作成した曲がたちまち拡散され、反体制運動の"公式ソング"になっているようですが、これも実に現代っぽい現象です。
かつてピーター・ガブリエルが南アフリカの反アパルトヘイト運動家スティーブン・ビーコーに捧(ささ)げた楽曲『Biko』が世に出たのは、ビーコーが当局に拷問され死亡してから3年後のことでした。しかし今回は、運動の当事者たちによりリアルタイムで曲が拡散され(しかも詞の内容は英訳付き)、国内外で火がついているわけです。
ロシアにしろイランにしろ、これまで欧米諸国は独裁体制を暴走させないようになんとか付き合ってきた経緯があります。しかし、いざ足元が崩れ始めてみれば、その実態は"house of cards"、つまりトランプで組み上げた家のようにもろかった――ということになるかもしれない。
今の状況が体制崩壊の決め手になるといえるほど単純な話ではありませんが、ジワジワと外堀を埋めて社会を動かすようなかつての時代と、ネット中心の現代とのスピード感の違いをはっきりと感じます。
こうしたもろさを抱えているのは、今や"権威主義陣営のラスボス"感のある中国も同じはずです。世界が動くスピードが極めて高速化しつつある中、歴史の証人になるために、今何が起きているのかしっかり見ておくべきでしょう。 
●ウクライナ侵攻からきょう8カ月「勝利の日までの長い冬」 10/24
奪い返した町々に残された集団埋葬地
ウクライナとロシアの戦争での最近の出来事は、私たちウクライナ人が常に確信していたことを、ついに全世界に信じせしめるに至った。ウクライナは戦いに勝つことができる、いや、明らかに勝つだろう、と。東部地方での一連の鮮やかな勝利は、最前線をロシアとの国境まで押し上げ、何千平方キロものウクライナの領土を解放している。そこには、地域の半分あるいは大半が破壊された町や村があり、占領下で辛抱強くウクライナ軍を待ち続けた住民たちがいた。
解放された地域では、この戦争の不気味な現実も明らかになった。ロシア軍の手による住民たちの大量殺害だ。ハルキウ州の小さな美しい町、イジューム。そこの絵のような風景の森を(ハルキウ市生まれの)私は何度も訪ねたことがある。しかし、解放後に見つかったのは、女性や子どもを含め500人以上もの集団埋葬地だった(その中に兵士の遺体はわずか)。遺体の最も多くは、侵略者を歓迎しなかった地元の住民である。思い起こしてほしいのは、そうした集団埋葬地がいまなお、ロシア軍から解放されたほぼ全てのウクライナ領で掘り起こされている。
その事実は、いまウクライナで起きていることを理解するために認める必要のある、とても重要な一点に私たちを導く。この戦争は、二つの政府同士の紛争ではない。領土や天然資源をめぐる戦争でもない。ウクライナという国を消滅させようという試みであり、ウクライナ人という民族を野蛮にも大量殺害しようとする企てだ、と。
まだはるかに遠い、戦争の「終わり」
戦場でのウクライナ軍の進撃は、全軍の士気を大いに高めたが、それはあまりに時期尚早ということも分かった。
10月10日、ロシアはウクライナの多くの都市を攻撃した。空軍機や一斉発射システムのミサイル、ドローン爆弾を用いて。犠牲になった市民には、またも女性たち、子どもたちが含まれた。欧米の支援国は最新兵器をウクライナに提供し、ロシアを弱らせようと経済制裁を重ねている。しかし、ウラジーミル・プーチン大統領はいまも旧ソ連時代のロケット兵器を数多く有し、ウクライナの隅々をテロ攻撃にさらすために使おうとしている。
その残忍な攻撃の後、世界の各国はウクライナに最先端の防空システムを提供すると約束してくれた(ただ、それがロシアの侵攻の初期段階に行われていたら、とも思う)。しかし、ここで私たちの思いは新たな重要な一点に近づく。それは、この戦争の「終わり」がはるかに遠いということ。旧式ながら効果の大きいミサイルやロケット兵器を数多く抱え、ウクライナ人たちを爆撃するプーチン大統領に、攻撃をストップさせるものはなく、戦争をやめさせる人間もいない。それが現実だからだ。
プーチン大統領がやろうとしていることは明らか。ウクライナの街々を空爆しながら、いわゆる重要インフラの水道施設や発電所、市民生活を支える卸業者の倉庫群などを狙った攻撃を続けるつもりだ。その目的とは、迫りくる長く厳しい冬をウクライナ人たちに耐えがたいものとし、―彼がその座にいる間に―何を置いても平和を求めさせ、弱くなった相手と来春の雪解け後の地上戦でまみえること。だが、そうはさせないことが文明社会全体の責任であると思う。
ウクライナ人は今日、かつてなく強くなった。同時に、世界からの支援もかつてないほど切に必要としている。先日、イランがロシアに地対地ミサイルを供給することで合意したと明らかになった、というニュースも流れた。傍観している時ではない。
プーチン体制への抗議なきロシア国民
ウクライナを物理的に破壊しようとする一方、クレムリン(注・プーチン政権)の「メディア戦争」も依然として活発だ。その戦略の一つは、プーチン大統領が始めた、いわゆる「特別軍事作戦」がロシアの一般国民とは無関係であり、彼らは何も知らず、それゆえいかなる責任もない、と国民にも世界に信じさせたかったことだ。
しかし、それはウソだ。9月21日、プーチン大統領がいわゆる「部分的動員令」を国内で発動した時、何十万人ものロシア人男性が国外へ脱出した。それは、戦争に反対だったからではなく、死にたくなかったからだ。彼らは「自由世界」の国々に逃れ、腰を下ろし、今もじっと息を潜めている。プーチン体制に抗議を試みることもなく。
なぜ、そうなのか? 答えは至って簡単だ。彼らは体制の犠牲者ではなく、共犯者だったからだ。ある程度までは、体制の作り手でさえあった。なぜなら彼らは、自らの国の権力者がこの20年間、ロシア憲法を破壊し、反体制の政治家や独立系ジャーナリストたちを消していくのをただ目撃してきただけだーボリス・ネムツォフ(政治家)やアンナ・ポリトコフスカヤ(ジャーナリスト)らの黒幕不明の暗殺事件をー。
それを、彼らは止めようともしなかった。ただプーチン大統領が唱えた「ロシアの偉大さ」や西側世界への敵意を、消費してきたにすぎない―その生活はといえば、家庭で水道水を使える人口が国民の半数以下というのに―。この戦争に大いに寄与してきたとも言える彼らを、プーチン体制からの政治難民と扱うことに、世界はくれぐれも慎重になるべきだろう。
最後にもう一度、私は繰り返したい。この戦争は単にウクライナとロシア、二国間のものではない。それは進歩と反動との、民主主義とテロとの、人権と野蛮な暴力との、善と悪との間の戦争―といっても過言ではないと思う。私たちが善の側にいるのなら、いつも最後に善は勝つものだ。
●ウクライナ侵攻8カ月…プーチン大統領側近「戦争」を連呼!その意図は… 10/24
避難するため、住民が大勢集まっています。ウクライナ南部のヘルソン州。9月、ロシアが一方的に併合を宣言した地域ですが、避難の背景には…
キリエンコ大統領府第1副長官「私たちは間違いなくこの戦争に勝つ!熱い戦争、経済戦争、心理的情報戦争!」
侵攻から24日で8か月。22日、ロシア・プーチン大統領の側近のひとりキリエンコ氏は、ウクライナ侵攻を「戦争」と連呼しました。当初の「特別軍事作戦」から言い換えた意図とは?
大商大・中津教授「ウクライナに潜むネオナチを倒す目的の『特別軍事作戦』。それができないからNATOとの攻撃に備える、つまり攻守逆転」
侵攻した地域でロシア軍が劣勢に立たされるなか、結束を促す狙いもあるとみています。日増しに高まる、核使用への懸念。中津教授は核を使う局面についてもふれました。
大商大・中津教授「ロシアがいよいよ攻撃されると理解した時に。ロシアが併合した4州を奪還している。今の局面でも核兵器を使う事情がある」
週末にもウクライナ国内で爆発が相次いでいて、今後戦闘が激しくなる恐れがあります。
●ICBMで核攻撃されたらアメリカも身を守れない 10/24
ロシアのウクライナ侵攻をめぐる緊張が世界中で高まり、核兵器が使われる可能性すら議論されるなかで、アメリカは核攻撃から身を守ることができるのかという疑問が浮上している。
残念ながら、その答えは一言でいえるほど単純ではない。アメリカには地上配備型ミサイル防衛(GMD)と呼ばれる対核兵器防衛システムがあり、北朝鮮の核ミサイルであれば打ち落とすことができるかもしれない。だがはるかに大規模で高度な核兵器を保有するロシアや中国がミサイルを大量に撃ち込んでくれば、簡単に打ちのめされてしまうだろう。
アメリカは膨大な量の核兵器を保有している。これは、核攻撃を受けないようにするための相互確証破壊(MAD)のドクトリンに基づく抑止策だ。アメリカに向かって核ミサイルを発射する国は、防衛が不可能なほど迅速に、圧倒的な量の核ミサイルで反撃されることを覚悟しなければならない。
ロシアも中国も、アメリカに対して核兵器を使用すると真剣に脅したことはない。しかし、ウクライナや台湾をめぐる緊張が高まるにつれ、将来的には状況は変わるかもしれない。
ICBMの迎撃はほぼ不可能
核戦争防止についての著作もあるワシントン大学のデビッド・バラシュ教授(心理学)は、核搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を、アメリカが撃ち落とすことができる可能性は「極めて低い」と本誌に語った。
「ウクライナでの『対ミサイル防衛システム』がほどほどに成功したからといって、惑わされてはいけない」と、バラシュは言う。「現在、攻撃が想定されているのはほとんどが時速500キロ程度の巡航ミサイルだが、大気圏に再突入する弾道ミサイルは時速1万5000キロに達する」。
「ミサイルの迎撃は桁外れに難しい。フルシチョフはそれを『弾丸に弾丸を当てる』ようなもの、と表現した。それ以来、対ミサイル技術は進化したが、攻撃技術も進化した。どの国にとっても、ICBMの迎撃に成功する見込みは極めて低い」と、彼は言う。
「アメリカでテストされたABM(対弾道ミサイル)システムの成功率は50%をかなり下回っていた。しかもそのテストでは、ABMのオペレーターがミサイルのルートと、ミサイルが迎撃システムの射程に「入ってくる」時と地点を事前に知っていた。この分野では攻撃側が圧倒的に有利だ」と、バラシュは言う。
「ICBM1基でも、複数の多目標核弾頭(MIRV)を搭載し、防衛力を圧倒することができる。この弾頭には機動性があり、防御用レーダーを混乱させるための「チャフ」(金属片のようなもの)を搭載できる。最も重要なことは、大破壊を引き起こすためには、ごく少数の兵器を使うだけでいいということだ。唯一の安全策は、核兵器が決して使われないようにすることだ」。
限定核攻撃も防げない
核攻撃に対するアメリカの主要な防衛手段は、地上配備型ミッドコース防衛システム(GMD)だ。だがミサイルの数は限られており、技術系ニュースサイト「ザ・バージ」によると、1999年以降に行われた18回のテストのうち、少なくとも8回は失敗している。
アメリカ物理学会が今年発表した研究では、GMDは「限定的な核攻撃であっても対抗手段として」頼ることはできないと結論づけている。
「ロシアの膨大なミサイル兵器を寄せ付けない防御体制という考えは、幻想にすぎない」と、この研究を共同で行ったマサチューセッツ工科大学(MIT)の核専門家ローラ・グレゴは言う。
2019年の国防総省のミサイル防衛レビューによると、アメリカは「大規模で高度なロシアと中国の大陸間弾道ミサイル能力への対処法として、核の抑止力に頼っている」という。
●核の脅しを繰り返すプーチン氏 「状況はより危険」米元高官が懸念 10/24
ウクライナの戦場で苦戦するロシアのプーチン大統領が、核兵器を使う脅しを繰り返している。米国のクリントン、オバマ両政権で核不拡散を担当したブランダイス大学のゲーリー・セイモア教授は、朝日新聞の取材に「ロシアが戦争に負けている今、状況はより危険になっている」と語った。
セイモア氏は2月にロシアが全面侵攻を始めた当初、ウクライナでの核戦争のリスクは「非常に低い」とみていた。「当時はほとんどの人がロシアは戦争に勝つだろうと思っていた。実際にはそのような結果にならず、ロシアは能力の低さを露呈した」という。一方で、欧米の武器提供を受けたウクライナは「軍事上、非常に実効性のある成果を示してきた」と述べ、核使用をめぐる状況が侵攻当時よりも深刻になっているという見方を示した。
バイデン米大統領は最近、ロシアが核兵器を使えば「アルマゲドン(世界最終戦争)」につながりかねないと発言している。この点については、「バイデン氏は当初から、ロシアのウクライナ侵攻がより大きな衝突に発展しうると懸念していた。自分の懸念を率直に口にしたのだろう」と推測した。
●ウクライナ 反転攻勢も 親ロシア派“併合地域”で住民部隊組織  10/24
ロシアがウクライナへ軍事侵攻を始めてから8か月が経過しました。ウクライナ軍が領土奪還に向け反転攻勢を強めているのに対して、南部ヘルソンでは親ロシア派が住民に部隊への参加を呼びかけていて、ロシア国内で予備役の動員への不満が広がる中、一方的に併合したとする地域で兵員不足を補おうとしているものとみられます。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから8か月となる24日も、ウクライナ各地でロシア軍による攻撃が相次ぎました。
南部ミコライウ州の知事は攻撃によって住宅や教育機関、それに送電施設などが被害を受けたとしています。
一方、ウクライナ軍は、先月から東部や南部で領土奪還に向けた反転攻勢を強めていて、ロシアが一方的な併合に踏み切った南部ヘルソン州では中心都市ヘルソンの奪還に向け反撃を続けています。
これに対して、現地の親ロシア派の勢力は住民の強制的な移住を進めるとともに、SNSで、ヘルソンに残ることを希望する住民に対して新たに組織された部隊への参加を呼びかけています。
ロシア国内では、先月始まった予備役の動員への不安や反発が広がっています。
軍事侵攻でウクライナ軍の反撃を受け、劣勢となるなか、ロシアはヘルソン州などで戒厳令を出し、強権的な行動を取ることができるようにしていて、併合したとする地域で不足する兵員を補おうとしているものと、みられます。
●ロシア国防相「汚い爆弾」使用の懸念表明 ウクライナ 強く反発  10/24
ロシアのショイグ国防相はNATO=北大西洋条約機構に加盟する国の国防トップと相次いで電話会談を行い、ウクライナ側が放射性物質をまき散らす爆弾、いわゆる「汚い爆弾」を使用する可能性について一方的に懸念を表明しました。これに対してウクライナ側はロシア側の情報のねつ造だと強く反発しています。
ウクライナ軍は先月から東部や南部で領土奪還に向けた反転攻勢を強め、ロシアが一方的な併合に踏み切った南部ヘルソン州ではウクライナ軍の反撃が続いています。
こうした中、ロシア国防省はショイグ国防相が23日、アメリカのオースティン国防長官をはじめ、NATOに加盟する一部の国の国防トップと相次いで電話会談を行ったことを明らかにしました。
このうち、フランス、トルコ、イギリスの国防相との会談の中でショイグ国防相はウクライナ側が放射性物質をまき散らす爆弾、いわゆる「汚い爆弾」を使用する可能性について一方的に懸念を表明しました。
これに対してウクライナ側はロシア側の情報のねつ造だと強く反発していて、ゼレンスキー大統領は23日に公開したビデオメッセージで「この戦争で想像できるすべての汚いことの元凶が何か、みんなわかっている。最初にザポリージャ原子力発電所で核の脅迫をしたのはロシアだ」と強く反論しました。
ロシアがウクライナに侵攻を開始してから8か月となる中、双方の対立は一層激しさを増しています。
●仏大統領、ローマ教皇と会談 ウクライナ和平など協議 10/24
イタリアを訪問中のフランスのマクロン大統領は24日、バチカンでローマ教皇フランシスコと会談した。ウクライナ危機と平和への展望を中心に協議したとみられている。
バチカン(ローマ教皇庁)によると、両者は55分間にわたり会談。ただ慣例通りに、会談の内容については明らかにしなかった。
マクロン大統領は教皇との会談後、教皇庁で外交を担当する2人の高官と会談。バチカンによると、ウクライナの人道状況のほか、コーカサス、中東、アフリカの地域情勢についても協議した。バチカン外交トップとの会談内容は、教皇との会談内容を反映していることが多いという。
マクロン大統領は23日、就任したばかりのメローニ首相とローマで非公式ながら初会談を行った。
●仏独、ウクライナめぐる調停の「意欲なし」 ロシア 10/24
ロシア大統領府(クレムリン)は24日、フランスとドイツがウクライナ侵攻をめぐる調停に参加する「意欲がない」と批判した。一方で、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領からの協議開催の申し出は称賛した。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は記者会見で、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とドイツのオラフ・ショルツ首相は最近「ロシア側の立場に少しでも耳を傾け、調停の努力に参加しようとする意欲を全く見せていない」と指摘。これとは対照的に、トルコ政府は「調停努力を続ける用意があると表明している」と述べた。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は先週末、米国、フランス、トルコ、英国の国防相と相次いで電話会談を行った。
ロシア側の説明によると、ショイグ氏は「ウクライナが放射性物質をまき散らす『汚い爆弾』を使って挑発する可能性に懸念」を表明したという。この主張を受け、米、英、仏は直ちに「ウクライナをめぐるロシアの見え透いた虚偽の非難を拒否する」共同声明を出した。
一方、エルドアン氏はロシアの軍事侵攻をめぐる同国と西側諸国との開かれた対話を維持することを目指し、主要な調停役となっている。
●ロシアのサイバー攻撃「不成功」の理由 10/24
ウクライナを過小評価か
ロシアはウクライナ侵攻に合わせて数多くのサイバー攻撃を、時に大規模に行った。しかし、専門家が事前に予想していたような甚大な被害はウクライナ側に生じていない。背景にはウクライナのサイバー防衛力の進歩、外国政府や民間企業との国際連携強化、さらにロシアのウクライナに対する過小評価があるようだ。
英国のサイバー防衛で主要な役割を担う情報機関の傘下組織「国家サイバーセキュリティーセンター」(NCSC)のトップ、リンディー・キャメロン長官は9月28日、英シンクタンク主催の講演で、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)などの国家機関が、軍事作戦に合わせ大規模かつ連続的なサイバー攻撃を行った事実を改めて強調した。頻度という点では「記録に残る限り、恐らくこれまでで最も持続的で集中的なサイバー作戦」(キャメロン氏)と言えるほど激しいものだったらしい。
情報セキュリティーの専門メディアが8月、ウクライナ国家特殊通信・情報保護局のビクトル・ゾラ副局長の話として伝えたところでは、ウクライナに対するサイバー攻撃は今年に入り、1600件を超えるという。
衝撃与えられず
キャメロン氏はその一方で「ロシアがどれほど手を尽くしても、意図した衝撃を(ウクライナ側に)与えることはできなかった」と述べ、ロシアのサイバー攻撃がこれまでのところ不成功に終わっているとの見方を示した。
サイバー安全保障に詳しいNTTチーフ・サイバーセキュリティー・ストラテジストの松原実穂子氏によると、戦時におけるサイバー攻撃の類型に「妨害型サイバー攻撃」がある。妨害型攻撃を「烈度」の低い順に並べると、ウェブサイトの改ざん、DDoS攻撃、そしてワイパーと呼ばれるデータ削除型のマルウェア(悪意のあるソフトウエア)を使った攻撃―となる。DDoS攻撃はサーバーに多大な負荷を掛けてサイトのダウンやサービスの一時停止を引き起こし、ワイパーはITシステムから業務継続に必要なデータを文字通り消去してしまう。
同氏によれば、ウクライナ侵攻に絡んだロシアのサイバー攻撃には次のようなものがあった。
▽1月13〜14日 ウクライナ外務省、国防省など70以上の政府機関のウェブサイトが改ざん。「恐れよ、そして最悪の事態に備えよ」の書き込み。
▽2月15日 ウクライナ国防省や軍参謀本部を含む70近くの政府機関のサイトがDDoS攻撃で一時ダウン。国立銀行や大手銀行にも攻撃。金融・行政サービスへのアクセスが一時不能。
▽2月24日(侵攻開始日) ウクライナ内閣、外務省、インフラ省、大手銀行のサイトなどにDDoSやワイパーによる一斉攻撃。
▽2月24日 ウクライナ軍が使用していた米通信大手ビアサットの衛星通信網に対するワイパー攻撃。軍は他の通信手段に切り替えたため、被害は一時的。
▽4月12日 変電所やエネルギー企業などウクライナ国内の重要インフラで妨害型コンピューターウイルスが見つかったと政府発表。
これらはロシアによるサイバー攻撃のごく一部だが、ウクライナ側の被害はビアサットに対する攻撃など一部に限られた。英NCSCのキャメロンCEOは被害が限定的だった理由として(1)ウクライナのサイバー防御能力の向上(2)産業界からの支援(3)米英や欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)などどの連携―の三つを挙げた。
8年かけて学んだウクライナ
ウクライナは約8年間にわたり、ロシアのサイバー攻撃にさらされてきた。2014年のロシアによる南部クリミア半島併合、その後の東部ドンバス地方での親ロシア派勢力との攻防でロシアのサイバー攻撃に直面。15年と16年の12月に電力インフラに対する攻撃を受け、広範な停電を経験した。さらに17年6月、ロシア発とみられるワイパー「ノットペトヤ」による攻撃でウクライナ政府機関や空港などのインフラにとどまらず、世界65カ国に被害が広がった。「ロシアによる絶え間ない(サイバー)攻撃で、ウクライナは対抗するすべを学んだ」(キャメロン氏)というわけだ。
ウクライナが講じた措置の一つにデータ・セキュリティーの強化がある。サイバー攻撃などを受けた際のリスク分散が目的だ。松原氏によると、ウクライナでは軍事侵攻以前、政府がクラウド上にデータを置くことが禁じられていた。侵攻開始の1週間前、ウクライナ議会はこれを許可する法律を制定。間もなく、アマゾン・ウェブサービス(AWS)提供のクラウドに膨大なデータ移転を開始した。
民間セクターの支援では、米マイクロソフト、スロバキアのサイバーセキュリティー企業ESETなどがウイルスの除去やシステムの復旧を行っている。イーロン・マスク氏率いる米宇宙企業スペースXは侵攻開始直後、衛星による高速通信サービス「スターリンク」のウクライナへの無償提供を開始。ウクライナ軍の作戦やゼレンスキー大統領の情報発信に欠かせない重要インフラとなっている。
ロシアの慢心
友好国による協力はどうか。英スカイニューズ・テレビは6月、米サイバー軍司令官のポール・ナカソネ将軍の話として、米国がウクライナを支援するため「(ロシアに対する)攻撃的なハッキング作戦」を行ったと伝えている。ナカソネ氏はインタビューの中で「われわれは攻撃的なもの、防御的なもの、そして情報戦も含め、全ての領域で一連の作戦を実施した」と説明。詳細には踏み込まなかったものの、米軍がロシアに対して積極的なサイバー作戦を行ったことを示唆した。
最後にロシア側の事情。可能性として幾つか考えられるが、松原氏は「ロシアはウクライナの抵抗について過小評価していたのではないか」と見る。結果、「妨害型のサイバー攻撃をやり過ぎると、占領開始後、ウクライナのITインフラがウイルスだらけになる。その対処に要する手間を考え、あえて規模を抑えた」(松原氏)と考えられる。さらに、火力による軍事作戦とサイバー攻撃のタイミングが必ずしも合っておらず、相乗効果を発揮できていないようだ。かりにそれが事実だとすると、浮かんでくる言葉は「慢心」以外にない。
ウクライナ侵攻をめぐって、ロシア軍の地上戦の計画のずさんさ、刻々と変化する戦況への対応のまずさが指摘されるが、背景としてよく言われるのが、クリミア半島併合の成功体験に引きずられたウクライナへの過小評価だ。サイバー戦についても同じ事が当てはまるかもしれない。
●「動員は失敗する」徴兵逃れで指詰め、飛び降り、乱闘…戦争の断末魔 10/24
今年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻。開戦当初は、ロシアが短期間に勝利すると見られていたが、ウクライナは首都キーウを防衛し、ロシアは東部など一部地域の占領にとどまった。そして、9月にはウクライナが反攻に転じ、東部地域の奪還に成功。一方、ロシアは戦死者が相次ぎ、国民への“動員令”が発令されるなど、苦境を隠し切れなくなってきた。ロシア・ウクライナで今、何が起きているのか。
ウクライナ侵攻の苦戦で追い詰められたロシアのプーチン大統領が9月21日に発表した動員令は、即日施行された。部分的にせよ動員令の発動は第二次世界大戦以来初となる。
当初は200万人の予備役から30万人を動員すると発表されたが、独立系紙は最高120万人の動員を目指していると報じた。徴兵候補者や兵士を支援するロシアの民間人権団体「市民」も、「発表から2日間で、通常の500倍の1万4000件の問い合わせや支援要請があった。パニックだ」とコメントしている。
全国38都市で反戦デモが起こり、2000人が拘束されたが、そのうち150人以上に招集令状が出されたという。あるデモ参加者は「警察署の別室に連れていかれ、軍事委員なる人物から召喚状を渡され、明日午前11時に入隊事務所に出頭するよう言われた。断ると刑務所行きだと脅された」とSNSに投稿した。
卒倒して救急車で運ばれたり、恐怖で2階の窓から飛び降りる者も出た。一部の徴兵事務所には火炎瓶が投げ込まれ、シベリアのオムスクでは警官隊と令状を受けた若者の乱闘が起った。
ロシア人がビザなしで訪問できる国への航空便が満席となりフィンランド、ジョージア、モンゴルなどの国境は、車で長蛇の列だ。動員令が出てから5日間で26万人が出国している。
しかし、脱出できるのは一部の金持ちだけだ。国外に出られない人は、ネット上で「腕を折る方法」を検索するなど徴兵逃れの方法を模索している。
独立系メディア「メドゥーザ」は、骨折は数カ月で治るため、「指を1本詰める」と話す若者も紹介する。指がないと兵器が操作できず、確実に徴兵免除になるという。また、医者に賄賂を払って偽の診断書を書いてもらうケースも続出している。
一方で、徴兵事務所が誤って令状を渡したケースも多い。HIV感染者や重度の障害者、63歳の元軍人まで出頭したが、兵役を免除された。
政府は戦時中の軍脱走は最長10年の禁錮刑、徴兵忌避は同3年の禁錮刑という法律を作り引き締めを図る。
露の軍事専門家のパベル・ルージン氏は「動員は失敗するだろう。30万人も新兵を集めることはできないし、戦意もない。装備でもウクライナ軍が上回る」と指摘する。ロシア軍の老朽兵器では、最新の武器を供給されるウクライナ軍の相手にならないとの見立てだ。
ロシアを混乱に陥れた部分的動員令は、「プーチンによる国民への宣戦布告」(独立系紙・ノバヤ・ガゼータ)となった。
●ロシアの元外交官「プーチン、自国民2000万人の犠牲も辞さない」 10/24
「プーチンはウクライナ戦争での勝利と自身の政治的生き残りに向け(自国の)軍人2000万人の犠牲を辞さないだろう」。
約20年のキャリアを持つロシアの元外交官ボリス・ボンダレフ氏(41)は23日、英スカイニュースとのインタビューでこのように主張した。スイス・ジュネーブのロシア代表部で勤めていた彼は5月に祖国のウクライナ侵攻を公開的に批判して辞任した人物だ。
彼は「これは(プーチン大統領にとって)信念の問題であり、政治的生き残りの問題のため、1000万人から2000万人のロシア人を犠牲にさせかねない」と診断した。プーチン大統領が戦争を長引かせており、大規模な追加徴集に出る恐れがあるという意味だ。これに先立ち先月プーチン大統領はウクライナの戦場に送る予備軍30万人の部分動員令を宣言しており、ロシア当局は最近徴集手続きを終えたと明らかにした。
核軍縮専門家でもあるボンダレフ氏はプーチン大統領の核威嚇に対し「軽く考えてはならない」と話した。彼は「ウクライナ戦争期間中に核兵器を配備しようとする計画はありえると考える。プーチン政権が執権する限り核戦争の脅威は続くだろう」と分析した。
その上でボンダレフ氏は、ウクライナ戦争に北大西洋条約機構(NATO)の介入を促した。彼は「プーチンはすでに第3次世界大戦を行っていると考えているのでNATOは(ウクライナ)戦争に参加することを考慮しなければならない。ウクライナにはより多くの攻撃用兵器と長距離ミサイル、軍用機が必要だ。NATOは支援を2倍に増やさなければならない」と主張した。
プーチン大統領はこれまでNATOの東欧拡張をウクライナ侵攻の理由のひとつに挙げてきた。このため一部ではNATOの公式な戦争介入が戦争拡大につながりかねないと懸念している。
ボンダレフ氏はプーチン大統領がもし戦争で負けるならば、それが「プーチンの終末になるだろう」ともした。「戦争で敗北した後、プーチンはエリートらと国民にその理由を説明しなければならないだろう。その後反対派がプーチンを退陣させようとしたりプーチンがこのすべての問題の責任を負うべき人々を探して粛清に出て内部的に混乱の時期が来る恐れがある」と予想する。
自身が外交官を辞職する前の裏話も伝えた。ジュネーブで働いていた彼は2月にロシアがウクライナを侵攻した際にすでに辞職を決めていたという。だがモスクワにある自身の猫をジュネーブに連れてくるのに3カ月かかり辞職が遅れたと伝えた。
彼は辞職当時、「プーチン大統領が起こした戦争はウクライナ国民に対する犯罪であるだけでなくロシア国民に対する最も深刻な犯罪」という声明を出した。プーチン大統領が反対派を残酷に弾圧する状況でロシア外交官による自国の公開批判は異例なことだった。
彼は中国がロシアとウクライナの間の緊張を緩和する役割をできるという一部の期待に対しては懐疑的な見方を出した。「中国はプーチンの敗北、ウクライナと西側の敗北に関心はない」と診断した。
●激怒のプーチン“過激化”でロシアに吹き始めた逆風 政府内にも「離脱組」 10/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から10月24日で8カ月。関係各国の努力も虚しく、未だ停戦の道筋すら見えない状況が続いています。プーチン大統領は相も変わらず核兵器使用を仄めかしていますが、世界はこの先、終末戦争を経験することになってしまうのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、これまでロシアに対して表立った批判をしてこなかった国々が見せ始めた変化や、ロシア政府内で吹き始めた「反プーチンの風」等を紹介。さらに現役の国際交渉人として調停の現場に立つ、自身の率直な心情を吐露しています。
プーチン露が“国際社会に復帰”する日は来るのか?
「ロシアが“国際社会に復帰する日”はやってくるのか?」
この問いは今週、いろいろな種類の会議や協議に参加した際、そのすべてがロシアと、ロシアに追従するベラルーシを排除している様子を見て抱いたものです。
気候変動交渉やSDGs、エネルギー関連の交渉などにおいて、これまで長年、非欧州諸国でグループを形成して国際交渉にあたることが多かったのですが、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化すると同時に泥沼化するにつれ、国際交渉のグループ会合からはじき出されるケースが増えてきています。
2月24日の侵攻後しばらくは、安全保障や人権系の交渉では真っ向からの対立構造があっても、気候変動や生物多様性、開発系の交渉では、ロシアとの対話の糸口としての期待もあり、ロシア(とベラルーシ)にも声掛けされていました。
しかし5月ぐらいからは、交渉グループの会合への参加の呼びかけ・声掛けも行われず、G20の会合同様、ロシアへの非難が会合本来の内容を混乱させ、ロシアからの発言の際には皆離席するという状況に陥り、あらゆる国際会議が国際社会の分断の舞台と化してしまいました。
国連総会、国連安全保障理事会、経済社会理事会、人権委員会、WTOの会合、WHOの会合、UNESCOの会合G20…。
例を挙げればキリがない状況です。
そしてコロナ対策、ミャンマー情勢、エチオピア情勢、エネルギー危機、留まることを知らないインフレーション、バングラデシュの大洪水などの気候変動による災害への対応、アフガニスタンにおける女性の権利と子供の栄養問題や教育の機会を取り戻す必要性、スリランカの経済破綻と地域への悪影響への対応、そして、核廃絶に向けた国際社会の取り組みの強化など、急ぎ対応しなくてはならない危機が山積しているにもかかわらず、すべての協議の場で大切な議論が出来ないまま時間だけが過ぎ去っていく状況です。
そのような中でもロシア政府が折れることはなく自らの主張と行動の正当化を継続し、それに欧米諸国とその仲間たちは非難とボイコットを続け、よく言えば中道ですが実際には日和見・実利主義の第3極の各国が存在するという状況が続いており、国際協調の機運は完全にしぼみ、機会はマヒしている状況と言えるでしょう。
ロシアを非難する国々も、ロシアを、ジレンマを抱えつつも支持している国々も、振り上げてしまった拳を下すきっかけを失ってしまい、この争いと衝突が解決する道筋がなかなか見えて来ない状況です。
そんな中、ロシアによる一方的なウクライナ東南部4州の併合、クリミア大橋の爆破事件とそれに対する報復攻撃、ロシアが行うインフラを破壊することを目的としたミサイル攻撃と無人ドローンを用いたキーウなどへの攻撃、相次ぐ原子力発電所での電源喪失という事態、そして東南部4州に対する“戒厳令”の発布…。
ロシア・プーチン大統領が打ち出してくる様々な“策”は、ロシアが追い詰められている様を露呈すると同時に、次第に過激化し、攻撃レベルが上がってきているように見えます。
核兵器使用の可能性が高まっているという分析が多方面から寄せられる中、ロシア政府の中でも「もうどうしていいのか分からない」、「プーチン大統領は一体どうしたいのか?」と“離脱”するグループがちらほら出てきているようです。
特に東南部4州に戒厳令を発布し、ロシアの国内法に戻づいて戦時下で国民の諸権利の制限を可能にする状況にまで至ったことはかなりのショックを与えているようです。
この戒厳令ですでに5−6万人がロシア領内に避難させられているということですが、この動きを「ついにプーチン大統領は核兵器を使うのか」と見る分析もある中、「部分動員は非常に評判が悪く、ロシア国民の国外逃亡を引き起こしたことで、その代わりに戒厳令を通じて強制動員をかけるに至るまでロシアは混乱している」という見方も出てきています。
核兵器の使用については分かりませんが、戒厳令の発令はプーチン大統領がロシア政府内の強硬派の主張を取り入れたことになり、それを受けて侵攻の総司令官を務め、チェチェンでもシリアでも徹底的な焦土作戦を実行し、Mr.最終戦争(アルマゲドン)という異名を持つスロビキン上級大将の下、対ウクライナ総攻撃が近く始まるという可能性が高まってきているように思われます。
スロビキン氏は、核のボタンは持っていないので彼の判断で核兵器を使用することは“理論上”できませんが、対ウクライナ戦争の実行においてかなりの権限を与えられたとみられます。
私はチェチェン紛争には直接に関わっていませんが、シリアの惨状は直に見ており、シリアにおいて「いざとなれば我らがChemistsに任せればいい」と発言し、反政府勢力を徹底的に叩き、シリア国内での激しい破壊を主導した状況を思い出すと、またウクライナで同じことをしやしないだろうかと妙に嫌な予感がしています。
そんな中、これまでロシアを庇ってきたか、非難を避けていた国々の態度が変わってきています。
中央アジア諸国については、最近、プーチン大統領に対して「我々への敬意を示してほしい。私たちはロシアの属国ではない。支援は不要。必要なのは対等の立場と相当の敬意だ」と注文を付けるようになってきていますし、自らの政治的な危機をプーチン大統領に救ってもらったはずのカザフスタンのトカエフ大統領も、どんどん先鋭化するプーチン大統領に対して距離を取り、ロシアの対ウクライナ戦争への“参加”は拒否し続けています。
これまで自国の経済的な利益とエネルギー安全保障を優先するためにロシアへの非難を避けてきたインドも、まだ非難グループには加わらないものの、じわりじわりとロシアから離れ始めています。
インド政府内の高官曰く「ロシア産の石油・天然ガスの“中継地”としての利点は無視できないし、アメリカなどからとやかく言われる筋合いはないが、プーチン大統領とロシアの行動の過激化には、正直、もうついていけない。インドの利益と国際社会での位置づけを考えると、そろそろ限界ではないか」という意見が強くなってきているということです。
ではロシアと対峙する欧米諸国はどのように対応しようとしているのでしょうか?
注目すべきは、ロシアによる核兵器使用の可能性が高まっているという名目で、NATOは恒例の核兵器運用のsimulationを実施してNATOによる核抑止をアピールしていることですが、これはこれまで「ロシアをあまり刺激して追い詰めないほうがいい」としてきた認識を変え、曖昧にしてきた“相当の破壊的な結末”が何を意味するのかをロシアに示したものと考えられます。 その内容を見て驚くと同時に「本当にここまでの覚悟がNATO加盟国に出来ているのだろうか?」と感じています(そして「NATOに今後、定期的に参加する」と表明した日本は、このようなNATOの方向性を支持できるのかと不安にもなりました)。
NATO加盟国間にも当たり前のように温度差がありますが、10月20日に表明された英国トラス首相の辞意は、これまで対ロ強硬派の急先鋒と思われてきた英国の方針を変え、今後NATOの結束にも影響を与えるのではないかと懸念されていますし、実際に微妙だった欧州各国の対応のバランスを崩すことになるだろうと見られています。
そのような中、別の観点からNATOを通じた対ロ戦略のバランスに苦慮しているのがアメリカ政府です。
11月に議会中間選挙を控え、民主党の苦戦が予想される中、実際にはロシア・ウクライナ情勢どころではない中、それでも強硬姿勢を取らざるを得ないのは、アメリカ特有の理由があるようです。
第2次世界大戦後、旧ソビエト圏と対峙する自由主義陣営の守り手として核の傘を同盟国に提供し、共産主義の“魔の手”から自由主義諸国を守る役割を担ってきましたが、それも旧ソ連崩壊後、NATOのraison d’etreを探る中、旧ユーゴスラビアの崩壊、地域戦争の激化、イラク・アフガニスタンへの軍事介入と、唯一の超大国として役割を果たそうとしてきましたが、リーマンショックを機に世界への安全保障上のコミットメントのレベルを下げてきました。
中国が台頭し、世界各地で様々な衝突が多発する中、直接介入を回避するアメリカ政府の方針転換は、同盟国に対しての有事のコミットメントの有無とレベルに対する不安を与えるようになりました。
今回のロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州各国が「戦火が欧州を襲うかもしれない」という懸念を抱く中、アメリカ主導の安全保障体制が機能するか否かが試されており、アメリカの覚悟が試されていると言えます。
プーチン大統領とロシアが核使用を仄めかす中、実際に使えば世界は地獄絵図に変わる可能性がありますが、使わなければ「核兵器は実際には使えない兵器だ」という認識が広まり、ロシアによる核抑止と脅しは幻になるかもしれないのと同じく、ロシアがウクライナを飛び越して、欧州各国(そして日本)に及ぼす脅威にアメリカが迅速に毅然とした態度で対応できなければ、アメリカの権威は一気に落ちることとなり、同盟国からの信用が失墜すると同時に、同盟国による自己防衛能力の強化に繋がるという懸念すべき混乱状態に陥ることになります。
「ロシアと直接的に対決したくないが、せざるを得ない状況が近づいている。実際にどうすべきか」
非常に悩ましい決断を今、バイデン政権は迫られている事態と言えますが、その決断にはあまりもう時間がないかもしれません。
現在、国際社会は完全に分断し、なかなか協調体制の修復の機会・きっかけが見えてきませんし、各国が協調よりも自国の利益と生存の確保に走る“自国ファースト”の様相を強めていく中、多方面で同時に緊張が高まり、核兵器使用を含めた対決の可能性が語られることが多くなってきました。
これまでもそうであったように、もしかしたら私たち人類は、まさに「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、戦争の惨禍がいかに残酷で悲しい結末を招くのかを学ばず、「永遠の平和を希求するために永遠に戦争する」というサイクルから逃れられないのではないかとさえ思います。
もし77年の時を超えて再度核兵器が使われるようなことがあれば、世界は破滅的な結果を招くことになります。
そのためには一刻も早くロシアによるウクライナ侵攻をストップし、多重的にできた信頼の綻びを繕い、ロシアを含めた国際社会を取り戻さなくてはなりませんが、残念ながらなかなかその糸口が見つかりません。
これまでのキャリアにおいて経験したことがないスケールで、調停プロセスとシナリオが練られていますが、いつ実施に移すことが出来、複雑に絡み合った糸をほぐす手伝いができるかは分かりません。
もうすぐロシアによるウクライナ侵攻から8か月の時が経とうとしていますが、私たちは今、どこに向かおうとしているのでしょうか?
いろいろな情報や分析内容に触れる中、不安ばかりが募ります。以上、国際情勢の裏側でした。

 

●ウクライナ大統領、ロシアとの戦争へのイスラエルの参加呼びかけ 10/25
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、ロシアとの戦争へのイスラエルの参加を呼びかけ、イスラエルの防空システムに対する要求を改めて示した。
イスラエル紙「ハアレツ」のカンファレンスに向けたオンライン講演で、イスラエルは一体となる国を選択する時だと強調。イスラエルはこれまで人道的支援と防衛システムの提供に限定してきたが、ゼレンスキー大統領は、それでは不十分とし、イスラエル指導部に対し防空兵器の供給を再考するよう求めた。
●米英仏「露の戦争拡大の試み、世界が見抜く」…露国防相の発言を非難  10/25
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は23日、米英仏トルコの国防相と個別に電話会談した。ショイグ氏は放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」をウクライナが「挑発に使う可能性がある」と一方的に主張した。会談後、米英仏3か国の外相は共同声明で「見え透いたウソの主張を拒絶する」とショイグ氏を非難した。
ロシアのショイグ国防相=APロシアのショイグ国防相=AP
米英仏外相は「世界は(ロシアが)この主張を戦争拡大の口実として利用するいかなる試みも見抜くだろう」と指摘した。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は米国のブリンケン国務長官と電話会談した際、ロシアが攻撃を「自作自演」する準備の一環との見方を示した。
会談はいずれもロシア側が要請しており、ショイグ氏にとっては異例の外交攻勢となる。米政策研究機関「戦争研究所」は23日、ロシアが一方的に併合した南部ヘルソン州などで苦戦が続く中、「米欧によるウクライナへの軍事支援を減速させようとする狙いがある」との見方を示した。
ロシアは侵略開始前から、ウクライナが米欧の支援で「生物・化学兵器の開発を進めている」との一方的な主張を展開してきたが、最近は国際的なアピールを抑えていた。24日で侵略開始から8か月となり、ロシアがウクライナや米欧への揺さぶりを再び強化している可能性がある。
一方、ウクライナのエネルギー相は23日、露軍によるエネルギー施設に対する集中攻撃で国内の風力発電施設の約90%、太陽光発電施設の約50%が破壊されたことを明らかにした。ウクライナのインフラ省は23日、黒海経由の同国産穀物の輸出量がロシアの妨害で「輸出能力の25〜30%に低下している」と指摘した。
●露軍のエネルギー施設攻撃、「冬を前に民心動揺させる狙いか」  10/25
松田邦紀・駐ウクライナ大使と防衛省防衛研究所の兵頭慎治・政策研究部長が24日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、ロシアのウクライナ侵略について議論した。松田氏はキーウ滞在中で、オンライン出演した。
松田氏は侵略について「国連の常任理事国が一方的に、理由なく侵略戦争を国連加盟国に対して起こした。このまま許されれば、同じことが世界のどこででも起こりうる」と指摘した。兵頭氏は、露軍がウクライナのエネルギー施設へ攻撃を続けていることについて「寒い冬が来る前に民心を動揺させて厭戦(えんせん)機運を高め、ウクライナ側の気勢をそぐ狙いがあるのでは」と分析した。
●プーチン氏の脅しは自暴自棄を示唆−NATOが懸念 10/25
ウクライナ軍の反転攻勢で追い詰められたロシアが自暴自棄となり戦争をエスカレートさせる可能性について、ウクライナの同盟諸国は懸念を強めている。ダムなどへの大規模攻撃や大量破壊兵器の使用もあり得るとの見方も出ている。ロシアのプーチン大統領がウクライナ軍事侵攻を開始してから9カ月目に入った。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国の複数の当局者が機密情報だとして匿名で明らかにしたところでは、ロシアが実際にこうした攻撃を行う準備をしている兆候は今のところ見られない。
米欧の国防相はロシアのショイグ国防相との23日の個別の電話会談で、ウクライナが放射性物質を拡散させる「ダーティーボム=汚い爆弾」の使用を計画しているとのロシア側の主張を否定した。
ロシアがウクライナの電力網への攻撃に加えて、こうした「考えられないような」武器使用の話をすることで米欧を脅し、武器供与などのウクライナ支援を減らすよう圧力をかけているというのが、ウクライナ同盟諸国の見方だ。今のところ、こうした脅しの取り組みは成功していない。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ウクライナで未申告の核活動・物資はない−IAEA
国際原子力機関(IAEA)は24日、ウクライナの核施設2カ所で「疑われる活動」に関するロシアの声明を認識しているとコメントした。これら施設はIAEAの査察官が定期的に訪問しているとも発表文で指摘した。
IAEAは、具体的にロシアのどの声明を指しているのか明らかにしなかったが、ロシアのショイグ国防相は23日、英国とフランス、トルコの国防相とそれぞれ電話会談を行い、ウクライナでの戦争が「制御不能なエスカレーション」に向かっていると警告。ウクライナが放射性物質を拡散させる「ダーティーボム=汚い爆弾」の使用を計画しているとの懸念を伝えた。これに対し、米英仏3カ国の外相は共同声明で、ロシアの主張は偽りだと非難した。
IAEAのグロッシ事務局長は、指摘された施設の一つをIAEAが1カ月前に査察した結果、「未申告の核活動や物資はなかった」と説明。査察結果は全て、ウクライナの保障措置声明と合致したと述べた。
米下院議長、ウクライナでの戦争へのイラン関与は過ち
ペロシ米下院議長は、イランがウクライナでの戦争への関与を深めていることで大きな過ちを犯していると指摘した。
ペロシ氏は「世界をより安全にするため、われわれはしばらくの間、イランとの核合意を目指してきたが、イランはロシアを支援し世界の安全を損なっている」と訪問中のクロアチア首都ザグレブで同国のプレンコビッチ首相と共同会見で発言した。
ドイツが防空システムを追加供与へ−ウクライナ首相
ウクライナのシュミハリ首相はドイツから「IRIS−T」防空システム3基が近く追加供与されると明らかにした。ドイツのショルツ首相との会談後、「IRIS−Tはウクライナの防空に極めて有効だ」とツイートした。ドイツはこれまでのところ、この情報を確認していない。
ドイツ首相、ウクライナのEU加盟望む
ドイツのショルツ首相は「ウクライナは欧州のファミリーの一員だ」とし、「ウクライナが欧州連合(EU)に加盟することをわれわれは望んでいる」と述べた。ベルリンのドイツ・ウクライナ・ビジネスフォーラムで語った。
●ロシア、「ヘルソン撤退」の屈辱目前… 「ダム爆破で都市消しかねない」 10/25
ウクライナ戦争が9カ月目に入った時点で、ロシアが南部の要衝地ヘルソンから撤退するとの見方が高まっている。
AP通信は23日(現地時間)、ロシアがヘルソン撤退を決定すれば、プーチン大統領は再び屈辱を味わうことになるとし、軍事的敗退を越えて国際関係において中国・インドの姿勢の変化に繋がる可能性があるという専門家の話を報じた。また、撤退に先立ち、ロシア軍がヘルソン北部にあるダムを爆破するなど破壊的行為をする可能性もあると警告した。
22日、米シンクタンク戦争研究所(ISW)は、ロシア軍がヘルソン州西部から一部の将校をドニプロ川の南(東岸)に退避させたと伝えた。民間人の避難者は数万人にのぼる。ロシア官営インテルファクス通信は現地関係者の話として18日から同日までヘルソンから離れた住民が約2万5000人に上ると報じた。これに先立ち、ヘルソン州の親ロシア政府首脳は、同地域lから6万人の住民を避難させると述べた。戦前の都市の人口は約28万人だった。
黒海沿岸の港町ヘルソンは、ウクライナ南部海岸を結ぶ拠点でクリミア半島に通じる関門だ。ロシアは2月の戦争勃発後1週間でここを占領し、今までロシアが奪った唯一の主要都市として残っている。そのような意味でヘルソンは、プーチン大統領の立場では戦争の最大の成果の1つに挙げられる。
AP通信は、ウクライナがヘルソンを奪還すれば、プーチン大統領は内外で打撃を受けるだろうと報じた。ロシアはヘルソンを占領することで、黒海でのウクライナの軍事的動きはもちろん、経済封鎖の効果まで享受した。また、ロシアはヘルソンから西に進出し、ミコライウとオデッサまで攻勢をしかける計画だったが、退却すればすべて水の泡となる。
ウクライナの軍事アナリスト、オレ・ズダノフ氏はAP通信に対し、「ヘルソンからの撤退は、南部でロシア軍の希望をくじくだろう」とし、「ヘルソンは、ウクライナが南部を合わせて戦略的要衝地として占領するならば、ロシア軍の補給路をターゲットにするだろう」と語った。ウクライナは市街戦よりはロシア軍を包囲して補給路を遮断する形で奪われた都市を奪還してきた。
ウクライナのシンクタンク・ペンタセンターのボロディミール・ペシェンコ氏は、ヘルソン撤退はプーチン大統領にとって大きな苦痛になるだろうと述べた。特にウクライナ戦争を注意深く見守る中国・インドはこれを「クレムリン宮が力を失った」というサインと見なすと述べた。ペシェンコ氏は「クレムリン宮は軍指揮部と国内強硬派からの激しい非難に直面するだろう」とし「軍の士気をさらに下げ、動員令反対世論を煽ることになる」と述べた。続けて「国内はもちろん中国からも評判を失うことになる」とし「これはクレムリン宮にとって大きな危険要素」とした。
ウクライナ軍の立場では、ヘルソン奪還は占領された南部の他の都市と近隣のザポリージャ州復興のための土台になるものとみられる。ズダノフ氏は「ウクライナはヘルソンが水中に落ちるまで待てば良い」とし「ロシア軍の普及状況が日増しに悪化しているため」と述べた。このため、ウクライナは米国の高速機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)支援が今の2倍に増えることを望んでいると付け加えた。
ドニプロ川の河口に位置するヘルソンは、この川の水位を管制する所だ。ズダノフ氏は、このことからウクライナのヘルソン奪還はクリミア半島に入る水の統制権を取り戻すということを示唆すると述べた。ズダノフ氏は「ロシアはクリミア半島の淡水に再び問題が生じるだろう」と述べた。ウクライナは2014年にロシアがクリミア半島を併合したことを受け、土ダムを建設して北クリミア運河を遮断したが、ロシアはヘルソン占領後にこれを崩して水路を開いた。
一方、プーチン大統領がヘルソンを失う状況に直面すれば、危険な決定を下しかねないと述べた。また、「ロシアはヘルソンをウクライナに引き渡すよりは消してしまおうとするだろう」とし、上流のダムを爆破して平地であるヘルソンに洪水を起こす方法がその1つの可能性として考えられると述べた。
ロシアのヘルソン撤退の動きが偽装という可能性もあるという警告も出ている。ウクライナのキリロ・ブダノフ情報総局長は24日、現地メディアとのインタビューで「ロシア占領軍が撤退するように見えるが、実際には新たに兵力を補充して占領地の拠点で防御を準備している」と述べた。
ロイター通信などはこの日、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防長官が23日、米国をはじめとする英国・フランス・トルコ(テュルキエ)の国防長官と相次いで電話会談を行い、「ウクライナが『ダーティ・ボム(従来式爆弾に放射性物質を結合した兵器)』を使う可能性がある」と伝えた。しかし西側はロシアの主張が「偽旗(false flag)」作戦の可能性があると述べた。ISWはショイグ長官の相次ぐ電話会談が西側の分裂を狙った圧迫の可能性があるとし、「クレムリン宮は継続して米国・英国はウクライナの戦争を煽る企みだという主張している反面、フランス・トルコは対立の仲裁者に仕立て上げようとしている」と分析した。 
●イラン情勢の影響懸念 核協議、年内妥結も EU高官 10/25
欧州連合(EU)高官は25日、EUが調整役を担うイラン核合意の再建交渉について「イランを取り巻く状況が悪化していることは明白だ」と述べ、イラン情勢が与える悪影響に懸念を示した。
一方、協議が大詰めを迎えているとして、年内の妥結にも期待をにじませた。東京都内で一部メディアの取材に応じた。
イランでは、女性の頭髪を覆うスカーフの着用強制に伴う死亡事件を発端に大規模な抗議デモが発生。ウクライナに侵攻したロシアに対し、イランがドローンを供与した疑惑も浮上した。
EU高官は、こうした状況から「イランが国際的な孤立を深めている」と指摘し、交渉への悪影響に懸念を表明した。ただ既に交渉は最終段階で、「年内の妥結は依然実現可能だ」とも述べた。
●独大統領がウクライナを電撃訪問、「ドイツを頼りに」 10/25
ドイツのシュタインマイヤー大統領は25日、予告なしにウクライナを訪問した。
シュタインマイヤー氏がウクライナを訪れるのは、ロシアが同国への軍事侵攻を開始してから初めて。
同氏の報道官がツイッターで明らかにした。本人によれば、ウクライナ国民に「ドイツを頼りにしていい。引き続き軍事、政治、財政、人道のあらゆる面で支援する」とのメッセージを伝えるという。
またドイツ国民には、この戦争がウクライナ人にとって何を意味するかという視点を忘れてはならないと呼び掛けている。
同氏は今年4月にウクライナ訪問を計画していたが、ロシアとのつながりを理由に拒否された。先週改めて訪問する予定だったが、安全上の理由で再び中止していた。
●旧ソ連圏受刑者「徴兵」 トルクメン500人、ベラルーシも ロシア 10/25
ロシアの独立系メディアは24日、プーチン政権に近い実業家エブゲニー・プリゴジン氏が創設した民間軍事会社「ワグネル」が、旧ソ連構成国トルクメニスタンの刑務所で「志願兵」少なくとも500人を募集し、ロシア軍が侵攻を続けるウクライナへと派遣したと伝えた。
在フランスのトルクメン反体制派の話を基にしている。
プーチン政権とワグネルはこれまで、ロシア国内で恩赦や一時金と引き換えに受刑者を「徴兵」していたとされているが、旧ソ連構成国とはいえ、外国に募集範囲を広げた形となっている。
別の独立系メディアも21日、人権活動家の話として、ロシアなどで集められた受刑者2万人以上がウクライナで戦っていると報道。人数は1週間前の約1万5000人から急増しており、ベラルーシやタジキスタンなど旧ソ連構成国の刑務所での募集も影響していると伝えていた。
プーチン大統領は今月14日、部分動員令に伴う予備役30万人の招集がほぼ完了しつつあると宣言した。ただ、動員後に本来対象外だったと判明した人々を部隊から戻すという不手際も重なり、兵員不足の穴埋めはまだ続いているとみられる。予備役のロシア人男性が大挙し、国外に退避する騒動も起きたばかりだ。
囚人以外にも、プーチン政権はロシア国籍付与を提示して中央アジア出身者を募集。外国での戦闘行為に参加することを国内法で認めない旧ソ連構成国との外交問題に発展していた。15日にウクライナとの国境に位置するベルゴロド州の軍演習場で乱射事件があり、タジク人が容疑者と報じられた。
●CIA元長官も「バイデンは現状を理解していない」と警告…! 10/25
プーチンが取る「極端な解決法」とは
「プーチン大統領が、核兵器の使用を示唆していますが、これは決してブラフではありません。プーチンの目的は、西側諸国にウクライナへの支援をやめさせ、ウクライナを屈服させることです。
自分から始めたウクライナ侵攻が失敗すると判断したとき、プーチンは『極端な解決法』を取るでしょう。それは核兵器の使用を意味します。ロシアが核攻撃に出ても、NATO(北大西洋条約機構)は、核兵器で報復しません。第三次世界大戦に突入することをおそれているからです」
こう警告するのは、ビル・クリントン政権で2年間、米中央情報局(CIA)長官を務めたジェームズ・ウールジー氏である。米国の諜報機関元トップが、本誌の取材に口を開いた。
「プーチンが核兵器を使用する可能性が高いにもかかわらず、バイデン大統領は、プーチンが核兵器を使用するかと問われて、『彼がそうするとは思わない』と答えました。この発言が真意だとしたら、バイデンは現状をまったく把握していないとしか言いようがありません。私だったら、こう答えます。『イエス、彼はそうするでしょう』と」
追い詰められたプーチンが核兵器を使用する日が近づいている。ロシアが核攻撃を仕掛ければ、アルマゲドン(世界最終戦争)に突入するため、プーチンは核を使わないというのがバイデンの理屈だが、それは単なる希望的観測にすぎない。
「カオス」を引き起こせ
ソビエト連邦で生まれ育った後、米国に渡り、米国防情報局(DIA)やCIAの諜報部員として勤務したレベッカ・コフラー氏は昨年、『Putin's Playbook』(『プーチンの戦略』=未邦訳)を著し、プーチンの核戦略を分析した。そのコフラー氏が話す。
「プーチンは自分をエカチェリーナ2世(ロシア帝国の領土をポーランドやウクライナまで拡大し、『大帝』と称される)になぞらえています。つまり、ウクライナを始めとした旧ソ連の領土を再び統合することが自分の使命だと思っているのです。
しかし、現在、ロシア軍はウクライナで劣勢に立たされつつあります。今、プーチンが考えていることはカオス(混沌)を引き起こして、局面を打開することです。
ロシアはウクライナの首都キーウを再び攻撃し始めました。西側諸国からするとロシアの戦略に一貫性がないように見えますが、それこそがプーチンの狙いです。カオスを引き起こすことでNATOにプレッシャーを与え、西側諸国が『もう沢山だ! 』と言って、ウクライナ支援をやめてしまうことが目的なのです」
そんなプーチンの意図をバイデンは十分に理解していないと、コフラー氏も指摘する。ソ連時代の領土を再統合することを歴史的責務だと考えるプーチンにとって、この「戦争」は負けるわけにはいかないものだ。
「バイデンの認知機能が低下しているのは、誰の目にも明らかです。一方、プーチンはまったく冷静です。通常の戦闘でウクライナに負けると考えたら、プーチンが次に打てる手は核兵器しか残っていない」(コフラー氏)
ロシアは世界最大の核兵器保有国であり、保有する核弾頭の数は5977個にも上る。この数は米国の保有数を上回る。
止める方法はほとんどない
そのうえ、今も新しい核兵器の開発に余念がない。中でも迎撃不能かつ破滅的な被害をもたらすとされるのが、核弾頭を搭載した原子力自律魚雷「ポセイドン」である。
海底で核爆発を起こし、膨大な量の海水を持ち上げ、人為的に巨大津波を発生させる。ロシアによるクリミア併合宣言後の'15年に公開され、'18年にプーチンが開発を公に認めた「超兵器」だ。
ロシアの国営メディアによれば、最大で500mもの津波を引き起こし、大量の放射能とともに標的に押し寄せるという。ロシアが誇る世界最大の原子力潜水艦『ベルゴロド』に搭載される予定だ。
「ポセイドンには2つの特徴があります。まずは原子力推進で水深1000mを時速111kmで1万kmも自動航行できるとされていること。また、現状で搭載できる核弾頭は2メガトンと言われ、これは広島型原爆の134倍の威力です。ソナーとデジタルマップを活用し、誘導装置で進むので、水深約500mまでの対潜ミサイルや魚雷で迎撃するのは難しい。
いざ発射されたら止める方法はほぼなく、その前にポセイドンを搭載する『ベルゴロド』ごと沈めるほかありません。今は北極海の北方艦隊に所属するベルゴロドの動きを米英が注視していますが、もし見失えば対処不能になります」(軍事ジャーナリストの世良光弘氏)
プーチンがポセイドンで狙うのは、どこか。まず考えられるのが、米国沿岸の大都市だ。世良氏が続ける。
「ポセイドンに狙われるとすれば、ニューヨークやワシントンなど中枢都市が集まる大西洋沿いの米東海岸が第1の候補に挙がるでしょう。ベルゴロドが北極海から太平洋に抜け、そこからポセイドンを発射すれば、ロサンゼルスやサンフランシスコといった西海岸の大都市も射程に入ります。西海岸には活断層があるので、津波のみならず、大規模地震が誘発されるかもしれません」・・・
●ウクライナ都市「消し去れ」 核警告の中でチェチェン独裁者 ロシア 10/25
ロシアのプーチン大統領に忠誠を誓う南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長は25日、ウクライナの都市を大地から消し去るべきだと主張した。
ウクライナ軍の攻勢を受け、プーチン政権が核兵器の使用も辞さないと警告する中、通信アプリで音声メッセージを公開した。
カディロフ氏は、ロシアが「併合」したウクライナ東・南部4州に20日から戒厳令が布告されているにもかかわらず、ロシア軍の攻撃が「生ぬるい」と不満を表明。占領地を含む「ロシア領」に敵の砲弾が飛んできた場合、「大地から(ウクライナの)都市を一掃し、地平線しか見えないようにすべきだ」と訴えた。

 

●プーチン大統領 軍備調達の会議で迅速な業務遂行求める  10/26
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、軍などに必要な物資を調達するための政府の会議で、迅速な意思決定や業務の遂行を指示しました。さらなる長期戦を見据えて国民の理解を得ようという思惑もうかがえます。
プーチン大統領は25日、軍事侵攻をめぐって、みずから設置を命じた政府の調整会議をオンライン形式で開き、会議の議長に任命されたミシュスチン首相や地方の自治体との調整役を担う首都モスクワのソビャーニン市長などが参加しました。
調整会議は、軍などの部隊に必要な物資を調達するために設置された新たな組織で、プーチン大統領は「あらゆる面で迅速な業務の遂行が求められる。質的に新たな結果を得るためには、従来のやり方では不十分だ」などと述べ、迅速な意思決定や業務の遂行を指示しました。
また、欧米からの経済制裁を受ける中、軍の装備品や医療面などの支援を充実させるため、中央政府と地方が連携することが重要だと強調し、速やかに各分野の具体的な目標を設定するよう命じました。
ウクライナへの軍事侵攻の開始から8か月が過ぎる中、ロシア軍は、ウクライナ軍の反転攻勢もあって多くの装備品を失い、制裁の影響も受けて、兵器不足に直面していると欧米側は指摘しています。
また、ロシア国内では予備役の動員に対して社会に動揺も広がっていて、プーチン大統領としては、軍事侵攻で必要な物資の調達に力を入れる姿勢を強調することで、さらなる長期戦を見据えて国民の理解を得ようという思惑もうかがえます。
●ロシア、軍物資の調整会議発足 プーチン氏が意思決定迅速化 10/26
ロシアのプーチン大統領は25日、ウクライナ侵攻に必要な物資などの調達を円滑に進める調整会議の初会合を開き、ウクライナにおける軍事行動に関する意思決定を迅速化する必要があるという認識を示した。
プーチン大統領は先週、政府当局者や地方当局者などで構成し、ミシュスチン首相を議長とする調整会議を新たに設置。初会合で、軍備増産と医療・後方支援の拡充に、政府組織と地域の連携強化が必要と述べた。ただ、詳細については明らかにしなかった。
ミシュスチン首相は「防具の増産に向けた取り組みを強化する必要がある」とし、ロシア軍の兵士の装備が不足しないよう、中小企業を含めたあらゆる業者の製造能力を用いて軍事用装備を製造しなければならないとの考えを示した。
プーチン大統領が予備役の部分動員を開始する前から、動員される兵士が自費で防具を購入せざるを得ない事態などに対し、ソーシャルメディアに不満を示す投稿が相次いでいた。
●ウクライナ戦争でロシアが軍司令を次々更迭の事実 10/26
ウクライナ戦争ではロシアの司令官が次々に更迭されている。戦争中の状況としては極めて異例である。これにつき、ワシントン・ポスト紙ロシア担当記者のイリュシナらは、クレムリンは戦争がうまく行っていないことの責任を負わせ、軍司令官を更迭しているとの解説記事を10月7日付で同紙に書いている。記事は、次のように分析する。
・制服組の上層部での混乱はロシアの戦争計画における基本的な間違いと指揮命令系統の混乱を際立たせる。迅速なキーウ掌握とウクライナ政府の転覆という主要な軍事目標の達成に失敗し、最近は東部および南部前線で退却した。
・しかし解任は、戦争がうまく行っていないとの公の場での批判、特にタカ派などからのものが声高になる中で、政治エリートが責任を他に押し付ける動きでもある。ロシア軍の指揮官たちが批判の的になっている。ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀長、プーチン自身は直接的な批判を逃れている。しかし最近のショイグ批判は彼の地位も危ないかもしれないことを示した。
・最近の解任の発表は責任追究の要求を満足させる必要を反映しているかもしれない。こういう要求や戦争一般の批判はプーチンの部分的動員宣言以来増えている。この部分動員令は20万人以上の戦闘可能世代の人の国外脱出につながり、間違って招集された人および徴集兵への悪い待遇(最低限の食事と古い兵器を含む)への怒りの声を上げさせている。
・今やロシア側で全体として戦争を統括しているのは誰かはっきりしない。

ロシアは2月に、総司令官を任命することなくウクライナ戦争を始めたが、全体を統括する司令官が必要ということで4月にドヴォルニク陸軍大将(シリアへの軍事介入における残虐行為で有名)を任命したが、7週間で更迭された。その後、5月にZhidkoが後任になったが、1カ月で交代させられた。ようやく10月4日にスロビキン上級大将(前職:航空宇宙軍総司令官)が就任したと発表されたが、総司令官の人事にしてこの有様であり、混乱がある。
その下の階級の司令官たちは、退却やその他の問題で更迭されている。ロシアのメディアによれば、10月7日、東部軍管区司令官チャイコ大将が更迭され、ムラドフ中将が後任になった。
9月下旬には、ロシア国防省は、軍の兵站に責任を持つブルガーコフを解任し、代わりにミジンツェフ大将が任命されたと発表している。また、10月7日、ロシアの黒海艦隊はその司令官がオシポフ提督からソコロフ海軍中将に変わったことを認めた。
兵器も兵士も不足しつつある中での転換か
プーチンは「特別軍事作戦」は予定通り進行しており、その目的は達成されると強弁していたが、キーウ正面での敗退、ハルキウでの敗退を受けて最近はそう言わなくなっている。
住民投票強行、4州のロシア併合をして、あたかもロシアが戦果を挙げているかのようであるが、戦場ではウクライナ側が主導権をもっており、ロシアの占領地域は縮小してきているのが実態である。その状況は今しばらく変わらないと見てよいのではないか。
ロシア軍の問題は、司令官の資質の問題というより、兵器の損耗が激しくそれを十分に補充し得ないこと、兵士の数も不足していることにある。兵器輸入はうまくいっておらず、兵士については、部分動員を強行しているが、若者の国外脱出などにつながっている。
多くのロシア人はこの戦争の大義に納得していないと思われ、士気が低い。部分動員をして兵員を増やせば戦況が転換するという状況にはないように思われる。
ロシア国内では、反戦主義者ではなく、もともと戦争を支持した人々が、戦争のやり方とその情報提供に嘘を言うなと公然と不満を唱え始めている。この世論が司令官の更迭によって鎮静化するか、戦争支持派の分裂になるか、注目される。
●プーチンも困っている、コントロールの効かない国内強硬派─分岐点は動員令 10/26
ロシアの対ウクライナ戦争は新たな局面を迎えたようだ。戦場ではロシアの苦戦が続き、一方的に「併合」を宣言した東部や南部では占領地の一部を奪い返されているし、ロシア本土とクリミア半島をつなぐ大橋も爆破された。ロシアにとっては屈辱的な展開だ。
それで大統領のウラジーミル・プーチンは報復を命じ、ウクライナの都市部、それも住宅地や発電所などにミサイルを撃ち込んだ。首都キーウ(キエフ)には朝の通勤時間帯にイラン製の自爆ドローン多数が飛来し、複数の民間人を殺傷した。
いったいプーチンは、この攻撃拡大で何を目指しているのか。次なる展開は何なのか。
こうした疑問について、かつてCIAでロシア・ユーラシア担当の上級アナリストを務め、国家情報会議(NIC)にも在籍したアンドレア・ケンドールテイラー(新アメリカ安全保障センター上級研究員)に、フォーリン・ポリシー誌編集長のラビ・アグラワルが聞いた。
――まずは最近の都市部への空爆について。プーチンは何を考えているのか。
10月10日に始まった都市部への空爆はクリミア大橋爆破への報復だ。ロシア軍、とりわけプーチンがこういう方法を選んだのは、ひとえに戦場では劣勢で、報復どころではないからだ。
また民間施設を標的にしたのは、ロシア国内で強硬派の声が大きくなっている証拠だ。都市部の住民を恐怖のどん底に突き落とせば、ウクライナ政府もいずれ折れる、それが勝利の方程式だと、彼らは一貫して主張している。
あんな猛攻を長く続けられるとは思えないし、プーチン自身も空爆は終わりだと言っている。その代わり、彼らは安上がりな自爆ドローンを大量に飛ばしてキーウを攻撃した。
しかも、標的にしたのは社会インフラ、特に暖房や電力関連の施設だ。冬場に向けてウクライナ市民を困らせ、寒い思いをさせ、苦しめる。そうすれば勝てると、プーチンも考え始めた。
――こうした攻撃について、一般のロシア国民はどれくらい知っているのか。
かなりよく知っていると思う。ここ数日のロシア国営メディアでは、一連の攻撃が大々的に報じられている。
今のプーチンは、この戦争の位置付けをひっくり返そうとしている。ウクライナ東南部の領土を一方的かつ不法に併合して以来、彼は国民に対し、これはロシア防衛の戦いだと言っている。
とにかく国民に、この戦争を支持させたい。ロシアは被害者だと思わせたい。だから国内向けには、真の敵はウクライナではなくアメリカだ、西側陣営だと吹聴している。そして国家存亡の危機だと訴えている。
注意したいのは、ロシアには以前から、こうした攻撃を求めてきた強硬派が一定数いるということだ。彼らは今回のような攻撃を見ても、私たちと違って、驚かない。
――つまりロシアには、プーチンの戦争に抗議する人々と、もっとやれと言い募る極右の強硬派がいるわけだ。そして今は、強硬派の影響力が強まっているようだ。なぜ、そうなってしまったのか。
実際、プーチンは難しい舵取りを強いられている。戦争反対の声と、もっとやれという意見の板挟みになっている。ご指摘のように、戦争反対の人はたくさんいる。動員令を出したことで、より多くのロシア人家庭に戦争の現実が持ち込まれた。
プーチンは従来、ウクライナでの戦争が国民生活に影響を与えることはないと語り、国民を落ち着かせようと努力してきたが、動員令で全てが吹っ飛んだ。
一方、私が驚いたのは、国内メディアで最強硬派の声が堂々と流れていることだ。
国営テレビを見れば分かるが、その先頭に立っているのはチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長だ。民間軍事会社ワーグナー・グループを率いる政商エフゲニー・プリゴジンや、大統領経験者のドミトリー・メドベージェフもいる。彼らはプーチンに、勝つためには手段を選ぶなと迫っている。
――あなたが驚いたというのは意外だ。なぜ驚いたのか。
こうした過激な声は、制御するのが難しい。ひとたび解き放たれると、後は勝手に増殖し始めるからだ。
そういう過激派の存在自体は、別に驚きではない。プーチンは従来、そういう主張から距離を置くことで、自分は(それなりに)理性的な指導者だという見せ方をしてきた。そこまでは想定の範囲内だ。
しかし私を驚かせたのは、彼らが堂々と発言を続けている事実、そして彼らがアクセルを踏み続けているように思える点だ。
そうした過激な主張が一段と高まって、プーチンとしてもロシア社会に根強く残る(民族主義的な)強硬派をなだめるため、作戦の変更を余儀なくされた。10月10日以後の都市部への猛攻は、そのように理解すべきだと思う。
――この戦争は高くつきすぎて、さすがのプーチンも権力維持が難しくなるという見方には同意するか。
私の思うに、プーチンは今も、自身の権力基盤は盤石だと信じている。一般論として、独裁的な人物は誇大妄想の持ち主だ。だからプーチンも、いろいろな手を使ってエリート層を分断し、複数の派閥を競わせてきた。
一方でセキュリティーサービスは自分に絶対忠誠を誓う人間で固め、国内メディアと情報環境もしっかり統制している。
10月14日に(カザフスタンで)行った記者会見でも、プーチンは実にリラックスし、自信に満ちていた。少なくとも、そう見せた。彼の頭の中まではのぞけないが、権力基盤に不安なしという感じで振る舞っていた。今はまだ、彼に取って代われる人物がいないという事情もあるだろう。
しかしプーチン政権の安定性に関する評価は、こうした見た目だけで決まるものではない。この戦争を始める前に比べれば、プーチンの権力基盤は格段に弱まったと言えるのではないか。
動員令を出してからは、さらに弱まった。あれが分岐点だった。あの瞬間、ロシア社会は今も「平時」にあるという従来の言説が通用しなくなった。
プーチンは今も、自分に取って代われる人物はいないと考えているだろう。しかし独裁政権というものは、実際に崩壊するまでは安定しているように見えるのが常だ。個人に権力が集中した体制では、政治的な変化が何の前触れもなく起きやすい。
他国の指導者の退陣や失脚のタイミングを正確に予測するのは難しい。その影響を評価するのも難しい。しかし、そうした政変の可能性が高まっているのなら、それを警告するのが情報機関の役目だ。
プーチンに関して言えば、彼に不利な条件は整ってきた。時期は分からないが、リスクは高まっていると言える。
――おっしゃるとおり、プーチンの頭の中までは見えない。しかし、彼にはどんな選択肢があるのだろう? 今はとにかくウクライナ人に痛い思いをさせようとしているが、ほかにも手はあるのか。
これ以上にウクライナの占領地を失うことなく、この冬を乗り切る。プーチンはそれを最優先にしている。
――ここまではロシアの話をしてきたが、次はウクライナとその選択肢についてだ。あなたは最近、ウクライナを訪れてウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会い、ロシア兵による民間人虐殺のあったブチャなどを視察した。何か意外な発見はあったか。
3週間ほど前のことで、もう昔のことのように思えるが、いくつか印象に残った点がある。まず、私はウクライナへの軍事物資供給の拠点となっているポーランドの基地を訪れた。そこの稼働率は、せいぜい60%程度だった。
つまり、軍事物資の支援に関して、ウクライナの同盟諸国はもっと多くのことをやれるだろう。私はそういう印象を持った。
2つ目は、ウクライナ社会の強烈な回復力についてだ。世論調査を見れば、ウクライナ国民の大半が自分たちの勝利を信じていること、いかなる領土の割譲にも応じるつもりがないことは分かる。しかし現地に足を運ぶと、また違った面が見えた。
例えばブチャでは、既に住民が地域社会を立て直し、町の再建が進んでいた。道路はきれいになっていて、子供たちの歩く姿もあった。首都キーウでもそうだった。少なくとも(10月半ばに)空爆が再開される前の時点では、人々の暮らしは「平時」に戻っているように見えた。カフェも再開されていた。
ウクライナの人々は口をそろえて、プーチンが戦術核を使うリスクに自分たちがおじけづくことはないと言っていた。そして、自分たちの戦い方は変わらないとも言っていた。
核兵器を使っても戦争の結末は変わらない。ただ勝利の日までにウクライナ人が耐え、背負わなければいけない負担が増えるだけだと。
現地を見て、ウクライナ社会の回復力の強さを、そして最後まで戦い抜く国民の決意を実感できた。
――西側諸国はウクライナに武器を供与し、さまざまな形で援助しているが、ウクライナ側を完全に制御できるわけではない。いい例がクリミア大橋の爆破や、モスクワでの暗殺だ(過激なロシア民族主義者アレクサンドル・ドゥーギンの娘を爆殺した)。こうしたことで、西側の支援態勢が揺らぐ懸念はあるか。
アメリカのバイデン政権とウクライナのゼレンスキー政権は今も、非常に緊密な協力関係を保っていると思う。常にコミュニケーションを取っていることは私たちも把握している。
例えばゼレンスキーが反転攻勢を計画していたとき、アメリカ政府はシミュレーションに密接に関わり、ウクライナ政府の意思決定を助けたはずだ。
おっしゃるとおり、私たちにはウクライナ側を制御できない。最前線で戦っているのはウクライナの人々だ。そういう関係には、ちょっとした緊張感が付き物だ。
だからこそゼレンスキーは折に触れて、緊張をほぐそうと試みている。例を挙げれば、ウクライナ側は、ロシア領内を攻撃できる長距離ミサイルや攻撃システムの供与を求めている。
しかしアメリカ側は、ウクライナを完全には制御できないため、武器供与で不必要に戦闘がエスカレートする事態を懸念している。
それでゼレンスキーは、こう言った。「よし、こちらが選んだ標的について、ホワイトハウスが拒否権を行使するのを認めよう」と。
これは両国の良好なパートナーシップを示す好例だが、もちろんアメリカとウクライナ両国の利害が分かれる場面も出てくるだろう。そうした場合に備えて、両国は問題をうまく処理する方法を常に模索している。
●米進歩派議連、ウクライナ政策に関する政権宛て書簡を撤回 10/26
米議会の進歩派議員連盟「プログレッシブ・コーカス」を率いるプラミラ・ジャヤパル議員は26日までに、バイデン政権へ宛てた書簡を唐突に撤回した。ロシアによるウクライナとの戦争を巡り、外交の追求を迫る内容だったが、民主党内部から起きた激しい怒りの声を受け方針の完全な転換を余儀なくされた形だ。来月の中間選挙が2週間後に迫る中、同党の議員らは書簡の送付について不意を打たれたと感じている。
撤回に先駆け、ジャヤパル氏は当初6月に署名された書簡を公開していた。書簡はリベラル派の30人がより一層の外交を求める内容で、ウクライナ支援に対する同党の決然たる姿勢を弱めているように読める。書簡を今週公開することは大半の議員が支持していなかった。一部にはこの数日で戦況が一変したとして、今なら署名しないだろうと発言した議員もいる。
書簡は24日に送られていた。
民主党の怒りが表沙汰になり始めると、ジャヤパル氏は書簡がスタッフの手で適正な審査を経ることなく公表されたと主張。連盟の会長として自らがその責任を受け入れると述べた。
下院民主党のある実力者は、書簡が撤回される前、「人々が激怒している。とりわけ最前線に立つ人たちが」と述べていた。具体的には来月8日の中間選挙で議席を失う瀬戸際にある議員らを指す。
書簡は、ウクライナを支援しつつ米国による現地での関与を回避するバイデン大統領の取り組みを称賛する一方、停戦に向けたより強力な働きかけを外交によって行うことが必要と示唆。紛争の長期化を防ぐための措置だと説明していた。
「今回の戦争がウクライナと世界にもたらした破壊を鑑みれば、また壊滅的な結果を引き起こす今後の激化を考慮すれば、ウクライナと米国、世界にとっての利益は紛争の長期化を避けることにあると考える」「こうした理由から、我々は米国がこれまでウクライナに供給してきた軍事的、経済的支援と共に積極的な外交上の働きかけも合わせて進めるよう強く求める。取り組みを強化し、停戦のための現実的な枠組みを模索するべきだ」と、書簡では訴えている。
民主党議員からの反発を受けて、ジャヤパル氏は自分たちの立場を明確化。ウクライナ支援の姿勢に疑いの余地はなく、バイデン政権の戦略にも協力するとした。
一方で少なくとも1人の民主党議員は、ロシアへ外交的な働きかけを行う姿勢を擁護している。
書簡に署名したカリフォルニア州選出のロー・カンナ下院議員はCNNの取材に答え、書簡を撤回したジャヤパル氏の判断を支持しないと明言。「書簡は常識的な内容だったと考えている」「ウクライナを確実に武装させるのは支持する。武器を送り、資金の投入を続けるのに反対はしない。しかし同時に確信しているのは、大統領も言及した通り、我々は核戦争の危機にさらされているということだ」と述べた。
その上で「我が国の政治家がロシアと話し合うべきだとは思わないだろうか? 当然そうするべきだ。事態の激化を確実に防ぐためには」「ウクライナの味方をするのと同時に、外交も支持しよう」と呼びかけた。
●ロシア「汚い爆弾」一方的懸念 ウクライナ側要請 IAEA査察へ  10/26
ロシアが放射性物質をまき散らす爆弾いわゆる「汚い爆弾」をウクライナ側が使用する可能性について一方的に懸念を表明する中、IAEA=国際原子力機関はウクライナ側の要請に応じ査察官を派遣することにしています。
ロシアはこのところ、放射性物質をまき散らす爆弾、いわゆる「汚い爆弾」をウクライナ側が使用する可能性について一方的に懸念を表明しています。
これについて、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は24日、ウクライナ側の要請に応じ査察官を派遣すると発表し、定期的に査察官が訪れている2つの原子力関連施設で査察を行うことを明らかにしました。
2つの施設がウクライナのどの施設なのか明らかにしていませんが、派遣の準備をしているということです。
査察についてはウクライナ側が、ロシア側の主張に根拠がないことを示すためとして、IAEAに求めていました。
一方、ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」は25日、南部のザポリージャ原子力発電所にある使用済み核燃料の貯蔵施設付近で、駐留するロシア軍が無許可の工事を行っていると明らかにしました。
工事はこの1週間秘密裏に行われていて、ウクライナ人の職員や現地に駐在しているIAEAの専門家が現場に立ち入るのは禁止されているとしていて「原発で貯蔵する核物質や放射性廃棄物を利用したテロ行為をロシア側が準備していることを示しているのではないか」との見方を示しました。
こうした中、国連の安全保障理事会では25日、非公開の緊急会合が開かれ、会合を要請したロシアは深刻な脅威だとみずからの主張を繰り返しましたが、欧米各国は証拠は示されておらずロシアによる虚偽の情報だと非難しています。
松野官房長官「ロシアによる虚偽の主張 認められず」
松野官房長官は午前の記者会見で「政府として『ウクライナが“汚い爆弾”を使用する準備を行っている』とのロシアによる虚偽の主張は認められない立場だ。いかなる口実を用いたとしてもロシアによるさらなるエスカレーションは決して許されるものではない。引き続きG7=主要7か国をはじめとする国際社会と緊密に連携し、ロシアに対し即時に侵略を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう改めて強く求めていく」と述べました。
米 ロシアから核戦力の軍事訓練実施の通知受ける
アメリカ国務省のプライス報道官は25日、記者会見で、ロシア側から、毎年行っている核戦力の軍事訓練を実施すると事前に通知を受けたことを明らかにしました。
そのうえで「ロシアは不当な軍事侵攻を続け、核兵器の無謀な言い回しをしているが、こうした通知によって、われわれは不意を突かれることもなく、誤解のリスクは軽減される。これは重要なことだ」と述べ、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中でも通知を受けたことで米ロの偶発的な衝突のリスク軽減につながると評価しました。
また、国防総省のライダー報道官も「この点においては、ロシアは軍備管理の義務と透明性の約束を順守している」と述べました。
●ロシア「核戦力の演習行う」と米に通知…「毎年行う定期訓練」と受け止め 10/26
米国務省と国防総省は25日、ロシアから核戦力の演習を行うと通知があったことを明らかにした。ウクライナで核兵器を使用する可能性に繰り返し言及しているロシアが、毎年恒例の大規模演習を近く始める見通しとなった。
両省は演習の時期や内容に触れていないが、米国務省のネッド・プライス報道官は25日の記者会見で「毎年行っている定期的な訓練」と説明した。プライス氏は「ミサイル発射などの前に行う通知の約束をロシアは順守した」と述べ、冷静に受け止める姿勢を示した。
露国防省は、米側への通知や演習予定について明らかにしていない。ロシアは例年10月、核戦力部隊による大規模演習「グロム」(雷鳴)を行ってきた。昨年は実施を見送り、2月のウクライナ侵略開始直前にずらして行った。
今回の演習の一環で26〜29日に、露北部アルハンゲリスク州のプレセツク宇宙基地から極東カムチャツカ半島に向けて大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し、露西部コラ半島沖からは潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射するとの観測が出ている。
●イタリア新首相 EUとの連携強調 国際社会の懸念払拭ねらいか  0/26
イタリアで新たに就任したメローニ首相が25日所信表明演説を行い、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの対応などでEU=ヨーロッパ連合と連携していく考えを強調し、自国第一主義的な主張を繰り返してきたことへの国際社会の懸念を払拭する(ふっしょく)ねらいもあるとみられます。
イタリアでは、先月の議会選挙で第1党となった右派政党「イタリアの同胞」のメローニ党首が新たな首相に就任し、25日、議会の下院で所信表明演説を行いました。
この中でメローニ新首相は、EUについて「私たちの共通の家であり、メンバー国が1国だけで向き合うのが難しい複雑な問題に、ともに対処するための存在であるべきだ」と指摘しました。
そのうえで、ウクライナへの軍事侵攻を続け、天然ガスの供給削減などでヨーロッパに揺さぶりをかけるロシアについて「エネルギーを利用したプーチン大統領の脅迫に屈することは問題の解決にならない」と述べEUと連携して対応する考えを強調しました。
メローニ首相は、ウクライナへの支援を継続する考えも表明していて、ロシアへの対応などでEUとの連携を強調することで、自国第一主義的な主張を繰り返してきたことへの国際社会の懸念を払拭する狙いもあるとみられます。
●ガソリンスタンド砲撃 2人死亡 ウクライナ エネルギー施設へ攻撃続く  10/26
ロシアによるウクライナのエネルギー施設を狙った攻撃が相次ぐ中、ガソリンスタンドが砲撃され、2人が死亡した。ウクライナ東部の、ドニプロペトロウシク州にあるガソリンスタンドにロケット弾が着弾し、妊婦を含む2人が死亡、3人が搬送された。
ロシアは、ウクライナのエネルギー施設を狙った攻撃を続けており、ゼレンスキー大統領は「必ず報復する」と非難した。一方、ゼレンスキー大統領は、ドイツで開かれたウクライナ復興会議で、「ロシアは、ミサイル攻撃でウクライナから電力を奪い、抵抗を止めようとしている」と訴え、各国の迅速な支援を求めた。 
●ウクライナ東部の激戦は歴史的必然、民族の誇りと帝国領土をかけた戦い 10/26
ウクライナ軍は東部の奪還に向けて、ロシア軍との戦闘を激化させています。ウクライナのゼレンスキー大統領は10月15日に公開した動画で「ロシア軍が誰を送り込もうと、東部でも南部でも敗北する」と述べています。ロシアと国境を接するウクライナ東部はロシア系住民が多く居住していることでも知られていますが、そもそも、この国境線はいつ、どのように画定されたのでしょうか。東部のロシア系住民の多い東部地域がロシア領ではなく、なぜ、ウクライナ領になっているのでしょうか。なぜ、民族や言語分布と国境線が一致していないのでしょうか。
資源や工場の集積以外にも重要な意味
1991年、ソ連崩壊とともに、ウクライナは独立しています。独立直後、ウクライナ東部のロシア系住民はウクライナからの分離独立を目指し、武装勢力を結成し、西部ウクライナ人との対立が表面化しました。
ロシア系住民の多い東部はドネツク州を中心に、資源採掘地や重化学工場が集中しています。東部の分離を認めると、西部はそれらを全て、失ってしまいます。それでも、今日のような泥沼の戦争になるならば、独立時に最初から、東部をウクライナと切り離して、ロシア側の領土としていた方が、ウクライナにとって良かったのではないかと考えることもできるかもしれません。
実は、ウクライナ人にとって、現在の国境線は資源や工場の集積地というだけではなく、重要な意味があります。
13世紀から14世紀にかけて、リトアニア大公国が台頭しました。リトアニア大公国は14世紀、当時、ロシア西部やウクライナなどを支配していたモンゴル人勢力(キプチャク・ハン国)を駆逐しながら、南方に勢力を拡大していきます。リトアニア大公国はリトアニアのみならず、ベラルーシ、ロシア西部、ウクライナにまたがる広大な領域を支配するようになります。
そして、1386年には、ポーランドを併合します。リトアニア大公ヤギェウォ(ヤゲロー)はポーランド女王と結婚し、ポーランド王とリトアニア大公を兼ね、ヤギェウォ朝を創始したことで有名です。
ウクライナ・コサック集団の領域
15世紀後半には、モスクワからロシア人の勢力であるモスクワ大公国が台頭します。モスクワ大公イヴァン3世が、分裂していたロシア人を統一しながら、やはり、モンゴル人勢力を駆逐し、南方に勢力を拡大していきます。
イヴァン3世とその子のヴァシーリー3世(イヴァン雷帝の父)は西方にも勢力を拡大し、16世紀前半には、ポーランド・リトアニアのヤギェウォ朝と対峙するようになります。この時、モスクワ大公国とヤギェウォ朝の勢力領域の分岐線が今日のロシアとベラルーシ、エストニア、ラトビアの国境線の原形となります。
それよりも南方のウクライナでは、13世紀以降、コサックという騎馬武装集団が割拠していました。コサックはもともと、トルコ人の馬賊たちでした。「コサック」はトルコ語で、「自由な人」を意味します。
政治上はポーランド・リトアニアに従属
このトルコ人馬賊に、ウクライナ人も加わるようになります。ウクライナ人はモンゴル人支配を嫌い、自らコサックの一団に参入することにより、モンゴル人に抵抗したのです。
黒海に注ぐドニエプル川流域から東ウクライナの一帯がコサック集団の勢力範囲でした。この領域には、モスクワ大公国やヤギェウォ朝も手が出せなかったのです。
ただ、ウクライナ・コサックはポーランド・リトアニアに、政治形式上、従属していました。そのため、ウクライナ語はポーランド語の影響を強く受けながら、ロシア語とは異なる言語としての道を歩みます。
現在、ロシアとウクライナの間で、ハルキウ州、ルハンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州などの東ウクライナを巡る争奪戦が激化していますが、かつて、ウクライナ・コサックはこれらの地域に拠って、ロシア人の侵入を防いでいました。彼らの勢力はヘーチマン国家と呼ばれていました。「ヘーチマン」とは、ウクライナ・コサックの棟梁の伝統的な称号です。
ウクライナ人にとって歴史的な聖域
ウクライナ人の愛国主義者たちは、モンゴル人やロシア人にも、さらにはポーランド・リトアニアにも、決して屈することのなかった誇り高いコサックこそが、自分たちの民族の原点であると主張します。ウクライナの国歌の歌詞には、「我らは自由のために魂と身体を捧げ、兄弟たちよ、我らがコサックの氏族であることを示そう」とあります。
そのコサックが勢力範囲にしていた東ウクライナの領域はウクライナ人にとって、歴史的な聖域であるのです。民族の誇りにかけても、この領域はウクライナ人固有の領域であり、ロシア人に奪われることが絶対にあってはならない地とされるのです。今日の戦闘の激化は彼らにとっては必然なのかもしれません。
ウクライナ・コサックは17世紀、勢力拡大を図り、北部のリトアニア・ポーランドと戦っています(ポーランド・コサック戦争)。この戦いを有利に進めるため、ウクライナ・コサックはロシア人のモスクワ大公国の支援を要請しています。
戦争に勝利することはできたものの、以後、ロシア人の介入を招くことになり、事態が悪化します。
一方、リトアニア・ポーランドは弱体化していき、18世紀末、ロシア、プロイセン、オーストリア三国によって、分割され(ポーランド分割)、国家が消滅します。この時、ロシアがリトアニア・ポーランドから併合した領土がベラルーシです。
エカチェリーナ2世が帝国に組み込む
勇敢に戦ったウクライナ・コサックでしたが、17世紀末以降、一部を除いて、そのほとんどがロシア帝国に屈していきます。18世紀後半、エカチェリーナ2世の時代には、ウクライナ全域がロシア帝国の支配に完全に組み込まれます。そして、かつてのコサックの支配領域の境界線は帝国内の行政区境界線となります。この境界線が今日のロシアとウクライナの国境線の根拠となっています。
ルハンスク州、ドネツク州の東部2州は「ドンバス地方」という呼び名でも知られています。ドンバス地方で、18世紀に炭鉱が発見され、産業革命を進めていたヨーロッパ各国に、石炭を輸出しました。
それとともに、ロシア帝国はドンバス地方の開発に力を入れはじめ、この地域は工業都市として発展します。ロシア人移民がドンバス地方などウクライナ東南部一帯に、移住しはじめるのも、この時代からです。今日、ウクライナの鉱工業の拠点が東部に集中しているのは、こうした歴史的経緯があるためです。
ウクライナ東部、そこは、ウクライナ人にとっては、かつてコサックが支配した民族の聖地であり、ロシア人にとっては、多くのロシア人が入植した帝国の一部であり、事実上のロシア人領なのです。
●独大統領、防空壕に避難 ウクライナ訪問中に空襲警報 10/26
ドイツのフランクワルター・シュタインマイヤー大統領は25日、ロシアによる軍事侵攻が始まって以来初めてウクライナを訪問した。その際、空襲警報が鳴り防空壕(ごう)への避難を余儀なくされる場面もあった。
同氏は訪問先の北部の町コリュキウカで、「最初の1時間半を防空壕の中で過ごした」「ここで生活する人々が置かれた状況を実感できた」と述べた。
コリュキウカはロシア軍による侵攻開始直後に占領された。その後ロシア軍は撤退したが、インフラは損壊し、必需品も不足する中、住民には厳しい冬が待ち構えている。
シュタインマイヤー氏は、住民が「素手で戦車に立ち向かって停止させた」ことに触れ、その勇気をたたえた。
同氏によると、コリュキウカへの電力供給は一部復旧しており、熱供給施設も地元産の木材で稼働できるものへの切り替えが予定されている。
シュタインマイヤー氏は4月にウクライナを訪問する予定だったが、過去の対ロシア融和政策を批判され、訪問を拒否されていた。
●米のウクライナ支援、与野党で懐疑論浮上 10/26
ロシアのウクライナ侵攻を巡り、米与党・民主党の急進左派グループが24日、バイデン政権にウクライナ支援の見直しやロシアとの直接対話を求める書簡を送り、党内の反発で翌25日に撤回する事態が起きた。今月中旬には野党・共和党のマッカーシー下院院内総務が、11月の中間選挙で同党が下院を奪還すればウクライナへの軍事支援を縮小させる考えを示唆。バイデン政権は支援を継続する立場だが、同国のエネルギー不足が深刻化する冬を前に、米国の与野党で政権の方針に異を唱える恐れが強まり出した。
バイデン政権にウクライナ政策の見直しを求めたのは、民主党の急進左派に属する下院議員30人。代表者のジャヤパル議員は書簡で24日、米国によるウクライナへの巨額の軍事・経済支援を修正し、ロシアと「現実的な停戦枠組みを模索するべきだ」と主張した。
これに対し党内やウクライナ政府から「現時点でロシアとの対話は非現実的」「侵攻を助けるだけだ」との批判が続出。ジャヤパル氏は同日、「民主党はウクライナ支援で一致している」との釈明文を発表したのに続き、25日に書簡を全面撤回した。
ジャヤパル氏は声明で、「書簡は数カ月前に起草され、精査されずに誤って送付されたものだった」と弁明したものの、今回の騒ぎが、ウクライナ支援を巡る党内の不協和音を浮き彫りにしたのは間違いない。
一方、共和党では下院トップのマッカーシー氏が18日、米メディアのインタビューで、米国が景気後退局面に入る可能性が高い中でウクライナに「白紙の小切手」を出すことはないとして、中間選挙後は支援を縮小させる考えを示した。中間選挙では、上院で民主、共和両党が拮抗(きっこう)する半面、下院は共和党が過半数を奪還する勢い。
米議会はこれまで、バイデン政権によるウクライナ支援の方針におおむね超党派で協力してきた。露軍の侵攻以降、バイデン政権が表明した軍事支援は計176億ドル(約2兆6千億円)に上る。予算の承認権限を持つ議会で支援への反対が広がれば、ウクライナ軍の対露反攻作戦や、北大西洋条約機構(NATO)をはじめとする国際社会の結束に影響するのは必至だ。
バイデン大統領は20日、遊説先の東部ペンシルベニア州で、共和党が議会の多数派を握り支援が縮小されれば深刻な結果を招くと懸念を示したが、中間選挙後は自党の急進左派を含めた支援懐疑論への対処を強いられることになる。
●プーチン氏、核戦力の演習視察−ウクライナでの核使用に米大統領警告 10/26
ロシアのプーチン大統領は26日、核の報復攻撃を想定した定期軍事演習を視察した。ウクライナ侵攻は9カ月目に入り、ロシアによる一段の行動エスカレートが懸念されている。
ショイグ国防相はプーチン大統領に対し、同演習はロシアへの核攻撃に対応する「大規模な核攻撃」のシミュレーションを意図したものだと説明。この発言はテレビ放映された。
米政府は25日、ロシアから核戦力の年次演習を実施するとの通知を受けたと明らかにしていた。
バイデン大統領は同日、ウクライナで核兵器や放射能兵器を使用しないようロシアに警告。「ロシアが戦術核兵器を使用すれば、信じられないほど重大な誤ちを犯すことになると言っておく」と記者団に述べた。
ロシア当局者らは、核兵器使用の計画を否定している。

 

●プーチン氏に警告、核使用なら相応の結果 米国務長官 10/27
ブリンケン米国務長官は26日、ロシアの対ウクライナ戦争で核兵器が使用された場合の結果について、ロシアのプーチン大統領に直接伝えていると明らかにした。
ブリンケン氏は米ブルームバーグ通信のイベントで、「我々はロシア側、プーチン大統領に直接、そして非常に明確に、その結果について伝えた」と語った。誰が、どのようにプーチン氏に伝えたかは明らかにしなかった。
バイデン米政権幹部は核兵器の使用について、ロシア政府がトップレベルでのやり取りで警告を受けていると述べていた。ブリンケン氏の発言は、警告がプーチン氏に伝えられたことを初めて明確に認めたものだ。
ブリンケン氏によれば、米国はロシアの核兵器による威嚇を「非常に注意深く」追跡しているが、「米国側の核態勢を変更する理由は見当たらない」と繰り返した。ウクライナが「汚い爆弾」の使用を検討しているというロシアの最新の主張については、「またもでっち上げであり、核保有国による無責任の極みだ」と批判した。
ブリンケン氏は「この疑惑が我々に懸念を抱かせる理由は、ロシアには自分たちのことを棚にあげてきた実績があるからだ。つまり、自分たちがやったこと、あるいはやろうと考えていることを、他者がやっているとして非難する」と指摘した。
ブリンケン氏によれば、米国は、誤った疑惑を口実にして何らかの戦争拡大を行おうとしていることについても、ロシア側と直接話をしたという。
●米原子力潜水艦がアラビア海に出現 米軍がツイッターで異例の公開 10/27
ロシアによるウクライナ侵攻から10月24日で8ヶ月が経過した。プーチン氏が実際に核兵器を使用する可能性について様々な見方がされるなか、ロシアは一方的に併合した4州に戒厳令を敷いたり、プーチン氏の側近がこれまで使っていた「特別軍事作戦」から「戦争」という言葉に言い換えたり、ウクライナは放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」を使う恐れがあるといった「偽旗作戦」と見なされるような主張も展開したりしている。
バイデン大統領も、状況を懸念し、10月25日、「ロシアが戦術核兵器を使えば、想像を絶する重大な過ちを犯すことになる」と警告。一方、ロシアは、10月26日、核ミサイルの軍事演習を実施した。
「準備万端」とペンタゴン
そんななか、やはり気になるのは、アメリカがどう対応するかだ。アメリカは、プーチン氏が核兵器を使用した場合に備えて準備をしているのだろうか? その答えは「イエス」である。
10月18日、米国防総省(ペンタゴン)報道官のパトリック・ライダー氏が、記者会見で「ペンタゴンはどんな言葉で米国民を安心させることができるのか、 ロシアの核のシナリオに対応する準備が完全にできていると言う言葉か?」と問われて、「我々は準備万端です。そう言えます」と述べたことが一部のメディアで報じられている。また、同氏は「我々は、24時間体制で監視しており、必要なら対応する態勢に入るだろう」とも言及している。
米軍の原子力潜水艦がアラビア海に!
実際、この「準備万端」発言を示唆するような動きも見られる。中東の軍事作戦を監督している、ペンタゴンの一部であるアメリカ中央軍が、ツイッターで、アラビア海に姿を現した原子力潜水艦の画像を公開したのだ。
画像が掲載されているプレスリリースには、アメリカ中央軍司令官のマイケル・“エリック”・クリラ将軍が原子力潜水艦に乗船したことを以下のように伝えている。
「10月19日、アメリカ中央軍司令官のマイケル・“エリック”・クリラ将軍が、アラビア海の国際水域の非公開の場所にいる米海軍オハイオ級の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦USS・ウエスト・バージニアを訪問した」
さらには、以下のクリラ将軍の発言も載せている。
「USS・ウエスト・バージニアの乗員に非常に印象づけられた。海兵たちには、米軍全体に見られる非常に高いプロ意識、専門性、規律が表れている。これらの潜水艦は核の3本柱の重要部分だ。ウエスト・バージニアは、海上のアメリカ中央軍とアメリカ戦略軍に柔軟性や残存能力、迅速性、戦闘能力があることを示している」
ちなみに、核の3本柱とは、大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射ミサイル、戦略爆撃機(空中発射巡航ミサイル)の3つからなる軍事力構造のことで、国の核抑止力を高めることを目的としている。オハイオ級原子力潜水艦は敵から核ミサイルが発射された場合、核ミサイルで対応する能力があるのだ。
敵国及び同盟国に対するメッセージ?
アメリカ中央軍が公開したこの画像とプレスリリースについて、米ニュースサイトVICEは「通常、原子力潜水艦の動きは機密にされている」と指摘した上で、「アメリカは、クリラ将軍が非常に貴重と呼ぶところの潜水艦を世界の海に14所有している。アラビア海はイエメン、オーマン、パキスタン、イランと国境を接している。アメリカが潜水艦のロケーションに言及するとはとてもおかしい。イランとロシアに(軍事力を)誇示しているとしか思えない」「原子力潜水艦のロケーションのツイートは、直接的威嚇を踏みとどまっている挑発だ」との見方をしている。また、防衛情報を掲載しているThe War Zoneは、このツイートについて、「どうしても、イランやロシアといった敵国や、アメリカの同盟国やパートナーに向けたメッセージのように見える」という見方をしている。
もしそうであるとすれば、何のために誇示したり、メッセージを送ったりしているのか?
原子力潜水艦がツイートされたのは、折りしも、イランがロシアに自爆ドローンを提供しているだけではなく、ドローンの使い方をロシア兵に教えるための人材もクリミアに送っていると、米国務省が発表した日のことだった。
前述のThe War Zoneは「米軍が、アラビア海にアメリカの最も壊滅的な攻撃プラットホームがいることを公にしたことは非常に異例のことであり、核の3本柱の一部分がそこにはあり、必要とされれば、すぐに対応できる状態になっていることを明確にしている」と解釈している。
通常、ロケーションが公表されていない原子力潜水艦がイランの南のアラビア海を航行中であると明らかにすることで、核使用の可能性をちらつかせているプーチン氏やロシアをドローンで支援しているイラン、また、プーチン氏の核使用を懸念しているアメリカの同盟国に対し、アメリカは万一の核攻撃に対して準備万端というメッセージを送ったということなのだろうか?
アメリカ中央軍がした原子力潜水艦のツイートに対するコメントにも、「これは100%、プーチンがウクライナでの核使用の可能性について言及後のロシアに対するメッセージだ」「明らかに意図的だ」「ロシアや他の敵国に、“我々はここにいるので軽くみるな”と言っているのだ」などの見方があがっている。
ツイートの狙いや真意は不明だが、このような解釈や見方がされるほどウクライナをめぐる状況は緊迫化しているということかもしれない。
●侵攻の報い ロシアは経済制裁で輸入、農業、技術や金融…悲観的な事態 10/27
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月7日、ウラジオストクでの東方経済フォーラムで、「ロシアは、特別軍事作戦で何も失っていない」と虚勢を張っていたが、西側諸国の経済制裁は確実にロシア経済を弱体化している。
米ブルームバーグは9月6日、ロシア政府の内部資料を根拠に、「ロシアでは欧米による制裁の影響が広がるなか、より長期かつ深刻な景気後退に見舞われる可能性がある」と報道した。
この内部資料は、ウクライナ侵攻に伴うロシアに対する経済制裁の影響を正確に判断しようと、専門家らがまとめたもので、プーチン氏などが示す楽観的な公式発表に比べて、はるかに悲観的な内容になっている。
内部資料で示されたシナリオ3つのうち、2つは経済縮小が来年加速し、経済が戦争前の水準に戻るのは2030年以降だとしている。
技術や金融分野の制裁も強い下押し圧力になる。最大20万人のIT技術者が25年までに国外に出る可能性があり、これは深刻な頭脳流出だ。
輸入について、主な短期的リスクは、原材料・部品の不足に伴う生産停止だ。より長期的には、輸入した装置が修理不能に陥り、成長が恒久的に制約される。極めて重要な一部の輸入品については、代替のサプライヤーがまったく存在しない。
政府が重視してきた農業分野でも、依存する主要原料の供給縮小に伴い、国民が食料消費の抑制を迫られる可能性がある。
西側の技術へのアクセスが制限されているため、ロシアは中国や東南アジアの先進的ではない代替品に頼らざるを得ず、現在の基準から1〜2世代遅れてしまう可能性がある。
航空分野では、旅客輸送量の95%が外国製飛行機で占められており、輸入スペアパーツが入手できないため、運行停止に伴い航空機産業が縮小する可能性がある。
機械製造分野では、ロシア製の工作機械は全体の30%にすぎず、国内産業では需要増をカバーする能力がない。
医薬品分野では、国内生産の約80%を輸入原料に依存している。輸送分野では、EU(欧州連合)の規制により、陸上輸送のコストが3倍に上昇する。
通信とIT分野では、SIMカードの規制により、25年までにSIMカードが不足し、22年には通信分野が世界のリーダーから5年遅れる可能性がある。
軍事分野では、西側のハイテク技術や部品(=特に半導体)が入手できないために、最先端の兵器を開発し製造することは困難になる。例えば、航空機、艦艇、ミサイル、戦車など、各軍種の最重要な兵器を開発・製造できなくなる可能性は高い。つまり、ロシアは「経済的にも軍事的にも取るに足りない国」になる可能性があるということだ。
プーチン氏の愚挙は、彼自身の地位を脅かすことになるであろう。
●プーチン、危機感あらわ「前例ない課題に直面」…軍に物資「挙国一致」要求  10/27
ロシアのプーチン大統領は25日、ウクライナに侵略する露軍への物資供給を円滑にするため設置した政府の「調整会議」に初参加し、地方政府を含む全機関に「広く深い連携」をするよう命じた。プーチン政権は「戦争」という言葉を使わず、「特殊軍事作戦」と称してきたが、長期戦を前提に挙国一致で軍に協力するよう求めたもので、事実上の「戦時体制」が濃厚になっている。
ウクライナ軍が反転攻勢を強める中、プーチン氏はオンラインで開かれた会議で、米欧日などによる経済制裁も念頭に「誇張ではなく、前例のない課題に直面している」と危機感をあらわにした。その上で、「現実の直視」と「迅速な対応」を重ねて求めた。ミハイル・ミシュスチン首相は、軽工業部門が総力を挙げ、軍服などの装備不足に対処し、兵器増産を支援する方針を表明した。
会議の様子は露国営テレビでも中継された。予備役の部分的動員などでロシア国内が混乱する中、プーチン氏は国民に作戦への協力を呼びかける思惑もあるとみられる。
プーチン氏は19日、ロシアが一方的に併合したウクライナ東・南部4州への「戒厳令」発令と同時に署名した大統領令で、調整会議の設置を指示した。戒厳令を機に、ロシア政権高官からは「戦争」という言葉や総動員を意識した発言がでるようになった。セルゲイ・キリエンコ大統領府第1副長官は22日の教職員らとの会合で「我々は必ずこの戦争に勝つが、すべての人が関与する必要がある」と訴えた。
●ロシアの戦略核戦力部隊が演習、プーチン氏視察 ICBM「ヤルス」含め 10/27
ロシアのプーチン大統領は10月26日、戦略核戦力部隊による演習を視察した。同国政府は声明で「戦略的抑止力の演習で想定された課題は全て完了し、全てのミサイルが目標に到達した」と発表した。軍参謀総長によると、演習には大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤルス」や潜水艦発射弾道ミサイル、戦略爆撃機「ツポレフ」が含まれるという。
国防省系メディアのズベズダは、ショイグ国防相がプーチン大統領に対し「敵の核攻撃に対抗し戦略的部隊が大規模な核攻撃を行う」演習だと説明している様子を伝えた。ゲラシモフ軍参謀総長もプーチン大統領に、演習には大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤルス」や潜水艦発射弾道ミサイル、戦略爆撃機「ツポレフ」が含まれると説明した。
ロシア当局はこのところ、ウクライナが放射性物質をまき散らすことを目的とした「汚い爆弾」の使用を計画していると主張している。
●プーチン大統領、軍事演習を視察 ICBMなど発射 10/27
ロシアのプーチン大統領は26日、弾道ミサイルと巡航ミサイルの発射訓練などを含む軍事演習を視察した。ロシア大統領府が発表した。
ロシア大統領府は声明で、「プレセツク宇宙基地から大陸間弾道ミサイル(ICBM)『ヤルス』が、バレンツ海から弾道ミサイル『シネワ』が発射され、カムチャツカ半島のクーラ試験場に着弾した」と明らかにした。
空中発射型の巡航ミサイルの発射訓練にはロシア軍の戦略爆撃機「ツポレフ95MS」が使用されたという。
ロシア軍の最高司令官であるプーチン氏は演習中にショイグ国防相から報告を受けた。
ショイグ氏によると、戦略部隊がプーチン氏の指揮の下で「敵の核攻撃に対応した大規模な核攻撃」の訓練を行ったという。
ロシア大統領府は声明で、軍司令部の準備の水準や、ロシア軍を組織する指導部や作戦要員の技術に関する確認も行われたと述べた。
●「G20行き」宙に浮く ロシア首相出席の報道―プーチン氏 10/27
11月15、16両日にインドネシア・バリ島で開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を巡り、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領の出席が宙に浮いている。プーチン氏は「ロシアは参加する」と明言しているが、自分が行くとは言っていない。独立系メディアは25日、大統領府筋の話として、ミシュスチン首相が出席する公算が大きいと伝えた。
プーチン氏が足を運べば、2月の侵攻後初めて、バイデン米大統領と対面する機会が生まれるとみられていた。参加について最終決定は下されていないもようだが、ウクライナでロシア軍が苦戦し、動員令と戒厳令で国内が「戦時体制」に移行したことも影響している可能性がある。
今秋、プーチン氏は控えていた外遊を活発化。9月中旬にウズベキスタンで上海協力機構(SCO)首脳会議に臨み、中国の習近平国家主席と約7カ月ぶりに対面で会談した。今月中旬もカザフスタンで独立国家共同体(CIS)首脳会議などに参加。かねて複数の大国が影響力を持つ「多極主義」を唱え、米国の「一極支配」に対抗する姿勢を強調しており、G20サミット参加への地ならしと受け止められた。
プーチン氏は2013年、故郷サンクトペテルブルクでG20サミットを主宰した頃から、この枠組みを重視。14年のウクライナ南部クリミア半島「併合」でロシアが主要8カ国(G8)から事実上排除されると、中国への傾斜とともにG20に軸足を移した。
ところが今回は、戦争が影を落としている。ウクライナのゼレンスキー大統領がビデオ演説する機会があれば、プーチン氏は退席か否かの判断を迫られる。友好国・中国などが同調してくれる保証はない。
プーチン氏は今月14日、G20に出席するか記者団に問われると「ロシアとしては参加するだろう」と回答に含みを持たせた。米ロ首脳会談の可能性に関しては「(バイデン氏に)質問しなければならない。私は必要があるとは思わない」と語った。
G20は約3週間後に迫る。独立系メディアによれば、大統領府筋は「最終決定はしていないが、ロシア代表団は首相が率いる公算が大きい」と指摘した。この報道について、ペスコフ大統領報道官は25日、「決定はまだだ」と述べるにとどめ、プーチン氏出席のシナリオが消えていないそぶりを見せた。
●プーチン大統領「ウクライナが“核保有”を求めている」 10/27
ロシアのプーチン大統領は26日、放射性物質をまき散らす、いわゆる「汚い爆弾」をウクライナが使う可能性について自ら言及した上で、ウクライナが核兵器を保有したがっていると主張しました。
プーチン大統領「ウクライナが核兵器の保有を求めていることを西側は無視している。ウクライナ政府が公言しているではないか。『汚い爆弾』を挑発に使う計画についても明らかだ」
放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」をめぐっては、ロシアが国連などで「ウクライナが使用する恐れがある」と主張してきました。
これに対し、アメリカなどは自作自演でロシア軍が使う可能性もあるとみて、警戒を強めています。
こうした中、ロシアは26日、核戦力部隊の軍事演習を実施し、プーチン大統領が指揮する様子を公開しました。
核攻撃を受けた場合の報復を想定した演習だとしていて、核兵器が搭載可能なミサイルの発射などを行ったとしています。
演習はアメリカにも事前通告されていましたが、ロシアとしては核戦力をめぐる即応態勢をアピールする狙いがあるとみられます。
●招集されたロシア兵が国防省に苦情…「指揮官おらず、弾薬もなく、何を・・・」 10/27
ウクライナに配備されたロシア軍の兵士たちが、ロシア国防省に苦情を訴えたとThe Insiderが報じた。
Telegramに投稿された動画の中である兵士が語ったところによると、彼らは装備も与えられず、「犬のように」戦場に放り込まれたという。
プーチン大統領は9月に予備役の部分動員令を発表したが、招集された兵士の中には、訓練もなく、装備も与えられていないと言う者もいる。
ウクライナで戦うために招集されたロシア兵によると、彼らは弾薬も与えられず、指揮官もおらず、何のために戦場に来たのかすら分からないという。
この主張は、6名のロシア兵がメッセージアプリのTelegramで拡散されている動画の中で述べたもので、ロシアの独立系メディア、The Insiderの報道で取り上げられた(The Insiderはロシアの報道機関で、Insiderとは関係はない)。
彼らは何の指示も与えられず、装備も不足しているということを、動画を通してロシア国防省に訴えている。
彼らはロシアのクラスノダール地方出身で、プーチン大統領が2022年9月21日に予備役の部分動員令を発表した後、すぐに招集されたという。
The Insiderが報じたところによると、訓練を終えた彼らは「ウクライナのどこかの戦場に、犬のように放り出された」と話しているという。
また、戦闘服のほか、AK-47や銃剣は与えられたものの、弾薬はなかったとも述べている。
「情報もなければ指示もない。仲間がどこにいるのか、さらには彼ら(敵)がどこにいるのかも分からず、我々は非常に不安定な状況に置かれている」とある兵士は述べている。
「無線機も弾薬も、何ひとつない。医療品もだ」と彼は付け加えた。
「この状況を当局に見てもらいたい。これが普通だと言えるのか」
Insiderは、この動画を独自に確認することはできていない。 
●●●ロシアが本土攻撃に備える動き、不可解なその意味は 10/27
ウクライナ侵攻開始から8カ月。最近の動きを見ると、ロシアは自国本土が攻撃される事態を想定して準備を進めているようだ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は自軍が膨大な損失を被り、じわじわと後退を強いられるなか、危険な賭けに出るしかない状況に追い込まれつつある。
9月21日には予備役30万人を召集する部分的動員を発令。次いでロシア軍が一部地域を占拠したウクライナの東・南部4州で、国際社会が無効とみなす「住民投票」を強行し、一方的に併合を宣言。さらに今月8日に起きたクリミア大橋爆発以降、ウクライナ各地へのミサイル攻撃を開始し、今も電力インフラの破壊をねらって激しい攻撃を続けている。
プーチンに忠誠を誓うチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長は10月19日、「もうじき全てが変わる」と予告めいた発言をし、ウクライナ戦争が新段階に突入したことをアビールした。
ロシアは既に全面戦争へのエスカレートを視野に入れて準備を進めているとみられる。以下はそれを示す5つの兆候だ。
1. 経済を戦時体制に移行
報道によれば、プーチンは今週ロシアの産業の半分近くを戦時体制下に置いたという。ロシアの独立系メディア、モスクワ・タイムズが、モスクワに本社を置く証券会社ロコのアナリストの予測として、推定40%の産業が総力戦に備えて軍需品の供出を最優先する生産体制を取ることになると伝えた。
2. 防空シェルターの設置
モスクワなどの都市では、空爆を想定した準備が着々と進んでいる。メッセージアプリ・テレグラムの「警戒、モスクワ」チャンネルはモスクワ北部の住民の話として、この地域の家々はこぞって地下室にマットレスや折りたたみベッドを運び込み、避難の準備を進めていると伝えた。
ロシアの黒海艦隊司令部があるクリミア半島のセバストポリのミハイル・ラズボザエフ知事もテレグラムで、公共の建物の入り口には防空シェルターへの順路を示す標識を設置すると発表。住民には自宅地下室を防空シェルターにするよう求め、既に知事自ら複数の地区に出向き集合住宅などの地下室を視察したという。
こうした動きはロシア全土に広がっているもようだ。シベリアの中心都市ノボシビルスクのSvetlana Kaverzina市議も空爆時に自宅地下室に避難できるようベッドや非常食を持ち込んでいると、地元メディアに語っている。
3. 医療施設で進む避難準備
モスクワの警察と密接な関係があるテレグラムのチャンネルBazaは10月21日、市内の病院とクリニックでシェルター設置の動きが急ピッチで進んでいると伝えた。市内の小児病院では、これまで従業員の休憩室兼ロッカールームになっていた地下室をシェルターに当て、患者の家族らが即座に避難できるよう順路を示した標識を設置。市内の多くの医療施設で同様の動きが進んでいるようだ。
4. 警察の戦闘訓練
Bazaによると、モスクワの警察官は市外の演習場で機関銃の射撃訓練を受けており、警官の1人は次のように語っているという。
「警察官だから当然、射撃訓練は受けているが、これまでは扱うのは拳銃だけで、軍の演習場に行くようなことはなかった。今は多くの警官が実弾演習のできる訓練場に行き、機関銃の撃ち方や手榴弾の投げ方を教わっている。まだ訓練を受けていない者も拒否できない。今や戦闘訓練は警察官全員に科された義務だ」
5. 政府高官らが避難訓練
ロシア政府と連邦議会は大規模な避難訓練の準備を進めている。
ロシアの非政府系通信社インタファックスは、ロシア連邦保安局(FSB)広報部の発表として、11月1日から3日間にわたり政府と議会が緊急避難訓練を実施すると伝えた。公務員や議員らに対する「テロの性質を帯びた脅威」に備える訓練だという。
以上のような動きは、「ロシアが何らかの準備を進めている」ことを示すと、米シンクタンク・欧州政策分析センター(CEPA)の「大西洋横断防衛安全保障プログラム」のスタッフ、クリスタ・ビクスニンズは本誌に語った。
「ロシアがウクライナ戦争で劣勢に追い込まれていることは誰の目にも明らかだ。クレムリンは形勢挽回のために思い切った手段を講じる必要がある」
モスクワなどで防空シェルターが準備されているのは「懸念材料」ではあるが、こうした動きは大々的なニセ情報キャンペーンの一環とも解釈できると、ビクスニンズは言う。戦争を仕掛けたのはプーチンなのに、あたかもロシアが西側に追い詰められた被害者であるかのように見せようという魂胆なのかもしれない。
●ロシア人歴史学者「プーチンはベラルーシから核兵器を撃つだろう」 10/27
終わりの見えないウクライナでの戦争だが、プーチン大統領が予備兵の動員を発令したことは、ロシア衰退の兆しなのだろうか。同国が降伏することは、あるいはプーチンが失墜させられることはあり得るのだろうか? ロシア出身の歴史学者ユーリー・フェリシチンスキーに、スペイン紙「エル・パイス」が取材した。
クリミア侵攻は「誤りを正す計画の始まり」だった
ユーリー・フェリシチンスキー(1956年、モスクワ生まれ)は、1978年からアメリカに拠点を置く歴史学者だ。ロシアの秘密情報活動の研究を専門としている。
2002年には、アレクサンドル・リトビネンコと共著で『ロシア闇の戦争―プーチンと秘密警察の恐るべきテロ工作を暴く』を出版。公式にはチェチェンのテロリストの犯行とされた1999年の高層アパート爆破事件に、ロシア諜報部の関与が疑われることを明かす一冊だ。著者たちによれば、事件の真の狙いは低迷していたプーチン大統領の支持率を引き上げることだったという。本書の出版から4年後、リトビネンコはロンドンで毒殺された。
2014年にロシアがクリミアに侵攻した際、プーチンは地政学上の野望を叶えたと多くの人が信じた──フェリシチンスキーはそう指摘する。だが実際には、それは(プーチンの考えでは)ソ連の崩壊を招いた「誤り」を正すための野心的な計画のはじまりにすぎなかったという。
歴史学者マイケル・スタンチェフとの共著『ウクライナを撃砕──ロシアによるテロの復活と第三次世界大戦の脅威』(未邦訳)では、ロシアとウクライナの戦争の鍵となるポイントを取り上げている。以下のインタビューは8月初頭、ニューヨークで実施されたものだが、9月末にメールで追加取材し、内容を更新した。
フェリシチンスキーはよく笑顔を見せる温かな人柄で、データを重視する学者だ。
ベラルーシは「核の発射台」
──プーチンが予備兵の動員を発令したことで、多くのロシア人が国外に脱出しようとしています。これはロシア衰退の決定的な兆しなのでしょうか。
強制的な動員によってプーチンは「新生ソ連」を第三次世界大戦に引き込もうとしています。富裕層はとっくに国外に脱出していますよ。賢い人たちは2月に脱出していますので、今度は素早く動ける人たちの番です。国境はいまこの瞬間にも閉鎖されていっています。
──いまの戦争は、ウクライナに有利な方向へ向かう転換点を迎えたのでしょうか。
ウクライナがこの戦争に負けることは決してありません。問題は、勝つこともできないことです。西側から供与された武器でロシアやベラルーシの領土を攻撃してはならないという、西側からの大きな制約を受けていますから。このような条件のもとで戦争に勝つのは不可能です。NATOができるだけ早く、ウクライナが必要とする方法で武器を使えるようにすることを期待しましょう。
──ロシアが降伏する可能性は?
ロシアが主権国家とも認めていない“東欧の小国”ウクライナに、自分たちが負けているのを認めることは決してありません。もしこの戦争が「ロシア対NATO」という形に発展した場合、ロシアは防衛のために核兵器を使うことを迫られるでしょう。けれども自国の領土から核兵器を発射することはありません。NATOの報復を招きますから。
──核の脅威はどれくらい現実的なのでしょう。
1994年に調印されたブダペスト覚書に従い、ベラルーシはウクライナ同様、保有していた核兵器をすべてロシアに移転しました。プーチンはクリミアのようにベラルーシに侵攻することもできましたが、いまもその領土の独立を尊重しているのは、核攻撃をするときにはベラルーシを発射台にしたいと考えているからです。そうすれば西側の報復はロシアではなくベラルーシに向かいます。
もしプーチンが核兵器をベラルーシに移送すれば、そこからウクライナ、ポーランド、リトアニアを攻撃するでしょう。 
この戦争に対する代償はいつ払うことになる?
──状況は、プーチンの当初の狙いとは逆の展開になっているようですが。
NATOは即応部隊の規模を4万人から30万人に増強したばかりです。フィンランドとスウェーデンは(事実上)NATOに加盟しました。各国が軍備を増強しています。ドイツとポーランドは、EUのなかでも最大規模の軍隊を保有することになります……私たちが目にしているのは、ロシアとの直接対決に向けたEUの公然たる準備です。
──プーチンの真の計画は何だったのでしょう。
彼の狙いはウクライナを一気に掌握し、同国とロシアの支配下にあるベラルーシの兵士、合わせて15万人から20万人をロシア軍に統合し、バルカン諸国に進軍することでした。NATOは通常戦争を想定したことはなく、このようにロシア軍の規模が拡大した場合、それに対抗できるだけの兵力を持ちません。だからプーチンは進軍できると思っていたのです。
いま展開している戦争は、ウクライナをめぐる戦争ではありません。もっと大きなものです。プーチンの計画は何一つ変わっていません。
──プーチンを失墜させるという選択肢はないのでしょうか。
もしプーチンがヒトラーやスターリンやフランコのような典型的な独裁者なら、いかなる手段を使ってでも失墜させようということになり、状況は変わるでしょう。けれどもプーチンはこのケースに当てはまりません。ロシア連邦では、治安機関が国家と軍部を統制しています。
──ロシア人は強いリーダーを好むとよく言われますが、そうなのでしょうか。
あらゆる文明国のなかで、ロシアは唯一「国家の利益」が個人のそれより重視されている国です。
欧米とロシアの違いを理解するための鍵がいくつかあります。1つ目は、「国家の利益」にとにかくこだわること。2つ目は、ロシアでよく言われるように「尊敬されるには、恐れられなければならない」こと。これは極めてロシア的な感覚で、欧米で通用する国はありません。欧米では、尊敬と恐れの間につながりが存在しませんから。
──独裁者に対する畏怖の念は根強いのでしょうか。
ロシアは1991年から2000年までの大変短い期間、欧州的な民主国家になろうと試みました。ブレジネフは決して真の意味で独裁者だったことはありません。それはプーチンも同様です。けれども国家が何よりも重要だとする感覚は根強く存在します。そのためプーチンが「これはロシアのためにやっているのだ」といえば、多くの人が賛同するのです。アメリカでは、制御できそうにないものは制御しませんよね。そのような政治的思想が存在します。ロシアは逆なのです。
──プーチンの前に広がる短期的な展望とは?
大規模な戦争をはじめない限り、プーチンの地位は安泰でしょう。ただしはじめれば終わりです。プーチン政権、そしてロシア連邦は終わります。問題は、この状況に対する代償を、私たちはいつ、そしてどれくらい払うことになるかです。
プーチンが2036年まで大統領であり続けることを忘れてはなりません。
●ロシア軍 核兵器搭載可能なミサイルなど使った軍事演習を開始  10/27
ウクライナ情勢の緊張が続く中、ロシア軍は核兵器の搭載が可能なミサイルなどを使った軍事演習を開始したと発表していて、欧米側はロシア軍の動きを注視しているとみられます。
ロシア大統領府は核戦力を運用する部隊による大規模な軍事演習を開始したと発表し、26日、ロシア北部の基地から大陸間弾道ミサイル「ヤルス」などを発射した映像を公開しました。
ショイグ国防相はクレムリンで指揮をとったプーチン大統領に対し「敵の核攻撃に対する報復として、大規模な核攻撃を含む演習が行われている」と報告しました。
こうした大規模な演習は、ロシア語で雷を意味する「グロム」と呼ばれ、定期的に行われているものですが、ロシア軍のウクライナ侵攻開始以後、実施されるのは初めてで、欧米側はロシア軍の動きを注視しているとみられます。
一方プーチン大統領は、軍などの部隊に必要な物資を調達するための調整会議を25日に開き、必要な支援を充実させるため中央政府と地方による連携が重要だと強調しました。
また、プーチン政権はロシア国内の自治体の権限を強化しています。
これについてイギリス国防省は27日「国民の批判を国の指導者からそらすことを意図している可能性が高い」として、戦時体制に移行する動きに対する国民からの批判をかわすねらいもあると分析しています。
●狂ったプーチン、軍事侵攻の目的は「非ナチ化」から「悪魔祓い」に 10/27
ロシア正教会はこのほど、同国のウラジーミル・プーチン大統領を、悪魔祓いをする「首席エクソシスト」に任命した。
ロシア政府は、ウクライナへの軍事侵攻の目標を「再定義」しようとしているようだ。2月24日に「特別軍事作戦」としてウクライナへの侵攻を開始した時、プーチンはその目標をウクライナの「非ナチ化」だと述べていた。だがロシア政府の最高意思決定機関である安全保障会議は今、それを「脱サタン化」という言葉にすり変えつつある。
安全保障会議のアレクセイ・パブロフ書記補佐は、ウクライナ市民はロシア正教の価値観を捨てたと批判。ウクライナには「何百もの宗派」があると述べ、ウクライナの「脱サタン化」を呼びかけている。
ロシア国営のタス通信によると、パブロフは「ウクライナの脱サタン化を実行する上で、特別軍事作戦の継続がこれまで以上に差し迫って必要だと確信している」と述べた。「ウクライナ政府はインターネット上の情報操作やサイコテクノロジー(心理操作)を使って、ウクライナを主権国家から全体主義の急進宗教に変えた」
パブロフはさらに、ウクライナには「特定の目標に向けて活動を活発化させている、何百もの宗派がある」と主張。とりわけ懸念されるのが、「アメリカで正式に登録されている宗教の一つ」で「ウクライナ全域に広まっている」疑いがある「サタン教会」だという。
西側諸国は「悪魔崇拝」
パブロフは、「ロシア人を殺せという呼びかけ」は「サタニズム(悪魔崇拝主義)」の兆候であり、ウクライナではこれが国家レベルで受け入れられていると主張。ウクライナ政府は市民に対して、ロシア正教の価値観を捨てるよう強要し、市民の考え方を「再設定」して何百年も続く伝統を放棄させ、ロシア正教やイスラム教、ユダヤ教の信仰に基づく真の価値観を禁止しようと画策していると述べた。
プーチンは9月、西側諸国が「茶番」と批判した住民投票を経てウクライナの4州を一方的に併合した際、西側諸国は「純然たるサタニズム(悪魔崇拝)」を推し進めていると非難した。
「西側諸国の独裁エリート層は、西側諸国の国民を含め、あらゆる社会を狙っている。これは全ての人への挑戦だ」とプーチンは述べた。「このような人間の完全否定、信仰と伝統的な価値観の否定、自由の抑圧は、純然たるサタニズム(悪魔崇拝)の特徴を帯びている」
これ以後、「サタニズム」という言葉はロシア国営テレビでさらに頻繁に使われるようになり、プーチンに忠誠を誓うチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長は、ウクライナでの戦闘を「サタニズムに対する聖戦」と称した。
こうしたなか、地元メディアによればロシア正教会トップのキリル総主教は25日、プーチンを「反キリストを掲げる者に立ち向かう闘士」や「首席エクソシスト」と称し、プーチンはグローバリズムと戦っており、「世界的な権力を主張する者は、世界の終わりを招くことになるだろう」と述べた。
総主教はまた、プーチンがウクライナ戦争のために予備役を動員する決定を下したことについて、ロシア人は死を恐れてはならないと主張。9月22日にモスクワのザチャチエフスキー修道院で行った説教の中で、「勇敢に軍での使命を果たしなさい。国のために命を捧げる者は、神の国と栄光と永遠の命の中で、神と共にあることを覚えておきなさい」と述べた。
2月にプーチンがウクライナへの軍事侵攻を決定した時から、総主教はその決定を精神的・イデオロギー的な理由から正当化してきた。
●プーチン大統領に引導も…ロシア軍内紛、民間軍事会社が台頭 10/27
ウクライナ侵攻をめぐりロシアの軍事組織内部で亀裂が深まっている。プーチン大統領の側近で、民間軍事会社「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏が、プーチン氏に直接、軍の失敗を指摘した。政権の内紛でパワーバランスが崩れた場合、「プーチン氏に引導が渡される可能性もある」と専門家は指摘する。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)によると、プリゴジン氏は、ロシア国防省がワグネルの傭兵(ようへい)部隊に頼る一方、必要な支援をしていないとプーチン氏に直訴した。軍事的劣勢を背景に「プリゴジン氏が影響力を強めたことや、国防省幹部の指導力の不安定さを浮き彫りにした」と同紙は指摘した。
プリゴジン氏は食品関連企業を経営するオリガルヒ(新興財閥)の1人で、9月に初めてワグネルの創設者だと認めた。
プリゴジン氏はチェチェン共和国のカディロフ首長による軍指導部批判に同調したこともある。ショイグ国防相の解任論もくすぶり、国防省の立場は厳しくなっている。
前線でもワグネルの影響力は強まっている。ロシア軍の兵力不足を補うため、受刑者を兵士として集めたり、東部ドネツク州の戦略的要衝バフムトには同社の傭兵が投入されているという。
南部ルガンスク州でも「ワグネル線」「プリゴジン線」と呼ばれる防御線を構築していると露独立系メディア「メドゥーザ」が23日、報じた。
南部へルソン州の州都へルソン市では、ロシア軍が撤退するとみられていたが、ロイター通信によると、ウクライナ政府高官は「最も激しい戦闘」を警戒している。
筑波大の中村逸郎名誉教授は「プリゴジン氏は、プーチン氏に直接グチを漏らせるまでに権力を蓄え、実質的に国防相か、それ以上の立場になりつつある。強硬派の意見は前線に反映され、攻撃はさらに非道さを増すだろう」とみる。
プーチン氏の盟友とされるプリゴジン氏だが、両者の関係も変わってくるかもしれない。中村氏は「プリゴジン氏が目指しているのはウクライナの『焦土化』だ。一連の要求に応えられない場合、プーチン氏に引導を渡す可能性もある」と分析した。
●モスクワ中心部で内乱鎮圧演習、プーチン氏は政変警戒… 10/27
ロシアのプーチン大統領ら要人の安全を守る露連邦警護局は25〜27日、モスクワ中心部の大統領府や上下両院などで内乱鎮圧を想定した定期演習を行った。プーチン氏は、米欧がロシアでの政変を画策していると主張しており、警戒感を一段と強めている。
「(民主化運動を指す)『カラー革命』のシナリオは終わっていない」。プーチン氏は26日、旧ソ連構成国の情報機関トップらとのオンライン会合で持論を展開した。連邦警護局の発表によると、テロの脅威封じ込めや容疑者拘束などを訓練した。クーデターへの対処も含まれるとみられ、SNSでは装甲車両などが出動する動画が拡散している。
ロシアのウクライナ侵略が長期化し、国内の治安は不安定になっている。26日未明には、モスクワ中心部にある政権与党「統一ロシア」本部の窓に火炎瓶が投げ込まれた。ウクライナに隣接するベルゴロド州では24日に鉄道火災があり、英国防省は26日、露国内の反戦組織の犯行と指摘した。
政権内部の力関係にも変化が生じている。米紙ワシントン・ポストは25日、複数の米当局者の話として、ウクライナに戦闘員を派遣している露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏がプーチン氏に直接、セルゲイ・ショイグ国防相らへの不満をぶつけたと報じた。プリゴジン氏の影響力が急速に増しているとみられている。
●プーチン氏恩師の娘捜査 「恐喝」容疑、ロシア出国 10/27
ロシア当局は26日、プーチン大統領の大学時代の恩師の娘でテレビ司会者のクセニア・サプチャクさん(40)に対し、恐喝容疑で捜査に着手し、モスクワ郊外の自宅を捜索した。現地メディアが一斉に伝えた。ウクライナ侵攻で強まる報道規制の一環とみられる。サプチャクさんは直前に出国した。
サプチャクさんは、自身が創設した独立系メディアの幹部が先に拘束されており、通信アプリで「(容疑を)全く信じない」と反発した。当局は、国営防衛企業ロステクのチェメゾフ最高経営責任者が恐喝されたと主張している。
サプチャクさんは、父の故アナトリー・サプチャク元サンクトペテルブルク市長の招きで政界入りしたプーチン氏と、子供時代から交流。ジャーナリストとして大統領の内外記者会見で質問した際には、プーチン氏から愛称「クスーシャ」と呼び掛けられ、親しい関係をうかがわせていた。
一方で反体制派の顔も持ち、2018年の大統領選にプーチン氏の対立候補として出馬した。今回の捜査は、反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏に匹敵する政治弾圧の可能性もある。
サプチャクさんは隣国ベラルーシを経由し、欧州連合(EU)加盟国でバルト3国のリトアニアへ陸路で逃れたとされる。25日にアラブ首長国連邦(UAE)行き、26日にトルコ行きの航空券を相次いで購入しており、ロシア当局がモスクワの空港で警戒する中での周到な出国だった。
●ロシアとウクライナを相次いで訪問…ギニアビサウ大統領「会談の準備が・・・」 10/27
ロシアとウクライナを相次いで訪問したアフリカ・ギニアビサウのエンバロ大統領が26日、プーチン大統領のメッセージをゼレンスキー大統領に伝えたと明らかにしました。
ロシアメディアによりますとギニアビサウのエンバロ大統領はゼレンスキー大統領との会談後の記者会見で、「プーチン大統領は私に会談の準備ができていることを伝えて欲しいと言った」と明らかにしました。
プーチン大統領の発言についてゼレンスキー大統領は、「ロシア国内とロシアの友好国に向けた計画的な発言でしかない」と述べたということです。
エンバロ大統領は前日の26日にモスクワでプーチン大統領と会談し、ウクライナとの仲介役を申し出たということです。

 

●プーチン氏、西側批判を3時間展開 ウクライナ戦争に後悔「なし」 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、講演会で3時間半余りにわたって西側批判を展開し、世界情勢における欧米の支配は終わりを迎えつつあるとした。また、ウクライナ戦争に後悔はないとし、「特別軍事作戦」は依然として目的を達成しつつあると述べた。
プーチン氏は、ロシア専門家との会合「バルダイ・ディスカッション・クラブ」の質疑応答に、自信に満ちリラックスした様子で応対。以前に健康状態について質問を受けた時に見せた、堅く不安気な様子とは対照的だった。
この1年で何か失望したことはあったかとの質問に対し、プーチン氏は「ない」とだけ答えたが、ウクライナでの損失は常に念頭にあるとも述べた。
冒頭の45分間の演説では、ウクライナについてほとんど触れず、代わりに「西側の敵」に対する従来からの批判を繰り返した。
世界は第二次世界大戦以来、最も危険な10年に直面していると述べ、衰退している西側諸国がロシアに対して核による脅迫を行っているとした。
しかしその後、ウクライナ戦争に直接話が及ぶ段になっても、ここ数カ月のロシア軍の撤退や部分動員令については全く触れなかった。司会者が計画通り進んでいるのかという国民の懸念に遠回しに言及した際には、その目的は変わっていないと答えた。
その上でプーチン氏は、ロシアがウクライナに軍事的に介入していなければ、ドンバス地方は単独で存続できなかったとの考えを示し、ロシアによるウクライナ東部・南部4州の「併合」を擁護した。
英国のクレバリー外相はこれに対し「今日のプーチン氏のメッセージは、不明確で真実味がなく、見るべきものもない。われわれのメッセージははっきりしている。隣国を平気で侵略してはならないということだ」とした。
米ホワイトハウスのジャンピエール報道官も記者会見で、プーチン氏の発言に目新しい点はなく、戦略的目標の変化を示唆するものではないとの認識を示した。
核兵器めぐる緊張
プーチン氏はトラス前英首相が状況次第では英国の核抑止力を行使する用意があると発言したことを引き合いに出し、核の緊張をあおったのは西側諸国だと主張。さらに、放射性物質をまき散らすことを目的とした「汚い爆弾」をウクライナが使用する可能性があるとの見解を改めて示した上で、ウクライナ側はこのようなロシアの見解はロシア自身が「汚い爆弾」を使用する計画があることを意味すると主張しているが、それは誤りだと強調した。
ロシアは今週、核戦力運用部隊による定例の大規模演習を実施している。これについて米国のオースティン国防長官は27日、現時点では、実際の配備のための偽装である可能性を示すものはないと述べた。
●プーチン氏が西側批判3時間半 ウクライナ戦争に後悔なし 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、講演会で3時間半余りにわたって西側批判を展開し、世界情勢における欧米の支配は終わりを迎えつつあるとした。また、ウクライナ戦争に後悔はないとし、「特別軍事作戦」は依然として目的を達成しつつあると述べた。
ロシア プーチン大統領「いわゆる西側諸国は世界の支配というゲームに賭けている。だがそのゲームは間違いなく危険で血にまみれ、不潔なものだ。他国や民族の主権、その個性や独自性を否定し、他国の利益を無視するものだ」
聴衆の質問に応じ、称賛を受けたプーチン氏はウクライナについて触れる代わりに西側の非難を展開。プーチン氏は自信にあふれ、リラックスした様子だった。侵攻初期に健康状態について質問を受けた際、表情が硬く不安げな様子で応じた時とは対照的だった。
プーチン氏は西側の指導者が世界中で「伝統的な価値」を損なっていると批判。さらに予測不能かつ危険な未来が待っていると指摘した。
「私たちは歴史的なフロンティアに立っている。この先おそらく第2次大戦後、最も危険で予測不可能で、同時に重要な10年になるだろう」
プーチン氏は、ウクライナでロシア軍がここ数カ月敗北を重ねていることや、予備役の一部動員を発表し、これを逃れるため多くの国民が国外へ脱出していることなどには言及しなかった。
一方ウクライナではこの数日、地上戦が減速しているようだ。ウクライナ当局者は南部へルソンでの反攻は悪天候と厳しい地形に妨げられていると述べた。
ロシアは支配地域の民間人に避難を指示する一方、ウクライナ側によると新たに動員した新兵をこの地域に送り込んでいるという。
プーチン氏は27日、ウクライナが放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」の使用を計画しているとするロシア側の主張を繰り返した。欧米は明白な虚偽だと反論している。
ウクライナ側は、冬を前に発電所などのインフラを無人機やミサイルで破壊する作戦を進めているとしてロシアを非難した。
ロシア外務省高官は今週、西側の商業衛星がウクライナ戦争に関与していると判断すれば、攻撃の標的になりうると警告。これに対し米政府は27日、米国のいかなるインフラへの攻撃にも対応するとの意向を示した。
●プーチン氏、欧米に責任転嫁 ウクライナ侵攻で中国支持狙う 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、ウクライナ侵攻を巡って対立する欧米を「ウクライナで戦争をあおり、台湾周辺で挑発を行い、世界の食料・エネルギー市場を不安定化させている」と非難した。戦争に伴う混乱の責任を欧米に転嫁する一方、数少ない友好国の中国に寄り添った。内外のロシア専門家を集めてモスクワで開かれた「バルダイ会議」で演説した。
質疑応答も含め、会議では「一つの中国」原則や8月のペロシ米下院議長訪台に触れ、3期目入りした習近平政権を擁護する姿勢が目立った。侵攻をきっかけとした国際的な孤立を解消すべく、中国の支持を取り付ける狙いがありそうだ。
●中露外相が電話会談、習近平3期目政権下でもプーチン政権と協力推進  10/28
王毅国務委員兼外相とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が27日、電話会談した。中国外務省によると、王氏は「ロシアとあらゆるレベルで交流を深めたい」と述べ、23日に発足した 習近平シージンピン 3期目政権下でもプーチン露政権との協力を推進する意向を示した。
王氏はまた、ウクライナ侵略を続けるロシアや中国と対立する米国を念頭に、「中露の前進を阻止しようとする試みは決して成功しない」と主張した。
露外務省によると両氏は、両国関係について「地政学的な不安定さと混乱の中でも力強く発展し続けている」と評価した。ラブロフ氏はウクライナ情勢を巡り、「ロシアの立場を支持する中国に感謝する」と述べた。
●中央アジアとEU 初の首脳級会談 経済で連携強めるねらいか  10/28
ロシアが勢力圏とみなす中央アジアの5か国とEU=ヨーロッパ連合が初めて首脳級の会談を行いました。ロシアがウクライナへの侵攻を続ける中、一部の国がロシアと一線を画す姿勢を示す中央アジアは、EUと経済面での連携を強めるねらいがあるとみられます。
カザフスタン大統領府は27日、首都アスタナで中央アジア5か国とEUが初めて首脳級の会談を行い、それぞれの国の主権や領土の一体性を尊重する原則を支持することで一致したと発表しました。
これに先立ち、カザフスタンのトカエフ大統領はEUのミシェル大統領と首脳会談を行い「関係はさらに強固になっている」と強調しました。
これに対しミシェル大統領は「EUは民主主義を強化するための改革を支援する。人権や自由の尊重はわれわれの協力にとって重要な要素だ」と述べ、EUが重視する価値観を共有することに期待を示しました。
ロシアが勢力圏とみなす中央アジアをめぐっては、このところカザフスタンなど一部の国がロシアと一線を画す姿勢を示していて、EUと貿易などでの連携を強めるねらいがあるとみられます。
一方、EUとしても、エネルギーについてロシアに依存し、現在、対応を迫られていることを教訓に、中国に依存している資源の調達先を多角化しようと中央アジアとの関係を強化したい考えです。
●プーチン氏「汚い爆弾使わず」 核使用は明言避ける 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、モスクワで開かれた各国のロシア研究者らが参加する国際会議に出席した。質疑応答でプーチン氏は、ロシアが相手の攻撃を偽装する「偽旗作戦」を用い、放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」をウクライナ国内で使用する可能性が指摘されていることについて「軍事的にも政治的にも意味がない」とし、ロシアには汚い爆弾を使う計画はないと主張した。
一方、核兵器使用の可能性について、プーチン氏は「どのような場合にロシアが核を使用できるかは軍事ドクトリンに書かれている」とし、明言を避けた。
プーチン氏は「汚い爆弾の使用をウクライナが計画している」とするロシアの主張に関し、「どこでどう使用するかは露情報機関がつかんでいる」と主張。自身がショイグ国防相らに各国への通達を命じたと明らかにした。また、ウクライナが汚い爆弾を爆発させ、「ロシアが核攻撃した」と非難しようとしていると述べた上で、「それ(汚い爆弾の使用)は軍事的にも政治的にも意味がない。しかし、(ウクライナは)それをしている」と主張した。
汚い爆弾に関し、ウクライナはロシアの主張を否定。米欧諸国もロシアの主張には根拠がなく、自身が使用する口実とする思惑ではないかと警戒している。
プーチン氏はまた、「ウクライナでの軍事作戦の目的をなお多くの人が理解できていない」と指摘した司会者に対し、「第1は東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)の住民保護だ」と説明。その上で「その先に何があるかは、詳細に話すべき時ではないだろう」とはぐらかした。
プーチン氏の最終目標に関し、米シンクタンク「戦争研究所」は、ウクライナに親露派政権を樹立し、ロシアの支配下に置くことだと一貫して分析している。
プーチン氏は質疑応答に先立つ演説で、「東西冷戦後、米欧側は自身の価値観を他国に押し付けて世界を一極的に支配しようと試み、ロシアや中国など別の価値観を持つ国家を従わせようとしてきた」と持説を展開。米欧がロシアの弱体化を狙ってウクライナを隷属させたとも主張した。その上で現代は、アジアやアフリカ、中東諸国などの台頭で「米欧一極集中の世界秩序」から「多極世界」への移行期にあるとし、ロシアは「米欧一極支配」の打破に向けて先陣を切っているとの認識を示した。
●ロシアのみがウクライナ領土の保全を保証可能=プーチン氏 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、ウクライナの領土保全を保証できるのはロシアだけだと述べ、紛争を引き起こしたのは北大西洋条約機構(NATO)と西側諸国だと改めて主張した。
プーチン氏は、ロシアが2月24日にウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始する前に、西側諸国がロシアが提案した安全保障案に合意しなかったと指摘。ロシアの目的は、ウクライナ東部ドンバス地方の住民を救うことだけだったと述べた。
その上で、ロシアがウクライナに軍事的に介入していなければ、ドンバス地方は単独で存続できなかったとの考えを示し、ロシアによるウクライナ東部・南部4州の「併合」を擁護した。
また、2014年にウクライナの首都キーウ(キエフ)で行われた抗議活動を受け親ロシアのヤヌコビッチ政権が崩壊したことが直接、現在の紛争につながっていると指摘。ウクライナの「強硬な愛国主義者」が「最後の兵士が倒れるまで」ロシアと戦おうとしているとし、ウクライナ人兵士を犠牲にしていると非難した。
●中ロ関係は「前例のない水準」、習主席は「親友」=プーチン氏 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、ロシアと中国の関係は「前例のない水準」にあるとしたほか、中国の習近平国家主席を「親友」と呼んだ。
またロシアの外務省によると、ロシアのラブロフ外相は27日、中国の王毅外相と電話会談し、ウクライナ紛争解決を巡るロシアの立場に対する中国の指示に感謝を示したという。
一方、中国外務省によると、王毅外相は中国にはあらゆる面でロシアとの関係を深める意思があり、両国の発展を妨げるいかなる試みも成功しないと主張。中国とロシアが発展と活性化を実現させるのは正当な権利とした。
●ロシア大統領、核先制使用を否定 「軍事的に意味ない」と明言 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、「われわれが自分から核兵器を使うと言ったことは一度もない」と述べ、ロシアは核兵器を先制使用しないとの立場を示した。侵攻したウクライナで核兵器を使う意味は「政治的にも、軍事的にもない」と明言した。モスクワで開かれた内外有識者らの討論フォーラム「ワルダイ会議」で述べた。
プーチン氏はこれまで、領土の一体性や主権が脅かされればあらゆる対抗手段を使うと繰り返し、ロシアが核兵器を使う恐れが指摘されてきた。
プーチン氏の発言には、中国やインドなど欧米と一線を画す友好国の間でも拡大する核戦争への懸念を沈静化する狙いがあるとみられる。
●プーチン氏、欧米に責任転嫁 ウクライナ侵攻で中国支持狙う 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、ウクライナ侵攻を巡って対立する欧米を「ウクライナで戦争をあおり、台湾周辺で挑発を行い、世界の食料・エネルギー市場を不安定化させている」と非難した。戦争に伴う混乱の責任を欧米に転嫁する一方、数少ない友好国の中国に寄り添った。内外のロシア専門家を集めてモスクワで開かれた「バルダイ会議」で演説した。
質疑応答も含め、会議では「一つの中国」原則や8月のペロシ米下院議長訪台に触れ、3期目入りした習近平政権を擁護する姿勢が目立った。侵攻をきっかけとした国際的な孤立を解消すべく、中国の支持を取り付ける狙いがありそうだ。 
●ロシア、インフラ破壊でウクライナを「水不足」攻撃 10/28
ウクライナが南部で確保し続けている主要都市ミコライウは造船産業の拠点で人口は50万人に上るが、半年前から新鮮な水道水を市民に供給できなくなった。ウクライナ側の説明によると、ロシア軍がヘルソン州近くにある同市の取水施設を制圧し、閉鎖したことが原因だ。
路面電車の修理車両に積まれて市の中心部に運ばれてきた給水タンクから水をもらおうと待ち構えていた市民の1人、スベタさんは「彼ら(ロシア軍)がわれわれを大量虐殺しようとしている」と憤りの声を上げる。
スベタさんを含め、市の人口の半数強に当たる22万人は、しばしばロシア軍の砲撃を受けるこの都市に今も残っている。人々にとって水道の遮断は、プーチン大統領が開始したウクライナへの戦争が、前線だけでなく民間インフラにまで及んでいることを確認させられる苦い現実だ。
ロシアは過去数週間で、ミサイルやドローン(無人機)を駆使したウクライナのエネルギー施設などへの攻撃を強化。ウクライナの大部分で電力供給がままならなくなり、攻撃に伴う死者も発生したほか、浄水が確保できない場所が出てきた。
ただ、ミコライウの水問題は他の地域よりもずっと前から続いている。同市の水道管理責任者ボリス・ディデンコ氏はロイターに、ロシア軍はウクライナが2014年、クリミア半島への給水を止めた仕返しとしてミコライウの取水施設を閉鎖したとの見方を示した。
禁じ手
ミコライウの市民は毎日のように、ポリタンクを手に抱えたり、カートに乗せて市内各地の給水所に向かう。スベタさんの後ろに並んでいたヤロスラフさんは「これがわれわれの今の生活だ。何の楽しみもないまま1日が過ぎ、次の日を迎える」と嘆いた。78歳のヤロスラフさんはかつて市内の造船所で働いていた。
世界中の水資源を巡る紛争の影響を文書にまとめている米カリフォルニア州のシンクタンク、パシフィック・インスティテュートのピーター・グライク上席研究員は、ロシアが2月のウクライナ侵攻以降、水を武器として利用してきたと説明する。
グライク氏は電子メールによるやり取りの中で、「ウクライナの水に関するインフラはダムから浄水所、下水処理施設までロシアが幅広く標的にしている」と記した。同氏によると、国際法で民間インフラへの攻撃は戦争犯罪と規定される。
グライク氏らの研究チームが分析したこところでは、戦争が始まって最初の3カ月だけで、ウクライナの給水施設が破壊されたり、水道用と水力発電用のダムが攻撃されたりした事例は60件余りに上る。
ロシアはこれまでに複数の発電所を攻撃対象としたことを認めつつ、民間人の犠牲を避ける万全の努力をしていると主張している。しかし国連によると、確認されただけで民間人死者が1万4000人を超え、実際はこれよりずっと多い公算が大きいという。
一方、パシフィック・インスティテュートのデータベースに基づくと、ウクライナ側も水を時折武器にしてきており、ロシアが14年にクリミアを自国領土に組み入れると給水を止めたのはその一例だ。
グライク氏は、ウクライナ政府に給水を維持する法的義務はないものの、人道的な見地でそうするのが妥当だったと言えるのではないかとみている。
またウクライナ軍は2月、ロシアのキーウ攻撃を遅滞化させる目的でドニエプル川のダムから放水を行うという局面もあった。
それでもミコライウのディデンコ氏はロイターに「他の地域の問題はその地域だけで解決できる性質のものだ。われわれだけがこれほど大規模な災厄に見舞われている」と訴えた。
水がなくなって1カ月が経過した後、背に腹は代えられなくなった市当局は、下水管を清掃し、トイレの使用や洗い物を市民ができるようにするために、南ブーフ川河口から塩分を含む水を取り込むという「禁じ手」に踏み切った。この水は強い刺激臭があり、せっけんが泡立ちにくく、すすぐのも難しくなる。最悪なのは、市内の水道管で腐食による破損が起きていることだ。
対症療法
ディデンコ氏の話では、最終的に市内の水道システムを全面的に交換するしかないが、その膨大な費用をミコライウの財政で賄うことはできない。市内の工場は稼働しておらず、人口減少で税収も減っているからだ。
同氏は、取水施設の点検や補修をするために必要な停戦にロシアが応じないと非難し、「まさに破局的だ」と語った。
実際、市内のあちこちの道路では破損した本管から水が漏れ出している様子が見受けられる。ある修理現場にいた責任者は「この3日で5件目の水漏れだ」と話す。
ディデンコ氏は、塩水自体はどうすることもできない以上、できるだけ職員に水道管を修復させ続ける以外選択肢はないと説明。「われわれの仕事は現状を維持し、冬を乗り切ること。それは簡単ではなく、これからもっと問題が出てくるだろう」と警戒している。
●プーチンとの戦争後、自信に満ち強気になるウクライナとの付き合い方 10/28
政治家はさまざまな理由で戦争に関わることを躊躇する。その主な理由の1つは、戦争は一度始まると、それ自体が生命を持つことがあり、また往々にしてそうなるからだ。実際、戦争は紛争を起こした側が達成しようとした結果とは正反対の結果を生むことがある。
ウクライナで起こっていることほどそれが顕著な例はない。ロシアのプーチン大統領が当初から事態を見誤っていた可能性がますます高まっているようだ。実際のところ、プーチンがウクライナに侵攻して成し遂げようとしたことが達成されるどころか、プーチンが防ごうとしたものがほとんどすべて生み出されてしまう可能性が高まっている。
プーチンは2022年2月24日に始まったウクライナ侵攻に至るまで、ロシアとウクライナは1つの民族であり、ウクライナ国民は重武装した招かれざるロシア軍が自国に侵攻して国民を殺害しても、両手を広げて仲間として歓迎するだろうと主張した。ウクライナの独立性という概念は誤ったものだと退けた。
プーチンの主張は歴史的に不正確で、2月の時点では単なる誤りだったばかりか(実際には現在、ロシア、ウクライナ、クリミア、ベラルーシ、ポーランド、モルドバ、リトアニア、ラトビア、その他として知られているこの地域の複雑な歴史は約1000年前にさかのぼり、数世紀にわたる国境の移動、同盟の変化、戦争、条約、征服と追放がともなう)、戦争が行われている現在、ウクライナの独立アイデンティティは確かに存在している。プーチンにとって、その責任は自分自身にある。なぜなら、ウクライナの人々を現在のように団結させたのは主にプーチンの戦争だからだ。
ロシアが第二次世界大戦で「大祖国戦争」と称して兵士の士気を高めたように、ウクライナもいま「祖国戦争」を戦っている。この比較的小さな国は、自国よりはるかに大きく、軍事的にも強力な隣国ロシアと戦うために団結した。確かに、ウクライナ人は多くの国から物資援助を受けているが、彼らはほぼ完全に自分たちの手、自国の兵士で、内輪もめを捨てて1つの統一されたウクライナ軍を形成して戦っている。
戦争はまだ続くだろう。また、大量破壊兵器を使用して事態がさらに悪化する恐れもある。しかし、プーチンが常に望んできたような、ロシアに併合されないまでも軍事力を失ったウクライナを手に入れる可能性はますます低くなっているようだ。戦争が続くほど、意図したものとは逆の結果になる可能性が高くなり、西側諸国はそれを見越した計画を立てる必要がある。
戦後のウクライナの位置づけ
実際、現在のような傾向が続けば、ウクライナはロシアをも打ち負かすことのできる欧州で最も強力な軍を持ち、戦闘の試練に耐えて異常に鍛えられた軍隊になっているかもしれない。そのような予想外の現実を考えた時、戦後のウクライナの位置づけはどうなるのだろうか。
軍事政策や外交政策の専門家が戦争を終わらせる可能性のある方法を議論するとき、通常、ロシアが2014年以降に奪った領土すべてを含めてウクライナから完全撤退するか、クリミアなど奪い合っている地域で正当な住民投票を実施する、あるいはロシアが撤退する代わりにウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないことに同意するという何らかの取り決めといったコンセプトを議論する。
いずれも論理的だが、戦場の現実を考えるとこれらの提案の一部または全部は非現実的かもしれない。しかし、このような可能性を議論をするとき、専門家はウクライナ軍とそのウクライナ国民の現在のパワーと断固たる決意を否定しているように見える。現実問題としては、西側諸国やロシアの外交官が望むような未来ではなく、今のところ紛れもない戦場の現実を考えれば、ウクライナ人が実際に受け入れるような未来が待っているかもしれない。この紛争の帰結がどういうものになるか予測は難しいが、少なくとも現時点では、ロシアが侵攻する直前の現状に戻すだけという交渉結果をウクライナ人が受け入れる可能性は極めて低い。「戦利品は勝者のもの」ということわざどおりだ。
ウクライナ人の勇敢さとウクライナの指導者の勇気に世界が釘づけになる一方で、独立していた30年近い間、同国は世界の模範となるような国にはならなかった。腐敗で有名な同国はハンター・バイデンとの怪しい取引に絡んだ。プーチンのいう「現在のウクライナ政府はネオナチだ」という主張はほとんど正確ではないようだが(もちろんウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領はユダヤ人だ)、ウクライナ社会にも軍隊(アゾフ大隊など)にもネオナチ要素があることは間違いない。彼らはどうなるのか。ウクライナのユダヤ系大統領という絶大な威光によって彼らは衰退してしまうのか、それともウクライナの新たな力によって鼓舞され、同国のみならず欧州全域で自己主張と人種差別的イデオロギーの拡大を試みるのだろうか。
関係が劇的にウクライナ有利に変化
おそらく最も重要なことあ、西側諸国の外交官や政治家は戦前の自国とウクライナの力関係がどうであれ、プーチンの侵攻によって関係が劇的にウクライナ有利に変化したことを認識しなければならない。プーチンの非人道的な砲撃によって、ウクライナのインフラが破壊されているのは確かだ。その修復には何年も何十億ドル(何千億円)もかかるだろうが、それは時間をかければできる。そう簡単に修復されないのは、ウクライナがロシアの隣に存在し、ロシアの許容範囲で独立を保ってきた小さく、危機に瀕し、そしてある程度孤立した国だったという理解だろう。それはもはや真実ではない。
ここで浮かび上がる疑問は、戦後のウクライナは1948年のアラブ・イスラエル戦争(およびその後の戦争)で隣国と戦い、人口と経済力に不釣り合いな軍事力を持ち、主に親西側の独立国家としての地位を確保したイスラエルのようになるのだろうか、それとも別の何かに進化するのだろうかというものだ。
ウクライナは欧州の穀倉地帯であり、世界の多くの国にとって穀物供給源だ。そして、ソ連時代には年間700億立方メートルあったエネルギー生産量が現在では年間20億立方メートルにまで減少しているものの、ウクライナは1兆300億立方メートルのエネルギー埋蔵量を抱え、ノルウェーに次ぐ欧州第2位のエネルギー生産国だ。
そのウクライナが想像以上に複雑で困難な問題に対処できることを示した今、ウクライナは投資を呼び込む可能性がある。実際、被災し、多くの場合破壊された都市はもちろんのこと、ウクライナのインフラ全般の再建は、ビジネスと政治の両面でインセンティブを見出すかもしれない欧米諸国にとって投資機会となる可能性がある。
つまり、ウクライナの人々は戦争がもたらした惨状から立ち直るために外部からの支援や投資を必要とすることは間違いないが、今や、自分たちの将来の運命を形成するのに他国に頼る必要がないばかりか、自分たちの戦略的地位と軍事力によって、将来を他国と同じように自ら形作ることができると感じているかもしれない。この基本的な事実は、欧州やその他の地域の今後10年を決定するのに影響するかもしれない。我々は今、それが何を意味するのかを考え始めた方が良さそうだ。
●リトアニア シモニテ首相「安全保障 日本と協力したい」  10/28
リトアニアのシモニテ首相がインタビューに応じ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、隣国ロシアからのサイバー攻撃への対策など安全保障について日本と協力していきたいと述べました。
来日中のリトアニアのシモニテ首相は28日、都内でNHKのインタビューに応じ、ウクライナへの軍事侵攻について「ロシアとウクライナだけの問題ではなく、独裁国家が自国の意思を他国に強いることができるかという問題だ」と述べ、旧ソビエトに併合された自国の歴史を踏まえ、ルールに基づく国際秩序を守ることが重要だと訴えました。
リトアニアはことし6月、ウクライナへの軍事侵攻に対する制裁の一環としてリトアニアを通ってロシアの飛び地・カリーニングラードを結ぶロシアの鉄道貨物輸送を制限したところ、政府機関や民間企業がロシアのハッカー集団による大規模なサイバー攻撃にあいました。
シモニテ首相は「われわれは軍事行動や兵器だけでなく、エネルギーやプロパガンダといった脅威について話し合う必要がある」と述べ、情報を盗んだりインフラの停止を狙ったりするサイバー攻撃への対策強化に日本のIT企業が持つ技術を活用するなど、安全保障に関わる幅広い分野で日本との協力を進めていきたいという考えを明らかにしました。
一方、エネルギー価格の高騰への影響については「ロシアは脅しをかけているが、ヨーロッパにはほかの調達先がありこの問題を乗り越えることができる」と述べ、価格高騰への懸念からロシアに安易に譲歩するのではなく、強い態度で臨むべきだと強調しました。
●連 安保理 ロシアの要請で3日連続の緊急会合 欧米各国は非難  10/28
国連の安全保障理事会では、ロシアの要請を受け3日連続で緊急の会合が開かれ、ロシアはウクライナがアメリカの支援を受けて生物兵器を開発していると主張しました。これに対して欧米各国は事実無根だと反発し、ロシアが偽の情報を広めるために会合の開催を要請していると厳しく非難しました。
ロシアはこれまで、ウクライナがアメリカの支援を受けて生物兵器を開発していると繰り返し主張していて、27日にはロシアの要請に基づき安保理の緊急会合が開かれました。
この中でロシアのネベンジャ国連大使は、新たな証拠が見つかったと主張し「ロシアの安全に対する直接的な脅威だ」と述べました。
これに対して国連軍縮局の担当者が「そうした開発計画は把握していない」と報告したほか、アメリカとウクライナも事実無根だと反発し、ほかの欧米各国も証拠がないとロシアを非難しました。
ロシアの要請で安保理の緊急会合が開かれたのは3日連続で、25日にはウクライナが放射性物質をまき散らす、いわゆる「汚い爆弾」を使用する可能性があると主張したほか、26日にはイランから供与された無人機で、ウクライナを攻撃していると欧米から批判されていることに対して、みずからの主張を展開していました。
アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は「ロシアは偽の情報を広めるという唯一の目的で会合を要請している」と述べたほか、イギリスのウッドワード国連大使も「会議の議題は、ロシアの陰謀論で埋め尽くされている。どこまでばかげたことにつきあわなければならないのか」と述べ、ロシアを厳しく非難しました。
●プーチン大統領“核使用”めぐり「意味がない」発言 …真意は? 10/28
ウクライナ情勢です。ロシア軍によるエネルギー施設などへの攻撃が続き、首都キーウ周辺での緊急停電のおそれも出ています。一方、核兵器の使用に関しプーチン大統領が憶測を呼ぶ発言をしています。
日没後の首都キーウ。街灯は消え、道は真っ暗でスマートフォンのライトを頼りに歩く人も。
キーウ州など4つの州では、ロシアによるエネルギー施設への攻撃の影響で計画停電が実施されていますが、キーウ州知事は「緊急停電」となる可能性も指摘。こちらの男性は、停電の時のために水や薬などを準備していました。
そして、暗い街に姿を見せたゼレンスキー大統領が訴えたことは。
ゼレンスキー大統領「我々は暗闇を恐れない。我々にとって最も暗いのは、光のない時ではなく自由のない時だ」
ウクライナ軍は、ロシアとの合同部隊が始動したとされるベラルーシに近い北部の部隊を増強、ベラルーシからイラン製ドローンが10機、飛来してきたとして警戒を強めています。
こちらは東部ドネツク州。ウクライナ側が反転攻勢を続けていて、現地の親ロシア派は“ウクライナ軍の攻撃により、鉄道の駅と石油貯蔵所が破壊された”としています。
一方、プーチン大統領のある発言が注目されています。
プーチン大統領「(核兵器の使用について)我々はそんなことをする必要はない。政治的にも軍事的にも意味がない」
国内外の有識者を集めた会議で、核兵器の使用について「意味が無い」としたプーチン氏。ただ「核兵器が存在するかぎり、使用のリスクは常にある」とも発言。真意は何なのでしょうか。
また、プーチン氏は放射性物質をまき散らす、いわゆる「汚い爆弾」をウクライナが使用する可能性があるとする根拠の乏しい主張を繰り返した上で。
プーチン大統領「ロシアが核攻撃をしたと騒ぐのだろう」
そのロシアや、「野心的に核戦力を拡大している」と警戒を強める中国などの抑止のため、アメリカ・バイデン政権は27日、初めて「核戦略」の指針「核態勢の見直し」を公表。核の戦力を維持していく方針を明らかにしました。
オースティン国防長官「核兵器が存在する限り、我々の核兵器の基本的な役割は、アメリカと同盟国・同志国への核攻撃を抑止すること」
指針では、ロシアのウクライナ侵攻で「現代の紛争での核のリスクが改めて示された」としているほか、中国については「核戦力をアメリカの同盟国に対する軍事的な挑発に活用するおそれがある」と分析しています。
●プーチン氏 “核兵器使用の可能性 積極的に発言したことない”  10/28
ウクライナで軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、核兵器を使用する可能性について「積極的に発言したことはない」と述べました。そのうえで、欧米側がロシアによる核兵器の使用の可能性をあおることで、ロシアと友好国などとの関係を悪化させようとしていると批判しました。
ロシアのプーチン大統領は27日、首都モスクワで開かれている国際情勢をテーマにした会議で演説しました。
このなかでプーチン大統領は「欧米側はウクライナで戦争をたきつけ台湾周辺で挑発を行い、世界の食料とエネルギー市場の不安定化をもたらしている」と述べ、欧米側が国際社会を不安定にしていると主張しました。
このあとプーチン大統領は出席者からの質問に応じ、欧米側がロシアが核兵器を使用するのではないかと警戒していることに関して「核兵器が存在するかぎり、その使用の危険性は常にある」と述べました。
一方で「ロシアは核兵器を使用する可能性について積極的に発言したことはない」と述べたうえで、欧米側がロシアによる核兵器の使用の可能性をあおることでロシアと友好国などとの関係を悪化させようとしていると批判しました。
また、放射性物質をまき散らすいわゆる「汚い爆弾」についてもプーチン大統領は「ロシアとしては政治的にも軍事的にも使う意味がない」と主張しました。
一方、プーチン大統領は来月インドネシアで開かれるG20の首脳会議にみずからが対面で出席するかどうかについて「ロシアからは間違いなく高いレベルの関係者が出席する。私も行くかもしれない。考えてみる」と述べただけで明言しませんでした。
演説は長時間 プーチン氏の訴えは
プーチン大統領が出席した会議は、2004年にロシアで設立された国際政治の専門家などによる討論クラブが開いているもので「バルダイ会議」と呼ばれています。
ことしは首都モスクワで4日間開かれ、主催者によりますと会議には41の国から100人以上の専門家や外交官などが参加したということです。
ことしの会議のテーマは「ポスト覇権主義の世界。すべての人のための正義と安全保障」で、ウクライナ情勢を巡り対立を深めるアメリカの「1極支配」を打破したいとするプーチン大統領の強い思いが反映されています。
最終日の27日に登壇したプーチン大統領は演説を行ったり、出席者からの質問に応じたりしておよそ3時間半にわたり持論を展開し続けました。
このなかでプーチン大統領は、欧米は自分たちの価値観を一方的に押しつけているなどとする批判を繰り返し、中国やインド、アフリカなど非欧米諸国の出席者を前に、多極化した新しい国際秩序の必要性を訴えました。
バイデン大統領 プーチン大統領の発言に懐疑的な見方
アメリカのバイデン大統領は27日、アメリカのケーブルテレビのインタビューの中で「ロシアのプーチン大統領はウクライナに対して核兵器を使う意図はないとしているが、信用できるか」と問われると「もし彼に使用する意図がないならば、どうして核兵器を使う能力があると繰り返し発言しているのか」と述べ、プーチン大統領の発言に懐疑的な見方を示しました。
林外相「核兵器使用可能性 深刻に懸念」
林外務大臣は、記者会見で「ロシア側からはこれまでもさまざまな核をめぐる発信がなされ、わが国として核兵器が使用される可能性を深刻に懸念している。ロシアの核兵器による威嚇や使用はあってはならず、ウクライナが『汚い爆弾』を使用する準備を行っているという虚偽の主張も認められない。いかなる口実を用いたとしても、ロシアによるさらなるエスカレーションは決して許されるものではない」と述べました。
●プーチン氏「台湾は中国の一部」 外交部が抗議 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、モスクワで開かれた国際フォーラム「ワルダイ会議」で「台湾は中華人民共和国の一部」と明言。また西側諸国について、台湾周辺で挑発行為を行うなどして地域の緊張を高めようとしていると批判した。
これに対し、外交部(外務省)は28日、「中華民国台湾は主権独立国家で、専制主義の中華人民共和国と互いに隷属しない」「台湾併合をたくらむ中国共産党政権こそ真の挑発者」などとしてプーチン氏とロシア政府に厳正な抗議と厳重な非難を表明した。
ロシアについてはウクライナへの軍事侵攻は「国連憲章に違反する暴行だ」と強く非難した上で、ウクライナを支持する立場を改めて示した。
●プーチン氏が欧米批判、「危険で血なまぐさい汚いゲーム」展開と主張 10/28
ロシアのプーチン大統領は27日、「欧米のエリート」が「危険で血なまぐさい汚いゲーム」を展開していると批判し、ロシアのウクライナ侵攻を含む世界の問題の多くは欧米に責任があると主張しようと試みた。
首都モスクワで開かれたバルダイ・クラブ討論会で演説したプーチン氏は、ウクライナに対する核兵器の使用を検討したことはないと主張。ロシア政府がこれについて「意図的に何か言った」ことはないとする一方、核兵器が存在する限り使用の危険性は常にあると付け加えた。
プーチン氏は核への言及について、欧米の指導者による核の脅しに対抗してほのめかしただけだと説明し、トラス前英首相を含む欧米政府がロシアに「核恫喝(どうかつ)」を仕掛けていると非難した。
プーチン氏はまた、欧米は中立国に影響を与えてロシアに敵対させるため、「ロシアが核兵器を使用する」という説を無理やり持ち出していると非難。ロシアの軍事ドクトリンでは「自衛」目的での核兵器使用しか認めていないと強調した。
ロシアの当局者はこれに先立ち、ウクライナが放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」の使用を検討していると証拠を示さず主張していた。
プーチン氏はまた、欧米政府が世界支配と世界の天然資源のコントロールを試みていると非難。「これは危険なゲームであり、血なまぐさく汚いゲームだ。すべての国家主権や国の独自性を否定するもので、他国の国益を考慮していない」とした。

 

●ウクライナ外相、イランにロシアへの兵器提供中止を要求 10/29
ウクライナのクレバ外相は28日、イランのアブドラヒアン外相との電話会談で、ロシアへの兵器提供を中止するよう要求したと述べた。
ツイッターで「イランに対し、ウクライナの民間人を殺害し、重要なインフラを破壊するために使用されているロシアへの兵器の流出を直ちに停止するよう要求した」とした。
イラン国営メディアによると、アブドラヒアン外相はイランがウクライナでの戦争に使用される兵器をロシアに供給したとの見解を改めて否定。「イランとロシアは良好な関係にあり、以前から防衛面で協力している。しかしウクライナ戦争に対するわれわれの政策は、各国の領土を尊重し、紛争の当事国に兵器を送らず、戦争を止め、避難民などの発生を終わらせることだ」と述べた。
●ロシア軍、引っ張り出してきた旧式戦車「T-62」をほぼ無傷で戦場に放置 10/29
ウクライナ軍との戦いで1000両以上の主力戦車を失ったロシア軍は今夏、倉庫に残されていた数百両ほどの主力戦車を引っ張り出し始めた。1950年代に設計され、1960年代に初めて生産されたT-62は、1980年代にソ連軍からほとんど退役し、数千両単位で倉庫に保管されている。
修理やささやかなアップデートを行っても、老朽化した戦車はあまりうまく機能しなかった。特に、ウクライナ軍が8月下旬に反攻を開始したウクライナ南部のヘルソン州では、4人乗りのT-62の乗員が戦いを挑む代わりに戦車を放棄する傾向が顕著だ。
ウクライナ軍は、自軍でT-62大隊を編成することができるほどロシア軍からT-62を奪取した。実際に編成するかはわからないが、スロベニア当局がウクライナ側にアップグレードされたとはいえT-62よりもさらに旧式の戦車M-55を提供したとき、ウクライナ当局は断らなかったという事実は注目に値する。
独立系アナリストはソーシャルメディアから写真や動画を探し出してロシアが何両の戦車を失ったか集計している。これまでに破壊、放棄、回収されたロシアの戦車は1425両を数えたという。ここには戦線で展開されている全モデルが含まれている。T-90、T-80、T-72、T-64そしてT-62だ。
ウクライナ側の損失はロシア軍より少なく、破壊、放棄、敵に回収された戦車はわずか336両だ。
ロシア軍が失った戦車には、37両のT-62M、6両のT-62MVが含まれる。T-62Mは1980年代にプログラムが改良されたもので、41トンのベーシックな戦車に新しいディーゼルエンジンと115ミリ主砲用の改良された火器管制システムを導入した。T-62MVは爆発力のある弾頭を避けるための反応装甲ブロックを備えたMモデルだ。
ロシア軍が放棄したT-62はほぼすべてが無傷だ。アナリストの分析で破壊が確認されたのはわずか5両のT-62Mと1両のT-62MVだ。その結果、37両のT-62が残り、理論上はウクライナ軍が清掃、再塗装、ウクライナ軍の無線を整備して再び戦場に送り出すことができる。ウクライナの旅団はすでに、ロシアがウクライナとの戦争を拡大してからの8カ月間にロシア軍から奪取した数百両のT-80、T-72、T-64を使用している。
ウクライナ軍がT-62を1つの大隊にまとめたいと考えているのは間違いない。スロベニアが保管していた28両のM-55をすべて提供したのはそのためでもある。1つの大隊を編成するには十分な数だ。
ウクライナ軍ではT-80とT-64が部隊内で混在しているが、これらは部品を共有している。T-80、T-72、T-64は125ミリ主砲と12.7ミリ機関銃のバックアップという基本の兵装も同じだ。T-62の主砲は独特の口径で、それに合った弾薬を要する。
ウクライナ軍が旧ソ連の新旧のT-62を整備することは不可能ではない。ウクライナ軍は1991年のソ連解体時に、ソ連軍から数百両のT-62を受け継いだ。残っているそれらの戦車は空き地で錆びつつある。しかし、かつてそうした戦車を修理した技術者の多くは、少し高齢になってはいるがまだいる。
ウクライナ側がT-62を使うかどうかは選択の問題だ。しかし、老朽化したT-62を修理・整備して兵士を乗せるのはコストに見合わないと判断する可能性もある。
一方、ウクライナ軍は1950年代のM-46カノン砲やMT-LB装甲車両の車体に第二次世界大戦時の野砲D-44を組み合わせた即席のものなどT-62よりずっと古くて奇妙、そして珍しい装備を利用してきた。
ウクライナ軍はトラックを装甲戦闘車両に、戦闘車両を戦車にすることで軽旅団を強化する取り組みを意図的に行ってきた。現在、戦車を持たないウクライナの国防義勇軍は非常に古い戦車であっても気にしないかもしれない。
また、ロシア軍がそうしたように戦闘の気配がしただけでT-62を放棄するようなことをウクライナ軍はまず行わないだろう。ウクライナに展開するロシア軍は統率がとれておらず、補給不足で、訓練を受けていない召集兵がますます増えている。当然、召集兵らは戦車を放棄している。
対照的に、ウクライナ軍は巧みに統率され、供給も十分で、北大西洋条約機構(NATO)の最高の訓練のおかげで鍛えられたベテランがますます増えている。もしウクライナ軍がかつてロシア軍のものだったT-62を使うことにしたら、おそらくロシア軍よりうまく扱うだろう。
●ロシア国防相、30万人動員「完了」を報告…「追加計画なし」不安解消 10/29
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は28日、ウクライナ侵略の兵員を補充するために行った予備役の部分的動員が完了したとプーチン大統領に報告した。ショイグ氏は完了の理由として、目標の30万人に達したことを挙げた。
露大統領府によると、8万2000人がウクライナに派遣され、このうち4万1000人超が戦闘任務に加わったとショイグ氏は説明した。残る21万8000人は訓練中だとしている。
ショイグ氏はプーチン氏に「追加の任務は計画されていない」と報告した。今後は志願兵や契約軍人だけで兵員を補充する方針を強調し、動員を巡って国内に広がった不安の解消を図った。
ただ、国内第2の都市サンクトペテルブルクでは28日、動員が30日まで続くとの情報が飛び交った。動員完了の大統領令が出るかどうかは不透明で、混乱の火種は依然くすぶっている。9月21日に発令された動員を巡っては、抗議デモが露各地で起き、招集を逃れようと国外に脱出する男性が相次いでいる。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は28日のビデオ演説で「ロシアは戦争の継続策を模索している」と警戒感を示し、「ロシアの動員兵は準備や装備が不足し、上官に粗末に扱われている。すぐに動員の第2波が必要になるだろう」と述べた。
●ロシア、予備兵30万人の動員完了 ウクライナに8万人超派遣 10/29
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は28日、ウラジーミル・プーチン大統領とのオンライン会議で、ウクライナ侵攻に投じる兵力増強のため1か月余り前に出された動員令に基づき、予備兵30万人の動員を完了したと報告した。
ショイグ氏はプーチン氏に「30万人を採用する任務は完了した」と説明。うち8万2000人がウクライナに派遣され、そのうち4万1000人が軍部隊に配備されたとした。残る21万8000人はロシア国内で訓練中だという。
プーチン氏は、動員兵の「愛国心」に感謝するようショイグ氏に求めた。
●ロシアのガルージン駐日大使が来月離任 日本通の「知日派」 10/29
ロシアの駐日大使が来月、離任することになりました。離任するのはガルージン大使です。これはロシア国営メディアが関係者の話として28日に報じたもので、「新任者の着任時期も決まりつつある」としています。離任の理由は明らかになっていません。
ガルージン駐日大使は2018年1月に就任。ロシアきっての日本通の「知日派」で、ロシア外務省の中でも随一の日本語能力で知られています。日本との北方領土交渉やウクライナへの軍事侵攻をめぐっては、ロシアの立場を譲らない姿勢を示し続けていました。 
●ロシア、「国民総動員」へ転換 戦時下認め社会に影、併合1カ月 10/29
ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部・南部4州の併合を宣言して30日で1カ月になる。20日に4州に戒厳令を敷くと同時にロシア全土に特別な警戒態勢を導入、社会全体を軍需に集中できる「国民総動員」の手はずを整えた。政権は国が戦時下にあることを認め、8カ月以上続く軍事作戦は大きな転機を迎えた。9月に始まり28日まで続いた部分動員と併せて社会の雰囲気が変わり、戦争の影が広がっている。
ロシアが戦況打開に核兵器を使うとの懸念の声はインドや中東諸国など友好国からも上がる。旧ソ連・中央アジアの同盟国も距離を置き始め、プーチン氏の強弁と現実との乖離は拡大している。
●侵攻の報い ロシアは経済制裁で「経済的にも軍事的にも悲観的事態」 10/29
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月7日、ウラジオストクでの東方経済フォーラムで、「ロシアは、特別軍事作戦で何も失っていない」と虚勢を張っていたが、西側諸国の経済制裁は確実にロシア経済を弱体化している。
米ブルームバーグは9月6日、ロシア政府の内部資料を根拠に、「ロシアでは欧米による制裁の影響が広がるなか、より長期かつ深刻な景気後退に見舞われる可能性がある」と報道した。
この内部資料は、ウクライナ侵攻に伴うロシアに対する経済制裁の影響を正確に判断しようと、専門家らがまとめたもので、プーチン氏などが示す楽観的な公式発表に比べて、はるかに悲観的な内容になっている。
内部資料で示されたシナリオ3つのうち、2つは経済縮小が来年加速し、経済が戦争前の水準に戻るのは2030年以降だとしている。
技術や金融分野の制裁も強い下押し圧力になる。最大20万人のIT技術者が25年までに国外に出る可能性があり、これは深刻な頭脳流出だ。
輸入について、主な短期的リスクは、原材料・部品の不足に伴う生産停止だ。より長期的には、輸入した装置が修理不能に陥り、成長が恒久的に制約される。極めて重要な一部の輸入品については、代替のサプライヤーがまったく存在しない。
政府が重視してきた農業分野でも、依存する主要原料の供給縮小に伴い、国民が食料消費の抑制を迫られる可能性がある。
西側の技術へのアクセスが制限されているため、ロシアは中国や東南アジアの先進的ではない代替品に頼らざるを得ず、現在の基準から1〜2世代遅れてしまう可能性がある。
航空分野では、旅客輸送量の95%が外国製飛行機で占められており、輸入スペアパーツが入手できないため、運行停止に伴い航空機産業が縮小する可能性がある。
機械製造分野では、ロシア製の工作機械は全体の30%にすぎず、国内産業では需要増をカバーする能力がない。
医薬品分野では、国内生産の約80%を輸入原料に依存している。輸送分野では、EU(欧州連合)の規制により、陸上輸送のコストが3倍に上昇する。
通信とIT分野では、SIMカードの規制により、25年までにSIMカードが不足し、22年には通信分野が世界のリーダーから5年遅れる可能性がある。
軍事分野では、西側のハイテク技術や部品(=特に半導体)が入手できないために、最先端の兵器を開発し製造することは困難になる。例えば、航空機、艦艇、ミサイル、戦車など、各軍種の最重要な兵器を開発・製造できなくなる可能性は高い。つまり、ロシアは「経済的にも軍事的にも取るに足りない国」になる可能性があるということだ。
プーチン氏の愚挙は、彼自身の地位を脅かすことになるであろう。
●破壊された町、東部前線バフムート 悪名高い「ワグネル」が戦果 10/29
ウクライナ東部の要衝バフムート。晴れた暖かい陽気に五感がだまされ、ほとんど穏やかなように感じられる。
だが、街から発射される火砲の轟音(ごうおん)で、そんな考えは吹き飛んだ。バフムートでは今月19日、ウクライナ軍がロシア軍から陣地を奪還しようと攻勢を掛けていた。
男性3人が走って街から脱出する様子が見え、そのうち1人は電子レンジを背にくくりつけていた。
ウクライナでのロシアの戦争は開始から8カ月になる。プーチン大統領の侵攻がもたらした破壊と窮乏を本当に実感するのは、バフムートに降り立った時だ。
取材班のガイドを務めるのはウクライナ軍の衛生兵、カトルシヤさん(仮名)。色つきのサングラスに軍服という格好で、我々を乗せた車列を市中心部へと猛スピードで走らせた。
窓の外を流れる光景はゴーストタウンに近い。
「ここ2カ月、ロシアは市の防衛線を破ろうと試みているが、成功していない」。カトルシヤさんはたばこを吸う合間にそう語った。
カトルシヤさんは砲撃を受けたばかりの建物に我々を案内してくれた。車がまだ完全に停車しないうちに、付近に別の砲弾が着弾した。取材班は急いで避難し、さらに約20分間にわたって砲弾が降り注いだ。
こうした攻撃は日常茶飯事だと、カトルシヤさんは語る。我々が飛来する砲弾から身を隠そうとする中、カトルシヤさんは壁に背中をもたれかけ、冷静そのものの様子だった。
「毎日砲撃があるので、この辺りが静かになることはない。街の他の場所は1日に何度も攻撃を受けている」(カトルシヤさん)
バフムートの路上では今でも少数の住民の姿を見かける。通りのあちこちに穴が空き、産業用のごみ箱は小さなごみの山に混じって見分けがつかなくなっている。
街に残った住民はまるで別の世界に住んでいるようだ。自転車で外出し、用事を済ませる。どの店が開いているのかは謎だが、買い物カートを引く高齢女性の姿もある。
セルゲイさんは今でも通りを歩くそんなバフムート住民の一人だ。砲撃が心配ではないかと聞かれ、「何を恐れるというのか。全てうまくいく」と語った。
そう言ってから、セルゲイさんは遠くをじっと見つめた。自分の言葉を本当には信じていないかのようだった。
カトルシヤさんは、激しい戦いで大勢の兵士や民間人が犠牲になったと語る。「人数は分からないが多数だ。双方にたくさんの負傷者が出ており、死者も多い」
カトルシヤさんは1カ月前、ロシアとの戦闘で夫を亡くした。抗うつ薬だけが心の痛みを紛らわしてくれるという。
最近はバフムートをめぐる攻防が一段と激化している。ウクライナのゼレンスキー大統領は、同市の戦闘が「最も困難だ」との認識を示す。
バフムートの重要性はどれほど強調しても足りない。
バフムートはドネツク州の他の戦略的要衝2地点に向かう分岐点に位置し、南西にはコンスタンティニウカ、北西にはクラマトルスクおよびスラビャンスクがある。いずれもプーチン氏が同州を完全支配するために重要な場所だ。
ただ、バフムートの戦況は国内の他の場所とは異なる。ここ以外の場所ではウクライナがおおむねロシアの進軍を撃退し、9月末にロシア軍が後退する中、最近は領土を奪還してさえいる。
ここバフムートでは、ロシア軍が少しずつ着実に戦果を挙げている。その主因となっているのが、専門家からクレムリン(ロシア大統領府)公認の民間軍事会社と目されている「ワグネル」だ。
ワグネルを所有するエフゲニー・プリゴジン氏はSNSのテレグラムで、バフムート市内の抵抗が強固であることを認めた。
「バフムート近郊の戦況は変わらず難しい。ウクライナ軍はかなりの抵抗を見せており、ウクライナ人が逃げ出すという言い伝えは言い伝えに過ぎない。ウクライナ人は我々と同じく鉄の意志を持っている」(プリゴジン氏)
カトルシヤさんは、ワグネルの戦闘員と対峙(たいじ)したことがある。国際的に悪名高いワグネルだが、戦闘員たちは寄せ集めの雇い兵のようだという。
「彼らは暴徒のようなもの。非常によく訓練されたプロの戦闘員も少数いるが、多くは金目当てか、刑務所から出るためにたまたまこの戦争で戦うことになった連中だ」(カトルシヤさん)
9月には、プリゴジン氏がロシアの刑務所で受刑者をワグネルに勧誘する場面を捉えたとみられる動画が浮上した。同氏が提示した条件は、ウクライナでの6カ月の戦闘と引き換えに恩赦を約束するというものだった。
悲痛な思いをしたカトルシヤさんだが、気力は衰えていない。目標はただひとつ、勝利だ。
「ウクライナ人の代償はとてつもなく大きいものになる」。カトルシヤさんはそう認めつつも、「最高の人材、最も意欲があり高い訓練を受けた人材を失うだろうが、私たちは間違いなく勝つ。ここは私たちの土地であり、他に選択肢はない。絶対に勝つ」と力を込めた。
●見えてきたプーチンの大敗北…冬将軍はロシア軍に味方せず 10/29
ロシアがウクライナに侵攻を開始したのは今年2月24日。早くも8カ月が経過したわけだが、CNNは10月14日、「Russia is bruised as winter approaches. Can Ukraine land another blow?」の記事を配信した。
タイトルを日本語に訳せば、「冬が近づくにつれ痛手を負うロシア ウクライナは更なる戦果をあげられるか?」という感じだろうか。
ウクライナは間もなく冬を迎える。そのため、これからの数週間、ウクライナ軍とロシア軍の間で激戦が繰り広げられる可能性が高いと、CNNは指摘している。
《厳冬期が迫ってくると、地上戦は膠着せざるを得ない。そのため専門家は、今後数週間の戦闘が重要だと指摘する。ウクライナもロシアも相手に一撃を与えようと模索しているが、ウクライナが別種の痛撃を被る可能性も浮上している》(註)
文中にある《別種の痛撃》とは何か、劣勢のロシア軍は、ウクライナのエネルギー関連インフラに、ミサイルなどを使って猛攻を加えている。
それによって冬季に必要とするエネルギーをウクライナと西側諸国が確保できない場合、ロシアとの力関係は変化するのか、停戦は現実味を帯びるのか──こうした問題について、CNNの記事では専門家が見解を披露している。担当記者が言う。
「それだけウクライナの冬は厳しいのです。隣国のロシアは、『冬将軍』で何度も侵略国を撃退した歴史を持ちます。あまりの寒さに敵軍は進軍が不可能となり、充分な補給を確保できず自滅してしまうのです。厳冬期の到来が有利に働くのはウクライナなのかロシアなのか、多くの関係者が注視しています」
ウクライナの冬将軍
冬将軍が猛威を振るった戦争として有名なのは、フランス帝国のナポレオン1世(1769〜1821)による「1812年ロシア戦役」と、ナチスドイツによる「独ソ戦(1941〜1945年)」だろう。
「フランス軍もドイツ軍も夏季こそ快進撃を続けましたが、冬になると泥濘(でいねい)と降雪、そして寒さで全く進軍できなくなりました。独ソ戦でドイツ軍は、モスクワのクレムリン宮殿まであと一歩という距離まで迫りました。しかし、寒さで兵器は凍りつき、補給もままならず、軍の士気は大幅に低下、最終的にはソ連軍の反攻を許してしまったのです」(同・記者)
そして冬将軍の猛威は、ロシアだけのものではない。気温のデータを見ると、ロシアとウクライナの冬は極めて似ていることが分かる。
「ドイツ軍とソ連軍が死闘を繰り広げたレニングラード、現在のサンクトペテルブルクは、厳冬期、平均の最低気温と最高気温の幅が、マイナス9度からマイナス2度の間で推移しています。ウクライナの首都キーウもマイナス6度から0度の間で、ロシアもウクライナも『冬将軍』の本場であることが分かります」(同・記者)
冬でも動く戦車
念のため南部の気候も見ておこう。今回のロシア・ウクライナ戦争で激しい攻防戦が繰り広げられているヘルソン州の州都ヘルソンの平均気温を調べると、やはりマイナス6度からプラス3度の間で推移している。
「風速1メートルにつき体感気温は1度下がるとも言われます。厳冬期、ウクライナの最前線では、吹きつける風で体感気温がマイナス10度を超えても不思議はありません。これほどの寒さになると、どれほど最新型の防寒着を身に着けたとしても、兵士が作戦に従事することは不可能です」(同・記者)
だが、軍事評論家の菊池征男氏は「冬将軍の到来で本当に戦線が膠着するのか、私は疑問に思っています」と指摘する。
「欧米や日本のメディアは、『厳冬期は両軍とも戦闘不能』と思い込み過ぎてはいないでしょうか。例えば、ウクライナでは秋になると雨が降り続けます。広大な大地は泥濘と化し、キャタピラで動く戦車でさえ自由に移動できません。秋雨の時期なら確かに戦線は膠着するでしょう。しかし、冬になれば大地は凍りつきます。少なくとも戦車は移動できるようになるのです」
NATO軍の指導
改めてロシア・ウクライナ戦争における緒戦を振り返ってみよう。ロシア軍は当初、北から首都キーウ、東からハルキウ、そして南からヘルソンに向かって進軍を開始した。
「ウクライナ軍は“作戦の教科書”通りにロシア軍を迎え撃ちました。要するに、守って、守って、守り抜いて、反攻に転じたのです。しかし、これこそ『言うは易く行うは難し』の作戦であることは論を俟ちません」(同・菊池氏)
攻められても守り抜き、反攻に転じる──これがどれほど困難かは、旧日本軍の戦史が冷徹に示している。
太平洋戦争の末期、日本軍はサイパン、硫黄島、沖縄を次々に失った。そして一度も反攻に転じることはできなかった。
なぜウクライナ軍はロシア軍を撃退し、追撃に移れたのか、菊池氏は「NATO(北大西洋条約機構)軍が、作戦面でも手厚いサポートを行ったのでしょう」と言う。
「西側諸国が最新型の兵器をウクライナに供与し、偵察衛星などによる機密情報も提供していることは、これまで何度も報じられてきました。それだけでなくNATO軍は、作戦面でもウクライナ軍につきっきりで指導しているはずです。そうでなければ、あれほど見事に反撃に転じられたはずはありません」(同・菊池氏)
弾薬の浪費
一般的に「攻める側は守る側より4倍の兵力が必要」と言われているそうだ。
「開戦当初、約20万人のウクライナ軍に対しロシア軍は約90万人と、4倍以上の兵力を擁していました。今回の戦争で、ロシア軍の補給能力は非常に劣っており、それが苦戦の大きな原因の一つと分析されています。90万の軍隊に充分な補給を行えたかは未知数ですが、ロシア軍が北、東、南のうち1方向に戦力を集中させていれば、ウクライナ軍が敗れた可能性も否定できないと思います」(同・菊池氏)
3方向からの攻撃で、ロシア軍は確かに兵力の分散を余儀なくされた。しかし、迎え撃つウクライナ軍も同じだったはずだ。
なぜ数的優位を確保していたロシア軍はウクライナ軍に撃退されたのか、それには弾薬の問題が大きな影響を与えたという。
「北海道にロシア軍が侵攻してきた場合、自衛隊は1カ月で40万トンの弾薬が必要だと試算されています。そして、守備側より攻撃側のほうが、更に火力を必要とします。ロシア軍は3方向から進軍したことで、弾薬を猛烈に消費してしまったのです」(同・菊池氏)
ウクライナ軍が善戦を重ねるほど、ロシア軍の弾薬はどんどん少なくなっていく。そして、火力が不足したロシア軍はウクライナ軍の反攻を許し、戦争は長期化した。これでロシア軍の弾薬が底を突いてしまったことは想像に難くない。
歩兵は不必要
ちなみにCNN(日本語・電子版)は10月25日、「ロシア前大統領、『兵器不足』の報道を否定」の記事を配信した。
ロシアのドミートリー・メドベージェフ前大統領(57)が「ロシア軍の兵器や装備品の生産は増加している」との声明を発表したという記事だが、それを信じる西側の専門家は少ないようだ。
「ロシア軍は誘導ミサイルだけでなく普通の弾薬も尽き、戦車や爆撃機を次々と失っています。ウクライナ軍にとっては攻勢の大チャンスでしょう。冬将軍が到来すると、確かに歩兵の作戦従事は難しいかもしれません。機甲師団の役割は、戦車で敵軍を蹴散らし、歩兵が敵地を占領することにあります。戦車と歩兵の重要性は等しいのですが、今はセオリーにとらわれる必要はないはずです」(同・菊池氏)
厳冬期でも戦車なら戦闘が可能だ。ウクライナ軍は戦車だけを進軍させ、ロシア軍の戦車や陣地を破壊すればいい。
「たとえ兵士による占領地の奪還は難しくとも、ロシア軍に甚大な被害を与えればいいのです。こんな好機をウクライナ軍が逃すとは思えません。冬が訪れたとしても、戦車部隊は砲兵の支援を受けながらロシア軍に攻撃を続けるのではないでしょうか」(同・菊池氏)
非現実的な“万里の長城”
ロシア軍も冬季にウクライナ軍が戦車で攻め込んでくる可能性は想定している。CNNは10月22日、「傭兵集団ワグネル、対戦車防御施設を建設 衛星画像で判明」の記事を配信した。
「記事によると、ロシアの民間戦争会社『ワグネル』が、東部のヒルスケに対戦車防御施設を建設していることが分かったそうです。全長は2キロで、セメントで作られたピラミッドが並び、戦車の走行を妨害する狙いがあると見られています。塹壕も設置され、動けなくなった戦車を破壊するつもりなのでしょう」(前出の記者)
ロシアの一部メディアは、ヒルスケから南部に向かってスビトロダルスクという街まで防御施設を建設する予定と報じた。
CNNは記事の末尾で、《これほどの長さの防御施設を作った場合、その全長は約217キロに及ぶ》と書き添えた。このような“万里の長城”の建設は、現実的には不可能だと揶揄したに違いない。
「たとえ長距離の対戦車防御施設が建設されたとしても、そこを死守する兵士がいなければ役に立ちません。今のロシア軍は士気が低下し、脱走も横行しているようです。無理矢理に動員した新兵をろくに教育せず、いきなり最前線に送っているとの報道もあります。ワグネルが作ったという防御施設を守るロシア兵は少なく、ウクライナ軍が易々と突破することは充分に考えられます」(前出の菊池氏)
春を待たずに敗戦!?
もし冬季にウクライナ軍が猛攻撃を仕掛けたとしたら、ロシア軍は冬将軍の到来で補給に支障を来し、更に敵軍の猛攻にさらされる可能性が生じる。
「厳冬期に戦線が膠着するどころか、東部と南部の両方でロシア軍が総崩れになる可能性も否定できないと思います。春を待たず、ロシア軍が敗戦に直面する可能性もあると見ています」(同・菊池氏)
●ロシア当局、ヘルソン州の住民退去完了と ウクライナは強制移動と非難 10/29
ロシア当局は28日、占領するウクライナ南部ヘルソン市からの市民の移動を完了させたと発表した。ウクライナ軍との戦闘に備えるためとしている。
少なくとも7万人の市民が、街を流れるドニプロ川の東岸に移動させられた。ウクライナ側は強制移動だと非難している。
ロシアの軍司令官は、「ヘルソン防衛の準備をしている」と述べた。
こうした中、ロシア政府は予備役30万人の部分動員が完了したと発表した。
ヘルソン州は、プーチン氏が一方的に併合を宣言したウクライナ4州のうちのひとつ。ただし、ロシア軍はこの4州のいずれも完全には支配していない。
ヘルソン市はロシアの侵攻が始まった直後に占領された。しかしここ数週間、ウクライナ軍は着実にドニプロ川西岸を前進し、周辺地域を奪還してきた。ウクライナ当局によると、前線はヘルソン市から30キロの地点にあるという。
ロシアが設置したヘルソン当局は、近いうちに同市への攻撃が始まると警告している。しかしウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は、地形の悪さと雨天のため車輪のついた戦闘車両が使えないので、反攻は本当に難しいと述べた。
ロシア当局によると、住民は「ロシアの安全な地域」に移動したという。これにはロシア占領下にあるウクライナだけでなく、ロシア本土も含まれていると報じられている。
占領国による占領地からの市民の移送や強制退去は戦争犯罪とみなされる。
一方で、ロシアが任命したウラジーミル・サルド州知事は、15万〜17万人がなおヘルソン市のドニプロ川西岸に残っていると認めた。侵攻以前のヘルソン市の人口は約30万人だった。
ウクライナ当局は、ロシア側の発表した数字に疑問があるとしている。
州都の移転を計画か
ロシア・チェチェン共和国の指導者ラムザン・カディロフ氏は、チェチェン部隊が今週、この地域で「大きな損失」を被ったと認めた。ロシアに追放されたウクライナ側のヘルソン州トップ、セルヒイ・クラン氏も、カディロフ氏の部隊が最近動員された兵士に置き換わったと述べている。
ウクライナ側は、ロシア軍がヘルソンでの攻撃に先立ち、ヘルソン州の新たな州都をクリミア半島に近いヘニチェスクに置こうとしているとみている。
ウクライナ軍報道官のナタリヤ・フメニュク氏は、ロシア軍がドニプロ川西岸を守ろうとしている一方で、対岸も守る準備をしているということは、「彼らが実際の状況を理解している証拠だ。彼らが右岸(西岸)を守り抜くことはあり得ない」と述べた。
4万人超をウクライナの前線に
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は28日、ウラジーミル・プーチン大統領に、予定していた予備役30万人の部分動員が完了したと報告。うち4万1000人がウクライナの戦場に配備されていると説明した。
この数字は独立した形で証明されていない。
ロシアでは、9月に発令された部分動員令に怒りの声が上がっている。
2月24日にウクライナへの本格的な侵攻を開始した直後、プーチン氏は軍と契約している者だけをウクライナでの戦闘に派遣すると約束していた。しかし、9月には相次ぐ軍事的敗北を受け、部分的な動員を命じざるを得なくなった。
ロシアの議会では28日、訓練を受けていない新兵が前線に送られているとして、議員がショイグ氏に警告する場面もあった。マキシム・イワノフ議員は、ドネツクのような場所に何の準備もなしに新兵を送ることは受け入れられないと述べた。
ウクライナのゼレンスキー大統領はこの日のビデオ演説で、ロシアの動員兵は「準備も装備も不十分で、司令部に冷酷に利用されて」おり、ロシアは「すぐに新しい動員の波が必要になるだろう」と述べた。
また、ロシアがへルソン州の医療システムやその他の重要なインフラをすべて解体し、同州を「文明のない場所」にしようとしていると非難した。
首都キーウでは停電長期化も
ウクライナ当局は、首都キーウの市民に対し、計画停電が1日4時間以上続く可能性があると警告した。
ロシアは10月初めにクリミアとロシア本土を結ぶケルヒ橋で起きた爆発への報復措置として、ミサイルやイラン製ドローンによる攻撃を拡大。ウクライナのエネルギー施設やインフラ施設に被害が出ている。
計画停電はキーウだけでなく、ドニプロ市などウクライナ中部地域でも行われている。
ゼレンスキー大統領は、400万人が停電の影響を受けているが、「我々は爆撃では壊れない」と述べた。一方で、全国の発電所の3分の1が破壊されたとしている。
民間電力会社DTEKによると、キーウ州は発電量の30%を失っており、「前例のない」計画停電が必要だという。
欧州連合(EU)をはじめとする国際社会は、生活インフラへの攻撃を非難。ウクライナは戦争犯罪だと指摘している。
●ロシア、戦果を誇張か 米研究所「劣勢続き、虚偽の発表で見せかけ」 10/29
米シンクタンク戦争研究所(ISW)は28日、ウクライナに侵攻するロシアが、ウクライナ東部ドネツク州での戦果を誇張している可能性が高いとする分析を公表した。北東部や南部でロシアの劣勢が続くなか、虚偽の発表で戦果を得ているように見せかけているという。
ISWによると、ロシア軍は士気の向上などを狙い、同州の要衝バフムート方面で大きな戦果を得たと主張している。一方、ISWは「ロシア軍はバフムートのウクライナ側拠点に向けてわずかに前進したが、その速度は非常に遅く、多大な犠牲を伴っている」と指摘。ロシア軍はバフムートを含めた全ての前線で目立った戦果を得ていないとしている。
●プーチン大統領 国防相に軍の強化命じる 巻き返し図るねらいか  10/29
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン政権は、予備役の動員について30万人の招集を終えたと発表しました。一方、プーチン大統領は国防相に軍の強化を命じ、さらなる長期化を見据えて戦力の強化を図るねらいがあるものとみられます。
プーチン大統領は28日、ショイグ国防相から予備役の動員について目標としていた30万人の招集が完了し、「追加の動員は計画されていない」とする報告を受けました。
予備役の動員をめぐっては、プーチン政権が兵員不足を補うため、先月踏み切りましたが、対象ではない人も招集されるなど混乱が生じ、各地で抗議活動が相次いだほか、招集を恐れて国外に逃れる人たちが後を絶たず社会に動揺が広がりました。
こうした中でプーチン大統領は「動員の初期段階では問題や困難があった」と問題を認めたうえで、ショイグ国防相に改善を指示しました。
また、実際に戦闘に参加しているのは4万人余りで、残りは訓練中であることを国防相に確認する形で強調していて、ロシアの有力紙コメルサントは「国民を安心させるためだ」という見方を伝えています。
プーチン大統領は「装備を整え訓練を行い、直接、戦闘に参加しなければならない場合に自信を持たせることが最も重要だ」とも述べていて、動員された兵士が訓練や装備が不十分なまま戦闘にかり出されているといった指摘も伝えられる中で、国民の懸念に配慮する姿勢を示したものとみられます。
一方、プーチン大統領は、海軍の増強などに力を注いできたとしたうえで、「陸軍を含むすべての軍の構成についてよく考え調整する必要がある」と述べ、軍の強化を命じました。
そのうえで必要な決定を短期間で行うよう指示していて、軍事侵攻のさらなる長期化を見据えて戦力を強化し、ウクライナ軍の反転攻勢に対して戦況の巻き返しを図るねらいがあるものとみられます。
動員の完了 ショイグ国防相が報告
今回、ロシアのプーチン大統領は、モスクワ郊外の公邸で、動員の完了をショイグ国防相に報告させ、国営メディアでその様子を公開しました。
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は大統領みずから完了を発表することもできたと指摘したうえで「改めて国防相の権威づけを図り、ウクライナに戦闘部隊を送っている強硬派が影響力を増す中でバランスを取ろうとしているようだ」と分析しています。
ウクライナ侵攻をめぐっては強硬派の意見が強まり、プーチン大統領への圧力になっているという見方も出ていて、このうち、チェチェンの戦闘員を率いるカディロフ氏は27日、SNSで、東部の防衛態勢に不満を表し、10月1日に続いてロシア軍の現地の司令官を痛烈に批判しました。
カディロフ氏は南部ヘルソン州で、チェチェンの戦闘員23人が死亡し58人がけがをしたと明らかにし、ウクライナ軍の反撃で大きな打撃を受けたものとみられます。
また、アメリカの有力紙ワシントン・ポストは25日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の代表で、政権に近いとされるプリゴジン氏が軍の上層部を批判し、プーチン大統領に苦言を呈したと報じています。
米のシンクタンク「決定的な影響与えることはない」
ロシアのプーチン政権による予備役の動員をめぐって、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は28日「ロシアの戦力に決定的な影響を与えることはない」とする見方を示しました。
この中で「ロシアが4万人余りの訓練不足の戦闘要員を投入したことでロシアの防衛ラインは一時的に強化されたかもしれないが、彼らはまだ大規模で準備を整えたウクライナ軍の反撃に直面していない」と指摘しています。
その上で、今回動員された30万人のうち、あわせて15万人が11月中に戦闘任務につくという見通しを示した上で「部隊に追加配備しても、戦況を変える可能性は依然として低い」と分析しています。
一方、10月中に動員を完了させたことについては、例年より1か月遅れて来月1日に始まる18歳から27歳までの秋の徴兵に合わせたものだという見方を示し、「ロシア軍には新たに徴集する12万人の訓練を同時に行う能力がないようだ」と指摘しています。
●モスクワ市職員の3分の1が「国外逃亡」...動員後の劣悪すぎる状況を恐れる 10/29
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ウクライナに派遣する予備役の部分的動員を発令したことを受け、モスクワ市職員の3分の1近くが1カ月の間に国外に逃れたと、地元メディアが報じた。ロシアでは、徴兵を逃れようとする国民の「大量脱出」が起きている。
地元メディア「Nestka」は、住宅や地域サービス、医療、教育など、大規模な部門の男性職員やIT部門の専門家らが一斉に逃げ出したと、事情に詳しい関係筋の話として伝えた。
職員の多くは正式に辞職しておらず、関係当局に届け出もしていないという。「彼らはマグカップも洗わず、職場に私物を残したままいなくなった」と、ある情報筋は語っている。
プーチンは9月21日、ウクライナでの戦闘に予備役30万人を動員すると発表。その後の2週間で、徴兵を避けるために市民37万人以上がジョージア、フィンランド、カザフスタン、モンゴルなどの近隣国に逃れた。
10月中旬には、徴兵されたモスクワ市職員がウクライナで死亡したことで、同市職員が大量に辞職していた。
ロシア人ジャーナリストのロマン・スーペルは10月14日、ロシア政府の情報筋の話として、モスクワ市政府の部局長だったアレクセイ・マルティノフ(28)の死を受け、市職員が相次ぎ辞表を提出していると、自身のテレグラムのチャンネルで伝えた。
マルティノフは戦闘経験がないにもかかわらず、9月23日に徴兵され、10月10日にウクライナでの戦闘中に死亡したという。
政府筋はスーペルに、「大量脱出が起きている。職員がメモを残して去っている。IT技術者、広告やマーケティング、広報の担当者や、一般の公務員もだ。まさに大量脱出だ」と話している。
スーペルは「動員されたモスクワ市政府職員のアレクセイ・マルティノフが死亡したことが、昨日明らかになっている」と指摘した。
入隊から数日後に戦闘で死亡
ロシアの国営メディア放送局RTの副編集長ナターリャ・ロセバは、マルティノフは軍に入隊したわずか数日後にウクライナで死亡したと、自身のテレグラムのチャンネルで伝えた。
「彼は若い頃、セミョノフスキー連隊に所属していた」とロセバは指摘。「彼には戦闘経験がなかった。(入隊から)数日後に前線に送られ、10月10日に英雄として死亡した」と述べた。
ラトビアに拠点を置くロシア語の独立系ニュースメディア「Meduza」によると、セミョノフスキー連隊は、ロシア大統領とクレムリンの警備を担当しているという。
著名なロシア人ジャーナリストで元大統領候補のクセニア・ソブチャク(40)も、ロシアからリトアニアに逃れた。同国首都ビリニュスの情報機関によると、26日朝に警察当局がモスクワにあるソブチャクの自宅を強制捜査したという。
ロシア国営通信社タス通信は、ソブチャクのメディア担当者であるキリル・スハノフと共に刑事事件の容疑者として彼女を逮捕するよう、治安当局が命令を受けたと報じている。

 

●G20出席をめぐる駆け引き 苦境と強硬派の間で…プーチン氏の本音は 10/30
苦戦が伝えられる中でもウクライナへの侵攻を止めないロシア― この戦争はロシアかウクライナのどちらかが力尽きるまで続くのだろうか?ロシアとの対話をめぐり、ゼレンスキー大統領は「プーチン氏とは対話しない」と突き放し、アメリカも「バイデン大統領に会談する意向はない」と取り合おうとはしない。にもかかわらず、プーチン大統領は11月中旬のインドネシア・バリのG20の会議への出席について「検討中だ」と述べ、その可能性を完全には排除していない。そこにはどのような思惑があるのだろうか?
錯綜するG20「出席」情報
10月25日夜、ロシアの独立系メディア「バザ」は、G20 のロシアの代表団はミシュスチン首相が率いることになると報じた。しかし、わずか1時間後には大統領府のペスコフ報道官が「まだ決まっていない」とその報道を打ち消した。どうやらクレムリン内部ではインドネシアへの外遊にむけた準備は続けていて、ぎりぎりまでプーチン氏のG20への出席の可能性を残しておきたいようだ。
プーチン氏が対話を求めているのではないかという情報は思わぬところからもたらされた。ウクライナのゼレンスキー大統領が26日、西アフリカ・ギニアビサウのエンバロ大統領と会談した際、ロシア側から対話したいというメッセージを受け取ったと明らかにしたのだ。エンバロ大統領はその直前にプーチン大統領とも会談している。ペスコフ報道官は27日、「伝達は頼んでいない」と表向き否定をしているが、事実無根だとはいえないだろう。
国際社会での孤立―影響力低下を誰よりも実感
プーチン氏はいま、友人を失いつつある。旧ソ連諸国までもプーチン氏を見放しはじめたのだ。6月、プーチン氏の故郷・サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラムで、カザフスタンのトカエフ大統領はプーチン氏の目の前でドネツク・ルガンスクを国家として承認しない考えを表明し、あからさまにたてついていた。10月にはタジキスタンのラフモン大統領がやはりプーチン氏に面と向かって「我々にも敬意を払ってほしい」と求めた。ベラルーシのルカシェンコ大統領も、表向きはプーチン氏を支持しているものの、ベラルーシ軍の参戦など直接的な支援を拒み続けており、面従腹背なのだろうということは、プーチン氏が誰よりもわかっているのではないだろうか。
中国もまた言葉の上ではロシアへの支持を表明しつつ、実際に助けようとはしていない。BBCロシアは、最近8カ月間で、ロシアから中国への輸出は5割も増えたものの逆に輸入はわずかしか増加していないと指摘している。厳しい制裁を受けるロシアにとって、精密機器などの輸入が途絶えることが死活問題となっている。しかし、中国はそこを助けようとはしていない。プーチン氏と習近平国家主席は9月15日、ウズベキスタンのサマルカンドで開かれた上海協力機構の首脳会議で直接会談した。その際、習氏が示したロシアへの支持は決して積極的なものではなかった。この時、プーチン氏はインドのモディ首相からも「今は戦争の時代ではない」と苦言を呈されている。
表では強気の発言を繰り返すプーチン氏だが、かつての「友人」たちから忠告を受け、あるいはあからさまに距離を置かれることで自身の影響力の低下を誰よりも感じ取っているのではないだろうか。
国内も不安定 経済も「持つのは年末まで」か
プーチン氏はロシア国内でも厳しい状況に追い込まれている。9月21日に発令した「部分的な動員」を巡り、ロシア全土で大規模な反対デモが巻き起こった。治安部隊が力で鎮圧したものの、ロシア人の間で反戦の意識は静まっておらず、26日未明には、モスクワの中心部にある与党「統一ロシア」本部ビルに火炎瓶が投げ込まれたという。
独立系の世論調査機関レバダ・センターが10月20日から26日に実施した調査によると、ウクライナの状況を非常に心配していると回答した人は半年で37%から58%まで増え、57%がウクライナとの和平交渉を望んでいるという。また、タス通信によれば、ロシア国内での抗うつ剤の売り上げは、昨年に比べ7割も増えている。
経済面でも、最近だけでもトヨタに続き、メルセデス、フォードなどが次々と撤退を明らかにした。ロシアは工場を引き継いだとしても、自力でこれらの製造を続ける能力はないとみられている。クレムリンの関係者も「在庫が持つのは年末までだろう」と焦りを隠さない。
対話を模索? プーチン氏の狙いは時間稼ぎ
国際社会でも、国内的にも追い込まれる中、プーチン氏が対話路線を模索しだしているとしても不思議ではない。複数の情報によるとプーチン氏はいまもウクライナ東部ドンバスの統治は手放したくないと考えていているというが、現状のままではそれは難しい。
独立系メディア「メドゥーザ」は大統領府に近い関係者らの話として、クレムリン内で「一時的な停戦」という考え方が出てきていると伝えた。完全に戦争を止めるのではなく、停戦で時間を稼ぎ、動員されたロシア人を訓練し、年明けの戦いに備えるというシナリオだという。当然、ゼレンスキー氏はこうした考えがロシア側にあることも承知だろう。だからロシアの対話姿勢はうわべだけで、信用のおけないプーチン氏とは交渉しないと明言している。
仮にプーチン氏が本当にG20への出席にこだわり、国際社会との関係を保とうとするのであれば、ウクライナへの攻撃を収束に向かわせ、核による威嚇を止め、エスカレーションを止めるところから始めなければならない。
しかし問題なのは、今のプーチン氏にその力が残されているかということだ。
「ウクライナ一掃を」 台頭する強硬派
懸念されるのが対話に向けた兆しを打ち消すように、発信を強めるロシア国内の強硬派たちの存在だ。25日の深夜0時56分、プーチン氏に近い、チェチェン共和国のカディロフ首長は自身のテレグラムに「ウクライナの都市を一掃するべきだ」とする音声を投稿した。いまの攻撃は生ぬるいのだとロシア軍を批判する。
プーチン氏の側近の一人もロシア軍と現状の戦況に不満を爆発させている。ワシントンポストは「プーチンの料理人」と呼ばれる実業家で民間軍事会社「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏が、プーチン氏に「軍の幹部が戦争を誤らせている」と直言したと報じた。ロシア軍が「ワグネル」の傭兵に頼る一方で、任務を果たすために十分な資金と物資を与えていないと公然と不満を口にしているという。ワシントンポストはロシア軍の苦戦により「ワグネル」の影響力が高まり、軍の指導部の立場が揺らいでいると指摘している。
ロシア軍が失態を繰り返す中、カディロフ氏やプリゴジン氏の傭兵軍団に頼らざるを得ない状況で、彼らの存在感は高まっている。恐ろしいのは、カディロフ氏の深夜の不気味なメッセージが象徴するように、彼らが求めているのは、ウクライナを焼き払ってしまうということだ。カディロフ氏は小型の核を使う必要があると公言している。このまま前線に強硬派の意見が反映される機会が多くなれば、さらに非人道的な攻撃が行われかねない。そして、プーチン氏が彼らをコントロールできなくなり、暴走を許す可能性もゼロとは言えない。
G20出席は試金石
10月27日、プーチン氏はモスクワで開かれた専門家らとの国際会議の場で、ウクライナに対する核兵器の使用は軍事的にも政治的にも意味がないと述べた。これまで「領土を守るためには核の使用も辞さない」との姿勢を示してきただけに発言を後退させた形だ。対話を始めればエスカレーションを避けるつもりがあるという西側へのメッセージなのか。あるいは、暴走し始める強硬派への戒めなのか。
プーチン氏は、この日行った3時間40分におよぶ演説と対談で、西洋非難を繰り返し、ロシアとウクライナは一体なのだとの相変らずの持論を展開した。しかし結果として新たに脅威を高めることはなかった。そしてG20への出席も検討中だと述べた。
プーチン氏は国内の強硬派を抑えこみ、停戦に向けた姿勢を示していくことで、G20に出席し、西側との対話へのきっかけを作ろうとするのか。あるいは、強硬派にいわれるがままエスカレーションに突入していくのか。
プーチン氏のG20への参加・不参加の判断は、今後の戦争の行方を大きく左右する節目となる。
●ウクライナ産農産物輸出めぐる合意 ロシアが無期限停止と表明  10/30
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐり、合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明しました。
世界的な食料危機への懸念が続く中で輸出が再び滞るおそれがでています。
ロシア外務省は29日、声明を発表し、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明しました。
これに先立ってロシア国防省は、一方的に併合したウクライナ南部クリミアに駐留するロシア軍の黒海艦隊がウクライナ軍の無人機による攻撃を受けたと主張していて、外務省の声明では、合意の履行を停止する理由として「船舶の安全な航行が保証できないこと」を挙げています。
ウクライナでは、ロシア軍による封鎖で黒海に面する南部の港からの農産物の輸出が滞っていましたが、ことし7月にトルコと国連の仲介でロシアとウクライナが合意し、輸出が再開されていました。
世界的な食料危機への懸念が続く中、ロシアによる合意の履行停止によって、輸出が再び滞るおそれがでています。
国連のデュジャリック報道官は29日、コメントを出し、「合意は世界中の人々への食料確保につながる人道上、重要な取り組みだ。すべての当事者がこれを危うくするような行動を控えることが極めて重要だ」と訴えました。
ロシア国防省 艦隊や民間船舶が攻撃受けたと主張
ロシア国防省は29日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアに駐留する黒海艦隊や民間の船舶が、ウクライナ軍の無人機によって攻撃を受けたと主張しました。
この中で「標的となったロシアの艦船はウクライナの港から農産物を輸出する船舶の安全確保に関わっていた」と強調したうえで攻撃にはイギリスが関与していたと主張しています。
ロシア ポリャンスキー国連次席大使 安保理の緊急会合を要請
ロシアのポリャンスキー国連次席大使は29日、自身のツイッターで、ロシアが農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止するのは、ウクライナ側の攻撃が引き起こしたものだと主張したうえで「国連安全保障理事会の会合を呼びかけた」と投稿し、安保理の緊急会合を31日に開催するよう要請したことを明らかにしました。
ゼレンスキー大統領「ロシアは意図的に食料危機を悪化」
ウクライナのゼレンスキー大統領は29日に公開した動画で「ロシアは食料を積んだ船の動きを妨害し、意図的に食料危機を悪化させることをすでに9月から始めていた」と述べ、ロシア側を非難しました。
そして、9月からこれまでに合わせて176隻の貨物船が予定の航路を進むことができず沖合で待機を余儀なくされていてウクライナの農作物など200万トン以上を輸出できていないと明らかにしました。
そのうえで、ゼレンスキー大統領は「国際的な強い対応が必要だ。国連やほかのレベルでもそうだが、特にG20において必要だ。意図的に飢餓をもたらそうとしているロシアがなぜG20の一員でいられるのか、ばかげている。G20にロシアの居場所はない」と述べ、11月インドネシアで開かれるG20の首脳会議でも各国がロシアに対して一層強い姿勢で臨むよう訴えました。
ウクライナ クレバ外相「偽りの口実を使っている」
ウクライナのクレバ外相は29日、ツイッターに「モスクワは、何百万人もの人々の食料安全保障を担保する穀物の輸出に必要な輸送ルートを封鎖するため偽りの口実を使っている。ロシアに対して飢餓を利用したゲームをやめさせるようすべての国に呼びかける」と投稿しました。
また、ポドリャク大統領府顧問もツイッターに「プーチンは、食料などを世界に対する武器へと変えた。ロシアは、アフリカと中東を人質にして、ヨーロッパに対して複合的な戦争を繰り広げている。このことは、ロシアとの交渉は時間のむだであることを証明している」と投稿し、ロシアの対応を非難しました。
米 バイデン大統領「本当にひどいこと」
ロシアがウクライナ産の農産物の輸出をめぐり、合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明したことについてバイデン大統領は記者団に対し「本当にひどいことだ。ロシアは、自分たちがひどいことをしているのは、西側諸国のせいだと主張できるような根拠を常に探している」と述べ批判しました。
また、アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議の報道官は声明を発表し、「ロシアは、食料を武器化するための口実としてまたしてもみずから始めた戦争を利用しようとしている。食料を必要としている国々や世界的な食料価格に直接影響を及ぼし、すでに差し迫っている人道危機や食料不安を悪化させようとしている」と強く非難しました。
ロシア国防省 「ノルドストリーム」ガス漏れ 英の関与主張
また、ロシア国防省は、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」で9月下旬に起きた大規模なガス漏れについても、イギリス海軍が関与する破壊工作だったと主張しました。
これに対してイギリス国防省は29日、SNSで「ロシアは違法な軍事侵攻から注目をそらそうと、壮大な虚偽の主張に訴えている」と否定し、強く反発しました。
ノルドストリームの2本のパイプラインの合わせて4か所で確認された大規模なガス漏れをめぐって、捜査を進めているスウェーデンの治安当局は、爆発が原因と断定したほか、欧米各国は破壊工作という見方を強めていて、一部のメディアはロシアが関与した可能性を指摘しています。
●ウクライナ戦争に3人の息子を送り込むチェチェン首長の忠誠とロシアの苦境 10/30
ロシアのプーチン大統領に忠誠を誓っているチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長は10月25日、ロシア軍のやり方が「生ぬるい」とした上で、従来からの主張である核兵器を使用して、ウクライナの都市を「大地から消し去り、地平線しか見えないようにすべきだ」と述べました。私たち日本人にとって、チェチェン人というと、ロシアと激しく戦った過去のイメージが強いでしょう。それが、なぜ、いつ、どのように、ロシア追従に変わったのでしょうか。そして、強硬発言を続けるカディロフ首長とはどのような人物なのでしょうか。
通称「残虐部隊」の精鋭を率いる
カディロフ首長は現在46歳。その忠誠を買われ、プーチン大統領により、10月5日、ロシア軍で3番目に地位の高い「上級大将」の称号を授与されました。カディロフ首長のプーチン大統領への追従ぶりは異常とも思えるもので、自身の14〜16歳の息子3人をウクライナの前線に送ると表明しています。
3月には、「キエフのナチスどもよ」とウクライナを挑発し、降伏しなければ「おまえたちは終わりだ」とまで言いました。また、ウクライナ軍を「アゾフのならず者」と呼んでいます。カディロフ首長は「残虐部隊」と呼ばれるチェチェンの精鋭を率いています。
チェチェンは現在、ロシア連邦の一部ですが、かつて、チェチェン人のロシアに対する独立闘争は最も激しいものとして知られていました。チェチェンのあるコーカサス地方では、昔から、民族紛争が絶えません。地政学的に複雑な山岳地帯において、複数の民族が歴史的に独自の言語や文化を維持し、互いに軋轢を生じさせています。
チェチェン人は民族的にコーカサス人で、言語はコーカサス諸語のチェチェン語です。人口は約150万です。チェチェン人は16世紀以来、イスラム教に帰依しています。
父は親露派政権の初代大統領
18世紀から19世紀にかけて、チェチェン人はロシア帝国の南下拡大に抵抗しましたが、1859年、ロシア皇帝アレクサンドル2世の時代に、チェチェンをはじめとするコーカサス全域が併合されます。以降、ソ連時代も含め、チェチェン人はロシアに支配されてきました。
チェチェン人はソ連末期の混乱期の1990年、西側に隣接するイングーシ人(チェチェン人に近似する民族)とともに、ソ連邦からの独立を宣言します。翌年、チェチェン共和国とイングーシ共和国に分かれます。
しかし、ソ連は彼らの独立を認めませんでした。ソ連崩壊後のロシア連邦政府(エリツィン政権)もチェチェンの独立を認めず、軍事侵攻します(第一次チェチェン紛争)。1995年、ロシア軍がチェチェンの首都グロズヌイを制圧しますが、武装勢力のゲリラ闘争が続き、翌年、停戦で合意します。
その後も、チェチェンの武装勢力はモスクワで爆弾テロを繰り返しています。また、1999年、武装勢力はイスラム主義を掲げ、同じくイスラム教を信奉する隣国ダゲスタン共和国を併合するため、侵攻しています。
ロシアは武装勢力を放置することができず、1999年、チェチェンに軍事侵攻します(第二次チェチェン紛争)。この間、2000年にエリツィンからプーチンに、大統領が代わっています。
ロシアは2000年、チェチェンを再びロシア連邦内の自治共和国に戻し、カディロフ首長の父アフマド・カディロフを暫定政府大統領に任命し、チェチェンに親露派政権を形成することに成功しました。
プーチンに忖度し「大統領」の呼称をやめる
アフマドはもともと第一次チェチェン紛争で、ロシアとの戦いを「ジハード(聖戦)」と位置付けていましたが、紛争終結後、チェチェン人同士で対立し、排斥されていく中で、本来、敵であったはずのロシアに接近します。
彼はチェチェンをロシア連邦に帰属させることを約束し、それと引き替えに、ロシアの後ろ楯で、ロシア連邦内チェチェン共和国の初代大統領になったのです。
アフマド・カディロフは言わば、祖国と民族の裏切り者です。その息子で、3代目大統領となったのが息子のラムザン・カディロフ首長です。彼はプーチン大統領に忖度して、「国家に大統領は1人だけ」として、2010年、自ら「大統領」を名乗るのをやめ、「首長」と名乗り、現在に至ります。
2000年、チェチェンがロシア連邦に帰属した後も、独立派の武装勢力はロシアや親露派に対し、テロを繰り返します。これに対して、プーチン政権は独立派の要人たちを次々と暗殺し、武装勢力を徹底的に潰したのです。
2009年に、ロシアは一応、掃討作戦を終えます。2度の紛争による死者は10万人〜20万人に上ると見られています。
この間、カディロフの一族はロシアに協力し、ロシアに反抗的な自国のチェチェン人を率先して捕らえ、処刑して見せて、プーチン大統領の歓心を買いました。プーチン大統領も自らの意向に沿って行動するカディロフ一族や一派を支援し、両者の蜜月体制が形成されていきます。
ウクライナの都市を「大地から消し去れ」
ロシアに追従するカディロフ首長は一般チェチェン人の激しい怒りを買っています。カディロフ一派の失脚を狙う反対派勢力はチェチェン内部で少なからず、存在します。政権基盤の脆弱なカディロフ一派はロシア・プーチン政権に依存するしかありません。
もし、プーチン体制が揺らぐことがあれば、カディロフ一派の基盤は一気に瓦解するでしょう。カディロフ首長が必死になって、強硬発言をして、ウクライナを制圧しようとするのは、自らの命の危険もあるからなのでしょう。
カディロフ首長がウクライナの都市を「大地から消し去れ」とまで言うのは、プーチン政権の動揺を見た上での、焦燥の裏返しと言えます。
実際、プーチン大統領は、連邦警護局に命じ、10月25〜27日にかけて、モスクワで内乱鎮圧を想定した演習を行っています。これは定期的なものとはいえ、プーチン大統領は欧米の諜報機関がロシアの体制転覆を画策していると主張しています。
この演習には、 クーデターへの対処も含まれています。また、この演習と並行して、10月26日、ロシア軍は核兵器の搭載が可能なミサイルなど核戦力を使った軍事演習をも行っています。
「キエフのナチス」はロシア側のレッテル貼り
ところで、カディロフ首長が繰り返し言う「キエフのナチスども」という表現についてですが、「ナチ」や「ネオナチ」が本当に、ウクライナにいるのでしょうか?
我々が一般的にイメージする「ネオナチ」は、ドイツなどで、若者が奇抜な出で立ちで街を闊歩し、過激な民族主義を唱えているならず者の集団といったところでしょう。
一部、誤解を招くような映像や画像がネット上に出回っていますが、ウクライナに、そのような人たちがいるわけではありません。
ウクライナでは、反ロシアの観点から、ソ連の共産主義を危険視して戦ったドイツ・ナチスは正しかったとする見解が一部あり、そのような部分をとらえて、「キエフのナチスども」や「ネオナチ」と言っているに過ぎません。あるいはナチスと戦ったロシア人の「聖戦」の価値を認めないウクライナ人を批判するために使われるロシア人側のレッテル貼りに過ぎません。
●プーチンの個人資産を凍結。宣戦布告も、日本が強い姿勢にでるワケ 10/30
世界地図をのぞくと日本はロシア・中国・北朝鮮に囲まれており、現在の世界情勢を照らし合わせると、地政学上大きく危険をはらんでいる国の一つといえます。2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻による戦場の痛ましい現状の報道を目にして、罪のない人々が苦しむ姿に心痛めるとともに、自国の安全への不安を募らせれている人も多いのではないでしょうか。本連載では「2027年、日本がウクライナになる(他国に侵攻される)」と予測する、元自衛官で「戦場を知る政治家」である佐藤まさひさ氏の著書から一部一抜粋して、日本防衛の落とし穴についての知識を分かりやすく解説します。
ロシアのウクライナ侵攻は遠い国の出来事ではない
2027年、日本がウクライナのようになる――。これは決して、脅しではありません。私が本気で心配している「迫りつつある危機」です。総理や国会議員、周囲の人々にも必死にそれを伝えています。
えっ、日本が侵略されるの? 日本で戦争が始まるの?
「絶対にそうなる」とは言いません。でも、その可能性は高いと言えます。そうならないように、私は働いています。私たちの祖国、日本を守るために。
第一次イラク派遣(2004年)の隊長を務めた私が、国会議員になり早15年が経ちました。この間に「日本の平和」はどんどん危うくなっています。そして2022年2月24日、ついにウクライナの惨禍を見る日が来てしまいました。もはや待ったなしです。
9,000キロも離れたウクライナのニュースは、私たち日本人には他人事ひとごとに映るでしょう。焦土と化した町、崩れた建物からヨロヨロと出てくる市民。武器を手に戦う一般女性。ひっくり返った戦車。さらには、強奪した金品を自国へ送るロシア兵の姿…。目をおおいたくなる惨状ですが、決して映画やドラマではありません。これが世界の現実です。明日の日本の姿です。
そうならないためにどうするのか? まずは現状を知ることでしょう。日本人は争いを好みません。寛容さも備えています。素晴らしい資質です。でも、相手が一方的に殴り掛かってきたら? 黙って殴られますか? 殺されますか? それが戦争なのです。
「私は平和主義者なので、相手は殴り掛かってこない」という理屈は通じません。それは単なる願望です。隙を見せたり、弱いと思われたりしたら、襲ってくる人がいる。奪いに来る人がいる。そうなれば、嫌でも戦わざるを得なくなります。理不尽ですよね。
ウクライナの惨状を見て「こんな横暴が許されるのか?」と憤った人もいるでしょう。でも、現実の世界はこうなのです。信じたくないでしょうが、私たちは今、その最前線にいます。というより、すでに戦いのリングに立たされた状態と言えます。目を背けることも、逃げることもできないのです。
NATO加盟国をはじめ、世界はロシアへ厳しい制裁
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻しました。この暴挙を世界の多くの国が非難し、アメリカやNATO(北大西洋条約機構)加盟国は、ロシアに対してさまざまな制裁をかけました。日本もその一員です。
具体的には、金融制裁(海外の銀行にあるドルやユーロの凍結)、輸出規制、輸入規制、関税優遇の取り消し・撤回、超富裕層の資産凍結などです。これに対し、プーチン大統領は「強い制裁は宣戦布告とみなす」と宣言しています。
日本はプーチン大統領やその家族の個人資産も凍結したので、アジアの他の国よりも強い態度に出たと言えるでしょう。プーチン大統領からすれば「日本は俺に喧嘩を売った敵国」と映るわけです。つまり、日本はもう戦争に加わってしまったのです。
「なぜ喧嘩を売るようなマネをしたのか?」と言う人もいるでしょう。「平和主義を貫くべきだ」と思う人もいるでしょう。その気持ちはよくわかります。また、日本が憲法に定めた「平和主義」も世界に誇れるものだと思います。しかし、しかし! なのです。
日本は「知らん顔」をしていればよいのでしょうか? 日本だけが「平和な状態」を保つことは可能なのでしょうか? 残念ながら、答えは「NO」です。なぜなら、私たち日本国民が「知らん顔」をしても、「平和」を保とうとしても、すでに私たちを標的にしている者がいるからです。虎視眈々こしたんたんと私たちを狙い、隙あらば、あるいは弱みを見せたら、すぐにでも攻め入ろうとしている国があるからです。
しかも、一ヵ国ではなく、複数の国に狙われているのですからやっかいです。私たちが抱える危険性は、開戦前のウクライナよりも高いと言えるでしょう。ロシア、北朝鮮、中国――。彼らは、なぜ日本を狙うのか。私たちはこれからどうなるのか。どうすればいいのか? これはゲームでも他人事でも社会の授業でもなく、一人ひとりに突き付けられた現実なのです。 
●ロシアの動員兵、訓練や装備が貧弱 ウクライナ大統領 10/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日までに、ロシアによる退役兵らが対象の部分的な動員令に関連し、「(これらの)新たな部隊は戦闘への準備が不足している」と戦力になっていないとの判断を示した。
28日の国民向け演説で述べた。ロシア側が同日、部分的な動員令が完了し、戦闘の前線への新たな国民の派兵は不必要とする発表を受けた発言となっている。
ゼレンスキー大統領は「前線では(ロシアの言い分とは)全く反対の状況が生じている」と主張。ロシアは動員兵を使ってウクライナ軍の陣地への圧力増大を試みているが、訓練の程度や与えられた装備品が貧弱と切り捨てた。
司令部による動員兵の投入の仕方も非常に冷酷で、「新たな兵員を戦争に駆り出す必要がいずれあることを示唆している」と断じた。
ロシアのショイグ国防相は28日、プーチン大統領との会談で部分的な動員令は完了したと報告。目標としていた30万人の動員も完遂したと述べた。
ロシア内では動員令の発動後、抗議活動が起き、少数派民族を狙った不公正な徴兵が起きているなどとする人権擁護団体の非難も出ていた。
これら動員兵は南部ヘルソン州、東部のルハンスク、ドネツク両州の防衛戦に配置されているとの情報が出ている。いずれもロシアが先に一方的に併合した州で、動員兵は「使い捨て」の形で戦線に駆り出されているとの指摘もある。
ウクライナではヘルソン州の戦況の推移が焦点の一つとなっているが、同国軍は先にロシアは最多で1000人の動員兵を州内を流れるドニプロ川西岸に送り込んだと報告。SNS上でヘルソン市の防御を図るための措置と位置づけていた。
●「ロシア軍拷問」住民が恐れる地下室送り…一方的併合のヘルソン州 10/30
ロシアがウクライナ東・南部4州を一方的に併合してから30日で1か月となる。南部ヘルソン州在住の50歳代の女性会計士が、SNSを通じた本紙の取材に、露軍がウクライナ寄りの住民を拷問していると証言した。
女性によると、住民が最も恐れるのが「地下室送り」という。露軍がウクライナ寄りの住民を連行し、殴打や電気ショックなどの拷問を加えていることから、使われるようになった言葉だ。女性は「あらゆる手段で人間としての尊厳を奪おうとしている」と非難した。
また「併合」後、街中では親露派の住民が我が物顔で振る舞うようになった。「ロシアにとり重要な人物には護衛がついている」とも述べ、住民の反発が強いことを示した。
商店は大半が閉まり、営業している店舗は5%程度にとどまるという。ロシア産の野菜が出回るが、ウクライナ産に比べ質が悪く割高だ。ウォッカやたばこもロシア産が売られるようになった。
女性は、「ロシア産の食料は買いたくない。備蓄でしのいでいる。自家製の酒も出回っている。ソ連崩壊時にも見なかった光景だ」と語った。「併合」後、非占領地域への出入りが一層厳しく制限され、女性の娘は避難を断念したという。
●ロシア “貧しい国に農産物無償提供” 揺さぶりかける思惑か  10/30
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明しました。また、輸出される農産物は主にヨーロッパ向けだと主張し、代わってロシアが貧しい国に農産物を無償提供するとしていて、揺さぶりをかける思惑もあるとみられます。
ロシア外務省は29日、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明しました。
これに先立ってロシア国防省は、一方的に併合したウクライナ南部クリミアに駐留するロシア軍の黒海艦隊がウクライナ軍の無人機による攻撃を受けたと主張していて、外務省は合意の履行を停止する理由として「船舶の安全な航行が保証できないこと」を挙げています。
ロシアが主張する黒海艦隊への攻撃について、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は29日、「黒海艦隊は、巡航ミサイルでウクライナのエネルギー関連施設を攻撃する能力がある。過去、数週間にわたる大規模な攻撃に対する対応だったのだろう」として、ロシアによる攻撃に応じたウクライナ軍によるものという分析を示しています。
ウクライナからの農産物の輸出をめぐっては、ロシア軍による封鎖で黒海に面する南部の港からの輸出が滞っていましたが、ことし7月にトルコと国連の仲介でロシアとウクライナが合意に至り、再開されていました。
ロシアによる合意の履行停止によって、世界的な食料危機への懸念が続くなかで、輸出が再び滞るおそれがあり、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアは、食料を積んだ船の動きを妨害し、意図的に食料危機を悪化させている」とロシア側を非難したほか、国連や欧米各国などからも批判や懸念の声が上がっています。
一方、ロシアのパトルシェフ農業相は29日、ウクライナからの農産物は主にヨーロッパに輸出されていたと主張したうえで「ロシアは今後4か月の間、最大50万トンの農産物を貧しい国に無償提供する用意がある」と述べました。
プーチン政権は、これまでもウクライナの農産物の多くがヨーロッパ向けだとしてウクライナやヨーロッパ諸国の対応を批判していて、合意の履行停止に対するロシアへの批判をかわし、揺さぶりをかける思惑もあるとみられます。
●プーチン露大統領が韓国大統領に「哀悼の意」 雑踏事故で 10/30
ロシアのプーチン大統領は30日、韓国の首都ソウルで多数の犠牲者が出た雑踏事故を受け、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に「深い哀悼の意」を表した。インタファクス通信が大統領府の発表として伝えた。
ロシアのミシュスチン首相も韓国の韓悳洙(ハン・ドクス)首相に弔電を送った。
●ロシア、穀物輸出合意の履行停止=「テロ」理由に国際社会揺さぶり 10/30
ロシアのプーチン政権は29日、ウクライナ南部クリミア半島を拠点とするロシア黒海艦隊が「テロ攻撃」を受けたとして、黒海経由のウクライナ産穀物輸出を巡る合意の履行を無期限停止すると発表した。
●ウクライナ4州併合から1カ月 ロシア「同化」に躍起も既に綻び 10/30
ロシアによるウクライナ4州の一方的な併合宣言から30日で1カ月となった。「併合後も状況は何も変わっていない」との住民の不満も聞こえる中、プーチン露政権は4州の「同化政策」を進めて併合の既成事実化を急ぐとともに、4州に戒厳令を導入して「防衛力」を強化する構えだ。だが、領土奪還を目指すウクライナ軍の攻勢が続いており、併合には既に綻(ほころ)びも見え始めている。
ロシアが併合を宣言したのは、2014年から親露派勢力が主要部を実効支配してきたドネツク、ルガンスクの東部2州と、今年2月の侵略開始後に占領下に置いたヘルソン、ザポロジエの南部2州の支配地域。
「住民は併合後すぐに生活が良くなると期待していたが、現実は違った。ロシアの銀行ATMが増えたくらいだ」。ドネツク州に住む女性は27日、電話取材にそう述べた。自宅に水が供給されるのは併合前と変わらず2〜3日に1回、数時間のみ。例年なら既に稼働している住宅用の暖房もほとんど切れているという。
この女性によると、住民らは同州の州都ドネツクを「女性の王国」と揶揄(やゆ)している。男性住民の多くが軍に動員され、残った男性も動員を避けるために外出を控えたり、他の地域に脱出したりし、路上に姿がないためだという。
ロシアは今後、住民に利益を実感させることで、併合の正当化を図る思惑だとみられる。併合宣言後、ロシアは中央省庁や国営メディアの支部を4州に設置。住民への露旅券の配布▽ロシア産天然ガスの供給▽ウクライナ・フリブナから露ルーブルへの通貨転換▽露年金制度の導入▽4州と露国内の教育制度の統合▽道路・住宅の再建−などの施策を相次いで発表した。
その一方で、ウクライナ軍の反撃を背景に、ロシアは4州に20日から戒厳令を導入。移動や通信の自由など住民の私権を制限し、行政権を軍に移管した。志願住民でつくるとうたう民兵組織「領土防衛隊」の創設も発表し、4州が奪還される事態を防ぐ構えだ。
ただ、ロシアは併合宣言直後、ドネツク州の要衝リマンをウクライナに奪還された。東部2州で今後、露軍の劣勢が続くとの観測が強い。ヘルソン州でもロシアは10月、州都ヘルソンなどドニエプル川西岸地域から行政機関や住民を東岸地域に退避させた。今後もロシアによる4州の支配が維持されるかは不透明だ。

 

●ロシアがウクライナ産穀物の輸出合意を停止 10/31
ロシア政府は29日、国連が仲介した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意への参加を停止した。ウクライナがクリミア半島に大規模なドローン攻撃を仕掛けたことが理由と説明している。ウクライナのゼレンスキー大統領はG20(20カ国・地域)に対し、ロシアの追放を呼びかけた。
欧州連合(EU)のボレル上級代表は30日、ロシアに対し決定を撤回するよう求めた。
ロシアの決定は世界的な食料危機緩和への努力を損ないかねない。ウクライナ側はロシアの行動はあらかじめ計画されたものだと非難した。
ロシアが29日、輸出再開合意への参加を停止したことで、黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出が止まることになる。
ロシアは、クリミア半島セバストポリ付近の黒海艦隊をウクライナが無人機で攻撃したことを、合意停止の理由としている。だがバイデン米大統領は29日、ロシアの決定は「理不尽で言語道断」だと非難した。
バイデン米大統領「飢餓を拡大させることになる。そんなことをする理由はどこにもない。だが彼らはいつも何か根拠を探していて、とんでもないことをしでかしたのは西側がそうさせたからだというのだ」
ロシア国防省は29日未明に黒海艦隊がウクライナのドローン16機から攻撃を受けたと主張。そして英海軍の「専門家」が「テロ攻撃」の調整を支援したとしている。ロシア側によると攻撃は撃退したが、ウクライナからの穀物輸送船の航路確保に関与する船が標的となったとしている。
ウクライナのクレバ外相は、ロシアは穀物回廊から200キロ以上離れたところで起きたとする爆発を、事前に計画していた行動のための「偽の口実」に利用したと非難した。
ゼレンスキー大統領は国連とG20に強力な対応を求めた。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ロシアが意図的に飢饉を作り出そうとしているのなら、G20メンバーでいられるだろうか?ばかげている。G20にロシアの居場所はない」
ロシアの穀物輸出合意からの離脱によって、8カ月に及ぶウクライナ戦争は新たな局面を迎える。
ウクライナは地上戦で反転攻勢を続け、奪還した領土を広げる一方、ロシアはドローンやミサイルで人口密集地を攻撃し、ウクライナの発電能力の30%以上を奪った。また双方が、相手が放射性物質を伴う兵器の使用を進めていると非難している。
●プーチンの侵攻を先読み! 開戦から術中に嵌めまくる"ウクライナ"軍略 10/31
軍事力世界2位の大国が苦戦している――。今や当然となりつつあるこの事実だが、何もロシア軍が弱いワケではない。そこには、装備の数も質も圧倒的なロシアを欺き、常に先手を打ち続ける軍師の存在がある。「ロシアは私が最も対応しやすいシナリオを選んだ」。そう語るザルジニー総司令官に見えているものとは。
用意周到な準備と柔軟な人員配置
侵攻開始当初、ロシアは12時間で首都キーウに到達し、3日以内に制圧できると考えていた。しかし、それは1週間、1ヵ月と延び続け、そしてついには開戦から半年以上が経過した。
大国ロシアの予想に反するウクライナの善戦の背景には欧米からの武器供与がある。しかし、それ以上に大きいとされるのがウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官(49歳)の存在だ。
米雑誌『TIME』の表紙を飾るなど世界的に注目度が高まっており、同誌が「ウクライナ侵攻が一冊の歴史本になるとすれば、彼が主役を担うだろう」と記すほど。
慶應義塾大学SFC研究所上席所員で、安全保障アナリストの部谷直亮(ひだに・なおあき)氏は、彼の用意周到な準備がロシアの出はなをくじいたと分析する。
「ロシア軍の大規模侵攻が迫っているという諜報機関の報告に懐疑的だったゼレンスキー大統領に対し、時間の問題だと考えていたザルジニー氏は、兵器を基地から移動させました。開戦と同時に相手の主要施設や装備を叩くのは戦争の常道です。
彼は、ロシア軍に悟られないように、いつもの演習をするフリをしながら航空機、大型無人機、戦車、装甲車、そしてウクライナの制空権を守るのに活躍した対空システムを隠したのです」
侵攻が始まった際、彼が掲げた目標はふたつ。「キーウを陥落させないこと」と「領土を奪われるときは、必ず相手にも出血させること」だった。
「その考えが顕著に表れたのは64qにも及ぶロシア軍車両の大渋滞を引き起こした作戦。あえてキーウの手前まで長蛇の列をつくらせてから、最前列と最後尾の車両をドローンや砲撃で潰すことによって、進むことも退くこともできなくさせたのです」
ロシア軍の車両の多くが整備不足で暖冬のぬかるんだ道を走ることができず、脇道にそれることも不可能。長期戦を想定していなかったため、数日間の立ち往生で兵站(へいたん)も尽きた。
「対抗策も講じない様子にザルジニー総司令官はビックリしたそう。『ロシアは私が最も対応しやすいシナリオを選んだ』とインタビューで語っています。
実際、彼は2020年時点で対戦車ミサイル『ジャベリン』の実験を含む軍事演習も指揮していました。この演習自体は失敗に終わりましたが、彼はロシアが攻め込んでくることを確信しており、着々と準備し続けていたのです」
ウクライナ出身の国際政治学者のグレンコ・アンドリー氏は、彼の、適材適所に人員を配置する才能が最悪の事態を防いだと分析する。
「侵攻直後の混乱しているときに、彼は将軍らに裁量権を与え、それぞれの得意な地域に派遣し防衛させたのです。例えば、キーウにいたマルチェンコ少将をミコライウという南部の都市に派遣しました」
ミコライウはウクライナ南部の造船業の中心地で、マルチェンコ少将の地元だった。そのすぐ南のヘルソンはすでにロシア軍に占領されており、ミコライウが陥落するのも時間の問題だと思われた。
しかし、マルチェンコ少将が地元民と塹壕(ざんごう)を造り粘り強く抵抗したことで、包囲していたロシア軍を追い返すことに成功したのだ。
「また、もうすでに現役を退いていたクリヴォノス将官にはキーウ・ジュリャーヌィ国際空港の防衛を任せました」
クリヴォノス将官は特殊作戦部隊の創設者のひとり。2014年のロシアによるクリミア侵攻の際、東部のクラマトルスク飛行場の防衛を指揮したこともあった。
今回の侵攻直後、キーウ近郊のホストメリにあるアントノフ国際空港は激しい戦いの末にロシア軍に占領されたが、大統領府から7qの距離にあるキーウ・ジュリャーヌィ国際空港はクリヴォノス将官によって守られた。詳細は明かされていないが、滑走路を工夫し、ロシア軍機の上陸を阻止したのだ。
旧ソ連型から米軍式の軍隊へ
ザルジニー氏の柔軟な人材配置の妙はどこから来るのか。前出の部谷氏は、彼の学生時代の研究だと語る。
「彼は軍人の家に生まれ、高校卒業後はオデーサの士官学校に入学し、修士論文では米軍の権限移譲型の組織づくりを研究しました。凝り固まった上意下達な意思決定に依存する旧ソ連モデルを維持しているウクライナ軍を、NATOの軍隊のようにしたいと考えていました」
そして昨年7月、ゼレンスキー大統領は腐敗した軍を改革できる人材として、まだ中間管理職だった彼を総司令官に大抜擢。任命の電話は、奥さんの誕生日パーティでビールを飲んでいるときにかかってきたという。
「彼はすぐにロシア侵攻に向けた組織改革をしました。任命から数週間で、現場部隊の将校は、作戦目的を実現するための判断には上級指揮官の許可は不要だというルールを作りました」
それによって、将軍がそれぞれの戦況に合わせて軍を使うことができたのだ。
「また、ザルジニー氏はロシアの傑出した軍事思想家、ゲラシモフ参謀総長を高く評価しており、彼の著作や論文はすべて読破し、執務室に所蔵しているほど。
ゲラシモフはフェイクニュースやサイバー攻撃など、非軍事活動による情報戦や心理戦と軍事力を組み合わせて鮮やかに勝利する『ハイブリッド戦争』を編み出した人物で、クリミア併合を成功させた立役者です」
ロシアの軍略も彼は予習済みだったというワケだ。
もし今、大統領選を実施したら......
前出のアンドリー氏は、ザルジニー氏の絶対的な信頼感がウクライナ軍の善戦につながっていると分析する。
「例えば、9月に重要拠点を取り戻したハルキウ奪還作戦。これを成功させるには部隊をかなりのスピードで移動させる必要があったので、軍内部からは『補給は大丈夫なのか』とか『深入りしすぎると逆に包囲されるのでは』といった心配の声もあったんです。
でも、ザルジニー総司令官が『いける』と判断したとなれば、軍全体が信じて従うんです。少しむちゃに思える作戦も、彼がそう言うなら大丈夫だろう、と」
その強固な信頼感を生んだのは彼の優れた人間性だとアンドリー氏は話す。
「軍の上に立つと、兵士を駒として見てしまうものです。ある程度死なせてしまうのは仕方ない、と。でも彼は、兵士ひとりひとりの命をしっかり重く受け止めており、戦死した兵士の葬式に参列し、遺族に謝罪し、涙をこらえながらご遺体の唇に触れるシーンも報道されました。才能はもちろん、人柄も素晴らしいのです」
幼少期はコメディアンを目指していたというザルジニー氏。彼への称賛は軍を超え、ウクライナ全土に広がっている。
「戦時中なので世論調査は禁止されているんですが、非公式で行なわれているという噂があり、それによると『もし今、大統領選を実施したら、ザルジニー氏が圧倒的多数で勝つだろう』って結果が出たそうなんです。
ゼレンスキー大統領の支持率も高いのですが、当然、支持する人もいれば不支持の人もいる。でも、どちらであれ、ザルジニー氏を絶賛している。彼の支持は100パーセント近いと思います」
軍人にも国民にも愛される軍師・ザルジニー総司令官。彼がいる限り、ウクライナに隙はない。
●ロシア軍 ウクライナ南部ヘルソン方面に4万人規模の部隊集結か  10/31
ロシアによる軍事侵攻への反転攻勢を強めるウクライナ軍が南部ヘルソン州の中心都市に向けて部隊を進めているとみられる中、ロシア側は4万人規模の部隊を集結させているとする見方が出ていて、予断を許さない情勢が続いています。
ウクライナ軍は30日、ロシアによる軍事侵攻への反転攻勢を強めていて、東部ドネツク州の10の地区でロシア軍を撃退したと発表したほか、南部ヘルソン州では中心都市ヘルソンに向けて部隊を進めているとみられます。
こうした中、ウクライナのメディアは29日、ロシア側がヘルソン方面に4万人規模の部隊を集結させているとする、ウクライナ軍の情報部門トップの見方を伝えました。
その多くは空てい部隊などの精鋭で、ヘルソンの解放には11月末までかかる可能性が高いとしていて、予断を許さない情勢が続いています。
ヘルソン州をめぐっては、ウクライナのレズニコフ国防相も25日、NHKとのインタビューで、ロシア軍が中心都市ヘルソンとその周辺に部隊を集めていると指摘していました。
一方、ロシア側は、ウクライナ南部クリミアに駐留するロシア軍の黒海艦隊が無人機による攻撃を受けたと主張し「船舶の安全な航行が保証できない」などとして、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明しています。
これについてロシア国防省は30日「無人機は南部オデーサ近くの海岸から発射された」として、改めてウクライナ側を非難しました。
ウクライナ政府からの公式な反応はありませんが、クレバ外相は30日、ツイッターで「ロシアのふるまいは予想の範囲内だ。何百万もの人を飢餓のリスクにさらしていながら、交渉に臨む姿勢を装っている。だまされてはいけない」などと投稿し、合意の履行を一方的に停止するとしたロシア側の姿勢を強く批判しました。
ウクライナ 本格的な冬を前に 集中暖房施設などの復旧作業
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、本格的な冬を前に、砲撃や戦闘で破壊された集中暖房の施設などの復旧作業を急いでいます。
このうち、侵攻当初、ロシア軍との間で激しい戦闘があった首都キーウ近郊のイルピンでは、集中暖房のボイラー施設で修理が行われていました。この施設は、街のおよそ7000戸に暖房のための温水を供給しているということですが、ボイラーにはロシア軍との戦闘による銃弾の痕が残ったままです。施設の建物には、砲弾が直撃して屋根に穴が開いたほか、爆風でほとんどの窓ガラスも割れたということですが、ほぼ修復を終え、仕上げの塗装作業が行われていました。
イルピンのクラフチュク副市長は「赤十字などの支援を受けて、ボイラー室の窓を交換した。復旧作業は継続中だが、11月の初めまでには作業を完全に終えたい」と話していました。
一方、ウクライナでは10月、火力発電所などエネルギー関連施設が相次いでロシア軍の攻撃を受け、各地で停電が相次ぐなど、冬を前にして市民生活への影響が広がっています。
●プーチン大統領から「英雄」の称号、ロシア軍中央軍管区の司令官解任か  10/31
ロシアの有力紙RBCなどは29日、露軍中央軍管区のアレクサンドル・ラピン司令官がウクライナ侵略の作戦指揮から外されたと報じた。10月に東部ドネツク州の要衝リマンから露軍が撤退したことや、部分的動員の招集に関する混乱を巡り、引責させられたとの見方が出ている。
ラピン氏は、ロシアが今年7月に東部ルハンスク州の制圧宣言をした際、拠点都市陥落に携わったとしてプーチン大統領から「英雄」の称号を与えられた。中央軍管区の司令官にはとどまっているとみられるが、ウクライナの反転攻勢の中、戦況に不満を持つ強硬派の発言力が一層強まっているとの指摘が出ている。
ラピン氏に対しては、強硬派の露南部チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長らが解任を要求してきた。カディロフ氏は10月27日、東部ルハンスクとドネツクの両州の州境付近での戦闘を巡り、「(最前線に)ラピン氏の部隊の兵士がいない」などとSNSで痛烈に批判した。
侵略に関し積極的に情報を配信しているブロガーは、ラピン氏が作戦指揮から外されたのは、動員兵の管理を巡る「状況の破綻」が原因だとの見方を示した。
露軍では強硬派の批判が強まる中、10月には西部軍管区、東部軍管区の司令官が交代したと伝えられている。
●「核使用の匂わせ」「息子の戦地派遣」チェチェン共和国カディロフ首長の忠誠 10/31
“あぶない男”の存在がウクライナ侵攻で苦戦するロシアの中でどんどん大きくなっている。
チェチェン共和国の独裁者ラムザン・カディロフ首長は、今回のウクライナへの侵攻で私兵部隊『カディロフツィ』を派遣。ウクライナに東部を奪還されたロシア軍司令部の戦いぶりを批判し、兵士の徴集に苦慮する中、まだ10代の息子3人を戦地に送り出すと発表した。
そして、核兵器の使用をちらつかせて「ウクライナの大地から都市を一掃し、地平線しか見えないようにすべきだ」と言い放った。これらの“忠誠”が認められたのか10月5日にはロシア軍で3番目に高い位となる「上級大将」に昇格したという。
SNSでは息子達の射撃訓練やUFCファイターとのスパーリング、さらに息子たちがウクライナ捕虜兵を首長に“献上”するという動画もアップし、前線投入がフェイクでないことをアピールしていた。しかし、この捕虜が違うカディロフツィの動画にも登場しており、捕虜は偽物でフェイク映像ではないかという指摘もあった。
なぜプーチンはこの男をここまで重用するのだろうかー。
私設軍隊「カディロフツィ」はロシア軍の汚れ仕事担当
「核使用のほのめかし」「息子の戦地派遣」「ロ軍司令部批判」などカディロフ首長の言動はすべて、感情的な威嚇に聞こえるが、実はプーチン大統領へのアピールだと言われている。
国内外の世論を気にして、おおっぴらには言えないことを全て先回りして、カディロフ首長が代弁してくれるのだ。
ロシア国内で兵士の招集が困難を極めている状態で、年端のいかない息子達を前線に送り込むカディロフは、プーチン大統領はさぞかし「頼れるやつ」に見えるのかもしれない。
カディロフは2月のウクライナ侵攻当初から、ロシア発のSNS「テレグラム」においてカディロフツィの戦闘の様子を動画で配信してきた。テレグラムはロシア国内外で閲覧できる世界的なツール。
そこで情報発信することで、反ロシアの西側諸国、ロシア国内の反戦派・反プーチン派にも戦果をアピールすることができるのだ。
カディロフツィたちの戦闘シーンはTikTokなどにもアップされているが、リアリティに乏しく「本当に戦っているのか?」と疑問を呈され「TikTok部隊」と揶揄されている。
チェチェン共和国は国家予算の8割がをロシアから得ており、カディロフの独裁はプーチンの後押しで成り立っているので従わざるをえない。ウクライナのアレストビッチ大統領府顧問は4日、キーウ州で判明した民間人殺害などの犯罪行為について、カディロフ部隊を含む十余りのロシア部隊が関与したとの分析を公表した。
事実であれば戦争犯罪だが、正規軍とは独立した武装組織が行ったことにすれば、プーチンも言い訳できる。2014年のウクライナの東部紛争や、シリア内戦でも同様な役割を担っていたという。
プーチン大統領にとっては汚れ仕事を一気に担ってくれる闇の仕事人のような存在で「カディロフ」と「カディロフツィ」を体制維持や恐怖支配に利用し、お互い持ちつ持たれるといえるだろう。
宿敵チェチェンがなぜ今ロシアの味方に
コーカサス地方の北東部にあるチェチェンの人々は他のロシア周辺国家同様、大国ロシアと隷属と独立を巡る闘争を繰り返してきた。19世紀にはロシア帝国、20世紀にはソビエト連邦と侵攻されるたびに激しく抵抗し、1940年頃のスターリン時代には民族ごとカザフスタンやキルギスに強制移住させられ、スターリンの死後、帰還が許されている。
1994年ソ連崩壊後、エリツィン大統領時代のロシア連邦からの分離独立を宣言すると、ロシアが軍事介入すると「第一次チェチェン戦争」が勃発、10万人の市民が死亡し、22万人が国外に流出したが、1997年にはロシア軍を撤退させ、勝利をおさめた。ラムザンの父・アフマド・カディロフも指導者として政権内部にいたが、国内の対立で政権から追放されてしまった。
1999年「第二次チェチェン戦争」では、アフマドはかつての仲間を裏切り、プーチン大統領と手を組んで紛争を鎮圧し、傀儡政権の「チェチェン共和国」の大統領におさまった。
2003年アフマドが暗殺されると、ラムザンは2007年に第3代大統領に就任する。
プーチン大統領にとっては、エリツィン氏がなしえなかったチェチェン戦争の勝利で国内人気は上昇し、長期政権の礎となった。カディロフもまたプーチンありきの地位であることを重々承知しており、2010年には自ら役職名を大統領から首長にかえて、プーチンへの徹底的忠誠を示している。
4人の妻を持ち、1億6000万ドルをかけた豪邸に住むといわれ、国際的な舞台で活躍する競走馬の馬主としても有名だ。
格闘技やサッカーなどの球技を推奨する一方、映画『チェチェンへようこそーゲイの粛清―』に描かれているように「チェチェンにゲイは存在」しないと断言し、LGBTを迫害していると国際人権団体からも非難されている。
強い? 弱い? カディロフツィの真の実力とは?
2月の侵攻と共にすぐに支援部隊として約1万人投入されたというカディロフツィだが、ウクライナのドンバス地方に侵攻した様子を複数のウクライナ軍の兵士が目撃している。
カディロフツィは市街地に侵入し、走る自動車に銃弾を浴びせ、車内の犠牲者の遺体を放り出して車を盗んで走り去った。その後、民間人を大量虐殺しただけでなく、重傷のロシア兵もその場で撃ち殺したという。
犠牲者の遺体から処刑が行われていた形跡があり、ある女性の証言によると夫の彼女は4日間の拷問を受け、夫は頭部を撃たれて死亡した。カディロフツィは1軒ずつシラミ潰しに住宅に侵入し、住人を殺害していく掃討作戦はカディロフツィのやり方だ。
ペンタゴンのレポータージェフ・ショール氏によると、カディロフツィの実力はプロのロシア兵より劣っているという。
第二次チェチェン戦争で活躍した兵士は引退し、次の世代になっており、実戦の場がなく、任務はカディロフの邸宅の警備だけで、いちじるしく兵力が弱体化したというのだ。ウクライナ側のメディアではほぼ壊滅したという情報もある。
一方、捕虜になったロシア兵のインタビューをYouTubeで公開しているウラジーミル・ゾルキン氏は捕虜の中に全くチェチェン人がいないことから、「カディロフツィは通常のロシア兵より優遇されているのではないか?」という仮説を立てている。
プーチンとカディロフが密約をして、ロシア側とウクライナ側の人質交換をするときに、真っ先にカディロフツィがロシア側に渡されているのではないか?というのだ。
真偽は定かではないが、プーチンのカディロフへの寵愛ぶりをみると、満更かけ離れた話ではないとも思える。
発言権はどんどん上がっている模様
同じくプーチンの威光を借りてヨーロッパ最後の独裁政権を維持するベラルーシのルカシェンコ大統領だが、ロシアとの合同部隊の形成を進めるとしながら、「われわれに戦争はない」と表明し、ヨーロッパ側には「たとえ敵対者であっても窮地に追い込まないこと」とロシアを刺激しないように警告している。
同じプーチン側にいながら、カディロフ首長とは真逆で、戦争には消極的だ。
ロシア一辺倒のチェチェンと違い、ベラルーシは中国、ヨーロッパとも国交があり、ウクライナ侵攻は本意でなく「早く終わってくれ!」というのが本音ではないだろうか?ルカシェンコだけでなく、ロシア政権内部にもウクライナ侵攻に疑問を持つ者は多いとされプーチン大統領はその空気を感じ取り、ますます孤独を深めているのかもしれない。
そんな中、戦況はどうあれ、絶対的な忠誠を示してくれる部下はこの上ない癒しになる。
最新のカディロフのテレグラムでは、チェチェンで大規模なロシア軍の訓練施設が建設されており、ロシアのイワノフ国防副大臣が見学に来た様子が伝えられていた。ウクライナ侵攻でロシア軍内での存在感が高まったことは間違いないようだ。
核使用を公然と進言するカディロフの存在は国際社会も注視せざるを得ないだろう。
●プーチン氏が「食料を戦争の武器に」 米国際開発局長官 10/31
米国際開発局(USAID)のパワー長官は30日、ロシアに対し、国連が仲介した黒海からの穀物輸出を行う合意への参加を継続するよう求めた。パワー氏は、世界には、ロシアのプーチン大統領が食料を兵器として使い続けることができるだけの余裕はないとした。
パワー氏は声明で、ロシアが穀物輸出の合意を停止するとの発言について、残念だと述べた。パワー氏は、国連が7月に仲介した、ロシアとウクライナ、トルコによる合意によって、国際的な食料危機のなか、900万トン以上の穀物やその他の食料を世界中に輸出することができたと語った。
パワー氏は、穀物輸出の合意が世界の食料価格を引き下げ、深刻な飢餓に対して最も脆弱(ぜいじゃく)な人々を救ったとして、これまでの「多大な成功」をたたえた。
パワー氏は、穀物輸出の合意を弱体化しようとする試みは、穀物輸出の取り組みに命と生活をゆだねている世界の飢えた家庭に対する攻撃だと述べた。
ロシア政府は、穀物輸出合意への参加を停止することについて、ウクライナがクリミア半島でドローン(無人機)による攻撃を行ったためだと主張している。 
 
 

 

●揺れるベラルーシのウクライナ戦争での立ち位置 11/1
ベラルーシはプーチンがウクライナ戦争に参加するように求める中、揺れている。ベラルーシでは過去20年間、ルカシェンコの選挙での勝利、その後の抗議デモ、ロシアが支持する弾圧というサイクルが続いてきたので、ロシアに対し恩義がある。他方、ウクライナ戦争に参加すればルカシェンコへの国民の反発を抑えられなくなるというジレンマがある。
ニューヨークタイムズ紙のAndrew Higgins中東欧支局長は、10月15日付け同紙解説記事‘Belarus Wavers as Putin Presses It to Join Ukraine War’において、「ルカシェンコは窮地にいる。彼はロシアの支持で生き残っているが、戦闘参加は”政治的自殺”になりうる」との見方を示している。記事の主要点は次の通りである。
・ロシアのウクライナ侵攻後8カ月経ち、クレムリンがウクライナでの軍事作戦にもっと関与せよと圧力をかける中、ルカシェンコの政権掌握はリスクにさらされている。
・ロシアは2月、ウクライナ侵攻をキーウに向けてベラルーシ領から始めたが、失敗した。プーチンは軍が進軍停止、または退却するなか、ルカシェンコに支援を求めている。10月7日、ルカシェンコはサンクトペテルブルグでプーチンと会った後、ウクライナ、ポーランド、北大西洋条約機構(NATO)が「われわれを戦闘に引き込もうとしている。彼らにそうさせてはならない」と述べた。彼の発言はNATOに向けられているが、ベラルーシの兵力を戦闘に派遣せよとのロシアの圧力への不安を示している。
・チハノフスカヤ(亡命中の野党指導者、2020年大統領選の候補者)は、ベラルーシの直接の参戦はルカシェンコにとり「政治的自殺」になると述べた。
・ベラルーシの活動家たちが、ロシアと戦うためにウクライナに行き国際部隊に参加している。カバンチュク(約500人からなるカリノウスキ連隊の副隊長)によれば、彼らの目標は、(1)ウクライナをロシアから守ること、(2)ルカシェンコからベラルーシが解放される日を早めること、である
・ベラルーシ軍がキーウの注意と部隊を南部と東部での戦争からそらすために使われれば、ルカシェンコはますます西側からプーチンの共謀者とみなされ、ロシアに課されたと同じ制裁の対象にされ、代償を払わされかねない。この状況は彼の政敵を元気づけている。
・野党の運動は平和的抗議にコミットしているが、その一部は武器を取っている。チハノフスカヤは非暴力的変革を望んでいるが、ウクライナでのベラルーシ戦闘員への支持を表明している。チハノフスカヤの補佐官は「ウクライナが負ければウクライナもベラルーシもなくなるだろう」と言っている。

最近、ロシア軍はミサイルとドローンでキーウを含むウクライナ各地でインフラ施設を含む民間施設を攻撃している。これは、ウクライナ人を怖がらせ、戦意を削ぐのが目的と思われるが、ゼレンスキー大統領はロシアの非道を訴え、徹底抗戦を呼びかけている。
ウクライナ側の士気は高いままであるように見える。空爆で民間施設を壊しても、陸上での戦闘にはあまり影響はなく、ウクライナ軍が東部と南部で主導権を握っている状況は変わらないだろう。
ただ、ロシア軍がキーウをミサイルなどで攻撃し、ベラルーシ領内に9000人ものロシア軍を派遣していることは懸念材料ではある。兵員不足の中、何をしようとしているのかよくわからない。装備については、ベラルーシから戦車などがロシア領に運ばれているということであり、キーウを再度攻める動きが出てきているとも思われないが、今後の動きに注意を払う必要がある。
ベラルーシ国内の情勢にも影響
ルカシェンコは、ウクライナ戦争に参戦するのはプーチンの部分動員がロシア国民の反発を呼んだように、ベラルーシの国内の不安定化につながると思っていると見られる。そういうわけで、上記の解説記事にもあるように、ベラルーシの兵力を戦闘に派遣せよとのロシアの圧力への不安を示している。10月21日には、もっと踏み込んだ表現で「われわれには戦争は必要ない」と述べた他、ウクライナ人は同胞であるとも言っている。
ベラルーシ軍は空軍と陸軍よりなる5万人足らずの軍でしかない。装備も旧式である。仮にウクライナ戦争に参戦しても、戦況がそれで大きく変わることはないと思われる。
ベラルーシの国内情勢については、今はリトアニアに亡命中のチハノフスカヤ周辺が、ウクライナ戦争の帰趨によってはルカシェンコ政権が終わるとの期待を持ち、元気づいているというこの記事の指摘は正しいと思われる。チハノフスカヤを首班とするベラルーシ亡命政権は将来の軍事組織の萌芽のようなものを持っているが、これへの志願者の登録数は20万人を超えたとの報道もある。
●ロシア、ウクライナ各地をミサイル攻撃 キーウでは市民が給水に列 11/1
ウクライナで10月31日、各地の主要インフラ施設に対するロシアのミサイル攻撃があった。首都キーウでは、市民らが水を求めて列を作る事態になった。
ウクライナ当局によると、攻撃によって全国で13人が負傷した。
ロシアは今回の攻撃について、ウクライナの軍指揮系統とエネルギーのシステムを狙ったものだとし、すべての目標に命中したとした。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は同日、先週末にロシアの軍艦が攻撃されたことへの対応でもあると述べた。
ウクライナ軍は同日夜、発射されたミサイル55発のうち45発を撃ち落としたと発表した。
キーウ市のヴィタリー・クリチコ市長は同日夜、市民の4割が水道を使えず、市内の27万世帯で停電が発生しているとした。
空爆の被害が明らかに
ウクライナの重要インフラがロシアの空爆で破壊された様子は、安全保障上の理由から、外部にはほとんど公開されない。
ミサイルがどこに命中し、どこで外れたかなど、今後の攻撃で利用されかねない情報を提供するのを避けるためだと、ウクライナ当局は説明している。
しかし31日の空爆の被害は、いたるところで目にすることができた。いくつかの地域では計画停電が実施されている。
ウクライナ政府は国民の多くに、節電を呼びかけている。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、人々の電力消費はすでに「極めて質素」な状況だとしている。
キーウでは街灯が消され、トロリーバスに代わって従来型のバスが走った。水の供給も停止され、住民らはポンプからくんだ水を手に入れるため、市内各地で長い列をつくった。
隣国モルドヴァにも着弾
リヴィウ、ドニプロペトロウシク、ハルキウ、ザポリッジャなども攻撃を受けた。
ウクライナ当局によると、10州の計18施設にミサイルやドローンが命中した。ほとんどはエネルギーを作り出す施設だという。
隣国モルドヴァの当局は、ウクライナが迎撃したミサイルの1つが、モルドヴァの国境の町に着弾したとした。住宅に被害が出たが、死傷者はなかったという。
モルドヴァ当局はその後、首都キシナウのロシア大使館の職員1人に国外退去を通告したと発表した。職員の名前は明らかにしなかった。
ロシアが併合したクリミア半島の黒海艦隊は先週末、ドローンによる攻撃を受けた。ロシアはウクライナによるものだとしたが、ウクライナはコメントしていない。
プーチン氏は31日夜、記者団の質問に答え、今回の空爆は報復の意図もあったと説明した。
また、ウクライナの港から穀物を運び出す船の安全な通行を認める、国連の仲介による協定について、参加を中断したが終了はしていないと述べた。
ウクライナは同日、ロシアが協定から離脱したとし、それでも輸送船はウクライナから出港を続けているとしていた。
新たな総司令官の影響か
今回の攻撃は、冬を前に重要なインフラを標的にするというロシアの戦略を示す、最新の例となった。ウクライナでは冬期、気温が零下20度まで下がることもある。
ウクライナはこの日の攻撃について、軍事的な敗北が続くロシアによる反応だとしている。ウクライナ軍は反転攻勢を強め、領土を奪還している。
ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は、ロシアの作戦について、同国のセルゲイ・スロヴィキン将軍の影響がみられると指摘する。同将軍は10月、プーチン氏によってウクライナ侵攻の新しい総司令官に任命された。
レズニコフ氏は先週、珍しく記者会見を開き、スロヴィキン総司令官が就任した後のロシア軍について、「戦術を変えた」、「ウクライナの軍とではなく市民と、公然と戦い始めた」と説明。「非常に寒く暗い状況」で住民の間に「混乱とパニック」を引き起こすのが目的だとした。
ゼレンスキー大統領は、この戦術を「テロ」と呼んでいる。多くのウクライナ国民は、民間人が再び標的になったことに怒っているものの、恐れてはいないとしている。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長ら欧米の指導者は最近、戦争の「ルール」を定めたジュネーヴ条約に基づき、主要な生活インフラへの意図的な攻撃は戦争犯罪に当たると指摘している。一方、ロシアは、あらゆる戦争犯罪を否定している。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は31日朝、「ロシアは戦場で戦わず、民間人と戦っている」と述べた。こうした見方は同国の多くの人に共通する。
ウクライナは、都市防衛のために防空能力を高める必要があるとしている。ドイツはすでに物資を供給しており、イギリスとアメリカも続くと発表している。
●ウクライナ、チタン供給危機に商機  11/1
米政府は長年、チタンの世界市場が米国の主要な敵対国であるロシアと中国に依存し過ぎていることを懸念してきた。この極めて重要な金属の主要生産国であるウクライナが今、その依存度を下げる役割を果たすことを目指している。
しかし、この問題に詳しい複数の関係者によると、新たな供給国として取って代わるウクライナの取り組みは、国内の政争や継続する戦争に妨げられている。
米国の産業界と国家安全保障関係者は、金属チタンの基礎となるスポンジチタンが国内生産できていない問題にどう対処するかを議論している。鉄よりも強くて軽く、航空宇宙産業に不可欠なチタンは、ますます地政学的な道具とみなされつつある。
ワシントンの当局者は、中国が原料市場とスポンジチタンの生産を支配し、ロシアが航空宇宙産業級の金属チタンの供給を掌握することを懸念している。中ロが連携して米航空宇宙産業を無力化しかねない。米製造企業が近いうちにチタンスポンジの生産を再開する見込みは低く、米国は代わりの供給先を確保しようとしている。
米地質調査所(USGS)によると、スポンジチタンを生産する国は世界で7カ国しかない。その一つであるウクライナは、バランスを均衡させる役割を果たす可能性を秘めている。ロシアがエネルギー同様に金属チタンの輸出を制限した場合、米国をはじめとする西側諸国はスポンジチタンの新たな供給源を確保する必要が出てくる。
米航空宇宙大手ボーイングの元幹部で、航空機素材やサプライチェーン(供給網)に携わり、ロシアで働いた経験を持つジョン・バーン氏は「ウクライナにその空白を埋めることができるかって?」とし、「間違いなくできる。ウクライナは注目される場所の一つだろう」と述べた。
差し迫ったチタン供給危機を巡る懸念は、米国の産業基盤を巡るさらに大きな懸念と共に数年前から高まっている。
米国で唯一スポンジチタンを生産していたタイメット社(本社・ネバダ州)は、安価な中国やロシア製品と競争できず、2020年にスポンジチタン生産工場を閉鎖した。両国の製品は政府から補助を受けており、中国の場合は特にその規模が大きい。米国は現在、全てのスポンジチタンを国外から調達しており、米商務省は国家安全保障を脅かすと繰り返し警告している。
米国はもはやスポンジチタンを国防備蓄として保有していない。国内メーカーは、日本をはじめとする外国の供給源に頼っている。
USGSによると、中国は世界最大のスポンジチタン生産国で、昨年の世界の生産量の57%を占める。しかし、そのほとんどは西側の航空宇宙産業基準に適合していない、と業界の専門家らは指摘する。ロシアは航空宇宙産業級チタンの完成品を最も多く生産している。
ボーイングは、世界最大のチタン輸出会社であるロシアのVSMPOアビスマと合弁会社を維持しているが、ロシアが侵攻を開始して以来、発注を停止している。米国はロシア産チタンを制裁対象にしていないが、VSMPOの取締役会長を務めるセルゲイ・チェメゾフ氏を2014年からブラックリストに載せている。同氏は1980年代にウラジーミル・プーチン露大統領と共に旧東ドイツで旧ソ連の国家保安委員会(KGB)に勤務していた。
欧州連合(EU)は7月、欧州の民間航空機大手エアバスからの働きかけを受け、VSMPOへの制裁案を撤回した。エアバスは今も、金属チタンの約半分をVSMPOから調達している。
多くの米企業は、VSMPOの米国のパートナーであるTirus社経由でロシア産の金属チタンの購入を続けている。Tirusはコメントの要請に応じなかった。
ボーイングは、原材料と完成品共にかなりのチタン在庫を持っている。新型コロナウイルス流行や航空機「737MAX」と「787ドリームライナー」に関わる問題で、それらの生産ラインが停止したためだ。しかし、いずれはその供給も尽きる。
ボーイングの広報担当者は「世界の調達先を多様化する数年前からの取り組みなどにより、ボーイングには相当なチタン在庫がある」と述べた。
ワシントンでは、米産業基盤の敵対国産チタンへの依存軽減に向け、ウクライナを供給源の一つとして確立する初期の取り組みが進行中だ。今年の国防予算法案には、「ウクライナのチタン供給源を中国やロシアの供給源の代替として利用する可能性」について、国務省に報告書の作成を指示する条項が盛り込まれた。
この法案の発起人であるトム・ティファニー下院議員(共和、ウィスコンシン州)は「米国は、重要鉱物を中国やロシアのような敵対的な外国に依存するわけにはいかない」とし、「ウクライナは敵対国ではなく、欧州有数規模のチタン鉱床がある」と述べた。
理論的には、ウクライナはロシアと中国に十分取って代われる立場にある。USGSによると、ウクライナの鉱山が昨年産出したチタン鉄鉱(チタンの原料)は、世界の生産量の約5%を占める。
ウクライナはウラル山脈以西で唯一のスポンジチタン工場も保有している。ただし、完成品を航空宇宙産業基準に適合させるには、投資と時間が必要だ。
しかし、ウクライナのシェア拡大のもう一つの障壁は、この産業を巡るビジネス紛争だ。この業界は長年、ガス・金属で財を成した親ロシア派のオリガルヒ(新興財閥)、ドミトロ・フィルタシュ氏が牛耳ってきた。同氏は現在、オーストリアに滞在しており、米国への引き渡しを巡って争っている。同氏はチタン鉱物の採掘権を獲得するためにインド当局者に賄賂を贈った罪で、米国で起訴されている(本人は起訴内容を否定)。
フィルタシュ氏は、8月にウクライナ政府が国有化するまでウクライナのチタンスポンジ工場の支配権を握っていた。国有化は、同国がその生産を近代化したがっている証拠だ。しかし、工場は戦争の前線に近いザポロジエにあり、ロシアの侵攻以来、閉鎖されたままで再開の明確な見通しは立っていない。これは、ウクライナの潜在的な供給源を利用する難しさを象徴している。
ウクライナ大統領府のロスティスラフ・シュルマ副長官によると、チタン採掘や製錬に投資家を誘致するウクライナ政府の取り組みも、戦争で停滞している。政府は戦略的な投資家を求めていると同氏は話す。
「特にチタン製錬については、オフテイク契約(長期供給契約)を結んでくれて、工場を改良するための良好な投資をしてくれる大規模な国際的プレーヤーが必要だ」とシュルマ氏は述べた。
ウクライナの非上場のチタン生産会社ベルタは、生産サイクルを短縮する技術を開発したと述べている。チタンスラグを粉末化し、それを使用して航空宇宙産業用パーツを製作する方法だが、まだ実証されていない。
国際チタン協会(ITA)の会長で米金属チタンメーカー、ペリマンの最高経営責任者(CEO)を務めるフランク・ペリマン氏は「新技術を侮ってはならない」としつつも、「しかし、これは米国や世界の航空宇宙・防衛産業を支える水準にまで拡張可能なものではない」と述べた。
それでも、ベルタの幹部は拡張を目指して6月に米国を訪れ、ノースカロライナ、サウスカロライナ、フロリダ、テキサスの4州をチタン粉末工場の建設予定地に選定した。ウクライナから米国にチタン鉄鉱石を輸送し、それらの工場で米国内の産業向けに製錬する計画だ。
しかし、ベルタのこうした計画は国内で障害に直面している。ウクライナ当局は同社を過少納税の疑いで調査している。ベルタのアンドリー・ブロドスキーCEOはその疑惑を否定している。
ウクライナ大統領府は、ベルタの元取締役がウォロディミル・ゼレンスキー大統領の政党と対立する議会派閥を支持していることを巡り、ベルタに圧力をかけている。この事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
在ウクライナ米国大使館の外交官が、この問題の解決を試みている。この協議に詳しい複数の関係者が明らかにした。
大統領府のシュルマ副長官は、ベルタの問題への国家の関与を否定。「ベルタのような企業が事業を拡大し、国際的なサプライチェーンに加われるよう可能な限り支援するのが、大統領府の立場だ」と述べた。
●アメリカ元国防長官 ”彼はウクライナで勝てない”  11/1
オバマ政権で、国防長官やCIA長官を歴任したパネッタ氏。長年、安全保障政策に携わってきた立場から、ウクライナ情勢について独自の見解を示しました。
”彼は非常に困難な状況に立たされている”
「プーチン氏が苦境に立たされウクライナが戦争に勝利するのは間違いない。最終的に彼はウクライナで勝てない」。
ロシア側が勝利することはないと断言するパネッタ氏。
背景として挙げたのが、プーチン氏が陥っている厳しい状況です。
「プーチン氏はいま2つの戦いに直面している。ウクライナ国内と首都モスクワでだ。最新の推計ではロシア軍の死傷者は8万人で1万5000〜2万人が戦場で命を落としている。このことはロシアに残された家族に打撃を与えプーチン氏への批判を呼び起こしている。彼は非常に困難な状況に立たされている」。
核兵器使用の可能性については?
国内外で厳しい状況に直面しているというプーチン氏。
パネッタ氏は、核兵器使用の可能性について、プーチン氏の心理をこう分析しています。
「われわれの諜報活動によればプーチン氏は一か八かの賭けを続けている。彼のような人間を窮地に追い詰めれば、そこから抜け出すため何だってやるだろう。今まさに彼がやっているのは核兵器の使用をちらつかせることだ」。
パネッタ氏が懸念しているのが、放射性物質をまき散らすいわゆる「汚い爆弾」。一度使われれば、核兵器使用の足掛かりになりかねないと指摘します。
「完全な形の核兵器より威力は小さくても、(“汚い爆弾“の使用を)私は懸念している。誰かが放射性物質を武器として使用すれば、ほかの者が核兵器を使う可能性を増幅させる。そしてそのことが、核兵器使用の危険性をさらに高める。最も考えられるシナリオは、特定の戦場に限定した核兵器の使用だ。こうした武器の使用は一線を越えることを意味する」
アメリカはどう対応するべきか?
Q. ロシアが“汚い爆弾“や核兵器を使用したらアメリカはどう対応するべきか?
「私たちはプーチン氏に非常に強いシグナルを送らなければならない。バイデン大統領はもしプーチン氏が核兵器を使用すれば、それはすなわち「アルマゲドン」(最終戦争)、極めて破壊的な結果を招くことになると明確に示している。もしプーチン氏が核兵器を使用すれば、アメリカは同盟国とともに通常兵器の使用で対抗するだろう。核兵器を使用すれば深刻な結果を招き敗北を確実にするだけだという断固たるメッセージをプーチン氏に送ることが重要だ」。
”プーチン氏に影響を与えられるのは軍事力だけ”
長期化する戦争。
パネッタ氏は、戦争をやめさせる唯一の方法について、最後にこう述べました。「プーチン氏に影響を与えられるのは軍事力だけだ。それゆえ、アメリカと同盟国はウクライナからロシアを撃退し続け、この戦争に勝たなければならない。それがプーチン氏を何らかの解決策に同意させる唯一の方法だ」。
●ウクライナ海軍、無防備で寝ている地上のロシア兵にドローンで爆弾投下 11/1
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。
ウクライナ軍ではトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」だけでなく、攻撃ドローンとしてはポーランド政府が提供しているポーランド製の「WARMATE」、米国バイデン政権が提供している米国製の攻撃ドローン「スイッチブレード」も実戦で活用されて、多くのロシア軍の戦車などに攻撃を行っている。ウクライナ製の「PD-1」による攻撃、さらにウクライナ軍のドローン部隊「エアロロズヴィドカ (Aerorozvidka)」が開発しているウクライナ製の攻撃ドローン「R18」による爆弾投下もロシア軍への夜間の攻撃を行っている。
民生品ドローンは監視・偵察のために利用されていることがほとんどだが、ウクライナ軍では以前から小型の民生品ドローンに爆弾を搭載してロシア軍に投下させたり、ドローンごと突っ込んでいき爆破したりしている。
2022年10月にはウクライナ海軍がドローンで地上で寝ていたロシア軍の兵士の近くに爆弾を投下している動画をイギリスのメディア「ザ・サン」が公開していた。
爆弾は兵士には命中しないで、兵士の近くに投下された。落下してきて爆発した爆弾に驚いた兵士らが慌てて逃げようとする様子が撮影されている。上空からのドローンであれば、地上の兵士に命中させることはできただろう。だが、ウクライナ海軍があえてロシア兵に命中させなかったのか、たまたまロシア兵からずれた場所に落下してしまったのかどうかまでは明らかにされていない。
ウクライナ軍では地上のロシア兵に対してドローンで爆弾を投下する動画をよく公開している。閲覧注意な動画が多いが欧米のメディアではほぼ毎日のように報じられている。
ドローンは上空でバリバリと音がすることが多いので地上から迎撃されて撃ち落されたり、避難されてしまうことも多いが、このロシア兵らは寝ていたのか上空のドローンの存在に気が付いていなかったようだ。しかもこの攻撃は明らかに明るい昼間に攻撃をしている。
「ザ・サン」によるとロシア兵らは周囲から気が付かれないように小穴を掘って3人で固まっていたようだ。地上から見えないように隠れていたのだろうが、上空のドローンからは明らかに無防備である。今回の爆弾は兵士には命中していない。小型ドローンからの爆弾投下なので搭載できる爆弾や手榴弾の量には限りがあるが、上空から投下するので殺傷力もある。命中していたら死に至らせなくともロシア兵の手足が吹っ飛んでしまうような大けがを負わせることができる。そのような負傷兵の介護が必要となるため、死亡するよりも軍全体への負担は大きい。
ウクライナ軍ではこのようにロシア兵だけでなく、ロシア軍の戦車や軍事輸送車、トラックなどにもドローンから爆弾を投下して破壊している。ロシア兵が逃げて置き去りにされた戦車なども上空から破壊している。手榴弾や小型の爆弾では戦車全体の破壊はできないが、部品やエンジンを破壊して機能を停止させてしまうことができるので効果は大きい。爆弾を上空から落としたり、ドローンごと標的に突っ込んでいき爆破させる攻撃ドローンだけでなく、小型の民生品ドローンでも簡単に上空から攻撃ができる。
●プーチンはロシア経済を自滅させている、米政権幹部が指摘 11/1
バイデン政権のアドバイザーは10月31日、プーチン大統領はウクライナへの侵攻でロシアが世界経済から大きく後退する中、石油の輸出以外の分野で自国の経済を痛めつけていると発言した。
「ロシアがこの戦争を継続する上で、ただ一つ残された資金の供給源は石油だ」と、バイデン大統領のアドバイザーを務めるアモス・ホッホスタインは31日のCNBCの取材に語った。「プーチンは経済の他の部分を破壊した」と彼は付け加えた。
国際通貨基金(IMF)の予測によると、今年のロシアのGDP成長率はマイナス3.4%の見通しで、米国(1.6%)、中国(3.2%)、英国(3.6%)、日本(1.7%)の2022年のGDP成長率が停滞しつつもまだプラスであるのと比べるとはるかに悪い。
ロシア経済の落ち込みの多くは、米国や欧州連合とその同盟国からの制裁の影響によるもので、ほぼ全ての輸出を停止させられたが、石油資源の豊富なロシアにとって、石油ビジネスは依然として活況を呈している。ロイターが8月に入手したクレムリンの文書によると、2022年のロシアのエネルギー輸出からの収入は、原油価格の高騰と中国とインドなどの熱心な買い手のおかげで、38%増の3400億ドル(約50兆円)近くになる見通しという。
ロシアが2月24日にウクライナに侵攻した後、エネルギー価格は急騰した。国際的な指標であるブレント原油の価格は31日に1バレル92.51ドルをつけ、1年前に比べて12%上昇し、米国のガス価格は同期間に11%上昇している。エネルギー価格の高騰は、すでに急騰していたインフレを欧米では40年以上ぶりの水準に押し上げ、世界経済を景気後退の瀬戸際に追いやっている。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、ウクライナ侵攻の開始以来、ロシアの輸出は20%縮小した。
ロシアが世界最大の農業生産国の一つであるウクライナの港から穀物を積んだ船が出港するのを阻止したことで、世界の食料価格も上昇している。31日には小麦価格が5%以上上昇したが、これは週末にロシアが輸出継続のための待望の協定から撤退したことによるものだ。
●ロシアの著名富豪が国籍放棄 プーチン大統領の「ファシズム」を批判 11/1
ロシアの富豪オレグ・ティンコフ氏が10月31日、ロシア国籍を放棄した。ウクライナでの戦争と「プーチン(ロ大統領)のファシズム(全体主義)」が理由だとしている。
ティンコフ氏は、約2000万人の顧客を抱えるロシアのオンライン銀行大手「ティンコフ銀行」創業者。
インスタグラムへの投稿でティンコフ氏は、「平和的な隣国に戦争を仕掛けたファシスト国家と、私は関わりを持てないし、そうするつもりもない」と述べた。
公の場でウクライナ侵攻を批判するロシアの富裕層は少ない。
ロシアの独立系ニュースサイト「ソタ・ヴィジョン」はツイッターで、ティンコフ氏のロシア国籍失効を示す書類の写真と、同氏がインスタグラムに掲載したウラジーミル・プーチン大統領に対する長い非難を掲載した。
ティンコフ氏はインスタグラムで、「このパスポートを持ち続けることは、私にとって恥ずべきことだ」と説明。「より多くの著名なロシア人ビジネスマンが私に続き、プーチン政権とその経済を弱体化させ、最終的に彼を敗北に追い込むことを願っている」と書いた。
「プーチンのロシアは嫌いだが、この狂った戦争に明確に反対しているすべてのロシア人を愛している!」
同氏はロンドンに住んでいると言われているが、ロシアの多くのビジネスエリートと同様に、イギリスの制裁の対象になっている。
ティンコフ氏は4月にも、縁故主義と隷属主義に基づく政権だと、さらに強い言葉ロシア政府を非難していた。
「クレムリンの官僚たちは、自分たちだけでなく、自分の子供たちも夏の地中海に行けなくなったことにショックを受けている。ビジネスマンたちは、自分たちの財産の残骸を救おうとしている」
西側諸国は、ティンコフ氏を含む「オリガルヒ」と呼ばれるロシアの新興財閥らに制裁を科しており、渡航禁止や資産凍結、飛行機やヨットの差し押さえなどを行っている。プーチン大統領の政治力や軍事力は、ロシア政府とのつながりで富を得た億万長者たちの支持に大きく依存している。
ティンコフ氏はさらに、自身で設立し、地中海キプロスに本社を置くTCSグループ・ホールディングについて、家族で保有していた35%株式を売却。TCSの事業には「ティンコフ」のブランド名で展開している銀行業や保険業、携帯電話事業などがある。
売却先は、ロシアの採鉱大手ノリリスク・ニッケルのトップ、ウラジーミル・ポタニン氏だった。
報道によると、著名銀行家のニコライ・ストロンスキー氏もロシア国籍を放棄したという。ストロンスキー氏はイギリス国籍を持っており、イギリスでフィンテックのスタートアップ「Revolut」を設立。今年初めには、家族がウクライナとつながりがあるとして、ウクライナ侵攻を非難する内容をブログに投稿していた。
10月初めには、イスラエルとロシアの億万長者、投資家ユーリ・ミルナー氏が、ロシア国籍を放棄したと発表した。ミルナー氏は2014年にロシアを離れ、アメリカに住んでいる。
●プーチン氏、ウクライナ各地のインフラ攻撃は報復と主張 11/1
ロシアのプーチン大統領は31日、ウクライナ各地で実施したインフラ攻撃や、国連が仲介した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意への参加停止について、クリミア半島の黒海艦隊へのドローン攻撃に対する報復だと主張した。
記者会見で、ウクライナが穀物船を通す海上回廊を使ってクリミア半島にドローン攻撃を仕掛けたと強調した。
ウクライナ側は攻撃への関与を否定し、海上回廊を軍事目的に使ったことはないとしている。国連は、ロシアが黒海艦隊への攻撃があったとする29日夜、回廊を航行していた船舶はなかったと述べた。
ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)を含む各地で31日実施したミサイル攻撃では、水力発電所を含む多数の主要エネルギー施設が被弾し、広い地域で停電や断水が起きた。
ウクライナ軍参謀本部はフェイスブックへの投稿で、少なくとも6つの地域がインフラ攻撃を受けたと説明した。
プーチン氏は「われわれができることの全てをやり切ったわけではない」と述べ、一段の行動を示唆した。
ウクライナ東部ハリコフ州のシネグボフ州知事は交流サイトのテレグラムに、攻撃で約14万人の市民が電力を失ったと投稿した。ハリコフ市の約5万人が含まれるという。
ウクライナ軍は、ロシアから発射された50発のミサイルのうち44発を撃墜したと発表。それでも、キーウの8割で断水するなど被害は大きい。警察は13人が負傷したとしている。
シュミハリ首相によると、国内10地域にミサイルおよびドローンの攻撃があり、エネルギー施設をはじめ18の標的が被害を受けた。
●プーチン氏恩師の娘が「国外追放」に 捜査対象と報じられ自宅を捜索 11/1
ロシアのプーチン大統領の恩師の娘として知られるロシアのジャーナリスト、クセニヤ・サプチャーク氏が10月26日、当局の弾圧を恐れてリトアニアに緊急出国した。自身の側近の事件に絡んで捜査対象と報道されたが、出国後に一転、当局は捜査対象でないと表明。事実上の「国外追放」だったとみられる。
サプチャーク氏は26日、事件について、「すぐに、ばかげた話だと判明すると願っている。ロシアで最後の自由なメディアである私のメディアを狙ったのは明らかだ」とSNSに投稿した。居場所は明らかにしなかった。
「事件」が明らかになったのは25日。サプチャーク氏が創設した独立系メディア「タトレル」の元編集長らが、ロシア国営企業「ロステック」のチェメゾフ最高経営責任者に対し1100万ルーブル(約2600万円)を恐喝したとして拘束された。同社は防衛や航空など戦略分野の企業を傘下に持つ。ロシアメディアはサプチャーク氏も捜査対象だと伝え、自宅が捜索された。
サプチャーク氏は25日夜、モスクワを出発。ベラルーシ経由でリトアニアに入国。サプチャーク氏が歩いてリトアニアへの国境を越える様子を撮影した動画がSNSなどで広まった。
●プーチン大統領“ウクライナが輸出の安全確保してない”と主張  11/1
ロシアが、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明したことに関連して、プーチン大統領は、ウクライナ軍によるロシア軍の黒海艦隊への攻撃を念頭に、ウクライナ側が輸出の安全を確保していないと主張しました。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの対応を改めて非難したうえで、ロシア抜きで輸出を継続したい考えを強調しました。
ロシアのプーチン大統領は10月31日、ロシア南部ソチで記者団の取材に応じ、ロシアがウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明したことに関連して、「ウクライナは、民間船やロシアの船に対して脅威がないことを保証する必要がある」と述べました。
プーチン大統領としては、ウクライナ軍によるロシア軍の黒海艦隊への攻撃を念頭に、ウクライナ側が輸出の安全を確保していないと主張したものです。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は10月31日、記者会見で「国連とトルコが仲介した合意から、ロシアが離脱すると表明したことは、この合意を破るということだ。われわれは、世界の食料市場の安定のため、農産物を輸出する枠組みを継続していく」と述べ、ロシアの対応を改めて非難したうえで、ロシア抜きで輸出を継続したい考えを強調しました。
国連は10月30日、ウクライナと、仲介役のトルコとの3者で、ウクライナ産の農産物を積んだ貨物船の航行を継続する計画を明らかにしていますが、ロシア側は反発していて、航行の安全を確保しながら輸出を継続できるか模索が続けられることになります。
●プーチン氏、予備役動員の「完了」宣言…大統領令は「専門家と協議」  11/1
ロシアのプーチン大統領は10月31日、露南部ソチで記者会見し、ウクライナ侵略への兵員補充のため9月21日から行っていた予備役の部分的動員が完了したと宣言した。動員を巡っては、反対するデモが頻発し、招集を逃れようと男性が相次いで国外に脱出するなど露社会に大きな混乱を招いていた。
プーチン露大統領(AP)プーチン露大統領(AP)
プーチン氏は、部分的動員の完了に関する大統領令を出す予定はあるのかどうかを記者に問われ、「個別に大統領令が必要かどうかは法律の専門家と協議するが、(動員は)完了した」と述べた。 
●岸田首相、ドイツ大統領と会談 ロシアの核使用への懸念共有 11/1
岸田文雄首相は1日、ドイツのシュタインマイヤー大統領と首相官邸で会談し、安全保障分野やウクライナ情勢への対応で緊密に連携する方針を確認した。
会談で首相は、ドイツが国防費を増強し、インド太平洋地域への関心を深めていることを高く評価。日本も5年以内に防衛力を抜本的に強化することを伝え、「日米同盟を基礎としつつ、同志国との多層的な安全保障協力を進めていく」と述べた。
ウクライナ情勢を巡り、両首脳は「ロシアによる東部地域の違法な併合を含め、主権と領土の一体性を侵害する行為は決して認められない」との認識で一致。対露制裁とウクライナ支援を継続する重要性を確認した。ロシアが核兵器の使用を示唆していることに関し、強い懸念を共有した。
4月にドイツのショルツ首相が来日した際に合意した日独政府間協議をさらに強固な枠組みとすることでも一致した。
シュタインマイヤー氏は会談後の共同記者会見で「ロシアの侵略は他国の独立性を侵害するもので許容できない。日本とドイツはルールに基づいた国際秩序を守る」と述べた。
シュタインマイヤー氏は3日まで日本に滞在し、天皇皇后両陛下との会見や経済関係者らとの交流を予定している。
3日にはドイツで、両国の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)の開催が予定されている。
●パイプライン損傷巡るロシアの「芝居」に関与せず=英首相報道官 11/1
スナク英首相の報道官は1日、ロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」の損傷は英国の仕業だとのロシアの主張はウクライナ情勢から目をそらすための試みであり、「ロシアの劇作」の一部だと述べた。
ロシアは1日、ノルドストリームへの攻撃は英国の仕業との主張を改めて示し、それに対してどのような「追加措置」を取るか検討中とした。
スナク首相の報道官は記者団に対し「われわれは状況を注意深く監視しているが、ロシアの戦術の一部であるこの種の注意をそらす試みにに引き込まれないようにするのが適切だ」と指摘。「ロシアは民間人への無差別砲撃と民間インフラへの攻撃を続けている。それがわれわれの焦点であり、ロシアがこの違法な戦争に敗北するよう支援を提供し続ける」と語った。
●東部前線で戦うワグネルの「使い捨て兵士」 ウクライナ 11/1
「そこにあるのは恐怖だ。地面はアスファルトのように真っ黒で、すべてが破壊された。遺体があちこちに散乱していた」
AFPの取材に応じたウクライナ兵のエウヘンさん(38)は、ロシア軍が撃ち込む砲弾が付近でさく裂する中、地下トンネルに退避した。そして、わずか1キロしか離れていない東部ドネツク(Donetsk)州バフムート(Bakhmut)の前線の状況を振り返った。
ロシア軍はウクライナ各地で防戦を強いられているが、バフムートに対しては過去数か月間、攻撃の手を緩めていない。
軍事専門家やウクライナ軍によると、暗躍しているのはロシアの民間軍事企業ワグネル(Wagner)だ。
ワグネルの創設者は、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に近い実業家のエフゲニー・プリゴジン(Yevgeny Prigozhin)氏(61)。ロシアによるウクライナ侵攻を機に存在感を強めており、政治的野心を抱いている可能性があるとの見方も出ている。
ウクライナ当局者によると、プリゴジン氏はロシア国内の受刑者に対し、報酬や恩赦という条件を提示してワグネルの兵士として採用し、数千人を前線に送っているという。
数人のウクライナ兵は、こうした元受刑者が「人間の餌」のような使われ方をしているとAFPに証言した。
ウクライナ軍第93旅団に属するアントンさん(50)は、「暗くなる午後6時前後から、経験のない兵士たちがわれわれの陣地に向けて前進を命じられ、ある地点で数分間とどまる」と説明する。こうした兵士が毎晩7、8人前後、ウクライナ部隊に向かってやって来るという。
第53旅団の少佐セルヒーさんは、「一行の任務は、前進してわれわれが発砲せざるを得ない状況を生み出し、陣地の場所を探り当てることだ」と話す。その後、「ロシア側は(われわれの陣地に向けて)大砲を撃ち込み、より経験豊富な精鋭部隊を送り込んでくる」という。
ワグネル創設者に政治的思惑
ウクライナ側の説明によると、このようなロシア軍の「使い捨て兵士」の大半が戦死する運命にある。中には、負傷したり、拘束されたりする者もいる。
セルヒーさんはある朝、こうしたロシア兵のうち生存者1人を発見した。セルヒーさんが撮影した動画で、1か月前にワグネルに加わったという傭兵(ようへい)は、仲間もワグネルに採用された元受刑者だと語っていた。
ロシアは戦線で後退を強いられており、約30万人の徴兵に踏み切ったことで社会の動揺を招いた。専門家は、受刑者を兵士として採用しているのは、ロシアが弱点を露呈し始めたと兆候とみている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は、プリゴジン氏は元受刑者を最大2000人採用した可能性があるとの見方を示している。
ここで、同氏はなぜ戦略的に重要でもない都市を掌握するのに固執するのだろうかという問いが生じる。
ウクライナ軍の退役大佐であるセルゲイ・グラブスキー氏はバフムートについて、「ロシア軍は技術的には同市を掌握できる。ただし、近い将来の話ではない」との見方を示した上で、多大なる犠牲を伴うため、割に合わない「ピュロスの勝利」になるだろうと述べた。
プリゴジン氏には、ロシア軍の将軍よりも頼りになる人物との評を得るという、政治的な利得に対する思惑があるのではないかと専門家は指摘する。
ウクライナ国立戦略研究所(National Institute for Strategic Studies)のミコラ・ビエリスコフ氏は、「ロシア軍は防戦状態にあるが、プリゴジン氏は攻勢に出ているように振る舞っている。これが同氏の最大の関心事であり、戦いを政治的な影響力、そしてカネに変えるのが目的だ」と分析する。
プリゴジン氏はケータリング事業を営み、大統領府と契約を結んでいることから「プーチン大統領のシェフ」と呼ばれているが、第53旅団の兵士ネストルさんは、的を射たニックネームだと語る。「1000人、2000人、3000人の兵士を砲弾の餌食にしているのだから」
●「自信のなさ」露呈したプーチン大統領 核恫喝=@11/1
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月21日の演説で、核兵器の使用をほのめかし、「これはハッタリではない」と恫喝(どうかつ)した。国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアの指導者が「核の脅し」を使うかとは、あぜんとするばかりだ。
プーチン氏は、しばしば核兵器について言及してきたが、それは自信のなさを露呈している。彼は、ロシアが大量の核兵器を保有する大国であることを誇示したいのだ。核兵器を除くとロシアが大国でないことは、今回の戦争で明らかになった。
彼は核の恫喝によって、2つの目的を達成しようとしている。つまり、「ウクライナ軍の反攻作戦を止めさせること」と、「西側諸国のウクライナへの武器提供を止めさせること」だ。
それでは、西側諸国の指導者は、プーチン氏の核恫喝にいかに対処すべきか。結論は、核の脅しに屈することなく、断固としてウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナが希望する兵器を迅速かつ大量に提供することである。プーチン氏の脅しに屈することは、彼がウクライナ侵攻で勝利することを意味する。そして、核の脅しに一度屈したら、彼は何度でも西側諸国を核で脅すだろう。
確かに、プーチン氏が核を使用する可能性は否定できない。しかし、以下のような理由で、核戦争を望んではいないと私は思う。
1 ウクライナで核兵器を使用するとしても、軍事的に決定的影響を与えるためには数発の使用では足りない。数十発から数百発が必要であることは常識といえる。そこまでの核兵器を使用するハードルは高い。
2 米国防総省は、ロシアの核態勢を常時監視しているが、「核態勢に変化はない」と繰り返し表明している。
3 プーチン氏は「フィンランドとスウェーデンがNATO(北大西洋条約機構)に加盟すれば、軍事的な結果をもたらす」と脅迫したが、ハッタリだった。彼は「ロシア本土への攻撃は破滅的な結果を招く」と脅した。だが、ウクライナ軍はクリミアとロシア本土のベルゴロド市を攻撃したが、ロシア側は大量破壊兵器を使っていない。
4 ロシアの核使用は第三次世界大戦を引き起こす可能性がある。最悪のケースでは、戦略核兵器の打ち合いになり人類滅亡の危険性さえある。
プーチン氏は核戦争を望んではいないと思うが、最悪のケースへの備えは当然であり、ウクライナはその備えを開始している。
再度強調するが、ロシアの核恫喝に対する最善の対応策は、ウクライナ軍の持続的な反攻作戦を可能にするために、米軍の高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」や、射程300キロの米軍の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」、米軍の主力戦車「M1エイブラムス」、ドイツ軍の主力戦車「レオパルト」など、優れた西側の装備を迅速かつ多量に供与することだ。
●ウクライナ各地にミサイル攻撃、水力発電所など被害 停電・断水発生 11/1
ロシア軍は31日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を含む各地でミサイル攻撃を実施し、水力発電所を含む多数の主要エネルギー施設が被弾し、広い地域で停電や断水が起きている。
ウクライナのクレバ外相は「ウクライナの重要インフラが、ロシアからさらなる一連のミサイル攻撃を受けた」と述べた。
ウクライナのシュミハリ首相によると、国内10地域が標的となり、エネルギー施設18カ所が被害を受けた。50発以上のミサイルが発射され、ウクライナ軍が44発を撃ち落としたという。
当局者によると、中部クレメンチュクの主要水力発電所も攻撃を受けたが、被害状況は不明。また、ロイターは確認していないものの、ソーシャルメディアや地元メディアの情報によると、キーウ州や南部オデーサ州やザポロジェ州、中部チェルカシュ州でも水力発電所が攻撃を受けたもよう。
ハルシチェンコ・エネルギー相は「変電所のほか、水力発電および熱発電施設がロケット弾の攻撃を受けた」と明らかにし、一部の地域で部分的な停電が発生しているほか、他の地域ではエネルギーシステムの負荷軽減に向け緊急停電が実施されていると述べた。
キーウの知事は、ミサイル攻撃で1人が犠牲になったと発表したものの、明確な死傷者は明らかになっていない。
外務省の報道官は「ロシアは和平交渉にも、世界の食料安全保障にも興味がない。プーチン(ロシア大統領)の目的は死と破壊だけだ」と述べた。
ロシアからは今のところ反応は見られない。
ロシア政府は29日、国連が仲介した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意への参加を停止した。ウクライナがクリミア半島に大規模なドローン攻撃を仕掛けたことが理由と説明している。
●プーチン氏、「部分動員は完了」と発表 11/1
ロシアのプーチン大統領は1日、ウクライナ侵攻の兵員を補うための「部分的な動員」が完了したと述べた。
プーチン氏は南部ソチでの行事に出席した際の記者会見で、部分動員を打ち切る大統領令に署名したかと質問を受けた。これに対し、「率直に言ってそのことは考えてもいなかった。完了したことを大統領令で発表する必要があるかどうか、法律家らと話し合う」と答えた。そのうえで、部分動員は「完了した。線は引かれた」と言明した。
ロシア国防省は同日の声明で、部分動員の全活動は招集を含めて終了したと発表していた。
プーチン氏はこの声明を引用し、招集された兵員のうち、現時点で戦闘隊形に組み込まれているのは4万1000人だと説明。26万人近くが訓練中で、戦闘には参加していないと述べた。
プーチン氏が9月に発表した部分動員は手違いが続発し、抗議デモや出国者の急増を招いていた。
●プーチン氏仲介で3者会談 紛争再燃ナゴルノカラバフ巡り 11/1
ロシアのプーチン大統領は10月31日、南部ソチに旧ソ連構成国アゼルバイジャンとアルメニアの両首脳を招いて会談した。終了後に共同声明を発表し、両国の係争地ナゴルノカラバフの領土問題を武力に頼らず解決することで一致。ただ、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は「紛争は2年前に解決済み」と述べており、両国のわだかまりは解けそうにない。
2020年9月末〜11月上旬、双方の計6500人以上が死亡した紛争が起きて以降、3首脳の直接会談は、21年1月と11月に続いて3回目。ウクライナ侵攻を続けるプーチン氏が和平の仲介を担った。
●プーチンはロシア経済を自滅させている、米政権幹部が指摘 11/1
バイデン政権のアドバイザーは10月31日、プーチン大統領はウクライナへの侵攻でロシアが世界経済から大きく後退する中、石油の輸出以外の分野で自国の経済を痛めつけていると発言した。
「ロシアがこの戦争を継続する上で、ただ一つ残された資金の供給源は石油だ」と、バイデン大統領のアドバイザーを務めるアモス・ホッホスタインは31日のCNBCの取材に語った。「プーチンは経済の他の部分を破壊した」と彼は付け加えた。
国際通貨基金(IMF)の予測によると、今年のロシアのGDP成長率はマイナス3.4%の見通しで、米国(1.6%)、中国(3.2%)、英国(3.6%)、日本(1.7%)の2022年のGDP成長率が停滞しつつもまだプラスであるのと比べるとはるかに悪い。
ロシア経済の落ち込みの多くは、米国や欧州連合とその同盟国からの制裁の影響によるもので、ほぼ全ての輸出を停止させられたが、石油資源の豊富なロシアにとって、石油ビジネスは依然として活況を呈している。ロイターが8月に入手したクレムリンの文書によると、2022年のロシアのエネルギー輸出からの収入は、原油価格の高騰と中国とインドなどの熱心な買い手のおかげで、38%増の3400億ドル(約50兆円)近くになる見通しという。
ロシアが2月24日にウクライナに侵攻した後、エネルギー価格は急騰した。国際的な指標であるブレント原油の価格は31日に1バレル92.51ドルをつけ、1年前に比べて12%上昇し、米国のガス価格は同期間に11%上昇している。エネルギー価格の高騰は、すでに急騰していたインフレを欧米では40年以上ぶりの水準に押し上げ、世界経済を景気後退の瀬戸際に追いやっている。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、ウクライナ侵攻の開始以来、ロシアの輸出は20%縮小した。
ロシアが世界最大の農業生産国の一つであるウクライナの港から穀物を積んだ船が出港するのを阻止したことで、世界の食料価格も上昇している。31日には小麦価格が5%以上上昇したが、これは週末にロシアが輸出継続のための待望の協定から撤退したことによるものだ。
●穀物輸出合意は終了せず、参加を停止しただけ=プーチン大統領 11/1
ロシアのプーチン大統領は31日、国連が仲介した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意について、参加を停止しただけで終了する訳ではないと述べた。
ロシアは29日、ウクライナがクリミア半島に大規模なドローン攻撃を仕掛けたことを理由として、輸出合意への参加を停止した。
プーチン氏が同問題について発言するのはこれが初めて。プーチン大統領はテレビで放映された記者会会見で、「われわれは参加をやめると言っている訳ではない。停止すると言っているのだ」と述べた。
また、ウクライナのドローンは穀物の輸出ルートを飛行したと指摘。「穀物輸出の安全を確保しなければならないロシアの船舶と、これに従事する民間船舶の両方に対して脅威を与えた」と話した。
ウクライナはドローン攻撃を否定している。
輸出合意の他の参加国は31日、ロシアが危険だと主張する中、合意を履行した。
プーチン氏は「ウクライナは民間船やロシアの補給船に対する脅威がないことを保証しなければならない」と述べ、合意の条件ではロシアが安全確保の責任を担っていると指摘した。
プーチン氏はまた、クリミア半島セバストポリ近郊の黒海艦隊が攻撃されたことを受け、31日にウクライナ各地に対するミサイル攻撃を行ったと述べた。
この日の攻撃はロシアが行えることの全てではないとし、一段の攻撃実施を示唆した。
このほか、天然ガスの供給ハブを比較的容易にトルコに設置できるとの考えを示した。
●プーチン大統領“ウクライナが輸出の安全確保してない”と主張  11/1
ロシアが、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明したことに関連して、プーチン大統領は、ウクライナ軍によるロシア軍の黒海艦隊への攻撃を念頭に、ウクライナ側が輸出の安全を確保していないと主張しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの対応を改めて非難したうえで、ロシア抜きで輸出を継続したい考えを強調しました。
ロシアのプーチン大統領は10月31日、ロシア南部ソチで記者団の取材に応じ、ロシアがウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明したことに関連して、「ウクライナは、民間船やロシアの船に対して脅威がないことを保証する必要がある」と述べました。
プーチン大統領としては、ウクライナ軍によるロシア軍の黒海艦隊への攻撃を念頭に、ウクライナ側が輸出の安全を確保していないと主張したものです。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は10月31日、記者会見で「国連とトルコが仲介した合意から、ロシアが離脱すると表明したことは、この合意を破るということだ。われわれは、世界の食料市場の安定のため、農産物を輸出する枠組みを継続していく」と述べ、ロシアの対応を改めて非難したうえで、ロシア抜きで輸出を継続したい考えを強調しました。
国連は10月30日、ウクライナと、仲介役のトルコとの3者で、ウクライナ産の農産物を積んだ貨物船の航行を継続する計画を明らかにしていますが、ロシア側は反発していて、航行の安全を確保しながら輸出を継続できるか模索が続けられることになります。
●劣勢ロシアの"禁じ手"とは?ウクライナ戦争の行方 11/1
劣勢のロシア軍は、市民や民間インフラを標的とする国際法違反の“禁じ手”の攻撃を繰り出している。汚い爆弾や核兵器使用への懸念も消えず、ロシアの行動を抑止するためNATOはついに「軍事介入」のカードでロシアをけん制に乗り出した。
ウクライナ軍が反転攻勢の作戦を加速させる中、戦闘で苦戦が続くロシアは、ウクライナ各地の電力施設を攻撃するなど、国際法に違反するいわば「禁じ手」を繰り返しています。追い込まれたプーチン大統領が核を使用することへの懸念も消えない中、NATO・北大西洋条約機構によるけん制も強まっています。この戦争はこの先どのような方向に向かうのか考えます。
強まる反転攻勢と劣勢のロシア
ロシアの軍事侵攻が始まって8か月余りが過ぎ、ウクライナ軍は、NATOによる強力な軍事支援に支えられて、ウクライナ東部と南部の両方の戦線で、戦いの主導権を握っています。
このうち9月にロシアへの一方的な併合が宣言された4州の一つ、南部のヘルソン州では、州都ヘルソンからすでに7万人以上の住民が親ロシア派によって強制的に退避させられました。ウクライナ軍による奪還作戦が近く開始されるとの観測も出ています。
ヘルソンはロシアが軍事侵攻によって支配した唯一の州都でもあり、ウクライナ軍の進撃に備えて部隊を増強する動きも伝えられています。しかし、ロシア軍は戦力の激しい消耗に苦しんでいます。兵員不足を補うためプーチン大統領が踏み切った予備役の招集は、先週、予定の30万人の動員が完了し、そのおよそ3分の1が戦地に派遣されたとみられていますが、予備役の多くは訓練も装備も不十分で、ヘルソンでもそれ以外でも、戦力を補う効果は薄いと、専門家は指摘しています。
ロシアの“禁じ手”とは
ロシア軍はこれまで、侵攻した都市などで、戦争犯罪が疑われる数々の“禁じ手”を繰り返してきました。形勢を逆転できる見通しがたたない中、ウクライナ軍との直接戦闘よりも、戦闘とは無関係の遠くにある民間施設や市民を標的にする、まさに“禁じ手”の攻撃に、重点を移しているようにみえます。
   1 発電所・エネルギー施設を攻撃
その顕著な例が、発電所などエネルギー関連施設を狙った攻撃です。イラン製とみられる自爆型ドローンを投入し、発電所や送電施設などを攻撃。各地で停電が相次ぐなどウクライナ全土で深刻な電力不足に陥っています。現地はこれから、厳しい冬が訪れますが、暖房にも使われる電力の不足は市民の命にもかかわる大問題です。ロシアは、ウクライナ国民に苦しみを強いて戦意をくじこうとしているのでしょう。ウクライナのクレバ外相は「ロシアは戦場で戦うかわりに民間人と戦っている」と非難しています。国連も、「明らかな国際法違反だ」と強く非難しています。
   2 ダム爆破を計画か
ロシア軍はまた、ヘルソン州にある巨大なダムを爆破しようとしていると
指摘されています。ダムが破壊されてドニプロ川が氾濫すれば、ウクライナ軍の
進軍は難しくなり、多くの住民にも甚大な被害が及ぶ恐れがあります。
   3 汚い爆弾
そして、にわかに懸念が高まっているのが、ダーティーボム=「汚い爆弾」が使われる事態です。汚い爆弾は、爆発力そのものは大きくないものの、放射性物質をまき散らすことで周辺地域を放射能で汚染する特殊爆弾です。ロシアは明確な根拠を示さないままウクライナ軍が「汚い爆弾」を使う計画があると主張しています。ウクライナ側は、「こうした主張を突然持ち出したロシアこそが使う準備をしている」と反論し、警戒を強めています。
   4 戦術核の使用
さらに、最悪の「禁じ手」は、プーチン大統領が、ウクライナ軍に対して「戦術核」を使うことです。「戦術核」は戦略核に比べれば威力は小さいとは言え、使われればその影響は計り知れません。ロシアの核ドクトリンは、核による攻撃を受けた場合だけでなく、「通常兵器による攻撃を受け、国家存亡の危機に立たされた場合も核を使用する権利がある」としています。 
しかし、理性的な判断ができるなら、核兵器を使えば、国際社会での地位の低下など非常に大きな不利益をこうむることは明らかで、核の使用は現実的な選択とは
言えません。しかし、プーチン大統領が一層追い詰められた場合、理性的な判断ができるのかどうか、大きな懸念材料です。
けん制強めるNATO
「核の使用によってこうむる不利益」の中で、ロシアが最も恐れるのは、おそらく、NATOの軍事介入です。ウクライナ軍との戦いですでに消耗しているロシア軍の兵力は、アメリカなどの通常兵器によって短期間でせん滅される可能性が高いからです。
NATOはいま、ロシアがさらに危険な行動に出るのを抑止しようと、通常兵器に限定した形で「軍事介入」のカードを示してけん制しています。
NATOのストルテンベルグ事務総長は「核を使えばロシアにとって深刻な結果をもたらすだろう」と述べ、EUのボレル上級代表は「核を使えば、通常兵器による反撃でロシアは全滅することになる」と極めて強い言葉で警告しました。また、アメリカのブリンケン国務長官は「どんな結果を招くか、非常に明確に、プーチン大統領に直接、伝えている」と述べています。
NATOはさらに、行動でもその意思を示そうとしています。ウクライナと国境を接するNATO加盟国のルーマニアには現在、アメリカ陸軍の精鋭部隊「第101空てい師団」が展開しています。アメリカ陸軍は最近、この部隊が黒海に近い国境地帯で、
実戦さながらの演習を繰り返している事実を公表しました。介入を抑止するつもりの兵器も、使ってしまえば、かえって介入を招くことになるとけん制しているのです。
プーチン大統領に変化?
こうしたけん制の影響なのかは定かではありませんが、プーチン大統領の核兵器をめぐる発言には最近、変化が見られました。プーチン大統領は2月に軍事侵攻を開始した際には「最強の核保有国ロシアへの直接攻撃は壊滅的な結果をもたらす」などと発言し、核の使用をちらつかせました。9月には「ロシアの領土保全に対する脅威が生じた場合、あらゆる手段を使う。これはこけおどしではない」と述べました。核保有国が国家防衛のために「あらゆる手段」と言う時、それは「核兵器を含む」ことは安全保障の世界ではなかば常識です。
ところが先週27日、一転して「核を使用する可能性について積極的に発言したことはない」と述べました。核兵器に関する発言はにわかにトーンダウンしたようにも見えます。
戦争の行方は
この変化は何を意味するのか、ロシアは核の脅しを控えることにしたのか、その答えをえるには今後の動きを見極める必要があります。ただ、その後のプーチン政権の言動からわかるのは、ロシア軍の劣勢にもかかわらず、ウクライナへの侵攻をやめる気はないということです。そして、ロシアは、世界の食糧事情に影響のあるウクライナ産農産物の輸出に関する合意を突然、無期限で停止したように、軍事面だけではないあらゆる手段を使って、国際社会をも揺さぶりながら戦争を続けていくことが予想されます。
一方のウクライナ軍は、本格的な冬が到来する前に、領土の奪還を加速させようとするでしょう。ウクライナ軍がヘルソン州を奪還すれば、隣接するクリミア半島を攻略する足掛かりにもなるだけに、ここでの攻防は戦争の行方を左右する可能性があります。
見てきたように、戦争の出口はいぜん見えず、ロシアは、ウクライナの市民に犠牲と苦しみを強いる攻撃と破壊を続けていくことが懸念されます。しかし、そうした行為は結果としてロシアに何の利益ももたらさず、軍事侵攻をやめることが未来につながる唯一の道であることを、ロシア自身にどのように理解させるのか、難しくも不可欠な課題です。

 

●ロシア、ヘルソンの住民避難を拡大 ミコライウでは夜間にミサイル4発 11/2
ウクライナ南部ヘルソンを占領しているロシア当局者は31日、ドニエプル川からの避難区域を拡大すると述べた。ウクライナがカホフカダムを攻撃してこの地域を浸水させたり、非通常兵器を使用したりする可能性があると主張した。
ロシア軍が支配するウクライナ南部へルソンの街から人影がほとんどなくなった。店は閉められ、最後のわずかな住民がスーツケースとペットを抱いてフェリーに乗り込んでいた。
ロシア側当局者は、ウクライナ軍がヘルソンの北部と東部から攻勢を強める中、住民の避難を続けている。ロシア側は1日、避難指示の対象地域をドニプロ川東岸一帯に広げた。ウクライナ側はこの避難について、市民の強制退去であり戦争犯罪にあたると主張している。
これに対しロシア側は、ウクライナが放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」などの非通常兵器を使う恐れがあるとしている。ロシアが任命したヘルソン州の責任者、サルド氏はSNSで次のように述べた。
「ウクライナ軍が、最も汚い戦法を使うかもしれないという報告がある。それは間違いなく民間人に影響を与えるだろう。また、ウクライナ政府がカホフカダムへの大規模なミサイル攻撃を準備しているという信頼できる情報もある」
ウクライナ政府は、自国領でそうした戦術を使うという主張は馬鹿げており、ロシアによる自作自演の疑いがあるとしている。
一方、避難指示を拒むヘルソンの住民も。ある女性は次のように語っていた。
「なぜ、先祖代々の家を離れなければならないのか。私の先祖はここに住んでいた。私の曾祖父、祖父―この家は彼らが自分たちの手で建てたんだ。なぜ離れなければならないのか?教えてほしい。なんのためなのか」
この地域はウクライナ戦争における最重要前線の1つであり、数千人のロシア軍が駐留している。
ウクライナの反転攻勢は、ここ数日ペースが鈍っている。指揮官は悪天候と地形を理由に挙げている。
ヘルソンのすぐ北にあるミコライウでは、ロシアが夜間にミサイル4発を発射し、集合住宅に着弾。建物の半分ががれきと化した。ロイターは、がれきの中から高齢女性1人の遺体が収容されるのを目撃した。
●プーチンのパイプライン破壊工作:欧州の不安を高めるハイブリッド戦  11/2
ロシアのプーチン大統領はウクライナ戦線でのロシア軍の不甲斐なさに怒りを覚えているかもしれない。軍最高司令官の立場からいえば当然だろう。そこで同大統領はミサイル攻撃、自爆無人機を動員し、先月26日には戦略核戦力の演習を実施、放射能をまき散らす“汚い爆弾”問題などを恣意的に話題にのぼらせ、ウクライナだけではなく、欧米諸国に恐怖心を与える作戦を展開させてきた。
ところで、ロシアと国境を接する北欧のノルウェーは、軍隊を厳戒態勢に置いている。ヨナス・ガール・ストーレ首相が10月31日にオスロで発表した。同首相は、「ロシアからの直接的な脅威は目下確認されていないが、11月1日から警戒レベルを引き上げる」という。
ストーレ首相は、「ロシアがノルウェーや他の国を直接戦争に引きずり込もうとしていると信じる理由はないが、ウクライナに対するロシアの侵略戦争を考慮すれば、全ての北大西洋条約機構(NATO)諸国は警戒する必要がある」というのだ。ノルウェーのビョルン・アリルド・グラム国防相によると、警戒態勢を強化するということは、とりわけ、軍事施設での保護措置が強化されることを意味するという。NATO加盟国のノルウェーは、北極でロシアと198キロの国境を接している。
ところで、ノルウェーが軍の警戒態勢を強化したのにはそれなりの理由があるはずだ。欧州はエネルギー供給をロシアに依存してきたが、ウクライナ戦争の結果、欧州の天然ガス市場ではロシアに代わってノルウェーが主要な供給国となってきているのだ。欧州連合(EU)の全輸入量の約4分の1を占めるほどだ。欧州をエネルギー危機に陥らせたいプーチン氏にとってノルウェーの存在は大きな障害ということになる。
外電によると、ノルウェーの海上石油プラットフォームの近くで、謎のドローン飛行が観測されたという。ドローンに関連して数人のロシア人が逮捕された。さらに、ノルウェーの対諜報機関は先週、ブラジル人研究者を装ったロシアのスパイ容疑者を逮捕した。この一連の出来事は、ロシアがノルウェーの天然ガスのパイプライン破壊工作に乗り出していることを物語っている。
欧州諸国はウクライナ戦争勃発までは低価のロシア産天然ガスを輸入してきた。そこにウクライナ戦争が勃発。ロシアからバルト海峡を経由してドイツに天然ガスを送るパイプライン「ノルド・ストリーム1」と「ノルド・ストリーム2」に亀裂が生じるという出来事が9月26日、起きたばかりだ。何者かの破壊工作と分かったが、犯行の詳細はまだ不明だ。西側情報機関はロシアの仕業とみて警戒している。
ロシアは過去も現在も敵対国に対して主要インフラ破壊を実行してきた。ロシアはウクライナ戦争でも地上での軍事的な戦闘を続ける一方、ウクライナ側の産業インフラ、サイバー攻撃や情報工作を展開するハイブリッド戦略(正規戦、非正規戦、サイバー攻撃、情報戦などを組み合わせた戦略)を推進してきたことでよく知られている。
一方、ドイツを中心に欧州諸国はロシア産エネルギー依存から脱皮するためエネルギー供給先の多様化、原子力エネルギーの利用など対策に乗り出してきた。その結果、ロシア産天然ガスは今日、欧州にはほとんど運ばれていない。ウクライナやトルコ、そしてバルカン諸国に輸送されているだけだ。
欧州にとって最大の懸念は、ノルウェーの欧州への天然ガス・パイプラインの安全問題だ。同パイプラインが破壊され、数カ月間、ガスを輸送できない状況になれば、欧州は厳冬に暖房ができないという状況に陥る。そうなれば、エネルギー危機、物価高騰に悩む欧州では「ウクライナ戦争の結果だ」としてウクライナ支援を中止すべきだという声が高まるだろう。
プーチン氏の狙いはそこにあるはずだ。ロシアは「ノルド・ストリーム」のパイプラインを破壊することで、ノルウェーのパイプラインの安全にも赤ランプを灯させ、欧州の危機感と不安を高めているわけだ(「ノルウェーのパイプラインを守れ!」2022年10月1日参考)。
CNNによれば、ノルウェー政府は、ノルウェー大陸棚の沖合や陸上の施設やインフラについて、緊急時の備えを強化することを決めたという。石油プラットフォーム周辺で謎のドローン飛行が観測されたというニュースは無視できない。天然ガスの価格高騰で苦しむ欧州諸国を支援するために増産を決めたノルウェーのパイプラインの安全確保は欧州にとって急務の課題だ。それを知っているプーチン氏は今後もノルウェーのパイプライン破壊工作を進めていくだろう。
参考までに、ウクライナ軍が撃墜させたロシアのミサイルの破片がモルドバ北部の国境近くの村に落ちた。首都キシナウの内務省が発表した。Naslavceaの町のいくつかの家屋では、窓が破裂したが、けが人は出ていない。
ウクライナ軍の情報によると、ロシアのミサイルは約10キロ離れたノヴォドニストロフスク近くのドニエストル川にある水力発電所を攻撃することを目的としていたという。
戦争ではどのような突発的な出来事が起きるか分からない。モルドバの情勢はウクライナ東部・南部と酷似している。特に、トランスニストリア地方はウクライナ南部のオデーサ地方と国境を接し、モルドバ全体の約12%を占める領土を有する。モルドバ人(ルーマニア人)、ロシア系、そしてウクライナ系住民の3民族が住んでいる。
同地域にはまた、1200人から1500人のロシア兵士が駐在し、1万人から1万5000人のロシア系民兵が駐留。ロシア系分離主義者は自称「沿ドニエストル共和国」を宣言し、首都をティラスポリに設置し、独自の政治、経済体制を敷いている。状況はウクライナ東部に酷似しているわけだ。モスクワがモルドバ内のロシア系国民を守るという理由でロシア軍をモルドバに侵攻するシナリオは非常に現実的だ。
いずれにしても、西側はノルウェーのパイプラインの安全確保と共に、それが破壊された場合のシナリオをも考えておかなければならない。窮地に陥れば、何をしでかすか予想できないのが独裁者だからだ。
●敗北を認め始めた? 戦局の現実を見て認識が変化してきたプーチン側近たち 11/2
ロシアのウクライナ侵略についてプーチン大統領の堅固な支持層までが最近は敗北を認め始めた──。
ロシアの国内事情に精通するロシア人学者がこんな切迫した報告を米国の大手研究機関の論壇に最近発表した。
この結果、プーチン大統領は国内で孤立するか、あるいはウクライナの戦況に絶望する危険極まりない展開も予想されるという。ウクライナ戦争はいよいよ大詰めを迎えたといえそうだ。
プーチン大統領側近の認識が変化
ロシア研究者として著名な米カーネギー国際平和財団研究員、タチアナ・スタノバヤ氏はこの10月、同財団の論文サイトに「ロシアのエリート層が敗北の可能性を認め始めた」と題する論文を発表した。
スタノバヤ氏はロシアに生まれて国内で高等教育を受け、フランスや米国でも学術活動を続けてきた政治学者である。カーネギー国際平和財団のモスクワ支部代表を務めたほか、フランスではロシア政治分析専門の研究機関を創設した。ロシア人ながらプーチン政権に対して客観的な立場の学者として、米欧でも信頼を得ている。
スタノバヤ氏は2022年6月には「西側がなおプーチンについて錯誤していること」と題する論文を米国の大手外交雑誌「フォーリン・ポリシー」に発表した。同論文はロシアの政治状況を長年ウォッチし、ウクライナ戦争が始まってからもロシア国内の動向を追ってきたという立場から、西側陣営で囁かれていた「プーチン大統領がロシア国内の反戦の動きを恐れている」という政権不安定説は間違いだと指摘していた。
しかし、それから4カ月が経ち、プーチン大統領を支えてきたロシアのエリート層の間でも「ウクライナでロシアが敗北を喫している」という認識が広まってきたという。この4カ月という期間中のプーチン大統領側近の認識の変化は重大である。同大統領がそれだけ追い詰められた苦境にあることを示すともいえよう。
ロシア軍の苦戦を見て「勝利」に疑問
今回のスタノバヤ論文の骨子は以下の通りである。
・ロシア国内でプーチン大統領を堅固に支えてきたエリート層は、同大統領のウクライナ攻撃に対して、当初は懸念や不安を抱きながらもその行動自体への支持は揺るがなかった。その根底には、その種のエリート層が、米国や西欧諸国がロシアを敵視して弱体化を工作しているという確信を抱き、プーチン氏の政策を支持し、大統領への忠誠を強く保ってきたという構図があった。
・しかし9月ごろからこのエリート層の認識に重大な変化が生まれてきた。その原因となったのは、ロシア軍のウクライナの東部ハリコフ州からの屈辱的な撤退、ロシア国内の軍隊への国民の一部動員と、やがて予測される全面動員への不安、そしてウクライナ各地でのロシア軍の苦戦などであった。これらの要素がエリート層の間に、プーチン支持を保ちながらもウクライナ戦での「勝利」への疑問と、そのために投入せねばならないロシアの国家資源への疑問を生み始めた。
・プーチン大統領の戦術核兵器使用の示唆に対しても、エリート層の間では疑問が生まれ始めた。当初はウクライナでの勝利のためには戦術核兵器の使用もやむなしというのがエリート層の大多数の意見だった。しかし、その後の米欧の激しい反発やウクライナでのロシア軍の苦戦をみて、核兵器使用はロシアに破滅的な負担をもたらすかもしれないという懸念が生まれてきた。
・ウクライナでの戦いの最終目的についても、プーチン大統領とその側近のエリート層の間で微妙だが重要な相違が表面化するようになった。プーチン大統領は、ウクライナの軍事制圧が現在のロシアにとって国家存続にも関わる必須の目的だと唱えるが、その基本理念へのエリート層の同調が揺らいできた。エリート層の間には、ウクライナを全面屈服させるためにロシアが払う犠牲はあまりに大きく、部分的な制圧だけを最終目標とすべきだという意見が広がってきた。
・今後ロシアでは、全面的軍事総動員に伴う国民への締めつけや社会不安、諸外国の制裁強化によるロシア経済のさらなる悪化、国民生活の困窮などが予測される。その中で、どこまで、何を我慢すれば「トンネルの先の灯り」が見えてくるのかについての説明をプーチン大統領に期待する一般国民の心情が、エリート層にまで波及してきた。その結果、最悪の場合、プーチン大統領の孤立、あるいは戦局に絶望して核兵器を使用するというシナリオも、可能性は少ないとはいえ排除できない。
スタノバヤ氏は論文で以上のように述べていた。ロシア国内、とくにプーチン大統領周辺の状況は、同氏が直接ロシア国内から得た情報に基づいているともいう。
スタノバヤ氏は、プーチン大統領を堅固に支えてきたエリート層がプーチン支持を止めたわけではないという点を強調しながらも、その支持層の内部の最新の微妙な揺れを伝えていた。この報告は、ロシアのウクライナ戦争への取り組みの転換点の予兆といえるのかもしれない。
●イラン、ロシアへ弾道ミサイルなど追加提供か 西側当局者が指摘 11/2
イランは、ウクライナで戦争を続けるロシアに地対地短距離弾道ミサイルやさらなる攻撃用ドローン(無人機)などおよそ1000点の兵器を送る準備をしているようだ。イランの兵器プログラムを監視している西側の当局者がCNNに語った。
イランがロシアに高度な精密誘導ミサイルを送る最初の例となるため、注意深く監視されている。この兵器提供はロシア軍を大幅に後押しする可能性がある。
イランからロシアへの最後の兵器出荷には約450機のドローンが含まれていたと当局者は指摘。ウクライナ当局は先週、300機超のイラン製ドローンを撃墜したと明らかにした。
予想される新たな兵器出荷は、イランのロシア支援が大幅に増加したことを意味する。兵器の正確なロシア到着時期は不明だが、関係者は年内に届けられるのは間違いないとみている。
ロシアが2月下旬にウクライナへの本格的な侵攻を開始して以来、ドローンは紛争で重要な役割を果たしてきたが、米国とウクライナによると、ロシアがイランからドローンを入手した夏以降、その使用は増加している。ここ数週間、イラン製ドローンはウクライナの重要なエネルギーインフラを攻撃するのに使用されている。
米国防省の高官は10月31日、ウクライナで使用することが想定されているミサイルをイランがロシアに送る準備をしているという指摘について、提供できる情報を持っていないと述べた。
イランの国連代表部は、新たに予想される武器出荷についてのコメント要請に応じなかった。イランはこれまでウクライナでの使用を目的としたロシアへの兵器提供を否定し、「これまでも、これからも」そうするつもりはないと述べてきた。
●岐路のイスラエル中立政策 ウクライナが支援要請 11/2
ロシア軍のドローン(無人機)攻撃にさらされるウクライナが、イスラエルに迎撃用兵器の供与を重ねて求めている。イスラエルはロシアの意趣返しを警戒し、今のところ応じていない。ただ、ロシア軍のドローンの調達元とされるイランはイスラエルの宿敵だ。イスラエルがウクライナ情勢で今後も「中立」を続けるのか、関係各国の注目が集まっている。
ロシア、「イラン製」のドローンでウクライナ攻撃
ウクライナのゼレンスキー大統領は10月24日、イスラエル紙ハーレツが主催した会合にビデオメッセージを寄せ、ウクライナ国民がイラン製ドローンに殺傷されていると訴えた。「不幸にも我々には『アイアンドーム』がない」と述べ、イスラエルの対空防衛システムの名を挙げて支援を求めた。
米国はロシアがイランから数百機のドローンを受け取る計画だと指摘した。ロシア兵がイランで訓練を受けたとの見方も示した。ミサイルを使い果たしつつあるロシアは、1機2万ドル(約300万円)程度と割安なドローンを多用し始めた。ウクライナは7割を撃墜しているというが、すべては防げない。市民の犠牲が相次いでいる。
イスラエルはパレスチナ自治区ガザからのロケット弾攻撃をたびたび受け、飛行物体を迎撃する実戦経験が豊富だ。レーダーで標的を捉えて誘導弾で撃ち落とすアイアンドームは、2021年の軍事衝突では命中率9割とされた。
ウクライナは10月18日にも、クレバ外相が防空システムの供与をイスラエルに求めた。しかし同国のガンツ国防相は「我々はウクライナに武器は売らない」と拒んだ。早期警戒システムの開発支援を申し出るにとどめている。
理由はロシアを刺激したくないからだ。イスラエルは隣国シリアで活動するイラン系の武装勢力を空爆し、自らへの脅威を減らしてきた。これはシリアに軍事介入して制空権を握るロシアの"黙認"なしにはできない。ロシアを敵に回せば自国の安全保障の前提が揺らぐ。
防御用の兵器なら敵に渡してもよい、という理屈をロシアに中東で使われても困る。イスラエルと敵対するイランやシリアにロシアが地対空ミサイルシステム「S400」を供与すれば、イスラエル空軍の優位は崩れかねない。
とはいえウクライナでイラン製兵器が「戦果」を拡大するのは座視できず、情報戦で圧力をかける構えをみせる。イスラエルのヘルツォグ大統領は26日、訪問先のワシントンで「ウクライナ攻撃に使われたドローンはイラン製」との証拠だとする情報を米高官に示した。
ロシア、見返りにイランの核開発支援も
イランは否定するが、ドローン供給はウクライナ侵攻への直接の加担だ。従来の外交的なロシアへの側面支援から一線を越える。「ロシアはイランにどう報いるか。カネだけでなく、イラン核計画への支援だろう」。ゼレンスキー氏は24日、ロシアがイランの核開発を助ける可能性があるとの見方を示したうえで、イスラエルにウクライナ側に立つよう訴えた。
イランの核開発計画は核武装につながるとの疑惑がある。現実になればイスラエルには悪夢だ。ロシアがウクライナに侵攻した2月以降、イスラエルは一時は仲介役を試み、中立の立場をとってきた。だが、「どっちつかず」がイランを利するとなれば、話は別だ。現在はその損得を冷徹に計算しているはずだ。
●ロシア国防相 今月徴兵の12万人「ウクライナに派遣せず」 批判かわす狙い 11/2
ロシアの国防相が、今月から徴兵する12万人は、ウクライナに派遣しないと明言しました。ロシアのショイグ国防相は1日、軍幹部との会合で、今月から始まった徴兵についてこのように述べました。ショイグ国防相は、年に2回行われる徴兵のうち、今月から始まる秋の徴兵を12万人としたうえで、「兵役を終えた兵士は全員が地元に戻ることになる」と強調しました。
ロシアの兵役をめぐっては、春に徴兵されたロシア国民がウクライナへの軍事侵攻活動に参加し反戦ムードが高まりました。今回の発言は、徴兵への批判をかわす狙いがあるとみられます。
●ロシア寄りのイーロン・マスク氏に悩むバイデン政権 影響力を削ごうと画策 11/2
米中間選挙が間近に迫る中、ロシアが侵攻を続けるウクライナへの支援のあり方が争点の1つに浮上している。
バイデン政権がウクライナに行った軍事支援の総額は176億ドルに上る。米国が単年度で一国に実施した軍事援助としてはベトナム戦争以降で最大規模だ。
一方、野党・共和党は巨額予算の修正を要求している。共和党下院トップのマッカーシー院内総務は10月18日「人々は不況にあえいでいる。ウクライナは重要だが、白紙小切手は出せない」と述べ、中間選挙後に支援を縮小させる考えを示した。
米ピュー・リサーチ・センターが9月に実施した世論調査によれば、共和党支持層の32%がウクライナ支援を「過剰」と回答している。3月時点の調査で9%だった「過剰」の割合が急上昇しており、共和党としては党勢拡大のためにウクライナ支援のあり方に疑問を呈しているのだろう。
民主党内も一枚岩ではない。
民主党リベラル派のジャヤパル氏ら30人の下院議員は10月24日、ウクライナへの巨額の軍事支援の修正を求めるとともに、「ロシアと対話するかしないかはウクライナ政府が決める」とするバイデン政権に対し、ロシアとの直接対話を要請する旨の提言を発表した。だが、「この提言は共和党を利することになる」と民主党内で猛反発が起き、ジャヤパル氏は翌25日に提言の撤回を余儀なくされた。民主党内でもウクライナ支援を巡る考え方が一枚岩でない現状が浮き彫りになった形だ。
下院選では共和党が多数を奪還することが確実視され、上院でも共和党が多数を占めるとの見方が出てきており、バイデン政権は中間選挙後に対ロシア政策の再考を迫られる可能性が生じている。
バイデン政権にとっての懸念材料は議会の動向だけではない。
米電気自動車大手テスラCEOなどを務め、その発言が世界的に注目されているイーロン・マスク氏がこのところ、「ロシア寄り」と受け止められる発言を行っていることも頭痛の種となっている。
戦争終結計画を提案
マスク氏は10月3日、ツイッターで自らウクライナにおける戦争終結計画を提案し、ユーザーに対してその是非を問うた。
具体的な内容は以下の通りだ。
(1)ロシアが一方的に併合したウクライナ4州については、国連の監視による選挙を通じて改めて住民の意志を問い、住民から「ノー」の意志が示されればロシアは立ち退く。
(2)ロシアが2014年に強制的に自国の領土としたクリミア半島を正式なロシアの一部として承認し、クリミアへの水資源供給を保障した上で、ウクライナが中立を堅持する。
ウクライナのゼレンスキー大統領はこの提案に猛反発したが、ロシアは「とても前向きだ」と歓迎した。
マスク氏はウクライナ支持派を自認している。マスク氏がCEOを務める米宇宙開発企業スペースXは、ウクライナにスターリンク(人工衛星を使った高速ブロードバンドインターネットサービス)を無償で提供し(これまでに8000万ドル以上の費用を負担)、ロシアの侵攻を受けたウクライナの通信の早期復旧に貢献した実績がある。
そのマスク氏がウクライナ側の不評を買うことを承知の上でこのような提案を行ったのは「ロシアの人口はウクライナの3倍以上で、ウクライナが全面戦争で勝利する公算は乏しい。何百万人もが必要のない死を迎えてしまうことを本当に心配している。ウクライナ国民の身の上を案じるならば和平を求めるのが当然だ」と考えたからだ。
マスク氏の主張は、ロシアへの強硬姿勢を続けるバイデン政権にとって受け入れがたいものだ。米国政府は長年、マスク氏のリスクの高い事業に大金をつぎ込み、政府との独占的な契約を与えてきたが、同氏は最近、バイデン大統領と公然と対立する一方、海外の要人と頻繁に連絡を取り合うようになっている。バイデン政権は「マスク氏が国際問題に対して影響力を持ち過ぎている」と懸念し始めているようだ。
ツイッター買収を問題視? 
10月25日付米ワシントン・ポストは「米国政府高官の多くは『マスク氏はエキセントリックで高慢だ』とみなし、『マスク氏が経営する企業への依存をできる限り減らしたい』と考えている」と報じた。
このため、バイデン政権は今後、競合他社に資金提供することでマスク氏の影響力を抑え込もうとしている。具体的には、スペースXと競合しているボーイングの「スターライナー」に資金提供したり、より多くの電気自動車企業にテスラとの競争を促そうとしたりしている。ウクライナではスターリンクに代わるシステムの構築を始めている。
「バイデン政権はマスク氏が行ったツイッターの買収について国家安全保障の審査対象にすべきか検討している」との憶測も広がっている(10月21日付ブルームバーグ)。
ホワイトハウスは10月24日「報道は事実ではない」と述べたが、マスク氏がサウジアラビアや中国など外国人投資家グループから融資を受けてツイッターを買収したことを問題視している可能性がある。
バイデン政権はマスク氏の影響力を削ごうと画策を始めているが、ウクライナ危機後のインフレのせいで米ハイテク企業は軒並み業績を悪化させている。マスク氏の発言に触発されて米経済界からも批判が相次ぐ事態になれば、バイデン政権のロシア強硬策に対する逆風はますます強くなってしまうのではないだろうか。
●プーチン大統領 “農産物輸出航路を軍事利用しない保証必要”  11/2
ロシアのプーチン大統領はトルコのエルドアン大統領と電話で会談し、一方的に停止すると表明したウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行について、再開するかどうかを検討するにはウクライナが農産物を輸出する航路を軍事利用しない保証が必要だと主張しました。
ウクライナを侵攻するロシアは、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を無期限で停止すると一方的に表明しました。
ウクライナと仲介役の国連とトルコは、ロシア抜きで、輸出を継続できるかどうか調整を続けていて、10月31日に続き11月1日もウクライナ南部から農産物を積んだ3隻の貨物船が出港したということです。
ただ、ロシア側はロシア抜きでの農産物の輸出を認めない考えを示しています。
こうした中、トルコ大統領府によりますと、1日、エルドアン大統領が、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、「この危機を建設的な姿勢で解決し、交渉に戻る道を歩むよう助言する」と述べ、合意を引き続き履行するよう訴えました。
一方、ロシア大統領府はプーチン大統領がエルドアン大統領に対し、ウクライナ側が農産物を輸出する航路を利用して、ロシア軍の黒海艦隊に攻撃を行ったと説明したとしています。
そして「航路が軍事利用されない保証が必要だ。そのうえで、合意の履行を再開するかどうかを検討する」と強調したということです。
また、プーチン大統領は、ウクライナから輸出される農産物が、必要とされる発展途上国に届いていないとする主張を繰り返したとしていて、欧米やウクライナをけん制したとみられます。
トルコ政府によりますと、エルドアン大統領は近く、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話で会談を行うということで、世界的な食料危機への懸念が強まるなか、事態の打開に向けて交渉が続くことになります。 
●ウクライナの平和実現、ロシアを「追い出すこと」が必要 エストニア首相 11/2
エストニアのカラス首相は1日、エストニア首都タリンで行われた記者会見で、ウクライナの平和を実現するための方法は「ロシアを追い出すことだ」と述べた。
カラス氏は、「たとえ、平和を手にしても、占領が続いていれば、その人たちの苦しみがなくなるわけではない」とし、「ウクライナはこの戦闘に勝たなくてはならない」と述べた。
カラス氏は、ロシアがあらゆる手段を講じて状況を停止させ、軍の再編を行い、もともとはロシアのものでなかったものを最終的には手に入れようとしていると語った。
カラス氏は「ロシアは我々の疲れや恐れを当てにしている」と述べた。
カラス氏は、ウクライナ侵攻に対する戦争疲れは高い代償になると警告し、なぜなら、「もし、どこかで行われた侵略が報われるのなら、それが別の場所で侵略を行うための招待状となるからだ」との見方を示した。
カラス氏は、ウクライナには防空や経済、人道での支援が必要だと述べた。ウクライナの重要なインフラに対する攻撃を非難し、そうした攻撃を「テロリストの戦術」と形容した。
●ロシアで新兵12万人徴集 ウクライナ派遣の懸念消えず 11/2
ロシアで1日、秋の徴兵期間が始まった。
今回の対象者は12万人。例年は10月1日開始だが、ウクライナ侵攻を続けるべく9月21日に出された予備役の部分動員令と重なったため、1カ月遅れの異例のスタート。国防省は新兵を「戦地に送らない」と説明するが、2月からの侵攻初期に新兵の参加が明るみに出た経緯があり、国民の懸念は消えていない。
兵役の義務があるのは18〜27歳の男性。1年間の兵役を終えると予備役となる。
ショイグ国防相は1日、徴集兵について「特別軍事作戦(侵攻)の地域に送らない」と約束。同様の発言はこれまでも繰り返しており、先の予備役の招集の際、出国や徴兵事務所への放火、反戦デモなどが相次いだことが背景にある。
ただ、徴兵忌避を生まないための方便ではないかと疑う見方は根強い。ウクライナ東・南部4州は「併合」を経て「ロシア領」になったという建前で、戦地ではないとも解釈できる。米シンクタンクの戦争研究所は10月31日の戦況分析で「徴集兵は来年3月か4月に訓練を終えてウクライナに送られる公算が大きく、戦況の変化に応じて早まる可能性もある」と指摘している。
●プーチン大統領がトルコ大統領と“穀物輸出”めぐり電話会談 11/2
ウクライナ産穀物の輸出をめぐる合意をロシアが履行停止したことについて、プーチン大統領はトルコのエルドアン大統領と電話会談しました。
ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は電話会談で、穀物輸出をめぐる合意の履行を再開するためには、「ウクライナ側が航路を軍事目的で使用しないと保証する必要がある」と強調。
「ウクライナ側が黒海艦隊を攻撃する際、穀物輸出のための航路を利用した」と、これまでの主張を繰り返しました。
トルコ大統領府によりますと、エルドアン氏は穀物輸出の問題について、ロシアと「協力できると確信している」とし、建設的に解決できれば、停戦交渉再開へのステップとなるだろうと呼びかけました。
一方、ゼレンスキー大統領はここ数日、ウクライナの農産物を積んだ船が移動できていて、「特に国連とトルコのおかげ」だと指摘。また、ロシアへの圧力を世界に訴えています。

 

●ロシア、核戦争防止にコミット 核衝突回避が最優先=外務省 11/3
ロシア外務省は2日、核戦争防止に完全にコミットしており、世界の核保有国間の核衝突を回避することが最優先事項との見解を示した。
声明で「われわれは、2022年1月3日の核戦争の防止と軍拡競争の回避に関する5つの核保有国首脳の共同声明に対するコミットメントを完全に再確認する」とした。
ロシア、米国、中国、英国、フランスは1月に共同声明を発表し、核戦争回避に向けた責任を確認した。
ロシア外務省は、核保有5カ国が「直接的な武力衝突の瀬戸際」にあると懸念しているとし、西側諸国は「破滅的な結果につながる恐れのある大量破壊兵器による挑発行為の触発」を止めなければならないと指摘。「ロシアの国家安全保障を損なうことを目的とした無責任で軽率な行動で引き起こされた現在の複雑で混乱した状況の中で、核保有国による軍事衝突の回避が最も緊急的な課題だと強く確信している」とした。
ロシアはこれまで、ウクライナが核兵器を取得しようとしていると頻繁に非難。ウクライナ侵攻開始時に、北大西洋条約機構(NATO)同盟国がウクライナを橋頭堡としてロシアを脅かす計画をしていると主張したが、ウクライナとNATOは否定している。
●ロシアが「汚い爆弾」を原発に使用可能性の「戦慄シナリオ」 11/3
ウクライナの国営原子力企業「エネルゴアトム」が、SNSに恐ろしい投稿をしたのは10月25日のことだ。
〈ロシア軍が(ウクライナ南部)ザポリージャ原発の使用済み核燃料の貯蔵施設に対し、無許可の工事を進めている。放射性物質を狙ったテロ行為だ。「汚い爆弾」を、ウクライナの自作自演にみせかける準備に入った可能性がある〉
「汚い爆弾」とは、放射性物質を拡散する爆弾または装置のことだ。核兵器の核爆発と違う手段で放射性の汚染物質を広範囲にバラまき、敵対する勢力の被害を大きくする狙いがある。
「ロシアの主張は、ウクライナの言い分と真っ向から対立しています。プーチン大統領は10月26日に開かれた旧ソ連構成国の情報機関幹部らとのオンライン会議で、こう話したんです。『ウクライナが「汚い爆弾」を使う懸念がある。原発で使用し、それをロシアのせいにしようとしている』と。
ロシアは証拠としてSNSに放射線マークの入った丸い物体の画像を投稿し、ウクライナが作った『汚い爆弾』だとしました。しかし、すぐにスロベニア政府が反発。画像は同国が10年ごろに撮影したもので、中身は『単なる煙探知機』だとし『フェイクニュース』と反論したんです」(全国紙国際部記者)
ダムに仕掛けた爆弾の恐ろしい狙い
「ウクライナの自作自演」という主張を論破された形のプーチン大統領。ロシア軍は、どのようにして「汚い爆弾」を使おうとしているのだろうか。戦慄のシナリオを明かすのは、ロシア情勢に詳しい筑波大学名誉教授の中村逸郎氏だ。
「南部ヘルソン沿いを流れるドニエプル川のダムに、爆弾を仕掛けているという情報があるんです。水力発電所や堤防を破壊し、ヘルソン一帯を水浸しにしてウクライナ軍の侵攻を遅らせようと。実際に『併合』したと主張するヘルソンの住民には、避難指示を出しています。
ダムの爆破には、もう一つの恐ろしい狙いがあります。ザポリージャ原発への水の供給をストップさせ冷却システムを不能にし、6基の原子炉から放射性物質を拡散させようとしているんです。ザポリージャは、ヨーロッパ最大級の原発。爆弾の中に放射性物質を内蔵させるより、人類への被害ははるかに大きいでしょう」
プーチン大統領は、核兵器の使用も示唆し続けている。米国のバイデン大統領は「安易に使えばアルマゲドン(世界最終戦争)は避けられない」と牽制。破滅的な結果を招く恐れがあるのだ。中村教授が続ける。
「プーチン大統領が核兵器を使用する可能性はありますが、あくまで最終手段です。使えば世界大戦に発展しかねず、ハードルは相当高い。当面の狙いは、戦争の責任をウクライナのせいにすることでしょう。劣勢をくつがえすには放射性物質など『汚い手段』に頼らざるをえない状況ですが、あくまでウクライナの仕業としてすり替えたいのです」
窮地に追い込まれたプーチン大統領の選択肢は、日に日に少なくなっている。
●プーチン氏、動員完了確認せず ロシア、徴兵巡り国民に動揺 11/3
ウクライナ侵攻を続けるロシアで、徴兵を巡り国民に動揺が広がっている。
プーチン政権は10月末、予定の予備役30万人が集まったと主張。しかし、部分動員令に「100万人」と記されたとの説が消えない中、招集完了を確認する大統領令を出しておらず、今後も続く可能性があるためだ。
「法務専門家と相談してみる」。法学部卒のプーチン大統領は31日の記者会見で、動員に終止符を打つ命令を出すつもりがないか問われ、即答を拒否。翌日、ペスコフ大統領報道官を通じ「大統領令は不要」という見解を示した。
ショイグ国防相は28日、予備役招集が終わったと報告した。だが、プーチン氏が14日の記者会見で「今後2週間」で完了すると表明したため、これに合わせて宣言したにすぎず、実態を反映していないもようだ。その後も警察官が街頭で若者に招集令状を交付する動画が、ソーシャルメディアに投稿され続けた。誤って招集された後、動員を解除された人々の穴埋めについても、説明はないままだ。
そうした中、独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は11月1日、動員令が出た9月21日以降に予備役100人以上が戦闘などで死亡したと報道。訓練が不足し旧式の装備しか持たされていないといった実態も、次々と明らかになり、国民の不安は強まるばかりだ。
一方、11月1日には年2回のうち秋の徴兵期間が始まった。予備役の動員と重ならないよう、例年より1カ月遅いスタート。新兵12万人は「特別軍事作戦の地域には送らない」(ショイグ氏)と繰り返し強調されているが、これには国外脱出や反戦デモなどで混乱した動員令の二の舞いを回避する狙いがありそうだ。
米シンクタンクの戦争研究所は10月31日、「来年3月か4月に訓練を終えてウクライナに派遣される公算が大きく、戦況の変化に応じて早まる可能性もある」と指摘した。一方的に「併合」した東・南部4州は「ロシア領」という建前で、新兵を侵攻初期のように送り込むシナリオも否定できない。 
●ロシア、核保有国に戦争回避呼びかけ 欧米の懸念、沈静化狙いか 11/3
ロシア外務省は2日、ロシアを除く核保有国に対し、核保有国間の戦争回避に取り組むべきだとする声明を発表した。
声明では、ロシアが核兵器を使用できるのは、自国に対する大量破壊兵器による攻撃や、通常兵器による攻撃で国家の存立が危うくなった場合に限られると説明。ウクライナ情勢を念頭に「現在の複雑で不穏な状況で、核保有国の軍事衝突を回避することが喫緊の課題だ」と主張し、米英などの核保有国に対し、「壊滅的な結果をもたらす大量破壊兵器による挑発行為を助長する危険な試み」を断念するよう求めた。
ロシアは2月24日のウクライナ侵攻以降、繰り返し核兵器の使用を示唆して欧米をけん制してきた。10月下旬以降は、ウクライナが放射性物質をまき散らす「ダーティーボム」(汚い爆弾)を使う恐れがあるとも主張し、欧米はウクライナの仕業に見せかけてロシアが使用する「偽旗作戦」を警戒していた。
今回の声名は欧米の懸念を沈静化する狙いもあるとみられるが、露軍幹部がウクライナでの戦術核使用の可能性について協議したとの米紙報道もあり、緊張は続きそうだ。
●ウクライナ侵攻で「プーチン氏弱まる」、近く失脚の公算小=西側当局者 11/3
西側諸国の当局者は2日、ウクライナ侵攻という決定によってロシアのプーチン大統領の権威は弱体化したものの、ロシアの政治体制は独裁的で、近く政権交代となる公算は小さいという認識を示した。
この当局者は、ロシア軍がウクライナで後退を余儀なくされる状況となる一方、ロシアの侵攻を受けウクライナの国力は強まり、北大西洋条約機構(NATO)の拡大も促進されたと指摘。「実に壊滅的な間違いによってプーチン氏は弱まった」と語った。
さらに「ロシア国民は(ウクライナ侵攻が)容易に進むと考え、プランBを用意していなかった」とし、「プーチン氏が大きな間違いを犯したと誰もが分かっている」と述べた。
こうした状況によって、プーチン氏の後継者に関する議論が高まる可能性はあるものの、大統領交代が近く実現する公算は小さいという見方を示した。同時に、2020年代半ばの状況は「一段と興味深い」状況になるように見え始めたと述べた。
次回のロシア大統領選挙は2024年。プーチン氏は現時点で再出馬するかどうか言明していない。
プーチン大統領はこれまでにウクライナにおける「特別軍事作戦」に踏み切ったことを後悔しておらず、西側の覇権主義に対抗する需要な分岐点と位置付けている。
西側の当局者は、現時点でロシアがウクライナを巡り真剣に交渉する用意が整っているという兆候はないとし、「これは長く困難で、血に染まった紛争が続くことを示している」と述べた。
●ロシア動員兵、100人超死亡か 前線投入前に自殺も 11/3
ロシアの独立系ジャーナリストが設立したメディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」は2日までに、プーチン政権が9月に出した部分動員令に基づき招集された兵士のうち、100人以上が既に死亡したと報じた。そのうちの23人が前線への投入前に自殺や、アルコールや薬物などが原因で命を落としたと指摘した。
遺族への死亡通知などに基づき、独自に集計した結果としている。戦場で遺体が確認できない場合は行方不明として扱われるケースが多く、実際の死者数はさらに多いとみられる。
部分動員令が出た9月21日のおよそ2週間後の10月初旬には前線で死者が出始めたという。
●プーチン氏、インドネシア大統領と電話 G20参加触れず 11/3
ロシア大統領府は2日、プーチン大統領がインドネシアのジョコ大統領と電話協議したと発表した。11月中旬にインドネシア・バリ島で開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)について、プーチン氏が直接参加するかどうかは触れなかった。
プーチン氏はG20サミットへの参加について、先月の会見で「(参加は)まだ決まっていない」と述べるなど方針を明らかにしていない。
プーチン氏は、ロシアが2日に黒海の輸送回廊を通じたウクライナ産穀物の輸出を可能にする合意に復帰したことをジョコ氏に伝えた。ロシアが穀物を経済的に困窮している国々に対して無償で提供する用意がある考えも示し、ジョコ氏はロシアの政策を支持したという。
●「核戦争防止について」ロシアが声明 ”軍幹部が核兵器使用の議論“報道も 11/3
ロシア外務省は核戦争の防止についての声明を発表し、ロシアの核政策は防衛的なもので広範な解釈は許容しないと強調しました。
ロシア外務省は2日、「核戦争の防止について」という声明を発表し、ロシアの政策が防衛的なものであることを強調しました。
声明ではロシアの核兵器の使用は国家の存在が脅かされている場合か、侵略を受けた場合にのみ許容されると説明としています。
そのうえで、現状で最も優先されるべき課題は核保有国の軍事衝突を防ぐことだと主張しています。
米紙「ロシア軍幹部が核兵器使用の議論した」
一方、ロシア軍の幹部がウクライナでの核兵器の使用について話し合っていたとアメリカメディアが報じました。
ニューヨーク・タイムズは1日、アメリカ政府高官の情報として、ロシア軍幹部がウクライナでの戦術核兵器をいつ、どのように使用するかについて話し合ったと報じました。
この議論にプーチン大統領は参加していないとしています。
ロシアが核兵器を使用のために移動させたりしている情報はないということです。
情報は10月中旬にアメリカ政府にもたらされ、政権内の緊張を高めたということです。 
●「プーチン氏はウクライナで勝てない」元国防長官 断言のワケ 11/3
ロシアによる軍事侵攻が始まって8か月余り。ウクライナはまもなく厳しい冬に入ります。「プーチン氏は結局、ウクライナで勝てない」こう断言するのが、アメリカのオバマ政権時に国防長官やCIA長官を務めたレオン・パネッタ氏です。一方で、追い詰められたロシアが「汚い爆弾」や核兵器を使う可能性があるとも指摘。アメリカの国防政策の中枢を担ってきたパネッタ氏が見据える、“プーチンの戦争”の行方とは。
ウクライナ軍の最近の勢いは?
ウクライナは、力を集中させて、非常に効果的な攻撃を行っていると思います。彼らは、ウクライナ東部で1000平方マイルの土地を取り返しましたし、いまは南部の都市ヘルソンを奪還する勢いです。ウクライナ側は、武器、能力、そして兵力のいずれにおいても、ロシアに対する強力な軍事作戦を行う力を持っています。ロシアはいま、著しい戦力の減退を招いています。彼らは兵力を失い、作戦指令や補給、武器システムにおいて問題に直面しています。そしてプーチン氏の予備役の兵士の招集はうまくいっていません。いまこそ、ウクライナは、非常に強力な攻撃を行って、できればロシア軍をウクライナの土地から完全に追い出さなければならない時だと思います。
4州の一方的な併合、結局プーチン氏自身を追い込んだ?
プーチン氏がウクライナで大変な状況に追い込まれていることは間違いありません。そしてウクライナ側がこの戦争に勝利しようとしていることもです。独裁者やいじめっ子を窮地に追い込んだら、彼らはそこから抜け出すため、なんらかの方法で攻撃するでしょう。核兵器を使用するのか、できもしないのにウクライナの一部を併合したふりをするのか、何らかの手段です。ところが現実は、そうした地域の支配などできていないのです。いくら戒厳令を出したところで現実は支配などしていないのです。プーチン氏は言いたいことを言うでしょうし、やれることは何でもやるでしょう。だたし、結局のところ、彼はウクライナで勝つことはできないということを認識しなければなりません。アメリカとその同盟国、そしてウクライナは、いまこの瞬間、結束し、強い姿勢で臨まなければなりません。私たちがやってはいけないのは、主権国家を侵略することは許さないという決意において、足並みの乱れや弱さを見せることです。
戦況の悪化が与えるプーチン氏への影響は?
プーチン氏はいま、2つの戦いに直面しています。1つはウクライナ国内、そしてもう1つはロシアの首都モスクワでの戦いです。モスクワの人々は、この戦争がうまくいっていないと気づいていると思います。私が目にした最新の推計では、ロシア軍の死傷者は8万人にのぼっており、このうち1万5000人から2万人が戦場で命を落としています。このことはロシアに残された家族に衝撃を与え、プーチン氏への批判を呼び起こしています。自分たちが始めた戦争が成功していないことで、ロシア国内ではプーチン氏の辞任を求める声があがっています。プーチン氏は、この戦争は間違った戦争なのだと認識した自国民との戦いと、ウクライナでの戦いという2つの戦争に直面しているのです。彼は非常に困難な状況に立たされています。そして率直に言って、そのことが彼をより危険な状態に追い込んでいます。ただ、プーチン氏は交渉して、この戦争を平和的に終わらせることを明らかに望んでいません。彼はこの戦争を続け、無実の人々を殺し続けようとしています。なぜなら彼は、成功するかしないかに関わらず、ウクライナとアメリカ、そしてその同盟国の結束を引き裂くことができるかどうかを見ているのです。だからこそ、私たちは、強くあり続けなければならないのです。
プーチン氏が核兵器を使用する可能性は?
われわれの諜報活動によれば、プーチン氏は一か八かの賭けを続けています。ウクライナを破壊して、罪のない男女や子どもたちを殺害するだけでなく、核兵器を使用するという脅迫を繰り返しています。プーチン氏のような人間を窮地に追い詰めれば、そこから抜け出すために、何だってやるでしょう。いままさに、彼は核兵器の使用をちらつかせることで、それをやっているのです。私たちはこのことを深刻に受け止めなければなりません。彼は、それ以外の手段をあまり持ち合わせない状況にいますから。もしプーチン氏が交渉に前向きな人間であれば停戦交渉を進めるチャンスもあるでしょうが、彼は交渉を望んでいません。だから、ロシアが核兵器を使用するおそれは、依然としてかなりあると思います。
「汚い爆弾」の使用は?懸念すべき事態は?
[ 「汚い爆弾」 = 内部に粉末状の放射性物質などが詰め込まれた兵器。爆発によって放射性物質が広い範囲に拡散、放射能を帯びた爆弾の破片でけがをするおそれがある。 ]
完全な形の核兵器よりも威力は小さいかもしれませんが、使用されることを懸念しています。なぜなら、「汚い爆弾」の使用は、次に核兵器を使用する足がかりになるからです。誰かが放射性物質を武器として使用し始めれば、ほかの者が核兵器を使う可能性を増幅させます。そしてそのことが、核兵器を実際に使用する危険性をさらに高めてしまうのです。最も考えられるシナリオは、特定の戦場に限定した核兵器の使用です。ミサイルや潜水艦、爆撃機に搭載するような核兵器ほど強力ではありませんが、より狭い地域に限定した使われ方です。しかし私が言い続けてきたのは、核兵器をひとたび使用すれば、それは、その大きさに関わらず、放射性物質をまき散らすということです。無実の人たちにどれだけの影響を及ぼすのか、確たることはわからないのです。こうした武器の使用は一線を越えることを意味します。この21世紀において、いかなる国も核兵器を使用してはなりません。
ロシアが「汚い爆弾」や核兵器を使用したら、どう対応?
私たちはプーチン氏に非常に強いシグナルを送らなければなりません。もしプーチン氏が核兵器を使用すれば、越えてはならない一線を越えたことを意味します。そうなれば、アメリカは同盟国とともに、プーチン氏の打倒に向けて、ウクライナ国内で通常兵器を使用することになるでしょう。バイデン大統領は、もしプーチン氏が核兵器を使用すれば、それはすなわち「アルマゲドン」(最終戦争)になる可能性があり、極めて破壊的な結果を招くことになると明確に示しています。プーチン氏がそうした兵器を使用することは許さない、という態度で臨むことが大事です。もし私たちがそうした対応ができなければ、プーチン氏に対して、ウクライナで失った地域を取り戻すためには、こうした兵器を使うことが有効だという動機を与えるだけです。ですので、ウクライナとアメリカ、そしてNATOの同盟国が、プーチン氏に対して、核兵器を使用すれば深刻な結果を招き、ロシアの敗北を確実にするだけだという断固たるメッセージを送ることが重要です。私たちは、もしも無実の男女や子どもの生命を脅かすようなことをすれば、確実にロシアに大きな代償を払わせるために、あらゆることをすることになるでしょう。
米ロの国防相が電話会談、停戦に向けた交渉への意思は?
プーチン氏がロシアでの自分の立場を守るために、また経済制裁で崩壊の危機にあるロシアを守るため、この戦争から抜け出す方法を探ろうとすることは合理的なことです。だから各国に接近し、交渉するかどうかの判断をすることはありえます。しかし、私たちはだまされたりはしません。プーチン氏は戦争が始まって8か月がたっても、停戦をして戦争を終結させるために、一度たりとも本気で交渉する意向を見せたことはありません。ですから私たちは、仮に関係者を※G20に送り込んできたとしても、だまされたりしてはいけません。外交において、会って話をすることに一定の意味はあります。しかしはっきり言えば、プーチン氏の決断に影響を与えうるのは『軍事力』だけです。それゆえに、アメリカと同盟国はウクライナからロシアを撃退し続け、この戦争に勝たなければなりません。究極的には、それが、プーチン氏を何らかの形で解決に同意させる唯一の方法なのです。
[ プーチン大統領は10月27日の会議の演説で、11月にインドネシアで開かれるG20の首脳会議に高官を派遣すると述べた。 ]
“プーチンの戦争”の終結は?何が必要?
いま季節は冬に向かっていて、その質問に答えることができる人はまずいないでしょう。ウクライナで冬期に戦闘を続けるのは困難です。それはすなわち、双方ともに戦場で本格的に支配地域を拡大することはできないということです。この戦争は長く続くことになるでしょう。おそらくこれから何か月かは、いまウクライナで起きているような攻防が続く可能性が高いと言えます。ウクライナは継続して支配地域を広げ、勝利を重ねるでしょうし、ロシアは支配地域を失い続けるでしょう。しかし、そのことは、ロシアが最終的に敗北するよりも前に戦闘をやめるということを意味しません。第2次世界大戦の教訓は明確です。私たちはドイツのヒトラーを完全なる敗北に追い込むまで、戦争を終結させることはできなかったのですから。ウクライナと同盟国は、ロシア軍をウクライナから追い出し、この戦争に勝利し続けなければなりません。それが、最終的にプーチン大統領を何らかの解決策に同意させる唯一の方法です。
●ザポリージャ原発 外部からの電力供給 完全に失われたと発表 11/3
ウクライナ南部にあるザポリージャ原子力発電所について、管理している原子力発電公社エネルゴアトムは3日、声明を発表し、ロシア軍による砲撃で、原発の送電線が損傷して外部からの電力供給が2日、完全に失われたと発表しました。
原発では電力を使って原子炉や燃料プールを常に冷却する必要がありますが、現在は非常用のディーゼル発電機を使っているということです。
ただ非常用ディーゼル発電機の燃料は15日分に限られているということで、エネルゴアトムは危機感を示し「原発が占拠され施設の安全確保が難しくなっている」とロシア側を非難しました。
一方、ロシアのプーチン大統領の最側近の1人、パトルシェフ安全保障会議書記は3日、「ウクライナ軍がザポリージャ原子力発電所を西側から供与された兵器を使って砲撃し続けている。大惨事を招きかねない」と主張し、ウクライナと欧米を批判しました。
ロシア軍が占拠しているザポリージャ原発ではこれまでも相次ぐ砲撃によって一時的に外部電源が失われるなど、安全性への懸念が広がっています。
●ロシア軍、1日40両以上の装甲車を喪失か 英国防省が分析公表 11/3
英国防省は3日、ウクライナの戦況をめぐり、ロシア軍が10月中旬、ウクライナの反攻を前に、1日40両以上の装甲車を喪失していたとする分析を公表した。
英国防省によると、40両はおよそ一個大隊の装備に匹敵する規模。ロシア軍はここ数週間で、ベラルーシ軍から少なくとも100両以上の戦車と歩兵戦闘車を補充したという。
英国防省は、ウクライナに派遣されているロシア兵が、古い歩兵戦闘車両に不満を抱いており、「アルミ缶」と表現していると指摘した。
●ロシア軍 兵器不足でベラルーシ イラン 北朝鮮に依存の見方も  11/3
ウクライナに侵攻するロシアは兵器不足などに直面していると指摘されていて、ロシア軍は同盟関係にあるベラルーシ、そしてイランや北朝鮮などの兵器に依存しようとしているという見方が出ています。
ウクライナでは、支配地域の奪還を目指し反転攻勢を続けるウクライナ軍に対し、ロシア軍はエネルギー関連施設を標的にミサイルなどで攻撃を続けています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は2日、軍などの部隊に必要な物資を調達するための会議を開催し「装備や医薬品は使う人の意見を考慮してほしい。兵器も常に性能を向上させ、効果を維持していく必要がある」と述べました。
ロシア軍の装備品をめぐっては、数が不十分だとするほか、古くて使えないなどといった批判がロシア国内から出ていて、関係閣僚に対応を急ぐよう促した形です。
イギリス国防省は3日、「ウクライナの反転攻勢で、ロシア軍は先月中旬、1日に40以上の装甲車を失った。ロシアはここ数週間、ベラルーシから少なくとも100両の戦車などを取得した可能性がある」と指摘し、ロシア軍が兵器不足に苦しみ同盟関係にあるベラルーシに頼っていると分析しています。
また、ロシア軍はミサイル不足に直面する中、攻撃にはイラン製の無人機が使用されているとみられています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は1日、「イランはさらに多くの無人機と新しい弾道ミサイルシステムを送ることを計画し、ロシアがイランへの兵器依存を高めている」と分析しています。
ロシアのラブロフ外相は2日、イランのアブドラヒアン外相と電話で会談するなど、このところ一層の関係強化を図っていますが、両国は兵器をめぐるウクライナでの軍事的な協力は否定しています。
このほか、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は2日、「北朝鮮が大量の砲弾を中東や北アフリカの国々に送ると見せかけて、ロシアにひそかに供与しているという情報がある。ロシアが実際に受け取ったかどうかについては今も監視を続けている」としています。
ただ、これまで北朝鮮側はロシアが北朝鮮から砲弾などの購入を進めているとする指摘を否定しています。
●G7外相会合 きょう開幕 “ロシアに対して結束して圧力”確認へ 11/3
G7=主要7か国の外相会合が日本時間の3日夜からドイツで始まります。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対して、G7が結束して圧力をかけ続ける方針を確認するとともに、習近平国家主席が共産党のトップとして異例の3期目に入った中国への対応についても意見を交わすとみられます。
G7の外相会合は議長国ドイツ西部のミュンスターで3日午後、日本時間の3日夜遅くから2日間の日程で始まります。
主要な議題はウクライナ情勢への対応で、軍事侵攻を続けるロシアが核戦力の使用も辞さない構えを示すなどして欧米を威嚇するなか、G7が結束してロシアに圧力をかけ続ける方針を確認するとみられます。
また、エネルギー関連施設が攻撃され、冬への備えが課題となっているウクライナへの継続した支援についても協議する見通しです。
さらに、中国の習近平国家主席が共産党のトップとして異例の3期目に入ったことも踏まえ、中国への対応についても意見を交わすとみられます。
一方、外相会合が開かれている4日、G7の議長国ドイツのショルツ首相は、ドイツ企業の幹部らを率いて中国を訪れ、習主席と会談する予定です。
ドイツをはじめヨーロッパ各国で人権問題や海洋進出などを巡り、中国への警戒感が高まる中での訪問となることに、ドイツ国内では、欧米の結束を乱すことにつながりかねないという批判もあり、首脳会談の内容にも関心が集まっています。
●対ロシア関係「長い冬に」 「プーチン後」も慎重対応 フィンランド国防相 11/3
フィンランドのカイッコネン国防相は2日、ウクライナ侵攻により「ロシアと西側諸国の関係は長い冬に入った」と述べ、侵攻が終わった後も対ロ関係は容易に改善しないとの認識を示した。
首都ヘルシンキで時事通信の単独インタビューに応じた。
カイッコネン氏は現在の国際情勢について「『第2の冷戦』と呼べる段階の目前まで来ている。残念だが、それが現実だ」と指摘。ロシアとウクライナのいずれも停戦・和平交渉に応じる用意がないとして、「交渉にたどり着くまでに長い時間がかかるだろう」と語った。
ウクライナ侵攻を「プーチンの戦争」とする見方に関しては「大統領のプーチン氏に責任があるのは当然だが、プーチン氏だけ(の戦争)なのか明確な答えを持っていない」と表明。「ロシアの政権幹部や国民の間にも戦争を支持する声は多い」と述べ、「プーチン後」のロシアにも慎重な対応を要すると訴えた。
フィンランドは約1300キロにわたってロシアと国境を接している。カイッコネン氏はこうした状況を踏まえ、防衛力の強化や、合同演習などを通じた北大西洋条約機構(NATO)との連携の重要性も強調した。来年の国防予算には過去最高額となる61億ユーロ(約8900億円)を要求。その後も国防支出をNATO基準の国内総生産(GDP)比2%以上に維持する方針を示した。
●ロシア “動員完了”も届く招集令状… 広がる動揺「政権を信用できない」 11/3
ウクライナへの侵攻を続けるロシアで「動員」を巡る国民の動揺が収まりません。ロシアでは動員完了の発表があったにもかかわらず、招集令状が届いた男性がいると報じられました。
独立系メディアは2日、ロシア中央部ウファの男性が招集令状を受け取ったと報じました。
令状には動員のため、17日に入隊事務所に出頭するよう記されていました。
部分動員を巡ってはショイグ国防相が10月28日、目標の30万人が達成されたとして、完了をプーチン大統領に報告しました。
しかし、ロシアの人権派弁護士らは完了を明記した大統領令がない限り、動員が続けられる恐れがあると指摘しました。
プーチン大統領は10月31日、メディアからの質問に「法律の専門家と相談する」と回答し、ロシア大統領府はその後、大統領令の必要はないとの見解を表明しました。
人権派弁護士らは、プーチン大統領が大統領令を拒むのは死傷者が増えれば追加の動員をせざるを得なくなるためだろうと指摘しています。
動員を恐れて隣国に避難しているロシア人男性の多くが帰国せずに第三国にとどまっているとみられます。
キルギスに避難している男性はANNの取材に対し、「政権を信用できない」と話しました。

 

●ウクライナ避難民約1400万に、「数十年で最大規模」 国連 11/4
国連はロシア軍によるエネルギーインフラへの攻撃でウクライナの人々が直面する厳しい冬や、戦争で家を追われた多くの人々について懸念を強めている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のフィリッポ・グランディ高等弁務官は2日、「ロシアのウクライナ侵攻がこの数十年で発生したものとしては最速かつ最大の避難民を生み出している。2月24日以来、約1400万人が家を追われた」と声明で述べた。
「ウクライナの人々は極めて困難な状況の中で世界で最も厳しいとされる冬に直面しようとしている。人道支援の組織は対応を劇的に拡大したが、何よりもこの無意味な戦争を終わらせることから始めなければならない」とグランディ氏は国連安全保障理事会に宛てた書簡で述べた。
「残念ながら、我々は逆の事態を目の当たりにしている。民間インフラへの攻撃による破壊は我々が話している間にも起こっており、人道対応はあっという間にニーズの大海の一滴になっている」とグランディ氏は付け加えた。
ロシア軍の攻撃は続いている。ウクライナ中央部の都市クリビーリフの軍政責任者オレクサンドル・ビルクル氏によると、ロシア軍は2日夜に同市のエネルギーと水のインフラを攻撃した。
●IAEA、ウクライナに未申告の核活動兆候なし 「汚い爆弾」 11/4
国際原子力機関(IAEA)は3日、ウクライナが放射性物質をまき散らす「ダーティーボム」(汚い爆弾)を使用する恐れがあるとするロシアの主張を受けてウクライナの施設を調査した結果、未申告の核活動や核物質の兆候は確認されなかったと発表した。
IAEAの声明によると、調査はロシアの主張を否定するウクライナ政府が要請した。対象となる3施設にIAEAの査察官を派遣し、検証活動を実施した。査察官らは関連施設に自由に出入りすることができる状況で検証したという。
汚い爆弾を巡っては、ロシアが自ら使用して、ウクライナに責任を負わせる「偽旗作戦」の可能性もあると指摘されている。
●ウクライナ産農産物の輸出が再開 輸出めぐる合意 延長が焦点に  11/4
ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意にロシアが復帰し3日、ウクライナ南部から船が出港し輸出が再開しました。一方、輸出を継続する合意の期限が今月中旬に迫っていますが、ロシアは自国の農産物の輸出が制限されていると批判していて、合意が延長されるかどうかが焦点となっています。
ロシアは先月29日、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止すると一方的に表明し世界的な食料危機への懸念が広がっていましたが、ロシアは2日、合意への復帰を発表しました。
3日、ウクライナ南部から農産物を載せた7隻の船が出港し、ロシアが合意に復帰してから初めての輸出となりました。
一方、輸出をめぐる合意は120日ごとに延長され、その期限が今月19日に迫っていて、仲介役のトルコは「延長すべく一層努力する」としてロシアやウクライナと調整を加速させる考えを示しています。
これについてロシア大統領府のペスコフ報道官は3日、「延長について正式に議論しなければならない。総合的に評価し決定する必要がある」と述べました。
ロシアのラブロフ外相も3日、ウクライナからの輸出だけでなくロシア産の農産物も輸出する必要があるものの、制裁の影響でロシアからの輸出が制限されていると批判し、合意が延長されるかどうかが焦点となっています。
一方、ウクライナ軍は支配された領土の奪還に向けて南部ヘルソン州で反転攻勢を強め、中心都市ヘルソンへ部隊を進めているとみられます。
これに対し、ヘルソン州の親ロシア派幹部は3日、国営のロシアテレビで、ドニプロ川の西側の中心都市ヘルソン周辺にいるとみられるロシア軍の部隊について「川の東側へ離れることになるだろう」と述べました。
ウクライナ軍の反撃を前に、ロシア軍が中心都市ヘルソン周辺から撤退することを示唆した可能性もあります。
ただ、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシア軍はドニプロ川の東側に防衛線を築こうとしていると指摘したほか、ウクライナ側はロシア軍が4万人規模の兵士を集結させているという見方も示していてヘルソン州での戦闘はさらに激しくなるものとみられます。
国連事務総長 “輸出再開を歓迎 ロシア産の輸出も必要と強調”
国連のグテーレス事務総長は3日、ニューヨークの国連本部で記者会見し、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意に基づいて輸出が再開されたことを歓迎しました。
そのうえでグテーレス事務総長は「すべての関係者に対し、合意の延長と完全な履行、そしてロシア産の農産物の輸出を妨げる障害を取り除くことに集中的に努力するよう求める。わたしはこれらの重要な目標の達成のために全力で取り組む」と述べ、世界的な食料危機の懸念が高まる中、今月19日が期限となっているウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の延長とともに、ロシア産の農産物の輸出も必要だと強調しました。
●侵攻を聖戦にしたいプーチン 擁護のロシア正教会はウクライナを“サタン化” 11/4
ロシアのウクライナ侵攻が泥沼化する中、プーチン大統領に関するさまざまな報道が飛び交っている。ジャーナリストの深月ユリア氏が、その一つとして、同氏と宗教が絡んだ報道を取り上げ、ウクライナ出身の国際政治学者であるアンドリー・グレンコ氏に見解を聞いた。
10月25日、ロシアの現地メディアによると、ロシア正教会のトップであるキリル総主教はプーチン大統領を「反キリストを掲げる者に立ち向かう闘士」と称したという。西側のメディアでは、「キリル総主教はプーチンをロシア正教会のエクソシストに任命した」という報道もある。
報道によると、キリル総主教は「プーチンは西側のグローバリズムと戦っている」「世界的な権力を主張する者は、世界の終わりを招くことになるだろう」と、プーチンの戦争≠擁護する声明を発表したという。また、ロシア国内で予備役を動員する件について、同総主教は「ロシア人は死を恐れてはならない」と述べたそうだ。
さらに、現地メディアによると、同総主教は9月22日、モスクワのザチャチエフスキー修道院で行った説教の中で、「勇敢にロシア軍の使命を果たしなさい。国のために命を捧げる者は、神の国と栄光と永遠の命の中で、神と共にあることを覚えておきなさい」と戦争を推進する主張をしたという。
ロシア国内のロシア人の約7割がロシア正教会を信仰しているといわれるが、ロシア国内で反プーチン・反戦ムードが広がる中、プーチン大統領はウクライナ戦争を「聖戦」と定義して正当化したいのだろうか。
筆者が、ウクライナの国際政治学者で「ロシアのウクライナ侵略で問われる日本の覚悟」などの著者、アンドリー・グレンコ氏にインタビューしたところ、「キリル総主教はかねてより『西側の自由民主主義・価値観が間違っていて、ロシアが正しい』と主張してきました。ロシア正教会はプーチンの支配下にあります。ただし、『エクソシスト』というのはロシアのメディアには書かれていなく、西側メディアの比喩でしょう」
ロシア正教会はプーチン大統領を擁護する教義なのか?グレンコ氏は「ロシア正教会の組織はプーチンとズブズブです。歴史的に見ても、帝政時代に宗教が国の統治に政治的に利用され、ロシア革命時にレーニンにつぶされましたが、スターリンが再びロシアの統治に利用する為に復活させました。ロシア正教会はKGB(※)の別部隊のような組織で、幹部は諜報機関のメンバーでもあるといわれています」
そして、グレンコ氏が懸念するのは、キリル総主教よりロシア国家安全保障会議のアレクセイ・パブロフ氏の発言である。
グレンコ氏は「ロシア国家安全保障会議は『ウクライナはロシア正教会を放棄し、サタンを信じている。特殊軍事作戦により、ウクライナの非サタン化が必要だ』と発言しました。今までは『ウクライナはナチス』という発言はありましたが、一応、ナチスも人間です。しかし、今回の発言は、『戦う相手は人間でなくサタンだ』という主張です。 ますます、とんでもない過激な論調になっています」
グレンコ氏はこの発言の背景・意図として、「ロシア国内の反戦ムードをおさえること。追加動員された兵士のみならず国民全体の士気を高めることにあるでしょう。(どれだけのロシア人が信じるかはわかりませんが)一部の人には響くかもしれません」
さらにグレンコ氏によると、「ロシアの国連大使は『ウクライナは戦闘用の蚊を使っている』という発言もしている」という。
国内外で孤立するプーチン大統領はもはや神頼み≠ネのだろうか。
●プーチン大統領、動員兵らに3200ドルの一時金支給へ 11/4
ロシアのプーチン大統領は3日、部分動員令で招集された兵士らに対し19万5000ルーブル(3200ドル)の一時金を支払うよう命じた。大統領府(クレムリン)が発表した。
大統領府のウェブサイトに掲載された法令によると、プーチン大統領は、一時金の支給は招集された兵士らに「社会的支援の追加措置を提供する」ためのものという。それ以上の詳細には触れていない。
兵士らに提示された最低賃金は月額16万ルーブル(2700ドル)。これは全国平均賃金のほぼ3倍に相当する。
●「プーチン氏参加ならG20欠席」ウクライナ大統領言明 11/4
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、11月中旬にインドネシアで開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)について「ロシアのリーダーが出席するなら、ウクライナは参加しない」と表明した。同日にはインドネシアのジョコ大統領と電話で協議した。
ゼレンスキー氏は首都キーウ(キエフ)で記者団に、ジョコ氏との電話協議について「改めて(G20サミットへの)招待を受けた。まだ様子を見よう、何日か残されている」と述べた。プーチン氏の参加の是非を見極めてから、自身の出席を判断する考えだ。
ロシア大統領府によると、プーチン氏は2日にジョコ氏と電話で協議し、G20サミットへの参加問題を話し合った。ただ、これまで出席するかどうかは明言していない。ロシア軍によるウクライナ侵攻を巡っては、ジョコ氏がプーチン、ゼレンスキー両氏の直接会談の開催を仲介したい意向を示していた。
ロシア軍のウクライナ侵攻では、ウクライナ軍が9月中旬にハリコフ州のほぼ全域を奪回するなど攻勢を強めている。苦境にあるプーチン氏は9月30日、占領している東部ドネツク州などの「併合」を宣言する一方、ウクライナに停戦と和平協議に応じるよう呼びかけていた。
●ロシア高官、南部ヘルソン州で撤退示唆 ウクライナなお警戒 11/4
ウクライナ南部ヘルソン州を実効支配するロシア当局者は3日、ロシア軍がドニエプル川西岸から撤退する可能性が高いと述べた。実際に撤退が行われればロシアにとっては大きな後退で、侵攻の転換点になる。
ただ、ウクライナ側や欧米のアナリストはロシアの撤退に慎重な見方を示しており、撤退を装ったわなの可能性に警戒している。
ヘルソン地域のロシア文民高官、キリル・ストレムソフ氏はロシアメディアとのインタビューで「われわれの部隊や兵士は左岸(東)へ去るだろう」と述べた。
ロシアはこれまで、プーチン大統領が9月末にロシアへの「併合」を宣言した同地域からの撤退計画を強く否定していた。
同地域には2月の侵攻開始後にロシアが無傷で占領した主要都市ヘルソン市がある。また、ドニエプル川には巨大なダムもあり、ロシアが2014年に一方的に占領したクリミア半島への灌漑用水を供給している。
一方、ウクライナ南部軍司令部の報道官は、ロシアのわなである可能性があるとし、「敵は占領地から立ち退くと信じ込ませようとしているが、われわれはヘルソン方面でも戦闘を続けている」と述べた。
米国のオースティン国防長官は3日、ウクライナ軍はロシア軍からヘルソン市を奪還できるとの見方を示した。 
●米国ホワイトハウス「北、ロシアにウクライナ戦争のための武器提供」 11/4
北朝鮮がウクライナを侵攻したロシアに相当量の砲弾を提供していると米国ホワイトハウスが明らかにした。
ホワイトハウス国家安保会議(NSC)のジョン・カービー戦略疎通調整官は2日(現地時間)、「北朝鮮がロシアにウクライナ戦争のために相当量の砲弾を隠匿して提供したという情報を受けている」と述べた。
カービー調整官は「この砲弾が中東あるいは北アフリカ国家に輸送される方法を取り、実際の目的地を隠した」と付け加えた。
またカービー調整官は「実際にロシアに伝達されたかどうかを注視するだろう」としながら「我々は同盟およびパートナーと共に国連で追加的に責任を問う措置が可能かどうか議論するだろう」と話した。
だが北朝鮮がロシアに提供した砲弾の種類や規模については具体的に言及しなかった。
カービー調整官は「少なくない量の砲弾だとみているが、これで戦争の方向が変わるとは信じていない」とも強調した。
ホワイトハウスによると、北朝鮮と共にイランもロシアに追加武器を提供した情況がある。
●ロシア軍、ヘルソン活動継続も 米分析、周辺に精鋭部隊 11/4
米シンクタンク、戦争研究所は3日、ウクライナ軍の反攻を受けロシア軍が撤退する可能性が指摘されている南部ヘルソン州の州都ヘルソンの情勢について、ロシア軍が市北西部に防衛拠点を設け、周辺で精鋭部隊が活動を続けているとの分析を発表した。即時撤退するかは不明で、市街戦に備えている可能性があるとした。
ヘルソン州はロシアが併合宣言し、戒厳令を導入した東部・南部4州の一つで、3月に全域を制圧。9月ごろからウクライナ軍が反攻を加速させ、ヘルソンが位置するドニエプル川西岸地域で集落を奪還した。同州のロシア側「行政府」は10月中旬、住民に避難勧告をしていた。
●中独、ウクライナ戦争でのいかなる核使用にも反対 ショルツ氏 11/4
中国・北京を訪問したドイツのオラフ・ショルツ(Olaf Scholz)首相は4日、両国はウクライナ戦争でのいかなる核兵器の使用にも反対すると述べた。
ショルツ氏は記者団に、「ここ中国では、(ウクライナ戦争が)激化すればわれわれ皆に影響が及ぶことを誰もが知っている」と述べ、「そのため、戦術核の使用によるエスカレーションはあり得ないと皆が明言することが、私にとって非常に重要なのだ」と述べ、「われわれが少なくともこの点で合意に至ったことは喜ばしい」との考えを示した。
中国の習近平(Xi Jinping)国家主席との会談でショルツ氏は「ロシアによるウクライナ侵攻は全世界にとって危険な状況だ」と強調したという。
また同氏は先に習氏に対し「中国がロシアに影響力を行使することが重要だ」とも伝えていた。
●習氏、核使用に「反対」 異例のロシアけん制、独首相会談 11/4
中国の習近平国家主席は4日、ドイツのショルツ首相と北京の人民大会堂で会談した。習氏はウクライナ情勢を巡り「国際社会は核兵器の使用や脅しに対し、共同で反対すべきだ」と強調した。中国外務省が発表した。習氏がロシアへのけん制と取れる発言をするのは異例。
新型コロナ流行後、G7の首脳が訪中したのは初めて。10月の共産党大会を経て総書記として異例の3期目に入った習氏は、核使用に危機感を強めるEUに寄り添う立場を示し、経済協力もてこに、ドイツを引き付ける構えだ。
習氏は会談で「陣営間の対抗」を批判し、米国を軸とした対中包囲網は不当だとの立場も示した。
●米中間選挙でアメリカのウクライナ支援は変わるのか? 11/4
米共和党のトップ議員らが、中間選挙で連邦議会の過半数議席を同党が獲得した場合、ウクライナへの支援を削減するかもしれないと語り、選挙に火種をまいている。しかし実際、中間選挙の結果でアメリカのウクライナへの対応は変わるのだろうか? 
ウクライナ国防省が投稿したある動画は、ロシアとの戦争をめぐる象徴的な光景を映していた。アメリカ製のロケットが次々と発射され、標的に当たって夜空で火球が光るその動画では、アメリカのメタルバンド「メタリカ」の楽曲が使われていた。
この発射には、ハイマース(高機動ロケット砲システム)と呼ばれる兵器が使われた。アメリカからウクライナにこれまでに送られた18基のうちの1基だ。アメリカは520億ドル(約7.7兆円)という大規模な支援パッケージを提供している。これは、他の国々によるウクライナ支援を全て合わせた額の2倍以上だ。
軍事専門家やウクライナ政府は、アメリカの支援がウクライナの作戦において極めて重要だと話す。
元米海軍将校で戦略・国際研究センターの防衛専門家、マーク・キャンシアン氏は、「アメリカの支援がなければウクライナは占領されていただろう」と語る。
しかし、この支援のパイプラインに影が差している。一部の共和党議員が、アメリカ国民が生活費に窮している中でウクライナを支援するメリットに疑問を投げかけたのだ。
共和党議員の主張は? 
共和党の連邦下院トップのケヴィン・マカーシー院内総務は10月初め、共和党が議会を掌握した場合、ウクライナに「白紙小切手」を渡すことにはならないだろうと示唆した。
同党は現在、中間選挙で下院の過半数議席を獲得する勢いだ。アメリカの憲法によると、下院は全ての予算決議を行う。過半数を取れば、下院議長となったマカーシー氏がどの法案を採決にかけるかを決められる。
ウクライナ支援に対して同じような懸念を示す共和党員は他にもいる。ジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州)は、ウクライナ支援は「アメリカの利益にはならない」とし、「ヨーロッパにただ乗りを許している」と述べた。
この発言は、共和党内の分断を示すものでもあるようだ。マイク・ペンス前副大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「擁護者」や、「アメリカを広い世界から切り離してしまう」共和党員を、強い口調で非難した。
今春の4000万ドル規模のウクライナ支援策に反対したのは全員、共和党議員だった。下院では57人、上院では11人が反対票を投じた。
アメリカは本当に支援をやめるのか? 
欧州では、この可能性について懸念が広がっている。イギリス議会で国防特別委員会の会長を務めているトバイアス・エルウッド議員は米紙ワシントン・ポストに対し、「アメリカが撤退すれば、プーチンは敗北間際で勝利を奪ってしまうだろう」と話した。
しかし、ウクライナ当局やアメリカに拠点を置くオブザーバーらは、中間選挙の結果にかかわらず、支援が短期間で大きく減らされる可能性は少ないとみている。
ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は首都キーウでBBCの取材に応じ、アメリカの共和党と与党・民主党双方の議員との話し合いで自信を持ったと話した。
「誰が議会を動かそうと問題ないというシグナルを受け取った。(中略)ウクライナへの党派を超えた支援は続くと信じている」
2003〜2006年に駐ウクライナ米大使だったジョン・ハースト氏はBBCに、マカーシー氏は党の右派の利益のために政治的な見せかけを行った責任を問われる可能性があると指摘した。
「共和党のポピュリスト(大衆主義者)側、ドナルド・トランプ前大統領側の人々が、ウクライナ支援に疑問を持っているのは間違いない。そこには例えほんのわずかではあっても、ウクライナへの敵対心や、プーチン氏のロシアへの隠れた尊敬の念がある」
その上でハースト氏は、中間選挙後に共和党のポピュリスト層が力を増す可能性は十分にあると説明。だが、その圧力が支援削減につながるかは疑問だと述べた。
マカーシー氏の発言を受け、民主党はウクライナへの支援方針を改めて強調した。だが、同党にも造反者がいる。
民主党の左派は先に、交渉による戦争解決を求める書簡を提出した。ただ、ジョー・バイデン大統領の評価を下げるものだとの批判を受けて取り下げている。
アメリカ国民はどう思っている? 
世論調査では、ウクライナ支援の支持率はなお高いものの、戦争が長引くにつれ低下の兆候がみられる。
10月にピュー研究所が行った調査によると、アメリカ人の20%がウクライナを支援しすぎだと答えた。3月には7%、5月には12%だった。
一方で、ロイターとイプソスの調査では、11月初めの時点で回答者の73%が引き続き支援するべきだと述べている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが3日に発表した調査では、ウクライナ支援への意見は支持政党によって大きく異なることがわかった。
支援しすぎだと答えた共和党支持者は30%にのぼり、侵攻開始直後の3月(6%)から大きく増えている。
アメリカの対ウクライナ支援の長期的な見通しは不明だが、政治家が説得力のある意見を提示できれば、国民の支持は続くだろうとハースト氏は述べた。
「アメリカではどちらも党も、超党派的な発言で(ウクライナでのロシアの行いに関する)危険を指摘できるだろう」「そうなれば、たとえ2、3年後であっても、アメリカ人は今と同じような資源の提供に大賛成すると、私は信じて疑わない」
●G7 林外相 “ロシア制裁とウクライナ支援 継続・強化努める”  11/4
G7=主要7か国の外相会合が日本時間の3日夜、ドイツで開幕し、林外務大臣は、来年日本がG7の議長国を務めることを踏まえ、ロシアに対する制裁とウクライナへの支援を継続・強化できるよう努めていく考えを示しました。
G7外相会合は日本時間の3日夜、林外務大臣も参加してドイツ西部のミュンスターで開幕し、最初のセッションではロシアによるウクライナ侵攻をめぐって議論が行われました。
冒頭、ウクライナのクレバ外相がオンラインで参加し、最新のウクライナ情勢を説明したうえで、G7各国の支援に謝意を示しました。
林大臣はウクライナ侵攻を続けるロシアを改めて非難し「ロシアによる核の脅しを深刻に懸念しており、断じて受け入れられない。広島や長崎に原爆が投下されてから77年間核兵器は使用されておらず、これが変わることはあってはならない」と述べました。
また、いわゆる「汚い爆弾」に関するロシアの虚偽の主張は認められないと指摘し、国連憲章の原則に基づいて国際社会が一致して対応することが重要だと強調しました。
そのうえで、来年、日本がG7の議長国を務めることを踏まえ、G7をはじめとする同志国がロシアに対する制裁とウクライナへの支援を継続・強化できるよう努めていく考えを示しました。
そして、G7の外相は、ロシアによる民間人などへの攻撃を強く非難するとともに、ウクライナの人たちが冬を越すための支援を行うことを確認しました。
林外相 英外相と会談 “ウクライナ侵攻 G7が連携して対応”
林外務大臣は日本時間の4日未明、イギリスのクレバリー外相と会談しました。この中で両外相は、ロシアによるウクライナ侵攻について引き続きG7が連携して対応する重要性を確認したうえで、ロシアが核兵器使用の威嚇を行っていることは容認できず、核の使用も決してあってはならないという認識を共有しました。
林外相 カナダ外相と会談 “中国への対応 引き続き連携”
続いて林大臣はカナダのジョリー外相とも会談し、3期目の習近平指導部がスタートした中国への対応をめぐって引き続き連携していくことで一致したほか、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に対しても連携して対応していく方針を確認しました。
●ウクライナに兵器提供へ ブルガリア国会、自制を転換 11/4
ブルガリア国会(一院制、240議席)は3日、政府に対し、ウクライナに提供可能な兵器の一覧作成を賛成多数で認めた。
1カ月以内の作成を促しており、これまで自制してきた直接の兵器支援に道が開かれる。
ブルガリア軍は旧ソ連製ミグ29戦闘機を保有しており、ウクライナは提供を切望している。歴史的経緯からブルガリアの世論にはロシアヘの同情も強く、3日の採決で反対票を投じた社会党の議員は「ブルガリアの安全保障を危険にさらすことはないか、必要な分析が行われていない」と兵器提供を批判した。
●ロシア軍、ヘルソンから撤退か 偽装工作に警戒も 11/4
ロシアによるウクライナ軍事侵攻で、南部ヘルソン州のドニエプル川西岸からロシア軍が撤退するとの観測が出ている。現地の親ロシア派行政幹部が3日、撤退を示唆し、ロシア軍が検問所などを放棄したとの目撃情報も伝わった。西岸からの撤退はロシアに打撃となるが、ウクライナ側は偽装工作を疑っている。
ドニエプル川西岸からの軍撤退については3日、ヘルソン州の親ロ派行政幹部、キリル・ストレモウソフ氏がロシアのメディアに「われわれの部隊や兵士はおそらく左岸(東)へ去ることになるだろう」と語った。同日、SNS(交流サイト)などでは州都ヘルソンの行政府の建物からロシア国旗がすでに降ろされた写真も掲載された。
ヘルソン近郊にあるオレシュキ市のリシチュク市長も3日、SNSのテレグラムで、ヘルソンの住民の目撃情報として、ロシア軍が3つの検問所を放棄し、市内の兵士の数も目立って減っていると伝えた。10月中旬には西岸のロシア占領地域から住民の避難が始まり、親ロ派行政組織も東岸への移転を終えた。
ドニエプル川西岸のロシア軍がウクライナ軍の攻撃で武器や物資の補給が難しくなっているのは確かだが、早期の撤退には懐疑的な見方も出ている。ウクライナ軍南部司令部のフメニュク報道官は3日、「挑発行為の表れの可能性がある」と偽装工作を疑い、市街戦を準備している恐れがあると語った。
ヘルソンはロシア軍が2月の侵攻開始以来、占領した唯一の州都だ。ロシアが狙うオデッサなど南部の要衝を占領し、隣国モルドバの親ロ派占領地域とロシア本土を結ぶ回廊をつくるための拠点でもある。ヘルソンにはクリミア半島など占領地域に水を供給するダムもあり、軍事的にも政治的にもロシアにとって重要だ。
●自軍の兵士を脅す部隊、ロシアが展開か 逃亡図れば「射殺する」 11/4
英国防省は4日に公表した戦況分析で、ロシア軍が「督戦隊(とくせんたい)」と呼ばれる部隊をウクライナ国内に展開し始めたとの見方を明らかにした。逃亡を図る自軍の兵士を「射殺する」と脅し、無理やり戦闘を続行させるのが役割だという。
督戦隊は旧ソ連にも存在したとされ、英国防省によると、過去にもロシア軍が軍事紛争の際に使ったことがある。ウクライナ侵攻でも、ロシアの将軍たちは兵士に陣地を死守させるため、自軍の逃亡兵を攻撃できるようにすることを希望していたようだという。
こうした部隊の展開について、英国防省は「逃亡兵を撃つ戦術は、ロシア軍の質や士気の低さ、規律の不十分さを証明するものであろう」と分析している。
●戦闘で勝ち目なしと悟ったプーチンが頼る「冬将軍」...エネルギー施設攻撃 11/4
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11月3日の演説で「ロシアのエネルギーテロに耐えることが今、私たちの国家的課題である」と訴えた。ロシア軍は前線で戦果をあげられないため、冬将軍の到来を前に「エネルギーテロ」でウクライナ軍を後方から支えるウクライナ国民の動揺を誘っている。
「全国各地のエネルギーインフラに被害が出ている。今晩の時点だけでも約450万人が緊急安定化計画に基づいて一時的にエネルギー消費を停止している。エネルギー産業に対するテロに訴えたことはまさに敵の弱さを示している。戦場でウクライナに勝てないから、このような方法でウクライナ国民の士気や抵抗力を削ごうとしている」
「ロシアが成功することはない。大切なのは私たちがともに行動する能力を維持することだ。まずウクライナのすべての都市や地域で不必要な電気を使用しない。今は明るいショーケースや看板、広告などの照明が必要な時期ではない。エネルギー会社は消費者からエネルギー供給の不公平を指摘されたら、すぐに対応してほしい」と呼びかけた。
ここ数週間、ロシア軍はウクライナの電力施設に対して大規模な誘導ミサイルやカミカゼドローン(自爆型無人機)攻撃を仕掛けている。ゼレンスキー氏によると、発電所の3分の1が破壊された。その一方で、苦戦が続くロシア軍はドニプロ川右岸の南部ヘルソンから撤退する動きを見せる。ロシア軍の指揮官のほとんどがすでに撤退を終えているとの報道もある。
何百万人が電気、暖房、水を失ったまま
冬将軍は、ナポレオンのロシア遠征、スウェーデンとロシアの大北方戦争、ソ連がフィンランドに侵攻した冬戦争、第二次世界大戦でのモスクワの戦い、スターリングラードの戦いで大きく勝敗を分けてきた。冬将軍を味方につけた方が勝利を収める。ウクライナではロシア軍の攻撃に対抗すべく越冬準備が進められている。
天然ガスの輸送、地政学的リスクを専門にする英ICIS(インディペンデント・コモディティ・インテリジェンス・サービス)のオーラ・サバドゥス博士はICISのポッドキャスト(11月3日)で次のような見方を示している。
「10月に入ってから、ウクライナのエネルギーインフラはロシアによる誘導ミサイル攻撃を受け、送電線と発電能力の大部分が破壊された。何百万人の消費者が電気、暖房、水を失ったままになっている。欧州企業は天然ガスの輸入を開始し、ウクライナの地下施設への備蓄を一段と増やしている」
「ガス価格の下落と大きな貯蔵能力が軍事的なリスクを乗り越えるインセンティブをウクライナに与えている。しかし状況は非常に複雑だ。ウクライナのエネルギー企業はこれまでにない厳しい冬を迎えている。欧州へのロシア産天然ガスのパイプライン通過料などの収入が減少し、気温が下がる中、インフラを修理し、照明や暖房をつけ続けなければならない」
露エネルギー専門家がロシア軍に助言か
ウクライナ最大のエネルギー会社DTEKのエグゼクティブ・ディレクター、ドミトロ・サハルク氏はサバドゥス博士のポッドキャストでウクライナの状況について「2月に侵攻が始まって以来、前線から遠く離れた重要なインフラへの攻撃はそれほどなかった。ロシア軍は主に前線のすぐ近くの変電所や配電線、発電施設などを集中的に攻撃していた」と説明する。
4月にロシア軍が首都陥落を諦めてキーウから撤退。9月には北東部ハルキウがロシア軍の占領から解放された。これを受け、地域の電力供給会社は家庭や企業へのエネルギー供給をほぼ復旧させた。キーウの配電網を運営するDTEKは5月に、 損傷した変電所、配電線をすべて復旧し、 電気のない生活を強いられていた15万人以上に電力供給を再開した。
「10月に入ってからの主な違いはロシア軍が発電施設や高圧線を攻撃し始めたことだ。こうした施設はウクライナ西部など、前線からかなり離れたところにある。インフラ攻撃は注意深く、入念に計画されている。ロシアのエネルギー専門家がロシア軍に助言したのは明らかだ。なぜなら彼らはエネルギーシステムの重要な部分を攻撃しているからだ」(サハルク氏)
エネルギーインフラ攻撃には2つの目的がある。一つは火力発電所を破壊したり損傷させたりして発電量や発電能力を損ねること。もう一つは電力供給会社が発電された地域から必要とされる地域へ電力を自由に移動させることができないようにすることや、その能力を低下させることにある。
重要なのは対ミサイル、対ドローンの防御手段
「ロシア軍は統合されたウクライナのエネルギーシステムを分割しようとしている。そうすると発電能力が不足している地域や発電能力がない地域に電力を供給することができなくなる。その目標を達成するために誘導ミサイルやイランのカミカゼドローンを利用している」(サハルク氏)
サハルク氏によると、東部に位置する発電所はミサイル8発で 同時に攻撃され、西部の発電所は1回の攻撃で4発のミサイルを撃ち込まれた。DTEKはウクライナ地域で6基の火力発電所を運転しているが、6基のうち5基が攻撃された。発電容量の30〜40%、変電所の50%が被害を受けている。修理しては攻撃を受けるパターンが繰り返されている。
最も重要なのは対ミサイル、対ドローンの防御手段を確保することだ。こうしたシステムがなければ、いくら修理してもすぐに攻撃されて時間の無駄になる。第二に変圧器、サーキットブレーカー、ケーブルなど修理に使うスペアパーツや機器も不足している。変圧器は注文してから届くまでに1年〜1年半ぐらいかかるという。
「天然ガスについてはほぼ大丈夫だと思う。現在、地下貯蔵されている天然ガスは例年より多くなっている。戦争のため消費量も落ちた。一方、天然ガスより安価な石炭は真冬には不足することが予想される。おそらく11月から12月にかけて石炭の輸入が必要になる」。サハルク氏が心配するのは「電気」より「暖房」だ。
軍事専門家「ロシアは西側の国民に国内でお金を使うよう誘導」
ロシア軍が熱電併給システムへの攻撃を続ければ大都市で大きな問題を引き起こす。厳しい冬、電気や水なしでアパートに留まることができても、暖房なしに滞在することはできない。人道的な大惨事になる恐れがある。ウクライナ当局はスタジアムやスポーツ施設、病院や学校などで人々に暖を提供する集中暖房施設を作る必要があるとサハルク氏は提言する。
英シンクタンク「英王立防衛安全保障研究所」(RUSI)のジャック・ワトリング上級研究員は「エネルギーインフラを標的にすることでウクライナの経済的な米欧依存度は高まる一方、欧州のエネルギー不足は悪化し、ウクライナの支援国も経済的に困窮することが予想される。ロシアは西側の国民にウクライナより国内でお金を使うよう誘導するだろう」と指摘する。
「ロシアは自軍の地上部隊の弱点を認識した上で、ウクライナの支援国がキーウに停戦交渉のテーブルにつくことを促すよう揺さぶっている。これは戦争がもたらす経済的影響、戦争の長期化、核のエスカレーションの危険性などを強調するメッセージを織り交ぜて行われている」とワトリング氏はRUSIサイトへの投稿で解説している。
●国外逃亡者は「裏切り者」 メドベージェフ前ロシア大統領が非難 11/4
ロシアのドミトリー・メドベージェフ前大統領は4日、ウクライナ侵攻開始後に国外へ逃亡した国民は「臆病な裏切り者」だと非難した。
メドベージェフ氏は、ウラジーミル・プーチン大統領が2005年に導入した、1612年のポーランドによる侵攻を退けた勝利を祝う「民族統一の日」に合わせたテレグラムへの投稿で、裏切り者がいない方がロシアは「より強く、より清浄だ」と投稿した。
さらに、「われわれはおびえたパートナーたちに見捨てられた。誰がそんな者たちに構うものか」「臆病な裏切り者と強欲な亡命者ははるか遠くの土地へ逃亡した。骨が朽ちるまで異郷にいればいい」と記した。
2月24日にウクライナ侵攻が始まると、何万人ものロシア人が出国を急いだ。9月21日にプーチン氏が30万人の予備役の動員を発表すると、再び大勢が国外に向かった。
ウクライナ侵攻開始以来、メドベージェフ氏はソーシャルメディア上で西側を非難する投稿を繰り返してきた。
同氏は2008〜12年に大統領に就任し、この間プーチン氏が首相を務めた。
●プーチン大統領 動員兵らに一時金約45万円 給与未払いで不満爆発 11/4
ロシアのプーチン大統領は動員した兵士らに一時金、約45万円を支払うよう命じました。給与の未払いや劣悪な環境に対する不満が高まっていることに対応したとみられています。
ロシア大統領府は3日、プーチン大統領が動員された兵士らに19万5000ルーブル、約45万円の一時金を支払う法令に署名したと明らかにしました。
動員兵への待遇を巡っては、チュバシ共和国から動員された兵士らが給与が未払いだとして集団で抗議していることが報じられています。
兵士らは「家族への支援もなしに、なぜこの国のために戦わなければならないのか」と訴えていました。
ロイター通信は30万人とされる動員兵にかかる費用は給与に加え、けがや死亡時の補償を考えると今後6カ月間で最大で7兆円を超える可能性があると指摘しています。
また、独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は1日、9月21日以降に動員された兵士のうち100人以上がすでに死亡したと報じました。
多くは動員から2週間も経たずに前線へ送られ、死亡したとみられています。
●親欧米派政変後「人口半減」 ウクライナの政権運営批判 ロシア大統領側近 11/4
ロシアのプーチン大統領の側近、ウォロジン下院議長は3日、ウクライナが親欧米派による2014年の政変後、4000万人以上の人口の53.7%を失ったと述べた。
責任をウクライナ側になすり付けた上で、ゼレンスキー現政権を含むウクライナの歴代政府は同国を「完全消滅に向かわせている」と主張した。
ウォロジン氏は通信アプリに「1050万人以上がウクライナから逃げた。(クリミア半島と東・南部の)1120万人がロシアと一緒になる道を選んだ」と投稿した。避難民を生む原因となったロシアの侵略の責任には触れていない。
ロシアが一方的に「併合」した地域の住民の中には、ロシアの支配を嫌って脱出した人が多く、「ロシアと一緒になる道」を選択した人はもっと少ない可能性もある。 

 

●林外相 来年のG7議長国踏まえ ウクライナ情勢など議論主導へ  11/5
林外務大臣はドイツで開かれたG7=主要7か国の外相会合の一連の日程を終え、来年、日本が議長国を務めることを踏まえ、ウクライナやインド太平洋などの地域情勢をめぐる議論を主導していきたいという考えを示しました。
G7外相会合のため、ドイツを訪れた林外務大臣は、日本時間の4日夜、アメリカのブリンケン国務長官と会談しました。
この中で両外相は、中国をめぐるさまざまな課題に連携して対応するとともに、台湾海峡の平和と安定の重要性を確認し、3期目をスタートさせた習近平指導部の動向を注視していくことで一致しました。
また、弾道ミサイルの発射など挑発行為を繰り返している北朝鮮については、国連安保理決議に沿った完全な非核化に向けて、引き続き緊密に連携していくことを確認しました。
このあと林大臣はG7各国とアフリカの国々を交えたセッションに参加し、ロシアによるウクライナ侵攻がアフリカの食料やエネルギーの安全保障に深刻な影響を与えているとして、アフリカの持続可能な発展に向けて取り組むことで一致しました。
一連の日程を終えた林大臣は記者団に対し「国際社会がさまざまな課題に直面する中、法の支配に基づく国際秩序を維持する重要性や、力による一方的な現状変更の試みは決して認めないことを強調した」と述べました。
その上で、来年、日本がG7の議長国を務めることを踏まえ、ウクライナやインド太平洋などの地域情勢をめぐる議論を主導していきたいという考えを示しました。
●軍事衝突「不可避だった」 プーチン氏、支援の欧米批判 11/5
ロシアのプーチン大統領は4日、ウクライナでの2月の軍事作戦開始は「不可避だった」と述べ、ロシアが侵攻しなくても軍事的衝突は避けられなかったとの考えを示した。交戦を「同じ民族同士の困難でつらい戦い」と表現、軍事支援を続ける欧米を「自分の利益のためにウクライナを犠牲にしてロシアの弱体化を図っている」と批判した。
「民族統一の日」に合わせ歴史学者らとの会合であいさつしたプーチン氏は、侵攻に踏み切ったのは第2次大戦でナチス・ドイツの電撃侵攻を受けた過ちを繰り返さない責任があったからだと説明。「決断しなければロシアにもっと悪い状況で同じことが起きていた」と述べた。
●ロシアに開戦責任なし 「衝突不可避だった」と演説 プーチン氏 11/5
ロシアのプーチン大統領は4日、ウクライナ侵攻について、2月にロシアが始めなくても、いつかは戦争になっていたと述べた。
ロシアに開戦の責任はないとの認識を示した形。17世紀初頭に人々が団結してポーランド軍からモスクワを解放したことを記念する祝日「民族統一の日」に合わせ、会合で演説した。
プーチン氏は、ゼレンスキー政権など親欧米派を念頭に「ウクライナに台頭したネオナチ政権とロシアの衝突は不可避だった」と発言。その上で「われわれが2月に適切な行動を取らなかった場合、(衝突が起きるという)結果は同じことで、われわれにとって不利になっていただけだろう」と強調した。 
●殺人や強盗など重大犯罪の受刑者も動員可能に プーチン大統領が署名 11/5
ウクライナへの侵攻を続けるロシアで重大犯罪で有罪判決を受けた人の動員が合法になりました。プーチン大統領が法律に署名しました。
プーチン大統領が署名した法律により、重大犯罪で有罪判決を受けた受刑者や犯罪歴を持つ市民の徴兵が可能になります。
これまでは軍隊での勤務を禁止されていた殺人や強盗、麻薬取引などで有罪判決を受けた人の動員が可能になります。
ロシアメディアは元受刑者ら数十万人を新たに動員する可能性があると指摘しています。
動員を巡っては、ショイグ国防相が「完了」を宣言しましたが、ロシアの人権派弁護士らは完了を明記した大統領令がない限り、追加の動員が行われる恐れがあると指摘しています。
これに対し、ロシア大統領府は「必要ない」として法令は作成していません。
●プーチン大統領 南部へルソンの状況悪化を認める 11/5
ロシアのプーチン大統領は、一方的に併合したウクライナ南部へルソン州をめぐり「住民を危険な戦闘地帯から退避させるべきだ」と述べ、現地の状況が悪化していることを認めました。
ロシア プーチン大統領「へルソンの住民たちは危険な戦闘地帯から離れるべきだ」
プーチン大統領はロシアの祝日「民族統一の日」にあたる4日、へルソン州で活動するボランティアスタッフらにこのように述べ、現地の状況が悪化していることを認めました。へルソン州をめぐっては、地元の親ロシア派幹部が3日、ロシア軍がドニプロ川の西側にある中心都市へルソンを出て「東側に移る可能性が高い」と発言しました。
ただ、ロイター通信によりますと、ウクライナ側からは市街戦に持ち込むための「わな」である可能性があると警戒する声が出ています。
一方、プーチン氏は、完了したとされる部分的動員について予定の30万人を超える31万8000人が動員されたと明らかにしました。その理由について「志願兵が集まったからだ」としています。
●プーチン氏、目標上回る31.8万人を動員 「志願兵流入」と説明 11/5
ロシアのプーチン大統領は4日、ウクライナで戦う男性国民の動員に触れ、目標の30万人を1万8000人上回る31万8000人を動員したと明らかにした。
プーチン氏によると、9月下旬に兵力増強を命じて以降、ロシア国内で男性31万8000人が動員され、うち4万9000人はすでに戦闘地域で戦っているという。
動員数が31万8000人となった理由については「志願兵の流入」を挙げ、「志願兵が来ているからだ。志願兵の数は減っていない」とした。クレムリン(ロシア大統領府)の壁の外で記者団などに語った。
ロシアのショイグ国防相は先週、動員数が目標の30万人に達し、招集が完了したとプーチン氏に報告していた。
●プーチン大統領とスパイ・ゾルゲ ウクライナ苦戦で利用される英雄 11/5
11月7日は、戦前の東京で情報活動を行った旧ソ連の大物スパイ、リヒアルト・ゾルゲが処刑された日。78年となる今年も、ロシア大使館幹部が例年通り、東京西部の多磨霊園にあるゾルゲの墓に献花する予定だ。
近く退任するガルージン駐日大使をはじめとするロシア大使館幹部は今年、5月9日の対独戦勝記念日や6月22日のドイツ軍ソ連侵攻日に際してもゾルゲの墓に献花しており、墓参の頻度が増してきた。ウクライナ侵攻で愛国主義が高揚する一方で国際的孤立が深まる中、ロシアでは英雄ゾルゲを顕彰する機運が強まっているようだ。
ゾルゲに憧れたプーチン氏
旧ソ連国家保安委員会(KGB)のスパイだったプーチン大統領は2020年10月7日の68歳の誕生日、タス通信とのインタビューで「高校生の頃、ゾルゲのようなスパイになりたかった」と告白した。プーチン氏は2000年出版の回想録で、スパイ映画を見てKGB入省を志したとしていたが、志望動機にゾルゲの存在があったことを公表したのはこの時が初めてだった。
柔道を通じて日本に関心を持ち、旧東独にスパイとして駐在したプーチン氏にとって、日本で活動したドイツ人スパイ、ゾルゲへの思い入れは強いとみられる。
ただし、特ダネを連発したスーパー・スパイのゾルゲと違って、プーチン氏は「凡庸な二流スパイ」(独誌ツィツェロ)で、同僚は大佐以上で退役したのに、プーチン氏は中佐どまりだった。
プーチン氏がKGBに勤務していなければ、後に大統領になることはなかった。「プーチンの戦争」といわれるウクライナ侵攻もなかったはずだ。プーチン氏がゾルゲに憧れてKGB入省を目指したとすれば、ゾルゲは死後もロシアと世界を揺るがせていることになる。
政府系のロシア世論調査センターが2019年に実施した「世界で最も偉大なスパイ」の調査で、ゾルゲは15%でトップ、プーチン氏は4%で4位だった。
ロシアで評価高まる
ゾルゲは1933年にドイツ紙記者を装って東京に着任し、8年間精力的に活動。在日ドイツ大使館に食い込み、盟友の元朝日新聞記者、尾崎秀実らの協力を得て、ドイツ軍のソ連侵攻や日本軍の南進など多くの機密情報をモスクワに打電した。しかし、日米開戦前夜の41年10月に逮捕され、尾崎と共に44年に処刑された。
ゾルゲ事件は戦後の日本で大きな関心を呼び、数百冊の書籍が出版されたが、世代交代とともに関心は低下した。
ロシアは逆で、近年ゾルゲの評価が急上昇し、関連書籍が次々に刊行されている。KGBの元幹部らが中核を占めるプーチン政権が高揚させた愛国主義や第2次世界大戦の戦勝神話が再評価を後押しした。
2016年に開通したモスクワ地下鉄中央環状線の新駅は「ゾルゲ駅」と命名された。各都市に「ゾルゲ通り」が誕生し、現在、ゾルゲの名を冠した通りはロシア全土に50カ所あるという。近年、ウラジオストクなど各地にゾルゲの銅像が建立された。
2019年には、国営テレビ「チャンネル1」で歴史ドラマ「ゾルゲ」(セルゲイ・ギンズブルク監督)が全12回で放映された。これには尾崎役や愛人の石井花子役で日本人俳優も動員された。ゾルゲの展覧会や講演会も各地で開かれている。
動員令下、愛国主義シンボルに
ゾルゲの墓は戦後、銀座のホステスだった石井花子が建立したが、石井の死後、所有権を継承しためいは墓の権利をロシア大使館に譲渡するとの遺書を残し、2018年に亡くなった。墓は大使館の所有となり、東京都に墓地管理料を払っている。
2019年に来日したショイグ国防相らも墓参しており、来日するロシア要人にとって、多磨霊園が巡礼の地となった。
ガルージン大使は2022年6月、ベラルーシなど旧ソ連諸国の駐日大使らも参加した墓地での献花式で、「ゾルゲ氏の努力で、効果的で広範な情報ネットワークが作られ、モスクワは日独の政策に関する重要な情報を得られた。英雄として死んでいったゾルゲ氏らに敬意を表す」とあいさつした。
1月には、ラブロフ外相が下院で、ゾルゲの遺骨をサハリンや北方領土に埋葬し直す構想を日本側と協議中だと述べたが、ガルージン大使が否定し、うやむやになった。
近年ロシアでゾルゲが脚光を浴びているのは、国際的な孤立や緊張を強いられる中、ゾルゲが暗躍した大戦前の時代環境と似てきたこともありそうだ。
歴史学者で出版社幹部のアレクサンドル・コルパキジ氏は、「ロシア軍事史学会はゾルゲの活動を国民に周知させるため活動している。祖国のために勇気と不屈の精神で犠牲を払った人物は、愛国心と英雄主義の模範になる」と述べた。
ウクライナ戦争の部分的動員令に多くの若者が反発して出国し、厭戦(えんせん)気分も広がる中、プーチン政権はゾルゲを愛国主義のシンボルと重視しているようだ。コルパキジ氏は「伝説的なスパイの存在と活動を学校でも強制的に教えなければならない」としている。
再評価の中で大量機密解除
ゾルゲ再評価の中で、ゾルゲが属した軍参謀本部情報総局(GRU)はこれまでに、ゾルゲが東京からモスクワに送った電報や書簡、本部からの指示など約650本の文書について機密指定を解除した。
ゾルゲ研究家のアンドレイ・フェシュン・モスクワ国立大学准教授は解禁された文書を集めて出版。このうち1941〜45年の文書を筆者らが翻訳し、『ゾルゲ・ファイル 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)として10月に刊行した。
同書には、ドイツ軍のソ連侵攻を警告する約10本の電報や、「南進」の方針を決めた御前会議の通報、大戦前夜の微妙な日独、日ソ、日米関係などをめぐる電報が網羅され、ゾルゲのスパイ活動の全容が初めて示された。ソ連がこの時期に、ゾルゲ機関以外に少なくとも5人のスパイを東京で暗躍させていた新事実も判明した。
ロシア側の情報公開で、ゾルゲ研究は新段階に入った。 
●ロシアへ無人機提供、イランが認める…「ウクライナ戦争の前に少数」  11/5
イランのホセイン・アブドラヒアン外相は5日、テヘランで記者団に、ロシアへの無人機(ドローン)の供与について「ウクライナ戦争が始まる数か月前に、少数の無人機を提供した」と認めた。弾道ミサイルの供与については「完全に間違っている」と否定した。イラン国営通信が報じた。
キーウ上空で、建物に攻撃する数秒前に撮影された無人機(ドローン)(10月17日、AP)キーウ上空で、建物に攻撃する数秒前に撮影された無人機(ドローン)(10月17日、AP)
ウクライナや米欧は、ロシアの攻撃でイラン製無人機が使用されているとして批判を強めている。イランはこれまで、ロシアにいかなる武器も送っていないと主張していた。
アブドラヒアン氏は、2週間前に疑惑について協議することで合意していたウクライナ側が会合に現れなかったと説明。イラン製無人機の使用が証明された場合、「我々は無関心ではいられない」と強調した。
●ウクライナ戦争でエネルギー源移行が加速、大転換とIEA 11/5
国際エネルギー機関(IEA)は5日までに、ウクライナに侵攻したロシアの化石燃料の輸出が減少の一途をたどっていることを受け、より持続可能で安定したエネルギー源確保への移行が世界規模で加速する可能性があるとの報告書を公表した。
年次の「世界エネルギー見通し」で指摘したもので、国際エネルギー市場は「大きな方向転換」の最中にあるとの認識も示した。
ロシアから欧州へのエネルギー源の輸出がしぼんだことを受け、多くの国が新たな事態への適応を図っているとし、世界規模の二酸化炭素の排出量は2025年に最高水準に達する可能性があるとも予想した。
また、IEAのエネルギー源需給などに関する予測としては初めて、全ての化石燃料への世界的な需要は2030年代半ばに頭打ちとなる前に、ピークあるいは横ばいの水準に到達する可能性があるともした。
IEAのビロル事務局長は、エネルギー市場や関連政策はロシアのウクライナ侵攻を受け変質したとし、その波及効果は当面の期間の問題ではなく今後数十年にも及ぶと指摘した。
世界エネルギー見通しによると、多くの政府はエネルギー危機に直面し短期的な消費者保護対策だけでなく長期的な展望を踏まえた措置を講じているとも分析。一部政府は原油や天然ガスの調達元の多様化の拡大を図り、多くはエネルギー政策に関する構造的な変化の加速も見据えているとした。
IEAの予測によると、クリーンエネルギーへの世界規模での投資は2030年までに年間で2兆ドル以上に膨らむ可能性がある。現状と比べ50%以上の増加を意味する。
IEAは、化石燃料の最大の輸出国であるロシアが国際的なエネルギー市場での強固な足場を取り戻すことは決してないだろうとも予測した。ウクライナ侵攻に伴って欧州市場との関係が破綻(はたん)し、エネルギー市場での大きな地位低下にさらされることになったと断じた。
事務局長は3日には、世界や欧州のガス市場でみられる直近の傾向や予想し得る事態の進展を踏まえれば、欧州が来年の冬、ガス調達でより厳しい試練に遭遇する方向にあることが見てとれるとも主張。
欧州の各国政府がさらなるガス不足を回避するために迅速な行動に出る必要があるとし、エネルギー使用の効率向上や再生可能などのエネルギー開発の加速に早急に取り組むことが重要と説いた。ガス需要を構造的に減らす他の措置の導入も訴えた。
●ウクライナ ロシア軍“撤退示唆”見極め 奪還へ部隊進める考え  11/5
ロシア側が占拠してきたウクライナ南部の要衝ヘルソンをめぐって、ロシア軍の部隊が撤退を示唆する動きを見せる一方で、ウクライナ側はその動きを慎重に見極めつつ奪還に向けて部隊を進める考えを示し、攻防が激しくなるとみられます。ゼレンスキー大統領は「東部も南部もすべての国境を取り戻す」と、重ねて奪還への意欲を示しています。
軍事侵攻を続けるロシア軍に対し、ウクライナ軍は各地で反転攻勢を続けていて、このうち南部の戦略的要衝ヘルソンでは、ロシア側が部隊の撤退を示唆する動きを見せています。
ロシアのプーチン大統領は4日、首都モスクワで「ヘルソンの住民は危険な地域から退避する必要がある。住民たちが砲撃など戦闘の被害に遭ってはならない」と述べ、親ロシア派の勢力が進める住民の強制的な退避について正当化したものとみられます。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は4日、「ロシア軍はドニプロ川の西岸からの無秩序な敗走を避けるため、ヘルソン州の北西部で、統制のとれた撤退に向けた準備をしているようだ」という見方を示しました。
一方、ロシア側の動きについて、ウクライナのレズニコフ国防相は4日、記者会見で「情報がわなで、撤退すると言いながら現地で戦闘の準備をしている可能性がある」と述べ、懐疑的な見方を示しました。
そのうえで、ロシア軍の動きを慎重に見極めつつ領土の奪還を目指して部隊を進めていることを強調し、今後、ヘルソンをめぐる攻防が激しくなるものとみられます。
また、ウクライナ国防省によりますと、ロシア軍が東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つ、バフムトなどで攻撃を強めているということです。
ウクライナのゼレンスキー大統領も4日のビデオ演説で、この1週間、バフムトでロシア軍による激しい攻撃が集中しているとしながら、徹底抗戦しているとして「ウクライナは自由になる。東部も南部も国境をすべて取り戻す」と述べ、領土の奪還に重ねて意欲を示しました。
●プーチンは「癌とパーキンソン病が進行」…政府関係者のメール流出 11/5
プーチン健康不安説は繰り返し浮上している(10月24日) Sputnik/Gavriil Grigorov/Pool via REUTERS
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の健康不安説が取り沙汰される中、同氏が「すい臓がんとパーキンソン病の診断を受けた」とするメールの存在が明かされた。プーチン「重病説」は長くささやかれており、ウクライナ侵攻後には血液のがんなどを患っているとの噂も飛び交った。最近ではロシア国防省が公開した動画内で、プーチンの手の甲に「静脈注射の痕」のようなシミが見えたとして疑惑が再燃していた。
ロシア政府は以前から、うわさは真実ではないと主張してきた。だが、イギリスのタブロイド紙ザ・サンは11月1日、ロシア政府に近い人物のメールを入手し、その中にはプーチンがすい臓がんと早期のパーキンソン病と診断されたと書かれていたと報じた。メールには、プーチンの病気は「すでに進行している」とも書かれているという。
同紙によると、ロシア情報筋はメールで、「プーチンは、最近診断されたすい臓がんの転移を抑えるため、あらゆる種類の強力なステロイド剤と、革新的な鎮痛剤注射を定期的に投与されている」と説明。「それが強い痛みを引き起こしているだけでなく、プーチンには顔のむくみや、記憶障害を含むその他の副作用の症状が出ている」と述べている。
情報筋はまた、すい臓がんとパーキンソン病に加えて、プーチンが前立腺がんを患っているとのうわさが浮上していることも明らかにした。「彼の側近の間では、転移が徐々に進んでいるすい臓がんに加え、前立腺がんも患っているとうわさされている」
手に静脈注射の跡? 腕は震えが止まらず
ソーシャルメディアに先月投稿された映像では、プーチンの手の甲に静脈注射の跡のようなものが映されていたため、ユーザーの注目を集めた。クレムリンはその後、この映像を削除し、プーチンの手の跡を隠すような透かしを入れた映像と、彼の手が映っていない映像を新たに公開している。
6月には、プーチンがロシア国営企業ロスナノのセルゲイ・クリコフCEOと会談した際の動画で、むくんだ手でテーブルをつかんでいると、英メトロ紙が報じた。
4月に行われたベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領との会談では、プーチンは腕が震えているように見え、震えを止めるために腕を胸元に引き寄せるような姿が捉えられた。プーチンは、ルカシェンコに向かって歩くのも困難な様子だった。
●「サタン化を阻止」 プーチン政権、持ち出し始めた「聖戦」論理 11/5
ウクライナ侵攻で苦戦するロシアで、プーチン政権内で、侵攻を「聖戦」のように正当化する発言が目立ってきた。ウクライナや欧米を「悪魔」と批判し、「非サタン化」が必要だと主張している。
ロシア「国民統合の日」の祝日だった4日、前大統領のメドベージェフ国家安全保障会議副議長はSNSでこんな投稿をした。
「創造主の言葉が我々に神聖な目的を与えた。地獄の支配者、サタンや大魔王の阻止だ。彼らの目的は破壊で、我々は命。だから勝利は我々のものだ」
「我々は、自らと我々の土地、千年の歴史のために戦っている」「我々が対峙(たいじ)しているのは、ナチスの麻薬中毒者や欧米から来た犬の群れだ」ともつづっている。「サタン」は欧米を指しているようだ。

 

●ロシア軍、東部攻勢も難航か イランが核協力要請の報道も 米英分析 11/6
米シンクタンクの戦争研究所は4日、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州に戦力を集中しているものの、訓練や装備品の不足が深刻化しており、「戦局や戦争の行方を左右する重要な戦果は挙げられない」との分析を公表した。
一方、米CNNテレビは、ドローンなどの兵器提供を通じてロシアと協力関係を強めるイランが、ロシアに核開発への協力を要請していると報じた。
同研究所によると、ウクライナ軍報道担当者は、ロシア軍が東部ドンバス地方の「解放」を宣言するため、ドネツク州のバフムトとアウディイウカの占領を目指して新規動員兵を集中的に投入していると指摘。ウクライナ軍のザルジニー総司令官も、ロシア軍が一部の前線で連日80回に上る攻撃を行うなど、これまでの3倍に攻勢を強めていると明かした。
ただ、動員兵に配給する装備品や訓練の不足は否めない。英国防省は5日付の戦況報告で、ロシア軍は施設や教官が足りないため、新兵訓練を隣国ベラルーシで行っていると分析。新兵はまったく訓練を受けないか、最低限の訓練だけで前線に送り出されていると説明した。
同省は4日付の報告で、ロシア軍が最前線の兵士の逃亡を防ぐための「督戦隊」を配置し始めたとみられると伝えていた。訓練や弾薬不足で士気が低下していることが背景にあるようだ。
一方、CNNによると、イランは核物質供給や核燃料製造でロシアに支援を求めたとみられる。ロシアが応じたかは不明だが、実現すればイランの核兵器開発が大きく前進する恐れがある。 
●プーチン大統領の「サタン狩り」「影武者説」が笑えない深刻事情 11/6
ロシアによるウクライナ侵攻がますます狂気じみている。
侵攻から8カ月。当初は電撃作戦でウクライナを占領する算段だったプーチン大統領だったが、アテは外れ、現在はウクライナの猛攻を受け防戦一方だ。そこで、いわゆる“核のおどし”を連発しているわけだが、西側諸国は冷静に言動を分析している。
近代の戦争で最も重要になってくるのが情報戦だ。
ネット上では真偽不明の話が流れ、一部はプロパガンダとして意図的に発信されている。その中には一見すると「そんなバカな!?」というものがあるが、よくよく調べるとバカにできないものもある。
例えば、10月末に欧米メディアが報じたプーチン大統領の「首席エクソシスト就任」がそれだ。ロシア正教会のキリル総主教がプーチン大統領を「首席エクソシスト」に任命し、「反キリストに対する闘士」と称賛したという。
英エクスプレス紙によると、キリル総主教は声明を出し
「ウクライナがサタンの支配下にあり、キリスト教を放棄した。だから、悪魔払いのためにプーチン大統領がウクライナと戦っている」
と主張。ロシアが紛争の規模を国家間から宗教規模に広げたい思惑が見て取れる。ロシア安全保障会議のアレクセイ・パブロフ氏は
「ウクライナ人はロシア正教を放棄し、サタン教など何百もの悪魔の宗教を信じている。これは悪魔に憑りつかれているからだ。特殊軍事作戦の継続によって、ウクライナを“脱サタン化”しなければならない」
と述べ、ウクライナ侵攻を正当化しようとしている。軍事ジャーナリストの話。
「6月ごろからロシア兵がウクライナの集落を占拠した際、住民が悪魔信仰していたとする証拠写真をSNSで拡散していた。もちろんこれらはデッチ上げ。また、侵攻当初からプーチン大統領が言っているウクライナのネオナチ。これも、ナチスを意味するカギ十字マークが民家から多数発見されたと、兵士がSNSで流していた。
悪魔信仰とナチスは結び付けやすいのでしょう。ただ、捏造のクオリティーが低く、ロシア兵がネオナチの物証を押さえる動画は唐突すぎる展開と、大根芝居で笑いのネタにされていた」
これだけではない。プーチン大統領をめぐっては複数の「影武者説」も存在する。ウクライナの諜報機関・軍事情報部長のキリロ・ブダノフ少将が英デイリー・メールに明かしたもので
「プーチンは自分に似せるために、整形手術を受けさせた3人の影武者を使用しています」
と語っている。同氏によると、最近プーチン本人は出て来ず
「影武者しか出ていない」
3人は整形手術を受けたそうだが、見分けるポイントは“身長、ジェスチャー、耳たぶ”だという。その上で同氏は
「ロシア軍の戦略はあまりにも壊滅的。プーチンがまだ決定を下しているのか疑問に思っている」
と述べ、“オリジナル・プーチン”が存在するかどうかを疑っているという。
さすがにここまで来ると、眉唾に思うかもしれないが、時の独裁者に影武者が存在するのは一般的な話。さらに発信元がウクライナの諜報機関というのだから、決して無視はできない。
「ロシア軍の蛮行は度を越していて、核による脅し、民間人への拷問、偽旗作戦など数えきれません。兵士の装備はぜい弱で、ガラクタレベルの銃とボロボロの防具ばかり。過酷な冬を乗り越えるための寝袋も不足しており、兵士が自前で買っています。
当然、招集兵の士気は低く、ある者はアルコールに溺れ、ある者は大麻中毒になり、ある者はメンタル崩壊で自傷行為に走っている。これ自体がオカルトレベルの話。ロシアでは現実とオカルトの境目がなくなっています」(全国紙記者)
サタン狩りや影武者説など、オカルトじみた話が出てば出るほど、かえってロシアの窮状が深刻であると思えてならない。国際社会の多くからNOを突き付けられたロシアが最後にどのような手段をとるのか…。ネタでは済まなくなってきている。
●受刑者500人以上戦死か プーチン氏に近いロ軍事会社 11/6
独立系のロシア語メディア「インサイダー」は4日、ロシアのプーチン政権に近い民間軍事会社「ワグネル」が、ウクライナ侵攻で苦戦するロシア軍をてこ入れするために各地の刑務所で募集した戦闘員のうち、これまでに500人以上が死亡したとみられると伝えた。
ウクライナのNGOによる調査結果に基づくとされる。
戦闘員の死亡に際し、ワグネルは遺族に独自の「死亡告知書」を送付。その通し番号が10月13日付で「458」となっていた。その後の3週間にも数十人の受刑者が戦死した情報がソーシャルメディアに投稿され、累計で500人を超えた可能性が高いという。
ワグネルを通じ戦闘に参加する受刑者の総数は、メディアなどによって幅があるが、少なくとも数千人と推計されている。死亡率は正規のロシア軍より高く、より危険な任務に投入されていることをうかがわせている。
AFP通信による東部ドンバス地方の取材では、受刑者は最前線で決死の前進を命じられ、発砲するウクライナ軍の位置をあぶり出すのに使われているという。
一方、9月に始まった予備役30万人の部分動員令に関し、プーチン大統領は4日、既に5万人弱が前線の部隊にいると説明した。独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」が1日に報じた予備役の死者は100人以上で、受刑者の募集は動員令より先に始まっているとはいえ「500人以上」が多いことが分かる。
プーチン氏は4日、重大犯罪の受刑者の動員を可能にする法案に署名し、法律が成立した。ただ、インサイダーが伝えた戦死者には殺人や麻薬密売の罪で服役していた者も含まれ、ワグネルの募集を合法化したにすぎない。
ワグネルは、大統領府とケータリング契約を結んで「プーチン氏のシェフ」と呼ばれた実業家エブゲニー・プリゴジン氏が創設。かつては存在すら秘密だったが、ウクライナ侵攻下で公然と活動するようになり、4日には第2の都市サンクトペテルブルクに新たな拠点「ワグネル・センター」を開設した。
●「小型戦術核ならいつでもゴーサインを出せる」 プーチン大統領 11/6
4年前の発言に触れると「緊張した沈黙」に
ロシアのプーチン大統領は10月27日、内外の専門家を集めて行う恒例の「バルダイ会議」に登壇したが、3時間半に及んだ演説と質疑応答で、参加者が一瞬、「緊張した沈黙」(ロシア紙)に包まれる場面があった。
司会を務める外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏が核をめぐる緊張が高まっていることに触れ、「4年前のあなたの発言を思い出して不安になった人がいる。大丈夫なのか」と尋ねた。
プーチン氏は2018年10月のバルダイ会議で、「ロシアがミサイル攻撃を受ければ、むろん侵略者に報復攻撃する」と述べ、「われわれは侵略の犠牲者であり、殉教者として天国に行く。彼らは罪を悔いる暇もなく、死ぬだけだ」と語った。核戦争の結果、「天国」に召されるという異常な発言だった。
4年前の発言に関する質問に、プーチン氏はしばらく間を置き、「(会場の)沈黙は効果があったことを示している」と述べて笑いをとったが、笑えないジョークだ。
プーチン氏はまた、「核使用を率先して発言したことはない」としながら、「核兵器がある限り、使用のリスクは常にある」と、核使用を放棄しなかった。
アメリカが核使用の「先例」を作ったと強調
プーチン氏はこのところ、気がかりな発言が目立つ。米ソが核戦争直前までいった1962年のキューバ危機60周年に際して、最終的に譲歩したフルシチョフ・ソ連首相の役回りを想像できるかとバルダイ会議で質問され、「フルシチョフのような自分は絶対に想像できない」と述べた。核の対決で引き下がらない決意を示唆したともとれる。
9月30日、ウクライナ4州を併合した際の演説では、西側諸国が擁護するLGBTQの価値観を「悪魔崇拝」と非難し、新約聖書の「山上の垂訓」でキリストが偽預言者を暴露した一節を引用しながら、「この毒の実は、わが国だけでなく、西側の多くの人々を含めすべての国の人々にとって明らかだ」と意味不明な説明をした。
この演説では、「アメリカは世界で唯一、核兵器を2回使用し、日本の広島と長崎を壊滅させた。アメリカが核使用の先例を作った」と批判した。日本への原爆投下にはよく言及するが、「先例を作った」という表現は初めて。先例があるので、2回目は許されるともとれる。
2017年公開の米映画監督オリバー・ストーン氏によるプーチンのインタビュー映画では、「だれもがいずれは死を迎える。大事なのは、かりそめの世で何をなし得たか、人生を謳歌(おうか)したかだ」と達観した発言をした。「核のボタン」を握る人物が大丈夫なのか――と疑わせる発言だった。
「核をいつ使うか、どこで使うか」ロシアでも意見が分かれる
核使用の可能性については、ロシア人専門家の間でも意見が分かれる。軍事専門家のパベル・フェルゲンハウエル氏は9月、筆者らとのオンライン会見で、「プーチンはウクライナを家族の一員と呼び、ロシアの一部とみなしている。核兵器はあくまで抑止力であり、脅すための道具だ。同じスラブ民族に使用するはずがない」と否定的だ。
野党下院議員を務めたアレクセイ・アルバトフ氏は、「ウクライナ軍がクリミアやクリミア大橋、あるいは隣接するロシアの地域に攻撃を行えば、それはロシア領土への攻撃となり、戦術核を使う可能性はかなり高まる」と述べた。
政治評論家のワレリー・ソロベイ氏は自身のユーチューブ・チャンネルで、核使用よりも海での核実験を行う可能性が強いとし、核実験場候補として、1黒海2北極海3太平洋――を挙げた。太平洋の核実験なら中国も反発し、まず考えられないが、「手負いの熊」を極度に刺激しない工夫も必要になる。
核の使用や核実験は、旧ソ連も調印した1963年の部分的核実験禁止条約に抵触する。ロシア政府が条約脱退の手続きをとれば、核使用のリスクが高まろう。
小型であれば核兵器を使用するハードルは低い
憂慮されるシナリオは、核使用を主張する政権内強硬派、いわゆる「戦争党」がプーチン氏に圧力をかけることだ。
陸軍大将に昇格したチェチェン共和国のカディロフ首長は10月初め、「ロシアは思い切った作戦をとるべきだ。国境付近に戒厳令を敷き、小型核兵器を使用すべきだ」と主張した。
メドベージェフ前大統領は7月、ウクライナがクリミアを攻撃した場合、核使用を前提に「終末の日」が訪れると警告した。部分的動員令やウクライナの民間施設攻撃は、プーチン氏が「戦争党」の主張に歩み寄ったことを意味する。
前出のフェルゲンハウエル氏によれば、破壊力の大きい戦略核兵器の使用は大統領、国防相、参謀総長の承認が必要だが、出力の小さい小型戦術核は、大統領が使用許可を出せば、軍司令官が攻撃目標や時期を決定できるという。小型核兵器使用のハードルは低いということだ。
プーチン氏は10月、ウクライナ軍事作戦の総司令官に「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名をとる強硬派のスロビキン航空宇宙軍総司令官を任命した。同司令官はシリアでの空爆作戦を指揮し、第2の都市アレッポの焦土作戦を推進した。シリア政府軍の化学兵器使用を容認した疑惑もあり、大統領のゴーサインがあれば、戦術核を使用しかねない。
侵攻が長引けば核兵器使用の危機が高まる
ロシアの「核の恫喝」に対して、バイデン米大統領は、核兵器による「アルマゲドン」のリスクは1962年のキューバ危機以来最も高い水準にあると危機感を示した。
米国では、ロシアの核使用が現実味を持って語られており、ブルームバーグ通信によると、米国防総省傘下の国防情報局(DIA)は、侵攻が長引いて通常兵器が不足する事態になれば、ロシアは核戦力への依存を強めるとする報告書を作成した。
米政府は、核を使用した場合の強力な対抗策を秘密裏にクレムリンに伝えているとの情報もある。ペトレイアス退役米陸軍大将は、ロシアが核兵器を使用した場合、米国は報復として「ウクライナ領内のロシア軍と黒海艦隊をすべて破壊する」と指摘した。
広島県出身の岸田文雄首相は「ウクライナを新たな被爆地にしてはならない」と訴えるが、戦争長期化の中で、「核使用の脅威」も続きそうだ。 
●劣勢ロシア軍に“南部ヘルソン撤退計画”ウクライナに奪還可能性 11/6
インフラ施設を標的にロシアのミサイル攻撃は容赦なく続く。首都キーウの大規模医療機関4カ所への攻撃に伴う断水で、手術の中止、透析の延期など深刻な被害が発生した。民間インフラへの攻撃により給電網の破損が深刻化、全土で計画停電を強いられ、人口1割の約450万人が影響を受ける。先月10日以降の大規模攻撃で修理部品が底を突く中、4日開催のG7、主要国首脳会議では、ロシア軍の攻撃によって被害を受けているウクライナのエネルギーインフラの復興に向けた支援を調整する方針が固まった。南部要衝のヘルソンからロシア軍が撤退する計画が浮上した。米シンクタンク・戦争研究所によると、ヘルソンの戦況について、ロシアがウクライナの反攻を受け、州都ヘルソンを含む広範囲からの撤退を計画していることが明らかになった。ロシア軍は、ヘルソン市北西部に防御陣地を設置、追加動員の兵力輸送を続けている。この状況について、オースティン米国防長官は3日、「ドニプロ川西岸とヘルソンを奪還する能力がある」と述べ、ウクライナによるヘルソン奪還が可能との見方を示した。新たな懸念も。イランによるロシアへの弾道ミサイルなどの武器供与について、米戦争研究所は4日、ロシアがイラン製兵器に依存している状況をイランが利用し、核開発計画への支援を要請している可能性が強いと発表、世界は警戒感を強める。南部ヘルソンのドニプロ川西岸を巡る戦闘が激化する中、米戦争研究所のデータを基礎に最新戦況を詳報、重大局面を迎えたウクライナ情勢の今後を分析する。
●ゼレンスキー大統領 無人機供与 “イラン政府の責任追及を”  11/6
ウクライナ情勢をめぐり、イラン政府がこれまで否定してきたロシアへの無人機の供与を一転して認めたことを受けて、ウクライナのゼレンスキー大統領は「テロリストや共犯者が処罰されないことはありえない」と述べ、イラン政府の責任を追及すべきだと訴えました。
ウクライナ情勢をめぐり、イランのアブドラヒアン外相は5日「ウクライナの戦争の数か月前に、限られた数の無人機をロシアに供与した」と述べ、ロシアへの無人機の供与を初めて認めました。
イランによる無人機の供与については、ウクライナや欧米が非難し、アメリカやEUなどがイラン側に制裁を科していますが、イランは、これまで一貫して否定していました。
イラン政府が一転して認めたことを受けて、ウクライナのゼレンスキー大統領は5日「彼らはうそをついている。イラン政府は、本格的な軍事侵攻の前にわずかな数のドローンを供与したと主張しているが、われわれは日々、少なくとも10機のイランの無人機を撃墜している」と述べ非難しました。
そのうえで「現代の世界において、テロリストや共犯者が処罰されないことはありえない」と述べ、イラン政府の責任を追及すべきだと訴えました。
ウクライナのレズニコフ国防相も4日、記者会見で「ロシアには1500から2400機の無人機が供与される予定だが、まだすべてを受け取っていない」と述べています。
ウクライナでは、ロシア軍が、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つ、バフムトなどに向けて攻撃を強めているとみられるなど、東部などで激しい戦闘が行われていて、ウクライナ側は、イランによるロシアへの無人機の供与はさらに続くとみて警戒を強めています。
●プーチン大統領 重大犯罪で有罪の人も動員へ 法改正案に署名  11/6
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、殺人や強盗などの重大犯罪で有罪とされた人なども動員できるとする法改正案にプーチン大統領が署名したと発表しました。ロシアは先月、30万人の予備役の動員を完了したと発表したばかりですが、将来の動員に向けた準備を進めているとの見方も出ています。
ウクライナに軍事侵攻したロシアは、ウクライナ東部や南部への攻撃を続けていて、東部ドネツク州の知事は6日、1人が死亡し、3人がけがをしたと述べました。
これに対して、ウクライナ軍は各地で反転攻勢を続けていて、このうち南部ヘルソン州では、中心都市ヘルソンに向けて部隊を進めているとみられ、ロシア側が部隊の撤退を示唆する動きをみせています。
こうした中、ロシア政府は4日、殺人や強盗などの重大犯罪で有罪とされた人なども、今後は動員できるとする法改正案に、プーチン大統領が署名したと発表しました。
これまでは、こうした重大犯罪で有罪判決を受けた人は、原則として動員が禁じられていましたが、法改正によってこうした制約がなくなるということです。
ロシアのプーチン政権は、先月下旬、30万人の予備役の動員を完了したと発表し「追加の動員は計画されていない」としていました。
しかし、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は4日、部分的な動員では十分な戦力を生み出せなかったとして「秘密裏に動員を継続する条件を整えているようだ」と指摘していて、ロシア側が、将来の動員に向けた準備を進めているとの見方を示しています。
●プーチン氏、「冬将軍」到来に期待 EU外交首脳 11/6
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相に相当)は6日までに、ウクライナ情勢に触れロシアのプーチン大統領は「『冬将軍』が到来し、自国軍を助けることを待っている」との見方を示した。
ドイツ・ミュンスターで先に開かれた主要7カ国(G7)の外相会合後に述べた。
ロシアは戦場で勝つことができないため民間インフラを爆撃などしてウクライナを「組織的」に破壊しようとしていると非難。
数百万人規模のウクライナ国民に電気はもはや届かず、「プーチン(氏)がしようとしていることはウクライナを冬の暗闇にさらすことだ」と主張した。
その上でG7加盟国の「道徳的な義務」は、過酷であろう冬の接近を受けるウクライナを助けることだと強調した。
●バイデン政権 ウクライナに対し「ロシアとの交渉に前向きな姿勢を示すよう・・・」 11/6
ウクライナ侵攻をめぐり、アメリカ政府がウクライナに対し、ロシアとの交渉に前向きな姿勢を見せるよう水面下で促しているとアメリカメディアが報じた。
ワシントン・ポストは5日、情報筋の話として、バイデン政権がウクライナに対して、ロシアとの交渉に前向きな姿勢を示すよう非公式に促していると伝えた。この要請はウクライナに交渉のテーブルにつくよう強制するものではなく、各国のウクライナ支持を維持するための「計算された試み」だとしている。
交渉について、ウクライナ側はこれまでロシアのプーチン大統領が権力を維持し続ける限り、応じないという姿勢を崩していない。記事では、あるアメリカ政府関係者が「一部の支援国にとって『ウクライナ疲れ』は現実的なものだ」と指摘し、バイデン政権はウクライナを支持する各国の離反を防ぐ必要性を認識していると報じている。

 

●米政権、ロシアとの交渉巡りウクライナに働きかけ=米紙 11/7
米政府はウクライナ政府に対して、ロシアとの交渉に前向きな姿勢を見せるよう非公式に働きかけている。米紙ワシントン・ポストが関係筋の話しとして報じた。
この要請は、ウクライナを交渉のテーブルに着かせることが目的ではなく、各国のウクライナ支援を確実に維持するための計算された試みという。
ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアのプーチン大統領との会談に応じない姿勢を示していることで、ウクライナ戦争で物価が高騰している欧米など一部の国で懸念が生じていることを米国やウクライナの当局者は認識しているという。
ある米当局者は「一部の支援国でウクライナ疲れが現実のものとなっている」と述べた。
ホワイトハウスの国家安全保障会議は、この報道についてコメントを控えている。
米国務省の報道官は、これまでの見解を繰り返すとした上で「ロシアが交渉の準備ができているとするなら、爆撃とミサイル攻撃を止め、ウクライナから軍を撤退させるべきだ」と述べた。
●米大統領補佐官、プーチン氏側近と極秘協議 11/7
ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がここ数カ月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の最側近らと秘密裏に協議していたことが分かった。米国や関係国の政府当局者らが明らかにした。目的は、ウクライナを巡る紛争が拡大するリスクを軽減することに加え、核兵器などの大量破壊兵器の使用について警告することだったという。
当局者らによれば、サリバン氏はプーチン氏の外交政策アドバイザーを務めるユーリ・ウシャコフ氏と接触。また、ロシア側のカウンターパートにあたるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記とも協議を実施したという。
当局者らはまた、協議の狙いはウクライナ戦争の和解案について話し合うことではなく、事態がエスカレートするリスクを抑制し、伝達経路を維持することにあったとしている。
ホワイトハウスは、3月にサリバン氏がパトルシェフ氏と協議して以降、ロシア政府当局者とサリバン氏による電話会談が実施されたことを公式には認めていない。
当局者らは、サリバン氏が協議を行った具体的な日や回数を明らかにはしておらず、話し合いで成果を得られたかに関しても詳細を明らかにしなかった。
●ロシアの軍事侵攻と原油価格…なぜ価格が高騰しているのか? 11/7
原油市場の力は核兵器級のダメージ
ロシアは原油価格の下落で苦境に陥っていると解説しました。原油価格は最終的に市場が決定するものですが、ロシアを苦しい状況に追い込むために、誰かが価格形成に恣意的に介入していると仮定したらどうでしょうか。原油価格は、実は戦争以上の効果をもたらしていることになります。
   原油価格の下落でロシア経済は大混乱
2014年の中頃まで、原油価格は1バレルあたり100ドル前後で推移していましたが、年後半から価格が急落、一時は30ドル台前半まで売り込まれました。
原油価格が各国にどのような影響を与えるのかについては、石油の生産と消費がどうなっているのかについて知る必要があるでしょう。
世界でもっとも大量に石油を生産しているのは米国で、2014年には、1日あたり1200万バレルの原油を生産していました。2番目はサウジアラビアで1200万バレル弱の生産量となっています。サウジアラビアは2013年まではトップの生産量でしたが、米国の生産量が増えたことで1位の座を明け渡しました。3番目はロシアで1100万バレルの生産量となっています。
全世界的に見るとこの3カ国が石油の三大生産拠点であり、全世界の産出量の4割を占めています。石油の多くが中東で産出されているというイメージがありますが、中東の産油国をすべて足し合わせても全体の3割程度しかありません。やはりトップ3カ国の存在感が大きいと考えるべきでしょう。
ロシアは米国とサウジアラビアに次ぐ石油大国ということになりますが、市場の価格形成にあまり影響力を行使できていません。
その理由は2つあると考えられます。1つはロシアにはグローバルに通用する金融市場がなく、市場に対する介入余地が小さいことです。もう1つは、ロシアの原油採掘コストが高く、価格競争力がないことです。
原油価格の下落で産油国は大きな打撃を受けましたが、とりわけ石油の採掘コストが高いロシアは致命的な影響を受けています。
ロシアは2013年には年間約5000億ドルの輸出を行っていますが、その7割は石油などエネルギー関連となっており、原油だけでも約2500億ドルに達します。目立った産業のないロシアにとって、これは貴重な外貨獲得手段となっていたのです。原油価格の下落はこうしたロシアの財政を直撃することになります。
原油価格が100ドルから40ドルに下落すると、単純計算ではロシアの輸出額は3割以上減少することになり、金額ベースでは毎年18兆円もの損失です。
これに加えてロシアはクリミア侵攻にともなう経済制裁を各国から受けており、通貨ルーブルは暴落しています。クリミア侵攻以前と比較してルーブルの対ドル・レートは半分以下となっており、ロシアからの資金流出がなかなか止まりません。
ロシアは軍事的オペレーションを継続するため、ドルなどの外貨を必要としていますが、軍事的オペレーションによって外貨の獲得がさらに困難になるという皮肉な状況です。先ほど説明した、かつてのクリミア戦争と同じ状況が繰り返されていることになりますから、米国にとっては好都合でしょう。原油安はロシアに対して核兵器級のダメージをもたらしているわけです。
ロシアへの接近はよい結果をもたらさない
   ベネズエラの独裁政権は瓦解寸前に
ロシアと共に、原油価格下落の影響を大きく受けたのが、反米を掲げ、社会主義的な政策を強引に推し進めてきた南米ベネズエラです。2015年12月に行われた総選挙では、中道右派の野党連合民主統一会議が3分の2の議席を獲得し、大勝利を収めました。
同国では1998年、経済悪化などによる政治不信を背景に、軍人出身のチャベス氏が大統領に当選、企業の国有化など社会主義的な政策を推し進めてきました。外交的には「反米」を掲げ、キューバやロシア、中国に接近。チャベス氏は自らの政策を、南米諸国における独立運動の指導者であるシモン・ボリバル氏にちなんで「ボリバル革命」と呼んでいます。
一方、チャベス政権は民主主義者など野党勢力に対しては徹底的な弾圧を加えており、野党指導者であるロペス氏は身柄を拘束されていました。チャベス氏は2013年にがんで死去しましたが、バス運転手出身の副大統領マドゥロ氏が大統領に就任、チャベス路線を継承してきました。
まさに米国にとっては目の上のたんこぶということになりますが、反米的な非民主国家であるベネズエラがこのような路線を継続できた背景には、原油の高騰があります。
ベネズエラは輸出の95%以上を石油が占めるという完全な石油依存型経済となっています。原油価格の高騰で同国の財政は潤い、低所得者向けにバラマキ政策を継続したことで、チャベス路線に対する高い支持が続いてきました。
この風向きが変わるきっかけとなったのが、2014年から始まった原油価格の下落というわけです。原油価格の下落は、国家収入のほとんどを原油に頼るベネズエラ経済を直撃しました。もともとベネズエラには目立った産業がなく、20%台の高いインフレ率が続いていましたが、原油価格の下落によってインフレが加速、2014年のインフレ率は40%に上昇し、2015年にはとうとう200%に達したともいわれています。
米国は以前から公然と反米を掲げるベネズエラへの対応に苦慮していましたが、原油価格の下落によって、独裁政権は事実上崩壊してしまいました。こちらも米国にとっては、非常に好都合な結果です。
   日本がロシアに近づいてもよい結果をもたらさない
こうしたロシアの苦境を背景に、日本国内にはロシアと接近し、より有利な条件でエネルギーを輸入すると同時に、北方領土問題を解決しようという動きが見られます。
しかし、一連の原油価格をめぐる動きが経済的なものだけにとどまらず、地政学的な意味を含んでいるのだとしたら、安易なロシアへの接近はよい結果をもたらさないでしょう(注:ロシアとの接近は危険であるという指摘は、同国のウクライナ侵攻で現実のものとなりました)。
石油はしばらくの間、供給過剰が続くことになりますから、米国も積極的に日本にエネルギーを輸出しようとしています。これまで日本は中東からの原油に依存し過ぎており、調達ルートが限定的という問題を抱えていました。調達ルートの多様化という点では、最大の同盟国である米国という選択肢がありますから、あえてロシアを選択する必然性は高くありません。
またロシアは、有利な条件でのエネルギー供給と引き換えに日本からの資金提供を望んでいるはずです。また、ロシアの本音は、北方領土の4島一括返還ではなく、部分返還だともいわれています。
もしエネルギー供給でロシアが好条件を提示する代わりに、領土問題で日本が譲歩するような結果になった場合、必ずしも日本にとってメリットのある取引にはならない可能性があります。
さらにいえば、日本のエネルギー供給源の一部をロシアに握られてしまうことで、日米関係にも影響が出てくる可能性があります。いずれロシアは、エネルギー政策を通じて、米国と日本を分断しようと試みる可能性が高いでしょう。
日米交渉を有利に進めるためロシアを材料にするというのは、外交テクニックとしては有益かもしれませんが、あくまでそれは有利な条件を引き出すための手段にすぎません。その範疇を超えてロシアとの関係を深めることは、日米関係にあまりよい結果をもたらさないでしょう。
●ロシアはなぜ突然「汚い爆弾」と騒ぎ始めたのか? 11/7
ロシアによるウクライナ侵攻から8ヵ月が過ぎた。ウクライナ軍は8月末から南部のヘルソン州、東部のドネツク州やルハンスク州などで反攻に転じている。ロシアは8月末、第2次大戦後初となる30万人の部分動員令を発するなど、テコ入れに躍起になっている。焦りが見えるロシアが最近、出してきた次の手が「汚い爆弾」だ。ロシアはなぜ、「汚い爆弾」に言及するようになったのか。その狙いはどこにあるのか。
さっそくスロベニアに突っ込まれるロシア
ロシアのプーチン大統領は10月26日、「ウクライナが挑発のため、汚い爆弾を使う計画も知られている」と語った。ロシア外務省はツイッターで、ウクライナの2つの組織が汚い爆弾の製造を命じられた情報があると主張し、汚い爆弾の画像を添付した。これに対し、スロベニア政府が画像について、スロベニアの放射性廃棄物管理機構が2010年に放射性廃棄物に関する説明を行った際に使った画像だと反論し、画像は汚い爆弾ではなく、「煙感知器」だとした。ウクライナのゼレンスキー大統領や北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルク事務局長らも、ロシアの自作自演であり、ウクライナを攻撃する口実をでっち上げる「偽旗作戦」のひとつだ、などと一斉に反発した。国際原子力機関(IAEA)は3日、ウクライナの3ヵ所で実施した査察の結果、未申告の核活動や核物質を示す証拠は見つからなかったと発表した。
そもそも汚い爆弾とは何だろうか。日本エネルギー経済研究所の黒木昭弘研究顧問によれば、汚い爆弾が話題になるようになったのは、2000年代に入ってからだった。テロリストがレントゲン検査やCT検査などで使う医療用放射性物質を盗み出す事案が発生したからだという。ただ、医療用放射性物質の威力はそれほど大きくない。黒木氏は「汚染範囲は数十メートル程度で、致死性も高くありません」と語る。軍事作戦を行っているロシアが、こうした医療用放射性物質を使っても、軍事的な効果はあまり期待できないことになる。
「コンテナ172個搬入」の狙いは?
黒木氏は最近、ロシア軍が占領しているウクライナ南部・ザポリージャ原子力発電所の動きに注目している。「最近、ロシアがザポリージャ原発にコンテナ172個を運び込んだという情報があります。コンテナで、放射能を防ぐ遮蔽物を作っているのかもしれません」。
ザポリージャ原発には大量の使用済み核燃料が保存されている。放射能の量は、医療用放射性物質とは桁違いに多く、一度使えば数十キロに渡る範囲を汚染する。「ザポリージャの使用済み核燃料を詰め込んだ汚い爆弾を空中で爆発させれば、チェルノブイリ原発事故や福島第1原発事故が再現されることになりかねません」。
ただ、武器としての運用上、厄介な点が一つある。通常の原爆や水爆であれば、核分裂や核融合を起こす前の状態にあるため、爆発前は放射能を発しない。誰でも安全に取り扱うことができる。これに対し、汚い爆弾に使う使用済み核燃料は大量の放射線をまき散らしている。
「使用済み核燃料」が狙いか
黒木氏は「汚い爆弾を作ろうと思ったら、防護服だけでは不可能です。密閉した空間に使用済み核燃料や爆弾の装備を入れ、ロボットアームを操作しながら、核燃料を切断して爆弾に詰め込む作業が必要になるでしょう」と語る。ロシア軍がザポリージャ原発に運び込んだコンテナは、この「密閉した空間」づくりに使われる可能性がある。「ロシアの核技術者なら、汚い爆弾を作ることも可能でしょう」。
なぜ、そんな面倒なことをしてまで汚い爆弾をつくるのか。自衛隊関係者によれば、世界で汚い爆弾を正式に配備している軍隊はない。演習もしていない状態で、そんな危険極まりない爆弾を使うくらいなら、むしろロシアが保有する低出力の戦術核を使った方が簡単だろう。
黒木氏は「だからザポリージャなのでしょう」と語る。「戦術核を使えば、間違いなくロシアが使ったとわかります。ロシアの原発から出た使用済み核燃料を使って汚い爆弾を作っても、分析すれば出どころがわかってしまいます。ザポリージャの使用済み核燃料を使えば、『ウクライナが昔持ち出して保有していた』と強弁できると考えたのではないでしょうか」。
ロシアが汚い爆弾を使ってやりたいことは何だろうか。すでに、ロシアが汚い爆弾に言及した以上、ウクライナ側も警戒して兵力の密集などは可能な限り避けるだろう。放射能汚染地域をつくれば、ウクライナ軍の進撃を止められるかもしれないが、ロシアも身動きが取れなくなる。汚い爆弾をキーウに撃ち込めば、ゼレンスキー政権を一気に打倒できるかもしれないが、そうなればロシアの犯行だと自白することになりかねない。
残される推論は、汚れた爆弾の使用を口実に、さらに過激な行動に出る可能性だ。「ロシア兵が汚れた爆弾で殺害された」「ウクライナも核物質を使った兵器を使っている」として、核による報復を行うというシナリオだ。しかし、ロシアが本当に核を使えば、そもそも「汚れた爆弾」を使った段階で、ロシアの国際的な孤立は決定的になり、中国や中東・アフリカ諸国など、中立を保っている国々からも一斉に見放されるだろう。ロシアが核を使う可能性はゼロではないが、それはプーチン大統領らが語っているように、「ロシア存亡の時」でしかないように思われる。
ロシアといえばもうこれだけ?「カオスの自作自演」
ロシアは実は、西側諸国がこのように色々と推測を立てることを読んだうえで、核を使った心理戦を挑んでいるのだろう。陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将も「核を巡る戦術は、実際に使って得られる効果よりも、心理戦の要素の方が圧倒的に大きいのです。使うと脅して、相手に譲歩を迫りますが、実際に使うには非常にハードルが高い兵器です」と語る。ロシア大統領府は10月26日、ロシア軍核部隊が演習を行い、プーチン大統領がオンラインで指揮したと発表した。これも心理戦の一環だろう。
プーチン大統領は10月27日、ロシアが汚い爆弾を使う必要がないとの考えを示した。ただ、核兵器を巡る発言や行動が増えていること自体、ロシアに余裕がなくなっている証拠なのかもしれない。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は11月2日の記者会見で、北朝鮮がロシアに「著しい数の(significant number)」砲弾をロシアに売却している兆候をつかんだと説明した。北朝鮮から到着地を中東やアフリカなどの第3国に偽装し、貨物を輸送しようとしているという。カービー氏は、ロシアの軍事物資が不足している兆候だとも説明した。プーチン政権が倒れるような状況ではないだろうが、『併合』を宣言したウクライナ4州を手放さざるを得ないような状況になれば、相当な痛手になる。
徐々に追い詰められているように見えるロシアにとって、核兵器は、最後の切り札だ。単純に核を保有しているだけでは、脅威度が高まらないため、様々な形で「核の脅威」を宣伝し、ウクライナを支援するNATOなどの行動を鈍らせる必要がある。実際、ウクライナに対する最大の支援国だった米国にも、徐々に「支援疲れ」の傾向が現れている。
米共和党の下院トップ、マッカーシー下院院内総務は10月中旬、今月8日投開票の米中間選挙で共和党が下院で過半数を占めた場合、「(ウクライナに)白紙の小切手を書くことは不本意だ」と述べた。米民主党の急進左派グループが10月下旬、ウクライナ支援の見直しなどを求める書簡をバイデン政権に送る(翌日に撤回)騒ぎも起きた。こうした状況をみたロシアが、核兵器を使った心理戦を仕掛けて、米国による支援を断ち切ろうとしているのかもしれない。
「支援疲れ」だけが不安要素
プーチン大統領は10月14日、カザフスタンの首都アスタナでの記者会見で、「私たちは常にオープンだ」と述べ、ウクライナとの対話を拒否しなかった。日本の専門家の1人は「併合宣言をしたクリミアと、東南部の4州の占領を既成事実化して、ウクライナでの戦闘をおしまいにしたいのだろう」と語る。核兵器を巡る様々な脅しによって、こうしたシナリオに誘導しているとみられる。
「核の恐怖」を使って、散々周囲を脅し挙げ、逃げ切りをはかろうとは、もはやG8になったころのロシアの面影は跡形もない。 
●ロシア軍の戦死者、同士打ちが「全体の60%」…指揮命令系統の混乱で頻発 11/7
ロシアのウクライナ侵略作戦に露軍側で参戦している東部ドネツク州の部隊幹部は5日、今年5月中旬以降の戦死者の多くが同士打ちが原因との見方をSNSで示した。露軍部隊は様々な勢力で構成されており、米政策研究機関「戦争研究所」は5日、相互の連携不足と司令官の相次ぐ交代に伴う指揮命令系統の混乱が、同士打ちを頻発させているとの分析を明らかにした。
この幹部はロシアが9月末にドネツク州を一方的に併合する前から露軍と共闘してきた。幹部は、移動ルートに別の部隊が埋設した地雷を踏んで複数の戦死者が出た例を挙げた。9月中旬には東部ルハンスク州で、露軍部隊同士が銃撃戦となり21人が死亡し、50人超が負傷したと伝えられている。
米CBSニュースによると、米軍の第2次世界大戦とベトナム戦争での同士打ちによる戦死者数は全体の最大約14%とされ、戦場での同士打ちは珍しくない。ただ、この幹部は、ウクライナ侵略での露軍側の同士打ちは「全体の60%と言う人もいる」とし、はるかに高い可能性を指摘した。
露国防省は9月下旬、戦死者「5937人」と発表し、露軍の戦死や負傷などによる戦闘不能者は「9万人超」に達していると指摘される。露軍は同士打ちについて言及していない。
露軍の指揮命令系統は、揺らぎ続けているようだ。英国防省は6日、侵略作戦の主要な司令官の一人だった露軍中央軍管区のアレクサンドル・ラピン司令官が解任され、アレクサンドル・リンコフ少将が司令官代行に任命された可能性があると指摘した。
一方、プーチン露大統領が9月21日に発令した予備役の部分的動員に基づいて、招集された動員兵の犠牲も目立ち始めている。
ロシアの独立系メディアによると、露南西部ボロネジの予備役で編成された1個大隊約570人が11月初めにルハンスク州の最前線に投入され、ウクライナ軍の砲撃などで500人超が死亡した。
動員兵は投入後、塹壕(ざんごう)を掘るよう指示されたが、スコップが数えるほどしかなく素手で掘ったという。大隊はほぼ全滅したものの将校は砲撃開始後に後方に退却した。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 11/7
ロシア軍事侵攻“去年夏以降 大統領最側近ら内密に計画” 英紙
イギリスの新聞「タイムズ」は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の具体的な計画は、去年の夏以降、プーチン大統領の最側近らが中心となって内密に進め、最終的に、大統領を説得する形で決定したなどとする内幕を伝えました。
「タイムズ」の今月3日付けの電子版の記事は、ロシア政府の関係者の話として、ロシアを戦争に導くうえで中心的な役割を果たしたのは、プーチン大統領以外では、パトルシェフ安全保障会議書記と、治安機関のFSB=連邦保安庁のボルトニコフ長官、それに、ショイグ国防相だったと伝えています。
このうち、ソビエトの情報機関KGB=国家保安委員会出身のパトルシェフ氏と、ボルトニコフ氏が、軍事侵攻の必要性を強く主張したといいます。
ウクライナへの対応をめぐっては、去年夏の時点で、ウクライナ東部に小さな「国家」を樹立することや、領土のロシアへの併合、それに、ゼレンスキー政権を完全に排除し、ロシアのかいらい政権を打ち立てるという3つの案が検討されたとしています。
そして、夏の終わりまでには、パトルシェフ氏とボルトニコフ氏が、軍事侵攻の必要性を含めた原則的な決定を行い、あとはプーチン大統領を説得するだけという状況になっていたということです。
そうした中で、ショイグ国防相は、作戦にためらうこともあったとしています。
その後の具体的な検討も、ごく少人数で進められ、ラブロフ外相ですら、首都キーウに攻め込むといった作戦の詳細を直前まで知らなかったと指摘しています。
また、記事では、側近らが、プーチン大統領が高齢となり、西側への決定的な対抗策を見いだす時間が残されていないと考え、軍事侵攻という判断を急いだ可能性を伝えています。
ロシアへの無人機供与 松野官房長官 イランを強く非難
ウクライナ情勢をめぐり、イラン政府がこれまで否定してきたロシアへの無人機の供与を初めて認めたことについて、松野官房長官はイランを強く非難し、国際社会の平和と安定に向けて建設的な役割を果たすよう働きかけていく考えを示しました。
ウクライナ情勢をめぐり、イランのアブドラヒアン外相は「ウクライナの戦争の数か月前に、限られた数の無人機をロシアに供与した」と述べ、ロシアへの無人機の供与を初めて認めました。
これについて松野官房長官は、午前の記者会見で「強く非難する。イラン製ドローンによるとされるロシアの攻撃により、ウクライナ各地で多くの市民が犠牲となっていることを極めて深刻に受け止めている」と述べました。
ゼレンスキー大統領 “ロシアがインフラ標的 新たな攻撃準備”
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、新たな動画を公開し、ロシアによるエネルギー関連施設への攻撃の影響で各地で停電が続いていて、6日夜の時点でキーウ州を中心に450万人以上が電気を使用できない状況だと述べました。
さらに「テロリスト国家は戦力を集中させていて、エネルギー関連施設などのインフラ施設に大規模な攻撃を繰り返すだろう」と述べ、ロシアがインフラ施設を標的にした新たな攻撃の準備を進めていると強調しました。
AP通信など ブチャの監視カメラ映像など検証
ウクライナの首都キーウ近郊のブチャでは、3月下旬にロシア軍が撤退し、地元当局によりますとこれまでに450人余りの遺体が確認されています。
AP通信などは、数百時間に及ぶブチャの監視カメラの映像やロシア兵の電話の通話記録をもとに当時の状況について検証を行い、その結果を伝えました。
それによりますと、ロシア軍はブチャを占領していた当時、情報機関のリストをもとに住宅を1軒ずつ訪ね、ウクライナ軍に協力したり、ロシアを敵視したりしていることが疑われた市民を選別したうえで拷問し殺害していたということです。
またロシア兵はこうした活動を「浄化」と呼んで正当化していたということです。
AP通信は、市民の殺害はロシア側の組織的な活動だったと結論づけたうえで、「残虐行為により人々を恐怖に陥れ、服従させるための戦略だ」と伝えています。
ウクライナ 反転攻勢もロシアのインフラ攻撃で市民生活に影響
ウクライナ軍は、ロシア側が占拠してきた南部の要衝ヘルソンなどで領土の奪還を目指して反転攻勢を続けていて、ヘルソン州の親ロシア派幹部は6日、SNSで「ウクライナ軍がヘルソン州周辺に向けて戦車などを集結させている」としています。
一方、ロシア軍は、ウクライナの南部や東部への攻撃を続けていて、このうち南部ザポリージャ州の知事は6日、SNSでロシア軍による砲撃で2階建ての建物が破壊され、少なくとも1人が死亡したことを明らかにしました。
さらに、先月中旬以降、ロシア軍によるインフラ施設への攻撃がウクライナ全土で続いていて、市民生活への影響が深刻化しています。
英国防省 “ロシア軍司令官が解任” 分析を発表
イギリス国防省は6日、ロシア軍の司令官が解任されたという分析を発表しました。
この司令官については、ウクライナ軍による反撃で劣勢とされるなか目標を達成できていないとして批判の声が上がっていたということです。
イギリス国防省は軍事侵攻が始まって以降ロシア軍の幹部の解任が相次いでいるとして「ロシア軍の指導部への不満をそらそうとする試みの可能性がある」との見方を示しています。
ロシア ナイトクラブ火災で13人死亡 拘束の男はロシア軍兵士か
ロシアの首都モスクワからおよそ300キロ離れたコストロマ州にあるナイトクラブで5日火災が発生し、地元の捜査当局によりますと、これまでに13人が死亡しました。
当時ナイトクラブではイベントが行われていて、捜査当局は、客だった23歳の男が照明弾のようなものを発射し天井の装飾に燃え移ったことが火災の原因だとみて男を拘束しました。
ロシア国営のタス通信によりますと、男は容疑を認めているということです。
一部の地元メデイアなどは男の親族の話として、男は、ウクライナでの軍事侵攻にロシア軍の兵士として派遣され、ことし8月にケガをし治療のために国内に戻っていたということで、当局は詳しく調べています。
●モスクワ市職員大脱走<vーチン大統領「求心力低下」の兆候 11/7
ウクライナでロシア軍の苦戦が続くなか、ウラジーミル・プーチン大統領の求心力低下を示す複数の兆候が出てきた。首都モスクワ市職員の「大脱走劇」や、強硬派の台頭、さらにクレムリン(大統領府)中枢でも、後継争いをめぐる「二重権力」の懸念が浮上する。「強いロシア」を率いてきたプーチン氏だが、健康不安も再燃、当事者能力を失いつつあるのか。
ロシア大統領府は2日、プーチン氏がインドネシアのジョコ大統領と電話会談を行ったと発表した。今月中旬に同国で開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)にプーチン氏が直接参加するかどうかについては言及しなかった。
ロシアの独立系メディアは、プーチン氏はG20に出席せず、ミハイル・ミシュスチン首相が代表団を率いる公算が大きいと、複数のクレムリン筋の話を元に伝えた。
強権政治を背景に、国内支持率はいまも7割超とされるプーチン氏だが、9月の部分動員令以降、表立った反発の声も目立つようになってきた。部分動員された兵士が100人以上死亡したと報じられたほか、動員を回避するため70万人以上が近隣諸国に出国したとの見方もある。
ロシアの地元メディア「ネスカ」は、部分動員の混乱を受けて、モスクワ市職員が「大脱走」しているとの衝撃情報を伝えた。一部の部門では職員の約20%が去ったとされ、市長室の最大の部門である住宅や共同サービス、健康、教育などの部門が痛手を受けていると伝えている。
筑波大の中村逸郎名誉教授は「ロシアの国際的孤立や政権内の『強硬派』が主導する戦時体制の強化を見据え、将来を悲観した職員が逃げ出していると考えられる」との見方を示す。
劣勢が続くウクライナ侵攻をめぐっては、事態打開をにらんで閣僚や諜報機関幹部ら19人で構成する新組織「政府調整会議」が設置された。ミシュスチン首相がトップで、モスクワ市のセルゲイ・ソビャニン市長が州や地方などの連邦構成体間の調整を担当する。
プーチン氏は10月25日の初会合にオンラインで参加し、「経済、軍事部門と地方組織の深く幅広い協力」を指示。「標準的な手続きをしていたのでは結果は出ない」と述べ、軍などの需要に応えるため仕事を加速するよう厳命した。中村氏は「前線の兵士への支援体制が不十分だとして、戦時経済に向けて国内全体に動員をかける司令塔だろう」とみる。
この政府調整会議について、露独立系日刊紙モスクワ・タイムズ(電子版)は、旧ソ連時代の共産党内の組織「ポリトビューロー(政治局会議)」という表現で伝えた。「共産党政治局会議は『ミサイルから靴下の色まで』すべての問題を解決するといわれた。ロシア国民への強権体制に拍車がかかる恐れもある」と中村氏。
新組織の設置によって、これまでウクライナでの軍事作戦を取り仕切ってきた「安全保障会議」の影が薄くなりそうだ。同会議のニコライ・パトルシェフ書記や元大統領のドミトリー・メドベージェフ副議長らは調整会議のメンバーには含まれなかった。
中村氏は「軍幹部も参加する安全保障会議が形骸化する中で、メドベージェフ氏は後継候補から下ろされた可能性もある」とみる。
ロシアの軍事組織では、民間軍事会社「ワグネル」創設者で、新興財閥オリガルヒのエフゲニー・プリゴジン氏が発言権を強めている。米シンクタンク、戦争研究所は先月25日のリポートで、「多くのプラットフォームを使用して権力を獲得する可能性」が高いとし、プーチン氏の独占に「挑戦している」と分析した。
そのプーチン氏の健康状態について英大衆紙サン(電子版)は、露治安当局員の情報として、初期のパーキンソン病と、膵臓(すいぞう)がんと診断されたと報じた。右手の甲に注射痕がみえる動画が流布していることも伝えた。
強硬派が台頭しつつあるロシアで、政権中枢の「2つの会議」が絡む権力争いの行方を中村氏はこう予測する。
「経済活動の制限や資産の徴発が行われれば、富裕層の逃避を招きかねず、ロシア経済には逆効果だ。両会議をバックに『ポスト・プーチン』に向けた抗争が行われる可能性もあり、板挟みのプーチン氏が割りを食う形になるのではないか」
●死に体のロシア元殺人犯¢O線投入 他国に強気の姿勢も国内で反戦デモ 11/7
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、仰天策を打ち出した。殺人や強盗といった重罪を犯した人々の軍への動員を合法化する法改正が行われ、プーチン氏が署名して発効したのだ。ウクライナ戦線での戦況悪化が続き、兵員不足の深刻化も伝えられ、司令官も相次いで解任するロシア。元殺人犯や元強盗犯まで駆り出す末期的状況に追い詰められた。
セルゲイ・ショイグ国防相は10月28日、30万人の予備役を招集するとした「部分的動員」の完了をプーチン氏に報告した。露大統領府が発表した。ショイグ氏によると、訓練を終えた8万2000人がウクライナ国内に派遣され、このうち4万1000人がすでに部隊に配属。プーチン氏は今月4日、最終的に約32万人が動員されたことを明らかにしている。
だが、予備役だけでは、兵員不足は解消できなかったようだ。法改正では、これまで動員を禁止していた「重罪を犯した者」のうち、殺人や強盗、麻薬犯罪で有罪となった受刑者や犯歴のある人間を禁止の対象から外した。動員できないのはテロやハイジャック、スパイ行為などで有罪とされた者に限定される。
米CNNは、新たに動員対象となった元犯罪者らについて、「通常、犯罪歴が抹消されるまで8〜10年の間、当局の監視下に置かれる。自宅から出ることを禁止され、さまざまな制限を守ることが求められる」人間と伝えている。
こうした人間たちまで動員しなければいけないほど、ロシアは追い詰められている。
幹部の更迭が相次いでいるロシア軍で、また司令官の解任情報が出ている。英国防省は6日、ロシア軍中央軍管区のラピン司令官が解任され、司令官代行としてリンコフ少将が任命されたとの分析結果を明らかにした。
ロシア軍は5つの軍管区に分かれており、中央軍管区はウクライナ東部戦線に携わっているとみられる。東部と西部の司令官も10月に解任が伝えられたほか、総司令官もスロビキン氏に交代したばかりだ。
英国防省はツイッターで、更迭劇を「ロシア国内の指導者層に対する不満をそらそうと試みている可能性がある」と分析。他国に対しては強気の姿勢を貫くプーチン氏だが、反戦デモも起きている国内世論を気にしているようだ。
●NYタイムズ「ロシアが核使用協議」との報道 「核使用の危険度 最大限に」 11/7
ロシアがウクライナ侵攻で苦戦するなか、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は2日、「ロシア軍幹部、核兵器使用を協議」というタイトルの記事を報じた。この協議については、ジャーナリストの加賀孝英氏が10月17日発行の夕刊フジに、人気連載「スクープ最前線」(1面掲載)でいち早く紹介していた。米紙の報道を受けて、加賀氏は「核使用の危険度が最大限に達しているようだ」と警鐘を鳴らした。
ニューヨーク・タイムズの記事は、複数の米政府高官の話として、ロシア軍幹部がウクライナで戦術核を使用する可能性のある時期や使用方法について協議したという内容だ。米政府が協議の情報を把握したのは10月中旬としている。
加賀氏は同時期、スクープ最前線で「西側情報当局が緊張している。『プーチン氏が、ウクライナに対する核攻撃のXデーを検討し始めた』という情報が入ったからだ」という、外事警察関係者の話を紹介している。
今回、米高官がニューヨーク・タイムズに明かした意味をどう見るか。
加賀氏は「ロシアの敗北が確定的となり、ウクライナで戦術核を使う危険度が極度に高まったという判断だろう。今あえて米政府高官がリークして記事が出たのではないか」と分析した。
2つの記事で異なるのが、ウラジーミル・プーチン大統領が協議に関与したか否かという点だ。ニューヨーク・タイムズは「プーチン大統領は協議に参加していない」と伝えている。
加賀氏は「ロシア側の情報源は『プーチン氏を抜いて』と意識して流している。プーチン氏の責任回避だろうが、最高責任者を抜いて、核使用が協議されることはあり得ない。米国側もプーチン氏を過剰に刺激したくないので、ロシア側の情報をそのまま受け止めているのだろう」と話す。
今回の核使用協議は、ロシアに加え、ミサイルを連日のように発射する北朝鮮と、台湾への圧力を強める中国に囲まれている日本にとっても、決して人ごとではない。
加賀氏は「ロシアの『核暴走』と、中国による『台湾有事』『日本有事』、北朝鮮による『朝鮮半島有事』が連動して発生しかねない状況になっている。戦後最大の危機が、日本に訪れている」と語った。

 

●ロシア軍、ウクライナ東部前線に予備役 大隊全滅、拒否なら監禁 11/8
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は、一方的に「併合」した東部の前線に予備役を投入している。
プーチン政権は苦戦を挽回しようと30万人の部分動員令を出し、既に5万人弱が展開したが、予備役で編成する1個大隊の全滅も伝えられた。組織の弱体化に加え、民間軍事会社「ワグネル」の加勢で統制が取れなくなっているもようだ。米シンクタンクの戦争研究所は「同士打ち」も起きていると指摘する。
「部隊にいた570人のうち、無傷だった29人、負傷した12人を除く全員が死亡した」。東部ルガンスク州の前線に投入された予備役の生存者の一人が、独立系メディアに証言した。
この予備役が配属された大隊は、前線の15キロ手前で活動していたが、塹壕(ざんごう)を掘るため、1日に前方へ移動。十分な数のスコップもない劣悪な環境での任務で、ウクライナ軍の多連装ロケット砲の攻撃が始まった時、将校は後方に逃げていたという。
一方、別の独立系メディアによると、同じルガンスク州で、前線での戦闘を拒否した約80人の予備役が、地下室に懲罰的に閉じ込められた。連絡を取った妻の証言では、上官から「前線か、地下室か」と選択を迫られた上での監禁だった。携帯電話を没収するため、予備役は全裸にさせられたと報じられている。
予備役に厭戦(えんせん)ムードが広がる中、英国防省は4日付の戦況報告で、ロシア軍が後方から前線の兵士に銃を向けて退却を阻止する「督戦隊」を展開した可能性があると分析した。ウクライナ東・南部を「ロシア領」として死守するプーチン大統領の大義が、前線と共有されていないことを示している。ロシア本土の軍施設では、武器や食料の不足を理由とした予備役の暴動も伝えられた。
東部ドネツク州の親ロシア派幹部は5日、南東部マリウポリ包囲戦を振り返り、部隊の人的損失の60%がロシア軍による同士打ちだったと主張。これを踏まえ戦争研究所は5日、「司令官の頻繁な交代、経験の浅い兵士の昇進、動員兵やワグネル戦闘員などを含む編成が、指揮系統の混乱とロシア軍の非効率性を悪化させ、同士打ちを増加させている」との見方を示した。
●プーチン氏恩師の娘、帰国 先月にロシア脱出 11/8
国営ロシア通信などが7日伝えたところによると、プーチン大統領の大学時代の恩師の娘で、国外に逃れていたテレビ司会者クセニア・サプチャク氏が帰国した。創設した独立系メディアの幹部が恐喝容疑で拘束され、自身もモスクワ郊外の自宅を捜索されたことから、10月にリトアニアに出国していた。
その後、サプチャク氏は「容疑者」ではなく「参考人」であると確認された。リトアニアの隣国ラトビアから陸路で再入国したという。
サプチャク氏は、反体制派の一人として2018年の大統領選に立候補。ウクライナ侵攻が続く中、今回の事件は言論統制の一環の可能性がある。一方、母のリュドミラ・ナルソワ上院議員は今月2日、「(娘は)すぐに帰国する」と述べていた。
●「プーチンの料理長」米選挙介入認める 政治的野心指摘も 11/8
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者で「プーチン大統領の料理長」として知られるプリゴジン氏がアメリカの選挙への介入を認めました。
プリゴジン氏は7日、アメリカへの選挙介入を巡り「介入したし、介入しているし、今後も介入するだろう」とのコメントを自身が経営するケータリング会社のSNSに投稿しました。
プリゴジン氏はこれまでにも大量のフェイクニュースなどを流し、各国の選挙に影響を与えてきたと指摘されていました。
プリゴジン氏は兵士不足を補うため、半ば公に刑務所の受刑者から兵士を募ったり、知事やロシア軍を公然と批判しています。
さらにロシア軍の失敗をプーチン氏に直接指摘したとも報じられるほど影響力を強めています。
4日にはサンクトペテルブルクにワグネルの正式な事務所「ワグネルセンター」を開設するなど表舞台での活動も増やしていて、政治的な野心があるとの指摘も出ています。
●プーチン大統領、重罪前科者の軍動員法に署名…「数十万人を徴集可能」 11/8
ロシアのプーチン大統領が重罪前科者を軍に動員する法令に署名したとCNNが5日(現地時間)報道した。このような中、ロシア軍がヘルソンの奪還を予告したウクライナ軍に対抗し、激しい市街戦を準備しているというニュースが伝えられた。
報道によるとプーチン大統領は4日、殺人・強盗・窃盗、麻薬密売などの重罪で服役し出所した前科者も軍動員を許容する法令に署名した。このため、これまで軍服務が禁止されていた前科者数十万人に対する徴集が可能になったとメディアは伝えた。
これに先立って、ロシア当局は9月に下した予備軍30万人ウクライナ戦争動員令以降にはこれ以上追加動員令はないと明らかにしたことがある。しかし、重犯罪前科者まで徴集することは、ロシアがウクライナ戦争で苦戦しているという傍証と解釈される。
ただし、徴集許容対象から児童対象性犯罪、反逆罪・スパイ罪・テロ疑惑者や公務員の暗殺試みと航空機拉致などの疑いで有罪判決を受けた犯罪者は除外される。
外信はこれまでロシアの民間傭兵企業ワーグナー・グループのエフゲニー・プリゴジン氏がウクライナ戦争投入を目的にロシア刑務所で収監者数千人を募集したと伝えた。しかし、プーチン大統領が今回署名した法令による徴集対象は刑務所から出所した人々だ。
プーチン大統領は同日、予備軍30万人動員令を下した後、志願者1万8000人を含め、目標より多い31万8000人が徴集されたと明らかにした。また、「動員された人々のうち4万9000人はすでに戦闘任務を遂行しており、残りは訓練を受けている」と説明した。
一方、ロシア軍がロシアが併合した南部の戦略的要衝地ヘルソンで大々的な市街戦を準備する情況が捉えられたとAP通信などが4日伝えた。ウクライナ軍はヘルソン奪還のための大々的な空襲を予告している。
あるヘルソン住民はAP通信に「彼ら(ロシア軍)は都市住民を強制的に避難させた後、ロシア軍をヘルソン全域の空きマンションに入れている」と伝えた。同時に「ウクライナ軍との市街戦を準備していることが明白だ」と話した。
親ロヘルソン行政当局は先月19日、ヘルソン市民に避難を命令し、同月31日に避難令の適用範囲をドニプロ川から約15キロ以内に当たる地域にまで拡大した。2日にはこの地域の住民最大7万人が6日からロシア本土やヘルソン南部地域に移動することになると明らかにした。4日、ヘルソンには24時間通行禁止令も下された。
一部ではロシア軍がヘルソンから撤収する可能性もあるという観測も出ているが、ウクライナ側はロシア軍の艦艇かもしれないと警戒している。ウクライナ軍事アナリストのオレフ・ズダノウ氏は「ロシア軍はヘルソンから平和的に撤収する準備ができておらず、市街戦を準備している」とし「動員された予備軍と新しい戦術部隊を配置している」と分析した。 
●ウクライナ戦争で「漁夫の利」を得るジョージア、今年2ケタ台の経済成長か 11/8
ウクライナ戦争が欧州経済を圧迫する中、ある国だけは予想外の好景気に沸いている。それはロシアの隣国ジョージアだ。同国は、今年世界で最も急速に経済成長を遂げる国の1つになろうとしている。
プーチン大統領がウクライナでの戦闘を継続するため予備役の一部動員を発表して以来、招集される可能性があるロシア人など10万人以上が同国に流入した。
ジョージア最大の銀行「TBC」のCEOはこう語る。
ジョージア最大の銀行TBC ブツクリキゼCEO「あらゆる産業が極めて順調だ。零細企業から大企業まで、小売業から様々な産業まで今年問題があったという業界は記憶にない」
統計によると今年少なくとも11万2000人のロシア人がジョージアに移住した。ブツクリキゼ氏によれば、こうした人々の多くがジョージアに新たな機会をもたらしているという。
「こうした移住者は非常に有用だ。彼らのおそらく大多数はとても若く、テクノロジーに強く、知識がある。われわれやほかのジョージア企業にとって、こうした人々を利用することは極めて有益な機会だ」
ロシアから戦争を逃れてやってきた人々は、大量のお金も運んできてくれた。今年4月から9月にかけて、銀行や送金サービスなどを利用してロシアからジョージアに送られたお金は、10億ドル(約1470億円)以上に及ぶ。ジョージアの中央銀行によると、これは昨年の同じ時期に比べて5倍にもなるという。
その結果、ジョージアの通貨ラリは3年ぶりの高値を記録。同国の2022年の経済生産高は10%の伸びを記録すると予想されている。これはベトナムや、石油資源の豊富なクウェートのような成長が著しい新興国をしのぐということだ。
だがこの成長を喜んでいる人ばかりではない。豊富な資金を持つ多くの技術系専門職を含む大勢のロシア人が流入しているため、物価は上昇。一部のジョージア国民が、教育や賃貸住宅市場から締め出されつつある。TBC銀行の分析によると、首都トビリシの家賃は今年75%上昇した。
多くの専門家は、戦争がジョージア経済に悪影響をもたらすとみていた。同国経済は、輸出や観光を通じて隣国ロシアと密接に結びついているためだ。両国は陸路で国境を接しているほか、ジョージアは寛容な移民政策をとっているためロシア人はビザなしで居住や就労、事業設立が可能だ。
だが経済学者は、この好景気は長続きしない可能性があると話す。また企業経営者らは、戦争が終わってロシア人たちが帰国すれば、ジョージア経済がハードランディングに直面するのではと懸念している。
マクロ経済政策研究センター ケシェラヴァ研究員「彼らがいつまでここにいるのかはわからない。彼らが帰国する時、問題が発生するだろう。なぜならそこにあった需要の一部が、将来はなくなってしまうのだから。経済成長という面で問題が生じるかもしれない。とくに建設業や観光業、接客業にはダメージが大きいかもしれない」
●米高官、ロシアとの「対話継続」認める 戦争の影響受ける国の「利益」に 11/8
アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は7日、ウクライナとロシアの戦争が続く中、アメリカ政府とロシア政府の対話チャンネルは開かれたままだと認めた。
サリヴァン大統領補佐官は訪問先のニューヨークで、ロシア政府との連絡を維持することはアメリカの「利益のため」だと述べた。
ただし、「自分たちがどういう相手とかかわっているのか、(アメリカ側の担当者は)はっきり認識している」とサリヴァン氏は強調した。サリヴァン氏の発言は、ニューヨークのエコノミック・クラブ主催のイベントでのもの。
サリヴァン氏をめぐっては、ウクライナにおける核のエスカレーションを阻止するため、ロシアとの協議を秘密裏に主導していると報じられている。ホワイトハウスはこの報道を否定していない。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは6日、サリヴァン氏がこの数カ月間、ロシアのニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記とロシア政府の外交政策補佐官ユーリ・ウシャコフ氏と極秘協議を行っていたと報じた。
政府高官が同紙に語ったところによると、3人はウクライナでの戦争における核のエスカレーションを回避する方法について協議したが、戦闘そのものを終わらせる方法に関する交渉には至っていないという。
サリヴァン氏は先月、核兵器の使用は「ロシアにとって破局的な結果」をもたらすことになると指摘。政府高官がロシア当局者との非公式協議で、もしロシアが核兵器を使った場合、アメリカはどれだけの対応をする可能性があるか、その規模を「詳しく説明」したと米NBCに語っていた。
米国家安全保障会議(NSC)のエイドリアン・ワトソン報道官は同紙に対し、「人はいろいろなことを主張するものだ」と答え、報道内容を認めなかった。一方でロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、西側の新聞が「複数のでっちあげを掲載している」と非難した。
ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官は7日、アメリカはロシアと協議する権利を留保していると述べた。
バイデン政権でロシアとの協議継続を今も求める幹部の中でも、サリヴァン補佐官は最高位にある1人だとされる。そのサリヴァン氏は、アメリカがロシアと接触し続けることは、「この紛争の影響を受けるすべての国の利益」につながるとしている。
●インド外相、ウクライナ侵攻を批判 ラブロフ氏に「戦争の時でない」 11/8
ロシアのラブロフ外相とインドのジャイシャンカル外相は8日、モスクワで会談した。タス通信によると、終了後の記者会見でジャイシャンカル氏は「今は戦争の時ではない」と、モディ印首相が9月にプーチン・ロシア大統領に伝えた「苦言」を引用。ウクライナ侵攻を遠回しに批判した。
ジャイシャンカル氏は「一つの紛争は世界中に影響を及ぼす」と懸念を表明。特にエネルギー・食料安全保障への影響を恐れているとし「インドは(当事者による)対話と外交への復帰を支持する」と強調した。
●COP27、各国首脳が対策強化訴え 英首相はウクライナの戦争に言及 11/8
イギリスのリシ・スーナク首相は7日、国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)の首脳会議で、迅速な気候変動対策が必要なのはロシアのウクライナ侵攻があるからだと演説した。
6日からエジプトのシャルム・エル=シェイクで始まったCOP27には120以上の国と地域が参加し、気候変動の影響を抑えるための対策を協議している。
中でも、特に被害を受けている国々への補償や支援が主な議題となっている。
就任後、初の外交の場となったこの会議でスーナク氏は、「気候(変動対策)とエネルギー安全保障は手を取り合って進む」と話した。
「(ロシアのウラジーミル・)プーチン大統領の忌まわしい戦争と世界的なエネルギー価格の上昇が、気候変動対策を遅らせる理由になってはならない。むしろ、対策を迅速に進める理由そのものだ」
「我々は子供たちにもっと緑の多い惑星、もっと繁栄した未来を渡すことができる(中略)希望の余地はある」
首脳会議では、各国の指導者が5分ずつ方針を表明。富裕国にウクライナでの戦争と世界的な財政問題の中でも気候変動対策を予定通り進めるよう求めた。
また、特に影響の大きい国々からは、温暖化や干ばつ、洪水などが人々や環境に及ぼしている厳しい被害が報告された。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「我々は気候の地獄への高速道路について、アクセルに足をかけている」と厳しく指摘した。
元米副大統領で環境活動家のアル・ゴア氏もこれに同調し、政府は化石燃料という「死の文化への援助」をやめるべきだと訴えた。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は各国首脳に対し、気候に対する正義を行うべきだと熱弁した。
COP27に参加しているボリス・ジョンソン元英首相は、気候変動対策に「弱腰でぐらついては」いけないと述べた。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は、再生可能エネルギーへの転換は「緊急の安全保障政策だ」と述べた。イタリアのジョルジア・メローニ新首相も、引き続き目標に「力強く貢献していく」と語った。
アメリカのジョー・バイデン大統領は11日から同会議に参加する予定。現在はジョン・ケリー特別大使が参加している。
カリブ海の島国バルバドスのミア・モットリー首相は、この1年に「地球上で起きた恐怖と破壊」について語った。
「パキスタンのこの世の終わりのような洪水も、欧州から中国までを襲った熱波も、ここ数日で我々の地域で起きた、暴風雨『リサ』によるベリーズの被害やセント・ルチアでの大洪水も、繰り返す必要はない」
今回のCOPが気候変動の影響を非常に受けやすいアフリカで開催されている点に触れる演説も多かった。
ケニアのウィリアム・ルト大統領は、時間こそが重要だと指摘。「これ以上(対策が)遅れれば、人命や生活の糧が大災害によってなぎ払われるのを手をこまねいて見ているしかなくなる」と語った。
また、2030年までに水不足でアフリカ大陸の7億人が住み場所を離れることになると説明した。
8日には、気候変動の影響を受けやすい途上国首脳がさらに多く登壇する予定。1700人以上が亡くなった洪水被害を受けたパキスタンのシャバズ・シャリフ党首のほか、小島嶼国(しょうとうしょこく)連合を代表し、アンティグア・バーブーダのガストン・ブラウン首相が演説する。
若い活動家も参加
COP27には多くの若い活動家も参加している。
メキシコの活動家シエ・バスティダさん(20)は、決定権を持つ人々に「自然保護」をうったえるためにやって来たと話した。
バスティダさんはBBCニュースの取材に対し、COP27では気候変動の将来の影響だけでなく、これまでの被害への支援を求めるいわゆる「損失と損害」が議題の1つとなったことなどに触れ、今のところの進捗(しんちょく)に満足していると話した。
しかしスコットランド出身のミカエラ・ローチさんは、指導者らが正義や人権を優先した気候変動対策に全面的に取り組んでいないと懸念を表した。
「すべての気候変動対策が、人々にとって良いものであるとは限らない。排出量を削減するだけでなく、私たちはすべての取り組みを、人々や私たちが創造する世界について組み立てなくてはならない」
こうした中、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんは、国連が「グリーンウォッシング(環境保護などをうたいながら、実際には違うことをしてあざむく行為)」をしていると非難し、COP27から距離を置いている。
●ウクライナ軍 東部や南部で反撃強める ロシア軍 被害拡大か  11/8
ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナ軍は領土の奪還を目指して東部や南部で反撃を強めています。一方、ロシアの複数の独立系メディアは、動員されてウクライナ東部に派遣されたロシア軍の予備役500人以上が攻撃を受けて死亡し、一個大隊がほぼ全滅した可能性があると伝えました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、動画を公開し、「東部や南部の一部ではわれわれは徐々に敵を押し戻している。少しずつ前進している」と述べ、東部ドネツク州を中心に反撃を強めていると明らかにしました。
また、ウクライナのレズニコフ国防相は7日、アメリカから供与された防空ミサイルシステム「ナサムス」がウクライナに到着したと明らかにし、「これらはウクライナ軍をより強くし、ウクライナの空をより安全にする」とSNSに投稿しました。
ロシア軍 予備役500人以上死亡 一個大隊がほぼ全滅か
一方、ロシアの複数の独立系メディアは今月5日、動員されてウクライナ東部ルハンシク州に派遣されたロシア軍の予備役500人以上がウクライナ軍の攻撃を受けて死亡し、一個大隊がほぼ全滅した可能性があると伝えました。
生き残った兵士などの証言では今月1日、ざんごうを掘るよう命じられたものの、スコップは30人に1本しかないなど資機材が不足していたということです。
多くの兵士らが手でざんごうを掘っていたところ砲撃を受け、570人のうちの500人以上が死亡したとしています。
ロシア軍では、動員されたばかりの予備役も前線に送られ、戦死者が相次ぐなど被害が広がっている可能性が出ています。
●教皇、ウクライナのシェウチュク首座大司教とお会いに 11/8
教皇フランシスコは、ウクライナのギリシャ典礼カトリック教会のシェウチュク首座大司教の訪問を受けられた。
教皇フランシスコは、11月7日、ウクライナのギリシャ典礼カトリック教会のヴィアトスラヴ・シェウチュク首座大司教を迎えられた。
シェウチュク大司教は、ウクライナにおいて戦争が勃発して以来、このたび初めてバチカンを訪れた。
教皇と同大司教との出会いは、バチカン宮殿の図書室で行われた。
シェウチュク大司教の声明によれば、同大司教は、教皇が戦争の停止と和平仲介、捕虜解放のために尽くしているあらゆる働きかけと、祈りと行動を通したウクライナの人々への寄り添いに感謝を表した。
同大司教はこの出会いで、今年3月、イルピンのギリシャ典礼カトリック教会の正面壁を破壊した地雷の破片を「戦争が日々もたらす破壊と死の象徴」として教皇に贈った。
教皇は、平和のための教皇庁の努力を保証すると共に、教会が人々を近くで支えるよう励まされた。
シェウチュク大司教は、戦争の被害が最も深刻な地域を訪問しながら見たこと、また占領されている地区での司教、司祭、修道者たちの司牧、あらゆるカテドラル、教会、修道院が避難所、人道支援の中心となっていることを教皇に語ったという。
●正教会、プーチン「首席エクソシスト」に任命の怪  11/8
ロシア正教会はこのほど、同国のウラジーミル・プーチン大統領を、悪魔祓いをする「首席エクソシスト」に任命した。
ウクライナの「脱サタン化」
ロシア政府は、ウクライナへの軍事侵攻の目標を「再定義」しようとしているようだ。2月24日に「特別軍事作戦」としてウクライナへの侵攻を開始した時、プーチンはその目標をウクライナの「非ナチ化」だと述べていた。だがロシア政府の最高意思決定機関である安全保障会議は今、それを「脱サタン化」という言葉にすり変えつつある。
安全保障会議のアレクセイ・パブロフ書記補佐は、ウクライナ市民はロシア正教の価値観を捨てたと批判。ウクライナには「何百もの宗派」があると述べ、ウクライナの「脱サタン化」を呼びかけている。
ロシア国営のタス通信によると、パブロフは「ウクライナの脱サタン化を実行する上で、特別軍事作戦の継続がこれまで以上に差し迫って必要だと確信している」と述べた。「ウクライナ政府はインターネット上の情報操作やサイコテクノロジー(心理操作)を使って、ウクライナを主権国家から全体主義の急進宗教に変えた」
パブロフはさらに、ウクライナには「特定の目標に向けて活動を活発化させている、何百もの宗派がある」と主張。とりわけ懸念されるのが、「アメリカで正式に登録されている宗教の一つ」で「ウクライナ全域に広まっている」疑いがある「サタン教会」だという。
西側諸国は「悪魔崇拝」
パブロフは、「ロシア人を殺せという呼びかけ」は「サタニズム(悪魔崇拝主義)」の兆候であり、ウクライナではこれが国家レベルで受け入れられていると主張。ウクライナ政府は市民に対して、ロシア正教の価値観を捨てるよう強要し、市民の考え方を「再設定」して何百年も続く伝統を放棄させ、ロシア正教やイスラム教、ユダヤ教の信仰に基づく真の価値観を禁止しようと画策していると述べた。
プーチンは9月、西側諸国が「茶番」と批判した住民投票を経てウクライナの4州を一方的に併合した際、西側諸国は「純然たるサタニズム(悪魔崇拝)」を推し進めていると非難した。
「西側諸国の独裁エリート層は、西側諸国の国民を含め、あらゆる社会を狙っている。これは全ての人への挑戦だ」とプーチンは述べた。「このような人間の完全否定、信仰と伝統的な価値観の否定、自由の抑圧は、純然たるサタニズム(悪魔崇拝)の特徴を帯びている」
これ以後、「サタニズム」という言葉はロシア国営テレビでさらに頻繁に使われるようになり、プーチンに忠誠を誓うチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長は、ウクライナでの戦闘を「サタニズムに対する聖戦」と称した。
こうしたなか、地元メディアによればロシア正教会トップのキリル総主教は25日、プーチンを「反キリストを掲げる者に立ち向かう闘士」や「首席エクソシスト」と称し、プーチンはグローバリズムと戦っており、「世界的な権力を主張する者は、世界の終わりを招くことになるだろう」と述べた。
総主教はまた、プーチンがウクライナ戦争のために予備役を動員する決定を下したことについて、ロシア人は死を恐れてはならないと主張。9月22日にモスクワのザチャチエフスキー修道院で行った説教の中で、「勇敢に軍での使命を果たしなさい。国のために命を捧げる者は、神の国と栄光と永遠の命の中で、神と共にあることを覚えておきなさい」と述べた。
2月にプーチンがウクライナへの軍事侵攻を決定した時から、総主教はその決定を精神的・イデオロギー的な理由から正当化してきた。
●「プーチンの料理人」16年の米大統領選への干渉認める…露政権は否定  11/8
ロシアのプーチン大統領に近く、レストランなどを経営することから「プーチンの料理人」と呼ばれる実業家エフゲニー・プリゴジン氏は7日、SNSを通じ、8日投票の米中間選挙を含め、米国の選挙に干渉してきたことを認めた。米情報機関は2016年の米大統領選にロシアが不正介入したと結論付けているが、プーチン露政権は一貫して米国の選挙への干渉を否定してきた経緯があり、極めて異例な発言だ。
プリゴジン氏は米中間選挙への干渉の有無を尋ねる記者の取材に「我々は干渉してきた。干渉しており、これからも干渉する」と回答した。
プリゴジン氏の今回の発言について、米政策研究機関「戦争研究所」は7日、「米中間選挙の正当性を損なうと同時に、自らの有能さをアピールしようとした」可能性を指摘した。
プリゴジン氏は、フェイク(偽)情報を発信し、世論操作の拠点となった企業「インターネット・リサーチ・エージェンシー」(IRA)の出資者で、米国から起訴され、制裁も科されている。露民間軍事会社「ワグネル」の創設者でもあり、ロシアが侵略するウクライナに同社の戦闘員を派遣し、プーチン氏への影響力が急速に拡大しているとの見方がある。
●狙いはトランプ氏の復帰? プーチン氏の側近が米中間選挙介入を明かす 11/8
我々は介入してきたし、介入しているし、今後も介入するだろう――。
「プーチン大統領の料理長」と呼ばれる側近エフゲニー・プリゴジン氏は7日、アメリカの中間選挙に介入していることを自ら明かした。
プリゴジン氏は、2016年のアメリカ大統領選でも民主党のヒラリー・クリントン候補を貶めるような情報をSNSなどを通じて大量に流し、共和党のドナルド・トランプ候補が当選するよう世論操作に関わっていたと指摘されている。
今回、なぜわざわざ他国への選挙への介入を認めたのだろうか?プリゴジン氏は、理由について語っていない。ただ、下院での共和党の優勢が伝えられる中での発信は、まるで自らの「介入」の成果だとでもいいたげだ。
共和党の勝利でアメリカのウクライナ支援を止めさせたい
ロシアは中間選挙での共和党の勝利に期待している。国営メディアはそろって、多くの共和党候補がウクライナへの大規模支援の正当性に懐疑的だとして、共和党が勝利をすれば、ウクライナへの支援が削減される可能性があると報じている。さらに、共和党が議会で主導権を握れば、バイデン大統領の息子のハンター氏の調査を開始する可能性が高いとも伝えている。
バイデン氏はオバマ政権時にウクライナ政策を担当していた。この時、息子のハンター氏が、ウクライナのガス会社の役員として高額の報酬を受けていたことからバイデン氏が息子のために便宜を図った可能性が指摘されている。こうした捜査が始まれば、バイデン氏にとってウクライナへの支援はやりづらくなる。ロシアの政府系メディアはすでに共和党の勝利を確信しているようだ。
ロシアでの”トランプ待望論” 欧州への波及は?
ロシア、あるいはプリゴジン氏による「介入」は中間選挙だけではとどまらないことを覚悟する必要もありそうだ。というのも、ロシアではトランプ氏の大統領への復帰を待望しているかのような報道も出始めているからだ。
ロシアの政府系メディアは、トランプ氏はプーチン大統領と友好関係を維持している有力な政治家だとして、トランプ氏が大統領に復帰すればウクライナをめぐる、あらゆる状況が変化するだろうとの見通しを伝えている。
「あらゆる状況の変化」の内容については触れていないが、経済制裁や天然ガスなどへの政策が変わることへの期待があるようだ。
ロシアメディアは「議論はすでに仮にアメリカがウクライナ支援の第一線から退いた場合、ヨーロッパ諸国がどういう対応を行うかに焦点が移っている」と書き始めている。

 

●ウクライナ・へルソンの攻防 11/9
黒海沿いの街、ヘルソンは、2月24日にウクライナ侵攻を開始したロシア軍が、まもなく占領した。開戦直後のロシアにとって、最大の戦果だった。そのヘルソンについて今になって、冬季戦に向けて防衛線を備えるロシア軍が、少なくとも一部を手放すかもしれないという話が、取りざたされている。
ヘルソンの郊外や周辺の村は、欧州大陸でも有数の勇壮な大河ドニプロの両岸にまたがり広がっている。このヘルソンについて西側諸国の政府はこのところ、ヘルソンの西側からロシアが部分的に撤退するかもしれないと、報道陣に説明している。
ロシアにとってドニプロ東岸の方が防衛しやすいため、ロシア軍はそこまで後退するかもしれないというのだ。東岸はその形状から、攻めるのが難しい自然の障壁になるため、ロシア軍の指揮官たちはそれを利用するかもしれないと。
ウクライナ政府は夏以来、ヘルソン奪還計画を大々的にマスコミに喧伝(けんでん)してきた。軍の作戦をあまりにはっきり公表したので、それはむしろウクライナ北東部でかなりの領土を奪還するに至った素早い攻勢を隠すための策だったのだろうと、そう結論するアナリストたちもいたほどだった。
しかし、この巨大な国の南西部にいると、ウクライナ軍の進軍はそれよりはるかに慎重に行われているのが分かる。ウクライナは本気で、ヘルソンを奪い返そうとしているのだ。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、勝利を必要としている。国民の士気のためというだけでなく、ウクライナはこの戦争に勝てるのだと、支援する諸国を安心させるために。しかし、この国の政治と軍の指導部の野心は、「ロシアを押し戻す」という現実の厳しさを前に、齟齬(そご)をきたしている。
私はこのところ、ヘルソンの外周の随所で、ウクライナの前線を取材した。前線の兵士や軍幹部に話を聞いて回った結果、ウクライナ南西部のここで戦わなくてはならない兵士たちは、ロシアがいかに手ごわい敵か、すでに学習済みだと明確にわかった。
ミコライウとヘルソンの間の前線で、自分は「イリア」だと名乗る地元出身のウクライナ兵は、ロシア軍の砲撃を浴びながら、太い葉巻をふかしていた。もじゃもじゃの髪に黒いひげをたくわえ、葉巻をくわえたその様子は、キューバの革命家チェ・ゲバラに似ていなくもなかった。
「ここで前進するのはとても難しい。前線を突破するには、一点に大量の軍勢を集中させる必要がある。我々の仕事は、この位置を守ることだ。向こうが予備役を連れてよそに転戦させないようにするため、こちらはたまに攻撃している」
「とても大変だし、時間がかかる。向こうは制空権を握っているし。装備も人員も砲弾の数も、こちらよりはるかに勝っている」
「向こうの兵はろくに訓練されていないが、ひたすら『ウラー(万歳)!』と叫んで突進してくる。向こうの大人数に見合うだけの弾が、こちらにはない」
死傷者の数も、戦場の要素だ。ロシアもウクライナも、それぞれ数万人の死傷者を出している。正確な数字は明らかになっていない。どちらも、相手から受けた被害の程度を認めたくないのだ。
しかし、ウクライナの軍は多くの民間人の志願兵で構成されている。指揮官たちは、兵を守らなくてはならない。経験を重ねた兵をこれ以上失いたくないし、大量の犠牲は国民の士気にかかわってくることも意識している。
ウクライナは大きな国だが、人口は4000万人に満たない。男たちはすでにかなりが動員されている。
前線では「フガッセ」を名乗る少佐が、塹壕(ざんごう)や地下壕を案内してくれた。攻勢をかけるのかという話になると、慎重な口ぶりになった。
「今後の反抗作戦は複雑で、計画が立てにくいし、人命を危険にさらす。あらゆることを考慮に入れなくてはならない。兵の命を守ること、それが指揮官としての我々の仕事なので」
ウクライナは成果を上げている。9月初め以来、ヘルソン州では数百平方キロを取り返した。州内のとある村では、さびついたスイカの看板が銃弾を受けて穴だらけになっていた。戦争が始まる前、この一帯はスイカの産地として有名だったのだ。
戦闘で多くの村が破壊されている。ウクライナによると、ロシア軍は撤退に追い込まれると砲撃で民家を破壊しようとする。他方で、私が訪れた小さなコミュニティーでは、戦闘後に自分たちの家の様子を見に戻ってきた住民が、違うことを言っていた。この人たちによると、自分の家の被害の多くは、ロシア軍を追い出そうとしたウクライナ軍によるものなのだそうだ。破壊を免れた屋根は、ほとんど見当たらなかった。
ミコライウ州知事の庁舎だった建物は、ロシア軍の激しい砲撃で3月に破壊された。今も残るそのがれきの中で、ウクライナ軍のディミトロ・マーチェンコ少将は、ヘルソンの平らな農地で展開する戦いを、村や村の戦いと呼んだ。きわめて狭い範囲の現場で起きている、戦術的な戦闘だと。
「反攻に必要な位置を確保しようとしている。我々は一カ所にとどまっていない。毎日のように次々と村を奪還している」
マーチェンコ少将は開戦当初、ウクライナ南西部でロシア軍の進軍を食い止めたとして、英雄になった。当時ロシア軍はヘルソンを越えて、ミコライウやオデーサへ迫ろうとしていたのだが、少将率いるウクライナ軍は、それをせき止めたのだ。
そして、そのマーチェンコ将軍は、ロシアの戦線を突破し、ロシアの砲撃を浴びながらドニプロ川を越える攻勢に出るのは、開戦当初の防戦より、はるかに厳しい戦いになると話す。
「まともに反撃するには、こちらには一定の兵士の数と武器と装備が必要だ。これがすべてそろった時点で、反撃を開始する」
「まずは、最大300キロ先まで届く迎撃砲が必要だ。それに防空システムも。どれも、攻撃に打って出たい世界中のあらゆる軍隊に必要な基本装備だ」
最大の戦果となる州都へルソンそのものは、今のところロシアの支配下にある。秋を通じてロシアは、ヘルソンの守りを固めてきた。ウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ情報総局長は最近の取材で、ロシアは海兵隊から空挺部隊、特殊部隊にいたるまで、ロシア軍の精鋭部隊を、ヘルソン防衛に投入していると話した。
ロシア軍がヘルソンから撤退するなど、よほど軍事的に追い込まれていない限り、ありえないように思える。
ドニプロ川西岸でロシアが占領した広大な地域から、ウクライナは確かに複数の村を取り返している。しかし、州都ヘルソンそのものでロシアが固めた防衛線を、突破できるほどの戦闘力が、ウクライナにはない――というのが、前線から聞こえてくる話だ。
その情勢は、ウクライナを支えるアメリカをはじめ北大西洋条約機構(NATO)の加盟諸国から、これまで以上に強力な武器が届くようになれば、変わるかもしれない。
ウクライナ軍が無謀に突進してくるよう、ロシア軍がわなをしかけてヘルソンの一部から撤退するかもしれないという話もあるが、一部のウクライナ消息筋はこれを否定する。
その一方で、ドニプロ川西岸のロシア部隊が苦戦を強いられる中で、ドニプロ川こそ最適な天然の防衛線だと、ロシア軍司令部が判断する可能性はある。
この戦争でのこれまでの戦いぶりからして、ドニプロ川を戦いながら越えるという撤退が、ロシア軍に可能なのかどうか、はっきりしない。ウクライナ軍はロシア軍と違った形で、柔軟で有能だと、実証してきた。それだけに、仮にロシア軍が後退するのを目にしたら、間違いなく進撃するだろう。
別の要素として、イランの兵器の影響がある。イランがこれまでにロシアに提供した武器は、効力を発揮している。それだけにウクライナの軍関係者は、イランがさらに強力なドローンやミサイルをロシアに提供するのではないかと、懸念している。そうなれば、同じく海岸沿いでヘルソンに隣接するミコライウが、これまで以上に攻撃の圧力を受けることになる。
都市への攻撃は、巻き込まれる市民の殺害を意味する。
ミコライウはこのところ、ロシアの攻撃を受けてきた。攻撃は頻繁ではないが、絶えることはない。リュボフ・レウヘニウナさんは朝の光の中、破壊された自宅の中に立ち尽くし、作業する人たちがしっくいやがれきを取り除くのを、眺めていた。近所の人は、砲撃で亡くなった。
レウヘニウナさんは大手術を受けて、病院から退院したばかりだった。息子2人は陸軍にいる。そのうち1人はヘルソンの前線で重傷を負い、病院にいる。もう1人は東部ドンバスで戦っている。
「私はひとりです」と、レウヘニウナさんは言う。「この作戦のあと、たったひとりでどうやっていけるのかわからない」。
ウクライナ全土で、レウヘニウナさんのような人が、もともと多くを持たない人たちが、すべてを失っている。
ロシアは電力系を狙って攻撃を続けており、これにウクライナの人たちは苦しんでいる。ミコライウではロシアは水道を砲撃した。今では、蛇口から出てくる水は黄色くて、しょっぱい。びん入りの水を買って飲んだり料理に使ったりするだけの経済力がない住民は、給水車が運んでくる水を求めて行列しなくてはならない。
これから長い冬の戦争が待ち受けている。
●ゼレンスキー大統領“軍事侵攻が温暖化の取り組み阻害” COP27 11/9
気候変動対策を協議する国連の会議=COP27で、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの軍事侵攻により、地球温暖化に対する国際的な取り組みが阻害されていると非難しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ロシアとの戦争は6か月足らずで、ウクライナの500万エーカー(約2万平方キロメートル)の森林を破壊した」
ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、「ロシアによる軍事侵攻が環境破壊だけでなくエネルギー危機をもたらし、数十か国が石炭火力発電を再開せざるを得なくなった」と指摘。
戦争を止めるために各国への協力を求めたほか、軍事行動が気候や環境に与える影響を評価するプラットフォームの創設を提案し、「気候変動に苦しむ途上国の人々の期待に応えたい」と訴えました。
●ウクライナ侵攻部隊視察 ロシア国防相 11/9
ロシア国防省は8日、ショイグ国防相がウクライナ軍事作戦(侵攻)に参加するロシア軍部隊の拠点を視察するとともに、将兵に勲章を授与したと発表した。
国営テレビなどが伝えた。侵攻を統括するスロビキン総司令官が戦況などについて報告したという。 
●ロシア「戦略的撤退」検討か ウクライナ南部、米は交渉視野 11/9
ロシアが一方的に「併合」したウクライナ南部ヘルソン州で、ロシア軍の州都撤退が近いと言われる中、米ロ双方が今後の現実的なシナリオを検討し始めたもようだ。
ロシア側は「戦略的撤退」のアピールを早くも模索。ウクライナを支援する米側は、停戦交渉を排除すべきでないとゼレンスキー政権に働き掛けているとみられる。
「(約300年前の大北方戦争で)ピョートル大帝はいったん撤退したが、最終的にスウェーデンに勝利した」。独立系メディア「メドゥーザ」が7日に伝えたところでは、ロシア大統領府はこの歴史観に焦点を当てて報道するようメディアに通達を出した。
政権に近い学者は最近、プーチン大統領との会合で、歴史上の撤退について力説。ウクライナでの劣勢に重ね合わせたとささやかれた。
メドゥーザによると、大統領府が報道管制を強めているのは、州都ヘルソンからの撤退が現実味を帯びていることが背景にある。政権高官がかねて「ロシアは永遠にここにいる」と吹聴していたこともあり、国民に「敗北」と見なされれば、プーチン氏への批判につながりかねない。
世論対策としては、戦略的撤退と人命尊重の二つを強調し、軟着陸を図る考え。大統領府関係者は「撤退は好ましくないが、十分あり得る」と認識しているという。
一方、バイデン米政権は、ウクライナ南部情勢を節目の一つと捉えているもようだ。イタリア紙レプブリカは、米国と北大西洋条約機構(NATO)当局者が「ヘルソン解放」後に停戦交渉のチャンスが生まれるとみていると伝えた。
米紙ワシントン・ポストも今月初旬、米側がゼレンスキー政権に対し、ロシアと交渉に臨む「用意」だけでも対外的に示すよう水面下で打診していると報じた。ただ、ウクライナ側は民間人への攻撃を受け、態度を硬化させている。 
●ロシアとの交渉、占領地の「回復」が条件 ウクライナ 11/9
ウクライナに対してロシアとの交渉を行うよう求める動きがあるとのメディアの報道が出るなか、ウクライナ当局者は8日、戦争の解決には、占領された領土の回復が不可欠だとの見方を示した。
ダニロフ国家安全保障防衛会議書記は8日、ツイッターへの投稿で、ウクライナのゼレンスキー大統領の主要な条件は、ウクライナの領土の一体性を回復することだと述べた。
ポドリャク大統領府長官顧問はツイッターで、「『交渉』という言葉はどういう意味か。ロシアの最後通達はよく知られている。『我々は、戦車で来た。敗北と領土の喪失を認めろ』。これは受け入れられない。そうであれば、何を話すのか。あるいは、『降伏』という言葉を『解決』という言葉の後ろに隠しているのか」と質問した。
ウクライナ当局者の発言の前には、米当局者が過去数週間にわたってウクライナに対しロシアとの外交交渉に前向きであることを示すよう促しているとの報道が出ていた。
情報筋によれば、そうした要請は、紛争の終結が見えず、両国とも和平交渉に熱心ではないため、戦争への関与に対する米国内の支持が弱まることが危惧されているなかで行われた。
●ゼレンスキー大統領 停戦交渉再開の条件 5項目掲げる  11/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア側との停戦交渉の再開について、領土の回復やロシアが二度と侵攻しないと保証することなど5つの項目を条件として掲げました。
ウクライナとしては、交渉再開に向けては高いハードルがあるとして現時点で応じる用意はないと強調し、ロシア軍への反撃を強めていきたい考えとみられます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、7日、公開した動画の中で、ロシア側との停戦交渉の再開について「われわれは繰り返し交渉を提案してきたが、ロシアはテロ攻撃や砲撃、脅迫で応じてきた」と述べ、ロシア側を批判しました。
そのうえで、交渉再開の条件として、領土の回復や国連憲章の尊重、戦争によって生じた損害に対する賠償、それに戦争犯罪者の処罰やロシアが二度と侵攻しないことを保証するといった5つの項目を掲げました。
ウクライナとしては、交渉再開に向けては高いハードルがあるとして現時点で応じる用意はないと強調し、ロシア軍への反撃を強めていきたい考えとみられます。
一方、ゼレンスキー大統領は、8日、首都キーウを訪れたアメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使と会談し、ウクライナ産の農産物の輸出について協議しました。
農産物の輸出をめぐっては、ウクライナとロシア、それに仲介役を務めたトルコと国連の4者による協議で、ことし7月に輸出再開に向けて合意され、この合意の期限が今月19日に迫っています。
会談でゼレンスキー大統領は「ロシアが望むと望まざるとにかかわらず、農産物の輸出は継続されなければならない」と述べ、合意の継続を強く訴えるとともに、先に合意を一時的に停止したロシアをけん制しました。
●ロシアのエリート層震撼−「スターリン時代の抑圧」求める強硬派台頭 11/9
ロシア政府内で歯に衣着せぬ強硬派が台頭している。これを受け、国外でのさらなる対立と国内での全面的な抑圧を求める強硬派の声にプーチン大統領が耳を傾けるのではないかと内部者は懸念を強めている。
かつては取るに足らないと考えられていたエフゲニー・プリゴジン氏のような人物が、プーチン大統領の包括的な戦争への取り組みの動きを公に支える勢力となっており、こうした状況を企業の経営幹部や政府当局者は不安を募らせながら見守っている。プリゴジン氏は自身の傭兵会社ワグネルで知られるほか、ウクライナでの戦争のために刑務所で新兵を募集したとされている。
戦争への協力に十分に熱心ではない実業界の大物に対して、プリゴジン氏は公然と「緊急のスターリン時代の抑圧」を求めている。これを受け、一部のロシア人富裕層は自身および家族の身の安全を懸念しているという。
プリゴジン氏は軍の司令官も公然と攻撃し、その一部はその後解任されたほか、プーチン氏の盟友であるサンクトペテルブルク市知事も同氏の標的となっており、政府が身内を守ることに消極的もしくは無力であることに官僚の間でも懸念が広がっている。
ロシア政府当局者が第2次世界大戦中のソ連の独裁者スターリンの言葉に倣ってウクライナ侵攻を「人民の戦争」と呼ぶ中にあって、一部の内部者はスターリン時代の粛正や恣意(しい)的な逮捕が行われる日も遠くないと懸念する。予備役30万人が招集される中、当局者はお互いにひそかに家族が安全か確認し合い、兵役年齢に該当する子どもを海外に送ったことを公然と認めたことを心配していた。
高官の一人は現在の状況を軍事クーデターなしの軍事独裁と呼んでいる。ロシアを現在支配している感情は恐怖だと、内部者は語る。この記事のためにインタビューを受けた人は全員、報復を恐れて匿名を条件に語った。
米カーネギー国際平和基金のアンドレイ・コレスニコフ氏は「プリゴジン氏はあたかも自らが政府であるかのように振る舞っている」とし、「同氏はプーチン政権下ではないにせよ、プーチン政権後に権力争いができるかもしれない」と述べた。
プリゴジン氏(61)は、プーチン大統領の故郷であるサンクトペテルブルクで飲食業の経験を持ち、クレムリンとケータリング契約を結んでいたことから、「プーチンのシェフ」との異名を持つ。同氏は米国の選挙への干渉やアフリカや中東に傭兵を送ったなどの疑惑のために米国や同盟国の制裁対象となっている。米連邦捜査局(FBI)は2021年に選挙妨害で指名手配者のリストに掲載した。
●ロシア、主力戦車の半数を喪失か 精密誘導兵器も大半消耗 米国防次官 11/9
米国防総省のコリン・カール次官(政策担当)は8日、ロシアがウクライナとの戦争で主力戦車の半数を失い、精密誘導兵器の半数超を使い果たした可能性が高いとの見解を示した。クレムリン(ロシア大統領府)にとってこの戦争は「大きな戦略的失敗」になったとも指摘した。
カール氏はジョージワシントン大学のメディアと国防に関するプロジェクトの一環で記者団の取材に答え、「プーチン氏は失敗した」と発言。ロシアは開戦時よりも弱体化した状態で戦争を終えることになるとの見通しを示した。
またロシアは2月の開戦以来、「数万人の死傷者」を出したとの見解を示し、これは旧ソ連がアフガニスタンで被った損失に比べ桁違いに多いと指摘した。
さらに「プーチン氏は独立し主権を有する民主国家としてのウクライナを抹消しようとして今回の戦争を始めた。彼は失敗しており、それは今後も変わらない。主権を有する独立した民主的なウクライナは存続する」とした。
カール氏によると、米国では引き続きウクライナへの超党派の大きな支援が存在するが、支援のあり方やウクライナ軍のニーズは今後変化する可能性があるという。

 

●ウクライナ戦争の裏で挑発を強めるイラン 11/10
イランがウクライナを侵攻しているロシアにドローンを供与しているとのニュースが大きな話題となっている。ロシアは、何十機ものイラン製ドローンをキーウ攻撃に用い、民家、発電所を含むインフラ施設を攻撃した。米国政府関係者によれば、さらに、イランは、自爆型ドローンを有効に用いるための軍事顧問をロシアに派遣しているという。
ウォールストリート・ジャーナル紙の10月18日付け解説記事は、次のように指摘している。
・イランがロシアにドローンを供与していることは、ウクライナとそれを支援する西側諸国にとり新たな脅威となっている。
・イランは更に、ロシアに巡航ミサイルと弾道ミサイルを供与するものと思われている。
・イラン製ドローンがロシアの重要な兵器となった事実はおそらく、今後、イランの指導部による、米国とその同盟国を怒らせるための中東の域外における軍事力行使の先触れとなろう。
・イランのドローン等に対する経験があるイスラエルやサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)は、これまでそれぞれの理由からウクライナと距離を置いてきたが、ウクライナを支援するよう圧力が掛かっている。しかし、これらの諸国がウクライナを支援するか否かは不明だ。 
イラン側がドローンをロシアに供給した最大の動機は、金銭的な利益であろう。そして、ロシアを助けることで欧米諸国を困らせることもイランに心地よい話である。しかし、歴史的にロシアは、イランの領土を奪って来たため、イランはロシアを信じておらず、この出来事が抜本的なロシア・イラン関係の改善に繋がるかについては懐疑的である。
上記の記事は、イランのドローン等に経験のあるイスラエルにウクライナを支援するように求めているが、シリアの問題があるのでイスラエルにとり話は簡単ではない。つまり、シリア内戦でバッシャール・アサド政権をロシアとイランが支えているところ、イスラエルはシリアに展開しているイラン系民兵を自国への脅威と見なし、空爆を繰り返しているが、シリアの制空権を握るロシアは、黙認している。
●ロシア国防相 ウクライナ南部ヘルソン州州都からの撤退命令  11/10
ロシアのショイグ国防相は、プーチン政権が一方的な併合に踏み切ったウクライナ南部ヘルソン州の州都を含むドニプロ川の西岸地域から軍の部隊を撤退させるよう命じました。ロシア軍がウクライナ侵攻直後のことし3月から掌握していた戦略的な要衝からの撤退となれば、戦況は重大な局面を迎えることになりそうです。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの国防省は9日、戦況をめぐる会議を開き、その映像を公開しました。
この中で軍事侵攻の指揮を執るスロビキン総司令官は、ウクライナ南部のヘルソン州について、州内を流れるドニプロ川の西岸地域にとどまる部隊が孤立するおそれが出ているとしたうえで、川の東側で防衛を固めるのが最善の選択だと報告しました。
これを受けてショイグ国防相は「部隊の撤退を進め、川を渡る人員や武器、装備の安全な移送を確保するためあらゆる措置に着手せよ」と述べ、州都ヘルソンを含むドニプロ川の西岸地域から軍の部隊を撤退させるよう命じました。
ロシア軍は、ウクライナ侵攻直後のことし3月、ヘルソン州の全域を完全に掌握したと主張し、プーチン政権が9月にヘルソン州など4つの州の一方的な併合に踏み切りました。
これに対し、領土奪還を目指すウクライナ軍は反転攻勢を強め、州都ヘルソンに向けて部隊を進めていました。
ロシア軍が戦略的な要衝のヘルソンから撤退するとなれば、戦況は重大な局面を迎えることになりそうです。
ゼレンスキー大統領「非常に慎重に動いている」
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、新たな動画を公開し、ロシア軍がウクライナ南部の戦略的な要衝、ヘルソンから軍の部隊を撤退させるよう命じたことについて「きょう、情報空間には多くの喜びがあり、その理由は明らかだ。しかし、感情は控えめでなければならない」と述べました。
そのうえで「われわれは損失を最小限に抑え国土のすべてを解放するため、非常に慎重に動いている」と述べ、ロシア側の動きを見極めながらヘルソンの奪還に向けて慎重に部隊を進めていると強調しました。
さらにゼレンスキー大統領は「いま最も激しい衝突は東部ドネツク州で起きている。われわれは立ち向かい、何ひとつ譲らない」として、南部だけでなく東部でも反転攻勢を続ける姿勢を示しました。
ヘルソン州を支配する親ロシア派勢力 幹部が交通事故で死亡
ウクライナ南部ヘルソン州を支配する親ロシア派勢力のトップは9日、幹部の1人、ストレモウソフ氏が交通事故で死亡したと、SNSで明らかにしました。
ロシアの国営メディアも、ストレモウソフ氏の死亡について速報で伝えましたが、詳しい状況はわかっていません。
ストレモウソフ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアの立場を正当化するプロパガンダを、SNSを通じて積極的に発信していました。
ウクライナ軍事専門家「プーチン大統領にとって悲劇」
ウクライナの軍事専門家のジダノフ氏は、NHKのインタビューで「ヘルソンは、ウクライナへの侵攻後、ロシア軍が占領した唯一の州都であり、撤退となれば、プーチン大統領にとって悲劇であり、政治的に打撃となる」と指摘しました。
また、ウクライナ側にとっては「ヘルソンの奪還にあててきた兵力を、南部ザポリージャ州や東部ドネツク州などに振り向けることができるようになり、有利な状況だ」と分析しました。
その一方でジダノフ氏は「ロシア軍の部隊が戦線から大規模に離脱している様子は見られない」としたうえで「兵士に民間人のふりをさせたり、市民が出ていった住宅地から攻撃したりする準備を進めている」として、ウクライナ軍がヘルソンに入れば、市街戦になるおそれもあるという見方を示しました。
南部 黒海沿岸地域の戦略的要衝
ウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソンは、ロシアによる軍事侵攻において、南部、黒海沿岸地域の戦略的な要衝です。
ヘルソンは、ロシアからベラルーシを経てウクライナを縦断し黒海に注ぐドニプロ川の河口に位置し、交通の要衝でもあります。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア側にとっては、ヘルソン州は2014年に一方的に併合したクリミア半島の北に隣接し、輸送や水の供給を左右する重要な地域です。侵攻直後のことし3月、ロシア軍が掌握し、9月には一方的な併合に踏み切りました。
ヘルソンは、州内を流れるドニプロ川の西岸地域にあったロシア軍の拠点で、また侵攻後、占領した唯一の州都でもありました。
一方、領土の奪還を目指すウクライナ側にとっては、ヘルソンの奪還はロシア軍がさらに進軍するのを食い止めることになるとともに、州都を奪い返したという象徴的な意味を持ちます。
ウクライナ軍は、ドニプロ川に架かる橋を破壊するなどして、ヘルソンにいるロシア軍への補給路を断ち、孤立させるようにして反撃を続けてきました。
ヘルソン州の親ロシア派は先月以降、ヘルソンのある地域から住民を対象にした強制的な移住とともに、統治機構も安全な場所に移していると明らかにし、ロシア側が退避を余儀なくされた形です。
●ロシア国防相、へルソン占領軍にドニプロ川西岸からの撤退命令 11/10
ロイター通信によると、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は9日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソンを占領している露軍に、州都があるドニプロ川西岸からの撤退を命じた。防衛線を東岸に後退させる狙いとみられる。ショイグ氏は「我々の兵士の生命と部隊の戦力を守る」と述べた。
また、英国防省は8日、ロシア軍が、東・南部4州の占領地域へのウクライナ軍の進入を防ぐため、「竜の歯」と呼ばれるコンクリート製の障害物で防衛線の構築を進めていると明らかにした。露軍は越冬を意識して、占領地域の確保に重心を移している可能性がある。
「竜の歯」は戦車や装甲車両の通行を阻止するピラミッド型の障害物で、露軍は東部ドネツク州の港湾都市マリウポリに設置しているという。南部ザポリージャ、ヘルソン両州にも持ち込んでいるといい、東部ルハンスク州でも防衛線を築く動きが伝えられている。
露軍はドネツク、ルハンスク両州の全域制圧を目指してきたが、ドネツク州で従軍するロシア人記者は最近、露国営テレビで露軍の進軍ペースは「1日あたり3センチ」と説明した。露国防省は8日、ショイグ氏が戦地を視察し、セルゲイ・スロビキン総司令官らと戦況について協議したと発表した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8日、戒厳令と総動員令を来年2月19日まで延長するよう最高会議(議会)に提案した。いずれもロシアがウクライナを侵略した2月24日に発令し、繰り返し延長してきた。ロシアの侵略とウクライナ軍の反転攻勢は、越年が不可避と判断したものとみられる。 
●ロシア “G20 プーチン大統領対面出席見送り 外相派遣へ”発表  11/10
インドネシアで来週開かれるG20=主要20か国の首脳会議について、ロシア大統領府は、プーチン大統領が対面での出席を見送り、ラブロフ外相を派遣する予定だと明らかにしました。
インドネシアが議長国を務めるG20=主要20か国の首脳会議は、今月15日と16日にバリ島で開かれ、ウクライナ情勢を背景にした食料やエネルギーの安全保障などについて議論が交わされる見通しです。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は10日、ロシアの複数の通信社に対して、プーチン大統領が、首脳会議への対面での出席を見送り、ラブロフ外相を派遣する予定だと明らかにしました。
プーチン大統領が現地を訪問しない理由については伝えられていません。
また、インドネシアの複数のメディアによりますと、首脳会議の運営を統括するルフット海事・投資担当調整相も「プーチン大統領は出席せず、ラブロフ外相を派遣すると伝えてきた」と述べたということです。
G20の首脳会議には、アメリカ政府がバイデン大統領の出席を発表していて、ウクライナ情勢をめぐってアメリカとロシアの対立が深まる中、プーチン大統領が対面で出席するかどうか、動向に関心が集まっていました。
第1副首相や外相が出席へ
ロシア大統領府のペスコフ報道官は10日、国営のロシア通信に対し、今月18日と19日にタイの首都バンコクで開かれるAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議には、プーチン大統領ではなく、ベロウソフ第1副首相が対面で出席する予定だと明らかにしました。
これに先立ち、ペスコフ報道官は、今月15日と16日にインドネシアのバリ島で開かれるG20=主要20か国の首脳会議にもプーチン大統領は対面で出席せず、ラブロフ外相を現地に派遣する予定だと発表していました。

 

●ロシアのウクライナ侵攻、両軍の死傷者は約20万人=米軍トップ 11/11
ロシアのウクライナ侵攻で、両軍がこれまでにそれぞれ約10万人の死傷者を出しているとの見方を、アメリカ軍トップが明らかにした。
アメリカ軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長は、侵攻開始以降、民間人の死者が約4万人に上っている可能性があると述べた。
これらの数字は、西側諸国の推測値として最多のものとなる。
ミリー議長はまた、ウクライナがロシアとの協議再開を望んでいることが、交渉の「余地」を生み出していると述べた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の退任が交渉の条件だとしていたが、これを撤回。ロシアとの何らかの協議に応じる構えを見せている。
一方でミリー議長は、ロシアとウクライナが戦争での勝利は「軍事力では達成できず、別の方法を探す必要があるかもしれない」という「相互認識」に至らなければ、交渉は成功しないと指摘した。
ジョー・バイデン米大統領の最高軍事顧問であるミリー氏は、冬に入って戦闘が緩やかになる中、犠牲者の規模によって両国に交渉の必要性を訴えられるかもしれないと述べた。
「ロシア側では優に10万人以上の兵士が殺されたり負傷したりしている。おそらくウクライナ側でも同じことが言える」
両国は共に、犠牲者数を慎重に隠している。
ロシア政府が9月に発表した戦争開始後の死者は5937人。セルゲイ・ショイグ国防相は、それよりずっと多いとする報道を否定している。
ミリー議長の推定はさらに死者数が多い。なお、1979〜89年のアフガニスタン戦争でのソ連軍の死者は1万5000人とされている。
ウクライナも犠牲者の人数をほとんど発表していない。だが8月には、ヴァレリイ・ザルズニイ司令官が地元メディアに対し、9000人の兵士が亡くなったと話していた。
国連は、当事国が発表した数字は信用していないとしている。
避難した人も多数
ミリー議長はさらに、「甚大な被害、人的被害が出ている」として、侵攻開始以来、1500万〜3000万人の避難民が出たとの見方を示した。
国連によると、780万人がウクライナから、ロシアを含む欧州各地に難民として出ていったという。しかしこの数字には、家を追われたもののウクライナにとどまっている人数は含まれていない。
ロシア政府は9日、南部ヘルソン州の州都ヘルソンから軍を撤退させると発表した。ヘルソンは、ロシアが唯一占領していた州都だった。
ミリー議長はこれについて、「初期の」撤退開始を示しているとしたものの、ロシアは2万〜3万の兵士を市内に駐屯させており、撤退には数週間がかかるとみていると話した。
「ロシアは公に撤退すると発表した。ドニプロ川以南の防衛線を再確立する戦力を温存するためだと思うが、今後の動向次第だ」と述べた。
プーチン大統領は9月、予備役30万人の部分動員を発表。西側とウクライナの軍事専門家は、動員の必要性は、ロシア軍がウクライナの戦場でひどく失敗していることを示すものだと指摘している。
●戦争を支援しないなら 「スターリン時代の弾圧」にあうべき?  11/11
プーチン大統領の盟友で実業家のエフゲニー・プリゴジン氏は、ロシアによるウクライナ侵攻で影響力を発揮している。
プリゴジン氏は、戦争を十分に支援しない財界の大物たちは「スターリン時代の弾圧」にあうべきだと語った。
プリゴジン氏の発言はロシアのエリート層を不安にさせている。身の危険を感じるとブルームバーグに語った関係者もいる。
ロシアのエリート層は身の危険を感じている。ウクライナでの戦争に熱が入っていない人間は弾圧されるべきだと、プーチン大統領の盟友が発言したからだ。ブルームバーグが報じた。
プーチン大統領の盟友で、民間軍事会社ワグネル・グループの創業者でもあるエフゲニー・プリゴジン氏は、戦争を十分に支援しない財界の大物たちは「スターリン時代の弾圧」にあうべきだと語ったと、ブルームバーグは関係者の証言を引用して報じた。
「スターリン時代の弾圧」とは、ソ連時代の大粛清 ── スターリン独裁体制の下、1937年頃を中心に行われた政治キャンペーン。スターリンが脅威と見なした人間を排除することを目的としていた ── のことだ。
プリゴジン氏の発言はロシアの財界の大物や政府高官たちを怖がらせている。戦争の行方が心配だ、粛清や恣意的逮捕が怖いとブルームバーグに語った関係者もいる。
中には身の危険を感じるとブルームバーグに語った政府高官もいて、家族の安全を定期的に確認し合っているという。
プリゴジン氏は悪名高いワグネル・グループの創業者だ。ワグネル・グループの戦闘員はリビアやシリア、ウクライナでさまざまな戦争犯罪を告発されている。
直近では、ウクライナのブチャで起きた虐殺や残虐行為に関与したとされている。
ロシアによる侵攻が始まって以来、プリゴジン氏は強硬派としての自身の位置づけを強めていて、ロシア軍の司令官やショイグ国防相を大っぴらに批判している。
10月にはプーチン大統領と非公式に会い、不満を伝えたとワシントン・ポストは報じている。
カーネギー国際平和基金のシニアフェロー、アンドレイ・コレスニコフ(Andrei Kolesnikov)氏は、プリゴジン氏は「もう1つの政府のように振る舞っている」とブルームバーグに語った。
「プーチンの下でなければプーチンの後で、権力争いができるかもしれない」とコレスニコフ氏は話している。
●「防衛強化」か「敗北」か ロシアがヘルソン撤退決定 ―ウクライナ情勢 11/11
ロシアが一方的に「併合」したウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソン市から、プーチン政権が9日、ロシア軍を撤退させると決めた。表向きの理由は、州を分断するドニエプル川まで後退した上での「防衛の強化」。ただ、9月上旬の北東部ハリコフ州の要衝イジュム撤退に匹敵する「敗北」で、今後の情勢に影響を与えそうだ。
プーチン大統領は9月下旬、欧米の武器支援を受けるウクライナ軍を前にロシア軍が苦戦する中、「偽の住民投票」(欧米)を経て、ヘルソン州を含む東・南部4州の併合を宣言。ロシアの「歴史的領土」と呼んで防衛を命じるとともに、多大な戦死者を埋め合わせるため、予備役30万人を動員していた。
国際社会は認めていないが、プーチン政権としては「ロシア領」を失った格好。その点が強調されれば、ロシア国民の支持を失いかねない。独立系メディアによると、大統領府は撤退の「見せ方」を研究し、国内メディアに対して「戦略的撤退」と「人命尊重」の双方をアピールするよう通達を出していた。
もっとも、ヘルソン市からの撤退は、州全域からの撤退は意味しない。併合前に米紙ニューヨーク・タイムズが伝えたところでは、プーチン氏はヘルソン市からの撤退を進言された際、拒否していた。ヘルソン州は、ロシアが支配するクリミア半島への「玄関口」に当たる。ヘルソン市を失った後、いずれヘルソン州全域が欠けることになれば、東・南部のアゾフ海沿岸の「陸の回廊」が機能しなくなる。
撤退を進言したスロビキン総司令官は、軍を立て直すため10月上旬に任命された。ドニエプル川に架かる橋をウクライナ軍が次々と破壊する中、両岸を支配するのは困難。今回は「河岸を防衛線とするのが最も合理的」として戦略的撤退を提案しており、狙いは残るヘルソン州の大半の防衛態勢の強化だ。
戦闘員を派遣する強硬派もこの態勢を支持している。民間軍事会社「ワグネル」創設者プリゴジン氏は「責任ある決定」、南部チェチェン共和国のカディロフ首長は「正しい選択」と称賛した。
やはりロシアが併合した東部ドネツク州の港湾都市マリウポリ市でも、似たような動きがある。英国防省は8日の戦況報告で、ロシアがウクライナ軍からの攻撃に備え、市を囲うように「竜の歯」と呼ばれる戦車用の障害物を構築していると説明した。冬季に万全の防衛態勢を整えるとともに、陸の回廊を死守する構えのようだ。
●国際食料価格は7カ月連続で低下 11/11
国連食糧農業機関(FAO)は11月4日、10月のFAO食料価格指数(FFPI、2014〜2016年=100)は135.9と発表した。FFPIは2022年3月に159.7と過去最高値を記録したが、4月以降は7カ月連続で低下している。FAOは要因について、穀類価格指数が上昇した一方で、植物油や乳製品などの価格指数が低下したためとする。
FFPIは国際農産物市場の動向を監視するための価格指数で、肉類、穀類、植物油、乳製品、砂糖の5つのグループの価格指数から算出する。グループ別にみると、穀類の10月の価格指数(152.3)が9月(147.9)から4.4ポイント上昇した。FAOは10月の指数上昇について「小麦やトウモロコシ価格が上昇している」とした上で、原因は「黒海を経由したウクライナからの穀物輸出に関する合意の不透明性」にあると指摘した。ロシア外務省は10月29日、輸出合意の履行を無期限で停止すると発表したが、11月2日には一転して合意に復帰するとした(「CNN」11月2日)。その他、米国(小麦、トウモロコシ)や欧州(トウモロコシ)の生産見通しの減少なども指数上昇の一因として指摘している。
10月の植物油価格指数は150.1ポイントで、前月(152.6)から2.5ポイント低下し、前年同月比(184.8)では約20%低下した。FAOは、ヒマワリ油はウクライナ情勢の不透明感に伴って上昇したが、パーム油、大豆油、菜種油の価格が低下し、ヒマワリ油の価格上昇分を相殺したと分析している。
●ウクライナ南部で41以上の集落を解放、大統領が発表 11/11
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日の定例ビデオ演説で、ロシアがドニプロ川東岸への撤退を決定して以降、ウクライナ南部で41以上の集落が解放されたと発表した。
ゼレンスキー氏は南部ヘルソン州で進軍する部隊を称賛し、「今起きているのは数カ月に及ぶ激しい闘いの戦果であり、勇気と痛み、喪失で勝ち取ったものだ」と述べた。
同氏によると、警察の部隊がヘルソン州の複数の集落に入り情勢の安定化に努めている。
ただ、解放後の道のりは長そうだ。ゼレンスキー氏は「まずは地雷除去が必要だ」と述べ、占領者が数千発を残し、除去には数十年かかるとの見積もりを聞いているがそんなには待てないと発言。「侵略者は送電線、企業、畑、森、至る所に地雷を仕掛け、ピーク時には30万平方キロが命の危険を伴う地域になった」とした上で、工兵の努力で「地雷除去が必要な地域は残り17万平方キロになった」と述べた。
ただ、残された地域では戦闘が依然続き、敵軍が撤退時に新たな地雷も敷設しているため、作業は困難を極めるとの見通しを示した。
地雷除去を支援する国々にも感謝の言葉を述べ、オランダや米国の新たな金銭・軍事支援にも謝意を示した。
●ウクライナ軍、南部ヘルソン市周辺で大きく前進 ロシア軍撤退命令後 11/11
ウクライナ軍は10日、ロシアが自軍に撤退命令を出した南部ヘルソン州の州都ヘルソン周辺で大きく前進したと発表した。
ウクライナ軍によると、ヘルソン市の北50キロに位置する町スニフリウカを奪還したという。
ウクライナ政府も、ヘルソン市近郊の2つの前線でロシア軍を大きく押し戻し、場所によっては7キロ前進したと主張している。
ロシア国防省は9日、ヘルソン市への補給がもはや不可能になったとし、ヘルソン市から撤退するよう自軍に命じた。撤退プロセスは数週間続く可能性がある。2月末の侵攻開始以来、ヘルソン市はロシア軍が制圧した唯一の州都だった。
ロシア国防省の発表は同国の大きな後退を示すものだと見なされているが、ウクライナ当局は懐疑的で、撤退命令がわなである可能性があると警告している。
ヘルソンからのロシア軍の大規模撤退を直ちに示す証拠は得られていない。
ウクライナ軍が「重要な前進」
ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は10日、ロシア軍の撤退を肯定も否定もできないが、ウクライナ軍が重要な前進を遂げたと述べた。
ウクライナ兵はドニプロ川西岸(ヘルソンを含む地域)の2つの前線で前進し、12の集落を制圧したと、ザルジニー氏は説明した。
7キロの前進は「この1日で」達成したもので、部隊は北東と西側で前進したという。
映像では、スニフリウカに入った兵士たちが広場で地元の人々に歓迎されている様子が確認できる。
スニフリウカは主要道路が交わる場所に位置し、北側と西側をヘルソンと接するミコライウ州の鉄道の拠点となっている。
ミコライウの行政当局は、メッセージアプリ「テレグラム」に「今日は良い知らせがたくさんある」と投稿した。
10日夜には、ウクライナ語で「ch」という文字が密かに投稿されたことを受けて、ウクライナ軍がヘルソン郊外に到達したのではないかとの憶測を呼んでいた。この投稿は、ウクライナ部隊が郊外の村チョルノバイウカに到達したことを示す手がかりの可能性があるとされた。
最新の領土の獲得と喪失の詳細についてBBCは独自に検証できていないが、ウクライナ軍が数週間にわたり着実に前進している中でこうした報告があがっている。
「逃げる以外の選択肢なく」
ロシア政府は9日までに、ヘルソン市から撤退するよう自軍に命じた。
注目すべきは、ウラジーミル・プーチン大統領がテレビ放送された発表の場に出席しなかったことだ。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、ロシア軍は補給線が破壊され、指揮系統が混乱したため、逃げる以外に選択肢がなかったのだと語った。
ウクライナの国防相はその後、ロシア軍が撤退するには少なくとも1週間かかるとし、敵の行動を予測するのは容易ではないと述べた。
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、ロシアが「強い圧力」を受けていることは明らかだとしつつ、「現場の状況がどう展開するか」を注視することが重要だと述べた。
イギリスのベン・ウォレス国防相は、ロシアがドニプロ川の対岸にコンクリート製のものを設置して防衛線を築こうとしているようだと指摘している。
ウォレス氏はロシアの撤退命令について言及した際、「ロシアが自ら盗んだ財産を返還することに、世界は感謝すべきではない」と述べた。
ウクライナ大統領顧問は、喜ぶのは時期尚早だと指摘。敵は地雷を残し、遠隔での砲撃を企み、ヘルソンを「死の街」にしようとしていると非難した。
米軍高官による最新の推計によると、ウクライナ侵攻によりウクライナとロシアはそれぞれ兵士10万人が死傷している。民間人の死者も4万人に上っている。犠牲者数はさらに増える恐れがある。
こうした中、アメリカはウクライナに対し防空システム「アベンジャー」や地対空ミサイル「ホーク」など4億ドル(約568億円)規模の軍事支援を提供すると発表した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は先に、リシ・スーナク英首相とイギリスからの防衛支援の提供について協議したと明らかにした。
●ロシア軍海兵隊員300人戦死…召集兵ら「恥を知れ」「プーチン政権打倒」 11/11
ロシアが併合を宣言したウクライナの四つの占領地の一つ東部ドネツク州で、ウクライナ軍と交戦していたロシア軍がわずか4日で300人が死亡し、敗退する映像が公開された。
英国メディアのガーディアンやデーリーメールなどが7日に報じた内容によると、ロシア軍第155海軍歩兵旅団(海兵隊)は2日から現地で作戦を行ったが、成果がないまま4日で300人以上の戦死者が出たという。
公開された映像にはロシア軍海兵隊員らがウクライナ軍のミサイル攻撃を受け炎に包まれた戦車から逃げ出す様子や、また廃屋に非難した別の海兵隊員らが数秒後にミサイル攻撃を受ける様子が映っていた。別の映像には戦車が攻撃を受けて燃える中、別の戦車で大急ぎで逃走する様子も出てきた。道路の周辺には死亡した兵士らの遺体が放置されていた。
現地で4日にわたり戦闘を行った第155海兵隊は無能な指揮官を批判する手紙を公開した。
海兵隊はロシア沿海地方のコジェミャコ知事に送った手紙の中で「ムラドフ将軍やアフメドフ将軍の無能な作戦で300人が戦死した」と訴えた。
また「将軍らは責任を逃れるためドネツク州の大混乱や戦死者の数を縮小している」とした上で「不可解な戦闘で兵士たちは銃の標的になっているが、それでも将軍たちはボーナスをもらえるのだろう」と非難した。
ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説で「ドネツク州ではロシア軍の激しい攻撃が続いている」とする一方「敵はここで深刻な損失を出した」と主張した。
またロシアのタタールスタン共和国の首都カザンにある訓練センターで撮影された映像には召集兵たちが給与、飲料水、食料、装備などの不足に怒りをあらわにする様子が映っていた。怒った兵士らはクラコフ少将を侮辱する言葉を浴びせた。
前線への配置を翌日に控えた召集兵らはクラコフ少将に「ここから出ていけ」「恥を知れ」「プーチン政権打倒」などと叫んだ。
彼らは数週間の訓練を受ける間に水も食料も足りず「1970年代のさびた銃を持って前線で戦うしかない」などと不満をぶつけた。
ロシアのプーチン大統領はこれらの不満を意識し「召集兵たちを支援するため検討を行う計画がある」と述べた。また地方の公務員らには召集兵の要求に関心を持つよう求めた。
●ロシア軍総司令官「ヘルソンに部隊を残すのは無駄」…補給困難で撤退決断 11/11
ロシア軍がウクライナ南部ヘルソン州のドニプロ川西岸地域からの撤退に踏み切ったのは、ウクライナ軍の反転攻勢で州都ヘルソンへの物資補給が困難になったためだ。東岸に防衛線を一時後退させ、部隊再建を優先したとみられる。
露軍のウクライナでの作戦を統括するセルゲイ・スロビキン総司令官は9日、セルゲイ・ショイグ国防相に「ヘルソンと周辺への補給は十分できなくなっている」と率直に認めた。「西岸地域に部隊を残すことは無駄だ」とも語り、別の作戦への戦力投入を提案した。露軍は精鋭部隊を含む2万〜3万人の兵士を州都一帯に配置していたとされる。
露本土から南部の露軍への補給で死活的に重要だった「クリミア大橋」が10月に爆破され、撤退の一因になったとみられる。英国防省は9日、大橋の全面復旧は来年9月までかかるとの分析を発表していた。
プーチン露大統領への大きな影響力を持つ露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏は9日、ショイグ氏の判断を「最大の偉業だ」と評価した。プリゴジン氏は、10月初めに東部ドネツク州の要衝リマンをウクライナ軍に奪還された際、ショイグ氏ら軍部の対応を批判したが、対応を一変させた。
予備役の部分的動員で招集され、最前線に立った露兵士の死者が多数出ており、露国内に動揺が広がっている。プーチン政権は、人命重視をアピールする必要に迫られていた面もある。米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は9日、露軍の死傷者数が10万人を超えているとの見方を示した。
一方、ロイター通信によると、ロシアとウクライナの仲介役を務めてきたトルコのタイップ・エルドアン大統領は10日、露軍のドニプロ川西岸からの撤退命令を「(和平に向け)前向きな一歩だ」と評価した。

ヘルソン州 / ウクライナ南部で黒海に面する州。面積は約2万8000平方キロ・メートルで福島県の約2倍。侵略前の人口は約100万人、州都ヘルソン市は約30万人だった。ドニプロ川が州内を流れ、造船業が盛んだ。国内有数の農業地帯でスイカやトマトなどの産地。ロシアが2014年に併合したクリミア半島に接し、半島に水を供給する拠点にもなっている。 
●「プーチン氏 ウクライナ支配達成に執着」米の前駐ロシア大使  11/11
ことし9月までロシアに駐在していたアメリカのサリバン前大使は、NHKのインタビューに対し、ロシアによる軍事侵攻前の米ロの攻防の舞台裏を明かすとともに、プーチン大統領について「彼の時間軸は、われわれのものよりもずっと長く、待つことをいとわない」と述べ、プーチン氏は、時間をかけてでも、ウクライナを支配する目標を達成することに執着しているとして、強い懸念を示しました。
NHKのインタビューに応じたのは、アメリカ国務省の副長官などを歴任し、2019年12月からことし9月まで、駐ロシア大使を務めたジョン・サリバン氏です。
サリバン氏は、軍事侵攻が始まる前の去年11月、CIA=中央情報局のバーンズ長官とともに、ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記らとモスクワで会談したことを振り返り「われわれの分析によれば、ロシアが軍事侵攻することは分かっていて、そうなればアメリカと同盟国は対抗措置をとり、ロシアは壊滅的になると説明した」と述べ、侵攻の4か月近く前に直接、警告していたことを明らかにしました。
当時、ロシア側は「そんな計画などない」として全面的に否定したということです。
「ウクライナに関する計画は時間をかけて入念に作られてきた」
また、サリバン氏は「ウクライナに関する計画は時間をかけて入念に作られてきた。プーチン大統領が15年前に行った有名な演説にまでさかのぼる」と述べ、プーチン氏は、2007年、ドイツのミュンヘンで開かれた国際会議で、NATO=北大西洋条約機構の拡大を続けるアメリカを強く批判した演説を行って話題となったそのころから、すでにウクライナを支配する構想を練っていたという見方を示しました。
一方、ウクライナでロシア軍の劣勢が伝えられていることについてサリバン氏は「プーチン氏の政治的な立場はある程度弱まった」と述べたものの「政権内でプーチン氏を追放しようとたくらんでいる者たちがいるとはいえない」とも述べ、プーチン大統領は依然として権力を維持していると分析しました。
核兵器使用の可能性は
さらにロシアが核兵器を使用する可能性については「今の時点ではありそうにない」と述べ、プーチン大統領がその使用も辞さない構えを示していることに関しては「私が大使をしていたときもロシア政府の高官からは、米ロの対立が最終的には核戦争につながるかもしれないという話は何度も聞いた。ロシアが交渉の場で使ってきた常とう手段だ」と述べました。
ただ、ウクライナが南部のクリミアを奪還するなど、ロシアにとって侵攻を開始した時よりも状況が悪化した場合は「核兵器使用のリスクを考えなければならない」と述べました。
“プーチン大統領の時間軸”
そして、今後の見通しについてサリバン氏は「プーチン大統領の時間軸は、アメリカや日本の指導者たちが持っているものよりもずっと長い。待つことをいとわず、ウクライナを支配するという目標で妥協することはない」と述べました。
そのうえで「彼はロシア帝国、つまり、合法的にロシアだと信じている世界の一部を取り戻そうとしている。独立したウクライナや、英雄的なゼレンスキー大統領にがまんならないのだ」と述べ、プーチン氏は、ロシアの歴史に名を残す政治的な遺産として、ウクライナを支配するという目標を、時間をかけてでも達成することに執着しているとして強い懸念を示しました。
●トルコ大統領 中央アジア各国の首脳会議に 影響力拡大ねらいか  11/11
トルコのエルドアン大統領は、ロシアが勢力圏とみなす中央アジアのウズベキスタンを訪問し、各国との首脳会議に臨みました。中央アジアの一部の国がウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと距離を置く姿勢を見せる中、文化的にも近いこの地域で影響力を一層拡大するねらいとみられます。
トルコのエルドアン大統領は、文化的、歴史的にも近い中央アジアのウズベキスタンを訪れ、11日に中央アジア各国などと構成する「チュルク諸国機構」の首脳会議に初めて出席しました。
この中で、エルドアン大統領は「カスピ海の利用を拡大して中央アジアとの貿易量を増やす」と述べ、中央アジア各国などと自由貿易の枠組みを創設する重要性を訴えました。
また、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領は、ウクライナ情勢を念頭に、各国が深刻な対立や経済危機に直面しているとしたうえで、トルコなどとの連携の必要性を強調しました。
旧ソビエトの中央アジアは、ロシアが勢力圏とみなす地域ですが、中央アジアの一部の国はウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと距離を置く姿勢を見せています。
エルドアン大統領としては、これまでも中央アジア各国と関係強化を図ってきましたが、ウクライナ情勢を受けた地政学上の変化もにらみながら、この地域で影響力を一層拡大するねらいとみられます。
中国やEUなども関与強める動き
ロシアが勢力圏とみなす中央アジアに対しては、トルコ以外にも中国やEU=ヨーロッパ連合なども関与を強める動きを見せています。
中国の習近平国家主席は、ことし9月にカザフスタンとウズベキスタンを訪れました。
このうちカザフスタンでは、習主席は、みずからが提唱した巨大経済圏構想「一帯一路」に触れ、「両国による協力の基礎は強固で、潜在力も大きい」などと述べました。
また、先月下旬には、EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領もカザフスタンを訪れ、中央アジア5か国と初めて首脳級の会談を行いました。
さらに、EUの外相にあたるボレル上級代表が来週、ウズベキスタンを訪問し、EUと中央アジアの貿易を促進させるための会議に出席する予定です。
ロシアは、旧ソビエトの中央アジアを勢力圏とみなして安全保障や経済面などで関係を強化していて、プーチン大統領は、ことし6月、軍事侵攻後最初の外国訪問として、タジキスタンとトルクメニスタンを訪れています。
中央アジアの一部の国は、同じ旧ソビエトのウクライナに軍事侵攻したロシアと距離を置く姿勢を見せるなど、ロシアの求心力の低下も指摘される中、トルコや中国、それにEUなどが中央アジアに対する関与を強める動きを見せています。
●ガルージン駐日大使、日露関係悪化の原因は「日本側の非友好的な対応」 11/11
ロシアのガルージン駐日大使が今月離任するにあたって11日、都内で記者会見し、ウクライナ侵攻後に悪化した日露関係について日本側に責任があると改めて主張しました。
ガルージン大使は、日露関係について、非常に友好的かつ建設的だった状態が続いてきたもののウクライナ情勢をめぐる日本側の対応が原因で悪化したと指摘しました。
ガルージン駐日大使「日本側の非友好的な対応が両国関係を大きく悪化させた。両国関係の将来は不確実だ」
ガルージン氏は今後について両国関係を改善するための提案があれば対話に応じるとの考えを示しています。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、日本とロシアは、互いに外交官を国外退去処分とするなど冷却化した関係が続いています。
●駐日大使42人、退任する駐日ロシア大使の会見前に連名で「ウソの流布・・・」 11/11
今月退任するロシアのミハイル・ガルージン駐日大使は11日、日本外国特派員協会で記者会見し、2月24日のウクライナ侵略開始以降、「友好的だった日本側の(対露)姿勢が悪化した」と主張した。
ガルージン氏は2018年3月、駐日大使として着任した。侵略開始の翌25日、同協会での記者会見で「ロシアにウクライナを占領する意図はない」と述べていた。実際には、ロシアはウクライナ首都キーウ近郊まで一時進軍し、東・南部4州を一方的に併合した。
米欧などの駐日大使42人は11日、ガルージン氏の会見を前に連名で書面を発表し、侵略開始翌日の発言に触れ「これ以上、ウソを流布することは決して許されない」と非難した。
●衛星写真が捉えた「ロシア軍部隊がベラルーシ国内に集結」 北側から侵攻か 11/11
多数のロシア兵がベラルーシに流入していることを示すと見られる、新たな衛星画像が公開された。ウクライナの東部と南部で反転攻勢に押されっぱなしのロシアだが、近いうちにベラルーシの支援を得て、北側からウクライナへの攻撃を強化するつもりなのか?
米政府が資金提供するメディア「自由欧州放送(RFE/RL)」のベラルーシ版は11月8日の報道の中で、10月31日に民間衛星会社「プラネット・ラボ」が撮影した衛星画像を取り上げ、ロシアが過去1カ月間でベラルーシの3つの訓練場に300超のテントを設置したと報じた。
報道によれば、ベラルーシ西部のアブズ・リャスノウスキに、地上部隊の訓練のために190のテントが設置された。このほかベラルーシ中部のレピシチャには35のテントが設置されて砲兵隊が訓練を行っており、首都ミンスク郊外のラスビダには空軍部隊の訓練用に80のセントが設置されている。
これら3カ所のうちアブズ・リャスノウスキが最も南にあり、ウクライナとの国境地帯から北に約160キロメートルのところに位置しているという。
ベラルーシは「地域協力」の一環としてロシア兵を受け入れ
RFE/RLは衛星画像を基に、トラックや榴弾砲をはじめとする数百の軍事物資も、これらの基地に到着していると報じた。テントの多くは12メートル×7メートルの大きさらしく、ある軍事アナリストがRFE/RLに語ったところによれば、最大で25人の兵士を収容できるとみられる。これはつまり3つの訓練場に、約7500人のロシア兵が駐留している可能性を意味している。
ロシア政府は、具体的に何人のロシア兵をベラルーシに配備するのか、その目的が何なのかを明らかにしていないが、ベラルーシ国防省は、国境防衛に伴う「地域協力」の一環として、国内に9000人弱のロシア兵を駐留させると表明している。
RFE/RLは、新設されたキャンプに駐留していると推定される7500人に加えて、既存の施設にもさらに多くのロシア兵が駐留しているのかどうかは不明だと報じたが、ウクライナ軍の諜報機関は9月に、ベラルーシが2万人のロシア兵を民間の施設に駐留させる準備をしていると主張していた。
軍事研究所(ISW)は11月9日に発表した分析の中で、ベラルーシがウクライナ戦争に参加するかどうかについて、国内への影響を考えると依然として可能性はきわめて低いとの見解を示した。一方でRFE/RLは、ロシア軍がベラルーシに部隊を配備する狙いは、ウクライナ軍を東部と南部における反転攻勢から引き離すことである可能性もあると指摘した。
RFE/RLは、ロシアは「(ベラルーシから)攻勢に出るだけの戦闘力を保有していないし、近くにウクライナの重要拠点もない」というマーク・キャンシアンの指摘を引用して報じた。キャンシアンは、ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所」の軍事アナリストだ。
そのキャンシアンは、9月にウクライナ軍が反転攻勢に出て以降、ロシア軍は深刻な打撃を受けていると述べ、ロシア政府は「おそらく(反転攻勢が展開されている地域から)ウクライナ軍の注意を逸らさせたいのだろう」とつけ加えた。

 

●ロシア軍・ヘルソン市撤退で動揺不可避のプーチン  11/12
ウクライナ戦争が新たな局面に入った。2022年11月9日、約4万人規模のロシア軍が立てこもっていた南部ヘルソン州の州都ヘルソン市から全面撤退することを発表したからだ。ヘルソン州は2022年9月末にプーチン大統領が併合宣言した東・南部4州の一つ。同年2月末に始まった侵攻直後にロシア軍が制圧し、侵攻の成果を誇示する象徴だった。
それだけに撤退決定は、プーチン氏にとって、侵攻開始以来、最大の軍事的打撃となった。敗色濃くなったプーチン体制の一層の動揺は避けられない情勢だ。
ウクライナ側の巧妙な作戦
今回ロシア軍による撤退決定の最終的引き金になったのは、州都をひそかに完全包囲しようと動いていたウクライナ軍の巧妙な作戦だった。今後、ウクライナ軍は本当にロシア軍部隊が完全に撤退するのかどうか、状況を見極めつつも、新たな攻勢に出るとみられる。
次の標的として有力なのは隣のザポリージャ州の要衝メリトポリだ。メリトポリはクリミア半島の「玄関」とも呼ばれ、半島と南部を結ぶ鉄道輸送の拠点。ウクライナ軍がクリミア奪還に向けた布石として、近くメリトポリ攻略に向け動き出す可能性も出てきた。
ヘルソン市は人口30万弱の港湾都市だ。2022年8月末の反転攻勢開始以降、ウクライナ軍が奪還を目指してドニエプル川西岸にある同市をすでに東西北の3方面から包囲していた。これに対しロシア軍は、精鋭部隊である空挺部隊や特殊部隊などを投入して、南側のドニエプル川を背にする形で守っていた。
しかし唯一残っていたヘルソン市南側からの補給路を、ウクライナ軍がアメリカ提供の高性能ロケット砲「ハイマース」などで徹底的に叩いたため、弾薬や食料が尽きかけていた。ロシア軍は一度、撤退の許可を国防省に求めたが、プーチン大統領自身が死守を厳命したため、市内に立てこもっていた。その意味で、今回の撤退決定はこの死守命令を撤回したものといえ、プーチン氏にとっては撤退自体とともに二重の屈辱となった。
これまで、ヘルソン市からのロシア軍撤退の情報は何度も流れていた。しかしウクライナ側はウクライナ軍を市内での市街戦に誘い込み、打撃を与えるロシア軍の偽装作戦の可能性があると警戒していた。市民も市内に残っており、戦死者をなるべく少なくする戦略をとるウクライナ軍は市街戦を避けていた。
しかしウクライナの軍事筋によると、最近、ウクライナ軍は同州東部でドニエプル川を渡河してひそかに南下し、南部からも市を包囲する作戦を開始していた。この作戦が完了すれば、ヘルソン市は東西南北から完全な包囲状態になる。この動きにロシア軍が気付き、慌てて撤退発表に至った。
一方で、今回の撤退決定は、わざわざロシア国営テレビが決定場面を放送するという異例の形となった。この背後では、クレムリンのいくつかの苦しい狙いが見え隠れする。
一つは、撤退がクレムリンではなくロシア軍部の失敗であることを強調し、プーチン氏に批判の矛先が向かないようにするための世論工作だ。侵攻作戦を統括するスロビキン司令官がショイグ国防相に撤退を提案。国防相が賛成を表明するシーンを演出したのも、このためだろう。
もう一つの狙いは、ロシア軍が将兵の生命を大事にしているとの姿勢をロシア国民に向けにアピールする狙いだ。この背景には、2022年11月に入ってロシア軍兵士の戦死者が大幅に増加していることがある。
ロシア動員兵をめぐる悲惨な話
ロシアの独立系メディアなどの報道によると11月1日、東部ルガンスクで9月の部分動員令で招集された動員兵で構成された大隊がウクライナ軍の集中砲火でほぼ全滅し、約570人が戦死した。この部隊はスコップ3本しか与えられないまま、手で塹壕を掘らされていたという。
動員兵をめぐる悲惨な話はウクライナ軍も発表している。それによると、ロシア軍はウクライナ軍の火砲の位置を調べる目的で、銃を持たせないままで動員兵を囮として最前線に飛び出させているという。このため、怒った動員兵の間で反乱が起きて、上官を射殺する事態も起きているようだ。軍服や銃など満足な装備も与えられないことに怒った動員兵たちの集団投降や、プーチン氏への批判もSNSで流れている。
現時点で、こうした状況に対する国民の不満が社会に広く拡散するという事態にはまだ至っていない。しかし、この状況が続けば、政権批判の高まりにつながる可能性はある。クレムリンとしては、不満のマグマが大規模な反戦運動として噴出する事態を未然に防がなければ、という危機感があるとみられる。
プーチン氏は2022年11月3日、動員兵に日本円で約45万円の一時金を支払うと発表したが、これもこうした危機感の表れだろう。
戦況も好転せず、国民の間で戦争への不満も芽生え始めているという苦しい中で、クレムリン内では、プーチン氏がいまや、政権維持装置として2人の部下に強く依存する新たな権力構造が生まれている。2人とは、民間軍事会社ワグネルの創始者であるプリゴジン氏とチェチェン共和国のカディロフ首長だ。
ロシア連邦保安局(FSB)出身のプーチン氏にとって、これまで大きな権力基盤は情報機関であり、軍部だった。しかし両機関は、クレムリンからは侵攻での苦境をもたらした戦犯扱いされており、プーチン氏としては、より実行力のあるプリゴジン氏とカディロフ氏に頼らざるをえなくなっている。
侵攻作戦の中で失態を繰り返す軍部と異なり、各戦線でウクライナ軍と張り合っているワグネル部隊を率いるプリゴジン氏をプーチン氏が頼もしく思っているのだろう。プリゴジン氏は兵員不足を補う苦肉の策である、受刑者の動員でも先頭に立っている。カディロフ氏率いるチェチェン人部隊も戦力として目立っている。
プーチン側近による自軍批判
この依存関係を物語るように、プリゴジン氏とカディロフ氏の言動は次第に過激になってきている。2人とも作戦や軍幹部への批判も繰り返している。
プリゴジン氏は2022年11月7日、ワグネル社がアメリカの選挙に干渉してきたとあけすけに述べ、アメリカのメディアを驚かせた。従来、クレムリンで陰の存在だったプリゴジン氏のこれ見よがしの言動は、部下が目立った行動をすることを嫌うプーチン氏にとって、従来なら許されないはずの行動だ。それだけ、プリゴジン氏には行動に一定の自由が認められているということだろう。
もはや誰の政治的介入も許さないという「強い独裁者プーチン」のイメージは消えている。
クレムリン内部でこうした政権の立て直しを進める一方で、プーチン氏として目下の最大の関心時はウクライナ側との間で何らかの停戦交渉にこぎつけることだろう。
なぜなら、今後ヘルソン市を奪還すればウクライナ軍の攻勢が一層強まることは必至だからだ。おまけにイラン供与の無人機などを使い、2022年10月初めから始めたウクライナへのインフラ攻撃も、形勢逆転への完全なゲームチェンジャーにはなっていないのが実情だ。戦局の主導権は相変わらずウクライナ側が握ったままだ。
このため何とかウクライナ側との間で停戦交渉を始めることで、反転攻勢を一時的にでも止めて、態勢立て直しの時間的余裕を得たいとプーチン氏が考えているのは間違いないところだ。
停戦交渉へ世界から同調ほしいプーチン
2022年11月15〜16日にインドネシアのバリ島で開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)にプーチン氏は結局欠席を決めたが、何らかのメッセージを寄せる可能性はあるという。ロシアは中国、インド、開催国のインドネシアなどから、停戦交渉を求める声を集めたいところだろう。
G20以外でも、食糧危機やエネルギー危機への懸念から、ウクライナ戦争の早期終結を求める声が多い、アフリカ、アジアなど、いわいるグローバル・サウス諸国にもロシアは同様の働き掛けをしているとみられる。
それでも、停戦交渉がすぐに実現する可能性は今のところ、高くないといえる。
アメリカでの報道によると、バイデン政権はプーチン氏との和平交渉を断固拒否しているウクライナのゼレンスキー大統領に対し、態度を和らげるよう、やんわりと要請したといわれる。アメリカ議会からウクライナに対し、あまりに外交解決に後ろ向きすぎると批判が出ることをバイデン大統領が懸念しているといわれている。
この懸念を伝えられた後に演説したゼレンスキー氏は、確かにプーチン氏との交渉拒否をロシアとの交渉開始の条件から落とした。しかし戦争犯罪の追及などその他の条件は変更しておらず、実質的にはプーチン氏との交渉拒否の姿勢を変えてはいないといわれている。
ロシアとの交渉は、ロシアが2014年のクリミア併合以降に占領したすべての領土から撤退するのが前提というゼレンスキー政権の大方針は変わっていない。米欧もこの大方針支持に変わりはない。
こうしたことから、ロシアと、ウクライナと米欧との間では、自らへの同調国を増やそうと、水面下で外交合戦が今後ヒートアップするのは必至だ。
その一環として、米欧は中国やインドに対し、核兵器の使用や脅しをやめさせるためロシアを説得してほしいと外交的圧力を掛けているといわれる。とくに中国に対しては、国名を出さない形でも構わないので核兵器使用に反対するよう呼び掛けていると囁かれている。
中国の習近平国家主席は2022年11月4日の北京でのショルツ・ドイツ首相との会談で、ウクライナでの「核兵器使用や脅しに対し共同で反対する」との異例の共同声明を発表した。この声明はロシアには言及しておらず、米欧の圧力が奏功した可能性もある。
撤退はロシア側の「善意」か?
一方でロシアの今回のヘルソン撤退決定の裏にも、実は外交的思惑があるとの指摘もある。撤退について、戦闘回避に向けたロシアの善意の表れと一方的に強調することで、停戦交渉に向けた国際的な機運醸成につなげるという狙いだ。
これに関しては、ほかにも筆者が注目している点がある。2022年10月10日からロシアによるミサイル攻撃が続いていたウクライナの首都キーウでは10月31日以降、11月10日までの時点でイラン製ドローンやミサイルによる空襲がやんでいることだ。単なる偶然かもしれないが、気になるところだ。
しかし、軍事的苦境からの脱却を図るこうしたロシアの思惑をよそに、ウクライナはさらに占領地奪還を進める構えだ。先述したメリトポリ以外にもドネツク州の要衝マリウポリの奪還も図る可能性がある。マリウポリはアゾフ海に面した港湾都市で、ここを奪還すれば、ウクライナ軍が反転攻勢後、初めてアゾフ海に到達することを意味する。
メリトポリやマリウポリからは、クリミア半島へのミサイル攻撃も可能になる。軍事筋は今回のヘルソン撤退決定によって、ウクライナ側の奪還計画の進行が「3週間程度早まるだろう」との見方を示す。この言葉通りであれば、2022年11月から12月に掛けて、ウクライナの奪還攻勢は新たなヤマ場を迎えることになりそうだ。
一方で先進7カ国(G7)は2022年11月初めにドイツ西部ミュンスターで開かれた外相会合で、ロシアにウクライナ侵攻の即時停止を要求する一方で、ウクライナの越冬支援を約束する共同声明を発表して、ゼレンスキー政権をあくまで支える姿勢を示した。
これに関連して、2023年にG7議長国になる日本政府は、早期の停戦交渉を求めるロシア側に耳を傾けがちなグローバル・サウス諸国に対し、G7唯一のアジア勢として日本が単独で、より積極的にロシアによる侵攻の非道さとウクライナ支援の必要性をアピールすべきではないか。
●国連の存在に意味はあるのか?…「ロシア・ウクライナ戦争」で判明したこと 11/12
「理想主義」の崩壊で始まった第2次大戦
まず、本記事での主張は筆者個人のものであり、所属組織の考えではないことを書き添えておきます。
1939年、現実主義(リアリズム)の国際政治学者であるE・H・カーは『危機の二十年』を著し、第1次大戦後に広がった自由主義的国際主義を「理想主義(ユートピアニズム)」として批判します。たとえば、
・ロカルノ条約やパリ不戦条約などの理性による問題解決⇒不戦を誓えば、戦争は起きない
・貿易拡大による利益の調和⇒経済の結びつきを強めれば、戦争は起きない
・国際連盟がうたった集団安全保障体制⇒他国に侵攻されても助けてくれる
といった考えです。
しかし、上記を含む枠組み、すなわちヴェルサイユ体制は長くは続かず、同著の出版と重なるように、第2次大戦が勃発します。
プーチンは「NATOの東方拡大」で戦争を決意か
カーの主張になぞらえれば、冷戦終結後は『危機の30年』だったといえるでしょう。
歴史を振り返ると、まず、1971年に西側覇権国の指導者が、アジアの(眠れる)巨大な新興国を訪問すると電撃発表します。訪問は翌1972年に実現します。今年はそれからちょうど50年です。この訪問は、冷戦の相手であった東側の覇権国を「封じ込める」ためでした。
その後、1980年代に軍拡競争が極まり、それが軍縮を呼んで、冷戦は1991年に終結します。
しかし、西側の覇権国は、1991年の冷戦終結後もアジアの巨大な新興国に対し、「自由貿易を通じて経済成長を促し、豊かになれば自由主義的民主主義の国家に変容する」との関与政策(engagement)を続けました。
しかし思惑は外れ、アジアの巨大な新興国は「経済と軍事の大国」として西側の覇権国に挑戦するまでに台頭しました。その成長を促したのは、ほかならぬ西側の覇権国だったわけです。
また、西側の覇権国による「自由主義的民主主義を世界中で拡大しよう」とする働きかけは、欧州大陸では「西側安全保障同盟の『東方拡大』」となって、ユーラシアの大国を率いる指導者の「生存」を脅かし、彼に約80年ぶりとなる欧州での戦争を決心させたとの見方もあります。
今回の戦争で改めてわかった3つのこと
今回の戦争で改めてわかったことが3つあるでしょう。
第1に、国連がそのもっとも重要な機能を失いつつあるということです。
集団的自衛権を認めた国連憲章第51条には「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間……」とあります。
国連加盟国が他国から侵略を受けた際には、本来であれば、国連安全保障理事会の常任理事国が国連軍を組織して加盟国を助けに向かうわけですが、今回は、その理由や背景はどうあれ、国連安全保障理事会の常任理事国が他国に侵攻を行ったわけです。
第2に、西側の覇権国は、核兵器を保有する侵略国に対して直接の武力行使を行わないかもしれないということです。
もちろん、1「経済制裁の次の手段として武力行使がある」という考えかもしれませんし、2「西側覇権国と今回侵攻を受けた国のあいだには、(明確な)同盟関係がないので集団的自衛権を行使しない」という立場かもしれません。
しかし、これまでの経済制裁や武器貸与の内容を見る限り、侵略を受けた国はともかく、少なくとも自国(西側の覇権国)に対しては核兵器が使用されない程度の支援に留めているようにみえます。自国の領土が核攻撃されるリスクは最小化して当然でしょう。
『オフショア・バランシング』
あるいは、国際政治学者のジョン・ミアシャイマー米シカゴ大学教授とスティーブン・ウォルト米ハーバード大学教授が提唱するように、西側の覇権国は『オフショア・バランシング』を一部採用しているのかもしれません。
オフショア・バランシングは、西側の覇権国が「世界のあらゆる場所で自由主義的民主主義を推進する」という、コストが極めて高く、実際に失敗を重ねてきた「大戦略」をとるのではなく、他の地域の同盟国に域内での新興国の台頭をけん制させ、必要な場合のみに介入するという政策です。
これにより、資本が効率的に使われて経済の生産性は高まり、財政はより持続可能な状態になって覇権はより長く保たれます。また、軍事力という公共財への「ただ乗り」も排除でき、民族主義者の恨みを買ってテロに遭うリスクも減ると考えられます。
合わせて、紛争が生じた場合には、まずは地域の同盟国に第1の防衛線(first line of defense)として当たらせるべきだとしています。これにより、自らの戦力の損耗を防げます。
今回の戦争が、日本に与える示唆
これら2つ、すなわち、国連安全保障理事会の機能不全と核保有国による軍事力の行使を目の当たりにすると、アジア地域での有事を考える場合、現在の戦争がそうであるように、日本は、同盟国である西側の覇権国に武器などの提供を受けつつ、「自分たちの手で自国を守る」ことになるでしょう。
「アジアでは有事は起きない」という人も大勢いらっしゃると思います。
しかし、その必要条件は、貿易上のつながりの強さではなく、強固な同盟を持つことと、域内のパワー・バランス(勢力均衡)を保つことにほかならないように思えます。
今回の戦争でいえば、1西側覇権国と今回侵攻を受けた国の間に(明確な)同盟がなかったことと、2「西側安全保障同盟の『東方拡大』によって、欧州地域のパワー・バランスが崩れていたことが戦争の一因とされ、国連加盟はもとより、(天然ガスの輸出入を中心に)ユーラシアの大国と欧州諸国との貿易上の結びつきは戦争抑止に効果を持ちませんでした。
日本の場合、同盟関係は以前よりも強固になっています。2016年の暮れに日本の首相(当時)が西側覇権国の次期指導者を説得し、アジアの大国に対する「関与政策」を「封じ込め政策」へと転換させました。政権が変わったいまも封じ込め政策は継続されています。
また、それに先立ち、集団的自衛権行使の限定容認と平和安全法制の整備を完了させたことも、同盟関係に大きく貢献しているといわれます。
見上げた空の青さは、タダで得られたものではなく、過去の政治判断にも負うものと考えられます。
他方で、防衛能力に関しては十分とはいえません。アジアの大国は国防支出を毎年7%程度のペースで拡大する一方、日本の防衛支出はほとんど横ばいで、地域のパワー・バランスは崩れる一方です。
●ウクライナがチェチェン独立を事実上の承認。ロシア大崩壊の予兆か 11/12
ウクライナのために戦う「独立派チェチェン人」
ロシア軍のミサイルやドローンによる攻撃が続く最中の10月18日、ウクライナ最高会議(国会)は、チェチェン共和国イチケリアの主権を認める声明を採択した(賛成287、反対0、無投票64)。
これは、歴史的意義のある決定だ。
チェチェンはロシア連邦に属する共和国で、人口は約150万人、岩手県ほどの面積しかない。その小さな共和国の主権を認めること、つまり「ロシアから独立した国」としてウクライナ国会が認めることに、なぜ歴史的意義があるのか。
ウクライナ戦争に関心の高い人は、「チェチェン」と聞けばプーチン大統領の傀儡のカドゥイーロフ首長が国内で独裁を振るい、その私兵をロシア軍の一員としてウクライナに侵略に参加させ、ウクライナ人を攻撃し狼藉を働いていることを思い浮かべるだろう。
それは事実なのだが、実は「もう一つのチェチェン」が存在するのだ。「もう一つの」というよりは「本来のチェチェン」が存在する。それは、ロシアの支配に屈せず、弾圧を受けてヨーロッパなどに亡命した独立派チェチェン人たちである。  彼らは、2014年にロシアがクリミアを一方的に併合し、ウクライナ東部を侵略したときからウクライナ入りして、ウクライナのためにロシアと戦っている。そして、2月の全面侵攻以降は、その数を増している。
チェチェンに侵攻し、「大虐殺」を行ったロシア
そもそもチェチェン人はロシア人とはまったく違う民族で、言語も文化も宗教(イスラム教)も風習も違う。16世紀末ごろから拡大をはかるロシア帝国との戦いが始まり、結局1860年代にはロシア帝国に武力併合された。  
その後、何度もチェチェン人は独立のために立ち上がり、そのたびに武力でつぶされてきた。直近では、第一次チェチェン戦争(1994年12月〜1996年8月)第二次チェチェン戦争(1999年9月〜2009年4月)があり、約20万人が犠牲になった。戦争直前のチェチェンは人口100万人強だったから、「大虐殺」としか表現できない状況であった。
ソ連崩壊後に大混乱をきたしたロシア連邦は、およそ3年の間はKGB(国家保安委員会、後身機関はFSB)の暗殺や諜報活動も停滞し、対外膨張の動きがとどまっていた。
一転して大ロシア主義の再拡大に向けて動き出したのが1994年12月のチェチェン侵攻である。それ以降、大ロシア主義の拡大がつづき、プーチンによる第二次チェチェン戦争は、ウクライナ全面侵攻につづく暴走の起点と言わなければならない。ロシア軍は、チェチェンで犯した残虐行為をそのままウクライナで実施している。
かつてはウクライナ人がチェチェンのために戦っていた
そして今、“ロシア帝国”に屈服したカドゥイーロフ派がチェチェン共和国で独裁権力を握り、恐怖政治を続けている。その“親分”のプーチン大統領と“子分”のカドゥイーロフ首長が連携してウクライナを攻撃。それに対して、ウクライナとチェチェン軍(チェチェン独立派軍事勢力)がウクライナ戦争で対決する構図になっている。
かつてロシア軍がチェチェンに侵攻して住民を大虐殺していたころ、多くのウクライナ人はチェチェンを助けるために義勇兵としてロシア軍と戦っていた。1995年初頭に撮影されたと考えられるYouTube動画では、チェチェン兵とともに戦うウクライナ義勇兵は、こう明言していた。
「チェチェンのために戦うのは、ウクライナを守ることである」
そして27年後の今、「ウクライナのために戦うのは、チェチェンを守ることである」と明言して、チェチェン人義勇兵たちがウクライナのために戦っているのだ。
このように、チェチェンを通した視点で見ると、ウクライナ戦争の違う側面が見えてくる。
チェチェン独立派亡命政府とウクライナが協定を結んだ
昨年夏、プーチン大統領は、「ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人は三位一体のロシア民族だから一体となるなるべきだ」などと主張する論文を発表した。要は兄弟民族ということだが、この論でいけばいま兄弟殺しをしていることになる。
「兄弟民族」と言うのなら、ロシアによって大規模な虐殺を受けたにも関わらず、屈せずに抵抗しているウクライナ人とチェチェン人のほうが、むしろ「兄弟」といえるのではないか。しかも、両民族のロシアへの抵抗は今に始まったことでなく、過去数百年にわたって断続的に続いている。
特に今年7月末、チェチェン・イチケリア共和国(独立派亡命政府)のアフメド・ザカーエフ首相とウクライナ軍との間で協定文書が調印されたことが重要だ。その内容は、ウクライナのために戦っているチェチェン人部隊を外国人部隊としてウクライナ軍に組み入れるというものだ。  なお「イチケリア」とは山岳・高地を意味する。国際選挙監視団のもと選挙で選ばれた独立派政府は、国名を「チェチェン・イチケリ共和国」と定めている。
現在のチェチェン共和国は、ロシアにより一時的な占領状態にある
この協定を受けて行われた8月4日の記者会見では、亡命政府のザカーエフ首相が意気込みを語っている。
「いまウクライナで起きていること、ウクライナの人々が体験していることを、チェチェン人ほど理解している民族は世界にいないと思う。今回ロシア軍が全面侵攻した2日後の2月26日、ブリュッセルにおいてヨーロッパ中のチェチェン人からなる軍事組織をつくってウクライナに派遣すると決定した。
その2日後、ゼレンスキー大統領は外国人義勇兵を正式に受け入れると表明し、われわれの活動が合法的なものになった」(趣旨)
ロシアがチェチェンに対して行った集団殺戮の事実を見れば、今現在殺戮を受けているウクライナについて深い共感を示すザカーエフ首相の言もうなずける。それだけに、ロシアと一体化してウクライナ侵略に参加する、カドゥイーロフ首長の私兵たちの頭と心の中を知りたくなる。
ともあれ、チェチェン部隊を正式に認めたのに続いて、10月18日のウクライナ最高会議では「チェチェン・イチケリアの主権を認める声明」が採択されたのである。
この声明は、独立したチェチェンの主権を確認し、ロシアによるチェチェン人大量虐殺を批判し、「現在のチェチェン共和国は、ロシアにより一時的な占領状態にある」と位置づけている。
実際、1991年にチェチェン共和国が主権宣言して以降、ソ連崩壊後のロシア連邦条約署名を拒否し、またチェチェン戦争においても降伏文書のたぐいは一切ない。独立状態のチェチェンをロシアが占領している状況だと言えるだろう。
チェチェンを皮切りに、ロシア国内の少数民族地域で分離独立運動!?
ウクライナ高会議によるチェチェンの主権確認が「歴史的」だと冒頭で述べたのは、過去から現在までの両民族による抵抗の歴史を踏まえたものだが、さらには近未来を示唆しているともいえる。
最高会議がチェチェンの主権を確認した日、ウクライナ国防省のキリロ・ブダーノフ情報総局長は、「(ウクライナでの)戦争が終結すれば、一部の地域がロシアから分離するだろう」と指摘し、それはコーカサス地方から始まると述べた。
ロシア連邦南部の「コーカサス地方」と広い地域を指しているものの、そこに位置するチェチェンを意識していることは間違いない。
今回の議会での決定は、正式な国家承認のように公使館を開設するようなものではないが、チェチェンの独立を認めたも同然だ。
ウクライナ状勢次第(特にロシアの敗北)では、ロシア連邦の崩壊と混乱が起きる可能性がある。チェチェン分離独立の再燃が、その起爆剤になる可能性があるのだ。そして、それがモスクワの権力に反感を持つ多くの少数民族地域に飛び火することも十分に考えられる。
10年、20年後に振り返ってみた時、今回のウクライナ最高議会の採択が歴史のターニングポイントになるかもしれない。
●ロシア軍が占領中のウクライナ南部マリウポリ、集団埋葬地に1500超の墓 11/12
ウクライナ南部の港湾都市マリウポリ近郊で1500以上の新たな墓が発見された。英国の日刊紙タイムズが7日(現地時間)に報じた。
タイムズは米国の商業衛星マクサーが撮影した衛星写真を分析し、マリウポリ近郊で集団埋葬地の数が1500以上増えたと報じた。現在ロシア軍が占領しているマリウポリは今回のウクライナ戦争で最大の激戦地の一つだった。
衛星写真を分析した英国の非営利団体「Centre For Information Resilience(CIR)」は今年2月末のロシアによるウクライナ侵攻直後から、この地域に4600以上の墓が作られたと推定している。開戦から今年6月末までに3100の墓が出現し、6月末から10月12日までには1500以上の新たな墓が発見されたという。
墓が増加する理由は、マリウポリ市内で破壊された建物の残骸から次々と遺体が回収されているためとみられる。マリウポリ市内に住むある住民はBBC放送の取材に「ここ数カ月の間にロシア当局が市内の建物の残骸から遺体を回収し、運び出す様子を目にした」と伝えた。
マリウポリは戦争直後からロシア軍の無差別爆撃を受け、多くの建物が破壊されるなど深刻な被害が発生している。数千人の住民が避難していた市内の劇場でもミサイル攻撃で600人以上が犠牲になった。
ウクライナ軍の最後の抵抗拠点だったアゾフ製鉄所が今年5月にロシア軍に引き渡され、これによりマリウポリはロシアに占領された。ウクライナは「開戦からマリウポリでの戦闘で少なくとも2万5000人が死亡し、5000−7000人が破壊された建物の下敷きになり犠牲になった」と推定しているという。
●徴兵逃れのロ技術者がジョージア流入、経済2桁成長へ 11/12
戦火の影響で欧州経済が苦境に陥る一方で、ロシアの南西に国境を接する小国が、予想外の好景気に沸いている。ジョージアだ。
ジョージアは今年、世界で最も成長率の高い国の1つになろうとしている。ロシアによるウクライナ侵攻、さらには戦力補充のためプーチン大統領が発した部分動員令から逃れるため、10万人以上のロシア人が一気に流入したためだ。
世界の大半の国が危うい足取りでリセッションに向かう中で、複数の国際機関は、黒海に面した人口370万人のジョージアが、消費主導の好景気のもと、2022年に10%という非常に大きな経済成長を記録すると予想している。
ジョージアの経済規模は190億ドル(約2兆7900億円)と決して大きくはない。山岳や森林が広がり、ワイン生産が盛んな渓谷で知られる国だが、予想が正しければ、経済が過熱気味のベトナムなど新興市場国や、原油価格の高騰による恩恵を受けるクウェートなど石油輸出国よりも高いペースで成長することになる。
ジョージア最大手の銀行TBCのバクタング・ブツクリキゼ最高経営責任者(CEO)は「経済面では、ジョージアは非常に好調だ」と語る。
「ある種の好景気だ」とブツクリキゼCEOは言う。「企業規模の大小を問わず、あらゆる産業が非常に好調だ。今年何らかの問題が生じている業界は特に思いつかない」
出入国管理統計を見ると、今年ジョージアに入国したロシア人は少なくとも11万2000人。ジョージア政府によれば、最初に4万3000人の第1波が到着したのは、ロシアによるウクライナ侵攻後、プーチン大統領が国内の反戦運動を弾圧した後のことだ。第2波は、9月末のプーチン氏による全国規模の部分動員令発表がきっかけだった。
どの程度の期間続くのかはともかく、ジョージアの好景気は多くの専門家を当惑させた。旧ソ連圏であるジョージアの経済は、隣接する大国ロシアと輸出や観光業などで緊密に結びついており、今回の戦争により手痛い打撃を受けると見ていたからだ。
たとえば欧州復興開発銀行(EBRD)は3月、ウクライナでの紛争がジョージア経済に大きな打撃を与えると予想した。同じく世界銀行も4月、2022年のジョージアの成長率見通しを当初の5.5%から引き下げ、2.5%になると予想した。
「私たちが皆、ウクライナでの戦争がジョージア経済に大きな悪影響を与えると予想していたのに反して、これまでのところ、そうしたリスクが具体化する様子はない」と語るのは、EBRDで東欧・コーカサス地域担当主席エコノミストを務めるディミタル・ボゴフ氏だ。
「それどころか、今年のジョージア経済は非常に順調な2桁成長を見せている」
とはいえ、目覚ましい経済成長の恩恵を、あらゆる人が享受しているわけではない。万単位で流入したロシア人の多くが高所得のテクノロジー専門家だったため、物価が上昇。ジョージア国民の中には、賃貸住宅市場や教育など、経済の一部から締め出されてしまう人も出ている。
さらに企業経営者は、戦争が終わってロシア人が自国に戻れば、ジョージア経済がハードランディングに見舞われるのではないかと懸念している。
流入資金は10億ドル
ジョージア自身も2008年、南オセチア地方、アブハジア地方を巡りロシアと短期間だが戦っている。いずれも、ロシアの支援を受けた分離独立主義者が実権を握った地域だ。
だが今のところ、超大国ロシアと国境を接し、ロシアやその他多くの外国の出身者に対してビザ無しで居住・就労・企業設立を認める寛容な移民政策をとっていることが、ジョージア経済に恩恵をもたらしている。
それだけでなく、ロシアによる戦争から逃れてきた人々は豊富な資金を携えている。
ジョージア中央銀行によれば、4―9月にロシア人が銀行や海外送金サービスを経由してジョージアに移した資金は10億ドル超と、前年同期の5倍に上る。
こうした資金流入により、ジョージアの通貨ラリは3年ぶりの高値圏に上昇した。
TBCのブツクリキゼCEOやジョージア国内の報道によれば、入国したロシア人の約半分はテクノロジー関係者だ。一方ロシア側のテクノロジー産業における調査や推測では、ウクライナ侵攻開始後、柔軟な働き方が可能なIT労働者が万単位で国外流出したことが分かっており、双方の数字はつじつまが合っている。
トビリシ国立大学国際経済大学院(ISET)のダビット・ケシェラバ上級研究員は「トップクラスの裕福な人々が、何らかの事業のアイデアを携えてジョージアにやってきて、消費を劇的に増やしている」と分析する。
「戦争はネガティブな影響を数多くもたらすと予想していた」とケシェラバ氏は言う。「だが、まったく違う結果が出た。影響はポジティブだった」
首都では賃貸物件不足に
新たな人口流入の影響がどこよりも顕著に表れているのが、首都トビリシの賃貸住宅市場だ。需要の増大により、需給が一段と逼迫(ひっぱく)している。
TBCの分析によれば、トビリシにおける賃料は今年75%上昇した。低所得層や学生の一部は、支援活動家の言う「深刻化する住宅危機」に飲み込まれてしまった。
ジョージア人のナナ・ショニアさん(19)は、ロシアによる侵攻が始まるほんの数週間前に、トビリシ中心部の集合住宅で2年間の賃貸契約を結んだ。賃料は月150ドルだった。ところが7月になって家主から退去を求められ、中心部から離れた治安の悪い地区に引っ越さざるを得なくなった。
「以前、通勤時間は10分だった。今は最低でも40分はかかる。バスと地下鉄に乗らざるを得ず、渋滞に引っかかる場合も多い」とショニアさんは言う。原因は、新規流入による人口急増に応じて市場構造が変わったせいだという。
インドから留学している医学生のヘレン・ジョゼさん(21)は、夏季休暇中に家賃が2倍に上がってしまったため、1カ月にわたり友人の家に転がり込んでいる。
「以前ならアパートを探すのはとても簡単だった。だが、友人の多くは退去を言い渡された。ロシアから来た人たちは、私たちよりも高い家賃を喜んで払うから」とジョゼさんは言う。
ISETのケシェラバ氏によれば、市内で住居を確保する余裕がないためにトビリシでの学業に遅れが出ている学生がかなりの数に達していることが、大学側のデータからも分かるという。
「危機が遅れて来る可能性も」
TBCのブツクリキゼCEOは、ロシアからの新たな人材流入により、ジョージア経済においてスキルギャップが埋まる可能性があると考えている。
「彼らはとても若く、テクノロジーの素養と知識がある。TBCや他のジョージア企業にとって、これは非常に有益なチャンスになる」とブツクリキゼCEOは言う。
「ジョージア企業にとって重要な課題はテクノロジーだ。残念ながら、その分野での競争相手は欧米のハイテク企業だ」と同CEOは言葉を続ける。「手っ取り早く勝つには、ロシアからの移民は非常に助けになる」
だが、エコノミストや企業関係者は依然として、戦争による長期的な悪影響やロシア人が帰国した場合に生じかねない事態を憂慮している。
ジョージア有数の不動産デベロッパーであるアルキのシオ・ケツリアニCEOは「新たに流入した人々に関して将来的なプランができていない」と語る。
ケツリアニCEOによれば、賃料が上昇しているとはいえ、建築資材や備品の価格が高騰していることもあって、デベロッパーは住宅市場への過剰な投資を控えているという。賃料高騰で家主が潤っている一方、集合住宅の物件売買による利ざやはほとんど変わっていないと同氏は語る。
エコノミストらはさらに、好景気は長続きしない可能性があると警告。余裕がある間に、政府は潤沢な税収を使って債務を返済し、外貨準備を積み立てておくことが望ましいとしている。
「今年の成長を後押ししている要因はすべて一時的なものであり、今後何年も持続可能な成長が保証されているわけではないことを認識すべきだ。だからこそ、警戒が必要になる」とEBRDのボゴフ氏は言う。
「不確実性は残っており、多少の遅れはあっても、ウクライナ侵攻による悪影響をジョージアが受ける可能性はある」
●ウクライナ軍特殊部隊がヘルソン市内に 喜び合う市民の姿も  11/12
ウクライナ南部のヘルソン州をめぐりロシア国防省は11日、州都ヘルソンを含む地域から部隊の撤退を完了したと主張しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は軍の特殊部隊がヘルソン市内に入ったと明らかにし、多くの市民が広場に集まり、喜び合う姿も伝えられています。
ロシア国防省 部隊の撤退が完了したと主張
ウクライナ南部のヘルソン州をめぐり、ロシア国防省は、州都ヘルソンを含む、ドニプロ川の西岸地域で軍の部隊が孤立するおそれがあるとして、部隊の撤退を進め、コナシェンコフ報道官は11日、「すべて川の東岸に撤収した」と述べ、撤退が完了したと主張しました。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日のビデオ声明で「きょうは歴史的な日だ。われわれはヘルソンを取り戻しつつある。軍の部隊がヘルソンに向かっていて、特殊部隊についてはすでに市内に入っている」と述べ、軍の特殊部隊がヘルソンに入ったと明らかにしました。
ヘルソンでは喜びを分かち合う市民の姿が映し出される
また、ロイター通信が配信したヘルソンで撮影されたとする複数の映像では、広場に多くの市民が集まりウクライナの国旗が掲げられる様子や、「ヘルソンはウクライナだ」などと声を上げたりして喜びを分かち合う様子が映されています。
一方、ウクライナ側は対岸の東側に撤退しきれなかった多くのロシア軍兵士が、民間人の服に着替えてとどまっているという認識を示していて、ヘルソン市内に残っているとされるロシア軍の兵士に投降するよう呼びかけました。
ウクライナ軍は、ロシア軍の動向を警戒しながらもロシア側が侵攻直後から支配してきた戦略的な要衝の州都ヘルソンの奪還に向けて勢いを増しているものとみられます。
ウクライナ側「州都ヘルソン ほぼウクライナ軍の支配下に」
ウクライナの首都キーウで11日開かれた記者会見で、ヘルソン州の議会の議員は「州都ヘルソンはほぼウクライナ軍の支配下にある」と明らかにしました。
一方、戦況を分析するイギリス国防省は11日、ロシア軍が先月10日以降、電力施設や水力発電のダムなどを標的に攻撃を行い、ウクライナは広範囲で被害を受け、特に首都キーウで影響が出ていると指摘しました。
そのうえで「ロシア軍は医療や暖房など重要機能に無差別に影響を与えている。軍事目標よりも重要なインフラ施設を優先して攻撃し、ウクライナ国民の士気をくじこうとする意図が強く感じられる」と分析しています。
●ロシア、唯一占領の州都「放棄」 プーチン氏、求心力低下も 11/12
ウクライナ南部ヘルソンは、2月の軍事侵攻開始以降、ロシア軍が占領できた唯一の州都だった。プーチン政権は9月にヘルソン州を含む東・南部4州の「併合」を一方的に宣言したが、その後は東部ドネツク州リマンを奪還されるなど敗戦続き。ヘルソンまで「放棄」を余儀なくされたことで、国内におけるプーチン大統領の求心力低下につながる可能性がある。
ロシア国防省がヘルソンからの撤退完了を発表した後、インターネットには「ロシアは永遠にここにいる」と記された看板をヘルソン市民が取り壊す動画が出回った。
ヘルソンは、ロシアが2014年に併合したクリミア半島の北西に位置する。ロシア軍は侵攻開始から1週間足らずでヘルソンを制圧。それ以降は南部戦線の拠点としていた。
プーチン氏の元顧問セルゲイ・マルコフ氏は通信アプリ「テレグラム」で「ヘルソンの放棄はソ連崩壊以降、ロシアにとって最大の敗北だ」と批判。「この大敗の政治的影響は非常に大きい」と語った。
ウクライナ側にとって、ヘルソン奪還が大きな戦果であるのは間違いない。ただ、ロシア軍がドニエプル川東岸に防衛線を敷けば、川を越えて攻め込むのは容易ではない。ロシアは西岸のヘルソン市を失っても、ヘルソン州の大半とアゾフ海に面する海岸線を支配下に置き続けることになる。 
●日露戦争に並ぶ屈辱...ロシア国営TV、へルソン撤退に「歴史的敗戦」引用 11/12
ウラジーミル・ソロビヨフは、ロシア政府のプロパガンダ拡散役を担っていることで知られる国営テレビの司会者だ。しかしこのたび、ロシア軍がウクライナ南部のヘルソンから撤退することが決まったと報じた際は、いつもとは打って変わって沈痛な面持ち。ロシア軍の「歴史的敗北」にまで言及する意気消沈ぶりだった。
国営テレビ「ロシア1」で放送された番組「イブニング・ウィズ・ウラジーミル・ソロビヨフ」の司会者であるソロビヨフは、11月9日の番組冒頭で、本来ならばアメリカの中間選挙について番組内で議論する予定だったが、ロシア軍によるヘルソン撤退という、より重大な事態が発生したと深刻な面持ちで説明。その後、ロシア軍の部隊をドニプロ川西岸帯域から撤退させると発表したセルゲイ・ショイグ国防相の映像を紹介した。 ショイグはヘルソン撤退について、ウクライナ軍事侵攻の指揮を執っているセルゲイ・スロビキン総司令官の提言を受けて決断を下したと説明し、撤退の理由については「兵士たちの命とロシア軍の戦闘能力を守るため」だと述べた。
「我々は日露戦争に負けた」
ソロビヨフは、これは「きわめて勇敢な人物」にしか下すことのできない「非常に困難な決断」だと述べ、ロシアが過去に携わった戦争に言及した。「我々は日露戦争に負けた」と、彼は1905年にロシア帝国が直面した屈辱の敗北を挙げると、「第一次世界大戦にも負けた。大戦のさなかでも革命が起きて、1914年から1918年まで続いた長い戦争に、我々は負けた」と続けた。
この発言の後、パネリストたちによる活発な議論が始まったが、ソロビヨフはそのやり取りを遮って「我々はフィンランドでも敗北しなかったか?」と述べた。これは1939年にソ連軍がフィンランドに侵攻したものの敗北した「冬戦争」のことだ。
そしてソロビヨフは「我々は今、NATOと戦争をしている」と述べ、さらにこう続けた。「NATOがこれほどの規模で我々に立ち向かってくるというのは、明らかに予想外だった」
ソロビヨフは、戦争においては「感情に流されない」ことが重要であると同時に、戦争がいかに「痛みや恐怖を伴うものか」を考えれば「軍の決断を尊重すること」も重要だと主張。「だが戦争には独自の法則がある。我々は兵器を製造している世界経済の50%(を占める国々)を相手にしている」と述べた。
だがソロビヨフは、ロシア軍の決定は賢明だと擁護し、ウラジーミル・プーチン大統領や軍幹部を直接批判することはなかった。「戦争における勝利は、一つの軍が破壊された時に達成される。我々の軍が破壊されないようにすることが、きわめて重要だ」と彼は主張した。
ある有識者が議論の中で、ロシアがヘルソンから撤退することについては、何日も前から憶測があったと指摘すると、ソロビヨフはそれに対して、11月8日以前に撤退していれば、米中間選挙で民主党にとって有利な材料となり、「ジョー・バイデン米大統領を助けることになった」と主張。「だからこそ政府は、アメリカの選挙に影響を及ぼすことがないように、(米中間選挙の投票日である)8日よりも後の9日に発表を行ったのだ」と語った。
番組に出演したパネリストたちは、この時ばかりは得意げに、ロシア政府にはアメリカの選挙プロセスに影響を及ぼす力があるのだと語り合った。アメリカの野党・共和党の間には、ウクライナへの軍事支援のコストを懸念する声があるため、プーチンとしては中間選挙で共和党が躍進することを願っていたのだろう。
●オデッサルポ ヘルソン解放歓迎も漂う緊張感 「戦争の終わり見えない」 11/12
ウクライナ軍は11日、ロシアが一方的に併合を宣言した南部ヘルソン州の州都ヘルソンを事実上奪還した。同じ南部の要衝で、ヘルソンなど南部各地から避難民を受け入れてきたオデッサの人々は、「ヘルソン解放」の報道を歓迎しつつ、「戦争の終わりはまったく見えていない」として、露軍への強い警戒感を崩さなかった。
「ヘルソンでは電話もインターネット回線も切断され、市に残った両親の状況も分からない。自分がヘルソンにいつ戻れるかも、まだ見通せない」
露軍占領下のヘルソンから4月、オデッサに避難したというタクシー運転手のオレグさんは、神妙な面持ちで記者に語った。
9月にヘルソンから一家で避難したというドミトロさんも「露軍に住民たちが殺され、あらゆるものが盗まれた」と指摘した。露軍や親露派勢力が撤退時に、店舗やオフィスにあったとみられる物品を大量に運び出す様子は、住民らが撮影した動画で明らかになっている。
避難民の言葉からは、ヘルソンの解放が進んでも、住民らが戻って通常の生活を送ることは極めて困難である実態が浮かび上がる。
オデッサにはヘルソンのほか、ザポロジエ州や露軍の激しい攻撃を受けたミコライフ州など南部各地から避難民が集まる。
そのオデッサも露軍の攻撃にさらされている。春以降、市内の住宅やオデッサ州内の橋、空港などがミサイル攻撃を受け、10月にも市内で自爆型ドローン(無人機)による攻撃があった。市内には多数のバリケードが残り、国防上の理由から写真を撮影できない場所も多い。
露軍幹部が、ウクライナ南部全域を制圧し「陸の回廊」を確保する意向を示したこともある。今回、露軍がヘルソンから撤退したことで、オデッサが露軍に占領される危険は当面なくなったとみられている。
オデッサ市内に住む男性は、ヘルソンの状況は不安定だとして「住民が再び戻れるかを見極めるだけでも、1カ月以上かかるのではないか」と話した。
●ウクライナ大統領、ロシア軍の戦車半数の喪失は「ほぼ事実」 11/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日までに、ロシア軍は主力戦車の半分を戦闘で喪失しているとの米国防総省高官による最近の分析に触れ、「おおむね現実を踏まえた内容になっている」と評価した。
CNN記者との会見で述べた。大統領はロシア軍は兵員や砲門などで「驚くほどの損失を被っている」とも主張した。
米国防総省のカール次官(政策担当)は先に、ロシア軍は侵攻前に比べ兵力の弱体化を抱えて戦争の終結を迎えることになるだろうなどと記者団に説明。これまでの戦闘で「おそらくロシア軍全体が抱えていた主力戦車の半数を失った」などと指摘した。
ゼレンスキー大統領はCNNとの会見で、この数字とウクライナ側が計算した水準とは一致するのかの質問に「大体は現実を反映している」と回答。その上で、特に兵員損失の部分を含め、「誰も実際の現実全てを知らないだろう」とも述べた。
ただ、ロシア軍の人員面での損失はウクライナと比べ「10倍」に達しているとも推定。兵員の死亡数については両国間で非常に大きな差異があるため正確な数字は示せないともつけ加えた。
ウクライナ軍の死者数がより少ないのは、兵士を「使い捨て」の方法で投入することに忌避感を抱いていることが一つの理由になっていると述べた。「我々は第一に兵士たちの命の保護を大事にしている」とも強調した。
ゼレンスキー大統領は米欧が供与した砲門などの兵器や新たな軍事技術がロシア軍の攻勢をはねつける要因になったとも評価した。
●「ドニプロ川西岸、ウクライナが数日で支配強化」 米研究所が分析 11/12
米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)は11日の戦況分析を発表し、ウクライナ軍は今後数日間で、ウクライナ南部ヘルソン州ドニプロ川西岸の支配を強化するとの見通しを明らかにした。
ロシア軍は同日、西岸地域からの撤退完了を発表したが、「ロシア兵の一部は西岸に残っている可能性が高い」とし、ウクライナ軍の進軍に応じて撤退を進めるとみている。
また、小さなグループに分かれて抵抗活動をするために残留しているロシア兵もいるというが、西岸にいるロシア兵の規模は不明としている。また、ロシア軍はドニプロ川の東岸南部に二つの防衛戦を準備しており、今後も東岸の陣地強化を進めるとみている。
また、ISWは衛星画像などから、ドニプロ川にかかるアントニウスキー橋、ノバカホウカダム橋など三つの橋をロシア軍が破壊したと伝えた。ウクライナ軍の進軍を妨害する目的とみられるという。
●ヘルソン撤退の打撃、プーチン氏は逃れられない = BBC 11/12
同じ人たちが言うことが、これほど一変するとは。
ロシアがウクライナに侵攻したその直後、ロシアのテレビではトーク番組の司会者たちが自信満々で、あと数日もすればロシア軍がウクライナの首都キーウ市内を行進するはずだと予想していた。
9カ月近く前のことだ。
同じ司会者たちは今週、ウクライナ南西部の州都ヘルソンから撤退するという「困難な決定」をロシア軍がするに至ったと、硬い表情で説明した。ヘルソンは2月24日の侵攻開始からロシア軍が制圧し占領できた、唯一の州都だった。ウラジーミル・プーチン大統領がヘルソン州をはじめ4州を併合すると主張し、この地域は「永遠にロシア」だと宣言したのは、わずか6週間前のことだ。
国営テレビ「テレビ1」の冠番組「ソロヴィヨフとの夕べ」で司会者のウラジーミル・ソロヴィヨフ氏は、「3月にはキエフに我々の旗がはためいていると思った、そうなってもらいたかった」、「我が軍がキエフやチェルニゴウから押し返されたのはつらかった。しかし、戦争の法とはこうしたもの……我々はNATO(北大西洋条約機構)と戦っているのだ」と述べた(訳注:キエフはキーウのロシア語読み。チェルニゴウはチェルニヒウのロシア語読み)。
これこそまさに、ロシア政府の言い分だ。これは西側のせいなのだと。ロシア国営テレビの主張によると、ロシアはウクライナで、アメリカ、イギリス、欧州連合(EU)、そしてNATOの連合勢力と対決しているのだ。つまり、戦場での失策はロシア政府のせいではなく、外部の敵のせいだということになる。
政府と国営テレビのメッセージはほかにもある。つまり、ウクライナでいろいろ問題が続いているからといって、ロシア軍やロシアの大統領を非難するな、と。非難する代わりに国民としての義務を遂行しろ、ロシアの旗のもとに結集しろ――と言っているわけだ。
少なくとも今のところ、ロシアで影響力を持つ著名人は、このアドバイスに従っているようだ。
ロシア・チェチェン共和国の指導者ラムザン・カディロフ氏と、雇い兵組織「ワグネル」創設者のイェフゲニー・プリゴジン氏は、ロシア軍指導部をこれまで声高に批判してきた。しかし両氏ともヘルソン撤退については、撤退を進言したロシア軍のウクライナ総司令官、セルゲイ・スロヴィキン将軍の判断をたたえている。
しかし、ロシアの主戦派ブロガーたちはそうはいかない。彼らは撤退について、怒りの投稿をせっせと書き続けている。
「ロシアの希望が殺された。絶対に忘れない。この裏切りは何世紀も、自分の心臓に刻まれる」(「ザスタフニ」)
「プーチンとロシアにとって、とてつもない地政学上の敗北だ(中略)国防省はとっくの昔に社会の信頼を失っているが(中略)大統領への信頼もこれで失われる」(「ズロイ・ジュルナリスト」)
そうならないよう、ロシア政府は一生懸命だ。ここロシアでは大勢が、ヘルソン撤退を軍にとっての痛手、そしてロシアの威信への打撃とみなすだろう。それを政府は承知している。それだけに、軍の撤退とプーチン大統領とは無縁だと、政府はそう見せようとしている。
11月9日に、ロシア軍がヘルソン州の一部から後退すると発表したのは、将軍たちだった。ロシアのテレビは、スロヴィキン将軍と協議後にセルゲイ・ショイグ国防相が撤退を命令する様子を映した。全軍の最高司令官、プーチン大統領の姿は、その場にはなかった。
「国防相の決定だ。私には何も言うことはない」。プーチン大統領の報道官、ドミトリー・ペスコフ氏は11日、記者団にこう話した。クレムリン(ロシア大統領府)は、これは軍の決めたことだと言っているわけだ。少なくとも、そういうことにしようとしている。
しかし、ウクライナ侵攻を命令したのは、プーチン大統領だ。彼が「特別軍事作戦」と呼ぶものは、プーチン氏の発案だ。その当人がいくらこの戦争の一部から距離を置こうとしても、簡単なことではない。
ヘルソン撤退の前から、この戦争はプーチン氏にとって危険要素をはらんでいた。この9カ月間の出来事は、ロシア国内での大統領に対する認識を変える危険がある。ロシア国民の受け止め方というよりも、大事なのはプーチン氏の周りにいて権力を握る、ロシアのエリートの見方だ。
ロシアのエリート層はもう何年もプーチン氏のことを、一流の戦略家だとみなしてきた。何があっても必ず勝つ人だと。自分たちが属する体制は、プーチン氏を中心として作られたもので、彼こそがこのシステムの要なのだと、ロシアのエリートたちはずっと考えてきた。
しかし2月24日以降、ロシアには「勝利」が不足している。プーチン氏の侵略戦争は計画通りには進んでいない。ウクライナに多くの死と破壊をもたらしただけでなく、彼の戦争は自軍にも甚大な被害をもたらした。大統領は当初、戦うのは「職業軍人」だけだと主張したが、のちに何十万人ものロシア市民を戦争に動員した。ロシア人にとっての経済的な負担も、相当なものになっている。
クレムリンはかつて、プーチン氏は「ミスター安定」だとするイメージをロシア国内に広めた。
そのイメージ戦略は、今ではかなり説得力を欠いている。

 

●政権寄りロシア紙 ヘルソン州の“ダム爆破の瞬間” 映像を公開  11/13
プーチン政権に近いロシアの新聞「イズベスチヤ」は、12日、ヘルソン州にある水力発電所のダムの一部が爆破された映像を入手したと伝え、爆発の瞬間をとらえたとする映像を公開しました。
映像は白黒で音声はなく、画面が白くなったあと、大きな爆発が起きる様子が映っています。
被害の程度など詳しいことは伝えていません。
ダムをめぐってウクライナは、ロシア軍が攻撃の準備を進めている情報があるとして、人為的に洪水を起こし、大きな被害を与えようとしている可能性があると警戒を続けています。
一方でロシア側は、ウクライナ軍がダムへの攻撃を仕掛けていると主張し、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は先月「ロシア側が攻撃を受けたかのように情報をねつ造する、いわゆる偽旗攻撃によってヘルソンからの撤退など、混乱を隠そうとしている」と指摘していました。
今回、ロシア国防省が、州都を含むドニプロ川の西岸地域からの撤退を決定した際も、その理由について、ダムの破壊によって洪水が起き、軍の部隊が孤立するおそれがあるためだと主張していました。
●プーチン最後の希望「核爆弾」をウクライナがまったく恐れていない「理由」 11/13
クリミア橋爆破の真相
ウクライナのゼレンスキー大統領は、11月12日までに、ロシア軍は主力戦車の半分を戦闘で喪失しているという米国防総省のカール次官の分析に対し、「おおむね現実を踏まえた内容になっている」とコメントした。
ウクライナは、いま意気軒昂といっていい。プーチン大統領の70歳の誕生日のわずか数時間後、クリミア橋が走行中のトラックに搭載された爆弾によって、橋の一部が破壊され、貨物列車が火災に見舞われた。
クリミア半島のロシア語ニュースサイト「KAFANEWS」によれば、現地時間10月9日8時現在、クリミアへの鉄道は運行を停止し、車道も1車線が爆破されたため、片側1車線のみの通行となっている。ロシア当局の発表によれば、「ほぼすべて順調に進んでいる」とのことだが、実際には、数百台の車が数キロメートルにわたって渋滞をしていて、4〜5時間の立ち往生を余儀なくされている。
現地新聞のニュースサイトで確認できる限り、このクリミア橋の爆破は、歓喜をもって報じられ、プーチン大統領の誕生日に泥を塗ったことで、ウクライナは溜飲を下げているようだ。
しかし、安心してはいけない。
9月21日に、プーチン大統領は、演説の後半部分で、ロシアの核使用について、下記のようなことを述べているのだ。
「(アメリカ、イギリス、NATOはロシアに対して)核による脅迫も行われている。西側が扇動するザポリージャ原発への砲撃によって、原子力の大災害が発生する危険があるというだけでなく、NATOを主導する国々の複数の高官から、ロシアに対して大量破壊兵器、核兵器を使用する可能性があり、それは許容可能という発言も出た」
「ロシアに対してこうした発言をすることをよしとする人々に対し、わが国もまたさまざまな破壊手段を保有しており、一部はNATO加盟国よりも最先端のものだということを思い出させておきたい。わが国の領土の一体性が脅かされる場合には、ロシアとわが国民を守るため、われわれは、当然、保有するあらゆる手段を行使する。これは脅しではない」
「ロシア国民は確信してよい。祖国の領土の一体性、われわれの独立と自由は確保され、改めて強調するが、それはわれわれが保有するあらゆる手段によって確保されるであろう。核兵器でわれわれを脅迫しようとする者は、風向きが逆になる可能性があることを知るべきだ」
核使用はハッタリなのか?
演説全般において、自分たちは被害者なのであり、悪いのは西側諸国であること、そして、ここからが恐ろしい部分ではあるのが、「わが国の領土の一体性が脅かされる場合」には「保有するあらゆる手段を行使する。これは脅しではない」と述べているのだ。
現在、クリミア橋の爆破について、ウクライナ軍は自分たちが実施したかを明らかにしていないが、「ロシアの調査」によって、ウクライナの関与を一方的に断じる結果を発表すれば、ロシアがウクライナに対して、核爆弾の使用をしてもいいという条件が揃うことになる。
日本の複数の軍事専門家によれば、ロシアがウクライナの国境付近で核実験なり、ウクライナの仕業に見せかけたダーティボムの爆破を実施し、脅しをかけてくる可能性が取りざたされている。劣勢に見舞われたロシア軍の核使用が現実的なものになりつつあるというところだろう。
さて、この現実的な核の脅威に、ウクライナはどう立ち向かおうとしているのだろうか。
まず、核使用などハッタリだと唱えている人がいる。ロシア人で、著名な政治学者・言論人であるアンドレイ・ピオントコフスキー氏だ。氏は、ウクライナの通信社「UNIAN」のインタビューに対して、「仮にウクライナのどこかの都市を核兵器で破壊すると、何十万人という人が死ぬことになる。そうすれば、ウクライナは抵抗をやめるのか。欧米は支援をやめるのか。絶対にありえません。それどころか逆の反応しかしないでしょう。軍事的な観点から無意味です」と指摘した。
さらに、ロシアが核兵器を使用しない第2の理由として、アメリカの目標が「ウクライナの勝利、領土の完全回復」なのか、「ウクライナが負けないようにすること」なのかで、揺れ動いていて、より高度な兵器をウクライナへ供与するかの判断でアメリカでも葛藤がある。もし、ロシアが核兵器を使用したら、躊躇なく、高度な兵器を供与することになるのだという。
氏によれば、核兵器使用に軍事的な意味がなくても、プーチン大統領が「みんな死んで、私は楽園(死んで天国)へ行く」というような妄想に囚われていて、核兵器を使うかもしれないではないか! ということはないとして、その根拠を次のように示した。
「コロナ禍において、プーチン大統領は、側近を物理的に近づけず、マクロン大統領との会談も長いテーブルが用いられた。プーチンは自分自身をとても愛し、感謝している」
ウクライナは小型核兵器をどう見ているのか
では、都市全体を破壊する核兵器でなく、小型の核兵器についてはどうだろうか。小型核兵器の使用については、プーチン大統領に忠誠を誓うチェチェン共和国のカディロフ首長は、小型核の使用を主張している。
『ウクライナ憲法』の著者の一人であるアナリスト・ローマン・ベズスマートニ氏は以下のような見解を、ウクライナのニュースサイト「Faktyωi Kommentarii」に示している。
「ロシアがウクライナとの戦争で使用するすべてのミサイルは、核弾頭を搭載することができます」が「核を搭載した砲弾を使うのは意味がありません」。なぜかというと、ウクライナ軍はいわゆる従来型の戦争と違って、集団で行動をしていないこと、そして小型の核兵器を使用しなくてはならないようなコンクリート要塞をめぐる戦いではないこと、の2点があるのだという。
この見解が正しければ、ロシアの核使用とはまさしくハッタリに近く、使用しても戦況はほぼ変わらない見込みとなる。
安全保障に詳しい慶應義塾大学SFC研究所の部谷直亮上席所員は、このように解説する。
「ウクライナ軍は、ドローン・3Dプリンティング・サイバー戦・AIといった21世紀の第四次産業革命に基づく最新の民生技術を活用して、20世紀の工業化時代第三次産業革命のテクノロジーで止まったままのロシア軍を苦しめています。日本において防衛費を2倍にせよ、という数字ばかりが一人歩きをしていますが、下手をすればミニロシア軍になりかねません。
今後、プーチン大統領に残された強いカードが工業化時代を象徴する核兵器しかない以上、それを恫喝の道具にしてくるのは間違いありません。日本としても大量破壊兵器が使用された場合、こうした援助をウクライナに行うと事前にカードを示し、少しでもその恫喝を相殺すべきです」
プーチン大統領のこれまでの発言を振り返ると、ウクライナ戦争は「私たちが攻撃したのではなく、攻撃されているのだ」「私たちは自衛の闘いをしているのだ」といった趣旨の言葉が繰り返し述べられているのに気づく。
本人にしてみれば、本気でそう考えているのだろうが、実態として、そんなことはない。国際社会は総力をあげて、プーチン大統領への説得に乗り出してほしいところだ。プーチン大統領の誕生日に、スイカの山を送ったというエモマリ・ラフモン(タジキスタン大統領)よ、いったい、何がしたいのだ。 
●ウクライナ軍 ヘルソン州の奪還進める ロシアはイランと会談  11/13
ウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合した南部ヘルソン州の州都ヘルソンを含む地域の奪還を進めています。
一方、ロシアのプーチン大統領はイランのライシ大統領と電話で会談し、欧米に対抗してイランとの関係を一段と強めるねらいがあるとみられます。
ヘルソン州をめぐっては、ロシア国防省が11日、州都ヘルソンを含む地域から軍の部隊を撤退させたと発表したのに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、これまでに州内の60か所以上の集落を奪還したと明らかにしました。
ウクライナ側は、ヘルソン市内にロシア兵の一部が民間人を装って潜んでいるおそれがあるとして、掃討作戦を進め投降を呼びかけています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は12日、「州都ヘルソンでは、すでにウクライナ側の軍や行政の当局者が復帰したとしている」として、ウクライナ側による奪還が進んでいるとする一方で、「ロシア軍はドニプロ川の東岸に防衛陣地を構築し、州の南部で補給などの拠点を確立している」として、ロシア軍がドニプロ川の対岸でウクライナ軍と対じする構えを見せていると分析しています。
ロシア イランとの関係 一段と強めるねらいか
こうした中、ロシア大統領府は12日、プーチン大統領がイランのライシ大統領と電話会談を行ったと発表し、「政治や経済などで協力を深めることを重点的に話し合った」としています。
今月9日には、プーチン大統領の側近のパトルシェフ安全保障会議書記がイランを訪問し、ロシアが兵器不足に陥る中、イランからの弾道ミサイルなどの購入を検討しているという見方も出ていて、プーチン大統領としては欧米との対立が深まる中、イランとの関係を一段と強めるねらいがあるとみられます。
●ヘルソン解放 「まだ戦争が終わったわけではない」とウクライナ政府 11/13
ウクライナ南西部ヘルソン州の州都へルソンからロシア軍が撤退したのを受け、市内に入ったウクライナ軍と住民の祝賀ムードが続くなか、ウクライナ政府関係者は「まだ戦争が終わったわけではない」と警告している。ヘルソンの近くでは主要な橋に加え、主要なダムの一部が破壊された。
ウクライナ国防相顧問のユーリ・サク氏はBBCに対し、「気を緩めるにはまだ早すぎる」と話した。
サク氏はBBCラジオ4に対して、「ヘルソンは解放すると、常に確信していた。そして、今ではロシア側がこの戦争に勝つのは無理だと考え始めていると、こちらは確信している。政府や軍の随所でパニックしているのが見える。プロパガンダ・マシーンがパニックしているのが見える」と述べた。
「けれどももちろん、今この時はとても大事な瞬間だが……戦争終結にはまだまだ程遠い」とも、サク氏は話した。
ヘルソンを今年3月から占領していたロシア軍が撤退完了を発表した11日、ウクライナ軍がヘルソン市内に入り、歓喜する住民に迎えられた。ウクライナ政府幹部は、11日午後4時(日本時間同11時)過ぎには、ウクライナ軍はヘルソンをはじめ、ドニプロ川西岸の大部分を「ほぼ完全に掌握した」と話した。
ロシア政府は、ヘルソン周辺から兵士約3万人、装備や武器約5000点を後退させたと発表した。
ウクライナではヘルソンをはじめ、首都キーウや南西部オデーサなど国内各地でも、同様にヘルソン解放を祝っている。
ロシア軍は川を渡り有利な態勢に?
ヘルソン市長のロマン・ゴロヴニャ補佐官によると、市内では水道水や医薬品、食料などが不足しているものの、近隣ミコライウから支援物資が届き始めているという。
ゴロヴニャ氏は、開戦前に人口32万人だったヘルソン市の住民は現在7〜8万人だと話した。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「ヘルソンから逃げる前、占領者たちは不可欠なインフラをすべて破壊していった。通信、給水、暖房、電気、すべてだ」と話した。大統領は、ヘルソン周辺にロシア軍が残していった大量の地雷やわなを撤去する、大規模な作業にとりかかっていると述べた。
州都の電力復旧がいつになるかは不明だが、ヘルソン市の周辺では数日中に復旧の見通し。停電のため市内の店舗は主食のパンを作れずにいた。
ヘルソン一帯ではウクライナのテレビ放送が再開した。多くのウクライナ人にとってはテレビがニュースを得る主要手段。
国防省のサク氏や、キーウ州のオレクシー・クレバ知事は、ロシア軍のミサイル攻撃が続く危険を指摘。ロシア軍はこのところ、ウクライナのエネルギー・インフラを次々と破壊し、国内の発電能力に深刻な打撃を与えている。
クレバ知事はBBCに対して、「1カ月以上前から、ウクライナの平和な集落が徹底的に砲撃されてきた。キーウ州への砲撃の危険は高い」と話した。
他方、ウクライナ国家安全保障・国防会議の元議長、オレクサンドル・ダニリュク氏はBBCに、ヘルソンから撤退したロシア軍部隊がドニプロ川を渡ったのは「左岸(東岸)で徹底的な防衛態勢に入るため」で、「それによってロシア軍は有利な状態になる」と警告した。
BBCのジェレミー・ボウエン国際編集長は、ロシア軍は撤退を決めたことで、「勝つことのできない戦闘で死んだかもしれない兵士の命を守る」ことに成功したと指摘。そうして生きながらえた兵士を、今後別の戦場に送ることができるようになったという。
イギリス国防省は12日、ロシア軍が撤退作戦の一環としてドニプロ川を渡る橋や鉄橋を破壊した「可能性はきわめて高い」と指摘。11日には、ドニプロ川にかかる主要な渡河ルートのアントニフスキー橋が部分的に崩落した様子を捉えた映像が浮上した。橋がどのように破壊されたかは、はっきりしていない。
ダムの一部破壊
12日午前には、ヘルソン市から北東約58キロにあるノヴァ・カホフカ・ダムが破壊される映像が浮上した。
米宇宙企業マクサー・テクノロジーズは自社の人工衛星画像から、「ダムと水門の一部が破壊された」とツイートした。同社の人工衛星画像では、ダムを通過する道路と鉄道がともに寸断された様子が見える。破壊の原因が何か、BBCは独自に検証していない。
BBCが内容を検証した新しい動画では、ダムの片側で巨大な爆発が起きたのが見える。
ウクライナとロシアの双方はこれまで、お互いがダムに爆発物を仕掛け、周辺一帯を冠水させるつもりだと非難しあってきた。
撤退開始は10月下旬からか
イギリス国防省は、ロシア軍のヘルソン撤退は早くて10月22日から始まり、住民避難を装いながら部隊を移動させた可能性があるとしている。
ロシアは9月末にヘルソンをはじめとする4州の「編入」を一方的に宣言。プーチン大統領はヘルソンなど4州を「永遠にロシア」だと力説していた。しかしロシア国防省は9日までに、州都ヘルソンからの撤退をロシア軍に命令。同軍のウクライナ総司令官、セルゲイ・スロヴィキン将軍は、ヘルソン市への補給を持続できなくなったと話した。スロヴィキン司令官は国営テレビで戦場の様子を説明した上で、「ドニプロ川に沿って防衛線をまとめる方が、まともな選択肢だ」と話していた。
ロシア政府は12日、ヘルソン州の州都を一時的に港町ヘニチェンスクに移動させると発表した。ヘルソン市から南東に200キロ以上離れた場所で、ロシアが2014年に併合したクリミアに近い。
ロシアの国営インタファクス通信によると、現地当局はすべての行政事務所をはじめ、「彫像や歴史的文物」をドニプロ川西岸、つまりヘルソン市とその周辺から避難させたという。同通信によると、この地域から避難した人数は11万5000人に上る。
イギリスのベン・ウォレス国防相は、ヘルソン撤退はロシアが「またしても戦略的な失敗」を重ねたことを意味すると述べた。
「2月にロシアは、ヘルソンを除いて、主要な目標をまったく制圧できなかった。それを手放すことになった今、ロシアの一般市民はこう問いかけるしかないだろう。『いったい何のためだったのか』と」
●G20首脳会議前に ウクライナ情勢めぐり国際社会の分断浮き彫り  11/13
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては、国連総会でロシアを非難する内容の決議が繰り返し採択されています。ただ、採決ではアフリカ諸国を中心に棄権に回る国も目立ち、G20=主要20か国の首脳会議を前に国際社会の分断が浮き彫りになっています。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、国連総会ではロシアを非難しロシア軍の即時撤退を求める決議や、ロシアによるウクライナの4つの州の併合の試みを無効だとする決議などが日本や欧米などの賛成多数で採択されています。
その一方で、採決では反対に加えてG20のメンバー国である中国やインド、それに多くのアフリカ諸国が棄権に回っています。
このうち、アフリカで唯一のG20メンバー国の南アフリカは「情勢を憂慮している」とする一方で、「建設的な結果をもたらさない」などとして棄権しています。
専門家はかつてのアパルトヘイト=人種隔離政策からの解放闘争で支援を受けた旧ソビエト時代からの歴史的なつながりや国民の間に広がる反欧米感情が背景となり、ロシア寄りの姿勢を取ったものだと指摘しています。
ウクライナ情勢をめぐりG20の中でも立場が分かれ、国際社会の分断が浮き彫りになるなか、15日からインドネシアで開かれるG20の首脳会議でどこまで足並みをそろえることができるかが課題になります。
南アフリカ ロシア寄りの姿勢と指摘も
アフリカで唯一、G20=主要20か国のメンバー国である南アフリカは、ウクライナ情勢をめぐり国連総会でのロシアを非難する内容の決議案の採決で一貫して「棄権」し、ロシア寄りの姿勢を取っていると指摘されています。
かつてアパルトヘイト=人種隔離政策で少数の白人が大多数の黒人を支配していた南アフリカでは、マンデラ氏が率いたANC=アフリカ民族会議が解放闘争を続け、1994年に民主化を達成して欧米と協調しながら国造りを進めてきました。
しかし、南アフリカはロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、国連総会で行われたロシアを非難する内容の決議案の採決では一貫して「棄権」しています。
これについて、南アフリカの大学で政治学を教えるウィリアム・グメデ教授は、ANCがロシア寄りの姿勢を取っているとして、背景には反アパルトヘイト闘争でANCが、当時のソビエトの支援を受けていた歴史的なつながりがあると指摘しています。
そのうえで、グメデ教授は「欧米との経済格差が続き、近年、アフリカでは貿易ルールなどをめぐり欧米批判が強まっていて、南アフリカでも一部の特に若い世代で反欧米感情が高まっている。ウクライナの問題を欧米とロシアの対立と一方的にみなして、ロシアを支持する傾向がある」と分析しています。
また、ロシアがエネルギー分野での投資やメディアを通じてロシアに有利な情報の拡散にも力を入れるなど、アフリカでの影響力の拡大を目指していると指摘しました。
南アフリカ政権与党 ロシア支持行動 波紋も
南アフリカの政権与党、ANC=アフリカ民族会議の青年同盟が、ロシアのウクライナ侵攻をめぐりロシアを支持する行動や発言をしていて、国内で波紋が広がっています。
ANCは、南アフリカでかつて少数の白人が大多数の黒人を支配したアパルトヘイト=人種隔離政策の撤廃を求める解放闘争の中心となり、1994年に民主化を達成したあとは政権与党として国政を担ってきました。
このうち、ANCの若手メンバーが参加する青年同盟では、ウクライナ情勢をめぐってロシア支持の姿勢を鮮明にしています。
国際関係の議長を務めるクレカニ・スコサナさんら数人のメンバーは、ロシアがことし9月にウクライナの東部や南部の州で住民投票だとする活動を強行した際、ロシア政府から監視団として招待され、南部のヘルソンなどを訪れました。
スコサナさんは、NHKとのインタビューで「ロシアはウクライナの少数派を保護しようとしていて、住民投票は適切だ。ロシアがウクライナを侵略しているというのは欧米の見方であり、われわれはそれにくみしない」と主張しました。
スコサナさんは数年前にもロシアを訪れプーチン大統領と面会したこともあり、プーチン大統領については「アメリカという乱暴者を抑え込んでいる英雄だ」と自身の考えを強調しました。
こうしたANCの若手メンバーの行動や発言については、南アフリカ国内で「ロシアの侵略行為にお墨付きを与えるものだ」といった批判の声も出ていて、波紋が広がっています。
南アフリカ「西ケープ州」分離独立目指す運動強める
南アフリカでは、白人などが主体の一部の市民グループがウクライナ情勢をめぐる政府の姿勢がロシア寄りだとして非難し、南西部の主要都市ケープタウンのある州の分離独立を目指す運動を強めています。
このグループはケープタウンのある「西ケープ州」について、ANC=アフリカ民族会議が政権を担う南アフリカからの分離独立を目指し、2年前から活動を行っています。
ことし4月には大規模なデモ行進を企画し、主催者によりますと1200人以上が参加しました。
グループの主要メンバーのフィル・クレイグさんは、NHKとのインタビューで、「ANCの政権運営や外交姿勢とは相いれないと多くの人が考えている。将来的には民主的な住民投票を経て、独立を勝ち取りたい」と強調しました。
その理由の1つとして、南アフリカ政府がロシアのウクライナ侵攻をめぐり、ロシア寄りの姿勢を取っているとして、国連総会でのロシア非難の決議案の採決で一貫して棄権していることなどを批判しました。
そのうえで、クレイグさんは「ANC政権が、ウクライナの4つの州で強行された住民投票だとするロシアの活動を非難しないならば、西ケープ州で独立を目指す住民投票が仮に行われたら同じように結果を認めるべきだ」と主張しました。
一方、西ケープ州はワイン農園など白人が経営する大規模な農園が多くあり、南アフリカのほかの地域より経済的に豊かなことから、分離独立を目指す運動に対しては、白人富裕層の利益のためだという批判や反発も根強くあります。
G20議長国のインドネシア バランス外交展開
一方、G20の議長国を務めるインドネシアは、ウクライナ侵攻をめぐり対立する欧米側とロシア側の双方と関係を維持しながら国益を最大化するバランス外交を展開しています。
インドネシアはG20の議長国としてはロシアの排除には賛同せず、ジョコ大統領がG20の結束のもと対話による平和的な解決を訴え続けてきました。
また、議長国ではない立場では国連総会でのロシアを非難する決議の採択で内容によって賛成も棄権も行ってきた一方、ロシアを名指しで批判することは避け、欧米各国が科す制裁は行っていません。
インドネシアはこうした動きを「自由外交」や「自立外交」にもとづくものだとしますが、ロシアは感謝の意を示し、インドネシアに経済面で協力する準備があることを明らかにしています。
インドネシアに駐在するロシアのボロビエワ大使はNHKの単独インタビューで、「インドネシアのような友好国にはエネルギー分野で協力する用意がある」と述べ、ロシア産の原油や石油の取り引きについて議論を始めていることを明らかにしました。
インドネシアは産油国ですが、国内需要を賄うために原油や石油を輸入していて、閣僚の1人はロシアが国際価格より30%安い価格で取り引きを持ちかけていると発言しています。
また、ロシアのボロビエワ大使はインフラ整備や原子力発電の技術支援など協力できる分野は多くあるとしたうえで、「ロシアを孤立させることはできない。世界にたくさんの友人とパートナーがいる」と強調しました。
インドネシア 安全保障面で米との関係重視
インドネシアは、アメリカとの関係も重視し、特に安全保障面での関係を強化しています。
インドネシアは、アメリカ政府からシンガポール海峡に面するバタム島にあるインドネシアの海上保安機構の訓練センターの整備に去年、350万ドルの資金援助を受けました。
全国の職員を交代で集め、数か月にわたって訓練を行う施設で、ことしに入りアメリカの支援を受けて寮などが完成しています。
背景には、南シナ海南部の海域にある自国の領土、ナトゥナ諸島の沖合に排他的経済水域を設定し、南シナ海のほぼ全域の権益を主張する中国との対立が続いていることがあります。
インドネシア政府はこの海域で近年、中国漁船が中国の海警局の船とともに入り、操業する動きが相次いで確認されているとしています。
インドネシアにとっては海上警備能力の強化が課題となるなかで、安全保障面でのアメリカとの協力関係を深めることも重要になっています。
インドネシアの海上保安機構の幹部は「これほど広大で、多くの島がある海の安全を維持するのはかなり難しく、専門的な人材が必要だ。アメリカとは将来的にインフラだけでなく訓練でも協力していきたい」と述べ、期待を寄せていました。
ウクライナ情勢で発展途上国など独自の動き
発展途上国や新興国の間では今、ウクライナ情勢をめぐる欧米とロシアの対立とは距離を置き、双方から支援や協力を得ようと独自の動きが進んでいると専門家は指摘しています。
国際開発協力を専門とする政策研究大学院大学の大野泉教授は、南アフリカやインドネシアなどこうした新興国は「グローバルサウス」と呼ばれる国々に属するとしたうえで、「東西冷戦時代には、アメリカにも旧ソビエトにもくみせず、中立を保とうと連帯した第三世界と呼ばれる国々があった。冷戦後の現代でも、中立を守っていこうとする発展途上国や新興国のグループが出ている」と指摘しました。
そのうえで、こうした国々の動きの背景について「実利があるからだと見ている。したたかに考え、自国の発展の基盤を確保したいというのは当然だ」と述べました。
また今後、国際社会がどうグローバルサウスと向き合うべきかについては「ロシアのウクライナへの侵攻をめぐり白か黒か、どちらにつくのかと迫ってしまうと、それぞれの国で実利を考えたときに難しくなってしまう。どちらかに迫ることなく、環境問題など一緒に協力できるテーマを見いだし、みんなで望ましい方向に合意形成を進めていくことが必要だ」と指摘しています。
●ロシアの右派思想家、プーチン氏を公然批判か「雨の王と同じ運命」 11/13
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は12日、ウクライナ南部ヘルソン市からのロシア軍撤退が、プーチン大統領と国内の戦争推進派の間に亀裂を生みつつあるとの分析を公表した。政権寄りだった著名人らがプーチン氏を公然と批判しており、プーチン氏の戦争遂行能力に疑問符がつき始めている、としている。
ISWによると、ロシアの右派思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏は11日、保守系のニュースサイトでヘルソン撤退に言及。プーチン氏を念頭に、独裁者には国を守る責任があり、さもなければ「雨の王」と同じ運命が待つと主張した。
ドゥーギン氏やISWによると、「雨の王」は英国の人類学者フレイザーによる古代宗教の研究書「金枝篇(きんしへん)」に登場。干ばつの中で雨を降らせることができず、殺されたという。ドゥーギン氏は、運転していた車の爆発によって8月に死亡したジャーナリスト、ダリヤ氏(当時29)の父。
ISWはまた、国営テレビの司会者がヘルソン撤退を受け、無能なロシア当局者の解雇などを要求していると指摘。ロシアの軍事ブロガーの中からも、撤退を国への裏切り行為ととらえる動きがあるとした。

 

●対ロ制裁、ウクライナ戦争終結後も残る可能性=イエレン氏  11/14
ジャネット・イエレン米財務長官は、一部の対ロシア制裁について、ロシア・ウクライナ間で最終的に何らかの和平協定が締結された後も残る可能性があるとの見解を示した。ロシア経済に圧力をかけるために米国が長期的な措置を講じる見通しが高まった。
ウクライナ軍が攻勢を強める中、西側諸国の首脳はロシアとの終戦交渉の可能性や方法について検討を始めている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は最近、ロシアとの「純粋な和平協議」を受け入れる考えを表明。米政府関係者らは、合意が成立するかどうかはウクライナ次第だと述べている。
イエレン氏は最終的な和平協定について、米国とその同盟国が課した対ロシア経済制裁の見直しも含まれるとの考えを示した。
20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席するためインドネシアを訪れているイエレン氏はインタビューで、「ウクライナが受け入れられる条件で同国との交渉を開始したいという動きはロシア側には全くない」と指摘。「和平合意に関連して制裁に調整を加える可能性があり、それが適切かもしれない」と述べた。
●露とウクライナ、ともに集落掌握を発表 東部攻防焦点に 11/14
ウクライナ東部ルガンスク州当局は13日、同州の集落マキエフカをロシア軍から奪還したと発表した。マキエフカ周辺では今月上旬、「部分的動員」による露招集兵500人以上が死亡したと伝えられていた。一方、露国防省は同日、東部ドネツク州の集落マイオルスクを制圧したと発表。今後、攻防の焦点はヘルソン州など南部から東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)に移行する見通しだ。
マキエフカに関し、露独立系メディアは5日、周辺に配置された招集兵の証言として「塹壕を掘るよう命じられたが、570人の大隊にシャベルが3つしか与えられなかった」「ウクライナ軍の攻撃で部隊はほぼ全滅した」と伝えていた。
ゼレンスキー大統領は12日のビデオ声明で、東部の戦況について「単純に地獄だ」と指摘。露軍の猛攻をウクライナ軍が果敢に撃退していると説明した。
ヘルソン州ではウクライナ軍が州都ヘルソンを含むドニエプル川西岸地域を事実上奪還。露軍は同川東岸地域を要塞化しており、今後、同州を巡る攻防は膠着(こうちゃく)するとの観測が強い。
ゼレンスキー氏は13日、ヘルソン州の奪還地域に関し、露軍が設置した爆弾の除去や、残留している露軍兵の拘束を進めていると指摘。また、民間人殺害など「露軍の戦争犯罪400件以上が見つかっている」とし、訴追に向けた手続きを進めていると述べた。
ドンバス地域全域の制圧を主目標とする露軍は7月上旬にルガンスク州全域の制圧を宣言した後、現在はドネツク州の要衝バフムトの制圧に向け攻撃を続けている。一方、ウクライナ軍はルガンスク州で反攻を進めており、10月末までに集落9カ所を奪還したと発表。東部では一進一退の攻防が続いている。
●ウクライナ 掃討作戦続ける ロシアは政権に打撃の可能性も  11/14
ウクライナ軍は、南部ヘルソン州で州都ヘルソンを含む地域の奪還を進め、市内にロシア兵が残っていないか掃討作戦を続けています。一方、ロシア国内では強硬派からロシア軍の撤退に批判的な声が出ているという分析もあり、今後、プーチン政権にとって打撃になる可能性もあります。
ウクライナ南部ヘルソン州をめぐり、ロシア国防省は11日、州都ヘルソンを含む地域から軍の部隊を撤退させたと発表し、ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、これまでに州内の60か所以上の集落を奪還したと明らかにしました。
ウクライナ軍はヘルソン市内にロシア兵の一部が民間人を装って潜んでいる可能性があるとして、投降を呼びかけるなど、掃討作戦を続けています。
一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は12日、ロシア軍がヘルソンから部隊を撤退させたことについて、プーチン大統領とロシア国内の強硬派勢力との間で亀裂が生じているとする見方を示しました。
このなかでは、ロシアの著名な思想家で、強硬派として知られるドゥーギン氏が「国を守る責任を果たさなかった」などとプーチン大統領を暗に批判したとされる例などを挙げ、侵攻を継続する能力について、プーチン大統領が強硬派の信頼を損なっているなどと分析しています。
ヘルソンからの撤退についてロシア大統領府のペスコフ報道官は11日、「この決定は特別軍事作戦の一環であり、国防省に問い合わせてほしい」として、あくまで国防省による判断だと強調していますが、今後、プーチン政権にとって打撃になる可能性もあります。
●ウクライナ侵攻非難にロシア強く反発 東アジアサミット 11/14
日本やアメリカ、ロシアなどが参加する東アジアサミットが13日、カンボジアで開かれ、ウクライナ侵攻を非難するアメリカなどに対し、ロシアが強く反発しました。
東アジアサミットでは、ロシアのウクライナ侵攻が協議の中心となり、アメリカのバイデン大統領は、「残虐で不当な戦争だ」とロシアを非難しました。日本の岸田総理大臣も、「核兵器による威嚇は断じて受け入れられない」と批判しました。
これに対しロシアのラブロフ外相は、「アメリカとNATO(=北大西洋条約機構)は、アジア太平洋地域を引き入れて軍事化しようとしている」などと主張し、議論の応酬となりました。
ロシア・ラブロフ外相「(共同声明が)採択されなかった。なぜなら米と西側諸国がウクライナ情勢をめぐり、(ロシアにとって)絶対に受け入れられない主張に終始したからだ」
ラブロフ外相は、15日からのG20首脳会議にも出席する予定です。 
●プーチン氏、ウクライナ併合2州の大学生動員を中止 ロシア国営通信 11/14
ロシア大統領府のペスコフ報道官は13日、国営RIAノーボスチ通信に対し、ロシアが一方的に併合したウクライナ東部のドネツク、ルハンスク両州の大学生を対象としたロシア軍への動員令が取り消されたことを明らかにした。
ペスコフ氏によると、プーチン大統領がこうした学生の兵役を解除し、帰還を進めるように指示したという。
対象となったのは、ロシアが自称「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を違法に併合する前に動員された学生となる。学生は帰国後に学業を続けるという。
ロシアは今月初めに部分的動員の完了を宣言。先月中には30万人の動員目標を達成したとしている。動員令は抗議運動や招集対象となる男性の国外脱出などの事態を招いていた。
●米ASEAN首脳、「ASEAN・米国包括的戦略パートナーシップ」立上げを発表 11/14
米国とASEANは11月12日、カンボジアのプノンペンで開催された第10回米国・ASEAN首脳会議で「ASEAN・米国包括的戦略パートナーシップ」立ち上げを発表した。これに関するファクトシート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、今回の「包括的戦略パートナーシップ(CSP)」は、これまで両者の間で結んでいた「戦略的パートナーシップ」を格上げしたもので、米国・ASEAN特別サミットの共同ビジョンに関する声明の中で挙げた目標と原則(注)を引き継ぐものとしている。
ジョー・バイデン大統領は第10回米国・ASEAN首脳会議に関する声明で「ASEANはわれわれの政権のインド太平洋戦略における中心にあり、強大で統一されたASEANと歩調を合わせて働くというコミットメントを引き続き強化する」と述べ、ASEANとの連携の重要性を強調した。その上で「われわれは気候変動や健康安全保障といった大きな課題に取り組むとともに、ルールに基づく秩序や法の支配に対する重大な脅威から(インド太平洋地域を)守り、自由で開かれた、安定し反映する、強靭(きょうじん)で安全なインド太平洋を構築していく」とし、CSPへの格上げの意図を述べた。
EVエコシステムの構築など、個別領域での協働に向けた戦略も発表
また、バイデン大統領は同日、「ASEAN・米国EVイニシアチブ」も発表した。同イニシアチブは、東南アジアでの統合的な電気自動車(EV)エコシステムの構築に協力し、地域の連結性を高めるとともに、ASEAN諸国が野心的な排出削減目標を達成できるようにすることを目標としている。具体的には、(1)EVインフラの計画、統合、配備のサポート、(2)EV導入ロードマップの策定支援、(3)東南アジア全域でのEV導入加速に向けた能力開発と技術支援、(4)米国企業とのパートナーシップの促進とASEAN政府および企業に向けた米国のソリューションや技術の紹介が行われる。
(注)(1)新型コロナウイルスのパンデミックとの闘い、より良い公衆衛生における安全保障の構築と回復での協力、(2)経済関係と連結性の強化、(3)海洋での協力促進、(4)人的連結性の強化、(5)サブリージョンの開発支援、(6)技術の底上げとイノベーションの促進、(7)気候変動への対応、(8)平和の維持と信頼の構築の8つ。
●ウクライナ侵攻を続けるロシアに接近するイランの思惑 11/14
中東情勢に詳しい放送大学名誉教授で国際政治学者の高橋和夫氏が11月14日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演し、辛坊と対談。ウクライナ侵攻を続けるロシに武器の供与などで接近するイランの思惑について、「アメリカからいじめられて、仕方なく」と解説した。
イランのアブドラヒアン外相は11月5日、ロシアに無人機(ドローン)を提供したことを初めて認めた。こうした中、アメリカのCNNテレビはイランがロシアに対して核開発に関連した支援を求めているとの見方を報じている。一線を越えた行動を取るイランの思惑は一体どこにあるのか。
辛坊) イランとロシアは、もともと今のように近い関係にあったのでしょうか。
高橋) いえ、イラン人はロシアが嫌いです。なぜなら、19世紀にはペルシア帝国とロシア帝国は争っていて、現在のアゼルバイジャンとアルメニアがロシアに奪われてしまったことがあります。また、第2次大戦中には旧ソ連軍がイランの北半分を占領していたこともあります。さらに、イラン・イラク戦争では、イラクがイランにスカッドミサイルをどんどん撃ち込みました。そのスカッドミサイルは旧ソ連が輸出したものです。こうした歴史を背景に、イラン人はロシアを好きではないし、信用もしていません。しかし、アメリカにこれほどいじめられていると、イランとしてはロシアくらいしか頼るところがなくなってしまっているんですね。
辛坊) イランは対アメリカとの比較からロシアに近づいているということですか。
高橋) そうです。「仕方なしに」という感じなのでしょう。
辛坊) ロシアがウクライナに対する攻撃に使っているドローンがイラン製ではないかと、日本でも話題になっています。
高橋) イランは当初、否定していましたが、証拠が次々に出てきて隠しようがなくなったため、認めました。ただ、ロシアに輸出したのはウクライナ侵攻の前で、ロシアが約束を破って勝手に使ったというような言い方をしていましたね。しかし、実際には最近、輸出したものです。
辛坊) イラン製ドローンの性能は、どの程度なのでしょうか。
高橋) トルコ製、イスラエル製、アメリカ製と比べると、トップの性能とはいえません。ただ、価格が最も安く、1基当たり約200万円です。ドローンの種類はいろいろありますが、ロシアが使っているイラン製は「カミカゼ・ドローン」といわれているもので、爆弾を抱えていって、そのまま目標を爆破するタイプです。目標の上空周辺をずっと回って、目標が定まると落ちていって爆破します。業界用語では「徘徊型」ともいわれています。
辛坊) イランがドローンをロシアに提供する目的は何でしょうか。
高橋) おそらくロシアに泣きつかれ、断れなかったということだと思います。それと、アメリカとの対立です。特に核問題の交渉で、ロシアはずっとイランの味方をしてくれたので、あまり冷たくもできないという事情があるのでしょう。加えて、ロシアから何らかの見返りをもらえると思っているのかもしれませんね。
辛坊) 今後、イランはこの勢いでロシアに近づいていくのでしょうか。
高橋) イランとしては、ロシアがウクライナで始めたことは「戦争であり、違法行為だ」と主張しています。ただ、ロシアから嫌われたくはないので、「ロシアをやむにやまれないところに追い込んだのは北大西洋条約機構(NATO)の拡大であり、双方が悪い」というようなことも言っています。とはいえ、イランとしてはロシアのプーチン大統領と一緒に泥船に乗りたいとは思っていないはずです。

 

●孤立回避でG20欠席 「友人」求めアフリカ重視―ロ大統領 11/15
ロシアのプーチン大統領は、15日にインドネシア・バリ島で始まる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)出席を見送った。ウクライナ侵攻が続く中、国際的孤立が内外に露呈するのを避けるためとみられる。アフリカなどの友好国との関係を前面に出す最近のロシア外交も反映しているようだ。
「本人の決断で、日程の都合による。国内に残る必要がある」。プーチン氏の出欠について明言を避けていたペスコフ大統領報道官は、開幕間近の11日になって、ようやく「欠席」を発表。ビデオ演説なども「ない」と説明した。
プーチン氏は米国中心の国際秩序に対抗する場として、新興国も参加するG20を重視してきた。サミット出欠の判断は揺れたが、参加してもウクライナ問題で成果を得られないばかりか、批判の矢面に立たされる可能性が高い。「ロシアに友人は多い」との自身の発言に、国民が疑念を抱くこともあり得る。
プーチン政権が「友人」として挙げる国は、アフリカ、中南米、アジアが中心だ。中でも、来年夏に主宰するロシア・アフリカ首脳会議の意義を早くも強調。独立系メディア「メドゥーザ」によると、政権は欧米への対抗軸として「反植民地主義」を掲げ始めている。
9月末にウクライナ東・南部の一方的な「併合」を宣言後、プーチン氏がモスクワで会談した外国首脳は、10月下旬の西アフリカ・ギニアビサウ大統領のみ。今月11日には中央アフリカ大統領と電話会談した。両国にはプーチン政権に近いロシアの民間軍事会社「ワグネル」戦闘員が派遣されている。
プーチン氏は9月中旬の上海協力機構(SCO)首脳会議に出席したが、加盟国は中印など非欧米の友好国だけ。ロシアの外交は「友人同士」の内向き志向を強めている。
●プーチン氏、二重国籍保有者を徴兵できる法令に署名  11/14
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日、二重国籍を持つロシア国民を徴兵できるよう兵役規則を変更する法令に署名した。ウクライナへの侵攻を続ける中でロシア軍増強を図る狙いがあるとみられる。
この法令では、1999年に導入された兵役規則を変更し、二重国籍保有者に加え、外国で永住権を持つロシア国民も徴兵できるようにする。これまでは、ロシア連邦の国籍保有者だけが徴兵対象だった。法令によると、個人が取り調べを受けていない、有罪判決を受けていないなどの条件を満たしていれば、国籍を問わず契約兵士となることができる。
ロシア政府はウクライナとの戦争で劣勢に追い込まれ、犠牲者も増える中、兵力を増強しようとしている。米政府関係者は、ロシア軍は戦争開始以降、10万人の死傷者を出したと推計している。
●G20サミット、ロシアのウクライナ戦争非難へ=米政府高官 11/15
米政府高官は15日、インドネシア・バリ島で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)について、ロシアのウクライナ戦争とそれによる世界経済への影響を非難することを期待していると述べた。
記者団に対し、ここ数日の協議でG20のほとんどの国がロシアのウクライナ戦争を「できるだけ強い言葉で非難」すべきとの意見で一致したと明らかにした。
ロシアもG20のメンバーであることから、ウクライナ戦争を巡りコンセンサスが得られる可能性は低い。高官は、どのような形での非難になるか、またロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶ戦争にどう言及するかについては発言を控えた。
「詰めの交渉に先走ることはしないが、G20はロシアの戦争が世界中の人々や世界経済全体に大きな打撃をもたらしていることを明確にするだろう」と述べた。
ウクライナでの戦争が「世界の多くの地域で見られる経済的苦境や不安定の根源」との見方で大半のG20諸国が一致しているという。
高官は、パンデミック(世界的大流行)基金、多国間開発銀行の改革、食料・エネルギー安全保障などのイニシアチブも発表されるとの見通しを示した。
●G20 ウクライナ侵攻後 初の首脳会議がインドネシアで開幕へ  11/15
G20=主要20か国の首脳会議が15日、インドネシアで開幕し、ウクライナ情勢を背景にしたエネルギーや食料価格の高騰への対応などを議題に意見が交わされます。
ウクライナ侵攻をめぐって、G20でも欧米各国とロシアとが激しく対立する中、各国が何らかの一致点を見いだせるのか、議論の行方が注目されています。
G20=主要20か国の首脳会議は、15日から2日間の日程でインドネシアのバリ島で開かれます。
G20の首脳会議が開かれるのはロシアによるウクライナ侵攻後では初めてで、アメリカのバイデン大統領や中国の習近平国家主席のほか、ロシアからはプーチン大統領の代わりにラブロフ外相が出席する予定です。
初日の15日は、ウクライナ情勢を背景にした世界的なエネルギーや食料価格の高騰への対応などが議題となる予定ですが、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、各国の立場は大きく異なっています。
これまでの閣僚会議でも、インフレなどについて、ウクライナ侵攻が原因だとする欧米各国と、経済制裁が原因だとするロシアとが互いに非難しあう事態となり、議論は進展してきませんでした。
こうした中迎える首脳会議では、世界の分断が一層、浮き彫りになるおそれもあり、首脳たちが何らかの一致点を見いだせるのか議論の行方が注目されています。
G20とは
G20は、世界経済の課題について議論し、成長に向けて各国が協力することを目指す枠組みです。
メンバーには、日本やアメリカ、イギリスなどの先進国だけでなく、中国やインド、ロシア、インドネシアといった新興国が入っていることが特徴です。
メンバーのGDPの合計は世界のおよそ8割を占めていて、世界経済の動向に大きな影響力を持っています。
1999年に20の国と地域の財務相と中央銀行の総裁が世界経済や国際金融の課題を議論する場として始まり、いわゆるリーマンショックが起きた2008年からは、首脳による会合も開かれるようになりました。
この首脳会議では、2008年から去年まで開かれた16回すべてで、メンバーの合意のもと「首脳宣言」が採択されています。
ロシアへの制裁めぐり各国で対応が異なる
G20=主要20か国のメンバーの間では、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの制裁をめぐって対応が大きく異なっています。
G20は、日本やアメリカなどG7=主要7か国と、中国やロシア、インドといった新興国など、合わせて19の国とEU=ヨーロッパ連合がメンバーになっています。
このうち欧米各国や日本、韓国など、合わせて9か国とEUは、ウクライナ侵攻以降、ロシアに対して輸出入の禁止や、ロシア政府関係者の資産凍結などの制裁措置を行っています。
一方、中国のほか、インド、ブラジル、今回のG20の議長国インドネシア、それに、ウクライナとロシアの仲介役となっているトルコなどは制裁を行っていません。
ロシアへの対応が大きく異なる中、首脳会議に先立って開かれた複数の閣僚会議では議論が進展せず、共同声明を採択できない事態となりました。
通例の集合写真撮影「予定されず」
今回のG20の議長国を務めるインドネシアの政府関係者は、G20の首脳会議で通例となっている開幕時の集合写真撮影について「予定されていない」と明らかにしました。
対面形式によるG20の首脳会議で集合写真を撮影しないのは異例で、ウクライナ情勢をめぐって欧米各国とロシアの対立が深まっていることに配慮したものとみられます。
集合写真の撮影は、ことし7月に開かれたG20の外相会合でも、インドネシアのルトノ外相の指示で直前に取りやめられていて、ロシアの外相の出席に難色を示した欧米各国に配慮したものとみられています。
●冬将軍は戦況を変えるのか 11/15
冬がそこまで来ている。
モスクワ滞在中は、上空に灰色の雲が立ち込めて、ときどき小雨が降った。郊外から初雪の報せもあった。
ロシアは冬を味方にしてきた。ナポレオンのモスクワ遠征時も、ナチスとのスターリングラード攻防戦も、ロシアが最後に持ち堪えることができたのは厳しい冬のおかげだった。
ロシアは冬の戦い方を熟知している。すでにウクライナの電力インフラの30%以上を破壊(許しがたい行為である)する一方、ヨーロッパに対しては、トルコ経由で東欧へガスを供給する構えを見せて、EU(欧州連合)の堅い結束を揺さぶらんとしている。
そのうえ、ロシア人は我慢強い。
帰国間際、ホテルの玄関で空を見上げながら、ふと思った。
ロシアは戦術核で西側を脅しつつ、ウクライナが蛾を使った生物兵器を使おうとしているだの、チェルノブイリで「汚い爆弾」を開発しているから調査せよだのと、見え透いたプロパガンダを放って難癖をつけては西側の手を煩わせる。
が、これは要するに、時間稼ぎをしつつ「冬将軍」を待っている、ということではないのか。
9月に潮目は変わった。ウクライナ軍は勢いを得て反転攻勢に出て、対するロシア軍は形勢一転、守りに入る。
はたして、どういう冬が訪れるか?
私はウクライナがロシアから独立した翌年の1992年に半年間、独立直後の同国の実情を視察した。また96年から3年間、在キーウ日本大使館の専門調査員として現地の課題を調査した。
本連載の「報復が報復を生む ウクライナ経済は破綻状態」(下記参照)で書いたように、ウクライナ経済は破たん状態に近い。欧米からの現金注入で、かろうじて政府機能が維持されているのが実情だ。戦費は言うまでもない。武器の供与もまた然り。2月のロシア軍によるウクライナ侵攻ではじまったこの戦争が、いまやウクライナを戦場とするロシアとアメリカの代理戦争と化していることは明らかだ。
ロシア側に、「併合」を宣言した東・南部4州(ドネツク、ルハンスク、ザポリージャ、ヘルソン)を手放すつもりはないだろう。そして、その限りで制裁はつづく。
かたやウクライナは、皮肉にもロシアの侵略に抵抗する一点で、独立後30年間ではじめて国民がひとつにまとまった。ゼレンスキー大統領が4州を奪還できないまま停戦に向おうものなら、反ロシアの民族主義者たちが許さないだろう。政権は崩壊の危機に直面するかもしれない。
むろん、ロシアの暴挙は許しがたい。
だが、不毛な戦争は止めなければならない。もし停戦のチャンスがあるとすれば、もうすぐ本格化する冬の到来だ。凍てつく寒さで兵士は機動的な展開を妨げられるし、武器の機能も低下するだろう。冬場の3カ月間は、戦火を鎮めるための文字通り「凍結」期間になるはずだ。
冷静な政治リーダーならば、それをわかっていると期待したい。
●ロシア国内でプーチン氏に異例の批判、著名キャスターは総動員を主張  11/15
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、ロシア軍が撤退してウクライナ軍が11日に奪還した南部ヘルソン州の州都ヘルソンを奪還後初めて訪れ、ロイター通信によると「我々は前進する」と述べた。州都を含むドニプロ川西岸地域の奪還を国内外に誇示する狙いとみられる。
ゼレンスキー氏は13日のビデオ演説で、ウクライナ軍や行政当局が、ドニプロ川西岸の226集落で「秩序と安定の回復」を急ぐ姿勢を強調した。露軍の戦争犯罪が既に400件以上報告されているとも指摘し、露軍占領下で住民が受けた被害の解明も進める意向を表明した。
ウクライナ内務省幹部は13日、地元メディアに西岸地域で住民を拷問する施設が複数見つかったと明らかにした。露軍が撤退前に設置した地雷の除去も急務になっている。
露国内では、プーチン大統領が批判を浴びている。民族主義的な思想家アレクサンドル・ドゥギン氏は11日、州都ヘルソンの放棄に関し、「専制君主たるものは国民と国家を守るものだ」とSNSで指摘した。ドゥギン氏はプーチン政権の外交政策に一定の影響を与えたとされ、異例の批判と受け止められている。
露国営テレビの著名なキャスターは、日露戦争(1904〜05年)などでの敗北を引き合いに総動員を呼びかけている。米政策研究機関「戦争研究所」は13日、露軍がヘルソン州から撤退させた部隊などを投入して、東部ドネツク州の攻撃を強化するとの見方を示した。
●インドで「中国・ロシア離れ」がじわり進む、裏で日本が果たした大役とは 11/15
ウクライナ軍事侵攻で インドがロシアを支援した理由
11月8日、インドのジャイシャンカル外相がロシアのラブロフ外相とモスクワで会談して、ロシアが停戦交渉を再開するように促した。9月にはモディ首相がプーチン大統領との会談で「いまは戦争の時ではない」と述べている。表向きの理由はウクライナ戦争が「グローバルサウス(非先進国)」の経済にかなりの悪影響を与えていることであるが、その裏にはインドは当初のロシア寄りの立場から、少しずつ批判的な立場にシフトしてきていることは見逃せない。
ウクライナ軍事侵攻をしたロシアに対して西側各国が経済制裁に入る中、ロシア制裁に消極的だったインドに失望を隠さない国は少なくなかった。
インドが積極的にロシアを擁護したわけではないが、形式的に中立の立場を貫いたことで、ロシア経済制裁は中国とインドという2つの大国がバッファになり、実効性が大きく後退した。当初言われていたような「経済制裁と金融制裁でロシア経済をとことん追いつめる」といったことは実際できなかった。
そのインドについて、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官(当時)は「後に、このことが歴史書に書かれるとき、あなた方がどんな立場でありたいかを考えてもらいたい(Think about where you want to stand when history books are written at this moment in time.)」と、日米豪印の安全保障協定である「クアッド(Quad)」で同盟関係でありながら、アメリカに歩調を合わせなかったことにあからさまな不快感を示した。
ただし、インドの立場に立って考えると、このときの態度も理解はできる。というのは、インドは長年、ロシアに安全保障を頼っており、現在も防衛装備品で最も大きな割合を占めるのがロシア製だからである。以前に比べればロシア製はかなり減っているが、依存状態を脱したとまではいえないだろう。
また、エネルギーに関しても、もうすぐ世界一の人口を有することになるインドにとって、ロシアのガスは不可欠に近いものだ。モディ政権にとって、国民生活を守ることが第一であれば、ウクライナ支援という選択肢を取りにくいのも事実だ。単純に安全保障上の問題ではなく、エネルギー安全保障を含めた国民生活においてもロシアとの連携は欠かせないのである。
忘れていけないのは、インドはもともと親ロ国であり、アメリカに対しては必ずしも良好な関係を保ってきたわけではないことだ。むしろ、インド人エリートには以前から根強い反米感情がある。中国との領土問題を抱えているインドで反中感情が強まることはあっても、直接的な脅威ではないだけに反ロ感情が高まることは考えにくい。むしろ国内で反中感情が高まるごとに、インド国民は親ロ的になりやすいとすらいえる。
インドのロシア離れにおいて 日本が果たした役割
そんなインドが、日米豪印の4カ国連携であるクアッドに参加したのは、ひとえに日本の安倍晋三首相(当時)が推進していた点が大きい。インドの日本に対する信頼度は高く、クアッドがアメリカ中心で進んでいたら参加していたかどうかわからない。また、モディ政権が圧倒的な経済力で国境を侵食する中国への対策として、対中包囲網を主導する安倍元首相のリーダーシップに賭けたという面もある。
また、ロシアからしても、ウクライナ戦争を継続するに当たっては、中国やインドとの連携は欠かせなかった。ロシアは欧米に売れなくなった余剰原油の大幅ディスカウントを提案し、インドもそれに応じて、ロシア産原油の輸入を大きく増やしている。
欧米はこれに激怒したが、インドは我関せずの態度を維持して、エネルギー購入で実質的なロシア支援を続けた。
もちろん、インドがロシアのウクライナ軍事侵攻を快く思っていたわけではなく、立場上、必要に迫られてのことである。
上述したようにインドはエリート層を中心に反米感情が根強かったことも見逃せないが、一方で、国内でIT産業が発展し、シリコンバレーで多くのインド系経営者が誕生するとともに、インド人エリート層の対米感情が好転し始めているという。
2020年前後はインド国民も政府もコロナ禍で大いに苦労した時期であったが、それと同時に、これまで内向きだったインドが日米連携を始める転換点となっている。
「日米シフト」に傾いていたインドにとって、ロシアのウクライナ軍事侵攻は親ロ国ゆえに厄介な問題となった。ロシアとの関係を壊したくはないものの、中国が安全保障上の脅威であることを考えると、そのまま「中ロ側」に居続けるわけにはいかなかったのだろう。
インドの対ロ姿勢が明らかに変化したのは、6月に首都キーウ近郊のブチャにおけるロシア軍のウクライナ民間人の虐殺が明らかになったときからだと筆者は感じている。
その後、インド政府は日本の岸田文雄首相をはじめとする西側要人との会談を増やし、日本も大型投資の約束をするなど、インドの期待に報いた。こうしてインドはロシア離れが進み、あからさまに日米寄りにシフトすることとなった。
インドがロシアと断交することはありえないものの、ロシアがインドを一つの経済バッファとして使えなくなったことは、ロシア経済には大きな打撃となり得る。
中国への経済依存と 中印対立の火種
日米側としても、インドを中ロ側から引き離すことは大きな課題となってきた。安倍元首相が苦労して対中包囲網に引き入れたインドが、ロシアとの連携をきっかけに中国との連携を深めてしまえば、対中包囲網自体が弱体化しかねない。
それでなくてもインドは中国経済にかなり依存しており、いまだに中国経済なしではやっていけない状況と言っても過言ではない。
将来有望な14億人市場が中国側に付くことは、今後、日米にとって政治的にも経済的にも大きな打撃になり得るのだ。
ただし、インドが長年、中国と領土紛争を抱えていることで、いくら経済的な結び付きかが強まろうと、安全保障で連携することはありえない。
それは1949年に中華人民共和国が成立したことに始まる。その頃からチベット国境における両国の見解の相違が表面化して、対立がエスカレートしている。1962年には両国対立は中印国境紛争に発展する。このとき領土を失うという屈辱を味わわされたインドは、中国を敵国として認識するようになった。
その後も紛争の危機が何度も起きたが、なんとか平和裏に交渉で解決してきた。だが、拡張主義を隠さない習近平指導部になってからは、軍事衝突が頻発するようになっている。
特に、2020年、インド北部のラダック地方で起こった紛争では激しい乱闘戦が起き、インド軍に20人の死者が出て、インド国内では激しい反中感情が巻き起こった。
インドのモディ政権はそれまで中国との衝突を避けてきたが、それとは無関係に国民の間で中国製品の排斥運動が起こることとなった。当初はインド政府はこれに応じなかったが、結局ファイティングポーズを取って中国製品排斥に走らざるを得なくなったのである。
各国との経済連携を進め 中国から離反し始めたインド
ただし、中国はBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国のこと。南アフリカが加わるとBRICSと表示する)や、上海協力機構(中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・インド・パキスタン)などの非欧米的な枠組みを使って、インドを自陣に引き入れる努力は惜しまなかった。
インドはまだ経済的には自立しておらず、領土問題は抱えながらも経済的な依存によって敵対させないという政策を取り続けていたのである。
実際、クアッドは、ゆくゆくは軍事同盟にまで引き上げることを目指しているのだが、それを唯一拒んできたのがインドである。インドとしては中国との経済関係を軽視するわけにはいかず、対中包囲網に参加しながらもバランス外交を全くやらないわけにはいかった。
その一方で、インドは公的インフラに対する参入禁止や中国製アプリの禁止、中国企業の進出に一定の規制を設けるなど、中国からの「見えない侵略」については警戒を怠らなかった。
それはインドがIT大国として発展する中で、その最大のライバルが中国であるとみているからだろう。インドのIT技術が中国標準になってしまうと、国際的なIT市場において中国優位に進む可能性がある。
こうした中、インドは中国の経済依存から脱却すべく、他国との経済連携を進めてきた。2011年に日本と包括経済連携協定(EPA)を結んでいたが、2020年前後にはイギリス、EU、カナダ、イスラエルなどの各国と精力的に経済協定を結んだ。
特に重要なのが、2022年4月のオーストラリアとの暫定的な自由貿易協定(FTA)だろう。これは豪印の通商関係の強化を目指すだけでなく、両国の最大貿易相手国である中国からの経済的依存を脱却することを目指しているのが明白だからである。ゆくゆくは包括的なFTAである豪印包括的経済協力協定(CECA)を目指して、「脱中国」の土台にしようとしている。
オーストラリアのモリソン首相(当時)は「今回の協定は、我々の強固な安全保障面でのパートナーシップとクアッドでの共同努力の上に築かれたものだ」と述べている。豪印が手を携えて安全保障と貿易の両面で脱中国を図り、さらに中国封じ込めに動こうとしているのは明らかである。
また、安全保障の面で転換点となったのが、2020年にアメリカと結んだ「地理空間協力のための基礎的な交換・協力協定(BECA)」だろう。
これは高度な地図・衛星画像などの地理的な機密情報を共有するもので、中印国境付近でインド軍は米軍と高高度演習を実施している。これはかつて拒否し続けてきたアメリカの軍事的影響力を積極的に受け入れて、中国に対抗することを狙ったものである。
今のところインド政府が台湾について明確な態度を示したことはないが、これまでに台湾海峡における中国軍の軍拡を批判したり、ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問について中国の自制を求めるなど、日米寄りの態度を示し始めているのも確かだ。
インドの脱中ロの動きはまだ始まったばかりだが、安全保障面でロシアからNATOに依存する割合が大きくなり、貿易面でも脱中国が実現するようになれば、インドが日米側に大きくコミットするようになることはほぼ間違いない。
インドが日米側に付けば、対中包囲網はさらに威力を増し、中国封じ込めには大きなプラスになる。台湾防衛を第一に考えなければいけない日米は、インドの「脱中ロ」を強くし支援することが必要だろう。
●国連総会「ロシアは戦争被害の賠償を」決議採択 11/15
国連総会でロシアがウクライナから直ちに撤退し、武力行使の損害に対して賠償するよう求める決議が採択されました。強制力はありませんが、ロシアは反発しています。
キスリツァ・ウクライナ国連大使:「きょう、あなたの目の前にある提案はロシアがウクライナにおける国際法違反の責任を負わなければならないという宣言です」
決議案はウクライナによって提案され、ロシアがウクライナへの武力行使を直ちに中止してウクライナ領土から無条件に撤退すること、ロシアはウクライナに対する国際法違反の責任を負い、引き起こされた損害を賠償することなどを賛成多数で採択しました。
94カ国が賛成し、ロシアや中国を含む14カ国が反対しました。
ロシアのネベンジャ国連大使は「こうした決議は欧米が凍結しているロシアの資産を賠償の財源として接収する口実として使われる」と主張し、決議に反発しました。
●ウクライナ侵略のロシアは「損害賠償を」…国連総会が決議採択 11/15
国連総会は14日、緊急特別会合を開き、ウクライナ侵略を続けるロシアに対し、ウクライナの被害に法的責任を負うとして損害賠償を求める決議を採択した。欧米や日本など94か国が賛成し、ロシアや中国、北朝鮮、イランなど14か国が反対、インドや南アフリカなど73か国が棄権した。
ロシアによるウクライナ侵略を巡る総会決議採択は5回目となる。決議はウクライナなど57か国が共同提案したもので、損害賠償を管理する「国際的な仕組み」が必要として、請求に備えて損害を記録することなどを加盟国に促している。
採決に先立ち、ウクライナのセルギー・キスリツァ国連大使は「正義が実現されない限り、完全な復興はない」と賛同を呼びかけた。総会決議に法的拘束力はないが、ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は「欧米は、経済制裁で凍結したロシアの資産を(賠償に)使うことに合法性があると見せかけようとしている」と反発した。
棄権した国の多くは被害救済の必要性を認めたが、カリブ地域の14か国・1地域で構成するカリブ共同体(カリコム)を代表したバハマは「賠償の仕組みが不明で総会の権限を越える」と棄権の理由を説明した。
●ソン外相、ウクライナとロシアの外相とカンボジアで会談 11/15
ASEAN関連首脳会議に出席するためカンボジアを訪問していたブイ・タイン・ソン外相は11日、ウクライナのドミトロ・クレーバ外相と会談した。
ソン外相は会談で、ベトナムがウクライナとの伝統的な友好関係と包括的なパートナーシップを常に重視しているとし、さまざまな分野で両国間の協力を促進することを望んだ。また、ウクライナが東南アジア友好協力条約(TAC)に正式に加盟したことに祝辞を述べ、これが両国間の新たな協力の機会の増加につながるとの考えを示した。一方のクレーバ外相は、両国の外交関係樹立30周年を迎える2022年にソン外相と会えたことを嬉しく思うと述べた。
双方は、ウクライナでの戦争の影響下にある経済や貿易、投資などのさまざまな分野における両国間協力を見直すために、両外務省間の政治協議と政府間委員会の第16回会合を早期に開催することで一致した。
ウクライナでの戦争について、ソン外相は、国際法や国連憲章に従い、平和的手段によって紛争を解決することの必要性を主張するというベトナムの一貫した立場を再確認したほか、在ウクライナのベトナム人の避難を支援したウクライナに謝辞を述べ、ベトナムの企業と人々の生命と財産を保護するよう要請した。
ソン外相は12日、ロシアのセルゲイ・ラブロフ(Sergey Lavrov)外相と会談した。ソン外相はこの席で、ベトナムがロシアとの包括的・戦略的パートナーシップを重視しており、双方にとって有益となる形でさまざまな分野で協力を促進したい意向を表明した。
一方のラブロフ外相は、ロシアが常にベトナムを地域における重要なパートナーと見なしているとし、ロシアがASEAN諸国との関係を拡大する架け橋としての役割をベトナムが引き続き果たしていくことを望んだ。
双方は今後の協力の方向性を具体化するために、経済、貿易、科学、技術協力に関する政府間委員会の第24回会合を早期に開催することで一致した。
ウクライナでの戦争について、ソン外相は、国際法や国連憲章に従い、平和的手段によって紛争を解決することの必要性を主張するというベトナムの一貫した立場を改めて主張し、関係各国が早期に紛争を停止して対話を再開することを望み、ベトナムとして対話促進、紛争解決に貢献したい意を示した。
●米国・ロシアが高官協議 ウクライナ情勢を議論 11/15
米国とロシアがウクライナ情勢をめぐる高官協議を14日にトルコの首都アンカラで開いたことが明らかになった。複数の米メディアが報じた。米国から米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が出席し、核兵器使用に反対する立場を重ねて伝えた。
ロイター通信によると、ロシアからナルイシキン対外情報局長官が参加した。ロシアに拘束されている米国人の解放についても議論した。ロシアによるウクライナ侵攻の終結に関しては協議のテーマになっていないという。
フランスのマクロン大統領は14日放送のラジオのインタビューで侵攻について「今後、(関係する)全員を交渉のテーブルにつかせるための外交努力が必要になる」と語った。停戦に関しては「ウクライナの大統領と国民が容認できるタイミングと条件で実施されるべきだ」との見解を示した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10月、同国東・南部4州の併合を一方的に宣言したロシアのプーチン大統領との協議を「不可能」とする法令に署名した。プーチン氏個人との協議は否定するが、ロシア政府を相手にする余地は残したとの見方もある。
●「中国が東シナ海で日本の主権を侵害」 岸田首相が中国を名指しで批判 11/15
日本の岸田文雄首相(写真)が国際会議で異例にも、日本の主権を侵害しているとして中国を名指しで批判した。
14日、NHKなど日本メディアによると、岸田氏は前日、カンボジアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)東アジア首脳会議で、「東シナ海で中国による日本の主権を侵害する活動が継続・強化されている。南シナ海でも軍事化や威圧的な活動など地域の緊張を高める行為が続いている」と懸念を示した。
岸田氏は、中国が8月に発射したミサイルが、台湾本土の上空を横切り、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したことについても、「台湾海峡の平和と安定も地域の安全保障に直結する重要な問題だ」と強調した。
ただし、日本は日中首脳会談を推進するなど中国との対話にも乗り出した。岸田氏は記者団に、「日中の間には可能性があるとともに課題や懸案もある」とし、「主張すべきは主張し、責任ある行動を求める」と述べた。
米ブルームバーグ通信などは13日(現地時間)、米中対立、ロシアのウクライナ侵攻などで主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)に分裂が生じ、カンボジア・プノンペンで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に続き、インドネシア・バリで開かれるG20サミットでも共同声明の採択が難航する可能性があると報じた。
ロシアのプーチン大統領に代わってASEANとG20サミットに出席しているロシアのラブロフ外相は、ASEAN会議の共同声明が出されなかったことについて、米国などからウクライナ情勢を巡り「全く容認できない言葉があった」と主張した。同通信によると、ロシアはウクライナ「戦争」ではなく「特別軍事作戦」という表現にこだわったという。
●「殺害」も示唆 プーチン大統領の盟友が公然批判 11/15
ロシア軍がウクライナ南部の要衝ヘルソンから撤退したことで、ロシア国内で強硬派を中心にプーチン大統領を公に批判する声が出始めた。ウクライナで敗色が強まるなか、タブーだったプーチン批判が噴出したことで、国内の権力闘争が激化する可能性もある。
プーチン氏を公然と批判したのはロシアの民族主義的思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏。「プーチンの盟友」「プーチンの頭脳」と呼ばれ、ウクライナ侵攻などプーチン氏の領土的野心に影響を与えたともいわれる。娘のダリア氏は8月、モスクワ郊外で車の爆発により死亡した。
そのドゥーギン氏はプーチン氏を「独裁者」と称し、ヘルソンを維持することに失敗し「ロシアの都市を守れなかった」と批判した。
英国の人類学者フレイザーの著書を引用し、干魃(かんばつ)の中、雨を降らせることができなかったために殺害された「雨の王」の例を提示。独裁者は身をていして国家を救うか、「雨の王」と同じ運命をたどるかだと指摘した。ウクライナ侵攻に失敗すれば、殺害など重い責任が待ち受けていると示唆した形だ。
米シンクタンク、戦争研究所は、ロシア国内の侵攻推進派がプーチン氏の戦争遂行能力に疑念を抱き始めていると分析。プーチン氏への直接的な批判が「前例がないほど(高まっている)」と指摘した。
●ベラルーシはロシアの「軍事占領下」 反政権チハノフスカヤ氏 11/15
リトアニアに亡命しているベラルーシの反政権派スベトラーナ・チハノフスカヤ氏は14日、ベラルーシは事実上ロシアの「軍事占領下」にあると述べ、欧州連合(EU)に対してアレクサンドル・ルカシェンコ政権への圧力を維持するよう訴えた。
ロシアはウクライナ侵攻の際、ベラルーシ領からもウクライナを攻撃した。現在は合同部隊の一部としてベラルーシにロシア兵数千人を駐留させている。
チハノフスカヤ氏はベルギー・ブリュッセルでEU諸国の外相と会談した後、AFPに対して「ベラルーシは事実上、(ロシアの)軍事占領下にあると言わざるを得ない」との見方を示した。
さらに、ルカシェンコ氏はベラルーシに駐留するロシア軍や配備される軍装備品を管理できていないと主張した上で、「ルカシェンコ氏は(ロシア側の要請)すべてを受け入れるしかない。(ロシアのウラジーミル・)プーチン大統領の後ろ盾がなければ、国内で政治的に生き残れないと自覚しているからだ」と述べた。 
●ウクライナ大統領のミンスク3否定、ロ報道官「交渉意思なし」 11/15
ロシア大統領府のぺスコフ報道官は15日、ウクライナでの戦争を終わらせるために「ミンスク合意3」が結ばれることはないとしたゼレンスキー大統領の発言について、ロシアと和平交渉を行うことに関心がないとの見方を示した。RIAノーボスチが伝えた。
ゼレンスキー大統領はインドネシアで開催されている20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でビデオ演説し、3度目のミンスク合意を否定した。
ウクライナ東部ドンバス地域の地位を巡るロシアとウクライナによる過去2度のミンスク合意は停戦実現に至らなかった。
ゼレンスキー氏は「ロシアが時間を稼いで軍備を増強し、新たなテロと世界の不安定化を始めることを許さない。ミンスク3はあり得ない。ロシアは合意後すぐに違反するだろう」と述べた。
この発言はウクライナがロシアと交渉する気がないことを裏付けているかとの質問に対し、ぺスコフ氏は「間違いない」と述べた。
●G20首脳宣言草案、「大半」がウクライナ戦争非難 ロシア反対か 11/15
ロイターが15日に確認した20カ国・地域(G20)首脳会議の首脳宣言草案によると、ウクライナでの戦争を「大半の」メンバーが強く非難し、戦争が世界経済の脆弱性を深刻化させていると強調した。ウクライナを巡るこの文言にロシアが反対したことを示唆している。
またG20は、緊張の高まりが世界の食糧安全保障にもたらす課題に深い懸念を示し、各国中央銀行がインフレ高進を抑える取り組みを確実に継続するために中銀の独立性が必要と指摘した。
草案は「大半のメンバーは、ウクライナでの戦争を強く非難し、それが多大な人的被害を引き起こし、世界経済の既存の脆弱性を悪化させていることを強調した」とし、「状況と制裁については、別の見解や異なる評価があった」としている。
議長国インドネシアなどは、首脳会議はロシアのウクライナ侵攻を受けた世界経済へのリスクを主眼とすべきとしている。
草案は「G20は安全保障問題を解決するフォーラムではないことを認識し、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与える可能性があることを認める」とした。
また20カ国の中央銀行がインフレ圧力を監視しており、インフレ期待の安定確保に向け金融引き締めペースを調整すると表明。
「これらの目標を達成し、金融政策の信頼性を強化するために中央銀行の独立性は不可欠」とした。
財政刺激策は、商品価格上昇の経済的弱者への打撃を緩和し、インフレ圧力の増幅を防ぐことを目的に「一時的かつ対象を絞った」措置であるべきと述べた。
債務問題については、全ての債権者が公正に負担を分担する重要性を強調した。ただ一部新興国の債務負担軽減への対応が遅いと西側諸国が批判する中国には言及していない。「民間債権者を含む全関係者が、債務の透明性を高めるために引き続き努力する共同の努力の重要性を再確認する」とした。
●G20首脳宣言 ウクライナ戦争でロシアを非難の一方、経済制裁の異論併記 11/15
インドネシアのバリ島で15日開幕した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は首脳宣言の取りまとめへ大詰めの調整を続けた。共同通信が入手した首脳宣言の最終案は参加国の大半がウクライナの戦争を強く非難したと明記する一方、ロシア制裁などに関して異論が出たことも併記した。食料やエネルギーの安定確保へ協調する姿勢も示して宣言採択を目指すが、なお曲折も予想される。16日に閉幕する。
最終案は「ウクライナ戦争が世界経済に、さらなる悪影響を及ぼすことを目の当たりにした」とも記した。世界的なインフレやサプライチェーン(供給網)の混乱、食料の供給不安を招いていると述べ、ロシアを非難した。世界的な食料安全保障への「深い懸念」を盛り込んだ。
一方、ロシアへの経済制裁には「他の見解や異なる評価もあった」と指摘。ロシアへの配慮と受け取れる文言を取り入れた。ウクライナ産穀物輸出に関するロシアなどとの4者合意について、19日の期限切れを前に、延長して完全履行するよう訴えた。
岸田文雄首相は15日の会合で「ウクライナ侵略は国際社会全体の根幹を揺るがす、法の支配に基づく国際秩序への挑戦だ」とロシアを非難した。ロシアからは欠席したプーチン大統領に代わりラブロフ外相が出席した。
ラブロフ氏は15日、首脳宣言の調整作業が「事実上終了した」とし、16日に採択されると述べた。多くの国がロシアを非難したとの文言を付け加えるよう米欧が要求し、異論が提起されたことも付記することで妥協したと述べた。
この日は国際衛生保健体制の強化も討議し、新型コロナウイルスなど途上国への感染症対策支援についても話し合った。
●中仏首脳会談 習氏「中国は独自の方法で建設的な役割を果たす」 11/15
中国の習近平国家主席はフランスのマクロン大統領と会談を行い、ウクライナ問題について「中国は独自の方法で建設的な役割を果たす」と表明しました。
G20=主要20か国・地域の首脳会議に参加するためインドネシア・バリ島を訪問中の中国の習近平国家主席は15日、フランスのマクロン大統領と、新型コロナの感染拡大以降、初となる対面での会談を行いました。
中国外務省によりますと、ウクライナ情勢について、習氏は「中国は一貫して停戦と和平協議を提唱している。国際社会が協議の環境を整えるべき」と主張したうえで、「中国は独自の方法で建設的な役割を果たす」と表明したということです。
また、中国とフランスとの関係について、「グリーンエネルギーなどの分野で協力の可能性を掘り起こさなければならない」と訴えました。
一方、マクロン大統領は習近平国家主席の3期目入りを祝福。「ヨーロッパと中国の間の対話と協力を積極的に推進することを望む」などと表明したということです。

 

●ロシア、ウクライナ主要都市にミサイル100発 撤退加速の兆しも 11/16
ロシア軍は15日、ウクライナ南部ドニエプル川からの撤退加速の兆候を見せる一方、ウクライナの各都市にミサイル攻撃を行った。
今回のミサイル攻撃は約9カ月間におよぶウクライナ侵攻で最も激しいもので、主要な約10都市で空襲警報が鳴り響き、爆発が発生。ウクライナ空軍の報道官によると、ロシア軍は夕方までにウクライナに約100発のミサイルを発射したという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ミサイルの主な標的はこれまでと同様、エネルギーインフラだと指摘。このような攻撃は、ロシア軍に対する反攻の決意を固めるだけだとした。
首都キーウ(キエフ)では、5階建てのアパートから出火。当局によると、2棟のうち1棟が攻撃されたという。市長は1人の死亡が確認され、キーウの半分が停電に見舞われていると述べた。
このほか、西部のリビウやジトーミル、南部のクリブイリフ、東部のハリコフなどで攻撃や爆発が報告された。地元当局は攻撃により電力供給が停止したと発表した。
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は15日、ロシアによるミサイル攻撃を強く非難。首都などの住宅を攻撃したもようと述べた。
英国のクレバリー外相も同日、ミサイル攻撃はプーチン大統領の弱さを示しているとした。
こうした中、ウクライナ南部ヘルソン州の第2の都市ノバ・カホフカで、ロシアが設置した行政機関に務める職員が戦闘を理由に数千人の住民とともに避難したと、ロシア設置の行政機関が発表した。
ゼレンスキー大統領は15日、インドネシアで開催されている20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でビデオ演説し、「今こそロシアの破壊的な戦争を止めなければならないし、止められると確信している」と指摘。戦争は「国連憲章と国際法に基づき、正当に」終結させるべきだと述べた。
ロイターが15日に確認したG20首脳会議の首脳宣言草案によると、ウクライナでの戦争を「大半の」メンバーが強く非難し、戦争が世界経済の脆弱性を深刻化させていると強調した。ウクライナを巡るこの文言にロシアが反対したことを示唆している。
●ロシアに非難集中 「戦争犯罪人」―COP会場で 11/16
エジプトで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で15日、ロシア政府主催のイベントがあり、ウクライナへの軍事侵攻などに非難が集中する一幕があった。抗議した男女らは警備員によって会場から退出させられた。
イベントは温暖化対策がテーマで、ロシアの高官ら6人が登壇。冒頭、会場にいた男女数人が立ち上がると、「あなたたちは紛れもなく戦争犯罪人だ」と大声で叫んだり、「化石燃料は死をもたらす」と書いた垂れ幕を掲げたりした。
質疑応答では、別の参加者が「ウクライナ侵攻による環境破壊をどう思うか」と質問。ロシア高官は「時間がない」と回答を拒否した。
一方、ロシアのエデルゲリエフ気候変動担当大統領特使はロイター通信に対し、ロシアは温暖化対策に積極的に取り組んでいると強調。その上で、一部の国が「難しい地政学的状況」を口実に、努力を後退させる可能性があると主張した。
●ポーランド東部にも着弾か ロシア軍、ウクライナ首都などにミサイル攻撃 11/16
AP通信などは、ロシアのミサイルがウクライナとの国境に近いポーランド東部の村に着弾したと伝えました。
ウクライナでは15日、首都キーウや北東部のハルキウなど複数の都市がロシアによるミサイル攻撃を受け、キーウでは1人が死亡しました。
こうした中、AP通信などはアメリカ政府高官の話として、ポーランド東部のウクライナ国境に近い村にロシアのミサイルが着弾したと伝えました。
ポーランドはNATO=北大西洋条約機構の加盟国で、着弾が事実とすれば、ロシアによるウクライナ軍事侵攻以降、NATO加盟国では初めてとなります。
ポーランド政府の報道官は東部で爆発があり、2人が死亡したと明らかにした上で、NATOの条約4条に基づく加盟国の緊急会合を求めるか検討しているとしています。
ロシアのミサイルがポーランドに着弾したとする報道を受け、ロシア国防省は声明を発表し、「緊張を高めようとする意図的な挑発行為だ」として関与を否定しました。声明では、「ロシア軍はウクライナとポーランドとの国境付近の目標に対する攻撃は行っていない」とし、「現場の残骸はロシアの兵器とは関係がないものだ」と主張しています。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、「NATO加盟国へのミサイル着弾は、ロシアによる集団安全保障への攻撃だ」としたうえで、「非常に深刻なエスカレーションだ」と述べました。
こうした事態を受け、G20出席のためインドネシアを訪問中のアメリカ・バイデン大統領は現地時間の午前5時半頃、ポーランドのドゥダ大統領と電話会談を行いました。会談の内容は明らかにされていません。
また、NSC=アメリカ国家安全保障会議の報道官は「ポーランド政府とともに情報を集めていて、現時点で報道されている件について確認はできない」とした上で、「何が起きたかを特定し、適切な対応を決めていく」としています。
NATOのストルテンベルグ事務総長は15日、ツイッターで「ポーランドの爆発についてドゥダ大統領と話をした。NATOは状況を注視しており、同盟国は緊密に協議している。すべての事実が確定されることが重要だ」としています。
また、NATO加盟国であるチェコのフィアラ首相は15日、ツイッターで「ポーランドへのミサイル着弾が確認されれば、事態は激化することとなるだろう」「私たちはEUとNATOの同盟国と緊密に連携する」とコメントしました。
●ロシアのミサイル ポーランドに着弾2人死亡 ポーランド外務省  11/16
ウクライナ各地で15日、大規模なミサイル攻撃が行われる中、ウクライナの隣国ポーランドの外務省は、ロシア製のミサイルが国内に落下し、2人が死亡したと明らかにしました。ロシアによる軍事侵攻後、NATO=北大西洋条約機構の加盟国で初めて、ロシアの攻撃による犠牲者が出たことで、国際社会の緊張が高まっています。
ポーランドの外務省は日本時間の16日午前8時ごろ、声明を発表し「ロシア製のミサイルがポーランド領内に落下し、2人が死亡した」と明らかにしました。
それによりますと、ミサイルは現地時間の15日午後3時40分ごろ、日本時間の15日午後11時40分ごろ、ウクライナとの国境に近いプシェボドフという村に落下したということです。ポーランドはアメリカが主導するNATOの加盟国で、ことし2月の軍事侵攻以降、NATOの加盟国内で初めて犠牲者が出たことになります。
ポーランドのモラウィエツキ首相は、NATOの加盟国の領土保全や安全などが脅かされている場合に対応を協議する、北大西洋条約第4条の適用を要請することを検討していると明らかにしました。
また、G20サミットに出席するためインドネシアに滞在しているアメリカのバイデン大統領はポーランドのドゥダ大統領と電話で会談し、NATOとしての揺るぎない決意を確認したということです。
さらに、ウクライナのゼレンスキー大統領は動画を公開し「ロシアのミサイルがポーランドを襲った。ロシアのテロがさらに広がるのは時間の問題だ」と非難しました。
一方、ロシア国防省は声明を発表し「状況をエスカレートさせるための意図的な挑発行為だ。ロシアはウクライナとポーランドの国境付近の目標に対して、攻撃を行っていない」としています。
NATOの第4条 第5条とは
北大西洋条約の第4条は、加盟国の領土保全や政治的独立、または安全が脅かされている場合に、いつでも対応を協議すると定められています。
また、第5条は、加盟国が1国でも攻撃を受けた場合、これを加盟国全体への攻撃とみなして反撃などの対応をとる集団的自衛権の行使が規定されていて、軍事同盟であるNATOの根幹をなす条項です。
2001年のアメリカの同時多発テロについて、NATOはアメリカへの攻撃とみなして、史上初めて第5条を発動しました。
●ポーランドにロシアのミサイルか ロシア「緊張を高める挑発行為だ・・・」否定 11/16
AP通信などは、ロシアのミサイルがウクライナとの国境に近いポーランド東部の村に着弾したと伝えました。
ウクライナでは15日、首都キーウや北東部のハルキウなど複数の都市がロシアによるミサイル攻撃を受け、キーウでは1人が死亡しました。
こうした中、AP通信などは、アメリカ政府高官の話として、ポーランド東部のウクライナ国境に近い村にロシアのミサイルが着弾したと伝えました。
ポーランドはNATO=北大西洋条約機構の加盟国で、着弾が事実とすればロシアによるウクライナ軍事侵攻以降、NATO加盟国では初めてとなります。
ポーランド政府の報道官は東部で爆発があり2人が死亡したと明らかにしたうえで、NATOの条約4条に基づく加盟国の緊急会合を求めるか検討しているとしています。
ロシアのミサイルがポーランドに着弾したとする報道を受け、ロシア国防省は声明を発表し、「緊張を高めようとする意図的な挑発行為だ」として関与を否定しました。声明では「ロシア軍はウクライナとポーランドとの国境付近の目標に対する攻撃は行っていない」とし、「現場の残骸はロシアの兵器とは関係がないものだ」と主張しています。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、「NATO加盟国へのミサイル着弾は、ロシアによる集団安全保障への攻撃だ」としたうえで、「非常に深刻なエスカレーションだ」と述べました。
こうした事態を受け、G20出席のためインドネシアを訪問中のアメリカ・バイデン大統領は現地時間の午前5時半ごろ、ポーランドのドゥダ大統領と電話会談を行いました。
ホワイトハウスによりますと、電話会談でバイデン大統領はポーランド西部で人命が失われたことに対し、深い哀悼の意を示したということです。
また、ドゥダ大統領から、ウクライナとの国境近くで起きた爆発についてポーランドが現在行っている調査について説明を受けたとしています。バイデン大統領はポーランドの調査に対し、アメリカによる全面的な支援と援助を申し出たうえで、NATO=北大西洋条約機構へのアメリカの揺るぎない関与を再確認しました。
両首脳は今後の状況を適切に決定するため、両国が引き続き緊密に連携していく方針で一致したということです。
また、NSC=アメリカ国家安全保障会議の報道官は「ポーランド政府とともに情報を集めていて、現時点で報道されている件について確認はできない」としたうえで、「何が起きたかを特定し、適切な対応を決めていく」としています。
NATOのストルテンベルグ事務総長は15日、ツイッターで「ポーランドの爆発についてドゥダ大統領と話をした。NATOは状況を注視しており、同盟国は緊密に協議している。すべての事実が確定されることが重要だ」としています。
イギリスのクレバリー外相は15日、ツイッターで「我々はポーランドにミサイルが着弾したとの報告を緊急に調査し、ポーランドやNATO同盟国と連絡を取り合っている」とコメントしました。
また、NATO加盟国であるチェコのフィアラ首相は15日、ツイッターで「ポーランドへのミサイル着弾が確認されれば、事態は激化することとなるだろう」「私たちはEUとNATOの同盟国と緊密に連携する」とコメントしました。
リトアニアのナウセーダ大統領は15日、ツイッターで「少なくとも2回の爆発があったというポーランドのニュースを懸念している。リトアニアとポーランドは強い連帯感がある。NATOの領土は隅々まで守らなければならない」とコメント。
また、エストニアのレインサル外相は「大変深刻だ。私たちはポーランドや他の同盟国と緊密に協議している」などとと述べています。
●ポーランドにミサイル着弾 NATOの対応は?  11/16
ロシアのミサイルが15日、ウクライナの隣国、ポーランド領内に落下し2人が死亡しました。ロシアによる軍事侵攻後、NATO=北大西洋条約機構の加盟国で初めて、ロシアの攻撃による犠牲者が出たことで、国際社会の緊張が高まっています。各国の対応やNATOの動きなどについて随時更新でお伝えしています。(日本とウクライナは7時間、ロシアのモスクワとは6時間の時差があります・記事の見出しにある時刻はすべて日本時間での表記です)
松野官房長官「邦人被害が出ているとの情報ない」
松野官房長官は、記者会見で「現時点で邦人被害が出ているとの情報には接していない。ポーランドの日本大使館から在留邦人にメールを出して、ウクライナ国境付近への不要不急の外出を控えるよう注意喚起を行った。引き続き状況を注視し、邦人保護に万全を期していく」と述べました。
11:00 バイデン大統領「ロシアから発射されたとは考えにくい」
G7=主要7か国とNATO=北大西洋条約機構の緊急首脳会合を終えたアメリカのバイデン大統領は記者団に対し、何が起きたのかの調査は終わっていないとしたうえで「軌道から考えるにロシアから発射されたとは考えにくい」と述べました。そのうえで、現地での調査を進めていくことで一致したことを明らかにしました。このミサイルについて、ポーランドの外務省はロシア製であることを明らかにしています。
11:08 岸田首相「情報交換行った」
岸田総理大臣は、インドネシアで行われていた、G7=主要7か国とNATO=北大西洋条約機構の緊急首脳会合終了後の日本時間の午前11時8分、記者団から「どういった話があったか」と質問されたのに対し「情報交換を行いました」と述べました。
10:33 G7とNATOの緊急首脳会合が終了
日本政府関係者によりますと、インドネシアで行われていた、G7=主要7か国とNATO=北大西洋条約機構の緊急首脳会合が日本時間の午前10時33分、終了したということです。
   フランス マクロン大統領「ポーランドを支え 支援」
フランスのマクロン大統領は「ポーランドのモラウィエツキ首相と会談を行い、フランスの連帯を表明した。我々はポーランドを支え、現在継続中の調査についても支援する用意がある」とツイッターに書き込み、ポーランドへの連帯を強調しました。
   イギリス スナク首相「NATO同盟国との調整続ける」
イギリスのスナク首相も、ドゥダ大統領と会談したことを明らかにし「ポーランドへの連帯を改めて示すとともに、犠牲者への哀悼の意を伝えた。今後も緊密に連絡を取り合い、NATOの同盟国との調整を続ける」とツイッターに書き込みました。
9:54 G7とNATOの緊急首脳会合が始まる
日本政府関係者によりますと、日本時間の午前9時54分から、インドネシアで、G7=主要7か国とNATO=北大西洋条約機構の緊急首脳会合が始まったということです。
   外務省幹部「状況を注視し情報収集を行う」
外務省幹部は記者団に対し「『ロシア製のミサイルだ』と言ってもさまざまな状況が考えられ、状況を注視しつつ、アメリカなどから情報収集を行う。ロシアのミサイルは精度が悪いと言われるが、今回が誤射なのかどうかは分からない。NATO=北大西洋条約機構を怒らせても意味がないので、ロシアのミサイルだとすれば、ポーランドに撃ち込む意図が分からない」と述べました。
   NATO加盟国からも反応
NATO=北大西洋条約機構の加盟国からは、ツイッターでポーランドとの連帯を強調する声があがっています。
このうち、リトアニアのナウセーダ大統領は「ポーランドから少なくとも2回の爆発があったという情報があった。リトアニアはポーランドと強い連帯感を持っている。NATOの領土は隅々まで守られなければならない」と投稿しました。また、ベルギーのデクロー首相は「ポーランド領内で起きた事件を強く非難し、犠牲者の家族とポーランドの人々に哀悼の意を表する。NATOはかつてないほど団結している」と述べました。さらに、ドイツのベアボック外相も「私の思いは、私たちの隣人であるポーランドとともにある。状況を注視し、ポーランドやNATOの同盟国と連絡をとっている」と述べています。このほか、チェコやエストニア、ラトビアなどNATOの加盟国からポーランドを支持する声が次々にあがっています。
   地面には大きな穴 コンクリートの破片のようなものが散乱
ロイター通信はポーランドのミサイルが落下した地点を映したとする写真を配信しました。地面には大きな穴が空いていて、周辺では、トレーラーとみられる車両が横倒しになっています。また、コンクリートの破片のようなものが散乱している様子も確認できます。
9:30ごろ 政府関係者「まもなくG7とNATOの緊急首脳会合」
インドネシアを訪れている日本政府関係者は、日本時間の9時半ごろ、G7とNATO=北大西洋条約機構の緊急首脳会合がまもなく開かれると明らかにしました。
   G7緊急会合開催の可能性
ロシアのミサイルがウクライナの隣国ポーランド領内に着弾し、2人が死亡したと伝えられたことを受けて、日本政府関係者は、「G7=主要7か国が、緊急の首脳会合を開催する可能性があり、やり取りを進めている」と述べました。
9:00 岸田首相「情勢を確認中だ」
インドネシアのバリ島を訪れている岸田総理大臣は宿泊先のホテルを出発する際、記者団に対し「情勢を確認中だ」と述べました。
   米・バイデン大統領 ポーランドのドゥダ大統領と電話で会談
アメリカ・ホワイトハウスは、G20サミットに出席するためインドネシアに滞在しているバイデン大統領がポーランドのドゥダ大統領と電話で会談したことを明らかにしました。会談の詳しい内容はわかっていませんが、ロシアのミサイルがポーランド領内に着弾したとの報道を受け、意見を交わしたものと見られます。
   NATOの第4条、第5条とは
北大西洋条約の第4条は、加盟国の領土保全や政治的独立、または安全が脅かされている場合に、いつでも対応を協議すると定められています。また、第5条は、加盟国が1国でも攻撃を受けた場合、これを加盟国全体への攻撃とみなして反撃などの対応をとる集団的自衛権の行使が規定されていて、軍事同盟であるNATOの根幹をなす条項です。2001年のアメリカの同時多発テロについて、NATOはアメリカへの攻撃とみなして、史上初めて第5条を発動しました。
8:00 ポーランド外務省「ロシア製ミサイルが落下 2人死亡」
ウクライナ隣国のポーランドの外務省は15日、声明を発表し「ロシア製のミサイルがポーランド領内に落下し、2人が死亡した」と明らかにしました。ミサイルは現地時間の15日午後3時40分ごろ、日本時間の15日午後11時40分ごろ、ウクライナとの国境に近いプシェボドフという村に落下したということです。ポーランドはアメリカが主導するNATOの加盟国で、ことし2月の軍事侵攻以降、NATOの加盟国内で初めて犠牲者が出たことになります。
6:30 EUミシェル大統領 加盟国首脳ら対応協議へ
EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領はツイッターで、インドネシアで開かれているG20サミットに出席しているEU加盟国の首脳らと16日に対応を協議する考えを明らかにしました。また、フランス大統領府も15日、声明を発表し「マクロン大統領はポーランド政府と連絡を取り、状況を把握している」としたうえでG20サミットについて「主要国の間で意識を高める重要な場になる」と述べ、マクロン大統領が16日にも首脳レベルでの協議を模索するとしています。
6:15 NATO事務総長「状況を注視」
NATOのストルテンベルグ事務総長はツイッターに「爆発についてポーランドのドゥダ大統領と協議した。NATOは状況を注視しており、加盟国は緊密に連絡をとりあっている。事実がすべて確認されることが重要だ」と投稿しました。
   ゼレンスキー大統領「集団安全保障に対する攻撃」
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、新たな動画を公開し「きょう私たちが長い間警告してきたことが起きた。テロは私たちの国境にとどまらない。ロシアのミサイルがポーランドを襲った。ロシアのテロがさらに広がるのは時間の問題だ」と述べました。そのうえで「NATOの領土にミサイルを発射することは集団安全保障に対するロシアの攻撃であり、非常に重大な事態だ。われわれは行動しなければならない」として、ロシアを強く批判するとともに、ポーランドへの支持を示しました。
   ロシア国防省 ポーランド国境付近への攻撃を否定
ロシア国防省は15日、声明を発表し「報道などで伝えられているロシアのミサイルに関するものは、状況をエスカレートさせるための意図的な挑発行為だ。ウクライナとポーランドの国境付近の目標に対して、ロシアは攻撃は行っていない」としています。
   ポーランド政府 緊急の安全保障に関する会議を招集
ポーランド政府は、ロシアのミサイルが国内に落下したかどうかについて現時点でコメントしていませんが、政府の報道官は15日、モラウィエツキ首相が国防相など複数の閣僚でつくる緊急の安全保障に関する会議を招集したと明らかにしました。地元メディアによりますと、会議はすでに始まっているということです。
   ロシアのミサイル ポーランド領内に入り2人死亡 AP通信
アメリカのAP通信は15日、アメリカ政府当局者の話として、ロシアによるミサイルがウクライナの隣国ポーランド領内に入り、2人が死亡したと伝えました。これについて、アメリカ国防総省のライダー報道官は15日、記者会見で「報道は把握しているが、現時点では確認できる情報はない。さらに調査する」と述べ、情報の確認を急ぐとしています。
   ウクライナ“ミサイル攻撃により広範囲で停電”
ウクライナでは15日、首都キーウをはじめ各地でインフラ施設などをねらった大規模なミサイル攻撃がありました。首都キーウのクリチコ市長によりますと、キーウ市内で少なくとも3棟の集合住宅などが被害を受け、1人が死亡しました。また、西部リビウの市長によりますと、攻撃で1人がけがをし、市の8割が停電しているということです。ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は、ウクライナ全土に90発以上のミサイル攻撃があり、各地のインフラ施設15か所が被害を受けたとしています。その影響で、首都キーウのほか、西部リビウ州や東部ハルキウ州など広範囲で、合わせて700万世帯以上が停電しているということです。
   ゼレンスキー大統領「85発のミサイルが撃ち込まれた」
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、ミサイル攻撃を受けて動画を公開し「ウクライナに85発のミサイルが撃ち込まれた。大半がエネルギーインフラへの攻撃だ」と明らかにしました。そのうえで「多くの都市で電力供給が不可能となったが、私たちはすべて復旧させる」と述べて、国民の士気を鼓舞しました。ロイター通信などによりますと、ミサイル攻撃は首都キーウをはじめ、北西部の都市ジトーミルや東部ハルキウ州など全土で確認され、このうち西部リビウ州の映像ではミサイル攻撃を受けたとみられる場所で真っ黒な煙が空に立ちこめている様子がわかります。
   アメリカ大統領補佐官「自衛のために必要な支援を続ける」
アメリカ・ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は15日、声明を出し「G20サミットで世界の指導者たちが人々の命や暮らしにとって重要な問題を協議しているさなかに、ロシアは再び人々の命を脅かしウクライナの重要なインフラを破壊している」として、強く非難しました。また「こうしたロシアの攻撃は、G20の国々の間で、プーチン氏の戦争がもたらす不安定化への懸念が深まるだけだ」と指摘しました。さらに、サリバン補佐官は「アメリカは同盟国などとともに、ウクライナに対し、防空システムの提供など自衛のために必要な支援を続ける」として、ウクライナへの軍事支援を続けると強調しました。
   南部ヘルソン市の女性「『私たちは自由だ』と叫びたい気持ち」
ウクライナ軍が奪還した南部ヘルソン市内の状況について、市内に住む53歳の女性がNHKの電話インタビューに対し「通信は不安定だが少しずつ戻ってきた。しかし、依然、停電しているほか、水道も断水していて、暖房もない」と厳しい状況を語りました。また、一部のロシア兵が民間人のふりをして潜んでいると見られることについて「スポーツ用品店に押し入り、軍服からスポーツウエアに着替えたロシア兵もいると聞いている。しかし、ウクライナの警察が市内に戻ってきていて、心配していない」と話しました。女性は現在の心境について「ヘルソンがウクライナに戻り、道に出て『私たちは自由だ』と叫びたい気持ちだった。私たちは自由で、自由の空気を吸っている。それがもっとも大切なことだ」と話し、ロシア軍の占領から解放された喜びを語りました。
   ウクライナ外相「ロシアのミサイル 全土で人々を殺している」
ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官などは15日、首都キーウでロシア軍によるミサイル攻撃があったとSNS上で明らかにしました。その後、ウクライナのクレバ外相もツイッターに投稿し、「ロシアのミサイルがいままさにウクライナ全土で人々を殺し、インフラを破壊している」としたうえで「このテロは、私たちの武器と信念の強さによってのみ阻止できる」と訴えました。そのうえで、インドネシアで開かれているG20サミット=主要20か国の首脳会議に言及し「ロシアはウクライナの平和な都市を標的にしている。G20サミットがウクライナの人々に寄り添い、信念をもった反応を出してくれることを期待している」と呼びかけました。
●辞職のロシア元外交官「プーチン大統領勝利以外受け入れない」  11/16
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア政府に抗議し、ことし5月、ロシアの外交官を辞職したボリス・ボンダレフ氏がNHKのインタビューに応じ、「プーチン大統領は戦争の終結を勝利以外の方法では受け入れない」と述べ、プーチン大統領が勝利と捉えられる状況にならないかぎり軍事侵攻は続くとの見方を示しました。
スイスのジュネーブにあるロシア政府の代表部に所属する外交官だったボンダレフ氏はことし5月、ウクライナへの軍事侵攻を続ける政府に抗議しておよそ20年間キャリアを積んできた外交官を辞職しました。
ボンダレフ氏は現在はスイスで生活していて14日、NHKのインタビューに応じ、軍事侵攻の計画は当時、外務省の幹部にも知らされていなかったと述べたうえで「辞職しなければ軍事侵攻に同意することになると思った。プーチン大統領はウクライナを侵略するために大勢の人が死亡し家や町が破壊されることを気にもとめていない。私は関与したくなかった」と辞職した理由を明らかにし、プーチン政権を非難しました。
そして侵攻が始まって1か月ほどで外務省の同僚が何人も辞職したとしたうえで「彼らはポイント・オブ・ノーリターンと呼ばれるものをとおりすぎてしまったことを理解し、この先は悪くなる一方で元の正常な軌道にどうやって戻せばいいのかは全く分からないと考えていた」と述べ、プーチン政権が引き返すことができない方向にかじを切ったことを一部の外交官などは理解していたと指摘しました。
ただ侵攻が長期化するうちに政権からの圧力が強くなり「退職したあと逮捕されるか、何らかの抑圧を受けることになるかもしれない」と述べ、いまは密告されたり拘束されたりすることを恐れて辞職することは難しく、抗議の声をあげられなくなっていると指摘しました。
またボンダレフ氏は、ウクライナによる反転攻勢が続き、南部ヘルソン州からロシア軍が部隊を撤退させたとしていることについて「ロシア政府は当初、ウクライナがすぐに敗北すると思っていたが、前線の状況が悪くなり、政府関係者の大半は想定外のことが起きていると考えているはずだ」と述べ、侵攻が思うように進んでいないと受け止めているのではないかと指摘しました。
そして、「プーチン大統領はこのような戦争によって自身の権威を急激に引き上げることを決意した。すべての問題や失敗を戦争のせいにして『私たちには敵がいる。だからわれわれにはプーチン政権が必要なんだ』と言うために侵攻した」と指摘したうえで「プーチン大統領は戦争の終結を勝利以外の方法では受け入れないと私は確信している」と述べ、プーチン大統領が勝利と捉えられる状況にならないかぎり軍事侵攻は続くとの見方を示しました。
●敗戦続きで指揮官の命令を信じられない…ロシア軍の「士気の低さ」の理由 11/16
ロシア兵の半分近くが“戦闘不能”
ウクライナ侵攻の開始から250日が過ぎ、ロシアの劣勢が露(あら)わになってきた。筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が話す。
「当初、19万人が動員されたというウクライナ侵攻ですが、実際には15万〜17万人だったという見方があります。このうち少なく見積もっても3割、多くて5割ほどが、既に戦死するか、戦闘できないほどの重傷を負うか、逃げ帰る、投降するなどして、戦場から『消失』したとされる」
アメリカ国防総省は、8月の段階で、ロシア軍は7万〜8万人が死傷したとの見方を発表しており、半分近い兵力が戦闘不能であることは間違いないようだ。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が語る。
「ウクライナの反転攻勢が9月から続いています。南部のヘルソンでは、ロシア軍はドニエプル川西岸で橋を壊され、最大25000人が孤立している」
クリミア大橋での爆発を受け、ロシアは「報復」として10月にはウクライナの首都キーウを含む全土のインフラ施設をミサイルやドローンで攻撃。続いて核ミサイル演習を実施、さらにプーチン大統領は「ウクライナが『汚い爆弾』(放射性物質を拡散する爆弾)を使用する」と喧伝している。
「派手な動きは、プーチンが不利な戦況を認めたくないゆえの“嫌がらせ”の域を出ません」(黒井氏)
C型肝炎患者やHIV感染者も動員
プーチンの焦りが最も現れていたのは、9月21日に発令された予備役を対象とした部分的動員令である。ロシア国防相は、以後1カ月でおよそ30万人の動員を完了したと発表した。中村氏が解説する。
「動員された人は予備役とはいえ職業軍人ではなく、一般の生活をしていた人々。各地域に動員人数が割り当てられ、知事たちが集めた。行政の顔色をうかがう企業が、自分のところの工場労働者らを“差し出した”ことも。徴兵担当の役人が職場に来て召集令状を渡し、そのまま連れて行かれるのです」
基準も曖昧になっていると指摘するのは、国際ジャーナリストの山田敏弘氏だ。
「平時では動員されないC型肝炎患者やHIV感染者まで集めている。それぞれ、色の付いたバンドをつけさせ一目でわかるようにしているとされます」
ボロボロの防弾チョッキを持ったロシア兵の写真
新兵が投入されているが、状況は開戦時よりも過酷だ。10月半ばには、SNS上に、テープで補修したボロボロの防弾チョッキを持ったロシア兵の写真が拡散した。別のロシア兵は、「軍隊には何もなかった。装備は自分で買わざるを得なかった」と西側メディアの取材に答えた。
「徴兵が決まってからネットであわてて装備品を買ったケースもあるようです」(山田氏)
配属されても自分が向かう戦場の事はロクに聞かされない。中村氏がある兵士の悲劇を紹介する。
「最近、新兵の証言がロシア語で広まっています。〈私たちは草原にまるで犬のように捨てられた〉と題するもの。〈カラシニコフ(小銃)と刃物だけ受け取って、草原に送り込まれた。他の装備はない。自分がどこにいるのかもわからないし、指揮官もいない。何をすればいいのかよくわからない〉〈同僚は体調を崩して血を吐いているが、薬もない。いつ敵の攻撃を受けるかわからない。夜は0℃を下回る寒さで、草原で眠る。針の筵にいる心地だ〉というのです。これをもはや軍隊とは呼べません」
新兵に施される訓練は「長くても1週間程度との証言が多い」(同前)という。軍事研究家で陸上自衛隊の予備一佐でもある関口高史氏はこう解説する。
「国によって事情は違いますが、一般の人が戦える兵隊になるには平時3カ月、有事でもひと月は必要です」
貧弱な武装のロシア軍と最新兵器で武装したウクライナ軍
ウクライナ国防省は、〈新兵の一部は、要所ヘルソンの市街戦に備えた「砲弾の餌食」として配置される〉と公表し、ロシア軍に揺さぶりをかける。冒頭の写真の兵士も間もなくヘルソンへ送られるとみられる。
「彼らは貧弱な武装のまま、欧米の最新兵器で武装したウクライナ軍と対峙させられ、これから大量に戦死するでしょう。塹壕に隠れるロシア兵たちは、ウクライナのドローンに上空から監視されています。位置が捕捉されて砲撃され、無残に倒れているのです」(前出・黒井氏)
しかし、ここまでのロシア軍の苦戦は、予想外でもあったとするのは、関口氏だ。
「攻撃第一主義を掲げるロシア軍ですが、最近では攻撃もままならず、防御でも苦戦している。これには驚きました。ロシア軍はハイテク化していたはずなのに、当初から最新武器の取り扱い、戦い方(電子戦やドローン戦術)に不慣れな兵士があまりにも多い印象です。空挺部隊など精強な部隊が実戦に投入され失敗を続ける中、新たに動員した兵士を前線に送ったとしても、十分な戦果を獲得できるとは思えません。精鋭部隊を温存しているのか、他の理由があるのか。現時点では見えてきません」
ロシア軍の士気の低さ、5つの理由
虎の子の精鋭は隠し、一般の国民が動員されて前線に送られている可能性があるのだ。一度、動員されると戦場から逃れるすべはない。逃亡や降伏ができないように、忠誠度の高い部隊が兵士たちを監視している。
「ウクライナ東部ルガンスクでは戦いを拒否したロシア兵約140人が、刑務所より頑丈な鉄の扉の部屋に押し込められた。別の地域ではアスファルトに一晩寝かせられ、上官から首に機関銃を押し付けられ脅された事例もある。ウクライナが立ち上げた逃亡兵向けのホットラインには開始3週間で2000〜3000人のロシア兵からの相談が相次いだといいます」(中村氏)
ロシア軍の士気の低さについて、関口氏は、5つの理由があると分析する。
(1)敗戦続きで指揮官の命令を信じられない
(2)編成、装備、訓練が十分でないため、戦闘に没入できない
(3)日常生活の場からいきなり戦場へ連れていかれた兵士もいて、部隊の強固な団結が醸成されていない
(4)ウクライナやその他の国の心理戦(反戦やロシア軍の被害状況などのプロパガンダ)が効いている
(5)ロシア・ロシア軍が持つ人命軽視思想が、今の時代の若者たちに符合しない
プーチンの語りはロシアの若者に響いてなかった
プーチンは大統領就任後、2005年ごろから愛国主義の柱として第二次世界大戦の犠牲者を顕彰してきた。第二次大戦でのソ連の民間人を含む犠牲者は2700万人とされる。拓殖大学特任教授の名越健郎氏が話す。
「プーチンは、『ソ連の兵士は世界とドイツの人々をファシズムという疫病から解放した』と語り第二次大戦を国家団結のイデオロギーに結び付けて語ってきました。歴史教科書もこの考えに基づいて改訂されています。しかし、動員令発表後に起きた20万人を超える大量出国からもわかる通り、ロシアの若者には響いていなかったのが事実です」
新兵を投入しても劣勢を押し返すには至らず、ウクライナ側の反撃は続くとの見方が強い。ロシア国内では、近く全国に戒厳令が敷かれ、さらなる動員が行われるとの噂が広がっており、動揺が収まる気配はない。
●ロシア、ウクライナ主要都市にミサイル100発 撤退加速の兆しも 11/16
ロシア軍は15日、ウクライナ南部ドニエプル川からの撤退加速の兆候を見せる一方、ウクライナの各都市にミサイル攻撃を行った。
今回のミサイル攻撃は約9カ月間におよぶウクライナ侵攻で最も激しいもので、主要な約10都市で空襲警報が鳴り響き、爆発が発生。ウクライナ空軍の報道官によると、ロシア軍は夕方までにウクライナに約100発のミサイルを発射したという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ミサイルの主な標的はこれまでと同様、エネルギーインフラだと指摘。このような攻撃は、ロシア軍に対する反攻の決意を固めるだけだとした。
首都キーウ(キエフ)では、5階建てのアパートから出火。当局によると、2棟のうち1棟が攻撃されたという。市長は1人の死亡が確認され、キーウの半分が停電に見舞われていると述べた。
このほか、西部のリビウやジトーミル、南部のクリブイリフ、東部のハリコフなどで攻撃や爆発が報告された。地元当局は攻撃により電力供給が停止したと発表した。
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は15日、ロシアによるミサイル攻撃を強く非難。首都などの住宅を攻撃したもようと述べた。
英国のクレバリー外相も同日、ミサイル攻撃はプーチン大統領の弱さを示しているとした。
こうした中、ウクライナ南部ヘルソン州の第2の都市ノバ・カホフカで、ロシアが設置した行政機関に務める職員が戦闘を理由に数千人の住民とともに避難したと、ロシア設置の行政機関が発表した。
ゼレンスキー大統領は15日、インドネシアで開催されている20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でビデオ演説し、「今こそロシアの破壊的な戦争を止めなければならないし、止められると確信している」と指摘。戦争は「国連憲章と国際法に基づき、正当に」終結させるべきだと述べた。
ロイターが15日に確認したG20首脳会議の首脳宣言草案によると、ウクライナでの戦争を「大半の」メンバーが強く非難し、戦争が世界経済の脆弱性を深刻化させていると強調した。ウクライナを巡るこの文言にロシアが反対したことを示唆している。
●ロシア・ガスプロム、生産2割減・輸出4割減 年初来累計 11/16
ロシアの国営ガス大手・ガスプロムは15日、年初からの天然ガス生産が前年同期比で19.2%急減し、輸出は43.4%の大幅減だったと明らかにした。プーチン大統領が求めたルーブル建ての決済に応じなかった顧客への供給削減や停止などが背景にある。
ロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」が9月に損傷を受けてガス漏れが発生したことも響き、年初から11月15日までの生産量は3597億立方メートルにとどまった。旧ソ連圏外への輸出は932億立方メートルだった。
ガスプロムの国内販売量も5.9%減少。セントロクレジットバンクのエコノミスト、エフゲニー・スボーロフ氏は景気後退(リセッション)の深化が産業部門に間接的に影響している可能性を指摘した。 
●G20 「首脳宣言」とりまとめ閉幕 ウクライナ侵攻への「非難」と「異論」を併記 11/16
G20(=主要20か国・地域)の首脳会議は、採択が危ぶまれていた首脳宣言をとりまとめ、16日、閉幕しました。ロシアのウクライナ侵攻については、「非難」と「異論」の両論を併記しました。
首脳宣言では「ロシアのウクライナ侵攻を最も強い言葉で遺憾に思う」と盛り込みました。また、「ほとんどの参加国がウクライナでの戦争を強く非難した」「甚大な人的被害を引き起こし世界経済を悪化させている」と明記しました。さらに、「核兵器の使用または威嚇は許されない。紛争の平和的解決や外交、対話は不可欠だ」と強調しています。
一方で、「状況や制裁について、他の意見や異なる評価もあった」とロシアなどの異論にも言及しました。ほかにも「G20は安全保障問題を解決する場ではないことを認識しつつ、安全保障問題は世界経済に重大な影響を及ぼしうる」などと、ロシアなどの主張に配慮したとみられる文言が盛り込まれています。
ウクライナ情勢をめぐってG20では、これまでの一連の閣僚会合で共同声明をまとめられていないため、今回は「非難」と「異論」を併記することで採択にこぎ着けた形ですが、参加国の間の溝が深いこともあらわになっています。
●G20首脳宣言 欧米やロシアなど立場異なる各国の主張を反映  11/16
インドネシアで開かれていたG20サミット=主要20か国の首脳会議は16日、首脳宣言を採択して閉幕しました。
宣言ではロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「ほとんどの国が強く非難した」と明記した一方で、ロシアへの経済制裁に異論が出たことも記していて、欧米やロシアなど立場が異なる各国の主張を反映させた内容となりました。
インドネシアのバリ島で開かれたG20の首脳会議には欧米や中国、インドなどの首脳やロシアのラブロフ外相が参加しました。
16日はポーランド国内にミサイルが落下したことを受け、一部の日程が変更されましたが、午後のセッションを行い各国が首脳宣言を採択しました。
議長国のインドネシア政府が発表した首脳宣言では「ウクライナでの戦争についてほとんどの国が強く非難するとともに、人々に多大な苦痛をもたらし世界経済のぜい弱性を悪化させた、と強調した」などと明記しました。
一方、ロシアに対する経済制裁やウクライナ情勢について「ほかの見解や異なる評価があった」として、ロシアや経済制裁を行っていない一部の国の立場も踏まえました。
また「核兵器の使用、もしくは使用の脅しは容認しない」として、ロシアのプーチン政権が核戦力の使用も辞さない姿勢を示していることに明確に反対しています。
そのうえで「紛争の平和的な解決と危機に対処するための努力は、外交や対話と同様に重要で現代を戦争の時代にしてはならない」と呼びかけています。
ウクライナ侵攻後初めて開かれたG20の首脳会議では欧米とロシアが激しく対立しましたが、議論の成果である首脳宣言では、立場が異なる各国の主張を反映させて、合意を優先させた形となりました。
インドネシア大統領“首脳宣言まとめるにあたり激しいやり取り”
G20サミット=主要20か国の首脳会議の閉幕後、議長国インドネシアのジョコ大統領が記者会見し「首脳宣言をまとめるにあたり、ウクライナ情勢の議論に最も時間を要した」と述べ、異なる立場の国どうしの間で激しいやり取りがあったと明らかにしました。
そして、首脳宣言はロシアを含めたすべての参加国によって合意された内容だと強調しました。
ウクライナ ハミアニン大使「重要なのは行動を起こすこと」
G20サミット=主要20か国の首脳会議が開かれたインドネシアに駐在するウクライナのハミアニン大使は、NHKのインタビューに応じ、「大部分の国がロシアの軍事侵攻と戦争犯罪を非難しているという立場を明確に示したことはよかった」と述べ、採択された首脳宣言を歓迎しました。
そして「強い言葉での宣言はとても重要だが、もっと重要なのは実際に行動を起こすことだ」として、各国に対し、戦闘の早期終結に向けてロシアへの制裁強化など具体的な行動を求めました。
一方、ポーランド国内に落下したミサイルについてハミアニン大使は「間違いなくロシアによる軍事侵攻の直接的な結果であり、すべての責任はロシアにある」と述べたうえで、ウクライナ側から発射されたミサイルだったという情報は現時点では否定しました。
そして、ミサイルがどこから発射されたのかなど詳しい状況については、ポーランドによる調査の結果を待ちたいとの見方を示しました。
仏 マクロン大統領 “世界の分断避けるメッセージ発信”
フランスのマクロン大統領は、G20サミットの閉幕後に記者会見を開き「私たちの選択は、世界の分断を避けることだ。G20サミットは事態の緊迫化と、世界の分断を避けるため、明確なメッセージを送る責任があった」と述べ、中国やインドなども含めて戦争を望まないというメッセージを発信できたとして、今回のG20の成果を強調しました。
そのうえで「中国の習近平国家主席とは、核の脅威の拡大を避けるための詳細な意見交換を行った。中国は、今後フランスとともに重要な仲介役を果たすだろう」と述べ、ウクライナ侵攻に関する中国の役割を強調し、来年はじめに自ら中国を訪問して、対話を強化する考えを示しました。
また、ポーランド国内にミサイルが落下したことについては、「何が起きたのかを正確に解明するための調査が現在も行われていて、ポーランドと協力している」と述べ、ミサイルが落下した経緯を慎重に見極める姿勢を強調しました。
●G20でロシア孤立感 プーチン氏不在、外相も途中帰国 11/16
インドネシアで16日閉幕した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では、ロシアの孤立感が浮き彫りになった。プーチン大統領は欠席し、ラブロフ外相も初日のみの参加にとどまった。ウクライナ侵攻が長期化し、国際社会の理解を得られなくなりつつある。
プーチン氏は10月の時点ではG20サミットに参加する可能性をにおわせていた。だが、開催前週になってスケジュールの都合を理由にオンラインを含めて欠席を決定、ラブロフ氏が代わりに出席した。
ラブロフ氏はバリ島到着後に一部西側メディアが病院に搬送されたと報じたほか、集合写真の撮影が見送りとなるなど波乱の展開となった。
同氏は15日、ロシアと関係の近い中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相と個別に会談した。だが、西側諸国との個別会談はフランスのマクロン大統領やドイツのショルツ首相と短時間話をした程度にとどまった。
G20サミットでは対ロ制裁に加わっていない中国やインドからもウクライナ侵攻について、和平や停戦を求める発言が目立った。インドのモディ首相は「停戦と外交の道に戻る道を探さなければならない」と呼びかけた。
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は15日のマクロン氏との会談で、国際社会が協議の環境を整えるべきだと主張した。
●ポーランド落下のミサイル ウクライナ軍迎撃発射か 分析進める  11/16
NATO=北大西洋条約機構に加盟しているポーランドの国内に落下したミサイルについて、ウクライナ側は、ロシアによる攻撃だとして批判しています。一方、アメリカのAP通信は、ウクライナ軍がロシアからのミサイルを迎撃するため発射したものだったとみられると伝え、ポーランド政府やNATOは、分析を進めています。
ウクライナでは15日、ロシア軍による大規模なミサイル攻撃が各地で行われましたが、ポーランドの外務省は、日本時間の15日夜遅く、ウクライナとの国境に近い村にロシア製のミサイルが落下し、2人が死亡したと発表しました。
ことし2月のロシアによる軍事侵攻以降、NATO=北大西洋条約機構の加盟国内で初めて犠牲者が出たことになります。
ポーランドのモラウィエツキ首相は16日、NATOの加盟国の領土や安全などが脅かされている場合に対応を協議すると定めた北大西洋条約第4条の適用を要請するかどうか、検討していることを明らかにし、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる攻撃だとして批判しています。
一方、アメリカのバイデン大統領はG7=主要7か国とNATOが行った緊急の首脳会合のあと「調査が完全に終わるまでは確かなことは言えないが、軌道から考えると、ロシアから発射されたとは考えにくい」と述べました。
また、アメリカのAP通信は、複数のアメリカ政府関係者の話として「初期段階の分析では、ミサイルは、ウクライナ軍がロシアからのミサイルを迎撃するために発射したものだったとみられる」と伝えました。
ベルギー国防省も声明で、ロシアのミサイルに対してウクライナが対空ミサイルシステムで迎撃した結果起きた可能性があるとしたうえで「現時点では、ポーランド国内の目標を故意にねらった攻撃だと示す情報はない」と明らかにしています。
ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は16日、「写真を分析した結果、ミサイルの破片はウクライナ軍の地対空ミサイルシステムS300のものだと確認された」と主張しました。
そのうえで「ウクライナや外国の当局からロシアのミサイルだとする声明が出されたが、状況をエスカレートさせるための意図的な挑発行為だ」と批判しました。
アメリカのCNNテレビによりますと、ポーランドに落下したミサイルは、NATOの監視活動を行っていた航空機がレーダーで捕捉していたということで、ポーランド政府やNATOは、ミサイルが落下した実態の把握に向けて分析を進めています。
地対空ミサイルシステム「S300」とは
「S300」は、地上から航空機やミサイルを撃ち落とす高性能な地対空ミサイルシステムで、ソビエト時代に開発が始まりました。
システムのタイプや発射するミサイルによって性能は異なりますが、主なタイプの射程は150キロ程度で、都市など広い範囲を防御できるとされています。
S300は、ロシアやウクライナなど旧ソビエト諸国で使われてきたほか、NATO=北大西洋条約機構に加盟しているスロバキアやギリシャなどにも輸出されています。
ロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナは、扱い慣れたS300の供与を各国に求め、スロバキアからロシア製のS300が供与されました。
一方、ウクライナ軍やイギリス国防省などは、ロシア軍が、S300を迎撃だけでなく地上への攻撃にも転用し、高精度なミサイルの不足を補っているという見方を示しています。
●バイデン政権、ウクライナ支援で追加予算5.2兆円分を要求 11/16
バイデン米政権は15日、ロシアの侵攻を受けるウクライナ支援のため377億ドル(約5兆2000億円)の追加予算を米議会に求めた。2023会計年度(22年10月〜23年9月)1年分を賄う費用で、超党派による早期の予算案成立を求めている。
ウクライナ軍の防衛装備品や軍事支援などに217億ドル、世界的な食料危機対策や人道支援などに145億ドルを要求。ウクライナの原子力発電所の安全確保などの名目でも要求した。既存のウクライナ支援予算は既に4分の3の支出が決まっており、年末までにさらに残額が減る見通しになっていた。
これとは別に新型コロナウイルス対策に100億ドルの追加予算も求めた。感染拡大が予想される冬に向けた対策やワクチン、治療薬の開発に充てる。ハリケーンなど自然災害被害に対応するための追加予算も要求する予定。
米国では23会計年度の本格予算が成立しておらず、12月16日までのつなぎ予算が組まれている。政府高官は「いずれも緊急性が高い。超党派で速やかに対応してほしい」と話している。
●プーチン 激戦地マリウポリに「軍事栄光都市」称号与える大統領令に署名 11/16
ロシアのプーチン大統領は15日、ウクライナ南東部のマリウポリなど2つの都市について、「軍事栄光都市」の称号を与えるとする大統領令に署名しました。
ロシア プーチン大統領「大祖国戦争(第2次世界大戦)で激しい戦闘が繰り広げられた4つの地域が、このたびロシアに返還された」
プーチン大統領は15日、このように述べたうえで、ウクライナ南東部のマリウポリなど2つの都市について、「軍事栄光都市」の称号を与えるとする大統領令に署名しました。
一方的に併合したウクライナの4つの州の実効支配を強調する狙いもあるとみられますが、ウクライナ側は強く反発しそうです。
●ロシア国内で数々の「異変」 軍関係者の不審死…プーチン“窮地”の実態 11/16
11月13日、プーチン大統領が一方的に併合を宣言していたウクライナ南部・ヘルソン州から、ロシア軍が撤退しました。ウクライナ当局によると、ロシア軍はドニエプル川の西岸から撤退し、ザポリージャ州のメリトポリやドネツク州のマリウポリに、兵力や装備を集中しているということです。新たな局面を迎えているロシアによるウクライナ侵攻ですが、一方で、軍関係者の不審な死や、大富豪がロシア国籍を放棄するなど、国内でも様々な「異変」が起こっているといいます。今、プーチン大統領に何が起こっているのでしょうか?ロシア情勢に詳しい筑波大学の中村逸郎名誉教授が徹底解説します。
ヘルソン州“ナンバー2”が「事故死」 浮上する殺害疑惑
Q.プーチン大統領にとって、ヘルソン州から撤退しないといけないというのは想定外ですよね?
筑波大学 中村名誉教授「そうですね。知人のロシアの政治学者がメールで教えてくれたのですが、ヘルソンから撤退したことは、『日露戦争以来の戦争になってしまうのではないか』という声が出ていると。それほどロシア全土でも、非常に大きな話になっているということです」
タス通信は11月9日、ヘルソン州の親ロシア派“ナンバー2”・ストレモウソフ氏(45)が、交通事故で死亡したと報じました。ストレモウソフ氏は事故当日の朝、ラジオ番組で、ヘルソン州からのロシア軍撤退は「裏切りだ」と批判していました。ストレモウソフ氏が亡くなったことを受け、親ロシア派のヘルソン州・サリド暫定知事が弔意を示した動画をSNS上にアップしました。しかしこの動画は、事故前に撮影した疑いが浮上しています。ウクライナの内務相顧問は、「ロシア情報機関『連邦保安局』が事故を仕組んで、撤退に反対するストレモウソフ氏を殺害した」との見方を示しています。
中村名誉教授「そもそもこの事故はなかったのではないか、という話もあります。確かに事故の写真はありますが、人が誰も写っていないんです」
元戦闘員の処刑動画を称賛した次期大統領候補
ロシア独立系メディア「メドゥーザ」は11月13日、民間軍事会社「ワグネル」の元戦闘員で、ウクライナで投降し「ウクライナ側として戦う」と語っていた人物が、“裏切り者”として処刑された疑いがあると報じました。「ワグネル系」のSNSには、元戦闘員が処刑される動画が投稿され、物議を呼んでいます。この動画について、ワグネル創設者・プリゴジン氏は「素晴らしい演出だ」と称賛し、関与を示唆しています。元戦闘員は、殺人罪で服役中にプリゴジン氏から勧誘を受け、戦闘員になったということです。
中村名誉教授によるとプリゴジン氏は、1990年代にレストランなどを経営していて、“プーチンの料理人”と呼ばれる人物です。2002年には、プーチン大統領とブッシュ元大統領との食事会が、プリゴジン氏の経営する水上レストランで開催されました。その後、新興財閥「オリガルヒ」の一人に上り詰め、ウクライナ侵攻では「ワグネル」の戦闘員を続々と派遣するなど、ロシア軍のキーパーソンとなっています。米・戦争研究所の10月25日の報告書には、「非常に発言力や影響力を強めてきていて、プーチン大統領はプリゴジン氏の言うことを聞かないといけないところまできている」とあり、中村名誉教授は「次期大統領に最も近い男か」としています。
Q.「素晴らしい演出だ」という言葉、非常に恐ろしい表現ですね?
中村名誉教授「プリゴジン氏は、どんどん囚人の動員をかけているのですが、『戦地に行けばお金を渡すが、裏切ったら殺害すると予告している』と開き直っているんです」
Q.プーチン大統領は民間軍事会社である「ワグネル」に頼らざるを得ない、そしてプリゴジン氏はどんどん力を持ってきているということですか?
中村名誉教授「そうです。アメリカで中間選挙がありましたが、その直前にプリゴジン氏は、『これまでのアメリカの大統領選挙、今回の中間選挙にも、どんどん介入している』と豪語しました。まるで自分がロシアの大統領かのような言動です。さらにすごいのは、次期大統領のポストを狙うには財力がなくてはいけませんが、『ワグネル』という組織は2014年以降、アフリカに進出して政府軍をサポートしています。その代わりに、アフリカの10か国以上のダイアモンドの採掘権を得ていて、本当にたくさんの金を持っている人なんです」
一方のプーチン大統領について、イギリスメディアの「ザ・サン」は11月1日、ロシア治安当局の情報として「プーチン大統領は初期のパーキンソン病と膵臓がんと診断された」と報じました。根拠として、右手甲にある注射痕をあげています。ロシア情報員は、「最近診断されたすい臓がんを抑制するために、あらゆる種類のステロイドと鎮痛剤治療を定期的に受けている」としています。
Q.健康不安説はやはり消えないですね?
中村名誉教授「はい。神経科の医者が『プーチン大統領はかなり精神的なストレスが強くて、表情や体の動かし方を見ると、精神的にもかなり病んでいるのはないか』とみている、という情報もあります」
大富豪の国籍放棄に強硬派の台頭、窮地に立つプーチン大統領
そんな中、11月1日、ロシアのオンライン銀行の創業者、オレグ・ティンコフ氏が、自身のSNSで「私はロシアの国籍を捨てる。プーチンのファシズム政権とは付き合えない」としました。ロシアメディアによると、2022年にロシア国籍を放棄した人物は5人目になるということです。オレグ・ティンコフ氏は、2021年現在の総資産が6600億円という、長者番付に載るような大富豪です。4月にはSNSで「Zの文字を書くバカがいるが、どの国にも1割はバカがいるものだ。ロシア人の9割は戦争に反対している」とし、さらに西側諸国に対して「プーチン氏が面目を保ちつつ、虐殺をやめられるよう出口を明示してほしい」としていました。
さらに、モスクワ市職員の2〜3割がロシア国外に出国しており、住宅・医療・教育に影響が出ています。国外への出国数は、2022年7月〜9月末の間に約1000万回に上りましたが、これは4月〜6月の約2倍にあたります。また、「動員令」が発令された9月21日は、近隣の出国便の航空券はすべて完売し、陸路の国境では数kmの渋滞が発生しました。
Q.大富豪たちがどんどん国外に脱出してしまうとロシア経済も厳しくなるし、プーチン大統領も戦費がないということですよね?
中村名誉教授「そうですね。なぜこういう人達が国外に出てしまうかというと、自分の持っている企業をロシアが国有化しようとしているんです。例えば、オーナーが持っている株をタダ同然で売れと迫られているのです」
Q.今後のロシア軍の動きについて、撤退の際に橋なども壊していますが、怖いのはダムの破壊ですね?
中村名誉教授「そうなんです。破壊したダムの北側に原発があります。その原発の冷却水は、ドニプロ川から取っているんですが、ダムが決壊していくと水位が落ちて、原発が冷やせなくなる危険性があります」
Q.プーチン大統領の周りには、影響力が強い人がいるのでしょうか?
中村名誉教授「周りには3人、強硬派がいます。今回の戦闘がロシア側に不利になればなるほど、この強硬派の発言力がどんどん強くなっていって、プーチン大統領自身の実権が段々と弱体化してくるという、非常に危険な状態になってきます」
Q. ロシアやソ連の歴史を見ると、大きなクーデターが起こって突然大統領が代わることは少なくて、2〜3年経って、気付いたらいない、というのが多いですよね?
中村名誉教授「多いです。ロシアの歴史、ソ連の歴史を見てみると、プーチン大統領ももしかしたら突然いなくなってしまう恐れだってあるわけです。それに代わって、強硬派の人たち、プリゴジン氏が一番有力だといわれていますが、政権を乗っ取るという事態もあります。まさに今のプーチン大統領は、窮地にいます」
Q.強硬派の人たちは侵攻をやめないのですよね?
中村名誉教授「この先どうなるかという予想も出ていますが、強硬派たちが実権を握ると、まるで北朝鮮のようになるんじゃないかという説もあります」

 

●G20、薄氷の幕引き ロシアめぐり深まる混迷 11/17
16日に閉幕した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では、首脳宣言の見送りという最悪の事態は回避された。ただ、宣言はウクライナ情勢をめぐる参加国の立場の違いを色濃く反映、ロシアを震源とする世界の混迷を改めて浮き彫りにした。リーマン・ショック後の金融危機では世界経済の立て直しに貢献したG20サミットだが、機能不全に陥る寸前で踏みとどまる薄氷の幕引きとなった。
「G20は経済、財政、開発のための会議だ。政治のフォーラムではない」。議長国インドネシアのジョコ大統領は閉幕後の記者会見でこう強調した。
G20には先進7カ国(G7)に加えインドや中国、ロシア、韓国やトルコなどが参画。各国のロシアとの距離感は異なり、ウクライナ侵攻後の閣僚会合では一度も共同声明を出せていない。新型コロナウイルス禍で傷んだ世界経済の立て直しに向け、結束して成果を生み出す機能は失われつつあった。
ロシアのラブロフ外相はG20サミットの初日の討議を終えると早々に帰国。同じ日にはウクライナへ90発以上のミサイルが発射された。ウクライナ情勢は会期中も一段と深刻度を増し、16日にはG7首脳らが緊急会合を開いて協議する事態となった。
こうした中、サミットではインドネシアを中心に首脳宣言の取りまとめに向けぎりぎりの交渉が続いた。結局、宣言には国連総会決議を引用する形でロシアを厳しく非難する文言が盛り込まれる一方、「他の見解や異なる評価もあった」と、ロシアへの配慮を示す表現も加えて折り合った。
今回、各国首脳はG20サミットの機会を通じてトップ外交を展開。会議前日には米中首脳が3年ぶりに会談し、「議論の場を提供する役割」(国際金融筋)も一定程度果たした。エネルギー価格の高騰やインフレなどで世界経済の失速が現実味を帯び、食料危機による途上国の苦悩も深まっている。合意を具体的な解決策に結び付けられるか、各国の結束と行動力が引き続き試されている。
●ポーランド落下ミサイル NATO「ウクライナの防空ミサイルか」  11/17
ポーランド国内に落下したミサイルをめぐって、NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は16日、記者会見を開き、詳しい状況はまだ調査中だとしたうえで「意図的な攻撃だったことを示す情報も、ロシアがNATOに対して軍事行動の準備を進めていることを示す情報もない」と述べました。
そして「初期の分析では、ロシアの巡航ミサイルによる攻撃から国を守るための、ウクライナの防空ミサイルによって、引き起こされた可能性がある。ただ、はっきりさせたいのは、ウクライナが悪いのではなく、不法な戦争を続けるロシアが最終的な責任を負っている」と強調しました。
ストルテンベルグ事務総長は、今回の、ポーランドへのミサイル落下について「NATO加盟国に対する脅威の基本的な評価を変えるものではない」という認識を示したうえで「状況を注視している。NATOは結束し、加盟国を守るために必要なあらゆる行動をとる」と述べました。
●ミサイル着弾 今こそ戦争を止める時 11/17
誤解や判断ミスが、誰も望まぬ全面戦争に発展する――。歴史上の数々の過ちが、繰り返されかねない事態である。
ウクライナ国境に近いポーランドの村にミサイルが着弾し、2人が死亡した。バイデン米大統領は「ロシアから発射された可能性は低い」と述べた。ウクライナの防空ミサイルが誤って着弾した可能性を指摘する見方もある。速やかな真相の解明を求めたい。
しかし、誰がミサイルを発射しようと、ロシアの侵略戦争がもたらすリスクを浮きぼりにした現実には変わりがない。
今回の事件は、ロシアがウクライナ全土のエネルギー施設などを標的にミサイル攻撃を行う中で起きた。ウクライナ側によると、ミサイルは約100発に達し、2月の侵攻開始以来で最大規模だったという。
軍事的な応酬が激しさを増せば、たとえ偶発的でも隣国に戦火が波及しかねないことは当初から懸念されていたはずだ。
特にポーランドは米主導の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する。加盟国への攻撃はNATO全体への攻撃とみなされる。NATOがロシアに反撃していたら、ロシア側のさらなる反撃を招き、制御不能に陥った可能性がある。まかり間違えば、核兵器使用という最悪シナリオも排除できない危機だったとみるべきだろう。
だからこそ、米国は早くから自国兵を参戦させる可能性を否定し、ウクライナに供与する兵器の射程を制限するなど細心の注意を払ってきた。しかし、そもそも戦争が続く限り、予期せぬエスカレーションは起こりうるものとロシアを含む国際社会は認識する必要がある。
実際、戦争終結を求める声は地球規模で広がっている。折しもインドネシアで開かれていた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、「メンバー国の大半がウクライナでの戦争を強く非難した」との首脳宣言を採択した。
G20には、ロシアに制裁を科す欧米主要国だけでなく、中立的な立場をとってきた新興国も参加する。現在の食糧不足やエネルギー高騰に苦しむ各国の憤りを反映したとみるべきだ。会議を欠席したロシアのプーチン大統領は、かねて西側の制裁が原因だと主張してきたが、そんな強弁はもはや通用しない。
インドネシアのジョコ大統領やインドのモディ首相も戦争終結と外交での解決を訴えた。世界のGDPの8割以上、人口の約3分の2を占めるG20の宣言は重い。プーチン氏が国際世論の流れにこれ以上、逆らうことは許されない。ただちに撤退と停戦を決断してもらいたい。
●NY円、反落 1ドル=139円50〜60銭 ウクライナ情勢の懸念後退で 11/17
16日のニューヨーク外国為替市場で円相場は4営業日ぶりに反落し、前日比25銭円安・ドル高の1ドル=139円50〜60銭で取引を終えた。ウクライナ情勢を巡る懸念がやや後退し、低金利通貨でリスク回避時に買われやすい円には売りが優勢となった。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドに15日にミサイルが着弾し死者が出た件で、バイデン米大統領は16日、ロシアによる発射の可能性が低いとの考えを示した。ロシアと欧米の関係が一段と悪化するとの懸念がやや薄れ、円が対ユーロで売られ円売り・ドル買いが優勢となった。
16日発表の10月の米小売売上高は前月比1.3%増と市場予想(1.2%増)以上に増えた。ガソリン関連や自動車のほか、家具など幅広い項目が増加した。消費の底堅さを示したと受け止められ、ドル買いを促した。
16日は米長期金利がほぼ一本調子で低下し、一時は3.67%と前日終値(3.77%)から大きく低下した。日米の金利差が拡大するとの見方が薄れたことによる円買い・ドル売りも入り、円は小幅に高くなる場面もあった。
円の安値は140円05銭、高値は139円05銭だった。
円は対ユーロで反落し、前日比1円円安・ユーロ高の1ユーロ=144円95銭〜145円05銭で取引を終えた。
ユーロはドルに対して4日続伸し、前日比0.0045ドル高の1ユーロ=1.0390〜0400ドルだった。ウクライナ情勢を巡る過度の懸念が後退し、ユーロ買い・ドル売りが優勢となった。
ユーロの高値は1.0423ドル、安値は1.0355ドルだった。
●首脳宣言の不採択見越す 議長国タイ、代替声明用意―APEC 11/17
タイのバンコクで18〜19日に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の首脳宣言と、17日のAPEC閣僚会議の共同声明について、採択できない場合を見越し、議長国タイが両会議をそれぞれ総括する議長声明を準備していることが16日、分かった。APEC筋は「首脳宣言の採択はない。ウクライナ情勢が唯一の理由だ」と明言した。
時事通信が入手したタイ政府の内部文書によると、首脳宣言と共同声明はウクライナ情勢と台湾海峡のくだり以外は一致できる見通し。このため、「首脳会議と閣僚会議の議長声明はそれぞれ首脳宣言案と共同声明案を基にまとめる。可能な限り一致点を反映させ、重みを持たせる」という。
文書は「現在の国際情勢はAPEC内の協力に著しい影響を及ぼした」と指摘。「各国・地域は文言を巡って立場が異なる。首脳宣言と共同声明は採択できない可能性が高い」と分析し、「タイは議長国として議長声明を準備しなくてはならない」と説明している。ロシアのウクライナ侵攻後、APECの閣僚級会合では共同声明を出せていない。
首脳会議では持続可能な成長を目指す「バンコク目標」を採択することで、APECの意義を強調する考えだ。「バンコク目標」の草案は、異常気象や気候変動に対する取り組みの支援、環境と天然資源の保全・管理促進などをうたっている。
●発言力強めるプーチン氏「料理人」 米選挙に干渉も 11/17
ウクライナ侵攻に部隊を派遣するロシア民間軍事会社「ワグネル」の創設者で「プーチン大統領の料理人」の異名を取る新興財閥の一人、エブゲニー・プリゴジン氏(61)の言動に注目が集まっている。米中間選挙前日の今月7日には過去の選挙干渉を認め「今後も干渉する」と公言。10月には戦況悪化を巡り軍を批判した。「影」の存在だった私兵集団の総帥が、併合地域に戒厳令を導入した「戦時体制」に乗じて表舞台に姿を現した形だ。
今月4日、プーチン氏の出身地サンクトペテルブルクで近代的なビル「ワグネル・センター」が開所した。ワグネルのPRやメンバーの訓練などに使われる拠点だ。
同市出身のプリゴジン氏は食品販売やレストラン経営などを手がける企業「コンコルド」のオーナー。自身のレストランに足を運んだプーチン氏と親しくなり、大統領府向けのケータリングも請け負っているとされる。
ワグネルは元軍人らを雇い兵として採用し、ロシアが軍事介入したシリアや、政情不安のアフリカ諸国で戦闘に参加したと伝えられてきた。ロシア政府は公式には存在を認めておらず、詳しい実態は不明だ。
ワグネルの部隊は2月に始まったウクライナ侵攻にも参加。プリゴジン氏は9月、ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合した2014年に、同国東部ドンバス地域で独立を主張したロシア系住民支援のため、ワグネルを創設したと明かした。
ワグネルは刑務所の受刑者も戦闘員として採用しているとされる。ロシアの独立系メディアは今月初め、最近2カ月間にワグネルが前線に送った500人以上の受刑者らが死亡したと報じた。
米紙ワシントン・ポストは先月、米当局者の情報として、国防省はワグネルの部隊に頼りすぎており、その一方で必要な支援をしていないとプーチン氏にプリゴジン氏が直接不満を訴えたと報道。同氏の影響力拡大を示していると分析した。 プリ
ゴジン氏は支配下のインターネット会社を通じて18年の米中間選挙に干渉したとして19年に米財務省から制裁を科された。米国務省のプライス報道官は今月7日、選挙干渉を認めたプリゴジン氏の発言について「ロシアが世界中で主権国家の選挙に干渉を試みている証左だ」と指摘した。
これに対しプリゴジン氏は9日、通信アプリで「米国こそ過去数十年にわたり世界各国の選挙に露骨に介入し、偉大な帝国ソ連を崩壊させた。他人のことをとやかく言える立場か」とののしった。
同じ日の夜、ロシアが併合したウクライナ・ヘルソン州のドニエプル川西岸地域からのロシア軍撤退が発表された直後には、「責任逃れをしない、男らしい決断だ」と、現地の作戦を統括するスロビキン司令官を称賛するなど、奔放な発言を続けている。
●情報機関員追放でロシアに「重大な打撃」、英MI5トップが分析 11/17
英情報局保安部(MI5)のマッカラム長官は英国への脅威に関する年次報告で、ロシア情報機関員とみられる400人以上が今年、欧州全域から追放されたことはロシア政府に近年で「最も重大な戦略的打撃」を与え、プーチン大統領の意表を突いたとの分析を示した。
マッカラム氏によると、全世界から多数のロシア政府職員がこれまでに追放され、欧州では600人余りに上り、このうち400人が情報機関員と判断されたという。
2018年にイングランド南部ソールズベリーで起きたロシアの元情報機関員セルゲイ・スクリパリ氏と娘ユリアさんの毒殺未遂事件以来、100人以上のロシア人外交官にビザ(査証)発給を拒否したことも明らかにした。
中国政府についても言及し、英国の有力議員だけでなく、公職に就いて間もない人たちとの接触を深めることで、意見を操作しようとする長期的取り組みを行っていると分析。海外に住む中国人に対する監視や嫌がらせの事例も引き合いに出し、英国の市民や居住者を「脅迫し、嫌がらせをすることは容認しない」と警告した。
●キューバ大統領、ロシア訪問へ 来週にプーチン氏と会談 11/17
カリブ海の社会主義国キューバのディアスカネル大統領が来週にロシアを訪問し、プーチン大統領と会談することが16日わかった。ロシア国営メディアのスプートニクによると、ディアスカネル氏は22日にロシアで開かれるキューバ関連のイベントに出席する。会談では両国の連携を確認する見通しだ。
ディアスカネル氏は16日、ツイッターで「アルジェリアとロシア、トルコ、中国のリーダーたちの招待に応じて出発する」と明らかにした。27日にキューバに帰国する予定だという。ディアスカネル氏は4カ国を訪問する目的について「経済や政治的な結びつきを強める」と述べた。
ロイター通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は記者団に対し、ディアスカネル氏のロシア訪問について「キューバは重要なパートナーだ。話すべきことは多い」と述べた。キューバはウクライナに侵攻したロシアを批判せず、協力関係を維持する姿勢を示してきた。
キューバは新型コロナウイルスの影響で主力産業である観光業が縮小し、経済が打撃を受けている。2021年には反政府デモを弾圧したとして米国政府から制裁を受けた。ディアスカネル氏は16日にはツイッターで「米国による経済封鎖の影響が深刻化している」と述べた。
島国で外貨不足に悩むキューバはエネルギーの供給不安に直面してきた。8月には石油を貯蔵していたタンクが落雷で爆発し、エネルギー不足が続いている。ディアスカネル氏は今回の訪問でロシアやトルコに対し、エネルギー面での支援を求める見通しだ。 
●バリG20首脳宣言で、ウクライナ戦争の経済的悪影響が焦点に 11/17
バリ・サミットに参加したG20の首脳の多くが、最終宣言でロシアのウクライナ侵攻を非難し、ウクライナ領からの 無条件撤退を要請した。
16日水曜日に発表されたこの声明は、地政学的な混乱と世界的な景気後退の懸念がある中で行われた、困難な会議の結果であった。
世界的な食糧・エネルギー価格の高騰をめぐり、G20メンバー間の緊張を煽っている欧州での戦争は、首脳陣の議論の中で最大の争点となった。
G20首脳は宣言の中で、「多くのメンバーがウクライナでの戦争を強く非難し、それが計り知れない人的被害をもたらし、世界経済に存在していた脆弱性を悪化させていることを強調した」と述べた。
2022年11月16日、ウクライナ・リヴィウにて、ロシアがウクライナを攻撃する中、ロシアのミサイル攻撃で被害を受けた住宅地の跡地で弾孔を調査するウクライナ軍人ら。(ロイター)
「私たちは、G20は安全保障問題を解決する場ではないことを認識しつつ、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与えることを認めます」
この宣言は、2月下旬のロシアのウクライナ侵攻開始以来、G20が発表した最初の共同声明である。ロシアはG20加盟国である。
G20の首脳陣は、国際法を守るべきであり、核兵器使用の威嚇は「許容できない」と述べた。
19カ国とEUからなるG20は、世界の国内総生産(GDP)の80%以上、国際貿易の75%以上、人口の60%以上を占めている。G20には、ブラジルからサウジアラビアまでの国々が加盟している。
開催国であるインドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、サミットに出席したすべての人々に「最高の感謝」を表明し、参加者たちの「柔軟性」によって宣言が正式に採択されたことに言及した。
ウィドド大統領は閉会式後、議論の大部分はウクライナでの出来事に関する1つのパラグラフに集中したと述べ、議論は夜中まで続いたと付け加えた。
「これに関する議論は非常に非常に厳しいものでしたが、最終的にG20首脳陣は、ウクライナでの戦争が国境と国家の一体性を侵害したため非難するという宣言内容で合意しました」とウィドド大統領は述べた。
「私たちは合意によってG20バリ首脳宣言を達成しました。私たちは、戦争が世界経済に負の影響を与えたことに同意しました」
「世界経済の回復は平和なくしてありえず、だからこそ私は(水曜日のセッションの)冒頭の挨拶で、戦争の終結を訴えたのです」
英国のリシ・スナク首相は、G20サミットに合わせて行われた記者会見で、バリ・フォーラムへの参加を取りやめ、セルゲイ・ラブロフ外相が代理を務めるロシアのウラジミール・プーチン大統領を名指しで批判した。
「私たちの安全保障と世界経済の窒息させる持続的な脅威は、このサミットに参加したくない人物、ウラジミール・プーチン大統領の行動によって引き起こされています」とスナク首相は述べた。「プーチン大統領の戦争の影響を感じていない人は、世界中に一人もいません」
「しかし、今週インドネシアで、G20の他の国々は、ロシアの自国の存在を誇示する態度や中身のない言い訳によって、私たちの治める国民の生活を快適にするためのこの重要な機会が損なわれることを拒みました」
水曜日の朝、G7とNATOの首脳陣はウクライナに近いポーランド領で一夜にして2人が死亡したミサイル着弾の報道をめぐって緊急会合を開き、サミットのスケジュールは中断された。
ロイター通信の報道によると、ジョー・バイデン米国大統領は当初、「ロシアから発射されたミサイルである可能性は低い」と同盟国に伝え、その後、ウクライナの防空ミサイルであると述べたという。
サミット2日目も、白いシャツに身を包んだG20首脳陣が会議の休憩をとり、気候変動への取り組みを示すマングローブの植林イベントに参加した。
また、首脳陣は未対策の石炭の使用を段階的に削減する取り組みの加速を含めて地球の気温上昇を1.5度に抑えることを約束し、気候変動に関する2015年のパリ協定の気温目標を堅持することを確認した。
また、G20メンバーは宣言の中で、世界経済はウクライナ戦争からインフレの急増に至るまで「前代未聞の多次元的な危機」に直面しており、多くの中央銀行が金融引き締めを余儀なくされていると述べた。
「G20の中央銀行は、物価上昇圧力がインフレ期待に与える影響を注意深く監視し、データに依存し分かりやすく伝える方法で金融政策の引き締めのペースを適切に調整し続けるでしょう」、と宣言には記されている。
G20首脳は、多くの通貨が「今年、ボラティリティを高めて大きく動いた」ことを宣言の中で認識し、過度の為替レート変動を回避することを再確認した。
ウィドド大統領は、閉会式でG20サミット輪番議長国の身分を象徴する小槌を手渡し、議長国の役割を正式にインドに譲り渡した。
世界第4位の人口と東南アジア最大の経済規模を誇るインドネシアは、昨年12月からG20の輪番議長を務めており、新型コロナウイルスのパンデミックとその経済的影響を受け、「共に立ち直り、より強く復興しよう」というテーマを掲げていた。
「次のG20議長国を引き継ぐインドにお祝い申し上げます。世界的な回復と強力で包括的な成長を守り実現するための信頼は、今やナレンドラ・モディ首相の手に委ねられるでしょう」とウィドド大統領は述べた。
「モディ首相のリーダーシップのもと、G20は前進を続けると確信しています。来年、インドネシアはインドのG20議長国を支援する用意があります」
●食料問題がCOP27の焦点に ウクライナ戦争と温暖化が拍車 11/17
国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)がエジプトのシャルムエルシェイクで開催中だ。各国は世界の飢餓を抑制する道を模索するが、これは結果が見えない闘いだ。
エジプトの観光リゾート地、シャルムエルシェイク。観光客や買い物客でにぎわう市場では、地元の住民が食料価格の高騰を実感している。一方で、10キロメートル北に位置する会議場では、スイスなどCOP27の参加国がその対応策に頭を悩ませる。
食料価格高騰の原因は、食糧生産における主要2カ国・ウクライナとロシアの戦争によるサプライチェーン(供給網)の混乱だ。エジプトの農業地帯ナイルデルタで長引く干ばつや気温上昇が更に拍車をかける。
エルヌール市場には幾つものパン屋が立ち並ぶ。自称専業主婦というある女性は「パンの値段は、どこもとても高くなった」と不満をもらす。「それでもパンは欠かせないので、皆、仕方なく買っていく」。パン不足が起きた今年初めと比べ、パンの値段は3倍になったという。
別の買い物客で、自身も店を持つアーマンさんは「パンなしには暮らせない」と話す。市場の主な買い物客は、観光地シャルムエルシェイクで働くためエジプト各地から集まった出稼ぎ労働者だ。故郷の家族が直面している状況について、誰もが口を固く閉ざすが、身振り手振りから切迫感が見て取れた。
国連食糧農業機関(FAO)によると、エジプト人の小麦消費量は世界平均の2倍以上、年間1人当たり平均146キログラムだ。
エジプトは小麦の約85%をウクライナとロシアからの輸入に頼っていたが、2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、ほとんど輸入できなくなった。頼みの綱は小麦の国内備蓄だが、最近、ナイル川上流に「グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダム(GERD)」という巨大ダムが建設されて以来、エジプトの農家は水不足に悩まされている。これが要因となり小麦の国内備蓄は減少しつつある。
国連の予測によると、エジプトは2025年までに深刻な水不足に陥る。今年、国連の年次気候変動会議(通称COP27)は開かれているのは、2011年の民主化運動「アラブの春」など食料問題が引き起こした社会的緊張の歴史を持つ地域だ。参加者は気候変動が食料不安に与える負担を認識し、農業を主要議題の1つに据えた。
厳しい未来への「不十分な対応」
人道支援NGO(非政府組織)に関する憲章」ケニア事務局のコーディネーター、ポーリーン・マディロ氏は、同国で開催されたCOP27のサイドイベントで、「気候ショックが起きた場合、多くの問題が生じる」と指摘した。
気候変動によって住む場所を失ったコミュニティーの間では、資源不足が原因で紛争が起きる可能性があるという。同氏の出身国ケニアで実際あったように、収入源を求めてアル・シャバーブなどの武装組織に取り込まれる子供が出るかもしれない。
世界食糧計画(WFP)は6月、80カ国以上で約3億4500万人が深刻な食料不安に直面していると報告した。気候変動とその影響が原因であるケースが大半だ。
スイス連邦外務省のブリギッテ・メンツィ環境・エネルギー・健康課長はCOP27の出席者を前に「今の世界の対応は不十分だ」と述べた。
さらに、スイスは2023年から国連安全保障理事会の非常任理事国として、国際機関間の調整と協力を促進し、「食料安全保障、気候変動、環境破壊、紛争の関連性について理解を深めることに貢献」すると語った。
食料問題を巡るCOPの戦い
スイスのカトリック系慈善団体ファステンオプファー(Fastenopfer)のダーヴィット・ブレヒト代表は、スイスにはもっと出来ることがあると考えている。「コロニビア共同作業」と呼ばれるCOP27の農業分野における国際交渉において、最終文書から「アグロエコロジー」への言及を削除しようとする圧力に、スイスは屈してはいけないという。生態系に即した持続可能な原則を農業に適用するアグロエコロジーはスイスのNGO他のサイトへが促進する概念だ。
「スイスは、アグロエコロジーを持続可能な農業のために推進する技術の1つとして確立したい市民社会の連合や国々を支援するべきだ」と同氏は主張する。
大手の食品メーカーや小売業者もCOP27に出席している。会期1週目の冒頭、世界有数の食品商社の代表らが年次会議に復帰し、自社のサプライチェーンから森林伐採を削減すると再び確約した他のサイトへ。これまでも同様の公約をしていたが、守られていなかった。参加企業は中国の国有企業・中糧集団有限公司(COFCO)、国際穀物メジャーの米ブンゲや米カーギルなど。各社ともジュネーブで事業を展開している。
食品大手ネスレ(本社・スイス)で東南アフリカ地域担当広報部長を務めるサン・フランシス・トーラン氏によると、同社は取引先の小規模農家に対し、化学製品の代わりに有機物質による再生農法他のサイトへを採用するよう促している。淡水の水源を保護しつつ害虫駆除するためだ。
だが、このアプローチでは不十分だと考えるブレヒト氏は、農業交渉の停滞は食品大手の責任だと非難した。
「(アグロエコロジーを巡る)対立は、大手食品メーカーのロビー団体らが、自分たちのビジネスモデルは持続可能だとアピールする場合に起きているが、それは間違っている」(ブレヒト氏)
貧困国の適応を支援
また、ブレヒト氏ならびにファステンオプファーは、発展途上国が気候変動へ適応できるよう、スイスはより高額の資金を提供すべきだと考える。途上国が自国の貢献度を高められるようサポートする必要もある。
同氏は「ある予算項目から別の項目への付け替えではなく、新規の追加的な資金提供でなければならない」とクギを刺し、連邦政府に開発予算の強化を求めた。開発予算は気候変動対策資金とは無関係だが、軍事費増加による圧力を受けている。
途上国は長年、先進国に対し、温室効果ガスの削減に対する支援と同程度の資金を気候変動への適応支援にも提供するよう求めてきた。2009年のCOP15で初めて、先進国は途上国に2020年までに年間1千億ドル(当時のレートで約9兆2900億円)の気候変動対策資金を提供すると取り決められたが、この目標はまだ達成されていない。
COP27で食料と農業の問題を浮き彫りになる中、エジプトは「食料と農業の持続可能な転換(FAST)」と呼ばれる新たな取り組みを立ち上げた。食料システムに充てる気候変動対策資金の増加を促すのが目的だが、発表の時点で、スイスはまだ同取り組みへの参加を表明していない。
●水、大気の汚染、森林、農地の荒廃…ウクライナ戦争による深刻な環境被害 11/17
戦争が勃発してから数日後、首都キーウへのロシア軍侵入を防ぐためにウクライナがダムを破壊して放水すると、イルピン川付近にあるオルガ・リーハンさん(71)の自宅は水浸しになった。その数週間後には、汚染で水道水が茶色に変色した。
キーウから北へ約40キロ、ドニエプル川支流にあるデミディフ村の水道水は「安心して飲めなかった」と彼女は話している。
苛立ちを隠せない様子で家の中を歩きながら、3月に大量の水が押し寄せた時は台所にかびが生え、井戸に水がしみ込み、庭が台無しになったと教えてくれた。
8ヶ月に及ぶロシアとの戦争による環境破壊は多くの地域でみられるようになっており、専門家はその長期的な影響に警鐘を鳴らしている。ロシア軍が燃料貯蔵庫に砲撃を加えたことで大気や地下水に有害物質が放出され、生物多様性、気候の安定、住民の健康への脅威となっている。
世界自然保護基金(WWF)によると、戦争により600万人以上のウクライナ人が清潔な水にアクセスできないか、アクセスが制限されている状態にあるほか、28万ヘクタール以上の森林が破壊または倒壊されたという。ウクライナの非政府団体「監査会議所」による試算では、環境被害が370億ドル(約5.1兆円)を超える。
スイスを本拠とするNPO法人「ゾイ環境ネットワーク」の環境専門家、ドミトロー・アヴェリン氏は、「戦争がもたらした汚染が消え去ることはない。子供世代が植林したり、汚染河川を浄化したりして回復していかなければならない」と話す。
被害が最も大きかったのは、2014年から政府軍と親ロシアの分離主義者との戦闘が続いている東部ドネツクとルハンスクの工業地帯だが、ほかの地域にも拡大しているという。
アメリカの環境科学者で、2006年にイスラエルとの間で起きた1ヶ月におよぶ戦争に起因する環境問題についてレバノン政府に助言をしたリック・スタイナー氏は「戦闘による直接的な被害にとどまらず、戦争は身体的にも精神的にも人々の健康を悪化させる。汚染された水や、戦争によって大気中に放出された有害物質にさらされることによる健康被害が現れるまでに、数年かかる可能性がある」と語る。
浸水後にデミディフ村の住民は、水道水が濁り変な臭いがする、調理すると鍋やフライパンに膜ができるなどと話していた。この村は4月までロシアが支配していたが、首都制圧に失敗して軍は撤退した。
その後、ウクライナ当局が新鮮な水の搬入を始めたものの、10月にタンクローリーの故障で搬入が滞り、住民は再び汚れた水を使わざるを得なくなった。
イリーナ・ステチェンコさんはAP通信に対し「ほかに選択肢はない。ボトル入りの水を買う余裕もないし」と語ってくれた。家族は下痢の症状をもよおしており、2人の10代の子供の体調が心配だという。
現地水道事業の元責任者代理であるヴィアチェスラフ・ムガ氏は、政府は5月に水道水のサンプルを採取したものの検査結果をまだ公表していないと話している。AP通信も検査結果についてウクライナ食品安全・消費者保護庁に問い合わせたが、回答は得られなかった。
だが別の環境保護団体は、戦争による影響があったという報告をしている。
ロシア軍はここ数週間、発電所や水道施設など重要インフラを標的としてきた。だが7月の時点ですでに、国連の環境機関は揚水施設、浄水所、下水施設などの水道インフラに相当の被害が出ていると警鐘を鳴らしていた。
イギリスの慈善団体「紛争・環境監視団」とゾイ環境ネットワークが近く公表する予定の論文によると、キーウの南西約30キロにあるカリニフカという町の燃料貯蔵所がロシア軍による砲撃を受けた後、ため池に汚染の痕跡があることが確認された。
AP通信が入手した論文のコピーには、レクリエーションや養魚用に使われていた池の水面には高濃度の燃料油や魚の死骸が浮いていたと書かれていた。明らかに油が混入したとみられる。
危機、災害、移住の影響を受けた地域の情報を追跡調査している人道的研究の構想団体「REACH」が4月に発表した報告書によると、キーウの西部と南西部で化石燃料を燃焼したときに放出されるNO2(二酸化窒素)の量が増加していた。NO2に直接暴露されると皮膚の炎症が起き火傷になるほか、慢性的な暴露により呼吸器系の病気を引き起こし植物の生育に害を及ぼす可能性があるという。
ウクライナ経済の要である農業セクターも影響を受けている。ウクライナ国立生命環境科学大学で林業論を研究しているセルヒー・ジブツェフ教授は、火災によって作物や家畜が被害を受けたほか、数千ヘクタールもの森林が延焼し、農家も収穫を終えることができなかったと話している。
農家は「大規模な火災が起きた。冬の収穫に向けて育てていた作物をすべて失った」と嘆く。
ウクライナ政府は、可能な限りの支援を行っている。
デミディフとその周辺の村に住む洪水被害者には一人540ドル相当の現金が支給されたと、近隣町ダイマーのリリア・カラシニコワ副町長は明らかにしている。副町長によると、政府は長期的な環境への影響を防ぐためにできる限り援助するとのことだが、具体的な内容は明らかにしなかった。
紛争・環境監視団で調査・政策部長を務めるドウ・ウェイアー氏は「とりわけ戦争中においては、住民の環境リスクを最小化する義務を政府は負っている」と述べている。
ウクライナでは、すでに希望を失った人もいる。 
デミディフ村に住むタチアナ・サモイレンコさんは「家の周りも床下も水浸しになり、気が滅入る。今後も状況が大きく変わるとは思えない」と話している。
●「冬将軍はウクライナに味方する」──専門家 11/17
ヨーロッパは本格的な冬を迎えつつある。厳寒期のウクライナでは、ロシア、ウクライナ両軍が苦戦を迫られることになる。寒さ以上に凍結が兵士たちを苦しめるだろう。
ロシアは寒さを武器にする戦略をとり、ウクライナ全土で電力インフラを標的にミサイル攻撃を展開している。ロシアの国営テレビに登場する軍事専門家に言わせれば、この作戦は極めて有効だ。極寒の冬に暖房が使えなければ、ウクライナ人は無駄な抵抗を続ける気力をなくすというのだ。
だが、気温低下と日照時間の短縮は、ロシア軍にとっても障害となる。日照時間が短くなると負傷兵を救出できる時間が短くなる、氷点下で兵器の不具合が起きやすくなることなど、厳冬の到来はロシア・ウクライナ両軍を手こずらせるだろう。
英国防省は11月14日朝、ツイッターの公式アカウントに厳寒期に両軍が直面する問題を詳述した情報機関のリポートを掲載した。以下はその要旨。
日照時間の短縮
「冬を迎えることで戦闘の条件は変化する。日照時間、気温、天候の変化で、前線の兵士たちはこの季節特有の困難な状況に直面することになる。ロシア参謀本部は冬の気象状況を考慮に入れてあらゆる決定を下すことになるだろう」と、リポートは述べている。夏の間は1日15、16時間だった欧州大陸の日照時間は、平均9時間足らずになる。それにより、両軍とも支配地域拡大のための攻撃から、前線を守るための防衛へと、戦略をシフトさせることになると、リポートは指摘している。だが米シンクタンク・戦略国際問題研究所の上級顧問、マーク・カンチアンは極寒期にも戦闘は続くとみている。
対処しだいで有利にも
「そもそもこの戦争が勃発したのはまだ寒さが続く2月24日だ。それに第2次大戦ではソ連軍は冬の間も日常的に攻勢に打って出ていた」と、本誌宛のメールでカンチアンは指摘した。「寒い時期には戦闘が集落の周辺に集中する傾向がある。そのほうが兵士たちが暖をとりやすいからだ。また短い日照時間に戦闘が集中することにもなる。今は暗視ゴーグルがあるから、夜間の作戦行動も可能だが、両軍とも兵士の訓練レベルはさほど高くない。夜間の作戦遂行には高度なスキルが求められる」リポートによれば、暗視装置は「貴重な装備品」であり、両軍とも夜間の攻撃を仕掛けることには及び腰だという。
負傷兵救出の時間が限られる / 12月以降の数カ月、ウクライナでは平均気温が0度近くか氷点下まで下がる日々が続く。戦闘での負傷に加え、凍傷、低体温症なども兵士たちを苦しめるだろう。「しかも、重傷を負った兵士を救出できる時間帯がざっと半分に減り、救出中に敵に遭遇する危険性も高まる」と、リポートは述べている。
兵器の故障 / 気温低下で兵器の不具合も増える。部隊が戦闘を終えて拠点に戻ると、兵器は比較的暖かいシェルターに収められる。急激な温度の変化で、機械の内部に結露が生じ、兵器が再び野外に持ち出されたときに、それが凍結して、動かなくなることがあると、米軍の情報サイト、ミリタリー・ドットコムと米陸軍の報道資料は述べている。
こうした冬特有の問題は両軍を悩ませるが、うまく対処すれば戦況を有利に持ち込める可能性もある。
戦闘はやや下火に
「ウクライナ軍が有利になるだろう。補給がまずまず機能しており、アメリカはじめNATOが寒冷地仕様の装備を提供しているからだ」と、カンチアンは言う。「ロシア軍は冬の実戦経験を豊富に積んでいるが、兵站が脆弱な状況では、培われたスキルや戦法を生かしきれない」
アメリカ・カトリック大学の歴史学部長で、冷戦史と米ロ関係の専門家であるマイケル・キメジ教授も冬への備えではウクライナに分があるとみている。さらに、戦闘が収まることはないにしても、やや下火にはなるだろうとも言う。南部の要衝ヘルソン市を奪還したウクライナはロシアを守勢に追い込んでおり、今は次の戦略を練るために、現状を再評価する必要があるからだ。
「ウクライナは比較的簡単に攻略できる地域を既に奪還したので、(攻撃の手を)少し緩めるだろう」と、キメジは本誌に語った。一方、「ロシア兵は戦意喪失の極みにある。疲弊しきっているのに、十分な補充要員が送られてこなければ、やる気をなくすのも当然だ」
●岸田総理と中国・習主席「核兵器の不使用」で一致 ウクライナ情勢めぐり 11/17
岸田総理は、およそ3年ぶりに対面で行った日中首脳会談を終えて、先ほど、記者団の取材に応じ、ロシアが侵攻を続けるウクライナ情勢をめぐって、「ロシアがウクライナにおいて核兵器の使用を示唆していることは極めて憂慮すべき事態であり、核兵器を使用してはならず、核戦争を行ってはならないとの見解で習主席と一致をした」と明らかにしました。
そして、ロシアによるウクライナ侵攻に対する中国側の見解については「先方の発言を私から申し上げるのは控える」としたうえで、「核兵器を使ってはならないということについては間違いなく一致した」と強調しました。
●“ウクライナ侵攻が世界経済に影響”林外相 ロシア主張に反論  11/17
タイを訪れている林外務大臣は、APEC=アジア太平洋経済協力会議の閣僚会議に出席し、ロシアによるウクライナ侵攻によって世界経済の発展が大きな影響を受けていると指摘し、欧米各国などの制裁を非難するロシア側の主張に反論しました。
アメリカや中国、ロシアなど、太平洋を囲む21の国や地域が参加するAPECの閣僚会議には、日本から林外務大臣と西村経済産業大臣が出席し、最初のセッションでは域内の持続的な成長などをテーマに議論が行われました。
この中で林外務大臣は、ロシアによるウクライナ侵攻について「主権と領土の一体性を侵害し、国際秩序の根幹を揺るがすものだ」と述べ、ロシアに対し直ちに侵攻を止めるよう求めました。
さらに、ウクライナ侵攻によって食料やエネルギーなどの安定供給が脅かされ、世界経済の発展が大きな影響を受けていると指摘し、欧米各国などの制裁を非難するロシア側の主張に反論しました。
一方、林大臣は、すべての人に質のよい保健・医療サービスを提供する「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」の達成に向け、人道支援や技術協力に貢献していく考えを示しました。
●中国、安保理でウクライナ情勢の緩和と鎮静化のため交渉再開を呼びかけ  11/17
国連安全保障理事会は現地時間16日、ウクライナ情勢について再び臨時会議を行いました。中国の張軍国連駐在代表は、「現在の情勢のもとで、どんなに困難な試練があっても、国際社会は共通認識を求め、協力の空間を見つけ、情勢の緩和と鎮静化を推進し、できるだけ早く外交交渉を再開し、危機の影響を緩和し、建設的で責任ある役割を果たすために努力しなければならない」と指摘しました。
張代表はさらに、中国は国連事務総長とそのチームがロシアの食糧や化学肥料輸出の困難を解決するために協調的な役割を果たし続けることを支持すると表明し、関連当事者に強力な措置をとり、制裁による悪影響を取り除くよう呼びかけました。
中国は各国に対して、人類運命共同体意識の確立を呼びかけ、平和、発展、協力、ウィンウィンを提唱し、分裂を団結に取って替え、対抗を協力に取って替え、排他を包容に取って替えることを提唱しました。
●ウクライナ産農産物の輸出枠組み 国連とトルコ 期限延長で合意  11/17
今月19日に期限が迫っていたウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意について、ロシアとウクライナ、それに仲介役の国連とトルコは延長することで合意したと国連などは発表しました。
ウクライナ産の農産物をめぐりロシアとウクライナはことし7月、国連とトルコの仲介で輸出再開で合意し、今月19日の期限を前に合意が延長されるかが焦点となっていました。
これについて国連のグテーレス事務総長は17日、声明を発表し「すべての当事者が継続することで合意したことを歓迎する」として延長することで合意したと明らかにしました。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領とトルコのエルドアン大統領もそれぞれツイッターに合意が120日間延長されると投稿しました。
ロシアは、これまで自国の農産物などの輸出が制裁の影響で制限されていると批判していて、グテーレス事務総長の声明では「ロシアから食料や肥料を輸出できるよう残っている障壁をなくすためにも国連は全力を尽くす」と配慮も示しています。
トルコのイスタンブールに設置された農産物輸出についての共同調整センターによりますと、ことし8月の輸出再開から今月16日までにトウモロコシや小麦など合わせて1100万トン余りがウクライナから各地に輸出されたということです。
トルコ大統領 “国連 ロシア ウクライナに感謝”
ロシアとウクライナの仲介役を務めるトルコのエルドアン大統領は17日、ツイッターに「農産物輸出の合意の枠組みは120日間延長された」と投稿しました。そのうえで「この4か月で、枠組みが世界の食料と安全のために重要なものだと証明した。延長の意思を示したグテーレス事務総長、プーチン大統領、それにゼレンスキー大統領に感謝する。この枠組みが引き続き成功するよう祈っている」として決定を歓迎しました。
ロシア外務省 “延長に反対しない”
ウクライナ産の農産物をめぐる合意についてロシア外務省は17日、「延長することに反対しない」とする声明を発表しました。一方、ロシアが経済制裁により影響を受けていると訴えている自国の農産物などの輸出制限については、国連が制限の解除に向けて取り組んでいると一定の評価を示したうえで、「これらの課題は次の120日間で解決されるべきだ」と強調しています。
●核使用にも反対。プーチンに対して間接的に「NO」を突きつけた習近平 11/17
伝統的に深いつながりを持ちながら、現在置かれている立場に大きな開きがある中国とロシア。習近平国家主席にとっては、ウクライナ戦争で国際社会を敵に回すプーチン大統領との間に、この先どのような関係を築くのが正答となるのでしょうか。そんな難題の分析を試みるのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、核兵器の使用に反対する考えを示し、間接的とは言えプーチン大統領にNOを突きつけた習近平氏の意図を解説するとともに、「習―プーチン関係」の今後を考察しています。
3期目の習近平にとってのプーチン大統領
インドのジャイシャンカル外相は11月、モスクワを訪問してロシアのラブロフ外相と会談し、ロシア産石油の輸入を継続するなどエネルギー分野での結び付きを強化していく方針を示した。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、ロシアの軍事的劣勢が顕著になる中、プーチン大統領が9月に市民の部分的動員とウクライナ東部南部4州の併合に打って出るなどしたことで、それまで同侵攻で態度を明確にしてこなかったインドの態度にも変化が見られた。
インドのモディ首相は9月にウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでプーチン大統領と会談し、「今は戦争や紛争の時代ではない」と初めてウクライナ侵攻を批判し、同月、国連総会の場でインドのジャイシャンカル外相もウクライナ侵攻によって物価高やインフレが生じたと不快感を示した。
しかし、世界的なエネルギー高騰に頭を悩ますインドとしては、エネルギー安全保障の観点から安値を維持するロシア産エネルギーに依存せざるを得ない状況で、今回の合意も悩んだ挙句の決断、行動だったと考えられる。インドとロシアはもともと武器供与などで伝統的友好関係にあり、米国などからのプレッシャーもある中、インドは難しい立場にある。しかし、今後ともインドはロシアとの政治的関係の維持、経済的接近を図るものとみられる。
一方、3期目となった中国はインドのような立場を取るか、もっといえば取れるのかといえば疑問が残る。
プーチン大統領と習氏は9月15日、中央アジアのウズベキスタンで開催された上海協力機構の首脳会合に参加するのに合わせ約半年ぶりに対面で会談した。冒頭、プーチン大統領は、「この半年間で世界情勢は劇的に変化したが変わらないものが一つある。それは中露の友情関係だ」とし、習近平氏も、「激変する世界で中国はロシアとともに大国の模範を示し、主導的役割を果たす」と双方が両国関係の重要性を確認した。
だが、話がウクライナ問題になると、習氏の表情が厳しくなり無言を貫き、プーチン大統領は「中国側の疑念や懸念を理解している。中国の中立的立場を高く評価する」と、自らそこで乖離が生じていることを明らかにした。
そして、部分的動員やウクライナ4州併合に加えロシアによる核使用の可能性が示唆されるなか、習氏は11月に訪中したドイツのショルツ首相と会談し、国際社会が核兵器の使用や威嚇に共同で反対するべきだとし、軍事侵攻を続けるロシアを念頭に核兵器の使用に反対する考えを示した。
プーチン大統領を名指しで非難したわけではないが、これは間接的にNO!を突き付けたことになる。ウクライナ侵攻以降、中国もロシアへの非難や制裁を避けるなどインドと同じような立場を堅持してきたが、プーチン大統領が一線を越えた行動に出たことで、上述のモディ首相のようにこれ以上は黙ってはいられないという立場に変化した。
習氏にとって難しいバランシングを余儀なくされる対ロ関係
今日の国際社会において、インドと中国の置かれる政治的経済的立場は大きく異なる。バイデン政権が中国を唯一の競争相手と位置付けるように、中国の経済力は既に米国の7割近くにまで接近しており、今後それが逆転する可能性が高いとみられる。
そして、中国は経済力を武器に一帯一路戦略を広範囲に広げ、中国の影響力は既にグローバルに拡大している。よって、インド以上に中国は国際社会での立場に注意を払う必要があり、仮に今日でもロシアを庇う姿勢を鮮明にすれば、中国は欧米から制裁対象に加えられるだけでなく、国際的イメージを落とす可能性がある。プーチン大統領の一番弟子かのように振る舞うルカチェンコ大統領によって、ロシアの隣国ベラルーシは欧米からの制裁に遭っている。
米主導の国際秩序の打破を目指す中国としては、諸外国からのイメージが悪化することは避けないといけない。グローバルな問題である核兵器使用に明確にNo!の姿勢を示した背景にもそれがあろう。
以上のような諸事情を考慮すれば、3期目の習氏にとって対ロシアは難しいバランスを余儀なくされる。今後のプーチン大統領の出方にもよるが、ウクライナ情勢で今までのような態度を貫くならば、習氏としては友人で振る舞うことはできず、近づかず遠からずの距離で接することになろう。反対に、プーチン大統領の態度が軟化するようであれば(その可能性は低いが)、習氏としてはロシアと協力できる幅が広がることだろう。
一方、今後の米中関係にも影響しそうだ。台湾問題によって米中の対立がエスカレートすれば、中国としては米国を何かしらの手段でけん制する必要性が高まる。その際に有効な手段としてロシアの存在は大きく、たとえプーチン大統領の姿勢がこのままだったとしても、習氏としては自らロシアに接近する必要性が出てくることも考えられよう。いずれにしても、今後の習プーチン関係は、ロシアや米中対立の行方に左右されよう。
●ロシア新車販売6割減 制裁・動員背景に 露政権に危機感 11/17
ロシアで景気の指標となる新車販売台数の記録的な低迷が続いている。露自動車メーカー大手のトップは16日、今年の国内の新車販売台数が昨年比で約60%減少すると予測した。対露制裁に伴う価格の上昇に加え、ウクライナ侵略や「部分的動員」で消費者心理が冷え込んだことが背景にあるとみられる。景気の悪化を警戒するプーチン露大統領は同日、販売促進を政府に指示。露経済の弱体化を狙いの一つとした制裁の効果が見え始めた形だ。
露自動車メーカー最大手「アフトバズ」のソコロフ社長は16日、「今年の国内の乗用車と、バンなど小型商用車の新車販売台数は67万〜70万台となり、166万台超だった昨年から約60%減になる」との見通しを示した。インタファクス通信が伝えた。
背景の一つは、ウクライナ侵略に伴う対露制裁で欧米日などの自動車メーカーがロシアでの製造・販売を停止したことや部品調達の困難化に伴う価格の上昇だとみられる。インタファクスによると、露国内の新車販売価格は年初から11月上旬までに約30%上昇した。
また、露主要メディアは最近、商業施設への来場者数などを根拠に、侵略の長期化や動員で国民に将来への不安が高まり、財布のひもを引き締める傾向が強まっていると相次いで報道。これも新車販売の低迷につながっているもようだ。
プーチン氏も16日の政府会議で、自動車市場が「困難な状況にある」と指摘。未成年の子供がいる家庭などを対象としている自動車ローンの優遇措置を、動員された兵士やその家族にも拡大するよう政府に指示した。市場で自動車が不当な高値で販売されないよう監督を強化することも命じた。
現時点で露国内では顕著な失業率悪化や国民所得の減少は起きていない。外国企業が抜けた穴を、外国企業から資産を買い取るなどした露企業が埋めていることなどが理由だ。ただ、部品不足などによる工業生産力の低下に伴い、国民所得や失業率の悪化が今後進むとの観測も強く、プーチン政権は国民の不満の高まりを警戒している。
●ASEANサミットでミャンマー対応や東ティモールのASEAN加盟など決議 11/17
第40回および第41回ASEAN首脳会談(ASEANサミット)が11月11日、カンボジア・プノンペンで行われた。ミャンマーをめぐる対応について重点的に話し合われたほか、東ティモールのASEAN加盟を原則承認した。
会議の冒頭では、ASEAN議長を務めるカンボジアのフン・セン首相が「われわれは今最も不確かな岐路に立っている。この地域の何百万人もの人々の生活は、われわれの知恵と先見の明にかかっている」と述べた。
ミャンマーをめぐっては、ミャンマーがASEANにおける不可欠な一部であることをあらためて確認したほか、暴力行為の即時停止、建設的な対話の開始などを規定した「5項目の合意」(注)にほとんど進展が見られないことを確認した。5項目の合意については、具体的なタイムラインとともに測定可能な指標を示す実施計画が必要だし、ASEAN各国の外相がこの実施計画を策定すると決定した。また、国連およびその外部パートナーに対し、5項目の合意の履行に向けた支援を要請することを決定した。なお、ASEANはミャンマーから非政治代表を招く立場をとっており、今回のASEANサミットにミャンマーは参加していない。
この声明に対し、ミャンマーの外務省は、ミャンマー政府が行ってきた建設的な努力が含まれていないとし、声明の内容が内政への干渉に相当するとして、ミャンマーを含むASEAN加盟国すべての関与なしに議論や決定を行うことに反対すると表明した。
東ティモールのASEAN加盟を原則承認
東ティモールをめぐっては、ASEAN加盟を原則として承認した。同国は11カ国目のASEAN加盟国となる。正式加盟までは、オブザーバーとしての地位が同国に与えられ、首脳会議を含むすべてのASEAN関連会合への参加が認められる。また、正式加盟に向け、ASEAN調整委員会(ACC)に客観的な基準ベースのロードマップの作成を指示し、2023年に行われる第42回ASEAN首脳会議で採択する予定とした。そのほか、すべてのASEAN加盟国および外部パートナーに対し、東ティモールがロードマップを達成できるよう、キャパシティビルディングなどの支援を行うよう決定した。
(注)2021年4月のASEAN首脳級会議で決定した、ASEANとしてのミャンマー情勢への対応方針(2021年4月27日記事参照)。内容は同国へのASEAN特使派遣などで、2022年のASEAN議長国カンボジアは、フン・セン首相らが既に複数回ミャンマーを訪問している。
●プーチンの戦争でドイツのエネルギー政策が「崩壊」 さらばノルドストリーム 11/17
ただただ、静寂が漂っていた。
ドイツの北東にルブミンという村がある。人口わずか2000人。首都ベルリンから車でひたすら平たい農地を走り抜けること3時間、目立った観光資源もないこの村に、今年、世界の視線が注がれ続けている。
ノルドストリーム。
国際情勢やエネルギーに興味がない人でも、この名前を一度は聞いたことがあるのではないか。ロシアからドイツに天然ガスを送り込む、2つの巨大パイプラインの名称である。2011年に稼働したノルドストリーム1と、2021年に完成したノルドストリーム2がある。
2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、このノルドストリームは、世界のエネルギー地政学を象徴する場所となった。ロシアの力の源泉である天然ガスと、それに依存するドイツ。西側諸国がロシアへの経済制裁を強める中でも、特にドイツのロシア依存が高いことから、一番ダメージを与えられる天然ガスの禁輸までは踏み込むことはできなかった。
その一方で、プーチンは、ジリジリとドイツに打撃を食らわせていった。6月には、ノルドストリーム1経由のガス供給を一気に75%減らし、7月には「保守・点検」の名目で10日間供給を止め、8月からは一切供給を再開していない。
9月には、パイプライン2本で合計4カ所の爆発が確認され、西側諸国はロシアによる「破壊工作」の可能性を指摘している。
そして、ドイツでは今冬のガスの配給という事態が現実味を帯びている。
そんな2022年の地政学の要衝を今夏、筆者ら取材班は訪れた。 
ロシアへの天然ガス依存を象徴する場所
ルブミンは近代史を通して、エネルギー地政学に翻弄されてきた。
第二次世界大戦後の1949年、ソビエト連邦の占領により、東ドイツ(ドイツ民主共和国)の一部になると、バルト海へのアクセスと密度の低さから、原子力発電所が集まる村となった。
1960年代から、4基の原発の建設が始まると、1970年代に稼働を開始し、一時は8基の原発が計画されていた。村の財政を支える一大産業となっていたが、1990年のドイツ再統一で、安全性の観点から東ドイツのすべての原発は閉鎖されることになる。
ルブミンのグライフスヴァルト原発の廃炉・解体作業は実はまだ完了していないのだが、ルブミンは、21世紀に入り、またロシアとの関係を軸にした新たなエネルギー産業を招き入れることになる。
それがノルドストリームだった。
1995年に浮上したこのパイプライン建設は、ロシアのガスプロム社を中心に進められた。ウクライナを経由せずに、ロシアから直接ドイツへと天然ガスを送り込むルートとして、2005年、ドイツのシュレーダー首相の政権下、プーチン大統領との間で正式に協定が結ばれた。
このノルドストリーム1が2011年に開通すると、ドイツはさらにロシアへの天然ガス依存を深めることになる。西側諸国から批判を受ける中、メルケル政権下で、総工費95億ユーロ(約1.5兆円)をつぎ込んだノルドストリーム2に合意し、2021年末に完成までこぎつけた。
それが、ウクライナ侵攻に前後する2月、ドイツはその承認を取り消すことになったのだ。
ここに存在していること自体が「タブー」のような光景だった
これほどまで、ロシアとドイツ、そして欧州をめぐるエネルギー地政学を体現する場所なだけに、取材班は、ここを訪れれば、2022年という「今」を象徴する「何か」に出会えるのではないか、とベルリンから車を走らせたのだった。
だが、そこにあったのは、冒頭の「静寂」だけだった。
取材当時、まだかろうじて天然ガスを供給していたノルドストリーム1には数台の車が通り、この施設が一応生きていることをうかがわせていた。すぐ隣にあるヨットハーバーに集まる人々は、まるでここがウクライナ戦争をめぐる要衝であることも知らぬかのように、静かに余暇の時間を過ごしていた。
しかしノルドストリーム2は、まるで時間が止まったかのようだった。
ノルドストリーム1から港の対岸にある「2」は、そもそも、なぜかグーグルマップにさえ引っかからず、実際にたどり着けたのかさえも、確証が持てないほどだった。聞こえるのは自分たちの足音だけ。完成したばかりの新品感漂う巨大な敷地の周りをぐるりとめぐると、「Nord Stream 2」と書かれた看板に出くわした。
ようやくここで敷地内に1人だけ人がいることが分かったが、すぐにブラインドが閉められ、その数分後、パトカーのような車両に乗った警備員2人が我々の下に駆け寄ってきた。
取材目的を伝えようとしたものの、英語は通じず(ドイツでは珍しいが、ルブミンの村ではほとんどそうだった)、彼らは去っていった。その5分後再び、その車両は取材班の前で止まり、我々の車のナンバーだけを聞き出そうとし、また去っていった。 向こう岸には解体中の原発。まるで、ここに存在していること自体が「タブー」のような、ノルドストリームの光景だった。

 

●ロシアの戦争、容易にNATOとの大規模戦闘に発展 ポーランド爆発 11/18
大きな戦争が「事故」によってさらに拡大することは多くはない。だが、ロシアがウクライナに仕掛けた失敗続きの残虐な侵攻では、当初から大幅な事態悪化の脅威がくすぶっていた。15日にポーランドで起きたロケットによる爆発は、この可能性をはっきりと示す形となった。
今回の爆発は、故意か否かを問わずロシアの行為ではなく、ロシアのミサイルに対するウクライナの迎撃行動が誤った方向に進んだ結果のようだ。だが、これはウクライナの防衛行為がもたらす身も凍るような「副作用」と言えるだろう。ウクライナには国民や民間インフラを狙うロシアのミサイルの雨から国を守る責務がある。
北大西洋条約機構(NATO)に加盟するポーランドは現時点で、防衛に関する協議を定める北大西洋条約第4条の発動を見送った。だが、この短いパニックの期間によって、NATOやNATOの役割の立ち位置はどのように変わっただろうか。NATOはロシアの侵攻に対するウクライナの防衛を支え、資金を提供する存在となっている。
ポーランドのドゥダ大統領が今回の件について、ウクライナの防空システムを原因とする「恐らく事故」と発言したことで、NATOが即座に対応する可能性は大きく減った。現地で見つかったがれきは、撃ち込まれたミサイルがウクライナ軍の運用するロシア製S300防空システムのものだと特定するのに役立ったのだろう。最終的に、この事案が事故だと判明したことで、全当事者にとって最も都合のいい結果になった。NATOにとっては、加盟国を誤って攻撃しないようなシステムの提供など、ウクライナの防空機能を容易に強化できる機会となる。
そして何よりも、これはロシアが人類史上最大の軍事同盟であるNATOとの全面戦争への拡大を望むという、ありえそうにない瞬間になりそうな事案だった。
ロシアはウクライナの小規模だがよく組織された軍隊に、さまざまな前線で敗退している。ロシア領だと違法に宣言した土地から自ら退却、受刑者や徴集兵を前線に送り込み、厳しいと予想される冬の到来前に旧式の雑な防衛態勢を築こうとしている。彼らはぞっとするような場所にいる。確かに、もしポーランドへの不意の攻撃があれば、重要都市ヘルソンからの退却を発端とするロシア軍撤退を巡る話から目をそらす効果はあるかもしれない。だが同時に、NATOによるロシア軍の一層の衰退をもたらす可能性が高い、破滅的で短絡的な動きになっていたことだろう。
しかし、我々は依然として危険のはらむ位置にいる。1940年代以降最大の欧州陸戦とNATOとの距離の近さは特筆すべきだ。多くの事象が誤った方向に進む可能性があり、物理法則を考えればいずれはそれが起きるだろう。
ポーランドは今回の件に防空強化で対応せざるを得ないだろう。ドイツも既にポーランドの領空警戒の支援を申し出た。抑止力とは強力な軍隊のことであり、ロシアも虚勢を張りつつ神経をとがらして注視している。もしこの熱い地域により多くの航空機、より多くの防空ミサイルが持ち込まれれば、より多くの事故が起きる可能性が高まる。ロシアが支援する分離主義勢力による民間機マレーシア航空17便の撃墜事件は誤って行われた行為のようだが、ミスだからといって人命の喪失が受け入れられるわけではなく、西側の対応が沈静化するものでもない。
ロシアもまた、戦略的に追い詰められている。それによって早まった行為に走るわけではないだろうが、事態の緩和に向けて動く公の余地は少なくなっている。謝罪をしたり、起きた過ちを認める発言をしたりする行為は難しくなる。
プーチン大統領は16日、自動車産業に関する協議で忙しかったが、ヘルソンからの撤退が必要な理由については公の説明をしなかった。だが、それは同氏がプレッシャーを受けていないということではない。この悲惨な戦争を選択したプーチン氏の行為に疑念を抱いている強硬派が存在する。もし、もう一度誤りや、誤りにつながる事案が起きれば、プーチン氏にNATOとの対立を避ける余地は国内事情から言ってほぼない。ロシアは国家として、この戦闘をNATO全体に対するロシアの戦いと位置付けてきた。既に戦いに入っていると宣言している戦闘から身を引くのは困難だ。
だからこそ、ポーランドでの爆発は、ゆっくりと進む戦争拡大の新たな兆候となっている。ゆっくりとだが、小さなこうした一連の動き――ウクライナの原子力発電所への脅威から始まり、ノルドストリームのパイプライン爆発、ポーランドの穀物工場を直撃し死者を出した爆発へと続く――は、不可能だと思われたことに対する感覚を侵食し、新たな一連の基準を作っていく。この戦争がいつ終わるのか。ウクライナを支援する国々はいつ終わりを望むのか。こうした一連の事態から、時計の針の音は一層大きくなっていく。
ロシアがこの悲惨な作戦を終えるまでに、同国が多大な苦痛と敗退、窮状を耐え忍ぶ意思があることは明白だ。それにより彼らの敗退や撤退の瞬間は遠い先へと追いやられるが、同時に、危険で暴力に満ちた場所に軍の装備が増え、より多くの過ちが起きうる期間も長期化することになる。
●ウクライナ侵攻 G20首脳宣言 「戦争終結」が世界の声だ 11/18
戦争の早期終結を求める世界の声の高まりを反映したものだ。
ロシアのウクライナ侵攻に対して、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、「参加国の大半が戦争を強く非難した」との宣言を採択した。
日米欧とロシアの対立で取りまとめが危ぶまれていたが、決裂という最悪の事態は回避された。
「核兵器の使用や脅しは許されない」と、威嚇する発言を繰り返してきたプーチン露大統領をけん制する文言も盛り込まれた。
対露制裁に距離を置いてきた新興国も姿勢を変化させている。インドのモディ首相は「戦争の時代にしてはいけない」とプーチン氏に伝えた。中国の習近平国家主席も核の使用や脅しに反対することでバイデン米大統領と一致した。
ロシアが宣言を受け入れたのは、国際社会からこれ以上、孤立することは避けたいとの思惑があったからではないか。
主に世界経済の課題を議論してきたG20が安全保障の問題に踏み込むのは、各国の危機感の表れだ。ロシアは重く受け止め、直ちに攻撃を停止する必要がある。
だがG20の分断が解消されたわけではない。宣言は、ウクライナ侵攻への非難とは「異なる評価もあった」とロシアの主張も取り入れた。異例の両論併記にすることで、辛うじて折り合った形だ。
会議も、日米欧の首脳と、プーチン氏の代わりに出席したラブロフ露外相の応酬に時間が費やされた。この結果、世界が直面する食料・エネルギー危機の克服に向けた具体策には踏み込めなかった。
物価高騰で各国の景気は大幅に悪化している。特に途上国への打撃は大きい。国連によると、過去最多の3億4500万人が深刻な飢餓に直面している。
世界経済を安定させるのは主要国の責務だ。安全保障で対立していても、グローバルな課題には結束して対応しなければならない。
2008年のリーマン・ショック直後にG20サミットが創設された際は、米中が連携して、不況脱却に一定の役割を果たした。
近年は米中対立の影響で機能不全に陥っているとも指摘されてきた。しかし、今回は、世界経済が同時不況に陥る瀬戸際にある。G20が責任を果たすべき時だ。
●ゼレンスキー大統領 “ウクライナもミサイルの調査に参加” 11/18
ポーランドにミサイルが着弾したことをめぐり、ウクライナのゼレンスキー大統領は「調査結果が出ないかぎり、ウクライナのミサイルだとはいえない」と述べたうえで現地でポーランドなどが行っている調査に、ウクライナの専門家も加わると明らかにしました。
ポーランド政府によりますと、ウクライナとの国境に近い村で15日、ミサイルが着弾して2人が死亡し、アメリカなどはウクライナ軍の迎撃ミサイルだった可能性があると指摘しています。
これについてウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカのブルームバーグが17日、シンガポールで開いたフォーラムで問われ、ミサイルが着弾した日はロシア軍によるおよそ100発のミサイル攻撃があり、ウクライナの地対空ミサイルシステムが稼働していたと説明しました。
そして、過去にウクライナを狙ったミサイルが隣国のモルドバに着弾したことがあると指摘したうえで「今回起きたことははっきりとは分からないが私はこれはロシアのミサイルだと確信している」と強調しました。
さらに「調査結果が出ないかぎり、私たちはウクライナのミサイルがポーランドに着弾したとはいえない」と述べたうえで、現地でポーランドなどが行っている調査に、17日からウクライナの専門家も加わると明らかにし、調査も踏まえて今後の対応を検討するものとみられます。
●ウクライナ侵攻「大半が非難」 東アジア首脳会議声明 11/18
東南アジア諸国連合(ASEAN)は17日、13日にカンボジアの首都プノンペンで開催した東アジア首脳会議の議長声明を発表した。ウクライナ情勢については侵攻したロシアを名指ししなかったが、声明案段階より表現を強め「ほとんどの参加国が侵略行為に非難を表明した」と明記した。
ウクライナなどを巡り、参加国の意見が割れており、細かな表現の調整で時間がかかったもようだ。米ホワイトハウスによると、バイデン氏は13日の会議でロシアによるウクライナへの侵攻について「残忍で不当な戦争だ」と強く非難した。参加した各国の首脳からもロシアへの批判が相次ぎ、表現が強まったとみられる。また、核兵器の使用に反対し「戦争の即時終結と和平の重要性を強調した」とした。
朝鮮半島情勢については北朝鮮による弾道ミサイルの発射が続いており、17日も日本海に向けて1発が発射されている。こうした状況に対し議長声明では「重大な懸念を表明した」と記した。多くの国が北朝鮮に対し、国連安全保障理事会決議を完全に履行するよう求め「すべての関係者の間で平和的対話を継続することの重要性を強調した」と記述した。
一方、フィリピンやベトナムが中国と領有権を争う南シナ海問題については、中国を念頭に「一部の国から埋め立てや活動、深刻な事件について懸念が表明された」との表現を盛り込んだ。航行と上空飛行の自由の重要性にも言及しており、声明案段階の表現を維持している。
国軍が全権を掌握したミャンマー情勢については「最近の動向について幅広く議論した」と記した。ASEANは国軍に対し暴力の停止など「5項目の合意」を早期に履行するよう求めている。履行に関する進捗が限定的なことについて「ほとんどの国が深く失望した」との表現を盛り込んだ。
東アジア首脳会議はASEANに加え、日本、米国、中国、ロシアなどの計18カ国が加わる枠組み。3年ぶりの対面での開催となり、日本からは岸田文雄首相、米国からはバイデン大統領、中国からは李克強(リー・クォーチャン)首相が参加した。ロシアからはラブロフ外相が参加した。
●ロシア軍連隊、わずか12日間の戦闘で徴集兵2500人を失ったと報じられる 11/18
ウクライナ軍の第92機械化旅団は、ウクライナ東部ドンバス地方のセベロドネツクから北西に約48キロ離れたロシアが占領している町スバトボの近くで、不幸で戦闘に適していない徴集兵をロシアが前線に押し出すと同時に彼らを殺害している。
「俺たちはただやられるだけの肉だ」と、ある徴集兵は傍受された通話でいった。人気のソーシャルメディアアカウント@wartranslatedがありがたいことにこの通話内容を英語を話す人のために訳してくれた。
第362機動小銃連隊に属する徴集兵のものとされているこの通話はロシア軍徴集兵の暗い状況を物語っている。第362連隊と姉妹連隊の第346連隊は、ウクライナの第92機械化旅団のセベロドネツクへの進軍を止めることはできないまでも、遅らせるためにスバトボ周辺の戦線を維持するよう命令されている。 ロシア軍は数カ月におよぶ激戦の末、6月にセベロドネツクを占領した。
しかし、プーチン大統領が9月に動員令を出し強制的に兵役に就かせた30万人が部分的に配備されたロシア軍の連隊は絶望的なまでに劣勢だ。「何もないんだ!」と徴集兵は電話で叫んだ。「迫撃砲や戦車を相手にどうやって戦えというんだ」
この不釣り合いな状態は何ら驚くことではない。第92機械化旅団はよく整備された戦車T-64や戦闘車両BTRを保有する義勇兵の部隊だ。2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、同旅団はスバトボのすぐ北のハルキウ州周辺での一連の戦闘で勝利している。現在はセベロドネツクを目指している。
対照的に、第362連隊は戦闘部隊であると同時に流刑地でもある。将校は無理な命令を出し、退却すれば厳罰に処すと徴集兵を脅す。その後、将校は比較的安全な連隊の後方地域に姿を消し、訓練を受けていない徴集兵は間違いなく世界一経験豊富な機械化旅団に指導者不在のまま戦いを挑むことになる。
スバトボへの配属はロシアの徴集兵にとってまさに死刑宣告だ。「大隊長は補充部隊が到着するまで2週間持ちこたえなければならないと戯言を言った」と電話の主は説明した。「どうやったらここで2週間も持ちこたえられるんだ」連隊はわずか12日間で兵力の半分にあたる2500人を失ったと電話の主は主張した。
今、100人の生存者が、2500人が2022年11月初めに守れなかった陣地を守ろうとしているという。しかし、不満を口にしたところ、将校に脱落者のレッテルを貼られ、実刑判決を受けると脅された。そして負傷した300人が戦線からはって逃げてくると、将校たちは彼らも脱落者とみなした。
電話の主によると「俺たちを刑務所に入れろ」と将校にいった徴集兵もいた。墓場より刑務所の方がましだ。
窮地に立つロシア軍にとって意外なことに、スバトボ周辺では正規のロシア軍も芳しくない。確かに軽装備の徴集兵の連隊は虐殺されている。しかし、最新の戦車T-72B3を操る部隊も同様だ。ウクライナ軍は16日までにスバトボ郊外のぬかるんだ畑で損傷のないT-72B3を3両回収した。 
●APEC閣僚声明、ウクライナ戦争を非難 異論も併記 11/18
アジア太平洋経済協力会議(APEC)は18日、閣僚共同声明を発表した。一部メンバーがウクライナでの戦争を非難する一方で「他の見解や状況、制裁に対する異なる評価もあった」とした上で、APECは安全保障問題を解決する場でないと述べた。
16日に発表された20カ国・地域(G20)の首脳宣言は「大半のメンバーがウクライナ戦争を強く非難」とする一方で「情勢・制裁について異論や異なる評価」があったとしており、APECの閣僚声明はことを踏襲する内容になっている。
●「二度と侵入させない」 ウクライナ軍、北部国境の監視強化 11/18
ウクライナ北部の森の端。雨が降り、雲が低く垂れ込める中、目出し帽をかぶった兵士が、望遠鏡で数キロ先のロシア、ベラルーシとの国境を監視する。
ウクライナ最北の拠点にはロシアの無人攻撃機も飛んでは来ない。33歳の兵士は、対戦車ミサイル「NLAW」を誇らしげに見せた。「新たな侵攻を防ぐのが主な任務だ。再びここから侵攻が始まったら、国境で敵を食い止め、これ以上進ませない準備はできている」と語った。名前は明かさなかった。
近くにはセニキウカの検問所がある。ここで道がY字に分かれ、北西に進めばベラルーシに、北東ならロシア、南ならウクライナに続いている。
ロシア軍の第90機甲師団は2月24日、セニキウカ検問所を通ってウクライナに侵攻した。
4月初旬になるとロシア軍は、北部から軍を引き揚げ、東・南部に集中させた。
ウクライナ軍はそれ以来、セニキウカの2か国との国境と、後方基地と化していたベラルーシとの全長約900キロにわたる国境で、厳重な監視を続けている。
ベラルーシ政府は先月、国境の防衛を理由に、ロシアの兵士最大9000人と戦車170両を国内に配置すると発表した。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は「平和を求めるなら、戦争に備えなければならない」と述べ、ウクライナがベラルーシへの「攻撃を計画している」と主張した。
これまでのところ、ベラルーシはウクライナ侵攻に加わってはいない。
「リンクス」と呼ばれる30代の国境警備兵は、北部国境からロシア軍が再び攻めてくる可能性は「五分五分」だと思うと、4月のロシア軍撤退後に掘られた頑丈な塹壕(ざんごう)で語った。
リンクスさんによると、秋口から敵の動きが活発化している。しかし、ウクライナ軍は防衛を強化しており、以前よりも真剣に対応していると指摘。「同じ轍(てつ)を踏まないよう、あらゆるシナリオを検討している」と強調した。
北部の拠点から南に約30キロ離れた場所には、侵攻初日にロシア軍に占領された町ホロドニアがある。侵攻前は約2万1000人が暮らしていた。
アンドリー・ボフダン(Andriy Bogdan)町長はAFPに対し、「ほぼ無防備だった」と話した。
「国境警備隊と軍を頼りにしている。彼らは今ここにいて、戦う備えができている」と話した。
●991人の市民遺体、拷問も 奪還地域で発見と主張 ウクライナ 11/18
ウクライナの警察当局は17日、東部ドネツク、南部ヘルソンなど4州のロシア軍から奪還した地域で、市民991人の遺体が発見されたと明らかにした。
併せて、3559件の戦争犯罪の証拠も収集したという。ウクライナ国営通信が報じた。
インタファクス・ウクライナ通信の17日の報道によると、同国のモナスティルスキー内相は、ヘルソン州の州都ヘルソン市とその周辺で、拷問の痕跡がある63人の遺体が見つかったと説明した。「調査は始まったばかりで、今後より多くの拷問や暴力の現場が暴かれるだろう」と語った。ロシアは、市民への拷問は一貫して否定している。
一方、ロシア軍は17日も、ウクライナ各都市への激しい攻撃を加えた。ティモシェンコ大統領府副長官は18日に通信アプリで、南東部ザポロジエ州では17日の住宅地への砲撃で、市民が9人死亡したと明らかにした。
●対ロシア制裁は「戦争への一歩」 ハンガリー首相 11/18
ハンガリーのオルバン・ビクトル(Viktor Orban)首相は18日、欧州連合(EU)によるロシアへの制裁は「戦争への一歩」だと述べ、EUの対ロシア政策は危険との考えを示した。
オルバン氏はラジオのインタビューで、「もし軍事衝突に対して経済的に介入するなら、戦争への一歩になる」と述べた上で、介入により「立場を明確にする」ことが、たちまち「実際に交戦国になる」ことにつながる恐れがあると指摘した。
また、強力な兵器を供与したり、ウクライナ軍を訓練したりしているほか、ロシア産の天然資源に制裁を科すことにより、EUは自らを危険な状態にさらしていると主張した。
オルバン氏は、ロシアが2月にウクライナに侵攻して以降、中立的な立場を維持するよう努め、ウクライナに対する軍事支援を拒んでいる。
●ミャンマー情勢「危機長期化に懸念」 ASEAN議長声明 11/18
ASEAN=東南アジア諸国連合は、クーデター以降混乱が続くミャンマー情勢に関し「懸念」を表明する首脳会議の議長声明を発表しました。
カンボジアで開かれていたASEAN首脳会議の議長声明が18日に発表され、ミャンマー情勢について「暴力の激化を含む長引く政治危機に対する懸念」を表明しました。
また、ASEANが去年4月に合意した「暴力の即時停止」などの5つの項目について、「ほとんど進展がなく、取り組む意志もない」としてミャンマー国軍に対して「深い失望」も示しました。
ASEANは今回の会議で、合意項目の早期実施に向けて具体的な期限を設けた実施計画を策定する方針を確認していますが、会議に欠席していたミャンマー側は強く反発していて、ASEAN諸国との対立が改めて浮き彫りとなりました。
このほか、声明では南シナ海情勢について、名指しは避けつつも、海洋進出を進める中国を念頭に、一部の加盟国が周辺海域の活動などに対し「緊張を高めかねない」と、懸念を表明したとしています。
ウクライナ情勢についても各国の足並みはそろわず、ロシアを名指ししての非難はせず、「敵対行為の即時停止や紛争の平和的解決のための環境を作ることの重要性」を強調するにとどまっています。
●プーチンは失敗に学んだ…へルソン撤退は、ロシアの珍しく見事な「作戦成功」 11/18
11月9日、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相はウクライナ南部ヘルソン州の州都へルソンからロシア軍を撤退させる方針を表明し、11日には撤退完了を発表した。この動きはセルゲイ・スロビキン総司令官の提案によるものとされるが、複数の専門家たちは、今回の撤退の動きからはロシア軍の「弱さ」よりむしろ「軍事戦略の進化」が伺えたと分析している。
米海軍分析センター(CNA)でロシア研究プログラムの軍事アナリストを務めるマイケル・コフマンはキーウ・インディペンデント紙のインタビューに対し、ヘルソンから撤退するというロシアの戦略には「困惑させられた」ものの、一方でロシアは過去の失敗から学んでいるように見えると述べた。
9月にウクライナ軍が反転攻勢に出て、南部ハルキウ州イジュームからロシア軍部隊が逃走する際には、大量の弾薬や戦車、軍用車などが放棄されていたことが話題となった。
「敗北は、確かに士気を低下させるものだ。それでもヘルソンの状況は、イジュームや(同じくウクライナが奪還した東部の都市)リマンとは異なっていた」と、コフマンは言う。「(今回は)組織だった撤退であり、イジュームで見られたような多くの死傷者や装備品の放棄を伴う「敗走」ではない。ロシアは残る兵力と装備の大部分を撤退させることに成功したようだ」
つまり今回のヘルソン撤退は、ロシア軍が進化していることを示しているとコフマンは指摘する。ロシアの軍事作戦の「変化」を強く示唆する、いくつもの重要な過去との違いがあるからだ。
軍全体の指揮系統にも進化が
米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問も本誌の取材に対し、ヘルソンのロシア軍部隊は、あまり激しい戦闘が起きていなかったイジュームを守っていた部隊よりもよく統制されていたと語った。
軍の指揮系統も、現在の方が優れているようだ。ウクライナ軍が州都ヘルソンに入り、国旗を掲げたところでスロヴィキン総司令官の「撤退作戦」は完了したわけだが、これによってロシア軍はドニプロ川の西岸で壊滅するリスクを避け、東岸地域の守りを固めるために兵力を再配分することが可能になった。
ヘルソンはウラジーミル・プーチン大統領が始めたウクライナ侵攻において、ロシア軍が唯一、占領できた州都だった。それを手放すことはプーチンにとって政治的な打撃ではあるが、軍事的な視点から見れば賢明な選択であり、その実行もうまくいったとカンシアンは言う。「その証拠に、捕虜になったロシア兵も失われた装備もほとんどなかった」
「しかも今回の『成功』は、橋や船が絶え間なく攻撃を受ける中で大きな川を渡らなければならないという、きわめて困難な軍事的状況下で成された」
実際、ウクライナはヘルソンからロシア軍を追い出すとしてミサイル攻撃などを加える映像を公開したが、撤退時に失われたロシア軍の兵力はごくわずかだったようだ。11月11日におけるロシア側の死傷者は合計710人とされるが、その多くはヘルソンではなく、東部バフムート市での激しい戦闘によるものだった。
●「戦争犯罪」身柄渡さず 8年前の航空機撃墜でプーチン政権 ウクライナ 11/18
2014年にウクライナ東部ドネツク州上空でマレーシア航空機が撃墜され、乗客乗員298人全員が死亡した事件で、オランダの裁判所は17日、プーチン政権の影響下にある親ロシア派支配地域から「ブク」地対空ミサイルが発射されたと認定した。
長引く紛争が今年、ロシアによる全面侵攻に変わる中、8年前の「戦争犯罪」に結論が下された形だ。
殺人罪などに問われた4人のうち、ロシアの元情報機関員ら3人は求刑通り終身刑、1人は無罪となったが、被告人不在での判決。プーチン政権が関与を認めず、身柄の引き渡しに応じないためだ。首都キーウ(キエフ)近郊の民間人殺害などの戦争犯罪を裁けるか否かという問題に前例を示したと言える。
多数の犠牲者が出たオランダなどの合同捜査に対して、ロシアの反応は冷ややかだ。判決後、ロシアの治安関係者は「外国への引き渡しは憲法が禁じている」とインタファクス通信に述べた。元外交官も「完全に予想された判決」とロシア国営テレビに強調した。
終身刑の3人のうち中心人物は、連邦保安局(FSB)元大佐で武装勢力司令官だったイゴリ・ギルキン(別名ストレルコフ)被告。ウクライナ侵攻で動員令を提唱し、自身も再び前線に向かったとの情報が出た。ただ、ウクライナ国防省は懸賞金の対象に指定しており、民間調査団体は、拘束を避けるため前線にはいないと推測している。
ロシアの元情報機関員が絡む事件は他にも発生。06年、プーチン大統領を批判していたFSB元中佐アレクサンドル・リトビネンコ氏が亡命先の英国で毒殺された事件で、英国は容疑者の身柄引き渡しを求めたが、ロシアは拒否したままだ。
●欧州でロシア外交官600人超追放 英情報局保安部が公表 11/18
ロシアのプーチン大統領にとって致命的な打撃となるのか。英情報局保安部(MI5)のマッカラム長官が、今年に入り欧州各国が国外追放したロシア外交官が計600人以上で、うち400人以上がスパイ活動をしていたと明らかにした。
MI5は外国スパイの摘発や、国家機密の漏洩(ろうえい)阻止などの防諜活動を行う。マッカラム氏は16日に行った講演で、スパイを含む外交官の追放は、ロシアの諜報機関にとって「最近の欧州史上で最も大きな戦略的打撃となった」と強調した。
ウクライナ侵攻直後、欧州連合(EU)各国が国外追放したロシアの外交官は300人近くだったが、追放の動きが広がっているとみられる。ウクライナ当局はロシア連邦保安局(FSB)の「欧州で活動する工作員」620人の実名リストを暴露している。
CNNによると、スパイに関するデータは欧州の同盟国間で共有されているため「A国から追放されたスパイをD国へと配置換えすることは容易でない」とマッカラム氏は発言。ロシアの諜報活動が困難になっていると示唆した。
プーチン氏はソ連国家保安委員会(KGB)出身で、国内外の諜報網を駆使してのし上がってきた。FSBはウクライナ侵攻初期に情報収集や戦闘活動などで深く関与してきたとされる。
20カ国・地域(G20)首脳会議に欠席するなど外交の表舞台に出てこられないプーチン氏だが、「裏」のスパイ網も壊滅状態となっている。ウクライナ侵攻でも適切な判断を下せないリスクが大きくなっている。
●親ロシア派の女性「副知事」拘束 撤退のヘルソン、もう一人は事故死 11/18
ロシアが一方的に「併合」したウクライナ南部ヘルソン州で「副知事」を名乗った女性政治家エカテリーナ・グバレワ氏が、ロシア当局に拘束されていたことが分かった。
独立系メディアなどが18日に伝えた。プーチン政権は今月、州都ヘルソン撤退を発表。これと並行し、8カ月間の占領政策に協力した親ロシア派政治家を巡って不審な事件や事故が相次いでいる。
撤退命令が出た当日の9日には、もう一人の自称・副知事であるキリル・ストレモウソフ氏が「交通事故死した」と発表された。独立系メディアは、無数の弾痕が残るストレモウソフ氏の車とみられる写真を公開しており、死因に関して臆測が広がっている。
グバレワ氏はかつて東部の武装勢力「ドネツク人民共和国」の「外相」も務めた親ロ派代表格の一人。ヘルソン州から「行方不明になった」と夫が16日に訴え、騒動が拡大した。「経済事件で拘束された」「住民投票後に州を去った」と報道が飛び交う中、「自由の身」であることを夫が主張。ただ、夫は詳細を公表しないよう口止めされているという。

 

●APECに集った閣僚たちが共同声明…「ウクライナ戦争を糾弾」 11/19
APEC(アジア太平洋経済協力)の外交・通商閣僚たちは、ロシアのウクライナ侵攻を糾弾する内容を盛り込んだ共同声明を18日発表した。
タイのバンコクで開かれたAPEC外相・通商合同閣僚会議(AMM)に出席した閣僚たちは、共同声明を通じて「大多数の加盟国たちは、ウクライナで起きている戦争を強く糾弾する」と伝えた。
つづけて「この戦争は人間にとてつもない苦痛を引き起こし、成長の低下・インフレの増加・供給網の崩壊・食糧およびエネルギー価格の上昇・金融安定の危険上昇などにより、世界経済の脆弱性をより悪化させる結果を生んだ」と指摘した。
ただ「ウクライナ戦争に関して、一部において別の見方と評価もあった」と付け加えた。
また閣僚たちは声明で「自由で開放的かつ公正・透明であり、包容的で予測可能な貿易および投資の環境づくりのための努力を続けていく」と決意した。
さらに気候・環境、持続可能な貿易・投資などを扱った「バンコク目標」への支持を伝え、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)論議の活性化にも歓迎の意を表した。
閣僚たちは先月の会議で、ロシアのウクライナ侵攻において異見が生じ、共同声明を採択することができなかった。
今回も「共同声明の発表は難しい」という見方が大方であったが、G20首脳宣言文のように反対意見も追加して折衷する方法で接点を見いだした。
●日中首脳会談 関係再構築の出発点に 11/19
ロシアのウクライナ侵略が世界を揺るがし、アジア太平洋の情勢も不透明さを増すなか、日中両国は国際秩序の立て直しや地域の安定化に、ともに力を尽くさねばならない。今回の首脳同士の直接対話を出発点に、両国関係の再構築を望む。
岸田首相と中国の習近平(シーチンピン)国家主席が、訪問先のタイ・バンコクで会談した。一昨年春の習氏の国賓としての訪日はコロナ禍で延期となり、米中対立や台湾海峡をめぐる緊張もあって、互いの関係は冷え込んでいた。約3年ぶりの首脳会談の実現を、まずは評価したい。
首相は、尖閣諸島を含む東シナ海情勢や、日本周辺での中国の軍事的活動について「深刻な懸念」を伝えたが、安全保障分野での意思疎通の強化では一致した。緊張を緩和し、不測の事態を避けるうえで、一定の前進である。防衛当局間のホットラインの早期運用開始や安保対話の再開など、合意内容の確実な履行が欠かせない。
日本側の発表では、ロシアのウクライナに対する核兵器使用の示唆を憂慮し、核戦争に反対することでも、両首脳は一致したという。先の米中首脳会談でも、習氏は同様の見解を示したとされる。停戦に向けた働きかけにも乗り出してほしい。
北朝鮮を巡っては、首相が中国の役割への期待を表明した。北朝鮮はミサイル発射を繰り返しており、きのうは大陸間弾道弾(ICBM)級とみられるものが北海道西方の日本の排他的経済水域内に落下した。危険な挑発行為は地域を不安定化させるだけだ。関係が深い中国には責任ある行動が求められる。
一度の首脳会談で不信を払拭(ふっしょく)できるほど、両国関係は簡単ではない。年末に改定する日本の国家安全保障戦略では、中国への評価を従来の「懸念」から「重大な脅威」に改めるべきだとの議論もあり、中国側も注視、警戒している。
北東アジアの軍事地図を塗りかえる、中国の急速な軍備増強が緊張のもとであることは間違いない。ただ、日本が日米同盟や自らの防衛力の強化という、力での対抗に傾斜するばかりでは、展望は開けない。地道に信頼関係を築く外交の真価が、今ほど問われる局面はない。
首脳会談では、経済や環境、医療・介護など、双方が協力する分野が示され、林芳正外相の訪中の検討や閣僚間の対話の再開が合意された。国交正常化から今年で50年。新型コロナで今は停滞しているが、国民同士の往来が飛躍的に増えたのに対し、政治家や民間の交流のパイプは細くなっている。この会談を契機に、あらゆるレベルで、重層的な関係を深めたい。
●プーチン氏 トルコ大統領と電話会談 「ロシア産農産物も輸出制限解除を」 11/19
ウクライナ産穀物輸出をめぐる合意の延長を受け、ロシアのプーチン大統領は、ロシア産農産物も輸出制限を解除することが重要だと述べました。
ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は18日、トルコのエルドアン大統領と電話で会談しました。
ウクライナ産の穀物輸出をめぐる合意が120日間延長されたことを受け、プーチン大統領は「ロシア産農産物と肥料についても世界市場への輸出に向け、障害を取り除くことが重要だ」と強調したとしています。
一方、ロイター通信によりますと、エルドアン氏は米ロの情報機関トップが今月14日にトルコで会談したことについて、「制御不能なエスカレートを防ぐうえで重要な役割を果たした」と述べ、今後も仲介役に意欲を示したということです。
●ロシア大統領、カタールとガス安定で協力 サッカーW杯に祝辞 11/19
ロシア大統領府(クレムリン)は18日、 プーチン大統領がカタールのタミム首長と電話会談を行い、世界のガス市場の安定確保に向けてカタールと緊密に協力する意向を示したことを明らかにした。
プーチン大統領はまた、20日開幕するサッカーのワールドカップ(W杯)の開催国であるカタールに祝辞を述べた。国際サッカー連盟(FIFA)は、ウクライナ侵攻を受けてロシアの国際大会への出場を禁止している。
●ロシア軍最大の“敗因”は兵站の脆弱さ、まともに補給物資も届けられない 11/19
「愚将は兵士(作戦)を語り、賢将は兵站を語る」
2022年11月11日ロシア侵略軍が最重要拠点の1つであるウクライナ・ヘ
ルソン市を手放した。補給路が寸断され確保ができなくなったからで、この撤退劇に強気一点張りのプーチン・ロシア大統領はさぞや地団駄を踏んだことだろう。
ロシア軍大苦戦の主な原因として、大手メディアや軍事専門家は異口同音に「ウクライナ全土制圧など簡単だと読んだ傲慢さと稚拙さ」「欧米ハイテク兵器の猛攻」「将兵の士気の低さと兵員・武器・弾薬不足」を指摘する。しかし、あまり注目されない「兵站(へいたん)」の脆弱さこそ最大の“敗因”との指摘もあり、むしろここに注目すべきだろう。
「兵站(ロジスティクス/logistics)」はやさしく言えば「補給」「後方支援」のことで、ビジネス分野で使われる「物流」「サプライ・チェーン・マネジメント」もこの範疇に入る。もともと軍事専門用語で、広辞苑では〈作戦軍のために、後方にあって連絡・交通を確保し、車両・軍需品の前送・補給・修理などに任ずる機関・任務〉とある。
要は武器・弾薬・スペアパーツといった軍需品や、燃料、食糧・水、医薬品、衣料品、果てはトイレットペーパー、「つま楊枝」に至るまで前線に遅延・誤配なく届けることだ。これが脆弱だと最前線の将兵は苦労する。どれだけ精鋭で最新鋭の兵器で武装していても「腹が減っては戦(いくさ)ができない」からで、将兵の士気や戦力も格段に落ちる。
現にロシア軍が車や家電、博物館の美術品などの強奪を半ば組織的に行っているのは有名だが、それどころか民家に押し入り食べ物まで奪ったり、空腹に耐えられずウクライナ軍に降伏し温かい食事にありついたり、という報道もよく見かける。まさにロシア軍の兵站が脆弱であることの証拠だろう。
軍事の世界には「愚将は兵士(作戦)を語り、賢将は兵站を語る」という格言がある。ダメ将軍は作戦や部隊、武器の優秀さを自慢し、デキる将軍はまず補給を考えるという意味である。兵站を軽視して戦線拡大した結果、大損害を被って敗れた旧日本軍は悪しき例の典型だが、今回のロシア軍がこれと何となくオーバーラップしてしまうのは、筆者だけではないだろう。
破竹の勢いでウクライナに攻め入ったものの、振り返れば本国から遠く離れ補給ルートは延び切り、しかも「まさか」の長期戦で前線部隊は物資不足に陥っていく。短期決戦で決着がつくと高を括り、余裕綽綽(しゃくしゃく)だったプーチンだけに、長期戦を想定した兵站計画自体がタブーだったのかもしれない。
陸軍兵士1人が戦場で必要な「1日分の物資量」は?
ではロシア軍は一体どれほどのボリュームの補給物資が必要なのか。これを具体的に提示するメディアはほとんど見かけない。実際の数字は極秘なので推測かつ大雑把にならざるを得ず、もちろん部隊の規模や種類(兵種)、武装や気候・季節、展開地域などの条件で補給物資の必要量は大きく上下する。そのためこれから提示する数値は、あくまでも目安程度に捉えていただきたいのだが、その数字が想像する以上に膨れ上がることに驚くだろう。
「陸軍兵士1人が戦場で1日に必要な物資の量」については、防衛大学校・防衛学研究会が「現代の兵士の場合90〜100kg/日で、うち食糧は2.9kg、水は9kgを占める」と定義している。
水は飲料用のほか炊事や洗濯、入浴、各種洗浄などにも使われ、その分も加味している。また全体の約6割は「燃料」で兵士1人が毎日54〜60kgの化石燃料を消費する計算だ。近代的な欧米型の陸軍部隊は戦車・装甲車、各種車両を多数保有するからで、キャタピラ(装軌)式の戦車・装甲車は恐ろしく燃費が悪い。
また別の資料によれば、戦車や装甲車を多数従えたロシアの機械化師団(自動車化狙撃師団)が攻撃態勢に入る時に必要な補給物資は2000〜2200トンと指摘する。1個師団が概ね1万5000人とすれば、兵士1人あたり「130〜150kg/日」となる。
次にロシア軍の総兵力を推測すると、陸軍、海軍歩兵部隊、空挺軍の正規軍兵力は「15万人」との観測が一般的で、これに別組織のロシア国家親衛隊や親ロシア派民兵、民間軍事会社ワグネルの傭兵、チェチェン・カディロフ部隊などが加わる。これらを総合するとロシア軍は20〜30万人だと考えられる。仮に「25万人」だとすれば、
・東部戦線(ドンバス方面)/15万人
・南部戦線のヘルソン地区/7万人(ドニプロ川西岸のヘルソン市に展開していた兵力を欧米は3〜4万人と推計)
・他の南部戦線全般/3万人
といった配置が当たらずとも遠からずだろう。補給で最も苦労しているのは、恐らくロシア本土から離れた南部戦線だと思われる。
そこでシミュレーションとして仮に「1人150kg/日」を当てはめると、南部戦線計10万人(7万人+3万人)で必要な補給物資は「1万5000トン/日」となる。南部戦線はアゾフ海沿いに幅100〜150kmのベルト状で西のヘルソン州まで伸びる。つまり150km内陸に入った辺りが最前線だ。
そしてここに補給物資を届けるには、アゾフ海の最奥部にあるロシア領内の港湾都市ロストフナドヌが一大拠点となるはずで、ここからウクライナに入り、マリウポリ〜メリトポリ〜ヘルソンとアゾフ海沿いに走るM14国道が幹線道路となるだろう。全長は約550kmだ。なお東西に走る道路は内陸にも何本かあるが、ウクライナ軍砲兵部隊の射程内のため頻繁には使えないだろう。
M14国道から枝分かれし内陸へと北上する道路のうち、まともなものは10本程度で、これが事実上の主要補給ルートとなるはずだ。「Google Earth」を見れば分かるが、ウクライナは地平線が拝めるほど平原が広がっているものの、西欧と比べてまともな道路が極端に少ない。高速道路の総延長も200kmほどにとどまるお国柄だ。
補給物資を運ぶトラックの絶対数が少ない
次に実際に補給物資を運ぶトラックだが、ここでは効率のいい40フィート・コンテナ(全長約12m)1個を牽引するトレーラー(最大積載量30トン)がカバーしたと考えてみよう。
40フィート・コンテナとは日本でもよく見かける、やたらと長いコンテナのこと。また「30トン」は理論上の最大積載量で、荷物がかさ張ることを考慮すると実際は半分の15トン程度しか運べない。
すると「1万5000トン÷15トン」で「1000台/日」という値が導き出される。一方、送り先の最前線は近いところもあれば遠い場所もあるので、M14国道部分を300km走り、さらに枝分かれ道路に入って150km北上すると考える。すると走行距離は片道「450km」となり、さらにここを走るトレーラーのスピードは渋滞や信号待ち、道路のデコボコ、事故などを考えると平均時速30kmが無難だろう。片道で15時間かかる計算だ。
ドライバーは2人体制で2〜3時間ごとに交代で運転し続ける。前線に到着後は荷物の降ろし作業を任せて、ドライバーは睡眠・休息をとる。これを8〜9時間と考えれば片道はちょうど24時間。つまりトレーラーは1往復で「2日」必要となり、毎日絶え間なく前線に物資を補給し続けるには最低でも1000台のコンボイをもう1組、つまり「トレーラー2000台、ドライバー4000人」が必要となる計算だ。
ちなみにトレーラーの燃費は一般的に2km/リットルで、片道450kmで消費される燃料は225リットル、往復で450リットルとなる。そして1000台のコンボイで1万5000トンの物資を運び再び戻ると考えると、何と45万リットル=450キロリットル(重量約360トン)という莫大な軽油の消費量がはじき出される。
この「40フィート・コンテナ・トレーラー」はあくまでも理論上の話で、実際は幹線道路のM14国道を使った拠点間輸送をトレーラーが受け持ち、「ラスト・ワンマイル」に相当する各拠点〜最前線は、オフロード走行ができる軍用トラックが受け持つと見ていいだろう。また、トレーラーは全輪駆動ではないので、幹線道路以外はデコボコ道や泥道が多いので走らないほうがいいだろう。
それでもトレーラーはやはり千台規模で必要となるはずだが、果たしてこれだけの数を国内で確保できるのか甚だ疑問だ。というのもロシアの輸送体系は「貨物鉄道」が圧倒的で国内物流の実に6割(トンキロ換算)を占め、逆にトラック輸送(道路)は7%ほど。国内のトラックの絶対数がそもそも少ないのである。しかも周辺国から融通しようにも協力する国すら限られる。
もしかしたら全ルートを前述の軍用トラックがカバーしているかもしれない。最大積載量はだいたい6トンで、実際は半分の3トンと仮定し「1万5000トン」を毎日輸送するには何と5000台、しかも往復を考えれば「1万台」という規模になる。ロシア軍といえどもこれだけの軍用トラックをやりくりするのは極めて困難だろう。
「鉄道」「船」による輸送も役に立たず
では「鉄道」の利用はどうか。最も効率的な40フィート・コンテナ1個を積載する貨車を使用したと仮定してみよう。シベリア鉄道では100両編成の列車も普通だが、ここでは半分の50両編成で計算する。
貨物列車1本の輸送量は「15トン×50個=750トン」なので、1日に必要な「補給物資1万5000トン」に応えるには毎日20本の貨物列車が必要。同じく往復を考えればこの2倍、40本は欲しいところ。前線から比較的離れた拠点の貨物駅まで運ぶ「拠点間輸送」に徹し、ここから前線までの「ラスト・ワンマイル」は前述の軍用トラックがリレーする方式が無難だ。
だが、残念なことに南部戦線を海岸に沿って東西に横断する線路は実は存在しない。内陸を走る路線はあるにはあるが、ウクライナ軍と対峙する前線近くをくねくねと蛇行し、しかも途中で寸断されているようで、役立ちそうにない。陸続きの本国から直接鉄道輸送できればロシア軍もかなり楽なのだが、現実はそう思い通りにはならないようだ。
では船による輸送はどうか。基本的にロシアの事実上内海・アゾフ海を貨物船で横断して南部戦線に補給物資を運ぶという発想で、これなら大量の荷物を効率よく輸送できるだろう。貨物船はロシア国内の河川・運河で多数活躍する細長の内航用貨物船(貨物積載量5000〜1万トン)を10隻も徴用してピストン輸送すれば事足りそうな気がする。
だがこちらも実際は厳しい。南部戦線側は港が極端に少ないのが「玉に瑕」で、砂州と砂浜が延々と続き天然の良港に乏しいため、まともな貨物船が入港できる港は2〜3カ所しかない。しかも埠頭やクレーン、フォークリフト、倉庫といったインフラも脆弱で鉄道や道路とのアクセスもいいとは言えない。
つまり港に荷揚しても補給物資は野積み状態で滞留する可能性が高い。なお黒海まで出張っての海上輸送は、ウクライナ軍の脅威が格段に増すためさすがのロシア軍も敬遠しているようである。
一方、前述した港湾インフラの貧弱さ以上にロシア軍にとって悩ましいのが、ウクライナ軍による対艦ミサイルやドローン攻撃を使った貨物船へのピンポイント攻撃の脅威で、このため貨物船による輸送はあまり活発に行っていないようだ、との指摘もある。
実際、港に停泊中のロシア海軍揚陸艦が攻撃を受けて大破した他、黒海艦隊の旗艦だったミサイル巡洋艦「モスクワ」がウクライナ軍の対艦ミサイル攻撃で撃沈。さらに今年10月には同艦隊の拠点・セバストポリがウクライナ軍の水上ドローン攻撃に遭いフリゲート「アドミラル・マカロフ」(「モスクワ」亡き後旗艦に昇格)がダメージを受けている。「貨物船を使って軍需物資を輸送したらどうなるか分かっているだろうな」との、ある意味ウクライナ側の“無言の警告”のようなものだ。
弾薬不足のうえに最前線に届けられないダブルパンチ
以上はあくまでも南部戦線への補給路が、南部戦線の横断ルートに限られると考えた場合で、実際はクリミア半島経由のルートがある。
南部戦線との間には幹線道路3本、鉄道路線2本がそれぞれ走り、南部戦線西部のドネツク、ザポリージャ両州への物資補給はむしろこのルートを使うはずだ。鉄道はヘルソン左岸部分やメリトポリなど中心都市までほぼ直線で通じているため、貨物列車輸送もかなり効果を発揮しているだろう。そしてこれらを総合的に考えれば、前述したような南部戦線への補給物資輸送の困難さはある程度軽減できそうである。
ただしクリミアとロシア本土を結ぶクリミア大橋(鉄道橋と自動車橋が並行して架かる)がアキレス腱で、実際今年10月上旬にウクライナ軍の攻撃により大破し一時通行不能に陥っている。
さらに世界屈指の産油国でウクライナとは陸続きという利点を生かし、前線への燃料輸送はM14国道に沿う形でパイプラインを埋設して輸送の効率化を図っている可能性もある。これなら補給物資の相当部分を占める燃料をトラックや鉄道が運ぶ負担も軽くなり、輸送資源を他の補給物資輸送に振り向けることができる。
このように最前線で戦うロシア軍部隊を支えるには、どれだけの物量と手間暇やコストが必要か、ある程度理解できるかと思う。
しかもNATO軍の兵站部門や日本の物流業界では今や常識のFRID(非接触で貨物データが読み取れるICタグ)や、GPSを使った貨物のトレーサビリティ(追跡システム)といったDX、デジタル化もロシア軍の兵站部門は大幅に遅れており、それ以前に輸送が効率的なコンテナやパレットの普及率も相当低いだろう。
さらに今回の計算はあくまでも「南部戦線」だけで、実際はこれに東部戦線の補給物資輸送も重くのしかかる。巷間噂される弾薬そのものの不足に加え、その弾薬が最前線に届きにくい弾不足のダブルパンチを受けている可能性も高い。
果たしてロシア侵攻軍は今後まともに戦い続けられるのだろうか。 
●ミャンマー国軍任命の国防相、ASEAN会議招待せず 11/19
東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のカンボジアが23日に同国で開く拡大ASEAN国防相会議に、ミャンマー国軍が任命した国防相を招かないことがわかった。カンボジア政府関係者が明らかにした。クーデターで全権を掌握した国軍の強硬姿勢が続いており、一部の域外国が国軍との同席に強い難色を示したとみられる。
23日の会議はカンボジア北西部シエムレアプで開催する。ASEANは2021年10月の首脳会議からミャンマー国軍関係者を首脳会議と外相会議に招待していない。ほかの会議では国軍が任命した閣僚の出席を原則として認めていた。6月のASEAN国防相会議には国軍が任命した国防相が招かれていた。
ASEANは21年4月、国軍トップのミンアウンフライン総司令官も参加した首脳会議で、暴力停止など5項目の合意事項を確認した。ただ、国軍は合意の大半を履行していない。11日にカンボジアの首都プノンペンで開かれた首脳会議では、国軍が任命した閣僚を排除する会議を従来よりも広げるかどうか検討していた。
拡大ASEAN国防相会議はASEANに日米中などを加えた18カ国がメンバー。
●ウクライナ戦争は冬場も続行、電力危機の責任否定 ロシア 11/19
ロシアのペスコフ大統領報道官は19日までに、降雪や低温が伴う冬場の到来とは関係なくウクライナでの軍事作戦は続行されるだろうとの見解を示した。
記者団に表明した。寒さが一段と募る季節の中でロシアが今週、ウクライナのエネルギー関連施設に大規模な攻撃を仕掛け、数百万人規模の同国国民が電気を失っている現状に関する質問に答えた。
ウクライナ侵攻を意味するロシア独自の表現となっている「特別軍事作戦」の継続は気候条件に左右されないと言い切った。
数百万人規模のウクライナ人が停電や熱源もない窮境に陥っている理由を問われ、ペスコフ氏は「問題解決や交渉に積極的でない態度を示す」ウクライナ側の責任に言及。
「ウクライナ政府は交渉にもはや応じようとせず、臨んだとしてもロシア側があり得ないとみなしている『公開方式』のような形態の交渉を欲している」と指摘。「現状を踏まえるのなら公開方式の交渉は想定しがたい」とはねつけた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は今年10月初旬、ロシアのプーチン大統領との一切の交渉を拒む大統領令に署名した。ロシアがウクライナ東部の州のロシアへの一方的な合併を狙う「住民投票」を実施したことへの対抗措置だった。
●ウクライナ向け兵器の残存量手薄に、製造能力にも問題 米 11/19
侵攻したロシア軍と戦うウクライナへ提供する米国の高性能兵器の一部の数が残り少なくなっていることが19日までにわかった。この問題の詳細を直接知り得る立場にある3人の米政府当局者がCNNの取材に明かした。
兵器の在庫分の逼迫(ひっぱく)や需要に対応できる米国の産業基盤の能力の確保はバイデン政権が直面している重要な試練の一つとも位置づけた。米国はこれまで数十億ドル相当の兵器をウクライナへ譲渡している。
米政府当局者の1人は、一部の兵器システムの備蓄分はウクライナへの約9カ月間に及ぶ軍事支援を受けて、「減少の一途」にあるとの現状を説明。引き渡すことができる在庫の余剰分にも限りがあるとした。
ウクライナの提供要請に応える上で残存量に懸念が生じている兵器には、155ミリ榴弾(りゅうだん)砲の弾薬や携行式の地対空ミサイル「スティンガー」が含まれる。
さらに、対レーダーミサイル、誘導型多連装ロケット発射システムや歩兵が持ち運べる対戦車ミサイル「ジャベリン」の追加の生産能力への疑念も出ているという。米はこれら兵器などの生産能力の強化に動いている。
米軍がアフガニスタンから全面撤退し、イラクでの軍事作戦では顧問的な役割にとどまっている中で、米国はここ20年では初めて、紛争に直接介入しない事態を迎えている。それだけに戦争に備えて兵器弾薬を製造する必要性がなく、戦闘が長引く正規軍同士による組織的な交戦に欠くことができない物資の量的確保も進めていない。
多数の米政府当局者は、米国は不測の事態発生に対する自らの即応態勢を危うくさせることは決してなく、兵器などの引き渡しは全て自国の戦略的な備蓄や戦争遂行計画への影響度をにらみながら実施していると強調した。
●ウクライナ ロシアのミサイル攻撃でエネルギー施設の半分被害  11/19
ウクライナでは、ロシア軍による大規模なミサイル攻撃によって国内のエネルギー関連施設のおよそ半分が被害を受けていて、ゼレンスキー大統領は「首都キーウと17の州で電力の供給が困難な状況になっている」として、復旧作業を急ぐ考えを改めて強調しました。
ロシア国防省は18日、ウクライナのエネルギー関連施設などをねらった大規模なミサイル攻撃を17日に行ったと発表し、本格的な冬が迫る中、電力などインフラ施設を標的にした攻撃を強めています。
ウクライナのシュミハリ首相は18日「ロシアは、ウクライナの重要インフラへの攻撃を続けており、国内のエネルギーシステムのおよそ半分が使用できなくなった」と述べ、電力の供給に深刻な影響が出ていると明らかにしました。
また、ゼレンスキー大統領は18日に公開した動画で「首都キーウと17の州で電力の供給が困難な状況となっている」として、復旧作業を急ぐ考えを改めて強調しました。
一方、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐってロシアとウクライナは輸出の延長で合意しましたが、黒海に面した南部の港では穀物を運ぶ船や積み替えの設備が不足しているうえ、ロシアのミサイル攻撃によって作業が停止することもあるということで、輸出を待つ穀物がたまっています。
このうち、南部オデーサでは、小麦を積んだトラックが数キロにわたって長い列をつくっていて、今後、安定的な輸出を続けられるかが課題となっています。
英国防省 “ロシア軍部隊が支配地域で防衛強化”
一方、ウクライナ軍が南部の拠点ヘルソンを奪還するなど反転攻勢を強める中、戦況を分析するイギリス国防省は18日、ロシア軍がウクライナ各地で防衛の準備などを優先していると指摘しています。
この中で、ロシア軍の部隊は8年前にロシアが一方的に併合した南部クリミアとヘルソン州の境界付近のほか、東部ドネツク州やルハンシク州でもざんごうを築いているとして、ロシア軍が支配地域で守りを固めようとしていると分析しています。
また、ロシアの独立系メディアもクリミアとヘルソン州の境界付近で撮影されたという映像を公開し、大人の背丈ほどの深さに掘られ木材で補強されたざんごうや、戦車などの進軍を阻むためのコンクリートブロックの列が映っています。
ミサイル着弾 ウクライナの専門家 ポーランドに到着
一方、ウクライナに隣接するポーランドにミサイルが着弾したことをめぐって、ウクライナのクレバ外相は18日、現地の調査に参加するウクライナの専門家たちがポーランドに到着し、作業を始めたと明らかにしました。
このミサイルについては、ウクライナ軍が発射した迎撃ミサイルだった可能性を指摘する欧米側とウクライナ側との間には見解の違いもみられ、調査の結果が焦点となっています。
●APEC「首脳宣言」採択 ウクライナ侵攻は“両論併記”…G20と同じ表現 11/19
APEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議が閉幕しました。首脳宣言では、ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、対立する意見を併記しました。
APEC首脳会議には、岸田首相や中国の習近平国家主席、アメリカのハリス副大統領らが出席し、持続可能な経済成長などについて議論しました。
会議後に発表された首脳宣言では、「ほとんどの参加国がウクライナでの戦争を強く非難した」とする一方、「状況や制裁について、他の意見や異なる評価もあった」と「非難」と「異論」の両論を併記しました。
ウクライナ情勢をめぐる表現は、16日に発表されたG20=主要20か国・地域の首脳会議の首脳宣言と同じものとなりました。
参加国が違う国際会議で成果文書の文言が一致するのは極めて異例で、各国の意見をとりまとめる難しさがあらためて浮き彫りとなりました。
●APEC首脳会議が閉幕 議長国タイ 首脳宣言を採択  11/19
タイで開かれていたAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議は首脳宣言を採択し、19日、閉幕しました。
宣言は「ウクライナでの戦争をほとんどのメンバーが非難した」とする一方、ロシアや制裁に参加していない一部の国の主張も踏まえた内容となりました。
21の国と地域が参加するAPECの首脳会議は、岸田総理大臣や中国の習近平国家主席、アメリカのハリス副大統領、それにロシアのベロウソフ第1副首相らが出席し、19日、貿易や投資をテーマに議論を行い、閉幕しました。
そして、議長国のタイ政府は2日間の議論の成果として首脳宣言を発表し、このなかでロシアによるウクライナ侵攻について「世界経済にさらなる悪影響を与えていることを目の当たりにした」としています。
そのうえで「ウクライナでの戦争についてほとんどのメンバーが強く非難した」とする一方、ロシアに対する経済制裁などについては「ほかの見解や異なる評価があった」とも明記しました。
ロシアのウクライナ侵攻をめぐって各国の立場が異なるなかで、ロシアを非難するアメリカや日本などと、経済制裁を批判するロシアや制裁に参加していない一部の国の主張をそれぞれ踏まえた内容となっています。
こうした表現は、今月16日に採択されたG20サミット=主要20か国の首脳会議の宣言で使われたもので、各国が合意できるようAPECでも踏襲したとみられます。
米 ハリス副大統領と中国 習近平国家主席がことば交わす
アメリカのホワイトハウスは、タイのバンコクで開かれているAPEC=アジア太平洋経済協力会議の会場で19日、ハリス副大統領と中国の習近平国家主席が、短くことばを交わしたと明らかにしました。
ハリス副大統領は、両国の競争が衝突に発展しないように対話のチャンネルを維持していくという今月14日の米中首脳会談で話し合われた点について、改めて言及したということです。
一方、国営の中国中央テレビによりますと、習主席は「バイデン大統領との会談は戦略的かつ建設的なもので両国関係を次の段階に導く重要な意義があった。双方がさらに相互理解を深めて誤解や誤った判断を減らし、両国関係が健全かつ安定した軌道に戻るよう望む。ハリス副大統領にはそのために積極的な役割を果たしてもらいたい」と述べたということです。
議長国タイ プラユット首相「首脳会議は成功」
APECの首脳会議の閉幕にあたり、議長国のタイのプラユット首相が会見し「首脳会議は成功のうちに終わった」と述べ首脳宣言を採択できたこと踏まえ会議の成果を強調しました。
また、プラユット首相は「会議では核兵器についても議題にあがった」と述べ、ロシアが核戦力の使用も辞さない姿勢を見せる中、核兵器の問題に議長国として懸念を示しました。
「バンコク目標」も採択
APECの首脳会議では各国が環境に配慮しながら持続可能な形で経済成長を目指す「バンコク目標」も採択されました。
バンコク目標では、気候変動や自然災害などに対処するためクリーンで低炭素なエネルギーへの移行などを進めることや、海洋ごみを減らすこと、違法伐採を止めるための対策を強化することなどが盛り込まれ、世界的な取り組みで目標の達成を目指すとしています。
アメリカ高官「APECが政治問題化されてしまう懸念も」
APECでアメリカ政府を代表して各国との調整にあたった国務省のマット・マレー氏がNHKのインタビューに応じ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって「APECが政治問題化されてしまうと懸念する国もあった」と厳しい交渉の舞台裏を明かしました。
そのうえで宣言について「ほとんどがロシアを強く非難した」とする一方、ロシアへの制裁に参加していない一部の国の主張も踏まえる必要があったとして、すでに採択されているG20サミットの首脳宣言の文言と同じ内容になったいきさつを明らかにしました。
●フィンランド、ロシア国境に200キロのフェンス設置へ 11/19
フィンランドは18日、ロシアのウクライナ侵攻で国境地帯の緊張が高まったことを受け、ロシアとの国境に全長約200キロのフェンスを設置して警備を強化する計画を明らかにした。
国境警備隊によれば、フェンスが設置されるのは約1300キロの国境のうち約200キロ。費用は約3億8000万ユーロ(約550億円)で、フェンスの高さは3メートル以上、上部に有刺鉄線を張るとしている。責任者は会見で、特に注意を要する場所には暗視カメラや照明、拡声器も設置すると説明した。
フィンランド国境警備隊の准将はAFPに対し、ロシアからの大規模な不法入国を阻止するには「不可欠」だと述べた。
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領がウクライナ侵攻のために予備役の部分動員を発表した9月以降、ロシア人が流入したのを受け、フィンランド政府は、ロシア人の入国を厳しく制限した。
●異例づくめの「G20サミット」日本の岸田文雄首相は「G20」で何を語った? 11/19
モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」。11月17日(木)の放送コーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「異例づくめのG20バリ・サミット」。学習院大学 非常勤講師・塚越健司さんに解説していただきました。
ロシアによるウクライナ侵攻以来、初めて主要な先進国・新興国の首脳が一堂に会した「G20(金融・世界経済に関する首脳会合)バリ・サミット」が、インドネシアのバリ島で11月17日(木)に閉幕しました。15日(火)にポーランド東部にミサイルが着弾した件で、急遽、「G7」と「NATO」の緊急会合が開かれるなど、異例づくめの「G20サミット」となりました。
ユージ:塚越さん、“穏やかに……”とはいかなかったですよね?
塚越:バイデン大統領(アメリカ)も習近平主席(中国)も出席する大きい会議で、この20カ国が世界のGDP(国内総生産)の8割を占めるということで、世界中の注目が集まる会議です。
しかし、ロシアのプーチン大統領は欠席して、代わりに(ロシアの)ラブロフ外相が出席しました。ただ、ロシアが参加するということで、恒例の写真撮影をアメリカが拒否するといった波乱の幕開けになっています。
さらに、そのラブロフ外相が到着後に心臓の病気で病院に搬送されたとAP通信が報道したのですが、ラブロフ外相は次の日すぐに「フェイクニュースだ!」と言って元気な姿をSNSにアップしています。
インドネシア政府関係者によりますと、「不整脈のために病院に行っただけ」ということでしたが、こういうところから見ても、さまざまな情報が飛び交う状況だったのかなとも思います。
さらに、いろいろな報道があったように、ウクライナの隣のポーランドにミサイルが落下して2名が亡くなるというニュースもありました。もし、ロシアからの攻撃だとすると、ポーランドはNATO加盟国ですので、つまり、アメリカも含めて報復になるということで、一時は本当に世界大戦になるのでは、と緊張が高まりましたが、バイデン大統領はすぐに、確かなことは言えないとしながらも、「ロシアから発射されたとは考えにくい」と述べまして、今のところ大きな事態には至っていない、ということです。
今後も調査が続きますが、慎重な行動をしないと大事に至ることもあるので、今後も注意が必要かなという感じです。
ユージ:そんな中、懸案されていた「首脳宣言」は採択されました。これは、どう感じられましたか?
塚越:まず、今回のポイントは「首脳宣言が出るかどうか?」でした。結果は、事前に考えられていた草稿と同じものでした。ロシアがどれだけ折れるのか? 折れないのか? ということが話題になっていたわけですが、この首脳宣言では、ロシアを非難する一方で、ロシアへの経済制裁に加わっていない中国やインドなど一部の国は、「異なる見解や評価があった」と一定の配慮をするもので、ロシアとしても、自分たちの立場を一定程度宣言に盛り込むことで了承しました。
もう1つ気になるのは「米中の対立」です。習近平主席は、ロシアには直接触れずに「アメリカはイデオロギーで世界を分断している」と批判していました。要するにアメリカを牽制し、自分の立場を表明しているわけですが、「いや〜中国もどうなんだ……?」と思うところはありますが、各国いろいろな言いたいことを言っているという。また、ラブロフ外相は、中国の王毅外相とも会談して、両国の親密な関係をアピールしたという感じです。
吉田:日本の岸田文雄首相は、G20で何を語ったのでしょうか?
塚越:「ロシアへの非難」は欧米と足並みを揃えて述べる一方で、「国際保健」をテーマにしたセッションで岸田首相は、「途上国支援や国際社会が世界的な医療体制を構築するために“日本が主導する”」と述べています。
岸田首相は、来年日本で開催される「G7広島サミット」でも「国際保健」の分野を議題の1つに位置づけていまして、対策の議論を進める予定です。岸田首相は、来年のG7の開催がとにかく重要なんです。
というのも、岸田首相自身は東京生まれ・東京育ちですが、岸田家が広島出身で岸田首相の選挙区も広島ということで、ずっと「広島出身」とおっしゃっているわけですよね。その広島で来年開催されるということで、とにかく気合が入っているんです。
特にG20の首脳宣言では、「核兵器の威嚇、使用は受け入れられない」ということが盛り込まれましたが、日本は、それについて強く働きかけましたと言っています。
ユージ:塚越さんが気になった点は何かありますか?
塚越:G20でいろいろありましたが、個人的に気になるのは「インド」です。インドという国は、ロシアへの経済制裁に参加していない、そして、ディスカウント価格でロシアからの石油を輸入して経済的に成長しています。ロシアは石油を売るところがなかったので、インドが買ってくれたということです。
ユージ:安い値段だけど買ってくれたということで、ロシアもインドも助かっていたということですよね。
塚越:そうです。ただ、報道によりますと、それでもインドは、ロシアからやや距離を取ろうとしているということも言われています。9月にプーチン、(インドの)モディ首相の会談でも停戦を勧めたということです。インドは動きが非常に上手で、ロシアと欧米の両極の間にいるのですが、これから“経済のプレイヤー”になるインドの動向もチェックかなと思います。

 

●各国の首脳会議終了 ウクライナ事態打開の難しさ示すかたちに  11/20
ロシアによるウクライナ侵攻後では初めて、欧米や中国などの首脳らが対面形式で参加した一連の会議が19日のAPEC=アジア太平洋経済協力会議の閉幕ですべて終わりました。いずれの会議でもウクライナ情勢をめぐって各国が対立する中、事態打開の難しさを改めて示すこととなりました。
一連の首脳会議は、カンボジアでのASEAN=東南アジア諸国連合や関係各国による首脳会議、インドネシアでのG20サミット=主要20か国の首脳会議、それにタイで開かれたAPECの首脳会議で19日、すべての日程を終えました。
主要国の首脳らが対面形式で参加する会議はロシアによるウクライナ侵攻後では初めてで、アメリカのバイデン大統領や日本の岸田総理大臣、中国の習近平国家主席など主要国やアジア各国の首脳らが参加した一方、ロシアはプーチン大統領の代わりにラブロフ外相らが出席しました。
このうちG20サミットでは、ウクライナ情勢をめぐり欧米各国とロシアが激しく対立し、首脳宣言には、ウクライナ侵攻を非難する欧米や日本などと、ロシアへの経済制裁に賛同しないロシアや新興国など両方の立場が併記されました。
またAPECの宣言でも合意文書のとりまとめが優先された結果、ウクライナ情勢についてG20と同じ表現が踏襲され、事態打開の難しさを改めて示すこととなりました。
一方、対立が続くアメリカと中国をはじめ、期間中、2国間の首脳会談が相次いで行われるなど、活発な外交が展開されました。
中国 習国家主席 約20か国と相次ぎ会談
一連の首脳会議の期間中、中国の習近平国家主席はおよそ20か国の首脳と相次いで会談し、存在感を内外に示しました。
中国共産党系のメディア「環球時報」は「一連の中国の首脳外交は大国としての手本を示した」と題する社説で、「われわれは3つの会議を通して、世界的な課題が複雑かつ深刻な中、人類社会の大きな団結は実現可能であり、大国が手本を示すことが鍵となることがわかった」と成果を強調しました。
一方で社説はアメリカについて「アジア太平洋地域で陣営による対抗を推し進めようとしていて、国際的な世論や圧力を受けて必ずや失敗に終わるということを世界の誰もが知っている」と批判しました。 
●ザポロジエ原発に砲撃か ロシア侵攻で市民8300人超犠牲―ウクライナ 11/20
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は20日、声明を発表し、ウクライナ南部ザポロジエ原発で19〜20日、砲撃によるとみられる十数回の爆発が起きたと明らかにした。放射能漏れは起きていないという。一方、ウクライナ政府高官は、ロシアの軍事侵攻による民間人の死者が8311人、負傷者が1万1000人超に上ったと表明した。
IAEAによると、爆発は原発敷地内とその周辺で発生した。原子炉の安全に影響はないものの、いくつかの建物や設備が損壊。グロッシ氏は「まったく受け入れられない」と述べ、「実行者が誰であれ、直ちにやめるべきだ」と強調した。
●米国防長官、核拡散の恐れ警告 ロシアによるウクライナ侵攻受け 11/20
米国のオースティン国防長官は19日、ロシアによるウクライナ侵攻に関連し、誰もが共生を望まない暴政と混乱に襲われる潜在的な世界の到来を予見し、核拡散の影につきまとわれて不安定さが募る状況を招くものとなっているとの認識を示した。
その根拠として「プーチン(大統領)の仲間である独裁者たちが事態を見守っているためだ」と指摘。これら独裁者たちが核兵器の入手は自らの「狩猟免許」の獲得につながるとの結論を下すかもしれないとし、そうなれば核拡散の危険な悪循環を招き寄せる可能性があるとした。
長官はカナダ・ハリファクスで開かれた国際安全保障フォーラムで演説し、ウクライナで民間インフラを攻撃するロシアの「意図的な残虐さ」にも言及。「戦争には依然、ルールがある」としながらも、「大国がこのルールを踏みにじるのなら、ほかの者に国際法や国際規範に挑むことをけしかけることにもなる」と主張した。
「ロシアは侵略戦争を仕掛けているだけでなく、何の軍事目的もなく意図的に民間の標的や民間インフラを攻撃している」とし、「残虐行為である」と断じた。
長官はまた、ウクライナに対する北大西洋条約機構(NATO)による関与を再確認もした。

 

●ウクライナ国防次官「クリスマスまでにクリミア半島に進撃、来春には終戦」 11/21
英ロンドンを訪問しているウクライナのハウリロウ国防次官(退役少将)は19日、英民放スカイニュースのインタビューに応じ、ウクライナ軍がクリスマスまでにクリミア半島に進撃し、来春には戦争を終わらせることができると主張した。
ハウリロウ国防次官は「ロシア国内で予期せぬ大きな変動が起き、ウクライナに有利な環境が生じる可能性も排除できない」とし、「たとえそうした事件がなくても、ウクライナ軍が年末までにクリミアに到達することができるだろう」と述べた。ただ、ロシアのウクライナ侵攻から1年目となる来年2月24日までに戦争が終わるかという質問には「現実的にそれよりは時間がかかるだろう」としながらも、「個人的には春が終わる前にこの戦争が終わりそうだと感じている」と答えた。
ウクライナでは現在、北東部ハルキウ州、南東部のドンバス地方(ルハンスク州とドネツク州)、ヘルソン州の3つの戦線で交戦が続いている。ウクライナ軍が9月以降攻勢に転じ、ロシア軍が占領した領土の相当部分を奪還すると、ロシア軍はウクライナ後方地域の電力・暖房施設をミサイルで集中打撃した。
ハウリロウ国防次官はロシアとの休戦交渉について、「ロシアのプーチン大統領が2014年に占領したクリミア半島と親ロシア分離主義勢力が掌握したウクライナ東部などウクライナ領土全域からロシア軍が完全に撤収しなければ、交渉は始まらない」と述べた。
同次官は「ウクライナ社会は(ロシアの核脅威にもかかわらず)最後までやることを決めた。冬に入り気温が下がるなど状況が厳しいとしても、ヘルソン奪還などの勢いに乗り、冬の間ずっと戦闘を続ける」と強調した。その上で「作戦をやめれば、ロシアに戦列を整える機会を与えるだけだ」とし、ウクライナとしては他に選択の余地はないとした。
●ウクライナ戦争で「サイバー犯罪」増加か 被害拡大も国が動かない事情 11/21
1923年に設立された世界最大の警察機関である「インターポール(ICPO=国際刑事機構)」には、世界195カ国・地域が加盟し、各地から捜査員が赴任して国際的な協力を行っている。日本からも、1975年から警察庁が「セカンドメント(出向)」として職員をICPOに派遣していてきた。
2015年4月、そのインターポールに、サイバーセキュリティに特化した組織「IGCI」が開設された。
IGCIには、警察庁や民間から日本人が赴任してきたが、現在ではその数は数えるほど。2016年に著者がシンガポールのIGCIを訪問した際に、世界から集まる捜査員などへ取材をするなかで、サイバー犯罪捜査で高い評価を受けていた日本人がいた。福森大喜氏である。
東京に本部を置く「サイバーディフェンス研究所」からICGIに派遣された福森だが、彼は約8年半にわたる勤務を終え、最近インターポールを離れた。
そこで、福森氏に、インターポールを離れる直前にインタビューを敢行。サイバー犯罪の現在のトレンドから、あまり明かされないインターポール組織の内部に関する話について、振り返ってもらった。
失業による、犯罪グループへの加担
──インターポールで日常的に世界のサイバー犯罪を見ていると思いますが、現在、どんな犯罪が多いでしょうか?
ランサムウェアです。世界からインターポールに来る問い合わせのほとんどを占めていて、出向期間終了までランサムウェア捜査でいっぱいです。著名なランサムウェアであれば、解読はまずできません。数学的に暗号を解除するというのは考えられません。
※ランサムウェアは、システム内のデータを暗号化し、その解除にランサム(身代金)を要求するサイバー攻撃。支払わなければデータを公開すると脅迫されるケースも多い。
──世界の被害を見ると、身代金の7割以上がロシアに流れているとみられています。
はい。お金もそうですし、ランサムウェアの「検体」を見ていても、ロシア圏は感染しないようにプログラムされています。ダークウェブの掲示板では、メンバーを集めるための宣伝なども行われますが、ロシア語を使っている人たちが多い。
※ダークウェブは、通常のインターネットでは辿り着けない地下のサイト群を指す。匿名通信が可能になる「Tor」というブラウザでなければアクセスできない。
──ウクライナ戦争が始まってからロシアの動きは増えている感じですか?
犯罪は増えていると思います。ランサムウェア攻撃が増えているのも、(ウクライナ侵攻で)ロシア人の技術者の仕事がなくなってしまい、犯罪グループに加わっているんじゃないかとも思います。
私は、IGCIでアトリビューション(サイバー攻撃者の特定)などを担ってきましたが、基本的に犯罪グループは「ドット・オニオン」にいます。ただ、ダークウェブでは匿名ですが、時々そこからIPアドレスに紐づけられることがあり、摘発に至る場合もあります。ただ、それで即逮捕できるかというと、防弾ホスティングの問題などが絡み、結局IPアドレスから先に進めないということもあります。
※ドット・オニオンというのは、先に述べたダークウェブの中のサイト群のこと。「co.jp」「.com」のように、ダークウェブでは「.onion」が使われる。防弾ホスティングというのは、捜査機関から情報開示請求があっても突っぱねることを売りにしているサーバー。犯罪者に人気が高い。
──ロシアではランサムウェア攻撃集団「ロックピット3.0」などが有名ですが、世界的に攻撃をしている人たちは限定的でしょうか。
ある攻撃グループを脱退して違うチームに入るケースや、一般の会社と同じように、グループ内であるチームだけが抜けて新しい会社を作ったりと、入れ替わりが激しいですね。
──ダークウェブでアトリビューションされ、そこで集まった情報は政府へ提供されるのですか?
はい。各国に情報を提供していくのは、インターポールで一貫してやってきたことです。しかし、犯人に関する情報を提供しても、あまり動いてくれないんです。例えば僕が1000件の疑わしいIPアドレスを見つけたので、ある国に対応を要請しても、取り合ってくれない。
国によってはテロの制圧や、人質立てこもり事件に時間を割いており、サイバー犯罪にも手が回るというのは、全体から見れば少数です。そこに1000件のIPアドレスを渡されても、どこから手を付けていいかわからない、という感じです。
どうしようか迷うところですが、餌を埋めておくんです。
どういうことかというと、自国に関係のあるアドレスをこちらが事前に見つけていることは言わずに「この辺のデータから探してみたらどうだろう?」と問いかけ、リードします。1億件の中から1000件を探すとなると途方にくれますが、2000件の中から1000件を探すのだったらモチベーションを保って取り組んでもらえます。
そうすると自国に報告して捜査に動く。逆に言うと、そこまでしないと動いてくれないのです。
──インターポールのIGCIに約8年半。どのような組織でしたか?
どこの組織でも同じだと思いますが、能力が高い人も低い人もいました。常に限界に挑戦して勉強している人もいれば、ずっとコーヒーを飲んでいるだけの人も。パレートの法則(売り上げの8割は2割の社員が担う)でしたっけ。インターポールの名誉のために付け加えますが、私は過去にハッキングの世界大会決勝に残るレベルのハッカーを見てきましたが、そこと比べても遜色のない人もいますよ。
──サイバーセキュリティにおいて、日本はどんな印象ですか?
例えばコインハブの件が無罪になりましたとか、そういう残念な摘発ばかりやっているなと見ていました。
※コインハイブとは、ウェブサイトの閲覧者の同意を得ることなく、閲覧者のパソコンで仮想通貨のマイニングを行わせるプログラムのこと。2022年1月に、コインハイブを自分のウェブサイトに組み込んでいた男性が、最高裁で無罪の判決を受けてニュースになっている。
──日本に帰るご予定は?
日本では、一般的に言われている"対策"に加えて、プロアクティブな対策(犯人に迫っていくなど)もほとんどできないので、面白そうなことはあまりないし、コロナのおかげで別に物理的な場所はあまり関係ないというのは証明されたので……。今のところ帰る予定はないです。IGCI本部があるシンガポールに残って、民間でサイバーセキュリティのインシデント対応などを行っていく予定です。
●ポーランドとハンガリーの反発に映るEUの揺らぎ  11/21
ロシアによるウクライナ侵攻直後、EU諸国は一致して対応しているかのように見えた。ロシアによる侵略行為を非難し、2月の経済制裁第1弾を皮切りとして、石炭などの輸入禁止を決めた第5弾まで早急にEU加盟国間の合意を取り付け、矢継ぎ早に制裁を発動した。
ところが、こうした一致は「自国ファースト」を主張する国が出てきたことで崩れ始めた。ロシア産原油の禁輸反対を表明したハンガリーはその典型である。第6弾制裁に関する交渉は1カ月以上にわたり、最終的にはパイプラインでの輸入を制裁対象から除外するという形での合意をはかることとなった。
ロシア・ウクライナ戦争において影響を受ける中、はたしてEUは加盟国同士で価値や行動をともにしていると言えるのか。本稿では、第6弾制裁に反対したハンガリー、そしてハンガリーと並び民主主義の後退が進んでいるとされるポーランドにも焦点を当て、EU内部での価値観をめぐる対立を明らかにするとともに、ウクライナ戦争のEU加盟国や欧州議会への政治的な含意と日本に求められる対EU外交のあるべき姿について試論する。
EU内部での価値をめぐる戦い
冒頭で述べたとおり、ロシアへの対応をめぐりEU加盟国間の足並みの乱れがある。自国経済への影響を考慮したことが大きな理由の1つとされるが、EUの結束の乱れは経済的な理由だけに起因するものではない。EU内部には民主主義や法の支配を中心とした価値観をめぐる相違が以前から根強く存在しており、現在も対立は続いている。
例えば、ハンガリーのオルバーン首相が「民主主義は必ずしもリベラルであるわけではない」と持論を述べた2014年の「非民主主義」演説は、欧州ではよく知られており悪名高い。実際、政府に対して批判的な言論への統制は年々厳しさを増しており、今年行われた2022年4月のハンガリー議会選挙において、国営放送では野党に許された発言時間はわずかであった。
オルバーン派は、影響力のある独立系メディアの経営権を掌握する動きも同時に進めており、選挙が定期的に行われていると言うことはできても公平な選挙が行われているとは言えない状況である。また、EU基金の不正利用や利益相反といった組織的な汚職疑惑が多いにもかかわらず、起訴率はほかのEU諸国と比べて低い水準にとどまっており、オルバーン首相とその周辺による公的資金の私物化が進められていると言える。
ポーランドも、政府にとって都合の悪い裁判官に対して定年引き下げや懲罰制度などを通じた介入を試みており、法の支配と司法の独立性が脅かされつつある。
EU内の現実を目にして、期待は失望に
民主主義と法の支配はともにEU憲法条約の第2条においてEUの基本的な価値と記されている。EU加盟の際には「コペンハーゲン基準」をクリアする必要があり、その条件の中には民主主義や法の支配も含まれているため、ポーランドやハンガリーでも導入が進められた。しかし、加盟後はそうしたテコが使えず、代わりにEU憲法第7条を根拠としたEU基金の停止を新たなテコとして両国の状況改善を求めている。
それにもかかわらず、両国はEUの基本的な価値の書き換えに向けた試みを続けている。
EU加盟当初、ポーランドとハンガリーはEUのメンバーとなることで西欧諸国や中欧のオーストリアと同レベルの豊かさを享受できると期待していた。そうした期待は厳しい市場競争や経済格差というEU内の現実を目の当たりにして、EUへの失望に変わってしまった。
この失望は両国の保守派の間で、冷戦終結以後に推し進めてきた民主主義や法の支配の確立といった取り組みへの反発をもたらした。さらには、両国はEUからの政治的な抑圧を受けており自律的な意思決定が妨げられているという、ドイツをはじめとした欧州の大国およびEUに対する不満も増大させた。
こうした反発や不満をもとに、ハンガリーのオルバーン政権やポーランドのモラヴィエツキ政権は、「自国ファースト」の政治を進めるとともに、EUの民主主義や法の支配を、人権への配慮などの要素を含んだ「厚い」理念ではなく、手続き的な意味だけに狭めた「薄い」理念に狭めようとしているのである。
大国の「帝国主義」への対抗
このようにEUに対立姿勢を見せているポーランドとハンガリー。しかし、それでは両国がロシア寄りの姿勢を見せているのかというと、事はそれほど単純ではない。
ロシアによる侵略が始まる以前からポーランドは、プーチン大統領が率いるロシアが欧州への脅威となりうる、と警告してきた。
ハンガリーでも、オルバーン首相や右派知識人らが、ハンガリーは大国による「帝国主義」に対抗すると繰り返し述べてきた。彼らが意図する「大国」には、EUやドイツ、アメリカといった欧米諸国が含まれているとよく指摘されるが、そうした欧米の大国への対抗の前提にはソ連による抑圧の歴史が深くかかわっており、ロシアに対しても被害者意識を持っている。ポーランド、ハンガリー両国ともソ連の負の歴史を忘れてはいない。
ただし、このロシアの被害者としての自己認識は、両国が対ロシア外交において一致団結しているということを意味している訳ではない。むしろ、ロシア・ウクライナ戦争への両国の対応をめぐっては、オルバーン首相とモラヴィエツキ首相が互いを批判しあっており、二国間の連携に亀裂をもたらしている。
例えば、今回の戦争における自国の立場として、ポーランドはロシアと敵対する方針を明確に示している一方で、ハンガリーは侵略を非難こそしたものの、ロシアに対しては曖昧戦略を維持している。また、ポーランドが行っている軍事物資の援助や訓練の提供に対しても、ハンガリーは当初から反対の姿勢を貫いている。
ポーランドは、18世紀後半のロシア、プロイセン、オーストリア三国によるポーランド分割、第2次世界大戦におけるナチスドイツとソ連による再度の分割など、ロシアに蹂躙されてきた歴史がハンガリーに比べて長く、安全保障上の脅威と警戒感をより強く持っている。
そうした歴史的背景もあり、「世界金融危機は古典的な南北の分断を示し、移民問題は東西の分断を引き起こした」のに対して、今回の戦争は「欧州の東部[中欧諸国]内部での分裂を生じさせた」(ブルガリア出身の政治学者イワン・クラステフ氏、モンテーニュ研究所でのインタビュー)のである。
EUと各加盟国の利益バランスを保てるかが今後のカギ
以上のことが示していることは、ハンガリーやポーランドは体制間の力学にとらわれず、各々の独自のロジックに基づいて外交を行っており、国内で民主主義の後退が進みEUと対立しているからといって、両国の二国間関係やロシアとの関係が必ずしも深まっているとは言えないということだ。
ハンガリーやポーランドにとって、ドイツや世界最大の単一市場であるEUは、ロシアやそのほかの大国に過度に依存せず、バランスを取るためには欠かせない存在であり、EUという枠組みから抜けることは現実的ではない。EUにとっても、価値の共有という点で両国は悩みの種でありつつも、ロシアに対抗する政治枠組みとしてのEUの存在感を高めるには重要な存在である。
欧州委員会やほかのEU諸国が、ハンガリーやポーランド両国の国内情勢や地政学・地経学的環境を考慮しつつ対話を重ねることで、いかに敵対的な関係ではなく、論争こそあれど協力し合える関係として互いの経済的・政治的な関係を長期的に深めていけるかどうかが今後のカギとなろう。
日本はEUの多面的な側面を踏まえた外交を
日本としては、EUには、対ロシアの政治枠組みとしてのEUに加えて、価値や経済の共同体としてのEUという複数の側面があること、そして、大国間競争の枠にとらわれずに行動する国々によりEUの中に揺らぎがあることを理解しておくことが重要である。
日本はEUという窓口を通じて、どの国にどのような側面でアプローチするべきなのか。体制間レベル、EUレベル、各国レベルといった複数のレイヤー、さらには、民主主義、国際経済や地政学などの要素も多角的に分析し、それぞれに対して細分化した外交を行う必要がある。
●ウクライナ南部 ザポリージャ原発への攻撃やめるよう訴え IAEA  11/21
ウクライナでは東部や南部を中心に激しい戦闘が続き、攻撃は南部のザポリージャ原子力発電所にも及んでいて、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は直ちに原発への攻撃をやめるよう訴えています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は20日に公開した動画で「最も激しい戦闘が続いているのは、これまで同様、東部のドネツク州だ。ロシア軍は依然として極めて多くの砲撃を行っている」と述べ、東部での砲撃が1日当たり400回程度に及んでいることを明らかにしました。
また、ロシア国防省は20日、ウクライナ南部のザポリージャ市にあるウクライナ軍の軍事施設をミサイルで破壊したと発表しています。
こうした中、ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」はロシア側によるザポリージャ原子力発電所の敷地内への砲撃が少なくとも12回あったと発表しロシア側を非難しました。
これに対して、ロシア国防省は「砲撃はウクライナ側から行われた」と反論しています。
IAEAのグロッシ事務局長は20日、声明を発表し、原発の安全に関わる重大な被害は確認されていないとしたうえで「誰が関与していようと、直ちにやめなければならない」として、安全の確保のため働きかけを続ける考えを強調しました。
●着弾ミサイルの映像「どこから発射か100%示しておらず」…ポーランド首相  11/21
ポーランド通信は20日、同国のウクライナとの国境付近へのミサイル着弾に関して、米国との合同現場調査が終了したと報じた。現場では、ミサイルの破片の回収などが行われてきた。
SNS上に投稿された、ポーランド東部プシェボドフで起きた爆破後の現場とされる画像(ロイター)SNS上に投稿された、ポーランド東部プシェボドフで起きた爆破後の現場とされる画像(ロイター)
同通信によると、ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相は20日、訪問先のフィンランドで記者団に対し、「国境警備のカメラ映像という証拠はあるが、どこから発射されたかを100%示しているわけではない」と述べ、証拠収集の継続などで調査にはまだ時間がかかるとの認識を示した。
●ロシア非難の国連決議 反対の19か国に計128億円の無償資金供与  11/21
ロシアのウクライナ侵攻を非難する国連決議に反対した国に対し、政府が、合わせて128億円の無償の資金供与を決めていたことが、財務省の調べで明らかになりました。
財務省の調査によりますと、ウクライナ侵攻を継続するロシアに対する国連の非難決議などに反対した19か国に対し、今年度のODA=政府開発援助のうち、返済を必要としない無償の資金供与が決定されていたということです。
金額の多い順にラオスに29億円、ベトナムに17億円、イランに16億円などとなっていて、総額は128億円にのぼります。
財務省は、所管する外務省に対して「ODAの戦略的活用を図りながら、国際社会の平和と安定に重要な役割を果たし、国としてプレゼンスの向上につなげていく必要がある」と指摘し、見直しを求めています。
これに対して外務省は、「供与の対象には、国際機関経由の支援や、現地のNGOへの支援も含まれている。政府が対象の場合も外交的意義や人道開発状況など、事業ごとに妥当性を判断しており、直ちに不適当だとは考えていない」としています。
新型コロナの影響で各国の財政状況が悪化する中で、ODA予算の見直しに動く国もあり、人権上の観点も含めて政府の対外援助の在り方が一段と問われることになりそうです。
●ドイツ首相、「中国を説得する」と言いながら企業家連れて訪中の矛盾 11/21
ロシアによるウクライナ侵攻直後の2月末、ドイツのショルツ首相は国防・外交政策における「時代の転換」を宣言。その後も欧州安全保障の統合と経済連携の深化を繰り返し表明している。
9月には、ベアボック外相が専制政治から自由主義の秩序を守るため、ヨーロッパの価値観に基づく「フェミニスト外交」を強化すると発表した。
他国から消極的で頑固で曖昧だと批判されてきた外交政策を放棄するというメッセージだ。
ドイツは過去数十年間、ヨーロッパの自由主義的価値観に基づく外交を推進すると公言してきたが、一方で専制主義国家とのビジネスに前のめりだった。具体的な軍事力強化の問題では事実上の「ただ乗り」を続け、同盟国との協議や彼らの正当な懸念への配慮をしばしば怠った。
ドイツの歴代首相は1990年代のコールから現在のショルツまで、貿易政策と対話が潜在的な敵対国との関係改善につながると考えてきた。アメリカやフランスなどの主要同盟国と距離を置き、いずれ自国の脅威になりかねない国家への経済的依存を深化させてきた。
その結果、ロシアのプーチン大統領はウクライナに侵攻した時点で、ドイツの天然ガス供給の命綱を握る存在になっていた。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が事実上の独裁体制を確立したとき、ドイツの巨大な輸出部門の対中依存は後戻りできないところまで来ていた。
初期の兆候から判断する限り、現政権も公言する目標と実際の行動の間に相変わらずギャップがある。
ウクライナ支援を表明後も、軍事・物資の支援は遅々として進まず、国防軍の強化も大幅に遅れている。さらにエネルギー価格高騰の影響緩和策を一方的に進めたことで、EU内で孤立を深め、独仏間の緊張を高めている。
フェミニスト外交についても、女性たちが火を付けたイランの抗議行動への対応が遅れ、最初のテストに失敗した。
さらに11月初めのショルツの中国訪問は、ドイツの立場の曖昧さに拍車をかけるものだった。ロシアの核兵器使用に反対するよう中国を説得するのが目的だというが、それならなぜドイツ企業の幹部が同行したのか。
もっと広く言えば、なぜドイツはロシアや中国といった敵対勢力に甘く、最も重要な同盟国をしばしば遠ざけてきたのか。
相互に関連する4つの理由があると、筆者は考える。
第1に、ドイツ外交は長期的な戦略思考が欠けている。そのため「状況は常に激変する可能性がある」という地政学の基本ルールに対応できない。
第2に、ドイツ外交は企業利益と深く結び付いている。ドイツが言う外交政策とは要するに貿易政策だという表現も、あながち過大な誇張ではない。その結果がロシア産エネルギーと対中輸出への危うい依存だ。
第3は、不安定な状態が長期間続く「パーマクライシス」現象だ。2021年末に誕生した現政権は新型コロナのパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻、エネルギー危機、100万人の難民、インフレと景気減速など難題への対応に追われ、メルケル前首相時代の軌道修正を実行に移すための時間がなかった。
最後に、現政権は情勢が比較的安定していた昨年末に成立した脆弱な連立政権だ。左派の緑の党が外務省と経済省、企業寄りの自由民主党(FDP)が財務省を率いているため、調整の失敗が相次いでいる。ガス料金の上限設定問題、ショルツの訪中、他のEU諸国を圧迫する高値でのエネルギー購入などがいい例だ。
ドイツ外交には今も同盟国への配慮と敵対国への強い姿勢が欠けている。この2つ抜きに「時代の転換」は不可能だ。
●ロシア軍のヘルソン撤収はプーチンの屈辱的敗北 11/21
11月9日、ロシア軍はウクライナ南部のヘルソン州の州都ヘルソン市からの撤退を発表した。ワシントン・ポスト紙コラムニストのマックス・ブートは同日付の論説‘Why the Russian retreat from Kherson is so significant’で、なぜヘルソンからのロシアの撤退がそれほど意義深いのか論じている。要旨は次の通り。
ヘルソン市からドニエプル川の東へのロシア軍の撤退は、ロシア側が奪った唯一の州都を引き渡すことを意味する。 
この決定はプーチンにとり屈辱的な敗北である。ヘルソンは重要な黒海の港であり、9月にプーチンが不法に併合した4州の一つである。ロシア側はヘルソンをミコライウとオデッサを取るための基地として使うことを望んでいた。そうなれば、ウクライナを黒海から切り離すことができただろう。
撤退により、ロシア側はドニエプル川西岸の拠点を失うだけでなく、ドニエプル川からクリミアに水を運んでいる北クリミア運河へのアクセスも失う。2014年、ロシアの不法なクリミア半島占拠への報復としてウクライナ側は水流を止めた。今後も止められるだろう。
これはクリミアを保持することを難しくし、プーチンが欲しがっているロシアへの「陸の通路」を更に掘り崩すだろう。プーチンがケルチ海峡にロシア本土とクリミアを結ぶために実際に作った橋は、10月に謎の爆発でひどく損傷した。
ヘルソン放棄の前に既に、ロシアは2月以来占拠した領土の約半分を失っていた。この撤退は、ロシア国民に戦争がうまくいっていないことを明確にし、ウクライナ人を元気づけ、親ウクライナの西側連合の団結を助け、米議会が大規模なウクライナ支援を採択することを推進するだろう。
撤退について最も良いニュースは、プーチンがヒトラーではなく合理的であるとの証拠を提供していることである。プーチンは自分の利益になるならば後退する。撤退は、第三次世界大戦の懸念を小さくする。プーチンは不安定でも馬鹿でもなく、自殺的でもない。
ロシア軍がヘルソン市から撤退することを決めたことは喜ばしいニュースである。ウクライナ側は2月以来、ロシア軍が占拠した領土を次々と解放しており、ロシア国民にもロシアが負けていることがますます明らかになってきていると思われる。ロシア人のこの戦争への支持はこれでますますなくなっていくだろう。
プーチンは合理的な人であるとの上記のマックス・ブートの意見については、ある程度まで同意する。しかし、プーチンは現実を認識する際に、彼のこうあるべきという当為の考え、すなわちイデオロギーによって認識が歪められているように思われる。
ゼレンスキーはどう交渉していくのか
プーチンは、ヒトラーのように地下壕にこもり自殺するような人ではなく、第三次大戦を引き起こしたり、核の使用をしたりはしないだろうが、とんでもない物語を作り上げて、それを信じて大きな誤算をする人である。
ウクライナ人はロシアの侵攻を歓迎すると誤算するなど、要するに現実離れしていて現実認識がうまくできないところがある。「合理的なところがある」程度に考えておくのが正解だろう。
プーチンはキーウ正面での敗退、イジュ―ムでの敗退、ヘルソンでの敗退など、現実を突きつけられて初めて正気に返ると思われる。ウクライナが戦場で努力を続け、プーチンが現実的、合理的になった時に、ロシアとウクライナの交渉でこの戦争を終わりにするという事であろう。
ゼレンスキーの対露要求は、戦争開始時の侵攻前のラインへのロシア軍の撤収から、今やウクライナの1991年の国境の回復、戦争犯罪人の処罰、戦争被害の補償などに広がってきている。ただ、これはウクライナで民主的に選ばれたゼレンスキーが決める事であり、われわれが外からあれこれいう話ではない。
●中露朝、「新・悪の枢軸国」の“独裁者”は「西側の策略」に常に怯えている 11/21
米中の冷戦について、11月19日付の日本経済新聞のオピニオン欄に気になる記載を見つけた。14日にバイデン大統領が習近平国家主席と就任後初となる対面での会談を行ったばかりだが、バイデン政権は、中国が米国の影響力を落とし米国に代わる最強国になるつもりだと警戒している一方で、習政権は、米国の目標が共産党政権の弱体化にあると信じ込んでいるようだ、としてこう書いている。
「米国は04年、親ロシア政権が転覆されたウクライナのオレンジ革命を支持した。同じように香港や台湾に介入し、中国の共産党体制を弱めようとしている――。米情報関係者によると、習近平氏は近年、このような趣旨の不満を米側に重ねて漏らした」
これを見て興味深いのは、少なくとも同紙が新「悪の枢軸」と呼ぶ、中国、ロシア、北朝鮮が国際法を犯して世界を混乱させるのは、少なくとも現体制を維持したいそれぞれの国の指導者が、いわゆる西側諸国のこれまでのやり方に、我々の想像以上の恐怖と警戒心を抱いていることが知れるからだ。
ウクライナの親ロシア派政権崩壊で危機感覚えたプーチン
オレンジ革命とは、2004年の大統領選挙で親ロシア派のヤヌコービッチと親欧米派のユシチェンコの一騎打ちとなり、結果はヤヌコービッチが勝利。ところが、この結果にユシチェンコ陣営は選挙に不正があったとして首都キーウで大規模な抗議活動を連日開催。ユシチェンコは選挙中に重病に陥り、美男子とされていた顔が急激に変貌したことで、ロシアのスパイにダイオキシンを飲まされたとの報道もあったことから、欧米をはじめ世界的な世論もユシチェンコ側に傾いた。ここに米国とEU(欧州連合)などの仲介もあって再投票が行われた結果、ユシチェンコが大統領に就任した。米国の介入があったとする見方もある。オレンジはユシチェンコ陣営のシンボルカラーだった。
ただ、このユシチェンコ政権も発足直後から政権内部の対立が顕著化し、支持率も落ち込んでいく一方だった。そこに一枚岩になれないウクライナの国情もあるのだが、結局、2010年の大統領選挙では親ロシア派のヤヌコービッチが当選している。
東日本大震災のあった2011年の4月に、私はウクライナのチョルノービリ原子力発電所を訪れた。1986年に爆発事故を起こしてから25年の節目の記念式典を取材するためだった。そこで地元の報道関係者にまじってヤヌコービッチの演説を間近で聞いた。その横には当時のロシア大統領だったメドベージェフがいっしょに立って、演説の順番を待っていた。2人ともやたらに「フクシマ」の単語を並べていた記憶がある。
その時にキーウの住人からオレンジ革命のことを誇らしげに聞かされ、そしてウクライナには西に親欧米派、東が親ロシア派に色分けされる潜在的な分断があることを知らされた。
そのヤヌコービッチも2013年にEUとの政治・貿易協定の締結を拒んだことから、親欧米派による大規模な反政府デモが起き、首都では政府側との衝突で騒乱にまで発展。ヤヌコービッチはロシアに脱出して政権は崩壊。これに反発したプーチンが翌年にクリミアを併合した。プーチンの戦争とも呼ばれる今年2月のウクライナ侵攻も、ここに端を発しているともいえる。
習近平は、このオレンジ革命が中国領内で惹起されることを怖れている、というのだ。
「核兵器開発を放棄したらこっちがやられる」という金正恩の思考
その中国と国境を接して、ミサイル、核開発に邁進してきた北朝鮮。父の金正日がはじめた核実験を継承する根拠として、金正恩が2013年3月の朝鮮労働党中央委員会の全員会議(総会)で打ち出したのが、経済政策と核武装を並行して進めていくとする「並進路線」だった。これは、核抑止力さえしっかりしていれば国防費を増さなくても戦争抑止力と防衛力の効果を高めることができ、そこで安心して経済建設と人民生活の向上に集中できるというもの。まずは経済より優先して核と弾道ミサイルを同時に開発し、相手国を直接核攻撃できる抑止力を求めたのだ。
金正恩は、並進路線の主張のなかで、「バルカン半島と中東諸国の教訓を絶対に忘れてはならない」と述べている。
バルカン半島とはユーゴスラビアのことだ。いわゆるコソボ紛争で、ユーゴスラビアは米国の要求に応じてコソボから治安部隊を撤退させたが、結果的には欧米から空爆された。
一方の中東諸国とは、イラクとリビアのことを指す。リビアを長年に亘って独裁支配してきたカダフィ大佐は、2003年に米英両国との交渉で核兵器開発計画の放棄に応じた。米国は経済制裁を解き、国交も正常化した。ところが、2011年の「アラブの春」に呼応して巻き起こった内戦で、欧米諸国は反政府勢力を支援する軍事介入を行った。政権は崩壊に追い込まれ、同年10月にカダフィ大佐は殺害されている。
この姿が金正恩にとっては、自分と重なって映る。ここで核兵器開発を放棄したら今度はこっちがやられる。むしろ、核開発を済ませてしまえば、体制の崩壊はない。突き進むしかない。
この「並進路線」という文言は、日本の防衛白書にも金正恩が宣言した翌年の2014年版から登場しているが、2017年版ではこの年に起きたことも踏まえてこう言及している。
【北朝鮮による核開発の目的については、北朝鮮の究極的な目標は体制の維持であると指摘されていること、北朝鮮は米国の核の脅威に対抗する独自の核抑止力が必要と考えており、かつ、北朝鮮が米国及び韓国に対する通常戦力における劣勢を覆すことは少なくとも短期的には極めて難しい状況にあること、北朝鮮がイラクやリビアでの体制崩壊や2017年4月の米軍によるシリア攻撃は核抑止力を保有しなかったために引き起こされた事態であると主張していること、そして核兵器は交渉における取引の対象ではないと繰り返し主張していることなどを踏まえれば、北朝鮮は体制を維持するうえでの不可欠な抑止力として核兵器開発を推進しているとみられる。】
悪の枢軸が警戒する米国、政権弱体化なら相手の思う壺
プーチンがウクライナに侵攻したのも、同国が西側に取り込まれるのを嫌ったためだ。ウクライナが取り込まれると西側と直接国境を接することになる。自国を守る防衛線は国境より遠くに置きたいのは、かつて日本が満洲を手中にした理由でもある。敵対陣営と本国との間に緩衝地帯を置くことで、国土を防衛しやすくし、体制崩壊の脅威を遠のけたい。中国にしてみれば、朝鮮半島が東西対立の最前線としてその役割を果たしていた。だから、北朝鮮は中国を後ろ盾としている。プーチンにとっては、オレンジ革命が危機感につながったことは理解できる。それが習近平も真面目に脅威と感じていたのは、それが本気であるとすれば、意外でもあった。そこまで怯えての強権主義の維持と米国対立に臨んでいることになる。あるいは、プーチンを庇うシグナルだったか。
もっとも、中国と対峙する米国にも落ち度はある。1972年のニクソンの電撃訪中から一貫していた関与政策が失敗であったこと。米中冷戦に舵を切る2018年まで時間がかかりすぎたこと。北朝鮮の核開発をオバマ政権が「戦略的忍耐」として無視しつづけたこと。そのあとのトランプが金正恩との直接対話に出たまではよかったとしても、合意にまで至らなかったこと。北朝鮮は再び核実験の兆候があると伝えられ、ミサイル発射はこのところ異常な頻度で繰り返される。バイデンは、オバマ政権では副大統領だった。
そして、中間選挙を終えた米国では、トランプ前大統領の煽った「レッド・ウェーブ」とまではいかなかったものの、あらためて分断の存在を印象づけた。そのトランプは、一昨年の大統領選挙で不正があったと主張して、盲信する支持者たちが議会占拠事件まで起こした。それこそ、2004年のオレンジ革命と変わりない。
これまでの西側のやり方を見据え、怯えて怖いが故に、法による支配と秩序を無視する新「悪の枢軸」の指導者たち。だが、その西側の中枢を成す米国の体制が脆弱化したのでは、目もあてられない。 
●中国・ロシア抜きの世界で生き残ろうとする西側諸国 11/21
世界経済が2000年代以降、長期にわたる好況を享受できた背景には「中国効果」があった。安い中国産の製品が世界に流通し、物価の心配が消えた。消費者の手に入る最終消費財だけでなく、各種の中間財の価格も大きく下がった。おかげで、既存のメーカーはより多くの利潤を得ることができ、消費者も適切な品質でより安い製品を手にすることができた。中国は超大型消費市場でもあった。供給と需要の両面でグローバル経済の規模が大きくなって効率性が高まる中、韓国を含む西側の主要国は、黙っていてもおのずと成長が実現する軌道に乗った。
ロシアもこの過程で、中国に劣らず重要な役割を果たした。急激な経済成長はエネルギー需要の急増を招く。ちょうどそのころ、ロシアが世界第2位の化石燃料輸出量でもって、中国発のグローバル経済成長が引き起こしたエネルギー不足をすっきり解決してくれた。ロシア産のエネルギー供給がなかったら、国際原油価格や天然ガス価格は早々と暴騰し、経済成長を阻害していただろう。中国とロシアの「コンビプレー」があったことで、世界経済は2008年のリーマン・ショック後も急速に回復し、休みなく成長を続けることができた。
こうした事実は、中国とロシア自身が誰よりもよく理解している。中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「われわれのおかげで西側は大きな利益を享受したのだから、今こそふさわしい待遇を受けるべき」と考えた。世界経済の機関車の役割にとどまらず、世界秩序の中心軸の役割も認められたい−というわけだ。今、両国が西側世界に提起している「挑戦」は、これまでわれわれが享受していた「ただ飯」に対する後払い請求書、ということになる。
西側のジレンマは、その代償として両国が賦課する新たな国際秩序を受け入れるかどうかという問題だった。事態が長期化しそうだったその刹那、習主席とプーチン大統領の性急さがミスを犯した。西側が相互依存の沼に完全にはまってぴくりとも動けなくなる直前、中国は「奮発有為(奮起して事をなす)」に乗り出し、ロシアはウクライナを侵略した。馬脚を現すのが早すぎたのだ。西側世界は、中国・ロシアという権威主義国が世界秩序の中心に立ったらどういうことが起きるか、その予告編を見た。韓国のように経済成長が民主化につながるだろうという期待は、完全に破れた。
米国や欧州、日本の胸中を全て見通すことは困難だ。しかしこれらの国々は、中国とロシア抜きの世界で生き残る方法をせっせと準備している。もはや安い財貨とエネルギーがない世の中で、富の論理より安全保障の論理が優先する時代だ。われわれはどの道へ進むべきか。しばしば語られるように、韓国は民主共和国であって、その選択は韓国国民の役目だ。だが、すぐ目の前の経済的利益が甘いからといって、恒久的に中国とロシアの顔色をうかがいつつ生きる道を選ぶことができるだろうか。
●また炎上…森元総理 ゼレンスキー大統領批判「ウクライナ人苦しめている」 11/21
ウクライナ情勢を巡って、森喜朗元総理大臣が「ゼレンスキー氏が多くのウクライナ人を苦しめている」と発言し、ネット上では発言を疑問視する投稿が相次いでいます。
18日、日本維新の会・鈴木宗男参議院議員のパーティーで、森元総理が「プーチン大統領だけが批判をくらって、ゼレンスキー大統領は全く何も叱られないのは、どういうことか?」と、ウクライナのゼレンスキー大統領に対して、疑問を投げ掛けました。
森元総理「ゼレンスキー氏は大統領として、多くのウクライナの人たちを苦しめている。のみならず、ポーランドを始めとして、ヨーロッパにいるかつての仲間の国々も皆苦しんでいる」
この発言に、ネットでは非難の声も上がっています。
ネットの声「今まで森元総理を擁護してきたけれど、これは完全にアウト」「元首相の発言は、海外にも大きな反響を与える。日本のために、少し静かにしていてほしい」
森元総理とプーチン大統領は、20年以上前から深い関係を築いてきました。2000年、森氏が総理大臣に就任した直後、初の外国訪問で、次期大統領への就任が決まっていたプーチン氏と会談を行っています。
森総理(当時62)「まず、プーチン大統領の生まれ故郷である、この美しいサンクトペテルブルクに温かく迎えて頂きまして、心から感謝申し上げたいと思います」
森元総理が辞任した後も、互いの国を行き来する間柄でした。2016年にプーチン大統領が来日した際には、柔道が得意なプーチン大統領に柔道着を来たフィギュアを送ったこともありました。
その2人の橋渡しをしたのは、ロシアに強いパイプを持つ鈴木宗男氏で、2人がトップに立つ前から、会談のお膳立てをしていたといいます。
森元総理「プーチン大統領を説得できるのは、ここにいる鈴木さんだと思う」
争いの解決のカギは、鈴木氏がプーチン大統領を説得することだと、森元総理は持論も展開しました。
ゼレンスキー大統領は18日にカナダの国際会議に寄せたメッセージで、「ロシアは今、短い休戦・体力を回復させるための休息を求めている」として、休戦に向けた交渉には応じない姿勢を示しています。

 

●ポーランド着弾ミサイルは「残念ながらウクライナのミサイル」 グレンコ氏語る 11/22
ウクライナ国境に近いポーランド東部にミサイルが着弾した。ロシアの攻撃か、ウクライナの迎撃ミサイルだったのか?ジャーナリストの深月ユリア氏が海外の報道を引用し、ウクライナ出身の国際政治学者であるアンドリー・グレンコ氏や現地住民にも見解を聞いた。
ウクライナ国境に近いポーランド東部プシェヴォドフ村で15日午後、ミサイルが着弾し、2人が死亡した。ポーランドは、集団安全保障体制をとる軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国なので、他国に攻撃された場合NATOの条約第5条に基づき、NATO軍が反撃しなければならないという協定が定められている。これがロシアの攻撃ミサイルか、ウクライナの迎撃ミサイルなのかが問題視されている。
同日、ロシアはウクライナ各地にウクライナのエネルギー関連施設を中心に激しいミサイル攻撃を繰り広げていた。そして、 ミサイルが墜落したプシェヴォドフ村から約10キロの場所にドブロトヴィルスカ火力発電所とポーランドとウクライナを結ぶ送電線があり、ロシアのミサイル攻撃の標的になりやすい場所だ。ロシアの攻撃ミサイル、ウクライナの迎撃ミサイルいずれも可能性があるだろう。
英メディアBBCが米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン氏、 米シンクタンク外交問題評議会の安全保障専門家、J・アンドレス・ギャノン氏に取材した情報によると「S−300システムの一部の可能性がある」という。 S−300はロシア製の攻撃用ミサイルだが、ウクライナも迎撃ミサイルとしても使っているものだ。
複数の海外メディアによると、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は「ロシアがNATOに対して軍事攻撃行動を準備しているという兆候はない」「おそらくウクライナの防空ミサイルだ」という見解を示し、「ウクライナに対して違法な戦争を続けているのはロシアなのでロシアに責任がある」とロシアを非難した。
ポーランド現地メディアによると、ポーランドのドゥダ大統領は「ウクライナの迎撃ミサイルの可能性がある」という見解を示しつつ、「証拠はなく、いずれにしても侵攻したロシアに責任がある」とした。また、バイデン米大統領も同様の見解を示した。一方、 ウクライナのゼレンスキー大統領は「軍の報告によると、ロシアが発射したミサイルだ」「NATOが動く必要がある」と主張し、現地を調査する予定だ。
筆者はウクライナの国際政治学者で「ロシアのウクライナ侵略で問われる日本の覚悟」の著者、アンドリー・グレンコ氏にインタビューした。
――今件は、どちらの国が発射したミサイルでしょうか?
「100%断定できるのは、現地調査が終わった後ですが、大変残念ながら、ウクライナのミサイルでしょうね。大統領など閣僚レベルの発言なので、おそらく証拠があっての発言かと思います。ウクライナは被害者なので、西側の閣僚はウクライナが不利になるような発言はしないでしょう」
――NATOがロシアと戦争したくないから、実はロシアのミサイルなのに、ウクライナのミサイルだと言い張っている可能性はあるか?
「ロシアのミサイルだとしても故意ではないので、戦争する要件にはならないですね。参戦する条件はNATO加盟国の安全保障が明らかに脅かされる、つまり、ロシアがポーランドに何発もミサイルを撃ってくるという状態ですから」
――今件はどのように対応すべきか?
「ウクライナのミサイルだと断定されたら、潔く遺族に謝罪と賠償を行うしかありません。賠償責任はロシアにあります。ウクライナ軍によると、14日のロシアのミサイル攻撃は、開戦日から最大規模で、エネルギー施設と民間マンションを狙われました」
――このような出来事が繰り返さないためにはどうすればよいか?
「(1)今件はロシアの戦争犯罪ですから、ロシアの責任を追求すること。そして、以前から言っていることですが、(2)NATOがロシアをもっと強く非難すること、(3)ウクライナにより強い、より性能のいい防空装備を提供すること。ウクライナの防空装備、ミサイル防衛が強ければ強いほど、ヨーロッパ全体はより安全になります」
筆者がポーランドの古都クラクフに住む46歳の男性に話を聞いたところ、「ポーランドのメディア報道によると、ウクライナがルートを誤射した迎撃ミサイルの可能性が高いそうです。しかし、多くのポーランド人はウクライナの迎撃ミサイルより、ロシアの攻撃ミサイルと核兵器を恐れます。(ウクライナが占領されたら)次にポーランドが侵攻されるのが怖いです。NATOが動き出す前に多くの市民が犠牲になるでしょう。早くロシア軍に撤退して欲しいです」と訴えた。
今件により、隣国の自分の死をおそらく全く想像していなかった人が犠牲になるという戦争の悲惨さが、さらに世界に知れ渡ったことだろう。
●ウクライナ東部 戦闘激化 南部要衝にも繰り返しロシア軍の砲撃  11/22
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナでは、東部での戦闘が一段と激しくなっているほか、南部の要衝ヘルソンでもロシア軍の砲撃が繰り返されていて、冬が到来する中、各地で厳しい状況に直面しています。
ウクライナは21日「尊厳と自由の日」と呼ばれる記念日を迎え、首都キーウでは、8年前にロシア寄りの政権を崩壊させた抗議活動で犠牲になった人たちを悼む式典が開かれました。
当時の抗議活動に参加した元議員は、NHKの取材に対し「ロシアの軍事侵攻が続く中、いまこそ、尊厳と自由のために国を防衛しなければならない」と強調しました。
こうした中、ウクライナ東部では21日も激しい戦闘が続いていて、イギリス国防省は、ウクライナ軍が反転攻勢に出る中、ロシアの指導部が、ルハンシク州で人口が密集するスバトベの支配を政治的な優先事項とみなしている可能性が高いと指摘しています。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシアが全域を掌握していると主張するルハンシク州の集落に、ウクライナ軍が部隊を進めている可能性を指摘しています。
一方、ロシア軍は、ウクライナが11月奪還した南部の要衝ヘルソンに向けて砲撃を繰り返していて、ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は21日、一連の砲撃で4人が病院に搬送され、このうち1人が死亡したほか、近郊の村でも1人がけがをしたと明らかにしました。
また、ヘルソン州議会の議員は21日、地元メディアに対し、ロシア軍が連日、ドニプロ川の対岸からヘルソンへの砲撃を続け、住宅やインフラ施設が被害を受けていると訴えるなど、冬が到来し、電力や水道など市民生活の再建が急がれる中、各地で厳しい状況に直面しています。
●中国、ロシア情報戦に「便乗」 ウクライナ侵攻で影響力拡大 欧州研究所 11/22
情報戦やサイバー攻撃など非軍事手段によるハイブリッド攻撃を研究する「欧州ハイブリッド脅威対策センター」のテイヤ・ティリカイネン所長は、ウクライナ侵攻を正当化するロシアの情報戦に中国が便乗し、国際的な影響力拡大を図っていると分析した。
フィンランドの首都ヘルシンキにある同センターで、時事通信の取材に応じた。
「米国はウクライナで生物兵器を開発している」。ロシアは侵攻に際し、こうした偽情報やプロパガンダを流布し、軍事作戦の正当化を試みた。
一方、中国はロシアへの軍事支援を控えつつも、情報戦に力を貸した。ティリカイネン氏は「中国はアフリカや中南米で『欧米がロシアの懸念を無視し、交渉を拒んだために、ウクライナ侵攻が起きた』などと吹聴した」と指摘する。
米政府高官によると、今年1〜4月に中国の外交官がロシアのプロパガンダや偽情報をリツイートした回数は、前年同期比で3倍に増加。ロシア外交官による中国政府や国営メディアの情報発信のリツイートは、同10倍の140回超に上る。
「中国はより公然と情報戦を仕掛けるようになった」とティリカイネン氏。ロシアと同様、サイバー攻撃や情報戦、経済的依存を利用した影響力行使などのハイブリッド戦術を駆使し始め、中国の「ロシア化」が進行しているとみる。
両国は欧米主導の国際秩序の変革という目標を共有するが、したたかさでは中国が上回っているようだ。「中国はウクライナでロシアに『汚れ仕事』をさせる一方、西側諸国をおとしめ、自らの国際的地位を高めるために情報戦を展開している」とティリカイネン氏は分析している。
●ゼレンスキーの謝罪遅れが命取り。世界がウクライナに向けた反発 11/22
勃発からまもなく9ヶ月を迎える、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。欧米諸国内からの停戦を求める声に対して首を縦に振らないゼレンスキー大統領ですが、ロシア国内でも強硬派が主導権を握ったため、戦争の長期化は免れない状況となってしまったようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ紛争の最新の戦況を詳しく解説。さらにロシアを始めイランや北朝鮮といった、国際社会の協調を乱すばかりの「ならず者の国家群」に対して、より強度の経済制裁を科すべしとしています。
ウ軍の次の攻撃場所は?
ヘルソン州ドニエプル川西岸からロ軍は撤退し、ウ軍はこの地域の機甲部隊を次にどこに回すかである。ロ軍は撤退部隊をドンバス方面に回している。ウ軍の攻勢に出る場所がまだ、分からない。そして、冬の地面凍結が北から徐々に始まり、機甲部隊が動ける状態になる。
巡航ミサイル攻撃
ロ軍は、地上攻撃が期待通りではないので、巡航ミサイルとUAVによるウクライナ全土のインフラ攻撃をし始めた。11月15日は90発以上の巡航ミサイルの内73発を撃墜、自爆型無人機10機の内10機を撃墜したが、S300の迎撃ミサイルが、ポーランドに落下して、2名が死亡した。
17日、さらに新たな大規模ミサイル攻撃を行った。
当初、ロシアのミサイルがポーランドに落ち、2名死亡と報道されて、これは第3次世界大戦になるかと世界は心配した。しかし、NATOのAWACS監視で、ウ軍の迎撃ミサイルと分かり、ホッとした。
このポーランドの事故に対して、ゼレンスキー大統領が自国ミサイルではないとの見解を示したことで、世界から反発が出ている。特にポーランド世論が激昂してしまう可能性があり、ゼレンスキー大統領は、なるべく早く謝罪した方が良い。
しかし、ミサイル攻撃での迎撃率が、格段に向上した。10月10日の巡航ミサイル84発中43発迎撃、UAV24機中13機で、迎撃率は50%程度であったが、15日は80%になっている。
対空防御のNASAMSの撃墜率は100%であり、この兵器の有効性が証明されたようである。このため、多数のNASAMSの供与が必要である。
一方、ロ軍のミサイルは、ほとんど使い切ったようであり、攻撃の中にKh-55核弾頭巡航ミサイルがあり、弾頭部分を外して普通弾頭にしたものであり、Kh-505巡航ミサイルが不足して、核ミサイルを転用した物と思われる。今後はイラン製のミサイルになるのであろう。
それと、11日以前の攻撃で電力設備などのインフラが破壊されて、1,000万人以上が停電に見舞われたが、17日に、ほぼ全土の電力が回復したようであるが、消費電力量の確保はできていないので、計画停電は依然として続いている。
しかし、このミサイル攻撃で分かることは、ロシア内での強硬派プリゴジンの影響力が大きく、政権内停戦派の思惑を木っ端みじんに、粉砕したことである。
プーチンは、強硬派の意見を取り、停戦派の意見を破棄した。このため、この冬の間、戦争は続くことになる。ワグナー戦闘員を撃破して、強硬派プリゴジンでも渋々、停戦に向かわせないと、停戦にならないことを示した。
ということで、このミサイル攻撃は、ロシア国内の強硬派対停戦派の権力闘争の結果でもあることがわかる。プーチンは強硬派の意見を取ることも分かった。
このため、どうしても、強硬派スロビキン総司令官は、ドンバスで勝たないといけないことになった。このドンバスの中心戦闘員はワグナー部隊でもある。
米ミリー統合参謀本部議長もロシア停戦派のロシア内での闘争に負けたことが悔しいのか、ウ軍は冬でも大きな成果は得られないと言っている。また、ウクライナは明確な目標と時期を明示する必要があると述べた。しかし、当分、戦闘が続くことになる。停戦はない。
南部ヘルソン州
ウ軍は、ドニエプル川西岸を奪還して、ヘルソン市に居る私服のロ軍兵(便衣兵)を探し、まだ、撤退できないロ軍兵の掃討作戦を実施しているが、国内治安部隊が中心で、機甲化部隊は、他地域に転戦している。
ロ軍兵は、「残存してウ軍の場所を見つけて報告して砲撃してもらう」というので、ロ軍便衣兵をすべて見つける必要があるようだ。ウ軍がこの一部ロ軍便衣兵を処刑しているとロシアは、クレームしたが、降伏したのにロ軍兵が発砲したから殺されたようである。
しかし、ロ軍の撤退は成功した。橋や船が絶え間なく攻撃を受ける中で、大きな川を渡らなければならないという、きわめて困難な軍事的状況下で、ロ軍兵力と装備の大部分を撤退させたようである。
撤退完了後、ドニエプル川東岸にもウ軍特殊部隊が渡河したようであり、ロ軍は東岸から15km以上離れた場所まで撤退している。
もう1つ、東岸のキンバーン半島にウ軍が攻撃したようであるが、陽動用作戦であり、これも特殊部隊で、すぐに引き上げている。
バクムット・ドンバス方面
ロ軍の砲撃数が、200件以上をキープして、ものすごい量の砲撃が行われている。全盛期に近い感じの勢いである。ヘルソンから撤退した精鋭部隊を投入している。機甲部隊も投入して、この地域を占領したいのである。しかし、マヨルスクへの機甲部隊攻撃では、大きな侵害を出したようである。
ロ軍としては、ヘルソンの穴埋めするために、ドンバス方面は、ウ軍を負かす必要もあるからで、ロ軍のスロビキン総司令官も意地になっているような気がする。
しかし、ロ軍は前進できていない。HIMARSなどの砲撃が効果を上げているようであり、ロ軍もTOS-1でのサーモバリックや焼夷弾などの攻撃で対抗しているが、激戦が続いている。
ゼレンスキー大統領も18日、同国東部ドネツク州で「激戦が続いている」とし、17日中だけで約100回のロシア軍の攻撃を撃退したと明らかにしている。
スバトボ・クレミンナ攻防戦
ウ軍は、クピャンスクからP07を南下してスバトボに向け進軍して、ノヴォセリヴスキでP07の争奪戦になっている。もう1つ、クピャンスク方面にロ軍が威力偵察をかけてきている。ロシア国境に近いので、補給の心配がないことで、ここに新たな戦線を作りたいようである。
ウ軍は、クレミンナにも攻撃しているが、ロ軍の防御も堅い。
ベラルーシ国境
ベラルーシは、ロ軍と合同部隊を作り、国境付近で活発に行動していることで、再侵攻の可能性が出てきている。
これに対して、国境付近に頑丈な塹壕と壁を作り、ベラルーシからの攻撃を防御する方向で、ベラルーシ国境の橋はすべて破壊した。
ロ軍や世界の状況
ロシア国内では、強硬派が益々勢力を拡大している。政権内の穏健派や停戦派は、事態を見守るしかない状態である。
雪の中でもテントなしなど、冬装備が劣っている動員ロ軍兵は、凍傷や傷病などで大きな支障をきたすような気がする。これを停戦派は心配して、停戦に舵を切りたいが、強硬派は、ロ軍が冬にウ軍を負かすというので、プーチンは強硬派の意見を取った。しかし、実情はロ軍の冬装備は貧弱である。
これを予知して、12月に次の動員令を発出する準備をロシア当局はし始めているようであり、劣勢を大量の人海戦術で押し切ろうとしているようだ。冬の消耗を新しい動員兵で補充するようである。 一方、東部戦線全域で氷点下になり地面が凍結して、自由に動けるので、ウ軍機甲部隊は、次の目標をどこに置くのかということになる。
このため、ウ軍特殊部隊がいろいろな地域に出没しているが、次の目標選定のためであるようだ。
もう1つ、ウ国防次官が「ウクライナはクリミアを年内に取り戻せる」と述べたということは、ドニエプル川東岸かザポリージャ州の攻撃になるが、ロ軍の守備が弱いとも見えない。もう1つ、陽動作戦をウクライナは多用しているので、そのように見せかける可能性もある。
現在の進軍中のスバトボとクレミンナ方面の可能性があるが、ここの守備も動員兵を入れて、徐々に固くなっている。
ということで、ロ軍の意表を突いた地域への進軍になるような気がする。
ウクライナの心配は、ゼレンスキー大統領がポーランド人2名の死亡に対して、謝罪しないことで世界のウクライナに対する見方が冷ややかになることだ。
勿論、この事故調査にウクライナ側人員も参加しているので、近々に謝罪するとは思うが、徐々に支援疲れもあり、遅いことで冷ややかさは残るような気がする。
このような情勢になり、米下院を制した共和党の下院マージョリー・テイラー・グリーン議員率いる極右議員らは、「ゼレンスキーは第3次大戦を始めようとした」と非難して、ウクライナ支援に反対する意向を明言した。米国でウクライナ支援が削減される可能性がある。
もう1つ、支援でウクライナに送ったPzH2000自走榴弾砲で、支援要請したが、支援されずに整備部品不足になり、とうとう1両を共食い整備用に部品取りしたようである。徐々に世界的な支援が先細りしそうな感じになっている。
しかし、フィンランドやスェーデン、バルト3国などは、支援に積極的であり、支援の中心が米国から北東欧・英国にシフトする可能性もある。ロシアに対面する諸国は、ウクライナ戦争は、自国の代わりに行ってくれているという意識が強い。
大多数のロシア資産を凍結する英国は、核ミサイルの攻撃場所と思われているからで、ウクライナを応援するしかないようだ。
ロシアが使用するイラン製ドローンに西側諸国の技術が使われているが、ほとんどが汎用品で規制のしようがないものばかりであり、もし制裁を掛けるなら、イランとの全面的貿易禁止などの制裁をする必要がある。
もう1つのロシア同盟国である北朝鮮は、米全土を攻撃可能な大陸間弾道ミサイルICBMの開発を進めているが、18日の発射で技術的な進展があった新型ICBM「火星17」を高角度で試射したようだ。この1ケ月で50発以上のミサイルを発射している。
ロシア、ベラルーシ、イラン、北朝鮮、シリアなどのならず者の国家群が、大暴れであり、この国家群全体に強度の経済制裁を課す必要がある。これら諸国との経済完全分離が必要になっている。第3国経由も阻止することが必要である。
さあ、どうなりますか?
●ウクライナ中小企業、ロ軍の攻撃による停電で大打撃 11/22
オレクシー・レフツキーさんは、このところウクライナの企業を悩ませている問題について、お手上げという表情で語ってくれた。
「コロナ禍で2年、そして今度は戦争で1年だ。次はエイリアン襲来かな」とぼやくレブツキーさんは、キーウの洒落たコワーキングスペースでテクノロジー担当主任を務めている。ロシアによる空爆が続くようなら、じきに自家発電に頼らざるを得なくなるという。
コロナ禍と、続いて2月に始まったロシアによる侵攻による経済ひっ迫に喘ぎつつ、ウクライナ企業は日常生活の一部となった広域停電に対応しようと必死になっている。
前線での敗北を重ねたロシア軍は、発電所や変電所などの重要インフラに対するミサイル攻撃に一段と力を入れるようになっている。電力事業者は、電力グリッドの安定性を維持し、修理を完了するために、停電を実施せざるを得ない。
当局者は、15日の一連の攻撃は9カ月にわたる戦争の中で最大規模だったと話す。ロシア側は、ウクライナに対する攻撃は軍事とエネルギー関連のインフラを標的としたものだと主張している。
ウクライナ企業のなかでも、侵攻前には同国経済の約60%を担い、税収の約40%を占めていた中小企業にとって、頻繁な停電は、収益を失い将来の見通しを立てられなくなることを意味する。
キーウのシンクタンク、ラズムコフ・センターで経済社会プログラムの主任専門家を務めるカテリナ・マルケビッチ氏は、10月半ばにロシアによるインフラ攻撃が始まって以来、中小企業の活動は「大幅に低下」していると述べている。
多くの中小企業は発電機などの周辺機器への多額の投資を迫られ、また顧客を失わないために大幅な譲歩を強いられているという。
余裕資金がない企業、あるいは戦火で荒廃したウクライナ経済の中で好条件の融資を受けられない企業は、営業を停止するか、あるいは完全廃業に追い込まれてしまうと、マルケビッチ氏は言う。
ウクライナのスビリデンコ経済相は先週、記者団に対し、重要インフラに対するロシアの攻撃により、今年のウクライナ経済のマイナス成長は、これまで予想されていた35%よりも大きくなる可能性があると述べた。
「仕事にならない」
レフツキーさんによれば、勤務先のコワーキングスペース「コーペラティフ」では、電力供給とインターネット回線はそれぞれ2系統用意しており、大半の停電に影響されないという事実を広告でうたったところ、新規の利用者が集まるようになったという。
とはいえ、新規利用者が流入しても、2系統の発電機のどちらかを長期間にわたって運転しておく必要が生じれば、コストを相殺するのは最終的に難しくなるだろう、とレフツキーさんは言う。
もう1つの収益源であるイベント会場としての利用も、頻繁に空襲警報が鳴り響く中ではますます難しくなっている。
ウクライナ国会の財務税制委員会の委員長は、全国規模の警報が1営業日続くごとに2億ドル(約280億円)以上の経済損失が生まれていると語った。
レフツキー氏はロフト付きのコワーキングスペースで、「まあ、何とか生き延びてはいる」と語る。「だが、これでは仕事にならない」
大企業の中には、不確実な状況にうまく適応する態勢を取れているように見えるところもある。
だが、中小企業の場合はプレッシャーがさらに強くなる。特にサービス業は、固定客の支持や大家の好意といった要因に依存することも多い厳しい状況だ。
耐え忍ぶ
キーウの先端的なカフェ2店の共同オーナーで、さらにもう1店も経営しているサシュコ・ボロフスキーさんは、自分のビジネスはそうした2つの要因に助けられていると話す。さらに、スタッフを少数に絞っていることによる身軽さもプラスだという。
突然の停電や計画停電が発生すると、従業員は普段とは別の役割を担う。レジ係は受付に回って来店客を丁重に断り、調理人もサンドイッチ作りなど「冷たい作業」に取りかかる。
ロシアの空爆による停電発生直後の状況について、ボロフスキーさんは、ロシアへの憎しみや恐怖といった感情が続くのは最初の数分だ」と話す。「すぐにそうした思いを振り払い、前向きに考え始める」
だが停電の間、ボロフスキーさんの店の収益は大幅に少なくなる。経営会議は毎週開いてはいるが、6週間を越える資金繰りについては先が読めなくなくなっている。
専門家の中には、ウクライナのエネルギー供給網を安定させるには長期的な取組みが必要になる、と警告する声がある。
キーウのエネルギー産業研究センターで所長を務めるオレクサンドル・ハルチェンコ氏は、大半の顧客向けにエネルギー供給の途絶を最小限、あるいはゼロに抑えられるまでに復旧を進めるには、最長で6週間はかかるとの推測を示した。
ハルチェンコ所長は16日の会見で、「ただし、これ以上の攻撃がないというのが前提だ」と述べた。ところがその翌日、ロシアはエネルギー関連施設と国防産業の工場に新たな攻撃を加えた。
一方、前線に近い都市の企業の場合は、顧客となるべき人々が避難してしまったために、さらに深刻な影響を受けている。
ハルキウの民間経営者協会のオレクサンドル・チュマク代表は、100万人を超えていたハルキウの人口は、現在では約60万人まで急減してしまったと推測している。
「これによって、一部の企業は存続不可能になっている」とチュマク代表は言う。
さらに、ハルキウから避難した企業の12%は同市に戻らないことをすでに決めており、さらに21%は、安全が確保され、十分な資金を確保できた場合にのみ同市に戻るとしているという。
「状況を受け入れる」
ただ、ボロフスキー、レフツキーの両氏とも、多くのウクライナ人がすでにさまざまな困難に慣れっこになっており、自分も同僚たちもパニックに陥ってはいないと話す。ウクライナ軍の善戦も、国民の間で目的意識を維持するうえでプラスになっている。
ウクライナの市場調査会社グラデュスが行った調査では、企業の65%が、遅くとも2023年末までには実際の戦闘は終了すると考えていると回答した。この調査は11月初めに実施され、ウクライナ国内の大企業から小企業まで203社から回答を得ている。
ボロフスキーさんは今のところ、今後被る可能性のある経済的な損失よりも、自分や周りの人々のメンタルヘルスの方を気にしていると言う。
「この瞬間自分でコントロールできるのは、ビジネスの今後がどうなるかではなく、自分のメンタルヘルスの部分だ」とボロフスキーさんは言う。「この状況を受け入れることで、気持ちは楽になった」
●ロシア軍司令官が「虐殺を命じられた」と批判…プーチンの情報統制破綻か 11/22
アプリから漏れ出るロシア軍兵士の本音
ロシアが得意としてきた情報統制が、日を追うごとに機能しなくなっている。ロシア軍内部の兵士や司令官がアプリを通じ、厳しい戦闘の実情をロシア国民に直接発信するようになったためだ。世界トップクラスのシンクタンクのひとつ、欧州政策分析センター(CEPA)が分析リポートを通じ、ロシア情報封鎖のほころびを指摘した。
情報漏洩の主な舞台となっているのは、暗号化メッセージアプリの「Telegram(テレグラム)」だ。軍上層部を信頼しない兵士や司令官、そして退役軍人や独立系メディアなどが、それぞれ独自の視点で生の情報を発信し続けている。ある司令官はTelegramに投稿した動画を通じ、ひどい食糧不足により部隊全体が飢えていると訴えた。プーチンはロシア兵を虐殺している、との猛批判だ。
ロシア軍の実情が現場から直接流出することは異例だ。CEPAは、「まったくもって前代未聞の事態が巻き起こった」と述べ、ウクライナ侵攻における情報漏洩の特殊性を指摘している。
ロシア軍司令官は「プーチンによって虐殺に送り出された」と非難
ある部隊は、飢えと病に悩まされている現実をTelegramで明かした。英ミラー紙が報じたところによると、ドネツク共和国第113連隊のロシア軍司令官は戦地からTelegramに動画を投稿し、プーチンは適切な装備もなく自軍の兵士たちを「虐殺」に送り出したと訴えている。この司令官は、食糧と医薬品の不足により部隊が「慢性的な疾患」に見舞われているとも訴えた。
動画では、やつれた表情を浮かべた数十名の兵士たちを背景に、司令官が戦地の過酷な状況を視聴者に明かしている。司令官は、自身の部隊が医薬品も十分な武器もなくウクライナ南東部のヘルソン地方に動員され、2月下旬以来、「飢えと寒さ」との戦いであったと暴露した。
さらに、部隊は適切な武器なくプーチンによって「虐殺に送り出された」と批判し、部隊をドネツクまで戻してそこで動員を解くよう求めている。司令官は続ける。「健康状態の検査を受けた者などいない。精神疾患をもつ子供たちが動員されている。多くの子をもつ父親たちや、後見人たちもだ」
動画についてミラー紙は、「彼の暴露は、ウクライナ東部で戦うウラジーミル・プーチンの一部部隊に関して、厳しい状況を浮かび上がらせた」と分析している。ウクライナ東部のドンバス地方はロシアが「解放」したと主張する地域だが、このような現実に苦しむ部隊による暴露動画が不定期にTelegram上に投稿されている。
プーチン政権の情報統制に無理が生じている
ミラー紙は、今回の動画を投稿した113連隊のほかにも、少なくとも2つの部隊が同様の苦境を訴え戦闘を拒否したと報じている。戦地に駆り出されたものの有効な攻撃手段をもたず、ただただ「大砲の餌食」になっているとの不満も兵士から噴出している模様だ。
生々しい戦場をその目でみたロシア兵の多くは、もはや政府発表の情報を信頼していない。CEPAが明かしたところによると、現役兵および退役兵が多く参加するとあるTelegramチャンネルでのアンケートでは、国営メディアを情報源として信頼すると回答した人は2%にとどまったという。
もともと政府を信頼しない人々がTelegramを愛用している傾向はあり、母集団のバイアスは多少存在するとみられる。しかし、それを加味しても、プーチン政権の傀儡メディアに対する圧倒的な信頼のなさを物語る数字となった。
プーチン政権は国営メディアなどを通じたプロパガンダで侵攻を正当化し、有利な戦果だけを伝えてきた。だが、肝いりの情報統制とプロパガンダにも、さすがに無理が生じてきているようだ。
一方のTelegramは、耳当たりのよい報告ではなく、真相で人々を惹きつけている。ロシア軍がドネツ川の渡河作戦で大きな失態を演じると、その死者数についてしばらく伏せるようあるチャンネルが呼びかけたが、ロシア側ユーザーからの怒りの声で炎上した。自由な情報の流通を好むユーザーの気質がうかがえる一件だ。
形勢不利を伝えるチャンネルがロシア人の支持を得る
興味深いことに、Telegram上で飛び交う現場の声はロシア軍の作戦立案にも反映されているという。CEPAが報じたところによると、ウクライナ軍の防空網が健在だという情報がチャンネル上で流れた際には、ロシア空軍内部で大規模な検証が行われた。
軍は、ユーザーがどの部隊に所属しているかなどをある程度特定し、情報の信頼性を精査しているとみられる。そのうえで、前線からの有益な情報源として発言を事実上黙認している形だ。事実、ユーザーのなかには現役兵に加え、退役した元将校など知識豊富な人物も多い。
こうしてTelegram上の情報に便乗するロシア軍だが、思わぬ落とし穴が待っていた。軍が対応の参考としたとの評判が広まると、ロシア軍形勢不利を伝えるいくつかのチャンネルはいっそう一般国民の信頼を得る結果となった。
このようなアプリを通じた情報公開は、以前の戦争であれば考えられなかった。状況を特異だとみるCEPAは、「戦争から3カ月で、まったくもって前代未聞の事態が巻き起こった。ロシア軍内部に、検閲がなく、防衛省の管理も届かない議論の場が出現したのだ」と驚きをあらわにしている。
戦勝記念日のパレードで軍事力を誇示するはずが…
Telegramは侵攻直後から情報収集手段として活用されてきたが、5月の軍事パレードが普及に拍車をかけるきっかけを作った。
ロシアが毎年5月に行っている戦勝記念日のパレードは、国民に軍事力を誇示し、兵士の士気を高揚させる機会として長年機能してきた。だが、ウクライナ侵攻の今年、この一大行事は裏目に出る結果となる。CEPAは、軍事機密の暴露がTelegram上で飛び交うことになったきっかけのひとつが、この軍事パレードだと指摘している。
今年も赤の広場で5月9日に行われたパレードは、例年と異なる体制が目を引いた。士官学生らに続いていざ正規軍の登場となると、地位ある将官らの姿がどこにもみられなかったのだ。行進を率いていたのは、中佐クラスがせいぜいであった。
例年パレードが盛り上がりをみせる戦車の車列の登場となると、昨年までとの差異はいっそう歴然となる。率いていたのは中尉らであり、例年よりかなり見劣りする編成だ。原因は火をみるよりも明らかだった。ウクライナへの動員で、軍人がまったくもって足りていないのだ。
CEPAは述べる。「軍隊の変わりようは極めて明白であり、よってその目でみたことを人々が話したがるのも無理はない話だ。だが、そのような話題を、いったいどこで議論できるというのだろうか?」
そこで白羽の矢が立ったのがTelegramというわけだ。メッセージは携帯端末から送出する段階で暗号化されるため、通信経路の途中で政府の検閲を受ける心配がない。
信頼失墜のマスメディアに代わり、Telegramチャンネルが台頭
ジャーナリストが「特別軍事作戦」について論じることが違法となったロシアでは、Telegramが貴重な議論の場となった。報道規制の厳格化とともにもともとロシアで注目を集めてきたTelegramだが、戦勝記念日の異常事態を受けさらに参加者を惹きつけることとなったようだ。
人々はグループチャットで戦争に関する自由な意見を交換しているほか、個人のジャーナリストやブロガーなどが匿名でチャンネルを開設し、独自の情報と見解を示している。CEPAによると、あるTelegramのアンケートでは、主な情報入手先としてまずブロガーを頼ると答えた人々は4割弱にも達する。
先進国であれば、ブロガーは独自の興味深い視点を披露する反面、報道の正確性ではマスメディアに一歩劣るというのが一般的な理解といえるだろう。ロシアではこれが逆転し、プロパガンダを流すマスメディアよりもブロガーたちが厚い信頼を獲得している。
CEPAはロシアにおいてTelegramが、単一のアプリとしては「不相応なほどにまで重要な役割」を担っており、「同国において最も人気のあるマスメディア」になっていると指摘する。オープンな議論が限られた現地で、政府の不当な監視の及ばない貴重な場となっている。
強気の国営メディア「ストーンヘンジまで攻める」
一方、プーチンのプロパガンダ戦略を担う国営TVは、相変わらず強気のロシア軍擁護を続けている。「プーチンの代弁者」ともいわれるロシア番組司会者のウラジーミル・ソロヴィヨフ氏は、自身の討論番組において、ロシアは「(イギリスの)ストーンヘンジまで攻める」との持論をぶち上げた。英メトロ紙が報じた。
番組には、ウクライナの政治家であるヴァシル・ヴァカロフ氏がゲストとして招かれた。ヴァカロフ氏は、ロシア軍がまもなくドンバス地方のルハンシクおよびドネツクを掌握する見込みだと指摘したうえで、一体どこまで西に軍を進めるのかと質した。
これに対し司会のソロヴィヨフ氏は激しい口調で、次のように応じている。「どこまで攻めたらやめるのかって? まあ今日の段階でいえることは、おそらくストーンヘンジだろう。(英外相の)リズ・トラスも、自身は戦争に参加している身だと言っている」
デイリー・メール紙はこの発言を、「外務大臣に対する馬鹿げた主張とからかい」だと批判した。プーチンへの痛烈な批判とウクライナへの武器支援を続けるトラス外相は、ロシアのエリート層にとって相当に憎き存在となっているようだ。イギリスに関して同司会者は以前、ロシアが核ミサイルの「ジルコン」を打ち込み、イギリスを「石器時代に戻す」とも発言している。
アプリ一つで崩壊危機…旧時代を生きる「世界第2位の軍隊」の限界
ウクライナ侵攻までは「世界第2位の軍隊」ともてはやされたロシア軍だったが、いざ開戦となると前時代的な装備と予想外の弱さが露呈し、世界から冷笑を買った。情報管理においても同様に、近代化の遅れが目立つ。
ソ連時代から情報統制をお家芸としてきたこの大国は、現代の情報化に対応できておらず、旧態然とした隠蔽いんぺい国策を続けている。ところが、たった1つのアプリを経由して前線でのあらゆる出来事が筒抜けとなる始末だ。
ITを積極活用するウクライナとは、好対照といえるだろう。ウクライナはかねて進めてきた電子政府化により、戦時下でも政府機能を維持している。ほか、スターリンク衛星通信を軍と市民生活の双方で積極活用するなど、近代技術を柔軟に取り入れている。
情報公開もむしろ積極的に進めており、英ミラー紙などが報じている死亡情報開示もその一例だ。ロシア兵の安否を気遣う家族向けに、確認されたロシア兵の死亡情報をTelegram上で確認できる枠組みを立ち上げた。同紙によると登録者数は100万人を超えたとのことで、ロシア兵の家族たちがロシア政府とウクライナのどちらを信用しているかは明らかだ。
戦時の情報隠蔽は、ゆっくりと過去の戦略になりつつあるのだろう。CEPAは、ロシアが行っている報道規制について、「この完全隠蔽システムは平時であればうまく機能するかもしれないが、全面戦争という現実が立ちはだかったなら、存続は不可能だ」と指摘する。
プーチンとしては戦時中にこそ、戦意高揚のため不都合な事実を隠蔽したいところだろう。だが、まさにその戦時中、前線に動員された司令官や兵たち自身がありのままの真実を発信している。肝心なときに限ってプロパガンダが機能しないという皮肉に、プーチンはいつの日か気づくのだろうか。 
●国際社会から同情されるウクライナも、一歩間違えれば反感を買う─ 11/22
ウクライナ戦争がエスカレートするリスクを過小評価していた人たちは再考を迫られている。きっかけはポーランドの国境地帯に11月15日、ミサイルが着弾し、2人の男性が亡くなった悲劇だ。
当初「ロシア製」と発表されたこのミサイルは、その後の調査でロシアのミサイルを迎撃するためにウクライナが打ち上げた旧ソ連製ミサイルだったと分かった。
いまウクライナで起きているのは本格的な戦争だ。こうした戦争には、たとえ両陣営が慎重を期していたとしても、多くの不確定要素と意図せぬ結果が付きまとう。
兵器の不具合も起きるし、現地の指揮官が司令部の命令に従わないこともある。戦闘の最中では状況がよく分からず、敵の意図を簡単に読み違えてしまう。今回は即座に冷静な判断がなされて事なきを得たが、この悲劇で偶発的なエスカレートの危険性が浮き彫りにされた。
ポーランド領内にミサイルが着弾したとの第一報を受け、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアによる「重大なエスカレート」だと述べ、ポーランド当局はNATO加盟国が攻撃を受けた場合の協議と集団防衛を定めた北大西洋条約第4条と第5条の発動要請を検討すると発表した。
ミサイルがウクライナから発射されたことが分かると、西側は即座にウクライナに悲劇の責任はないとの見解を発表した。そもそも戦争を仕掛け、ウクライナの領土を不法に占拠したのはロシアなのだ。
エスカレートの危機を回避できたのはアメリカとポーランド当局の賢明な対処のおかげだ。しかしこれで一件落着とはいかない。
もしこれがロシアの発射したミサイルの流れ弾だったら、どうなっていたか。ロシアは関与を否定するか、偶発的な事故だと主張するだろう。それが事実であっても西側は信じるだろうか。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が核攻撃に踏み切る前に観測気球を上げたのではないか、ウクライナ周辺の重要な兵站拠点をたたいても報復されないか試したのではないか──そんな臆測が飛び交い、NATOの集団防衛の「抑止力を回復」するために、ロシアに報復攻撃を行うべきだとの声が高まるだろう。
「ミサイルより破壊的」
この出来事、とりわけゼレンスキーの反射的な発言が印象付けたのは、ウクライナはこうした悲劇を利用してロシアをさらなる悪者に仕立て、これまで以上に世界の同情と支援を引き出そうとするということだ。
実際、ニューヨーク・タイムズの報道によれば、ゼレンスキーは16日夜の段階でも、「当初の調査結果に納得しておらず、依然としてロシアのミサイルの関与を確信していた」という。
ゼレンスキーにも何らかの考えがあったのだろうが、こうした態度は容易に反感を買う。フィナンシャル・タイムズは西側外交筋のこんな発言を伝えている。
「バカな話だ。ウクライナは(西側の)信頼を壊している。誰もウクライナを責めていないのに、公然と嘘をつくとは。こっちのほうがミサイルより破壊的だ」
「ウクライナを支援する」ことは、われわれの利益や懸念を棚上げにすることではない。それらがウクライナの利益や目的と必ずしも重ならないならなおさらだ。一国のまっとうな指導者は他国の利益のために自国の利益を犠牲にしないし、してはならない。
この戦争が拡大し、さらに多くの悲劇を招くとしたら、そのきっかけとなるのは偶発的な出来事だけではないし、偶発的出来事が引き金となる確率が最も高いわけでもない。
戦争当事国は得てして、越えてはならない一線が侵されたからでも、相手の意図を読み違えたからでもなく、敗色が濃くなったときに戦いをエスカレートさせる。
ドイツが第1次大戦で「無制限潜水艦作戦」、第2次大戦でV1、V2ミサイルの使用に踏み切ったのも、日本が太平洋戦争で特攻隊による自爆攻撃を始めたのもそのためだ。
今のロシアは既にこれと似た状況にある。数日か、せいぜい数週間で終わると思われていた「特別軍事作戦」は終わりの見えない消耗戦となった。ロシア軍は多大な犠牲を払い、何十万もの兵士を新たに動員せざるを得なくなった(開戦時にはプーチンが予想だにしなかった事態だ)。
一方、ウクライナに味方する国々も外交、経済、軍事的支援を拡大。このプロセスに「偶発的な」要素など一切ないが、戦争は既にエスカレートしている。ウクライナ、ロシア双方が今はまだ交渉の余地はないと主張し、両者とも勝ちたい、少なくとも負けたくないと思っているからだ。
私たちがウクライナの人々に心を寄せ、物質的支援を行うのは当然だ。だが、これまでさんざん世界の諸問題を独裁者の邪悪な性質のせいにしてきたアメリカは、プーチンとその取り巻きのメンタリティーをなかなか理解できない。
現実を認めることは、プーチンの命令を擁護することでも、ロシア軍のウクライナにおける蛮行を正当化することでもない。ロシアはふざけ半分で戦争を始めたわけではないし、簡単には敗北を受け入れない──その事実をしっかりと受け止めるべきだ。
戦争が続く限り、より危険な偶発的出来事が起きるリスクも、意図的な決断によるエスカレートのリスクもなくならない。今後起きる偶発的出来事が適切に解釈されるとは限らないし、劣勢にある側が思い切った賭けに出ないという保証もない。
もちろん交渉で全てが解決するわけではない。今のところ戦況はウクライナに有利だが、ロシアがウクライナの要求を全てのむことはおろか、譲歩することも望めない。
たとえ両者が交渉に乗り気になったとしても、合意形成はとてつもなく困難だ。ロシアとウクライナの間には憎悪と不信が渦巻いている。捕虜や拉致された市民の送還、ウクライナへの復興支援、戦争犯罪の追及、制裁の解除など、取り決めることは山ほどある。
それでも今回の不幸な出来事が幸いに転じる可能性はある。これを契機に戦争が長引けばエスカレートの危険性が高まり、エスカレートすれば壊滅的な結果になると人々が気付くなら......。
気付かなければ、こうした出来事はまた起きるだろう。そのときどうなるかは神のみぞ知るだ。
●「すべて売り切れ…調達はすでに戦時状態」エネルギー世界争奪戦 11/22
ワールドカップが始まり世界の熱い視線が集まる中東・カタール。しかし、サッカー以外でも今、カタールが注目の的になっている。ウクライナ戦争を機に始まったヨーロッパのエネルギー危機。ロシアから来なくなった液化天然ガス(LNG)の新たな輸出国として注目されているのが、カタールなのだ。このカタールのLNG争奪戦は日本にとっても他人事ではない。今回はエネルギー争奪戦の世界地図を読み解いた。
「日本から失われた輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に行ったということだ」
天然ガスはパイプラインで送る場合を除いて、マイナス162度で液化して輸送する。この液化天然ガス(LNG)を、産出国カタールで積んだタンカーが、どこに移動したか映し出した航路画像がある。カタールを出たタンカーの一部は、紅海を通ってヨーロッパへ・・・。別の一部はインド洋を通ってアジア諸国へ向かう。が、日本に向かう船は殆ど無い。このタンカーの航路を調査している、シンガポールのエネルギー調査会社に話を聞いた。『VORTEXA』LNG部門責任者 フェリックス・ブース氏
「カタールの日本へのLNG輸出量は全体の11〜12%だったが、今年は4%にまで減少した。(カタールが売却先を公開しないので)中東から東アジアに向かう船の最新情報を見ている。最大のポイントは、船のほとんどが日本に向かっておらず、中国、韓国、台湾に向かっていることだ。今年1月以降、日本の、カタールからのLNG輸入量は非常に少なくなり、わずかなものしか入ってこない。カタールから中国とヨーロッパへの輸出量の増加分を見てみると、日本の輸入量の減少分と同じだ。つまり日本から失われた輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に行ったということだ」
更に今までヨーロッパは、パイプラインで天然ガスをロシアから輸入していたため、LNGの施設なども充実しておらず、限られた量しか買えなかったが、今後はロシア産を買うわけにもいかず、施設を作っているため、カタールからの輸入は増える。また、中国は来年以降も買い手になる。そのため日本のLNG購入は来年以降更に厳しくなるとブース氏は言う。実は日本の大手の会社は1997年以来、カタールから年間550万トンのLNGを購入する契約を結んでいた。この契約が去年切れ、日本は契約を更新しなかった。理由は契約が20年以上という長期契約と、他国に転売しないという条件を飲めなかったためだ。もちろん今年の状況を予測出来るはずもなかったが、他にも長期契約できない事情があった。
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏「去年の11月というと、COP26がグラスゴーで開かれ、世界の脱炭素の潮流がピークに達した時だった。企業にもコンプライアンスが求められる中で、今後20年炭素を出すエネルギー源を使うのかっていうことと、原子力発電所の再稼働も持ち上がっていた…。そういう時にLNGの20年30年という契約をするのはどうなのかなと…」さらに価格の面でも疑問はあった。日本の平均購入価格は、スポット購入額より高めだったが、去年の夏以降LNG価格が高騰。契約更新の11月には、スポット価格が何倍にも跳ね上がっていた。
原田大輔氏「天然ガスの価格というのは今が非常に異常な状態でして、エネルギー危機の状態。いくつかのクライシスが起きている中の3番目のクライシス。これを去年の更新の時期には予見できなかった」かくして日本が手放してしまったカタールのLNGの半分が、ヨーロッパに流れることとなった。
「結果的にアメリカを利しているというのはロシアからすると忸怩たる思い」
今年になってEU首脳の“カタール詣で“が顕著だ。3月イタリア首相、5月スロベニア大統領、8月ギリシャ首相、9月ドイツ首相などなど。みな、ロシアから来なくなった天然ガスの代替をカタールに求める。これによって価格は上昇しているわけだが、そもそもなぜカタールなのだろうか。天然ガスの生産量は、1位アメリカ、2位ロシア、3位イラン、4位中国、5位カナダ、そして6位がカタールだ。
立教大学 蓮見雄教授「カタールは供給余力があるということ。アメリカは最大の生産国ですが自分の所で大量に使ってしまいますから・・・」ロシアはもちろん、イランも制裁対象国で、買うわけにはいかない。中国はアメリカ同様、自国で消費する。ということでEU首脳はカタール詣でとなった。結果カタールの貿易黒字額は今年春以降跳ね上がっている。だが、実はこの天然ガスの高騰で笑顔がこぼれる国はカタールばかりではなかった・・・。
アメリカだ。アメリカは天然ガスの生産量は世界一だが、輸出量は大きくなかった。ところが今回のエネルギー危機によって、今年上半期の輸出量は実に約3億1700万立方メートル。これは世界一の数字だ。つまりアメリカは世界最大のLNG輸出国となった。
原田大輔氏「アメリカはシェールガス革命によって、ヘンリーハブ(天然ガス指標価格)がお安い。液化コスト、輸送コストを乗せても、世界市場を狙っていける。ただこれからどのくらい伸びるかは、意見が分かれる(中略)今ガスの価格が高いから輸出できるけれど、価格が安定してからも供給を続けられるかどうか。二の足を踏むんじゃないか・・・。カタールと並んでアメリカの動向がエネルギー価格において重要」
化石燃料をやめようとする世界の潮流があり、比較的CO2の排出が少ない天然ガスは“つなぎのエネルギー”として必要だ。結局エネルギー市場でも、アメリカが世界をリードしくいくのだろう。この状況をプーチン大統領はどう思っているのだろうか…。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究所「結果的にアメリカを利しているというのは、ロシアからすると忸怩たる思いがある。ただロシアのエネルギーを市場から排除することが世界のインフレを高める。そこにプーチン大統領の政治的狙いっていうのがあって…。とにかくインフレが高まれば、ウクライナに対する支援疲れであったり、早く戦争をやめて欲しいっていう国際世論が、ウクライナ側への圧力となったりする。そういう政治的揺さぶりのためにエネルギーを武器にしている」プーチン氏には自国の経済的損失などより、西側を混乱させる政治的思惑が優先される。確かに経済合理性を考えられるなら戦争など始めるはずもない。
「ロシアは資源大国じゃなくなる」
アメリカはプーチン氏のエネルギー戦略に乗じて潤っているようだが、中国もまたロシアとの絶妙な距離感で、美味しい思いをしている。
蓮見雄教授「わかりやすく言えば、漁夫の利ですよ。ロシアはエネルギーを買ってもらわなきゃならないから安くても売る。“シベリアの力”というパイプラインを使うんですが、ヨーロッパ向けと比べるとせいぜい4分の1くらい。(中略)“シベリアの力2“を作る話もあるが、これもロシア側が相当負担するだろうし、売れても安い・・・。基本的には中国に頼るしかない。ロシアは資源大国じゃなくなるリスクもある。資源開発の技術が禁輸になってる。西側の開発会社は撤退したし、LNGも自分じゃ作れないし、深いところも掘れない。」
原田大輔氏「クリミア併合後に合意したのが“シベリアの力”で、中国は欧州の10分の1の価格でガスを買っていた。国際的に孤立したロシアが頭を下げて長期契約した。それが8年前。それで今度も“シベリアの力2”をロシアが持ちかけてるんですが、今になっても中国は一言もそれを言わない」
兵頭慎治「ヨーロッパを揺さぶる目先のエネルギー戦略のために、中国への依存を必要以上に高めている。中ロも外から見ると“反米”で連携しているように見えるが、力関係は明らかにロシアが中国に頭を下げている。この従属関係はロシアにも不本意であると思う」
中国が6割を握っている
ロシアは自らエネルギー大国として世界の市場から退場した。ではエネルギーを背景にどこの国が世界の覇権を握っていくのか。果たして日本の未来はどうなるのか…資源エネルギー庁の資料では、日本の商社のこんな言葉が紹介されている。「2026年までに開始できる(LNGの)長期契約はすべて売り切れてしまっている。エネルギーの調達はすでに戦時状態だ」 
蓮見教授は気になる問題点を口にした。蓮見雄教授「日本はロシアとサハリン2との契約を続けたが、生産自体ができるのかどうかが問題。そうすると本気で再生可能エネルギーに取り組まなければならないということになるが、日本もヨーロッパもそうですが、太陽光パネルにしても発電機にしても、すべて鉱物資源が必要になるんです。そしてその鉱物資源の6割を中国が握っているんです。そうすると再生可能エネルギーを進めるためには資源をどう確保するのか…今後本気になって考えなければならないんです」
●米CIA高官、不満ロシア人の諜報員勧誘に意欲  11/22
米中央情報局(CIA)の高官は、ロシアによるウクライナ侵攻を巡り不満を抱くロシア人を諜報(ちょうほう)員としてリクルートすることに意欲的な姿勢を示した。
CIAでスパイ活動を担当する作戦本部の責任者、デビッド・マーロウ氏は先週行われたイベントで、ウクライナ侵攻はロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって大失敗だったと述べた。不満を抱くロシア人の存在は、西側情報機関にチャンスをもたらすという。
プーチン氏についてマーロウ氏は「侵攻の前日が頂点だった」とし、プーチン氏にはまだウクライナを威圧し、北大西洋条約機構(NATO)に影響を与え、ロシアが強大な国家であることを誇示する力があったと指摘。プーチン氏は「その全てを失った」とマーロウ氏と述べた。
また「われわれと同じように怒りを抱いているロシア人を世界中で探している」と語った。発言は米ジョージ・メイソン大学ヘイデン・センターで教職員らの聴衆を前に行われた。昨年の就任以来、対面でのイベントに姿を現すのは初めてだった。同センターが21日にイベントの動画を公開した。
マーロウ氏は2021年6月にウィリアム・バーンズCIA長官から現職に任命された。
複数の元CIA高官は最近、ウクライナ侵攻に対して多くのロシア人が不満を抱いており、軍人やオリガルヒ(新興財閥)、ロシアから脱出したビジネスマンらを諜報員としてリクルートする良い機会が訪れているとの見方を示した。マーロウ氏の発言はこうした見方に沿うものだ。
●世界遺産の大修道院捜索 ロシア影響で「スパイ」容疑―ウクライナ 11/22
ウクライナの情報機関・保安局(SBU)は22日、ロシアによる侵攻に絡み、首都キーウ(キエフ)にある世界遺産の「キーウ洞窟大修道院」を家宅捜索したと発表した。この宗教施設は、ロシア正教会の影響下にあるウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)に属しており、スパイ容疑をかけた格好だ。
SBUは家宅捜索について「(プーチン政権が目指す)ロシア世界の拠点として利用されるのを防ぐ」ためと説明。工作員をかくまったり、武器を隠し持ったりしていないかなどを調べるのも目的だと主張した。大修道院を巡っては今月、「ロシアに祈りをささげている」と別の教会関係者が告発していた。

 

●医療施設への攻撃703件…停電・断水・機器不足で数百が機能せず 11/23
世界保健機関(WHO)欧州地域事務局のハンス・クルーガ事務局長は21日、ウクライナの首都キーウで記者会見し、ロシアのウクライナ侵略により攻撃を受けた医療施設は703件に上ると発表した。クルーガ氏は「第2次大戦後の欧州で、医療機関に対する最大規模の攻撃だ」と非難した。
クルーガ氏によると、ウクライナでは停電や断水、医療機器の不足により、数百の医療機関が正常に機能していない。厳冬期には気温が氷点下20度まで下がる地域もあり、何百万人もの人々が命の危険にさらされると警告した。クルーガ氏は「ウクライナの医療制度は最も暗い日々に直面している。最終的に犠牲になるのは患者だ」と述べ、戦争の早期終結を求めた。
ウクライナ側は、露軍が占領地域の医療機関を軍事拠点にする動きがあるとして批判している。
ウクライナ軍の関連組織「国民レジスタンスセンター」は20日、南部ザポリージャ州内で、露軍が病院などに装備を搬入し、患者を「人間の盾」に使っていると非難した。同州では、露軍が負傷兵を収容するため、病院から民間人の患者を退去させたとの報告もある。
ウクライナ東部ルハンスク州の知事も先月、露軍が精神科病院から患者を追い出し、建物の要塞(ようさい)化を進めていると指摘した。同病院には地下施設があり、ウクライナ軍が反転攻勢を強める中、防衛拠点にしようとしているという。
●ウクライナも戦争犯罪か ロシア軍捕虜11人即決処刑疑惑の映像 11/23
ウクライナ軍がロシア軍捕虜を処刑する戦争犯罪状況がオンラインで広がり、国連が調査に着手するなど波紋が広がっている。米国政府も21日(現地時間)、今回の疑惑に関連してモニタリングしているという立場を明らかにした。
20日のニューヨークタイムズ(NYT)によると、18日からウクライナ・ルハンシク(ルガンスク)州マキイフカの農場でロシア軍捕虜11人が死亡した姿が入った映像がSNSを通じて広がり始めた。
NYT側の映像分析と説明は次の通りだ。マキイフカのある農家の倉庫近くに武装したウクライナ軍が3、4人が現れ、倉庫の外にはロシア軍の捕虜6人がうつ伏せになっている。ウクライナの軍人1人が銃を握って倉庫に入り、ロシア軍を1人ずつの外に出した。計4人が頭に手をのせて出てきて、うつ伏せになっていた捕虜の横に並んで同じくうつ伏せになった。この時、別のウクライナの軍人は倉庫の外側で伏せた姿勢で捕虜に銃口を向けている。そして11人目のロシア軍人が銃を持って外に出ながらウクライナ軍人1人に向けて発砲し、携帯電話で撮影されていた映像が揺れて撮影は中断した。
その後、どんなことが起きたのかは正確に分からないが、この後に撮影されたと推定される監視用ドローン(無人機)映像では、ロシア軍の捕虜がうつ伏せになった場所で頭部と上体から血を流して死亡していたと、NYTは伝えた。また、ウクライナ軍人に向けて発砲した11人目のロシア軍捕虜は現場で射殺されたと推定され、彼が立っていた倉庫付近のレンガはウクライナ軍の銃撃によりひどく損傷していた。
この映像はウクライナ側が12日、マキイフカ奪還を伝えながらウクライナ軍の技量を広報するために流布した。しかし死亡したと推定されるロシア軍人の多数が投降した捕虜という理由で、ウクライナ軍が戦争犯罪を犯したのではという声が高まった。
これに対して国連は調査を始めた。国連人権事務所のマルタ・ウルタド報道官は「この映像の存在を認識していて、調査している」とし「戦闘力を喪失した人を即決処刑した容疑は速かに調査されるべきであり、すべての加害者は責任を負わなければならない」と述べた。
米国のバンシャーク国際刑事司法担当特使も21日の電話ブリーフィングで「我々はその件を綿密に追跡している」と話した。バンシャーク特使は「戦争関連法がすべての当事者に同等に適用されることが重要だ」とし「侵略国家であれ防御国家であれ、すべての当事者は国際法を遵守するべきであり、そうでない場合は結果に直面しなければならない重要性を引き続き強調する」と述べた。
ただ、ロシア軍がその間に見せた犯罪の規模がはるかに大きい点を強調しながら「戦争犯罪疑惑が浮上すればロシアはこれを否認して宣伝や虚偽情報だと対応するが、ウクライナは虐待を認めて、その加害者を非難しながら調査を約束した」と話した。
ロシアは今回の疑惑を問題にするという立場だ。ロシアのペスコフ大統領報道官は「戦争犯罪を犯した人たちを捜し出すべきという話す必要もなく、必ず追跡して処罰する」と述べたと、タス通信は報じた。ロシア下院国際問題委員会のスルツキー委員長も自身のテレグラムに「下院は22日、ウクライナ民族主義者がロシア軍捕虜に銃撃を加えて殺害した事件に関して声明を検討・採択する予定」とし「国防および国際問題委員会の2カ所で声明を準備している」と伝えた。
●衛星インターネットが人々に希望与えるウクライナの瓦礫の街 11/23
ロシア軍が撤退したウクライナの南部ケルソン州では、国内最大の通信事業者「キエフスター」の拠点の復旧作業が続いている。11月17日、エンジニアたちは、爆撃によって倒壊したビルから、通信機器を取り出そうとしていた。
現地では多くのエリアがまだ停電中だが、侵攻前に80以上あった基地局のうちの5つがすで復旧しており、ロシア軍の地雷を取り除くと、さらに作業が進むという。ボーダフォンによると、ケルソンでの通信可能エリアは大幅に拡大し、街のほとんどをカバーできるようになった。
これまでの作業でエンジニアたちが互いに通信できたのは、イーロン・マスクのスペースXの「スターリンク」が無料で提供する衛星インターネットのおかげでもある。「緊急事態には非常に有効だ」とキエフスターのCTOのボロドミール・ルチェンコは言った。
現地で最大の通信事業者であるボーダフォンとキエフスターの両社は、ウクライナのデジタル変換省(Ministry of Digital Transformation)からスターリンクのシステムを与えられた。同省は、キエフ政府の他の部門とマスクが対立していても、マスクのウクライナへの援助を支持している。マスクは以前、ウクライナが戦争の集結のためにクリミアを放棄すべきだという和平提案を行ったことがある。
これを受けて、キエフの外交官らは激怒し、マスクに「失せろ」とツイートした。マスクは、彼らの命令に従い、スターリンクの提供の中止を示唆したが、その後はこの発言を撤回し、今でも無償提供を続けている。
ケルソンの市民たちは、ディーゼル発電機で稼働する通信ステーションの周りに集まり、外国からの最新情報を得たり、愛する人と連絡を取ったりしている。「スターリンクのインパクトは想像を絶するものだ」とルチェンコは述べた。
戦争が始まって以来、危険な都市で作業を続ける通信技術者たちは、ウェブへのアクセスを維持する英雄として賞賛されてきた。ウクライナでは、今も戦争が続き、莫大な数のロケット弾が発射されているが、技術者たちの決死の作業はその中でも続いている。
●ウクライナ人市民6500人超が死亡、ロシアの侵攻開始以降 11/23
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、ロシアが2月にウクライナに侵攻して以来、少なくとも6595人のウクライナ市民が死亡し、1万189人が負傷した。
21日に発表された統計によると、死亡者の内訳は子ども415人、男性2575人、女性1767人、性別が特定されていない成人1838人。
犠牲者の多くはウクライナ東部に位置するドンバス地方のドネツク州とルハンスク州に集中している。同地方は戦争の中心地で、ここ数カ月で最も激しい戦闘が行われている。
OHCHRの報告書によると、ドネツク、ルハンスク州で市民3939人が死亡し、5338人が負傷した。ここにはロシアが支配する地域の449人も含まれる。
マリウポリ、イジューム、リシチャンスク、ポパスナ、セベロドネツクなどの都市を含む戦闘が激化している地域では情報が欠如していたり把握が遅れているため、実際の数字は「かなり多い」とOHCHRはみている。
死傷者の大半は重砲による砲撃、多連装ロケットシステム、ミサイル、空爆など、広範にわたって影響を及ぼす爆発性兵器の犠牲となったという。
●ウクライナ情勢のエスカレーションに備える必要=独首相 11/23
ドイツのショルツ首相は22日、ウクライナ情勢がエスカレートする可能性に備える必要があるという認識を示した。
ショルツ首相は「戦争の進展状況や目に見えて拡大しているロシアの失敗を踏まえると、われわれは情勢のエスカレーションに備えなければならない」とし、インフラの破壊も含まれる可能性があると述べた。
さらに、今月初めの中国訪問で、ウクライナでの核兵器使用への反対姿勢を習近平国家主席と共同で明示したことには価値があったと述べた。
ショルツ首相はまた、ドイツが「ロシアへの依存という過ち」を中国との関係で繰り返すことはないと言明。ドイツはすでに貿易を多様化していると強調した。
ドイツ商工会議所(DIHK)は21日、貿易相手国の多様化に向け産業界への支援強化を政府に要請。DIHKの対外貿易担当責任者は「ドイツ政府の中国戦略について、これまで聞いている内容は極めて防御的なものだ。特にアジア太平洋の広い範囲で一方的な依存関係を避け、持続可能な経済関係を構築するための支援戦略が欠けている」と述べた。
●プーチン大統領 キューバの大統領と会談 対米結束を確認か  11/23
ロシアのプーチン大統領は旧ソビエト時代から友好関係にあるキューバの大統領と会談しました。ロシアとキューバはいずれもアメリカから制裁を受けており、結束を強化したい思惑とみられます。
ロシアのプーチン大統領は22日、首都モスクワで、キューバのディアスカネル大統領と会談しました。
会談の冒頭でプーチン大統領は「ソビエト、そしてロシアは独立と主権のために闘うキューバを支持してきた。われわれはさまざまな制限や禁輸措置に反対してきた」と述べ、旧ソビエト時代から続くキューバとの友好関係を強調しました。
これに対してディアスカネル大統領は「ロシアとキューバには一方的な制裁を科す共通の敵がいる。それがアメリカだ」とアメリカを批判しました。
そのうえで「ロシアは以前からNATO=北大西洋条約機構のロシア国境に対する攻撃的な姿勢は容認できないと警告してきた」と述べ、ウクライナに軍事侵攻したロシアの立場に理解を示しました。
また会談に先立ち、両首脳は、キューバ革命を主導し反米の社会主義政権を率いたフィデル・カストロ氏をたたえる記念碑の除幕式に参加し、プーチン大統領は「カストロ氏は、カリスマ的な指導者だった。多極化する世界秩序について、彼と意見を交わしたことがある」と振り返りました。
ウクライナ情勢をめぐりアメリカと対立が深まる中、ロシアとしては政治や経済の分野でキューバとの結束を強化したい思惑とみられます。
●孤立プーチン氏に助け船 欧米非難でロシアと意気投合―キューバ大統領 11/23
ロシアのプーチン大統領とキューバのディアスカネル大統領は22日、モスクワで会談し、米国による制裁に反対する立場で意気投合した。ディアスカネル氏は、ウクライナ侵攻を続けるロシアの招待に応じて「助け船」を出し、北大西洋条約機構(NATO)拡大も非難。国際的に孤立するプーチン氏にとって、心強い味方となったようだ。
「ソ連、ロシアは常に、独立や主権のために闘うキューバ国民を支持している」。プーチン氏は、今や外国首脳が訪れることがまれなクレムリン(大統領府)でディアスカネル氏を歓迎。「われわれはあらゆる制限、禁輸、封鎖などに反対してきた」と伝えた。
米国の制裁を受けてきた歴史はキューバの方が長いが、今ではロシアが制裁対象の筆頭だ。「封鎖」という言葉は、60年前に米ソが核戦争の瀬戸際に立った「キューバ危機」での米国による海上封鎖を連想させる。
ディアスカネル氏は、ロシアとキューバに一方的に制裁を科す米国を「共通の敵」と表現。「世界の大部分を操るヤンキーの帝国だ」と糾弾した。ウクライナ侵攻の背景にあるNATO拡大も「受け入れ難い」と批判し、ロシアに寄り添った。
最近のロシア外交は、米国一極支配への対抗軸として「反植民地主義」を掲げている。プーチン氏自身、10月に内外の専門家を集めた「バルダイ会議」で、重視する地域としてアフリカ、中南米、アジアを列挙。「ロシアには友人が多い」と言い張った。
プーチン氏はクレムリンでの会談前、ディアスカネル氏と共に、モスクワに完成したキューバ革命の英雄、故フィデル・カストロ元国家評議会議長の銅像の除幕式に出席した。あいさつでカストロ氏について「植民地解放運動の時代のシンボルだった」と称賛。新たなロシア外交をてこ入れしようと、キューバを徹底的に利用した。
●NATO、ロシアの核に核で応じず=エストニア大統領 11/23
エストニアのアラル・カリス大統領は22日、ウクライナが得られる唯一の安全保障は北大西洋条約機構(NATO)加盟であり、時間はかかるがいつかは実現するとの見方を示した。同時に、ロシアによる核のエスカレーションにNATOが核を持って対応することはないとの考えを示した。
カリス大統領はトロント大学のムンク国際問題・公共政策研究所で行った講演で「ウクライナはNATO加盟を希望している。エストニア人として、NATO加盟による安全保障が唯一の安全保障であると断言できる」とし、「NATOの一段の拡大とウクライナの加盟申請を真剣に検討しなければならない」と述べた。
「ウクライナのNATO加盟は戦争が終わった翌日に実現するものではない」としながらも、スウェーデンとフィンランドの加盟手続きが迅速に進んでいることに言及し、ウクライナの加盟も「いつかは必ず実現する」と予想。エストニアのようにまず欧州連合(EU)に加盟し、その後にNATOに加盟するのが現実的との見方を示した。
また「ウクライナによる領土の一体性の回復はロシアの敗北を意味し、これがロシアの不安定化、もしくは崩壊につながる可能性があるとの懸念は認識している」と言及。ロシアがウクライナ以外の国も攻撃する事態になれば、バルト3国などの欧州の国だけではなくNATO加盟国が対象になるとし、その場合はNATOは対応するとの見方を示した。ただ、ロシアのプーチン大統領が「核のボタン」を押したとしても、NATOが核を持って対応することはないと断言した。
カリス大統領はノバスコシア州で開催されたハリファクス国際安全保障フォーラムなどに出席するためにカナダを訪問。カナダのトルドー首相とも会談した。 
●ウクライナ「ロシア、第2次動員令推進…今回は70万人徴兵のもよう」 11/23
ウクライナ戦争で兵力不足を強いられているロシアが第2次動員令を通じて最大70万人を招集する計画を立てているというウクライナ政府要人の主張が22日(現地時間)、出てきた。
この日、英国スカイニュースによると、ウクライナのアントン・ヘラシチェンコ内相顧問はツイッターに「ロシアが来年1月に第2次動員令を発令する準備をしている」としながら「50万〜70万人を動員する計画」と明らかにした。ヘラシチェンコ氏は「以前動員された30万人はすでに戦死するか負傷しており、戦闘意志を喪失している」としながら「ロシア人は静かに当局に不満を抱き始めた」と伝えた。ただしヘラシチェンコ氏はこのような主張を裏付けるほどの資料は公開しなかった。
スカイニュースはヘラシチェンコ氏の主張が事実なら、戦争状況がロシアのプーチン大統領が考えたように進まなくなっているという意味であり、ロシアが兵士の補充を通じて長期戦に備えようとしていると伝えた。
ロシアのウクライナ侵攻が約9カ月間持続し、ロシア側は兵力不足に苦しめられている。これに対してロシアは今年9月に下した動員令を通じて予備軍30万人余りを徴集したと明らかにした。
ロシア政治専門家である筑波大学の中村逸郎名誉教授は「ロシア政府に反抗的な人物や重病にかかった人が動員される場合もあった」としながら「彼らを動員しなければならないほどロシア軍の兵士不足は深刻だという意味」と伝えた。
また、フォーブスによると、動員された兵士たちを対象に当初予定された3カ月間の訓練は行われないまま彼らは直ちに戦場に投入された。ロシア系独立メディア「メドゥーサ」は戦闘能力が低い兵士は「人間盾」と呼ばれて最前方に配置されたと伝えた。
外信によると、これら兵士に支給された装備の中には70年代の旧式で錆ついた銃や穴の空いた防弾服などがあった。さらに劣悪な装備まで不足して武器などを各自購入して準備するという命令を受けた兵士もいると外信は伝えた。
●「信じられないほど危険で、気が滅入る」、ウクライナ軍兵士らが語る 11/23
ずたずたになった金属、焼け焦げた残骸、割れたガラスが床に散乱している。ウクライナ軍の偵察隊がロシア軍の司令部に突入すると、そんな光景があった。司令部は最近解放されたウクライナ南部の都市、ヘルソンの郊外にある。
「こっちへ来い」。ウクライナ軍の兵士の一人が不意に叫ぶ。「担架と救急箱を持ってこっちに来るんだ」
その直後、掩蔽壕(えんぺいごう)からロシア軍の兵士1人が現れる。脚の裏側を負傷している。ウクライナ軍の兵士らによって床にうつ伏せに寝かされ、応急手当てを受ける。
「自分たちはここにくぎ付けになった。他は全員逃げ出した」「掩蔽壕に落ちて、夜までそこに横たわっていた。味方が来て隊長を連れて行き、それっきりだ。後で戻ってくると言っていたが、誰も来なかった」と、この兵士はウクライナ兵に告げた。
ここでのやり取りはウクライナの偵察隊が記録し、CNNと共有した。その貴重な内容からは、南部の要衝ヘルソンを巡る戦闘の過酷さがうかがえる。最終的にロシア軍は、ドニプロ川西岸の広範な地域から今月初めに撤退。今回の戦争における大きな後退を余儀なくされた。
ウクライナの偵察隊によれば、前出のロシア兵は安全な場所へ連れていかれ、傷の手当ても受けた。だがロシア政府の命令でここに送られた多くの兵士は、もっと異なる結果に直面している。
「ロシア軍はここで大損害を被った」。偵察隊を率いる28歳のアンドリー・ピドリスニー氏はCNNの取材にそう語る。敵陣のごく近くで活動しているため、同氏の部隊はロシア兵の会話や調理の様子、薪(まき)を割る音も耳にするという。
部隊は目視とドローン(無人機)の使用によって標的を特定し、座標を自軍の砲兵隊に伝達する任務を担う。
この部隊には、より高度な訓練を受けた国外出身の志願兵が含まれている。彼らは戦争が始まってからウクライナにやってきた兵士たちで出身国は米国や英国、ニュージーランド、ドイツ、その他欧州諸国となっている。志願兵らは過去にはそれぞれの国の軍隊に所属し、中にはシリアでクルド人部隊と共に過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」と戦った兵士もいる。
CNNと共有したドローン映像には、砲撃を浴びるロシア兵が塹壕(ざんごう)に逃げ込む様子が映っている。最初の一斉砲火は標的をやや外れたが、偵察隊の兵士がドローンを使用して微調整の指示を砲兵に送ると、数秒後にはロシア軍の掩蔽壕と塹壕から煙と土ぼこりが立ち上った。
こうした攻撃にさらされる恐怖は、土ぼこりの中を必死で逃げ惑うロシア兵の姿に如実に表れている。彼らは安全に身を隠せる場所を求めて走るが、周囲を襲う爆撃は激しさを増す一方だ。
夏から秋にかけて、ヘルソン州の前線ではこうした戦闘が繰り返されていた。ピドリスニー氏によればロシア軍は銃火器の数でこそ勝るものの、北大西洋条約機構(NATO)など西側諸国から供与されるウクライナ軍の銃火器は精度で優位に立っているという。
高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」などが威力を発揮した結果、撤退前のロシア軍は先月だけで90台の戦車を失ったと、ピドリスニー氏は指摘する。
ロシア軍をドニプロ川西岸から撤退させた際には歓喜に沸いたウクライナ軍だが、そこに至るまでは「何カ月も欲求不満の状態が続いた」と、ニュージーランドから戦闘に参加したジョーダン・オブライエン氏(29)は振り返る。
6月からウクライナ軍の対戦車部隊に加わる同氏は、「戦場で戦果を挙げるのは難しかった。実際のところ、ロシア軍の戦車が見える地点にたどり着くのが極めて困難だった」「相当な深みにはまっていた」と振り返る。
シリアで戦ったこともある英国人のメイサー・ギフォード氏(35)も同意見だ。「この数カ月は間違いなく激戦だった」「ロシア軍はありとあらゆる汚い戦術を使った。民間人のいる地域への大規模爆撃も行った。そのため戦闘は信じられないほど危険で嫌な、気が滅入るものになった」
ピドリスニー氏とその部隊に安堵(あんど)感が広がったのは、ロシア軍がドニプロ川の向こうへ撤退する可能性があるとの情報が入り始めた時だ。
同氏によると、ロシア軍はヘルソンから夜の闇に紛れて今月8日から9日にかけて撤退を開始。10日までにはドニプロ川西岸の全ての部隊が河岸へ後退し、東岸に渡り始めた。撤退は翌日完了し、ロシア国防省が公式のテレグラムチャンネルでそれを確認した。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)やハルキウからの撤退が混乱の中で行われた一方、ロシア国防省はヘルソンからの撤退について計算された判断であり、プロフェッショナルらしいやり方で遂行されたと主張。「軍の装備や武器はただの一つも右岸((西岸)に残されてはいない」とした。
ただピドリスニー氏の部隊は、この説明を鵜呑み(うのみ)にしていない。ロシア軍はおよそ1週間かけて撤退を準備していたものの、そこにはやはり慌てた様子が見られた。
「別の諜報(ちょうほう)部隊と共にロシア軍の陣地を調べたところ、極めて迅速に最前線から逃げ去ったことが分かった。書類など、多くのものも置きっぱなしだった」(ピドリスニー氏)
CNNと共有した動画にも、弾薬の入った多数の箱などが映っている。ギフォード氏は「対空砲から手榴弾(しゅりゅうだん)、小火器まであらゆる武器を大量に残していった」と述べた。
ウクライナ軍の兵士らは、こうした兵器の回収に驚きながらも「資源の再配分」と呼んで歓迎している。
●ウクライナ巡り米ロ応酬 中国懸念、ASEAN会議 11/23
東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大国防相会議が23日、カンボジア北西部シエムレアプで開かれた。日米中韓ロも参加する枠組みで、ロシアによるウクライナ侵攻を主に討議した。外交筋によると、米国や日本などはロシアを非難し、中国も懸念を表明。一方、ロシアは和平の用意があるとしながらも、米欧が妨害していると主張した。
ロシアから出席したフォミン国防次官は「建設的な和平交渉は歓迎するが、西側諸国とウクライナ政府は興味を示していない」と批判した。
これに対し、オースティン米国防長官は「ロシアによる無謀な戦争」を非難し、ウクライナ支持を呼びかけた。
●ロシアがウクライナ向けのガス供給を縮小…唯一残った欧州向けルート 11/23
現在ロシア産天然ガスの欧州向けパイプラインで唯一残ったウクライナ経由のルートについて、ロシア国営のガスプロムがその供給量を減らすと警告した。ブルームバーグ通信が22日に報じた。
現時点で確定はしていないが、28日午前10時から供給量の削減が実行に移される可能性があるとロシア側が通告したという。影響で安定傾向にあった欧州のガス卸売り価格が急騰した。
ロシアは欧州向けに複数のルートを通じて1日4億5000万立法メートル以上のガスを供給してきたが、今年2月のウクライナ侵攻で欧州から大規模な経済制裁を受けたため、これに対抗するため欧州向けのガス輸出を大きく削減した。
欧州に向かうロシア産ガスのルートはバルト海の海底を通るノルドストリーム1が最も大きく、1日1億5000万立法メートル以上がドイツ北東のルブミンに送られてきた。ところがロシアは6月にこれを40%減らし、7月末にはさらに20%減、9月2日からは完全に供給を中断した。
内陸のパイプラインではベラルーシからポーランドを経てドイツにつながるルートもあるが、ポーランドへの供給がストップしたためこれも現在はほぼ停止状態だ。このパイプラインはドイツからオーストリア、イタリアへと再びつながっている。
もう一つの内陸パイプラインがウクライナ経由で、ウクライナとロシアの国境2カ所からウクライナを経てハンガリー、スロバキア、チェコはもちろん、その先のオーストリアやフランスにまで続いている。
ロシアは戦争中もウクライナ経由のラインには手をつけなかったが、ウクライナが2カ所のうち1カ所を戦争の兵站を理由に閉鎖したため、残る1つはウクライナ経由ルートの出発点として引き続き開いている。これが現在欧州に向かうロシア産天然ガスの唯一のルートになっているのだ。
現在も1日4300万立方メートルが供給されているが、ガスプロムは冬の暖房でガスが最も必要な季節にこのパイプラインによる供給の削減を通告したのだ。ウクライナの隣国モルドバに向かうガスにも影響する決定だが、その理由について明確な説明はない。
ロシア産天然ガスは他に黒海経由のトルコラインが2本ある。
欧州につながるロシア産天然ガスは一時1日4億立方メートル近くに達したが、現在はその約10分の1となるウクライナ経由の4300万立方メートルだけだ。これが近いうちにさらに半分になるというのだ。
●欧州の軍備増強 ウクライナ危機で「米国頼み」に拍車 11/23
ロシアのウクライナ侵攻で、欧州各国が軍備増強に動いている。欧州連合(EU)で、加盟国の国防支出は3年以内に約700億ユーロ(約10兆円)増額される見込み。欧州は防衛産業の競争力強化をめざすが、米国など域外からの輸入への依存が一層顕著になっている。(パリ 三井美奈)
ウクライナ侵攻「見本市」
欧州では今年、米国製兵器の発注計画が相次いだ。
バルト三国のリトアニアとエストニアは高機動ロケット砲システム「ハイマース」の調達を決めた。フィンランドは誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)を約5億3500万ドル(約760億円)で購入する。いずれも米国がウクライナに供与し、露軍撃退で威力を発揮したものだ。
無人機では米国以外からの調達計画も目立つ。ドイツやチェコはイスラエル、ルーマニアはトルコから無人機の導入に動いた。フィンランド軍高官は本紙に「ウクライナで無人機攻撃の重要性が示された。今後の戦争を変える」と話した。
ウクライナの戦場は武器「見本市」の様相を呈した。米国は次々と最新鋭兵器を投入し、技術力を欧州に見せつけた。
軍事産業の脆弱さを露呈
2月24日にウクライナ侵攻が始まった後、欧州各国は国防費を国内総生産(GDP)の2%、またはそれ以上に引き上げる方針を表明した。
EU安保を主導するフランスは、軍備の域外依存から脱却する機会と位置付けた。マクロン仏大統領は3月、ベルサイユでEU首脳会議を開き、「欧州の主権を守るのに、装備を外国に頼っては意味がない。防衛産業の構築が必要だ」と訴えた。欧州は軍備の約6割を米国など域外からの輸入に頼ってきたためだ。
だが、欧州軍事産業の脆弱(ぜいじゃく)さも浮き彫りになった。戦車輸出国ドイツは、ポーランドが旧ソ連製戦車をウクライナに供与した後、戦車を補給供与する約束だった。それがなかなか届かず、ポーランドは対独不信をあらわにした。ポーランドは米国にM1A2エイブラムス戦車250両を発注したのに続き、今夏には韓国製K2戦車180両を発注。韓国製を1000両まで増やす方針を示した。
フランスは、自走榴弾(りゅうだん)砲カエサル18基をウクライナに送った。機動性に優れた装備は戦場で効果を発揮し、ウクライナは「もっと欲しい」と要求したが、仏国内で稼働可能なカエサルは76基しかなく、すぐに応じられない。「フランスはEUの軍事大国なのに支援が見合っていない」(ラスムセン前NATO事務総長)と批判を招いた。
F35 予測超え550機配備へ
米国は圧倒的な軍事支援でウクライナを支え、欧州安保の主軸であることを示した。特に、最新鋭ステルス戦闘機F35は欧州で「空の守り」を担うことが決定的になった。ドイツやチェコ、ギリシャが購入意欲を表明。すでに導入を決めたフィンランドやポーランドに続いた。米欧州軍司令官は3月の米下院軍事委員会で、欧州のF35配備は2030年には「550機体制になる」と述べた。前年の予測より100機増えた。
欧州では独仏やスペインが次世代戦闘機を共同開発して40年の導入を目指すが、開発の権限争いなどで難航し、「50年以降になる」の声が出ている。英国やスウェーデン、イタリアは35年の就役を目指す。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のイアン・アンソニー研究員は「韓国が多くの発注を得たのは、迅速な供給体制があったから。軍備は各国が必要なときに調達できなければ、意味がない。欧州は、長年の投資不足のツケが回ってきた」と指摘する。
●カザフスタン大統領、ウクライナ和平「集団的な」模索を呼びかけ 11/23
カザフスタンのトカエフ大統領は23日、ウクライナ和平を「集団的に」模索する時が来たとの考えを示した。
トカエフ大統領は、アルメニアの首都エレバンで開かれたロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」首脳会議に出席。会議後に「ウクライナ和平を集団的に模索する時期が来た。いかなる戦争も和平交渉で終わる。少なくとも停戦を実現するために、いかなるチャンスも逃してはならない」とし、「兄弟のようなロシア人とウクライナ人が、互いに癒えない傷を抱えたまま、何十年、何百年にわたり袂を分かつことがあってはならない」と述べた。
トカエフ氏は20日に実施された大統領選挙で圧勝し、2期目続投を決めた。これまでにロシアのプーチン大統領によるウクライナでの領土主張に公然と反対したことがある。
●ASEAN拡大国防相会議 日米中ロ 参加 ウクライナ情勢で意見交換  11/23
ASEAN=東南アジア諸国連合に加えて日本やアメリカ、それにロシアなどが参加するASEAN拡大国防相会議が23日、カンボジアで開かれ、ウクライナ情勢などについて意見が交わされました。
カンボジアで開かれたASEAN拡大国防相会議には、ASEANの加盟国に加え、日本の小野田防衛政務官、アメリカのオースティン国防長官、それに中国の魏鳳和国防相やロシアのフォミン国防次官が出席しました。
会議は非公開で行われ詳しい内容は明らかになっていませんが、外交筋によりますと、ロシアによるウクライナ侵攻について意見が交わされ、アメリカなどがロシアを非難したということです。
また、軍によるクーデター以降混乱が続くミャンマー情勢についても話し合われたということですが、ASEAN側が国軍の任命した国防相の出席を拒否したため空席となりました。
一方、会議に先立ち22日、オースティン国防長官と魏鳳和国防相が現地で会談し、アメリカ側は中国に対して台湾情勢をさらに不安定にする行動を控えるよう求めていました。
これについて中国国防省は「台湾は中国の台湾であり、台湾問題の解決は中国人によって決められるべきだ」として、反発しています。
●クリミア軍港にドローン攻撃 各地で激しい戦闘―ウクライナ 11/23
ロシアが一方的に「併合」したウクライナ南部クリミア半島の軍港都市セバストポリで、複数のドローンによる攻撃があった。親ロシア派のラズボジャエフ市長が22日、通信アプリで明らかにした。ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で9カ月となる中、各地で激しい戦闘が続いている。
セバストポリには、ロシア黒海艦隊の司令部がある。市長はウクライナによる攻撃と断定し、火力発電所に向かっていた2機のドローンが撃墜されたと述べた。海上でもドローンの攻撃が複数回あった。死傷者は出ていないという。
一方、ウクライナなどのメディアは、黒海沿岸のロシア港湾都市ノボロシスクの石油ターミナルに攻撃が加えられたと報じた。ターミナル付近には黒海艦隊の主要基地があり、セバストポリに対する8月の攻撃後、多数の潜水艦が移動していた。
英国防省は22日の戦況分析で「ノボロシスクを脅かすウクライナの能力が明らかになれば、黒海艦隊はさらなる戦略的課題に直面する。既に弱体化しているロシアの黒海での影響力がさらに低下する」との見方を示した。
●ロシアは「テロ支援国家」 欧州議会が決議 11/23
欧州連合(EU)欧州議会は23日、フランス東部ストラスブールで開かれた本会議で、ウクライナへの侵攻を続けるロシアについて、テロ支援国家であることを確認する決議を賛成494、反対58で採択した。棄権は44だった。決議に法的拘束力はない。

 

●ロシア主導の軍事同盟会議にプーチン大統領が出席 連携を強調  11/24
ロシアが主導する軍事同盟のCSTO=集団安全保障条約機構の首脳会議が23日、議長国をつとめるアルメニアの首都エレバンで開かれました。
会議には、ロシアのプーチン大統領も出席し「われわれは、大祖国戦争に勝利したという共通の歴史を持ち、真に結束している」と述べ、加盟国である旧ソビエト諸国の連携を強調しました。
アルメニアでは、対立するアゼルバイジャンとの国境でことし9月に武力衝突が起きて、あわせて200人以上が死亡したと伝えられ、プーチン大統領は、先月双方の首脳と会談して仲介するなど存在感を示そうとしました。
ロシアがウクライナ侵攻を続けるなか、軍事同盟に加盟する一部の国が距離を置くいわゆる「ロシア離れ」の動きも指摘されています。プーチン大統領としては、各国の首脳が集まる会議で、勢力圏とみなす国々の引き締めを図りたい思惑があるとみられます。
カザフスタン大統領「和平を模索する時」
また、会議では加盟国のカザフスタンのトカエフ大統領が、ウクライナ情勢について「和平を集団的に模索する時が来たと思う。どんな戦争でも、和平交渉で終わる。少なくとも休戦を実現するために、どんな小さな機会も使う必要がある」とロシアのプーチン大統領がいる前で交渉による解決を目指すべきだと訴えました。
トカエフ大統領は、ことし6月にもプーチン大統領を前に、ウクライナ東部ドンバス地域の2州の親ロシア派による独立宣言を認めないと発言するなどロシアとは一線を画す姿勢を示しています。
●ウクライナの4原発で外部電源喪失 11/24
ウクライナ原子力企業エネルゴアトムは23日、ロシアによる全土へのミサイル攻撃を受け、南部ザポロジエ原発など国内の4原発で外部電源と切断したと発表した。放射線量は正常という。
●ウクライナ、「ロシアが冬の寒さを大量破壊兵器に利用」と批判 11/24
ウクライナが、ヘルソン南部要衝地のキンブルン半島をほぼ奪還し、安定した反撃の橋頭堡を確保した。22日、海外メディアによると、ミコライウ州知事のヴィタリ・キム氏はツイッターに、「私たちはこの地域(キンブルン半島)の支配権を回復しつつある」とし、「3つの集落を奪還すれば地域全体がウクライナの管理下となる」と明らかにした。
南部ミコライウ州(キンブルン半島)は、ヘルソンを横切って黒海につながるドニエプル川の下流にある。ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島から300キロほど離れており、ウクライナの主要港都市と黒海を結ぶ水上交通の要衝地だ。ロシア軍が、今月初めにヘルソンから退却した後、ドニエプル川の東に構築した防衛線からわずか数十キロしか離れていない。
ウクライナのヘルソン制圧後、ドニエプル川東地域を奪還したのは初めて。米紙ニューヨーク・タイムズは、ウクライナがキンブルン半島を完全に確保するか否かによって戦争の行方が変わり得ると見通した。米紙ロサンゼルス・タイムズは、「クリミア半島を取り返す念願も蘇った」と報じた。
徐々に戦果を得ているものの、問題は天候だ。今年2月のロシアの侵攻後、初の冬が迫り、多くの住民が凍死することが懸念されるなど、人道上の危機が迫っている。ロシアがミサイル攻撃で電力施設を集中的に破壊し、ウクライナ全域で計画停電が続く中、首都キーウは同日、雪に覆われ、気温はマイナス4度まで下がった。東部ドネツク州の80代の住民は米CNNに、「ガスが断たれ、温熱器一つで耐えている。電気まで使えなくなれば、コートを着て毛布を覆って寝なければならない」と訴えた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は同日、フランスの全仏市長会(AMF)の画像演説で、ロシアがウクライナのエネルギーインフラを破壊したと批判し、「クレムリンは、冬の寒さを大量破壊兵器に変えようとした」と非難した。ウクライナ当局は、住民数百万人が来年3月末まで電力と水の供給が断たれた生活を強いられる可能性があると見ている。
●ウクライナ 首都に攻撃で3人死亡 南部では病院にミサイルで新生児死亡 11/24
ウクライナ情勢です。ロシアによる攻撃の影響で全土で緊急停電が実施されました。また首都キーウでは住宅へのミサイル攻撃で3人が死亡したほか、南部では病院にミサイルが着弾し、生後2日の赤ちゃんが亡くなっています。
キーウ市長によりますと、23日、市内の住宅がミサイル攻撃を受け、3人が死亡。このうち1人は17歳の少女だとしています。市内のインフラ施設にも攻撃があり、キーウ全域で給水が停止されているということです。
また国営電力会社によると、電力関連インフラが攻撃を受けた影響で、ウクライナ全土で24時間の緊急停電に入っています。
一方、南部ザポリージャ州の知事は、病院の産科病棟にロシア軍のミサイルが着弾したと明らかにしました。
ウクライナ大統領府は、この攻撃で生後2日の赤ちゃんが死亡したとしています。
ゼレンスキー大統領は「ロシアがこの日、インフラ施設のほか民間人に向けて67発のミサイルを発射し、悲惨な結果を招いた」としてロシアを強く非難しました。
●ロシアのインフラ攻撃を批判、安保理でゼレンスキー大統領 11/24
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、ロシアによる重要なインフラを標的にした攻撃に対して行動を起こすよう国連安全保障理事会に訴えた。
ウクライナでは23日、全土でエネルギー施設がロシア軍のミサイル攻撃を受け、北部キーウ州およびチェルニヒウ州全域で停電が発生。隣国モルドバの半分の地域でも停電が起きているという。
ゼレンスキー氏はオンライン形式で出席した安保理会合で「きょうだけで70発のミサイル攻撃があった。これはロシア流のテロだ」と批判。病院や学校、交通インフラ、住宅地が攻撃の対象になっていると指摘し、国際社会の「確固たる対応」を待ち望んでいると訴えた。
米国のトーマスグリーンフィールド国連大使はプーチン大統領が「ウクライナの人々に計り知れない苦痛を与えるために冬を武器にしている」と述べ、「国を凍らせて服従させるつもりだ」と批判した。
●戦況こう着、対話に壁 ロシア防衛線を強化―ウクライナ侵攻9カ月 11/24
ロシアがウクライナ侵攻を開始して、24日で9カ月となる。東・南部4州の占領地を一方的に「併合」後、ウクライナ軍の反撃で南部ヘルソン州の州都ヘルソン市からロシア軍が撤退し、本格的な冬を前に戦況はややこう着。双方はけん制し合いながらも対話に言及し始めたが、実現へのハードルは高い。
欧米働き掛けか
「ロシアによる破滅的な戦争を今、終わらせる必要がある」。ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、インドネシア・バリ島で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でオンライン演説。侵略された側に譲歩を迫るのは間違いだと訴えた上で、終戦に向けた10項目の条件を示した。
主な条件は、ウクライナの領土回復やロシア軍の撤退など。ロシアが第2次ミンスク停戦合意を破って侵攻した経緯から、ゼレンスキー氏は「第3次はあり得ない」と述べ、プーチン政権に都合の良い停戦には応じない姿勢を明確にした。
もっとも、軟化の兆しは見える。ゼレンスキー氏は占領地の「併合」を受けて10月、「プーチン大統領との交渉は不可能」とする大統領令に署名。態度を硬化させたが、10項目の条件提示後の今月16日には「(ロシアとの交渉は)水面下でなく、公の場で実施されるべきだ」と述べ、対話の用意を示した。兵器を供給する後ろ盾の欧米がゼレンスキー政権に軟化を働き掛けたとされる。
ただ、敵視してきたプーチン政権との手打ちを模索すれば、ウクライナ国内に動揺が走り、士気低下につながりかねない。ポドリャク大統領府顧問は最近、AFP通信のインタビューで「(対話開始は)領土を回復しているウクライナが、負けているロシアに降伏することを意味する」と強調。安易に和平に進むことはないと火消しを図った。
「非ナチ化」撤回
一方、プーチン政権は占領地をこれ以上失うのを避けるべく、防衛線の強化を急いでいる。ヘルソン市を含むドニエプル川西岸から東岸に撤退したのは、川を「堀」として活用する狙いだ。
東部ドネツク、ルガンスク両州の前線近くでは、民間軍事会社「ワグネル」が中心となって長大な塹壕(ざんごう)を構築。激戦の末に陥落させたドネツク州の港湾都市マリウポリ周辺には「竜の歯」と呼ばれる戦車用の障害物を設置し、ウクライナ軍の進撃を許さない構えだ。
ロシア側は力によって変更した現状を死守しつつ、ウクライナ全土のインフラを狙った攻撃で冬季に電力・暖房をまひさせ、無条件で停戦交渉に応じさせるシナリオを描いている可能性がある。
ペスコフ大統領報道官は21日、侵攻時に「非ナチ化」と称してゼレンスキー政権の排除を目指したことに関し、現時点で作戦の目標ではないと述べた。この説明について、ウクライナ主要紙は「クレムリンはゼレンスキー政権の存在に異を唱えていない」と指摘。占領地を維持したまま和平に持ち込みたいロシアが軟化した証拠と受け止めている。
●仏、ロシアの侵攻「信じず」 ジョンソン元英首相が述懐 11/24
英国のジョンソン元首相は23日までに、2月のロシアによるウクライナ侵攻を巡り、フランスが直前まで、実際に侵攻に踏み切るとの見方に否定的だったと述懐した。ドイツが当初、侵攻を「早く終わらせる」ことを望んでいたとも述べた。米CNNテレビ電子版が、系列メディアの取材内容として報じた。
ジョンソン氏は、侵攻後は各国がウクライナ支援で結束していると強調したが、発言は当初、足並みの乱れがあったことを示し、波紋を呼びそうだ。
各国が連携を強めていった背景については「この男(ロシアのプーチン大統領)と交渉するのは不可能で、選択肢がなかった」と指摘した。 
●ロシア主導ソ連圏の軍事同盟でプーチン氏連携アピール 11/24
ロシアが主導する旧ソ連圏の軍事同盟CSTO=集団安全保障条約機構の首脳会議が行われ、プーチン大統領が連携をアピールした一方、ウクライナ情勢をめぐり、ロシアから距離を置く国も出ています。
CSTOの首脳会議は23日、議長国をつとめるアルメニアの首都エレバンで行われ、平和維持部隊の装備を近代化させることなどで一致しました。
プーチン大統領は会議の中で「我々は大祖国戦争に勝利したという共通の歴史があり、結束は揺るぎない」と強調し、加盟国の連携をアピールしました。
一方、カザフスタンのトカエフ大統領はウクライナ情勢をめぐり、「和平を模索する時が来た。どんな戦争も和平交渉で終わる。少なくとも停戦を実現するため、あらゆる機会を利用すべきだ」と発言。侵攻を続けるロシアと一定の距離を置く姿勢を示しています。
●ロシア主導会議でプーチン氏にウクライナ停戦要求 露の求心力低下 11/24
ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO、旧ソ連6カ国で構成)は23日、アルメニアの首都エレバンで首脳会議を開いた。プーチン露大統領にウクライナとの停戦を求める声が上がったほか、アルメニアのパシニャン首相がロシアやCSTOに不満を述べ、共同宣言への署名を拒否する一幕もあった。ウクライナ侵略で進んだロシアの求心力の低下と、CSTOの足並みの乱れが改めて示唆された形だ。
ベラルーシのルカシェンコ大統領はウクライナ情勢について「停戦交渉を始めるべきだ」と指摘。「メディアには最近、ロシアがウクライナで敗戦すればCSTOは崩壊するとの論調がある」とし、「CSTOは存続し続けるが、団結が必要だ」と述べた。ウクライナ侵略がCSTO諸国を動揺させていることを暗に認めたものだ。
カザフスタンのトカエフ大統領も「ウクライナ情勢は和平を模索するときが来ている」と訴えた。
会議では一方、パシニャン氏が「過去2年間でアルメニアはアゼルバイジャンから3回攻撃を受けた」と主張。「わが国のCSTO加盟がアゼルバイジャンに攻撃を思いとどまらせなかったのは遺憾だ」「攻撃はロシアの停戦維持部隊の存在下で行われた」と指摘した上で、「こうした状況では共同宣言に署名できない」と述べた。
「逆風」にさらされた形のプーチン氏は、CSTOが「第二次世界大戦での勝利という共通の記憶」で結びついているとし、「ロシアはCSTO諸国に必要な支援を提供し、同盟の強化に全力で貢献する」と強調。パシニャン氏との個別会談でも「われわれは信頼と深いルーツを持つ同盟国だ」と述べるなど、CSTOの結束を維持したい考えを鮮明にした。
タス通信によると、ペスコフ露大統領報道官は会議後、「アルメニアはCSTOを離脱しない」と指摘。同盟が揺らいでいるとの観測の打ち消しに追われた。
アルメニアとアゼルバイジャンの間では2020年秋、係争地ナゴルノカラバフ自治州を巡る大規模紛争が発生。ロシアの仲介で停戦が成立したが、アルメニアは同州の実効支配地域の多くを失った。アルメニアとアゼルバイジャン間では今年9月にも衝突が発生し、CSTOはアルメニアの介入要請を事実上拒否。ロシアが友好国アゼルバイジャンとの対立を避けたとされ、アルメニアはロシアへの不満を強めていた。
9月にはCSTO加盟国であるキルギスとタジキスタンの間でも大規模な武力衝突が発生。一連の衝突の背景には、CSTOへのロシアの影響力の低下があるとの見方も出ている。
CSTOはロシアとベラルーシ、アルメニア、カザフ、キルギス、タジクの6カ国で構成。ただ、ウクライナ侵略ではベラルーシを除く各国がロシアから一定の距離を置く動きを強めるなど、足並みの乱れが指摘されてきた。
●ロシア同盟国がプーチン氏に反発 首脳会議の宣言署名を拒否 11/24
ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議が23日開かれ、議長国アルメニアのパシニャン首相が宣言への署名を拒否する異例の事態となった。隣国アゼルバイジャンとの紛争へのCSTOの対応に不満があるためだが、ウクライナ侵攻に苦戦するロシアの影響力低下も背景にある。
「CSTOによる同盟の義務の放棄を意味するだけでなく、アゼルバイジャンにとってはアルメニア侵略への青信号と解釈される可能性がある」
パシニャン氏は23日にアルメニアの首都エレバンで開かれたCSTO首脳会議でこう述べ、宣言案などへの強い不満を表明した。
アルメニアは隣国アゼルバイジャンと、アゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフを巡って対立。2020年の衝突で実効支配地の大半を失ったほか、今年9月にも両軍が衝突した。
●中国とインド、ロシアのウクライナ侵攻へのスタンスを変化させたのか? 11/24
ロシアのウクライナ侵攻後、何ヶ月にもわたって糾弾を控えていた中国とインドは、G20サミットで世界の主要国がロシアを強く批判する宣言をまとめるにあたり、妨害することをしなかった。
この動きは、ウクライナに多くの犠牲者と悲惨な状況をもたらし、食糧とエネルギーの価格高騰と経済の亀裂で何百万人もの生活を混乱させた戦争を終結させるのに、アメリカとその同盟国が考える最善の方法に中国とインドが歩調を合わせるという、大胆で目新しい政策転換の徴候とみていいのだろうか。
厭戦気分が広がる世界からすれば、成長著しい両経済大国が戦争に対する見方を変えてほしいと切望する向きは確かにある。
だがよく見ると、インドネシア・バリ島で開催されたG20サミットの終盤に発表された首脳宣言だけでなく、中国やインドが実際にみせた行動にも曖昧な点や微妙な部分があり、両国で本当に変化が起きているのは依然として不明である。
その立場は今後明らかになるとみられるが、現時点ではロシアと相当規模の交易を行い、これまでも紛争に関してあからさまな批判をすることもなかった両国は、自国の利益を追求しつつ、将来の選択肢を残しているだけなのかもしれない。
バリ島で実際に何が起きたかを正確に把握することは重要である。中国やインドによる政治的・外交的圧力がなければ、ロシアが戦争を終結させる可能性はきわめて低くなるという懸念が高まっているからである。
ロシアのラブロフ外相も出席したバリ島での2日間のサミットの期間中、ウクライナでの紛争の影が大きく忍び寄った。16日未明にポーランド東部をミサイルが襲ったというニュースを受け、アメリカのバイデン大統領は急遽、会合に出席していたG7およびNATO加盟国のメンバーとの緊急会合開催に向けて動いた。
G20サミット開催国のインドネシアのジョコ大統領は、「ロシアのウクライナ侵攻を宣言でどのように取り上げるかをめぐって紛糾する舞台裏の運営は、とてつもなく大変な作業だった」とした上で、「ほとんどのG20メンバーがウクライナ侵攻を強く非難したほか、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した」と宣言で発表している。
「ほとんどのメンバー」という全参加国ではなかったことを示す表現からすると、異論もあったことが示唆される。「ほかの見解や異なる評価もあった」や、G20が「安全保障問題を解決するためのフォーラムではない」ことを認めた表現にもそれが表れている。
だが最終的には、多くの犠牲者を出し、世界の安全保障の緊張を高め、世界経済を混乱させた戦争を強く非難する内容に落ち着いたとの見方もあった。
G20会合の宣言では、「ロシアのウクライナ侵攻を最も強い言葉で非難し、ウクライナ領土からの完全かつ無条件の撤退を要求する」とした3月の国連総会決議の文言が踏襲された。
ドイツのショルツ首相は「我々が団結するにあたり、G20サミットで重要な国々が一役買ってくれなければ、ウクライナ問題について驚くほど明確なメッセージを出すことはできなかった」としている。重要な国にはインドのほか、おそらく南アフリカなども含まれるとみられる。
ショルツ首相は「さまざまな理由があって国連決議を棄権した国があるにせよ、この戦争には正当性がないと思う人、非難の声を上げる人が世界には多くいることを示すものだ」としつつ、「これこそ、今回のサミットで得られた成果のひとつだと確信している。プーチン大統領は、自らの政策により世界から孤立しているのだ」と述べている。
G20リサーチグループのディレクター、ジョン・カートン氏は「中国とインドが目前にある大きな地政学的分断に際し、民主主義陣営に加わったことを大きな躍進、前向きな変化」と評している。
だが内情をみた上で、中国がロシアに対するスタンスを変えたと断言することを留保する外交関係者もいた。
中国の習国家主席は、ほかの首脳と直接顔を合わせるバリ島での会談の場で、妨害者や異常者と見られないようにしたに過ぎないのかもしれない。また、中国はこの宣言により、市民や民間インフラに対する攻撃を強化し、孤立感を強めつつあるロシアと一緒にされるのを回避することができる。
中国は依然としてロシアとの基本的な関係を変更しておらず、また公に疑問を投げかけることもしていない。パイプラインのプロジェクトや天然ガスの取引で両国の経済関係が強まるなか、中国は近年、ロシアと緊密に連携した外交政策を展開している。
ロシアの侵攻を公に批判することはおろか、その動きを侵略と呼ぶことさえも控える一方で、ロシアに課されている制裁を批判し、アメリカとNATOがプーチン大統領を挑発していると非難した。ただ、紛争解決を核兵器に訴えることには警告を発している。
ウクライナ侵攻の数週間前、ロシアと中国の首脳は北京で会談し、二国間関係には「際限がない」ことを確認する共同宣言に署名している。
G20サミットの宣言において「ほかの見解や異なる評価」を認め、G20が「安全保障問題を解決するためのフォーラムではない」という穏やかな表現の採択を中国が要求したかは不明だが、北京にある中国人民大学国際関係学部の時殷弘教授は、別の外交の場でも類似の表現を求めたことがあったとしている。
インドのモディ首相も同様に、ロシアのウクライナ侵攻への批判を控えてきた。だが首相は9月にプーチン大統領と会談した際、公の場で初めてロシアの侵攻について遺憾の意を示した。
モディ首相は「いまは戦争の時代ではない」とプーチン大統領に語ったとされる。インドのクワトラ外務大臣は記者団に対し、そのメッセージは「すべての代表団の心に深く共鳴し、さまざまな当事者間の意識の差を埋めるのに役立ち、バリでの優れた宣言文書の採択に貢献した」と述べている。
インドの元外交官、ナウディープ・スリ氏によると、ロシアに対するインドの立場には微妙な変化がみられるという。スリ氏は「中国は侵攻の数日前にロシアに対する無制限の支援を約束したため、インドと比べるとかなり苦しい立場に置かれているかもしれない」としつつも、「中国は遂に、ウクライナからのロシア軍の無条件かつ完全な撤退を含む、厳しい表現に同調してしまった」と話している。
同じく元外交官であるディリップ・シンハ氏は、ロシアから原油を輸入し、交易を続け、ロシアを批判する国連決議を棄権したインドについて「自分たちには自分たちのやり方があるという強がりの心理がある。ウクライナに侵攻したロシアに対するインドの外交政策には微塵の変化も感じられない」と述べている。
●「中国の技術革新は少なくとも5年は止まる」“半導体戦争”アメリカ輸出規制 11/24
2022年2月ウクライナ侵攻を始めたロシア。首都キーウに向かう一本道を、ロシア軍の大規模な車列が刻々と進む衛星写真が連日のように報じられた。
半導体は確保必至の戦略的物資
アメリカ政府内では当初、キーウへの猛攻が始まれば陥落まで3日も持たないだろうと囁かれていた。しかし、ロシアの大軍はピタリと止まった。ウクライナ軍はアメリカが供給した携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」で反撃を開始し、ロシア軍によるキーウへの本格攻撃をすんでのところで阻止したのだ。
しかし、長引く侵攻で、「ジャベリン」のアメリカ国内の在庫枯渇が問題視されるようになった。新規の製造がままならない。その大きな理由が半導体不足だという。「ジャベリン」システム一つにつき、250個以上の半導体が使用されているという。半導体はもはや単なる部品ではなく、確保しなければならない戦略的物資となっているのだ。
世界的に注目が集まっているこの半導体と米中間の覇権争いに着目した著書が10月にアメリカで出版され、大きな話題を呼んでいる。本のタイトルは『CHIP WAR』。直訳するとその名も「半導体戦争」だ。
著者でタフツ大学准教授のクリス・ミラーさんに話を聞いた。
中国にとって半導体は石油と同じくらい重要
――半導体を巡る米中の攻防に注目して本を執筆しようと考えたきっかけは何か?
軍事技術について研究していくうちに、半導体が過去数十年にわたる軍事技術の中核的存在であることが分かったのです。さらに驚くことに、中国は石油を輸入するのと同じくらい、半導体を輸入するのに資金を投じていたことがわかったのです。
世界情勢を読み解くうえで、私の考えを根本的に変える発見でした。半導体を中心に据えなければ、実は過去75年間の世界の動静を理解できないということが分かったのです。まさにこの期間の軍事力や大国の栄枯盛衰は、すべて先端半導体へのアクセスと生産に関係していたのです。
――アメリカ商務省は10月7日、先端半導体技術を巡り、中国との取引を幅広く制限する措置を発表したが、どのような意味があるのか?
この新しい規制は、中国が先端半導体や、その製造に必要な部品の輸入を困難にさせ、高度な技術力の獲得を大幅に遅らせることを目的としています。
アメリカは、次世代の軍事システムには、先端半導体とそれが可能にするコンピューティングパワーが不可欠になるとの結論に至っています。
中国は、軍事技術の面で近年驚くべき速さで革新を遂げていますが、先端半導体関連の輸出制限を講じることで、アメリカは技術面での優位性を保てると考えているのです。中国が今後も先端半導体をアメリカや日本などの国から輸入する。そんな現状の依存関係を維持することこそ、アメリカの戦略なのです。
――先端半導体への輸出規制で中国の軍事面の技術革新が遅れれば、懸念される中国による台湾への武力行使は抑止されると思うか?
短期的には抑止力になりませんが、長期的には中国を抑止するのに貢献すると思います。
先端半導体を巡る格差が広がれば広がるほど、アメリカは技術面で優位性が増し、軍事バランスが中国に有利に振れるのを阻止できるでしょう。
製造装置の世界市場を牛耳るのは日米蘭の5社
――中国は先端半導体の国産化に莫大な予算をつぎ込んでいますが、アメリカによる輸出規制は中国の技術革新を阻止できるか?
先端半導体を製造するために何が必要か考えてみてください。製造装置から製造過程で必要な薬剤まで、国産で製造することは不可能なのです。
最先端半導体の製造分野を見てみると、アメリカ企業3社とオランダ企業1社、日本企業1社が大きな役割を担っていることがわかります。この5社の技術がなければ最先端半導体を製造することはまずできないでしょう。
少なくとも今後5年は、中国がこの分野で大きな進歩を遂げるとはとても思えません。その先は何とも言えませんが、私の予想では、10年後の中国はまだ最先端技術に追いつくのに苦労しているのではないかと思います。
TechInsights(テックインサイツ)発表における2021年世界半導体製造装置の売上高上位5社ランキングによれば、1位はアメリカのApplied Materials社、2位にオランダのASML社、3位アメリカのLam Research社と続き、4位には日本の東京エレクトロンが入っている。5位はアメリカのKLA社だ。そして実にこの上位5社が製造装置市場全体の約70%を独占しているのだ。
中国は、半導体分野では最終的な組み立てや検査では世界シェアを有しているものの、先端半導体の製造に欠かせない製造装置の分野では、ほとんど市場シェアを持っていない。
アメリカがそこをうまくついた輸出規制なのだ。アメリカのレモンド商務長官は、製造装置市場で大きな存在感を放つ日本やオランダにも協力を促している。
インタビューの最後に、半導体戦争に最終的に勝利するのは誰なのか聞くと、「未知数」としながら、「かなりの自信を持って言えるのは。中国が主導的地位を築くことは非常に難しくなった」とミラー氏は語った。
●米国務省高官 ロシアによるインフラ施設攻撃を厳しく非難 11/24
アメリカ国務省の高官は23日、首都ワシントンで開かれたウクライナに関するイベントで「ロシアはエネルギー関連のインフラ施設を攻撃し、ウクライナを暗闇に陥れようとしている」と述べ、ロシアによるインフラへの攻撃を厳しく非難しました。
ワシントンでは23日、旧ソビエト時代の1932年から33年にかけて飢きんで亡くなったウクライナの人たちを追悼する式典が開かれました。
この飢きんは「ホロドモール」=「飢えによる虐殺」と名付けられ、ウクライナ政府は、当時のソビエト指導部が農村地帯から食料を没収したことが原因で、数百万人が飢餓で亡くなったとしています。
式典ではアメリカ国務省でエネルギー政策を統括するパイアット国務次官補が「われわれが今、目の当たりにしているのは現代版のホロドモールだ。ロシアはエネルギー関連のインフラ施設を攻撃し、ウクライナを暗闇に陥れようとしている」と述べ、ロシアによるインフラへの攻撃を厳しく非難しました。
式典のあとパイアット次官補は「アメリカはウクライナのエネルギーシステムを強化するための手段の提供を進めている」と述べ、支援を急ぐ考えを示しました。
また、ウクライナのマルカロワ駐米大使は「ロシアの軍事侵攻は彼らがホロドモールで行ったことと同じだ。われわれは諦めずに戦い、国を守る」と強調しました。

 

●ロシア国防省 ウクライナ各地のインフラ施設への攻撃を正当化 11/25
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、各地でインフラ施設への攻撃が繰り返され、冬の寒さの中で人々は厳しい生活を余儀なくされています。ロシア国防省は「ウクライナ軍の指揮系統と、関連するエネルギー施設に対して大規模な攻撃を行った」と主張し、攻撃を正当化しました。
ウクライナでは、23日も首都キーウなど各地でエネルギー関連のインフラ施設や病院への攻撃が繰り返され、ウクライナ国営の電力会社「ウクルエネルゴ」が全土で緊急停電を実施するなど、電力不足が深刻化しています。
市民生活への影響が広がる中、会社は24日、暖房や水道などのインフラ施設への電力供給を優先させていると発表し、キーウのクリチコ市長は「首都の全域で水道が復旧した」とSNSに投稿しました。
一連の攻撃についてロシア国防省は24日「ウクライナ軍の指揮系統と、関連するエネルギー施設に対して大規模な攻撃を行った」と発表し、攻撃を正当化しました。
その一方、「キーウ市内では一度も攻撃を行っていない。ウクライナ側の防空システムが発射したミサイルが住宅街に落下したものだ」と主張しました。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は24日、記者団に「ウクライナは、ロシア側の要求に応えることで状況を正常化させ、住民の苦しみを終わらせるチャンスがある」と述べ、ウクライナ側に非があるとする一方的な立場を繰り返しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、ロシアの攻撃を「エネルギーテロ」と呼び「人道に対する罪だ」と非難したほか、24日には「われわれはどんな困難にも打ち勝ち、最後は勝利する」とSNSに投稿し、徹底抗戦の姿勢を改めて強調しました。
一方、ウクライナ国防省の情報総局は24日「ロシアは依然として精度の低いミサイルを多く保有している。大規模攻撃はおおむね1週間おきだ」と分析し、ロシア軍が今後も東部や南部を中心に、インフラ施設や病院への攻撃を繰り返す可能性があると警戒しています。
●ロシア・ウクライナ戦争に苦しむモルドバ 11/25
・モルドバ共和国東部には事実上の「独立国」が存在し、ロシアが支持、ロシア軍がプレゼンスを維持している。
・ウクライナ電力網に対するロシアのミサイル攻撃でウクライナ側電力が不安定となり、繋がっているモルドバで大停電が起きた
・ポーランドやルーマニアだけでなく、モルドバ共和国もロシア・ウクライナ戦争で苦しんでいる。

Chisinauを何と読むか、皆さんはご存知だろうか。Chisinau(キシナウ)とはモルドバ共和国という、ウクライナとル―マニアに挟まれた人口260万の小国の首都だ。なぜ今モルドバなのかって?筆者が外務省を辞めて以来、どうしても訪れたい国の一つだったからだ。
モルドバ東部には、誰も承認はしていないが事実上の「独立国」が存在する。その「独立国」には名称が二つある。一つは「沿ドニエストル共和国」、もう一つが「トランスニストリア」、前者はロシア語のPridnestrovie、「ドニエストル川」に「沿った」地域を、後者はドニエストル川のルーマニア語「ニストリア」を「越えた」地域を意味するそうだ。
前者は明らかにロシア側から見た呼び名であり、後者はルーマニアからの発想である。ロシアはこの「独立国」を事実上支援し、同地に巨大なロシア軍プレゼンスを維持している。今回は、この地を含め、ウクライナ戦争勃発後のモルドバがどうなっているかを、どうしてもこの目で確かめたくなって、駆け足でやって来たという訳だ。
モルドバは近いようで遠い。トルコ航空でイスタンブールへ飛んだが、朝のキシナウ便は欠航となった。次の便までラウンジで待っていたら、全身黒ずくめながらヒジャーブから黒髪を大胆に見せる女子高生の集団に出会った。聞けばイラン人だという。「私たちは自由のため戦っているのよ」と宣った。なるほど、ここは中東なのだ。
到着後は大使館の支援でモルドバ政府高官に会えたが、会見場所は何と大停電、交通信号まで長時間止まり、キシナウ市内は大混乱となった。聞けば本日のウクライナ電力網に対するロシアのミサイル攻撃でウクライナ側電力が不安定となり、そこに繋がっているモルドバで大停電が起きたのだという。戦争の影響はここまで来たか。
モルドバ経済・社会は過去数年間、コロナ禍に始まり、ウクライナ戦争と難民流入で更なる大打撃を受けている。ロシアは対モルドバ・ガス供給を半減させ、価格も大幅に引き上げた。燃料費やガソリン価格は急騰し、電力不足で電力網をウクライナ、続いてルーマニアに繋いだが、それでもモルドバは慢性的な電力不足だという。
会談が終わってから、停電が続く闇の中を「トランスニストリア」との「国境」なるものを見に行った。大渋滞の中でキシナウから一時間半車で走り「検問所」に着いたが、そこから「独立国」は遠くて見えなかった。それでも、この緊張感は確かに「国境」だ。この先に巨大なロシア軍プレゼンスがあるかと思うと、気分は穏やかではない。
戦争当事国ウクライナの隣国というとポーランドやルーマニアのことばかり報じられるが、この戦争はモルドバをも確実に苦しめていることが今回良く分かった。モルドバ高官の「ウクライナはモルドバを守ってくれている」という言葉が忘れられない。幸い日本はモルドバにもきめ細かい援助をしているようで、先方からは大変感謝された。
●ウクライナとロシア、それぞれ50人の戦争捕虜を交換 11/25
ロシアとウクライナは24日、捕虜交換で双方がそれぞれ50人を引き渡した。両国の当局が発表した。
ウクライナ大統領府によると、この中には東部マリウポリやチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所で捕虜となった兵士らが含まれる。
両国は2月の戦争開始以来、これまでに1000人以上の戦争捕虜を交換している。
●ウクライナ猛反撃も見えぬ出口戦略 停戦しても残る「非承認国家・地域問題」 11/25
2人が死亡したポーランドへのミサイル着弾は、ウクライナの迎撃ミサイルによる事故との見方が強まっているが、「不法な戦争」を続けるロシアへの風当たりは強まるばかり。泥沼化する戦いを止めることはできるのか。
南部のヘルソン戦線ではウクライナ軍がドニプロ川西岸の州都ヘルソン市などを奪還した。ロシア軍は撤退を余儀なくされ、戦地は東部ドンバス地方へ移ることになる。
これから本格的な冬を迎える。ナポレオンやヒトラーを一敗地に塗(まみ)れさせた「冬将軍」の到来は、どちらに味方するのか。いずれにせよ戦況は泥沼化し、無辜(むこ)の市民の犠牲が増えていくのはまちがいない。いま望まれるのは一刻も早い停戦だ。
ロシアは領土を接するウクライナのNATO入りに危機感を強めていた。だが、この戦争をロシアがウクライナへの侵攻を開始した今年2月24日を起点とすれば、プーチン大統領は侵略者というほかない。「東部ドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)の親ロシア派住民の保護」を特別軍事作戦の目的としたが、ロシア軍は北国境を越え、首都キーウを急襲した。
ウクライナ史・ロシア史の専門家で、東京大学法学部の松里公孝教授がこう指摘する。
「プーチン氏が当初狙ったのは、レジームチェンジ戦争です。ゼレンスキー政権を屈服させるか転覆して、クリミアとドンバスの現状を認める傀儡(かいらい)政権にすることでした。しかし、ウクライナの抵抗に遭って失敗すると、ドンバスの防衛に集中すると言いながら、実際には領土拡大戦争を始めた。飛び地のクリミアを陸上でつなぐ回廊を確保するために、ザポリージャ州、ヘルソン州まで併合しました。現代の国際法は、場合によっては分離を認めますが、領土併合は認めません」
ロシアが10月に併合したドンバス2州は、2014年に急進派が「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」樹立を宣言し、ウクライナとの内戦を経て実効支配地域を確保した。もちろん国連からは国家承認を受けられていない。ロシアは08年、武力紛争の末にセルビアから独立したコソボの例を挙げ、分離紛争への介入を正当化してきた。松里氏が続ける。
「コソボ独立は国際司法裁判所(ICJ)が合法とする判例があり、ドンバスの分離政体の主張は議論の余地がある。14年のクリミア併合も現地で強まった分離運動と協力して達成したもの。しかし、ザポリージャ州、ヘルソン州に至っては正当化できません」
分離紛争に発展したのは、13年に始まった「ユーロマイダン革命」の影響が大きい。ウクライナとEUの連合協定調印を、当時のヤヌコビッチ大統領が直前に取りやめたことに端を発する。革命派(マイダン派)は激しい抗議活動を行い、暴力事件が多発する。翌14年、キーウの独立広場周辺で、狙撃によって数十人が犠牲になる虐殺事件が発生。ヤヌコビッチ氏はロシアに亡命した。オデーサでは労働組合会館前で座り込みをしていた反マイダン派をマイダン派群衆が襲撃。火炎瓶で40人以上が焼死した。マイダン派が特徴的だったのは、事件の凄惨な光景を撮影・録画して盛んにSNSで公開していたことだ。松里氏が説明する。
「映像を見たクリミア、ドンバスの住民の多くはロシアに移るという3月の住民投票での自分たちの選択の正しさを確信し、ドンバス住民たちもロシア移行論がますます強くなりました。親欧米か親ロかではなく、革命暴力からいかに逃げるかが最大の関心事になった」
ロシアはクリミアを併合したが、当初、ドンバスはウクライナに復帰させるつもりだったという。だが、ドンバスでは内戦が起き、暴力がさらに拡大。15年2月に調印されたミンスク合意には、ウクライナ国内でドンバスに特別な地位を与える恒久法の採択が含まれていた。19年12月、パリでプーチン氏とゼレンスキー氏は初めて顔を合わせた。ゼレンスキー氏がミンスク合意を履行する意思がないことを伝えると、プーチン氏は激怒。平和的解決を放棄することにつながったという。
開戦から9カ月。双方の死者数が増える中、泥沼化を回避して停戦する道はないのか。ゼレンスキー氏は15日のG20サミットにオンラインで参加し、「ロシアはすべての軍隊と武装勢力を撤退させなければならない」と訴えた。だが、松里氏は前述のような経緯から、クリミアとドンバスをウクライナに戻すのは無理ではないかという。
過去にもあった「核クライシス」
「たとえドンバスがウクライナ側に戻っても爆弾を抱え込むようなもので、ドンバス住民のほうの人権状況も悪化する。国際法と住民の幸せが一致しないのですから、難問です。新しい国境を双方が承認することが大切ですが、難しい課題です」
結局、14年以降8年間のクリミアやドンバスのように「非承認国家・地域問題」は残るという。
「私は、少なくとも国際社会が非承認国家・地域住民の人権を無視するのはやめてほしいと思います。彼らは戦争捕虜が拷問死しても国際法廷に訴え出られません。国際郵便も届きません。ロシアの銀行は国際制裁を恐れて、クリミアに支店を出せない。学生は留学の権利がありませんし、子どもが難病になっても海外で治療を受けさせることができません」(松里氏)
たとえ停戦が成立しても、問題は続きそうだ。
もう一つ懸念されるのは、通常兵器で苦戦するロシアが「戦術核」のカードを切ることだ。
軍事評論家の前田哲男氏は、戦争の歴史から得た教訓として「武器の3原則」を唱える。(1)つくられた兵器は使われる兵器である(2)負けそうになった側はあらゆる兵器を使う(3)一度使うと止めどもなく使ってしまう──。
実際、“核クライシス”は何度か起きかけている。前田氏が説明する。
「記録を遡(さかのぼ)ると、米国の現地軍の司令官は核の使用を何度も進言している。典型的なのは朝鮮戦争で、核の使用を主張して解任されたマッカーサーです。その後、ベトナム戦争、第1次台湾危機、湾岸戦争でも核使用の進言がありましたが、そのたびホワイトハウスは却下してきた。今回のウクライナ事態でクレムリンはどう判断するか。いま各国の指導者たちは心もとない」
日本の岸田文雄首相は被爆地・広島出身だが、残念ながら仲裁や核使用を思い止(とど)まらせる語彙力など持ち合わせていそうにない。
●ウクライナで行方不明者1.5万人超、ロシア侵攻で=国際調査機関 11/25
オランダ・ハーグに本部を置く「国際行方不明者機関(ICMP)」の欧州ディレクター、マシュー・ホリデー氏は24日、ウクライナの戦争で1万5000人超が行方不明になっていると明らかにした。
ただ、ホリデー氏はロイターとのインタビューで、東部マリウポリのみでも死者・行方不明者が2万5000人に上ると推定される中、ICMPが示す1万5000人という数字は極めて控えめと語った。
さらに、強制的に移送された人やロシアで拘束されている人、仮想墓地に埋葬された人などの数は不明で、ウクライナでの戦争終了後も、行方不明者の調査は何年も続く可能性があるという認識を示した。
●ウクライナ、電力完全復旧のめど立たず 衛星画像で「暗い斑点」 11/25
ロシア軍がウクライナのエネルギー網に対する空爆を行ったことで24日も広範な地域で停電が続いている。電力会社ウクエネルゴは、主要な施設が損傷したため現地時間夕方の時点でも国内電力需要の50%しか満たすことができず、完全復旧のめどは立っていないとしている。
人口約300万人の首都キーウ(キエフ)では、気温が氷点下を下回る中、住民の約60%が電力の供給を受けていない。当局はロシア軍による一段の攻撃に備え、食料や飲料水のほか、防寒具などを備蓄するよう住民に呼びかけている。
米航空宇宙局(NASA)が公開した衛星画像では、ここ数週間のロシア軍のミサイル攻撃を受けた停電でウクライナの国土は暗い斑点となって映っている。
前日のロシア軍による攻撃で、ウクライナの全ての原子力発電所が稼働を停止。こうした事態は過去40年で初めてだった。
ウクライナのゼレンスキー大統領は英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューで、ロシア軍に占領された全ての領土を取り戻すというウクライナの決意は、エネルギーインフラを破壊するロシアの戦略で揺らぐことはないと表明。ウクライナのエネルギー施設に対する攻撃は現代社会では想像もつかないものとし、民間インフラを標的に攻撃していることは、ロシアに戦争終結を交渉する意思がないことを示していると述べた。
ロシア大統領府のぺスコフ報道官はこの日、ウクライナのエネルギー関連施設に対する攻撃が民間人を標的としたものであるとの見方を否定。同時に、ウクライナ政府が紛争終結に向けロシアの要求に応じれば、市民の「苦痛を終わらせる」ことができるとの考えを示した。
ウクライナは、こうした攻撃は明らかに民間人を標的としており、戦争犯罪にあたるとしている。
●プーチン氏、イラン新首相と西側の石油価格上限巡り協議=報道 11/25
ロシアのプーチン大統領はイラクのモハメド・シア・アル・スダニ新首相と電話会談し、ロシア産石油の価格に上限を設定しようとする西側諸国の試みについて協議した。ロシア国営タス通信が報じた。
報道によると、プーチン大統領はスダニ首相に対し、価格上限は世界のエネルギー市場に深刻な結果をもたらすと伝えたという。
●ウクライナ侵攻前にロシアと対話模索、退任控え力及ばず=独前首相 11/25
ドイツ首相を16年間務め2021年に退任したアンゲラ・メルケル氏は、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻に踏み切る前年にプーチン氏との対話を模索したが、退任間際で政治的な影響力に欠いたという認識を示した。
独シュピーゲル誌とのインタビュー記事が24日に掲載された。
メルケル氏は21年夏、フランスのマクロン大統領と共に、欧州理事会の枠組みでプーチン大統領との独立した対話を計画していたと明らかにした上で、「しかし私にはもはや成し遂げる力は残っていなかった。私が秋にいなくなると誰もが認識していた」と語った。
また、同年8月に行った独首相として最後のロシア公式訪問については、「プーチン大統領にとっては権力のみが重要で、『パワーポリティクスという観点からあなたは終わっている』という印象は極めて明確だった」と語った。
●「プーチン大統領、ヘルソン撤退後は命の危険を感じるほど恐れている」 11/25
ロシア軍がウクライナ南部の戦略的要衝ヘルソンから撤退した後、ウラジーミル・プーチン大統領は命の危険を感じるほど深刻な恐怖に見舞われているとの主張が登場した。
23日(現地時間)付の英国の日刊紙タイムズによると、ウクライナ大統領の側近で大統領府顧問を務めるオレクシー・アレストビッチ氏は「ロシアでは、戦争に負けたツァーリ(皇帝)を許さない。だからプーチンは非常に恐れている」と明かした。
続いて「彼(プーチン)は今、自分の命を懸けて戦っている。もし彼が戦争に負けたら、少なくともロシア人の心の中では、それは終わりを意味する。政治的人物としての彼の終わりだ。そして、おそらく、肉体的な意味での終わりでもあるだろう」と説明した。
またアレストビッチ氏は「ヘルソン撤退は、プーチンに非常に忠実だった人々にさえ、自分たちがこの戦争で勝てるかどうか疑念を抱かせた」と語った。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も今年8月、ワシントン・ポスト(WP)紙とのインタビューで「プーチン大統領は、この先自分に起こるかもしれないことを恐れている」と主張していた。
大統領は「この人物(プーチン)は自分の命に対する恐れのほか、他に恐れるものはない」とし「彼の命は、彼が自国の国民によって脅かされるかどうかに懸かっている。他に彼を脅かすものはない」と述べた。
ロシア国防省は今月9日、占領地ヘルソンからロシア軍が撤収したと公式に発表した。
ゼレンスキー大統領は当時、国民向けの定例テレビ演説で「きょうは歴史的な日」だとし「わが軍がヘルソンに接近しつつあり、特殊部隊は既に都市へ到着した」と語った。
●「プーチンと交渉せよ」…ここにきて米国が、ウクライナを「裏切る」かも 11/25
米国が路線変更した?
米国のウクライナ支援は「和平交渉路線」に変わったのではないか。そんな見方が欧米で浮上している。ジョー・バイデン政権は打ち消しに躍起だが、そう見られてもやむをえない背景もある。事実なら、ウクライナにとっては「バイデンの裏切り」になりかねない。
発端は、マーク・ミリー米統合参謀本部議長の発言だった。
ミリー氏は11月9日、ニューヨークで開かれた経済クラブで講演し「交渉の機会があり、平和が達成できるときは、そのチャンスをつかむべきだ。ウクライナとロシアのどちらも、軍事的勝利は不可能であることを認識しなければならない」と語った。
ミリー氏は翌10日、CNBCテレビのインタビューでも「ウクライナはロシアを膠着状態に追い込んだ。だが、将来どうなるかは分からない。いま外交的解決の可能性がある」と語った。16日の記者会見では「ウクライナ軍は成功に次ぐ成功を続けている。こちらに力があって、相手が弱いときに交渉したいだろう。私は可能性がある、と思う」と繰り返した。
米軍制服組のトップであるミリー氏が、戦況見通しを語るだけならともかく、和平交渉の必要性にまで踏み込むのは、異例である。外交を担うのは、国務省でありホワイトハウスだ。良く言って「勇み足」、一歩間違えれば「越権行為」と批判されてもおかしくない。
ところが、ミリー氏が3度にわたって発言しても、なんのお咎めもなかった。バイデン政権は「ミリー発言を黙認、もしかしたら容認しているのではないか」という見方が出るのは、当然だ。あえて「ミリー氏の発言を観測気球として使っている」とも言えるからだ。
ミリー発言の後、11月10日配信のニューヨーク・タイムズは「ミリー氏は政権内でも同じ趣旨の発言をしていた」と伝えたうえで「バイデン大統領やジェイク・サリバン大統領補佐官は、和平交渉論に同調していない」と報じた。
11日配信のCNNは、アントニー・ブリンケン国務長官も同じくミリー氏に距離を置き「ブリンケン、サリバン両氏は、いまがウクライナに圧力をかけるタイミングとはみていない」と報じている。
重ねて浮上する和平交渉論
6月24日公開コラムで書いたように、ウクライナ支援をめぐるバイデン政権の公式な立場は「ウクライナの問題はウクライナが決める」というものだ。バイデン氏自身によるニューヨーク・タイムズへの寄稿文(5月31日配信)で「ウクライナについては、ウクライナなしでは何もない」という言葉で示された。
なぜ、ミリー氏は和平交渉論を唱えたのか。
1つは「冬を迎えて、戦闘が膠着状態に陥るときこそ、交渉のチャンス」と考えた。加えて、11月11日配信のCNNによれば「米軍が支援する武器弾薬の在庫が払底しつつある」という事情もある。米国は不足分を補うために、韓国の軍事企業から155ミリ榴弾砲10万発を購入し、ウクライナへの提供を計画している。
中国との対決を念頭に置けば、ウクライナに入れ込みすぎると、米国の軍事資源を枯渇させてしまう懸念もあっただろう。
和平交渉論は、ミリー氏だけでもない。
米外交問題評議会(CFR)の上級フェローで、ジョージタウン大学のチャールズ・カプチャン教授は11月2日付のニューヨーク・タイムズに寄稿し「いまが、ロシアとウクライナを交渉のテーブルにつかせる時だ」と提言した。
同氏は「戦争がロシアと北大西洋条約機構(NATO)の間に拡大するリスクと、西側に与える経済的反動のリスクを抑えるためには、米国がウクライナの戦略目標策定と紛争管理に介入し、外交的解決を探るべきだ」と指摘している。
ウクライナの反応は
ウクライナは、こうした動きに激しく反発した。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11月15日、主要20カ国・地域首脳会議(G20)に10項目の平和構想を提出し、その中で「(クリミア半島や東部地域を含む)ウクライナの領土保全とロシア軍の撤退、捕虜釈放と強制連行した人々の送還、戦争犯罪の責任追及、ウクライナへの賠償」などを要求した。
ウクライナ大統領府のアンドリー・イェルマーク長官も11月19日、SNSに「我々がロシア軍を打ち負かし、1991年に決まった国境に到達したときに、初めてウクライナに平和が訪れる」と投稿した。1991年はソ連が崩壊して、クリミア半島と東部ドンバス地域を含めて、ウクライナが独立した年だ。
このタイミングで、ゼレンスキー氏とその最側近が強硬論を強調したのは、あらためて「西側に徹底抗戦の意思を示すため」とみられる。
イェルマーク氏は10月20日配信のワシントン・ポストに投稿し「ロシアは第2次世界大戦以来のもっとも残虐な国家テロをした犯罪国家だ。プーチンに騙されてはいけない。侵略者が平和構築者になれるわけがないのだ」と訴えていた。
政府だけではない。ウクライナの独立系新聞、キーウ・インディペンデントも11月16日、長文の論説記事を掲載し「ロシアが交渉で戦争を止める、と信じるのはナイーブだ。『ウクライナという国の存在を消してしまいたい』というロシアの目標は、2月24日の開戦以来、変わっていない」と強調した。
和平交渉が現実のものに
こうした流れがある一方で、時間は前後するが、ワシントン・ポストは11月5日配信の記事で「バイデン政権が水面下で、ウクライナに対して交渉にオープンな姿勢を示すよう求めた」と報じていた。これは先のニューヨーク・タイムズ報道とは、かなりニュアンスが異なる。
ウクライナが「プーチンがいる限り、交渉には応じない」姿勢を貫いていると「和平交渉ができないのは、ウクライナが頑強なせいだ」という見方が世界に広がりかねない。そうなると、各国が支援しにくくなる。そんな事態を懸念した米国が再考を求めた、という。
すると、11月10日配信の米NBCニュースも「米国や西側当局者は『ウクライナとロシアのどちらも勝利できない。この冬が外交交渉を始めるチャンスになる』とみている」と報じた。ミリー発言と同じ趣旨であり、あきらかに和平交渉論に一歩、踏み込んでいる。そのうえで「サリバン大統領補佐官が先週、キーフを電撃訪問し、外交交渉の可能性を探った」と伝えた。
いったい、サリバン氏はキーウで何をしていたのか。
11月13日配信のウォール・ストリート・ジャーナルが衝撃的な内幕を報じた。同紙によれば、サリバン氏は11月4日、キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領のチームに「クリミア半島奪回という目標の再考を含めて、現実的な要求と交渉の優先事項を検討するよう」促した、というのだ。
ただし、交渉開始のタイミングについて、米欧関係者の間では「早いほうがいい」という意見と「いまではなく、数週間か数カ月後」に分かれている、という。これが事実なら、米国は徹底支援を言いながら、実は「和平交渉路線に舵を切り替えつつある」という話になる。焦点である「クリミア半島の奪回はあきらめよ」と言ったも同然だ。
サリバン氏本人は11月10日、ホワイトハウスでの会見でこう語った。
〈ウクライナに外交のチャンスがあるときは、あるいは、もしもあるなら、交渉で強い立場にいられるように、戦場で彼らを強い立場に立たせてやることが我々の仕事だ。米国はウクライナに圧力をかけていない。我々は自分の主張を押しつけてもいない〉
あからさまに和平交渉を迫ったのではなく、軍事支援を手抜きするわけでもないが、最終的には、交渉の可能性を視野に入れた発言だった。
米国内や西側各国では「バイデン政権は和平交渉路線に方針転換したのか」という疑心暗鬼が広がった。11月15日配信のCNNは、説明を求められたバイデン政権は「そうした専門家たちとの電話会議を開く予定」と報じている。戦争が微妙な時期にさしかかったのは、間違いない。
まだまだ戦意が高いウクライナ
ウクライナとすれば、都市への砲撃は言うに及ばず、ロシアが犯した数々の虐殺や強制連行、拷問などを考えれば、現状でロシアとの和平交渉に動くのは、考えられない。戦うか否かを決めるのは結局、国民の意思だ。
キーウ国際社会学研究所(KIIS)が10月に実施した世論調査によれば、「ウクライナに対する砲撃が続いたとしても、ロシアに対して武力による抵抗を続けるべきだ」という意見に回答者の86%が賛成し、「砲撃を止めるために、ロシアに譲歩してでも交渉を進めるべきだ」に賛成したのは、10%にとどまった。圧倒的多数が戦争継続を支持している。
ゼレンスキー大統領も、最終局面では交渉による解決を否定していない。ウクライナは、どれほど勝利を積み重ねれば、交渉に動くのか。クリミア半島と東部地域の奪還を確実にするまで、動かないのか。それまでに、ウラジーミル・プーチン大統領は核のボタンに手を伸ばさないか。
砲撃戦とともに、神経戦が続く。
●ウクライナ政府、市民の苦痛終わらせること可能=ロシア大統領府 11/25
ロシア大統領府(クレムリン)は24日、ウクライナのエネルギー関連施設に対する攻撃が民間人を標的としたものであるという見方を否定した。同時に、ウクライナ政府が紛争終結に向けロシアの要求に応じれば、市民の「苦痛を終わらせる」ことができるという認識を示した。
ロシア軍によるウクライナ全土の主要インフラに対するミサイル攻撃によって、各地では停電や断水が発生。気温が氷点下となる中、数百万人の市民が数時間もしくは数日間にわたり、暖房や水のない生活を強いられる状況となっている。
クレムリンのぺスコフ報道官は「『社会的』な標的に対する攻撃は行われておらず、細心の注意が払われている」と強調。「直接もしくは間接的な軍事的潜在力については状況に応じ、攻撃の対象となる」と述べた。
ウクライナ市民の苦しみとプーチン大統領の立場についてどのように折り合いをつけるのかという質問に対しては、「ウクライナ指導部には、ロシア側の要求を満たす形で状況を解決し、ウクライナ市民の苦しみを終わらせるあらゆる機会がある」と応じた。
●ロシア、石油・ガス供給しない計画維持 価格上限設定支持国に 11/25
ロシア大統領府(クレムリン)は24日、ロシア産石油価格の上限設定を支持する国に対し石油・ガスを供給する計画はないと言明した。しかし全ての状況を精査し、最終決定するとした。
クレムリンのぺスコフ報道官は「現時点で、上限設定やその計画に参画する国に石油やガスを供給しないというプーチン大統領のスタンスを堅持する」と語った。同時に「われわれの立場を形成する前に全ての状況を分析する必要がある」と付け加えた。
主要7カ国(G7)はロシア産石油の価格上限について、1バレル当たり65─70ドルで設定することを提案。しかしこれを巡り、欧州連合(EU)EU加盟27カ国の間では意見が分かれ、決着は持ち越された。
●暗転する北極圏 軍事的優位に立つロシア、追うNATO 11/25
人工衛星と交信する地上局のうち、世界最大のものはノルウェーのスバールバル諸島に置かれている。利用しているのは西側諸国の宇宙機関で、極軌道を周回する衛星から重要な信号を受信している。
そのスバールバルで今年1月、ノルウェー本土との間を結ぶ北極海底の2本の光ファイバーのうち1本が切断された。ノルウェーはバックアップ回線に頼らざるを得なくなった。
2021年4月には、ノルウェーの研究所が北極海海底での活動を監視するために使っている別のケーブルが損傷を受けた。
この2件はノルウェー国外のメディアではほとんど報道されなかった。しかし、ノルウェー軍のエイリーク・クリストファーセン司令官はロイターの取材にこう述べた。
「偶然の事故という可能性もある。だが、ロシアにはケーブルを切断する能力がある」
クリストファーセン司令官は一般論として発言しており、意図的な損傷を示唆する証拠は何も示さなかった。だが数カ月後、ロシアからバルト海海底を経由して欧州へと至るガスパイプラインで、破壊工作により大規模なガス漏れが突如として発生した。ロシア国防省にコメントを求めたが、回答はなかった。
ロシアのウクライナ侵攻によってポスト冷戦期が終わりを告げる中、こうした「事件」は、各国が自らの領海を監視することがいかに困難かを浮き彫りにしている。特に米国の1.5倍の広さがある北極海においては、人工衛星がなければ活動を探知・監視することは不可能だ。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国とロシアは近年、この水域での軍事演習を拡大している。中国とロシアの艦船は9月にベーリング海での合同演習を実施した。ノルウェーは10月、軍事警戒レベルを引き上げた。
だが、軍事プレゼンスという点で、西側諸国はロシアに後れを取っている。
ロシアは2005年以降、北極海に面したソ連時代の軍事基地数十カ所の運用を再開。海軍を近代化し、米軍の探知・防衛システムを回避することを狙った新たな極超音速ミサイルを開発した。
北極圏の専門家4人は、西側諸国がこの水域におけるロシア軍の能力に追いつくことを目指したとしても、少なくとも10年はかかるだろうと指摘する。
ノルウェー軍の代表としてNATOと欧州連合(EU)に派遣されていたことがあるケティル・オルセン氏は、「北極圏は今のところ地図上の暗黒地帯になっている」と指摘する。同氏は現在、ノルウェー国営のアンドーヤ・スペースのトップを務めている。新たな軍事・偵察技術の実験や研究用ロケットの打ち上げを行っている企業だ。
「北極圏は非常に広大で、民間の監視リソースはほとんどない」
米国北方軍を指揮するグレン・バンハーク空軍大将は、3月に開かれた米議会上院の公聴会で、米国は北極圏における「領域認識」を改善し、ロシアや中国による新型ミサイル発射や通信インフラ破壊の能力を探知し、対応する必要があると証言した。10月に発表された米国防総省の戦略文書では、米国は北極圏における早期警戒・偵察システムの改善に注力しているとされているが、どの程度のペースの近代化が予定されているかは明らかにされていない。
一方、永久凍土の基礎の上に建設されている米軍インフラの一部に問題が生じている。急速な気温の上昇により、その永久凍土が融解しつつあるからだ。また国防総省によれば、沿岸部の浸食も米国のレーダーサイトに影響を与える可能性があるという。
米国当局者と軍事アナリストは、近い将来のリスクはほとんどないと言う。通常戦力の点では西側諸国はロシアよりはるかに強力で、ウクライナ侵攻での戦況が思わしくないことは、西側諸国関係者の多くが予想していなかったようなロシアの弱点をあらわにしている。
ロシア軍は今のところウクライナに注力しており、クリストファーセン司令官によれば、北極海に面したコラ半島では「地上部隊の戦力は非常に限定的だ」という。コラ半島はロシア北方艦隊及び原子力潜水艦の拠点となっている。
米国のミサイル防衛は特定の「ならず者国家」からの限定的な攻撃を防ぐことを意図しており、米国はロシアや中国からの核兵器による攻撃を抑止する能力には自信があると表明している。だが北極圏方面の視界が良好でなければ、危機に際しての対応時間が限定されかねない。これこそ、バンハーク大将やその他の当局者が避けたいと思っている状況だ。
「目に見えず、正体が分からないものに対する防衛は不可能だ」と、バンハーク大将は上院で語った。
ノルウェーのケーブル破断に関する警察の捜査では、近くを航行していたロシアのトロール漁船を尋問したが、証拠不十分により起訴することなく捜査を終えた。政府は、予定されていたバックアップ回線のアップグレードを前倒しで実施すると述べている。
ノルウェー国家公安警察(PST)のヘドウィグ・モー副長官はロイターに対し、もし破壊工作がノルウェー国内で行われたとしても、誰かに責任を取らせることは難しいとの見方を示した。「我々の世界では、『否認可能攻撃』と呼んでいる」とモー氏は言う。
NATOのストルテンベルグ事務総長はロイターの取材にこう述べた。
「NATOは現代的な軍事能力の増強によって北極圏でのプレゼンスを高めている。これはもちろん、ロシアがやっていることへの対応だ。ロシアはプレゼンスを相当に高めている。したがって、こちらもプレゼンスを高める必要がある」
高まる緊張
極冠の氷が縮小して新たな航路や資源開発の可能性が出てくるにつれて、北極圏の戦略的重要性は増しつつある。海氷が溶ける夏季の2−3カ月だけアクセスが可能になるエリアもあり、新たなチャンスが生まれている。
ロシアにとっては、ヤマル半島の液化天然ガスプラントも含め、北極圏地域には膨大な石油・天然ガス資源が眠っている。
ロシアの北方を拠点とする船舶が大西洋に到達するには、「GIUKギャップ」と呼ばれるグリーンランド、アイスランド、英国のあいだの水域を抜けるしかない。ロシアのミサイルや爆撃機が北米に到達する最短の空路は、北極点の上を通過する。
NATO加盟国にとって、北大西洋をまたぐ連携を保つ上でGIUKギャップは非常に重要だ。また、油田・ガス田も存在する。ノルウェーは今や欧州最大のガス輸出国だ。
スウェーデンとフィンランドが加盟すれば、北極圏諸国8カ国のうち7カ国がNATO加盟国ということになる。
米バージニア州ノーフォークに本拠を置くNATO統合軍司令部の司令官を務めたアンドリュー・ルイス氏は、ロイターの取材に対し、現在では軍民双方の利用者をつなぐ通信ケーブル及び全地球測位システム(GPS)を含む衛星システムもリスクにさらされている、と語った。
7月、ロシアのプーチン大統領は、「あらゆる手段を使って」北極海の水域を保護することをうたった新たな海軍戦略を打ち出した。
例年であれば、ロシアは秋に北極圏で核抑止能力の実験を行う。今年は2月19日、ウクライナ侵攻開始の5日前に実施された。
ノルウェー軍のクリストファーセン司令官は、「もちろん、これは1つのシグナルだった」と語る。
3月、この地域における外交は混乱に陥った。地域的な国際協力のための枠組みである「北極評議会」加盟国のうち7カ国が、このとき議長国だったロシアでの会合をボイコットすると宣言したのである。
とげとげしい空気を印象付けたのが、10月15日の出来事だった。アイスランドで開催された北極をテーマとするフォーラムで講演を行ったバウアーNATO軍事委員長は、中国がロシアのウクライナ侵攻を非難しないことを批判した。中国は「近北極圏国」を自称しており、聴衆の中には中国の何儒龍・駐アイスランド大使の姿があった。
何大使は立ち上がり、バウアー氏の講演は「傲慢(ごうまん)さに溢れ」「妄想じみている」と述べ、緊張を高めていると非難した。NATO及び駐アイスランド中国大使館はこのやり取りについてコメントを控えるとしている。
優位に立つロシア
戦略国際問題研究所(CSIS)のコリン・ウォール研究員は、「現時点では、北極圏での軍事バランスはロシア側に大きく傾いている」と語る。
国際戦略研究所(IISS)とロイターがまとめたデータによれば、北極圏のロシア軍基地は、数の上でNATO側の基地を約3割超上回っている。
IISSによれば、ロシアは現在、全面核戦争において使用される長距離核兵器を発射可能な潜水艦を11隻保有しているが、そのうち8隻は北極圏に位置するコラ半島を母港としている。これに対しNATO側が保有しているのは、米国、フランス、英国の22隻だ。
7月、ロシア海軍は新たな原子力潜水艦ベルゴロドの引き渡しを受けた。同艦は、海底に沿って移動することで沿岸部の防衛線をかいくぐることができるとされる原子力核魚雷「ポセイドン」を搭載可能だ。ロシア国営メディアは「ポセイドン」について、沿岸を「放射能の砂漠」に一変させる巨大な津波を引き起こす威力があると伝えている。
またロシア政府は過去2年間、極超音速ミサイル「ジルコン」のテストを繰り返してきた。プーチン大統領は2019年、「ジルコン」は音速の9倍の速度に到達可能で、世界最速のミサイルになると述べている。2月、ロシアは同ミサイルをノルウェー本土とスバールバル諸島のあいだの北極海で発射したと発表した。
ロシア軍の機関紙は8月20日、ショルグ国防相の発言として、「我々は『ジルコン』ミサイルの量産に着手している。同ミサイルはすでに配備されている」と伝えた。ロシア国防省に詳細を尋ねたが、回答は得られていない。
IISSによれば、ロシアの砕氷船の数は他国を大きく上回っている。公式の数値によれば、ロシアは原子力砕氷船を7隻とディーゼル砕氷船を約30隻保有している。米国と中国は、それぞれディーゼル砕氷船を2隻運用している。
投資を急ぐNATO
過去数十年、北極圏のNATO加盟国は、ロシアとの紛争が北極圏に波及することはない、との前提に立ってきた。国防予算の総額には上限が設けられ、軍事のハードウェア面や偵察・通信能力への投資が過大であると見なされる例も多かった。
だがNATOも北極圏の加盟国も、そうした姿勢を改めつつある。
ロシアがウクライナでの「特別軍事作戦」を開始して以来、カナダは軍事支出を約130億カナダドル(約1兆3600億円)増額することを公約した。内容としては、米軍とカナダの共同防衛組織である北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)の早期警戒レーダーシステムの更新や、潜水艦探知能力のある新たな偵察機の導入などが含まれている。
偵察機は2032年に導入が始まる予定だ。環境の厳しさを考慮すると、体制が整うまで数十年は掛かるだろうと、カナダ軍参謀総長ウェイン・エアー陸軍大将は10月に議会委員会で述べた。
同氏は、極超音速ミサイルをより的確に追跡するためにも、NORADの研究開発部門はてこ入れされるべきだと指摘する。
「どの国から発射された極超音速ミサイルでも探知できるということを、我々は非常に重要視している。競合する国が技術面で進歩を見せていることは、把握している」と、エアー氏は11月に記者団に語った。
ウクライナで使われているものをもとに、ロシアの極超音速ミサイルの破壊力を判断するのは難しいと、エアー氏は話す。北米を標的にした場合、発射距離が比較できないほど変わってくるからだ。
2020年以降、NATO統合軍司令部は米ノーフォークを拠点に大西洋の監視を行ってきた。だが米シンクタンクの大西洋評議会は、全体像を把握するには、北極点上空にある衛星の数が少なすぎると指摘している。米国北方軍を指揮するバンハーク空軍大将は5月、イーロン・マスク氏が所有する宇宙開発企業スペースXや英通信衛星運営会社ワンウェブがこの数年で発射した数百の衛星の一部を軍が試用していると述べた。
米軍は、グリーンランドにあるチューレ空軍基地の老朽化した施設の修繕に「大規模な投資の増額」を計画しているという。5月には米代表団が同国を訪れ、レーダーの位置を視察したと、外交筋がロイターに明かした。
スウェーデンとフィンランドは、自国の空軍が北極圏のNATO加盟国と共に戦えるよう、偵察・抑止能力やジェット機などの軍用品への投資を始めている。デンマークは、衛星や最大40時間飛行可能な偵察ドローンをはじめとした北極圏での軍事力向上に、およそ2億米ドル(約280億円)規模の予算を組んだ。また同国は、英国とアイスランドの間に位置するフェロー諸島に配置された、冷戦時代のレーダーを再稼働する予定だ。
領海が200万平方キロメートルに及ぶノルウェーは、北極圏を監視するために衛星を4機配備しており、今後2年間でさらに4機発射する予定だ。また宇宙港の建設に向けて、アンドーヤ・スペースに3500万米ドル(約49億円)を投資している。北極圏の宇宙港建設は、スウェーデンとカナダもそれぞれ予定している。
アンドーヤ・スペースは、米航空機大手ボーイングが率いる北極圏の偵察・検知プロジェクトにパートナーとして参加している。2018年に発足した同プロジェクトでは、衛星や無人機、ドローン、北極圏の環境に適応した船や無人潜水艦を用いて、NATO同盟国に敵の艦船や 航空機、潜水艦に関する偵察報告といったリアルタイム情報を提供する準備ができているという。
米国防総省は、衛星がさまざまな地上レーダーと連携する長距離レーダーシステムをアラスカ州に設置しており、これによって「今後登場してくる最新型の極超音速ミサイルにも対応できるようになる」としている。2023年完成予定だが、ジルコンを迎撃できるかに関しては、米ミサイル防衛局は回答を拒否した。
来年3月に国防総省が公開する見通しの北極圏戦略に関する報告書で、より多くのことが明らかになる可能性があると、ある米軍関係者は指摘した。同省は、危険なまでの低温の環境下で米国がどのような軍事力を必要とするかを模索しており、報告書の改訂は2019年以来となる。
「冬には日も昇らず、気温は摂氏マイナス45度から50度にまで下がるのが日常茶飯事の環境だ。過酷極まりない」と、この関係者はロイターに語った。 
●「ウクライナのブチャがたった2週間で元に戻る」は不正確 11/25
「4月にロシア軍によって大打撃を受けたと言われるウクライナのブチャ。たった二週間で元に戻る」という文言とともに、戦争で攻撃を受けた街の写真の背景に、攻撃の跡がない綺麗な街の様子を映し出す動画が拡散しています。しかし実際には、背景にあるのは半年かけて綺麗になった街の様子で、「2週間」は不正確です。
検証対象
2022年11月15日、Twitterで「4月にロシア軍によって大打撃を受けたと言われるウクライナのブチャ。たった二週間で元に戻る。マジック!」などと記した動画付きのツイートが拡散した。
動画は、戦争で攻撃を受けたとみられる建物や街の写真の背景に、攻撃の跡がない同じ場所の様子を映し出している。
リプライやリツイートには、「茶番劇だもん」「戦争自体が嘘だと思ってます」というコメントがある一方で、この動画が何を表すのか、真偽の判断に迷うようなコメントも見られた。
検証過程
動画の8秒辺りで出てくる建物のスクリーンショットを撮り、Googleの画像検索をかけたところ、ポーランドのファクトチェック団体DEMAGOGの記事が見つかった。
記事は、ポーランド語で「グリーンスクリーン(合成した映像)で戦争?」というコメントが付いたフェイスブックの投稿動画を検証しており、今回のJFCの検証対象と同じ内容だとみられる。記事では「投稿者がブチャでの犯罪は自作自演であるという主旨で投稿しているようだが、これはオリジナルの映像を、別の文脈で使ったものだ」と指摘している。
オリジナル映像を投稿したのは、スポーツジャーナリストを名乗るJuliaPalkoのInstagramアカウント。投稿日は2022年10月16日で、ブチャがあるキーウ州への攻撃が始まった2022年3月から約半年が経過している。投稿には「ウクライナ人は、占領者が壊したものを再建し続けている」というコメントが付けられている。
2022年4月16日のBBCの記事によると、ブチャの復旧作業が始まったのは占領から解放された4月。記事では、住民が家を再建し始めた様子が書かれている。2022年5月7日の読売新聞にも、ブチャが解放された4月から1か月が経ち、住民が復旧に向けて動き始めている様子が書かれている。
動画はInstagramのウクライナ公式アカウント「ukraine.ua」やTwitterのウクライナ国防省公式アカウント「Defence of Ukraine」でも共有されている。投稿されたのは、それぞれ2022年10月16日と17日だ。
「ロシアがキーウ地域から追い出されてから半年が経過しました。ウクライナ人は混乱を片付けています」「4月上旬にロシアの侵略から完全に解放されたキーウ地方は、被害を受けた建物や施設の修復が急速に進んでいる例の一つです」とコメントしている。
判定
以上のことから、動画は4月から半年間かけて再建されたキーウの街の様子で、「2週間で元に戻る」は不正確。
あとがき
ウクライナで起きている戦争被害が自作自演であるとする言説は多くあります。しかし、第三者の立場にある国連人権理事会の委任を受けた独立調査委員会も、実際に現地を訪れ、ウクライナで戦争犯罪があったことを発表しています。
戦争に際して、動画に実際とは異なる文章を付けて誤った印象を与える誤情報、偽情報が多く存在します。注意が必要なケースの一つです。
●ロシア“プーチン氏は妥協しない” アメリカの前駐ロ大使の洞察 11/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって9か月。戦地は厳しい冬を迎えつつあります。
アメリカ軍の制服組トップ、ミリー統合参謀本部議長は11月16日の記者会見で、戦闘がこう着状態になれば、両国の対話のきっかけになる可能性があると指摘。
しかし―。「プーチン大統領は妥協しない。彼の時間軸はわれわれよりもずっと長く、待つことをいとわない」
そう断言するのがアメリカの前の駐ロシア大使、ジョン・サリバン氏です。いったい、どういうことなのか。
前駐ロシア大使 ジョン・サリバン氏とは
アメリカ外交のナンバー2の国務副長官などを歴任。ウクライナへの軍事侵攻が始まる3年前の2019年12月から2022年9月まで、駐ロシア大使を務めました。
モスクワからプーチン氏の動向を見続け、「ロシアは軍事侵攻する」と警鐘を鳴らしていました。アメリカの対ロシア外交を最前線で担ったサリバン氏にインタビューしました。
――以下、ジョン・サリバン氏の話――
軍事侵攻前の米ロ間の外交戦は?
(軍事侵攻が始まる4か月近く前の)2021年11月1日、私は一時帰国していたアメリカから、CIA=中央情報局のバーンズ長官とともにモスクワへ向かいました。長官は、バイデン大統領の指示で、ロシア政府の最高指導部と会談するため派遣され、私も同席しました。
バーンズ長官はロシア側に「われわれの分析によれば、ロシアが軍事侵攻することはわかっている。そうなれば、同盟国とともに力強く対抗措置をとり、ロシアは壊滅的になる」と説明しました。しかし、ロシア側は「侵攻する意図もなければ、そんな計画もない」と全面的に否定したのです。
それは明らかに真実ではありませんでした。今回のロシアによる侵攻の規模から、必要だった準備、計画を考えてみてください。早期に首都キーウを制圧するなどの計画は最終的に失敗しましたが、彼らは長い間、計画を立てていました。
ロシアはいつから侵攻計画を立てたのか?
2014年のクリミア併合よりも、もっと前の15年前、プーチン氏がドイツのミュンヘンの国際会議※で行った有名な演説にさかのぼるとみています。
ロシア政府は2021年12月に、アメリカやNATOに対し、いわゆる安全保障に関する条約案を公開しましたが、真剣に交渉をするつもりはなかったのだと思います。それらは非常に短く、あっさりとした文書で、NATOを数十年前に創設した条約の条項の放棄を迫るものでした。アメリカとしては決して受け入れられるものではありませんでした。
当然、ロシア側もアメリカが受け入れることはできないとわかっていたのです。
※2007年ドイツのミュンヘンで行われた安全保障に関する国際会議で、プーチン大統領は、NATO=北大西洋条約機構の拡大を主導するアメリカを強く批判した。
今回の“プーチンの戦争”をどう見る?
ロシアはウクライナ政府のレジリエンス(回復力、立ち直る力)とゼレンスキー大統領を過小評価しました。また、この侵略戦争に反対するために団結したアメリカとヨーロッパ諸国の決意も過小評価したと思います。
プーチン氏はNATOの拡大を止めたいと思っていたのに、フィンランドとスウェーデンが加盟することになりました。プーチン氏にとって、今回の攻撃的な戦争は地政学上、悲劇的なことです。
プーチン氏はソビエト連邦を再建しようとしていると話す人がいますが、そうではないと思います。彼はロシア帝国、つまりロシアだと信じている世界の一部を取り戻そうとしています。
ロシアは、アメリカが文化面や政治面でロシアを征服しようとしているという“作り話”をしています。プーチン氏は自分がしていることの法的正当性を持ちたいと思っているので、今回の軍事侵攻も「自己防衛」だと呼んでいるのです。
核兵器使用の可能性は?
個人的な意見ですが、いまの時点では、ありそうもないでしょう。
私がモスクワで大使を務めていたときも、ロシア政府の高官からは米ロの対立が最終的には核戦争につながるかもしれないという話は何度も聞きました。それは、ロシアが交渉の場で使ってきた常とう手段なのです。ロシアがこのような状況で核兵器を使用した場合、世界の舞台でどんなのけ者になるか想像してみてください。
ただ、そうは言っても、ロシア政府による核兵器の威嚇は明白であり、バイデン政権でも真剣に受け止められています。そして、もし、ロシアがクリミアを奪還されるなど、侵攻前の2022年2月24日よりも占領地域を失って状況が悪化した場合は、ロシアによる核兵器の使用のリスクを考えなければなりません。
軍事作戦は失敗との見方も プーチン氏の権力に影響は?
ロシアの地政学的な立場は明らかに著しく低下しました。国連の140以上の加盟国が軍事侵攻を非難し、ロシアの評判は大きく傷つきました。
また、ロシア国内でプーチン大統領の政治的な立場はある程度、弱くなりました。ロシア政府が部分的な動員を始めたあと、大勢の人たちがロシアから国外に脱出しました。これは、一種の抗議活動です。ロシアでは、アメリカや日本のように、集まって抗議活動をすることはできませんから。
特に若い人が逃げたことは、少子化が進むロシア経済に長期的に悪影響を与えます。彼らがいつ戻ってくるのか、誰もわかりません。
また、報道によれば、チェチェン共和国の指導者、カディロフ氏などが「特別軍事作戦」に批判的な発言をしました。批判の矛先は、主に、ゲラシモフ参謀総長が率いるロシア軍やロシア国防省などに向けられていますが、最終的には、「特別軍事作戦」に大統領として責任を負っているのはプーチン氏です。こんなことは異例なことで、見たことがありません。
ただ一方、現時点では、政権内でプーチン氏を追放しようとたくらんでいる人たちがいるとは思えません。
プーチン氏は今後どう出る?
これから寒さが厳しくなり、軍事作戦を冬まで継続することは、より難しくなっていますが、プーチン氏は今回の軍事作戦の目標を縮小するつもりはないと思います。ロシアには多くの兵士に犠牲が出ました。今、引き下がるのは難しいです。
プーチン氏の“時間軸”は、アメリカや日本の指導者たちが持っているものよりもずっと長いのです。待つことをいとわず、ウクライナを支配するという目標で妥協することはありません。
高速道路を例にとりましょう。プーチン氏は「出口」よりも「休憩施設」に向かうでしょう。たとえ、「出口」を用意したとしても、望んでいないのです。
欧米各国がロシアへのハイテク技術の輸出を規制したことで、ロシア軍は、精密誘導弾などの使用が難しくなり、効果的に戦えなくなっています。しかし、それによって、プーチン氏がウクライナでの戦略的な目標を変えることはないと思います。ただ、目標の達成が難しくなっただけなのです。
ロシア政府は、ウクライナをロシアの属国にしようとしています。プーチン氏は、独立したウクライナや、英雄的なゼレンスキー大統領を望んでいないどころか、がまんならないのです。
ご存じのように、今回の戦争はヨーロッパ大陸の中心部で、非常に長い間、安全保障上の問題になる状況を引き起こしていると思います。一時的な停戦があったとしても、両国の敵意は続くでしょう。
●プーチン大統領 駐日前ロシア大使ガルージン氏を外務次官任命  11/25
ロシアのプーチン大統領は、今月まで駐日大使を務めたミハイル・ガルージン氏を、外務次官に任命する大統領令に署名しました。
大統領令によりますと、プーチン大統領はガルージン氏について、25日付けで駐日大使の職を解くとともに外務次官に任命するとしています。
ガルージン氏は1983年に旧ソビエト外務省に入って以来、日本での勤務が合わせて4回にのぼり、2018年からロシアの駐日大使を務めました。
知日派として対日外交に深く携わってきましたが、北方領土問題を含む平和条約交渉をめぐっては強硬な姿勢を示し続け、ことし2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降は、プーチン政権の主張に沿って侵攻を正当化する発言などを繰り返しました。
ロシア外務省には第一次官をはじめ複数の次官がいて、ロシア国営のタス通信は、ガルージン氏が日本を含むアジア太平洋地域を担当する次官から中国駐在の大使に就任したモルグロフ氏の後任になると伝えています。
新しい駐日大使の発表はありません。
●ロシアはウクライナでなく日本攻撃を準備していた... 11/25
ウラジーミル・プーチン大統領が率いるロシアは、ウクライナへの大規模侵攻に着手する何カ月も前の2021年夏、日本を攻撃する準備を進めていた──こんな衝撃的な情報を、本誌が入手した。これはロシア連邦保安庁(FSB)内部告発者からのメールで明らかになったものだ。
3月17日付けのこのメールは、「Wind of Change(変革の風)」と名乗るFSB職員が、ロシア人の人権擁護活動家ウラジーミル・オセチキンに定期的に送信しているメールのひとつだ。オセチキンは、ロシアの腐敗を告発するサイト「グラグ・ネット」の運営者で、現在はフランスで亡命生活を送っている。
メールのやり取りをロシア語から英語に翻訳しているのは、米ワシントンを拠点とする非営利団体「ウィンド・オブ・チェンジ・リサーチグループ」の事務局長イーゴリ・スシュコだ。本誌は、同氏から全メールのやりとりを入手した。
オセチキンが公開した内部告発者のメールは、FSB専門家でオープンソースの調査報道機関べリングキャットの代表のクリスト・グローゼフによって分析されている。グローゼフがこのメールを「FSB(現・元)職員の知人」に見せたところ、「FSBの同僚が書いたものに間違いない」という答えが返ってきたという。
オセチキンが3月に受け取った内部告発者からのメールには、2021年8月にロシアは、「日本を相手にした局地的な軍事紛争に向けて、かなり真剣に準備をしていた」と書かれている。このFSB内部告発者によれば、ロシアが攻撃相手をウクライナに変えたのは、それから何カ月も後のことだった。
「日本とロシアが深刻な対立に突入し、場合によっては戦争に発展する可能性はかなり高かった。最終的にはウクライナが選ばれた(シナリオ自体はそれほど大きく変わっていない)が、その理由は私が答えることではない」とメールには書かれている。
ロシアにとって北方領土は「交渉の切り札」
内部告発者は、日本を標的にした電子戦用ヘリコプターの展開について詳しく語っている。また、ロシアがプロパガンダ・マシンを作動させ、日本に「ナチス」「ファシスト」というレッテルを貼る作戦を強く推し進めていたことについても説明している。
内部告発者は、ロシア政府と日本政府の間にある「主な障害物」は北方領土だと述べている。「日本政府にとっては、北方領土が現在の地政学的関係の土台となっている。日本にとって北方領土の返還は、戦後のステータスの見直し(場合によっては取り消し)を意味することになる」とメールには書かれている。
それに対し、ロシア政府にとって北方領土は「有利な交渉の切り札」であると、内部告発者は続けた。「中国は、戦後の取り決めを見直す試みをすべて、非常に否定的に受け止める。そして、北方領土を巡る紛争で日本が勝利するようなことを、中国政府は容認しない。絶対に認めることはできず、ロシアがそうした『贈り物』をすれば、中国は対露関係をたちまち複雑にするだろう」
21年8月に始まった「反日情報キャンペーン」
FSBは2021年8月、第2次大戦中に日本の特殊部隊がソビエト連邦の国民に拷問を与えたとする文書や写真などの機密を解除した。内部告発者によれば、こうした機密を解除して「ロシア社会で反日情報キャンペーン」を開始するのがFSBの目的だったという。「機密解除はまさに唐突で、ほとんど予想外と言える動きだった」とメールには書かれている。
機密解除された情報には、第2次大戦時の日本陸軍大将で関東軍総司令官だった山田乙三に尋問した際の情報も含まれている。
「もともと8月8日の時点では、ロシアのマスメディアは機密解除のニュースをかなり控えめに報じていた。その内容は、日本が1938年から対ソ連戦争に備えて、攻撃計画を密かに立てたり、陽動作戦を計画したりするなどしていたというくらいのものだった」と告発者は書いている。
「しかしロシアのメディアは8月16日、文字どおり爆発的に報道を開始し、それと同時に、機密解除された文書についての論調も一変した。たとえば、日本が細菌兵器開発のためにソ連軍の捕虜を使って残酷な実験を行ったり、捕虜を非人道的に扱ったりしたと報じた。捕虜の拷問に使われたシラミについての話が、至るところで書き立てられた」
「彼らは戦争の相手をウクライナに置き換えた」
だが結局、この「軍事攻撃」計画が実行されることはなかった。「彼らは、戦争の相手を日本からウクライナに置き換えたようなものだ」と告発者は続けている。「いずれにせよ、彼らは正気ではない。日本への攻撃を検討していたことも、ウクライナ侵攻を実行したことも、両方とも狂気の沙汰だ」
内部告発者によれば、2021年夏には「日本に対するロシアの諜報活動が活発に行われていた」ようだ。「彼らは、日本は残忍な生物化学の実験を行い、残酷で、ナチズムへと向かう性向があると主張することに賭けようとした。日本は、第2次大戦後に非武装化されるべきだったが、そうした『規制』に違反しており、ロシアを危険にさらしている、と」
「しかし結局のところ、ロシアが戦争に向かうことは避けられなかった。なぜなら、ロシアの指導者が狂ったように戦争を望んだからだ。そうしていま、戦闘準備の整ったその方面の部隊のほとんどが、ウクライナに再配備されている」と内部告発者は述べている。
●ロシアで70万人追加動員のうわさ拡散…野党がプーチンに動員終了求める 11/25
ロシアで「最大で70万人の予備役が来年初めに追加で招集されるかもしれない」とのうわさが広まり、国民の間で動揺が広がっている。野党の複数の議員はロシア社会の不満を解消するため「(ウクライナ戦争に投入される)予備役の動員が正式に終わったとする法案を発表してほしい」とプーチン大統領に直接要請したほどだ。
ロシア国営ノーボスチ通信が23日に報じた内容によると、ロシア北部カレリア共和国のヤブロコ党の議員らは「今年9月の部分動員令が法的に終了したのか明確ではない」「これを法令の形で発表し確実にしてほしい」という内容の書簡をプーチン大統領に送った。議員らは「動員令継続への不安が続いているが、これは社会の心理状態に悪影響を及ぼし、労働者階級に動揺を引き起こしかねない」と主張した。
ロシアは先月28日、ショイグ国防相がプーチン大統領に公開で報告を行う形で30万人規模の部分動員令完了を発表した。しかしプーチン大統領が今年9月に署名した動員法令に今も効力があるかについては明確な解釈がなく、追加動員説も引き続き出ている。 ウクライナ内相の顧問を務めるアントン・ゲラシェンコ氏も「来年1月にロシアは第2次動員令を出し、最大で70万人を追加招集する準備を進めている」と主張した。
ロシア軍はウクライナ後方への攻撃に引き続き力を入れている。この日はウクライナの首都キーウをはじめとする全土に70発以上のミサイル攻撃を行った。これによりキーウだけで4人が犠牲となり、30人以上が負傷するなど全国で50人以上の死傷者が出た。ウクライナの送配電会社ウクレネルゴは「エネルギー関連施設が再び集中攻撃を受けた」と発表した。南部の南ウクライナ原発や西部のフメルニツキ原発など主要な原子力発電所も稼働を中断している。
現地メディアは「今回の攻撃でキーウ、北部のハルキウ、西部のリビウ、南部のチェルニヒウやオデッサなどウクライナ全土で電気、水道、暖房がストップした」と報じた。米CNNテレビは「停電や断水が続く影響でキーウの商店や飲食店などが相次いで営業をストップしている」と報じた。一部地域でウクライナから電力供給を受けているモルドバでも国土のほぼ半分で停電が発生している。
国連安全保障理事会はウクライナのゼレンスキー大統領の要請を受けこの日午後から緊急の会議を招集した。ゼレンスキー大統領は映像での演説で「ロシアは多くのウクライナ人を凍死の危機に追い込んでいる」「ロシアによるエネルギーテロを非難する決議案を採択してほしい」と要請した。フランチェスコ教皇はこの日「侵略で苦痛を受けるウクライナの多くの子供、女性、高齢者、青年たちのために祈祷(きとう)しよう」と呼び掛けた。

 

●ウクライナは専守防衛…敵基地を攻撃すれば何が起きるのか 11/26
ロシアによる侵攻が続くウクライナ。連日のように伝えられるのがミサイル攻撃での民間人の犠牲だ。
首都キーウ南西の都市ビンニツァ。7月、ロシアのミサイルの巻き添えで少なくとも23人が死亡。ダウン症の4歳児リザちゃんも、壊れたベビーカーと一緒に遺体で見つかった。
母イリーナさんは直前、広場を楽しそうに歩くリザちゃんのほほ笑ましい姿を交流サイト(SNS)に投稿したばかり。「私が愛したものは全て奪われ、殺された」。娘の死後、イリーナさんはそうつづった。一方のロシアは「精密ミサイルが軍施設に発射された」と強弁している。
「相手国を攻撃すれば、死ぬのは軍人だけではない。周りの建物、市民も犠牲になる。訓練でも目標からはずれることはあり、戦争なら間違いなく起こる。政治家は分かっているのか」
航空自衛隊第七航空団司令や防衛研究所戦史部長などを歴任し、地対空ミサイル部隊の指揮所運用隊長も務めた林吉永元空将補は、岸田政権の敵基地攻撃能力の保有議論を懸念する。
「敵基地」などを狙った攻撃での市民の犠牲は、世界中で報告されている。米ブラウン大によると、アフガニスタンで米軍などの空爆で死亡した市民は2020年までの15年間で3610人に上る。国連によるとウクライナの民間人死傷者は1万6000人を超え、ほとんどが砲撃、ミサイル、空爆などによるという。
日本の「専守防衛」に基づくこれまでの考えでは、相手から攻撃されても撃退にとどめ、相手国の領域への攻撃は想定していない。このため相手国の市民の命を奪う可能性はない。敵基地攻撃能力を持てば違う。
自民党の考えでは、敵基地攻撃能力の対象として、敵基地だけでなく司令部などの「指揮統制機能等」も含んでいる。攻撃用無人機の開発・導入の検討も進む。対象を広げ無人機も使えば、相手国の市民を巻き添えにする恐れは高まる。
林氏が危ぶむのは、軍事的正当性を巡るせめぎ合い。例に挙げるのが、侵攻されて以降ロシア領域内に攻撃、反撃したとの明確な情報がないウクライナの対応だ。「ロシアのプーチン大統領は、ウクライナからの自国領域への攻撃を待っている。核攻撃の正当性を得るからだ。ウクライナ側は分かっているので専守防衛に徹している」とみる。
中国、北朝鮮は核兵器を保有する。日本による領土内への攻撃で相手国市民に犠牲が出れば報復の口実を与えると、林氏は指摘し警告する。「敵基地攻撃は強力な武器を使わせる口実を与える。そうなれば犠牲になるのは日本の市民になりかねない」
●スマートフォンは安全保障の最前線になった 11/26
ウクライナ戦争後に一段と拡大したサイバー攻撃。主役はパソコンからスマートフォンに移りつつある。
想定外の事態への備えが安全保障の要であるとすれば、ロシアによるウクライナ侵略は、「想定されない事態」であったといえるだろう。なぜなら一度(ひとたび)、安全保障上の危機が勃発するや、国民一人ひとりが所有するスマートフォンがサイバー戦の最前線に置かれることが明らかになったからだ。それが現実のものとなった今、われわれは進行中の事態を教訓として、備えを固めなければならない。
今年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵略に伴い、時を同じくして、日本国内のインターネット上のウェブサイトに対して最大25倍ものサイバー攻撃が検知された。
とりわけ今年2月以降、「エモテット」(Emotet)と呼ばれるマルウェア(悪意のあるソフトウェア)が検知される事例が爆発的に増加した。2021年11月には約500台だった検知数は、2022年2月に約1万9000台へと急拡大している。
エモテットは、端末などから情報を抜き取り、それらが悪用されて不正アクセスが行われるなどの広範な被害をもたらす。不幸中の幸いにして、エモテットは、OS(基本ソフト)がMicrosoft Windowsのパソコンのみで動作する仕様であったため、スマートフォンへの被害は免れているが、国会議員など政策決定者が利用するサーバも攻撃に遭い、近時も猛威を振るっている。ロシアのウクライナ侵略は、対岸の火事ではなく、すでにその影響は、サイバー攻撃という形で日本にも及んでいる。
パソコンに代わってスマホが悪用されるリスクが増大
スマートフォンが、このような攻撃の標的にされたらどうなるのか。情報漏洩の中でも、例えば位置情報の漏洩は標的端末の保持者の所在が判明するのみならず、その者へのピンポイントの物理的攻撃を可能にするなど、平時のみならず、戦時における利用価値は高い。その危険性は、強調してもしすぎることはない。
サイバー攻撃は、ハイブリッド戦における「定石」だが、当事国間における状況は、より深刻だ。ロシアのウクライナ侵略が開始された4日後の2月28日、フェイスブックとインスタグラムの親会社であるアメリカのメタ・プラットフォーム社は、親露派のハッカーグループがフェイスブックを利用し、ウクライナ軍高官や政治家、ジャーナリストを含む著名人を標的にしていたことを明らかにした。
また、これまで多用されてきたサイバー攻撃に、複数のコンピューターを踏み台とし、そこから大量のデータを送りつけるなどして、攻撃対象のサーバーに過剰な負担をかけ、機能を止めてしまうDoS(サービス妨害)攻撃やDDoS攻撃(分散型サービス妨害)がある。その踏み台として、スマートフォンが使われる事例も増加しており、すでにそれを可能とする300本を超える不正アプリが確認されている。
DoS攻撃に関する不正アプリの仕様は、極めて巧妙だ。例えば、「ロシアのインフラに対してDoS攻撃ができる」と、親ロシア派のサイバー攻撃集団がアゾフ連隊(ウクライナの軍事組織)になりすまして配布したスマートフォンアプリがある。これは、実際にはほとんど効果のない攻撃を行うのみで、実はこのアプリをダウンロードした人を特定することで自国への攻撃を意図する人物の情報をロシアが収集していた可能性が指摘されている。
また、親ウクライナ派の開発者による「StopWar」という、実際にDoS攻撃が可能なアプリも発見されている。スマートフォンアプリは、現実に戦争の手段として利用されているのだ。
スマホがサイバー攻撃に悪用される複数の方法
スマートフォンが大規模なサイバー攻撃の手段として使われるには複数の形態がある。第1に、アプリストア内外から不正アプリを忍び込ませることだ。したがって、アップルなどのOSプロバイダー(プラットフォーマー)に依存せず、スマートフォンへの第三者経由によるアプリの自由なダウンロードを認める「サイドローディング」を義務化することは、わが国の安全保障を自らの手で危うくすることに等しい。
もう1つの攻撃方法がウェブアプリを活用した攻撃だ。ウェブアプリは、スマートフォンにダウンロードして利用されなければ使用できないアプリ(ネイティブアプリ)と異なり、ウェブサーバー側に蔵置されて、それをスマートフォンのブラウザで閲覧・利用するものである。ブラウザ版のTikTokなどはウェブアプリの一例だ。
デジタル市場競争本部が今年6月に発表した「モバイル・エコシステムに関する競争評価の中間報告」では、先述のサイドローディングを認めることのみならず、スマートフォンのあらゆる機能をオープンにするべきであるとの方向性が前提とされている。ネイティブアプリに加えて、ウェブアプリが動作する多様なブラウザによるスマートフォンのOSの機能へのアクセスの拡大やブラウザエンジン(ソースコードからウェブアプリに変換するソフトウェア)の自由化についても要請されている。
もし、このようにありとあらゆる自由化の方向が現実のものとなれば、アプリストアへのサイドローディングを認めることと同様、スマートフォンの脆弱性が悪用されるリスクを著しく高める結果となることは確実だ。 
現在、ネイティブアプリは、基本OSプロバイダーが事前に安全性をチェックして認められたアプリのみが使用可能になっているが、ウェブアプリのセキュリティはウェブアプリそのものや、それを表示するブラウザやブラウザエンジンの安全性に依拠している。
現状、スマートフォンにおいてもブラウザエンジンやブラウザなどの脆弱性を悪用した、いわゆる「ゼロデイ攻撃」などが発生している。ゼロデイ攻撃は、修正ソフト(パッチ)が提供される前にその脆弱性を突いて、不正なコードなどを標的の端末に送り込み、動作させるもので、有効な防御手立てがなく、攻撃者によって端末が制御されてしまうリスクがある。
サイバーセキュリティの現状は深刻だ。実際、あるブラウザの脆弱性が悪用され、悪意あるウェブアプリへアクセスするだけで、スマートフォン端末のコントロールを奪取することが可能であった。さらに悪いことに、ネイティブアプリと異なり、世の中に数多くある悪意あるウェブアプリをOSプロバイダーが網羅的にチェックすることは不可能だ。
スマホのセキュリティ確保と政府の取るべき行動
こうした状況を勘案すれば、ネイティブアプリのスマホへのローディングの事前チェックはもとより、ウェブアプリを活用した攻撃に備えるためには、ブラウザやブラウザエンジンのセキュリティを確保することが重要となる。
スマートフォンにおけるセキュリティの確保では、脆弱性をできる限り抑えることが必須であり、この点はいささかも緩和されるべきではない。中国政府が2021年9月に施行した中国データセキュリティ法(数据安全法)では、企業がセキュリティ上の脆弱性を公表する前に当局に報告することが義務づけられたという。サイバーの世界では、システムの脆弱性を突くことは強力な武器となる。スマートフォンのセキュリティ確保をアプリ提供側の自由に委ねることは国民の安全を守るべき政府の責任ある行動とは言いがたい。
●「欧州議会にハンマー送る」 決議で反発、ロ軍事会社が脅迫 11/26
ロシアのプーチン大統領に近い民間軍事会社「ワグネル」が、血のりのような塗料の付いたハンマーを「欧州議会に送る」と宣言した。
欧州連合(EU)の欧州議会が23日、ウクライナ侵攻を続けるロシアを「テロ支援国家」と認める決議を採択し、ワグネルを名指しで非難した動きに反発したもので、脅迫と受け止められている。
ワグネルは「プーチンのシェフ」の異名を取る実業家エブゲニー・プリゴジン氏が創設。今月中旬、元受刑者の戦闘員がウクライナ軍に投降したのを「裏切り」と見なし、捕虜交換で帰還した際に処刑した疑いが浮上した。その際にハンマーが使われたとされる。
この一件が内外で波紋を呼ぶ中、プーチン政権は「われわれの問題ではない」(ペスコフ大統領報道官)と静観した。ただ、プリゴジン氏はインターネットに流出した処刑の様子とされる動画を「素晴らしい」と称賛。今回の欧州議会への脅迫も、自分たちによる処刑をあえて示唆したものと言えそうだ。
通信アプリ「テレグラム」に23日に掲載された動画では、プリゴジン氏が率いる別会社の代理人弁護士とされる人物がハンマーを公開。「欧州議会に送るため」のもので「音楽家に不可欠なバイオリンの楽器ケースの中に入れてある」と説明された。
「音楽家」はワグネル戦闘員を指す隠語だ。ワグネルはドイツの作曲家ワーグナーのロシア語読みから命名されたため、「オーケストラ」と遠回しに呼ばれることもある。
24日でウクライナ侵攻から9カ月が経過し、米軍の推計ではロシア軍の死傷者は「10万人超」に膨らんだ。プーチン政権は形勢立て直しのため、ワグネル戦闘員のほか、南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長の私兵を活用。規律が保てず、戦争犯罪の温床になっていると指摘され、欧州議会も問題視している。 
●プーチン氏、「痛みを共有している」 戦死したロシア兵の母親と面会 11/26
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は25日、モスクワ郊外の公邸で、ウクライナ侵攻に従軍する息子を持つ女性たちと面会し、「我々はあなたがたの痛みを共有している」と述べた。
プーチン氏と面会したのは、ウクライナ侵攻に従軍する兵士の母親17人。息子が戦死した母親も含まれ、喪中を表す暗い色のスカーフを頭に被った人もいた。
ロシア国営テレビが放送した映像には、プーチン氏が冒頭、「息子を失った悲しみは何物にも代えがたい」と述べる様子が映し出された。
「私個人と、国の指導者全員がこの痛みを共有していることを知ってほしい」とプーチン氏は述べた。
1人の母親に対しては、あなたの息子は「目標を達成した」、「無駄な死ではなかった」と語った。
プーチン氏は母親たちと対面し、現地の状況を直接聞きたかったのだとした。
そして、時折戦場にいるロシア兵に直接語りかけ、彼らを「英雄」と呼んでいることを明らかにした。
また、激化する戦争について、テレビやインターネット上の「フェイク」や「嘘」を信じないよう母親たちに求めた。
ロシアでは政府のメディア規制により、ウクライナ情勢に関するバランスの取れたニュースを入手することは難しい。しかしそうした中で多くの人が、検閲を回避するために仮想プライベートネットワーク(VPNs)を利用するようになった。
●ゼレンスキー大統領直属の旅団はウクライナ戦争で最も過酷な戦いに挑む 11/26
ウクライナ国家警備隊の任務は、公式にはウクライナの指導者を守ることだ。平時であれば首都キーウの警備や大統領の移動の護衛をすることもある。
しかし、現在のウクライナは平時ではない。2014年にロシア軍がウクライナの戦略的要衝であるクリミア半島を占領し、ウクライナ東部のドンバス地方に侵攻して以来、平和ではなくなっている。そのため、ウクライナ国家警備隊の任務は多少拡大した。
今、ウォロディミール・ゼレンスキー大統領とその家族の警護に加えて、17世紀のウクライナ軍の英雄ボフダン・フメリニツキーにちなんだニックネームを冠した数千人規模の精鋭旅団は、発電所などキーウにある戦略上重要な施設を警備し、前線で戦ってもいる。
前線の間違いなく最も厳しいところだ。ドンバス地方の分離主義者による「ドネツク人民共和国」の所在地であるドネツクの約48キロ北に位置し、戦前の人口が約7万人の町バフムート周辺の野原や森だ。
ウクライナ軍が東部と南部で2つの反撃を開始してから3カ月が経ち、ウクライナ軍が優位に立つ中、バフムートはロシア軍と分離主義者、傭兵がまだウクライナ軍を攻撃しようとしている数少ない場所の1つだ。
正規のロシア軍、ドネツク人民共和国の分離主義者、ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループの傭兵が、第1大統領旅団を含む町を守るウクライナ軍と対峙しているバフムートの戦闘は、孤立したロシアの攻撃作戦の中でも最も馬鹿げたものかもしれない。もちろん、そうしたことは町を囲むように掘られた寒くて泥だらけの塹壕に身を潜めているウクライナ国家警備隊の兵士にとってはほとんど慰めにはならない。
バフムートの町自体には軍事的な価値はあまりない。もちろん、9カ月におよぶ激しい戦闘と、繰り返された新兵養成の失敗の末にロシア軍に残されたわずかな優秀な兵士の命に見合うような価値もない。
米ワシントンD.C.拠点のシンクタンクである戦争研究所によると、ワグネル・グループはバフムートの戦いを、ロシア軍の部隊が負ける一方で傭兵が勝てることを示して世間にアピールするチャンスととらえているという。
しかし、ウクライナ軍はバフムートの戦いでいかなるかたちであれロシア軍への勝利を決意している。たとえPRのための勝利であってもだ。ウクライナ国家警備隊が少なくとも1つの大隊と装輪装甲車BTR-4をバフムートに送り込み、ウクライナ軍の優秀な旅団の1つである第93独立機械化旅団を含む部隊といっしょに戦っているのには理由がある。
ウクライナ国家警備隊の兵士が撮影したある動画は戦闘の激しさを物語っている。バフムート郊外の森の中の塹壕で動画を撮影した兵士と仲間たちはM-2重機関銃を構えており、ロシア軍の狙撃兵が3方向から彼らを狙っている。ウクライナ軍の兵士1人が「我々の森から出て行け!」と叫びながら自動小銃で応戦する。
最近ネットに流れた他の動画は、ウクライナのドローンがバフムート郊外の浅い壕の中で縮こまっているロシア軍兵士に即席の爆弾を投下し、何人も殺したように見えるというものだった。
ロシア軍はバフムートへの攻撃に失敗した数週間で数百人が死傷した可能性がある。そして、第1大統領旅団と他のウクライナ軍部隊が依然としてこの町を支配している。
ウクライナ大統領直属の旅団は、キーウや大統領から遠く離れているかもしれない。しかし、ロシアが最後の優秀な兵士を無駄にする中、バフムートを含めこの戦争とゼレンスキー大統領の将来にとって極めて重要であることを証明するかもしれない戦闘を繰り広げ、今のところ勝っている。
●早期統合なら犠牲なかった 露大統領、結束呼びかけ 11/26
ロシアのプーチン大統領は25日、9月に併合を宣言したウクライナ東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク2州)について「もっと早くロシアに統合していれば民間人や子どもの犠牲は出なかった。今となっては明らかだ」と述べ、対応が遅れたことを認めた。現在も続く軍事作戦は併合地の住民を保護する「正義の実現だ」と正当化し、国民の結束を呼びかけた。
作戦に参加する兵士の母親らをモスクワ郊外の大統領公邸に招いた会合で述べた。
発言には、保守派の意見に譲歩することで作戦遂行への支持を取り付け、戦闘長期化や部分動員で拡大した政権への不満を沈静化する狙いがあるとみられる。
プーチン氏は、14年当時はロシア編入を求める住民の気持ちが「完全には分かっていなかった」と述べ、ウクライナ政府軍と交戦したドンバスに自治権を付与するとした和平文書「ミンスク合意」での紛争解決に期待したと弁明した。
●壁に「血」と「ムチ」の痕跡……ヘルソンの元拘置所が拷問部屋に 11/26
軍事侵攻から約9か月。ウクライナ軍は、ロシア軍が実効支配していたヘルソン州を奪還しました。今も攻撃を受けるヘルソン市内では、民間人が拘束されたとの証言が聞かれ、拷問現場とみられる施設がありました。ジャーナリストの佐藤和孝さんが取材しました。
撤退のロシア軍、対岸からなお攻撃
24日、ウクライナ南部・ヘルソン州。ジャーナリストの佐藤和孝さんが向かったのは、ヘルソン市の東を流れるドニプロ川です。
佐藤さん 「我々は西岸にいます。現在ロシア軍は東側。東側に陣取っています」
11月中旬、ドニプロ川の東に撤退したロシア軍は、今も川の向こうから攻撃を続けています。
前日に砲撃を受けたという民家では、壁が崩落し、家の中がむき出しの状態になっていました。近所の住民は「あちこちで全て破壊された」と嘆きました。
ロシア軍、多くの民間人を拘束か
軍事侵攻から約9か月。
村がロシア軍に占領され、息子(39)が拘束されたという女性(70)は「息子は(拘束場所から)出てきましたが、頭が血まみれで服が破れていました」と話しました。精神的に追い詰められたという息子は、その後行方不明になりました。
女性は村から避難した後、知り合った一家の自宅に住まわせてもらっていました。「なぜロシアは私たちにこのようなことをするんですか。(ロシア軍を)追い払ってください」と訴えました。
息子が拘束されたという人は他にもいました。ある男性は「銃を持ち、軍服を着た3人の兵士が部屋に飛び込んできて、兵士らは息子を部屋から連れて行ったのです。何も言わずに」。息子の写真を見せながら、こう振り返りました。
ロシア軍は多くの民間人を連れ去り、拘束したとみられます。
拷問の痕跡 今も…元拘置所を取材
ヘルソン市内に、その痕跡が今も残る場所がありました。ウクライナの拘置所だった建物を取材しました。拘束された人々が拷問を受けていたという場所です。
佐藤さん 「ロシア軍がここを占拠した時に、拷問部屋をここに作っていたということです」
部屋の白い壁には、血が飛び散ったような跡がありました。ウクライナ軍の広報担当は別の箇所を指さし、「ゴム製のムチの痕跡です」と説明しました。ロシア軍の兵士が書いたとみられる、「ロシアに栄光あれ! プーチンに栄光あれ!」という文字もありました。
ウクライナ軍の広報担当 「ここでは民間人を殴ったり電気を使ったり、水を口の中に注いだり、首を絞めたり。さまざまな方法を使って拷問していました」
ウクライナ軍によると、ヘルソンにはこういった施設が少なくとも4か所あり、2000人以上が拷問を受けたといいます。
捕虜を交換…「解放に手を尽くす」
こうしたなか、ロシア国防省は24日、ロシアとウクライナで50人ずつの捕虜交換を行ったと発表しました。両国でそれぞれ公開された映像には、笑顔で手を振る男性らの姿がありました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日に公開されたSNSで「まだ拘束されている全ての人を解放するため、ありとあらゆる手を尽くす」と述べました。 
●教皇、ウクライナの国民に向けた書簡 11/26
ウクライナにおける戦争勃発からすでに9カ月が経過した。教皇フランシスコは、このたびウクライナの国民に向けた書簡を発表された。
この中で教皇は、この9カ月、吹き荒れる戦争の狂気の中、町は爆撃で破壊され、ミサイルの雨が死と破壊、苦しみ、飢え渇き、寒さをもたらし、多くの人は家や愛する人たちを置いて逃げざるを得ず、そこには毎日血と涙の川が流れている、と記した。
教皇はご自身の涙をウクライナの人々の涙と重ねると共に、「祈りの中で皆さんを心に浮かべ、近くにいなかった日は一日たりともありません。皆さんの苦しみは、わたしの苦しみです」と述べている。
そして、教皇はイエスの十字架の中に攻撃の恐怖に苦しむ人々を見、拷問の痕を残した遺体や共同墓地などの多くの残忍な現実の上にイエスを苦しめた十字架がよみがえる、と書いている。
「いったいどうしたら人間は他の人間をこのように扱うことができるのか」という叫びを胸に、教皇は、殺された、あるいは負傷した子どもたち、孤児たち、こうした子どもたち一人ひとりの中に、全人類の敗北があると強調。
同時に、未来への夢の代わりに武器を取った若者たち、夫を失いながらも尊厳のうちに子どもたちのためにすべてを尽くす妻たち、あるべき平穏な老後から戦争の闇に突き落とされたお年寄りたち、暴力を受け心とからだに重い傷を負った女性たち、多大な試練に立ち向かうすべての人々にご自身の寄り添いと愛情、敬意を示された。
また、教皇は、家を離れ遠くにいる難民と国内避難民はもとより、危険を冒して人々に奉仕するボランティアや司牧者にも思いを向けられた。
こうした中、教皇はこのような悲劇的な時に国を治め、平和と発展のために先見的な決断の義務を負う当局者らのために祈られた。
教皇は、このすべての悪と苦しみが、ホロドモールによる虐殺から90年を背景に起きていることに言及。大きな悲劇を前に決してくじけないウクライナの民に、心と、祈り、人道的配慮をもってこれからも寄り添いたいと記された。
困難な状況をさらに難しくする、厳しい冬の寒さを生きる人々に、教皇は全教会の愛と祈りを伝えられた。
間もなく降誕祭が近づき、苦しみはいっそう軋みを感じさせるかもしれない、と教皇は述べつつ、こうした中でベツレヘムの聖家族の試練を思い起こして欲しいと招かれた。
「寒さと闇しかないように思われたあの夜、光が現れました。それは人々からではなく、神からの、地上ではなく、天からの光でした」と教皇は観想された。
『神にできないことは何一つない』(ルカ1,37)との確信のうちに、熱望する平和の賜物を疲れることなく願おう、と呼びかけながら、教皇はウクライナの人々の苦しみと涙を聖母マリアの汚れなきみ心に託して祈られた。
●前線の怒り、国内の不安――問題に直面するロシアの動員 11/26
第2次世界大戦後初となるロシアの動員は既に完了したようだが、ウクライナの戦場に大量の兵士が派遣されたことで、前線やロシア国内では反発や抗議が噴出している。
ロシア政府は最近動員された兵士のうち少なくとも5万人がウクライナ入りしたと成果を主張するが、聞こえてくるのは多岐にわたる不満の声だ。不満の内容としては、中級将校の指導力不足、大量の死傷者を出す戦術、訓練の欠如、約束された報酬の未払いが挙げられる。
兵士やその家族、ロシアの軍事ブロガーが報告するように、兵たん面の課題も存在する。軍服は十分に行き渡っておらず、食事は粗末で、医薬品も不足している状況だ。
また規律の問題もある。一部の家族からは、身内が脱走の疑いを掛けられ、ウクライナのロシア占領地域の地下に拘束されているとの抗議の声が上がる。
ロシアの独立系ジャーナリストによるプロジェクト「アストラ」のテレグラムチャンネルは拘束者の親戚の情報として、ウクライナ東部ルハンスク州ザイトセボの地下に、前線復帰を拒否したロシア人動員兵300人が拘束されていると伝えた。
ある女性は、夫から「新しい人が絶えず連行されてきて、ザイトセボにある『文化の家』の広大な地下室に収容されている。食事は1日1回で、一つの乾燥糧食を5〜6人で分け合っている状況だ。彼らは収容者を常に威嚇している」と聞かされたという。
アストラは拘束者42人の名前を把握したと報道。また、親戚の話をもとに、ルハンスク州やドネツク州にある地下室や収容施設を7カ所特定したとしている。
さらに拘束されている兵士1人の妻の話として、「夫は他の80人と一緒に地下室に座っている。携帯電話を没収するため裸にされたが、幸運なことに、1人が携帯電話を隠し通した」とも報じた。
アストラによると、これらの兵士はドネツク州リマンから撤退後、戦場に戻ることを拒否して拘束されたという。
CNNは戦闘を拒否した兵士の収容施設が存在するのか、場所はどこなのかを検証できていない。
指導部の無能さやリーダーシップの欠如についての不満は広く存在する。
ロシアの軍事ブロガー(中には数十万人のフォロワーを持つ人もいる)は、上級将校への苛烈な批判を展開してきた。
50万人以上の登録者を持つブラデン・タタルスキー氏は「解任された将官の後任を務めることができる将官はいないのか。誰か候補を知らないか。私は知らない」と問いかけ、「愚か者が別の愚か者に交代する。1人が失敗し、もう1人も失敗する。3人目は比較的無害なようだが」と書き込んだ。
ロシア太平洋艦隊の第155海軍歩兵旅団は拠点地域の知事に対し、ドネツク州での「理解不能な戦闘」に投入されたと書簡で訴える大胆な抗議行動に出た。
書簡は「『偉大な指揮官』が『慎重』に計画した攻勢のせいで、死傷者や戦闘中の行方不明者が4日間で約300人に達した」とする内容で、ロシアの軍事ブロガーによって公開され拡散した。
著名軍事ブロガーの1人によると、第155海軍歩兵旅団と別の一つの部隊はドネツク州パブリウカで、2度にわたるチェチェン戦争の倍の損失を出したという。
これに対し、ロシア国防省は珍しく批判の存在を認めつつも、損失は「戦力の1%、負傷者のうちの7%を超えるものではない。負傷者の大部分は既に軍務に復帰した」と反論した。
ただ、パブリウカ付近で報告されている部隊の総崩れは単発的な事例ではない。
米シンクタンク戦争研究所のカテリーナ・ステパネンコ氏は、「(ルハンスク州の)スバトベ―クレミンナ前線に投入された準備不足の動員兵に関し、多くの不満の声を確認した。この前線は現在ロシア軍で最も戦闘が激しい陣地のひとつだ」と述べた。
国内での抗議
兵士たちが故郷に苦境を伝えると、そうした不満の声は妻や母親によりSNSや地方当局への直訴を通じて増幅される。
ステパネンコ氏は「家族から寄せられる不満で最も多いのは、愛する人の居場所や給料の遅延、物資不足に関する国防省の情報が十分でないというものだ」と指摘する。
先日には、ロシア国外に逃れて活動するメディア「レインTV」の動画が浮上。ボロネジ州ボグチャルにある軍の基地に要員の親戚が集まり、10月上旬から夫や息子の消息を聞いていないと口々に訴える様子が映っている。
今月14日にSNSに投稿された別の動画では、ボロネジ州在住の女性グループが、夫や息子は指揮官を伴わず前線に投入されていて、水も必要な服も武器もないと訴えた。 
女性の1人は息子から、自分の大隊で生き残った兵士はごくわずかだと聞かされたといい、「彼らは遺体の下から文字通り這(は)って抜け出した」と語った。
女性らはボロネジ州の知事に対し、動員された身内は「訓練を受けておらず、射撃場に1回連れて行かれただけ。戦闘経験はまったくない」と訴えている。
回答が帰ってこないとの不満も目立ち、女性の1人は「軍事委員会から数分の距離にいるのに、職員は誰一人連絡をよこさず、私たちを完全に無視している」と語った。
ユーチューブに投稿された動画では、ロシアのスベルドロフスク州在住とされる女性十数人が、ルハンスク州スバトベ付近に身を隠しているとの情報がある第55旅団の新兵への支援を訴えた。新兵らは軍事法廷にかけると脅されているが、そもそも前線に投入されるべきではなかったというのが家族の主張だ。
女性の1人は息子から電話で「全く指示がない状態で放置されていて、弾薬もない。空腹と寒さでみな体調を崩している」と伝えられたという。
41歳の夫が動員されたという別の女性は「彼らは専門的な訓練を全く受けずに戦地に赴いた」と語る。
「給料は支払われていない。軍のどこかの部隊に配属されているわけではなく、どこを探せばいいのか、誰に聞けばいいのか分からない」
まれにではあるが、地元当局が対応することもある。ウラジーミル州の軍事委員は、身内が「適切な装備も訓練もないままスバトベ付近の前線に送られた」と訴える親族に次のような回答を寄せた。
「我々の部隊には兵器や防弾チョッキ、衣服、水、温かい食事が支給されている。ウラジーミル州からの支援物資は定期的に届けられ、指揮官との連絡も維持されている」
ただ、大半のケースでは家族が回答を受け取ることはない。
ジャーナリストのアナスタシア・カシェバロワ氏は、戦闘員の親族から数百通のメッセージを受け取ったと投稿し、「兵士らは連絡なしで放置されている。必要な武器も医薬品もなく、当然ながら火砲もない。左右や後方に誰がいるのか全く分からない状況だ」と明らかにした。
訓練不足
欧米の当局者の間では、ロシアは未経験者が大半を占める新兵の統合に苦慮しているとの指摘が出ている。
英国防省は先ごろ、「おそらくロシアは現在の動員や秋の定期徴兵で入隊した新兵の軍事訓練に苦慮している。新規動員兵は最低限の訓練しか受けていないか、全く訓練を受けていない可能性が高い。経験豊富な将校や訓練教官は既にウクライナでの戦闘に動員されており、一部は戦死したとみられる」との分析を発表した。
ウクライナの情報機関によると、ロシア軍は士官候補生の卒業時期を早めているとされるが、ステパネンコ氏は「士官候補生の方が軍務に慣れているかもしれないが、戦闘でどの程度効果的な働きをするかは未知数だ」と指摘した。
ウクライナの当局者は、ロシアの動員で戦闘員の数が増えた結果、ウクライナ軍が多方面作戦を余儀なくされていることは認めている。ただ、ロシアの新兵は何の準備もないまま戦闘に投入されているという。
ルハンスク州のウクライナ軍政当局トップ、セルヒ・ハイダイ氏は先日、スバトベ付近では新兵が繰り返す波のように突進してきたと明らかにした。
「彼らが死亡すると、次の一群が前進する。新たな攻撃のたびにロシア人は死者を踏みつけて進んでいる状況だ」
冬の到来に伴い、本拠地から遠く離れた兵士に住居や物資を確保する必要性は一段と高まっている。
ナタリア・イワノワ氏は地方当局のSNSのページに、夫の部隊は何時間も外で待たされたあげく派遣が中止になったと投稿し、「全員発熱して体調不良を訴えている」と書き込んだ。
前出のステパネンコ氏は、まだウクライナに送られていない新規動員兵の間で、主に給料をめぐる抗議が起きていると指摘する。特に目立つのはチュバシ共和国とウリヤノフスクの例だ。
今月初めには、チュバシ共和国の男性数十人を捉えた動画が浮上。プーチン氏の大統領令で約束された19万5000ルーブル(約44万7000円)を受け取っていないと憤る様子が映っている。
テレグラムの非公式チャンネルによると、この部隊はその後、全員自宅軟禁処分になったという。
30万人を超えるロシアの動員の影響について完全な評価を下すのは時期尚早だ。これは侵攻当初に投入された要員の倍の人数であり、9カ月に及ぶ戦闘で消耗した部隊の補充には役立つだろう。
ただ、これらの兵士の質や現場の指導力、優れていたためしがないロシアの補給線を踏まえると、ロシア軍の前途が明るいとは言い難い。
ステパネンコ氏は「死者や給料未払いの報告が増え、さらに多くのロシア人に動揺が走る可能性がある。戦争賛成派も、動員で戦争に巻き込まれただけの人も動揺するだろう」とみる。
現時点では、動員によりプーチン氏の特別軍事作戦が目標達成に少しでも近づいた様子はない。
それどころか、ロシアが9月に大々的に併合した地域の一部では、ウクライナの国旗が再び掲げられている状況だ。
●プーチン、動員兵の母親に「人は必ず死ぬものだ」…「10万人死傷」想定か  11/26
ロシアのプーチン大統領は25日、モスクワ郊外の公邸で、ウクライナ侵略を続けるロシア軍の兵員補充のため招集された動員兵の母親らと初めて懇談した。プーチン氏は「痛みを共有している」と述べ、兵士の家族に寄り添う姿勢をアピールした。一方で「人は必ず死ぬものだ」と述べ、兵士の生命を重視していないように聞こえる発言もあり、動員の長期化や拡大への懸念が強まる形になった。
モスクワ郊外の公邸で25日、動員兵の母親らと面会するプーチン露大統領(AP)モスクワ郊外の公邸で25日、動員兵の母親らと面会するプーチン露大統領(AP)
プーチン氏は「ロシアでは年間約3万人が交通事故で死んでおり、アルコールでも同程度、死者が出ている」と語り、「重要なのは、どのように生きたかだ」と訴えた。侵略の今後に関しては「我々は目標を達成しなければならないし、疑いなく達成する」と述べた。
複数の独立系メディアは、懇談の参加者には政権与党のメンバーら政権寄りの関係者が多く含まれていたと指摘した。懇談の様子は国営テレビが放映した。
プーチン氏は25日の大統領令で、兵員を招集する際に使用するデータベースを2024年4月までに整備するよう指示した。プーチン氏は10月末に予備役の部分的動員が完了したと宣言したが、完了に必要とされる大統領令は出しておらず、散発的な動員が続いているとの指摘が相次いでいる。
ロシア人記者で作る独立系メディア「IStories」は25日、露軍参謀本部と情報機関「連邦保安局」(FSB)関係者の話として、軍部は来年夏までに動員兵約10万人が死傷する事態を想定していると報じた。
●電力危機のウクライナへ発電機提供を加速、EU諸国 11/26
ロシア軍の攻撃で大規模停電などの電力危機に襲われるウクライナに対し多数の欧州連合(EU)加盟国による発電機を寄贈する動きが加速してきた。
寒さが一段と募る本格的な冬場到来に備えた支援で、フランスのコロナ外相は25日、高性能の発電機100台を送るとSNS上で発表。「冬を戦争の兵器にしている」とロシアを非難し、「民間インフラへの攻撃は戦争犯罪」とも糾弾した。
チェコの首都プラハのフジブ市長は、同国による発電機提供を発表し、暖房器具626個やほかの備品も含まれるとした。400個は首都キーウ、残りの226個は南部ミコライウ州向けとした。
駐ウクライナのラトビア大使は、同国の首都リガは慈善団体と協力しウクライナへ発電機84台を譲渡するとSNS上で述べた。高熱の空気を吹き出す機器100個も首都キーウ向けに用意するとした。
EUの欧州議会などは23日、「希望の発電機」計画を立ち上げ、欧州の200以上の大都市がウクライナへエネルギー源を供給する試みを始めた。
発電機や変圧器をウクライナの病院、学校、給水所や避難所など重要施設へ提供するとした。
ウクライナではロシア軍が電力関連インフラなどへのミサイル攻撃を続けている。
●プーチン大統領“兵器の増産指示” 英国防省“ミサイル不足”  11/26
ロシア軍がウクライナ各地でミサイル攻撃などを続ける中、プーチン大統領は、兵器のさらなる製造を指示しました。一方、イギリス国防省は、ロシア軍は、核弾頭を取り外した1980年代のミサイルまでも戦闘に使用していると指摘し、ミサイル不足に直面していると分析しています。
ロシア軍は、ウクライナ各地でミサイルなどの攻撃を続けていて、南部の要衝ヘルソン市の議会は、今月20日から25日にかけて子ども1人を含む市民15人が死亡、20人が負傷したと明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は25日、首都キーウ郊外でロシア軍のミサイル攻撃を受けた集合住宅を視察し「ロシアのミサイルテロがわれわれの国民に与えた結果だ」などと攻撃を非難しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は25日、首都モスクワで開かれた兵器を製造している国営企業の式典で演説し、「最優先の課題は、特別軍事作戦に関するロシア軍部隊の需要を満たすことだ。製造と供給を増やす必要があり、われわれも迅速に支援する」と述べ、兵器のさらなる製造を指示しました。
プーチン大統領は、この日、武闘派の側近として知られ、チェチェンの部隊を率いるカディロフ氏とも会談し、軍事侵攻への貢献に謝意を示すとともに、今後の作戦についても意見を交わしたということで、侵攻を続ける姿勢を強調しています。
一方、イギリス国防省は26日、ロシア軍はソビエト時代の1980年代に開発された老朽化した核ミサイルから核弾頭を取り外して戦闘に使用しているとみられると指摘しました。
これらのミサイルを発射することで、ウクライナ軍の防空システムに負担を与えるねらいがあるのではないかとしています。
そして、「ロシア軍の長距離ミサイルの在庫が枯渇していることを際立たせている」と指摘し、ロシア軍がミサイル不足に直面していると分析しています。

 

●ロシア、戦場で失敗してインフラ攻撃に転換 ポーランド首相 11/27
ポーランドのモラビエツキ首相は26日、ウクライナの首都キーウを訪れ、ロシアは「自らの軍事的な潜在能力を過大評価していた」とし、「戦場での勝利は得られないであろうことを既に知っている」との見解を示した。
キーウで開かれた国際食料安全保障サミットで述べた。首相は、そのためロシアはウクライナを破壊する別の方策に手をつけているとし、「戦う兵士を送り込むのではなく、ウクライナの民間人に死や飢餓、低体温症をもたらす手段を使っている」と主張。
「これら全面戦争の方法は長らくロシアの兵器だった」ともし、旧ソ連時代の1932〜33年の冬季に数百万人規模の犠牲者が出た「ホロドモール」と呼ばれる大飢饉(ききん)に言及した。
ホロドモールは旧ソ連の最高指導者スターリンが人為的に引き起こしたとされ、ウクライナなどで農家から穀物の備蓄分を徴発していた。ホロドモールから90年が経過した26日には犠牲者を追悼する年次の行事が催された。
モラビエツキ首相はロシアは帝国の再建のために戦っているとし、この帝国は罪のない人々の骨と遺体の上に築かれることを知っているとも指摘。「まさに90年前のホロドモールの時期に相当する」と続けた。
国際社会は現在、ウクライナ戦争で高まった食料危機に直面。ウクライナではロシア軍による民間インフラへの攻撃が続き、多くの国民が暖房の供給源、飲料水や電力を奪われる苦境にある。
●右派と左派双方から攻撃 バイデン氏は孤立主義拒否を 11/27
バイデン米大統領が国家安全保障と外交で取った行動で唯一称賛に値するのは、ロシアの侵攻に抵抗するウクライナを支援したことだ。
ウクライナ支援によって、ロシア軍の無能さが証明され、ロシア軍に大きな損害を与え、西欧へのプーチン大統領の脅威を減らしたからだ。これまでのところ、米国の支援は他国を圧倒しており、約600億ドルに達している。
米露直接交渉求める声
しかし、バイデン氏のウクライナ支援は、右派と左派の双方から攻撃されている。
民主党の進歩派議員連盟(CPC)は、バイデン氏に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領にロシアとの交渉を開始するよう圧力をかけ、米露間で直接交渉を行うよう求める書簡を発表した。書簡は、ミリー統合参謀本部議長ら一部のバイデン政権幹部にも影響を及ぼしたようだ。ミリー氏は、ウクライナが勝つことはないため、冬の戦闘が小康状態にある間にロシアと交渉すべきだと発言した。ホワイトハウスはすぐに否定したが、ダメージは大きかった。
9月、トランプ前米大統領は、ロシアとウクライナの和平交渉チームを率いることを申し出た。バイデン氏はその申し出を無視した。
さらに懸念されるのは、10月中旬、民主党のマッカーシー下院議員が「人々は不況にあえいでおり、ウクライナに白地小切手を出すことは望んでいない」と述べ、ウクライナ支援の制限を提言したことだ。
マッカーシー氏の言うことは一理ある。ウクライナは腐敗が指摘され、援助が無駄になるかもしれない。それでも、ウクライナが必要とする武器支援に制限を設けるべきではない。ウクライナ人が米国からの武器や資金をどのように使っているかをチェックしたいのであれば、そのための特別監察官を設置するよう主張すべきだろう。
さらに悪いことに、右派にも孤立主義の動きが出ている。11月、共和党のグリーン下院議員はトランプ氏の集会で、「共和党の下ではウクライナに1円も渡さない。わが国を最優先する」と述べ、共和党が下院の過半数を獲得すれば、ウクライナへの援助を打ち切るべきだと主張した。
他の共和党議員がこの愚かな孤立主義に加わらない限り、グリーン氏の主張は無視しても大丈夫だろう。ウクライナ、ロシア、ポーランドで起こっていることを無視することはできない。
11月15日、ポーランド国境の町にミサイルが着弾し、2人が死亡したとき、当初はロシアの北大西洋条約機構(NATO)への非難がエスカレートするのではないかと懸念されたが、ロシアの相次ぐミサイル攻撃に対するウクライナ軍による誤射と分かり、その緊張も解けた。しかし、ウクライナ支援に反対する人々が、この事件を口実に支援を縮小する懸念がある。
ロシアの国家収入の大部分は、石油とガスの販売による収入だ。プーチン氏は欧州へのガス供給を断つことで、ウクライナ戦争に使う資金を大幅に減らしている。ウクライナで核兵器を使うという脅しは、あまりにも頻繁に繰り返されてきた。
要求弱めぬプーチン氏
プーチン氏は要求を弱めてはいない。クリミアとウクライナ東部の大部分をロシアが支配したままの和平協定にしか興味がないと言われている。交渉したいと言っているゼレンスキー氏が、そのような条件の和平に関心を持つはずがない。また、そうであるべきでもない。
バイデン氏のウクライナ政策をコントロールしているのが誰であれ、この「平和と土地の交換」は、ロシアのウクライナ征服の試みを止めることはなく、先延ばしにするだけだということを理解していない。プーチン氏の戦争が続く限り、われわれのウクライナへの支援は続けられなければならない。
トランプ政権の欧州安全保障協力機構(OSCE)大使だったジェームズ・ギルモア氏は、この状況について私に、「ロシアはウクライナの戦場ではもはや勝てないが、米国政治の戦場ではまだ勝てる。ネオ孤立主義者がウクライナへの援助を否定したり、制限したりすれば、将来の世界大戦を回避するチャンスは失われてしまう」と話した。
●ゼレンスキー氏、ウクライナ産穀物で「500万人を飢餓から救う」…  11/27
ウクライナ政府は26日、食料安全保障に関する国際会議をキーウで開いた。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、侵略を続けるロシアが「食料危機を引き起こした」と非難した。
ウクライナ大統領府によると、米欧など約30か国の首脳や政府高官、国際機関の関係者らがオンラインなどで参加した。会議では、ウクライナ産穀物をアフリカやアジアの食料不足の国々に供給する人道支援枠組みを設けると正式に発表された。米欧や日本が資金を出す。ゼレンスキー氏は「少なくとも(世界の)500万人を飢餓から救う」と強調した。
会議は、ソ連時代の1932〜33年に起きた大 飢饉ききん 「ホロドモール」の犠牲者を追悼する日に合わせて開かれた。ウクライナ政府は、大飢饉が当時の指導者スターリンによる意図的なジェノサイド(集団殺害)だったとみなす。ウクライナ外務省は26日、露軍が続ける侵略について「90年前のジェノサイドと変わらない」と非難する声明を出した。
●辞任前にウクライナ協議目指すも失敗、権力失墜で 前独首相 11/27
ドイツのメルケル前首相は27日までに、ウクライナ情勢に関連し昨年の退任前に緊張緩和を図るためマクロン仏大統領やロシアのプーチン大統領を取り込んだ欧州主導の協議方式を狙ったが、辞任間近の時期に陥った権力失墜により失敗したことを認めた。
ドイツ週刊誌「シュピーゲル」との会見で明らかにした。「私にはこの方式を推し進める権限はもはやなかった」と吐露。「全ての関係者は私が秋にいなくなるだろうことを知っていたからだ」と述べた。
メルケル氏は昨年9月の総選挙が終われば首相職から退くことを長い間示唆。正式には同年12月に辞任していた。同年8月には最後の公式の外国訪問としてロシアへ赴き、プーチン大統領と会談していた。
シュピーゲルによると前首相はこの会談の雰囲気について「全く明らかだった。権力政治(に基づくやりとり)に関しては終わっていた」とし、「プーチン(氏)にとって権力だけが意味をなす」と述べた。
メルケル前首相はロシアによるウクライナ南部クリミア半島の一方的な併合やウクライナ東部への侵攻が起きた2014年に独仏、ロシアやウクライナを巻き込み、紛争終結を狙う「ノルマンディー方式」の協議を主導。
前首相は同方式について、クリミア半島の併合後、「我々はロシアによるさらなる侵攻を阻止し、打ち出すべき制裁策を詳細にわたって調整するための全ての努力を注いだ」と振り返った。
ウクライナ問題に深く関与したことを踏まえ、自らの退任後に「より平和的な情勢が続いて欲しかった」との思いも打ち明けた。
メルケル氏は辞任後、自身や率いた政権がロシア産の石油や天然ガスの輸入への過度の依存を許したとして非難を浴びてもいた。
●ウクライナ人の就労が大幅増、人道支援事業に応じて渡英 11/27
英国統計局は27日までに、ロシアの軍事侵攻から逃れたウクライナ人向けの人道支援事業に応じて渡英した同国民の就労が今年6月の同様調査と比べ、大幅に増加したとの調査結果を発表した。
6月の調査は、英国に入国した9601人が対象。新たな調査は10月17日から11月7日の間に到着した3148人を調べた。3148人のうち仕事に就いているとした比率は56%で、6月調査の19%から急増していた。
この2つの調査結果を調べた場合、英会話能力についても「流ちょうあるいはかなり達者に」と回答した比率が44%から57%に拡大していた。
生活資金の面では今後3カ月間、自らや家族らが暮らせる余裕があるとしたのは37%から60%に激増。
ただ、調査対象者の個人のうちの半数は英国内で仕事を確保する難しさを報告。45%は民間の賃貸住宅などを見つける上での障害を認めていたという。
勤め先を得た調査対象者の大半はウクライナにいた時とは異なる職種で働いているとも伝えていた。
英国統計局は今回の調査について、集計結果は試験的なものであると指摘。「試行段階にあり十分な検討などがまだ加えられていない公式統計」として位置づけた。
調査はオンライン上で実施され、電話での回答は選択肢との条件があったとも指摘。このため人道支援作業で電子メールによって提供された優遇ビザ(入国査証)の全て所持者が調査への参加要請を受け取っていない可能性が大いにあるともした。
英国は今年3月、戦火を避けて退避を決めたウクライナ国民に2種類のビザ発給計画を打ち出した。英国内に既に居住する家族との合流が目的の渡英や宿泊先などを供与できるスポンサーを確保しているウクライナ人やその家族向けを対象にしていた。
●ウクライナ侵攻の温暖化ガスを問題視 COP27でも議題に 11/27
エジプトで今月開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で、ロシアによるウクライナ侵攻が、人だけでなく、地球環境にも甚大なダメージを与えていることが指摘された。
ディーゼルエンジンの戦車や戦闘機、ミサイル発射から、都市や森林の火災、避難民の大移動まで、ウクライナ紛争に伴い、大量の温室効果ガスが排出されている。
ウクライナ政府による排出量試算
ウクライナは、ロシアが2月24日に開始した侵攻に直接・間接的に関連する温暖化ガス排出量の算出を始めている。戦争状態にある国として初の試みだ。
紛争開始から2か月目に立ち上げられたプロジェクト「戦争の地球温暖化ガス算定に関するイニシアチブ」によると、建物・森林・畑の火災による排出量はCO2換算で2380万トン、戦闘そのものによるものは890万トン相当に上っている。
避難民の移動による排出量は140万トンに上り、今後、破壊されたインフラを再建すればさらに4870万トンが排出されるとしている。
ウクライナ紛争の直接的な結果として7か月間で計8300万トン近くが排出されている計算だ。比較として、オランダの全排出源を合わせた同期間の排出量は約1億トンだという。
グローバルな正義を推進する国際組織「ティッピングポイント・ノース・サウス」の共同創設者デボラ・バートン氏によると、イラクやシリア、その他の紛争についてこれほど詳細なデータはない。
軍隊のカーボンフットプリント
スイス・チューリヒ大学の国際気候変動政策研究グループを率いるアクセル・ミカエロワ氏は「この分野(軍事)は排出量が非常に多いにもかかわらず、誰も本気で取り組んでこなかった」と指摘する。
専門家はこれまで正確なデータがなかったことを認めつつ、戦時および平時でも軍隊のカーボンフットプリント(温室効果ガス排出量をCO2に換算した数値)は非常に大きいと主張している。
今月、英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された論評では、世界の温暖化ガス排出量の1〜5%は軍事関連によるものとされた。ちなみに英国の研究によると、世界の海運・航空業界が占める割合はともに2%程度となっている。
仮に世界で最も軍事費が多い米軍を国家に置き換えると、国民1人当たりの排出量は世界一となる。また米軍のF35戦闘機1機が約185キロ飛行した場合、英国の平均的なガソリン車による1年間の排出量と同程度の二酸化炭素(CO2)が大気中に放出される計算になる。
「軍事排出を世界的な議題に」
ミカエロワ氏はAFPに対し、「最善のステップは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の実際のプロセスに直接、軍事排出の問題を持ち込むことだろう」と語った。
「課題は軍事データが通常、機密として扱われる点だ。だが、別の尺度から割り出せるかもしれない。どの航空機がどの地域を飛行しているのか、特定の機種の排出量強度はどの程度かといった情報なら調べられる」と同氏は説明する。「こうしたデータを使えば、少なくとも10〜20%の誤差の範囲内で軍事関連の排出量を推計できるはずだ」
ネイチャーの記事の執筆者は、炭素排出量について「各国は排出インベントリ(特定の物質が一定期間内にどの排出源・吸収源からどの程度排出・吸収されたかを示す一覧表)に公式に記録し、正確に報告すべきだ。軍事行動も脱炭素化しなければならない」と指摘。「軍事排出を世界的な議題にする必要がある」と主張している。
●「プーチンのシェフ」から欧州議会に「血まみれ」ハンマーの贈り物 11/27
ウクライナに大量の傭兵を送り込んでいるロシアの民間軍事会社ワグネルから、悪趣味な贈り物が欧州議会に届いた。送り主のワグネルのトップは、クレムリン御用達のケータリング会社を経営し「プーチンのシェフ」の異名をもつエフゲニー・プリゴジン氏だ。プリゴジン氏はプーチン大統領に近い新興財閥(オリガルヒ)を率いる1人。
バイオリンケースを開けると「血まみれの」スレッジハンマーが姿を現した。欧州議会が彼らをテロリストと認定する手続きを開始したことへの返報とみられる。英テレグラフ紙(電子版)が報じた。
スレッジハンマーは、ウクライナ兵を殺害する凶器として、ワグネルの非公式なシンボルとなっている。
ソーシャルメディアプラットフォーム「テレグラム」に11月24日にアップされた動画には、ワグネルの依頼を受けたスーツ姿の弁護士がバイオリンケースを部屋に運び込み、テーブルの上に置いている。
バイオリンケースの蓋を開けると、ぴかぴかに磨かれた大きなハンマーが現れる。頭部にはワグネルのロゴが刻印され、柄の部分には血を模した赤いペンキが塗られている。
「プーチンのシェフ」として知られるエフゲニー・プリゴジンは、別の声明で、欧州議会がワグナーをテロリスト集団に指定する予定であることを残念に感じていると述べた。
欧州連合(EU)の欧州議会は11月23日、ウクライナ侵攻を続けるロシアを「テロ支援国家」と認定する決議案を賛成多数で可決した直後、議会のウェブサイトにサイバー攻撃を受け、一時接続できなくなった。この攻撃は、ロシアのハッカー集団「キルネット」による犯行であると示唆されている。
プリゴジン氏は、欧州議会の投票が完了する前に、「情報」として「血まみれの」スレッジハンマーを欧州議会議員に送りたいと考えていたという。
プリゴジン氏は、ケータリング会社を経営しクレムリンにサービスを提供してきた。20年前に米国大統領としてモスクワを訪れたジョージ・ブッシュ元大統領と一緒にクレムリンで写真を撮られたことから、「プーチンのシェフ」というニックネームで呼ばれるようになった.
ロシアのSNSテレグラムのうち、複数の有名どころのアカウントが、ワーグナーのスレッヂハンマー動画についてコメントした。
「"馬の頭 "の代わりに "ハンマー"。ゴッドファーザーゲームをサンクトペテルブルクの発音で」 ──モスクワの社交界でタレントとして活躍し、今年横領の疑いをかけられてロシアを逃れたリベラルジャーナリストで元大統領候補のクセニア・ソブチャクは、140万人のチャンネルリスナーに向けてこう言った。
ワグネルの傭兵の非人道的振る舞いは周知だろう。今月ワグネルは、ウクライナでの戦闘員として雇った55歳のエフゲニー・ヌジンが、後にウクライナ側に寝返ったとして激怒。傭兵の1人がヌジンの頭を叩き割る動画を「復讐のハンマー」というタイトルで投稿した。プリゴジン氏は11月17日までに、この映像を称賛する発言を示した。
●ロシア、「教育・医療費」削って国防・治安予算を増額 11/27
ロシアは来年度予算の3分の1近くを国防と国内治安関連に費やす予定だ。ウクライナにおける軍事作戦の維持に資金を回すため、学校や病院、道路に割り当てられる予算は削減される。
ロイターの予算分析によると、ロシア政府は国防・治安関連に合計9兆4000億ルーブル(約21兆5000億円)を支出することになる。来年は2024年大統領選挙におけるプーチン氏の再選につながる重要な年だが、他の優先課題は圧迫される形だ。
ロシア連邦捜査委員会、検察庁、刑務所、ウクライナに派遣されている国家警備隊の活動を含む治安関連予算だけでも、2022年に比べて50%増加する。
ロシア政府としては記録的な規模の国防・治安関連予算になるが、金額自体は、米国の来年度国防予算および国土安全保障のニーズの一部(すべてではない)を満たすための予算に比べれば、約18%にすぎない。
独立系のアナリストであるアレクサンドラ・ススリナ氏は、「国家予算が軍事作戦の資金を捻出する手段になっている」と語る。「年金や教育関連の予算も増額されているとはいえ、ロシアが本来やるべきことに比べれば見劣りがする。10年来の問題が未解決のままだというのに」
ロシア財務省にコメントを要請したが、回答は得られなかった。
「愛国教育」は予算増
予算編成の変化には、対ウクライナ軍事作戦のてこ入れというロシアの思惑が透けて見える。ウクライナでは、部分的に占領した4州の併合を宣言したにもかかわらず、9月以降は大幅な後退を強いられている。プーチン大統領はロシア連邦政府と国内80以上の連邦構成主体に対し、軍のニーズを支えるべく、これまで以上に効率的に協力するよう指示した。
表面的には、来年度の国防予算は4兆9800億ルーブルで、前年比わずか1%増となる。だがそれは単に、2月のウクライナ侵攻以降に、今年度の国防予算が当初の3兆5000億ルーブルから3分の1も増額されているからだ。
対照的に、国内治安関連予算は前年比50.1%増の4兆4200億ルーブルとなる見込みだ。
プーチン大統領は、対ロシア制裁は西側諸国にブーメランのように打撃を与えていると主張してきた。西側諸国ではエネルギーと食料のコストが急上昇し、ここ数十年で最悪のインフレへの対応に苦慮している。とはいえ、ロシアの経済も無傷ではない。
西側諸国による制裁と、30万人の予備役を招集する政府の決定を反映して、ロシアの第3・四半期の国内総生産(GDP)は前年同期比4%減少した。また、何十万人もの国民が徴兵を逃れるために国外に流出している。
2023年の予算では、道路や農業、研究開発など「国家経済」関連の支出は23%減の3兆5000億ルーブルになる見通し。医療関連は9%減の1兆5000億ルーブル、教育関連は2%減の1兆4000億ルーブルだ。
ロシア大統領アカデミー(Ranepa)とガイダル研究所の共同調査によれば、インフラと産業への支出はそれぞれ23.5%、18.5%減少する。両研究所は、政府が西側諸国以外の新たな市場の開拓を試みている中で、この予算減は「重大な困難を引き起こす可能性がある」と指摘している。
研究開発への投資も削減されると見通しで、制裁で最新のテクノロジーが国内に入ってこない中、「多くの基幹産業では、国産のテクノロジーを開発するための資金が得られなくなる」とRenepaは見ている。
2018年に4期目を目指して大統領選挙に出馬したプーチン大統領は、2024年までにロシアを世界第5位の経済大国にするという目標を掲げ、道路から医療、教育に至るまで、合計13の「国家プロジェクト」に4000億ドル(約55兆6000億円)以上を投じると公約した。
こうした目標の達成はコロナ禍のもとで2030年に先送りされたが、来年度は関連の予算が10%削減されるため、アナリストらは、またもや目標を達成できなくなるリスクが高まっていると指摘する。
年金や福祉といった社会保障関連費は、プーチン大統領の国内経済政策の要であり、前回の大統領選挙でも有権者へのアピールに利用された。来年度は合計7兆3000億ルーブル、前年比では8%増だが、それでも軍事・治安関連予算の合計には及ばない。
Ranepaとガイダル研究所によれば、教育に関する国家プログラムへの拠出は削減されるが、進行中の事態や歴史的な出来事へのロシアの見解を反映するため、学校での「愛国教育」に関する予算は今年度に比べ513%増えるという。
ロシア国立研究大学経済高等学院は、医療費削減について「コロナ禍と医療サービスへのアクセス悪化という2つの要因による死亡率上昇に鑑みれば、正当化できない」と指摘している。
忍び寄る債務の影
経済制裁が歳入を圧迫する中で、ロシアは来年度の財政赤字がGDP比2%に相当する3兆ルーブルへと倍増すると予測しているが、アナリストらは、4兆5000億ルーブルに達する可能性もあると述べている。
財政赤字を補填するため、財務省はすでに政府系ファンド「ナショナル・ウェルス・ファンド」に手をつけており、さらに前週、ルーブル建て国債(OFZ)を発行して140億ドルを借り入れた。
これは1日の国債発行額としては過去最大であり、英国防省はツィッターで、ロシアが国防支出を賄うために借り入れを行っている兆候だと強調した。
ロシアの公的債務は来年GDP比17%になると見られており、国際標準に比べれば低い。だがアナリストらによれば、債務償還コストが支出全体に占める比率は、現在の5.1%から2025年には6.8%に膨らみ、医療と教育に向けた支出を上回る見込みだ。
ロシア金融大学は「2023年から2025年にかけて、公的債務は国の経済成長率を上回るペースで増加するだろう。これは借入資金の使用効率の低下を示しており」、経済成長に打撃を与えるだろうとしている。
●予備役10万人死傷いとわず 反攻までの「時間稼ぎ」 ロシア 11/27
ロシア軍の訓練施設を視察するプーチン大統領(中央)=10月20日、中部リャザニ州(AFP時事)
ロシアのプーチン政権が、ウクライナでの戦闘長期化を視野に、兵士の犠牲をいとわず態勢の立て直しを進めているとの見方が浮上している。
独立系メディアは、劣勢のロシア軍が春の反攻に向けた「時間稼ぎ」のため、この冬に予備役30万人の多くを危険な前線近くに投入する見通しだと報道。うち3分の1の「約10万人」が来年夏までに戦死傷者として失われることも、政権は覚悟しているという。
ウクライナ侵攻開始後、戦死傷者などロシア軍の人的損害は「10万人超」(米軍)と推計されている。報道は、これが2倍になるというプーチン政権の見込みを示すものだ。戦闘が長期化すれば、民間人を含むウクライナ側の犠牲者もさらに膨らむ恐れがある。
独立系メディア「バージニエ・イストーリー」は25日、ロシア軍や治安機関の内部情報を基に「前線での敗北や人的損害にもかかわらず、プーチン大統領は首都キーウ(キエフ)制圧計画を放棄していない」と報じた。目標達成のため、数年に及ぶ作戦も辞さない構えだという。
連邦保安局(FSB)関係者の話として伝えられたところでは「今は時間を稼ぎ、動員兵(予備役)を投入して前線を安定させる。春になったら(攻撃を)再開する」のが政権の計画。十分な訓練を受けていない予備役に多大な戦死傷者が出るのは承知の上で、欠けた分は「(兵役義務がある18〜27歳の)徴集兵で埋める」方針だという。
11月1日に始まった秋の徴兵期間の対象者は約12万人。新兵を巻き込むことに世論の反発は強く、ショイグ国防相は「特別軍事作戦の地域には派遣しない」と約束した。ただ、どこがその「地域」に当たるかは明確でなく、米シンクタンクの戦争研究所も、新兵が春に6カ月間の訓練を終えた後、「ウクライナに送られる公算が大きい」と分析している。そうなれば、ロシア軍の戦死傷者はさらに増えることになりそうだ。 
●戦闘で勝ち目なしと悟ったプーチンが頼る「冬将軍」…エネルギー施設攻撃  11/27
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11月3日の演説で「ロシアのエネルギーテロに耐えることが今、私たちの国家的課題である」と訴えた。ロシア軍は前線で戦果をあげられないため、冬将軍の到来を前に「エネルギーテロ」でウクライナ軍を後方から支えるウクライナ国民の動揺を誘っている。
「全国各地のエネルギーインフラに被害が出ている。今晩の時点だけでも約450万人が緊急安定化計画に基づいて一時的にエネルギー消費を停止している。エネルギー産業に対するテロに訴えたことはまさに敵の弱さを示している。戦場でウクライナに勝てないから、このような方法でウクライナ国民の士気や抵抗力を削ごうとしている」
「ロシアが成功することはない。大切なのは私たちがともに行動する能力を維持することだ。まずウクライナのすべての都市や地域で不必要な電気を使用しない。今は明るいショーケースや看板、広告などの照明が必要な時期ではない。エネルギー会社は消費者からエネルギー供給の不公平を指摘されたら、すぐに対応してほしい」と呼びかけた。
ここ数週間、ロシア軍はウクライナの電力施設に対して大規模な誘導ミサイルやカミカゼドローン(自爆型無人機)攻撃を仕掛けている。ゼレンスキー氏によると、発電所の3分の1が破壊された。その一方で、苦戦が続くロシア軍はドニプロ川右岸の南部ヘルソンから撤退する動きを見せる。ロシア軍の指揮官のほとんどがすでに撤退を終えているとの報道もある。
何百万人が電気、暖房、水を失ったまま
冬将軍は、ナポレオンのロシア遠征、スウェーデンとロシアの大北方戦争、ソ連がフィンランドに侵攻した冬戦争、第二次世界大戦でのモスクワの戦い、スターリングラードの戦いで大きく勝敗を分けてきた。冬将軍を味方につけた方が勝利を収める。ウクライナではロシア軍の攻撃に対抗すべく越冬準備が進められている。
天然ガスの輸送、地政学的リスクを専門にする英ICIS(インディペンデント・コモディティ・インテリジェンス・サービス)のオーラ・サバドゥス博士はICISのポッドキャスト(11月3日)で次のような見方を示している。
「10月に入ってから、ウクライナのエネルギーインフラはロシアによる誘導ミサイル攻撃を受け、送電線と発電能力の大部分が破壊された。何百万人の消費者が電気、暖房、水を失ったままになっている。欧州企業は天然ガスの輸入を開始し、ウクライナの地下施設への備蓄を一段と増やしている」
「ガス価格の下落と大きな貯蔵能力が軍事的なリスクを乗り越えるインセンティブをウクライナに与えている。しかし状況は非常に複雑だ。ウクライナのエネルギー企業はこれまでにない厳しい冬を迎えている。欧州へのロシア産天然ガスのパイプライン通過料などの収入が減少し、気温が下がる中、インフラを修理し、照明や暖房をつけ続けなければならない」
露エネルギー専門家がロシア軍に助言か
ウクライナ最大のエネルギー会社DTEKのエグゼクティブ・ディレクター、ドミトロ・サハルク氏はサバドゥス博士のポッドキャストでウクライナの状況について「2月に侵攻が始まって以来、前線から遠く離れた重要なインフラへの攻撃はそれほどなかった。ロシア軍は主に前線のすぐ近くの変電所や配電線、発電施設などを集中的に攻撃していた」と説明する。
4月にロシア軍が首都陥落を諦めてキーウから撤退。9月には北東部ハルキウがロシア軍の占領から解放された。これを受け、地域の電力供給会社は家庭や企業へのエネルギー供給をほぼ復旧させた。キーウの配電網を運営するDTEKは5月に、損傷した変電所、配電線をすべて復旧し、電気のない生活を強いられていた15万人以上に電力供給を再開した。
「10月に入ってからの主な違いはロシア軍が発電施設や高圧線を攻撃し始めたことだ。こうした施設はウクライナ西部など、前線からかなり離れたところにある。インフラ攻撃は注意深く、入念に計画されている。ロシアのエネルギー専門家がロシア軍に助言したのは明らかだ。なぜなら彼らはエネルギーシステムの重要な部分を攻撃しているからだ」(サハルク氏)
エネルギーインフラ攻撃には2つの目的がある。一つは火力発電所を破壊したり損傷させたりして発電量や発電能力を損ねること。もう一つは電力供給会社が発電された地域から必要とされる地域へ電力を自由に移動させることができないようにすることや、その能力を低下させることにある。
重要なのは対ミサイル、対ドローンの防御手段
「ロシア軍は統合されたウクライナのエネルギーシステムを分割しようとしている。そうすると発電能力が不足している地域や発電能力がない地域に電力を供給することができなくなる。その目標を達成するために誘導ミサイルやイランのカミカゼドローンを利用している」(サハルク氏)
サハルク氏によると、東部に位置する発電所はミサイル8発で同時に攻撃され、西部の発電所は1回の攻撃で4発のミサイルを撃ち込まれた。DTEKはウクライナ地域で6基の火力発電所を運転しているが、6基のうち5基が攻撃された。発電容量の30〜40%、変電所の50%が被害を受けている。修理しては攻撃を受けるパターンが繰り返されている。
最も重要なのは対ミサイル、対ドローンの防御手段を確保することだ。こうしたシステムがなければ、いくら修理してもすぐに攻撃されて時間の無駄になる。第二に変圧器、サーキットブレーカー、ケーブルなど修理に使うスペアパーツや機器も不足している。変圧器は注文してから届くまでに1年〜1年半ぐらいかかるという。
「天然ガスについてはほぼ大丈夫だと思う。現在、地下貯蔵されている天然ガスは例年より多くなっている。戦争のため消費量も落ちた。一方、天然ガスより安価な石炭は真冬には不足することが予想される。おそらく11月から12月にかけて石炭の輸入が必要になる」。サハルク氏が心配するのは「電気」より「暖房」だ。
軍事専門家「ロシアは西側の国民に国内でお金を使うよう誘導」
ロシア軍が熱電併給システムへの攻撃を続ければ大都市で大きな問題を引き起こす。厳しい冬、電気や水なしでアパートに留まることができても、暖房なしに滞在することはできない。人道的な大惨事になる恐れがある。ウクライナ当局はスタジアムやスポーツ施設、病院や学校などで人々に暖を提供する集中暖房施設を作る必要があるとサハルク氏は提言する。
英シンクタンク「英王立防衛安全保障研究所」(RUSI)のジャック・ワトリング上級研究員は「エネルギーインフラを標的にすることでウクライナの経済的な米欧依存度は高まる一方、欧州のエネルギー不足は悪化し、ウクライナの支援国も経済的に困窮することが予想される。ロシアは西側の国民にウクライナより国内でお金を使うよう誘導するだろう」と指摘する。
「ロシアは自軍の地上部隊の弱点を認識した上で、ウクライナの支援国がキーウに停戦交渉のテーブルにつくことを促すよう揺さぶっている。これは戦争がもたらす経済的影響、戦争の長期化、核のエスカレーションの危険性などを強調するメッセージを織り交ぜて行われている」とワトリング氏はRUSIサイトへの投稿で解説している。
●ベラルーシのマケイ外相が急死 「ロシアの影響下にない数少ない人物」 11/27
ウクライナ侵攻を続けるロシアの同盟国であるベラルーシの外相が26日、死去しました。死因はわかっていません。
ベラルーシ大統領府は26日、ウラジミール・マケイ外相が死去したと明らかにしました。前日まで国内で会談を行っていて、突然の死去だったことが伝えられていますが、死因は明らかになっていません。
マケイ氏は、ルカシェンコ大統領の独裁政権下にあって、この10年、外相をつとめていましたが、欧米メディアはベラルーシと欧米との関係改善に取り組んできた人物だと評しています。ロシアによるウクライナ侵攻後はロシアとの同盟関係を重視する一方、国連安全保障理事会の場では「交渉を始めるのは早いほどいい」と述べるなど、ロシアとウクライナの和平交渉を促す立場でした。
マケイ氏の死去を受け、ウクライナの内務省顧問は「彼はロシアの影響下にない数少ない人物だった」とSNSで記しています。 
●ロシア、戦場で失敗してインフラ攻撃に転換 ポーランド首相 11/27
ポーランドのモラビエツキ首相は26日、ウクライナの首都キーウを訪れ、ロシアは「自らの軍事的な潜在能力を過大評価していた」とし、「戦場での勝利は得られないであろうことを既に知っている」との見解を示した。
キーウで開かれた国際食料安全保障サミットで述べた。首相は、そのためロシアはウクライナを破壊する別の方策に手をつけているとし、「戦う兵士を送り込むのではなく、ウクライナの民間人に死や飢餓、低体温症をもたらす手段を使っている」と主張。
「これら全面戦争の方法は長らくロシアの兵器だった」ともし、旧ソ連時代の1932〜33年の冬季に数百万人規模の犠牲者が出た「ホロドモール」と呼ばれる大飢饉(ききん)に言及した。
ホロドモールは旧ソ連の最高指導者スターリンが人為的に引き起こしたとされ、ウクライナなどで農家から穀物の備蓄分を徴発していた。ホロドモールから90年が経過した26日には犠牲者を追悼する年次の行事が催された。
モラビエツキ首相はロシアは帝国の再建のために戦っているとし、この帝国は罪のない人々の骨と遺体の上に築かれることを知っているとも指摘。「まさに90年前のホロドモールの時期に相当する」と続けた。
国際社会は現在、ウクライナ戦争で高まった食料危機に直面。ウクライナではロシア軍による民間インフラへの攻撃が続き、多くの国民が暖房の供給源、飲料水や電力を奪われる苦境にある。
●地面が凍ると戦車の機動性向上…ロシア軍が東部ドネツク州で部隊再編成 11/27
ウクライナ軍参謀本部は27日、侵略を続けるロシア軍が東部ドネツク州の3か所で部隊強化に向けた再編成を続けていることを明らかにした。寒さが深まると地面凍結で戦車などの機動性が高まるため、数週間以内に東部での戦闘が激化するとの見方が出ている。
ウクライナ軍参謀本部によると、露軍はロシアが一方的に併合したドネツク州の中心都市ドネツクの北部や西部、ウクライナ軍の反転攻勢を受けて撤退した同州北方で部隊の再編成を続けている。
米政策研究機関「戦争研究所」は26日、露軍が最前線で数日間停滞していると指摘し、地面の凍結が進めば進軍を活発化させると分析した。
ウクライナの政権与党の幹部は26日、地元メディアに対し「1週間以内に露軍がエネルギー施設を攻撃する可能性がある」と述べ、停電地域が再び広がるとの見方を示した。
一方、英国防省は26日、露軍が老朽化した核搭載型の巡航ミサイルから核弾頭を取り外して発射している可能性を指摘した。ウクライナ軍の防空強化で露軍のミサイルや無人機(ドローン)が多数撃墜されており、露軍はおとりに使っていると見ている。
●ロシア軍 インフラ施設へ攻撃繰り返す 地面凍結で戦闘激化か  11/27
ロシア軍はウクライナ各地のインフラ施設を標的にした攻撃を繰り返しています。また、気温が下がり地面が凍結することで、部隊の機動性が上がるという見方も出ていて、戦闘が一層激しくなる可能性もあります。
ウクライナ各地でロシア軍による発電所などインフラ施設への攻撃が続く中、ウクライナ国営の電力会社「ウクルエネルゴ」は26日、電力全体の25%が不足していると明らかにしました。
各地で停電が起き、市民生活への影響が続いています。
また、ウクライナ国家警察は26日、ロシア軍が11月、南部の要衝ヘルソンを含むドニプロ川の西岸地域から撤退したあとも対岸から砲撃を続け、これまでに州内で住民32人が犠牲になったと発表しました。
さらにウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は26日、東部のドニプロで再びミサイル攻撃があり、7棟の住宅が被害を受け、複数のけが人が出たとSNSに投稿しました。
戦況を分析しているアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は26日、ここ数日、前線では激しい雨が降ってぬかるんでいるため部隊の動きは鈍くなっていると指摘しました。
その一方で「今後気温が下がり、地面が凍結することで活動が活発になることが予想される」と分析していて、双方の部隊の機動性が上がり、各地で戦闘が一層激しくなる可能性もあります。

 

●英国防省、ドネツク州でロシアに多大な損害 ウクライナ東部、攻防の焦点 11/28
英国防省は27日公表の最新のウクライナ情勢分析で、ロシアは東部ドネツク州中南部地域を「今後の進軍拠点」として重視しているもようだが、状況を打破するだけの質を誇る部隊を集めることは困難だとの見方を示した。
同地域での攻防では、ロシア海軍歩兵部隊に多大な被害が出ているという。
英国防省は、ウクライナ軍、ロシア軍とも同地域に戦力を投入しているものの、双方の支配領域は過去2週間、ほぼ変化していないと指摘。「ロシアが作戦上の局面打開に必要な質を備えた兵力を集結させることは恐らくできない」と分析した。
ウクライナ軍参謀本部は27日、ドネツク州などで前日の戦闘だけで600人のロシア兵が死亡したと推計した。また、ロシアが来月10日から追加動員を計画しており、準備を進めているとの情報を入手したと発表した。
一方、米シンクタンク、戦争研究所は26日に発表した戦況分析で、ウクライナ東部から南部にかけては、大雨により前線の作戦行動が鈍化していると説明。その上で、今後1週間はウクライナ全域で気温の低下が予想され、「地面の凍結によって両軍の機動力が増し、戦闘のペースが上がる可能性がある」と予測した。 
●ロシア軍が東部ドネツク州に兵力集結…近く大規模攻撃か 11/28
ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州に兵力を引き続き集結しており、近く大規模攻撃がこの地域で始まる可能性がある。英国防省の情報機関が27日に明らかにした。
ウクライナ戦争は10月初めから以前とは異なる局面へと進みつつある。ロシアはドンバスからザポリージャ州を経てヘルソン州に至る東西1000キロのこれまでの戦線を消極的に守り、その状態でウクライナのエネルギー関連施設へのミサイル攻撃に集中している。
ウクライナの民間施設破壊とこれによる初冬の停電日常化が戦争の実情となりつつあるが、これはロシア軍がミサイル攻撃だけを行い、ロシア軍兵士は守備の塹壕(ざんごう)に隠れるいわばミサイル代理戦争でもある。
ロシアは来年3月末まで100日は十分にある冬の間にウクライナ国民100万−500万人が使用する電力と電力に依存する上水道などを絶ち切り、戦意を失わせることで自分たちのペースで交渉に持ち込む戦略だ。このような冬を武器とする戦略がウクライナのゼレンスキー大統領とウクライナ軍に対して効果を発揮するには、ウクライナ国民にとってこの冬がこれまでより何倍も非人間的に過酷でなければならない。
一方でロシア軍は東部からドネツク北西部に向かう険しいルートを突破するため、塹壕から出てきて積極的に力を結集している。これは新たな局面につながる可能性があることから注目を集めている。
これについてワシントンの戦争研究所は「前線の動きは雨交じりの雪など悪天候で活発さを失っているが、気温がマイナスになり地上が凍り付けば戦闘は活性化する可能性がある」と予想している。
ロシアはドネツク州の40%を親ロシア派の分離主義勢力を通じて8年前に掌握し、この状態で東部ドンバスの「完全解放作戦」に乗り出した。ところが5月末に南西部のマリウポリを陥落させた以外は北西部の関門となるバフムト、クラマトルスク、スラビャンスクへの進出が6月末から5カ月近くにわたり毎回失敗に終わっている。
そのためドネツク州でロシア軍が占領している地域は55%にとどまったままだ。
●ウクライナ ロシア軍のインフラ施設への攻撃 さらに続くか警戒  11/28
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、各地のインフラ施設が攻撃を受け、市民生活への影響が続いています。復旧作業が進んでいますが、ウクライナ側は、ロシア軍がインフラ施設を標的に、さらに攻撃を仕掛けてくる可能性があるとみて警戒を強めています。
ウクライナでは27日もロシア軍が攻撃を繰り返していて、東部ドネツク州のキリレンコ知事によりますと、州の中部にある町で住宅が砲撃を受けて2人が死亡、1人がケガをしたということで「ロシアは一貫して、意図的に民間人を狙っている」とSNSで非難しました。
イギリス国防省は27日、ドネツク州の戦況について、中南部でロシアとウクライナ双方が、かなりの兵力を投入し、ここ2週間ほど激しい戦闘が続く中で、ロシア軍の歩兵部隊に多くの犠牲者が出ていると指摘しました。
そして「ロシアは、この地域が、州の全域を占領するための大規模な侵攻の起点になり得るとみているようだが、その突破口を開くのに十分な、質の高い戦力を集中させることはできそうにない」と分析しています。
こうした中、ウクライナ各地では、被害を受けた発電所などインフラ施設の復旧作業が進んでいますが、国営の電力会社は27日、依然として電力需要の20%が不足していると明らかにし、人々に節電を呼びかけました。
首都キーウのクリチコ市長はSNSに、雪が降る中で撮影した動画を投稿し、白い息を吐きながら、暖房設備の整備など市民生活への影響を最小限に抑える努力をしていると強調しました。
一方、ウクライナ軍は27日「敵が重要インフラをミサイルで攻撃する脅威は依然、残っている」という見方を示しました。
ウクライナ議会の与党幹部も「今後1週間は非常に厳しいものになるだろう」とSNSに書き込むなど、ウクライナ側は、ロシア軍がインフラ施設を標的にさらに攻撃を仕掛けてくる可能性があるとみて警戒を強めています。
●ロシア、新たなミサイル攻撃を計画=ウクライナ大統領 11/28
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、ロシアが新たなミサイル攻撃を仕掛けてくるのは間違いないとし、軍と市民が協力して準備する必要があると訴えた。
「われわれはテロリストが新たな攻撃を計画しているのを事実として知っている。残念ながら、ミサイルを保有している限り彼らが落ち着くことはない」と述べた。
その上で、電力インフラへの攻撃によって2月の軍事侵攻開始以降で最も深刻な停電に見舞われた先週と同様に、今週も困難な1週間になる可能性があると指摘。
「軍は準備を進めている。国全体が準備を整えている。パートナーとの協力も含め、あらゆるシナリオを想定している」と述べた。
27日は、キーウやその他主要都市への大規模攻撃はなかった。ただ、ゼレンスキー氏は、国内各地の最前線は依然として厳しい状況に置かれているとし「最も厳しい状況にあるのは、ここ数週間と同様、引き続きドネツク地方だ」と語った。
ロシア軍は23日、ウクライナのエネルギー関連施設を攻撃、それ以降、国内の電力供給は完全には再開していない。
ゼレンスキー氏は、電力会社と緊急対応チームが電力供給に向け24時間体制で働いているとし、大半地域で送電網復旧のための計画停電が実施されているが、状況は管理されていると強調した。
●ロシアのエネルギーインフラ攻撃、親ロシア国の産業も破壊 11/28
ロシア軍のヘルソン市撤退によって、沿ドニエストルが駐留ロシア部隊とともにウクライナに侵攻する機会はほぼなくなった。
目下の軍事情勢に最も安堵しているのは沿ドニエストル当局かもしれない。
ウラジーミル・プーチンに強制されて参戦していれば強力なウクライナ軍の反撃を食らい政権が崩壊する可能性すらあっただろう。
開戦直後から堅持してきた中立政策が功を奏したといえよう。しかしながら危機が去ったわけではない。
冬季に入りロシアは親欧米的なモルドバへの天然ガス輸出を削減しているが、その影響で沿ドニエストル向けガス供給量も大きく減少、経済危機を超えた「人道危機」が域内で進行している。
3者の奇妙な依存関係
沿ドニエストルに供給される天然ガスは、ロシア・モルドバ契約(正確に記すとガスプロム・モルドバガス社契約)に従属している。
1992年の停戦以来、沿ドニエストルはモルドバから「事実上の」分離独立状態にあるとはいえ、国際的な国家承認を得ていないためだ。
ロシア語住民が多数派を占める沿ドニエストルを長きにわたり支援しているロシアですら国家承認していない。
現行のガス契約(2021年10月調印)によると、価格はEU市場における石油製品および天然ガス価格(TTF)から算出される(ウェイトは夏と冬で入れ替わる)。
また、モルドバ側が支払うのはモルドバが受け取った分のみである。本来であれば、沿ドニエストルもガスプロムに支払うべきであるのだが 2005年以来、不払いが続いている。
その間、ガスプロム社は債務累積を黙認して沿ドニエストルに供給を続けている。
これは事実上のロシアの経済援助といっていい。
「無料」の天然ガスは、沿ドニエストル消費者に安価なガス料金をもたらし、これをエネルギー源とした産業が沿ドニエストル経済と貿易輸出を支えてきた。
一方で、モルドバもエネルギーの対外依存が極めて高い国である。
天然ガスは完全に輸入依存であり、電力も7〜8割を域外に頼っている。電力の輸入源は、沿ドニエストルとウクライナである。
特に安価な沿ドニエストル電力は貧しいモルドバにとって他に代え難く、2021年度のモルドバ輸入電力の95%を占めていた。
こうした関係は、ロシアのウクライナ全面侵攻後も維持されてきた。
ロシアのガスプロム社はウクライナにパイプライン輸送料を支払ってモルドバ(沿ドニエストル分含む)にガスを供給、モルドバはガスプロムにガス代金を支払い、そして沿ドニエストルは(ガスプロムにガス代金は払わず)火力発電を行いモルドバに電力輸出を続け外貨を獲得してきた。
このようにして見ると、ロシアの天然ガスを用いた沿ドニエストル支援は、モルドバへの電力輸出とセットであることが分かる。
沿ドニエストルの対外貿易においてモルドバが輸出の第1位、ロシアが輸入の第1位をそれぞれ占めている理由もこの文脈から理解できよう。
壊れる天然ガス・電力関係
ロシアがモルドバを巻き込んで作り上げた巧妙な沿ドニエストル支援システムは崩壊に向かっている。
ガスプロム社は、「ウクライナがパイプライン輸送を制限したため」と称して、10月期のモルドバ(沿ドニエストル含む)向けガス供給量を契約量の3割減とした。
モルドバ向けは沿ドニエストルを含むため、沿ドニエストルの取り分も減少、沿ドニエストルのガス火力発電の減産、対モルドバ電力輸出の減少につながった。
沿ドニエストルの火力発電所は、全発電量の8割を対モルドバ輸出に回しているが、これは域内ガス消費量の4割分に相当する。
域内消費を優先するのであれば、電力輸出にシワ寄せがくる。
モルドバは電力不足をウクライナからの輸入で埋めようとしたが、ロシアのエネルギー・インフラへの攻撃を受けてウクライナは電力輸出能力を喪失してしまった。
それだけではない。
ロシアのウクライナ電力インフラ攻撃によりウクライナ南部で大規模な停電が起きると、旧ソ連時代の電力システム網で接続されているモルドバ、沿ドニエストルでも停電が発生してしまう。
11月期にガスプロムが縮小幅を契約量の5割に拡大すると、沿ドニエストルのガス不足はさらに深まり、不可抗力が宣言され対モルドバ電力輸出が完全に停止された。
沿ドニエストルとウクライナという2大輸入源を断たれたモルドバは、沿ドニエストル電力に比べて単価が2倍以上のルーマニア電力の輸入に切り替えざるを得なくなった。
3月に同期試験に成功した欧州送電システム運用会社ネットワーク(ENTSO E)が役に立った形だ。
ただ、モルドバ・ルーマニア間の送電容量は十分ではなく、モルドバ国内では節電・計画停電が実施されている。
他方でソ連時代に構築された電力システム網でウクライナ・沿ドニエストル・モルドバはつながっている。
そのため、ロシアのウクライナ電力インフラ攻撃よりウクライナ南部で大規模な停電が起きると、モルドバ、沿ドニエストルでも停電が発生してしまう。
天然ガス不足については、モルドバは短期的には省ガス政策とルーマニアおよびウクライナ領内の地下貯蔵庫に備蓄したガス、国内火力発電所の重油、石炭への転換で乗り切る予定である。
モルドバと比べると沿ドニエストルはより深刻である。
ガス不足の影響は、発電の減産のみならずガスを消費する主要企業、すなわち冶金工場、繊維工場、セメント工場の操業停止にまで及んでいる。
沿ドニエストルの2021年統計によると、鉄鋼・電力・繊維合計で全輸出額の4分の3を叩き出している。
もとよりロシアのウクライナ侵攻で、沿ドニエストルは貿易パートナーと通商ルートを失い甚大な影響を蒙っているところに加えての輸出産業の稼働停止である。
また、トローリーバスの間引き運転、停電など、市民生活にも影響が生じており、沿ドニエストル当局は「経済危機」に続いて、「人道危機」を宣言するに至っている。
国際ドナーがいない沿ドニエストル
11月21日、モルドバ政府は12月期のガスプロムのモルドバ向けガス供給量は契約量のマイナス56.5%と発表した。
しかしながら、翌日、ガスプロムは、モルドバ向けガスの一部がウクライナ領内のパイプラインで抜き取られていることを示唆して、さらなる削減を予告してきた。
ガス需要が高まる冬季に親欧米的モルドバ政権に負荷をかける意図は明白だ。
実際、モルドバでは年始以来、国内ガス料金は6倍、電気料金は3倍に跳ね上がっており、10月以降のガス・電力の絶対量不足が加わって、政府に対する批判が高まっている。
「西側寄りの政策がロシアを挑発しエネルギー危機を招いた」と主張する親ロ派政治勢力のデモも頻発している。
しかし、少なくともモルドバには代替供給源がある。
ガスはEU市場から調達しウクライナ領経由で輸入でき、電力もルーマニアから輸入している。また、EUからエネルギー購入の信用や援助を受けている。
一方で、沿ドニエストルは国際社会から承認されていないため、ロシア以外のドナーは想定できず、代替供給源の確保が困難である。
ロシアは沿ドニエストルの危機を「パイプライン輸送を妨害する」ウクライナと「沿ドニエストルの取り分を奪っている」モルドバに責任転嫁して、「モルドバ・ウクライナ=悪」「沿ドニエストル=無垢な被害者」というお約束の二項対立図を描き出している。
しかし、既に見たように、ガスプロムのモルドバ(沿ドニエストル分含む)への供給削減が危機の主因である。
ロシアはウクライナやその連帯者にコストを強いることに血道を上げ、沿ドニエストルを顧みる余裕はない。
今のガス削減状態が続けば、モルドバよりも先に沿ドニエストルが干上がるのは明らかなのだが・・・。
●プーチン氏「冬将軍」の到来に期待? 11/28
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、首都キーウの電気が依然回復せず、全市が停電状況であることに苛立ち、キーウ市当局に、「もう少し能率的に仕事して早急に電力を回復してほしい」と厳しい注文をつけた。同大統領の注文はキーウ市のヴィタリー・クリチコ市長への批判とも受け取られた。ゼレンスキー大統領が国内の指導者や閣僚を公の場で批判することはこれまでなかった。それだけに、今回のキーウ市当局への批判はメディアでも大きく報道された。
クリチコ市長は元プロボクサーで世界ヘビー級チャンピオンとして有名な人物だ。年齢的にもゼレンスキー大統領とほぼ同世代の若手政治家だ。その市長に対して、「もう少し迅速に電力を回復をすべきだ」と批判とも受け取られる発言をしたわけだ。両者間に知名度でライバル意識がないわけではないが、最大の原因はロシア軍のインフラ破壊攻撃だ。マイナスの気温で停電し清潔な水もない状況下に置かれれば、普通の人間なら不満の一つや二つ飛び出すのはあたりまえだ。クリチコ市長は、「政治的紛争に巻き込まれてはならない」と慎重な姿勢を見せている。
幸い、ロシアによる大規模な攻撃から4日後の27日、キーウのほぼ全域で電力が復旧した。電力、水、熱、モバイル ネットワークは回復した。ウクライナ軍当局は Telegram ニュース チャンネルで発表した。
過去1カ月半にわたり、ロシアは発電所、変電所、水道インフラをドローンやロケット弾、巡航ミサイルで攻撃してきた。何十万もの世帯で、電気、暖房、水道が少なくとも一時的に停止状況に陥った。破壊の規模は甚大だ。修理は複雑で費用がかかるため、欧州委員会はすでに25億ユーロの援助をキーウに送金している。なお、ゼレンスキー大統領は攻撃を非難し、国連安保理でロシアを「人道に対する罪」と批判している。
ロシア軍のインフラ攻撃はウクライナだけではなく、欧州の最貧国、隣国モルドバにも影響を与えている。ウクライナが停電すれば、モルドバの電力ネットワークも影響を受け、停電する。モルドバはロシア産の天然ガスに依存しているが、ロシア側はここにきて供給量を半減。ガス代はウクライナ戦争前の7倍に急騰し、電気代を払えない国民が急増。欧州連合(EU)はモルドバに対してこれまで2億5000万ユーロを緊急支援したが、モルドバ側はさらに4億5000万ユーロの緊急支援を要請しているところだ。  
ちなみに、モルドバのマイア・サンドゥ大統領は今年3月3日、EU加盟申請書に署名し、それから3カ月後、ブリュッセルはモルドバの加盟候補国入りを認めた。急テンポだ。ただし、モルドバはウクライナのようには北大西洋条約機構(NATO)の加盟は願っていない。国内にロシア系少数民族が住んでいることから、プーチン大統領を刺激したくないという政治的判断が働いているものと推測される。
ウクライナ南部に接するモルドバ東部のトランスニストリア地方の治安は不安定だ。5月6日夜には爆発事件が起きた。トランスニストリア地方はウクライナ南部のオデーサ地方と国境を接し、モルドバ全体の約12%を占める領土を有する。モルドバ人(ルーマニア人)、ロシア系、そしてウクライナ系住民の3民族が住んでいる。同地域にはまた、1200人から1500人のロシア兵士が駐在し、1万人から1万5000人のロシア系民兵が駐留。ロシア系分離主義者は自称「沿ドニエストル共和国」を宣言し、首都をティラスポリに設置し、独自の政治、経済体制を敷いている。状況はウクライナ東部に酷似しているわけだ。
12月に入り、気温がさらに下がり、年末から年始にかけて冬将軍の到来となれば、ロシア軍に占領されていた東部の領土を奪い返すことに成功したウクライナ軍の快進撃にストップがかかるかもしれない。停電が頻繁に起き、水道も不通となる日々が続くと、ウクライナ国民の間でも戦争に対する不満の声が高まるかもしれない。同じことがウクライナを支援してきた欧州諸国でもいえる。エネルギー危機で電気代が高くなり、物価高騰してきた欧州社会でブラックアウトが生じれば、ウクライナへの支援に疑問を呈する国民が出てくるだろう。
部分的動員で兵力強化を図ったが、期待するほどの成果がなかったプーチン大統領はナポレオン戦争やヒトラーのドイツ軍との戦い(独ソ戦)で敵軍を破ったロシアの冬将軍にウクライナ戦争と自身の命運をかけているのかもしれない。
●「プーチン氏のベラルーシ大統領暗殺計画」報道後…ベラルーシ外相急死 11/28
ロシアが同盟国のベラルーシにウクライナ戦への参戦圧力を加える中、一時ロシアを批判したベラルーシのウラジーミル・マケイ外相が26日(現地時間)、突然死亡したと現地メディアが報じた。しかし、正確な死亡原因は知られておらず、疑問を生んでいる。
この日、ベラルーシの国営通信社ベルタによると、ベラルーシ外務省は「マケイ外相が64歳で突然死亡した」と発表した。外務省はマケイ外相の死亡原因について明らかにしなかったが、健康が良くなかったという兆候はなかったと伝えた。
ベラルーシ独立メディア「ナシャニバ」は消息筋の話として「マケイ外相は自宅で心臓麻ひで死亡したとみられる」と述べた。ただし、死亡原因が公式に明らかになっておらず、マケイ外相の急死に疑わしい視線があると付け加えた。また、ウクライナのアントン・ゲラシェンコ内務省長官補佐官はソーシャルメディア(SNS)に「マケイ外相が毒殺されたという噂がある」という主張を展開した。
マケイ外相は28日、ベラルーシのミンスクでロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談を控えていたという。
ロイター通信によると、マケイ外相は親ロシア路線のアレクサンドル・ルカシェンコ内閣がロシアを批判し、西側との関係改善に取り組んだ主要人物だった。ベラルーシの首脳部ではほとんどロシア語を使ったが、彼一人だけがしばしばベラルーシ語を使っていたという。
そうするうちに、2020年ベラルーシ全域に反政府デモが広がり、突然親ロシア側に立場を変えた。2月末、ロシアがウクライナに侵攻すると、ロシアとベラルーシの緊密な関係を支持し、ウクライナがロシアの平和条件に同意しなければならないと主張した。
ただ、マケイ外相はベラルーシで西側と疎通する唯一の人物で、ウクライナ東部の親露反軍樹立政府であるドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)を独立国家として認めなかったとデイリーメールが伝えた。
マケイ外相は、ベラルーシのルカシェンコ大統領が大事にしていた最側近だった。2000〜08年ルカシェンコ大統領補佐官、2008〜12年ルカシェンコ大統領秘書室長、12年から外務大臣を務めた。読売新聞は「1994年から政権を握っているルカシェンコ大統領は長官を頻繁に交代したが、マケイ外相だけが10年間席を守った」と伝えた。
ベラルーシ大統領室は、ルカシェンコ大統領がマケイ外相の遺族に弔意を表明したと明らかにした。
マケイ外相の急死は、ロシアのプーチン大統領がベラルーシをウクライナ戦争に参戦させるため、ルカシェンコ大統領暗殺計画を立てているという報道が出た後に伝えられた。
ウクライナ国営通信社「ウクルインフォルム」は25日、米国シンクタンクのロバート・ランシング研究所の報告書を引用してプーチン大統領が23日、ロシア軍情報部に「ルカシェンコ大統領を狙った暗殺の試みを含むシナリオを作ってほしい」と指示したと伝えた。
ルカシェンコ大統領はプーチン大統領と近い間柄だが、ベラルーシ内の反対世論を意識してベラルーシ軍のウクライナ戦参戦を先送りし続けていると外信は伝えた。ウクルインフォルムは「ロシアはルカシェンコ大統領を除去した後、クレムリン宮殿に完全に忠誠を尽くす集団安全保障条約機構(CSTO)のスタニスラフ・ザス事務総長にルカシェンコの役割を任せるシナリオを構想中」と主張した。
ただし、ロシアのマリア・ザハロワ外務省報道官は、マケイ長官の死亡ニュースに「衝撃を受けた」とし、「公式的に哀悼の意を表する」という立場を示した。 
●カザフ大統領、プーチン氏と会談 11/28
中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は28日、訪問先のロシア・モスクワでプーチン大統領と会談した。トカエフ氏の外遊は、権力基盤強化のため20日に実施した前倒し大統領選で圧勝後初めて。
●プーチンは無責任で厄介なナルシシスト──ロシア治安当局の内部告発 11/28
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロシア連邦保安局(FSB)の局内で「ナルシシスト」の烙印を押されていたことが、本誌が入手した内部告発者の電子メールで明らかになった。
3月5日付のこのメールは、「変化の風」と名乗るFSBのエージェントが、腐敗と戦うウェブサイト「Gulagu.net」を運営するロシアの人権活動家で、現在フランスに亡命中のウラジーミル・オセチキンに送ったものだ。その内容から、FSB内の一部の人々がプーチンをどう見ているかがわかる。
このFSBエージェントはオセチキンに定期的に情報を送り、2月24日にプーチンがウクライナ侵攻を命じたことで始まった戦争に対する局内の怒りや不満を明らかにしていた。
ワシントンが本拠地のNPO「変化の風リサーチグループ」のイゴール・スシュコ事務局長は、エージェントからの通信が始まって以来、文面をロシア語から英語に翻訳している。彼はすべてのメールを本誌に提供した。
内部告発者の最初のメールは、3月4日に書かれたもので、FSBに関する専門家クリスト・グロゼフが内容を分析した。グロゼフは3月6日、「FSBの現役および元関係者2人にメールを見せたところ、『同僚が書いたものであることは間違いない』と認めた」と述べた。
FSBが知るプーチンの性格
変化の風と名乗るエージェントは、3月5日のメールで「プーチンとFSBの状況はこうだ」と書き始めた。「一方で、プーチンは支持され、尊敬されているが、少し深く掘り下げると、それはプーチンのイメージに対する集団的感情にすぎない。FSBは現実を知る力があるから、それがわかる」
FSBには「忘れてはならないルールが1つある」があると、このエージェントは述べた。
「プーチンのイメージを批判することは、自分の利益に背くことになる――ほとんどの人にとって、このルールは当然で、疑問の余地のないことと見なされている」
このエージェントによれば、FSBの人間はプーチンと個人的に接触しているわけではないが、もしプーチンをFSBに採用する予定の人材として評価し、「状況プロファイル」を作成するとしたら、4つの重要な見解を示すだろう。
第1に、「事実として自己愛性障害がある。おそらく幼少期のコンプレックスによるもので、それを克服する方法として発症した」
プーチンはこれまで何度もナルシシストのレッテルを貼られたことがある。カーター政権の国家安全保障問題担当大統領顧問だった故ズビグネフ・ブレジンスキーは、プーチンを「ナルシスティックな誇大妄想」と非難し、イランのマフムード・アフマディネジャド元大統領はプーチンを「暴君的ナルシシスト」と呼んだ。ファイナンシャル・タイムズ紙はソチオリンピックを「プーチンのナルシスティックな自己賛辞」と表現した。
自分の責任を否定する
第2に、プーチンの「家庭生活の拒絶」も、架空のFSB採用プロファイルに含まれるだろう、とこのエージェントは述べる。
「プーチンの両親に関する情報はなく、子供や自分の私生活は秘密に包まれている。そのため、親密な関係を求める心理的な代償メカニズムが必要になっている」
このような心理タイプは「相手によって対応を使い分ける『クロスドミナンス』タイプになりやすい」と、エージェントは示唆する。
第3に、プーチンは「自分の支配下にあって御しやすい人物よりも、自分が子供の頃に憧れたり恐れたりしたような人物で周囲を固めたがる」
さらにエージェントは、プーチンは「困難な決定に対する個人的な責任にきわめて強い心理的抵抗を示す」ことも指摘した。
「これは上記の「自己愛性障害」の結果といえるが、ひいては、自分の罪悪感や責任を自分自身に対してさえ否定するメカニズムにもつながる」と、エージェントは説明する。
「ほぼ絶対的な確信を持って次のことが言える。プーチンは心理的に、自分の親しい人からの申し出を正当な理由をもって拒否するということができない。だがこれは彼が『イエス』と答えても、誰にも何も保証しないという結論にもつながる。保証するということは、責任を取るということだからだ」
このエージェントによると、プーチンの「親密なサークル」のメンバーが何かを申し出た場合、彼はそれに同意する。だが、「その提案を監督し、責任をとることを、提案した本人に委ねるだろう」。
●加速するプーチン離れ。集団安全保障条約機構で高まるロシアへの不満 11/28
旧ソ連の6カ国で構成され、「ロシア版NATO」とも言われる集団安全保障条約機構(CSTO)。そんな軍事同盟が今、崩壊の危機に立たされています。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、CSTO内で高まりを見せるロシア離れの動きを紹介するとともに、その流れを招いた原因を解説。さらに旧ソ連圏での影響力低下につながったプーチン大統領のウクライナ軍事侵攻を、「戦略的敗北」と切り捨てています。
プーチンの大戦略的失敗で崩壊に向かうCSTO
今日は、日テレニュース11月24日から見ていきましょう。
プーチン大統領は23日、ベラルーシやアルメニアなど旧ソ連圏6か国の軍事同盟であるCSTO(=集団安全保障条約機構)の首脳会議に出席しました。
この中でアルメニアのパシニャン首相は、隣国アゼルバイジャンとの衝突にCSTOが介入する役割を果たさなかったと不満を述べ、一部の合意への署名を拒否しました。
また、プーチン大統領がウクライナ情勢について説明したのに対して、カザフスタンのトカエフ大統領は、「和平を模索する時が来た」と苦言を呈しました。
トカエフ大統領はこれまでも軍事侵攻には批判的でしたが、ウクライナ侵攻によってCSTOの結束に乱れが生じているとも指摘され、プーチン大統領の求心力低下が浮き彫りとなっています。
この記事を読んで、「なるほど、そうなっているのか!」と思った人は、かなり世界情勢に精通されている方です。
要は、「ウクライナ戦争長期化で、プーチンの求心力が低下し、CSTOに亀裂が入っている」という話なのですが。解説が必要でしょう。
CSTOとは?
CSTO(=集団安全保障条約機構)は、旧ソ連諸国が1992年に作った軍事同盟です。加盟国は、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン。
CSTOの目的は、なんでしょうか?ウィキをみてみましょう。
集団安全保障条約機構の目的は、条約加盟国の国家安全保障、並びにその領土保全である。ある加盟国に脅威が発生した場合、他の加盟国は、軍事援助を含む必要な援助を提供する義務を有する。
要するに、一つの加盟国が攻撃されたら、他の加盟国は、協力して攻撃された加盟国を守ると。
アルメニア、不満の背景
NATOの実態は、トランプさんがいっていたように、「アメリカが他の全加盟国を守る」ということでしょう。同じように集団安全保障条約機構(CSTO)は、実質「ロシアが、他の全加盟国を守る」というものです。
ロシアは、CSTOで旧ソ連圏の影響力を保つことができる。他の加盟国は、ロシアに守ってもらうことができる。一応、「WIN-WIN」の関係ができあがっていたのです。
ところが、最近問題が多くなっています。ロシアは2月24日、ウクライナへの侵攻を開始しました。現状劣勢で、他のCSTO加盟国を助ける余裕はないようです。たとえば。
CSTO加盟国のアルメニアと、CSTO非加盟国の旧ソ連国アゼルバイジャンは、ナゴルノ・カラバフの領有権をめぐって対立をつづけています。2020年にも戦争がありましたが、2022年9月にも再燃したのです。ニューズウィーク9月20日を見てみましょう。
ロシアとウクライナの戦争が泥沼化するなか、旧ソ連国のアルメニアとアゼルバイジャンの国境紛争が再燃している。
係争地ナゴルノ・カラバフをめぐって対立してきた両国軍が、9月12日から13日にかけて国境地帯で再び交戦状態となり、双方合わせて数十人が死亡。アルメニアのパシニャン首相は13日、ロシアのプーチン大統領と電話協議をし、ロシアと旧ソ連構成国によるロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)に紛争への介入を申し入れた。
パシニャン首相は、CSTOの介入を求めました。当然ですね。そのためのCSTOですから。
ところが、CSTOの事実上の支配者であるロシアは、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争時に、同盟国アルメニアを見捨てた過去があります。
2020年9月にも、ナゴルノ・カラバフ地方で両国の大規模な軍事衝突が勃発。この際もCSTO加盟国であるアルメニアはロシアに介入を求めたが、ロシアは軍事介入せず中立を維持し、トルコの支援を受けたアゼルバイジャンが事実上の勝者となった。
今回、アルメニア国防省はロシアが「状況を安定させる」ため協働することに合意したと発表。ウクライナで苦戦するロシアにアルメニアを助ける余力はあるのか。
さて、ロシアとロシアが支配するCSTOは、アルメニアを助けたのでしょうか?今回も助けなかったのです。結果、アルメニアでは、「役に立たないCSTOから脱退しろ!!」という大規模デモが起こりました。アルメニアがCSTOにいても、ロシアは助けていないので、近い将来脱退する可能性がでてきています。
こういう背景を知った上で、あらためて日テレニュース11月24日の記事に戻ってみましょう。
プーチン大統領は23日、ベラルーシやアルメニアなど旧ソ連圏6か国の軍事同盟であるCSTO(=集団安全保障条約機構)の首脳会議に出席しました。
この中でアルメニアのパシニャン首相は、隣国アゼルバイジャンとの衝突にCSTOが介入する役割を果たさなかったと不満を述べ、一部の合意への署名を拒否しました。
アルメニアのパシニャン首相が署名を拒否した理由がわかるでしょう。
ちなみに、プーチンがアルメニアをサポートできない理由は、ウクライナ問題以外にもあります。アルメニアと戦ったアゼルバイジャンの背後にはトルコがいます。トルコが、アゼルバイジャンにドローンを提供した。そのドローンが、アルメニアの戦車部隊に壊滅的打撃を与えた。そして、そのトルコのエルドアン大統領は、ロシアとウクライナの仲介役をリアルにしている唯一の人物です(一方で、ウクライナ軍にドローンを提供する狡猾な側面もあります)。プーチンは、独裁者仲間で影響力のあるエルドアンのトルコと対立したくないのです。
ま、アルメニアにとっては、そんなことは知ったこっちゃありません。「ロシアは義務を果たしてくれ!」ということですね。
タジキスタンとキルギスの不満
ロシアの態度に不満を持っているのは、アルメニアだけではありません。中央アジアのキルギスとタジキスタンも大きな不満をもっています。実をいうと、CSTOの加盟国であるキルギスとタジキスタンは9月、一時戦争状態になっているのです。毎日新聞9月22日。
複雑に引かれた国境線を巡り対立してきた中央アジアのキルギスとタジキスタンの治安当局は14日から16日にかけて、国境付近で断続的に衝突した。キルギスは59人が死亡し、180人以上が負傷したと発表し、タジキスタンも38人の犠牲者が出たことを明かしている。
CSTOの支配者であるロシアは、加盟国同士が戦争状態になったのを放置しました。タジキスタンのラフモン大統領は10月、面と向かってプーチンを批判しました。産経新聞10月15日。
中央アジアの旧ソ連構成国、タジキスタンのラフモン大統領は14日、カザフスタンの首都アスタナで開かれたロシアと中央アジア5カ国の首脳会議で、プーチン露大統領に対し、「旧ソ連時代のように中央アジア諸国を扱わないでほしい」と述べ、タジクは属国扱いではない対等な国家関係を望んでいると表明した。会議の公開部分の発言をタジクメディアが伝えた。
プーチンは、タジキスタンを「属国の小国」と見ています。「属国」の長が、面と向かってプーチンを批判した。まさに「異例のできごと」です。
崩壊にむかうCSTO
ここまでをまとめると、
•CSTOは、ロシアを中心とする集団安全保障条約機構である
•CSTO加盟国であるアルメニアは、隣国アゼルバイジャンと戦争状態になり、CSTOに助けを求めるが、ロシアは、アルメニアを助けていない
•CSTO加盟国のキルギスとタジキスタンは9月、一時戦争状態になったが、CSTOのトップロシアは、何もしなかった
というわけで、どこからどうみても、ロシアを中心とするCSTOは機能不全に陥っています。近い将来、脱退国が相次いで、事実上の解体状態になっても、誰も驚かないでしょう。
プーチンは、ウクライナへの影響力を確保するために、侵攻しました。結果、ロシア自体が弱体化し、カザフスタン、アルメニア、キルギス、タジキスタンなどが、ロシアから離れてきている。旧ソ連圏への影響力強化を目指した侵攻の結果、逆に影響力を大幅に減らす結果になっているのです。
私は、ウクライナ侵攻がはじまる前から、「ウクライナに侵攻すれば、ロシアの戦略的敗北は不可避」といいつづけてきました。侵攻の結果、旧ソ連圏での影響力が大幅に減ったというのも、「戦略的敗北」の一つです。
●ロシア軍事侵攻「この冬の戦闘は激化する」 11/28
いまの戦況をどう見る?
ウクライナ軍が9月から主導権を取りかけ、11月には南部の要衝ヘルソンを取り返したことで、この2か月ほどはウクライナ軍のペースで進んできたと思います。問題はこの先です。
今後もウクライナ軍が主導権をとり続けられるのか、それともロシア軍が取り返すのか、ここは、少し分からなくなってきている感じがします。
というのは、ウクライナ軍はヘルソンを陥落させましたが、川を渡ってドニプロ川の向こうまで反撃していくことは、かなり難しい。逆にロシア軍も川を渡ってヘルソンの西側を取り返しにいくというのも難しい状況です。このため、このヘルソン周辺の戦線は、しばらくは「こう着」せざるをえないのではないかと思います。
つまり、今度は勝負の場が、どこか南部以外の場所に移るということです。
ロシアは、新しい勝負の場所をウクライナ東部のドンバス地域にしようとしていて、特にその1つのドネツク州のバフムトという都市の周辺で、非常に激しく攻勢をかけ始めています。そのため、まずはウクライナ軍がバフムトを守りきるのか、それともロシア軍が2022年6月に東部のルハンシク州の要衝、セベロドネツクを落としたように、力で押してバフムトを奪うのか、このあたりが焦点になりそうです。
また、ウクライナ軍も主導権を手放すことはしたくないはずなので、どこかで新たな反撃に出ると思いますが、その場所がどこなのかも気になります。
いまはいったん大きな戦闘が休止していて、ロシアもウクライナも、おそらく大きな攻勢に出ようとしているけれども、それはいつ、どこなのかということを探り合っている状況ではないかと思います。
厳しい冬、どちらが有利?戦況への影響は?
有利か不利かは「戦術」レベルと「作戦」レベル以上とで分けて考えたほうがいいです。
「戦術」レベルで考えると、ウクライナ軍は冬期専用の装備を手厚く支給されている一方、ロシア軍、特に動員された兵士たちは、ろくな被服も与えられていないという話があります。このため戦場で、どちらの兵隊が凍えるか、どちらの士気が高いかという問題でいうと、ウクライナ軍の方が有利なのかと思います。
他方で、そもそも個々の兵士を超えた「作戦」レベル以上とか「戦略」レベルで考えた場合は、この冬の戦闘というのは、攻める方が有利になるのではないかとみています。
秋までは地面がぬかるんでいたので攻める側が不利でした。しかし、冬の戦闘になると、地面が凍って、ざんごうを掘るのも大変になることから、今度は守る方が大変になります。そうすると、どちらが先に大規模な攻勢を発動して、相手を受け身に回らせられるかという勝負になってくるのではないかと思います。
一概に、どちらが有利、不利とは言えません。相手が後手に回らざるをえないような巧妙な攻勢を、どちらが仕掛けるか、です。
ロシア軍の戦略どうなる?インフラ攻撃の効果は?
都市に対する空襲は、一種の場外乱闘戦です。戦場で勝てなくなり始めたから戦場以外の場所でなんとか勝てるようにしようというものです。
場外乱闘の方法として、ロシアは、カホフカのダムを破壊して周辺を水浸しにするかもしれないとか、ザポリージャ原発を破壊して放射性物質をまき散らすかもしれないとか、これ以上ウクライナが抵抗を続けるとそういうことが起きるぞ、という脅しをかけています。
ただ実際にできるかというとなかなか難しいのが実情です。このため、ロシア軍はこれから冬にかけて、人々が電気、熱を必要とするときに、インフラ、特に発電施設を攻撃して、ライフラインを絶つという作戦を行っています。
これは一種の戦略爆撃です。敵の軍隊ではなく、都市に対して爆撃を行って国民を狙うという100年以上前からある発想です。ただ、私はこれ自体で戦争のすう勢が大きく変わる感じは持っていません。
あとはロシアがこのような空襲をどれだけ続けられるのかということです。こうした攻撃には、ドローンとかではなく巡航ミサイルを使わざるをえないと思いますが、今のロシア軍が半年も1年もこの攻撃を続けられるかというと、ちょっと難しいんじゃないかという感じがしています。
私はやはりロシアは、どこかの時点で、こうした住民の生活を狙った攻撃は切り上げざるをえず、再び「戦場での勝負」というのが中心に出てくるのではないかという気がしています。
どういう状況なら停戦交渉に?
いま、交渉が活発化していることはどうやら確かなようです。
この前のロシアのSVR=対外情報庁のナルイシキン長官とアメリカのCIA=中央情報局のバーンズ長官の会談もそうだし、ロシアの安全保障会議のパトルシェフ書記とアメリカ・ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官も、過去数か月間、連絡をとりあっていたといわれています。
アメリカとロシアが話し合いを続けていることはどうやら間違いない。確かにプーチン大統領もゼレンスキー大統領も時々、「停戦」という単語自体は口にしています。
しかし、そこから自分でイニシアチブをとって停戦をはじめようという動きがあるかといえば、いまのところ見せていません。特にウクライナ側から見た場合、いま「停戦」というのは言い出しにくいと思います。ウクライナ軍がせっかく領土を奪還し始めた段階なので、ここで「もうそろそろやめます」とは、なかなか国民に言いにくいところです。
もう1つ、やはりウクライナ側とすれば「ここで停戦する」と言っても、本当にプーチン大統領が停戦するかどうかが分からないということがあります。
ロシアが「停戦する」とだけ言っておいて、その停戦期間を、戦力を再建するために使って、また何か月かしたら攻めてくるのではないかという疑いをもっても当然です。ウクライナとすればロシアが侵略を再開できないぐらいに、もう少し戦場で勝たないと心配で停戦ができないということだと思います。
冬の戦況どうみる?
今回の戦争は極めて古典的な、戦場での軍隊同士のぶつかり合いで勝負が決まるというタイプの戦争です。
これから冬になって地面が凍って大規模な戦闘がやりやすくなるというときに、ロシア側とウクライナ側が、どのぐらい戦果を上げるのか、特にウクライナ側がロシアの侵略をこれ以上続けられないぐらいまでの損害を与えられるのかというところに大きくかかってくると思います。
秋は地面がぬかるんでいて普通のタイヤをはいている軍用トラックみたいなものだと、もう身動きが取れなくなるんです。まさにこの雨や地面のぬかるみが、クラウゼビッツが著書「戦争論」の中で「摩擦」と呼んだものです。
人類同士の戦争は、極限まで暴力をエスカレートさせていくというメカニズムが根本的に備わっているんだけど、現実にはいろんな理由で絶対的な暴力までいかない。その要因の1つが「摩擦である」「天候である」というふうに指摘しています。まさにクラウゼビッツが言うところの「摩擦」が、この秋にウクライナで発生しているのです。
ただ、寒さが厳しい冬になれば、地面が凍って、カチコチになります。
要するに、地面が普通に乾いて固い時と同じような状態になるので、実は両軍にとって、戦闘がしやすくなります。広く野原に展開して戦えるわけなので、これはお互いの戦闘力をフルに発揮することが可能になり、お互いの軍事力の地が出るような戦場になるんだと思います。
このため、私はこの冬の戦闘はやっぱり激化するのではないかと思っています。ロシア軍の持っている火力というのは侮れません。ウクライナ軍はロシア軍の火力そのものはつぶせないので、後方の弾薬庫などを高機動ロケット砲システム=ハイマースでたたくという戦闘を夏から続けてきて、大きな戦果を上げていますが、東部の要衝バフムトなどドンバス地域は、ロシア本土から近く、ウクライナ軍から脅かされるほど長い補給線もありません。
ウクライナ軍のハイマースの威力などはありつつも、ロシア軍の火力が依然として非常に高いことから、この冬、特に東部では火力がものを言うような戦争になっていく可能性が高いと思っています。
いつまで激しい戦闘続く?
この冬にいかにウクライナ側がうまくやったとしても、ロシアが完全に侵略を諦めて、この冬の間に軍隊を撤退させることは、ロシア側が大きく意図を変えないかぎり、なかなかないと思います。 
そうすると、この戦闘が来年の春先まで続いて、春先の泥ねい期(ぬかるみの状態)でいったんはこう着した後、春夏になると戦闘が再開できます。そうなると非常に嫌な話しですが、だいたい来年いっぱいぐらいまで戦闘が続くという状況が見えてきます。
そのときに果たして国際社会がどこまでウクライナを支え続けられるのか、です。もちろんロシア側も負担は厳しいので、ロシア自身の体力や国民の支持がいつまでもつのか、という点もあります。
侵攻開始1年を越えたぐらいから非軍事的な要素、周辺の国々とかロシア自身の体力が問題になってくると思っています。
戦況苦戦も プーチン氏どう出る?
そもそも今回の戦争でのロシア側の大きな目的は、ウクライナをロシアの勢力圏として取り戻すというものであるように思います。
開戦当日にプーチン大統領が言ったのは、ウクライナの「非ナチ化」、つまりゼレンスキー大統領の政権は「ナチス」だと言っているわけです。
いまの政権を下ろして、非武装化と中立化を実現し、軍事的にロシアに逆らえない状態にするということが目標です。とするならば、これは簡単に諦められることではなく、ウクライナの一部の領土を支配するとか、何らかの資源地帯を占拠するとかで満足する戦争でもない気がします。
ウクライナという国が、ロシアに対して独立の意思を持った存在であるということそのものがどうも気に入らない、おそらくこれがロシアのオリジナルな意思なんだと思います。 
今後のポイントとしては、ロシア側がウクライナの主権そのものを否定するような考え方を変えずにいくのか、それともある程度の支配領域を持って満足し、このぐらいまでやれば、国民に一応「勝った」というふうに言えるという政治的な打算を優先するようになるのか、ではないかと思います。
ただ、もしもプーチン大統領が当初の戦争目的を放棄しないのであれば、やはりこの戦争は簡単に終わらないだろうと思います。
●ドイツはどのようにロシア産ガスから脱却したのか  11/28
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が欧州へのガス栓を閉めた時、ドイツは他の誰よりも、停電続きの冬を恐れた。工業大国ドイツがいかにロシア産ガスに依存していて無防備か、いやというほど承知している政府幹部は、代替供給の確保に走り回った。
しかしそれから数カ月がたった今、ドイツ各地のクリスマス・マーケットにはイルミネーションがともった。グリューワインの香りがただよう空気の中には、慎重ながら楽観的な気配もある。ドイツ政府が急ぎ取りまとめたロシア産ガス脱却戦略は、今のところ、成功している。
オラフ・ショルツ首相は23日、「この冬のエネルギー安全保障は確保された」と議会に報告した。
ドイツ政府は世界中の市場で必死に、高いお金を払って、購買計画を進めた。おかげで、国内のガス貯蔵量が満タンになった。
そればかりではない。風の吹き荒れる北海沿岸、液化天然ガス(LNG)の輸入基地が史上最速で建設されたばかりだ。
LNGは、体積を減らし、輸送を容易にするために冷却され、液化された天然ガスを指す。目的地に到着した際に、再び気体に戻される。
ドイツ政府は、何事もなかなか進まない遅々とした官僚主義で有名だ。こうしたプロジェクトの実現は通常なら何年もかかるが、政府は役所仕事をとことん省略し、200日以下で基地を完成させた。
この基地で最も重要な浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU)は、まだ係留されていない。LNGをガスに戻す機能の付いたこの船は、1日当たり20万ユーロ(約2900万円)で貸与されるという。
一方で、アメリカやノルウェー、アラブ首長国連邦(UAE)などから運ばれてくるLNGが、あと数週間でヴィルヘルムスハーフェンの港に到着する。LNG基地を運営するウニパーは、サプライヤーについては口をつぐんでいるが、契約は結んでいると主張している。
このほか5カ所にLNG基地の建設が計画されており、そのほとんどが来年に完成予定だという。
ドイツ産業界の命運はこれにかかっている。
ヴィルヘルムスハーフェンから車で30分のところでレンガ工場を経営するエルンスト・ブホヴさんは、「ガスがなくなったら炉を止めなくてはならない」と話した。
レンガは、巨大な炉の中で1200度の高温で焼き上げる。ブホヴさんは、いつかは環境にやさしい水素を使いたいと話すが、それには時間がかかるという。現時点では、安定したガス供給に全て依存している。
「これは政治家のせいだけではない。産業界がロシアとのガス契約を求めていた」と、ブホヴさんは言う。
ほんの1年前まで、ロシア産ガスはドイツのガス需要の60%を占め、そのほとんどがガスパイプライン「ノルド・ストリーム」経由で輸送されていた。
議会や国民からの大きな反対にも関わらず、当時のドイツ政府はなお、「ノルド・ストリーム2」の開設を検討していた。このパイプライン計画は、ロシアからドイツ経由で欧州に送られるガス量を2倍にするものだった。
連邦政府のエネルギー系当局によると、ドイツは現在、ロシア産ガスなしでもやっていけている。しかし専門家は、冬季のガス不足を避けるためには、LNG基地を年明けにも稼働させるほか、国内のガス使用量を20%削減する必要があると指摘する。
この状態に達しただけでも、国家的な偉業と言えるかもしれない。しかし、莫大なコストがかかっている。
ドイツは経済大国で、欲しいものは大抵手に入れられる。ドイツのLNG需要が急増したことで、世界的な需要も加速した。
その結果、バングラデシュやパキスタンといった貧しい国が、弱い立場に追い込まれたかもしれない。
独ヴィリー・ブラント公共政策大学院のアンドレアス・ゴルトタウ教授は、「LNG価格の高騰によって、新興国を中心に、実に多くの国が必要なLNGを調達できなくなっている」と話した。
こうした国々は「ヨーロッパ諸国、特にドイツに比べて購買力が低い」。そのため、停電が頻発する恐れがあり、石炭など(天然ガスより)「汚い」化石燃料への依存度を高める可能性があると、教授は警告した。
そして、環境により優しい未来を目指すドイツ自身の野望はどうだろうか。LNGは結局のところ、化石燃料だ。
ヴィルヘルムスハーフェンの計画に携わる人はみな、LNGは「暫定的な」燃料だと口をそろえる。
ウニパーは、LNGターミナルと共に、水素を使った施設も建設すると約束している。これが、ヴィルヘルムスハーフェンの市議会で野心的な計画に火をつけた。カールステン・ファイスト市長は、同市に必要な雇用をLNGターミナルがもたらすことはないが、グリーンエネルギー・ハブにはそれができると述べた。
「50年後、100年後の地球の気候が居住可能であるためには、エネルギー転換が必要だ。ドイツが必要とするその多くは、ここヴィルヘルムスハーフェンで、そしてヴィルヘルムスハーフェンを通じて実現する」
そのための最大のコストはおそらく、文字通り設備の費用そのものだ。
政府は6つのLNG基地に60億ユーロ以上を投じている。これは当初想定していた予算の2倍以上で、来年はさらに増加する可能性があると、閣僚らは自ら認めている。
ドイツは、安全なエネルギー供給の価値を知るのが遅すぎた。そのツケが回ってきたのだ。
●ロシアとの交渉は「前提条件なし」で、ベラルーシ大統領がウクライナに求める 11/28
ベラルーシのルカシェンコ大統領は27日、ウクライナ政府がロシアとの交渉で前提条件を提示することは「間違い」だとし、そうした前提条件があると交渉を始めることができないと主張した。
ルカシェンコ氏はロシア国営テレビの取材に答え、「ウクライナの人々、ボロディミル・ゼレンスキー(大統領)の間違いは、交渉過程の古典的な原則に違反していることだ。特に、巨大なロシアと話し合いを行うときは。事前に条件を提示することはできない」と述べた。
ルカシェンコ氏は、交渉のテーブルに着き、そこですべての条件を提示するとし、二つ目の原則として「妥協」を挙げた。
ロシア政府はベラルーシ政府を、ウクライナ侵攻の衛星基地として利用している。ロシアのプーチン大統領は、侵攻が始まった当初、ロシアとベラルーシの国境を通過して軍隊をウクライナに送り込んだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10月、プーチン氏とのあらゆる交渉を排除した法令に署名していた。

 

●プーチン大統領 カザフスタン大統領のロシア訪問を歓迎 11/29
ロシアのプーチン大統領は、今月再選を果たしたカザフスタンのトカエフ大統領とモスクワで会談し「あなたの訪問には特別な意味がある」と歓迎しました。
トカエフ大統領はこれまで、ウクライナに軍事侵攻したプーチン政権とは、一定の距離を置く姿勢を示してきたことから、プーチン大統領としては両国の結び付きを強調したい思惑があるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は首都モスクワを訪れた中央アジアのカザフスタンのトカエフ大統領と28日、会談しました。
トカエフ大統領は今月再選し、26日就任式を終えたばかりで、プーチン大統領は「あなたが再選してから最初の外国訪問でロシアを訪れたことは、両国関係にとって特別な意味がある。われわれは高く評価している」と歓迎しました。
旧ソビエトの構成国だったカザフスタンをみずからの勢力圏とみなすプーチン大統領としては、両国の政治的・経済的な結び付きを強調したい思惑があるとみられます。
一方のトカエフ大統領は「ロシアはこれまでも、これからも、主要な戦略的パートナーだ」と応じました。
トカエフ大統領はこれまで、ウクライナに軍事侵攻したプーチン政権とは一定の距離を置く姿勢を示し、29日にはフランスを訪問する予定で、ロシアに偏らず、ヨーロッパなどとの関係も重視する構えを見せています。
●プーチン大統領、カザフ大統領と会談 経済協力強化で一致 11/29
ロシアのプーチン大統領とカザフスタンのトカエフ大統領が会談し、ウクライナ侵攻をめぐる立場の違いも表面化する中、経済協力の強化などで一致しました。
ロシアのプーチン大統領とカザフスタンのトカエフ大統領の会談は、28日、モスクワで行われ、トカエフ氏にとっては前倒し大統領選での再選後初めての外遊となりました。トカエフ氏は「カザフスタンにとってロシアは主要な戦略的パートナーだ」と表明。両首脳は経済協力を強めることで一致しました。
一方、トカエフ氏はこれまでウクライナ侵攻をめぐり、「和平を模索する時が来た」と発言するなど、ロシアと一定の距離を置く姿勢も示しています。再選後の大統領就任演説では、ロシアとともに中国を「戦略的パートナー」だと紹介したほか、欧米との関係も発展させていくとしています。
●ゼレンスキー氏「ロシア軍、1週間で258回砲撃」 ヘルソン州 11/29
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日のビデオ声明で、今月中旬にロシア軍から奪還した南部ヘルソン州の州都ヘルソンを含むドニエプル川の西岸地域の人口密集地に対し、露軍が1週間で258回の砲撃などを行ったと明らかにした。
ゼレンスキー氏はその上で、ロシアはプーチン大統領の統治下にあった20年間以上、戦争もしていないのに自らの国土を荒廃させてきたと指摘。ロシアの攻撃は荒廃していないウクライナへの「恨み」によるものだとし、「ウクライナは荒廃の地にならない。破壊された住居や企業の再建に全力を尽くす」と表明した。
ヘルソン州では、ドニエプル川の東岸地域を支配する露軍が砲撃を続け、東岸地域へのウクライナ軍の進出を防ごうとしている。ウクライナ警察当局によると、西岸地域の奪還後、露軍による砲撃で民間人30人以上が死亡した。
●兵士の母「戦争やめよ」=公開書簡にネット署名―ロシア  11/29
ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻を巡り、兵士の母らの女性団体が「戦争の停止とロシア軍のウクライナ撤退」を求める公開書簡を発表した。独立系メディア「メドゥーザ」が28日に伝えた。兵士の帰還を求める署名運動も同時に展開している。
公開書簡は27日付。ロシアの「母の日」に合わせ、女性団体「フェミニスト反戦レジスタンス」「予備役・新兵の母の会」が合同でインターネットに掲載した。
プーチン大統領は25日、公邸に政権派の兵士の母を招き、寄り添うそぶりを見せ、特別軍事作戦(侵攻)が支持されているとアピールした。これが「芝居」と受け止められる中、女性団体が公開書簡で真っ向から異を唱えた格好だ。 
●ロシア工業生産、予想ほど落ち込まず 軍服・兵器製造が押し上げ 11/29
ロシア連邦統計局(ロスタット)が発表した10月の工業生産は前年比2.6%減となった。予想の3.8%ほど減少しなかったほか、前月の3.1%減から改善。ウクライナでの軍事作戦に新たに動員された部隊の装備を整えるなど、政府が軍事支出を増加させていることが製造業活動を押し上げているとみられる。
ロシア経済は欧米の制裁措置、外国投資の流出、流通網の混乱などの影響で、今年は10%のマイナス成長に陥る可能性があるとの見方が出ていたが、これまでのところ予想ほどの影響は出ておらず、ロシア経済省は現在、今年のマイナス成長幅は2.9%にとどまるとの見方を示している。
ロッコ・インベストの投資責任者、ドミトリー・ポレボイ氏は「動員と軍事費増加の影響は工業生産に明確に反映されており、他の民間部門の落ち込みが相殺されている」と述べた。
統計局の発表によると、衣料品の生産は10月に前年比11.9%増加し、増加率は9月の5.6%、8月の2.9%から加速したほか、軍服を含む「作業着」の生産は前年同月と比べ2.2倍に増加した。
政府はプーチン大統領が9月に発令した部分動員令に基づき約30万人の予備役を招集。金融サービスFinamのマクロ経済分析責任者、オルガ・ベレンカヤ氏は「軍に招集された人たちの軍服の生産」が背景にある可能性があるとの見方を示した。
軍事費の詳細は明らかにされていないが、ポレボイ氏は統計局の発表によると10月は兵器と弾薬の生産が顕著に増加したと指摘。セントロクレディ銀行のエコノミスト、エフゲニー・スボーロフ氏は、民間部門の生産の落ち込みが軍事費の増加で補われている可能性があるとし、「製造業生産は現在は主に軍事生産に支えられている」と述べた。 
●プーチン大統領の深まる孤立、盟友のベラルーシからも軍事作戦終結を訴え 11/29
サッカーW杯カタール大会に世界が熱狂しているが、前回2018年大会の開催国ロシアは、いまや見る影もない。ウクライナ侵攻を受けてスポーツ界では追放状態となったほか、欧州議会は「テロ支援国家」と決議、旧ソ連諸国からの批判まで噴出した。国内も不満がくすぶり、プーチン大統領の求心力低下を一層際立たせている。
旧ソ連6カ国で構成するロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の会合がアルメニアの首都エレバンで23日に開かれた。プーチン氏は「大祖国戦争(=第二次世界大戦時の対ドイツ戦)に勝利したという、私たち共通の歴史を記憶するために努める」と加盟国の団結を強調、軍事技術協力推進を表明した。
これに対し、プーチン氏の盟友とされるベラルーシのルカシェンコ大統領や、カザフスタンのトカエフ大統領が、軍事作戦の終結や停戦交渉再開を訴えた。アゼルバイジャンとの紛争を抱えるアルメニアのパシニャン首相は「CSTOはアゼルの侵略を防げなかった」と不満を表明。同紛争に関する共同宣言への署名を拒否した。
CSTOはロシアのほか、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンで構成されるが、「5カ国はプーチン氏が最後まで味方と考えていた国々だ」と筑波大の中村逸郎教授は指摘、「離反」は危機の兆候とみる。
「ロシアには旧ソ連諸国から移住した出稼ぎ労働者も多い。ウクライナ侵攻にも投入されているが、一部では『自分たちの戦争ではない』と大義を感じていないとされる。母国の反発をきっかけにロシア内部で諸民族が暴れ出す問題性をはらんでいる」
ベラルーシ国営ベルタ通信は26日、同国のマケイ外相が急死したと報じた。死因は心臓発作としている。
プーチン氏は20カ国・地域(G20)首脳会議の参加もかなわず、欧州連合(EU)欧州議会は23日、ロシアを「テロ支援国家」とする決議案を賛成多数で採択した。
スポーツ界でもロシアはウクライナ侵攻後、W杯欧州予選から追放され、各国協会は対戦拒否を表明した。プーチン氏は柔道家としても知られ、スポーツは外交のアピール材料だっただけに皮肉な結果となった。
中村氏は「ロシアは、ITや宇宙分野など新たな基幹産業育成にも失敗し、国威発揚や外交ツールがスポーツぐらいだといえる。ロシアでもサッカーは人気で、前回のW杯開催国だっただけに、今回の挫折感は相当なものだろう。経済的不満に加え、スポーツでも排除される現状をみて、さらに『反プーチン感情』は高まるのではないか」と語った。
●ローマ教皇、ロシア軍の少数民族部隊が「最も残酷」 ロシアは反発 11/29
ローマ教皇庁(ヴァチカン)の教皇フランシスコは、雑誌のインタビューでロシア軍の少数民族部隊をとりわけ残酷だと評した。ロシアは反発している。
キリスト教カトリック教会トップの教皇は、アメリカのイエズス会系雑誌「アメリカ」によるインタビューの中で、チェチェン人とブリヤート人部隊が「最も残酷だ」と述べた。
また、1930年代にが旧ソヴィエト連邦がウクライナで引き起こした大飢饉(ききん)「ホロドモール」はジェノサイド(集団虐殺)に当たると述べた。
ロシアは、一連の発言は「曲解」だと反発し、少数民族も「一つの家族だ」とした。
インタビューの中で教皇は、ロシアのウクライナ侵攻を直接的に非難するのをためらっているように見えるのはなぜかと質問を受けた。
教皇はこれに対し、「部隊の残酷さについて多くの情報」を受け取っていると説明。
「一般的に、最も残虐なのはロシアの伝統に沿っていないロシア人、例えばチェチェン人やブリヤート人などだろう」と述べた。
一方で、「侵略しているのはロシア国家だ」と付け加えた。
チェチェン人はロシア南西部チェチェン共和国出身で、大半がイスラム教徒。ブリヤート人はシベリア東部に先住するモンゴル系民族で、仏教やシャーマニズム信仰を持っている。
ロシアは国内に、こうした異なる民族や宗教から成る多くの共和国を抱えている。ロシア全体での主流の宗教は、キリスト教のロシア正教会。
「名指しせずとも」
教皇はまた、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話で数回、会談したと明らかにした。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とも、在ヴァチカン・ロシア大使を通じて連絡を取ったという。
プーチン大統領を直接非難していないとの批判に対しては、「私は時には、誰を非難しているのか明らかであっても、気分を害さないように特定せず、むしろ一般的に非難するようにしている。名前と苗字を示す必要はない」と答えた。
その後、「プーチン氏と名指しせずとも、みんな私の態度は分かっている」とも話した。
教皇はさらに、ホロドモールから90年に合わせて祈念したいと発言。この飢饉はジェノサイドであり、現在の紛争の「歴史上の前例」だと述べた。
1932〜1933年にかけてウクライナを襲ったホロドモールでは約400万人が犠牲となった。当時のソヴィエト連邦のヨシフ・スターリン政権による農業の集団化が原因とされる。
ロシアは発言を非難
ロシア国営放送RTによると、同国外務省のマリア・ザハロワ報道官は、これらの発言を非難。
「もはやロシア恐怖症どころではなく、どう呼んでいいのかさえわからないレベルの曲解だ」と述べた。
ザハロワ氏はその後、通信アプリのテレグラムに、「私たちはブリヤート人、チェチェン人、そして多国籍・多民族から成る私たちの国の他の代表者たちと共に、一つの家族だ」と書き込んだ。
●旧ソ連構成国の軍事同盟がプーチン氏に距離、「隣国侵略に賛同しない」  11/29
慶応大の廣瀬陽子教授と防衛省防衛研究所の山添博史主任研究官が29日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、ロシアのウクライナ侵略について議論した。
山添氏はロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議で加盟国がプーチン露大統領と距離を置く姿勢を示したことを「隣国を侵略することに賛同する国はどこにもない。一体感は元々ない」と分析。廣瀬氏は「CSTOのメンバーであることが親露か親欧米かという指標になっていたが、そのような区分ができなくなってきている」と語った。
●ロシア軍撤退から2週間、砲撃受けるヘルソンで市民が見せる絶望と反抗心 11/29
血の混じった水たまりと、焼け焦げた自動車の残骸。それがウクライナ南部の都市、ヘルソンの目印だ。同市は24日にロシア軍の砲撃を受け、当局者によると4人が死亡。平穏な空気は打ち砕かれた。
ロシアのプーチン大統領はヘルソン州の併合を主張し、州の住民は今やロシア人だと明言した。ところが同氏の軍隊はヘルソンからの撤退後、一度は保護すると約束した民間人を殺害している。
電力や水道の供給が急速に失われる中で、ヘルソンの人々は苦境に立たされている。冬の到来が迫り、事態はますます悪化する見通しだ。
ウクライナ侵攻の開始直後、ヘルソンはロシア軍によって制圧された。占領がようやく終わったのは今月11日に同軍が撤退してからだ。今住民らは、ウクライナ各地で起きているのと同じ種類の暴力に苦しめられている。
最近の砲撃で小さな食料品店も破壊された。地元の男性がなりふり構わぬ様子で瓦礫(がれき)をかき分け、食料品やトイレットペーパーを持ち去っていく。そこまでひどい状況かと、こちらが尋ねると、男性は物悲しい口調で「良くない」と答えた。
水道水の供給はロシア軍の攻撃を受けて遮断された。取材班は年配の女性が1人、排水管の下にバケツを置いてポタポタと滴(したた)る水を集めているのを見た。
また、市に面して流れるドニプロ川の水を容器で汲(く)み、高台にある自宅へ持ち帰る女性もいる。この女性は「水なしでは生きられない。だからここへ来る」と語った。
遠くではロシア軍とウクライナ軍が撃ち合う砲撃の轟音(ごうおん)が鳴り響く。うかうかと歩き回っていていい場所ではない。
ほんの2週間前、市中心部の広場は歓喜に沸いていた。ロシア側にとって、同市からの撤退は今回の戦争における最大の敗北の一つだった。
今は地元の行政府が立てた複数のテントが、現地の様々な苦難を象徴する。これらのテントは暖を取るためのものや携帯電話の充電をするためのものなど、目的別に設置されている。
充電用のテントの中では、あらゆる年齢層の人々が大勢でテーブルを囲み、紅茶を飲みながら自分たちの携帯電話の充電作業を行っていた。
娘とテントに来ていたハンナさんは、占領されていた時期を「とてもつらかった」と振り返りつつ、「今の方が生活はずっと良くなったと言える。確かに水も電気もないが、ロシア人もいない。多少の苦労などなんとも思わない。私たちは乗り越えられる」と話した。
前日が9歳の誕生日だったという娘のナスチャさんは、ウクライナ国旗のフェイスペインティングを施し、肩にも同国旗を羽織っていた。
占領されていた数カ月で、周囲の大人たちと同様ロシア軍に対する反抗心を身につけたナスチャさんは、「敵はもうすぐ全滅すると思う」「ウクライナを占領したらどうなるか、私たちが思い知らせる」と語った。
●ぶれるプーチン氏、戦争目的と「レッドライン」は  11/29
ウラジーミル・プーチン大統領が主導したウクライナ侵攻後、ロシアはしばしば戦争をエスカレートさせるという脅しをかけてきたが、脅しの多くを後にトーンダウンするか無視している。米国とその同盟国は、プーチン氏の真のレッドライン(譲れない一線)はどこなのか推測せざるを得なくなっている。
ロシアは最後通告とUターンを繰り返し、その戦争目的も絶えず変化している。このため西側諸国の政府当局者の間では、プーチン氏は自分の手に負えなくなっているこの戦争で、行き当たりばったりに対処することを余儀なくされているとの見方が強まっている。
それでも西側諸国の外交官らは、プーチン氏が核兵器を使う用意があると示唆したことを含め、同氏の発言を真剣に受け止めなければならないと話す。当局者らはロシアがウクライナに核攻撃を仕掛ける可能性は非常に小さいと考えている。だが米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は今月、トルコの首都アンカラでロシアのセルゲイ・ナルイシキン対外情報局(SVR)長官と会談し、核兵器を使わないよう警告した。
キングス・カレッジ・ロンドン戦争学部のマイケル・クラーク客員教授は「プーチン氏の行動には現在、自暴自棄の要素がある。なぜなら、戦況が芳しくないこと、そして戦闘の長期化を覚悟しなければならないことを知っているはずだからだ」と述べた。
ロシアはウクライナへの侵攻を拡大させている。ここ数週間でさらに数万人の兵士を前線に送り、ウクライナの電力網をはじめとする民間インフラへの攻撃を繰り返しており、首都キーウ(キエフ)などの都市はたびたび停電に見舞われている。
軍事アナリストらによると、ロシアの目的は、冬季にウクライナ国民を凍えさせることで士気を低下させ、西側諸国のウクライナ支援のコストをさらに高め、戦争が積極的に押し進められていることをロシア国内向けに示すことだという。
ロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟国の双方が維持するレッドラインの一つは、ほとんど明言されていないが、相手との直接的な軍事衝突を望んでいないことだ。
ロシアのその他のレッドラインは、しばしば幻想であることが判明しており、特に好戦的な発言の一部は裏目に出ている。プーチン氏は9月21日、「ロシアとその国民を守るために利用可能な全ての手段」を講じると述べ、ウクライナで核兵器を使用する用意があると警告した。
同氏は「これははったりではない」と付け加えた。
ロシア政府はその後、ウクライナが放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」の準備を進めていると非難した。西側諸国の当局者はこの動きについて、衝突をエスカレートさせる口実だと指摘した。
西側の当局者やアナリストによると、この脅しの主な目的は、西側諸国の市民に戦争に関するパニックを起こさせ、ウクライナへの支持をやめて、ロシアが示す条件で和平交渉を進めるよう各国政府を説得してもらうことにあった。
今のところ、この脅しは西側諸国によるウクライナ支援に影響しておらず、支援は順調に続いているように見える。
プーチン氏の核戦力による威嚇は、世界からの非難を浴び、ロシアを外交的に一層孤立させた。ジョー・バイデン米大統領はロシア政府に対し、戦術核兵器の使用が「極めて深刻な過ち」になると警告した。
極め付きは、中国の習近平国家主席が初めて公の場でロシアによる戦争行為を非難したことだった。習氏は、いかなる者も紛争で核兵器を使用したり、その使用をちらつかせたりすべきではないとけん制した。
ロシア政府は10月下旬までに姿勢を後退させた。プーチン氏はテレビの長時間インタビューで、ロシアにはウクライナで核兵器を使用する計画がないと述べた。世界中にいるロシアの外交官からも同様の発言が出た。
西側専門家は、戦場における核兵器の使用はロシアの軍事侵攻の目的達成にほとんど役立たず、米国とその同盟諸国を戦争にさらに深く引き込むリスクがあると指摘する。また1945年以来維持されてきた核兵器使用のタブーを破れば、ロシアへの非難が強まり国際的な孤立が一層深まるだろう。
ネブラスカ大学国家戦略研究所の核抑止問題の専門家クリストファー・ヤー氏は、現状において「その種のエスカレーションはロシアにとって利益にならないと思う」と語った。
こうしたロシアの戦術上の失敗は、これまでに他の局面でも繰り返されてきた。ロシアは先月、黒海での同国艦隊に対するウクライナ軍の攻撃を受け、穀物取引に関する国際的な合意から離脱する意向を表明した。同合意はウクライナ産穀物の途上国向け輸出を可能にするもので、国際的な食料安全保障の改善に貢献していた。
穀物輸送は継続された。民間船舶を沈められるものなら沈めてみよとロシアに挑戦するような形だった。結局ロシアが折れ、同国はその後72時間以内に、合意に復帰することを明らかにした。攻撃される可能性のある船舶への保険適用を欧米企業はどこかの時点で停止するため、ロシアが合意を崩壊させると決意していれば成功する可能性があった、と西側当局者は指摘する。
今月に入りロシアは、穀物輸出合意を新たに120日間延長することに合意した。その際、また方針を転換し、合意延長の条件として挙げていた要求を撤回した。ロシアは、西側による制裁の緩和と、同国産アンモニアの黒海向け輸出を可能にするウクライナのパイプライン再開を求めていた。
一方、ウクライナ国内でロシアが併合を宣言した地域への攻撃はロシアへの攻撃とみなされるという、プーチン氏が9月末に発した警告は、空虚さを増しつつあるように見える。
ロシア本土とクリミア半島を結ぶ「クリミア橋」が部分的に破壊された後、ウクライナの民間施設を標的としたロシアの攻撃が激化した。しかしロシアが併合したはずのヘルソンをウクライナが今月奪還した後の状況は、ロシアの警告と行動の食い違いを如実に示した。
ベルゴルドなど正式にロシアの領土である地域に対するウクライナによるものとみられる攻撃に対しても、ロシアは重要視しない姿勢を示している。
戦場でのウクライナ軍の成果を受けて、ロシアは戦争目的の変更を強いられている。ロシアは当初、ウクライナ政権の「非ナチ化」を目標に掲げていたが、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は先週、ロシアはウクライナの体制転換は求めていないと語った。
キングス・カレッジのクラーク氏は、ロシアが掲げる戦争目的は幾つかの段階を経て変化してきたと指摘。今では軍事的勝利を想定するのが難しくなっているため、戦争目的は「詰まるところ、敗北とならない形での戦争継続と、単なる時間稼ぎになってきている」と語った。
西側諸国の外交官や当局者らによれば、ロシアによるウクライナ侵攻に内在していた混乱、侵攻が長期戦になると見通せていなかった失態、ウクライナによる反転攻勢に対するパニックの増大が、プーチン氏の行動に表れているという。
ロシアによる継続的な威嚇について、少なくとも短期的にはロシアの利益になっている点が一つあるかもしれないとの指摘もある。ロシアの戦場での苦戦、経済的混乱、深まりつつある外交的孤立、そして残虐なウクライナ侵攻の基本的事実から、継続的に注意をそらす上では役に立つということだ。

 

●「併合」のウクライナ4州に連邦裁判所設置へ、プーチン氏が発表 11/30
ロシアのプーチン大統領は29日、ロシアが「併合」を宣言したウクライナの4州に対して連邦裁判所を設置し、4州を可能な限り早期にロシアの司法制度に統合すると明らかにした。
プーチン氏は、「ドネツク人民共和国(DPR)」と「ルガンスク人民共和国(LPR)」、ザポリージャ州、ヘルソン州に連邦裁判所を設置することが計画されていると述べた。
プーチン氏は、最高裁判所には他の機関とともに、裁判所の新しい組織の構築と司法制度への迅速な統合のための多くの仕事があると述べ、これらの作業は可能な限り早期に行う必要があるとした。
ウクライナ4州の併合は国際法の下では違法だが、ロシア政府は4州をウクライナの領土とみなしている。
ルハンスク州とドネツク州には親ロシア派が拠点を置き、2014年から戦闘が続いている。ヘルソン州とザポリージャ州は、今年のウクライナ侵攻の直後にロシア軍が占領している。
●プーチンの2段階作戦でウクライナ軍全滅の危険性も 11/30
ロシア軍によるウクライナでの軍事攻撃が続いている。
これまで、戦略的インフラ(軍隊や軍事施設)が主なターゲットだったが、最近になって戦略に変化がみられ、狙われるのが民間のエネルギー施設や通信インフラ、輸送施設へと変わってきた。
ウクライナ各地では、ロシア軍に攻撃された発電所やインフラ施設の復旧作業に追われており、すでに電力不足も発生している。
今の時期に広範囲にわたって停電になれば、氷点下の気温に耐えられず、多くの住民がウクライナからヨーロッパ諸国に越境することもありうる。
同問題に精通している米ジャーナリストのマイケル・ホイットニー氏によると、「ロシア軍の作戦目的は、戦争を行うウクライナ軍の能力を弱外化させることにある」という。
さらに「いま攻撃されている電力網、鉄道、燃料輸送施設、指揮統制センターは戦争を早く終わらせるために計画された2段階のファーストフェーズに過ぎない」とのことである。
ウラジーミル・プーチン氏のファーストフェーズの狙いは、ウクライナのエネルギー・インフラをミサイル攻撃して、大規模な停電を起こすことであるという。
すでに夜通し続いた攻撃によってウクライナの広範な地域で停電が発生。
それにより、プーチン氏はウォロディミル・ゼレンスキー大統領が二国間交渉に関与してくると読んでいた。
しかし、ゼレンスキー氏はあらゆる場面で頑なに外交を拒否し、ロシアと戦う選択をしている。
この決断は米ワシントンの政府関係者から支持されているためでもある。
それでも先日のロシア軍による電力発電施設への攻撃により、15基の原子炉を備えた4つの原子力発電所はすべて活動停止へと追い込まれた。
11月24日の朝、首都キーウは70%以上の家庭が停電に見舞われ、水道も首都の約半分で断水という事態に陥った。
広範囲にわたる停電が継続されると、必然的に生活に支障がでて、百万単位のウクライナ人がヨーロッパ諸国に避難することもあり得る。
ウクライナの電力システムの多くはすでに老朽化しており、そこにロシア軍による変電所などへの破壊行為が加わり、市民の生活は困窮してきている。
「ウクライナは徐々に石器時代に突入している」という冗談ともいえないことが語られはじめているほどだ。
プーチン氏が目論むファーストフェーズのインフラの破壊が行われた後は、第2段階としてウクライナの戦力の破壊に力が注がれるという。
ロシアは約50万人の軍隊を戦略的にウクライナに配備し、遭遇するウクライナ軍を叩き、主要都市を占領していく予定だ。
ウクライナは隣国ポーランドからの補給線が遮断され、軍隊の機能が低下して、すでに攻撃に対して脆弱になってきている。
米ダグラス・マクレガー米陸軍大佐(退役)はネット上で次のように述べている。
「ロシア軍はいま、ウクライナ郊外に54万人を駐留させている。私の予測では、ロシアはウクライナでの戦争を終結させるための攻撃準備に入っている」
ロシアはそろそろ戦争の幕引きを図ろうとしているというのだ。同大佐はこうも言う。
「54万の兵士のほか、1000のロケット砲システム、1500台の戦車を含む5000の装甲戦闘車両、そして数百の戦術弾道ミサイルを用意している」
「これを使うことになると、1945年以来、経験したことのなかった規模の戦争になる可能性がある」
ロシア軍による第2段階の展開がどうなるかは正確には分かりかねるが、軍事サイト「1945」が掲載した記事を読む限り、ウクライナ側の損害は甚大であり、衝撃的といえるほどの結果になりかねない。
記事の執筆者であるダニエル・L・デイビス氏は元米陸軍中佐で、4回戦闘地域に派遣された経験者だ。
プーチン氏が全面攻撃を命じれば、大規模な空爆、ミサイル攻撃から始まり、ウクライナの電力網、変電所、燃料貯蔵施設、鉄道基地、通信施設などを完全に破壊することになると言い、ここまではすでに進行中とみなすことができる。
そうなるとウクライナ空軍の支援が功を奏しなくなり、国内での部隊の移動も困難になり、食糧、水、医薬品、弾薬等の補給能力も著しく低下することになる。
キーウが戦闘部隊への補給を優先すれば、市民は凍死したり食糧不足に陥る可能性が高まり、ウクライナは不利な状況に追い込まれる。
デイビス氏によると、プーチン氏はいくつかの方策を考えているという。
1つは20万人の追加部隊をウクライナに投入し、ポーランド国境からの供給網を遮断。
ポーランドはこれまでもウクライナに強力な政治的支援を行ってきた。ウクライナは1日に1000トンの支援物資が必要といわれているが、そのほとんどがポーランドから入ってきている。
2つ目の方策は「大都市を攻撃することが成功につながるわけではない」という内容だ。
プーチン氏は大都市攻撃の代わりに、生活の基盤となる補給網を断つことに力を注ぎ始めている。
「戦争に勝つために維持しなければならないものを奪うこと」が重要なのだという。
ウクライナの場合、キーウからポーランド国境に至る西側が第1の攻撃対象になっている。
ロシアが狙っているのは、ポーランド国境に近いリビウ市周辺への優先攻撃だ。
さらに東方に位置するスームィ方向への北東攻撃、そして東部ドンバス地方に向けて、現在の攻勢を強化する支援攻撃が3本柱になる。
デイビス氏によると、ロシアに3方面の補給網を遮断された場合、「キーウが数週間以上戦時作戦を維持することはほぼ不可能になる」という。
さらにベラルーシ南東部からリビウ市にかけて、ロシアに集中攻撃を仕掛けられた場合、ウクライナ軍にとっては戦略的に最大の脅威となる。
すでにロシアの戦略家は、ポーランドからの補給網を断たないかぎり、ロシアが戦争に勝つチャンスは低くなることを理解しているという。
ウクライナでの戦争が、デイビス氏のシナリオ通りに展開されるかどうか分からないが、最終的にゼレンスキー大統領が交渉のテーブルにつかない限り、戦争の終結はみえない。
1945年以来の本格的な全面戦争が起きた場合、ウクライナは「全滅するかもしれない(annihilated)」という予測もあり、そうならないことを祈るばかりである。
●ロシア大統領、自動車大手アフトワズの西側合弁金融事業買収を承認 11/30
ロシアのプーチン大統領は29日、イタリアの銀行大手ウニクレディトとルノー・日産自動車・三菱自動車の日仏自動車連合が合弁で展開するロシア金融部門RNバンクを、ロシア自動車大手アフトワズが買収することを承認した。
プーチン氏は8月、ロシアのエネルギーと金融分野の企業に参加する「非友好国」の投資家に対し、今年末まで株式の売却を禁じる大統領令に署名した。ただ大統領令は特定の案件について適用を除外する権限をプーチン氏に与えている。今回はこの権限に基づき、ウニクレディトと日仏連合の合弁会社バーンが保有するRNバンクの100%株式をアフトワズが取得することを認めた。
バーンの設立は2013年で、株式保有比率はウニクレディトが40%、日仏連合が60%。
日産自動車は10月、ロシア現地子会社の株式を1ユーロで売却し、6億8700万ドルの特別損失を計上。これに先立ってルノーもアフトワズの過半数株式を1ルーブルで売却した。
三菱自動車は4月にロシアでの生産を停止した。
●ウクライナ侵攻はなぜ起きた? ロシアの思惑はどこに? 11/30
そもそものロシアとウクライナの関係性は?
ロシアがウクライナを侵攻した理由を知るには、両国の歴史的背景を理解することが不可欠だ。
歴史は中世にさかのぼる。東ヨーロッパ地域には「キエフ・ルーシ大公国」という大国家があった。その中心として繁栄した都市が、現在のウクライナ首都・キーウだ。そして、キーウで生まれた文化や宗教は東方へ拡大し、現在のロシアを形作った。
つまり、キーウは現在ウクライナが所有する都市でありながら、ロシア発祥の地でもある。このことからは、両国は「兄弟国」と呼ばれることがある。ウクライナは1991年のソ連崩壊によって独立したが、現在も人口の2割がロシア系だ。
ロシアのプーチン大統領は就任後、旧ソ連の勢力権を取り戻す「大国復活」を掲げて、これまで他の旧ソ連諸国に軍事介入を繰り返してきた。特にウクライナへの執着は顕著で、2014年にウクライナ南部のクリミア半島を武力で一方的に併合し、2021年7月に発表した自身の論文で「ロシア人とウクライナ人は同一の民族であり、一体不可分」と持論を展開している。
ウクライナ侵攻を時系列で振り返る
以下、ロシアのウクライナ侵攻を時系列で解説していく。
   ロシア軍がウクライナへ侵攻開始
・2月24日 ロシア軍がウクライナへ侵攻開始した。
・2月26日 欧州連合(EU)と米英などが、国際送金システムを担うSWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアを排除することに合意した。重大な経済制裁を科し、ロシアの孤立を狙う。
・4月2日 ロシア軍が首都・キーウから撤退、ウクライナはキーウ全域が「解放された」と表明した。翌日、キーウ近郊のブチャなどで民間人の殺害が判明し、ゼレンスキー氏が「ジェノサイド(集団殺害)だ」と非難した。
・4月5、6日 EUがロシアからの石炭の輸入禁止、米国がロシア最大手銀行などへの追加制裁を発表した。
   戦況は混迷、ロシア軍がウクライナ東部への攻撃に転換
・4月18日 ゼレンスキー氏が東部ドンバス地方へのロシア軍の本格攻撃が始まったと表明。
・5月9日 アメリカでウクライナなどへの武器貸与の権限を大統領に与える「武器貸与法」が成立。
・5月18日 フィンランドとスウェーデンが新たにNATOに加盟申請(7月に承認)し、32ヵ国体制へ。
・9月21日 プーチン氏が「部分的動員令」を発令し、約30万人の軍隊経験者、予備役を招集。
・9月30日 プーチン氏がウクライナ東部と南部4州の併合を一方的に宣言。ウクライナは、NATO加盟手続きを正式に申請すると表明。
・10月8日 ウクライナ南部クリミア半島とロシアを唯一結ぶクリミア橋で爆発。ロシア軍の兵力維持に大きな影響を与える。ウクライナ治安部隊が工作したとみられる。
ロシアはなぜウクライナに侵攻した?
   NATOの東方拡大
プーチン大統領はウクライナ侵攻の理由を「NATOの脅威に対する自衛措置だ」と主張している。ここで重要なキーワードになるのがNATOだ。
「NATO(北大西洋条約機構)」とは、東西冷戦期にアメリカ、イギリス、フランスなどの西側諸国が、旧ソ連(ロシア)など東側諸国に対抗するために結成した軍事同盟である。防衛を最大の目的とし、加盟国への攻撃は全加盟国への攻撃とみなして集団的自衛権を行使すると規定している。
つまり、旧ソ連の軍事力を抑制することがNATOの狙いであり、東側諸国も対抗して「ワルシャワ条約機構」を結成した。こうして東西冷戦の対立を象徴する「NATO 対 ワルシャワ条約機構」という構図が完成した。
冷戦終結を受けてワルシャワ条約機構は解体されたが、NATOはその後も存続し、かつてソ連に侵攻や支配を受けた経験があるポーランドやバルト諸国などが次々に加盟を希望した。結成当時は12ヵ国だった加盟国は東方に広がり、ウクライナ侵攻開始当時には30ヵ国に達していた。プーチン大統領はこの「NATOの東方拡大」を強く非難している。
   ウクライナの地理的重要性
そもそも、ロシアがNATOの東方拡大を恐れる理由はその歴史にある。広い国土を誇るロシアは、これまでも幾度となくヨーロッパからの侵攻を受けてきた。例えば、フランスの皇帝、ナポレオンによる「ロシア遠征」、第二次世界大戦中のナチス・ドイツのヒトラーによる「独ソ戦」だ。いずれも激しい攻防の末、冬の寒さに耐えかねた敵国が敗走し、ロシアは自国を守ることができた。
このような「トラウマ」を持つロシアには、国防の観点から、隣接する東欧諸国を親ロシア派国家にし、ヨーロッパとの「緩衝材」にしておきたいとの思惑がある。だからこそ、東欧諸国のNATO加盟の動きに警戒を強めた。隣接するウクライナに対しても然りだ。
そんなウクライナ国内では長年、「NATOに加盟したい」という親欧米派と、それに対抗する新ロシア派が対立を続けてきた。2019年、クリミア奪回とNATO加盟などを主張するゼレンスキー政権が発足した。
前述した通り、ロシアにとって歴史的、国防的観点から見て非常に重要なウクライナがNATOに加盟することは決して看過できることではない。ロシアはNATOに対する批判を強めていった。
   NATO軍の派遣はなし
ロシアが侵攻を開始したのには、NATOの軍事的介入が行われないことも考慮していたとみられている。
NATO加盟国が攻撃された場合、米国は防衛する義務があるが、ウクライナ・ロシア間で緊張が高まっていた昨年末、アメリカのバイデン大統領はその義務は「加盟国ではないウクライナには適用されない」として、米軍を派遣しないことを明言した。これは、アメリカ国民が米軍派遣に消極的だった世論調査の結果を踏まえた判断とみられている。
NATO軍事力がロシア軍の抑制としては機能しなかったことも、侵攻開始に至った一因だ。それでも、専門家の間では「侵攻しないだろう」というのが大方の見方だった。なぜなら、侵攻すればロシアは国際的批判から免れられず、強力な経済的制裁を受けて自国経済が大打撃を受けるためだ。
それでもウクライナ侵攻を断行したこの判断は合理性を欠いており、「大国復活」を掲げるプーチン氏の個人的な世界観に依拠したものではないかと言われている。
ウクライナ侵攻に関するプーチン大統領の発言録
   「90年代にNATOは1インチも拡大しないといったではないか。我々は騙されたのだ」
これは、2021年12月23日の記者会見での発言だ。1990年に米国のベイカー国務長官とゴルバチョフ氏が会談した際に、ベイカー氏が「NATOは1インチも拡大しない」と発言したことを引き合いにした主張であり、現在に至るまで一貫して訴え続けている。NATO側は「文書にはしておらず、法的拘束力はない」と反論している。
   「ウクライナは歴史、文化、精神的に譲渡できない不可分の一部だ」
侵攻開始前の2022年2月21日、国民向け演説での発言だ。プーチン大統領のウクライナへの執着がうかがえる。
   「ロシア、そして国民を守るには他に方法がなかった」
2月24日、ウクライナへの攻撃開始を宣言する演説での発言である。新ロシア派の組織が占拠しているウクライナ東部でロシア系の住民をウクライナ軍の攻撃から守り、ロシアに対する欧米の脅威に対抗するための戦いとして、侵攻を正当化しようとする狙いがある。
ゼレンスキー大統領の発言録
   「皆ここにいて私たちの独立と国を守っている」
2月25日、ロシア軍からの侵攻を受けた首都キーウの大統領府前で首相、軍関係者らに囲まれ、国民に向けたメッセージ動画をSNSに投稿した。アメリカからは再三、国外へ亡命するよう促されていたが頑なに拒否し、国民らを鼓舞した。
   「私はここにいる。ここは私たちの土地だ。私たちの祖国。私たちの子供たち。私たちは彼ら全員を守る」
2月26日、再びSNSに動画を投稿し、戦う覚悟を表明した。ゼレンスキー氏は祖国を捨て逃亡したというロシアのフェイクニュース攻撃に対抗するためだ。支持率は90%越えを記録した。
   「停戦の用意はない」
旧ソ連からの独立記念日である8月24日に発言し、ロシアが2014年に強制編入したクリミア半島も取り戻すと宣言した。
ウクライナ侵攻に関するQ&A
   ウクライナ侵攻はいつから始まった?
2022年2月23日にロシア軍がウクライナへ侵攻を開始した。
   ロシアとウクライナ戦争の名前は?
一般的に「ウクライナ侵攻」「ウクライナ危機」「ウクライナ戦争」と称される。
   ウクライナ侵攻の影響は?
ロシアは資源大国であり、欧州は天然ガスや石油の供給をロシアに依存している。このため、ガソリン代や電気代の急騰などに影響を及ぼしている。また、ロシアとウクライナ両国は世界有数の穀物生産地であるため、アフリカ諸国を中心に深刻な食糧危機を招いている。
   ウクライナ侵攻はいつ終わる?
侵攻が始まる前までは軍の圧倒的な兵力差から、ウクライナの首都・キーウは数日で陥落すると言われていた。だが、アメリカなどからの武器供給をうけるウクライナ軍の徹底抗戦によって戦況は拮抗し、停戦交渉も決裂していて、終結の時期は不透明だ。
ロシアVSアメリカ全面核戦争の可能性も
ウクライナはロシア軍の全面撤退を求めているが、ロシア軍によるウクライナ侵攻は、NATOの東方拡大を起因としたものであり、米ソ冷戦時代から続く、アメリカとロシアの対立構図が浮かび上がる。いわば、ウクライナを戦地とした「代理戦争」との見方もできるだろう。
プーチン氏は核の使用も再三ちらつかせており、戦況が悪くなれば核を使用する可能性も無視できない。そうなれば、アメリカとの全面核戦争、第三次世界大戦へ発展する最悪のケースは免れない。
●ロシアの「冬を武器にした」攻撃は「戦争犯罪」 G7法相が非難 11/30
主要7カ国(G7)は29日、ドイツ・ベルリンで法相会合を開き、ロシアのプーチン大統領が「冬を武器として」利用していることを非難した。
ドイツのブッシュマン法相は記者会見で、ロシアによる民間インフラへの攻撃でウクライナの市民が凍えるような気温の中で生活していると指摘し、「多くの人々が冬の寒さの犠牲になることを目的とした恐ろしい戦争犯罪」であるとの意見で一致したと述べた。
ブッシュマン氏によると、G7法相は「最優先事項」である戦争犯罪の捜査を支援することを約束した。また、ウクライナ当局がこれまでに約5万件の戦争犯罪を記録し、戦争犯罪の容疑者約600人をリストアップしていると説明した。
会合後に発表された声明には、「最大限の説明責任を果たし、被害者と生存者のために公正な裁きを実現する」ことがG7の共通目標であり、「戦争犯罪やその他の残虐行為の免責はあり得ない」とある。
ブッシュマン氏は記者会見で、「ロシアの指導者全員」を「人道に対する罪」で国際刑事裁判所において調査するべきだと述べた。
●「けいれんした足、会談の間ずっと腕を握っていた」…プーチン氏健康異常説 11/30
ロシアのプーチン大統領の健康異常説が再び浮上した。
英タブロイド紙「ザ・サン」は28日(現地時間)、「プーチン大統領が同日、モスクワのクレムリン宮殿でカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領との首脳会談中に足のけいれんがあった」とし、「これはパーキンソン病の兆候だ」と主張した。
また、プーチン大統領が会談の間、左腕で右腕を握っていたとし、これも完全な健康状態ではないことを示していると述べた。
ザ・サンは今月初め、ロシア情報院から流出した電子メールを入手したとし、プーチン大統領が初期パーキンソン病と膵臓がんを患っていると報じたことがある。
今年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、プーチン大統領に対する健康異常説は絶えない。
プーチン大統領が公式行事で足を引きずったり、痛みを我慢するように机の角をつかんで身体を頼りにしたりするような姿などが捉えられ、健康異常説は力を得た。
一方、このような観測にいかなる証拠もないという分析もある。国防・安全保障専門家である英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマイケル・クラーク元所長は5月、「写真ではパーキンソン病、またはがん患者なのか分からない」とし、「率直に言ってプーチン大統領はただ健康懸念症患者」と述べた。
●ロシア「ワグネル」、ザンビア人学生がウクライナで戦死と認める 11/30
ロシア民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏は29日、ロシアの刑務所から採用したザンビア出身の学生がウクライナで戦死したと認めた。
ザンビア政府は2週間前、自国民の死について、ロシア側に対し直ちに説明するよう求めていた。
大統領府(クレムリン)に近い強硬派の実業家であるプリゴジン氏は、ザンビア出身のレメカニ・ネイサン・ニレンダ氏(23)がロシア軍と共に戦い「英雄として死亡した」と述べた。
プリゴジン氏は自社の広報を通じ、「レメカニ・ネイサン・ニレンダ氏は9月22日、敵の塹壕にいち早く切り込み、勇気と勇敢さを示した」とソーシャルメディア上で発表。「この男性のことはよく覚えている」と語った。
ウクライナ侵攻で影響力が高まったプリゴジン氏は、自ら国内の刑務所を回り、戦闘員を勧誘したとみられている。
プリゴジン氏は、首都モスクワの北に位置するトベーリ州の刑務所でニレンダ氏を勧誘し、同氏がワグネルと共に戦いに行くことに快く同意したと説明している。
ザンビア当局によると、ニレンダ氏はモスクワ工学物理学大学で原子力工学を研究していたが、2020年4月に9年6月の実刑判決を言い渡された。投獄の理由には言及していない。
●バイデン流の安保戦略は大丈夫か? 「統合抑止」や気候変動 11/30
バイデン米政権は10月、米国の外交・安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略」(National Security Strategy:NSS)と、これを受けた国防・軍事政策の指針「国家防衛戦略」(National Defense Strategy:NDS)、核戦略の指針となる「核態勢の見直し」(Nuclear Posture Review:NPR)を相次いで公表した。ウクライナを侵略するロシアを「差し迫った脅威」とし、台湾を威嚇し続ける中国を「国際秩序の改変を狙う唯一の競争相手」と位置づけるなど、基本的に中ロ両国を「長期にわたる大国間競争の戦略的ライバル」と規定したトランプ前政権の方向性を踏襲している。しかし、一連の戦略文書の公表が政権発足の1年9カ月後と大幅に遅れたことをはじめとして、具体的な方策や取り組みをめぐって早くも米国内で疑問や懸念が示されている。
なぜ遅れたのか
バイデン政権は発足後間もない2021年3月、NSSの策定に向けた「暫定指針」を公表し、「年内にも正式文書を完成させる」と意気込んでいた。ところが、ブリンケン国務長官が米中関係を「21世紀最大の地政学的試練」(同年3月3日、国務省演説)と述べていたように、当初の草案は中国がもたらす脅威とその対処に大きく傾斜していた。決してロシアを無視していたわけではないが、ロシアの脅威は米国が直面する安保課題のうちで▽中国▽新型コロナ▽気候変動▽米経済再生――に次ぐ5位に過小評価されていた。このため同年夏以降、ロシアがウクライナ侵略に突き進む兆候が強まるにつれて、草案の大幅な再考と修正が必要となり、公表が大幅に遅れる要因になったとされている。
NSSの最終確定版では、ロシアを喫緊の脅威とし、中国を長期的競争の主敵と色分けした上で、両国を含む「権威主義(専制主義)国家」と、米欧日などの「自由・民主主義国家」との競争・対立という図式をようやく描き上げた。それでも中国対処に傾斜し過ぎて、プーチン・ロシア政権の侵略行動を正確に予測できなかったことは事実だ。トランプ政権のNSS公表(2017年12月)は政権発足後11カ月だったことと比べても、外交・安保チームを率いる大統領、国務長官、サリバン国家安全保障担当補佐官らの認識が甘かったために迷走したのではないか――との批判は避けられない。
不透明な「統合抑止」の概念
次に米専門家らの批判を浴びているのは、バイデン政権が国家安全保障の柱として打ち出した「統合抑止」(Integrated Deterrence)という概念だ。NSSでは、その概要を以下のように説明している。
「われわれの戦略は、仮想敵国による敵対的行動の代償が彼らの利益よりも上回ることを確信させるための継ぎ目のない能力を組み合わせた『統合抑止』に依存する。これには以下を含む。」
•軍事(陸、海、空、サイバー、宇宙)および非軍事(経済、技術、情報)の領域を網羅した統合
•地域を超えた統合
•武力衝突に至らないグレーゾーンを含む紛争の局面を網羅した統合
•外交、情報、経済、軍事等の米政府諸機関を網羅した統合
•同盟・パートナー諸国の軍事、外交、経済協調を網羅した統合
要はオバマ政権以降、単独では「世界の警察官」の役割を果たせなくなった米国にとって、同盟・パートナー諸国に一定の肩代わりを委ねつつ、同時に軍事・非軍事のあらゆる領域や紛争における局面を統合して敵に対抗する。その際、政府諸機関・省庁は一丸となって抑止力の増大に向けて連携・協調するという考え方のようだ。
だが、こうしたアプローチは、既にトランプ前政権下でも中国との競争に関して「政府一体で取り組む態勢」(a Whole-of-Government approach)が掲げられていた。政府の取り組みに関しては同工異曲と言われてもやむを得ないだろう。オースティン国防長官が主管したNDS(国家防衛戦略)でも、「統合抑止」が中核に位置づけられ、「他省庁や同盟・パートナー諸国との緊密な連携の下に、国防総省のあらゆる手段を活用することだ」と説明している。同盟諸国との連携に加えて、外交、経済、金融、情報などの国力を挙げた取り組みは、冷戦時代に米国がやってきたことでもあり、「歴代の政権が呼びかけていたことで、特に目新しい要素はない」と批判されている。国防当局が果たすべき責務は、人目を引くキャッチフレーズを売り込むことよりも、いかに米軍の能力や兵器体系の弱点を補い、充実強化するための具体的方策を示すべきだという厳しい意見もある。
「脱炭素」のこだわり
バイデン大統領はNSSにおいて地球温暖化などの気候変動問題を「あらゆる国にとっての実存的課題」と位置づけ、中露との戦略的競争に臨む一方で、脱炭素や気候変動などの「共通課題では協力と協調を仰ぐ」としている。
2020年の大統領選当時からバイデン氏が公約で「気候変動は最大の実存的脅威」と訴えていたのは周知のことだが、NSS全48ページの中で「気候変動」の語が65回も登場するというのは、かなり異例のこだわりといえよう。これを国家安全保障の最重要課題の一つに掲げたことに対し、民主党リベラル派は歓迎しているものの、共和党では保守派を中心に「米国の崩壊をたくらむ(中ロなどの)敵に協力を求めるとは幻想でしかない」といった反発が出ている。「競争と協調」の思考は、「軍事よりも外交」を掲げるバイデン政権の対中戦略の要といえるが、中露がこうした姿勢を「米国の弱み」と解釈してつけ込もうとする恐れもあり、要注意だろう。
中ロとの核対峙
核戦略の指針となるNPRは今回、NDSに組み込んだ形で公表された。焦点となるのは急速な拡大を続ける中国の核戦力だ。
異例の3期目入りを果たした習近平政権の中国は「今後10年内に1000発の核弾頭を保有する」と想定されている。NPRはこれを踏まえて「2030年代までに米国は歴史上、初めて二つの主要な核保有国(中露)を抑止しなければならなくなる」と分析した。その上で、「通常戦力と核戦力をより統合した形で米国や同盟諸国の抑止力を強化していく」としたのは正しい方向といえる。この点はNSSでも強調され、ウクライナや台湾問題も含めて、米国が中ロの核、通常戦力といかに対峙していくかをめぐって「今後10年間が決定的に重要になる」と指摘している。
だが、重要なのはそのための具体的な処置や方策を示すことだ。もともと「核なき世界」を訴えたオバマ政権の系譜を継いだバイデン氏は、核兵器の役割を限りなく減少させたいのが持論で、今回のNPRでも、「核の先制不使用」などにこだわる政権内の核軍縮派の意向が強くなりがちだったという。だが、それでは日本などの同盟国に対する「拡大抑止(核の傘)」の効力が致命的に弱体化してしまうため、同盟諸国の強い反発が予想されていた。とりわけ今後の10年間は、決定的に重要な「核の二正面対峙」を迎えるとあって、「先制不使用」論などが封印される結果となった。
それでも、中ロでは核運搬手段としての極超音速兵器の開発などが続いている。にもかかわらず、前政権下で決まった米国の海洋発射型の核搭載巡航ミサイル(SLCM)の開発計画は中止されてしまった。オースティン国防長官は「米国の核兵器は現状でも潤沢だ」としているが、本当にそうなのか。中ロの核戦力増強に対応していく上で、さらなる検証が必要だろう。
●米国、ロシア民間軍事会社ワグネルのテロ組織指定を検討−関係者 11/30
バイデン米政権はロシアの民間軍事会社ワグネル・グループを外国テロ組織に指定するか検討している。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。ウクライナでの戦争に関与し、アフリカでも存在感を高める同社を自由に活動させない狙いがある。
非公表の協議内容だとして匿名を要請した関係者によると、米政権内ではまだ最終的な決定を下していない。外国テロ組織に指定すれば、米国はワグネルとそのメンバーに対して刑事訴追することや、世界中の同社資産について凍結などの措置を科すことが可能になる。
ワグネルの活動は世界各地で目立つようになり、特にウクライナ侵攻では戦闘で重要な役割を果たしている。グループトップのエフゲニー・プリゴジン氏はプーチン大統領およびウクライナ侵攻を支持しているとされ、自身のケータリング事業が主催する晩さん会にプーチン氏が出席したことから「プーチンのシェフ」とも呼ばれる。 
●「息子を動員しないで下さい」「夫返して」 プーチン氏に訴え次々と 11/30
ウクライナ侵攻に派遣された兵士の母や妻らの会議に参加した女性。「動員された夫がすぐに最前線に派遣され、いまは居場所がわからない」と不安の思いを打ち明けた=YouTubeの動画から
ウクライナ侵攻に苦戦するロシアで、動員などで招集された兵士の母や妻らが、プーチン大統領に「息子や夫を返して」と声を上げている。弾圧される危険を冒した上での切実な訴えだ。動員をめぐる混乱で、政権不信が広がっていることの表れとみられる。
「一人息子は私たちのすべてです。私たちの魂であり、心。取りあげられるのは死ぬようなものです」
ロシア南部クラスノダール地方のメディアなどは11月25日、兵士の母たちがSNSに投稿した動画の内容を伝えた。プーチン氏とショイグ国防相にあてられたたものという。
別の母親は「年齢的にもう(自分に)子どもはできない。どうか老後を孤独にしないで」と訴えた。2カ月前から抗うつ剤を飲んでいるという母親もいた。
将来の追加動員で息子が招集されないかと心配する女性も思いを訴えた。
●性的少数者規制、上院も承認 ロシア 11/30
ロシア上院は30日、性的少数者を含む「非伝統的な性的関係」の宣伝を全面禁止する法案を承認した。
近くプーチン大統領が署名して成立する見通し。下院は24日、法案を第3読会(3段階審議の3番目)で最終的に可決していた。
法案は2013年からある未成年者への同性愛宣伝禁止法の規制を大幅に強化する内容。政権と蜜月関係のロシア正教会も賛成している。ウクライナ侵攻で国民の支持を得たい政権が、保守層にアピールする動きと受け止められている。
●「プーチンの気まぐれ対応、西側はレッドライン予想に困難多い」=米メディア 11/30
ロシアのプーチン大統領はウクライナを侵攻して以降、何度か脅迫をしたが、ほとんどが縮小または取り消しになり、米国など西側がロシアの禁止線(レッドライン)がどこまでかを分からなくしていると、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)が27日(現地時間)報じた。
先月、クリミア半島とロシア本土を結ぶ橋が爆破された後、ロシアはウクライナの小麦輸出合意から離脱すると明らかにしたが、72時間後にはこれを撤回した。今月初めには輸出合意を120日間延長することに同意した。
西側の分析家は、ロシアが離脱の立場を守っていれば保険会社が穀物運送船舶の保険を引き受けなくなり、穀物の輸出を中断させることができたはずだと話している。ロシアは西側が制裁を緩和してロシアが黒海経由のアンモニア輸出ができるようウクライナのパイプラインを再開すべきだとしたが、この条件も撤回した。
またプーチンは9月末、ロシアが合併したウクライナ領土に対する攻撃をロシアへの攻撃と見なすとした警告も、ウクライナが今月初めにヘルソンを奪還したことで言葉だけになっている。ウクライナがロシア本土のベルゴロドなどを直接攻撃することもロシアは大きな問題とみていない。
戦争目標も当初はウクライナの「脱ナチ化」、すなわちウクライナ政府の転覆だったが、ロシアのペスコフ大統領報道官は先週、ロシアはウクライナの政権交代を追求しないと明らかにした。
西側当局者はプーチン大統領の気まぐれな対応について、ロシアが戦争で不利になり長期化することを全く予想していなかったためと指摘している。
●ロシアの生物・化学兵器全廃は真っ赤な嘘、最新型使用を準備中か 11/30
ロシアがウクライナに侵攻して以来、ロシアには核兵器ばかりでなく生物兵器や化学兵器の使用可能性が付きまとってきた。
キーウ占領に失敗した直後、ウラジーミル・プーチン大統領が特殊部隊の準備を命じたことから、核兵器の敷居が下がったといわれ、今にも使用されるのではないかと緊張が走った。
しかし、核兵器は出現直後に日本に使われただけである。
米欧の首脳が核兵器の使用には大きな代償を伴うとプーチンに圧力を加えたこともあるが、やはり核兵器の使用は敷居が高いと言える。
こうしたことから、生物兵器や化学兵器(以下生物・化学兵器)、中でも化学兵器使用の可能性が侵攻後の数か月間は盛んに言及された。
米国のジョー・バイデン大統領も「ロシアからの化学兵器のいかなる使用もNATO(北大西洋条約機構)から同等の反撃を見るだろう」と牽制した。
侵攻から9か月が過ぎた今日、米欧からの近代兵器支援でウクライナ軍が優勢に立ち、ロシアの後退が続いている。
そこでロシアが核兵器を使用する可能性について再び言及されるようになっている。
トルコの首都アンカラで11月中旬、米国のウィリアム・バーンズ中央情報局(CIA)長官とロシアのセルゲイ・ナルイシキン対外情報局(SVR)長官が会談した。
ホワイトハウスはロシアが核兵器を使用した場合の結果に関し警告するためと発表した。
逆に生物・化学兵器についてはほとんど語られないが、ロシアが使用する危険性はないのだろうか。
プーチンはこれまでどのように語ってきたか。そして、ロシアの生物・化学兵器の状況はどうなっているかについて考察する。
プーチンは核だけに限定していない
開戦の日(2月24日)の演説では「現在のロシアは世界最強の核大国の一つ」と述べ、ロシアを攻撃する者は「壊滅され、悲惨な結果となるだろう」と第三国による軍事介入を牽制した。
また「あらゆる事態の展開に対する準備ができている」とも語っている。
欧米は直接の軍事介入こそしないが国際的な金融決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアを排除することを決め、その後は最新兵器を供与するなどの支援を続けている。
ロシアは劣勢に立ちながらも核や生物、化学兵器を使用していない。
しかし、ロシアが特殊部隊を準備していることもあり、欧米からは劣勢のロシアは核兵器を使う可能性があるといった報道がしばしば流される。
9月21日、プーチン大統領は国民向けのビデオ演説を行い、「あらゆる手段を使ってロシアと国民を守る。これははったりではない」と強調した。
これを受けた米国NSC(国家安全保障会議)のジョン・カービー戦略広報調整官は「明らかにウクライナで敗れつつある戦争の文脈で、プーチン氏がこのようなレトリックを使うのは危険な前例となる」と述べた。
そして、「我々はこうした脅しを真剣に受け止めなくてはならない。(中略)ロシアの核攻撃能力を監視し続けている」と語っている。
10月27日に首都モスクワで開かれた会議に出席者したプーチン大統領は、欧米側がロシアは核兵器を使用するのではないかと警戒していることに関し、「核兵器が存在する限り、その使用の危険性は常にある」と述べている。
しかし、一方で「ロシアは核兵器を使用する可能性について積極的に発言したことはない」と述べた。
「欧米側がロシアによる核兵器使用の可能性を煽ることで、ロシアと友好国などとの関係を悪化させようとしている」と批判している。
また、放射性物質をまき散らす、いわゆる「汚い爆弾」についても、プーチン大統領は「ロシアとしては政治的にも軍事的にも使う意味がない」と主張している。
プーチン言説には虚実ない交ぜも多いことから信じられない点も多いが、演説や発言において核だけに限定していないことだけは確かである。
しかし、ウクライナ支援側はロシアの核については言及するが、生物・化学兵器の使用可能性はいつの間にか排除してしまっていないだろうか。
ロシア保有の生物・化学兵器
ロシアはソ連時代から様々な病原体を生物兵器として利用するために研究してきたと見られている。
主なものは炭疽菌や天然ウイルスを利用したもので、その他にエボラウィルスやペスト菌などがある。
化学兵器としてはサリン、VX、ノビチョクなどを開発してきた。いずれも呼吸障害を起こす猛毒の神経剤である。
生物・化学兵器とも1925年の「ジュネーブ議定書」で使用が禁止されている。
その後、開発・生産・保有などを禁止する条約が批准され生物兵器禁止条約は1975年に、化学兵器禁止条約は1997年に発効し、ロシアは両条約の締約国である。
プーチン大統領は2010年9月27日、化学兵器全廃宣言を誇らしげに行う様子を世界に配信した。
2017年9月にはテレビ電話を通じて、「ロシアにとって非常に重要で歴史的な日だ」と述べて、ロシア国内に残っていた化学兵器をすべて(申告ではサリン、ソマン、VX、マスタードなど4万トン超)廃棄したとする映像を公開した。
しかし、ソ連時代にノビチョクなどの化学兵器開発に携わり、その後国際合意に反して開発を続けていると告発したヴィル・ミルザヤノフ氏は「すべての化学兵器を廃棄したというロシアの主張は虚偽だ」と指摘した。
その上で、「ロシアが廃棄したのは使用できなくなった化学兵器で、『ノビチョク』などの『新世代』と呼ばれる兵器は保有している。私の試算ではおよそ3000トンが保管されているとみられ、数百万人を殺害できる量だ」と語っている。
なお、化学兵器は取り扱いの安全上からバイナリー化が進んでいる。
北朝鮮の金正男氏がマレーシアで毒殺されたが、殺害に関わった2人の女性には何の被害もなかった。
バイナリーとは砲弾などに2種の素材を別々に入れ、混合(注入や発射・着弾時の衝撃による)されて初めて猛毒化するものである。
ロシアはどのように運用するか
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は生物兵器ではないが、その広がり、影響は全世界に及んでいる。
これから分かるように、生物兵器として使用した場合、自軍の兵士も被害を受け、また後方の自国民にさえ計り知れない影響を及ぼす危険性がある。
こうしたことから生物兵器の防護研究は不可欠であるが、積極的な使用は憚られる。
それでもヒト・ヒト感染のない炭疽菌は過酷な気候でも耐性があり使われる可能性がやや高いとされる。
米国防総省の国防脅威削減局(DTRA)や米陸軍は、例えば新型コロナウィルスより毒性が高くペストよりも低いもので、自然発生のものと見分けがつき難い黄色ブドウ球菌(SEB)を一部遺伝子改変したものが夜間にドローンで散布されるシナリオを想定しているという。
これでも被害は大規模で、数日間程度の行動不能となり戦局に大きな影響が出ると見られる。
米国防総省の核・生物・化学兵器担当次官補でウクライナやカザフスタンなどでソ連時代の生物・化学兵器の廃棄に関わったアンドリュー・ウェバー氏は次のように語っている。
「ロシア軍が大きな犠牲を出す中、ウクライナ市民など『ソフトターゲット』が狙われるようになっている」
「人々の間に恐怖を巻き起こして士気を低下させ、降伏を強要する目的で使われる恐れがある」
化学兵器については全廃宣言にもかかわらず、次世代型のノビチョクなどが多量存在すると見られている。
ノビチョクはプーチン大統領の政敵であったアレクセイ・ナワリヌイ氏に使われたことで知られている。殺害相手が触りそうな下着や電話などに塗布される。
ノビチョクは蜂蜜並みに粘性が高いので米軍を含むCBRN(化学・生物・放射性物質・核兵器)専門家の間では戦場での使用に向かないと見るのが大勢という。
しかし、陸上自衛隊元化学学校長の濱田昌彦氏は「ロシアの化学攻撃でどうなる」(『軍事研究』2022年7月号所収)で、細部は分からないとしながらも英国ではエアロゾル化したノビチョクを吸引した人が亡くなっていることもあり、エアロゾルで運用可能となれば戦場での使用が俄然現実味を帯びると述べる。
また、ノビチョクは一連の化合物群で粉体やバイナリーのものまであり、ロシア軍は1種類を既に制式化(筆者注:軍隊での採用)していたという話があることから、ウクライナの市街戦においても使えるかもしれないとみる。
このほか、ウクライナで使われる可能性があるものに、モスクワ劇場占拠事件でロシア特殊部隊が使用したフェンタニル化合物がある。
国内での暴動鎮圧剤は使用が認められており、フェンタニル化合物はロシアの攻撃オプションとして残っている。
シリア内戦で使用された化学兵器はロシアのものと見られていることから、シリアで使用された塩素ガスやサリン使用の可能性もある。
塩素は日常的にも殺菌などに使われ敷居が低い。
第1次世界大戦のイープル(ベルギー)において初めて使われたのが塩素ガスで、防護装備などを持たない相手には効果がある。
サリンはシリアの首都ダマスカスのゴーダ地区で使われ、1000人超の死者を出している。
濱田論文には「プーチンが持つ次世代化学兵器3000トン、実行主体は経験豊富な外国人戦闘員」の副題がついている。
ミルザヤノフ証言にあるようにノビチョクなどの次世代型が主体で、ロシア兵の死傷を少なくするため経験を積んだ外国人戦闘員に運用させるというものである。
これまでの戦闘での死者も多くはロシア人兵士ではないと言われる。ロシアは多民族国家であり、傭兵や非ロシア系兵士が多く投入されてきたからである。
旧来の化学兵器はシリアでも使われたし、次世代型の化学兵器も運用しやすくなっている。
もちろん、核兵器に比べたら敷居も低い。こうしたことから「ウクライナだけでなく、真剣に西側全体で対応を組み直さなければならないだろう」と濱田氏は警告する。
おわりに
ウクライナで状況が日に日に悪化するロシアであるが、中国の支援も期待薄で、ロシアが頼りにし始めたのがイランと北朝鮮である。
イランは無人機を、北朝鮮はシリアの化学兵器研究開発・製造を支援してきたとされ、ロシアには弾薬提供の可能性が報道されている。
イランの無人機でロシアや北朝鮮の生物・化学兵器がウクライナの市街地等に散布される危険性はないのだろうか。
報道される戦況からはロシアがいつ「窮鼠猫を噛む」ことになってもおかしくない。
核、生物、化学兵器は大量破壊兵器とされるが、核兵器よりも使用しやすいとみられる生物・化学兵器にこそ注意が必要ではないだろうか。
使用されれば悪夢以外のなにものでもなく、杞憂であることを願いたい。
●ロシアで需要急伸、ウズベキスタン産ワインに見る中央アジア諸国との関係  11/30
シルクロードの栄華を伝える中央アジア・ウズベキスタンのワインが、ロシアで脚光を浴びている。ウクライナ侵攻のあおりで欧米製の酒類がロシアで減り、代わってウズベク産ワインの需要が急伸した。ロシアと中央アジア諸国の力学が変化しつつある。(サマルカンドで、小柳悠志、写真も)
実はワイン名産地
イスラム教の壮麗な建築で知られる古都サマルカンドは、実はワインの名産地。政府によれば、アレクサンドロス大王の東方遠征でギリシャから醸造法がもたらされたのがウズベクワインの始まり。19世紀半ば、サマルカンドがロシア帝国に組み込まれるとワインが産業化され、今日まで続く醸造所が生まれた。
「この地は乾燥し、寒暖の差もある。ワイン生産に向いている」と醸造所職員。ワインの多くは甘口で、グレープブランデーもある。ミルジヨエフ大統領は4年前、ワイン王国を期して生産拡大を命じたが、肝心の販路開拓が進まなかった。
今やロシア経済の命綱
風向きを変えたのが、2月に始まったウクライナ侵攻。欧米がロシアに科した制裁のあおりで、欧米製品はロシアで激減。ロシアは穴埋めとして対ロ制裁を科さないウズベクからワインをかき集め、1〜9月のウズベクワインの輸入量は前年同期比で4.5倍の85万リットルに達した。
ロシアは加えて、電気製品の輸入を中央アジア経由で増やし、2022年のウズベクからの輸入額も前年より4割増で推移する。中央アジアは今やロシア経済の命綱だ。
プーチン氏に苦言、会談に遅刻も…威信を失うロシア
一方、中央アジア諸国は経済的な蜜月にもかかわらず、ロシアと外交面で距離を置き始めた。ロシアがウクライナを主権国家と認めず、侵攻したことへの反発だ。
「旧ソ連時代のようにわれわれを扱わないでほしい。われわれには独自の文化がある」。ロシアと軍事同盟を結ぶタジキスタンのラフモン大統領は10月、会議の席上で、プーチン大統領に向かって周辺国を属国扱いしている、と苦言を呈した。
カザフスタンのトカエフ大統領も6月、ウクライナ東部の親ロ派武装勢力を独立国家として承認しないとプーチン氏の目の前で表明した。ウクライナへの派兵要請も拒否したとされる。
ロシアは夏以降、ウクライナ軍の反撃で占領地の一部を喪失。プーチン氏は「われわれは何も失っていない。むしろ主権が強まった」と主張したが、「ロシアは旧ソ連圏の盟主の威信を失った」(元下院議員)との見方が大勢だ。
中央アジアではキルギスのジャパロフ大統領も9月、プーチン氏との会談で遅刻するなどロシアを恐れない態度があらわだ。トルクメニスタンは天然ガス田開発に向け、アゼルバイジャンに接近している。
 
 

 

●プーチンの「忠犬」ルカシェンコ、暗殺に怯える日々 12/1
「ヨーロッパ最後の独裁者」と呼ばれるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領といえば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の忠実な盟友として知られる。それが最近は、ロシア政府に暗殺されるのではないかと疑心暗鬼に陥っているという。11月末にベラルーシ政府No.2の外相が急死したからだ。
英大衆紙「サン」は、反プーチンを掲げるロシア人実業家(現在はイスラエルに亡命中)レオニード・ネブズリンの言葉を引用し、ルカシェンコが暗殺を恐れて料理人から警備員まで使用人を入れ替え、子どもたちを守るために追加の警護をつけたと報じた。
ルカシェンコがロシアによる暗殺を恐れるようになったきっかけは、11月23日に元気な姿を見せていたウラジーミル・マケイ外相が64歳で急死したこと。ベラルーシ外務省はマケイの死因について、詳細を公表していない。
一部のメディアやネブズリンをはじめとする事情通は、マケイがウクライナでの戦争について西側諸国と秘密裏に接触していたのがバレて、ロシア連邦保安局(FSB)に毒殺されたのではないかという見方を示した。
外相の死は「警告」か。
ネブズリンは「ロシアの特殊任務部隊に近い」筋からの情報として、「ベラルーシの事実上のナンバー2であるマケイの死は、ベラルーシの政界にパニックを引き起こした」と指摘。彼は毒殺されたと思う根拠について、「マケイは健康でアクティブな生活を送り、さまざまな計画を立てていた」と述べた。
また英デイリー・メール紙によれば、ネブズリンはこうも述べている。「心臓に異常が生じた時、彼は病院にも行かなかった。それまで同じような異常を経験したことがなく、痛みを重視しなかったからだ」
英議会のポーランド問題議員連盟の首席顧問であるジョージ・ビジンスキをはじめとする複数の専門家も、ネブズリンの毒殺説を支持する。ビジンスキはまた、マケイの毒殺は、プーチンによるルカシェンコへの「警告」だった可能性があるとも指摘した。
ビジンスキはウクライナの英語メディア「キーウ・ポスト」に対して、次のように述べた。「推測だが、プーチンの最も忠実なパートナーたちでさえもが、プーチンが負けつつあるとみて寝返りたいと考えている可能性がある。スターリンが自分に服従しない全ての者を排除したのと同じように、プーチンもルカシェンコにメッセージを送っている可能性が高い。『中立は死を意味する』のだと」
貴重な忠臣だった
だがビジンスキは、ルカシェンコを暗殺してもプーチンにメリットはないと言う。ロシアとベラルーシの関係を壊すことになるだけだと次のように述べた。
「ルカシェンコを殺せば、プーチンにとって壊滅的な結果を招く可能性がある。ルカシェンコのように忠実な傀儡を再び立てるのはほとんど不可能だろうし、ベラルーシ国民もロシアに背を向けるだろう」
●「誠実な友人」と江氏哀悼 プーチン氏 12/1
ロシアのプーチン大統領は30日、中国の江沢民元国家主席の死去を受け習近平国家主席に弔電を送り、「心からの哀悼の意」を伝えた。江氏をロシアの「誠実な友人」と呼んだ上で、首脳間で2001年に調印した中ロ善隣友好協力条約が「2国間関係全般の質的発展の基礎となった」と高く評価した。
●プーチン氏の重要インフラ攻撃、西側の連携分断せず=米国務長官 12/1
ブリンケン米国務長官は30日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ市民に「炎と怒り」を集中砲火する「野蛮な行動」を非難し、ウクライナの重要インフラを標的とするロシアの戦略によってウクライナを支援する西側の同盟国を分断することはできないとけん制した。
ブリンケン長官は29日から始まった北大西洋条約機構(NATO)外相会合後の記者会見で「暖房や水、電気がプーチン大統領の新たな標的で、激しく攻撃している。こうしたウクライナの人々に対する残忍な行為は野蛮だ」と非難した。
プーチン大統領がウクライナ市民を寒さや飢えにさらし、欧州だけでなく世界中のエネルギー価格コストを押し上げることで、ウクライナを支援する西側諸国の連携を分断させようとしていると指摘した上で、「この戦略はうまくいかず、今後も機能しないだろう。われわれは引き続きプーチン大統領が間違っていると証明していく」と言明した。
その上で、西側諸国によるウクライナ支援が継続するということが今週のNATO外相会合の主要なメッセージと強調した。
米国務省は29日、ウクライナのエネルギーインフラを標的としたロシアの攻撃に対抗するため、ウクライナの送電設備機器の購入支援に5300万ドルを拠出すると発表した。
●ロシアのリベラル派重鎮が退任 大統領選出馬の可能性も 12/1
ロシア上院は11月30日、辞意を表明していたクドリン会計検査院長官(62)の退任を承認した。クドリン氏はプーチン大統領に近く、リベラル派の重鎮とみなされてきた。国内の大手ネット企業に転出するとみられているが、2024年の大統領選に出馬する可能性も取り沙汰されており、動向が注目されている。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルク出身のクドリン氏は、同市副市長を務めていたプーチン氏と懇意にしてきた。プーチン氏が大統領に就任した00年から財務相を務め、財政健全化などを推進。11年に当時のメドベージェフ大統領と衝突し、財務相を辞したが、18年に会計検査院長官として政権に復帰していた。
クドリン氏は今後、インターネット検索大手「ヤンデックス」の幹部に転身するとみられている。「ロシア版グーグル」とも呼ばれてきたヤンデックスだが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、株価の下落などに見舞われている。一部事業の売却や主要な国際事業の切り離しを承認するように政府に求めており、その流れからクドリン氏を迎え入れたい狙いのようだ。
ロシアのオンラインメディアなどは、クドリン氏が今後、ビジネス界の声を代弁する形で24年の大統領選に出馬する可能性があるとも報じている。今年10月に70歳を迎えたプーチン氏は次期大統領選の出馬について言及していない。
●ウクライナ支援にロシア凍結資金運用益を充当、欧州委が提案 12/1
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は30日、対ロシア制裁措置に基づき凍結されたロシアの資金を運用して得た収益をウクライナ支援に充てる計画を発表した。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は声明で「ロシアは自らが引き起こした破壊に対して金銭的な補償を行わなければならない」とし、「ウクライナが被った損害は6000億ユーロと試算される。ロシア政府、および(プーチン政権を支える)オリガルヒ(新興財閥)はウクライナに損害を賠償し、再建のための費用を負担する必要がある」と述べた。
欧州委当局者によると、主に現金で構成される中央銀行の資産を運用する基金を設立し、その収益をウクライナ支援に充てる案が挙げられている。制裁解除時に資産は保有者に返還され、こうしたスキームは和平合意の一部となる可能性があるとしている。
当局者は「簡単なことではなく、国際社会からの強力なバックアップが必要だが、実施可能だと考えている」と述べた。
EUや米国などの西側諸国は、ロシア中央銀行の資産(約3000億ドル)と制裁対象のロシア人の資産(200億ドル)を含む凍結されたロシア資産をウクライナのために利用できないか検討。欧州委当局者は、ロシア中銀の資産を巡り米政府と「初期の段階」の折衝が行われたと明らかにし、この件について12月に主要7カ国(G7)タスクフォースに提示されると述べた。
●ロシア国民に和平望む機運高まる 「動員」に危機感 独立系メディア報道 12/1
ウクライナ侵略を巡り、ロシア国外に拠点を置く独立系露語メディア「メドゥーザ」は11月30日、政策決定の参考とするため露大統領府主導で実施された非公開の世論調査で、ウクライナとの和平を求める回答者の割合が55%となり、戦闘継続を望むのは25%に過ぎないとの結果が出たと伝えた。メドゥーザによると、7月時点の同様の非公開世論調査では、和平への支持は32%にとどまり、戦闘継続への支持が57%だった。
メドゥーザは、予備役を招集する9月の「部分的動員」の発動後、露国民にとって戦争が人ごとではなくなり、和平機運が高まったとする専門家の分析を伝えた。
一方で、露大統領府に近い消息筋2人が「政権は国民の反戦機運を刺激しないよう、政府系機関による公開の世論調査の実施を制限している」と述べたとも報道。国民内に和平機運が高まっても、プーチン政権が停戦に向かう可能性は低いとの見通しを示した。
露国内での和平機運の高まりは公開の世論調査でも示されている。露独立系機関「レバダ・センター」の10月の世論調査では、「ウクライナでの露軍の行動を支持するか」との問いに、70%以上の回答者が「支持する」と回答。ただ、「戦闘継続と和平交渉のどちらを支持するか」という問いでは、57%が「和平交渉」と回答。「戦闘継続」への支持は36%にとどまった。
同センターの8月の調査では、「戦闘継続」への支持が48%で、「和平交渉」の44%を上回っていた。 
●中国とインドのロシア離れ プーチン大統領は内外双方で苦境に 12/1
苦しくなるロシアのウクライナ侵攻
ロシアによるウクライナ侵攻は、“ロシアの劣勢”というより“プーチン大統領の暴走”というもっと深刻な状況に突入している。
プーチン大統領は9月21日に軍隊経験者・予備役を招集するため部分的動員令を発令したが、それ以後ロシア国内では国民の脱出が広がり、今日までにカザフスタンやジョージア、フィンランドやエストニアなどを中心に20万人以上のロシア人が脱出したという。本来対象にならない人々にまで動員が拡大し、北方4島からも動員された人々がいるという。
また、プーチン大統領は時を同じくして、ドネツクとルハンシク、サポリージャとヘルソンの東部南部4州でロシア編入の是非を問う住民投票を行い、9月30日に同4州をロシアへ併合する条約に署名した。併合したということはロシアにとって4州は当然ロシア領土となり、解釈的にはウクライナ軍の4州での軍事活動はそもそも侵略行為となる。そして、併合したのにウクライナ軍に進軍され続けるとなれば、併合を宣言したプーチン大統領にとっては政治的威信、信頼を大きく損なうことになる。こういった状況はロシアの劣勢を顕著に示すものだ。
一方、部分的動員や東部4州の併合というプーチン大統領の決断に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO加盟に向けて動き出すことを明らかにした。NATOに加盟する中・東欧9カ国の首脳も10月2日、ウクライナのNATO加盟を支持する方針を明らかにした。支持を表明したのはチェコやスロバキア、ポーランドやルーマニア、バルト3国などだが、プーチン大統領が長年NATOの東方拡大に対して強い不満を抱き、それがウクライナ侵攻の背景にあることから、こういったNATOによる動きはプーチン大統領をさらに挑発することになろう。今後、プーチン大統領は一定の地域に影響を抑えられる小型核などを使用する恐れもあろう。
“プーチン大統領の暴走”で進む中国・インドのロシア離れ
プーチン大統領の暴走によって、ロシアを取り巻く外交環境にも大きな変化がみられる。それは中国とインドのロシア離れだ。
侵攻から今日まで、中国は一貫してロシア非難を避け、制裁も一切実行していない。経済的にはロシアとの結び付きが強まってきた。中国税関総署によると、今年5月、中国のロシアからの原油輸入量が前年5月比で55%、天然ガスが54%それぞれ増加し、8月の貿易統計では世界各国からの輸入伸び率が前年8月比で0.3%に留まった一方、ロシアからの輸入が60%増加したとされる。
また、安全保障面でも、中国軍は9月1日から7日にかけて日本海やオホーツク海など極東海域で実施されたロシア主催の大規模軍事演習「ボストーク2022」に参加し、両軍は日本海で機関銃の射撃演習などを行った。それ以降も中露両軍が日本周辺海域で合同航行する姿が目撃されている。こういった現実は、まさに中露の接近、共闘を示すものだろう。
しかし、中国としてもプーチン大統領の暴走には距離を置く姿勢を示し始めた。9月中旬、プーチン大統領と習国家主席がウズベキスタンで約半年ぶりに顔を合わせたが、その際、両者は「この半年間でも世界は劇的に変化したが変わらないものが一つある。それは中露の友情だ」「激変する世界で中国はロシアとともに大国の模範を示し、主導的役割を果たす」と中露関係の重要性を改めて確認し合ったものの、ウクライナ問題に話が移ると、習国家主席は無言を貫き、プーチン大統領が「中国側の疑念や懸念を理解している。中国の中立的立場を高く評価する」と発言した。
これまで、中国がロシアに対してこの問題で苦言を呈したり、不快感を示したりすることはなかったが、9月の会談は両国の間で乖離が生じていることが初めて浮き彫りとなった。
そして、ロシアの伝統的友好国であるインドは最近、中国より明確な態度で反対を示している。インドのモディ首相は9月はじめ、ロシア極東ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムの場でプーチン大統領と会談し、「今は戦争や紛争の時代ではない」と明確にロシアの行動を批判した。インドの外相も9月、国連の場でロシアを名指しで非難することは避けつつも、ウクライナ侵攻によって物価高やインフレが生じたとし、ロシアへの不快感を滲ませた。
核の使用に至る前に
中国は対米でロシアを戦略的共闘パートナーとして、インドは武器供与でロシアを伝統的友好国と位置づけており、両国ともロシアとの関係が冷え込むことは避けたいのが本音だ。しかし、ウクライナ情勢がプーチン大統領の暴走という時代に入ったことで、これ以上は今までのような関係は維持できないという焦りや危機感を抱き始めている。今後、両国とロシアの関係が一気に冷え込むことはないが、中国インドはロシアと“1つの壁で遮る”ような態度で接していくことだろう。
いずれにせよ、プーチン大統領は内外双方で苦境に立たされており、これまでの姿勢から考慮すれば、核というオプションも現実味を帯びてきている。中国やインドのロシア離れがプーチン大統領の暴走に拍車を掛けないことを望むまでだ。
●ロシアのリベラル派重鎮が退任 大統領選出馬の可能性も 12/1
ロシア上院は11月30日、辞意を表明していたクドリン会計検査院長官(62)の退任を承認した。クドリン氏はプーチン大統領に近く、リベラル派の重鎮とみなされてきた。国内の大手ネット企業に転出するとみられているが、2024年の大統領選に出馬する可能性も取り沙汰されており、動向が注目されている。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルク出身のクドリン氏は、同市副市長を務めていたプーチン氏と懇意にしてきた。プーチン氏が大統領に就任した00年から財務相を務め、財政健全化などを推進。11年に当時のメドベージェフ大統領と衝突し、財務相を辞したが、18年に会計検査院長官として政権に復帰していた。
クドリン氏は今後、インターネット検索大手「ヤンデックス」の幹部に転身するとみられている。「ロシア版グーグル」とも呼ばれてきたヤンデックスだが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、株価の下落などに見舞われている。一部事業の売却や主要な国際事業の切り離しを承認するように政府に求めており、その流れからクドリン氏を迎え入れたい狙いのようだ。
ロシアのオンラインメディアなどは、クドリン氏が今後、ビジネス界の声を代弁する形で24年の大統領選に出馬する可能性があるとも報じている。今年10月に70歳を迎えたプーチン氏は次期大統領選の出馬について言及していない。

 

●プーチン氏と「話す用意」 ウクライナ侵攻終結模索なら―米大統領 12/2
バイデン米大統領とフランスのマクロン大統領は1日、ホワイトハウスで会談し、ロシアが侵攻を続けるウクライナへの支援を必要な限り継続していくことで一致した。バイデン氏は会談後の共同記者会見で、ロシアのプーチン大統領が侵攻終結を模索するなら、「私はプーチン氏と話す用意がある」と述べた。
バイデン氏は会見で、「戦争を終わらせる方法はウクライナから(ロシアが)撤退することだ」と強調。ただ、プーチン氏は侵攻終結を模索しておらず、「問題は彼が現状からどう脱したいかだ」と述べ、会談を行うかどうかはプーチン氏の決断次第だとの考えを示した。
バイデン氏は交渉に臨む場合、「私だけで行うことはない」と語り、北大西洋条約機構(NATO)加盟国などと協議して話し合いを進めると強調。同盟国の意向を尊重する姿勢を示した。また、プーチン氏と近いうちに接触する予定はないとも明らかにした。
マクロン氏は停戦協議を巡り、「受け入れられない妥協をウクライナに迫ることは決してしない」と指摘。協議入りの条件を決めるのはウクライナのゼレンスキー大統領であると説明した。
●ロシア世論「停戦」が多数派 動員影響、侵攻「継続」上回る 12/2
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し越年の雰囲気が漂う中、ロシア国民の間で「停戦交渉」を求める声が「作戦継続」を上回っているとする世論調査結果が明らかになった。
独立系メディアは「前線で続く苦戦と(9月下旬からの)部分動員令」が背景にあると指摘。プーチン政権も、この状況を無視できないようだ。
独立系世論調査機関レバダ・センターによれば、軍事作戦継続を訴える人の割合は徐々に低下。徴兵忌避などの混乱をもたらした予備役30万人の動員令を踏まえ、10月下旬の調査結果では36%にまで落ち込んだ。一方、停戦交渉に賛成する人は57%に上った。
プーチン政権は同センターを「外国のスパイ」と敵視しているが、調査の傾向は政権も注目しているとされる。
独立系メディア「メドゥーザ」は11月30日、大統領府が治安機関を通じて実施した非公開の世論調査結果を入手し、内容を伝えた。それによると、停戦交渉への支持は7月に32%だったが、動員令後の11月は55%に増加。レバダ・センターの結果とほぼ一致した。逆に作戦継続を主張する意見は、7月の57%から25%に減少した。
調査は戦争自体への賛否ではなく、長期化の可否を問うもの。国民がこれ以上長引くのを嫌っている実態が浮かび上がったと言える。
メドゥーザによれば、同センターのデニス・ボルコフ氏は、侵攻に対する民意について「支持は依然として大きいが、個人として関与したいという願望は小さい」と解説。停戦支持の増加は、国民の生死に関わる動員令が影響したと分析した。
関係者の話では、大統領府は国内メディアに対し「戦争のテーマを避け、もっと前向きな問題に焦点を当てるように」と通達を出しているといい、厭戦(えんせん)ムードの広がりを懸念していることがうかがえる。一方で「今後の停戦交渉は世論調査の傾向ではなく、軍事作戦の進行状況によって決まる」(政治学者)という見方もある。
●「プーチンの料理人」は軍事企業創設者…プリゴジン氏、政界入り画策? 12/2
ウクライナ侵略に独自の部隊を派遣するロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者で「プーチン大統領の料理人」と呼ばれる実業家エフゲニー・プリゴジン氏(61)が、露軍の兵員不足や苦戦に乗じ、活動をアピールしている。政界入りも取り沙汰されている。
プリゴジン氏は11月に入って、ウクライナと国境を接する露西部2州で、地元民を兵員として訓練する施設の運営を始めたとSNSを通じて発表した。運営は「全て自己負担」とし、侵略への「貢献」ぶりを強調した。
プーチン氏と同郷の西部サンクトペテルブルク出身で、1990年代から高級レストランなど飲食業を展開。プーチン氏の首脳会談の会食を担当して関係を築き、プーチン氏と直接、連絡を取り合える仲になったようだ。プーチン氏は2018年、米メディアに対し、「友人とは考えていないが、知っている」と述べた。
プリゴジン氏は、14年にウクライナ東部で始まったウクライナ軍と親露派武装集団との戦闘にワグネルの戦闘員を送った。シリア内戦で、ロシアが後ろ盾となっているアサド政権を支援したという。
ロシアで民兵を組織することは法律で禁じられているためか、創設者であることを認めてこなかったが、9月26日、「自ら集めた集団が後にワグネルになった」とSNSで初めて認めた。
侵略で露軍の苦境が深まるにつれ、プリゴジン氏の露出が増すようになった。
露軍が苦戦する東部戦線では、プリゴジン氏が非難した露軍司令官が更迭された。ワグネルが行ってきた受刑者を対象とした戦闘員募集もあからさまになり、10月19日には東部ルハンスク州などでコンクリート製ブロックを並べた約200キロ・メートルの防衛線「ワグネル・ライン」の設置を表明した。
ワグネルの関係者は11月中旬、ウクライナに投降した後に露側に引き渡された元戦闘員を撲殺する動画をSNSで公開した。プリゴジン氏は、元戦闘員が「裏切り者」だったと主張し、動画は「素晴らしい演出」とSNSに投稿するなど残虐な素顔を露呈させた。
18年には米大統領選への不正介入の罪で米特別検察官から起訴された経歴をもつ。にもかかわらず、今年11月7日には、8日に投開票された米中間選挙に「我々は干渉してきたし、これからも干渉する」とSNSを通じて明言している。
米政策研究機関「戦争研究所」は、プリゴジン氏について「(ウクライナや欧米に)勝利するか否かは二の次で、一番は個人的な野心の追求だ」と分析し、政界進出も視野に入れていると指摘する。独立系メディア「メドゥーザ」は11月15日、プリゴジン氏が右派や民族主義者を取り込み、政党を創設する可能性があると報じた。
●米中がウラで結んだ「極秘合意」、ウクライナをめぐるその「ヤバすぎる内容」 12/2
英誌で公表された衝撃的な記事
ウクライナの戦争でロシアの核使用を抑え込むために、米国と中国が「秘密合意」を結んでいた。そんな記事が英誌「スペクテーター」に掲載された。中国人民解放軍がロシア軍に働きかけて「うまくいった」というのだ。事実なら衝撃的だ。何が起きていたのか。
記事は、11月26日付で同誌の電子版に掲載された。筆者のオーウェン・マシューズ氏はオックスフォード大学卒業後、米誌「ニューズウィーク」のモスクワ、イスタンブール支局長などを努めたベテラン記者だ。著書「スターリンの子どもたち」は英紙「ガーディアン」の新人賞を受賞している。記事のタイトルは「ザ・レッド・ライン:明らかになったバイデンと習のウクライナをめぐる秘密会談」である。
話は、開戦前の2月4日に開かれた中ロ首脳会談に遡る。北京冬季五輪の開会式に合わせて、北京を訪れたロシアのウラジーミル・プーチン大統領は中国の習近平総書記(国家主席)と会談した。そこで、両者は何を話し合ったのか。
2月4日の首脳会談で、両者は「無制限の友好関係」を宣言した。中国最高レベルの政治軍事指導部と長年、緊密な関係を保ってきた情報筋によると、北京はロシアの軍事作戦計画を知っていた。ロシア人たちは、失われたロシアの地方を歴史的国境の中に取り戻すための限定的作戦、と説明していた。それは、中国の台湾に関する話と同じだった
中国がロシアの侵攻計画を事前に知っていたかどうかは、かねて大きなポイントだった。「知っていたのに、止めなかった」なら、中国は「戦争の共犯者」と指弾されても仕方がない。逆に「知らなかった」なら「中ロ関係はその程度の軽さ」という話になるからだ。
オーウェン氏は「中国は知っていた」と断定している。情報源が気になるが、書きぶりからすると「ロシア側の人物」であることを強く示唆している。ちなみに、オーウェン氏はロシア人との混血であり、ロシア語はネイティブだ。
中ロが「同盟」を結んでいた…!
そのうえで、記事は驚くべき新事実を披露した。次のようだ。
もっとも重要な点は「無制限の友好関係」に秘密の付属議定書があり、そこには、NATOの第5条のような「どちらか一方への攻撃は両国に対する攻撃とみなす」という内容が含まれていた。それこそロシアが長年、求め続けていて、これまで得られなかったものだった
中国は議定書に非常に巧妙で、先見の明がある条件を加えた。それは「戦争によって最近、併合した領土は除く」というものだ。こうして、北京は「ウクライナの併合地域に対する攻撃に対応する義務」から解放されたのである
プーチン、習両氏は、これまで公にしていた「無制限の友好関係」にとどまらず、事実上の同盟関係を結んでいたのだ。ただし、中国はロシアが2014年に奪ったクリミア半島と東部ドンバス地域を防衛義務から注意深く除いた、という。もしも含まれていたら、戦況次第で中国は参戦を迫られかねなかった。
2月24日、ロシアは侵攻を開始した。直後の27日、プーチン氏は核抑止部隊に対して「特別警戒」を命令した。いざとなったら、核の使用もいとわない姿勢をほのめかしたのである。記事は、こう続く。
プーチンによる「核戦争へのエスカレート」の脅迫は、中国を含めて、世界を驚かせた。中国人民解放軍と常時、個人的な接触をしている情報源によれば、北京にとって、最重要課題はロシアとNATOの対立が核のエスカレーションに発展するのを防ぐことだった。プーチンは中国の目にも向こう見ずで、危険なカードを弄んでいるように見えた
すると、ポーランドが動く。自国が保有するミグ戦闘機をウクライナに提供する、と言い出したのだ。代償として、ポーランドは米国に最新型戦闘機の提供を求めた。ポーランドは、この申し出を異例にも外務省のウェブサイト上で公表した。記事は続く。
したがって、それから数日後、ポーランドがソ連時代のミグ29戦闘機を編隊ごとウクライナに提供すると申し出たのは、さらなるエスカレーションにつながり、中国人を一層、懸念させた。実際には、戦闘機が戦場で大した違いをもたらすわけではない。だが、どんな種類であれ、NATO加盟国がキーウに戦闘機を提供するのは象徴的だ。NATOが紛争に直接介入する最初の1歩になるからだ
ワシントンは当初、積極的だったが、1日経った3月8日、ペンタゴンは「ポーランドの提案は支持できない」と突然、方針転換した。何が、ワシントンを心変わりさせたのか。一つの理由は、欧州の前指導者たちや高級官僚たちが関与し、最終的には中国も支持した「秘密のバックチャネル」の動きがあったからだ
ウクライナをめぐる「米中秘密合意」の中身
ここからがハイライトである。
プーチンが核の準備を宣言した2月27日以来、中国人民解放軍は外交政治チャネルとは別に、長年の合同軍事演習や軍事調達交渉で築き上げた個人的な関係を通じて、ロシアと「軍対軍」の接触を続けていた
もしも核を使う政治決定があったとしても、ロシア軍は「ロシアの領土に対する攻撃によって挑発されたときのみ、核を使う」という長年の核ドクトリンを厳守する。北京の目的は、それを確実にすることだった
非公式な「トラック2」の接触を通じて、ワシントンと中国人民解放軍は「米国がミグの取引を止めるなら、中国の将軍たちは『プーチンの核の脅し』を実務レベルで無効化するために、最善の努力をする」という合意に達した。ドナルド・トランプ前大統領時代の関係悪化を考えれば、まったく異例な出来事だった。中国の情報筋は「うまくいった」「米国は戦闘機を提供する計画を退けた」と語った
プーチン氏が核使用を命令したとしても「発射の実務を担うロシア軍は、命令に背いてサボタージュするよう、中国人民解放軍が促した」というのだ。事実なら、驚くべき話である。「中国軍がロシア軍幹部にクーデターを唆した」と言ってもいいくらいだ。
そんなことが実際に可能かどうかは、分からない。だが、私は「ありうる」と思う。結果はどうあれ、中国は「最善の努力」を約束したにすぎず、それと引き換えに、ミグ戦闘機の提供を阻止できるなら、ロシアに貸しを作れる。一方、米国とすれば、ロシアの核抑止に中国の支援を得られるだけでも、十分な成果であるからだ。
こうした3月初めの舞台裏の動きは、これまで報じられていなかったが、米国がウクライナに戦略兵器を提供するのに、非常に慎重な姿勢を維持してきた事実は、ワシントンが、欧州連合の多くの大国と共有した中国の懸念を深く認識していることを裏付けている
NATOは155ミリ榴弾砲や多連装ロケットシステムのハイマース(HIMARS)を含めて、経済・軍事支援を劇的に増加しているが、攻撃機や戦車、長距離ミサイル、巡航ミサイルなどの提供は留保してきた
一方、中国もモスクワの支援に慎重だった。北京は外交や情報分野での協力はしたが、重要な軍事協力はしなかった。その結果、ロシアはイランからのドローン購入や家電製品からの半導体チップ取り出し、途上国に売却したヘリコプターやミサイル、ミサイル防衛システムの買い戻しを余儀なくされた
米国の制裁という脅しを受けて、中国工商銀行や新開発銀行、アジアインフラ投資銀行(AIIB)といった中国の銀行は、ロシアへの信用供与や金融取引を引き揚げた。中国中化集団(Sinochem)は対ロ投資を中断し、中国銀聯もロシアの銀行との協力を停止した。動機は明らかだ。中国は戦争前にロシアと1000億ドルの貿易取引をしていたが、米国や欧州連合との取引は1.5兆ドル以上に上っていたのだ
バイデンと習近平が11月初め、バリで核の脅威を非難したとき、3月の「トラック2」と呼ばれた共通理解は「トラック1」の公式政策になった。中国の情報筋によれば、それは、ウクライナとロシアの紛争をエスカレートさせないようにする王毅外相のシャトル外交と、NATOと中国が効果的に足並みをそろえた成果だった
王毅は9月初め以来、NATOとの会合で、核を使わないようプーチンを説得するため、中国がモスクワで影響力を行使することを約束した。一方、NATOは「ウクライナに戦略的兵器を供与しない」と確認した
インドネシア・バリの首脳会議で、習近平は(インドのナレンドラ・モディ首相の支持を受けて)「外交への回帰と平和的解決を探る緊急性」を強調した。NATOは「いつ交渉のテーブルに付くかは、ウクライナが決める問題」と唱えて、公には立場を共有していない。だが、マーク・ミリー米統合参謀本部議長やフランスのエマニュエル・マクロン首相のように、NATO内には「キーウは和平交渉の準備をすべきだ」と示唆する声がある
侵攻前のロシア国境の安全を中国が保障すれば、ウクライナに対するNATOの安全保障に対する対抗措置として、クレムリンが面子を保ったまま出口を探るのに、重要な役割を果たす可能性がある
平和を構築する中国の代償は何か。北京はNATOや欧州との関係を改善し、盟友のプーチンが向こう見ずに始めた血生臭く、無駄な戦争を止めさせたい、と考えている。情報源の言葉によれば、中国は自らを「世界における平和の最後の希望」と位置づけている。領土の犠牲を強いられそうなウクライナ人たちは、おそらく同意しないだろう
以上である。
ますます孤立するプーチン
記事は全体として、中国を善玉として扱っている印象がある。ただ、そうだとしても、オーウェン氏は、情報源の少なくとも一部を「中国筋」と明記しているので、記事の価値は変わらない。読者がそこを割り引いて、読めばいいだけだ。
11月11日公開コラムに書いたように、習近平氏は米中間選挙直前の11月5日、ドイツのオラフ・ショルツ首相との会談で、初めてロシアの核使用をけん制する共同声明を発表した。習氏に公然と見限られただけでなく、ロシア軍にも裏から手を回されていたとなれば、プーチン氏は「裸の王様」になったも同然だろう。
私は先週25日公開コラムで「バイデン政権が和平交渉に動いている」と指摘したが、背景には、この米中秘密合意もある。停戦への道筋を付けることで、米国も「中国に負けじ」と得点を稼ぎたい思惑がにじみ出ている。
戦後世界の主導権を握るためには、米国が「戦争を終わらせた」という物語を作らなければならないのだ。だが、戦いの主役はウクライナである。先週のコラムで紹介したように、ウクライナ国民の多くが戦争継続を望んでいるなら、残念ながら当分、光は見えてこない。
●外国人と談笑でもスパイ扱い? プーチン政権、メディア締め付け法令 12/2
ウクライナ侵攻で苦戦するロシアで1日、反政権派や独立系メディアをいっそう締め付ける法令が施行された。動員をめぐる混乱や不安で高まる国民の不満を抑え込む狙いとみられる。強権的な手法に頼らざるを得ないプーチン政権の苦境も浮き彫りにした法令だ。
規制強化されたのは、「外国の代理人」に関する法令。「外国の代理人」はロシア語で欧米のスパイという意味があり、指定されると、当局へ活動を報告する義務のほか、出版物などに「外国の代理人」だと明示する義務などが生じる。
これまでは「外国の金銭的支援」を受けた団体や個人が対象だったが、今後は「外国の影響下にある」との理由でも指定される可能性がある。規定が明確でなく、当局に大きな権限を与えた形だ。外国メディアの取材を受けたり、外国人と談笑したりするだけでも指定される恐れがある。
対象には外国人も加えられた。ウクライナ侵攻など軍事情報に関する報道やSNSの投稿なども指定の理由になるとの懸念があり、外国メディアによるロシア国内での活動が大幅に制限される可能性もある。当局は事前の警告なしに指定できるという。 
●プーチン氏、ウクライナ巡る協議に前向き=大統領府報道官 12/2
ロシアのぺスコフ大統領府報道官は2日、プーチン大統領はウクライナでの紛争を解決するための協議に前向きだが、ロシアの支配地域を米国がロシア領と認めないことが妥協の可能性を探る妨げになっているとの立場を示した。
バイデン米大統領は1日、「プーチン氏が戦争を終わらせる方法を模索するとの判断に関心があるのなら、プーチン氏と話し合う用意がある。プーチン氏はまだそれを行っていない」と述べた。
バイデン氏の見解はロシア側としては交渉不可能であることを意味するのかと問われたペスコフ氏は「バイデン氏は、プーチン氏がウクライナから去れば交渉できると言った」と述べ、ロシアはそれを受け入れられず、ロシアのウクライナでの軍事作戦は継続することになるとした。ただその上で「プーチン氏はわれわれの権益を守るため、これまでも、現在も、交渉に対して常にオープンだ」と語った。
「われわれの利益を確保するための最も望ましい方法は、平和的、外交的手段だ」と指摘し「プーチン氏は接触と交渉に前向きだったし、現在もそうだ」と述べた。
●ウクライナ巡る西側対応「破壊的」、プーチン氏が独首相に再考要請 12/2
ロシアのプーチン大統領とドイツのショルツ首相が2日、電話会談した。ロシア大統領府によると、プーチン氏はウクライナに関するドイツなどの西側の対応は「破壊的」だとし再考を求めた。
ロシア大統領府の声明は「ウクライナ政権に武器を供与し、ウクライナ軍を訓練しているドイツを含む西側諸国の破壊的な路線に注意が向けられた」とし「ウクライナへの政治的、財政的支援とともに、これら全ては、ウクライナがいかなる交渉構想も完全に拒否しているという事実につながっている」と指摘。
「(プーチン氏は)ドイツ側に対し、ウクライナ情勢に関しアプローチを再考するよう求めた」と述べた。
ウクライナへのミサイル攻撃については、ロシアとクリミアをつなぐ重要な橋など、ロシアのインフラに対するウクライナの攻撃に対する対抗措置として擁護した。
さらにバルト海のガスパイプライン「ノルドストリーム」に対する「テロリスト」と呼ばれる攻撃を巡っては、ロシアが調査に参加することを認めるべきだと主張したという。
ぺスコフ大統領府報道官は2日、プーチン大統領はウクライナでの紛争を解決するための協議に前向きだが、ロシアの支配地域を米国がロシア領と認めないことが妥協の可能性を探る妨げになっているとの立場を示した。
●スノーデン氏にロシア旅券 プーチン氏9月に国籍付与の大統領令 12/2
ロシアに亡命した元CIA職員のエドワード・スノーデン氏がロシア国籍のパスポートを受け取りました。
ロシアメディアによりますと、スノーデン氏は1日に宣誓を行い、ロシア国籍のパスポートを取得したということです。
スノーデン氏の弁護士が明らかにしたとしています。
スノーデン氏は2013年にアメリカ政府による個人情報の収集活動を暴露し、ロシアに亡命中。今年9月にプーチン大統領がロシア国籍を付与する大統領令に署名していました。
●ロシアがトルコにガスの拠点構想、産地隠して輸出可能に 12/2
ロシアのプーチン大統領が掲げるトルコに天然ガス輸送の「ハブ」を設けるという構想が実現すれば、ロシアは産地を隠して天然ガスを輸出することが可能になるだろう。しかし、専門家はこの構想で欧州諸国がロシア産の購入にまで動くことはないのではないかと懐疑的だ。
ロシアは2月下旬のウクライナ侵攻まで欧州連合(EU)の天然ガス市場で40%のシェアを握っていた。だが、侵攻後に欧米諸国は広範囲な経済制裁を科してロシア産燃料の購入を停止し、ロシアに代わる輸入元を探している。
プーチン氏はロシアと欧州を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」での爆発による損傷発生後の10月、トルコにガス輸送のハブを設け、南回りの輸出ルートを整備する構想を打ち出した。詳細は不明だが、プーチン氏はトルコに輸送ハブを比較的速く設置すると述べ、欧州の顧客は契約を結びたがるとの見通しを示した。
これまでのところ購入契約に前向きな見解が公に示されたことはなく、アナリストは構想の実現には投資と時間が必要だと指摘している。
モスクワに拠点を置くエネルギー財政基盤研究所のアレクセイ・グロモフ氏は「EU諸国が近い将来、ロシア産ガスを購入しないと決めている以上、欧州にとって必要なプロジェクトだろうか」と疑問視する。
また、「ノルドストリーム1」経由でガス供給を受けていた大陸北西地域の欧州諸国は、構想されているハブと結ぶ既存のルートがなく、EU域内の輸送体制の再構成は不可能だとも指摘した。
輸送能力に余裕
ただ、天然ガスにも、パイプラインの容量にも余裕がある。
ロシアの欧州向けガス輸出は今年43.4%減少し、黒海を通ってロシアからトルコに至るパイプライン「トルコストリーム」の輸送量は年間315億立方メートルの容量を大幅に下回っている。
調査会社リスタッド・エナジーのシニアアナリスト、Zongqiang Luo氏の推計によると、年初から今月21日までの輸出量は約106億立方メートルで、パイプライン輸送容量の約60%が未使用だ。
Luo氏は、コストのかかる、必要な新しいインフラの建設には少なくとも3、4年かかると予想。「新しいパイプラインができたとしても、輸送されたガスを誰が買うのか」と述べた。
買い手は見つかるとの見方もある。
ロシアの天然ガスパイプライン運営大手ガスプロムの関係者は、トルコの輸送ハブで販売に弾みが付くと確信していると自信を示した。このハブを経由すれば「ロシア産ではなく、ハブから輸出されるガスになる」と話す。
欧州の貿易関係者によると、中国は既にロシア産液化天然ガス(LNG)を、ロシア産と表示せずに再販している。南欧や東欧の買い手は産地を気にしないだろうという。
S&Pグローバル・レーティングスのディレクター、アレクサンダー・グリャズノフ氏は、欧州は石油とは対照的にロシア産ガスに対しては禁輸措置を取っておらず、仲介者を挟んだロシアからの購入には前向きになる可能性があると述べた。
「欧州はロシアと直接契約を結ぶのは望まないだろうし、トルコのスポット市場で自由に買うことは政治的に受け入れられるだろう」と予想。ただ、ハブ設置には時間と資金が必要だとくぎを刺した。
トルコとの密接な関係
2016年にはトルコの首都アンカラでロシアのアンドレイ・カルロフ駐トルコ大使が殺害される事件が起きたほか、その1年前にはトルコ・シリア国境付近でトルコがロシア軍機を撃墜するなど、トルコとロシアは関係が緊迫する場面もあった。それでもトルコのエルドアン大統領とプーチン氏は密接な関係を築いている。
トルコは、アゼルバイジャンの天然ガスをトルコ国境まで運ぶ「トランスアナトリア天然ガスパイプライン(TANAP)」をハブ構想に含めることも可能だとしている。
トルコとアゼルバイジャンは先月、パイプラインの容量を現在の160億立方メートルから「短期間」で倍増することで合意。今月23日にはロシアのガスプロムの幹部とアゼルバイジャンの国営エネルギー会社の幹部がモスクワで会談した。
会談の詳細は明らかになっていないが、ロシアは今月、新たな短期契約でアゼルバイジャンに10億立方メートルのガスを供給することに合意した。
ロシアは以前から、トルコストリームに2本のパイプラインを加え、年間輸送能力を630億立方メートルに倍増させるという計画を持っていた。トルコのハブ構想はこうした計画に立ち戻るものだ。
ガスプロムのデータによると、これはロシアが2020年にオーストリア、ブルガリア、ハンガリー、イタリア、セルビア、スロベニア、トルコにさまざまなルートで輸出したガスの合計量に相当する。
●プーチン大統領「日本との関係は柔道に限定」 12/2
ロシアのプーチン大統領は若手研究者との会合で「日本との関係は柔道に限定されている」と述べました。
ロシア、プーチン大統領「こんにちは。私の対日関係は柔道を通したものに限定されています」
プーチン大統領は1日、ロシア南部のソチで若手研究者との会合に出席しました。
ロシア政府は3月、日本を「非友好国」に指定していますが、プーチン大統領は日本との関係について「柔道のみ」だと笑いながら冗談めいて述べました。
プーチン大統領は13歳から始めた柔道の「達人」と知られていて、2000年と2016年の来日時には柔道の総本山である講道館を訪れています。
2008年から国際柔道連盟の名誉会長も務めていましたが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて2月に名誉会長の資格が取り消されています。
●ロシア、核弾頭搭載可能なミサイルを使用か ウクライナ軍が発表 12/2
ウクライナ軍は1日、ロシア軍が核弾頭を搭載できるミサイルに非爆発性の弾頭を載せて使用していると発表した。
ウクライナ軍は会見で、ソヴィエト連邦時代に製造された、核弾頭を搭載可能な「X-55」巡航ミサイルの一部を公開。ウクライナ西部の2カ所で発見されたとした。
軍のミコラ・ダニリュク氏は、「ウクライナの防空システムを疲弊させるために」こうしたミサイルが使われていると指摘。また、この破片からは異常な数値の放射性物質は検出されなかったと述べた。
ウクライナの軍事専門家によると、ロシアはここ数週間、ウクライナの重要なインフラに対して大規模な攻撃を次々と行っているため、ミサイルをかなり消費している可能性がある。
またロシアは現在、破壊的な被害をもたらす、先端のとがっていない飛翔体に頼っているとという。イギリスの情報機関が11月に発表した報告書も同様の結論に達している。
ロシアはこの件について公式発表をしていない。
ダニリュク氏は1日に首都キーウで行われた会見で、「X-55」巡航ミサイルの破片がリヴィウ州とフメリニツィキー州で発見されたと述べた。
このミサイルは、北大西洋条約機構(NATO)では「AS-15」と呼ばれている。ダニリュク氏によると、ソ連時代に設計されたもので、「あらかじめ座標が設定された戦略的標的」を攻撃するものだという。
イギリスの情報機関はこのミサイルについて、「核弾頭を搭載するのに特化した」設計だと説明した。
しかし、ロシア軍は核弾頭を取り除き、爆発しないシステムに取り換えてウクライナに発射しているとみられている。
ダニリュク氏は、使われているのが非爆発性の弾頭であっても、運動エネルギーと残りの燃料があるため、「大きな危険」につながると強調。「このことは、アパートにX-55が直撃した際に証明されている」と述べた。
一方で検査の結果、「(このミサイルが)核に関わるものと接触した」兆候はないと語った。
ウクライナでは1日、ロシアの戦闘機が新たなミサイル攻撃を準備している可能性があるという報告を受け、ロシアに併合されているクリミア半島南部を除く全土に一時的に空襲警報が発令された。この警報は後に解除された。
その他の情勢は以下の通り。
・アメリカのジョー・バイデン大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が戦争終結に関心を示した場合には、協議を行う「用意がある」と述べた。一方で、プーチン氏は「まだそうしていない」と付け加えた。
・ドイツ議会が、1930年代にが旧ソ連がウクライナで引き起こし何百万人もが犠牲になった大飢饉(ききん)「ホロドモール」をジェノサイド(集団虐殺)と認定したことについて、ロシア政府は、ロシアを「悪魔化」しようとする試みだと述べた。
・ウクライナの原子力事業者はこのほど、ロシアに占拠されたザポリッジャ原子力発電所の主任技術者代理を、反逆とロシア政府への協力をしたとして解雇した。
●「地獄のような冬になる」ウクライナ外相 反転攻勢への決意とは? 12/2
首都キーウに防空警報が鳴り響く中、インタビューの場所は、急きょ、外務省の建物の地下にあるシェルターになりました。水道管が丸出しの冷えきった地下室で、クレバ外相は、ロシアや中国との関係や向き合い方など、私たちの質問に答えました。そして、ロシアのミサイル攻撃で停電や断水が広がるこの冬について、きわめて厳しい見通しを語りました。以下、クレバ外相の話。
この冬はどれくらい厳しいものになる?
地獄のような冬になるでしょう。ロシアは攻撃をやめようとしていません。ですから、ウクライナに防空システムや発電機などをできるだけ早く提供することが極めて重要です。日本政府が、発電機などの支援を決めたことに感謝しています。私たちは生き延びます。市民にとっては非常に困難な状況ですが、私たちは互いに助けあっていきます。プーチンがもし私たちを打ち負かすことができると考えているとしたら、愚かなことです。もしそう考えているのだとしたら、彼はウクライナの人々のことを何も分かっていません。
今後の反転攻勢の見通しは?
私たちは反転攻勢を続けなければいけないし、続けていきます。私たちは自分たちの土地と国民を守っています。それが危機に瀕しているのです。ロシア軍から領土を解放するたびに、拷問部屋や集団墓地が見つかっています。ロシア側による多数の迫害についても証言を聞きます。国民を拷問や苦しみ、悲惨な生活から救うために、領土の解放を続けていきます。つまり、これは単に領土のための戦いではなく、ロシアの犯罪者から国民を救うための戦いなのです。当然のことながら、停電、断水、ミサイル攻撃を生き延びる道を探すことになります。生き残り、勝ち残るという、唯一の目標に向かって適応するのです。
ロシアとの停戦交渉の可能性は?
このインタビューが始まる2時間前にも、約70発のロシアのミサイルと無人機による攻撃を受け、ウクライナ全土が停電しました。4000万人の国民が断水の状態にあります。これで、ロシアに交渉するつもりがあると言えますか?ロシアとの交渉について何か発言する人たちは、ロシア側には交渉する用意があることを示すものは何一つないという事実を理解すべきです。それなのに、交渉しろというのは、ばかげています。「一部の国がウクライナに停戦交渉を促している」というような報道や議論があることは知っていますが、実際にはそのようなことは起きていません。誰もロシアとの交渉を始めろなどと私たちに指示をしたり、圧力をかけたりしてこないのは、現実を理解しているからです。
2022年11月中旬、ポーランドに着弾したミサイルについては?
「着弾したミサイルがウクライナの迎撃ミサイルではないか」という発言に対して、私たちは、「調査が必要だ」という立場です。ウクライナの検察当局は現在、ポーランドの検察当局と密接に連携しています。適切な調査と証拠に基づき、着弾したのがウクライナの迎撃ミサイルであったとの結論が出れば、それを受け入れることには何の問題もありません。ポーランドやヨーロッパの友好国は、ウクライナがより強大な敵と戦っていることを理解しています。ポーランドにミサイルが着弾した日、ウクライナは約100発ものロシアのミサイルなどの攻撃を受けていました。私たちが意図的だったとか、真実を隠そうとしているとか非難する人は誰もいません。関係悪化の心配はありません。
ロシア非難に加わらないアジアやアフリカの国々をどう見る?
アジアのなかで軍事侵攻を支持しているような国はおらず、北朝鮮だけではないでしょうか。一方で、中立を保とうとするアジアの国々が多いのも事実です。ウクライナに同情しているが、表向きはロシアとウクライナの双方に責任があるという立場をとったり、沈黙したままだったりする国々があります。しかし、それは公正なことではありません。もしロシアが好きなように行動するのを許せば、世界のほかの国々にとって、国際法は存在しなくなるも同然です。国境は力によって変更することができ、侵攻を続ける加害者が戦争犯罪を犯し、市民を拷問し、殺すことを誰も止められないということを意味してしまいます。もしアジアの国々が自分たちの安全保障について真剣に考え、国際法が尊重されるべきだと望むならば、国際法と主権と領土の一体性への支持のために、毅然とウクライナの側に立つ必要があるのです。このことはアジアだけでなく、同じような立場をとるアフリカやラテンアメリカの国々についても同様に言えます。私たちはそうした国々に働きかけを続けていきます。なぜならこれはロシアとウクライナという2つの異なるナラティブ(※)のあいだで起きている戦争ではないからです。(※)narrative。主張や言説、さらには物語とも訳せる。
「ロシアにも一理があり、ウクライナにも一理がある」というものではありません。ウクライナが体現する真実と、ロシアが吹聴するうその間で起きている戦争で、各国はどちらの側に立つのかはっきりとさせる必要があります。
中国の立場をどういうものだと理解していますか?
中国の指導部は状況を完璧に理解していると確信しています。そして、彼らが2つの重要なメッセージを発しているように、私は受け止めています。1つは、中国はこの戦争を決して支持していないと理解しています。この点で中国を信用しない理由はありません。2つ目は、ロシアによる核兵器使用の脅しに対して、公に反対を表明したと受け止めています。しかし、中国がこの戦争を、自国の戦略的利益という大きな文脈から見ていることもまた事実でしょう。ロシアは中国にとって、最も政治的に重要なパートナーです。多くの人は、中国という国の特徴や市場といった視点から物事を見がちですが、私の考えでは、中国にとって最も重要なことは、世界的な競争関係において、ロシアを政治的なパートナーにしておくことなのです。しかし、中国の一貫した政策は、領土の一体性を尊重することであり、それは今後もそうであると確信しています。これは彼らの外交の柱なのです。それだけに、ロシアが他国の領土の一体性を侵害していることを見過ごしていることは、おかしなことです。中国はバランスを取ったアプローチを進めていくことが必要です。中国がレッドラインを越えず、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻を支持しないことが重要です。
2023年のG7議長国である日本への期待は?
G7による追加の対ロシア制裁や、ウクライナへの経済やエネルギー支援などについて、日本が真のリーダーシップを発揮することを期待しています。私は日本の外務大臣と良好な関係を保っていますし、ゼレンスキー大統領は日本の総理大臣とも話をしました。私たちは日本を頼りにしています。来年のG7における真のリーダーシップに期待しています。そして、機会があれば喜んで日本を訪問したいです。ウクライナと日本の関係をより高いレベルに持っていきたいと思っています。日本の総理大臣のご都合のよい時にいつでもウクライナにお迎えします。そして、さまざまな会合で日本の外務大臣ともお会いしていきたいです。ちなみに、私はまだ日本を訪れたことがありませんが、実は私の息子の夢は、日本に旅行にいくことなのです。彼には「戦争が終わったら日本に行こう」と約束をしました。息子は日本のアニメの大ファンなのです。私も以前に、息子と一緒に日本のアニメを見ました。みずからの剣を持ちかえ、二度と人を斬らないことを誓った男の物語でした。非常におもしろいアニメでした。息子と一緒に日本を訪れるという約束はぜひ果たしたいです。
●独首相、プーチン氏にウクライナ紛争の外交的解決策求める=声明  12/2
ドイツのショルツ首相は2日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、「ロシア軍の撤退を含む」ウクライナ紛争の外交的解決策をできるだけ早急に見出すよう求めた。
ドイツ首相報道官の声明によると「ショルツ首相は特に、ウクライナの民間インフラに対するロシアの空爆を非難し、ロシアの侵略に対する防衛力を確保するためにウクライナを支援するドイツの決意を強調した」。会談は1時間にわたり、今後も連絡を取り合うことで合意したという。
●「プーチン氏と会談する用意」 バイデン氏 米仏首脳会談で 12/2
アメリカのバイデン大統領は、ウクライナに侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について、「戦争を終わらせる方法を探しているのなら、わたしは会談する用意がある」と述べた。
バイデン大統領は1日、ウクライナ支援などをめぐり、フランスのマクロン大統領と会談し、両首脳は、「ロシアによる違法な侵略戦争を強く非難し、ウクライナへの支援を継続する」とした共同声明を発表した。
アメリカ・バイデン大統領「プーチン大統領が戦争を終わらせる方法を探しているのなら、会談する用意がある」
一方、バイデン氏は、「プーチン氏と接触する予定はない」とも述べている。
 

 

●スノーデン元CIA職員、ロシアのパスポート取得=通信社 12/3
米中央情報局(CIA)元職員でロシアに亡命したエドワード・スノーデン氏(39)がロシアへの忠誠を誓い、ロシアのパスポートを取得したと、タス通信が2日、同氏の弁護士の情報として報じた。
スノーデン氏は2013年、勤務していた国家安全保障局(NSA)による大規模な監視活動を暴露。米政府からスパイ活動取締法違反などの容疑で訴追され、ロシアに亡命していた。プーチン大統領は9月、スノーデン氏にロシア国籍を付与する大統領令に署名した。
●プーチン大統領 “インフラ攻撃やむをえない対応” と正当化  12/3
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、発電所などのインフラ施設への攻撃を繰り返し、各地では深刻な電力不足に陥っています。一連の攻撃についてロシアのプーチン大統領は「ウクライナ側の挑発行為に対して、やむをえない対応をとった」と正当化し、さらなる攻撃が懸念されています。
ウクライナでは、ロシア軍がことし10月以降、発電所などエネルギー関連のインフラ施設を標的にしたミサイル攻撃を繰り返していて、首都キーウをはじめ各地では深刻な電力不足に陥っています。
国営の電力会社は11月30日の段階で電力需要の27%が不足しているとしていて、キーウでは地区によって断続的に停電が発生し、市内の工業地帯にある自動車整備工場では、1日で少なくとも4時間程度の停電が発生しているということです。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は2日、ドイツのショルツ首相と電話会談を行いました。
ドイツ首相府によりますと、会談は1時間に及び、ショルツ首相は、ロシア軍による民間のインフラ施設への攻撃を非難するとともに、ロシア軍の撤退を含む外交的な解決策を早急に見いだすよう求めたということです。
一方、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は「ウクライナ側がクリミアに続く橋やロシアの民間インフラ施設に挑発的な攻撃をしているため、やむをえない対応をとった」と述べたとしていて、一連の攻撃を正当化したものとみられます。
ウクライナ政府は、ロシア軍がインフラ施設を標的にした新たなミサイル攻撃の準備をしているとみて警戒を強めていて、さらなる攻撃が懸念されています。
●ロシア・ウクライナ、非難応酬 互いに「滅ぼす」 12/3
侵攻下にあるウクライナ高官が「ロシアを国家として壊滅させる」と発言したことに、ロシア側も「ナチスを根絶する」(メドベージェフ前大統領)と反発し、非難の応酬となっている。
ウクライナ高官は、ゼレンスキー政権の要のダニロフ国家安全保障・国防会議書記。背景には、相手に対する拭い難い不信感があるもようだ。
ロシアによる侵攻は今月24日で10カ月になる。本格的な冬を前に戦況がこう着し、越年は避けられない雰囲気だ。欧米メディアで「和平論」が飛び交う中、ウクライナとしてはあくまで「主戦論」を張り、国内の引き締めを図った可能性もある。
ダニロフ氏は1日、首都キーウ(キエフ)で開かれた安全保障フォーラムに出席。「現在の国境を持つ国家として存在しなくなるよう(ロシアを)壊滅させる必要がある」と強調した。
「ロシアは今日、国内に植民地を持つ数少ない国の一つであり、たくさんの民族、言語、文化、伝統を破壊している」と主張。プーチン政権を「蛮族」と呼んだ上で「同じテーブルに着いて話さなければならないと促された場合、そうする価値はないと思う」と和平論を一蹴した。
ダニロフ氏は、異民族を軽視するロシアの姿勢が、ウクライナの民間人への攻撃や領土の占領につながっていると断じた格好。フォーラムには、ロシアに厳しいヌーランド米国務次官もオンラインで参加した。
ロシアで安全保障会議副議長を務めるメドベージェフ氏は、即座に反応した。国営ロシア通信によると「(ダニロフ氏と)同じ言葉で返す意味はない」と述べながらも「こうした発言をするナチスのろくでなしを根絶する」と反発した。
メドベージェフ氏は通信アプリでの過激な投稿で知られる。6月にはゼレンスキー政権などの反ロシア勢力を「消滅させる」と宣言し、物議を醸した経緯がある。
●ウクライナ南部の原発撤退検討か ロシア、原油輸送保証引き換えに 12/3
ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は2日、プーチン政権に近い複数の消息筋の話として、ウクライナが同国経由のロシア産原油と天然ガスの欧州向けパイプライン輸送を保証した場合、引き換えにロシアがウクライナ南部ザポロジエ原発から軍を撤退することを検討していると報じた。
ロシアは2月の侵攻開始後もウクライナ領内のパイプラインを通じ原油などを欧州に輸出している。
消息筋は、原油とガスの輸出は「国家財政に重要だ」と説明したという。メドゥーザは、欧州連合(EU)が今月5日から海上輸送のロシア産原油に取引価格上限を設けることも、ロシアに譲歩を促していると伝えた。
●停戦に向け、米と交渉 プーチン氏は「応じられる」ペスコフ露報道官 12/3
ロシアが侵攻するウクライナの情勢を巡り、ロシアのペスコフ大統領報道官は2日、停戦に向けた米国との交渉の可能性について「国益を確保するためならプーチン大統領はこれまでも、そして今も交渉に応じられる」と述べた。ただ、ウクライナや米国が求めるロシア軍撤収の意思はないと強調しており、交渉が実現する見通しは立っていない。
バイデン米大統領が1日、マクロン仏大統領との会談後の共同記者会見で、プーチン氏が戦争終結に関心を示せば「北大西洋条約機構(NATO)と相談し、プーチン氏と話をする用意がある」と述べたのに反応した。
バイデン氏は1日の会見で、プーチン氏との対話の「窓」は開かれていると強調。一方でロシア側が戦争を終結させる方法を探すことにまだ関心を示していないとし、現状では対話は困難との認識も示した。マクロン氏も「ウクライナが受け入れられない妥協を促すことは決してしない」と述べた。
これに対し、ペスコフ氏は、戦闘終結に向けた道は「米国がロシアの新しい領土を認めないことによって妨げられている」と述べ、ロシア側が9月に一方的に併合を宣言したヘルソン州などウクライナ東・南部4州をロシア領として承認することが交渉の条件になるとの考えを示した。
ウクライナでの戦闘は、ウクライナ軍が反転攻勢に出ており、ロシア軍はヘルソン州の州都ヘルソン市から撤収するなど、守勢に回っている。
ウクライナや米国は、交渉による停戦が、ロシア側に部隊再編や反撃への準備期間を与えることを懸念している。 
●米イエレン財務長官「プーチンの最も重要な収入源を即座に減少」  12/3
アメリカのイエレン財務長官は、EU=ヨーロッパ連合やG7などがロシア産原油の輸入価格の上限を1バレル=60ドルとすることで合意したことを受け、「プーチンの収入源を即座に減少させるものだ」と強調しました。
EU フォンデアライエン委員長「EUやG7などは、ロシア産原油の世界的な価格上限の導入に合意しました」
EUやG7などはロシアへの経済制裁として、ロシア産原油の輸入価格の上限を1バレル=60ドルとすることで合意しました。当初の案では1バレル=65ドルでしたが、上限を1ドル下げるごとに、ロシアの収入がおよそ20億ドル減るということです。
EUのフォンデアライエン委員長は「ロシアへの制裁の効果を高めるとともにエネルギー価格を安定させ、新興国や発展途上国の経済に直接的な利益をもたらす」と主張しています。
また、アメリカのイエレン財務長官は「ロシアが残忍な侵略のために使っている収入を制限することになる」と指摘。「すでにロシア経済が縮小し予算も先細る中、プーチンの最も重要な収入源を即座に減少させるものだ」として、ロシア経済やプーチン大統領に与える影響の大きさを強調しています。
●エネルギー輸送保証なら「撤退」=ウクライナ原発のロシア軍 12/3
ロシア軍がウクライナ南部で占領しているザポロジエ原発に関し、独立系メディア「メドゥーザ」は2日、ウクライナ領内でロシア産石油・天然ガスの安全なパイプライン輸送が保証されれば、プーチン政権が原発撤退を決める可能性があると伝えた。大統領府関係者らの話としている。
ザポロジエ原発は欧州最大規模。ロシア軍が2月の侵攻開始から間もなく制圧しており、砲撃に巻き込まれれば、核惨事につながりかねないと懸念が高まっている。
メドゥーザによると、ウクライナに引き渡す案と、国際原子力機関(IAEA)の管理に移す案が検討されているという。プーチン大統領は10月、ザポロジエ原発を「国有化」する大統領令に署名しているが、ロシア軍が実際に撤退すれば、事故のリスクは低減することになりそうだ。
伝えられた関係者の証言では、エネルギー輸出で国庫を潤すのが動機の一つ。原発から撤退した後、ザポロジエ州の占領地をすべて手放すシナリオは検討されていないという。ザポロジエ州は南部ヘルソン州と同様、東部ドネツク州から南部クリミア半島までの支配地域をつなげる「陸の回廊」に位置している。
ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムのコティン総裁は11月27日、ロシア軍がザポロジエ原発を撤退する兆候が見られると地元メディアに指摘した。ロシアのペスコフ大統領報道官は28日、「(兆候は)ないし、あり得ない」と全面的に否定していた。 
●米仏両首脳 ロシアのプーチン大統領と「話す用意ある」 停戦交渉に言及  12/3
バイデン米大統領とマクロン仏大統領は1日、米ホワイトハウスで会談した。ロシアによるウクライナ侵攻の停戦に向けて意見交換し、プーチン大統領やウクライナのゼレンスキー大統領の意向次第では、プーチン氏と対話する意向を示した。対中国を念頭に、インド太平洋地域や台湾海峡の安定に向けて協調でも合意するなど結束をアピールした。
会談後の共同記者会見で、バイデン氏は、プーチン氏がロシア侵攻の終結を模索するのであれば「フランスや北大西洋条約機構(NATO)の友好国と相談し、プーチン氏と何を考えているのかを確認するために喜んで話す」と話した。
一方でプーチン氏には終結の考えはないとして「すぐに連絡する予定はない」と述べたが、10月の米CNNのインタビューで「会う理由がない」などと語っていた強硬姿勢からは軟化したもようだ。バイデン氏は侵攻開始前の2月12日を最後にプーチン氏とは対話していない。
停戦に向けた対話を重視するマクロン氏は、ゼレンスキー氏の意向次第で「プーチン氏と話す」と語った。バイデン氏とも停戦交渉で意見交換したといい「われわれは常に(侵攻が)エスカレートするのを防ぎ、具体的な成果を得ようとしている」と説明した。
共同声明ではロシアをあらためて非難し、ウクライナへの継続支援を確認した。また、中国による「人権尊重を含むルールに基づく国際秩序への挑戦」を懸念し、「台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を確認した」と明記。インド太平洋での海洋安全保障でも協力を強化する。ただし気候変動問題などでは「中国と協力する」とした。
バイデン氏はマクロン氏を政権発足後初の国賓として招き、会談前の歓迎式典では握手や抱擁を繰り返すなど結束を演出した。
米仏、貿易巡っては溝 米インフレ抑制法に欧州反発
1日の米仏首脳会談で、協調路線をアピールしたバイデン米大統領とマクロン仏大統領。しかし、貿易問題を巡っては、バイデン政権が8月に成立させたインフレ抑制法により、フランスを含む欧州の生産が減少して打撃になるとの危機感が強く、不穏な空気も漂う。
インフレ抑制法は物価抑制策や環境対策を組み合わせた総額4300億ドル(約58兆円)規模の経済対策。電気自動車(EV)などの北米生産を優遇する措置が盛り込まれており、欧州の生産拠点が北米に移る可能性があるとして欧州諸国は「欧州企業の衰退につながる」と反発している。
マクロン氏も会談前日の11月30日に、在米仏大使館での演説で「欧州の国々を引き裂く選択だ」と批判。「米国の自国優先は理解できるが、それによってフランスや欧州が調整弁にされる恐れがある」と不満を口にした。
昨年9月には米国が主導して英豪との安全保障枠組み(AUKUS)を新設したことで、仏側がオーストラリアとの巨額の潜水艦開発契約を失って米仏関係は悪化。いったんは改善したが、インフレ抑制法によって対立再燃の懸念も指摘されている。
首脳会談後の共同記者会見で、バイデン氏は「協力的な国を排除する意図はなかった」と不備を認め、仕組みを「欧州諸国が参加しやすいように修正することは可能だ」と歩み寄った。マクロン氏も「共に成功したい」と応じ、ひとまず矛を収めた形。しかし、米政府と欧州連合(EU)の協議が難航すれば、対ロシアで強まった米欧の同盟関係に亀裂が入る恐れもある。

 

●プーチン大統領、ドンバス訪問も 「追加動員ない」と報道官 12/4
ロシアのペスコフ大統領報道官は3日、ロシアが9月末に併合を宣言したウクライナ東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)をプーチン大統領が訪問する可能性について記者団に「いずれは実現する」と述べた。訪問で併合の既成事実化を強める狙いとみられる。併合したウクライナ東部や南部の防衛のため追加動員があり得るとの観測は否定した。
タス通信などによるとペスコフ氏は、ドンバスについて「ロシア連邦の一部だ」と述べ、プーチン氏の訪問は当然だとの見方を示した。具体的な時期の見通しは明らかにしなかった。
●「プーチン氏行く」改めて強調 ウクライナ占領地巡りロシア報道官 12/4
タス通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は3日、ロシアが侵攻を経て占領中のウクライナ東・南部について、プーチン大統領がいずれ訪れることになると改めて強調した。占領地が「ロシアの一地方」で問題はないという認識を示した。訪問を強行すれば、ウクライナが猛反発するのは必至だ。
ペスコフ氏は11月上旬に東部ルガンスク州を訪問直後、プーチン氏も適切な時期に訪れるとの認識を示していた。9月の一方的な「併合」宣言後、政権高官による占領地視察が増えており、プーチン氏の側近でモスクワのソビャニン市長も今月2日、ウクライナの前線に展開するロシア軍部隊を慰問したと明らかにした。
●ジョージア避難のロシア人、動員完了後も帰国急がず 12/4
ロシアがウクライナ侵攻部隊の増強策として実施した部分動員の完了を発表してから1カ月が経過した。だが、招集から逃れようと隣国ジョージアへと脱出した多くのロシア人男性は、全く帰国を急いでいないという。
ロシアのプーチン大統領は9月21日、ウクライナの一部でのロシア軍撤退を受けて部分動員令を発表。前線へ送られる懸念から、対象年齢にある数万人の男性がジョージアやアルメニア、カザフスタンなどの国へ向かった。
ジョージア政府が発表した統計によれば、2022年に11万人以上のロシア人がジョージアへ避難した。こうした動きはジョージアに好景気をもたらす一方、反ロシア感情の強い同国内での反発も招いている。
ロシアのプーチン大統領やショイグ国防相が招集完了を発表して1カ月が経ったが、避難したロシア人の多くは、すぐに国へ戻ることはないと口をそろえる。
「何よりもまず、紛争を終わらせなければならない」と、ゲーム開発者のエミールさん(26)。ロシアから出国するために国境の行列に並び、2日を費やしたという。トビリシで行われた取材に対し、こう訴えた。
「男性をはじめ、誰もがリスクに直面している状況だ。私は自分自身の安全を第一に考えている。警察の前を歩いて通り過ぎただけで逮捕される可能性がある国には、もちろん戻りたくない。自由と安心が欲しい」
ロシア政府は動員令そのものは撤回しておらず、事前通告なく追加動員が発令されるのではないかとの憶測も広がっている。
「何がどうなればロシアに戻りたいと思うか、漠然と考えてはいる。ただ、今は、トビリシにあるアパートを6カ月借りて、営業登録もしている。あと6カ月はここにいるだろう」と、モバイルゲーム業界で働くスラバさん(28)は語る。
「ロシアで何が起きているか、注視するつもりだ。一部のことを除けば、進んで帰国したいとは思っている。ロシアで暮らすことは気に入っているし、ロシアが大好きだから」
ただ、人口わずか370万人、ロシアに比べて経済力の弱い国に比較的裕福なロシア人が大勢流入したことで、緊張も生まれている。
ジョージアで野党議員を務めるサロメ・サマダシビリ氏は、自身のオフィスにあるウクライナ国旗の前で「事態は収拾できない状態にあるという見方もある」と指摘する。
ジョージアのアブハジア地方、南オセチア地方は、ロシアを後ろ盾とした分離独立主義者が実効支配している。2008年、ロシアは、両地方がジョージア政府の脅威にさらされているとして、ジョージアの他の地域へも短期間の軍事介入を行った。
サマダシビリ氏は、プーチン氏がウクライナ侵攻時と同様、ジョージア国内のロシア人を「保護するため」との口実をジョージアへの侵攻拡大に利用しかねないと懸念を示す。
ジョージア人の多くは国の5分の1がロシアの占領下にあると考えており、抗議活動の際などにはそうした訴えの声も上がる。
戦争やロシア国内でのプーチン氏による強権政治に反発してやって来た大勢のロシア人は、こうしたメッセージに共感している。中にはジョージアに定住を決めた人もいる。
3月にトビリシに引っ越した起業家のデニス・シェベンコフさんは「移住を決意したのは、もっと自由を感じるためだ」と話す。
シェベンコフさんは6月、トビリシでコーヒーの事業を開始。先月にはロシアのサンクトペテルブルクで元々開いていたコーヒー店を畳んだ。
「サンクトペテルブルクにいた警察の態度や、自治体政府や当局がしていたことを思い返すと、全く戻りたいと思わない」
●「監視国家」に変貌したロシア 12/4
プーチン政権下のロシア連邦の現況は、民主主義体制とは無縁の「監視国家」であることは疑う余地もない。スターリン体制以降、フルシチョフ、ブレジネフ、アンドロポフ、チェルネンコ各政権下の社会主義体制ソ連は、紛れもない「監視国家」だった。
1985年3月のゴルバチョフ政権の誕生によって、ペレストロイカとグラスノスチ、それに新思考の新たな政策で、一気に体制の大幅な転換が図られた。
そして、ソ連解体とエリツィン政権を経て、新生ロシアはプーチン時代となると、歴史の歯車は徐々に逆転してきた。とりわけ、今年2月にウクライナ軍事侵攻という理不尽な「プーチンの戦争」が始まったことで、戦争反対、体制批判の自由は失われている。ほぼ完璧な「監視国家」の出現である。ロシアが明確に「監視国家」に変貌した発端は、いつの頃からだろうか。
前政権時代に基礎築く
ロシアの独立系有力英字紙「モスクワ・タイムズ(MT)」は11月半ば、「クレムリンはいかにして密(ひそ)かにロシアの監視国家を構築したか」と題する専門家の論稿を配信した。これによると、「(監視国家出現の)基礎は実際には、2008〜12年の一見温和なドミトリー・メドベージェフ大統領時代に築かれた。08年の経済危機が革命の引き金となる可能性があるとクレムリンは恐れたからだ」という。
メドベージェフ氏は、チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長、悪名高い民間軍事会社(PMC)「ワグネル」の創始者エフゲニー・プリゴジン氏と並んで、「プーチンの戦争」について、何ら疑いを持たずに絶対的に支持する好戦派、タカ派の代表の一人であり、納得のいく指摘である。
論稿はさらに、「クレムリンのパラノイア(妄想症)により、メドベージェフは『過激主義』に反対する全国的なキャンペーンを開始するようになった。内務省の大規模な再編が行われ、国内各地に地域の反過激主義部署を設立し、モスクワを拠点とする大規模な本部がこれら部署の取り組みを調整する任務を負うことになった。恐らく、さらに重要な点は、ロシアの法執行の原則が変更されたことである。当局は脅威に対抗する代わりに、脅威の防止を強調した。そこで内相は、『過激派活動の分野で起きていることの防止と監視』が反過激派部門の焦点になると発表した。犯罪を未然に防ぐにはどうすればよいのか。メドベージェフ政権の答えは明白だった。潜在的な活動家と抗議者を特定して、彼らのリストを作成することだった」とも論じた。
08年5月12日に設置されたロシアのオンライン検閲機関であるロシア連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁「ロスコムナゾール」は、デジタル発展・通信・マスコミ省の一部であり、正式な法執行機関ではないが、20年以来、オンライン上の抗議活動を監視してきた。
ロスコムナゾールは、通信各社がライセンス要件を順守していることを確認するために創設された。しかし、現在はロシア治安機関の一部として機能している。ロシアの全ての地域で、ロスコムナゾールの地方支部は、「問題の発生場所」、ないし国民の不満を引き起こす可能性のある出来事をトレースしている。その主な目的は、地元のトラブルメーカーを特定し、その名前を連邦保安庁(FSB)および内務省と共有して確実に処罰することである。
プーチン氏は12年に大統領に復帰した時、この監視体制への投資増を受け継ぎ、22年までに結果を出し始めた。ウクライナへの侵攻以来、クレムリンは法執行において、伝統的な役割を持たない政府機関だけでなく、民間の通信各社にも支援を求め、事実上それらを治安機関の武器にしている。
強まる権威主義的傾向
戦時中の異議、批判を根絶するというクレムリンの決意は、このプロセスをある程度促進したかもしれないが、一方、何年にもわたってますます権威主義的な傾向を示してきたプーチン政権のロシアでは、ウクライナ侵攻の有無にかかわらず、このような展開は不可避と思われる。 
●プーチン氏ウクライナ東部訪問の可能性…“併合の既成事実化”強める狙いか 12/4
ロシアの大統領報道官は、プーチン大統領が一方的に併合を宣言したウクライナ東部ドンバス地方を、いずれ訪問する可能性があると述べました。
ロシア国営のタス通信によりますと、ペスコフ大統領報道官は3日、プーチン大統領がウクライナ東部ドンバス地方を訪問する可能性について、「いずれ行われるだろう。そこはロシアの地域の一部だ」と述べました。
訪問によって併合の既成事実化を強める狙いとみられますが、具体的な時期などは明らかにしていません。訪問を強行すればウクライナ側の猛反発は必至です。
一方、ロシア国防省は、ショイグ国防相がベラルーシを訪問し、ルカシェンコ大統領やフレニン国防相と会談したと発表。地域の安全保障に関する協定を改定する文書に署名したとしています。
ロシアとしてはベラルーシとの軍事的な連携を強め、欧米をけん制する狙いがあるとみられます。
●「大規模な兵力と火力を投入」ロシア軍が前進の可能性 東部ドネツク州 12/4
ウクライナ情勢です。激しい攻防が続く東部ドネツク州の要衝バフムトをめぐり、イギリス国防省は、ロシア軍が前進した可能性が高いと明らかにしました。
イギリス国防省は、3日、ツイッターで「ロシア軍がドネツク州バフムト周辺の前線でおよそ15キロメートルにわたって大規模な兵力と火力を投入し、南側に前進した可能性が非常に高い」と明らかにしました。
一方で、ロシアにとって「得られる利益に釣り合わないほど高くついている」と分析し、「バフムトの占領は政治的な目的になった可能性がある」と指摘しています。
バフムトについてウクライナのゼレンスキー大統領は、「最も激しく苦しい状況だ」として、前線で戦う兵士に感謝の意を示しました。
こうした中、ロシア国営のタス通信によりますと、ロシアのペスコフ大統領報道官は、3日、プーチン大統領が一方的に併合を宣言したウクライナ東部ドンバス地方を訪問する可能性について「いずれ行われるだろう。そこはロシアの地域の一部だ」と述べました。
プーチン氏の訪問によって併合の既成事実化を強める狙いとみられますが、具体的な時期などは明らかにしていません。
訪問を強行すれば、ウクライナ側の猛反発は必至です。
一方、ロシア国防省によりますと、ショイグ国防相は、3日、ベラルーシを訪問し、ルカシェンコ大統領やフレニン国防相と会談して地域の安全保障に関する協定を改定する文書に署名しました。
文書の具体的な内容は明らかにされていません。
ロシアとしてはベラルーシとの軍事的な連携を強め、欧米をけん制する狙いがあるとみられます。

 

●プーチン大統領、和平協議に真剣でない=米国務次官 12/5
ヌーランド米国務次官は3日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ市民への電力供給を断つことで戦争の野蛮さの度合いを増しており、和平協議について誠実でないとの見方を示した。
同次官はウクライナへの支持を示すためキーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領らと面会。「誰もが当然、外交を目標としているが、前向きな相手が必要だ」と記者団に述べ、「エネルギー(インフラへの)攻撃であれ、ロシア大統領府の発言や態度全般であれ、プーチン大統領が(外交について)誠実でなく、用意ができていないのは非常に明白だ」とした。
バイデン米大統領は1日、プーチン大統領がウクライナ戦争の終結に関心を示せば協議する用意があると述べたが、ロシア大統領府は同国が宣言したウクライナ4地域の併合を西側が承認する必要があるとの立場を示した。
ヌーランド次官はこれについて、ロシアが和平協議に「いかに真剣でないか」を示していると述べた。
●米、ロシアと対話困難 プーチン氏が「関心ない」  12/5
ブリンケン米国務長官は4日、米CBSテレビで、ウクライナに侵攻したロシアの攻勢が弱まると指摘される冬季に米ロが対話するかどうか問われ「プーチン(大統領)が外交に関心を示さない限り、どうしようもない」と述べ、困難だとの認識を示した。
バイデン大統領は1日、プーチン氏が戦争を終わらせる意思があるなら「話す用意がある」とする一方、近く会談する計画はないとしていた。
ブリンケン氏は、ロシア軍がエネルギーインフラを破壊していることなどを例に挙げ、外交を行う環境とは「全く逆の事態だ」と指摘した。
●プーチン氏の最強兵器? 陰で支えるメディア王  12/5
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻の決定を後押ししてきた陰の実力者がいる。戦争でロシアの国力を証明できると訴えた富豪ユーリ・コバルチュク氏(71)だ。
同氏はプーチン氏とは数十年来の旧友だ。強力な軍事大国であり、米国に対する文化的な対抗軸としてロシアをとらえる点でプーチン氏と共通する。コバルチュク氏を知る複数の関係者が明かした。2月の侵攻開始以降、コバルチュク、プーチン両氏は頻繁に会っているほか、電話やビデオを通じても連絡を取っている。コバルチュク家の友人や元ロシア情報当局者が語った。
プーチン氏はかねて、信頼する側近らにロシアの重要産業の運営を任せてきた。だが、コバルチュク氏はプーチン氏との個人的な関係の深さや世論誘導で果たす役割という点において、突出した存在だ。財務情報や裁判所文書、元情報当局者や友人らへの取材で分かった。
米財務省はコバルチュク氏を制裁対象に指定した2014年、プーチン氏の「お抱え銀行家」と呼んだ。また同氏はロシア屈指のメディア王で、プーチン政権のプロパガンダを拡散することの多いテレビ局や新聞、ソーシャルメディアを多数抱える。
ウクライナでの戦況が悪化すると、コバルチュク氏のメディア帝国は侵攻を絶賛するプロパガンダを大量に投下し、反政府派を弾圧。懸念を強める国民の注意をそらすなど、プーチン政権にとって一段と強力な武器になっている。
シンクタンク「ストックホルム自由世界フォーラム」のシニアフェローでエコノミストのアンダース・アスルンド氏は、コバルチュク氏について「プーチン(氏)にとって二つの重要な役割を果たす」と解説する。「彼はカネとメディアを操る人物だ」
コバルチュク氏が経営するナショナル・メディア・グループは、十分な訓練を受けた士気の高い予備役が前線に出向く様子を伝え、ロシア軍の冷静かつ安定した戦いぶりを演出。またウクライナが「汚い爆弾」を仕掛けることを画策しているとのロシア当局者の発言を伝えている。
また、ナショナル・メディアが主要株主である「チャンネル・ワン」のあるコメンテーターは今秋、人種戦争の真っただ中にある米国はいずれ崩壊する運命にあると主張。「このプロセスはもはや後戻りできない」と述べ、視聴者の不安払しょくに努めていた。
現在も米国、欧州連合(EU)、英国から経済制裁の対象に指定されているコバルチュク氏は、プーチン氏のネット支配強化も支援している。2024年の大統領選を控え、ネットを通じて若者への訴求を目指すロシア政府にとって、これは重要な意味を持つ。コバルチュク氏は昨年終盤、ロシア最大のソーシャルメディアで「ロシア版フェイスブック」と呼ばれる「フコンタクテ」の運営会社VKの支配権を取得した。
VK買収の目的の一つは、反プーチン政権派のユーザー監視だ。ロシア政府とつながりがあるハイテク業界関係者はこう明かす。ロシアの治安当局はフコンタクテを使って、ロシア軍への不信感を募らせるような「偽情報」拡散を禁じる法律の違反者を特定・追跡しており、VKは水面下で当局とユーザー情報を共有している。内情を知る関係筋の話で分かった。
コバルチュク氏とVKはコメントの要請に応じていない。フコンタクテがロシアの法律に定められた義務を超えて、どれほど頻繁にユーザー情報を当局に提供しているかは分からなかった。
ソーシャルメディアでウクライナ侵攻に反対する論調を禁じる法律に違反したとされる件数は2〜10月に1122件に上り、このうち45%以上をフコンタクテが占めた。フランス国立社会科学高等研究院の研究員で社会人類学者のアレクサンドラ・アルヒポワ氏が分析した。
ロシアの元新体操選手で、米政府がプーチン氏の恋人だとみているアリーナ・カバエワ氏は、ナショナル・メディア・グループの取締役会長を務める。また公開文書によると、複数のプーチン氏の友人が米国の制裁対象であるバンク・ロシアの株式を保有しており、プーチン氏の遠いいとこがバンク・ロシアとVKに絡む所有権を持っている。
コバルチュク氏はバンク・ロシアの支配権を握る。同行が構築したオフショア企業のネットワークはプーチン氏とその関係者に恩恵をもたらし、ロシアにとって重要な開発案件に資金を投じてきた。元米当局者やロシア専門家らへの取材、タックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴いた「パナマ文書」の情報や公的文書から分かった。
コバルチュク氏とプーチン氏は、深まる西側諸国との対立やロシアの歴史、共通の関心事などについて数時間にわたり話し合うこともあった。前出のコバルチュク家の友人や元ロシア情報当局者が明かした。
コバルチュク氏はプーチン氏に対して、西側は弱く、今こそロシアの軍事力を見せつけるときであり、ウクライナに侵攻して国家主権を守るべきだと訴えたという。
ロシア政府は両氏の関係や、メディアの判断を巡るロシア政府の関与について、コメントの要請に応じていない。プーチン氏はコバルチュク氏を友人と呼び、同氏に近い財界首脳らへの西側の制裁措置を批判している。
●ウクライナを「10日間で掌握」「8月までに併合」…ロシアの当初計画 12/5
英王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵略に関する報告書を公表し、ロシアのプーチン政権が当初、「ウクライナを10日間で掌握し、8月までに併合する計画だった」との分析を明らかにした。ウクライナは米欧から、露軍が首都キーウの攻略を狙っていると警告を受けたが重視せず、露軍の進軍を許したとも指摘した。
報告書は11月30日付で、ウクライナ軍からの聞き取りも踏まえて作成された。RUSIは、露軍の侵略の目的はウクライナの「征服」にあるとし、「スピード」最重視の作戦で、キーウにある最高会議(議会)や中央銀行などを奇襲で占拠し、ウクライナのゼレンスキー政権指導部を排除する計画だったと分析した。
キーウ北方に展開した露軍の戦力はウクライナ軍の「12倍」だったが、秘密保持を徹底したため、部隊に作戦の内容などが伝わらず、首都攻略の失敗につながったとの見方も示した。演習名目で国境付近に集結させた露軍部隊に、侵略作戦の実施が伝わったのは「24時間前」だったという。
一方、ウクライナ側のミスとして、ウクライナの情報機関が東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)が主戦場になるとの予測に固執していたことも指摘した。露軍はウクライナの北隣にあるベラルーシに部隊を集結させたが、ウクライナ軍は「おとり」と考え、キーウ北方への部隊配置を指示したのは侵略開始の「7時間前」だった。
●アンゲラ・メルケル元独首相「ウクライナ侵攻が起きたのは驚きではなかった」 12/5
ドイツ首相を2021年まで16年務め、世界に大きな影響を与えたアンゲラ・メルケルの退任から1年が経過した。その間にプーチンはウクライナに侵攻し、世界は混乱に陥っている。独誌「シュピーゲル」は、引退したメルケルにインタビューし、ウクライナの状況などについて話を聞いた。
「危機の宰相」から「危機の責任者」へ
独誌「シュピーゲル」は、退任から1年後のメルケルへインタビューし、『私はまだ探している』と題する2022年11月25日号の冒頭に掲載した。同誌のアレクサンダー・オサンがメルケルについて分析し、振り返っている。
首相在任中、世界に多くいた「ポピュリストやマッチョ政治家とは対極」の存在だったメルケルは、「民主主義の最後の守護者」と言われた。その間に数々の混乱を乗り越えて「危機の宰相」と呼ばれ、高い支持を得た。
しかし、首相を退任した今、メルケルはドイツ国内で厳しい評価を受けている。
「メルケルの業績はますます無残なものになりつつある。ロシア政策、エネルギー政策、健康政策、気候政策、デジタル化においてだ」と、メルケルから話を聞いたオサンは述べる。
「危機の宰相」と言われたメルケルは、今のドイツでは「危機の責任者」のように受け止められている。なんと、独誌「ツァイト・マガジン」のニュースレター読者の86%が、「ロシア政策の過ちに対して、メルケルによる謝罪を望む」と回答したほどだ。
ウクライナ侵攻以来、ロシアはヨーロッパへの天然ガス供給を停止し、エネルギー危機に見舞われるドイツは危機的状況にある。ドイツのロシア産天然ガスへの依存度は、4期にわたるメルケル政権下で高められていったのだ。今となっては間違っていたとされる、ロシアへの依存を作り出すのにメルケルも一役買った。
メルケルが推進したロシアからの2本目のガスパイプラインであるノルドストリーム2は、ロシアの影響力を高めるとしてアメリカやウクライナからは批判されてきた。そして、「よりによって彼女がよく長く知るプーチンが、嘘や虚勢を用いてウクライナを侵攻し、その結果、メルケルの評判は台無しになった」とオサンは記す。
「世界の調整役」だったメルケルの姿はすっかり影をひそめてしまった。メルケルが政界入りした1991年からそのポートレート写真を撮影してきた、写真のヘルリンデ・ケルブルも、退任後の「メルケルは目の輝きを失ってしまった」と語った。
自分の政治的決断は正しかった
一方、それほど冷ややかな目で見られていながらも、メルケルは「驚くほど変わっておらず、悪い知らせが届かないのか、とてもリラックスしているように見える」とオサンは述べる。
「メルケルは、自分が本当に間違っていたのかどうかわからないので、謝りたくないようだ。彼女が正しくなかったかを決めるのは、結局歴史なのだ」
2008年、ウクライナとジョージアのNATO加盟にメルケルは反対したが、あのときウクライナがNATO加盟を果たしていればロシアはウクライナを侵攻しなかったと言われることがある。しかし、メルケルは、その決断が間違っていたとは考えていない。
「政治家には、国民を困らせないような決断が求められます。2008年のブカレストでのNATOサミットで私はウクライナとグルジアをNATOに加盟させませんでしたが、それが当時のドイツの有力な専門家の意見でした」
また、2014年に始まったウクライナ東部のドンバス地域での紛争に関しても、メルケルはフランスとともに仲介し、ウクライナとロシアの間で、即時停戦を定めたミンスク合意を締結させた。しかし、この停戦合意は両者の主張が食い違う点があったためにすぐに破られ、紛争は続いた。メルケルは、この合意を急ぎ、やり過ごそうとしたこともよく批判される。
しかし、その決断についても、間違っていたとはメルケルは思っていないようだ。「メルケルは、その後のミンスクの交渉で、ウクライナがロシアの攻撃にもっと対抗できるような時間を買ったと考えている。それからウクライナはより強く、より広く守れる国になった。当時に侵攻されていたら、ウクライナはプーチンの軍隊に制圧されていただろう」とオサンは述べる。
メルケルが首相だったら、ウクライナ侵攻はなかった?
2月のウクライナ侵攻については「ほとんど驚かなかった」とメルケルは冷静に語っている。彼女はプーチンの恐ろしさ、ウクライナのリスクについて、理解していたからだ。
「すでにミンスク合意は損なわれていました。2021年夏のバイデン大統領とプーチン大統領の会談後、EU理事会でエマニュエル・マクロン大統領とともに、プーチンとヨーロッパの議論形式を再び確立したいと考えました。でもそれに反対する人もいました。私がその年の秋にはいなくなることをみんな知っているなかで、もう私には強く主張する力もなかったのです」
メルケルは、他の人にも対応をしないか聞いたが、誰もその問題については手を出したがらなかったという。メルケルはこう振り返る。
「もし、私が9月にもう一度提案していたら、そこで深掘りできていたかもしれません。(同年8月の)モスクワでのプーチンとの最後の会談のときもそうでした。彼は権力政治に明け暮れていると確信しました。彼が重視するのは、権力だけです」
第3次メルケル政権で副首相や外務大臣を務めたシグマー・ガブリエルは、「アンゲラ・メルケルがまだ首相であったなら、プーチンはウクライナを攻撃しなかっただろう」と話す。彼によると、「プーチンは、ヨーロッパで最も強力な国を率いた女性、ロシアを理解する女性として、メルケルのことをすごく尊敬していた」そうだ。
同様に、2022年10月に訪独したハンガリーのヴィクトール・オルバン首相も、記者会見で、「メルケル首相がいれば戦争は起こらなかっただろう」と述べている。
そのようなコメントを聞くと、メルケルは首相職に「心残りがあったのではないかと思われる」ところだが、メルケルは首相を続投する気はまったくなかったという。
「新しい人が引き継がなければなりませんでした。国内政治は行き詰まっていました。外交面でも、どれだけ試行錯誤を繰り返しても、まったく進歩がなかったのです。ウクライナに関してだけではなく、トランスニストリアやモルドバ、グルジアとアブハジア、シリアとリビアなどもそうです。新しいアプローチが必要な時期でした」
メルケルの政治家としての信念
メルケルは首相在任中から公に非難されることが多かったが、それに耐えてきた。今も強烈な批判にさらされているものの、「批判に対しては収まるのをただ待つ」という。
「政治家はロールモデルになる必要はありません。それは仕事ではないのです」とメルケルは断言する。
国民の意思というのは、その時の情勢によって変わる。「メルケルはおそらく、国民を信用していないのだろう」とオサンは見ている。「1989年の秋、彼女は経済的な問題が主な原因となって、ドイツ民主共和国(東ドイツ)が滅びたのを体験している。それがメルケルに強い教訓となった」
だからこそメルケルは価値観を重視する政治の実現には、国民の福祉が重要であると信じていた。
「価値観を強く重視する知的エリートが存在しますが、広範な多数派に支持されなければ、前に出るチャンスはありません。西側諸国の成功は、市民がいい状態にあるというモデルにかかっています。誰もがその恩恵を受けられることが重要です。(今のインフレやエネルギー危機においても)誰もがウクライナのために耐えられるわけではありません。インフレに対して何百万ユーロもかけて市民の苦しみを低減させるのは正しいことです」とメルケルは話す。
「結局メルケルが中国との貿易やロシアとのガス取引を推進したのも、この信念のためなのだろう」とオサンは考える。
これからの日々の過ごし方を「まだ探している」と述べるメルケルは、「今は振り返りの時期に来ている」と言う。「政治家としてのキャリアをすべて語るための本」を書き始めたそうだ。
しかし、情勢がすぐに変わる現在、「毎日彼女のレガシーに光が当たる。非常にノイズが多いなかで、どうやって本を書けるのだろうか」と疑問に思わされる。 
●ウクライナ侵攻に大金をつぎ込むプーチン大統領に、ロシア人からは怒りの声 12/5
ロシアでは、ウクライナでの戦争に力を注ぐ一方で国内問題を無視しているとして、プーチン大統領に対する非難の声が高まっている。
自宅で暖房が使えないと不満を漏らす人々もいると、Daily Beastは報じている。
ロシアはこれまでに、ウクライナ侵攻に約820億ドル(約11兆1100億円)使ったとフォーブス・ウクライナは試算している。
国民が凍える中、ますます支持が低下するウクライナでの戦争にプーチン大統領が大金をつぎ込んでいると、ロシアの人々は怒りを感じているとDaily Beastが12月1日に報じた。
ロシア軍がウクライナのインフラ施設を攻撃し、多くの人々を停電に追いやる一方で、ロシアの人々も西側諸国の制裁を受け、生活を維持するのに苦戦している。
ロシアの人里離れた地域 ── こうした地域は生活条件が一番厳しい ── で暮らしている人々は、自宅で暖房が使えないことや破裂した水道管について不満を漏らしていると、SNSへの投稿をもとにDaily Beastは報じている。
中でもチュメニやヤクーツクといった地域は深刻な状況で、この1週間で凍死する人が相次いでいるという。
「一家の唯一の稼ぎ手である若い男性が連行され、棺に送り返されています。彼らが前線で凍え、病気になり、命を落とす一方で、その家族は貧困生活を送っているのです」と兵士の母親委員会のバレンティーナ・メルニコワさんはDaily Beastに語った。
「当局は人の命にもはや関心がないようです」とメルニコワさんは付け加えた。
シベリア在住のロシア人ブロガー、ニコライ・ゾロトフさんは「暗黒時代です。ウクライナは暖房や照明なしで何とか生き抜こうとしています。ここハカシアでは生活が恐ろしく困難になっています」とDaily Beastに語っている。
「最悪なのは水道管の破裂ではありません。政府がウクライナの特別軍事作戦に大金をつぎ込む一方で、人々は整備の行き届かない都市でわずかばかりの給料で生活しているのです。食べ物を買うお金もありません」とゾロトフさんは話した。
2月にロシア軍が始めたウクライナ侵攻にプーチン大統領がいくらつぎ込んだのか、はっきりとした金額は分からない。
フォーブス・ウクライナは11月下旬、ロシアがこれまでに約820億ドル使ったと試算している。これは年間予算の4分の1にあたる。
軍の武器・装備に約290億ドル、兵士の給料に160億ドル、戦闘で死亡した兵士の遺族への支払い90億ドル以上がこれに含まれるという。
戦費はかさむばかりで、戦いを続けるには少なくとも月に100億ドルかかると、フォーブス・ウクライナは伝えている。
戦場での敗北が続く中、ロシアはイランや北朝鮮、シリアといった国々からの支援を求め始めた。
また、動員されたロシア兵が訓練もほとんど受けず、装備も乏しい状態で配備されているとの報道は、ロシアの人々のさらなる批判を招いた。
ウクライナに侵攻する前、プーチン大統領は貧困こそがロシアの抱える最大の課題だと認め、2019年には貧困をロシアの「最大の敵」と呼んでいたと、Daily Beastは報じている。
「市民の生活の質を向上させることが我々の主要目標だ」とプーチン大統領は語っていた。
ロシアの攻撃によって、ウクライナのエネルギーインフラの約半分が機能不全に陥っていることについて、世界保健機関(WHO)の高官は11月、ウクライナ各地で数百万人が電気も水道も使えない状態になっていると指摘した。
ウクライナの人々にとって、この冬は「生き延びられるかどうかが問題になるだろう」と警鐘を鳴らしていた。
●プーチン氏、「新ロシア領」認められるならウクライナ巡る協議に前向き 12/5
ロシアのぺスコフ大統領府報道官によると、プーチン大統領はウクライナでの紛争を解決するための協議に前向きだが、ロシアの支配地域を米国が「新ロシア領」と認めないことが妥協の可能性を探る妨げになっているとの立場を示した。
ウクライナ東部バフムトでは、前線に近い野戦病院にウクライナの負傷兵が担架で搬送されてくる。ここはロシアの度重なる奪還作戦で、戦闘の中心地と化している。
33歳の衛生兵、イワンさんは、戦闘は突然、致命的な波となって押し寄せると語った。
衛生兵のイワンさん「この仕事は、犠牲者の多い時期が、特定の期間に集中するのが特徴だ。そして、いろいろなことがとても急速に起きる。すべての大隊に死傷者が出て、彼らを迅速に治療する必要がある。そして、1週間ほどで終了する。つまり、我々が勝つか、撤退を余儀なくされるかのどちらかだ」
ウラジスラフと名乗るウクライナ兵は、ロシア軍が無計画に攻撃しているように見えたという。
ウクライナ兵のウラジスラフさん「装備や見た目、行動や動作から判断すると、ロシア兵は単に忍び込み、走り、歩いている。訓練された軍人がいるわけでもなく、戦術もない」
イワンさんは、両軍とも活動が活発化しているようだと語った。
「今、私たちは何かの準備をしている。詳しいことは知らないが。この2日間、犠牲者が少なかったのは幸いだ」
ウクライナ軍によると、バフムトはロシア軍の主な標的となっており、南部のロシア軍は防衛を続けているという。
西側諸国は、ウクライナへの支援を強化しようとしている。ロシアによる攻撃で重要なエネルギーインフラが破壊され、数百万人が暖房、電気、水道を使えない状態に陥っているためだ。
プーチン大統領は、戦争を解決するための協議には前向きだが、ロシアの支配地域を「ロシア領」と認めることを条件にしているという。これには、大半の国々が違法と非難している。
プーチン発言は、バイデン米大統領とマクロン仏大統領の会談後飛び出した。
バイデン氏は、もしプーチン氏が戦争終結に関心があるなら、プーチン氏と話をする用意があると述べた。
バイデン米大統領「もしそうなら、フランスやNATOの友人らと相談しながら、プーチン氏が何を考えているのかじっくり見てみたい。プーチン氏はまだそれをしていない」
バイデン氏は、ロシアが2月24日ウクライナに侵攻して以来、プーチン氏と直接話をしていない。バイデン氏は3月、プーチン氏を「権力の座にとどまることは不可能」とし、「虐殺者」とも呼んだ。
ウクライナと西側諸国は何千人もの市民が殺された戦争を正当化することはできないとしている。ウクライナ政府は、最後のロシア兵を追い出すまで戦うという。
●第二のウクライナ化を恐れるジョージア 11万のロシア人が動員令逃れる 12/5
ロシアがウクライナ侵攻部隊の増強策として実施した部分動員の完了を発表してから1カ月が経過した。だが、招集から逃れようと隣国ジョージアへと脱出した多くのロシア人男性は、全く帰国を急いでいないという。
ロシアのプーチン大統領は9月21日、ウクライナの一部でのロシア軍撤退を受けて部分動員令を発表。前線へ送られる懸念から、対象年齢にある数万人の男性がジョージアやアルメニア、カザフスタンなどの国へ向かった。
ジョージア政府が発表した統計によれば、2022年に11万人以上のロシア人がジョージアへ避難した。こうした動きはジョージアに好景気をもたらす一方、反ロシア感情の強い同国内での反発も招いている。
ロシアのプーチン大統領やショイグ国防相が招集完了を発表して1カ月が経ったが、避難したロシア人の多くは、すぐに国へ戻ることはないと口をそろえる。
「何よりもまず、紛争を終わらせなければならない」と、ゲーム開発者のエミールさん(26)。ロシアから出国するために国境の行列に並び、2日を費やしたという。トビリシで行われた取材に対し、こう訴えた。
「男性をはじめ、誰もがリスクに直面している状況だ。私は自分自身の安全を第一に考えている。警察の前を歩いて通り過ぎただけで逮捕される可能性がある国には、もちろん戻りたくない。自由と安心が欲しい」
ロシア政府は動員令そのものは撤回しておらず、事前通告なく追加動員が発令されるのではないかとの憶測も広がっている。
「何がどうなればロシアに戻りたいと思うか、漠然と考えてはいる。ただ、今は、トビリシにあるアパートを6カ月借りて、営業登録もしている。あと6カ月はここにいるだろう」と、モバイルゲーム業界で働くスラバさん(28)は語る。
「ロシアで何が起きているか、注視するつもりだ。一部のことを除けば、進んで帰国したいとは思っている。ロシアで暮らすことは気に入っているし、ロシアが大好きだから」
ウクライナの二の舞を恐れるジョージア
ただ、人口わずか370万人、ロシアに比べて経済力の弱い国に比較的裕福なロシア人が大勢流入したことで、緊張も生まれている。
ジョージアで野党議員を務めるサロメ・サマダシビリ氏は、自身のオフィスにあるウクライナ国旗の前で「事態は収拾できない状態にあるという見方もある」と指摘する。
ジョージアのアブハジア地方、南オセチア地方は、ロシアを後ろ盾とした分離独立主義者が実効支配している。2008年、ロシアは、両地方がジョージア政府の脅威にさらされているとして、ジョージアの他の地域へも短期間の軍事介入を行った。
サマダシビリ氏は、プーチン氏がウクライナ侵攻時と同様、ジョージア国内のロシア人を「保護するため」との口実をジョージアへの侵攻拡大に利用しかねないと懸念を示す。
ジョージア人の多くは国の5分の1がロシアの占領下にあると考えており、抗議活動の際などにはそうした訴えの声も上がる。
戦争やロシア国内でのプーチン氏による強権政治に反発してやって来た大勢のロシア人は、こうしたメッセージに共感している。中にはジョージアに定住を決めた人もいる。
3月にトビリシに引っ越した起業家のデニス・シェベンコフさんは「移住を決意したのは、もっと自由を感じるためだ」と話す。
シェベンコフさんは6月、トビリシでコーヒーの事業を開始。先月にはロシアのサンクトペテルブルクで元々開いていたコーヒー店を畳んだ。
「サンクトペテルブルクにいた警察の態度や、自治体政府や当局がしていたことを思い返すと、全く戻りたいと思わない」
●「プーチンが冬を武器として利用」とNATOが批判するワケ 12/5
歴史を振り返ると、いてつく冬は、たびたびロシアにとって強力な援軍になってきた。過去に「冬将軍」がナポレオンやヒトラーの部隊の進軍を阻んだことは、よく知られている。しかし、今回の戦争でロシア軍が対峙している相手は、この土地の冬を知り尽くしているウクライナ軍だ。
専門家の見方によると、今回の戦争で、冬の気候はロシアとウクライナの双方に、別々の理由で恩恵と試練の両方をもたらす可能性が高い。
兵站の面では、欧米の支援を受けてきたウクライナ軍のほうが厳しい冬に対処しやすいだろう。対するロシア軍は、この戦争が始まった頃から兵站の面で苦労してきた。
もっとも、ウクライナ軍もさらなる攻勢をかけることは難しくなるだろう。木の葉がなくなって隊列が丸見えになり、しかも地面がぬかるむことの影響で、道路上を進軍せざるを得なくなるためだ。
「冬の間は、一部の作戦が減速する可能性が高い。その間、双方ともあまり大きな動きは見せないかもしれない」と、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は述べている。
ただし、冬の間にも状況は変化する。毎年2月頃にはひときわ厳しい冬が訪れて、地面が硬くなる。その結果、来年の早い時期には大規模な軍事作戦が可能になるかもしれない。「全般的にその状況を追い風にしやすいのは、ロシアよりウクライナだろう」と、アメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン上級研究員は言う。
一方、ロシア軍は防衛ラインを固める構えを見せ始めている。商業衛星の画像によると、ロシア側は各地に塹壕と対戦車防御施設の建設を進めている。「こうした動きにより、ウクライナ軍がロシア軍を攻めることは次第に難しくなるだろう」と、ランド研究所のダラ・マシコ上級政策研究員は指摘する。
長期の戦闘で激しいダメージを被っているロシアにとって、守りを固めて、冬を利用して時間を稼ぎ、その間に態勢を立て直そうとするのは、当然の戦略と言えるだろう。
冬を「武器」として利用するプーチン
ロシアは、ほかの面でも厳しい冬を味方につけようとしている。最近はウクライナのエネルギー施設にミサイル攻撃を行い、大規模な停電を引き起こしている。
ウクライナ国民の士気をくじき、ゼレンスキー大統領に圧力をかけることがロシアの狙いだ。プーチン大統領が冬を武器として利用していると、ストルテンベルグNATO事務総長は批判している。
ロシアは、欧米のウクライナ支援を弱める手段としても、寒さを利用しようとしてきた。欧米諸国の国民は冬を前に、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとするエネルギー価格の高騰に苦しめられている。
英シンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)の報告書によれば、ロシアはこの状況に乗じて欧米に対する「情報キャンペーン」を仕掛ける可能性が高いという。「欧米の国民に、よその国ではなく、自国のために予算を使うべきだという意見を持たせることが狙いだ」
「冬将軍」を敵に回すか味方にするかが、戦況の大きなカギを握りそうだ。
●プーチン氏盟友クドリン氏、ロシアIT大手の顧問に就任 12/5
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の長年の盟友アレクセイ・クドリン元財務相が5日、民間IT大手ヤンデックスの上級顧問に就任することが明らかになった。同社は近年、ロシア大統領府の影響下に置かれていた。
かつて有望視されていたヤンデックスは、ウクライナ侵攻開始を受け社員が国外に逃亡したり、創業者が西側諸国の制裁対象になったりと、不安定な状況にあった。 
クドリン氏は先に、「人々に多大な影響を与える」民間事業に集中するために会計検査院長官の職を退くと発表したばかりだった。
西側の制裁を受け、ヤンデックスは国内・国際向けに事業分割を進めている。アナリストは、これにより政府の支配がより強固になるとみている。
ロシア大統領府は民間企業が独自に発展する余地を許さない傾向があり、今回の動きもこの流れを受けている。
監視団体などは、ロシア国内の主要メディアはすべて国営か体制寄りで、言論の自由の最後のとりでと考えられていたインターネットでも自由が制限されつつあると警鐘を鳴らしている。
●絶えないプーチン健康不安説、…今度は「階段で倒れて便失禁」 12/5
ロシアのプーチン大統領に関する健康不安説が絶えない。
ニューズウィークなどの3日(現地時刻)の報道によると、プーチン大統領の健康に関連して最近出てきた噂は「階段で倒れて便失禁をした」という内容だ。反プーチン性向の「ゼネラルSVR」テレグラムチャンネルが1日、このように主張した。
ゼネラルSVRはプーチン大統領が制裁による経済的被害と目標を大きく下回る野戦状況などの報告を受けて気分を害した中、官邸の階段で倒れたと伝えた。消化器の腫瘍に苦しむ状況で倒れて尾骨を強くぶつけると、苦痛に耐えられず下着に大便を排出したということだ。このチャンネルは、官邸医療スタッフがプーチン大統領を浴室に連れていって洗った後に診療が可能だったとも主張した。
英国のザ・サンとミラー、米国のニューヨークポストなど英米圏の主要メディアは、プーチン大統領の健康異常説を大きく報じた。ただ、一部のメディア専門家はこのチャンネルに掲示された内容を引用するには注意が必要だと促した。
ゼネラルSVRはプーチン大統領の側近と連絡が可能な元ロシア情報要員が運営しているというが、証拠は提示されていない。パーキンソン病やすい臓がんなどプーチン大統領の健康不安説はほとんどが同チャンネルで伝えられてきた。

 

●ウクライナ全土へのロシア攻撃、プーチン氏の残虐性示す=米高官 12/6
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は5日、ロシア軍によるウクライナ全土への新たなミサイル攻撃はロシアのプーチン大統領の残虐性を想起させると非難した。
また記者団に対し、石油価格上限は世界の原油価格に長期的な影響をおよぼさないと述べた。
●プーチン氏、クリミア橋復旧誇示 ドイツ車運転に報道官弁明 12/6
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を結ぶ自動車・鉄道橋が10月上旬に爆破された後、復旧が完了し、プーチン大統領が5日、車を運転しながら視察した。ただ、ハンドルを握ったのはドイツ車。ウクライナ侵攻さなかに強調される「愛国主義」と矛盾するという見方が出ている。
爆破について、ロシアは「ウクライナの仕業」と主張。片側2車線が崩落したことから、無事だったもう2車線を対面通行に変えて対応していた。
プーチン氏がこの日、復旧をアピールするため乗ったのはメルセデス・ベンツ車。タス通信によると、ペスコフ大統領報道官は「その場にこの車しかなかった」と弁明した。
●自ら運転、クリミア橋走行 プーチン氏、修復アピール 12/6
ロシアのプーチン大統領は5日、2014年に併合したクリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア橋を自ら運転する車で走行し、今年10月の爆発で一部が崩落した橋の修復をアピールした。国営テレビなどが報じた。
フスヌリン副首相と橋を訪れたプーチン氏は復旧に携わった建設作業員らと会い「クリミアとの陸路による通行手段を確保する必要がある」と述べ、今後もクリミアをロシアの一部として発展させる姿勢を強調した。フスヌリン氏は、来年夏ごろまでに全ての修復工事が終わるとの見通しを示した。
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー政権はクリミア奪回を目指すと強調している。
10月に橋を走行中の自動車が爆発し、車道と鉄道の一部が破損した。プーチン氏はウクライナによる民間インフラを狙ったテロだと非難。ゼレンスキー大統領は関与を否定した。
●プーチン大統領、一部復旧のクリミア橋自ら渡り“ロシアの領土”アピール 12/6
ロシアのプーチン大統領は5日、10月に破壊され、一部復旧したウクライナのクリミア橋を自ら運転して渡る映像を公開しました。
プーチン大統領「反対車線は使える状態にあるが、少し損傷したと聞いている。完璧な状態にしてほしい」
クリミア橋は、ロシアが一方的に併合したクリミア半島とロシアを結ぶ橋ですが、10月に爆発が起き、プーチン大統領は、ウクライナのテロと断定して大規模な報復攻撃を行いました。
今回、復旧したのは片側の車線で鉄道を含めた完全復旧は来年9月の見込みです。
今回の映像の公開によりクリミアがロシアであることを改めてアピールした形です。
●ロシアでLGBT「宣伝」禁止法が成立、プーチン大統領が署名 12/6
ロシアのプーチン大統領は5日、LGBTら性的少数者などに関する情報の拡散や「宣伝」、「示威行為」などを禁止・制限する法律に署名した。これにより、LGBTに関連するいかなる情報も、公共の場やオンライン、映画、書籍、広告などで拡散することが禁止される。
違反した場合は重い罰金刑が科される可能性がある。
ロシア政府は少数派やプーチン大統領に反対する人々への圧力を強めているほか、長年にわたって「伝統的」価値観を擁護する取り組みを続けている。
●ロシアでLGBT“推進”禁止法が成立 プーチン大統領が署名 12/6
ロシアのプーチン大統領がLGBTなど性的少数者や小児性愛の推進を禁止する法案に署名しました。
映画や書籍などの表現に影響を与えることになります。
プーチン大統領の署名で5日に成立した法律によりますと、国内外のものを問わず、LGBTなどの思考や性別変更、小児性愛を推進するような表現を含む映画のレンタル、並びに、書籍の出版と広告などが禁止されます。
法律ではLGBTを「非伝統的なもの」と明記していて、多様性を認める国際社会の流れに逆行する形です。
LGBTなどの内容を未成年者に流布した個人には20万ルーブル、(日本円でおよそ50万円)、団体には400万ルーブル(日本円でおよそ1000万円)が科されます。
外国人は国外退去処分となります。
未成年者以外への流布でも個人に最大40万ルーブル(日本円でおよそ100万円)、団体に最大500万ルーブル(日本円でおよそ1250万円)が科されます。
プーチン大統領の署名を前に、同性愛などを題材にした小説などがインターネット書店などから消えています。
●参戦しなければ暗殺だ。プーチンがある国の大統領にかける“脅し” 12/6
優勢が伝えられるウクライナに対し、インフラ攻撃という人道にもとる手段を取ってきたロシア。動員兵を含め9万人の露軍兵士が戦死したと伝えられますが、この先戦況はどのような展開を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ軍の今後の動きを予想するとともに、高精度ミサイルの枯渇や将官不足などといったロシアの苦しい現状を紹介。それでもプーチン大統領が軍事的勝利を追求し続ける裏側を推測しています。
ウ軍はどこに攻勢をかけるのか?最新ウクライナ情勢
ウ軍は、次の攻撃に向かっているが、地面は凍結してきたので、どこに攻勢をかけるのかである。ロ軍もドネツクに攻勢をかけている。今後を検討しよう。
ヘルソン州ドニエプル川西岸からロ軍は撤退し、撤退部隊をドンバスに重点的に回している。HIMRSの補給路攻撃を受けないようにするためにパブリウカへの攻撃を強化している。このために海軍歩兵部隊をこちらの攻撃に回している。空挺部隊もドネツクに配備した。
予備役を、ベラルーシで訓練したが、その戦車軍団や機甲歩兵旅団をルハンスク州に投入したが、その後の消息がわからない。
ウ軍はドニエプル川西岸の戦車隊を温存しているようであり、1旅団をルハンスクへ回した程度であり、この温存した機甲部隊がどこを攻撃するのか、今の焦点である。
南部ヘルソン州
ドニエプル川東岸地域では、ロ軍は要塞を道路の交差点などに構築している。そこに訓練なしの動員兵を配備して、点と線を守る方向のようであり、精鋭部隊は、ドンバスやルガンスクに回しているようだ。
ここの地域の中心戦力は、砲兵部隊であり、その観測を行う偵察部隊をドニエプル川の前線に貼り付けている。ヘルソン市などのドニエプル川西岸の広い範囲に無差別砲撃をしている。
キーンバーン半島のウ軍の動きが分からない。既にウ軍が奪還をしているが、キーンバン半島にドニエプル川渡河をするかもしれない。ここが、1つ目の攻勢候補のポイントである。
このドニエプル川東岸に渡河して、攻撃してクリミアの奪還を図ることが、一番早いウクライナの勝利を意味する。
しかし、ロ軍事ブロガーは、「どんな状況において我々がクリミアを引き渡すというのだ。第三次大戦もなしに。そんなことがありうるか」と述べて、クリミアを取られることになれば、核兵器使用も辞さないという。
ザポリージャ方面
HIMARSで、サポリージャの前線を叩いているために、ロ軍の損害が積みあがっている。このため、ロ軍は、ミハイリフカ、ポロヒ、インツェルンから一部の部隊を撤退させた。全前線を守れないので、兵をどこかに集中配備するようだ。
それと、ロ軍は、ヘルソン州とザポリージャ州の補給に苦労しているようである。クリミア大橋が破壊されて、揚陸艦やフェリーを利用して物資を運んでいるが、量が運べない。
このため、HIMARSで攻撃されないよう、鉄道輸送を安全にする必要があるために、パブリウカへの攻撃を強化している。ここに、精鋭部隊を投入しているが、激戦になっている。
このため、パブリウカ以外のザポリージャ州の前線でのロ軍兵力は少なくなっている。そして、ここも精鋭部隊が少なく、動員兵を入れていることで、ウ軍攻勢候補の2つ目のポイントのようである。
マリウポリまでウ軍機甲部隊が突入すると、ロ軍はヘルソンとクリミアへの陸路の補給ラインがなくなる。ウ軍の目標であるクリミア奪還がしやすくなる。私は、ここが本命であるとみている。
しかし、ロ軍は「戦力化された兵士」が多くないようであり、ロ軍の防御重要地点はそれほど多くないようである。ザポリージャ州からウ軍が進撃すると見られるのに、ここを防御するために精鋭部隊が置けないようである。精鋭部隊は、すべて攻撃に用いているようだ。
ドネツク・バフムト方面
ロ軍は、この地域を最重要攻撃地点としている。精鋭部隊の多くをこの地域に集めている。焼夷弾などの非人道兵器も使い、ウ軍を攻撃している。そして、ロ軍の航空勢力も出て、ウ軍を空爆している。ロ軍の多くの戦闘資源をここに集めている。
このため、バフムト周辺のアンドリウカとオドラディウカをロ軍は占領したし、クディミフカ、イワノハラッド、コデマのウ軍も危ない状況である。激戦になっている。数の力で押してきている。
しかし、なぜ、バフムトに拘るのか、分からないが、HIMARSがバフムトに入ると、ルハンスク市を砲撃できることで、最重要補給拠点であるルハンスク市を守れないからだと、ロ軍事ブロガーは言う。
しかし、バフムト周辺のロ軍は攻撃限界点になり、攻撃力が弱まってきていると米戦争研究所ISWは言う。この地域はワグナー部隊が中心であり、プリゴジン氏が個人の見得のために、2万3,000もの兵士を集めて、多くが囚人兵であり、後ろに督戦隊を置き、囚人兵を突撃させて、攻撃せずに戻ろうとすると、銃撃を浴びせるようだ。動員兵に対しても、同じようなことをしているともいう。
もう1つ、ロ軍は、ポパスナへのウ軍攻撃を想定して、ポパスナに通じる道に要塞を構築しているようである。ロ軍は、ウ軍の攻勢候補と見ているようである。これが3つ目のポイントになる。
ポパスナは高台であり、この軍事的価値は高いからである。
スバトボ・クレミンナ攻防戦
ウ軍は、クピャンスクからP07を南下してスバトボに向け進軍している。とうとう道が凍結して、機甲化部隊が動けるようになっているが、機甲化部隊の量が多くない。南部ヘルソン州で活躍していたウ軍機甲化部隊の1個旅団しか、この地域に来ていないという。
その旅団以外のウ軍十数機甲旅団がどこにいるのか不明である。それと、ポーランドから供与されたP-91戦車の230両も不明になっている。ウ軍は温存している。
ここのウ軍を増強して、セベロドネツクまで攻勢に出ることも考えられる。ここが攻勢候補の4つ目のポイントである。
このスバトボ・クレミンナもロ軍は動員兵が多く、ロ軍精鋭部隊の投入は少ないようである。ウ軍は、クレミンナ北西10kmのチェルボノポピフカに到達して、クレミンナへの攻撃も継続している。クレミンナ陥落は時間の問題であるようだ。
そして、スバトボ北西約18kmのノヴォセリフスケとステルマヒフカはウ軍が奪還したが、そこへロ軍が地上攻撃してきたが撃退したという。スバトボの奪還も時間の問題のようだ。
というように、4つの攻勢候補があり、そのどこにウ軍は重点を掛けるか、現時点では分からない。
ロ軍や世界の状況
プーチンは、ベラルーシを参戦させたいようで、ベラルーシのマケイ外相を心臓発作させる毒物を食種させて殺し、ルカシェンコ大統領に参戦の決断を迫るが、もし、それでも参戦しないなら、FSBはルカシェンコを殺すように、プーチンから命令されたという。
このため、ルカシェンコ大統領も身の安全のために、使用人を総入れ替えした。ルカシェンコ大統領は、ベラルーシがウクライナに参戦したら、負けることが明らかであり、ロシアとともにしたくないと思っている。
すでに、英国情報機関は、ロシアの勝利は絶望的であり、ウクライナが来年中にウクライナからロ軍を排除できるとした。ルカシェンコ大統領も、同様に考えている可能性がある。
今一番ロ軍攻撃で効果を上げているのは、インフラへの巡航ミサイル攻撃であり、これに対して、パトリオット防空システムをポーランドがウクライナに提供するべきだとしたが、NATOは、提供を拒否した。
その代わりに、HIMARSで打てるGLSDB弾を提供すると言う。この砲弾は、150km飛び、ロシア後方を広く攻撃できるようになる。これで、クリミア半島の中部まで届くことになる。現状では80kmであり、倍程度も距離が伸びることになる。2023年春には提供するという。
もう1つが、MQ-1グレートイーグルUAVの提供であり、これが提供されると、クリミア半島の全ポイントが航空から観察可能になる。攻撃力が、大幅に拡充されることになる。
しかし、機密度の高い部分を取り去る改造が必要であり、これも2023年の春以降のようである。
この対応として、ロ軍は、ウクライナ国境から700km離れたエンゲリス空軍基地にTU-95などの戦略爆撃機を多数配備した。この基地からウクライナのインフラを攻撃するとしても、高精度ミサイルは枯渇しているので、通常爆弾での空爆になるが、どうするのであろうか?
イラン製のシャヘドUAVもほとんどなくなっているので、どのように攻撃するのか、非常に難しくなってきている。効果があるインフラ攻撃も、欧米の防空兵器が揃い、ロ軍攻撃の効果が徐々になくなっている。ロ軍事ブロガーも「西側支援により、ウクライナは強力な防空システムを構築している。ロシア軍のミサイル攻撃は、前線の戦況改善に貢献していない」と焦りを表明している。
このため、過去1週間は、インフラ攻撃はほぼ途絶えているが、戦術の変更を志向している可能性がある。
それは、ロ軍が新しい攻撃方法として、TU-95などの戦略爆撃機での高高度からの非誘導ミサイルによる爆撃なのであろうか。これは、無差別攻撃になる。どこに行くかはミサイル任せとなる。
プーチンは、独ショルツ首相との電話会談で「ウクライナ側の挑発行為に対して、やむをえない対応をとった」とインフラ攻撃を正当化した。ウクライナへのインフラ攻撃を続けるのであろう。それを完全封鎖するしかない。
そして、ロ軍は、大隊戦術群BTGの運用を停止した。通常戦争では、BTGは有効性が低く、もう少し大きな軍構成にした方が良いのと、将官の大量損耗で、BTGを指揮する将官の数が確保できなくなっているようである。士官数も足りない状況であり、どのような構成にするのか、ロ軍は大問題である。このため、動員兵に単純な突撃させて、無駄死にさせている。
しかし、ロ軍の戦死者数は、とうとう9万人に達している。年末までには10万人になる。それに対して、ウ軍によると、ウ軍の戦死者数は1.3万人と大幅に少ないというが、少な過ぎる感じもする。
動員兵を突撃させて、ウ軍部隊の位置を探るなどの使い方で、「砲兵の餌」としての動員兵の戦死者数はうなぎ上りである。動員兵の人権を無視した戦闘方法であり、このような用兵では、戦争反対者が増えることになるし、前線での状態をSNSで知って、母親も妻もショックを受けている。
要するに、戦場に「戦力化された人員」を配置することができていないことになり、ウ軍の攻撃スピードを緩める効果しかない。通信機も時代遅れのアナログ機材であり、ウ軍によって通信傍受が簡単にされている。これでは、どう見ても勝てない。数で押し切るしかないことで、単純な突撃である。
このため、母親と妻の会が戦争反対の署名活動をし始めるなど、戦争に忌避感を持つ人たちが増えている。
このため、ロシア国内での戦争継続賛成者が25%まで減り、和平交渉賛成者が55%まで増えている。
このため、プーチンは、外国の代理人関連法を改正して、政権に批判的な個人を締め上げるようであり、また、言論統制も強化させる。
ロシア連邦カザンでは、給与の支払いもなく、装備もなしであり、「砲兵の餌」だと言われ、交渉にも応じないので、不満を抱いた動員兵たちは、訓練兵舎を出ていった。しかし、現在のロシアには、金もなく、装備もなく、動員兵の不満を解消する手段がない。
しかし、来年1月には追加の動員令があり、70万人規模の動員になるという観測が出ている。動員兵を前線に出して、「砲兵の餌」としているが、その餌が足りなくなるからだという。
これに対して、ロシアのペスコフ大統領報道官は、併合したウクライナ東部や南部の防衛のため追加動員があり得るとの観測は否定した。
このような状況から、バイデン米大統領は、プーチンが戦争を終わらせたいなら会談をするとした。しかし、ロシア大統領府は、ウクライナからの撤退が条件なら、交渉はしないと言う。
そして、プーチンは停戦交渉に関心がなく、軍事的勝利を追求しているが、誰も本当の戦況を報告していない可能性がある。このため、当分、戦争が続行されるしかない。ロシアのぼろ負けをいつ悟るかでしょうね。
もう1つ、ロシアは、お金が欲しいので、ウクライナを通過する石油とガスの輸送の保証と引き換えなら、ザポリージャ原子力発電所から撤退するとした。
そして、同発電所はウクライナに移管するかIAEAの管理下になるようだ。これで、双方が砲撃したという非難する事態はなくなる。
しかし、ロシアが合意事項を履行するかどうかは、不明である。
さあ、どうなりますか?
●国外に拠点移すロシアの独立メディア 12/6
ウクライナ侵攻後、ロシアの独立系ジャーナリストたちは国外に活動拠点を移した。事実の報道を求める多くのロシア国民は、国外から発信される独立メディアをVPNなどを利用して視聴する。国外で活動するジャーナリストたちは、プーチン後のロシア政治を見据えている。
ロシア政府は彼らの活動を禁じ、「外国の代理人」と呼び、犯罪者として国外に追放した。資金源を断ち、その言葉に耳を傾ける人々から切り離そうとした。しかし彼らは組織を立て直し、力を増してよみがえった。
ロシアのジャーナリストたちがこれほど迫害されたことは、過去30年の間なかった。これほど激しく政府に反撃したこともだ。彼らはロシア政府の嘘を指摘し、腐敗を暴き、戦争犯罪の証拠を探し出した。
ウラジーミル・プーチン大統領の独裁の下、街頭での抗議活動は限られる。しかし独立系の記者たちはバーチャルな活動を組織した。政府の戦争政策を批判する記事を書き、ニュースや意見を求める人々にそれを提供するのだ。彼らの多くはそうした活動をロシア国外で遂行し、「オフショア・ジャーナリズム」と呼ぶ。
ロシアの調査報道サイト「プロエクト」によると、ウクライナ侵攻以降、少なくとも500人のジャーナリストがロシアを離れた。彼らは、ラトビアのリガ、ジョージアのトビリシ、リトアニアのビリニュス、ドイツのベルリン、オランダのアムステルダムなど欧州各地に散らばり、多くの読者や視聴者に向け発信を続けている。彼らの大半は40歳未満だ。リガに拠点を置くロシア語ニュースサイト「メドゥーザ」の編集長、イワン・コルパコフ氏は「現在の我々の仕事は、メディアを存続させ、読者を窒息させないことだ」と語る。
メドゥーザは、ウクライナのブチャで市民の大量虐殺があったことや、異常に多くの囚人がプーチン大統領の盟友が出資する民間軍事会社ワグネルへの入隊を強要されていることなどを報じた。
パンクバンド「プッシー・ライオット」のメンバー2人が立ち上げたニュースサイト「メディアゾーナ」は、ロシア軍の本当の戦死者数を突き止めようとしている。また、ロシア軍の徴兵数を推定する独創的な方法も編み出した。動員が始まって以降、急増した婚姻数についての入手可能なデータを分析したのだ(招集兵は結婚の届け出をすると、特例として即座に登録される。配偶者にいつ再び会えるか分からないため、この特例を利用する者は多い)。メディアゾーナは、既に50万人が動員されたと推定する。政府が発表した30万人よりもかなり多い数字だ。
VPN利用者数が世界一に
ロシア政府にすれば、真実の報道を抑え込むことは、戦争遂行のために重要な施策だ。ロシア国内にも、情宣機関と化していない報道機関は、民間有力紙「コメルサント」を含めていくつか残っている。しかし規制は厳しい。例えば、この戦争を「戦争」と呼ぶことができない。プーチン大統領は侵攻開始後、独立系のメディアが市民に侵攻への疑念を抱かせたり、エリートの分裂を促したりしないよう、報道を圧殺してきた。
ロシアの独立系テレビ局として最も有名な「ドーシチ(雨)」は、侵攻の8日後に放送を停止した。500万人のリスナーを擁していたラジオ局「モスクワのこだま」も、同じ日に沈黙した。政府に最も批判的だった独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」もほどなく発行を停止した。
モスクワのこだまの制作局長だったアレクセイ・ベネディクトフ氏と、ノーバヤ・ガゼータの編集長でノーベル賞受賞者のドミトリー・ムラトフ氏はロシア国内にとどまるが、一部の同僚は国外での活動を組織した。ドーシチはラトビアを拠点にユーチューブで放送を再開。月間視聴者は2000万人に達する。その大半はロシア国内の居住者だ。モスクワのこだまはベルリンから、専用アプリとユーチューブを通じてニュースやトーク番組を生放送している。ロシア政府はこのアプリを無効化しようとしたができなかった。
現在、調査報道を行うロシアのデジタルメディアは10以上ある。その大半は、2014年にプーチン大統領がウクライナの領土の一部を取り込み始めた後に設立された。そうしたニュースサイトの一つ「インサイダー」が最近、英国のオープンソースの情報分析集団ベリングキャットとともに調査を行い、ウクライナ各都市へのミサイル攻撃で軌道計算に携わったロシアのエンジニアやプログラマー数十人を特定した。
インサイダーを率いるロマン・ドブロホトフ氏は「調査報道は多くの国で減少傾向にあるが、ロシアでは活発だ。需要が高く、ノウハウを持つ人々がいる。それに、調査対象には事欠かない」と語る。
ロシア国民は、アプリやVPN(仮想私設網)を通じて事実を知る。VPNを使えば検閲を回避できる。侵攻前、ロシアのVPN利用者数は世界で40位だった。今では世界最多だ。英市場調査会社GWIによると、ロシアの若者の半数近くがVPNを利用している。大半は高学歴の都市住民だが、地方でも5人に1人は使っている。
パンデミックの間のリモートワークの経験が、オフショア・ジャーナリズムへの格好の下準備となった。モスクワのこだまの現在の制作局長、マキシム・クルニコフ氏は「私の体はベルリンにあるが、生きているのはロシアの情報の世界だ」と語る。同局が放送するトーク番組のゲストの多くは、今もロシアからリモート出演する。ロシア在住者が共同で司会を務めることさえある。
ドーシチで制作局長を務めるチホン・ジャトコ氏は、視聴者を遠ざけないよう、適切なスタイルを見きわめるのが難しいと話す。「我々はロシア国内で自由に発言できずにいる人々に声を与える必要がある。彼らを非難したり追い詰めたりするのではなく、だ」
変革は国外逃亡者から
こうしたオフショア・メディアにとって、問題は資金だ。広告を出そうというロシア企業は存在しない。ユーチューブは制裁や世論を恐れ、ロシアのコンテンツを有料にすることを認めない。米ビザや米マスターカードが、ロシアの金融機関が発行したカードによるロシア国外での取引を停止しているため、クラウドファンディングやサブスクリプション(定額課金)で資金を調達することも難しい。そのため、ロシアのオフショア・メディアは外国の慈善団体から寄付を募っている。
ロシア国内での情報収集にはしばしば危険が伴う。情報提供者はおびえている。インサイダーのドブロホトフ氏は「生き延びるためには、十分な機知と才能が必要だ。命を失うか、強くなるか、どちらかなのだ」と語る。同氏には、ロシア国内に多くの匿名の情報提供者がいる。
オフショア・ジャーナリストたちは、ロシア政治の行く末を常に見据えている。ロシアには昔から有力者が国外に逃亡する伝統がある。ウラジーミル・レーニンは「イスクラ(火花)」というロシア語新聞をロンドンで編集した。
1980年代末、ミハイル・ゴルバチョフはジャーナリストたちの力を借りてペレストロイカ(立て直し)の着想を得た。将来プーチン体制がぐらついた際には、プーチン大統領の失政からロシアをどう立て直すかについて、国外に亡命中のライターたちがアイデアを出すことだろう。
ドブロホトフ氏をはじめ、これらのジャーナリストの多くは、元来政治活動家でもあった。中には、取材対象の人々の手助けをするようになった者もいる。例えば、メドゥーザの元編集者、イリヤ・クラシルシチク氏は「ヘルプデスク・メディア」を立ち上げた。このメディアは、ウクライナ人もロシア人も国外逃亡者も関係なく、戦争の影響を被った人の相談を受け付けると同時に、そうした人々の体験を記録する役割を果たす。このメディアでは、ロシア人もウクライナ人も働いている。 
●クリミア大橋をベンツで渡る プーチン大統領が前線視察 12/6
クリミア、ウクライナ、12月6日 (AP) ― 前線のロシア軍兵士の士気を鼓舞する目的で、プーチン大統領が12月5日、自らメルセデス・ベンツンのハンドルを握って、クリミア大橋を渡った。
2014年にロシアが一方的に併合したクリミア半島とロシア本土をつなぐこの橋は、10月にはトラック爆弾で一部が破壊された。
ベンツも西側オートメーカーの一員として、ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア向けのセールスと、モスクワ郊外にある組立工場での操業を停止している。
国産車ではなくベンツを運転した点について、クレムリンのペスコフ報道官は、「大統領は利用できる車を運転しただけで、ベンツに政治的な意味はない」と述べた。
プーチン大統領は運転中、クリミア大橋の修復作業について、修復プロジェクト担当のマラト・フスヌリン副首相から報告を受けたが、この模様はロシア国営テレビで中継された。
全長19キロメートルの橋は、ロシア軍の重要拠点となっているクリミアへの物資を運ぶ主要なルートとなっており、同大統領は橋の修復に携わる作業員とも言葉を交わした。
ウクライナによる橋への新たな攻撃の脅威を念頭に、プーチン大統領は、クリミアとロシア南部の地域を結ぶアゾフ海沿岸の高速道路建設の必要性を強調した。
●プーチン氏 恒例の大規模会見と「直接対話」見送り 12/6
ロシアのプーチン大統領が毎年、開いてきた「大規模記者会見」と国民との「直接対話」が今年は見送られる見通しとなりました。ウクライナ侵攻を巡り、厳しい質問を避けたとみられます。
プーチン大統領は毎年12月に外国メディアも交えた大規模記者会見を実施してきました。
開催しなければ過去10年で初めてとなります。
また、テレビ電話を通じて国民の声に耳を傾ける姿勢を強調し、権力の基盤としてきた国民との直接対話も今年は行われない見通しです。
政府関係者によりますと、記者会見と直接対話は来年2月ごろまでに行う可能性もあるということです。
ただ、ロシア国内では長期化するウクライナへの侵攻にえん戦気分が蔓延(まんえん)していて、政府関係者は「いつ終わるのか」という質問にプーチン大統領が答えられない限り、実施はできないだろうと指摘しています。
一方、内政や外交の基本方針を示す年次教書演説は質問に答える必要がないため、年内に行われる見通しだということです。
●キューバ大統領 経済危機で米非難 中露に支援乞う 12/6
共産党独裁体制のキューバで経済危機が続いている。新型コロナウイルス禍の打撃から回復できず、食料や燃料など生活物資が不足。9月の大型ハリケーンで配電施設が壊れ、電力不足に拍車をかけた。ディアスカネル大統領は11月、支援を求め中国やロシアなど4カ国を歴訪し、1962年からキューバ制裁を続ける米国を非難。自らの責任の回避に努めている。
「配給から鶏肉がなくなり、卵の数が減った。パンの価格は夏から倍増し、政府に対する市民の不満は募っている」。首都ハバナの様子を外交筋はこう語る。
同筋によると、ハバナでは最近、1日4時間の計画停電を実施。地方都市では12〜16時間続く突発的な停電が常態化している。こうした状況について、ディアスカネル氏は「米国の妨害によって悪化している」とツイッターに投稿した。
外遊先は、米国主導の国際秩序に不満を抱くロシアや中国、米国からの外交的自立を模索する姿勢が顕著なエルドアン大統領のトルコなど。エルドアン氏は先月23日の首脳会談後の記者会見でディアスカネル氏と調子を合わせ、「両国関係の発展を妨げてきたのは経済制裁だ」と米国を非難し、「両国の貿易額を4倍に増やす」と訴えた。
同月22日のプーチン露大統領との会談では、ディアスカネル氏が「不公平で一方的な制裁を科してくる共通の敵」と米国を非難。ロシアのウクライナ侵略を支持する立場も示した。プーチン氏はキューバの老朽化した発電施設の修理と石油供給を約束したとされる。
石油供給は、最初の訪問地アルジェリアのテブン大統領との同月17日の会談でも議題となり、テブン氏は石油供給に加え、太陽光発電設備を寄付することで合意した。キューバは医薬品やワクチンを供与する。外交筋は「薬と燃料の交換は1970年代から続く両国関係の特徴だ」と話す。
中国の習近平国家主席とは同月25日に会談。ロイター通信によると、習氏は数百億ドル規模とされる債務の見直しに応じ、生活物資やエネルギー危機対策として1億ドルの供与を表明した。中国外務省によると、習氏は「社会主義国家の連帯と協力」を強調したという。
ディアスカネル氏は帰国後、国営テレビのインタビューに「全ての国から支援の約束を取り付けた」と成果を強調した。ただ、経済危機が改善するとの見方は少ない。キューバでは昨年7月に反政府デモが起きたが、その後の裁判でデモ参加者への厳しい判決が相次ぎ、国民は声を上げにくくなっているという。現地外交筋は「ディアスカネル氏は国民の暮らしを犠牲にして強権的な政治体制を維持している」と指摘した。

 

●ウクライナ無人機攻撃で露本土被害、プーチン政権に衝撃… 12/7
ロシアの首都モスクワの南東約200キロ・メートルに位置するリャザン州と、南部サラトフ州の飛行場が、ウクライナの無人機(ドローン)によるとみられる攻撃を受けたことは、プーチン政権に大きな衝撃を与えた。露軍は5日、報復としてウクライナのエネルギー施設などにミサイル攻撃を展開したが、露国内では防空網の不備への批判も出ている。
ロシア南部サラトフ州のエンゲルス軍用飛行場の衛星画像(4日)=(c)Maxar Technologies、ロイターロシア南部サラトフ州のエンゲルス軍用飛行場の衛星画像(4日)=(c)Maxar Technologies、ロイター
これまでウクライナ軍による露領内への越境攻撃は、国境付近や港湾などにとどまっていた。露西部カルーガ州の軍用飛行場で10月7日、無人機の墜落が伝えられたが、ウクライナの関与はわかっていない。
今回の攻撃について、ウクライナ政府の公式な発表はないが、米政策研究機関「戦争研究所」は5日、両軍用飛行場への攻撃について「ウクライナ軍による攻撃だった可能性が高い」との見方を示した。
ウクライナ政府高官は5日、米紙ニューヨーク・タイムズに、無人機はウクライナ領内から離陸し、ロシアに潜入した特殊部隊の協力も得たと語った。
攻撃を受けたリャザン州のジャーギレボ軍用飛行場はウクライナの最前線から約500キロ・メートル離れ、サラトフ州のエンゲルス軍用飛行場は最前線から約700キロ・メートルの距離がある。
ウクライナ軍が使っているトルコ製攻撃型無人機「TB2」の航続距離は約150キロ・メートルとされ、届かない距離だ。露国防省は旧ソ連の無人機を改造した無人機が攻撃に使われたと指摘しており、旧ソ連の偵察用無人機「Tu(ツポレフ)141」の誘導機能を強化し、攻撃用に改造したとの見方が出ている。
ウクライナの国営兵器輸出企業は4日、最大航続距離1000キロ・メートルの攻撃型無人機の開発が最終段階にあることを明らかにしており、ウクライナ軍は無人機に注力しているとみられる。
今回、攻撃を受けた軍用飛行場はウクライナのエネルギー施設などをミサイル攻撃する戦略爆撃機の拠点で、ウクライナの大統領府顧問は5日、無人機を「未確認飛行物体(UFO)」に例え、「他国に向けて(ミサイルを)発射すれば、UFOが発射地点に戻ってくる」とSNSに投稿した。
露本土の軍事施設が攻撃を受けたことはロシアにとって大きな脅威で、露大統領府は6日、プーチン大統領が安全保障会議を招集したと発表した。
露元国防省当局者らが運営する軍事SNS「Rybar」は無人機による攻撃について、「通常の防空システムが機能すれば防げたはずだ」と問題視しており、露軍やプーチン政権への批判が強まる可能性がある。
●ロシアで「ドローン攻撃」相次ぐ 国内から批判の声も 12/7
ロシア西部の空港近くでドローン攻撃があったと、地元知事が明らかにしました。前日には2つの空軍基地が攻撃を受けたと発表されたばかりで、ロシア国内では批判の声も出るなど衝撃が広がっています。
ウクライナとの国境に近いロシア西部クルスク州の知事は6日、空港の近くでドローンによる攻撃があり、石油貯蔵施設が炎上したと明らかにしました。
ロシアでは5日、2つの空軍基地で爆発があり、国防省はウクライナ側のドローン攻撃を受けたと発表したばかりです。
いずれの基地もウクライナとの国境から数百キロ離れていることなどから、国内の軍事専門家らから「ロシアのすべての防空体制が疑問視される」などと批判する声が出ています。
プーチン大統領は6日、安全保障会議を開催し、国内の安全確保について議論したということで、基地への攻撃を受けた対応を協議した可能性もあります。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「最も困難な状況にある東部の部隊は、我々の最強の部隊だ」
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、東部ドネツク州のロシア軍との戦闘の前線に近い都市スラビャンスクを訪問し、兵士を激励しました。
●疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に 12/7
プロローグ/誤算続きの「プーチンの戦争」
ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」です。
戦争の規模こそ異なれど、ウクライナ侵攻は「第2のバルバロッサ(赤髭)作戦」とも言えましょう。
この原稿を書いている12月5日は、2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻後既に285日目に入りました。
昨日(12月4日)のOPEC+協調減産会議では、現行の減産維持合意(2mbd減産)を来年も継続することが決定(mbd=百万バレル/日量)。
次回OPEC+協調減産会議は来年6月4日に予定されていますが、必要に応じ臨機応変に開催されることも決まりました。
今回の協調減産継続を受け、今後油価はどのように動くのか筆者は注目しております。
本稿の結論を先に書きます。ロシアのV.プーチン大統領(70歳)の対ウクライナ戦争は、結果として、ロシアの原油と天然ガス生産量低下をもたらすことになるでしょう。
ロシア経済は石油・ガス依存型経済構造です。ロシアの原油・天然ガス生産量低下によりロシア経済は弱体化必至にて、ロシア経済弱体化はプーチンの墓標になる可能性大です。
換言すれば、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しており、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになります。
本稿では、「プーチンの戦争」がいかにロシア経済を疲弊させ、ロシア(露)の国益を毀損しているのか、筆者の独断と偏見と想像を交えて考察したいと思います。
第1部:油価変動がロシア経済に与える影響
筆者がよく受ける照会事項に、「油価が1ドル上下すると、それはロシア経済にどのような影響を与えるのか?」という質問があります。
実は、この答えは簡単です。ロシアの原油生産量は約10mbd(mbd=百万バレル/日量)、うち5mbdは原油(主にウラル原油)として輸出。残り5mbdは露国内で精製され、石油製品(主に軽油と重油)になり、そのうち半分は国内消費、残り半分は輸出です。
ですから、油価(ウラル原油)が1ドル上がるとロシアの原油輸出収入は1日500万ドル増え、1ドル下がれば500万ドル減ります。
1ドル上昇すれば年間では500万ドル×365日=約18億ドルの輸出金額増になり、石油製品も1ドル上がると仮定すれば、750万ドル×365日=約27億ドルの輸出金額増になります。
現在の露ウラル原油の油価(FOB価格)はバレル$50〜$55の水準で推移しています。
本日(12月5日)に導入されたバレル$60上限設定は、ロシアを生かさず殺さぬ絶妙な制限油価です。
なぜなら、露国家予算案想定油価(2022年$62/23年$70)よりも低く、露原油生産コスト(約$40)よりも高いからです。
すなわち、この$60は露国家予算案想定油価を勘案して設定された油価水準です。
この価格水準ですと、露石油産業にとり輸出により利益は出ますが(損はしないが)、露国家予算案の赤字幅が大幅拡大することになります。
これが何を意味するのかと申せば、ロシアのウクライナ戦費がその分だけ早く枯渇するということです。
この点を指摘している日系マスコミは皆無です。
第2部:3油種週間油価推移(2021年1月〜2022年11月)
最初に2021年1月から2022年11月までの3油種(北海ブレント・米WTI・露ウラル原油)週間油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より2022年2月末までは傾向として上昇基調が続きましたが、ロシア軍のウクライナ全面侵攻後、ウラル原油以外は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。
ゆえに、ウラル原油は英語ではURALsと複数形のsが付きます。ちなみに、日本が輸入している(いた)ロシア産原油は3種類(S−1ソーコル原油/S−2サハリンブレンド/ESPO原油)のみで、全て軽質・スウィート原油です。
今年11月21〜25日の平均油価は北海ブレント$86.4/バレル(前週比▲$5.7/スポット価格)、米WTI $78.7(同▲$5.3)、ウラル原油(黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$53.2(同▲$8.4)となり、ブレントとウラル原油には約$33の値差があります。
この超安値の露産原油を買い漁っているのがインドで、ロシアは現在、アジア諸国に対し市場価格より3割安い油価でオファーしていると報じられています。
ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油)はバレル$45.3でしたが、実績は$69.0。2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2ですが、今年1〜11月度の平均油価は$78.3になりました。
上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線は、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日です。
この日を境として、北海ブレントや米WTI油価は急騰。6月に最高値更新後に下落。11月末の時点で北海ブレントはバレル$85前後で推移、米WTIは$80を割り、油価は下落傾向です。
一方、露ウラル原油の油価はウクライナ侵攻後に下落開始、11月中旬には2022年国家予算想定油価を割りました。
筆者は、昨日4日に開催されたOPEC+協調減産会議後の油価動静に注目しております。
第3部:油上の楼閣経済/国庫税収は油価次第
露経済と国庫税収は油価に依存しています。なお、この場合の油価とはあくまでもロシアの代表的油種ウラル原油の油価です。
ウラル原油の油価が露国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価に依存していることが下記グラフよりも一目瞭然となりましょう。
ここで、参考までに過去4年間の露ウラル原油月次油価推移を概観します。露ウラル原油の月次油価推移は以下の通りです。
2022年11月度の平均油価はバレル$66.5になりましたが、12月度は$60を割る水準まで低下するものと筆者は予測しております。
第4部:国家予算案概観(2023〜25年)
ロシア政府は2022年9月28日、露下院に2023〜25年国家予算原案を提出しました。
ロシアの国家予算原案は下院にて3回審議・採択後上院に回付され、上院にて承認後、大統領署名をもって発効します。
11月24日の下院第3読会にてこの原案は可決・採択されました。その後上院にて承認され、露プーチン大統領は本日12月5日にこの予算案に署名、予算案は発効しました。
ロシア政府が9月28日に提出した国家予算原案の概要は下記の通りにて、想定油価は露ウラル原油です。
政府予算原案は例年9月中旬までに下院に提出されることになっていますが、今年は10月1日まで締め切り延長されました。
これはウクライナ情勢を受けて予算案見直しが必要になったことを窺わせますが、実際には9月上旬に策定された数字が9月21日に閣議了承され、その原案が28日下院に提出されたので、予算案見直しはなかったことになります。
これが何を意味しているのかと申せば、ウクライナ東南部4州のロシア併合に伴う復興予算などは勘案されていないということです。
しかも驚くべきことに、10月16日付け露独立新聞は「この予算案は2022年末までにウクライナ特別軍事作戦がロシア勝利の形で終結する前提で組まれている」と報じています。
9月28日に公表された露政府予算原案の概要は上記の通りです。
ウラル原油想定油価は2022年見通し$80、2023年$70ですが、既に非現実的です。なぜなら、今年11月後半から油価は急落しているからです。
2021年に策定された2022年期首予算案では、$62.2前提で2022年は余裕の黒字予算でした。
ところが2022年の国家予算案はウクライナ侵略戦争により大幅赤字となり、ミシュ―スチン首相は10月20日、露国民福祉基金から1兆ルーブルの資金を赤字予算補填に転用すると発表。
露会計検査院も、2023年国庫歳入は上記数字より5400億ルーブル少なくなるだろうと指摘しています。
すなわち、今年も来年も実際の赤字幅はさらに増えること必至です。
参考までに10月11日に公刊されたIMF2022年10月度WEO(世界経済見通し)によれば、ロシアGDP成長率は2022年見通し▲3.4%、2023年予測▲2.3%になっているので、露経済悪化は不可避と言えましょう。
第5部:欧米の対露経済制裁措置は効果大
欧米の対露経済制裁措置に関し、「対露経済制裁措置は効果少ない」と解説している人がいます。
しかし、これは現実のロシア石油・ガス産業の実態を知らない人の「机上の空論」に過ぎません。
対露経済制裁措置は強力に効いており、特にロシアの石油・ガス産業に大きな影響を及ぼしています。
欧米の対露経済制裁措置の影響・効果に関する概要は以下の通りです。
対露経済制裁強化措置は効果大。
北極圏や気象条件の厳しい石油・ガス鉱区に於いては、欧米石油メジャーの参加不可欠。
欧米石油ガス関連サービス企業の参画なくして、ロシアの石油・ガス生産維持は困難。
欧米石油ガス関連製造企業が撤退すれば、ロシアの石油・ガス輸送インフラも影響大。
露LNG大型プロジェクトに対する影響大。特に、「Arctic LNG 2」は崩壊の危機に瀕するだろう。
実例として、連日マスコミ紙面を賑わしている、露国内で稼働中の欧米から供給された高出力ガスタービンや高圧コンプレッサー機器類の保守点検・修理作業が困難になります。
欧米石油サービス企業が撤退すれば、今後ロシアの原油・天然ガス生産量は減少必至です。
ロシアにおける既存のLNG生産工場ではLNG生産量が徐々に減少し、現在建設中の大規模LNG工場(例、北極圏グィダン半島のArctic LNG 2プロジェクト)は完工不可能の事態に陥ることでしょう。
北極圏や気象条件の厳しい海洋鉱区に於いては、欧米メジャーや石油サービス企業の参画なしには探鉱・開発・商業生産・輸送は困難・不可能なのです。
2022年9月3日付け朝日新聞は、「ウクライナ侵攻後の石油価格の上昇で、石油輸出によるロシアの収入は大きく伸びた」(第7面)と報じています。
しかし、これは間違いです。
第1部の油価動静で検証したごとく、露ウラル原油の油価は2月24日のウクライナ侵攻後、下落しているのです。
石油輸出によるロシアの収入が伸びたことは事実ですが、ウクライナ侵攻後に油価が上がったからではなく、昨年比ウラル原油の油価水準自体が上昇したからです。
実例を挙げます。
2021年の露石油(原油と石油製品)月次輸出額(推計)は 149億ドル、2022年前半は伸びましたが7月以降減少しています。
米国は2022年5月から、日本は6月からロシア産石油輸入量はゼロになり(現状10月まで輸入ゼロ)、今後もロシアの石油輸出額は減少していくものと推測されます。
上記の通り、今年前半の露石油収入が昨年月次平均より増えたのは昨年よりウラル原油の油価水準が上昇したからであり、油価下落に伴い石油収入は今後減少していくことになりましょう。
第6部:戦費拡大と衰退するロシア石油・ガス産業/露LNG生産は全面崩壊懸念の瀬戸際に
欧米メジャーや石油サービス企業が抜ければ、気象条件の厳しいロシアの海洋鉱区における石油・天然ガスの探鉱・開発・生産は持続困難になります。
厳しい海洋気象条件下の原油・天然ガス鉱区の探鉱・開発・生産・輸送には、欧米メジャーとシュランベルジャーやハリバートン、独ジーメンスや英ロールスロイス、米ベーカーヒューズGEなど、欧米の最新技術とノウハウ、最新設備の総合力が必要になります。
「サハリン−2」プロジェクトの場合、英シェルが抜けたので、LNGの原料となる天然ガス生産自体が早晩(1〜2年以内に)減少開始して、徐々にLNG生産用天然ガス確保が困難になると筆者は予測します。
当面は一匹狼の技術者を雇用することにより短期間は凌げますが、持続的生産維持は不可能です。
「欧米による対露経済制裁は効果ない」と書いたり・話したりしている評論家もいますが、現実は正反対であり、露LNG問題はより深刻です。
欧米メジャーが撤退すればロシアの大規模LNG構想は全面崩壊する可能性大となり、その典型例が北極圏グィダン半島に建設中の「Arctic LNG 2」プロジェクトです。
同プロジェクトのオペレーターである仏トタールは撤退をまだ決定していませんが、EPC(設計・調達・建設)契約者の仏テクニップと、LNGプラントを搭載する下部構造(GBS)を受注した伊サイペムは既に撤退。
ゆえに、本来ならば今年(2022)第1トレーン完工・稼働予定のプロジェクト工期全体が大幅に遅れており、完工・稼働する確固たる目途も立っていません。
筆者は、この大規模LNGプロジェクトは早晩破綻するものと予測しております。
ロシアからバルト海経由ドイツ向け天然ガス海底パイプライン(以後、P/L)輸送量が2022年6月、突然減少。
露ガスプロムは修理に出した「ノルト・ストリーム1」(以後、NS1)用ガスタービンが戻ってこないとの理由で、NS1の天然ガス年間輸送能力55bcmに対し輸送量を削減しました(bcm=10億立米)。
さらに、8月31日から3日間、定期修理のため輸送全面停止と発表。結局、NS1は8月31日以降、全面稼働停止となりました。
NS2は完工しましたが、稼働しないまま爆破されてしまいました。
プーチン大統領は6月30日、大統領令416号に署名。
これは、サハリン島北東部沖合のオホーツク海にて原油・天然ガスを探鉱・開発・生産している「サハリン−2」プロジェクトに対し、事業会社「サハリン・エナジー社」の権益を、今後新規に設立されるロシア法人に無償譲渡させる内容です。
上記大統領令を受け、ロシア政府は8月2日、政令1369号を発布。
この新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」は、サハリン州の州都ユージノ・サハリンスク(旧豊原)に8月5日に設立されました。
三井物産と三菱商事はS−2新会社「サハリンスカヤ・エネルギア」に権益参加継続を決定。両社は引き続きロシアに新設された新ロシア法人に権益参加継続することで、ロシア側も承認しました。
ここで一点指摘しておきたいと思います。
商社の権益維持とS−2「サハリンスカヤ・エネルギア」による対日LNG供給は別次元の問題であり、直接の関係はありません。
なぜなら、LNG供給契約は日本の需要家とサハリンスカヤ・エネルギア間の契約になり、三井・三菱はLNG契約の当事者ではないのです。
三井・三菱が権益参加継続すれば対日LNG供給が継続されると考えているとしたら、それは大いなる幻想にすぎません。
三井・三菱はS−2事業会社への出資者であり、事業会社が利益を出せば権益に応じて利益配分を受け、事業会社が赤字になれば権益に応じて赤字負担します。
LNG工場自体は新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」に移管されましたが、英シェルは既にS−2プロジェクトから撤退しました。
オホーツク海のS−2鉱区では原油・ガス生産は継続していますが、シェルが抜けたので保守・点検を担当する技術者も少なくなり、早晩(1〜2年後)生産量は徐々に低下していくものと筆者は予測します。
第7部:減少する原油・天然ガス生産量
ロシア経済は油価依存型経済構造であり、油価長期低迷はプーチン大統領失脚に直結します。
現在進行中のウクライナ侵略戦争用戦費調達のため、ロシア経済は疲弊しています。
ロシアの原油・天然ガス生産量は減少しており、本稿では定量的にこの点を数字で検証したいと思います。
ロシア連邦統計庁は2022年9月までの(コンデンセートを含む)原油・天然ガス月次生産量を発表しましたので、直近4年間の月次生産量を概観します。
ロシアの原油・天然ガス生産量は以下のグラフの通りにて、今年のウクライナ侵攻後に原油・天然ガス生産量が低下していることが一目瞭然となりましょう。
付言すれば、2020年の原油・天然ガス生産量が低いのはコロナ禍による需要低迷が原因であり、2022年後半の原油・天然ガス生産量減少は、欧米メジャーや石油サービス企業撤退に起因します。
第8部:戦費拡大と石油・ガス産業の苦難/大増税法案制定
露国庫財政は2022年以降大幅赤字予算になります。
ゆえに、露政府は石油・ガス関連増税法案を議会に提出。下院で採択され、上院で承認された増税案は11月22日にプーチン大統領署名をもって発効しました。
ご参考までに、2023年1月から3年間の期限立法で導入される増税案概要は以下の通りです。
原油輸出関税を算出する係数を大幅に上げ、石油(原油+石油製品)輸出関税を増税する。
P/Lガス輸出関税を現行30%から(ガス価格千立米当たり$300以上の場合)50%に引き上げる。
国内ガス価格を引き上げる。
LNGを生産・輸出する業者に対する企業法人税を34%に引き上げる(従来20%)。
ヤマルLNG用天然ガス鉱区地下資源採取税ゼロを廃止して、地下資源採取税を課税する。
露ガスプロムの欧州向けパイプライン(P/L)天然ガス輸出はFOB輸出金額の30%が輸出関税ですが、2023年1月1日からはこの輸出関税が50%になります。
欧州ガス市場は露ガスプロムにとり金城湯池でした。しかし、2023年から欧州向けP/Lガス輸出は激減するでしょう。
この場合、輸出関税を上げても輸出量が激減するので、露国庫税収は減少することが予見されます。
すなわち、戦費の財源は今後ますます先細りになることが透けて見えてきます。
エピローグ/軍隊は胃袋で行進する
日系マスコミではよく「ロシア国民は戦争による耐乏生活に慣れている」と話している人がいますが、そのように主張している人は重要な事実を見逃しています。
それは、ナポレオン戦争もドイツのソ連侵攻もロシア側にとり祖国防衛戦争であった点です。
ロシアの≪祖国防衛戦争≫で負けたのは侵略軍です。しかし、今回の戦争はロシアの祖国防衛戦争ではなく、ロシアの≪他国侵略戦争≫です。
一方、ウクライナ側にとっては祖国防衛戦争になります。これが、両軍戦闘部隊の士気に影響を与えないはずはありません。
最前線は消耗戦となり、勝敗の行方は兵站補給いかんとなりました。
ゆえに、欧米が対ウクライナ軍事支援を継続する限りウクライナ軍有利となり、プーチン大統領は高い代償を払うことになるでしょう。
ロシア軍が今年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから、12月5日で≪プーチンの戦争≫は既に285日目に入りました。
本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都キエフ(現キーウ)は制圧され、ゼレンスキー大統領は追放・拘束され、ヤヌコビッチ元大統領を新大統領とする親露派傀儡政権を樹立する予定でした。
ゆえに、ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化はプーチン大統領にとり大きな誤算となりました。
継戦能力の原動力は経済力と資金力です。
ロシア経済は既に弱体化しつつあり、戦費は早晩枯渇必至です。
この戦争は長期化すると予測している人が多いのですが、来年中頃には停戦の姿が垣間見えてくるでしょう。
ロシア敗戦で終戦となり、プーチン大統領失脚の可能性大と筆者は予測します。
ナポレオン曰く、「軍隊は胃袋で行進する」。
金の切れ目が縁(戦争)の切れ目になるでしょう。
●ゼレンスキー大統領 東部を訪問 ロシアでは安全保障会議開催  12/7
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍との激しい戦闘が続く東部を訪れ、兵士を激励しました。一方、ロシアのプーチン大統領は、安全保障会議を開催し、複数の空軍基地で起きた爆発について急きょ対応を協議したものとみられ、事態を深刻に受け止めていることをうかがわせています。
ゼレンスキー大統領は6日、ウクライナ軍の創設記念日に合わせて東部ドネツク州を訪れ、兵士たちを激励しました。
また、前線に近い重要拠点スロビャンシクでは自撮りをしながら「戦場は拡大し、戦いは厳しくなり、代償は高くなっている」と述べていて、侵攻を続けるロシア軍との激しい戦闘が続く東部にみずから入ることで、兵士の士気を高めるねらいがあるとみられます。
ドネツク州を含む東部ドンバス地域をめぐっては、ロシア大統領府のペスコフ報道官が3日、「ロシアの一部だ」と改めて主張し、プーチン大統領がいずれ現地を訪れるという見通しを示していて、ゼレンスキー大統領は、機先を制して現地に入り、ウクライナの領土であることを強調した形です。
一方、ウクライナとの国境から離れたロシア中部と南部の空軍基地では5日、爆発が相次ぎ、ロシア国防省は、ウクライナ側が無人機を使って、駐機中の軍用機に攻撃を仕掛けたと主張しました。
この基地はウクライナへの攻撃にも関わっているとみられ、ロシアの「独立新聞」は6日付けの記事で「ウクライナの無人機による攻撃だとすれば、防空システムの信頼性に疑問が生じることになる」と伝えるなど、ロシア国内でも、ロシア軍にとって痛手になるという見方が出ています。
さらに6日には、ウクライナと国境を接するロシア西部の飛行場でも火災が起きたと伝えられ、地元の州知事は、飛行場近くの石油施設が無人機による攻撃を受けたとしています。
こうした中、プーチン大統領は6日、安全保障会議を開きました。
会議について、ペスコフ報道官は「ウクライナの政権は破壊行為を継続し、これは危険な要因だ。こうしたことを考慮し必要な措置がとられている」と述べました。
プーチン大統領が、一連の爆発を受けて急きょ政権幹部と対応を協議したことを示唆した形で、政権として事態を深刻に受け止めていることをうかがわせています。 
●NATOとEUトップがプーチンに強く対抗する理由  12/7
ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、2023年はどのような対応をすべきなのか。これについて米欧は2022年11月末以降、一連の国際会議の場で「反プーチン」包囲網での団結維持を確認した。
アメリカとフランス両国も首脳会談で対外的には共同歩調を演出した。しかしマクロン大統領の発言からは、バイデン大統領との微妙なニュアンスの違いも出た。両国は本当にこの団結を継続できるのか、2023年に向け微妙な不透明感も残す結果となった。
ぱっとしなかった米仏首脳会談
2022年12月1日にワシントンで開催された米仏首脳会談は、一連の外交イベントで最も注目されたものだった。2022年2月末の侵攻開始前後から単独でプーチン氏と再三連絡を取り「スタンドプレー」とも批判され、5月以降もプーチン氏に「屈辱を与えてはならない」と融和的発言したマクロン氏は、米欧の対ロ包囲網の中で最も弱い環とされてきたからだ。
会談後の共同記者会見ではこうした経緯を念頭に、両国間に溝がないことを誇示したいという両首脳の思惑が見え見えだった。ウクライナが主権と領土的一体性を守れるようにバイデン氏が「両国は強い支持を続ける」と述べたのも、この表れだ。
フランスをめぐっては、ウクライナに対し領土面でロシアに譲歩して何らかの和平交渉を迫るのではないかとの臆測があった。これについて質問を受けたマクロン氏は、待ってましたとばかり「ウクライナが受け入れられない妥協を迫ることはしない」と述べて、臆測を否定してみせた。
しかし、マクロン氏の会談外での発言が波紋を呼んだ。アメリカABCテレビのインタビューで、ロシアにとっても受け入れ可能な和平が必要との考えを示唆したからだ。曰く「よい平和とは、他国からウクライナが押し付けられる平和ではない」とする一方で「中長期的に両国のいずれかに受け入れられない平和もよい平和ではない」と述べたのだ。
この「よい平和」発言以外にも臆測を招く言葉遣いがあった。マクロン氏が共同会見で「持続可能性のある平和(sustainable peace)」という言葉を連発したからだ。この「持続可能性のある平和」が何を意味するのか。詳細は不明だが、「よい平和」と併せて考えれば、ロシアの国益を考慮に入れた和平でなければ、平和は持続不可能だという考えと解釈できよう。
いずれにしても、マクロン氏が使ったこの2つの言葉は、アメリカ政府や先進7カ国(G7)が提唱した「公正な平和(a just peace)」とはニュアンスがだいぶ異なる。「公正な平和」の具体的内容としてアメリカ政府が掲げるウクライナ問題での4原則は、1交渉の時期や方法はウクライナが決める、2国連憲章に基づいた主権と領土の一体性回復、3力によるウクライナ併合を進める今のロシアを誠実な交渉相手とみなさない、4戦場でウクライナが優位に立てるよう軍事支援を行う、というものである。
バイデン氏「プーチンと話す用意がある」
つまり、「公正な平和」とは、侵略を受けた被害国であるウクライナの主張を全面的に反映した和平という色彩を帯びている。これに対し、マクロン氏の2つの言葉には、侵略したロシアの同意も欠かせないという意味に取れる。具体的には、和平達成後もウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟しないとの確約などが念頭にあるのではないか。ワシントンでマクロン氏は結局「公正な平和」には言及しなかった。
こうした微妙な両大統領のニュアンスをみると、表向きの対ロ政策をめぐるアメリカとフランスの共同歩調は、結局「同床異夢」に終わる可能性も否定できないと筆者はみる。
一方で、バイデン氏も共同記者会見で含みのある発言をして注目された。具体的な計画はないと前置きしつつも、プーチン氏が戦争を終わらせる意思があるなら「話す用意がある」と語ったのだ。この発言をめぐってはその後、アメリカ政府高官が対話の前提条件が整っていないとの考えを示して、対ロ政策の変更でないことを強調して火消しに走った。
アメリカでの報道をみると、この発言は下院で多数派を制した共和党を相手にした来年以降の議会運営をにらみ、アメリカ政府に対話の意思があることを強調する内向きの発言だったようだ。いずれにしても、2023年以降、バイデン政権は大規模な軍事支援を含め、対ウクライナ政策で議会からチェックを受けることを覚悟しているようだ。
そのような中、プーチン政権との安易な妥協を認めず、ブレない強硬路線で米欧全体をリードする2人のトップが存在感を高めている。NATOのストルテンベルグ事務総長と、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長だ。
2022年11月末にルーマニアのブカレストで開催されたNATO外相会合は、越冬支援などウクライナへの「持続可能な支援」を強調する声明を発表した。同時にウクライナがNATO加盟の候補国であることも明示的に盛り込んだ。
ストルテンベルグ氏らしい歯切れのよい発言は、会合後の記者会見で飛び出した。エネルギー価格の高騰など2022年の冬に欧州が直面する経済的困難に触れた同氏は「これは払うに値する代償だ」と述べて、さまざまな危機に直面しても欧州がウクライナへの支援を緩めてはならないとの原則的立場を強調したのだ。
「もしプーチンが勝利すれば、他の権威主義的指導者に対し、力の行使をしてもいいと奨励するようなものだ」と付け加えた。ノルウェーの首相経験者であるストルテンベルグ事務総長は侵攻開始以来、プーチン政権への対決姿勢を強めてきた。
この対決姿勢を象徴したのが、ロシア軍がウクライナ東部ドンバス地方で占領地を拡大していた2022年6月末の発言だ。米欧の政治家や専門家から、劣勢に立ったウクライナに対して領土面で譲歩して和平を優先すべきとの妥協論が出始めた中、ストルテンベルグ氏はドイツ紙とのインタビューの中で「戦争が何年も続くことを覚悟すべきだ。ウクライナへの支援をやめてはならない」と支援継続を呼びかけた。米欧で浮上した早期妥協論にくぎを差した内容だ。
ノルウェー首相としての経験
2022年9月30日には、ウクライナ侵攻をめぐるストルテンベルグ氏の対ロ強硬論を象徴するフレーズが飛び出した。ロシアがウクライナ南部4州の併合を宣言したのを受け、「もしロシアが戦闘をやめれば、戦争は終わる。もしウクライナが戦闘をやめれば、ウクライナは独立国家としての存在をやめる」と指摘した。ロシアが攻撃をやめるのが、和平交渉の前提だとの原則を明確に打ち出した内容だ。
侵攻開始から10カ月が経過しようとする中、あらゆる局面で同氏が発する印象的で明確な言葉遣いには、盟主であるアメリカも含めNATO全体をリードしていこうという覚悟を筆者は感じていた。こうしたストルテンベルグ氏について、米欧の対ロ政策に精通する西側外交筋も「もはや西側の対ウクライナ政策に関する精神的指導者と言っていい」との評価をしている。
ストルテンベルグ氏はノルウェー首相だった2010年、ノルウェーとロシアとの間で対立があった国境線問題を交渉で解決した経緯がある。ロシアと国境を接する地域国家を率いた経験を踏まえ、プーチン政権による国際法違反の侵攻から、自国と同じ境遇にあるウクライナをNATOが守るべきとの強い信念があるとみられている。
一方で、より広い、歴史的文脈から、侵攻を始めたプーチン政権への対決姿勢をみせているのがフォンデアライエン委員長だ。旧メルケル政権でドイツ初の女性国防大臣を務めた委員長は2022年9月下旬、ウクライナ入りして視察した際にこう発言した。「これは単なるロシアとウクライナとの紛争ではない。これは両国の根本的原則の間の紛争である」。
つまりウクライナ戦争が単なる一過性の2国間の武力紛争ではなく、住民虐殺まで厭わない侵略国の論理と、自国の存在を守ろうと抵抗する被侵略国の論理がぶつかっているとの歴史的認識を表明したものだ。
EU「侵略の罪」を裁く特別法廷案
同委員長は2022年11月30日、ウクライナに侵攻したロシアの「侵略の罪」を裁くための「特別法廷」の設置を提案した。提案の背景にはこの認識があるのは間違いないだろう。「特別法廷」案は、すでに捜査を始めている国際刑事裁判所(ICC)とは別の構想だ。委員長はICCを支持しつつも「国連の支援を受けロシアの侵略の罪を捜査、訴追する特別法廷の設置を提案する」と述べた。
提案は事実上、侵略を行ったプーチン氏ら政権トップの責任を裁くことを標的にしたものとみられる。しかし、実際には国連総会での十分な数の支持獲得など容易ではない問題も抱え、アメリカがこの提案を支持するか明確な見通しも立っていない。
こうした中での今回の提案は、欧州メディアでは「爆弾提案」とも称された。米欧内部で対ロシア関係をめぐって妥協的な声が出るたびに反対してきた「委員長らしい行動」と外交筋は評価している。
「特別法廷」設置案に加えてフォンデアライエン委員長は、ウクライナへの支援の財源として、制裁で凍結されたロシアの資産をウクライナの支援に活用する案も示した。侵攻によるウクライナの損害は6000億ユーロ(約86兆円)と推定されると指摘。ロシアだけでなくオリガルヒ(新興財閥)もウクライナに損害を賠償し、国家再建の費用を負担させる考えを示した。
この構想の裏には、ウクライナ支援という目的以外に別の狙いが隠されていると筆者はみる。つまり、巨額の費用負担を嫌うであろうオリガルヒに対し、暗にプーチン政権排除を促す意図があるとみる。
ストルテンベルグ氏とフォンデアライエン欧州委員長は、侵攻を受けてロシアに非常に厳しい対応をし、ウクライナを熱心に支援している旧ソ連のバルト3国と旧ワルシャワ条約機構加盟国のポーランドとの間で事実上のタッグを組む関係にある。西側の代表的軍事・経済機構の両トップと、一部中東欧諸国との連携関係は、冷戦終結後の欧州では極めて異例の構図である。ウクライナ情勢の今後の展開とも絡み、21世紀の欧州安保体制再構築にも影響を与えそうだ。
●プーチン政権衝撃 ロシア空軍基地に“閃光と爆発” 12/7
ロシア国内にある2カ所の空軍基地で激しい爆発がありました。ウクライナによるドローン攻撃とみられ、ロシア本土の奥深くでこのような攻撃を受けたのは2月の侵攻後、初めてとなります。
今月6日、ゼレンスキー大統領が訪れたのはロシア側との最前線、ウクライナ東部のドネツク州です。
ゼレンスキー大統領:「私たちは東部にいる。恐らくきょう、最も困難な方面であり、東部だけではなく国全体の防衛線だ」
ロシアがウクライナに侵攻を開始してから9カ月余り。新たな局面に入った可能性があります。
記者「状況がエスカレートする懸念が出てきました。ロシア領内の奥深くが『無人機』で攻撃された可能性があります。ウクライナは関与を認めていませんが、ロシアはウクライナがソ連製無人機で攻撃したと主張しています」
ロシア南部のサラトフ州で撮影された監視カメラの映像。画面中央、大きな閃光が広がった場所にあるのはロシア軍のエンゲリス空軍基地です。
ロシアメディアによりますと、5日に爆発があり、爆撃機2機が損傷。2人がけがをしたといいます。
また、モスクワに近いリャザン州にあるディアギレボ空軍基地でも燃料が爆発。3人が死亡し、6人が負傷したということです。
ロシア国防省・報道官「5日の朝、ウクライナはロシアの長距離航空機の無力化を狙い、リャザンのディアギレボ空軍基地とサラトフのエンゲリス空軍基地に対し、ソ連製ドローンによる攻撃を試みた」
ロシアはウクライナによる攻撃と主張。
対するウクライナは「不可解な爆発だ」とし、関与を認めていません。
ウクライナ軍・報道官「この不可解な爆発による損傷でロシアの航空装備は減っただろう。もちろん修理するだろうが、間違いなく素晴らしいニュースだ。もし1機か2機が無力化したならこの先、何らかの理由でより多くの航空機が無力化するだろう」
ウクライナのポドリャク大統領府顧問はSNSに意味深な投稿をしました。
ポドリャク大統領府顧問「ガレリオが発見したように地球は丸い。もし他国に何かを発射すれば、遅かれ早かれ発射地点に戻ってくる」
果たしてウクライナによる攻撃なのか、否か。
問題は爆発があった空軍基地の場所です。
サラトフ州とリャザン州は、それぞれウクライナ国境から少なくとも500キロは離れています。
これまでロシア領内への攻撃があったとしても、それは国境付近。ここまで奥深くが攻撃されたことはありません。
ウクライナを支援するアメリカはどう見ているのでしょうか。
ロシア領内への攻撃は、さらなる戦闘の激化につながる恐れがあります。
アメリカ、ブリンケン国務長官「我々はロシア領内への攻撃を促してもいないし、できるようにもしていない」
アメリカはウクライナに提供した兵器をロシア領攻撃に使わないよう求めてきています。
ただ…。
アメリカ、オースティン国防長官「ウクライナが自前で長距離攻撃能力を開発するのをアメリカが阻止しているかと問われれば答えはノーだ。そんなことはしない」
イギリス・ガーディアン紙によりますと、爆発のあったエンゲリス空軍基地はウクライナに対するロシア空軍の攻撃拠点。
爆撃機に配備できる核弾頭など核兵器の貯蔵施設もあるといいます。
ウクライナと国境を接するロシア・クルスク州の飛行場にも6日にドローン攻撃があり、石油タンクが炎上したといいます。地元州知事が明らかにしました。
また、ロシア・タス通信はエンゲリスでは6日にも警報が鳴り響いたと伝えています。
こうしたなか、プーチン大統領は安全保障会議を開催。ロシア本土の軍事施設が攻撃を受けたことに衝撃が広がっている可能性があります。
●プーチン、ブロックチェーンを活用した新たな国際決済ネットワークの構築提唱  12/7
この記事は2022年11月29日に「月刊暗号資産」で公開された「プーチン大統領、ブロックチェーンを活用した新たな国際決済ネットワークの構築を提唱」を一部編集し、転載したものです。
ロシアのプーチン大統領は24日、モスクワで開催されたロシア銀行大手ズベルバンク(Sberbank)主催のイベントで、デジタル通貨とブロックチェーンを活用した新たな国際決済ネットワークの構築を提唱した。ロシア国営メディアのタス通信が報じた。
プーチン大統領は、「デジタル通貨と分散型台帳技術により、はるかに便利かつユーザーにとって最も安全で、そして最も重要な点である銀行や第三者からの干渉から独立した新しい国際決済システムを構築することが可能だ」と述べた。また、現在ロシアに対して発動されている経済制裁に触れ、「現在の非合法な規制状況下では、決済システムは攻撃ラインの一つになっている」と付け加えた。
さらに、「現在の国際決済システムは高価であり、コルレス銀行制度と規制は、少数の国家と金融会社によってコントロールされている」と述べ、欧米諸国が構築する国際金融決済システムに対抗するために、独立したブロックチェーンベースの決済ネットワークが必要だとの考えを示した。
なお、コルレス銀行制度とは海外送金をする際にその通貨の中継地点となる銀行を指す。手数料が高い点や取引完了までの時間が長い点が大きな課題となっている。
こうした課題に触れる形で、プーチン大統領は「独占企業による独裁はその企業自身を含めた全ての関係者に悪影響を与えるもので、独占者の命令を望む人はいないことから、今後ブロックチェーンベースの決済システムが構築され、発展すると確信している」と述べた。
ロシアでは先日、国会議会下院が主導し、財務省とロシア中央銀行の協力を得る形で国営暗号資産(仮想通貨)取引所を設立する準備を行なっていることが明らかになった。デジタル資産に関する法改正について議論を行っている段階で、まとまり次第ロシア政府およびロシア中央銀行に修正案が提出される予定となっている。
経済政策委員会のセルゲイ・アルトゥホフ(Sergei Altukhov)氏は「暗号資産の存在を否定しても無意味だ」とした上で、多額の税収を得る機会が損なわれていると強調し環境整備を早急に進める必要性を訴えている。
ロシアでは今年に入り暗号資産やCBDC(中央銀行デジタル通貨)である「デジタル・ルーブル」の活用に関する議論が加速している。デジタル資産を活用し、厳しい経済制裁を回避する狙いがあるものと考えられる。

 

●招集兵15万人が作戦参加 ロシア大統領、追加動員否定  12/8
ロシアのプーチン大統領は7日、国防省が9〜10月に部分的動員で招集した30万人のうち、ウクライナでの特別軍事作戦に送られたのは半数の15万人で、戦闘部隊に加わっているのは7万7千人にとどまると明らかにした。追加動員は「必要ない」と否定した。ロシア通信などが伝えた。
プーチン氏は、大統領の諮問機関である市民社会と人権に関する評議会とのオンライン年次会合で発言した。作戦に送られた15万人のうち戦闘部隊にいない約7万人は領土防衛部隊に参加したり、追加的訓練を行ったりしていると説明した。
プーチン氏はまた「核戦争の脅威が増している」とも発言した。
●プーチン大統領「核戦争の脅威が高まっている」欧米を批判  12/8
ロシアのプーチン大統領は7日、「核戦争の脅威が高まっている」と述べてアメリカの核兵器がヨーロッパに大量にあると主張した一方、ロシアが保有する核兵器はあくまで防衛のためのものだと強調しました。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの国防省は7日、ウクライナ東部や南部にミサイルなどで攻撃を行ったと発表しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSで東部ドネツク州の町が砲撃を受け、少なくとも6人が死亡し、5人がケガをしたと述べてロシアを非難しました。
一方、ロシア国内では5日、中部と南部の空軍基地で爆発が相次いだほか、6日にはウクライナと国境を接するロシア西部の飛行場に近い石油施設が無人機による攻撃を受けたと、地元の州知事がSNSで明らかにしています。
ロシア国防省は空軍基地での爆発についてウクライナ側が無人機を使って攻撃を仕掛けたとしています。
ウクライナ政府はこれまでのところ公式な発表を出していませんが、アメリカの有力紙ワシントン・ポストは6日、ウクライナ政府の高官が、3つの攻撃はすべてウクライナの無人機によるものだと認めたうえで「非常に成功し効果的だった」とコメントしたと伝えています。
ロシアのプーチン大統領は6日、安全保障会議を招集するなど事態を深刻に受け止めているものとみられます。
こうした中、プーチン大統領は7日、大統領の諮問機関の会議を開き、ウクライナへの軍事侵攻について「長いプロセスだ」と述べて一層長期化する可能性もあるとの見方を示しました。
そして、「核戦争の脅威が高まっている」と述べてアメリカの核兵器がヨーロッパに大量にあると主張し欧米を批判した一方、「われわれの核兵器は争いを拡大させるためではなく抑止力のためだ」と述べ、ロシアが保有する核兵器はあくまでも防衛のためのものだと強調しました。
●プーチン氏、核使用を完全排除せず 侵略長期化も示唆 追加動員は否定 12/8
ロシアのプーチン大統領は7日、「核戦争の脅威が高まっている」と述べる一方、「核兵器は抑止力だ」とし、先制使用に否定的な考えを示した。ただ、核使用の可能性を完全には排除しなかった。また、ウクライナでの軍事作戦は「長いプロセスになりうる」と述べ、近い将来の停戦を否定した。親政権派のNPO代表者らでつくる大統領の諮問機関「人権評議会」のオンライン会合で発言した。
露国家文書「軍事ドクトリン」は、核兵器の使用条件の一つを「通常兵器の攻撃で国の存立が脅かされる場合」と規定。米欧は、一方的に併合を宣言したウクライナ4州などで同国軍の反攻に直面しているロシアがこの規定を拡大解釈し、核を使用する恐れがあると警戒している。ロシアは核使用の可能性を排除しないことで、ウクライナや同国を支援する米欧を威嚇する思惑だとみられている。
会合では女性出席者が「ロシアはいかなる場合も核を使用しないと宣言すべきではないか」と提案。プーチン氏は「ロシアの核は報復用だ」とし、「ロシアは理性を失っておらず、核がどういうものか理解している」とも述べた。ただ、女性の提案には明確な回答を避けた上、「ロシアの核兵器は他国より先進的で近代的だ」とも誇示した。
プーチン氏は、部分的動員で招集した30万人の予備役のうち、15万人がウクライナに派遣され、なお15万人が訓練中だと説明。「現時点で追加の動員には意味も必要性もない」と述べ、露国内に根強い動員再開への懸念を打ち消した。
プーチン氏は、軍事作戦では既に4州併合という「重要な成果」が得られたと主張。ロシアを作戦に踏み切らせたのは対露敵視政策を進めたウクライナや米欧だとの持説も述べ、侵略を改めて正当化した。
●ロシア、あらゆる可能な手段で国益守る=プーチン氏 12/8
ロシアのプーチン大統領は7日、ロシアはあらゆる可能な手段を使って自国の利益を守るために戦うと述べた。
テレビ中継された演説で、西側諸国の人権団体がロシアを「存続する権利のない二流国家」と見なしているとの不満を表明。ロシアはこれに対応しているとし、「ロシア側からの答えはただ一つ、国益のための一貫した奮闘だ。われわれはそれを実行する。誰もそれ以外のことを期待してはいけない」と語った。
さらに「われわれは様々な方法と手段でこれを実行する。もちろん、まずは平和的な手段に重点を置くが、他に何も残らないのであれば、われわれの思うままにあらゆる手段を使って自衛する」とした。
●プーチン氏は長期戦も視野に ウクライナ侵攻「時間がかかる」 12/8
ロシアのプーチン大統領は7日に開かれた政府の会議で、ウクライナ侵攻について、「もちろん、長い時間がかかる。おそらく」と述べ、長期化する可能性を示した。ロシアはウクライナでの劣勢が鮮明になっており、国民に長期戦への協力を求める狙いがあるとみられる。
プーチン大統領は同日、テレビ中継された大統領直轄の市民社会・人権発展評議会のメンバーとの会合にオンライン形式で参加。侵攻の長期化に言及した一方で、9月に一方的に宣言したウクライナ4州の併合について、「ロシアにとって重要な結果だ。最も重要なのはそこに住む人々だ」と成果を強調。追加の動員が年明けにも始まるとの見方が浮上していることについても、「今のところ必要性はまったくない」と否定した。
一方、欧米の人権団体が「ロシアを存在する資格のない二流国」とみなしていると批判。「いまこの問題が最も顕著に現れている」とし、「あらゆる手段で自衛する」と訴えた。
核戦争についても、「脅威が増大している」との認識を示し、「我々の防衛戦略は、大量破壊兵器や核兵器を防衛手段とみなしており、攻撃されれば報復する」と強調した。
ロシアは3月、欧州評議会から脱退し、ロシア国内から欧州人権裁判所への訴えができなくなった。プーチン氏は「我々には憲法裁判所がある。政府は絶えず、司法制度を改善している」と述べ、大きな問題はないとの考えを示した。
●プーチンの“秘密の愛人”カバエワさんが公の場に登場 「顔がエレガントに」 12/8
この女性が誰なのか、すぐに言い当てられる方は大変なロシア通のはずである。何を隠そう、ウラジーミル・プーチン大統領(70)の愛人といわれている女性だからだ。普段はめったに公の場に出てこないが、この日は体操トレーニングセンターが新設されたことで姿を現した。
アリーナ・カバエワさん(39)。ロシアの元新体操選手で、2004年アテネ五輪では個人総合で金メダルを獲得している。
プーチン氏は前妻と14年に離婚しているが、カバエワさんとはすでに15年におよぶ関係があるといわれているばかりか、2人の間に3人の子供がいるとも噂されている。
ロシアの一部メディアはカバエワさんのことを「非公式のファーストレディー」と呼んでさえいる。カバエワさんが最後にメディアに登場したのは今年9月。ロシアの一部メディアは「スリムになった。顔がエレガントになった」と形容。というのも、最近、整形手術をしたとの噂があるからだ。
プーチン氏とは31歳違い。お幸せに……。
●ロシア 警察官に機関銃発砲 民間軍事会社「ワグネル」採用の受刑者兵士 12/8
ロシア国内で警察官に向かって機関銃を発砲した男が逮捕されました。独立系メディアは民間軍事会社「ワグネル」が兵士として採用した受刑者だったと報じています。
ウクライナに近いロシア南部のロストフ州で6日、迷彩服を来た男が警察官に向かって機関銃を発砲し、逃亡しました。
ロストフ州知事は7日、男を逮捕したと発表しました。
独立系メディアによりますと、逮捕されたのは38歳のロシア人で、強盗などの罪で服役中に民間軍事会社「ワグネル」によって兵士に採用されたものの、11月24日に脱走したとということです。
プーチン大統領に近いプリゴジン氏が創設したワグネルは受刑者を兵士としてウクライナの前線に送り込んでいると指摘されています。
プリゴジン氏は受刑者に対して戦争に参加すれば自由になると呼び掛ける一方、脱走すれば処刑するなどと警告していたということです。 
●プーチン大統領「核戦争の脅威高まっているが、ロシアは狂ってはいない」 12/8
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は7日、核戦争の脅威が高まっていると発言した。一方で、ロシアは「狂って」はおらず、核兵器を最初に使うことはないと述べた。
ロシアの人権理事会の会合にビデオリンクで出席したプーチン大統領は、自国が攻撃された時のみ大量破壊兵器を使用すると話した。また、ウクライナでの戦争は「長い道のり」になるだろうと述べた。
西側諸国は、プーチン氏が当初、侵攻を迅速に終わらせることを計画していたとみている。
今年2月にウクライナ侵攻を開始して以降、ロシアに核兵器を使用できる能力があるか、大きな注目が集まっている。
プーチン氏は会合で、「そのような(核の)脅威が高まっていることを隠しておくのは間違っている」と話した。
また、「我々は狂ったわけではない。核兵器が何なのか分かっている」と述べ、「この武器をカミソリのように振り回して、世界中を走り回るわけではない」と語った。
プーチン氏は、ロシアが世界で最も近代的で高度な核兵器を持っていると主張。アメリカについては、核兵器を他国に配備することで一歩踏み込んでいると、戦略を比較した。
「ロシアは戦術核を含めた核兵器を他国の領土に置いていないが、アメリカ人はそうしている。トルコや、多くの欧州各国に」
プーチン氏は先に、ロシアの核の基本方針では、核兵器を防衛目的でしか使えないと語っていた。
ウクライナ侵攻は「長い道のり」
プーチン氏は、ウクライナを数日で攻略し勝利を宣言する計画が失敗したのを認めた様子で、戦争が「長い道のり」になるだろうと話した。
一方で、ロシアが一方的に併合を宣言した4州などに触れ、これまでの成果は「非常に大きい」と述べた。
特に、ウクライナ南部からロシア南西部にかけて広がるアゾフ海一帯を制圧し、「ロシアの内海」にしたのだと主張。ピョートル1世(ピョートル大帝)の領土拡大の野心と同じだと付け加えた。
ピョートル1世は17世紀末〜18世紀のロシア皇帝で、ロシア近代化のほかに大国化を推進。大北方戦争でスウェーデンと長年にわたり領土戦争を繰り広げた。プーチン氏は、自らをピョートル大帝になぞらえている。
だが、ロシアはヘルソン、ザポリッジャ、ルハンスク、ドネツクの4州の併合を宣言したものの、いずれの州も完全には掌握できていない。
ロシア軍は11月、唯一占領していた州都であるヘルソンから撤退を余儀なくされた。
前線から撤退して以降、ロシア軍は大規模な空爆でウクライナ全土の送電網を破壊している。
この空爆により、ウクライナのエネルギー・インフラは広範囲で損傷し、多くの人々が数時間、時には数日にわたり、零下まで下がる気温の中、電気や暖房のない暮らしを強いられている。
首都キーウのヴィタリ・クリチェンコ市長は、停電に見舞われている同市が「大惨事」に見舞われる可能性があると警告した。
クリチェンコ市長はロイター通信の取材に対し、「キーウは電気も水も、暖房も止まる可能性がある。気温の低さから市内の住宅に住めないとなれば、ハリウッド映画のような大惨事が起こる可能性がある」と述べた。
市内には現在、暖房シェルターが設置されているが、市長によれば住民の数に対して不十分だという。その上で、状況が悪化した時のために避難の準備をするべきだと訴えた。
戦争懐疑派を事前に排除
こうした中ロシアでは、人権理事会の前に、プーチン氏の侵攻を批判する可能性のあるものは排除された。
7日の会議に先立ち、戦争に疑念を表明していた理事10人が解任され、戦争賛成派が補充された。
ロシアの独立系ニュースサイト「Verstka」によると、会合で話し合われたテーマも事前に綿密に調べられていたという。
核兵器、特にウクライナの戦場で放たれるかもしれない「戦術核」について、いつ使用される可能性があるのかといったロシアの核ドクトリンがここ数週間、綿密に調査されている。
大規模な破壊を目的とする「戦略核」兵器とは対照的に、戦術核は戦闘で使用するものを指す。
●プーチン氏が戦闘の長期化示唆、核に再び言及 12/8
ロシアのプーチン大統領は7日、ウクライナでの戦闘が長期化する可能性があるが、現時点では追加動員の必要はないと述べた。また再び核兵器について言及した。一方、ウクライナの首都キーウ(キエフ)のクリチコ市長は、ロシアによる重要インフラへの空爆が続けば、キーウでは今冬、電力や暖房、水の供給が断たれる可能性があり、「アポカリプス(世界の終末)的なシナリオ」も起こり得るとの見方を示した。
ウクライナでロシア軍の苦戦が続く中、プーチン大統領はテレビ中継された演説で、ロシアが「特別軍事作戦」で成果を得るためには、「長いプロセス」になる可能性があると述べた。一方で、プーチン氏は追加動員の必要はないと述べた――少なくとも今は。
ロシア プーチン大統領「このような状況下で、追加動員について話すのは意味がない。国家も国防省も必要としていない」
9月から10月にかけて予備役兵30万人が招集された。これは第2次大戦後初めてのことだ。 ロシア社会は大きな不安と混乱に陥った。
プーチン氏は7日の演説で、ロシアはあらゆる手段を使って自国を防衛すると西側をけん制した。プーチン氏は、核戦争のリスクが高まっていると述べた。そのうえでロシアは核を先制攻撃ではなく、報復の手段とみなしていると付け加えた。
「われわれは正気を失ったわけではない。核兵器が何であるかを理解している。他のどの核保有国よりも高度かつ近代的な核兵器の手段を持っていることは明らかだが、核兵器をかみそりのように振り回しながら世界を駆け回るつもりはない。だがもちろん、我々はそれを手に入れたという事実から前進するのだ」
プーチン氏は、7月にまだまだ始まったばかりだと豪語したが、これまで戦争の期間について言及することはほとんどなかった。
一方ウクライナ市民にとって、およそ10カ月の戦争を経て、冬の訪れや空爆の激化とともに恐怖は増すばかりだ。キーウのクリチコ市長は7日、ロシアによるインフラ攻撃が続けば、「終末シナリオ」もあり得ると述べた。
キーウ市 クリチコ市長「キーウは電力、水、暖房の供給を失うかもしれない。気温の低さを考えれば住宅に住むことができず、ハリウッドの恐怖映画に出てくるようなアポカリプス(終末)が起こるかもしれない。だがそれが起こらないよう我々は戦っている。できることはすべて手を尽くしている。私たちは戦っているのだ。あきらめてはいない」
完全に電力を失った場合、キーウには人口360万人を収容するのに十分な暖房付きシェルターがない。クリチコ市長は事態の悪化に備えて避難の準備をしておくよう、市民に呼び掛けた。
あるキーウ市民は、人々は勝利ができるだけ早く訪れ、自宅に住めるよう祈っていると語った。
●プーチン氏「ロシアの核戦力は他の保有国より進んでいる」… 12/8
ロシアのプーチン大統領は7日、侵略するウクライナをめぐって核戦争の「脅威は高まっている」と述べた。「核は防衛手段として考えているが、我々に向けて攻撃があれば対抗する」とも主張した。苦戦が続く中、ウクライナを支援する米欧を改めてけん制した。
人権に関する大統領の諮問機関メンバーとの会合で語った。ロシアの核戦力について「他の核保有国よりも進んでいる」と語り、ロシアが優位にあると主張し、「我々は保有する全ての手段によって国益を守る」と強調した。
プーチン氏は、兵員補充で実施した31万8000人の部分的動員について、約15万人がウクライナに派遣され、このうち約7万7000人が戦闘任務に就いていると明らかにした。全体の「約半数」は訓練を受けているという。「この現状では追加の動員は必要ない」と述べ、追加招集に対する根強い懸念の 払拭ふっしょく を図った。
戦闘任務に当たる兵員数は、11月上旬にプーチン氏が説明した約5万人から増え、東部ドンバス地方の部隊増強などに投入されているとみられる。
露軍は、各地のエネルギー施設への攻撃も続けている。ウクライナ国営電力会社ウクルエネルゴは7日、露軍が6日夜にも複数のエネルギー施設を攻撃したと発表した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7日のビデオ演説で、露軍に占領された計1888か所の市や町を奪還したと説明した。「ほぼ同数がまだ占領されている」とも述べ、反撃の構えを強調した。
●「ウクライナに開戦責任」 追加動員の観測否定―ロシア大統領 12/8
ロシアのプーチン大統領は7日、ウクライナ侵攻について「戦争はわれわれが火ぶたを切ったのではなく、2014年にウクライナで権力を握った(親欧米派)政権が開始した」と主張した。「特別軍事作戦」と位置付ける侵攻の目的達成まで、道のりは長いという認識も示した。人権関係の会合で語った。
親ロシア政権が倒れた8年前のウクライナ政変に関し、プーチン氏はかねて欧米による旧ソ連圏での「カラー革命」と見なしている。今年2月に始まった侵攻も、北大西洋条約機構(NATO)東方拡大を背景とした「自衛戦争」だとする持論を展開した形だ。
最近ではロシアが「被害国」という印象を自国民に植え付けた上で、長期戦も視野に愛国心高揚を狙って「戦争」という言葉を多用している。反体制派が「侵攻」や「戦争」と呼ぶと刑事罰に問われるが、政権側は問題視されないという二重基準も浮かび上がっている。
また、予備役30万人を招集した動員令を巡り、プーチン氏は15万人を作戦地域に投入し、うち7万人以上が前線に展開したと説明。「追加動員の話はナンセンスだ」と述べた。
動員のための9月の大統領令は、招集人数が公開されていない。「100万人」とも報じられ、独立系メディアは最近、政権が来年1月に追加動員を始める見通しだと伝えた。プーチン氏は火消しを図った格好だが、動員終了を宣言する大統領令は出しておらず、国民の間には懸念がくすぶっている。
●ロシア、「あらゆる手段」で戦闘継続 プーチン氏 12/8
ロシアのプーチン大統領は7日、ロシアは、必要であれば、利用可能なあらゆる手段を用いて国益のための戦いを継続すると述べた。
プーチン氏はクレムリン(ロシア大統領府)で、「我々は保有しているもので前進する。ロシア側からの答えは唯一つしかない。国益のために一貫して戦うということだ」と述べた。ロシアは平和的な手段に集中するとしたが、残されている手段がなければ、利用できるあらゆる手段を使って自衛を行うとした。
プーチン氏は、部分動員によって招集された30万人について、15万人が現在ウクライナにいると明らかにした。戦闘部隊に配属されたのは7万7000人にとどまっており、残りは領土防衛部隊に配属されたり追加の訓練を受けたりしているという。
プーチン氏は、追加の動員について、現時点では意味がないと述べた。
プーチン氏はまた、ウクライナにいるロシア軍の装備不足の問題を解決すると約束した。

 

●プーチン大統領 ウクライナでのエネルギー施設攻撃は“報復”  12/9
ロシアのプーチン大統領は、軍事侵攻を続けるウクライナで繰り返し行っているエネルギー関連施設を標的にした攻撃について、ロシアの発電所などが破壊されたことへの報復だと主張しました。
ウクライナ各地では、ことし10月以降、発電所などエネルギー関連施設に対するロシア軍のミサイル攻撃が繰り返されていて、ウクライナ国営の電力会社は8日、冬場の悪天候や相次ぐ攻撃で復旧が思うように進まない厳しい状況をSNSで訴えました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は8日、首都モスクワで、軍の兵士たちを前に「隣国のエネルギー関連施設への攻撃がいま騒がれている。そのとおり、われわれはやっている」と述べ、発電所などを狙い攻撃を行っていると認めました。
その上で「誰が始めたのか。クリミアに続く橋を損傷させ、ロシア国内の発電所を爆破したのは誰か」などと述べ、みずから始めた軍事侵攻には触れず、一連の攻撃はロシア側の施設が破壊されたことへの報復だと主張しました。
ただ、12月5日にロシア国内の空軍基地がウクライナ軍の無人機による攻撃を受けたとされる件については言及しませんでした。
ウクライナでは8日もロシア軍による砲撃が行われ、東部ドネツク州のキリレンコ知事は、前の日に州内で少なくとも9人が死亡したほか、8日にはウクライナ側の拠点のひとつバフムトの周辺で砲撃があり、2人が死亡したとSNSに書き込みました。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、「ロシアの新しい地域では解放されるべき領土がまだ残っている」と述べ、プーチン政権が併合したと一方的に主張するウクライナ東部と南部の4州の掌握を目指し侵攻を続けていく考えを改めて示しました。
●ロシア領土内で続く“攻撃” プーチン政権は報復するのかどうか 12/9
ロシアでは8日もロシア領土内への攻撃が起きました。こうした中、プーチン大統領は「核兵器使用」について言及してみせましたが、表立った報復行動にはまだ出ておらず、次の一手が注目されています。
今週はロシアの空軍基地での無人機攻撃が続いたほか、8日にはウクライナに隣接するロシア西部ベルゴロド州の知事がSNSを通じて「州内の町がウクライナ軍の砲撃を受けた」と発表しました。しかし、こうしたロシア領土内での出来事がウクライナ側からの攻撃かどうかはまだ明確になっていません。
ところで、JNNの取材に対して、ロシア関係者はロシアの核兵器使用について「国境を越えて、ロシア領土への攻撃があった場合がレッドラインである」との見方を示しています。これに関連しては、ドローン攻撃の後の7日、プーチン大統領が「核兵器」について言及してみせました。
この中で大統領は、ロシアにとって核兵器が「防衛手段」であるものの、世界的な核戦争のリスクの「脅威が増している」と述べ、あくまで欧米側の行為が核使用の引き金になるとのロジックを改めて展開しました。
一方、今回のロシアへの無人機攻撃について、アメリカ政府は7日、「ウクライナにロシア国内への攻撃を促していない」として、ウクライナ側に自制を促すとともにアメリカが関与していないことを示唆しました。
しかし、ウクライナ政府の高官は、ロシアへの無人機攻撃に関連して「ロシアに安全地帯はなくなるだろう」と発言したとイギリスのフィナンシャルタイムズが伝えています。ウクライナ側はロシアに対し、遠隔攻撃での報復を強化する可能性を示唆しています。
しかし、10月にはロシアが一方的に併合した南部クリミアの大橋で爆発が起きた直後、ポドリャク大統領府長官顧問は「これが始まりだ。違法なものは、すべて破壊されなければならない」などとSNSでウクライナ軍による攻撃を示唆。ロシアは、ウクライナ各地にミサイルで報復行動をとりました。
今回のロシア領土内での一連の出来事に関して、ウクライナを含めた各国の対応をどう評価し、どのように行動を展開するかはプーチン政権側の解釈によるところが大きい状況が続いています。
また、戦意を強めるウクライナとの共同歩調をどこまでとるのかも含め、各国はそれぞれの事情に応じた慎重な対応を必要とせざるを得ない状況になっています。
●プーチン大統領、「あらゆる手段を使って領土を防衛」、核の脅威 12/9
ロシア本土の軍施設が最近2日連続で攻撃され、プーチン大統領(写真)が「核戦争の脅威が高まっている」と述べた。ロシアは、核兵器は防衛手段であり潜在的な反撃手段とみなすとして、再び核の脅威を強調した。これに対して米国は「無責任だ」とプーチン氏を批判した。プーチン氏は公開会議で戦争の長期化を異例にも明らかにした。
7日(現地時間)、米CNNなどによると、プーチン氏は同日、テレビで放送された人権委員会の年次総会で、「必要ならあらゆる手段を使って領土と同盟を守る」とし、核兵器の使用可能性を示唆した。そして、「米国の核兵器が欧州に多数配備されているが、ロシアは核兵器を他の領土に送らず、そのような計画もない」とし、むしろ米国が核脅威を高めていると非難した。プーチン氏は、「われわれは正気を失ったわけではない。核兵器が何であるかを理解している。他のどの核保有国よりも高度かつ近代的な核兵器の手段を持っていることは明らかだが、核兵器を振り回すつもりはない」と述べ、核兵器を先制攻撃ではなく抑止手段として見ていると強調した。ロシア領土に対する攻撃を口実に核兵器の使用可能性を示唆したとみられる。
これに対して米国務省のプライス報道官は、プーチン氏の核兵器に関する発言を「浅慮な発言(loose talk)」と述べ、「それがどのような内容でも無責任だ」と批判した。
プーチン氏が先制的な核攻撃をしないと言っても、反撃を主張して核兵器の使用可能性を示唆したことに対して懸念の声が出ている。カーネギー国際平和基金のタチアナ・スタノバヤ上級研究員は、米紙ニューヨーク・タイムズに、「プーチン氏の抽象的で自己矛盾的な発言は、ロシアの大衆と国家エリートに提示する一貫した軍事戦略がないことを示唆する」と分析した。
プーチン氏は同日の会議で、「特別軍事作戦(ウクライナ戦争)の期間について言えば、長い過程になる可能性がある」とも明らかにした。これまで戦争期間に触れなかったプーチン氏が、異例にも戦争の長期化を認めたのだ。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は同日、英紙フィナンシャル・タイムズが主催したイベントで、「ロシアはウクライナの攻勢で今回の戦争で転換点を迎えることになった。軍隊を回復して再編成した後、より大きな攻勢に出るために、短い休憩や短い中断を試みようとしている」と指摘した。
戦争の長期化で、ウクライナ内は苦痛を訴えている。キーウ(キエフ)のクリチコ市長は、ロイター通信のインタビューで、「空爆が続く場合、冬には災いが起こり得る」と懸念を示した。「キーウは電力、水、暖房の供給を失うかもしれない。ハリウッドの恐怖映画に出てくるような終末が起こるかもしれない」と話した。
●ウクライナ侵攻で注目のザポリージャ、ロシアにとってなぜ重要か 12/9
ロシアによるウクライナ侵攻から9カ月が経った。両国を巡る情勢に詳しい河東哲夫元駐ウズベキスタン大使は、国際社会による停戦圧力が徐々に強まるなか、ウクライナの今後の出方に注目する。同時に、河東氏は「ロシアの国際的地位がどんどん下がっている」とも指摘する。
――現在の状況をどのように見ていますか。
ロシア軍は11月、ウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソン市から撤退しましたが、ドニプロ側東岸地域を依然、占領しています。この撤退による影響について、水と鉄道に注目しています。
ドニプロ川北方に、カホフカダムと貯水池があります。この大きな貯水池のはずれには、現在ロシアが占領しているザポリージャ原発があり、冷却水を採取しています。
この貯水池から南下する北クリミア運河は、クリミア半島にとって、ほぼ唯一・最大の水供給源にもなっています。2014年、ロシアがクリミア半島を占拠してしばらくして、ウクライナはこの北クリミア運河に障壁を設けて、クリミア半島に水が流れないようにしました。
2022年2月、この地域にも攻め込んだロシア軍が真っ先にしたことは、北クリミア運河の障壁を破壊し、クリミアに水を通すことでした。ヘルソン市からのロシア軍撤退で、北クリミア運河がまた塞がれたとは聞いていませんが、当面の焦点の一つです。
また、この地域、特にザポリージャは鉄道の結節点にあたります。ロシア領からウクライナに入って西に進む鉄道は、ここでクリミアに南下する鉄道と接続します。
ロシア軍は補給を主として鉄道に依存していますが、ロシアとクリミアを結ぶ路線は二つしかありません。一つは先日、一部が爆破されたクリミア橋を通る路線(現在は単線で再開しているようです)、もう一つはこのザポリージャを経由する路線なので、ロシアにとって死活的に重要なのです。
10月29日、クリミア半島の軍港セバストポリで、ロシアの軍艦がウクライナの水上・水中ドローン(無人機)による攻撃を受けました。セバストポリは、ロシアの黒海艦隊にとって、ほぼ唯一の拠点で、ここが安全でないと、ロシアの黒海艦隊は機能しなくなります。
既に4月、旗艦の「モスクワ」をウクライナのミサイルで撃沈されています。ロシアは補充のために、太平洋艦隊のミサイル巡洋艦「ワリャーグ」を黒海に入れようとしましたが、トルコがボスポラス海峡の通過を拒み、実現しませんでした。ロシア軍による黒海の制海権はかなり怪しい状態になっています。
一方、ウクライナ東・南部ではロシア軍とウクライナ軍の戦闘が続いていますが、10月までとは異なり、戦線は膠着状態にあります。秋の長雨により土地が泥濘化したため、軍の進撃ができないためでしょう。
ロシアは、ウクライナの変電所や電力結節点をミサイルで攻撃していますが、電力が来なくなると、ロシア軍の鉄道輸送にも影響が出ます。ロシアはミサイルの在庫と増産能力に限りがあり、最近では核戦争用のミサイルから核弾頭を外して使用を始めた、とウクライナ側が主張しています。
ロシアは、ウクライナの発電所を破壊しているわけではないし、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国もウクライナに変圧器などを送り始めましたので、停電が広い範囲で長期にわたって続くこともないでしょう。
これから、冬になって地面が凍結すれば、お互いに軍を進軍させるかもしれませんが、まだ戦局がどちらに有利に働くかは見通せない状況です。
――11月15日のポーランドへのミサイル着弾を巡っては、NATO諸国の慎重な姿勢も目立ちました。
ミサイル着弾の数日前、米国のサリバン大統領補佐官がモスクワを訪れ、ロシアのウシャコフ大統領補佐官やパトルシェフ安全保障会議書記らと会談しました。サリバン氏はその後、キーウ(キエフ)を訪れ、ウクライナのゼレンスキー大統領とも会談しました。
サリバン氏はゼレンスキー氏に、「『プーチンがいなくならない限り、交渉はしない』などと言わないでほしい。そのような硬直した発言で、西側はウクライナを支援する意欲を失う」と語ったという報道もありました。
米軍のミリー統合参謀本部議長も11月9日、「ウクライナ、ロシア双方とも、軍事的手段では目的を達することができないかもしれない。それを双方が認識した時が、交渉のチャンスだ」と指摘しました。
ポーランドにミサイルが着弾した数時間後には、バイデン米大統領が訪問先のインドネシア・バリ島で記者団に対して「初期の情報はそれ(ロシア国内からのミサイル発射という事実)に反している」と述べたうえで、「軌道を考えるとロシアから発射された可能性は低い」と語りました。
ミサイルがどこから撃たれたのか、真相ははっきりしませんが、はっきりしたのは、欧米諸国の間で「支援疲れ」が明確になり、停戦を望む動きが増えてきたということです。ただ、ウクライナにはこの停戦の働きかけを受け入れる動きは見えていません。
――ウクライナでどのような戦略が練られているのでしょうか。
「ウクライナの人々は愛国心に燃えて、一致団結して国を守っている」という報道が目立ちますが、実態は一枚岩ではないと思います。
ロシア系のニュースですが、ウクライナ富裕層の一部が本国を脱出し、地中海沿岸に滞在しているという話があります。与党国会議員の一部にも同じような動きがあったようですし、徴兵を逃れて国外に出た人もいるようです。
ゼレンスキー大統領は本来、選挙公約としてクリミアなどウクライナ東部を巡る紛争和平を巡る「ミンスク合意」の実現や早期和平を掲げて当選した人物です。
しかし同様のことを目指したポロシェンコ大統領が任期早々、極右からその主張を止められたのと同様、ゼレンスキーも極右から厳しい縛りを受けるに至っています。
最近は極右勢力の中核だったアゾフ大隊がウクライナ南部・マリウポリの陥落によって崩壊しましたが、また数を盛り返しているようです。
一方、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は極右勢力の影響下にない人物だと思います。ザルジニー氏はウクライナ軍の実力を誰よりもよく知っている人物ですから、むしろ、停戦を支持する可能性があります。
ただ、ウクライナのゼレンスキー政権の内部権力図はほとんど明らかになっていません。今後、停戦を巡って政権内部や、大統領府と軍との間などで、摩擦が起きる可能性もあります。大統領府は最近の戦果でザルジニー司令官の人気が上がることを警戒している、という報道があります。
――ロシアのプーチン政権も苦境が続いているようです。
ロシアの国際的地位は、どんどん下がっています。相対的にユーラシア大陸の中央部でトルコの影響力が強まっています。
ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議が11月23日に開かれましたが、議長国アルメニアのパシニャン首相が宣言への署名を拒否しました。隣国アゼルバイジャンとの紛争へのCSTOの対応に不満があるためです。
ただ、CSTOは解体しないでしょう。CSTOは解体したワルシャワ条約機構の残滓をかき集めたもので、司令ラインも決まっていないなど、NATOと比べると大した実体がなく、わざわざ解体することもないでしょう。
ロシアとベラルーシも微妙な関係が続いています。2020年8月のベラルーシ大統領選でルカシェンコ氏が圧勝しましたが、票の不正操作があったとして激しい抗議活動が起きました。
その後、ルカシェンコ氏はプーチン氏の後ろ盾があって、ようやく政権を維持していますが、彼も海千山千の人物で、ウクライナへの介入には慎重です。ロシアは、今回の事態に乗じてベラルーシへのロシア軍の駐屯を認めさせましたが、ベラルーシの参戦にまでは至っていません。
今月2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻は、2014年のクリミア強制併合から連続して起きた事件であり、全く新しい戦争ではありません。2014年以後も、東ウクライナでは戦闘が散発的に続いていたのです。
しかし、2月の侵攻は、ロシアが正規軍で白昼堂々侵攻して、他国の領土を手に入れるというやり方であり、国連を中心とした国際社会が到底受け入れられないものです。中央アジア諸国は、まさにこの点からロシアとの距離を取り始めているのです。
――この先の展望は見通せないのでしょうか。
過去、ロシアは何度も「冬将軍」に助けられてきました。ナポレオンもナチスドイツも、モスクワ占領をあきらめざるを得ませんでした。
しかし今回、「冬将軍」はウクライナを助けるかもしれません。「冬将軍」はいつも、守る側より攻める側につらく当たります。攻める側は防寒具、食料の補給で劣勢に立っているからです。
なお、ゼレンスキー大統領は、自国のエネルギー施設を標的にしたロシアの攻撃について「エネルギーテロだ」と非難していますが、既に申し上げたように、これでウクライナが凍り付いてしまうこともないでしょう。
ロシア・極東地方は10年以上前、停電が日常茶飯事でした。それでも、凍死者が続出したという話は聞いていません。ウクライナ市民も、電力がなければ、ガスや木材を使って生き延びるでしょう。
天然ガスは、ウクライナを通るパイプラインで、相変わらずEU諸国に供給されていますので、ウクライナは途中でガスを「抜けば」いいのです。そういうことは、これまでにもありました。
ウクライナは今、利用できるものはすべて使い、徹底抗戦を考えているように見えます。ロシアによる侵攻から9カ月以上が経ちましたが、まだ国際世論はウクライナに同情していますから、ウクライナは今しばらく、抗戦を続けられるのではないでしょうか。
一方、プーチン大統領は10月19日、軍需生産を増強するための「特別調整委員会」の設置を発表しました。これは軍事優先の戦時経済体制を意味します。議会の承認を受けた予算案を無視して、資金・資源を優先的に軍事に投入できます。
こんな状態が長く続けば、ロシア経済はソ連時代の統制・計画経済に逆戻りしていくでしょう。原油輸出収入も、西側制裁でこれから減少していきます。
輸入が途絶えることで、2000年代以降作られた、ロシア各地にある超巨大なショッピングセンターが廃墟になるかもしれません。ウクライナだけではなく、ロシアにも厳しい冬になりそうです。ウクライナ、ロシア、どちらが先に立ちゆかなくなるか、わからない情勢になっています。 
●プーチン氏、ウクライナのエネルギー設備破壊認める 「始めたのは誰だ」と 12/9
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8日、ウクライナのエネルギー設備破壊について「確かに我々がやっていることだ。しかし、始めたのは誰だ?」と述べた。ウクライナでは現在、降雪が続く氷点下の寒さの中、数百万人が電気や水道のない状態で暮らしている。
クレムリン(ロシア大統領府)で開かれた「ロシアの英雄」賞などの表彰式に出席したプーチン氏は、諸外国がロシアをどのように非難しても、「我々の戦闘任務を妨げるものではない」とも述べた。
戦場で後退が続いたロシア軍は10月10日から、ウクライナの電力系を次々と攻撃してきた。民生インフラを意図して破壊するこの戦術について、西側では戦争犯罪だと非難する声も出ている。
複数の専門家はBBCに対して、エネルギー・インフラを破壊するというロシアの戦法は、具体的な作戦上の戦果を挙げるためというよりは、ウクライナの住民を威圧し、士気をくじくことが目的で、その場合は国際法違反にあたると指摘している。
ロシアはこれを再三、否定してきた。
●“プーチンのロシア” 社会にはびこる病は“無関心” 12/9
「戦争を防ぐことができなかったわれわれは受賞に値する団体なのか」
ことしのノーベル平和賞に選ばれたロシアの人権団体「メモリアル」の幹部はこう語り、複雑な胸の内を明かしました。
ソビエト時代に創設され、一貫して人権侵害の監視に取り組んできた「メモリアル」。2000年のプーチン政権発足後のロシア社会をどう見てきたのか。ウクライナ侵攻後のロシアはどうなっているのか。話を聞きました。
ロシアの人権団体「メモリアル」とは
「メモリアル」はソビエト時代の1987年に創設され、政権による政治弾圧を記録するなど人権侵害の監視に取り組んできました。2016年にはプーチン政権からスパイを意味する「外国の代理人」に指定されます。そして2021年12月。ウクライナへの軍事侵攻直前に、外国の団体から資金を得て活動しているなどとしてロシアの最高裁判所から解散を命じる判決を言い渡されました。侵攻後の2022年3月には治安機関による事務所の捜索まで行われたという人権団体「メモリアル」。その幹部オレグ・オルロフ氏がNHKのインタビューに応じました。以下、「メモリアル」の幹部オレグ・オルロフ氏の話。
「われわれは受賞に値するのか」
ノーベル平和賞が私たちに授与されることを知ったとき、私たちはこれが本当に起こったことなのか驚き、信じられない思いでした。その日の朝、私はもて遊ばれているのではないかとさえ思いましたが、その後、喜びと感謝の気持ちが起こりました。なんとも不思議な感覚でした。ご存じのように、恐ろしく、残酷で、血なまぐさい戦争が行われているときに私たちは平和賞を受賞することになりました。私たちを含むロシアの市民団体はこの戦争を防ぐことができませんでした。私たちは平和賞に値する団体なのでしょうか。その問いへの答えはまだ出ていませんが、私と私の同僚にとってこれは非常に重要な賞です。いまの非常に厳しい状況において強力な精神的な支えであり、私たちが仕事を続けるための励みになります。
2000年のプーチン政権発足後のロシア社会とは?
ロシアでは2000年代に入り徐々に言論の自由が破壊されロシア国営テレビだけが「現実」を作っていきました。当局によって人々は「自分たちは何も達成できない」と吹き込まれていきました。「自分の世界にいなさい」と言うのが当局の仕事でした。そして彼らはそれを達成しました。もちろん、非常に活動的で社会で起こっていることにすぐに反応することのできる人たちはまだ残っていますが少ないです。大多数は自分の無力さを学び、その無力さのために自分自身に関係すること以外は何も興味がわかなくなっています。それは大きな悲劇でロシア社会の病気だと言えるでしょう。人々は自分の狭い境界の外で何かをすることは非常に危険であるという“恐怖”を植え付けられています。当局を批判することは非常に危険です。確かに政治的抑圧があります。スターリン下のようなものではなく、社会を威嚇するために特別に作られた広く選択的な抑圧です。人々はジャーナリストや社会学者、特に外国のジャーナリストと話すことを恐れています。あなたと話すことで自分自身を危険にさらすよりも「私は何も知りません。興味がありません」と言って引っ込むほうがよいのです。
抑圧に対する抵抗はなかったのか?
2000年以降、人権に対する攻撃は絶え間なくありましたが、2011年から2012年にかけてプーチン氏の権力復帰に対する不満から人々がこれに抵抗するといううねりがありました。社会活動の急増、抗議行動の急増、社会が憤慨し巨大な抗議行動が起こりましたが、過酷な法律、人々の投獄、政治的プロセスによって抑え込まれました。社会に示されたのは「干渉するな。危険だ。罰するぞ」ということです。人権に対する攻撃は強力な時、ゆっくりとした時、後退したこともあり、状況にわずかな改善があった瞬間もいくつかありました。それと同時に市民社会への攻撃もありました。それは時期によってさまざまな形を取りました。もう22年がたちます。22年の間にロシアの社会は徐々に劣化していったのです。
ウクライナ侵攻後のロシアはどうなっているのか?
侵攻直後の2月には反戦運動が盛り上がり非常に強力な抗議が行われました。多くの都市で人々が街頭に繰り出し有名な文化人たちの抗議の手紙が集まりました。戦争反対の請願書には100万を超える署名が集まりました。このようなことが集中して起こりました。そして、私の記憶ではこれが市民の抗議活動の最後のうねりでした。その後の苛酷な法律、人々の投獄、巨額の罰金。これらのことで市民社会は怯えてしまいました。公に戦争反対と言うだけで少なくとも巨額の罰金が待っています。もしくは数日間、15日、30日ほど拘束されます。そして次の段階では実際に刑務所に収容されてしまいます。何年にもわたって収監されるのです。言葉だけで。おわかりいただけますか。そのような法律が多く施行されました。そして今も施行され続けています。ロシアではかなり大規模な出国、国外への出国が始まりました。まず出国するのは抗議活動の中心となる人たちです。若く、活発で、思慮深い人たち。これはロシアに対するプーチン大統領の恐ろしい犯罪です。ロシアが、自国の将来のための人材を失っているのはとてもひどいことです。
なぜ「メモリアル」は解散させられたのか?
もし「メモリアル」が合法的に存在し続けたなら反戦運動のプラットフォームになることは明らかでした。そのためウクライナへの軍事侵攻前に社会運動の場を排除しようとしたのだと思います。われわれはこの国の抑圧された歴史と向き合い人権問題に取り組んできましたが、治安当局はそれを非常に嫌い、いらだっていました。当局にとって歴史とは政治の“ツール”にすぎません。彼らがそこで考えだそうとしているのはウクライナに関する歴史的研究のようなもので「ウクライナという国は存在せず、そのような民族は存在しない」というようなたぐいのことです。彼らにとって歴史とはそのような“ツール”なのです。私たちが歴史について敬意を持って話し、真剣な社会調査を行い、ロシアという国の犯罪行為について思い出させるとき、彼らはそれが気に入らないのです。彼らは私たちが人権問題を扱っているということも同じくらい気に入っていません。私たちは現在ロシアにいる政治犯のリストを公開しています。すべての人について説明し、これが政治的迫害であることを証明しています。彼らにはこれらすべてがとても気に入らないのです。プーチン大統領は、もし、ロシアでの世論や、市民社会、反体制派を抑えることができなかったならば、おそらく、この戦争を始める危険を冒さなかったでしょう。
今後の活動はどうするのか?
私たちが解散させられたとき、法廷でもはっきりと話しました。特定の団体、法人を解散することはできても、人々の共同体としての「メモリアル」を解散させることはできません。私たちは活動していますし、活動していきます。解散させられましたが、活動しているのです。自宅で、他の方法で、半地下で、地下で、引き続き活動していきます。そして、外国に行った私の同僚たち、かなりの数が去りましたが、彼らは助かるために去ったのではありません。彼らはみな国外で活動するために去ったのです。ここでそれができないなら、国のためにその地で活動します。私たちはみな仕事を続けています。アーカイブとライブラリの両方を保存するよう努めており、保存できると思います。そして今も人権を守り続けています。私たちができることは働き続けることです。私たちにとって重要なことは何があっても活動をやめず、仕事を続けることなのです。
●最側近が謀反か 窮地のプーチン大統領に追い打ち 12/9
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻について長期化するとの見通しを示した。核兵器の脅しも使うが戦況の劣勢は誰の目にも明らかだ。プーチン氏の求心力に陰りが見えるなか、政権内で力を強め、「ポスト・プーチン」との観測も浮上するのが民間軍事会社「ワグネル」創設者で実業家のエフゲニー・プリゴジン氏だ。強硬派と知られる側近が謀反を起こすのか。
プーチン氏は7日、ウクライナでの軍事作戦が「長期にわたる可能性がある」と発言。「(黒海北部の)アゾフ海がロシアの内海になった。(帝政ロシアの)ピョートル1世はアゾフ海進出を目指し戦った」と皇帝になぞらえて侵攻を正当化し、世界的な核戦争のリスクについて「脅威が増している」と語った。
プーチン氏の強気とは裏腹に、ロシアの空軍基地が無人機(ドローン)で攻撃されるなど混乱は続く。そうしたなか、ウクライナで苦戦するロシアの正規軍を批判するなど、発言力を増しているのがプリゴジン氏だ。
新興財閥「オリガルヒ」として知られるプリゴジン氏は、ウクライナの前線に傭兵部隊を派遣する「ワグネル」の創設者であることを最近になって認めた。
11月に行われた米中間選挙を含む米国の選挙に介入してきたことも公言している。インターネット企業を使ってトランプ氏を大統領選で勝たせる工作を行ったとして、米連邦捜査局(FBI)はプリゴジン氏を賞金25万ドル(約3400万円)で指名手配した。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「米中間選挙の最中にフリーハンドの発言をすることで米国を相手に自身の影響力を誇示し、『プーチン大統領より上だ』とアピールした形だ。24年のロシア大統領選への事実上の出馬宣言≠ニみることもできる」と解説する。
露独立系メディア「メドゥーザ」などによると、プリゴジン氏は1990年代にサンクトペテルブルクでホットドッグの屋台を始め、97年ごろに同市でレストランを開業。当局の職員や副市長だったプーチン氏も客となり、信頼を得た。
プーチン氏が大統領となってから、クレムリン(大統領府)とケータリング契約を結んだほか、フランスのシラク元大統領、ブッシュ元米大統領ら海外要人との会食もプリゴジン氏の店で行われるなど、「プーチン大統領の料理人」と呼ばれるようになった。
プリゴジン氏が、軍事作戦を公に支える勢力となったことで、政府当局者や富裕層が身の安全への不安を募らせているとブルームバーグは伝えた。現状を「軍事クーデターなしの軍事独裁」と呼ぶ向きもあるという。
前出の中村氏は「24年の大統領選に向けて、言論統制や官僚への締め付けが強まれば、密告や猜疑心が横行したスターリン時代に近づく恐れもある。ほかのオリガルヒもプーチン氏の求心力低下によって既得権を失うことを恐れているのではないか」と指摘する。
プーチン氏はもはや「まな板の上」なのか。
●プーチン氏、露の求心力低下に焦り 非欧米諸国に結束訴え 12/9
ロシアのプーチン大統領は9日、中央アジア・キルギスの首都ビシケクで開かれたユーラシア経済連合(EAEU)首脳会議に出席し、EAEUが「世界市場の激動と好ましくない政治情勢の中でも一貫して発展してきた」と述べ、結束を強調した。プーチン氏は同日、モスクワでの独立国家共同体(CIS)と上海協力機構(SCO)の合同国防相会合にもビデオ声明を寄せ、両組織の協力を深めるべきだと訴えた。
ウクライナ侵略では、ロシアは「勢力圏」とみなす旧ソ連諸国の多くや友好国とする中国やインドからも支持を得られていない。プーチン氏が旧ソ連諸国で構成されるEAEUやCIS、中露主導のSCOに結束を呼び掛けた背景には、ロシアの求心力低下への焦りがあるとみられる。
プーチン氏はEAEU首脳会議で、ロシアなどが供給しているEAEU圏内の天然ガス価格が、欧州連合(EU)圏内のガス価格の10分の1以下だと指摘。失業率も「EAEUはEUの7分の1だ」と主張し、EAEUを主導するロシアの貢献をアピールした。
首脳会議にはロシアとベラルーシ、カザフスタン、キルギス、アルメニアのEAEU加盟全5カ国の首脳が出席した。
一方、プーチン氏はCISとSCOの合同国防相会合へのビデオ声明で、非米欧諸国の成長により世界に「真に多極的な世界秩序」が形成されつつあると主張。米欧がその流れに逆らい、世界の一極支配を続けようとしていることが世界の不安定化の要因だとする従来の持説を披露した。
プーチン氏はウクライナ情勢も同様の文脈上にあるとし、「米欧がウクライナを従属させようとした結果だ」と侵略を正当化。その上で、非欧米諸国の集まりと位置付けるCISとSCOの連携強化を訴えた。
●ロシア武器商人の釈放、プーチン大統領の勝利=国営メディア 12/9
ロシアの国営メディアは9日、同国の武器商人ビクトル・ボウト受刑者と米女子バスケットボール選手の囚人交換について、プーチン大統領が「勝利した」と報じた。
世界有数の武器商人で「死の商人」として知られるボウト受刑者は米女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)のブリトニー・グライナー選手との囚人交換で釈放され、8日夜モスクワに到着した。
ロシア下院議員マリア・ブティナ氏は国営テレビに「これは米国の降伏だ」と述べた。
ロシア外務省は、囚人交換にボウト受刑者を参加させるための対話を米国は断固として拒んだとした上で「それにも関わらずロシアは同胞を救出するために積極的に働き続けた」と主張した。
●モディ首相、プーチン大統領との首脳会議見送りへ−核兵器の言及受け 12/9
インドのモディ首相は、ロシアのプーチン大統領がウクライナでの戦争で核兵器使用の脅威に言及したことを受け、同大統領との定例の首脳会談を今年は行わない意向だ。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
ロシアのプーチン大統領、世界で「核戦争」のリスク高まっている (2)
インドとロシアの関係は引き続き強固だが、両国の友好を現段階でアピールすることはモディ首相にとって有益ではない可能性がある。センシティブな情報を話しているとして、匿名を要請した高官1人が語った。
インドとロシアは両国の関係が戦略的パートナーシップに発展した2000年以降、毎年対面で首脳会議を続けてきた。通常は12月に行われる印ロ首脳会談が中止されたのは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が最も厳しかった2020年の1度だけ。今年も見送りなら2度目となる。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、印ロ首脳会談について「今年はない」と話したと、国営タス通信が9日報じた。非公開情報を話しているとして匿名を条件に述べたロシア政府当局者は、今年9月にウズベキスタンで行われた地域サミットで、モディ首相がプーチン大統領にウクライナでの和平を模索するよう求めた時にインドの決断は明らかだったと語った。

 

●プーチン大統領 別のアメリカ人の解放について含みを持たせる  12/10
アメリカとロシアの間で身柄の交換が行われ双方が釈放されたことについて、ロシアのプーチン大統領は交渉はアメリカ側からの提案だったとしたうえで「ほかの交換も可能だ」と述べ、別のアメリカ人の解放について含みを持たせました。
ロシアでことし2月に拘束され、実刑判決を受けていたアメリカの女子プロバスケットボールのグライナー選手は、アメリカで服役していたロシア人の身柄と交換する形で8日、釈放されました。
プーチン大統領は、訪問先の中央アジアのキルギスで9日に行ったロシアメディア向けの会見で、治安機関のFSB=連邦保安庁が交渉を担ったとしたうえ「アメリカ側が主導したものだ。バイデン大統領が提案し、われわれも同意した」と述べました。
そして「情報機関どうしの接触は続いている。ほかの交換は可能なのか。何でも可能だ。今後もこの作業を拒むものではない」と述べ、2018年に、スパイ活動をしていたとしてロシアで拘束されたアメリカの元海兵隊員の解放について含みを持たせました。
一方、交渉がアメリカ側とのより幅広い対話につながる可能性を示唆しているのか問われたのに対して、プーチン大統領は「この交渉から別の対話に移ることを目指したわけではない。交渉でほかの問題は議論されていない」と述べ、否定的な考えを示しました。
●ロシア、将来的にウクライナ協定 「ミンスク合意」は裏切り=プーチン氏 12/10
ロシアのプーチン大統領は9日、ロシアは将来的にウクライナに関する何らかの合意を行う必要があるとしながらも、ウクライナ東部紛争の和平への道筋を示した「ミンスク合意」で裏切られたと感じていると述べた。
ミンスク合意は、2014─15年にウクライナ東部で起きた同国軍と親ロシア派武装勢力との紛争の和平への道筋を示す合意で、独仏が仲介してベラルーシの首都ミンスクでまとめられた。
プーチン氏はこれについて、同合意を仲介した独仏はロシアを裏切り、現在はウクライナに武器を供給していると非難。「ミンクス合意の枠組みの中で合意できると考えていたが、信頼の問題がある」とし、西側諸国に対する「信頼はほぼゼロに近い」とした。
ドイツのメルケル前首相は7日付の独誌ツァイトに掲載されたインタビューで、ミンスク合意はウクライナが防衛力を強化する「時間を確保する」ものだったと発言。プーチン氏は9日、訪問先のキルギスで行った記者会見で、メルケル氏の発言に「失望した」と語った上で、「誰もミンクス合意を履行するつもりがないことが分かった。要はウクライナに兵器を供給し、敵対行為に備えるだけだった」とした。
さらに、メルケル氏の発言を受け「どのように交渉するのか、何について交渉するのか、誰と交渉することが可能なのか、保証はどこにあるのかなどの疑問が生じる」とし、「最終的に合意に至らなければならないのは同じだ。何度も伝えているが、われわれには合意する用意があり、オープンだ。だが、われわれが誰を相手にしているのか考えさせられる」とした。
8日にはロシアで服役中だった米女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)のブリトニー・グライナー選手と米国で服役中だったロシアの武器密輸業者ビクトル・ボウト受刑者との囚人交換が行われたが、プーチン氏はこれに関し、ロシアはこのような囚人交換をさらに行うことに前向きであり、今回の囚人交換に合意した米ロの情報機関の間では接触が続いていると明かした。
●プーチン氏「西側への信頼はゼロに近い」 メルケル氏発言巡り 12/10
ロシアのプーチン大統領は9日、西側諸国に対する「信頼はゼロに近い」と述べた。2014年から続くウクライナ東部紛争の停戦合意(ミンスク合意)を巡り、仲介したドイツのメルケル前首相が、ウクライナの軍事力を整備するための時間稼ぎを狙っていたと発言したことに反発した。
プーチン氏は訪問先のキルギスの首都ビシケクで、記者の質問に回答した。
メルケル氏は7日公開された独紙とのインタビューで「14年のミンスク合意はウクライナに時間を与える試みだった」と発言。「14〜15年にかけてのウクライナ(の軍事力)は今ほどではなかった」とも述べ、ウクライナ軍の増強に一定の時間が必要だったとの認識を示していた。
フランスと共に停戦合意の仲介役を担ったメルケル氏の発言について、プーチン氏は「このような発言の後では、どのように、何を交渉して、誰かと交渉できるのか、保証はあるのかという疑問が湧いてくる」と批判をにじませた。
14年に始まったウクライナ東部紛争では、ロシアが支援した武装勢力とウクライナ軍が衝突し、後にロシアが非正規部隊を送り込んで加勢したとみられている。追い込まれたウクライナが14年9月と15年2月の2度にわたり、停戦合意に応じる形となった。
合意では、紛争地域からの重火器や外国部隊の撤収などで折り合った一方、ウクライナは選挙を実施した後で親露派の支配地域に「特別な地位」を与える項目などで譲歩した。ウクライナ側が履行できなかった項目が多かったことから、ロシアや親露派が批判材料として、ウクライナを揺さぶり続けた。
一方、ロシアや支援する親露派もミンスク合意の履行に取り組まなかったと指摘されている。今年2月には、親露派勢力が自称する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家承認する決定を下し、ミンスク合意を実質的に破棄した。
●ロシア、西側の原油価格上限に対応し減産も検討=プーチン氏 12/10
ロシアのプーチン大統領は9日、西側諸国が合意したロシア産原油の取引価格の上限に従う国に対する供給を拒否するほか、産油量を削減する可能性があると述べた。
先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)、オーストラリアは先週、ロシアへの追加制裁として導入するロシア産原油の上限価格を1バレル=60ドルとすることで合意した。
これについてプーチン大統領は訪問先のビシュケクで行った記者会見で「これまでも表明した通り、このような決定を行った国に供給しない」とし、「必要に応じて減産の可能性も検討する」と表明。ロシアは石油輸出国機構(OPEC)プラスに参加しているためこうした劇的な措置は可能性にすぎないとしながらも、「向こう数日以内に発令する大統領令で具体的な措置を示す」と述べた。
その上で、西側諸国が合意したロシア産原油の取引価格上限は、現在のロシアの販売価格に対応しているため、ロシアの予算に対する懸念はないと指摘。価格上限設定は「愚かしく、稚拙だ」とし、その結果、世界的な原油産業が崩壊し、その後「壊滅的に」原油価格が上昇すると警告した。
ロシアのタス通信によると、シュルギノフ・エネルギー相は西側諸国の価格上限への対応にロシアには3つ選択肢があると表明。詳細については語らなかったが、現在、大統領令が準備されていると明らかにした。
ロイターのデータによると、9日のウラルブレンド原油は1バレル=53ドル近辺で取引されている。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は記者会見で、プーチンの脅しは予想外ではなかったが、ロシアが最終的にどのような行動を取るかはまだ分からないと指摘。「これらの発言に驚いていない。実際あまり目新しいことではない」とした。
●プーチン大統領 “核兵器は抑止力” 対立を深める米をけん制  12/10
ロシアのプーチン大統領は核兵器について、抑止力だとする考えを重ねて強調する一方「アメリカには予防的な攻撃という理論がある。ロシアも、取り入れるべきかもしれない」と述べ、ウクライナ情勢をめぐって対立を深めるアメリカをけん制しました。
ロシアのプーチン大統領は9日、訪問先の中央アジアのキルギスでロシアメディアとの記者会見を行い、核兵器について「大きな抑止力になる」と述べ、報復措置として使用できるとする考えを改めて強調しました。
その一方で「アメリカには予防的な攻撃という理論がある。核の先制攻撃について話すのであれば、安全保障を確保するためだとするアメリカの考えを取り入れるべきかもしれない。われわれはそれについて考えている」と述べました。
プーチン大統領は「予防的な攻撃」の具体的な意味は明らかにしませんでしたが「われわれにはアメリカにない極超音速兵器がある」とも主張していて、ウクライナ情勢をめぐって対立を深めるアメリカをけん制した形です。
一方、ウクライナでは東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つ、バフムト周辺で激戦が続いていて、ゼレンスキー大統領は9日に投稿したビデオ声明で「前線は依然として厳しい状況だ。占領者はバフムトを破壊し尽くしている」と訴えました。
ロイター通信は、ウクライナ人の男性がバフムトで8日に撮影したとする映像を配信し、この中で男性は「街は炎に包まれ爆発が絶え間なく起きているが、ウクライナ軍がしっかり守っている」と語るとともに、住民の避難を支援しています。
南部でも砲撃が繰り返され、ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は9日、ヘルソン州では一日で68回もの砲撃を受けたとSNSに書き込みました。
ウクライナ大統領府によりますと、ゼレンスキー大統領は9日、首都キーウで開かれた国際会議で、9か月以上に及ぶ軍事侵攻でロシア軍が行ったミサイル攻撃の62%が、民間を標的にしたものだったと明らかにし、ロシアを非難しました。
●米政府、イランは今やロシアにとって「一番の軍事支援国」だと 12/10
アメリカ政府は9日、ロシアとイランが全面的な防衛協力関係を築いているとの見方を示した。国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー報道官が述べた。ウクライナはロシアがイラン製ドローンを攻撃に使用していると非難しており、イランとロシアの軍事協力がこのところ注目を集めている。
NSCのカービー報道官は、ロシアがイランに対して前例のないレベルの軍事支援を提供していると指摘。さらに、両国が殺傷力の高い攻撃用ドローンの共同開発を検討しているという報告を米政府として確認していると明らかにした。
カービー報道官は、イランとロシアが攻撃ドローンを共同開発すれば、ウクライナやイランの近隣諸国、ひいては国際社会にとって危害をもたらすと指摘。「ロシアは、武器開発や訓練などの分野でイランと提携しようとしている」と報道官は述べ、ロシアがヘリコプターや防空システムなど「先端兵器」をイランに提供するつもりだと、アメリカ政府として懸念していると説明した。
「イランは今やロシアにとって一番の軍事支援国になった」とカービー氏は話し、「ロシアはウクライナのエネルギー・インフラ攻撃にイラン製ドローンを使い、数百万人のウクライナ人から電気や暖房、必須ライフラインを奪っている。イランの行動の結果、ウクライナの人たちは今日も実際に命を落としている」と強調した。
カービー報道官の発言を受けて、イギリスのジェイムズ・クラヴァリー外相も、イランがロシアにとって主な軍事支援国になったと指摘。両国の関係が、世界の安全保障を脅かしているとの見方を示した。
両国の「卑劣な取引」の結果、イランは数百基のドローンをロシアに提供したと、クレヴァリー外相は説明。「引き換えにロシアは、イランの独裁政権に軍事と技術の支援を提供している。それは、中東における我々のパートナー諸国にとって、そして国際的な安全保障にとってリスクとなる」と述べた。
今後ロシアが弾道ミサイル数百基を含む兵器を大量に入手しようとする中、イランの支援は拡大するだろうとアメリカは予測しており、クレヴァリー外相もこの見方に同意した。
ウクライナは、10月17日に少なくとも8人が死亡した複数の攻撃などは、イランがロシアに提供した攻撃ドローンによるものだと非難した。これについてイランは当初、ロシアへのドローン提供を否定していたが、後に、ウクライナ侵攻開始の「はるか前」に「限定的な数」をいくつか提供していたことを認めた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、イランの言い分をうそだと非難。ウクライナ軍は連日、約10基ものイラン製ドローンを撃墜していると反論した。
●ロシアは「言葉でなく行動を」=一段の囚人交換でホワイトハウス  12/10
米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は9日、ロシアとの間でさらなる囚人交換の交渉を続けていく姿勢を示した。スパイ容疑でロシアで服役中の元米海兵隊員ポール・ウィラン受刑者の釈放を目指す。
8日にはロシアで服役中だった米女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)のブリトニー・グライナー選手と米国で服役中だったロシアの武器密輸業者ビクトル・ボウト受刑者との囚人交換が行われた。プーチン大統領はこれに関し、ロシアはこのような囚人交換をさらに行うことに前向きであり、今回の囚人交換に合意した米ロの情報機関の間では接触が続いていると明かした。
これを受けてカービー氏は、さらなる囚人交換が行われる可能性があるとし、ウィラン氏の釈放に向けてあらゆる手段を通じて積極的に取り組むと表明。プーチン氏の「言葉ではなく行動が重要だ」と述べた。 
●対米関係「修復」に寄与 身柄交換で限定的接触―ロシア大統領 12/10
ロシアのプーチン大統領は9日、米国と身柄交換が成立したことについて「一定の雰囲気を醸成するのは事実だ」とし、悪化した両国関係の修復に寄与するとの認識を示した。トルコの最大都市イスタンブールでは9日、米ロ外交当局者が協議。ウクライナ侵攻を巡る対立を認めつつ、双方は限定的な接触を模索し始めたもようだ。
「さらなる交換は可能だ」。プーチン氏は訪問先のキルギスで記者会見し、身柄交換に向けた米ロ交渉が続くという立場を表明した。
米女子プロバスケットボール選手と旧ソ連軍関係者は8日、それぞれ釈放された。ただ、交換の対象とみられていた元米海兵隊員は、ロシアで収監が続くことになった。米側に不満が残る中、プーチン氏は配慮するそぶりを見せた形。残る身柄を「対米カード」にする意図もうかがえる。
タス通信によると、ロシアのリャプコフ外務次官は9日、米ロの外交当局者がイスタンブールで協議したと説明。「(互いに駐在する)外交団の機能」について話し合ったといい、トランプ政権時代の外交官追放や総領事館閉鎖などの問題が取り上げられたとみられる。
在トルコ米大使館もロイター通信に、米ロ協議開催を確認。「2国間関係」が議題になったと明らかにした上で「ウクライナにおけるロシアの戦争は話し合われなかった」と述べた。プーチン政権との対話に否定的なウクライナのゼレンスキー政権に配慮した可能性がある。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官とロシア対外情報局(SVR)のナルイシキン長官も、11月14日にトルコの首都アンカラで協議した。プーチン氏は9日の記者会見で、今回の身柄交換は連邦保安局(FSB)が交渉に当たったと指摘。「情報機関の接触は中断したことがない」と話し、ウクライナ侵攻下でも続いていることを示唆した。
●核の先制使用へ方針変更も=プーチン氏、脅し強める 12/10
ロシアのプーチン大統領は9日、訪問先のキルギスの首都ビシケクで記者会見し、米国は核兵器の先制使用が可能だとして、ロシアも同様の対応を取れるよう、「軍事ドクトリン」を変更する可能性を示唆した。
プーチン氏は7日にも核戦争の脅威は増大していると警告していたが、核使用の脅しを一段と強めた形だ。
米CNNテレビによると、プーチン氏は「米国は、各文書に記されている通り、軍事戦略の中に先制攻撃を組み込んでいる。一方でわれわれが規定しているのは報復攻撃だ」と述べた上で、こうした米国のやり方をロシアも採用すべきかもしれないと語った。
●ロシア敗北の「可能性を排除しない」...プーチンが準備する「国外逃亡」計画 12/10
ウクライナでの苦戦が伝えられるロシア軍だが、もしもロシアが戦争に負けた場合には、ウラジーミル・プーチン大統領は国外に「逃亡する計画」があるという情報が浮上した。これはプーチンの元スピーチライターが暴露したもので、「ノアの方舟作戦」という名で密かに準備が進められているという。
政治アナリストでもあり、2018年からイスラエルに亡命している元クレムリンのスピーチライター、アッバス・ガリャモフは、信頼できる情報筋からの情報として、ロシア政府がウクライナとの戦争で敗北した場合の計画を春から練っており、そこにはプーチンと上層部がベネズエラに逃亡する計画も含まれていると明かした。
「私は通常は情報筋からの話を明かさないが、今日は例外だ。第一に、私はその情報源を非常に信頼しており、第二に、その情報が非常に興味を引くものだからだ」とガリャモフは12月7日、自身のテレグラムチャンネルで述べた。
ガリャモフによると、この逃亡計画は「ノアの方舟作戦」と呼ばれている。プーチンの逃亡先の最有力候補にはアルゼンチンやベネズエラが挙がっており、当初は中国も検討されていたという。
「(ノアの方舟という)名前が示すように、自国で困難な状況になった場合に行ける新天地を見つけるというものだ」とガリャモフ。「プーチンの側近は、彼が戦争に負け、権力を失い、急いでどこかに逃げざるを得なくなる可能性を排除していない」
国営企業幹部がプーチン逃亡計画を手配
情報筋はガリャモフに、ロシア国営エネルギー大手ロスネフチのユーリー・クリーリン副社長が、ベネズエラ逃亡計画を手配していると明かしたという。「彼(クリーリン)は今夏に(ロスネフチから)正式に退職し、今は『ノアの方舟』に完全に専念している」とガリャモフは言う。
「彼は米国の市民権を持ち、素晴らしいコネクションもある。カリフォルニアのヘイワード大学を卒業し、BPの組織で働き、広報担当ディレクターという高い地位にも就いていた」
ニューズウィークが調べたところ、クリーリンは現在もロスネフチの副社長兼チーフ・オブ・スタッフとして、ウォール・ストリート・ジャーナルの企業プロファイルを含む複数のサイトに掲載されている。
ガリャモフは「残念ながら、私の情報筋はこれ以外の詳細を把握していないが、彼の話は十分理解できる。彼ら(ロシア)が『すべて計画通りに進んでいる』と言うときは、どの計画なのかを明らかにすることに意味がある。彼らは複数の計画を持っているようだ」と指摘している。
●プーチン大統領 改めて強硬姿勢 侵攻の長期化も辞さない構え  12/10
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は9日、「すべての当事者は現実と折り合いをつけなければならない」と述べました。一方的に併合したと主張するウクライナの4つの州のロシアによる支配を認めることが和平交渉の条件だとする強硬な姿勢を改めて示した形で、侵攻のさらなる長期化も辞さない構えです。
ウクライナ東部のドネツク州では、ロシア軍がウクライナ側の拠点の1つバフムトの掌握を目指し、連日激しい攻防になっています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、動画で新たな声明を公開し「前線は依然として厳しい状況だ。砲撃や火災の被害を受けていない住宅地はもはや残っていない。ロシアはバフムトを破壊し尽くしている」と訴えました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は9日、訪問先の中央アジアのキルギスでロシアメディア向けに会見を行い「事態を終わらせるためのプロセスは容易ではなく時間もかかるだろう。いずれにせよ、プロセスのすべての当事者は、現実と折り合いをつけなければならない」と述べました。
一方的に併合したと主張するウクライナの4つの州のロシアによる支配を認めることが和平交渉の条件だとする強硬な姿勢を改めて示した形で、侵攻のさらなる長期化も辞さない構えです。
一方、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は9日、記者団に対し、アメリカの情報機関の分析だとしたうえで、ロシアとイランがロシア国内で攻撃用の無人機の共同生産を検討しているとの見方を示しました。
そして、ロシアが見返りにイランに対してヘリコプターや防空システムなどを提供している可能性があるとし、ロシアが「前例のないレベルで軍事・技術協力をしている」と述べ、懸念を表明しました。
またイギリス国防省も10日「イランによるロシア軍への支援は今後数か月で拡大する可能性が高い。ロシアは、数百発の弾道ミサイルを含むより多くの兵器を入手しようと試みている」として、軍事的な協力拡大の可能性を指摘しました。
そのうえで「ロシアが大量のイラン製の弾道ミサイルの実用化に成功すれば、ウクライナの重要インフラに対する攻撃作戦を継続し拡大する可能性が高い」という見方を示しています。

 

●プーチン氏長女、副学部長に モスクワ大で医学研究―ロシア 12/11
ロシアのプーチン大統領の長女マリア・ボロンツォワさん(37)が、名門モスクワ大基礎医学部の副学部長に就任したとみられることが分かった。反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の「反汚職基金」幹部が9日、学部の資料をツイッターで公開した。
マリアさんは学究肌。モスクワ大基礎医学部や保健省付属機関で研究に従事し、私生活ではオランダ人と国際結婚をして子供がいるとされる。プーチン政権がウクライナ侵攻に踏み切った後、日米欧は追加制裁でマリアさんと次女カテリーナ・チホノワさん(36)の資産を凍結した。
反汚職基金幹部は「ロシアで若い研究者に将来性がないと言われるが、私が学部長だったらマリアさんの将来性を見て震え上がるだろう」と述べた。独立系メディア記者は5月、学部卒業生らとマリアさんのチャットのやりとりを入手し、父親と同じ政治観を持っていると明らかにしている。
●南部オデッサ攻撃で停電 プーチン氏、報復と明言 12/11
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日のビデオ声明で、イランがロシアに供与した無人機(ドローン)による攻撃で、南部オデッサ州内で150万人以上が電気を利用できない状況に陥ったと明らかにした。州都のオデッサ市によると、9日夜に電力インフラが破壊された。
首都キーウ(キエフ)など他の地域でも停電が続いている。ロシアのプーチン大統領は8日、電力インフラへの攻撃について「われわれがやっている」と明言。「誰がクリミア橋を攻撃し、クルスク原発の送電線を爆破したのか」とウクライナの関与が疑われる事件を列挙し、報復攻撃だと正当化していた。
●プーチン大統領がウクライナを「ネオナチ」と非難するワケ 12/11
プーチン大統領がウクライナを「ネオナチ」と非難するワケ
ウクライナ侵攻の目的として、ロシアはウクライナの「非ナチス化」を掲げています。日本では「ロシアの主張は言いがかりだ」と決めつける人も少なくありませんが、事実として、第二次世界大戦中のウクライナは、民族主義者「ステパン・バンデラ」を支持し、ナチスと連携した過去があったと、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏はいいます。プーチンが執拗に「ネオナチ」と非難するウクライナの歴史について、みていきましょう。
「ウクライナはナチス主義」とロシアが考えているワケ
今回の戦争の背景には、ロシアとウクライナの歴史解釈の違いがある。特に西ウクライナ(ガリツィア地方)の政治エリートと知識人によって進められた「ステパン・バンデラの名誉回復」が重要な争点だ。
ゼレンスキー大統領は、歴史認識に関してポロシェンコ前大統領の路線をいっそう純化する方向で進んだ。ロシアの歴史解釈では、バンデラ主義者はナチスの仲間だ。従って、現ウクライナ政権=バンデラ主義者=ナチス主義者という乱暴な図式が成り立ってしまう。
なお、バンデラは強力な反ユダヤ主義と反ポーランド主義も併せもっていた。ウクライナの現政権に対して、イスラエルが一定の距離を置いている背景には、バンデラ主義者の問題がある。ポーランドとウクライナの関係においても、バンデラの反ポーランド主義が中長期的視点から対立点となり得る。
今回の事態を理解するために、マルレーヌ・ラリュエル(米国ジョージ・ワシントン大学ヨーロッパ・ロシア・ユーラシア研究所所長)が書いた『ファシズムとロシア』(原題『Is Russia Fascist?』)という学術書が参考になる。やや長くなるが、重要な箇所なのでご紹介したい。
〈ウクライナでは、ナチ協力者運動の名誉回復は、ロシアヘの政治的スタンスの変化に沿って移り変わりながら、さらに曲がりくねった道を辿ってきた。
二つの主要な反体制運動、「ウクライナ民族主義者組織」(OUN)と「ウクライナ蜂起軍」(UPA)、そして彼らの英雄、ステパン・バンデラ(1909〜59年)は、アメリカとカナダのウクライナ人ディアスポラや、特にガリツィアからの移民によって自由の戦士として絶えず讃えられてきた。
1991年末のウクライナ独立の後、バンデラは徐々に国民の英雄として名誉回復を果たした。最初は、何万人もの民間人がソ連の強制収容所に送られた記憶がまだ鮮明な西ウクライナで、それから全国にわたって、そしてオレンジ派の政府によって編纂を委託された新しい歴史教科書の中で。
キエフ当局にとって、バンデラはウクライナの独立のために──最初は1930年代にポーランドに対して、そして1940年代初頭にはソ連に対して──戦ったウクライナ・ナショナリストであった。
1941年と1944年の二度(その間の時期は投獄されていた)、バンデラはソ連軍に対抗するためにナチ・ドイツに協力した。彼の軍が、ドイツ軍直下の武装親衛隊ガリツィア支団の一部ではなかったとしても、彼は多くの国民社会主義の原則に従い、民族的に純粋なウクライナ民族を呼びかけ、ナチのジェノサイド政策に沿う強烈な反ユダヤ主義を体現していた。
新生ウクライナの歴史叙述では、こうした問題含みの伝記的要素はしばしば無視されるか、少なくとも最小化されてきた。例えば2009年、ユシチェンコ政権はバンデラの生誕100周年に彼を郵便切手のデザインに採用し、2010年には、死後に「ウクライナの英雄」という公式の肩書を与えた。しかし、この栄誉は東ウクライナと海外で憤激を巻き起こし、結局は撤回された。
この名誉回復の流れは、ユーロ・マイダン革命以降加速した。2015年、70周年の戦勝記念日の直前、当時の教育大臣で、長年「解放運動研究所」──ウクライナ民族主義者組織(OUN)とウクライナ蜂起軍(UPA)の英雄的な語りを称揚するために設立された組織──の所長でもあったヴォロドィミル・ヴャトロヴィチが、新たな、ポスト・マイダン期の歴史叙述を体系化する四つの法への投票を議会に求めた。そのうち二つは、ロシアとの記憶をめぐる戦争において特に影響を及ぼすものであった。
OUNとUPAのメンバーたちを「20世紀のウクライナ独立の戦士」とみなすという一つ目の法令は、これを非合法だとする世論の拒否にあった。二つ目の「共産主義と国民社会主義(ナチ)の全体主義体制への非難と、そのシンボルのプロパガンダを禁じる」法は、ソヴィエト体制全体を正式に犯罪化し、あらゆるソ連時代のシンボルを撤去することを命じるもので、違反者は10年以下の禁固刑に処される。
一切の開かれた議論もなく採択され、大多数の支持を得ているとも思えないこの非共産化法は、きわめて論争的である。歴史学界は、どのように「正しく」考えるべきかを教えられることへの危惧を表明し、欧州評議会ヴェニス委員会と欧州安全保障協力機構(OSCE)の民主制度・人権事務所(ODIHR)の共同見解は、第二の法は人々の表現の自由の権利を侵害するものだとした。
2016年、一連の法の1周年は、戦勝記念日に退役軍人たちが赤い旗を掲げようと試みた件への犯罪捜査で始まり、2017年にはヴャトロヴィチが、武装親衛隊ガリツィア支団のシンボルを飾ることは法が管轄するものではないという声明を出すに至った。
ソ連時代の公文書を彼の「国民記憶研究所」の管轄下に置くという決定は、ウクライナ史を「糊塗[白化]」することになるのではないかという危惧を生んでいる。ほとんど気付かないまま、ウクライナは多くの方法で、2か国間のミラー・ゲームのようにロシアが行っているのと同じ検閲ツールを適用している。
ロシアでは反ユダヤ主義は減退してきているが、ユーロ・マイダン革命以降のウクライナでの高まりは、民族主義的グループとペトロ・ポロシェンコ政権の双方から支持を受けた第二次世界大戦期の民族主義的蜂起の名誉回復が、現在の社会状況に危険な影響を及ぼしていることを立証する。
ゼレンスキー大統領の、より総意に基づく歴史政策がこの過激化を減速することにつながるかどうかは、まだわからない〉
戦争の目的を「非ナチス化」と主張するロシア
2月24日にロシアがウクライナに侵攻したあと、プーチン大統領、ラブロフ外務大臣らの政治家、ロシアのマスメディアは「ナツィスティ」(ナチス主義者)、「ネオナチスティ」(ネオナチ)、「ナアツィオナリスティ」(民族排外主義者)という言葉でウクライナのゼレンスキー政権を非難した。
ロシアは、ウクライナの民族主義者ステパン・バンデラとその系統の武装集団が、ナチス・ドイツと連携してウクライナ独立を図った事実に焦点を当てる。そして「バンデローフツィ」(バンデラ主義者)=「ナツィスティ」(ナチス主義者)という図式をつくっている。
ロシアは今回の戦争の目的を「非ナチス化」と主張する。日本では「ウクライナの政権内部にナチス支持者がいるというロシアの主張は言いがかりだ」と決めつけるが、バンデラを英雄視する人々がウクライナ政権内部にも国内にも存在することは事実だ。
第2次世界大戦中、ソ連赤軍に加わったウクライナ人が200万人いるのに対して、ナチス・ドイツ軍に加わったウクライナ人は30万人もいた。日本の自衛隊に匹敵するくらいのウクライナ人が、ナチス・ドイツ側について戦ったのだ。この問題の解釈は非常に難しい。どの点と線を結ぶかによって、全然別の物語が紡ぎ出される。
今回の戦争で、ロシアがウクライナに対して非道な蛮行を働いているのは間違いない。無辜のウクライナ人をたくさん殺していることは、紛れもない事実だ。しかし、ウクライナもロシア人に対して同様のことをやっている。その根っこの部分には、反ソ連(ロシア)の活動に邁進したバンデラ主義者の問題があるのだ。
●ロシア戦死者1万人の名前確認、動員兵は400人 BBC調査 12/11
英BBC放送ロシア語版は9日、ウクライナ侵攻で死亡したロシア兵1万2人の名前を確認したと報じた。うち約400人は9月の部分動員令による招集兵だったという。ロシアの独立系メディア「メディアゾーナ」などと合同で、ロシア各地の墓地や記念碑を調査し裏付けた結果としており、確認できた死者数は、実際の死者の4〜6割程度と推定した。
BBCによると、戦死者には精鋭部隊や将校も含まれる。米国供与の高機動ロケット砲システム「ハイマース」などによりロシアの指揮所への攻撃が可能になったと指摘。大将4人、大佐49人が死亡したとしている。
また、ウクライナ原子力企業エネルゴアトムは9日、ロシア軍が占拠している南部ザポロジエ原発で8日、ロシア兵が幹部職員ら2人を暴行の上、拉致したと主張。ほかに1人が拘束されたとしている。同原発を巡っては、エネルゴアトムが8日に、ロシアが敷地内に多連装ロケット砲を配備したと指摘するなど、緊張が高まっている。
一方、ロシアのプーチン大統領は9日の記者会見で、ロシアの軍事ドクトリンが核を報復にのみ使用できるとする一方、米国は先制攻撃が可能だと主張し「安全保障確保のため、米国案の採用を検討すべきかもしれない」と述べ、米欧をけん制した。仮にロシアが先制攻撃を受ければ「敵は跡形もなくなる」とも警告した。
プーチン氏は7日にも核戦争リスクについて「脅威が増している」と語ったばかりだったが、9日の会見ではウクライナの軍事作戦は「順調だ」と強調し、兵員の追加動員の可能性は改めて否定。一方で「全体的な解決プロセスは困難で時間がかかるが、全ての参加者が現実と折り合いを付ける必要がある」とし、交渉に含みを持たせた。 
●ノーベル平和賞のロシア活動家、プーチン氏の「狂気と犯罪」を批判 12/11
ノルウェーの首都オスロで10日、今年のノーベル平和賞の授賞式が開催され、受賞したロシアの人権団体「メモリアル」のヤン・ラチンスキー代表らがプーチン・ロシア大統領のウクライナ侵攻を強い言葉で批判した。
ラチンスキー氏は、プーチン政権下のロシアで抵抗運動は「ファシズム(全体主義)」と呼ばれ、ウクライナ侵攻という「狂気と犯罪」を正当化するイデオロギー上の言い訳になっていると主張した。
メモリアルは旧ソ連時代の人権侵害や残虐行為に関する情報を集め、公開してきた団体で、昨年末にはロシア最高裁に解散を命じられていた。
同じく今年の平和賞を授与されたウクライナの人権団体「市民自由センター」のオレクサンドラ・マトビチュク代表は式典で、プーチン氏やベラルーシのルカシェンコ大統領らを国際法廷で裁くべきだと主張。独裁政権が倒れるまで待つべきではないと訴えた。
個人で受賞したベラルーシの人権活動家アレシ・ビャリャツキ氏は同国で収監されているため、同氏の妻が代理で授賞式に出席した。
平和賞の賞金1000万スウェーデンクローナ(約1億3000万円)は、この2団体と1人が分け合うことになっている。
●プーチン大統領の戦争に抵抗継続を ノーベル平和賞授賞式 12/11
2022年ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)の授賞式が10日、ノルウェー・オスロの市庁舎で行われた。共同受賞したウクライナの人権団体「市民自由センター(CCL)」とロシアの人権団体「メモリアル(Memorial)」の代表、ベラルーシの人権活動家アレシ・ビャリャツキ(Ales Bialiatski)氏(妻が代理出席)は、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の「常軌を逸した犯罪的な」ウクライナ侵攻に対して最大限の抵抗を継続するよう世界に訴えた。
CCLとメモリアル、ビャリャツキ氏は、強権に立ち向かい「人権、民主主義、平和共存」のために取り組んできたとして、今年の平和賞に選ばれた。
CCLのオレクサンドラ・マトイチュク(Oleksandra Matviychuk)代表は受賞演説で、「ウクライナ国民は世界中の誰よりも平和を望んでいる」「しかし、攻撃を受けている国が武器を置いても平和は得られない」と述べた。
2007年に設立されたCCLは、ウクライナでのロシア軍の戦争犯罪疑惑を記録してきた。住宅、教会、学校、病院への砲撃、避難ルートへの爆撃、住民の強制移住、拷問など、侵攻開始からの9か月間に記録された事案は2万7000件を超える。
マトイチュク氏は、これらは「氷山の一角にすぎない」と指摘。「戦争は人間を数字で表す。戦争犯罪の犠牲者すべての名前を取り戻さなければならない」と、こみ上げる感情を抑えながら語った。ロシアによるエネルギーインフラ攻撃で照明が使えなくなったため、演説原稿はろうそくの光の下で書いたという。
メモリアルのヤン・ラチンスキー(Yan Rachinsky)代表は、ロシアには旧ソビエト連邦から引き継いだ「帝国主義的な野心」が「今なおまん延している」と非難。プーチン大統領とその「イデオロギーのしもべたち」は反ファシスト闘争を「自らの政治的利益のために」乗っ取り、ロシアへの抵抗を「ファシズム」と呼び、「ウクライナに対する常軌を逸した犯罪的な侵略戦争を正当化するためのイデオロギー」として利用していると糾弾した。
1989年設立のメモリアルは、旧ソ連の独裁者ヨシフ・スターリン(Joseph Stalin)時代の大粛清に関する調査・実証を行い、ロシアにおける人権侵害を記録してきた。ロシア政府による野党とメディアへの弾圧が強まる中、昨年末にロシア最高裁判所から解散命令を受け、平和賞受賞の発表直後に事務所を差し押さえられた。
ビャリャツキ氏は、ベラルーシの人権団体「ビアスナ(Viasna)」の創設者。アレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領に抗議する大規模デモへの弾圧の一環で昨年7月に拘束され、裁判が行われないまま勾留されている。
受賞演説の公開も認められなかったため、妻のナタリア・ピンチュク(Natalia Pinchuk)氏が代理で賞を受け取り、「独裁の国際化」など、以前に録音されたビャリャツキ氏の見解を紹介した。
●ロシアにとって戦争は「防衛戦」...ウクライナ軍を恐れて設置した「竜の歯」 12/11
ウクライナ軍の反抗を受けて苦戦するロシアが、ウクライナとの国境地帯に「竜の歯」と呼ばれる障害物を設置して防御態勢を整えている。これは戦車などの移動を妨害するもので、「戦車用トラップ」とも呼ばれるコンクリート製のピラミッド型の構造物だ。
ウクライナのニュースサイト「プラウダ」は12月7日、ロシアがウクライナとの国境に近い東部クルスク州に、「竜の歯」を設置したと報じた。
「竜の歯(元はドイツ語のDrachenzähne)」は、第二次大戦中に戦車や機械化歩兵の移動を妨げる目的で初めて使用された。アラブ首長国連邦の英語メディア「ザ・ナショナル」によれば、第二次世界大戦以降、これまで戦闘で使用されたことはなかったという。
ロシア・クルスク州のロマン・スタロボイト知事は7日、メッセージアプリ「テレグラム」への投稿の中で、既に州内に設置されている「竜の歯」の視察を行った際の様子とみられる複数の写真を共有。「国境付近の防衛強化を続けている」と書き込んだ。
「竜の歯」がどれだけ効果を発揮するのかは不明だが、むしろウクライナ軍がやってくるまで形を保っていられるかを怪しむ指摘もある。検証可能な写真や動画を元にウクライナ軍とロシア軍の装備の損失を記録しているオランダの軍事ブログ「Oryx」は、「ロシアの防衛線の一環として設置された『竜の歯』は、ウクライナの戦車を狙う前に崩れつつある」としており、既に一部の構造物は劣化しているもようだ。
「ロシアの戦争は今や防御作戦に」
プラウダによれば、ウクライナの反抗を恐れるロシア側はパニックに陥っており、「竜の歯」を設置したり塹壕を掘ったりしているという。クルスク地方は、ウクライナ西部のスーミ州と国境を接している。ロシア軍は2月下旬の軍事侵攻開始後にスーミ州の一部を制圧したものの、その後同州から撤退。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4月、スーミ州は完全に解放されたと宣言した。
ロイター通信は11月半ば、ロシア軍が幾つもの敗北を経験したことを受けて守りの態勢に入ったと報道。「ロシアのウクライナ侵攻は今や、防御作戦となった」という西側の匿名の当局者の発言を引用して伝えた。
英国防省によれば、ロシアは各地での敗北の報告が相次いだことを受けて、占領地域の周辺に要塞を築き始めた。同省が11月に公表した報告書によれば、「竜の歯」は、ロシアが一部占領しているドネツク州マリウポリとニコルスケ村の間に設置された可能性が高いということだ。報告書は、ロシアがウクライナ南部ヘルソン州の州都からの撤退完了を発表したのと同じ頃に公表された。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12月7日、ウクライナ侵攻が当初の想定よりも長くかかっていることを認めた。今もウクライナでの戦争を「特別軍事作戦」と称しているプーチンは、「もちろん、それは長いプロセスになるだろう」と述べた。英BBCによれば西側の当局者たちは、プーチンの当初の計画が「迅速な勝利の達成」だったと考えていた。
ロシアはミサイルやドローン(無人機)を使った攻撃を繰り返し、ウクライナの民間人やエネルギー関連施設を標的にしている。ゼレンスキーは、ロシアが「達成できなかったことを、テロ行為や殺人行為によって達成しようとしている」と非難している。
●命令を拒否すれば銃殺刑になる…たった1日の訓練で戦場に送られた動員兵 12/11
秋の徴兵におびえるロシア人たち
ロシアで秋の徴兵が始まった。ウクライナ情勢を念頭に、市民には不安が広がる。
独立系メディアのモスクワ・タイムズ紙は、「軍当局は新兵がウクライナに送られることはないと公約しているが、この発言に対しては懐疑的な見方が広がっている」と指摘する。
秋の徴兵は12月31日までの予定で実施され、春の徴兵とあわせて毎年恒例となっている。18歳から27歳までの男性から選抜を行い、今年は秋だけで12万人が1年間の兵役に就く予定だ。
カタールの衛星放送局アルジャジーラによるとロシアの徴兵制には、非常時に召集可能な兵士である予備役を育成するねらいがある。
彼らは最長で8カ月間にわたる訓練を受け、各部隊に配属されたのち、徴兵から1年後には兵役解除となる。だが、その後は予備役として新たに登録され、戦争など国家に非常事態が発生した場合に急遽駆り出されることになる。ロシアは現在、200万人の予備役を擁する。
秋の徴兵以前には今年9月末、第二次世界大戦以来初となる「部分的動員令」をプーチン大統領が発令した。わずか2カ月ほどのあいだに、確認されているだけでも326人の動員兵が死亡している。オープンソースの情報をもとに、独立系ロシア紙のノーヴァヤ・ガゼータなどが報じた。
ロシアには現在、およそ200万人の予備役が存在する。いつ号令がかかり動員されるとも知れない予備役とその家族らは、眠れぬ夜を過ごしている。
「3分で別れを済ませろ」
米メディアのヴァイスは召集された若い予備役への取材を通じ、強引な徴兵の実態を明かしている。
27歳のある兵は取材に対し、徴用の報せから24時間以内に戦地へ赴く身支度を済ませなければならなかったと明かした。別の街に住む父親に、せめて別れの挨拶をしたかったと悔やむ。
「当然のことだけれど、せめて2日くらいは別れを告げる時間がほしい。そんなことが可能かはわからないけれど。父にさよならを言えなかったことが、心の重荷になっているんです」
徴兵のバスが出発する間際、駆けつけた父親がなんとか間に合った。再会を喜ぶ兵に対し徴兵官は、「3分で別れを済ませ、荷物をバスに積むように」と冷たく告げたという。父親はかろうじて用意した水とヨーグルトを手渡すと、息子を戦地へと送るバスを見送った。
ウクライナの前線での激しい人員喪失を補うべく、徴兵により慌ただしく頭数の確保を試みている状態だ。こうして兵が集められるモスクワの徴兵センターに同メディアが潜入すると、その内部は陰鬱(いんうつ)とした空気が満ちていたという。
警官隊がなだれ込み、対象者を連行していくケースも
予備役は召集がかかると直ちに出頭しなければならないが、なかには事情ですぐに徴兵センターへ赴けない者もいる。また、ウクライナ情勢を受け、出頭に二の足を踏む人々も多い。こうした人々は兵役逃れと見なされ、徹底的に所在地を追跡され連行されていく。
英デイリー・メール紙は、顔認識を使って入隊拒否者を探し出したり、徴兵班が家庭や会社に押しかけて身柄を確保したりといった恐ろしい事例が起きていると報じている。
同紙が現地メディアの情報をもとに伝えたところでは、警官隊がオフィスのフロアに突入し、徴兵対象の年齢の男性を片っ端から連行しているという。目撃者は現地メディアに対し、連行の様子を語っている。
「午前中に1台の護送車が到着し、満員になりました。そして2台目がやってきました。私たちの会社の経営者や、そのほか1階にいた男性社員たちが連れ去られました。廊下にいたところを取り押さえられたのです」
ほか、駅構内を歩いているところ、急遽徴兵の対象になったというケースも出ている。同紙によると、警官から個人情報を聞かれて回答したところその場で召集令状を発行され、パトカーで連れ去られる事例が増えているという。
相次いだ徴兵事務所への襲撃事件
デイリー・メール紙はさらに、ロシアの空港で起きた珍事を紹介している。早朝5時、ロシア航空会社のアズールエア便は、トルコのアンタルヤに向けて出発しようとしていた。
ところが朝早くから搭乗を済ませていた乗客たちは、耳を疑うようなアナウンスを機内で耳にする。
「副操縦士が動員対象となり、これに伴い国境を越えることが禁止となりました。離陸は中止となりましたので、降機をお願いいたします」
同便は出発が9時間遅れ、やっと空港を発ったのは同日午後2時のことだったという。プーチン氏が署名した動員令は、対ウクライナではなく自国民に大きな不便を強いているようだ。
こうした強引な徴兵に、市民感情は悪化の一途を辿る。英スカイ・ニュースは、市民が徴兵に反発しており、徴兵センターの襲撃事件が発生していると報じた。
予備役30万人の動員をプーチン大統領が発表すると、ある入隊センターでは25歳の男が押しかけて発砲。軍の採用担当者が重傷を負っている。この現場を収めた動画には、採用担当者が倒れるとともに女性の悲鳴が反響し、他の職員らがいっせいに出口へ押しかけるというショッキングな一幕が記録されている。
別の入隊センターは火炎瓶による襲撃を受けた。
戦いを拒否した動員兵は、2週間地下室に監禁された
動員された予備役らはすでに前線に送り出されており、そこでは悲惨な光景が広がる。
欧州政策分析センター(CEPA)は12月6日、「動員された部隊らは、怒りに満ちた動画を録画している。そこには、いかにして彼らが準備もなしに前線へと放り出されたか、そして適切な装備もない惨めな状態にあるかが映し出されている」と報じた。
記事はまた、ウクライナ東部ルハンシク州において、指揮官による横暴が蔓延しているとも報じている。「戦うことを拒否した一部の者たちは、寝ることもできず、食料も持たされないまま、ルハンシク近くの地下室に2週間にわたり監禁された」と記事は述べる。
米CNNは、ロシアの独立系ジャーナリズム「アストラ」が運用するTelegramチャンネルの情報を引用している。
それによると、こうして監禁されている兵士の数は、同州ザイツェボの町だけで300人にのぼるという。監禁された兵士らの一部が、隠し持った携帯電話を通じて親族に生々しい現状を伝えている模様だ。
当局はこの手の話のもみ消しに躍起だが、CEPAは混乱する前線を念頭に、「こうした類いの報告は今後ますます増加するだろう」と分析している。
「妻よ、私は味方に処刑されるかもしれない」
ザイツェボから車を3時間少々走らせると、ドネツク郊外のザビトン・バズハニャーの村に出る。この地でも11月、数十人のロシア人動員兵らが地下に監禁されていた。ラトビアからロシア関連のニュースを配信している独立系メディア「メデューサ」は、彼らの家族による情報をもとに監禁の実態を報じている。
記事によると多くは鉱山から連行された労働者たちであり、本来は法の下に動員が免除される国防産業の従事者だったという。にもかかわらず強制的に兵士訓練施設へと送り込まれ、十分な修練も受けることができないまま戦地へと移送された模様だ。
ほか、さまざまな産業の従事者が連行されている。車の修理工である夫を連れ去られたというロシア人女性のエレナ・カシナ氏は、メデューサに対し、「訓練施設では、機関銃の掃射訓練が1日だけ設けられていたようです」と、粗末な訓練プログラムの実態を明かしている。
当初は塹壕を掘らされていた夫だが、戦闘への参加を上官から命じられると良心の呵責(かしゃく)に苛まれ、これを拒否した。すると上官から、拒否した者は銃殺刑に処すと告げられたという。
エレナ氏のもとにかかってきた電話で、夫は静かにこう告げた。「レナ(エレナ)、僕は今日、仲間に処刑されるかもしれない」
夫は現時点で処刑されてはいない模様だが、地下室に監禁されたようだ。メデューサによると戦闘をためらった21人が監禁され、「食料も(着替えや石けんなど)衛生用品も与えられていない」と報じている。
動員令から2カ月で「多大な犠牲」が発生
前線は混乱状態にあり、ロシア軍は「多大な犠牲者」を生じているとの指摘が出ている。
ハフポスト英国版はイギリス国防省による分析リポートをもとに、「ロシア大統領が『部分的動員令』を発令してからわずか2カ月で、動員された予備役らが『訓練不足』のまま召集されたことが明らかになった」と報じている。
英国防省によると動員された予備役は、全員ではないにしろその多くが以前兵役に就いていた経験を持つ。大半は何かしらの「深刻かつ慢性的な健康上の問題」を抱えながら前線に送り出されており、事前のメディカルチェックも形骸化している模様だ。
メデューサは、予備役のなかから召集される順序について、「公式に定められた召集の優先順はないものの、最も必要とされる軍事スキルを備えた人材が優先される」と解説している。
自然と戦地で戦闘を経験した人物に召集命令がかかる形となっており、前線に配置されてから不調や古傷に苛まれるケースが増えているようだ。
無謀な動員が示す「プーチンの戦争」の限界
プーチン大統領が仕掛けたウクライナ侵攻は、ロシア側にさえ不利益をもたらしている。国際社会からの信用を毀損(きそん)しただけでなく、国民のあいだには戦地へと送られる不安が広がっている。
息子や夫がいつ徴兵されるか知れず、仮にそうなれば24時間以内に連れ去られるのだというストレスは、市民にとって多大な心的負担を生じている模様だ。
現時点で前線に送られたことが判明しているのは予備役が中心だが、秋の徴兵で入隊が決まった新兵も気が気ではないことだろう。制度上、徴兵から1年後には予備役として登録されることが確定している。侵攻が長期化すれば、来年の今頃には戦地に送られているおそれも皆無ではない。
そのほか一般国民の生活においても、国内産業の弱体化がいずれ影を落とすことだろう。鉱業や自動車産業、ひいては航空業界からも技術者が引き抜かれ、戦場で慣れない銃を握らされている。
こうして、産業に従事してきた優秀な技術者たちが社会の中心から消えていっている。国際的な経済制裁によりロシアの自動車産業はすでに風前の灯火ともいわれるが、他の産業においても人材の質と量はいずれ顕著に低下することだろう。
ウクライナへの長引く軍事力行使はもはや10カ月目に突入しており、年単位での長期化も現実味を帯びてきた。生活を破壊されたウクライナ国民の苦しみはもちろんのこと、ロシア国民にとっても害をもたらすばかりの無益な武力行使となっている。

 

●追い詰められたプーチン大統領はどう出る? 12/12
ロシアのプーチン大統領は最終的に核を使うのではないか。そんな懸念が高まっている。ウクライナの反攻にあって、占領地からの後退を余儀なくされている露軍。これに対して、プーチン大統領は7日、「(核戦争の)脅威は増している」と言い出したからだ。
プーチン大統領は「ロシアは、必要であれば、利用可能なあらゆる手段を用いて国益のための戦いを継続する」「我々は保有しているもので前進する。ロシア側からの答えは唯一つしかない。国益のために一貫して戦うということだ」とも語っている。
一体、この戦争の結末はどうなるのか。プーチン大統領の思考回路はどうなっているのか。誰もが知りたいところだが、歴史家の保阪正康氏は近著「歴史が暗転するとき」(日刊現代)で、興味深いアプローチと分析をしている。スターリンとプーチン大統領の類似性、共通項を探ることで、今後を予測しているのである。
保阪氏はまず、<スターリンが、ソ連の社会主義体制を国際社会での多数派にしていこうという思惑を抱いたのと同様に、プーチンも「ロシアのない世界などは存在する理由がない」との信念の持ち主である点>が2人の共通項であると指摘。<プーチンはスターリンの申し子のような存在>と断じている。そして、スターリンの目的に対して手段を選ばない行動に対して、<この国はしっかりとした検証、清算をしてこなかった>と歴史にきちんと向き合ってこなかった姿勢を批判。<プーチンの蛮行は、ロシアにおいて20世紀の総括すべき点が未清算だったことへの証しだと言ってもよいだろう>と書いている。そのうえで、さらに4点の共通項を挙げている。
 1.自らの政治的責任は決して認めない
 2.下僚の責任を問う形にして処刑する。
 3.必ず周辺国を自国の防波堤に使う。
 4.国民に忠誠と服従を求める。
まさしく、ウクライナへの軍事侵攻後のプーチン大統領の言動に当てはまる。保阪氏は<プーチンはこの4点に基づいた行動をとってきたし、今後もそうするだろう>と予測。ますます強権的手法で破滅型の戦争に入っていくだろうとみている。ただ、両者には決定的な違いもある。
<現在のロシア国民がかつてのソ連国民のようにスターリンに忠誠を誓い、指導者として仰ぐような態度を捨てているということである。社会主義体制が倒れて、共産党独裁政権が崩壊し、民主主義体制の方向に向かっているというのが、この30年のロシアの正直な姿であった。ロシア国民は民主主義体制に次第に意識を変えていたのである>
実際、第2次世界大戦の第2幕ではソ連国民は「ナチスの侵略に徹底した防衛戦を」の合言葉で団結した。スターリンの独裁体制はナチスドイツを倒した。しかし、プーチン大統領の戦争には大義がない。保阪氏はこう書いている。
<現在、公然とまではいかないが「独裁者プーチン打倒」といったスローガンが叫ばれ、侵略反対のデモが一部で起こっているともいう。こういうデモに対してプーチン政権はとにかく力で弾圧する方針に徹している。国際社会は徹底した経済封鎖で対応している。事態の推移はロシア孤立化の方向にあり、ありていに言うなら、この戦争はロシア社会に「戦争反対」を掲げた市民革命的な方向を促すのではないだろうか>
市民運動がプーチン大統領を失脚させる展開もあるかもしれない。そこがスターリン時代との違いである。
改めて保阪氏に聞いてみた。
「今後も国民の弾圧、投獄、処刑などが繰り返されるように思う。暴力的支配の連鎖が、ソ連からロシアに引き継がれていて、権力者の統治手段になっていますから。スターリンとプーチンの性格や統治手段そのものが、今次の戦争の特徴と重なり合う。ソ連の20世紀の壮大な実験は失敗だったとレッテルが貼られるのはやむを得ないにしても、しかしその失敗が21世紀にもそのまま及ぶのか否かはまだわからない。ロシアが行なっているウクライナへの帝国主義的侵略の実験の成否は今、岐路に立っています」
結局、問題はいかに犠牲者を少なくして、この実験を終わらせるかにかかっている。スターリンの亡霊が歴史に再登場してはならないとの国際世論が、ロシアの国内世論の支援の一助たりうることも重要な意味を持つはずである。
●ウクライナ穀物合意拡大訴え プーチン氏と電話会談―トルコ大統領 12/12
トルコのエルドアン大統領は11日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、ウクライナ情勢を巡り協議した。エルドアン氏はこの中で、ウクライナ穀物輸出合意の対象を他の商品にも拡大するよう呼び掛けた。
穀物合意は今年7月、トルコと国連がロシアとウクライナを仲介する形で成立した。トルコ大統領府の声明によると、エルドアン氏は合意によりこれまでに「1300万トン以上の穀物が(世界各地の)必要とする人々に届けられた」と指摘。4者が引き続き協力を進め、穀物以外の産品の輸出も段階的に始めるべきだと訴えた。
ロシア大統領府によれば、両首脳はウクライナのみならずロシアからの産品輸出も進めることを確認。先に首脳間で議論したロシア産天然ガスの輸出拠点をトルコに設置する計画や、トルコがクルド人勢力に対する新たな地上作戦を検討するシリア北部を巡る状況について意見交換した。
エルドアン氏はこの後、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話で会談。ゼレンスキー氏はツイッターに投稿し、穀物合意の「拡大の可能性」について話したと明らかにした。 
●プーチン氏、今年は年末恒例の記者会見予定せず 12/12
ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)は12日、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が今年は年末恒例の記者会見を行わない予定だと発表した。
大統領府のドミトリー・ペスコフ(Dmitry Peskov)報道官は、新年を前にした記者会見はないとの見方を示し、プーチン氏は「外国訪問時も含め、定期的に報道陣に話をしている」と説明した。だが、毎年の恒例行事を行わない理由については明らかにしなかった。
2000年から政権を担っているプーチン氏は、ほぼ毎年12月に記者会見を開いてきた。国内の主要な政治イベントとなってきたこの会見で同氏は、報道陣や一般市民からの質問に対し、通常数時間に及ぶ長丁場で回答。昨年は4時間以上に及んでいた。
●戦闘続くウクライナ東部 ルハンシク州知事”冬も反撃維持”  12/12
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン政権は、一方的に併合したと主張する4つの州全域の支配を依然としてねらっていると見られています。一方、ウクライナ東部ルハンシク州の知事は、ロシア側に防御態勢を固める時間的な余裕を与えないためにも冬の間も反撃の勢いを維持して領土を奪還し続けていくと強調しました。
ウクライナ東部では連日、激しい戦闘が続いていて、ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は12日、ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つ、バフムト近郊にある学校がロシア軍の砲撃で破壊されたとSNSに投稿しました。
ウクライナ軍が先月、南部の要衝ヘルソンを奪還するなど各地で反転攻勢を続ける中、ロシア大統領府のペスコフ報道官は今月8日、「新しい地域では解放されるべき領土がまだ残っている」と述べました。
戦況を分析しているイギリス国防省は12日、この発言について「戦争におけるロシアの最低限の政治的な目標が変わっていないことを示唆している」と指摘し、プーチン政権が一方的に併合したと主張するウクライナ東部ドンバス地域など4つの州全域の支配を依然としてねらっているという見方を示しました。
その一方で「軍の地上部隊が今後数か月以内に作戦上重要な前進をすることはないだろう」として、現状ではその目的を達成する可能性は低いと分析しています。
一方、東部ルハンシク州のハイダイ知事は10日、NHKのインタビューで「これまでに13の集落を解放した」と述べ、ロシア側がことし7月に全域の掌握を宣言したルハンシク州でも一部を奪還していると主張しました。
そのうえで「われわれが反撃をやめれば、ロシア側に防御を固める時間を与えてしまうため攻勢を弱めることはない」などと述べ、厳しい寒さとなっている冬の間も反撃の勢いを維持して領土を奪還し続けていくと強調しました。
●ウクライナ軍、ロシアの雇い兵組織「ワグネル」の拠点攻撃か 12/12
ウクライナ・ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ知事は11日、ウクライナ軍がロシアの雇い兵組織「ワグネル」の本部を攻撃したと発表した。
ハイダイ知事は、ルハンスク州カディフカにある「ワグネル」の拠点となっているホテルが攻撃を受け、ロシア側が「大きな損失」を被ったと説明。医療の不足から、生存しているワグネル部隊の「少なくとも50%」は死亡するとみているとした。
BBCはこのホテルに「ワグネル」がいたかどうか独自に検証できていない。
西側の専門家たちは「ワグネル」について、ロシア政府の後押しを受け、同政府の利益のために活動する雇い兵組織だとしている。
元レストラン経営者でウラジーミル・プーチン大統領に近いエフゲニー・プリゴジン氏が創設した民間軍事会社「ワグネル」は、戦争犯罪や人権侵害を行っているとして繰り返し非難されてきた。
ワグネルの部隊はこれまで、ウクライナ南部クリミア半島やシリア、リビア、マリ、中央アフリカ共和国に派遣されている。
ホテルへの攻撃は、ロシア軍がオデーサをドローンで攻撃し、ウクライナ軍がメリトポリで反撃するなど、ウクライナ南部で戦闘が激化している最中に起きた。
エネルギー施設にドローン攻撃
ウクライナ軍は10日、オデーサでドローン10機を撃墜したが、複数のエネルギー施設が別のドローン5機による攻撃を受けたと発表した。この攻撃で停電が発生し、約150万人に影響が出ているという。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は毎晩定例のビデオ演説で、「オデーサ地域の状況は非常に厳しい」と述べた。
「残念ながら被害は甚大で、電気の復旧には数時間ではなく数日かかる」
ウクライナ当局によると、主要インフラを攻撃したのはロシアに提供されたイラン製ドローンだという。
メリトポリの攻防
メリトポリでは親ロシア派当局が、ウクライナ軍のミサイル攻撃により、2人が死亡し、10人が負傷したと発表した。ロシア政府に任命された当局者が公表した画像には、大規模な火災が写っている。
ロシア政府に任命されてザポリッジャ州のロシア占領地を統括するエフゲニー・バリツキー氏はメッセージアプリ「テレグラム」で、「防空システムがミサイル2発を破壊し、残り4発は彼ら(ウクライナ側)の目標物に到達した」と述べた。
また、人々が食事をしていた「レクリエーションセンター」が攻撃で破壊されたとし、ウクライナ軍がアメリカから供給された高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使用したと付け加えた。
ハイマースはロシア側の司令部など前線から離れた場所を狙う際に使用され、ウクライナ軍の反攻で重要な役割を果たしている。
3月初旬からロシア軍の占領下にあるメリトポリのイヴァン・フェドロフ市長は「侵略者」数十人が死亡したと述べた。
メリトポリは南東部にとどまるロシア軍にとって主要な物流拠点となっている。街の東にマリウポリ、西にヘルソンとドニプロ川、南にクリミア半島があり、戦略的に重要な都市でもある。
メリトポリを重要視
ウクライナは冬の到来を迎えたいまも、占領地奪還を目指し反攻を続けている。
ここ数週間、戦闘のほとんどはウクライナ東部、とりわけドネツク州バフムト市周辺で起きている。
しかし10日夜、ゼレンスキー大統領の顧問を務めるオレクシー・アレストヴィッチ氏は、メリトポリがウクライナ軍の主要な目標になる可能性があると示唆した。
「メリトポリが陥落すれば、ヘルソンまで続く防衛線全体が崩壊する」と、アレストヴィッチ氏は述べた。
そして、もしそうなれば「ウクライナ軍はクリミア半島へ直接続くルートを獲得できる」と付け加えた。
ウクライナは、ロシアが2014年に一方的に併合を宣言したクリミア半島を奪還すると誓っている。
●旅行先ないロシア人、温かく受け入れるベネズエラのリゾート 12/12
観光地を巡り、美しいビーチで写真を撮り、ラテン音楽のリズムに合わせてぎこちなく踊る──ロシア人観光客は、ウクライナ侵攻のさなかでも温かく迎えてくれる旅行先を、祖国から遠く離れたベネズエラの島に見つけた。
白砂の海岸にターコイズブルーの海が広がる熱帯の宝石、マルガリータ島。ベネズエラの政治的・経済的混乱が長期化する中、観光客が寄り付かなくなり、西側諸国からは渡航中止勧告が出ている。だが、ウクライナ侵攻を受けてビザ(査証)発給制限や入国制限に直面しながらも、太陽の下で休暇を過ごしたいロシア人にとっては、まさにカリブ海の天国だ。
「今、ロシア人が行ける旅行先はあまりない。休暇を過ごす場所を探すのは難しい」と、マルガリータ島を旅行中のエカテリーナ・ドルゴワさん(39)は語った。ウクライナ侵攻について尋ねると、「戦争は最悪の事態だ」と一言だけ答えた。
遠く離れたウクライナではロシアの絶え間ない攻撃にさらされ、いてつくような寒さに耐えながら、大勢が水も電気もない生活を送っている。取材したロシア人ツアー客の中で、ウクライナ侵攻について語ったのはドルゴワさんのみだった。
発言への反応を恐れる人もいれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の戦争を支持する人もいる。
ロシアのノードウインド航空が運航するモスクワとマルガリータ島を結ぶ直行便は、ウクライナ侵攻による7か月間の中断を経て、10月2日に再開された。対ロ制裁による飛行制限区域を避けた新路線を、この2か月間で約3000人のロシア人観光客が利用した。
マドゥロ大統領の「秘策」
14時間ものフライトになるが、マルガリータ島は手頃な旅行先と受け止められている。12日間の旅行費用は3500ドル(約48万円)だったと、ある観光客は話した。
島の国際空港では、ロシア語で「ようこそ」と書かれた看板が観光客を迎える。島内観光ツアーからロシア語の通訳まで、何でもそろっている。旅行者が案内役なしでホテルを出ることはない。
ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、幅広い協力関係を持つ友好国であるロシアと、年末までに約10万人の観光客を受け入れる協定を結んだ。観光業を、長引くハイパーインフレと通貨暴落で回復の兆しが見えない経済を活性化させる秘策と位置付けている。
観光客の急増で島の経済には直接の効果が出ており、統計はないものの徐々に回復しつつあると、地元ヌエバエスパルタ州観光会議所の会長は指摘する。
ただ、宝飾品やビーチウエアを販売するナカリドさんにとっては、「商品は売れるが、欧米からの観光客でにぎわっていた時ほどではない」というのが実感だ。ロシア人観光客から半額で売ってほしいと値下げ交渉を持ち掛けられ、「ロシア人はいつも値切ってくる」と不満をこぼした。
●ウクライナのオデッサ、150万人電気使えず 露のインフラ攻撃で 12/12
ロシア軍によるウクライナの民間インフラへの攻撃が続く中、ゼレンスキー大統領は10日のビデオ演説で、南部オデッサ州で約150万人が電気を使えない状況に置かれていることを明らかにした。オデッサ州当局も完全な復旧に2〜3カ月かかる恐れがあると指摘。ロシアでは今月上旬に軍施設などが無人機により攻撃されたことから、報復に及んだともみられる。
ウクライナ空軍は、ロシア軍が9日夜から10日にかけて、15機のイラン製無人機による自爆攻撃をオデッサ州など南部3州に仕掛けてきたと公表した。
ゼレンスキー氏はビデオ演説で「(州都の)オデッサ市と他の都市や村は暗闇に置かれている。重要なインフラだけにしか電気を供給できていない」と述べた。オデッサ州当局は住民に退避を促している。
ウクライナのソリスキー農業相も11日、ロイター通信に、電力が使えなくなったオデッサ港では、一時的に穀物を搬出できなくなっていると明らかにした。別の二つの港で輸出作業自体は続けているという。
ロシア軍による継続的なインフラへの攻撃により、ウクライナ全土で市民生活への影響が広がっている。シュミハリ首相は11日、フェイスブックで、国内の全ての火力と水力発電所が損壊していると認めた。
電力供給の危機を受け、ゼレンスキー氏は同日、マクロン仏大統領と電話協議。13日にパリで国際会議が開かれ、エネルギー面でのウクライナ支援が話し合われることから、事前の打ち合わせに臨んだという。11日にはバイデン米大統領とも電話協議し、防衛・財政面の支援やロシアの攻撃で破壊された電力施設の復旧支援に対する謝意を通信アプリ「テレグラム」に投稿した。ウクライナ政府は国際的な支援を獲得し、厳寒期を乗り越え、ロシアとの戦闘を継続させたい考えだ。
一方、ウクライナメディアなどによると、ロシアが2014年に強制編入したクリミア半島にあるロシア軍の兵舎で10日朝、火災があり、少なくとも2人が死亡、兵士ら200人が避難した。ウクライナ人やタタール人らによるパルチザン組織がテレグラムで犯行声明を出した。

 

●逃げ腰のプーチン氏、行事の中止・延期相次ぐ 侵攻苦戦、説明できず 12/13
ロシアのプーチン大統領が今年、年末恒例の「大記者会見」を中止することになった。ウクライナ侵攻の苦戦が目立つ中、国内外に政策を示すための恒例行事がいくつも中止されたり実施時期が不透明となったりしており、説明責任から逃げている形だ。ただ、今後も状況を打開できる見通しはなく、苦しい立場が続く可能性が高い。
ロシアのペスコフ大統領報道官は12日、大記者会見について、「新年まではない」と述べ、今年は見送る方針を示した。
大記者会見は、ロシアの地方メディアや外国メディアも参加し、プーチン氏が数時間かけて質問に答える「名物行事」。中止は過去10年で初めてとなる。
ペスコフ氏は「大統領は外国訪問時などに(報道陣と)話をしている」と釈明したが、詳しい理由は明らかにしなかった。
プーチン氏の恒例行事では、国民の質問に答える「直接対話」もまだ実施されていない。昨年は6月に開かれた。ペスコフ氏は今年5月、年内に行うと述べていたが、中止となる公算が大きい。やはり年内に実施するとしていた大統領が政策の方針を示す年次教書演説も、いまだに日程が決まっていない。・・・
●中国は拒否か。ロシアの諜報機関が探し始めたプーチンの「亡命先」 12/13
モスクワからわずか200kmほどしか離れていない空軍基地をはじめ、国内3箇所をウクライナによるものと思われる爆撃を受けたロシア。予想だにしなかった攻撃に、プーチン大統領はこの先どのような反応を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ戦争の最新の戦況と、核兵器の先制使用を示唆したプーチン氏の発言を紹介。さらにロシア連邦保安庁が検討し始めたという意外な動きをリークしています。
ウクライナ軍の長距離攻撃
ウ軍は、巡航ミサイルでインフラ攻撃するロ軍長距離爆撃機の空軍基地を、ドローンで攻撃した。今後を検討しよう。冬場になり、道の凍結もなり、機甲部隊も動けるようになっているが、その割に両軍ともに、攻勢をかけているとは思うが、前線が動かないようである。特にウ軍の機甲化部隊が動かない理由が見えない。温存した機甲化部隊はどこにいるのであろうか。もしかして、温存の機甲化部隊自体がないのかもしれない。少しずつ、各戦線に投入したのかもしれない。
南部ヘルソン州
ドニエプル川東岸にウクライナ国旗を立てたが、その後の動きがない。キーンバーン半島のウ軍の動きも分からない。ウ軍は残存ロ軍を排除できていないようである。しかし、ウ軍南部方面戦術担当の大佐は、ドニエプル川を渡河できる場所と時期を知っているので、その時期が来たら、分かるはずと言う。どうも、ドニエプル川を渡河して、東岸に機甲部隊を前進させるようである。このため、ロ軍はドニエプル川から10km以上も離れた場所に防衛線を構築しているようである。ロ軍は守勢である。
ザポリージャ方面
ロ軍は、マリウポリに南部方面司令部を作り、ザポリージャ州とヘルソン州への補給を安定させたいようである。クリミア大橋をプーチンが、ベンツ車を運転して復旧したと宣伝しているが、貨物列車は、まだ通行ができないようである。このため、ロシア本土からアゾフ海をフェリーや揚陸艦で渡り、物資を運ぶ方法で補給を行うようである。プーチンもアゾフ海はロシアの内海になっていると述べている。前回のパブリウカをロ軍が確保したとしたが、それ以上にロ軍の攻撃がないのは、鉄道輸送ではなく、アゾフ海の海上輸送を中心にしたことで、多大な犠牲を伴う攻撃を止めたようである。この地域でもロ軍は守勢である。例外的にパブリウカ攻撃があったが、それも止めたようである。そして、マリウポリ・ウルズフ村のロ軍の南部方面司令部も爆破され吹っ飛んだようである。恐らく、HIMARSの攻撃であろう。ロ軍は、冬場に「戦力化された兵士」が多くないので、今の時期はバフムト以外は守勢になるようである。もう1つ、ロ保安局(FSB)部隊が、盗聴やインターネット監視により、ウクライナのパルチザン活動家と協力者を摘発するため、ウクライナ南部占領地域で活動を開始した。ここの支配を確実にするようである。動員兵により、手が空いたことで、FSB部隊を本来の業務に回せるようである。
ドネツク・バフムト方面
ロ軍は、この地域を最重要攻撃地点としている。精鋭部隊の多くをこの地域に集めている。ロ軍の多くの戦闘資源をここに集めているが、それでもバフムトの市内に入ることもできないでいる。この方面のロ軍は攻撃限界点になってきて、アウディーウカ周辺への攻撃力が弱まっているが、それでもバフムトのワグナー部隊が中心に、攻撃してくる。ドネツク全体から、バフムトだけに戦力を集めているようである。しかし、囚人兵が団体で脱走をして、後ろの督戦隊に粛清されている。囚人部隊と督戦隊の距離は300mであり、少し撤退すると粛清に会うことになる。動員兵に対しても、同じようなことをしているという。このような攻撃で、ウ軍も多くの犠牲者が出て、ウ軍もヘルソンから多くの部隊を増援部隊として派遣、ロ軍の攻撃を防いでいる。塹壕戦もあり、前線が動かないのに、双方の犠牲者だけが増えている。第1次大戦の塹壕戦のようであると、多くのブロガー達は言っている。しかし、ウ軍の機甲部隊も入ったので、攻撃もしてくることになるが、道路T1302号線を超えて、ウ軍が攻撃して、一部ロ軍陣地を奪っている。クデュミフカへウ軍は攻撃して、運河の閘門を奪い返したようである。というように、両軍の主流部隊がドネツクに集結する可能性も出てきている。
スバトボ・クレミンナ攻防戦
ウ軍は、クピャンスクからP07を南下してスバトボに向け進軍して、いる。もう1つがクピャンスクからロシア国境戦意向けて、北進している。タブルジャンカ、ライマン・ペルシィなどをウ軍は奪還した。ウ軍はクゼミフカやキスリフカに前進しているが、戦闘が激しくなっている。このため、ロ軍もドネツクの空挺部隊とワグナー部隊の一部と第1親衛戦車軍をスタロビルスクに集めて、そこからスバトボに投入して、ウ軍の攻撃を防御するようである。このため、ドネツクのロ軍戦力が落ちている。スタロビルスクはリシチャンスクにも近く、どちらへも増援できる地点であり、そこにロ軍増援部隊を置いている。もう1つのクレミンナもウ軍は攻撃して、市内直近まで迫っているが、ロ軍も激しく抵抗している。それと地雷原があり、ウ軍機甲部隊の損害も多くなっている。反対にロ軍が、クレミンナ北西10kmのチェルボノポピフカを攻撃している。この攻撃で、ここのウ軍は防戦しているが、激戦になっている。このように、クレミンナ陥落も非常に時間がかかる可能性が出てきた。ロ軍の訓練を終えた動員兵が出てきて、それなりに戦力化してきたことが大きいようである。そして、スバトボ北西約18kmのノヴォセリフスケとステルマヒフカにもロ軍が攻撃してきている。スバトボの周りを要塞化しているので、奪還も時間が掛かるようである。というように、ウ軍の攻勢に、ロ軍も動員兵の訓練が終わり、対応できる体制が整いつつあるようである。勿論、ロ軍は守勢である。それと、ロ軍はスバトボとロシア国境間の60kmに連続的な配置の塹壕陣地を完成させた。これでルハンスク州の大部分を守れると見ているようである。
ロ軍や世界の状況
プーチンは、長期戦になると述べて、その体制を整える方向で、国内体制を構築した。その結果、戦費が国家予算の1/3も占めていて、教育や研究開発予算を大幅削減して、国防費に回すことになる。アントン・シルアノフ財務相は、2022年のロシア連邦の財政赤字が当初予想の2倍以上になると述べた。政府支出が収入を上回る額は、夏に予想されたGDPの0.9%ではなく、2%に相当するとのことだ。1月には70万人の動員が必要であるとロ軍事ブロガーが言うが、プーチンは、必要ないとした。現在30万人動員して、7万人がウクライナにいるが、残りも訓練終了したら、大きな戦力になるという。また、プーチンは、紛争において核兵器を先制使用しないという軍事ドクトリンを正式変更する可能性があると示唆した。
今一番ロ軍攻撃で効果を上げているのは、インフラへの巡航ミサイル攻撃であるが、ウ軍は、600kmも国境から離れた長距離爆撃機の基地であるサラトフ州エンゲリス空軍基地とリャザン州ディアギレボ空軍基地を、ドローンで攻撃した。エンゲリス空軍基地では、Tu-95を2機破壊、ディアギレボ空軍基地では燃料トラックを炎上させている。続いて、ロ軍が使用しているクルスク飛行場にもドローン攻撃があり、燃料タンクが炎上した。クリミアのセバストポリにも2日続けてドローン攻撃をしている。モスクワの真ん中のメガヒムキショッピングセンターも大炎上して、跡形もなくなっている。モスクワでも、ウ軍かウ軍協力者の攻撃を受けることになる。ロシアに安全な場所がなくなっている。ロ軍は、ソ連時代のTu-141UAVを使用したとしたが、ウクライナの軍需会社ウクロボロンプロムは、航続距離1,000Kmのドローン「シャンク」を開発したと述べているので、この可能性もある。もう1つが、英フィナンシャルタイムズ紙によると、中国製ドローンを改造して使用ともいうが、150Km程度しか航続距離がない。よって、この場合は、ロシア紙が述べているように、ディアギレボ空軍基地の攻撃では、ロシア国内にウクライナ協力者がいて、近くから飛ばし、エンゲリス空軍基地にはカザフスタンの協力でカザフから飛ばしということになる。なぜかというと、ロ軍防空責任者は、ウクライナから飛んできたなら、防空レーダーかロシア人の目視があるはずであるが、それがないと言う。どちらにしても、ロシアの防衛を揺るがす事態であると、ロ軍責任者は見ている。当然プーチンにも報告が入っている。しかし、防空能力が低く捕捉できなかったというと、ロ軍防空責任者が、ロシア国民から非難されることになるので、そう言っている可能性もある。このため、エンゲリス空軍基地などから30機いたが16機が消えている。ドローン攻撃を受けて、爆撃機を退避したようである。この攻撃で、ロシアは、報復で核兵器を使う可能性を示唆し始めた。それが、プーチンの先制使用の可能性もあるという発言になっている。ショイグ国防相は、ロ軍が戦争で新型で高度兵器システムを使用すべきという考えを示した。高性能兵器とは、低出力の核兵器のようであり、その砲弾を大砲やミサイルで攻撃に使用して、能力を向上させたいようである。この低出力の核を使用するために、プーチンは、先制使用したいようである。プーチンは酔った姿で、これを述べている。核使用となると、ロシアの崩壊になる可能性もあるからだ。NATOは、核を使用したら、ロ軍を全滅させると述べている。
それと、イラン製のシャヘド136UAVが3週間ぶりに登場した。1つにロシアが在庫を撃ち尽くし、最近補充されたか、寒冷地対応をされて、使えるようになったかである。12月6日、ウ軍は14機のシャヘド136を含む17機のUAVを撃墜したとしたが、脅威である。そして、短距離弾道ミサイル・イスカンデルのほとんどを、使い果たので、弾道ミサイルの攻撃はない。このため、イランからの弾道ミサイルが欲しいようである。イランの希望であるSu-35を渡してもミサイルを手に入れるようである。それと、ロシアは、経済制裁後も弾道ミサイルの生産はできないが巡航ミサイルを生産しているようであり、その半導体を3国経由で手に入れているようだ。ウ軍も155mm砲弾が不足してきたが、スロバキア、ポーランド、ウクライナで大量生産して、前線に届ける仕組みを作り、戦車の損耗に対しては、米国はドイツにレオパルド2戦車のウ軍への供与を要請した。というように、どんどん、兵器をウ軍は手に入れることになるが、ロ軍は、砲弾を自国で生産する必要がある。
それに必要な資金であるが、原油の60ドルという上限価格が決められて、資金の手当も制限されることになる。その上に、トルコは、ボスポラス海峡を保険なしのタンカーに通過を認めないとした。ロシアのタンカーは英国の制裁で船舶保険を取得できない。よって、ボスポラス海峡を通過できないことになる。しかし、一番問題なのが、軍務に従事した後、有名ロ軍事ブロガーのイゴール・ガーキンは、「ロ軍には最終的な戦略目標がないことと、兵士や将校は『何の為に戦っているのか、何が勝利の条件なのか』を理解していない」との感想を述べている。唯々、惰性で戦争を続けているだけであり、士気も上がらないとした。ロ軍の問題点であり、侵略戦争の問題点でもある。ロシアの侵略戦争に反対しているインドのモディ首相も 、2000年以来毎年開催していたプーチンとの首脳会談を見送りにした。というように、ロシアの孤立化、存在の希薄化に直面しているようである。カザフのように、プーチンに反旗をひるがえす国も出てきた。このため、イラン、北朝鮮、ベラルーシなどの3流国が、頼りである。もう1つ、プーチンの亡命先をFSBは探し始めている。当初、中国を指名したが、中国の反対なのでかアルゼンチンなど南米になるようである。ロシア敗戦時の対応もFSBは検討し始めているし、米国とも協議している可能性がある。一方、中国は原油決済をドルから奪い、人民元にする方向で米国の覇権を崩し、戦闘機という大きな武器市場を米国は捨て、日英伊などに明け渡し、ロシアも存在感がなくなり、大きな世界秩序の激変期になっている。英国も米国の衰退を見て、日英同盟に復帰しているし、ドイツは米国の衰退を見て、中国によっている。このため、米国の最大の敵は、中国であり、ロシアではない。米ロは、そのため、ロシア崩壊を望んでいない。ウクライナとは違うスタンスにあるが、米国は、ウクライナのロシア国内攻撃を止めることもできない。このように、ややこしい時代になっている。ルービニ氏の言うように、「メガ脅威の時代」で、1914年から1945年までの時代と同じようになっていると見える。戦争の時代ともいえる。それも敵味方がグチャグチャになってきている。さあ、どうなりますか? 
●プーチン大統領 年末会見を見送り 国内の反戦感情広がり懸念か  12/13
ロシア大統領府が、毎年恒例のプーチン大統領の年末の記者会見を見送ると明らかにしたことについて、イギリス国防省はその理由として、ロシア国内で反戦感情が広がっていることを懸念しているのではないかと分析しています。
ウクライナ南部オデーサ州では、ロシア軍によるエネルギー関連施設の攻撃で州内の広い範囲で停電が発生するなど、市民生活への影響が続いています。
ウクライナ国防省の高官は、アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズに対し「ロシア軍はまだ3回から5回の大規模なミサイル攻撃を行うだけのミサイルを保有している」と分析し、警戒を強めています。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は12日、年末のプーチン大統領の大がかりな記者会見をことしは見送ると明らかにしました。
この会見はプーチン氏が2012年に大統領に復帰して以来、毎年行ってきたもので、去年はおよそ4時間にわたって内外のメディアの質問に答えていました。
戦況を分析するイギリス国防省は13日「恒例のイベントが開催されないのはこの10年で初めてだ。誠実さを示す機会としてプーチン大統領は会見を重視してきた」と指摘しました。
そのうえで「ロシア国内で反戦感情がまん延していることを懸念し、クレムリンは記者会見で『特別軍事作戦』の質問が集中することに極めて神経をとがらせている」と分析しています。
●中国とロシア、年内に首脳協議 ロシアメディア報道 12/13
ロシアのプーチン大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は12月下旬に協議する見通しだ。ロシアメディアが13日伝えた。関係者によると、対面形式の可能性は低く、詳細を調整中だ。ペスコフ大統領報道官は首脳協議について「日程とテーマは承知しているが公表は後日になる」と同メディアに語った。ロシアが侵攻したウクライナ情勢などを話し合うもようだ。
ウクライナが北方で国境を接するベラルーシ国防省は13日、同国軍の戦闘態勢をチェックする緊急の軍事演習を国内で始めたと発表した。部隊の移動、防衛態勢の構築、渡河訓練を含む。ベラルーシはロシアとの合同部隊を設け、ベラルーシ国内に展開している。ウクライナはすでにベラルーシが侵攻に加わる事態を警戒している。
侵攻の長期化でロシア軍は物資不足が深刻だ。ロイター通信は12日、米軍関係者の話としてロシア軍が数十年前の弾薬の利用を検討していると報じた。こうした古くて不良品の割合が高いとみられている弾薬を活用したり、海外から調達したりしなければ2023年の早い時期にも使用可能な弾薬が尽きる可能性があるという。

 

●ロシア外務次官、米との囚人交換巡る新たな協議承知せず 12/14
ロシアのリャプコフ外務次官は13日、新たな囚人交換について米国と協議が行われる予定は承知していないと述べた。インタファクス通信が報じた。
米国とロシアは先週、ロシアで服役中だった米女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)のブリトニー・グライナー選手と、米国で服役中だったロシアの武器密輸業者ビクトル・ボウト受刑者との囚人交換を実施。これを受け、米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は12日、スパイ容疑でロシアで服役中の元米海兵隊員ポール・ウィラン受刑者を巡り、週内にロシアと接触があるとの見方を示していた。
これについてリャプコフ次官は「米国が何を念頭に置いているのか分からない。プーチン大統領がこれまでに述べているように、ロシアにはこうした問題を扱う部署がある。私の知る限りではこの件に関する接触はないと考えられる」と述べた。
リャプコフ氏が週内に行われるとされる協議へのロシアの参加を否定したのか、同氏の情報が及ばないところで協議が計画されている可能性があるのかは不明。ロシアはこれまで、囚人交換に関する米国との接触は両国の情報機関を通して行われていると明らかにしている。
●米国のロシア専門家が「プーチン大統領は徹底抗戦する」と見通す理由 12/14
ロシアのウクライナ侵略をめぐっては、ロシア軍の苦戦やロシア国内の国民の動揺が伝えられるとともに、「プーチン大統領が停戦の交渉に応じる」「プーチン政権が崩れる」などといった観測が米欧や日本でも語られるようになった。
だが米国の著名なロシア研究の専門家がその種の観測を否定し、「プーチン氏は、ウクライナをロシアの勢力圏に置くための軍事行動を止める気配はない」という分析を公表した。ロシアのウクライナ支配の願望は歴史的に根強く、その目的を追求するプーチン氏の失脚も考えられない、という。
この分析を公表したのは、米国ワシントンの大手研究機関「カーネギー国際平和財団」の上級研究員でロシア・ユーラシア研究部長のユージン・ルマー氏である。同氏の見解は12月9日に、「プーチンの長い戦争」と題する同財団の論文として発表された。
ルマー氏は2010年から2014年までオバマ政権の国家情報会議のロシア担当官を務めた。ロシアの内政と外交を専門分野として国防大学、戦略国際問題研究所(CSIS)、ランド研究所などにも勤務し著作も多い。とくにプーチン研究では全米でも有数の権威として知られる。
プーチンは苦戦も覚悟のうえで軍事行動を継続
ルマー氏は論文「プーチンの長い戦争」で、まず、最近米国や欧州の一部で「プーチン政権は崩壊が間近い」とか「プーチン大統領は側近勢力などによりまもなくウクライナとの停戦交渉の開始を余儀なくされる」という観測が広まっていることを指摘した。それらの観測は、ウクライナ領内における戦闘でのロシア軍の後退や損害の広がりなどに起因している。
同時にルマー氏は米欧の一部では「プーチン氏は錯乱し無謀になった」という推測があることにも言及した。
そのうえでルマー氏はこの種の観測や推測は的外れだとして、「プーチン氏はなお独自の戦略的、歴史的な認識と計算により、ウクライナに対する野心的な目標を達成しようと綿密な計画を進めている」との見方を示した。
ルマー氏はウクライナでの戦闘について、プーチン大統領は軍事行動を継続し、同大統領自身が定義づける「勝利」に到達するまでは苦戦も覚悟のうえで軍事手段を保持するだろう、との見通しを強調する。
ルマー氏はこうした見通しの根拠として、プーチン氏のこれまでの政治、軍事の経歴での言動パターンやロシアのウクライナに対する地政学的な歴史観などを列挙していた。
長年の「大義」のために戦っているという意識
ルマー氏の今回の論文「プーチンの長い戦争」の骨子は以下の通りだった。
・プーチン氏は自国内での政治態勢への確信に基づき、政権の強化を進める一方、対外的にはロシアの影響力圏の確保を進めようとしている。その影響力圏にはウクライナも含むというロシアの伝統的、歴史的な思考は変わらず、ウクライナへの軍事攻撃を続けている。
・プーチン氏はウクライナ攻撃に関して、失敗や挫折にもかかわらず、なお冷静かつ計算高く対処していることは、同氏のこれまでの長く険しい政治歴、軍事歴の変遷からも明白だといえる。
・ウクライナをロシア勢力圏に引き込もうというプーチン氏の意思は、ロシアにとって西欧側からの脅威への対応として古くからの歴史的基盤を有しており、プーチン政権後もロシア全体に保たれていくだろう。
以上のようにルマー氏は、プーチン大統領のウクライナ攻略にはロシア全体の歴史的、地政学的な支えがあり、同大統領はロシアの長年の「大義」のために戦っているという意識が強いはずだと主張する。
厳しく険しい展望を予測
そのうえでルマー氏は、ウクライナ戦争の今後の見通しをプーチン大統領の思考に基づいて以下のように述べていた。
・プーチン大統領はウクライナ攻撃を続けるうえで、中国との軍事、政治におけるパートナーシップ、サウジアラビアとの石油取引に基づく経済パートナーシップの保持に努めて、反米、反西欧の基本的なスタンスを固めていくだろう。
・プーチン大統領は、ウクライナをロシア影響圏に引き込むという究極の目標を果たせない状態での停戦交渉には絶対に応じないだろう。ただし戦闘面で不利な状況が続くため、ウクライナに対する「攻略」という目標を「破壊」に替えつつある気配が強まっている。
・プーチン氏の過去の思考と行動から判断しても、ウクライナに対する基本的な戦略目標を達成できないまま停戦交渉に応じるよりは、自分自身の政治基盤の崩壊や死を覚悟してでも戦闘を継続するという選択肢をとるだろう。その結果、ウクライナ、欧州諸国、米国などにとっては厳しい状況が続くだろう。ウクライナとしては軍事行動によりロシアの侵略を止める以外に当面は方途はない。
以上のようにルマー氏は、プーチン大統領は決して揺らいでいないという認識とともに、ウクライナ紛争の今後の厳しく険しい展望を予測するのだった。  
●ロシア国際政治学者 “プーチン政権は国家存亡に関わる賭けに”  12/14
ロシアを代表する国際政治学者のドミトリー・トレーニン氏がNHKのインタビューに応じ、「仮にロシアが敗北すればすべてが失われる」と述べ、プーチン政権は国家の存亡にも関わる賭けに出ているという見方を明らかにしました。そのうえで、軍事侵攻の終結に向けて「解決できるのは2人だ」と述べ、最終的にはロシアとアメリカの首脳による決断によってしか、停戦などは望めないという見通しを示しました。
トレーニン氏は、プーチン政権に外交アドバイスを行うこともある著名な国際政治学者で、今月8日にNHKのインタビューに応じました。
この中で、トレーニン氏は欧米との関係について、「完全に崩壊した」と述べ、なかでもアメリカについては、「戦闘に直接参加していないが、ロシア兵はアメリカの砲弾やミサイルで死亡している。これは、ロシアとアメリカの代理戦争だ」と述べました。
そのアメリカが主導するNATO=北大西洋条約機構との対立をめぐって、トレーニン氏は「加盟国は、冷戦時代よりも敵対的な立場をとっている。激化する危険性はある」と述べ、ロシアとNATO加盟国が直接、軍事衝突する危険性は排除できないという見方を示しました。
そして、「今起きていることは、第1次世界大戦に匹敵する戦争だ。仮にロシアがこの戦争で負けるとしたら、私たちが、いま見ているロシアは存在しなくなるかもしれない。敗北すればすべてが失われる。私たちは、これがロシアという国家の存在をかけた戦いであることを理解しなければならない」と述べ、プーチン政権は、理念や歴史を含むロシアの存亡にも関わる重大な賭けに出ているという見方を明らかにしました。
そして、「交渉や停戦協定について多くのことが言われているが、現実味はない」と述べ、現時点で停戦交渉の再開などは見通せないとしたえで、「戦争は何か月もかかるだろう。2年かかるかもしれない」と悲観的な見方を示しました。
また、軍事侵攻の終結に向けた道筋を巡って、トレーニン氏は、経済制裁など欧米側の圧力がきっかけになる可能性については「ありえない」と否定した一方、「プーチン大統領が目指しているのは常に1つだ。アメリカがロシアの国益の合法性を承認することだ」と述べました。
そのうえで、「解決者は2人いる。1人はモスクワにいて、もう1人はワシントンにいる」と述べ、最終的には、ロシアとアメリカの首脳による決断によってしか、停戦などは望めないという見通しを示しました。
ロシアの核戦力について、トレーニン氏は「私たちには、アメリカとその同盟国がウクライナへの紛争に直接参加することを排除するのに十分な核兵器がある」と述べ、プーチン政権は核戦力による脅威が抑止力になると考えていると指摘し、現時点でウクライナで使われる可能性は低いとしています。
一方、ロシア国内の現状についてトレーニン氏は、ロシア社会には強い不安感が漂っているとして、「およそ80年間で初めて、人々は国益のために命を犠牲にする必要性に直面した。人々は、これは過去のことで、生活はよりよくなり、より自由に生きて、国家に対する義務は最小限になると思っていた」と述べ、第2次世界大戦以来となる国民の動員が、社会の空気を一変させたと指摘しました。
そして、政権基盤は安定しているという認識を示したうえで、「政権にとって国内の前線は、いつでもあらゆる外部の前線より重要だ」と述べ、プーチン大統領は、独自の調査を実施するなど、世論を慎重に見極めながら政権運営にあたっていると明らかにしました。
ただ、トレーニン氏は「ロシアは社会を変え、内政も外交政策も変え、国際関係などすべて変えた」として、ウクライナ侵攻によって激変したロシア社会の将来に憂慮を示すとともに、「この国が肯定的な方向に変化することを願っている。それは、もはや欧米のモデルに従ったものではない。私たちがいるのはここしかないのだ」と述べ、欧米との関係が完全に断絶したなかで、独自の道を模索していかざるをえない局面にいるという認識を示しました。
●露、国防関連に23年予算の3割超 経済分野を犠牲 12/14
ウクライナ侵略を続けるロシアが、軍事費と国家安全保障・治安維持費を合わせた国防関連費への支出を急増させている。プーチン大統領が今月承認した2023年の露国家予算は、国防関連費に全支出の30%超を充て、異例の増額とした一方、経済発展のための予算は22年より大きく減額させた。露国家予算は、軍事作戦に全力を傾けるロシアの内情を改めて示した。
23年の予算案は11月に露上下両院を通過。プーチン氏が今月5日に承認した。
露有力紙「独立新聞」によると、23年の予算は、兵器製造や軍の人件費などに充てる軍事費に5兆ルーブル(約11兆円)を支出。4兆7千億ルーブルだった22年と比較し、外形上はそれほど増えていないようにも見える。しかし、22年の軍事費は、ウクライナでの軍事作戦の開始を受け、当初計上された3兆5千億ルーブルから1兆2千億ルーブル増額された経緯がある。
テロ対策やデモの取り締まりを担う治安機関の運営などに充てられる国家安全保障・治安維持費も、23年は4兆4千億ルーブルを計上。22年の2兆8千億ルーブルから大きく増額された。プーチン政権は予算拡大で治安機関の忠誠心を高め、国内統制を強める思惑だとみられる。
一方、技術開発や産業振興などに充てられる国家経済費は、23年は3兆5千億ルーブルにとどまり、22年の4兆3千億ルーブルから減額された。
ロシアは23年の政府歳入を26兆ルーブル、支出を29兆ルーブルと想定。赤字分は国債発行などで補う方針だ。
英国防省は11日、来年の露国防関連費が計9兆ルーブル以上に達するとし、「全支出の30%以上となり、顕著な増加だ」と指摘。米シンクタンク「戦争研究所」も12日、露国防関連費が「国内総生産(GDP)の8%に達する。ロシアはウクライナ戦争で予算を浪費し続けている」と指摘した。
●ロシア軍弾切れ*レ前 年明けにも備蓄尽き…軍の士気低下も 12/14
ロシアのプーチン大統領が主導したウクライナ侵攻がいよいよ行き詰まってきた。ロシアが一方的に併合を宣言した東・南部4州の5割超が奪還され、軍の砲弾は年明けにも備蓄が尽きるとの分析も出ている。対するウクライナは「全土奪還」へ意気軒高だ。
「ウクライナ軍はすぐそばまで来ている」。ロシアが併合を宣言した南部ザポロジエ州メリトポリのフョードロフ市長は13日、中心部で爆発があったと通信アプリで明らかにしたうえで、ロシア側を挑発した。メリトポリはロシア軍の物流拠点で、2014年にロシアが併合したクリミア半島の「玄関口」に当たる。
英国防省は、ロシアが侵攻開始以降に制圧した地域の54%をウクライナが奪還したとの見解を示した。ロシア軍が支配地域を制圧できるほどの軍部隊を編成するのはほぼ不可能で、今後数カ月で大きく前進する可能性は低いと分析する。
米高官は、約10カ月に及ぶ侵攻でロシア軍の砲弾やロケット弾の備蓄が尽きつつあり、40年以上前に製造された古い砲弾を使う可能性があると述べた。ロイター通信が報じた。古い砲弾に頼らず、イランや北朝鮮からの供与もないまま現在のペースで攻撃を続ければ、来年初めには使用可能な砲弾の備蓄が尽きるとの見方を示した。
ロシア軍は士気低下も指摘されるが、ウクライナの独立調査機関「レイティング」は13日、クリミア半島や東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)の一部を含む全土奪還を「勝利」と認識する人が85%に上ったとの世論調査結果を発表した。侵攻直後の今年3月から11ポイント上昇した。
ロシアとの和平合意締結に賛同したのは8%にとどまった。ロシアの攻撃で大規模な停電が相次いでいるウクライナだが、国民の結束は引き続き強いとみられる。
●親ロシア派司令官、核兵器なければウクライナのNATOを打ち破れず 12/14
ウクライナ・ドネツク州の親ロシア派武装勢力のアレクサンドル・ホダコフスキー司令官は13日、ロシア国営メディアに対して、ロシアはウクライナで核兵器を使用することなく北大西洋条約機構(NATO)のブロックを打ち破ることはできないと述べた。
ホダコフスキー司令官は、ロシア政府のリソースには限りがあるとの見方を示した。
同司令官は、ロシアは今、西側諸国全体と戦っていると主張。そのため、ウクライナの戦争が次に拡大するのは「核」だけだとした。
ホダコフスキー司令官は「我々にはNATOブロックを通常の方法で打ち破るリソースはない。しかし、我々には、そのために核兵器がある」と述べた。
ロシア大統領府は公にはホダコフスキー司令官の発言について反応していない。
ロシアのプーチン大統領は先週、核戦争の脅威が高まっていると警告しながらも、ロシアの核兵器については挑発ではなく抑止力とみていると語っていた。

 

●兵士不足 ロシアの民間軍事会社がアフリカの囚人をスカウト? 12/15
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が中央アフリカの囚人を戦闘要員として勧誘し、ウクライナの激戦地に投入している疑いがあるという。米ニュースサイト「デーリー・ビースト」が複数の中央アフリカ軍関係者の話として報じた。ロシアの兵士不足が深刻化していることは知られているが、まさかそこまでやっているとは……。
共同通信によると、ワグネルは、反乱軍に参加して殺人やレイプに関与した囚人を対象に勧誘している。中央アフリカは内戦が長期化しているが、ワグネルがこれまで政府に軍事支援をしていたことから、囚人の勧誘を制止できない状態だという。
中央アフリカの軍関係者は、10月以降にワグネルの雇い兵が囚人の収容施設を訪れ、戦闘員の補充に緊急を要するとして、20人超の囚人を解放したと明かしている。
ロシア政府は、ワグネルを公式に軍事会社と認めてはいないが、ウクライナ侵攻で存在感を増している。
バフムートに派遣
「『デイリー・ビースト』は、調査能力の高いメディアですから、ある程度は信頼できます」と解説するのは、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏。
「ワグネルのオーナーのプリゴジンは新興財閥で、プーチン大統領の取り巻きの一人です。プーチンにくっついて莫大な利権を取得しています」
ワグネルは、中央アフリカに大きな影響力を持っているという。
「数年前から、ロシア政府の名代として軍事支援を行う一方、鉱物資源の利権を狙っていました。中央アフリカとは太いパイプがあるので、囚人を勧誘することは十分考えられます」
ワグネルの部隊は、ウクライナ戦争の激戦地に投入されている。
「具体的には、ドネツク州バフムートです。これまで雇った兵士をろくに戦闘訓練も受けさせないまま最前線に送り込んでいました。そして数人のグループをつくり、ウクライナ軍に突っ込ませています。前線に潜んでいるウクライナ軍の前にまず彼らを行かせ、その背後に控えているロシア軍が攻撃するのです。私はそんな映像を山ほど見てきました。つまり、ワグネルの兵士は完全に捨て駒扱いなんです。作戦というレベルのものではありません。こんなやり方では兵士はどんどん死んでいく。当然、補給が必要になります。言葉も分からないような中央アフリカの戦闘員でも欲しいわけですよ」
ワグネルは半年ほど前、ロシア国内の囚人を兵士として募集していた。9月には、BBCによって、プリゴジンが受刑者に対し、6カ月働けば自由になると説明している動画が流出していると報じた。
「ワグネルはもともと、民間人を雇っていました。月給40万円だそうですが、ほとんどお金を払う前に死んでしまうそうです。また、怪我で戦線を離れた兵士に金が払われなかったケースも結構あるようです。ワグネルはかなりいい加減な組織ですよ」
兵力ではウクライナが上
そもそも、ロシアがウクライナに侵攻した当初、両国の兵力は、ロシアの85万人に対し、ウクライナは4分の1の20万人だった。何故、ロシアの兵士が不足しているのか。
「ロシア軍は空軍や海軍の人員が多く、陸軍は全土から集めても35万人です。実際にウクライナに派遣できるのは19万人ほどです。ウクライナは20万人でしたが、ロシアの侵攻で志願兵が増えて70万人になりました。数の上ではウクライナがロシアを圧倒しているのです。ロシアは、大砲やミサイルで簡単に勝てると思っていましたが、ウクライナ軍に食い止められている形です」
前線では、孤立するロシアの部隊が多いという。
「前線部隊の後方には補給部隊が控えているのですが、ウクライナ軍に攻撃されて補給が断たれて孤立するケースが続出しています。前線部隊に補給するのは歩兵ですから、どうしてもたくさんの兵士が必要になるわけです」
ロシアは兵力不足を解消するため、9月に30万人の部分動員を行った。
「30万人のうち、8万2000人がウクライナに派遣されました。そのうち兵隊として戦っているのは半分ほどで、残り半分は食料や武器などの輸送要員となっています。動員された残りの21万8000人は訓練中です」
30万人が全て戦地に派遣させても、まだウクライナの方が兵力は上回る。
「有名な中東情報サイト『ミドル・イースト・アイ』は、ロシア軍がシリアから兵士を募集したと伝えています。ロシア国内からの動員は、反発が大きいのでこれ以上は難しいでしょう。となると、ワグネルのように、海外から兵士を集めるしかありません。もっとも、捨て駒になって死ぬことが分かっているなら、囚人でも志願しないでしょう。いずれ兵士の補給も行き詰るのではないでしょうか」
●ロシアがキーウへ大規模なドローン攻撃も、全機撃墜 12/15
ロシアは14日、ウクライナの首都キーウに対して数週間ぶりとなる大規模なドローン攻撃を行った。ウクライナ当局は防空システムが深刻な被害を防いだとしている。米政府は、広域防空用地対空ミサイルシステム「パトリオット」をウクライナに提供することを検討している。
キーウのクリチコ市長は、同市中心部で爆発が起き、2つの行政庁舎が被害を受けたが、死傷者は出なかったと述べた。
ロシアは10月からミサイルやドローンを使った攻撃でエネルギー施設に打撃を与えているが、ウクライナの電力会社は14日の攻撃による被害はなかったとしている。
空襲警報は3時間後に解除された。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、イラン製のシャヘド無人機による攻撃だったと発表。13機すべてを撃墜したという。
住民の女性は、爆音を聞いて毛布の下に隠れていたと話す。女性は、キーウ市民を疲弊させようとしているとして、ロシアのプーチン大統領を非難した。
「犠牲者も多いし、結果も甚大だ。私たちは耐えるしかない。西側からの支援が間に合えば、ドローンを撃墜するだけでなく、反撃することもできるだろう。まだちゃんと撃ち落とせないから、どうにかここに着弾してしまう。彼(プーチン氏)は私たちを心理的に抑圧したいのだと思う。みんな彼の条件で合意するよう言い出している。だがそれはあり得ない。もう8カ月も経っている。それで諦められるわけがない。彼はやりたいようにやるだけなの?私たちには勝てないだろう」
米当局者はロイターに対し、パトリオット供与の発表は早ければ15日にも行われると述べた。パトリオットは世界で最も先進的なシステムの1つで、需要も高い。
ウクライナはすでに、西側各国から防空システム供与を受けている。一方ロシア政府は、もし米政府が供与を承認すれば、パトリオットはロシアの正当な攻撃目標になると警告した。
●2023年電気代がまた上がる…さらなる「原油暴騰」を招く「意外な国」の名前 12/15
2022年3月のロシア・プーチン大統領によるウクライナ侵攻は、日本に最悪のインフレをもたらした。
電気代やガス代があがった背景には未曽有の原油高があったわけだが、来年2023年はどうなるのだろうか。
次の危機はすでに始まっている可能性があり、そのトリガーを引くのはロシアではなく中東のある国になるかもしれない……。
中国「ゼロコロナ政策」で原油価格が下落
現在のところ米WTI原油価格は1バレル70ドル台前半で安定的に推移している。また高騰が懸念されていたロシア産原油も安定している。
主要7カ国(G7)、EU、豪州は12月5日に実施したロシア産原油の価格上限措置で上限価格は1バレル=60ドルに設定されたが、現在はそれ以下の水準で取引されている。
これはロシア産原油の大需要国であるインドと中国はこの制度に参加しなかったこともあって、原油市場に与える影響はほとんどなかった。
むしろ、足元では供給よりも需要不足の不安が市場を支配するようになっている。
世界最大の原油輸入国であるはずの中国だが、ゼロコロナ政策のせいで原油需要が減少するとの懸念が原油価格の上値を抑える展開が続いている。
加えて、世界の中央銀行の金融引き締めにより景気が減速するとの観測も強まっている。よって来年の原油需要はさらに厳しくなる可能性が高い。
世界景気低迷で原油は60ドルへ
国際金融協会(IIF)は11月25日「来年の世界経済の成長率は金融危機後の2009年並みの低水準(1.2%増)になる」との予測を明らかにした。
IIFは「来年の世界経済の最大の牽引役は中国だ」としているが、中国経済の下振れリスクが高まっており、世界経済の成長率はIIFの予測より低くなるのではないだろうか。
需給状況にかんがみれば、「原油価格は1バレル=65ドル前後が妥当だ」と筆者は考えているが、世界経済が急減速すれば、原油価格は1バレル=60ドル以下になったとしてもなんら不思議ではない。
原油価格の急落は、産油国にとって悪夢以外の何物でもない。
再び足かせとなる「脱炭素」
世界の原油供給の5割弱を占めるOPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)は12月4日、現行の生産目標を来年末まで維持する方針を決定した。
OPECプラスは今年8月、2020年5月から実施していた減産措置(日量970万バレル)を解消した。
原油価格が1バレル=70ドル台後半に下落したことを踏まえ、11月から再び日量200万バレルの減産に踏み切ったが、その後、静観の構えを崩していない。
米国からの増産要請が足かせとなって、思い切った措置を講ずることが難しくなっているのかもしれないが、原油価格の下落傾向が鮮明になれば、大規模な減産を再び実施せざるを得なくなる。
これにより、原油価格は1バレル=80ドル台まで回復する可能性があるものの、需要が低迷する状況が続けば、原油価格は再び下落に転じることだろう。
だが、「原油価格は来年後半以降、再び上昇するのではないか」と筆者は危惧している。世界の原油・天然ガス開発の投資額が低迷したままだからだ。
原油高騰のトリガーを引きかねない「イラク」
2014年に8000億ドルだった投資額は昨年は3410億ドルまで低下している。
国際エネルギー機関(IEA)は「投資額が早期に5000億ドル以上に増加しないと生産不足が生じるのは時間の問題だ」と警告を発している。個別に見てみると、ロシアの原油生産量(日量約1000万バレル)が早期に減少することはないだろうが、制裁の影響で10年後に原油生産量は日量200万バレル以上減少するとの見方が有力になっている。
世界最大の原油生産国となった米国の生産量は日量1200万バレル程度で頭打ちとなっており、米国のシェール産業は成熟期に入った公算が高い。
増産余力があるのは中東産油国だが、地政学リスクの高さは変わっていない。
イラン情勢が話題になることが多いが、筆者が注目するのはOPEC第2位のイラクの政情不安だ。
来年後半が要注意
11月に政権がようやく発足したが、国民の政府に対する信頼はますます下がっていると言わざるを得ない。
リビアのような内戦が勃発すれば、日量約450万バレルの原油が市場から消えてしまうだろう。
OPECの雄であるサウジアラビアも権力継承が時間の問題だと噂されている。
中東地域での米国のプレゼンスが低下する一方、ロシアや中国の影響力が強まっていることも気になるところだ。中東地域で一朝事があれば、原油価格が急騰するのは火を見るより明らかだ。
原油の中東依存度が95%を超える日本が最も大きな打撃を受けることは間違いない。
来年の原油価格の見通しは「先憂後楽」ならぬ「先楽後憂」なのではないだろうか。・・・ 
●ロシアプーチン大統領 “欧米側の経済制裁は失敗 市民は結束”  12/15
ロシアのプーチン大統領はモスクワ郊外の公邸で行ったオンライン会議で「前例のない制裁による攻撃が行われ、それはわれわれの経済の破壊を目的としている。しかし、欧米側のもくろみは失敗し、ロシア市民は結束を示した。通貨ルーブルはことし世界で最も強力な通貨の1つとなった」と述べ、欧米側の経済制裁はロシアに打撃を与えていないと強調しました。

 

●ロシア、貿易・エネルギー供給を他国にシフト 制裁に対抗=プーチン氏 12/16
ロシアのプーチン大統領は15日、西側諸国の制裁に対抗するために新たなパートナーとの貿易関係を拡大すると言明し、中国へのガス輸出急増も含まれると述べた。
プーチン大統領は経済に関するテレビ演説で、ロシアを経済的に孤立させようとする西側の動きを阻止するため、アジアやアフリカ、中南米のパートナーとの経済関係を発展させ、物流や金融の制限を撤廃すると発言。「われわれは孤立の道を歩むことはない」とし、「むしろ関心を持つ相手との協力関係を拡大する」と語った。
さらに、ロシアは「東方」へのガス販売を増やすとし、トルコに新たな天然ガスの拠点を建設する構想を改めて表明した。「電子プラットフォーム」を利用し、欧州へのガス販売価格を定めるとも述べた。
今年のロシア経済成長は2.5%縮小する見通しで、一定の「困難」を認めるとしつつも、西側諸国の経済にも対ロシア制裁によるインフレ急上昇という影響が跳ね返り、打撃を受けているという見方を改めて示した。
また、ウクライナでの戦争の終わりが見えない中、ロシアは来年度予算の3分の1近くを防衛や安全保障関連に充て、学校や病院などへの支出を削減する。しかし、プーチン氏は年金と最低賃金の上昇継続を国民に約束した。
●併合4州の発展計画とりまとめ指示 プーチン大統領ロシア領として統合推進 12/16
ロシアのプーチン大統領は、一方的に併合を宣言したウクライナの4つの州について、現地の生活水準を引き上げるための発展計画をまとめるよう指示し、ロシア領として統合を推し進める姿勢を示しました。
ロシア プーチン大統領「西側諸国は制裁によってロシアを世界の発展から取り残そうとしたが、我々は決して孤立はしない」
プーチン大統領は15日、上下両院の議長や主要閣僚らが参加した会議で欧米の制裁を「経済戦争」と表現し、「欧米のもくろみは失敗した」と主張。アジアや中東、南米やアフリカなどの非欧米諸国へのエネルギー輸出が拡大したなどとして、今年のGDP成長率はマイナス2.5%に収まる見通しだと強調しました。
そのうえで、一方的に併合を宣言したウクライナ東部と南部の4つの州について、インフラや社会保障などをロシアのほかの地域並みに引き上げるとして、来年3月までに発展計画をまとめるよう政府に指示しました。
4州のロシア領として、統合を推し進める姿勢を改めて示した形です。
●米、ロシアの富豪や知事らを新たに制裁対象に 12/16
米国の国務省と財務省は15日、ロシアがウクライナで任命した代理当局者やロシアの20人以上の知事、プーチン大統領とつながりが深いとされているロシア新興財閥(オリガルヒ)らを制裁対象に加えたと発表した。
制裁対象となった新興財閥はウラジーミル・ポターニン氏。ブリンケン米国務長官はポターニン氏について「ロシアで最も裕福な新興財閥の1人で、プーチン大統領と近い関係にある人物」としている。
米国はまた、ポターニン氏の会社が今年買収した銀行と、ポターニン氏の家族3人も制裁対象とした。ポターニン氏が所有するヨットも凍結資産となるという。
ブリンケン氏によると、制裁の新たな対象にはロシアの州知事ら29人とその家族2人、「ロシアのウクライナへの侵攻と支配を支援していた」家族の1人が所有する団体が含まれる。
知事らは「ロシア政府の最近の動員令を受けて市民の徴兵を監督・実行している」とブリンケン氏は説明した。
また、ロシア政府の任命によりウクライナで権力ある地位に就いたロシア人も制裁対象となった。
「ウクライナでロシア政府の代理として活動している代理当局者6人と1団体を制裁対象とした。ここには、いわゆるドネツク人民共和国の元『内務大臣』が含まれる。マリウポリで戦った大隊を率いていた人物で、ウクライナ市民のロシアへの強制移住を促進する濾過(ろか)施設の運営を監督している」とブリンケン氏は説明した。
ロシア鉄道の役員も制裁対象となった。財務省の外国資産管理室はVTB銀行の子会社17社も制裁対象とした。
ブリンケン氏によると、今回の制裁は「途方もない死と破壊をもたらした」ウクライナの重要インフラへの直近の攻撃を受けてのものという。
●ロシアはミサイル消耗、大規模攻撃あと最大4回−ウクライナ国防幹部 12/16
ウクライナのエネルギーインフラを徹底的に破壊したような大規模なミサイル攻撃を仕掛ける余力は、ロシアにはあと3回か4回分しか残っていない。ウクライナ政府の防衛担当幹部がこうした見方を示した。
ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は14日のインタビューで、「ロシアがこれまでにどれだけ消耗しているかは分かっている。あまり多くは残っていないこともだ」と発言。ロシアのミサイル在庫が尽きつつある一方で、「ウクライナの対空防衛は一層強固になりつつある」と語った。
ロシアのプーチン大統領がエネルギーインフラへと意図的に攻撃対象を移した10月以降、ウクライナの送電網や発電所、変電所などは継続的なミサイル攻撃にさらされてきた。これによりロシアのミサイル在庫は明らかに減少。大規模なミサイル攻撃はこれまに8回あり、規模が最大だった11月15日には約100発のミサイルがウクライナの都市やインフラに撃ち込まれた。
ロシアは兵器供給に問題があることを認めていない。だが、西側の情報機関はロシアがイランにドローン供給を求め、北朝鮮からも兵器補充を図っていると伝えている。
英国防省はイランがロシアにドローンを追加供給したと最近報告したが、ダニロフ氏はその証拠はまだないと語った。ロシアはイランからドローンの供給を受けていることを一貫して否定している。
米国がウクライナに地対空ミサイルシステム「パトリオット」の提供を検討していることについて、ダニロフ氏はコメントを控えた。同氏は今週、2000年に上映されたメル・ギブソン主演の映画「パトリオット」の画像をツイートしたが、ミサイルシステムとの関連は認めず、「何を言っているのか分からない。米国映画、特に古い映画が好きなだけだ」とかわした。
●ロシアをSWIFTから排除!それでもロシア経済が平気な理由 12/16
ロシアをSWIFTから排除!それでもロシア経済が平気な理由 (※写真はイメージです/PIXTA)
ウクライナ侵攻を続けるロシアへの経済制裁として、SWIFT制裁を決めました。ロシア中央銀行が日米欧でもつ外貨資産は凍結されて使えないうえに、ロシアの銀行の大半がドルなど外貨の決済や調達ができなくなるのです。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。
若きプーチン大統領が見たロシア崩壊 / プーチンとドル
プーチンにとって米国のドル覇権によるグローバリズムはロシア帝国再興の最大の障害でもあります。ドルが基軸通貨である以上、石油の相場と資源はドルに依存します。産油国ロシアはドルによって国家財政が左右される。米国はドルを通じて政治的影響力を行使し、ロシアの命運を左右しかねません。
1985年にソ連書記長に就任したミハイル・ゴルバチョフは、政治経済の抜本的改革をめざしたペレストロイカ(改革)を断行します。このとき米大統領だったのがロナルド・レーガンで、強いドルと高金利政策をとったために原油価格が下落します。当時、私は日本経済新聞社のワシントン特派員で、石油専門家をずいぶん取材しました。
そのなかでわかったことは、レーガンが中東諸国に原油生産の削減をさせないように強いプレッシャーをかけていたことです。供給される量が減らないので原油価格は下がったままで、それにダメージを受けたのが当時のソ連でした。現在のロシアと同様にソ連の収入源はエネルギーだったので、収入を増やすことができなかった。
レーガン政権が進める軍拡にも対抗できない。ペレストロイカを推しすすめるためにも資金が必要だったにもかかわらず、収入が増えないために、行き詰まってしまいます。そして、ソ連崩壊につながったわけです。レーガンは原油価格の下落をソ連崩壊に利用し、それが成功したというわけです。
ソ連崩壊の号砲とも言うべき、ベルリンの壁崩壊は1989年11月でした。そのとき30歳代半ばのプーチンはソ連国家保安委員会(KGB)の諜報員として東ドイツのドレスデン駐在ナンバー2の座にありましたが、ベルリンの壁を機にドレスデンでも湧き上がる市民の不穏な動きを察知して、機密文書の焼却処分に没頭します。
そして1990年1月に帰国後はレニングラード(現・サンクトペテルブルク)で政界に転じて、1999年8月に首相、翌年5月に大統領に就任しました。
プーチンはトクヴィルの言う「剣」だけの征服者ではありません。2000年以来、ロシア経済の脱ドルに努めてきました。
2000年当時、GDPの50パーセントを超えていた対外債務返済に努め、2007年以降は4パーセント以下に押さえています。対外債務はドル高や金利高で負担が重くなりますが、対外債務の圧縮は利上げショックを和らげます。米国債保有も2010年10月の1763億ドルをピークに減らし、2021年11月には24億ドルまで落としています。
公的準備資産のなかで急増しているのは金準備であり、2013年に約400億ドルだったのを、2020年には1400億ドル近くまで積み増ししました。外貨準備資産はドルを人民元に置き換えています。ロシアの対外投資ファンドである国民福祉基金の通貨別資産構成は、2021年1月でドル建てが512億ドルでしたが7月にはゼロとし、6月以降は人民元建て350億ドルの水準を保っています。
プーチンは以上のような金融面での布石を打ったうえで、ウクライナ侵攻へと突き進んだのです。
侵攻の開始は2022年2月24日ですが、バイデン米大統領による対露制裁第一弾は2月21日です。第一段階は、ロシアが独立を承認したウクライナ東部地域との貿易や金融取引などに米国人が関与するのを禁じるというもので、軽い牽制球です。
バイデン大統領は翌日、プーチン政権がウクライナ東部に派兵を決めたことを受けて、ただちに金融制裁を追加しました。ロシアの国営金融機関であるロシア開発対外経済銀行とロシア軍系の銀行に対するドル取引停止です。
これに加え、「ロシア政府を西側の資金調達から切り離す」と述べ、ロシアの国債や政府機関債などにいわゆるソブリン債(国債、政府機関債など、各国政府が発行する債権)の米国市場での発行を禁じる意図を表明しました。プーチン大統領側近の政権幹部ら個人にも制裁を科しています。いずれもドルの決済、資金調達、資産市場からの締め出しを意味し、基軸通貨ドルを武器とする対露制裁の事始めということになります。
ブロック経済圏は戦争を誘発する / SWIFT排除の対抗策
ドルの国際取引禁止の極め付けの案が、銀行間の国際決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除です。SWIFT決済の中心になる通貨はもちろんドルです。バイデン政権はウクライナ情勢緊迫化の当初からロシア外しについて検討をすすめていました。2月24日のウクライナ侵攻を見て、ただちに米国はロシアの主要銀行へのドル取引禁止処分に加え、SWIFT制裁を決めました。
そうなるとロシアはドルを中心とする国際金融市場から事実上、全面的に締め出されることになりかねません。ロシアは自国通貨のルーブル、ユーロ、円、それに人民元などそのほかの通貨での資金取引に頼るしかありませんが、バイデン政権は米銀に対し、SWIFTを迂回してロシアに協力する銀行とのドル取引制限を命じる可能性が高いからです。銀行の国籍を問わず、ドルを不自由なく出し入れする米銀が介在しないことには、国際金融業務が不可能になります。
ロシア中央銀行が日米欧でもつ外貨資産は凍結されて使えないうえに、ロシアの銀行の大半がドルなど外貨の決済や調達ができなくなるのです。
ロシアにとってSWIFTの代わりになり得るのが「CIPS」です。これは中国人民銀行主導で2015年に稼動した人民元決済ネットで、ドルを経由しなくても、人民元を介して各国間の資金を決済できるわけです。前年のクリミア併合で米国などから制裁を受けたプーチン大統領の脱ドル政策に寄り添っています。中露両国間貿易の決済通貨はドル中心だったのですが、段階的に主にユーロ決済に切り替えてきました。ロシアは外貨準備でもドルを大幅に減らし、人民元のシェアを増やしてきました。
CIPSは中露脱ドル同盟のシンボルですが、グローバル決済ネットとしては規模が小さく、SWIFTを脅かすとはとても言えません。CIPSの年間取引額はSWIFTの1日分にも及びませんし、1日当たり取引件数にいたっては4000分の1以下です。
CIPSには邦銀もみずほ、三菱UFJ、三井住友のメガバンク三行が加盟、それぞれの中国法人が中国の国有商業銀行と同様、CIPSに口座をもつ直接参加行となっています。
CIPSを使えばロシアの銀行や企業が邦銀現地法人をふくめ、CIPS口座を持つ銀行経由で貿易代金など金融取引を人民元で決済できます。ロシア企業の中国の銀行での人民元口座開設はCIPSの利用を促進することになるわけです。つまり、二国間での人民元決済に使われるローカルネットであるわけですが、それでも邦銀などがそれを使ってロシアとの金融取引を盛んにすれば、米国から二次制裁を食らいかねません。
CIPSは中露二国間ネットとしては、ドル覇権の回避ルートとして使えます。CIPSにはロシアからすでに20数行が加わっています。そのことからも、中露はCIPSを通じた通貨決済同盟に突き進んでいると見て、差し支えないでしょう。
二国間、あるいは地域間の通貨決済同盟は1930年代、英国を中心とする金本位制が崩壊し、1930年のスムート・ホーレイ法によって高関税障壁を築いた米国を筆頭に、世界全体が保護貿易主義に走ったときの産物でした。
通貨同盟は英国連邦であるコモンウエルス(英本国を中心とする自治領・独立国の連合体)経済圏をつくった英ポンド決済によるブロック経済圏が代表例です。日本が円決済ブロック圏、ナチス・ドイツがマルク決済ブロック圏で対抗した結果が第二次世界大戦とも言えましょう。 
●ついに最後の穏健派もプーチン政権から去った…強硬派が勢いを増す 12/16
プーチン政権で止まらない穏健派の流出
ロシア政界から、最後のリベラル派重鎮が姿を消した。
ロシア上院は11月30日、元副首相でもあるアレクセイ・クドリン会計検査院長官の辞任を承認。経済改革と近代化を訴えるリベラル派として最後まで残った主要人物であったが、今後はロシア版Googleとも呼ばれる検索大手・ヤンデックスの幹部に転身するとみられる。
ロイターは、「クドリン氏は『退職は自らの意志によるものである』と強調した」と報じている。経済発展の観点からロシアの変革を試みた同氏が、戦時色を強めるプーチン大統領の方針に限界を感じ、民間企業に身を転じた模様だ。侵攻に反発したとの見方も出ている。
2月のウクライナ侵攻を契機に、プーチン政権からはリベラル派の流出が続いた。侵攻前日の2月23日には、大統領特別代表のチュバイス氏が辞任している。続く3月にはアナトリー・チュバイス元副首相がロシア国外へ脱出し、5月になると大統領非常勤顧問のワレンチン・ユマシェフがプーチン氏の元を去った。
多くは侵攻反対を示すための自由意志による辞職だとみられるが、プーチン氏はこのほか、積極的な保守強硬派の登用を進めている。ロシアのある組織では、「粛正」と報じられる事件が起きていた。
侵攻反対派の委員を「粛正」、プーチンの焦り
米インサイダー誌は11月、「プーチンがロシアの人権委員会を粛清、批判派を戦争推進の支持者らにすげ替え」たと報じた。人権派の委員ら10人が解任されている。
従来であれば委員会には、一定程度のプーチン批判派が登用され、政権のストップ役として機能していた。英オープン大学のプレシャス・チャテルジー=ドゥーディ講師(政治・国際関係)は同誌に対し、「戦時下ですべてが変わってしまった」と危険性を指摘している。
ロシアに失望し続々と政界を去ったリベラル派有力者らを尻目に、主要機関の人事をタカ派で固めるプーチン氏。それを取り巻く保守強硬派らはますます勢いづき、ウクライナに対する核使用も辞さないとも公言し始めた。
こうした強硬派らはソーシャルメディアを巧みに利用して戦争肯定論を拡散しており、ロシア世論が一層戦争支持に傾くおそれが指摘されている。
反面、急速なタカ派の登用は、プーチン氏が焦りを感じている表れとも言えそうだ。ロシアでは9月の動員令をきっかけに、国民の一部が戦争に疑問を持ち始めている。
政権中枢には「荒くれ者」ばかりに…
戦争支持派の急先鋒(せんぽう)に、プーチン氏の取り巻きのなかでは随一の荒くれ者であるエフゲニー・プリゴジン氏がある。
表の顔は、成功した実業者だ。経営するレストランに来店したプーチン氏と親しくなり、プーチン氏は来賓との重要な会合を度々店で開くほど懇意になった。このことから、「プーチンの料理番」の異名を持つほどだ。
その裏の顔は、ウクライナに兵士を送り出している傭兵集団・ワグネルの創業者だ。これまでこの経歴はひた隠しにしていたが、英ガーディアン紙によると今年9月、本人が関係を認めた。
かつて、ワグネルとの関係を指摘したジャーナリストを訴えておきながら、わずか2カ月後にはロシアを救う傭兵集団のトップとして自らをPRする抜け目なさだ。
英iニュースは、プリゴジン氏の驚くべき経歴を取り上げている。
それによるとプリゴジン氏は10代で女性を殺害し、10年間刑務所に服役。出所するとホットドッグの屋台を開いて資金を貯め、西部サンクト・ペテルブルグの街に自分のレストランを構えるまでにのし上がった。
その後、英BBCなどによると、同市の市長室に副市長として務めていたプーチン氏が来店。急接近し、繰り返しケータリングを受注するなど親密な仲になったという。
いまでは7000人を擁するともいわれるワグネルのトップに君臨し、米中間選挙にも干渉工作を行ったとされるトロール工場(偽情報の拡散工場)をも展開している。
殺人の犯歴がある「プーチンの料理番」の素顔
プリゴジン氏の性格には、かなりの残忍さがうかがえる。
11月、ワグネルの戦闘員がウクライナ側に寝返ったあと、再びワグネルに捕らえられる一件があった。ワグネルのメンバーらは捕縛した戦闘員をハンマーで殴打し、殺害している。この様子は動画に収められ、ソーシャルメディアのTelegram上に流出した。
米CNNによると、自身のTelegramチャンネルでこの動画について問われたプリゴジン氏は、「ロシア人は裏切り者の臭いを嗅ぎ分けることができる。生まれつきだ」と返答したという。
別の投稿で氏は、さらに残虐なコメントを残した。「このストーリーを劇場で見たい。このショーで処刑されたやつは明らかに、ウクライナで幸福を見いだすことができなかった(中略)。この映画には『犬死にした犬』とのタイトルがぴったりだ」
ワグネルはウクライナ侵攻に際し、囚人たちを傭兵としてスカウトしたことで議論を呼んでいる。6カ月戦い抜けば自由を手にできるとの触れ込みだった。
処刑された傭兵もこのようにして刑務所を出た元囚人だが、両親がウクライナ西部に住んでいることから、戦闘に抵抗を感じるようになったという。
「ロシアにはまだ核がある」温和だった前首相が様変わり
かつて穏健派として知られたドミートリー・メドヴェージェフ前首相も、いまや戦争拡大の旗振り役に回った。
米シンクタンクの大西洋評議会は、「以前であれば西側に、温和かつ関係改善の希望の源と思われていた」メドヴェージェフ氏が、いまでは「明らかにファシズム的なことば」でウクライナの人々を批判していると指摘する。穏健派からタカ派へ急転したとの分析だ。
氏は国家としてのウクライナの存在を否定するなど、論理性に欠け感情が先行した発言が目立つようだ。戦争の扇動のためには、表現も選ばなくなっている。
米ニュース専門局のCNBCによると氏は、クリミア奪還を切望するキエフ政府を「ゴキブリ」「不満をこぼすブタ」などと表現している。メドヴェージェフ氏はTelegramで90万人のフォロワーを持ち、その影響力は甚大だ。
氏はまた、核の存在をちらつかせ緊張を高めた。米インサイダー誌は11月、氏がTelegram上で「当然ながらロシアは、まだ利用可能なすべての兵器、装備、武器弾薬を使ったわけではない」と述べたと報じている。
同氏は9月にも、一定の限度を超えればロシアには核兵器で自衛する権利があると発言し、「これはほぼ間違いなくブラフではない」と付け加えた。インサイダー誌は今回の発言も、「(ウクライナに押し返されるという)大敗を受け、核兵器の使用を匂わせた」ものだと受け止めている。
軍部の失態を批判し、「得点」を稼ぐ者も…
ほか、プーチン氏のもとに残留している有力者らからは、戦争推進の大合唱が聞こえる。軍の上層部を入れ替え、侵攻を加速すべきとの主張だ。
ロシア連邦内、チェチェン共和国の軍閥指導者であるラムザン・カディロフ氏は、傭兵集団トップのプリゴジン氏と同じく、軍部の失態を手ひどく批判している。
BBCによると氏は、最高司令官のひとりであるアレクサンドル・ラピン大佐について、階級を剥奪されたうえで「ひとりの兵士として前線に送られるべきだ」と発言したという。
また、与党・統一ロシアのアンドレイ・トゥルチャク党首は、自ら戦地に積極的に足を運んでいる。ロシア系ニュースを報じるメデューサはこの動きについて、足しげく戦地に通うことで政権内に存在をアピールするねらいがあると分析している。
情報筋はメデューサに対し、「アンドレイは口を動かしているだけではなく、実際に行動するのだということを示した」との見解を語っている。
トゥルチャク氏率いる統一ロシアは、戦争初期に人道物資の輸送という口実でドンバスに現地入りを果たした。人道支援センターの設営を通じて地元の支持を得つつ、以降も愛国主義的なレトリックを唱えながら、ウクライナ侵攻の正当性を声高に主張しているという。
強硬派の狙いはプーチンの後継者
戦争肯定論を展開するこれら強硬派の人物らは、何をねらっているのだろうか。トゥルチャク党首にようにプーチン氏の興味を引き、後釜として有力な地位を確保したいとの算段があるのは間違いないだろう。
米超党派シンクタンクのカーネギー国際平和基金は、さらに突っ込んだ見解を示している。少なくとも傭兵集団トップであり「プーチンの料理番」でもあるプリゴジン氏については、ウクライナ侵攻で失態が目立つ軍部上層部の失脚を企てているほか、党の設立をにらんだ政治運動を展開しているとの分析だ。
ところが、プリゴジン氏を含む強硬派の大多数は、世論にさして実質的な影響を及ぼしていないとの見解も出ているようだ。例外的に、メデューサは前線に足しげく通い支援物資を供給しているトゥルチャク統一ロシア党首を、「Walk the walk(行動で示す)」人物だと受け止めている。
一方、カーネギー国際平和基金は、多くのタカ派有力人物らが「Talk the talk(口先だけ)」にすぎないとしている。Telegram上では舌鋒(ぜっぽう)鋭いが、政局への影響は限定的だとの見方だ。
タカ派陣営はウクライナ市民をナチスになぞらえて否定し、その一方で自らはファシズム的なことば遣いで民衆を煽(あお)るという、矛盾した行動を繰り広げている。過激な表現を多用して人々の感情に訴えているが、その効果のほどは不透明だ。
強硬派を野放しにするプーチンの深謀
だが、こうした冷静さを欠く人物が多く見られるようになったことで、対照的にプーチン氏が説得力を帯びているとの分析も聞かれるようになった。大西洋評議会は、「良い警官・悪い警官」の構図になっていると指摘する。
「良い警官・悪い警官」は、警察の取り調べで使われる技法とされる。容疑者を取り調べる際、片方の警官があえて悪辣(あくらつ)な態度で接することで、容疑者はもう一方の優しい警官に心を開きやすくなるという心理効果だ。
大西洋評議会は、「メドヴェージェフ(前首相)はあからさまにファシズム的なことばを使い、悪い警官を演じている。これによりプーチン大統領の脅迫的なスピーチは、驚くほど温和な響きが感じられるようになっている」と述べる。
ウクライナはロシアの脅威であるなどと論理性に欠ける主張を展開するプーチン氏だが、演説での立ち居振る舞いは穏やかで自信に満ちている。感情を爆発させてきた歴史的ファシスト的指導者らの姿とはほど遠い。
メドヴェージェフ前首相が穏健派から猛烈な戦争推進派へと急転したことで、現在ではプーチン氏の冷静さが際立ち、論理的説得力を帯びているとの分析があるようだ。
失敗の責任を軍部に押しつけるための道具
プーチン氏は、台頭する強硬派をどのように捉えているのだろうか。司令部批判の急先鋒が野放しとなっている現状をもとに、プーチン氏自身がこうした主張に耳を傾けているのではないかとの分析がある。
原則としてプーチン政権は戦争批判を違法化しており、反論者を厳罰に処す方針を打ち出している。ワシントン・ポスト紙は、戦争批判には最長15年の懲役が課されると解説している。
ところが、傭兵集団頭首のプリゴジン氏とチェチェンを率いるカディロフ氏に対しては、軍部批判に関してなぜかおとがめなしの状況だ。
BBCは11月、「2人ともロシアの軍や安全保障機関の正式なトップではないが、どういうわけか軍司令官をそろって批判し、互いの意見を称賛しあうことが許されているのだ」と指摘している。
記事はまた、2人が「通常であれば前代未聞の背信的な発言と捉えられる」ような行動をしてなお言論を封じられていないことから、「ウラジーミル・プーチンが彼らの意見を考慮に入れていることを示唆している」との見方を示した。
あるいは、プーチン氏が自ら選択したウクライナ侵攻の停滞に焦りを感じ、失敗の責任を軍部トップに押しつける後ろ盾を求めている可能性も考えられるだろう。いずれにせよ強硬派の声が大きくなってきたことで、戦争継続はますます覆りにくい状況となっている。
和平交渉を望むロシア世論対策
ロシア国民からは、戦争の停止や和平交渉を望む声が徐々に聞かれるようになってきている。だが、タカ派の台頭により、ロシアの世論が戦争肯定へと揺り戻される危険がある。
独立系メディアのモスクワ・タイムズ紙は、現状では戦争への支持が低下していると指摘する。
同紙は、ロシア当局が11月17日に実施した、未発表の調査データを入手している。それによると、侵攻開始は正しかったと考える国民は60%存在し、多数派を占めている。だが、春時点の数字と比べると10ポイントも低下しているのだという。
特に18歳から45歳までの若い世代では約40%と低く、半数を割っている。同紙は、ネット世代が国営放送の発表にとらわれず、より広い情報を得ているためだと分析している。また、9月の動員令により、動員対象の年齢層に動揺が走っていることが考えられるだろう。
また、開戦の正当性ではなく今後戦争を続けるべきかを問うと、和平交渉を望むロシア国民が多数を占めるようだ。メデューサは、クレムリンの依頼を受け独立系調査機関が実施した非公開調査を入手している。
それによると、ウクライナとの和平交渉を「支持する」または「おそらく支持する」と答えた回答者は57%に上り、半数を超えた。これに対し、戦争継続を支持すると回答した人々は27%にすぎなかったという。
強硬派がプーチンの命綱になった
政府内部からはハト派の流出が止まらず、タカ派の唱える強硬論はプーチン政権の命綱となっている。政権としては侵略支持のメッセージを国民に浸透させ、弱腰になった世論を再び戦争推進に戻したいのだろう。
さすがのプーチン氏にも取り巻きの腹中は読めないだろうが、それでも軍部批判を続ける彼らを許容しているのは、そうせざるを得ないところにまで追い詰められているからでもある。
泥沼化でロシア軍の旗色が悪くなっているが、批判の矛先を軍上層部へ向けておけば、政府としては侵略の方針を維持しやすい。ウクライナ侵攻は正義だが、これまでは軍部が無能であった――というわけだ。
また、兵の確保においても、一大傭兵企業を率いるプリゴジン氏は味方に付けておきたいところだろう。9月の動員で予想外に大きく動揺した国民感情を鑑みれば、2度目の動員は当面難しいとの観測がある。
動員されるのは1年間の訓練または実戦経験を積んだ予備役だが、その予備役も、もとはといえば年2回の徴兵で強制的に訓練を積まされた一般市民だ。自身や大切な家族が戦地に駆り出されるとなれば、国民感情の悪化は免れない。
戦局は芳しくなく、職業として戦地に赴く傭兵への依存が自然と増えることだろう。その意味でプリゴジン氏は、プーチン政権の命綱とも言える存在となった。
犠牲者10万人以上の「出世ゲーム」の末路
殺人歴のある企業経営者に、穏健派から急転した前首相、そして人道支援を口実に戦地で実績を稼ぐ党首。失意のリベラル派がこぞって去ったプーチン氏の周囲には、一癖も二癖もある保守強硬派だけが残る。
戦争を絶好の機会と見て手柄をねらう彼らの戦意扇動はやまず、プーチン氏はいまだ勝機があると信じて部隊を配置し続けることだろう。ワシントン・ポスト紙は11月、米国防省による推計として、ロシア・ウクライナ両軍ともこれまでに10万人以上の死傷者を出していると報じている。
強硬派らが競う出世ゲームの陰で、駒として使い捨てにされる多くの人命が犠牲となっている。
●習氏のロシア・コンプレックスと水面下の経済支援  12/16
ロシアがウクライナとの戦争で劣勢に立たされるなか、中国の習近平国家主席はここ数カ月、公式にはロシアと距離を置く構えを見せている。
しかし表面的な外交姿勢の裏で、習氏はロシアに対する長期的な賭けを一段と深化させている。
習氏は数週間前からロシアとの経済関係を強化するよう政府に指示してきた。政府の政策顧問らはそう話す。今年すでに中ロの貿易関係は強化され、欧米からの圧力を受けるロシアにとって頼みの綱となってきたが、それをさらに加速させるものだ。
ロシア産の石油やガス、農産物の輸入を増やし、北極圏のエネルギー共同開発で協力を進め、鉄道や港湾などロシアのインフラへの中国の投資を拡大することなどが計画されている、と顧問らは言う。
ロシアと中国はさらに、ユーロやドルではなくロシアの通貨ルーブルや中国の人民元での金融取引を増やしている。これは将来の制裁から両国を守り、中国の通貨をより広く流通させるための動きだ。
ここにきて強まる絆は、ロシアのウクライナ侵攻直前に強化された両国関係(共同声明で両国の友情に「限界はない」と宣言された)を改めて確認させるものだ。ロシアとの密接な関係に尻込みしているように見えた中国だが、それ以降は逆に、協力関係をより強固にしようと努めている。
「習氏はロシアの軍事侵攻とほぼ無関係に、対ロ関係を強化してきた」。米シンクタンク、スティムソンセンターの中国プログラム責任者であるユン・スン氏はそう話す。「この関係がますます緊密になるのは当然だ」
中国外務省は声明文書で「中国とロシアは互いに包括的な戦略的協力パートナーである。二国間関係の発展は、同盟を結ばず、対立せず、第三者を標的にしない原則に基づいている」と述べた。
クレムリン(ロシア大統領府)の広報部門は、コメントの求めに応じなかった。
両国のパートナーシップは、西側の制裁措置による経済への副次的影響からロシアを保護するのに役立ち、ウラジーミル・プーチン大統領が戦争を続けることを可能にした。また世界をいっそう分断させ、対中貿易に依存する多くの発展途上国がウクライナ戦争でいずれか一方の肩を持たないようにさせている。
ロシアと中国は長らく、世界における米国の影響力を低下させようと努めてきた。その共通目標はここ何年か、より明確な焦点に浮上している。欧米とその同盟国に偏っているとみなしている国際秩序を両国が再構築できるとの自信を深めているためだ。
習氏はロシアとプーチン氏に長らく憧れの念を抱き、それが中国の北に隣接するロシアとの関係強化を求める原動力となっている。習氏は来年モスクワを訪問する予定で、それは3月に開催される全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の後になる可能性が高い、とロシアのイーゴリ・モルグロフ駐中国大使は最近記者団に語った。訪問が実現すれば、両首脳が40回目の直接会談に臨むことになる。
中国外務省は、中ロは「あらゆるレベルで交流を続けていく」と述べた。
とはいえウクライナ戦争の激化により、足元では中国が危険な外交上の綱渡りを余儀なくされている。中国は米国を抜き、世界首位の経済大国となる野望を遂げるため、今なお欧米のテクノロジーやその他の有力国との密接な協力を必要としている。
2012年にトップの座に就いた習氏は、ここ数十年間で最悪の景気減速や、中国全土に抗議の嵐が起きた厳しいコロナ制限の問題にも直面する。一方で、プーチン氏との友好関係のために中国は世界の舞台でますます孤立している。
習氏はここ数カ月、西側の猛反発に遭うのを避けるため、公の場ではロシアとの関係に後ろ向きな姿勢を示している、と北京の外交アナリストや政府顧問らは話す。その顕著な例は、プーチン大統領がウクライナで核兵器を使用する可能性をちらつかせると、習氏が他国の首脳に対し、核兵器の使用には反対すると語ったことだ。
中国がロシアの軍事侵攻を直接非難したことはない。武器供与やその他の形でプーチン氏の戦争遂行をあからさまに支持することも避けている。
「ばかげている」
習氏の親ロシア志向は、彼の家族と経歴に由来している。習氏が生まれた1953年に、当時の指導者だった毛沢東はソ連を中国の政治・経済・軍事システムのお手本にする政治運動を始めた。
父親の習仲勲氏は毛沢東と共に戦った中国共産党の革命家で、1950年代後半にはソ連に赴き、重工業を学んだ。
こうした時代背景が、少年時代の習氏の人格形成に深く関わり、ソ連の価値観や歴史、文化への憧れが心に根ざすようになった、と歴史家は分析している。
「ロシア・コンプレックス」と呼ばれることもあるこの傾向は、習氏の中に深く宿り、イデオロギーなどの違いでソ連と中国が30年近く疎遠になった間も揺らぐことはなかった。1991年のソ連崩壊後にロシア連邦が誕生すると、米国をともにライバルと見なす両国の関係は改善した。
2013年、国家主席となった習氏は最初の外遊先としてロシアを公式訪問した。その直前、プーチン氏は両国が特別な関係を築きつつあると述べている。権威主義の両指導者は、自国の過去の栄光を取り戻すというビジョンが共通していた。習氏はモスクワ訪問の際、プーチン氏に「私たちは性格が似ている」と告げた。
両氏はそれ以来、互いに誕生日を祝うのが習慣になった。
習氏は権力を握った後、共産党指導部の構造を作り替え、「プーチンモデル」に近づけようとした。中央政治局常務委員会を格下げし、自身に大きな権限を集中させた。
ロシアがウクライナからクリミアを奪取した2014年以降、中ロの経済的結びつきは一段と深まっている。
西側の対ロ経済制裁に中国は参加していない。そのためロシアの事業分野の一部(エネルギー企業や農作物生産者など)は、中国の市場や金融への依存度を高めている。
習氏がロシアを後押しする兆候は、ドナルド・トランプ氏が2017年初めに米大統領に就任した直後に現れている。トランプ氏は選挙運動でロシアとの関係を改善すると約束。それが中国共産党指導部の間に警戒心を呼び起こした。
トランプ氏が仕掛けた対中貿易戦争は、中国をさらにロシアに接近させる効果をもたらした。中国の政策顧問らはそう話す。
習氏の母校である名門・清華大学がまとめた報告書は、ロシア経済に未来はないと主張している。関係の緊密化による中国側のメリットはほとんどないと暗に伝えるものだった。この問題をよく知る複数の関係者はそう話す。
「ばかげている」。関係者によると、習氏は報告書の余白にそう書き込んだという。
●ロシア 来年の早い時期に大規模攻撃か 大統領ベラルーシ訪問へ  12/16
ウクライナ軍は、ロシア軍が来年の早い時期に大規模な攻撃を仕掛ける可能性があるとして警戒を強めています。こうした中、ロシアのプーチン大統領は来週、同盟関係にあるベラルーシを訪問する予定で、軍事的な圧力を強め揺さぶりをかける思惑とみられます。
ウクライナの首都キーウでは16日、クリチコ市長が市内の3つの地区で爆発があったと明らかにし、ロシア軍による攻撃だとして住民に避難を呼びかけています。
また、東部ハルキウ州の州知事も16日、州内のインフラ施設にロシア軍による攻撃があったと明らかにしました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は15日、「プーチン大統領はウクライナを支配し、広範囲にわたる領土を占領するという目標に向けて、2つの軍事的な動きを同時に行っている。東部ドネツク州のバフムト周辺などへの攻撃とインフラ施設への継続的なミサイル攻撃だ」と指摘しました。
そのうえで「ウクライナ政府に譲歩を迫ることに失敗しているため第3の動きとして、この冬、新たな攻撃を行う準備をしている可能性がある」と分析しました。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官も、来年2月など年明けの早い時期にロシア軍が大規模な攻撃を仕掛ける可能性があると指摘し、警戒を強めています。
こうした中、ロシアと同盟関係にあるベラルーシの大統領府は、ロシアのプーチン大統領が今月19日に首都ミンスクで、ルカシェンコ大統領と会談し安全保障問題などについて協議すると発表しました。
ベラルーシ領内では、地元の独立系団体が今月に入り、ロシア軍の軍用機や軍用車両が新たに到着したと伝えるなど軍事的な動きが活発化していますが、シンクタンク「戦争研究所」はベラルーシ軍がウクライナに直接、侵攻する可能性は低いと分析しています。
プーチン大統領はルカシェンコ大統領に対して、さらなる軍事的な協力を促すねらいがあるとみられ、ウクライナの首都キーウに近いベラルーシの国境側から揺さぶりをかける思惑とみられます。
●プーチン大統領 来週19日 ベラルーシ訪問へ ウクライナへさらに圧力 12/16
ロシアのプーチン大統領が来週、ベラルーシを訪問し、ルカシェンコ大統領と安全保障問題などを協議すると両国の大統領府が発表しました。
ロシアとベラルーシの大統領府によりますと、プーチン大統領は19日、ベラルーシでルカシェンコ大統領と会談し、安全保障問題などについて協議を行うということです。
両首脳は今年10月、ウクライナや欧米との間で緊張が高まっているとして合同部隊を編制することで合意、今月には両国の合同軍事演習も発表されています。
ロシアがベラルーシに対し、ウクライナ侵攻への関与を強めるよう促しているとの見方も出る中、ロシアとしては今回の訪問でウクライナにさらに圧力をかける狙いもあるとみられます。
一方、ロシア国防省は16日、戦略ミサイル部隊がICBM=大陸間弾道ミサイル「ヤルス」を配備する映像を公開しました。
前日には別の場所で「ヤルス」が発射台に備え付けられる映像も公開しています。
ロシアが定める今月17日の「戦略ミサイル部隊の日」に向けたものだとしていますが、欧米をけん制する思惑もあるとみられます。
●プーチン氏、印首相と電話会談 G20やエネルギーで協力 12/16
ロシア大統領府によると、プーチン大統領とインドのモディ首相が16日、電話会談した。両首脳は、インドが今月1日に議長国に就任した20カ国・地域(G20)や中ロ主導の上海協力機構(SCO)を通じ、印ロが協調する重要性で一致した。
エネルギー協力についても協議した。プーチン氏はウクライナ侵攻に伴い欧米が対ロシア制裁を発動する中でも、インドがロシア産原油を買い支えていることを評価したとみられる。

 

●ロシア中銀、金利7.5%に据え置き インフレリスク増大を指摘 12/17
ロシア中央銀行は16日、政策金利を7.50%に据え置くと決定した。同時に、プーチン大統領の部分動員令を受けた労働力不足の加速に言及し、インフレリスクが増大しているとの認識を示した。
ロシア中銀は今年2月、ウクライナ侵攻開始を受け政策金利を緊急的に20%に引き上げたが、その後は6回の利下げを実施。9月以降は金利を据え置いている。
12日公表のロイター調査で、エコノミストは年内最後となる今回の決定会合で金利は据え置かかれると予想していた。
ナビウリナ中銀総裁は記者会見で「中銀は中立のシグナルを出した。つまり、次回会合での決定と金利の道筋は入手されるデータ次第になる」と述べた。その上で、短・中期的にインフレ促進要因が優勢と見なしているとし、デフレ要因は現時点では強くないとの見方を示した。
西側諸国によるロシア産原油の取引価格の上限設定については、現時点で影響を評価するのは難しいとし、来年2月の政策会合で検証すると述べた。
中銀は10月の決定会合に引き続き今回も、9月のプーチン大統領の部分動員令を受けた労働力の減少でインフレが誘発される可能性があると警告。「部分動員の影響で、多くの産業で労働力不足が進んでいる」とし、労働市場や物流面での問題で、経済活動のほか、生産拡大能力が制限されていると指摘した。
ロシアでは部分動員令を受け、何十万人もの国民が軍に入隊したり、国外に出国したりしている。
中銀はインフレ目標を4%に設定しているが、今年末時点のインフレ率は12─13%と予測。経済省によると今月12日時点のインフレ率は12.65%だった。
キャピタル・エコノミクスのリアム・ピーチ氏は「中銀がインフレリスクがやや上方に偏っていると強調したことで、緩和サイクルは2023年半ばまで再開されないとのわれわれの観測が裏付けられた」としている。 
●周囲に異変続々、プーチン氏失脚≠フ予兆 12/17
ロシアのプーチン大統領に異変が生じている。ウクライナでの苦戦が続くなか、年末恒例の大規模記者会見を中止するほか、連邦議会への年次報告演説も来年にずれ込む見通しだ。そしてロシア国内では「ベンツ乗車事件」に国民の不満がくすぶっているという。政権のレームダック化が本格化している兆候なのか。
プーチン氏は毎年12月、モスクワで数百人〜約2000人の報道陣を相手に数時間にわたって質疑応答するのが恒例行事になっていた。
6月にも20年以上にわたり実施してきた国民との直接対話を延期した。ロシア政治に詳しい筑波大学の中村逸郎名誉教授は「結局、直接対話も開催されていない。ウクライナ侵攻で地方から兵士を動員している実態もあり、補償などで責められることを恐れているのかもしれない。本人の体調面で体力がもたないことも考えられる。重要イベントが延期されれば、地方のプーチン氏離れはますます加速するだろう」とみる。
大統領が過去1年の内政外交の総括と今後の方針を議会に示す年次報告演説についても年内の実施が見送られる方向だ。
ウクライナ問題で追及されるのを避けようとしているように見えるプーチン氏だが、思わぬところで悪目立ちした。
今月5日、クリミア大橋をドイツ車のメルセデス・ベンツをみずから運転する様子が報じられた。同社は10月にロシアでの事業停止を発表したばかり。西側諸国を敵視するプーチン氏としては奇異な行動だった。
中村氏は「ロシア国内の自動車産業が西側の経済制裁で大打撃を受けているなか、ドイツ車のハンドルを握ったプーチン氏は国民の不満を買っているという。政権内の反プーチン派がわなにかけた可能性もあり、プーチン氏の影響力低下を表す出来事だ」と語った。
8日には、プーチン氏がグラスを手に話す動画がツイッターに投稿され、波紋を広げた。プーチン氏は、ロシア軍がウクライナの民間施設を攻撃している理由について説明しているのだが、酒に酔っているように見える。厳格な姿勢で知られるプーチン氏が公の場でこうした様子を見せるのは異例のことだ。
プーチン氏は15日、一方的に併合を宣言したウクライナ東部・南部4州の統合を進める決意を改めて表明するなど強気を崩さない。だが、水面下で亡命計画も報じられ、大統領府(クレムリン)では強硬派らとの勢力争いも取り沙汰されている。前出の中村氏は「もしプーチン氏が失脚すれば、強硬派が牛耳る政権が出来上がる可能性がある」との見方を示した。
●ロシア・プーチン大統領 ウクライナ侵攻の作戦本部を訪問 12/17
ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を指揮する作戦本部を訪問しました。訪問について発表されるのは侵攻後初めてで、ウクライナへの侵攻を続ける姿勢を改めて示した形です。
ロシア大統領府は、プーチン大統領が16日にウクライナでの軍事作戦を指揮する作戦本部を訪問したと発表し、映像を公開しました。
プーチン氏がショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長らとともに会議に出席する様子などが映されていて、軍事作戦の進捗状況について説明を受けたほか、いくつか会議を行ったとしています。また、公開された画像には、スロビキン総司令官の姿もあります。
ロシア・プーチン大統領「きょうは各作戦方面の司令官から、我々の当面の行動と中期的な行動についての提案を聞きたい」
プーチン氏が作戦本部を訪問したと発表されるのは侵攻後初めてで、ウクライナへの侵攻を続ける姿勢を改めて示した形です。
●ロシア傭兵組織の州本部で爆発、被害甚大 ウクライナ東部 12/17
ウクライナ東部ルハンスク州のハイダイ知事は17日までに、同州にあるロシアの傭兵(ようへい)組織「ワグネル」の本部で爆発が起きたと述べた。
ウクライナのメディアとの会見で、この模様を捉えた画像がオンライン上に流れ、甚大な被害が生じたことを伝えたとも語った。
知事によると、この本部は、ロシア占領地で親ロシア派勢力が名乗る「ルハンスク人民共和国」内の同州カディーウカ市の建物内にある。
ロシア国営のタス通信は、同市の「民間ホテル」で10日に爆発が発生したと伝えたが、ワグネルの活動との関係などには触れなかった。CNNはこのホテルとワグネルのつながりは独自に確認できなかった。
タス通信は、ホテルが入っている建物はウクライナ軍の高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」の攻撃で破壊されたと報道。その打撃の衝撃は同市中心部にも達したとした。
2014年に創設されたワグネルはウクライナ戦争に深く関与し、プーチン大統領の「影の部隊」とも評される。創設者のエフゲニー・プリゴジン氏はプーチン氏に近い新興財閥(オリガルヒ)の一員。ウクライナに加え、ロシアが勢力伸長を図るアフリカやシリアでも軍事任務の側面援助に当たっているとされ、人権侵害行為も再三指摘されている。
一方、ロシア政府当局者などは、アフリカ中部の中央アフリカ共和国の首都バンギでワグネルと深い関係があるロシア人男性の暗殺未遂事件が起きたと述べた。
プリゴジン氏の傘下企業によると、男性はバンギの「ロシア・ハウス」の運営責任者で届いた小包を手に取って開けたところ爆発した。容体は深刻だという。
プリゴジン氏によると、男性は意識を失って病院へ搬送される前に「全てのフランス人から贈る。ロシア人はアフリカから立ち去るだろう」と記されたメモを目にしたとの言葉を発したとした。
●大規模ミサイル攻撃 プーチン大統領 軍事侵攻続ける姿勢示す  12/17
ロシア軍は16日、ウクライナの首都キーウなどに大規模なミサイル攻撃を行い、各地で発電施設が被害を受け停電などの影響が出ています。一方、ロシアのプーチン大統領は軍の作戦本部を訪問し、ウクライナへの軍事侵攻を続ける姿勢を改めて示しました。
ウクライナでは16日、首都キーウのほか東部や南部の各地でミサイル攻撃があり、ウクライナ側はロシア軍が巡航ミサイルなど76発を重要インフラに向けて発射し、このうち60発を迎撃したとしています。
ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は一連の攻撃で、9つの発電施設が被害を受け停電によって電力需要の50%が供給できない状況に陥ったと明らかにしました。
攻撃についてゼレンスキー大統領は「ロシアはこうした攻撃を何度も行えるミサイルをまだ持っているが、われわれには反撃する決意と自信がある」と述べました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は今回のミサイル攻撃はキーウをねらった最大規模のものだったとしたうえで、「ロシア軍はキーウへの攻撃を強化し、社会的な不満を扇動しようとしているが、ウクライナの人々の士気が下がる可能性は低い」と指摘しています。
一方、ロシア大統領府は17日、プーチン大統領が前日、16日にウクライナへの軍事侵攻を指揮する作戦本部を訪問したと発表しました。
プーチン大統領はショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長など軍の幹部を激励したうえで「当面の行動や中期的な行動について提案を聞きたい」などと述べました。
ロシア大統領府は、クリスマスや新年にあわせて停戦する可能性を否定していてプーチン大統領みずから、作戦本部を訪れ、軍事侵攻を続ける姿勢を改めて示した形です。
●ウクライナ軍に志願し戦うロシア人たち、「最後までずっと」 12/17
ロシアのプーチン大統領の強権統治への反発やキリスト教徒としての大義の順守などの動機に駆られてウクライナで母国の兵士と戦うことを選んだロシア人たちがいる。
身元を隠すため「シーザー」のコールサインを名乗るロシア人によると、ウクライナ軍に転じ戦闘に加わったロシア人は数百人で、数千人規模には達していないと明かした。具体的に約200人としたが、CNNはこの数字を確認できていない。
シーザーは今月初旬、攻防の焦点となっていた東部ドネツク州バフムートの防衛戦に加わっていた。「侵攻が始まった初日から自らの心、真のロシア人や真のキリスト教徒としての心の声に従いウクライナ国民を守るために赴かなければならないと決めていた」と述べた。
ロシアのプーチン大統領は今年9月、戦局の好転を狙いバフムート掌握のため全戦力を投入したとしながらも、「我々は強烈な抵抗を示した」と誇った。ウクライナ軍の兵力の大半が泥まみれの塹壕(ざんごう)にひそみ、激戦を制したと振り返った。
ウクライナ軍に志願したのは今夏だった。その気持ちを固めるまでには数カ月かかったとも認めた。家族などはウクライナ内の安全な場所へ移していた。
ロシア軍の兵士は本当のロシア人ではないとも言い切った。「同胞の人々を殺したことは認める」としながらも、「彼らは犯罪人になった。強奪、殺害や破壊のために異国の地に来た。民間人、子どもや女性を殺した」と続け、「この状況に立ち向かわなければいけなかった」との思いを吐露した。
ウクライナの戦場では少なくとも15回、ロシア兵へ銃弾を浴びせた。これら殺害行為に悔いはないともし、正義の戦いをしており、軍務やキリスト教徒としての務めを果たしているとの自負を見せた。「ウクライナが自由になれば自らの剣を今度はロシアの専制政治からの解放に使うだろう」との決意も述べた。
侵攻に反発しウクライナ軍に合流したロシア人の動機は様々だが、占領からの解放後に明るみに出たウクライナ住民の虐殺の目撃がきっかけとなった人物もいた。
コールサイン「サイレント」と名乗るロシア人は2月初め、親族を訪れるためウクライナに来た。滞在を続けていた際に、ミサイルが襲来し砲撃音が鳴り響く戦争が始まった。ロシア軍が一時占領した首都キーウ近郊のブチャやイルピンなどでは民間人らへの虐殺行為が始まっていた。
ロシア軍のキーウ近郊からの退却を受け、地元住民を助けるため虐殺が起きた現地に行き、遺体や民間人処刑など残虐行為の傷跡を目にした。この直後、最後までウクライナにとどまり、軍に入隊することを決めた。
ロシアは戦争犯罪や民間人への攻撃を否定したが、ウクライナ内の多くの場所で広範な証拠が収集された。
ロシアにいる親友は最近、部分的な動員令で強制的に徴集された。2人はウクライナの戦場で敵味方にわかれて対峙(たいじ)する恐ろしい事態もあり得ることを話し合ったことがあるという。
親友もロシアを離れて、ウクライナで共にロシア軍と戦うことを望んでいた。出国の手助けも試みていたが、動員令でかなわなくなっていた。
サイレントの家族は、多くのロシア人やウクライナ人と同様、両国に出自を持つ。妻と子ども2人はウクライナで共に住んでいるが、ほかの親族はロシアで暮らしている。
これら親族はプーチン大統領の歪曲(わいきょく)した政治宣伝にさらされながらも、実際にはロシアがウクライナに侵略した事実を理解しているとした。
ウクライナ軍側に加わったことには怒らず、「無事でいて」との言葉もかけてもらったという。「彼らは一度決めたら最後まで守る私の性格を知っている」と述べた。
身元がばれるのを恐れて大型帽子で顔を隠して取材に応じたロシア人もいた。ロシアに残した妻子に迫害が及ぶのを避けるためだった。「顔を見せたら、家族が心配になる。彼らを守ってくれる人間がいないためだ」と話した。
ウクライナ側に立って戦うロシア人が戦場などで捕まれば、ウクライナ軍兵士より過酷な結末を迎える恐れもある。先月にはロシアの傭兵(ようへい)組織「ワグネル」を捨て、ウクライナ側に脱走した兵士がロシアへ帰国後、ハンマーで惨殺される事件があった。
ワグネルの創設者は自らの戦闘員が殺したことを直接は認めなかったが、この処刑を称賛。国民などを裏切った罰とも切り捨てていた。
●インドのモディ首相「対話と外交が唯一の道」…プーチン氏と電話会談 12/17
ロシアのプーチン大統領とインドのナレンドラ・モディ首相は16日、電話会談した。インド首相府の発表によると、モディ氏はロシアによるウクライナ侵略を巡り、「対話と外交が前に進む唯一の道だ」と述べ、改めて対話を求めた。
両国の発表によると、両首脳は、エネルギーや貿易の分野での協力についても協議した。プーチン氏は、先進7か国(G7)などが露産原油の取引価格に上限を設ける追加制裁を発動したのを受け、主要な原油輸出先のインドに連携を呼びかけたものとみられる。
インドは、米欧や日本の対露制裁と一線を画す一方、侵略の長期化で食料の安定確保に影響することを懸念している。会談では、農業分野の協力についても意見を交わしたという。

 

●ロシア大統領、侵攻継続を強調 作戦本部で司令官と会議 12/18
ロシアのプーチン大統領は16日、ウクライナでの特別軍事作戦を指揮する本部を訪れ、ショイグ国防相やロシア軍のゲラシモフ参謀総長、司令官らと複数の会議を開いた。2月に始めたウクライナ侵攻が長引く中、攻撃の手を緩めず、作戦を続ける姿勢を強調した。大統領府が17日発表した。
プーチン氏は「各方面の司令官たちから当面や中期的の行動に関する提案を聞きたい」と呼びかけた。会議には作戦を統括するスロビキン司令官も参加した。
●プーチン氏、ロシア軍首脳部と会合 侵攻継続を印象づける狙いか 12/18
ロシアのプーチン大統領は16日、ウクライナでの軍事作戦を指揮する本部を訪れ、終日にわたり軍首脳部と協議した。ロシア軍は苦戦を続けており、本部の訪問は軍事作戦の継続を印象づける狙いとみられる。ロシア国内では一部の軍首脳が解任されるとの情報も出ていたが、打ち消しを図った格好だ。
プーチン氏の作戦本部訪問は、ロシア大統領府が17日に発表した。タス通信によると、プーチン氏は冒頭、ウクライナ侵攻に関して「短期的、そして中期的な活動について、あなた方の提案を聞きたい」と出席者に呼び掛けた。詳細は伝えられていないが、侵攻開始から10カ月になるのを前に、今後の展望を集中的に話し合った公算が大きい。
ロシア軍は11月半ば、一方的に併合宣言していたウクライナ南部ヘルソン州の西部から撤収を余儀なくされたが、その後は州東部に防衛ラインを築いて、ウクライナに奪還された地域への砲撃を続ける。東部ドネツク州でも支配地域の拡大を狙い、州北部バフムトなどの攻略戦に力を入れている。
今後、注目されるのは隣国ベラルーシでの活動だ。ロシアはルカシェンコ政権にウクライナ侵攻に加わるよう圧力をかけてきたが、これまで同意を得られていない。プーチン氏は12月19日に3年半ぶりにベラルーシを訪れる予定で、ルカシェンコ大統領に軍事侵攻に加担するよう求めるのは必至だ。
ベラルーシを友軍に加えるシナリオを含め、ロシアは再びベラルーシからウクライナ北部に侵攻する計画を練っている模様だ。ウクライナの軍首脳部も、ロシア軍が兵力の再編成を終え、2023年1月から3月にかけて大規模攻勢を仕掛けてくる可能性に言及するなど警戒を強めている。
プーチン氏と軍首脳部との会議では、制服組トップのゲラシモフ参謀総長の写真が公開された点も注目を集めた。ウクライナでの苦戦が伝えられる中、ロシア国内の愛国主義的な勢力は軍首脳部への批判を強めており、12月中旬にはソーシャルメディアでゲラシモフ氏が近く解任されるとの情報が拡散された。
すぐにロシア国防省は「西側メディアが絡んだフェイクだ」と全面否定した。それでも2月の侵攻開始から、ウクライナ戦線を指揮してきた司令官が度々解任されてきたこともあり、ゲラシモフ氏の進退に関心が高まっていた。会議への出席が確認されたことにより、今後も制服組トップに納まり続けるとみられる。
一連の騒動は、ロシア国防省や軍の影響力の低下も映し出している。ウクライナ戦線への参加が指摘される民間軍事企業ワグネルを経営するプリゴジン氏や、私兵部隊を率いるチェチェン共和国のカディロフ首長らが継続的に軍批判を展開。国内の愛国主義的な勢力とも連携し、発言力の増大が伝えられている。
●消えたプーチン、南米逃避説まで出てきた…作戦名は「ノアの方舟」 12/18
最近になって公式定例行事を中止するなどロシアのプーチン大統領が姿を隠しており、以前から言及されてきた健康不安説に続きウクライナ戦争敗北に備えて南米への逃避説まで出ている。作戦名は「ノアの方舟」だ。
英紙タイムズなど外信は16日、ロシア大統領府消息筋の話として、プーチン大統領がウクライナ戦争で敗北する場合、ロシアから脱出しアルゼンチンやベネズエラなど南米の国に逃避する計画を準備する可能性があると伝えた。
プーチン大統領の演説秘書官を務めた政治評論家のアッバス・ガリャモフ氏はこの日、「プーチンは失脚しかねない深刻な脅威があるならばアルゼンチンやベネズエラに脱出するだろう」としながらクレムリン消息筋の話を伝えた。続けて「プーチンの側近は彼が戦争で敗れ権力を剥奪され急いで逃げなくてはならない可能性を排除していない」とも主張した。
2月にロシアがウクライナに侵攻してからプーチン大統領の健康不安説も絶えることがない。プーチン大統領が公式行事で足を引きずったり、痛みをこらえるように机の角をつかんで体をもたれかけるような姿などがとらえられたのだ。
特に11月28日にプーチン大統領が統領府でカザフスタンのトカエフ大統領との首脳会談中に足にけいれんが起きたり左腕で右腕を握りしめていたとし、英紙ザ・サンがプーチン大統領の健康異常説を伝えている。また、11月初めにザ・サンはロシア情報部員から流出した電子メールを入手したとし、プーチン大統領が初期のパーキンソン病とすい臓がんを患っていると報道した。ロシアの反政府メディア「ザ・プロジェクト」は、プーチン大統領がこの4年間にがん専門医の診療を35回受けたと伝えた。
一方、プーチン大統領は2012年の3期目執権から毎年行ってきた年末の記者会見を今年は異例に中止した。プーチン大統領が最後に姿を見せた公式行事は9日にキルギスタンで開かれたユーラシア経済共同体(EAEC)行事だった。  
●ロシアが兵士鼓舞の慰問団を設立 「プーチン氏が歌うべき」と批判が 12/18
英国防省は18日に公表したウクライナの戦況分析で、ロシア国防省が前線の兵士を鼓舞するため、オペラ歌手やサーカス団員らによる「慰問団」を設けると発表したことを紹介した。ただ、兵士の心配事は高い死傷率や装備不足であり、慰問団ではこれらを解決できないとも指摘している。
ロシア経済紙RBCによると、慰問団の正式名称は「前線創造旅団」。二つの旅団がつくられたといい、メンバーは音楽家や演劇俳優、オペラ劇場の関係者、サーカス団員ら。プーチン大統領が発令した部分的動員で軍隊に入っていた人や、自発的に同旅団に入った人から成るという。
任務は兵士の心理的なサポートを担うことだといい、ロシア国防省はこうした旅団の設立について、現代のロシアで初めての取り組みだとしている。
ただ、インターネット上には、「音楽は、彼ら(兵士)が約束通りのお金をもらえていないことなどを解決できない」「プーチン氏自らが前線に行って歌うべきだ」との書き込みもある。
●プーチン大統領、軍高官と協議 ウクライナでは電力復旧 12/18
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は16日、「特別軍事作戦」の本部を訪れ、ロシア軍の次の動きについて協議した。国営テレビが映像を放送した。
プーチン氏は司令官らに、「各作戦方面の指揮官の意見を聞きながら、当面の行動と中期的な行動について提案が聞きたい」と述べた。
映像では、プーチン氏の隣にセルゲイ・ショイグ国防相と ワレリー・ゲラシモフ参謀長が座っていた。
ゲラシモフ参謀長については、罷免されたとのうわさもあったが、今回の映像によって打ち消された。ゲラシモフ氏の慎重姿勢は、タカ派コメンテーターらの批判対象になってきた。
国営メディアが発表したこの日の写真には、セルゲイ・スロヴィキン空軍大将の姿もあった。スロヴィキン将軍は10月にウクライナ侵攻の総司令官に任命された。
ウクライナ軍の反攻はここ数カ月、ロシアが唯一占領した州都ヘルソンを奪還するなど、躍進を続けている。秋にウクライナ東部ハルキウやイジュームなどからロシア軍が撤退したことと併せて、軍高官らは政府寄りの主戦派コメンテーターから批判され続けている。
ウクライナ側の予測とベラルーシ
対するウクライナ軍の総司令官を務めるヴァレリー・ザルジニー陸軍大将は先に、ロシアが来年の早い時期に新たな大規模攻撃を仕掛けてくるとみていると発表。ロシアは約20万人の兵士を訓練中だと警告した。
ザルジニー大将は、「ロシアが再び首都キーウを攻めるのは間違いない」として、「私は手勢の戦闘部隊の数も、年末までにいくつの戦闘部隊を用意しなくてはならないかも、承知している。そして何より、現状がどれだけ大変でも、その戦闘部隊に今はいっさい手を付けてはならないことも、承知している」と述べた。
また、攻撃は「キーウの方向」から始まる可能性もあり、その場合はベラルーシが出発点になることもあり得るとの見方を示している。
2月の侵攻開始時、ロシア軍はベラルーシ国境を越えてキーウへと進軍した。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、自軍の参戦を繰り返し否定しているが、ベラルーシでは現在、ロシア国防省が「集中戦闘訓練」呼ぶものにロシア兵数千人が参加している。
プーチン大統領は19日にも、ベラルーシの首都ミンスクを訪れ、ルカシェンコ氏と会談する予定。

 

●ロシア国防省が前線を視察 プーチン大統領と作戦会議 12/19
ロシア国防省は12月18日、セルゲイ・ショイグ国防相が、ロシア軍の前線を視察したと発表した。
同国防省が公開した映像には、ヘリコプターに乗り込み、塹壕や戦車壕とみられるロシア軍陣地を、上空から視察するショイグ国防相の様子が捉えられている。
同国防省は声明で、ショイグ国防相が"前線"や"司令部"で将兵と言葉を交わしたと述べたが、視察の日時や、国防相がウクライナを訪問したのかどうかについては明らかにしていない。
プーチン大統領は17日、ショイグ国防相を含む軍の幹部との作戦会議を開き、ウクライナにおける軍事作戦の進め方についての提案を求めたといわれている。
●世界は「良い方向に変化」 プーチン露大統領、若者らに持論 12/19
ロシアのプーチン大統領は18日、モスクワで開かれた子どもと若者の集会に寄せたビデオ声明で「いまロシアだけでなく、世界で大きな変化が起きている。この変化が良い方向に向かうと信じている」と述べ、国際秩序の動揺を引き起こしているウクライナでの軍事作戦を正当化した。
プーチン氏は、若い世代が国の発展のために貢献する重要性を強調。若者たちの行動によって「世界がもっと公正に、あらゆる民族が平等になり、自国の伝統や言語を守っていけるように願っている」と述べた。
ロシアはウクライナのゼレンスキー政権を、ロシア語や文化を敵視し破壊する「ネオナチ」と批判。欧米は自分たちの覇権を維持するためにウクライナを支援し、制裁でロシアを圧殺しようとしていると主張している。
●プーチン氏、W杯優勝のアルゼンチン大統領に電話「温かく祝った」 12/19
ロシアのプーチン大統領は18日、サッカーW杯カタール大会で優勝したアルゼンチンのフェルナンデス大統領に電話した。ロシア大統領府によると、「温かく祝った」という。
アルゼンチンについては、準決勝進出の4カ国が決まったとき、前大統領であるメドベージェフ国家安全保障会議副議長がSNSで「敵国」でないとして、モロッコと並んで決勝進出を期待する投稿をSNSにしていた。ウクライナ侵攻を強く批判するフランスとクロアチアについては、ロシアは「非友好国」に指定している。
●ロシア、南部要衝で市街戦準備か 市内に車両阻止ブロック 12/19
ロシアによるウクライナ侵略で、露軍の占領下にあるウクライナ南部ザポロジエ州の要衝メリトポリのフェドロフ市長は18日、露軍が市内の路上に車両の進入を防ぐ三角錐(さんかくすい)型のコンクリートブロックを設置しているとする写真を交流サイト(SNS)に投稿し、「露軍が市街戦の準備をしている」との見方を示した。メリトポリは現在、ウクライナ軍が主要な奪還目標にしているとされ、露軍は防衛線を固めているもようだ。
フェドロフ氏は市外に退避中だが、これまでも地元住民から提供された情報をSNSで発信しており、今回投稿した写真も住民が撮影したものとみられる。
南部の戦線では、ウクライナ軍が11月、ヘルソン州の州都ヘルソンを含むドニエプル川の西岸地域を奪還。だが、露軍は同川の東岸地域を要塞化し、西岸地域に砲撃を続けている。ウクライナ軍は渡河を強行すれば損害拡大が避けられないことから、同川の東岸地域とロシアの実効支配下にあるクリミア半島方面への進出ルートとなるメリトポリをまずは奪還する作戦を進めるとみられている。
実際、ウクライナ軍は最近、高機動ロケット砲システム「ハイマース」などによるザポロジエ州の露軍拠点への攻撃を強化。複数の露軍の弾薬庫や自走砲などを破壊したとしている。
一方、プーチン露大統領は18日、侵略開始後に露政権主導で設立した未成年者の愛国団体の第1回大会にビデオ声明を寄せ、ウクライナでの軍事作戦を念頭に「現在、ロシアだけでなく世界中で変化が起きているが、これは良い方向への変化だ」と主張した。露政権は侵略開始後、愛国教育を強化。軍事作戦が正当だとの認識を未成年者に植え付けようとしている。
プーチン氏は19日、同盟国ベラルーシを訪問し、ルカシェンコ大統領と会談する。両国は経済協力などが主な議題になるとしているが、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は、プーチン氏がベラルーシに対ウクライナ参戦を決断させるために圧力をかける可能性が高いと指摘した。
●キッシンジャー氏、ロシア侵攻で交渉呼びかけ ウクライナは却下 12/19
米国のヘンリー・キッシンジャー元国務長官は雑誌スペクテイターに寄稿し、再び壊滅的な世界大戦が起こるリスクを減らすため、ロシアとウクライナの交渉による和平を呼びかけた。
だが、ウクライナ政府はこの提案を「侵略者への譲歩」にあたるとして退け、領土を譲り渡すことを含む取引はあり得ないと表明した。
冷戦時代に対ソ連緊張緩和政策の立役者となったキッシンジャー氏(99)は、プーチン氏が大統領に就任して以来、複数回会談している。
ロシアは、ウクライナに南部と東部地域のロシアによる併合を認めるよう求める一方、ウクライナは、ロシアが2014年に併合したクリミアを含む自国の領土から、全ての兵を退去させるべきと主張している。
キッシンジャー氏は寄稿文で「既に達成された戦略的変化を土台に、交渉による平和の実現に向けた新しい構造に統合する時期が近づいている」と指摘。「和平プロセスは、ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に結びつけるべきである。中立という選択肢は、もはや意味をなさない」とした。
キッシンジャー氏は5月、ロシアが2月の侵攻前の前線に撤退し、クリミアを「交渉」対象とする停戦案を提案したという。
ウクライナ大統領府のポドリャク顧問はテレグラムで「キッシンジャー氏が求めていても、口に出すのを恐れている処方箋は単純だ。東欧の他の国々に対する不侵略を保証するために、ウクライナの一部を犠牲にすることで侵略者をなだめるというものだ」と指摘。
「悪魔との合意、つまりウクライナの領土を犠牲にした悪い平和は、プーチン氏の勝利となり、世界中の独裁者の成功の秘訣となる」と警告した。
●プーチン大統領 小型核使用で“強制終了”の最悪シナリオ… 12/19
本気なのか、虚勢なのか──。ウクライナ戦争をめぐり、ロシアのプーチン大統領が年明け、ウクライナの首都キーウに再侵攻するとの見方が出てきた。
英紙ガーディアン(15日付)によると、同紙のインタビューに応じたウクライナのレズニコフ国防相は、部分動員されたロシア兵30万人のうち〈約15万人が軍事訓練を始めた〉と指摘。〈準備に最低3カ月かかるとすると、昨年の軍事侵攻開始のように、年明け2月にも次の大規模攻撃を仕掛けてくるのではないか〉と、警戒感を示した。ウクライナのザルジニー総司令官も英誌エコノミストに、ロシア軍が年明けに首都キーウ奪還を再度狙ってくる可能性について言及している。
実際、最近のプーチン大統領の動きはキナくさい。19日、同盟国ベラルーシの首都ミンスクを約3年ぶりに訪問。盟友関係にあるルカシェンコ大統領と会談する予定だ。戦争長期化に備えた動きとみられる。
16日にはショイグ国防相やロシア軍のゲラシモフ参謀総長らと今後の「特別軍事作戦」について協議。作戦続行の姿勢を強調した。
一方、ロシア国内の厭戦ムードは拭いきれていない。モスクワ・タイムズ(12日付)によれば、ロシアの人材サービス会社が実施した調査の中で、ロシア国内の労働者のうち約37%が国外脱出を希望。首都モスクワや第2の都市サンクトペテルブルクでは国外脱出を望む労働者が45%にも上ったという。
プーチン大統領は国内世論を無視して戦争を継続し、懲りずにキーウ陥落を再度狙うつもりなのか。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。
「ウクライナ側が年明けに警戒している『総攻撃』は、核使用ではないか。プーチン大統領は反戦・厭戦ムードが高まっている国内世論と、小型核の使用を訴える強硬派との板挟み状態です。傭兵組織『ワグネル』を創設した実業家のプリゴジン氏やチェチェン共和国のカディロフ首長ら強硬派は、苦戦を強いられるロシア国防軍の実態を積極的に暴くことで、小型核の使用しか生き残る道はないとプーチン大統領をたきつけています。プーチン大統領は第3次世界大戦を避けたいNATOの立場を逆手に取り、キーウに小型核を使用することで、戦争の強制終了を狙うシナリオを描いている恐れがあります」
予測不可能なプーチン大統領のことである。年明けは要警戒だ。
●「対NATO」団結訴え=チェチェン首長がイスラム教徒に―ロシア  12/19
ロシアのプーチン大統領に忠誠を誓う南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長は18日、ウクライナ侵攻の中、北大西洋条約機構(NATO)が「世界全体の存在を脅かしている」と主張した。その上で、共通の敵を前にイスラム教徒がロシアの下で団結するよう呼び掛けた。
通信アプリ「テレグラム」に英語のナレーション動画を投稿するとともに、中国語でメッセージを記した。チェチェンはイスラム教徒が多数派を占めている。 

 

●ロシア、編入宣言のウクライナ領で規制強化へ 特殊部隊投入 12/20
ロシアのプーチン大統領は19日、国境警備の強化を指示し、ロシアが自国領と主張するウクライナの地域で大規模集会を規制し、住民の安全を確保するよう特殊部隊に命令した。ロシアの国内メディアが報じた。
ロシア通信(RIA)によると、プーチン氏は国境サービスと連邦保安局(FSB)を通じて国境を確実にカバーする必要があるとし、「国境を侵すいかなる試みも、機動部隊や特殊部隊など、われわれのあらゆる力と手段を使って迅速かつ効果的に阻止しなければならない」と述べた。
またタス通信によると、「防諜機関には最大限の冷静さと戦力の集中が求められる」とし、「外国の特殊部隊の行動を厳しく抑え込み、裏切り者、スパイ、破壊工作員を素早く特定することが必要だ」と述べた。
さらに、9月に一方的に編入を宣言したウクライナ東・南部4州は「非常に困難な」状況にあるとコメント。4州に住む市民の安全を確保するのは特殊機関の任務だとし、そのために最新の装備と武器を提供すると表明した。
●ロシア、ベラルーシ併合に「関心なし」 プーチン氏 12/20
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日、ベラルーシを訪問してアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と会談し、ロシアはベラルーシを併合することに「関心はない」と明言した。
プーチン氏は、国防相と外相と共にベラルーシの首都ミンスクに到着。ルカシェンコ氏との会談後、記者からの質問に答える形で「ロシアは誰であれ併合することに関心はない」とし、ロシアがベラルーシを併合するとの見方は「悪意を持った者」が流すデマだと断じた。
ベラルーシは、同盟関係にあるロシアからの安価な原油と融資に大きく頼っている。ロシアは長年にわたりベラルーシとの統合強化を目指してきたが、ルカシェンコ氏は完全統合を拒否してきた。
ロシア軍は現在、10か月近くに及ぶウクライナ侵攻で苦戦を強いられており、プーチン氏が今回のベラルーシ訪問でルカシェンコ氏に対しウクライナに軍隊を派遣するよう圧力をかけるのではないかとの臆測も広がっていた。しかし、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、こうした見方を「全く愚かで、根拠のない捏造(ねつぞう)だ」と一蹴した。
ルカシェンコ氏はプーチン氏との会談で、「困難な時代だからこそ、政治的な決意を持って2国間の議題すべてにおいて結果を出すことに専念する必要がある」と述べ、「最近の主な問題は、防衛と安全保障だ」と指摘した。一方のプーチン氏もルカシェンコ氏に対し、両国の経済関係強化を望むと述べ、ベラルーシを「真の意味での同盟国」と称賛した。
●ロシアによるベラルーシの「吸収」、プーチン氏「関心ない」 12/20
ロシアのプーチン大統領は19日、訪問先のベラルーシで同国のルカシェンコ大統領と共同記者会見を開き、ロシアがベラルーシを「吸収」する計画はないと述べた。
プーチン氏は記者からロシアがベラルーシの吸収を狙っているとのうわさがあるとの情報について問われると、「ロシアは誰も吸収することに関心はない。それは単純に、今日において賢明ではない」と述べた。
さらに「外側にいる恥知らずな批判者は、自分が話していることを理解していないか、故意にそうした話をして、そういった事が念頭にない人々を惑わせようとしている」と反論。「この問題は乗っ取りに当たらず、経済政策の連携だ」と強調した。
両首脳はこの記者会見で、軍事面や西側による制裁への対抗での両国間のさらなる協力を表明していた。
プーチン氏は「我々の統合プロセスを遅らせようという悪意のある人物による試みだ。影響力のある危険な競争相手を世界市場に入れないという目的しかない」とも語った。
米国務省のプライス報道官は、誰も吸収する意図はないとのプーチン氏の発言は「皮肉の極み」として受け取らざるを得ないと言及。「我々はプーチン氏のこうした発言を今回の戦争開始以降、そして開始数週間前から聞いてきた。ルカシェンコ政権が主権や独立をロシアに事実上譲っている状況も見ている」と指摘した。
●プーチン大統領 ベラルーシ大統領と会談 軍事面の連携強化強調  12/20
ロシアのプーチン大統領は同盟関係にあるベラルーシを訪問し、ルカシェンコ大統領と会談しました。会談後の記者会見でプーチン大統領は、両国の軍事面での連携を一層、強化すると強調し、ウクライナや欧米側に揺さぶりをかける思惑もあるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は19日、同盟関係にあるベラルーシの首都ミンスクを訪れルカシェンコ大統領と会談を行いました。
ロシアメディアなどによりますと、プーチン大統領がベラルーシを訪問するのは2019年以来、3年ぶりで、訪問にはラブロフ外相とショイグ国防相も同行しました。
会談後の記者会見で、プーチン大統領は「われわれは両国の安全を確実に確保するため、定期的な合同演習を継続することで合意した」と述べ、軍事面での連携を一層、強化すると強調しました。
さらに、プーチン大統領は核弾頭を念頭に「ある特殊な弾頭を搭載できるベラルーシ軍の航空機の乗組員をロシアが訓練することは可能だと考えている。アメリカはNATO=北大西洋条約機構の加盟国に同じことをやってきた」と述べ、ベラルーシとの核戦力での連携にも言及し、対立するウクライナや欧米側に揺さぶりをかける思惑もあるとみられます。
一方、ルカシェンコ大統領は「われわれは、ロシア無しでは独立と主権を守ることはできない」と述べ、ロシアとの連携強化に応じる姿勢を示しました。
ベラルーシ領内では、今月に入り、ベラルーシ軍やロシア軍が活動を活発化させていると伝えられていて、プーチン大統領がルカシェンコ大統領に対し、ウクライナへの侵攻をめぐり、より積極的な軍事協力を求めるという見方がでています。
ウクライナ側も、来年の早い時期、ロシア軍が大規模な攻撃を仕掛ける可能性があると分析していて、ロシア軍とともに、首都キーウと距離的に近いベラルーシの軍の動きに対しても警戒を強めているとみられます。
アメリカ国務省のプライス報道官は19日、記者会見で「われわれは、ベラルーシがウクライナでの戦争で追加の支援を行うかどうか、注意深く見守っていく。もし、実際に支援するか、支援する可能性があれば、適切に対応する」と述べ、ベラルーシがロシアにさらなる支援を行った場合、追加の制裁を科す考えを示し、強くけん制しました。
●プーチン大統領 ルカシェンコ大統領と会談 軍事分野での協力強化で一致 12/20
ロシアのプーチン大統領は隣国ベラルーシを訪問し、ルカシェンコ大統領と会談。軍事分野での協力を強めていくことで一致しました。
ロシア プーチン大統領「軍事技術分野での協力は、相互供給にとどまらない」
プーチン大統領は19日、ショイグ国防相やラブロフ外相とともにベラルーシの首都ミンスクを訪問し、ルカシェンコ大統領らと会談を行いました。
会談後の会見でプーチン氏は、「両国の安全を確保するため、定期的に合同軍事演習を行うことで合意した」と表明。そのうえで、核弾頭を示すとみられる「“特殊な弾頭”を搭載できるベラルーシの軍用機の乗組員に対し、ロシアが訓練を行うことができる」と述べました。
一方、ルカシェンコ氏は「ロシアなしでは、ベラルーシの独立と主権は守れない」と語り、ロシアから供与された短距離弾道ミサイル「イスカンデル」などをすでに実戦配備したと明かしました。
ウクライナ侵攻をめぐり、欧米との対立が深まる中、ロシアはベラルーシとともに軍事分野での協力を強め、対抗していく姿勢を示した形です。
●プーチン大統領「エンタメ旅団」派遣へ 士気下がるロシア軍に笑顔取り戻す 12/20
プーチン大統領は士気低下が止まらないロシア軍を鼓舞するため、ピエロをウクライナに送る予定だ。ロシア国防省が最前線に“エンターテインメント旅団”を派遣するという。英紙デーリー・スターが19日までに報じた。
ロシア国防省は先日、アーティストによる娯楽隊の結成を発表。この“エンターテインメント旅団”は、ピエロのほかにサーカスのパフォーマー、ミュージシャン、オペラ歌手、俳優たちで形成される。
関係者によると、予備兵の動員の一環として徴兵された可能性があるそうだ。ロシア国営メディアが公開した旅団のプレス発表の画像には、ピエロがジャグリングしている様子が写っていた。
戦争において、軍隊の士気を上げるために娯楽を見せるのは新しい発想ではない。しかし、通常は戦争が長期化した際の停滞期に行われる。
英国国防省は、ロシア兵士は現在、高い死傷率、貧弱な指導力、弾薬と装備の不足、および給与の問題に直面していると指摘している。そのため、士気の低下が止まらないようだ。英国国防省の広報担当者は「士気低下はロシア軍の大きな弱点になっている。しかし、娯楽が士気をアップさせる可能性は低い」と指摘している。
なお、ウクライナ政府当局者によると、9月にロシア兵士に降伏のやり方や窓口を紹介する「降伏サポートセンター」を設置して以降、100万人以上のロシア人がサポートセンターに電話したり、サイトを訪れたりしているという。 
●ロシア「敗北すればすべてが失われる」プーチン政権の賭け 12/20
「いま起きていることは第1次世界大戦に匹敵する戦争だ。仮にロシアが敗北すればすべてが失われる」こう言い切るのはロシアの著名な国際政治学者のドミトリー・トレーニン氏です。トレーニン氏は、プーチン政権が今や国家の存亡にも関わる『賭け』に出ていると指摘。プーチン大統領がみずから始めたウクライナへの軍事侵攻。
その長期化は何を引き起こし、今後どうなるのか?政権側がどのような論理で動いているのかを知るために、政権への外交アドバイスも行うトレーニン氏にインタビューで聞きました。
ここまでの長期化は予想していたか?
ありえると考えたかどうかといえば、そうは考えていませんでした。私は、ロシア指導部は持っていたカードを違うふうに配置すると考えていました。私たちは現在、1年前とは違う世界に住んでいると言っていいでしょう。この30年間、この国がいた一つの状態から、非常に異なる別の状態に移行しました。国際的な関係の観点だけでなく、国内の構造や経済、そのほか多くの社会状況を変えています。なぜなら、およそ80年間で初めて、動員兵の招集が実行されているのですから。そして、動員兵が戦うために派兵されています。これは大祖国戦争(第2次世界大戦)以来、なかったことです。
軍事侵攻がもたらしたものは何か?
私は「断絶」という言葉を使います。ロシアはソビエト連邦の崩壊後、西側の価値観を志向するようになりました。実際の理解においても、思考においても、社会の意識においてもです。これも終わろうとしています。これは国際関係の観点からみれば新たな状況です。西側との関係は壊れています。転換ではありません。ロシアが歴史的にも文明的にも最も緊密に結びついていたヨーロッパを含む西側との間の「断絶」です。ロシアによる、世界における全く新たな場所の模索です。そしてこれらの出来事はすべて、いま目の前で起きていることだけではなく、向こう数十年にわたる変化ということです。いずれにしても、このすべての出来事が始まる前の地点に、ロシアが戻ることはありません。
プーチン氏は今の事態を予期していたか?
プーチン大統領がこうなることを見越していたかというと、そうではないと思います。当初行おうとしていたのは、ロシアに友好的な政治勢力が政権を奪取して、ゼレンスキー政権と親西側勢力、民族主義者を追放するための支援でした。その先、ロシアと緊密な協力関係にあるウクライナ政治を構築するためです。だからロシア軍は最初の時期、ウクライナ軍に対する軍事活動を始めませんでした。ウクライナの兵舎を攻撃せず、ウクライナ国旗を外さず、地方の行政府を変えないよう指示が出されていました。しかし、現在では、まったく別の目標に変わっています。それはプーチン大統領がウクライナにおける反ロシアの飛び地と呼ぶものを排除するというものです。これは当初の目的とは全く異なりますし、はるかに複雑です。実現しようとすると長い時間を要するでしょう。
米ロの関係どう見る?
今起きているのは、ロシアとウクライナだけの戦争ではありません。それは最も表面的なレベルです。これはロシアとアメリカの代理戦争です。ロシア兵はアメリカの砲弾やミサイルで死んでいます。アメリカはウクライナがロシアの司令部を攻撃し、艦船を破壊することを可能にした情報を渡しています。黒海艦隊の旗艦「モスクワ」は、アメリカが偵察情報をリアルタイムで渡した後に撃沈されました。アメリカは、供与した兵器をウクライナがロシアの目標に対して使用することを許可しています。つまり、アメリカは戦争に参加しているのです。これは深刻で、非常に危険なことです。これは長期的に続くでしょうし、私は、人類の滅亡を意味することになる、武装したロシアとアメリカが直接、衝突に至ることがないよう願っています。
NATO諸国との対立どうなる?
NATO加盟国は現在ではロシアに対して極端に敵対的な立場をとっています。これは冷戦時代にはありませんでした。かつてのヨーロッパはこれほど過激ではありませんでした。かつてはソビエト連邦と妥協する用意があり、何らかの相互協力をする用意もできていました。今ではそれはありません。しかも、バルト三国、ポーランド、チェコ、スロバキア、ルーマニアといった一連の東欧諸国は、非常に過激な、激しい反ロシア的な立場をとっています。事態がエスカレートする危険性はあります。NATO諸国の領土に戦争が及ぶというシナリオまで想像してしまいます。ロシア領にも戦争が及ぶ可能性があるのとまったく同様にです。冷戦中、ソビエト連邦とアメリカの直接衝突を招くおそれのある危機がいくつかありました。こうしたことを念頭に置いておかなければならないのは当然です。その危険性は存在していますし、現実味があります。紛争が拡大して直接の衝突、戦争に発展し、ロシア軍といずれかのNATO加盟国の軍が衝突したら、違う状況になるでしょう。そうならないことを願っています。ですが、その危険性はあります。
核兵器の行使の可能性は?
ロシアには公式な核ドクトリン(基本原則)があります、事実上、国家の存亡の危機に関するものです。ロシアとアメリカ、ロシアと西側諸国の戦争に発展するようなことがあれば、おそらく核兵器の使用につながります。しかも戦略核兵器です。ただ、私は、これは起こらないと思います。ですが、2022年2月24日のプーチン大統領の声明や、秋のプーチン大統領の核兵器の使用への警告の主な意味はまさにそれでしょう。この時、西側のプロパガンダによってロシア側からの核の脅威であると解釈されました。これは脅威ではありません、これは抑止です。抑止は、もちろん脅威でもありますが、脅威の意味は、これを使用するということではなく、脅威によって敵のさまざまな活動を抑止することです。ロシアには、核兵器を使用せずにウクライナでの自らの目標を達成するのに十分な手段があると思います。そして同時にロシアには、アメリカとその同盟国のウクライナの紛争への直接介入を排除するのに十分な核兵器があります。私に言えるのはここまでです。
停戦交渉の見通しは?
ロシアの立場で言えば、ロシアにとってもろい場所からアメリカの足をどけるには、ウクライナで意味のある軍事的成功を収める必要があります。実のところ、これが課題のすべてです。容易ではないものの、それしかありません。ウクライナに関して外交での妥協が達成される可能性があるとは思えません。いま、交渉や何らかの停戦協定について多くのことが言われていますが、一切、現実味がないでしょう。双方のうち一方が自分の考えを押し通すことができるか、相手がそれをするのか、そのいずれかです。ロシアにとって、根源的な問題は、ウクライナ領内にこの先、反ロシアが存在するようになるか否かです。戦争は当分の間続くのではないでしょうか。その期間は答えられません。ですが、数か月ではありません。もしかすると2年になるかもしれません。これは深刻な戦争であり、相当、長引くでしょう。
ロシア社会に変化は? 政権基盤は?
今回の「特別軍事作戦」を支持している人も、疑問を持っている人も、反対している人も、親族が軍に動員された人も、親族が従軍している人も、皆一様に「不安」を抱いています。それは当たり前のことです。大祖国戦争(第2次世界大戦)以来、つまり、およそ80年で初めて、人々は国益のために命を犠牲にする必要性に直面したのですから。これまで人々は、すべては過去のことであり、今や生活はますます良くなり、楽しくなり、より自由に生きて、国家に対する義務は最小限になる方へ向かっていると思っていました。いま、私たちはこの意味で80年前に戻り、これが社会にとって非常に深刻なストレスとなっています。ですので、ひと言で言うなら、これは不安、動揺です。その中でも、政権が権力の維持に成功しているのは、当初から社会の雰囲気をとても注意深くフォローしてきたためです。政権は多岐にわたるテーマで、さまざまな地域で、さまざまな分野の人々に対する大量の社会調査を発注しています。政権は国内の現状をよく理解していて、自身の政策を成功させ、社会の不安が政権に向かないように構築しようとしています。政権にとって国内の前線はいつでもあらゆる外部の前線よりはるかに重要なのです。
今後の行方は? ロシアが向かう先は?
仮にロシアが、アメリカの望むかたちで敗北すれば、ロシアにとって運命を決定づけることになるかもしれません。つまり私たちがいま見ているロシアは存在しなくなるかもしれません。ロシアが敗北すれば、すべてが失われます。この戦争は、ロシアの国家、そしてロシアの国家性の存在をかけたものであることを理解しなければなりません。とにかく、かなり重大な賭けであると言えるでしょう。損失はもちろん非常に深刻です。この戦争は第1次世界大戦に匹敵するものです。プーチン大統領は、もちろん戦争を終わらせたいと思っているでしょう。ただ、彼は戦争を勝利で終わらせたいのです。戦争をいま終わらせることには意味がありません。勝利の中で戦争を終わらせることに意味があるのです。勝利をどう定義するかは別の議論ですが、成功や勝利がどんな定義であっても、ロシアの世論に支持されなければなりませんし、いずれにしても、事実上、国際世論に支持されなければなりません。それはまだ遠い先のことです。私の見方では、プーチン大統領が目指しているものは、かつても、そして今も、ただ一つです。アメリカが、ロシアの国益の合法性を承認することです。そして解決者は2人います。1人はモスクワにいて、もう1人はワシントンにいます。この2人だけが、何らかの形で戦争を決着させることができるのです。この戦争によって、ロシアは社会を変え、内政と外交政策を変え、国際関係などすべてを変えました。この国がよくなるのか悪くなるのかは、見てみましょう。もちろん、よくなることを願っています。この国が肯定的な方向に変貌することを願っています。ですが、この肯定的な方向は、西側のモデルに従ったものではありません。これは終わりました。私たちがいるのはここしかないのです。いま私たちは断絶、激変、破壊といった地点に立っているのです。
日本が果たす役割はあるか?
正直に答えます。私は、日本には戦争の終結に何らかの形で影響を及ぼすことはできないと思います。一方で、日本がロシアに対して、そしてロシアが日本に対して、一線を越えて、お互いに敵対的なものにならないことが非常に重要になってくると思います。政治関係は一時休止していても構いません。私たちは隣国です。お互いから逃げられません。ロシア国内では日本に対して確執や敵意はありません。これは非常に重要です。日本は戦略的に状況を見なければなりません。そして戦略的な点で、私は、日本とロシアには、お互いに好意的で正常なパートナー関係を構築するための大きく幅広い土台があると思います。 両国が、将来発展することのできる潜在的可能性をまずは維持することを願っています。
●プーチン氏、併合4州の状況は「極めて困難」 12/20
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は20日、ロシアが併合したと主張するウクライナの4州について、「極めて困難な」状況にあるとの認識を示した。
プーチン氏は「国家治安部隊員の日」に際して、「ドネツク(Donetsk)、ルガンスク(Lugansk)両人民共和国、ヘルソン(Kherson)、ザポリージャ(Zaporizhzhia)両州は極めて困難な状況にある」と述べた。
同氏は、情報活動に対抗する戦いにおいて「最大限の冷静さと戦力の集中」が必要だと訴えるとともに、「外国の情報機関の活動を完全に抑え込み、直ちに反逆者やスパイ、妨害工作員を特定することが重要だ」と強調した。
プーチン氏は9月、住民投票に基づき、ウクライナ南・東部4州を併合すると発表した。西側とウクライナ政府は、見せかけの住民投票だと非難していた。
ただ、ロシア軍がこの4州を完全に掌握したことはない。先月には、数か月に及ぶウクライナ軍の反攻により、ロシア軍はヘルソン州の州都ヘルソンからの撤退を余儀なくされた。
●プーチン大統領 4州 厳しい戦況認め 治安当局に引き締め求める  12/20
ロシア軍は、ウクライナの首都キーウなどでイラン製の無人機による攻撃を繰り返しています。こうした中、プーチン大統領は一方的な併合に踏み切ったウクライナの4つの州について厳しい戦況になっていることを認めたうえで、治安当局に対し、さらなる引き締めを求めました。
ウクライナでは18日から19日にかけて、首都キーウなどで攻撃があり、ウクライナ空軍は、ロシア軍がイラン製の無人機およそ35機で攻撃したものの、このうち30機を撃ち落としたと、19日にSNSで主張しました。
キーウ州のクレバ知事によりますと、無人機の攻撃で、州内でも一部が停電となったほか、3人がけがをしたということです。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は19日、ウクライナ政府の高官の見立てとして、ロシア軍はまだ3回か4回は大規模な攻撃を行うだけのミサイルを保有していて、その後は、イランからミサイルを取得する可能性があると指摘し、ウクライナ側は警戒を強めているとしています。
こうした中、ロシア大統領府は20日、国内の治安関係者に向けたプーチン大統領の動画を公開しました。
この中でプーチン大統領は、ロシアが一方的な併合に踏み切ったウクライナの4つの州について、「今は非常に困難な状況だ」と述べて、厳しい戦況になっていることを認めました。
そのうえで、「軍を含めたロシアの情報機関に最大級の戦力を集中させることが求められている。外国の情報機関の行動を厳しく取締り、売国奴やスパイ、工作員は速やかに特定されなければならない」と述べ、治安当局に対し、ロシア国内のさらなる引き締めを求めました。
●プーチン氏、責任逃れで特別軍事作戦の本部訪問か? 英国防省が分析 12/20
英国防省は20日、ロシアのプーチン大統領が16日にウクライナ侵攻の「特別軍事作戦」本部を訪れたことについての分析をSNSに投稿した。
プーチン氏は本部で、ゲラシモフ参謀総長、ショイグ国防相、ウクライナ侵攻の指揮をとるスロビキン総司令官らと面会。今後の作戦などについて意見を求めた。
英国防省は、ロシア側がこうした機会を公表するのは、ウクライナ侵攻の責任はプーチン氏一人にあるのではなく、「集団責任」であると示す狙いがあると指摘。プーチン氏の作戦上の失敗や、部分的動員に対する人々の不満などをそらすためのものだとの考えを示した。ゲラシモフ氏が解任されたといううわさがSNS上で広がっており、それを打ち消すためにこの機会を利用した可能性がある、との見方も示した。
●ウクライナ兵をこれ以上「バフムトの肉挽き器」で無駄死にさせるな 12/20
ロシアによるウクライナ侵攻で、ウクライナ東部ドネツク州の要衝都市バフムトをめぐる攻防が激しさを増すなか、ウクライナのあるNGO(非政府組織)の代表が、ロシア軍に勝つために必要なのは兵士の増員ではないという考えを示した。
ウクライナのNGO「オープン・ポリシー・ファンデーション」の共同創設者であるイホール・ジダーノフは、ウクライナの英字紙キーウ・ポストに寄稿した論説の中で、ロシアの傭兵組織「ワグネル・グループ」の創設者エフゲニー・プリゴジンらが、現在の戦況を「バフムトの肉挽き器」と表現していると述べた。
「肉挽き器」とは、第一次大戦の際にフランスのヴェルダンで繰り広げられた、10カ月に及ぶ戦いで行われた猛烈な砲撃による大量殺戮を表す言葉だ。互いに塹壕を掘り、敵陣を殲滅するまで砲撃を浴びせるので塹壕戦ともいう。だからジダーノフは、バフムトにはこれ以上兵力を割くのではなく「別の解決策」を考えるべきだと訴えた。
プーチンはまだまだ攻勢をかけてくる
米ミシガン大学フォード公共政策大学院で研究・政策関与学部の副学部長を務めるジョン・シオルシアーリも本誌に対し、「(ウクライナでの)戦争は長引き、過酷な段階にある」と述べた。「プーチンは、国民を納得させられるような勝利を必要としている。だがバフムトでの破壊行為は逆効果になるだろう。ウクライナを支援しなければロシアを増長させると、西側諸国に改めて思い起こさせることになるからだ」
ジダーノフは、英誌エコノミストがウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官に行ったインタビューに言及した。ザルジニーはその中で、「前線を死守することが何よりも重要だ」と語った。「領土を奪い返すことは、奪われることより10倍も15倍も難しいからだ」
さらに、ロシア軍は2月に「さらなる部隊や予備役を動員して戦争を仕掛けてくる」との見方を示し、それに備えるべきだとも語った。早ければ1月末、遅くとも3月には、ロシアが東部ドンバス地方ではなく、ウクライナの首都キーウか隣国ベラルーシ方面から大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性があると述べた。
「ウクライナ軍の部隊はいずれも、いま起きている戦闘で手一杯だ。彼らは血を流している」とザルジニーは述べた。「彼らは勇気と気力と司令官の能力だけを頼りに戦っている」
「パトリオット」や「レオパルト2」があれば
西側の同盟諸国は継続的な防空システムの提供を求める必要があるとも述べた。複数の報道によれば、アメリカはウクライナの防空能力を強化するために、迎撃ミサイル「パトリオット」を供与する方向で最終調整を行っている。ロシアの重要インフラに対する攻撃で、多くのウクライナ国民が断水や停電に苦しんでいるからだ。
ザルジニーは「私はエネルギーの専門家ではないが、ウクライナは危機に瀕しているように思える」と言う。「我々は、ぎりぎりの状態でなんとか持ちこたえている。もし(送電網が)破壊されれば、兵士の妻や子どもたちが凍え始める。兵士たちがどんな気持ちになるか、想像できるだろうか」
追加動員が必要かと問われると、ザルジニーは、ウクライナ軍の兵士の数は既に「十分すぎる」と言う。それよりも、戦車や装甲兵員輸送車、歩兵戦闘車や弾薬がもっと多く必要だと述べた。
ジダーノフは、アメリカの「パトリオット」に加えて、ドイツの戦車「レオパルト2」やスウェーデンの戦闘機「サーブJAS39グリペン」があれば、「前線での戦略的状況を有利に変えられる」可能性があると述べた(「レオパルト2」も「グリペン」もまだウクライナに供与されていない)。

 

●プーチン氏、ウクライナの併合4州での「極めて複雑な状況」認める 12/21
ロシアがウクライナに侵攻して9カ月が過ぎ、ロシアのプーチン大統領は不法に併合を試みたウクライナの東部と南部の4州の状況が「極めて複雑」であることを認めた。ロシア政府が4州で直面している困難に言及した発言はまれ。
ロシア大統領府が20日公開した治安当局者の休日を記念した演説動画で、プーチン氏は治安当局がウクライナのルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの4州で直面している「困難な任務」に言及した。ロシアは9月に偽の住民投票を実施し、その後4州の併合を発表した。この住民投票についてウクライナ政府や西側諸国は国際法に反すると非難した。
ロシアはこれら4州で初めから苦戦していた。4州の併合の承認をした時点でロシア政府は4州を完全に支配していなかった。ヘルソン州では違法な併合のわずか数週間後にウクライナは州都ヘルソン市を奪還した。ウクライナ軍は約1万平方キロメートルの領土をロシア軍から解放し、西側諸国が提供した大砲を南部クリミアが射程距離に入るところにまで進めた。
プーチン氏はロシア支配下の領土に住む人々を保護する重要性を主張し、治安当局に「人々の安全と、人権や自由の尊重を確保するためにあらゆる措置を取る」よう求めた。プーチン氏はまた、部隊への「現代的な装備や武器と経験豊富な人員」の配備を約束した。
さらにプーチン氏は治安当局に対して「裏切り者、スパイ、妨害者」の取り締まりを強化するために「最大の準備」と「専念」を呼び掛け、ロシア政府が現在ウクライナだけでなくロシア国内でも懸念を抱えていることをうかがわせた。
●「極めて困難な状況」ロシア・プーチン大統領 併合のウクライナ4州について 12/21
ロシアのプーチン大統領は一方的に併合を宣言したウクライナの4つの州の親ロシア派トップらを「祖国に貢献した」として表彰しました。
一方で治安当局者に向けたビデオメッセージでは、この4州について「極めて困難な状況だ」と発言。ロシア軍がへルソン州の州都から撤退を余儀なくされるなど厳しい戦況になっていることを認めました。
●ロシア、「併合」4州の親露派トップに勲章授与 既成事実化狙う 12/21
ロシアは20日、国家勲章の授章式を開き、9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東・南部4州の親露派勢力トップ4人にプーチン露大統領が勲章を授与した。4州では奪還を目指すウクライナ軍との戦闘が続く中、ロシアは勲章授与で親露派の忠誠心を高めるとともに、4州のロシアへの「帰属変更」を既成事実化する思惑だとみられる。
勲章を授与されたのは、東部ドネツク州のプシリン「首長代行」▽同ルガンスク州のパセチニク「首長代行」▽南部ヘルソン州のサリド「知事代行」▽同ザポロジエ州のバリツキー「知事代行」−ら。ウクライナ侵略で戦果を上げたとする軍人らにも授与された。
プーチン氏は授章式で「ロシアは歴史的に何度も試練に直面してきたが、現在も挑戦を受けている」と侵略を正当化した上で、「前線にいる兵士や将校らは勇気と自己犠牲の模範を示している」と主張した。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は20日のビデオ声明で、最激戦地であるドネツク州の要衝バフムトを訪問して兵士らに国家勲章を授けたと表明。「ロシアの攻撃の後に残るのは何か。焼け野原と生活の破壊だ。ウクライナ兵はそれを止めるために戦っている」と強調し、国際社会に支援の継続を求めた。
バフムトは同州の中心都市クラマトルスクへの進出ルート上にあり、同州全域の制圧を目指す露軍と、防衛するウクライナ軍の間で過去数カ月間にわたり激戦が続いている。
●ゼレンスキー大統領が最前線の兵士らを激励 12/21
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアと激戦が続く東部ドネツク州のバフムトを電撃訪問し、最前線の兵士らを激励した。ウクライナの大統領府が20日、明らかにした。
ゼレンスキー大統領は、支援物資などの必要性など現場からの声を聞き取ったうえで、兵士らに勲章を授与した。ロシアとの激戦が続く現地の士気を高める狙いがあるとみられる。
一方、ロシアのプーチン大統領は19日、一方的に併合したウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州を実効支配する親ロシア派トップの2人と協議し、追加支援を表明した。
プーチン大統領は12月15日、ミシュスチン首相に一的的に併合した東部と南部の4つの州の生活水準をロシアの他の地域と同じレベルに引き上げる発展計画を、2023年3月まで策定するように指示。
今回のウクライナ東部2州の親ロシア派トップとの協議は、これにに向けた聞き取りとみられる。4つの州を確実にロシア領として発展させる決意をアピールした形だ。
●ゼレンスキー大統領 東部の激戦地を訪問 兵士を激励  12/21
ウクライナのゼレンスキー大統領は東部の激戦地を訪問して兵士を激励し、前線にみずから入ることで軍事侵攻を続けるロシア側に徹底抗戦する兵士を鼓舞するねらいがあるとみられます。
一方、ロシアのプーチン大統領は一方的な併合に踏み切ったウクライナの4つの州について「非常に困難な状況だ」と述べ、厳しい戦況になっていることを認めました。
ウクライナ大統領府は20日、ゼレンスキー大統領が東部ドンバス地域のウクライナ側の拠点のひとつ、ドネツク州のバフムトに入ったと明らかにしました。
バフムト周辺ではロシア側との激しい戦闘が続いていて、公開された動画ではゼレンスキー大統領が兵士たちを前に演説し「ここドンバスでウクライナ全体を守らなければならない。あなた方にかかっている」と激励しました。
ゼレンスキー大統領としては、激戦地にみずから入ることで兵士を鼓舞するねらいがあるとみられます。
●プーチン氏、ブラジルとの関係強化に期待表明=ルラ次期大統領 12/21
ブラジルのルラ次期大統領は20日、ロシアのプーチン大統領と対話し、プーチン氏が両国の関係強化に期待を表明したと明らかにした。
ルラ氏はツイッターへの投稿で、プーチン大統領から10月の大統領選での勝利について祝意を伝えられたとした上で、「ブラジルは戻ってきた。全ての人との対話を模索し、飢餓のない平和な世界の構築にコミットしている」と言明した。
ロシア大統領府も声明で、ルラ氏とプーチン大統領が新興5カ国で構成する「BRICS」の枠組みを含め、「両国の戦略的パートナーシップを順調に発展させる」ことに自信を表明したと明らかにした。
ルラ氏は来年1月1日の就任後3カ月間で米国と中国を公式訪問する計画。
●プーチン大統領側近「会う用意できている」 ゼレンスキーに交渉呼びかけ 12/21
ロシアのプーチン大統領の側近で民間軍事会社「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏が、ゼレンスキー大統領に交渉を呼びかける動画を公開しました。
ゼレンスキー大統領は20日、東部ドネツク州の激戦地バフムトを電撃訪問し、兵士を激励しました。
バフムトではロシア軍が攻勢を強めていて、「ワグネル」の戦闘員らも投入されているとみられます。
こうしたなか、「ワグネル」の創設者で、プーチン大統領の側近として知られるプリゴジン氏が20日、動画を公開し「ゼレンスキー氏がバフムトに来ると聞いて、私も急いでバフムトに向かった」と述べ、「いつでも会う用意ができている」と、ゼレンスキー大統領に交渉を呼び掛けました。
●電力攻撃、経済悪化に耐えるウクライナ ロシアに焦燥感 12/21
ロシア軍による民間電力インフラへの攻撃で、未曽有のエネルギー危機に陥るウクライナ。北部では厳冬期には気温が氷点下20度にも落ち込むが、人々は電力や暖房の供給が極めて不安定ななかでの生活を余儀なくされており、凍死者が出る事態も懸念されている。電力危機により多くの経済活動も止まり、マイナス35%に陥ると予想されていた今年の経済成長率は、さらなる悪化が確実視されている。
背景には、ウクライナ軍が東部や南部の戦場で攻勢をかけるなか、前線で勝てないロシアのプーチン政権が防備が脆弱な民間インフラに攻撃を仕掛けている構図がある。ただ、ウクライナ国民の士気は高く、非道な攻撃に激しい怒りを募らせている。攻める側のロシアには焦燥感も浮かび上がりつつある。
妥協しないウクライナ国民の士気
「生活は確かに苦しいが、ウクライナ人の士気はまったく下がっていない。電力施設が攻撃されて、生活が厳しくなるほど、人々はロシアに対する怒りを募らせている」
キーウから聞こえてくる多くの声が示すのは、ロシア軍による攻撃で生活が厳しい圧迫を受けているにも関わらず、市民らはロシアへの妥協にはまったく傾いていないという実態だ。
別の市民は「われわれは2014年のロシアによるクリミア併合で思い知らされた。ロシアと妥協しても、結局彼らは再び攻撃してくるだけだ。ここで負けるわけにはいかない」と語り、安易な停戦はウクライナにとり、むしろ災いをもたらすだけという認識を示した。
民間インフラ狙いへと変えたロシア軍
ロシア軍がウクライナの民間インフラ攻撃に舵を切ったのは10月10日のこと。報道によると、この日はキーウ市中心部にある大型ビルがミサイル攻撃を受けたほか、市民が集う公園などにもミサイルが着弾した。4月以降は比較的平穏だった市民の生活は一変した。
ただキーウ中心部への攻撃は市民に恐怖心を植え付ける程度の狙いだった可能性が高い。ロシア軍はそれ以来、攻撃を郊外の電力施設に集中させた。
主な標的となったのは防御態勢が脆弱な送配電インフラだ。攻撃は全土の主要都市に対して行われていて、ウクライナ国内では電力インフラが連鎖的に制御不能になるブラックアウトを避けるために、計画停電が頻繁に実施されるようになったという。
今年のウクライナは、秋は比較的温暖だったが、11月下旬から気温が急激に下がり、各地で最高気温が氷点下を下回り降雪も本格化した。11月23日に行われた大規模攻撃では、一時的にブラックアウトが発生し、全土が停電に陥った。ロシア軍はミサイルやドローンが枯渇しつつあるとの報道もあるが、それでも攻撃は続いているのが実態だ。
非軍事施設を意図的に攻撃する行為は国際人道法に違反しており、ロシア軍の攻撃は明らかにそのような行為にあたる。しかし、ロシアの政権幹部からは「ウクライナがロシアとの交渉を拒否することの結果だ」(ペスコフ大統領報道官)、「電力インフラはウクライナ軍の戦闘行為を支えている」(ラブロフ外相)などと、開き直りともとれるような発言が相次いでいる。
非情な攻撃は打つ手なしの表れ
国際的な批判を浴びながらもウクライナの民間施設への攻撃に注力する姿からは、それだけロシア軍が焦りを募らせている現状が浮かび上がってくる。ロシアはほかに打つ手がない¥態に陥りつつあるのが実態だ。
ウクライナ東部で占領地を拡大していたロシア軍をめぐる状況が激変したのは9月中旬のことだ。東部ハリコフ州でウクライナ軍が奇襲をしかけ、それからわずか数日で3000平方キロメートルの領土奪還に成功した。
米英による長距離多連装ロケットの供給が進み、長距離からロシア軍の弾薬庫などを確実に攻撃できるようになったことで、ウクライナ軍の奇襲攻撃が急激に効果を発揮しはじめたことが背景にある。数で勝っていたロシア軍だが、装備を残したまま退却を余儀なくされるなど、激しい混乱に陥った。
ウクライナ軍の攻勢は南部でも鮮明になった。南部の要衝ヘルソン市をめぐり、ロシア軍は11月上旬に撤退を決定。ドニエプル川の対岸への移動を余儀なくされた。撤退時には商店やオフィス、民家の資材を略奪していった様子も明らかになるなど、軍としての規律のなさが浮き彫りになった。
さらにロシア軍は、ドニエプル川に架かる橋を破壊してウクライナ軍の進軍を困難にしたと思われたが、12月初旬にはウクライナの特殊部隊がすでに、対岸に進軍していた映像が公開され、ウクライナ軍が南部でもさらに攻勢をかける可能性が高いとみられている。ロシア軍はヘルソン市街に向かって攻撃を続けているが、ヘルソン市の民間インフラを攻撃しているだけで、軍事的な意義は低い。
そのようななか英国防省は12月9日、ロシアが2月24日の侵攻開始以降に占領した領地の最大値の54%の奪還に成功したと発表した。依然としてウクライナの国土の18%はロシアの占領下にあるが、2月以降のロシアの侵攻が不調に終わっている実態が浮かび上がっている。
40%のマイナス成長も現実的なウクライナ
ロシアの攻撃はウクライナの社会に激しい損失をもたらしている。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は12月1日、ウクライナ軍の戦死者が最大1万3000人に上ると明かしたが、米軍のミリー統合参謀本部議長は11月、ロシア軍、ウクライナ軍双方とも、10万人の死傷者が出ていると発言している。
経済的損失も甚大だ。ロシア軍の侵攻により、ウクライナの今年の経済成長率は前年比でマイナス35%という未曽有の悪化が予想されており、10月以降の電力施設への攻撃は、ウクライナ経済にさらなる打撃を与えるのは必至だ。
11月に訪米したウクライナのスビリデンコ経済相は、停電の影響で企業の活動がとまり、経済成長率が一層悪化するとの見通しを示した。ウクライナでは10月、国内総生産(GDP)成長率が年率でマイナス39%を記録。停電は10月以降、深刻さの度合いを増しており、ウクライナ経済は今年、40%近いマイナス成長も現実味を帯びている。
戦況を左右する国際支援
ウクライナ経済をめぐっては、国際社会による財政支援が命綱になっている。ウクライナ最高会議は11月、2023年予算を採択したが、報道によれば380億ドル(約5兆2000億円)の赤字予算で、その大半は米国、欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)による支援で穴埋めされる。
戦争の終結が依然として見通せないなか、国際社会の支援抜きではウクライナ経済はまったく立ち行かない状況にまで追い込まれている。ウクライナ政府も、給付金の支給や失業者などに軍関連の産業で仕事をあっせんするなどして、人々の生活を支えているという。
欧米諸国にとり巨額のウクライナ支援を続けることは容易ではないが、それでもロシアがウクライナの占領に成功して国力を強めれば、欧州、周辺国にさらなる脅威になるのは必至だ。そのようなロシアと対峙するよりも、現在のウクライナを支援してロシアを食い止めた方が負担は小さいとの見方もあり、各国はロシアがウクライナ侵攻を続ける限り、支援を継続する可能性が高い。
電力危機に陥るウクライナの越冬支援をめぐっては12月13日にパリで国際会合が開かれ、約10億ユーロ(約1450億円)の支援が集まった。エネルギー分野に約4億ユーロ、それ以外は水や食料などの分野に充てられる計画といい、各国が連携しやすいよう支援窓口を一本化する方針も決まるなど、ウクライナを支える欧米諸国の意思は現時点では固い。
兵力の規模で押すロシア軍と、最新兵器の支援を受けたウクライナ軍がぶつかり合う構図は当面、変化する要素がない。ロシアをめぐっては、イランとの軍事協力の可能性も指摘される。ただ、ウクライナ国民が電力施設への攻撃に耐え、ウクライナ軍が現在のペースで攻勢を続ければ、追いつめられるのはむしろロシアという実情が浮かび上がってくる。 
●プーチン大統領 核弾頭搭載可能の新型ICBM 近く実戦配備へ  12/21
ロシアのプーチン大統領は、複数の核弾頭を搭載できる新型のICBM=大陸間弾道ミサイルを近く実戦配備する考えを明らかにしました。
ウクライナへの軍事支援を続けるアメリカなどNATO=北大西洋条約機構をけん制するねらいがあるものとみられます。
ロシアのプーチン大統領は21日、首都モスクワで開かれた国防省の会合で演説し、「われわれは戦略核の戦闘態勢を維持し向上させていく。これがわが国の主権や領土の保全、それに世界における力の均衡を維持するための保証となる」と述べ、核戦力の向上を進めていることを強調しました。
そのうえで「近い将来、大陸間弾道ミサイルの『サルマト』が初めて実戦配備される」と述べ、複数の核弾頭を搭載できる新型のICBM=大陸間弾道ミサイルを近く実戦配備する考えを明らかにしました。
また、来月には海上発射型の極超音速ミサイル「ツィルコン」をフリゲート艦に搭載して実戦配備することも表明しました。
プーチン大統領としては、核戦力をちらつかせることでウクライナへの軍事支援を続けるアメリカなどNATOをけん制するねらいがあるものとみられます。
●新型ICBM近く配備 軍と一枚岩アピール、批判に配慮―プーチン氏 12/21
ロシアのプーチン大統領は21日、モスクワで国防省幹部会拡大会合を開き、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」を近く実戦配備すると明らかにした。サルマトは今年4月と11月に発射実験に成功し、10個以上の核弾頭の搭載が可能。ウクライナに地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」を供与する米国を強くけん制した形だ。
拡大会合を開催したのは、ウクライナ侵攻で戦況がこう着し、軍事作戦の越年が避けられない中、長期化に備えて「戦時態勢」を強固にすべく、政権と軍が一枚岩であることを国内にアピールする狙いがある。プーチン氏は軍に対する国民の批判に配慮し「反応が感情的でも、耳を傾けなければならない」と促した。
●プーチン大統領、戦略核強化表明 ウクライナ側に譲歩見せず 12/21
ロシアのプーチン大統領は21日、国防省の幹部会議で演説し、ウクライナを軍事支援するNATO側が「潜在的な軍事力を積極的にロシアに向けている」と述べて欧米を批判、国家主権確保の保証として戦略核兵器を強化していくと述べた。
9月に併合を宣言したウクライナ東部・南部4州を含むロシア全土で国民の安全を確保すると述べ、全ての課題を達成するまで軍事作戦を続けると表明。現段階での停戦交渉再開や、領土奪回を目指すウクライナ側への譲歩の考えがないことを明確にした。
ロシアは保有する核弾頭の91%を新型に更新したと説明。欧米との核戦力の均衡を維持すると述べた。
●「9割が病気」「酷寒も防寒着がない」兵士の不満爆発! 12/21
ロシアのSNS「テレグラム」には、ウクライナ戦線に送られた兵士たちの不平不満が溢れている。
〈酷寒にもかかわらず、毛布や防寒具もない〉
〈多くの兵士は寒さに耐えるため、アルコールを飲み過ぎている。そのまま寝て凍傷になる人も多い。医薬品が足りず部隊の9割以上が病気だ〉
不足しているのは防寒具や医療品だけではない。フランスのAFP通信は、米国のオースティン国防長官の談話としてロシア軍の惨状を伝えている。
「欧米諸国の制裁やウクライナ軍の最新兵器による武器保管庫への攻撃で、弾薬が圧倒的に不足しているようです。すでに前線への補給も途絶えがちだとか。オースティン長官によると、北朝鮮やイランからの補給がなければ年明け早々にも備蓄が尽きると考えられます。やむをえず、倉庫に眠っている40年以上前の古い砲弾を使う可能性もあるそうです」(全国紙国際部記者)
戦慄の2つのシナリオ
ロシア軍が頼みとする精鋭部隊も壊滅状態だ。
「プーチン大統領の信頼厚い『オリガルヒ(新興財閥)』のプリゴジン氏が創設した、民間軍事会社『ワグネル傭兵部隊』です。彼らの残忍さは有名で、ロシア軍の士気が下がっても活発に活動していた数少ない部隊です。しかし12月11日、ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事はSNSでこう発表しました。〈ワグネルの本部があるホテルの攻撃に成功した。医療品や治療設備の欠如により、負傷者の半分は死亡すると予測される。ロシア軍にとっては大損害だ〉と」(同前)
武器弾薬もなく「ワグネル」は大損害――。英国国防省によると、ロシアがウクライナに奪還された地域を再制圧するのはほぼ不可能だという。反対にウクライナが全土奪還を果たす可能性もある。窮地に追い込まれたプーチン大統領はどうなるのか。ロシア情勢に詳しい、筑波大学名誉教授の中村逸郎氏は2つのシナリオがあると考える。
「1つは、やぶれかぶれの行動に出るとの見方です。米国の調査によると、武器弾薬が尽きつつあるロシアは来年1月末に最後の総攻撃に出るようです。しかし兵器の量も質も十分ではなく、陸や空からの通常攻撃ではウクライナにダメージを与えられない。考えられるのが、首都キーウへの核攻撃です。最終手段である核兵器を使い首都を焦土にすることで、休戦にもち込むというシナリオですよ。プーチン大統領も今年10月に70歳になりました。平均寿命が65歳といわれるロシアでは、高齢の部類に入ります。焦りを感じたプーチン大統領が、やぶれかぶれの選択に出てもおかしくありません」
2つ目のシナリオは、プーチン大統領の命に関わる。
「暗殺です。プーチン大統領が核の使用を躊躇すれば、手ぬるいと考えた強硬派が行動に出るかもしれません。プーチン大統領は、これまで暗殺やテロを恐れ会議の大半をオンラインで行ってきました。しかし最近は対面での打ち合わせや、演台に立ってスピーチすることが増えている。暗殺されるのを覚悟しているようにもみえます」(中村氏)
年明け早々、プーチン大統領は運命の時を迎えそうだ。

 

●ロシア軍の士気高揚に? プーチン「ウクライナにピエロを派遣」報道の不気味 12/22
複数の欧米メディアは、ロシアのプーチン大統領がウクライナに派遣されているロシア軍の士気を高めるため、ピエロを送り込む予定だと報じた。
英デーリー・スター紙などは「プーチンはピエロが繰り広げるドタバタ劇が、兵士たちの士気を高めると本当に期待しているのだろうか」と、なかば嘲笑的なトーンで書き、英国防省報道官の「兵士の士気低下を実質的に高めることはないだろう」とのコメントを紹介した。
ロシア国防省は実際、ピエロをはじめ、俳優やパフォーマーから成る「創造旅団」というグループをつくり、ウクライナに派遣する予定でいる。
というのも、ウクライナのロシア軍はいま、高い致傷率、劣悪な指導力、弾薬や装備不足に直面しており、士気の低下が大きな問題になっているからだ。
ドイツのベアボック外相などは、「プーチン以外の誰もこの戦争を始めていないし、もしプーチンが望めば、戦争は明日にでも終わるだろう」と述べ、ウクライナでの戦争はプーチン次第だとしている。
●「私は雇われ経営者」プーチン大統領 権力の裏側 12/22
インサイダーからの証言
セルゲイ・プガチェフはクレムリンのインサイダーで、ウラジーミル・プーチンを権力の座につかせるために絶え間なく裏工作を行っていた。クレムリンの銀行家として知られ、当時のロシアの統治手法だった裏取引の達人だった。自分たちに好都合なように規則を作ったり曲げたりし、自分たちの欲望のために法執行機関や裁判所、さらには選挙まで堕落させていた権力中枢部の排他的小集団(インナー・サークル)の一員で、何年もの間、無敵に見えていた。
だが今では、彼がかつて属していたクレムリンという組織は彼に敵対するようになっていた。黒い顎ひげと社交的な笑顔を持つこの長身のロシア正教信者は、プーチンの権力が及ぶ範囲がどんどん拡大するなかで、その権力の最も新しい被害者になっていた。クレムリンはまずプガチェフのビジネス帝国を侵略し、それを奪い取った。クレムリンが攻撃を始めたとき、プガチェフはロシアを離れて、まずフランスに、それからイギリスに逃亡していた。そして、再びフランスへと逃げる。
イギリスからフランスに大急ぎで逃亡する際、セルゲイ・プガチェフは多くの明白な証拠を残していた。クレムリンの弁護士チームのために働いていた探偵たちは、彼の失踪後に発行された裁判所命令に基づいてナイツブリッジの彼の事務所を捜索した。大量の書類の間にいくつかのディスク・ドライブがあり、そのうちの1つに録音が残されていた。ロシアの情報機関は1990年代の終わりから、プガチェフがモスクワ中心部の自分の事務所で行ったあらゆる面談を密かに録音していたのである。
録音の1つには、プーチンに関する、また彼を大統領にするために自分自身が果たした役割に関する、プガチェフの率直な後悔の念が鮮明に記録されている。
プガチェフは自分の事務所で、ボリス・エリツィン元大統領の義理の息子で大統領府長官を務めていたヴァレンチン・ユマシェフと、高級ワインとディナーを楽しみながら、モスクワが新たな政治危機に突入するなかでの緊迫した状況について議論している。時は2007年11月、プーチンの連続2期目の大統領任期があと数カ月しか残されていなかった。その任期が終わったら、ロシアの憲法の規定により、プーチンは退任しなければならなかった。
大統領退任後は首相になるとプーチンは漠然と語ってはいたが、本心はまだ内輪の人間にさえ明かされていなかった。クレムリンの迷路のような廊下では、プーチンとともに権力の座に駆け上がっていたKGB(ソ連国家保安委員会)出身者や情報機関関係者が地位を求めて争っており、自分もしくは自分の推す候補者がプーチンの後継者に選ばれることを期待して論争や中傷合戦を繰り広げていた。
「最初は金持ちになりたいと思っていた」
プガチェフとユマシェフは静かにグラスを合わせて、その曖昧な状態について議論した。後継者に関する不確実さは、彼らがプーチンの台頭を手助けした1999年の強烈な記憶を呼び覚ましていた。
それは彼らにとってはるか昔のことのように思われた。今では彼らは、サンクトペテルブルクから呼び入れられたプーチンのKGBの仲間たちに追い落とされて、完全に過去の遺物のようになっていた。権力システムは取り消し不可能な変化を遂げていたが、彼らはまだ自分たちが8年前に何をしたのか理解していなかった。
「彼が権力の座についたときどんな様子だったか覚えてるだろう?」と、プガチェフは録音で語る。「彼は『私は雇われ経営者だ』と言っていたものだ」。当時、プーチンはリーダーの役目を引き受けることに乗り気でないように見え、彼を権力の座に押し上げるのに一役買った人々に従順で、言いなりになるように思われていた。「ここだけの話だが、彼は最初は金持ちになりたいと思っていたんだと思う。幸せな生活を送りたい、自分の個人的問題を解決したいと」と、プガチェフは続ける。
「そして、こうした問題をおおむねすぐに解決した。だが、1期目の4年が過ぎるなかで、辞めるに辞められなくなるような事態が発生したことを理解した」
プーチンの1期目は血と論争にまみれていた。それは国の運営の仕方を全面的に変化させた。プーチンは一連の激しいテロ攻撃に直面したが、その1つが2002年10月に起こった、チェチェンのテロリストによるモスクワのドゥブロフカ劇場占拠事件だった。この人質事件は、ロシアの情報機関が劇場突入の際にヘマをして、彼らが解放しようとしていた当の観客たちにも麻酔ガスを噴射し、100人以上の死者を出す結果になった。
北コーカサス地方チェチェン共和国の反逆者たちに対するプーチンの戦いでは、何千人もの死者が出たが、そのうちの294人は一連のアパート爆破事件での死者だった。これらの残忍な事件はプーチンの情報機関の仕業だと、モスクワの多くの人が囁(ささや)いていた。連続爆破事件の結末が情報機関の厳しい取り締まりとそれによるプーチンの権力の強化だったので、なおさらそう見られていたのである。
自由気ままに振る舞っていた1990年代のオリガルヒ(新興財閥)たちは、まもなく服従させられた。プーチンとその仲間たちがエリツィン時代の市場の自由を制限し、国家による乗っ取りを開始するためには、ロシア一の金持ちに対する大型訴訟1つで十分だった。
「4年後に喜んで退任していただろう」
「彼は4年後に喜んで退任していただろう」と、プガチェフは続ける。「ところが、これらの様々な論争が起こった。西側とは今、キューバ・ミサイル危機に近い深刻な対立がある。しかも彼は今ではさらに深みにはまっている……これ以上進んだら抜け出せなくなることを彼は理解している」
プガチェフとユマシェフのどちらにとっても、プーチンが築いた権力構造、大統領が極めて大きな権力を握っているのですべてが大統領の意向によって決まる現在の構造は、安定とは正反対のように見えた。「これはピラミッドだ。一度叩くだけで、すべてが崩れ落ちる……彼はこれをすべて理解しているが、自分を変えられないんだ」
「彼はちっとも理解していないと思う」と、ユマシェフが言う。「自分のやったことはすべて堕落の方向に向かっているとは彼は決して言わないだろう」と、プガチェフが言葉を挟む。「彼が下す決定の多くが、世界はこのように運営されるべきだという彼の信念に基づいている。愛国心という問題、彼はこれを本気で信じている。ソ連の崩壊は悲劇だったと言うとき、彼は本気でそう思っている……とにかくそのような価値観を持っている。何をやるにしても、彼はそれを本気でやる。本気で間違いを犯すんだ」
プーチンは権力のすべての手段を大統領府に統合したこと――地方首長の選挙を廃止したことや裁判所制度をクレムリンの「ディクタート(絶対的命令)」の下に置いたことなど――を、90年代の混乱と崩壊に終止符を打ち、新しい安定の時代を開くために必要な措置だったと、たびたび正当化していた。
だが、表面上はほとんどの意思決定の推進力になっているように見えた愛国的威嚇行動の背後には、別の、もっと気がかりな要因があった。忠実な協力者のネットワークを通じて経済を運営していたプーチンとそのKGBの仲間たちは、今では権力を独占し、政権内での地位が私腹を肥やす手段として使われる新しいシステムを導入していたのである。それは彼らがかつて仕えていたソヴィエト国家の反資本主義、反ブルジョアという原則とは似ても似つかないものだった。
●バイデン氏 ゼレンスキー氏 首脳会談後の会見でロシアを改めて非難 12/22
アメリカのバイデン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談が終了し、記者会見を行っています。ホワイトハウスから中継です。
アメリカ バイデン大統領「プーチン大統領がウクライナの人々に対して理由もなく不当な全面攻撃を開始してから300日になります。300日間、彼らは自国への愛、そして彼らの揺るぎない決意を示し続けています」
バイデン大統領は会見で、「プーチン大統領は攻撃をエスカレートさせている。重要なインフラを標的にし、罪のないウクライナの人々や子どもの生活を苦しくさせるような攻撃を続けている」と話し、ロシアのウクライナ侵攻を改めて非難しました。
会見に先だって行われた会談で、バイデン大統領はウクライナに対し、地対空ミサイルシステム「パトリオット」1基を含む18億5000万ドル=2400億円あまりの新たな軍事支援を表明しました。
これについてゼレンスキー大統領は会見で、新たな軍事支援に感謝の言葉を述べました。そのうえで、「私たちの国民を守らなくてはならない。これは人道問題だ」と強調しました。
ゼレンスキー大統領は会見の後、連邦議会に移動して日本時間午前9時半から演説を行う予定で、ウクライナへの支援の継続を訴えるものとみられます。
●バイデン・ゼレンスキー氏が会談 パトリオット供与伝達 12/22
バイデン米大統領は21日午後(日本時間22日未明)、ホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と会談した。長距離の地対空ミサイル「パトリオット」を含む追加の軍事支援を伝えた。ゼレンスキー氏は「戦争は終わっていない」と語り、支援の継続を要請した。
バイデン氏は首脳会談後の共同記者会見で「プーチン(ロシア大統領)がこの残酷な戦争をやめるつもりがないとわかっている」と表明。「米国は勇敢なウクライナ国民がロシアの侵略から自国を守り続けられるように可能な限りの支援を約束する。必要なだけあなた方とともにいる」と述べた。
ゼレンスキー氏は「米国は我々の価値と独立を守るために支援してくれるだろう」と強調。米連邦議会で野党・共和党が下院で過半数を奪還したことを念頭に「議会が変化しても超党派で上下両院の支援を得られると信じている」と訴えた。
ゼレンスキー氏の発言は2023年1月に始まる新議会の下院で主導権を握る共和を意識したとみられる。党内には「ウクライナは重要だが白紙の小切手は切らない」(下院共和トップのマッカーシー院内総務)などと巨額予算の見直しを求める声があるためだ。
ゼレンスキー氏は21日昼、米国に到着した。ロシアがウクライナ侵攻を始めた2月24日以降、ゼレンスキー氏が外国を訪れるのは初めて。バイデン氏との会談後、米連邦議会の上下両院合同会議で演説した。米国による軍事・経済支援などに謝意を示すとともに、これからも超党派による手厚い支援を継続するよう呼びかけた。
米政府は21日、ウクライナに総額18億5000万ドル(2400億円)規模の追加の軍事支援を発表した。長距離の地対空ミサイル「パトリオット」1基を初めて供与する。発電所などの重要インフラを標的にするロシアのミサイル攻撃に対抗できるように防空体制を強化する。追加の軍事支援では高機動ロケット砲システム「ハイマース」や155ミリりゅう弾砲の弾薬なども拡充する。
ブリンケン米国務長官は21日の声明で「バイデン大統領はロシアによる残忍な攻撃からウクライナを守るため、重要な軍事能力を新たに提供する。防空能力と精密打撃能力を拡充する」と強調。将来的なロシアとの停戦協議を念頭に「時が来れば交渉で最も強い立場に立てるよう必要な限り支援を続ける」と記した。
パトリオットの提供はウクライナがかねて求めてきた。米軍の主力防空システムで、「これまで提供されてきた防空システムよりもはるかに高い高度で巡航ミサイル、短距離弾道ミサイル、航空機を迎撃できる」(ブリンケン氏)。超低高度から高高度の複数目標に同時で対処可能になる。1991年に湾岸戦争で使用された。
ロシアによる侵攻から10カ月が経過し、ウクライナは米欧などで指摘される「支援疲れ」に危機感を強める。ゼレンスキー氏はまず最大の後ろ盾である米国に足を運び、米世論に支援継続を訴える狙いがにじむ。
一方、ロシアのプーチン大統領は21日、国防省の幹部会議で米国が主導する北大西洋条約機構(NATO)による脅威に言及し、戦略核の強化を進める方針を示した。複数の核弾頭を搭載でき米本土なども攻撃可能な次世代の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」が「近い将来に初めて実戦配備される」と述べ、米国をけん制した。 
●戦争でロシア周辺国の通貨が「世界最強レベル」になっている理由 12/22
ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻に誘発されてロシア人が大量出国したせいで、かつてソビエト連邦に属していた共和国の通貨の上昇率が2022年、世界ランキングのトップに躍り出た。
コーカサス地方のジョージアとアルメニア、中央アジアのタジキスタンなどの通貨が、対米ドルで最強になっている。2022年2月以来、何千何万というロシア人が移住し、数十億ドルに相当する貯金を持ち込んだためだ。
こうした小国がロシア人に格好の抜け穴になっている。旅行ビザが不要で、ロシア語も広く話されており、しかも地元の銀行に貯金を移すのに何の規制もないからだ。
そのおかげでアルメニアの通貨ドラムは2022年初頭から対米ドルで22%以上も高くなり、世界中の通貨のなかでトップの値上がり率を誇っていることが、米経済メディア「ブルームバーグ」の集めたデータから示されている。
ジョージアの通貨ラリは対米ドルで16%以上、タジキスタンの通貨ソモニは10%以上高くなり、ロシアの通貨ルーブルの値上がりを超えている。
「ロシア人たちが、地政学的な問題ゆえにこうした国々に長期移住し、現地の通貨でお金を持ち、為替レートを押し上げているのです」と言うのは、中央アジアと東欧で個人向け証券会社と投資銀行を展開する「フリーダム・ホールディング」のナタリア・ミルチャコバだ。
明らかにこの戦争のせいで、ロシアからジョージアに入る送金額が2022年の現時点で5倍増えている。ジョージア国立銀行によれば、これは全送金の60%以上に相当し、額にして17億5000万ドル超(2300億円超)にも上る。
ロシアからアルメニアへの送金は、2022年1〜10月で28億ドル(約3700億円)相当にも上り、2021年の同時期と比べて4倍近い。アルメニア中央銀行によれば、その送金額は2004年以来で最高レベルに達したという。
同時に、小さい共和国の通貨のほうが、ロシア人が大挙して押し寄せてきた影響をより受けている。アルメニアやジョージアの6倍ほどの人口1900万を擁するカザフスタンにもロシア人は大量に流入しているが、その通貨テンゲは弱いままで2022年末を迎えようとしている。
こうした経済的利益は、戦争が始まった頃は見込まれていなかった。むしろ、ロシアの近隣諸国は、最大の貿易相手国が国際的な経済制裁を受けることで苦しむだろうと予想されていた。
実際には巨額の資本が流入し、それぞれの外貨保有高が急増し、経常収支も改善されたのだ。アルメニアの経済は第2・第3四半期と2桁レベルで拡大し、ジョージアの経済は9月からの3ヵ月でほぼ10%の成長を見せた。
タジキスタンでは、送金が2022年前半で少なくとも50%も急増したと国際収支データを参照して指摘するのは、ロシアの金融サービス会社「BCSフィナンシャル・グループ」のナタリア・ラブロバだ。そのおかげで同国の経済は2022年、7%拡大する見込みだ。当初の予測では4〜5%だったとラブロバは言う。
国際通貨基金(IMF)は、ジョージアの年間経済成長率の予測を10%に引き上げ、その一因として「戦争によって引き起こされた移民と資金流入の急増」を挙げている。
アルメニア中央銀行は自国のGDP成長率の予測を4.9%から13%に引き上げたとのマルティン・ガルスチャン総裁の発表を地元メディアが報じている。
「送金の激増がこれほどの急成長につながっているのは間違いありません」と言うBCSのラブロバは、アルメニアでもジョージアでも、ロシアからの送金が波及して消費者需要と住宅建築が増えたと指摘している。

 

●ゼレンスキーの電撃訪米、ロシアに痛手…プーチン「戦費は無制限」強調  12/23
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が21日に訪米し、米国のバイデン大統領から継続的な支援の確約を得たことは、ウクライナ侵略で劣勢が長期化しているロシアにとって痛手となった。ロシアは米欧の「支援疲れ」が戦局打開につながると踏んでいたためだ。プーチン政権は、核戦力を誇示しながら、長期戦の構えを強調し、ウクライナや米欧への揺さぶりを強めるものとみられる。
ゼレンスキー氏が米国に向かっていた21日、プーチン大統領は国防省の拡大会合に出席した。ウクライナ侵略に関し「資金の制限はない。軍が求めるものを全て与える」と強調した。
セルゲイ・ショイグ国防相は来年の優先課題として「特殊軍事作戦」と称する侵略の「目標完遂までの継続」を挙げた。会合ではゼレンスキー政権をナチス・ドイツになぞらえる非難が相次ぎ、政権転覆を断念していないことを示唆した。
ショイグ氏は現在の定員が約100万人の露軍兵士についても、契約軍人の増員などを通じて約150万人に増やすことを提案した。大規模動員の再開に向けた地ならしとの見方が出ている。
プーチン氏は会合で、核戦力が「主権と領土保全、世界の力の均衡維持」に寄与すると主張。核兵器が搭載可能で射程1万1000キロ・メートル以上の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマート」(別名サタン2)を近く実戦配備する考えも明らかにした。米政策研究機関「戦争研究所」は21日、「国内強硬派の歓心を買い、西側諸国を脅すための言動だ」との分析とともに、核使用の可能性が高まったわけではないとの見方を示した。
一方、プーチン氏は、ウクライナ軍が導入している北大西洋条約機構(NATO)の訓練や指揮命令の手法を分析し、採用するよう指示した。露領内深くの軍用飛行場への攻撃にウクライナ軍が使用したとみられる無人機(ドローン)についても、技術改善が「喫緊の課題だ」と指摘した。
●プーチン大統領 “アメリカ供与のパトリオットを破壊する”  12/23
ロシアのプーチン大統領は、来年も軍事侵攻を継続する考えを改めて強調するとともに、アメリカがウクライナへの供与を表明した地対空ミサイルシステム「パトリオット」について「われわれはそれを破壊する」とけん制しました。
ロシアのプーチン大統領は22日、首都モスクワで国内メディア向けに記者会見を開き、ことし1年を総括して「理想的な状況などはない。しかし全体としてロシアは自信をもって過ごした1年だった。来年を含む将来の計画を遂行する上で、支障をきたす懸念はない」と述べました。
そのうえで「特別軍事作戦に関連することは絶対に必要な措置だと信じている。われわれの軍や兵士がロシアの利益や主権、そして国民を守っていることに感謝すべきだ」と述べ、改めて軍事侵攻を正当化し、来年も継続する考えを強調しました。
また、アメリカがウクライナへの供与を表明した地対空ミサイルシステム「パトリオット」について、「パトリオットは古いシステムで、ロシアの地対空ミサイルシステムS300のようには機能しない。このような兵器の供与は紛争を長引かせるだけだ」と批判しました。
そして「パトリオットを配備するというならやってみたらいいだろう。われわれはそれを破壊するだけだ」とけん制しました。
一方、プーチン大統領は、内政や外交の基本方針を示す年次教書演説をことしは見送ったことについて「状況が劇的に動いていた。来年の早い時期に必ず実行する」と釈明しました。
ロシア大統領府は、プーチン大統領が毎年、年末に行ってきた海外のメディアも参加する大規模な記者会見について、ことしは見送ると発表していて、ロシア国内でえん戦気分も漂う中、大統領府が会見の実施に神経をとがらせているという見方も出ています。
●プーチン氏、ウクライナ戦争終結望むと表明 米は一蹴 12/23
ロシアのプーチン大統領は22日、ロシアはウクライナでの戦争の終結を望んでいるとし、全ての武力紛争は外交交渉で終結すると述べた。
プーチン氏は記者団に対し「われわれの目標は軍事衝突を継続するではない。逆に、この戦争を終わらせることを目標としている。この目標に向け努力しており、今後も努力を続ける」とし、「これを終わらせるために努力する。当然、早ければ早いほど望ましい」と語った。
その上で「これまでに何度も言っているが、敵対行為の激化は不当な損失をもたらす」と指摘。「全ての武力紛争は何らかの外交交渉によって終結する」とし、「遅かれ早かれ、紛争状態にある当事者は交渉の席について合意する。ロシアに敵対する者がこうしたことを早く認識するのが望ましい。ロシアは決して諦めていない」と述べた。
米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官はオンライン形式の記者会見で、プーチン大統領は「交渉の意図があることを全く示していない」と指摘。「全く逆だ。プーチン氏が行っていることは全て、戦争をエスカレートさせる意向を示している」と述べた。
その上で、バイデン米大統領はプーチン大統領との会談を排除していないが、プーチン氏が交渉に真剣な姿勢を示し、ウクライナのほか同盟各国と協議した後のみに実現するとの見方を示した。
ロシアはこれまでも交渉に応じる姿勢を示し、交渉を拒否しているのはウクライナだと主張。これに対しウクライナや米国などは、ロシアは戦況が思わしくないことから時間稼ぎをしようとしているのではないかと懐疑的な見方を示している。
ウクライナのゼレンスキー氏は21日に訪米し、ホワイトハウスでバイデン大統領と会談した後、議会で演説。米政府はゼレンスキー氏の訪問にあわせ、ウクライナに対し広域防空用地対空ミサイルシステム「パトリオット」を含む18億5000万ドルの追加軍事支援を行うと発表した。
プーチン大統領は米国が「パトリオット」供与を決めたことについて、パトリオットは「かなり古いシステム」で、ロシアの地対空ミサイルシステム「S300」のようには機能しないとし、ロシアは対抗できるとの見方を示した。
また、ロシアの戦費調達能力を制限することを目的とした西側諸国によるロシア産石油の価格上限設定がロシア経済に打撃を与えることはないと強調。その上で、来週初めにロシアの対応を打ち出すための法令に署名すると述べた。
●プーチン・ロシア政権の期待外れる ゼレンスキー氏訪米「停戦に逆行」 12/23
ロシアのプーチン政権は、ウクライナのゼレンスキー大統領の訪米を「停戦」に逆行する動きとして苦々しく見詰めた。2月からの侵攻で、ロシア軍の人的損害や兵器不足が深刻になる中、一方的に「併合」した東・南部の現状を維持したまま、ウクライナを対話のテーブルに着かせる役割をバイデン米政権に期待していたからだ。
ゼレンスキー氏は平和の実現に向けて10項目の条件を提示しているが、ウクライナの領土回復など、ロシアには受け入れられないものばかり。プーチン政権は動員令や戒厳令で事実上の「戦時体制」に移行し、長期化に備えている。ただ、仮に「停戦合意」を結ぶにしても、交渉でロシアに有利な条件を引き出すのが至上命令となる。
タス通信によると、ロシアのマトビエンコ上院議長はゼレンスキー氏の訪米に関し「新たな兵器供与や軍事支援の予算増額を議論するだけでは(停戦)交渉開始の前提条件は生まれない」と不信感を表明。逆に衝突が激化すると警鐘を鳴らした。ペスコフ大統領報道官も記者団に、訪米は前向きな変化をもたらさないという認識を示した。
プーチン大統領は21日、「ロシアに対して北大西洋条約機構(NATO)のほぼ全加盟国の潜在的な軍事力が投入されている」と主張。ロシア軍は迎撃が困難な新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」を実戦配備すると明らかにし、ウクライナに地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」を供与する米国をけん制した。
●プーチン露大統領「パトリオット脅威にならず」 戦力枯渇も否定 12/23
ロシアのプーチン大統領は22日記者会見し、米国がウクライナへの供与を発表した地対空ミサイルシステム「パトリオット」について「かなり古い兵器で、解毒剤(対抗手段)は必ず見つかる」と述べ、露軍の脅威にならないとの考えを示した。
また、露軍の戦力が枯渇しつつあるとする米欧の観測を否定し、戦力低下が進んでいるのは主力の旧ソ連製兵器を喪失しているウクライナ側だと主張した。
プーチン氏はウクライナでの軍事作戦について、ロシアの安全保障上の観点から「絶対に必要な措置だった」と改めて正当化。ウクライナが現時点で停戦交渉を拒否しているとしても、いずれは外交交渉で決着するとの認識も示した。
パトリオットについて、プーチン氏は露防空システム「S300」より劣ると指摘。「ロシアは兵器生産を続けているが、ウクライナの兵器生産力はゼロに近づいている」とも述べた。
また、ウクライナは旧ソ連製兵器の多くを失い、北大西洋条約機構(NATO)が供与してきた旧ソ連製兵器も底を尽きつつあると主張。ウクライナにNATO規格の兵器が供与されても、使用法の習熟や補給を巡る問題解決は容易ではないとした。
プーチン氏はまた、国家方針を示す年1回の年次教書演説を今年は取りやめたことに関し、「情勢が大きく変動しており、ある時点での結果や近い将来の計画を取りまとめるのは困難だった」と説明。来年初めごろには行うと表明した。
プーチン氏は今年、年次教書演説に加え、国民と対話するイベントや年末の大規模記者会見といった一連の恒例行事を中止。プーチン氏は楽観的な予測を示して現実と食い違ったり、露軍の苦戦について厳しい質問を受けたりする事態を避けたとの観測が強い。
●パトリオット、効果に疑問も ウクライナに供与の米主力防空システム 12/23
米国がウクライナに供与する地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」は、米軍の主力防空システムとして知られる。ウクライナは最新の防空能力を備えることになり、ロシアによる電力施設などを狙ったミサイル攻撃からの防衛が期待されている。ただ今回供与されるのは1基で、専門家からは効果は限定的との声もある。
「ロシアの侵略から自国を守るために、ウクライナにとって重要な資産となるだろう」。バイデン米大統領は21日の記者会見で意義を強調した。ウクライナのゼレンスキー大統領も「われわれの防空態勢を大幅に強化するものだ。電力施設や国民、インフラへの攻撃を防ぐ唯一の手段だ」とこれを歓迎した。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)によると、パトリオットはこれまで、日本や台湾、イスラエル、ドイツなど18カ国・地域で運用されている。迎撃ミサイル1発当たり約410万ドル(約5億4000万円)のコストがかかるという。
パトリオットは1991年の湾岸戦争で初めて実戦投入され、その後も改良が重ねられている。迎撃ミサイルや発射台、レーダー、指揮統制装置などで構成され、運用には約90人の人手が必要となる。
一方、約40〜約160キロに射程が限られることなどを理由に、CSISは「ウクライナ全土に防御網を張り巡らせることはできない。(戦局を変える)ゲームチェンジャーにはならない」との見方を示す。1機当たり約5万ドル(約660万円)のイラン製無人機、1発当たり約25万ドル(約3300万円)のロシア製巡航ミサイルの迎撃で使うには高価すぎるとも指摘している。
とはいえ、ウクライナ支援を明確にする政治的な意義はありそうだ。ロシアのメドベージェフ前大統領は11月下旬、「北大西洋条約機構(NATO)がウクライナにパトリオットを提供すれば、直ちにわが軍の格好の標的になる」と警戒していた。 
●プーチン大統領が「軍の名誉を傷つけた」 ロシア地方議員が訴え 12/23
ロシアの地方議員が、プーチン大統領が「軍の名誉を傷付けた」として訴えました。
プーチン大統領は22日、ロシアメディア向けの記者会見で、ウクライナへの侵攻を巡って「戦争を早く終わらせたい」などと発言しました。
ロシア、プーチン大統領:「(我々の目標は)戦争を終わらせることだ」
プーチン政権はウクライナでの戦闘は「戦争」ではなく、「特別軍事作戦」だとしています。
ロシア当局は戦争という言葉を使って反戦運動を行う市民らを軍の名誉を傷付けたとして拘束しています。
サンクトペテルブルクの地方議員は「プーチンは戦争を戦争と呼んだ」「すでに数千人が、そのような言葉で有罪判決を受けている」として、当局に対してプーチン大統領を調査するべきだと訴えました。
●詭弁と欺瞞のトンチ論法ばかり…「悪の帝王」プーチン発言の読み方 12/23
「今、ロシアだけでなく、世界中で大きな変化が起きている。この変化が良い方向に向かうと信じている」
12月18日、プーチン大統領はモスクワで開催された子どもたちの集会に寄せたビデオ演説でそう語った。世界の変化というのはもちろんウクライナ侵略のことだが、それを明言はせず、「世界がもっと公正に、あらゆる民族が平等になり、自国の伝統や言語を守っていけるように願っている」と続けた。つまりはウクライナ侵略を正義の戦いだと正当化したわけだ。
もちろんそんな主張はフィクションだが、プーチンは詭弁(きべん)と欺瞞(ぎまん)を駆使して、常に自己正当化を堂々と語る。彼はかなり頻繁に自分の言葉で声明を出すが、その内容は常に自分の考えの正しさを主張することに主眼が置かれている。22年前の大統領就任以来、常に自身の決断の正当化を最優先しており、自分が発した言葉を引っ込めたことはなかった。彼は精神的にも肉体的にも「マッチョな指導者」像を自己演出して独裁者として生き続けてきている。
そのプーチンが2021年7月に、ウクライナはロシアの一部であるかのような論文を自分名義で発表し、2022年2月24日のウクライナ侵攻にあたっては、ウクライナ政権の非ナチ化(つまり政権転覆)と非軍事化(つまりウクライナ軍の全面降伏)を明言した。この非ナチ化と非軍事化の要求は、その後現在に至るまで撤回していない。
あくまで「専守防衛」を主張するプーチン
また、プーチンは今日に至るまで、自分たちはあくまでNATOから自分たちを守っているだけだとの論理を言い続けている。たとえば12月7日の大統領府人権評議会のオンライン会議でも「戦争はわれわれが火ぶたを切ったのではなく、2014年にウクライナで権力を握った親欧米派政権が開始した」と自らの隣国侵略を正当化した。
翌12月8日のロシア連邦英雄授与式では、大統領に就任してから初めて泥酔したままカメラの前で演説し、
「流れている情報はすべてフェイクだ。われわれが隣国の発電所などを攻撃しているのは、先にクリミア橋や民間施設を攻撃されたからだ」
などと自己正当化を語り続けた。おそらく本気でそう考えているのだろう。
もっとも、ロシアは米国やウクライナとの交渉は呼びかけている。しかし、それはロシアが現実的な妥協をして取引に応じることを意味しない。
たとえば12月2日にペスコフ報道官が「バイデン大統領はロシア軍の撤退を交渉の前提にしている」と米国を非難したため、内外のいくつかのメディアが「ロシアは現状維持での停戦を希望」と報じた。しかし、彼は交渉の条件として「ロシアの利益に沿うように」としか条件を示していないことに留意する必要がある。現状維持が希望とは言っていないのだ。
プーチン自身の言葉も、常にロシア軍の全面勝利が前提だ。たしかにロシアは軍事的に劣勢にあり、現状維持はロシア側の利益になるが、プーチン自身はいまだにウクライナの事実上の降伏を前提に語っており、その言葉を引っ込めて現状維持の交渉に応じる姿勢は微塵も示していない。前述した12月7日のオンライン会議でも、ウクライナ侵攻について「長いプロセスになるだろう」と語り、長期戦を示唆した。
ロシアは完全にプーチンの独裁体制であり、意思決定権者は彼一人だ。ロシアはプーチンが詭弁の大義を堂々と語ったうえで、プーチン1人の決定で戦争をはじめ、すでに数万人ものロシア兵が戦死した。ロシアはプーチンの沽券を守る選択、言い換えれば彼の「無謬性を毀損しない選択肢」しかない。その言葉が実現されないうちに戦争をやめることはきわめて考えにくいのだ。
核使用「匂わせ」発言の真意
では、プーチンの言葉から、彼は本当に核使用を考えているのか否かはどうか。たとえばロシア軍がハルキウ州の占領地を失った直後の9月21日、彼はビデオ声明で「ロシアの領土的一体性が脅かされれば、あらゆる手段を使ってロシアと国民を守る。これはハッタリではない」と語った。この言葉も内外のいくつかのメディアで「プーチンは核使用を示唆した」と報じられたが、そうではない。
この言葉はたしかに核使用をチラつかせての脅しの言葉ではあるが、あくまでチラつかせであり、はっきりと自身の言葉で核使用を明言していないことが重要だ。これは侵攻前後の時期の言動も同様で、彼はさかんに核の脅威を語り、同時に自分たちが強力な軍事力を使うと語っているが、核を使うという言い方は常に注意深く避けてきた。
10月27日の演説で「世界は第2次世界大戦後でおそらくもっとも危険な10年間に直面している」としながらも「ロシアが核使用すると積極的に発言したことはない」と語った。ロシアが「核使用する」と脅しているとの西側の言説は誤りだというのだ。核の脅しとしては明らかにトーンダウンである。
これは、当初に核使用を明言せずにチラつかせることで西側を牽制し、ウクライナ支援を手控えさせようとしたが、目論見が外れたことから軌道修正したものだ。前述した12月7日のオンライン会議でも「核の脅威は高まっている」と語ったため、一部メディアが「ロシアが核使用を示唆」と報じたが、その時もプーチンは核の脅威をあくまで“欧州に大量配備されている米国の核兵器”だとし、ロシアは報復しか考えていないことに言及している。
ただ、その発言が「プーチンの弱気」かのように一部で報じられたためか、12月9日には、「米国には予防攻撃の理論がある。(ロシアの軍事ドクトリンは)抑制的で米露間の核使用基準は不均衡なので、米国にならい変更すべき」と発言し、ロシアも先制攻撃の考えを検討することを示唆した。しかし、それもやはり他のプ―チン発言と同じく、先制的な核使用を明言していないことが重要だ。
このようにあたかも「やるかも」とチラつかせながら「やるとは言っていない」と逃げ道を用意する手法は、プーチン論法の特徴である。核使用するという言質をぎりぎりで回避し、曖昧な言い方をする。これは故意であり、自分の言葉を“公約”化しないために計算された言い方といえる。
北方領土問題でも発揮されたプーチン論法の剛腕
このプ―チン論法は、たとえば北方領土返還問題でも同様だった。彼は2001年のイルクーツク声明で「日ソ共同宣言を平和条約交渉の出発点」としながらも、日ソ共同宣言自体を復活はさせず、互いに受け入れ可能な解決を目指すとした。2島を引き渡すとの言質を故意に回避したのだ。
その後も「日本が4島一括に拘泥するので交渉が進まない」とは言うが、「ロシアは2島引き渡しなら応じる」とは言わない。日本を懐柔するため、否定はしないが、約束はしないのだ。
日露交渉に「引き分けも必要」と語った時には、日本側は「4島でなく2島」という意味と考えたが、プーチンはそうは言っていない。「仮に引き渡したら米軍が来る」と言ったこともあるが、「そうでなければ引き渡す」とは言わない。これも同じ手法だ。
それどころか、「日ソ共同宣言には引き渡しは書いてあるが、主権がどうなるかは書いていない」などと意味不明の屁理屈まで真顔で言ったことがある。まるで一休さんの「このはし(橋≠端)渡るべからず」のトンチだが、そういう論法を普通に使うのだ。
細かな言い回しに注意せよ
いずれにせよ、プーチンの言動の細かな言い回しは重要だ。
たとえば侵攻前の2021年12月には、「NATO不拡大の確約」を要求し、それが受け入れられなければ「軍事的な対抗措置をとる」と明言した。そのような要求をNATOもウクライナも受け入れるはずはなく、それはロシア軍のウクライナ侵攻の“口実”が作られたことを意味した。明言したことは、やらなければプ―チン自身の沽券にかかわる。その時点で「侵攻するつもり」だった可能性はきわめて高い。それに比べると、核使用に関しての言動は明言を回避している。つまり核使用の可能性はこれまではなかったし、現時点でもまずない。プーチン論法は、何を言ったかと同時に「何を言わなかったか」が重要だ。
ただし、今後も同じかどうかはわからない。それでも核使用がリアルな選択肢になれば、彼は必ず事前に自己正当化の言葉を発言する。今後もプーチン自身の言葉の「言い回し」を注意深くみていく必要がある。
●兵士のため一般ロシア人が靴や防弾ベストを購入、政府は供給解決目指す 12/23
ロシアの市民がクラウドファンディングを通じて資金を集め、ウクライナに派遣された兵士らの装備の費用に充てている。戦場が冬を迎える中、兵士らからは基本的な装備が不足しているとの不満の声が上がる。
こうした声を受け、プーチン大統領やロシアの当局者らは新たに動員された部隊への供給に関する問題について、サプライチェーン(供給網)の見直し等により克服されつつあると主張している。一方で不満を口にする兵士らへの圧力も強化。ウクライナへの侵攻には愛国的な大義があるとの見方を一段と強め、ほとんどロシアの存亡にかかわる問題と位置づける姿勢にも拍車がかかっている。
プーチン氏は21日、国防省幹部らとの会談で部分的動員に関するいくつかの問題が露呈していることを認め、早急に対処するべきとの見解を示した。大きな批判を浴びた部分的動員から2カ月後の先月末、プーチン氏は兵士らの家族とクレムリン(ロシア大統領府)で面会したが、参加者は動員に擁護的な人々に絞られていた。
現在ロシア並びにウクライナ東部ドネツク州の一部を実効支配する自称「ドネツク人民共和国(DPR)」では、兵士らのための資金集めが行われている。靴下や冬物の衣料、寝袋、防弾ベストの供給に充てる目的で、これまで300万ルーブル(約580万円)が集まった。
先月にはSNS「テレグラム」のチャンネルにDPRの兵士1人が登場し、自らの所属する74人編成の部隊に医薬品や衣類、靴などが届いたと明らかにした。このほか調達された物資として制服や保温下着、靴下、帽子、防寒用の目出し帽、セーター、ベレー帽、発電機、充電器を挙げた。
ロシア連邦内の複数の共和国もテレグラムの声明を通じ、地元から派遣された兵士らのために防寒具などを送ったことを明らかにした。小学校の児童らが兵士用の靴下の費用を集めた事例も紹介された。
戦地からは兵士らが低体温症にかかるのを防ぎたいとする訴えが特に多く寄せられる。これらの兵士は氷点下の気温の中、適切な衣服や身を隠す施設のない状態での戦闘を余儀なくされている。一方でサーモグラフィーの装置や無線機、防弾ベスト、ドローン(無人機)を調達しようとする動きもみられる。
米シンクタンク、カーネギー国際平和基金の研究員を務めるマキシム・サモルコフ氏は先ごろフォーリン・ポリシー誌に掲載された記事の中で、「一般のロシア人に期待されているのは、運悪く徴集されてしまった自分たちの友人や親類を支援することだ。実際彼らには、国による供給不備の穴埋めをする以外の選択肢はほとんど残されていない。自腹を切って自らの愛する人たちを守るしかない」と分析した。
●景気低迷でドイツ・ポーランドも分裂…来年はEUにさらなる試練に 12/23
欧州の内部分裂がさらに進む…グローバル景気も頼りにならず
専門家は欧州の来年の経済がさらに強い寒波を迎えるだろうと予想する。「2023年欧州経済は高物価と低成長という『双頭怪物』を迎えることになる」(エコノミスト)という憂鬱な展望だ。21日(現地時間)、ウクライナのゼレンスキーが米国をサプライズ訪問してバイデン大統領からパトリオット・ミサイルを含む各種支援に対する約束を取り付けたのも、「戦争の長期化」に対する予告なので、欧州としては快哉を叫ぶことではない。特に経済大国である英国・ドイツ・イタリアはマイナス成長が予想される。EUは、今年はロシアに対抗して一致団結していたが、来年には本格的に分裂するという展望も出ている。
その断面をのぞくことができる場面が15日にあった。EU各国首脳が「第9次ロシア制裁案」を議論する場でポーランドとバルト3国はさらに強力な措置を求めた反面、ドイツなど西欧は及び腰だった。ロシアと近い東欧には「安全保障」のほうが、ロシア産ガスの依存度が高いドイツなどには「経済」のほうが重要だからだ。今月初、ロシア産原油価格のストップ高を定める当時にも同じような葛藤構図がみられた。19日にはガス価格上限制導入に合意したが、加盟国間では見解の溝が深く「副作用が発生した場合、上限を直ちに解除する」という但し書を付けた。物価を捉えるための高金利基調に対する考えも各自異なる。
葛藤の層位はさまざまだが、特に「EUリーダー」ドイツに対する警戒心が強い。戦争による経済的打撃を強く受けたドイツはエネルギー補助金を大々的に緩和して「単一市場を傷つけるな」という指摘を受けた。ドイツは2017年以降、最大の経済的パートナーに浮上した中国を逃すことはできないという意志で接近しているが、他の国々は習近平主席の独裁に名分を与えるだけだと非難する。「欧州を犠牲にして自分の利益だけを追求している」(The American Prospect)という批判だ。
このような分裂の中でグローバル経済も欧州にとって頼りにならないものと予想される。エコノミストは「エネルギー危機と高金利、ドル高で世界的に成長鈍化が展望される」とし「エネルギー価格が下落して米国の物価が安定してこそグローバル成長が欧州の回復を支えるようになるが、2023年にこれを期待するのは無理」と報じた。弱り目にたたり目で、米国とは自国電気自動車(EV)の恩恵を与えて保護貿易主義論争を呼んだインフレ抑制法(IRA)で葛藤が生じている。
「エネルギー危機」足元の火を消さなければならないが…短期間の克服は困難
真っ先に消さなければならない「火」はやはり「エネルギー危機」だ。EUはロシアに対する依存度を減らすために原子力・親環境エネルギーなどの活用を増やして輸入先を多角化する計画だ。関連インフラも急ピッチで構築している。しかし戦争発エネルギー危機が2026年までは続くだろうという展望(ブルームバーグ通信)の中で、短期間でどうにかなる問題ではない。石炭発電所の稼働を増やさなければならないという意見も強く、長期的には「脱原発・親環境」のジレンマに直面する危険も高い。プーチン大統領は今後も欧州のこのような脆弱性をさらに悪用する危険が高い。FTは「結局、戦争のために始まったエネルギー問題が現在の危機の核心」としながら「エネルギー集約度の高い産業を再編してクリーンエネルギーにもっと力を注ぐなど新しい産業のマスタープランの策定が急がれている」と指摘した。

 

●ロシアの地方政府がプーチン政権と距離 タタールスタン憲法改正 12/24
ロシアの地方政府がプーチン政権との距離を模索しています。ロシア西部のタタールスタン共和国では23日、憲法が改正が行われました。
タタールスタン共和国はロシアの一つの行政区でありながら、独自の憲法や政府を持っています。
トップは「大統領」を名乗り、外国とも独自に交渉を行ってきました。
中央集権化を進めるプーチン政権は大統領の呼称を名乗ることを禁じたため、タタールスタンは共和国憲法の改正を余儀なくされました。
今回の改正によって大統領の任期が切れる2025年以降は、アラビア語でリーダーを意味する「ライス」に変更するということです。
イスラム圏などアラブ地域では、大統領の意味を持つ呼称とすることで影響力を維持させた形です。
ロシアメディアは「タタールスタンはプーチン政権に対して狡猾(こうかつ)に振る舞った」などと評しています。
タタールスタンは伝統的に独立志向が強く、ウクライナ侵攻を巡って首都カザン市中心部の訓練施設で動員兵が暴動を起こす動画がSNSで拡散するなど、住民レベルでは反発が根強いのが実態です。
ロシア最大の少数民族タタール人らの独立を目指す団体は「プーチン政権からの決別」を呼び掛けるなど緊張関係が続いています。
●兵器供給急げとプーチン氏 ロシア西部の軍需企業視察  12/24
ロシアのプーチン大統領は23日、西部トゥーラ州を訪れ、装甲車などを手がける軍需企業を視察した。全国の軍産複合体トップを集めた会議も開き、ウクライナ侵攻が長期化する中、兵器や装備品の供給を急ぐよう発破をかけた。
プーチン氏は会議で「最重要任務は、必要な量と品質の武器や弾薬など全てを短時間で部隊に提供し、戦闘経験を踏まえて改善することだ」と強調。
ショイグ国防相も23日、中部イジェフスクの企業カラシニコフ・コンツェルンを訪れ、自動小銃や精密誘導弾、携帯式防空システムなどの最新モデルの生産現場を視察した。 
●プーチン氏の「戦争」発言に波紋、批判派は「偽情報拡散」で訴追要請 12/24
ロシアのプーチン大統領がウクライナでの紛争を「戦争」と表現したことに対し、波紋が広がっている。プーチン氏はウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と位置づける情報発信を入念に構築しており、こうした方針から公の場で逸脱するのは侵攻開始後10カ月で初となる。
プーチン氏は22日、国家評議会の会合に出席後、モスクワで記者団の取材に「我々の目標は軍事紛争を拡大させることではなく、逆に戦争を終結させることにある」と発言。続けて「我々はこの目標に向けて努力してきたし、今後も努力を続ける」と述べた。
これに対しプーチン氏に批判的な層からは、ウクライナでの紛争を指して「戦争」の言葉を使用することは、3月以降のロシアでは実質違法だとの指摘が出ている。当時のプーチン氏は侵攻に関する「偽」情報の拡散を犯罪とする検閲法に署名しており、有罪になれば最大で禁錮15年が科せられる。
サンクトペテルブルクの地方議員、ニキータ・ユフェレフ氏は22日、「軍に関する偽情報を広めた」疑いでプーチン氏を訴追するようロシア当局に要請した。ユフェレフ氏は反戦姿勢が原因で国外避難を余儀なくされている。
ユフェレフ氏はツイッターで「特別軍事作戦を終わらせる命令は出ておらず、戦争も宣言されていない」と言及。「今回の戦争に関するそうした表現が原因で、すでに数千人が罪に問われている」とも指摘した。
米当局者はCNNの取材に、初期段階の分析ではプーチン氏の発言は意図的なものではなく、言い間違えだった可能性が高いとの見方を示した。ただ、複数の当局者は、ロシア大統領府内の関係者が今後数日どのような発言をするか注視する構えを示した。
●ロシア軍、空爆したマリウポリの劇場を解体…プーチン「戦争」表現を初使用  12/24
ウクライナ南東部マリウポリの市長顧問は23日、ロシア軍が3月に空爆し、300人以上が死亡した劇場の建物が取り壊される様子を収めた動画をSNSで公開した。劇場周辺の地面には空爆当時、大きくロシア語で「子どもたち」と書かれていた。ロシア軍は住民の避難所だったと把握しながら攻撃した可能性があり、取り壊しはロシア軍による「戦争犯罪」の証拠隠滅の一環とみられる。
ロシアはマリウポリを含むドネツク州を一方的に併合した。ロシア側「当局」は、露軍が市街地を激しく破壊した痕跡を「再開発」の名目で消そうと躍起になっている。市外に退避している市長顧問は「露軍の犯罪をもみ消した露捜査当局も同罪だ」と非難した。
AP通信は22日、衛星や無人機の画像などを分析し、マリウポリ周辺で3〜12月、少なくとも1万300基の墓が新たに作られたと報じた。露軍がマリウポリ住民への虐待を続けている可能性がある。
ウクライナ検察当局は22日、ウクライナ軍が露軍から奪還した地域で、拷問用の施設が54か所確認され、子供に対する戦争犯罪の疑いで855件を捜査していると明らかにした。19日時点で5万4600件が戦争犯罪の捜査対象になっている。
ロシアが侵略を始めてから24日で10か月が経過したが、ウクライナ国民の士気は高いようだ。ウクライナ東部ハルキウの民間調査機関は23日、全土で11月に実施した世論調査の結果を公表し、停戦のために「ウクライナは一切妥協すべきではない」との回答が78%だった。
一方、侵略を「特殊軍事作戦」と称してきたロシアのプーチン大統領は22日の記者会見で、初めて「戦争」という表現を使った。露国内では、「戦争」という言葉を使ったため拘束された国民も多く、プーチン氏への処罰を求める声が上がっている。
●プーチン大統領 ベラルーシに協力再要請か ミサイル不足指摘も  12/24
ロシア軍はウクライナに侵攻して24日で10か月となるなか、ミサイルなどの不足が続き軍事作戦に影響が出ていると指摘されています。プーチン大統領は、26日から旧ソビエト諸国の首脳会議を開催し、ベラルーシに対しては軍事侵攻に対する一層の協力を求めるものとみられます。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって10か月となる24日、イギリス国防省は「ロシア軍は予備役の動員によって当面の兵員不足は緩和されているが、軍需品の不足が続き作戦が制限されている」と指摘しました。
具体的には、巡航ミサイルの使用が限られ長距離ミサイル攻撃が週に1度程度に制限されているほか、砲弾の備蓄が増えている可能性も低いとして、軍事作戦に影響が出ているとしています。
一方、ロシア大統領府は26日から第2の都市サンクトペテルブルクで、旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の非公式の首脳会議を開催すると発表しました。
プーチン大統領は、ことし10月にもCISの首脳会議を開いたばかりで、勢力圏と見なす旧ソビエト諸国の引き締めを図るねらいとみられます。
またベラルーシ政府は、この会議に出席するルカシェンコ大統領が24日にはモスクワ郊外の宇宙関連施設を訪れたと明らかにしました。
プーチン大統領は今月19日ベラルーシでルカシェンコ大統領と会談し軍事協力などについて協議したばかりで、軍事侵攻に対する一層の協力を求めるものとみられます。

 

●ウクライナ南部の死者10人 Xマス停戦なくロシア軍砲撃 12/25
ウクライナ東・南部ではクリスマスを迎える中、最前線の戦闘や都市部への攻撃が続いた。
南部ヘルソン州のヤヌシェビッチ知事によると、ウクライナが解放した州都ヘルソン市中心部に24日、ロシア軍が砲撃を加え、少なくとも10人が死亡し55人が負傷。ゼレンスキー大統領は通信アプリで「テロにほかならず、脅迫と快楽のための殺人だ」と厳しく非難した。
ヤヌシェビッチ氏の説明では、ヘルソン市には23日もロシア軍による砲撃があり、5人が死亡した。負傷者は17人で「6歳の女児も含まれる」という。
2月に侵攻を始めたロシアのプーチン大統領は、9月に東・南部4州の「併合」を一方的に宣言した。しかし、欧米の兵器供与を受けたウクライナ軍の反転攻勢を受け、ロシア軍は11月、今回の侵攻で州都として唯一占領したヘルソン市から撤退。このところ「報復」のように同市へ攻撃を加えていた。
ヘルソン州の親ロシア派政治家トップのサリド氏は最近、「(ロシアは)ヘルソン市に戻る」「クリスマス停戦は望むべくもない」と奪還を宣言していた。 
●プーチン大統領、ロシアは正しい 米ミサイル「100%粉砕」 12/25
ロシアのプーチン大統領は、越年する見通しとなったウクライナ侵攻を巡り「われわれは正しい方向に行動しており、国益を守っていると思う」と述べた。米国がウクライナへの供与を約束した地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」に関しては「100%粉砕する」と警告した。
国営テレビの単独取材に語ったもので、25日の番組で放送された。事前収録は、年内最後の記者団の取材に応じた22日とみられる。

 

●プーチン氏、交渉の用意あると表明 「ウクライナ側が拒否」 12/26
プーチン大統領は、25日に放映されたインタビューで、ロシアはウクライナ戦争に関わる全ての当事者と交渉する用意があるが、ウクライナとその西側の支援者が交渉に関与することを拒否していると主張した。
プーチン氏は、国営テレビ「ロシア1」に対して「われわれは全関係者と受け入れ可能な解決策について交渉する用意があるが、それは彼ら次第だ。交渉を拒んでいるのはわれわれではなく、彼らだ」とした。
一方、ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は、プーチン氏は現実に戻り、協議を望んでいないのはロシアのほうだと認める必要があると強調。ツイッターに「ロシアは一方的にウクライナを攻撃し、市民を殺している。ロシアは交渉を望んでおらず、責任を回避しようとしている」などと投稿した。
ウクライナでは、ロシアによる発電所への攻撃で大規模な停電が発生。ゼレンスキー大統領は、夜のビデオ演説で、ロシアは2022年の最後の数日間を暗く困難なものにすることを狙っていると述べた。
「暗闇は、われわれが占領軍を新たな敗北に導くことを妨げるものではない。しかし、どんなシナリオにも対応できるようにしておかなければならない」と語った。
●佐藤優「ロシアが重要拠点から続々撤退も、プーチンが野望を捨てない理由」 12/26
日本ではウクライナ発の西側の報道が中心 そのすべてが正しいわけではない
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから、10カ月になります。国連憲章を破り、世界の秩序を破壊したロシアとプーチン大統領の責任は、厳しく問われなければなりません。
国際社会には「同盟国の掟」があります。「同盟国の言い分と、同盟を結んでいない国の言い分が対立した場合、同盟国が正しいと受け止める」という掟です。ウクライナは日本の同盟国ではありませんが、アメリカとは事実上の同盟国です。すなわち常にウクライナの利益を重んじることが、日本の取るべき立場です。
ただし国際情勢の正確な分析は、まったく別の話です。報道も基本的に同盟国の掟の中で成り立ちますから、日本ではウクライナ発の西側の報道が中心です。しかしそのすべてが正しいわけではなく、信頼度が低かったり、何らかの意図を含んだ偽物の情報も含まれていたりすることを知らなければいけません。
同様に、ロシア発の情報はすべて虚偽だと受け流すのも、大きな間違いです。ロシアで何が報じられ、プーチン大統領やロシア国民は何を考えているのか理解することは、とても大切です。この新連載では、善悪や好悪や先入観に惑わされない情報の読み解き方に触れながら、国際情勢について解説していきます。
9月にはハルキウ州から大規模な撤退を行い、11月にはヘルソン州の西岸からも撤退したロシア。プーチン大統領の目標に変化はあるのか、見ていきましょう。
紀元前から現代に至るまで「川を挟んだ戦争」は難しい
11月中旬、ロシア軍はウクライナ南西部のドニプロ川西岸地域から撤退し、ウクライナ軍はヘルソン州の州都ヘルソン市を奪還しました。戦争において川を挟んだ攻防が難しいことは、項羽と劉邦の時代の「背水の陣」の一戦(紀元前204年)や武田信玄と上杉謙信による川中島の戦い(1553〜64年)でも、そして21世紀においても変わりません。
州都ヘルソンは軍事侵攻後にロシアが占領した唯一の州都であり、クリミア半島に隣接する要衝でしたが、守り切れないと判断したロシア軍は、消耗戦を避けるため、冬が来る前に渡河しました。その後はドニプロ川の東岸を要塞化し、西岸を砲撃しています。
ロシアにとって痛手であることは事実ですが、局地的な戦術として撤退したにすぎません。ウクライナはその後に入ってきたのが実態で、戦闘に勝ってロシアを追い出したわけではないのです。9月にウクライナ軍の奇襲を受けて東部ハルキウ州からロシア軍が撤退した際には、慌てて逃走したので兵器を十分に破壊していませんでした。しかし、ヘルソンから撤退する際には発電所や水道施設、通信塔などのインフラが破壊されています。
現在、南部における局地戦ではウクライナ軍の勢いが勝り、東部では一進一退の攻防が続き、戦況は膠着状態にあります。
しかし大局を見るなら、ロシアの優勢は揺らぎません。ロシア軍が駐留するモルドバの親ロシア派支配地域「沿ドニエストル共和国」まで黒海沿岸に占領地をつなげ、ウクライナを内陸に閉じ込めてしまおうとするプーチン大統領の目標にも、変わりはありません。
なぜなら、当初から「特別軍事作戦」の目標に掲げていたのはドネツク州とルハンシク州の確保であり、9月30日に南東部ザポリージャ州と南部ヘルソン州の併合も宣言しましたが、4州を合わせても国土の20%弱です。すでにロシアはその多くを占領している上に、経済的に発展している工業地帯と穀倉地帯を確保しているのです。
ロシアの方針を転換させた 2つのきっかけ
ロシア軍は最近、ウクライナのエネルギー関連施設など、民間のインフラを徹底的に破壊しています。ウクライナの鉄道のほとんどは電化されているので、電気が止まると物流が滞り、食料も不足します。厳しい冬を前にエネルギー不足と食料不足をもたらそうとするロシアの戦術は、極めて非人道的です。
ゼレンスキー政権こそが問題で、兄弟であるウクライナ国民の被害は極力抑えるというロシアの方針が、明らかに変わった転換点がありました。ひとつは8月20日、新ユーラシア主義を唱える保守思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘でジャーナリストのダリア氏が、自動車に仕掛けられた爆弾で殺害された事件です。
ロシア連邦保安局(FSB)は、ウクライナ情報機関の男女が犯人だと名指ししています。ニューヨーク・タイムズは10月5日、アメリカの情報機関がウクライナ政府の一部が暗殺計画を許可したとみていると報じました。もっともウクライナ政府は、関与を否定しています。
なぜロシアで クーデターが起きないのか
さらに決定的な転換点は、10月8日にクリミア大橋が破壊されたことでした。こちらも真相は不明のまま、ロシアはウクライナによる攻撃だと主張し、ウクライナはロシアの謀略だと言い張っています。ウクライナ政府主導の組織的なテロである可能性も指摘されていますが、ゼレンスキー大統領の反応を見る限り、彼には知らされていなかったように思います。
重要なのは、誰がやったかよりも、それがどういう影響を及ぼしたかという因果関係です。ロシア本土からクリミア半島への唯一の陸路であるクリミア大橋は、ロシアが引いたレッドラインでした。その一線を越えた以上、テロリズムを容認する政権を樹立したウクライナ国民にも責任がある、とロシアは発想を変え、戦争は次のフェーズに入ったのです。
今年9月のロシアの世論調査機関「レバダセンター」の発表ではプーチン大統領の支持率が77%となり、先月より6ポイント下回りました。それでも、政権の基盤が揺らぐ気配はありません。世論調査で注目すべきなのは、2番目は誰かということ。プーチン氏に取って代わる人物が見当たらない以上、支持率の低下は問題になりません。これは日本の内閣支持率を見るときにも、同じことがいえます。ロシアでクーデターが起きる可能性は極めて低いでしょう。
戦争に反対していたロシア人が プーチン支持に回った理由
ロシアは9月21日に部分動員令を発令し、10月末に30万人の予備役の動員を完了したと発表しました。ショイグ国防相は、そのうち8万2000人が対ウクライナ前線に送られ、21万8000人が訓練中だと語りました。
ロシア軍の兵士が足りなくなっているのは事実です。しかし動員がかけられたからといって、世論が反発しているわけではありません。日本で言うなら、増税のようなものです。増税を喜ぶ人はいませんが、国の財政を考えれば仕方ないというのが、多くの国民感情です。ロシアの動員令についても、ロシア各地で散発的なデモは発生しましたが、この戦争に負けるわけにはいかないから、認めるしかないと考える人が依然として多いのです。
また、当初は戦争に反対していたロシア人でも、ここで安易に譲歩すれば西側諸国に従属させられる、国家として独立した存在でいられなくなるという危機感からプーチン支持に転じた人もいます。それがロシア国内の空気です。
●プーチン露大統領、停戦への意向示唆 ウクライナや米国は懐疑 12/26
ロシアのプーチン大統領は、25日に放映された国営テレビのインタビューで、ウクライナ侵略に関し、ウクライナや同国を支援する米欧と「結論を妥結する用意ができている」と述べ、停戦への意向を示唆した。プーチン氏は22日にも停戦に言及していた。
ただ、プーチン氏はロシアの要求を認めさせる形での停戦を念頭に置いているとみられ、ウクライナや米国は懐疑的な見方を崩していない。
プーチン氏は、ウクライナとの停戦交渉や、ウクライナ侵攻に先立って北大西洋条約機構(NATO)に提案した相互安全保障体制の確立について「ロシアには全ての当事者と交渉する用意がある」としつつ、「彼らが交渉を拒否している」と主張した。
プーチン氏は22日の記者会見でも「全ての紛争は交渉で終わる。彼らがこの認識に達するのが早ければ早いほどよい」と指摘。一方で「設定した全ての目標は達成する」と述べ、作戦続行の意思も示していた。
ロシアはこれまで、一方的に併合を宣言したウクライナ4州の「帰属変更」や、ウクライナの「非軍事化」などをウクライナが受け入れることが停戦の前提だと主張している。
ロシアは、停戦をちらつかせることで米欧のウクライナ支援態勢を揺さぶり、戦況の好転を狙っているとも指摘されている。
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は25日、露軍の攻撃や民間人殺害が続いていると指摘し、停戦への意欲は見せかけにすぎないと批判した。
ロイター通信によると、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は今月、「ロシアは本当の意味での交渉に真剣に臨もうとしていない」とする分析を公表。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官も22日、ロシアが停戦に前向きだとする観測について「全く逆だ。ロシアは戦争を激化させようとしている」と指摘した。
●ロシアの核兵器、西側の宣戦布告を防いでいる=プーチン氏側近 12/26
ロシア安全保障会議の副議長を務め、プーチン大統領の最側近の1人でもあるメドベージェフ前大統領は、ロシアの核兵器とその使用に関するルールが、西側がロシアに対して戦争を始めるのを防いでいる唯一の要因と述べた。25日に発行されたロシースカヤ・ガゼータに寄稿した。
ウクライナの「非常に不快な、ファシスト的政権」が取り除かれ、完全に非武装化されるまで、ロシアは戦争を継続すると表明した。
メドベージェフ氏は「西側諸国は、核戦争を含む本格的な戦争をわれわれに仕掛ける準備ができているのか」と寄稿。
「それを阻止している唯一のものは、ロシアが核抑止力に関する国家政策に基づいて行動するとの認識だ」とした。
プーチン大統領やその他の高官はこれまで、ロシアの核兵器に関する政策として、領土の一体性に対する脅威がある場合には、核兵器使用が可能と繰り返し述べている。
●ロシア軍、クリスマスも各地でミサイル攻撃 「年末を暗く困難に」 12/26
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日夜のビデオ演説で、クリスマス中も各地で砲撃の手を緩めなかったロシア軍が、年末にかけてさらに攻勢を強める可能性があるとの見方を示した。「敵はこの時期を暗く困難なものにしようとしている」と述べ、国民に空襲への警戒を呼びかけた。
ウクライナ軍参謀本部は、北東部ハルキウ州クピャンスク周辺で25日昼、ロシア軍によるミサイル攻撃が10回以上あったと明らかにした。インタファクス・ウクライナ通信が伝えた。
24日の砲撃で多数の市民が死傷した南部ヘルソン州でも25日、ロシア軍のミサイル攻撃が続き、民間人にも犠牲が出ているという。
一方、ロシアのプーチン大統領は25日、国営テレビのインタビューで、ウクライナ侵攻に関して「すべての当事者と交渉する準備ができている」と述べた。ロイター通信などが報じた。
プーチン氏は「我々は、許容できる解決策について交渉する準備ができている。彼らが拒否している」として、ウクライナと欧米に責任があると主張した。
さらに、米国がウクライナに提供する高性能地対空ミサイル「パトリオット」について、「100%破壊する」と発言した。
ロシアは、一方的に併合を宣言したウクライナ4州について協議しないと主張するなど、ウクライナ側に大幅な譲歩を求める姿勢は変えていない。 
●「国民の99.9%は喜んですべてをロシアに捧げる用意」とプーチン 12/26
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ侵攻が続く中で99.9%のロシア人は国のためなら喜んで命を犠牲にするだろうと語った。
これはプーチンが12月25日、国営放送ロシア1で放送されたインタビューで語ったもの。ロシア国営タス通信によればプーチンはこのインタビューで、過去数カ月、そして「ロシアが存在する歴史全体を通じて」、ロシア国民の国家に対する献身を改めて確信したと述べたという。
「ほとんどの──99.9%の国民は、すべてを祖国のために犠牲にする心構えができている」とプーチンは述べたという。「それ自体は異例のことだとは思わないが、私は改めて、ロシアが特別な国であり、その国民は特別な存在だとの思いを新たにした」
また、プーチンの目的に反する行動を取る者について意見を問われると、「真の愛国者ではない」と切って捨てたものの、「選択の自由」を持つ権利は誰にでもあるとも語った。
動員から逃げたのは「一部の人々」?
「一部の人々が真の愛国者のように行動しないという事実は、別に驚くに値しない」とプーチンは言った。「いかなる社会においても、自分自身の利益つまり自分自信の都合(だけ)を考える人は常にいるからだ。正直なところ、私はそういう人々を非難するつもりはない。いかなる人にも選択の自由はある」
どういった行為が自分の計画に反するのか、プーチンは具体的には言及しなかった。ロシア政府はこの秋、ウクライナ侵攻のための動員を行ったが、それを嫌って出国する人が相次ぐという事態に見舞われた。
プーチンは9月、ロシアでは第2次世界大戦後初となる部分的動員を発表。ところがこれに対し、10月4日までに37万人を超えるロシア人男性が動員を逃れるためにカザフスタンやフィンランドやジョージア、モンゴルなどの周辺諸国に出国した。その数はカザフスタンだけで約20万人に達したという。本誌の調べでは、プーチンが動員を発表した翌日には、ジョージアに向かう車が約10キロにもわたる列を作ったことが分かっている。
「目下のところわれわれが目にしているのは、混乱し、国民の支持も得られず、失敗することほぼ間違いなしの動員政策だ」と、欧州政策分析センター(CEPA)のジョエル・ヒックマンは以前、本誌に対し述べた。
「いろいろな健康不安を抱える年配男性が数多く、近くの新兵募集センターに列を作っていると伝えられている」
こうした国民の反発にもかかわらず、ロシア政府は10月末、30万人の動員を達成したと発表。だが新兵たちがろくな訓練も装備もなしに前線に送られているという報道もあり、動員は順調に進んでいるとは言いがたい。
●週内に中ロ首脳会談 欧米とやりとりなし―プーチン氏報道官 12/26
タス通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は26日、プーチン大統領が週内に中国の習近平国家主席と会談すると確認した。形式は明らかにしなかったが、ロシア有力紙は先に、年内実施の見通しを伝えた上で「オンライン形式になる」と指摘した。
プーチン氏が新年に当たりバイデン米大統領に祝意を伝える可能性について、ペスコフ氏は「非友好関係が深まっている」と述べて否定した。かねて取り沙汰されてきたフランスのマクロン大統領との電話会談は「まだ(予定は)ない」と述べつつ、近い将来の実現に含みを残した。
●孤立し不信抱くプーチン氏、頼るは強硬派顧問  12/26
ロシア軍がウクライナ東部の小都市リマンの戦闘で敗北しつつあった9月下旬、モスクワから暗号化された回線を通じて前線の司令官に電話がかかってきた。
電話はロシアのウラジーミル・プーチン大統領からで、兵士たちに退却しないよう命じるものだった。
当時のやりとりについて概要の説明を受けた欧米の現・元当局者らやロシア情報当局の元高官によると、プーチン大統領は実際の戦況をあまり理解していなかったようだ。欧米が提供した大砲の援護を受けて前進するウクライナ軍は、装備の不十分なロシアの前線部隊を包囲していた。プーチン氏は、自身の指揮下にある将校たちの命令を覆す形で、兵士たちに陣地を死守するよう指示したという。
ウクライナ軍の不意打ち攻撃は続き、ロシア軍兵士は10月1日、何十体もの遺体と大砲を置き去りにして撤退を急いだ。残された大砲はウクライナ軍の武器貯蔵庫補充に使われることになった。
プーチン氏は、ウクライナ戦争が迅速なもので、国民の支持を得て確実に勝利を収められると考えていた。それどころか戦争は費用のかさむ泥沼と化し、同氏は何カ月もの間、その現実と折り合いをつけるのに苦労するとともに、自身の好戦的な世界観を強化し、悲観的なニュースから彼を守るよう設計された権力構造の頂点で孤立し、不信感を抱いていた。
事情に詳しい関係者によると、大統領との会合に参加した軍事専門家や武器メーカーの代表団は夏の間中、プーチン氏が戦場の現実を理解しているのかと疑問を呈していた。大統領はそれ以来、戦争の実態をより明確に把握するためにあらゆる努力をしてきた。だが、同氏の周りにいるのは依然として、人的・経済的な犠牲が増大しているにもかかわらず、ロシアは成功するという彼の確信に応える政府高官らだという。
11月にプーチン氏に解任されるまで、同氏が選んだ人権委員会のメンバーだったエカテリーナ・ビノクローバ氏は「プーチン氏の周りにいる人たちは自分たちを守っている。彼らには大統領の気分を害するべきでないという深い信念がある」と述べた。
その結果生じた間違いが、ロシアの悲惨なウクライナ侵攻の基盤となった。兵士らが花束とともに迎えられるだろうとプーチン氏が考えていた開戦当初から、北東部および南部で屈辱的な撤退をした最近に至るまでだ。兵役に就いたことのないプーチン氏は、時間が経つにつれ、自身の指揮系統に対する強い不信感から、前線に直接命令を出すようになった。
この記事は、現旧のロシア当局者や大統領府に近い人々に行った数カ月にわたる取材に基づく。その証言が描き出したのは、おおむね、ウクライナが成功裏に抵抗することを信じられないか、信じようとしない孤立したリーダー像だ。彼らは大統領が22年をかけて自身にこびへつらうためのシステムを構築してしまったと述べ、周囲の人々は彼を落胆させるデータを伏せたり、取り繕ったりしたと指摘した。
米当局者は、ロシア政府の内部関係者で、プーチン氏に対する影響力を持つのと同時に、ロシアが不当な立場に立たされているという同氏の持論にとらわれない人物を探すのに苦労していると述べている。大統領は宗教的と言ってもいいような言葉でロシアに言及するケースが増えている。プーチン氏は1000年の歴史を持つ文明が聖なる争いに従事していると指摘し、それは歴史的な過ちを正し、彼をピョートル大帝のような帝政時代の英雄的指導者の地位に引き上げるなどと述べている。
米国とロシアは、互いの大使館、米国防総省や中央情報局(CIA)を通じてほぼ毎日連絡を取っているものの、米当局者によれば、対話は制約を受けている。米当局者によると、プーチン氏に最も近い側近の一部は、権威主義的指導者である大統領自身よりも強硬派だと判明している。
プーチン氏は毎朝午前7時頃に目を覚まし、戦争の概況を記した書面を読む。ロシアの元情報当局者と現旧のロシア当局者によると、その概況は成功を強調する一方で失敗を重要視せず、慎重に調整を加えた情報を掲載している。
ロシアと米国の当局者のこれまでの発言によると、同氏は長年、デジタルの監視を恐れてインターネットの使用を拒否してきた。このため、同氏は自身と同じイデオロギーを持つ顧問がまとめた概況文書に一層依存するようになった。
事情に詳しい関係者によると、戦地の最新情報がプーチン大統領に伝えられるまでに数日かかり、情報が古くなっていることもあるという。前線の司令官は旧ソ連の国家保安委員会(KGB)の後継機関であるロシア連邦保安局(FSB)に報告する。FSBはロシア連邦安全保障会議の専門家らのために報告書を編集し、専門家らはニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記(プーチン氏にウクライナ侵攻を説得したタカ派の知謀家)に託す。そして、パトルシェフ氏がプーチン大統領に報告書を渡す。
パトルシェフ氏および安全保障会議はコメントの求めに応じなかった。大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、プーチン氏の「特別軍事作戦」に関連する計画は国家機密に分類されると述べた。
ペスコフ氏は「大統領はこれまで同様、情報を受け取るための複数のチャンネルを持っている」として、「大統領が歪められた情報を受け取っているという主張は、一切現実と一致しない」と述べた。
ロシアの現旧当局者や大統領府に近い人々は、プーチン氏がウクライナを服従させることに全力を注いでおり、成功するためにはロシアの経済と国民を何年も動員する覚悟があると語っている。欧米からの武器供与や経済支援が少なくなりウクライナ人の士気が低下すれば、結局はプーチン氏が、既に第二次世界大戦以来の欧州で最大の戦争となっているこの戦いの勝者になれるかもしれない。
この問題についてよく知る人物によると、ごく一部のロシア政府高官や親政府派のジャーナリストおよびアナリストはこの数カ月間、プーチン大統領に対して今回の侵攻がいかに苦戦しているかを直接伝えようとした。
侵攻直後、国民の支持が予想より低いとの調査結果を、長年関わりのある世論調査業者が大統領府に連絡しようとしたところ、大統領府からは「いまウラジーミル・ウラジーミロビッチ氏を動揺させる必要はない」と、プーチン氏のファーストネームと父親の名前を取ったミドルネームを使った答えが返ってきたと、そのやりとりをよく知る人物は明かしている。
7月、米政府が供与している衛星誘導型の高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」がロシア軍の兵站基地を攻撃し始めると、プーチン氏は防衛企業の幹部約30人をモスクワ郊外ノボオガリョボの邸宅に招集したと、この会合について知る関係者は明らかにした。幹部たちは3日間の隔離期間と3回のPCR検査を経て、長い木製テーブルの端に座り、プーチン氏が成功と考える戦争の成果についての説明を聞いた。これらの関係者によれば、プーチン氏はこの幹部らに対し、ウクライナ兵は脱走すれば自軍から撃たれるので戦意を保っているだけだと語った。
プーチン氏はそれから、ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長に説明を求めた。ゲラシモフ氏は、ロシアの兵器はうまく標的に命中し、侵攻は計画通りに進んでいると述べた。関係者によると、兵器メーカーの幹部らは、プーチン氏がこの紛争について明確に把握していないとの感想を持って、会合の場を去った。
ロシア国防省はコメントの求めに応じていない。
9月には、戦争を強く支持するロシアの軍事ジャーナリスト、ブロガーらのグループが、2時間以上にわたってプーチン大統領と会談したが、彼らも同様の印象を受けたという。会談内容に詳しい人々が明らかにした。
プーチン氏は同月にウズベキスタンで、中国の習近平国家主席と会談したが、会談内容を知る人々によれば、プーチン氏は習氏に静かに語りかけ、戦争は間違いなくうまく進んでいるとの見方を伝えたという。その週にロシア軍は、数百平方キロもの占領地を失った。
プーチン氏の侵攻作戦が明らかにつまずき始めた3月以降、西側の指導者らはある疑問を抱いてきた。それは、対ウクライナ政策とロシア軍の威光を取り戻すことばかりに強く執着してきたプーチン氏がどうして、ウクライナの力を過小評価し、ロシア軍の戦力を読み間違えたのかという疑問だった。
プーチン氏の支持者の一部は、彼に届けられた情報に間違いがあったことを認めるとともに、軍の失敗は、政府当局者のまずい計画によるものだとの見方を示した。ロシアの与党「統一ロシア」の有力議員で、戦争を支持しているコンスタンティン・ザトゥーリン氏は、インタビューの中で、「(大統領は)情勢の不完全な理解に基づいて作戦を進めてしまった。そしてその判断は、ある面では完全に正しいものではなかった」と語った。
同氏によれば、戦争の計画立案者らは「明らかに敵の力を過小評価し、自軍の力を過大評価していた」。
プーチン氏は、2008年にはほんの数日間でジョージアの5分の1以上の領土を支配下に収めた。2014年には数週間でウクライナからクリミア半島を奪い取った。クリミア侵攻作戦に関しては、ロシア対外情報局(SVR)だけでなく、セルゲイ・ショイグ国防相やロシア軍のゲラシモフ参謀総長なども反対した。
SVRは、コメント要請に応じていない。
プーチン大統領はクリミア侵攻作戦を個人的勝利と見なすようになった。彼の取り巻きグループは次第に縮小し、最もタカ派的なアドバイザーばかりで構成されるようになった。彼らはプーチン氏に対し、ロシア軍は数日でキーウを陥落できると断言した。
エストニアで対外情報機関の分析部門責任者を務めた経験を持つインドレク・カニク(Indrek Kannik)氏は、「恐らくプーチン氏は、KGBのエージェントだった時に上司にうそを伝えていたことを忘れてしまったのだろう」と語った。
●5000発の核弾頭をロシアに搬出していたウクライナ 12/26
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに対して核兵器を使用したら、米国はどう対応するのか――。
ジョー・バイデン米政権の幹部はメディアからそんな質問をされても、正面から答えようとしない。だが実際には、緊張感が漲る舞台裏で、具体策を検討しているというのだ。
米国家安全保障会議(NSC)はウクライナ侵攻前に発足させた特別対策班「タイガー・チーム」(2022年2月24日『なぜ止められなかった親露派国家承認:米国がキューバ危機以来の情報公開戦術』参照)を、「核対策」を中心とするチームに衣替えした。米情報機関はロシアの動きを綿密に追い、NSCはロシアが核兵器を使用した場合の対応策を作成中とみられる。
ロシアの核兵器使用に対する米国の対抗策について検討し、核危機の現実を分析する。
その前提として、「核」をめぐるロシアとウクライナが絡んだ複雑な歴史的事実を押さえておきたい。
ウクライナは模範的な非核国
ウクライナは、旧ソ連崩壊に伴い1991年に独立した。その際ウクライナに、旧ソ連の核兵器が配備されていたことはよく知られた事実だが、この機会にウクライナ「非核化」の歴史を調べ直した。
ウクライナは独立して、米露に続く世界第3位の「核大国」で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する地下サイロまで持つに至る。だが、その後実に約5000発に上る戦術・戦略核弾頭もミサイルもすべて自発的にロシアに搬出、「核軍縮の勝利」と称賛されていた。ウクライナはまさに模範的な非核化を成し遂げた国である。
その歴史を米「軍備管理協会」などのシンクタンクや米国防総省が今、「ファクトシート」にして紹介している。ロシアの「核の脅し」に対して、まともなプロパガンダで応戦しているのだ。
ところが今や、ウクライナが「核」を放棄したが故にロシアから核攻撃されるということになれば、世界では核武装に走る中小国が増える恐れがあり、核拡散防止条約(NPT)の建前は崩壊する。ロシア軍のウクライナ侵攻はそれほど深刻な歴史的危機をもたらそうとしている。
ウクライナに最も近いロシア軍核基地
米月刊誌『アトランティック』は今年6月、軍事情報アナリストらの間で注目されるロシアの核兵器基地について伝えた。
その中で「プーチン大統領が短距離戦術核ミサイルをウクライナに対して発射すると決定した場合に使う」とみられるロシアの基地を紹介している。ロシアの西端ベルゴロド州の、ウクライナ国境から東方へ約40キロ入った所にある核基地「ベルゴロド22」だ。
ロシア軍の核兵器輸送・核弾頭の取り扱いは国防省第12総局の指揮下にあり、全土で12カ所に核兵器中央保管庫が置かれている。ウクライナに近いベルゴロド22なら、プーチン大統領の決定を受けて、数時間で核弾頭をミサイルに装着、発射準備が完了するという。
これに対し、米インテリジェンス機関は偵察衛星や通信傍受などで基地の動きを監視している。現状では、バイデン政権は「核基地では動きは見られない」としている。しかし、プーチン大統領が核兵器を使用するのに備えて、基地の動きを警戒し続ける構えだ。
米露の閣僚級安保担当が重層的に接触
10月中旬に米政府は、これまでにない情報を得た。ロシア軍幹部が集まって「ウクライナに対し、いつ、どのようにして戦術核を使うかについて協議した」というのだ。欧州の同盟諸国も含めて緊張する局面となった(『ニューヨーク・タイムズ』)といわれる。
なぜかこの会議には、核兵器の使用で唯一決定権を持つプーチン大統領は出席しなかった。ところが、同大統領は10月27日の演説で、
「核兵器使用の必要性はない」
と発言したと伝えられ、いったん緊張感は緩んだようだ。
しかし10月末には、ロシア軍が行った軍事演習で核兵器搭載可能なミサイルのテストを行った、との情報が伝えられた。
こうした情報を受けて、米国側からの要請で、ウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官とセルゲイ・ナルイシキン露対外情報局(SVR)長官の会談が11月14日にトルコのアンカラで行われた。
この動きに先行して、ロイド・オースチン米国防長官が10月中に2回、セルゲイ・ショイグ露国防相と電話会談。ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)もニコライ・パトルシェフ露国家安全保障会議書記と数回にわたり電話会談を重ねた。
米露双方の国家安全保障担当のトップクラスの会談が重層的に、これほどの頻度で開かれたことは異例であり、双方が危機意識を抱いているのは明らかだ。
ホワイトハウスの公式発表によると、バーンズ長官は会談で、ナルイシキン長官に対し、核兵器の使用に反対すると表明した。しかし、これ以上の詳細は明らかにされていない。
タイガー・チームが対抗策のシナリオ
ロシアがウクライナで核兵器を使用した場合の対抗策について、バイデン政権高官は公開の場で明確な回答を避けてきた。オースチン長官は「国際社会が重大な対応をする」とだけ発言、バイデン大統領は米国が核兵器で報復する計画はないことを示唆している。
しかし現実には、ウクライナ侵攻から約1カ月後の3月23日に『ニューヨーク・タイムズ』電子版が、プーチン大統領が化学兵器・生物兵器・核兵器の使用を決めた場合の対抗策について、「タイガー・チーム」が「複数の大まかなシナリオ」を作成すると報じている。
だが、いずれにしても米政府はその内容を明らかにする意図はないようだ。
「核実験」「戦術核」「戦略核」のシナリオ
しかし、シンクタンク「外交問題評議会」はこのほど、ロシアが行う可能性がある「核実験」、「小型戦術核の使用」、「戦略核の使用」という3つのシナリオを提示している。
その1:ロシアが核実験を行い、ウクライナとその支持者に対して決意と能力を示す。
効果:ロシアの最新の核兵器情報は西側政府に知られており、バランスに変化はない。
その2:戦場でロシアが戦術核兵器を使用。ウクライナの戦意をくじき、軍事能力に打撃を与えるためウクライナ軍部隊あるいはエネルギー・インフラを標的にする可能性。ロシアは爆発規模1〜50キロトンの戦術核約2000発を保有しており、イスカンデルM短距離ミサイルを使う可能性が大きい。(2022年3月29日『ロシアが小型核先制使用の恐れも:核のハードル低下が呼ぶ「第3次世界大戦」リスク』参照)
効果:戦場で軍事目標に対して戦術核を使用しても、ウクライナ軍の反撃を止められそうにない。中国はほぼ確実に核兵器使用を非難する。米国とその同盟諸国はウクライナに供給する通常兵器を増強する。西側諸国は放射能対策で人道援助を提供する。
その3:戦略核兵器の使用。ウクライナ市民あるいは近隣のパートナー国に対する戦略核兵器の使用。最もあり得ない選択。戦術核より数百倍の威力で、ロシアの目標は西側の決意をくじくことにある。
効果:確実に西側の報復を招く。米国は迅速に通常兵器で対応。西側はロシア領内には越境しない。巡航ミサイルやドローンなどの攻撃もウクライナ国内のロシア軍の目標に限定される。バイデン大統領は意図的に「戦略的あいまいさ」という政策をとっている。
バイデン大統領があいまいな発言を続けているのは、ロシア側が西側の報復策を侮る可能性があるからかもしれない。
ロシアの核使用で成果なし
かくして、どのケースでもロシアは、核兵器の使用で勝利を導くほどの成果を得るのは難しそうだ。
これに対する米国と西側の対策は慎重で、ロシア軍との直接の軍事的対決を避ける構えだとみられている。
バイデン政権が意図的に、ロシアの核兵器使用に対して事前に明確な態度を示さず、「あいまい戦略」をとっていることについて、上院軍事委員長を務めた軍事専門家、サム・ナン元上院議員(民主党)は支持している。
バイデン大統領は第3次世界大戦の発展する危険性を最も危惧している。このため、ロシアが戦略核を使用した場合でも、ウクライナ国内に限定して通常兵器で対応する戦略、とみていい。
密使の起用案も
同時にナン元上院議員は、バックチャンネル外交で、ロバート・ゲーツ元CIA長官のような尊敬される人物を密使に起用し、ロシア側に対して「核兵器を使用すれば、米国は厳しく報復する」と警告して、ロシア側が自重するよう求める案を紹介している。
ちょうど60年前の「キューバ核危機」で、ジョン・F・ケネディ大統領は、密使に弟のロバート・ケネディ司法長官を起用し、ソ連がキューバから核ミサイルを撤去すれば、米国もトルコから核ミサイルを撤去すると譲歩して、バックチャンネル外交を成功させた例がある。
バイデン大統領はバーンズCIA長官を重用し、昨年11月にもロシアに派遣してウクライナ侵攻を断念させようとした。今回もバーンズ長官とナルイシキンSVR長官の会談で核兵器の使用を断念させようとしたが、なお成果は見られない。バーンズ長官は元駐露大使で、ロシア事情に通じてはいるが、大胆な取引ができる政治家タイプではない。
ロシアと本格的に交渉するのであれば、もう一段ギアを上げる必要がありそうだ。先述したように、ロシアの核兵器使用は世界の歴史的危機がかかっているからだ。
核弾頭搬出、ICBM解体
1991年8月24日に独立を宣言した時、ウクライナには旧ソ連時代からの大量の核兵器が残留していた。しかし、これらの核兵器はウクライナから搬出ないしは解体された。ウクライナ非核化のデータを記しておきたい。
全米科学者連盟の資料によると、ソ連崩壊時にウクライナが引き継いだ核弾頭は全部で約5000発もあった。
内訳は、ICBM用の戦略核弾頭1240発、戦略爆撃機用600発以上、戦術核約3000発となっている。
ICBMだけでも、SS19が130基(弾頭は各6発)、SS24が46基(同10発)などがあり、戦術核も含めた核弾頭のロシアへの搬出に5年以上を要し、ミサイルの解体にはそれ以上の年数がかかった。
独立後初代のレオニード・クラフチュク大統領は一時、戦術核の搬出に疑問を感じて中断したが、旧ソ連の後継組織として発足した「独立国家共同体(CIS)」への加盟後、自発的に戦術核を搬出。ウクライナは1996年6月に「すべての核弾頭の搬出完了」を宣言した。
理不尽なロシア
その経緯の中で1994年、米国、ロシア、ウクライナ3国は「ウクライナ非核化協定」に調印、さらに同年、英国を加えた4カ国でウクライナのNPT調印と引き換えに、米英露がウクライナの主権・領土尊重を約束する「ブダペスト覚書」に調印した。
米国はこの間ロシアに6000万ドルの援助を行い、ロシアはウクライナに100トンの核燃料を供給した。ミサイルの解体をめぐっては、前出のナン元議員も加わった米国の超党派の「ナン・ルーガー脅威削減協力計画」を策定し、米国は4700万ドルを拠出している。
ところが、ロシアは2014年、クリミア半島を併合してブダペスト覚書の約束を破り、それ以後ウクライナは「非ロシア化」を進める。
このようにウクライナは、独立当初の段階で、日本の非核三原則とほぼ同じ「非核宣言」を行って、核ミサイルを解体、核弾頭をロシアに引き渡すことを約束。誠実に非核化を実行してきた。その歴史の真実は唯一の戦争被爆国である日本にとっても非常に貴重だ。
しかし、そんな模範的な非核化を実現したウクライナに対して、核兵器で攻撃するほど理不尽なことはないのだ。

 

●プーチン大統領、またがん闘病説…「秘密裏に抗がん治療、終わりが・・・」 12/27
ロシアのプーチン大統領が秘密裏に抗がん治療を受けているという健康異常説がまた浮上した。
25日(現地時間)、米紙ニューヨーク・ポストなど多くの外信によると、ロシアの有名政治アナリスト、ヴァレリー・ソロベイ氏は「プーチン大統領は西側から空輸した治療薬を投薬中」とし「それがなかったらロシアで大統領の職務を遂行することができなかっただろう」と主張した。
また「彼はロシアではできない専門治療を受けている」とし、これまでの治療が成功したと述べた。ただし「どんな薬と治療も果てしなく成功することはできない」とし「該当治療薬を使う医師たちはすでに終わりが近づいていると言っている」と付け加えた。
プーチン大統領をめぐる健康悪化説は、今年2月のウクライナ侵攻以来、これまで絶えず浮上してきた。プーチン大統領が公式行事で足を引きずったり、まるで痛みを我慢するかのように会談場の机の角をつかんで身体を頼っているような姿などが捉えられ、このような健康異常説に力を増した。
英紙ザ・サンは今月初め、ロシア情報院から流出した電子メールを入手したとし、プーチン大統領が初期パーキンソン病と膵臓がんを患っていると報じたことがある。最近はプーチン大統領が階段から倒れて失禁したという内容の報道が出た。ただ、このような報道の場合には引用される情報出所の信憑性が高くないと伝えられた。
クレムリン宮殿はプーチン大統領が医学的問題を抱えているという疑惑を強く否定している。
今年5月にはロシアのラブロフ外相が「プーチン大統領は健康で、彼からいかなる病気の兆候も見えていない」とし「彼は毎日大衆の前に立っている。正気の人なら彼が病気だとは思わないだろう」と話した。その後、クレムリン宮殿報道官も「プーチン大統領が運動を着実にしており、ホッケーを楽しんだりもする」とし「大統領のこのような行動を直接目で見た後、健康状態について考えてみてほしい」と述べた。
●プーチン大統領 旧ソビエト諸国の首脳会議で各国結束呼びかけ  12/27
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、26日から旧ソビエト諸国の首脳会議を開催し、欧米との対立が深まる中で各国の結束を呼びかけました。一方、ウクライナは、国連安全保障理事会の常任理事国としての地位をロシアから剥奪、国連からも追放すべきだと訴えました。
ロシアのプーチン大統領は26日、第2の都市サンクトペテルブルクで、旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の非公式の首脳会議を開催しました。
冒頭、プーチン大統領は「残念ながらCISの国々の間でも意見の違いがあることを認めなければならない。しかし、大事なのは協力しそれを解決することだ」と訴えました。
そして「CISの国々は共通の歴史や精神的なルーツをもち、ロシア語が多民族の国々を結束させる力となっている」と述べました。
ウクライナ侵攻を続けるロシアに対して、ロシアが勢力圏とみなす中央アジアの国からも距離を置く姿勢がみられるなか、プーチン大統領は、各国の温度差を認めたうえで、結束を呼びかけた形です。
またプーチン大統領は、27日まで続く首脳会議などで盟友のベラルーシのルカシェンコ大統領に対して、ウクライナ侵攻をめぐる一層の協力を求めるものとみられます。
一方、ウクライナ外務省は26日に声明を発表し、国連安全保障理事会の常任理事国としての地位をロシアから剥奪し、国連からも追放すべきだと訴えました。
声明では、ロシアは、旧ソビエトが崩壊したあと、正当な手続きが行われないまま常任理事国としての地位を受け継いだと訴え、国連への加盟が認められるのは「平和愛好国」だけだと指摘しています。
●面目つぶれたプーチン政権…防空網誇示の直後、無人機で再攻撃受ける  12/27
ロシア軍が戦略爆撃機の拠点としている南部サラトフ州のエンゲルス空軍基地が26日、無人機で今月2度目の攻撃を受け、再発防止に躍起になっていたプーチン露政権の威信は再び傷ついた。攻撃への関与を公式には認めていないウクライナ軍は、ロシアの首都モスクワにも届く無人機の開発を急いでおり、無人機を使った攻防が激しくなる可能性がある。
5日の無人機による攻撃後、エンゲルス空軍基地は無人機攻撃の防止を目的にした防衛強化策が講じられたと伝えられていた。20日には、プーチン大統領が、空軍基地への攻撃やエネルギー関連施設などでの火災が頻発していることを踏まえ、情報機関に活動強化を指示していた。
露国防省は26日、ウクライナとの国境地帯を管轄する露軍西部軍管区が、高性能地対空ミサイル「S300V」を使って24時間態勢で警戒していると発表したが、その直後に空軍基地に対する今回の攻撃が明らかになった。プーチン氏は米国がウクライナへの供与を表明した地対空ミサイル「パトリオット」よりもS300が優れているとも語っていただけに、面目がつぶれた形だ。
ウクライナはロシアが一方的に併合した南部クリミアと露本土を結ぶ「クリミア大橋」で発生した10月の爆発や越境攻撃について、関与を公式には認めていないが、今後も露領内深くへの攻撃を続けるものとみられる。米国のオースティン国防長官は今月上旬、ウクライナが兵器を独自に開発し、露本土を攻撃することは許容する考えを示している。
ウクライナは露本土を攻撃可能な無人機の開発を急いでいる。ウクライナの国防相は今月8日、過去1か月に自前の無人機7機種の実戦配備を決めたことを明らかにした。航続距離が1000キロ・メートルの無人機も近く投入する見通しだ。
5日の空軍基地への攻撃には、旧ソ連の偵察用無人機「Tu(ツポレフ)141」の改造型を使ったと指摘されている。ウクライナ政府高官は露領内で特殊部隊が協力したと述べており、持ち運びが可能な小型の自爆型無人機で攻撃した可能性も排除できないとの見方が出ている。 
●プーチン大統領の判断ミス? 「ロシアは“ならず者国家”に」 12/27
「プーチン氏は偉大な戦略家から最悪の戦略家になってしまった」
国際的なリスク分析で知られるアメリカの国際政治学者イアン・ブレマー氏は、ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について、こう語りました。ロシアによる軍事侵攻で世界は大きく変わり、二度と元には戻れないと指摘するブレマー氏。いったいなぜ元には戻れないのか。今後、世界はどうなってしまうのか。ブレマー氏の分析です。
軍事侵攻が始まったとき、どう考えたか?
残念ですが、ロシアはウクライナに侵攻すると思っていました。
プーチン大統領とロシア政府が「ウクライナのナチス政権がウクライナ南東部でロシア市民に対する大量虐殺行為を行っている」と国民に訴えた時点で。しかし、国土を丸ごと奪おうとしたことにはかなり驚きました。ロシアの侵攻はウクライナ南東部だけに限られる可能性の方がずっと高いと思っていました。
彼らにはキーウにまで行き、ウクライナ全土を獲得するほどの兵力はありませんでしたし、全土獲得のためにはウクライナ人が全く戦わないことが前提にならなければなりません。2014年からウクライナ南東部で戦ってきたウクライナ人が戦わないなどと想定できるでしょうか。
プーチン大統領の判断ミスはそもそもはっきりしていたものの、それがこれほど大きなミスになったことに驚きました。
ロシアによる侵攻で世界は変わったか?
西側諸国、ヨーロッパにとって、大きな転換点となる出来事となりました。
冷戦終結後の30年間、我々には平和の恩恵があり、ヨーロッパ各国は自分たちの安全保障と防衛にお金を使う必要がなくなりました。経済や社会保障にこれまでよりもはるかに集中することができたのです。それがほぼ一夜にして終わってしまいました。
戦争が始まってからの数週間、私はNATO本部のことを考えていました。NATO本部にはベルリンの壁の一部と2001年のアメリカ同時多発テロ事件で破壊された世界貿易センタービルの鉄骨が展示されています。
それらは地政学的な意味で最も象徴的な2つの破片です。1つは冷戦終結を象徴するもの、もう1つはアメリカにとって史上最長で最終的に敗北したアフガニスタン戦争を象徴するものです。
そして私は、ウクライナのどこか、キーウのどこかのがれきが、いずれNATO本部のベルリンの壁やツインタワーに加わるだろうと思いました。つまり、今回のロシアの侵攻は、西側と地政学的秩序にとって、あの2つの出来事と同じくらい重要な転換点なのです。
世界の安全保障、経済、政治にどんな変化をもたらしたか?
まず、ロシアを“ならず者国家”にしました。G20のメンバーが他のすべての先進国から強制的に引き離されたのは史上初めてです。
先進国はロシア中央銀行の資産を凍結し、オリガルヒの資産を差し押さえ、貿易を断絶しました。SWIFTの金融取引を停止し、莫大なコスト増になるにもかかわらず、ロシアのエネルギーから遠ざかりつつあります。
ロシア経済は当分激しく落ち込むことになり、それを元に戻すことはほとんど不可能です。
そしてもちろん、食料と肥料の価格が大幅に上昇したため、途上国がより深刻な飢餓に直面するという影響も出ています。食料と肥料では世界最大の生産・輸出国である2つの国が戦争になることでサプライチェーンに大きな混乱が発生しています。
最後に、当然ですが、西側諸国はより緊密に連携するようになりました。NATOは拡大し、防衛費も大幅に増えました。前線への配備もはるかに多くなっています。ウクライナ政府は、欧米各国から、非常に多くの防衛装備品や訓練、情報を得ています。
特に欧米関係は強化され、日本や韓国、オーストラリアとの同盟関係までもが強くなっています。もしロシアがウクライナに侵攻していなかったら、岸田首相は「日本の防衛費をGDP比2%にする」と発表していたでしょうか。
プーチン大統領がミスを犯した?
孫子の言葉に「敵が間違いを犯しているときには決して邪魔をするな」というのがあったと思いますが、ロシアの敵はご存じのように数多くの間違いを犯していました。
アフガニスタンで失敗し、NATOは弱体化し、ヨーロッパ各国は防衛費を使おうとしませんでした。アメリカにはトランプ前大統領がいて、アメリカ第一主義の立場でした。「なぜNATOが必要なのか」というところにまでいったのです。フランスのマクロン大統領は「NATOは脳死状態で我々は戦略的自治を求める」と言っていました。NATOはあらゆる面で弱体化し、アメリカは独自の道を歩んでいました。
まさにそんな中、プーチン大統領はヨーロッパを攻撃するというとんでもない行動に出て、そのたった1つの行為がNATOを団結させることになりました。彼は地上戦を始め、ポーランドに、そしてNATOに直接流入する何百万人もの難民を生み出したのです。
プーチン大統領の行動がNATOを団結させ、NATOを強化したのです。彼はチェスの名手でありロシアの偉大な戦略家だったはずですが、最も重大な戦略的ミスを犯しました。世界の舞台においてこれまでで最悪の戦略家の1人になってしまったのです。
ポーランドに落ちたミサイルについての見解の相違は?
ゼレンスキー大統領は直後に「ロシアのものだ」と言いましたが、その後、撤回しました。 
ゼレンスキー大統領は戦争のさなかにあり、生き残るために戦っているのです。彼自身、毎日ロシアに脅かされています。そして彼は非常に愛国的で自分の主張を通すため偽情報を使用することもありますが、そんなことで我々は驚かないし我々は彼を支援します。
しかし、事実を重視しようとするなら、彼の言うことをすべて額面通りに受け入れるわけにはいきません。レーガン元大統領はかつて「信頼せよ。されど確認せよ」と言いましたが、ゼレンスキー大統領に対して我々はそういう立場であるべきです。
ウクライナのミサイルがポーランドに落下しポーランド市民2人が死亡したのは「ロシアがNATO加盟国であるポーランドとの国境にいるウクライナの民間人を標的にしていたからだ」というのが事実です。
ロシアがウクライナとポーランドの国境を標的にしていなければ、ウクライナ人があそこで自国領土の防衛のためにミサイルを使用することなどなかったはずです。つまり、ポーランド人の死はウクライナの責任だとは言えないのです。責任はロシア政府にあるし、そのより重要な点では根本的な意見の相違はありません。
核兵器使用の可能性をどう見るか?
核抑止力は依然として大きく機能しています。
ロシアが毎日、民間の建物を標的にして戦争犯罪を繰り返し、文字どおりウクライナの住民を凍えさせ服従させようとしているにもかかわらず、NATOが現地でウクライナを守らない理由の1つはロシアが6000発の核弾頭を持っているからです。
ロシアの核戦力には、ウクライナ側にロシアを攻撃させるような、アメリカなどからの軍事支援を制限するという点で大きな意味があるのです。
プーチン大統領が核の脅威を使って西側諸国を脅そうとしてきたのはもちろん事実です。しかし、西側諸国はロシアに対して、どんなに小規模なものであっても核兵器を1発でも使用すれば、戦争に直接参加すると応じてきました。こうなると、ロシアが核兵器を使用する可能性もずっと低くなると思います。
ただ、ロシアが自暴自棄になり、プーチン大統領が自身の支配や安全が脅かされる、祖国が脅かされ経済も体制も崩壊するかもしれないと考えた場合、絶望的な思いで核兵器を使用する可能性は確実に高まるでしょう。1962年のキューバ危機で我々はすでに経験済みですが、今は残念ながら、あの事態が現実となりうる状況に戻ってしまったのです。
今後、世界はどうなるのか?
キューバ危機の後、アメリカとソビエトはそれ以前の冷戦状態に戻り、キューバ危機以前と全く同様の関係となりましたが、今回はそんなことはありえません。
プーチン大統領をG7各国と正常な関係に戻せるような道筋が私には見えません。ヨーロッパにガスを供給し、ノルドストリーム1と2を復旧させ、ドイツにガスを供給するような関係に戻ることは不可能だと思います。
プーチン大統領が権力の座から降ろされ、指導者がかわったとしても、それがプーチン大統領を支持してきた人物であれば、以前のような関係を再構築することなどできません。2月23日に戻ることはできないのです。
ヨーロッパの友人たちがロシアの資産を凍結し、それを押収してウクライナの再建に使おうという話をしているのは、ロシアがウクライナに与えた被害がヨーロッパの人々がその再建のために支払いうる金額よりはるかに大規模だからです。仮にロシアの資産を奪い取りウクライナのために使用すれば、ロシアとの関係が再び正常化すると思いますか。そんなことはありません。
問題はウクライナでの戦争を終わらせることだけではありません。問題はロシアを再び普通の国に戻すことができないということなのです。ロシアは“ならず者国家”になってしまいました。ロシアは侵略によって自らそうなりましたが、西側諸国は信じられないほど協調的に対応しました。
この戦争の大きな皮肉の1つは、もしロシアが数週間でゼレンスキー大統領を辞めさせるか、殺害するかしてウクライナを占領していた場合、9回に及ぶ制裁も、今回のようなNATOの連携も見られなかっただろう、ということです。
ショックはあったでしょうが、その後は2014年の時と同様、新しい現実にどう対応するか、誰もがその答えを見いだしていたことでしょう。あの時よりも深刻ですが、ロシアにとってこれほど悪い顛末てんまつとはならなかったでしょう。
しかし、ロシア側の出方がこれほどまずい一方、ウクライナ人が西側を驚かせ、勇敢に戦い、自らを守り、ロシアを押し返してキーウを守り、ハルキウからロシアを押し出し、南部ヘルソンや東部ルハンシクで領土を奪還できた。
こうしたあらゆる事実が、制裁強化、ウクライナへの支援強化、NATOやEUの拡大につながったのです。
こうしたことすべてが、ロシアが構造的な屈辱を回避することを不可能にしています。そしてそのことで、この対立はより悪化しています。
日本の役割は今後どうあるべきか?
日本の役割は、基本的に防衛に関する支出を増やすことではないと思います。
日本の役割は法の支配と多国間主義、既存の国際機関を支持し、それらが損なわれないよう、その改革を支援し密接に連携することです。
2023年は日本がG7の議長国を務め、国連安全保障理事会の非常任理事国になります。そこで極めて重要なのは、日本が国連憲章や世界における法の支配に対するコミットメントを活かし、これらの機関をできる限り強固にすることです。
今日の世界で単独主義が目立ち、こうした国際機関がロシアやイラン、場合によっては中国からも根本的な挑戦を受けているということがあってもです。それが日本の役割であり、非常に重要な役割なのです。
●アルメニア首相、プーチン氏に苦言 係争地のロシア部隊「機能せず」 12/27
ロシアのプーチン大統領は27日、独立国家共同体(CIS)非公式首脳会議が開かれた第2の都市サンクトペテルブルクで、アルメニアのパシニャン首相と会談した。パシニャン氏は、自国とアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフ周辺に展開したロシアの平和維持部隊が「機能していない」として、プーチン氏に苦言を呈した。
●ウクライナが「平和サミット」開催へ ロシアも外交面活発に  12/27
ウクライナ政府はロシアの軍事侵攻から1年となる来年2月下旬までに、和平をめぐる議論を行う会議を開催する意向を示しました。一方、ロシアのプーチン大統領は、旧ソビエト諸国の首脳を集めた会議を開催しており、外交面での動きが活発になっています。
ウクライナのクレバ外相は26日、AP通信の取材に対し「平和サミット」などと呼ぶ国際会議を、侵攻が始まって1年となる来年2月下旬までに、国連の協力も得て開催する意向を示しました。
また、ゼレンスキー大統領は、さきにウクライナの領土保全の回復など、10のポイントを和平案として公開しています。
仮にロシアとの間で停戦交渉が始まった場合に、各国の協力を取り付け、有利に交渉を進めるねらいがあるものとみられます。
一方、プーチン大統領は26日から27日にかけて、サンクトペテルブルクで、旧ソビエト諸国でつくる、CIS=独立国家共同体の非公式の首脳会議を開催していて、勢力圏とみなす国への結束を呼びかけています。
さらに、ロシア大統領府のペスコフ報道官は26日、プーチン大統領と中国の習近平国家主席との会談を年内に調整していると述べました。
プーチン政権は、中国との関係強化に強い意欲を示しており、ウクライナ、ロシア双方とも外交面での動きが活発になっています。
●ウクライナは降伏を、さもなくば戦争は継続−ロシア外相 12/27
ロシアのラブロフ外相は、ウクライナは降伏する必要があると発言。さもなくば戦争は継続すると述べた。
ラブロフ氏は国営タス通信のインタビューで、ウクライナはプーチン大統領による2月24日の侵攻開始以降にロシアが併合した地域の主権を明け渡さねばならないと指摘。ロシアが戦争を開始したのは、ウクライナの「非ナチ化と非軍事化」が目的だとする根拠のない主張を繰り返した。インタビューの内容は27日に掲載された。
ラブロフ氏はクレムリンの目標を「敵はよく分かっている」とし、「ロシアの目標を成就させた方が身のためだ。さもなければ、この問題はロシア軍によって決定されることになる」と語った。

 

●プーチン大統領 ロシア産の原油 制裁国に輸出禁止の大統領令  12/28
ロシアのプーチン大統領は、G7=主要7か国などがロシア産原油の国際的な取り引きの上限価格を設定するなどとした制裁措置を始めたことに対抗し、ロシア産の原油や石油製品を、制裁を科した国に輸出することを禁止する大統領令に署名しました。
ロシアとしては、ウクライナへの軍事侵攻をめぐり対立している欧米などをけん制するねらいがあるとみられます。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対しては、今月(12月)に入って、G7とオーストラリア、それにEU=ヨーロッパ連合が、ロシア産原油の国際的な取り引きの上限価格を1バレル=60ドルに設定するなどとした新たな制裁措置を始めました。
これに対抗して、ロシアのプーチン大統領は27日、ロシア産の原油や石油製品を、制裁を科した国に輸出することを禁止する大統領令に署名しました。
この措置は、2023年の2月1日以降に実施し、7月1日まで続けるとしていて、対立している欧米などをけん制するねらいがあるとみられます。
これに先立って、ロシアのシルアノフ財務相は記者会見で、来年の財政赤字がGDP=国内総生産の2%を上回る可能性があるとして、欧米などによる制裁が強まっている現状に警戒感を示しました。
一方、プーチン大統領は、27日までの2日間、第2の都市サンクトペテルブルクで、旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の非公式の首脳会議を開きました。
これに合わせて27日に行われたベラルーシのルカシェンコ大統領との会談で、プーチン大統領は「重要な課題について話すにはよい環境だ。われわれには必要な決断を下す機会が常にある」と述べ、両国関係のいっそうの強化に期待を示しました。
また、ロシア大統領府は、今週、プーチン大統領と中国の習近平国家主席との会談を調整しているとしていて、欧米などに対抗するため友好国との連携をさらに強めたい考えです。
●プーチン、ロシア制裁国への原油禁輸令に署名…対象国は米以外明記せず  12/28
先進7か国(G7)などによるロシア産原油への追加制裁を巡り、ロシアのプーチン大統領は27日、制裁に参加する国を対象に原油の輸出を禁止する大統領令に署名した。制裁への対抗措置で、2月1日から7月1日までを実施期間とした。
禁輸は、ロシアからの直接輸出分だけでなく、第三国を経由した輸出も対象となる。原油に加え、石油製品も順次、禁輸する方針という。大統領令では、禁輸対象国について米国以外は明記していない。大統領の決定に基づき供給を認める例外規定も盛り込んでいる。
露産原油については、G7と欧州連合が今月5日から、海上輸送する原油の取引価格に1バレル=60ドルの上限を設けた。原油価格を抑え、ロシア経済に打撃を与える狙い。露産原油の代表的な指標となるウラル原油は、足元では上限価格を下回る1バレル=57ドル前後で推移する。
●プーチン ロシア産原油「上限価格」参加国への輸出禁じる大統領令に署名 12/28
ロシアのプーチン大統領は、ロシア産原油に上限価格を設ける措置に加わった国に対し、石油などを輸出しないとする大統領令に署名しました。
ロシア産原油をめぐっては、G7=主要7か国やEU=ヨーロッパ連合などが今月初め、取引価格の上限を1バレル=60ドルとすることで合意していました。
報復措置としてプーチン大統領は27日、上限価格に参加した国に対し、石油および石油製品の輸出を禁止する大統領令に署名。石油は来年2月1日から輸出禁止となり、石油製品については、政府が今後、日付を決定するということです。
また、プーチン氏が特別な決定を下した場合には、輸出禁止に例外を設けることができるとしています。
●プーチン氏、原油価格上限導入国への供給を禁止 来年2月から5カ月間 12/28
ロシアのプーチン大統領は27日、西側諸国が合意したロシア産原油の取引価格の上限を導入した国への原油と原油製品の供給を禁止する大統領令に署名した。
禁止は2023年2月1日に発効。7月1日まで5カ月間維持される。
原油の輸出は2月1日から禁止されるが、原油製品の輸出禁止日はロシア政府が決定し、2月1日以降になる可能性もある。また今回の大統領令には特別な場合にプーチン氏が禁止令を覆すことができる条項が含まれている。
ロシア大統領府はプーチン氏が署名した大統領令を政府ポータルサイトと大統領府のウェブサイトに掲載。「米国やその他の国のほか、こうした国に賛同する国際機関による非友好的で国際法に反する行動」への直接的な対応としてロシア産原油と原油製品の供給を禁止するとし、「最終購入者に至るまでのすべての供給段階に適用される」と表明した。
一部アナリストは、価格上限設定でもロシアの原油収入は大きな影響を受けないと予想。ただロシアのシルアノフ財務相は、原油価格の上限設定で輸出収入が圧迫されるとし、2023年の財政赤字が政府が想定する国内総生産(GDP)比2%を上回る可能性があるとの見方を示している。
●ロシアに付き従うベラルーシの参戦はあるのか、歴史背景と内情 12/28
国際社会の予想を裏切る形で2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、ずるずると長期化している。ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナ側の粘り強い抗戦で、ロシアの旗色は悪くなっているとの報道も目立つ。そのプーチン大統領に付き従うような立ち位置を取り続けているのが隣国のベラルーシのルカシェンコ大統領だ。なぜベラルーシは「親露派」と言われるのか。その歴史的背景と危うい内情を解説する。
ルカシェンコ大統領のロシア追随に国民の不信も
今後、ベラルーシがロシアのウクライナ侵攻に加わり、本格参戦するならば、大きな火種になるでしょう。
12月19日、プーチン大統領はベラルーシを訪れ、ルカシェンコ大統領と会談しました。会談後、ルカシェンコ大統領は今後3年間にわたり、ロシア産天然ガスを廉価で輸入する点で基本合意したと述べ、ロシアとの軍事合同演習を継続していくとも伝えられています。
1994年以来、ベラルーシではルカシェンコ大統領の独裁政権が続いており、2020年、不正選挙に反発した国民が大規模な反政府デモを起こしました。
また、このウクライナ戦争において、ルカシェンコ大統領がロシアに追随していることに対し、国民の不信感は募る一方です。ウクライナを支援しようという世論の中、ベラルーシ人による義勇軍がウクライナで形成されています。
ロシア軍が疲弊する状況で、プーチン大統領が同盟国ベラルーシの参戦を求めるのは当然です。ルカシェンコ大統領がこの圧力に、どこまで抗し切れるか、予断を許さないところです。
仮に、ベラルーシが本格参戦するようなことになれば、ベラルーシで反体制運動が強まるのは必至です。ルカシェンコ大統領に対する国民の怒りも頂点に達しており、暴動や反乱に発展すれば、政権が脆くも崩壊してしまう可能性も否定できません。
ベラルーシの軍部にとっても、大義名分のない侵攻に参戦するとなると、暴動を起こす国民の側に付く可能性もあるでしょう。
そうすると、ロシアは重要な同盟者を失い、戦況はさらに悪化します。ロシアは追い込まれ、何をするかわかりません。
歴史的にロシアとの一体感が強いベラルーシ
その意味で、ロシアとウクライナという当事者に劣らないくらい、政権の不安定なベラルーシは巨大なリスクを孕んでいるのです。
戦争はいつも、対立の当事者どうしの衝突というよりはむしろ、その周辺が巻き込まれる形で、一気に拡大してしまうのが常です。
ただし、ベラルーシ国民は反ルカシェンコ・反プーチンで一致しているわけではありません。少なくない国民がエネルギー産業などのロシアと強い関連を持つ企業に所属するなど、ロシアを支持しています。特に、エリート層はそうした傾向が強く、彼らはロシアとの連帯なしに、国家が成立しないことを主張します。
ベラルーシ人には、ウクライナ人と異なり、もともと歴史的に、ロシアとの一帯感が強くあります。
ルーシ族を祖先に持つロシア人と同族
ベラルーシ人はその名の通り、ルーシ族を祖先に持つ民族で、ロシア人と同族でした。しかし、14世紀、リトアニア大公国が勢力を拡大させ、ベラルーシを領有します。この時、リトアニア大公国の一部となったベラルーシはロシア本体とは切り離されます。18世紀まで、ロシアと異なる歴史を歩むことになり、両者の区分も明確になっていきます。
1386年、リトアニア大公のヤギェウォはポーランド女王ヤドヴィガと結婚し、ポーランド・リトアニア連合王国(ヤギェウォ朝)が形成されます。ヤギェウォ朝は民族的には、ベラルーシ人とポーランド人の連合です。
ヤギェウォ朝は強大化しますが、1572年、王統が断絶し、貴族や地主などの支配層が構成する議会で、国王を選出する選挙王制が行われます。選挙王制で政治が混乱し、ポーランドは弱体化、18世紀末にロシア、プロイセン、オーストリア三国によって分割され、国家が消滅します。
この時、ロシアがポーランドから奪い取り、併合した領土がベラルーシです。以後、ベラルーシ人はロシア帝国の下、ロシア人によって支配されます。
ロシア帝国はウクライナ人を弾圧したのに対し、ベラルーシ人には自治権を認めるなど、一定のレベルで寛容さを示しました。ベラルーシ人が帝国に恭順していたからです。
また、ベラルーシ語はロシア語とかなり近い言語であるため、ウクライナ語禁止のような言語統制が敷かれることもありませんでした。
ここが、ロシア人への憎悪の念を強く持つウクライナ人と、ロシアに親和的なベラルーシ人との決定的な違いなのです。今日でも、少なくないベラルーシ人が親ロシアであることの背景になっています。
ちなみに、ベラルーシの「ベラ」は「白」を意味しているので、かつて日本では、「白ロシア」と呼ばれていました。13世紀に、モンゴル人が来襲した時、彼らは方角を色で表現し、西を「白」としたことから、「ベラルーシ」という呼称となったという説などがありますが、その名称の由来がはっきりとわかっていません。
プーチン批判のパフォーマンスも
ルカシェンコ大統領は国民世論が反ロシアと親ロシアに分断されていることをよく理解しています。時にロシアを激しく批判するパフォーマンスも演じ、プーチン大統領のことを「権力に目の眩んだ姑息なチキン」と罵倒しています。
ルカシェンコ大統領は、NATO(北大西洋条約機構)に傾斜するリベラル派と親ロシアの保守派との均衡の上に、政権を維持してきましたが、その天秤政策も国民から飽きられ、ロシアの脅威に屈する弱腰の為政者に過ぎないことを見透かされています。経済の停滞と相俟って、国民の反感は増幅するばかりです。
ウクライナで親露政策を進めたヤヌコーヴィチが国民の怒りを買い、2013年末に始まった抗議運動で「マイダン革命」が起き、政権が倒れました。ベラルーシでもこれと同じことが起きる可能性が高まっています。
ウクライナは、ロシア軍がベラルーシから南下して、首都キーウに再侵攻するのではないかという警戒を強めています。ウクライナ軍のザルジニー総司令官は2023年1月下旬にも、再侵攻の可能性があることを述べています。
ゼレンスキー大統領は12月21日にアメリカを電撃訪問し、バイデン大統領と会談しました。アメリカは地対空ミサイルシステム「パトリオット」をウクライナに供与するなど、全面的な支援を約束しました。
バイデン大統領とゼレンスキー大統領には、停戦という考えはなく、徹底抗戦の構えであることがハッキリしたのです。
プーチン大統領は12月22日に「目標は戦争を終わらせることであり、今も目指しているし、今後も目指す。(停戦は)早ければ早いほど良い」と述べています。額面通りに捉えるべき発言ではありませんが、ロシアの苦境を映していると言えます。また、プーチン大統領は「(これまで)ウクライナ指導部は自ら停戦交渉を禁じた」とも主張しています。
日本は座視しているだけでいいのか
本来、このような膠着状態の今こそ、我が国が善意の第三者として仲介し、停戦交渉を主導するべき立場にあるのですが、残念ながら岸田政権には、こうした構想がありません。
ロシアとウクライナの戦争を直ちに停戦し、世界各国は共同して台湾を狙う中国の脅威に対抗するべきです。それが日本にとって重要です。
停戦こそが、我が国の国益に適った最優先課題であるにも関わらず、他人事のように、ロシアとウクライナ、さらに欧米やベラルーシを巻き込んだ、この危険な戦争を眺めるだけです。こうした為政者の無為無策が、取り返しのつかない脅威を呼び寄せているのではないでしょうか。
●2つのショックに見舞われるロシア経済、2023年にどこまで持つか? 12/28
ロシアは2022年2月24日、ウクライナに軍事侵攻した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、当初は電撃戦を志向しており、短期のうちにウクライナを占領し、軍事侵攻を終了させるつもりだったとされている。だが、ウクライナとの戦争は長期化しており、依然として停戦に向けた展望が描けない状況だ。
このウクライナに対する侵攻は、ロシアの経済に2つの大きなショックを与えたと整理することができる。
第一のショックは、先進国から締め出されたことで、ロシアのサプライチェーンが劇的に変わったことだ。それまでロシアの経済は、特にヨーロッパからの輸入に依存していた。そのヨーロッパからの輸入が、制裁の結果、激減したのである。
ロシアは2022年1月分を最後に貿易統計の公表を停止している。そのため、相手先の国の統計を用いることでしか、ロシアの貿易動向を把握することはできない。
ロシアはウクライナに侵攻するまで、輸出入を問わず、貿易の半分をヨーロッパとの間で行っていた。つまりロシアの経済は、ヨーロッパに大きく依存していたわけだ。
ヨーロッパからのロシア向け輸出数量の動きを見ると、侵攻前の2021年の平均を100とすると、2022年10月時点で47.1まで下落している(図1)。
   【図1 EUのロシア向け輸出数量(ロシアのEUからの輸入量)】
大まかにいえば、ロシアの輸入の半分を占めるヨーロッパからの輸入が半減したことになり、ロシアの輸入はウクライナとの戦争を受けて25%減少したことになる。
製品輸出でロシアを支える中国
ヨーロッパからの輸入が減少した一方で、新興国からの輸入は増加している。各国の統計局が発表するロシアに対する輸出額は、中国を中心に順調に増えている(図2)。
ただ、そうだからといって、ロシアがこれまでヨーロッパから輸入してきたモノを、中国など新興国からの輸入で代替できているわけではない点に注意する必要がある。
   【図2 各国のロシア向け輸出額(ロシアの各国からの輸入額)】
ロシアは一定の工業力を持つ一方で、国内で完成品を生産するに当たっては、海外から中間財や資本財を輸入する必要がある。そして、そうした中間財や資本財の多くをヨーロッパからの輸入に依存してきた。
そのため、国産化率の引き上げはプーチン政権の悲願であり、様々な政策も打たれたが、目立った成果を上げることはできなかった。
発展目覚ましい中国やインドだが、ヨーロッパと同等の品質の中間財や資本財を生産できるわけではない。そもそも、サプライチェーンの再構築には長期の時間を要するものだ。
ヨーロッパのサプライチェーンに組み込まれていたロシアの製造業が、短期のうちに新興国との間で新たなサプライチェーンを構築できるわけがないのである。
ロシアが国内で代替生産できないモノ
実際は、減少したヨーロッパからの輸入品の代替生産もロシア国内で行われている模様だ。とはいえ、そうした代替生産は、他のモノの生産を犠牲にして行われていると考えられる。
投入できる生産要素(つまりヒトモノカネ)が増えない環境の下で、これまで生産してこなかったモノを生産する場合、他のモノの生産を犠牲にせざるを得ないからだ。
それでも、いわゆる低付加価値品の場合、国内である程度は生産できるだろう。飲料水を考えてみると、コカ・コーラ社やペプシコ社の撤退に伴い、国内メーカーが模造品や類似品の生産を強化している。しかし、高い技術力を要する高付加価値品となると、話は大きく変わってくる。
例えば、ウクライナへの侵攻以降、ロシアでは自動車の生産が激減した。主要国の完成車メーカーの撤退に加えて、自動車の生産に必要なモノの輸入が減少したためだ。
この事例は、高付加価値品であるほどロシアでの代替生産が困難だということをよく示している。もともと中古車が多いから新車を生産できなくても問題はないという見方は的外れだ。
第二のショックは、ウクライナとの戦争の予期せぬ長期化で、ロシアで軍需品の需要が急増したことだ。
この問題はまだ深刻化していないようだが、ウクライナとの戦争でロシアの軍需品が確実に消耗していることは事実なようだ。投入できる生産要素が増えない環境の下で軍需品の増産を図るなら、一方で民生品の生産は後回しにせざるを得なくなる。
すでにその萌芽は生まれている。
軍需品の需要増で懸念される戦時経済化
ロシアの製造業のうち、堅調なペースで増産が続いている業種に衣類品(アパレル)がある(図3)。これは軍服を含む「作業着」の増産にけん引された動きとされ、部分動員令が発令された9月以降、伸びの加速が著しい。そのほかにも、10月は兵器や弾薬の生産が急増した模様である。
   【図3 ロシアのアパレル産業の生産高】
つまり戦争が長期化すればするほど、ロシアの経済は国民に多大な犠牲を強いる戦時経済としての性格を強めることになる。
国内で生産されるモノも、軍需品や最低限の衣食住を満たす必需品が優先されるため、ロシアのモノ不足はより深刻なものになるはずだ。インフレ対策に配給制が導入されれば、まさに戦時経済そのものである。
戦時体制の下でも、経済そのものは成長する。それにインターネットが代表的だが、軍需品がもたらす技術革新も少なくない。
だが、そうした技術が経済の発展につながるのは平時でのことだ。本来なら民生品の生産に充てられるべき生産要素が、軍需品の生産に充てられる以上、戦時体制下だと国民の暮らしは着実に貧しくなる。
そうであるからこそ、軍拡に努めた旧ソ連は国力の低下を免れず、崩壊した。その後継国家となったロシアは、先進国の支援の下に、軍拡に費やしてきた資源を民生品の生産に充てることで、経済を発展させることに成功した。
旧ソ連末期に比べると、ロシアの生活水準は飛躍的に向上した。にもかかわらず、ロシアは再び軍拡に努め、旧ソ連時代に回帰しようとしている。
着実に大きくなるロシア経済のほころび
プーチン大統領の目論見どおり、ウクライナとの戦争が短期で終結していれば、ロシアの戦時経済化、ひいては統制経済化もごく限定的にとどまっただろう。
しかし、ウクライナとの戦争は、予期せぬかたちで長期化した。今後もウクライナとの戦争が長引けば、ロシアは戦時経済的、統制経済的な性格を着実に強めることになるはずだ。
サプライチェーンの変化と軍需品の需要増という2つのショックを受けて、ロシアの経済ではモノ不足の問題が今後徐々に深刻化すると予想される。2022年は何とか持ちこたえた様子のロシアの経済だが、ウクライナとの戦争に落としどころが見えない以上、そのほころびは2023年に入ると着実に大きくなるはずだ。
ウクライナとの間で早期の停戦に漕ぎ着けても、先進国から科された制裁は続くだろう。そのため、ロシアには新興国との間でサプライチェーンの再構築に努める以外に残された道はない。
だが、前述したように、そうした新興国とのサプライチェーンがヨーロッパとの間のそれと同レベルか定かではない。仮にレベルが高いサプライチェーンが構築できたとしても、稼働までにはかなりの時間を要する。それまでロシアの経済は持っているだろうか。
他方で、ウクライナとの戦争が長期化すれば、ロシアの経済は戦時経済、統制経済の性格を強めることになる。そうなれば、ロシアで生産が優先されるモノは軍需品や衣食住を満たすに最低限の必需品に限定されるため、ロシアのモノ不足はより深刻なものになるだろう。
戦争の継続は、ロシアの国民の生活に多大な犠牲を強いることになる。
すでにロシアでは厭戦ムードが強まっているようだ。若者を中心に、隣国に逃げ出した人々も少なくないといわれる。そうした中で、ロシアはいつまでウクライナとの戦争を続けるのだろうか。
一つだけ確かなことは、戦争が長期化すればするほど、ロシアの経済は疲弊し、衰退するということである。 
●ロシアの議員がインドで不審死 プーチン政権批判? 12/28
インド東部オディシャ州で、同地を訪れていたロシアの地方議員と同行者が相次いで死亡しているのが見つかった。地方議員はロシアのウクライナ侵略を批判したと報じられていた。地元警察が死亡原因を調べている。
複数のインドメディアによると、死亡したのはロシア西部ウラジーミル州議員で、富豪としても知られるパベル・アントフ氏。24日、滞在先のホテルの外で血を流して死亡しているのが発見された。数日前には、アントフ氏に同行していた1人が同じホテルで死亡していた。
地元警察は両者の死に「事件性はない」との見方を示しており、アントフ氏については建物から飛び降りたか、誤って転落したとみているという。
ロシアメディアは6月、アントフ氏がメッセージアプリ上で、ウクライナ侵略に批判的なメッセージを発信したと報じていた。報道後、アントフ氏は自身による書き込みではないと否定し、「私はプーチン大統領の支持者だ」と訴えていた。
●「すべてウクライナ兵が破壊する」──爆発し炎上、ロシア戦車粉砕の瞬間 12/28
ウクライナ国防省は12月27日、大破するロシア戦車の動画をツイッター上に投稿。動画は、煙を上げて燃えている戦車の遠景から始まる。その後、接写に切り替わると、激しく損傷した戦車が燃えている様子が映し出された。後半では、森林地帯を歩く数人の兵士が、何らかの攻撃を受けたように見える。陽気な音楽が流れており、兵士たちはロシア軍の一部のようだ。
ウクライナ国防省はツイートで「ロシアの戦車はすべて、ウクライナの兵士により破壊される運命にある」とコメントした。
ウクライナ国防省はまた、2月の開戦以降、ロシアが戦闘によって被った損失もツイッター上で公表。ロシアは12月27日までに、戦車3016台、人員10万3220人、装甲戦闘車両6024台などを失ったという。
このツイートには、「常に100%の力を出し切れば、最終的には何とかうまくいく。それが私の持論だ」とつづられている。これはアメリカの人気バスケットボール選手、ラリー・バードの言葉だ。
一方、英国防省は12月27日、ロシアの第1親衛戦車軍が「最近ベラルーシに配備されたロシア軍のなかに含まれている可能性がある。この編隊は、配備前に訓練を行っていたようだ。また、戦闘態勢に必要な支援部隊はいないと見られる」とツイートした。
この投稿には以下のような前置きがある。
「この48時間、戦闘は依然として、ドネツク州バフムト周辺と、ルガンスク州スバトベ近郊に集中している。ロシアは、これらの地域で小規模な攻撃を続けているが、領土はほとんど変化していない」
英国防省は12月8日、「精鋭とされる」第1親衛戦車軍が、「9月にハルキウ州から撤退したときを含めて、大きな犠牲を出している」と伝えていた。
「(第1親衛戦車軍は)現在、予備兵の動員によって部分的に補強しているが、2万5000人の定員を大きく下回る状況は変わっていない」
米国のシンクタンク、戦争研究所(Institute for the Study of War:ISW)は12月26日、最新の戦況レポートで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアのエリート層がウクライナ戦争を支持していないことに懸念を抱いているようだと報告している。
戦争研究所は、クリスマスにプーチンがロシア国民に向けて行った演説を引用。この演説のなかでプーチンは、一部の国民が「真の愛国者」として行動していないことを批判している。ISWは、「一部の国民に対する差し迫ったこの批判は、プーチンが、戦争を全面的に支持している人ではなく、むしろ支持していない人に焦点を合わせていることを示唆している」と言った。
●ロシア外相 “ウクライナが降伏するまで侵攻続ける” 12/28
ウクライナへの軍事侵攻について、ロシアのラブロフ外相は国営メディアに対し「ウクライナが提案を受け入れない場合、ロシア軍が問題を解決する」と一方的に主張し、ゼレンスキー政権が事実上、降伏するまでウクライナの領土の掌握をねらい、軍事侵攻を続ける強硬な姿勢を示しました。
ロシアのラブロフ外相は、27日に公開された国営のタス通信のインタビューの中で、ウクライナへの軍事侵攻について「アメリカとNATO=北大西洋条約機構の戦略的な目標は、ロシアを著しく弱体化させ、戦場でロシアを打ち負かすことだ」と述べ、対立するアメリカなどに問題があるとする主張を展開しました。
そして「ウクライナ政府の非軍事化と非ナチ化や、ウクライナの4つの州とロシアの安全保障への脅威を排除するという、われわれの提案を敵国はよく分かっている。ウクライナがこれらの提案を受け入れない場合、ロシア軍が問題を解決する」と述べました。
ラブロフ外相の発言について、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は27日「ウクライナ政府がロシアの要求に屈するまで、クレムリンは戦争による軍事行動で問題を解決するとしている。ロシアに抵抗するウクライナの能力を排除し、ゼレンスキー政権の転覆を要求している」と指摘しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、これまで和平に向けて、ロシア軍のウクライナからの撤退や、ウクライナの領土保全の回復など10のポイントを提言していますが、ラブロフ外相の主張は侵攻を続けるプーチン政権の強硬姿勢を改めて示したものです。
一方、ロシアと欧米などとの対立が深まる中、ロシア国防省は、今月21日から27日にかけて東シナ海でロシアと中国の合同軍事演習が行われたと発表しました。
演習では、敵と想定した潜水艦に対する訓練などが行われたとしたうえで「合計10回以上の訓練が共同で行われた」として、両軍の部隊の連携を強調しています。
ロシアと中国は、先月にも日本海や東シナ海などの上空で合同パトロールを行い、軍事分野での連携を深めていて、対立するアメリカなどへのけん制を繰り返しています。
ウクライナ市民 “奪われた日常 来年こそ取り戻したい”
年の瀬を迎えたウクライナの首都キーウでは、軍事侵攻によって奪われた日常を、来年こそは取り戻したいという市民の切実な声が聞かれました。
防空警報が出た際、避難場所としても使われる地下鉄の駅を利用していた42歳の男性は、東部ドネツク州から避難してきたということで「暖房や電気、それに水も足りない状態で苦しんでいる。私たちは必ず勝って、この状況を終わらせなければならない」と話していました。
また、キーウの大学に通う女子大学生は「戦争が始まってから、私の精神状態も悪化しました。戦争が終われば仕事が探しやすくなるので、早く終わってほしい」と話していました。
ことし10月、ミサイルが着弾したこともある中心部の公園では28日、散歩する市民や遊具で遊ぶ子どもたちの姿が見られました。
出勤途中の48歳の男性は「ことし1年は困難で悲劇的で、実にひどい1年でした。しかし、われわれの政府と国民、それに軍を信じ、来年は必ず状況がよくなると考えています」と話していました。

 

●プーチン氏は「指輪の王」? 8首脳への贈り物に冷笑相次ぐ 12/29
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、同盟関係にある独立国家共同体(CIS)の首脳8人に金の指輪を贈呈したことから、英作家J・R・R・トールキンのファンタジー小説「指輪物語」に登場する冥王サウロンをほうふつさせるとのコメントが相次いでいる。
プーチン氏は、26〜27日にサンクトペテルブルクで開かれたCIS非公式首脳会議で、参加した8か国の首脳に対し、CISの紋章と「ロシア」、「謹賀新年2023」の文字が刻まれた黄金の指輪を贈呈。自身のためにも9個目の指輪を用意した。ただ、実際に指輪を身に着けた姿がカメラに収められたのはベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領だけだった。
小説では、サウロンが9人の王に指輪を与えることで、王たちを意のままに操る。著名政治学者のエカテリーナ・シュルマン氏を含む一部の政治評論家は、指輪の贈り物は実際に「指輪物語」を意識したものだったとの見解を示している。
ウクライナ当局者はこれまで、2月にウクライナ侵攻を開始したロシアをサウロンの王国「モルドール」に、同国軍の部隊をサウロンの兵士「オーク」になぞらえてきた。ウクライナのオレクシー・ゴンチャレンコ議員は、「プーチン氏は21世紀のヒトラーを演じるのに飽き、指輪の王を演じることにした」と皮肉っている。
●プーチンが「戦争」を初めて認めた理由 12/29
ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵略を初めて「戦争」と呼んだ。これまでは一貫して「特別軍事作戦」と呼び続けていたのだ。この言葉上の変化にどんな意味があるのだろうか。
アメリカ側ではさまざまな読み方があるが、バイデン政権は公式には「呼称をどう変えても侵略戦争はあくまで侵略侵略」として、厳しい態度を変えていない。
だがプーチン大統領の表現の変更はウクライナでの戦闘が同大統領にとってこれまでよりも深刻さを増して、停戦を視野に入れる方向に傾いたとの見方も生んでいる。
プーチン大統領は12月22日のモスクワのクレムリンでの記者会見でウクライナでの軍事行動について「われわれの目標はこの軍事衝突を弾みを増す車輪のように回転させることとは正反対に、この戦争を終わらせることだ。そのためにわれわれは努力している」と語った。この言明でプーチン大統領がウクライナでのロシア軍の侵攻を公式発言としては初めて「戦争」と呼んだこととなり、幅広い関心を集めた。
プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻を始めた2022年2月24日の冒頭からこの軍事行動を「特別軍事作戦」と呼び、その動きを「北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に対する防衛的行動とウクライナのナチス勢力からロシア民族系住民を解放する努力だ」と宣言してきた。
プーチン大統領とプーチン政権はウクライナでの自国の軍事行動に対してあくまで特別な作戦だと言明し、ロシア国内でこの「作戦」を「戦争」と呼ぶことをも新たな法律や条令で事実上、禁止してきた。プーチン政権に反対する野党側の国会議員がウクライナ侵攻を「戦争」と呼んで非難したことに対して同政権は逮捕して、懲役刑に処すという厳しい態度さえとってきた。
プーチン政権としてはロシア国民にウクライナへの軍事侵攻はロシアの国家や国民の全体を巻き込む戦争では決してなく、限界的、一時的な特殊の軍事作戦だと印象を与えるために「戦争」という呼称を禁じてきたとされる。
だがプーチン大統領自身がその禁句だったはずの「戦争」という言葉を公式の場で使ったのである。
しかしこの新たな動きに対してアメリカのバイデン政権は冷淡な対応をみせただけだった。アメリカ国務省報道官は次のような声明を発表した。
「今年2月24日以来、アメリカと全世界の多数の諸国はプーチンの『特別軍事作戦』というのはウクライナに対する一方的で不当な戦争であることをよく知ってきた。その300日も後にプーチンはついにその戦争が戦争であると認めたのだ」「プーチンは現実を認めることの次の段階としてウクライナからロシア軍を撤退させ、この戦争を終わらせることをアメリカは求める」「プーチンの言葉の選択にかかわらず、ロシアの隣接した主権国家への侵略は多くの死、破壊、混迷を引き起こした」「ウクライナ国民はプーチンの言葉の上での自明の表明になんの慰めも感じないだろう。プーチンの戦争のために身内の人間を失った何万ものロシア人の家族たちも同じだろう」
以上のようなアメリカ政府の態度はこれまでも一貫してきた。バイデン政権が共和党側の支持をも得て、プーチン政権のウクライナ侵略を全面的に糾弾し、その中止をロシアに求める一方、ウクライナへの軍事支援を絶やさないという対応を保ってきたのだ。その大前提にはロシアの軍事行動の結果、ウクライナ領内で起きている事態は戦争だとする認識があった。
だがプーチン大統領はその軍事行動を戦争とは認めず、長い期間、ロシア国内でも「戦争」を禁句とし、徹底抗戦の構えを崩さなかった。ところが侵攻開始から約300日という時点にきて、やっと戦争を戦争だと認めることに踏みきったわけだ。
そのプーチン大統領の態度の変化についてワシントン・ポストなどの主要メディアはアメリカ側の複数の専門家たちの見解として、
1.プーチン大統領はこれまではウクライナを対等の主権国家とみなさないという前提を保ち、「戦争」という用語を使わなかったが、戦場での苦境を考慮すると、停戦への柔軟な余地を残すことが有益だと判断するようになった
2.国際世論のさらなる反ロシア化に対して、ある程度の譲歩を示すことが賢明だと考えるようになった
3.ロシア国内での国民に対する軍隊への動員令の拡大の必要性を考えると、ロシア自体がいま戦争状態にあることを明示するほうが現実的だと判断するようになった
ことなどをその理由としてあげていた。
●ロシア 来年の政治経済「緊迫する」70% 独立系機関の世論調査  12/29
ロシアの独立系の世論調査機関は、来年のロシアの政治と経済の情勢について「緊迫したものになる」と答えた人がいずれも70%に上ったなどとする調査結果を発表し、ウクライナへの軍事侵攻が長期化していることを受けて、国民の間で自国の先行きに悲観的な見方が広がっていることがうかがえます。
民間の世論調査機関「レバダセンター」は、12月15日から21日にかけて、ロシア国内の18歳以上の1600人余りを対象に対面で調査した結果を発表しました。
この中で「去年と比べてことしがロシアにとってどんな年になったか」と聞いたところ、
○ 「楽になった」と答えた人は4%だった一方、
○ 「大変になった」と答えた人は76%でした。
「大変になった」と答えた人は前年の調査より21ポイント増え、2000年以降では、新型コロナウイルスの感染が拡大したおととしに次いで2番目に多くなりました。
また、去年と比べて自身や家族にとって大変な年になったと答えた人は53%と、こちらも前の年より多くなりました。
ことしの主要な出来事を複数回答で尋ねたところ、
○ 「ウクライナでの特別軍事作戦」が46%、
○ 「予備役の動員」が34%となったほか、
○ 「欧米による経済制裁」が21%となるなど、
軍事侵攻に関係する出来事が上位を占めました。
ロシアが参加を認められなかった、
○ 「サッカーワールドカップカタール大会」は11%、
○ 「北京オリンピック」は9%にとどまりました。
来年の見通しについては、政治と経済の情勢が、「緊迫したものになる」と答えた人がいずれも70%、「落ち着いたものとなる」と答えた人は20%ほどと、ロシアの先行きに対して悲観的な見方が広がっていることがうかがえます。
「レバダセンター」は政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています。
モスクワでは 不安を吐露する声も
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの首都モスクワでは、プーチン政権を支持する声が聞かれた一方、侵攻の長期化で終わりが見えない状況へのストレスや不安を吐露する声も多く聞かれました。
このうち、侵攻を続けるプーチン政権を支持するという46歳の会社員の男性は、欧米などから圧力を受けていると批判した上で、「外国からの攻撃をはねのける強さと知恵、忍耐のあるロシア政府や大統領には驚かされる。国の補助金によって国内経済を活性化させている。大変な時期だが、経済や産業を発展させる機会になる」と話し、今後の見通しは明るいという考えを示しました。
一方、60歳の男性は、この1年について「神経をすり減らし気分が悪い。来年は終戦し、すべての人の平和と健康を願う」と話し、精神的に不安な日々が続いていると明かしました。
また、35歳の女性は「不安な1年だった。あらゆる政治的な出来事に対しみな準備不足で、心が押しつぶされ混乱した。そして体調を崩した」と振り返り、ウクライナ情勢については一刻も早い停戦の実現を望んでいると話していました。
さらに、ことし1月に子どもが生まれたという女性は、ウクライナ情勢をめぐる国内の状況については「コメントしたくない」と発言を控えたうえで、来年への期待については「すべてが終わり、かつてのように暮らせるように願っている」と話しました。
子どものためにどんなロシアの姿を望むかという質問に対しては「すべてが平和的で、友好的なロシア」と答えていました。
一方、ロシアの現状に関する質問への回答を控える人も多く、プーチン政権が強化してきた言論統制によって、政権への批判だけでなく、みずからの意見を自由に述べることが難しくなっている状況もうかがえます。 
●ロシア、原潜含む軍艦建造を加速 安全、国益守るとプーチン氏 12/29
ロシアのプーチン大統領は29日、完成した最新の原子力潜水艦「スボーロフ大元帥」などを実戦配備する式典にオンラインで出席、軍艦建造を加速化し「世界の海でロシアの安全と国益を守る」と表明した。国営テレビが中継した。
極東ウラジオストクを本拠とする太平洋艦隊に配属された「スボーロフ大元帥」は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラバ」を装備する。プーチン氏は実戦配備が「海軍の核戦力を著しく高める」と指摘。同様の原潜をさらに4隻建造する計画だと述べ、今後も戦略核の強化を進める姿勢を示した。
●プーチン氏とキリル1世は「サタン」?  12/29
たとえその言動が気にくわないとしても、その人を「悪魔」(サタン)呼ばわりするのは賢明とはいえない。ウクライナ国家安全保障会議のオレクシー・ダニロフ書記官は28日、ウクライナ正教会指導部に対し、「モスクワから距離を置くように。ロシアと関係がないのならば、プーチン(大統領)を悪魔と呼ぶべきだ」と要求したのだ。
ウクライナ正教会関係者との内々の話し合いの場で要求したのではなく、テレビのカメラの前でそのように主張したのだ。
話を進める前に、ウクライナ正教会の状況を簡単にまとめる。ウクライナ正教会は本来、ソ連共産党政権時代からロシア正教会の管轄下にあったが、2018年12月、ウクライナ正教会はロシア正教会から離脱し独立した。その後、ウクライナ正教会と独立正教会が統合して現在の「ウクライナ正教会」(OKU)が誕生した。
ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、キーウ総主教庁に属する正教会聖職者(OKU)とモスクワ総主教庁に所属する聖職者(UOK)が「戦争反対」という点で結束してきた。
ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)の首座主教であるキーウのオヌフリイ府主教は2月24日、ウクライナ国内の信者に向けたメッセージを発表し、ロシアのウクライナ侵攻を「悲劇」とし、「ロシア民族はもともと、キーウのドニエプル川周辺に起源を持つ同じ民族だ。われわれが互いに戦争をしていることは最大の恥」と指摘、人類最初の殺人、兄カインによる弟アベルの殺害を引き合いに出し、両国間の戦争を「カインの殺人だ」と呼び、大きな反響を呼んだ。
その後、モスクワ総主教のキリル1世を依然支持するウクライナ正教会(UOK)は5月27日、全国評議会でモスクワ総主教区から独立を決定した。曰く「人を殺してはならないという教えを無視し、ウクライナ戦争を支援するモスクワ総主教のキリル1世の下にいることは出来ない」という理由だ。ロシア正教会は332年間管轄してきたウクライナ正教会を完全に失い、世界の正教会での影響力は低下、モスクワ総主教にとって大きな痛手となった。
上記のダニロフ書記官が「プーチンを悪魔と呼ぶべきだ」と要求したウクライナ正教会はUOKだ。ウクライナ側は、UOKはロシア正教会から別れ、プーチン大統領のウクライナ侵略を非難してきたが、依然モスクワと協力している、との疑いを持ち続けている。そのため、UOK関連の施設をこれまで数回捜索してきた。そして今回、ダニロフ書記官はテレビの前でUOKに対し、プーチン大統領、そして大統領の戦争を支持するロシア正教会最高指導者キリル1世を「悪魔」と呼ぶべきだと要求したのだ。
同書記官の要求は、世界的に有名なキーウ・ペチェールシク大修道院にある正教会の所在をめぐる論争の中から飛び出したものだ。ウクライナ指導部はUOKに対し、モスクワから距離を置くよう強く求めてきた。キエフの洞窟修道院に対する教会のリースは、年の変わり目に終了するのを受け、パヴェル・レベジ洞窟修道院長は、ウクライナのゼレンスキー大統領にリースの延期を求めてきた経緯がある。
ウクライナ戦争では、ロシア軍によるマリウポリの廃墟化や“ブチャの虐殺”など多くの民間人が虐殺されてきた。ウクライナ国民にとって、ロシア軍、そしてその最高指導者プーチン大統領は悪魔のような存在だ。その戦争を支持する精神的指導者キリル1世に対しても同様だろう。主権国家に一方的に侵攻し、戦争犯罪を繰り返すロシア側は侵略者と呼ばれても弁解の余地はない。
一方、キリル1世は低堕落の西側社会を「悪」と呼び、ロシアを正義として信者に「善悪の戦い」を呼び掛けてきた。キリル1世はロシアのプーチン大統領を支持し、「ウクライナに対するロシアの戦争は西洋の悪に対する善の形而上学的闘争だ」と強調し、西側社会の退廃文化を壊滅させなければならないと強調する。
中途半端な勝利は許されないから、戦いには残虐性が出てくる。相手を壊滅しなければならないからだ。ロシア正教会から離脱したウクライナ正教会に対し、モスクワでは「サタン宗教」と呼ぶ声が聞かれるほどだ。
ダニロフ書記官が今回、UOKに対し、ロシア側と同じ土俵に上がって「プーチン氏とキリル1世はサタン」と叱責したわけだが、賢明とはいえない。喜ぶのは、悪魔だけだ。紛争を不必要にエスカレートさせ、停戦の可能性を一層難しくさせてしまうからだ。それこそ悪魔の仕業だ。
いずれにしても、ロシアの戦争犯罪行為は国際社会の法廷で裁くべきテーマだ。
●帝政ロシアのエカテリーナ2世像、ウクライナ南部オデーサで撤去… 12/29
ウクライナ南部オデーサ当局は28日、ウクライナに侵略するロシアへの反感が強まったことを受け、市内にあった帝政ロシアの皇帝エカテリーナ2世(1729〜96年)の像を撤去した。プーチン露大統領はオデーサやエカテリーナ2世への思い入れが強いとされる。
撤去作業は混乱回避のため、28日夜から29日未明にかけて行われた。エカテリーナ2世は18世紀後半のオスマン帝国との露土戦争で一帯を占領すると、ロシア語で「オデッサ」への改称と都市建設を命じ、「黒海の真珠」と称される港湾都市の礎を築いた。
プーチン氏はエカテリーナ2世が帝政ロシアに組み込んだオデーサや南部クリミア半島などを「歴史的なロシア」と呼び、侵略を正当化する根拠にしている。
オデーサのエカテリーナ2世像に関し、プーチン氏は10月、「ウクライナの過激な民族主義者でさえ撤去しようとしない」と指摘していた。
●ロシアはウクライナとの和平交渉に臨まず、戦争継続へ−ラブロフ外相 12/29
ロシアのラブロフ外相は、ウクライナでの軍撤退が相次ぐ中でもロシアが戦争終結に向けた交渉に入る意向はないと表明した。
同相は国営通信社RIAノーボスチが29日配信したインタビューで、政府はウクライナが要求する占領地からの撤退および賠償金の支払いについて協議しないと述べた。
ラブロフ外相は今週に入り、プーチン大統領が命じた2月24日の侵攻後にロシアが併合した地域の主権をウクライナは委譲する必要があると主張していた。
プーチン大統領は9月、ウクライナ東部・南部4州のロシア併合は不可逆的だと述べ、併合文書に署名。国連はこれについて違法だと非難している。
欧米の武器支援を受けているウクライナ軍はロシア軍からの領地奪還を着実に進めているが、戦争は来年もしばらく続く可能性がある。
ロシア軍は29日もウクライナ全土に大規模なミサイル攻撃を加え、引き続きエネルギー関連などインフラ施設の破壊を狙った。

 

●ウ戦争で結束した欧州、強まる米国依存  12/30
ウクライナ戦争は年をまたいで続きそうだが、欧州はウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアに対してこれほど結束したことはない。また、プーチン氏を押しとどめるために米国にこれほど依存したこともなかった。
長年、米国の欧州同盟国はプーチン氏に対する見方を共有しようと腐心してきた。ロシアに近い国々はプーチン氏による欧州東部への拡張政策を阻止するには断固とした抵抗しかないと考え、不満を募らせていたが、フランスとドイツは権威主義のプーチン氏との関係を深めることを主張してきた。
だが2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、こうした相違は後退している。欧州大陸の国境線を強引に変更しようとするロシアを阻止するためには、ウクライナを武装させなければならないという民主主義国の共通の目的意識が生じたからだ。
しかし、ポルトガルからポーランドに至るまでの、この幅広いコンセンサスにもかかわらず、欧州の同盟国はいずれも米国の流れに合わせており、バイデン政権が設定した方針に順応している。
ジョー・バイデン米大統領は近日中に、ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)の同盟国に対する450億ドル(約6兆0150億円)近い支援を含む歳出法案に署名すると見られている。ウクライナを支援しプーチン氏の侵略を抑制するために武器と資金を提供する米国の役割を改めて強調するものだ。
欧州連合(EU)の指導者たちは最近、ウクライナの資金が枯渇しないよう数十億ユーロの追加拠出を約束したが、向こう数カ月間の重要な戦略については、米国の動きから読み取るしかない。つまり、ロシアの侵略軍から占領地を奪還するためにウクライナはどれだけの兵器を得るべきなのか、欧米の兵器がどれだけ供与されれば戦争を無秩序に拡大させる危険性があるのか、さらには、ロシア軍を完全に追い出せない場合、ウクライナはどのような妥協点を見いだすべきなのか、といった問題のことだ。
ブリュッセルのシンクタンク、カーネギーヨーロッパの責任者、ローザ・バルフォー氏は「この戦争は込み入ったオーケストラだが、指揮を執っているのは米国だ」と述べた。「この紛争により、欧州の安全保障はNATOの中にあることが裏付けられた。他に代替手段はない」
欧州内では、親ウクライナ政策に反発する動きはいまだに出ていない。プーチン氏は、欧州へのエネルギー供給を制限することで、ウクライナ支援や対ロシア制裁への欧州諸国の関与を弱めるという賭けに出たが、うまくいかなかった。
首都キーウを征服しようとする試み、報告された多くの戦争犯罪、ウクライナの都市への定期的なミサイル攻撃など、プーチン氏のウクライナに対する全面的な攻撃により、ほぼすべての欧州諸国が制裁に同調している。
欧州の極右勢力によるプーチン氏へのこれまでの同情は、ほとんど消えてしまったと、元駐ベラルーシ米国大使のダニエル・スペックハード氏は言う。プーチン氏が、2014年にこっそり侵攻したウクライナ東部のドンバス地方での戦闘にとどまっていれば、そうはならなかっただろう、と同氏は言う。「その点で、プーチン氏の最大の敵は彼自身だ」
冷戦終結後30年にわたる削減の結果、欧州の軍事資源は乏しいものになっていた。ウクライナ戦争でそれが露呈した。
EUが約束したウクライナへの数十億ユーロの資金援助は、EUの複雑な意思決定の仕組みと、支払い方法をめぐるドイツとEU執行部の論争によって今年の大半は保留された。そのためウクライナは民生予算を支えるために米国に依存することになった。
国際的に認められたウクライナの国境を完全に回復させることを望むウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、米国の支援が持続するかどうかを何よりも心配しなければならない。
米政府関係者の多くは依然として、フランスやドイツと同様に、NATO軍の支援がない限り、ウクライナがロシア軍を完全に追い出すことができないのではないかと懐疑的だ。ただ、それはロシアと直接戦火を交えるリスクを高めることになる。
統合参謀本部議長のマーク・ミリー陸軍大将は、ウクライナに和平交渉の検討を促し、もっと多くの土地を奪還できると考えるウクライナ政府高官を怒らせた。また、ケビン・マッカーシー下院院内総務(共和、カリフォルニア州)は、ウクライナへの軍事費支出について共和党内で懐疑的な見方が強まっていることを示唆している。
一方でバイデン氏自身は、プーチン氏が和平交渉に真剣な関心を示していないと述べ、同じ意見を共有するウクライナとロシアに隣接する同盟国の政府関係者をなだめている。バイデン氏はより高度な武器をウクライナに送ることに同意しており、12月にはミサイル防衛システム「パトリオット」を供与すると表明した。
東欧や北欧の同盟国は、バイデン政権がウクライナの勝利のために決定的な武器を供与することには慎重であることと、欧州の限られた武器在庫が、ウクライナと欧州大陸に長く続く血なまぐさい戦いを強いることになるのではないかと懸念している。
チェコのヤン・リパフスキー外相は、西側同盟国の目標は「ウクライナの領土と主権の完全な回復」であり、ロシアの戦争犯罪を告発し、モスクワの近隣諸国への脅威を抑制することでなければならないと述べた。「これ以外の結果は、ウクライナにとってもEUにとっても危険だ」
今月までラトビアの国防相を務めていたアルティス・パブリクス氏も「この中途半端なゲームをやめ、ウクライナが戦争に勝てるように支援を強化しなければならない」と述べた。「限られた支援は、単に痛みを増大させるだけだ」
●プーチン氏、習近平氏とオンライン協議へ 対欧米で協調確認狙い 12/30
ウクライナ侵攻で苦戦を続けるロシアのプーチン大統領は30日午後、中国の習近平国家主席とオンライン形式の協議に臨む。ロシアのペスコフ大統領報道官が29日、ロシアメディアに明かした。ロシアは欧米と対抗するという点において、友好国である中国との協調を確認したい狙いとみられる。
ペスコフ氏は両首脳が「まずはロシアと中国の間の2国間問題を話し合う」との見通しに言及した。そのうえで両国が関与する地域や国際情勢で意見を交換するという。
ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)が今月21日に習氏と会談しており、その流れから首脳間の協議が組み込まれた形だ。ロシアは国際社会に向けて、中国との協調姿勢をアピールする意図もありそうだ。
中国の習近平指導部はウクライナ侵攻への直接的な批判に踏み込んでいないが、ロシアが核兵器を使うような事態を避けるように促してきた。
習氏はメドベージェフ氏と会談した際、ウクライナ問題を巡り「関係各方面が理性と抑制を保つことを望む」と伝えていた。また11月にショルツ独首相と会談した際にも「国際社会は核兵器の使用や脅しに共同で反対すべきだ」とも発言。今回の協議ではプーチン氏にどのような見解を伝えるのかも焦点の一つになりそうだ。 
●プーチン大統領 来年春 習主席をロシアに招待へ 12/30
ロシアのプーチン大統領は中国の習近平国家主席とオンラインで会談し、習主席を来年春のロシア訪問に招待しました。
ロシア、プーチン大統領:「親愛なる友よ、来年の春にモスクワを訪問するのを待っています」
プーチン大統領は30日、会談の冒頭で習主席をモスクワに招待しました。
訪問については「両国の緊密な関係を世界に示すもので、重要な政治イベントだ」と述べました。
プーチン大統領はさらに、軍事面での協力を強化していく考えも示し、中国との関係強化に期待をかけた形です。
一方、中国の国営中央テレビによりますと、習主席は「制裁と干渉は必ず失敗する」とアメリカなどを念頭に批判しました。
そのうえで、ウクライナ情勢を巡り「ロシアがこれまで外交での解決を拒まなかったことを称賛する」と強調し、対話の重要性を訴えたということです。
●ロシアで戦略核搭載できる原潜が就役…「海軍の核戦力向上」と米欧けん制  12/30
ロシアのプーチン大統領は29日、戦略核ミサイルを搭載可能な最新の原子力潜水艦「スボロフ大元帥」などの就役式典にオンラインで参加し、「特殊軍事作戦」と称するウクライナ侵略に触れ、「海でのロシアの安全と国益を守るためあらゆることをする」と述べた。「海軍の核戦力を著しく向上させる」とも語り、ウクライナに軍事支援を続ける米欧をけん制した。
スボロフ大元帥は11月上旬に、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラバ」の発射試験に使われた。露極東ウラジオストクが拠点の太平洋艦隊に配属された。
プーチン氏は「様々な種類の軍艦艇の建造ペースを上げ、最新鋭の兵器を装備する」と宣言し、同様の原潜を4隻建造する計画があるとも強調した。
ウクライナ侵略に伴い米欧などが科した対露制裁の影響が、ロシアの造船業を直撃していると伝えられる。式典の様子は国営テレビが中継した。プーチン氏には制裁に屈しない姿勢をアピールする意図もあったとみられる。
●プーチン氏、各国首脳に新年の祝辞 日米は含まれず 12/30
ロシアのプーチン大統領は30日、各国の首脳らに毎年恒例の新年の祝辞を送った。露大統領府の発表によると、例年はプーチン氏が祝辞を送ってきた日本や米国、欧州連合(EU)主要各国の首脳らは今年、祝辞を送った相手に含まれなかった。ウクライナ侵略に伴うロシアと自由主義諸国との関係悪化が改めて鮮明となった。
ペスコフ露大統領報道官は同日、「ロシアに非友好的態度を示している国にプーチン大統領は祝辞を送らないだろう」と述べた。タス通信が伝えた。
プーチン氏が今回、祝辞を送ったのは中国やインド、トルコ、旧ソ連諸国の首脳ら。日本の岸田文雄首相やバイデン米大統領、フランスのマクロン大統領らは含まれなかった。プーチン氏はEU各国では唯一、親露的姿勢を取るハンガリーのオルバン首相に祝辞を送った。

 

●追加動員発動 国民意識が急変…2024年大統領選挙に向けプーチンの苦悩 12/31
「ウクライナ侵攻」から10か月が過ぎた。ロシアで第二次世界大戦後、初めて行うことになった一般市民の「動員」は、プーチン大統領にとって2022年の大きな誤算だった。そして、今後の流れを左右する可能性もある。
「年末イベントはありません」
22年12月12日、ロシア大統領府は毎年行われてきたプーチン大統領“年末恒例”の「新年を迎えるレセプション」はやらない、と発表した。バンドも入る、いわば“忘年会”である。中止理由の説明はないが、ウクライナ侵攻であることは疑いない。30万人もの動員兵を氷点下の戦場に送り出しておきながら、自らは暖かなクレムリンでワインを傾ける姿は見せられない…ということだろう。
勝負に出たプーチン大統領
プーチン大統領が「動員」を口にしたのは、ウクライナ侵攻開始から7か月後の22年9月21日だった。「ロシアと国民を守るために、あらゆる手段を行使する。はったりではない」と本気を強調し、それまで「やらない」としてきた「動員」に手を出した。「“1000キロを超える戦闘ラインができた”から数が必要だ」と、必死に国民の理解を求めたのである。その上で今回は「現在、予備役に就いている市民。とりわけ軍に勤務し、特定の専門と経験を持っている市民だけが徴兵の対象」となる「部分的動員」だと説明している。ひとつの勝負に出た。
“土足”で入ってきた“戦争”
即日発効した「部分的動員」大統領令に対して、モスクワでも抗議デモがあった。22年2月の侵攻開始時にはなかったことから、国民が受けた衝撃の大きさがわかる。日本では「ロシアは戦時下の国」とのイメージがあると思うが、実際の生活は極めて“普通”だ。物価指数は前年比約14%上昇したが、一部の外国製品を除いてスーパーにない物はない。「動員」が発表される前まで、ロシア国民にとって「ウクライナ侵攻」は、“どこか遠くの国のお話”というムードがあった。それが突然、“土足”で家に入ってきたのだ。
逃げれば“裏切り者”
木々が色づいた22年10月、国防省の川向かいにあるゴーリキー公園で「動員」について市民に聞いた。子ども連れの夫婦とのやりとりが全てを表しているように思う。
――動員は心配ですか?
夫「まだ関係ないですが…もちろん心配です」
――お知り合いに動員された人はいますか?
夫「職場には通知を受け取った人がいます」
――怖いですか?
夫「少し怖いです。行きたくはない」
妻「でも逃げたら裏切り者ですよね。ここで生活がしにくくなりますよ」
――動員されたら行きますか?
夫「呼ばれたら…多分、行くと思います」
「総動員」への懸念…3分の2
プーチン大統領の「動員」発表直後に行われた独立系世論調査機関「レバダセンター」のデータ(22年9月29日発表)がある。「部分的動員」についての感情を尋ねたところ、一番多かったのは「不安、恐怖」で47%、次いで「ショック」23%、「怒り、憤り」が13%だった。「ロシアの誇り」と答えた人も23%はいた。そして、「部分的」ではない「総動員」に変わることへの懸念を持っている人が66%いて、侵攻開始前の調査、28%から約2倍に増えていた。
全員が持っている「軍人手帳」
日本では想像できないが、ロシアでは成人男性全員が「軍人手帳」を持っている。支局のスタッフが見せてくれた。これがないとパスポートすら取得できないのだという。引っ越せば、地元の軍事務所に届け出なければならない。つまり、軍が全ての男性を掌握している。「部分的動員」開始当初、プーチン大統領が言った「予備役で専門と経験を持っている市民だけ」に限らず、軍から招集通知が送られたことが発覚した。軍が直接管理していることと無関係ではなさそうだ。プーチン大統領は、すかさずミスの存在を認め“火消し”に走った。
「今のところはない」
プーチン大統領は22年12月7日の記者会見で「軍事作戦は順調で、今のところ、部分動員を再開する要因はない」と述べた。「今のところ」である。ショイグ国防相は当初、「30万人は予備役全体約2500万人のうち1%」だと説明している。10か月を超えた“戦争”に、連邦議会の急進派議員からは「総動員すべきだ」との声も上がり始めた。「追加動員はない」と考えるロシア国民はいないように思う。
プーチン大統領、2023年は苦悩の年
22年11月末、独立系メディアが、ロシア連邦警備局が行った極秘世論調査をすっぱ抜いた。「戦争継続」支持が25%に半減し、「和平交渉」を求める国民が55%にまで増えた、というのである。「動員で流れが変わった」と分析している。侵攻直後から80%前後の高い支持率を維持するプーチン大統領にとっても心穏やかではいられない数字だ。24年春には大統領選挙が控えている。ウクライナ侵攻を完遂するために「追加動員」に舵をきるのか、国民世論を意識して「和平交渉」に動くのか。「動員」はプーチン大統領にとって22年の大誤算であり、その拡大は大統領選に向けた賭けになる。
●ロシア軍、年明けに動員再開か 劣勢で「第2弾」 ウクライナ高官 12/31
ウクライナ国防省情報総局のブダノフ長官は、同国侵攻を続けるロシアが年明けの1月5日から、予備役動員を再開するという情報を明らかにした。
劣勢に伴う兵員不足が理由という。現地紙ウクラインスカ・プラウダ(電子版)が30日、英BBC放送のインタビュー内容を伝えた。
ロシアのプーチン政権は9月、部分動員令を出し「30万人を招集した」と説明した。ただ、根拠の大統領令は人数に関する部分が非公開。「100万人規模」と記されているとも報じられ、秘密裏に動員「第2弾」が始まるのではないかと疑念がくすぶっている。 
●プーチン氏、ペレさんを哀悼「ブラジル国民の類いまれな息子」 12/31
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は30日、前日に死去したサッカー元ブラジル代表のレジェンド、ペレ(Pele)さんに「深い哀悼の意」を表し、「ブラジル国民の類いまれな息子」と評した。
ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)によれば、プーチン氏は退任を目前に控えるブラジルのジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)大統領に宛てた弔電で「エジソン・アランチス・ドゥ・ナシメント(Edson Arantes do Nascimento、ペレさんの本名)はブラジル国民の類いまれな息子だった」と称賛した。
さらに「才能、比類ない技術、そして人を魅了する見事な試合運びで、サッカーをロシア国民を含め世界中で大勢の人々に愛されるスポーツに押し上げた」「私は幸運にもこの素晴らしい人物と個人的に話す機会を得た。この輝かしい思い出をいつまでも忘れない」とペレさんを追悼した。
W杯(World Cup)を3度制し、史上最高のサッカー選手とされるペレさんは、がんを患い、長い闘病生活を送っていたが、29日に82歳で死去した。
●チェルシーの元オーナー、経済制裁受け財産57%減 ロシアの大富豪 12/31
英紙ガーディアンは30日、ロシア軍のウクライナ侵攻を受けて強化されてきた西側諸国の経済制裁の結果、ロシアの富豪で実業家のロマン・アブラモビッチ氏の財産が今年57%減の約78億ドル(1兆円)となり、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)の中で「最大の損失者」となったと伝えた。
ブルームバーグの「世界の億万長者(ビリオネア)指標」の分析で明らかになったという。
アブラモビッチ氏は、サッカー英プレミアリーグ・チェルシーの元オーナー。ロシアのプーチン大統領と近い関係にあるとされ、ロシアによるウクライナ侵攻後、欧米の多くの国で経済制裁の対象となった。
この指標では、ほかにもプーチン氏に近いとみられているロシアの富豪ゲンナジー・ティムチェンコ氏の財産が48%減の118億ドル(約1兆5400億円)に落ち込んだという。
●ロシアの侵攻、越年へ 2月の平和サミット焦点 空爆でウクライナけん制 12/31
世界に混乱をもたらしたロシアのウクライナ侵攻は、2023年も続くことが必至となった。
ウクライナのゼレンスキー大統領は11月に国際社会に示した10項目の和平案を具体化し、侵攻から1年の2月下旬に国連を巻き込んで「平和サミット」を開催したい考え。停戦に向けて実効性を持つかが焦点となる。
プーチン政権はこうした動きを対ロ圧力強化の「PR戦術」(ザハロワ外務省情報局長)と警戒。真冬に停電をもたらすミサイル攻撃の手を緩めず、ベラルーシから北部キーウ(キエフ)州への再侵攻もちらつかせてけん制している。
和平巡り応酬
「今日の現状を考慮しておらず、和平案と呼べない」。ロシアのペスコフ大統領報道官は28日、領土回復をうたうゼレンスキー政権の和平案に疑問を呈した。ロシアは9月末、東・南部4州を一方的に「併合」。欧米の兵器を手にしたウクライナの反攻を受け、劣勢を余儀なくされており、まずは現状維持を至上命令としている。
具体的にロシアは、南部ヘルソン州でドニエプル川まで後退して「堀」として利用。南部クリミア半島や東部ドネツク州への進軍阻止のため塹壕(ざんごう)や障害物を構築しており、奪還を許さない構えだ。
和平案を一蹴するロシアに、ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は批判を展開した。28日にツイッターで「新たなロシア領なるものは存在しない」と併合の有効性を否定。「ロシアの現実は恥辱、敗北、崩壊だ」と述べ、ウクライナの勝利が和平の前提になるという立場を強調した。
ベラルーシ1万人
ドネツク州の激戦地バフムトの戦況はこう着し、プーチン政権は当初の目標の一つだったドネツク州全域の「解放」もできていない。ロシア軍は年末年始も関係なく各都市をミサイルやドローンで攻撃し、ウクライナ国民の戦意をくじこうとするが、防空システムで大半が撃ち落とされることも珍しくない。
29日にはウクライナの地対空ミサイル「S300」が飛来したため迎撃したとベラルーシが発表。ロシア軍は同盟国同士の「自衛」名目でベラルーシ領に1万人を展開しており、再侵攻の口実になるのではないかという懸念も出た。
ウクライナ側も12月に入り、ロシア内陸部の空軍基地をドローンで何度も攻撃しているとされ、29日にはロシア側が迎撃した。ペスコフ氏は「モスクワなどの防空は強化しているのか」と記者団に問われると「他の省庁に聞いてほしい」と言葉を濁した。 
●ソ連成立100年、関心低め=ウクライナ侵攻背景に―ロシア 12/31
1922年12月30日にソ連が成立してから丸100年を迎えた。約70年後に崩壊し、ロシアによるウクライナ侵攻の背景になったと指摘されるが、プーチン政権の反応は冷ややか。ソ連崩壊の節目と比べると社会の関心も低いようだ。
ロシアでは中高年を中心に「懐古主義」が根強く、政府系の全ロシア世論調査センターが12月30日に発表した調査結果によると、48%が「ソ連復活を望む」と回答した。同時に67%が「ソ連復活は無理」と現実を認めている。崩壊から30年余りがたった今も、ソ連の記憶は国民意識に影響を与えている可能性がある。
プーチン大統領は「ソ連復活を目指しているのではないか」と欧米で批判されたこともあるが、実は、ソ連成立が崩壊の遠因にもなったと持論を展開している。帝政時代の版図を「ロシア世界」と見なして、大国としての勢力圏の回復をもくろんでいるという見方が強い。
ペスコフ大統領報道官は12月30日、100年の節目に当たり、ソ連の位置付けについて記者団に問われると「ロシア史における不可分な一部」と述べた。その上で、プーチン氏の過去の「名言」を引用する形で「ソ連の崩壊を惜しまない者には心がなく、復活を望む者には頭がない」と主張した。
求めているのは大国の復活であり、ソ連の復活ではないというのが、プーチン政権の公式見解。こうした経緯から、100周年へのロシア国営メディアの注目度も低い。ウクライナ侵攻の中で今のロシア国民には振り返っている余裕がない厳しい事情もありそうだ。
独立系メディア「メドゥーザ」は12月30日の特集記事で「戦争(ウクライナ侵攻)が続く現在の状況は、ソ連崩壊によってつくられた」と論評。ただ、戦争自体は他ならぬプーチン氏が始めた側面も強調し、責任転嫁を戒めた。 
●ロシアのプーチン大統領、ウクライナ侵攻正当化 首都防空態勢、放火未遂も 12/31
ロシアのプーチン大統領は12月31日、新年の国民向け演説で「祖国防衛は神聖なる義務だ」と述べ、ウクライナ侵攻を正当化した。ペスコフ大統領報道官によると、前線に近い南部軍管区(司令部ロストフナドヌー)で将兵を慰問し、事前収録した。
プーチン氏の演説は、日本より3時間早く新年を迎える極東カムチャツカ半島から順次公開された。ショイグ国防相も31日の演説で「新年のように勝利も必ずやって来る」と将兵に呼び掛けた。
12月には本土の空軍基地を狙うウクライナ軍のドローン攻撃が相次いだ。モスクワ空爆のシナリオもささやかれるようになり、ロシア国防省は「大みそかの夜、防空部隊が臨戦態勢を取る」と強調し、不安の一掃に努めた。
30日のイズベスチヤ紙によると、クレムリン(大統領府)脇の市民でにぎわう「赤の広場」で、男がクリスマスツリーにガソリンで放火を試みて拘束された。
●露、外貨での天然ガス債務返済容認 「非友好国」に 外貨獲得狙いか 12/31
ロシアのプーチン大統領は30日、米欧など「非友好国・地域」の企業が露産天然ガス購入に絡む債務を米ドルやユーロなど外貨で返済することを認める大統領令に署名し、発効させた。ウクライナ侵略に関連して欧州企業などへの天然ガス供給を停止したロシアは、債務返済後の天然ガス供給の再開をちらつかせ、外貨獲得を拡大する思惑だとみられる。
ロシアはウクライナ侵攻後、対露制裁を発動した国や地域を「非友好国・地域」に指定し、対象として日本や欧米諸国を含むリストを公表。「非友好国・地域」の企業に天然ガス代金を露通貨ルーブルで支払うことを義務付けた。拒否した一部の欧州企業にはガス供給も停止した。
今回、米ドルなどでの支払いを認めるのは、ルーブル払いを義務付ける前の未払い代金などとみられる。大統領令は、ルーブルによる代金払いをガス供給再開の条件とする方針を維持し、現時点の供給再開を否定。一方、債務返済は供給再開への一つの条件に過ぎないともした。
ロシアは一部の欧州企業へのガス供給を停止したことでガス輸出も減少。ノバク副首相は12月26日、タス通信のインタビューに「今年の露産天然ガスの輸出量が昨年から4分の1減少した」と明らかにしていた。エネルギー企業からの税収は国家予算の約3割を占めるだけに、ウクライナ侵略で財政が逼迫(ひっぱく)しつつある中、外貨払いを一部認めることで、歳入を少しでも賄おうとしている可能性もある。 

 

 
 
 
 


2022/8-