プーチン大統領の「夢」

ロシアのウクライナ侵攻 

破壊された都市
取り上げた 人々の命
昔の生活が取り戻せるか 5年 10年 

ロシアの民心 同調 それとも乖離

プーチンの 「夢」が判らない
 


4/14/24/34/44/54/64/74/84/94/10・・・4/114/124/134/144/154/164/174/184/194/20・・・4/214/224/234/244/254/264/274/284/294/30・・・
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プロパガンダロシアのプロパガンダアインシュタインの手紙・・・

第三次世界大戦  ・・・  戦争終結の道  ウクライナ分断  孤立するロシア
 
 

 

●ウクライナ戦争で「ドルの底力」再確認…なぜ基軸通貨は敵なしなのか 4/1
危機の際にはよりいっそう輝くドル。
世界大戦後、英ポンドから基軸通貨の地位を受け継いだ米ドルは、以降70年あまりの間、ユーロ、円(日本)、人民元(中国)などの多くの挑戦者を退けてきており、世界の金融市場で最も強力な貨幣としての地位を失っていない。21世紀に入ってからは、ロシアが別の決済システムを構築するなどにより、「脱ドル」に向けて数年にわたり準備してきていたものの、最近のウクライナ戦争をきっかけとしてドルの覇権ばかりが再確認されている。ドルはなぜ強いのか。
最も信頼される貨幣
「別の通貨を使いたくても相手が受け取ってくれない。それこそまさに基軸通貨の力だ」。大統領選挙期間中、基軸通貨が議論の的になっていた際に、経済省庁の当局者が口にした言葉だ。基軸通貨の核心はほかでもない「信頼」だというわけだ。別の専門家は同じ脈絡から「世界が大きな危機に陥った際に、取り引きが可能な唯一の通貨は何なのか考えてほしい」と問い返す。実際、今年に入り、世界経済の物価上昇や景気低迷への懸念が膨らみ、ドル需要はさらに高まっている。安全資産としてのドルの魅力が浮き彫りになったからだ。主要6カ国の通貨に対するドルの相対的価値を示すドルインデックスは、3月28日に99ポイントを突破し、新型コロナウイルス禍初期の2020年5月以来の最高値を記録した。
ウクライナ戦争においてもドルの底力は再確認される。ロシアは2014年のクリミア半島併合後、脱ドルに力を入れてきた。にもかかわらず、ロシアの金融機関の外国為替取り引きの約80%はドルで行われており、先月米国がドル取り引きを遮断すると、金融市場は大きく動揺した。ロシアと中国がドルに対抗するために作った代替国際取り引き決済網も、予想より力を発揮できずにいるようだ。人民元国際決済システム(CIPS)は、ドルではなく人民元の決済のみが可能だからだ。ある政府関係者は「国際取り引きでドルの代わりに人民元を渡すとしたら、誰が快く歓迎するのか。CIPSにはどうしても限界がある」と説明した。
「信頼」を支える多くの条件
独歩的信頼を得ているドルの覇権の背景には、長い間に様々な要素が絡み合って形成された全世界の人々の暗黙の同意がある。何よりも米国が経済力はもちろん、政治的、軍事的にも大国であるという点が大きい。米国が滅びることはないという信頼のおかげで、ドルに対する信頼も保たれているのだ。世界の覇権の歴史と基軸通貨の歴史が一致する理由がここにある。
ドルは流動性の面でも他の貨幣を上回る。全世界の人々がドルを自由に使うためには、それだけ供給量が多くなければならない。米国は数十年間、相当な貿易赤字に耐えながら、この機能を維持してきている。また、ドルに基盤を置く米国債も、発行量が多いにもかかわらず価値は落ちず、「安全資産」としての役割を十分に果たしている。さらに米ドルは1970年代半ばから、米国がサウジを軍事支援する対価として、原油がドルのみで決済される「ペトロダラー」としての地位も持っている。
準基軸通貨と呼ばれるユーロ、ポンド、円、人民元などは、こうした条件からみて、ドルを代替するには力不足だ。2002年に導入された欧州連合(EU)の貨幣であるユーロの国際決済比率は今年2月現在で37.79%で、それなりにドル(38.85%)を追いかけてはいるが、単一の国家ではないため、国債発行などの流動性の供給で限界が存在する。円は、日本の緩和的通貨政策の継続、マイナス成長に対する懸念などで、今年に入って対ドル相場がここ6年での最安値を記録し、不安定な様相を呈している。
中国は3月15日からサウジと石油代金を人民元で決済するための協議に入り、ペトロダラーに挑戦状を突きつけているが、実際に合意へとつながる可能性は低い雰囲気だ。サウジが米国に対して間接的に不満を示すための政治的行為にとどまる可能性が大きいということだ。中国の人民元が国際決済に占める割合は2.23%にすぎない。
延世大学のソン・テユン教授(経済学)は本紙に対し「基軸通貨となるためには取り引きに不便が生じないよう貨幣量が豊富でなくてはならず、相当な量の国債を発行しても国の信用度が影響を受けてはならない」とし「こうした条件を備えた基軸通貨は、事実上いまは米ドルしかない」と述べた。ドルの覇権は永遠ではないだろうが、かといって容易には崩れないだろうということだ。
●米紙「北方領土出身者たちの望みはウクライナ戦争で打ち砕かれた」 4/1
ウクライナに侵攻したロシアに日本が制裁を科せば「北方領土問題」が後退するという展開は、大半の日本人にとって驚きではないだろう。だが、北方四島の元住民らにとってそれは何を意味するのか? 米紙「ワシントン・ポスト」東京支局長のミシェル・イェ・ヒ・リーらが北海道の根室市で取材した。
1945年9月4日、ソ連兵たちが河田弘登志(かわた・ひろとし)の家に入り込み、日本兵をかくまっていないか、貴重品を隠していないか探しにきた。当時11歳だった河田は、彼らのしゃべっている言葉で2つの単語だけ聞き取れたのを覚えている。時計と酒だ。それらを彼らは略奪していった。
日本の北にある資源豊かな列島を、ソビエト連邦が乗っ取りはじめたのだ。日本が第二次世界大戦で降伏して、悲惨な戦争もこれで終わったと思っていた島民たちにしてみれば恐ろしいことだった。ほどなく日本人たちは自由に働いたり引っ越したりすることを禁じられ、女性や子供は拘束されて強制労働させられた。
多くの家族が、夜中に舟で逃げた。岸から遠く離れるまではまず櫂で漕いで、それからエンジンをかけた。その頃に住む場所を追われた大勢のなかに、河田一家もいた。いま87歳の河田は言う。
「これだけの年月が経っても、目の前で見た何もかも、いまだに忘れられません。いまのウクライナの人たちのことを見て……すごく身につまされます。遠くで起こっていることのようには思えないんです」
日本の東端にある北海道根室市には、北方領土の元住民およそ1万7200人のうちの多くが再定住した。そんな土地柄だけに、ウクライナから何千キロも離れていようとも、ロシアの侵攻と何百万ものウクライナ難民の窮状に寄せる思いは深い。
今回の戦争で、生まれ故郷を再び見たいという彼らの願いは踏みにじられてしまった。ウクライナに侵攻したロシアに日本が制裁を科したことに対して、ロシアが北方四島をめぐる交渉を反故にしたからだ。
平均年齢がほぼ87歳の元住民たちにとって、生きているうちに故郷に戻る望みは消えてしまったのだ。
「島の話を語れるといっても、小学5年生くらいの思い出だけです。あとはみな亡くなってしまい、語れる人はいません」と言うのは、13歳のとき色丹島を追われた、現在88歳の得能宏(とくのう・ひろし)だ。
日本は安倍政権下でロシアとの関係改善に努め、平和条約交渉や領土問題の解決を優先させてきた。ロシアを戦略的パートナーにし、ロシアが中国に接近しすぎないようにとの目論みもあった。
2014年、ロシアがクリミアを併合したとき、北方四島をめぐる交渉が決裂することを懸念して、安倍政権の反応は生ぬるいものになった。ところが、今回のウクライナ侵攻では一転して、日本の岸田政権はロシアに大幅な経済制裁を科すに至った。
交渉は2020年以来行き詰まっていたものの、ロシア政府は3月21日、交渉を再開するつもりはなく、日本人がビザなしで四島に旅行できる「ビザなし交流」も終了するつもりだと発表した。さらには、四島での共同経済活動から撤退するとも脅してきた。
●世界は「ウクライナ戦争の影響」を過小評価している 4/1
経済協力開発機構(OECD)のチーフエコノミストであるローレンス・ブーン氏は、ロシアのウクライナ侵攻による経済への長期的影響を各国政府は十分に認識していないと指摘した。
同氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、世界は「この戦争の中期的な影響を過小評価していると思う。戦争が長引くほど不確実性が増し、不確実性は消費者の支出や企業の投資を妨げるため、懸念が高まる」と語った。
ブーン氏は世界中に広がる避難民の問題に加え、「エネルギー安全保障、食料安全保障、デジタル安全保障、決済システム、貿易に長期的な影響が出るだろう」と述べた。
ウクライナからの避難民が500万人に達すると、定住や適応を助けるための費用は欧州連合(EU)の域内総生産(GDP)の0.5%に達する可能性があるとも述べた。避難民1人当たり約1万2500ユーロ(約170万円)が必要になるとの推計も示し、「大きな額だが、その価値は当然ある」と語った。
●南部で一部奪回−ロシアは国境近くで攻撃受けたと発表 4/1
ロシアは、ウクライナ国境に近いベルゴロドの石油施設がウクライナ軍のヘリコプター2機によって攻撃されたと明らかにした。ウクライナ側の発表はない。
ウクライナ政府は南部ヘルソンの幾つかの村をロシア軍から奪回したとしている。両国の停戦交渉は4月1日にビデオ会議形式で再開されるとウクライナの交渉担当者ダビド・アラハミヤ氏が述べているが、ロシア側は発表していない。
ロシアは同国軍が占拠していたウクライナ北部のチェルノブイリ原子力発電所をウクライナ側に明け渡すことに同意した。国際原子力機関(IAEA)がウクライナ当局者を引用して明らかにした。ロシア軍は施設から撤退しつつあると伝えられており、ウクライナ側はロシア軍が原発周辺に塹壕(ざんごう)を掘ったことで同軍の一部兵士が放射線に被ばくしたとしている。
国連は救援物資の輸送隊がウクライナの激戦地マリウポリにたどり着けていないと明らかにした。ただ北東部スムイには食糧や医薬品などを届けられたとした。
ロシアのプーチン大統領は代金のルーブル建て支払いは求めるが、引き続きロシアは欧州に天然ガスを供給すると述べた。支払い通貨の変更でロシアからの供給に混乱が生じるとの懸念は緩和した。大統領は「ロシアはビジネス上の信用を重視する」とテレビ演説で言明した。欧州当局者は支払い通貨の変更が供給に影響する可能性は低いとの見方を示した。
バイデン米大統領は3月31日、ロシアのプーチン大統領が一部の顧問を解任したか自宅軟禁にした可能性があると述べた。
南部ヘルソンと北部チェルニヒウの複数の村、ウクライナが奪還
南部へルソンの11の村と北部チェルニヒウの複数の村を奪還したと、ウクライナ軍の一般幕僚が明らかにした。両地域での砲撃の激しさは減ったものの、ハルキウの中心部では3月31日夜にミサイル攻撃があった。
ロシア、一部非居住者による国外への外貨送金を停止
ロシア中央銀行はウェブサイトに1日掲載した声明で、同国に制裁した「非友好的」な国の非居住者(個人・企業)によるロシアからの外貨送金は6カ月間停止されると発表した。ロシアの証券会社口座からの外貨送金も停止される一方で、ロシア国民向けの外貨送金規定は緩和。個人はロシアの銀行口座から月1万ドルまでを国外にある個人の口座に送金できるようになる。
世界はウクライナ戦争の影響を過小評価−OECDチーフエコノミスト
経済協力開発機構(OECD)のチーフエコノミストであるローレンス・ブーン氏は、ロシアのウクライナ侵攻による経済への長期的影響を各国政府は十分に認識していないと指摘した。同氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、世界は「この戦争の中期的な影響を過小評価していると思う。戦争が長引くほど不確実性が増し、不確実性は消費者の支出や企業の投資を妨げるため、懸念が高まる」と語った。
サハリン1からも撤退せず、エネルギー安全保障で重要−岸田首相
岸田文雄首相は1日、ロシア極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン1」について、日本は撤退しない方針だと表明した。参院本会議で答弁した。岸田首相は、サハリン1、2について「自国で権益を有し、長期かつ安価なエネルギー安定供給に貢献しており、エネルギー安全保障上、重要なプロジェクトだ」と指摘した。サハリン2については前日に撤退しない方針を表明していた。
ロシア、4月4日満期国債14.5億ドル買い戻し
ロシアは4月4日償還の国債20億ドル(約2440億円)相当の大部分をルーブルを使い買い戻した。これにより、償還日の国債保有者へのドルでの支払額は大幅に減った。
バイデン氏、戦略石油備蓄の大量放出命じる
バイデン米大統領は3月31日、米国の戦略石油備蓄から1日当たり100万バレルを今後6カ月間で放出する計画について、外国からのエネルギー供給への依存脱却を達成する礎を築くものになると説明した。また、今年に入ってからのガソリン価格高騰について、「プーチンによる価格押し上げ」だと表現し、ウクライナ軍事侵攻を命じたロシア大統領を非難した。
国連、スムイに支援物資届ける−他の地域には配給できず
国連は支援部隊がウクライナ北東部スムイに到着し、食糧や医薬品などを届けたと明らかにした。ただ激戦地マリウポリなど他の地域にはなお物資を配給できていないとした。
ロシア軍がチェルノブイリ原発から撤退開始、放射線被ばくで−ウクライナ
ロシア軍は占拠していたウクライナのチェルノブイリ原子力発電所から撤退を開始したと、ウクライナの国有電力会社が明らかにした。同原発の高汚染地域で塹壕を掘ったことから兵士が大量の放射線に被ばくしたためだとした。ただIAEAは被爆の報告を確認できていないとし、「さらなる情報を求めている」と説明した。
バイデン大統領、プーチン氏は一部顧問を解任ないし自宅軟禁の可能性
バイデン大統領は3月31日、ロシアのプーチン大統領が一部の顧問を解任したか自宅軟禁にした可能性があるとした上で、プーチン氏にウクライナでのロシア軍の戦況の十分な情報が伝えられているかどうかについては「議論の余地がある」と述べた。
ロシア、チェルノブイリ原発明け渡し−ABCがロスアトムの書簡引用
ロシア軍は占拠していたチェルノブイリ原子力発電所をウクライナ側に明け渡すと、ABCニュースがロシア国営原子力企業ロスアトムの書簡を引用して伝えた。
プーチン大統領、ガス供給を継続へ−代金はルーブル建てを要求
ロシアのプーチン大統領は欧州向け天然ガス供給でルーブルでの代金支払いを要求したものの、供給を継続する意向を表明した。支払い通貨の変更がロシアからの供給障害につながるとの懸念は緩和した。プーチン大統領は政府関係者に対し、ルーブル建ての新たな支払いメカニズムを打ち出した上で、「ロシアはビジネス上の信用を重視する。ガス供給契約を含む全ての契約で定められた条件にはこれまでも、そして今後も従う」と述べた。発言はテレビ放映された。
米国、ロシアに対する追加制裁を発表−半導体メーカーなど対象
米政府はロシア経済に対する追加制裁を発表した。ウクライナに侵攻したロシアへの圧力を強める。米国の説明によれば、今回の制裁対象には半導体製造とマイクロエレクトロニクス輸出でロシア最大の企業が含まれる。
米政権、石油備蓄から日量100万バレル追加放出
米国は石油備蓄から日量約100万バレルを6カ月間追加放出する。放出開始は5月。こうした歴史的な規模の放出は、ロシアのウクライナ侵攻を受けたガソリン価格上昇や供給不足に対するホワイトハウスの懸念を浮き彫りにしている。
プーチン大統領、ルーブルでの支払い要求
ロシアのプーチン大統領は既存の天然ガス契約について、買い手がルーブルでの支払い条件に従わないなら契約を停止すると明らかにした。
ロシア軍は再編成しており、撤退はしていない−NATO
ロシア軍はウクライナから撤退しているのではなく、東部ドンバス地方に注力するため再編成していると、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長がブリュッセルで記者団に指摘した。「われわれの情報によると、ロシア軍は撤退ではなく再配置を進めている。ロシアはドンバス地方での攻撃態勢を再編成して軍を補強し、補給しようとしている」と発言。「同時に、ロシアはキエフや他都市への圧力を維持しており、さらなる攻撃で被害が拡大すると見込んでいる」と語った。
ガス支払いはユーロやドルで可能、プーチン氏が伊首相にも説明
イタリアのドラギ首相は、プーチン大統領が30日の電話会談で、欧州連合(EU)企業はガスの支払いでユーロまたはドルを引き続き使用できると説明したことを明らかにした。これに先立ち、ドイツ政府もショルツ首相との電話会談でプーチン氏が同様の説明をしたと発表していた。ドラギ首相は、このような契約における支払い通貨の変更は単純な問題では全くないと指摘した。
英国、ロシア国営メディアやマリウポリ攻撃指揮官を制裁
英政府はロシアのRTとスプートニクの所有者を含む国営メディアを対象とした新たな制裁を発表した。またマリウポリ包囲攻撃を指揮しているロシア軍幹部のミハイル・ミジンツェフ氏も制裁対象に加える。
トルコ、ウクライナとロシアの外相会談実現に努力
トルコのチャブシオール外相は同国テレビ局に対し、ウクライナとロシアの外相会談を再び仲介しようとしていると明らかにした。「クレバ、ラブロフ両氏にそれぞれテキストメッセージを送った。正確な日時は言えないが、1−2週間のうちに上級レベルの会合が実現する可能性はあると両氏は話した」と述べた。両外相は3月10日にもトルコで会談した。
ロシア軍、ウクライナの農業に破壊工作−ゼレンスキー大統領
ロシア軍は意図的にウクライナの農業セクターに打撃を与えようとしていると、ゼレンスキー大統領がオランダ議会に対する演説で主張した。農業はウクライナの主要な収入源だが、ロシア軍は農地に地雷を敷設したり、農業機械を破壊したりしていると、同大統領は語った。
チェルニヒフ近郊で砲撃継続、ウクライナがマリウポリを依然死守−英国
南部マリウポリの中心部は激しい戦闘が続いているものの、ウクライナ軍が依然支配しているとの見方を英政府が示した。ロシアが軍事活動を縮小すると発表した北部のチェルニヒフ周辺では「大規模な」砲撃とミサイル攻撃が続いているという。
●日銀短観関西7期ぶり悪化 オミクロン株やウクライナ情勢影響 4/1
日銀大阪支店は、関西の企業に景気の現状などを尋ねた調査、短観=企業短期経済観測調査の結果を公表しました。オミクロン株やウクライナ情勢の影響で、「全産業」の景気判断を示す指数は、7期ぶりに悪化しました。
「短観」は、国内の企業に3か月ごとの景気の現状などを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。
日銀大阪支店が関西2府4県のおよそ1400社を対象に、ことし2月下旬から3月31日にかけて行った調査では、足もとの景気判断を示す指数は、「全産業」でプラス1ポイントとなり、前回・去年12月の調査から5ポイント悪化しました。
悪化は7期ぶりです。
オミクロン株による感染の再拡大を受けて、「宿泊・飲食サービス」では、前回から26ポイント悪化してマイナス53ポイント、「小売」も、前回から10ポイント悪化してマイナス16ポイントとなりました。
また、製造業では、ウクライナ侵攻に伴う原材料価格の高騰の影響で、「化学」が7ポイント悪化してプラス16ポイントとなり、製造業全体でも3ポイント悪化してプラス5ポイントとなりました。
日銀大阪支店では、「オミクロン株とウクライナ情勢の影響が色濃く出た形となった。一方で、中長期的な目線で、投資を行う企業も多く、先行きには明るい兆しも見えている」と分析しています。
●ウクライナ影響 世界で値上げが止まらない  4/1
緊迫の状態が続くロシアによるウクライナ侵攻。小麦粉や原油などの価格が一段と跳ね上がり、世界各国で身近なモノの価格に大きな影響を及ぼしています。フランスでは主食の「バゲット」、インドネシアでは屋台料理の「揚げ春巻き」、そして日本では、食卓に欠かせない家計の味方「もやし」まで…。世界各地で起きている値上がりの最新状況をまとめました。
値上げの4月 コーヒーやティッシュも
まずは日本国内の状況です。4月から暮らしに身近なさまざまな商品が値上げされます。
《ケチャップ》カゴメはトマトの輸入価格の上昇で、1日の納品分からケチャップを含む125品目の出荷価格を約3%から9%引き上げ。
《チーズ》乳業大手3社が家庭用チーズの希望小売価格を約4%から10%引き上げ。
《食用油》日清オイリオグループとJ‐オイルミルズは、原料の大豆・菜種の価格上昇で、家庭用・業務用の食用油を1キロあたり40円以上値上げ。
《コーヒー》コーヒーチェーン大手のスターバックスが、4月13日から主力商品を、約10円から55円値上げ。
《ティッシュペーパー》日本製紙クレシアが、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどを10%以上値上げ。花王は、乳幼児向け紙おむつの主力製品の一部を約10%値上げ。
《飲料水・レトルトカレー》大塚食品は、1日の納品分から飲料水とレトルトカレーの商品の一部値上げ。
《菓子》「うまい棒」の名称で40年以上にわたり販売価格が据え置かれてきたスナック菓子も、1日の出荷分以降、これまでの10円から2円値上げ。
《タイヤ》ブリヂストンは、1日から乗用車用や二輪車用の販売店などへの出荷価格を7%引き上げ。横浜ゴムは4月以降、最大で9%値上げ。去年から続く原材料価格や物流費の高騰が主が要因ですが、ロシアによるウクライナ侵攻が、小麦粉や原油などの価格を一段と押し上げていて、引き続き、値上げの動きが広がりそうです。
1袋30円 ついに「もやし」も!?
さらに、日々の食卓に欠かせない家計の味方の代表格「もやし」にも、今、値上げの動きが出ています。もやしの小売り価格は、1袋(200グラム)30円程度。この価格は、ここ10年、ほとんど変わらず、特売の目玉となれば1袋10円台で販売されることもあります。スーパーやドラッグストアのしれつな価格競争で、安売りに拍車がかかり「デフレの象徴のような商品だ」とぼやく関係者もいたほどです。
もやしの種「緑豆」が高騰
値上げの最大の要因は、もやしの種=「緑豆(りょくとう)」の価格高騰です。「緑豆」の栽培には、豆を乾燥させるため、収穫期の秋に雨が少ないなど、一定の気候条件が必要となり、現在は大半を中国などからの輸入に頼っています。しかし、その「緑豆」の争奪戦が激化しているのです。緑豆を扱う専門商社に話を聞くと、中国国内では需要が高まる一方で「とうもろこし」など、ほかの作物への転作に手厚い補助金をかけられています。このため「緑豆」の栽培をやめる農民が増加し、作付面積が減少傾向にあるというのです。また、ほかの輸入品と同様に「円安」や「コンテナ船のコスト上昇」が輸入価格に跳ね返ってきています。
ウクライナ侵攻で原油高騰 値上げを決断
茨城県小美玉市にある、もやしの生産工場も、「緑豆」の値上がりに頭を悩ませています。首都圏のスーパー向けに1日およそ20万袋を出荷するこの工場では、専門商社からの「緑豆」の仕入れ価格が、去年に比べて2割あまり上昇し、過去最高の水準だといいます。さらに追い打ちをかけているのが、ウクライナ情勢で加速する原油価格の高騰です。この会社では、温度管理のための燃料の重油価格が1年前と比べて4割あまり上昇。この冬の燃料費の負担は、毎月150万以上増えたといいます。さらに、運送代や包装代も上がっています。会社は、「1銭」単位でギリギリのコスト削減を続けてきましたが、「さすがに限界」と感じ、取引先のスーパーに4月からの納入価格の改定を申し入れました。価格改定は実に5年ぶり。すでに一部の取引先には10%程度の値上げを受け入れてもらったといいます。
生産会社「旭物産」林社長「安い食材の代表格だった『もやし』も値上げになると消費者の方はつらいかもしれません。ただ、これまでギリギリのところで消費者にお渡ししていたのが現実で、ご理解いただきたいです。取引先のスーパーの中には、販売価格の値上げはなかなか厳しいと思っているところもありますが、あきらめずに交渉を続けていきます」
「もやし」のジレンマも…
ただ、家計の味方として定着している「もやし」の値上げに、生産者は複雑な思いを抱えています。特に規模の小さい生産者からは「実際に値上げを言いだすのは難しい」という声も聞かれました。
中堅の生産者「スーパーなどの小売り現場には食品の値上げへの強い抵抗感があると感じています。スーパーに納入価格の値上げをお願いしても、店頭の販売価格を上げるのが難しいと判断されてしまえば、スーパーの利益を損なうことになり、もっと安いほかの生産者に切り替えられてしまうおそれもあります。値上げの交渉をするかどうかは、しばらく様子を見ようと思います」
大分県にある大手生産会社は、今回、なみなみならぬ決意で値上げに踏み切ったと言います。
大手生産会社「名水美人ファクトリー」奈良社長「本来、値上げは最後の手段ですが、今回は値上げ以外に選択肢がありませんでした。ここで値上げしなければ、いつ上げるのかという覚悟でスーパーと交渉しました」
“値上げの波”は世界各国で
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1か月あまり。身近な食品の値上がりは世界各国でも広がっています。
屋台から悲鳴 〜インドネシア〜
インドネシアではナシゴレンなどの炒め物、揚げ物など油を使った料理が好まれますが、首都ジャカルタの屋台では、バナナの「揚げ春巻き」の価格を、これまでの「10個」=1万ルピア(約85円)から「8個」=1万ルピアに変更しました。いわゆる「実質値上げ」です。理由は、調理に欠かせない「パーム油」の価格高騰です。政府の統計では、パーム油など食用油の小売り価格が3月30日の時点で前年の同じ時期と比べて45%から70%値上がりしています。ウクライナとロシアが世界1位、2位の生産国になっている「ひまわり油」の供給が滞るという懸念から、代替品としてアジアで生産されるパーム油の需要が拡大したのです。
ジャカルタの屋台の店主「これまでこんな高い食用油を買ったことがありません。屋台の食べ物を買う人がいなくなるのではないかと心配です」
定番料理にも影響 〜タイ〜
タイの屋台の定番、ガパオライスに欠かせない目玉焼き。その卵も値上がりしています。タイでは、家畜の飼料用として輸入する小麦の価格がこれまでの1.5倍に上昇。世界全体の小麦の輸出量のおよそ3割を占めるロシアとウクライナから輸出が滞るとの見通しが価格上昇を引き起こしています。タイの生産者団体は生産コストの上昇を理由に、3月24日から卵の希望小売り価格をおよそ3%値上げしました。卵は幅広い料理に使われるだけに、暮らしへの影響が拡大することが懸念されています。
食卓に欠かせないパンも 〜フランス〜
細長いバゲットを抱えて歩く人が街の風景になっているフランス。その値上がりはフランスの人たちの大きな心配事になっています。平均で90セント(約120円)と安価に抑えられてきましたが、小麦価格の上昇で、業界団体はこれから本格的な値上がりが広がるとみているのです。パン屋はすでに去年からのエネルギー価格高騰で、コスト増に苦しめられてきました。パリでパン屋を営むマキシム・アンラクトさんは、電気料金が値上がりする中、オーブンの電源をこまめに落とすなどして、なんとかパンの価格を維持してきました。しかし、小麦粉の価格が今後、2倍程度になる可能性も考えていて、販売価格を引き上げなければ赤字になってしまうと頭を悩ませています。
パリでパン屋を営むアンラクトさん「コロナ禍でも値上げをしなかったのに、ついに値上げに踏み切らなければならないのは、店にとってもお客さんにとってもつらいことです」
飢餓の危険増す国も 〜イエメン〜
より深刻な影響が懸念される国もあります。中東のイエメンは、小麦の輸入の4割をロシアとウクライナに頼っています。7年以上にわたって内戦が続くこの国では、輸入が減っても国内でその代わりとなる農産物を十分に生産できず、主食のパンの値段は2倍に高騰しました。これまで1日に1度の食事としてパンを家族で分け合ってきたというダルウィーシャ・バヒースさんは、通りに立って人々に施しを求めざるを得なくなったことを明かしました。
ダルウィーシャさん「物価がさらに上がれば私たち家族だけでなくたくさんの人たちが餓死してしまいます」
国連は飢餓状態とされる人がことし中に現在のおよそ5倍の16万人余りにまで増えると予測していて、パンの値上がりが人々の命を脅かす事態を引き起こしています。
さまざまな資源や食料を世界中に供給してきたロシアとウクライナ。軍事侵攻によってインフレは一段と加速し、各地で人々の暮らしに影響が広がっています。ウクライナ情勢の事態打開の道筋は見えていないだけに、値上げが今後さらに進むことも考えざるをえない状況になっています。
●ロシア、ウクライナ侵攻で死亡した兵士の遺族に沈黙を指示か 4/1
・ロシアでは、ウクライナで死亡した兵士の遺族がその事実を伏せるよう言われていると、あるロシア人ジャーナリストが明かした。
・「大騒ぎする必要はないと、彼らは言っています」とジャーナリストはBBCに語った。
・ロシアの国営メディアはウクライナ侵攻に関するニュースを厳しく検閲し、軍事侵攻がうまくいっているように見せている。
ロシアでは、ウクライナで死亡した兵士の遺族はその事実を伏せるよう、新聞は死者数を報じないよう指示されていると、ロシア人ジャーナリストが明かした。
「全ての現地メディアは、ウクライナでの死者に関するデータを一切報じないよう地域政府から指示されています」とシベリア地域で仕事をしているジャーナリストはBBC Worldの特派員オルガ・イフシナ氏に語った。
イフシナ氏によると、「当局が遺族に圧力をかけ、黙っているよう命じることもあります」とジャーナリストは話している。
「今は大騒ぎする必要はないと、彼らは言っています。あなたの息子を追悼する手立ては後で見つける、と」
ロシアはウクライナに対する軍事侵攻でどれだけの数の兵士が犠牲になったのか何週間も公表してこなかったが、3月25日、これまでに1351人が死亡したと明らかにした。
ただ、この数字はウクライナ側が公表しているものよりも大幅に少ない。北大西洋条約機構(NATO)では、7000〜1万5000人が死亡したと見ているという。
イフシナ氏によると、死亡した兵士の数を報じるロシア人ジャーナリストも標的にされている。
「ロシアでは死亡した兵士の数を報じる現地ジャーナリストに対する圧力が増している形跡があります。軍事活動中に死亡した兵士に関する初期報道の一部は削除されました。こうしたことは1日、2日で起きることもあれば、数時間以内に起きることもあります」と同氏はツイートしている。
ウクライナのベレシチュク副首相は先日、ロシア側が消息不明になっているロシア兵のリストをウクライナ側に提供することを拒否しているため、遺体を返すことができないと述べたと、ガーディアンは報じた。
「ロシア当局は遺体を引き取りたくないようだ」と副首相は語ったという。
ロシアはウクライナ紛争でどれだけの兵士が命を落としたのか、本当の数字を隠すために、移動式の遺体焼却炉を使っているとも糾弾されている。
「彼らは自分たちのためにこうした遺体焼却炉を運んでいる」とウクライナのゼレンスキー大統領は3月上旬に語った(ただ、証拠は示していない)。
ロシアの国営メディアはウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、それがうまくいっているように見せていて、戦争に関する報道は厳しく検閲されている。
ただ、従わないジャーナリストもいる。
ロシアの政府系テレビ「第1チャンネル」の職員マリーナ・オフシャンニコワ氏は3月中旬、生放送中のニュース番組で「戦争反対」のメッセージを掲げた。オフシャンニコワ氏の同僚ジャンナ・アガラコワ氏も22日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて辞職している。
●ロシア議員、ウクライナ作戦の内容は知らないが「計画通り」 4/1
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が率いる与党・統一ロシアの国会議員がBBC番組に出演し、ウクライナでの「特別軍事作戦」は完全に計画通りに進んでいると述べた。ただしその後に、作戦の内容は国会に共有されていないとも話した。
マリア・ブティナ議員はBBC番組「ハードトーク」のスティーヴン・サッカー司会者に対し、ロシア側にそのつもりがあれば軍事作戦を一気に終わらせることもできるが、ロシア側は民間人に被害を出さないよう慎重に動いているのだとも話した。
国連人権高等弁務官事務所は3月29日、ロシアによる軍事侵攻開始からウクライナでは民間人が少なくとも1179人死亡し、1860人が負傷したと発表している。
ブティナ議員は2016年米大統領選に先駆けワシントンで保守系団体に接触するなど政治活動を行い、2018年には無登録でロシア政府の工作員としてアメリカ国内で活動した罪で同国で有罪となった。2019年に強制送還されるまで5カ月間、米フロリダ州の刑務所で服役した後、2021年にロシアの国会議員に当選した。
●ウクライナ駐日大使が会見 “避難民に住まいや仕事 学校を”  4/1
ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナのコルスンスキー駐日大使が都内で会見を開き、ロシア軍による攻撃を非難するとともに、日本が受け入れるウクライナからの避難民の生活の支援に、全力をあげる考えを示しました。
1日、都内で記者会見をしたコルスンスキー大使は、ロシア軍の侵攻について「ロシアはおそらく2、3日でウクライナが敗北すると思っていただろうが、われわれは反撃し、一部の地域を解放し始めている」と述べ、首都キーウ、ロシア語でキエフ周辺や第2の都市ハルキウ、ロシア語のハリコフなどでウクライナ軍が反撃し、ロシア軍を後退させている地域もあると訴えました。
そして、ロシア兵による金銭の略奪や性的暴行が報告されていると指摘したうえで「もはやロシア軍は兵士とは呼べない。彼らは人としての名誉もなく、人命や人権への尊重もない」と非難しました。
さらに、ロシア軍が一時占拠していたチョルノービリ原子力発電所、ロシア語でチェルノブイリ原子力発電所では日本との協定に基づいて供与されていた機材も略奪されたと訴えました。
また、日本に対しては、さまざまな支援があったとして、「政府と国民の皆様に心から感謝する。多くの方から共感や支援をいただいた」と述べ、感謝の意を示しました。
そのうえで、来週には、ポーランドに避難したウクライナ人が新たに来日するとしたうえで「在日ウクライナ人とも協力し、日本での住まいや、仕事や学校、日本語の勉強などできるかぎりのサポートをしたい」と述べ、避難の長期化にも備え、日本での生活の支援に全力をあげる考えを示しました。
●日本は「戦後復興のリーダーシップを」 義援金50億円に ウクライナ大使 4/1
ウクライナのコルスンスキー駐日大使は1日、ロシアのウクライナ軍事侵攻に対する日本の役割について、「日本はスーパーパワー(超大国)という認識で、非常に重要(な存在)だ。ウクライナの戦後の復興に向けてリーダーシップを取ってほしい」と述べ、戦争終結後の積極的な関与に期待を表明した。
都内の日本記者クラブで記者会見した。
大使は先のゼレンスキー大統領の国会演説も、日本の「文化的、法的、政治的環境を理解した上で言葉を選んで行われた」と指摘し、日本が軍事的分野で果たせる役割には国内上の制約があるとの認識を表明した。その上で「日本は国際金融機関でも特別な役割を果たしている」と評価。「時代遅れの」国連安保理など、機能不全に陥っている世界の安全保障の枠組みの再構築に日本が寄与できるとの見方を示唆した。
一方、日本国内でこれまでに、ウクライナ支援の義援金が20万人から50億円以上集まったことを明らかにし、「これらの資金は人道支援目的に使われる」と語った。 
●なぜロシア軍は「ドロ道」に苦戦? 「泥濘」での「タイヤの重要性」とは 4/1
ロシアの侵攻をはばんでいる「泥濘(でいねい)」とは
ロシアがウクライナへと軍事侵攻を開始してから1か月あまりが経ちますが、依然として一進一退の攻防が続いており、戦火は止む目処は立っていません。
そのひとつの要因として「泥濘(でいねい)」によって侵攻をはばまれているといいます。
悪路走破性能に長けた軍用車両をもってしても走行困難な泥濘とはいったいどういうものなのでしょうか。
SNSの登場によって、一般市民や兵士たちが直接情報を世界中に公開できるようになったことで、日本にいるわれわれのもとへもリアルな情報が日夜舞い込んできています。
そして、そのなかには、侵攻を続けるロシア軍の戦車や装甲車が、泥のなかで立ち往生してしまっているというものも見受けられます。
もともと、ウクライナは肥沃な大地を持っていることで知られており、「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるほどでした。
しかし、それは同時に、秋から冬にかけての降雨期と、冬から春にかけての雪解け期において、多量の泥濘を生み出すことを意味しています。
深く柔らかい泥濘、つまり泥のなかにあっては、一般的な乗用車はもちろん、悪路走破性能に長けた軍用車でも走行することは容易ではありません。
泥濘は攻める側にとっては脅威であり、守る側にとっては鉄壁にも匹敵する存在です。
実際、ウクライナと気候風土の近いロシアでは、かつてソ連時代にドイツ軍の侵攻を受けた際、泥濘によってドイツ軍を阻んだという歴史があります。
こうした泥濘路では、タイヤの性能が非常に重要となります。
ただ、かつてに比べて、タイヤの性能は劇的に進化していますが、それでもこうした泥濘を乗り越えるのは簡単ではないようです。
SNS上では、ロシア軍関係者によるコメントとして「ロシアの軍用車は、1か月に1回の割合で駐車する位置を変える必要がある」という内容が投稿されています。
その理由として、日光による片方の側面のタイヤの劣化を防ぐためと説明されていますが、そこには泥濘路で走行不能になる可能性を少しでも下げるというねらいもあるようです。
泥濘路をはじめとするオフロードでは、グリップ力を高めるためにタイヤの空気圧は低く設定されることが一般的です。
しかし、空気圧を低く設定するとタイヤの耐久性は下がり、その状態での走行が続くと、タイヤへ過剰の負荷がかかり、最悪の場合には走行不能となってしまいます。
ある識者は、ロシアもしくはウクライナによるプロパガンダの可能性も考慮し、画像の内容を鵜呑みにすべきではないと指摘します。
一方で、広大な国土の大部分が泥濘によって走行困難となっていることで、結果としてロシアの侵攻は事前の予測よりも苦戦していると考えられています。
「たかがドロ道」と思ってはいけない…
今回の話から見えるのは、悪路走破性能に長けた軍用車であっても、泥濘路の走行は困難であるということです。
舗装された道路がほとんどの日本では、長距離の泥濘路を走行する機会というのはあまりないかもしれません。
一方で、前述したように、タイヤの劣化を防ぐために月に1回も駐車位置を変更している人もほとんどいないことでしょう。
定期的にタイヤの空気圧をチェックしていたり、山の残り具合を把握しているユーザーであれば大きな問題はないかもしれませんが、そうでないユーザーが、劣化したタイヤで泥や砂利であふれた道や砂浜などを走行してしまうと、パンクや破裂してしまう危険性は大いにあります。
インターネットをはじめ、現在身近になっている技術のなかには、軍事技術から発展したものも少なくありません。
また、どの国でも軍事予算(防衛予算)は国家予算のなかでもかなりのウェイトを占めることが一般的です。
それにもかかわらず、「ドロ道」でスタックしてしまうというのは意外なように思えるかもしれません。
しかし、裏を返せば、最先端の技術をもってしても、「ドロ道」は強敵だということでもあります。
「たかがドロ道」と思うことなく、未舗装路を走行する際には、タイヤやクルマの状態をしっかりとチェックするようにしましょう。
●ロシア軍「プーチンの戦争」に嫌気で自暴自棄か…誤爆、命令違反、寝返り 4/1
軍事侵攻が6週目に突入し、ロシア軍が“自暴自棄”に陥っている。停戦交渉は1日、オンライン形式で再開するが、即時停戦は期待できない。最大19万人といわれるロシア兵がウクライナ国境に集結させられてから約5カ月。攻撃を続ければ続けるほど、前線の兵士は「プーチンの戦争」にますます嫌気が差してくるのではないか。
3月29日にトルコのイスタンブールで行われた対面形式の交渉で、ロシア側は「攻撃縮小」を発表したものの、ウクライナの首都キーウなどへの攻撃はやむ気配がない。一方、ロシア軍の“ほころび”が次々と指摘されている。
英国の情報機関である政府通信本部のフレミング長官は3月31日、ロシア軍が自軍の航空機を誤って撃墜したと公表。ロシア兵の一部が命令に背いたり、自分の装備を破壊したりしているという。元陸自レンジャー隊員の井筒高雄氏がこう指摘する。
「額面通りに受け取るのは難しいですが、ウクライナに展開するロシア軍部隊の司令官20人のうち7人が死亡したとの情報を踏まえると、指揮命令系統はかなり混乱していると思われます。最前線の兵士は、自分たちの判断で動かず、上から言われた通りに動くことを叩きこまれているはず。それが徹底できないのは裏を返せば、末端が自分たちで考えて動かないといけないほど、組織が壊滅的だからでしょう。結局、戦況の良し悪しは最前線の兵士ならよく分かるので、自暴自棄や『コントロール不能』に陥っていても不思議ではありません」
前線だけでなく、クレムリンも迷走中だ。米ホワイトハウスや米国防総省によれば、プーチン大統領は軍事侵攻での苦戦について、軍幹部から正確な情報を知らされていない可能性があるという。側近すらも近づけさせなくなったプーチン大統領に、幹部が怯えて真実を話せない「恐怖のドツボ」にはまっているようだ。
プーチン大統領すら戦況をよく分かっていないフシがあるのに、現場の兵士の士気が高まるはずがない。訳も分からず前線に送られ命を落とすくらいなら、「プーチンを相手に戦った方がまだマシ」と思っているのではないか。ウクライナのゼレンスキー大統領が明かしたように、「(ロシア兵の)遺体は埋葬さえされず、路上に置き去りにされている」のであれば、なおさらだ。
実際、ウクライナ軍に投降したロシア兵の一部は、プーチン大統領に反旗を翻した。ウクライナ国防省によると、投降したロシア兵100人以上が「自由ロシア軍団」を結成、ウクライナのために戦うことを志願。チェチェン共和国のカディロフ首長率いる私兵部隊「カディロフツィ」を相手に戦うという。
ロシア軍はもはや、情報隠蔽や命令違反、寝返りなど何でもアリ。その隙を狙ってか、ウクライナの弁護士会はネット上でロシア兵に“投降の方法”を図示。1武器を下ろす2手を上げる3「投降する」と叫ぶ4投降の“合言葉”として「ミリオン(100万)」と叫ぶ──と説明している。投降した兵士にはカネを与え、家族などへ安否確認の電話をさせるという。
「ちゃんと捕虜として扱われることが前提ですが、投降の“誘い水”にはなります。とはいえ、なるべく捕虜にはなりたくないでしょうから、軍服を脱いで民間人に紛れる兵士もいるでしょう」(井筒高雄氏)
投降したロシア兵の中には1万ドル(約124万円)とウクライナの市民権を申請する権利を与えられた者もいる。これから先、「プーチン戦争」に付き合いきれない兵士が続出することになるのか。
●ロシア産ガス、「ルーブルで払わなければ供給停止」 大統領令に署名 4/1
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は3月31日、「非友好国」に指定した国への天然ガスの輸出について、ロシア通貨ルーブルでの支払いを求める大統領令に署名した。代金をルーブルで支払わない場合はガス供給を停止するとしてる。ロシアは、ウクライナ侵攻をめぐる対ロ制裁への対抗措置として、アメリカや日本を含む48の国と地域を「非友好国」に指定している。この大統領令は、ロシアから天然ガスを購入する国に対し、「ロシアの銀行にルーブル建ての口座を開設」することを義務付けるもの。プーチン大統領は、「誰も我々にタダで物は売らないし、我々も慈善事業をするつもりはない。つまり、既存の契約は停止される」と述べた。プーチン氏のこうした要求は、西側諸国の制裁で打撃を受けているルーブルの価値を押し上げるための試みとみられている。ロシア産ガスを購入する外国人は、ロシア国営企業ガスプロム傘下の銀行ガスプロムバンクに口座を開設し、ユーロか米ドルを振り込まなければならなくなる。ガスプロムバンクはこれらの外貨をルーブルに両替し、ガス代金の支払いに充てる。ルーブル建て支払いは4月1日の輸出分から適用される。しかし、欧州の買い手からその代金が支払われるのは5月中旬になると、英オックスフォード大学エネルギー研究所の研究員、ジャック・シャープルズ博士はBBCに語った。このことは、ガス供給が直ちに脅かされるわけではないかもしれないことを示唆している。ルーブルへの切り替えはロシアの主権を強化するためだと、プーチン氏は説明。西側諸国がそれに応じるなら、ロシアはすべての契約における義務を守るだろうとした。ドイツはプーチン氏が発表した支払い通貨の変更は「脅迫」に等しいとしている。
ロシア産原油・天然ガスに大きく依存
ロシアがウクライナに侵攻して以降、西側諸国はロシアに対して経済・貿易制裁を発動している。しかし欧州連合(EU)は、加盟国がロシア産原油や天然ガスに大きく依存していることから、アメリカやカナダのような輸入禁止措置は導入していない。EUはガスの約40%、原油の約30%をロシアから調達している。そのため供給が途絶えた場合、代替を確保するのは簡単ではない。一方でロシアは現在、EUへのガス輸出で1日当たり4億ユーロ(約542億円)を得ており、この供給をほかの市場にまわすことはない。
「大規模なエスカレーションの恐れ」
複数のアナリストは、ロシアがEU加盟国へのガス供給を停止して「対決を迫っている」とし、「冷戦中、最も緊迫した状況下ですら行われなかった大規模なエスカレーション」が起こり得ると指摘した。「ロシアの財源にまた大きな経済的打撃を与えることになるだろう」と、市場調査会社フィッチ・ソリューションズのアナリストたちは付け加えた。ロシアが発表したガス代金の新たな支払いメカニズムが、ユーロでの支払いを全面的に禁止するものなのかどうかもわかっていない。西側の企業や政府は、ユーロや米ドルで設定されている既存の契約に反するとして、ガス代金のルーブル建て支払いを求めるロシア側の要求を拒否している。ドイツのオラフ・ショルツ首相は3月30日、ドイツ企業は契約に定められた通りユーロ建て支払いを継続すると述べた。銀行および資産管理会社インヴェステックの石油・ガス研究責任者、ネイサン・パイパー氏はBBCに対し、プーチン氏の動きは経済的圧力を「欧州に戻す」試みだと指摘。外国為替市場でのルーブルの需要が高まればその価値を押し上げる可能性が高いとした。「一方で、長期的にみれば、ロシアは信頼できるガス供給者であり続ける必要がある。そのため、実際にガスの供給を制限するかどうかは不透明だ」と、パイパー氏は付け加えた。「とはいえ、そういうリスクがあるだけでイギリスや欧州のガス価格は過去最高値に迫り、10年平均の6倍に達している。これは消費者が支払う光熱費の急騰につながる」オックスフォード大学エネルギー研究所のシャープルズ博士は、双方が状況に順応し、貿易を中断させることなく続けていくこともできるとしつつ、反対に、一方または双方が契約違反を主張して事態をエスカレートさせる可能性もあるとしている。「事態がエスカレートして、一方または双方が仲裁を求めるような状況になっても、ガス供給が続くことを望むが、供給が停止する可能性は排除できない」
ドイツとオーストリア、緊急事態計画を発動
ガス供給の約半分と原油供給の3分の1をロシアに依存しているドイツは、国民と企業に対し、供給不足に陥ることを想定してエネルギー消費を抑えるよう求めている。ガス供給の約40%をロシアから輸入しているオーストリアは、国内市場の監視を強化している。ガスに関する既存の緊急事態計画では、起こり得るガス供給不足に備えるため、3段階の措置を設けている。ドイツとオーストリアが発令した「早期警戒段階」はその第1段階にあたる。最終段階になると、政府はガスの配給制を導入する。ロシアのガスプロム社からガス供給の90%を輸入するブルガリアは、供給停止に備えてガス貯蔵容量を2倍近くに増やす計画の一環として、地下掘削事業への入札を開始した。ロシアからのガス輸入量が5%未満のイギリスは、供給停止による直接的な影響は受けないとみられる。ただ、欧州での需要増加に伴う世界市場での価格上昇には直面するだろう。英政府はロシア産ガスのルーブル建て支払いを行う予定はないとしている。
●米英が仕掛ける「心理戦」…プーチン政権内の結束乱す「機密情報」 4/1
米国のバイデン大統領は3月31日、記者団に、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について「確証はない」としつつも「彼(プーチン氏)は外部との接触を避けているようだ」と述べ、孤立を深めているとの見方を示した。
ホワイトハウスは30日、米情報機関の機密情報に基づく分析を公開し、プーチン氏が誤った報告を提供されて「軍幹部や側近らとの間で緊張関係が続いている」などと指摘していた。英国の情報機関も30日、同様の認識を明らかにした。
バイデン氏は「彼が側近を更迭したり、自宅軟禁下に置いたりしていることを示唆する情報もある」と語った。米英はウクライナ侵攻阻止へ積極的に機密情報を公開したが、止めることができなかった。米CNNは1日、「米英はプーチン政権内の結束を乱そうと、機密情報を武器化して心理戦を仕掛けている」として、米英が引き続き情報戦を仕掛け、侵攻作戦を停止させるための揺さぶりをかけているとの見方を伝えた。
タス通信によると、露大統領報道官は「米国がクレムリンの内情を何も知らないことを残念に思う」と述べて米側の指摘を否定し、反発を示した。プーチン氏は新型コロナウイルス感染を強く警戒し、この2年間、側近にも面会前の自主隔離を求めてきたとされる。感染対策が対人関係に影響した可能性もある。
2000年から実権を握り続けるプーチン氏は、自身が所属していた旧ソ連の情報機関、国家保安委員会(KGB)出身者や同郷の人物らを重用してきた。ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記、KGB後継の「連邦保安局」(FSB)のアレクサンドル・ボルトニコフ長官が側近の代表格で、ウクライナ侵攻を主導しているとされる。
軍幹部の中では、プーチン氏とセルゲイ・ショイグ国防相は休暇を一緒に過ごす親密な関係にあるとされてきた。ウクライナ侵攻を巡っては距離も指摘される。プーチン氏が2月末の会合で、新型コロナ対策としてショイグ氏、ワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長を約8メートル離れた席に座らせたことが根拠の一つとされる。
ロシアの有力な独立系ニュースサイト「メドゥーザ」は3月末、複数のプーチン政権関係者の話として「政権内部では、首都キーウ(キエフ)陥落を諦める方向で意見がまとまりつつあるが大統領は決めかねているようだ」と報じた。
●孤立するプーチン大統領、戦況知らない恐れ…「怖くて事実を伝えない」幹部 4/1
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍は、ウクライナの首都キーウ(キエフ)周辺の軍事作戦を縮小し、東部2州の制圧地域拡大や、南東部マリウポリの陥落を目指して戦力の再配置を進めている。国際法違反の残虐行為が次々に報告されるなか、英情報当局者は「ロシア兵の命令拒否」や「士気の低さ」を明らかにした。米政府は、プーチン氏が政権内で孤立し、ロシア軍の苦戦など正確な情報が伝えられていないと分析している。戦闘長期化で、民間人にも甚大な犠牲が出ている。これ以上、独裁者の狂気の暴走≠許していいのか。
「(ロシア軍は)撤退ではなく再配置」「だまされてはいけない」
米国防総省のジョン・カービー報道官は先月末の記者会見で語った。キーウ近郊に配置されたロシア軍の20%弱が後退を開始したとの分析を披露した。キーウ北西のホストメリ空港周辺などに展開していた部隊で、補給を整え、ウクライナ国内の戦線に再配置される可能性があるという。
これに対し、ロシア側は「キーウ制圧の失敗」を隠すような姿勢だ。
ロシア国防省は3月30日、キーウ北部などに展開していた部隊は「作戦の主要方面」である東部にウクライナ軍を集結させないためのおとり≠ナあり、目的を達成したための「再編成」を開始したと主張した。
ロシア軍が攻勢を強めるのは、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの2州だ。ドネツク州の親ロ派は「州の55〜60%を支配下に置いた」とし、「州全域の制圧を目指しロシア編入を検討している」と表明した。攻防が続く南東部の港湾都市マリウポリでは、独自の「市行政機関」樹立を主張した。
マリウポリをめぐっては、英BBCなどが、米シンクタンク「戦争研究所」の分析として、ロシア軍がマリウポリ中心部へさらに進出し、数日以内に陥落する可能性があると紹介している。
ただ、ロシア軍は内部の指揮系統が乱れ、兵士の士気が下がっているとの見方も多い。
英ザ・サン紙は、ロシア軍の司令官、ユーリ・メドベージェフ大佐とみられる人物が担架で運ばれる写真を取り上げている。西側当局によると、反発したロシア兵が戦車でメドベージェフ氏の足をひいたというのだ。
さらに英ミラー紙などは、一部のロシア兵が自らの足を撃ち、病院に運ばれることで戦場から逃れようとしているとも報じている。
ロシア軍の崩壊は、軍隊ではあり得ない「命令拒否」として現われたという。
米CNNなどによると、英情報機関である政府通信本部(GCHQ)のジェレミー・フレミング長官は3月30日、オーストラリアの国立大学で「われわれは兵器が足りず士気の低いロシア兵が命令遂行を拒否し、自らの装備を破壊し、さらには誤って自軍機を撃墜するのを目撃した」などと講演したという。
大義のない侵略戦争に、ロシア兵が反旗を翻したようにも思える。ただ、いずれの事例も日時や場所など詳細は明かされていない。
ロシア軍の内部状況をどう見るか。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「ロシア軍は食料や弾薬の補給がうまく機能せず、志願者以外のロシア兵も最前線へ出されているという。こうした状況では、軍の士気が落ち、内部で反発や意図的な脱走が起こっても無理はない」とみる。
前出のフレミング氏は、プーチン氏がロシア軍を過大評価していたとの見解を示すが、プーチン氏は戦況を知らない恐れがある。
米ホワイトハウスのケイト・べディングフィールド広報部長は、プーチン氏がウクライナ侵攻での苦戦や、西側諸国の制裁で疲弊するロシア経済について、軍幹部や高官から誤った情報を伝えられているとの分析を明かした。「怖くて事実を伝えられないからだ」とも指摘している。
この状況では、ウクライナ東部の攻略も想定通りにはいかないのではないか。
世良氏は「北部の部隊を東部に転換しても、兵士が休養していなければ士気は上がらない。この状況が続けば、ロシア軍には味方への誤射や意図的な反発がますます増えるだろう」と語っている。
●ロシアにはできない…プーチンが「JCB」を羨んだ本当の理由 4/1
ロシアに対する欧米各国の経済制裁を受け、世界的なクレジットカード会社であるビザとマスターカードは、ロシア内でのカード事業を全面的に停止している。当初は、ロシア国内の銀行が発行したカードのみだったが、その後、ロシア国外で発行されたものも利用停止とした。その結果、ビザとマスターカードは、ロシア国内では全面停止、国外の金融機関が発行したものだけが国外で使える、という状況となった。
実は、ロシアのキャッシュレス決済比率は高い。『日本のクレジット統計』(日本クレジット協会)によると、2019年時点の民間最終消費支出に占める割合は47.0%で、日本の26.9%を大きく上回っている。カードの利用停止は、ロシアの富裕層の利用を阻止する効果が大きいと言われているが、他の大手カードや、アップル・ペイ、グーグル・ペイといった決済手段も停止されているので、市民の日常生活にも大きな影響が及んでいると推測される。
クリミア制裁を受け独自の国際ブランド育成へ
こうした事態には、一部のロシア国民はデジャブを覚えているだろう。2014年3月に、ロシアによるウクライナのクリミアの併合で金融制裁が科せられ、国内銀行が発行した一部のクレジットカードが、今回同様、国外で利用できなくなったのだ。
事態を重く見たプーチン大統領は、日本のJCBカードや中国の銀聯(ぎんれん)カードを例として挙げ、国内外で決済ができるロシア独自のシステムを開発するように指示した、とされる。当時、JCBカードと銀聯カードは、ビザやマスターカードと並ぶ国際ブランドだったからだ。
クレジットカードの表面には、カードのブランドとなるロゴマークが付いている。そして、世界中に加盟店があり、海外でも使えるカードのブランドを国際ブランドと呼ぶ。現在、国際ブランドは、ビザとマスターカード、JCB、アメリカンエクスプレス、ダイナースクラブ、銀聯カード、ディスカバーカードの7つを数えるだけ。JCBと銀聯カードを除くと、いずれも米国系である。
プーチンがJCBと銀聯カードを持ち上げたのは、非米国系であることも大きな要因だっただろう。ロシアの国営テレビでは、何度もJCBを紹介する番組を放送したと報じられている。
ロシア製「ミール」の国際化は道半ば
果たして、プーチンの指示は忠実に実行された。その結果、生み出されたのが『MIR(ミール)』というクレジットカードのブランドだ。決済システムを運営しているのは、国家決済カードシステム(NSPK)という会社で、NSPKがロシア中央銀行の100%出資会社であることを考えると、決済システムの開発・運営からブランドの立ち上げに至るまで、まさに国家プロジェクトだったことが窺える。
2014年のスタート以降、ミールは、アルメニア、キルギス、トルコ、カザフスタン、タジキスタンなど、おもに周辺国で加盟店を広げていったものの、それ以外の国や地域では思うような展開はできなかった。ただ、比較的早い段階でJCBや銀聯カードと提携し、国内ではミール、国外ではJCBや銀聯として使える体制を整えていた。
「ミール」展開に欠けていた営業力
プーチンの号令の下、およそ7年以上にわたって、国内産のカードであるミールと決済システムを構築してきたが、国際ブランドを育成するまでには至らなかった。そのため、今回のビザやマスターカードの利用停止によって、2014年とほとんど同じ轍を踏むこととなってしまった。その原因は何か? 1つの見方にしか過ぎないが、シンプルに言うと、「企業体としての営業力が乏しい」ということだろう。
実は、クレジットカードの加盟店開拓というのは、恐ろしく地道な作業といえる。基本的には、カードの運営側が、加盟して欲しい店舗に何らかの方法で接触することが必要だ。デジタルツールがどんなに発達しても、この部分は今も昔も変わらない。ミールは、ある程度の実績を残したが、国際ブランドにするまでの営業力がなかったのである。
となると、「国際ブランドのJCBにはあったのか」という話になるが、結論から言うと、それは「あった」。
JCBが国際ブランドになった理由
1961年、JCBの前身となる『日本クレジットビューロー』が当時の東洋信託銀行、日本信販、三和銀行の共同出資で設立された。銀行法によって、銀行本体でのクレジットカードの発行が認められてはいなかった。なお、クレジットカード会社としては国内2番目であり、1番目は日本交通公社と富士銀行が1960年に設立した『日本ダイナースクラブ』である。
そして、1981年にJCBは海外展開をスタートする。当初から、国際ブランドになるという目的を掲げていたが、インターネットの商用利用が始まるはるか前であり、ユーザーの信用情報の照会は、店がカード会社に電話をかけて確認する、という時代。実際の海外での加盟店開拓は、かなり泥臭いものだったらしい。
英語が得意ではなくても、本社の社員が直接海外に出張し、アポなしの飛び込みで営業する……。ビザやマスターカードと提携を決めた同業他社が、「できるわけがないと」冷ややかに見る中、親会社の銀行はもっと懐疑的だったようだ(このあたりの経緯は湯谷昇羊著『サムライカード、世界へ』に詳しい)。
しかし、着実に実績を積み上げ、1984年には海外でのカード発行も開始。80年代後半には国際ブランドの体裁が整っていく。こうした経緯をプーチンがどこまで知っていたのかは知る由もないが、大統領が一民間企業を称賛するだけのことはあったといえよう。
「銀聯カード」との提携が大きな抜け道に
話を現在に戻そう。他の国際ブランドからワンテンポ遅れたものの、JCBもほぼ同様の取引停止に踏み切った。念のために言っておくと、大手カード会社の利用停止措置は、ロシアの銀行に対する国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除といった経済制裁によって、同国内でのカード事業の運営が困難になったという側面もある。
ただ、こうした一連の行動に与していないところがある。前述した、中国の銀聯カード(「ユニオンペイ」とも呼ぶ)だ。逆に、ロシアの銀行と関係を深める方向に進んでおり、すでにロシア最大手のロシア貯蓄銀行(スベルバンク)は、『ミール・銀聯』というダブルネームのカードを発行する可能性を表明している。これは単なるカードの提携ではなく、ミールと銀聯の決済システムを提携するというもの。実現すれば、国内外でのカード利用の障害が大きく減少することになる。
ロシアの通貨ルーブルは、為替市場で主要通貨に対して一時約半値まで大暴落したが、現在はウクライナ侵攻前の約1割安まで値を戻している。また、中国の通貨人民元は、ここ数年でみると、対米ドルで人民元高傾向にある。ミール・銀聯カードが発行された場合、ロシア国民がカードを使うと人民元決済となり、ルーブル安をある程度はカバーできることになる。つまり、大きな抜け道ができるのだ。
銀聯カードは、中国人民銀行が設立した中国銀聯が運営している。したがって、こちらも国が主導したカードといえる。ミールとの提携について、今のところ銀聯側からのコメントは発表されていない。中国の対ロシア政策に変更が無ければ、ロシア側の発表通りに進むだろう。この問題における中国側の対応を注視したい。
●米大統領「プーチン氏は孤立」発言 ロシア内の実状は 4/1
米バイデン大統領は、ロシア・プーチン大統領について「(政権内で)孤立している」と会見で話しました。はたして真偽のほどは?ロシア政治に詳しい慶應義塾大学・教授の廣瀬陽子さんとともに、最新のロシア軍の動向とあわせて解説します。
“軍縮”ではなく“再編成”か ゼレンスキー大統領「そこは地獄」
山内あゆキャスター:人道回廊が機能するかどうか心配されているマリウポリから見ていきます。3月31日、ゼレンスキー大統領は「今マリウポリはヨーロッパで最も怖い場所。そこは地獄、大惨事です。ロシア軍が人々の移動を妨げ、救援物資の輸送もできていない」と危機感をあらわにしました。マリウポリがどうなるのかということが大変注目されています。ただ、ロシア側は停戦交渉の中で、首都キーウ(キエフ)と北部チェルニヒウ方面に関して軍事行動を大幅に縮小すると言ったのです。その北部にあるチョルノービリ(チェルノブイリ)原発について、原発運営会社「エネルゴアトム」は3月31日、「チョルノービリ原発に現在、部外者はいない」とSNSに投稿しました。また、IAEA=国際原子力機関は、「ロシア軍が原発の管理をウクライナ側に戻したと、ウクライナ側から連絡があった」という声明を出していて、状況が一歩進んだような印象を受けます。首都キーウ(キエフ)については3月31日、バイデン大統領が「プーチン大統領がキーウから全軍を撤退させている明確な証拠はない。(軍縮小は)私は懐疑的だ」と疑問を呈しました。さらに、アメリカの国防総省の高官は「北部のチェルニヒウ周辺でも戦闘は続いている」「キーウの北側でロシア軍の再配置が始まっている」として、“ロシア軍が本国に戻る兆候は全く見られない”とし危惧しています。
ロシア内部の動きは?プーチン大統領は孤立?
山内キャスター:ロシア内部の動きについて、ホワイトハウスの広報部長は「プーチン大統領は側近らから、戦況の悪さや経済制裁の影響について、誤った情報を伝えられている」と分析しています。つまり、側近らはプーチン大統領が怖くて真実を報告できていないのではないかとみています。バイデン大統領も3月の会見の中で、「プーチン大統領は孤立しているように見える」としていて、「確実な証拠はない」と前置きした上で「何人かの側近をクビにしたり、軟禁したりしている兆候がある」とも話しました。
ホラン千秋キャスター:プーチン大統領は孤立化しているのではないかという報道がありますが、実際のところ今どうなっているのでしょうか。
慶応義塾大学 総合政策学部 廣瀬陽子教授:実際に孤立していると考えられます。特に、この孤立というのはコロナ時代からずっと続いていることで、まずはコロナ感染を恐れて自ら孤立していったということがあったわけです。それが今でもずっと続いている。孤立の中でさらに疑心暗鬼になって、どんどん殻にこもって、今はどこにいるか殆ど分からないというような状況になっているとも聞いています。そのため、側近も近寄りがたくなってしまい、プーチン大統領が機嫌の悪くなるようなことを言うと何をされるか分からないということで、実情を伝えられない状況が続いています。それがさらに戦況も悪化しているので、またプーチンの怒りが増すというような、悪循環が起きているようです。
ホランキャスター:停戦交渉などで出てきている情報と、現実が乖離している部分があると思いますが、専門家の皆さんは実際に何が起きているのかについて、どのように情報収集されているのでしょうか。
廣瀬教授:今の状況は非常に分かりづらく、全てが情報戦の中で展開されているという部分があります。ですので、色んな情報を総合的に見ていくわけですが、今回の一連の流れでは欧米の情報の精度が非常に高いということがあります。まずそこをメインに見つつ、現地の情報を得られるものを少しずつ総合して、現状判断していくということをやっております。
井上貴博キャスター:ロシアで強権政治を敷いてきたプーチン大統領の足元が、そんなに簡単に揺らぐのかなという見方もありますが。欧米、西側諸国としてはプーチン大統領が失脚するのをみているしかないということなのでしょうか。
廣瀬教授:残念ながらそういうところがあります。今、プーチンに物を言える人というのが国内外にいないんですね。そうなると、やはりロシア国民がプーチン大統領を引きずり下ろしていく、ということしか考えられないわけなんですけれども、まだプーチン大統領の支持率は非常に高いという状況です。しかも情報統制を非常に進めており、各地で起きている反対行動なども熾烈な手段を使って抑え込んでいるということがあります。なかなか国民がプーチン大統領を引きずり下ろす、というのもちょっと難しい展開になっています。
中国とインドの動きは?ロシアとは“つかず離れず”
井上キャスター:最後に中国とインドの動きをどうみているのか教えてください。
廣瀬教授:中国とインドはまともにロシアにつかず離れずの状況で、“基本的に反対はしないけれども積極的に支持もしない”というところです。特に中国は財政などの援助でロシアに寄り添い、そしてインドも制裁をしないような形でロシアに寄り添うというようなところです。欧米との関係とバランスをとりつつ、経済制裁の火の粉が及んでこないレベルでロシアを支えていくとにみられます。
井上キャスター:そのあたりの綱引きというのが、続いていくのかもしれません。 
●プーチン氏が発した“第五列”という文言 それは裏切者を見つけ出す言葉 4/1
プーチン大統領は3月16日、政権幹部を前にした演説で、「第五列」の人間を排除すると語った。「第五列」とは自国にいながら敵の見方をするもの、即ち裏切者を意味する言葉で、ソ連時代にスターリンが行った大粛清を彷彿とさせるものだ。なぜ今、そうした言葉を使ったのか…。そこにはプーチン大統領の危機感も垣間見える。
中露外相会談ロシアの生き残りを模索か
30日午後、中国の安徽省でロシアのラブロフ外相と中国の王毅外相が会談した。会談後、ロシア外務省は、ラブロフ外相と王毅外相が会談で戦略的パートナー関係の強化を続けていくことで一致したと発表した。沈黙を続けてきた中国は今、なぜ、外相会談に臨んだのだろうか。
拓殖大学海外事情研究所 名越健郎教授「中国にすれば、ロシアは国際社会で孤立しているから放置しても中国についてくると。そう冷淡に観ているところがある。一方で、プーチン政権が倒れることを恐れている。その場合、中国の北に親欧米政権が出来る、これは中国にとって悪夢だ」
森本敏 元防衛大臣「プーチン大統領の生き残りではなく、ロシアの生き残りを、ラブロフ外相が自分の職をかけて中国を誘いかけた。仲間を作ってくれと。うっかりしたことをやると自分も危なくなりますから、そういう意味では中国をそそのかして、しかもこれは、王毅を狙ってであって習近平ではないというところに大きなカギがある。習近平氏はこんな考え方は持っていないと思う。習近平はもっと冷淡だと思う」
プーチン氏の「第五列」演説大粛清の始まりか?
こうした政権の焦りは、プーチン大統領の演説にも垣間見ることが出来る。3月16日政権幹部を前に厳しい口調でこう話した。
「西側諸国は“第五列”を使って目的を達成しようとしている。目的はロシアの破壊だ。真の愛国者とクズ野郎や裏切り者は区別できる。裏切り者は口に飛びこんだハエのように吐き出せば済む。自浄のみがロシアを強くする」
自浄というロシア語は「自分」と「粛清」を合わせた言葉だという。この「粛清」という響きと「第五列」という言葉は、ロシアの人々に特別な記憶を呼び覚ますものだという。
防衛研究所 兵頭慎治政策研究部長「これはスターリンの粛清・恐怖政治を予感させる表現だ。今後、反戦的なうねり、反プーチン的な世論の動きが高まるなか、そういう人たちは外国の手先であって愛国者じゃないんだというレッテル貼りをしながら力づくで抑えようと、それぐらいロシア国内の世論の変化をプーチン氏も敏感に感じ取っていて、こういう表現を使い始めているのだと思う」
スターリンは「第五列」という言葉を使い1930年代に反体制派だけではなく、自分に非難的な一般市民を密告させるなどして処刑、その数は少なくとも350万人に及んだといわている。
森本敏 元防衛大臣「プーチン大統領はいよいよ自分の生き残りを図ってきたという印象を強くする。政治的にも自分が不利にある状態であることが分かってきて、軍も自分が思った通りにならない、周りに反抗する者もいる。このままだとプーチン大統領が追い込まれて、刑に服することになる。どうして生き残ったらいいかということを考えて、身内の周りの裏切り者を粛清し、同時に第二作戦を展開する。恐らくその間に軍人の何人かが更迭され粛清され、そういうことをやって自分の生き残りの体制を図ろうとしている」
現実にプーチン大統領の演説以降、恐怖政治の兆しは随所で見られるようになった。ロシア大統領府のぺスコフ報道官は17日、「きわめて多くの人々が裏切り者になっている。こういう人たちは、自ら私たちの社会から消えている」と発言。連邦上院も29日、「第五列」を壊滅させる法案を準備する予定だと発表した。こうした中、ロシアの街でも、住民が反体制派とみられる家にはペンキでZの文字が書かれ「祖国を売るな」などの落書きが見つかっている。Zはロシア軍が今回の侵攻に際し、戦車などの印として用いているもの。ロシア側がいう、ウクライナのジェノサイドから住民を救う“特別軍事作戦”のシンボルとなっているものだ。
防衛研究所 兵頭慎治政策研究部長「年上の人たちはソ連時代を知っている。ソ連の崩壊で自由を知った。この状況に年上の人たちも相当の違和感を持っていると思う。これは中長期的にはプーチン体制に対する疑問符を突き付けることになるのではないか」
交渉で停戦の兆しを“演出”か
こうしたなか、ロシアは29日、トルコのイスタンブールでウクライナと4回目の対面での停戦交渉を行った。ここでウクライナは、いかなる軍事連携にも参加しないことや大量破壊兵器を製造・配備しないこと、それを受け入れる条件として、第三国を「保証国」とする新たな安全保障の枠組みも提案、クリミアの帰属も今後15年かけて話し合っていくなどとした。これをロシア側は前向きにとらえ、キーウ周辺の攻撃の縮小などを表明した。しかし…
森本敏 元防衛大臣「ロシアは全体の戦況は不利なので、外交交渉らしきものをやって時間を稼ぎ、その間に戦力の立て直しをする。部隊を再編してもう一回戦力を作り直す、時間を稼ぐためにやっている」
ロシア側は全く停戦などを考えているわけではなく、作戦だというのだ。そして、戦争が続いている中での交渉は敗けている側が折れるもので、ロシア軍が不利な状況となっている中で、ウクライナが妥協するような提案をしたことは考えられないと話した。さらにプーチン氏の立場から言っても、停戦の合意は不透明だとそれぞれの専門家も分析する。
拓殖大学海外事情研究所 名越健郎教授「プーチン氏は一定の戦争目的を達成したと国民に説明する必要がある。今のところ進展がありそうなのは、ウクライナの中立化だけ。しかし、中立化だけで国民を説得できるのか?合意に達するかどうかはまだ不透明だ。戦争は続いているわけで、戦況によっても落としどころは変わってくる。ますます戦闘が激化する可能性もある。予断を許さない」
森本敏 元防衛大臣「ロシアによるキーウ中心の北部の作戦は基本的に失敗。従って東南部に戦力を集中させるために一旦下がって、もう一回部隊を再編してこちら(東南部)に入れる。ウクライナを東西で分断して東側を確保する、そういう戦略をとっているのかもしれない」
防衛研究所 兵頭慎治政策研究部長「ロシアによるキーウ周辺の動きは滞っていて、これ以上、中心部に進軍することは出来ない。その状況を上手く利用して、ロシアは外交交渉であたかも歩み寄っているかのような姿勢を示しているので、本当にキーウから撤退するのかどうかは見極めないといけない」

 

●「虐殺者」発言…米国内でも非難集中のバイデンが「謝罪」しない理由 4/2
3月26日、ジョー・バイデン米大統領がポーランドの首都ワルシャワ市内にある旧王宮で行った演説が物議を醸した。
「この男が権力の座に居座ってはならない」――。もちろん、「この男」とはウラジーミル・プーチン露大統領を指す。「……ロシアはウクライナで勝利を手にすることはない。自由を求める人々は、失望と暗闇に満ちた世界を拒むからだ。私たちには、民主主義と自由、可能性に根付いた明るい未来が訪れるだろう」と述べ、冒頭の「この男が…」と続けて演説を締めくくったのである。
波紋は大きかった。ロイター通信が速報で「バイデン氏はロシアにおけるプーチン氏の権力や体制転換について語ったわけではないと、米政府高官が述べた」と配信した。
しかし、ロシア大統領府の反発は当然であるとしても、米国内の外交・安全保障専門家らは「大統領発言が困難な状況をさらに困難にし、危険な状況はさらに危険となった」と、一様に強く批判した。
発言の火消しに追われて
ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)、先進7カ国(G7)の各首脳会議を終えてバイデン氏とは別行動で26日にイスラエル入りしたアントニー・ブリンケン国務長官もバイデン発言の火消しに追われて大わらわだったと報じられた。
問題視された「この男が」以下のフレーズがバイデン氏のアドリブ発言だったにせよ、脇の甘さ、無警戒さから来る「失言」であるとの批判が国内外で噴出し、バイデン氏は「体制転換を求める意図はなかった」と釈明を余儀なくされた。
だがバイデン氏は帰国後の28日、ホワイトハウスで記者団に対し「自分が感じた道徳的な怒りを表現したのであり、謝罪はしない」と、態度を一変した。
この豹変の前日ごろからホワイトハウス記者団の一部で、実はバイデン氏は確信犯であり、観測気球として演説直前に訪れたウクライナの難民施設でプーチン氏を「虐殺者」と呼び、その延長線上の発言であった可能性が強いとの見方が広まっていたのである。
言葉による先制攻撃
その理由として挙げられたのは、プーチン氏がウクライナの首都キエフ制圧から東部・南部戦線に戦力を集中させる軍事作戦へ転じたことにより生物・化学兵器使用の可能性が高くなったことがあるというのだ。言葉による先制攻撃である。
ここでロシアがウクライナ軍事侵攻を開始した2月24日以降のバイデン政権の対露制裁を振り返ってみる。極めて入念な事前の準備をしていたことが分かる。
メリック・ガーランド司法長官は3月2日、司法省を中心に国家経済会議(NEC)、財務省、商務省など省庁横断のタスクフォース「クレプト・キャプチャー(Klepto Capture)」の新設を発表した。ロシアのオリガルヒ(新興財閥)を捜査対象とする部隊である。
年初から財務省のブライアン・ネルソン財務次官(テロ・金融犯罪担当)が率いる金融犯罪捜査網(通称「FinCEN」Financial Crimes Enforcement Network)と連携して海外のタックスヘブンに逃避させたオリガルヒの巨額資産の洗い出しから経済・金融制裁のメニュー作りを進めてきた。一言でいえば、プーチン専制体制の弱体化を狙っているのだ。
見据える「最終戦争」
もう一つ見落としてはならないのは、3月24日に開催されたG7首脳会合後の共同声明である。その文中にある「evasion(回避)」、「circumvention(迂回)」、「backfilling(抜け穴)」の3単語が極めて重要である。
すなわち、中国を念頭に置いてロシアとの裏取引で制裁効果を削ぐような行動もまた制裁の対象になると、強く警告を発しているのだ。と同時に、多国籍企業や国際機関はロシアとは従来のビジネス活動をすべきではないとまで言い切っている。そして岸田文雄首相は4月1日の衆参院本会議で行ったG7首脳会合に関する報告の中でも、この「回避」、「迂回」、「バックフィル」という言葉を使った。
こうしたワーディングを使用した共同声明文作りは米ホワイトハウスのダリープ・シン国家安全保障担当大統領副補佐官と英首相府のデービッド・フロスト首相補佐官が中心となってまとめたとされる。シン氏も米財務省出身であり、オバマ政権下ではネルソン現次官と同じポストにいた金融犯罪摘発のプロである。
結論を言えば、バイデン氏は「いまそこにある危機」としてプーチン氏と直接対峙しているが、ウクライナ戦争後の米中覇権抗争を視野に入れた中国の習近平国家主席との“最終戦争”が控えているので、プーチン氏に対し「殺戮者」、「権力の座に居座ってはならない」と、ついつい本音が出てしまったということだろう。従って、世界中から過剰な期待が集まる停戦協議で「成果」があるとは思えない。
●南オセチアにロシア編入論 ウクライナ侵攻さなか―プーチン政権「戦果」模索 4/2
ウクライナで東部の親ロシア派「保護」を口実にしたロシアの侵攻が続く一方、ジョージア(グルジア)北部の親ロ派支配地域、南オセチアのロシア編入論が浮上している。南オセチアのビビロフ「大統領」は3月末、編入に向けた法的手続きに入る方針を表明。プーチン政権の意を受けた発言とみられ、ウクライナ東部の親ロ派が編入を検討している動きとも関連がありそうだ。
ジョージアに共通点
「(ロシア南部)北オセチア共和国との統合が必要だ」。旧ソ連軍出身のビビロフ氏は31日、ロシア国営テレビにこう主張。プーチン政権が勢力圏を重視する中、編入に意欲を示した。
南オセチアは、ロシアが軍事介入した2008年のジョージア紛争の舞台。やはり親ロ派住民の「保護」が名目だった。結果、二つの分離独立地域、南オセチアとアブハジアはロシアから「国家」承認された。
ウクライナもジョージアも旧ソ連構成国で、08年に北大西洋条約機構(NATO)から「将来的」な加盟を約束されるなど、欧米に接近していた点で共通する。ウクライナ東部の親ロ派支配地域「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」は今年2月下旬、プーチン大統領が「国家」として承認。国際社会は認めず、南オセチアと同じ状態となった。
プーチン政権は、ウクライナ侵攻を続けるものの、首都キーウ(キエフ)など北部の制圧に失敗し、激戦地マリウポリを含む東部の親ロ派の勢力拡大に作戦をシフトする。日米欧から大規模制裁を受ける中、停戦を受け入れる際、ロシア国内にアピールする必要がある「目に見える戦果」づくりを急いでいるもようだ。
ただ、東部はもともとロシアが親ロ派を通じて間接支配していた地域。仮に併合を強行しても、軍や経済に多大な犠牲を強いた「特別軍事作戦」の成果としては、明らかに見劣りする。
ロシアと運命共同体
このため戦果を「かさ上げ」しようと、ロシアにとってウクライナと同じく対NATOの前線であるジョージアで、編入論が持ち上がった可能性がありそうだ。くしくも南オセチアは現在、ウクライナに武装部隊を派遣しており、ロシアと「運命共同体」であるとも主張されている。
また、報道管制が敷かれてもロシア軍の苦戦は本国に漏れ伝わっている。南オセチア問題は、国民の目をそらす材料になるとみられる。
アブハジアは、南オセチアに同調しない方針。一方、ルガンスク人民共和国の幹部が3月下旬、編入に向けた住民投票に言及した際は、ロシア下院の有力議員が火消しを図った。この議員は今回、南オセチアの編入は「法的に可能」と指摘するものの、実現に動けば、クリミア半島併合のように国際社会から批判を浴びるのは必至で、あくまで観測気球にとどまることもあり得る。
●ロシア反体制派指導者が暴いた「プーチン」「側近」の腐敗 4/2
世界各国でプーチンとその側近らに対する資産凍結措置が強化されている。本誌(「週刊新潮」)3月24日号で報じたラブロフ外相のダミー会社の存在についても日本の関係省庁が関心を示す一方で、ロシアの反体制派指導者が暴くプーチン・ファミリーの腐敗は底知れぬ闇をのぞかせていた。
プーチン最側近の一人であるラブロフが、通称「青山ハウス」と呼ばれる“秘密拠点”を都内に持ち、コロナ禍前までは来日のたびに同ハウスを愛人との密会に利用していたことは本誌3月24日号で既報の通り。ロシアの諜報活動を捜査する警視庁公安部外事1課(通称・ソトイチ)はこの動きを長期間、監視していた。
その愛人の名は〈スヴェトラーナ・ポリャコーヴァ〉。昨年9月、ロシアの反体制派で野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏がプーチン政権の腐敗を告発した一連の「ナワリヌイ・レポート」で明かされている。同レポートでは、ポリャコーヴァは映画やテレビの制作に携わる元女優で、2019年にラブロフと一緒に撮られた写真も掲載。
さらに彼女は〈過去7年間でラブロフの大臣専用機で60回以上〉、世界二十数カ国の外遊に公費で同行し、そのなかに〈日本〉が含まれていたことも暴露された。具体的に〈17年3月19日から21日〉にかけてポリャコーヴァばかりか、その娘も一緒にラブロフに同行して訪日したと記述している。
「実際、同月20日、ラブロフは岸田文雄外相(当時)と都内で会談しており、レポート内容の信憑性に疑問を挟む声は少ない。むしろロシア国内では“大臣なんて皆、それくらいやってるでしょ”といった反応が大半です」(全国紙ロシア特派員)
モスクワ郊外の刑務所に収監中
20年、シベリアでナワリヌイ氏は神経剤ノビチョクで毒殺されかけ、安全のためドイツで治療。翌年、帰国したところをロシア当局に逮捕され、現在に至るまでモスクワ郊外の刑務所に収監中の身だ。
「昨年2月の収監以降に発表されたレポートは野党関係者や反体制派など、ナワリヌイ氏の仲間が執筆を担当したものとされます。3月15日、ナワリヌイ氏は新たに問われた詐欺罪などで禁錮13年を求刑され、獄中生活は長期化する見通しです」(同)
同レポートで興味深いのがラブロフとオリガルヒ(新興財閥)の一人である“アルミ王”ことオレグ・デリパスカとの関係だ。
レポート内で、ラブロフが〈外相の地位を利用してデリパスカの問題を解決〉し、〈デリパスカのビジネスに貢献〉。その見返りの一つとして、ラブロフと愛人のポリャコーヴァが〈デリパスカ所有の自家用機を自分たちの飛行機として乗り回している〉と記す。
国税が査察
青山ハウスを所有する英領バージン諸島に登記された法人は「デリパスカが実質オーナーを務める会社」(政府関係者)で、同ハウスを管理する都内・有明に本社を置くJ社は「ラブロフのマネーロンダリングのためのダミー会社」(警察関係者)と見られている。
J社にはこれまで海外のデリパスカの関連会社から大量の入金があり、加えて神奈川や静岡にデリパスカの資金で物件を所有。しかし賃料収入などを全く申告していなかった。ソトイチの情報により、16年夏以降、国税当局が法人税法違反の疑いで1年以上の長期にわたって査察に入っていた。
甘い汁を吸った日本人
実はJ社にはラブロフもデリパスカも知らない“秘密”があるという。
「ビジネス面ではラブロフの愛人が采配を振っていたようですが、J社の実務を取り仕切っていたのは日本人女性のIです。代表のMは“雇われ社長”のようなもので、実権は主にIが握っていた」
と話すのは同社関係者。Iはラブロフが青山ハウスに立ち寄った際の食事の手配や、箱根好きのデリパスカが来日した際に彼の子供をディズニーランドに連れて行くなどの世話も担当していたという。
「J社の運営資金はデリパスカが出していましたが、Iは日本人スタッフの人件費やハイヤー代などをバレないように水増し請求。他にも自身が香港に作ったペーパーカンパニーにコンサル料名目でカネを振り込ませ、海外での不動産購入代金に充てていた」(同)
国税のマルサが入った時、すでにIはマレーシアに移住していたため追及は免れたという。アルミ王のカネで甘い汁を吸ったのはラブロフばかりではなかったというのだ。
12人の売春婦
真相を確かめるため、マレーシアの自宅に電話してIに質問したが、「コメントは差し控えさせていただきます」 と言って、通話は一方的に切られた。
スタッフの日本人女性にまんまとカネをくすねられたとしても、デリパスカにとっては目くじらを立てることではないのかもしれない。なにしろ純資産2600億円超という。ナワリヌイ・レポートに〈18年、デリパスカが12人の売春婦を連れてヨット旅行に行った〉という常識外れの豪遊がスクープされており、アルミ王のあり余る資金力がうかがい知れる。
同レポートはロシアの独立系メディアが公表した調査報道記事を参照している部分があり、その引用元の記事には、ラブロフは〈6億円以上の高級不動産を所有〉する一方で、愛人のポリャコーヴァは〈モスクワ中心部の高級住宅〉のほか、〈ソチの高級リゾート地に建つアパートメント〉なども所有し、資産総額はラブロフを上回るとされる。
年収は13億円超
そしてラブロフ以上に財を成したとされるのが、ロシア国営石油大手ロスネフチCEOのイーゴリ・セーチンだ。“ロシアのダース・ベイダー”と畏怖されるセーチンは、プーチンと同じ情報機関出身と噂され、副首相も務めたプーチンの側近中の側近である。
年収は13億円を超え、モスクワ郊外に70億円の大邸宅を建てたほか、〈妻の名前を付けた1億5千万ドル相当のクルーザーを購入〉したことなどがナワリヌイ・レポートで報じられている。しかし、その豪華クルーザーも今月、押収されたという。
「修理のため南仏の港に停泊中だったところをフランス当局に押収されました。セーチンは他にも、アフリカなどで大型獣を狩るトロフィーハンティングが趣味とされ、キリンやライオンを撃ったとの“伝説”も持つ。実際、会社のパートナーに狩猟で殺した動物で作ったソーセージを好んで贈ることはよく知られています」(前出・特派員)
元防衛大学校教授で、国際問題研究家の瀧澤一郎氏が話す。
「ロシアの権力者が取る行動はだいたい皆、似通っています。モスクワ中心部に高級マンションを所有し、同時に田舎に何万坪もある宮殿のような別荘を建てる。さらに3千トン級のヨットを持ち、妻や愛人は毎週のようにパリやロンドンに行って買い物三昧……。西側諸国の人間から見れば腐敗と映るでしょうが、帝政時代の全体主義から共産主義のソレへと移行した後にソ連崩壊を迎えた彼らにとって、健全な市民社会や統治のありようなどは理解できない代物なのです」
●ロシア軍は空爆強化、まだマリウポリに「10万人」…市長側「脱出すら危険だ」  4/2
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの国防省は1日、南東部マリウポリで孤立する民間人の退避ルートを設定すると発表した。一方で、避難がロシア側に妨害されているとの情報もあり、露軍による空爆はむしろ強化されている。マリウポリでは、露軍の包囲攻撃が始まって1か月となる。さらなる人道危機の深刻化が懸念されている。
マリウポリでは停電や断水、食料不足の中で「10万人」(ウクライナ副首相)の住民が取り残されている。英BBCによると、赤十字国際委員会(ICRC)は3月31日に住民退避のための車両派遣を計画していたが、露軍に足止めされ、1日に改めて派遣を試みている。マリウポリ市長の側近はSNSで「住民が脱出することすら非常に危険な状況だ。露軍の妨害で支援物資も届いていない」と訴えた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月31日、国民向け演説で「露軍がマリウポリ方面に強烈な攻撃を加えようとしている」と警戒を促した。
米国防総省によると3月31日時点で、露軍の過去24時間でのマリウポリなどへの出撃回数は300回を超えた。同省高官は「地上部隊の進軍を緩める中、空からの圧力をかけ続けている」との見方を示した。ロシアは民間人退避に協力する構えをみせる一方、制圧に向けた攻撃も継続している。
タス通信によると、親露派武装集団はマリウポリで、行政組織を設置する準備を始めた。マリウポリは、ロシアが2014年に併合したクリミアと東部の親露派支配地域を地続きで結ぶ要衝となる。プーチン露政権は首都キーウ(キエフ)の攻略に失敗したとされる中で、マリウポリを抑えて今回の侵攻の戦果としたい狙いがあるとみられている。
ウクライナ国境に近い露南西部ベルゴロド州の知事は1日、同州の燃料貯蔵施設で火災が発生し、ウクライナ軍のヘリコプター2機に空爆されたと主張した。露軍がこれを口実に攻撃をさらに強化する恐れがある。
一方、英国防省は1日、ウクライナ軍がキーウと北部チェルニヒウを結ぶ幹線道路沿いの村々を奪還しているとの分析を発表した。
ロイター通信によると、ロシアとウクライナは1日、オンライン形式で停戦協議を再開した。露代表団のウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官は1日、SNSに「クリミアと東部についてのロシアの立場は変わらない」と書き込んだ。ウクライナ側が15年かけての解決を主張しているクリミアの地位に関する交渉を拒否する考えを表明したものだ。協議の短期間での進展は見通せない状況だ。
●プーチン大統領 支持率 “4年ぶりに80%超” 独立系の調査機関  4/2
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領の支持率が、およそ4年ぶりに80%を超えたと独立系の世論調査機関が発表しました。
民間の世論調査機関「レバダセンター」が3月24日から30日にかけて、ロシア国内の18歳以上の1632人に対面で調査したところ、「プーチン大統領の活動を支持する」と答えた人は83%に上り、「支持しない」と答えた15%を大幅に上回りました。
去年11月の時点で63%にまで落ち込んでいた支持率は、ウクライナ国境周辺にロシアが軍の部隊を展開させるようになって以降徐々に上がり、ことし2月にロシアがウクライナに軍事侵攻する直前に行った調査では71%でした。
その後の1か月で支持率が12ポイント上がった形で、2018年4月以来およそ4年ぶりに80%を超えました。
また「ウクライナへの軍事行動への賛否」について尋ねた調査では「明確に賛成する」「どちらかといえば賛成する」が合わせて81%で、「明確に反対する」「どちらかといえば反対する」が合わせて14%でした。
特に、大統領を支持すると答えた人だけで見ると、合わせて89%が「賛成する」と答えています。
一方で年齢別に見ると、55歳以上の64%が「明確に賛成する」と答えたのに対して、24歳までの若い世代では「明確に賛成する」は29%にとどまりました。
こうした結果について「レバダセンター」は「政権によるプロパガンダを信じる国民が多いことを示している。地方の人たちや高齢者はプロパガンダを伝える国営テレビが情報源であり、都市部の若者たちがSNSなどから真実を得る状況とはまるで違う」と分析しています。
「レバダセンター」は2016年、プーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも独自の世論調査活動や分析を続けています。
●ウクライナ軍事侵攻下で行われた第94回アカデミー賞を総括 4/2
3月27日(日本時間28日)にロスアンゼルス・ドルビーシアターで挙行された第94回アカデミー賞で、濱口竜介監督(43)の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞した。日本映画としては2008年の「おくりびと」(滝田洋二郎監督)以来の快挙。同作品は他にも作品賞、監督賞、脚色賞にノミネートされ、史上最も高い評価を受けた日本映画になった。
濱口監督は東大文学部で美学芸術学を専攻し、東京藝大大学院映像研究科在学中に黒沢清監督らの薫陶を受けた俊英。これまでに「PASSION」「ハッピーアワー」「寝ても覚めても」「偶然と想像」等の作品で注目されてきた。今回の「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹氏(73)の短編小説集『女のいない男たち』(文春文庫)を題材に、妻を亡くした舞台演出家の男性(西島秀俊)と、母を失った過去を持つ寡黙な女性運転手(三浦透子)の姿を丁寧に描く。昨年のアカデミー賞を席巻した「ノマドランド」(クロエ・ジャオ監督)と同じく、何かを失った人の抱える喪失感を描く系統の作品だが、濱口映画の真骨頂はそれに留まらない。
快挙「ドライブ・マイ・カー」は劇中劇で見せる西島秀俊の演技が超絶
主人公の演出家はチェーホフの芝居「ワーニャ伯父さん」(劇中劇)を手掛けるが、その稽古は独特で、日台韓からなる多様な役者はあえて感情を乗せないでセリフ(多言語)を棒読みにする稽古を重ねる。そうすることによって舞台本番で感情が自ずと発露される効果を期す演出法だ。広島にある稽古場と呉の宿を日々往復する赤いサーブ900の車内ではテープに録音していた亡き妻がセリフ合わせを行う「声」が再生されるが、それも棒読み。運転手との会話も抑制の効いた静かなものだ。そうした極度に「平坦化」された現在の風景と、過去における「秘密」の再生、そして来たるべきチェーホフの芝居本番という三重構造が折り重なり合う中で、大切な人を失った自責の念を、他者の現実をありのままに受容することによって克服する過程と、遺された者が生き続けることの意味が描かれる。
チェーホフの劇中劇で見せる西島秀俊の演技は超絶だ。北海道の雪山における主人公の慟哭は深く心に響き、女性運転手が自らの人生を前に進めるラストシーンは爽快。脇を固める岡田将生と霧島れいか、手話を使うパク・ユリムらの演技も素晴らしい。フェイクが横行する現代にあって、何が本当なのかを決めつけることなく現実と真摯に向き合い、虚実を相対化するという「克己の道程」が、かつてないほどに美しくかつロジカルなカメラワークを駆使して物語られる。3時間近い大作だが、現在の日本映画界が誇るべき傑作であることは疑いようがなく、必見だ。
コロナ禍で映画館興業が苦戦を強いられる中で台頭したのがネット配信映画だが、今年の作品賞は遂にApple配信映画が獲得した。シアン・ヘダー監督(44)の「コーダ あいのうた」で、仏映画のリメイク版。聴覚障害を持つ家族が漁業を営む中、歌手を志すも反対される高校生の娘を主人公に、家族愛を謳い上げて多くの人の共感を得た。助演男優賞に輝いた父親役トロイ・コッツァーが受賞スピーチを手話で行った際、会場の参加者は掌をひらひらさせる手話式「拍手」を贈った。今回のアカデミー賞の象徴的光景だ。
「人間存在への愛」「多様性に対する繊細な感覚」重視は原点回帰
ノミネート段階で本命視する声もあったNetflix配信映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は、ジェーン・カンピオン(67)が監督賞を受賞(昨年のクロエ・ジャオに続き女性監督の受賞は2年連続)したものの、作品賞は逃した。粗野で威圧的な兄と繊細な弟をはじめとする家族の対立と葛藤を1920年代のモンタナを舞台にして骨太に描いた作品だが、コロナの惨禍、経済格差による社会の分断、ウクライナ危機という余りにも冷徹な現実の只中にある今年のアカデミー賞では、広く支持を集めるに至らずに忌避された感がある。アカデミー賞審査員による最終投票は3月17日から22日まで実施されたが、2月24日に始まったウクライナ侵攻の影響は否定できないだろう。「人間存在への愛」と「多様性に対する繊細な感覚」を重視した今年のアカデミー賞は、危機の時代にあっての原点回帰を志向したものだと言える。
受賞式典では、ウクライナのゼレンスキー大統領の中継参加も検討されたが実現せず、代わりにウクライナ支援を呼びかける黙祷メッセージが掲示された。他方で、プレゼンターのクリス・ロックに妻ジェイダ・ピンケット・スミスの頭髪を揶揄されたウィル・スミスが激昂し壇上で平手打ちする後味の悪い場面も。2016年にアカデミー賞の白人偏重批判の口火を切ったウィル・スミスは今回、遂に念願の主演男優賞を獲得した。しかし受賞スピーチでは、アカデミー関係者に謝罪し「家族を守る」大切さを強調したものの、クリス・ロックへの暴力自体を反省する姿勢は見せなかった(その後SNSで謝罪)。図らずも「家族を守る大義」、「行き過ぎた表現の自由の限界」と「暴力行使の是非」について見る者に考えさせる一幕になった。
他にも、撮影賞・美術賞など最多6冠に輝いたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「DUNE/デューン 砂の惑星」はフランク・ハーバートによる傑作古典小説の映画化作品で、一部でカルト的人気を誇るデイヴィッド・リンチ監督作品(1984)を過去のものにする「完成度の高さ」を誇る新生SF大作(全2部作予定の第一弾)。専制政治に虐げられる「砂の惑星」の民が待望する救世主を描いた壮大な叙述詩で、「風の谷のナウシカ」ファンならずとも必見だ。
「ドライブ・マイ・カー」の原作で改めて注目される村上春樹氏は、2009年にイスラエルの文学賞「エルサレム賞」を贈られた際の受賞スピーチで、人間を「冷たい壁を前にした卵」に例え、人間の魂の尊厳、かけがえのなさを訴えた。「爆撃機や戦車やロケット、白リン弾」が「高くて硬い壁」で、「それらに蹂躙され、焼かれ、撃たれる非武装の市民」が「卵」であるとする村上春樹氏の警鐘はまさに現在のウクライナ侵攻を言い当てている。
今回のアカデミー賞はウクライナ危機という、プーチンが仕掛けた非人道的な侵略戦争の真只中で挙行されたからこそ、そうした人間存在のかけがえのなさを讃える結果になったと言えるだろう。
●プーチン大統領、ウクライナ情勢泥沼化で八方塞がりの「誤算」 4/2
人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第35回は、ウクライナへの軍事侵攻で世界から孤立する道を選んだロシアのプーチン大統領の思考回路を推察する。
ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、ロシアの主要銀行が国際的な銀行ネットワークであるSWIFT(国際銀行間通信協会)から外され、マクドナルドやアップルをはじめとした多くの外国企業が撤退するなど、ロシアの世界からの孤立が加速している。
国境を越えた取引が当たり前となり、安定的な成長を遂げてきたグローバル経済のなかで、国際社会が正当化できない軍事侵攻に踏み切れば、孤立することは分かっていたはずだ。グローバル化に背を向ける格好となってまで、なぜプーチン大統領は開戦に踏み切ったのか。
西側諸国と接するウクライナがNATO(北大西洋条約機構)入りすることが断じて許せなかったなど、さまざまな見方が広まっているが、もう少し、頭の中を推察してみたい。以下はあくまで推測でしかないが、私が思うに2つの要素が考えられる。
一つは、ロシア人のメンタリティ。かつて司馬遼太郎は著書『ロシアについて 北方の原形』(文藝春秋)で、ロシア人について「外敵を異様におそれ」、「病的な外国への猜疑心」、「潜在的な征服欲」、「火器への異常信仰」を持つ──などと分析したが、過酷な自然環境に置かれるロシア人には今もそんなメンタリティが息づいているのではないだろうか。そして、そうしたメンタリティが凝縮されているのがソ連の最高指導者だったスターリンであり、プーチン大統領であるように思えてならない。
もう一つは、2024年に予定されるロシア大統領選だ。2000年の大統領就任以来、長年にわたって権力の座を欲しいままにしてきたプーチン大統領にとって、再選は至上命題である。そこに向けて何としても支持率を上げておく必要があったことは想像に難くない。仮にここで失脚するようなら、政治生命のみならず、それこそ自身の「命」の問題にもかかわりかねない。
そうした2つの要素が大きく作用して、開戦に踏み切ったことが考えられる。ただし、いざウクライナ侵攻を始めると、大きな「誤算」に直面したのではないか。
まず、ロシアが2014年にクリミアを併合した際には、いまほど世界的な反発は高まらなかった。そして、旧東ドイツを併合したドイツが、ウクライナに武器を供与するなど方針を大きく転換し、EU(欧州連合)と一体となってこれほどロシアを真っ向から批判するとは思っていなかったかもしれない。さらに、ウクライナのゼレンスキー大統領はタレント出身ということもあり、「追い詰めればすぐに逃げ出すだろう」と踏んでいたのかもしれないが、そうはならなかった。
つまり、プーチン大統領の頭の中では、ウクライナ侵攻もコントロールできるはずという「コントロール・イリュージョン」が働いていたが、そのいずれもが当初の思惑とは違ったと推察される。そして、ここまで泥沼化してしまった以上、プーチン大統領にはもはや命がけで遂行する以外、選択肢が無くなってしまったのではないだろうか。
ここまで来ると、落としどころを見つけるのは相当難しい。ゼレンスキー政権の転覆など、完全に制圧することは厳しい情勢であり、ウクライナ侵攻を止めることはプーチン大統領自身の支持率を大きく下げることにもつながり、場合によっては失脚もあり得るだろう。だからといって、仮にプーチン大統領が失脚したとしても、ロシアに対する世界的な批判がすぐに収まるわけもない。もはや後戻りできない状況にあるのだ。
今、世界はもちろん、当のプーチン大統領でさえも先の読めない、落としどころが見えない状況に陥っている。自らの権力維持に努めてきた強権主義者がこの先、どんな手を打つか。当人の命運も含めて不透明な状況が当面続きそうだ。
●ウクライナ 外国人部隊の広報担当 “採用後すぐ最前線に”  4/2
ウクライナ政府は、ロシアによる軍事侵攻後、外国人にもウクライナの領土を守る部隊に加わるよう呼びかけていて、3月7日の時点でおよそ2万人から応募があったとしています。その外国人の志願兵の部隊で広報担当を務めるノルウェー人のダミアン・マグルー氏がNHKのオンラインでのインタビューに応じました。
部隊はウクライナ西部のリビウに拠点を設けていて、各国のウクライナ大使館で面接を受けた人たちがリビウで最終的な審査を受けたうえで、採用された人が活動しているということです。
マグルー氏は「未経験の人を訓練する余裕はなく、渡された武器をすぐに使えるような軍での経験がある人だけを採用している。言語や経験を考慮してグループに分け、武器や装備を手配したらすぐに最前線で戦闘に加わっている」と明かしました。
外国人部隊はウクライナ軍とともに首都キーウ(キエフ)周辺など各地で戦闘に加わっているということで、部隊の公式ツイッターでは3月26日には外国人部隊がキーウの北西のイルピンでロシア軍を撃退したと投稿されています。
外国人の志願兵についてマグルー氏は「世界中の人々がウクライナのために一致団結していることを示している」と述べる一方、「現地に来てから入れる部隊を探す人がいるが、食料などが不足する中、地元の人や避難民のために使われるべき物資が奪われることになる」と述べ、所定の手続きを経ずに来る人は受け入れてないと説明しました。
一方、この外国人志願兵について日本にあるウクライナ大使館では、募集などの手続きは行っていないとしています。 
●地中海に展開の米空母打撃群、任務期間を延長 ウクライナ情勢で 4/2
米国のオースティン国防長官は2日までに、地中海に展開し、ロシアによるウクライナ侵攻を受け東欧防衛ににらみを利かせている米空母ハリー・S・トルーマン率いる打撃群の任務遂行期間の延長を決めた。
同省のカービー報道官が記者会見で明らかにした。同空母の艦載機はウクライナ侵攻が起きた後、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する東欧諸国の防衛力強化を担う航空作戦などに従事してきた。
米国防総省の当局者はこれより前、同空母は今年の8月中は地中海にとどまる可能性に言及。米空母の派遣期間は通常半年間。トルーマンは昨年12月、米東部海域から送り込まれていた。
同空母の出動期間の延長を受け、随行して打撃群を構成するほかの戦闘艦艇3隻にも同様の措置が取られた。
カービー報道官はまた、ウクライナへの軍事侵攻後に隣国ポーランドへ派遣されていた米陸軍の第82空挺(くうてい)師団の一部兵力の駐留期間も延長されると述べた。米国防総省によると、ポーランドにいる同師団の規模は兵士や支援担当要員含め約7000人。
空挺師団の派遣は、保持する即応能力が有事の際に必要不可欠と判断されたため。米陸軍は今年2月、ドイツに交代で配備されていた兵士約4000人から成る戦闘旅団の任務期間をさらに60日間追加してもいた。
カービー報道官は、ウクライナでの戦争の終わり方やその時期にかかわりなく、欧州の安全保障環境は異なる様相を示すだろうとの見方を表明。「我々はこれに対応しなければならない」とし、「欧州大陸で常駐部隊としての性格をより強めるのか、より大規模に永続的な存在感を強める必要性があるのかなどの議論に柔軟でありたい」とした。
●ウクライナ大統領 “マリウポリ住民3071人の避難に成功” 4/2
ロシア軍が掌握を目指して攻勢を強めているウクライナ東部の要衝マリウポリをめぐって、ウクライナのゼレンスキー大統領は、住民3071人を避難させることに成功したと明らかにしました。一方、ロシア側が設置した住民の避難ルートについて、ICRC=赤十字国際委員会はマリウポリに派遣した支援チームが、安全が確保できず引き返したと発表しました。
ロシアが軍事作戦の重点を移す方針を示しているウクライナ東部では1日、ウクライナ軍の施設がミサイル攻撃を受けたほか、ロシア軍が要衝マリウポリの掌握を目指して攻勢を強めています。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は日本時間の2日午前、国民向けに新たな動画を公開し、多くの住民が取り残され人道危機への懸念が高まっているマリウポリから住民3071人を避難させることに成功したと明らかにしました。
一方、ロシア国防省が設置した「人道回廊」と呼ばれる避難ルートについて、ICRC=赤十字国際委員会は住民たちを避難させるためマリウポリに派遣した支援チームが1日、安全が確保できず引き返したと発表しました。
ICRCは2日に再び支援活動を試みる予定ですが、住民の避難は依然として難航しています。
マリウポリで1日に撮影された映像では、多くの建物が焼け焦げたり崩れ落ちたりして甚大な被害が出ている様子が確認できます。
また、疲れた表情でたたずむ子どもや通りを歩く人の姿のほか、戦車などが走っている様子が映っています。
夫と2人で孤児院の地下に避難しているという女性は「持てるだけの物を持ってここに来ました。住んでいた家がどうなったのかは分かりません」と疲れ切った表情で話していました。
戦況をめぐって、ゼレンスキー大統領は新たに公開した動画の中で「ウクライナ北部ではロシア軍がゆっくりと、しかし目に見えて撤退している」と述べました。
一方で、「東部では非常に困難な状況が続いている。ロシア軍はドンバスやハルキウで軍備を増強していて、新たな攻撃に向けて準備している」と述べ、ロシア軍による激しい攻撃が迫っているとして懸念を示すとともに、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
国連のグテーレス事務総長は1日、ニューヨークの国連本部で記者団に対し、ウクライナでの人道的な停戦の実現に向けて、人道問題を担当するグリフィス事務次長が3日からモスクワを訪問する予定だと明らかにしました。
グリフィス事務次長はその後、ウクライナの首都キーウ、ロシア語でキエフも訪れるということで、停戦に向けた外交努力が続けられています。
●米のウクライナ軍事支援、総額1950億円に… 4/2
米国防総省は1日、ウクライナに対して最大3億ドル(約370億円)相当の軍事支援を行うと発表した。軍事支援の総額は、ロシアの侵攻開始以降だけで16億ドル(約1950億円)に達するとしている。
発表によると、新たに支援するのは、レーザー誘導ロケット砲、攻撃用無人機、偵察用無人機、通信システム、医薬品など。国防総省のジョン・カービー報道官は声明で、「利用可能な全ての手段を活用し続ける」と強調した。東部戦線の攻防が激化する中で、ウクライナ軍への支援を継続する姿勢を示した。
また、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は1日、米当局者の話として、米国が同盟国と協力し、ウクライナに戦車を供与する予定だと報じた。東部戦線への投入が想定されているという。ウクライナ軍が操作できる旧ソ連製の戦車を米国の仲介で同盟国から供与する予定で、当局者は「近く移送される」としているが、戦車の数や供与する国名は明らかにしていない。
●ウクライナ軍、首都周辺を奪還 ロシアの燃料庫出火めぐり応酬 4/2
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナでは1日、首都キーウ(ロシア語でキエフ)の周辺都市をウクライナ軍がロシア軍から奪還したもよう。一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は演説で、東部での状況は依然として困難だと国民に伝えた。ロシア西部ベルゴロド州の燃料貯蔵庫がウクライナ軍の攻撃で出火したというロシア側の主張については、ウクライナは反論を続けている。
首都近郊の都市をウクライナ奪還
キーウ近郊ブチャのアナトリイ・フェドルク町長は1日、ウクライナ軍が街を奪還したと発表した。ビデオで町長は、「3月31日は、ロシア軍からの解放記念日としてこの町の歴史に残る」と述べた。ビデオは町役場の外で撮影されたもよう。
ロシアは29日、ウクライナとの停戦交渉の中で、キーウと北部チェルニヒウ周辺の軍事行動を大幅に縮小すると表明したものの、その後も攻撃は続いている。
対するウクライナ軍は、キーウ周辺でロシア軍に対する反撃を続けており、一部でロシア軍を押し返している。
2月24日の軍事侵攻開始と共にロシア軍が激しい攻撃を展開したキーウ北郊のイルピンでは、ロシア軍が一時、市街地に入ったものの、防衛線を突破することができずに後退したもよう。イルピンとキーウの距離は幹線道路で21キロ。
ウクライナ軍の案内でイルピン中心部に入ったBBCのオーラ・ゲリン記者によると、市内の道路はがれきや寸断した電線であふれ、ひとけはほとんどなかった。戦争開始前にイルピンにいた市民約7万人はすでにほとんどが避難している。ほとんどの民家は激しく破壊され、路上には、大破したり炎上したロシアの軍用車両が複数放置されていたという。
東部の状況「きわめて困難」=ゼレンスキー氏
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日未明、定例のビデオ演説で、ロシア軍がウクライナ北部では「ゆっくりながらも目に見えてそれと分かる」ペースで撤退しているとした上で、ウクライナ東部の軍事状況は「引き続き、きわめて困難」だと述べた。
ロシア軍は東部ドンバス地域や前線の都市ハルキウ(ロシア語でハリコフ)周辺に集結しつつあるため、東部で「あらためて強力な攻撃」が始まると予想し備えているのだと、大統領は説明した。
「厳しい戦闘が待ち受けている。自分たちがすべての関門を通過したなど、思うわけにはいかない」と、ゼレンスキー氏は強調した。
大統領はさらに、南東部の要衝でロシア軍に包囲されている港湾都市マリウポリから、3000人以上が避難したと明らかにした。ドネツク、ルハンスク、ザポリッジャの各州に設けられた人道回廊を通過したという。
大統領は、「これとは別に、死傷者を市内から運び出す方法について合意が得られつつある」とも述べ、この件についてはトルコが仲介していると説明した。
包囲されたマリウポリからの市民脱出については、赤十字国際委員会(ICRC)が避難作戦を実施しようとしているものの、2日連続して中止を余儀なくされた。
キーウにいるICRC広報担当のアリオナ・シネンコ氏は、「正確で具体的な合意がどこにもなく、あらゆる関係者が合意を尊重していないことが、障害になっている」と述べ、支援物資が目的地に到着するようにするのは「この紛争の双方の当事者の責任」だと強調した。
シネンコ氏は現状に「幻滅し落胆」しているとして、「(援助物資の)車列を待っていたマリウポリの人たち、数週間も悪夢にとらわれ脱出を期待しているマリウポリの人たちを思うと、胸が痛い」と述べた。
ロシアの燃料貯蔵庫めぐり応酬
ロシア西部ベルゴロド州の知事は1日、州都の燃料貯蔵庫がウクライナ軍ヘリコプター2機の攻撃に遭い出火したと非難した。ウクライナ側はこれを認めず、双方で非難の応酬が続いている。
ツイッターに投稿された動画では、ロシアとウクライナの国境から約40キロにあるベルゴロドにおいて、集合住宅の近くで燃料貯蔵庫が燃えている様子が見える。中には、ロケット砲が貯蔵庫に直撃する様子に見える映像もある。
ウクライナ軍機はこれまで、ロシア領内の標的を攻撃していない。ベルゴロド州のヴィヤチェスラフ・グラドコフ知事の主張を、ウクライナ政府は認めていない。しかし、ロシア政府のドミトリー・ぺスコフ大統領報道官も後に、ウクライナによる燃料貯蔵庫攻撃を非難。ウクライナとの和平交渉継続にとって、この「空爆」は好ましい条件をもたらさないと述べた。
ウクライナのオレクシー・ダニロフ国家安全保障・国防会議書記は国営テレビに出演し、燃料貯蔵庫攻撃について「(ロシアは)なぜか我々がやったことだというが、こちらの情報によるとそれは現実に合致しない」と述べ、ウクライナ軍による攻撃ではないと言明した。
ダニロフ氏はさらに、燃料貯蔵庫攻撃は戦争の進捗(しんちょく)に不満を抱くロシア人によるものではないかと示唆し、今後も同様の攻撃が起きるのではないかと述べた。
「ロシア連邦の社会は、何かを理解し始めている」と、ダニロフ氏は話した。
ダニロフ氏はさらに、燃料貯蔵庫攻撃は和平交渉にとって有益ではないとしたロシア政府のペスコフ報道官の発言に反応し、「(ロシアが)こちらの子供たちを殺し、女性たちを殺す時、それは協議に有益だというのか? 我々の国土に大混乱をもたらしている時に?」と反発した。
対するロシア側では、国防省のイーゴリ・コナシェンコフ報道官が国営テレビ「ロシア24」に対して、攻撃されたベルゴロドの貯蔵庫は軍用ではなく、あくまでも民生用の燃料しか保管していなかったと述べた。
「あの石油貯蔵施設は、ロシア軍とは何の関係もない」と、コナシェンコフ報道官は話した。
コナシェンコフ氏は、ウクライナ軍のミル24攻撃ヘリ2機が現地時間1日午前5時ごろに「きわめて低い高度」でロシアに侵入し、ミサイル攻撃を行ったのだと述べた。
燃料貯蔵庫攻撃について、イギリス国防省は定例の戦況分析で言及し、「貯蔵庫から燃料と弾薬が失われると想定されるため、短期的には、すでに厳しい状態にあるロシアの物資輸送にさらに負担がかかることになるだろう。とりわけ、(ベルゴロドから60キロに位置する)ハルキウを包囲するロシア軍部隊への補給が、影響を受ける可能性がある」と指摘した。
アメリカが防護服提供 化学兵器攻撃に備え
米政治ニュースサイト「ポリティコ」は1日、ウクライナ政府の要請を受けて米政府が、化学兵器攻撃への備えとして、個人用防護服(PPE)をすでに提供していると伝えた。
ポリティコによると、米国家安全保障会議(NSC)の報道官は、「命を救う装備と物資」の提供を開始したと認めたという。米政府が提供した中には、ガスマスクや化学防護服などが含まれるとみられる。
生物化学兵器をめぐっては、戦況が思うようにならないロシアがウクライナで使用するのではないかと懸念する西側諸国と、ロシアの間で非難の応酬が続いている。アメリカ政府は、ロシアが生物化学兵器の使用をめぐり、敵の行為に見せかけたいわゆる「偽旗作戦」を仕掛けるのではないかと恐れている。
●ウクライナ侵攻で露軍に破壊「世界最大の飛行機」の惨状明らかに 4/2
ウクライナのアントノフ設計局が手掛けた(製造時はソ連)世界最大の飛行機、アントノフAn-225「ムリヤ」。世界に1機のみのこの機は2022年2月末、ロシアによる軍事侵攻によって、首都キーウ(キエフ)近郊のゴストメル飛行場で破壊されました。戦争により大きく損傷したAn-225の姿が、ウクライナ・戦略コミュニケーションセンターの公式SNSやメディアなどにより、2022年4月に相次いで明らかになっています。
アメリカのメディア、CNNは、アメリカ国防省関係者のコメントや衛星画像から、ロシア軍は3月末にゴストメル飛行場から撤退したとしています。その後同飛行場には、An-225のチーフ・パイロットを務めるドミトリー・アントノフ氏なども駆けつけているようです。
写真では、左主翼と機首部分などは原型が残るものの、コックピット部分や胴体中央部は焼失した姿が確認でき、それを見た世界中の航空ファンなどから、悲しみのコメントが上がっています。
An-225「ムリヤ」は全長84m、全幅88.74mで、最大離陸重量は”世界最大”となる640tでした。また、片翼に3発ずつ計6発搭載したエンジン、32個の車輪をもつムカデのような脚など独特の形状を持ち、日本では”怪鳥”とも例えられました。同機は当初、ソ連版スペースシャトル「ブラン」を胴体の上に積んで空輸する目的で開発されたものの、紆余曲折を経て、破壊される直前までアントノフ航空で貨物機として運用され、その巨体が生かされてきました。
なお、政府の公式Twitterは2月末時点で「An-225はホストメル基地でロシア軍に破壊された」という投稿とともに、「私たちはこの機を復活させる」とコメント。この機の未来がどのようになるのかが注目されるところです。
●小麦の輸出大国ウクライナ、侵攻で今年の収穫や種まき不可能か 4/2
世界で最大級の小麦輸出国であるウクライナがロシア軍の侵攻を受け、小麦の収穫や備蓄していた分の輸出が今年、不可能となる可能性が非常に高いことが2日までにわかった。
フランス大統領府筋が明らかにした。国内での戦闘続行や農業従事者の手当てが出来ず、収穫や来年の作物につながる種まきの開始が非常に困難な状況になっているとした。「ウクライナ1国が世界の食糧市場のバランスを取る上での要になっている状況」とも述べた。
ウクライナ政府は3月初め、小麦、トウモロコシ、穀物、塩や肉を含む主要な農産物の輸出禁止を閣議決定した。
国連食糧農業機関(FAO)は先月11日、軍事侵攻によりウクライナ内の穀物の取り入れや輸出に支障が出る可能性を警告。同時に、戦闘やロシア産品に対する西側諸国の経済制裁の影響で価格上昇が起きるとも警戒していた。
米農務省によると、侵攻が起きる前のウクライナの年間の小麦輸出量は新記録に達する基調にあった。半面、ロシアの小麦輸出は減速していた。
仏大統領府筋は特に、ウクライナから中東諸国への穀物輸出が停滞していることの悪影響に懸念を示した。
●「プーチンはすでに負けた」英国軍司令官が宣言 中立国が“反ロシア”に転向 4/2
英国軍司令官が「プーチンはすでに負けた」と宣言している。停戦が実現したとしても、プーチン大統領の行動は短絡的だったと考えざるを得ない。ロシアに対して、中立を宣誓していた国々がどんどん反ロシアになってきているのだ。
「プーチンはすでに負けた」
英国の軍の司令官のトニー・ラダキン(Sir Tony Radakin)は、「In many ways, Putin has already lost the war in Ukraine.」と発言している。これが現在の世界のセンチメンタルである。
最新鋭の武器をもった世界第2位のロシアが、小国のウクライナの占領に、ここまで手間取るとは誰も思っていなかった。それこそ、軍事評論家と呼ばれるテレビに最初から出演していた人々の予想は、180度間違っていたのだ。
NATOもアメリカもEUも国連も、ウクライナがここまで善戦するとは誰も思っていなかった。
ラダキン氏の発言はプーチン大統領がロシア兵をウクライナの前線から後方に少しだけ撤退させるという方向転換に対してのものだが、今後、世界の中でのプーチン大統領の孤立は避けられない。
軍隊の大きさの違い
ウクライナの軍隊のランキングは22位で、ロシアは2位であるとYouTubeなどでは比較されている。
この動画のデータからは、ウクライナがロシアの攻撃をここまで抑えられるというようには想像できない。
例えば、戦闘機の数は325機 vs 4,208機である。しかも、ロシアは、最新鋭の2020年代の飛行機がたくさんあるのに、ウクライナの方の戦闘機は1970年代のソ連時代からの旧型が多い。
通信のハッキング合戦でもウクライナに軍配か
ロシアがオックスフォード大学をハッキングしようとしたことについては、当メルマガで以前に書いた。ロシアは、いろいろな国々の政府機関、有名企業、有名大学をハッキングしようと試みている。
クレミア半島への侵攻もまずは、通信をジャミングさせて、クレミア政府の通信を使えなくして、簡単に制圧してしまった。
ところが、今回ウクライナ政府や軍は、ロシアのハッキングを防いでいるようだ。しかも、逆にロシア側の軍の通信を傍受しているようなのだ。
これは、ソ連時代にウクライナは、IT産業重点地域であったため、多くの優秀なエンジニアを抱えているためだと私は信じている。
日本も早く、優秀なエンジニアを育てるSTEM教育に重点を置かなければいけないという想いが日に日に強くなる。
戦場でのドローンの威力
民間と軍事技術の境目がなくなっているのを感じたのが、今回のウクライナのドローン攻撃である。
ドローンがロシアの戦車を見事に大破させる映像を、皆さんも見たことがあるでしょう。戦車1台分の費用で、ドローン100機は買えるでしょう。
このドローンに必要な部品のいくつかは、アメリカやカナダ製のものだが、アメリカやカナダは、これらの部品の輸出をかなり規制していた。そのため、今回使われたものは、イギリス軍が寄付したものと、ウクライナの民間人のグループが8年前から海外の協力者と同好会グループを創って作り上げたものと考えられている。
実際にこれらドローンを使い、戦車を破壊したのは、もとインベストメントバンカーやコンサルタントだった「民間人」だと言われている。また、別の戦車を手で持てるミサイルで爆破したのは、8年前に夫をロシアとの紛争でなくした人の妻だという。
これら民間人が今回の戦争で活躍しているのが、素晴らしいことだと私は思う。
ちなみに、イーロンマスクは、スターリンクをウクライナ軍やウクライナの民間人たちに使わせているという噂がある。これが本当ならば、民間の力の重要性は日に日に増し、そのこと自体は、健全なことだと思う。
スマホ撮影の映像とYouTubeが世論を作った
子ども病院などウクライナの民間施設が爆破される映像などをみると、プーチン大統領に対して、またロシア軍に対して憤りを感じる。大勢の人々が殺されている。
それに対して、ウクライナの攻撃は戦車やヘリコプターや戦闘機など、限られた戦果でしかない。
これらの惨状と戦果は、スマホだけで撮影・編集され、YouTubeにアップすることができ、これが世界に対して、世論をウクライナ寄りにする効果があった。
また、ロシア軍やロシアの人々がYouTubeにアクセスできれば、戦意を喪失させるにも役立つのだと思う。
Googleがロシアでのオペレーションを辞めてしまったのが残念である。
飛べない500機以上の航空機を没収
今週ロシアは、ロシアの航空機会社がリースしている飛行機をリース会社が返還を求めるには、ロシア政府の許可がいるという法律を成立させた。
結果、500機から900機のロシアの航空会社が海外からリースされている100億ドルから200億ドル分の飛行機の返還をリース会社が要求するのが難しくなったと報道されている。
この法律は、西側の経済制裁の一環で、リース会社がロシアの航空会社との契約を破棄し、海外にある機体をすべて差し押さえてしまったことに対する、プーチン大統領の対抗策である。海外にある機体は、ロシアに持ってくることができなくても、ロシア国内にあるものは、そのまま没収してしまおうという作戦である。
問題は、ボーイングもエアバスも飛行機が飛ぶのに必要な部品・消耗品の供給を止めているので、ロシアにあるボーイングとエアバス製の飛行機が飛べなくなるのは時間の問題であることだ。
ガス代のルーブル支払いに意味はない
ドイツ・インド・中国の、ロシアに対しての「弱腰さ」が目立っている。
ドイツは、天然ガスの供給をロシアから受けなければ、停電が起こってしまうので、天然ガスを買わなくすることができないと判断している。
その支払いをロシア側がルーブルでしろと言ってきたというのに対して、ドイツは断ったというのがニュースになっている。私から見るとこれは、これこそ50歩100歩で、たいした違いはない。
ロシアは、外貨も必要なので、ユーロやドルが手に入るならば、ありがたい話である。もし、本当にルーブルでの支払いをプーチン大統領が要求したとしたら、プーチン大統領は、金融がわかっていない。一時的にルーブルの下落を止めようという考えだろうが、ドイツのガス購入代金ぐらいのルーブルに対する需要がルーブル安を止められるわけがない。
我々の問題は、世界のマスコミがこのことが分かっていないことである。すなわち、ルーブルでしか支払いを認めないとロシアが言ってから、どんどんエネルギー価格が上昇しているのだ。
もしかしたら、プーチン大統領は、金融学的にはインパクトが少なくとも、ルーブルで払えと言えば、エネルギー価格が高騰することを見込んでいたのかもしれない。
交渉では、プーチン大統領の方が西側のリーダーよりも老獪である。
中立だった国々が次々と「反ロシア」へ
かつて、大国ソ連の宣戦布告に対して、自国を守った小国としてフィンランドがある。
フィンランドもスウェーデンも、オーストリアもスイスもアイルランドも、NATOのメンバーではない。ところが、今回のプーチン大統領のウクライナ攻撃を見て、フィンランドもスウェーデンも、民衆はNATO入りを真剣に検討することを望んでいる。スイスも永世中立を辞めた。
プーチン大統領の行動は、短絡的と考えざるを得ない。結局、ロシアに対して、中立を宣誓していた国々がどんどん反ロシアになってきているのだ。
これが、ラダキン卿のコメント「プーチンはすでに負けたのだ」というコメントの真意なのだ。
●ロシア軍の“性暴力”疑惑、ゼレンスキー大統領が告発 避難民の銃殺も 4/2
ウクライナでのクラスター(集束)弾の使用や民間人への無差別空爆などが批判されているロシア軍に、さらなる非道な行為の疑いが浮上している。ウクライナの民間人女性への性暴力や避難民の銃殺が行われているとゼレンスキー大統領が告発、同国当局も調査に乗り出した。都合の悪い情報はプーチン大統領に伝わっていないとの指摘もあるが、「戦争犯罪」はどこまでエスカレートするのか。
ウクライナの国営通信ウクリンフォルム(日本語版)によると、ゼレンスキー氏は3月23日、フランス国会でオンライン演説を行った。そこで「ロシア軍人による被占領地での女性の強姦、ロシア軍人による避難民の路上での銃殺、ロシア軍人による記者の殺害、ホロコーストを生き延びたのにシェルターへと隠れなければならなくなっている高齢者」と民間人の被害を列挙した。
その上で、ロシアに進出している自動車大手ルノー、食品スーパーのオーシャンといった仏企業を名指しし、「ロシアの戦争マシンのスポンサーをやめ、子供や女性の殺害、強姦への資金提供をやめなければならない」と呼びかけた。ルノーは23日、ロシア工場の無期限停止を発表した。
ウクライナのベネディクトワ検事総長は22日、フェイスブックで、「(首都キーウ近郊の)ブロバリー地区の村で、ロシア兵が男性を殺害し、さらに別の兵士とともに男性の妻を暴力や武器で脅しながら繰り返し性的暴行を加えた」と投稿。ロシア兵の拘束を求める請求が裁判所に提出され、公的調査の対象となったと報告した。
ウクライナの政治家、マリア・メゼンツェワ氏も英スカイニュースのインタビューで同様の被害について語った。
安全保障や戦史について研究・執筆するジャーナリストの石井孝明氏は「第二次世界大戦におけるドイツや東欧ではソ連兵により性的暴行が多発したが、戦後のソ連による東欧の支配によって被害女性の告発自体がタブー視され、隠されてきた。一方、1990年代から2000年代のチェチェン紛争ではロシア軍による住民の虐殺や性的暴行がいくつも報告されてきた。ロシアは徴兵制度が続いていて、兵隊同士のいじめなども報告される待遇の悪さが暴行を誘発してきたともいえる」と語る。
ロシア軍の非人道的な攻撃については、ウクライナ東部ハルキウ周辺で、国際条約で禁じられている対人地雷を使用したと国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が指摘した。地雷は「POM―3」と呼ばれ、半径16メートルの殺傷能力を持つ。
バチェレ国連人権高等弁務官は、ロシア軍が非人道的とされるクラスター弾を少なくとも24回、ウクライナの人口密集地域で使用したとの報告があると述べた。
ブリンケン米国務長官は23日、民間人を対象に無差別攻撃を続けるロシア軍の行為について米国は「戦争犯罪」に認定したと表明。高層住宅、学校、病院、インフラ、商業施設、救急車両に至るまで数千人の民間人を犠牲にした「無差別攻撃に関する数々の信頼できる報告を見てきた」とし、犯罪人の告発も視野に調査を続けるとした。病院への攻撃はジュネーブ条約で禁止されている。
ロシア軍の実態と、その行状が国際社会で非難を浴びていることがプーチン氏に報告されているのかは不明だが、そもそも軍事侵攻を命じたプーチン氏が元凶であることは間違いない。
ゼレンスキー氏らの発言のように性的暴行は起きているのか。石井氏は「可能性は十分あるが、注意したいのは、さまざまな国で性的暴行の証言がプロパガンダとして利用されてきた側面もあることだ。今回のウクライナ侵攻でも他の戦争犯罪と共に戦後に国際的な調査が行われると思われる。事実確認の経緯を見守るという目線も必要ではないか」と指摘した。
●バイデン政権が抱えるロシアの核使用リスク  4/2
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、その対応をめぐり米国のバイデン大統領は内政的にも外交的にも不安要素を抱えている。AERA 2022年4月4日号の記事から紹介する。
バイデンの米国内の足元も極めて危うい。
ニューヨーク市内では、英金融大手バークレイズがビル前面の大きな電光掲示板に「ウクライナの人たちと立ち上がり団結します」という文字を表示する。米ファッション大手アメリカン・イーグル・アウトフィッターズの掲示板もブルーとイエローのウクライナ国旗の色で塗りつぶされている。雑貨店やレストランも国旗の色彩を店頭に出し、募金集めのコンサートやアートショーは毎日のように開かれる。街中は「ウクライナ支援一色」だ。
しかし、米国がロシアと武力で直接対決するかは別問題だ。米クィニピアック大学の調査(3月16日)によると、「米ロ間戦争のリスクを回避しつつ、ウクライナへの支援をすべき」とした米国人が75%。「米ロ間戦争になるリスクがあったとしても支援すべき」と答えた17%をはるかに上回った。アフガニスタン・ショックの後、「戦争」「派兵」に対する嫌悪感は、米市民の間でかつてないほど強い。
一方、米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、ロシアによるウクライナ「侵略(インベージョン)」へのバイデン政権の対応について「強く支持」「やや支持」が47%で、「強く不支持」「やや不支持」の39%を上回った。
ただ、大統領としてのバイデンの支持率は42%で、不支持の54%を下回る。01年に起きた米同時多発テロの直後、ブッシュ元大統領の支持率が51%から90%に跳ね上がったのとは異なる(米世論調査機関ギャラップによる)。政権のウクライナ対応が市民の評価を得ていても、内政的にバイデンとしては苦しい「綱渡り」だ。
議会の主張は真っ二つ
国際政治学者で米コンサルティング会社ユーラシアグループ社長のイアン・ブレマーは、こう指摘する。
「バイデン政権はウクライナ対策ではうまくやっているし、議会も超党派で団結した。問題は、このモメンタムがいつまで続くかだ」
その見通しは暗い。11月に迫る中間選挙を前に、ウクライナ問題以外では、民主党・共和党議員が激しく対立する。黒人女性初の連邦最高裁判事としてバイデン大統領が指名したケタンジ・ブラウン・ジャクソンの上院承認をめぐる上院公聴会は、テレビ中継されるため、議員らは有権者向けに真っ二つの主張を繰り返す。
4年ごとの大統領選挙の中間の年に行われる今年の中間選挙は、下院議員全議席、上院議員の3分の1、各州知事など広範囲にわたる選挙で、24年の大統領選挙の行方も左右する。
現在、上院では無党派を含めて民主党がやっと半数を獲得、下院も僅差で民主党が多数派となっている。中間選挙で上下院いずれか、あるいは両院で野党共和党が多数派となると、バイデン政権は政策を通すことがかなり困難となる。ロシアとウクライナの戦争の結果にかかわらず、バイデン政権は中間選挙の結果で骨抜き政権になる致命的なリスクを抱えている。
強硬派議員でさえ
米国が唯一、ロシアに対抗できる軍事大国であり核保有国であることも、バイデンの手足を縛る。
「真珠湾攻撃を思い出してほしい。9.11同時多発テロを思い出してほしい。私たちは毎日同じような経験をしている」
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月16日、米連邦議会でのオンライン演説で強調した。米国人に特に「空から降る」非人道的な攻撃を思い出させ、ウクライナ上空に「飛行禁止区域」を設定するよう繰り返し強く訴えた。これに先立つロイター通信の調査(3月4日)では、米国人の74%が飛行禁止区域の設定を支持している。
しかし、飛行禁止区域の設定はそう簡単に実施できるものではない。強硬派共和党上院議員のマルコ・ルビオでさえ、こう言う。
「(設定は)第3次世界大戦を意味する」
「全面戦争」の引き金
法的には、飛行禁止区域を設定すれば、ロシア軍の空爆を制限することができる。ところが、設定は、NATOの戦闘機が常時ウクライナ上空をパトロールすることを意味し、禁止を犯して飛行するロシアの機体を撃墜することができる。
米国が、飛行禁止区域設定を実行したことは過去にはある。イラク、ボスニア、リビアなどだが、いずれも核兵器を大量に保有する国家に対する戦略ではなかった。
プーチンが「現状の経済制裁でさえ、宣戦布告」と主張するさなか、ロシア軍機が飛行禁止区域内で撃墜されれば、「全面戦争」の引き金となるのは明らかだ。
冷戦後の均衡と安定が保たれるのかどうかという戦況は、見通しが極めて厳しい。米紙ニューヨーク・タイムズは、ウクライナの首都キエフ近郊の都市に対する砲撃で、命を落としたばかりの母子の遺体の写真を1面トップで掲載した。米メディアとしては異例の報道だ。
内戦があったシリアやアフガニスタンなどと異なり、民主主義のウクライナからは、市民のソーシャルメディアを通した窮状が世界に直接伝わる。米市民の84%が、ウクライナ情勢のニュースを追っているというほど関心を集めている「戦争」だ。
外交的には、プーチン大統領がほのめかす核兵器使用の可能性による制約、そして国内では中間選挙を前に攻撃的になれない、という二つの「くびき」がバイデン政権にのしかかる。 

 

●ウクライナの民間サイバー軍やアノニマスが仕掛ける対ロシアサイバー戦争 4/3
IT人材が豊富なウクライナでは、ロシア侵攻を受け民間サイバー部隊「IT Army of Ukraine(ウクライナITアーミー)」が結成され、ロシア政府系ウェブサイトなどを中心にサイバー攻撃を仕掛けている。
この民間サイバー部隊は、ウクライナの第一副首相兼デジタル改革相であるミハイロ・フェドロフ氏(31歳)が2022年2月27日にツイッターで呼びかけたもので、3月末時点で31万人以上が参加する巨大な組織に拡大している。
ウクライナITアーミーの活動の中心となるのは、セキュリティが高いといわれるチャットアプリ「テレグラム」だ。テレグラムのウクライナITアーミーアカウントでは、ターゲットとなるロシア政府機関や政府系企業のウェブサイトやリンクがシェアされ、それをもとに、参加者がDDoS攻撃を仕掛けている。
CNBCの3月23日時点の報道では、ウクライナITアーミーの参加者数は31万1000人に上る。一部ウクライナ国外からの参加もあるが、大多数がウクライナのIT人材である。
ウクライナのIT人材の多くは依然国内に留まっている状況。日常の仕事をしつつ、ウクライナITアーミーのタスクもこなしている。
CNBCがインタビューしたデイブ氏は、ウクライナのソフトウェアエンジニアだが、ウクライナITアーミーに参加し、日々ロシアに対するサイバー攻撃を実施している。
同氏は、テレグラムのウクライナITアーミーアカウントでシェアされる攻撃対象リンクを貼り付けるだけで、自動でDDoS攻撃を仕掛けるボットを自作。3〜5つのサーバーから毎秒5万回のリクエストを送信している。
DDoSのほかには、ロシアでも利用されているソーシャルメディアに、ウクライナの現状を伝える写真や動画を投稿し、現状を知らないロシア人に対し情報を伝えたり、各国の企業ウェブサイトやソーシャルメディアにロシアでのビジネス停止を呼びかけるなど様々なサイバーオペレーションが実施されている。
ロシアに対するサイバー攻撃には、アノニマスをはじめ世界各地のハッカー集団が多数参加しており、ウクライナITアーミー単体の効果を測定するのは難しいが、31万人以上によるサイバー攻撃の影響は小さくないと思われる。
ウクライナのテック教育
ウクライナはテック人材の宝庫。同国におけるテック人材育成の取り組みを見れば、大規模な民間サイバー部隊が短期間で組織された背景が見えてくる。
ウクライナの人口は約4400万人、GDPは1556億ドル(約19兆3687億円)。
ソフトウェア企業Daxxのまとめによると、この5年間でウクライナの年間教育予算は、1140億フリヴニャ(約4770億円)から2280億フリヴニャ(約9540億円)と倍増。2021年にはGDPに占める教育予算の割合は6.6%に達した。この比率は、ドイツ、オランダ、スウェーデン、ポーランド、ハンガリーなどを上回り、世界的にもかなり高い割合であるという。
ウクライナ政府による教育投資は、理系高等教育の拡大につながっている。高校卒業者における大学進学率は75%(約26万2500人)。このうち、STEM(科学・テクノロジー・工学・数学)分野を専攻するのは約13万人と、半数近い学生が理系分野に進学しているのだ。
すでに、グローバルテック大手の研究開発拠点やオフショア開発拠点が数多く開設され、域内テクノロジーハブとして機能しているウクライナ。国内にはデベロッパーだけで、25万人の人材がいるといわれている。
このテック人材プールはさらに拡大することが予想されている。ウクライナの高等教育機関から輩出されるテック人材数は年間2万3000人だが、2030年には2万7800人に増える見込みだ。現在ウクライナにおけるテック人材の大卒率は83.3%。
Daxxによると、テックスキル評価ツール「SkillValue」において、ウクライナのプログラマーの平均スコアは93.17%と世界5位に位置しているほか、TopCoderランキングでも上位にランクインするなど、スキルの高さにも定評があるという。
アノニマスなど多数のハッカーも対ロシアサイバー攻撃に参加
ロシアをターゲットとするサイバー攻撃には、ウクライナITアーミーだけでなく、アノニマスなど様々なハッカー集団が参加している。
アノニマスは、ロシアがウクライナに侵攻してすぐにロシアに対するサイバー攻撃を開始。主に、政府機関のウェブサイト、政府系企業・メディアへの攻撃を実施し、ウェブサイト停止やデータ取得に成功したと主張している。
CNBCが伝えたサイバーセキュリティ企業Security Discoveryの共同創業者ジェレミア・フォーラー氏の指摘によると、アノニマスの主張は事実である可能性が高いという。
フォーラー氏によると、ロシア側の100個のデータベースを分析したところ、実に92個のデータベースがハッキングされたことが判明。データベースファイル名が「putin_stop_this_war」などと変換されていることや、ウェブサイトのアドミン情報の漏洩などが確認されたという。
またアノニマスが主張したロシア国営テレビのハッキングに関しても、事実である可能性が高いと述べている。
直近では、アノニマスに関連があるとされるハッカー集団「NB65」が全ロシア国営テレビ・ラジオ放送会社のデータベースに侵入し、870ギガバイトに相当するデータの取得に成功したと主張するなど、ロシアに対するサイバー戦は激化の様相を呈している。
●実は守りに強いが攻めには弱いロシア軍 侵攻で大量の自国兵死亡 4/3
1812年ロシア戦役でロシア帝国はフランス連合軍を撃退した。連合軍を率いていたのはナポレオン・ボナパルト(1769〜1821)。当時のナポレオン1世だった。
第二次世界大戦中の1941年から45年にかけて独ソ戦が起きた。こちらもソ連軍がドイツ軍を追い返した。更にソ連軍は進撃を続け、最終的にはドイツの首都ベルリンに到達した。
当時、ソ連の最高指導者はヨシフ・スターリン(1878〜1953)。ドイツはアドルフ・ヒトラー(1889〜1945)だった。軍事ジャーナリストが言う。
「ロシアがナポレオンとヒトラーの攻撃から自国を守ったという歴史的事実は、ロシア軍のイメージに大きな影響を与えてきました。何しろ、当時のフランス軍やドイツ軍は連戦連勝で、まさに無敵だったのです。ところがロシアとの戦争で敗れたことから形勢が変わり、彼らが追い詰められていく転換点となりました」
ロシアは軍事大国であり、その軍隊も強い──このような先入観を持っている人は少なくないだろう。
「確かにロシアは、攻め込んできた敵軍は撃退します。守りには強いわけです。しかし、自分たちが他国を攻め込むとなると、かなりの確率で敗北を喫してしまいます。現在のウクライナ侵攻でも、アメリカの情報機関や軍関係者でさえ、当初はロシア軍の圧勝を予想していました。それが実際は、ウクライナ軍の抵抗にかなり苦戦を強いられています」(同・軍事ジャーナリスト)
タンネンベルクの大敗北
ナポレオン1世の侵略から約半世紀後の1853年、クリミア戦争が勃発する。中東の支配権などを巡り、南下政策を採るロシア帝国と、フランス、イギリス、オスマン帝国、サルデーニャ王国の連合軍が戦った。
「戦史家の中には『勝者なき戦争』と指摘する向きもありますが、少なくとも戦略的には、南下政策に失敗したロシア帝国の敗北と言えます。更に南下政策に固執したロシア帝国は、ヨーロッパ側ではなくアジア側で1904年に日露戦争を起こしました。しかし、こちらも敗北に終わっています」(同・軍事ジャーナリスト)
1914年に第一次世界大戦が始まると、ロシア帝国はイギリスやフランスと共に三国協商を形成。ドイツへ侵攻するが、タンネンベルクの戦いで大敗北を喫した。
「タンネンベルクは今のポーランドにあります。ロシア軍の総兵力は41万人を超えていたと言われています。一方のドイツ軍は15万人でした。ところがロシア軍は暗号を使わなかったため、無線による命令はドイツ軍に筒抜けでした。ドイツ軍にロシア軍は包囲殲滅され、死者約7万8000人、捕虜9万2000人を出したという推定値が残っています。一方のドイツ軍の死者数は1万2000人程度だったというのが一般的な見解です」(同・軍事ジャーナリスト)
冬戦争の大敗北
この後もロシア軍の被害は数を増し、ロシア革命が起きる原因の一つとなった。
「ロシアの戦史を振り返ると、死者数の多さに驚かされます。例えば第二次世界大戦で、ソ連は2回、フィンランドに侵攻しています。1939年の『冬戦争』では、フィンランド軍の死者は約2万5000人でしたが、ソ連軍は12万人超。41年からの『継続戦争』でも、フィンランド軍の死亡・行方不明者は約6万3000人だとされる一方、ソ連軍は20万人以上と推計されています」(同・軍事ジャーナリスト)
フィンランドはソ連と戦うためにドイツと組んだこともあり、第二次世界大戦では敗戦国の扱いを受けた。
「フィンランド軍は善戦しましたが、勝利はできませんでした。終戦後、ソ連からは戦争責任を問われ、賠償金も要求されています。東西冷戦下ではソ連の顔色をうかがう必要もありました。敗戦の代償は大きかったわけですが、ソ連に大きな被害を与えることで国家の独立は守り抜きました。ウクライナ人はフィンランド史についての知識が豊富で、今回の徹底抗戦にも大きな影響を与えているとも言われます」(同・軍事ジャーナリスト)
多すぎる戦死者数
フィンランドとの戦争でもソ連軍はこれだけの損害を出したのだ。独ソ戦での死者数は図抜けて多い。
「第二次世界大戦での各国の戦死者数は様々な推計があります。ただ、ソ連が突出しているのは間違いありません。1400万人以上と考えられています。それに対し、ドイツは280万人、日本は230万人、アメリカは29万人という数字が一般的です」(同・軍事ジャーナリスト)
1950年6月に勃発した朝鮮戦争で、“人海戦術”という言葉が注目を集めたことをご存知だろうか。
北朝鮮を支援するため、10月に“義勇軍”として参戦した中国人民解放軍が採用した戦術だ。
たとえ装備が貧弱な軍隊でも、兵士の数が異常に多ければ、敵軍を圧倒することができるという含意もある。
「実は、この“人海戦術”を中国人民解放軍に教えたのは、ソ連軍だったという説があります。中国の参戦で、国連軍は当初、敗走を余儀なくされました。ところが、装備に勝ることから徐々に立て直しを図り、後半ではかなりの損害を与えることに成功しています。中国は朝鮮戦争で“義勇兵”の死傷者があまりに多いことに驚き、『今後はソ連の軍事指導を受けないほうがいい』と考えを改めたというエピソードもあるのです」(同・ジャーナリスト)
NATO軍の誤解
2001年に公開された映画「スターリングラード」[ジャン=ジャック・アノー監督、日本ヘラルド映画配給]は、実在したソ連軍の狙撃手を描いた作品だ。
「冒頭、2人1組にさせられたソ連兵が小銃を1丁だけ与えられ、激戦が続くスターリングラードに放り出されるシーンが描かれます。どこまでリアルな描写かは議論の余地があると思いますが、ソ連軍やロシア軍の膨大な戦死者数を考えるに、あり得ない場面ではないでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
それでもNATO(北大西洋条約機構)諸国はこれまでずっと、ソ連軍やロシア軍を「非常に強い軍隊」と考えてきたという。
「やはり独ソ戦でベルリンまで侵攻したという実績は大きいでしょうし、冷戦下でソ連軍が行うパレードでは、最新式の戦車が西側軍事関係者の注目を集めていました。『非常に性能が高く、西側の戦車は蹴散らされる』と言われていたものです。もし第三次世界大戦が勃発すれば、東側のワルシャワ条約機構の軍隊は、圧倒的に強い戦車で西欧を蹂躙してくる。それをNATO軍は対戦車兵器で、どうやって迎え撃つかというシナリオを練るしかないと思い込んでいたのです」(同・軍事ジャーナリスト)
ウクライナ侵攻の衝撃
それが誤った認識だと気づく機会はあったという。1990年の湾岸戦争だ。
「湾岸戦争ではアメリカ軍が制空権を奪い、圧倒的な戦力でイラク軍を蹴散らしたことばかりが注目を集めました。その一方で、陸上戦に参戦したイギリス軍は、戦車隊がイラク軍の戦車隊と戦闘し、こちらも圧勝しています。イラク軍の戦車はソ連製で、イギリス軍の戦車は性能が劣ると言われていました。この時、一部の軍事関係者は『ひょっとするとソ連製の戦車は弱いのではないか?』と気づいたのですが、世界中の認識とはなりませんでした。まだまだソ連軍、ロシア軍は強いというイメージが強固だったのです」(同・軍事ジャーナリスト)
今回のウクライナ侵攻で、「ひょっとするとロシア軍は弱いのか?」という指摘も散見されるようになってきた。
「多くの記事で指摘されていますが、ロシア軍がウクライナ軍に手こずっていることを、世界中の軍事関係者が驚いています。戦死者が多いのではないかという分析も伝えられており、米下院には2000人から4000人のロシア兵が戦死した可能性があると国防情報局が報告しました。ロシア軍はソ連軍以来の伝統で、兵士の命を軽視してきました。ウクライナ侵攻でも非常に貧弱な装備で戦場に送られていることがよく分かります」(同・軍事ジャーナリスト)
●ウクライナ戦争「アメリカが原因作った説」の真相 4/3
ロシアのウクライナ侵略で故郷を追われ、命懸けで国外に脱出する大勢の人々。街が破壊され、黒焦げになった病院や住宅。そして、日々犠牲となっている無辜(むこ)の子どもたち――。ウクライナの戦場を伝える悲惨な映像や写真を見て、「いったい何がこのような軍事侵攻を招いたのか」と疑問を募らせている読者もきっと多いことだろう。
筆者は、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した2月24日以来、国際法を無視して武力で他国の主権と領土を侵害し、罪なき人々の命を奪っているロシアを強く非難してきた。どんな理由があろうとも、他国への侵略は認められない。
しかし、いま、「今回のウクライナ戦争の原因を作ったのは西側諸国、とりわけアメリカだ」と主張するアメリカ・シカゴ大の国際政治学者、ジョン・ミアシャイマー教授の発言が世界的に注目されている。
ミアシャイマー教授のYouTube再生回数は100万回以上
ロシアのウクライナへの軍事侵攻前後に、ミアシャイマー教授が出演したYouTubeの再生回数はともに100万回以上に達し、いわゆるバズっている状態だ。ロシアに理解を示す識者の言動は、同調圧力が強い日本ではほとんど見受けられない。
筆者が3月中旬にインタビューしたドイツ・ミュンヘン在住の30代のロシア人女性も「このシカゴ大教授の分析は私には客観的に見える」と述べ、視聴を勧めていた。現状を冷静に分析する「考えるヒント」として、ミアシャイマー教授の主張を紹介したい。そして、最後に筆者の反論も記したい。
なお、同教授は、米陸軍士官学校(ウエストポイント)を卒業後、将校として米空軍に5年間在籍した経歴を持つ。大国間の外交に重きを置くリアリズム(現実主義)の論客として知られる。
ミアシャイマー教授は2月15日に出演したYouTubeの冒頭部分で次のように断じている。
「アメリカやイギリスといった西側諸国で広く受け入れられている一般通念では、このウクライナ危機で責任があるのはプーチンであり、ロシアであるということだ。つまり、悪い輩と良い輩がいて、私たちが良い輩、ロシア人が悪い輩だということだ。しかし、これはまったく間違っている。アメリカとその同盟国、とりわけ、アメリカが責任を負っている」
そして、アメリカ主導の西側諸国が3つの柱からなる戦略でロシアをウクライナ軍事侵攻にまで追い込んだと非難している。では、その3つの柱とは何なのか。
   1 NATOの東方拡大
1つ目は、既によく指摘されているように、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大政策だ。
ミアシャイマー教授は、1991年のソ連崩壊後、弱体化したロシアが2度にわたって甘んじてNATOの東方拡大を受け入れてきたと指摘する。1度目は1999年の旧ソ連衛星国のポーランド、チェコ、ハンガリーのNATO入り。2度目は2004年のバルト3国やルーマニアなど7カ国のNATO加盟だ。
もともとこれらの国々は、西側のNATOに対抗し、ソ連を盟主とした東ヨーロッパ諸国が結成した軍事同盟のワルシャワ条約機構のメンバーだ。しかし、冷戦終結に伴い、1991年に東側のワルシャワ条約機構が解散した一方、西側のNATOは存続して拡大を続けてきた。冷戦後、唯一の超大国となったアメリカ、とりわけ民主党のビル・クリントン政権が1990年代後半にNATOの東方拡大を本格化させた。
政治学者でソ連史研究家の法政大名誉教授の下斗米伸夫氏は、著書『ソ連を崩壊させた男、エリツィン』(作品社)の中で、アメリカが「(1990年の)ドイツ統一後の同盟不拡大の東西合意を反故にした」と指摘している。
2008年4月、NATO首脳会議が引き金に
プーチン大統領はかねてNATOの東方拡大に強く反対してきた。ミアシャイマー教授は、このNATO東方拡大問題が2008年4月にルーマニアの首都ブカレストで開かれたNATO首脳会議で一気に爆発したと指摘する。この会議では、時のブッシュ・アメリカ大統領が旧ソ連のウクライナとジョージア(旧グルジア)のNATO加盟を提案。ウクライナとジョージアもNATO加盟を明確に表明した。
今から振り返れば、ドイツとフランスはとても冷静で、ロシアから無用な反発を買うことを恐れ、アメリカの提案に反対した。しかし、結局、ウクライナとジョージアの将来的なNATO加盟については合意に至った。
ミアシャイマー教授は「ロシアはこの時、明確にウクライナとジョージアのNATO入りはロシアの国の存亡に関わる脅威であり、受け入れられないと主張した」と指摘し、今回のウクライナ戦争の起源だと言い切っている。
ロシア軍は、そのNATO首脳会議から4カ月後の2008年8月にジョージアに軍事侵攻した。
2014年のロシア軍によるクリミア侵攻については、ミアシャイマー教授は「クリミア半島にはセバストポリという(黒海に面した)重要な海軍基地がある。ロシアがここをNATOの基地にさせることなど考えられない。これがロシアがクリミアを奪った主な理由だ」と指摘する。
そして、同教授は、1962年にアメリカの喉元にあるキューバにソ連の核ミサイルが配備され、ケネディ政権がそれを撤去させた「キューバ危機」を例に挙げた。
このアメリカの危機対応は諸外国による南北アメリカ大陸への干渉を拒否するアメリカの「モンロー主義」であるとし、ロシアも、それと同じように自らの「裏庭」に当たるウクライナを西側の対ロシア防波堤と化すことは決して認めない、と指摘した。
その指摘通り、2014年のロシアのクリミア半島への侵攻以来、ウクライナは新しい東西対立の最前線となってきた。ロシアにしてみれば、ポーランド、ルーマニア、バルト3国などに加え、ウクライナまでもがNATOに加われれば、NATOとの間の「緩衝地帯」を失うことになる。
   2 EU拡大
ロシアをウクライナ軍事侵攻にまで追い込んだ西側のストラテジーの2つ目の柱としてミアシャイマー教授が挙げたのが、欧州連合(EU)拡大だ。EUは経済的かつ政治的な連合体で、西欧型リベラル民主主義の基盤ともなっている。
そのEUに、ポーランドやチェコ、ハンガリー、バルト3国など10カ国が2004年に、ルーマニアとブルガリアの2カ国が2007年に、さらにクロアチアが2013年にそれぞれ加盟を果たした。
これらの国々に続き、西側がウクライナやジョージアもEUに加盟させようとしていた動きをミアシャイマー教授は指摘する。確かにEUはジョージアやウクライナなどロシアと距離を置く東欧諸国のさらなる加盟に向け、実務的な交渉を進めてきた。そして、ロシアによるウクライナ侵略を受け、ウクライナは2月28日に、ジョージアとモルドバは3月3日にそれぞれ加盟申請を相次いで行った。結果としてロシアを刺激してきたことは想像にかたくない。
ロシアを追い込んだ3つ目の柱
   3 カラー革命
ミアシャイマー教授によると、ロシアを追い込んだ西側のストラテジーの3つ目の柱は、カラー革命だ。
カラー革命とは、ユーゴスラヴィアやセルビア、グルジア、キルギスなど旧ソ連下の共産主義国家の国々で2000年以降、独裁体制の打倒を目指して起きた民主化運動のことだ。
ミアシャイマー教授は、ウクライナでは2014年2月中旬、アメリカの支援を受けて拡大したクーデターが勃発。親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が同月22日、デモ隊の動きを止められずに騒乱の中に解任され、親米派のリーダーが後釜に据えられた事実を指摘した。そして、ロシアはこれを容認せず「違法な政権転覆」と非難、同年3月1日のクリミア軍事侵攻につながったと同教授は述べている。
このウクライナの政変は、プーチン大統領が力を注いでいた2014年のソチ冬季オリンピック期間中に起き、プーチン氏としてもメンツをもろにつぶされる格好になった。
EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相)は、2月22日のパリでの理事会後の記者会見で、プーチン大統領がウクライナ東部の一部地域の独立を承認したことについて、次のように語った。
「(ロシアによる)国際法違反の日付は選ばれていた。決して偶然ではない。2月22日は(親露派の)ウクライナのヴィクトル・ヤヌコビッチ氏が国会で大統領の職を追われてから8周年となる日だった。そして、民主主義の勝利が続いた。プーチン大統領は、ウクライナの民主主義ごっこのプレータイムの終わりと言っている。つまり、プーチン大統領は明らかに意図的にこの日を選んで行った」
つまり、今回のウクライナ侵略は8年越しのプーチン大統領のリベンジだったとの指摘だ。
さらに忘れてはいけないことは、旧東欧諸国が次々と民主国家になり、その民主主義の「津波」がプーチン独裁政権の足元を徐々に揺るがしてきていることだ。今回のウクライナ戦争の背景には、民主主義対独裁体制の対立があることを忘れてはならないだろう。ウクライナは西欧リベラル民主主義と強権的な権威主義の対決の最前線にもなっている。
違和感を覚える点もある
ミアシャイマー教授の主張を聞き、筆者には違和感を覚える点もある。あまりにも大国間の権力政治(パワー・ポリティクス)を重視するあまり、ウクライナのような小国の主権や自国の行く道を選ぶ自主選択権を軽視しているように思えることだ。
ウクライナにしてみれば、チェチェン戦争やジョージア戦争でロシアの脅威を目の当たりにし、早期のNATO加盟入りを果たしたかっただろう。緩衝地帯うんぬんという議論は、大国が小国を容易に扱えるといった帝国主義的な発想とも受け取れる。
いずれにせよ、大国が力尽くで小国の主権を侵害することが許されるようになれば、欧州だけでなく東アジアをはじめとするあちこちで国際秩序が崩れかねない。21世紀のこの時代、大国間外交だけではなく、しっかりと小国の主権保護にも目を向けていきたいものだ。
●ウクライナ国民が直面する「コロナ感染の危機」〜犠牲は戦死より「戦病死」 4/3
ロシアが突如ウクライナに侵攻を開始して1カ月。ウクライナ側の予想以上の抵抗を受け、戦争は長期化の様相だ。
ところで渦中のウクライナでは、新型コロナはどうなっているのか――連日の報道の中で、医師として気になるのはその点だ。
テレビで現地の様子が映し出されても、マスクをしている人のほうが少ないくらいだ。だが、彼らにはもともと着ける習慣がない。この状況では、なおさらマスクどころではないのだろう。かといって、ロシアの侵攻でウイルスが退散するわけもない。
ウクライナの新型コロナ事情を少しだけ調べてみた。
更新が止まった新型コロナ感染者数
と言いながら、結論から言えば、これが実際さっぱりわからない。
これまで感染者数を公表してきた「ウクライナ国家安全保障防衛評議会」のサイトは、ロシアによる侵攻が始まった2月24日から、アクセスできなくなっている。その時点では、1日あたりの感染者は2万7000人超だった。
ジョンズホプキンス大学のデータベースによれば、侵攻直前のウクライナは新型コロナ第4波の中にあったものの、1日あたり感染者数は2月11日の約4万2000人をピークに減少傾向ではあった。
だが、3月初旬のウクライナの気候は最高気温が5℃前後、最低気温が氷点下で、まだ東京の真冬以上の厳しさだった。インフラ施設や医療機関も攻撃を受け、自宅にとどまっている人も避難した人も、体調管理が難しい状況にある人は少なくないだろう。
「そうは言っても、今はワクチンがある。治療薬もできてきた」という指摘があるかもしれない。
だが、同データベースによれば、ウクライナの接種率は2月24日時点で全人口の約35%。追加接種を受けたのはわずか1.7%だ。これまでに504万人が感染しており、これは全人口の約11%にあたる。
少なくとも過半数のウクライナ国民はワクチン未接種かつ未感染で、新型コロナへの免疫がないと推察される。
医療は逼迫している。
WHOの最新報告(3月24日付)によれば、約300の医療機関が戦闘地域の中にあり、600の医療機関が戦地から10km圏内にあるという。これまでに少なくとも64の医療施設が爆撃を受け、37人が負傷、15人が亡くなった。
そのため新型コロナの受け入れ可能病床は、2月24日と比べて27%減少した。街によっては8割減のところもある。
他方、ウクライナ全土の新型コロナ病床使用率は、83%も低下している。オミクロンが下火になってきたこともあるだろうが、医療へのアクセス困難や報告の断絶の影響と考えられている。
たとえ感染者が増加していても受診できず、把握できないということだ。首都キエフは薬の不足が深刻との報道もある。新型コロナどころか持病の治療や薬の入手もままならない。
クリミア戦争では「戦病死」のほうが多かった
私がこれほどまでにコロナ流行下での戦争を懸念するのは、一医師としての思いつきからではない。感染症と戦争は決して切り離せない悲劇的な歴史があるからだ。
今回のウクライナ危機勃発で、クリミア戦争を思い浮かべた人も多いことだろう。
ロシアによる侵攻の発端あるいは大義名分の1つともなっているのがクリミア半島だ。現在、国際的にはウクライナ領だが、2014年からロシアの実効支配下にある。
そのクリミア半島を舞台に19世紀半ば、英仏を中心とした同盟軍等とロシアが2年半にわたって大規模戦争を繰り広げた。
戦闘以上に悲惨だったのは、戦死者よりも病死者のほうが上回ったことだ。
予想外の長期化によって、英国兵舎の衛生状態が悪化し、感染症が蔓延した。当時、その惨状にいち早く気づき、医療に統計学を導入して状態改善に奔走したのが、「クリミアの天使」と称される看護師・ナイチンゲールだった。
関西学院大学・高畑由起夫元教授のブログによれば、クリミア戦争では「戦死者1.7万人に対して、戦病死者数が10万人を超えた」という。さらにその約5年後に起きたアメリカの南北戦争では、「戦死者20万人に対して、戦病死者数は56万人を超えた」としている。
また、人類史上最悪のパンデミックとされるスペイン風邪は1918年、ちょうど第1次世界大戦の真っただ中に発生した。
今日ではインフルエンザウイルスの一種(鳥インフル由来のH1N1亜型)と解明されているが、当時、世界で5億人超が感染し、1億人超が犠牲になったとされる。
第1次世界大戦の戦死者は少なくとも900万〜1000万人と言われるが、この中にも「戦病死者」が多く含まれている。若者に多くの犠牲者を出したことが特徴で、そのために兵士が足りずに大戦終結が早まったとも言われる。
感染症は、戦時下にあっても戦闘以上に命を奪い、戦争や世の中の行方まで大きく左右するのだ。
今回、ウクライナの人々は地下防空壕などに身を寄せて戦火を逃れている。首都キエフには冷戦時代に作られた地下防空壕が5000以上あり、なかには100m以上の深さに位置し2000人を収容するシェルターもあるという。
地下シェルターに籠もれば、砲撃から命を守ることはできそうだ。
だが、新型コロナでは、「換気」と「ソーシャルディスタンス」が感染予防のカギとなる。古い地下施設とあれば換気は最低限だろうし、人が集まれば「3密」となるところもあるだろう。
ウイルス伝播を助ける環境が整ってしまう。
加えて、衛生管理(さまざまな病原体の接触感染・経口感染の予防)に欠かせない上下水道や汚物処理の状況も気がかりだ。
WHOは3月17日付の報告で、ウクライナ国民の健康上の懸念を列挙している。
特にハイリスクとされているのが、新型コロナのほか、ロシア侵攻前からワクチン接種率の低下していた麻疹(はしか)と、結核やHIVなどいくつかの慢性感染症の蔓延。さらに医薬品の入手困難による、心筋梗塞などの心疾患や、ぜんそくなどの慢性呼吸器疾患の悪化。そして、メンタルヘルスの問題だ。
報道(JNN)によれば、ウクライナでは今、人々は基本的な医療も受けられていないという。「妊婦は産前も産後も医師に診てもらえない。持病のある人は薬が手に入らない。そして子どもは予防接種も受けられない状況です」とWHOの広報担当者が訴えていた。
今回初めて知ったが、ウクライナの子どもたちはもともと東欧諸国と比べてもワクチン接種率が低い。多くの国で97%以上の接種率を達成しているBCG(結核)やDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合)、ポリオ、B型肝炎などで、ウクライナの接種率は8割程度にとどまっている(WHO報告3月17日付)。
WHOも懸念する「避難民」の健康
いずれの健康問題も、戦禍を逃れただけで解決するわけではない。周辺諸国に逃れた避難民の多くも、やはり「3密」を避けられず、医療を満足に受けられない状況にある。
再びWHO報告(3月24日付)を確認すると、ウクライナの人口約4400万人のうち、すでに300万人近くが国外へ脱出した。18〜60歳の男性は出国が禁止されたため、そのほとんどが女性と子どもで、子どもだけで100万人に上る。
これまでに最多185万人を受け入れているポーランドのWHO担当責任者からは、避難民施設で発熱、下痢、低体温症、上気道感染症や心不全が報告されている(CNN)。発熱や上気道感染症には、かなりの割合で新型コロナが含まれるはずだ。
戦争が長引くほど、身体の健康のみでなくメンタルヘルス上の懸念も高まる。
ポーランドに逃れたウクライナの避難民のうち、約50万人がメンタルヘルスの手当てを必要とし、推定3万人は深刻な状態だという(ロイター)。
わが国でいわゆる「避難民」を経験した人は、太平洋戦争の引揚者など後期高齢世代のごく一部だろう。しかし、日本は震災や津波の「被災者」の多い国だ。経緯こそ大きく違えど、避難民と似たような境遇に置かれた方々も少なくないことと思う。
避難所生活は、プライバシーもなく、衛生管理も難しい状況だ。仮設住宅に入れても、家族を失い、職を失い、生活のすべてを失った方々の悲しみと苦労は、察するに余りある。
また、東日本大震災から11年が経過したが、今も福島第一原発周辺には、放射線量が高くて住民が戻れないままの帰還困難区域が残っている。当時、着の身着のまま避難し、その日から大きく人生が変わってしまった人たちが何千、何万人といる、ということだ。
同様にウクライナ住民も避難民も、またその受け入れ国の人々も、終わりの見えない戦争の中で、身体も心もストレスにさらされ続けている。
ワクチンを打てる「当たり前の日常」の尊さ
ロシアが侵攻し、戦争状態に陥った経緯には、当事者にしかわからない政治的背景や根深い民族問題等があるのだろう。情報も錯綜し、素人が外から安易にもの言うことはできない。
だが、戦争とは要するに大量殺戮だ。人命と健康、そして日々の生活、人生そのものを奪う。直接的に人々が殺傷されるだけでなく、感染症の広がりや医療の停止で身体が蝕まれ、緊張と不安、絶望の中で心もすり減っていく。
侵攻側のロシア兵の多くも、本意ではない戦争に参加し、劣悪な環境に苦しみながら次々と銃弾に倒れているという(有色系の少数民族が3〜5割との指摘もある)。
人々の命と健康を守ることを使命とする医師として、そのような事態には憤りと悲しみがこみ上げる。ウクライナや避難民の受け入れ国へ、医療物資の提供など日本にできる人道的立場からの医療支援の強化を支持したい。
一方で、ウクライナの子どもたちの各種ワクチン接種率の低さには、正直ショックを覚えた。日本の子どもたちは、ワクチンの接種体制には恵まれている。
遅れていたHPVワクチン接種も、ようやく9価ワクチンを定期接種化する方針が厚生労働省の専門家部会(3月4日 第18回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会)で了承され、欧米先進国に追いつこうという姿勢は見えてきた。
麻疹などコロナで影を潜めていた感染症の再燃は、日本も他人事ではない。どうか日本の子どもたちには、ワクチンの恩恵をもれなく享受してほしい。平和の中にいられるからこそワクチンも打てる、そんな当たり前の日常の尊さを思い、大切にしてもらえたらと思う。
●ロシア、キーウ近郊の空港から撤退…ウクライナ軍前進 4/3
ロシアによるウクライナ侵攻で、米CNNは1日、露軍が首都キーウ(キエフ)近郊のアントノフ国際空港から撤退したと報じた。英国防省の2日の発表によると、キーウ周辺では露軍の撤退に伴い、ウクライナ軍が前進を続けている。一方、露軍は、軍事作戦の重心を移すと表明した東部や南部で支配地域の拡大に向け、ミサイルなどでの攻撃を強めている。
アントノフ国際空港は、2月24日の侵攻開始直後から露軍が制圧していた。CNNは、米宇宙企業が3月31日に撮影した衛星写真と米国防総省関係者の分析を基に、空港に駐留していた露軍の軍用車両などが姿を消したと報じた。
ウクライナ軍参謀本部は1日、キーウ周辺などの約30か所の地区が、露軍の撤退を受けてウクライナ側の管理下に戻ったと発表した。空港の南にあるブチャの市長は1日、「市が露軍から解放された」と明らかにした。
一方、東部では露軍の攻勢が強まっている。ウクライナ軍は1日、東部ハルキウ(ハリコフ)州で輸送の拠点となっているイジュームを露軍が占領したと認めた。露国防省は、東部の複数の軍用飛行場をミサイルで攻撃したと発表した。
南部オデーサ(オデッサ)では1日、ロシアが併合したクリミアから発射されたミサイルが着弾し、死傷者が出ているという。
ウクライナ軍は2日、隣国モルドバのウクライナとの国境沿いでロシア系住民らが一方的に独立を宣言している「沿ドニエストル共和国」で、駐留する露軍部隊がウクライナへの攻撃を準備していると指摘した。
一方、露軍が包囲する南東部マリウポリでは、赤十字国際委員会(ICRC)が住民の退避の支援に向け、2日も引き続き現地入りを試みている。ウクライナ大統領府の高官によると、1日にはマリウポリから独自に住民約3000人が退避したが、約10万人がいまだに取り残されているとされる。
また、露南西部ベルゴロド州の燃料貯蔵施設がウクライナ軍のヘリコプター2機により空爆されたと露国防省が発表したことについて、ウクライナの国家安全保障国防会議のトップは1日、「事実と全く異なる」と露側の主張を否定した。
●プーチンの大誤算、中国に引き込まれた「進むも地獄、引くも地獄」の戦争 4/3
「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、国民に支持されていない。ロシア軍がウクライナに入れば、大歓迎で迎えられる。ゼレンスキー大統領を失脚させて、新しい親ロの大統領をウクライナ国民が自ら選ぶ。『力による現状変更』ではない。ロシアに対する経済制裁は国際社会の支持を得られない」。だが、プーチン大統領の楽観的な思惑は外れた
ウクライナが抵抗できている理由は何か。またロシアが撤退しても、さらなる脅威が生まれる可能性がある。
ロシアの当初の見立ては大誤算
ロシアのメディア・RIAノーボスチが、「ウクライナはロシアの手に戻った」「ロシア、ベラルーシ、ウクライナの3つの州が地政学的に単一の存在として行動している」「我々の目の前に新たな世界が生まれた」と、ロシアの「勝利宣言」を誤送信する「事件」が起きた。
プーチン大統領の軍事侵攻の目的がわかる内容だった。しかし、たとえ、苦心惨憺の果てにウクライナを制圧しても、ロシアの目指す「新たな世界」など絶対に出現しない。
要するに、東西冷戦終結後の約30年間で、旧ソ連の影響圏は、東ドイツからウクライナ・ベラルーシのラインまで後退した。だから、たとえ、ウクライナを制圧しても、それはリング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたボクサーが、やぶれかぶれで出したパンチが当たったようなものなのだ。
ロシアは、「進むも地獄、引くも地獄」という状況に陥っているのではないか。まず、緒戦の電撃的な攻撃でウクライナが降伏しなかったことが誤算だった。
ウクライナが徹底抗戦できたのは、ウクライナで自由民主主義が着実に根付いてきていたからだ。
ウクライナでの自由民主主義の浸透の成果
2014年のロシアによるクリミア半島併合後、ウクライナでは汚職防止や銀行セクター、公共調達、医療、警察などの制度改革が実施されてきた。そして、民主的な選挙が実施され、政権交代で3人の大統領が誕生した。
政権交代が頻繁にあり、ゼレンスキー大統領の支持率は約30%という状況をプーチン大統領は、ウクライナの政情が不安定と捉えていた。ロシアのような権威主義の国ならば、指導者への支持率は80%を超えたりする。ゼレンスキー大統領の権力基盤は脆弱だと判断した。
だが、言論、報道、学問、思想信条の自由がある自由民主主義では、国民の考えは多様だ。野党が存在し、指導者への対立候補が多数存在するものだ。指導者の支持率が約30%というのは、低いわけではない。むしろ、ウクライナでの自由民主主義の浸透を示すものだ。自由民主主義を一度知った人々は、それを抑えようとするものに決して屈しない。
それが、自ら銃を取って民兵となったウクライナ国民だ。
ロシア軍は約90万人(旧ソ連時代の5分の1の規模)で、ウクライナに展開しているのは15万〜20万人だとされる。一方、キエフは人口約250万人の都市だ。徴兵制で、成人男性は皆、銃を扱える。彼らが民兵になれば、ロシア軍の数的不利は明らかだ。キエフの制圧は相当に困難だ。地上戦ではロシア軍は大苦戦し、士気が落ちているという。
プーチン大統領の最大の誤算がここにある。
「進むも地獄、引くも地獄」の苦境とは?
ロシアが置かれた「進むも地獄、引くも地獄」の苦境とはどのようなものか。まずは「進むも地獄」だ。
国連総会は、緊急特別会合を開催し「ロシア軍の即時・無条件の撤退」「核戦力の準備態勢強化への非難」などを盛り込んだ決議を、193カ国の構成国のうち141カ国の支持で採択した。2014年のクリミア併合時の決議への賛成は100カ国で、ロシアを批判する国の数は大幅に増加したということだ。
国際社会は、ロシアの主張をまったく信用しなくなった。例えば、ウクライナ南東部のザポロジエ原発で、火災が発生し、「ロシア軍が砲撃した」と批判された。それに対し、ロシアは「“ネオナチ”や“テロリスト”が挑発行為をしようとしてきた」などと主張している。何が真実はわからないが、国際社会はロシアが原発を攻撃したと決めつけた。さまざまな情報が飛び交う中、世界はウクライナを信じる。情報戦で、ロシアは完全に敗北しているのだ。
このまま、ロシア軍が地上戦の膠着した状況を打開するために、さらに地上軍を投入し、核兵器を使用したとする。ロシアの国際社会からの孤立は決定的になる「自殺行為」だろう。
さらに、国際貿易における資金送金の標準的な手段となっているSWIFTからロシアを排除する制裁措置が決定された。次第に絶大な効果を発揮することになるだろう。
石油・ガスパイプラインが「武器」にならないという誤算
SWIFTからのロシア排除の決定は、ロシアが石油・ガスパイプラインを国際政治の交渉手段として使えなかったことを示す(ダイヤモンド・オンラインでの本連載 第52回)。排除が実施されれば、ロシア経済の大部分を占める石油・天然ガスのパイプラインでの輸出の取引が停止し、ロシアは国家収入の大部分を失う。
取引相手である欧州は、コスト高に直面はするが、LNGを米国、中東、東南アジアからかき集められる。ジョー・バイデン米大統領とウルズラ・ファンデアライエン欧州委員長が、EUが約4割をロシアに依存する天然ガスについて、欧州への安定供給維持のために連携する方針を表明する内容の共同声明を出した。
また、バイデン大統領は、液化天然ガス(LNG)の有力産出国であるカタールを、北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国である「非NATO同盟国」に指名する考えを表明した。カタールに対して、欧州へのガス供給量の引き上げを期待している。
さらに、欧米のオイル・メジャーが次々とロシアの石油・ガス事業から撤退している。英BPは、19.75%保有するロシア石油大手ロスネフチの株式を売却し、ロシア国内での合弁事業も全て解消して撤退することを決定した。米エクソンモービルも、ロシア・サハリンでの石油・天然開発事業「サハリン1」から撤退、英シェルが「サハリン2」から撤退を表明した(ダイヤモンド・オンラインでの本連載 第90回)。シェルは、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」、シベリア西部の油田開発などからも撤退する。
ロシアの石油・天然ガス開発は、歴史的に欧米のオイル・メジャーに依存してきた。メジャーが持つ掘削・採取・精製の各段階の技術、外国市場での販売ネットワークや資金力なしでは、ロシアの石油産業は成り立たなかったからだ。
メジャーの撤退は、ロシアの石油・天然ガス事業の存亡に関わる事態となり得る。そして、ロシア経済そのものの崩壊につながりかねない。
ウクライナ軍事侵攻により、周辺国でも一挙に「ロシア離れ」
ロシアは、「NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約」を米国やNATOに要求してきた。だが、ロシアの軍事侵攻は、NATOの東方拡大を加速させている。
ウクライナがEUへの加盟申請書に署名した。また、ウクライナ東部の親ロ派支配地域と同じように、一方的に「独立」を宣言された地域を国内に抱えている旧ソ連構成国のモルドバとジョージアもEUへの加盟申請書に署名した。
この動きは、NATOの拡大につながる可能性がある。すでに、ウクライナとジョージアは、NATOが加盟希望国と認めている。モルドバはNATOの「平和のためのパートナーシッププログラム」に参加しているのだ。
また、NATO非加盟国のスウェーデンとフィンランドの世論調査で、NATOへの加盟の支持が初めて半数を超えた。ロシアのウクライナ軍事侵攻によって、欧州のNATO非加盟国のあいだで、一挙に「ロシア離れ」が加速したといえる。
さらに、ロシアの軍事行動がエスカレートすれば、ロシアを経済的に支援しているとされる中国、中立を保つインドなども、ロシアを見捨てざるを得なくなるかもしれない。
中国共産党が、プーチン大統領を戦争に引き込んだと言う見方も
「引くも地獄」だが、プーチン大統領がロシア軍のウクライナからの撤退を決めれば、プーチン政権は崩壊の危機に陥る。大統領がアピールしてきた「大国ロシア」が幻想であることを国民が知ってしまう(ダイヤモンド・オンラインでの本連載 第142回)。大統領への支持は地に落ち、政権は「死に体」となる。大統領の失脚や暗殺を企てるクーデターも起こり得る。
紛争終結後にプーチン大統領が失脚する「ポスト・プーチン」がどうなるかを、今から考えておく必要があるのかもしれない。
気になる動きがいくつかある。ウクライナ紛争のきっかけとなった「ウクライナ東部独立承認」をロシア議会に提案したのが野党「ロシア共産党」だったことだ。ロシア共産党は中国共産党の強い影響下にあると指摘されている。中国共産党が、プーチン大統領を「進むも地獄、引くも地獄」の戦争に引き込んだという見方はあり得る。
また、ウクライナがロシアとの仲裁を中国に依頼したことも興味深い。ロシアと中国は親密な関係だが、ウクライナも「一帯一路」を通じて中国と深い関係がある。
中国は、ウクライナ紛争に静観を装っている、だが、すでにプーチン大統領を見限っており、「ポスト・プーチン」をにらんで紛争の仲裁に入り始めたら、自由民主主義陣営にとって深刻な事態となるかもしれない。
一方、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、仲裁役に名乗りを上げた。トルコはNATO加盟国で欧米の代理人といえる。だが、大統領は、権威主義的な国家運営で知られ、ロシアとも良好な関係である。自由民主主義か権威主義か、どちらに顔を向けて仲裁するのかわからない。
ウクライナ紛争は、ウクライナ国民の自由民主主義を守ろうとする行動によって、ロシアを「引くも地獄、進むも地獄」に追い込んだ。しかし、歴史を振り返れば「アラブの春」など、権威主義の指導者を失脚させた後、自由民主主義がもたらされず、混乱の中、よりひどい指導者が出現したことがあった。
「ポスト・プーチン」のロシアに、中国共産党の支援を受けた、プーチン大統領以上に権威主義的な指導者が出現するリスクがあるのかもしれない。米国とNATO、日本など自由民主主義陣営は、これに対抗する想定ができているのだろうか。 
●ウクライナ奪還の街で「280人埋葬、全員が後頭部撃たれた」…ロシア軍 4/3
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は2日、自国への侵攻を続けるロシア軍から、首都キーウ(キエフ)があるキーウ州全域を奪還したと明らかにした。AFP通信などによると、解放されたキーウ近郊ブチャでは、民間人とみられる多数の遺体が確認された。露軍は首都周辺から撤退する一方、東部や南部の制圧を目標として攻撃を強めている。
マリャル氏は自身のSNSで、キーウ北西に位置するブチャ、イルピン、ホストメリの地名を挙げ、「侵略者から解放した」と表明した。
2日、ウクライナの首都キーウ近郊で、ロシア軍との戦闘で破壊された街の警戒にあたるウクライナ軍の兵士ら=AP2日、ウクライナの首都キーウ近郊で、ロシア軍との戦闘で破壊された街の警戒にあたるウクライナ軍の兵士ら=AP
人口約4万人のブチャは露軍が猛攻をかけた後、約1か月間、占拠されていた。ブチャの市長はAFPの取材に、「街中に遺体が散乱している。少なくとも約280人を集団墓地に埋葬した。女性や子どもも含まれ、全員が後頭部を撃たれていた」と述べた。
遺体の多くは、武器を持っていないことを示す白い布を身に着けていたという。現地入りした英BBCも、路上などで約20人の遺体を確認した。後ろ手に縛られた複数の遺体の映像も報じた。
戦闘員ではない民間人の殺害は、「人道に対する罪」に該当する。露軍の地上部隊が、制圧した地域で戦争犯罪を繰り返していた可能性が浮上した。
露国防省は3日、公式SNSで、ブチャに関する報道について「偽情報だ」と主張し、関与を否定した。
露軍部隊がキーウ州から撤退したことに関し、米政策研究機関「戦争研究所」は、「キーウなど主要都市を攻略する当初作戦が失敗し、修正した結果だ」と分析した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2日のビデオメッセージで、ロシアが東部のドネツク、ルハンスク(ルガンスク)両州全域と南部の「占拠」を目指していると指摘し、「防衛のため、あらゆることをしよう」と抗戦を呼びかけた。 ・・・
●ロシア軍の民間人虐殺非難 「戦争犯罪」問う姿勢―欧州 4/3
ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外ブチャで民間人とみられる多くの遺体が見つかったことに関し、欧州主要国は3日、ロシアを一斉に非難した。民間人虐殺は「戦争犯罪」と断じ、捜査に協力する姿勢も示した。
欧州連合(EU)のミシェル大統領はツイッターで「ブチャの虐殺」と断定。「ロシア軍の残虐行為の映像に衝撃を受けた。国際法廷での追及に必要な証拠収集で、ウクライナやNGOを支援する」と強調した。さらなる対ロ制裁に踏み切ることも明らかにした。
トラス英外相は声明で「侵略軍による恐ろしい行為の証拠が、次々と明らかになっている」と指摘。「罪のない民間人に対するロシアの無差別攻撃は、戦争犯罪として捜査されなければならない」と表明した。
ドイツのベーアボック外相も「ブチャからの映像は見るに堪えない。これらの戦争犯罪の責任を問わなければならない」と述べた。
●ウクライナの路上に残される数々の遺体、ロシア後退後の首都郊外ブチャで 4/3
ロシア軍が軍事侵攻を続けるウクライナの首都キーウ(ロシア語でキエフ)から北西近郊にあるブチャで1日、ロシア軍が後退した後の路上に、複数の遺体が残されていることが明らかになった。市内にはロシア軍に殺害された約280人を埋葬した集団埋葬地もあるという。
ロシア軍後退後のブチャに入ったAFP通信記者は、路上で少なくとも20人の遺体を発見したという。そのうち少なくとも1人の男性は、両手を後ろに縛られていた。
キーウから約24キロ北西のブチャに入ったロイター通信のカメラマンも、路上に点在する複数の遺体や大破した車両、砲撃で大きな穴の開いた集合住宅などの様子を撮影している。
ウクライナ軍は数日前にブチャを奪還。現地の映像からは、激しい破壊の様子が見て取れる。
ブチャとは別に、BBCのジェレミー・ボウエン中東編集長と取材チームはキーウ西郊の高速道路で、ロシア軍に殺害されたとみられる13人の遺体を発見。そのうち2人はかつて殺害の様子がドローン映像に捉えられていた民間人の夫妻で、他の犠牲者の一部はウクライナ兵だった可能性がある。
2月24日に始まったロシアの軍事侵攻に、ウクライナ軍は徹底抗戦を続けている。ウクライナから少なくとも400万人が避難する中、西側はロシアに厳しい経済制裁を科し、軍事援助も供与している。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、かつてソヴィエト連邦の一部だったウクライナが北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)加盟を目指しているのは、ロシアにとって常態的な脅威で、そのためロシアは「安全を実感しながら発展も存在もできない」と、ウクライナ攻撃を正当化している。
ロシア軍は軍事侵攻開始から首都キーウに迫り、近郊を制圧していた。しかし3月末になるとロシア軍はキーウ近郊から後退を開始。一部のウクライナ当局者は2日までに、首都周辺の全域をウクライナ軍が奪還したと述べている。
ロシア軍が後にしたブチャで、AFP通信の記者が目視した20人の遺体のうち16人は、歩道や緑地のそばに倒れていた。3人は通りの真ん中に横たわり、1人は破壊された民家の中庭で横向きに倒れていた。
白い布で両手を後ろ手に縛られ倒れていた人の隣には、ウクライナのパスポートが開いて地面に置かれていた。
ほかに2人が上腕部に白い布を縛り付けられていた。
ウクライナ当局はAFP通信に対して、死亡した男性たちはロシア軍の砲撃かロシア兵の射撃で死亡した可能性があるとして、警察が捜査すると話した。
一方、ブチャのアナトリー・フェドルク町長はAFP通信の電話取材に対して、発見された20人の遺体はすべて後頭部を銃で撃たれていたと話した。さらに、砲撃で破壊された複数の車両の中にも、複数の遺体が残されているという。
ロシアの軍事侵攻の結果、ブチャの町は280人を集団埋葬したと、町長は話した。
●ウクライナ国防次官「キーウ州全域をロシア軍から奪還」  4/3
軍事侵攻を続けるロシア軍がウクライナ東部での作戦を強化する中、ウクライナの国防次官は2日、首都を含むキーウ州、ロシア語でキエフ州の全域をロシア軍から奪還したと明らかにしました。停戦に向けた交渉が進められていますが、ロシア側は交渉は容易ではないとしていて、双方の間には依然、隔たりが見られます。
ウクライナのマリャル国防次官は2日、自身のフェイスブックに「キーウ州全域が侵略者から解放された」と投稿し、首都キーウのほか、近郊のイルピン、ブチャ、ホストメリを含むキーウ州全域を、ロシア軍から奪還したと明らかにしました。
ウクライナ政府も30を超える町や村を奪還したとしていて、ゼレンスキー大統領は2日の声明で、北部に展開していたロシア軍は少しずつ撤退していると明らかにしました。
ただ、ゼレンスキー大統領は「ロシア軍は地雷をあらゆる場所に埋めている」として、避難している住民に対し、安全が確認されるまでは戻らないよう呼びかけています。
一方、ロシア軍はウクライナ東部での作戦を強化していて、ロシア国防省は2日、ハルキウ州とドニプロペトロウシク州にある鉄道の駅の付近をミサイルで攻撃し、ウクライナ軍の装甲車や燃料タンクなどを破壊したと発表しました。
ロシア国営のタス通信によりますと、ロシア大統領府のペスコフ報道官は2日「軍事作戦の目的が一刻も早く達成され、敵対行為が停止されることを望む」と述べ、東部地域の解放を理由に戦闘を続けると改めて強調しました。
また、ロシア軍が包囲し、深刻な人道危機が起きている東部の要衝マリウポリからの住民の避難について、ロイター通信は2日、ウクライナのベレシチュク副首相の話として4217人が戦闘地域から避難したと伝えました。
ただ、いまだに10万人以上が取り残されているとみられ、水や電気の供給が止まり医薬品なども届かない中、さらに住民を避難させられるかが大きな課題となっています。
停戦に向けた交渉が進められる中、ウクライナ側の交渉団のメンバーは2日「両国の大統領による直接交渉に向けた十分な進展がある」と明らかにしましたが、ロイター通信によりますと、ロシア大統領府のペスコフ報道官は2日、交渉は継続するものの「ウクライナ側は私たちに対して敵対的だ」と述べ、交渉は容易ではないとしていて、双方の間には依然、隔たりが見られます。
首都近郊からのロシア軍の撤退にともない、激しい戦闘が伝えられた地域の被害の実態が明らかになっています。
ロイター通信が、首都キーウの北西にあるブチャの様子を2日に撮影した映像では、多くの建物が焼けて倒壊し、軍用車両が放置されているのが確認できます。
住民の男性は「2週間地下室にいたが、光がなく、暖まるための暖房もなかった」と話していました。
また、ブチャの市長は、ロイター通信の取材に対し、300人以上の住民が殺害されたと明らかにしたうえで「犠牲者の遺体は、まだ路上に多く残されている。手を縛られ、頭を撃たれた人もいる。この地域でいかに違法なことが行われていたのか想像できる」と話しています。
●ウクライナ“キーウ州全域奪還” ロシア 来月勝利宣言意向か  4/3
ウクライナ政府は、首都を含むキーウ州の全域をロシア軍から奪還したと強調するなど、ウクライナ側は、反撃を強めているとみられます。一方、ロシアのプーチン大統領は、戦略を見直してウクライナ東部の掌握を成果とすることで、来月上旬にも国民向けに「勝利した」とアピールしたい意向とも伝えられ、東部での戦闘がいっそう激しくなるとみられています。
ロシア国防省は3日、ウクライナ南部の黒海に面する港湾都市、オデーサ、ロシア語でオデッサ近郊の製油所や燃料施設をミサイルで破壊したと発表するなど、東部や南部を中心にミサイルや空爆での攻撃を続けています。
一方、首都キーウ・ロシア語でキエフの周辺地域について、ウクライナのマリャル国防次官は2日、自身のフェイスブックでキーウ州全域をロシア軍から奪還したと強調しました。
こうした中、アメリカのCNNテレビは3日までに、複数のアメリカ政府当局者の話として、ロシア軍が苦戦を強いられる中、プーチン大統領はロシア国内向けに「勝利した」とアピールする必要性に迫られ、戦略を見直して東部の掌握を成果とすることに焦点を当てているとみられると伝えました。
その時期は、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した来月9日の「戦勝記念日」が考えられ、例年、首都モスクワで軍事パレードを開くなど、愛国心を高める重要な行事であることから、この場で「勝利宣言」を行いたい意向とみられるということです。
ウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記も今月1日、プーチン大統領の思惑について同じような認識を示していますが、いったん国民向けに成果をアピールするだけで、実際には戦闘は長期化するという見方も出ています。
一方、停戦交渉について、ロシア代表団トップ、メジンスキー大統領補佐官は3日、交渉が4日も継続すると明らかにしましたが、「合意文書の草案の作成は大きく遅れている」とするなど双方の主張の隔たりは依然埋まっていないという認識を示しています。
ロシアとしては、東部でどこまで戦況を有利に進められるか注視しながら、交渉にどのように臨むのか見極めるものとみられます。
●「ロシア苦戦のかげに“SNS戦争”」衛星も駆使…ウクライナ軍のネット戦略 4/3
ロシアによるウクライナ侵攻から1か月以上。ロシア軍に予想外の苦戦を強いているのは、市民が投稿したSNSでした。衛星インターネットをも駆使する“新しい情報戦”とは?
政府の統制を受けていないとされる「テレグラム」に情報が集まる
ロシア軍を苦戦に追い込んでいる要因の1つが、ウクライナ側の「SNSレジスタンス」です。
ロシアで開発され、政府の統制を受けていないとされる、通信アプリ「テレグラム」。ウクライナ政府は、このアプリに、侵攻の直後から、「ロシアの戦争を止(と)めろ」という専用の窓口を設けました。
すると、自分の住む地域で、ロシア軍を目撃したウクライナ国民などが、敵の位置情報などを、次々と投稿し、一気に情報が集まったのです。
実際に、ウクライナ政府は破壊されたロシア軍の車両の画像をツイッターに投稿。市民らの情報を元に、反撃に成功したと言うのです。
ウクライナの呼びかけにイーロン・マスク氏がすぐに応じて…
インターネットを使ったウクライナの反撃は他にもあります。
偵察用ドローンに搭載された赤外線カメラが、ロシア兵の様子を捉えていました。白い点のようにカメラに写るロシア兵。戦場は本来、通信環境が不安定で、情報の共有が難しい場所ですが、ウクライナ軍は、偵察部隊がドローンで集めた情報を、攻撃部隊と素早く共有し、戦果を挙げていると言います。
それを可能にしているのが、アメリカの実業家イーロン・マスク氏の「スペースX社」が手掛ける「スターリンク」という衛星インターネットサービスです。
2000基を超える衛星を使って通信を行う「スターリンク」。衛星が見える範囲なら地球上どこでも、通信が可能になると言います。
また、この衛星は、高度550キロの低軌道上にありますが、攻撃することは容易ではなく、ロシア軍も手が出せないのです。
ウクライナ側がこれを使えるきっかけが、ネット上での、この呼びかけでした。
「ウクライナに、スターリンクを提供してください」とツイッターに投稿したのは、31歳の若さでウクライナのデジタル転換大臣を務める、ミハイロ・フェドロフ氏。この呼びかけに、イーロン・マスク氏がすぐさま応じ、わずか10時間後には、ウクライナは強固なインターネット環境を手に入れたのです。
「戦争の事実が明らかになっている」
一方で、世界の市民の間でも、こんな動きがあります。
3月24日に撮影された、マリウポリにある赤十字国際委員会の倉庫を見ると、攻撃で屋根に穴があいているのが見えます。さらに4日後の画像では、穴が増えているのがわかります。ロシア側は未だに「攻撃対象は軍用の施設」としていますが、画像を見る限り、被害は広がっています。
実は、この画像を公開したのは、アメリカの衛星運用会社「マクサー・テクノロジーズ」という民間企業で、こうした衛星画像を無償で公開しています。
多くの子供が犠牲になったマリウポリの劇場が空爆された際も、画像を公開。劇場の周辺には、ロシア語で「子供たち」という文字が書かれています。
このように、画像を分析できれば、一般の人でも、戦争の被害を検証することが可能になるのです。
東京大学の渡邉英徳教授は「インターネット上で、技術が掛け合わされることで、新しい手法が生まれ、戦争の事実が明らかになっている」と言います。
“新たな情報戦”のもと、ロシア軍は予想以上の苦戦を強いられています。
●ウクライナ支援が「参戦」にはならないワケ 「戦争」「中立」という概念の変遷 4/3
続々集まるウクライナへの支援
2022年2月24日に突如、開始されたロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対して、世界各国は強い関心を示し続けています。とくに、各国によるウクライナに対する各種支援については、日本でも連日報道されているところです。
たとえば、アメリカが提供した「ジャベリン」をはじめ、イギリスの「NLAW(次世代軽対戦車兵器)」やドイツの「パンツァーファウスト3」といった対戦車兵器は、ウクライナへ侵攻してきたロシア軍の戦車や装甲車に対して大きな損害を与えています。また、アメリカをはじめ複数国が提供している携帯型地対空ミサイルの「スティンガー」は、ロシア軍のヘリコプターにとって大きな脅威となっています。
さらに3月4日には、日本政府も国家安全保障会議(NSC)を開き、防弾チョッキやヘルメットなどをウクライナへ提供することを決定しました。その後、3月8日に愛知県の航空自衛隊小牧基地からKC-767空中給油・輸送機が支援物資を搭載してウクライナの隣国ポーランドへと飛び立ち、以降、日本からの支援物資もウクライナへ順次到着しています。
ところで、こうしたウクライナへの支援を実施することに関して、国際法的にはどう評価されるのでしょうか。関連し得るキーワードとなるのは「中立法」です。
中立法とは?
そもそも「中立」は、戦争を行うことがまだ違法とされていなかった19世紀以降に発展してきた概念です。戦争に参加している国同士を「交戦国」とする一方、それ以外の国々は自動的に「中立国」に分類され、自国に対して戦争の影響が及ぶことを免れ得る一方で、中立国にはさまざまな義務が課されました。そして、こうした交戦国と中立国との関係を規定したのが先述した中立法です。
中立国に課される義務としては、交戦国の軍隊が自国の領域を使用することを防ぐ「防止義務」、交戦国に対する一切の軍事的援助などを慎む「避止(ひし)義務」(これらを合わせて「公平義務」ともいいます)、そして交戦国が自国に対して合法な形で害を与えたとしてもそれを容認する「黙認義務」の3つが挙げられます。
ウクライナへの支援はどう評価される?
ウクライナへの支援という観点では、上記の義務のなかでも避止義務との関係が注目されるところですが、実のところ、とくに第2次世界大戦以降は、中立義務のなかでも避止義務や防止義務は必ずしも厳格に順守されてきたわけではありません。これは第1次世界大戦以降、進展した戦争違法化との関係で、戦争をしている国々に関して「違法に武力を行使している国」と「合法的に武力を行使している国」という区別が可能となったことが影響していると考えられています。
もともと、中立法が発展してきた19世紀当時は戦争に訴えることが原則的に禁止されていたわけではなく、そのため戦争に参加している国々の間に合法な側と違法な側という区別はありませんでした。だからこそ、交戦国双方を公平に扱うことを基盤とする中立法が発展したのです。
ところが、2度の世界大戦を経験し、現在の国際法では戦争を含めた一切の武力行使が原則禁止され、例外的に自衛権の行使などが合法な武力行使として認められています。そのため、武力行使に関して違法な側と合法な側という区別が可能となり、これまでのように交戦国双方を公平に扱うことは不合理とされるようになったとともに、合法に武力を行使していると考えられる国を支援する動きが見られるようになりました。
そこで、現在では自国が中立国になるかどうかはその国の任意であり、自国が武力紛争に巻き込まれることを避けるために中立の立場を選択することも可能な一方で、交戦国の片方に軍事的な支援を行いつつも、武力紛争に直接参加するわけではない「非交戦国」なる立場があり得るという主張もなされています。
非交戦国という概念は、古くは第2次世界大戦参戦前のアメリカがイギリスに対して武器などを支援していた事例を契機に盛んに議論されるようになりましたが、現在でも学説上の議論が続いています。
中立法に関する日本の立場
一方で、日本政府はこうした中立法に関して、現在の国際法の下ではもはや伝統的な中立という概念は維持され得ないと整理しています。たとえば、ベトナム戦争に際してアメリカ軍が日本の基地を使用していたことに関連して、日本政府はアメリカの行動を合法な自衛権の行使と整理した上で、そのような合法な措置をとっている国に対して基地の提供を通じた支援を実施することは問題ないという整理を行っています。
また、今回のウクライナへの支援に関しても、日本政府は国内上の制約である「防衛装備移転三原則」などの観点での整理は行っていますが、国際法上の説明はとくになされていません。つまり、日本政府としては、今回のウクライナへの支援については国際法上、問題にはならないと整理していると考えられます。
このように、今回のウクライナのように「合法な武力の行使を行っている国に対して支援を行うことは国際法上、問題とはならない」という整理については、ある程度、国際的な理解が深まりつつあるといえるかもしれません。しかし、どちらが合法に武力を行使しているのかという問題は、通常は必ずしもはっきりと判断できるものではありません。
今回のウクライナへの各国の支援は、ロシアの軍事侵攻に対して国際社会全体がほぼ一致してその違法性を明確に認識したからこそ、可能になったという側面もあるのかもしれません。
●なぜ中東で食糧危機?ウクライナ侵攻影響  4/3
近所のパン屋が値上げした。そんな変化が身近なところで見られるようになっていませんか。ロシアによるウクライナ侵攻で、小麦の価格が世界的に高騰しているためです。とりわけ、深刻な影響が出ているのが、中東地域です。小麦の在庫が1か月程度など、食糧危機を招きかねない事態にまでなっています。現地の状況を詳しく解説します。
なぜ、影響深刻なの?
ロシアとウクライナはともに穀物の輸出大国です。とりわけ小麦は、輸出量でロシアが1位、ウクライナが5位で、両国で世界の3割を占めます。その両国に、小麦の輸入を大きく依存しているのが中東地域です。主食のパンの原料として小麦は欠かせない輸入品です。両国からの輸入の割合はトルコで8割以上、エジプトで7割以上などとなっています。しかし、ロシアによる侵攻で、3月上旬には国際的な指標となる小麦の先物価格がおよそ14年ぶりに最高値を更新。さらに輸入が滞ることで、各国で供給不安も広がっています。
具体的にどのような影響が?
特に心配なのが中東のレバノンです。レバノンの経済・貿易省によりますと、小麦のストックはあと1か月足らずしかないと言われています。レバノンでは小麦輸入のおよそ70%をウクライナが占めていて、ロシアによる侵攻後、輸入がストップし、深刻な小麦不足に陥っています。さらに、レバノンでは2020年8月には首都ベイルートで大規模な爆発事故が起き、国内最大の穀物貯蔵庫が損壊しました。このため、小麦を大量に保管する場所もないまま今回の事態を迎え、深刻な事態となっています。
市民の暮らしへの影響は?
ベイルート市内のスーパーでは、小麦粉の棚だけ空になっていました。買い物客は「ウクライナ危機が始まってから、小麦粉がどこに行ってもありません」と困惑した様子でした。また、レバノン南部にある国内最大規模の小麦粉の生産工場を訪ねてみると、7つの貯蔵庫のうち6つがすでに完全に空となり、小麦のストックが尽きようとしていました。このためパンの価格は、この1か月で50%以上高くなり、1袋当たりの量も減っています。ベイルート市内で妻と3人の子どもと暮らすユセフ・マウラさん(52)はこの半年、口にしていない肉類だけでなく、パンすら食べられなくなるのではと不安を募らせています。「以前から暮らしは大変でしたが、ロシアのウクライナ侵攻で、さらにひどくなりました。この戦争が早く終結し、状況が改善するのを望みます。人々がパンを口にできること、望むのはそれだけです」
代替の輸入先は確保できるのか?
レバノン政府は、ウクライナに代わる小麦の輸入先を探していますが、自国通貨が暴落するなか、輸送コストの問題など課題も多く、同じように小麦の調達を急ぐほかの国との競争に勝てるのか焦りを募らせています。経済・貿易省で小麦の輸入を担当するジョージス・バルバーリ部長は、代替の輸入先を探すのは、容易ではないと話しています。「緊急対策として早く、安く、質のいい小麦を探す必要がありますが、どの国も警戒し、自国の備蓄のために小麦の輸出を止めた国もあるからです。飢えは破滅的で、国民に食べていくための小麦も小麦粉もありませんとは言えず、なんとか早く調達先を見つけるしかありません」
すでに食糧危機の紛争地では?
中東の紛争地では、食糧危機にさらに拍車がかかっています。7年以上にわたり内戦が続く中東のイエメンでは、農業生産が落ち込み食糧不足が深刻で、国連は、国際的な基準で最も深刻な飢餓状態とされる人がことし中に現在のおよそ5倍の16万人余りにまで増えるとしています。さらに、小麦の輸入の4割をロシアとウクライナに頼っていることから、主食のパンの価格がさらに値上がりし、飢餓の広がりが懸念されています。
イエメンの市民生活は?
ただでさえ厳しい生活に、小麦の供給不足でパンの値段が高騰し、深刻な事態になっています。首都サヌアに暮らすダルウィーシャ・バヒースさんとその家族は、内戦で夫の収入が不安定となるなか、十分な食事がとれず、深刻な栄養失調に陥っています。特に心配なのは7人の子どもの末っ子、1歳半のハサン君で、体重は標準とされる体重のわずか6割ほどしかなく、発育にも問題が出ています。食事は1日に1度だけ、家族でパンを分け合っていますが、パンの値段は、通貨の暴落や小麦の供給不足で、この1年で2倍に高騰したといいます。このため、ダルウィーシャさんはパンを買うお金を少しでも得ようと、通りに立って人々に施しを求めざるを得なくなっています。それでも、命をつないできたパンの値段がさらに高くなれば、子どもたちを食べさせていくことは難しくなると言います。「食べるものが見つからず、誰も私たちを助けることができずに、子どもたちは栄養失調になりました。物価がさらに上がれば、私たち家族だけでなくたくさんの人たちが餓死してしまいます」
世界の食糧安全保障はどうなる?
ロシアとウクライナからの輸出の停滞が懸念されるのは、小麦だけではありません。FAO=国連食糧農業機関によりますと、農作物のうち世界の輸出に占める両国の割合は、ヒマワリ油で6割、大麦で2割、トウモロコシで1割などとなっています。ウクライナ危機を背景に、ことし2月の穀物の価格指数は、2013年2月以来の高い水準となっています。FAOのボーバカル・ベンハサン市場・貿易部長は、次のように警告しています。「特に経済的に貧しい国は深刻な影響を受けるおそれがあります。とりわけ、紛争などで、十分な食糧生産ができておらず、外国からの輸入に頼っている国は、影響が避けられません。アメリカやフランス、オーストラリア、アルゼンチンといった農業大国には、国際市場に出す農産品・食料品の輸出を制限しないよう強く求めている」世界の食糧安全保障を揺るがしている、ロシアによるウクライナ侵攻。戦闘の長期化は、さらなる食糧危機をもたらしかねない事態となっています。
●隠されるロシア兵の実態 プーチン氏が恐れる「口コミ」とは? 4/3
最新のプーチン大統領の支持率は実に83%だ。一般に戦時下は国民が一体化するため高い支持率を集める。しかし、私たちが日々得ているウクライナ情勢がロシア国民に伝わっていれば、支持率は違う結果になっているのではないだろうか。今回はロシアのメディアでは決して報じられないロシア兵の実態をひもとく。ロシア軍内部では今何が起こっているのか?
「ロシア軍は味方を置いて逃げていった」
番組では4回目の停戦交渉の翌日、日本時間3月30日の夜、ウクライナ国家親衛隊、アゾフ連隊の上官に直接インタビューし、敵であるロシア兵の実情を聞いた。
ウクライナ国家親衛隊所属 アゾフ連隊 マクシム・ソリン司令官「ハルキウ周辺で30人近いロシア兵を捕虜にした。ほとんどの兵士は抵抗せずに武器を置いた。今朝キーウ周辺で後退するロシア軍は味方を置いて逃げていった。捕虜は若い人が多く、本当に経験を待たない新人ばかりだ。(元々はウクライナ領内の)ルハンシク・ドネツクで徴集された士気の低い人も派遣されている。そういう人はすぐに団体で降伏する」
このインタビューを録ったのはロシア軍がキーウ周辺の攻撃を縮小すると発表した1日後。しかし後ろからは銃声が響いた。だが司令官は、これが日常だと微笑み交じりで語り、現在ロシア軍が攻勢を強めている東南部マリウポリでの戦いについて語ってくれた。
マクシム・ソリン司令官「マリウポリ市内では想像を絶する努力で、本当の英雄といえる3000人くらいで戦い続けている。敵は人数、装甲車、戦車など数十倍規模の戦力で空と海を制圧しているにもかかわらずに・・・」
なぜロシア軍は“弱い”のか
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師「戦争が始まる前からロシア軍の集結は伝わっていた。それを衛星で見ているとテントを張っていた。数か月テントで暮らして戦争が間近になれば駅の構内で雑魚寝するなどせざるを得ない。または装甲車の中で寝るとか・・・。それで戦争に入る。だからロシア兵はもともとかなり疲れていた。勝ち戦であればそれでも士気は上がるが、負け戦であると・・・。実際損害もたくさん出ている、となると相当士気は下がって、規律も乱れるってことになる」
ロシア兵には、いわゆる職業軍人である「将校」21万1200人のほかに、給料を貰って軍に参加する「契約軍人」40万5000人と、18歳から27歳の間に12か月務めなければならない徴兵義務によって集められた「徴集兵」約20万人がいる。
今回のウクライナでの軍事作戦には15万から20万が派兵されたとされるが、その多くは徴集兵が占めるとニューヨークタイムズは伝えている。であるならソリン司令官が話していた捕虜の多くが若い新人だというのも頷ける。
小泉悠 専任講師「ロシアの徴兵は、かつてはもっと長かったんですが、そうするとみんな軍隊に行きたがらないので短くした。ところが徴兵12か月ってことは、MAX1年しか軍隊経験がない兵士たちなんです。日本の自衛隊の基準からみてもプロフェッショナルの軍人になる前に任期が終わる。なので基本的には、“徴集兵は戦争には送らない”ってことに本来はなってる」
戦地へ赴く軍隊は、将校と契約軍人で構成すると決まっているが、これまでも兵力が足りなくなると徴集兵が駆り出されてきた。ジョージアとの戦争でもそうだったと小泉氏は言う。が、それ以上にロシア軍の混乱ぶりをうかがわせる情報が小泉氏の下に入っていていた。
小泉悠 専任講師「軍の中で命令不服従や戦線離脱は起きているらしい。不確実情報ですが、ある旅団で旅団長が部下の反乱にあって戦車で轢かれたと・・・。最初は大けがという情報だったが、のちに病院で亡くなったと続報があった」
日給53ドル…ロシア側の兵募集のチラシが
一方、クリミアではあるものが出回っていることが明らかになった。ロシア軍兵士募集のチラシである。チラシには、ロシア連邦・国防省との短期契約4〜12か月。報酬月額20万ルーブルより。基本給+ボーナス200%+日給53ドル。食事、軍服支給とあり、連絡先の電話番号が書かれている。ちなみに20万ルーブルは日本円で28万円ほどに当たる。
小泉悠 専任講師「月給20万ルーブルはめちゃくちゃ高い。ロシアの平均所得の5〜6倍の金額。正式のロシア軍人の給料より高い。ボーナスと53ドルの日給が不思議な話。ロシアの国防省が、対立するアメリカのドルで日給を支払うとはまず言わないと思う。正式な募集であれば、国防省の紋章であるとか、どこの事務所の募集かが書いてあるはず。電話番号だけっていう・・・、言い方悪いがサラ金の貼り紙みたい・・・。民間の軍事会社がお金の無い人を集めているのかもしれない」
戦地でも国内でもロシアの兵役事情は混乱しているようだ。そんな中、今も若い兵士たちが大勢命を落としている。ロシア国内では、その事実さえほとんど報じられていない。しかし、黙っていない人たちがいた。
「ロシア人は、口コミ民族」
ウクライナに侵攻したロシア軍の死者数について、ロシア国防省は1351人(3月25日)、ウクライナ軍参謀本部は約1万7500人(3月31日)とそれぞれ発表している。数字は10倍以上の開きはあるが、紛れもない事実は死んだ兵士がロシアに帰っていないことだ。その現実を受け、声を上げる女性たちがいる。「兵士の母委員会」、通称「母の会」だ。1989年に設立された兵士とその家族の権利を守ることを目的とした人権団体だ。番組では切実な訴えを直接聞いた。
兵士の母委員会 ゴラブ会長「どの母親も息子と最後に電話が繋がったのは、2月23日(軍事侵攻前日)でした。24日には息子たちは電話ができなくなっていました」
ゴラブ会長は、戦死した兵士の遺体を引き取りたいとウクライナ側に申し入れたが・・・
ゴラブ会長「ゼレンスキーはインタビューでロシアが遺体を引き取りたがらないといっていましたが、引き取りたくないはずがないでしょ! 引き取りたくないはずありません。私が行って全員の遺体を引き取りたいですよ」
国からの締め付けがあろうと我が子を思う母の行動力は揺るがない。しかし、母の会といえども設立当時と現在は事情が異なるという。
笹川平和財団 畔蒜泰助 主任研究員「戦争という言葉も使えない中で、いちばん勇敢にものを言っているのは母親たちだ。だから非常に大きな力を持っている。ただし、会が設立された頃の時代と大きく違うのは情報統制のレベル。今は、母の会も含め“声が伝わらない”統制を政府が徹底している。なので母の会のパワーが落ちてることが懸念されます」
小泉悠 専任講師「西側の国ならSNSなんかで惨状が広まって炎上するってことがあるでしょうが、ロシアはそれが制限されてる。でも、ロシア人って“口コミ民族”なんですよ。公的な制度や情報をあんまり信用してなくて、自分の身近な人から“実はこうなんだよ”と聞いた話っていうのがものすごく信憑性を持つ。戦争始まって1か月ですが、これが長引いて遺体が返ってくる、傷病兵が手足吹き飛ばされて帰ってくる。そこから戦場の現実を聞いた時にロシア国民がどういう反応を見せるのか・・・」
いまロシア兵の亡骸の多くがクリミアも運ばれ、そこで火葬にされているという情報もある。ロシア正教の考え方では遺体は土葬するのが基本…一体これは何を意味するのか。いまプーチン氏を止められるのは、ロシアに送還される亡くなった兵士の遺体だけなのかもしれない。 

 

●首都郊外で大規模虐殺の疑い ロシア軍、撤収時に地雷設置か― 4/4
ロシア軍の撤退でウクライナ側が奪還した首都キーウ(キエフ)郊外のブチャで、民間人とみられる多くの遺体が見つかった。ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、米CBSテレビのインタビューで「実のところ、これは虐殺だ」と述べた。ロシア軍が大規模な殺害を行った可能性があり、ウクライナ当局が現地の被害状況の把握を急いでいる。
クレバ外相は3日「虐殺は故意で、ロシアはできるだけ多くのウクライナ人を殺害しようとしている」と述べ、国際社会に対ロ制裁の強化を求めた。ゼレンスキー氏はこれより先、ロシア軍がブチャを含む北部キーウ州などからの撤収に際し「地雷を仕掛けている」と訴え、退避した人々が戻るのも困難という見方を示した。
キーウの北西に位置するブチャは、過去1カ月にわたってロシア軍が占拠。ウクライナ側が1日までに支配権を回復したとされる。ウクライナ国防省高官は2日、キーウ州の「全域が解放された」と主張した。
AFP通信によると、ブチャでは一つの通りで少なくとも20の遺体が確認されるなど、凄惨(せいさん)な状況。いずれも民間人らしき服装で、手を縛られたままの遺体もあった。外見や状況から、何日間も放置されていたもようという。ブチャの市長は2日、「これまでに280の遺体を集団埋葬した」と話した。
犠牲者らがどのような形で命を落としたかは不明だが、ロシア軍が何らかの形で関与したとみられる。非戦闘員を意図的に狙った攻撃は、戦争犯罪行為に該当する可能性がある。タス通信によると、ロシア国防省は3日、ブチャの状況に関し、関与を否定。ウクライナ側による「挑発」と主張した。
●キーウ近郊 多くの市民が路上で死亡 国際社会に衝撃広がる  4/4
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ロシア軍が撤退した首都キーウ近郊で多くの市民が死亡しているのが見つかりました。ロシア側は関与を否定していますが、フランスのマクロン大統領が「数百人の市民が卑劣にも路上で殺害されており、耐え難い」と非難するなど、国際社会に衝撃が広がっています。
ウクライナに侵攻したロシア軍は首都キーウ近郊まで部隊を前進させたものの、ウクライナ軍の抵抗を受けて撤退を進めていて、ウクライナの国防次官は2日、キーウ州全域をロシア軍から奪還したと発表しました。ところが、ロシア軍が撤退したキーウ北西のブチャにロイター通信などの記者が入ったところ、軍服を着たり武器を所持したりしていない市民とみられる人々が路上で死亡しているのが見つかりました。
ブチャの市長はロイター通信の取材に対し、300人以上の住民が殺害されたとしたうえで「手を縛られ、頭を撃たれた人もいる」と話しています。また、ウクライナのベネディクトワ検事総長は自身のフェイスブックを更新し「これまでに410人の民間人の遺体が運び出された」と明らかにしました。そして「ロシアによる残忍な戦争犯罪の決定的な証拠だ」として、国内外の法廷で責任を追及していく考えを強調しました。
ゼレンスキー大統領「市民が拷問受け 殺害された」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、3日に公開したビデオメッセージで「何百人もの市民が拷問を受けて殺害された。路上には遺体が並んでいる。そして遺体にまで地雷が設置されている」と述べ、ロシア軍が残虐行為を行ったと強く非難しました。そのうえで「世界ではこれまで多くの戦争犯罪が起こってきたが、これで最後にするために全力を尽くす時だ」と訴えました。さらに「ロシアには追加の制裁が科されるだろうが、それだけでは足りない」と述べて、なぜウクライナがこれだけの被害を受けたのか、その経緯にも目を向けるよう国際社会に求めました。
ロシア国防省 “ウクライナや欧米側のねつ造”と反論
ロシア国防省は「ウクライナ側が発表した写真や映像は新たな挑発行為にすぎない。ロシア軍が街を支配していた時に市民に暴力を振るったことはなく、人々は自由に行動できていた」などと否定し、遺体の映像はウクライナや欧米側がねつ造したものだと反論しました。
責任追及求める声 国際社会で広がる
しかしイギリスのジョンソン首相が「プーチン大統領やロシア軍が戦争犯罪を行っていることを示すさらなる証拠だ」と指摘したほか、国連のグテーレス事務総長も「深い衝撃を受けている。説明責任につながる独立した調査が不可欠だ」とする声明を出すなど、国際社会には衝撃が広がるとともに責任を追及すべきだという声が相次いでいます。ウクライナとロシアとの停戦交渉は4日も続けられることになっていますが、キーウ近郊での悲惨な状況が明らかになったことでロシアに対する国際社会の圧力が一層強まりそうです。
岸田首相「国際法違反の行為を厳しく批判する」
岸田総理大臣は4日午前、総理大臣官邸で記者団に対し「民間人に危害を加えるという国際法違反の行為を厳しく批判する。国際社会で非難が高まっていることを承知しており、日本もこうした人道上問題となる行為、国際法違反の行為を厳しく批判し非難していかなければならない」と述べました。そのうえで「さらなる制裁については全体の状況を見ながら国際社会としっかり連携し、わが国としてやるべきことをしっかり行っていきたい」と述べました。
●兵力で劣るウクライナ軍、ドローンと携帯式ミサイル駆使し奇襲攻撃… 4/4
ウクライナ軍が、各国から供与された最新鋭の対戦車ミサイルと軍用無人機(ドローン)を駆使し、奇襲攻撃でロシア軍を苦しめている。特に都市部周辺で効果を発揮しており、露軍が首都キーウ(キエフ)など主要都市攻略に難航する一因とも指摘される。
英紙インデペンデント(電子版)は2日、露軍がウクライナ侵攻後に失った軍用車両が、戦車331台を含む2055台に上るとする研究グループの集計を報じた。ウクライナ政府は3日、戦車だけで644台を破壊したと主張した。1979〜89年のアフガニスタン侵攻で旧ソ連が失った戦車は147台とされる。
要因は、兵力で劣るウクライナ軍の巧みな戦術だ。身を隠す場所が多い都市部周辺で待ち伏せし、露軍戦車部隊の位置を小型の偵察ドローンで把握。米国製「ジャベリン」や英国が供与した「NLAW(エヌロウ)」など対戦車ミサイルを携帯した歩兵が接近して発射する。装甲が薄い戦車の上部を自動で狙う性能があり、大きな戦果を上げている。
都市部から離れて待機する部隊には、トルコ製ドローン「TB2」で攻撃する。低空を静かに飛行でき、最大24時間の滞空性能があるとされ、アゼルバイジャンやエチオピアの紛争でも高い攻撃能力が確認された。
米政策研究機関「戦争研究所」によると、露軍は奇襲対策として対人地雷を使用しているが、効果は薄いようだ。
●「国家のため国民が戦う」が当たり前でなくなる日― 4/4
・ロシアでは強制的な徴兵への警戒感が広がっているが、ロシア軍は外国人のリクルートで兵員の不足を補っている。
・一方のウクライナでも、とりわけ若年層に兵役への拒絶反応があり、「義勇兵」の徴募はその穴埋めともいえる。
・「国家のため国民が戦う」が当たり前でなくなりつつあるなか、外国人に頼ることはむしろグローバルな潮流に沿ったものでもある。
「国家のため国民が戦う」。いわば当たり前だったこの考え方は、時代とともに変化している。ウクライナ侵攻は図らずもこれを浮き彫りにしたといえる。
ロシアの「良心的兵役拒否」
ウクライナ侵攻後、ロシア各地で反戦デモが広がっているが、その中心は若者で、年長者との年代ギャップが鮮明になっている。
家族内でも議論が分かれることは珍しくないようで、ドイツメディアDWの取材に対して29歳のロシア人男性は「両親は国営TVから主に情報を得ていて、政府の説明を鵜呑みにしてウクライナ侵攻を支持している」「友人と一緒になって説明したので、父親は政府支持を止めて自分たちと一緒に抗議デモに参加するようになったが、母親は頑として譲らない」と嘆いている。
こうしたロシアでは今、若者を中心に国外脱出を目指す動きが広がっており、その数はすでに20万人を超えたといわれる。その原因には経済破綻への恐怖だけでなく、強制的に徴兵されかねないことへの危惧がある。
戦争の大義を信用できない若者が兵役を拒絶する状況は、1960-70年代のアメリカでベトナム戦争への反対から広がった「良心的兵役拒否」を想起させる。
ともあれ、プーチンに背を向けるロシアの若者の姿からは「国家のため国民が戦う」ことへの拒絶の広がりがうかがえる。
兵員のアウトソーシング
これと並行して、ロシアは外国人で兵員の不足を補っている。
ロシア政府系の傭兵集団「ワーグナー・グループ」は、2014年のクリミア危機後、ウクライナ東部のドンバス地方で活動してきたが、ここには多くの外国人が含まれる。
しかし、こうした「影の部隊」だけでなく、正規のロシア軍も外国人ぬきに成立しなくなっている。
プーチン大統領は2015年、ロシア軍に外国人を受け入れることを認める法律に署名した。ロシア語を話せること、犯罪歴のないこと、などの条件を満たし、5年間勤務すればロシア市民権の申請がしやすくなる(情報部門は除外)。最低給与は月額約480ドル で、これはロシアの平均月収約450ドルを上回る。
情報の不透明さから規模や出身国、編成などについては不明だが、モスクワ・タイムズによると、貧困層の多いインドやアフリカからだけでなく欧米からも応募者があるという。その任務には戦闘への参加も含まれる。
後述するように、一般的に外国人兵士には条件の悪い任務が当てられる。そのため、今回ウクライナに向かう10万人のロシア軍のなかに少なくない外国人が投入されていても不思議ではない。
逃げられないウクライナ男性
これに対して、「国家のため国民が戦う」が当たり前でないことは、侵攻された側のウクライナでも大きな差はないとみられる。
ロシアによる侵攻をきっかけにウクライナ政府は国民に抵抗を呼びかけ、これに呼応する動きもある。海外メディアには「レジスタンス」を賞賛する論調も珍しくない。
もちろん、祖国のための献身は尊いが、国民の多くが自発的に協力しているかは別問題だ。
ウクライナからはすでに300万人以上が難民として国外に逃れているが、そのほとんどは女性や子ども、高齢者で、成人男性はほとんどいない。ロシアの侵攻を受け、ウクライナ政府は18-60歳の男性が国外に出るのを禁じ、軍事作戦に協力することを命じているからだ。
つまり、成人男性は望むと望まざるとにかかわらず、ロシア軍に立ち向かわざるを得ないのだ。そのため、国境まで逃れながら国外に脱出できなかったウクライナ人男性の嘆きはSNSに溢れている。
裏を返せば、成人男性が無理にでも止められなければ、難民はもっと多かったことになる(戦時下とはいえ強制的に軍務につかせることは国際法違反である可能性もある)。
「どこに行けば安全か」
予備役を含む職業軍人はともかく、ウクライナ人の多くがもともと戦う意志をもっていたとはいえない。
昨年末に行われたキエフ社会学国際研究所の世論調査によると、「ロシアの軍事侵攻があった場合にどうするか」という質問に対して、個別の回答では「武器を手にとる」が33.3%と最も多かった。
しかし、戦う意志を持つ人は必ずしも多数派ではなかった。同じ調査では「国内の安全な場所に逃れる(14.8%)」、「海外に逃れる(9.3%)」、「何もしない(18.6%)」の合計が42.7%だったからだ。
とりわけ若い世代ほどこの傾向は顕著で、18-29歳のうち「海外へ逃れる」は22.5%、「国内の安全な場所に逃れる」は28.0%だった。ウクライナ侵攻直前の2月初旬、アルジャズィーラの取材に18歳の若者は「僕らの…半分は、どこに行けば安全かを話し合っている」と応えていた。
こうした男性の多くは現在、望まないままに軍務に就かざるを得ないとみられる。少なくとも、多くのウクライナ人が「国家のために戦う」ことを当たり前と考えているわけではない。
外国人に頼るのは珍しくない
その一方で、ウクライナ政府は海外に「義勇兵」を呼びかけている。外国人で戦力を補うという意味で、ウクライナとロシアに大きな違いはない。
もっとも、戦争で外国人に頼ることは、むしろグローバルな潮流ともいえる。
例えば、アメリカではベトナム戦争をきっかけに徴兵制が事実上停止しているが、2000年代から永住権の保持者を対象に外国人をリクルートしており、ロシアと同じく一定期間の軍務と引き換えに市民権を手に入れやすくなる。現在、メキシコやフィリピンの出身者を中心に約6万9000人がいて、これは全兵員の約5%に当たる。
ヨーロッパに目を向けると、例えばフランスは1789年の革命をきっかけに「国民皆兵」が早期に成立した国の一つだが、この分野でも歴史が古く、映画などで名高いフランス外国人部隊は1831年に創設された。現代でもフランス人の嫌がる過酷な環境ほど配備されやすく、筆者もアフリカなどで調査した際、フランス軍の現地担当者ということで会ってみたら外国人兵だった経験がある。
また、イギリスもやはり20世紀前半から中東やアフリカなどで兵員を募ってきたが、現在でも多くはやはり海外勤務に当てられる。
近年は英仏以外の小国でも、一定期間その国に居住した経験がある、言語に支障がないなどの条件のもと、他のEU加盟国出身者などから兵員を受け入れている。このうちスペインでは外国人が全兵員の約10%を占めるに至っている。
欧米以外でも、実際に戦火の絶えないリビアやシリアなど、中東やアフリカでは国民ではなく外国人が戦闘で大きな役割を果たす状況が、すでに珍しくなくない。
「国民が戦う」はいつから当たり前か
「国家のため国民が戦う」のを当たり前と考えないことには、様々な意見があり得るだろう。しかし、その良し悪しはともかく、「自分の生命が大事」と思えば、「戦争があれば避難する」という選択は、ほとんどの人にとってむしろ合理的かもしれない。
ただ、従来は戦火を嫌っても、ほとんどの人にとって母国を離れることが難しかった。それがグローバル化にともなう交通手段の発達、国をまたいだ移住システムの普及などで可能な時代になったから目立つようになっただけ、といった方がいいだろう。
もともと「国家のため国民が戦う」という考え方は、近代国家が成立するまで一般的でなく、それまでは基本的に戦士階級と傭兵だけが行なうものだった。
「国民主権」の下、国民が名目上国家の主人となったことは、封建的な貴族やキリスト教会の支配から抜け出すことを意味した。だから、国民にとっても、国家のために戦い、国家の一員であることを証明することは、それまでの従属的な立場から解放されるために必要な道だった。
ナポレオン時代のフランス軍が圧倒的な強さを誇った一因は、ほぼ無尽蔵に兵員を供給できる「国民皆兵」のシステムが他のヨーロッパ諸国にまだなかったことにあった。
21世紀的な戦争
しかし、第二次世界大戦後、普通選挙の普及と社会保障の発達もあって、国家の一員であることはむしろ当たり前になった。さらに冷戦終結後、人権意識が発達し、国家に何かを強制されることへの拒絶反応は強くなった。
そのうえ、どの国でも貧困や格差が蔓延し、多くの国民が困窮するなか、そもそも国家に対する信頼や一体感は損なわれている(コロナ対策への拒否反応はその象徴だ)。
その結果、何がなんでも徴兵に応じなければならないという義務感は衰退し、その裏返しで外国人への依存度が高まっている。各国政府にとっても、国民の抵抗が大きい徴兵制を採用して危険な任務を課すより、その意志をもつ外国人を受け入れる方が政治的コストは安くあがる。
こうした見た時、人手不足を外国人で穴埋めする構図は、多くの産業分野と同じく、国防や安全保障でも珍しくないといえる。これは単に「たるんでいる」という話ではなく、世の中全体の変化を反映したものとみた方が良い。
ウクライナ侵攻は土地の奪い合いという極めて古典的な戦争である一方、外国人ぬきに成り立たないという意味で極めて21世紀的な戦争でもあるのだ。
●プーチンのウクライナ侵攻が、眠れるNATOを「覚醒」させた  4/4
ロシアによるウクライナ侵攻は、一般市民に甚大な被害をもたらしている。初期の電撃戦に失敗したロシアは、その後、無差別的攻撃の恐怖によって、ゼレンスキー政権を屈服させようとしている。その結果、すでにウクライナ人口の約4分の1が家を追われ難民や国内避難民となった。こうした状況に対してNATO(北大西洋条約機構)は、結束してウクライナ支援を実施している。
ところが実はNATOは、ウクライナ侵攻前までは「漂流の危機」にあるとされ、マクロン仏大統領によって「脳死」と評されるほどの機能不全状態にあったことはあまり知られていない。そこで、ウクライナ侵攻に対するNATOの対応をみる前に、まず冷戦後のNATOの軌跡を簡単に振り返ってみたい。
NATO加盟国の協調とすれ違い
ソ連解体によって「敵」がいなくなったNATOは、1990年代、民族紛争やテロとの戦いのような危機管理にその存在意義を見いだした。具体的にはボスニア、コソボ、アフガニスタン、リビアなどで、NATOは作戦を実施した。
しかし危機管理は、紛争地との地政学的関係性や平和構築へのアプローチの違いゆえに各国の思惑の差が表面化しやすい。たとえばリビア空爆ではNATOの作戦に参加した加盟国は半数の14カ国にとどまり、共同で危機管理を担うからといって、必ずしも結束が強化されることにはならなかった。
こうしたNATOの危機管理への活用を積極的に支持していたのが米国や英国であった。それに対してフランスやドイツはEUによる安全保障・防衛政策を重視しており、特にドイツは非軍事的な復興支援に重点を置いていた。一方、バルト三国やポーランドは、隣接するロシアへの警戒感から集団防衛の近代化を求めていた。
とりわけ2008年のジョージア紛争にて、ロシアが今回同様に主権を無視して武力によって介入し、ジョージア内の南オセチアとアブハジアの分離独立を承認すると、対ロ脅威認識が高まった。
このような加盟国間の3通りの思惑を反映して、2010年に採用された現行のNATO戦略概念では、危機管理、協調的安全保障、集団防衛の3つが主任務として併記されていた。
2014年にロシアがウクライナの主権を無視して武力でクリミアを併合し、東部のドンバスにおける反政府勢力を軍事的に支援した際には、バルト三国やポーランドはますますロシアへの警戒心を強めた。米国の有力なシンクタンクであるランド研究所のシミュレーションによれば、ロシア軍がバルト三国に侵攻した場合、72時間でエストニアの首都タリンとラトビアの首都リガが陥落すると予測されていたのである。
2014年以降、たしかにNATOは90年代以来実施されていなかった集団防衛を目的とする演習を再開し、即応部隊の整備強化やバルト三国、ポーランドへの小規模な部隊の展開なども打ち出した。
しかし各加盟国の安全保障戦略における脅威認識はバラバラで、西欧や南欧の多くの国はテロや難民流入を主たる問題だと考えており、ロシアを名指しで脅威とみなす国はバルト三国やポーランドなど、依然として少数派であった。
そうしたNATOの漂流に拍車をかけたのが2017年のトランプ政権誕生だ。トランプ大統領は、ヨーロッパ加盟国の防衛費負担が少なすぎることを問題視し、NATOは「時代遅れ」だと痛烈に批判した。そうした米国の一方的な言動に反発するなかで、冒頭のマクロン大統領によるNATO「脳死」発言が飛び出したわけである。
さらに中国の問題がNATOを揺さぶりはじめる。米国は中国を「体制間の競争相手」と認識して警鐘を鳴らし、政治経済面のみならず軍事面でも警戒する姿勢を強めた。
しかし、ヨーロッパ各国にとっては軍事的に脅威とはいえない上、2020年に中国がEUの最大の貿易相手国となったため、米欧は立場を共有できていなかった。2019年12月のNATO首脳会議の共同声明で、はじめて中国を「機会と挑戦」という言葉で表現したのは、こうした米欧の立場の違いを反映していたのだ。
2021年に成立したバイデン政権は「米国が国際協調に復帰する」と宣言したが、アフガニスタンからの一方的な部隊撤収の決定や、突然のAUKUS(米英豪安全保障協力)結成発表をめぐり、米欧間には依然として亀裂が残っていた。
NATOが果たしている役割
このように漂流の危機にあったNATOにとって、ウクライナ侵攻は、いわば「モーニング・コール」となった。ウクライナ侵攻直後から、まるで「覚醒」したかのように、NATOはかつてない結束を示したのだ。
現在、NATOがウクライナ支援のため果たしている役割は大きく4つ挙げられる。第一は言うまでもなく、同盟国がロシアの侵略に反対し、ウクライナ支援で結束していることのアピールである。
通常は年に1回開催される首脳会議が、ウクライナ侵攻直後の2月25日にはオンラインで、1ヶ月後の3月24日にはブリュッセルで、それぞれ開催された。2月の首脳会議には、非同盟のスウェーデンとフィンランドも参加し、幅広い国際社会の連帯を演出した。
第二は、中・東欧加盟国での部隊増強である。NATOは2014年以降、バルト三国とポーランドに部隊を展開していたが、ウクライナ侵攻後にその増強がはじまった。2022年3月時点では上記4カ国に加えて、従来親ロ的とされてきたスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアにも部隊が配備され、その数は合計で4万人に達している。これは、加盟国の領土を守る集団防衛の決意を示したものである。
第三は、情報収集と監視である。NATOは空のレーダーと言われるAWACS(空中警戒管制機)やUAV(無人航空機)グローバルホークを連日ウクライナ国境沿いの上空に展開し、米軍や英軍の電子偵察機と連携してウクライナを監視している。
AWACSはキエフより西の上空や地上のロシア軍および黒海のロシア海軍の動きを加盟国とリアルタイムで共有でき、それらの情報はウクライナにも提供されている。これがウクライナ軍の抵抗に貢献しているのは言うまでもない。
第四は、輸送支援である。現在ポーランド南東部のジェシュフの空港がウクライナへの物資輸送ハブになっており、AWACSによる監視のもと、NATO加盟各国の大型輸送機が次々に飛来している。そこからウクライナ側へ、人道支援物資とともに対戦車ミサイルや地対空ミサイルなどの攻撃的兵器を送り込んでいるのだ。
このようにNATOは、直接的な戦闘こそないものの、ウクライナに強力な支援を実施している。しかしロシアの無差別攻撃による市民への被害と各国に流出する難民の姿が報道され、停戦交渉の行き詰まりから紛争長期化への懸念も強まってきた。
そのような状況で、ゼレンスキー大統領による各国議会での演説をはじめとするSNSを駆使したウクライナのアピールは、国際世論を動かしつつある。同時にNATOに対しても、より一段と踏み込んだ対応を求める声が高まっている。
「漂流するNATO」は変われるのか?
ゼレンスキー大統領は3月16日の米議会での演説で、「ロシアはウクライナの空を使って、数千の人々を死に追いやっている」と訴えた上で、「ウクライナ上空の閉鎖を(Close the sky over Ukraine)」と呼びかけ、具体的に、1)飛行禁止区域(no-fly zone、以下NFZ)の設定、2)地対空ミサイルの供与、3)戦闘機の供与を要請した。
果たしてNATOは、こうした一段と踏み込んだ対応が可能なのだろうか。ここで問題となるのが戦争をエスカレーションさせるリスクである。
1)のNFZの設定は、軍事的にはかなり激しく、負担も大きい作戦となる。そもそもNFZを設定するためには、ウクライナ上空を警戒監視する複数のAWACSと、NFZに違反した航空機やミサイルを撃墜するための戦闘機が、連日24時間スタンバイする必要がある。
90年代にNATOが国連安保理決議に基づき、ボスニア上空にてNFZを実施した際には、AWACSを6機以上運用し、かつイタリアの基地に同数の戦闘機を配備した。フランスより国土が広いウクライナ領空でロシア軍を相手にNFZを設定するには、10機以上のAWACSを運用する必要がある上、相当数の戦闘機も配備しなければならない。
しかも、ロシアの反対のためNFZを求める国連安保理決議は採択されず、仮にNATOがウクライナの要請に基づいて一方的に空域封鎖を実施すれば、遵守しないロシア空軍と空中戦となる。その際にロシアがNATO加盟国領内に反撃を加えれば、軍事的エスカレーションが高まってしまう。そのためNATOは、ウクライナでのNFZ設定を否定している。
2)の地対空ミサイルについては、従来から供与している携帯型地対空ミサイル(“スティンガー”)の他に、より高度の飛翔体を迎撃できるロシア製S300のような地対空ミサイルを、スロバキア、ブルガリアの保有分からウクライナに供与するという案が検討されている。
この場合のエスカレーションのリスクは、こうした攻撃的兵器の輸送ルートへのロシアの攻撃である。侵攻3週目に入り、ウクライナ東部に続き西部がミサイル攻撃を受けるようになったのは、武器供与にロシアが苛立っている証左である。もしこうしたルートへの攻撃がポーランド側にも及ぶとすれば、エスカレーションにつながる恐れがある。
3)の戦闘機供与については、ポーランド空軍保有のMiG-29を提供し、同じ機を運用しているウクライナのパイロットが乗り込むという案が検討された。しかしこの場合、ロシアがNATOによる挑発的行為とみなして反発するのみならず、発進基地がロシアの攻撃目標になる可能性があるため、提案は却下されている。
他にもエスカレーションのリスクとしては、ウクライナへの脅しや西側の介入への警告として、ロシアが生物・化学兵器を使用するかもしれないという問題がある。ロシア側は、米国の支援を受けたウクライナが生物・化学兵器を開発していたと主張している。
一方でストルテンベルグNATO事務総長は、「(そのように主張するのは、)ロシア自身が偽旗作戦でそうした兵器を使う可能性があるからだ」と指摘した。バイデン大統領は、生物・化学兵器が使われた場合に、NATOによる軍事的対応を排除しない考え方を示しており、ここにもエスカレーションの萌芽がある。
停戦交渉をまとめるにはロシア側の譲歩を引き出す必要があり、そのためにはNATOのさらなる強力な支援のもと、ウクライナ軍優勢の状態が不可欠である。しかし、エスカレーションは回避しなければならない。
なぜならばNATOは核同盟でもあるため、ロシアとの直接戦闘は核戦争につながりかねないからである。
冷戦期のソ連とは対照的に、ロシアはいまや通常戦力において西側より圧倒的に劣っている。したがってロシアの核使用のハードルは冷戦期よりも低い。プーチンは「存亡の危機」になれば躊躇なく核を使用しかねない。この「存亡の危機」かどうかの判断は、もっぱらプーチン次第なので合理的な予測が困難である。
また、仮にNATOとの対決という方向にエスカレーションがすすんだ場合、ロシア社会の愛国心が一層高揚し、かえってプーチンの求心力が強化されてしまうという可能性も考えられる。ロシアにおいては冷戦後もNATOは敵として刷り込まれてきた。したがってNATOとの戦いになると総動員態勢となり、エリートや若者を中心に広がりつつある反戦の動きが弾圧され、社会の変化の可能性が摘み取られてしまう。
NATOには、エスカレーションのリスクを回避しつつ、一段と踏み込んだ対応を模索するという、ぎりぎりの舵取りが求められている。それは、「かつてないほどの強さと結束」(バイデン大統領)を示しているからこそ可能となる。
冷戦後に漂流しつつあったNATOは、2008年のジョージア紛争、2014年のクリミア併合、2022年のウクライナ侵攻と、3度目のモーニング・コールにより、ようやく覚醒しつつあると言えよう。
●プーチン理論のデタラメ ウクライナ侵攻失敗ならロシア連邦が解体の危機に 4/4
多くの識者が指摘するように、ウクライナに侵攻したロシア軍は予想外の苦戦を強いられている。プーチン露大統領はなぜ、無謀とも思える軍事作戦に踏み切ったのか。「ウクライナ人とロシア人は歴史的に一体だった」というのがプーチン氏の論理だが、それはロシア自身を破滅させかねない“諸刃の剣”でもあるという。ロシア国内の民族事情に詳しいジャーナリストが、プーチン思想の危うさを解説する。
私は長年、ロシアを中心とした旧ソ連圏で様々な取材活動を続けてきた。ロシアとウクライナのどちらの国にも友人がいるし、その中には両親それぞれの出身地がロシアとウクライナという人もいる。2月24日のプーチン氏の「宣戦布告演説」をライブ中継で聴いた時は、「大変なことが起きてしまった」と背筋が寒くなる思いをした。同時に、プーチン氏が語った侵攻の理屈には、大きな弱点があるとも感じた。
2月24日のプーチン演説の要旨の第一は、
「ウクライナは歴史的に存在しない。もしあるとしたら、それは作りだされた偽物だ」
というものだ。プーチン氏の主張を要約すれば、「ロシアはもともと一つだったが、それをバラバラにする根拠(民族自決)を、権力を維持したい当時のソ連が作りだした。ソ連は無責任にもそれを放置したまま勝手に自壊し、その結果、ロシアとウクライナが分断されて現在に至る」ということになる。ここでは、ソ連時代をいわば“黒歴史”としている。
プーチン氏によれば、まずロシア革命の際にレーニンが民族自決を宣言してロシアをバラバラの民族構成共和国にした。その後、スターリンが今の西ウクライナを、フルシチョフがクリミア半島と東ウクライナを付け加えてできたのが、現在のウクライナの国土だという。衝撃を受けたのは、開戦直後にロシアの国営放送に登場した地図だ。この地図によれば、中央の黄色部分が本来のウクライナで、他は全てロシア、あるいはソ連が「プレゼント」(地図中のロシア語表記も“贈答品”の意味)したものだという。プーチン氏は昨年7月にも、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文を発表している。今回の侵攻は、その理論の実践という位置づけなのかもしれない。
ロシア国内にいる2つの「ロシア人」
ところが、この論理を追求すれば、ロシア国内にも思わぬ形で飛び火する可能性がある。実はロシア語には、「ロシア人」を表す単語が2つある。Russki(ルースキー)とRossiski(ロシイスキー)だ。前者はいわゆる民族的なロシア人のことで、後者はロシア連邦内に居住する住民(民族問わず)を指す。日本ではロシア人といえば金髪で青い目の白人を思い浮かべる人が多いが、ロシア連邦にはトルコ系のイスラム教徒であるタタール人や、モンゴル系、朝鮮系などアジア系の人々も多く暮らしている。約1億4400万人の人口を抱えるロシア連邦で、民族的なロシア人(ルースキー)は8割程度に過ぎず、残りの約20%は非ロシア系ロシア人なのである。
プーチン氏がウクライナ侵攻の前提としての「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」を語る時、その「ロシア人」とは一義的には民族的なロシア人(ルースキー)を指している。だとすれば、ロシア国内に住むロシア人以外の200以上の民族(人口は合わせて数千万人)は、そもそも今回の戦争には関係がないことになる。
歴史的一体性の説得力は…
ソ連時代の民族自治政策を失敗と呼ぶなら、現在のロシア連邦内の諸民族はどうなってしまうのか。プーチン氏は、ロシア帝国以前の歴史を持ち出して「ロシア人、ベラルーシ人、ウクライナ人の一体性」を強調している。しかし、これは諸刃の剣である。例えば、現在のロシア連邦の領土の相当部分が、かつてモンゴル帝国の支配下にあった。過去の歴史を持ち出すことになれば、トルコ系、モンゴル系のロシア国民の間でも「歴史的一体性」という概念が登場し、最終的にはトルコやモンゴルなどで暮らす同胞との結束を求める声も出てきてしまう可能性もある。これはロシアにとっても非常に危険な論理なのではないか。
今回の戦争でプーチン氏が当初の目的を達成できるかは不透明だ。仮にできたとしても、ロシア側にもすでに多くの死傷者が出ており、経済制裁によるダメージはすべてのロシア国民に影響を与えている。それだけの犠牲を払う理由として、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」は、非ロシア系の国民にとって果たしてどれだけの説得力を持つだろうか。もしこの戦争にロシアが敗れた場合には、国民の不満はかなり大きなものになるだろう。プーチン氏の論理は、下手をすれば連邦国家の解体に繋がりかねないほど危険な意味を持つかもしれない。
最後にひとつ強調したいことがある。今回のウクライナ侵攻については、ロシア人、ベラルーシ人の友人達も胸を痛めている。彼らは皆、温かい人達ばかりである。世界ではロシア人だから悪いと決めつけられている人もいて、日本国内でロシアの商材を扱う店も被害に遭っているという。ロシア連邦が国際ルールに違反しているのは明確ではあるが、ぜひ個々のロシア人にその怒りをぶつけないであげてほしい。何よりも、一刻も早い戦争終結を願うばかりである。
●ナチスに酷似する「プーチン親衛隊」、内部崩壊は間近 4/4
プーチン戦争指導部が迷走の度合いを深めているようです。
私が「敗戦」を前提にプーチン(政権)の末路について具体的に記したのは、3月16日公開の本連載でしたが、この頃はまだ畏友・佐藤優など「今回はロシアが軍事的に勝利」との予測が出ており、筆者として公開には一定の勇気が必要でした。
その風向きが変わり始めたのは3月18日でした。
米中首脳電話会談、そして翌週ジョー・バイデン米大統領がポーランドに飛び、23日にはロシア大統領特別代表を務める新興財閥のチュバイス氏の亡命が明らかになったあたりには敗色は隠しようもなくなりました。
開戦から1か月目の翌3月24日には「キーウ(キエフ)占領電撃戦失敗」によるロシアの「実質的敗北」は、グローバルには衆目の一致するところとなります。
2022年4月、いまやプーチン「大本営発表」を鵜呑みにするのはロシア国内の情報受け身層に限られています。
しかし、問題はそうした受け身層が(様々な理由で)決して少なくない点で、ロシア国内はまだ「翼賛勢力」が幅を利かせている現実があるようです。
戦争を支持して調子に乗る「八紘一宇好き」は、いつの時代、どこの国にも出現する。
それでも富豪の高官チュバイスに限らず、比較的経済状況に余裕のあるロシア市民が近隣諸国に脱出し始めれば、一般大衆もざわつき始めるものです。
敗色が濃厚となったロシア戦争指導部でプーチンが「孤立」しつつあるとか、出身母体である旧KGB「鉄の結束」のはずが・・・とか的外れな日本語見出しも目にするようになしました。
あるいはKGBの後身である連邦保安局FSB「クーデターか?」といった報道も見られ、ロシア戦争指導部は混迷の度合いを深めている。これは間違いないでしょう。
まあ、そもそも本当に「鉄の結束」があったなら、あんな凄まじいスターリン大粛清など、起きるわけがありません。
一寸先は闇というソ連〜ロシアの国情が恐怖政治体制を維持しているとみるべきです。
亡命したロシアスパイを執拗に暗殺する、あれがどう「鉄の団結」なのか?
冷戦期「007映画」の記憶でも引き摺っているのではないかと疑いたくなります。
実際、既にここ10年、ロシアに「鉄の結束」など存在せず、かつてナチスが独裁体制を作り上げたのとそっくりの「暴力装置の多重構造」が存在します。
しかし、どうも日本語の解説ではその種の記載を見かけません。
そこで今回は40万人規模まで膨れ上がっているプーチンの私兵「ロシア国家親衛隊」など、ロシア暴力装置の構造を概観してみましょう。
大統領直属の「国営の私兵」
2016年4月5日、ウラジーミル・プーチンは一通の「ロシア連邦大統領令」に署名します。
これによって成立したのが「ロシア国家親衛隊」グヴァルディアでした。
英語の組織名を直訳すれば「Service of the Troops of the National Guard of the Russian Federation(ロシア連邦国立保安軍)」とでもなるでしょうか。グヴァルディアは「ガード」ボディガードです。
このグヴァルディア、本質は大統領に直属する「親衛隊」で、ロシア国軍とは独立した武力、いわば「プーチン個人のボディガード」「大統領の私兵」として「保安」「警護」「諜報」さらには「工作」「暗殺」などの任務に当たる武力、軍事力です。
トップには、文字通りプーチン長年のボディガードで柔道の仲間でもある、ヴィクトール・ゾロトフが就任しています。
このゾロトフという人物は、なかなか複雑怪奇なので、別途ご紹介の機会があればと思います。
端的に言えば「錠前工」を振り出しに職歴が始まるノンキャリ、完全叩き上げの「プーチン舎弟」。
プーチンは完全に信頼のおける舎弟を直属軍のトップとして将官に据え、既存勢力のクーデターに対しても「プーチン個人の軍隊」で十分圧殺できるよう、武力体制を固めている。
それが2016年4月ということになる。鉄の結束などちゃんちゃらおかしい。誰も信用できない相互監視の恐怖政治がソ連以来105年続くのがロシアの残念な実態です。
「結束」など存在するなら、こんな「私兵」を作る必要はない。
当初は2000とか3万といった人数であった「プーチン私兵」の「国家親衛隊」グヴァルディアは、いまや40万軍勢に膨れ上がっていると言われます。
これはつまりウクライナ国軍の2倍ほどにあたり、それが「プーチン個人」に直属する一種の「国が抱える民兵」として工作している。
それ以外にロシア国軍90万があるのだから、プーチンとしてはウクライナ侵攻、キーウ占領など朝飯前、と高を括った。無理ない話かもしれません。
3月18日、スタジアムに20万人を集めて行われた「クリミア併合8周年記念祭」も、ことによると「国家親衛隊」隊員や、その家族などからメンバーを選び、決してプーチンを狙撃しない数万の群衆を集めて執り行われた示威行為と見ることができそうです。
このように考えるとき、真っ先に思い出されるのが、ナチスドイツの独裁者アドルフ・ヒトラー個人に忠誠を誓うナチス「親衛隊」SSです。
また、親衛隊を核としてヒトラーに忠誠を誓うナチス党員を40万人以上集めて行われた「ニュルンベルク党大会」です。
ナチスが創始したマスゲームなどのイベントは、戦後もソビエト連邦、中国、また北朝鮮などに継承されていくことになります。
スターリンからナチスへ退行 なりふり構わないプーチンの「暴力装置」
1933年、ナチスドイツが政権を奪うに当たっては、南部バイエルン経済界の支援などと並んで、ナチス初期から体を賭けて武力行使してきた「ナチス突撃隊SA(1921-45)」が大きな戦功を挙げました。
しかしいったん権力を掌握してしまうと、ヒトラーを「おい、アドルフ」とファーストネームで呼べるような「大物」は邪魔になります。
翌1934年「長いナイフの夜」と呼ばれるクーデターで「突撃隊長」エルンスト・レームらは「国家反逆罪」容疑で射殺されてしまいました。
この粛清を実行したのが、元はアドルフ・ヒトラー個人の身辺警護からスタートした「ナチス親衛隊SS」(1925-45)で、古株の突撃隊は解体再編され、親衛隊の指揮下に置かれて骨抜きにされます。
これとよく似た状況が、プーチン独裁体制下のロシアで、過去10年来起きていることに注意する必要があります。
ソ連が崩壊すると、悪名高いKGBは「解体」ではなく、あろうことか「再編強化」されてロシア連邦保安庁FSBに格上げされてしまいます。
スターリン時代、大粛清を実行したラヴレンチ―・べリア率いる内務人民委員部NKVDは、自らが「警護」しているはずの「要人」がスターリンの邪魔になると、突然「反革命分子」として銃口を向ける厄介な秘密警察・暗殺部隊となりました。
フルシチョフらの画策で解体、縮小されてできたのが、1委員会規模のKGBでした。
それが再び省庁のレベルに格上げ、拡大され、35万人規模を擁する諜報機関〜秘密警察となったのがFSB、つまりKGBが増強化して権力装置となったのがロシア連邦保安庁という出自に注目する必要があります。
このFSB第4代長官を1998年7月〜99年8月まで務めたのがプーチンにほかならず、FSB長官からプーチンがシフトしたのが、ボリス・エリツィン大統領の指名によるロシア連邦第1副首相→首相代行(8月9日)→首相(8月16日)→エリツィンの引退で大統領代行(12月31日)→大統領選挙で過半数の支持を集め大統領当選(2000年3月26日)。
ほんの1年半前までは大統領府の副長官に過ぎなかったプーチンが、あっという間に政権中枢に躍り出、微妙な選挙を瞬間沸騰で制して権力掌握という経緯は、出身母体である秘密警察の全面的なバックアップあってのことでした。
プーチン「首相」が大衆人気を集めるのに成功したのは1999年10月〜2000年2月にかけて集中的に行われた第2次チェチェン紛争での「勝利」によるもので、ロシア世論はプーチン支持に沸騰。
史上最悪と言われる徹底した軍事攻撃で無人の焼け跡と化したチェチェンの首都「グロズヌイ」にロシア軍は「凱旋」。
こうした「劇場戦争」を背景にプーチンはロシア連邦の権力を掌握し、ロシア版「戦後高度成長」を演出、経済の立て直しをアピールします。
しかし、一度権力を握れば、トップにとっては以前からの「同僚」は邪魔になります。
「旧KGB」などロシアの治安・保安・国防関係者は「シロヴィキ」と呼ばれますが、これはソ連崩壊後のロシア初期、エリツィン大統領が政敵に対抗するため旧諜報関係者を登用、FSBなどを強化し、新興財閥などと結託して勢力化したものです。
そこで担がれたナンバー・ワンがプーチンであって、FSBやシロヴィキ、新興財閥側にとって当初のプーチンは、仮に邪魔になれば挿げ替えるだけの首に過ぎず、事実、プーチン政権の長期化に伴い、様々な粛清や暗殺が続いたのは周知の通り。
プーチンを担ぐ側の実質「オーナー」だった新興財閥オリガルヒの巨頭、ボリス・ベレゾフスキーは「長いナイフの夜」同様の難に見舞われかけ2001年に英国亡命、最終的には2013年に「自殺」したとされますが、幾度もテロリストに命を狙われました。
こうした様々な不安定要素を払拭し、スターリンの秘密警察・べリア機関NKVDより退行したナチスのSSを彷彿させる実質「プーチン私兵」として組織されたのが2016年の「ロシア連邦親衛隊」。
鉄の団結なぞ最初からあるわけがないのです。
「親衛隊」グヴァルディアのトップ、ヴィクトール・ゾロトフは「プーチンにとってのヒムラー」と言うべき「片腕」。
これに対して、プーチンの後任で連邦保安庁FSBトップに就いたニコライ・パトルシェフや、さらにその後任で現在もFSBを率いるアレクサンドル・ボルトニコフらはプーチンと同世代で、それなりの折り合いをつけ、もっぱら「同じ舟に乗っている」人たち。
ナチスで言えば「突撃隊SA」以来の「同志」ではありますが、いつヒトラーにとっての「エルンスト・レーム」同様「長いナイフの夜」の牙にかけられるか、知れたものでないのも事実です。
これに対して、若いFSBエージェントたちは優秀なスパイですから、今後この勝算のない戦争が長引けばロシア社会経済がどのようなダメージを被るか、一番よく分っており、プーチン排除を考えるのは当然のこと。
プーチンは権力母胎のKGB−FSBを解体再編、さらに強化して軍隊化し、スターリン粛清のべリア機関よりも悪質な、ホロコーストのナチス親衛隊の21世紀版を己を警護する武力として身にまとっているわけです。
かつてのナチスが「ドイツ国軍」⇔「ナチス突撃隊SA」⇔「ヒトラー親衛隊SS」という、暴力の三すくみ構造であったのと同様、現在のロシアは「ロシア国軍」⇔「連邦保安庁FSB」⇔「プーチン親衛隊グヴァルディア」という武力の三すくみ構造の上に、プーチン政権は成り立っている。
ですから、もしもこのプーチン私兵である「はず」の「グヴァルディア」内から反逆や暗殺が出てくれば、それより先にプーチンを守る盾は存在しない。
この点も指摘しておくべきでしょう。
人は他者を批判するとき、期せずして己を語るものです。
プーチンがゼレンスキー政権を「ネオナチ」と呼ぶのは、ネオでなく本物のナチスを手本に、ホロコースト/ジェノサイドも厭わない武装勢力を濫造した己の姿を映しているように見えます。
「プーチンのヒムラー」ゾロトフ・グヴァルディア隊長の実像など、今回端折った論点については、別途検討したいと思います。
●窮地に陥ったプーチンはますます危険になる 4/4
ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、デビッド・イグネイシャスが、3月17日付けの同紙に‘Watching Russia's military failures is exhilarating. But a cornered Putin is dangerous’と題する論説を書き、プーチンの軍事的失敗を見ることは愉快かもしれないが、追い詰められたプーチンは危険だ、と述べている。
イグネイシャスは、隠れたリスクとして、
1 必死になったプーチンは益々エスカレートする可能性が高く、問題解決のための妥協は苦痛を伴うが必要だ。
2 コーナーに追い詰められたプーチンの脅威につき、世界の諜報機関はその力を削減する方法を考えるべきだ。
3 ウクライナ戦争は核拡散を刺激することになるかもしれない。
4 抑制した側が抑制しない側の行動を可能にするという西側の自己抑制のパラドックスが起きており、何とか抑止のバランスを回復せねばならない。
5 戦後の世界の再構築にはロシアと中国の参加が必要であり、そうしないとそれは失敗する。
6 次のロシア崩壊の危険に注意しておくべき。
7 ウクライナ戦争はもっと破壊的な紛争のリハーサルなのかもしれない。
との見方を紹介する。いずれも重要な指摘である。
イグネイシャスの指摘で一番注目されるのは、今回の侵略は核兵器の有益性を明確にしたとの指摘である。これは残念ながら正しい。先のミュンヘン安保会議でウクライナのゼレンスキー大統領は、1994年に核を放棄したのは間違いだったと述べた。
核については、リビアのカダフィ政権転覆の際も指摘されたことである。北朝鮮やイランを含め中東の大国、西欧メディアの一部には韓国に言及するものもあるが、関係国は大きな関心を持って注視しているだろう。
日本にとっては、核不拡散の努力と拡大抑止の確保が一層重要となる。ロシアが侵略早々、チェルノブイリを含む原発の確保に出たのは、エネルギー源の確保の他に、核関連施設の確保と言う軍事的狙いもあったであろう。
「西側の自己抑制のパラドックス」についての指摘は、非常によく分かる。西側の抑制には相手にフリーハンドを与えることになる難しいジレンマがある。プーチンがエスカレーション・ドミナンスを保有していることは最初から懸念された。
正気者の狂者に対する抑止は難しい。プーチンの侵略の前に、北大西洋条約機構(NATO)軍をウクライナの東部に予防展開するようなことをすればバランスを回復できたかもしれないが、それほど簡単なことではない。
戦後体制につきロシアと中国を入れなければ失敗するとの指摘については、侵略者であるロシアをこうした体制にすんなり入れることが受け入れられるかどうかは難しいところだ。中国がロシアに加担する場合は、中国も同様である。ロシアは核保有国であり安保理常任理事国であることも大きなジレンマとなる。他方、ロシアに明確な責任を取らせることは必要である。
ウクライナ侵略から約1カ月半が過ぎた。ウクライナとロシアの停戦交渉は、今も続いている。それ自体は良いことだが、一時期双方から出ていた楽観的なトーンはその後消えた。
ウクライナは、新たな安全保障枠組みの設定を条件にNATOへの加盟は何らかの譲歩をするように見えるが、非軍事化など彼我の立場の乖離はどうしようもない程かけ離れている。その間ロシアはミサイル(しかも非誘導性のものが多いという)を中心に重要都市攻撃等を続けている。
ロシアの当面の最重要軍事目的は、マリウポリ(重要港町)を掌握し、ドネツク州などとクリミアを結ぶアゾフ海沿岸地域全域の掌握を達成し、この地域の経済的一体性を完結することであろう。ロシアはウクライナにマリウポリの明け渡しを要求したが、ウクライナは拒否した。
なお、和平交渉について、米国の一部に、ゼレンスキーの意図が見えないとの不安があるとの報道がある。軍事状況は、多くのところで膠着、消耗戦に移りつつあると見られている。戦闘の長期化はゼレンスキーにとり良いことではない。それにつれて市民の犠牲が拡大している(厳しい生活、負傷・殺戮、ロシアへの強制移動など)。人道状況は悲惨である。 
●戦争犯罪の可能性 ウクライナの遺体映像に「がくぜん」―国連人権弁務官 4/4
バチェレ国連人権高等弁務官は4日、ウクライナのキーウ(キエフ)郊外ブチャでロシア軍撤収後、多数の遺体が発見されたことについて、戦争犯罪の可能性があると警告した。
バチェレ氏は声明で「ブチャの路上や即席の墓地で民間人の遺体が横たわっている映像にがくぜんとした」と表明。「戦争犯罪や国際人道法の重大な侵害、国際人権法の深刻な違反の可能性について、深刻かつ憂慮すべき問題を提起するものだ」と指摘した。
●ロシアの新型戦闘機スホイ35が墜落――ウクライナ軍が撃墜か 4/4
ウクライナ戦争で、ロシアの新型戦闘機スホイ35(Su35)が墜落した。イギリスの軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」が4日、画像分析を基に報じた。
ジェーンズによると、ロシア航空宇宙軍(VKS)所属のスホイ35が墜落したのは、ウクライナ東部ハルキウ州イジューム近郊。墜落機は単座型でカナード(先尾翼)がないスホイ35だった。
このスホイ35がウクライナ軍の地対空ミサイルで撃墜されたのか、あるいは機器の故障による墜落か、など詳しい状況は分かっていない。しかし、スホイ35は墜落後、原形をどどめないほど燃え尽きてしまっている。
ウクライナ内外の複数のメディアによれば、ウクライナ内務省のアントン・ゲラシュチェンコ顧問がウクライナ軍によるスホイ35撃墜の事実を確認したという。パイロットは射出座席を利用して脱出したが、すぐに拘束されたとされる。
墜落であれ、撃墜であれ、いずれにせよ、ロシア軍が2010年代初めにスホイ35を実戦配備して以来、初めてスホイ35を戦闘で損失したことになる。
かりにスホイ35が実際に撃墜されたのであれば、ウクライナ軍が引き続き、制空権をめぐる戦闘で能力を発揮している一方、ロシア軍がウクライナ侵攻後、1カ月以上経っても制空権を取れない不能ぶりを浮き彫りにしているとジェーンズは指摘している。
ロシアの新型のスホイ35戦闘機は、第5世代戦闘機に最も近い第4++世代戦闘機だ。NATO(北大西洋条約機構)のコードネームは「フランカーE」となっている。ジェーンズによると、VKSは103機のスホイ35S(スホイ35の量産型)を保有している。スホイ35は能力面でよくアメリカ空軍のボーイング製F15EXイーグルIIと類似していると指摘される。
アメリカ空軍のステルス戦闘機F22やF35、中国空軍のJ20(殲20)と比較されるロシアの第5世代戦闘機スホイ57(NATOコードネームはフェロン)は、まだ実戦で広く使われおらず、ウクライナ戦争でも投入されていないとみられている。
●戦争の実情知らぬロシア国民、ジョージ・オーウェル風のメディア報道に囲まれ 4/4
悲痛な映像は、西側諸国の視聴者がウクライナの戦争で目にしているものとそっくりだ。1人の老婦人が分厚いコートで寒さをしのぎ、村を襲ったロケットで焼き尽くされた木造の家の前で泣きながら立ち尽くしている。「彼らに全てを破壊されました!」と老婆は叫ぶ。「跡形もありません」
だが、これはロシア国営テレビ局「ロシア24」の映像だ。村を襲ったのはロシア兵ではなく、ウクライナ兵だと報じられている。ロシア人特派員はウクライナ兵を「ナショナリスト」と呼ぶ。民間人を「人間の盾」に使う「ネオナチ」「ファシスト」「薬物中毒者」だと言うリポーターもいる。
戦争のニュースはほぼ全て、ウクライナ東部の分離派地域ドンバス地方、ドネツクとルハンスクの自称「人民共和国」から発信されている。主にロシア語が話されているこの地域を、ロシアは2月21日に独立小国家として承認した。
これがロシアのウクライナ侵攻の引き金となり、ロシア政府に侵攻の口実を与えるものとなった。ロシア側は差し迫るウクライナの攻撃から両国を「保護」するしか選択肢がなかったと主張している。とあるニュースの言葉を借りれば、「非ナチ化を実現するには軍事作戦しかなかった」ということだが、ウクライナ側はロシア側の主張を強く否定している。
ロシアのメディアでは、世界中の人々が目の当たりにしているウクライナの他の地域での戦闘はおおむね無視されている。ロシアの爆撃を受けて荒廃したマリウポリ。ロシアの空爆で破壊され黒焦げの住居や建物の残骸が残るハルキウ、チェルニヒウ、ヘルソン、ジトーミルなどの街。血まみれの住人が混乱状態でロシアの砲撃を逃れている首都キーウ(キエフ)周辺の住宅地。こうした光景はロシアのテレビではほとんど報じられない。報じられたとしても、ウクライナ軍の所業とされている。ここ最近ロシア軍が苦戦を強いられていることについても、正確な報道は全くなされていない。
報道は感傷的で、しばしば怒りに満ちた非難や威嚇がにじむ。ロシアの人気トーク番組では司会のウラジーミル・ソロビヨフ氏が欧米を激しく非難し、プーチン大統領が側近からウクライナでの戦況を知らされていないとする米メディアの報道を鼻で笑う場面もあった。
「我々がどんな答えを用意しているか、あなた方はまだわかっていない。アメリカの同志よ、あなた方は今後どうなるか知らないし、知りたくもないだろう」
プーチン大統領もテレビでは感情をあらわにした物言いをしてきた。それはバーチャルで行われる安全保障会議や、コロナ感染の可能性を避けるために滑稽なほど長いテーブルの反対側に閣僚を座らせた対面会議でも同様だ。
プーチン氏はある演説で、欧米の目標はただひとつ、「ロシアの破滅だ」と語った。
「だが誰でも、とりわけロシア国民は」と視聴者を安心させるかのように言葉を続け、「つねに真の愛国者とクズや売国奴を見分けられる。そうした奴らは、口に飛び込んできた蚊のように吐き捨てるまでだ」と語った。
だがプロパガンダがあふれる閉鎖された世界では、高揚感が一貫した論理の欠如を補うとは限らない。プーチン氏はウクライナが本当は国家でなく、歴史的にロシアの一部だったと主張する。昨年夏に公表された冗漫な論文でも、ウクライナ人とロシア人は同じ民族だと述べた。だがプーチン氏本人が命じた戦争で、ロシア人は自分たちの「同胞」ウクライナ人を殺している。
ニュース速報にちりばめられた短い映像は、ウクライナ侵攻への支持をかきたてる狙いがある。そのひとつが、「Z」の形に隊列を組む熱心な若者の姿だ。「Z」はウクライナ侵攻の非公式なシンボルで、戦闘地域ではほぼ全ての戦車や装甲車に描かれている――本国ロシアでは、侵攻に異を唱えるロシア人の家のドアにスプレーで描かれることもある。
別の「決起集会」の動画には、ごく一般的なロシア人とおぼしき人々の短い言葉が引用されている。「大統領を支持します!」と発言する男性や、「国民を守るという大統領の政策に全面的に賛成です」と宣言する者もいる。暗い表情で「NATO(北大西洋条約機構)に近づいてほしくない」と言う者もいる。最後の発言者は「みんなで団結しよう!」と呼びかけている。
ジョージ・オーウェルの小説の世界にいるように、ウクライナの戦争は「特別軍事作戦」としか呼ぶことができない。3月4日に可決された法律により、この戦争を「戦争」「攻撃」「侵攻」と表現することは違法とされた。違反者は最高禁錮15年の刑に処せられる場合もある。ロシア軍や「作戦」について「フェイクニュース」とみなされる報道をした報道機関もその対象だ。
戦争に対する反対意見は、ロシアのマスメディアではまったく見受けられない。戦争開始後の数週間にロシア国内で勃発し、1万5000人以上が拘束または逮捕された反戦抗議デモも、国営テレビでは一度も放映されていない。
情報の鎖国
長年プーチン政権は、ロシアの自由な報道を入念に排除してきた。戦争が始まり、新たに「戦争表現禁止」法が可決されると、残る2つの独立系メディア「TVレイン」と「エコー・モスクワ・ラジオ」も閉鎖した。どの放送局も直接、あるいは親政府派のオーナーを通じて政府の管理下に置かれている。一部の若者を除く大半のロシア人は、テレビからニュースや情報を入手している。
フェイスブックやツィッター、インスタグラム、その他海外のソーシャルメディアプラットフォームなど、インターネット上の情報源はブロックされている。BBCやラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティなど、ロシア語で放送している国際報道機関も同様だ。
情報の鎖国は、大統領が起こした戦争が正当だとロシア人を納得させるのにある程度成功しているようだ。「ナチスがウクライナを支配している」「ドンバス地方のロシア系住民は『大量虐殺』の被害者だ」「ロシアこそがNATOの攻撃で死の危機に瀕(ひん)している」といったうそをまき散らすプロパガンダを浴びせられていては、大勢のロシア人が戦争を支持するのも無理はない。
事実、独立調査機関レバダセンターが3月に行った世論調査によると、戦争以降プーチン大統領の支持率は上昇し、大統領を支持するという回答は1月の69%から83%に増加した。だが国民が大量のプロパガンダにさらされ、反対意見が認められない国の世論調査が必ずしも信頼できないのは明らかだ。
ウクライナはこの先何年も、この無用な戦争による破壊の傷を引きずっていくことになるだろう。だがロシアもまた、自分たちの政府が仕掛けた悪意ある情報戦の後遺症に悩まされることになるだろう。
●集団墓地に民間人150人の遺体か、強まる「戦争犯罪」の声 ウクライナ 4/4
ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の町ブチャでロシア軍撤退後の3日、教会の集団墓地で家族の遺体を捜す市民らの姿を、現地のCNN取材班が伝えた。ロシア軍が占領下のブチャなどで多数の民間人を殺害したとの情報を受け、ウクライナのゼレンスキー大統領や欧米諸国は「戦争犯罪」との非難を強めている。
ブチャでは5週間に及ぶ戦闘の末にロシア軍が撤退し、ウクライナ当局が「解放」を宣言した。
CNN取材班が住民らの話として伝えたところによると、市内にある教会の敷地には、戦闘が始まった直後からこれまでに150人の遺体が埋葬された。その多くが同市周辺での戦闘に巻き込まれた民間人だという。
取材班は、墓穴に積み上がった少なくとも12体の遺体収納袋を目撃した。
ブチャの市長は2日、この墓地に最大300人が埋葬されている可能性があると述べた。CNNは遺体の数や身元、国籍を独自に確認できていない。
ブチャでは2日、路上に民間人とみられる遺体が散乱した光景が撮影され、衝撃的な映像が公開されていた。
ゼレンスキー氏は3日の演説で「これを地球上で最後の戦争犯罪にしなければ」と訴え、ロシア兵による犯罪の捜査機関を設置すると表明。占領中の戦争犯罪は5日に国連安全保障理事会でも取り上げられるだろうと述べた。また、ロシアに新たな制裁が科されるのは確実だが、それだけでは不十分だと主張した。
ゼレンスキー氏は同日、米CBSテレビの番組でロシア軍の行為はジェノサイド(集団殺害)かと問われ、「その通り。これはジェノサイドだ」と答えた。
米国のブリンケン国務長官はロシアによる戦争犯罪の捜査と、対ロ制裁の強化を呼び掛けた。
英国のトラス外相も3日、民間人に対する「無差別攻撃」を戦争犯罪として捜査する必要があると発言。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は対ロシア制裁の強化を表明し、国連のグテーレス事務総長はブチャでの民間人殺害について独立した調査が不可欠だと述べた。
ウクライナ大統領府のアレストビッチ顧問は3日、キーウ郊外のブチャやイルピン、ホストメリから、ロシア軍の「戦争犯罪、人道犯罪」による「世界滅亡後」のような光景が伝えられていると述べ、子どもを含む民間人の殺りくや強姦、強盗などの行為が国内外で裁かれることになると語った。
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は3日、ロシア軍の占領下にあったキーウや北部チェルニヒウ、東部ハリコフの周辺で2月末から3月にかけ、民間人の男女や子どもが銃殺されたり、女性が避難先で繰り返し強姦されたりしたとする報告書を公表した。
一方、ロシア国防省はブチャからの映像を「偽物」だと断じ、占領中に暴力を受けた住民は「一人もいない」と主張。ロシア軍はこの間、住民に452トンの人道物資を配布したとする声明を出した。
同省さらに別の声明で、複数の外国メディアがブチャのニュースを一斉に報じたのは計画的に仕組まれた作戦だと非難。ロシア軍部隊が先月30日に撤退してから映像が流れるまでの4日間の空白は、映像が偽物であることを裏付けているとの主張を展開した。
●EU、戦争犯罪追及へウクライナと合同チーム創設 4/4
ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の各都市で市民への残虐行為が相次いで報告される中、欧米主要国は4日までに「証拠」収集に全力を挙げ、露軍による戦争犯罪を追及する考えを示した。
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は4日、「戦争犯罪の証拠収集と捜査」のため、ウクライナ政府と合同チームを立ち上げた上で、現地に派遣する方針を示した。
フランスのマクロン大統領も同日、仏ラジオで「戦争犯罪だと示す兆しがある。ロシア軍はブチャにいた」と発言し、ウクライナ当局の捜査にフランスが協力する姿勢を示した。ドイツのショルツ首相も3日、「ロシア軍による犯罪を捜査せねばならない」とし、国際赤十字など国際機関による現地入りを求めた。
米国のブリンケン国務長官は米CNNテレビで、「ウクライナで何が起き、誰にどれほどの責任があるのかを評価するのに必要な情報をすべて記録し、関係する機関や組織に提供する」と強調。ブリンケン氏は5〜7日の日程でブリュッセルを訪問し、北大西洋条約機構(NATO)と先進7カ国(G7)の外相会合に参加する。ウクライナへの継続的な支援などに加え、露軍による残虐行為への対応も協議するとみられる。
●ウクライナ情勢 「停戦ラインを意識した戦い」の段階に 米が戦車供与の報道 4/4
キャスターの辛坊治郎が4月4日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。ウクライナ情勢をめぐって、東部地域で「停戦ライン」を意識した“陣地のせめぎあい”が始まっているとニュースを深読みした。
辛坊が解説したニュースは、米・ニューヨークタイムズが1日に報じた記事。「バイデン政権がロシア軍の攻撃にさらされたウクライナ東部地域の防衛強化を目指し、同盟国からウクライナへ(ウクライナ軍が使い慣れている)旧ソ連製戦車の供与を支援すると報じた」というニュース。
辛坊) アメリカのバイデン政権が旧ソ連型戦車の供与を支援する。言うのは簡単だけど実際に実行するのは大変なことですね。空域が閉鎖されているわけじゃありませんから、空路でウクライナに戦車を運ぶわけにはいかない。陸路から入れるとなると、周辺国の同意も得なきゃいけないし、そんなに簡単なことじゃないんです。
でも何でここへきて、戦車供与が浮上しているかと言うと、いま最大の焦点は「どこのタイミングでウクライナとロシアが講和条約のようなものを結ぶか」ということ。つまり「いつ停戦に合意するか」っていうことが焦点になっているということなんです。
停戦した時の最前線、つまり両軍の戦っている“一番フロントライン”というのが「停戦ライン」になります。そこの戦線よりも東側は恐らく実質ロシア領になっているだろうし、ウクライナはかなり国土を減らされることになるだろうと思います。
そうなるといまの状況って、ロシアは首都キーウ(キエフ)の侵略を諦めたようで、軍を東側に移しているんだけど、そうするといま最後の戦いで停戦になるまでに、ロシアとしては東部の占領地域をできるだけ西側に拡大したいと思うし、ウクライナはもうすでに占領されているところをちょっとでも東側に押し戻したいと思いますよね。
増山)はい。そうですね。
辛坊) いままでの戦いであれば、戦車などを撃退するには「ジャベリン」(編集部注 可搬式の対戦車ミサイル)とか「スティンガー」(同 携行式地対空ミサイル)だとかあるんですがね。ジャベリンっていうのは対戦車砲なんですけど、まあいってみれば土管の筒のようなものですね。
あれを人間一人で持って行って、戦車から2キロ〜3キロぐらいまでの至近距離に行かなきゃ効果がないんです。そこに行くまでにロシア側から攻撃されて多分、相当な数の兵士が亡くなっていると思うんだけど。
ロシアの戦車が目視できるところまで近寄ることができたら、その土管みたいなものを肩に掲げてですね、照準を合わせてぶっ放す。そこからミサイルが飛んで行って、戦車に当たる直前で150メートルぐらい上昇して、戦車の真上からドーンと落ちる。
戦車の前面っていうのは、ものすごい分厚い装甲がされているから、攻撃されたってそんな簡単には壊れないんだけど、戦車の上部は弱いんです。戦車全体を分厚くすると、重くて動かないから、どこかを薄くしなくてはいけない。その薄いところを狙うんです。
ジャベリンっていう可搬型の対戦車砲は肩に抱えて照準を合わせてどーんと打つと、自分で戦車の熱源みたいなものを追跡していくから効果的な攻撃できる。それがすごく効いていて相当数のロシアの戦車がやられているわけです。
増山)なるほど。
辛坊) それでまあロシアは東部の方へ逃げていく状況なんだけど、奪われた領地を取り戻すとなると、この道具じゃダメなんです。戦車がいるんですよ。
だからもうアメリカとしては、ここからさらに最後の停戦の時のラインをちょっとでも東側に押し返すための武器というのを供与し始めていると。
戦況はそういうところに、いま進みつつあるという。ニューヨークタイムズが伝えたのは、そういう意味のニュースなんですね。
●岸田首相 ウクライナからの避難民 受け入れ拡大の考え示す  4/4
ウクライナ情勢をめぐり、岸田総理大臣は自民党の役員会で、多くの市民が死亡しているのが見つかったことについて「断じて許されない」と厳しく非難したうえで、日本での避難民の受け入れを拡大していく考えを示しました。
この中で、岸田総理大臣は、ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ近郊などで、多くの市民が死亡しているのが見つかったことについて「罪なき民間人に極めて卑劣な行為が繰り返されていることが明らかになり、世界が強い衝撃を受けている。断じて許されず厳しく非難する」と述べました。
そのうえで、ウクライナからの避難民の受け入れについて「林外務大臣らをポーランドに派遣し、現地の状況を直接確認するとともにニーズを把握し、政府専用機で希望する避難民を日本に輸送したい。受け入れ先とのマッチングや、日本語教育、就労・就学などの支援を行い、円滑に受け入れ数を拡大していきたい」と述べました。
一方、岸田総理大臣は、新型コロナの感染状況について「再び増加に転じており、警戒レベルを引き上げ、状況を注視しながらしっかり対応していきたい」と述べ、ワクチンの3回目の接種を加速するとともに、4回目の接種の検討も進める考えを示しました。
●キーウ近郊 多くの市民死亡 ロシアに厳しい対応求める声強まる  4/4
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ロシア軍が撤退した首都キーウ近郊で多くの市民が死亡しているのが見つかりました。ロシア側は関与を否定していますが、ドイツのショルツ首相が追加の制裁も示唆するなどロシアへの厳しい対応を求める声が強まっています。ウクライナに侵攻したロシア軍は、首都キーウ、ロシア語でキエフの近郊まで部隊を前進させたもののウクライナ軍の抵抗を受けて撤退を進めていて、ウクライナの国防次官は2日、キーウ州全域を奪還したと発表しました。ところがロシア軍が撤退したキーウ北西のブチャにロイター通信などの記者が入ったところ、多くの市民が路上で死亡しているのが見つかりました。ブチャの市長はロイター通信の取材に対し「手を縛られ、頭を撃たれた人もいる」と話しています。ウクライナのベネディクトワ検事総長は3日、キーウ近郊でこれまでに410人の市民の遺体が運び出されたとしたうえで「ロシアによる残忍な戦争犯罪の決定的な証拠だ」と強く非難しました。
ロシア国防省 “ウクライナや欧米側のねつ造”と反論
これに対しロシア国防省は「ウクライナ側が発表した写真や映像は新たな挑発行為にすぎない。ロシア軍が街を支配していた時に市民に暴力を振るったことはなく人々は自由に行動できていた」などと否定し、遺体の映像はウクライナや欧米側がねつ造したものだと反論しました。
各国首脳からロシア非難の声相次ぐ
しかしイギリスのジョンソン首相が「プーチン大統領やロシア軍が戦争犯罪を行っていることを示すさらなる証拠だ」と指摘したほか、フランスのマクロン大統領も「ロシア当局はこの犯罪に対する報いを受けなければならない」とコメントするなど各国の首脳からロシアを非難する声が相次いでいます。さらにドイツではショルツ首相が「同盟国などとともに近くさらなる措置を決める」と述べて追加の制裁を示唆し、ランブレヒト国防相も「このような犯罪をうやむやにしてはならない。EU=ヨーロッパ連合はロシアからの天然ガスの輸入停止も検討すべきだ」と述べ、ロシアへの厳しい対応を求める声が強まっています。ウクライナとロシアとの停戦交渉は4日も続けられることになっていますが、キーウ近郊での凄惨(せいさん)な状況が明らかになったことで交渉への影響が出る可能性もあり先行きは不透明感を増しています。
国際的人権団体 “戦争犯罪として調査する必要ある”
国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」はウクライナ市民がロシア軍の兵士に殺害される様子の目撃証言などを発表し、戦争犯罪として調査する必要があると指摘しています。「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は3日、キーウ近郊の市民など合わせて10人から聞き取った証言を発表しました。それによりますと首都キーウの北西ブチャに住む女性は先月4日、ロシア軍にほかの市民とともに広場に集められたということです。そしてロシア軍の兵士がおよそ40人の市民の前で5人の男性をひざまずかせたうえ1人の頭を撃ち「われわれは汚れを洗い流すために来た」と発言したということです。またハルキウ州の女性は先月13日、避難していた学校に現れたロシア兵に性的暴行を受けたと証言しています。調査を行った団体の担当者は「ウクライナの市民に対するおそろしい意図的な残虐行為と暴力だ」と非難し、戦争犯罪として調査する必要があると指摘しました。
ゼレンスキー大統領「市民が拷問受け殺害された」
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日に公開したビデオメッセージで「何百人もの市民が拷問を受けて殺害された。路上には遺体が並んでいる。そして遺体にまで地雷が設置されている」と述べ、ロシア軍が残虐行為を行ったと強く非難しました。そのうえで「世界ではこれまで多くの戦争犯罪が起こってきたが、これで最後にするために全力を尽くす時だ」と訴えました。さらに「ロシアには追加の制裁が科されるだろうが、それだけでは足りない」と述べて、なぜウクライナがこれだけの被害を受けたのか、その経緯にも目を向けるよう国際社会に求めました。
岸田首相「国際法違反の行為を厳しく批判する」
岸田総理大臣は4日午前、総理大臣官邸で記者団に対し「民間人に危害を加えるという国際法違反の行為を厳しく批判する。国際社会で非難が高まっていることを承知しており、日本もこうした人道上問題となる行為、国際法違反の行為を厳しく批判し非難していかなければならない」と述べました。そのうえで「さらなる制裁については全体の状況を見ながら国際社会としっかり連携し、わが国としてやるべきことをしっかり行っていきたい」と述べました。
松野官房長官「強い衝撃を受けている」
松野官房長官は午前の記者会見で「ウクライナで多くの市民が犠牲になっていることを極めて深刻に受け止めており強い衝撃を受けている。この民間人の殺害は国際人道法違反であり断じて許されず厳しく非難する。わが国としても戦争犯罪が行われたと考えられることを理由にウクライナの事態を国際刑事裁判所に付託した。引き続き同裁判所の検察官による捜査がしっかりと行われることに期待する」と述べました。そのうえで「いずれにせよ今回のロシアによるウクライナに対する侵略は明白な国際法違反であり、断じて許容できず厳しく非難する。ロシアは責任をきちんととられるべきである」と強調しました。さらに松野官房長官は記者団からロシアへの追加の制裁を行うか問われたのに対し「ロシアに対する制裁措置についてはこれまでG7=主要7か国を含む国際社会と連携し機動的に厳しい措置を講じてきたが、引き続き今後の状況を踏まえつつ適切に対応していきたい」と述べました。
●ウクライナから「避難するのか」「留まるのか」 戦時に迫られる“生き残る”選択 4/4
話を聞いて深く考えさせられた。果たしてそこに正解はあるのかと。
先週、期せずして「避難する人」と「留まる人」双方を取材した。1人はウクライナから大阪へ避難してきた17歳のモデルの女性、そしてもう1人は首都キーウ(キエフ)に留まる59歳の日本人男性だ。2人は今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻に直面し、異なる行動をとっている。戦時下において、自らと家族がどのように状況を判断し、行動するのか。平和な日本でおよそ考えることのない命題である。
両親を残して大阪へ「避難」したウクライナ人モデル
リナ・アキンティバさん(17)はウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)から3月9日に日本へやってきた。ウクライナのモデルエージェントに所属し、アジアでもモデルとして活躍していて、これまで日本に3度訪れたことがある。今回の来日もモデルとしての仕事をするという名目だが、実のところ「避難」の要素が強い。
ロシア軍による攻撃が激しいハルキウからすし詰めの列車に乗り、ポーランドを経由して5日かけて関西空港へ降り立った。日本へ来てまもなくひと月が経とうとしているが、祖国に残してきた父(51)と母(42)のことが片時も頭から離れない。両親とは毎日連絡を取り合っていて、水や食料品を買い出しに行く以外はずっと家にいるというが、毎晩、家の外から聞こえる爆発音で目を覚ましているのだという。両親もリナさんを心配させないためか戦争のことはあまり話さず、日本のことや桜について聞いてくるという。そもそも日本へ「避難」することは両親が勧めたという。
「両親を残してくるのはとても辛かった」
 (リナ・アキンティバさん)「わたしは自分の街や国から離れたくはなかった。しかし、両親が私に日本へ行くように言った、私は理解したけど、両親を残してくるのはとても辛かった」「日本にいるほうが安全なのは理解しているけどでも、両親に会いたい」
リナさんは一刻も早く両親の元へ帰りたいと思う一方で、いま帰国することは両親が望まないのではないかと思いが揺れ動いている。戦況を見ながらだが、6月中にはウクライナへ帰国したいという願いは叶うのだろうか。
ウクライナに「留まる」選択した日本人男性
一方でウクライナに残る選択をした人もいる。兵庫県神戸市出身の江川裕之さん(59)は1991年から31年間、首都キーウ(キエフ)で暮らしている。29歳の時に留学し、その後、ウクライナ人の妻(51)と出会い現地で家庭を築いた。今回のロシアの軍事侵攻を受け長女(20)は婚約者とともに西部の街へ避難したが、17歳になる長男とともに3人でキーウに残る選択をとった。4月4日からは日本語講師として勤務するキーウ国立大学でのオンライン授業も再開されるというが、3月上旬には江川さん自身は避難すべきではないかと考えていたという。ロシア軍が接近し砲撃が激しく首都陥落の恐れもあった。「正直、もう終わりかな」との思いもよぎったという。
しかし、妻の思いは違った。江川さんは「このままシリアやチェチェンのようになったら、どうするのだ」などと妻を毎日、説得しましたが「避難」することに同意しなかったという。江川さんの妻は「足が悪い状態で9、10時間も列車には乗れない」、「移動中の車が爆撃されていた、どこにいっても一緒だ」などと反論した。そして「そもそも私の家なのに、私の国なのにどうして逃げなくてはならないのか」とも言われたという。妻の固い意思に接し、江川さんも考えを変えた。
「3人いれば1人や2人よりも生存の可能性が高まるのではないか」
(江川裕之さん)「私がいたった結論は息子を連れて逃げ妻を置いていくと、家族がバラバラになりますよね、私は一生後悔したりとか、(妻を)一生探し回らないといけないことになる」
しかし…
(江川裕之さん)「3人いれば1人とか2人よりも生存の可能性が高まるのではないかなと思った、お互いに助け合うことができる」「例えば1人がもう一人をサポートしている間に他のもう一人が救助を求めるとか、3人いればなんとかいけるのではないか」
現時点での戦況も考え、家族とともに生き残るにはどうすればよいかを考えた上で出した結論。ベストではないがベターな選択なのだという。
「ウクライナの社会基盤をいま空洞化させてはいけない」
そして、江川さんは次のように付け加えた。
(江川裕之さん)「復興するのはどこでするのかといえば日本やヨーロッパではなくウクライナでしないといけない、ウクライナの社会基盤をいま空洞化させてはいけない」
ウクライナに実質がなければ誰も、他国は助けようとしない、実際の姿が無くならないようにすることも大切なことなのだと。
国連難民高等弁務官事務所によると、3月29日の時点で約400万人がウクライナ国外へ避難したとされる。避難する人、留まる人、そして国の将来のために戦う人、それぞれに事情があり、考えがある。そこには完璧な正解などないのだろう。停戦協議がまとまらない中で、いまもウクライナの人々は愛する家族のために究極の選択を迫られ続けている。
●プーチン大統領「5.9勝利宣言」めがけ大暴走 傭兵と地雷で“最終残虐攻撃” 4/4
プーチン大統領の暴走が止まらない。米CNNテレビは2日、米政府当局者の話として、ロシアが5月上旬までにウクライナの東部ドンバス地方などを制圧し「勝利宣言」を目指していると報じた。「宣言」までに戦果を上げたいロシア軍がなりふり構わず、攻勢を強める恐れがある。
ロシア軍は首都キーウなど北部主要都市の制圧に失敗。何らかの「勝利」を印象付けたいプーチン大統領が、制圧の可能性がある東部に重点を移し、目標を設定したとみられている。米当局が傍受で得た情報によると、期限は対独戦勝記念日の5月9日に定められたという。
東部を早期に制圧したいロシアだが、自国軍の犠牲者はできるだけ抑えたい。NATO軍の高官によると、侵攻後1カ月でロシア兵の死者は最大1万5000人。10年間で1万4000人以上の旧ソ連兵が亡くなったアフガニスタン侵攻に匹敵する。そこで、使い捨て要員として傭兵を増やしている。
派遣しているのはロシアの民間軍事会社「ワグネル」だ。プーチン大統領の料理人と呼ばれるプリゴジン氏が資金提供している。ロシア西部に訓練場があり、これまでにシリアやリビアなど28カ国で活動している。民間人殺害や拷問などの疑惑が持たれ、EUは昨年末、拷問や処刑に関与したとして、ワグネルと創始者のウトキン氏に制裁を科している。
英BBC放送によると、ワグネルは侵攻後「サーロ(ウクライナの豚料理)を食べたい人は連絡下さい」と傭兵を募集しているという。12年目の内戦下のシリアからの応募が中心だ。英国のシリア人権監視団によると、シリアの傭兵の月給は約1000ユーロ(約13万円)。他に重傷者に7000ユーロ(約90万円)、死亡者に1万5000ユーロ(約200万円)の補償があるとされる。ワグネルの傭兵はシリアやアフリカなどからウクライナ東部へ転戦し、当初の3倍の1000人以上が投入される見通しだ。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏が言う。
「ロシア兵には、兄弟国のウクライナへの攻撃には抵抗があるものですが、傭兵にはそのような感情はありません。また、正規軍の兵士ではないため、傭兵の行為についてロシア軍は責任を負わない立場を取るでしょう。どうしても傭兵は過激な戦闘行為に走ってしまう。実際、ワグネルの傭兵はこれまでも残虐な攻撃を繰り返してきました。今回もその可能性が高い」
さらに、深刻なのが地雷だ。ウクライナ国防省の高官は2日、キーウ州について「全域が解放された」と宣言したが、ゼレンスキー大統領は、2日のビデオ演説で「撤収するロシア軍が民家や残された遺体に地雷を仕掛けている」と主張。米メディアによると、実際に撤退後のエリアで地雷が見つかったという。転んでもタダでは起きないとはこのことだ。
「地雷によりウクライナ軍や人々は動きを封じられ、撤去には莫大な時間とコストがかかる。また、ウクライナ国民を不安に追いやり、厭戦気分を高めたい狙いもあると思われます。勝利宣言を目指し、ロシア軍が攻勢にかけている表れだと言えます」(世良光弘氏)
これ以上の暴挙は許されない。 

 

●ロシア軍の戦費は「1日3兆円」説 8年前の成功体験がプーチンを狂わせた 4/5
読売新聞オンラインは3月30日、「戦費試算『1日最大3兆円』、高価な長距離精密誘導弾使用にプーチン氏激怒か…『支持失う前に金欠に』」との記事を配信した。
記事によると、イギリスの研究機関が「ロシアのウクライナ侵攻が長期化するにつれ、戦費がうなぎ登りに上昇している」と発表したというのだ。
《英国の調査研究機関などは今月上旬、ロシアの戦費に関し「最初の4日間は1日あたり70億ドル(約8610億円)だった。5日目以降は200億〜250億ドル(約2兆4600億〜3兆750億円)に膨らんだ」と試算した》
この報道に対し、Twitterでは誤訳という声もある。担当記者が言う。
「拡散しているツイートによると、billionの意味を勘違いしたというのです。Billionには『兆』という意味もあるのですが、『10億』を表す場合もあるとの指摘でした。ただ、調査機関の原文を確認すると、単純な『戦費』ではなく、『トータルの経済的損失』を試算した、というのが真相のようです」
これまでに報道された戦費も見てみよう。例えば2021年、アメリカ軍はアフガニスタンから撤退した。その際、アメリカ政府は20年間で約8370億ドル、約92兆円の戦費が使われたと報告した。
「20年間で92兆円を割ると、1年で4兆6000億円という数字になります」(同・記者)
第二次大戦の戦費
ただし、21年8月にNHKが報じた「米軍アフガン撤退完了 20年間の米軍死者2461人 2万人以上けが 戦費92兆円」によると、戦費が253兆円という試算もあったという。
《アメリカ・ブラウン大学のワトソン国際問題研究所が国債の利子などを含めて試算したところ、実際にはその3倍近い2兆3000億ドル余り・日本円でおよそ253兆円に上るとしています》
こちらも20年間で割ってみると、1年間で約12兆6500億円という数字になる。驚くべき金額と言えるだろう。
「過去に戦費の額が報じられたのは、アメリカ軍のものが大半です。今の物価水準に直すと、例えば第二次大戦におけるアメリカの戦費は約452兆円だったとか、ベトナム戦争は約83兆円だった、という報道です」(同・記者)
中国軍事問題研究家の田中三郎氏に、読売新聞の報道をどう見るか、取材を依頼した。
「ロシア軍の戦費が1日に2兆円という額なのかについては、なんとも言えません。とはいえ、ロシア軍の戦費が急激に上昇しており、国家の屋台骨を揺るがしかねないほどの額になっていることは間違いないと見ています」
ロシア軍は貧乏!?
意外に思う人もいるかもしれないが、ソ連の時代とは異なり、ロシア軍は“軽軍備化”を進めている。
朝日新聞デジタルは2021年4月、「世界の軍事支出、過去最多 コロナ禍でも2兆ドル」の記事で、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計値を紹介している。
これによると、以下のような順位となる。
1位:アメリカ 7780億ドル(約95兆4800億円)
2位:中国 2520億ドル(約30兆9200億円)※推定値
3位:インド 729億ドル(約8兆9400億円)
4位:ロシア 617億ドル(約7兆5700億円)
5位:英国 592億ドル(7兆2600億円)
ロシアは4位とベスト5には入っているが、アメリカや中国と比べると桁が全く違うことが分かる。ロシアの軍事費はアメリカの約7・9%、中国の約24・5%に過ぎないのだ。
「ロシアは核兵器にはそれなりの軍事費を投入していますが、軍隊は自国の経済状況を反映させ、身の丈に合った規模にとどめているのです。冷戦時代、アメリカとソ連が二大軍事強国として対峙していた時代からすると、隔世の感があります」(同・田中氏)
ウクライナ侵攻におけるロシア軍の基本作戦は、そもそも多額の戦費を必要とするものだという。
戦車1両は数億円
「2014年、ロシアはウクライナ領土だったクリミア半島に侵攻し、クリミア共和国を誕生させることに成功しました。ロシア軍の被害はほぼ皆無という成功体験から、今回も『大軍でキーウ(ロシア語表記でキエフ)を目指せば、ウクライナ軍は総崩れとなる』と楽観的な見通しを持っていたと見ています」(同・田中氏)
とにかくロシア軍が大軍であることを“演出”するため、国内から戦車や兵士をかき集め、ウクライナに向かわせた。もともと軍事費が潤沢ではないロシア軍にとっては、これだけでも負担は大きかったと考えられる。
「その代わり、短期決戦を目標にすることで戦費を抑えようとしていたと思われます。数日や1週間程度でキーウが陥落すれば、それほどの負担にはならないと考えたに違いありません。ところがロシア軍の目論見は外れ、ウクライナ軍は必死に抵抗してきました」
ロシア軍の主力戦車である「T-90」は、輸出を強く意識して開発された。購入国の軍事予算に合わせ、“ハイスペック”な高額版から廉価版まで、バリエーションが豊富だ。
そのため販売価格に関する報道も諸説が入り乱れ、1両で4億4000億円とか、1億7000億円など、様々な額が伝えられている。
自国で生産している戦車だから、ロシア軍の購入費は輸出価格よりは安いだろう。とはいえ、国費から1両あたり億単位という費用を捻出しているのは間違いない。
ウクライナ軍の対戦車ミサイルで攻撃されれば、億というコストが投下されている戦車が一瞬にしてなくなってしまう。
停戦交渉の意味
「ロケットでウクライナの街を攻撃するにしても、当然ながら戦費がかかります。性能の良いロケットであればあるほど、価格が高いのは言うまでもありません。もともとギリギリの予算で切り盛りしてきたロシア軍にとっては、重い負担になっているでしょう」(同・田中氏)
戦費の増加に加えて、厳しい経済制裁もボディブローのように効いている。
「最近のロシアは、停戦交渉に応じる素振りを見せるようになってきました。もちろん様々な思惑から交渉のテーブルに就くポーズを取っていると考えられますが、その中の一つに国家財政の悪化があるのは間違いないと考えています。戦費の増加はロシアに深刻な影響を与えているに違いありません」(同・田中氏)
●プーチン大統領が大統領府にいる限り「ウクライナを諦めることはない」 —— 4/5
•ロシアのプーチン大統領がウクライナを支配するという自らの目標を諦めることはないだろうと、ロシア外交に詳しい専門家はInsiderに語った。
•「これが彼を長年突き動かしてきたものであり、彼が取りつかれてきたものです」と専門家は話している。
•専門家は、ロシアはウクライナとの和平交渉に「真剣に取り組んではいません」とも指摘している。
ウクライナとロシアの交渉が停戦につながる合意に達することができたとしても、ロシアのプーチン大統領がウクライナを支配するという自らの目標を捨てることはないだろうと、ロシア外交に詳しい専門家は警鐘を鳴らしている。
「プーチン大統領がクレムリン(大統領府)にいる限り、ウクライナを諦めることはないでしょう」とジョージタウン大学の教授で、ブルッキングス研究所のシニアフェローでもあるアンジェラ・ステント(Angela Stent)氏はInsiderに語った。ステント氏は1999年から2001年までアメリカの国務省政策企画本部に勤務し、2004年から2006年まで国家情報会議でロシア・ユーラシア担当を務めていた。
「(プーチン大統領が)ウクライナを従属させるという自らの目標を諦めることはなく」「親ロシア政府を作るでしょう」とステント氏は話している。
「それが彼の目標です。現時点で目標を達成していないことは明らかで、恐らく、近いうちに達成することもないでしょう。ただ、彼は諦めないでしょう」
「これが彼を長年突き動かしてきたものであり、彼が取りつかれてきたものです… ウクライナを従属させると心に決めているのです」とステント氏は続けた。
約20年にわたって国を支配してきたプーチン大統領の下、ロシアはウクライナに対して攻撃的な行動を取って来た。2014年にはウクライナに侵攻し、クリミア半島を併合した。また、同じ年にウクライナ東部ドンバス地域では反政府組織を支援し始めた。
プーチン大統領はウクライナを独立した国家とは考えておらず、「独立したウクライナというアイデンティティーは存在しない」と捉えているとステント氏は指摘した。プーチン大統領はウクライナ人とロシア人を「1つの国民」と呼び、かつてソ連の一部だったウクライナは、実質的な国家ではないと繰り返し主張してきた。
●米政府、週内に対ロシア追加制裁 プーチン氏を裁判に 4/5
バイデン米大統領は4日、ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で民間人とみられる多数の遺体が見つかったのを受け、プーチン大統領を「戦争犯罪人だ」と非難した。「戦争犯罪裁判ができるように詳細を把握しなければならない」と述べた。ロシアへの追加制裁を週内にも発表する。
ホワイトハウスで記者団に語った。ウクライナ検察は3日、キーウ北西のブチャなどで民間人410人の遺体が見つかったと表明した。欧米メディアも遺体が路上に横たわる写真や映像を伝えた。バイデン氏は4日、プーチン氏について「この男は残忍だ。ブチャで起きていることは常軌を逸している」と批判した。
バイデン氏は3月16日、プーチン氏を「彼は戦争犯罪人だと思う」と初めて明言していた。
サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は4日の記者会見で、ブチャの状況を踏まえ「戦争犯罪のさらなる証拠を示している。証拠を集め、事実を明らかにする」と訴えた。ウクライナのゼレンスキー大統領が主張するジェノサイド(大量虐殺)と断定することには否定的な考えを示した。
バイデン氏はロシアに「さらなる制裁を科すつもりだ」と明かした。サリバン氏は「同盟国や有志国と調整中だが、今週に追加の経済的圧力を発表する予定だ」と説明。「欧州とエネルギー関連を含めあらゆる制裁の選択肢を話し合っている」と話した。
近くウクライナに追加の武器支援を実施する。バイデン氏は「ウクライナに戦闘を継続するために必要な武器を提供し続けなければならない」とも強調した。ロシアが攻勢をかけるウクライナ東部の態勢を増強する狙いがある。
バイデン政権は1日に最大3億ドル(370億円)の新たな軍事支援策を発表したばかりで、レーザー誘導ロケット砲や最新鋭ドローン「戦術無人航空機システム」などを供与した。サリバン氏は「ウクライナに米兵は送らないが、あらゆる可能な選択肢を検討し続ける」と指摘した。
●3月の消費者物価指数、前年同月比7.3%上昇、企業は価格転嫁を計画 4/5
ロシアによるウクライナ軍事侵攻の影響により、ドイツの消費者物価指数が急上昇し、企業は消費者や顧客への価格転嫁を余儀なくされている。
ドイツ連邦統計局は3月30日、3月の消費者物価指数(CPI、速報値)が前年同月比7.3%上昇したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。2月の5.1%から上昇率が2.2ポイント拡大し、前月比では2.5%の上昇だった。上昇の要因は、ロシアのウクライナ軍事侵攻以降の天然ガスや石油製品のさらなる価格高騰だと統計局は説明している。加えて、新型コロナウイルス感染拡大により混乱したサプライチェーンによる供給不足や、生産活動に必要な燃料・電気代の高騰などを挙げた。エネルギー価格は前年同月比で39.5%の上昇となり、前月の22.5%を大幅に上回った。また、食品の上昇率も前月の5.3%から6.2%となった。
ドイツ自動車連盟(ADAC)によると、自動車の燃料価格が急騰している。3月29日現在、混合ガソリンE10(注1)の価格は1リットル2.048ユーロ、ディーゼルは2.154ユーロ。ウクライナ軍事侵攻前の2月22日と比較して、それぞれ約18%、30%上昇している。
小売業を中心に価格転嫁を行う企業増加
ifo経済研究所は3月30日、同月の価格計画指数(DI値、注2)を54.6と発表。2月の47.6を上回って過去最高値を記録した。値上げを計画する企業が増加している。部門別では、卸売業が78.1、製造業が66.3、建設業が48.9、サービス業が42.7となった。小売業は、食品小売業で94.0、食品を除く小売業が68.2と、特に食品小売業での値上げ計画が多い。ティモ・ボルマースホイザー調査担当は「ロシアのウクライナ軍事侵攻は、エネルギー価格のみならず、農産物価格も高騰させている」とコメント。さらに、2022年のインフレ率は5%超と見通し、1981年の第2次石油危機後に上昇したインフレ率6.3%以来の高水準だとして警戒感を示した。
(注1)バイオエタノールを10%混合したガソリン。
(注2)Diffusion Indexの略。今後3カ月の販売価格見通しを「値上げする」と回答した企業の割合から、「値下げする」と回答した企業の割合を引いた値。
●中国外相、ウクライナ外相に一定の譲歩を促す 電話協議で 4/5
中国の王毅国務委員兼外相は4日、ウクライナのクレバ外相と電話協議した。中国外務省によると、深刻化するウクライナ情勢について、クレバ氏は「中国が停戦に向けて重要な役割を果たすことを望む」と求めた。王氏は「中国は対岸の火事を眺める気持ちではなく、さらに火に油を注ぐようなこともしない。我々が真に期待するのは平和だけだ」と応じた。
王氏は「バランスのとれた効果的で持続可能な欧州の安全保障を構築する必要がある」と述べ、北大西洋条約機構(NATO)の東方不拡大を求めるロシア側の主張を支持する従来の立場をにじませた。そのうえで「ウクライナ側が自国民の根本的な利益になる選択をする知恵があると信じている」と述べ、一定の譲歩をするよう暗に促した。
ウクライナ情勢をめぐり、王氏は3月30日にアフガニスタン周辺国の外相会合に出席するため訪中したラブロフ露外相と会談。「新時代の中露関係をより高い水準に押し上げる用意がある」と強調していた。
●EU、戦争犯罪捜査チーム派遣へ 4/5
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は4日、ロシアが侵攻したウクライナの首都キーウ近郊ブチャでの多数の民間人殺害を受け声明を出し、戦争犯罪などの捜査と証拠収集のためウクライナと合同捜査チームを立ち上げたと明らかにした。ウクライナ検察当局を支援するため、現地に捜査チームを派遣する方針。
フォンデアライエン氏は4日、民間人殺害を巡りウクライナのゼレンスキー大統領と協議、連携を確認した。声明は「ウクライナ当局、EU、国際刑事裁判所などが(証拠収集などに)協調して取り組む」と述べた 。
●米欧、対ロシア追加制裁へ ウクライナ民間人犠牲の責任追及 4/5
ロシア軍がウクライナ北部で多数の民間人を殺害した疑いが浮上したことを受け、米国と欧州諸国は相次ぎ、対ロシア追加制裁を発動する意向を表明した。欧州連合(EU)がロシアからのエネルギー禁輸に踏み切る可能性もある。
ウクライナ当局は首都キーウ(キエフ)近郊のブチャを含む複数の地域で3日までに民間人421人の遺体を発見したと発表し、ブチャで戦争犯罪があった可能性を調査している。
ウクライナのゼレンスキー大統領はこの日、ブチャを訪れ、「これは戦争犯罪であり、世界でジェノサイド(集団殺害)として認識されるだろう」と強調。「ロシア軍がここで行ったことを見ると、対話を行うのは極めて難しい」と述べた。
ロシア側は民間人の殺害を否定。ネベンジャ国連大使は、ロシア軍が残虐行為に関与していないという証拠を5日の国連安全保障理事会に提示すると述べた。
キーウの北西約40キロにある町のタラス・シャプラフスキー副市長は、ロシア軍の撤退後、法的手続きを経ない処刑の犠牲者約50人の遺体が発見されたと明らかにした。ロイターの記者は、両手を後ろに縛られ頭部に銃で撃たれた跡がある男性が道端に倒れているのを目撃。教会のそばに掘られた集団墓地では、犠牲者の手や足が赤土の間から突き出ていた。
ウクライナのクレバ外相はロシア軍がブチャで行った民間人殺害は「氷山の一角」にすぎないとし、ロシアに対する一段と厳しい制裁措置が必要との考えを表明した。
ロイターは、キーウ西方にあるモティジン村で3体の遺体が森の墓地に埋葬されているのを確認した。内務省当局者は、村長を務める女性のほか、その夫と息子の遺体だと明らかにした。
プーチン氏は「戦犯」
米国のバイデン大統領はロシアのプーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼び、「戦犯裁判を起こすために全ての詳細を把握する必要がある」と述べた。ロシアにさらなる制裁を科す方針も示した。
米国務省のプライス報道官は、ウクライナの要請を受けて残虐行為の証拠収集と分析のためにウクライナに派遣される国際検察官の多国籍チームを支援すると明らかにした。
ショルツ独首相は、プーチン大統領と支持者らはブチャで起きたことの報いを受けることになると強調し、西側諸国が数日内に対ロシア追加制裁で合意をまとめるとの見通しを示した。米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は4日、米政府が週内に対ロシア追加制裁を発表すると明らかにした。
一方、米国防総省当局者はロシア軍がこれまでにキーウ周辺から約3分の2の軍部隊を再配置したと明らかにした。再配置された兵士のは多くはベラルーシで統合され、ウクライナの別の場所に再派遣される可能性があると述べた。
●「戦争犯罪で集団殺害」と非難 ウクライナ大統領がブチャ訪問 4/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、ロシア軍の撤収後に民間人とみられる遺体が多数見つかった首都キーウ(キエフ)郊外のブチャを訪れた。ゼレンスキー氏は「これらは戦争犯罪であり、『ジェノサイド(集団殺害)』と見なされるだろう」と述べ、ロシアを非難した。
キーウ周辺では、3日までに少なくとも410人の遺体が見つかっている。ゼレンスキー氏は「何千人もの人々が殺され、拷問され、手足を切断されたことをわれわれは知っている。(ロシア軍は)女性を乱暴し、子供を殺した」と糾弾した。検察当局は4日、ブチャの児童施設の地下で、手を縛られた男性5人の遺体が新たに見つかったと発表した。
ロシアはブチャでの民間人殺害への関与を否定し、停戦交渉への影響も懸念されている。ゼレンスキー氏は「ウクライナの平和は勝利なくして不可能であり、勝利はわが軍の戦いと並行して外交によって達成し得る」と述べ、交渉を継続する意向を示した。
●ウクライナ戦争の裏で起こる「暗号資産戦争」とは、投資家大注目の“教訓”は 4/5
ロシアのウクライナ侵攻を契機に、暗号資産が「ウクライナ支援の緊急手段」「ロシア人による金融制裁の回避手段」として利用されていることがクローズアップされている。どちらも、暗号資産の即時性や匿名性という特徴を利用したものだ。この両国の暗号資産戦が、現在各国で進行中の暗号資産の規制強化や欧米を中心としたロシアへの経済制裁と併せて、暗号資産を取引する人にとっての興味深いケーススタディーとなっている。この「戦場」で勝利するのはロシアかウクライナか分析するとともに、ここで得られる投資の教訓を考える。
プーチン大統領も暗号資産の普及を後押し
今回の戦争では、仕掛けた側のロシアも巻き込まれた側のウクライナも、多大な額に上る戦費をはじめ、できるだけ早くより多くのお金を必要としている。送金や決済が瞬時に済み、ある程度の匿名性もある暗号資産は両国とも注目するところだ。
シンガポールの暗号資産決済企業であるTripleAによれば、ロシアではその人口の約12%に相当する1700万人が暗号資産を保有する一方、ウクライナにおいては人口比で13%に近い550万人が暗号資産を持っている。普及率に関しては、両国ともほぼ同じレベルである。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2021年10月の米経済専門局CNBCのインタビューで、「ロシアの原油やガスなどのエネルギー取引では、(米ドルやユーロなど)従来の決済貨幣を使用する必要がある。エネルギー資源を取引する時に、暗号資産を使うのは時期尚早だ」としつつも、「資金を各所に送金するために暗号資産を使用することは可能だ。暗号資産には価値がある」とも語っている。プーチン氏は、暗号資産への理解が深い。
しかし、こうした大統領の考えにもかかわらず、ロシア中央銀行は2022年1月時点で、中国と同様に暗号資産を禁止するよう提案していた。ところが、ウクライナ侵攻の数日前、プーチン大統領の意を体したロシア政府が「暗号資産の成長を促す新規則」を発表。西側の金融制裁を見越した上で、選択肢をできるだけ多く残しておきたい意図があったようだ。
事実、米金融大手JPモルガンによれば、侵攻開始当日の2月24日時点で、ルーブル建てで取引されたビットコインの総額は15億ルーブル(約18億円)と、2021年5月以来の最高レベルに達した。価値が米ドルに連動しているステーブルコイン(価格安定性の高い暗号資産)のテザーと、ルーブルの間でも慌ただしい取引が繰り返された。
ウクライナは「法整備」で時代を先取り
一方のウクライナは、政治の腐敗もあって2019年までインフレ率が2桁台と高く、通貨フリヴニャ(フリブナ)の対米ドル価値も下がり続けるため、市民が自己防衛手段として暗号資産を購入するケースが多かったとされる。
さらに、原子力発電による安い電気がウクライナの電力構成で半分以上を占めることも大きい。暗号資産は電力消費量が大きいことから、電気料金の安さが暗号資産のマイニング(採掘)を盛んにしたとされる。こうした背景から、米『ニューヨーク・タイムズ』紙は2021年11月の記事で、「ウクライナは世界の暗号資産の首都だ」と評していた。
また、ロシアの侵攻を目前にしていた今年2月17日には、ウクライナ議会が暗号資産を法定貨幣に指定する法案を可決したほか、中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタルフリヴニャを新規発行する予定も前進した。
同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月18日に、この法案に署名。暗号資産取引所が政府に金融商品取引業者として登録することで、暗号資産を切望されているフィアット通貨に変換できる法的枠組みが確立された。
特に、暗号資産全体の時価総額が昨年11月のピークから今年1月下旬に半減したという不安定な環境の中でも、これらの措置が推進されたことに注目したい。法整備の面では、来たる戦争に備えてDX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れたウクライナがロシアよりも進んでいたことになる。そして開戦後はロシア同様に、フリヴニャ建ての暗号資産取引が急増している。
では戦争という実際の有事に際して、暗号資産はその強みを発揮できたのだろうか。まずは、ロシアのケースを分析してみよう。
ロシアを分析:西側の「制裁網」を抜けられるのか
ロシアは暗号資産大国であるにもかかわらず、紛争局面において匿名性や即時性などデジタル資産の利点を生かし切れていないことが分かる。
まず、エネルギー輸出立国であるロシア経済を主に回しているのは、「敵国」通貨の米ドルとユーロである。年間輸出の4,200億ドル、輸入の2,300億ドルの大半が西側通貨で決済されている。
ウクライナ侵攻以前から、自国通貨ルーブルや暗号資産での取引はほとんどなかった。プーチン大統領の「取引には従来の決済貨幣を使用する必要がある」との発言にもあるように、ロシア経済の仕組み自体が、暗号資産取引を困難にしているのだ。
こうした中、プーチン大統領は西側によるかつてない規模の金融制裁を受けて、3月23日にロシア中央銀行に対し、「非友好的な国」に指定された米国や英国、欧州連合(EU)加盟国、そして日本を対象に、原油や天然ガス購入の代金支払いをルーブル建てに限定する仕組みを開発するよう命じた。「非友好国」は、これを契約違反として拒否した。
一方でロシア政府は3月24日、「友好国」である中国やトルコが、ロシアに対する原油や天然ガス購入の支払いを自国通貨の人民元やトルコリラのほか、代表的な暗号資産であるビットコインで行えることを可能にすると発表して注目された。
たとえ取引先が暗号資産による支払いあるいは受け取りに同意しても、取引所や金融機関など換金プロセスのどこかで西側の金融制裁網に引っかかってしまう。大量購入や大規模取引は、透明性のある記録台帳のブロックチェーン上で目立つからだ。
また、ロシアの銀行預金総額は1兆4,000億ドル超であるのに対し、世界全体の暗号資産の時価総額は約1兆7,000億ドルと意外に小さい。そのため、ロシア人の資産隠しやロシア企業による送金の多くが暗号資産で行われれば、これまた西側当局の目にとまってしまう。
ロシアを分析:アカウント停止でいよいよ“崖っぷち”
さらに、欧米の暗号資産取引所の多くは、制裁措置が課されたロシア人にひも付くアカウントについて、すべての取引を停止している。たとえば、米Coinbaseは25000以上のロシアユーザーにリンクされたアドレスをブロック。米Binanceも制裁対象者にひも付いたウォレット(口座)を手作業で特定し、ブロックしたと伝えられる。
こうした制裁は、ロシアがウクライナ侵攻を続けられるか否かについて、大きく左右すると考えられる。
その似た前例として、新型コロナワクチンの接種義務化に反対するデモがカナダで2月に起こった際、デモの影響で一部地域の経済を10日間以上にわたってマヒさせていたが、同国政府は非常事態宣言を発令し、「マネーロンダリング(資金洗浄)」を根拠にデモ主催者の銀行口座を凍結した。
さらに、デモ参加者が現金凍結に対抗してクラウドファンディングで集めた100万ドル近くの暗号資産支援金を、取引所アカウントのアドレス凍結で引き出せなくした。この兵糧攻めで、デモは継続不能になった。制裁下のロシアにも適用できる手法だ。
加えて、ロシア企業やロシア人が暗号資産を受け取ったウォレットから複数の異なるウォレットに分散して出どころを隠す手法があるが、これは巨額の資産移動には向いていない。また、取引所でロシアなど特定地域での利用を停止させるジオブロック技術が発動されれば、資産は動かせなくなる。
ただし、アカウントのアドレスをロシア以外の国(たとえば日本や米国)に偽装する、西側の規制に従わない取引所を利用する、一時的なオフライン状態で休眠するなどの抜け道がないわけではない。
こうした中で、米財務省外国資産管理局(OFAC)は2021年に、ロシアを拠点とするランサムウェア・ハッキング集団のために3億5,000万ドル(約400億円)以上のマネーロンダリングをしていた、ロシアとチェコに拠点を置く取引所のSUEXと、ラトビアのChatexに懲罰を科しており、西側当局の目を逃れることは困難だ。
完璧な制裁回避策はなく、そもそも論としてコストと手間に見合わない可能性が高い。加えて、ステーブルコインを除けば価値が不安定で、蓄財向けではないことも弱点だ。こうした中、米財務省関係者は「現在のところ、ロシア人による暗号資産を用いた大規模な制裁逃れのエビデンスは見られない」と述べている。
翻って、金融制裁で追い詰められたロシアにとり、暗号資産はまだ頼りになる面がある。たとえば、西側に輸出できなくなったエネルギーを電力に転換して、国内の暗号資産採掘を加速させることが可能だ。ブロックチェーン分析を手掛ける英Ellipticによれば、同じく制裁下にあるイランが採掘で10億ドル以上相当の、制裁対象にならない準備金を生み出している。
すでに、ロシアのサイバー犯罪グループがロシアの対ウクライナ戦争支持を表明しており、彼らが暗号資産採掘でロシア政府に貢献する可能性があるという。また、北朝鮮政府が数百億ドル相当の暗号資産の窃盗に関与したように、ロシアやそのハッカーが盗みを働くのではないかと指摘する声もある。
また、モネロのように、匿名性を高めるように設計された暗号資産も存在する。「デジタルな鉄のカーテン」の内側には、いまだにロシアにとっての安全地帯がいくらか残っている。
ウクライナを分析:暗号資産1億ドル超の寄付集めに成功したワケ
対するウクライナは、敵国ロシアのように、金融制裁を気にする必要がない。また、ウクライナに同情する世界中からのサポート、取引所の支援と協力、元来強固であった暗号資産インフラ、そして弱者にとりありがたい即時取引のメリットを享受しているように見える。そうした面で、同国はロシアより有利な立場にある。
まず、デジタル改革大臣のミハイロ・フェドロフ氏は開戦後数日で、ウクライナ政府のウォレットへの暗号資産寄付を呼びかけた。首都キエフを拠点とする暗号資産取引所のKUNAによって管理されるこのウォレットには、すでに1億ドル相当以上の寄付金が寄せられた。暗号資産関連法規が整備されたウクライナにおいて、KUNAは政府が暗号資産を現金化する役割を果たしている。
こうして暗号資産で寄せられた義援金は、ウクライナ軍の糧食、防弾チョッキ、ナイトビジョンゴーグル、燃料など「非殺人用の軍備品」調達に役立っているという。KUNA創設者マイケル・チョバニアン氏は、「ウクライナはまさに、暗号資産の絶対的な無政府状態と使用可能性の完璧なバランスを提供している」と胸を張る。
もっとも、クラウドファンディングで集まった1億ドル以上の暗号資産は、たとえば米国政府が現時点までにウクライナへ提供した13億6,000億ドルの支援や、日本政府など各国政府から寄せられる数十億ドル単位の人道援助に比べれば少額に見える。だが、今のウクライナにとり、数十万人の兵士を養える糧食が即座に入手できるだけでも、意味は大きい。
事実、デジタル改革副大臣のアレックス・ボルニャコフ氏は、「わが国の中央銀行がロシアからの攻撃で機能しにくくなる中で、暗号資産は5〜10分以内に換金・物資購入に充てられる。通常2〜3日かかる銀行の国際送金承認も必要ない。その即時性と自由度こそ、長所なのだ」と語っている。まさに、「デジタルゴールド」「紛争通貨」だ。
こうして暗号資産がウクライナ側にとり有利に働く一方で、同国政府が西側取引所に呼びかけた、「すべてのロシア関連アカウントの取引ブロック」は実現していない。これは、政府指定以外の制裁対象までブロックしてしまえば、金融制裁に苦しむ一般のロシア人がさらなる困難に直面するからだ。Binanceなどの取引所は批判を受けながらも、政府に命令されない限り、「ロシア市民の命綱を断つような措置」はとらないと明らかにしている。
「暗号資産戦争」から学ぶべき超重要な投資の“教訓”とは
「地上戦」での勝者はロシアになるかもしれないが、「暗号資産戦」ではウクライナが勝者のように見える。ロシア側には暗号資産の国境が出現する一方、ウクライナ側は国境のないグローバルな金融環境を享受しており、しかも義援金として受け取った暗号資産の価値が再上昇しているからだ。
この事実が示すのは、国境がないグローバルな存在であるとされる暗号資産に、実は国境が存在するだけでなく、匿名性や「非中央集権」が神話であり、各国政府の規制や命令に服するものであるということだ。そうした制約は平時には見えにくいが、危機が起こればはっきりと形を表わす。
米当局が暗号資産取引所に対して、顧客の身分証明証の写しやその他の個人情報の収集と保管を義務付ける動き(Know Your Customer、KYC)が出ていることは、そのひとつの兆候だ。投資家は近未来に、そうした現実を頭に入れた上で暗号資産を取引する慎重さが求められるようになったことが、ウクライナ戦争から得られる最大の教訓かもしれない。
●ウクライナ戦争で総額5.5兆円の取引が消滅、IPOやM&Aの延期で 4/5
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、世界の少なくとも100社が、総額450億ドル(約5.5兆円)以上の金融取引を延期または撤回したことがブルームバーグの集計で分かった。ウクライナ問題は、市場を動揺させ、ボラティリティと不確実性が高まる中で投資家の意欲を減退させた。
影響を受けた取引にはIPOや債権、融資、M&Aなどが含まれる。
ブルームバーグによると、2月下旬以降に約50社がIPO計画を中止しており、そこにはバイオテクノロジー企業のBioxytranや、メディア・金融サービス企業のCrown Equity Holdings、製薬企業のSagimet Biosciencesなどの米国で上場予定だった30社が含まれている。
コンサルタント会社EYによると、1月から3月までに世界で行われた約320件のIPOの調達総額は約540億ドルで、前年同期比で51%の減少だった。
M&A市場では、ロシアの侵攻開始以来、総額で50億ドル以上に及ぶ10件が延期になり、1〜3月の世界のM&Aの取引額は前年同期比15%減の1兆200億ドルに減少したとブルームバーグは報じている。最も影響を受けたのは、欧州だったという。
また、債券の発行額は、今年に入り世界で14%減少したとされる。
2021年の世界のIPOの調達額の合計は5940億ドルと、過去最高を記録したが、今年は地政学的な不安や、インフレを抑え込むための金利上昇が投資家たちを脅かしている。
市場の恐怖心を測る指標とされるCboeボラティリティー・インデックス(VIX)は、ロシアがウクライナに侵攻した際に30を超え、年初からの平均は26を超えている。ゴールドマン・サックスやJPモルガンなどの大手は、ロシア市場から距離を置いている。
●ウクライナ戦争の行方とその後の世界  4/5
ゼレンスキーとプーチンの会談開催が近く見込まれ、ウクライナ戦争に漸く停戦の兆しが出てきた。
筆者は予てから、そもそも妥協策によって開戦は避けられたと考える立場であり、一日も早い停戦成立を願って止まない。(<参考拙稿>「緊迫のウクライナ情勢:各国は妥協策を探れ」)
しかし、ウクライナ、ロシア両国間で停戦条件の擦り合わせは続いており、またここに来てロシア軍による民間人虐殺報道等も出ており予断を許さない。
ここで、この戦争の主要プレイヤーのスタンスと思惑を筆者なりに推測すると概ね下記の通りである。
プーチン: 大ロシア帝国への野望はあるが、現下の国力と照らしNATOへの危機感と嘗ての覇権国家としての矜持とロシア系住民保護の観点から、ウクライナの中立化、クリミアの確保、東南部の独立承認等を目指す。
ゼレンスキー: 大統領選当選前後ではロシアとも対話するスタンスであったが、政権維持とアゾフ連隊等政権内部からの圧力による家族の生命も含めた危機回避のため、対露強硬路線を取っている。また非ロシア系ウクライナ国民にとっては、領土割譲等は受け入れ難い。
アゾフ連隊: ウクライナ軍に正式に組み入れられた過激武装集団。歴史的にモンゴルの血が入ったロシア人を非白人と見て、ウクライナからの駆逐を目指す。
バイデン: 今秋の中間選挙を視野に、アフガン撤退不首尾の失地回復、トランプの盟友であるプーチンの悪魔化、息子ハンター・バイデン氏を通したウクライナ収賄疑惑の矮小化等のために戦争の長期化を望む。
英国: 米国と平仄を合わせ、EUとロシアを対立させ両者の弱体化を狙う。
軍産複合体: 対空スティンガーミサイルや対戦車ジャベリンミサイルを含めた兵器ビジネスの利益最大化のため、戦闘の長期化を望む。なお米軍部は死傷者が出る直接参戦より現状の兵器供給、訓練、作戦支援に留めたい。
ウォール街・ビジネス界: 金融相場が荒れる事と、軍需、シェールガス輸出、復興需要等で利益機会を狙う。
ネオコン: 民主化を至上価値とし、手段は問わない傾向がある。
習近平: 漁夫の利を狙う。戦闘長期化ならロシアへの経済制裁により、資源輸入先としてもロシアのジュニアパートナー化を高められる。また停戦調停仲介等に関与すれば中国の国際的地位を高められ、どちらに転んでも利益になる。一部に習近平がロシアのウクライナ侵攻に「頭を抱えている」という類いの言説があったが、「腹を抱えている」の間違いだと筆者は考える。
上記のように、当事者のプーチンとゼレンスキー以外は、戦闘の長期化を望んでいるか、少なくとも短期の停戦合意を強くは望んではいないと筆者には思える。
プーチンが化学兵器や核兵器を使う可能性は、戦局が極端に悪化しない限り現状では高くないと見られる。プーチンがウクライナ側のせいにしてこれらを使うか、あるいは逆にウクライナ側がプーチンのせいにして使う事も第三次世界大戦を招きかねないため、今のところは合理性が見出せない。
だが、アゾフ連隊、ネオコンには、目的のためには手段を択ばない傾向があり懸念される。また、バイデンも自身の疑惑がいよいよ煮詰まったとき、むしろ第三次世界大戦の際まで行く事を望みプーチンを挑発し続ける事も考えられ注視が必要だ。
なお、中国が停戦調停仲介等で国際的地位を高めた場合は、米中対立に腰が引けているバイデン政権と巨大なマーケットを手放したくないウォール街・ビジネス界とそれらを取り巻くマスメディアは、台湾を習近平に売り飛ばす口実を得る。
曰く「国際秩序に貢献を果たし大きな責任を担う中国による台湾併合は、恣意的動機により他国を攻めたロシアのウクライナ侵攻とは質的に異なる」云々の妄言を弄し兼ねない。昨今中国はそのための理論作り、言論工作を日本を含めた各国でやり始めている気配も筆者には感じられる。
何れにしても、中国の関与を最小限にして早期にウクライナ戦争を収束させ、中露疑似同盟に楔を打ち込み、ロシアを寝返らせての「拡大中国包囲網」の構築無くしては中国の世界覇権を抑える事は不可能と思われる。
ロシアは「何ちゃって民主主義」で言論の自由も制限されているが、中国ではそもそもこれらは皆無に等しい上に、唯物論国家のため道徳が担保される縁がない。もし共産中国による世界覇権が確立された際には、ウイグルから漏れ出た証言に照らせば他民族に対する人権侵害は想像を絶するものになるだろう。
地獄への道は、単なる善意というよりも偽善と強欲と無明で舗装されている。
●ウクライナ情勢緊迫化を織り込み悪化した『日銀短観』 4/5
『日銀短観』の22年3月調査では、最も注目される大企業・製造業の業況判断指数(DI)が2020年6月調査以来の悪化となりました。今回の回答期間は2月24日〜3月31日と、国内では全国的にまん延防止等重点措置が実施されている中、ロシアがウクライナへの侵攻を開始して以降の世界情勢を踏まえたものとなりました。ただし、想定為替レートは実勢よりもかなり円高の水準となっており、今後の想定の修正等に注目です。
ウクライナ情勢緊迫化による原材料高で業況判断DIは悪化
4月1日に発表された『日銀短観』では、最も注目される大企業・製造業の業況判断DI(回答のうち「良い」から「悪い」を引いた割合)は、前回調査から▲3ポイントの+14ポイントとなりました。2020年6月調査以来、7四半期ぶりの悪化となりましたが、事前の市場予想よりも底堅い結果となりました。また、大企業・製造業の先行き判断DIは+9ポイントと、足元の+14ポイントからは5ポイントの悪化が見込まれています。一方、大企業・非製造業の業況判断DIは同▲1ポイントの+9ポイント、先行き判断DIは+7ポイントとなりました。
新型コロナウイルスの収束がなかなか見通せないことに加え、ウクライナ情勢の緊迫化に伴う原油価格等の原材料価格の高騰や供給制約、世界情勢の不透明感等が影響していると見られます。
想定為替レートは実勢よりもかなり円高
全規模・全産業の事業計画の前提となっている想定為替レートは、22年度が111.93円となりました。米ドル円相場は3月下旬に一時125円を超え、足元でも120円台前半で推移するなど円安基調となっています。今調査の回答期間は3月末まででしたが、回答基準日は3月11日だったことから、3月下旬の急速な円安は十分に織り込まれなかったと考えられます。日銀は、円安は輸出にはプラスと円安容認の見方を示し、現在の金融緩和は継続する姿勢です。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げに積極的な姿勢を示しており、日米の金利差拡大などから今後も円安傾向は続きそうです。
設備投資計画はプラス、今後も物価上昇を見込む
22年度の設備投資計画は、GDPの設備投資の概念に近い、ソフトウエア・研究開発含む・土地投資額除くもので、全規模・製造業では前年度比+6.8%、全規模・全産業では同+3.2%となっており、企業の設備投資の意欲は底堅いと見られます。また、企業の物価見通しでは、物価全般の見通しに対して全規模合計・全産業で1年後に前年比+1.8%、3年後に同+1.6%、5年後に同+1.6%となりました。いずれも前回調査よりも今後の物価上昇を見込む格好となりました。
ウクライナ情勢は未だ不透明感が高く、今後も原材料価格高騰等の影響は考えられるものの、企業の業況判断は底堅く、新型コロナウイルスの感染が落ち着き、景況感が上向いていくことが期待されます。
●「親プーチン」のハンガリー首相再選へ EUのロシア制裁に影響も 4/5
4月3日、ハンガリー総選挙の投開票が実施され、オルバン氏率いる与党の「フィデス・ハンガリー市民連盟」が勝利した。オルバン氏は既に3期、12年にわたり首相を務めており、さらなる長期政権を築くことになりそうだ。同日、「月から見えるほどの大勝利を収めた」と語った。
同氏は強権的な政治で知られる。自身に批判的なメディアの免許を更新せず、メディア統制を敷いてきた。そのため、公でオルバン氏を批判する大手メディアはほとんどない。また、ロシアのプーチン大統領と良好な関係を築いており、ロシアがウクライナ侵攻の構えを見せていた2月初旬にモスクワでプーチン氏と会談し、天然ガスの供給拡大で合意している。
こうしたオルバン氏の政治手法を批判する有権者も多く、今回は野党勢力が「打倒オルバン」で結集していた。首都ブダペストでは、オルバン氏を批判するポスターが目立っていた。それでも地方ではオルバン氏の支持率が高く、野党の力は及ばなかった。
主要品目の統制価格でインフレ対策
オルバン氏はなりふり構わぬ選挙戦を展開した。他の欧州各国と同じようにハンガリーも物価上昇に苦しんでいるが、昨年後半からガソリンや小麦粉、食用油、鶏むね肉など生活必需品について統制価格を導入。事業者に緩和措置を講じていないため、生産事業者や小売事業者の経営は苦しいが、消費者たちは歓迎しているようだ。
また、ロシアのウクライナ侵攻後、隣国のハンガリーにも避難民が押し寄せた。2015年にシリアから避難民が押し寄せた際には、欧州連合(EU)加盟国でありながらオルバン首相はEUの方針に反して国境を閉鎖したため、ウクライナ避難民への対応が注目されていた。
今回、ハンガリーはウクライナ避難民の受け入れに貢献している。もともと国内にウクライナ人の出稼ぎ労働者が多いことに加え、国民の反ロシア感情にも配慮したようだ。
ゼレンスキー大統領「誰の味方に付くのか」
人口1000万人弱の東欧の小国であるハンガリーだが、今後はウクライナやロシア、EUとの関係上、重要な鍵を握ることになりそうだ。
オルバン氏は3月下旬のEU首脳会議でウクライナのゼレンスキー大統領から名指しされ、「(ウクライナ南東部の)マリウポリで何が起きているか知っているのか?誰の味方に付くのか自らはっきり決めなければならない」と指摘された。
ゼレンスキー大統領にこのように批判されても、オルバン首相はウクライナへの軍事支援を見送った。天然ガスの多くをロシアから調達し、ロシア製の原子力発電を利用するなど、エネルギーでロシアへの依存度が高く、ロシアに配慮しているためだ。
オルバン氏は、火に油を注ぐようにゼレンスキー大統領への対抗意識を露わにしている。ハンガリー議会選での勝利宣言の際には、選挙戦の対戦相手のひとりとして、わざわざゼレンスキー大統領の名前を挙げた。
またオルバン首相は、同首相は様々な局面でEUの方針と対立しており、選挙戦の対戦相手としてEU官僚を挙げた。ハンガリー議会は昨年6月、学校教育や映画などで18歳未満に対し同性愛や性転換を伝えることを禁じる法案を賛成多数で可決し、成立した。これに対し、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、「法律は恥だ」と非難し、EUの価値観と相いれないことを強調している。
これまで、欧州ではハンガリーと共にポーランドが、EUへの「反対勢力」だった。ポーランドは石炭火力発電の比率が高く、気候変動対策でEUの方針に反対することが多かった。またポーランドが導入した裁判官の懲戒制度がEUの司法制度に反するとして、昨年10月にEU司法裁判所から制裁金の支払いを命じられた。だが、ロシアのウクライナ侵攻でポーランドは避難民を積極的に受け入れ、安全保障でもEUと連携する場面が増えている。
こうした中、ハンガリーの動向に注目が集まっている。ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で民間人とみられる多数の遺体が見つかり、EUはロシアへの制裁強化を検討している。ハンガリーの専門家は「EUの決定に反対票を投じることはないだろうが、EUの方針を批判することでプーチン大統領に配慮するだろう」と指摘する。
ただ、EUとロシアの対立が深まれば、こうした両にらみの対応も難しいかもしれない。欧州の対ロシア制裁において、ハンガリーが重要な役割を担うことになりそうだ。
●5月9日に「勝利宣言」かプーチン大統領、甲状腺がんの健康不安説も 4/5
ウクライナへの軍事侵攻が長引く中、ロシア軍の士気の低下を指摘する声も出ています。一方で、プーチン大統領は、来月9日の「戦勝記念日」に一方的に勝利宣言をするとの分析も。また、69歳のプーチン大統領に健康不安説が浮上しています。
ロシアの国営テレビが3日に公開した映像には、住宅の中から狙いを定める兵士や、街中を走る「Z」の文字の戦車が映っていました。南東部・マリウポリでウクライナ軍と戦うロシア軍の部隊です。
アメリカのCNNテレビが、アメリカの情報当局者の話として伝えたのは、プーチン大統領がウクライナ東部の制圧に焦点を当てるとの見方です。ロシア軍が苦戦する中、勝利をアピールする必要に迫られていて、“5月9日”が勝利宣言の目標だとしています。
5月9日は、ロシアの「戦勝記念日」。第二次世界大戦でドイツに勝利したことを祝う日です。“勝利宣言を戦勝記念日に”と考えているのでしょうか。
そのプーチン大統領は、支持率が急上昇していることが明らかになりました。ロシアの独立系の世論調査機関「レバダセンター」によると、先月24〜30日にロシア国内の18歳以上1632人に行った調査では、去年11月には63%にまで落ち込んでいた支持率が83%に上がり、「支持しない」の15%を大幅に上回ったというのです。
一方で、ロシア軍の士気の低下を指摘する声も出ています。イギリスの情報機関のトップは「プーチン大統領がロシア軍の能力を大きく見誤った」とした上で――
イギリス政府通信本部 フレミング長官(先月31日)「ロシア兵は武器も足りず、士気も下がっている。命令に背いたり、自国軍の装備を破壊したり、誤って撃つなどしている。プーチン氏は実際に何が起きていて、自らの判断がいかに間違っていたかは、自分でも十分に分かっているはずだ」
また、69歳のプーチン大統領自身に健康不安説が浮上。ロシアの独立系メディアによると、プーチン大統領は、別荘で甲状腺がんの医師の診察を受けていて、その回数は4年間で35回に上るといいます。
厳しい言論統制が続くロシア国内では、2日、「戦争反対」と掲げた男性ら反戦デモに参加した人々が当局に連行される様子も見られました。ロシアの人権団体によると、軍事侵攻開始以降、拘束された人数は1万5000人以上に上っています。 
●ブチャで「戦争犯罪に直接関与」のロシア軍兵士名簿をネット公表…2千人掲載  4/5
ウクライナ国防省は4日、首都キーウ(キエフ)近郊の複数都市で多数の民間人の遺体が見つかったことについて、このうちブチャで「戦争犯罪に直接関与した」とするロシア軍兵士の名簿を発表した。英BBCによると、約2000人が掲載されている。多数の兵士が関与したとの訴えに呼応する形で、欧米などはロシアへの非難をさらに強めている。
ウクライナ国防省は、露軍兵士のリストを氏名や生年月日、階級などとともにホームページ上で公開し、「ウクライナ市民に向けられた犯罪は、全て裁判にかけられる」と非難した。
ウクライナ側は、ブチャを含む複数都市で計410人の遺体が確認されたとしており、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日にインターネットでの国民向け演説で、露軍に殺害・拷問された市民がブチャだけで300人超になると訴え、「犠牲者は相当増えるだろう」と語った。
ゼレンスキー大統領は5日午前(日本時間同日深夜)、ロシアの侵攻後初めて、国連安全保障理事会で演説する予定。4日に自身が訪れたブチャの状況などを説明するという。
一方、露軍は東部や南部で攻勢を強めている。ウクライナ国営通信などによると、東部のドネツク州とハルキウ(ハリコフ)州では4日、露軍の砲撃で少なくとも計4人が死亡した。南部ミコライウでは中心部に露軍の攻撃があり、子供1人を含む11人が死亡、60人以上が負傷した。
露軍の動きについて、米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は4日、「当初はウクライナのほぼ全土が標的だったが、東部と南部の一部に戦力を集中する戦略に切り替えた」との見方を示し、米国防総省高官は4日、キーウ周辺に集結していた露軍部隊の3分の2が既に撤退したと記者団に述べた。
●ロシア軍兵士1600人以上のリスト公表 ウクライナ国防省「戦争犯罪に関与」 4/5
ウクライナ国防省は、首都キーウ近郊のブチャで「戦争犯罪に直接関与した」とするロシア軍兵士のリストを公表しました。
ウクライナ国防省の諜報機関は、4日、ホームページで、ブチャでの「戦争犯罪に直接関与した」として、ブチャに駐留していたロシアの部隊の名前(第64自動車化狙撃旅団)を明らかにした上で、所属兵士リストを公開しました。
あわせて1600人以上、兵士の名前や生年月日、階級、パスポートナンバーなどが掲載されています。
ウクライナ国防省は「すべての戦争犯罪者が、ウクライナ市民に対して犯した罪のために裁判にかけられる」と非難しました。
ブチャでは、多くの市民の遺体が路上で見つかり、ゼレンスキー大統領が「大量虐殺だ」と非難し、国際社会からも批判の声が高まっています。
●「砲撃のなかで私はコンドームをつかんだ」 レイプを告発するウクライナ女性たち 4/5
ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)から撤退後、性暴力が横行していた証拠が次々と明らかになり、女性たちは戦争の武器として用いられるレイプの脅威と闘っている。
4月3日、写真家のミハイル・パリンチャクがキーウから20キロ離れた高速道路で撮影した一枚に、世界は震え上がった。男性1人と女性3人の遺体が毛布の下に積み上げられていた写真だった。女性たちは裸で、体の一部が焼かれていたと、パリンチャクは言う。
このおぞましい写真は、ロシアの支配下にあった地域で処刑、レイプ、拷問が市民に対して行われていたことを示す数ある証拠のひとつにすぎない。
とりわけ多くの人にとって理解しがたいのは、性暴力がかなりの規模で行われていたことだ。ロシア軍の撤退を受けて、ロシア兵による残虐行為を警察やメディア、人権団体に訴えるウクライナ人女性や少女たちが相次いでいる。
集団レイプ、銃を突きつけられたうえでの暴行、子供の目前での強姦など、捜査当局に寄せられた証言のなかには耐えがたいほど残酷なものがある。
「レイプは、平時でも通報されることが少ない犯罪です。そのため、いま私たちのところに届けられている訴えも、氷山の一角にすぎないのではないかと思っています」と、性暴力の被害者を支援する団体「ラ・ストラーダ・ウクライナ」のカテリーナ・チェレパカ代表は言う。
レイプや性的暴行は、戦争犯罪であり国際人道法違反とされ、ウクライナの検事総長も国際刑事裁判所も調査を開始すると言明している。だが現状では正義が下される可能性は低いと思われるなか、終結にはほど遠い戦争でまだ何が起こるかわからないという女性たちの不安は募るばかりだ。
キーウに住むアントニーナ・メドベチュク(31)は、戦闘が始まった日、爆撃の音で目が覚めると、逃げる前に最初に手にしたのはコンドームとハサミだったと話す。自分を守るための武器として使うためだ。
「夜間外出禁止令や爆撃の合間をぬって、救急キットを準備するのではなく緊急避妊薬を探しに出かけました」と彼女は言う。
「母は『これはそんな戦争じゃない。そんな戦争は古い映画のなかの話よ』と言って、私を安心させようとしました。でもフェミニストである私は、すべての戦争がそうなるのだと知っています」
ウクライナの女性が警戒すべきは、ロシア兵だけではない。ウクライナ西部の街ヴィーンヌィツャでは、ウクライナ領土防衛隊の兵士に学校の図書館に引きずり込まれ、レイプされそうになったという教師からの通報があった(容疑者は逮捕された)。
各地の支援団体は自治体と連携して、被害者が受けられる医療や法的・心理的サポートに関する情報を発信したり、女性向けのシェルターを提供したりしている。それでも、こうした支援団体は軍事戦術としてレイプが用いられたことによるトラウマが、今後何年にもわたってウクライナ社会全体に深い苦しみをもたらすのではないかと懸念している。
これまで何百人もの避難女性を支援してきたウクライナ西部リヴィウの団体「フェミニスト・ワークショップ」のサーシャ・カンツァーは言う。
「女性はいったん逃げることができれば、銃や自分を犯した男から遠く離れて、安全な場所に落ち着いたように見えるでしょう。でも彼女たちの中にはトラウマという爆弾が残り、どこまでも追いかけてくるのです」
●ブチャでの残虐行為、欧米が強い憤りを表明 ロシア外交官追放へ 4/5
ウクライナで、ロシア軍によるものとみられる残虐行為の証拠が次々と明らかになっている。アメリカのジョー・バイデン大統領は4日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を戦争犯罪で裁くべきだと主張。西側の他国もロシア外交官を追放するなど、ロシアに対する非難を強めている。
ウクライナの首都キーウ(ロシア語でキエフ)近郊のブチャでは、多数の民間人が殺害されたとされ、国際的な怒りの声が高まっている。
ウクライナ政府は、キーウと周辺で410人の遺体を確認したとしており、戦争犯罪の疑いで捜査を開始した。集団で埋葬された遺体や、両手を縛られて至近距離から射殺されたとみられる遺体も見つかっている。
キーウ当局は、近郊のモツジン村のオルハ・スヘンコ村長と夫、息子を、ロシア軍が殺害したと非難した。ウクライナ軍を支援したため殺されたとした。
そうした中でアメリカは、国際的な検察チームによる証拠収集への支援を表明している。
一方、ロシア政府は証拠を示すことなしに、残虐行為はウクライナがでっち上げたものだと主張した。
バイデン大統領が強く非難
「この男は残忍だ」。バイデン米大統領は4日、ロシアのプーチン大統領についてそう述べた。
「ブチャで何があったか見ただろう。彼は戦争犯罪人だ。(中略)だが戦犯として裁判にかけるには、すべての詳細を集めなくてはならない」
米国務省は、ロシア軍がレイプ、拷問、裁判なしの処刑を実行したとする、信頼できる情報を得ていると発表。それらの行為について、ロシア政府による「広範かつ問題のある作戦」の一部だとした。
米国防総省は、ブチャの残虐行為の背後にロシア軍がいるのは「かなり明白」だと説明。どの部隊によるものかを明確にするには、捜査が必要だとした。
●プーチンの戦争犯罪を立証せよ 証拠隠滅のため焼かれたウクライナ市民 4/5
バイデン氏「戦争裁判にかけられるよう情報収集する」
ウクライナに侵攻したロシアの戦争犯罪が明るみになってきた。ウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、ロシア軍が撤退したあとの首都キーウ近郊には410もの民間人の遺体が残されていた。手足を縛られ、後頭部を撃ち抜いて処刑した戦争犯罪の証拠を隠滅するため遺体は焼かれていた。西側はウラジーミル・プーチン露大統領による戦争犯罪の立証に照準を定めている。
ジョー・バイデン米大統領は4月4日、記者団とのやり取りで「私はプーチン氏を戦争犯罪人と呼んだことで批判された。キーウ近郊のブチャで何が起きたか見ただろう。彼は戦争犯罪者だ。ウクライナに武器を提供し続ける一方で、戦争裁判にかけられるよう情報を把握しなければならない。この男は残忍だ。 ブチャでの出来事は言語道断だ」と語気を強めた。
ボリス・ジョンソン英首相も4月3日「ブチャやイルピンでの無辜の市民へのロシアの卑劣な攻撃はプーチン氏と彼の軍隊による戦争犯罪のさらなる証拠だ。クレムリンは否定や偽情報で真実を隠せない。ウクライナでの残虐行為について国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)の捜査を率先して支援する」と専門捜査官の派遣とICCへの財政支援を決めた。
ウクライナの大統領報道官セルゲイ・ニキフォロフ氏は英BBC放送に「奪還したキーウ近郊のブチャやイルピン、ホストメリの現場を言葉にするのは難しい。手足を縛られ、頭を後ろから撃ち抜かれた民間人の遺体や集団墓地が発見された。戦争犯罪の証拠を隠すため遺体を焼こうとしたが、隠滅する十分な時間がなく、半焼けの状態だった」と生々しく証言した。
ブチャの虐殺
ウクライナのイリーナ・ベネディクトワ検事総長もフェイスブックで「これは地獄絵図だ。非人道的行為を罰するため証拠を集めなければならない。キエフ近郊で殺害された民間人410人の遺体を運び、4月1日から3日にかけ140体の検視を済ませた。恐怖を生き抜いた目撃者の証言や証拠写真、ビデオを収集している」ことを明かした。
ウクライナ国防省のツイッターに投稿された動画には、ブチャにある地下室で後ろ手に縛られ跪かされ、膝を撃ち抜かれて拷問にかけられた民間人男性の無惨な遺体が映し出されている。隣の部屋は5人が手足を縛られ、壁に向かって座らされたあと、後頭部を撃ち抜かれた処刑現場だった。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4月4日、ブチャの虐殺現場を訪れたあと「地下室で見つかった遺体は縛られ、ロシア軍の拷問にかけられたことが明らかだ」と悲痛な表情を浮かべた。ロシアは全部、ウクライナ軍の仕業だと反論しているため、ウクライナと西側はプーチン氏とロシア軍の戦争犯罪を立証するための証拠収集に全力をあげる。
ユニセフ(国連児童基金)は「ロシア軍のウクライナ侵攻で200万人の子供が難民として国外に脱出し、さらに250万人の子供が国内で避難生活を強いられている」と言う。国連人権高等弁務官事務所によると、この戦争で100人以上の子供が死亡し、さらに134人の子供が負傷したことが報告されているが、実際の犠牲者はもっと多い。
女性を繰り返しレイプしたロシア兵
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、3月13日、ロシア軍が当時支配していた北東部ハリコフの村ではロシア兵が31歳の女性オルハさん(仮名)を殴り、繰り返しレイプした。アサルトライフルとピストルを所持するロシア兵は女性や少女ら約40人が避難する地元の学校の地下室に押し入ってきた。
兵士はオルハさんを2階の教室に連行し、銃を向けて服を脱ぐよう命じ、オーラルセックスを強要した。兵士は女性のこめかみや顔に銃を当て、天井に向け2回銃を発射した。兵士は「子供にもう一度会いたければ言う通りにしろ」と言って再びオルハさんをレイプし、首や頬をナイフで傷つけ、髪を切り落としたという。
戦争犯罪にはジュネーブ諸条約やハーグ陸戦協定など戦時国際法の重大な違反と第二次大戦後に創設され、日本やドイツが裁かれた「平和に対する罪」「人道に対する罪」がある。戦時国際法では捕虜の虐待や毒ガスなど国際法で禁止された非人道的兵器の使用、民間人や生存に不可欠な生活インフラへの意図的な攻撃は禁止されている。
アントニー・ブリンケン米国務長官は3月23日、「ロシア軍はアパート、学校、病院、重要インフラ、民間車両、ショッピングセンター、救急車などを破壊し、何千人もの罪のない民間人を死傷させた。 ロシア軍が攻撃した場所の多くは民間人が使用していることが明確に確認できるものであった」とロシア軍による戦争犯罪を糾弾した。
マリウポリでは病院、学校、幼稚園など建物の9割が損傷
南部の港湾都市マリウポリでは、産科病院や、空から見えるほど大きなロシア語で「子供たち」と書かれた劇場が攻撃された。露チェチェン共和国のグロズヌイやシリアのアレッポと同じように絶望に追い込むため都市を包囲して無差別攻撃が行われた。 病院、学校、幼稚園、工場など建物の9割が損傷。「子供約210人を含む約5千人が死亡した」(市長の報道官)。
ロシア軍は無差別に被害を広げるクラスター爆弾や液体燃料を気化させ周囲の酸素を巻き込んで高温爆発を起こす燃料気化爆弾も使用している。ICCは特定グループを狙った集団虐殺や集団レイプなど「ジェノサイド罪」や拷問など「人道に対する罪」、一般市民の殺害、学校や病院など軍事目的ではない建物への攻撃など「戦争犯罪」で個人を裁くことができる。
ICCのカリム・カーン主任検察官はイギリスなどICCに加盟する39カ国から捜査の付託を受け、3月2日、ウクライナでの戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで捜査を開始すると発表した。しかしアメリカや中国、ロシアなど主要国が参加していないため、ICCによる訴追ができず、加害者が処罰されない恐れがある。
ウクライナは「ロシアは東部でジェノサイド行為が発生していると虚偽の主張を行い、ウクライナに対する軍事行動を行っている」として、国家間の紛争を裁く国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。ICJは暫定措置命令を出したが、国連安全保障理事会の常任理事国で拒否権を発動できるロシアは命令を完全に無視している。
ウクライナ外相顧問のミコラ・ハナトフスキ氏は「第二次大戦以来前例のない欧州の主権国家による欧州の主権国家に対する大規模な侵略が行われている。ウクライナの独立国家としての生存権そのものを否定する声明や戦争犯罪や人道に対する罪も伴っている。侵略行為に対する戦争犯罪者の責任を問う仕組みを作る必要性がある」と指摘している。
●ウクライナ「浄化」が必要とロシアで報道、エリート層除去を主張  4/5
米国のバイデン大統領は4日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどで民間人の遺体が多数確認されたことについて、記者団に「ブチャで起きたことを見ただろう。プーチン(露大統領)は戦争犯罪人だ。裁判にかけるためにもあらゆる情報を収集しなければならない」と述べ、国際法廷の設置を呼びかけた。
ウクライナ侵攻を続けるロシアについては、国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)が捜査を開始している。バイデン氏は、国際法廷設置の具体的な手法には触れなかった。ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は4日の記者会見で「過去にICCで戦争犯罪人が裁かれてきたが、米国だけで決める話ではない」と述べ、設置にあたっては、同盟国・友好国との調整が必要であるとの認識を示した。
露国防省は3日の声明で民間人殺害などへの関与を否定している。一方、国営のロシア通信は3日、ウクライナが親米欧・反露路線の「ナチ化」を志向しているとして「浄化」の必要性を指摘した。民間人殺害を正当化したと受け取れる内容で、露軍が制圧地域で「ナチ政権」を支持しているかどうかの大規模調査を実施することやエリート層の除去を主張している。
●ウクライナから避難民20人 羽田空港到着 外相帰国に合わせ避難  4/5
ウクライナからの避難民20人を乗せた政府専用機は、5日午前、日本に到着しました。政府は、自治体や企業などとも連携しながら、避難してきた人たちをきめ細かく支援していく方針です。
ウクライナからの避難民への支援をめぐっては、林外務大臣が、岸田総理大臣の特使として今月2日からポーランドを訪れ、避難民の滞在施設の視察や政府要人との会談を行うなどして、日本での受け入れや支援に対するニーズを探りました。
その結果、日本への避難を希望しているものの、自力で渡航手段を確保することが困難な20人について、人道的な観点から、林大臣の帰国に合わせて政府専用機の予備機に乗せ、日本時間の4日夜、現地を出発しました。
そして、林大臣ら政府関係者が乗った政府専用機が、5日午前11時前に羽田空港に帰国したのに続いて、避難民を乗せた予備機も午前11時半すぎに到着しました。
今後、避難民は、検疫や入国手続きを経て、国内の滞在先に移動するなどし、速やかに受け入れが進められることになります。
政府は、今回入国する20人も含め、国内で受け入れるすべての避難民に対し、自治体や企業などとも連携しながら、きめ細かな支援を行いたい考えです。
松野官房長官「到着時の抗原定量検査は全員陰性」
松野官房長官は、午後の記者会見で「来日した避難民20人は6歳から66歳までで、男性が5人、女性が15人となっており、到着時の抗原定量検査の結果は全員が陰性だった。日本に親族や知人のいない方も含まれているがプライバシー上の問題があるため、それ以上の詳細は差し控えたい」と述べました。
そのうえで「今後、避難民の方々に対しては、入国後の各場面に応じてさまざまな支援策を実施していきたい。きのうまでに計679件の支援の申し出を受けていて、内訳は、民間企業から321件、地方公共団体から147件、NPOとNGOから17件だ」と述べました。
また、政府専用機を利用した避難民の受け入れの法的根拠を問われたのに対し「調整の結果、林外務大臣に同行する形で来日していただくことになったもので、外務大臣の政府専用機の使用は自衛隊法第100条の5の国賓等の輸送の規定に基づく」と説明しました。
そして、今後、紛争から逃れてきた人たちを積極的に受け入れる考えがあるか記者団から問われたのに対し「一国が他国の領土を侵略するという国際社会でまれに見る暴挙が行われているウクライナの危機的状況を踏まえた緊急措置として、避難される方々に安心できる避難生活の場を提供すべく、政府全体として取り組んでいる」と述べました。
そのうえで「現在のウクライナの方々への対応と、それ以外の方々への対応とを一概に比較して論じること自体が困難で、適当ではない。海外からわが国に避難してきた方々に対しては本国の情勢や個々の置かれた状況などにも配慮しながら、政府全体として適時適切に対応していく」と述べました。
金子総務相「関係省庁と協力し的確に対応」
金子総務大臣は、閣議のあと記者団に対し「総務省としては、出入国在留管理庁と連携し、一元窓口の設置など政府の取り組みを周知しているほか、自治体からの問い合わせや相談を聞き取り、情報提供を行っている。今後も関係省庁と協力し、的確に対応していきたい」と述べました。
就労やことばの壁に不安の避難者も
ウクライナから避難してきた人たちの中には、日本での生活の長期化を見据え、就労やことばの壁に不安を感じている人もいます。
先月10日、夫と孫と一緒に日本に入国したリボフ・ヴィルリッチさん(59)は、埼玉県にある娘のユリアさんと日本人の夫の自宅で避難生活を送っています。
入国からおよそ1か月がたち、気持ちは徐々に落ち着いてきましたが、ウクライナ語しか話せないため、買い物や通院などで外出する際に、ことばの壁を感じる機会も増えているということです。
また、避難生活の長期化を見据え、娘夫妻に負担をかけないためにも日本で仕事を探す必要があると考えています。
ヴィルリッチさんは「日本に来て安心感をすごく感じていますが、ことばが通じないので買い物や病院に行く時には不安があり、翻訳機や日本語を学ぶ場が必要だと感じています。また、避難して来る人は最低限の生活費がかかるのでことばが分からなくてもできる簡単な仕事でもあったらすごく助かると思います」と話していました。
避難民を受け入れる家族にとっては子どもの心のケアも心配の1つです。
ヴィルリッチさんと一緒に避難してきた孫のブラッド・ブラウンさん(12)は、ウクライナで通っていた学校の授業にオンラインで参加していますが、友人たちと直接、触れ合う機会はありません。
ユリアさんは「おいは日本語が話せないので同年代の子たちとも遊べません。この生活が長期化すれば精神的にもダメージがあると思うのでメンタルのサポートも必要になると思います。早く戦争が終わっておいが友達と過ごせるふだんの生活に戻ってほしいです」と話していました。
日本への家族呼び寄せ断念した人も
日本で暮らすウクライナ人の中には、自治体などに問い合わせても具体的に、どのような支援を受けられるか分からず、家族を呼び寄せることを断念したという人もいます。
システムエンジニアで埼玉県に住むロマンさんは、ロシア軍の激しい攻撃を受けているウクライナ第2の都市、ハルキウ出身で両親や妹が住む家もそれそれ攻撃を受けたといいます。
両親は今もハルキウにとどまっていますが、妹のビクトーリヤさんは9歳と11歳の2人の子どもとともにいったんブルガリアに避難したということです。
ロマンさんは、先月2日に政府がウクライナから避難民を受け入れる方針を明らかにしたあとの先月上旬、妹たちを日本に呼び寄せようと考え、地元の自治体などの行政機関や支援を表明した企業にどのようなサポートを受けられるか電話などで問い合わせました。
しかし、いずれも「具体的には何も決まっていない」という回答で、どのような教育や医療が受けられるのか、先が見通せないため、妹たちを日本に避難させることを断念したといいます。
妹一家はその後、ロマンさんが知人を通じて見つけたドイツのホストファミリーのもとに身を寄せ、子どもたちはすでに学校にも通っているということです。
ロマンさんは「私以外のウクライナ人たちも日本では、どこに問い合わせればどのような支援が受けられるか情報が一か所にまとまっていないと話していました。家族で海外に住んでいるのは私だけで、妹たちの力になりたかったので、何もできなくて残念です」と話しています。
そのうえで、「ドイツではすぐに学校に入ることができ、今月の一時支援金も先月末には振り込まれました。避難民を受け入れる日本の対応は改善されているとは思いますが実績があるドイツと比べるとまだまだ遅いと思います」と述べました。
妹のビクトーリヤさんは「ドイツでは半年間の滞在許可のあと2年間、ビザを延長できます。戦争はいつ終わるか分からず、日本で生活した場合、どのような選択肢があるか分かりませんでした。ドイツでの生活は気に入っていますが、兄の所に行けなくて悲しかったです。兄と一緒に暮らしたかったです」と話しています。
出入国在留管理庁は現在、ウクライナから避難してきた人たちを対象にした相談ダイヤルを設けるとともに通訳を募集するなどしていて、さらに対応を充実させたいとしています。
●ウィキペディアに削除要求 ロシア当局、軍事侵攻の記述で  4/5
ロシア通信情報技術監督庁は5日、インターネット上の百科事典「ウィキペディア」がウクライナでのロシアの軍事作戦について「信頼できない情報を拡散している」として、削除するよう改めて要求したと明らかにした。インタファクス通信などが伝えた。
同監督庁は3月、ロシアのウクライナ侵攻に関連して「虚偽の情報を掲載している」としてウィキペディア側に削除を要求。応じない場合は最高400万ルーブル(約570万円)の罰金が科されると警告していた。
ロシアでは3月、軍に関する「偽情報」拡散に最長で懲役15年を科す刑法改正が成立するなど、侵攻に関する情報統制が強まっている。
●プーチンとウクライナの生存を懸けて戦うゼレンスキーが日本より中国を選ぶ  4/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は1カ月以上、ロシアの軍事侵攻に抵抗しながら、世界中の国々になりふり構わず支援を求めてきた。ようやく実現した3月29日からのロシアとの和平交渉では、自国が中立化する条件として提案した安全保障の枠組みに参加を希望する国に、これまで支援を求めてきた米英仏独のNATO(北大西洋条約機構)の主要国のほか、カナダ、トルコ、イスラエル、中国を選んだ。そこに日本はなかった。
一方、ウクライナ紛争における西側諸国の最大の武器である経済制裁は、バイデン米政権の要請を完全に聞く国は少ないようで、実効性の限界が浮かぶ。ロシアのルーブルは、対ドルでいったんウクライナ侵攻前の89ルーブルから177ルーブルまでは暴落したものの、現在では85ルーブルとほぼ侵攻前の水準を回復している。
「SWIFT」からのロシア締め出しは、一時は「金融核兵器」とまで言われたが、SWIFTにかわる送金メッセージの送信はテレックス(国際ファクス)でも可能なので、実はあまり有効な手段ではないことも、ようやく世間は認識できるようになったようだ。SWIFTの本部に行ってみればわかるが、ファーウェイの本社の方が遥かに先進的である。SWIFTとはその程度のものなのだ。
そんな先行きが見えない状況のなか、ゼレンスキー大統領は今、何を考えているのか。そして、日本にはどこまで、何を期待しているのだろうか。あらためて考えてみたい。
ロシア弱体化への現実の行動を求めたオンライン演説
3月23日、衆議院議員会館で行われたゼレンスキー大統領によるオンライン演説を受けての日本のメディアの論調は、「日本への期待が滲み出ている」、「日本の外務省が(米議会演説で真珠湾に触れた事を踏まえて)内容をマイルドにした」、「大統領演説の巧みさに幻惑されすぎていないか」といったものだった。
正直、違和感をもった。ゼレンスキー大統領が演説に込めた真意を捉えていない、どこか甘い論調だと感じたからだ。
ゼレンスキー大統領の国会演説の柱は、
1経済制裁を続けて、ロシアのウクライナへの残忍な侵略の津波を止めて欲しい、
2現状を解決するためには、新たな安全保障組織が必要なので、日本にも支持して欲しい、
3日本に復興支援をして欲しい、
の三つである。
彼は日本人に、気持ちのうえで味方になって欲しいと言ったのではなく、現実の行動として、ロシアを弱体化することをして欲しいと求めたのである。「期待が滲み出ている」とか「内容をマイルドにした」といったレベルの話ではない。
日本はロシアに配慮して厳しい対応はとらない
ウクライナ侵攻の開始から連日、死と隣り合わせで戦ってきたゼレンスキー大統領にとって、日本のロシアへの対応は手ぬるく見えているだろう。 
たとえば日本は事実として(本稿執筆時の4月3日でも)、サハリン1、2のプロジェクトからは撤退しないと表明、ユニクロなどの日本企業はロシアでの営業を一時停止したものの、そのユニクロも従業員への保証として資金送金を続けている(他にも同様の国があるうえ、ロシアが自国の国債の元利払いに注力した結果が出ているため、冒頭のようなルーブルの為替相場につながっている)。
おそらくゼレンスキー大統領には、日本はロシアの背後(極東側)を攻めることが可能な米国の同盟国であるが、同時に日本はロシアに配慮して厳しい措置はとらないという報告が上がっていたことだろう。
アジアを動かすのは中国とインド
ウクライナには、4年前にポロシェンコ前大統領がハンター・バイデン氏(バイデン大統領の次男)に語ったとして伝わる話の中に、「アジアを動かすのは中国とインドである」という言葉が残っている。ハンター氏は当時、ウクライナ企業の顧問を務めるなどして、米国からの武器供与の窓口のような役割を担っていた。
米国に武器の供給を求めるウクライナにとって、中国とインドは当時から、米国がウクライナへの態度を変えた場合の代替国という意味合いがあったとされるが、それはゼレンスキー大統領にも引き継がれてきた。実際、中印両国は、今回のウクライナ紛争でも米国やNATO陣営とは一線を画しており、最後の最後はどう転ぶのかわからないところがある。
中国は、北京冬季五輪の開会式にプーチン大統領を招待し、習近平主席が一対一の晩餐を催した。ウクライナ紛争開始後も一遍してロシア寄りの発言を続けてきており、イスタンブールでの和平交渉当日(3月29日)にも、王毅外相が安徽省にロシアのラブロフ外相を迎えて、「米国等による経済制裁への非難」声明を発表している。
また、インドは、3月3日の181ヶ国による国連総会決議「Aggression Against Ukraine」(日本語では「ウクライナ侵略に対する決議」だが、aggressionは国連用語では「侵略」ではなく「侵攻」である)で棄権した35カ国の一つである。インドのメディアは、米国連大使が決議直前までインド国連大使を賛成に回らせるよう説得したが、「将来に大切な役割を果たすことができるよう中立を守る」という回答は変わらなかったと報じている。
3月28日にはタルーノ元国連事務総長補佐官が、「インドは中立ではあってもロシア非難の声を上げるべきだ」との発言をしたが、同31日には、王毅外相との会談を終えたロシアのラブロフ外相をニューデリーに迎えている。3月19日に岸田首相がインドを訪れた目的は水泡に帰したかたちだ。
また、インド同様、国連決議で棄権したパキスタンも、カーン首相がロシアのウクライナ侵攻後にモスクワを訪問したことで米国との外交関係がギクシャクしているが、逆に独立国の外交主権に対する侵害だと米国を非難している始末である。
有事では期待するところが大きい中国
ロシアの侵攻直後に米国からの国外脱出要請を拒否したゼレンスキー大統領が、二度も仲裁の労を頼んだ中国。ウクライナ侵攻後、最も遅くまで、留学生を帰国させる特別便をウクライナ政府との合意で(病人などウクライナからの人道上の避難民を同乗させて)飛ばし続けたインド。外交は独立国の主権だとして、米国と一線を画すパキスタン。
これらの国は、欧米と一線を画しているからこそ、万一の場合は、独自の判断でウクライナ支援に回るかも知れない。逆から言えば、この三カ国、インド・パキスタン・中国が停戦を働きかければ、ロシアも動く可能性が高まる。
とりわけ中国に対しては、米国とは異なる意思決定が出来る国との期待があったからこそ、これまでに二度も停戦のための仲裁を依頼し、和平交渉の条件である安全保障の枠組みへの参加を期待したのだろう。自分たちの生存を賭けて戦っているゼレンスキー大統領にしてみれば、平時に戻った際には日本への期待があるとしても、有事における中国への期待は、それと比べ物にならないほど大きいのだ。
3月31日、米国は「ウクライナからのインプリケーション」と題した議会公聴会を開いたが、そこでの議論の中心は、ロシア軍の思いも寄らなかった弱体化で流動化する中東などだった。ゼレンスキー大統領には「米国は頼りにならない」と映ったのではないか。そして、米国の言う事を聞くだけの日本もまた同様に、戦時では頼りにならないのである。
ユダヤ人・ゼレンスキー大統領の思いは……
ゼレンスキー大統領がこれほどまでに現実的で強(したた)かなのは、彼がユダヤ人だからだというのが、欧米の歴史学者の見方である。安全保障の枠組みに、一貫してロシア支持の中国を入れたいと考える背景もここにあるはずだというのだ。
ユダヤ人は激しく悲惨な状況をくぐり抜けてきた。モーゼの出エジプト記、バビロン捕囚、ローマ帝国の支配……。歴史的に異民族による支配や攻撃を幾度も経験している。中世以降でも、欧州の諸都市でゲットーに強制的に住まわされたり、ナチスドイツによるホロコーストに苦しめられたり、悲惨極まりない過去がある。ワシントンDCのホロコースト博物館に行くと、索漠とした気持ちになる。
こうしたユダヤ人の歴史を考えれば、祖父と叔父の3人がホロコーストの犠牲者であるゼレンスキー大統領が、ロシアと必死で戦うのは理解できる。しかも、『悲しみの収穫』(ロバート・コンクエスト著)」によると、スターリン時代のウクライナ大飢饉では700万人(300万人との説もある)が餓死したと言われ、ウクライナにとってロシア(旧ソ連)は受け入れ難い国である。国会に招致されたウクライナ人が、「ロシア軍と戦わない選択はないのか」という主旨の議員の質問に、「やがて虐殺されることになる」と回答しているが(YouTubeで視聴可能)、背景にこうした歴史があることを知っておく必要がある。ユダヤ人であるゼレンスキー大統領は、人一倍その観念が強いのではないだろうか。
確率ゼロではない中国に賭ける
ユダヤ人国家の父と言われるベニヤミン・ゼエブ・ヘルツェル(1896年に「ユダヤ人国家」を上梓)が「内なるゲットー、外なるゲットー」と語ったことがある。この言葉の含意は、ゲットーの内部にいる限り(少なくともナチスドイツとは異なる普通の国が作るゲット−ならば)、ユダヤ人は自由は制限されるものの、安全である。しかし、そこから一たび外部に出て暮らそうとするならば、宗教や食生活などユダヤ人の基本的生活とは異なる異民族と同じ生き方をしなければならない、というものだ。
ゼレンスキー大統領は、ユダヤ系ウクライナ人として、カトリック教徒となったユダヤ人の子孫として、「外なるゲットー」に生きてきた。それでも、ロシア侵攻前のウクライナは、彼にとって住みよい国だっただろう。
ところが、ウクライナ紛争によって、周囲に同化して生きていれば安全という「外なるゲットー」の世界が壊れてしまった。ここでロシアの侵攻を受け入れれば、安全と自由は永久に失われる。嵐をしのげば、「台風一過」のごとく再び平和が戻ってくるという日本人的な発想は、彼らにはない。
この戦いは、自分たちの戦いなだけでなく、子孫にまで影響する戦いだ。侵攻を受け入れずに武器を持って立ち上がった以上、屈した後には粛清が間違いなく待っている。それが人類の歴史であり、ウクライナ大飢饉で膨大な数の餓死者を出し、ナチスドイツとの闘いで多くの犠牲者を出したウクライナ人の思いに違いない。
このような立場になった時、彼らは「優しくて親しみやすい国民だから日本が好き」という平時スタンスとは異なり、「ウクライナのことを考えているわけではないかもしれないけれど、ウクライナのためになる行動をとってくれるかもしれない」として、中国を選ぶのだ。もちろん、これは一種の賭けだ。だが、確率ゼロの日本よりは、少しでもプラスの確率を持つ中国に賭けるのである。
イスラエルのベネット首相は、3月27日にエルサレムを訪問したブリンケン国務長官との会談後にコロナ陽性となり、イスタンブールとニューデリー訪問を見合わせている。しかし、ゼレンスキー大統領の要請を受けて、停戦の働きかけをするべくモスクワ訪問を予定していたとの情報もあり、地元メディアによれば、「ユダヤ人」であるゼレンスキー大統領に救いの手を差し伸べるとの期待が高いようだ。
同時通訳者はなぜウクライナ人だったのか
ウクライナは東欧の北に位置し、日本からは(距離的のみならず国交や草の根の関係的にも)非常に遠い。地名にしても、今回のウクライナ紛争後になって(ウクライナ建国後30年を経過して)、ようやく首都をロシア語読みの「キエフ」からウクライナ語読みの「キーウ」に変えたが、それほど遠い国だった。
ただし、逆もまた真なりだ。ゼレンスキー大統領は米議会での演説で、「真珠湾奇襲攻撃の際に、空が日本の戦闘機で空が黒くなったのを覚えているだろう」(Remember Pearl Harbor, terrible morning of Dec. 7, 1941, when your sky was black from the planes attacking you.)と語っているが、同大統領や多くのウクライナ人にとって、日本で想起するのは真珠湾への奇襲攻撃の事だけかもしれないということに、思いをいたす必要がある。
ゼレンスキー大統領は国会演説でウクライナ人を同時通訳に使った。この女性は非常に日本語が堪能で、通訳はとても上手かった。日本人以上と言っても過言ではない。だが、彼女を同時通訳に選んだ理由はより深刻だ。
明日の命さえわからない同大統領にとって、すべての行動において、周囲の人が「味方か否か」で判断する必要がある。ウクライナ政府に近い筋の話では、自身の発言を(ロシア寄りの可能性のある)日本が用意した日本人通訳に任せることは出来なかった、というのである。
日本人通訳だと、外務省など政府への忖度(そんたく)から表現が変えられる。あるいは、(日本に不都合な場合は)あえて訳さないという選択をされるかもしれないリスクがある。そう考えたのだろう。
ゼレンスキー大統領は、侵略者から祖国の独立を守り、生き残るために死力を尽くしており、我々はそこを理解しなければならない。解放後のキーウの惨状を世界に見せているのも、もっと軍事支援をして欲しい、と主張していると見るべきだ。
ところで、すっかり悪者に仕立てられてしまったプーチン大統領だが、さすがに極端すぎるという印象を持っている向きもあるのではないだろうか。次回はプーチン大統領の発言の背景や、彼がなぜここまで世界を敵にしても頑張れるのかについて見ていきたい。
●「攻撃ではなく『特別軍事作戦』」「プーチンは真の愛国者」国民がプーチンを支持 4/5
ロシア軍によるウクライナへの無差別攻撃はすでに一か月以上続き、街の破壊、人道危機が深刻化している。ウクライナでの惨劇をロシア国民はどうみているのか、取材した。
「女性は6歳の子どもの前でレイプされました」ロシアから奪還した街“トロスティアネッツ”の惨状
3月28日、ウクライナ軍を支援するNGO『Come Back Alive』がSNSで動画を公開した。
ウクライナ軍の兵士「ウクライナ・トロスティアネッツの街にはロシア軍が侵攻しましたが、我々と現地のゲリラ部隊が撃退しました」
ロシア軍に占領されていた北東部の街・トロスティアネッツをウクライナ軍が奪還したことを称えている。トロスティアネッツは、約1か月もの間激しい攻撃にさらされ、街並みは荒廃していた。多くの瓦礫が積みあがり、ロシア軍が使ったとみられる戦車や砲弾の残骸が至るところに残されている。この街はロシアの作曲家・チャイコフスキーがかつて“故郷”と呼んだ場所だが、青年期を過ごしたといわれる家も被害を受けた。
地元選出の国会議員のミハイロ・アナンチェンコ氏は「ロシア軍が占領下で数々の残虐行為を行っていた」と強調する。
アナンチェンコ氏「ロシア軍は一般市民をいじめたり、住民の人権を考えず外出禁止令を出したり、物を盗んだりしていました。酔ったロシア兵が、民家に向かって射撃することもありました」
アナンチェンコ氏によると、路上にはロシア兵が吸ったとみられる煙草や脱ぎ捨てられた軍服が放置され、スーパーでは棚から食料品が持ち去られたという。
アナンチェンコ氏「祖父と暮らしていた女性がいたんですが、祖父が殺され、女性は6歳の子どもの前でレイプされました。大人をロープで縛って、子どもをレイプしたケースもありました、隣人などから聞いた話をもとに調査していて、今後戦争犯罪として訴える予定です」
ロシア軍は、首都・キーウ近郊から徐々に撤退しつつあるという。アメリカの『戦争研究所』は、「ロシアはキーウの包囲や占拠を断念した」と分析した。しかし、ロシア国内では、全く異なる戦況が報じられていた。
在日ロシア人交流会会長が語る ロシアのプロパガンダの実態
在日ロシア人交流会のミハイル・モズジェチコフ会長を訪ねた。
ディレクター「今回のウクライナへの攻撃は、多くのロシア国民は正しいと思っているんですか?」
ミハイル・モズジェチコフ会長「攻撃というと…『特別軍事作戦』ですよね」
“攻撃”という言葉を使ったとたん、『特別軍事作戦』に言い変えられた。ミハイル氏はこの作戦を支持するロシア国民は多いと主張する。
ミハイル・モズジェチコフ会長「日本ではウクライナ側(の主張)しか見せないものがあるけど、ロシアでもロシア側(の主張)しか見せないから、戦争が始まった国のリーダーは人気が上がる。それはもう本当に物理みたいですね。もう決まっている動きですね、人間の。」
「プーチンは真の愛国者」ロシア国民がプーチン大統領を支持する理由
ミハイル氏から紹介された、モスクワに住むビジネスマンの男性に聞いた。
モスクワ在住の58歳男性「あくまでも個人の意見ですが、国民の80%が私と同じ考えでしょう。私はプーチンを全面的に支持しています。何をするかわからないところもありますが、賢さ、計算高さ、冷静さは称賛に値します」
ディレクター「ウクライナの惨状、病院や子どもたちが亡くなっているような情報は見ていますか?」
モスクワ在住の58歳男性「もちろんです。ニュース番組でも、自分がよく使っているテレグラムチャンネル(SNS)でも見ています。しかしこれは軍事作戦ですから、破壊なくしては無理です。私たちはウクライナと戦っているのではありません。ウクライナをネオナチやファシストから解放し、西側諸国が大量に持ち込んだ武器をすべて排除しようとしているのです。西側諸国の指導者たちは、プーチンを最大のライバルで潜在能力が高いと見ています。危機感を抱くのは当然でしょう。世界のトップに立とうとするプーチンをどう排除しようか考えているんです。」
なぜそこまでプーチン大統領を支持するのか。
モスクワ在住の58歳男性「プーチンは真の愛国者です。間違いない。それが嬉しいんです」
●日本含む「非友好国」に報復措置、ロシアが入国を制限…  4/5
タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は4日、対露制裁を発動した「非友好国」への報復措置の一環として、「非友好的な活動をする外国人」の入国を制限するよう外務省など政府機関に指示する大統領令を出した。
大統領令では、非友好的な活動の定義や適用対象が不明確で、 恣意しい 的に使われる恐れがある。日本も「非友好国」に指定されている。
大統領令ではこのほか、ノルウェーやデンマークなど一部の欧州諸国に関し、政府関係者や報道関係者らの査証(ビザ)発給手続きの簡素化の取りやめも命じた。ロシアは日本との間でも発給手続きの簡素化を導入しているが、今回の対象には含まれなかった。
●それではプーチンの戦争は止まらない…欧州がいまでも「ロシア産LNG」に大金 4/5
欧州は日米と連携してロシアに経済制裁を科しているが、天然ガスは対象外としている。なぜ天然ガスの輸入をやめないのか。エネルギーアナリストの前田雄大さんは「欧州は政策的に脱炭素を進めてきたため、ロシアへの依存か高まってしまった。無自覚に『プーチンの罠』にはまっている状態だ」という――。
脱炭素に全集中…欧州がハマった「プーチンの罠」
ロシアのウクライナ侵攻は現代社会が抱えるさまざまな問題を露見させた。安全保障はその代表格であるが、社会・経済システムに大きな影響を与える点で見過ごせないのが資源・エネルギーの論点だ。
対ロ経済制裁の中で、アメリカはロシア産の原油・天然ガスの禁輸を3月8日に発表した。もちろん、経済制裁は西側が連帯をして行わなければ効果は薄くなる。ブリンケン米国務長官は、欧州各国と事前に調整を試み、ロシアに対する資源・エネルギーの制裁でも欧州側に協力を求めた。
しかし、この対ロ制裁に同調できたのはイギリスだけだった。資産凍結や国際決済システムからの排除といった制裁では足並みを揃えることができたにもかかわらず、エネルギー分野だけは不十分な形になった。これには明確な理由がある。
EU各国は資源・エネルギー分野でロシアとの関係を断ち切れない弱みがある。これに深く関係しているのが、欧州の焦り過ぎた脱炭素戦略だ。欧州はある意味で「プーチンの罠(わな)」に完全にはまったと言っていい。それも無自覚のままに――。
脱炭素の主導権を握るためにロシア依存を進めた欧州
なぜ欧州は、国家存立の要であるエネルギーに関して、ロシアに致命的な弱みを握られることになったのだろうか。改めて振り返ると、資源・エネルギーに関するロシアと欧州の関係は伝統的に結びつきが非常に強いことがわかる。
ロシア経済の主軸は化石燃料セクターだ。ロシアの輸出品目を見ると、資源・エネルギー関係で輸出額の半分を占めている。お得意さまは欧州だ。また原油にいたっては半分弱の輸出は欧州向けに出されている。したがって、ロシア経済を欧州が支えているといってもあながち間違いではない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月17日、ドイツ連邦議会での演説でドイツ政府の対応を一部強い口調で非難した。それはドイツがロシアから天然ガスを直接買い受けるために敷設したパイプライン、ノルドストリーム2を念頭に置いたものだ。要は、ドイツがロシアに資源・エネルギーを得る対価として支払った資金が、ウクライナ侵攻にも使われたというロジックだ。
欧州から見てもロシア産の資源・エネルギー依存は高い。天然ガスについては4割、ドイツでは5割以上を占めている。この面では欧州のエネルギー事情をロシアが支えてきたといっても、こちらもあながち間違いではない。
実際のところ、この関係性は最近になって構築されたわけではない。冷戦時代から段階的に構築されてきた。
ロシアはソ連時代の1970年代、シベリアのガス田開発と欧州と接続するパイプラインの開発で主要生産国・輸出国になった。1984年に建設されたウレンゴイ-ウージュホロド・パイプライン、1996年に稼働したベラルーシとポーランドを経由するヤマル・パイプライン、バルト海を通ってドイツと結ぶノルド・ストリームで、ロシアは天然ガスを欧州に供給。トルコ向けのブルー・ストリーム(2003年稼働)、トルコと南東ヨーロッパ向けのトルコ・ストリーム(2020年稼働)もある。
今回のウクライナ侵攻は、北大西洋条約機構(NATO)の東側拡大がロシアを刺激したという見方が安全保障の専門家から指摘されることがある。だが、資源・エネルギー分野で言えば、NATO対ワルシャワ条約機構という明確な構図が存在した冷戦期にも欧州はソ連に依存してきたのだ。安全保障は対立するものの経済面では関係性を構築することでバランスを取ってきたという部分もあるのだろう。
冷戦構図の終焉(しゅうえん)とともに、今日に至るまで、世界はグローバリズムを標榜(ひょうぼう)し、国際協調、相互依存によって「平和」と経済的な安定を実現させてきた。ここ数年、国際協調主義から自国第一主義への転換が見られるようになりバランスは揺らいでいる。
そのトリガーこそ、欧州主導の急進的な脱炭素戦略だった。
欧州の焦りが生み出した「ロシア頼みの脱炭素戦略」
気候変動対策をはじめ、欧州はこれまで脱炭素の国際的な旗振り役を担ってきた。各国で事情は異なるが、再エネ比率の拡大に努め、脱炭素転換を世界に先んじて実行してきた。
世界的なメガトレンドになった背景には、気候変動の問題が現実の経済・社会に悪影響を及ぼすようになったこともある。だが、再生可能エネルギーの国際的な価格下落と、脱炭素が経済性を持ってきたことが最大の要因だろう。先行者の利益を得たい欧州にとっては、世界的に吹いた脱炭素の風は大いにプラスとなった。
ルール作りでも、経済的にも主導権を取りたい欧州は一貫してあるブランディングを開始する。それは「CO2を出さないことの正義」という新たな価値観だ。これは脱炭素転換で先行する欧州にとっては非常に都合がいい。気候変動問題はCO2の排出が主要因と考えられている。この欧州の「CO2無排出正義」は、地球環境の保護、国際社会への貢献という大義名分を与えるからだ。 他国が異を唱えるものなら、「気候変動問題は喫緊の課題であるのに、経済成長を優先する姿勢は果たして正しいのか」と欧州勢は反論できる。もちろん、国際貢献の文脈もなくはない。欧州の世論が気候変動対策を支持する土壌があるのも事実だ。
しかし、国際交渉に携わった現場で筆者が見てきたのは、欧州の政策展開は国際貢献の文脈を超えて、自国・自地域にとって都合のよいルール・体制作りを行いたいという主導権争いを色濃くしたアグレッシブな姿勢だった。
特にパリ協定が発足してから、その傾向は一層強くなった。パリ協定はCO2無排出正義にお墨付きを与える枠組みであるが、アメリカや中国の企業を中心に、脱炭素分野で猛追を始めたことが欧州を焦(あせ)らせた。
日本の石炭火力、ハイブリッド車の排除に躍起に
2019年に一度は調整に失敗した「2050年カーボンニュートラル」だが、EUは2020年に合意し、他国に先駆けて方針を打ち出した。欧州はこうして、後戻りでいない一本道に自ら足を踏み入れた。
3月15日にEU加盟国の間で基本合意に至った国境炭素調整措置(CBAM)の導入は、欧州の脱炭素が「気候変動対策」に留(とど)まらないことを明確に示している。
CBAMは、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける措置だ。CO2無排出正義を掲げつつ、EU域内の産業を保護するもので、気候変動対策でも、戦後の国際秩序とも言える自由貿易の原則から言っても問題となり得る措置だ。これは自動車分野にも当てはまる。2015年のディーゼルエンジンの排出規制不正の結果、燃費のいい車の競争で日本に敗れた欧州勢は、CO2無排出正義を掲げて反撃に出る。2021年7月、欧州委員会は2035年に欧州で販売される新車について、CO2の排出を認めない方針を発表した。日本勢が得意とするハイブリッド車は「CO2を出す」という理由だけで欧州市場から排除されることになった。
こうしたなりふり構わない脱炭素方針は、エネルギーセクターでも見られた。標的となったのが石炭火力発電所だ。化石燃料の中でも石炭はCO2の排出が多く、気候変動対策上も低減させる必要性が叫ばれた。2017年11月にはイギリスなどの有志国により脱石炭連盟が発足し、その傾向は加速していった。ここでも日本は大きなあおりを受ける。日本は、相対的にCO2排出の少ない高効率石炭火力を得意としているが、石炭火力は一律に問題視されるようになった。2021年末の気候変動に関する国際会議(COP26)で、締約国は石炭火力を段階的に削減することで合意した。もちろん、その強烈な旗振り役を担ったのは欧州だ。
軍事面だけではない…エネルギー分野にもあった戦争の引き金
すべて欧州の思い描いた通りに脱炭素シフトが進むように見えた。しかし、この急激な脱炭素シフトによって、欧州とロシアのバランスを崩すことになる。
先述の通り、ロシアは天然ガスや石油といった化石燃料セクターで経済がもっている。欧州はロシア産の化石燃料を購入するかたちで、ロシア経済を支えてきた。
しかし再エネが普及すれば、当然ロシアからの化石燃料輸入は減る。それだけでなく、CO2無排出を掲げる欧州が、脱炭素を世界に各国に求めるほど、化石燃料に依存するロシアを圧迫することになる。 ただでさえ、年金制度改革で国内経済の不安をかかえるプーチン政権にとって、これは長年培ってきた欧州との間のバランスを崩す一手であったことは間違いがない。
2021年にロシアが欧州向けの天然ガスの供給を絞ったことは、これとは無縁ではないだろう。ロシアが、天然ガス供給を政治的に利用したことで、欧州は急遽エネルギー不足に見舞われた。
電力価格が高騰し、多くの新電力が各国で倒産したほか、産業界にも影響が波及した。これは欧州にとどまらず、世界的な天然ガス価格の高騰を招き、それと連動する形で原油、石炭の価格も大きく上昇した。また石炭価格の高騰は、中国国内の電力不足の原因となるなど、世界のサプライチェーンにも影響を及ぼすまでになった。
ロシアはこうした一連のドミノ倒しを見て、自国のもつ影響力を再認識したに違いない。
ロシア産の天然ガスに依存するようになった根本原因
なぜロシアが供給を絞っただけで、欧州はエネルギー危機となったのだろうか。その原因もまた、欧州自身が進めた急激な脱炭素戦略と言っていい。野心が招いた結果とも言える。
EUの脱炭素戦略の内実は、脱石炭というエネルギー政策だ。世界にCO2無排出正義を掲げるに際し、欧州は先手を打ってここ数年、脱石炭を一気に加速させた。イギリスは2024年に石炭火力全廃を発表、ドイツも2030年までの段階的廃止を決定した。
もちろん、風力や地熱、水素といった再生可能エネルギーに代替させているが、すべては賄えない。そこで、化石燃料ではあるが、石炭に比べてCO2排出が少ない天然ガスに依存せざるを得なくなったわけだ。 こうして脱炭素への移行期における燃料として、天然ガスの重要性は高まった。隣国で、調達コストが安価で済むロシア産天然ガスが、欧州にとっては最適だった。
天然ガスであっても当然CO2は出る。欧州は脱炭素時代の移行期の方策と考えられたハイブリッド車は排除する方針だが、発電に関してはCO2の排出を許した。この点はいかにも欧州の二面性を象徴している。 いずれにしても、欧州は急進的な脱炭素転換に伴うエネルギーのひずみを埋める役割を、ロシア産の天然ガスに求め、依存度を高めていった。欧州が脱炭素で米中などとの競争を制し、主導権を握り続けるためにはロシアが不可欠なものだった。
ロシアのウクライナ侵攻後も、EUは天然ガスの供給に依存している。対ロシアで結束する形を示しながらも、欧州各国の喉元はプーチンに刃を突き付けられた状態は今も継続していると言っていい。
後戻りはできない脱炭素の隘路
振り返れば、アメリカのトランプ政権はロシア産の天然ガスに依存を強めるドイツに警鐘を鳴らしてきた。メルケル政権はリスクを承知のうえで、戦略的な選択を採ったと見るのが妥当だろう。EUの要、そして脱炭素のトップランナーであるからこそ、ロシアのプーチンに頼らざるを得なかったのだ。
EUはリスクを承知で何を優先したのか。それは脱炭素推進による経済復興であり、今後の脱炭素市場における自国・自地域にとって有利となるルール形成だ。日本や米中に対する産業競争力の優位性を築き上げることを選んだわけだ。新型コロナからの復興という論点も加わり、2021年以降に一気に加速させた。取れる利益が見えたときに、リスクが霞(かす)んで見えてしまった。
そこにウクライナ戦争は勃発(ぼっぱつ)した。ソ連の冷静時代から続いてきた相互依存のゲーム理論が崩れることは当面はない、という読み違いだろう。もはや欧州はロシアの天然ガスなしでは機能しない。もし供給を止められても、中国がいる――。プーチンのこうした打算は侵攻直前の中ロ首脳会談の内容からもうかがえる(もちろん誤算も多々あっただろうが)。
安価な天然ガスという餌に、野心的な欧州は見事に誘い込まれた。先述の通り、脱炭素は後戻りが許されない一方通行の隘路(あいろ)だ。急激な脱炭素戦略によって、欧州は自らプーチンの罠にはまっていった格好となったと言える。
戦争が終わってもエネルギー問題に悩まされることになる
アメリカはこの期に乗じて国産シェールガスの増産をもくろみ、欧州向けの輸出量を増やしている。それでも、地つながりのパイプラインで輸送した低コストのロシア産天然ガスに価格で対抗することは難しい。ウクライナ戦争が終わったとしても、欧州はエネルギー不足、調達先の確保や価格高騰に悩まされ続けることになる。
特に深刻なのは、ドイツだろう。ドイツは欧州各国の中でも、急進的な脱石炭、脱原発方針を掲げ、転換を図ってきた。特にメルケル政権の次に発足をした現政権は、メルケル政権よりもさらに高めの気候変動対策を掲げ、世論の支持を取り付けてきた背景がある。そのため、もはやアイデンティティーにもなったその方策を下ろすことは容易ではない。
ノルド・ストリーム2という天然ガスのパイプライン敷設計画は、さすがに承認手続きを停止せざるを得なくなったうえ、脱炭素方針の見直しについて、ハーベック経済・気候保護相が、現時点での方針見直しに否定的な見解を述べる一方、「タブー」なしに妥当性を検討する姿勢を示すなど、すでに旗下ろしの兆候は見せつつある。実際、すでにドイツでは休止中だった石炭火力が再稼働した。
各国の思惑がうごめく脱炭素戦線ではあるが、その移行期はバランスが崩れるものであり、こうしたリスクの急な顕在化も生じるのも特徴だろう。単にCO2を減らすという観点だけでなく、各国の綱引きやゲームの潮目なども意識しながら取り組まなければならない。 脱炭素は単なる環境対策ではない。日本がこれまで議論を避けてきた、国の根幹をなす安全保障の問題なのだということが、欧州の流転から読み解けよう。
●ハンガリーとセルビアに祝意 プーチン氏 4/5
ロシアのプーチン大統領は4日、ハンガリーのオルバン首相とセルビアのブチッチ大統領に祝意を伝えた。いずれも3日投票の選挙で勝利が伝えられた。ロシア大統領府が明らかにした。
2月24日のウクライナ侵攻開始後、プーチン氏は国際的孤立を深めている。オルバン氏には「困難な国際情勢だが、一層の関係発展こそが両国民の利益だ」と力説。ブチッチ氏には「ロシア人とセルビア人は兄弟のような国民」と呼び掛けた。
●民間人殺害、波紋広がる ゼレンスキー氏、欧米に不満―「戦争犯罪」 4/5
ロシア軍が撤収したウクライナ北部キーウ(キエフ)州ブチャで民間人とみられる多数の遺体が発見された事件は「ジェノサイド(集団殺害)」(ゼレンスキー大統領)と見なされ、国際社会に波紋が広がった。ロシア国防省は「挑発」として関与を否定するが、内外で非難の声が高まっており、本格化したばかりの停戦交渉に影響を及ぼす可能性もある。
「明らかな戦争犯罪」。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は3日、目撃者や被害者に電話で聞き取り調査を行い、ウクライナ各地での処刑などの実態を告発した。うちブチャでは3月4日、占領していたロシア軍が男性5人を道路脇にひざまずかせ、うち1人を射殺。「近くにいた女性たちは叫び声を上げた」という。北東部ハルキウ(ハリコフ)州では、性暴力被害が報告された。
「ドイツのメルケル前首相とフランスのサルコジ元大統領にはブチャに来て、ロシアへの14年間の譲歩が何をもたらしたかを見てほしい」。ゼレンスキー氏は3日夜、動画声明を発表。2008年の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でウクライナの加盟を事実上見送ったことが、今回の惨事につながったと指摘し、当時の独仏首脳に不満をぶつけた。ただ、戦争犯罪を追及されるのはロシア軍と侵攻を命じたプーチン政権だ。
ウクライナ政府によると、ブチャに展開していたのは、極東ハバロフスク地方からベラルーシ経由で展開した部隊。インターネット上では、早くも事件を独自に調査する動きが出ており、この部隊の司令官のものとされる住所や電話番号が掲載された。国際ハッカー集団「アノニマス」は3日、侵攻に関与するロシア将兵約12万人の「個人情報リスト」を公開した。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によれば、2日までに確認された民間人の死者は子供121人を含む1417人。ただ、キーウ州イルピンや南東部マリウポリなどの激戦地では犠牲者の報告が遅れており、これらの数字に反映されていないという。ウクライナ側は、マリウポリだけで推計5000人が死亡したと主張する。
「(過激派組織)イスラム国(IS)よりひどい」「プーチン大統領は責任を負わされる」。3月上旬に解散したロシアのラジオ局「モスクワのこだま」のベネディクトフ元編集長は4日、通信アプリに英各紙の見出しを掲載。その上で「欧米で憎悪の水準が高まっており、必要ならベオグラードのようにモスクワを空爆することになるだろう」と記し、1999年のNATOによるユーゴスラビア空爆になぞらえて深刻さを訴えた。
●プーチンの「ルーブル決済」指令で「ドイツ基幹産業が消滅の危機」 4/5
ロシアのウラジミール・プーチン大統領が3月23日、「非友好国が支払う天然ガス代金はルーブルに限る」と発表した。この発表はドイツの経済界をパニックに陥れ、ガスという「ものづくり大国」の血液が人質に取られた実態を浮き彫りにした。
この発表に最も強い衝撃を受けたのは、ロシアからのガス輸入量が欧州連合(EU)加盟国で最も多いドイツである。2020年にEUが輸入したロシア産ガスのうち、37.6%がドイツ向けだった。
ドイツのエネルギー企業とロシアの国営企業ガスプロムとの間のガス購入契約によると、ドイツ側はガス代金をユーロまたはドルでガスプロムに払うことになっている。これまでドイツなど西欧諸国に供給されるロシア産ガスの代金の60%がユーロで、40%がドルで支払われてきた。
プーチン大統領の発表がドイツを困惑させたのは、ドイツ企業がルーブルをロシアの銀行から調達できないことが理由だ。EUが取り組む経済制裁措置により、ドイツ企業はロシアの大半の銀行との取引を禁じられている。
このため主要7カ国(G7)は3月28日、「ガス代金の支払いをルーブルに限るというロシア政府の決定は契約違反であり、受け入れられない」と発表し、プーチン大統領の指令を拒否した。
これに対し、ロシア政府のドミトリー・ぺスコフ大統領報道官は3月29日、「我々は慈善事業をやっているわけではない。ルーブルによる支払いがなければ、我々はガスを供給しない」と述べ、西欧諸国へのガス供給を停止する可能性を示唆した。ドイツなどEU加盟国に対する露骨な脅しである。
ウクライナ危機をめぐってロシア政府がガス供給の停止を示唆したのは、これが初めてではない。2月22日、ドイツ政府が「ノルドストリーム2(NS2)」の稼働許可申請の審査を停止したときにも、ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相が「我々は、すでに稼働しているノルドストリーム1によるガス供給を止める権利を持っている」と発言した。NS2はロシアからドイツにガスを供給する海底パイプラインだ。
ソ連(当時)は、東西冷戦の期間中も西欧に忠実にガスを送り続けた。ソ連(ロシア)が、西欧に対する政治的武器としてガスを使うのは第2次世界大戦後初めてのことである。
ドイツがガス緊急事態の早期警報を初めて発令
ぺスコフ報道官の恫喝(どうかつ)を重く見たドイツ政府は3月30日、ガス緊急事態宣言(NPG)の第1段階である「早期警報」を初めて発令した。連邦経済・気候保護省のロベルト・ハーベック大臣は「今のところ、ロシアはガスの供給を継続している。しかし、ロシア政府関係者の過去数週間の発言をみると、ドイツへのガス供給量が近い将来大幅に減ったり、途絶えたりする可能性が高まっている」と指摘。企業と市民に対してガス供給に支障が生じる事態に備え、ガスを節約するよう訴えた。
NPGは(1)早期警報、(2)警報、(3)緊急事態の3段階から成る。(1)の早期警報は、企業や市民に対して、緊急事態が起きる可能性を知らせるためのもの。政府は、ガスの需要量や節約できる量などについて企業から情報を収集する。
ガス供給に実際に支障が生じたり、需要が供給を上回ったりした場合には、政府が(2)の警報を発令する。この段階では、政府はまだ直接介入しない。ガス会社が調達や供給を最適化するなど、市場メカニズムを使った措置によって対応する。
しかし、ガス供給量の減少や供給停止が続き、民間企業が対応しきれなくなった場合には、政府が(3)の緊急事態を宣言し、連邦系統規制庁がガスの配給を始める。第3段階になっても、家庭、病院、介護施設、ガス火力発電所などへの供給は制限しない。連邦系統規制庁は、企業が製造活動などにガスを必要とする度合いに応じてガスを配給する。最悪の場合、ガスの供給を断たれる企業も現れる。
ところがロシア側は3月30日、ルーブル決済を義務化する指令を緩和した。プーチン大統領が、ドイツのオラフ・ショルツ首相と電話会談した際に「西欧の企業に例外を認める」と語ったのだ。
プーチン大統領は4月1日、ガス代金に関する政令に署名し「ルーブルによる支払いを行わない外国企業に対しては、ガスの供給をやめる」と警告した。だが、その一方で「ただし西側企業はルクセンブルクのガスプロム銀行に口座を開設すれば、この口座にユーロかドルで代金を支払うことができる。ガスプロム銀行が代金をルーブルに交換して、ガスプロムの口座に振り込む」という例外措置も認めた。
つまりロシア政府は、硬軟織り交ぜた態度を打ち出した。ドイツ政府は、ガスプロム銀行を使った代金支払いを認めるかどうか、まだ決定していない。ショルツ政権は「政令の内容を精査しないと、この方法を受け入れられるかどうか断言できない」として、慎重な態度を崩していない。次のガス代金支払いの期限は今年4月末なので、そのときまでにドイツ政府と企業は公式見解を打ち出すだろう。
「ドイツ製造業に戦後最悪の打撃を与える」
プーチン大統領の意図は何だろうか。ドイツの論壇では「ルーブルへの需要を増やすことで、ルーブルの為替レートの悪化に歯止めをかけることだろう」という見方が出ている。ウクライナ危機に伴う欧米の経済制裁の影響で、ルーブルの対ドルレートは急落していた。3月初めに1ドル154ルーブルだった交換レートは、ガス代金のルーブル決済義務が発表された後の3月24日には1ドル96ルーブルに回復した。
またドイツの論壇には「プーチン大統領は、ガス供給をいつでも停止できることを西側諸国に対して誇示し、恐怖を味わわせようとしたのではないか」という意見もある。ロシアがルーブル支払いの義務化を発表した直後にドイツの製造業界が示した反応は、実際のところパニックに近かった。
ドイツの大手化学メーカーBASFのマーティン・ブルーダーミュラー社長は、ドイツの日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)が3月31日に掲載したインタビューの中で「ドイツが輸入するガスの半分近くがロシア産だ。この供給が止まった場合、我が国では多くの企業が倒産し、第2次世界大戦後で最も深刻な打撃となる」と警告した。
「しかしロシアからのガスに依存し続けたら、プーチン大統領は他の国も侵略するかもしれない」と指摘した記者に対して、同社長は「ロシアからのガス供給が止まって、我々の目の前でドイツ経済が破壊されるのを見たいのですか?」と反問している。
化学業界・エネルギー業界の労働組合IG BCEのミヒャエル・バシリアディス委員長は、BASFの監査役会のメンバーでもある。同氏は3月28日、「ロシアが供給するガスの量が現在の半分以下に減れば、BASFの本社工場は通常の操業ができなくなる。約4万人の従業員が自宅待機になるか解雇される。ドイツ全体では数十万人の失業者が出る」と警告した。
ブルーダーミュラー社長やバシリアディス委員長の言葉には、ドイツの製造業界が抱く危機感の深さがはっきり表れている。
BASFがルートヴィヒスハーフェンに構える本社工場は、世界最大規模の化学コンビナート。この工場の操業が止まると、自動車業界、建設業界、製薬業界、繊維業界などが使う原材料や部品、半製品が不足し、サプライチェーン(供給網)が途切れてしまう。化学製品は社会のあらゆる場所で使われており、ドイツ経済は化学産業ぬきには成り立たない。
ドイツ化学工業会(VCI)のヴォルフガング・グローセ・エントルプ専務理事は「ガスの供給停止は、ドイツの製造業界のネットワークに破局的な崩壊をもたらす」と語った。
ドイツ経済研究所(IW)のミヒャエル・ヒューター所長も「ロシアによるガス供給の停止は、ドイツ経済全体をまひさせ、深刻な不況に陥れる。化学産業というドイツにとって最も重要な産業の1つが、この国から消えることにつながるかもしれない」と述べ、製造業界への打撃が甚大なものになると予想している。
ドイツの製造業界や学界から「ウクライナではロシア軍の攻撃で市民が次々に死亡し、故郷を追われている。戦争なのだから、我々は収益の悪化や失業者の増加を受け入れるべきだ」という声は聞こえてこない。
長年にわたるロシア依存のツケ
ちなみにウクライナや東欧諸国の政府は「ドイツなどは、ロシアに多額のガス代金を支払うことで、プーチンの侵略戦争に間接的に資金を援助している」として、ロシア産エネルギーの即時禁輸を求めている。
米国のバイデン政権は3月8日、ロシア産ガスなどの即時禁輸を発表した。これに対し、EUが禁輸措置を見送ったのは、ドイツなど加盟国の経済への悪影響が大きなものになるからだ。
ガス決済は、SWIFT(国際銀行間通信協会)をめぐる制裁にも影を落としている。G7諸国は、ロシアの大半の銀行をSWIFTから締め出したが、ガスプロム銀行とズベルバンクだけは締め出さなかった。この2行がドイツなどが支払うガス代金の決済を担当しているからだ。ショルツ独政権は、この2行をSWIFTから締め出せば、ロシアにガス代金を払えなくなり、経済の血液であるガスが止まることを強く恐れた。
2020年には、ドイツが輸入するガスの約55%がロシア産だった。今年3月末の時点でもロシア産ガスへの依存度は約40%にのぼる。このためショルツ政権は「ガスを禁輸すると、ロシアよりもドイツが受ける損害の方が大きくなる」と主張してきた。
ドイツ政府は米国やカタールなどから液化天然ガス(LNG)の輸入量を増やすことで、対ロシア依存度を減らそうとしている。しかしショルツ政権がLNG陸揚げターミナルの建設を決めたのは、ロシアがウクライナに侵攻してからのこと。このためドイツ政府がロシア産ガスへの依存度をゼロにできるのは早くても2024年の夏になる。ロシアからパイプライン経由で運ばれてくる、LNGに比べて割安なガスに長年にわたって深く依存してきたツケが、今回ってきた。
プーチン政権が今回、ガス代金の支払いについて例外措置を認めたとはいえ、ロシアがガス供給停止をいつ再びちらつかせるか分からない。プーチン大統領はガスという切り札がいかに大きな「破壊力」を持っているかを、欧州諸国に印象付けた。「世界の終わり」が来たかのようなドイツ企業の反応は、プーチン大統領をさぞかし満足させたに違いない。
一方ロシア軍は、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を短期間で陥落させることに失敗し、戦争は泥沼化の様相を呈している。イルピンなどの地方都市は、ウクライナ軍に奪還された。ロシア軍が一時占領していたブチャではウクライナ軍による奪還後、約400人の市民の他殺体が見つかり、ウクライナ政府は「ロシア軍による虐殺だ」としてロシア政府を強く非難している。欧米諸国は第三者機関による現地調査を求めるとともに、ロシアへの経済制裁を強化する方針を打ち出している。
米国の諜報機関は、これまでのウクライナ戦争で、少なくとも約7000人のロシア兵が戦死したと見ている。戦場での劣勢を挽回し、ロシア経済をじわじわと締め付ける経済制裁に報復するべく、プーチン大統領がEU向けガスの元栓を閉める危険はまだ完全には消えていない。
「ロシアのガスは頼りになる」という安全神話を妄信してきたドイツの失敗は、エネルギーと食糧の大半を外国から輸入している日本にも、重要な教訓を与える。世界中で地政学リスクが高まりつつある今、調達戦略を大幅に見直す必要がある。輸入先の多角化や食料自給率の引き上げは喫緊の課題だ。 
●ロシア、敵対国への食料輸出監視 制裁で世界危機=プーチン大統領 4/5
ロシアのプーチン大統領は5日、ロシアは敵対的な国に対する食料輸出に細心の注意を払う必要があると述べ、西側諸国の制裁措置で世界的な食料危機が引き起こされる恐れがあるとの見方を示した。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け西側諸国が導入した制裁措置で、ロシア経済は1991年のソ連崩壊以来最悪の経済危機に直面する恐れがある。ただロシアは、世界の方がより大きな影響を受けるとの見方を示している。
プーチン大統領は食料生産開発に関する会議で、エネルギー価格の上昇と肥料不足が重なれば、西側諸国が物資を買い占め、貧困国で食料不足が発生すると警告。「貧困国で食料不足が悪化すれば、新たな移民の波が発生し、食料価格は一段と上昇する」と述べた。
その上で「世界的な肥料不足は回避できない」とし、「ロシアは食料輸出に細心の注意を払う必要がある。特に敵対国への輸出を注意深く監視しなければならない」と述べた。
ロシアは世界最大の小麦輸出国であると同時に、肥料の主要生産国。プーチン氏は、制裁措置でロシアとベラルーシからの肥料の輸送が妨げられているほか、天然ガス価格上昇で西側諸国では肥料の製造コストが上昇していると指摘した。
また、ロシアの海外資産の国有化は「もろ刃の武器」だとし、ロシアが対応する可能性を示唆した。
ドイツは4日、ドイツ事業からの撤退を表明したロシア国営の天然ガス大手ガスプロムのドイツ子会社の経営権をエネルギー規制当局が取得すると発表。英政府も、ガスプロムの英小売部門を一時的に運営する可能性を示している。
●ウクライナ戦争のおかげで「トルコが危機から立ち直る」とは、どういうことか? 4/5
<度重なる失政で国際的にも孤立していたエルドアン政権だが、日和見的立場のおかげで好機がもたらされている>
ロシアのウクライナ侵攻がトルコにチャンスをもたらしている。東西冷戦時代と同じく、トルコはロシアに対する防波堤だから、ではない。
現今の危機に伴うチャンスは、もっと複雑で厄介な現実の産物だ。そこには、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と与党が描く自立した大国という自国像、国内とシリアでのクルド人の分離・独立運動の脅威、欧米に対して募る失望と恨みといった要素が絡んでいる。
野望とトラウマが入り交じる動機に駆られて、エルドアンは危機の比較的早い時点でロシアのウラジーミル・プーチン大統領に手を差し伸べた。両首脳は複数回、電話で会談。シリアやリビア、おそらくはウクライナをめぐっても立場が異なるにもかかわらず、両国関係は深まり、トルコと欧米の間の不信感に拍車を掛ける形になった。
トルコは2019年にロシア製S-400地対空ミサイルシステムを配備した。これを受けてアメリカは翌年12月、トルコ当局の武器調達部門に対する制裁を発表している。トルコのNATO追放を求める声が再び高まり、エルドアン政権の外交政策に対する深刻な懸念も持ち上がった。
トルコは今も「西側」なのか。「東寄り」に移行しているのか。中東で、東地中海地域で、イスラム世界で、リーダーの座を目指しているのか――。これらの問いの答えは、どれも「イエス」だ。
わずか数カ月前までトルコは国際的に孤立していた。対欧州関係はキプロス問題やシリア難民の扱いをめぐって緊張化し、中東のほとんどの主要国と対立。アメリカのジョー・バイデン政権にはほぼ無視された。昨年後半になる頃には、深まる孤立や急激な通貨危機の中、自業自得のダメージを修復しようとしたが、焦りの色は隠せなかった。
そこへきてウクライナ侵攻が発生した。トルコの反応については、2つの正反対の主張が浮上している。
一方によれば、エルドアンはウクライナの主権を支持し、殺傷能力のあるドローンを提供。2月末には、ボスポラス海峡の軍艦通過を制限する措置を発表した。これらはトルコが依然、西側の安全保障体制の重要な一部であることを示す証拠だという。
だがもう1つの主張では、トルコはそれほどウクライナ寄りではない。ロシアに経済制裁も領空飛行禁止措置も科しておらず、国内のエーゲ海沿いのリゾート地には、オリガルヒ(新興財閥)の超豪華ヨットが(おそらくトルコ政府の許可を得て)集まっていると、批判派は強く指摘する。
いずれにしても、トルコは「親ウクライナ」も「反プーチン」も徹底できない。この事実自体が、トルコが自身の影響力と主体性を強化しつつ、かつての役割を再び担うチャンスを生んでいる。
近年の不必要に攻撃的な外交政策のせいで忘れられがちだが、05〜11年頃のトルコは中東で建設的な役割を果たそうとしており、その経済力を活用して地域内の各国と良好な関係を築いていた。
トルコは戦争終結の力になれるのか。人道回廊の設置をめぐる貢献は可能だし、仲介役に最適の国だろう。3月29日にイスタンブールで行われた停戦交渉は、希望の持てる一歩だ。
●ダウ平均は反落 ウクライナ情勢と景気後退のシグナルの解釈に注視
NY株式5日(NY時間16:20) / ダウ平均   34641.18(-280.70 -0.80%)
きょうのNY株式市場でダウ平均は反落。一時300ドル超下落する場面が見られた。ブレイナードFRB理事の発言をきっかけに売りが強まった。同理事が「バランスシートを5月にも急速なペースで縮小」と述べたことに敏感に反応した模様。5月のFOMCについては、大幅利上げの可能性はすでに織り込まれているものの、バランスシート縮小については見解が分かれている。
明日はFOMC議事録の公表が予定され、その内容が注目される。FRBのより積極的な姿勢を示唆するものであれば、ドルは上昇する可能性があるとの見方も出ている。今回公表される3月の議事録は、2018年以来初めて利上げを行った金融政策をFOMCメンバーどのように見ていたか、投資家に最新の洞察を与えることが期待されている。米国債利回りも急上昇しており、IT・ハイテク株など成長株への売りが強まり、ナスダックは2%超急落。
ウクライナ情勢については、ロシア軍が占領していたウクライナの首都キーウ近郊の複数都市で多数の民間人の遺体が見つかり、EUがロシアに対する追加制裁を計画。本日はロシアの石炭の禁輸を検討と伝わったほか、ロシアからのトラックと船舶の大半の入国禁止を提案する見込みとの報道も出ていた。石油や天然ガスへの制裁は現時点では予定していない模様。米国とEUおよびG7は、ウクライナでの残虐行為を巡るロシアへの追加制裁を明日発表すると伝わっている。プーチン大統領の娘もその対象に入れることを検討しているとの報道も流れているが、これに対してロシアがどう対抗してくるか警戒されている。
米国債市場が発している景気後退のシグナルについては、象徴的なタームである2−10債の利回りの逆イールドがひとまず解消している。しかし、その他のタームも含めて逆イールドが続いており、2−10債も解消しているとは言え、逆イールドの状態にはある。
ただ、市場からは楽観的な見方も出ており、短期的には、年初からの急激な売りが、特にIT・ハイテク株などの成長株を中心に魅力的なエントリーポイントを生み出しているとの声も出ていた。
ツイッターがきょうも買いを集めている。テスラのマスクCEOが同社株を9.2%取得し、筆頭株主になったことが明らかとなったが、きょうは同社はマスク氏を取締役に指名したことが米証券取引委員会(SEC)への提出文書で明らかとなった。
中古車のオンライン販売を手掛けるカーバナが大幅安。アナリストが投資判断を「買い」から「中立」に引き下げた。目標株価も従来の155ドルから138ドルに引き下げた。
太陽光発電モジュールのファーストソーラーが下落。アナリストが投資判断を「中立」から「売り」に引き下げた。目標株価も従来の76.50ドルから65.50ドルに引き下げた。
質屋のイージーコープが上昇。アナリストが投資判断を「買い」に引き上げ、目標株価を8.50ドルとしている。前日終値から43%高い水準。
VFやラルフローレン、TJXなどのアパレルの一角が下落。アナリストが投資判断を「買い」から「中立」に引き下げた。アパレルセクターに対する短期的な展望には慎重であるべきと指摘。個人消費への打撃は中堅の小売業者に打撃を与える可能性が高いとしている。
マーケットアクセスが下落。3月と第1四半期の取引量を報告。アナリストからは、第1四半期の取引量と手数料の予備的な開示を加味すると、結果はコンセンサスをおよそ0.07ドル下回ると考えられると指摘した。
ブラック・ナイトに買いが強まった。同社は住宅ローンおよび不動産業界に統合技術、ワークフローの自動化、データ、および分析ソリューションサービスを提供。投資会社が同社に対し買収提案を検討しており、同社も売却の可能性を模索していると伝わった。
終盤にスピリット航空に買いが強まった。ジェットブルーが同社に買収提案を行ったと報じられた。
●プーチンの戦争は止まらない…欧州がいまでも「ロシア産LNG」に大金を払う 4/5
欧州は日米と連携してロシアに経済制裁を科しているが、天然ガスは対象外としている。なぜ天然ガスの輸入をやめないのか。エネルギーアナリストの前田雄大さんは「欧州は政策的に脱炭素を進めてきたため、ロシアへの依存か高まってしまった。無自覚に『プーチンの罠』にはまっている状態だ」という――。
脱炭素に全集中…欧州がハマった「プーチンの罠」
ロシアのウクライナ侵攻は現代社会が抱えるさまざまな問題を露見させた。安全保障はその代表格であるが、社会・経済システムに大きな影響を与える点で見過ごせないのが資源・エネルギーの論点だ。
対ロ経済制裁の中で、アメリカはロシア産の原油・天然ガスの禁輸を3月8日に発表した。もちろん、経済制裁は西側が連帯をして行わなければ効果は薄くなる。ブリンケン米国務長官は、欧州各国と事前に調整を試み、ロシアに対する資源・エネルギーの制裁でも欧州側に協力を求めた。
しかし、この対ロ制裁に同調できたのはイギリスだけだった。資産凍結や国際決済システムからの排除といった制裁では足並みを揃えることができたにもかかわらず、エネルギー分野だけは不十分な形になった。これには明確な理由がある。
EU各国は資源・エネルギー分野でロシアとの関係を断ち切れない弱みがある。これに深く関係しているのが、欧州の焦り過ぎた脱炭素戦略だ。欧州はある意味で「プーチンの罠(わな)」に完全にはまったと言っていい。それも無自覚のままに――。
脱炭素の主導権を握るためにロシア依存を進めた欧州
なぜ欧州は、国家存立の要であるエネルギーに関して、ロシアに致命的な弱みを握られることになったのだろうか。改めて振り返ると、資源・エネルギーに関するロシアと欧州の関係は伝統的に結びつきが非常に強いことがわかる。
ロシア経済の主軸は化石燃料セクターだ。ロシアの輸出品目を見ると、資源・エネルギー関係で輸出額の半分を占めている。お得意さまは欧州だ。また原油にいたっては半分弱の輸出は欧州向けに出されている。したがって、ロシア経済を欧州が支えているといってもあながち間違いではない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月17日、ドイツ連邦議会での演説でドイツ政府の対応を一部強い口調で非難した。それはドイツがロシアから天然ガスを直接買い受けるために敷設したパイプライン、ノルドストリーム2を念頭に置いたものだ。要は、ドイツがロシアに資源・エネルギーを得る対価として支払った資金が、ウクライナ侵攻にも使われたというロジックだ。
欧州から見てもロシア産の資源・エネルギー依存は高い。天然ガスについては4割、ドイツでは5割以上を占めている。この面では欧州のエネルギー事情をロシアが支えてきたといっても、こちらもあながち間違いではない。
実際のところ、この関係性は最近になって構築されたわけではない。冷戦時代から段階的に構築されてきた。
ロシアはソ連時代の1970年代、シベリアのガス田開発と欧州と接続するパイプラインの開発で主要生産国・輸出国になった。1984年に建設されたウレンゴイ-ウージュホロド・パイプライン、1996年に稼働したベラルーシとポーランドを経由するヤマル・パイプライン、バルト海を通ってドイツと結ぶノルド・ストリームで、ロシアは天然ガスを欧州に供給。トルコ向けのブルー・ストリーム(2003年稼働)、トルコと南東ヨーロッパ向けのトルコ・ストリーム(2020年稼働)もある。
今回のウクライナ侵攻は、北大西洋条約機構(NATO)の東側拡大がロシアを刺激したという見方が安全保障の専門家から指摘されることがある。だが、資源・エネルギー分野で言えば、NATO対ワルシャワ条約機構という明確な構図が存在した冷戦期にも欧州はソ連に依存してきたのだ。安全保障は対立するものの経済面では関係性を構築することでバランスを取ってきたという部分もあるのだろう。
冷戦構図の終焉(しゅうえん)とともに、今日に至るまで、世界はグローバリズムを標榜(ひょうぼう)し、国際協調、相互依存によって「平和」と経済的な安定を実現させてきた。ここ数年、国際協調主義から自国第一主義への転換が見られるようになりバランスは揺らいでいる。
そのトリガーこそ、欧州主導の急進的な脱炭素戦略だった。
欧州の焦りが生み出した「ロシア頼みの脱炭素戦略」
気候変動対策をはじめ、欧州はこれまで脱炭素の国際的な旗振り役を担ってきた。各国で事情は異なるが、再エネ比率の拡大に努め、脱炭素転換を世界に先んじて実行してきた。
世界的なメガトレンドになった背景には、気候変動の問題が現実の経済・社会に悪影響を及ぼすようになったこともある。だが、再生可能エネルギーの国際的な価格下落と、脱炭素が経済性を持ってきたことが最大の要因だろう。先行者の利益を得たい欧州にとっては、世界的に吹いた脱炭素の風は大いにプラスとなった。
ルール作りでも、経済的にも主導権を取りたい欧州は一貫してあるブランディングを開始する。それは「CO2を出さないことの正義」という新たな価値観だ。これは脱炭素転換で先行する欧州にとっては非常に都合がいい。気候変動問題はCO2の排出が主要因と考えられている。この欧州の「CO2無排出正義」は、地球環境の保護、国際社会への貢献という大義名分を与えるからだ。 他国が異を唱えるものなら、「気候変動問題は喫緊の課題であるのに、経済成長を優先する姿勢は果たして正しいのか」と欧州勢は反論できる。もちろん、国際貢献の文脈もなくはない。欧州の世論が気候変動対策を支持する土壌があるのも事実だ。
しかし、国際交渉に携わった現場で筆者が見てきたのは、欧州の政策展開は国際貢献の文脈を超えて、自国・自地域にとって都合のよいルール・体制作りを行いたいという主導権争いを色濃くしたアグレッシブな姿勢だった。
特にパリ協定が発足してから、その傾向は一層強くなった。パリ協定はCO2無排出正義にお墨付きを与える枠組みであるが、アメリカや中国の企業を中心に、脱炭素分野で猛追を始めたことが欧州を焦(あせ)らせた。
日本の石炭火力、ハイブリッド車の排除に躍起に
2019年に一度は調整に失敗した「2050年カーボンニュートラル」だが、EUは2020年に合意し、他国に先駆けて方針を打ち出した。欧州はこうして、後戻りでいない一本道に自ら足を踏み入れた。
3月15日にEU加盟国の間で基本合意に至った国境炭素調整措置(CBAM)の導入は、欧州の脱炭素が「気候変動対策」に留(とど)まらないことを明確に示している。
CBAMは、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける措置だ。CO2無排出正義を掲げつつ、EU域内の産業を保護するもので、気候変動対策でも、戦後の国際秩序とも言える自由貿易の原則から言っても問題となり得る措置だ。これは自動車分野にも当てはまる。2015年のディーゼルエンジンの排出規制不正の結果、燃費のいい車の競争で日本に敗れた欧州勢は、CO2無排出正義を掲げて反撃に出る。2021年7月、欧州委員会は2035年に欧州で販売される新車について、CO2の排出を認めない方針を発表した。日本勢が得意とするハイブリッド車は「CO2を出す」という理由だけで欧州市場から排除されることになった。
こうしたなりふり構わない脱炭素方針は、エネルギーセクターでも見られた。標的となったのが石炭火力発電所だ。化石燃料の中でも石炭はCO2の排出が多く、気候変動対策上も低減させる必要性が叫ばれた。2017年11月にはイギリスなどの有志国により脱石炭連盟が発足し、その傾向は加速していった。ここでも日本は大きなあおりを受ける。日本は、相対的にCO2排出の少ない高効率石炭火力を得意としているが、石炭火力は一律に問題視されるようになった。2021年末の気候変動に関する国際会議(COP26)で、締約国は石炭火力を段階的に削減することで合意した。もちろん、その強烈な旗振り役を担ったのは欧州だ。
軍事面だけではない…エネルギー分野にもあった戦争の引き金
すべて欧州の思い描いた通りに脱炭素シフトが進むように見えた。しかし、この急激な脱炭素シフトによって、欧州とロシアのバランスを崩すことになる。
先述の通り、ロシアは天然ガスや石油といった化石燃料セクターで経済がもっている。欧州はロシア産の化石燃料を購入するかたちで、ロシア経済を支えてきた。
しかし再エネが普及すれば、当然ロシアからの化石燃料輸入は減る。それだけでなく、CO2無排出を掲げる欧州が、脱炭素を世界に各国に求めるほど、化石燃料に依存するロシアを圧迫することになる。 ただでさえ、年金制度改革で国内経済の不安をかかえるプーチン政権にとって、これは長年培ってきた欧州との間のバランスを崩す一手であったことは間違いがない。
2021年にロシアが欧州向けの天然ガスの供給を絞ったことは、これとは無縁ではないだろう。ロシアが、天然ガス供給を政治的に利用したことで、欧州は急遽エネルギー不足に見舞われた。
電力価格が高騰し、多くの新電力が各国で倒産したほか、産業界にも影響が波及した。これは欧州にとどまらず、世界的な天然ガス価格の高騰を招き、それと連動する形で原油、石炭の価格も大きく上昇した。また石炭価格の高騰は、中国国内の電力不足の原因となるなど、世界のサプライチェーンにも影響を及ぼすまでになった。
ロシアはこうした一連のドミノ倒しを見て、自国のもつ影響力を再認識したに違いない。
ロシア産の天然ガスに依存するようになった根本原因
なぜロシアが供給を絞っただけで、欧州はエネルギー危機となったのだろうか。その原因もまた、欧州自身が進めた急激な脱炭素戦略と言っていい。野心が招いた結果とも言える。
EUの脱炭素戦略の内実は、脱石炭というエネルギー政策だ。世界にCO2無排出正義を掲げるに際し、欧州は先手を打ってここ数年、脱石炭を一気に加速させた。イギリスは2024年に石炭火力全廃を発表、ドイツも2030年までの段階的廃止を決定した。
もちろん、風力や地熱、水素といった再生可能エネルギーに代替させているが、すべては賄えない。そこで、化石燃料ではあるが、石炭に比べてCO2排出が少ない天然ガスに依存せざるを得なくなったわけだ。 こうして脱炭素への移行期における燃料として、天然ガスの重要性は高まった。隣国で、調達コストが安価で済むロシア産天然ガスが、欧州にとっては最適だった。
天然ガスであっても当然CO2は出る。欧州は脱炭素時代の移行期の方策と考えられたハイブリッド車は排除する方針だが、発電に関してはCO2の排出を許した。この点はいかにも欧州の二面性を象徴している。 いずれにしても、欧州は急進的な脱炭素転換に伴うエネルギーのひずみを埋める役割を、ロシア産の天然ガスに求め、依存度を高めていった。欧州が脱炭素で米中などとの競争を制し、主導権を握り続けるためにはロシアが不可欠なものだった。
ロシアのウクライナ侵攻後も、EUは天然ガスの供給に依存している。対ロシアで結束する形を示しながらも、欧州各国の喉元はプーチンに刃を突き付けられた状態は今も継続していると言っていい。
後戻りはできない脱炭素の隘路
振り返れば、アメリカのトランプ政権はロシア産の天然ガスに依存を強めるドイツに警鐘を鳴らしてきた。メルケル政権はリスクを承知のうえで、戦略的な選択を採ったと見るのが妥当だろう。EUの要、そして脱炭素のトップランナーであるからこそ、ロシアのプーチンに頼らざるを得なかったのだ。
EUはリスクを承知で何を優先したのか。それは脱炭素推進による経済復興であり、今後の脱炭素市場における自国・自地域にとって有利となるルール形成だ。日本や米中に対する産業競争力の優位性を築き上げることを選んだわけだ。新型コロナからの復興という論点も加わり、2021年以降に一気に加速させた。取れる利益が見えたときに、リスクが霞(かす)んで見えてしまった。
そこにウクライナ戦争は勃発(ぼっぱつ)した。ソ連の冷静時代から続いてきた相互依存のゲーム理論が崩れることは当面はない、という読み違いだろう。もはや欧州はロシアの天然ガスなしでは機能しない。もし供給を止められても、中国がいる――。プーチンのこうした打算は侵攻直前の中ロ首脳会談の内容からもうかがえる(もちろん誤算も多々あっただろうが)。
安価な天然ガスという餌に、野心的な欧州は見事に誘い込まれた。先述の通り、脱炭素は後戻りが許されない一方通行の隘路(あいろ)だ。急激な脱炭素戦略によって、欧州は自らプーチンの罠にはまっていった格好となったと言える。
戦争が終わってもエネルギー問題に悩まされることになる
アメリカはこの期に乗じて国産シェールガスの増産をもくろみ、欧州向けの輸出量を増やしている。それでも、地つながりのパイプラインで輸送した低コストのロシア産天然ガスに価格で対抗することは難しい。ウクライナ戦争が終わったとしても、欧州はエネルギー不足、調達先の確保や価格高騰に悩まされ続けることになる。
特に深刻なのは、ドイツだろう。ドイツは欧州各国の中でも、急進的な脱石炭、脱原発方針を掲げ、転換を図ってきた。特にメルケル政権の次に発足をした現政権は、メルケル政権よりもさらに高めの気候変動対策を掲げ、世論の支持を取り付けてきた背景がある。そのため、もはやアイデンティティーにもなったその方策を下ろすことは容易ではない。
ノルド・ストリーム2という天然ガスのパイプライン敷設計画は、さすがに承認手続きを停止せざるを得なくなったうえ、脱炭素方針の見直しについて、ハーベック経済・気候保護相が、現時点での方針見直しに否定的な見解を述べる一方、「タブー」なしに妥当性を検討する姿勢を示すなど、すでに旗下ろしの兆候は見せつつある。実際、すでにドイツでは休止中だった石炭火力が再稼働した。
各国の思惑がうごめく脱炭素戦線ではあるが、その移行期はバランスが崩れるものであり、こうしたリスクの急な顕在化も生じるのも特徴だろう。単にCO2を減らすという観点だけでなく、各国の綱引きやゲームの潮目なども意識しながら取り組まなければならない。 脱炭素は単なる環境対策ではない。日本がこれまで議論を避けてきた、国の根幹をなす安全保障の問題なのだということが、欧州の流転から読み解けよう。 

 

●「ロシア人にも悪夢」 トルコに1万4000人渡航か―ウクライナ侵攻 4/6
ロシアの軍事侵攻で400万人を超えるウクライナ人が国外退避を余儀なくされる中、ロシアからもプーチン政権の締め付けを恐れる人々が多数、国外へ脱出している。地元メディアによると、トルコには侵攻開始後、少なくとも1万4000人のロシア人が入国したもようだ。そのうちの一人、モスクワ出身のティナ・ボロデュリナさん(30)は取材に「侵攻はロシア人にとっても悪夢だ」と胸の内を語った。
人類学者のボロデュリナさんは2月24日、それまで「プーチン大統領の虚勢」と思っていたウクライナ侵攻が実際に始まったことをニュースで知り「衝撃を受けた」と振り返る。27日に反戦デモに加わったところ、目の前で友人が拘束され、脱出を決意。トルコで暮らすロシア人の友人を頼り、3月3日にイスタンブールへ渡った。
ロシア軍が撤収したウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外で多数の遺体が見つかり、国際社会で戦争犯罪との声が高まっていることに「ロシア人として、今後どう生きていけばいいのか」と悲しみは深い。トルコ渡航後、多くのロシア人から脱出の相談が寄せられているといい、「(同志たちと)一緒に、いつか愛するロシアに平和をもたらしたい」と語った。
トルコはロシア人に人気の観光地。ディミトリ・チュイコさん(26)は、旅行で訪れたことがある縁でトルコに来た。プーチン政権のメディア弾圧に嫌気が差していたところ、侵攻直前のプーチン氏の演説を聞いて「国と全ての絆を切りたくなった」と話す。「プーチン氏が政権の座にいる限り、帰国を考えることすらしない」姿勢だ。
トルコはロシア人が事前にビザを取得することなく入国できるため、欧米などを目指す人々が当面の行き先として選ぶことも多いとみられる。同様の理由で、トルコに隣接するジョージア(グルジア)やアルメニアなどにも、多くのロシア人が渡っているという。
●中立化は非現実的、ウクライナ戦争の終結、考えうる「6つのシナリオ」 4/6
ウクライナ軍の激しい抵抗で、ロシア軍はウクライナの首都キーウからの撤退を終了しつつあり、東部や南部の戦いに集中し始めた。停戦や和平合意によって現在の前線が固定された場合、ロシア軍は再侵攻に備えて部隊を再編成する時間を稼ぐことができる。
西側はウラジーミル・プーチン露大統領の領土的野心を封じ込めるために「戦争恐怖症」を克服する必要がある。いま考えられるシナリオを検証した。
キーウから撤退し始めたロシア軍
『モスクワ・ルール ロシアを西側と対立させる原動力』の著書があるロシア研究の第一人者で、英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)上級コンサルティング研究員を務めるキーア・ジャイルズ氏が欧州ジャーナリスト協会(AEJ)の討論会に参加し、戦争終結の6つのシナリオを指摘した上で「忘れてはならないのは、プーチン氏はそもそもウクライナという国家を消滅させるためにこの戦争を始めたということだ」と強調した。
プーチン氏がソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的大惨事」と呼んだことはよく知られている。
しかし発言を額面通り受け取ってはならない。プーチン氏は親露派が支配する東部ドンバスの独立を承認した2月21日の演説などで「ウクライナはボリシェビキによって作られた」と歴史を100年以上さかのぼり、このプロセスを逆転させると宣言した。プーチン氏はソ連ではなく、ロシア帝国の領土が失われたことを嘆いてみせたのである。
その「ウクライナを国でなくする」という計画が頓挫した今、プーチン氏は面子を保つ現実的な落とし所を見つけなければならない。ジャイルズ氏は考えられる6つのシナリオを列挙した。
第一のシナリオは、プーチン政権が倒れるか否かにかかわらずロシアが崩壊し、ロシア軍がウクライナの領土から撤退する。ウクライナ軍参謀本部によると、ロシア軍の戦死者は1万7800人。軍事的損失だけで258億ドル(約3兆1700億円)以上という試算もある。
最もあり得るのはロシアの一方的な勝利宣言
第二に、ウクライナが崩壊する。ジャイルズ氏は「ウクライナ軍の復元力がいつまで続くか内部関係者しか分からない」と言う。1940年、ソ連との冬戦争で国土の一部を失いながらも独立を守ったフィンランドのようにウクライナ軍も粘り強い抵抗を見せる。しかしいつまで耐えられるのか。ウクライナも譲歩を迫られる。
第三に、ウクライナが西側の支援を失い、ロシア軍の支配するクリミア半島や東部の領土をあきらめて戦争を幕引きする。
第四に、膠着状態のまま兵員や装備を注ぎ込んで何年も戦争を継続する。双方とも支配地域を拡大できずに消耗戦に突入する。
第五に、2008年のグルジア(現ジョージア)紛争、ロシア軍による15〜16年のシリア軍事介入、14年の東部紛争のミンスク合意と同じように機能しない停戦を西側が働きかける。モスクワでつくられたロシアに有利な停戦案に署名するようウクライナに強いる。「全く機能せず、長続きしないことはみな承知している」(ジャイルズ氏)という。
ジャイルズ氏が最もあり得ると分析するのは第六のシナリオだ。
ロシアが現状に合わせて一方的に勝利宣言を行い、戦闘を終結する。現にプーチン氏はゼレンスキー政権を倒して傀儡政権をつくる作戦をあきらめ、東部や南部を解放する目標に縮小している。兵員や装備の甚大な損失は他の国と違ってロシアではそれほど問題にならない。第一次大戦や第二次大戦でロシア(ソ連)はそれぞれ約330万人、最大2700万人も犠牲を出している。
ゼレンスキー氏が唱える中立とは
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月27日、ロシアとの和平交渉を前に独立系露ジャーナリストとのインタビューに応じ、「安全保障と中立、ウクライナの非核のための準備ができている。これが最も重要なポイントだ」と発言した。ゼレンスキー氏は自国の外務省や国防省の意見にほとんど耳を貸さず、大統領府が中心となって和平案を作成したと言われている。
欧州で中立政策をとる国はスウェーデン、フィンランド、スイス、オーストリア、アイルランドの5カ国。スウェーデンとスイスは軍事的な中立が自国の利益になると考えており、アイルランドは北アイルランド問題を抱えるイギリスとの関係もあって歴史的に中立を続けている。
オーストリアは第二次大戦後、主権を回復する条件として中立を守り、フィンランドは地理的に近いロシアの軍事力や政治的影響力に弱いため、中立を強いられている。
ゼレンスキー氏の中立はフィンランドを意識しているように聞こえる。筆者はジャイルズ氏に「どうしてゼレンスキー氏の中立案を6つのシナリオに加えなかったのか」と質問した。
「中立というのは素敵な響きだ。しかし安全保障を伴うウクライナの中立を求める状況は2014年当時のウクライナと同じだ。ロシア軍のクリミア侵攻と併合、東部紛争を止められなかったことを忘れてはいけない」
ジャイルズ氏はこう答えた。「ゼレンスキー氏のインタビューが西側メディアの見出しになる時、文脈やニュアンスが見逃される。西側研究者が考える中立という言葉はゼレンスキー氏もウクライナも絶対に使えない。今よりひどい状況に追い込まれることが分かっているからだ。見逃されている要素は現実に機能する安全保障だ。その意味で西側がウクライナへの武器供与を止めることはあり得ない」(ジャイルズ氏)
バイデン氏「プーチン氏を権力の座にとどまらせてはいけない」
「この男を権力の座にとどまらせてはいけない」と3月26日にワルシャワでプーチン氏を指弾したジョー・バイデン米大統領の発言をどうみるのか、ジャイルズ氏に尋ねた。「バイデン氏が台本にない発言をする新たな一例に過ぎない。考え抜いたわけではなく、その場で飛び出したアドリブだ。西側メディアは政策を示唆する発言のように取り上げたが、実際にはそのように受け取られることも考えていない、ただの思いつきかもしれない」と言う。
「バイデン氏は米大統領というより1人の人間として発言したと思う。問題はバイデン氏が発言したとたん、米政府によって政策ではないと打ち消されなければならないことだ」(ジャイルズ氏)。レジームチェンジ(体制転換)は幻想だ。プーチン氏がいなくなれば、ロシアは生まれ変わるという考えは甘過ぎる。プーチン氏はロシアであり、ロシアはプーチン氏なのだ。プーチン氏が消えてもプーチン2.0がすぐに現れるだけだ。
ジャイルズ氏は昨年9月、「ロシアを抑止するもの」と題する報告書を発表している。ロシアに侵略を思いとどまらせた過去の成功例と失敗例を詳細に調査した結果、驚くべき一貫性が浮き彫りになったという。ロシアは敵対国が脅威に直面して後退した場合には成功を収めるが、同じ敵対国が自分自身や同盟国、パートナーを守る強固な意志と決意を示した場合には後退してしまうのである。
ロシアは占領下または支配下にある領域を拡大することで自国の安定と安全を追求してきた。バルト海の飛び地領カリーニングラードのように、黒海沿岸を守る軍事拠点にクリミア半島を変貌させたのも、この欲求を強く反映している。もう一つのパターンは大きな抵抗に遭遇した時、引き揚げる用意があることだ。革命家ウラジーミル・レーニンは「銃剣で探り、粥を見つけたら突き進み、鋼鉄にぶつかったら撤退だ」という言葉を残している。
スヴェン・ミクセル元エストニア国防相は「プーチン氏にとって、弱さは強さよりも挑発的である。われわれの弱さで誰かを誘惑してはならない」との懸念を示している。弱さはプーチン氏を挑発する。停戦や和平合意に向け、またぞろ西側ではプーチン氏に対する宥和主義が頭をもたげている。ジャイルズ氏は「ウクライナにおけるプーチン氏の野望を抑えるのは完全な軍事的失敗だけだ」と断言している。
●「最悪の戦争犯罪」ロシア糾弾 ウクライナ大統領、国連改革訴え― 4/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、ロシアのウクライナ侵攻をめぐる国連安全保障理事会の公開会合で、ビデオ回線を通じ初めて演説した。ゼレンスキー氏は「第2次大戦以降で最もひどい戦争犯罪がウクライナで行われている」と常任理事国ロシアを糾弾し、責任追及に向けた行動や国連改革に速やかに乗り出すよう国際社会に訴えた。
「ロシア軍が行わなかった犯罪はそこには一つもなかった。大人も子供も家族全員を殺害し、亡きがらを焼こうとした」。ゼレンスキー氏は演説冒頭、民間人とみられる多くの遺体が見つかったウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外ブチャについてこう語った。
演説後には、井戸に投げ込まれた男性、大人と折り重なるようにして裸で横たわる子供、黒く焼け焦げた遺体など、ロシア軍撤収後の複数の町の様子を収めた1分余りの動画も上映。惨状を訴えた。
ゼレンスキー氏は、子供2000人以上を含む多数の市民がロシアに連れて行かれたとも述べ、「ロシアはウクライナを『無言の奴隷』にするつもりだ」と指摘した。「ロシア軍と彼らに命令を下した者は、戦争犯罪のために直ちに裁かれなければならない」と強調した。
●国連安保理会合 ゼレンスキー大統領「最も恐ろしい戦争犯罪」  4/6
ウクライナの首都近郊の町で多くの市民の遺体が見つかり、ロシアに対する国際的な非難が高まる中、国連の安全保障理事会の会合が日本時間の5日午後11時すぎから始まりました。会合では、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説を行いました。
ゼレンスキー大統領は「きのう、ブチャに行ってきた。ロシア軍は、あらゆる犯罪を犯した。意図的に人々を殺害した。女性や子どもを家の外で殺害し、死体を燃やした」とブチャでの凄惨(せいさん)な現場の様子を訴えました。そのうえで「ロシアが犯した第2次世界大戦後、最も恐ろしい戦争犯罪だ」と訴えました。
また「安保理が保証すべき平和はどこにあるのでしょうか。ロシア軍と命令を下した者に直ちに法の裁きを下さなければならない」と述べました。
そして「ウクライナに平和が訪れるよう国連の安全保障理事会の決断が必要だ。侵略者のロシアを安保理から排除するか、具体的に改革する方法を示してほしい」と述べました。
●ウクライナの穀物輸出、一段と難しく−戦争が世界の取引に変化迫る 4/6
ウクライナの農場地帯では、秋の収穫期から倉庫に蓄えられ出荷を待つトウモロコシが合計1500万トンに上る。
その半分程度は外国に輸出されるはずだったが、買い手への引き渡しは難しさを増している。およそ1200億ドル(約14兆7500億円)の規模を持つ世界の穀物取引で、ウクライナとロシアは合わせて約4分の1を占める。両国からの供給の乱れは、すでに問題化していたサプライチェーンの障害や運賃の高騰、異常気象などと相まって、世界が食糧難に陥るとの見通しを強めている。
ロシアが侵攻を開始する前まで、ウクライナのトウモロコシはオデーサ(オデッサ)やミコライウなど黒海沿岸の港に貨物列車で運ばれ、アジアや欧州向けに船積みされていた。だが、これらの港が閉鎖され、今ではルーマニアやポーランド経由で輸出するためわずかな量が西部国境に向け鉄道輸送されるにとどまる。ウクライナの鉄道の線路幅はソ連時代に標準とされた広軌で欧州連合(EU)内とは異なり、国境で台車を替える必要があることも状況を悪化させている。
同国農業団体の幹部、カテリナ・リバチェンコ氏は「穀物のこのような輸送に鉄道は適さない」とインタビューで指摘。「全体の輸送が極めて高価で非効率になる。時間もはるかにかかる。物流の面で大きな問題だ」と述べた。
ウクライナはトウモロコシ、小麦、ひまわり油の世界最大級の輸出国だが、輸出の流れはほぼ止まっている。同国農業省によると、戦争前の穀物輸出は最大で月500万トンに上ったが、現在は50万トンにとどまり、15億ドルの損失が生じているという。小麦輸出で世界首位のロシアは穀物輸出に支障が生じていないが、将来の引き渡しや支払いを巡り疑問は消えない。
世界の数十億人の主食であり家畜の飼料でもある穀物や油糧種子の供給障害で、価格はすでに上昇。食糧不足を懸念する各国は代替となる供給国の開拓を急ぎ、新たな取引も生まれつつある。
膨大な小麦収穫量を国内に維持してきたインドは方針を転換し、輸出市場に参入してアジア諸国に記録的な量を販売する。ブラジルの小麦輸出は1−3月で、すでに昨年全体を大きく上回った。米国は約4年ぶりにトウモロコシをスペインに輸出する。エジプトはルーマニアから穀物を輸入する代わり肥料を供給する取引を検討し、アルゼンチンとも小麦の輸入を交渉している。
農業市場調査会社アグリソースのダン・バス会長は、こうした取り組みも十分ではないかもしれないとの見方だ。現時点で工面できるとしても、例年ならウクライナなど黒海地域からの小麦輸出が加速する夏まで戦争が長引けば、「問題に突き当たり、食糧不足が世界を襲い始める」と語った。
国連はすでに過去最高値にある食料品価格が今後さらに22%上昇する恐れがあると予想。黒海沿岸の輸出が大きく落ち込めば、さらに1310万人が栄養不足に陥り、世界の飢餓が深刻化する可能性があると警告した。
●ウクライナ情勢下で機能する英国主導の北欧連合JEF 4/6
3月14日、英国が主導する北欧10カ国の連合であるJEF(Joint Expeditionary Force=統合遠征軍)の6カ国首脳を含む代表が初めてチェッカーズ(英国首相別邸)で会合した。エコノミスト誌3月19日号が報じたところによれば、彼らは、ウクライナが要請する武器その他の装備を「相互に調整し、供給し、資金を手当てする」ことに合意した。
また、彼らは、JEFは訓練と「前方防御」を通じてロシアの更なる侵略 ――北大西洋条約機構(NATO)を妨害しあるいはNATOの敷居に至らないようなウクライナの国境外での挑発を含め ―― を抑止することを狙いとする、と宣言した。
JEFは、その存在がほとんど知られていないが、10年前に即応部隊として設立され、英国、アイスランド、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニアの10カ国から成る。NATOと異なり、危機への対応の意思決定がコンセンサスを要しない点が大きな特徴である。
英国にとって、JEFを通じる活動はNATOの北辺における伝統的な軍事的役割を再構築し、同時に英国にとっての自然な同盟国との間にBrexit後の関係を作るものであると言えるだろう。
このJEFが、ウクライナ危機に際して有効に機能しているということのようである。2月末に中立を標榜するスウェーデンとフィンランドが相次いでウクライナに対する武器供与を表明したが、その背後に、このグループがあったのかも知れない。
ウクライナの戦争への対応を巡る議論において、プーチンを追い詰めることは危険であるとして、彼のための「出口車線、取引き、逃げ道」の必要性を説く向きが多いが、現時点では有害である。それは一種の宥和策であり、プーチンに彼は正しい軌道にあると確信させ、その結果は必然的にウクライナに犠牲を強いることになるからである。
英国のジョンソン首相は、エコノミスト誌のインタビューに対し「文明的な振舞いのすべてのルールを完全に破棄するのであれば、そこから抜け出る道は自身で見出さねばならない」と発言している。これは筋の通った議論である。プーチンから要請があれば別であるが、現時点では、仏マクロン大統領と独ショルツ首相は、求めてプーチンと会談すべきではない。
プーチンが追い詰められたと感じ、化学兵器の使用に走った場合にどう対応すべきかは、困難な問題である。これについて、エコノミスト誌のインタビューでジョンソンは「西側とロシアの直接的な衝突というロジックに陥らないことが非常に重要である ―― プーチンは彼とNATOとの戦闘だと描きたがっているが、そうではない。それはウクライナ国民と彼等の自衛の権利の問題である」と答えている。
ジョンソンのこの回答は心許ない。軍事的反応をしないという選択は破滅的な影響を持つであろう。そのような事態におけるNATOの意思決定がどのようなものであれ、行動出来るのは米英の2カ国または米英仏の3カ国(核保有3カ国)であると思われ、これら諸国において均衡の取れた懲罰的な行動が検討されねばならないであろう。
●ウクライナとロシア “市民殺害”で対立激化 停戦交渉に影響も  4/6
ウクライナの首都近郊で多くの市民の遺体が見つかったことについて、ウクライナ政府は戦争犯罪だとして国際社会の協力も得ながら捜査を行うとしています。これに対し、ロシアはねつ造だと一方的に主張し、両国の対立の激化が停戦交渉に影響する可能性も出ています。
ロシアの国防省は5日、ウクライナ西部や南東部など各地にあるウクライナ軍の燃料施設をミサイルで破壊したなどと発表しました。またロシア軍は、東部の要衝マリウポリの掌握に向け攻勢を強めていて、首都キーウ、ロシア語でキエフ周辺に展開していた部隊の東部への投入を進めていくものとみられています。
ただ、戦況を分析しているイギリス国防省は5日「北部から撤退する多くのロシア軍の部隊は、東部の作戦に再配置される前に装備の大幅な改修を必要とする可能性が高い」と指摘し、東部への全面的な展開には時間がかかる可能性もあるとの見方を示しました。
一方、キーウの北西の町ブチャで多くの市民の遺体が見つかったことに衝撃が広がる中、現地を訪問したキーウのクリチコ市長が5日、NHKのインタビューに応じ「これはウクライナの国民に対するジェノサイドだ。とてもショックで一生忘れられない光景だ」と述べてロシアを強く非難しました。ウクライナ政府は、ロシア軍の行為は戦争犯罪だとして、国際社会の協力も得ながら犯罪の証拠を集めるための捜査を行う方針を示しています。
これに対しロシア国防省は5日、キーウ北西にあるモシュンや、北東部スムイやコノトプなどで、ウクライナ側が「ロシア軍によって市民が殺害された」とする自作自演のねつ造行為を行っていると一方的に主張しました。また5日、動画で声明を発表したラブロフ外相は「フェイクの情報を広めるとすぐに、ウクライナ側の交渉担当者は交渉を打ち切ろうとした」などと主張していて、両国の対立の激化が停戦交渉に影響する可能性も出ています。
一方、ブチャでの市民の殺害を受けて欧米側からも、ロシアの責任を追及する声が強まっていて、ドイツやフランス、イタリア、スペインなど、ヨーロッパ各国が、駐在するロシアの外交官を追放する措置を相次いで発表しました。
これに対しロシア大統領府のペスコフ報道官は5日「前例のない危機的状況の中で、外交の窓口を狭めることは近視眼的な動きだ。必然的に、われわれは対抗手段に乗り出すだろう」と非難し、報復措置をとると警告しました。
●なぜ?アメリカがロシアと戦わない3つの理由  4/6
これまで世界各地の紛争に軍を派遣してきた世界一の軍事大国=アメリカ。しかしウクライナをめぐって、バイデン政権は早々に軍事介入はしないと宣言しています。ロシアによる攻撃で市民の犠牲が増え続ける中でも、その方針は変わらないのでしょうか?そもそも、なぜウクライナにアメリカ軍を送らないのでしょうか。
アメリカが軍を送らない3つの理由とは?
「1%でいいんだ。NATOが持つ戦車の1%を供与してほしい」
3月24日に行われたNATO=北大西洋条約機構の首脳会議でウクライナのゼレンスキー大統領が訴えたことばです。
しかし、バイデン大統領は戦闘機の供与はもちろん「アメリカ軍を派遣しない考えに変わりはない」と日々強調しています。バイデン大統領の説明や専門家などの指摘によると、その理由は主に3つ、「守る義務がない」「利益がない」「軍事衝突を避けたい」です。
理由1.ウクライナを守る義務がない
ウクライナはNATOに加盟していないため、アメリカに防衛の義務はありません。
理由2.アメリカの利益がない
アメリカの安全保障に直結し、戦略的利益がある場合、アメリカは戦います。アフガニスタンでは同時多発テロ事件を受けての「テロとの戦い」を掲げて、イラクでは「大量破壊兵器の保有」を口実に軍事作戦に踏み切りました。しかし今回のウクライナはアメリカが直接脅かされる状況ではありません。
理由3.ロシアとは戦えない
アメリカが最も避けたいのは、ロシアとの軍事衝突です。米ロ両国の衝突は「第3次世界大戦」につながりかねず、核戦争という最悪のシナリオまで想定しなければなりません。アフガニスタンからの撤退を終えたばかりのバイデン政権は再び大規模な戦争に突入するリスクは負えません。
戦えないぶん 何してる?
アメリカは軍は派遣しなくても、ヨーロッパ各国とともに異例の規模で軍事支援を続けています。大量の武器を現地に送り、中でも対戦車ミサイルはロシア軍に大きなダメージを与えています。アメリカは、ウクライナの2020年の国防予算の2倍以上にあたる額の軍事・人道支援を行うことにしています。しかし、バイデン政権は支援にあたって越えてはいけない一線を設けています。それは「当事者にならない範囲に収める」ということ。軍事支援がロシアを刺激し、NATOが戦争に巻き込まれることがあってはならないということです。
「飛行禁止区域」設定しないの?
アメリカはウクライナからの強い要請があっても「当事者にならない範囲」を越えるつもりはありません。その象徴とも言えるのが飛行禁止区域の設定です。飛行禁止区域とは、敵国の戦闘機からの攻撃を防ぐため航空機が入ってくるのを禁じる空域を設けること。ウクライナはロシア軍による空からの攻撃を防ぐため、繰り返しアメリカやNATOに要請していますが、アメリカなどは否定的です。なぜなら、飛行禁止区域の設定は「理由3.ロシアとは戦えない」と直結するからです。上空で警戒を続け、敵国機が入ってきた場合には撃墜することを意味します。仮にNATO軍機がロシア軍機を撃墜するようなことがあれば、ロシアとの全面衝突につながりかねないからです。
越えてはいけない一線とは?
越えてはいけない一線が試されたのは、ゼレンスキー大統領が戦闘機の供与を求め、ポーランドが応じたときです。旧ソビエト製でウクライナの兵士が操縦に慣れているミグ29戦闘機の供与を、3月8日にポーランドが発表。しかし、供与先はウクライナではなくアメリカでした。ポーランドが直接供与すれば、ロシアからの報復攻撃を受け軍事衝突に巻き込まれるおそれがあるため、輸送はアメリカやNATOの責任でやってもらう、そのための提案でした。しかしアメリカの反応は「ポーランドの提案が実現可能だとは思わない」と、そっけないものでした。国防総省のカービー報道官が理由として挙げたのは、ここでも、ロシアの強い反発を招き軍事衝突に引きずり込まれかねないとの懸念でした。実際、ロシアは輸送目的を含む空軍基地の使用といったウクライナへの協力について「軍事衝突の当事者とみなすこともありうる」と警告しています。
これから先も戦わないのか?
アメリカの外交政策にも影響を及ぼすアメリカ外交評議会の会長を務めるリチャード・ハース氏は、武力によって相手をねじ伏せようとするロシアの行動は国際秩序そのものに対する挑戦だと指摘します。「世界は一定の原則のもとで動いています。その最も基本的なものは国家の主権や国境が尊重されるというものです。武力でこれを変えることが許されてはいけない。ロシアの軍事侵攻が許されれば『自分たちも同じことをしても大丈夫だ』と考える他の国々が出てきて世界は大混乱になってしまう」アメリカが軍を派遣しない3つの理由は当面変わることはありません。しかし、支援の限界を決める「越えてはいけない一線」の解釈は変わる余地があります。国際秩序や民主主義といったアメリカが掲げる価値観を守るためにどこまで今後踏み込む用意があるのか。現地の戦況や外交の動きだけでなく、アメリカ国内や国際世論も含めて見ていく必要があります。
●ウクライナ避難民 ポーランドで職探す人増加 支援の動きも  4/6
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、およそ246万人が避難している隣国のポーランドでは、避難生活が長引くことを考え、職探しをする人が増えています。
このうち第2の都市クラクフにある日本のハローワークにあたる機関には、一日に100人を超えるウクライナからの避難民が訪れています。施設内には、ウクライナ語で書かれた求人票も掲示されていて、訪れた人たちが内容を確認していました。担当者によりますと飲食業や製造業などを中心におよそ1300件の求人があり、これまでに700人が採用されたということです。ただ、言語の違いが大きな課題となっていて、この機関では職探しをする人たちのために語学研修も行っています。
ウクライナ南部のヘルソンから来た63歳の女性は「いつ帰れるかわからないので、一緒に避難してきた娘や孫のためにも、どんな仕事でもやりたいです」と話していました。西部のリビウから2人の子どもと避難してきた28歳の女性は「以前はマッサージの仕事をしていましたが、ここでは見つかりません」と残念そうな様子でした。
また大手飲食チェーンの人事担当の女性は「これまでにウクライナからの避難民を50人採用しました。彼らには助けが必要です。私たちが彼らのことを気にかけているとわかってほしいです」と話していました。
ポーランド政府によりますと、これまでに3万人以上の避難民が国内で仕事を得て働き始めているということです。
●安倍政権の北方領土返還交渉、日本はロシアとの歴史から何を学んだのか 4/6
今回の、ロシアによるウクライナ軍事侵攻において、どうしても私はシベリア抑留で無念な亡くなり方をした日本人について思いを馳せざるを得ません。もちろん、一連の戦争には大日本帝国の無謀な戦争犯罪が根底にあることは理解しつつも、他方で日露外交の文脈であまりにも軽視され続けてきたシベリア抑留の件について、かねて疑問を抱いてきました。
第2次世界大戦の終戦後、満州や樺太、千島列島などにいた旧日本軍捕虜や民間人らが投降し、武装解除されたあと、旧ソビエト連邦(ソ連)によって主にシベリアなどへ労働力として57万人あまりが連れ去られたこの事件では、34万人とも言われる日本人の命が失われたとされています。失われた命の数だけでなく、いまなお遺骨が戻らない状況には、冷戦を超えて歴史がもたらす惨劇として慄然とせざるを得ません。
「会談で抑留問題を取り上げたことは一度もない」
「ソ連とロシアは異なる国家だ」とか「日本も戦争犯罪を犯したのだから、日本に非難する資格はない」とか「70年以上前の出来事であって、こんにちの紛争とは連想するべきではない」などといった、日本特有の旧来の知識人からも反論を受けるケースは、いまだにとても多いです。
西日本新聞が、日本憲政史最長の政権となった安倍政権末期の2020年8月、終戦記念日に行われる8月15日の全国戦没者追悼式において日本政府は式の追悼対象にはこのシベリアへの抑留者も含まれるとの立場であると説明したうえで、「(安倍)首相がロシアのプーチン大統領との度重なる会談で抑留問題を取り上げたことは一度もない」と批判していました。
SNSの履歴などから反ロシア的とされる人物を連行、殺害
今般のロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナ側の反攻が一定の功を奏し、ロシア軍による攻囲を一部解除し、同時にロシア軍が再編成とみられる撤収をしたことで、当初強く懸念されていた早期のキエフ陥落の危機は遠ざかったと見られます。
しかしながら、報道でもある通り、ロシア軍が防空壕を訪れてウクライナ人の民間人のスマートフォンを調べ、SNSの履歴などから反ロシア的とされる人物を連行、さらには殺害したとの見方が強まっています。
市長や村長などがロシア軍により家族ごと次々と誘拐
また、病院や学校といった非戦闘員の民間人が利用する施設への爆撃・砲撃を行い、2014年のクリミア危機でウクライナ側に立って参戦した元兵士やウクライナ国章などの入れ墨のある人物も多数銃殺したと見られます。つまり、ロシアの言う「非武装化」や「非ナチ化」「非民族主義化」というお題目には、今後ロシアに敵対して反乱を起こす可能性のあるウクライナ人は全員殺害しようという強い意志があるのでしょう。
そればかりか、ウクライナ東部の市長や村長などがロシア軍により家族ごと次々と誘拐され、さらにそれとすぐ分かるように殺害されているとの報道も出るに至ると、シベリア抑留による犠牲者を出した経験を持つ日本が一連の問題についてロシア側を擁護したり、譲歩したりする余地はどこにあるのか真摯に悩んでしまうぐらいの状況になります。
軍隊が国民に対して行ってきた残虐行為
これらの蛮行は、過去にはチェチェン紛争やジョージア侵攻(南オセチア紛争)、またシリア内戦でも明らかなように、ロシア軍が過去に介入した軍事作戦の手法、ドクトリンを忠実になぞっています。また、これらの紛争においてロシア側はほぼ当初の目標を達成しているという点で「成功体験」があることから、同じような手法でウクライナへの侵攻を行い、民間の建物を砲撃し、市街地を爆撃し、ウクライナ国民の避難生活が成り立たないよう物資を寸断して殺害するか、追い出して難民化させる、という形で実施された軍事作戦であることは言うまでもありません。
また、国連も認めている通り、ロシア軍が制圧した地域で、数千人以上のウクライナ国民が拘束され、ロシア軍による強制拉致の対象となっています。これらはむしろ親露派住民が多く、経済的にウクライナの中では豊かなほうであるはずの東部で行われていることを考えると、降伏して武装解除を強いられても死を迎えかねない現状は「チェチェンの戦況」から見ても明らかではないかと思います。降伏してロシア軍に連行された村人は全員拷問にかけられて死に、ロシア軍に抵抗し武器を取って山に籠った村人は全員助かった、という。
問題の凄惨さを見て見ぬふりをしてきた人たち
実際、日本の国会・参院外交防衛委員会に参考人として出席したウクライナ人政治学者のアンドリーさんが、降伏することで無抵抗に殺されてしまうリスクについて明言し、元日本維新の会・橋下徹さんやタレントのテリー伊藤さんらの「ウクライナは降伏して平和を回復するべき」や「ウクライナはロシアに勝てないので抵抗は無駄」などの主張を一掃しています。というか、テレビやラジオなどマスコミがこれらの議論を平然と放送している事実に驚くぐらいです。
いま「ウクライナかわいそう」と言っている人たちは、チェチェンやジョージア、シリアなどでロシア軍を含めた専制主義国家の軍隊がかの地の国民に対して行ってきた残虐行為を知らなかったか、見て見ぬふりをしてきただけでしょう。いざウクライナというルーシ人、もっと言えば白人の住む国家が欧州メディアや英語圏の人たちの篤い同情をひいて繰り返し報じられるようになったからこそ、問題を突き付けられ、その凄惨さの前に右往左往している、というのが実態ではなかろうかと思います。
平和的外交交渉によるロシアからの領土回復
いまの日本の安全保障の文脈で言えば、2014年のクリミア危機、クリミア半島の併合という事実上の武力による国境線の現状変更という抜き差しならない事態に対して、日本外交は穏便な対露外交に終始してきました。
というのも、第2次安倍政権における対ロシア外交は、外務省が重ねてきた日露交渉の過程を必ずしも完全にトレースするものではなく、2003年の総理大臣・小泉純一郎さんの訪露での露大統領プーチンさんとの首脳会談を行う以前と、10年の時を経て2013年に訪露した安倍晋三さんの首脳会談以降とで、様相が大きく異なっています。
実のところ、2014年のクリミア危機について政治学者の六鹿茂夫さんが主査となってまとめた「ウクライナ危機と日本の地球儀俯瞰外交」報告書でも、当時安倍政権が前のめりになっていたロシアとの平和条約締結、一部の北方領土返還論について率直な危惧が示されるとともに、2022年のウクライナ侵攻までの外交的メカニズムやロシア政治の動きがほぼ言い当てています。単に情緒的な「ロシアは約束を守らない」という議論ではなく、日本にもまた、ロシアの性質をきちんと研究し、起こり得る未来に対して警鐘を鳴らす知識人たちがいたという事実は知られるべきでしょう。
クリミア危機の時点で、ロシアとの外交においてLNG(液化天然ガス)や海産物など資源取引においてはともかく、北方領土の帰属という領土問題において深入りするべきではない状況であったにもかかわらず、安倍晋三さんが政権を挙げて平和的外交交渉によるロシアからの領土回復に血道を上げた理由は、歴史に偉大な宰相としての名前を刻みたかったからでしょうか。
完全に行き詰まった、北方領土返還を巡る日露交渉
そもそも、北方領土問題は1956年日ソ共同宣言以降、平和条約を結ぶ方針とともに歯舞群島及び色丹島については、平和条約の締結後、日本に引き渡すことにつき同意されていました。にもかかわらず、旧ソ連が新たに日本領土からの全外国軍隊の撤退などの条件を付けたことで交渉が停滞したまま、いまなおロシアが実効支配しています。
安倍晋三さんはプーチンさんと対面だけでも27回、面談による交渉をしています。かかる歴史的問題について、安倍さんとプーチンさんの個人的な信頼関係をテコに、領土返還を実現させようと考えたのです。
しかしながら、安倍政権最終盤に、これらのロシア外交への前のめりが発生し、また、足元を見たロシア外交筋からの拒絶にあい、立ち往生を余儀なくされます。いままでの日露外交の文脈では必ずしも主流ではなくコンセンサスもなかった「2島返還論」が日本側から譲歩案として提示されたばかりか、2016年には安倍さんの地元である山口県長門市の名館・大谷山荘での日露首脳会談で「4島での特別な制度の下での共同経済活動」という、領土問題よりも経済協力を先行させる外交を進めました。
結果的に、これがロシア側には「領土主権問題の棚上げ」と映り、事実上ロシアの管轄下での極東開発を行うことを意味する北方4島での経済特区事業の拡大を発表。そこにロシア主導のもと、ロシア法に基づいて中国や韓国の資本も入ることから、北方領土返還をめぐる日露交渉は完全に行き詰まることになります。
確実視されるエネルギーコストの上積み
これらの官邸による外交方針は、安倍晋三さんの発意というよりは当時の安倍総理秘書官の今井尚哉さん、総理補佐官・長谷川栄一さん、国際協力銀行(JBIC)の前田匡史さん、および推進役となった経済産業大臣の世耕弘成さんであることは論を俟ちません。いわば、外務省が担ってきたロシア外交と官邸が進めるそれとが完全に二元化してしまい、こんにちにいたる日露外交の禍根を残してしまったことになります。
その代表例は、政府が梯子を外したも同然になっているロシアからのエネルギー輸入についての大事なプロジェクトであって、特にLNGの輸入においては日本政府が直接出資しないオール民間のプロジェクト「サハリン2」から日本のLNG需要の約9%を担うだけでなく、そもそも「サハリン2」から輸入する天然ガスは100万BTUあたり10ドル程度という価格になっています。
しかし、現在エネルギー危機を迎えている昨今、自由に市場から買い入れられるスポット市場で天然ガスを輸入する場合、現在の価格である35ドルから40ドルで計算すると実に年間1兆円前後のエネルギーコストの上積みとなることが確実視されます。
現行の経済を回せるだけの発電量を確保できない恐れも
また、ロシアとの資源貿易においては日本側の資源8社(東京電力フュエル&パワー社と中部電力の火力燃料合弁のJERA社や東京ガス、九州電力など)はテイク・オア・ペイ条項というオプションを結んでいます。
テイク・オア・ペイ条項とは、LNGプラントなど兆円規模の巨額投資を必要とする大規模プロジェクトについては、JERA社など買う側(大口引き受け手)が存在しない限りプロジェクトが成立させられないこともあり、買う側(つまり日本側)が天然ガスを引き受ける、引き受けないにかかわらず産出した代金を支払い続けなければならない、という条件が課せられているわけです。
安全保障上は、ロシアのような武力による現状変更のロジックをそのまま中国が使った場合に、中国にとっての「国内問題」である台湾併合だけでなく、日本のエネルギー輸入の大動脈であるマラッカ海峡から台湾海峡まで危機が訪れる可能性は指摘せざるを得ません。
そればかりか、日本の天然ガスの一角を担う「サハリン2」などのプロジェクトが危機に晒され、資源を産出しない日本が割高なスポット市場でのエネルギー供給に依存し始めると、日本経済は「資源高によるインフレ」どころか現行の経済を回せるだけの発電量を確保できない恐れすらあります。
経済協力という絵空事でロシアを勘違いさせてしまった
ロシアによるウクライナ侵攻によって炙り出された日本の本当の問題とは、長きにわたった安倍政権の、官邸の中で行われてきた側近政治がもたらした対露外交の失敗であって、本来の意味での安全保障やエネルギー調達のグランドデザインを描くことなしに日露経済協力という絵空事でロシアを勘違いさせてしまった面はあるのでしょう。これらの話題は、シベリア抑留もすべて忘れて日露関係改善と安倍プーチン両首脳の人間関係で領土問題の解決を狙った今井尚哉さんや前田匡史さんら側近たちの問題に他なりません。
その点では、日本にとっての戦後はいまだ終わっていないばかりか、シベリアの地に消えた日本人の命もきちんと弔われないまま放置されてしまった面はあります。
昨今では安倍晋三さんも核の共同保有など、センシティブな政治課題でも意欲的に発信を進めていますが、ぜひこのあたりの問題についても光を当て、力を尽くしてくださればと願う次第です。
●プーチン大統領は知っている 《対ロシア経済制裁が“無意味”なワケ》  4/6
侵攻開始から1か月が過ぎた。現在、ロシアに対してさまざまな制裁が課されているが、実際のところ、ロシア人の生活にどれほどの影響が出ているのだろうか。 ウクライナの人々の明日をも知れぬ生活を思えば、ここロシアでの日常について書くことに心苦しさを覚えるが、日本に伝わっている情報とロシアで実際に起きていることに多少のずれがあるように感じ、そこを埋めることができたらと筆を執ることにした。
モスクワの生活が「落ち着いている」ワケ
諸外国ではロシアへの経済制裁を大々的に報じている。しかし、ロシアに住んでいる身としては、危機的な状況にあるとは言えない。ロシアでは大きな混乱は起きていなく、ことにモスクワでは3月15日から公共の場でのマスク着用義務が解除され、人々の生活は比較的落ち着いている。
「制裁で圧力をかければロシア国民は目を覚ますはずだ」
「反プーチンの機運が高まり、戦争を止められる」
世界ではさまざまな議論が湧き起こっているが、そこまで期待できなそうだ。 
たしかに、多少の混乱はあった。
2月24日、プーチン大統領が言うところの“特別軍事作戦”の開始が伝えられると、人々は預金を手元に確保しようと銀行に走った。ロシア中央銀行によると、2月25日には実に1兆4000億ルーブル(約1兆9000億円)もの現金が引き出されたという。ATMへの現金の補充が追いつかず一部店舗では長い行列ができたが、それも数日で収束した。
経済制裁下でも「МИР(ミール)」があれば大丈夫
毎日の買い物は、Apple Pay、Google Payなどの非接触型決済こそ利用できなくなったものの、カードでの支払いはこれまで通りできている。3月6日、ビザとマスターカードはロシアでの業務停止を発表したが、これは国をまたいでの使用ができなくなっただけで、ロシアで発行されたカードは国内においては有効期限まで問題なく使うことができる。今後、制裁の範囲が広がることを見越して、ロシア独自のカード決済システムであるМИР(ミール)に切り替える者も増えている。
ちなみに、このМИРは2014年のクリミア併合で経済制裁を受けたロシアが、欧米依存から脱却すべく新たな決済システムを立ち上げたもので、これまで1億1200万枚が発行され、国内シェアは30%を超えるまでに成長している。ロシア人がよく訪れるキプロス、トルコ、アラブ首長国連邦、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、ベトナムなどでも使用可能で、今後はエジプトやキューバなどに拡大される予定という。
物価の上昇も起きている。
ロシア経済発展省の発表によると、3月25日時点のインフレ率は前年比15.7%ほど。モスクワで毎日買い物している者の肌感覚としても、全体的に10〜15%ほど上昇したように感じている。食品ではトマトとバナナの値上がりが際立っている。ちなみに、先のクリミア併合の際のインフレ率は最大で15.6%であった。
インフレ率15.7%でもロシア国民は「慣れている」
もともとロシアのインフレ率は高めで、侵攻前の1月の段階ですでに8.7%、2月には9.2%であった。率直な反応としては「また上がったか」というものだ。振り返れば1998年、2008年、2014年とロシアは何度となく経済危機に瀕しては、そのたびにどうにかこうにか乗り越えてきた過去がある。国民は、いい意味でも悪い意味でも、慣れてしまっている。
下落するルーブルを車や宝飾品など物に換えるのはもはや手慣れたものだし、知り合いには、株価が暴落するや、石油大手ロスネフチの株を底値で仕込んだしたたかな者もいる。
店内に目を向けても、ソ連末期のように商品棚がまったくの空ということはない。野菜や果物、精肉・加工肉、乳製品などのコーナーはこれまで通りの品揃えである。
一部の品物が入手困難になっているが、これは物価上昇への危機感から来る買い占めによるところが大きい。人々が小麦粉やパスタ類など長期保存が可能な品物を備蓄し始めたからだ。「お一人様3点まで」などと購入制限を設けている店もある。
穀物・砂糖の国外への輸出を制限すると発表
パンと並ぶ主食とも言えるロシア人の毎日の糧、グレーチカ(蕎麦の実)や砂糖はほとんど買えない状態が続いている。生理用品も品薄状態が続いている。しかし、市内のどこかしらに入荷はしているので、何店舗か回って運が良ければ買い占めを免れた商品にありつける。日本であったトイレットペーパーの買い占めと同じような状況だ。
事態を受けて、ロシア政府は3月14日、小麦、ライ麦、大麦、トウモロコシなどの穀物は6月30日まで、砂糖は8月31日まで国外への輸出を制限すると発表。国内には十分な在庫があり、品不足は買い占めによる人為的なものだと説明した。
物価上昇を引き起こす「年金生活者のおばあさん方」
事実、問題を引き起こしているのは年金生活者のおばあさん方で、ペレストロイカ時代から染みついた習性なのだろう。砂糖が入荷したと知るや我先にと売り場になだれ込み、瞬く間に買い占めてしまう。その異様な光景はYouTubeやツイッターに動画が上げられていて、#сахар(砂糖)や#дефицит(不足)などのハッシュタグから見ることができる。
この状況下でロシア人の口から出てくるのは「大丈夫、何とかなるさ(Всё нормально будет)」。ある程度の強がりも含まれるだろうが、経験から来る自信のようなものが感じられる。それは肝が据わっていると言うこともできれば、感覚が麻痺しているとも言える。
ロシア人の危機を救う「ダーチャ文化」
基本的にロシア人は、こうした困難な事態に直面した場合、(1)代わりの物を見つける、(2)直して使う、(3)自分で作る、で対処しようとする(それでも無理な場合は「(4)あきらめる」もある)。そこはやはりお国柄なのだと思う。編み物をしている女性もいまだに電車で見かけるし、男性はアパートや車の修理など大抵のことは自分でやってしまう。
根底にあるのはソ連時代から続くダーチャ文化だ。ダーチャとは郊外にある菜園付きセカンドハウスのことで、そこで夏の間、野菜や果物を栽培し、冬に備えて保存食を作る。先の砂糖の買い占めが起きた理由も、ジャム作りやコンポート作りに欠かせないからだ。これは半分冗談のような話だが、SNSでは「ニワトリの飼い方」が一時期トレンド入りしていた。今年の夏のロシア人は例年に増して忙しくなりそうだ。
「マクドナルド閉店」へのロシア国民の“本音”
3月に入ると外国企業の事業休止が相次ぎ、3日IKEA、9日スターバックス、14日マクドナルド、20日ユニクロと、ロシア人に愛されるブランドが次々と閉店した。
なかでも話題となったのはマクドナルドである。1990年1月、プーシキン広場近くにオープンした1号店は、冷戦終焉の象徴的な存在だった。以降、多くのロシア人に親しまれ、全国847店にまで拡大していたが、3月14日をもって休業となった。
閉店2日前に1号店を訪れてみたが、店内は大変な混雑ぶりで、友人たちとセルフィーを撮る光景があちらこちらで見られた。しかし、ひとつの時代が終わったと感傷的になっている人は少なく、「なくなったらなくなったで他の店に行くよ」とあっけらかんとした声が多かった。
というのも、KFCやバーガーキングは通常通り営業中だからだ。国内に1100店以上あるKFCは、70の直営店は閉店したものの、それ以外はロシア人オーナーのフランチャイズ店であり、契約上は営業を続けることができるのだという。バーガーキングも然りである。コカ・コーラもペプシも、いまだに販売されている。
高級デパートは9割の店舗がそのまま営業
赤の広場に面する130年の伝統を誇るグム百貨店では、ルイ・ヴィトン、ディオール、ブルガリ、カルティエ、エルメス、グッチ、シャネルなどの高級ブランドが軒並み店を閉じ、何ともきらびやかなシャッター商店街が誕生している(実際はガラス張りだが)。
一方で、業務停止を発表してから3、4週間が経つものの、ナイキ、ニューバランス、ギャップなどはまだ営業を続けている。店員に訊ねてみたが、閉店の具体的な時期についてはまだ何も情報がないという。
外資ブランド「ロシア撤退」の打撃は少なめ?
ボリショイ劇場そばのツム百貨店は、日本で言えば新宿伊勢丹のような品揃えの高級デパートだが、9割方の店舗がそのまま営業を続けている。プーチン大統領御用達のイタリア高級ブランド、ロロ・ピアーナもそこで営業中だ。ルーブル安による大幅価格改定で客足こそ鈍っているが、それでもお金があるところにはあるのだろう。買い物を楽しむ客がまだいる。
そして注意すべきは、「ロシアから撤退」と報じられることが多いが、正しくはどの企業も「一時休業」であるという点だ。
たとえば、IKEAは国内17店舗を閉じたが、詳細を確認すると、休業は5月31日まで、1万5000人の従業員の雇用は継続、ロシアから撤退はしないとしている。マクドナルドなど他企業も同様である。
ロシアには、企業側の理由で従業員を解雇する場合、次の仕事が見つかるまでの期間、最大3か月は給与を補償しなければならないという法律がある。仮に今から企業が一時休業ではなく完全撤退を決めたとしても、ロシアで失業問題が本格化するのは6月かそれ以降になるだろう。
制裁は効果が現れるまでに時間がかかると言われているが、現在のところロシアの状況はこのようになっていることをお伝えしたい。
●プーチン大統領の2人の娘、EUが制裁検討− 4/6
欧州連合(EU)は、ロシアのプーチン大統領の娘を制裁対象に加えることを検討している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。ロシア軍がウクライナの民間人を殺害したとされる問題に、EUは対応の取りまとめを図っている。
新たな制裁対象者にはこのほか、政治家や大物実業家、その家族など個人数十人が含まれるという。このリストはEU加盟国政府の承認が必要で、まだ変更される可能性もある。
プーチン氏の2人の娘、マリア氏とカテリーナ氏がロシア国外に多額の資産を持っているかは不明で、制裁対象となっても象徴的な意味合いが強いが、プーチン氏の注意を引く狙いがある。2人の生活は秘密に包まれ、別の姓を名乗っている。ロシア大統領府がこれまで娘の名前を確認したことはなく、成人になってからの写真を公開したこともない。
プーチン氏は2015年、2人はともにロシアの大学を卒業し複数の言語を話すなど、自身の娘について幾つかの詳細を明らかにした。
ロシア大統領府のペスコフ報道官はテキストメッセージで、EUの制裁案を承知していないとして、正式発表を待つ意向を示した。
●「プーチン孤立」報道で浮かぶクレムリンの米スパイ 諜報戦でロシアは完敗 4/6
多数のロシア軍将官の死亡や、首都キーウ近郊からのロシア軍撤退など、ウクライナ軍の善戦が伝えられる。ウクライナ軍を支えるために、アメリカやイギリスが高い諜報能力を発揮していることを指摘するのは、国際アナリストの春名幹男氏である。ロシア側の脅威となりうる情報をどのように収集し戦略に生かしているのか、また、プーチンの側近にいるとみられるスパイの存在についても聞いた。
将官が7人死亡
先月26日、ロシアが制圧したウクライナ南部ヘルソン近郊の飛行場で、ロシア軍のレザンツェフ中将がウクライナ軍による攻撃によって死亡したと報じられた。
「ウクライナ入りしているロシア軍の将官20人の中で、7人目の死亡者です。これだけ死んでいるのは、ロシア軍の司令官が今どこにいるのか、ウクライナ側に“だだ漏れ”になっていることの証左でもあります。さらに、『〇〇が死んだ』と報告するロシア軍の通信を傍受して、ウクライナ軍がその攻撃の成功を確認しているのではないか、とも言われています」(春名幹男氏)
ロシア軍内部の情報が、筒抜けになっているとはどういうことだろうか。
「いまや、ロシア軍内部の通信は、ほぼ100%、ウクライナ側が把握しているのではないでしょうか。アメリカの支援を含め、ウクライナ側が通信傍受に関してある程度高度な技術を持っているということもありますが、それよりもロシア側が相当ずさんだということが言えると思います。というのも、近年ロシア軍が攻撃した相手は、チェチェン、シリア、ジョージアなど、いわば情報技術に後れを取っている国々で、対策を取る重要性の認識が乏しかったのでしょう。一方で、ウクライナ軍は、2014年のクリミア半島侵略以降、ロシア軍の侵攻を見据え、アメリカの支援を受けながら備えを続けてきました」(同)
軍事衛星、ドローンでの監視も
アメリカは、情報を提供することでウクライナを助けているというわけだ。
「戦況を把握する方法は、通信傍受以外にもいくつかあり、その1つが、軍事衛星による宇宙からの監視です。軍事車両の位置や兵士が何人いるのかといった情報まで、衛星からリアルタイムで把握し、それをアメリカがウクライナに提供しています」(同)
アメリカは、自国で情報を得るだけでなく、遠隔操作できる無人の小型航空機・ドローンを供与するなどしてウクライナ軍へ物的な支援も行っている。
「ドローンは、攻撃だけでなく監視目的としても使われています。また、アメリカ軍の電子偵察機からの監視については、ロシア軍との直接の接触を避けるためにウクライナ領空には侵入せず、黒海やポーランド上空から監視をしているようです。そういった情報を基に、ウクライナ軍は作戦を練っているのでしょう」(同)
統合司令部の不在
ウクライナ軍が首都キーウ郊外の奪還を発表するなど、ロシア軍の包囲が進んでいないことも報道されている。
「ロシア軍は高性能な武器は持っているものの、軍部のコミュニケーションや統制が取れておらず、計画通りに侵攻しているとは言い難い状況です。例えば、ロシア軍は、チェチェン共和国の傭兵を使っていますが、この部隊には別の司令官がおり、ロシア軍を含め、全体を見る司令官がいないのです。近年、統合司令部の重要性が改めて認識されており、例えば日本の自衛隊でも、陸海空それぞれの司令官に加え、全体を束ねる司令官が置かれています。ロシア軍の苦戦からは、軍全体を統制する司令官の不在が浮き彫りになります」(同)
首都キーウの包囲が阻止されている理由は、他にもある。
「軍事侵略には、燃料や弾薬の補給、兵士の食料などを確保するために、戦闘部隊に帯同する兵站が必要ですが、ロシア軍はそこも非常に弱いです。燃料を積むタンクローリーが無く、侵攻を進める途中で、燃料の補給が出来ていないという話もあります。そのせいで、国境付近からのミサイル攻撃などが中心となり、キーウ周辺から撤退する一方、ロシア国境に近く、攻撃しやすいウクライナ東部で激しい攻撃を強化しています」(同)
ヒューミントの存在
先月30日、ホワイトハウスのベディングフィールド広報部長は、「プーチン大統領は、ロシア軍がいかに苦戦しているか、制裁によってロシア経済に不具合が生じているか、誤った情報を与えられている。側近たちは本当のことを伝えるのを恐れている」といった見解を示した。同日、イギリスの政府通信本部(GCHQ)のジェレミー・フレミング長官も、同様の認識を表明したのだった。
「アメリカとイギリスが相次いで同じような内容の発表をしたのは、両国が情報を共有しているからでしょう。『ファイブ・アイズ』といって、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国は、UKUSA協定に基づいて機密情報共有の枠組みを持っています。この『ファイブ・アイズ』は1950年代からある枠組みで、70年近くの協力体制の蓄積があり、ウクライナ侵攻に関しても各国が情報の収集、確認を行い情報戦に役立てています。今回のプーチン大統領に関する情報は、アメリカが得たのか、イギリスが得たのか、また双方が事実確認をしあったものなのかは分かりません」(同)
さらにもう1つ、重要な可能性を示唆しているという。
「今回明らかになったプーチン大統領の近況は、ヒューミントつまり人的情報をもとに得た情報だと推測されることです。側近たちが怖がってプーチンが孤立しているというのは、通信傍受だけで得られる情報では無いでしょう。恐らく米中央情報局(CIA)はクレムリンにスパイを配置することに成功していると見ています」(同)
スパイが復活
CIAのスパイがクレムリンにいることが明らかになったきっかけは、2016年に遡る。ロシアのアメリカ大統領選への介入とトランプ大統領との癒着疑惑が発覚したのだ。
「アメリカ大統領選で、トランプを当選させるべく、プーチン大統領の命令でサイバー攻撃を仕掛けたり、SNSを使ってヒラリーの評判を下げる投稿をさせているといったことが明らかになりました。秘密工作はプーチン大統領が指示したとの情報は、クレムリンにいたCIAのスパイが報告を上げたのです」(同)
その後の調査でも、ロシア政府の介入が確認された。
「政権誕生後には、トランプ大統領のプーチン寄りの姿勢が問題になりました。2017年にロシアのラブロフ外務大臣とキスリャク駐米大使がホワイトハウスを訪問した際に、トランプ大統領が、イスラエルが得た中東情報をロシア側に渡したことが明らかになりました。これを受けてCIAは、スパイから得た情報をトランプ大統領に流すことは、彼らの身に危険が及ぶと考えて、クレムリンのスパイを引き揚げさせることにしました。実際にモルドバ経由で出国させたことが分かっています。つまり、その後クレムリンにCIAのスパイがいないという状況になっていた。恐らくそれから数年の間に、何らかの方法でスパイを復活させたのでしょう」(同)
今回のウクライナ侵攻では、アメリカの情報収集能力の高さが際立っているという。
「ロシアの軍事侵攻を巡って、CIAの長官のウィリアム・バーンズ氏は、昨年11月2日にモスクワを訪れ、プーチン氏の右腕ともいわれるパトルシェフ安全保障会議書記に会っています。その時には既に、ウクライナ侵攻の可能性が高いことを把握していたのでしょう。侵攻前から情報公開を積極的に行ってきたことからも分かる通り、アメリカは何とかしてロシアの侵攻を止めようとしてきたようです。侵攻が始まってしまってからは、高い諜報能力を発揮し、各国協力しながらウクライナ軍を最大限支援しています」(同) 
●ロシア国内に異変か、プーチン氏に焦り? 国民へ声明「西側諸国のせい」 4/6
ロシアのプーチン大統領が国営テレビに登場しました。国民に向けて語られたこととは。
執務室で政府高官らとのオンライン会議に臨むプーチン大統領(69)。
アメリカやイギリスなどから「戦争犯罪人」として責任を問う声も上がるなか、何を語るのでしょうか。
プーチン大統領「西側諸国のせいでロシア産の天然ガスは値上がりし、物流も妨げられ、今ヨーロッパでは農業で使う肥料などが減っているが、これも彼らが自ら招いたことだ。経済やエネルギー分野における過ちをロシアに責任転嫁しようとし、さらにはロシアの海外資産を国有化しようとするなど『もろ刃の武器』だということを忘れてならない」
世界最大の小麦輸出国であると同時に肥料の主要生産国であるロシア。
日本など西側諸国の経済制裁によりエネルギー価格上昇と肥料不足が重なれば、世界中で深刻な食料危機などを引き起こす恐れがあると主張しました。
プーチン大統領「今後の輸出については慎重に検討する必要があります。特に我々に対し敵対的な政策を行う国々には、食料の供給を注意深く監視しなければならない」
この発言の裏には、ウクライナ侵攻に対する制裁措置でロシア経済に変化が生じていると専門家は指摘します。
ロシア政治に詳しい筑波学院大学・中村逸郎教授「一番、大きいのはスーパーマーケットで物を買った時にレシートが出ますよね。あのレシートが不足しているんですって。あとオリーブ油が足りない。バナナが足りない。身近なところで、やはり経済制裁が市民生活の中で効いてきているということでプーチン大統領かなり焦りが見えてきているなという印象です」
ロシアの独立系世論調査機関が先週、発表した最新の調査によりますと、プーチン大統領を「支持する」との回答は83%に達し「支持しない」は、15%でした。
また、ウクライナでの“特別軍事作戦”に関する調査でも81%が支持。
テレビやラジオの活動を停止させるなど言論統制を行い「解放」のための闘いと称し、侵攻を続けるロシア軍。
停戦協議が開かれる一方で、ウクライナ市民に起きている惨劇は強い衝撃を与えています。
国連・グテーレス事務総長「ウクライナの戦争は今、止めなければならない。平和実現のため真剣に交渉する必要があります。苦しんでいる人々や弱い立場の人たちを救うため、すべての権限を行使するよう求めます」
人権侵害を疑い国連が対応に乗り出す事態に。プーチン大統領は、一体、どのようにこの戦争を終わらせるつもりなのでしょうか。
今後の去就に注目が集まります。
中村逸郎教授「最初は首都キーウ(キエフ)を狙ったわけですけど手ごわいということで一気に首都陥落ではなく小規模な都市をピンポイントで狙っていくと。プーチン大統領が狙っていることは最終的にウクライナへの焦土作戦」
●プーチン直属の国家親衛隊でウクライナ参戦拒否が続出 4/6
ロシア領内のハカシア共和国でロシア連邦国家親衛隊に所属する兵士少なくとも11人が、ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻への参加を拒否したと報じられた。
国家親衛隊はロシア国内で主に警察的役割を担う大統領直属の軍組織で、ロシア連邦軍とは別の指揮系統に属している。シベリア南部に位置するハカシア共和国の地元メディア、ニューフォーカスによれば、11人は国家親衛隊の特殊部隊に属する兵士たちで、侵攻作戦に参加する意思がないことを上官に告げたという。
その後、兵士たちは国境付近の野営地から連れ出され、ハカシアに送り返された。軍幹部は「任務に不適任」と、この兵士たちを解雇しようとした。11人の兵士は、この決定に異議を唱える用意があるとしている。本誌は現在、情報確認を行っている。
ニューフォーカスによると、特殊部隊の隊員たちは、軍司令部がウクライナにおけるロシア軍の実際の損失をモスクワの中央政府から隠していると考えている。プーチンのいわゆる「特別軍事作戦」では、多くのシベリアの兵士が犠牲になっている。
特殊部隊は指揮官から、負傷者やウクライナでの日々の作戦について沈黙を守るよう命じられたという。隊員は家族にも詳細を話さないように指示された。
ロシア南部の都市クラスノダールでも国家親衛隊12人がウクライナの戦争への出動命令を拒否して解雇され、不当解雇訴訟を起こした。軍幹部らは今後、直面するかもしれない事態を「警戒し、怯えている」とニューフォーカスは指摘している。
国家親衛隊員12人を弁護するロシア人弁護士ミハイル・ベニヤシは、これまで弁護チームには約1000人から連絡があったと語った。
「戦いに行きたくない兵士は多い」というベニヤシのコメントは、4月1日付のフィナンシャル・タイムズに掲載された。
人権派弁護士パベル・チホフは、国家親衛隊のファリド・チタフ大尉と部下11人が2月25日にウクライナ侵攻への参加を拒否し、出動命令は 「違法」と主張したことを、テレグラムへの投稿で明らかにした。
「特別軍事作戦に参加するためにウクライナに入ることも、作戦の任務と条件についても、誰一人として知らされておらず、その結果、彼らは同意しなかった」とチホフは書いている。
ラトビアに拠点を置く独立系ロシア語ニュースメディア、メデューサによると、プーチンが2月24日に隣国ウクライナへの侵攻を開始して以来、ロシア国家親衛隊では少なくとも7人が戦闘で死亡しているという。
つい先日も、装備も整っていないのに、中央政府から明確な計画を知らされることなく、ウクライナのある地域に行くよう命じられた、とロシア兵が不満を訴える動画が公開されたばかりだ。
これまでのところ、ロシア軍の損失については様々な説があるが、ウクライナ政府は1万6000人にのぼると主張している。ロシア軍は指揮官も失っており、ウクライナ側の主張では、将官6人以上が死亡している。
●日本は第2のウクライナ? 米軍基地への攻撃や離島奪取というシナリオ 4/6
ロシアによるウクライナ侵攻から1カ月が過ぎた。情勢が進むにつれ、欧米諸国から大規模な軍事支援を受けたウクライナ軍の攻勢が顕著になり、ロシアはキエフ制圧の戦略目標をひとまず変更するなどプーチン政権の劣勢も目立つようになっている。しかし、米国はロシアが依然として軍の縮小や交渉のテーブルに付く姿勢が見せないとして警戒を続けている。一方で日本はウクライナにようにロシアから侵攻される恐れはあるだろうか。この1カ月間のウクライナ情勢を振り返ると、日本のウクライナ化を考えるにあたり2つのことが懸念されよう。
1つは米国の非介入主義だ。米国が世界の警察官から引退すると歴代の大統領が宣言して久しい。オバマやバイデンとトランプは性格や国家ビジョン、価値観などが大きく違い、これまで互いを罵り合ってきたが、米国はもはや世界のあらゆる問題に首を突っ込まない、他国の紛争にできるだけ軍事関与しないという部分では違わない。バイデン大統領はアフガニスタンからの米軍完全撤退を果たし(バイデンはオバマ政権で副大統領の時から撤退すべきと主張してきたが)、結局ロシアによるウクライナ侵攻でも直接軍事関与することはなかった。バイデン政権が対ロシアで実行しているのは厳しい経済制裁とウクライナへの軍事支援で、これも長年貫かれる米国の非介入主義の一環だろう。無論、プーチン大統領が核の使用をちらつかせたことから、ウクライナで米軍とロシア軍が衝突すれば第3次世界大戦に発展する可能性が現実味を帯びることになるが、たとえその可能性をプーチン大統領が言及しなくても非介入主義は貫かれたであろう。
非介入主義に対する支持は米市民の間でも根強い。米CBSニュースなどが2月に明らかにした世論調査によると、「ロシアによるウクライナ侵攻で米国が積極的な役割を果たすべきか」との問いに対し、「積極的な役割を果たすべきだ」と回答した人は全体の26パーセントに留まり、「最低限の役割に留めるべき」が52パーセント、「役割を果たすべきではない」が20パーセントと7割以上が否定的な見解を示した。バイデン政権は支持率に苦しみ、今年11月の中間選挙でも勝利が危ぶまれており、こういった市民の意見に真剣に耳を傾けなければならない情勢だ。ウクライナの戦局を巡る動向は別として、米国の非介入主義が対外的拡張を進める中国の動きをいっそう加速化させることを我々は常に念頭に置く必要があろう。
もう1つは米国のインテリジェンス能力だ。米欧州軍のウォルターズ司令官は3月29日、侵攻当初米国はロシア軍の能力を過大評価し、ウクライナ軍の能力を過小評価し、首都キエフが数日以内に陥落すると予測していたと米軍のインテリジェンス能力に大きな問題があったと明らかにした。アフガニスタンから米軍が撤退し、関係が良好ではないタリバンが実権を握ったことで、米国では対テロ分野の情報収集・分析能力も低下するとの懸念があるが、中国の核ミサイル戦略、人民解放軍の動きなどでも同様の懸念が現実となれば、台湾や尖閣など日本の安全保障が直接的に脅かされる問題となる。
ウクライナは陸で近隣諸国と接し、険しい山もないことから軍事的には侵攻しやすい。日本は島国でありウクライナ情勢はそのまま日本に当てはまるわけではない。また、中国とロシアが対米共闘で日本本土に侵攻してくるシナリオは非現実的だろう。しかし、上述のように、米国の非介入主義やインテリジェンス能力の低下は中国などの行動を誘発することから、米中対立の激化もあり、在日米軍基地への攻撃や離島奪取というシナリオは現実的問題として我々は考える必要があろう。今年に入ってのウクライナ情勢は、日本にとって大きなシグナルとなっている。
●ウクライナ市民殺害 中国メディア ロシア側の主張中心に伝える  4/6
ウクライナの首都近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったことについて、中国の国営メディアはロシア側の主張を中心に伝えています。
このうち、中国中央テレビは、「ロシア側は、市民が殺害されたとしてウクライナ側が公表した写真や映像は、ウクライナ政府による演技だとしている」と伝えているほか、「アメリカとNATO=北大西洋条約機構による新たな挑発だ」というロシア外務省の報道官の発言を紹介するなどロシア側の主張を中心に伝えています。
一方、中国共産党系のメディア「環球時報」は、6日の社説で「民間人に対する暴力行為はいかなる口実であれ、絶対に容認できず、ロシアとウクライナが停戦しないかぎり、人道的な悲劇は終わらない」としたうえで、「残念ながらウクライナ危機の元凶であるアメリカは、和平や協議を促す姿勢を見せるどころか、ロシアへの制裁強化やウクライナへの武器供与など両国の緊張を高めている」などとして、アメリカを批判しています。
●NATO事務総長「チェコ政府がウクライナに戦車を供与」  4/6
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長が、NHKの単独インタビューに応じ、チェコ政府がウクライナに戦車を供与すると明らかにしました。ロシア軍に対抗するため、より攻撃力が高い兵器の供与を求めるウクライナ側の要請に答えた形です。
ロシア軍が攻勢を強める中、ウクライナのゼレンスキー大統領は戦力で勝るロシア軍に対抗するため、NATO加盟国に戦闘機や戦車といった、より攻撃力が高い兵器の供与を求めています。
ただ、こうした兵器の供与はロシア側との緊張を高めるとの懸念があり、アメリカは先月、ドイツにあるアメリカ軍基地を経由して戦闘機をウクライナに供与するというポーランド側の提案を拒否していて、戦車の扱いが注目されていました。
こうした中、NATOのストルテンベルグ事務総長は5日、NHKの単独インタビューに応じ、「チェコ政府が、ウクライナに対して戦車を供与すると表明した」と明らかにしました。
チェコ政府は詳細を明らかにしていませんが、地元メディアはウクライナに供与するのは、旧ソビエト製の戦車を含む数十両の戦闘用の車両だと伝えています。
アメリカ・ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は4日、ウクライナへの軍事支援をめぐり、「同盟国が保有する兵器がウクライナのニーズに適している場合は同盟国からの供与を支援する」と述べていたほか、国防総省の高官も、「他国によるウクライナへの供与の決定は尊重する」と述べて、戦車の供与を支持する姿勢を示していました。
アメリカなど西側諸国は、今回の戦車の供与がロシアを過度に刺激しないか慎重に判断したものとみられ、ロシア軍がウクライナ東部で攻勢を強める中、ウクライナ側の要請を踏まえて軍事支援のレベルを一段引き上げた形です。
●北欧フィンランド 隣国ロシアに脅かされて  4/6
「私たちが何も恐れずに、平和な時代に生きているのは、特別なことなのかもしれない。私たちの親や祖父母の世代はこんなぜいたくは享受できなかった」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻のあと、フィンランドの市民がつぶやいたことばです。ロシアとの国境は約1300キロ、実に札幌ー福岡間の直線距離と同じくらいの長さです。
ロシアに脅かされてきた北欧の国では今、軍事的に中立の立場をとり続けるべきなのか議論が活発に。なぜなのでしょうか?
フィンランドとロシアの関係は?
人口が約550万のフィンランドに対し、ロシアは1億4000万人以上。フィンランドの歴史は、隣国の大国とどう向き合い、独立国家として生き残っていくのか模索する歴史でもありました。
1917年、ロシアから独立を果たしましたが、その後の第2次世界大戦では当時のソビエトから軍事侵攻を受けました。
“わが国の安全が脅かされる”
ウクライナ侵攻でも繰り返されてきた理由です。
この「冬戦争」「継続戦争」と呼ばれる2度にわたる戦いで、フィンランドは多くの犠牲を出しながらも、独立を守り抜きました。戦後は東西両陣営のはざまでソビエトからの影響力を一定程度受け入れながらも、中立政策をとります。
冷戦が終結したあとEUには加盟しましたが、軍事同盟であるNATOには加盟していません。フィンランドは常にモスクワを刺激しないよう、細心の注意を払い続けてきたのです。
ウクライナ軍事侵攻で方針転換?
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けてフィンランド国内で強まっているのは、NATOへの加盟を支持する意見です。軍事侵攻が始まった2月24日前後に行われた世論調査では「加盟支持」が53%と、初めて半数を超えました。
2月の下旬、マリン首相は「ウクライナにライフルや対戦車兵器を供与する」と発表。「紛争国に兵器を供与しない」という長年貫いてきた軍事的な中立を転換させたのです。
フィンランド国防省で政策立案を担当する部門のトップ、ヤンネ・クーセラ氏は、理由をこう説明しました。
フィンランド国防省 ヤンネ・クーセラ氏「仮に今後、フィンランドがNATO加盟を申請するとしたら、それはロシア自身の行動が原因だ。私たちに今できるのは、ほかのEU諸国と同じように行動することだ。将来フィンランドが厳しい状況に置かれたとき、NATOは私たちを助けてくれるだろう」
ロシア軍のウクライナ侵攻後、3月9日から11日に行われた調査では、NATO加盟支持が62%に達しました。
市民の受け止めは?
ヘルシンキの市民からは「ロシアは脅威であり、今後も脅威であり続ける」「これまでは中立がいいと思っていたが、結局、中立であり続けることはできない」などとNATOへの加盟を肯定的にとらえる声が聞かれました。
これまで、NATOは軍事同盟だとして否定的な見方も強かったといいますが、ロシアに対して加盟国が団結して防衛にあたっていると評価する見方が広がっているようです。
一方で「侵略を受けた歴史や、長い国境を接している現実を考えると、行動には気をつけるべきだ」「経済や社会などあらゆる面で、ロシアとは隣人としてのつながりがある。その関係を一気に変えるのは難しい」という複雑な思いを持つ人もいました。
ロシアへの警戒感の高まりを背景に、みずから有事に備えようという人が増えています。
国防省の関連団体が行っている「防衛訓練」は、参加希望が急増。
最も人気があるという射撃訓練の会場を訪れてみると、若者から年配の人まで、さまざまな人たちが銃で標的をねらっていました。
フィンランドには徴兵制度があり、多くの人は、慣れた手つきで銃を扱っていました。30年ぶりにこうした訓練に参加したという男性は「現在の緊迫した状況を考え、かつて習得した技術を確認しておきたいと思った」と話していました。
ロシアはどう反応?
フィンランドで高まるNATO加盟の議論に、ロシアは神経をとがらせています。
フィンランドが加盟することになれば、ロシアはNATOと国境を接することになり、いわゆる「緩衝地帯」はなくなります。
2月25日、ロシア外務省のザハロワ報道官は「フィンランドなどがNATOに加盟した場合には、軍事的、政治的に対応する必要がある」などと強くけん制しました。
さらに3月に入ってからも、ロシア外務省の高官はロシアの通信社の取材に対し「仮にNATOに加盟すれば、その関係は変わることになる。報復措置が必要になるだろう」と重ねて強調しています。
本当に“中立”から決別するのか?
フィンランド政府は、4月にも安全保障の現状についてまとめ、議会ではNATOへの加盟も含めた議論が交わされる見通しです。
NATOへの加盟は、軍事的な中立と完全に決別することを意味します。
フィンランド議会 アッテ・ハルヤンネ議員「安全保障をめぐる状況が劇的に変わる中でどう行動していくべきか、歴史的な転換点に立っている。答えは私たち自身で見つけていかなくてはならない」
フィンランド国防省 政策担当トップ ヤンネ・クーセラ氏「私のこれまでのキャリアの中で、現在のような不透明な状態は初めてだ。今後どんなヨーロッパになるのか、どんなロシアと隣人として向き合っていかなくてはならないのか。2022年が転換点となるのかどうかは、歴史が示すだろう」
フィンランドは中立を保ちながらも徴兵制度は維持し、ここ数年、国防費はGDPの2%近くに上ります。
民主的な国家と“十分な備えがあれば、ロシアであろうと、どんな国であろうと簡単に攻撃することはできない”ーそれが、フィンランドが学んできた教訓です。
「世界で最も幸福な国」とされるフィンランド。その裏には、大国ロシアと向き合う苦悩と、覚悟があります。
●ウクライナ ボロジャンカ 多くの遺体 “ブチャ上回る被害”  4/6
ロイター通信によりますと、ロシア軍が撤退した首都キーウから北西におよそ50キロにあるボロジャンカで5日、倒壊した建物から多くの住民とみられる遺体が見つかったということです。
配信した映像では、高層住宅が崩れ落ち、全体が黒く焦げているほか、地面にはがれきが散乱していて、その中には遺体の一部が映っています。
地元の警察は、この数日で複数の遺体を確認しているということですが、死者の数は分かっていないということです。
住宅が被害を受けた女性は、「ロシア兵たちは、家中を物色し、ありとあらゆるものをとっていきました。子どもの携帯電話も持って行かれました」と話していました。
住民の男性は、「何が起こったのか正確には分かりませんが、がれきの下にはまだ人々がいます。これは大惨事です」と話していました。
ウクライナのベネディクトワ検事総長は地元メディアの取材に対し、「最悪の人的被害だ」と述べ、多くの市民が殺害されているのが見つかっている、首都近郊のブチャを上回る被害が出ているとしています。
●ウクライナ大量虐殺の遺体を見る事はなぜこんなに苦しいのか 4/6
尊厳を奪われた遺体
早朝に目が覚めた時はスマホで新聞の電子版を読みながら時々Twitterをのぞく。ウクライナの首都キーウ近郊の都市ブチャなどでロシア軍が民間人を大量虐殺した疑いがあるというニュースは日本のテレビや新聞でも連日報じられているが遺体の映像は流れない。
ただ欧米のメディアは報道しており、それがTwitterに流れてくるのでつい目が行ってしまう。生存者のインタビューや記者の現場リポートなどを読んでいると気が滅入ってくる。道路のあちこちに放置された遺体。後ろ手に白い布のようなものでしばられて殺された人。尊厳を奪われた遺体を見るのは苦しい。
食欲がなくなり、その日の朝食はほとんど食べられなかった。あの遺体の映像が原因だと思う。ウクライナ危機が始まった時から戦争のニュースを見ることで強いストレスを受けることがある、という記事を読んだことがあり、確かに銃撃音を繰り返し聞くことはストレスになるだろうと思っていた。だが人の死を実際に目にすることはその比ではない。だから子供には絶対見せてはいけない、と思う。
戦争の実態は「死」
戦争や革命の取材で遺体を見たことはある。ただその時はアドレナリンがものすごく出ていたのか、意外に平気だった。30年前の話なので自分が若かったという事もある。ご飯もちゃんと食べられた。だが今回、平和な東京でスマホを見ながらリアルの戦争に接すると強烈なショックが襲ってきた。
ロシアの軍事侵攻に対しウクライナのゼレンスキー大統領は18歳から60歳の男性を出国禁止にする総動員令に署名し、国民に抵抗を呼びかけた。欧米を中心に多くの国がこれを支持し、戦闘には加わらないものの、武器の供与や人道援助、そしてロシアへの経済制裁などを行っている。
しかし戦争の実態とは平和を許されている私たちが目をそむけている「死」そのものだ。
大量虐殺という非難に対しロシア側は「ニセの映像が拡散された」と反論している。日米欧などはロシアへの経済制裁の強化を検討し、日本の林外相は「ICC(国際刑事裁判所)検察官による捜査の進展を期待する」と述べた。しかし制裁の効果は限定的であり、ICCがプーチンに対してたぶん何もできないであろうことは誰もが知っている。
ウクライナに尊厳ある平和は来るか
米国やNATOが参戦して第3次世界大戦に突入する気がない以上、ウクライナの徹底抗戦でロシアがさらに退却した時点で、少しでもウクライナにとって有利な条件で停戦するしか我々には選択肢はないのだろう。
軍備管理の第一人者である一橋大の秋山信将教授は日本記者クラブでの会見(4月4日)で「この数日、目にした映像から影響を受けた」とした上で、「Peace in dignity」(尊厳ある平和)という言葉を使った。秋山氏はただ紛争が終わるだけでない、そこに住んでいる人たちの尊厳がある平和でなければならない、と訴えた。ウクライナに「尊厳ある平和」は来るのだろうか。
●米が対ロ追加制裁、「重大な戦争犯罪」とバイデン氏 4/6
米国は対ロシア追加制裁を発表した。同国大手銀2行やプーチン大統領の娘2人らが対象。ロシア軍によるウクライナでの残虐行為疑惑を受けて制裁を強化する。
中国の張軍国連大使は5日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで武器を持たない民間人が殺害されていたことへの懸念を表明。ただ今回の事態に関してロシアのプーチン大統領を非難することは控えた。
イタリアはロシア産天然ガスの輸入禁止で欧州連合(EU)加盟国が一致するなら、同国も禁輸を支持すると表明した。現時点ではまだ禁輸で結束できていない。
6日のモスクワ市場でロシア・ルーブルは1ドル=81.16ルーブルを超えて上昇し、ウクライナ侵攻が始まる前日に当たる2月23日の水準を回復した。
バイデン米大統領は6日、ロシアがウクライナで行ったのは「重大な戦争犯罪」で、米国の制裁はロシア経済を粉砕しつつあると語った。
英国、ウクライナに装甲車供与も−タイムズ
英国はウクライナに装甲車を供与する計画を策定している。英紙タイムズが情報源を明示せずに報じた。防護警備車両マスティフなどが候補だという。また対戦車・対空ミサイルを含む追加軍事支援が数日中に発表される見通しだとした。
イエレン財務長官、米国はG20に出席せず−ロシアが排除されない限り
イエレン米財務長官は6日、ロシアの出席が認められている今年の20カ国・地域(G20)の会合に米当局者は参加しないと述べた。
イタリア、EU結束ならロシア産天然ガス禁輸を支持−首相
EU加盟国がロシア産天然ガスの輸入禁止で一致するなら、イタリアは禁輸を支持するとドラギ首相が表明した。
日本政府、ロシア産石炭の禁輸見送りを検討−毎日
日本政府はロシア産石炭の輸入禁止措置は見送ることを検討していると、7日付の毎日新聞朝刊が関係者の話を基に報じた。
IEA加盟国、石油備蓄から追加で6000万バレル協調放出−関係者
国際エネルギー機関(IEA)加盟国は石油備蓄から6000万バレルを追加で協調放出する。事情に詳しい関係者が明らかにした。バイデン米大統領はこれまでに1億8000万バレルの石油備蓄放出を発表しており、市場への供給をさらに増やす。
バイデン氏「重大な戦争犯罪」が行われた
バイデン米大統領は6日、ロシアがウクライナで行ったのは「重大な戦争犯罪」で、米国の制裁はロシア経済を粉砕しつつあると語った。「今起きているのは重大な戦争犯罪に他ならない。責任ある国家は団結し、犯罪人に責任を取らせなくてはならない」とワシントンで演説。米国とその同盟国がすでに導入した制裁でロシア経済は「今年だけで2桁」の縮小が見込まれるとし、「今後長らく経済成長できないよう窒息させる」と述べた。
戦争犯罪調査、数年を要する可能性−米国務長官
ブリンケン米国務長官は、ウクライナの一部からロシア軍が撤退する中で発生した戦争犯罪の調査は始まったばかりであり、数年を要する可能性もあると語った。ただ、「しかるべき者に確実に責任を取らせるよう容赦のない取り組みが行われると保証できる」と述べた。
EUの制裁協議、7日まで継続へ
対ロ追加制裁を巡る欧州連合(EU)の議論は続いており、加盟国大使による承認は早くても7日になりそうだと、EU外交筋が明らかにした。ロシア産石炭の輸入禁止を含む制裁の枠組みはほぼ合意されているが、技術的な問題を中心に話し合いが残っていると、この外交筋は語った。リトアニアのプランケビチウスEU大使はLRTラジオに対し「石油を巡る最大の戦いは次のパッケージに移る。その準備は直ちに始まる」と語った。
米政権、インドに警告−ロシアと協力なら深刻な結果
バイデン米政権はインドに対し、ロシアに協力しないよう警告した。ディース米国家経済会議(NEC)委員長が明らかにした。米国は、ロシアのウクライナ侵攻を巡るインドの反応の一部に「失望している」という。
ロシア債のCDS、1年以内にデフォルト陥る確率99%を示唆
6日のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場で、ロシア国債のデフォルト(債務不履行)に備える保証コストが急伸。同国が1年以内にデフォルトに陥る確率は過去最高の99%に上昇したことを示唆した。
ロシア・ルーブル、戦争開始後の下げ消す
6日のモスクワ市場での取引でロシア・ルーブルは1ドル=81.16ルーブルを超えて上昇し、ウクライナ侵攻が始まる前日に当たる2月23日の水準を回復した。EUと米国は協調して新たな制裁を打ち出す予定。ロシア財務省は国債のドル払いが受け付けられず、ルーブルで支払ったと発表し、同国はデフォルト(債務不履行)に近づいている可能性がある。
国連、人権理事会のロシアのメンバー資格停止を採決へ−AFP
国連総会は人権理事会のロシアのメンバー資格停止について7日に採決すると、AFPが匿名の当局者の情報として報じた。
独首相、ウクライナでの「戦争犯罪」を非難
ドイツのショルツ首相はロシア軍がウクライナで行った「戦争犯罪」を非難するとし、欧州は追加制裁でロシア政府に対する圧力を強め続けていくと表明した。「現在の制裁の強化に今一度取り組んでおり、5回目の制裁パッケージが議論の最終段階にある」と連邦議会で語った。
ロシア軍、遺体焼却で証拠隠滅−マリウポリ市当局
ウクライナのブチャでロシア軍が行ったとされる残虐行為に国際的な非難が集まったことを受け、ロシア政府は同国軍にマリウポリでは遺体を収集して焼却するよう指示したと、同市当局が発表した。市当局によると、ロシア軍の攻撃による同市の民間人の死者数は「5000人を大きく超える」恐れがある。このためロシアはトルコ主導の救護団やその他の団体が目指している民間人避難への許可をためらっている可能性があるという。
ロシアの野望は後退していない、ゼレンスキー氏主張
ロシアは「ウクライナ人全員を支配し、征服する」計画をまだ捨てていないと、ゼレンスキー大統領が6日、アイルランド議会での演説で主張した。
EU、ロシアの石油・ガス制裁が必要になる可能性−ミシェル大統領
欧州連合(EU)はロシアの石油やガスを制限する措置について、ある時点で検討が必要になる公算が大きいだろうと、ミシェル大統領(常任議長)が欧州議会で発言。「石油、ガスすらも遅かれ早かれ措置が必要になるだろうと思う」と述べた。
ロシア軍は農業・経済インフラを攻撃−ウクライナ
ロシア軍はこれまでに6つの穀物倉庫を破壊したが、農業インフラ全体の損傷は「重大ではない」とウクライナのビソツキー農業食料副大臣が述べた。ドニプロペトロウシク州の石油貯蔵施設などウクライナの経済インフラを標的とした攻撃をロシア軍は継続しており、夜間にも砲撃があったと、同州のレズニチェンコ知事が説明した。
インド外相、ブチャでの民間人殺害を非難−独立調査を支持
インドのジャイシャンカル外相は議会で、ブチャでの民間人殺害を非難するとともに、独立調査を支持すると表明した。
ブカレストでロシア大使館のゲートに車が激突・炎上−運転手死亡
ルーマニアの首都ブカレストで6日午前、ロシア大使館のゲートに車が激突し炎上、運転手が死亡した。警察が発表した。警察によると、運転手の身元は今のところ不明で、捜査が続いている。
中国主席、ウクライナに関し「聞く耳を持たない」−EU外交トップ
欧州連合(EU)と中国が1日に開いた首脳会談で中国の習近平国家主席は「聞く耳を持たない」ようだったとEUの外交トップ、ボレル欧州委員会副委員長(外交安全保障上級代表)が5日の欧州議会で証言した。オンライン形式で行われた首脳会議に参加したボレル氏は「中国はウクライナを巡るわれわれとの相違を無視しようとした」と説明した。
中国の国連大使、ブチャでの民間人殺害報道や画像「大変気掛かり」
中国の張軍国連大使は5日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで武器を持たない民間人が殺害されていたことへの懸念を表明した。各国には調査で責任の所在が明らかになるまでは判断を控えるよう呼び掛けた。張大使は国連安全保障理事会のウクライナ情勢に関するブリーフィングで、「民間人への攻撃は受け入れられず、あってはならない」と指摘。「ブチャでの民間人の死者を巡る報道や画像は極めて気掛かりだ」と述べた。
プーチン氏、欧米・NATOと既に「戦争状態」と認識−元オリガルヒ
ロシアのプーチン大統領の目から見れば、米国と同盟国が既にロシアと戦争状態にあるという認識を西側諸国は共有していないとミハイル・ホドルコフスキー氏が指摘した。経営破綻したロシアの石油会社、旧ユコスの元経営トップで、新興財閥(オリガルヒ)の代表的存在だったホドルコフスキー氏(58)はワシントンでのインタビューで、米国をはじめとする主要国は対ロシア制裁を強化し、ウクライナに武器と軍の訓練を提供しており、プーチン大統領はウクライナの国土で欧米と実質的に戦争状態にあると見なしていると語った。 

 

●ロシアの「戦争犯罪」5000件 ウクライナ検察が捜査―集団墓地に最大300遺体 4/7
ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外でロシア軍の撤収後に多数の民間人とみられる遺体が見つかった問題を受け、ウクライナ当局は6日、ロシアによる「戦争犯罪」として、捜査を続けた。ベネディクトワ検事総長は5日、約5000件について捜査していると発表。米欧とも連携し、責任を追及する構えを強めている。
ウクライナ最高会議(国会)の人権オンブズマンのデニソワ氏は5日にキーウ近郊のブチャを訪れ、長さ約14メートルの巨大な集団墓地に「150〜300体の遺体が埋められていた」と述べた。ロシア軍が拠点とし、住民を殺害した場所からは検視のために遺体が運び出されたが、現場には「血だまりが残っている」と説明。「全ての犠牲者の死の状況を明らかにする」と強調した。
デニソワ氏は、キーウ州の児童療養施設の地下から後ろ手に縛られた男性5人の遺体が見つかったことや、北東部スムイ州で民間人3人が拷問によって殺害されたことも明らかにした。ウクライナのメディアによると、南東部ザポロジエの州当局者も5日、ロシア軍が撤収した複数の村で最大20人の遺体が見つかったと述べた。
国際的な非難にもかかわらず、ロシアは民間人殺害への関与を否定し、ウクライナ側による「やらせ」などと主張している。ロシア大統領府は、プーチン大統領が6日、ハンガリーのオルバン首相と電話会談し「ブチャにおけるウクライナの政権の粗雑で恥知らずな挑発」について話し合ったと発表した。
●「戦争は何年も続く可能性」 ウクライナ首都周辺のロシア軍が完全撤退 4/7
ロシア軍によるウクライナの民間人への虐殺が指摘される中、NATO(北大西洋条約機構)の事務総長は、「戦争は何年も続く可能性がある」との見方を示した。
ロシア国防省が公開した、ウクライナ東部ルハンスクの映像。ウクライナ軍によると、ロシアは、東部ドネツクとルハンスクの領土を完全に支配する準備に集中しているという。
NATOのストルテンベルグ事務総長は6日、「この戦争は今すぐ終わらせなければならない」と強調する一方、何年も続く可能性を示した。NATO・ストルテンベルグ事務総長「現実的になり、何カ月、何年も続く可能性があることを認識しなければならない」また、アメリカの軍幹部も「戦争が数年続くのは確実」と述べ、危機感を募らせた。
一方、アメリカ政府高官は「首都キーウ周辺のロシア軍が完全に撤退した」との分析結果を明らかにした。ブチャでの市民殺害については、「計画的で意図的だ」と指摘した。多くの市民が殺害されたボロジャンカでは、数百人ががれきの下にいるとみられる。
●インテル、ロシアで事業を停止--「ウクライナに対する戦争を非難」 4/7
チップメーカーのIntelは米国時間4月5日、ロシアのウクライナ侵攻に対する措置を強化し、ロシアにおける事業をすべて停止したことを明らかにした。この動きは、同国の1200人の従業員に影響する。
Intelは3月3日に、ロシアとベラルーシの顧客に対する製品の出荷を停止していた。今回の事業全面停止は、ロシア軍が先週後半に撤退するまで占領していたキーウ近郊のブチャで、ウクライナ市民に対する戦争犯罪を行っていたことを示す証拠が明らかになった直後に発表された。
「Intelは引き続き国際社会とともに、ウクライナに対するロシアの戦争を非難し、平和への速やかな復帰を求める」と、Intelは発表の中で述べた。
隣国に対するロシアの戦争は、世界の事業概況に急激な変化をもたらしている。多くの国が経済制裁を科し、企業はロシアにおける事業を停止した。ロシア経済は、中国、ドイツ、米国ほどの規模や世界的重要性はないものの、同国はガス、石油、穀物の主要生産国の1つだ。
●学校もショッピングモールもがれきに…ウクライナのハリコフ 4/7
ロシアによる戦争犯罪の疑惑が問題になるなか、ミサイル攻撃にさらされるウクライナ第2の都市ハリコフで、社会問題の解決に取り組む市民団体代表のナタリア・ズバルさん(57)が、戦争犯罪の証拠を残そうと動画を撮り続けている。破壊された学校など一部は公開しており、ウクライナの検察当局とも協力。国際刑事裁判所(ICC)などで、ロシアの戦争犯罪が裁かれる日を待ち望んでいる。
「ちょっと待って。空襲警報が鳴っているから地下壕ごうに移る」。スマートフォンでのオンラインインタビューが始まるや、慌てて地下に身を潜めたナタリアさん。「ロシア軍は夜も砲撃や爆撃をするから、壕じゃないと眠れない」と笑い飛ばす。スマホ越しに、遠くから「ドン」と鈍い爆発音が3回聞こえた。
ロシアは2014年に南部クリミア半島にも侵攻しており「今回も攻撃するつもりだろうと思っていたから、食料や水を確保して備えていた」。そして、2月24日早朝に爆撃音で目覚めて以来、ミサイル攻撃が続く。「私は怖くないけれど、爆撃音は街全体に響くから、大きな音がするとみんな不安になる」と言う。街中のスーパーでは買い物もできるが、物資は滞りがちだ。
そして、3月8日。自宅から200メートルほどのショッピングモールが爆撃された。「1年前にできたばかりで、映画やボウリング場、子供向けの遊戯施設、カフェもあってお気に入りだった」と言う。ジュネーブ条約などの戦時国際法は、民間人への攻撃や生活に不可欠なインフラへの攻撃を明確に禁止している。ロシア軍の行動は戦争犯罪に当たると批判されているが、ロシアは常に攻撃を否定する。だから記録しなければいけないと思った。「もしかしたら、何かが変わるかもしれない」と。
以来、弁護士やジャーナリストらとともに、爆撃された学校や住宅地、ガスパイプラインなどを撮影し、ロシア軍のミサイルによる被害を証明するため破片を集め、目撃者と話し続ける。ごく一部のみ動画投稿サイト「ユーチューブ」でも公開。ロシアの戦争犯罪を捜査するウクライナの検察当局から協力を求められ、情報も提供している。
難しいのは承知のうえだが、いずれICCなどで自身の証拠が採用され「ナチスの戦争犯罪を裁いたニュルンベルク裁判のように、ロシアが裁かれる日が来る」と語った。
もちろん市民が犠牲になった現場も訪れるが、直接遺体を見ていないのは不幸中の幸いかもしれない。首都キーウ周辺では、今月3日以降、ロシア軍が市民を大量虐殺した疑惑が判明。もちろん「胸が張り裂けそう」だが、「ロシアは(第2次)チェチェン紛争やシリアへの軍事介入などでも無差別攻撃を繰り返してきたから、驚きはなかった」と言う。
「ロシアという国に言いたいことなどない。ただ消滅すればいい」と吐き捨てた。そして、世界には―。「ロシアを恐れず、自由のために立ち上がってほしい。彼らはミサイルで攻撃するし、市民を虐げるけど、地上ではウクライナ軍に負ける弱い連中なのだ」
ハリコフから逃げようと思ったことはない。「自分なりの方法で街を守る」と、夫と義母とともに街に残り続ける。
●伊政府、ウクライナ戦争受け成長予想引き下げ 4/7
イタリア財務省は6日公表した経済財政文書(DEF)で、ウクライナでの戦争が国内経済に重しとなっているとして、今年の成長見通しを下方修正した。財政赤字目標については、従来目標を据え置いた。
財務省は今年のGDP伸び率見通しを3.1%とし、昨年9月に予想した4.7%から引き下げた。2023年については2.4%と予想、従来予想の2.8%から引き下げた。
財務省の見通しを閣議で承認した後、ドラギ首相は記者団に対し、ウクライナ戦争が下方修正を招いたことは明白だと説明。信頼感が大幅に低下し、消費者や企業の先行き見通しに陰りが出ていると語った。
財務省は第1・四半期のイタリア経済がおそらく0.5%のマイナス成長だったものの、第2・四半期に回復すると予想。ウクライナ関連の課題が増えているとし、戦争の長期化すればインフレ率や経済成長に大きな影響が及ぶと指摘した。
また、ロシア産ガス・石油が禁輸され、深刻なエネルギー不足に陥るという最悪のシナリオでは、イタリアの成長率は今年が0.6%、来年は0.4%にとどまるとの見通しを示した。
今年の財政赤字の目標は、対GDP比5.6%で維持。ドラギ首相は政策が変わらない場合の財政赤字が対GDP比5.1%と見込まれているため、この目標を承認したと説明した。
これにより、政府には今年95億ユーロ(103億8000万ドル)の財源余地が生まれるが、このうち45億ユーロはエネルギー価格抑制策に充てられる予定で、残りの50億ユーロは追加支出や減税などに使えることになる。
来年の財政赤字も従来目標と変わらず、対GDP比3.9%の見通し。24年には同3.3%に改善し、25年には欧州連合(EU)の財政ルールの上限である3%を下回ると予想されている。
このほか、財務省は消費デフレータを用いたインフレ率は今年が5.8%、来年が2.1%と予想。
今年の公的債務の対GDP比率は147%と予想、従来予想の149.4%から引き下げた。来年については145.2%に低下すると見込んだ。
●プーチン氏の目標は依然「ウクライナ全土支配」、戦争は数年継続も 4/7
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は6日、現在のロシアはウクライナ東部に攻撃を集中させているものの、ウクライナ全土の支配を目指すプーチン大統領の目標が変化したことを示す情報はないと指摘した。
ベルギー首都ブリュッセルで行われるNATO外相会合を前に記者団に語ったもので、ウクライナでの戦争は数年間続く可能性があるとも警告した。
ストルテンベルグ氏は「ウクライナ全土を支配し、国際秩序を書き換えようとするプーチン大統領の野心に変化があったことを示す情報は目にしておらず、長期戦に備える必要がある」と指摘。「現実的な姿勢を取り、この戦争が何カ月、あるいは何年もの長期にわたって続く可能性を認識する必要がある」としている。
NATO加盟国の外相は6、7両日に協議を行い、対ウクライナ支援の強化について話し合う。
ウクライナ政府は既に欧米から供与された防衛システムに加え、戦車や戦闘機の提供も求めている。
ストルテンベルグ氏はNATOが供与する兵器の種類について詳細には踏み込まないとしつつも、重要なのは加盟国が行っていることの全体であり、そこには軽兵器に加え一部の重兵器も含まれると説明した。
また、ウクライナ戦争は終結の時期にかかわりなく欧州に長期的な安全保障上の影響をもたらすだろうと警鐘を鳴らし、「プーチン大統領は自らの目的を達成するためには軍事力の行使もいとわないことが分かった。このことが何年も先までの欧州の安全保障の現実を変えた」と述べた。
●ロシアの“虐殺”に見える戦争プロパガンダ、日本人が見落としている現実 4/7
虐殺を「フェイク」と言わない日本人の歪み
“狂気の独裁者”プーチン大統領とロシア軍の「蛮行」に対して、国際社会から激しい怒りの声が上がっている。
キーウ近郊のブチャでロシア軍によって住民数百人が虐殺されたという。ウクライナによれば、ロシア兵は子どもにまで拷問を行って、遺体の中にはバラバラに切断されてしまったものもあるという。また、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」によれば、女性のレイプ被害も報告されている。
NATO(北大西洋条約機構)は、これらの非道な行いはすべてロシアの責任だと非難、アメリカのバイデン大統領もプーチン大統領を「戦争犯罪」と糾弾して、法に基づいて処罰されるべきだと訴えた。
これを受けて日本国内でも、「プーチンに正義の裁きを!」とロシアへのさらなる厳しい制裁を求める声が多くなっている。あれだけ残虐な行為を目の当たりにすれば人として当然の反応だが、一方でちょっと意外な気もしている。
今回の虐殺について、ロシアは「西側諸国のフェイク」だと反論をしているが、そのような主張をされる方が日本国内でも、もうちょっといるかなと思っていたからだ。
誤解なきように断っておくと、筆者はブチャの虐殺がフェイクだなどと主張をしたいわけではない。ただ、「マスゴミ」という言葉があるように、メディアの大本営発表を懐疑的に見ている方が世の中にはたくさんいらっしゃる。ワクチンにまつわる国際的陰謀論を信じている方もいる。欧州が中心となっている世界的な脱炭素キャンペーンを「インチキ」だと攻撃している人も少なくない。
そのように疑り深い人たちが多いのだから、今回の「虐殺」のニュースに対しても、「本当のところはどうなのかな」くらいの反応があるかと思ったのだが、もしそんなことを少しでも口走ろうものなら、「日本人の恥め!ウクライナの皆さんに土下座して謝罪しろ」なんて感じで袋叩きにされそうなムードさえある。
今の雰囲気には個人的にはちょっと驚いている。日本には、西側諸国が「虐殺」と断定して現代でも戦争犯罪として語り継いでいることを、「フィクション」「でっちあげ」と全否定していらっしゃる方がたくさんいるからだ。
何を指しているのかはもうお分かりだろう。そう、南京事件である。かつての自国による虐殺は全否定するのに、なぜロシアの虐殺は素直に納得できるのだろう。
日本の「虐殺」は否定するのに今回は鵜呑み?
ロシアの「戦争犯罪」を厳しく糾弾する西側諸国が、日本の「戦争犯罪」をどのように捉えているのかがよくわかるのが、イギリス国営放送BBCニュースの<南京大虐殺で、多くの中国人救ったデンマーク人 没後36年目の顕彰>(2019年9月2日)だ。EUの問題を主に取材しているジャーナリストのローレンス・ピーター氏の認識を以下に引用させいただく。
<旧日本軍はその後、6週間にわたって南京で暴挙を繰り広げた。捕虜や市民を拷問し、レイプし、殺害した。この虐殺による死者は30万人に上るとみられている。被害者の多くは女性や子どもだった。レイプされた女性は約2万人に上るとされる。多くの中国人目撃者に加え、シンドバーグ氏のような現地にいた西洋人も、この残虐行為を記録している。>
その「記録」の中で代表的なものが、1937年12月15日に「南京大虐殺」の見出しで「日本兵が中国人の一群を処刑する光景を目撃した」などと報道したシカゴ・デイリー・ニューズや、同年12月18日に「捕虜全員を殺害 日本軍 民間人も殺害」と報じたニューヨーク・タイムズである。
しかし、日本の「南京事件はフィクション」派の方たちはこれらの報道はみな「フェイクニュース」であって、民間人を虐殺したのはすべて中国兵である、という主張をされている方もいらっしゃる。
これらが事実かどうなのかということは、ここではちょっと脇に置く。
筆者が言いたいのは、このように欧米諸国の「日本による虐殺」認定をここまで全否定して、懐疑的に見ている人たちが山ほどいるというのに、今回のウクライナ戦争に関しては、人が変わったように、欧米諸国の主張や報道を鵜呑みにしているという違和感である。
「そんなもんロシアが120%悪いからだろ」という怒声が聞こえてきそうだが、アメリカを中心とした有志連合軍がイラクに侵攻した時も、アメリカは「大量破壊兵器がある」とうそをついたことがわかっている。あの時も日本は「イラクが120%悪い」とコロッとだまされて、イラクへの侵攻を応援してしまった。
繰り返しになるが、ウクライナがうそをついているなどと主張しているわけではない。歴史の教訓を学べば、もうちょっと多様な意見が出てきてもいいはずなのに、世の中的には「ロシアの残虐行為を許すな」の一色になっていることにモヤモヤしているだけだ。
「戦争中のニュースはうそばかり」という現実を忘れた日本人
これは、日本人が「平和ボケ」になってしまったことが大きいのではないかと個人的には考えている。日本人にとって、戦争というものはテレビやネットで“観戦”をして、「もっとロシアに厳しい制裁しないと!」「いや、ウクライナへの支援が大事だろ」なんて感じでヤジを飛ばしていればいいだけのものになっている現実がある。
この平和は何ものにも代え難い尊いものではあるのだが、その弊害で、80年前の日本人や、戦火の中にある人々にとっては当たり前の危機意識がごっそりと欠如してしまっている。
それは一言で言えば、「戦争中のニュースはうそばかり」という現実だ。
戦時中の日本は大本営発表で、国民にフェイクニュースばかりを伝えていたというのは有名の話だが、実は「このニュース、怪しいな」と懐疑的に見ている人はたくさんいたことはあまり知られていない。人の口には戸は立てられないので、戦地から戻った人や、軍の出入り業者などから、厳しい戦局は漏れ伝わっていた。当時の特別高等警察の資料でも、「新聞はうそばかり」なんて落書きや怪文書がたくさん見つかっている。
もちろん、これは日本だけの話ではない。ニュース記事の事実関係の真偽を確認するファクトチェック団体・フルファクトの編集者でもあるジャーナリストのトム・フィリップス氏は「とてつもない嘘の世界史」(河出書房新社)のでこう述べている。
<よく知られていることだが、戦争中は信頼できる情報を得るのが至難のわざだ。「戦場の霧」という言葉が意味するのは、戦地から送られてくる詳細の多くが、最良のときでも不確実で信用ならないことである>
では、なぜ戦争になるとフェイクニュースが氾濫するのかというと、これが「武器」だからだ。今回ウクライナ戦争では、SNSでの情報戦が話題になっているように、「ロシア兵が逃げ出した」とか「原発を攻撃している」などの戦局を伝えるようなニースというのは、時に自国民を奮い立たせて、時に同盟国の支援を呼び込む。そして時に敵国の兵士を恐怖・混乱させて戦意を喪失させることができる。
要するに、自国に有利なニュースを流すことは、ミサイルや銃弾よりも有効な武器になるのだ。
その中でも最も敵国にダメージを与えることができるフェイクニュースが、「残虐行為」である。
歴史上、敵の「残虐行為」を知らしめることは戦術のひとつ
敵が身の毛もよだつような残忍なことをしていれば、最前線の兵士たちは「聖戦」を掲げて士気は上がる。また、国際的な批判にさらして孤立させることができるからだ。その典型的なケースが、第一次大戦中にイギリスの情報機関が仕掛けたと言われる、ドイツの「死体工場」である。前出の「とてつもない嘘の世界史」から引用させていただく。
<詳細がつねに変わっても、基本の話はつねに同じだった。ドイツ人が死体を束ねて前線から戻り、死体を工場に運び、そこで死体を加工して煮詰め、石鹸、火薬、肥料などさまざまな種類の製品にした。この工場には「偉大なる死体搾取施設」という名称さえあったことが、「タイムズ」紙の記事に書かれた>
昔の人はピュアだから、そういうデマを簡単に信じちゃったんだなと思う人もいるだろうが、実はこの手法は現代でもそのまま通用することがわかっている。それがほんの30年前にあった「ナイラ証言」である。
イラクがクウェートに侵攻した1990年、ナイラという少女がアメリカの議会で、イラク軍兵士が新生児を死に至らしめていると涙ながらに証言した。この衝撃的な告発によって、国際社会は今のロシアに対するそれのように、「イラクに制裁を」の大合唱となり、多国籍軍が派遣され、湾岸戦争へと突入していく。
しかし、程なくして「ナイラ」などという少女が存在しないことが判明する。クウェートから業務として、アメリカ国内の反イラク感情を喚起させるように請け負った世界的PR会社ヒル・アンド・ノウルトンによる「仕込み」だったのである。
両国が「戦争プロパガンダ」を駆使していることに気づいているか
このいわゆる「戦争プロパガンダ」というのは、湾岸戦争以降の戦争や国際紛争でもたびたび確認されている。アメリカの「大量破壊兵器」の捏造もそのひとつだ。
大砲から航空機、そして原爆から無人ドローンという感じで戦争のツールはどんどん進化しているが、戦争というものの悲惨さ、醜さの本質は変わらない。それと同じで、「戦争プロパガンダ」の本質は昔から何も変わっていない。
ベルギーの歴史学者アンヌ・モレリはあらゆる戦争に共通するプロパガンダを解明するとして、「戦争プロパガンダ10の法則」(草思社)で以下のようにまとめている。
1.「われわれは戦争をしたくない」
2.「しかし敵が一方的に戦争を望んだ」
3.「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
4.「われわれは領土や覇権のためではなく偉大な使命のために戦う」
5.「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
6.「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
7.「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
8.「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
9.「われわれの大義は神聖なものである」
10.「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」
いかがだろう。プーチン大統領やゼレンスキー大統領が国際社会や自国民に対して発しているメッセージと怖いほど重なってこないか。
近年起きた戦争や国際紛争の指導者たちの発言を見ても同じことがいえる。もっとさかのぼれば、大日本帝国のリーダーたちも同じようなことを言っていた。
今、ウクライナやロシアがSNSを用いて互いに情報戦を仕掛けているというが、ツールが最新になっているだけで、その内容は「10の法則」に合致するものばかりだ。
どちらが正しくて、どちらが間違っているという話ではない。ましてや、ブチャで起きた惨劇が「戦争プロパガンダ」だなどと主張したいわけでもない。
どんな国でも戦争というものに突入して、そこで勝つためにはこのようなプロパガンダを駆使しており、そこでは時にフェイクニュースも平気で垂れ流しているという醜悪な現実がある。そういう「情報戦」に日本人があまりにも無防備ではないか、ということを指摘したいだけだ。
「情報戦」に無防備ということは、簡単に他国のプロパガンダに踊らされてしまう「お人よし」な部分があるということでもある。
これまで見たように、欧米では戦争中にうそをつくのが当たり前で、今はプーチンをぶっ潰すような威勢のいいことを言っているが、自分たちの国が損をしそうになれば、あっさりと前言を翻してロシアと手打ちにすることだってあり得る。
気がついたら、「アジアのリーダー」なんておだてられて、西側諸国に忠犬のようにくっついていて日本だけがバカを見るなんてこともなくはない。
いい加減そろそろ、「アメリカ様にくっついていれば日本は安全」みたいな「平和ボケ」から脱却すべきではないか。
●プーチン大統領「ウクライナの挑発だ」市民殺害 責任問う声  4/7
ウクライナの首都近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったことについて各国の間からロシアの責任を厳しく問う声が相次ぐ中、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナ政府の挑発だ」と一方的に主張しました。アメリカとイギリスはロシアに対する新たな制裁を発表するなど圧力を強めています。
首都周辺“ロシア軍地上部隊 完全に撤退”米国防総省
アメリカ国防総省の高官は6日、ウクライナの首都キーウ周辺に展開していたロシア軍の地上部隊が完全に撤退したという見方を初めて示しました。また北部のチェルニヒウ周辺に展開していた部隊も完全に撤退したとしています。ロシア軍は軍事作戦の重点を東部に移し攻撃を強めていて、ロシア国防省は6日、東部のハルキウや南部ミコライウなどに駐留するウクライナ軍に燃料を供給していた施設をミサイルで破壊したと発表しました。
米・英は新たな制裁発表
一方、ロシア軍が撤退したキーウの北西の町、ブチャでは多くの市民が殺害されているのが見つかり、欧米各国の間からは戦争犯罪だとしてロシアの責任を追及する声が広がっています。アメリカとイギリス政府は6日、ロシアに対する新たな制裁を発表し圧力を強めています。ロイター通信によりますと、ブチャだけでなくキーウから北西およそ50キロにあるボロジャンカで倒壊した建物から多くの住民とみられる遺体が見つかりました。ウクライナのベネディクトワ検事総長はブチャを上回る被害が出ているとしていて、今後被害の実態がさらに明らかになる可能性があります。
プーチン大統領「ウクライナ政府の挑発だ」
ブチャで大勢の遺体が見つかったことについてロシア側は「ウクライナ側による、ねつ造だ」などと主張していますが、ロシア国防省は6日「ボロジャンカや北東部スムイ州のコノトプなどで同様の挑発が行われている」としてウクライナ側が各地でねつ造を繰り返していると主張しました。またロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は6日、ハンガリーのオルバン首相との電話会談の中でブチャで起きたことはウクライナ政府による挑発だと述べたということです。ロシア軍の関与を否定するとともに、住民が殺害されたのはウクライナ側のねつ造だと一方的に主張したものとみられます。
ロシア「期待よりもペース遅い」 停戦交渉は停滞か
こうした中、ここ最近、目立った進展が伝えられていない停戦交渉についてロシア大統領府のペスコフ報道官は6日「作業のプロセスは続いているが、われわれの期待よりもはるかにペースが遅い。長い道のりが待っている」と述べたうえで、ウクライナ側が事態を混乱させていると非難し、交渉は停滞しているとみられます。
●女性捕虜の「頭髪そり上げ尋問」「男性の前で全裸に」…ロシア軍の虐待 4/7
ウクライナ最高会議(国会)の人権オンブズマンは5日、侵攻を続けるロシア軍が捕虜のウクライナ軍女性兵士を虐待していたと指摘した。虐待を受けた人数は明らかにしていないが、今月初めに、ロシアとの捕虜交換でウクライナに帰還した15人とみられる。
露軍が、女性兵士をロシア西部に連行した際、頭髪をそり上げて何度も尋問していたほか、男性の前で全裸にさせるといった性的虐待も加えたとしている。
人権オンブズマンは、国連や全欧安保協力機構(OSCE)に、捕虜への人道的処遇を定めたジュネーブ条約に違反すると訴えた。
捕虜の処遇を巡っては、ウクライナ側も、捕虜のロシア兵の個人情報を明かしたり、ロシア兵を脅し、その様子をSNSで公開したりしていたとして、国際人権団体から同条約に違反すると指摘されている。
●ロシア軍がキーウなどから完全撤退、東部に再投入か… 4/7
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナ情勢を巡り、米国防総省高官は6日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)と北部チェルニヒウ周辺に集結していた露軍部隊が完全に撤退したとの分析を記者団に明らかにした。部隊は東部地域に再投入される可能性が高いとみており、ウクライナ政府は、東部の住民に即時避難を呼びかけた。
高官によると、撤退した部隊は隣国ベラルーシに入ったほか、一部はロシアに戻っているという。高官は、東部に再投入するための補給や整備には「それほど長い時間はかからない」との見通しを示した。再投入されれば東部で攻撃がさらに激化する可能性があり、英BBCによると、ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は「(今後)戦火に見舞われ、死の脅威に直面する」として、住民に警戒と速やかな退避を訴えた。
高官はまた、露軍が撤退した地域では、地雷が敷設された可能性があるといい、除去に一定の時間がかかるとの見方を示した。
露軍が一時占拠したキーウ近郊ブチャでは民間人とみられる多数の遺体が見つかり、キーウ近郊ボロジャンカなど他の地域でも民間人の被害が次々と明らかになっている。
タス通信によると、ブチャでの民間人殺害について、プーチン露大統領は6日、「ウクライナ政府による粗野で冷淡な挑発行為」と述べ、露軍の関与を否定した。ハンガリーのビクトル・オルバン首相との電話会談で語ったもので、ブチャの民間人殺害についてプーチン氏の発言が伝えられるのは初めてとみられる。
一方、露軍による包囲と激しい攻撃が続く南東部マリウポリの市議会は6日、露軍が「移動式の火葬施設」を稼働させたとSNSで明らかにした。露軍の侵攻により死亡した地元住民らの遺体を、地元の協力者が集めて焼却しているという。
ブチャでの民間人殺害を受け、露軍の「戦争犯罪」に非難が高まっていることから、市議会は「ロシアの最高指導部が露軍による犯罪の証拠隠滅を命じた」と批判している。
ウクライナ国営通信によると、露軍による包囲開始から1か月以上が経過したマリウポリでは、少なくとも住民5000人以上が死亡したとみられている。依然約10万人が取り残されているとみられ、戦闘がさらに長期化すれば犠牲者が増えるのは必至だ。
●英外相「プーチンの戦争マシンを破壊」…米英がロシアに追加制裁  4/7
米国のバイデン政権は6日、ロシア最大手銀行ズベルバンクの資産凍結や米国との取引禁止などを盛り込んだ新たな追加制裁を発表した。英国も6日、ロシア産石炭の輸入を今年末までに止める追加制裁を打ち出した。ウクライナに侵攻したロシア軍が多数の民間人を殺害した疑いが強まったことを踏まえ、先進7か国(G7)はロシアへの圧力をさらに強める方針だ。
バイデン大統領は6日の演説で、「戦争犯罪の責任を追及するため、同盟国は団結しなければならない。ロシアの経済的な孤立をさらに深める」と訴えた。
米国はズベルバンクに対し、既に米金融機関との取引を禁じていたが、米国内の資産を凍結し、米国の企業や個人との取引も禁止する。ロシア4位で民間銀行最大手のアルファバンクも制裁対象とし、米国と取引できなくする。
ズベルバンクは、世界最大級の国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT、本部・ベルギー)からの排除対象からは外れていたが、締め付けをより厳しくする。
米国からロシアへの新規投資の全面禁止や、米金融機関を通じた債券の償還や利払いの禁止も盛り込んだ。米財務省はドル建てロシア国債の支払いを認めず、ロシアが債務不履行(デフォルト)に陥る可能性が高まっている。
個人制裁の対象も拡大し、プーチン氏の娘2人、セルゲイ・ラブロフ外相の家族、メドベージェフ元大統領らを指定した。米国内の資産が凍結される。
英政府も米国と歩調を合わせた。既に表明していたロシア産石油製品の段階的な輸入停止に加え、石炭の輸入も今年末までに止める。天然ガスもその後、速やかに輸入停止する。来週には石油の精製に必要な機器の輸出を止め、石油製品の生産と輸出に打撃を与える方針だ。
金融制裁も強化し、ズベルバンクとモスクワ信用銀行の資産を凍結する。プーチン政権を支える新興財閥(オリガルヒ)の8人を新たに資産凍結などの制裁リストに加える。
英国のエリザベス・トラス外相は声明で、「新たな制裁でプーチン(大統領)の戦争マシンを破壊する。我々はウクライナが勝利するまで手を止めない」と強調した。
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は5日、石炭の輸入停止やロシア大手行との取引停止など新たな制裁案を示した。6〜7日に開かれる加盟国の大使級会合で合意を図るが、制裁対象などを巡り意見集約は難航している。
米英の対露追加制裁のポイント
米国
・ロシアへの新規投資禁止
・最大手銀行ズベルバンクの米国内の資産凍結、米企業や個人との取引禁止
・プーチン大統領の娘2人、ラブロフ外相の家族らを制裁対象に追加
・主要な国有企業との取引禁止
英国
・ロシア産の石油、石炭、天然ガスの輸入を停止
・ズベルバンクの英国内の資産を凍結
・オリガルヒの8人を制裁対象に追加
●ウクライナの数万人、ロシア国内の「収容所」に連れ去られた… 4/7
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日、国連安全保障理事会にオンライン参加し、世界の平和と安定に責任を持つはずの安保理が常任理事国ロシアの拒否権行使で機能していないと批判、改革の必要性を強調した。
大統領は「拒否権が『人々に死をもたらす権利』とならないよう、国連のシステムは直ちに改革されなければならない」と訴えた。
首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで多くの民間人の遺体が見つかったことについては「露軍と命令を下した者が戦争犯罪で直ちに裁かれなければならない」と責任追及を求め、国際法廷の設置も提案した。
これに対しロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は「露軍に関する大量のうそを聞いた」と民間人殺害への関与を否定し、「我々は民間人や民間施設を砲撃していない」と強弁した。
会合ではロシア批判が相次いだ一方、米国の国連大使はウクライナ市民数万人が露国内の「収容所」に連れ去られたとの「信用できる報告」があると明かした。
●プーチン大統領 なぜ高支持率? 独立系世論調査機関幹部が分析  4/7
ロシアにある独立系の世論調査機関「レバダセンター」で長く所長を務め、ロシア社会について独自の分析を続ける社会学者としても知られるレフ・グドゥコフ氏(75)がモスクワ市内でNHKのインタビューに応じました。
“国営メディアで意図すり込み”
この中でグドゥコフ氏は軍事侵攻から1か月がたった先月下旬「レバダセンター」が行った世論調査でロシアのプーチン大統領の支持率が83%と、およそ4年ぶりに80%を超えた背景について「支持する人の多くは高齢者や地方に住む人たちなどで、彼らの唯一の情報源となっているのが政権のプロパガンダを伝える国営放送だ」と述べ、多くの人が国営メディアで伝えられることが事実だと政権の意図をすり込まれているためだと指摘しました。
「非ナチ化」で軍事侵攻を正当化
そのうえで「国民は戦争を望まず恐れていた。だからウクライナの『非ナチ化』ということばを作る必要性が出てきた。実際、ナチズムやファシズムということばを使って相手を批判するやり方はロシア社会をまとめるうえで効果的だ。こうした表現や、うそを並べ立てた大衆の扇動がプーチン氏の政策を支持させるために不可欠だとみているのだろう」と述べ、プーチン大統領がウクライナのゼレンスキー政権を一方的にナチス・ドイツになぞらえ「非ナチ化」の必要性を繰り返し強調するのは、国民向けに軍事侵攻を正当化するためだと分析しました。
プロパガンダと情報統制の結果…
グドゥコフ氏によりますと、ウクライナで2013年、ロシア寄りの政権への市民の抗議活動が起きる前はEU=ヨーロッパ連合の加盟を目指すウクライナに対して「ロシアは干渉すべきでない」という意見が75%に上ったのに対して「武力も含めて断固阻止すべき」という回答は22%だったということです。しかし「『アメリカが主導する形でウクライナの東部や南部でロシア系住民の安全が脅かされている』というプロパガンダが語られると状況は一変した」と述べ、プーチン政権によるプロパガンダと情報統制の結果、政権が「特別な軍事作戦」と称するウクライナ侵攻を事実上受け入れる世論が形成されたと指摘しました。
プーチン大統領の考えの原点「怖いからこそ尊敬される国家だ…」
またプーチン大統領のこうした考えの原点についてグドゥコフ氏は「ロシアのファシズムだ」と表現し「強制力や権力の集中に依存し特殊機関の職員を社会の要職に配置することで経済や教育、宗教まで管理を強化しようとしている」と分析しました。そしてプーチン大統領が旧ソビエトの情報機関KGB=国家保安委員会の出身であることを強調したうえで「軍の司令部などと手を組みおそれられる強力な国家を夢みている。怖いからこそ尊敬される国家だ。『恐怖による支配』こそが国家を形成すると信じていて『核兵器を保持している』ことが世界から尊敬される理由になると考えている」と指摘しました。
「プーチン大統領は明らかに目が曇ってしまっている」
そのうえで「彼の最大の過ちは第2次世界大戦以降の国際関係の構造全体に実際に危機をもたらしたことだ」と批判し「プーチン大統領はウクライナへの憎しみと異常なまでの執着によって明らかに目が曇ってしまっている」と述べ、今後さらに攻撃を続けていくことに懸念を示していました。
「レバダセンター」とは
「レバダセンター」は2003年、リベラルな社会学者のユーリ・レバダ氏が設立しました。レバダ氏はソビエト時代末期に発足した政府系の世論調査機関で活動していましたが、志を同じくする同僚とともに独立してレバダセンターを立ち上げ、政府から財政支援などを受けることなく独自の世論調査や分析を続けています。
日本や欧米の政府や団体とも協力して調査を行っていて、2006年にレバダ氏が死去したあとは社会学者のレフ・グドゥコフ氏が所長を引き継ぎました。ロシアの政治経済や社会問題などを幅広く扱い、10年ほど前からは研究報告の中で「ロシアは腐敗した権威主義的な国になりつつある」といった政権批判も展開するようになりました。
レバダセンターは2016年、国外から資金を得て「政治活動」に関わっているなどとして、プーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され厳格な収支報告を求められているほか、発表資料に「外国の代理人」であることを明示するよう義務づけられるなど圧力を受けています。
これに対してレバダセンターは政権に批判的な姿勢を変えることなく世論調査や分析を続けていてグドゥコフ氏自身、去年5月に所長を退任したあとも研究部長として国内の社会問題を鋭く分析しリベラルな論客として活動しています。
●EUの盟主から一気に転落…プーチンを信じて親ロシアを続けてきたドイツ 4/7
「あなた方は経済ばかり!」ゼレンスキー氏から猛批判
3月17日、ゼレンスキー・ウクライナ大統領がドイツ国会でオンラインスピーチをした。その直前、キーウでミサイル攻撃があったことで開始が遅れ、ようやく氏の顔がモニターに映し出されると、安堵(あんど)した議員たちが盛大な拍手。ところが、スピーチが始まったら、そこにはドイツに対する強烈な批判が盛り込まれていた。
「ガスパイプラインの建設は、(ロシアの)戦争準備だと散々言ったはずだ。しかし、あなた方の答えはいつも、『経済、経済、経済! 』」
そういえば、確かについ最近までショルツ独首相はノルドストリーム2の中止を迫られると、「あれは民間事業なので……」と言い逃れをしていたものだ。
ノルドストリームはその成り立ちからして、社民党の虎の子プロジェクトだ。とはいえ、現在、ドイツがエネルギーで窮地に陥ってしまった責任は、もちろん現社民党政権だけにあるわけではない。国の内外からのすべての警告を無視して、ここ10年、ロシアからのエネルギー輸入を急速に拡大し続けたのは前メルケル政権だ。
ノルドストリーム、脱原発…シュレーダー政権の遺産
メルケル氏のモットーは、「自由市場の原則に基づいて交易を深めていけば、どんな国にもおのずと民主主義が根付き、しかも、互いの依存度が増すので争いは鳴りを潜める」というもの。「日本国民は戦わず、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼しよう」という日本の精神と、少し似ている気がしないでもない。いずれにせよこの論を掲げて、ドイツ政府はロシアのみならず、昨今では中国との結託をも大いに正当化してきた。
1本目の海底パイプライン「ノルドストリーム」が開通したのは2011年のことだ。これは05年、まもなくメルケル氏に政権を明け渡さなければならないかもしれないと悟った当時のシュレーダー首相(社民党)が、選挙の直前に、かなりグレーな手法で締結に持ち込んだ世紀の大プロジェクトだった。
脱原発=ガスしか頼れないと分かっていた
シュレーダー氏は選挙での敗北後、政治から退き、運営会社ノルドストリームAGの幹部となり、今では(今もというべきか! )ロシア最大の石油会社のロスネフチの重役まで兼業している。言うなればプーチンの忠実なる僕(しもべ)だ。
実はドイツの脱原発政策の青写真を引いたのも、1998年に政権をとったシュレーダー政権だった。シュレーダー氏はその頃すでに、将来、原発がなくなれば、いくら再エネが増えようが、頼りになるのはガスしかないということが分かっていた。つまり、脱原発とガスパイプライン建設には整合性がある。
そのシュレーダー氏、今や社民党の目の上のたんこぶどころか、ドイツ国民の鼻つまみ者になっているが、いまだにプーチン大統領との「男の友情」は続いているらしく、3月11日、モスクワに飛んだという。ただし、社民党の誰もがシュレーダー氏の訪露など知らないと言っている上、その後の経過も一切報じられず、モスクワでの写真もなく、はたしてプーチン大統領に会ったのかどうかも分からない。
唯一の証拠(? )は、彼の韓国人妻が、モスクワの夜景を背景にして写っているインスタグラムの写真。目を閉じ、両手を合わせ、まるで聖母マリアのようなこの写真には、さすがのドイツ人も失笑を通り越し、嫌悪感をあらわにした。この女性はシュレーダー氏の5人目の妻で、ちなみに歳の差は26歳。
EUで一人勝ち状態だったが…
いずれにせよ、2011年以来、シュレーダー氏の1本目のパイプラインのおかげで、安価なガスがロシアからドイツへ直結で送られてくるようになり、ドイツ経済は大いに潤った。さらに、ユーロ圏で金融政策が統一されていたことが幸いし、調子づいたドイツは、ドイツにとっては安くて有利な為替でどんどん輸出を伸ばした。そして、いつしかEUの中で一人勝ちと言われるようになったが、その一人勝ちをさらに強化しようとして計画されたのが「ノルドストリーム2」だった。
しかし、「ノルドストリーム2」には米国だけでなく、ほぼすべてのEU国が反対だった。第一の理由は、もちろん、ロシアに対するエネルギーの過度な依存だが、その他、ウクライナやポーランドなどは、ノルドストリーム2が開通すれば、自国を通っていた陸上パイプラインがご用済みとなるので反対、デンマークは自国の領海の生態系が乱されるとして反対した。トランプ大統領が就任すると、ノルドストリーム2の建設はついに中断するに至った。
ドイツの政策を完全に狂わせたウクライナ侵攻
ところが、その後任であるバイデン大統領は、政権に就くや否やメルケル前首相に巧みに懐柔されたらしく、止まっていた工事は速やかに再開。ちなみに、メルケル前首相はプーチン大統領とは常に仲が悪そうに装いつつ、最終的に彼女が採った対ロシア政策は、すべて独ロ互助だった。
メルケル氏といえば、EUの牽引役、民主主義の保護者など、日本では名君として名前が知られているが、実は、彼女の過去の行動には、不可解なことが山ほどある。それについては、拙著『メルケル仮面の裏側』(PHP新書)に詳細に記したので、興味のある方はお手に取ってくださればうれしい。
この後、ドイツはあらゆる反対をものともせずに突き進み、パイプラインがようやく完成を見たのが2021年の9月。12月にはガスまで注入され、ゴーサインを待つだけとなっていた。昨今、ドイツが輸入していたガスのロシアシェアは55%を超えていたが、このパイプラインが開通したなら、シェアは70%以上に増えるはずだった。それで安心していたらしく、昨年の暮れ、ブラックアウトの危機まで囁(ささや)かれる中、ドイツは6基残っていた原発のうちの3基を果敢にも止めた。
ところが、ロシア軍のウクライナ侵攻でその計画は覆った。そして、ドイツのエネルギー政策は完全に破綻した。
ガス不足、料金高騰、難民、インフレの四重苦
ドイツは今や、ガスの不足、高騰、そして、ウクライナからの難民、インフレの四重苦に襲われている。しかし、その苦境につけこむがごとく、EUの多くの国はロシアのエネルギー・ボイコットを叫ぶ。ロシアのガスは、ロシアに毎日4億ユーロ(約542億円)をもたらしているため、これを断とうというのが彼らの主張だ。
ただ、本当にボイコットすれば、実は皆、困るが、一番困るのはやはりドイツだ。ドイツが輸入しているロシアガスは、量が量なのでそう簡単に他に切り替えられそうにない。それどころかドイツには、液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地さえ1基もない。これまで安いガスがあったため、誰もそんなものには投資しなかったからだ。
つまり、今、ガスが止まれば、ドイツの産業は間違いなく瓦解する。だったらドイツに、「ボイコットは無理です」と言わせようというのが、おそらくEUの国々の胸の内だ。
これまで肩で風を切っていたドイツのことを腹立たしく思っているEU国は、そうでなくても多い。今やEUサミットは、ドイツにとっては針のむしろ。「ディ・ヴェルト」紙はこれを、“カノッサの屈辱”に喩(たと)えたほどだ(1077年、ローマの王であるハインリヒ4世が、ローマ教皇に破門の解除と赦しを乞うため、雪の中、カノッサ城の門の前で3日間も立ち続けたという話)。国際社会とは怖いところだ。
フランス、イタリアが画策する「ユーロ圏の共同債」
さて一方、このまたとない機会に乗じて、フランスとイタリアが、かねてどうしてもできなかったことをやろうと張り切っている。
3月10日、マクロン仏大統領がホストとなり、臨時のEUサミットがベルサイユ宮殿で開催された。フランスとイタリアの懸案はEUの財政改革。つまり、EUの財政の統一である。それが実現すれば、EUが共同で借金できるようになる。南欧の経済悪化組にとってはまさに千載一遇のチャンスであるが、ドイツにしてみれば、金遣いの荒い破産寸前の親戚にクレジットカードを託すようなもの。国民の抵抗も大きい。
ユーロ圏の金融政策を司るのは欧州中央銀行だが、現在、総裁は、仏クリスティーヌ・ラガルド氏で、前総裁のマリオ・ドラギ氏は現イタリア首相だ。彼らが手綱を握る欧州中央銀行の金融政策は、以前より非難され続けていたが、インフレが進み、ハイパーインフレの危険まで囁かれている今でさえ、彼らはマイナス金利を変えようとはしない。
これではインフレを抑制できないことは自明の理だが、かといって引き締めに切り替えれば、フランス、イタリアなど南欧の財政悪化組がデフォルトを引き起こす危険が増す。つまり、ジレンマでにっちもさっちも行かないというのが、ユーロ圏の金融政策だ。これではお金はますます財政安定国ドイツやオランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマークなどに流れていく。
「尻拭いは困る」と反対したメルケル首相だったが…
この流れを変えることに成功したのが、2020年のコロナ債だった。コロナで甚大な被害を受けた国々は、自力での復興は不可能だということで、その救済に充てるためのEUの共同公債のアイデアが、初めて浮上した。イタリアが持ち出したアイデアで、赤字国のリーダーであるマクロン大統領が、「これほどEUの連帯にふさわしいものはない」と絶賛。しかし、ドイツは当初、財政規律を厳しくしてきた自分たちが借金国の尻拭いをするのは困るとして、他の財政健全国を束ねて反対に回った。
ところが、この時もメルケル首相は突然豹変し、20年7月に開かれたEUの臨時サミットでは、マクロン大統領と共にコロナ復興基金の設立を呼びかけた。総額7500億ユーロのうち、3900億ユーロは返済なしの給付金なので、イタリアなどは沸いた。一方、前述の財政健全国は、メルケルにはしごを外された形となった。くしくも、この決定は7月、ドイツが欧州理事会の議長国となった途端に行われた。
ただ、この時のコロナ復興基金は、総額の9割が「欧州グリーンディール」や「デジタル戦略」との抱き合わせになった。すなわち、融資にせよ、給付にせよ、コロナ救済資金の申請条件は、ただの復興ではなく、温暖化対策やデジタル化に資する使い道でなければならなかった。
欧州のパワーバランスが崩れつつある
そして、おそらく今回、それと同じような公債が、マクロン・ドラギ組によって、インフレショックを和らげるといったような名目で持ち上がる可能性が高い。そして、この動きは今回こそ、EUを間違いなく財政統一の方向に誘導すると想像される。そうなれば、ドイツの経済優位は次第に崩れていくだろう。
もともと、社民党と緑の党はEUの財政統一には賛成の立場をとっており、20年にEUコロナ債を率先して作ったのも、当時、財相であったショルツ氏だった。なお、政権党の一角を担う自民党は、本来ならば財政規律を強化することを公約としていたが、事態はまさにその反対方向に進もうとしている。
いずれにせよ、今、ドイツの立場は極めて弱い。「ドイツはロシアに依存してはいない」という主張が脆くも崩れ、ノルドストリーム2が事実上停止に追い込まれ、さらに、もうしばらくはロシアのガスを買い続けることを、EUに大目に見てもらわなければならない。つまり、この追い詰められたような立場が続く限り、ドイツが共同債に強く反対することはできない。
ロシアのウクライナ侵攻は、思いもよらぬヨーロッパの力学の転換をもたらすかもしれない。
●ウクライナがブチャで「挑発行為」 ロシア大統領が非難 4/7
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は6日、ハンガリーのオルバン・ビクトル(Viktor Orban)首相と電話会談し、多数の民間人が遺体で見つかったウクライナの首都キーウ郊外ブチャ(Bucha)でウクライナ側が「粗野で冷淡な挑発行為」を働いていると非難した。
ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)によると、プーチン氏は会談で、ロシアとウクライナ間の協議の状況や、ブチャでのウクライナ政権の「粗野で冷淡な挑発行為」についての見解を共有した。
ブチャについては先週末、ロシア軍撤退後の市内に遺体が散乱している様子を各メディアが報道。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は、ロシア軍が多数の市民を殺害したと非難している。
ロシア国防省は、ウクライナ北東部のコノトプ(Konotop)とトロスティヤネツ(Trostyanets)、キーウ近郊のボロディヤンカ(Borodyanka)やカチュジャンカ(Katyuzhanka)で、ウクライナ当局が「同様の挑発行為」を準備していると主張している。
一方、オルバン首相は会談後の記者会見で、プーチン氏に対して即時停戦を促し、フランス、ドイツ、ウクライナの首脳とハンガリーの首都ブダペストで会談するよう提案したことを明らかにした。
また、ハンガリーはロシア産天然ガスの対価をルーブルで支払う用意があると表明した。ルーブル建て払いはロシアが要求しているもので、欧州連合(EU)加盟国としては初の対応となる。
●なぜロシア人はウクライナ戦争の真実を見ようとしないのか 4/7
ロシアの最も信頼できる独立系調査機関のレバダセンターが発表した世論調査によると、「戦争効果」でプーチン大統領の支持率が押し上げられているようだ。
2月に71 %だった支持率が最新調査では83%まで上昇している。厳しい経済制裁、戦場での膨大な数の死傷者、世界のメディアによる非難の大合唱の下でも、いまプーチンは過去最高水準の支持率を獲得しているように見える。
どうして、こんなことが起きるのか。ロシアの有名テレビ司会者(現在は国外に脱出)は、プーチンを支持するロシア人の心理をこう説明する。
「私たちは自分の着る服を自分で作ることはしない。それは、服のメーカーを信用しているからだ。ロシア人は、ニュースに関しても、作り手、つまり政府が提供するものを信じている。プーチン体制下の22年間、ロシア人は基本的に1つの情報源からしか情報を得ていない」
とはいえ、今日はインターネットでさまざまな情報を入手できる時代だ。どうして、ロシア人は真実を見ないのか。
長時間労働と家事や育児に追われる大多数の国民にとっては、テレビをつけて、そこで報じられている情報を信じるほうが楽なのだ。戦争が始まって以来、ロシア政府は独立系のメディアや政府に批判的なメディアを徹底的に抑え込んできた。
2021年にノーベル平和賞を受賞したドミトリー・ムラトフが率いるノーバヤ・ガゼータ紙も活動停止に追い込まれた。しかし、この種のメディアはそもそも多くの読者を獲得していたわけではない。多くは既に国外に逃れたリベラル派が熱烈に支持していただけだ。
国民の圧倒的多数は、政権の振り付けどおりの報道を行う国営テレビ以外に目を向けようと思わない。
もう1つ否定できない現実がある。人間は自分が信じたいものを信じる性質があるのだ。
ロシアが虚偽情報を流していると批判するウクライナ人のジャーナリストも「戦時に人々の士気を高めるためには、都市伝説が必要」だと述べている。ロシア軍機を次々と撃墜したとされるウクライナ空軍の戦闘機パイロット「キーウ(キエフ)の幽霊」のストーリーはその典型だ。
ロシアで暮らしていたときに私が理解できなかったことの1つは、第2次大戦の対独戦勝記念日(5月9日)を大々的に祝うことだ。
独ソ戦では2000万人以上が犠牲になり、これをきっかけにソ連のスターリン独裁体制がいっそう強化された。こうした点を考えると、この記念日を派手に祝うことは不可解にも思えるが、ロシア人のアイデンティティーは侵略への抵抗と密接に結び付いていて、その歴史が半ば神格化されている。
ロシア人は、このアイデンティティーを覆す情報をわざわざ探し出す必要性を感じていない。人間は、自分が理想と考えるアイデンティティーに沿った情報を見聞きしたいものだ。その結果、今回の戦争でも「わが国はウクライナ人を抑圧から解放しようとしているのだ!」と信じている。
しかし、政府に都合の悪い情報を徹底的に抑え込もうとすれば情報統制に亀裂が生じる。プーチン政権の「特別軍事作戦」が順調に進んでいるのであれば、どうしてあらゆる情報が規制されるのかと、ロシアの人々は疑問を持つようになるだろう。
既に25 歳未満の国民の過半数は軍事作戦に反対している。この層は、政府が発する情報以外の情報に最もアクセスしている人たちだ。情報統制に亀裂が生まれれば、いずれはそこから水が噴き出す。
人々にとって真実を見ることは愉快でないかもしれないが、いやでも目に入るときはあるのだ。 
●米国が新たな経済制裁を発表 4/7
米国が6日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアの最大手銀行の資産凍結など、新たな経済制裁を発表した。また、ウクライナ国防省が6日に公開したドローン映像に、チェルノブイリ原子力発電所周辺に残されたロシア軍のざんごうなどが映っており、ロシア兵が被ばくした可能性があるという。ウクライナ情勢を巡る日本時間7日などの動きをまとめた。
チェルノブイリ原発周辺の映像公開 露軍のざんごうか
ウクライナ国防省は6日、ロシア軍が占拠していたチェルノブイリ原発の近くをドローンで撮影した映像を公開。露軍が掘ったとされる複数のざんごうや車両が移動した跡が映り、周辺に滞在したロシア兵が被ばくした可能性を示している。
米国が新たな経済制裁 露の最大手銀行の資産を凍結
米バイデン政権は6日、ウクライナに侵攻したロシアへの新たな経済制裁を発表。ロシア最大手の国有銀行ズベルバンクの資産を凍結し、米国の金融機関や企業との取引を停止させる。
国連総会、人権理のロシア資格停止を採択へ
国連総会(193カ国)は7日、ウクライナ情勢をめぐる緊急特別会合で、国連人権理事会におけるロシアの理事国としての資格を停止する決議案を採決にかける。主導する米国によると、採択される可能性が高い。採択されればロシアは国際機関での席も失うことになる。
露財閥によるテレビ局設立の経緯 米捜査で明らかに
ロシアのプーチン政権に近いとされる新興財閥(オリガルヒ)の有力者が2015年以降、米保守系のFOXニュースの元ディレクターを勧誘し、ロシアやギリシャ、ブルガリアで放送局設立を進めていたことが、米司法当局の捜査で明らかになった。
マリウポリに支援物資届けられず ゼレンスキー氏が非難
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、ロシア軍の包囲が続く南東部の港湾都市マリウポリで、依然として人道支援物資を届ける許可がロシア側から下りていないことを明らかにした。ゼレンスキー氏は、残虐行為が「世界に露見することをロシアは恐れている」と強く非難した。
ウクライナ副首相、東部住民に避難呼びかけ
ロシアによる侵攻が続くウクライナのベレシチューク副首相は6日、東部ドネツク、ルガンスク両州と北東部ハリコフ州の一部の住民に対し、早期に安全な地域に移るよう呼びかけた。東部では近くロシア軍の大規模な攻勢が予想されるが、攻撃が続く中での避難は難航している。
●ウクライナ侵攻「少なくとも数年 」米で長期化懸念も  4/7
ロシアによるウクライナ侵攻、アメリカ政府からは長期化する可能性を指摘する発言が出始めています。
5日、議会下院の公聴会でアメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は「ウクライナでは今も地上戦が続いているがこれはロシアが起こした非常に長期化する争いだ。10年かかるかはわからないが、少なくとも数年であることは間違いない」と述べました。
そして「NATO=北大西洋条約機構やアメリカ、それにウクライナを支援するすべての同盟国や友好国は長い間、関与することになるだろう」と指摘し、ウクライナや周辺地域の安定に向けて関係国は長期にわたる関与が必要になるという認識を示しました。
アメリカ政府からは東部のルハンシク州とドネツク州で戦闘が長期化するという見方が出ているほか、ロシア軍が仮にこの二州を制圧しても戦闘を終わらせないのではないか という見方も出始めています。
●ウクライナ戦争長期化の様相 「出口戦略」見えず 4/7
ロシアがウクライナ侵攻の所期目標を達成できず東部戦線に集中しつつある中、バイデン米政権は戦争が長期化するとの見通しを強めている。多数の民間人殺害が判明し、ウクライナ側も抗戦の意を強めているとみられ、停戦交渉の行方は不透明だ。ロシア、ウクライナともに「出口戦略」を見いだせない様相といえる。
「この戦争は長期間続くかもしれないが、米国はウクライナを支え続ける」。バイデン大統領は6日、支持者の集会で語った。
米政権は、首都キーウ(キエフ)制圧とゼレンスキー政権転覆を短期間で達成するプーチン露大統領の「所期目標」が、ウクライナの軍・国民の強靱(きょうじん)さと、西側諸国の結束を前に失敗に終わったと断定している。
露軍は親露派勢力が実効支配する東部ドンバス地域の戦闘に目標をシフトしたが、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「次の段階は数カ月かもっと長くなるかもしれない」との見通しを示した。
ウクライナ全体を不安定化させるためキーウや南部オデッサ、西部リビウなど主要都市へのミサイル攻撃も継続するとみられるが、「ロシアの中長期的な目標は何か、はっきりしない」と国防総省高官は漏らす。
ウクライナ側はキーウ州全域を奪還し、露軍がいったん制圧した南部ヘルソンでも反撃を強め、東部でも激しく戦う。キーウ近郊のブチャで発覚した民間人の殺害を契機に、ロシアの「戦争犯罪」の責任追及を迫る声も国際社会で高まる。しかし、ウクライナにとっても、好転した戦況と国際的な対露圧力でロシアから譲歩を引き出すには、ほど遠いのが現実だ。
国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏は米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で、第一次大戦で独仏戦が双方の所期目標を達成できず長期化した例を引き合いに、「どちらも勝ち方が分からない戦争に立ち往生し、双方が受け入れ可能な和平の輪郭を見いだすのが難しい」との見解を示した。
バイデン政権は「軍事的目標、交渉の目的を定めるのは彼らだ」(サリバン補佐官)とし、米国は可能な支援を継続するが、出口戦略を決めるのはウクライナ側との立場を崩さない。
隣国ルーマニアのバセスク前大統領の外交顧問を務めた米政策研究機関・中東研究所のユリア・ジョジャ氏は本紙取材に「ウクライナが戦争から抜け出す唯一の可能性はロシアに打ち勝つこと」と指摘する。最低でも侵攻前の領土を取り戻し、ロシアが撤退を考えざるをえない状況に持ち込まない限り、攻撃を再開する過去の侵略パターンが繰り返されるとの見方だ。
だが、プーチン氏は5月9日に第二次大戦対独戦勝記念日を控え、初期の軍事的失敗を隠す「成功物語」(米政府高官)を国民に示そうとしているとみられる。そのため手段を選ばず大量破壊兵器使用にエスカレートするリスクが一部で懸念されている。
●ロシアのルーブル安阻止でウクライナ戦争の財源流出=米高官 4/7
アディエモ米財務次官は7日、ロシアが西側諸国の制裁措置に対抗してルーブル安を阻止する取り組みによって、ウクライナでの戦争に振り向ける財源が流出しているとの見方を示した。
また、新たな制裁はロシアの防衛産業を対象としており、材料や部品の入手が困難になるだろうと改めて述べた。
ロシアのシルアノフ財務相は7日、財務省および中央銀行がルーブルの変動を抑え、より予測しやすくするための対策に取り組んでいると述べた。インタファクス通信が報じた。
●ガソリン・電気代も高騰。ロシア・ウクライナ情勢で懸念されるエネルギー問題 4/7
コロナ禍からの景気回復で石炭・液化天然ガスの需要が世界的に高まり価格が高騰した影響で、電気料金が値上がりしている。そこにロシア・ウクライナの情勢の緊迫化が加わり、エネルギー問題に拍車をかけている状態だ。日本国内の大手電力会社は、今年5月の電気料金の値上げを発表し、過去5年間で最も高い水準になっている。
室温管理が必要な食品加工業者やハウス栽培の野菜農家なども燃料費高騰の影響を受け、経費が数百万円単位で上乗せされることもありそうだ。加えて小麦や水産物の販売価格も値上げ傾向が続いている。
コロナ禍で困窮する日本の食産業に追い討ちをかける値上げラッシュの背景には何があるのだろうか。電気料金、ガソリンなどの燃料費の高騰の要因を探るとともに、エネルギー問題が野菜や資材、運送費の値上げにどう関係しているのか紐解いていく。
電気料金の値上げは9カ月連続 過去5年において最も高い料金に
東京電力をはじめとする大手電力会社10社の5月分の電気料金は過去5年間で最も高くなっている。東京電力は、4月から146円の値上げに踏み切り、全国で最も値上げ率が高い結果となった。
各電力会社が4〜5月にかけて、値上げした金額については以下の通りである。
[ 平均的な家庭の一カ月あたりの電気料金・2022年4〜5月にかけての値上がり ]
北海道電力 8,379円 57円増 / 東北電力 8,536円 105円増 / 東京電力 8,505円 146円増 / 中部電力 8,214円 138円増 / 北陸電力 7,211円 24円増 / 関西電力 7,497円 24円増 / 中国電力 8,029 円 24円増 / 四国電力 7,915 円 24円増 / 九州電力 7,221円 60円増 / 沖縄電力 8,847 円 24円増
東京電力の今年5月の一カ月あたりの電気料金は8,505円で、前年同月比では24.6%増、1年間で1,683円も値上がりしている。
法人契約の場合は家庭用電力のプランと料金形態が異なるため、どれくらい値上がりするのか一概にはいえないため、ここでは家庭用電力のプランを元に一カ月あたりの飲食店の電気代をシミュレーションしてみよう。
仮に昨年5月の一カ月あたりの電気料金が10万円で、今年度も同じ電力を使用したとすると、今年5月の請求額は25.6%増の125,600円になる。単純計算ではあるが、一カ月あたり25.6%増、つまり25,600円の電気代が上乗せされると、年間の電気代は30万円ほど増えることになる。
電気料金の値上がりによる経営逼迫(ひっぱく)を懸念する企業では、電気料金プランの見直しが進められており、夜間料金が安いプランや電気とガスのセット割が適応される契約に切り替えるなどの対策を立ててコスト削減に努めているところもある。
ガソリンが174円に値上がりする原因とは? 13年ぶりの高値水準を記録
電気料金の値上げは、燃料の輸入価格の上昇が影響している。それと同じ要因で国内のガソリン価格が13年ぶりの高値水準を記録した。国の委託で石油製品価格を調査している石油情報センターが3月30日に公表したデータによると、3月28日のレギュラーガソリンの店頭現金小売価格は1リットルあたり174円で、依然として価格高騰が続いている。
原油高高騰の長期化を受けた政府は、石油元売会社に1リットルあたり25円を上限に補助金を支給し、石油価格高騰の抑制する処置を下しているが、状況改善の目処は立っていない。これを受け政府は、原油価格上昇に関する特別相談窓口を各地に設置し、原油価格上昇の影響で、経営困難となる中小企業者に対しての資金繰りや経営に関する相談を受け付ける体制を整えた。
エネルギー問題でハウス栽培野菜の価格も高騰 毎月の負担額が150万円以上増えている企業も
こうした原油価格の高騰は、食品卸売業や食品加工業にも影響している。
食品関連の企業では品質維持のため、室内の温度管理が行われている工場も多いが、その燃料である重油価格が高騰していることから、毎月の負担額が150万円以上増えている企業も見られるという。
また、原油価格の高騰は室温管理が必要なビニールハウス栽培のコストアップにもつながっている。ワンシーズンで200万円以上の燃料費がかかる農家も珍しくないことから、たとえわずかな燃料費の値上がりでも経営に大打撃を受けてしまうのだ。
こうした複合的な要因が重なることで、食品業界でも価格改定がやむを得ない状況になっており、消費者からも家計への影響を実感しているとの声が上がっている。ロシア・ウクライナ情勢による様々な価格高騰が、日本の食卓にも少しずつ影をおとしてきているようだ。
●ロシアのウクライナ侵攻、日本国内での影響は? 生活にも直撃! 4/7
2022年2月24日以降、ロシアによるウクライナに対する大規模な軍事行動が続いています。1カ月以上にわたる戦闘が続くなか、徐々に日本国内においても影響がみられつつあります。そこで、帝国データバンクは、ウクライナ情勢に対する企業の見解について調査を実施しました。
ロシア・ウクライナ情勢、企業の50.3%で業績へマイナス影響を見込む
ロシア・ウクライナ情勢により自社の業績にどのような影響があるか尋ねたところ、『マイナスの影響がある』と見込む企業は50.3%と、約半数にのぼりました。その内訳は、「既にマイナスの影響がある」が21.9%、「今後マイナスの影響がある」が28.3%となっています。
他方、3割近くの企業で「影響はない」(28.1%)としたほか、5社に1社は自社業績への影響について「分からない」(20.7%)としていました。
一方で、『プラスの影響がある』と見込む企業は0.9%とわずかとなっています。しかし一部企業からは、「小麦の消費が減り、米の消費が増えればプラスの影響になる」(米麦卸売)や「ロシア製品との競合がなくなるため、自社としてはプラス要因」(一般製材)といった声があがっていました。
※『プラスの影響がある』は「既にプラスの影響がある」と「今後プラスの影響がある」の合計、『マイナスの影響がある』は「既にマイナスの影響がある」と「今後マイナスの影響がある」の合計
※小数点以下第2位を四捨五入しているため、内訳は必ずしも一致しない
ガソリンスタンドや貨物運送などで既に悪影響を受けている
とりわけ業績へ「既にマイナスの影響がある」企業を主な業種でみると、ガソリンスタンドやプロパンガス小売などの「燃料小売」が77.6%、「石油卸売」が71.2%となりました。
そのほか、軽油などの燃料が必要となる「一般貨物自動車運送」(48.9%)、石油由来の塗料やめっきなどの原料が高騰する「金属製品塗装等」(40.4%)が4割台に。ロシア産の木材不足が生じている「木材・竹材卸売」(38.0%)、小麦などの穀物製品の価格上昇などが影響する「飲食店」(34.7%)、「総合スーパー等」(31.9%)、「農・林・水産」(31.3%)が3割台で並んでいました。
企業からも「ロシア産原油の輸入規制による燃料価格の高騰をより一層懸念している」(一般貨物自動車運送)や「新型コロナの影響で仕入れコストが上がっているところに、さらにウクライナ危機で燃料価格・穀物価格上昇の追い討ちがかなりの速度で来ている」(養鶏)といった意見があがっています。
また「今後マイナスの影響がある」と見込む企業は、木材不足を懸念する「木造建築工事」(41.3%)や「包装用品卸売」(40.6%)などでみられ、幅広い業界へのマイナス影響の拡大が懸念されます。
生活に結びつく商品・サービスへの悪影響、政府には早急な経済対策が求められている
本調査の結果、ロシア・ウクライナ情勢に対して約半数の企業で業績にマイナスの影響があると見込んでおり、2割以上の企業で既に悪影響が広がっていました。特に価格高騰が続く燃料や食品関係といった私たちの生活にすぐに結びつく製商材・サービスを扱う業種でその影響は大きくなっています。
また、政府は国民負担を軽減するための緊急経済対策の策定を指示するなど、対応を急いでいます。しかし、ウクライナ情勢の長期化の様相もあり、今後は企業の設備投資、国民の消費活動などが手控えられることも懸念されるでしょう。
先行き不透明感が強まるなか、政府には企業活動の停滞や国民の消費マインドの低下が進まぬよう、早急な経済対策が求められています。
●G7外相会合 ロシア軍事侵攻やめるまで 各国で追加的措置 確認  4/7
ウクライナ情勢をめぐって、G7=主要7か国の外相会合が林外務大臣も出席してベルギーで開かれました。「ロシア軍の残虐行為を最も強いことばで非難する」としたうえで、軍事侵攻をやめるまでG7など各国で追加的な措置をとっていくことを確認しました。
日本時間の午後3時すぎから開かれたG7の外相会合では、ウクライナの首都キーウ近郊などで多くの市民が殺害されているのが見つかったことを受けて「ロシア軍の残虐行為を最も強いことばで非難する」としたうえで「戦争犯罪を行った者の責任は追及されるべきだ」として、国際機関による捜査を支援していくことで一致しました。
そして、ロシアが軍事侵攻を続けていることを踏まえ、制裁による経済的圧力を強めていく必要があるという認識を共有するとともに、侵攻をやめるまでG7など各国で追加的な措置をとっていくことを確認しました。
また、ウクライナや避難民を受け入れている周辺国への支援のニーズが高まっているとして、対応を強化していくことも申し合わせました。
林大臣は続いて、NATO=北大西洋条約機構と韓国、オーストラリアといったパートナー国などとの外相会合にも出席しました。
この中で林大臣は、ロシアの軍事侵攻をめぐり「今回の侵略を直接、間接的に支持している国がいることは憂慮されるべき事態だ」と述べたうえで、中国がロシアを今も非難していないことや、北朝鮮が事態の間隙(かんげき)を利用して弾道ミサイルの発射を繰り返していることを指摘しました。
そして、欧州とインド太平洋地域の安全保障を切り離して議論することはできないとして、NATOとパートナー国などとの連携強化を呼びかけました。
●NATO外相会合始まる ウクライナへの軍事支援など強化へ  4/7
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナの首都近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったことを受け、ロシアの責任を問う声が一層広がる中、NATO=北大西洋条約機構の外相会合が始まりました。加盟国は、ウクライナへの軍事支援を強化するとともに、民主主義などの価値観を共有する国々との連携強化を強調したい考えです。
ロシア国防省は7日、ウクライナ東部のハルキウや南部のミコライウなど各地のウクライナ軍の燃料施設をミサイルで破壊したと発表するなど、東部や南部での攻撃を強めています。
一方、アメリカ国防総省の高官は6日、首都キーウ周辺などに展開していたロシア軍について、地上部隊が完全に撤退したという見方を初めて示しました。
ロシア軍が撤退したキーウ近郊の町ブチャでは多くの市民が殺害されているのが見つかったのに続いて、ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、ロシア軍が首都近郊以外でも市民を殺害した証拠を隠そうとしていると厳しく非難しました。
欧米各国の間で戦争犯罪だとしてロシアの責任を問う声が一層広がる中、NATOの外相会合が日本時間の7日午後5時前からベルギーの首都ブリュッセルにある本部で始まりました。
冒頭、NATOのストルテンベルグ事務総長は「ロシアによる軍事侵攻は国際秩序全体をゆるがしている。きょうの会合はわれわれの結束のしるしだ」と述べました。
また会合に出席したウクライナのクレバ外相は、記者団に対し「ウクライナがより多くの兵器を早く受け取るほど、多くの命を救うことができるし、より多くの町や村が破壊されない。そしてブチャのようなことが二度と起こらないですむ」と述べ、兵器の供与を強く求めていく考えを示しました。
今回の会合には、林外務大臣のほか韓国、オーストラリアなどの外相も「パートナー国」として参加しています。
NATOの加盟国はウクライナへの軍事支援を強化するとともに、民主主義などの価値観を共有する国々との連携強化を強調したい考えです。
●ウクライナ侵攻の背景にあるプーチンの「ロシア・ファシズム」思想 4/7
プーチンによるウクライナへの全面侵攻を予測できた専門家はほとんどいなかったというが、歴史家のティモシー・スナイダーは間違いなく、その数少ない例外の一人に入るだろう。
2014年、ロシアはクリミアを占拠し、ウクライナ東部のドンバス地方に侵攻したが、欧米諸国は限定的な経済制裁に止め、その4年後、ロシアはサッカー・ワールドカップを華々しく開催した。
ヨーロッパ(とりわけドイツ)はロシアにエネルギー供給を依存し、中国の台頭に危機感を募らせたオバマ政権もロシアとの対立を望まなかった。「クリミアはソ連時代の地方行政区の都合でウクライナに所属することになっただけ」「ドンバス地方を占拠したのは民兵でロシア軍は関与していない」などの主張を受け入れ、「ロシアはそんなに悪くない」とすることは、誰にとっても都合がよかったのだ。
だがスナイダーは、2018年の『自由なき世界 フェイクデモクラシーと新たなファシズム』(慶応義塾大学出版会)でこうした容認論を強く批判した。プーチンのロシアは「ポストモダンのファシズム(スキゾファシズム)」に変容しつつあるというのだ。
スナイダーは中東欧の11か国語を操る気鋭の歴史家で、語り尽くされたと思われていたホロコーストについて、その本質はアウシュヴィッツのガス室ではなく、ナチス(ヒトラー)とソ連(スターリン)による二重のジェノサイドだという新しい視点を提示して大きな反響を呼んだ。
じつは私は、2020年に本書の翻訳を手に取ったとき、プロローグと第1章までで読むのをやめてしまった。「歴史家としては超一流でも、それで現代の国際政治が語れるのか」と疑問を感じたからだ。
今回のウクライナ侵攻で自らの不明を思い知らされ、あらためて本書を読み直してみた。原題は“The Road to Unfreedom; Russia, Europe, America”(アンフリーダムへの道 ロシア、ヨーロッパ、アメリカ)で、フリードリッヒ・ハイエクの“The Road to Serfdom”(隷属への道)を意識しているのだろう。
ハイエクはこの名高い著作で、ソ連の計画経済は必然的に破綻し「現代の農奴制(Serfdom)」に至ると説いた。それに対してスナイダーは、プーチンが行なっているのは歴史の改竄と国民の洗脳で、そこから必然的に「自由なき世界(Unfreedom)」が到来するのだと予見する。
プーチンに影響を及ぼしたイリインの思想は「無垢なロシア(聖なるロシア)の復活」
スナイダーによれば、現代のロシアを理解するうえでもっとも重要な思想家はイヴァン・イリインだという。ロシア以外ではほとんど知られていないこの人物は、1883年に貴族の家に生まれ、当時の知識層(インテリゲンチャ)の若者と同様にロシアの民主化と法の統治を願っていたが、1917年のロシア=ボルシェビキ革命ですべてを失い、国外追放の身となる。その結果、理想主義の若者は筋金入りの反革命主義者になり、ボルシェビキに対抗するには暴力的手段も辞さないという「キリスト教(ロシア正教)ファシズム」を提唱するようになった。
イリインは忘れられたまま1954年にスイスで死んだが、その著作は、ソ連崩壊後のロシアで広く読まれるようになり、2005年にはプーチンによってその亡骸がモスクワに改葬された。プーチンは、「過去についての自分にとっての権威はイリインだ」と述べている。
イリインの思想とはなんだろう。それをひと言でいうなら、「無垢なロシア(聖なるロシア)の復活」になる。
イリインの世界観では、宇宙におけるただ一つの善とは「天地創造以前の神の完全性」だ。ところがこの「ただ一つの完全な真理」は、神がこの世界を創造したとき(すなわち神自身の手によって)打ち砕かれてしまった。こうして「歴史的な世界(経験世界)」が始まるのだが、それは最初から欠陥品だったのだ。
イリインによれば、神は天地創造のさいに「官能の邪悪な本性」を解放するという過ちを犯し、その結果、人間は「性に突き動かされる存在」になった。性愛を知りエデンの園を追放されたことで、人間は存在そのものが「悪(イーブル)」になった。だとしたらわたしたちは、個々の人間として存在するのをやめなければならない。
興味深いのは、イリインが1922年から38年までベルリンで精神分析を行なっていたことだ。この奇妙な神学には、明らかにフロイトの影響が見て取れる。
人間が存在として悪だとしても、いかなる思想も自分自身を「絶対悪」として否定することはできない。イリインがこの矛盾から逃れるために夢想したのが、「無垢なロシア」だった。邪悪な革命政権(ソ連)を打倒しロシアが「聖性」と取り戻したとき、世界は(そして自分自身も)神聖なものとして救済されるのだ。
「選挙は独裁者に従属の意思表示をし、国民を団結させる儀式でしかなく、投票は公開かつ記名で行なわれるべきだ」
イリインは、祖国(ロシア)とは生き物であり、「自然と精神の有機体」であり、「エデンの園にいる現在を持たない動物」だと考えた。細胞が肉体に属するかどうかを決めるのは細胞ではないのだから、ロシアという有機体に誰が属するかは個人が決めることではなかった。こうしてウクライナは、「ウクライナ人」がなにをいおうとも、ロシアという有機体の一部とされた。
極左の無法は、極右のさらに大いなる無法によって凌駕するほかないとするイリインにとって、ファシストのクーデター、すなわち愛国的な独裁政こそが「救済行為」であり、この宇宙に完全性が戻ってくることへの第一歩だった。そして、ロシアが聖性を取り戻すには「騎士道的な犠牲」を果たす救世主が必要で、いずれ一人の男がどこからともなく現われ、ロシア人たちはその男が自分たちの救世主だと気づくだろうと予言した。
イリインが理想とする社会は「コーポレートの構造(cooperate structure)」で、国家と国民とのあいだに区別はなく、「国民と有機的かつ精神的に結合する政府と、政府と有機的かつ精神的に結合する国民」があるだけだ。
キリスト教(ロシア正教)ファシズムの社会では、国民は個人の理性を捨てて国家(有機体)への服従を選ばなくてはならない。有権者がすべきことは政権の選択ではなく、「神に対し、この人間界に戻ってきてロシアがあらゆる地で歴史を終わらせるのを助けてくれるよう乞うこと」だけだ。
こうしてイリインは、「ロシア人に自由選挙で投票させるのは、胎児に自らの人種を選ばせるようなものだ」として民主政を否定する。選挙は独裁者に従属の意思表示をし、国民を団結させる儀式でしかなく、投票は公開かつ記名で行なわれるべきだというのだ。
イリインが唱えたのは「永遠に無垢なるロシア」という夢物語であり、「永遠に無垢なる救世主」という夢物語だ。こうして(仮想の)ロシアを神聖視してしまえば、現実世界で起きることはすべて「無垢なロシアに対する外の世界からの攻撃」か、もしくは「外からの脅威に対するロシアの正当な反応」でしかなくなる。
イリイン的な世界では、「ロシアが悪事をなすわけはなく、ロシアに対してだけ悪事がなされるのだ。事実は重要ではないのだし、責任も消えてなくなってしまう」とスナーダーはいう。
マルクス・レーニン主義とイリインの思想は合わせ鏡のような関係
イリインの神学がソ連崩壊後のロシアで広く受け入れられたのは、それが(ソ連国民が徹底的に教育された)マルクス主義、レーニン主義、スターリン主義と「気味の悪いほど似通っていた」からだ。両者が哲学的起源として共有するのがヘーゲル哲学だった。
ヘーゲルは、「「精神(スピリット)」と呼ばれる何か、すなわちあらゆる思考と心を統一したものが、時代を特徴づける種々の衝突を通して発現する」と論じた。その哲学によれば、カタストロフは進歩の兆しであり、「もし「精神」が唯一の善であるならば、その実現のために歴史が選ぶいかなる手段もまた善である」。
マルクスをはじめとするヘーゲル左派は、ヘーゲルが神を「精神」という見出しを付けてその思想体系にこっそり持ちこんだのだと批判した。マルクスにとって絶対善は「神」ではなく「人間の失われた本質」であり、歴史は闘いではあるが、その目的は人間がその本質を取り戻すことだった。
それに対してイリインなどのヘーゲル右派は、ヘーゲルがいったんは自身の哲学から隠蔽した神を堂々と復活させた。ひとびとが苦しむのは、「資本家」が「労働者」を抑圧するからではなく、神が創造した世界が手に負えないほど矛盾に満ちたものだからだ。だからこそ、選ばれた国家が救世主の起こす奇跡によって「神の完全性」を復活させなければならないし、その高尚な目的のためにはどのような手段も正当化される。
レーニンは、「前衛党(教育を受けたエリート)」には歴史を前に進める権利があると信じていた。「この世界で唯一の善が人間の本質を取り戻すことなのだとしたら、その手順を理解している者がその達成を早めるのは当然のこと」なのだ。
それに対してイリインは、「神の完全性」という究極の目的を実現するためには、暴力的な革命(より正確には暴力的な「反革命」)を受け入れるのは当然だとした。ロシアはファシズムから世界を救うのではなく、ファシズムによって世界を救うのだ。
革命直後のレーニンらは、「自然が科学技術の発展を可能にし、科学技術が社会変革をもたらし、社会変革が革命を引き起こし、革命がユートピアを実現する」という科学的救済思想を唱えた。だがブレジネフの時代(1970年代)なると、欧米の自由主義経済に大きな差をつけられたソ連は、こうした救済の物語を維持するのが困難になってきた。
ユートピアが消えたとしたら、そのあとの空白は郷愁の念で埋めるしかない。その結果ソ連の教育は、「よりよい未来」について語るのではなく、第二次世界大戦(大祖国戦争)を歴史の最高到達点として、両親や祖父母たちの偉業を振り返るように指導するものに変わった。革命の物語が未来の必然性についてのものだとすれば、戦争の記憶は永遠の過去についてのものだ。この過去は、汚れなき犠牲でなければならなかった。
この新しい世界観では、ソ連にとっての永遠の敵は退廃的な西側文化になった。1960年代と70年代に生まれたソ連市民は、「西側を「終わりなき脅威」とする過去への崇拝(カルト)のなかで育っていた」のだ。
マルクス・レーニン主義とイリインの思想は合わせ鏡のような関係で、だからこそロシアのひとびとは、ソ連解体後の混乱のなかで、救世思想のこの新たなバージョンを抵抗なく受け入れることができたのだ。
ロシアは「タタールのくびき」によって、西欧文明に毒されることなく「無垢な精神」を保ってきた
イリインのキリスト教(ロシア正教)ファシズムと並んでプーチンのロシアで大きな影響力をもつようになったのが、神秘思想家レフ・グルミョフ(1912-1992)の「ユーラシア主義」だ。
ナポレオンのロシア遠征によって近代の衝撃を受けたロシアでは、「スラブ主義(ロシア的共同体)」と「ヨーロッパ化主義(自由とデモクラシー)」の論争が飽きることなく繰り返された。だが初期のユーラシア主義はこのいずれの立場も拒絶し、西欧文化に対するロシアの優越を「モンゴルによる統治」に求めた。
1240年代初め、モンゴル人はルーシの残党をいとも簡単に打ち負かした。一般には「タタールのくびき(モンゴル支配)」はロシアの歴史における屈辱と見なされているが、ユーラシア主義者はこれを逆転させて、「モンゴルによる統治という幸運な慣習」のおかげで、ルネサンス、宗教改革、啓蒙思想などといったヨーロッパの腐敗とは無縁の環境で、新たな都市モスクワを創ることができたのだと主張した。ロシアがキリスト教世界のなかで特別な存在なのは、「タタールのくびき」によって、西欧文明に毒されることなく「無垢な精神」を保ってきたからなのだ。
詩人の両親のもとに生まれたグルミョフは、9歳のときに父親がチェカー(秘密警察)に処刑され、自らもスターリン治下の大粛清で、1938年から5年間、1949年から10年間を強制収容所で過ごすことになった。
グルミョフはこの過酷な監禁生活のなかで、「抑圧のなかに閃きの兆を見出し、極限状況においてこそ人が生きるうえでの本質的な真実が明らかにされる」と信じた。ユーラシア主義に傾倒したグルミョフは、「モンゴル人こそロシア人がロシア人たる所以であり、西側の退廃からの避難所である」とし、ユーラシアとは、「太平洋岸から、西端の無意味で病んだヨーロッパ「半島」にまで伸びてゆく、誇るべきハートランド」だと考えるようになった。
グルミョフの神秘思想では、人間の社会性は「宇宙線」によって生まれ、それぞれの民族の起源を遡れば、宇宙エネルギーの大放出にまで辿り着く。西側諸国を活性化させた宇宙線ははるか昔に放たれたため、いまや西欧は没落の途上にあるが、ロシア民族はキプチャク・ハン国軍を破った「クリコヴォの戦い」(1380年9月8日)に放出された宇宙線によって生まれたので、いまだ若く生命力に満ちあふれている。
グルミョフによれば、すべての「健康な」民族は宇宙線から誕生したが、なかには他の民族から生命を吸いとる「キメラ(ライオンの頭,ヤギの胴,ヘビの尾をもつギリシア神話の怪物)のような集団」もいる。この集団とはユダヤ人のことで、「ルーシの歴史とは、ユダヤ人が永遠の脅威であることを示すものだ」という強固な反ユダヤ主義を唱えた。
わたしたちはみな、生命体として宇宙エネルギーの影響を受けているが、まれにこの宇宙エネルギーを大量に吸収し、それを他者に分け与えることができる者がいる。これが「パッシオナールノスチ」で、この特別な能力をもつ指導者こそが民族集団を創る。
イリインのいう「無垢なるロシアを復活させる独裁者」と、グルミョフの「パッシオナールノスチを有する指導者」は、その後、アレクサンドル・ドゥーギンによってウラジミール・プーチンという一人の政治家に重ね合わされることになる。
3つの思潮が合流し、「ロシア・ファシズム」が誕生した
1962年生まれのアレクサンドル・ドゥーギンは、1970年代と80年代にはソヴィエトの反体制派の若者として、ギターを弾き、「何百万人もの人間を「オーブン」で焼き殺す歌を歌っていた」とされる。
ソ連崩壊後の1990年代初め、ドゥーギンはフランスの陰謀理論家ジャン・パルヴュレスコと親しくなった。パルヴュレスコにとって歴史とは「海の民(大西洋主義者)」と「陸の民(ユーラシア主義者)」との闘いで、「アメリカ人やイギリス人は海洋経済に従事することで、地に足の着いた人間の経験から切り離されたがために、ユダヤ人の抽象的な発想に屈してしまう」のだと論じた。フランスのネオ・ファシスト運動の提唱者アラン・ド・ブノワも、「アメリカが抽象的な(ユダヤ的な)文化の代表としてこうした陰謀の中心的な役割を果たしている」とドゥーギンに説いた。
1993年、ナチスの思想を母国ロシアに持ち帰ったドゥーギンは、エドワルド・リモノフと共同で「国家ボルシェビキ党」を設立、97年には「国境のない赤いファシズム」を呼びかけた。ドゥーギンはここで、「民主主義は空疎である。中流階級は悪である。ロシアは「運命の男」に統治されねばならない。アメリカは邪悪である。そしてロシアは無垢なのだ……」という「月並みなファシストの見方」を披露した。
ドゥーギンにとって西欧は「ルシファーが堕天した場所」「世界的な資本主義の「オクトパス」の中心」「腐った文化的堕落と邪悪、詐欺と冷笑、暴力と偽善の温床(マトリックス)」だった。さらには、独立したウクライナ国家は「ロシアがユーラシアになる運命を阻む障壁」だとされた。
プーチン政権誕生後の2005年、ドゥーギンは国の支援を受けて、ウクライナ解体とロシア化を訴える青年運動組織「ユーラシア青年連合」を設立し、09年には「クリミアとウクライナ東部を求める戦い」を予見した。ドゥーギンから見れば、ウクライナの存在は「ユーラシア全体にとって大いなる脅威」だった。
さらには、ロシア正教の修道士で、イリインを改葬したティホン・シュフクノフが、ウラジミール・プーチンこそが、ロシア人が「ウラジミール」と呼ぶ古代キエフの王の生まれ変わりだと唱えた。ウクライナではヴォロディーミルまたはヴァルデマーと呼ばれるこのルーシの王こそが、今日のロシア、ベラルーシ、ウクライナの地を永遠に結びつけることになったというのだ。
このようにして、イリインのキリスト教(ロシア正教)全体主義、グミリョフのユーラシア主義、ドゥーギンの「ユーラシア的」ナチズムという3つの思潮が合流し、「ロシア・ファシズム」が誕生したのだ。
「ロシア文明を介してのみ、ウクライナ人は自分たちがほんとうは何者なのかを理解できる」
プーチンは、2004年にウクライナのEU加盟を支持し、それが実現すればロシアの経済的利益につながるだろうと述べたと、スナイダーは指摘する。EUの拡大は平和と繁栄の地域をロシア国境にまで広げるものだと語り、08年にはプーチンはNATOの首脳会談に出席している。
ところが同年のジョージア(グルジア)侵攻が欧米から強く批判されると、一転して2010年には「ユーラシア関税同盟」を設立する。これは「リスボンからウラジオストクまで(大西洋岸から太平洋岸まで)広がる調和的な経済共同体」とされたが、その実態は、「EUの加盟国候補になれそうもないとわかった国々を団結させようとした」ものでしかなかった。
12年1月の大統領選挙直前の論説では、プーチンは「ロシアは元々が無垢な「文明」だった」として、ロシアを国家ではなく霊的な状態として説明した。さらにはイリインを引用して、「偉大なロシアの任務は、文明を統一し結びつけることである。このような「国家=文明」には民族的少数者など存在しないし、「友・敵」を区別する原理は、文化を共有しているかどうかに基づいて定義される」と述べた。
ロシアには民族間の紛争などないし、かつてあったはずもない。ロシアはその本質からして、調和を生みだし他国に広める国であり、よって近隣諸国にロシア独自の平和をもたらすのは許されるべきことなのだ。
このユーラシア主義によれば、ウクライナ人とは、「カルパチア山脈からカムチャッカ半島までの」広大な土地に散らばるひとびとであり、よってロシア文明の一つの要素にしかすぎない。ウクライナ人が(タタール人、ユダヤ人、ベラルーシ人のように)もう一つのロシア人集団にほかならないとすれば、ウクライナの国家としての地位(ステートフッド)などどうでもよく、ロシアの指導者としてプーチンはウクライナのひとびとを代弁する権利を有することになる。だからこそ、プーチンはこう述べた。
「我々は何世紀にもわたりともに暮らしてきた。最も恐るべき戦争にともに勝利を収めた。そしてこれからもともに暮らしていく。我々を分断しようとする者に告げる言葉は一つしかないのだ――そんな日は決して来ない」
プーチンによれば、ヨーロッパとアメリカがウクライナを承認することで、ロシア文明に挑戦状を叩きつけたことになる。「ロシアは無垢なだけでなく寛容でもある」とプーチンは論じた。「ロシア文明を介してのみ、ウクライナ人は自分たちがほんとうは何者なのかを理解できる」のだから。
こうした世界観・歴史観からは、クリミアやウクライナ東部の占拠だけでなく、今回の全面侵攻も「無垢なるロシア」を取り戻し、世界を救済し、神の完全性を復活させる壮大なプロジェクトの一部になる。そして今起きていることを見れば、スナイダーがこのすべてを予見していたことは間違いない。
だがここまで読めば、なぜ私がこの主張を受け入れるのを躊躇したのかわかってもらえるのではないだろうか。スナイダーが正しいとすれば、ロシアは巨大な「カルト国家」ということになってしまうのだ。 

 

●ロシア国民20万人が逃げ出す!プーチンを窮追する「人材スカスカ」危機 4/8
ウクライナでは400万人以上が戦火を逃れて国外に避難している。一方、戦場ではないロシアでも国外脱出が相次いでいる。何が起きているのか。
トルコの地元メディアはウクライナ侵攻後、少なくとも1万4000人のロシア国民が入国したと報じた。ロシア人が事前のビザなしで入国できるトルコ、ジョージア、アルメニアなどにはロシアからの脱出者が大挙しているという。
国の将来に絶望し、出国できるうちに脱出をはかるロシア人は少なくない。ロシア人経済学者のコンスタンチン・ソニン氏の推計によると、侵攻後半月で約20万人がロシアを離れたという。中心は富裕層や知識層。出国するお金があり、政権に批判的な情報も知っているからだ。国家から次々に人が逃げ出すとは末期的だ。
政権にとって痛手なのがIT人材の流出だ。プーチン政権が次々とインターネットへの規制強化を打ち出したため、IT技術者の脱出が加速している。3月下旬の時点で5万〜7万人のIT技術者が出国し、4月にはさらに10万人が離れるとの試算もある。ロシア政府は3月29日、流出に歯止めをかけるため、IT技術者の兵役の「延期」を認めると発表。かなり慌てている様子だ。
国際ジャーナリストの春名幹男氏がこう言う。「ウクライナ侵攻後、海外企業は次々とロシアから引き揚げています。また、統制が強化され、多様な情報にもアクセスできない状態が続いています。とても、マトモなビジネスや研究が行える環境ではありません。ビジネスマンや研究者はこのままロシアに残っていても展望を開けないと思っているはずです。優秀な人材なら、他国も喜んで受け入れる。戦争を続ける限り、人材の流出は止まらないでしょう」
富裕層や優秀な人が次々と去れば、ロシアはスカスカの国になってしまう。
「国の発展にとって重要なのはやはり人材です。これ以上、優秀な人材が流出し続ければ、政権内でも危機感が強まり、戦争継続に『待った』がかかってもおかしくありません。それでも、プーチン大統領がかたくなに戦争を継続すれば、“打倒プーチン”の動きにつながる可能性があります」(春名幹男氏)
戦争にブレーキはかかるのか。
●米国、「ロシアを旧ソ連時代の生活水準に戻す」…プーチンの2人の娘も制裁 4/8
米国がロシア軍の「ブチャ虐殺」などウクライナ民間人に対する残虐行為を非難し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の二人の娘と最大手の銀行などを制裁し、ロシアに対する新規投資を禁止する追加制裁を発表した。ロシアを「ソ連時代の生活水準」に戻すという警告も出した。ブチャ虐殺以後、ウクライナ政府がロシアと進行中だった和平交渉に否定的な見解を示し、米国は文字通りロシア経済を機能不全に陥らせる措置を相次いで発表し、ウクライナをめぐる対立はますます収拾の糸口をつかむことが難しくなった。
ホワイトハウスは6日(現地時間)、プーチン大統領の二人の娘に対し、米国内の資産を凍結し、米金融機関との取引を禁止する制裁を加えると発表した。セルゲイ・ラブロフ外相の妻と娘、大統領と首相を務めたドミトリー・メドベージェフ国家安保会議副議長など、国家安保会議の主要人物も制裁する方針を示した。
米財務省は、プーチン大統領の次女、カテリーナ・ティホノワ氏は、ロシア政府や軍需産業と連携した企業経営者だと明らかにした。長女のマリア・ボロンツォワ氏は、プーチン大統領が直接手がける遺伝子研究プログラムを率いており、同プログラムはロシア大統領府から数十億ドルの支援を受けていると説明した。ホワイトハウスの高官はプーチン大統領の娘たちを制裁するのは、「家族が彼の資産を隠しているため」と説明した。
プーチン大統領が2013年に離婚した妻との間にもうけた二人の娘は、これまで公式席上に姿を現さなかった。プーチン大統領は2015年、二人の娘に関するマスコミの質問に、「娘たちは3カ国語を流暢に話せる」と自慢し、「私は誰とも家族の話をしない」と述べた。また娘たちが「ただ自分の人生を歩むだけ」だと述べた。ロイター通信は2015年、次女ティホノワ氏が現在は離婚した夫とともに、20億ドル規模の石油化学会社の持分を保有していると報じた。
ホワイトハウスは、ロシア銀行資産の3分の1を保有する最大手ズベルバンクと4位のアルファバンクに対する「全面遮断制裁」も実施すると明らかにした。両行の米国内資産は凍結され、米金融システムへのアクセスも遮断される。ただ、欧州を考慮して石油と天然ガスの取引分野は制裁から除外することにした。今回公開された措置は、欧州連合(EU)や主要7カ国(G7)などと共に実施する。
バイデン米大統領は同日、米国人と米国企業のロシアに対するすべての新規投資を禁止する行政命令に署名した。米政府はロシアの航空、造船分野の主要国営企業も制裁リストに載せた。法務部はこれとは別に、ロシア新興財閥のコンスタンチン・マロフェーエフ氏をクリミア半島分離主義者に資金を提供したという理由で起訴すると発表した。
ホワイトハウスは、今回の措置の目的がロシア経済を崩壊状態に追い込むことだという点を隠さなかった。バイデン大統領は同日、北米建設労組の行事での演説で、「たった1年のわれわれの制裁が、この15年間ロシアが積み上げた経済的成果を消してしまうだろう」とし、「ロシアを半導体やクオンタム技術など21世紀の競争に必要な重要技術から遮断したためだ」と述べた。ホワイトハウス高官は別の記者会見で、「ブチャで発生したぞっとするほど残忍な事件で、プーチン政権の野卑な本質が悲劇的な形で露わになった」とし、「主要7カ国の同盟とともに主要国(ロシア)に対して歴史上最も厳しい制裁を強化した」と述べた。さらに、「ロシアは経済、金融、技術的孤立に陥っている」とし、「このようにして1980年代のソ連時代の生活水準に戻るだろう」と述べた。同氏はロシア経済が今年10〜15%のマイナス成長を記録し、物価上昇率は200%に達すると見通した。ロシアが経済難でデフォルトを宣言した1998年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス5.3%だった。当時より2〜3倍も厳しい経済危機に見舞われかねないと予告したということだ。
●ロシア追加制裁、石炭輸入制限も 「残虐行為」非難― G7首脳声明 4/8
先進7カ国(G7)は7日、首脳声明を発表し、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどでロシア軍撤退後、民間人とみられる遺体が多数見つかったことについて、「ロシア軍による恐るべき残虐行為」だとして強く非難した。「大量殺りく」とも表現した。その上で、協調してロシアに追加制裁を科す方針を表明。「戦争犯罪」追及の取り組みも支持した。
声明では「プーチン大統領と加担者にとっての戦争の代償をさらに高める」と強調。石炭輸入の禁止や段階的廃止を含め、ロシア産燃料への依存を速やかに低減すると明記した。原油についても「依存低減の取り組みを加速する」と確認した。
これを受け、日本政府は石炭の輸入制限を含むエネルギー制裁を打ち出す方向で検討に入った。プーチン政権の資金源を断ち、侵攻停止への圧力を強める構えだ。
G7はこのほか、▽エネルギー分野を含む対ロ新規投資禁止▽対ロ輸出規制の拡大▽世界金融システムからのロシアの銀行切り離し継続▽国有機関や新興財閥(オリガルヒ)、防衛分野への制裁強化▽制裁逃れ阻止の対策強化―でも一致した。
●ウクライナ 東部の市民に避難呼びかけ 停戦道筋は険しさ増す  4/8
ウクライナに侵攻したロシア軍が東部への攻撃を強めるなか、ウクライナ政府は東部の市民にすみやかな避難を呼びかけ、緊張が高まっています。一方、首都近郊で多くの市民が殺害され、ロシアの責任を追及する声が広がっていることに対して、プーチン政権は対抗する姿勢を鮮明にし、停戦への道筋は険しさを増しています。
ロシア国防省は7日、ウクライナ東部のハルキウや南部のミコライウ、それに南東部のザポリージャなどにあるウクライナ軍の燃料施設をミサイルで破壊したと発表しました。
ロシア軍がインフラを攻撃する理由について、イギリス国防省は7日、ウクライナ軍の補給能力を弱め、ウクライナ政府への圧力を強めるねらいがあると指摘しています。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は6日、ロシア軍が近く、東部のルハンシク州とドネツク州で大規模な攻撃を行う準備をしている可能性があるという見方を示しました。
ウクライナのベレシチュク副首相は6日、ルハンシク州やドネツク州などの市民に対し「攻撃にさらされ助けられなくなる」として、すみやかに避難するよう呼びかけました。
またルハンシク州の知事も7日「この数日間が避難の最後のチャンスだ。敵は移動経路を断とうとしている」と強い危機感を示しました。
今回の軍事侵攻では、ロシア軍が撤退した首都キーウ近郊の町ブチャで多くの市民が殺害されているのが見つかったほか、他の地域でもロシア側が市民を殺害した証拠を隠ぺいしようとしている疑惑が浮上し、欧米各国からは戦争犯罪だとしてロシアの責任を追及する声が広がっています。
国際的な批判に対して、ロシアのプーチン大統領は7日、国家安全保障会議を開き、ロシア大統領府は会議で「ウクライナ側による情報面での工作活動に対し、積極的に対抗する必要性が強調された」としています。
ロシア側は、ブチャなどで市民が殺害されているのが見つかったのはウクライナ側によるねつ造だと一方的に主張していて、プーチン大統領が対抗する姿勢を鮮明にした形です。
深まる対立は、停戦交渉にも影響を及ぼしています。
ロシアのラブロフ外相は7日の声明で「ウクライナ側が6日に新たな合意案を提示してきたが、それは先月29日、トルコでの交渉で話し合った内容から、最も重要な項目が明らかに逸脱している」などと批判しました。
ラブロフ外相は、ウクライナ側は新たな提案で、南部のクリミアや東部の主権の問題については首脳会談で協議されるべきだとする項目を追加したと、不満を示したうえで「交渉を遅らせ混乱させようとしている」と非難しました。
これに対し、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は「発言の意図を理解しかねる」と反論し、停戦への道筋は険しさを増しています。
ゼレンスキー大統領「ロシア軍を撤退させるには武器が必要」
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、ギリシャの議会でオンライン形式の演説を行い、防空システムの供与などさらなる支援を求めました。
演説のなかで、ゼレンスキー大統領は「ロシアはマリウポリなど攻撃にあったウクライナの住民少なくとも数万人を強制的に移送している。ロシアは処罰されることなく何でもできると考えている」と述べ、ロシアが非人道的な行為を続けていると非難しました。
さらに「ロシアが各国の港を現状のまま使い続ければ、マリウポリだけでなくオデーサやほかの都市を破壊するミサイルや爆弾の資金を得るだろう」と述べ、経済制裁のさらなる強化を訴えました。
その上で「ウクライナはロシア軍を撤退させるために武器が必要だ。早ければ早いほどより多くのウクライナの人々の命を救うことができる」として、防空システムや砲弾、それに装甲車両などの供与をEUの国々に求めました。
リビウ市長「数千人の市民が避難民を自宅に」
ロシア軍の攻撃が比較的少なく避難民が集中しているウクライナ西部の主要都市、リビウのサドビー市長は7日、NHKのインタビューに応じ「きょうもドネツク州のスロビャンシクとクラマトルシクから3000人の避難民を受け入れた。学校や劇場、ジムなどを開放しているほか、数千人の市民が避難民を自宅に受け入れている」と述べました。
その上で「食料や衣服、それに医療の問題などに対処しようとしているが、とても難しい」と述べ、国際社会に対して、ウクライナ国内にとどまる避難民への支援を拡大するよう訴えました。
また、軍事侵攻の人的な被害について「ブチャの虐殺は異常なことだが、マリウポリの状況はさらに厳しく、5000人から6000人の市民が殺害されている」と強い懸念を示しました。
その上で「どこがロシアのミサイル攻撃の次のターゲットになるかはわからない」と述べ、東部や南部と比べて攻撃される回数が少ない西部の各都市でもロシア軍の攻撃を警戒し、緊張を強いられている現状を明らかにしました。
少なくとも1611人の市民が死亡
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から今月6日までに、ウクライナで少なくとも1611人の市民が死亡したと発表しました。
このうち131人は子どもだということです。
死亡した人のうち、1119人はキーウ州や東部のハルキウ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州などで、492人は東部のドネツク州とルハンシク州で確認されています。
また、けがをした人は2227人にのぼるということです。
多くの人たちは砲撃やミサイル、空爆などによって命を落としたり、負傷したりしたということです。
今回の発表には、ロシア軍の激しい攻撃を受けている東部マリウポリなどで確認がとれていない犠牲者の数は含まれておらず、国連人権高等弁務官事務所は実際の数はこれよりはるかに多いとしています。
431万人余が国外に避難
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ロシア軍の侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数は、6日の時点で431万人余りとなっています。
主な避難先は、ポーランドがおよそ251万人、ルーマニアがおよそ66万人、ハンガリーとモルドバがおよそ40万人などとなっています。
また、ロシアに避難した人は、先月29日の時点でおよそ35万人となっています。
●ウクライナ、ロシア産ガス輸入巡りハンガリーを批判 4/8
ウクライナ政府は7日、ハンガリーがロシア産ガスの購入代金をルーブルで支払う用意があると表明していることについて、ロシアのウクライナ軍事侵攻に反対する欧州連合(EU)の結束を破壊する「非友好的な」姿勢だと非難した。
ウクライナ外務省報道官は「ハンガリーが本当に戦争を終わらせることを支援しようとしているのであれば、EUの結束を破壊することをやめ、新たな対ロシア制裁を支持し、ウクライナに軍事支援を行い、ロシアの軍事力を支援するための新たな資金源を作らないことだ」と強調した。
ハンガリーのオルバン首相は6日の記者会見で、ロシアが求めるならばロシア産ガスの購入代金をルーブルで払うと語った。プーチン大統領と経済面で親密な関係を続けてきたオルバン首相は、3日の議会選で自身が率いる右派与党が勝利し、4選を確実にした。選挙では、ガス供給の確保も公約に掲げていた。
ハンガリーのシーヤールトー外相は7日の会見で、ウクライナは「ハンガリーの内政干渉をやめるべきだ」と批判した。
●ロシアによる大虐殺 プーチンを裁く方法はないのか 4/8
ウクライナ国内で市民の惨殺遺体が多数発見された事件は、ロシアによる組織的、計画的な犯行の疑いが指摘されている。死者はさらに増える見込みで、戦後欧州における最悪のジェノサイド(集団殺害)に発展する可能性がある。
ウクライナでの戦争犯罪を捜査している国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)が、今回の虐殺も訴追対象にするとみられる。
ロシアは関与を否定し、プーチン大統領ら政権トップの訴追は簡単ではないが、ボスニア紛争で、旧ユーゴスラビアの大統領が法廷に引きだされたことがあり、望み≠ェないわけではない。法の裁きを逃れたとしても、クーデターや暗殺を呼びかける動き少なくなく、プーチンの末路はきびしいものになることが予想される。
後ろ手に縛られ口に銃弾
激しい戦闘が終わったあとに、戦争犯罪の痕跡が残るのは、現代でもしばしばみられる。1990年代の半ば、旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、8000人以上のイスラム教徒がセルビア人に虐殺された「セレブレニツァの虐殺」がその典型的な例だ。 
キーウ郊外ブチャで多数の遺体が発見された直後は、混乱のなかでもあり、くわしい状況が不明だった。その後、米ABCテレビの映像が日本でも放映されるなど、西側メディアの報道や人権団体の調査によって、次第に惨状が明らかになってきた。
ロシア軍が撤退した後の今月2日、ブチャ(キーウの北東37キロメートル)に入ったロイター通信の取材チームによると、市内には硝煙と死臭と交じり合った強い悪臭が漂っていた。市民らしい遺体が散乱、なかには半分だけ土中に埋まったり、買い物途中に命を落としたのか、ショッピングバッグを握りしめている遺体もあった。
後ろ手に縛られ、口の中に弾丸を撃ち込まれた2人の男性の遺体が放置されていた。 
AFP通信によると、ほとんどは、コート、ジーンズ、ジョギングパンツ、スニーカーなど普通の市民の服装。遺体のそばにはウクライナのパスポートなどが散乱していた。
ウクライナ兵士が戦利品≠ニして燃やしたらしいロシア軍装甲車の脇で写真撮影していた光景も見られたという。
性的暴行し、顔を切りつけた20歳兵士
米・ニューヨークに本部を置く人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は各地で市民から聞き取り調査を行った。
その報告によると、3月13日、ハルキウ(ハリコフ)の学校に5歳の娘、13歳の妹らを連れて地域の人たちと避難していた31歳の女性が、若いロシア兵士に性的暴行を繰り返し受けた。兵士は自ら「20歳だ」と明かし、女性のノドや顔面をナイフで刺し、切りつけたという。
地下室に避難していた別の女性は、一緒にいた29歳の息子と31歳の義弟がタバコを吸いに地上に出た時にロシア兵に拉致されことを知らされた。
近くの検問所で2人の安否を尋ねたところ、「ちょっと脅して尋問したらすぐ帰す」といわれた。しかし2人は帰らず、翌朝、近くビルの前で縛られて抵抗できない状態にして頭を撃ち抜かれた遺体でみつかった。
こうしたリポートは枚挙にいとまがない。
ブチャのアナトリ―・ペドルク市長らによると、同市などキーウ近郊だけで見つかった市民の遺体は400人を超えており、さらに増えるという。まさに悪魔の所業≠ニいうべきだろう。
殺害は「偶発的ではなく計画的」、ICCの刑事訴追も
ウクライナのゼレンスキー大統領は4月5日、国連安全保障理事会の会合でビデオ演説。 「大人も子供も、家族全員を殺害し遺体を焼こうとした」「ロシア軍と彼らに命令を下した者はただちに裁かれなければならない」と強くロシアを非難。あわせて、ロシアが安保理で拒否権を持つ国連の改革を訴えた。
ブリンケン米国務長官も「殺害、拷問、性的暴行のための組織的な犯行だ」と、混乱の中での偶発的な事件ではなく、計画された戦争犯罪との見方を示した。同様の非難が日本を含む各国から相次いでいる。 
ウクライナのクレバ外相は多くの遺体が見つかった直後の4月3日、英メディアのインタビューで、国際刑事裁判所(ICC)と関係国際機関に対し、解放された各地に調査団を派遣し、ウクライナ司法機関と協力して戦争犯罪の証拠を収集することを求めた。これに呼応して、ウクライナ国防省は、関与した疑いのあるロシア軍将兵1600人の名簿を公開、国際手配≠オた。
戦争犯罪として、関与した者を裁くにあたっては、訴追の強制力を持つICCの動向が焦点となる。ICC検事局は、ロシアの侵略直後の2月末から、職権で戦争犯罪に関する証拠集めを行ってきた。英独仏、日本など約40カ国が3月初めに、告発に当たる訴追の付託を行ったことを受けて、カリム・カーン主任検察官(英国出身)は捜査を開始する方針を正式に表明した。
同検事の声明は、今回の事件が明らかになる以前に発表されたが、「捜査にはあらたな訴えも含まれる」と述べていることから、対象に追加される見込みだ。
プーチンの訴追、出廷は非現実的
しかし、実際にプーチンを含むロシア政府高官、軍将兵をICC法廷に訴追するのは簡単ではない。
ウクライナはICCに未加盟だが、その手続き受け入れを表明すれば、国内で起きた事件の訴追が可能になるため、そうした手段をとるとみられる。しかし、ロシアはICC加盟の取り決めを批准しておらず、プーチンを含むロシア政府高官、軍将兵が取り調べに協力して受け入れることはあり得ず、起訴にこぎつけても、法廷に出廷する可能性もほとんどない。
ただ、ICCの訴追に時効はないため、将来の政権が受け入れた場合、起訴されることはありうる。プーチン氏が訴追を逃れ、職にとどまっていた場合でも、外遊などで加盟国を訪問すれば、ICC裁判官が発行した逮捕状によって身柄を拘束される。外国人が日本の法令に違反した場合、訴追されるのと同じ理屈だ。
ICCの前身は、国連決議に基づいて設置された個別の国際法廷。1993年に設置された旧ユーゴ国際刑事裁判所では、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争などでの集団殺害、戦争犯罪を捜査、ユーゴスラビア(当時)のミロシェビッチ元大統領を訴追(審理途中で死去)した実績がある。
ICCになってからも、30万人が死亡したといわれるスーダンのダルフール紛争で、当時のバシール大統領に2009年に逮捕状を発布する(国内で訴追されたた執行できず)など積極的に活動してきた。
プーチン、暗殺やクーデターの危険
戦争犯罪の実態が暴かれたことで、今後のウクライナ情勢はどう展開するのか。ロシアの軍事攻勢がどうなるかなど流動的な要素があるが、ウクライナの安全保障などをめぐって一定の進展を見た和平交渉に影響を与えるのは不可避だろう。当事国のウクライナ、米国をはじめとする西側各国は、ロシア非難を一段と強めており、和平協議においても、これらの問題が無視されることはあり得ないからだ。 
今後の帰趨が不透明な中で、確実なことは、ウクライナを無力化≠オて実質的に勢力下におくというプーチンの当初の目論見はもはや不可能になったということだろう。そして、プーチンの今後の政治的、個人的な立場も、かなり危うくなったということでもある。
米国のバイデン大統領はさきに、プーチンについて「この男を権力にとどめおくべきではない」と述べ、和平協議に影響を与えることを懸念する勢力から批判を浴びた。だが、いまとなっては、だれがプーチンの居座りなど望むだろう。
米国のリンゼー・グラム米上院議員(共和党、サウスカロライナ州)はことし3月3日、テレビ番組、ツイッターへの投稿で、「ロシアにはブルータス、シュタウフェンベルク大佐はいないのか」と呼びかけた。
ブルータスはいうまでもなく、古代ローマの独裁者、シーザーを暗殺した人物。シュタウフェンベルク大佐は、1944年にヒトラーを時限爆弾で殺害しようとして軽傷を負わせ、銃殺されたドイツの将校だ。グラム議員は暗殺≠ニいう言葉こそ避けたが、実質的にはそれを呼びかける内容だった。
英国のオンライン新聞「London loves Business」も2月末、英国の安全保障専門家の話として、「側近によって暗殺される可能性がある」と報じた。
暗殺という違法な手段はともかく、クーデターによってプーチンを権力の座から引きずり下ろすことへの待望論も少なくない。
イギリスのジェームズ・クレバリー欧州北米担当相はウクライナ侵攻が強行された2月24日、英テレビのインタビューで、「ロシアの将軍たちは、プーチンの行動を止められる立場にある。われわれは彼らに、それを計画することを求めたい」と明確に、それを呼びかけた。
武力を持つ軍がクーデターの中心になることはミャンマーの例を引くまでもなく、過去の多くの例を見ても明らかだ。
大統領の職務遂行も困難に
プーチンがウクライナ市民の大量殺害について、指揮し命令を与えたかは明らかではないが、最高指導者たるものはすべての結果について責任を問われる。
全世界からこれほど糾弾されれば、将来とも、そのポストにとどまっておいても、各国から大国の指導者として遇されることはあり得まい。外遊に出れば、ICCからの逮捕状を執行され身柄を拘束されるというのだから、海外で首脳会談を行う機会は大幅に狭められ、大統領としての職務を遂行することはもはや事実上困難だ。
これまでなら、即座に停戦を断行してウクライナ側と和解する方策はあったかもしれない。いったん市民の集団殺害が明らかになったいまとなっては、手遅れというべきだろう。
●「ウクライナ政権は邪悪」プーチンが心酔するロシア正教会“75歳怪僧”の正体 4/8
ロシアのウクライナ侵攻開始から1カ月半が経とうとしているが、ロシア軍は要衝の掌握に苦戦し、欧米の推計では兵士1万人以上が戦死するなど、甚大な被害を出している。ロシア側は市民を対象とした無差別攻撃に走り、いまだ停戦の出口は見えない。
なぜプーチン大統領は、それほどまでの損失を出しても執拗にウクライナ制圧にこだわるのか?
ウクライナ在住ジャーナリストの古川英治氏は「文藝春秋」に寄せたレポートのなかで、今回の侵略には「宗教戦争」の側面があることを指摘する。
侵略を正当化する宗教指導者
ロシア正教会の最高指導者でモスクワ総主教のキリル1世(75)は、プーチン大統領の盟友として知られ、ウクライナ侵攻についても積極的な発言を繰り返してきた。古川氏はこう解説する。
〈キリル1世は今回の侵攻前から「ロシア軍はロシアの人々のために平和を守っている」などと発言。侵攻後も、プーチン政権を批判したり停戦を求めたりすることはなかった。
そればかりか、キリル1世は3月9日、モスクワの大聖堂でウクライナ侵攻を支持するかのような、こんな説教をしてみせた。
「ロシアとウクライナは同じ信仰と聖人、希望と祈りを分かち合う一つの民族だ」
「(外国勢力が)私たちの関係を引き裂こうとしている」
「悲劇的な紛争は、第一にロシアを弱体化させるための(外国の)地政学上の戦略になっている」〉
宗教指導者にもかかわらず、侵略戦争を全面支持するキリル1世とは、いったいどのような人物なのか? 古川氏によると、スパイ組織KGB(国家保安委員会)の工作員だったとの情報もあるという。
〈キリル1世はロシア第二の都市サンクトペテルブルク出身。ソ連時代にはKGBの工作員だったとの噂も絶えない。プーチンは自らの出身地であるサンクトペテルブルク出身者やKGB時代の同僚らを引き上げており、キリル1世が2009年にロシア正教会トップの地位を射止めた理由はそこにあるとの見方もある。〉
さらに、聖職者でありながらクレムリンの宮殿内に住んでいるとされ、豪奢な生活ぶりが問題視されたこともある。
〈キリル1世が総主教になる前に面識があった欧州のある外交官は同氏について、「現実主義者で柔軟、聖職者というよりは出世欲の強い官僚のようだった」と評する。3万ドルのスイス高級時計ブレゲを身に着けている写真が出回り、釈明に追われたこともある。他の政権幹部と同様に、プーチンに忠実な部下のような横顔も浮かんでくる。〉
核兵器を「祝福」
プーチン大統領と一体になって権力をふるうキリル1世は、およそキリスト教の教えにふさわしくない言動を繰り返す。他の聖職者たちに闘争を呼び掛けたり、戦争で使われる武器を「祝福」しているというのである。古川氏はこう指摘する。
〈キリル1世はプーチンの統治を「神による奇跡」と評し、聖職者でありながら、ロシア安全保障会議にもたびたび出席する。(中略)キリル1世は親欧米に転じたウクライナの政権を「邪悪」と呼び、聖職者に事実上の闘争を呼びかけた。
ロシア正教会は軍と関係を深めており、2020年にはモスクワ郊外に祖国の防衛者を讃えるロシア軍主聖堂を創設した。聖職者が聖水を振りまきながら、核を含む兵器類や兵士を祝福する伝統もある。〉
一方のプーチン大統領もキリル1世には全幅の信頼を寄せ、「信仰心」の篤さをアピールしている。
〈プーチンはかつて「宗教と核の盾がロシアを強国にし、国内外での安全を保障する要だ」と語ったことがある。自由・民主主義を柱とする欧米の価値観に対して、専制体制を敷くプーチンは、ロシアの精神的な支柱としてロシア正教会を後押しし、政権の求心力にしてきた。自ら頻繁に教会に姿を見せ、復活祭は政権幹部が揃ってモスクワの教会で祝う。〉
戦争は「ウクライナ人の罪への報い」?
歴史上、キリスト教会は恵まれない者たちに温かい手を差し伸べてきた。
だが、ウクライナ国内にあるロシア正教会では、避難民たちへの援助を断るところも多くある。古川氏は、東部地区から逃れてきた避難民が体験した、こんなエピソードを紹介する。
〈(避難民が)歴史的な大修道院に支援を求めに行った。ところが、「避難民を収容する場所はない」と冷たくあしらわれた。
その大修道院の司祭は、今回のロシアの侵攻について、こう言い放ったという。
「この地(ウクライナ)の人々は罪深い。これ(戦争)はその罪に対する報いだ」
たまらず「子供や女性を殺害しているプーチンこそ悪魔ではないのか」と反論すると、「プーチンの過ちではない、神がお決めになったのだ」との答えが返ってきたという。〉
だが、ここ数週間、さすがにこのような事態を見かねたロシア正教会の聖職者たちから、異論が巻き起こっている。はたしてプーチン大統領とキリル1世の一蓮托生の関係は、どうなるのか? 
●日本駐在のロシア外交官ら8人追放 ウクライナ情勢で 外務省  4/8
ウクライナ情勢をめぐり外務省は、日本に駐在するロシア大使館の外交官ら8人を追放する措置を発表しました。
これは小野 外務報道官が臨時に記者会見して発表しました。
それによりますと外務省の森事務次官が8日、ロシアのガルージン駐日大使を呼び「多数のむこの民間人殺害は重大な国際人道法違反であり、戦争犯罪で断じて許されず厳しく非難する」と述べ、即刻、すべてのロシア軍部隊の撤収を求めました。
そのうえで森事務次官は日本に駐在するロシア大使館の外交官とロシア通商代表部職員、合わせて8人を国外に追放する措置をとることを伝えました。
小野 外務報道官は記者会見で、退去する期限もロシア側に伝えているものの詳細については外交上のやり取りだとして明らかにしませんでした。
一方、小野氏は記者団から今回の措置がロシアに滞在する日本人に与える影響を問われたのに対し「仮定の質問になるので基本的に答えは差し控えたいと思うが、いずれにしても外務省としては引き続きロシアにおける邦人や企業活動の保護に万全を期していく」と述べました。
外務省が日本に駐在するロシア大使館の外交官ら8人を追放する措置を発表したことに対し、ロシア外務省のザハロワ報道官は8日、国営通信に対し「ロシアは適切な対応をとる」と述べました。
ヨーロッパ各国もこれまでに駐在するロシアの外交官を追放する措置を相次いで発表していて、ロシア側はこうした動きについて報復措置をとる考えを示しています。
ウクライナ情勢をめぐり、外務省が日本に駐在するロシア大使館の外交官ら8人を追放する措置を発表したことについて、駐日ロシア大使館は8日、SNSへの投稿で、「ガルージン駐日大使が外務省の森事務次官に対して強く抗議した」と明らかにしました。
そのうえで、「日本の非友好的な措置に断固として対応することになる」としています。
●ロシア ウクライナ東部南部で攻勢強化 欧米さらなる軍事支援へ  4/8
ロシア軍は、ウクライナの東部や南部の拠点をミサイルで攻撃するなど攻勢を強めています。欧米側は今後、大規模な戦闘が行われる可能性があると警戒していて、ウクライナ軍へのさらなる軍事支援に向け、調整を進めています。
ロシア国防省は8日、ウクライナ東部ドネツク州で各地の鉄道の駅をミサイルで攻撃し、この地域に運ばれてきたウクライナ軍の兵器や装備品を破壊したほか、黒海に面する南部の港湾都市オデーサの北東にある「外国人の傭兵訓練センター」をミサイルで破壊したと発表しました。
戦況を分析するイギリス国防省は8日、東部と南部の都市でロシア軍が砲撃を続けていて、東部ハルキウ州にある戦略上重要な都市、イジュームを支配下に置いたあと、さらに南下していると指摘しています。そして、首都キーウ近郊から撤退した部隊の一部が東部に投入されるとみられ、この再配備にむけた補充に少なくとも1週間かかる見通しであると分析しています。
また、アメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は7日、議会上院の公聴会で「ロシア軍は南東部に戦力を集めており、大規模な戦闘はこれからだ」と述べたうえで、戦闘が長期化する可能性があるという見方を示しました。
そして、ウクライナへの軍事支援について、欧米側からこれまでに対戦車兵器およそ6万基と、対空兵器およそ2万5000基を供与したと明らかにし、そのうえで、今後の大規模な戦闘に向けて、ウクライナ軍は装甲車や迫撃砲といった兵器を求めていると指摘し、関係国と調整する考えを示しました。
NATO=北大西洋条約機構も7日、外相会合を開き、兵器の追加供与など、ウクライナに対する軍事支援の強化で一致しています。
一方、ロシアは、アメリカなどのこうした動きを強く警戒していて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は7日、「ウクライナに様々な形式の兵器を提供することは、ロシアとウクライナの交渉の成功につながらない。非常に悪い結果になることは間違いない」と述べて、ウクライナとの停戦交渉に影響が及ぶと、けん制しています。
●「ロシア軍 かなりの兵力が集中」ドネツク州知事が現状語る  4/8
ウクライナに侵攻したロシア軍が東部への攻撃を強めるなか、ウクライナ政府は、東部の市民にすみやかな避難を呼びかけ、緊張が高まっています。アメリカのシンクタンク、「戦争研究所」は6日、ロシア軍が近く、東部のルハンシク州とドネツク州で大規模な攻撃を行う準備をしている可能性があるという見方を示しました。ウクライナのベレシチュク副首相は6日、東部のルハンシク州やドネツク州などの市民に対し「攻撃にさらされ、助けられなくなる」としてすみやかに避難するよう呼びかけました。
ロシア軍が作戦を強化する中どう住民を守るのか。5日、ドネツク州の知事に話を聞きました。
ドネツク州の知事、パブロ・キリレンコ氏は、ロシア軍が東部に集中している現状を語りました。「ロシア軍の集中および再編成が進んでいます。かなりの兵力が集中しています。情勢は緊迫し、戦線の至る所で戦闘が続いています。軍事施設とは全く関係のない民間施設が攻撃を受けているのです」。
ロシアの大規模な攻勢に備えていまキリレンコ氏は住民の避難を急いでいると明かしました。「いま州内から多くの人が脱出しています。住民にはパニックにならなくても良いと説明しています。もちろん現地に残りたいという人もいます。特に年配の方ですが、自分で建てた家を捨てたくないのです。私は道路が(ロシア軍に)寸断されるまで待たず、1日も早く避難するよう呼びかけています」。
知事が強い懸念を寄せるのが、州内にあるマリウポリの情勢です。4日ロシア国営メディアはマリウポリでの市長選出の動きを放送しました。「イワシチェンコ氏を市長に任命 するのに賛成の人は?」。「全員一致」。ロシアよりと見られる候補者を市長代行と一方的に紹介しました。
しかし、州知事はマリウポリはまだ陥落せず、正当性はないと主張しました。「ウクライナ側は団結し、敵の攻撃を迎え撃っています。情報によると敵はマリウポリの陥落を待たずに、勝手に住民投票を宣言し、行政府を設けようとしています。しかし、それは正当性がなく、偽の情報を作り出そうとしているのです。マリウポリにはまだウクライナの旗が立っているのですから」。
35歳の若さで州知事を務めるキリレンコ氏。胸の内をこう語りました。「もちろんつらいです。私たちだって人間ですから。闘う心をなくしてはいけません。あきらめてはならないのです。人が歩けば道は開けるといいます。私たちは勝ちます。ウクライナはひとつ、ここは私たちの土地です。ここを守り抜かねばなりません。」。
●駅にミサイル、避難民ら50人死亡 ウクライナ大統領が非難―「戦争犯罪」 4/8
ウクライナ当局は8日、東部ドネツク州クラマトルスクの鉄道駅が弾道ミサイルで攻撃され、避難民ら50人が死亡したと発表した。うち5人が子供で、犠牲者はさらに増える恐れがある。負傷者は98人。当時、駅は避難を待つ約4000人で混み合い、女性や子供が大半だったという。
クラマトルスクは政府軍が支配している。ゼレンスキー大統領は、ロシア軍について「戦場で戦う勇気がなく、民間人を殺している。これは際限のない悪であり、罰することなしには止められない」と非難した。首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどで多数の遺体が見つかる中、度重なる「戦争犯罪」への厳しい対応を訴えた。
欧米各国も一斉に非難し、トラス英外相はツイッターで「民間人を狙うのは戦争犯罪だ」としてロシアを指弾した。
一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は7日、英スカイニューズのインタビューで「(ロシア)部隊は重大な損失を被った。われわれにとって巨大な悲劇だ」と述べ、侵攻開始以来、ロシア軍に大きな被害が生じていることを認めた。「今後数日のうちに作戦の目標が達成されるだろう」とも強調し、東部や南部の制圧に向け、近く本格攻勢に入ることを示唆した。
●国連、ロシアの人権理事資格を停止 ウクライナは兵器提供を呼びかけ 4/8
国連総会は7日に開かれた緊急特別会合で、ロシアの国連人権理事会における理事国資格を停止する決議案を可決した。ロシアがウクライナ侵攻に際し、戦争犯罪を行った疑惑が浮上したことを受けたもの。
採決に先立ち、ウクライナのセルヒー・キスリツァ国連大使は、首都キーウ(キエフ)近郊のブチャなどで、ロシア軍が民間人を殺害した疑いに触れ、ロシアが「恐ろしい」虐待を行っていると非難した。
これに対し、ロシアのゲンナジー・クズミン国連次席大使は、決議は政治的なものだと批判した。
ウクライナではロシア軍がキーウ周辺から撤退した後、ブチャやボロジャンカといった近郊の村で激しい破壊の様子が明らかになっている。
同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領はフェイスブックに7日夜に投稿した国民に対する演説で、ボロジャンカの破壊はブチャよりもひどい状況だと述べた。
また、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は同日、北大西洋条約機構(NATO)本部での記者会見で、向こう数日の軍事支援が重要との見方を示し、加盟国に兵器供与を呼びかけた。
この決議にはアメリカ、イギリス、ウクライナ、欧州連合(EU)加盟国、日本など93カ国が賛成した。一方、ロシアや中国、北朝鮮、シリア、ベラルーシなど24カ国が反対票を投じた。
また、インド、エジプト、南アフリカなど58カ国が棄権した。残りの18カ国の代表は、「戦略的なコーヒー休憩」を取り、投票前に議場を去った。
ウクライナのクレバ外相は決議を受け、「国連の人権を守る機関に、戦争犯罪人の居場所はない。国連総会で決議を支持し、歴史の正しい側を選んだ国に感謝する」と述べた。
ゼレンスキー大統領もフェイスブックに投稿された動画の中で決議に言及。「ロシアには人権などという概念はない。いつかはそれも変わるかもしれない」と語った。
「だが現時点のロシア政府とその軍隊は、自由や人類の安全保障、人権という概念にとって地球上で最大の脅威となっている」
アメリカは決議を称賛
アメリカのジョー・バイデン大統領は決議を「たたえる」声明を発表し、「プーチンの戦争によってロシアが世界の嫌われ者になっていることを示すため、国際社会が意味のある一歩を踏み出した」と述べた。また、ロシアが「大規模かつ組織的に人権を侵していることを」発見し、ロシアを人権理事会から排除するのにアメリカが一役買ったと述べた。「ロシアが撤退した後に撮影された、ブチャを含むウクライナ各地の映像は恐ろしいものだ」「人々が強姦され、拷問され、処刑された形跡があり、遺体が切断されたケースもあった。我々に共通する人間性に対する残虐行為だ」「ロシアのうそは、ウクライナで起きていることの動かしがたい証拠の前では無意味だ」アントニー・ブリンケン米国務長官も、この決議によって「間違いが正された」と述べた。
ロシアは「違法」と非難
これに対しロシア政府は、国連人権理事会での資格停止は、「違法」かつ「政治的動機」であると述べた。ドミトリー・ペスコフ政府報道官は英スカイニュースの取材で、ロシアはこの決議を残念に思っており、「あらゆる法的手段を用いて」自国の利益を守り続けると語った。人権理事会での資格停止は、2011年のリビアに続いて史上2例目となる。BBCのイモージェン・フォルクス記者は、国連総会が、国連安全保障理事会の常任理事国に対しこのような厳しい態度を示したのは初めてだと指摘。一方で、決議案自体は可決されたものの、実際に賛成票を投じたのは加盟193カ国中93カ国と半分にも満たず、決議をめぐって各国の思惑が分断していると報じた。
倒壊したアパートから26人の遺体=ボロジャンカ
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、フェイスブックに投稿した動画演説で、ボロジャンカの破壊の様子はブチャよりも「さらにひどい状況」だと語った。キーウで撮影された動画でゼレンスキー氏は、「ボロジャンカの崩壊を検分し始めている」、「さらにひどい状況だ。ロシア占領軍の犠牲者もさらに多い」と述べた。キーウにほど近いブチャやボロジャンカでは、首都を狙うロシア軍との激しい戦闘が行われていた。ウクライナのイリーナ・ヴェネジクトヴァ検事総長によると、ボロジャンカの倒壊したアパート2棟から、これまでに26人の遺体が発見されている。検事総長は、ロシア軍が意図的に市民のいる地域を攻撃したと非難。「ここには軍事施設はない。ロシア軍は市民が家にいる夕方を狙って住宅インフラを爆撃した」と述べ、「ロシア軍の戦争犯罪の証拠だ」と話した。
「ロシア軍は遺体をプロパガンダに」
ゼレンスキー大統領は動画演説で、ロシア軍に占領されている南部マリウポリの状況にも言及。「ロシア軍がマリウポリで行ったことの真実を世界が知ったらどうなるか?」と問いかけた。「ブチャを含むキーウ地域からロシア軍が撤退した時に世界が見た光景が、マリウポリではほぼ全ての道路で起こっている。同じ残虐性、同じ恐ろしい犯罪だ」ゼレンスキー氏はその上で、ブチャでの民間人殺害に世界から非難の声が上がる中、ロシアはマリウポリでも「同じような措置」を取るだろうと指摘した。「ロシアはマリウポリの犠牲者をロシア軍によるものではなく、街を守るウクライナによるものだと言うだろう。そのために、占領軍は道端の遺体を集めて運び出している」さらに、これらの遺体が別の場所でプロパガンダに使われる可能性もあると述べた。ゼレンスキー氏は動画の最後に、「勇敢であることはウクライナのブランドだ」と述べ、「もし世界中の人々がウクライナ人の1割でも勇気があれば、国際法に対する危険も、自由な国への脅威もなくなるだろう。私たちはこの勇気を広めたい」と語った。さらに各国首脳に対し、ロシアへのさらなる制裁強化を要請。「最も厳しい制裁になり得る」のは、ウクライナへの兵器供給だと強調した。
残虐行為の証言
ロシア軍がキーウ周辺で行った殺人については、人権団体アムネスティ・インターナショナルも目撃者の証言などから確認を取っている。同団体のアニエス・カラマール事務局長は、「ここ数週間、我々はロシア軍が超法規的な処刑や違法な殺人を犯した証拠を集めてきた。これらは戦争犯罪として調査されるべきだ」と述べた。「証言からは、武器を持たないウクライナ市民が自宅や街中で殺されたことが明らかになった。言葉にならないほど残虐で、衝撃的な暴力だ」キーウ東郊の村に住むある女性は、3月9日に家に入ってきたロシア兵2人に夫を殺され、銃を突きつけられて何度も強姦されたと証言した。その間、幼い息子は近くのボイラー室に隠れていたという。ロシア軍が撤退した地域を取材しているBBCのジェレミー・ボウエン中東特派員の取材では、ウクライナ軍の反撃に備え、ロシア軍が市民を「人間の盾」にしたと話す住民もいた。ロシア政府は一連の批判を一貫して否定しており、暴力行為の犯人は別にいると主張している。
NATOもロシアを糾弾、ウクライナ支援を確認
NATOではこの日、外相会合が開かれた。ウクライナのクレバ外相も出席し、早急な支援が必要だと訴えた。クレバ外相は、ウクライナが必要とする支援を西側が続けることが、NATO加盟国をロシアから守ることにもつながると指摘。NATO加盟国とウクライナの安全保障を守るには「とにかく兵器が必要だ」と訴えた。「あなた方が今すぐ、数週間ではなく数日のうちにウクライナを助けなければ、多くの人が死ぬ。支援が遅れれば、多くの市民が家を失い、村が破壊される」「ブチャの惨劇を防ぐには、どうやってこの戦争を終わらせるか話し合わなければならない」NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長も記者会見で、ロシアの戦争犯罪疑惑に触れ、「ブチャを含む、最近ロシアの占領から解放された地域での恐ろしい民間人殺害を強く非難する」と述べた。また、責任者を法で裁く必要があるとし、NATO加盟国は国際的な調査を支援すると話した。外相会合については、「軍事兵器をもっと供給する準備がある」と明確に表明し、「その緊急性を認識した」と説明した。兵器の詳細には触れなかったものの、旧ソヴィエト連邦時代のものから現代の兵器まで、幅広くウクライナに供給していくと語った。また、サイバーセキュリティー方面の支援も拡大していくほか、化学兵器や生物兵器での攻撃に対する防衛設備も供給する方針を示した。一方で、ウクライナでの戦争が数カ月から数年にわたる可能性があると警告し、「長期戦」の準備が必要だと述べた。NATOはこれとは別に、ジョージアやボスニアヘルツェゴヴィナといった同盟国の「耐久力と自衛能力を高める」ための支援も発表している。
ロシア政府報道官、「部隊を大幅に失った」と認める
ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は7日、同国軍がウクライナ侵攻で「部隊を大幅に失った」と認めた。英スカイニュースの取材でペスコフ報道官は、ロシアが軍隊をキーウから撤退させ、多くの部隊を失ったこと、ゼレンスキー氏がなおウクライナ大統領にとどまっていることなどは、ロシアにとって「屈辱」に当たるのかと質問されると、そうした見解は「間違っている」と答えた。しかし再度、部隊を失ったことについて聞かれると、「そうだ、我々は部隊を大幅に失った。大きな悲劇だ」と語った。一方で、キーウ地域やチェルニヒウからの撤退は、和平交渉中の「緊張緩和」に向けた「善意の印」だと述べた。インタビューの中でペスコフ氏は、ロシアが「特別軍事作戦」を行っているのは、ウクライナの「反ロシア」化や、NATOが「我々の国境を越えることへの深い憂慮」からだと繰り返した。ロシアはこれまで、ウクライナ侵攻で兵士1351人が亡くなったと発表していた。実際の死者数は明らかになっていないが、米メディアは、NATO関係者の見方として7000〜1万5000人の死者が出ていると報じた。アメリカ政府も同様の推測をしている。
和平案に「受け入れられない要素」=ロシア外相
こうした中、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、ウクライナが提示した和平協定案に「受け入れられない要素」が含まれていると述べた。ラヴロフ外相は、イスタンブールで3月末に行われたロシアとウクライナの和平交渉で提示された協定案を、ウクライナ側が修正したと説明。「この交渉能力のなさこそ、ウクライナの本当の意図を示している」と語った。また、アメリカ政府がウクライナ政府をコントロールし、「ゼレンスキーに敵対行為を続けさせている」と主張。ロシアは交渉を続けるものの、自国の要求を強く求めていくと述べた。ウクライナは、ラヴロフ氏の発言はプロパガンダだと反論。ラヴロフ氏は交渉に直接参加しておらず、ブチャでの出来事から世間の関心をそらそうとしていると指摘した。
ドニプロでは市民に避難を要請
ロシア軍のキーウからの撤退に伴い、東部での戦闘が激化する懸念が高まっている。ドニプロのボリス・フィラトフ市長は、女性や子供、高齢者は今すぐ避難するべきだと呼びかけた。動画での演説でフィラトフ市長は、「東部ドンバスの状況が悪化」しているため、市内の主要インフラに直接関わっていない市民は、西部の安全な場所に避難すべきだと説明した。ウクライナ中部に位置するドニプロには現在、東部から避難してきた人々が大量に流入している。ドンバスのルハンスクやドネツクでも、当局が同様の警告を発している。
東部ドンバスは今後どうなる?
ウクライナのクレバ外相は、今後予想されるドンバスでの戦いは、「第2次世界大戦の名残り」のようなものになるだろうと話している。これについて英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のニック・レイノルズ陸戦アナリストは、「正しい予想だ」と述べている。「ウクライナ北部から部隊が全て解放され(中略)、欧州の地で何十年も起きていなかった、軍隊と軍隊のぶつかり合いが起こることになるだろう」また、ロシア軍は北部からは撤退したものの、南部と東部では「ゆっくりとロシアの占領地域が増えている」と指摘し、この地域ではロシア側がなお勢いを持っていると解説した。西側諸国からの武器提供については、ウクライナの状況を変えていることは確かだが、NATOは「備蓄している兵器の相当量を供給しており、その数は有限だ」と指摘。今後数週間についても、西側の武器が「非常に重要になる」としつつ、どこから調達し、どうやって必要な場所に届けるかは分からないと述べた。特に、対空ミサイル「スティンガー」や対戦車ミサイル「ジャヴェリン」は複雑なサプライチェーンを持つことから製造が難しいため、レイノルズ氏は、西側各国は需要への対応に苦慮しているとみている。
●ウクライナ女性、ロシア軍から性暴力 「兵士の妻」と住民密告 4/8
「生きていたくない」。ウクライナ南部ヘルソン州で暮らしていた女性がロシア兵による性暴力を告発した。「ウクライナ兵の妻」とロシア兵に告げて原因をつくったのは、地元住民だった。
エレナさん(仮名)は町から逃れる途中、南東部ザポロジエで取材に応じた。侵攻初日の2月24日、子供4人を中部に避難させた。ウクライナ軍人の夫は前線へ。自分は荷物をまとめているうちに逃げ遅れ、ロシア軍が町を占領した。
被害は今月3日に起きた。店の列に並んでいると、入ってきたロシア兵が客と話し始めた。すると自分を住民の一人が指し「こういうやつらがいたから戦争が起きた。彼女は兵士の妻だ」と言い放ったという。
視線を察し、急いで店を離れたが、ロシア兵2人が後を追って自宅に侵入。「助けを呼ぶ時間もなかった」。被害は医師にも夫にも告げていない。「ひどい。本当にひどい。生きていたくない」と泣き崩れた。
エレナさんは、ウクライナ軍が占領地を奪還して「報復する」と信じる。「自分を密告した住民を探し出し、夫に伝える」とも誓った。
同様のケースは珍しくなく、人権団体はウクライナで性暴力が「戦争の武器」として用いられていると訴える。
●ロシア外相「ウクライナの安全を保証する国にベラルーシ加えるべき」 4/8
ロシアのラブロフ外相は、ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻を支援しているベラルーシについて、「ロシアとウクライナの停戦協議で積極的な役割をしてほしい」と述べました。そのうえで、停戦協議の焦点となっているウクライナの安全を保証する国のリストの中に、ベラルーシも加えるべきだと主張しました。
ウクライナ側は、NATO=北大西洋条約機構の加盟国などを保証国として希望していて、ロシアの軍事侵攻に加担するベラルーシは受け入れないとみられています。
●南を狙うプーチンの思惑 ウクライナの息の根を止める作戦 4/8
キーウ周辺からのロシア軍の撤退で、一応、首都周辺は戦闘区域ではなくなった。しかし一方で、東部ドンバス地方や黒海沿岸の地域では戦闘の激化も伝えられる。プーチン氏のこの後の狙いは何なのか…。
“守”から“攻”へ…武器供与が変わる
これまでもアメリカは様々な形でウクライナに対し軍事的装備の供与を続けてきた。その主力は戦闘機やヘリを撃ち落とす「スティンガー」、戦車を破壊する「ジャベリン」といった人間が持って小型のミサイルを発射する兵器だった。が、今回チェコから、ウクライナ兵が扱い慣れた旧ソ連製の戦車が投入された。これは何を意味するのだろうか。
東京大学先端科学研究センター 小泉悠専任講師「(これまでの兵器は敵の攻撃から防御するものだったが、戦車は攻める兵器に思えるが…)その通りです。スティンガーもジャベリンもウクライナが持ちこたえる上で非常に大きな役割を果たした。(中略)でも、押し返すという力にはならない。そうなると戦車とか…。先月31日にイギリスのウォレス国防相が言ったのは、大砲を供与すると。それから沿岸防衛システムと言ってますから地対艦ミサイル、地対空ミサイルなども含むかと。これだけの重装備が入ってくるとウクライナ軍がロシア軍を押し返す可能性はある。(中略)といっても10輌20輌あっても焼け石に水。数百輌送らないと。まぁ旧東側の国々には旧ソ連製の戦車が残っている、予備保管されているものもかき集めればかなりの数になる。気になるのはロシアが予備役を6万人ぐらい投入する準備を進めていることだが…」
ウクライナ側が重装備を強化し、ロシアが増兵する…。東部戦線の激化は免れそうもない。
「黒海の港を失えば、ウクライナの国民経済は麻痺する」
ロシア軍は東部を固める一方で、南部の町を断続的に攻撃している。
ウクライナ南部、黒海沿いにはロシアが手に入れたい町がいくつもある。親ロシア派の多い東部とクリミアをつなぐ回廊の中心マリウポリは徹底的に破壊され尽くしている。一方、黒海沿いの西の端には、美しい港町オデーサがある。ロシアはここも狙っているようだ。オデーサとはどんな町か、旧ソ連地域の政治経済に詳しい服部倫卓氏に聞いた。
ロシアNIS経済研究所 服部倫卓所長「“黒海の真珠”といわれ、文化的な香りもあって旅情豊かな非常にいい街です。港町ですが、オデーサだけじゃなくこの州に3つ大きな港があって、ウクライナ経済の屋台骨を支えてる。ウクライナは農作物、特に穀物の輸出額はアメリカに次いで世界2位。ひまわり油は、世界1位です。それをどこから輸出しているかというと、オデーサなんです」
ロシア軍はオデーサの東隣の港町、ミコライウへの攻撃を続けている。ウクライナ軍は何とかここで食い止めようと反撃しているというが、ウクライナにとっての港町の重要性は、小泉氏、服部氏二人が口を揃える。
小泉悠専任講師「ミコライウに関しては、ロシア軍が継続的に攻撃していて、何とか落としたい重要目標であることは明らかです。ここを落としたら次はオデーサで、ここまでは攻め込むことは、視野に入っているでしょう。ウクライナにしてみれば大動脈、世界と経済でつながる拠点がオデーサです」
服部倫卓所長「ウクライナは輸出依存度が非常に高い国。それも小麦、トウモロコシ、ひまわり油、鉄鉱石など船で運ばないと成り立たない。市場も地中海沿岸や中東、インド洋周辺。つまり黒海の港から輸出することが国民経済の基本になっている。これを失うことは国民経済が麻痺すること」
キーウ攻略を断念しても東部と南部への侵攻は決して緩めないロシア。実は、軍事侵攻の3日前、プーチン大統領はある言葉でこのエリアに言及していた。
プーチンのノボロシア(新しいロシア)発言の真意
「18世紀オスマン帝国との戦いを経てロシアに組み込まれた黒海沿岸の土地に『ノボロシア』という名前が与えられた。しかし今、歴史の出来事もロシア帝国と軍の偉人の名誉も忘却に追いやられている。ロシア帝国の偉人らの努力なしには現在のウクライナの大都市も黒海へのアクセスもなかったはずだ」(2月21日、ロシア大統領筆のプーチン大統領の演説から抜粋)
ノボロシア(新しいロシア)は、ロシア帝国時代支配下にあった黒海沿岸地域の名称だ。
このエリアには、現在ロシア軍が侵攻しているドンバス地域やマリウポリ、ミコライウ、オデーサなどの港町がすべて含まれている。このロシアの侵攻エリアとノボロシアとの関連性について服部氏は言う。
服部倫卓所長「ウクライナにおけるロシア語圏が東部、南部にある。オデーサも完全なロシア語圏の町。今回、プーチンは歴史的なロシアというものを強調して、そこから始まった妄想で作戦を発動したと思う。帝政ロシアの時代を思い浮かべると、当時からオデーサは随一の穀物輸出港として繁栄したわけです。そういう歴史的ロマンに(元はロシアのものだという)情念を抱いて妄想のような戦争を始めてしまった」
これまで、ロシアの南下政策は凍らない港を求めて進められたと学んできたが、今回の黒海沿岸の独占もそのことと関係があるのだろうか。
服部倫卓所長「ロシア領内にも大規模な港があります。そこは凍りません」
小泉悠専任講師「現在ロシアは不凍港を行動原理にはしない。しかし、ウクライナから港を奪うということには意味がある。港を取ってしまえばウクライナは窒息する」
そして小泉氏は、プーチン大統領のノボロシア発言は今回初めて言い出したことではないと指摘する。2014年にウクライナ東部の親ロシア派勢力が独立を試みた時、名乗ったのが「ノボロシア共和国連邦」だった。結局失敗に終わったが、プーチンの頭の中には、かつてのノボロシア地域を独立させてロシアの仲間にしようという「ノボロシア構想」があったと小泉氏は見る。
小泉悠専任講師「2014年は、ロシアは相当工作を行って、親ロシア派に暴動を起こさせようとしたけれどうまくいかなかった。今回はそれを軍事力で強制的に達成しようとしてるように見える。かつての帝政ロシアの領土をもう一度…という部分もあるかもしれないが、それより、ウクライナの豊かな部分、世界経済とつながっている部分、これを取ってしまってウクライナという国にロシアに逆らえないようにしてしまえっていう構想なんだと思う」
ソ連は農作物を標的とした生物兵器を開発していた
東側や南側をロシアに占領されることは、ウクライナの生命線である穀物を抑えることになる。この穀物を逆手にロシアが次の手を打つ可能性について小泉氏は危惧する。
小泉悠専任講師「生物化学兵器に関して申しますと、ずっと人間を標的にするものばかりが語られていますが、ソ連は農作物を標的にする生物兵器を作っていました。ウクライナを支えるのが穀物だという話からすると、それを狙った生物兵器を標的に撒くという可能性も入ってくる。このことはウクライナにとって耐えがたいだろう、と降伏をせまる可能性はあると思います」
●謎に包まれたプーチン氏の娘たち 米制裁で注目集まる 4/8
ロシアのウクライナ侵攻に伴う「残虐行為」をめぐり、米政府はウラジーミル・プーチン大統領の娘2人に制裁を科した。ただ、この2人については公にほとんど知られていない。
米財務省によると、2人はカテリーナ・チホノワ氏とマリヤ・ボロンツォワ氏。チホノワ氏は「ロシアの防衛産業を支援する仕事に従事するハイテク企業の幹部」。ボロンツォワ氏は、国の出資を受け「プーチン氏が個人的に監督する」遺伝子研究計画を主導する。
米政府は「プーチン氏の資産が家族の間で隠匿されている」とみていると、ある米高官は指摘する。
ロシア大統領府のウェブサイトに掲載されているプーチン氏の公式な経歴によると、ボロンツォワ氏は1985年生まれ。チホノワ氏は、プーチン氏がソ連時代に国家保安委員会(KGB)の諜報(ちょうほう)員としてドイツ・ドレスデンに家族と共に赴いた後の1986年に誕生した。
プーチン氏は過去に、娘たちはロシアで大学教育を受け、欧州の数か国語を話し、ロシアに居住していると明かしている。孫も存在するという。ただ、公式にはこれ以上の情報はあまりなく、大統領府はプーチン氏一家の私生活について情報を公開していない。
ロシアメディアによると、ボロンツォワ氏は内分泌科医でがんの治療に重点的に取り組み、政府との関連もある大手の医療研究企業に関与している。
チホノワ氏については、数学者であり、国内トップクラスの国立大学に関連した科学技術財団を率いていると伝えられている。同氏は、アクロバットロックンロールと呼ばれるダンス競技のプロ選手で、権威ある国際大会への出場経験もあるという。
プーチン氏は2019年の記者会見で、娘たちが実業界で存在感を拡大し、政府とも結び付いているのではないかとの質問を受け、直接的な答えは避けた。両氏を娘とも呼ばず、ただ「女性たち」と表現した。
後年行われた別の記者会見でプーチン氏は「彼女たちのことを誇りに思う。勉学を継続し、職務に就いている」と語った。また、「彼女たちはいかなるビジネス活動にも関与しておらず、政治にも関わっていない」と明言した。
プーチン氏は2020年のインタビューで、「安全上の懸念」があるため、家族に関する情報の共有は望んでいないとの考えを示した。孫の存在は認めたものの、何人いるのかは明かさなかった。
プーチン氏は「孫たちがいる。私は幸せだ。大変良い子たちで、とてもかわいい。一緒に時間を過ごすのを本当に楽しんでいる」と話している。
●中南米やアフリカなどで親ロシアのプロパガンダが広まる 4/8
ウクライナ侵攻でロシアの残虐性や違法性が強調されている。両国の情報戦においてはウクライナの圧勝のように思われがちだ。しかし、私たちの見えないところで、ロシアを支持する情報が広く流布しており、親ロシアの姿勢を取る人が多いのもまた現実だ。
どこでクレムリンのプロパガンダが拡散されているのか
ウクライナのゼレンスキー大統領は、国内外に積極的にメッセージを伝えている。こうした行為が、国内の士気を高めるだけでなく、ロシアの違法性を国際社会に伝え、その効果的な情報戦略が世界で賞賛を集めている。他方、残虐行為を重ねるロシアへの非難は各地で高まる一方のように思われている。
しかし、英紙「ガーディアン」によると、ウクライナはすべての国から支持されているわけではないのだという。ウクライナに不利なフェイクニュースやロシアのプロパガンダがそのまま拡散されている国も少なくないようだ。
市民がプーチンのプロパガンダに染まったことで知られるロシア国内だけでなく、ロシアに近い立場あるいは中立姿勢を取る国々でもロシアの主張がそのまま報道されているという。たとえば中国や南米、サハラ砂漠以南のアフリカの国々などにおいてだ。
中国においては、ソーシャルメディア「ウェイボー」上の投稿を見ても、その約50%が、西側諸国やNATO、ウクライナのせいで戦争が起きたというロシアの主張を支持しているという調査結果がある。
英誌「エコノミスト」によると、ロシアの姿勢に明確に反対している国は131ヵ国あるものの、それらの国の人口を考えると世界のわずか36%にしかならない。中国やインドなどもっとも人口が多い国が、ロシアに反対していないためだ。
中立姿勢を示すインドにおいては、40%の回答者がロシアのウクライナ侵攻を支持、54%がプーチンのリーダーシップを支持していると、英インターネット調査機関YouGovの3月の調査で示されている。
プロパガンダを拡散する反米スペイン語メディア
なかでも特筆すべきは、ラテンアメリカでロシアのプロパガンダが積極的に広く拡散されているという点だ。
ロシアの国営メディア「ロシア・トゥデイ(RT)」と「スプートニク」はEU加盟国やイギリスではの放送が禁止され、アメリカでも制作が停止している。その一方、米メディア「ディスパッチ」によると、ラテンアメリカではこれらのチャンネルの人気が高まっているという。
2009年にスペイン語圏で放送が開始された「ロシア・トゥデイ(RT)」のスペイン語チャンネル「アクチュアリダRT」はスペインでは放送されなくなったものの、南米ではクレムリンの嘘の主張を放送している。
また、その報道内容を、ベネズエラのプロパガンダチャンネル「テレ・スー」やイランが2011年に立ち上げたスペイン語チャンネル「イスパンTV」も放送し、さらに拡散しているそうだ。
たとえば3月6日にロシアとウクライナの停戦合意で、ウクライナ市民が脱出するための人道的回廊をロシア軍が砲撃したという事実があったが、「テレ・スー」と「イスパンTV」は、ロシア側の主張をそのまま報道し、ウクライナ側を非難した。彼らは「ウクライナの過激派勢力」が民間人を人間の盾として使い、ロシアの人道支援を妨害していると言うのだ。
ベネズエラ政府もイラン政府も共に反米的な姿勢を取り、自らを欧米による帝国主義の「抵抗」戦線であると自認している。彼らは、メディアの中で西側諸国とその指導者を悪魔のように描き、西側諸国に世界が抵抗するというシナリオを押し出している。
なお、英「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」の調査によると、両国は、同様にウクライナ侵攻に関しても、ロシアを支持する姿勢を示している。
ラテンアメリカ地域は、以前から陰謀論的な世界観、反米主義、帝国主義への抵抗と結びついてきた。それゆえ、反米的な勢力は、以前からラテンアメリカで自らに都合のいい情報を広めようとする傾向があったという。
なお、プロパガンダの影響力を測るのは難しいが、ソーシャルメディア上の反響を見る限り、一定層に支持されているようだ。たとえば、アクチュアリダRTのツイッターアカウントには現在350万人、テレ・スーのアカウントには300万人のフォロワーがいる。なお、テレ・スーのYoutubeは現在150万のフォロワーがいるが、そのうち6万人はロシアによるウクライナ侵攻が始まった後に増えたそうだ。
スペイン語を母語として話す人口は世界に5億人おり、その間で親ロシア的な言説が広く浸透すれば、その影響は見過ごせなくなるだろう。
●戦争犯罪人と呼ばれるプーチン大統領を支えているものは?〜ウクライナ侵攻 4/8
ロシア軍がキーウから包囲網を解いた後、近郊の街ブチャでウクライナ人410人の死体が見つかった。ゼレンスキー大統領はこれを「ジェノサイド」と呼び、バイデン大統領は再びプーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼んだ。
ウクライナと同国を軍事支援するNATO(北大西洋条約機構)諸国、米国の同盟国である日本などは、政府見解としてプーチン大統領を「戦争犯罪人」と確定的に呼び始めており、国際司法裁判所に提訴するなどの動きも本格化しつつある。
だが、そもそも「かつてウクライナでロシア系住民が殺された」ことを信じているロシア国民は、プーチン大統領はジェノサイドを引き起こした戦争犯罪者だと言っても信用しないのが現実だ。NATO側にはVPN(Virtual Private Network)という通信技術を使ってロシア人に情報提供しようとするの動きもあるが、これをブロックする技術を中ロは持っており、難しいかもしれない。
なお、ルーブルの対ドル相場は、本稿執筆時点の4月7日時点で、ついに79ルーブルまで上昇した。世界から経済制裁を受けながら、ルーブルは対ドルでウクライナ侵攻前より高くなっている。
プーチン大統領は妄想に取りつかれているのか?
プーチン大統領は、2月21日の東部二州(ドンバス、ルハンスク)の独立を承認した時、2月24日のウクライナへの侵攻時、3月18日のラジ二キ・スタジアムでのクリミア半島奪還8周年記念式典時と三度にわたり、「ウクライナでナチを排除した地域は、人々を苦難、ジェノサイドから救うという我々のプランを疑いなく実行している。これが、我々が東ウクライナのドンバスで開始した武装行動の主要な理由であり、動機であり、また目的である」と語った。記念式典があったスタジアムには、「ナチズムのない社会を!」というスローガンが書かれた旗が舞っていた。
これは、プーチン大統領がウクライナ侵攻以前から語っていたことだ。だが、欧米や日本の専門家たちは「プーチンが妄想に取りつかれた」、「精神的におかしくなっている」と憶測する。この2週間ほど、「プーチンには正しい情報が上がっていない」、「側近等が辞職している」という話も出始めており、3月29日に始まった本格的な和平交渉よりも、プーチン政権の崩壊を期待する向きが強まっていると感じるのは、筆者だけではないだろう。
しかし、本当にプーチン大統領は妄想に取りつかれて、側近の報告さえ聞かなくなっているのだろうか。本稿では、プーチン大統領の発言の背景や彼がなぜここまで世界を敵にしても頑張れるのかなど、プーチンをめぐる現状について考えてみたい。
ローマ教皇とロシア正教総主教が2016年2月に会談
ロシアが2014年のクリミア半島奪取の時から、今回の侵攻を想定していたと見るのは、今や世界で一般的となっている。この8年間に最大8万人が死んだとも言われるウクライナ東部・南部でのウクライナ人とロシア人の争いについては、少なくとも現在では、「ロシアが悪い」という評価に異を唱える人は少ない。
しかし、プーチン支持者の理解は異なる。それによると、発端は2016年2月だ。
同月、ローマ教皇はメキシコ訪問の途中でキューバの首都バハマに立ち寄り、そこでロシア正教のキリル総主教と2時間にわたる会談を行った。当時の記録によると、キリル総主教がローマ教皇に面会を懇願したらしい。
この頃のキューバは、オバマ大統領の下で対米国交回復を果たし、ある意味、平和のシンボルのような場所だった。そこまでキリル総主教が面談のためだけにやってきたのである。
実はこの時の共同宣言の中に、今回のプーチンの演説に繋がっていると思われる二つのことが含まれている。
一つは、「ギリシャ・カトリック教とギリシャ正教の間に緊張が存在するところでは、ローマ教皇とキリル総主教の会談が双方の和解と共存の形を必要としている」である。これは、ウクライナにおけるカトリック教徒(ウクライナ人)とギリシャ正教徒(ロシア正教徒のロシア人)との関係を示唆している。
もう一つは、「私達(ローマ教皇とキリル総主教)は、すでに多くの犠牲者を出しており、平和な住民に無数の傷を与え、社会を深い経済的・人道的危機に陥れているウクライナの敵対関係を嘆く。私達は、この紛争に関与しているすべての部分に、慎重さ、社会的連帯、そして平和の構築を目指した行動を呼びかける。私達は、ウクライナの教会に対し、社会の調和を目指し、対立に参加することを控え、紛争のさらなる発展を支援しないよう呼び掛ける」である。どちらが悪いとは書いていないが、ウクライナ人とロシア人の紛争の解決を求めている。
そのうえで、「私達は、ウクライナのギリシャ正教間の分裂が、既存の教会の常識によって克服され、ウクライナの全ての正教徒が平和と調和のうちに生活し、ウクライナのカトリック共同体がこれに貢献し、それによって私達のキリスト教的兄弟愛がますます明らかになることを希望している」と表明している。
プーチン大統領なりの正当性
これを受け、「2014年のロシアによるクリミア半島奪取から今まで続くロシアによるウクライナ侵攻」というウクライナとNATO側の主張とは裏腹に、ロシア側は「2016年にローマ教皇とロシア正教総主教が止めようとしたウクライナ内戦を、ロシア軍を使って終結させる」と主張しているのである。
プーチン支持者のロシア政府関係者によれば、「この共同宣言は、ウクライナ国内におけるロシア系住民への圧迫を止めようとしていたが、それが止まらないのでプーチン大統領が正義の行動をしたのだ」という理解に繋がるらしい。
われわれ日本人が信じるか信じないかは別にして、プーチン大統領には彼なりの正当性があったのだ。
ロシア正教会を含む東方正教会の多くがロシアを批判
今年3月16日、ローマ教皇は6年ぶりにキリル総主教との会談をオンラインで行った。教皇側からは教皇庁キリスト教一致評議会議長のコッホ枢機卿、総主教側からはモスクワ総主教庁渉外部長のヒラリオン大司教が同席した。
この会談で注目されるのは、ローマ教皇がキリル総主教に対して、「教会は政治の言葉を使ってはならず、キリストの言葉(例えば聖書の引用など)を使うべきだ」と語った点だ。これは、プーチン大統領が心の拠り所として支援してきたと噂されるキリル総主教への示唆だったと言えるのではないか。
この前後、ローマ教皇は繰り返し、戦争がもたらす非人道的な結果をなくすべきと発表し、ウクライナに救急車を贈っている。また、欧州安全保障協力機構の永久オブザーバーの地位を持つバチカン市国は、3月30日にウィーンで開かれた会議で、ウルバンチェック・モンシーニョル(高等司教)が戦争をなくすことを求めている。
中東のイスラム教系のメディアがこれらの動きを中立的に報道しているので紹介したい。
それによると、ローマ教皇は3月16日、ウクライナ侵攻前にプーチン大統領を祝福したキリル総主教と会っている。また、ルーマニアのダニエル総主教、フィンランドのレオ大司教、アフリカのテオドア2世総主教など名立たる東方正教会のトップが、ウクライナ侵攻を非難しているという。要は、プーチン大統領の仲間であるキリル総主教がバックラッシュにあっていると表現しているのだ。
また、東欧だけでなく、ロシア正教会の司祭や助祭など300人が、ロシアが戦争を止める方向に動くと信じているという公開書簡を出したこと。プーチン大統領が雇ったというシリア兵を意識してか、シリアのゾコロフ大修道院長の言葉として、「数百人が戦争反対の著名をした一方で、ロシアへの恐れから名乗らない者もいる」と語ったことも報じている。
さらに、キリル総主教がプーチン大統領を支持する背景として、2012年のプーチン大統領の選挙での勝利を、キリル総主教が「神の起こした軌跡」と呼んでいること、プーチン大統領がウクライナをロシアの一部と見なしているように、キリル総主教はロシア教会がウクライナ教会とベラルーシ教会を支配していると考えていることを挙げている。
イスラム教国のメディアをどこまで信じるかという問題はあるが、キリスト教という括りの中でも、プーチン大統領は、彼を精神的に支えるキリル総主教と共に、包囲網をつくられているという印象を受ける。
完全ではないロシア包囲網
米欧日のメディアは、プーチンの側近などが辞任していると報道しているが、バイデン政権でもサキ報道官が辞任表明したほか、長らく日米政府の間に立ってきた戦略国際問題研究所のマイケル・グリーン日本部長が、5月に米国を去ってオーストラリアに行くと発表した。どちらも政権には不安定要素がある。
米国防省の報道官が「NATO諸国はこれまで以上の経済制裁を課する」と言ってはいるが、冒頭で触れたようにルーブルは対ドルでウクライナ侵攻前より遥かに高くなっている。
また、4月5日公開の前稿「プーチンとウクライナの生存をかけて戦うゼレンスキーが日本より中国を選ぶワケ」で書いた中国、インド、パキスタンだけでなく、中東における米国の同盟国であるUAE(アラブ首長国連邦)が2月25日の国連安保理で対ロ非難決議案の採決を棄権したが、その直後に同国のザイド外相がモスクワでラブロフ外相と会談した、という情報は当然プーチン大統領に上がっているはずだ。
ちなみに、インドがロシアの動きをジェノサイドだと批判したとの話はあるが、これはインドの一部の政治家の声であり、結局、同国としての主張は中国と同じく、「事実を調査する」であった。今、米国はロシアに代わるインドへの必要品の輸出を行うとして何とかインドを仲間に入れようとしているが、モディ首相は簡単には動きそうにない。
さらにサウジアラビアは、ドル決済を続けてきた原油代金に人民元決済を加えること、中国の習近平首相が5月に同国を訪問すると発表した。背景には、バイデン政権がイラン外交を復活させたこと、温暖化対策として世界に化石燃料離れのエネルギー政策を推進してきたことへの批判があると言われる。
UAEやサウジアラビアなどイランと対峙してきた国々は、バイデン政権発足後、イランが支援するイエメンのフーシ派によるミサイル攻撃などを受けている。ウクライナ紛争より遥か前から戦争をしているのである。
こう見てくると、極東(中国)、南アジア(インド、パキスタン)、中東(UAE、サウジアラビアだけでなくイランも)は、バイデン政権に追随しておらず、地球儀的にはロシア包囲網は完全ではないことがうかがえる。SWIFT(国際銀行間通信協会)からの締め出しなどの経済制裁が有効にならないのも当然かもしれない。
プーチン大統領の精神状態は今……
繰り返すが、ロシア軍がマリウポリ攻撃で子供を含めた犠牲者を出していること、キーウ包囲網を解いた後(米国防省は「再配置」との見解)に、多くのウクライナ人の死体がブチャで見つかるという事態は許されるべきではない。
このブチャでの惨状(ゼレンスキー大統領が「ジェノサイド」と呼んだことが的確かどうかはともかく)について、プーチン大統領は正常な判断をしたと言えるのか。それとも、ウクライナやNATO側の報道通りに精神的に異常をきたしているのか――。 

 

●EUもプーチン氏娘対象 最大手銀トップも―ロシア追加制裁 4/9
欧州連合(EU)は8日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどでロシア軍撤退後、民間人とみられる遺体が多数見つかったことを受けたロシアへの追加制裁の詳細を正式発表した。プーチン大統領の娘2人を含む217人を新たにEUへの渡航禁止や資産凍結の対象とした。
新興財閥(オリガルヒ)の大富豪オレグ・デリパスカ氏や、ロシア最大手銀行ズベルバンクのグレフ最高経営責任者(CEO)も対象に加えた。
●ウクライナ 駅攻撃され50人死亡 ロシアの短距離弾道ミサイルか  4/9
ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ東部で、避難するため多くの人が集まっていた鉄道の駅が攻撃され、地元の州知事は、50人が死亡したと発表しました。アメリカ国防総省の高官は、ロシア軍が短距離弾道ミサイルを使って攻撃を行ったという分析を明らかにしました。
ウクライナの東部ドネツク州では8日、クラマトルスクの鉄道の駅が攻撃され、地元の州知事は、これまでに子ども5人を含む50人が死亡し、98人がけがをしたと発表しました。
ゼレンスキー大統領は、「数千人ものウクライナの人たちが避難できるのを待っていた駅が攻撃された」と強く非難しました。
この攻撃についてアメリカ国防総省の高官は8日、ロシア軍が短距離弾道ミサイルを使って行ったという分析を明らかにしました。
この高官は、ロシア軍が東部に軍事作戦の重点を移す中、交通の要衝を攻撃することでウクライナ側がこの地域に追加の部隊を投入することなどを妨げようとしているのではないかと指摘しました。
これについてロシア国防省は関与を否定した一方で、ドネツク州の他の鉄道の駅をミサイルで攻撃してこの地域に運ばれてきたウクライナ軍の兵器や装備を破壊したと発表しました。
東部で攻勢を強めるロシア側は、要衝となっているマリウポリで今月6日、親ロシア派の武装勢力が、地元の野党議員の男性を市長だとして一方的に擁立するなど支配を強めています。
ワシントンのシンクタンク「戦争研究所」は7日の分析で近くロシア軍がマリウポリを完全掌握するとみられると分析した上で「ロシア軍は、東部ドネツク州とルハンシク州での大規模な攻勢を意図していて、戦闘力を結集させている」と指摘しています。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、「特別軍事作戦の目標は軍事面と交渉のプロセスで、達成されつつあり軍事作戦は、予見可能な将来に、終わるかもしれない」と述べました。
プーチン大統領は、国民向けに「勝利した」と成果をアピールするためウクライナ東部の掌握を急ぎたい考えとみられますが、欧米の支援を受けているウクライナ軍も激しく応戦する構えで戦闘は長期化するともみられています。
●“ロシア兵から性的暴行”訴え 人権団体「明らかな戦争犯罪」  4/9
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで市民がロシア兵から性的暴行を受けたと被害を訴えるケースが相次いでいるとして、人権団体は「性暴力が市民への武器として使われている。明らかな戦争犯罪にあたる行為であってはならない」と強く非難しています。
国際的な人権団体、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、今月、ウクライナ国内でロシア兵による市民への性的暴行があったとする報告書を発表しました。
報告書によりますと、東部ハルキウの31歳の女性が学校の地下に家族で避難していたところ、ロシア兵が侵入し、女性は上の階の教室に連れて行かれたということです。女性はこめかみに銃を突きつけられるなどして脅され、何度も性的暴行を受けたうえ、ナイフで首や髪の毛を切られたということです。
団体ではこのほかにもチェルニヒウやマリウポリなどで3件の性的暴行が疑われる報告があり、調査を進めているということです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの笠井哲平さんは「ロシア兵が性暴力という戦争犯罪を隠蔽するために被害者を殺害したり、遺体を焼いたりしている可能性がある。明るみに出る被害はごく少数で、大勢の被害者がいることが懸念される」と指摘しています。
そのうえで、「戦争や紛争地域では、これまでにも性暴力が市民に対する武器となっていたが、今回も同じことが起きている。明らかな戦争犯罪に当たる行為で、あってはならない」と強く非難しました。
市民への性暴力を巡っては、ウクライナのベネディクトワ検事総長もフェイスブックで、「ロシア兵による女性、男性、子ども、高齢者への性的暴行が多数報告されている。すべての殺害された女性たちが被害を受けた可能性があるため調査が必要だ」としているほか、被害者が医師や調査員、メディアなどの問いかけに応じることで、さらなるトラウマを抱えてしまわないよう配慮する必要があると呼びかけています。
●「私の子供は飢餓で死にました」ウクライナ戦争の被害がアフリカ東部で深刻化 4/9
ロシアによるウクライナ侵攻の影響は世界のあらゆる場所に及んでいる。 両国からの輸入農産物に大きく依存してきた東アフリカは、今回の侵攻を受けて食料価格が上昇。干ばつなどで、すでに深刻な状態だった飢餓がさらに悪化している。こうした食糧危機については世界的な議題になっていないものの、今すぐ援助が必要なほど事態は深刻だ、と支援団体は米紙に語っている。
1300万人以上が深刻な飢餓
最初に干ばつが訪れ、川が干上がった。ルキヤ・フセイン・アーメッドと家族は、不毛となったソマリア南西部の地方から逃げ出したが、その過程で2人の子供の命が奪われた。
そして、ウクライナで戦争が始まり、食料価格は高騰。首都モガディシュの郊外にたどり着いた後も、アーメッドは、残る2人の子供を生き延びさせようと必死になっている。
「ここですら、私たちには何もないのです」と、アーメッドは話す。
降雨量が平均以下となっている東アフリカ全域では、過去40年間で最悪水準の干ばつが続き、国連によると、1300万人以上が深刻な飢餓状態に陥っている。季節ごとの収穫量は過去数十年で最低となり、栄養失調の子供たちで病院はあふれ、多くの家族が助けを求めて長い距離を歩いている。
ソマリアの大部分では壊滅的な干ばつが起こっており、人口の3分の1近くが飢餓状態にある。隣国のケニアでは、干ばつによって300万人以上が食料不足に陥り、150万頭以上の家畜が死んだ。
エチオピアでは、内戦により北部ティグレ州への援助物資の輸送が阻まれ、過去6年間で最悪の食料不足に陥っている。同州には3ヵ月ぶりとなる食料援助が先月末に届いた。
パンの価格が2倍に
現在、ロシアのウクライナ侵攻を受け、穀物、燃料、肥料の価格が上がり、危機がさらに悪化している。
両国は、この地域の小麦、大豆、大麦などの農産物の最大の供給国だ。国連食糧農業機関(FAO)によると、少なくともアフリカの14ヵ国は半分、エリトリアはすべての小麦をロシアとウクライナからの輸入に頼っている。
「ウクライナの戦争は、すでに複雑な東アフリカの状況をさらに悪化させています」と、慈善団体「オックスファム・インターナショナル」のエグゼクティブ・ディレクター、ガブリエラ・ブッチャーは指摘する。「東アフリカは今、世界的な議題として取り上げられていませんが、この地域は国際社会の連帯を必要としています。それも、今必要なのです」
壊滅的な干ばつとウクライナでの戦争で、過去2年間に起きた一連の危機はさらに悪化した。
新型コロナウイルスの大流行により、食糧のサプライチェーンが寸断され、多くの家庭で主食への支出が増えた。ケニアのイナゴ大発生、エチオピアの内戦、南スーダンの大洪水、ソマリアの政治危機とテロ攻撃の拡大、スーダンの民族紛争の激化といった要因により、農場は破壊され、収穫物は尽き、食糧危機が深刻になった、と援助団体は述べている。
ウクライナの戦争が2ヵ月目に入り、東アフリカ全域で食料価格のさらなる高騰が起こると予想されている。米国のNGO団体「マーシー・コープス」のアフリカ地域ディレクター、ショーン・グランビル=ロスは、戦争が長期化すれば、小麦などの主食の「量と質」が低下する可能性があると指摘する。「干ばつの影響を受けた弱い立場にある人々の基本的ニーズの対応には、より費用が必要となり、難しくなるでしょう」
この前兆は、東アフリカの多くの場所ですでに起こっている。
「マーシー・コープス」のデータによると、ソマリアでは、20リットル入りの食用油の価格が32ドル(約4000円)から55ドル(約6800円)に上昇。豆は25キログラムあたり18ドル(約2200円)から28ドル(約3500円)になった。
スーダンではパンの価格が約2倍になり、戦争開始以来小麦の輸入が60%減ったため一部のパン店が閉店した、と慈善団体「イスラミック・リリーフ」のスーダン担当ディレクター、エルサディグ・エルヌールは述べている。
ケニアでもウクライナ戦争を理由に、燃料の値上げがあり、一部で抗議デモが起きている。
3歳と4歳「飢えで苦しんで死んだ」
飢饉が発生すれば、特に被害を受けやすいのが子供だ。キリスト教系援助団体「ワールド・ビジョン」によると、東アフリカでは推定550万人の子供が干ばつによって最悪水準の栄養失調に陥っている。
「私の子供は飢えで死にました。2人とも苦しんでいました」と話すアーメッドの3歳と4歳の子供は、自宅のあるソマリア南部の下部シェベリ州の村から首都モガディシュ郊外まで何日もかけて移動する際に亡くなった。「木の下で死んだんです」
モガディシュでは、ウクライナ戦争の影響が及び、ラマダンを前に高騰した食料価格が家計を圧迫している。仕事も住居もなく、かつて栽培していた豆やトウモロコシ、トマトも手に入らない。アーメッドは食べ物の寄付に頼り、残された7歳と9歳の子供を養っている。
さらに、援助計画も手薄になっている。ウクライナの戦争は、国連世界食糧計画(WFP)の運営にも影響。同機関は先月、コスト上昇と資金減のため、東アフリカや中東の難民などに対する配給量を減らしたと発表した。
現在、東アフリカで続いている干ばつは、ソマリアだけで約26万人の死者を出した2011年の干ばつと同様の状況を招くと危惧する声もある。まだそのような状況にはなっていないものの、そうした危機を回避するために必要な資金や資源はまだ流れ始めていないと、「オックスファム」のブッチャーは話す。
エチオピア、ソマリア、南スーダンのために国連が今年必要とする60億ドルのうち、割り当てられたのはわずか3%。ケニアでは支援に必要な1億3900万ドルのうち11%しか確保できていないという。
アフリカ開発銀行は先月、農業生産を改善し、アフリカ人が長期的に食糧を自給できるようにするために、最大10億ドル(約1230億円)を調達すると発表した。ブッチャーは、こうした構想は歓迎すべきこととしつつも、より広範な危機を回避するために、今すぐ、惜しみない寄付が必要とされていると言う。
「大惨事を避けるために、世界は東アフリカを救う必要があるのです」と、ブッチャーは話している。
●3月の食料価格指数 前月比12.6%上昇 ロシアの軍事侵攻影響  4/9
FAO=国連食糧農業機関は8日、ロシアのウクライナへの軍事侵攻などの影響で、穀物などの国際的な取り引き価格をもとにまとめている3月の食料価格指数が159.3ポイントと、2月に比べて12.6%上昇し、1990年に記録を開始して以来最も高くなったと発表しました。
品目別では、ロシアとウクライナを合わせて世界の輸出量の3割を占める小麦の価格が、軍事侵攻の影響で高騰していることから、「穀物」が前の月と比べて17%の上昇となりました。
「植物油」もウクライナがヒマワリ油の世界最大の輸出国であることなどを背景に23.2%上昇したほか乳製品や砂糖、食肉もすべて上昇しています。
またFAOはウクライナで冬の作付面積の少なくとも20%が収穫できない見込みだとして、ことしの世界全体の小麦の生産量の予測を3月、発表した予測より下方修正しました。
そのうえで、ウクライナでは港が閉鎖され、ロシアでは経済制裁の影響で決済や輸送に支障がでているため穀物の輸出が妨げられているとして、市場は不透明感を増しているとしています。
●やっぱり出てきた「ロシアには北海道の領有権ある」の不気味… 4/9
やはり来たか、という展開だ。「プーチンの戦争」によって国際社会で孤立化を深めるロシアが、対ロ制裁に連なる日本への牽制を強めている。元上院議長が「ロシアは北海道を領有する権利を持つ」と発言。ロシアから平和条約締結交渉を一方的に蹴っ飛ばされるなど、日ロ関係が急速に悪化する中、波紋が広がっている。
問題発言の主はプーチン体制下で2011年まで上院議長を務め、現在は下院第3勢力の左派系野党「公正ロシア」の党首を務めるセルゲイ・ミロノフ議員。いわゆる体制内野党のトップだ。
ロシアのネットメディア「レグナム」が配信したインタビュー記事(4日付)で、「どの国でも隣国に対して領有権を主張でき、国益の観点からそうする正当な理由がある。これまでクリル諸島(北方領土と千島列島)を欲しがっていたのは日本だけだった」と持論を展開。先立つ1日には「日本はクリル諸島に関して常にロシアにクレームをつけているが、一部の専門家によれば、ロシアは北海道の完全な権利を有しているという」とツイートしていた。
ウクライナで想定外の苦戦にあえぐロシアに二正面で構える余裕はないとはいえ、気味の悪さは拭えない。
「万が一、ロシア軍が北海道侵攻を企てたとすれば、専守防衛が国是である以上、海岸線では防御できない。自衛隊は旭川-帯広ラインで押し戻すのが精いっぱいです」(防衛省関係者)
そうでなくても、ウクライナ戦争の影響で、北海道周辺は緊張が高まっている。ロシアはカムチャツカ半島に拠点を置く太平洋艦隊の潜水艦基地ルィバチに、核兵器を積んだ弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を配備。オホーツク海を潜航し、日本列島の近くを行き来している。
「ウクライナ戦争をめぐり、米国が主導するNATO(北大西洋条約機構)の直接介入を阻止したいプーチン政権は核使用をチラつかせていますが、米国への対抗措置のひとつがオホーツク海からワシントンへの核ミサイル攻撃です。そうしたことから、北方領土や千島列島で軍事演習を繰り返している。在日米軍は当然、そうした動きを監視しています。ウクライナ戦争が米ロ戦争に拡大した場合、SSBNを沈めることが在日米軍の最大の役割になるからです」(米外交関係者)
日本近海で米ロが一触即発……。一刻も早い戦争終結を願うしかない。
●「北海道に権利有する」 ロシア政界で対日けん制論 4/9
ロシアのウクライナ侵攻を受けて日本が対ロ制裁を科す中、ロシアの政党党首が「一部の専門家によると、ロシアは北海道にすべての権利を有している」と日本への脅しとも受け止められる見解を表明した。
プーチン政権は欧米と連携してロシアを非難する日本への反感を強めており、こうした考えが一定の広がりを見せる恐れがある。
見解を表明したのは、左派政党「公正ロシア」のミロノフ党首で、1日に同党のサイトで発表された。公正ロシアは政権に従順な「体制内野党」。ミロノフ氏は2001〜11年に上院議長を務めた。
発表によると、ミロノフ氏は北方領土交渉に関し、日本は第2次大戦の結果の見直しを求めたが、「明らかに失敗に終わった」と主張。その上で「どの国も望むなら隣国に領有権を要求し、正当化する有力な根拠を見いだすことができる」と明言した。ロシアが権利を持つ根拠は明らかにしていない。
一方で、ミロノフ氏は「日本の対決路線がどこに向かい、ロシアがどう対応しなければならないか現時点では言えない」と指摘。「日本の政治家が第2次大戦の教訓と(大戦末期にソ連軍の侵攻で壊滅した)関東軍の運命をすっかり忘れていないことを望む」と語り、「さもなければ(日本側の)記憶を呼び起こさなければならないだろう」と警告した。
ロシアは日本との対決姿勢を強めている。外務省のザハロワ情報局長は6日の記者会見で、「日本の現政権は、前任者らが長年つくり上げてきた協力を一貫して破壊している」と批判。日本への対抗措置を計画しているとけん制した。 
●ウクライナ侵攻、医療施設などへの攻撃100件超…「国際人道法に違反」 4/9
世界保健機関(WHO)は7日、ロシアのウクライナ侵攻に伴う医療施設などへの攻撃が100件を超えたと発表した。テドロス・アダノム事務局長は「医療への攻撃は国際人道法に違反する」と非難し、改めてロシアに停戦を求めた。
WHOによると、医療関係への攻撃は計103件。このうち医療施設が89件を占め、他は救急車を含む輸送機関などだった。これらの攻撃で、医療従事者や患者ら73人が死亡、51人が負傷。また、約1000の医療施設は戦闘地域の近くや露軍に占拠された地域にあり、医薬品などが届かない状況に陥っているという。
戦闘による死者や負傷者の増加に加え、長期的な影響も懸念されており、WHOは「ウクライナの医療に大きな打撃を与えている」と指摘している。
●ウクライナ 駅攻撃で52人死亡 EU 軍事・財政面支援強化と強調  4/9
ウクライナ東部で起きたミサイルによるとみられる鉄道の駅への攻撃では52人が死亡し、市民を巻き添えにした無差別攻撃だったとの指摘が出ています。こうした中、EU=ヨーロッパ連合の委員長らが首都キーウを訪れて連帯の姿勢を示し、軍事や財政面の支援を強化すると強調しました。
ウクライナ東部ではロシア国防省がドニプロペトロウシク州で、ウクライナ軍の大型弾薬庫をミサイルで攻撃したと9日に発表するなどロシアによる攻勢が続いています。
東部のドネツク州では8日、クラマトルスクの鉄道の駅が攻撃され、地元の州知事はこれまでに子ども5人を含む52人が死亡したと発表し、ウクライナ国防省はロシア軍が残虐な兵器とされているクラスター爆弾を使ったと非難しました。
これに対しロシア国防省は攻撃に使われたのは「トーチカU」と呼ばれる短距離弾道ミサイルで、弾頭部分に1万6000もの金属片をまき散らす爆弾が搭載されたクラスター式だと指摘したうえで「ウクライナ軍による攻撃だ」と主張し、関与を否定しています。
ただ、アメリカ国防総省の高官がロシア軍が短距離弾道ミサイルを使ったという分析を明らかにしたほか、イギリス国防省も「ロシア軍が非戦闘員を攻撃し続けている」としてロシア軍による無差別攻撃だったと指摘しています。
さらにイギリス国防省は、ロシア軍が東部の要衝マリウポリや南部のミコライウなどに攻撃の焦点を当て、巡航ミサイルで攻撃を続けているなどと分析しています。
こうした中、EUのフォンデアライエン委員長と外相にあたるボレル上級代表が8日、首都キーウを訪れゼレンスキー大統領と会談しました。
そのあとの記者会見で「伝えたいのは、ヨーロッパは皆さんとともにある、ということだ」と述べて、連帯の姿勢を示し、今後も軍事的、財政的な支援を強化し、ロシアへの追加的な制裁も行っていくと強調しました。
一方、双方の停戦交渉について、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は8日、ロシア軍が撤退した首都近郊のブチャで多くの市民が殺害されているのが見つかったことをうけ「交渉のムードが影響を受けている」と指摘しました。
ロシア側はこれまで「ロシア軍が市民を殺害したというねつ造の情報をウクライナ側が発信し、停戦交渉を混乱させている」などと主張していて、交渉の進展に大きく影響しているとみられます。
●欧米首脳、一斉に対ロ非難 「戦争犯罪」責任追及―ウクライナ東部駅攻撃 4/9
ウクライナ東部ドネツク州クラマトルスクの鉄道駅が弾道ミサイルで攻撃され、多数の犠牲者が出たことを受け、欧米各国首脳は8日、一斉にロシアを非難した。各国首脳は「戦争犯罪」とみなし、ロシアの責任を追及する構えを強めている。
バイデン米大統領は8日、「また一つロシアが恐ろしい残虐行為を犯した。安全な場所に避難しようとしていた市民らを襲った」とツイート。駅攻撃はロシアの仕業だと言明した。サキ大統領報道官は8日の記者会見で、駅攻撃に関する調査に協力する意向を表明。「市民を標的にすることは戦争犯罪だ」と強調した。
また国防総省高官は、攻撃はトーチカ弾道ミサイルで行われたと指摘。クラスター弾が使用されたかは不明だという。クラマトルスクの鉄道駅について「戦略的な要衝にある」と述べ、攻撃にはウクライナ軍への物資供給などを絶つ目的があった可能性があると分析した。
ジョンソン英首相も「プーチン(ロシア大統領)自慢の軍隊がどれだけ救いようのないものかを示している。市民を無差別に攻撃する戦争犯罪だ」と断じ、「罪が見過ごされたり、処罰されなかったりすることはないだろう」と警告した。ジョンソン氏と共同記者会見したドイツのショルツ首相も「ロシア大統領はこれらの戦争犯罪に責任がある」と語った。
フランスのマクロン大統領はツイッターで「忌まわしいことだ」と非難した。さらに「公正な裁きが下されるよう、捜査を支援する」と提案。その上で「ウクライナの人々は最悪の状況から逃げている。われわれの思いは逃げ続ける家族と共にある」と連帯感を示した。
●ウクライナに即時停戦と持続的和平を!戦争を煽るな! 4/9
1)今必要なのは、即時停戦と持続的和平
ロシア軍のウクライナ侵攻から約1ヶ月が経った。今必要なのは、即時停戦と持続的和平を実現だ。これ以上ウクライナ市民の犠牲を出してはいけない。必要なのは、戦争の拡大や持久戦でも、武器弾薬の供与でもない、直ちに停戦することである。
ウクライナ軍とロシア軍では、侵入したロシアが悪いに決まっている。ロシアの今回の侵攻は国連憲章に違反する侵略行為であり断固反対する。たとえ戦争の目的に正当な理由があったとしても、軍事力を行使し実現することは許されない。まずロシア軍の撤退を要求するのは、当然のことだ。
現在は、ウクラウナ側の反撃によって、戦線が膠着している。欧米が大量に供給した兵器、とくに携帯用の対戦車ミサイル・ジャベリンや携帯用のスカッド・ミサイルによって、ウクライナ軍が反撃に転じている。米軍の支援によってロシア軍の通信妨害を引き起こすとともに、米軍事衛星からロシア軍の位置情報を提供して反撃が行われている。これまでとは違った現代的な代理戦争の様相を呈しつつあり、このまま長期戦になりかねない。
2)停戦と和平をどうやって実現するか?
いまは、どうすれば停戦と和平に向けて政治的転換を図るのかを、私たち市民が真剣に考えるべき時だ。
まず、何よりもロシアに停戦と撤退を要求する。ロシアによるウクライナへの戦争は国連憲章違反だからである。国外避難民420万人を含む1,000万人にも及ぶ大量のウクライナ避難民を生み出した責任の大半は、ロシアにある。
しかし、一方的にロシアだけを非難するのは、結局は米・NATOの側に立って戦争熱を煽り戦争を応援することになりかねない。ロシア・ウクライナ戦争を長引かせ、犠牲者をさらに増やすことになる。
私たちはそのような立場には立たない。私たちの立場は非戦である。だから、ロシア軍の撤退と共に、ロシアが侵攻したとする「原因」、すなわちこの地域における対立を取り除くことを同時に求める。プーチンの戦争目的ははっきりしている。ウクライナの領土獲得ではない、NATOの東方拡大を止めロシアの安全保障の確保にある。
したがって、即時停戦・持続的和平において、ロシア軍の撤退とともに、ロシアによるウクライナの安全保障の約束、米・NATO諸国やウクライナ政権がNATOの東方拡大を止め、ロシアの安全保障の確保を約束することが必要である。
和平は、一方が他方を、他方が一方を支配・屈服させることではない。ロシアに即時停戦・持続的和平を求めると同時に、米・NATO諸国やウクライナ政権にも即時停戦・持続的和平を求める。
欧米諸国と欧米日メディア、そしてゼレンスキー政権は戦争拡大、徹底抗戦を煽ってはいけない。停戦が先であって、ウクライナのNATO加盟など、話題にすべきではない。
この地域における対立の歴史的要因は、米・NATOの東方拡大にある。米・NATOは、プーチンの警告や交渉に全く耳を貸さず、ロシアを見下し封じ込めてきた。NATO加盟国にはミサイルが配備され、モスクワまで数分で届くところまで包囲網を狭めてきた。2021年2月、ゼレンスキー大統領は、「NATO加盟と東部2州およびクリミア奪還を今年中に実現する」と宣言し、2015年の「ミンスク合意」(停戦合意と東部2州の高度の自治権)の破棄を公言した。ウクライナのNATO加盟、東部2州とクリミアを奪還が、ロシアとNATOの全面対立になるのは誰の眼にも明らかであるにもかかわらず、だ。ゼレンスキーは米・NATOの意図通りに振るまったのである。
そのような経緯、この地域の対立からすれば、停戦と持続的和平の課題も明確である。それは1ロシア軍の即時停戦、撤退、2ウクライナ軍の戦闘行為の中止を同時に行うこと、3さらにはウクライナのNATO加盟の断念、4ウクライナ軍による東部2州への攻撃中止、5中距離ミサイルのウクライナ配備計画の中止である。
3)停戦はできるだろうか?
3月29日、トルコが仲介者に名乗りをあげ、第4回目の停戦交渉がイスタンブールで行われた。世界はその推移を見守っている。
当初、フランスのマクロン大統領が仲介を試みたが、EUの今の空気のなかにあっては完全に孤立して行き詰まってしまった。
中国はどうか? その資格が十分にあるが、米欧は国連のロシア制裁決議に中国が棄権したことを問題にしている。第一のライバルは中国なので、米国はこの機に中国も抑え込みたいとする本心を露わにし、中国への制裁をちらつかせている。そうすることで中国が停戦の仲介者となることをむしろ妨害している。
欧米は、停戦とは反対の方向に動いているように見える。米欧日など西側諸国は、NATOを巡るロシアとの交渉も、停戦や和平を巡る対話を一切せず、ただ武器を送りウクライナを焚きつけてロシアと戦わせている。32ヵ国が武器をウクライナに送っている。日本はヘルメットと防弾チョッキを送った。米欧日など西側諸国が後押しする限り、ウクライナが停戦に進むのは難しい。
英ジョンソン首相は「制裁はロシアの体制転換のためだ」と公言した。バイデンは訪問したポーランドで「プーチンを政権から引きずりおろせ!」と演説した。英米政府の本音が表にでた瞬間だ。ウクライナ政府の戦争を支持し、長期戦化を狙っている。並行してロシアに制裁を科し、ロシア経済を破綻させ、屈服させるのが米英の戦略のようだ。ウクライナはそのための「捨て駒」である。私たち市民は、米欧日など西側諸国政府の態度を停戦へと変えさせなければならない。
ウクライナ国民を守るべきゼレンスキー大統領自らが徹底抗戦を掲げ、米欧日の西側諸国に武器援助を要求し、国内では18歳から60歳男性を出国禁止とし根こそぎ動員している。非戦の人々、非戦の宗教者もいるだろう、戦闘員になりたくない人もいるはずだが、それを認めない。ゼレンスキーは世界に向かって「戦闘員来てくれ!」と公言し外国人傭兵を募集した。これは国際法違反である。国際法には、傭兵の募集や使用を禁止する条約があり、ウクライナも批准している。
ゼレンスキーは市民にも戦闘を呼びかけ、成人男性の国外退避を禁じ、希望者には無差別に武器を配っている。第2時世界大戦後、非戦闘員の犠牲への反省からジュネーブ諸条約がつくられ、「戦闘員と非戦闘員は区別しなければならない」「非戦闘員は保護しなければならない」と定義した。国家が扇動して「市民よ銃をとれ!」という強制は、現代ではやってはいけないことだ。実際の戦場では非戦闘員を区別できない。すでにウクライナには国家の指揮命令系統では掌握しにくい非正規の戦闘員・傭兵が参戦している。(伊勢崎賢治「ウクライナ危機に国際社会はどう向き合うべきか」3月17日長周新聞)
プーチンの侵略はだめだが、ゼレンスキーもおかしなことを煽っている。それなのに米欧日政府とメディアはゼレンスキーをいまやヒーローに祭りあげている。
その間に犠牲となるのはウクライナの一般市民だ。米欧は、自分たちは戦わず、NATO加盟国でもないウクライナ市民を戦わせている。これがウクライナ戦争の本質的特徴になりつつある。
確かに戦争を始めたのはロシアだ。ロシアは即刻、停戦し撤兵しなければならない。しかし、ゼレンスキーにも重大な責任がある。ゼレンスキー大統領は戦争回避のために何の措置も取らなかった。逆に、膨大な量の対戦車ミサイルや対空ミサイル武器・弾薬を米国から受け取り、戦争体制を整えてきた。ウクライナ市民の命と生活を犠牲に米・NATOと結託してロシアを包囲し攻撃する前線基地になるという行為に出た。それがこの地域の対立を新たにつくったことも間違いない。
欧米メディアは報じないが、東部2州の親ロシア地域では現在も市民がウクライナ軍のロケットや砲撃にさらされている。彼らは2014年以降の8年もの間、ゼレンスキーの国家親衛隊アゾフ大隊などのネオナチ部隊の襲撃でこれまでに1万4千人も殺された。ゼレンスキーはミンスク合意で約束した停戦と特別の自治権を破棄して攻撃してきたのである。
さらに言えば、最大の責任は米政府にある。米政権は、米戦略にしたがってロシアへの戦争挑発と緊張激化を推し進めるゼレンスキー政権を育てたあげたからだ。
ロシア側は昨年12月にウクライナのNATO加盟、東方拡大をやめ、「ミンスク合意」履行を繰り返し求め、そうならなければ軍事的措置を取らざるを得ないと警告した。バイデンはそれにゼロ回答を繰り返した。
停戦をし、このような戦争の原因となる対立をこの地域から取り除かなくてはならない。
4)停戦せよ、人道回廊、原発管理
まずは停戦し、戦場から市民が避難する人道回廊の保障をすぐにでも実現すべきだ。
その次には原発の管理。IAEA(国際原子力機関)や国際監視団がどうやって入っていくかという話となる。
例えば、原発の半径何`b以内は必ず非武装化するなどを決め、原発災害が起きないように管理する。原発の危険性は正規軍であれば理解できるだろうが傭兵は違う。その意味でも、傭兵が戦場を混乱させる前に停戦合意を進める必要がある。(伊勢崎賢治氏、前出)  停戦においては、「プーチンが悪い(もちろん悪いが)」とか、「戦争犯罪をどうするか」とか、「クリミアや東部2州の帰属をどうするか」などと国際社会が不必要に騒ぐのは、停戦を進める当事者と仲介者にとっては、停戦を遅らせるだけだ。それは犠牲者が出るのを止めた後の次の段階でやればいいことであって、一時的に棚上げにしてでも、まず戦闘を止めるべきだ。
停戦交渉は4回目を数えている。楽観視はできないが、粘り強く交渉を続けていく以外にない。とにかくこれ以上の犠牲者を出さないために、戦況の凍結、その一点のみに国際社会の焦点を絞るべきだ。
欧米日諸国政府は、ウクライナ戦争支援ではなく、停戦を求めよ!
5)情報統制、フェイクニュースによる世論誘導
現在メディアは欧米側の視線でしかウクライナ情勢を伝えていない。双方の情報戦や現地の混乱状況を考えれば、市街地・民家などの被害が実際どちらの攻撃によるものかもわからない。映像といえども本物とは限らない。ロシア侵攻前から、ウクライナ軍はロシア系住民の多い東部地域に空爆もしてきた。それらに関するすべての情報は、ウクライナ当局と米国メディアの発表だけが検証もなく垂れ流されており、あまりにも中立性がない。
一方で、ロシア系の放送はすべて遮断され私たちは見ることができない。ロシアのニュース・チャンネル「RT(ロシアン・トゥデイ)」は、プーチン批判もするようなところもある放送局だが、それさえも見れなくなった。ロシア政府の公式サイトにも繋がらない。欧米日のメディアとGAFAは、相手の言い分など何も聞かせないという対応に出ている。現代の情報統制は、ここまでやるのかというレベルにまでなっている、驚くばかりだ。
どのメディアも同じ方向を向いている。これは恐ろしいことだ。
6)ウクライナ戦争からみた日本の教訓
日本の国会は3月23日、ゼレンスキー大統領の要請に応じオンライン演説の場を提供した。ゼレンスキー演説は、停戦や和平が目的ではなかった、戦争拡大への支持取り付けが目的だった。戦争熱の煽動であって極めて危険な内容であったことに、驚いた。交戦国の一方の大統領の好戦的発言を一方的に垂れ流すことも異常だ。
今回の演説は、米欧日の西側諸国とゼレンスキーが共同で推し進めている対ロシア戦争強化拡大政策の一環ととらえざるをえない。バイデンのNATO、ヨーロッパ歴訪と連携している。バイデンは対ロシアの前線基地になっているポーランドで戦争を煽り、ブリュッセルでのNATO、G7、EUの各首脳会議に出席し、対ロシア戦争を激励し、追加制裁を決定しようとしている。バイデンの口から停戦の話は決して出てこなかった。
岸田首相は、ゼレンスキー演説を全面支持し、「極めて困難な状況の中で、祖国や国民を強い決意と勇気で守り抜こうとする姿に感銘を受けた」と語った。日本の国会が戦争を礼賛したことに、強烈な違和感を覚える。停戦を掲げない、戦争熱を煽ることに、私たちは改めて反対する。
日本政府やメディアも、停戦や和平を主張するのではなく、一日中、ウクライナ戦争支援を訴え、戦争熱を煽り立てている。日本国内でも同じ方向を向いた熱狂が作り出されている。このようにして戦争に入っていくのか・・・・と痛感させられた。ウクライナのことでこれだけ扇情的になるのだから、例えば台湾有事などで自衛隊が戦闘を始めたら、この国はどうなっていくのか、本当に恐ろしくなる。
先の大戦で国家のために日本の一般市民があれほど犠牲になったのに、なぜ戦争を応援するのか? 「市民は死ぬな!」という応援ならいいが、「市民よ、銃を取れ!」という大統領の言葉をなぜ応援するのか?
ウクライナをめぐって「善である欧米」か、「悪のロシア」のどちらにつくのかを迫り、善の側につくように世論が醸成され、同調が強制されている。どちらかの国家につくべきだと煽ったり、市民を犠牲にするようなことはしてはいけない。これは二択問題ではない。非戦・中立という市民の選択、中立の主権国家という選択肢もある。また、市民や民衆は、国家に所属しなければならないのではない。
ゼレンスキー政府とその市民を区別する必要がある。ウクライナ市民は戦争の被害者であり保護されなくてはならない。大量の避難民がいる。しかし、そのことはゼレンスキーとその政府の戦争熱の扇動を支持することではない。ロシアの始めたウクライナ戦争に反対し停戦を求める、しかし私たちはウクライナ国旗を掲げない。
2020年代に入り、日本はすでにウクライナと同じように米国と中国に挟まれた緩衝国家になっている。日本はまるでウクライナのように米国による中国挑発の「捨て駒」に使われる可能性が高まっている新しい現実を、私たちは改めて自覚しなければならない。米国が煽る「台湾有事」で戦場となるのは、台湾であり日本であり中国東海岸であって、米国ではない。日本に米軍基地があり米軍が自由に振る舞っている現状は、むしろ危険なことであると私たちは知らなくてはならない。
日本にとって安全保障とは、一方の側に立つことではない。いまや憲法9条を掲げ、米中対立を緩和すること、あるいは米中に中立の立場に移行することこそが、日本の安全保障であるとあらためて認識しなくてはならない。核兵器禁止条約を批准し、核兵器禁止にむけて戦争被爆国・日本が国際的世論を主導していくことこそが、日本と世界の真の安全保障となる。
偶発的な事故などから戦争につながる可能性を排除することも重要だ。南西諸島でのミサイル配備は、時間をかけた中国への挑発行為であって、もってのほかだ。むしろ沖縄と南西諸島は非軍事化しなければならない。東アジアの平和と安全保障、日中友好を掲げ、外交により中国側にも非軍事化を要請していくことが必要となっている。
また、原発を54基も配置している日本は、そもそもミサイル防衛などできはしない(ミサイル防衛できないから、戦争国家イスラエルは原発を持っていない。原発は自国に巨大な原爆を抱えているようなものだからだ)。「先制攻撃能力を持つ」とか米国と「核共有」するなど狂気の沙汰だ。憲法9条と核兵器禁止条約を掲げるとともに、大国と接してきたフィンランド、ノルウエーのような緩衝国家がどういう外交上の工夫をして生存してきたか、その努力と苦しみも含む「知恵」の一部も、日本政府と日本国民は共有しなければならない。「米国にしたがってさえおればいい」という能天気な日本政府を抱いていることこそが、私たちにとって極めて危険なのだ。
日本政府は、ウクライナ戦争支援ではなく、停戦を求めよ! 戦争熱を煽るな!
●プーチン大統領が「理解不足」によって犯したウクライナ侵攻の大きな失敗 4/9
外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が4月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。G7がロシアに対する追加制裁を行う方針を発表したことを受け、ウクライナ情勢の今後について解説した。
G7が首脳声明を発表 〜ロシアからの石炭の輸入禁止、段階的廃止へ
先進7ヵ国(G7)は4月7日、首脳声明を発表し、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャなどでロシア軍撤退後、民間人とみられる遺体が多数見つかったことを受け、ロシアに対する追加制裁の方針を打ち出した。石炭輸入の禁止や段階的廃止を含め、ロシア産の化石燃料依存の低減を速やかに進めることを明記した。
飯田) ロシア軍による残虐行為、あるいは大量殺戮という表現もあります。
宮家) ブチャの映像は衝撃でした。あのような惨状は、敗走する軍隊が統率が取れなくなって起こることはあり得るのだけれども、今回はどうやらロシア軍による組織的な行動だということで、許せるものではありません。
飯田) そうですね。
宮家) こういう形でG7が首脳声明を出し、て外相も厳しく批判しています。何より、G7とNATOが一緒に開かれるようになったのも、珍しいことです。NATOはNATO、G7はG7ということで、昔は日本の出番も少なかったのです。
飯田) NATOに日本の外相が呼ばれて出席するというのは、いままでは考えられなかった。
宮家) 考えられませんでした。しかし、ロシアの私掠は日本にとっても対岸の火事ではないので、ここはしっかりと発言力や影響力を示さなければならない。重要なことだと思います。
有事には経済合理性は関係ない
飯田) その意味では今回、G7が共同で声明を出し、日本ももちろん加わっていますけれども、歩調を合わせていくのが大事ですか?
宮家) 基本的な方向性はそうです。ただ、常に「悪魔は細部に宿る」わけで、細部とは何かと言うと、「具体的にどのくらい制裁をするのか」ということです。今回は石炭の輸入禁止、段階的廃止の話が出ています。石炭でも確かに日本に影響があることは事実です。
飯田) 日本でも火力発電などに影響する。
宮家) サハリン1・2の話になれば当然、天然ガスにも影響が出るわけですが、1つの教訓として私たちが理解すべきなのは、「有事には経済合理性は関係ない」ということです。
飯田) 有事には経済合理性は関係ない。
宮家) プーチンさんがもし本気で経済のことを考えていたら、侵攻など行わないのがいちばんいいのです。「やるぞ」と言って圧力を掛け、政治的な駆け引きをして、経済的にも不利益にならないようにする方がいい。しかし、今回、侵攻してしまった。その結果、ロシア経済が混乱しているではないですか。
飯田) 制裁によって。
宮家) これはまだ序の口です。これからロシア国民は相当耐えなければいけないわけです。NATOは結束してしまったし、ウクライナ軍に対する過小評価など、プーチンさんはいろいろな間違いをしたのだけれど、最も大きな失敗は、経済合理性で物事は動かないということを理解しなかったことです。
飯田) 経済合理性では。
宮家) この点は我々も下手をすると忘れるわけです。エネルギーの問題、石炭の問題は確かに重要です。彼らが経済的に物事を考えていたら、そもそも侵攻しなかったかだろうかというと、そこは、やはり侵攻するのです。経済とは関係ないから。
飯田) 経済合理性を飛ばして。
宮家) バイデンさんだってそうです。どんどん経済制裁を行い、金融も止めるわけでしょう。そんなことをしたら、世界経済が揺らぎますよね。それでもやるのです。なぜならば、有事には戦略的な合理性の方が優先されるからです。このことを我々は肝に銘じなければならないと思いますね。もちろん平時ならいいのです。しかし、有事には違うロジックになるということを忘れてはいけない。
エネルギーは平時にはマーケットで決まるが、有事には政治的に決まる 〜限られた国にエネルギー源を依存してはいけない
宮家) もう1つは、エネルギーは平時だとマーケットによって決まるけれど、有事には政治的に決まるのだということです。現在は供給自体が政治的に決まっているではないですか。その意味では、また難しい時代がやってきたなと思います。
飯田) エネルギーに関して、有事には政治的に、平時には市場で決まるというのは、中東の話で宮家さんがよく話していましたが、もはや中東だけの話ではないということですね。
宮家) いつもこうなるのです。平時のときはこのことを忘れてしまうのですよ。しかし、最近は原油価格が1バレル=95ドルくらいまで下がったでしょう。ですから少し一息つけるのでしょうけれどもね。
飯田) 都市ガスの会社などは、「ロシアから入ってこなくなったら供給もストップする」というようなことを言っていて、「だからサハリン2の事業でLNGを入れるのだ」と主張していますが。
宮家) 短期的にはそれでいいのですが、中長期的に考えたときに、ドイツの場合も同じだけれど、ロシアのような国に重要なエネルギー源を依存していいのかということです。常にロシアがダメになった場合を考え、別の手が打てるようにしておくべきなのです。もちろんコストはかかるから、経済的合理性はないのだけれども、それをやるかやらないかというのが安全保障、危機管理のポイントです。そのことを我々は忘れてはいけません。
ロシア軍の準備不足は明らか 〜東部地方を獲れるかどうかもわからない
飯田) ウクライナ情勢について、経済合理性で判断するようなフェーズではないということですが、この先についてはどうご覧になりますか?
宮家) 大きな流れとしては、「戦争目的が変わった」という議論があります。ロシアはもともとキーウなど獲る気がなかったと言う人もいますが、それはどうでしょうか。でも当初のロシアの兵力の動きを見ていると、わずか20万人弱の部隊でウクライナを東南と北から攻めているわけです。
飯田) 20万人弱の部隊で。
宮家) 特にキーウを獲ろうとしている部隊の主力は、ベラルーシから入っています。友好国とは言え、別の国で演習していて、突然そこから入るというのは準備不足ですよね。
飯田) 準備不足。
宮家) 明らかに準備不足です。という訳で北はもうあきらめて撤退しました。キーウにはもう脅威は少ない。ここからまたやり返すという可能性もゼロではないのですが、プーチンさんはおそらく「名誉ある出口」を探しているのでしょう。「負けてしまいました。すみません」では、あの人は済まないですから。
飯田) 国内も許さない。
宮家) 「勝った」ということにしなくてはいけない。でも勝ってはいません。そうなるとキーウはあきらめて、これからは東部で獲った部分を増やし、それで「この成果を見ろ!」と主張する。獲った部分を領土にするのかどうかはわかりませんが、勝ったのだと言わなければいけないわけです。
飯田) そうですね。
宮家) しかし実際はどうでしょうか。もしキーウの脅威が減ったのならば、ウクライナの主力も東に行きます。そうするとロシアは簡単に東を獲ることはできません。そんななかで5月9日がやってくる。
飯田) 戦勝記念日。
宮家) その日がどのくらい大事かは別として、ロシアが軍事的にそこまで持つかどうか。
情報戦でウクライナに負けているロシア
宮家) いろいろなことを考えると、非常に厳しい状況だと思います。NATO諸国は、確かに直接戦闘には参加していないけれども、それ以外のことは全部やっているのです。しかもいまの戦争は陸海空だけではなく、サイバーと宇宙と電磁があり、そこに情報が入って、7つの戦域があると私は思っています。特に今回、ウクライナは情報戦が強かったわけですけれども、我々の見えないところで、新しい概念の戦闘が行われているのです。
飯田) 新しい概念の戦闘が。
宮家) 国際法の観点から言えば、それが戦争行為なのかということはわかりませんが、実態として、ミサイルや銃などの在来型の兵器によるものではない「見えない戦闘」が行われているということです。それにロシアが勝てなかった。
飯田) 国際法の観点だと戦争行為と言えるかわからないというのは、いわゆるグレーゾーンの部分ということですか? 干戈(かんか)を直接交えないけれどもという。
宮家) 情報戦はロシアが得意としていたことですが。
飯田) 2014年には、それで成功している。
宮家) クリミアでもやったし、ジョージアでも成果を上げました。ところが今回はNATO側、特にアメリカがロシアのお株を奪い、本格的に情報戦を仕掛けたのです。いまのところ、アメリカはよく研究しているなという気がします。
●ウクライナ情勢で制裁強化する日本、ロシア外交官8人追放 4/9
日本政府がロシアのウクライナ民間人虐殺疑惑に対応し、国内に駐在するロシアの外交官8人を国外に追放すると発表した。
日本外務省はこの日、日本駐在ロシア外交官8人を追放すると明らかにした。ここには在日大使館の外交官とロシア通商代表部の職員が含まれた。
日本政府は当初、ロシア外交官の追放に消極的な立場だったが、西側国家が国外追放に踏み切ったことで立場を変えた。これに先立ちドイツ、フランス、リトアニアなどがロシア軍の民間人虐殺に対する責任を問うて自国内のロシア外交官を追放した。
日本が他国の外交官を追放するのは異例で、ロシアに対しては初めてだと、日本外交当局者は伝えた。
●米でEV値上げ相次ぐ 軍事侵攻などに伴う原材料価格高騰背景に  4/9
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などに伴う原材料価格の高騰を背景に、アメリカではEV=電気自動車の値上げが相次いでいて、世界的に加速するEVシフトへの影響を懸念する声が出ています。
アメリカのEVメーカー、テスラは3月、4つのモデルの販売価格をおよそ5%から10%値上げしました。
値上げ幅は最大で1万2500ドル、日本円でおよそ155万円に上っています。
値上げの理由についてイーロン・マスクCEOは「原材料と物流の面で深刻なインフレ圧力に直面しているため」だとしています。
また新興メーカーのリヴィアンもEVの価格を17%から20%引き上げると発表し、原材料の価格動向によってはさらなる値上げの可能性もあるとしています。
ウクライナへの軍事侵攻のあと、ロシアが主要な生産国でEVの電池に欠かせないニッケルの価格が大幅に上昇していて、メーカー各社の課題になっています。
アメリカの環境政策に詳しいロチェスター工科大学のエリック・ヒッティンガー准教授は「EVは急激な需要の高まりですでに生産体制がひっ迫しているところにロシアによる軍事侵攻が起き、より困難な状況に陥っている」と述べ、世界的に加速するEVシフトへの影響に懸念を示しています。
そのうえでメーカー各社は、電池の原料の見直しなどの対策が必要だという考えを示しました。
●安全保障の約束「燃えてしまった」 一度裏切られたウクライナの得た教訓 4/9
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、戦闘の合間に続く両国の停戦協議をめぐり、ウクライナ側は自国の安全保障に法的拘束力を持たせることにこだわりを見せた。過去、ロシア、欧米から同様の「保障」を得たにもかかわらず、裏切られた苦い経験があるからだ。そこから得られた教訓とはどのようなものだろうか。
NATO加盟断念と引き替えに…
3月29日、トルコのイスタンブールで対面形式で再開した停戦交渉。ウクライナ側はロシアがかねて求めてきた北大西洋条約機構(NATO)加盟断念と引き換えに、米ロ、中国を含む国連安全保障理事会5常任理事国(P5)に加え、イスラエル、ポーランド、カナダ、トルコなど関係国による安全保障の枠組み構築を要求した。ウクライナの「中立化」・非核化と、その見返りの国際的安全保障の要求は、同国のゼレンスキー大統領が以前から主張していた。
ラトビアに本拠のある独立系ネットメディア「メドゥーザ」によると、ウクライナ代表団がロシア側に示した要求は計10項目。安全保障の枠組みについては、関連する事項を含め6項目で触れられており、ウクライナ側が重視していることがうかがわれる。
枠組みは条約としてP5・関係国との間で策定し、また、ウクライナ側では国民投票でその是非を問うた上で憲法を改正する。
ウクライナが将来、第三国から攻撃を受けた際は、条約参加国は3日以内にウクライナに飛行禁止区域設定などの協力を提供するとしているが、一方で中立国としてウクライナ国内には外国軍の基地、部隊を置かないとしており、どこまで安全保障の実効性があるのか疑問もある。
ウクライナ側としては条約について、ロシアを含め条約参加国に議会での批准を要求した。過去の核兵器放棄を巡る国際的枠組みが関係国により履行されず、「領土の一体性」が一方的に破られた苦い教訓もあり、条約に法的拘束力を持たせることに腐心している。
ウクライナ、世界3位の核大国に
ここで、ウクライナが核放棄の際にロシアを含む関係国と交わした取り決めを振り返りたい。この取り決めは、1994年12月にハンガリーの首都ブダペストで開催された全欧安保協力会議(CSCE)首脳会議の場で署名されたことから「ブダペスト覚書」と呼ばれる。
91年のソ連崩壊後、ソ連を構成する15共和国のうちロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの4カ国に核兵器が残されたが、中でもウクライナには1200発以上の核弾頭が残され、当時としては米ロに次ぐ世界第3位の「核大国」になることになった。
核不拡散とP5による核独占を戦後の外交政策の基軸とする米ロは、ウクライナに対しロシアに核を移送し、核拡散防止条約(NPT)に加盟するよう圧力をかけた。その際にウクライナで議論になったのが、隣国ロシアの存在。両国間にはウクライナ南部クリミア半島の領有権、同半島のセバストポリを母港とする黒海艦隊の所属、ロシアからの石油・ガス価格を巡る係争があったほか、ウクライナ東部ドンバス地域のロシア系住民の分離運動もあり、何の保障もないまま、核兵器を手放せば将来的に、ロシアから武力侵攻されるとの懸念が強かった。
クリントン、エリツィンが約束
こうした懸念に対する保障として、米ロが提示したのが「ブダペスト覚書」だった。覚書には、核3大国の当時の首脳だったクリントン米大統領、エリツィン・ロシア大統領、メージャー英首相と、クチマ・ウクライナ大統領が署名、ウクライナはこの後、核拡散防止条約(NPT)加盟の手続きを行った。後に中国とフランスもほぼ同様の内容をウクライナに文書で保証した。
覚書は6項目からなり、ウクライナがNPTに加盟し、核兵器をロシアに移送することと引き換えに、署名国が(1)ウクライナの独立、主権を侵さず、国境線を変更しない(2)核兵力を含む武力行使や威嚇、経済制裁を行わない(3)ウクライナに脅威が生じた場合、安保理の行動を要請する―と約束するもので、核と引き換えにウクライナの安全を保障する内容となっている。条約のように各国議会で批准こそされなかったものの、ウクライナは以後、首脳が署名しており一定の法的効力を持つ文書と主張してきた。
財政事情が許さず
実はたとえ、当時のウクライナが核兵器を維持しようとしたとしても、核兵器の運用システム、保持補修のための施設、核弾頭の生産拠点はすべてロシアにしかなく、こうしたシステム構築には多額の支出が必要だった。
クラフチュク元ウクライナ大統領は後に、核兵器維持には650億ドル(現在のレートで約7兆9000億円)の経費が必要で、ウクライナには負担できなかったと語った。弾道の解体をしようにも解体設備もロシアにしかなかった。
さらに、核放棄を拒否すればソ連崩壊による混乱で経済的に疲弊していたウクライナが国際的に孤立、欧米からの経済支援も受けられない状況に陥ることは必至で、事実上、核保有を続けることは不可能だった。ウクライナの核兵器はその後、96年までにすべてがロシアに移送された。
約束したのは「核攻撃しないこと」
ロシアとウクライナの関係はその後も、親ロシア派政権が倒された2004年のオレンジ革命、天然ガスをめぐる「ガス紛争」など、ぎくしゃくしていたが、14年2月に親欧米派の野党勢力が親ロシア派、ヤヌコビッチ政権を倒した直後に、ロシアはクリミア半島を武力で制圧、その後、住民投票を経て強制編入した。
ウクライナ東部ではロシアの支援を受けた親ロシア派武装勢力がウクライナ政府軍と衝突し内戦化。ウクライナは「覚書」の明確な違反と抗議するが、プーチン・ロシア大統領はウクライナ野党勢力が「不法な革命」によりヤヌコビッチ大統領を追放した結果、ウクライナには新しい政府が誕生したのであって、この新政府に対しロシアは何の国際法上の責務も負わないと強弁。また、ラブロフ外相もロシアが約束したのは「ウクライナを核攻撃しない」ことだけだと主張した。
プーチン氏は後に、ヤヌコビッチ政権が崩壊した際、核兵器使用の準備をするようロシア軍に指示したことを明らかにした。一方、ロバートソンNATO元事務総長は「ウクライナが核放棄しなければ、クリミア編入もドンバス地域介入もなかっただろう」と指摘した。
そして今年2月24日、プーチン氏はウクライナに対する「特別軍事作戦」を実施。同国の主権は完全に侵害され、領土の一体性の原則は無視された。プーチン氏は侵攻後の27日、ショイグ国防相に対し「NATO加盟国首脳らから攻撃的な発言が行われている」と述べ、核抑止力部隊を高い警戒態勢に置くよう命じ、“核の威嚇”とも取れる発言をして、米国などをけん制した。
ゼレンスキー大統領は3月初め、覚書を引き合いに「NATO加盟国ができることは覚書を燃やすために50トンのディーゼル燃料を持ってくること。われわれにとって覚書はもう燃えてしまった」と述べ、軍事介入に消極的なNATOを批判。また、4月3日の米CBSテレビとのインタビューでは「覚書は一枚の紙切れに過ぎなかった。だからもう、紙切れだけを信じない」と、安全保障に法的拘束力を持たせる必要性を強調した。
●「300%ロシアを支持」ウクライナ隣国の“親ロシア村”を取材 偽情報拡散の実態 4/9
ウクライナに隣接するモルドバ。ロシアによるウクライナ侵攻後、モルドバ国内の分断を煽るような偽情報やウクライナ避難民へのヘイトが広がっています。その実態を国山ハセンキャスターが取材しました。
国山ハセンキャスター(中継リポート): モルドバの首都キシニョフから南に2時間、コムラトという町に入りました。私の後ろには町の集落が見えます。モルドバという国は、ヨーロッパの中でも最貧国の一つと言われています。その現実を舗装されていない道路や街並みから感じることができます。また、このコムラトいう町は親ロシア派の住民が多く住む場所です。我々も緊張感を持ってここに入りました。全く違う景色が広がっています。そして戦争に対する考え方も異なります。ロシアによる軍事侵攻が始まって以降、モルドバの分断を煽るかのような偽情報工作やウクライナ避難民に対するヘイトが広がっているということです。
「300%ロシアを支持」プーチンを“神”と称えるコムラト住民
人口2万人ほどの小さな町「コムラト」。町の中心部ですぐ目についたのは、旧ソ連時代の象徴でした。
国山キャスター: 町の中心部にレーニン像がありまして、ここはレーニン通りと言われているということなんです。
さらに町を歩いていると。
国山キャスター: モルドバにはルーマニア語とロシア語がありますけれども、看板などの表記がキシニョフは主にルーマニア語でしたが、コムラトですと至るところでロシア語で表記されています。
今回のウクライナ侵攻についてコムラトの住民に聞いてみました。
コムラトの住民(女性): 私たちはロシアを支持します。ロシアはナショナリストからロシアとウクライナの人々を守っています。
国山キャスター: ロシアを支持しますね?
コムラトの住民: 150%、300%ロシアを支持します。それしかないわ。彼らは最高よ。プーチンに健康と幸福を。彼は私達の神、ロシアだけでなく、ここでも。
ロシアがモルドバを第2の侵攻対象に?
モルドバはソ連崩壊に伴い、1991年に独立していますが、前の年にはロシア系住民が民主主義政策に反発し、東部で「沿ドニエストル共和国」の独立を一方的に宣言。モルドバとの間で武力紛争に突入しました。「沿ドニエストル共和国」は、国際的に国として認められていませんが、現在もロシア軍が駐留しています。
複雑な背景があるモルドバですが、EUへの加盟を目指していることから、ロシアがウクライナと同様、住民の保護を理由に第2の侵攻対象にするのではないかという懸念も出ています。親ロシア派が多いコムラトでは、ウクライナへの侵攻を支持する声が目立ちました。
国山キャスター: ロシアがウクライナにしていることは正しいと思いますか?
コムラトの住民(親ロ派・女性): ロシアは正しいよ。ここはロシア、ソ連だった。他の人にも聞いたらいい。私が住んでいたのはソ連、私の家はここソ連にある。モルドバがなんだ!ルーマニアが何だ!
国山キャスター: ウクライナの子どもたちもたくさん亡くなっています。それに関してはどうですか?
コムラトの住民(親ロ派・女性): 自分たちで殺しているんだ、端から全員。小さな子どもから白髪の老人まで関係なく全員、パンパンパンパンだ。
別の住民は。
コムラトの住民(親ロ派・女性): 8年間、プーチンは平和交渉を望み続けたが、なぜかゼレンスキーは交渉を後回しにしていた。今の戦争はロシアが始めたのではない。ロシアが始めたと思わないでほしい。
“偽情報キャンペーン”避難民のヘイト動画も
親ロシア派の住民が多い地域が複数あり、政府は軍事侵攻が始まって以降、ロシアの一方的な情報が広まらないよう対策に乗り出しています。
国山キャスター: モルドバのテレビを見てみますと、EU加盟に向けたニュースが放送されています。親EUのチャンネルということなのですが、1つチャンネルを変えてみると、これは親ロシア派のチャンネルです。元々はこういったチャンネルで、ロシアの国営放送が再放送されていたということなんですが、戦争が始まって、それは禁止されています。
しかし、情報の規制には限界があり、いまロシアが関与しているとみられる偽情報キャンペーンが深刻になっているといいます。偽情報を監視するシンクタンクで、その実態を聞きました。TikTokに上がった動画を見てみると。
「ウクライナの避難民を泊めてあげたのに、わがままで文句ばかり」
避難民への批判を口にする女性。
偽情報とみられる投稿「気に入らない食べ物は床に投げ捨てるし、新しい布団や枕がないのかと要求してくる。嫌なら自分の国に戻って好きなように暮らして」
別の動画でも。
偽情報とみられる投稿「ウクライナ人はモルドバに来ただけでなく私たちの金で暮らしている。ただで食事をして感謝もしない」
避難民へのヘイトを煽るような動画がSNSで次々と拡散されているのです。
偽情報を監視するシンクタンク: こうした動画の制作者に何十人も連絡を取り話を聞いたが、実際には誰一人、自分が経験したことではなく噂について話をしていた。
投稿の多くはロシアやブルガリアなど国外のアカウントからシェアされ拡散していて、ロシアによる組織的なキャンペーンだと指摘します。
国山キャスター: ロシアの狙いは何だと思う?
偽情報を監視するシンクタンク: プーチンが求めているのは、旧ソ連の国々が自分の影響下にあり続けること。ロシアの遠隔地としてロシアの一部であることを求めている。
別の専門家はこう警鐘を鳴らします。
モルドバの記者団体:(投稿画面を見ながら)この人は教会の神父だが『ウクライナの戦争は正義の戦争。神が命じた戦争だ』という投稿もある。モルドバの田舎の人たちは、こういうことを信じてしまう。
モルドバでは、これまで約40万人の避難民を受け入れてきましたが、こうした偽情報は、国内の深刻な分断を生み出すおそれがあると指摘します。
モルドバの記者団体:モルドバは残念なことに社会的にも政治的にも昔から分断されている国だが、この戦争でさらに分断が深まる可能性がある。
「きょうのウクライナはあすのモルドバ」分断を懸念する声
小川彩佳キャスター(東京のスタジオから): ハセンさん、きのうはモルドバのウクライナ避難民の支援の場である避難所から伝えてもらいましたが、一方で国内にはロシアを支持する国民もいると。取材を通してどんなことを感じましたか?
国山キャスター(中継リポート): 私は今、親ロシア派住民が多く住むコムラトの中心部にいます。行政の庁舎のすぐ目の前にレーニン像が立っています。このレーニン像というのは住民にとっては、ソ連時代の愛着を示す、まさにシンボル的な存在です。ですからこれを撤去しようものなら大変なことになる。「ソ連に戻りたい」と話す女性もいました。この町で取材をしてみると、「プーチン大統領を支持する」「戦争には賛成だ」という声も聞きました。正直、衝撃を受けましたが、これも事実です。きのう話を聞いたモルドバのジャーナリストは、「きょうのウクライナはあすのモルドバだ」と話しました。確かに分断を懸念する声もあります。ただ私は、ここでもモルドバから避難してきたウクライナの子どもたちに話を聞きました。みんなに夢を聞くと、「戦争が終わること」「平和」ということを口にします。家族や友人と過ごしてきた当たり前だと思ってきた何気ない日常を突如として奪われた、その子どもたちの夢、平和という夢が現実になることをここで強く願います。
●ウクライナ軍の反撃で膨張するロシアの戦費 国家財政を圧迫 4/9
ロシアがウクライナ侵攻で戦力投入を首都キーウ(キエフ)から親露派が実効支配する東部地域にシフトする中、米欧はウクライナへの武器供与を拡大している。露軍はウクライナ軍の反撃で多数の戦車などを失っており、東部で激しい戦闘が続けば戦費が膨らみ、ロシアの国家財政を圧迫していくことになる。
ロシアが2月24日に始めたウクライナ侵攻の戦費について、欧州の調査研究機関などは3月上旬、人的被害の影響などを含めた1日当たりのコストが200億ドル(約2兆4900億円)超になるとの試算を明らかにした。
露軍は侵攻当初、空爆とともに戦車や装甲車両などを進軍させて支配地域を広げたが、ウクライナ軍の激しい反撃も受けた。米経済誌フォーブス(ロシア語版)はウクライナ軍の情報をもとに、兵器の損失額について、侵攻開始から約16日間で戦車363両やヘリコプター83機などで計51億ドルになると報じた。
ストックホルム国際平和研究所によるとロシアの2020年の軍事費は約617億ドルで、侵攻の戦費負担は決して軽くない。ペスコフ露大統領報道官は今月7日、露軍に「甚大な損失が出ている」と認めた。
ウクライナ軍は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国から供与された携帯型の対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」などで露軍を攻撃している。
さらに、米国は自爆型の無人攻撃機「スイッチブレード」も支援。同兵器は戦車や軍用車両などの標的にミサイルのように突っ込んで自爆する兵器で、規模で露軍に劣るウクライナ軍にとっては有効な打撃手段となる。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は7日、米国と同盟国が約6万基の対戦車兵器と約2万5千基の対空兵器を供与していると明らかにした。
ロシアはウクライナと停戦交渉を進めるが、東部攻撃で手を緩める気配はない。同地域で激しい戦闘が続けば、高額なミサイル攻撃の支出や兵器損失で戦費が拡大するのは必至だ。
ショイグ露国防相は先月25日にシルアノフ財務相と軍予算の増額について協議しているが、軍事費の国内総生産(GDP)比は4・3%と米英に比べても高い。欧米の対露経済制裁で外貨獲得が難しくなる中、戦費拡大はロシアの財政を直撃する。
●ウクライナ東部で駅にミサイル 「使用してない」ロシア主張も…  4/9
ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ東部で駅にミサイルが着弾し、これまでに犠牲者は52人に上っています。ロシア軍は、このミサイルを使用しているのはウクライナ軍だけだと攻撃を否定していますが、その主張には矛盾も見えてきました。
目を背けたくなるような被害。
8日、ウクライナ東部の鉄道の駅にミサイル攻撃があり、これまでに52人が死亡し、98人が負傷しました。
現場に居合わせた人:「何が起きたか分からなかった。電車を待っていたら爆発の音が聞こえて、その後、砲撃が起き、雨のように激しく弾丸が飛んできた」
当時、駅にはドネツク地方で続く激しい砲撃から必死に逃れるために避難用の列車を待つ住民ら約4000人がいたといいます。
そのほとんどが女性と子どもでした。
ゼレンスキー大統領:「5人の子どもの犠牲者も出た。数十人もの重体の患者が病院に運ばれている。これはロシアによる新たな戦争犯罪だ。関与した者は法による裁きを受けるだろう」
駅近くの芝生の上には大きなミサイルの残骸が残されていました。
ドネツク州知事:「住民らが避難のためクラマトルシク駅に着いた時、ロシアは弾薬付きミサイル“トーチカU”を発射した」
ウクライナはロシア軍がミサイル攻撃にトーチカUを使った可能性を指摘。
国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」の兵器専門家によりますと、トーチカUは極めて命中精度が低く、標的を外れることがしばしばあるため、人口が集中しているエリアでは使うべきではないとされている兵器です。
これに対し、ロシア側は…。
ロシア国防省・コナシェンコフ報道官:「トーチカU戦術ミサイルの残骸がクラマトルシク駅の近くで発見されたが、そのミサイルを使用しているのはウクライナ軍だけだ」
ロシア国防省はトーチカUを使用しているのはウクライナ軍だけで、ウクライナ軍が民間人を人間の盾に使用するために住民の脱出を妨害したと主張しました。
現在、ウクライナの東部や南部で攻勢を強めるロシア軍。
一方、アメリカの国防総省は、ロシア軍の戦力は軍事侵攻前と比べて15%以上失われたとの分析を明らかにしました。
しかし、ロシア軍は予備役の動員を始めていて、6万人以上を動員しようとしている兆候があると警戒を呼び掛けています。
こうしたなか、東ヨーロッパのスロバキアは旧ソ連時代に開発された地対空ミサイル「S−300」をウクライナ側の求めに応じ供与したと発表しました。
軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏:「S−300は防空システム、かなり広範囲に使えるもので、これがあればロシア軍の爆撃機がウクライナの射程内に入ってくるのはかなり厳しい」
●「ロシア国民はプーチンを支持するしかない状況」 その理由とは 4/9
ロシア政治を専門とする筑波学院大・中村逸郎教授が9日、ABCテレビ「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」(土曜前9・30)に生出演。ロシア国民はプーチン大統領を支持せざるを得ない状況になっていると語った。
中村氏は「プーチン大統領はロシアそのもの。ロシア国民は支持するしかない状況になってきている」と断言。ロシア国内ではウクライナへの軍事行動を支持する声が大勢を占めているが、「国民が抱いているのは“プーチン愛”ではなく“ロシア愛”」と語った。
さらに中村氏は「ロシア人の中でプーチン大統領とロシアは別々じゃないかという声が出てきている。ただ、戦争しているものですから、今はプーチンを支えないとロシアそのものが危うくなってしまう」と解説し、「したがってプーチンの支持率が、実体としてはプーチンそのものへの支持率ではない」と結論づけた。
●ロシア国内の「ネットの声」を恐れるプーチンが、新たな対策に乗り出している 4/9
日々報じられるニュースの陰で暗躍している諜報機関──彼らの動きを知ることで、世界情勢を多角的に捉えることができるだろう。国際情勢とインテリジェンスに詳しい山田敏弘氏が旬のニュースを読み解く本連載。今回取り上げるのは、ロシアで行われている新たなネット規制について。ウクライナ侵攻を成功させるべく、プーチンは国内の自由な報道や国民の議論を封じようとしている。
プーチンの「高支持率」の背後にあるもの
国際的な注目が集まっているロシアのウクライナ侵攻。連日、ロシア兵の仕業と見られる残忍な戦争犯罪行為が報じられて、同国は批判を受けている。
ウクライナはなんとか防戦している一方で、ロシアはトルコによる交渉の仲介に応じて協議を行っている。軍を一時、首都キーウ(キエフ)近郊などから撤退させた。ロシアは「再編成」という言葉を使っているが、実際にはロシア側の体力もかなり疲弊していると見られている。
ただこの侵攻は、ロシア国内では高い支持を得ているという。米紙「ニューヨーク・タイムズ」によれば、ロシア国民の83%がウラジーミル・プーチン大統領を支持しているという。また58%ほどのロシア国民が、ウクライナ侵攻を支持している。
その背景には、国内の情報をロシア政府が統制できていることがある。ロシア人の多くがテレビからニュース情報を得ていて、コントロールされた情報しか見てないケースが多いのだ。
ただ、これからはどうなるかはわからない。というのも、若い世代が中心に利用するインターネットでの情報が、今後は鍵になるかもしれないからだ。もちろんプーチン大統領もこれまで、インターネットを脅威に感じてコントロールしようとしてきた。
だが実際には、国内情報工作としてインターネットを管理するには苦労してきた歴史がある。
かつてのプーチンはネットを軽視していた
ロシア国内では、インターネットをめぐって何が起きているのだろうか。
外国のホスティングサービスを使っているインターネットサービスに対し、「3月11日までにすべてロシア国内のホスティングサービスに変更する」よう、ロシアのデジタル発展省のアンドレ・チェルネンコ副大臣が命じた。欧州のニュースサイト「Euractiv」はそう報じている。
ホスティングサービスとは、インターネットのサイトを公開する際にレンタルして利用するサーバーのこと。オンラインのインターネットサイトの拠点といえるものだ。そのホスティングサービスを、ロシア政府はすべて国内に移管させようとしている。
つまり、ロシア国内のインターネットサイトすべてを、国内で政府の思うままに管理できるようにしようとしている。ロシア人が読むサイトをできる限りコントロールしたいということだ。
プーチンは、国内統制のためにこうしたインターネット制限は以前から必要だと考えてきた。国内での情報統制と工作が不可欠である、と。
インターネット黎明期には、プーチンはインターネットの力を軽視していたとされる。それが理由で、現在までも効果的にコントロールができていない現実があると指摘されているのだ。
一方でインターネットを徹底的にコントロールしていることで知られる中国は、インターネットが普及し始めてすぐ、検閲などを含め幅広いコントロールに着手していた。そして次々と規制を行ってきたからこそ、今では世界で最も強権的にインターネットを管理している。
プーチンにとって転換点になったのは2011年だ。選挙不正が疑われたプーチン政権に対する大規模な抗議デモが発生した当時、反体制派のブログなどがデモ隊の結束に大きな影響を与えた。
そうしたインターネットのうねりをコントロールできなかったことで痛手を受けたとして、プーチンは規制を強めることになったのである。
そして2014年のクリミア侵攻では、ロシア最大のSNS「フコンタクテ」の制限に動き出した。だが完全なコントロールはできなかった。そして2018年になると、国内の通信会社やサービスプロバイダーに、ユーザーの通信データを保管し、情報機関FSB(ロシア連邦保安局)の要請に応じて情報を提供する決まりを法制化している。
プーチンは特に国内のコントロールを重視している。2019年からますますその度合いを強めてきた。米紙「ワシントン・ポスト」はこう報じている。
「ロシアは、自国内のインターネットでのコンテンツをコントロールするシステムを『統治インターネット』と呼んでいる。この全国規模のシステムは、モスクワに管理センターを置き、ロシア政府が気に入らないインターネット通信を抑圧するためのものだ。ウェブ上の特定の部分を孤立化させたり、デモや混乱が起きた際には、国内の特定地域をまるまるインターネットに接続できなくしたりすることが可能だ」
その管理センターはモスクワ川沿いにある。中国企業「レノボ」のサーバーを30台導入しており、中国とも関係があるアメリカ企業「スーパーマイクロ」のサーバーも30台使われている。ちなみに米「ブルームバーグ」によれば、以前米軍が調達していた「レノボ」のラップトップのコンピューターには、そのマザーボード(基盤)にチップが埋め込まれていたことが判明している。これを通して中国にデータが不正に送られていたという。
2019年にも国防総省の監査部門が、レノボを導入することにはセキュリティリスクがあると指摘していた。
また、スーパーマイクロにも問題がある。米政府機関などから中国のスパイ活動に関与しているとして、調査が行われてきたという。
準備不足のまま始まった侵攻
ロシアはこうしたハードウェアに、インターネットの通信の流れを監視するDPIと呼ばれるシステムを導入している。しかも、匿名通信を可能にするソフトウェアの「Tor」を抑圧し、ツイッターといったSNSの通信をスローダウンさせることに成功しているのだ。
またモスクワの管理センターには、国内全てのインターネット・サービス・プロバイダーが接続されている。検閲も行われているという。そしてこの「統治インターネット」は、2021年から本格的に運用が始まっている。
だがウクライナ侵攻後になって、ホスティングサービスへの規制など、さらに制限を強化する動きを見せているのだ。それでも満足に制限が実施できていない実態があり、そんなことから、独立系メディアやTV局などの強引な閉鎖にも乗り出している。こういった事実からも、プーチンはウクライナ侵攻の準備ができていなかったと筆者は考えている。
インターネットの在り方という意味では、西側諸国はこれを自由な空間にしようと考えてきた。国際的な犯罪対策合意や国際法のルールを当てはめながら、世界的な標準となる行動規範などを決めて、誰でも安全に利用できるものにしようと、国連でも専門家を集めて協議を行ってきた。
だがそうした動きに反対してきたのが、他ならぬロシアや中国だ。簡単に言うと、自国のインターネットは自分たちの主権のもとに、各国がそれぞれ統治すべきだと彼らは主張してきた。
ここまで記事で見てきたような統治が、まさにロシアが主張するインターネット上の「主権」ということだろう。自由な議論が飛び交う情報ツールであるインターネットを、国民の自由にさせておくわけにはいけない、と。ロシアや中国のいうインターネット主権というのは、検閲など、当局によるコントロールを意味するわけだ。
国民が自由に、世界で報じられているロシアによる残忍なウクライナ侵攻の情報を得られれば、冒頭で紹介したプーチンに対する支持率もまた変わる可能性がある。
逆にいうと、戦況が芳しくない今、インターネットを統制しようとするロシア当局の動きはさらに強まるはずだ。西側諸国は、そこにもなんらかの対策を講じていく必要があるだろう。ロシア内部からのプレッシャーも、プーチンの今後の動きに大きな影響を与えることになるからだ。
●マクロンが「プーチンとの関係」を切れない訳…迫る大統領選と、中国ファクター 4/9
ロシア軍のウクライナ侵攻が続く中、フランス大統領選の第1回投票が4月10日に行われる。第1回投票で過半数を獲得する候補者がいなければ同月24日に上位2人の決選投票が行われる。直近の世論調査で現職のエマニュエル・マクロン大統領を極右・国民連合のマリーヌ・ルペン氏が3ポイント差に追い上げる激戦となっている。
世論調査をもとに主要候補者6人の支持率をグラフにしてみた。
エマニュエル・マクロン氏26%(共和国前進)急進中道
マリーヌ・ルペン氏23%(国民連合)女性、極右から右派ナショナリスト政党にイメージ転換図る
ジャンリュック・メランション氏17.5%(不服従のフランス)強硬左派
エリック・ゼムール氏9.5%(極右の政治評論家)
バレリー・ペクレス氏8.5%(共和党)伝統右派
アンヌ・イダルゴ氏2.5%(社会党)パリ市長、伝統左派
共和党と社会党という右派と左派の伝統的二大政党が衰退し、前回の大統領選と同じく決選投票ではマクロン氏とルペン氏の一騎討ちになる見通しだ。社会党の凋落ぶりは目を覆うばかりで、急進中道マクロン氏と強硬左派メランション氏に股裂きにされている。極右の政治評論家エリック・ゼムール氏の支持率が一時16%を超え、フランス社会の右傾化を改めて印象付けた。
英誌エコノミストは独自の選挙モデルをもとに、マクロン氏が決選投票に進む確率は98%、再選の確率は78%と予想する。国民会議で過半数を持つ大統領が再選するのは1965年のシャルル・ド・ゴール以来。マクロン氏はウクライナに侵攻したウラジーミル・プーチン露大統領との対話を続け、期限前日の3月3日に新聞に寄稿した「国民への手紙」で出馬を表明した。
マクロンの3大ライバルはいずれもプーチン支持者
「再選のための出馬表明を最後の瞬間まで待った1988年のフランソワ・ミッテランと同じ戦法だ。マクロン氏の3大ライバル、ルペン、ゼムール、メランション各氏はみな長年のプーチン支持者。マクロン氏もウクライナ問題でプーチン氏と話し合うことが世界の檜舞台で自分が権威を持っていることを大統領選で示すのに有利と考えた」
仏エコール・ポリテクニークのビンセント・マルティニー准教授(政治科学)はこう解説する。「3氏はウクライナの自由ではなく、いかなる代償を払っても平和を守ることを最優先課題に挙げる。フランスは中立を保つべきだという考えだ」と言う。フランスは血も涙もない非道なプーチン氏に理解を示すのはどうしてなのか。
フランスのロマンティック・コメディ映画『シラノ・ド・ベルジュラック』に主演した仏俳優ジェラール・ドパルデュー氏(73)はプーチン支持者として有名だ。ドパルデュー氏は2013年、税金が高い祖国を捨て、ロシアの市民権を取得した。黒海のリゾート地ソチでプーチン氏から直接ロシアのパスポートを受け取った。
ドパルデュー氏は公開書簡で「私はロシア、人々、歴史、作家、文化、知性を愛している。ロシアは偉大な民主主義国だ」と称賛を惜しまなかった。15年にはロシアのクリミア併合を支持し、ウクライナから5年間入国を禁止された。しかし今回のウクライナ侵攻でようやく「狂気の、受け入れ難い、行き過ぎた行為だ」とロシアを非難した。
欧州のロシア依存はスエズ危機から始まった
フランスは西側では比較的ロシア好きが多い国だ。文化的なつながりもある。今回、ウクライナへの武器供与や対露制裁を主導するアメリカやイギリスのロシア好きは20年12月時点でそれぞれ19%、24%。逆にロシア嫌いは71%、70%にのぼる。これに対しフランスのロシア好きは35%、ロシア嫌いは57%で、西側主要国の中ではイタリアに次ぐ親露国である。
アメリカと対立した1956年のスエズ危機以降、フランスは仏独関係を軸に欧州の強化を図り、その中で祖国の利益を追求してきた。対米追従に走ったイギリスの外交政策とは正反対だ。中東のエネルギーに自由にアクセスできなくなった西欧は旧ソ連へのエネルギー依存を深める。EU(欧州連合)は石炭・ガス輸入の45%、石油輸入の25%をロシアに依存する。
欧州がロシアに対して強く出られなかった歴史的背景にはスエズ危機がある。
制裁を科した上でプーチン氏との対話継続を主張するマクロン氏に対して、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は「大統領、あなたは何度プーチンと交渉したのか。それで何を達成したのか。アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、ポル・ポトでも交渉するのか。ロシアには大量虐殺の責任がある」と厳しく批判した。
自民党の安倍晋三元首相は首相在任中にプーチン氏と27回会談し「平和条約交渉をより大きく進めることができた」と胸を張った。エリゼ宮(仏大統領府)によると、マクロン氏は今年に入って16回以上プーチン氏と話した。マクロン氏は「私はロシアとの対話に努めてきた。欧州各国首脳と同様に停戦について議論した。自己満足でも甘えでもない」と反論した。
ルペン氏に猛追されていることを意識して、マクロン氏は「ポーランド首相の発言はスキャンダラスだ。ウクライナ問題でクレムリンに立ち向かうEUの結束を弱める恐れがある。モラヴィエツキ氏は極右政党の出身で、大統領選で自分のライバルであるルペン氏を支持している」とまで言った。
ハンガリー首相「ロシアの原油・天然ガス制裁はレッドラインだ」
ハンガリーでは4月3日の議会選(一院制、任期4年)で、ロシアや中国との関係を重視するビクトル・オルバン首相率いる中道右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」など与党連合が定数199の3分の2以上に当たる135議席を獲得した。オルバン氏は「月から見えるほど大きな勝利を収めた」と宣言した。
ハンガリーはEUと北大西洋条約機構(NATO)加盟国だが、オルバン氏は「ロシアの原油・天然ガスに対する制裁はレッドライン(越えてはならない一線)だ。制裁は欧州経済にも大きな打撃を与えている」とブダペストでロシア、ウクライナと独仏の停戦協議を開くよう呼びかける。米欧がウクライナに供与する武器が自国内を通過するのも拒否している。
オルバン氏は6日、要請があればハンガリーはEUの方針に反してロシア通貨ルーブルで天然ガス代金を支払うことでプーチン氏と合意したことを明らかにした。ハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外務貿易相は「これはわれわれの戦争ではないので関わりたくないし、関わるつもりもない」と述べた。
シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)パリ事務所のタラ・バルマ所長は「EUレベルではエネルギーのロシア依存を減らすとともに国防費を増やすことが大きなテーマになっているが、仏大統領選では外交や欧州問題が議論されることはない。主な争点はエネルギー価格や購買力、学校、交通など国内問題だ」と指摘する。
「中露接近が欧州に悪影響を与える」
バルマ所長によると、12人の大統領候補のうち外交や欧州問題を扱った経験があるのはマクロン氏だけ。「マクロン氏は以前から中露接近が欧州に与える悪影響を心配していた。彼の基本的な考え方はロシアを中国から引き離すことで、プーチン氏の安全保障上の懸念にも理解を示した」と解説する。安倍、マクロン両氏の対プーチン外交は共通している。
ルペン氏は14年、ロシアの銀行から政治活動の資金として900万ユーロ(約12億1700万円)の融資を受けた。彼女はウクライナの話題を避け、エネルギーや食品価格の高騰に対する有権者の不満をあおる。「エネルギーや生活必需品にかかる税金を下げ、企業に最低賃金を上げるインセンティブを与え、あなたのポケットにおカネを戻す」と訴える。
仏大統領選最大の争点は購買力だ。マクロン氏は大統領就任後、解雇規制の緩和や富裕層減税を進め、「金持ち、大企業優遇の大統領」と皮肉られた。18年には燃料税引き上げを引き金に「黄色いベスト運動」がフランス全土で吹き荒れた。マクロン氏とルペン氏の一騎討ちになれば、決選投票でゼムール支持者は極右つながりでルペン氏支持に回る可能性がある。
フランスの有権者にとってウクライナの戦争や欧州の安全保障より、エネルギーや食品価格の高騰で生活が貧しくなる方がずっと心配だ。外交で大きくリードしていたはずのマクロン氏は国民一人ひとりの購買力低下で守勢に立たされている。ECFRのバルマ所長は「投票率が大きな波乱要因になる」と表情を引き締めるのだが...。 

 

●ブチャの民間人殺害、ジェノサイドに当たるのか ウクライナ危機 4/10
ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで起きた民間人殺害は、多くの国が戦争犯罪だと非難している。ロシアはもっと恐ろしいことをしていると主張する人もいる。「ここで目にしたのは本当のジェノサイド(集団虐殺)だ」。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ブチャでそう語った。ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相も、ブチャと首都近郊の他の町であった殺害について、「ジェノサイドと呼び、そのように扱う必要がある」と同様の見解を示している。さらに、イギリスのボリス・ジョンソン首相は、ブチャにおける民間人への攻撃に関して、「ジェノサイドからかけ離れている」とは思わないと述べた。一方、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)は、ウクライナで起きていることをジェノサイドとまでは呼んでいない。ロシア軍を「犯罪中の犯罪」を犯したとして追及することは、果たして可能なのだろうか。
ジェノサイドとは
ジェノサイドは、人道に対する最も深刻な犯罪と広くみなされている。特定の集団を大規模に絶滅させること、というのが定義だ。第2次世界大戦のホロコーストでユダヤ人600万人が殺されたのが、例として挙げられる。国連のジェノサイド条約は、「国民的、民族的、人種的または宗教的集団の全部または一部を破壊する意図をもって」、次のいずれかをジェノサイドと規定している。
・集団の構成員を殺すこと
・集団の構成員に対して重大な肉体的または精神的な危害を加えること
・全部または一部の肉体の破壊をもたらすために、意図された生活条件を集団に故意に課すこと
・集団内における出生の防止を意図する措置を課すこと
・集団の児童を他の集団に強制的に移すこと
ロシアはジェノサイドを犯したのか
この点で意見の一致はない。米ジョンズ・ホプキンス大学で国際問題を研究するユージーン・フィンケル准教授は、ウクライナでジェノサイドが進行中だとみる。ブチャなどで、ウクライナ人であることを理由とした殺人が行われた証拠があるとしている。「単に人を殺すだけではない。国としてのアイデンティティーをもつ集団を狙っている」とフィンケル氏は話す。ただ、同氏によると、ジェノサイドの意図をもたらしているのは、ロシア政府の言説だという。同氏が指摘するのが、ロシア国営メディアRIA通信が今週配信した、「ロシアはウクライナに何をすべきか」というタイトルの記事だ。筆者のティモフェイ・セルゲイツェフ氏は、ウクライナが「国民国家として存立するのは不可能だ」と主張。国名さえも「おそらく維持できないだろう」としている。また、ウクライナの国家主義者のエリートについて、「抹殺されなくてはならない。再教育は不可能だ」と訴えている。彼の理論の基となっているのは、ウクライナはナチス国家だという根拠のない主張だ。ウクライナ人のかなりの部分が「消極的ナチス」であり、共犯者であって、そのため有罪だとする。さらに、ロシアが戦争に勝利した後、ウクライナ人は少なくとも1世代は再教育が必要で、それにより「必然的に脱ウクライナ化がなされる」と訴えている。前出のフィンケル准教授は、「ロシアの特にエリート層でここ何週間かでみられた論調の変化は、『意図のしきい値』と私たちが呼ぶ転換点だった。単に国を破壊するだけでなく(中略)アイデンティティーを破壊するものだ」と言う。「この戦争の目的は脱ウクライナ化だ。(中略)国家ではなく、ウクライナ人に狙いを定めている」
NGOジェノサイド・ウォッチの創設者で会長のグレゴリー・スタントン氏は、「ロシア軍が実際に、ウクライナの国家集団の一部破壊を意図している」ことの証拠があると話す。「民間人を標的にしているのはそのためだ。ロシア軍が狙っているのは戦闘員や軍だけではない」スタントン氏はまた、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が侵攻前に口にしていた、ウクライナ東部での8年間にわたる戦争はジェノサイドのようだという主張は、一部の学者たちが「ミラーリング」と呼ぶものだと指摘する。「ジェノサイドの加害者が、実際に実行する前に、標的とする犠牲者たちについて、ジェノサイドを犯す意図をもっていると非難することはよくある。今回もそれが起きた」
「証拠はまだ不十分」
だが、この分野の別の専門家らは、ロシアの残虐行為をジェノサイドと判定するのは早過ぎるとする。英キングス・コレッジ・ロンドンの国際政治学講師、ジョナサン・リーダー・メイナード博士は、ジェノサイド条約の厳格な文言の下では、証拠はまだ不明確過ぎると考えている。ただそれは必ずしも、ジェノサイドが起きていないことを意味しない。彼は残虐行為が起きているのは「かなり明確だ」だと主張する。だが、まだ基準をクリアしていないと述べる。「それらの残虐行為がジェノサイドになったり、今後ジェノサイドに発展したりする可能性はある。ただ、証拠はまだ十分ではない」それでもメイナード氏は、ウクライナの独立国家としての歴史的存在を否定する、プーチン大統領の「非常に問題の多い」発言に注目すべきだと言う。そこには、ウクライナには「実体がなく、それゆえ生存権はない」というプーチン氏の「ジェノサイド的発想」が示されているとする。
そうした発言がジェノサイドのリスクを高めていると、メイナード氏は言う。「しかし、そのような言葉が現地での行動につながっていくと、自動的に推量することはできない」。英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンの国際法廷センター所長を務めるフィリップ・サンズ教授は、民間人が標的になっていることから、戦争犯罪の証拠はありそうだとみている。また、港湾都市マリウポリの包囲は、人道に対する罪に当たると思われると言う。だが、国際法に照らしてジェノサイドがあったと証明するには、集団の全部または一部を破壊する意図があったと検察官が立証しなくてはならないと、サンズ氏は話す。そして、そうした立証については、国際法廷が非常に高いハードルを設定していると述べる。意図の立証は、集団を破壊する目的で大勢を殺害していたと加害者が述べるなど、直接的な証拠があれば可能だ。ただサンズ氏は、ウクライナのケースでそうした証拠が存在する可能性は低いとみている。意図はまた、行動パターンから推測することもできる。「しかし、それは難しい判断だ」と同氏は言う。残虐行為をしたとされるロシア人たちの意図は、まだ十分に分かっていないからだ。
「村に入り込み、ある民族や宗教の集団に属する成人男性のかなりの部分を、明らかに組織的に処刑する。もしブチャでそれが起きたのなら、ジェノサイドの意図を示すものとなり得る」「だが現段階では、何がなぜ起きたのか正確に把握するだけの十分な証拠は得られていない。戦争がウクライナ東部に移り、残忍さを増すなか、ジェノサイドの意図の兆候があるかどうか、警戒し注視するのは正しいことだと思う」
米ラトガース大学ジェノサイド・人権センターのアレックス・ヒントン所長は、ウクライナでは確かに、抹殺を狙った爆撃や民間人を標的にした攻撃によって、戦争犯罪と人道に対する罪が犯されたとみられると話す。一方で、プーチン大統領はジェノサイドを想起させる発言をしているが、ジェノサイドの意図を立証するには、戦地での残虐行為と明確に関連付けられる必要があるだろうと述べる。「ゼレンスキー(大統領)が明言しているようなジェノサイドだとは私は思わないが、警戒シグナルは出ている。リスクの脅威は非常に高い」ヒントン氏は、ロシアがジェノサイドを犯しているかどうかという議論によって、ウクライナでロシア軍が犯している明らかな残虐行為だと同氏がみていることが、あいまいになってはならないと主張する。「残虐な犯罪が起きていることは分かっており、対応が求められている。ジェノサイドでないならこれ以上の対応はしない、などということがあってはならない」
●ウクライナ戦争で夢想を語る人たちと“岸田検討使内閣”の誤り 4/10
ウクライナ戦争が起きてから無見識を絵に描いたような識者の発言を目にするようになった。
ワイドショーやメディアでもしばしば「ウクライナとロシアは喧嘩両成敗」「日本は中立に立つべきで制裁に加担すべきではない」「プーチン氏がウクライナで虐殺を行うだろうという過度な批判は慎むべきだ」などと発言する識者がいる。その種のワイドショー的発言に影響されてか、一般の人たちからも同様の発言を目にすることがある。この種のワイドショー的発言に影響される人たちを「ワイドショー民」と個人的に呼称して、しばしば私は批判している。
国際秩序を破壊
首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでの民間人への虐殺事件が明らかになるにつれて、プーチン政権とロシア軍のまさに非道さが世界の人々に衝撃を与えた。よほどロシアよりのバイアスがかからなければ、まさに“中立”的な視点からもプーチン政権と軍の蛮行は明らかだ。
先に紹介した、「プーチン氏がウクライナで虐殺を行うだろうという過度な批判は慎むべきだ」というような空疎な発言は、ブチャ虐殺事件を前に徹底的に自省すべきか、単に発言している人間のユートピア的夢想にすぎない。しかもブチャ虐殺事件が明るみに出る前から、プーチン政権の民間人虐殺は指摘されてきた。
プーチン政権は、シリアでもチェチェンでもジョージアでも同様な民間人への虐殺行為を繰り返してきたからだ。例えば、ウクライナでの退避ルートとして「人道回廊」が話題になっている。シリアのアレッポでもロシア軍はこの「人道回廊」を利用して、アレッポから逃げてくる市民を拘束し、または都市に残った人たちを「テロリスト」として徹底的な攻撃を加えた。「人道回廊」ではなく「非道回廊」だったわけだ。
現在、ロシア軍は当初のキーウ攻略戦を当面断念し、軍を再配置して、マリウポリなどウクライナ南東部の攻略により力を注ぐようだ。マリウポリの住宅地の空撮動画をみると、市民たちの生活基盤は徹底的に破壊され、まさに人道危機が起きていることは明白である。
民間人を巻き込んだ無差別攻撃という手法も、シリアのアレッポ攻防戦などで知られているロシア軍の手法だ。ロシア軍だけではなく、その代理機関として活動している民間軍事会社「ワグネル」も裁判なしでの民間人への処刑、拷問などを各地で繰り返してきたとされている。
このような各地でのロシア政府を批判する声は、国際世論やまた国連内でも強かった。日本政府もロシアのシリアでの化学兵器使用について、調査団の任期延長を提案したが、安保理でロシアの反対で否決されたこともあった。
最近ではワイドショー民や識者の一部から、「日本はロシアの非道を批判しているが、他方でロシアと北方領土問題や資源開発などで親密な関係を築いてきたではないか」という意見を聞くことがある。その種の批判を行う人たちには、日本のロシアへの姿勢が矛盾しているように見えるのだろう。
しかしそれは妥当とはいえない。現在の国際秩序を支える点では、ロシアと友好条約を結ぶこと、民間や政府が交流しロシアとの経済的な連携を強めることと、同時にロシア政府の蛮行を批判することと決して矛盾しない。現在の国際秩序―平和主義、国際法の遵守、自由や民主主義の擁護、国連中心主義、そして人権の尊重など―を守る行為として、いずれも重要だからだ。ロシアがいま徹底的に批判されるべきは、この国際秩序を破壊しようとしているからに他ならない。
さらに踏み込んだ制裁の可能性も
ウクライナ戦争はいまだ不確実性の海の中にある。だが現状の国際秩序が、上記した諸理念を尊重する形で、「新しい国際秩序」に変化することはもはや不可避であろう。日本もその中で重要な地位を占めることは間違いない。
米国、欧州を中心にして自由と民主主義を尊重する「西側世界」中心の新国際秩序をどのように構築していくかが課題になる。対して、ロシアや中国のような権威主義的国家との対立も鮮明になっていくだろう。
この激変する国際環境の中で、現在の岸田政権はどうだろうか。ウクライナのゼレンスキー大統領が国会での演説で評価したように、ロシアへの経済制裁について日本は欧米と歩調を合わせたのが早かったグループにあった。ただし経済制裁の中身は、より慎重な姿勢である。
ロシア中央銀行の対外資産凍結や、最恵国待遇の停止、国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からのロシアの一部銀行の排除などは行った。また北方領土へのロシア違法占拠解決を含む平和条約締結交渉は棚上げの方針である。
日本は天然ガス・石油事業「サハリン1」「サハリン2」からは撤退していない点では、微温的だろう。もっとも天然ガスなどの資源をめぐる制裁に慎重なのは、欧州勢も同様である。そこにロシアへの経済制裁の限界も見えてくる。
今後もブチャ虐殺事件の全容が明らかになり、また同様の悲惨な出来事がわかった段階で、日本も西側社会もより踏み込んだ制裁を行う可能性が出てくるだろう。その時は、いま以上に日本の国民生活にも犠牲が求められるだろう。
だが、岸田政権には現状でさえ、国民生活の犠牲を解消する積極的意欲に欠ける。常に岸田首相は積極的な経済政策について「検討する」を繰り返し、むしろ雇用保険の負担増など事実上の「増税」には積極的である。
つまり岸田首相は「令和の検討使」であり、また「増税」志向である財務省管理内閣の代表者でしかない。そのことが典型的なのは、ガソリンや電気、ガス代の高騰に対して、大規模な補正予算ではなく、予備費を活用した数兆円規模の経済対策を求める姿勢だ。
いまこそ30、40兆円規模の補正予算で、国民の生活を支えること、それが大きな枠組みでいえば、ロシアや中国のような権威主義国家に抗する国際秩序を維持し、発展させるための前提ともいえるだろう。
●ウクライナ戦争で発覚…「難民支援が行き届かない」日本の現実 4/10
今、日本に来るのはリスクだよねって世界的に広まってしまって…
ウクライナからの避難民20人が4月5日、林芳正外務大臣と共に政府専用機で日本に到着した。林外務大臣は岸田文雄総理大臣の特使としてポーランドを訪問し、ウクライナから避難する人たちの受け入れを進めてきた。
しかし3月14日付けのFRIDAYデジタルでお伝えしたように、「避難民」として入国したウクライナの人たちにはまず「90日間の短期ビザ」が発給され、その後「12ヵ月間の特定活動」と分類される在留資格が与えられることが決まっているだけ。林外務大臣は「入国後の支援を行っていく」として一時滞在場所や生活費の支給、日本語教育などの支援を行うとするが、「その後」がまだ見えていない。
そこで立憲民主党は3月29日に「戦争等避難者」という新たな在留資格を作り、避難民を早急に、また円滑に受け入れるための法案を提出した。一体これはどういうものか? 実際に運用されるのか? 提出者である衆議院議員の鈴木庸介さんに話を伺った。
避難勧告が出てもウクライナを出国できなかった120人の日本人…
――そもそものこの法案の主旨はどこにありますか?
「まずは3月1日に私が法務委員会で質疑した内容に、遡らせてください。ウクライナ国内には侵攻当初、300人の日本人がいました。外務省からの退避勧告に出国した人もいましたが、120人で頭打ちになり、その状態が何日も続いていたんです。なんで120人以上が出られないのか? が私の最初の問題意識だったんです。
そこでインスタグラムやYouTubeでウクライナ国内にいらっしゃる日本人の方々に連絡を取って、『お困りごとはないですか?』と聞いてみると、ある日本人男性の妻がウクライナ人で、その方に連れ子がいて、彼と妻の間にも子供いる。しかし、日本で婚姻関係の書類を出していないので妻と子供2人を連れて来られない。『女房子供を置いては、ウクライナを出れないんですよ』と言われました。
他の方ではウクライナ人の妻がいて、日本で婚姻届けを出してるものの、外務省に『妻のお父さんお母さんも連れて帰りたい』と言ったら、『それはできない』と言われて断念したんだそうです。コロナ対策の水際作戦で外国人の1日の入国制限が5000人という枠で新たな短期滞在のビザを受け入れないという政府の方針があって、配偶者と子どもしか連れてきてはいけないとされていたんです。政府には当初、現状がよく見えていなかったんです。
それで法務委員会で、こういうことで日本人が帰って来れなくなっていると質疑で述べたところ、古川禎久法務大臣がその場で手を挙げて、私が何とかしますから、と言ってくれたんです。その翌日には岸田総理が全面的に受け入れると発表し、とりあえず『命のビザ』に関しては良かったなと思いました」
――その対応は評価すべきところだったんですね。そこから新たな在留許可の必要が出て来たわけですか?
「はい、そうです。90日間の短期滞在のビザと、『特定活動』という、働くことや学校に行くことができる、法務大臣の定める特定の活動のみが出来る在留許可を出すと政府は言っています。
ただ問題が2つありまして、特定活動はふつう半年区切で今回は1年間の在留資格。その先が見えません。もう一つ大きな問題は『裁量行政』なんです。裁量行政とは、法務大臣の裁量に委ねてしまうもので、今の難民認定こそ、究極の裁量行政ですよね。法務省が自分の基準で認定し、認定率はわずか0,4%。だから、裁量行政をできるだけ客観的なものにしてあげないと、日本に来られても日々の生活がみなさん、不安なものだと考えます。
それで今回、私たちが提出した法律です。これは『難民認定』と『特定活動』の間のギャップを埋める法律です。これだと働くこともできる、国民健康保険に入ることも、税金を払うことができるというビザになり、定住者に近い資格になります。かつ在留許可を判定するときは『国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)』が定める基準で判定するとしますので、法務省による裁量行政から一定の距離を置けるのが最大のポイントです」
――法務省が認定しなくなるんですか?
「認定は法務省がしますが、基準が法務大臣の裁量に依るではなくUNHCRの基準に基づいて行われます。そうすると、最初に申し上げたようなウクライナ人の妻や連れ子も全員いっしょに日本に来れますし、かつ働くことも、医療を受けることもできます」
岸田総理は「誰でも受け入れる」と言っていたが、実際は…
――夫婦そろってウクライナ人ですというような場合はどうなりますか?
「今はそれも受け入れる、という方針になっています。岸田総理は当初、どなたでも受け入れるように言っていましたけど、実際の現地での運用を見ている限り、日本に保証人がいないとビザがおりにくいというような話も聞こえてくる。そこは今後もっとしっかり検証していきたい。それが野党の役目ですから」
――この法案で注目したいのは、ウクライナから避難してくる人たちだけでなく、シリア、アフガニスタン、ミャンマーと、紛争のある他の国から逃れて来た人たちへの適用も考えているということです。
「きわめて単純な疑問として、『なんでウクライナ人だけなの?』というのがありますよね」
――そうなると、仮放免で就労が認められず、生活が成り立たない人たちも働ける可能性が出て来ます。とはいえ、立憲民主党は野党ですから、このまま法案が通るわけではないですよね? 
法案が国会に提出されると、法務委員会に付託されます。審議されるかどうかは法務員会の理事会で協議され、内閣提出法案の審議が終わった後に時間があれば審議されることがありますが、多くの場合、審議されません。審議されなくても、我々の提案が政府の案に吸収されればいいと思います。
――それは与党も同じような法案を出してきて、抱き合わせになるということですか?
「国は『特定活動』の在留資格にして、いつでも調整できるようにという意思が見え見えじゃないですか? そうじゃなくて、『ちゃんと身分保障を与えてあげましょうよ』という法案を私たちが出しましたから、今、流れが盛り上がってきたときに話し合い、もしくは政府が法案の名前を変えて新たに出してくるとかといったケースが考えられると思います」
――あるべき方向を示したので、政府としても今の硬直化した難民行政を変えていくかもしれない、という感じですか。
「今回は外圧で「蟻の一穴が開いた」と思ってるんです。だから、このタイミングで穴をグワッと広げていかないと! これまで、なんで難民認定がたった0.4%だったのかを有識者に聞くと、日本に受け入れ態勢がまったくできてないのに受け入れを認めてしまうと、社会的混乱が生じてくるからと言うんですね。それが今回は各自治体で受け入れを表明しています。受け入れてもらえるところで受け入れてもらって、働いて、税金を納めて、生活している人たちがいるという事実を積み重ねていきたいですね」
ウクライナ人の難民申請は難しい…その訳とは
――難民を受け入れる態勢が日本では整えられてこなったんですね。それで今回の法案とは別に立憲民主党として『難民等の保護に関する法律』も新たに提出するそうですが、これはそういう態勢を整えるものですか?
「はい。『難民等の保護に関する法律』はもう完成しているんですが、これは難民認定を法務省が決めるんじゃなくて、独立した機関として難民認定を行う、難民等保護委員会というものを作って、そこがUNHCRの見解に基づいて判断していく、というもので、入管改革の一環です。
たとえば今、実はウクライナ人は難民申請が日本で、大変にしにくい状況にあります。なぜかというと、“ウクライナ政府”に迫害されていないと難民申請しにくいんです。その証明はどうしたらいいかと言うと、自分が書いた著作物等に対して実際に政府から圧力を受けたことを証明しなさい、とか。そんなこと難民ができるわけないじゃないですか」
――なんですか、それ? 理解できません。
「今、戦争から避難する人たちが助かるようにしたい。ウクライナの人が難民申請できないというのはおかしいでしょう? ただウクライナからの避難してくる人たちの問題では、これは私がずっと主張してることなんですが、ひとりあたり1年でGDPが3721ドル、年収40万円の国の人たちが、15万円ぐらいする航空券を親子3人で買って来られるか? って、来られないですよね? 
今回は政府チャーター機で来て、日本財団が50億円を出して連れてくるという話もあります。少しずつ動いていますが、受け入れると決めたらそういうことも考えないとなりません」
――これからは「難民を受け入れる日本」を私たちは思い浮かべることが大事ですね。
「そうですね。そもそも論として、ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなったこと、カルロス・ゴーンさんがいい悪いは別としてああいう形になったこと、今、日本に来るのはリスクだよねって世界的に広まってしまって、日本で働きたいと考える人なんて、優秀な人なんて特に来ないでしょう。だから少しずつ、変えられるところから変えていかないと大変なことになる、という意識をみなさんで共有したいです」
ウクライナから他国に逃れた難民は既に400万人を超えている。日本での受け入れもチャーター機で来日した20人で打ち止め、というわけにはいかないだろう。難民の方々と共に暮らす日本を今こそ政治は真剣に構築していくべきだし、私たちもリアルに考えていくべきときだ。
●岸田首相 ウクライナ避難民支援に3億ドルの資金協力を説明  4/10
岸田総理大臣は、ウクライナの避難民を支援するための国際会合にビデオメッセージを寄せ、困難に直面するウクライナの人々と連帯する姿勢を強調したうえで、先に表明している緊急人道支援や借款による合わせて3億ドルの資金協力を実施すると説明しました。
ウクライナの避難民支援に資金協力を呼びかける国際会合がEU=ヨーロッパ連合やカナダなどの共催で開かれ、岸田総理大臣がビデオメッセージを寄せました。
この中で、岸田総理大臣は「日本は困難に直面するウクライナの人々と共にある」と強調したうえで、食料や医薬品の支給、避難民の保護などのため、緊急人道支援や借款で合わせて3億ドルの資金協力を実施すると説明しました。
また、保健・医療分野での人的貢献やウクライナの避難民の受け入れを行っていくことも表明しました。
●英 ジョンソン首相 ウクライナ訪問しゼレンスキー大統領と会談  4/10
イギリスのジョンソン首相は9日、ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。
訪問はメディアなどに対して事前に知らされることなく行われ、ジョンソン首相は外で出迎えたゼレンスキー大統領と英語であいさつを交わしていました。
イギリスの首相官邸によりますと会談でジョンソン首相はウクライナに対するさらなる軍事支援として、装甲車両120台や対艦ミサイルシステムなどを供与する方針を伝えたということです。
ジョンソン首相は前日の8日、対戦車ミサイルなど1億ポンド、日本円で160億円余りに相当する軍事支援をすでに打ち出しています。
会談後に発表されたビデオ声明でジョンソン首相はプーチン大統領がブチャやイルピンなどで行ったことは戦争犯罪だと強調したうえで「ロシア軍が撤退しているのは一種の戦術で、ドンバス地域やウクライナ東部への圧力を強めようとしている」と指摘しました。
そしてほかの国々と協力して今後ロシアへの経済制裁をさらに強化するとともに、軍事面での支援も行っていく考えを改めて示しました。
またゼレンスキー大統領もイギリスによる支援に謝意を示したうえで「制裁という形でロシアに圧力をかける必要がある。そして、いまこそロシアのエネルギー資源を完全に禁輸するときだ」と各国に強く呼びかけました。
ジョンソン首相はゼレンスキー大統領とともにキーウ市内を視察し、市民に「ウクライナの人々を全力で支援したい」などと声をかけていました。
ジョンソン首相のキーウへの訪問は、EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長とボレル上級代表に続くもので、ロシアによる軍事侵攻後、G7=主要7か国の首脳としては初めてです。
●英首相、ウクライナ軍たたえ「今世紀最大の軍事的偉業」… 4/10
英国のジョンソン首相は9日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。ロシア軍の地上部隊が首都周辺から撤退したことについて、「今世紀における最大の軍事的偉業だ」と頑強な抵抗を続けたウクライナ軍をたたえ、今後もあらゆる分野で最大限の支援を続けていくことを約束した。
ジョンソン氏は、新たな軍事支援として、装甲車両120台と最新鋭の対艦ミサイルを供与する方針も伝えた。両氏は、ウクライナとロシアの停戦協議で提案された、ウクライナがロシアが求める「中立化」を確約する見返りに自国の安全の保証を得る新たな枠組みについても意見を交わしたとみられる。この枠組みに関しては、ウクライナ側が米国や英国などが参加する国際条約とすることを求めており、ロシアの扱いが焦点になっている。
●盟友ベルルスコーニ氏もプーチン氏批判「平和な男と思ってきたのに」 4/10
ウクライナに侵攻しているロシアのプーチン大統領について、同氏の盟友といわれるイタリアのベルルスコーニ元首相は9日、「20年前に知り合い、民主主義と平和の男だと思ってきたのに、何という残念なことだ」と批判した。所属する政党の大会での発言をロイター通信が伝えた。
ロイター通信によると、侵攻後、ベルルスコーニ氏がプーチン氏について公の場で発言したのは初めて。ベルルスコーニ氏は、侵略の全責任をプーチン氏が取らなければならないと強調し、「ウクライナを攻撃したことでロシアはヨーロッパに加わることなく、中国の手中に落ちることになった」とも述べた。
ベルルスコーニ氏はプーチン氏と互いに行き来する仲で知られ、「世界のリーダーの中で間違いなくナンバーワンだ」と称賛したこともあるという。
●ロシア、ウクライナ侵攻にシリア作戦の司令官 欧米報道 4/10
ロシアのプーチン大統領がウクライナでの作戦を統括する司令官を新たに任命したと複数の欧米メディアが9日、欧米当局者の話として報じた。ロシアが軍事介入したシリアでの作戦経験が豊富という。ロシア軍が部隊間の連携を強化するなど態勢を立て直し、ウクライナ東部で攻勢を強める可能性がある。
任命されたのは南部軍管区のドゥボルニコフ司令官。内戦下のシリアでアサド政権軍を支援する作戦を指揮したとされる。ロシア軍は2015年にシリアに軍事介入し、市街地への爆撃で民間人の死傷者が多く出たと批判された。
ロシア軍は苦戦した首都キーウ(キエフ)などウクライナ北部から部隊を再配置している。東部などに戦力を集中し、新たな指揮官の下で攻勢を強める可能性がある。ウクライナの民間人の犠牲者が拡大する恐れがある。
欧米の当局者は英BBCに、ロシアが第2次世界大戦の対独戦勝記念日である5月9日までに一定の成果を上げようとしていると指摘。軍事より政治的な要請が優先される可能性があるとも述べた。
ロシア軍は10日、ウクライナ東部のルガンスク州やハリコフ州で住宅などに砲撃を重ねた。ハリコフ州知事は砲撃で2人が死亡したと明らかにした。ロイター通信が伝えた。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、AP通信のインタビューに「撃退するのをやめれば弱い立場に立たされる」と述べ、徹底抗戦を続ける方針を改めて示した。「国民に拷問を加えた人々との交渉など誰もしたくない」としつつ「外交解決の機会があるなら逃したくはない」とも語り、ロシアとの協議による停戦を探る姿勢を示した。
●ウクライナ 駅攻撃“ロシア軍 避難の市民を狙ったか”批判の声  4/10
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの東部の駅で合わせて52人が死亡したミサイル攻撃について、現地では、ロシア軍が避難しようとする多くの市民が駅にいる時間帯をねらったのではないかと批判する声が上がっています。ロシアの責任を問う声が強まる中、ロシア軍は東部での大規模な攻勢に向け、追加の部隊の配置を進めているとみられ、市民の犠牲が増えることへの懸念がいっそう高まっています。
ウクライナ東部のドネツク州、クラマトルスクで8日、鉄道の駅がミサイルで攻撃を受けこれまでに子ども5人を含む52人が死亡しました。
攻撃について、ウクライナ側は広い範囲に被害をもたらし、使用を禁止する国際条約があるクラスター爆弾をロシア軍が使ったと非難しています。
攻撃を受けた駅について、ユニセフ=国連児童基金は「人々が避難する主要なルートだった」と指摘しているほか、地元の市長は「当時、多くの人たちがホームで列車を待っていた。この時間にはおよそ4000人がいたとみられる」と述べるなど、現地では攻撃はロシア軍が避難しようとする多くの市民が駅にいる時間帯をねらったものだったのではないかと批判する声が上がっています。
ロシア側は「ウクライナ軍による攻撃だ」と主張し、関与を否定していますが、欧米各国からはロシア軍による無差別攻撃で戦争犯罪だなどとしてロシアの責任を問う声が強まっています。
一方、多くの市民の犠牲が連日明らかになっている首都キーウ周辺の状況について、ウクライナの複数のメディアは、ロシア軍が撤退したキーウの西、およそ50キロに位置するマカリウで、射殺された132人の住民の遺体が見つかったと伝えました。
こうした中、ロシア国防省は9日「キーウ近郊のイルピンで、ロシア軍が市民を殺害したとする偽装工作を行うため、ウクライナ側が街に遺体を運び込む計画を立てている」と発表し、市民の被害はウクライナ側によって仕組まれたものだという主張を展開しています。
またウクライナ東部の状況についてはアメリカ国防総省が8日、ロシア軍が東部に合わせて数千人の兵士を追加で配置したとの見方を示しました。
さらにキーウ周辺から撤退したロシア軍の一部の部隊が、ロシア西部でいったん補給を受けたあと南下してウクライナ東部地域に入る可能性が高いと分析しています。
ロシア軍はウクライナ東部の掌握に向け大規模な攻勢に乗り出すとも指摘されていて、市民の犠牲が増えることへの懸念がいっそう高まっています。
当時、駅の周辺にいた人たちが状況を語りました。
このうち、西部の都市リビウに列車で避難するため妻と娘とともに駅を訪れていた男性は「燃えている車やミサイルの残がい、それに逃げ惑う人々を見ました」と話しました。
この家族が駅に着いたのは、爆発が起きてから3分後だったということです。
鉄道の駅に向かうために乗る予定だったタクシーが遅れたため、別のタクシーを使うことになったことから、駅への到着が遅れて爆発を免れたということです。
男性は「もし最初に乗る予定だったタクシーが時間どおりに来ていたら、私たち家族は爆発に巻き込まれていたでしょう」と話していました。
また、駅に集まった人たちに食べ物や飲み物を提供する予定だった支援団体の男性は「爆発音が聞こえて駅に向かうと壊滅的な状況だった。多くの死傷者がいるのが見えたし、車が燃え、ミサイルの残がいがあった。恐ろしい光景だった」と振り返りました。
そして「爆発音が6回から10回ほど連続して聞こえたが音だけでなく、体の内側に響くような振動があった。ボランティアが1人駅で亡くなった。攻撃が無差別的に行われたことを示している」と話していました。
●プーチン大統領に反乱も…ロシア軍「続々離反の末期的実情」 4/10
1:武器を捨てる。2:直立不動の姿勢をとる。3:両手をあげるか白旗を掲げ「降伏する!」と叫ぶ。4:投降の合言葉「ミリオン」と口にする――。
これは、ウクライナ弁護士会がネットを通じてロシア兵に訴えている降伏の手順だ。
ウクライナ侵攻から1ヵ月半。前線のロシア軍には十分な食糧や弾薬が行き渡らず、兵士たちは飢餓に苦しみに極度に疲弊している。犬を殺害して、飢えをしのいでいる者もいるという。軍内には厭戦気分が広がっているのだ。
「ウクライナに投入された兵士の多くは、20歳前後の若者です。中には演習だという上官の指示で赴いたにもかかわらず、戦争の悲惨な現実を目の当たりにし精神面の異常をきたす兵士もいるとか。
ウクライナ軍の予想外の反撃を受け、士気は下がる一方。祖国に早く帰りたいというのが兵士たちの本音でしょうが、脱走すれば最大8年の懲役刑を受けます。やむをえず銃で自分の足を撃ち、祖国の病院への送還を望む兵が後を絶ちません」(全国紙国際部記者)
兵士たちを鼓舞するために、指揮官が前線にまで出ている。しかし彼らは、ウクライナ軍に狙い撃ちされているという。20人の司令官のうち、7人が命を落としたという情報もあるのだ。ロシア情勢に詳しい、筑波学院大学の中村逸郎教授が話す。
「原因は、ロシア軍の通信能力の低さにあります。旧型の無線が機能しないため、兵士たちは自分のスマートフォンや携帯電話を使用。GPSの位置情報を傍受され、ウクライナ軍からピンポイントの攻撃を受けているんです」
ウクライナ当局が着目しているのが、このロシア兵のスマホだ。兵士一人一人にSNSで「ちゃんと捕虜として待遇する。快適な環境を用意する」と送信。安心して投降するよう、呼びかけている。
「ロシア兵とは、具体的なやりとりをしているようです。ウクライナのアンドルシフ内務相は、次のようなエピソードをフェイスブックで明かしています。あるロシア兵は、降伏の条件として1万ドル(約120万円)とウクライナでの市民権を要求。受け入れられると、代わりに乗っていた戦車を差し出したそうです」(前出・記者)
ウクライナ国防省によると、軍から離反するロシア兵は日に日に増加しているという。100人以上の兵士が「自由ロシア軍」を結成し、ウクライナ軍への編入を志願。プーチン大統領に反旗を翻したというのだ。
ロシア軍は、統制がとれなくなっているのだろう。4月8日付の産経新聞は、ウクライナ人への虐殺が行われたとされる首都キーフ近郊ブチャで、酔ったロシア兵が次のように口論する様子を紹介している。
「ウクライナはナチスだらけだ」
「プーチンは嫌いだ。戦場に行きたくない」
もはやロシア兵の多くが、戦意を喪失している。それでもプーチン大統領は、泥沼の戦争を続けるつもりなのだろうか。
●プーチン大統領、ウクライナ侵攻の指揮官を任命 4/10
ロシアのプーチン大統領は10日までに、ウクライナの全戦域を統括する司令官に、連邦軍の南部軍管区司令官を務めるアレクサンドル・ドゥボルニコフ大将(60)を任命した。米国と欧州の当局者がCNNに語った。
欧州の同当局者によると、ロシアは形勢が極めて厳しいことを認め、戦法の転換を迫られている可能性がある。
ドゥボルニコフ氏は、ロシアがシリア内戦に軍事介入した2015年9月から16年6月にかけて作戦の指揮を執った人物。ロシア軍は当時のアサド政権を支援し、北部アレッポの反体制派支配地域で人口密集地を空爆して多数の犠牲者を出した。
ロシア軍はウクライナでも主要都市の民間施設を攻撃し、南部の港湾都市マリウポリの街を破壊するなど、当時と同様の行為を繰り返している。ロシア軍の基本思想や戦術は昔からほとんど変わっていないと、同当局者は指摘する。
事情に詳しい専門家や米当局者らによると、ロシア軍将校らは現在、第2次世界大戦の対独戦勝記念日にあたる来月9日までに、何らかの戦果をプーチン大統領に示すことを目指しているとみられる。
元駐ロシア英国大使のロデリック・ライン氏は9日、英スカイニュースとのインタビューで、ロシアが「シリアでの蛮行の前歴」を持つ新たな司令官を任命したと指摘。その狙いは、少なくともウクライナ東部ドネツクで、プーチン氏が誇示できるような領土獲得を果たすことだと述べた。
ロシア軍のウクライナ侵攻をめぐっては、作戦全体を統括する司令官の不在で統制が取れていないとの見方を、CNNがかねて報じていた。米当局者らは総司令官の人選について、ロシア軍が一定の戦果を収めているウクライナ南部の作戦責任者が任命されるとの見通しを示していた。
●ロシア軍、ウクライナ侵攻で総司令官 東部攻撃へ態勢強化か 4/10
ウクライナに侵攻するロシア軍は10日、東部を中心に都市への攻撃を続けた。解放された北部で民間人の遺体が見つかり、東部は砲撃などで犠牲者が増えている。プーチン政権は作戦全体を統括する総司令官を任命。5月9日の旧ソ連の対ドイツ戦勝記念日を1カ月後に控え、「成果」を得る狙いとみられる。
8日に駅がミサイルで攻撃された東部クラマトルスクでは、住民がバスなどで避難を急いだ。広範囲で被害が出たことからクラスター弾使用説が消えていない。
英BBC放送は9日、クリミア半島や南部チェチェン共和国などを管轄するロシア軍の南部軍管区(司令部ロストフナドヌー)トップのアレクサンドル・ドボルニコフ上級大将が、ウクライナ侵攻の総司令官に任命されたと伝えた。これまでは調整役がおらず、各方面がそれぞれ作戦を担っていたとされる。
●廃墟だらけ……ロシアの軍事介入で独立した国の荒廃 4/10
目下、ウクライナへ侵攻を続けるロシア軍は、ドンバス地方など、親ロ派が支配的な東部に戦力を集中して制圧を目指している。仮にロシアの計画通りに進んでしまえば、ウクライナ東部の景色はどうなってしまうのか――。示唆的なのが、ロシアを後ろ盾にジョージア(当時グルジア)からの分離独立を一方的に宣言したアブハジア自治共和国である。そこでは、あたかも占領下のような風景が広がっているのだ。
黒海の東岸にあるアブハジアは、ロシア人が多く訪れる保養地である。“親ロ感情”の表れなのか、お土産物屋さんにはプーチン大統領の姿がプリントされたTシャツが何種類も販売されている。
2015年にこの地を訪れた映像ディレクターの比呂啓氏は言う。
「アブハジアの人は大人しい雰囲気でした。どこかの平和な、少し寂しい国といった印象です」
ジョージアからアブハジアに入る際には、境界でロシア軍とアブハジア軍からのダブルチェックが必要だ。
「ジョージア人を追い出したので、ここに住んでいるのは“アブハジア人”ばかり。人口密度が低く、至るところで廃墟が見られました」
街自体が物々しいわけではないが、アブハジアの大統領や兵士をたたえるポスターや看板があちこちに。また、ロシア革命の英雄レーニンのモニュメントも珍しくない。複雑な経緯を持つこの地を象徴しているようだ。
同じ状況の地域が、ジョージア国内にはもう一つ、南オセチアだ。南オセチアとジョージアの“境界”には、南オセチア側が勝手に設置した柵があり、年に何度か柵がジョージア側に侵食してくるという。
仮にロシアの計画通りに進めば、アブハジアと南オセチアの“占領”の風景はウクライナにとって他人事ではなくなってしまうのだ。
●ウクライナ大統領府顧問 徹底抗戦続ける構えを強調  4/10
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、東部で今後、大規模な戦闘に発展する可能性があるという認識を示したうえで、徹底抗戦を続ける構えを強調しました。ロシア軍が東部での攻勢を強める中、市民の犠牲がさらに増えることが懸念されています。
ロシア国防省は10日、東部のハルキウ近郊などでミサイル攻撃を行い、ウクライナ軍の地対空ミサイルシステムを破壊したなどと主張し、東部での攻勢を強めています。
人工衛星を運用するアメリカの企業「マクサー・テクノロジーズ」は、ハルキウから東に80キロほど離れた、ロシア軍が掌握しているとみられる地域で8日に撮影した衛星画像を公開し、この中では装甲車やトラックなどの大規模な車列が南へ向かって移動している様子が写っています。
こうした中、ロシアとの停戦交渉に当たるウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は9日夜、国内のテレビ番組に出演し「大規模な戦闘のための準備はできている。東部ドンバス地域などで戦闘に勝たなくてはならず、そうなってから実質的な交渉の立場を得ることができる」と述べ、徹底抗戦を続ける構えを強調しました。
そのうえで「大統領どうしは、そのあとに会談を行うだろう。実現には2週間かかるかもしれないし、3週間かかるかもしれない」と述べ、東部での戦闘は長引く可能性があるという認識を示しました。
イギリスの公共放送BBCなどは9日、関係筋の話として、ロシア軍の南部軍管区のトップ、ドボルニコフ司令官がウクライナでの軍事侵攻の指揮を執ることになったと報じました。
ロシア軍が首都キーウから撤退する一方、東部での大規模な戦闘に向けて態勢を立て直すために任命されたとみられますが、ドボルニコフ司令官はプーチン政権が2015年に軍事介入し、多くの市民が犠牲になったシリアの内戦で現地の指揮を執ったことで知られていて、市民の犠牲がさらに増えることも懸念されています。
●ロシア軍、チェルノブイリから放射性物質盗む ウクライナ 4/10
ウクライナのチェルノブイリ原発周辺の立ち入り制限区域の管理当局は10日、1カ月以上にわたって同原発を占拠していたロシア軍が、制限区域内にある研究所から133個の高レベルの放射性物質を盗み出したとフェイスブックで明らかにした。管理当局は「素人が扱えば、少量であっても死に至らしめる」と指摘した。
チェルノブイリ原発をめぐっては、制限区域を訪れたウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相が8日、「(ロシア兵は)放射性物質で汚染された地面を掘り、土のうを作るため土を集め、そのほこりを吸い込んだ」とフェイスブックに投稿。「このように1カ月にわたって被ばくすると、彼らの余命は最大でも1年だ」とし、「ロシア兵の無知は衝撃的だ」と記していた。 

 

●オーストリア首相、プーチン氏と会談へ ウクライナ東部攻撃続く 4/11
オーストリアのネハンマー首相は10日、11日にロシアの首都モスクワを訪れ、プーチン大統領と会談すると明らかにした。ロシア軍がウクライナ東部を中心に攻撃を続ける中、米政府はウクライナが必要とする兵器を提供すると表明した。
ネハンマー首相は「われわれは軍事的には中立だが、ロシアのウクライナに対する戦争では明確な立場だ。(戦争を)やめなければならない」と投稿した。
当局者によると、ロシア軍は10日、ウクライナのルハンスクとドニプロペトロウシク地域にミサイルを発射。ミサイルはドニプロ市の空港を完全に破壊した。
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はABCテレビで、ロシア軍によるウクライナの都市のさらなる占領を阻止するため、ウクライナが必要とする兵器を提供すると表明した。
また、CNNテレビでは、ロシアのプーチン大統領が任命したとされるウクライナ軍事作戦を統括するドゥボルニコフ司令官について、今以上に残虐な行為を指示する可能性があるとの見方を示した。
ルハンスク州当局者は、住民を避難させるため列車9本を10日に用意したと述べた。
ウクライナ政府は10日に人道回廊を使い、マリウポリからの213人を含め、2824人が避難したと明らかにした。
●「プーチンの自滅」が現実味を帯びてきた…ロシア「一日3兆円の戦費」の中身 4/11
戦争には膨大なカネがかかるが、具体的に何に使われているのか即答できる人は少ない。その明細を調べてみると、ロシアはウクライナを攻めているだけでなく、自らの首も締めているのがよくわかる。
国家予算は35兆円なのに
ウクライナ情勢は泥沼化の様相を呈している。そして、苦戦続きのロシアが「自滅」するというシナリオも現実味を帯びてきた。
3月上旬には英国の調査研究機関「CIVITTA」が、ロシア軍の戦費に関して「一日あたり200億〜250億ドル」に上るという試算を出した。これは日本円にして約3兆円だ。
ロシア連邦上院が昨年末に可決した連邦予算案によると、今年の歳出は23兆6942億ルーブル(約35兆円)。侵攻から早6週間が経つが、すでに国家予算の3倍以上のカネがかかっていることになる。
3兆円という試算は、兵士の日給や兵器の損耗など直接戦地でかかる費用だけではない。西側諸国からの経済制裁や貿易制限などによって生じる経済損失も含まれている。
ただ、ウクライナ侵攻に失敗しつつあるロシアが膨大な損害を出していることも間違いない。具体的に、何を失ったのか。今回の侵攻でロシアは、どれだけの兵力を割き、どんな兵器を使っているか公表していないが、専門家に協力を仰いで様々なデータを使い検証した。
米国防総省は、偵察衛星などを駆使して情報を収集し、ロシア軍がウクライナ国境付近に約19万人の兵力を集結させたと推測している。
地上作戦を実施するロシア陸軍は、空挺部隊と合わせて32万5000人いる(『TheMilitaryBalance2022』)。つまり、総兵力の約60%をウクライナに投入したことになる。ここでは兵器も同様に60%が投入されていると仮定しよう。
まず、戦車について解説するのは、物理学者で日本有数の旧ソ連およびロシアの兵器研究家として知られる多田将氏だ。
「ロシア陸軍は現在2900両の戦車を運用しています。その中でもウクライナ侵攻で主力になったのは『T−72』と『T−80』、『T−90』の3系統です。
『T−72』は'73年に制式採用された古い戦車で、一両約8000万円。より高性能の『T−80』は、世界初のフルガスタービン戦車として知られていて、値段は約2億円。『T−72』を改良して作られ、'92年から制式採用された『T−90』の値段は約4億円です」
ニュースなどで報じられたように、4億円もする戦車が米国製対戦車ミサイル「ジャベリン」で次々と破壊されてしまう。ちなみに、「ジャベリン」一発あたりの値段は約1000万円だ。
ウクライナ軍が3月31日に行った発表によると、破壊した戦車の数は614両。2900両の6割である1740両が投入されたとすれば、ロシア軍はその約35%を損失したことになる。
3系統の保有比率から計算した損失額は、「T−72」が約351億円、「T−80」が約196億円、「T−90」が約312億円、合計約859億円となる。
燃費だけで1900億円
「車内に歩兵を乗せられる歩兵戦闘車で主力になっているのは、火力重視の『BMP−2』で、納入された時期によって変動はありますが、約1億円です」(多田氏)
ロシア軍が運用する4900両のうち、6割の2940両が出動したと仮定する。戦車と同程度の比率で歩兵戦闘車「BMP−2」も破壊されたとすれば、損失額は約1029億円だ。
戦場では、戦車や歩兵戦闘車だけでは戦えない。歩兵を大量に運ぶための装甲兵員輸送車や、空からの攻撃に対処するための対空戦闘車両もいる。それ以外にも弾薬運搬車や食事を作る野戦炊事車に食料運搬車、兵員の服を洗濯する車両、移動司令部となる指揮通信車なども帯同する。
こうした部隊も被害に遭うことを想定すると、約116億1300万円かかる。
当然、それだけの車両を動かすには燃費も膨大だ。戦車100両他の師団が1000km走行すると考えた場合、最低でも約75万Lの軽油が必要とされている。
現在の日本における軽油価格で換算すると、ウクライナ侵攻にかかっている燃費は約1936億6200万円だ。
ウクライナ軍は、侵入してくるロシア空軍に対して一定の対空砲火網を敷いているため、ロシア軍は厳密な標的を定めない遠距離砲撃を多用している。
こうした遠距離砲撃をするためには火砲(大砲)や多連装ロケット砲が使われる。火砲は、自走可能な「自走砲」や大型トラックに引かれる「牽引砲」、軽量で大きな破壊力を持つ「重迫撃砲」の3つに分けられる。
多連装ロケット砲とは、複数のロケット弾を一斉発射することを目的としたロケット砲だ。
今回の侵攻でロシア軍が使った燃料気化爆弾は、「TOS−1」という多連装ロケット砲によって発射された。一両あたりの値段は、約7億4000万円。ロシアが保有するロケット砲の6割が戦地で使われ、戦車と同程度の比率で破壊されていたら最大約1325億円の損害だ。
当然だが、戦車や火砲、ロケット砲で使われる弾薬にもカネはかかる。
●プーチン“自滅”か…戦費「3兆円」ムダ遣いで、ロシアが辿る「壮絶な末路」 4/11
ウクライナ情勢は泥沼化の様相を呈している。そして、苦戦続きのロシアが「自滅」するというシナリオも現実味を帯びてきた。ロシア軍の一日の戦費に関して、日本円でおよそ3兆円にのぼり、すでに国家予算の3倍以上のカネがかかっているという。
では一日3兆円ものカネは一体何に使われているのか…? 前編記事『ここにきて「プーチンの自滅」が現実味を帯びてきた…ロシア「一日3兆円の戦費」の衝撃中身』引き続き、その内訳を明かそう。
東京大学先端科学技術研究センター専任講師で、ロシアの軍事・安全保障政策を専門とする小泉悠氏はこう解説する。
「かつて行われたロシア軍の大演習では、1週間で10万トンの弾薬を使用しています。ちなみにこの消費量は、自衛隊の備蓄弾薬(推定11万トン)に匹敵します。ロシア軍が、ウクライナ侵攻を演習レベルで行っているとすれば、1週間で10万〜20万トン使っていても不思議ではありません」
'15年に陸上自衛隊が行った「富士総合火力演習」では、3億7000万円相当の弾薬35・6トンが費やされたと記録されている。
この数字を参考にして、ロシア軍が週に10万トンの弾薬を使ったと仮定してみよう。あくまで単純計算ではあるが、3月末までに約5兆3421億5625万円もの弾薬費をかけたと考えてもおかしくはない。
3月下旬には、ロシアがウクライナ領内に対人地雷を仕掛けていることも明らかになった。その名を「POM−3」という。直径約6〜7cm、高さ約20cmの金属製のシリンダーで、空中から散布して設置できる。地雷内部にある電子機器が周辺の振動を検知し、確実に人だけを狙って殺傷する。
仮に、現在までウクライナ領内に10万個ほど設置されているとすれば、総額約3億円だ。
次に、ロシア軍の兵士にかかるカネも見てみよう。まず人件費だ。EU圏のニュースサイトによると、正規兵の月給は約9万円、徴集された兵士の月給は約3000円だと報じられている。総兵力のうち約7割が正規兵だと言われているので、3月末までにかかった人件費は約145億6920万円となる。
食糧費も忘れてはならない。陸上自衛隊の食費と同じ一日あたり約900円であると仮定したら、食糧だけで約61億5600万円もかかる。
そして、何より大切なのが兵站だ。
実業之日本フォーラム編集委員で元海上自衛隊情報業務群司令の末次富美雄氏はこう語る。
「燃料など物資の補給や食糧などの配給、整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持など後方支援すべてを指します。正確な金額を把握することは不可能ですが、'03年のイラク戦争が参考になります。当時の戦費を確認すると、人件費を4倍にしたら、兵站にかかる経費に近くなるんです」
そうなると兵站には約582億7680万円かかるという計算になる。
ウクライナ侵攻では陸軍が目立っているが、戦闘機などを扱うロシア航空宇宙軍も戦費を垂れ流していると言っていい。
たとえば、最新鋭戦闘機「Su−35」は一機約122億7600万円もする。現在、ロシア軍の主力とされている「Su−30」の価格は約45億9700万円、「Su−34」は約44億1300万円とおしなべて高い。そして、そのすべての機種がウクライナ軍によって撃墜されたことが確認されている。
また、主力の戦闘ヘリコプターも、「Ka−52」は約42億9100万円、「Mi−28」は19億6000万円する。
戦闘機や戦闘ヘリコプターは飛行するだけでも整備費や燃料費など飛行コストがかかる。たとえば、「Su−34」と同程度の性能を持つとされている米戦闘機「F−15E」の一時間あたりの飛行コストは約242万円だ。
ロシアの戦費増大の一因となっているのが、高額な最新兵器の投入だ。特に有名なのは極超音速ミサイル「キンジャール」だろう。3月20日、ロシア国防省は「キンジャール」を使ってウクライナ軍の燃料貯蔵基地を爆撃したと発表している。
英紙「ザ・サン」によると、キンジャール一発あたりの値段は約7億2300万円と推定されている。ロシアの調査報道専門メディア「インサイダー」は、プーチン大統領はロシア軍が高価な長距離精密誘導弾8発を一日に撃ち込んだことに激怒したと報じている。それほど懐を痛める兵器というわけだ。
上に、ロシア軍の戦費をまとめた表があるので確認してほしい。どれだけの金額がウクライナで溶けているのかが一目瞭然だ。
今この瞬間も、兵士や民間人の命が失われている。ロシア兵がキーウ周辺で大量虐殺を行ったというニュースまで報じられるようになった。これに加え、ロシア経済にダメージを与えるレベルの金銭的無駄遣いも続けられているのだ。戦争では命もカネも、かくも無残に消費されていく。この真理に、プーチン大統領はいつ気づくのか。
●キーウ州で死者1222人確認…「ロシアの戦争犯罪容疑者はすでに500人」 4/11
ウクライナの検事総長は10日、英民放スカイ・ニュースとのインタビューで、侵攻を続けるロシア軍が首都キーウ(キエフ)近郊で多数の民間人を殺害した疑惑に関連し、キーウ州内で同日朝の時点で1222人の死者が確認されたと明らかにした。
また、検事総長は、南東部マリウポリなども含め、「ロシアの戦争犯罪の容疑について5600件を捜査しており、すでに500人の容疑者がいる」と説明。民間人殺害や民間施設の破壊を1件ごとに捜査しているケースと共に、数十件以上の被害をまとめて捜査していることもあり得ると指摘した。
●英首相がキーウ訪問、ウクライナの安全保証めぐる新たな枠組み意見交換か  4/11
英国のジョンソン首相は9日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。ロシア軍の地上部隊が首都周辺から撤退したことについて、「今世紀における最大の軍事的偉業だ」と頑強な抵抗を続けたウクライナ軍をたたえ、今後もあらゆる分野で最大限の支援を続けていくことを約束した。
ジョンソン氏は、新たな軍事支援として、装甲車両120台と最新鋭の対艦ミサイルを供与する方針も伝えた。両氏は、ウクライナとロシアの停戦協議で提案された、ウクライナがロシアが求める「中立化」を確約する見返りに自国の安全の保証を得る新たな枠組みについても意見を交わしたとみられる。ゼレンスキー氏は会談後の記者会見で「ウクライナの平和を達成する上で重要な役割を果たすことを期待する」と述べ、英国の参加に期待を示した。
●プーチン氏、ウクライナ侵攻の総司令官を任命…ドボルニコフ上級大将  4/11
ワシントン・ポスト紙など複数の米メディアは9日、ロシアのプーチン大統領がウクライナでの軍事作戦を統括する総司令官に、露軍の南部軍管区トップのアレクサンドル・ドボルニコフ上級大将を任命したと報じた。露軍ではこれまで作戦全体を統括する総司令官が任命されておらず、連携不足から苦戦の一因になったと指摘されている。
ドボルニコフ氏は、ロシアが2015年にシリア内戦に介入した際に露軍の軍事作戦を指揮し、無差別攻撃を仕掛けて多数の民間人死傷者を出したとされる。
ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は10日、米CNNのインタビューでドボルニコフ氏について「シリアで市民に対して残虐行為を働いた過去があり、ウクライナでも同様の行為に及ぶことが予想される」と述べ、攻撃の激化に懸念を示した。
●ロシア軍新司令官に懸念 米政府高官「残虐行為に及んだ過去」  4/11
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍の苦戦が伝えられる中、欧米のメディアは、ロシア軍の幹部が司令官として新たに指揮を執ることになったと伝えました。ロシアが軍事介入し多くの市民が犠牲になったシリアの内戦で現地の指揮を執った人物で、アメリカ政府の高官は「残虐行為に及んだ過去がある」として懸念を強めました。
ウクライナでは、ロシア軍が首都キーウ周辺から撤退したあと、多くの市民が殺害されているのが見つかっていて、ウクライナのベネディクトワ検事総長は10日、イギリスのテレビ局、スカイニュースのインタビューでキーウ州で10日朝までに1222人の死亡が確認されたと明らかにしました。
また、ウクライナ国内で起きたロシアによる戦争犯罪は5600件にのぼり、ロシア軍の幹部や政治家などおよそ500人の容疑者を特定したとしています。
一方、戦況を巡ってアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は9日、キーウ周辺から撤退したロシア軍の部隊は戦闘能力をほとんど失い、兵士の士気などの面で深刻な問題に直面していると分析しています。
こうした中、イギリスの公共放送BBCなど欧米のメディアは9日、当局者の話として、ロシア軍の南部軍管区のトップ、ドボルニコフ司令官がウクライナでの軍事侵攻の指揮を執ることになったと報じました。
BBCは当局者の話として、これまで不十分だった部隊どうしの連携を整え、態勢を立て直す必要に迫られたことが背景にあるとみられると伝えています。
ドボルニコフ司令官はかつてロシア南部のチェチェン紛争に参加したほか、2015年から翌年にかけてはロシアが軍事介入したシリア内戦で指揮を執り、この間、多くの市民が犠牲になりました。
ドボルニコフ司令官について、アメリカのホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は10日、CNNテレビに出演し「シリアで市民に対して残虐行為に及んだ過去がある」と述べ、ウクライナでも同様の行為をするおそれがあると懸念を強めました。
ロシアでは、来月9日にはプーチン政権にとって国民の愛国心を高める重要な行事となる、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利したことを記念する祝日が控えていて、専門家からはプーチン政権としては国民にアピールできる成果を急ぎたいのではないかという指摘も出ています。
ただ、ロシアとの停戦交渉にあたるウクライナのポドリャク大統領府顧問は9日、「大規模な戦闘のための準備はできている。東部での戦闘に勝ってから実質的な交渉の立場を得ることができる」と述べ、徹底抗戦を続ける構えを強調していて、東部で大規模な戦闘になれば市民の犠牲がさらに増えることが懸念されています。
松野官房長官は、11日午前の記者会見で、ロシア軍の幹部が司令官として新たに指揮を執ることになったことについて「報道は承知しているが、コメントは差し控えたい。その上で、ウクライナで多くの市民が犠牲となっていることを極めて深刻に受け止めている。むこの民間人の殺害は重大な国際人道法違反で戦争犯罪だ。断じて許されず、厳しく非難する。残虐な行為の真相は明らかにされ、ロシアの責任は厳しく問われなければならない」と述べました。
また、ウクライナのベネディクトワ検事総長がキーウ州で1222人の死亡が確認されたと明らかにしたことについて「ロシア軍の行為により、ウクライナで多くの市民が犠牲になっていることに強い衝撃を受けている。断じて許されず、厳しく非難する」と述べました。
●ウクライナ難民支援へ91億ユーロ拠出、カナダ政府や欧州委など 4/11
カナダ政府や欧州委員会などは9日、ウクライナ戦争から逃れた難民を支援するため、寄付などの形で計91億ユーロを拠出すると表明した。
ポーランドのワルシャワで資金を募るイベントが開かれ、ウクライナ国内で住む場所を追われた人々を支援するために18億ユーロ、同国から近隣諸国に逃れた難民のために73億ユーロがそれぞれ集まった。
政府、企業、個人から合わせて41億ユーロの寄付が集まった。主にウクライナ当局や国連を通じて分配される。
残りの50億ユーロは欧州連合(EU)金融機関からの融資および支援金で、EU諸国に到着した難民に住宅、教育、医療を提供する40億ユーロ規模のプログラムも含まれている。
8日にキーウ(キエフ)を訪問し、カナダのトルドー首相とイベントを共催した欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、この戦争にウクライナが勝利した後の復興・再建でも支援すると述べた。
●ウクライナ戦争と日本 積極財政で日本をもっと勁く!  4/11
ウクライナ戦争が終わりません。むしろ、日に日に状況が悪化しています。首都キーウ攻略に失敗し撤退したロシア軍の跡に残された侵略の爪痕―無残にも、おびただしい数の無辜の人々の遺体が路上に放置された映像―に、世界が戦慄しました。
すでに、総人口の1割を超える400万人ものウクライナの人々が、家を壊され、肉親を失い、国を追われて、近隣諸国への避難を余儀なくされています。我が国もその避難民を400名以上受け入れていますが、これも前例のない措置です。さらに、大規模な経済制裁により、エネルギーや穀物価格が高騰し、私たちの生活を直撃しています。
私たちは、何としてもこの戦争を一日も早く終わらせるべく全力を尽くすとともに、ウクライナ戦争から得た教訓に基づき、現実的な安全保障、経済、資源エネルギー政策を遂行していかねばなりません。
教訓の第一は、他国による侵略を許さない確固たる国防努力を怠らないということです。ウクライナ戦争はロシアの弱体化をもたらすことになると考えますが、我が国周辺には、依然として北朝鮮の核とミサイル脅威、強大な軍事力を背景に強硬な対外姿勢を誇示する中国が厳然と存在し、これらに対する適時的確な対応が求められます。
とくに、日本全土を射程に収める1900発の地上発射型中距離弾道ミサイル、300発の中距離巡航ミサイル(一部は核弾頭搭載)に対抗しうる同様の中距離ミサイル戦力は、日米にはありません。つまり、有効な反撃手段を持たないということです。反撃できないというのでは、抑止力にはなりません。
じつは、これは我が国防衛をめぐる課題のほんの氷山の一角なのです。従来型の陸海空のアセットはもとより、サイバー、宇宙、電磁波といった新領域における我が国の対処能力は不十分ですし、燃料や弾薬の備蓄、基地や施設の抗堪性にも様々な課題を抱えています。
今回のウクライナ戦争によって文字通り覚醒したドイツ(しかも、左派の社民党と緑の党の連立政権!)が、国防予算をGDP比で1.4から2%に引き上げ、抜本的な国防改革に着手したように、我が国も5年程度で防衛予算をGDP比2%水準まで引き上げて、上述のような積年の課題を克服しなければなりません。
第二の教訓として、「力による現状変更」を行う可能性のある国への、過度な依存を見直さねばならないと考えます。代表的なのが天然ガスですが、経済産業省は、石油・液化天然ガス、半導体製造に必要なネオンなどの希少なガス、排ガス浄化に使われるパラジウムなど、ロシアやウクライナへの依存度が高く対策が必要な戦略物資が7品目あると公表しています。
これが中国となるとさらに深刻です。最新の内閣府報告書『世界経済の潮流』によれば、我が国が中国からのシェアが5割以上を占める「集中的供給財」はじつに1000品目を超え、中国からの全輸入品目の23%に上ると算出。これらの物資の供給が滞った場合のリスクは、米独と比較しても莫大なものとなると警鐘を鳴らしています。
課題解決のためには、サプライチェーンの再編が急務です。具体的には、別の調達先を探したり、使用量を節減する技術開発を推進していくことになりますが、いずれにしても政府が本腰を入れて支援していかねばなりません。
そのためには、思い切った財政政策が必要です。いうまでもなく、防衛費の増額にもサプライチェーンの再編にも、相応の予算措置が必要となります。しかし、1220兆円もの巨額の財政赤字を抱える日本のどこにそんなカネがあるのか、という懸念の声には根強いものがあります。
心配はご無用です。我が国財政は、米英独仏と比べても極めて健全なのです。下の図は、IMF(国際通貨基金)が作成した中央政府・地方政府・中央銀行等、政府関係機関を合わせた国全体のバランスシートの国際比較です。
この図を見れば一目瞭然。我が国は確かに負債は多いものの資産も多く、ほぼ均衡しており、G7の中でもカナダに次いで財政状況が良いことがわかります。「ではあの膨大な国債はどうなってるのだ?」と首をひねる向きもあると思いますが、経済学の標準的な考え方によれば、中央銀行は、政府のいわば子会社として一体として捉えますから、日銀が保有している日本国債は、政府(親会社)が日銀(子会社)から借金しているのと同様、実質的には負債ではありません。
したがって、我が国にはまだまだ積極的な財政支出を行う余力は十分にあります。先に述べた防衛費の増額やサプライチェーン再編のための政府支援、さらには、対露経済制裁によるエネルギーや穀物価格の高騰により打撃を受ける家計を支えるためにも、更なる補正予算の編成に向けて、思い切った財政政策を展開すべきです。私も、政府与党の一員として、国民の命と平和な暮らし、そして安定した経済運営のために全力を尽くしてまいります。
●ウクライナ戦争で「バタフライ効果」…2200万人の飢餓危機 スリランカ 4/11
家庭や商店では数時間にわたる停電が頻繁に起き、道路では信号灯が消えて警察が交通整理をしている。ガソリンスタンドの前にはガソリンを買おうとする長蛇の列ができる一方、用紙不足で学校の試験が中止になり、新聞も印刷することができずにいる。これだけではない。病院・薬局ではよく使われる医薬品が足りなくなり、医者は「医療危機」を宣言した。ある主婦は「粉ミルクの値段がいきなり上がり、子どもにまともにミルクを飲ませてあげられていない」と吐露した。
英紙ガーディアンなど外信が9日(現地時間)伝えた、燃料・電気・食糧・医薬品不足によって現在スリランカで起きている出来事だ。ロイター通信、CNNビジネスなどは、ロシアのウクライナ侵攻による燃料と食糧価格の急騰で社会・政治的混乱が発生した代表的な国がインド洋の島国、スリランカだと報じた。ウクライナ戦争発の一種の「バタフライ効果」という分析だ。
「スリランカ国民が飢餓の危機に直面」
観光産業に依存するスリランカ経済は新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)で大きな打撃を受けたことに続き、ウクライナ戦争による原材料価格の急騰で致命的なダメージを受けた。
スリランカの経済危機は各種指標からも確認することができる。3月の物価上昇率は前年同月比18.7%に達し、食品物価は30.2%も上昇した。
外貨保有額もほぼ底をついた。スリランカ中央銀行によると、3月末基準のスリランカ外貨保有高は19億3000万ドル(約2400億円)で、1カ月の間に16%減少した。
対ドルのスリランカ・ルピー価値は1カ月間に40%も下がった。負債償還の負担も深刻だ。JPモルガンの推算によると、今年スリランカが返済しなければならない負債は70億ドルに達し、目前では7月に海外債権者に10億ドル(約1兆2000億ウォン)の国債を償還しなければならない。
このような傾向でいけば、スリランカ国民2200万人が飢餓の危機に直面しかねないという警告まで出ているとガーディアンは伝えた。CNBCは「1948年の独立国家樹立以降、スリランカは最悪の経済危機に直面している」と評した。
怒った民心、数千人が抗議デモ
怒った民心は大規模な抗議デモにつながった。AP通信などによると、9日、数千人の市民がスリランカの首都コロンボ市内の主要道路などに集結し、国旗や横断幕を持ってゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領執務室までデモ行進を行った。
ラージャパクサ大統領の退陣を要求する声も出てきた。横断幕には「ラージャパクサからスリランカを救え」「我々には責任感ある指導者が必要だ」のような文面が見えた。デモに参加したある20代青年は「行動しなければ(経済的困難のせいで)死んでしまう」と切迫した状況を伝えた。24歳のある学生は「人々は飢え、さらには電気をつけることもできず、国には大きな借金があるのに、大統領は責任を負わないでいる」と批判した。
外貨不足で国家デフォルト危機に直面したスリランカは、結局国際通貨基金(IMF)の救済金融を受けると宣言した。IMFは「スリランカの経済危機を非常に懸念している」とし「救済金融プログラムのためにスリランカ財務省や中央銀行関係者と実務交渉を始めた」と明らかにした。
ウクライナ戦争発の価格上昇…ペルー・パキスタンでも不安高調
新型コロナの大流行に伴うサプライチェーンの混乱とウクライナ戦争によって食糧価格とエネルギー価格は暴騰した。9日、CNNビジネスによると、国連食糧農業機関(FAO)が集計した今年3月の食料価格指数(FPI)は1カ月前に比べて13%近く急騰して159.3まで高まった。
これは食料価格の急騰が起爆剤になった「アラブの春」当時に記録した史上最高値である2010年106.7や2011年131.9をはるかに上回る。ウクライナとロシアは世界の主要食料輸出国だが、それぞれ戦争や経済制裁で輸出が難しくなった影響だ。国際原油価格は1年前に比べて60%近く高騰し、天然ガスや石炭価格も急騰した。
スリランカ以外にも南米ペルーでは燃料価格の急騰によって触発された反政府デモで6人が死亡したほか、パキスタンは経済難の中でイムラン・カーン首相に対する不信任案が可決された。これに対してCNNビジネスはウクライナ戦争発の経済危機に伴う社会不安が世界各国に広がる恐れがあるとの見通しを伝えた。
●バイデン外交の欠陥が露呈しているウクライナ戦争 4/11
3月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストの ジャナン・ガネシュが、ウクライナ問題では、バイデンの理想主義的外交がサウジアラビア等の離反を招き米国外交の足かせとなっており、もっと現実主義的外交をすべきであると論じている。
ガネシュは、ウクライナ戦争を民主主義と独裁主義の戦いと位置付けたのでは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、更には中国の協力を得ることができないので、より現実的な外交政策をとるべきだと述べる。歴史的にも、米国は、ソ連との対抗で中国に肩入れしたり、韓国やラテンアメリカの軍事政権を支援したりしたように、目的のためには、非民主的勢力の協力を得て来たと指摘する。そして、今後の中国との覇権争いにおいても、そのような戦術が必要となると論じている。
バイデン外交には、人権・民主主義を重視する民主党の基本的立場が背景にある。また、トランプの理念なき外交を批判して政権を獲得したこともあり、自らの持論でもある民主主義重視の価値観外交を進めて来た。
また、バイデンの個人的性格にもあるのか、これまでサウジやア首連の指導者、イスラエル首相、ブラジル大統領など、政策的に問題のある政治指導者とは会おうとしなかった。政策や意見が合わなくとも、いざという時のために、首脳レベルで直接働きかけを行なえるような最低限の個人的関係が構築されていることが望ましい。
また、このようなバイデンの頑なさと共に、あまりに率直な発言に、やや不安を覚えるところがあった。バイデンは、早々にウクライナに軍事介入をしないことを明言し、プーチンを戦争犯罪人と呼び、また、制裁が効果を生ずるのには時間がかかるなど、それらが事実であるにしても、外交駆け引き的な要素が少なく選択の余地を自ら狭めている印象もある。
バイデンは、プーチンの理不尽な侵略に対して米国自身が交渉する余地は無く、当面制裁強化一本やりということであろうが、そうであればこそ、実利を重視し民主的とは言えない第三国に対しては今後もう少し柔軟な対応に軌道修正し、少しでも対ロシア制裁への協力を求めることが望ましい。西側同盟以外の国々が制裁に参加せず協力しないということは、制裁の抜け穴が広がることを意味しかねない。ウクライナ後の中国対策においても同様であろう。
3月16日頃には、ウクライナ筋から15項目からなる停戦合意が近いとの見通しも報道されたが、3月23日には、ロシア側から米国が停戦を妨害しているとのコメントがあり、停戦の機運が遠のいているが、これはロシアが交渉を引き延ばしていることを示唆している。プーチンは、もともと停戦するつもりは無く文民に対する無差別攻撃を継続、強化することにより、ウクライナ側の戦意喪失を待つ作戦なのではないかと疑いたくなる。
ウクライナ人の命を救うためには、プーチンがこのような軍事侵攻に踏み切った理由やこれまでの経緯を考慮すべきだとの意見が内外に散見されるが、これは正に信用できないプーチンの主張である。ウクライナ人側には、命を懸けても守りたいものがあることを理解すべきであろう。
ロシアに影響力を持つ国や人脈を持つ人物は、全力でロシア側に即時停戦を働きかけ、無差別攻撃を続けることが利益とならないことをロシア側に理解させるよう努力すべきである。特にプーチンに対しては、その意図は交渉により実現すべきもので、そのためにはまず即時停戦が必要であると説得するべきであり、それができるのはロシアが頼りとしている中国しかない。
3月24日の北大西洋条約機構(NATO)緊急首脳会議でもそのような意見が出たようであるが、中国には、そのような役割を果たす重い責任があるというべきであろう。
●「戦争犯罪」繰り返すロシア軍 兵器一新も徴集兵頼み 陰湿な新兵いじめ… 4/11
ウクライナに侵攻したロシア軍が「戦争犯罪を行っている」として、国際社会からの批判が日増しに強まっている。民間人らに対する残虐行為が次々と明らかになる中、むしろ目立つのは軍隊の弱さと士気の低さだ。近代化を進め、軍事力ではウクライナに圧倒しているにもかかわらず勝てない背景には、ソ連崩壊後も変わらないロシア軍のおぞましい体質が根底にあるようだ。(論説委員・青木睦)
いじめから自殺に追い込まれ、餓死した若者も…
ソ連崩壊後の1990年代、ロシア社会は底無しの混迷に沈んだ。社会主義経済から市場経済への体制移行に苦しみ、国家機能は著しく低下して秩序は崩壊した。
国防予算が大幅に削られた軍も内部荒廃を来した。汚職は蔓延し、徴兵制度は機能不全で兵員は大幅に定員割れ。古参兵による新兵いじめが深刻化した。
新兵いじめはどこの国の軍隊でも起こり得るが、ロシアの場合は規模も陰湿ぶりでも桁外れだった。いじめから自殺に追い込まれたり、満足な食事を与えられずに餓死した若者もいた。毎年、新兵いじめによって数千人が死亡したといわれ、ロシアに駐在していた日本の自衛官が「対外戦争もしていないのに…」と絶句したのを思い出す。
人権団体「兵士の母親委員会」は、新兵いじめから逃れてきた脱走兵の駆け込み寺のような存在だった。90年代半ばに始まったチェチェン紛争では、ろくに訓練も受けていない新兵がいきなり前線に送り込まれた。そんな息子を取り戻そうとする母親らを支援したのも母親委員会だ。
母親委員会のある女性は「軍はその社会を映し出す鏡よ」と言った。軍はロシア社会が抱える不条理や矛盾が凝縮されたような組織だった。
兵士の母親委員会 徴集された若い兵士とその家族の人権を守るために1989年発足。1994に始まったロシアからの独立を求める南部チェチェン共和国との紛争では反戦を唱え、捕虜になったロシア兵の解放交渉にも携わった。
新型装備 通常兵器で7割、戦略兵器は8割以上に
プーチン時代に入り国情が安定するにつれ、ロシアは軍の近代化を進めた。
とりわけ2008年に起きたジョージア(グルジア)との軍事紛争以降の進展は目を見張るものがあった。この紛争では軍の通信装備が悪く、司令官が従軍記者の衛星電話を借りたという逸話も残っている。
プーチン大統領は18年の年次教書演説で、迎撃が難しい極超音速ミサイルシステム「アバンガルド」や、原子力推進式の巡航ミサイルなど6種類の最新鋭兵器の開発を公表した。
近代化は20年の時点で、新型装備の比率が通常兵器で70%、戦略核兵器は80%以上に達したという。兵員面の改革では、徴兵よりも契約制の軍人を増やす「プロフェッショナル化」を進めた。
プーチン氏「職業軍人だけで戦う」はウソ
その軍事力を見せつけてウクライナを圧倒するはずだった侵攻作戦。プーチン氏は徴集兵は投入せず職業軍人だけで戦う、と言った。
ところが、ウクライナ側の捕虜になったロシア兵には徴集兵もいることがすぐにばれてしまった。
しかも、「単なる訓練だから」と上官にだまされてウクライナに送られた捕虜が、スマートフォンで母親に「どうなっているのか分からない」と訴える光景も報じられている。結局、ロシア国防省も徴集兵の派遣を認めた。
侵攻以来、母親委員会にはわが子を捜す親からの問い合わせが殺到しているという。チェチェン紛争時と同じ悲劇が繰り返されている。兵器は一新されたが、軍の体質は変わらないようだ。

ロシアの徴兵制 / 防衛白書によると総兵力は約90万人。米シンクタンク・戦争研究所によると、そのうち徴集兵は約26万人。徴兵は18~27歳の男性が対象で年2回あり、任期は1年。今春は約13万人の徴集を予定しており、欧米メディアによると、ショイグ国防相は「徴集兵は紛争地に送らない」と強調した。
●ウクライナ戦争で激化するサイバー攻撃、保険会社は損害補償するか 4/11
ロシアの軍事侵攻前に起きた大規模なサイバー攻撃
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して1カ月以上が経過した。ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊から撤退して、ウクライナ東部での戦いに焦点を移すとみられるなど、戦争は新たな局面に入りつつある。
両国の間では、停戦交渉も進められている。だが、その一方で、キーウ近郊の街では、多くの民間人が殺害されていたことが明らかとなり、深刻な人道危機として、ロシアの戦争犯罪を糾弾する声が国際的に高まっている。戦争の犠牲者を増やさないためにも、早期の停戦が必要な状況だ。
軍事侵攻前の今年1月には、ウクライナに対する大規模なサイバー攻撃が起こり、外務省など約70の政府機関のウェブサイトが停止した。この攻撃についてロシアは関与を否定しているが、疑う見方が強い。
2017年にも大規模なサイバー攻撃が行われた。2014年のロシアによるクリミア併合以降、東部地域を中心に紛争が継続するなかで、ウクライナに対するサイバー空間での情報戦も続いている。
そこで、ウクライナで起きたサイバー攻撃を振り返って、その影響について考えてみたい。
身代金を支払ってもデータロックが解除されないマルウェア
今回、見ていくのは、2017年6月に発生した“NotPetya”(ノットペーチャ)によるサイバー攻撃だ。
日本では、同年5月に発生した “WannaCry”(ワナクライ)ほど有名ではないかもしれない。WannaCryは日本でも一部の工場などで被害が出たことで、メディアで大きく報じられた。一方、NotPetyaはウクライナを震源に世界に拡散したマルウェア(悪意のあるソフトウェアや悪質なコードの総称)として、欧米でよく知られている。
NotPetyaは、攻撃のあった当時、過去最大規模の被害をもたらしたサイバー攻撃とみられており、被害総額は100億ドル超と推定されている。2016年3月にウクライナで発生した“Petya”というマルウェアに似ていたが、感染力が強く、「Petyaではない」と名付けられたものだ。
実際に、NotPetyaは、それまでのマルウェアと違って、自己拡散する機能を備えており、ユーザーが何もしなくても次々に新たなシステムに感染していった。
企業等のネットワークに不正に侵入して、情報データファイルを人質として暗号化し使用不能とする、典型的なランサムウェアだ。だが、通常のランサムウェアと大きく異なるのは、画面に表示された指示に従って身代金を支払っても、人質であるデータがロック解除されて使用可能となることはなかった点だ。
NotPetyaは、恐喝などによる経済的利益を目的としたものではなく、システムに大規模な破壊を引き起こすこと自体を目的としたものとみられている。
このサイバー攻撃は、いま起きている深刻な人道危機を伴った軍事侵攻の前兆だったのかもしれない。
米英豪は「NotPetyaはロシア軍によるもの」と断定
このマルウェアの手口を、もう少し詳しくみていこう。NotPetyaは、ウクライナ国内で汎用されている会計ソフトを製造するソフトウェア会社のサーバから始まった。
まず、攻撃者はこの会社のアップデートサーバを乗っ取り、それを使ってソフトウェアのアップデートに見せかけたNotPetyaマルウェアを、同社の顧客企業のコンピュータに送信した。その結果、ウクライナの大手企業のネットワークが、わずかな時間で次々にダウンさせられた。
実際に被害に遭ったコンピュータは、感染するとハードドライブに保存されている情報が改変され、ソフトウェアやデータが使用不能となった。コンピュータは自動的にシャットダウンし、再起動すると画面にメッセージが表示され、身代金の支払いとデータ復旧のためのキーの取得が指示されたという。
一部の被害者は、表示された指示に従って身代金を支払おうとしたが、支払ってもデータのロックは解除されない仕組みとなっていた。データがランダムなキーで暗号化されているため、たとえ攻撃者であってもロックを解除する方法はなかったという。
NotPetyaはウクライナ国外にも大きな被害をもたらした。特に、デンマークの海運会社や米国の配送会社では、事業が中断するなどの影響が出て、それぞれ約3億ドルもの被害を受けたとされる。
この他にも、米国の大手化学品・医薬品メーカーや大手食品・飲料会社などが被害に遭った。NotPetyaはウクライナだけではなく、欧米の広範囲に渡って企業等に被害をもたらしたのである。
2018年に米国、英国、オーストラリアの政府は、NotPetyaの攻撃がロシア軍によるものだと公式に表明した。ロシアの目的は「ウクライナのエネルギー生産と金融・政府業務を混乱させること」との政府見解を示して、同国を非難している。
これに対して、ロシアはサイバー攻撃への関与を否定し、ロシアに対する非難は一部欧米諸国が推進する“運動の一環”に過ぎないと反論している。
サイバー攻撃の保険金支払いを巡る係争も発生
NotPetyaのサイバー攻撃は、保険業界にも波紋を投げかけることとなった。
被害に遭った米国の大手食品・飲料会社は、被害額の補償として保険会社に保険金の支払いを請求した。ところが、保険会社はこのサイバー攻撃は戦争的行為に当たるとして、「戦争免責規定」による保険金支払いの免責を主張した。
同様に、攻撃で損失を被った米国の大手化学品・医薬品メーカーも別の保険会社に保険金の支払いを請求したが、その保険会社も戦争免責規定をもとに、保険金を支払わないと主張した。
これらは通常、損害保険には戦争免責の規定が盛り込まれていることが背景にある。その規定によると、保険会社は「戦争、侵略、軍事行動」などから生じる損害については、宣戦布告の有無にかかわらず、保険金を支払う義務を負わないとされている。この規定の内容は、保険会社によって異なっている。
保険金の支払いに関しては、それぞれの当事者間で係争が発生し、訴訟に発展している。NotPetyaのサイバー攻撃が戦争的行為に当たるかどうかがポイントとなる。
大手化学品・医薬品メーカーの訴訟は、今年1月、下級審で保険会社の免責を否定する判決が出た。ただし、戦争的行為をサイバー攻撃に適用しなかった司法判断には批判の声もあがっている。大手食品・飲料会社の訴訟のほうは、現在も継続している模様だ。
保険会社に降りかかる「サイレントサイバーリスク」
これらの係争は、損害保険の戦争免責規定が国家によるサイバー攻撃にも適用されうるのか、といった点で議論を呼ぶこととなった。保険会社にとっては、「サイレントサイバーリスク(沈黙のサイバーリスク)」という新たなリスクに気付かせるきっかけとなったのである。
通常、サイバー保険では、補償対象となるサイバー事象や免責となるサイバー事象が契約規定に明記されている。戦争免責条項も含まれるのが一般的だ。
一方、一般の損害保険契約では、契約規定のなかにサイバーリスクが明示的に含まれていない場合や、免責とされていない場合がある。こうした場合、サイバー事件による損害保険の補償(損害賠償補償など)の範囲があいまいになる。
これこそが、サイレントサイバーリスクだ。契約規定のなかに入り込んで沈黙していたサイバー関連の補償が、サイバー事件の発生により、保険金請求の形で顕在化するわけだ。保険会社側からみると、サイバー攻撃による被害の補償を提供する意図はなかった場合でも、契約者側から保険金請求が生じる事態となる。
たとえば、洪水保険のように自然災害の補償を行うもので、一見サイバー事象とは無関係な保険であっても、サイレントサイバーリスクはありうる。
こんな事例が考えられる。マルウェアなどのサイバー攻撃により、ダムの制御システムがハッキングされて洪水が発生し、その結果、大きな被害をもたらしたとしたらどうなるか。この場合、保険契約上、サイバー攻撃に起因した洪水についての補償の規定があいまいだと、保険会社は保険金支払いのリスクにさらされる可能性がある。
保険会社は、サイレントサイバーリスクに対処するために、サイバー関連の補償を含めるかどうか、契約規定の明確化に着手している。
日本も他人事ではない「サイバーリスク」の標的
このように、2017年のサイバー攻撃は、保険業界にも思わぬ余波を生む形となった。
さて、いま起きている戦争に話を戻そう。現在、ロシアのウクライナ軍事侵攻が進むなかで、サイバー攻撃を含めた情報戦も激化している。
デジタル技術の進歩により、ネット上には、ウクライナ大統領が国民にロシアへの降伏を呼びかける内容のディープフェイク動画まであらわれている。この動画を一見しただけでは、その内容を信用してしまうかもしれない。
一方、ウクライナ側がロシア軍の携帯電話でのやり取りを傍受して、それを公表するといった動きも報じられている。こうしたデジタル技術を活用した攻防は、従来、あまり見られなかったものだ。早期の停戦を願いつつ、情報戦も含めて今後の軍事侵攻の展開を注視していく必要がありそうだ。
また、サイバーリスクに国境はない。マルウェア等によるサイバー攻撃は、ウクライナだけではなく、世界中を標的として行われることも十分に考えられる。日本を含めて、ロシアの非友好国は、これからも深刻なサイバー攻撃を受ける可能性がある。両国が停戦合意や終戦に至った後も、決して警戒を緩めることはできない。
●ウクライナ成長率マイナス45% 22年見通し、ロも11・2%減 4/11
世界銀行は10日、欧州や中央アジアの新興国経済の成長率見通しを発表した。ロシアの軍事侵攻を受けたウクライナは2022年の実質成長率がマイナス45・1%と、記録的な落ち込みになると予想した。日米欧から経済制裁を受けているロシアも、マイナス11・2%になると見込んだ。ウクライナ情勢は先行きが不透明で、世界経済に暗い影を落としている。
ウクライナは21年の3・4%成長から急降下となり、国際社会でさらなる支援が必要との声も出そうだ。ロシアの21年は4・7%成長で、経済制裁がさらに強化されれば、一層落ち込む可能性もある。
●ついにドイツも「脱ロシア」へ…エネルギー輸出に頼るプーチンの行き詰まり  4/11
ロシアのデフォルトは時間の問題か
欧米諸国による金融、経済制裁によってロシア経済の悪化が鮮明だ。ウクライナ危機が発生するまで、ロシアは基本的に自国の原油や天然ガスなどの資源を輸出することで経済を成長させてきた。そのため、ロシア国内では、軽工業やサービス業の分野で企業は育っていない。
欧米諸国の厳しい制裁、中でも中央銀行への制裁などによってロシアの米ドル資金は枯渇し、デフォルト(債務の不履行、当初の約束通りに利払いや元本の返済がなされないこと)は時間の問題になっている。外資企業の撤退も増えている。経済と金融システムが混乱し、ロシアの経済成長率が急速かつ大幅に低下することは避けられない。
ウクライナ侵攻についても、キーウ(キエフ)近郊でロシア軍による民間人の殺害の疑いが浮上したことによって制裁は強化され、そのリスクは高まった。今後、懸念されるのは、追い詰められたプーチン大統領が、欧州向け天然ガスのパイプライン“ノルドストリーム1”を停止することも懸念される。
その場合、世界経済にはかなりの悪影響が生じる。供給制約はいっそう強まり、経済成長率の低下と物価上昇の同時進行が鮮明化するだろう。それ以外にも、ロシアが報復措置を実行する可能性が高い。ウクライナ危機が世界経済のゲームチェンジャーであることは冷静に考える必要がある。
新しい需要を生み出しづらい産業構造
ロシア経済にはいくつかの特徴がある。まず、ロシアは世界有数の資源国だ。ロシアは地中から掘り出される天然ガスなどのエネルギー資源や、農地で収穫される小麦などの穀物を輸出して米ドルなどの外貨を獲得した。手に入れた外貨を用いてロシアは経済運営に必要な機械や資材を輸入した。2020年の輸出の51.3%が鉱物製品、8.8%が食料・農産品(繊維除く)だ。輸入の47.6%は機械や輸送機器、18.3%が化学製品だった。
次に、製造業とサービス業の育成が十分ではないと考えられる。理論的に、経済の発展は第1次産業(農林水産業)、第2次産業(建築や製造業)、第3次産業(サービス業)の順に進む。特に、製造業の成長は、新しいモノの創造を通して人々の新しい生き方を可能にする。それがサービス業の育成に欠かせない。輸出入のデータを見る限り、ロシアは自律的かつ持続的に新しい需要を生み出し、人々の満足感を高めるための産業構造を整備することが難しいようだ。
「天然ガスを止める」と欧州を脅すが…
3月、ロシアのサービス業購買担当者景況感指数(PMI)が52.1から38.1に大きく低下したのはその裏返しに見える。欧米企業の撤退によってロシア資本が運営するサービス業の供給能力の低さがあらわになったといっても良い。製造業(工業力)の弱さは、エネルギー輸出にも関わる。ロシアは主にはノルドストリーム1などパイプラインを通してドイツなどに天然ガスを輸出する。それは液化技術の不十分さを示唆する。
ロシアは天然ガスの供給を止めると西側諸国に警告を発しているが、外貨獲得を考えるとその実行は容易ではないだろう。それは、プーチン大統領の姿勢から確認できる。3月下旬にプーチン大統領は天然ガスの購入代金をルーブルで支払うよう非友好国に圧力をかけた。
その目的はルーブルの売り圧力を少しでも弱めることや欧州などへの脅し、天然ガス価格押し上げによる利得増加などだろう。その後、プーチン大統領と会談したイタリアのドラギ首相はロシアがルーブルでのガス代金支払い要求を後退させたとの見方を示した。
米ドル建て国債の半分以上をルーブルで買い戻し
プーチン政権にとってエネルギー資源などの輸出による外貨獲得は、社会と経済運営のために手放せないと考えられる。その状況下、中銀が海外で保有していた資産が差し押さえられたインパクトは非常に大きい。金融制裁によってロシアの米ドル資金は枯渇し、デフォルト懸念が高まった。
ロシア経済は追い詰められている。3月31日にロシア財務省が4月4日に償還期限(満期)を迎える20億ドル(約2470億円)の米ドル建て国債のうち、14億4760万ドル分をルーブルで買い戻したのは、外貨の枯渇がかなり深刻だからだろう。なお、買い戻しに応じたのはロシア国内の投資家が主だったとみられる。
4月に入ると、ロシア軍が民間人を多数殺害した疑いが浮上し、欧米各国はロシアへの制裁を強化した。4日に米財務省は、米金融機関によるドル建てロシア国債の元利金支払い手続きを承認しなかった。そのため、6日にもロシアはドル建て国債の元利金をルーブルで支払った。ロシアは約束通りに債務の返済を行っていない。
追い詰められたプーチンがとる手段は
ロシアはデフォルトに陥ったと主要投資家らに認定され、ヒト、モノ、カネの海外流出は加速するだろう。GDP成長率の低下は避けられない。ロシア国民の不満は高まり、2024年に大統領選挙を控えるプーチン大統領は追い詰められるだろう。なお、2020年の名目GDPでロシアは世界11位(GDP規模は約1.5兆ドル(185兆円))だ。デフォルトが世界の金融市場を混乱させる可能性は低い。
それよりも懸念されるのが、ロシアがさらに強硬な手段に打って出る展開だ。経済面にフォーカスすると、4月6日時点でノルドストリーム1によってロシアは西側諸国と脆いながらも経済的な関係を保っている。天然ガスの4割をロシアからの輸入に頼ってきたEUは、今すぐロシア産の天然ガスや原油の供給が断たれることは避けなければならない。
ロシアにとってもノルドストリーム1は米ドルなどを確保するために必要だ。しかし、追い詰められたプーチン大統領が報復のために天然ガスの輸出を減らすなどすれば、欧州をはじめ世界経済には大きな負の影響がおよぶ。
“ロシア依存”のドイツが方針転換する意味
キーウ近郊などで多数の民間人の殺害疑惑が浮上した後、西側諸国は、真剣にロシアへのエネルギー依存を断たなければならないと危機感を強めはじめた。特に、ドイツの対ロ姿勢は一段と硬化しはじめたように見える。ランブレヒト独国防相はEUがロシア産ガスの輸入禁止を議論すべきと指摘した。
それはドイツのエネルギーや安全保障政策の転換といえる。その考えに傾斜するEU加盟国は増えるだろう。ロシアとウクライナの停戦交渉の内容、今なお激しい戦闘が続いていることなどを念頭におくと、ウクライナ危機が短期間で落ち着く展開は考えづらい。
ウクライナ情勢は深刻化し、欧州各国をはじめ西側諸国はロシアへの制裁を強めるために石炭、原油、天然ガスの禁輸など踏み込んだ措置を検討、導入しなければならなくなるだろう。6日に米国が発表した追加制裁に加えて、ガスプロムバンクなどが行うエネルギー関連の取引が金融制裁の対象に含まれる展開は排除できない。
円安圧力はこれからも強まる
その一方で、EUはロシアからの供給減に対応するために、米国、アジア、中東、北アフリカなどからのエネルギー資源などの調達をさらに急がなければならなくなる。ロシアも小麦の輸出を制限するなど、対抗手段をとるだろう。
“西側諸国vsロシア”という対立構造は鮮明化し、世界経済のブロック化が加速する。エネルギー資源や穀物などの供給は追加的に制約され、世界全体で経済成長率は低下する。モノの価格上昇によって、各国のインフレ圧力もさらに強まる。米国に加えて、ユーロ圏などでもかなり急速に金融政策が正常化される可能性が高まっている。
その状況下、わが国では経済の実力の低下によって金融政策を正常化することが難しい。内外の金利差は拡大し、円安圧力が追加的に強まる。それは、輸入物価を押し上げ、国内の物価上昇圧力を高めるだろう。ロシアへの制裁強化によって、外需に依存してきたわが国をはじめとする世界経済にはかなりの悪影響がもたらされると懸念される。
●首相が「撤退しない」とした「サハリン1・2」続行を国際世論は許すか 4/11
ロシアの仕掛けたウクライナ戦争でにわかに注目されているのがサハリン(樺太)北東部沿岸で進行中の原油・天然ガス開発計画「サハリンプロジェクト」。主に日ロと石油メジャー(国際石油資本)によって進められてきましたが戦争を契機に米エクソンモービル(エクソン)とイギリス&オランダの「ロイヤル・ダッチ・シェル」(シェル)が撤退を発表したのです。
岸田文雄首相は「(日本は)撤退しない」との方針を表明したものの今や世界の敵と化しているロシアと共同開発を続行して国際世論が納得するでしょうか。
石油ガスともにロシア依存度は高くない
石油は9割が中東に依存。ロシアは5%ほどです。天然ガスはオーストラリア(約4割)、中東と東南アジア(各々約4分の1)、アメリカ5%と石油より分散化していてロシアからの輸入は約8%。依存度はやはり高くありません。
サハリンプロジェクトは旧ソ連時代から提案を受けて石油主体の「サハリン1」と天然ガス中心の「サハリン2」がそれぞれ稼働しています。依存度こそ低いとはいえ、ロシアの存在感は石油が非中東で最大。天然ガスは発電の燃料として最大で他の輸入国より地理的に近いのが魅力的です。
もっとも、いずれの開発もロシアの都合に振り回されてきました。サハリン1は当初、政府や伊藤忠商事、丸紅などの日の丸連合が出資の3割、ロシア4割であったのを前世紀末の大不況で国営石油企業ロスネフチが悲鳴をあげて縮小。代わりに計画を主導するようになったエクソンが権益の3割(日本と同じ)を得、残り2割ずつをロスネフチなどとインド国営石油が保有する形に変わりました。
煮え湯を飲まされた「サハリン2」の過去
「サハリン2」はシェルが55%、日本45%(三井物産25%、三菱商事20%)を出資して進めていたのを2年後の稼働を目の前にした06年、ロシア政府が「環境汚染の恐れ」を理由に工事承認を取り消したのです。
この頃、ソ連崩壊以降低迷を続けていた経済が折からの資源高でロシアに追い風を吹かせていました。ロシア勢を含まない仕組みだと権益が十分ではないとの国内不満をプーチン政権が吸い上げて政府と表裏一体の国営ガス企業ガスプロムを一枚かませたいとの思惑を環境を口実に果たそうとしたようです。
日本は島国なので気体のままパイプラインで天然ガスを供給できず、氷点下162まで冷却した液体として運び込みます。この液化天然ガス(LNG)技術を当時のガスプロムは持っていなかったのも欲しがった理由でしょう。
結局「泣く子と地頭には勝てぬ」ことわざ通り、出資比率を変更してガスブロム50%+1株(過半数)、シェル27.5%−1株、三井物産12.5%、三菱商事10%で折り合いました。
悩ましいEUと中国の動向
今回のウクライナ危機でメジャーが撤退を表明したのは当然と受け止められています。経済制裁の中心となっているアメリカのエクソンはもとより、ロシアの横車で嫌な思いをしたシェルもうま味はないと天秤にかけた損切りと思われます。
対して岸田首相は徹底しない理由として「自国で権益を有している」「長期かつ安価な安定供給に貢献している」「エネルギー安全保障上、重要」を挙げています。
特に契約上「安定供給」が保証されているのは大きい。サハリン一帯は未着手の鉱区を含めると中国との間でイザコザしている東シナ海ガス田の埋蔵量を遙かに超える(100倍とも)可能性が残るのも容易に手放したくない理由です。
仮に日本勢が退いたら待ってましたとばかりに中国が権益を埋めてしまう恐れもあります。四苦八苦してここまでこぎ着けておいて果実を中国に渡すのはしゃくですよね。
国際社会が今のところ日本の判断に強い不満を表明しないのはEU(欧州連合)がロシアからの天然ガスに大きく依存していて禁輸などの措置に踏み切っていないから。言い換えるとEUが既に発表しているように依存度を急速に引き下げていけば日本も「撤退せず」というわけにはいかなくなりそうです。
付き合っていた方が安全保障になるのか
では仮に日本も禁輸に追随するしかなくなったらどうなるか。冒頭に掲げた通り、石油・ガスともに全体に占めるロシアの割合は高くありません。加えてアメリカが「困るならば我々から買え」といってくるでしょう。
アメリカは技術革新によってシェール層(頁岩)から石油・天然ガスを大量に掘削・生産する能力を得ていて世界最大の資源国となっています。価格がネックでしたが下がりつつあるのと、ウクライナ危機などで資源高となっているのが幸か不幸か相対的にシェールの値段に割安感を与えているのもプラス要因です。
もっとも、ロシアと縁切りしたら、それはそれで「エネルギー安全保障」というより文字通りの安全保障を脅かす危険も。「サハリン2」の総販売量の6割が日本向け。ロシアにとって上客で、それを失うような下手なまねはしまいとの推測もできるからです。まあプーチン大統領に通じる理屈かどうかは別として。
プーチンの「三河以来の家臣」が率いるロスネフチとガスプロム
サハリンプロジェクトに大きくかかわるロスネフチとガスプロムのありようも今後の課題となってきそうです。
ロスネフチのセーチンCEOとガスプロムのズプコフ会長およびミレルCEOの3人は、ソ連崩壊直後、まだ一介のサンクトペテルブルグ副市長(後に第一副市長)にすぎなかったプーチン氏と市役所でともに働いた古い友人です。セーチンCEOは後にプーチン政権下で副首相を、ズプコフ会長は首相まで務めた盟友ないしは側近といえます。
ロシアは一見、強い指導者にイエスマンだらけの部下が平伏している印象がありますが裏では陰謀が渦巻き暗闘、裏切り、粛清など何でもありの権力闘争の権化。プーチン大統領が彼らを重用するのは自身がまだ海のものとも山のものとも知れない頃から肝胆相照らす仲であったのが大きな理由です。徳川家康になぞらえれば「三河以来の家臣」といったところ。
うちズプコフ会長は高齢で大統領からすれば寝首をかかれるような心配はありません。セーチンCEOは表だっての経歴からは判然としないとはいえプーチン氏と同じ「軍・諜報・警察」畑の実力者とみられます。ミレルCEOは同じ系譜だとも経済人であるとも。両者はウクライナ戦争にともなうアメリカの経済制裁の対象者。そうした人物をトップにいただいている組織と一緒に油田やガス田を開発していていいのかという批判がいつ襲ってくるか。岸田外交の力が試されそうです。
●「非ナチ化」計画の驚愕の中身…!ロシア国営メディア記事から「本当の狙い」 4/11
2月24日にはじまったロシアによるウクライナ侵攻。戦闘は長期化し、民間人の犠牲者も増え続けている。そんな中、首都キーウ近郊の町ブチャで起こった虐殺が注目されている。
ブリンケン米国務長官は4月5日、「ブチャで起きたことは、ならず者部隊による行き当たりばったりの行為ではない」「殺害、拷問、レイプなどの残虐な行為は意図的な作戦だ」と発言した。 これは、本当にプーチンの指示なのか? あるいはブチャにいた部隊が、たまたま残虐だっただけなのか? 真相は不明だが、ロシアの国営メディアには、ウクライナの民間人弾圧を肯定する驚愕の記事が掲載されているーー。
ロシアはウクライナに何をすべきか
私が注目したのは、ロシアの国営メディア「RIAノーボスチ」4月3日に掲載された次の記事だ。
「Что Россия должна сделать с Украиной」(ロシアはウクライナに何をすべきか)
著者は、ティモフェイ・セルゲイツェフ。「Cyclowiki.org」によると、セルゲイツェフは1963年、ウクライナ生まれ。政治戦略家で、「методологического движения」(方法論的運動)の指導者だという。
この運動は、「ロシア語を話し」「ロシア製品を買い」「ロシア人であれ」などと主張している。要するに、「民族主義運動」だ。
では、セルゲイツェフは、ロシアはウクライナに何をすべきと考えているのだろうか? 彼は、ウクライナの「非ナチ化」の必要性を強調する。
ウクライナおよびゼレンスキー政権は、「ネオナチ」だという説が、ロシアでは広く信じられている。ナチスといえば、「ユダヤ人絶滅」を画策したことで知られている。ゼレンスキーは、ナチスに滅ぼされる側の「ユダヤ系」なのだが……。
セルゲイツェフは、現在のウクライナは、「ロシアの敵」であり、ロシアを破壊するための「西側の道具だ」と主張。そして彼は、「どんな時、非ナチ化が必要なるのか」を説明している。
それは、「国民の大部分が、ナチス政権に取り込まれた時」だ。
彼の言いたいことが理解しやすいように、補足しておこう。
1932年、ヒトラーのナチ党は、議会選挙で37.8%を獲得し、第1党になった。1933年、ヒンデンブルグ大統領の下、ヒトラーは首相に就任。1934年8月2日、大統領が亡くなった。当時首相だったヒトラーは、以後「首相兼大統領」(総統)となる。そして、同年8月19日、ヒトラーが首相と大統領を兼任することに関する国民投票が実施された。結果は、89.9%が支持。
おそらくこれが、セルゲイツェフのいう「国民の大部分が、ナチス政権に取り込まれた」状態なのだろう。
彼は、「国民は良い、政権は悪い、という仮説が働かない状態」と表現している。そして、今のウクライナは、「まさにそのような状況にある」と主張する。
つまり、セルゲイツェフに言わせれば、今のウクライナ国民の大部分は、「ナチス政権に取り込まれた状態」なのだ。
一方、国際社会は、ゼレンスキーではなく、むしろプーチンを、ナチスの本家ヒトラーに近いとみている。
実際、プーチンの顔にヒトラー風の髪の毛とヒゲを描き、「ストップ、プトラー(ヒトラー+プーチンの造語)!」と叫びながらデモ行進する人々が世界中にいる。
「勝者のみが、非ナチ化を実現できる」
セルゲイツェフの主張に戻ろう。
どうやって、ウクライナの「非ナチ化」を進めていくのか。もちろん、ウクライナ軍と民間人は、分けて考えるべきだろう。
彼は次のように言う。
「武器を持つナチス(=軍人)は、戦場で最大限殺されるべきだ」
問題は、民間人に対する彼の態度だ。セルゲイツェフは民間人について、こう書いている。
「国民の大部分も、受動的なナチス、ナチスの共犯者であり、有罪である」
驚くべき見解だ。
では、「ナチスの共犯者」である国民の大部分を、どうすべきなのか? 彼は、国民の「非ナチ化」を実現するために「再教育」する必要があると主張する。「再教育」は、「イデオロギー的弾圧」と「厳格な検閲」によって達成される。イデオロギー的弾圧と検閲は、政治分野だけでなく、教育や文化にも適用されなければならない、と。
しかし、ロシアがウクライナの「非ナチ化」を実現するためには、戦争に勝利する必要があるだろう。
セルゲイツェフは言う。
「勝者のみが、非ナチ化を実現できる」
さらに、驚くべき主張がつづく。
「非ナチ化される国(ウクライナ)は、主権を持つことができない」
では、「非ナチ化プロセス」、つまり、ウクライナが主権を持てない期間は、どのくらいつづくのか? 彼は、「一世代以下は、ありえない」と断言する。セルゲイツェフによると、ウクライナのナチ化は1989年から30年以上かけて進んできた。だから、「非ナチ化」も、そのくらいの期間はかかると考えているのだ。
つまり、ロシアは、ウクライナの「非ナチ化」のために、向こう30年間主権を奪わなければならないと。
セルゲイツェフの「個人的」意見なのか
いかがだろうか? おそらく、かなり驚かれたことと思う。私自身、これを読んだときは、かなりの衝撃を受けた。
ここまでのセルゲイツェフの主張をまとめておく。
・ロシアは、ウクライナを「非ナチ化」しなければならない。
・ウクライナ国民の大部分も、受動的なナチス、ナチスの共犯者であり、有罪である。
・ロシアは、「イデオロギー的弾圧」と「厳格な検閲」による「再教育」で、ウクライナの「非ナチ化」を実現しなければならない。
・ロシアは、ウクライナの「非ナチ化」プロセスを、最低1世代(30年)つづけなければならない。
・「非ナチ化」プロセスがつづいている間、ウクライナに主権を与えてはならない。
「信じられない」「フェイクニュースではないか」という方は、グーグル翻訳を使って原文を読んでみてほしい。かなりおかしな日本語になるが、大意は理解できるだろう。
強調しておくが、ロシア国民の大部分が彼の考えを共有しているわけではない。問題は、「これは、セルゲイツェフ一人の意見なのか、それともロシアの支配層の一般的な意見なのか?」ということだ。
もちろん、真相を正確に知ることは不可能だ。しかし、国営RIAノーボスチが、セルゲイツェフの(私たちから見ると)超過激な記事を掲載している事実は重要だ。
なぜか? 
現在のロシアには、言論の自由は存在しない。ロシアのメディアは完全にクレムリンの支配下にあり、「事実を伝える機関」というよりは、「プロパガンダマシーン」として機能している。セルゲイツェフの記事が、クレムリンの方針と違うのものなら、そもそも掲載されることはあり得ない。
つまり、クレムリンの意向と合致しているからこそ、この記事は掲載されたのだろう。
ということは、プーチンは本当に、この戦争に勝利して、ウクライナから最低30年間主権を奪い、イデオロギー的弾圧と検閲によって、「非ナチ化」を進める計画なのか? 実現可能性はともかく、意図している可能性はある。
「残虐行為は意図的な作戦」だったのか
私がそれ以上に気になったのは、「大部分のウクライナ国民もナチスの共犯だ」という点だ。
「ナチス」と聞いて、日本人はどんな感情を抱くだろうか? ナチスドイツは第2次大戦中、2000万人のソ連人を殺したといわれる。だから、日本人が「ナチス」と聞いたときに抱く感情と、ロシア人が抱く感情には、大きな差がある。ロシア人にとって、「ナチス」は絶対悪であり、憎悪の対象なのだ。
そして、ウクライナの大部分の国民は、「ナチスの共犯者だ」とセルゲイツェフは言う。その主張を国営RIAノーボスチが、堂々と掲載している。
セルゲイツェフの記事は当然、クレムリンの意向に沿ったものだろう。であるならば、ウクライナ国民は「ナチスの共犯者」と考えられていて、ロシアの支配者にとって「憎悪の対象」なのではないか? あるいは、クレムリンは、ロシア国民がウクライナ国民を「ナチスの共犯者」と考え、憎むように仕向けているのかもしれない。
米国のブリンケン国務長官は、「ブチャで起きたことは、ならず者部隊による行き当たりばったりの行為ではない」「殺害、拷問、レイプなどの残虐な行為は意図的な作戦だ」と言う。
もしもロシアの支配者たちが、セルゲイツェフ同様、「ウクライナ国民の大部分はナチスの共犯者」と考えているのなら、「残虐行為は意図的な作戦」というのも、ありえない話ではなくなってくる。もちろん、現段階で断言することはできないが。
今知っておくべきは、「ウクライナ国民はナチスの共犯者」「ロシアは戦争に勝利し、ウクライナの主権を奪い、弾圧によって『非ナチ化』を成し遂げる必要がある」という主張が、ロシアの国営メディアで発信されているという事実だ。
このことを知っておくだけでも、異常に思えるプーチンとロシア軍の行動が、理解しやすくなるのではないか。
●なぜ今、トランプがプーチンに「バイデン叩き」の協力を要請? 困惑の米国政界 4/11
なんで今ここでプーチンに?
共和党関係者の間に、激震が走った。トランプ前大統領がプーチン露大統領に、バイデン米大統領の息子、ハンター・バイデン氏とロシア政府関係者からの資金提供問題をめぐり、追及のための協力を要請したためだ。
「350万ドルは大金だ。元モスクワ市長の妻がなぜバイデン親子に支払ったのか、プーチン氏は説明すべきだ」――3月29日に公開された保守系リアル・アメリカ・ボイス・ネットワークの番組“ジャスト・ザ・ニュース”にて、トランプ氏はこう吠えた。
2020年の米大統領選の際、トランプ氏はハンター氏が元モスクワ市長の故ユーリ・ルシコフ氏の妻、エレーナ・バトゥーリナ氏から資金提供を受け取ったとして口撃。ハンター氏の弁護士は選挙戦中、トランプ氏の批判を正面から否定したにも関わらず、掘り返した格好だ。
中間選挙を控え、共和党議員の一部はトランプ発言の火消しにまわる。2012年の米大統領選の共和党候補であり、トランプ氏とは不仲で知られるロムニー上院議員(ユタ州)は、プーチン氏を「地球上で最悪な人物の1人」と非難した上で、「頼み事をする相手ではない」と一蹴した。
同じく、反トランプ派の1人であるメリーランド州のホーガン知事に至っては「ウクライナで(ロシア軍による)残虐行為が続くなかで、最悪な要請だ」とし、「容認できない」と真っ向から切り捨てた。ホーガン氏といえば、リベラル寄りな州の知事なだけに中道派の共和党員で、3月には親トランプ派による弾劾訴追を回避したことで知られる。
一方で、共和党議員の大半は沈黙を保つ。トランプ氏と近しいグラム上院議員(ノースカロライナ州)は、「プーチン氏に依頼すべきではない」、コーニン上院議員(テキサス州)も「プーチン氏を信用しない」と言及する程度で、トランプ氏を直接槍玉に挙げなかった。2024年の米大統領選出馬が取り沙汰される保守系のクルーズ上院議員(テキサス州)に至っては、その他の同党議員の多くに倣いインタビューを見ていないと回答するにとどめた。
ゼレンスキーに最初に圧力をかけた人
共和党にしてみれば、トランプ氏がウクライナ侵攻開始後の2月末にプーチン氏「英雄」と称賛した事実もあり、中間選挙を控え君子危うきに近寄らずの姿勢が吉と判断されているようだ。トランプ氏に同調すれば無党派層にそっぽを向かれ、反発すれば岩盤の親トランプ派からの攻撃に直面しかねず、沈黙は金なのだろう。
しかも、トランプ氏は在任中に2回の弾劾裁判を受けた史上初の大統領で、そのうちの1回はウクライナ大統領への職権乱用とあって、ウクライナ危機の最中、古傷を蒸し返す余裕はない。
当時を振り返ると、ゼレンスキー氏が2019年5月に大統領に就任して早々、猛烈な圧力を掛けたのはプーチン氏ではなく、トランプ大統領(当時)その人だった。
トランプ氏の顧問弁護士のジュリアーニ氏はゼレンスキー氏に早々に電話で接触、ハンター氏と天然ガス会社ブリスマとの関係につき調査を開始するよう要請した。19年7月25日の米・ウクライナ首脳電話会談では、トランプ氏が再度詰め寄ったものの、ゼレンスキー氏が明確に応じなかったため、4億ドルのウクライナ支援が保留の憂き目に遭った。
それから約3週間後の同年8月12日、内部告発者が情報機関の監察官にトランプ氏による強要を訴え出た。同9月24日にはペロシ下院議長がトランプ氏の行為をめぐり弾劾調査を開始すると宣言し、同年9月25日にトランプ氏とゼレンスキー氏が首脳会談を行う直前、ホワイトハウスが同年7月25日の両者の電話会談記録を公表。目まぐるしい展開を経て、20年1月に開始した弾劾裁判は同年2月に無罪で幕引きを迎えたのは、既報の通りである。
トランプ陣営は、他にも爆弾を抱える。NY州最高裁判所は2月、トランプ氏と息子のトランプ・ジュニア氏、イヴァンカ氏の3人に、トランプ一族が経営する複合企業トランプ・オーガナイゼーションをめぐり、民事調査で証言するよう命じた。融資調達や税の優遇措置を受けるため、保有資産の価値をその都度不当に増減して申告したとの“詐欺疑惑”を受けたもの。
米国立公文書記録管理局(NARA)も2月、トランプ氏がフロリダの自宅に政府機密を保管していたと報告した。米メディアによれば、回収した公文書は15箱に及んだほか、トランプ氏が公文書を無断で破棄するなど記録法違反の可能性があるという。さらに下院特別委員会は3月、21年1月6日に起こった米議事堂襲撃事件の最中、ホワイトハウスの通話記録に7時間37分の空白を発見。他者との連絡を隠匿した疑いが浮上している。
バイデン大統領の泣き所
ただし、バイデン氏の支持率がロイター/イプソスやNBCの世論調査で3月後半にそれぞれ40%と政権発足以来で過去最低を更新するなか、民主党陣営は敵失を待っていられる状況ではない。むしろ、バイデン氏の泣き所が今まさに突かれようとしている。
2020年米大統領選まで1ヵ月を切った同年10月14日、保守系タブロイド紙NYポストは独占スクープとして、バイデン氏の次男ハンター氏の疑惑のラップトップPCについて報じた。
ハンター氏が修理屋に持ち込みつつ引き取りに現れなかったため、規定に基づき90日後に店主がデータを開くと、2009〜19年に取り交わされた217ギガバイトもの夥しいデータを発見する。そこには、ウクライナの天然ガス会社ブリスマからの月5万ドルの報酬や、エネルギー複合大手の中国華信能源から受け取った500万ドル、加えて父バイデン氏の関与を示す記述が明記されていた。
しかし当時、ツイッターを始めソーシャルメディア大手は、店主からトランプ氏の側近だったジュリアーニ氏を介してNYポスト紙に情報が渡った事情もあり、同記事を含めこの疑惑に言及する投稿のブロックを決定。主流メディアも“誤報”あるいは “ロシアが関与した偽情報”として扱い、米大統領選にそれほど影響を与えなかった。
潮目が変わったのは3月16日で、ニューヨーク・タイムズ紙がハンター氏のラップトップPCの存在を認め、これを皮切りにワシントン・ポスト紙の他、主流メディアが続いた。各メディアが方向転換した理由に、ハンター氏に対する連邦検察当局の捜査が前進したことが挙げられよう。
米メディアによれば、海外企業からの報酬に関する税務処理のほか資金洗浄、外国企業によるロビー活動で法令違反の可能性を見据えた捜査が進み、デラウェア州連邦検事局は大陪審での証言を視野に入れているという。
ハンター氏側は違法行為を否定するが、ウクライナ危機下でも、有事での“旗の下の結束(rally ‘round the flag)”が一時的で、バイデン氏の支持率が低迷する理由は、インフレ高進に加えハンター氏への疑惑再燃が影を落としたと考えられる。
国民の関心は低くない
問題は、米国民がハンター氏のラップトップ疑惑をどう捉えているかだ。保守系調査会社ラスムセンが3月20、21日に実施した世論調査では、66%が「重要」と回答、「重要ではない」との回答の31%を上回った。党派別での「非常に重要」との回答は共和党が75%、民主党が26%に対し、無党派層は46%。中間選挙で明暗を分ける無党派層は半数近くに及んだ。
また、ユーガブ・アメリカが3月18〜20日に実施した世論調査で、米メディアのハンター氏のラップトップ疑惑の取り扱いが「不十分」との回答は36%に過ぎない。しかし、こちらも党派別で回答が分かれたためで、共和党が65%、無党派層は44%に対し、民主党はわずか8%だった。
ハンター氏の疑惑をめぐり、共和党支持者だけでなく無党派層の間でも関心が低くないだけに、共和党陣営は慎重に同問題を取り扱いつつある。手始めに、上院議員から下院議員、共和党全国委員会委員長など、ニューヨーク・ポスト紙のスクープ関連投稿を凍結したSNS企業への調査の開始を呼び掛け始めた。うまく世論を味方につけ、中間選挙で勝利し上下院で過半数を獲得すれば、ハンター氏の疑惑を本格的に調査し、弾劾裁判に発展させうる。
複数の共和党議員は、既にバイデン氏の弾劾調査の可能性について言及している。下院監視・政府改革委員のコーマー下院議員(ケンタッキー州)は、ハンター氏の問題に加えワクチン接種義務化をめぐる政権対応、供給制約を対象にすると公言する。ギブス下院議員(オハイオ州)は、アフガニスタン撤退を問題視する。クルーズ上院議員(テキサス州)は、トランプ氏への2回に及ぶ弾劾裁判について「民主党が一線を越えた」としており、共和党が下院で多数派に躍り出れば「(バイデン氏)弾劾の圧力に直面する」と見込む。
ウクライナ支援で団結したように見えた与野党だが、両者の間に入った亀裂の深さを物語る。
共和党は「興行師」トランプを押さえ込めるか
ただし、共和党にも懸念材料がある。バイデン氏の支持率は一部の調査で再び過去最低を更新しているとはいえ、好感度ではトランプ氏を上回っている。
NBCが3月18〜22日に実施した世論調査では、バイデン氏を「好ましい」とする回答が37%に対しトランプ氏は36%と僅差だったが、「好ましくない」との回答はトランプ氏が50%とバイデン氏の46%を上回った。さらに、トランプ氏が支持表明した議員に投票しないとの回答は47%だったが、バイデン氏の場合は42%だった。
振り返れば、21年11月に民主党寄りのバージニア州で行われた知事選で共和党候補が辛勝したのは、トランプ氏の支持を受けながら選挙活動でトランプ氏と距離を置く“ステルス・トランプ作戦”が奏功したためだ。
共和党の課題は、中間選挙で英エコノミスト誌が“興行師”と呼んだトランプ氏を舞台袖に抑えられるかに掛かっている。 
●「驚くほど偽善的」欧米のウクライナ対応、中東からは怒りの声 4/11
欧米諸国はロシアのウクライナ侵攻から数日以内に国際法を行使し、ロシアに厳しい制裁を課した一方でウクライナの難民を手厚く受け入れ、その武装抵抗に喝采の声をあげた。
ところが、こうした対応は中東の人々の怒りを買っている。国際紛争に対する欧米諸国の反応が明らかなダブルスタンダード(二重基準)だというのだ。
パレスチナ暫定自治政府のマリキ外相は3月初旬、トルコで開かれた安全保障フォーラムの場で「70年以上も実現不可能と言われていたあらゆることが、1週間足らずで日の目を見た」とした上で「欧米の動きは驚くほど偽善的だ」と述べている。
2003年3月に勃発したアメリカ主導によるイラク戦争については、特定の国が他国に違法に侵略したという見方があった。だが、アメリカに立ち向かったイラク人はテロリストの烙印を押され、西側に逃れた難民は安全保障上の脅威になり得るという理由で追い返されることもあった。
バイデン政権は先月23日、ロシア軍がウクライナで戦争犯罪を犯したと宣言し、侵略者を裁判にかけるために他国と協力していくと発表した。だが、アメリカは国際刑事裁判所に加盟しておらず、自国や同盟国であるイスラエルを対象とする国際的な調査には断固反対の立場を取っている。
2015年にロシアがアサド大統領側に立ってシリアの内戦に介入し、政府軍による都市への攻撃で住民を飢餓に陥れる動きを支援したとき、世界で怒りの声があがったものの具体的な行動はみられなかった。ヨーロッパに逃れようとしたシリア難民は命がけの航海で命を落としたり、西側文化への脅威というレッテルを貼られて追い返されたりした。
イエメンでは、サウジアラビアが主導する連合軍とイランが支援するフーシ派の反政府勢力との数年にわたる過酷な戦争により、1300万の人々が飢餓の危機にさらされた。ところが、幼児が餓死するという痛ましい報告がなされても世界の関心は持続しなかった。
かつてCIAと国家安全保障会議での勤務経験があり、現在はブルッキングス研究所のシニアフェローを務めるブルース・リーデル氏は、中東の人々が欧米をダブルスタンダードと見ていることを「もっともなこと」とした上で「アメリカとイギリスは、イエメンでの7年にわたるサウジの戦争を支援し、ここ数十年で世界最悪の人道的大惨事をもたらした」と述べている。
パレスチナ人が将来の国家建設を求める土地をイスラエルが占領して60年が経過した現在、数百万人ものパレスチナ人が軍事支配下に置かれた先行き不透明な生活を送っている。パレスチナ人が中心となるボイコット運動を制限することを目的とした法律をアメリカ、イスラエル、ドイツは制定しているのに、マクドナルド、エクソンモービル、アップルなどの大企業がロシアでの事業を停止すると賞賛を浴びている。
ウクライナの人々が火炎瓶を貯め込み、武器を取ってロシア軍と戦う姿に対し、世界中のSNSで賞賛の声があがっている。ところがパレスチナ人やイラク人がこれと同じことをするとテロリストとみなされ、正当な標的となってしまう。
2003〜11年にイラク反乱軍の一員としてアメリカ軍と戦ったシェイク・ジャバー・アル・ルバイ氏(51)は「当時同盟軍だったウクライナを含め世界中がアメリカの味方をしていたときも、我々は占領者に抵抗した。世界はアメリカ側に立っていたので、我々は賞賛を浴びることもなければ愛国的なレジスタンスとも呼ばれなかった」と話す。代わりに、反乱軍が持つ宗教的な側面が強調されたことについて「これはもちろん、私たちが劣った存在であるかのような印象を与えるダブルスタンダードだ」と言う。
バグダッドで配送員をしているアブドゥラミーア・カリード氏(41)は、イラクとウクライナの抵抗運動には「違いがない」とみている。同氏は「強いて言うなら、アメリカが何千キロも移動してこの国に来たことを考えれば、イラクにおけるアメリカへの抵抗は正当化できよう。一方、ロシアの場合は、近隣地域で起きたとされる脅威に対処しようとするものだ」と話す。
確かに、国連加盟国がほかの加盟国を侵略したウクライナ戦争と、内戦やイスラム過激派が関係することの多い中東の紛争とは大きく異なる点がある。
カーネギー国際平和基金のシニアフェローで、共和・民主両党の政権で中東顧問を務めたこともあるアーロン・デビッド・ミラー氏は「一般的に、中東紛争は極めて複雑だ。決して中世ヨーロッパで演じられていた寓話的な演劇のように、単純な話ではない」と語る。
同氏によると、ロシアが隣国に攻撃的かつ破壊的な戦争を仕掛けたと広く見られているウクライナ紛争は、道徳的な判断が容易にできるという点で極めてユニークであるという。中東で近い例を挙げると、1990年のイラクによるクウェート侵攻がある。当時アメリカがアラブ諸国を含む軍事同盟を結成し、イラク軍を追撃した。
それでもミラー氏は、アメリカの外交政策が「異常であり、一貫性がなく、矛盾、さらには偽善に満ちている」ことを認めている。
アメリカがアフガニスタンに侵攻したのは、現地のタリバンにかくまわれていたオサマ・ビンラディンが計画したとされる9.11テロへの対抗措置のためだった。イラクが大量破壊兵器を保有しているという誤った判断でアメリカは戦争を正当化したものの、この侵略によって、国際法を無視し人道に対する罪を犯した残忍な独裁者を打ちのめした。
だが、多くのイラク人やほかのアラブ人からすると、アメリカの侵攻はその後数年にもわたる宗派間の抗争と血みどろの悲劇につながる理不尽な災難であった。
外交問題評議会のシニアフェローで、アメリカのイラク侵攻時にホワイトハウスの顧問を務めていたエリオット・エイブラムス氏は、ロシアの侵略に立ち向かうウクライナ人と、アメリカ人と戦ったイラク反乱軍は同じではないとしている。
イスラム国(IS)集団を引き合いに出しつつ「イランやISのためにアメリカ軍と戦ったイラク人は、自由の闘士ではない。このように道徳的な意味での区別をするのは偽善的ではない」と述べている。
イスラエルとパレスチナの間で起きた紛争の歴史は、イスラエルが東エルサレム、ヨルダン川西岸、ガザ地区を占領した1967年の第三次中東戦争より1世紀以上も前にさかのぼる。世界の多くはこれらの地域をパレスチナ領とみており、イスラエルが進める入植地建設は国際法に違反する行為であるとされた。イスラエルはこの紛争を領土問題と位置づけ、パレスチナ人がユダヤ人国家の生存権を認めないところに問題があると非難している。
エルサレム・ポスト紙は先月1日付の社説に「イスラエルの防衛戦争をロシアの隣国侵攻に例えるのは、文脈を理解できない人がすることだ」と記している。
ロシアのシリア介入は、ISを含む複数の分派が残虐行為に手を染めた複雑な内戦の一部の動きにすぎない。ISがシリアとイラクの大部分を占領したとき、押し寄せてくる難民の波に紛れて過激派がヨーロッパに流入する事態を多くの人が恐れた。
だが、中東の人々は、アラブ人やイスラム教徒の移民が冷遇されるのを目の当たりにしてきた。これは、普遍的な権利や価値を信奉していると主張しているにもかかわらず、依然として文化的な偏見を欧米諸国が抱いていることを示す証拠であるという。
中東はいつも暴力にまみれているという考え方が広く浸透しているため、彼らの苦しみが軽視されていると感じている人は多い。多くの困難な紛争を作り出し、それが永続する責任を西側が負っていることは意識されない。
パレスチナ外交研究所でアドボカシー・ディレクターを務めるイネス・アブデル・ラゼック氏は「植民地主義の産物に、私たちが殺害され、家族を悲しませることがあっても、西側と比べるとごくありふれた光景だという考え方がある」と述べている。
●「ウクライナ侵攻はロシアの恥」ロシア人たちの反戦の声  4/11
「ウクライナ侵攻はロシアの恥」「プーチンは国民と経済を見殺しにしている」「世界に私たちは黙っていないことを示したい」
ロシア国内からSNSを通じてあげられた反戦や政権批判の声です。厳しい言論統制が行われているロシア。そうした状況の中でも、反戦や政権批判の声をSNSで投稿し続けるロシアの人たちがいます。今回、SNSを通じて連絡をとり、彼・彼女たちの反戦へ思い、生活状況、そして政権による弾圧などについて聞かせてもらいました。
ロシアでは厳しい言論統制が行われていて、ロシアの人権団体によりますと、ウクライナ侵攻以降、政権批判などで拘束された人は1万5000人以上にのぼるということです。
こうした厳しい状況の中でも、SNSなどで反戦の声をあげ続けているロシアの人たちがいます。ツイッターを通じて8人の人たちと連絡をとり、以下の5つの質問をしました。今回は、このうち4人の回答を紹介します。
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
(2)2月24日以降、ロシア国内でどのような変化がありましたか?
(3)抗議の声を上げることにどのようなリスクがありますか?
(4)リスクがありながらも声を上げるのはなぜですか?
(5)今の政権をどう考えますか?
(取材に応じてくれた方の中には、名前を公表してもよいという方もいましたが、安全のためすべて匿名としています)
“ウクライナ侵攻はロシア人の恥です”
23歳女性(モスクワ在住、外資系企業のデザイナー)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
考えることはありません。ひどい、考えられない戦争です。傍若無人です。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
物価の高騰 / 社会の分断と国民の中での絶えないもめ事 / 独立系の新聞、テレビ、ラジオ、ウェブサイトが消えた / インターネットの遮断 / VPNをいつも使わないといけない / Zの文字が現れ始めた(公共交通機関やタクシーでみられる) / 戦争反対の旗も(赤のない旗、NOWAR、プーチンは殺人者、ウクライナに栄光あれ、ロシアは自由で平和な国になど) / デモなどを取り締まるものすごい数の警察や特別部隊 / 自由と権利を侵す法律ができたこと。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
私にとっては一番はじめにあるリスクは罰金です。はじめは罰金、その後は刑務所に15年です。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
いま黙っていることは血塗られた独裁者の側につくことです。最大で15年間、刑務所に入ることよりも、黙っていることのほうが私にはずっと怖いことです。私は友達や親戚がウクライナに住んでいます。私の家族は第2次世界大戦でロシア、ウクライナ、ベラルーシの自由のために戦って死にました。このウクライナ侵攻はロシアの恥です、私個人にとっても、世界にとっても。これを支持していないということを見せたいのです。ウクライナとロシア、両方の自由と安全のために戦いたい。私と人々、それに世界の未来のために、軍事主義ではない、独裁者が権力を持たない国に暮らしたい。世界に私たちは黙っていないことを示したい。ロシアはプーチンではない。
(5)今の政権をどう考えますか?
2012年から非合法に今の政党に支配された犯罪の政権です。プーチンはクリミア併合を恥じなかった。彼は唯一の反対派のリーダーのナワリヌイ氏に毒を盛ることをためらわなかった。彼は、この21世紀に、歴史的にも民族的にもつながりのある国に対して戦争を仕掛けたことを恥じていないのです。政権側にいること、プーチン側にいることは、悪魔の側にいるということです。それに対して、声を上げること、通りに出て声を上げること、反撃することが、正しい側につくということなのです。
“戦争犯罪の共犯者になってしまっている気がします”
40歳男性(モスクワ在住、医療関係者)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
ロシアのウクライナへの軍事侵攻について、いろいろな考えがあります。私はこの戦争は世界全体が経済的な犠牲を払うことになる、大きな失敗だと思います。多くの人が死に、さらに多くが負傷するという大きな悲劇です。この戦争が皮肉なのは、世界中が新型コロナウイルスと戦い、人々の命を守り助けようと働き、経済を立て直そうとしているときに、プーチンはこの戦争を始めて、国民と経済を見殺しにしている。ヨーロッパやアメリカの人がウクライナですべてが終わると思っていたら、それは間違いです。ポーランド、ジョージア、モルドバ、それにバルト3国にその脅威はすでにおよんでいます。そして、プーチンは大量破壊兵器を使うくらい狂っていると思います。彼はすでにスクリパル氏やナワリヌイ氏に対して、化学兵器を使っていますから。美しいヨーロッパの国が、美しい文化が、親切な人々が私たちの目の前で破壊されています。すべての街が地球上から消されていく、何千という命が失われていく、その一つ一つは過去と未来の何世代にもわたり、いくつもの家族からなっていて、それを失うことは耐えられない痛みです。この戦火をどのように生き延びることができるのでしょうか。飛行禁止区域を設定することがウクライナの勝利につながると思っています。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
この国では、主に経済と人々のつながりが変化しています。私の仕事はなくなりましたし、物が少なくなりました。電化製品の価格が去年に比べて2倍、3倍になりました。食品の値段も上がり、その種類も少なくなっています。薬がなくなっていますし、ほかの薬は週に何度も値上がりしています。薬は平均で月に30%値上がりしました。それ以外は通常どおりに見えます。人々は仕事に行き、ぜいたくではない日常を過ごしています。多くの人はこの事態をアメリカやNATOやウクライナのせいだと責めています。プロパガンダを信じている人が少なくないのです。私の親戚のほとんどは、プーチンとこの戦争を支持しています。なので、私は彼らと話をしなくなってしまいました。彼らとのつながりはなくなってしまうでしょう。私は街を歩いていて、街を見渡して、この景色がミサイルが落ちてきて破壊されることを想像せずにいられません。これが普通になってしまっている人がいるのです。信じられない状況です。第2次世界大戦でドイツ人がそうだったように、戦争犯罪の共犯者になってしまっている気がします。それがとても怖くて、どうしたらこの悪夢が終わるのか、どうしたら人々が死んでいくのを止められるかを考えています。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
この国には以前から政府の考えに賛成しない人や抗議することに対してリスクがありました。刑罰が重くなっただけです。一番大きなリスクは、逮捕されることでも罰金を科せられることでもなく、拘束された人がなんの助けもなく、人権を侵害され、拷問され、屈辱的な扱いを受けることです。そしてそれは、助けを求めることや正当な防衛ができません。拘束された人を助ける、「OVDインフォ」「Appologia Protesta」などの組織があります。「zona media」というメディアはそのようなことを報道しています。こういった組織は法的なものではありませんが、政権の弾圧のなか活動を続けています。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私は黙っていられないのです。ウクライナで起きている残虐な行為を前に、黙ってみていることはできないのです。今すぐ止めなけれはならない。でも止めるには、世界中が力を合わせて行動することが必要なのです。プーチンは計画を立てていて、止まらないし、やりきるのでしょう。この戦争で彼にとってなにもよいことはなく、それは彼が一番よくわかっているでしょう。
(5)今の政権をどう考えますか?
今のロシアの政権は、独裁的な民主主義による、封建的な奴隷制です。そして悲しいことにこの政権は私たちが作ってしまったのです。でもこの政権には未来はありません。戦争はこの政権を救いません。
“私たちには自由が、ウクライナには平和が必要です”
21歳の女性(モスクワ在住、法学部の学生)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
支持していません。独立した国を攻撃することは許されません。大統領や政府はこの戦争は「特殊作戦」だといいます。ウクライナの非軍事化と非ナチ化のため、そしてロシア語を話す人たちをナチスが迫害していると。私はウクライナ人の友達がいて、ロシア語ではないニュースも見ますが、ウクライナはロシア語を使う人たちを虐げることはしていませんし、極右政党もなく、ネオナチが支持を集めてもいません。友達が送ってくれたミコライウやイルピンの映像を見ました。友達は荒廃した街、殺された市民、レイプ、略奪、恫喝について話してくれました。友達たちは嘘はついていません。それに私は独立系メディアのニュースをチェックしています。そして、私の国は侵略者であり、政府の中の人や兵士たちは戦争犯罪者です。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
価格の高騰です。スマートフォン、テレビ、衣類、食品さえも高くなっています。ルーブルが暴落、アップルペイが使えない、ビザ、マスターカードも使えません。飛行機でほかの国に行くこともできません。ロシア人の中でしかお金を送ることができません。多くの企業がビジネスをやめ、多くの人が仕事を失いました。軍の情報やフェイクニースを犯罪とする新たな法律や検閲ができました。この法律の刑罰は最長15年間の懲役・禁固刑という、おかしな法律です。最高裁判所はこれについて、見解を示していません。将来、法律家になる私としては、人々の行為をどうやって犯罪と認定するのかわかりません。警察の残忍さは増しています。すべての集会は禁止されています。モスクワのスタジアムで行われてた政府を肯定する「クリミアの春」という集会を除いては。ロシアはいまや全体主義の国です。市民は貧しくなっていっています。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
もし当局が私の考えを聞いたり、ツイートを見たりしたら、私は大学を退学させられるかもしれません。警察や調査する機関が犯罪とみなすかもしれません。「お前は軍の信用を失墜させた」とか「過激派だ」と認定するでしょう。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私はプロパガンダに対抗しています。親戚や友達、近所の人たちが目を覚ましてもらえるように働きかけています。人々は真実を知るべきです。この戦争の本当の顔、市民の殺害、戦争犯罪、荒廃した町や学校、産科病院の現状を。政府の嘘を知る必要があります、ロシア兵の死亡数などです。私たちには自由が、ウクライナには平和が必要です。ウクライナの人々の安全を祈っています。それと同時に私はいかなる侵略、暴力を許しません。人の命が最も価値があり、すべての命は守られるべきものです。
(5)今の政権をどう考えますか?
以前から私は好きではありませんでしたが、今は大嫌いです。私たちの国には政治の多様性がなく、人権が侵害され、大統領に反対する人はいません。2015年にはボリス・ネムツォフ氏が殺され、ナワリヌイ氏は刑務所にいて、政治犯罪者にしたてられています。言論の自由はありません。そのほかにも問題がたくさんあります。しかし今、この政権は多くの人を殺しています。強い怒りを持っています。彼らは市民のことは考えていません、兵士のことさえも、自分たち以外の人のことは考えていないのです。この戦争はハーグで裁かれなければなりません。彼らは罰を受けなければならない。
“私たちの政権はファシストの独裁政権です”
52歳男性(サンクトペテルブルク、フリーランス)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
これは戦争犯罪です。加害者は国際的な法廷で裁かれなければなりません。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
1、活動家(多くはナワリヌイ氏の支持者たち)に対する法律が厳しくなり、弾圧も増えている。
2、多くのロシアからの移民。重い禁固刑を言い渡された活動家がロシアを去っています。
重要な職業で、最も高度な知識を持つ専門家がロシアを出て行っている。この悪夢の中で生きることができない普通の人たちも去って行っています。しかし残念ながら、そうしたいと思うすべての人が国を出られるわけではありません。それが大きな悲劇なのです。この国に残る人は、継続的に大きな危険にさらされることになります。ロシア人をこの国から避難させる国際的なチャリティーを作るのがよいのではないでしょうか。
3、すべての価格が上がっていて、特に食品と薬です。店にある商品の種類が劇的に減りました。世界的にメジャーなブランドの店がなくなり、国内から去っています。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
私は、プーチンが言う「特殊作戦」という欺まんに満ちたことばではなく、「戦争」ということばを使ったというだけで、いつでも逮捕され刑務所に長期間にわたって入れられる可能性があります。プーチンの「法律」の中では、私はツイートするだけで15年の懲役・禁固刑を言い渡されるのです。これで、私がどんなところに住んでいるかわかると思います。私たちの政権は、言論の自由、独立したメディア、選挙、独立した裁判所などがない、ファシストの独裁政権です。独裁政権の中ではプロパガンダだけです。どうか信じないでください。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私の国が占領下にあるときに、反対の声を上げないことができますか?私は奴隷ではなく、人間です。私が尊敬し支持する政治家であり市民であるナワリヌイ氏はプーチンが軍の毒薬であるノビチョクを使って毒殺しようとしたあとでさえも、この国に戻ることを怖がりませんでした。リスクを知りながらも。私がどうして声を上げないことができるでしょうか。
(5)今の政権をどう考えますか?
この犯罪者の政権は過去20年、マフィアが牛耳る構造と旧ソビエトのKGBの残党との共生の結果、私のみじめな国で違法に権力を持ち維持してきました。この政権は軍や警察、そして特殊部隊など数百万人とも言われる治安維持部隊と、プロパガンダからなっています。合法な情報源をすべて独占されて。プーチンとプーチンに近い人たちがエネルギー資源を独占し、西側に売って、その金でこの弾圧の構造と宣伝員からなる巨大な軍を維持しています。ウクライナでの戦争もこの金で賄われている。残念ながら、ロシアの予算は国民のために使われるのではなくて、間違った独裁者の非人道的な犯罪の企図のために使われているのです。
●ロシア軍 ウクライナ東部へのミサイル攻撃強める  4/11
ロシア軍は、ウクライナ東部で、ヨーロッパから供与された地対空ミサイルシステムを破壊したと発表するなど、東部を中心にミサイルでの攻撃を強めています。
一方、プーチン大統領は11日、軍事侵攻後、EU=ヨーロッパ連合の首脳では初めてオーストリアの首相をモスクワに招いて会談し、対話を拒まない姿勢も示しています。
ロシア国防省は11日、東部のドニプロペトロウシク近郊を巡航ミサイル「カリブル」で攻撃し、ウクライナ軍の地対空ミサイルシステム「S300」を破壊したと発表しました。
戦闘機やミサイルを撃ち落とす能力を持つ「S300」は、今月8日、スロバキアが、ウクライナに供与したことを明らかにしています。
ロシア国防省は「ヨーロッパから提供された兵器を破壊した」として具体的には明らかにしていませんが、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米を強くけん制するねらいとみられます。
またロシア軍は、東部ドネツク州の各地をミサイルで攻撃したと発表するなど、東部を中心に攻勢を強めていて、イギリス国防省は11日、ロシア軍は、人体に深刻な被害が出る白リン弾を「ドネツク州で使用したことがある」としたうえで、ドネツク州の「マリウポリでも使われる可能性がある」と分析しています。
さらにロシア軍は、精密な誘導ができない爆弾を多用していると指摘したうえで「標的を定めて攻撃を行う能力が低下し、市民が犠牲になるリスクが格段に高まっている」と警鐘を鳴らしています。
ゼレンスキー大統領は10日夜、国民向けに新たな動画を公開し「東部ではロシア軍がさらに大規模な軍事作戦に移行するだろう。さらなるミサイル攻撃や空爆が行われる可能性がある」と警戒感を示しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は11日、軍事侵攻後、EU=ヨーロッパ連合の首脳では初めてオーストリアのネハンマー首相をモスクワに招いて会談しました。
ネハンマー首相は、9日にはウクライナの首都キーウでゼレンスキー大統領と会談していて、「われわれは軍事的に中立だが、ウクライナへの侵略についての立場は明確だ。プーチン大統領は止まらなければならない」とツイッターに投稿し、停戦や避難ルートの設置などを求める考えを示しています。
プーチン大統領は、ウクライナ東部への攻勢を強める一方、欧米側からの非難が高まるなかで対話を拒まない姿勢も示しています。
●ウクライナ情勢の影響で…日ロ漁業交渉開始も難航か…サケマス漁 4/11
例年ですときのう4月10日がサケ漁の解禁日でしたが、ことしはまだ漁に出られる見通しが立っていません。ここにもウクライナ情勢の影響がありました。大ぶりのサケが店先に並ぶ釧路・和商市場。こちらの鮮魚店は50年以上、サケを中心に扱ってきましたが、その品揃えに異変が起きていました。
田村商店店主 「これが残念ながら2年前の定置網で獲れた地元のもの。それから北洋産ロシアで獲れた去年の在庫のものなんですよ。」
鮮度を落とさないまま冷凍したサケも1年を通して販売していますが、近年の不漁で抱える在庫が減っているといいます。私たちの食卓に身近なサケ。値上がりが続くなか、さらに追い打ちをかける出来事が…。
三ツ木靖カメラマン(10日・根室市歯舞漁港) 「例年ならずらりと船が係留してあるのですが漁船の光はなく、あたりは静まり返っています」
10日午前0時の根室・歯舞漁港。船は陸にあげられたままとなっていました。例年は、きのう4月10日がサケ・マス流し網漁の解禁日。水揚げノイズ「ザッパーーン」じつは、多くがロシアの川で生まれるサケやマスを獲るために日本はロシアに毎年、協力費を支払って根室沖などで操業しています。しかし・・・ロシアのウクライナ侵攻を受けた日本の経済制裁にロシアが反発。日本とロシアが漁獲量や協力費の金額を決める漁業交渉はきょう11日からようやく始まりましたが、難航する可能性があります。
田村さん 「(サケの)全体量がないとなると少々獲れても値段というのは安くならない/想像ですけど例年の1.5倍で(値段が)収まればいいかなという期待値です。」
今月下旬からは道東沿岸でのサケの定置網漁が始まりますがこちらも不漁が続いています。私たちに身近なサケは食卓から遠ざかってしまうのでしょうか。
●ウクライナ首都周辺「1千人超遺体」 ロシア軍、対空システム破壊主張 4/11
ウクライナに侵攻しているロシア軍は11日、東部や南部で支配地域を拡大するため、攻撃を続けた。都市部への無差別砲撃で民間人の犠牲者に歯止めがかからず、さらなる戦闘激化への懸念も高まっている。ウクライナのベネディクトワ検事総長は英メディアに対し、北部キーウ(キエフ)州で1222人の遺体が見つかったと説明した。
ロシア軍はウクライナ北部の短期制圧に失敗し、将兵死傷など「重大な損失」(ペスコフ大統領報道官)を被った。4月初旬までの撤退に伴い、占領地での民間人の犠牲が日を追うごとにつまびらかになっている。
ロシア国防省は11日、中部ドニプロ郊外に対する10日の巡航ミサイル攻撃で「欧州の国から送られた地対空ミサイルシステムS300を破壊した」と主張した。S300をめぐっては、これまでにスロバキアがウクライナに提供したことが明らかになっているが、ロイター通信によると、スロバキア政府報道官は「われわれのS300は破壊されていない」と述べた。
●ロシア軍が放射線量の高い物体133個盗む…「ぞんざいに扱えば命取り」 4/11
ウクライナ北部チョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所近くにある研究所から、ロシア軍が放射線量の高い物体133個などを盗み出したと、ウクライナ当局が10日、フェイスブックで明らかにした。放射性物質の所在は不明で、当局は「ぞんざいに扱えば命取りになる」としている。
国際原子力機関(IAEA)によると、研究所では放射線の分析機器も盗まれたり壊されたりした。別の施設では通信回線の一部が破壊され、放射線の観測データを自動送信できないという。
一方、同原発では10日、技術職員が約3週間ぶりに勤務を交代した。周辺の治安が悪化したため、職員らはロシア軍の撤収後も交代せず勤務を続けていた。
露軍は2月24日の侵攻開始直後に同原発を制圧し、3月末まで占拠した。
●“プーチン大統領は政権崩壊への危機感から侵攻”元駐ロ米大使  4/11
アメリカの駐ロシア大使も務めた著名な政治学者、マイケル・マクフォール氏がNHKのインタビューに応じました。
この中でマクフォール氏は、ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったのは、同じ国だと見なすウクライナが、より民主的になることで、自身が率いる独裁的な政権が崩壊するのではないかと、危機感を抱いたためだという見方を示しました。
マイケル・マクフォール氏は、ソビエト崩壊後のロシアの民主化などについて研究を続けている著名な政治学者で、2012年1月、当時のオバマ政権下でロシア大使として2年間モスクワに駐在したあと、現在はスタンフォード大学で教授を務めています。
このほどNHKのインタビューに応じたマクフォール氏は、1999年当時、エリツィン大統領の辞任に伴って大統領代行に就任したプーチン氏について「当時は欧米志向で、いまよりも市場原理に基づく考えを持ち、われわれは協力できると考えていた」と振り返りました。
そして「プーチン氏が一夜にして民主主義者から独裁者になったというのは間違いだ。時間をかけて独裁的になり、独裁的になればなるほど、民主主義からの挑戦を受けるようになった」と指摘しました。
マクフォール氏によりますと、プーチン氏が民主主義からの挑戦だと捉えているのは、2003年、ジョージアで市民の抗議活動により大統領が辞任に追い込まれた「バラ革命」、2004年、ウクライナで大規模な抗議活動をきっかけに政権交代が起きた「オレンジ革命」、2011年、中東各地で独裁的な政権が次々と崩壊した民主化運動「アラブの春」、そして、2012年にロシアの首都モスクワで繰り返された市民の大規模な抗議活動です。
なかでもモスクワで行われた抗議活動は、当時首相だったプーチン氏が3期目の大統領として返り咲くため立候補した選挙を前に行われただけに、プーチン氏にとって「非常に重要な局面だった」と分析しました。
マクフォール氏は「プーチン氏は『革命の背後にアメリカがいる』と非難した。エジプトやジョージアなどでなくまさにロシアで、彼の政権に反対する大規模なデモが起きたことによって、彼は強い恐怖を感じたのだ。そして、民主的な考えやそれを支持する人たちに対して、病的なほどに疑い深くなった。われわれは反体制派に資金提供をしていないし、デモを組織してもいないが、彼は『われわれのせいだ』と非難した」と述べました。
さらに、ロシアとウクライナの関係について「プーチン氏は、ロシアとウクライナは別の国だと考えていない。長い歴史に言及し、一つの国だったと説明しようとしている」と指摘しました。
そのうえで、マクフォール氏は「ロシアと同じ文化や歴史を共有しているウクライナ人が民主的になれば、ロシアという独裁体制にとって直接的な脅威になる。だからこそプーチン氏は、武力を使ってウクライナを取り込もうとし、民主主義を弱体化させようとしたのだ」と述べ、プーチン氏が軍事侵攻に踏み切ったのは、同じ国だと見なすウクライナが、より民主的になることで自身が率いる独裁的な政権が崩壊するのではないかと危機感を抱いたためだという見方を示しました。 

 

●ゼレンスキー「マリウポリで数万人死亡」 ロシア外相“軍事侵攻やめない”  4/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は、韓国でオンライン演説を行い、「マリウポリで数万人が死んだ」と明らかにした。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領「ロシア軍はマリウポリを完全に焦土化して破壊した。マリウポリでは数万人の市民が命を失った」
ゼレンスキー大統領は、「マリウポリでは数万人の市民が命を失った」と明らかにしたうえで、韓国に軍事的支援を求めた。
一方、ロシアのラブロフ外相は、停戦交渉の間に軍事侵攻をやめないとの考えを明らかにした。
ロシア・ラブロフ外相「停戦交渉が最終合意に達し署名しない限り、(軍事行動を)中断しない決定がなされた」
そのうえで、ロシアの軍事作戦の目的は、アメリカなど西側諸国による国際社会の支配という無謀な行動に、終止符を打つためのものだとしている。
●国連安保理 ロシアへ非難相次ぐ ”多くの市民が犠牲に” 4/12
ウクライナ情勢をめぐって国連の安全保障理事会で会合が開かれ、ウクライナ東部の鉄道の駅が攻撃されるなど子どもを含む多くの市民が犠牲になっているとして、各国からロシアを非難する発言が相次ぎました。
国連安保理では11日、ウクライナで女性や子どもが置かれている状況について協議が行われました。
はじめに、ユニセフ=国連児童基金の担当者が「ウクライナの子どもの3分の2が避難を余儀なくされ、とどまっている子どもも半数近くは十分な食料を得られないリスクにさらされている。マリウポリやヘルソンでは、何週間もの間、水道や食料の供給なしで過ごしている」と報告しました。
このあと各国からは、ウクライナ東部の鉄道の駅がミサイルで攻撃されるなど、女性や子どもを含む多くの市民が犠牲になっているとして、ロシアを非難する発言が相次ぎました。
このうち、アルバニアのホッジャ国連大使は「ブチャの恐怖から息をつく間もなく、数千人がいた駅がミサイルで攻撃され、子どもたちが無差別に殺害された」と述べ、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使も「現地の女性や子どもたちに起きていることは、理解を超えたおぞましいものだ」と強く非難しました。
また、ウクライナのキスリツァ国連大使は、ロシア軍に母親を殺害されたという9歳の子どもの手紙を読み上げ「このままでは多くの子どもが孤児になり多くの母親が子どもを失うだろう。将来の世代のためにクレムリンを止めなければならない」と訴えました。
これに対してロシアのポリャンスキー国連次席大使は、鉄道の駅を攻撃したのはウクライナ側だと主張したうえで「軍事作戦はウクライナの将来のため、ロシアや近隣諸国の安全のために必要だ」と述べました。
●ロシアが任命、ウクライナ侵攻の新司令官について分かっていること 4/12
ロシアのプーチン大統領はこのほど、ウクライナでの戦争を統括する新司令官を起用した。
欧米の当局者によれば、ロシア軍南部軍管区のアレクサンドル・ドゥボルニコフ司令官(60)が、ウクライナでの軍事作戦を統括する戦域司令官に任命されたという。
ドゥボルニコフ氏はシリアでのロシアの軍事作戦の初代司令官を務めた人物。プーチン氏は2015年9月、シリアのアサド政権を支援する目的で同国に軍を派遣した。
ドゥボルニコフ氏がシリアで指揮を執った15年9月から16年6月にかけ、ロシア軍機はアサド政権や同盟勢力が反体制派支配下のアレッポを包囲するのを支援し、人口密集地を爆撃して多数の民間人犠牲者を出した。アレッポは16年12月にシリア政府の手に落ちた。
00〜03年には、ドゥボルニコフ氏は長期に及んだ北コーカサス地方での鎮圧作戦に参加。中でも第2次チェチェン紛争では、チェチェンの中心都市グロズヌイが壊滅状態に追い込まれた。
ロシアはウクライナの一部地域でも同様の手荒い手法を用いており、主要都市の住宅を攻撃したり、港湾都市マリウポリの大部分を破壊したりしている。
ドゥボルニコフ氏は16年3月、軍功が評価され大統領府から「ロシア連邦英雄」の称号を授与された。
ロシアがウクライナでの戦争を率いる新たな総司令官を指名したのは、ロシア軍の妨げとなっているもう一つの問題、つまり調整不足を改善する狙いもあるとみられる。
●ウクライナ戦争で広がる憎悪 バイデン氏の過激発言が悪影響を与える懸念 4/12
臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、プーチン大統領やバイデン大統領の“思惑”がもたらす悪影響について。

ロシアのウクライナ侵攻から1か月あまり。世界中でロシア人が差別や脅迫、暴力などの標的になっているが、最近は日本でも、ロシア人やロシア関連のお店に嫌がらせが増えていると聞く。嫌がらせを行っている人が日本人かどうかは分からない。おそらくウクライナの状況に心を痛め、ロシアに憤りを感じているのだろうが、その正義感が向けられた矛先は正しいとは言えない。
ロシアというだけで、そう見えるというだけで、周りにいる誰もが悪ではない。行き過ぎた正義感は偏見を生み、「間違っている、悪い」と思う相手を責め、敵視し、排除するようになる。「自分は正しい」と思い込むため、自らの偏見には気付かない。「バイアスの盲点」だ。私たちはいつの間にか、戦争に巻き込まれているらしい。
連日連夜、ロシアのウクライナ侵攻による悲惨な映像が報じられている。ロシアのプーチン大統領のイメージは冷徹で強硬。今では絶対的権力を持った独裁者と見られている。ロシアによるウクライナ侵攻はプーチン氏の思惑で動いているのだ。
だが3月30日、米ホワイトハウスのベディングフィールド広報部長は記者会見で、「ロシアのプーチン大統領に、側近や軍から誤った情報が伝えられている」、「側近が真実を伝えるのを恐れている」と述べた。ロシア軍の苦戦が報じられていたこともあり、メディアは一斉にこれを取り上げた。専門家も同様の見解を述べ、「独裁者の末期はそういうものだ」と語っていた。
一方、ある番組では、ロシア軍の内情に詳しいアゼルバイジャン軍の副司令官だったアギーリ・ルスタムザデ氏が、ロシア軍兵士の士気の低さを指摘しつつ、「プーチンが知らないはずがない」、「戦争という状況下で大統領が騙されるなどどいうことはない。プーチンはそこまで愚かではない」と話し、「米国の政治的意図がある発表だ」と述べていた。
実際、米国の思惑も恐ろしい。それが戦争を引き起こしたこともあるからだ。ブッシュ政権下の2003年、イラク戦争が開始された。9.11米同時多発テロで大勢の犠牲者が出た米国は、対テロ戦争に突入。イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を所有しているとして、ブッシュ大統領はイラク戦争に踏み切った。
フセイン政権は崩壊したが、大量破壊兵器は見つからず、民間人の犠牲者は10万人以上とも20万人以上とも伝えられている。一国のリーダーの政治的意図や思惑で、すさまじい数の犠牲者が出てしまうのだ。あの時、今のようにSNSが普及していたら、戦況は変わったのかもしれない。
Newsweek日本版に、タレントのパックンによる「大義なき悲惨な戦争…プーチンは、ブッシュの『イラク戦争』を見習った?」と題した記事がある。彼は<相手国に妄想を抱き、もしくは妄想を国民に信じ込ませ、血みどろの結果を招いたウクライナ戦争とイラク戦争の共通点。世界にとっては悲劇的なデジャブだ>と書いている。その通りだと思う。思惑が妄想を生むこともある。
バイデン大統領はプーチン氏を「戦争犯罪人」と呼び、「この男は権力の座に留まるべきではない」と批判した。「さすがに失言ではないか」と波紋を呼んだが、バイデン氏は謝罪も撤回もしなかった。ウクライナで行われている虐殺を見れば、その発言も道徳的、感情的には理解できる。だが、過激な発言は国民のロシアへの憎悪を強くさせてしまう懸念も残る。
日本にいる我々は戦争の当事者ではないが、このような光景を目の当たりにすると、気付かないうちに少しずつ、人々がこの戦争に巻き込まれ始めているのではないかと怖くなる。
●ウクライナで性暴力の報告増加、「侵略者は婦女暴行を戦争の武器に」  4/12
国連安全保障理事会は11日、ロシア軍が軍事侵攻を続けるウクライナ情勢に関する会合を開き、戦時下の女性や子どもたちへの影響を議論した。国連女性機関のシマ・バホス事務局長が出席し、ウクライナで婦女暴行や性暴力の報告が増加していると明らかにした。
バホス氏は具体的な件数などには言及しなかったが、「独立した調査が行われる必要がある」と強調した。
オンラインで参加した地元市民団体の代表者は、露軍兵士による婦女暴行の通報が9件あり、12人の女性や少女が被害に遭ったと説明。その上で「(通報された事案は)氷山の一角。ロシアからの侵略者は婦女暴行を戦争の武器として使っている」と非難した。
ロシアの国連第1次席大使は「露軍兵士を暴行犯に仕立て上げようとしている」と露軍の関与を否定した。ウクライナでの性暴力を巡っては露軍だけでなくウクライナ軍や民兵も関与しているとの情報があるといい、国連が確認を進めている。
●ロシア兵からの「性的暴行」証言 ウクライナで何が 人権団体「武器の一種」 4/12
ロシアによるウクライナ侵攻で、ロシア兵による性暴力などの「戦争犯罪」が今、次々と明らかになっています。戦争犯罪の証拠や証言を集めている人権団体が、ある女性の被害と「性的暴行は“武器の一種”として用いられている」状況について語りました。
ポーランド・クラクフで10日、女性たちがウクライナ国旗を肩にかけるなどして、デモ行進を行いました。
「私たちの家族を救って! ロシアを止めて!」
ウクライナからポーランドに避難した女性たちは、軍事侵攻で亡くなった子どもをイメージした人形を胸に、次のように訴えました。
ウクライナから避難した女性「残虐な行為、子どもへのレイプが毎日のように行われています」
ウクライナ内相顧問が10日、SNSに投稿した映像では、ウクライナ・キーウ(キエフ)近郊・マカリウの民家では、物が散乱した様子が映されていました。また、毛布やベッドには血痕が残されていました。
「彼女はこの部屋で辱められて、むごい目に遭ったのです。なんてひどい…」
この家の隣に住んでいたというタチアナさんの身に起きた出来事も、ウクライナ内相顧問がSNSで明らかにしました。
ウクライナ内相顧問のSNS「侵略者(ロシア側)のひとりが彼女を隣の家に連れ出して、レイプしたあと、残酷に切りつけて殺した」
こうした性暴力などの「戦争犯罪」が今、次々と明らかになっています。戦争犯罪の証拠や証言を集めている国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の笠井哲平さんは、ハルキウ(ハリコフ)から逃れたオルハさん(仮名)という女性の被害について語りました。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 笠井哲平さん「オルハさん(仮名)という女性が、ロシア兵に何度も性的暴行を受けたと(証言している)」
笠井さんによると、「オルハさんは5歳の娘らと、小学校の地下室に避難しているところを襲われた」ということです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 笠井哲平さん「周りが寝静まった時に(ロシア兵が)『一緒についてこい』と指示をして、銃口を彼女に向けたまま『服を脱げ』といって性的暴行をしました。ナイフを首元にあてたり、首の皮膚を切ったりしました。『ほおや髪の毛も切り刻んだ』という証言をオルハさんはしています」
性的暴行は“武器の一種”として用いられているということです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 笠井哲平さん「精神的に深く傷つけ、反抗できないようにする狙い。女性に限らず、男性や子どもに対する性暴力も報告されているので、本当にこれは氷山の一角」
さらに、ロシア軍による“略奪”疑惑もあります。ウクライナの隣国・ベラルーシの団体「ベラルーシ ガユン・プロジェクト」が公開したのは、“略奪の証拠”とされる映像です。
ベラルーシ・マズィルにある宅配サービス会社の防犯カメラには、部屋を埋め尽くすほどの物資を絶え間なく運び入れるロシア兵の姿が捉えられていました。
これらの多くはウクライナでの略奪品とみられていて、机の上にはアルコールの瓶が置かれ、エアコンが入っているといういくつものダンボールの中に、運んできた電動キックスケーターをその場で梱包する様子も撮影されていました。この日、ロシアへ発送されたという荷物は、2トン以上にのぼるということです。
ウクライナの検事総長は「約5600件にのぼる戦争犯罪の捜査を始めた」と明らかにしました。
●ウクライナ戦争がもたらす陰鬱な新世界 4/12
ウクライナ戦争は米国の覇権にもとづく自由主義的国際秩序の威力を遺憾なく示しているが、その亀裂も露呈している。
戦争が勃発すると、米国は前例のない制裁をロシアに加えた。NATOなどの米国の伝統的な同盟は、この戦争を契機に再び結束しつつある。ジョー・バイデン政権は、就任後に標榜していた民主主義対権威主義の戦列を強化するのに利用している。
しかし、米国主導の制裁の隊列には隙間も生じつつある。国連安保理の対ロシア非難決議には中国、インド、バングラデシュ、パキスタン、南アフリカの5カ国が反対し、35カ国が棄権した。投票に参加しなかった旧ソ連地域の新生国家やアフリカ諸国を考慮すれば、米国の制裁の隊列からは少なからぬ国々が抜けている。実際に、米国の友好国といわれるイスラエルを含めた中東地域の国々や、ブラジルやメキシコなども制裁に参加していないか、消極的だ。いわゆる「ミドルパワー」国家の一部が「非米的な」態度を取っているのだ。
ドルの覇権の威力も試されている。インドは、ロシアのエネルギーを安価に輸入することを目的として、ルーブル-ルピー決済方式でロシア産エネルギーを輸入すると発表した。サウジアラビアは、中国に輸出する石油の代金の一部を人民元で決済することを明らかにした。中国がロシア産エネルギーを輸入し続けているのは言うまでもない。
暴落していたロシアのルーブルは、ここのところ戦争前の水準にまで反発している。何よりも、欧州などに輸出するガスなどのエネルギーが禁輸されていないからだ。ロシアは価格の上がったエネルギーの輸出代金を依然として手にしている。今年下半期にはロシアがエネルギー輸出で稼いだ金は過去最高となるとの見通しもある。
イラク戦争以降、米国が手を引こうと努めてきた中東地域での「非米的な」勢力再編もただならぬ気配が漂う。アラブ首長国連邦(UAE)は、親ロシアであるシリアのバッシャール・アサド大統領を招き、関係改善に乗り出した。米国と核合意の修復交渉を行っていたイランは、ウクライナ戦争勃発以降、条件をつり上げ、会談は空転状態に陥っている。トルコはウクライナ戦争の平和交渉を仲裁し、影響力を強めている。
地政学者のウォルター・ラッセル・ミードが定期寄稿する「ウォール・ストリート・ジャーナル」なども、今回の制裁はミドルパワー国家などに恐怖を植え付けたと診断する。これらの国々は外貨保有高を米国などの西側の銀行にドルで預けているが、米国の制裁からヘッジングする必要性を深刻に感じているというのだ。戦争は長期化が懸念されている。米統合参謀本部のマーク・ミリー議長は議会の公聴会で、ウクライナ戦争の終結までには「少なくとも数年はかかると思う」と述べている。
一つ目に、国際経済は深刻なコストを支払わなければならない。新型コロナウイルス禍によるサプライチェーンの混乱、食糧とエネルギーの価格暴騰、インフレは悪化するだろう。戦後もロシアのエネルギーなどを国際経済から絶縁させようとする米国の努力が続くことは明らかだ。
二つ目に、グローバリゼーションの完全な退潮と経済のブロック化だ。戦争以前から米国は、中国を自らが主導する国際経済体制から排除しようとしていた。これから中国は、戦争の後遺症に直面するロシアを含めたユーラシア経済圏作りを急ぐだろう。インド、イラン、中東諸国も米国と中ロの間で綱渡りをするだろう。
ハルフォード・マッキンダー、ズビグニュー・ブレジンスキーなどの西欧の古典的な地政学者たちは、ユーラシア大陸の心臓部に位置するロシアや中国がユーラシア環形地帯のイランやインドと連帯することを、米国などの西欧の覇権にとっての最大の脅威とみている。ウクライナ戦争はユーラシア連帯勢力の出現をもたらす条件となるかもしれない。
これは冷戦時代の資本主義陣営対社会主義陣営の対決を想起させる。いや、それよりも危険かもしれない。冷戦時代には、米国とソ連は互いの勢力圏を暗黙に認め、互いに絶縁された経済体制を営んだ。ウクライナ戦争後に起こりうるブロック化で、米国は果たして中国やロシアの勢力圏を認めることができるだろうか。
ノーベル経済学賞受賞者でコロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツは「プロジェクト・シンジケート」への「新自由主義者のためのショック療法」と題する寄稿で、9・11テロ、2008年の金融危機、トランプの出現、コロナ禍に続くウクライナ戦争で、最小限のコストで最大の利益を創出しようとした新自由主義、あるいは自由主義的国際秩序の基礎は崩れると指摘した。さらに大きな問題は、このような自由主義的な国際秩序の是非とは関係なしに、これに代わる秩序がはっきりしていないということだ。ウクライナ戦争は国際秩序における陰鬱なディストピアを予告する。
●ティンダーが通信手段に。ウクライナ人男性「怒りしかない、戦地へ行きたい」 4/12
ロシアがウクライナに武力侵攻したことで、IT関連のサービスにも影響が出ていることは広く知られる事実だ。フェイスブック、ツイッター、ティックトック、インスタグラムはロシアで利用できなくなっており、アップルは「iPhone」などの販売を取りやめ、グーグルは広告取引を中止し、マイクロソフトも製品の販売を停止するなど、欧米のIT大手がロシア事業を一時停止する動きが広がっている。
そんな中、マッチングアプリにも戦争の影響が出ている。欧米で広く使われているマッチングアプリ、Bumble(バンブル)もロシアとベラルーシでのアプリのダウンロードを停止。片や、マッチングアプリの草分けとも言われるTinder(ティンダー)は、ロシアでもウクライナでもサービスを継続している。
さらにロシアとウクライナでは、デート相手を見つけるというデフォルトのアプリの目的とは違う使われ方がされるケースが増えている。
英字メディア「スクリーンショット」によると、ロシア人のティンダーユーザー向けに、今ウクライナで起きていることをティンダーのプロファイルに説明し、真実を草の根レベルで伝えようとする動きが見られるという。
キーウのウクライナ人男性とやりとりしてみた:「戦争に参加したくて仕方がない」
筆者は自身のスマートフォンにティンダーをダウンロードし、特定の地域の人と繋がることができる「パスポート機能(有料)」を使って、ウクライナの首都キーウ(外務省は3月31日、「キエフ(キーフ)」の日本語呼称をウクライナ語発音の「キーウ」に変更する」と発表した)、およびその周辺地域に住んでいる人とマッチしてみた。10数人とすぐにマッチしたものの、実際にメッセージのやり取りが成立したのは数人。
そのうちのひとり、キーウの40代前半のウクライナ人男性、ユージーンは、戦争が始まってからの日常や怒りの気持ちを「これから話すことにはショックしかないと思うけど」と前置きした上で、チャットで今置かれた状況や思いを共有してくれた。
筆者:現在の心境と状況について教えてほしい。
ユージーン:怒りの感情しか感じられない。ロシア兵を殺すために政府と軍隊がライフル銃を供給してくれないことに憤りを感じている。自分は2002年から予備軍リストに自分の名前があるが、3番目のリストなので、戦争にはまだ呼ばれていない。過去に戦争を経験した人から順に呼ばれているので、自分の番はなかなか回ってこないのが歯がゆく、戦争に参加したくて仕方がない。
ウクライナ人男性はみんな、軍隊から声がかかるのを待っている。戦争が始まって最初の10日間は、入隊を希望する男性たちで長い列ができていた。
筆者:家族はまだキーウにいるのか。
ユージーン:離婚した元妻と娘はポーランドに避難した。私は、キーウにいても安全だと元妻に言ったが、彼女は避難することを選んだ。
筆者:現在のキーウでの生活はどのような感じなのか。
ユージーン:街にはあまり人がいないが、今は、戦争の前のような状態だ。20〜40のビルが破壊されたし、1日のうちにしょっちゅうアラームが鳴るのは確かだけれど。オフィスはクローズしているので、仕事には行っていない。
最初の2週間は水と食料が欠乏したのが問題だった。みんな恐怖から買い占めに走ったからね。供給がストップしたのもある。運転手がキーウに行きたがらなかったんだ。戦争前と同じというわけにはいかないけれど、今は大丈夫だ。ただ、特定の商品、医薬品はないものがある。痛み止め、栄養剤、包帯などはキーウの薬局にはないね。
現在、食事に関しては、スーパーで買い物することはできるけど、レストランは軍向けに料理を提供しているところもあるが一般市民向けには営業していない。料理をしない自分はひたすらサンドイッチを食べている。
筆者:戦争はいつ終わると思うか。
ユージーン:プーチンの身に何かが起こるという運に恵まれない限り、5〜30カ月はかかるだろう。
筆者:諸外国や日本に対して何か望むことはあるか。
ユージーン:ヨーロッパ諸国と米国はパルチザン(抵抗戦)に使える武器を提供したが、私たちが今必要としているのはもっと戦闘機やミサイル、戦車などだ。ウクライナ軍に寄付してほしい。暗号通貨の寄付も可能だ(本記事末尾に情報あり)。
筆者:ティンダーをなんのために使っているか。
ユージーン:自分は離婚歴があって、再婚したいと思っている。平時にはアプリじゃなくて、ナイトクラブで女性とは出会っていたけど、戦争下ではそれも叶わないからね。もしForbes JAPANの記事をきっかけに将来の妻と出会えたりしたらうれしいね。
ルーマニア在住の男性とも:避難する人は受け入れる
また筆者は、ウクライナの隣国であるルーマニア在住の男性からも話を聞くことができた。ウクライナから避難する人を受け入れる国としてポーランドについては頻繁に報じられているが、ルーマニア在住の男性も、求めがあれば自宅で避難してきた人を受け入れる用意があるという。
ビクター(仮名):自分のアパートに空いている部屋があるので、ウクライナから避難してきた人が滞在できる準備はできている。ウクライナ人女性たちとはティンダーを通じてコミュニケーションをとっているよ。デートの相手を探すためというわけじゃなくて、ただ話をしているんだ。
──前述の英字メディア「スクリーンショット」で、メディア「アンハード」ライターのゾーイ・ストリンペル氏は「慎重に使えば、ティンダーは強力な、非暴力の武器にもなり得る」と語っている。死者の数など、連日惨状が伝えられるニュースの前には無力感が大きいが、デジタル戦争がいかにリアルの戦況に影響を与えるかについても注視していくべきだろう。
●ロシアは「密告社会」に戻るのか 録音された戦争批判で教師免職 4/12
旧ソ連時代のような、かつての「密告社会」に戻るのか――。ロシア国内の教育現場で、ウクライナ侵攻に反対した教師や、ウクライナ支持と受け止められるような発言をした教師たちが「露軍の信頼を失墜させた」などとして裁判所に罰金を言い渡されたり、免職となったりするケースが相次いだ。教師らの発言は、生徒や学校の同僚を通じ、親や校長、そして最終的には警察など当局に伝わっていた。
露極東のニュースサイト「サハリン・インフォ」などによると、サハリンの港町コルサコフで4月5日、女性の英語教師が「不道徳な罪を犯した」として免職になった。女性教師は裁判所に行政罰として3万ルーブル(約4万6000円)の罰金も言い渡された。
女性教師は、8年生と11年生(日本では中学2年と高校2年に相当)を対象にした英語の授業で、世界のさまざまな民族の子どもたちがロシア語とウクライナ語で平和について歌うビデオを見せた。
その中に「明るい未来を信じよう。そうしたら世界は少しは良くなる」という歌詞があった。女性教師は「感想を口にせず、黙ってビデオを見ましょう。心で聞いてください」と生徒に呼びかけた。
授業が終わった後、8年生の生徒数人が教室で「先生はウクライナを支持するのか」と詰め寄ってきた。その時の会話を生徒が録音し、親に聞かせたという。翌日、教師は校長に呼ばれ「保護者から苦情が来ている」と聞かされた。その後、免職の処分となった。
コルサコフ市の教育当局は女性教師について「授業をせずに、ウクライナで実施中の特別軍事作戦について、ロシア側を否定的にとらえる考え方を伝えた」と受け止めているという。サハリン州政府教育省も「教師のモラルと倫理に反した犯罪だ。ロシアの法律を順守しつつ、教育課程の範囲内で、確かな情報を生徒に与えることが教師のあるべき姿なのに、それに反した」とコメントした。
ロシアは2月24日、ウクライナ侵攻に踏み切った。反戦デモが全国の都市で相次ぎ、当局は参加者を次々と逮捕し、処罰した。また、ウクライナでの軍事作戦を「戦争」や「侵攻」と呼ぶことを禁じ、「軍の権威を失墜させる行為」に対して禁錮刑や罰金刑、行政罰を科す法改正をした。サハリンの女性教師が罰せられたのは、こうした社会状況が背景にある。
教職歴30年のベテランでもある女性教師は「(生徒とは)軍の話はしていない。平和の話しかしていない」と主張し、免職は不当だと訴えている。
一方、東シベリアのブリヤート共和国オノホイでは、子どもたちにスポーツを中心に教える学校で働く64歳のトレーナーが、校舎の入り口の扉に張られた「Z」の文字のマークを取り払ったことを問題視され、4月5日に裁判所に計6万ルーブル、8日に別の裁判で3万ルーブルの計9万ルーブル(約14万円)の罰金を命じられた。「Z」は露軍のウクライナ作戦への支持を訴えるシンボルとして、侵攻開始後に広まった印だ。地元紙「ブリヤートの人々」によると、裁判所は「公に露軍の信頼を失墜させた」と認定したという。
学校に「Z」の文字が張られたのは3月23日。軍の勲章に使われ「聖ゲオルギーのリボン」と呼ばれるオレンジと黒のストライプのリボンを使ってZ字形にし、セロハンテープで張ってあった。若者らが「Z」マークをあちこちに張る活動をした日だった。夕方、学校を訪れたトレーナーは、「ここは子どもたちが体を鍛えるところだ。政治とは関係ない」との考えからリボンをはがしたという。
翌日、翌々日にも「Z」マークが扉に張られており、トレーナーはそのたびにはがした。これについて学校の女性守衛と口論になり、トレーナーは「自分は戦争に反対だ」などと発言した。その会話を女性守衛が録音し、校長を通じて警察の知るところとなった。
トレーナーは警察で4時間の尋問を受け、「出身民族は何だ」「ウクライナの民族主義者ではないのか」などと聞かれたという。
校長は「今や法律が改正され、プーチン大統領自身も『ロシア軍や(ウクライナでの)軍事作戦に反対するいかなる過激主義をも許してはならない』と話している。だからこういう結末(トレーナーの処罰)になった」と語った。
プーチン大統領は3月16日、対露経済制裁への対処策を協議する政府会合を開いた。欧米がロシア国内に反逆分子を忍ばせてくることへの警戒感を示し、「ロシア国民は、本物の愛国者と、社会のくずや裏切り者とを常に見分けることができる。ブヨが飛んできて、たまたま口に入ったときのように、歩道にペッと吐き出せばいいだけだ」と述べた。「社会の自己浄化が必要だ」とも語り、ロシア社会の中から「裏切り者」をあぶり出し、排除していく姿勢を示した。プーチン氏の強硬な発言は、「国民の粛正も辞さない姿勢」とも受け止められ、社会に影響を与えているとみられる。
●ウクライナ ロシア軍の東部攻撃を警戒 化学兵器への懸念強まる  4/12
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナの国防省は、ロシア軍がまもなくウクライナ東部に大規模な攻撃を始める情報があるとして、警戒を強めています。また、東部マリウポリの防衛にあたるウクライナ軍は「ロシア軍が有毒な物質を使った」とSNSに投稿し、ロシア軍が化学兵器を使用することへの懸念が強まっています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は東部への攻勢を強めていて、ロシア国防省は11日、東部ドネツク州の各地を攻撃し、ウクライナ軍の司令部施設をミサイルで破壊したと発表しました。
こうした中、東部の要衝マリウポリのボイチェンコ市長が11日、NHKのインタビューに応じ、ロシア軍の攻撃による市内の犠牲者は2万人を超えるという見方を示しました。
これは、軍事侵攻前のマリウポリの人口のおよそ5%にあたり、ボイチェンコ市長はさらに、10万から12万人の市民が今も避難できずにいると明らかにしたうえで「ロシア軍はバスや車が市外に出るのを認めず、検問所では市内に戻るよう命令している」と述べ、ロシア軍が市民の避難を妨害していると批判しました。
ウクライナ国防省の報道官は11日「敵はウクライナ東部への攻撃準備をほぼ完了させ、攻撃はまもなく始まるだろう。これは欧米側の情報に基づくものだ」と述べ、ロシア軍が近く、東部で大規模な攻撃を始めることに警戒感を示しました。
一方、東部マリウポリの防衛にあたるウクライナ軍の部隊は11日、SNSに「ロシア軍がマリウポリでウクライナ軍の兵士と市民に対し、有毒な物質を使い、複数の人が呼吸困難の症状を示している」などと投稿しました。
ロシアの通信社によりますと、ウクライナ東部を拠点とする親ロシア派武装勢力のバスーリン報道官は11日、東部マリウポリにある「アゾフスターリ」製鉄所に、最大で4000人のウクライナ兵がいるという見方を示しました。
そして、製鉄所には地下の施設があるとしたうえで、今後の戦闘について「製鉄所を封鎖し、すべての出入り口を探し出す。その後は化学部隊が敵をいぶり出す方法を見つけるだろう」と述べ、製鉄所を制圧するために化学兵器を使用する可能性に言及しました。
これについてアメリカ国防総省のカービー報道官は11日の声明で「われわれはロシア軍がマリウポリで化学兵器の可能性があるものを使用したとするソーシャルメディア上の報告を承知しているが、現時点では確認できず、引き続き、状況を注視する」としています。
ロシア軍が有毒物質を使用したというウクライナ軍のSNSへの投稿をめぐり、化学兵器の保有などを禁止する国際的な機関の査察官としてロシアを査察した経験がある専門家は「ロシアは条約に基づいて化学兵器を全て廃棄したとしているが、化学兵器が使用されたとすれば国際社会の信頼を裏切る行為だ」と話しています。
ロシアは化学兵器の開発や生産、保有などを禁じた化学兵器禁止条約の締約国で、5年前に国内に残っていた化学兵器をすべて廃棄したとしています。
これについて6年前までOPCW=化学兵器禁止機関の査察官として合わせて30回以上、ロシアの化学兵器を査察した藤井雅行さんは「当時、ロシア国内には化学兵器の廃棄作業を行う工場が6か所あり、私たちは現地で作業の詳しい状況を監視するとともに、廃棄された化学兵器の数を確認していた。ロシアは条約に基づいて化学兵器を全て廃棄したとしていて、化学兵器が使用されたとすれば国際社会の信頼を裏切る許されない行為で、怒りや、やるせなさを感じる」と話しています。
また、複数の人が呼吸困難の症状を示しているという情報を踏まえてもし化学兵器が使われたのだとすれば「塩素ガスやサリンといった神経系のガスなどでは呼吸が難しくなるケースがある」としています。
●ウクライナ軍 “ロシア軍が有毒物質使用” 米「状況を注視」 4/12
ロシア軍がウクライナ東部への攻勢を強める中、東部マリウポリで戦闘を続けるウクライナ軍のアゾフ大隊は11日、SNSに「ロシア軍が有毒な物質を使った」などと投稿しました。アメリカ国防総省の報道官は、「現時点では確認できず、状況を注視する」としています。
東部マリウポリで戦闘を続けるウクライナ軍のアゾフ大隊は11日、SNSに「ロシア軍がマリウポリでウクライナ軍の兵士と市民に対し有毒な物質を使い、複数の人が呼吸困難の症状を示している」などと投稿しました。
これについてアメリカ国防総省のカービー報道官は11日、声明を発表し「われわれはロシア軍がウクライナのマリウポリで化学兵器の可能性があるものを使用したとするソーシャルメディア上の報告を承知しているが、現時点では確認できず、引き続き、状況を注視する」としました。
そのうえで「これらの報告がもし事実であれば深く懸念すべきことだ」と指摘しました。
また、イギリスのトラス外相はツイッターに「われわれは詳細の確認を急いでいる」と投稿しました。
化学兵器をめぐって、これまでアメリカのバイデン大統領は、ロシアがウクライナに対して使用した場合には「相応の対応をとる」と述べ、けん制していました。
松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「マリウポリでロシア軍が化学兵器を使用した可能性があるとの報道を承知しているが、他方で、化学兵器の攻撃は確認されていないとの報道も承知しており、引き続き、現地の情勢を注視していく必要がある」と述べました。
その上で「日本政府として、生物化学兵器の使用は、いかなる場所、主体、状況でも容認されない。4月7日のG7=主要7か国の外相声明でも、生物化学兵器のいかなる使用も受け入れられず、深刻な結果をもたらすことになる旨警告しており、引き続き国際社会と連携しながら対応していきたい」と述べました。
●王毅・中国外相、ウクライナ外相と電話会談、「客観的、公正な立場堅持」 4/12
中国の王毅国務委員兼外交部長は4月4日(中国時間)、ウクライナのドミトロ・クレバ外相とウクライナ情勢について電話会談を行った。両外相の電話会談は3月1日以来となる。
王外相はクレバ外相に、在ウクライナ中国人のウクライナからの避難協力に謝意を表明し、引き続きウクライナに滞在する中国人の安全確保を依頼した。
ウクライナ情勢について王外相は「中国の基本的立場は和平を呼びかけ、対話を促すというものだ。われわれは習近平国家主席が繰り返し表明した立場を現在の問題に対応するための重要な準則としている。平和を維持し、戦争に反対することは中国の歴史的な文化と伝統であり、一貫した外交政策でもある。ウクライナ情勢について、中国は地政学上の利己的利益を求めず、対岸の火事を見守るという考えもない。ましてや、火に油を注ぐことはない。心から期待するものは平和ただ1つだ。中国はロシアとウクライナが和平交渉を行うことを歓迎する。どれほど大きな困難、どれほど多くの対立があろうと、対話による和平という大きな方針を停戦および和平が実現するまで堅持すべきだ」と主張した。
また「中国は安全保障の不可分性(注)の原則に基づき、平等な対話を通じて、バランスの取れた、効果のある、持続可能な欧州の安全メカニズムを構築すべきと考える。中国は客観的・公正な立場を堅持し、引き続き自らの方法で建設的な役割を果たしていく。ウクライナは自国民の根本的利益にかなう選択をする知恵を持っていると信じている」と述べた。
3月1日の会談で王毅外相は、各国の主権と領土の完全性は尊重するが、一国の安全は他国の安全を代償としてはならないという中国の基本的立場に沿った主張を述べていた。
ウクライナ情勢についてはこれまで、習国家主席や、外交トップの楊潔篪・共産党政治局委員らも各国要人との会談で中国の立場を表明している。
(注)1975年のヘルシンキ最終文書をはじめとする、欧州安全保障協力機構(OSCE)による一連の文書などで表されている考え。相互の安全保障は不可分な関係にあり、他国の安全保障の犠牲の上に自国の安全保障を強化しないというもの。
●ロシアのウクライナ軍事侵攻による、アジア経済への影響は?  4/12
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、中国やその他のアジア諸国にどのような影響を及ぼす可能性があるのか、そして、それが投資家にとって、どのようなインプリケーションがあるのかを考えます。
アジア経済に与える影響
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、世界経済に大きな影響を与えると考えられます。アジア経済もその影響を逃れることはできないでしょう。アジアとロシアの直接の経済的な結びつきは、限定的なものですが、エネルギー価格の高騰の影響は懸念されます。アジアには、たとえば、タイ、インド、韓国など、原油の輸入依存度が高い国もあります。しかし、韓国やタイ、そしてベトナムなどは経常黒字国であり、こうした外的ショックの影響を比較的うまく吸収できるものとみています。一方、インドやフィリピンといった、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が比較的ぜい弱とみられる国については、慎重にみていく必要があるでしょう。
中国に関しては、経済規模が大きいことから、直接的な影響はより限定的とみられます。また、産業構造が多様化していること、政府による統制などによって、外的ショックをよりうまく吸収していくことが可能と考えられます。ロシアにとって、中国は最も重要な貿易相手国です。ロシアの中国への貿易依存は、今後、いっそう高まることが予想されます。しかし、中国にとってみれば、これによっても大きな影響は及ぼさず、貿易関係の非対称性を強めることになるとみられます。このことは、長期的にみると、中国政府が課題としている、人民元の国際化などを進めることに寄与する可能性があると考えられます。
不動産市場の回復は鈍く、また、ゼロ・コロナ政策によって多くの都市でロックダウン状態が続くと、消費へのマイナスの影響が出ることも懸念されます。中国当局による財政・金融両面の政策動向や、それにより景気が下支えされていくかを注視していく必要があると考えます。
投資へのインプリケーション
昨年2021年に比べて、2022年の金融市場は、値動きが大きく、難しい展開に直面しています。しかし、こうした状況がすべてマイナスであるというわけではないと考えます。
米国のイールドカーブの状況をみると、市場は米金融当局による利上げ見通しの引き上げなどを、既に織り込んでいるとみられます。
債券のアクティブ運用を行う運用者にとっては、投資機会をもたらすでしょう。高クオリティの発行体の利回りは低下するものとみられます。それと同時に、ハイ・イールド債券市場については、利回りは上昇し、高水準に達する可能性があります。中国のハイ・イールド債券利回りは、中国当局の意図に反して、上昇を続けるとみられます。
中国株式市場の動向
足元の中国株式市場は低調です。特に、中国のハイテク企業の株価は大きく下落しましたが、これは、企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)などによって引き起こされたものではなく、米中対立などの影響を受けた下落であると考えられます。反発の兆しはみられますが、回復は道半ばな状況です。当面は、値動きの大きい展開が続く可能性があることに加えて、インフレの影響などの懸念は残るでしょう。いくつかのセクターの株式については、バリュエーション(投資価値指標)水準が低下しています(たとえば、公益事業セクターなど)。一方で、高バリュエーション水準にとどまっているセクターも存在します。短期的には引き続き、経済状況、クレジット市場の動向、新型コロナウイルスの感染状況とそれに伴うロックダウンによる経済へ影響などには注視していく必要があるとみています。
●オーストリア首相 プーチン大統領と会談「楽観的な内容ない」 4/12
オーストリアのネハンマー首相は、ウクライナへの軍事侵攻のあと、EU=ヨーロッパ連合加盟国の首脳として初めてロシアを訪れ、プーチン大統領と会談しましたが「楽観的に報告できる内容はない」として、停戦の呼びかけなどをめぐって進展はなかったという認識を示しました。
オーストリアのネハンマー首相とプーチン大統領の会談は11日、ロシアの首都モスクワで行われました。
会談は、ロシアによるウクライナへの侵攻後EU加盟国の首脳としては初めてです。
会談後、単独で会見したネハンマー首相は「ウクライナの人々のために戦争を止めなければならないと彼に伝えることが私にとって重要だった」と述べ、停戦や避難ルートの設置などを呼びかけたと説明しました。
しかし「会談について楽観的に報告できる内容はない」と述べ、進展はなかったという認識を示しました。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は会談後「最近の会談としては長くはなかった」と述べるにとどめました。
ネハンマー首相はモスクワ訪問に先立って、ウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領とも会談していました。
永世中立国のオーストリアは、NATO=北大西洋条約機構に加盟しておらず、ネハンマー首相としては、双方の仲介を担うねらいがあったとみられる一方、ロシアがウクライナ東部で攻勢を強める中、成果を得るのは難しいとの見方も出ていました。
●「友好的な会談ではなかった」プーチン大統領とオーストリアの首相が会談 4/12
ロシアのプーチン大統領とオーストリアのネハンマー首相が11日、モスクワで会談した。停戦をめぐって具体的な進展はなかった模様だ。
会談はモスクワ近郊でおよそ1時間半にわたって行われた。終了後に会見したネハンマー首相はプーチン大統領に停戦を求め、応じなければロシアへの経済制裁はさらに強化されると伝えたという。また、ロシア軍によるブチャなどでの行動を「深刻な戦争犯罪」だと非難したとしている。
これに対し、プーチン大統領は国際社会に対する不信感を露わにし、ゼレンスキー大統領との会談についても明確な意向を示さなかったという。
ネハンマー首相は「友好的な会談ではなかった」とし、楽観視できるような要素はまったくないとしている。
●ロシアに「前向き印象なし」―オーストリア首相、プーチン氏と会談 4/12
オーストリアのネハンマー首相は11日、ロシアのプーチン大統領とモスクワ郊外の大統領公邸で行った会談について「(事態打開に向けた)前向きな印象は得られなかった」と述べ、ロシア軍によるウクライナ東部での「大規模な攻撃準備が進んでいる」という認識を示した。オーストリアのメディアによると会談後、単独で記者会見した。
2月下旬のロシア軍のウクライナ侵攻後、プーチン氏と欧州連合(EU)加盟国の首脳による対面形式の会談は初めて。ネハンマー氏は会談を振り返り、「ウクライナで起きている事実に関し、1対1でプーチン氏に突き付けるのが重要だ」と語った。ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で民間人の遺体が見つかったことも取り上げたが、プーチン氏は「ウクライナの仕業」と主張して議論は平行線をたどったという。
●プーチン、戦争は「早く終わらせた方がいい」…ゼレンスキーとの直接会談 4/12
オーストリアのカール・ネハンマー首相は11日、訪問先のロシアでのプーチン露大統領との会談を受けてオンライン形式で記者会見し、会談では即時停戦や市民の避難に対する協力を求めたものの、「概して良い印象は得られなかった」として、目立った成果がなかったことを明らかにした。
ネハンマー氏は単独で記者会見した。プーチン氏は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が求める直接会談の提案にほぼ意欲を示さなかった一方で、会談終盤では、戦争は「早く終わらせた方がいい」とも発言したという。
ネハンマー氏は、プーチン氏の発言はウクライナ東部での作戦強化を示唆したか、停滞しているトルコでの停戦協議への期待を示した可能性があるとの見方を明らかにした。協議を仲介するトルコのタイップ・エルドアン大統領に会談内容を伝えるという。会談では、ロシアとウクライナの「双方が敗者になる」として戦争終結を求め、犠牲者が出る限り、対露制裁は継続・強化されるとも伝えた。
会談時間は約75分間だった。タス通信によると、露大統領報道官は記者団に「最近の会談としては、長く続くものではなかった」と述べた。
●厳しい制裁が逆効果 ロシア中間層、プーチン氏支持に転向 4/12
ロシアで広告業を営むリタ・ゲルマン(Rita Guerman)さん(42)は、同国の比較的裕福な中間層の多くと同様、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に長い間反対してきた。
だが、プーチン氏によるウクライナ侵攻の決定を受け、西側諸国がロシアに厳しい制裁を科したことで、大統領に対する見方は変わった。
「私は開眼した」。ゲルマンさんはこう語り、北大西洋条約機構(NATO)からロシアを守ったとして、プーチン氏を称賛した。
西側諸国は制裁を科すことによって、ロシア国内での政府に対する支持を弱めることを期待していた。しかし識者は、厳しい制裁が多くの点で逆効果を生んだと指摘している。
親欧米派が多数を占めていた中間層の多くは、制裁による最初の衝撃がおさまると、自分たちは西側から不当な扱いを受けていると感じるようになり、プーチン氏支持に転向した。
制裁の影響はロシア国民を無差別的に襲い、外国企業との契約を失ったり、欧州への旅行ができなくなったりしたほか、ビザやマスターカードのクレジットカードや西側諸国の医薬品も利用できなくなった。
2月24日、プーチン氏がウクライナに軍隊を派遣したとき、ゲルマンさんはウクライナ企業の広告の仕上げに取り掛かっていた。当初は動揺し、ウクライナ軍に寄付をしようとも考えた。しかし、その後2週間にわたり「歴史家や地政学の専門家」の意見を聞いたことで、プーチン氏を支持するようになった。制裁の結果、外国の顧客をすべて失い、国内の顧客との仕事も途絶えてしまったという。
ゲルマンさんはAFPに対し、「普通の人間であれば戦争を受け入れることなどできない。非常につらいが、これはロシアの主権にかかわることだ」と語った。「プーチン氏はアングロサクソンから私たちを守るため、ウクライナに侵攻するしかなかった」
ロシア科学アカデミー(Russian Academy of Sciences)社会学研究所のナタリア・チホノワ主任研究員は、中間層の多くが抱く心境として、自分はプーチン氏に投票したわけではないのに、ウクライナ侵攻の責任を共同で負わされる理由が理解できないのだと説明。「欧州でロシア人全体を悪者扱いすれば、愛国心をあおるだけだ」と指摘している。
首都モスクワに住むアレクサンドル・ニコノフさん(37)はAFPに対し「反ロシア・ヒステリー」が世界中にまん延していると批判。ロシア人は団結すべきであり、「つまらないことで論争をしている場合ではない」と語った。
●政府 資産凍結の対象にプーチン大統領の娘ら約400人など追加  4/12
ウクライナ情勢をめぐり、政府は、ロシアに対する追加の制裁措置として、資産凍結の対象に、プーチン大統領の娘らおよそ400人や、ロシア最大の金融機関「ズベルバンク」を追加するほか、ロシア向けの新規の投資を禁止するなどを決めました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続き、首都キーウ近郊などで多くの市民が殺害されているのが見つかったことを受け、政府は12日の閣議で、ロシア軍の行為は戦争犯罪で断じて許されないなどとして、ロシアに対する追加の制裁措置を了解しました。
この中では、資産凍結の対象に、ロシア議会下院の議員や軍関係者、それにプーチン大統領の2人の娘など398人と、国有企業を含む26の軍事関連団体のほか、ロシア最大の金融機関「ズベルバンク」や、民間最大の金融機関「アルファバンク」を新たに加えるとしています。
さらに、ロシア向けの新規の投資や、機械類や一部の木材、ウォッカなどのロシアからの輸入を禁止するとしています。
松野官房長官は。閣議のあとの記者会見で「一刻も早い停戦を実現し、侵略をやめさせるため、国際社会と連携してロシアに対する強固な制裁を講ずる必要があるという認識のもと、必要な閣議了解を行った」と述べました。 
●ロシアの化学兵器使用に厳戒 東部で戦闘激化へ―ウクライナ 4/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日夜のビデオ演説で、ロシアによる化学兵器の使用に警戒を強めていると明らかにした。ウクライナの親ロシア派は、包囲下にある南東部の要衝マリウポリで化学剤を使用する可能性を警告。大統領は「最大限深刻に受け止めている」として厳戒態勢にあることを強調した。
東部ドネツク州全域の掌握を目指す親ロシア派幹部は11日、マリウポリの製鉄所に最大4000人のウクライナ兵が陣取っているとし、「モグラをあぶり出すため」に化学兵器を使用することをほのめかしていた。ウクライナの精鋭部隊「アゾフ大隊」はこの日、ロシア軍が無人機で「正体不明の有毒物質」を使用したと主張。ウクライナや米英などが検証を進めている。
親ロシア派幹部はその後、インタファクス通信に対し、化学兵器の使用を否定した。
トラス英外相はツイッターで、化学兵器のいかなる使用も「紛争の無慈悲なエスカレーション」に当たるとし、事実であればロシアのプーチン大統領に責任を取らせると警告した。バイデン米大統領は3月下旬、化学兵器が使用されれば米国と北大西洋条約機構(NATO)が「対抗措置を取る」とけん制している。
英国防省の12日の戦況報告によると、ロシア軍はウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州でウクライナ軍への集中的な攻撃を続けているほか、南部のヘルソン、ミコライウ周辺でも戦闘が起きている。
ベラルーシで物資補給や兵士の補充を受けたロシア部隊がウクライナ東部に再展開する動きが続いており、国防省は「今後2、3週間、東部での戦闘が激化するだろう」と分析している。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)の制圧に失敗したロシアは、5月9日の戦勝記念日までに「成果」を求めているとされ、東部ドンバス地方で総攻撃を仕掛けるとの懸念が強まっている。
●OPEC、22年の世界石油需要見通し引き下げ ウクライナ戦争で 4/12
石油輸出国機構(OPEC)は12日に発表した月報で、2022年の世界の石油需要の伸び見通しを日量367万バレルと前回予想から48万バレル下方修正した。ロシアのウクライナ侵攻による影響や原油価格の高騰に伴うインフレ進行、中国での新型コロナウイルス感染再拡大などが理由という。
月報で「22年はロシアとウクライナの双方がリセッション(景気後退)に直面することが予想されるが、他の世界経済も全面的に影響を受ける」と指摘。「コモディティー価格の大幅な上昇と、中国などで進行中のサプライチェーン(供給網)のボトルネックや新型コロナ関連の物流の行き詰まりが相まって、世界的なインフレを煽っている」とした。
OPECは、インフレが世界経済に影響を与える主因とし、今年の経済成長率予想を4.2%から3.9%に引き下げた上で、さらに引き下げる可能性があると言及。「この予想に対する一段の下方リスクはかなり大きく、特に現在の状況が22年後半まで続くか、あるいは悪化した場合、0.5%ポイント以上(の下方修正)に達すると推定される」とした。
●プーチン氏、情報員150人追放 ウクライナ侵攻難航で―英紙 4/12
12日付の英紙タイムズは、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻の難航を受け、連邦保安局(FSB)に所属する情報員約150人を「追放」したと報じた。一部は「虚偽の情報を大統領府に提供した」との責任を問われたという。
FSBはプーチン氏が在籍した旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後継機関。侵攻難航の責任が古巣の情報機関にあると判断した可能性もありそうだ。
●政府 ロシア追加制裁 アルコール飲料など38品目の輸入禁止へ  4/12
ウクライナ情勢をめぐり、政府は、ロシアに対する追加の制裁措置として、アルコール飲料や木材など合わせて38品目のロシアからの輸入を4月19日から禁止することを決めました。ロシアからのモノの輸入を禁止するのは初めてです。ロシアへの追加の制裁措置としてロシアからの輸入が禁止されるのは合わせて38品目です。具体的には、ウォッカ、ビール、ワインなどのアルコール飲料や、丸太やチップ、それに原木を切って削った単板などの木材のほか、自動車やオートバイとそれらの部品、金属加工機械、ポンプといった、機械類・電気機械が対象となります。輸入禁止は今月19日からで、政府によりますと、ロシアからのモノの輸入を禁止する措置はこれが初めてです。ただ、今月18日までに輸入の契約を結んでいるものについては、3か月の猶予期間が設けられるほか、個人的な使用が目的の場合は、対象外となっています。ロシアから日本への輸入総額は、天然ガスや石油などエネルギー資源を含め、去年は1兆5000億円ほどで、このうち今回、輸入禁止となる品目が占める割合は、全体の1.1%だということです。
ロシア法人の10%以上の株式取得なども許可制にし投資禁止へ
今回の追加制裁では、外国為替法に基づき、ロシアの法人に対し新たに10%以上の株式を取得することや、設備投資などを想定して新たに1年を超える期間の貸し付けを行うことなどを、国による許可制とすることでロシアへの投資を禁止します。ロシアの法人にはあたらない組合や団体などに対しても、日本からの金銭の支払いは禁止されます。こうした措置は、1か月の経過期間を置いたうえで来月12日から実施されるということです。一方で、今回の措置がとられる以前に行われた投資は禁止の対象外となるため、法律を所管する財務省はすでに投資が行われた案件には影響がないと説明しています。
経済同友会 櫻田代表「G7で足並みそろえるのは当然」
政府がロシアへの追加の制裁措置を決めたことについて、経済同友会の櫻田代表幹事は12日の定例会見で「価値観を共有するG7=主要7か国が一体となった制裁なので、足並みをそろえるのは当然だと思っている」と述べました。そのうえで、日本企業のロシアにおける今後の事業の在り方については「経済と安全保障は表裏一体だ。今のウクライナ情勢は数年にわたって続くかもしれず、不確実性が高まっているのは認めざるをえない。今の考え方はロシアへの依存度を下げていきながら、時間をかけて代わりのマーケットを探していかないといけない」として、段階的に縮小させるべきとの認識を示しました。
●日伊防衛相、ロシア非難 ウクライナ情勢巡り 4/12
岸信夫防衛相は12日夜、イタリアのグエリーニ国防相と防衛省で会談した。ロシア軍による侵攻が続くウクライナの情勢を巡り「民間人の殺害は重大な国際人道法違反で断じて許されない」と非難。グエリーニ氏は「国際社会と共に断固として非難したい」と言及した。イタリアは先進7カ国(G7)や、北大西洋条約機構(NATO)のメンバー国。
両氏はインド太平洋地域での中国の覇権主義的な動きを踏まえ、一方的な現状変更の試みに反対する考えで一致。岸氏は会談で「欧州とアジアの安全保障は不可分だ。インド太平洋地域への関与の高まりを歓迎する」と強調した。
●民間人殺害は「フェイク」 ウクライナ侵攻後初の記者会見―ロシア大統領 4/12
ロシアのプーチン大統領は12日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャの民間人殺害は「フェイク(偽情報)」と主張した。ウクライナでの軍事作戦の終了時期は「戦闘の激しさに左右される」と述べ、当初の計画通りに遂行すると強調した。極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で、ベラルーシのルカシェンコ大統領との共同記者会見で語った。
2月24日のウクライナ侵攻開始後、プーチン氏が記者会見したのは初めて。プーチン氏はウクライナとの停戦交渉をめぐり、3月29日に行われたイスタンブールでの協議の合意をウクライナ側が翻したとして、「再び行き詰まりの状態に戻った」と非難した。会見に先立ち、プーチン氏は宇宙基地職員らと交流し、ウクライナ軍事作戦の目標が達成されることに「疑いはない」と自信を示した。
●プーチン大統領「軍が目標達成疑いない ロシアの孤立不可能」 4/12
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻でロシア軍の苦戦が伝えられる中、プーチン大統領は「軍が目標を達成することに疑いはない」と述べました。
プーチン大統領は12日、極東のアムール州で建設を進める新しい宇宙基地「ボストーチヌイ」を訪れ、新型ロケットの発射台などを視察しました。
このあと、プーチン大統領はロシアの宇宙開発をアピールする行事で、ウクライナへの軍事侵攻について言及し、ロシア軍の苦戦が伝えられる中、「軍が目標を達成することに疑いはない」と述べました。
また、「ウクライナ東部の住民を救うためほかに選択肢はなかった」と改めて侵攻を正当化したうえで「われわれは孤立するつもりはなく、今の世界でロシアのような大国を孤立させることは不可能だ」と述べ、欧米などから厳しい制裁を科される中であくまで強気の姿勢を示しました。
現地にはロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領も招かれ首脳会談が行われていて、プーチン大統領は冒頭、経済制裁を念頭に「いわゆる外圧にもかかわらず両国の経済関係は順調に発展している」と述べました。
首脳会談でプーチン大統領はウクライナでの作戦状況を説明するとともに、欧米に対抗するための結束を確認するものとみられます。
ロシアのプーチン政権は、宇宙開発を重要な国家プロジェクトの1つに位置づけていて、宇宙に向けてロケットなどを打ち上げる新たな拠点として、極東のアムール州に宇宙基地の建設を進めてきました。
宇宙基地は、ロシア語で「東」を意味する「ボストーチヌイ」と名付けられ、国営の宇宙開発公社「ロスコスモス」は2016年、この基地から人工衛星を搭載したロケットの打ち上げに初めて成功したと発表しました。
「ロスコスモス」は2025年には有人ロケットの打ち上げを行う方針を示していて、ソビエト時代から利用している中央アジアのカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地にかわる、宇宙開発の拠点としたい考えです。
プーチン大統領がこの宇宙基地を訪れる4月12日は、61年前の1961年、旧ソビエトの宇宙飛行士、ガガーリンが人類初の宇宙飛行に成功した日で、ロシアでは、国民が誇りを抱く特別な記念日として祝われています。
プーチン大統領としては、軍事侵攻を続けるウクライナで苦戦が伝えられる上、ロシア国内で反戦を呼びかける声も相次ぐ中、記念日にあわせて、新しい宇宙基地の意義をアピールすることで、国威発揚につなげたい狙いがあるものとみられます。
●ロシアを孤立させる試みは失敗する=プーチン大統領 4/12
ロシアのプーチン大統領は12日、極東のボストーチヌイ宇宙基地を訪問し、同国を孤立させようとする米欧などの試みは失敗に終わると述べた。
旧ソ連の宇宙計画に言及し、ロシアは厳しい状況下でも目覚ましい飛躍を遂げることができると主張した。
国営テレビで大統領は、ソ連は制裁を受けて孤立していたが、世界で初めて有人宇宙飛行に成功したと指摘。「われわれは孤立するつもりはない。現代においてある国を、とりわけロシアのような広大な国を著しく孤立させることは不可能だ」と語った。
プーチン氏はベラルーシのルカシェンコ大統領と共に宇宙基地を視察。ルカシェンコ氏は「なぜそれほど制裁を懸念するようになったのか」と述べた。 

 

●プーチン氏、「アゾフ大隊」本拠地マリウポリに「懲罰」か…完全制圧目指す  4/13
ウクライナに侵攻しているロシア軍が南東部の港湾都市マリウポリの完全制圧を目指す背景として、ウクライナ民族主義を掲げる武装組織「アゾフ大隊」の本拠地であることが指摘されている。ウクライナの民族主義を反ロシア的だとしてナチス・ドイツになぞらえるプーチン大統領にとって、アゾフ大隊の打倒は国内に「非ナチ化」を実現したと訴える「戦果」となる。
アゾフ大隊は2014年にウクライナの親露派政権の崩壊につながった親米欧派の大規模デモに合わせ創設された。現在はウクライナの軍事機構に組み込まれ、ロシア軍と戦っている。
プーチン政権は、14年の政権交代を「クーデター」とみなし、アゾフ大隊も敵視する。
ウクライナを攻撃するロシア軍は、3月初めから人口約40万人のマリウポリを包囲し苛烈な「兵糧攻め」を続けている。このため人道危機が深刻化している。
米国の政策研究機関「戦争研究所」は11日、マリウポリ攻略は、ロシア軍のウクライナ侵攻作戦の総司令官に任命されたと報じられているアレクサンドル・ドボルニコフ上級大将が指揮してきたと指摘した。
ウクライナ南部クリミアから東部の親露派武装集団の支配地域につながる「回廊」確保を目指すプーチン政権にとって、マリウポリ制圧は戦略的に重要だ。
一方、ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は3月下旬のインタビューで、プーチン氏が「マリウポリが親露派に付かなかったことへの恨みを晴らそうとしている」と指摘した。ロシアが14年にクリミアを併合した後に勃発したウクライナの東部紛争で、マリウポリは親露派地域に入らなかった。このためプーチン氏はマリウポリに「懲罰」を科しているとの見方を示したものだ。
プーチン氏は5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日での「勝利宣言」に向け、国内向けの「戦果」が求められているとされる。マリウポリを制圧できれば「戦果」として強調できる。マリウポリの攻防は、ロシアの侵攻作戦全体の行方に影響する可能性がある。
●国連 “ウクライナで少なくとも1892人の市民が死亡”  4/13
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から今月11日までに、ウクライナで少なくとも1892人の市民が死亡したと発表しました。このうち153人は子どもだということです。
死亡した人のうち1217人はキーウ州や東部のハルキウ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州などで、675人は東部のドネツク州とルハンシク州で確認されています。
また、けがをした人は2558人にのぼるということです。
多くの人たちは砲撃やミサイル、空爆などによって命を落としたり、負傷したりしたということです。
今回の発表には、ロシア軍の激しい攻撃を受けている東部マリウポリなどで、確認がとれていない犠牲者の数は含まれておらず、国連人権高等弁務官事務所は、実際の数はこれよりはるかに多いとしています。
●目的完遂まで作戦継続 ロシア大統領、民間人殺害を否定― 4/13
ロシアのプーチン大統領は12日、ウクライナ侵攻の停戦交渉に関し、ウクライナ側の翻意によって「再び行き詰まりの状態に戻った」と非難し、合意に達しない限りは「最初に設定された目的が完遂されるまで軍事作戦を継続する」と述べた。極東アムール州で行われたルカシェンコ・ベラルーシ大統領との共同記者会見で語った。
プーチン氏は、3月29日にイスタンブールでの停戦交渉で「安全の保証」に関する一定の合意に達した後、ウクライナ側が態度を翻したと主張。「原則的な問題での一貫性のなさが最終合意に達することを困難にしている」と批判した。軍事作戦の終了時期は「戦闘の激しさに左右される」と強調し、当面戦闘を続ける意向を示した。
ウクライナが態度を硬化させたのは、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでロシア軍撤収後に多数の民間人殺害が発覚したことが原因だ。ブチャのフェドルク市長は12日、これまでに403遺体が確認されたと明らかにした。しかし、プーチン氏は会見で民間人殺害について「フェイク(偽情報)だ」と主張した。
●プーチン大統領 “停戦交渉こう着 目的達成まで軍事作戦継続”  4/13
ロシアのプーチン大統領はウクライナと行っている停戦交渉について「ウクライナが合意から後退し、こう着状態に陥った」と非難しました。そのうえで「目的が達成されるまで軍事作戦は継続する」と述べ、現時点では停戦に応じず、軍事侵攻を続けていく考えを強調しました。
ロシアのプーチン大統領は12日、ロシア極東でベラルーシのルカシェンコ大統領と首脳会談を行いました。
会談後、共同で記者会見したプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻について「欧米が育てた極端な民族主義勢力との衝突は避けられず、もはや時間の問題だった」と述べ、改めて正当化しました。
そのうえで「状況は悲劇だが、ウクライナ人はきょうだいのような民族だ」と一方的な持論を展開しました。
そして「軍事作戦をもっと早く進められないのか聞かれるが、戦闘を激しくすることでそれは可能だ。ただ、残念ながら犠牲者を伴う。われわれは、計画に沿って粛々と作戦を実行する」と述べました。
一方、ロシア軍が撤退した首都近郊のブチャで多くの市民が殺害されているのが見つかり、欧米がロシアによる戦争犯罪だと非難していることについてプーチン大統領は「シリアで化学兵器が使用されたと騒がれた時と同じようにフェークだ」と主張し、ロシアの関与を否定しました。
そのうえで、トルコのイスタンブールで先月末に行われた停戦交渉についてプーチン大統領は「ブチャをめぐる挑発行為を受けてウクライナ側が当時の合意から後退し、こう着状態に陥った」と非難しました。
そして、一方的に併合したウクライナ南部のクリミア半島や東部地域の独立の承認が合意の前提になるというロシア側の主張を踏まえ「交渉で最終合意に至り、目的が達成されるまで軍事作戦は継続する」と述べ、現時点では停戦に応じず、軍事侵攻を続けていく考えを強調しました。
また、プーチン大統領は、中長期的には欧米の制裁がロシア経済に影響を与える可能性があるという認識を示しながらも「困難な状況下でロシア人は常に団結する。われわれはこの困難に対処していく」と述べ、ロシアを孤立させようとする欧米側の試みは失敗すると強気の姿勢を示しました。
●キーウ敗北軍の再構築でさらなる大打撃被るロシア軍 4/13
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月24日に開始したロシア・ウクライナ戦争(露宇戦争)は既に50日が経過しようとしている。
過去10年間、ロシア軍の近代化と戦力向上について多くのことが語られてきたため、戦争開始以前は、「ロシアは世界最大かつ最強クラスの軍隊を保有している」と広く信じられていた。
軍事力は米国には及ばないが、ウクライナのような軍事的弱小国を征服する能力はあると思われていた。
プーチンは、2日間で首都キーウを占領し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を打倒し、ロシアの傀儡政権を樹立し、ロシアがコントロールするウクライナの建設を夢想した模様だが、その試みは見事に失敗した。
7週間にわたるウクライナでの戦争で、ロシア軍は首都キーウを占領できず、大きな損害を出して撤退せざるを得ない状況になった。
ロシア連邦軍の評判は地に落ちている。そして今、ロシア軍はウクライナの他の地域でも劇的な成功は望み薄で手詰まり状態になりつつある。
プーチンが始めた露宇戦争は、プーチンの意図とは逆に、米国などの民主主義陣営の結束を強化する結果となり、ロシアの国際社会における孤立を決定的なものにした。
さらに、民主主義諸国のロシアに対する厳しい経済制裁は、ロシア経済に甚大な被害を与え、ロシアの国力は徐々に減衰する可能性が高い。
2014年のロシアのクリミア半島併合に対する経済制裁ですらロシアの製造業、特に軍事産業に大きな影響を与え、西側諸国の部品を必要とする武器の製造を困難にした。
例えば、ロシアの最新戦車「アルマータ(T-14)」は、西側諸国の部品が入手できずに量産(当初の計画では2020年までに2300両の製造を予定していた)を断念した。
世界の軍事専門家が「なぜアルマータが戦場に登場しないのか」という疑問に対する答えがここにある。
2022年の経済制裁は、2014年のそれに比較にならないくらいに厳しい。
西側から半導体やベアリングが入手できず、最新鋭の軍事装備品が製造できないロシアはもはや軍事大国とは言えない状況になるであろう。
考えてみれば、今回のプーチンの歴史的な誤判断のために、世界的なパワーバランスが民主主義陣営にとって有利な状況になる可能性が出てきた。喜ばしいことである。
1 ロシアが敗北したわけ:ロシア側の要因
露宇戦争の初期作戦において、ウクライナ軍がロシア軍に勝利したことは明白である。
ウクライナ軍は、特にロシア軍の主攻撃であった首都キーウ正面において、ロシア軍に大打撃を与え、ロシア軍を撤退せざるを得ない状況にした。
この項では、ウクライナが強大な大国と思われたロシアとの緒戦において勝利したのはなぜかについて、ロシア側の原因に着目して記述する。
   独裁者プーチンの戦争
露宇戦争は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」であると私は思っている。
つまり、今回の戦争に対してはその結果も含めてプーチンにすべての責任がある。
独裁者プーチンが自ら戦争の実施などの重要事項を決定した。プーチンの決定は、プーチンとプーチン以外の断絶を明らかにした。
戦争をやる気満々のプーチンと戦争に乗り気でないプーチンの側近たち、特に国防相セルゲイ・ショイグやロシア連邦軍参謀総長ワレリー・ゲラシモフの間には断絶がある。
プーチンを今まで支えてきたシロビキ(治安・国防関係者)、オリガルヒ(新興財閥)、ロシア軍がプーチンについていけない状況になっている。
20年以上にわたりロシアのトップに君臨したプーチンは裸の王様になっている。
裸の王様には正しい情報が流れない。プーチンが喜ぶ情報しか彼に届かないで、彼にとって不都合な情報は届かない状況になっていると言われている。
この状況がロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価するという致命的な結果を招いてしまった。
   ロシア軍を過大評価しウクライナ軍を過小評価してしまった
プーチンは、ロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価してしまった。
その結果、戦争を始める前に行う情報見積(敵の能力や敵の可能行動に関する見積)や作戦見積(我に関する見積で、行動方針やその結論を含む)が極めて不適切なものとなり、その見積に基づいて作成される作戦計画が問題だらけになってしまった。
例えば、2日間で首都キーウを占領し、ゼレンスキー政権を排除し、傀儡政権を樹立し、ウクライナ全体を数週間で占領するなどの計画は非現実的なものになってしまった。
今回の初期の作戦では大きく分けて北、東、南方向からの攻撃を19万人の兵力で約19万人のウクライナ軍に対して実施してしまった。
通常、攻撃側は防衛側の5倍の戦力で攻撃しなければ成功しないのが原則だ。
この原則に従うと95万人の兵力が必要であるので、そもそもロシア軍の攻撃は失敗するのが必然だったのだ。
甘い見積や計画のために、食料・飲料水、弾薬、燃料などの兵站が機能しなくて大問題を引き起こしてしまった。
「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」という格言があるが、兵站なくして戦争の勝利はあり得ない。
この兵站の問題は深刻な問題で4月12日の時点でも解決していないし、今後とも大幅に改善することはないであろう。
その他の敗北の原因は、ウクライナ軍・ゼレンスキー政権・ウクライナ国民の頑強な抵抗や西側諸国の経済制裁に対する過小評価、情報戦の失敗、航空優勢獲得のための航空攻撃・ミサイル攻撃が不完全、ロシア軍の練度・士気の低さ、厳寒期の寒さ対策の欠如による凍傷の多発などが列挙できよう。
   ロシア陸軍の中核である「大隊戦術群」の致命的な欠陥
ここで、軍事的に非常に重要な部隊編成の欠陥について記述する。
ドゥプイ研究所(TDI:The Dupuy Institute)は、トレヴァー・ドゥプイ(Trevor N. Dupuy)が設立した研究所で、軍事紛争に関連する歴史データの分析を主とした学術的研究機関だ。
TDIがツイッター(@dupuyinstitute)で、「ロシア地上軍の中核である大隊戦術群(BTG:Battalion Tactical Group)の欠陥がロシア軍の作戦失敗の大きな原因である)と本質的な主張しているので紹介する。
BTGとは、簡単に言えば、大隊規模の任務編成された諸兵科連合(combined arms)チームのことである。
第2次世界大戦以降、すべての主要な軍隊が諸兵科連合チームを採用している。
図1を見てもらいたい。BTGは増強された機械化歩兵大隊で、3個の歩兵中隊に砲兵中隊、防空小隊、通信小隊、工兵小隊、後方支援部隊などで編成され、総計で兵員700〜1000人(この中で歩兵は200人)、戦車10両、装甲歩兵戦闘車40両の部隊だ。
ここで注目されるのが歩兵の数が200人と極端に少ない点である。
ロシア軍は、170個のBTGを編成したが、その中で128個のBTGが今回の戦争に参加し、37〜38個が壊滅的損害を受けている。
128個中38個の損害は30%の損害であり、軍事の常識で30%の損耗を被るとその部隊は機能しなくなる。
特に主攻撃であった首都キーウを包囲し攻撃したBTGの損害は最大50%という情報もあり、この正面が攻撃をあきらめて撤退したのは当然のことであった。
   図1:「大隊戦術群の編成」
ドゥプイ研究所はツイートでBTGの問題点を列挙しているが、主要な指摘は以下の通りだ。
・ ロシア軍が現在BTGを重視しているのは、利用可能な人員が不足しているためである。BTGはチェチェン紛争の際に便宜的に使用され、2013年にロシア国防省のマンパワーが少ないことへの対策として全面的に採用されたものである。
・ロシア軍のBTGとドクトリンは、マンパワーを犠牲にして、火力と機動力を重視して構築されている。
・ 西側のアナリストは、ロシアのBTGはリアルタイム(またはほぼリアルタイム)で長距離砲撃をネットワーク化することができると考えていた。例えば2014年のゼレノピリア攻撃*1のように。
(なお、ゼレノピリア攻撃とは、2014年7月11日の早朝、ロシア領土内からロシア軍によって発射されたロケット弾幕が野営していた37人のウクライナの兵士と国境警備隊員を殺害した攻撃のことだ)
・BTGは、実際にはこれが機能しないことが判明した。安全な手段で通信することさえできないし、ましてや遠距離で素早く効果的に狙いを定めて攻撃することはできない。このため、BTGの戦闘力の優位性はほとんど失われている。
・ロシアのBTGは有能な諸兵科連合戦術を実行できないように見える。第1次世界大戦以来、諸兵科連合は近代的な火力・機動戦術の基本中の基本であったから、BTGは基本的に失敗の組織である。
・これは、効果的な歩兵支援の欠如に大きく表れている。BTGの歩兵は、ウクライナの機械化・軽歩兵の対戦車キラーチームが、ロシア軍の装甲戦闘車(AFV)、歩兵戦闘車(IFV)、自走砲を攻撃するのを防ぐことができない。装甲部隊の防護は歩兵の主要な仕事である。
・これは歩兵部隊が有効でないためか、BTGの歩兵の数が足りないためかは不明であるが、おそらく両方であろう。
・実際、BTGは、妥当な戦闘損耗で、防御された市街地を攻撃し占領するのに必要な歩兵部隊の質と量を欠いている。
・BTGの人員構成がスリム(約1000人以下)であるため、多くの消耗を被ると戦闘力と効率性が著しく低下する。
・BTGのパフォーマンスが、ロシア軍の人員と訓練に内在する欠陥によるものか、それとも教義上のアプローチの欠陥によるものかを判断するには、徹底的な分析が必要である。しかし、ここでもまた両者に原因があると思われる。
・いずれにせよ、これらの問題は短期的には改善されそうにない。この問題を解決するためには大規模な改革が必要である。
以上のようなドゥプイ研究所の主張は妥当だと思う。ロシア軍が露宇戦争に勝てない要因が根本的なものであるならば、今後のロシア軍の苦戦は明らかであろう。
*1=2014年7月11日の早朝、ロシア領土内からロシア軍によって発射されたロケット弾幕は、野外でキャンプしていた37人のウクライナの兵士と国境警備隊を殺害した。
2 選択肢を失いつつあるロシア軍
セントアンドリュース大学(スコットランド所在)のフィリップス・オブライエン教授は、ロシア・ウクライナ戦争についてツイッターや有名雑誌への投稿など精力的に情報発信を行っている。
本項は、オブライエン教授の論考「選択肢を失いつつあるロシア軍(The Russian army is running out of options)」やツイッター(@PhillipsPObrien)でロシア軍に対する厳しい批判をしているので紹介する。
   ロシア軍の規模は小さすぎる
キーウの戦いでの失敗後、ロシア軍は東部と南部の軍を統合し、ドンバスのウクライナ軍の包囲殲滅などの大規模な攻勢を再開しようとしている(図2を参照)。
   図2:「4月11日の戦況図」
問題は、ロシア軍の作戦が、小さすぎるロシア軍に依存していることである。
東部で大規模な作戦を展開し、ウクライナの陣地を急速に突破してウクライナの主要都市を奪取するには十分な戦力と新たな戦術・戦法が必要だ。
つまり、敗北した部隊を迅速に再編成して補給し、以前の失敗から多くを学び、複雑な作戦を勝利に導く戦術・戦法を採用する必要がある。
ロシア軍は、今までこれらすべての点で失敗してきた。
ロシア軍はおそらく、東部や南部で大規模な攻撃を成功させる代わりに、作戦開始以来行ってきたように、兵力の維持に苦労し、兵站に苦しむことになる。
ある地域では少しずつ成果を上げ、別の地域では押し戻されることになるだろう。
これは、何よりもまず、ウクライナに投入されたロシア軍の規模が小さすぎるためであり、その他のロシア軍も、指導者が実際に効果を上げることができると信頼できるような兵力を有していないためである。
ロシア軍は特別に大きいというわけではなく、実際には、戦闘力の点で中型の軍隊に過ぎない。
ロシアは19万から20万人の兵士でウクライナに侵攻したが、この部隊にはロシア陸軍のまともな戦闘力を持つ部隊の約75%(170個のBTGから128個BTGが戦争に参加していると仮定)を含むと考えられていた。
これまでのところ、この75%のロシア軍最高の部隊は苦戦している。
キーウ周辺で敗れ、多くの死傷者を出した後、急遽撤退を余儀なくされ、北ウクライナには多くの破壊または放棄された装備が散乱している。
南部と東部でも、ドンバスのイジウムに向けて少しずつ前進しながら、南西部のヘルソンでは実際には後退させられており、3週間前からほとんど動きがない状態となっている。
   敗戦で大きな損害を出した部隊を再使用する長期戦は難しい
もしロシア軍の状態が良ければ、プーチンはウクライナ以外に配置されている部隊を投入し、損害を出している侵攻軍を助けることができるだろう。
しかし、実際にはその逆であるように思われる。
つまり、ネオナチの傭兵(民間軍事会社の私兵「ワグネル」)などを除いて、ロシア指導部はキーウの戦いで敗れた部隊を再使用しようとしていている。
これは、通常の軍事的常識では理解できない話だ。
キーウ正面の戦いで敗北した兵士たちは6週間の戦闘を経験し、多くの仲間が殺されるのを見て、ウクライナ軍を恐れるようになっている。
兵器を整え再編成し、新たな戦場へ移動する前に、何よりもまず休息が必要なのだ。
そのためには、よく組織された軍隊でも通常数週間かかるし、ロシア軍にとっては兵站が再び大きな足かせになる可能性がある。
ロシア兵を早く悲惨な戦争に再び戻そうとすることは、プーチン指導部のパニックの表れであり、プーチン政権にとって大きなリスクとなる。
ロシア軍の兵士がウクライナへの派兵を拒否したという話はすでにある(空挺部隊のような精鋭部隊の一部も拒否している)。
再投入された部隊は、完全に崩壊状態になる可能性がある。
人間は、戦争の緊張に長く耐えることは難しいし、敗戦した軍隊はその緊張をうまく受け止められない場合が多いのだ。
これは、ロシアの兵力がウクライナ全土を占領するのに十分ではないことが原因だ。
南部と東部の一部を占領するのに十分な兵力はあるかもしれないが、その後にそれらの地域を保持しようとすると、良質な部隊が残っていない。
ロシアがより長い戦争をするためには、全く新しい軍隊を創設し、訓練し、装備を与える必要がある。
ロシア社会の戦争へのコミットメントが問われ、ロシア人を解放し、ウクライナを非ナチス化するための戦争であるというロシア国家の嘘が完全に崩れ、すでに西側諸国の経済制裁が威力を発揮しつつある。
ロシアがウクライナで直面している基本的な問題は、その軍隊があまりにも小さく、ロシア政府が信頼する兵士が少なすぎて、実際に戦えないことだ。
ロシア軍は、多くの人が想像しているよりも悪い状態にある可能性が高い。
つまり、ロシア軍は今後、マリウポリの占領などの小さな戦果を得ることがあっても、プーチンが戦争開始にあたり夢見たような大戦果を得ることはなく、戦争が数年間継続する公算が高くなっている。
最後に、我々日本人は露宇戦争から多くの教訓を学び、我が国の問題だらけの安全保障体制を改善する努力をすべきであろう。
●ウクライナ戦争 世界食料安保への影響 食い止めよ−FAO事務局長 4/13
FAO(国連食糧農業機関)は4月8日にウクライナ戦争が世界の食料安全保障に及ぼす影響を議論するためFAO理事会を召集し、屈冬王事務局長が世界のサプライチェーン機能を維持することの重要性を強調した。
FAO理事会は最新の食料価格指数が159.3ポイントと過去最高を更新するなかで開かれた。
屈事務局長は「小麦や植物油など主食の価格は最近高騰しており、世界の消費者、とくに最貧困層に異常なコストを押し付けている」と指摘するとともに、エネルギー価格も上昇しているため「脆弱な消費者や国々の購買力はさらに低下している」と述べた。
一方で肥料価格は高騰し、来シーズン、さらにそれ以降も肥料使用量の減少を招き、食料生産の低下がさらに食料価格の上昇につながるという見通しもあり「2022年以降、さらに多くの栄養不足の人々が発生する可能性がある」と警告した。
ロシアとウクライナは合わせて世界の小麦輸出の3割、ヒマワリ輸出の8割を占め、ロシアは最大の肥料輸出国であることから、「この2か国からの供給途絶は世界の食料農業システム全体に及ぶことになる」と指摘した。
こうしたなか「世界貿易システムを停止させてはならないし、輸出を制限したり課税したりしてはならない」と強調した。
具体的な提案は、もっとも脆弱な国々が肥料を効率的に使用できるように支援する詳細な土壌マップの作成と実施、的確な社会保護計画、アフリカ豚熱など動物疾病蔓延を防ぐため、ウクライナ近隣諸国でのバイオセキュリティの強化、市場の透明性と政策対話の強化により、混乱を最小限に抑え、食料の円滑な貿易の流れを確保するなど。
屈事務局長は「よりよい生産、よりよい栄養、よりよい環境、よりよい生活をすべての人に確保し、誰1人として取り残されることがないよう、効率的で首尾一貫した方法でともに働こうと」と呼びかけた。
●ウクライナ、ロシアに捕虜解放要求 親ロ派有力者と交換で 4/13
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、国内の親ロシア派有力政治家の拘束を解くことと引き換えに、ウクライナ人戦争捕虜を釈放するようロシアに求めた。戦闘の長期化が予想される中、米国はウクライナに追加の軍事支援を行う構えだ。
バイデン米大統領は12日、ロシアのウクライナ侵攻が「ジェノサイド(集団殺害)」に該当するとの見方を初めて示した。その後、発言を補足する形で、法的手続きによって最終的に認定されることになると述べた。
ウクライナ当局は同日、「野党プラットフォーム―生活党」の党首でロシアのプーチン大統領と親交が深いビクトル・メドベチュク氏を逮捕したと発表。同氏は昨年に国家反逆容疑で捜査対象となり、今年2月に自宅軟禁から逃亡したと当局が公表していた。不正行為は否定している。
ゼレンスキー氏は早朝のビデオ演説で「ロシアには(メドベチュク氏)と、ロシアの捕虜になっているウクライナ人との交換を提案する」と述べた。
タス通信によると、ロシア大統領府(クレムリン)の報道官はメドベチュク氏が手錠を掛けられている写真を見たが、本物かどうかは分からなかったと述べた。
プーチン大統領はこれに先立ち、1週間余ぶりにウクライナ戦争について公の場で発言。ロシアは軍事作戦を「規則正しく冷静に」継続すると述べ、安全保障などの目的が達成できると確信していると表明した。
また、ウクライナとの和平交渉は「再び行き詰まった」との見方を示した。
発言中は、要点がまとめらないまま話を続けたり、口ごもる場面が多くあった。プーチン氏の特徴でもある冷徹な表情は時折見せただけだった。
一方、米政府が早ければ13日にウクライナに対する7億5000万ドルの追加軍事支援を発表すると、事情に詳しい関係者2人がロイターに述べた。
ウクライナ南東部ドネツク州のキリレンコ知事は、ロシア軍に包囲されている同州マリウポリで化学兵器が使用された可能性があるとの情報について、確認はできないと述べた。
米英は、ロシア軍が化学兵器を使用した可能性について検証を進めている。
●ウクライナで自壊するロシア、衰退後に中国が得る漁夫の利を阻止するには 4/13
中国共産党の機関紙、人民日報が運営する「人民網日本語版」が、ロシアのウクライナ侵略を奇貨として利益をむさぼる米国を痛烈に批判している。
4月7日付記事「ロシア産エネルギー禁輸で『確実に儲ける』米国の思惑」と題された論評で、中国共産党は「ロシア・ウクライナ紛争を作り出した米国は、利益を得続けるための作戦を早くからしっかりと立ててきた」と主張。「対露制裁の圧力を振りかざしながら、エネルギー・安全保障面で欧州への束縛を強化することで、対露制裁の負の影響の代償を同盟国に払わせると同時に、自国は戦争で大儲け」する米国を難じた。
この批判は、主に米国と欧州の離間を狙ったプロパガンダではあるが、鋭いところを突いている。侵略されるウクライナを支援する正義を掲げる米国だが、我田引水で自国の軍産複合体やエネルギー産業が潤うと同時に、その覇権的影響力が再拡大し、漁夫の利を得ていることは事実である。
もっとも、戦争で漁夫の利を得ることを利益相反、不道徳、利己主義と規定することで、中国共産党は自らの首を絞める結果になっている。ウクライナ戦争の戦況が悪化する中、一連のプーチン大統領の自壊的な行動が中国を経済的・覇権的に利する構造が出現し、それを中国が積極的に利用している現実が明確になりつつあるからだ。
さらに、人民日報が米国の不純な動機を攻撃することで、かえって中露の同盟的な協力関係が浮き彫りになった。結果として、中国共産党が最も世界の目から隠したい自国の利益相反や覇権への野望が浮き彫りになっていることは、誠に皮肉だ。
問い詰められても口を割らないが、勝手に話させると自ら隠すべき秘密をペラペラと喋ってしまうという、ことわざで言うところの「語るに落ちる」という失敗を、中国共産党自身がその米国批判で見事にやらかしているのだ。その矛盾を見ていこう。
中国共産党が放った壮大なブーメラン
まず人民日報は、「米国が欧州向け天然ガス輸出の拡大を発表したのは、決して欧州のためを思ってではなく、自国企業にビジネスチャンスを生み出すためだ」として、利他的に見える行為の裏には利己的な動機があることに読者の注意を向ける。
同紙はさらに、米国が「ロシアの地政学的空間をさらに狭め、欧州に対するコントロールを強化して、日増しに衰退する自らの世界覇的覇権を強固なものにすることを戦略目標としている」と主張する。
こうした中国共産党の言い分から抽出できる普遍的な教訓は、「国々の利他的に見える言動には利益相反があり、利己的な動機と目的が隠されていることがある」「国々は、他国の戦争に乗じて自国の覇権の拡大を図ることがある」である。
人民日報の論評では該当するケースとして米国が挙げられているが、こうした傾向は何も米国に限ったことではなく、歴史的に見てもあらゆる時代の多くの国に適用できる真理であると言えよう。
翻って、中国共産党が「他国の戦争で我田引水を図る利益相反や覇権拡大は悪である」と普遍的な規定を行った以上、自身もその基準で判定され、制約を受ける立場になったということだ。それは、壮大なブーメランと化す。
何となれば中国は、当初意図した結果ではないにせよ、ロシアがウクライナでの戦争で消耗して弱体化することにより、(1)覇権拡大、(2)地政学的な空白の充填、(3)経済的な利益、(4)軍事的な利益の少なくとも4点において有意な恩恵が見込めるからだ。
ロシア衰退後の空白を埋めるのは誰か?
まず覇権の面では、ロシアの国力と通常兵力が衰退することで、米中露の3大超大国からロシアが事実上脱落し、中国の超大国化に貢献することが予想される。世界は米中によりブロック化され、中国が世界の2大盟主の一角を占めることで、「偉大な中華民族の復興」のプロジェクトが加速すると思われる。
次に、覇権と密接に関連して、ロシアの弱体化により将来的に中東、中央アジア、アフリカ、米州に生まれることが予測される地政学的空白に、中国が入り込むチャンスが生まれる。
これには、米国に対するレバレッジとしてロシアを利用するシリア、リビア、エジプトなど中東の国々、ウズベキスタン、トルクメニスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンなど中央アジア諸国、マリ、中央アフリカ、モザンビーク、アンゴラ、ギニア、ブルキナファソ、マダガスカルなどのアフリカの国、キューバ、ニカラグア、ベネズエラなど中南米の国々が含まれる。
これらの国々はいずれも、中国が米国に対抗していく上で重要な拠点になり得る場所ばかりだ。また、ロシアは「中国を除くユーラシア大陸の支配」というあいまいで狭義の秩序構想しか持たないようだが、中国にはより具体的かつ壮大な一帯一路構想がある。将来の潜在的な空白地帯に対する計画と準備は、すでに整いつつある。
一方で、たとえロシアが衰弱しても、その国際的な影響力が即座かつ完全になくなるわけではない。場所によってはロシアの残す空白を、イランやトルコなど中規模の新興勢力や米国が埋めることになるだろう。だが、長期的かつ全体的に見れば、親露国でロシアの地政学的な代替候補にまず挙がるのは中国ではないだろうか。
加えて、イデオロギー面から見ても、ロシアに代わってイランやトルコなど親米的とは言えない有力地域勢力の地政学的パートナーになれるのは、米国ではなく中国だと思われる。中国の得る漁夫の利は、ウクライナにおける戦争で自国の軍産複合体やエネルギー産業が潤い、地政学的な勢いをいくらか回復する米国のそれよりも、はるかに大きいのではないか。
中国が実際に得るであろう漁夫の利
さらに、ロシアがウクライナにおける戦争の泥沼にはまり込むことで金融制裁を招き、国債も債務不履行がほぼ確実だ。外国資産の一方的接収や特許権料の踏み倒し予告などで孤立したため、中国は大きな漁夫の利が望める。
まず、西側による金融・経済制裁で、ロシアの原油や天然ガスの近未来的な大口顧客が減り、中国の比重が増すことで、原油や天然ガスなどを安く買い叩くチャンスを得られる。
また、前回記事「追い詰められたプーチンはいつ生物化学兵器の使用に踏み切るのか」で分析した対露兵器輸出による利益に加え、米国と対立する金融センターとしての地位、反米国グループの決済通貨としての人民元の国際化と地位の向上など、中国には天祐とも言うべき状況だ。ロシアにつぶれてもらっては困るが、弱体化してくれた方が、中国の長期的な利益には合致する。
さらに、西側の国際貿易システムから締め出されたロシアと他国の間接貿易のブローカーとしての儲けも見逃せない。
シグマ・キャピタルのチーフエコノミストである田代秀敏氏は週刊新潮の記事で海産物の例を挙げ、「ロシア産のカニやウニは代替が難しく、日本は今後、中国の商社を経由するなどの形で仕入れるほかない。中国の商社にとっては販路拡大と手数料収入が見込める無二の好機。(日本は)人民元での決済も迫られるだろう」と分析している。
一方、軍事面においても、追い詰められて背に腹は代えられぬロシアから、虎の子のテクノロジーを中国が入手できるチャンスが高まろう。
具体的には、近年の進歩が目覚ましいものの、信頼性、性能、寿命の面でいまだにロシア製の最先端製品に敵わないとされる中国製の戦闘機エンジン向けのライセンス供与や、極超音速ミサイルの技術共有なども話し合われる可能性がある。
戦闘機ターボファンエンジンの技術は、ロシアが大切にして手放さないものだ。中国側が長く不満に感じてきた分野でもあり、特に注目される。そうした技術が手に入れば、中国の殲-20(J-20)双発ステルス制空戦闘機などに採用され、日本の空の脅威になる恐れも考えられる。わが国は「ロシアの弱体化による中国の漁夫の利」に相当の注意を払う必要がある。
中国に漁夫の利を得させない方法
そもそも漁夫の利(漁父之利)とは、前漢の劉向の編んだ戦国策(燕策)が出典である。カワセミ科の鳥である鷸(しぎ)がイシガイ科の二枚貝である蚌(はまぐり)の肉を食べようとして、蚌の貝殻に嘴(くちばし)を挟まれてしまい、膠着状態で互いに争っているうち、現場に居合わせた漁夫に両方とも捕らえられたという寓話にちなむ。
今回の戦争では、鷸たるロシアが、蚌であるウクライナの肉を食そうとして、嘴を貝殻で挟まれてしまったような事態であろう。両者が争って共倒れしてくれた方が、地政学上の新興勢力である「漁夫」の中国にとっては好都合だ。
記事の冒頭に引用した人民日報の記事では、米国が漁夫ということになっているが、本来のことわざの意味とキャラクター設定、そして現在の情勢の推移や利害関係を見ると、虎視眈々と濡れ手に粟を狙う中国こそが漁夫であるとの説明の方がしっくりくる。
この鷸蚌の争い(いっぽうのあらそい)で、地政学上の現状変更を目論む中国に漁夫の利を得させることは、日本や世界の益にはならない。
では、それを阻むにはどのようにすればよいか。すでに鷸役のロシアは疲弊して弱っており、漁夫の中国が独り勝ちすることは防げないように思える。現実的に見て、その底流をここで変えるのは無理だろう。
ただ、中国のコストを吊り上げて、漁夫の利を縮小させることは可能ではないだろうか。
具体的には、前回記事「追い詰められたプーチンはいつ生物化学兵器の使用に踏み切るのか」で見たように、中国がロシアの侵略に作為・不作為の加担をしたエビデンスを収集して2次制裁を課すことが有効であろう。中国外交部の趙立堅報道官も、「制裁は双方または各方面に損害をもたらす」と認めている通りだ。
無論、米欧日を含めて中国が上得意である国々にとっては、対露制裁とは比較にならない経済的な痛みを伴うため、2次制裁が極めて困難であることは自明だ。しかし、どれだけ抜け穴だらけであっても、経済・金融制裁は中国に損害をもたらし、打撃を与える。中国の占める漁夫の利を減らせるわけだ。
●中国に対する2次制裁を検討すべき時  4/13
2次制裁が中国の台湾侵略や西太平洋独占支配に向けた軍事行動を阻止するかと言えば、答えは「ノー」だろう。中国共産党は、「国際社会における中国の立場」という合理性ではなく、「党の核心たる習近平の権威護持」「指導者が成し遂げる中華民族の偉大な復興」という内在的な最重要課題に基づいて行動するからだ。
東京大学東洋文化研究所の松田康博教授は、東洋経済オンラインで以下のように指摘している。
「中国にとって、『平和統一政策』はいまだに現行の政策である。『平和統一政策』があってこそ中国は『平和発展戦略』を続けられるのだ。中国にとって、武力に頼る対台湾政策よりも、経済的交流を通じて台湾独立を阻止し続ける方がはるかにリスクは低い。中国指導部にこのことをきちんと理解させるためにも、日本を含め、関係諸国は対ロシア制裁を貫徹する必要がある」
だが、松田氏のロジックは、中国の内在的論理と整合性がないように思える。「ロシアのウクライナ侵略はない」と開戦前に主張していた識者の言説との深い類似性も気がかりであるし、何より「中国は平和・対話・情勢の沈静化の側に立っている」(中国外交部の王毅部長)との中国の主張にそのまま沿っているように見えるからだ。
また松田教授は、「制裁強化によるロシアの中長期的弱体化は、将来中国が武力行使をする際の後ろ盾を失わせると同時に、中国の対台湾武力行使を思いとどまらせる強い警鐘となる」と主張する。
しかし、西側が対露制裁を貫徹しようがしまいが、対中2次制裁を課されようが課されまいが、どのみち中国は武力に訴えるのではないだろうか。だからこそ人民解放軍は今、類を見ない急ピッチで軍備を過剰に増強しているのだ。
そのため、制裁は中国の漁夫の利を制約する効果しかもたらさない。それでもなお、中国の軍事力増強に経済面から制約を加える効果はある。米欧日は安楽で豊かな生活を一時的に犠牲にする覚悟を固め、中国の侵略に対する準備を加速させるべきだろう。
ウクライナでロシアが行っている戦争犯罪は、近未来に中国が台湾や近隣国に対して実行する残虐行為の前触れに過ぎない。中国がロシアの侵略に作為・不作為の加担をしたエビデンスを早期にとりまとめ、有効な2次制裁の準備を進めることが肝要だと思われる。
●血まみれのウクライナ… 迫りくる「核戦争」 4/13
ウクライナをめぐりロシアとNATO(北大西洋条約機構)の対峙が続く中、ロシアが核兵器を使う可能性をちらつかせたことで、核戦争に対する懸念が高まっている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻初日の2月24日、「誰を問わず、われわれを妨げ、あるいはわが国と国民に脅威を与えた場合、ロシアは直ちに対応し、その結果は歴史上一度も経験したことのないものになるだろう」と述べた。核を直接取り上げたわけではないが、米国などはこれを事実上の「核兵器による威嚇」として受け止めている。プーチン大統領はそれから3日後、核運用部隊に「特殊警戒態勢」への突入を指示し、脅威のレベルをさらに高めた。先月26日には、ロシアのドミトリー・メドベージェフ国家安保会議副議長が乗り出した。同氏はロシアメディアとのインタビューで、ロシア軍の核使用条件について、ロシアと同盟国が核攻撃を受けた場合▽ロシアの核抑止戦力インフラが攻撃を受けた場合▽ロシアと同盟国の存立が危うくなった場合など具体的に示した。
1945年8月、日本の広島と長崎に原爆が落とされて以来、核戦争の懸念が高まったのは今回が初めてではない。核保有国のインドとパキスタンが2000年に武力衝突した時、世界は両国間の「通常戦争」が「核戦争」に飛び火するのではないかと神経を尖らせた。1973年のイスラエルとアラブ諸国のヨム・キプル戦争(第4次中東戦争)の時もイスラエルが核兵器の配備を準備していたことが分かり、波紋が広がった。もう少し時間を遡れば、旧ソ連が1962年、キューバで核基地の建設を進めたことをめぐり、米国と旧ソ連が核衝突の一歩手前まで近づいたこともあった。
核兵器の使用の可能性をちらつかせたプ―チン大統領の発言以降、米軍は監視衛星などを動員し、ロシアの核基地を綿密に監視しているが、まだロシアが実際に核の使用を準備している情況はないという。米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は先月23日、「我々の核態勢を調整すべき何の理由も見つからなかった」と述べた。そのため、プーチン大統領の発言は直ちに核を使用しようとするよりも、米国とNATOがウクライナ戦争に介入することを防ぐための「威嚇」である可能性が高いとみられている。
核使用の敷居を下げたロシア
しかし、専門家らはプーチン大統領の発言を単なる「脅し」と考えてはならないと警告する。ウクライナ戦争が思い通りに解決せず、ロシアが窮地に追い込まれた場合、核使用を実際に検討する可能性があるとみている。ドイツ・ハンブルク大学のウルリッヒ・キューン教授は、「ウクライナ戦争がロシアに不利になり、西側の制裁と圧力がさらに強くなっているため、ロシアが核を使用する可能性は依然として低いものの徐々に高まっている」と分析した。
このような懸念の声があがっているのは、1989年の冷戦解体後、ロシアが核使用の敷居を下げる方向に核戦略を変えてきたためだ。米ソ冷戦時代、核兵器は手をつけてはならない最終手段という認識が強かった。米ソが熾烈な核兵器競争を繰り広げた結果、米国は広島に使用した原爆(TNT15トン規模の威力)より1千倍、旧ソ連は3千倍も強い核兵器を開発した。このような状況で核戦争を繰り広げた場合、共倒れになるという恐怖、いわゆる「相互確証破壊」(MAD)が働いた。旧ソ連は1982年、核の先制使用の放棄を公式宣言した。
このような状況は、1991年末に旧ソ連が解体され、経済難に陥ったロシア軍の通常戦力が急激に悪化したことで、劇的に変わった。米軍は湾岸戦争などで精巧な監視・偵察や情報・通信、精密誘導兵器など最先端の軍事力を誇示したが、ロシア軍はチェチェンとジョージア戦争で通常戦力の弱点を露呈した。これを受け、ロシア軍は米軍に大きく遅れを取っている通常戦力を補完するため、核兵器に対する依存度を高める軍事戦略を立てた。
ロシアは1993年、核先制不使用政策を正式に廃棄し、2000年代以降は敵国のどのような攻撃に対しても核を使用できるという点を明確にしてきた。ロシアは2010年の軍事ドクトリンで敵が核ではなく通常兵器で攻撃しても、「国家の存立が脅かされた時」は核兵器を使用できると明らかにし、2020年の軍事ドクトリンでは「核兵器を抑止力のためだけの手段とみなす」と付け加えたが、依然として使用オプションを比較的幅広く規定している。
ロシア軍はこのような戦略の変化に合わせて核戦争の演習も行ってきた。ロシア軍は1999年、NATOによるカリーニングラードへの攻撃を仮定した戦争演習を実施したが、このシナリオにはロシア軍がポーランドと米国に核攻撃を加えた後、敗北の混乱から抜け出す内容が含まれていたという。また、実際に使用できるように核弾頭の威力を下げた核兵器も開発した。特に2005年に配備されたイスカンデルミサイル(推定射程500キロメートル)の核弾頭は、威力を広島に落とされた原爆の3分の1水準まで下げられるという。「米国科学者連盟」(FAS)のハンス・クリステンセン氏は、ロシアがこのような戦術核弾頭を2千基ほど保有していると推定した。
低威力弾の開発など対応に乗り出した米国
米国も冷戦解体後、一時は核兵器の削減を進めてきた。しかし最近、ロシアと中国の核戦力強化の動きに対する懸念の声が高まり、このような動きにブレーキがかかっている。
冷戦解体とともに、旧ソ連の通常侵略にも核使用オプションを排除しない、いわゆる「柔軟対応戦略」が正式に廃棄された。核ではない攻撃には核使用を自制することにしたわけだ。ジョージ・ブッシュ大統領は1991年、海外に配備された戦術核兵器の削減と撤退を宣言した。このため、朝鮮半島に前進配備されていた核兵器も撤退された。米国がこのような措置に乗り出すことができたのは、冷戦解体で旧ソ連の軍事的脅威が減り、先端兵器とミサイル防衛(MD)などが劇的に発展したためだ。「核なき世界」を目指したバラク・オバマ政権時代に出された2010年の「核態勢見直し(NPR)」では、「核不拡散条約(NPT)に加盟した非核国に対しては核を使わない」といういわゆる「消極的安全保障」(NSA)が明確に宣言された。
このような流れは、ドナルド・トランプ政権以降、止まることになる。トランプ政権は2018年の「核態勢見直し」で消極的な安全保障を一部再確認しながらも、「核ではない他の重要な戦略的攻撃」を受けた場合も核を使用すると明らかにするなど、核使用のオプションを再び広げた。また、威力が広島に使用された原爆の3分の1以下の潜水艦発射弾道ミサイル用の低威力核弾頭「W76-2」を開発した。核兵器使用の敷居を下げたわけだ。ジョー・バイデン大統領も候補時代にはW76-2の開発について「悪いアイデア」だと非難したが、就任以降いまだに廃棄していない。また、候補時代には「米国と同盟国に対する核攻撃を抑止するためだけに核兵器を使う」といういわゆる「唯一目的」の原則を公約したが、先月公開された2022年の「核態勢見直し」の要約版ではこの原則を放棄した。
統制の利かない核衝突…瞬く間に拡大の可能性も
このような状況でウクライナをめぐる米ロ間の対立が激化すれば、予期せぬミスや事故、誤算などが偶発的核衝突の火種になりかねない。専門家らは特に、ウクライナがNATOとロシアの対立の真っ只中に位置している点、また米国とロシアの核使用の「レッドライン」が比較的曖昧な用語に規定され明確ではない点などが、核の危険性をさらに高める要因だと指摘する。
米国とロシアという二大国の間で核戦争が勃発すれば、どんなことが発生するだろうか。米国のプリンストン大学の研究チームが2019年9月に公開したシミュレーションによると、NATOとロシアが核戦争を行った場合、わずか数時間で9千万人以上が犠牲になることが分かった。米ロ間の核衝突は直ちに反撃と再反撃などにつながり、瞬く間に拡大する恐れがある。
核戦争の序幕は、米ロの戦術核兵器が開ける可能性が高い。米ロはまず、人命被害のない公海や荒れ地などに威力の低い核弾頭で警告や威嚇射撃を行うものと考えられる。しかし対立が激化すれば、野戦指揮部や戦闘部隊など戦術目標にその対象が変わる可能性があり、敵の核能力を無力化するために大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略核兵器を動員した全面的な核戦争に飛び火する恐れもある。
問題はこの過程で米ロ両国が自制力を発揮できるかどうかだ。オバマ政権で国家情報局長を歴任したジェームズ・クラッパー氏は、プーチン大統領が核攻撃を行った場合、バイデン大統領にどのように助言すればいいのか確信がないと述べた。核報復と関連し、「いつ止まるのか」というニューヨーク・タイムズ紙の質問に、「反対側の頬も差し出すわけにはいかない。ある時点では、我々も何かをしなければならない」と述べた。米ブラウン大学のニーナ・タネンウォルド氏は「核抑止力」戦略に疑問を呈し、「危機の時、意図通りに作動しないだろう」と述べた。
●ウクライナ情勢が市場揺さぶる 4/13
ロシアの軍事侵攻が、国際エネルギー価格や投資環境に影を落としている。経済の安定のため、国も企業も地政学リスクを踏まえた判断が要る。
ロシアが2022年2月24日に始めた軍事侵攻は、ウクライナの領土や民間人の人命を脅かすにとどまらず、世界経済に多大な影響を及ぼしている。国際通貨基金(IMF)は3月15日、ウクライナ情勢により世界全体で経済成長の減速とインフレが加速が続くとの見通しを示した。二重苦の背景には、食糧とエネルギーの価格急騰が招いた物価上昇、需要の減退がある。
ロシアやウクライナが世界輸出の約3割を担う小麦価格が過去最高を記録。石油・天然ガスの国際価格も急騰している。3月6日に米国がロシア産原油の禁輸を検討していると報じられると、7日のロンドン市場でブレント原油価格が一時1バレル139ドル台と08年のリーマンショック直前を超す最高値を付けた。
エネルギー投資は「安定」模索
国際エネルギー市場におけるロシアの存在感は大きい。欧州は21年、石油輸入量の27%程度、天然ガス輸入量の45%程度をロシアに依存していた。そんな中、ドイツ政府は22年2月、ロシアと直結する新しいガスパイプライン計画「ノルドストリーム2」の認可を取り消す方針を発表した。あおりを受けたのが、計画に出資していた独エネルギー大手ユニパーだ。同社は3月7日、9億8700万ユーロ(約1240億円)の減損を発表した。
制裁が進みつつある今、エネルギー情勢に詳しい日本エネルギー経済研究所の小山堅・首席研究員は警鐘を鳴らす。「ロシア産燃料の供給が大規模に途絶すれば、欧州を中心にエネルギー市場の不安定化が一気に進む。必要なところでエネルギーを確保できない事態も起こり得る」。
そんな危機感から「エネルギー安定供給を図る徹底的な対策強化が急務という認識が世界で急速に高まった」(小山首席研究員)。足元ではロシアからの供給途絶を想定しながら価格安定化を図るため各国が原油備蓄を放出する他、中東産油国の原油増産が重要な役割を果たしそうだという。
中長期では、ロシア依存の引き下げが課題となる。国ごとにエネルギーミックス(燃料・電源の利用計画)の見直しが進みそうだ。欧州では再生可能エネルギーの利用が加速する他、フランスや東欧などで原子力発電のさらなる活用も進みそうだ。
日本では、ロシア極東の石油ガス開発プロジェクト、サハリン1・2を巡る対応で難局が続く。既に英シェルなどの撤退が報じられた。サハリン1には伊藤忠商事や丸紅などの出資会社が、サハリン2は三井物産や三菱商事が出資している。
萩生田光一経済産業大臣は22年3月15日、液化天然ガス(LNG)投資により「ロシア以外の供給源の確保」を進め「ロシアへのエネルギー依存度を低減する」と述べた。そのうえで、岸田文雄首相は3月16日の会見で、サハリン2について「エネルギー安定供給に重要」「長期的に低価格でエネルギーを調達できる、日本が権益を持つ事業」と述べた。
日本は、石油・ガスのロシア依存度は欧州ほど高くないが、中東依存の傾向が強い。サハリン2には燃料供給国を分散させる狙いがある。欧米と異なり再エネ資源に乏しく原発再稼働が進まない日本は、地政学リスクを抑える必要もあるが、足元の燃料需要を賄う判断も要る。サハリン2のLNGを他からの調達で代替すれば調達コストが跳ね上がり、電気やガス料金に反映される。日本はロシア投資を巡る評判リスクと経済への影響との板挟みに悩まされそうだ。
ESG債の遅延や減額も
こうした情勢は、ESG投資にも影響が及ぶ。IMFは今の状況下で、企業による景気判断が曇り、投資家の不安は高まっていると指摘する。
物価上昇を背景に米国の長期金利が上昇する中、ウクライナ情勢による不確実性が影響し、国内の金利動向も見通しづらくなっている。そんな中、企業が発行する「グリーンボンド(環境債)」など「ESG債」の発行の延期や減額が続いた。22年3月11日、イオンモールは同月発行予定の「サステナビリティ・リンク・ボンド」の発行延期を発表。個人投資家向けに年限5年で総額400億円の発行を予定していた。発行延期の理由について同社は、「スケジュールの変更が必要となった」と説明している。
また東京電力ホールディングス傘下の再エネ事業者、東京電力リニューアブルパワーは3月10日、総額100億円の環境債(5年・利率年0.50%)を発行した。2月発表時には200億円規模だった発行額を減額した。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資銀行本部デット・キャピタル・マーケット部の田村良介エグゼクティブ・ディレクターは、「ESG債の発行体は、社内決済や発行計画の発表を一般の社債よりも早めに進める傾向がある。債券の現在の金利水準が、年末と比べてどの年限でも約0.2%上昇している中、計画時の調達レートと見合わなくなり様子見するケースもありそうだ」と見る。
投資家側でも、金利上昇によって既に保有していた債券価格が下がり、評価損を抱えているケースがあるとみられる。新年度予算を使える22年4月を待って債券投資を再開しようとの判断が働きやすい。発行体、投資家ともに4月以降の市場環境次第で、ESG債への関心が再燃する可能性もある。田村氏は「長期で見れば、金利は高水準とも言えない。投資家がポートフォリオの脱炭素を進めている中、環境債やトランジションボンド(移行債)の発行やその投資は加速する可能性がある」という。
企業が脱炭素化することは、化石燃料の利用を効率化し、資源供給国への依存や地政学リスクの抑制につながる。世界情勢が不安定な中でも、脱炭素などに調達資金を投じるESG債は、投資家の期待を集めそうだ。
●バイデン大統領 “ジェノサイド”と非難「私にはそう見える」  4/13
アメリカのバイデン大統領は12日、ウクライナでのロシア軍の攻撃について「集団虐殺」を意味する「ジェノサイド」ということばを初めて使って非難しました。
バイデン大統領は中西部アイオワ州での演説で記録的な物価上昇への対策に触れた中で「国民の家計がどうあるかやガソリンを購入できるかどうかが、地球の反対側で独裁者が戦争を始めたり、『ジェノサイド』に手を染めたりするかどうかに左右されてはならない」と述べました。
さらにバイデン大統領は演説後、記者団から「『ジェノサイド』とみなす十分な証拠があるということか」と問われ「先週とは状況が違ってきている。ロシアによるおぞましい行為の証拠が次々に明るみに出ている。国際的に見て『ジェノサイド』に当たるかどうかは弁護士の判断に任せるが、私にはそう見える」と述べ、集団虐殺を意味する「ジェノサイド」に当たるとの考えを強調しました。
「ジェノサイド」は民族などの集団に対して破壊する意図を持って、虐殺などの危害を加える重大な犯罪で、第2次世界大戦後に締結された「ジェノサイド条約」によって処罰することが規定されています。
バイデン大統領はウクライナの首都キーウ近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったことを受けて先週、記者団から「ジェノサイドに当たると思うか」と問われた際には「そうは思わない。これは戦争犯罪だ」と述べるにとどめていました。
松野官房長官は、午前の記者会見で「多数のむこの民間人の殺害は、重大な国際人道法違反で断じて許されず、厳しく非難する。残虐な行為の真相は明らかにされなければならず、ロシアの責任は厳しく問われなければならない」と述べました。
そのうえで「『ジェノサイド』を含む重大な犯罪を犯した者を訴追し処罰する国際刑事裁判所の検察官は、ウクライナ側と協力して『ジェノサイド』を含む捜査を開始している。わが国としても検察官による捜査の進展を期待している」と述べました。
●フィンランド、ロシアのガスパイプラインからの依存脱却へ 4/13
フィンランドの経済政策閣僚委員会は4月7日、ロシアのガスパイプラインからの依存脱却に向け、エストニアと協力して大型の液化天然ガス(LNG)ターミナル船(a floating storage and regasification unit, FSRU)(注)をリースすることを提案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。フィンランド南部沿岸に配置され、天然ガス供給網と接続される予定。今後、経済・雇用省が、財務省とエストニアのエネルギー関連担当省庁と連携しながら、準備を進め、リースに関する提案を同委員会に提出、決定がされる予定。リース内容の査定や交渉、プロジェクトの実施は、フィンランドの送ガス事業者ガスグリッドが、エストニアの同業エレリングと協力して行う。経済・雇用省は3月末に、ガスグリッドに対し船舶の調達可能性について調査を指示していた。ミカ・リンティラ経済相は、ウクライナ情勢を踏まえると、ガスの輸入停止に備えなければならないとし、浮体式のLNGターミナルは、同国の産業へのガス供給を確保するための有効な手段だと述べた。
また、フィンランド政府は4月8日、1日の国際エネルギー機関(IEA)緊急閣僚会合での石油備蓄の協調放出に関する決定を受け、36万9,000バレルの放出を決定した(2022年4月4日記事参照)。
ペッカ・ハービスト外相は4月6日から7日にかけて、ブリュッセルで開かれたNATO外相会合に参加。会談後に、ハービスト外相は、フィンランドがNATO加盟の可能性について、今後数週間のうちに明らかにすると述べた(「ロイター」4月7日)。さらに「タイムズ」など各紙は11日、サンナ・マリーン首相が早ければ夏までにNATOへの加盟申請を行う意向を示した、と報じた。フィンランドのメディアyleの世論調査(3月9〜3月11日実施)によれば、NATO加盟について、フィンランド国民の62%が支持しているとされている。
ウクライナ支援も進んでいる。同国はウクライナからの避難民に対して、一時保護を与えている。政府によればすでに1万5,000人以上が何らかの保護を申請、その大半が一時保護だとしている。また、物資面でも支援を行っており、直近では4月5日に、救急車2台と救急サービス用品の提供を発表している。
(注)LNG貯蔵・再ガス化設備を備えた専用船。
●ここにきて、ロシアで「プーチンおろし」が始まった…「20兆円超の資産」没収? 4/13
ロシア軍によるウクライナでの大虐殺が次々と明らかになった。プーチンは、今や国際社会から「戦争犯罪人」と呼ばれている。暴走の果てに“狂気の独裁者”とその愛人が行き着く先は破滅しかない。
諜報機関が離反する
過去の歴史を紐解けば、絶対的な力を手中にした独裁者であっても、一夜にして身内ともども権力の座から転がり落ちることがありえる。
ロシアのプーチン大統領(69歳)と愛人たちは、今まさにその危機にある。
ウクライナ検察は4月3日、ロシア軍から奪還した首都・キーウの周辺地域で、民間人ら計410人の遺体が発見されたと発表。ゼレンスキー大統領は「集団虐殺だ」と告発し、欧米諸国の首脳も同調した。
今や「戦争犯罪人」となったプーチンの失脚は、刻一刻と近づいている。
ロシア政治が専門の筑波学院大学教授・中村逸郎氏が言う。
「経済制裁により外貨資産が半分凍結され、天然ガスなどの資源も輸出できない。ロシア国債がデフォルトする可能性も高まっています。経済が破綻し、市民の生活に多大な影響が出れば、反プーチンの集会やデモが始まる。テレビ番組の生放送中に戦争反対のプラカードを掲げたマリーナ・オフシャンニコワさんがヒロインになります。さらに収監中の反体制派指導者ナワリヌイ氏も弁護士を通じて、メッセージを積極的に発信する。最初は5万人程度の参加者でしょうが、どんどん規模は拡大していくでしょう」
プーチンの政権下で富を独占してきた「オリガルヒ」(新興財閥)も、あっさりと手のひらを返すだろう。ロシアの石油会社「ルクオイル」、金融機関「アルファ・グループ」、アルミ製造企業「ルスアル」はすでに、ウクライナ侵攻の中止を求める声を上げている。
キーウ出身の国際政治学者グレンコ・アンドリー氏が指摘する。
「これまで彼らはプーチンのおかげで稼げたかもしれませんが、自分たちの地位や資産が危ないとなれば、財力や政治力によってプーチンを失脚させる手段を厭わないでしょう。オリガルヒは西側諸国とのつながりも強く、それを実現させるだけの力を持っています」
オリガルヒを後ろ盾にして動き出すのは、「シロビキ」(軍、警察、諜報機関)である。公安調査庁職員としてロシアを担当していた日本戦略研究フォーラム政策提言委員の藤谷昌敏氏が語る。
「イーゴリ・セーチン元副首相、ヴィクトル・イワノフ元連邦麻薬取締庁長官、ラシド・ヌルガリエフ元内務相、そしてニコライ・パトルシェフロシア連邦安全保障会議書記など、彼らシロビキは、プーチン支持というよりもロシアを第一と考える国家主義者です。今後の動向次第では『プーチン降ろし』に回る可能性は否定できないでしょう」
デモが拡大する中で、軍部、諜報機関の幹部が相次いでプーチンから離反することになる―。
「後継者はシロビキが推すとされるFSB(ロシア連邦保安庁)の長官、アレクサンドル・ボルトニコフあたりではないでしょうか」(藤谷氏)
中村氏も言う。「ボトルニコフならばプーチンの汚職を白日の下に晒して、国民の人気を集めることができる。後継者となる可能性は高い」
FSBはKGB(ソ連国家保安委員会)の後継組織である。これまでプーチンが自己保身のために利用してきた子飼いの諜報機関が、今度は自分に牙をむくことになる。失脚後はFSBに監視される日々が続くだろう。
莫大な資産も失う。大統領府が公表する所得申告書等で、プーチンの年収は約1400万円と発表されているが、もちろんこれは表向きの数字。実際、プーチンの総資産は20兆円超という報道まであるのだ。
野党『国民自由党』のボリス・ネムチョフ議長('15年に暗殺)らが作成した報告書によると、プーチンは20軒の公館・別荘を持ち、航空機43機、ヘリコプター15機、ヨット4隻を所有している。
また昨年にはナワリヌイ氏が率いる団体が、黒海沿岸に建つ約1400億円相当の私邸をプーチンが事実上所有していると暴露している。拓殖大学特任教授・名越健郎氏が言う。
「後継者次第ですが、プーチンが失脚すれば、不正な手段によって取得した財産は没収されることになると思います。新しい権力者からすればプーチンは不都合な存在になりますから、居場所が無くなる。これまでは約2万人が所属する連邦警護庁(FSO)の最強部隊がボディガードを務めていましたが、権力を失ったプーチンの警護も当然手薄になる。そうなれば命の危険にも晒されるでしょう」
中村氏は、プーチンの脳裏には、ある独裁者の処刑シーンがこびりついていると指摘する。
「ルーマニアのチャウシェスク元大統領の失脚が強く印象に残っているんじゃないでしょうか。当時はソ連が崩壊直前で、東欧諸国で次々と革命が起こり、最終的に彼は拘束されて処刑されました。これは、裏を返せば西側諸国に負けたということ。現在の状況と重なる部分がありますね」
悲惨な末路を迎えた独裁者の典型と言えるのが、恐怖政治を敷いたチャウシェスクである。
首都・ブカレスト市内に約1500億円をかけて「宮殿」を建設。そこには3000もの部屋があり、延床面積は米国ペンタゴンに次ぐ世界第2位(当時)の規模。
映画館、室内プールを備え、贅の限りが尽くされていた。食料不足に国民が苦しむ一方で、チャウシェスク一族はペットの犬に高級牛肉を与えていたという。
妻・エレナは第一副首相を務め、次男のニクも31歳で共産党中央委員に選出。一族で富と権力を独占し、スイスの銀行には560億円相当の金塊を預けていた。
また、ニクはモントリオール五輪の体操金メダリストである「白い妖精」ナディア・コマネチに愛人関係を強要。コマネチが米国に亡命するきっかけになったと報じられている。
だが、そんな黄金時代も突然幕を閉じる。'89年12月に反政府デモが発生すると、軍部も決起するルーマニア革命が勃発。わずか1週間で政権は倒れ、チャウシェスク夫妻は逮捕された。6万人の集団虐殺と1400億円の不正蓄財により、すぐさま死刑判決が下る。
しかし夫妻は自分たちが残酷な死を迎える理由を最後まで理解できず、実に惨めな最期をむかえた。その詳細は後編記事『プーチンと「その愛人」も同じ運命を辿るのか…かつて独裁者はこうして惨殺された』で明かす。
●停戦協議、民間人殺害巡り対立続く…プーチン氏「行き詰まりの状態」  4/13
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は12日、自らが担当するロシアとの停戦協議の見通しは「非常に困難だ」との認識を示した。プーチン露大統領が12日に「行き詰まりの状態に戻った」とウクライナ側を非難した発言に反発したものだ。首都キーウ(キエフ)周辺での民間人殺害を巡って双方の対立が深まる中、協議の早期進展は困難な情勢となっている。
プーチン氏は12日、露極東で開いた記者会見で、3月29日にトルコで開かれた対面交渉で「一定レベルの合意に達したが、ウクライナ側が退いた」と主張した。キーウ近郊ブチャでの民間人殺害についても「偽情報」「挑発」だと改めて主張し、この問題を批判するウクライナ側が協議を停滞させているとの立場を強調した。
停戦協議は2月28日以降、計4度の対面交渉が行われ、ロシアが求めた「中立化」についてウクライナ側が提案を示すなど、一定の歩み寄りもみられた。キーウ周辺での民間人殺害の実態が明らかになって以降、双方から協議の具体的な進展は伝えられていない。
ポドリャク氏は12日、ロイター通信に対し、プーチン氏の発言に「公の発言で協議に圧力をかけようとしている。交渉は作業部会で続いている」と反論した。ウクライナ交渉団の別のメンバーも12日、ウクライナ側は「立場を変えていない」と、ロシアを非難した。
プーチン氏は12日、停戦協議で合意に達しない限りは軍事作戦を継続するとの考えも示した。米国防総省高官は12日、南東部のマリウポリで、陥落を目指す露軍が集中的な空爆を加えていると分析した。同省のジョン・カービー報道官は12日の記者会見で、露軍は、東部への攻撃の「戦略的立地」となるマリウポリへの攻撃を優先しているとの見方を示した。
一方、マリウポリ防衛にあたるウクライナの武装組織「アゾフ大隊」が主張する露軍による化学兵器使用については、カービー氏は「確認できない」としつつ「深刻にとらえており、分析のために最善を尽くしている」と強調した。 
●「プーチン氏恐れるのは民主主義」米元駐ロ大使分析  4/13
プーチン大統領は、なぜウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったのか。その心理を読み解く鍵となるのが、プーチン氏と民主主義との関係だ。
ソビエト崩壊後のロシアの民主化について長年、研究を続ける世界的に著名なアメリカの政治学者で、オバマ政権時に駐ロシア大使を務めたマイケル・マクフォール氏に、プーチン氏の変遷から今後のプーチン政権崩壊の可能性まで詳しく聞きました。
プーチン氏は変わった?
プーチン氏は1999年、当時のエリツィン大統領に大統領代行に任命されましたが、当時は今と同じ世界観を有していたわけではないと思います。彼の思考は、徐々に変化していきました。彼は今でこそ、ソビエトの崩壊に反対だったと主張していますが、崩壊後の10年間、崩壊に導いた人々のために働いていました。当時は、欧米志向で市場原理に基づく考えを持ち、私たちは協力し合えると考えていました。しかし2011年、当時、首相を務めていたプーチン氏は、アメリカの副大統領だったバイデン氏と会談し、「ロシア人は欧米の人々とは違う。異なる文化や歴史を有している」と述べ、欧米との違いを強調するようになっていました。プーチン氏は、ロシア人はヨーロッパの人たちと異なると主張することで、ロシアをより独裁的な手法で統治することを正当化したかったのでしょう。プーチン氏が民主的な志向から一夜にして独裁者になったというのは、間違いです。時間をかけて、独裁者へと変わっていったのです。そして、独裁的になればなるほど民主主義からの挑戦を受けるようになったのです。
どう変わっていった?民主主義からの挑戦って?
始まりは2003年、ジョージアで市民の抗議活動により、ソビエト崩壊後直後から最高指導者を務めていた大統領が辞任に追い込まれた「バラ革命」です。次に2004年、ウクライナで大規模な抗議活動をきっかけに政権交代し、親欧州派の政権が誕生した「オレンジ革命」。そして重要な局面となったのが2011年、中東各地で独裁的な政権が次々と崩壊した民主化運動「アラブの春」、さらには2012年のロシア大統領選挙を前にした市民の大規模な抗議活動です。プーチン氏はアメリカがデモを組織し、反体制派に資金を提供したと非難しましたが、事実ではありません。私たちは、民主主義そして民主化支援グループ、独立系メディアを支援していますが、CIA=中央情報局が政権転覆を図ったというのは、間違いです。プーチン氏が強い恐怖を感じたのは、エジプトでもウクライナでもジョージアでもチュニジアでもなく、まさに足元のロシアで自身が率いる政権に対する大規模なデモが起きたことです。そして、民主主義やその支持者に対し、病的なほどに疑い深くなりました。そして、とどめの一撃が2014年、ウクライナで大規模な市民の抗議活動でロシア寄りの政権が崩壊した「マイダン革命」です。プーチン氏は、「アメリカの支援を受けたネオナチによる政権奪取だ」と非難しています。
ウクライナをどう思っている?
プーチン氏は、ロシアとウクライナが別の国だとは思っていません。長い歴史に言及し「ひとつの国」だったと説明しようとしています。私は、これこそがプーチン氏が望むスラブ民族の統一国家をつくるという帝国主義的な野望の一部だと考えています。
軍事侵攻に踏み切った背景は?
背景には、ロシアとウクライナが「ひとつの国」だというプーチン氏の考えに問題が出てきたことがあります。ウクライナが民主主義で、ロシアが独裁体制であるからです。もし、ウクライナがロシアと同じ文化や歴史を共有しているにもかかわらず民主主義であり続けるなら、自身が率いるロシアという独裁体制にとって直接的な脅威になります。そして、ウクライナが民主的になればなるほど、ロシアとの断絶は大きくなります。だからこそ、彼は武力を使ってウクライナを取り込もうとし、民主主義を阻もうとしたのです。
プーチン氏は今後どう出る?
プーチン氏は当初、ウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」、つまり政権転覆のことですが、これを目指すと言っていました。しかし、彼はウクライナの戦う意志と軍事力を過小評価し、ロシアの軍事力を過大評価していました。彼が、首都キーウの制圧を諦めていないおそれはありますが、私はそれが可能だとは思いません。このため、最終局面を調整しているのだと思います。そして今、プーチン氏が考える最終局面とは、南部の全地域の制圧だと思います。だからこそ、マリウポリへの攻勢を強めているのです。そして、この南部をクリミアやドンバス地方と統合し、ウクライナの新しい国境について交渉を開始し、ウクライナを永久に分断しようと考えているのだと思います。ただ、非常に困難な交渉で、ゼレンスキー大統領が受け入れるかどうかはわかりません。
プーチン政権はどうなる?
プーチン主義、つまりプーチン氏の政治システムの「終わりの始まり」となるかもしれません。1970年代、ベトナムやラオス、カンボジアでマルクス・レーニン主義を掲げる政権が相次いで樹立されたあと、旧ソビエトのブレジネフ書記長が無理をして失敗したのと同じです。アンゴラやモザンビーク、ニカラグアも旧ソビエト陣営に入り、ブレジネフ書記長はアフガニスタンの侵攻を決めました。そして、それは意図せずして、ソビエトの「終わりの始まり」となりました。ただ、プーチン主義を支持する人たちが、立場を強化する可能性も否定できません。プーチン氏が権力の座から退いたあと、プーチン氏の取り巻きやロシアの人々が、プーチン氏のような人物を支持する可能性もあると思います。
●プーチンの狙いは… ロシアの「戦勝記念日」5月9日に“勝利宣言”の可能性 4/13
「プーチン大統領が5月9日に勝利宣言を目指している」という情報が。この5月9日はロシアの「戦勝記念日」であり、プーチン大統領はこうした記念日を大事にしているといいます。小野高弘・日本テレビ解説委員が解説します。
「プーチン大統領が5月9日に勝利宣言を目指している」 アメリカのCNNが情報当局者の話として伝えました。この5月9日は、ロシアにとっては大事な日。第二次世界大戦で旧ソ連がドイツを降伏させた「戦勝記念日」です。
実はプーチン大統領、こうした記念日を大事にしているんです。例えば、2月23日は「祖国防衛の日」。翌日にウクライナ侵攻を開始しました。また3月18日の「クリミア併合を祝う記念日」でも、演説で軍事行動の正当性をアピールしました。そして5月9日の「戦勝記念日」に、勝利宣言を狙っていると言われています。
――その日までに本当にロシアが「勝利」するの?
今、力のいれどころをウクライナ東部に集中し始めました。しかしウクライナは徹底抗戦です。戦闘は長期化するとの見方もあります。それでもプーチン大統領は「勝った」、あるいは「ここまで成果をあげた」とアピールする可能性があり、そんな思惑通りに進むのか世界が注目しています。
●ウクライナ戦争の責任はアメリカにある!――アメリカとフランスの研究者が 4/13
アメリカの国際政治学者で元軍人のジョン・ミアシャイマー氏とフランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏が「ウクライナ戦争の責任はアメリカにある」と発表。筆者の「バイデンが起こさせた戦争だ」という見解と一致する。認識を共有する研究者が現れたのは、実にありがたい。
『文藝春秋』5月号がエマニュエル・トッド氏を単独取材
月刊誌『文藝春秋』5月号が、エマニュエル・トッド氏を単独取材している。見出しが「日本核武装のすすめ」なので、見落としてしまうが、実はトッド氏は「ウクライナ戦争の責任はアメリカにある!」と主張している。
冒頭で、彼は以下のように述べている。
――まず申し上げたいのは、ロシアの侵攻が始まって以来、自分の見解を公けにするのは、これが初めてだということです。自国フランスでは、取材をすべて断りました。メディアが冷静な議論を許さない状況にあるからです。
この冒頭の文章を読んで、深い感動を覚えた。その通りだ。
いま世の中は、「知性」でものごとを考えることを許さず、「感情」で発信することしか認められない。まるで戦時中、大本営発表に逆らう者は非国民と言わんばかりだ。
しかし、このようなことをメディアが続けていると、本当に大本営が招いた結果と同じものを日本にもたらす。真に日本国民の為を思い、日本国を憂うならば、勇気を出して、戦争が起きた背景にある真相を直視しなければならない。
そうしないと、次にやられるのは日本になるからだ。
トッド氏の主張の概要は以下のようになる。
感情に流される中、勇敢にも真実を語った者がいる。それが元米空軍軍人で、現在シカゴ大学の教授をしている国際政治学者ジョン・ミアシャイマーだ。彼は「いま起きている戦争の責任はアメリカとNATOにある」と主張している。
この戦争は「ロシアとウクライナの戦争」ではなく、「ロシアとアメリカ&NATOの戦争」だ。アメリカは自国民の死者を出さないために、ウクライナ人を「人間の盾」にしている。
プーチンは何度もNATOと話し合いを持とうとしたが、NATOが相手にしなかった。プーチンがこれ以上、領土拡大を目論んでいるとは思えない。ロシアはすでに広大な自国の領土を抱えており、その保全だけで手一杯だ。
バイデン政権のヌーランド国務次官を「断固たるロシア嫌いのネオコン」として特記している(拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第五章、p.159〜p.160にかけて、オバマ政権時代、バイデン元副大統領とヌーランドがどのようにして背後で動いていたかを詳述した)。
アフガニスタン、イラク、シリア、ウクライナと、米国は常に戦争や軍事介入を繰り返してきた。戦争はもはや米国の文化やビジネスの一部になっている(拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の「おわりに」――戦争で得をするのは誰か?に書いた内容と完全に一致する)。
何というありがたいことだろう。
日本で筆者1人が主張しても、ただバッシングの対象となるだけで、非常に数少ない知性人しか理解してくれない。
しかし、こうしてフランスの学者が声を上げてくれると、日本はようやく真実に目覚め始める。月刊誌『文藝春秋』の勇気を讃えたい。
米国際政治学者・ミアシャイマー「ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカにある!」
世界には感情を抑えて、知性で真実を訴えていく研究者は、ほかにもいる。トッド氏が事例として挙げているアメリカの元空軍軍人で、今はシカゴ大学の教授として国際政治を研究しているジョン・ミアシャイマー氏が、その一人だ。
彼は3月3日に「ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカとNATOにある」とユーチューブで話している。
非常にありがたいことに、マキシムという人が日本語の字幕スーパーを付けてくれているので、日本人は容易にミアシャイマー氏の主張を聞くことができる。
ミアシャイマー氏が言っている内容で筆者が特に興味を持った部分を以下に適宜列挙してみる。
特に昨年(2021年)の夏、ウクライナ軍がドンバス地域のロシア軍に対して無人偵察機を使用したとき、ロシア人を恐怖させました(ユーチューブの経過時間7:40前後)。(これに関しては拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』のp.177〜p.178で詳述した)。
太平洋戦争の末期1945年初頭に、アメリカが日本本土に侵攻する可能性に直面したとき、何が起こったか、ご存じですか(ユーチューブ経過時間17:29)?硫黄島で起こったこと、そして沖縄で起こったことの後、アメリカが日本本土に侵攻するという作戦は、アメリカ国民をある種の恐怖に陥れました(17:42)。終戦間近の1945年3月10日から、アメリカは日本各地の大都市の無辜の市民に、次々に無差別空襲爆撃を行いました(17:51)。その後、東京に最初に特殊爆弾(焼夷弾)を投下した一夜だけで、なんと、広島(9万人)や長崎(6万人)の犠牲者よりももっと多くの一般市民(10万人)を焼き殺したのです(17:54)。実に計画的かつ意図的に、アメリカは日本の大都市を空襲で焼き払ったのです(18:00)。なぜか?大国日本が脅威を感じているときに、日本の主要な島々に、直接軍事侵攻したくなかったからです(18:04)。
アメリカはウクライナがどうなろうと、それほど気にかけていません(20:34)。アメリカ(バイデン)は、ウクライナのために戦い、兵士を死なせるつもりはないと明言しています(20:39)。アメリカにとっては、今回の戦争が、自国存亡の危機を脅かすものではないので、今回の結果はたいして重要ではないのです(20:43)。しかし、ロシアにとって今回の事態は自国ロシアの存亡の危機であると思っていることは明らかです(20:49)。両者の決意を比べれば、ロシアに圧倒的に強い大義があるのは、自明の理です(20:50)。(筆者注:筆者自身は、この点はミアシャイマー氏と意見を異にする。但し、ミアシャイマー氏が言いたかったのは、前半で繰り返し話しているように、プーチンは何度もNATOの東方拡大を警告し、話し合いを求めたがNATOが無視をして逆の方向に動いたという事実なのだろう。あまりに長いので省略したが、ミアシャイマー氏は、プーチンには切羽詰まって危機感があったと言い、太平洋戦争を例に取ったのは、切羽詰まった危機感を感じたときに何をやるか分からないということのようだ。)
ここで起こったことは、アメリカが、花で飾られた棺へと、ウクライナを誘導していったことだけだと思います(21:30)(これは正に筆者が書き続けてきたことで、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第五章で詳細な年表を使いながら解説した内容と一致し、表現は異なるが内容的には2月25日のコラム<バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛>とも一致する)。
アメリカは棒で熊(ロシア=プーチン)の目を突いたのです(21:58)。当然のことですが、そんなことをされたら、熊はおそらくアメリカのしたことに喜びはしないでしょう。熊はおそらく反撃に出るでしょう(22:12)
ミアシャイマーが言うところの、この「棒」は、「アメリカ(特にバイデン)がウクライナにNATO加盟を強く勧めてきたこと」と、「ウクライナを武装化させてきたこと」を指しているが、筆者自身は、加えて最後の一撃は12月7日のバイデンの発言にあると思っている。
バイデンは、何としても強引にプーチンと電話会談し、会談後の記者会見で、ウクライナで紛争が起きたときに「米軍が介入する可能性は極めて低い」と回答した。
ミアシャイマー氏が指摘するように、2021年10月26日、ウクライナ軍はドンバス地域にいる親ロシア派軍隊に向けてドローン攻撃をするのだが、10月23日にバイデンがウクライナに対戦車ミサイルシステム(ジャベリン)180基を配備した3日後のことだ。ウクライナはバイデンの「激励」に応えてドローン攻撃をしたものと解釈される。バイデンはウクライナを武装化させて「熊を怒らせる」ことに必死だった。
これは戦争の第一砲に当たるはずだが、それでもプーチンが動かないので、もう一突きして、「米軍が介入しないので、どうぞ自由にウクライナに軍事侵攻してくれ」と催促したようなものである。
あの残忍で獰猛(どうもう)な「熊」を野に放ったバイデンの責任は重い。
三者の視点が一致
トッド氏とミアシャイマー氏の見解と、筆者が『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でアメリカに関して書いた見解は、基本的には一致する。
トッド氏は歴史学者あるいは人類学者からの立場から分析し、ミアシャイマー氏は元米空軍軍人で現在は国際政治学者の立場から分析している。
筆者自身は日中戦争と中国の国共内戦(解放戦争)および(避難先の吉林省延吉市で)朝鮮戦争を経験し、実際の戦争経験者として中国問題研究に携わってきた。
1945年8月、まだ4歳の時に長春に攻め込んできたソ連軍にマンドリン(短機関銃)を突き付けられ、1947年から48年にかけて中国共産党軍によって食糧封鎖を受け、街路のあちこちには餓死体が放置されたままで、それを犬が喰らい、人肉で太った犬を人間が殺して食べる光景の中で生きてきた。そして最後には共産党軍と国民党軍に挟まれた中間地帯に閉じ込められ、餓死体が敷き詰められている、その上で野宿をさせられた。
あまりの恐怖から、しばらくのあいだ記憶喪失になり、今もあのトラウマをひきずって生きている。
そういった原体験を通して、骨の髄から戦争を憎み、「如何にして戦争が起き、如何にして戦争が展開されるか」を、全生命を懸けて見てきた。その意味で、原因が何であれ、ロシアの蛮行には耐え難い嫌悪感を覚え、到底許せるものではない。人間のものとも思えないほどの残虐極まりないロシアの狂気は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を蘇らせ、激しい拒否反応を引き起こす。
それぞれの立場と斬り込み方は異なるが、三者が少なくとも、「責任はアメリカにある」という同じ結論に達したことは重視したい。
人類から戦争を無くすためには、私たちは「誰が戦争の本当の原因を作っているか」を正視しなければならない。そうでないと、その災禍は必ず再び日本に降りかかってくる。その思いが伝わることを切に祈る。
●JPモルガン、ウクライナ戦争に絡み5.24億ドルの損失−1〜3月決算 4/13
米銀JPモルガン・チェースの1−3月(第1四半期)業績は、ロシアのウクライナ侵攻による相場の落ち込みに絡む5億2400万ドル(約660億円)の損失により損なわれた。
13日の決算発表によると、損失は「ファンディングスプレッド拡大および、商品エクスポージャー増加とロシア関連カウンターパーティーからのデリバティブ(金融派生商品)債権の評価引き下げに関するクレジットバリュエーション調整」の結果だという。
ただ、債券と株式のトレーディング収入はいずれもアナリスト予想を上回り、純利益も82億8000万ドルと予想を超えた。
ジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は発表資料で、「少なくとも短期的には経済への楽観を維持している。個人と企業のバランスシートも個人消費も、依然として健全な水準だ。ただ今後については、高インフレとサプライチェーン問題、ウクライナでの戦争による地政学的および経済的な著しい困難を予想する」とコメントした。
1−3月の債券トレーディング収入は57億ドルとアナリスト予想を10億ドル上回った。株式トレーディング収入も予想を上回る31億ドル。
一方、投資銀行業務の収入は21億ドルに減少し、市場予想の23億ドルに届かなかった。債券および株式引き受け収入がいずれも減少した。助言手数料は前年同期を超えた。
金利外費用は2%増で2013年以来の高水準。1−3月期末のローン残高は前年同期比6%増だった。
●マリウポリ市長、民間人死者「1万人超」 4/13
ロシア軍が包囲を続けるウクライナ南東部の要衝マリウポリのボイチェンコ市長は12日、同市での民間人の死者が「1万人以上に達し、最悪で2万人を超える可能性がある」と述べた。一方、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャのフェドルク市長は12日、これまでに市内で403人の遺体が見つかったと明かした。日本時間13日などの動きをまとめた。
ロシア軍が包囲を続けるウクライナ南東部の要衝マリウポリのボイチェンコ市長は12日、同市での民間人の死者が「1万人以上に達し、最悪で2万人を超える可能性がある」と述べた。路上に市民の遺体が多数残されている状態だという。一方、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャのフェドルク市長は12日、これまでに市内で403人の遺体が見つかったと明かした。
バイデン米大統領は12日、中西部アイオワ州で演説し、ロシアによるウクライナ侵攻が「ジェノサイド(大量虐殺)」に当たるとの認識を示した。バイデン氏が「ジェノサイド」と言及するのは初めて。
ロシアのプーチン大統領は12日、ウクライナとの停戦協議について「行き詰まっている」と述べた。ロシア極東アムール州でベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、会談後の記者会見などで語った。軍事作戦について「ウクライナで全ての目的が達成されることに疑いの余地はない」と強調し、作戦を継続する考えを示した。
松野博一官房長官は13日の記者会見で、バイデン米大統領がロシアによるウクライナ侵攻が「ジェノサイド(大量虐殺)」に当たるとの認識を示したことに関し「重大な犯罪を犯した者を訴追し、処罰する国際刑事裁判所の検察官は、ウクライナ側と協力しつつ、ジェノサイドを含む捜査を開始している。捜査の進展を期待している」と述べるにとどめた。
●プーチン大統領 “ロシアへの制裁 欧米側に跳ね返っている”  4/13
ロシアのプーチン大統領は、欧米側がウクライナへ軍事侵攻を続けるロシアに対して、エネルギー分野などへの経済制裁を強化していることによって「物価があらゆるところで上昇している」と述べ、制裁措置が欧米側に跳ね返っているとして強気の姿勢を示しました。
ロシアのプーチン大統領は、13日、北極圏の開発に関する関係閣僚との会合に出席しました。
このなかで、プーチン大統領は「欧米諸国がロシアのエネルギー資源を含む通常の協力関係を拒否したことによって、すでに何百万人というヨーロッパの人々に影響を及ぼしている。エネルギー危機を引き起こし、アメリカにも影響がでている。物価があらゆるところで上昇していて、こうした国々にとって、前例のないことだ」と述べました。
ウクライナへ軍事侵攻を続けるロシアに対して、欧米側は経済制裁を強化しているほか、ロシアへのエネルギー依存から脱却を目指す動きもでていますが、プーチン大統領としては、こうした措置が欧米側に跳ね返っているとして強気の姿勢を示した形です。
また、プーチン大統領は「ロシアの石油、天然ガス、石炭について、われわれは国内市場での消費を増やし、本当に必要としている世界のほかの国へ供給を増やすことができる」と述べ、制裁に対抗し、ロシアと友好的な関係にある国を念頭に、エネルギーを供給していきたい考えを示しました。
さらに、プーチン政権が重視する北極圏の開発について「ここには多くの仕事がある。関心のあるすべての人々にわれわれは共同作業を提供する」と述べ、外国企業の参加を呼びかけ、一連の制裁によって、開発計画を延期することはないと強調しました。 

 

●ロシア産エネルギー輸出先、西側諸国からの変更容易=プーチン氏 4/14
ロシアのプーチン大統領は13日、ロシアは石油、ガス、石炭など国内の膨大なエネルギー資源の輸出先を西側諸国から本当に必要としている国々に容易に変更することができると述べた。
当局者とのテレビ会議で「ロシアの石油、ガス、石炭に関しては、国内市場での消費を増やすことが可能だ」とした上で「同時にエネルギー資源を本当に必要としている世界の他の地域への供給も増加させる」とした。
また「西側諸国がロシアのエネルギー資源に関するものも含め(ロシアとの)標準的な協力を拒否したことが何百万人もの欧州の住民を苦しめ、真のエネルギー危機を引き起こしている」と指摘。「もちろん、われわれも問題に直面しているが、これは新たな機会を開くものである」とした。
プーチン大統領はこのほか、「非友好国」がロシアの北極圏におけるサプライチェーン(供給網)を破壊し、一部の国が契約上の義務を果たしていないため、ロシアで問題が生じていると語った。
ロシアのシュルギノフ・エネルギー相はイズベスチヤ紙に対して、政府は「友好国に対してどんな価格帯であれ」原油や石油製品を販売する用意があると述べた。インタファクス通信が12日に伝えた。
●オリガルヒよりもプーチン大統領に近い? ロシアのエリート集団「シロバルヒ」 4/14
ロシアには「シロバルヒ」と呼ばれる治安関係者のエリート集団がいる。「オリガルヒ」(新興財閥)と「シロビキ」(プーチン大統領のかつての同僚であった治安関係者)を組み合わせた言葉だ。
この言葉を作ったダニエル・トリーズマン(Daniel Treisman)氏は、シロバルヒが持つ影響力と権力についてInsiderに語った。
アナリストのヒューゴ・クロスウェイト(Hugo Crosthwaite)氏は、シロバルヒはオリガルヒよりもプーチン大統領に近いと話している。
「オリガルヒ」と呼ばれるロシアの超富裕層はここ数週間、厳しい目を向けられてきた。
ロシアによるウクライナ侵攻やロシア軍が戦争犯罪を行っているとのアメリカ政府からの批判を受け、オリガルヒはさまざまな制裁を科されてきた。
ロシアでは1990年代、「シロバルヒ」と呼ばれる新たなビジネスエリートが出現した。「シロバルヒ」はカリフォルニア大学ロサンゼルス校の政治学教授ダニエル・トリーズマン氏が「オリガルヒ」と「シロビキ」を組み合わせて2006年に作った言葉で、治安関係者のエリート層で構成されている。
トリーズマン氏によると、オリガルヒには一般的に考えられているほどの政治的な影響力はない。シロバルヒの方が影響力は強いという。
安全保障情報に詳しいDragonfly、ユーラシア部門のリード・アナリストであるヒューゴ・クロスウェイト氏は、シロビキはプーチン大統領の側近の中でも特に重要なメンバーだとInsiderに語った。
プーチン大統領もソ連国家保安委員会(KGB) ── 現在のロシア連邦保安庁(FSB) ── の出身であることから、論理的には「シロビキ」ということになる。
その上で「シロビキの重要なポイントは、彼らはプーチン大統領のレジームの一部であって、別の独立した集団ではないということだと考えています」とクロスウェイト氏は語った。
「突き詰めていくと、シロビキはオリガルヒよりも大統領に近いのです」
●ロシアも余裕なし、金融から見たプーチンの急所  4/14
ウクライナに対するロシアの激しい攻撃が続いている。プーチン大統領は5月9日の対ドイツ戦勝記念日に、ウクライナ東部制圧で勝利宣言をしたいと考えているともいわれるが、台所事情はかなり厳しい。
戦争を続けるには「カネ」が必要である。名目GDP(IMF推計)が1兆4785億ドル(約185兆円)のロシアにとって、1日当たり2000億円〜2兆円と推定される戦費は重圧となる。
加えて欧米による経済制裁によりロシア経済はすでに年率10%を超えるマイナス成長に陥っていることは確実だ。世界有数の資源大国とはいえ、戦争を長期間継続することは難しい。経済制裁を受けて使える外貨準備が激減し、資本の海外流出もみられる。
通貨ルーブルの価値はロシア中央銀行が20%近く政策金利を引き上げるなどしたことで一時的なリバウンドはあるにせよ、成長の鈍化とともに趨勢的に低下していくことは避けられないだろう。現状15%程度にとどまっているインフレ率も、いずれ通貨安に伴って上昇し、国民生活を圧迫する。
ロシアのウクライナ侵攻は、入念に準備されてきた側面も指摘できる。侵攻すれば欧米による制裁措置は予想されたものだが、予想を超えた金融制裁にロシアの通貨、株式、国債はトリプル安に見舞われた。
「金」保有が過去10年あまりで4倍超
その一方で、ロシアは対抗余力を保持しているとも見られる。担保するのは「金(きん)」保有だ。
ロシアはウクライナのNATO加盟が先鋭化しはじめた2019年に金地金(きんじがね)の輸入を開始した。当時は、この金地金の輸入については、アメリカドル依存からの脱却を目指すプーチン大統領の指示と見られたが、今回のウクライナ侵攻で、その真意が単なるドル依存からの脱却だけではなく、ルーブル防衛にあったことが明らかになった。
ロシアの金保有高は、2010〜2020年にかけて4倍超に急増。ロシアの外貨準備に占める金地金の割合は最大で、2020年6月現在で約2300トンに達する。アメリカ、ドイツ、イタリア、フランスに次ぐ5位の保有高を誇る。
ロシアは金産出国で、輸出国でもあるが、2018年にはロシア中銀の金購入量は国内産出量を上回り、世界の中央銀行による金地金購入の約4割をロシア中銀が占めた。制裁に強い体制を構築する狙いがあったと見られる。
実際、2022年1月の外貨と金の保有は過去最高の6300億ドル(約79兆円)。世界4番目の外貨準備額高に達している。これに伴い、ロシアがドル建てで保有する外貨の比率は5年前の40%から約16%へと比重が低下している。そして、約13%を人民元で保有している。金積み増しを周到に進めてきたプーチン氏。そのうえでのウクライナ侵攻は、練りに練った戦略とみることもできる。
しかし、その前提となるのは短期の戦争終結だ。長期化すればウクライナ侵攻は自国経済にブーメランのように跳ね返ってくる。プーチン氏の誤算は、ストックではなく、フローで資金封鎖に見舞われたことではないか。
アメリカと欧州は国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの複数の銀行を排除し、アメリカはロシア中銀の在米資産を凍結、ルーブル防衛に外貨準備が利用できないよう制裁措置した。外貨準備に係るIMFの引き出し権も封じられた。
仮想通貨も封じられ、タックスヘイブン(租税回避地)に置かれたプーチン氏やプーチン氏を支えるオリガルヒ(新興財閥)の海外資産も凍結の憂き目にあっている。一部にはオリガルヒは凍結逃れから中東ドバイに資産を移しているともいわれるが、効果は限定的だろう。
厳しい制裁を追加したアメリカ
さらにアメリカは4月6日、ロシア軍によるウクライナでの民間人虐殺の疑いを受け、厳しい追加制裁を科した。ロシア最大の銀行「ズベルバンク」や国内4位の民間金融機関の「アルファバンク」に対し、アメリカの国民、企業との取引を全面禁止した。この制裁措置によりロシアの銀行部門の3分の2以上との取引が禁止されることになる。
同時にアメリカ人によるロシアへの新規取引を大統領令で禁止するほか、プーチン氏やその娘2人などのアメリカ内の資産を凍結した。また、欧州は、4月5日、ロシア産石炭の禁輸制裁案を発表した。原油や天然ガス(LNG)の輸入禁止には加盟国間で温度差があり、全面禁止には至っていないが、ロシア経済は欧米から経済封鎖されつつあることは確かで、金融面では孤立を強いられている。
すでにロシア国債は事実上のデフォルト(債務不履行)状態にある。ロシア財務長は4月6日、4日に償還期限を迎えたドル建て国債21億ドル(約2625億円)について、自国通貨ルーブルで支払い手続きを行ったと発表した。アメリカ財務省が経済制裁としてロシア中銀の外貨準備からアメリカの金融機関を通じて支払うことを認めなかったためだ。
ドル建て国債を他国通貨で償還することは契約違反であり、この時点でテクニカル上はデフォルトに認定された。救済措置として30日以内で契約どおりドルで支払えばデフォルトは回避できるが、状況は厳しい。
戦乱に起因するロシアの外貨建て国債のデフォルトは、1918年の帝政ロシア時代にまでさかのぼる。ボルシェビキ政権によるデフォルト宣言だ。
当時、ロシアは第1次世界大戦に連合国の一員として参戦していた。この戦費の調達を国債発行と海外からの融資に頼っていた。戦争の拡大に伴い調達戦費は増大し続け、財政を圧迫した。
帝政ロシア時代からほぼ100年で、ロシア国債は再びデフォルトする可能性が高い。4月4日期限の外貨建てロシア国債の残高のうち、海外保有分は200億ドル程度と大きくないが、デフォルト認定された意味は大きい。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスやS&Pグローバルは、部分的なデフォルトと見なす「SD(選択的デフォルト)に引き下げ、格付けの付与そのものを取り下げた。ロシアは事実上、国債発行を通じた外貨調達の道を閉ざされたに等しい。
頼みの綱は中国だが…
ただし、穴はある。中国という抜け道だ。中国の中央銀行である中国人民銀行とロシア中銀は1500億元(約2兆7400億円)規模の通貨スワップ協定を結んでおり、中国が金融面でロシアを支える可能性はある。
その際、「ロシアが産出する原油や天然ガス、保有する金は有効な担保になる」(市場関係者)とされる。中国はロシアのウクライナ侵攻に明確な批判を避けており、ロシアから安価な原油、天然ガスの購入を行っていると伝えられる。
中国はSWIFTに代わるCIPSと呼ばれる国際的な決済システムを有している。CIPSにはロシアやトルコなどアメリカが経済制裁の対象とした国々など、中国の一帯一路の参加国89カ国・地域の865行(2019年4月時点)が加盟している。
CIPSに加盟する銀行数で最大なのは日本であり、ロシアは2位、3位は台湾である。このため日本と台湾を除けば、CIPSの力不足は否めないが、SWIFTから締め出されたロシアはこのCIPSを通じて資金決済を担保できる可能性はある。
また、インドもロシアから武器の輸入の7割を頼っており、原油を安く購入している。ロシアの外貨獲得を手助けしている。
中国はロシアのウクライナ侵攻で漁夫の利を得るだろう。ロシアは将来、中国(人民元)経済圏に溶け込んでいかざるをえないかもしれない。依然、プーチン氏は高い支持率を維持しているが、ウクライナ侵攻の後遺症はいずれ国内経済に跳ね返ってくる。
●ウクライナ、21/22年トウモロコシ輸出1700万トンに大幅減も 4/14
ウクライナ農業省高官は13日、ロシアによる軍事侵攻の影響で、2021/22年のトウモロコシ輸出が1700万トンと、前年の2310万トンから減少する可能性があるとの見方を示した。
プラハで開かれた会合で述べた。ヒマワリ油の輸出も530万トンから減少して340万トンとなる可能性があるとした。
調査会社APKインフォームは先週、需要減少と在庫の積み上がりでウクライナ産トウモロコシの輸出価格が下落していると指摘した。
ウクライナは世界有数の穀物輸出国で、以前は黒海沿岸の港から大半の農産品を輸出していたが、軍事侵攻後は鉄道を使った西部国境からの輸出に限定されている。
同国当局者はこれまでに、3月のトウモロコシ輸出は30万トンにとどまり、同月末時点の在庫は約1300万トンに上ったと明らかにしていた。
農業省の別の高官は会合で、6月末までに200万トンの小麦を輸出できるとの見方を示した。21/22年全体の輸出量見通しは明らかにしなかった。
●イギリス ロシア軍事侵攻で機密情報を積極開示 そのねらいは  4/14
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、イギリス政府は、通常は決して公にはしない機密情報を積極的に開示してきました。こうした姿勢は、アメリカ政府も同じで、情報を開示することで、欧米側はロシアの動向を把握していると機先を制するねらいとみられます。
このうちイギリス外務省は、軍事侵攻のおよそ1か月前にあたることし1月下旬の段階で独自の情報に基づく分析として、「ロシアが、欧米寄りのゼレンスキー政権を転覆させ、親ロシア派による政権の樹立を目指す動きがある」と発表しました。
ゼレンスキー大統領に代わる新しい指導者として元首相や元議員などの名前まで具体的に挙げ、ロシアの情報機関と接触しているなどと指摘しました。
また、イギリスの対外情報機関、MI6のムーア長官は、軍事侵攻が始まった2月24日ツイッターに投稿し、イギリスは、プーチン大統領によるウクライナへの侵攻計画のほか、ウクライナ側から攻撃を受けたかのような情報をねつ造する「偽旗作戦」についてもアメリカと協力して、明らかにしてきたと強調しました。
ムーア長官は、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャなどで多くの市民の遺体が見つかった今月上旬には「プーチン大統領の計画には軍や情報機関による即時の処刑が含まれていることはわかっていた」と指摘しました。
さらに、情報機関のGCHQ=政府通信本部のフレミング長官も先月講演で「ロシア軍の兵士が命令を拒否したり、みずからの装備を破壊したりと士気が低下している」と述べるなど、各機関が次々に機密情報を公表しています。
また、イギリス国防省は、ツイッターで、連日、戦況分析を公表し、ロシア軍の動きや攻撃のねらいなどについて、分かりやすく伝えています。
イギリスにとって、冷戦時代から、ソビエトは大きな脅威で、MI6は、KGB=国家保安委員会としれつな情報戦を繰り広げてきたとされています。
冷戦終結後も、2006年には、ロシアの元工作員が亡命先のロンドンで死亡し、体内から猛毒の放射性物質、ポロニウムが検出されたほか、2018年には、イギリス南部で別の元工作員と娘が意識不明の状態で見つかっています。
いまもロシアを脅威と捉えるイギリスの情報機関は、モスクワなどに多くの情報工作員を潜り込ませているとみられ、今回の軍事侵攻を巡っても情報収集と分析に力を入れています。
イギリス国防省の諜報部門に高官としておととしまで所属し、40年近くにわたってイギリスのインテリジェンスの分野で中心的な役割を果たしてきたポール・リマー氏がNHKのインタビューに応じました。
現在、キングス・カレッジ・ロンドンで客員教授を務めるリマー氏は、ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、イギリスが、機密情報を積極的に開示してきたねらいについて「ロシアの偽旗作戦などに対して先手を打って情報を発信することでロシアの立場を弱め、ロシアの政権内の足並みを乱すことだ」と指摘しました。
また、「イギリスには、長年にわたって経験を積んだ情報機関があるが、今回、特に重要なのはアメリカと信頼し合うことで情報が強化されたことだ」と述べ、イギリスの情報機関は、ウクライナ情勢を巡りアメリカ側と連携を強め、積極的に情報を交換していたとしています。
さらに、リマー氏は、2006年、プーチン政権を批判してイギリスに亡命していたロシアの元工作員が暗殺された事件や、2018年に元工作員の男性などへの暗殺未遂事件が発生したことなどを指摘したうえで、「プーチン政権とは普通の関係を築けないことが明らかになり、プーチン大統領のねらいと意図を理解することに多くの資源と労力をつぎ込む必要があった」と述べロシアに対する諜報活動に一層力を入れることになった背景について明らかにしました。
一方、リマー氏は、プーチン政権の今後について、「あすにでもプーチン政権が倒されるというのはおそらく希望的観測で、今後、政権側は、ウクライナとの戦争に勝利したかのようなストーリーを打ち出すかもしれない。政権への影響は、ロシア国民に制裁の効果が出てきてからだが、実際にそれが出るまでには時間がかかる。半年後や1年後、どういう状況になるかは未知数だ」と述べました。
●アメリカ、中国……ウクライナ情勢、素朴な疑問 4/14
ウクライナ情勢はロシア軍による残虐行為が明らかになるなど、日々、状況を新たにしています。2人の専門家の見方をお伝えします。
「ロシアに対し5つの柱からなる追加制裁を科し、外交的、経済的圧力を強化する」……岸田総理大臣は4月8日の記者会見で、ロシアへの新たな追加制裁を発表しました。
(1)石炭の段階的な輸入禁止
(2)機械類、ウオッカなどの輸入禁止措置
(3)新たな投資の禁止
(4)ロシア最大手の銀行などの資産凍結
(5)個人や団体への資産凍結の拡大
あわせて岸田総理は、ロシア軍の残虐行為に対し「戦争犯罪である」と強調しました。
さて、このような制裁というのは「される側」……ロシアにとっては当然、厳しいものですが、“空証文”にならないためには、取り締まりが両輪となります。そういう意味で制裁する側にも覚悟が必要です。特に、アメリカでは違反した場合の厳しさは半端ではないようです。
アメリカの法律事務所「クイン・エマニュエル」東京オフィスの代表で、アメリカ人弁護士のライアン・ゴールドスティンさんは、「アメリカは本気だ」と語ります。ライアンさんはアメリカの裁判で、日本企業を担当する弁護士の1人です。
アメリカの制裁措置は、ロシアの銀行や国有企業に対する取引制限、ロシアの富豪や上流階級に対する取引制限や資産凍結など。これらは「ブロック制裁」と呼ばれます。こうした制裁措置は大統領令に基づく指令も多くあります。最高で100万ドル=日本円で1億円あまりの罰金刑、個人の場合は最高で20年の禁錮刑を科される可能性もあるということです。ライアン弁護士は「アメリカではロシアに対し、戦争はしていないものの、そのマインドになっている」と話します。
オリガルヒに代表される、固有にリストアップされている人物や団体は最もわかりやすいものですが、リストになくても、海外でどういう仕事をやっているかについては確認が必要です。最も注意が必要な業種は金融関係で、例えばヨーロッパへの投資先がロシアと関係がないかどうかも精査すべきでしょう。
そして、日本企業は現地法人、例えばアメリカにある子会社の動きには特に注意すべきと、ライアン弁護士は指摘します。グローバルに展開する日本企業も多いだけに、各国のさまざまな法律と照らし合わせる必要も出てきます。
企業などが、気がつかないうちに禁を犯してしまう可能性はないとは言えません。アメリカはすでにロシアの航空大手への罰則を発表しました。いまのところ、違反の摘発はあまり表面化していませんが、日本もこれから目を光らせていくことになります。そして、アメリカの姿勢は取り締まりをめぐる1つの試金石になっていくとみられます。
続いての疑問は「中国」です。これについては小欄でも一度取り上げましたが、日本を含む先進国を中心に制裁の動きを強めるなかで、中国はこうした流れと一線を画しているように見えます。中国には、ロシアのウクライナ侵攻がどう映っているのでしょうか?
中国情勢に詳しい、拓殖大学教授でジャーナリストの富坂聰さんは、まず、中国のニュースの報じ方に注目します。
「ロシアとウクライナの戦い、ロシアとNATOの戦いを明確に分けて報じている。中国はロシアのウクライナ侵攻をもう少し俯瞰して見ている感じがある。日本は“どちらが悪いか”ということを視点として持つが、中国は情勢が今後どのように向いていくのか、そのとき自分たちにはどういうマイナス、プラスがあるのかという視点が中心になっている」
冷徹に国益を見極めている姿勢が見てとれます。こうした現状の上で、今回の状況は「アメリカとロシアの代理戦争」というのが中国の見方です。
また、あいまいとされている中国のウクライナ侵攻へのスタンスについては、2月24日の侵攻直後に習近平国家主席がプーチン大統領と電話会談し、「ウクライナと話し合って問題を解決しろ」と述べたことを指摘しました。中国はロシアが感じている安全保障上の危機感に賛同しているものの、侵攻には反対しており、その意味でスタンスは明確であると富坂さんは分析します。
その上でロシアと中国が一致しているのは、唯一の国際秩序は国連であり、アメリカ中心の国際秩序ではないということ。つまり、アメリカがやっていることは「ノー」であるとして両国は手を組んでおり、逆に一致しているのはそこだけだとしています。
中国の「ロシア寄り」という見方についても、「中国は一方的にロシアにのることはそもそもできない」と話します。ウクライナと中国は農産品を中心とする貿易関係があることがその理由ですが、一方で、ロシアの貿易も大きく、「両方捨てたくない」というのが中国の本音のようです。
一方、このウクライナ情勢を中国はわが事として観察しているという見方もあります。これは日本もしかり、巷間言われているのが、台湾問題や東シナ海問題との関連性です。事態によっては中国の台湾侵攻につながっていくのか……富坂さんはウクライナ問題とは関係なく、台湾侵攻の可能性があると指摘した上で、次のように解説します。
「中国が主導的に台湾に軍を差し向けるかというと、ハードルは高い。現実的ではない。人口2000万人の台湾を無理やり配下に治めても、きちんと治めていけない。できれば抱えたくないと思っている。ただし、完全に台湾が自分たちから離れていくという状況は受け入れられない。そのときには何らかのアクションをする。もちろん武力行使も入っている。手を出さざるを得ない状況はある。国土を分裂させるようなことをやったら、平和統一という基準から外れる」
これまでの話で言えることは、ウクライナ情勢もそれぞれの国の視点によって、全く違う景色に見えているということです。先の国連総会では、国連人権理事会でのロシアの資格停止決議が採択されました。決議は賛否を示した国のうち、3分の2以上の賛成で採択と規定されていますが、その結果は賛成93、反対24、棄権58というものでした。この結果は解釈が分かれるところです。賛否を示した117ヵ国の3分の2は確かに超えていますが、反対・棄権が82ヵ国に上っています。
ちなみに中国は反対、インドは棄権でした。中国とインドを合わせた人口はおよそ28億人、世界のおよそ3分の1を占める2つの国が賛成しなかったことは、ウクライナ問題が1つの価値観だけで論ずることは難しい、それぞれの利害が絡んだいかに複雑なものであるか、その象徴だと言えるでしょう。
ウクライナの惨状は、もちろん人道的に決して許されることではありません。一方で、こうした現実があるということも頭に入れておく必要があると思います。
●露のウクライナ戦争は「聖戦」でない  4/14
東方正教会のコンスタンディヌーポリ総主教、バルソロメオス1世は10日、ロシアのウクライナ侵攻を強く非難し、「戦争は悪魔的だ。悪の主要な武器はウソをつくことだ。戦争では何事も解決できない。新しい問題を生み出すだけだ」と主張した。バルソロメオス1世はポーランドを訪問し、ウクライナからの避難民の状況を視察してきた。同1世は世界約3億人の正教徒の精神的最高指導者である。
エキュメニカル総主教のバルソロメオス1世は数日前、ギリシャの学生たちの前でも同様の内容を語り、「攻撃者が武装していない無実の人々、子供を攻撃し、学校、病院、劇場、教会さえも破壊することは正当化できない」と指摘し、「ロシア正教会のモスクワ総主教キリル1世の態度に非常に悲しんでいる」と述べている。
ロシア正教会最高指導者、キリル1世はロシアのプーチン大統領を支持し、ロシア軍のウクライナ侵攻をこれまで一貫として弁護し、「ウクライナに対するロシアの戦争は西洋の悪に対する善の形而上学的闘争だ」と強調してきた。
バルソロメオス1世は、「キリル1世はウクライナ正教会のロシア正教会からの分離が紛争のきっかけとなったと説明しているが、不正を正当化するための言い訳に過ぎない。」と述べ、ウクライナ戦争を「聖戦」と呼ぶのを止めるべきだと要求している。
キーウからの情報によると、ロシア軍はウクライナで少なくとも59カ所の宗教施設を攻撃して被害を与えている。正教会の建物が破壊され、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)、イスラム教寺院(モスク)、プロテスタントとカトリック教会の礼拝所も被害を受けている。
ここにきてジュネーブに本部を置く世界教会協議会(WCC)から、「ロシア正教会をWCCメンバーから追放すべきだ」といった声が高まってきた。WCCはスイスのジュネーブに本部を置く世界的なエキュメニカル組織だ。120カ国以上からの340を超える教会と教派の会員が所属している。WCCには、多数のプロテスタント、ほとんどの正教会、東方諸教会が所属している。ローマ・カトリック教会はオブザーバーの立場だ。
WCCのサウカ暫定事務局長(ルーマニア正教会所属)は、「加盟教会をWCCから除外する決定は、事務局長ではなく、統治機関である中央委員会に委ねられている。中央委員会は6月15日から18日まで会合し、今年8月31日から9月8日までドイツのカールスルーエで開催されるWCC第11回総会の準備をする。WCC中央委員会は、関係する教会との真剣な協議、訪問、対話の後、関係教会の除外問題を決定することになる。正教会の一員として自分も苦しい。悲劇的な出来事、大きな苦しみ、死と破壊は、正統の神学と精神性に対立する。その戦争を正当化するロシア正教会の状況に懸念する。キリル1世に個人的に手紙を書き、2人の大統領に戦争を終わらせるよう呼びかけたばかりだ」と述べた。
注目すべきは、ウクライナでキエフ総主教庁に属する正教会聖職者とモスクワ総主教庁に所属する聖職者が「戦争反対」という点で結束してきたことだ。ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)の首座主教であるキーウのオヌフリイ府主教は2月24日、ウクライナ国内の信者に向けたメッセージを発表し、ロシアのウクライナ侵攻を「悲劇」とし、「ロシア民族はもともと、キーウのドニエプル川周辺に起源を持つ同じ民族だ。われわれが互いに戦争をしていることは最大の恥」と指摘、創世記に記述されている、人類最初の殺人、兄カインによる弟アベルの殺害を引き合いに出し、両国間の戦争は「カインの殺人だ」と述べた。同内容はロシア、ウクライナ両国の正教会に大きな波紋を呼んだ。
最近では、イタリア北部のウディネにあるロシア正教会は、モスクワ総主教区から分離したばかりだ。ウディネのロシア正教会は現在、コンスタンディヌーポリ総主教の管轄下に属することを願っている。イタリア日刊紙「イルメッサジェロ」が11日、報じた。
なお、イタリア通信社ANSAが11日報じたところによると、ローマ教皇フランシスコはキリル1世と今年6月にエルサレムで会うことができるかもしれないという。フランシスコ教皇は6月12日から13日にレバノンを2日間訪問した後、同月14日朝にヨルダンのアンマンからエルサレムに到着する。フランシスコ教皇はそこでキリル1世と会い、ウクライナ戦争について話すことができるかもしれないという。
●「ナチスよりもひどい状況」「これは戦争ではなくテロだ」バルト三国の大統領 4/14
ポーランドとロシアに接するバルト三国の大統領がウクライナを訪れ、多くの民間人が犠牲となった現場などを視察しロシアを非難した。
ポーランドやエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国の大統領は13日、多くの民間人が犠牲になったキーウ郊外のボロディアンカで攻撃を受けた住宅などを視察した。
リトアニアのナウセーダ大統領は「ナチスよりもひどい状況」だと表現しロシア軍を非難した。その後、各首脳はキーウでウクライナのゼレンスキー大統領との会談に臨んだ。
会見でポーランドのドゥダ大統領は「これは戦争ではなくテロだ」と指摘した。そのうえで「罪を犯した者は裁判にかけられそれは命令を下したものにも及ぶべきだ」とロシアのプーチン大統領をけん制した。
●ポーランド大統領、ロシアのウクライナ侵攻は「戦争ではなくテロ」 4/14
ポーランドのドゥダ大統領は13日、ロシアによるウクライナ侵攻について、「戦争ではなくテロ行為だ」と述べた。ドゥダ大統領はこれより前、バルト三国の指導者とともにウクライナ首都キーウ(キエフ)を訪問し、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談していた。
ドゥダ大統領はツイッターへの投稿で、「これは戦争ではない。兵士が民間人を殺害するために送り込まれているとき、これはテロ行為だ」とし、戦争として受けとることはできないと指摘した。
ドゥダ大統領は、こうした犯罪に直接的あるいは間接的に関与した犯罪者は処罰されなければならないとし、検察官が大量殺人が行われた場所で証拠を集めていると述べた。
ドゥダ大統領は「すべてのルールを破る人たちとは対話は成立しない。わたしは、ウクライナが自身の立場について決断を下せる自由な主権国家として、すぐに欧州連合(EU)の一部となることを望む」と述べた。
ポーランドは紛争を逃れてきた人々の支援で大きな役割を果たしている。ポーランドの国境警備隊によれば、ポーランドはロシアがウクライナへの侵攻を始めた2月24日以降、268万人のウクライナ難民を受け入れている。
今回の難民受け入れは、2015年から始まった欧州難民危機の時の対応と比較すると、非常に友好的な立ち位置を示している。当時の避難民は中東諸国の紛争から逃れてきた人が大多数だったが、ポーランドはEUから提案された難民の受け入れ枠を拒否する姿勢を示していた。
●サンマ漁 2022年も見送りへ ウクライナ情勢・燃料高騰で...  4/14
5月から始まる予定の公海サンマ漁が、2022年も見送りとなるもよう。
5月から7月にかけて、北海道の根室などを拠点に、北太平洋の公海で操業するサンマ棒受け網漁は、資源数の減少で、2021年と2020年、出漁が見送られている。
漁場に最短で向かうには、ロシア水域を通る必要があり、2022年はウクライナ情勢の緊迫で、漁船がロシアに拿捕(だほ)される懸念があるほか、燃料費の高騰も重なり、3年連続で出漁が見送りとなる見込みだという。
●国内企業の8割超がウクライナ侵攻による経営への影響を懸念 4/14
ロシアのウクライナ侵攻による国内企業への影響について、8割を超える企業が経営への影響を懸念していることがわかりました。
東京商工リサーチが4月1日から11日にかけて行ったおよそ5700社に対するアンケート調査では、すでに経営にマイナスの「影響を受けている」と回答した企業は35.5%、「今後影響が見込まれる」は46.0%で、合わせて81.5%の国内企業が経営への影響を懸念していることがわかりました。このうち「影響を受けている」と「今後影響が見込まれる」を合わせた「影響率」は、アルミニウムや亜鉛などの「非鉄金属製造業」が100%でトップでした。
また、「今後影響が見込まれる」と回答した企業では、影響の表れる時期についておよそ8割が(78.3%)が「6か月以内」としています。
ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰やビジネス圏の縮小などが新たな経営リスクとして急浮上している実態が浮き彫りになりました。
●ロシア国防省「ウクライナ軍1026人が自発的に武器を捨て投降した」 4/14
ロシア国防省は、南東部の要衝マリウポリをめぐり、ロシア軍と親ロシア派武装勢力による攻撃を受け、「ウクライナ軍1026人が自発的に武器を捨てて降伏した」と主張しました。
しかし、ウクライナ側はこの情報を否定しています。ではこの「投降」は本当なのでしょうか?新たな情報戦ではないか?という見方もあります。他にロシア側は「マリウポリの港がアゾフ連隊から完全に解放された」として、港を制圧したとも主張しています。ウクライナ東部で一体何が起こっているのか?専門家に聞きました。
ロシア軍 まもなくマリウポリ制圧か
山形純菜キャスター: 13日アメリカのバイデン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と約1時間の電話会談を行いました。そこで日本円にして約1000億円相当の追加の軍事支援を行うと表明。具体的には、砲撃システムや軍用ヘリなどを提供予定です。
また、アメリカ国防総省高官によると「今後24時間以内にアメリカからジャベリン(対戦車ミサイル)をもう一便送る見通し」だと発表しました。
そんな中、軍事侵攻が激化している東部のマリウポリでは11日から12日にかけて、ロシア軍が制圧したとみられる地域が拡大していて、中心部を包囲する形に変わってきています。ロシアの国防省は13日、マリウポリの港を完全に制圧したと主張しています。さらに、ロシアメディアがマリウポリ「新」市長を“親ロシア派”が選出したとしています。
ただ、現在の市長が辞任した情報はなく、このような報道をすることで、親ロシア派による軍事侵攻が進んでいることを国内外にアピールすることが目的と見られています。
ロシア国防省「ウクライナ軍1026人が武器を捨て投降」
また、ロシア国防省の報道官は「マリウポリでウクライナ軍1026人が自発的に武器を捨てて投降した」と発表しました。ただ、ウクライナ側によるとそのような情報はないと、ロシア側の主張を否定しています。
ホラン千秋キャスター: 廣瀬さん。ロシアの主張、ウクライナの主張、食い違っていることになっていますが、実際はどんなことが起きていると考えられますか?
慶応義塾大学 廣瀬陽子教授: おそらく投降したということはないと思います。そこはお互いの情報戦になってしまっているので、ロシアとしては、ウクライナの戦争に対する意欲をどんどん下げるような情報を出していきますし、他方でウクライナはこのようなことはないと主張することもある。この状況において投降することは、ちょっと考えづらいと思います。
井上キャスター: こういった情報戦が続いている中で、廣瀬教授はプーチン大統領はどこまでの目的を持っているのか、ウクライナ全土を掌握したいのか、それともマリウポリを制圧出来れば、一区切りとなるのか。プーチン大統領の頭の中をどう分析していますか?
廣瀬教授: もちろん最初の狙いとしては、ウクライナ全土だったはずです。今は5月9日の戦勝記念日に向けて、ドネツク・ルガンスク州全土を落とす。その州の全土を取るという考えに変わってきていると思います。ドネツクを全土支配するにしても、このマリウポリは絶対に落としていかなければならない場所で、特に2014年の戦いの時にマリウポリは落とせそうで落とせなかった場所ですので、そのリベンジの意味もあって、まずマリウポリを落とす、そして、ドネツク全土を落としていくというような方向で、最低限のレベルでプーチン大統領は目標を設定していると思います。
井上キャスター: そんな中で停戦交渉は出来ますか?
廣瀬教授: そこは難しいところではありますが、とりあえず東部の2州を完全に落とした後は、一応そこの部分だけの勝利宣言は出来ると思います。まずはそこの勝利宣言をして、その後で次にウクライナの出方を見つつ、どのように戦況を展開していくか考えていくんだと思います
ウクライナ国家親衛隊所属「アゾフ連隊」
山形純菜キャスター: そしてマリウポリでは11日「ロシア軍が化学兵器を使用したのではないか」という情報がSNSで伝えられ、日本でも大きく報道されました。SNSで主張したのはウクライナ政府の正式な軍隊ではない「アゾフ連隊」という軍事組織。
このアゾフ連隊はマリウポリを拠点する軍事組織で2014年ロシアによるクリミア侵攻の際、義勇兵として戦闘に参加しました。笹川平和財団の畔蒜さんによると「アゾフ連隊は2014年の戦闘ではロシアからマリウポリを守り切ったと英雄視された一方で、創設当時は極右的なメンバーも多く過激な行為も見られた」ということです。現在はウクライナ内務省管轄の国家親衛隊に所属しています。
では、このアゾフ連隊はプーチン大統領にとってどんな存在なのかというと、クリミア併合時にマリウポリ制圧に失敗したという悔しさから、アゾフ連隊は「復讐の対象」だと畔蒜さんは指摘しています。
ですからマリウポリを制圧するというのは「過激な行動を取るアゾフ連隊は、マリウポリを占拠するいわゆるネオナチで、それをせん滅してマリウポリを制圧すれば“ウクライナ人を救う”という今回の特別な作戦の大義名分がたつのではないか」と畔蒜さんは分析しています。
ホランキャスター: マリウポリを拠点とする軍事組織で今は国家親衛隊に所属ということなんですけど、このアゾフ連隊とウクライナ軍はどういう風に分けてみればいいのでしょうか?
廣瀬教授: アゾフ連隊は軍ではないのですが、もともと自警団的な存在だったのが非常に活躍が良いということで、国家親衛隊に昇格したというものなんです。今逆にいうと国家親衛隊というような位置づけなので、政府に近い形で積極的に軍事行動を行える。ウクライナ軍と連携をとりながら作戦を遂行しているという状態にあると思います。
井上キャスター: 裏を返すとアゾフ連隊が想像以上に頑張っているというか、ロシアは少し甘く見ていた部分があるということですか?
廣瀬教授: ロシアにとってはなんとしてもやっつけたい相手。非常に強く士気も高いですし、ウクライナ軍を引っ張っていくという存在であるといえます。
●ウクライナ軍の攻撃?ロシア艦隊“旗艦”が爆発…侵攻開始から50日目 4/14
2月24日にロシアのウクライナ侵略が始まり、14日で50日目です。
ロシアとの国境からわずか10キロ程度しか離れていないハルキウ。ロシア軍による侵攻開始以来、毎日のように攻撃にさらされてきました。絶え間ないロシア軍の砲撃のせいで、遺体の回収もままなりません。
マリウポリでは、ほとんどの場所がロシア軍に占領されています。街中で目につくのは、『Z』のマークを付けた兵士や、装甲車だけになりました。
ドンバス地方の分離主義者たちは、残っている住民たちを探していますが、彼らをどこに連れて行くのかは、わかりません。マリウポリでは、製鉄所にアゾフ連隊など、数千人が立てこもり抵抗を続けていますが、現状ではロシア軍よって完全に包囲されてしまっています。
ロシア側は、投降してきたという1026人のウクライナ兵の映像を公開。この様子は、ロシア国営放送で繰り返し放送されました。この半日で15回もです。
ウクライナ側は、こう話します。ウクライナ・大統領府長官顧問:「一部の部隊が突破を試みたが、拘束されてしまったのは事実だ。ただ、それは、ロシア側が発表したような1000人という数ではなく、はるかに少ない」
ウクライナ軍が、地対艦ミサイルを使って黒海艦隊の旗艦『モスクワ』に甚大な損害を与えたというニュースが入ってきています。CNN:「巡洋艦について詳細を確認中だが、ウクライナの主張が本当なら、どのような意味合いがあるのか」軍事アナリスト・ハートリング元米陸軍中将:「戦術上の勝利しょう。ウクライナがネプチューンミサイルを命中させたと発表した。これは、ウクライナ製の地上型対艦巡航ミサイルだ。ロシア側には、予想外の戦力だったはず」
ロシア国防省は「ミサイル巡洋艦・モスクワで火災が起き、弾薬が爆発した。深刻なダメージを受けているが、乗組員は全員無事だ。原因は調査中」と発表しました。
どれだけの命が奪われ、建物や文化、生活が破壊され、国土が蹂躙されたか、そこをはかることはできません。今も侵略者との戦いは続き、生き残っている人たちは、戦時下での生活を余儀なくされています。
ウクライナ支援の拠点になっている西の要所・リビウ。世界中から支援物資が集まってはいますが、今のウクライナでは、軍への供給が優先されます。ボランティア:「ポーランド、フランス、フィンランド、ドイツ、イタリアのボランティアなど持ってきた。ウクライナのいろんな地域からも届いている。人道支援物資の一部は軍に送られ、一部は私たちのところに運ばれてくる。(Q.軍に送られるものは何か)防寒用下着、ズボン、手袋、防弾服、食料、衛生用品など」
これまでにウクライナからは470万以上の人が国外へと避難しています。その一方で、ポーランド側の国境に行ってみると、ある変化が起きていました。
ウクライナに戻る人たちが、列をなしていました。ウクライナ国境警備隊によりますと、2月24日以降、87万人のウクライナ人が帰国したといいます。元々、国外にいた人が戦闘のために戻るケースのほかに、いったんは避難した女性や子ども、高齢者の帰国が増えてきているそうです。
ある避難者は、ユーロニュースの取材に、このように答えています。ザポリージャからの避難者(46):「住むところも仕事も見つけられなかった。少なくとも自分の家では自力で生活することができる。国外に住むという選択肢は選べなかった」
こうしたなか、アメリカは、8億ドル、約1000億円の追加軍事支援を表明しました。ジャベリンミサイルなど、これまでのものに加え、自爆ドローン、装甲車に榴弾砲、化学・生物・核兵器の防護設備、軍用ヘリなどです。ヘリコプターは、ソ連製のものですが、アフガニスタン軍などにもアメリカが供与していた機体です。軍事アナリスト・スペンサー元米陸軍少佐:「ウクライナは開けた場所で戦い、東部の陥落を防がねばならない。ロシアの動きを封じるには、1日に1万〜2万発の砲撃が必要」
●ロシアの軍事侵攻で暮らしが苦しくなる  4/14
「ロシアの軍事侵攻で、この国の家計は歴史的な打撃を受けている」ウクライナの話ではありません。イギリスの中央銀行総裁のことばです。イギリスでは今、日々の食事を慈善団体に頼る人が増え、貧困が広がることへの懸念が強まっています。背景にあるのは急激なインフレです。それは、私たちが暮らす日本も無関係ではありません。
個人の借金が増えている
15億ポンド(約2600億円)。イギリスでは、2月だけでクレジットカードの借り入れ額がこれだけ膨らみました。1993年に統計を取り始めて以来、最も大きい伸び率です。今の収入で必要な支出をまかなうことができず、暮らしを維持するために借金をする人が増えたためとみられています。
なぜ家計が厳しくなった?
イギリスの人たちを苦しめているのは、物価の記録的な上昇です。牛乳に主食のパン、それにビール。身近なあらゆるモノが値上がりしています。例えば牛乳は2月、前年同期と比べて20%高くなり、近く50%に達する可能性があるとされています。背景にあるのが、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに穀物やエネルギーの価格が上昇していることです。牛を育てる飼料から輸送費まで、牛乳の製造にかかわるさまざまなコストが増えているのです。
イギリス農業者連盟 マイケル・オークス酪農委員長「多くの農家が瀬戸際に立たされている。コストが上がり続けて採算が取れない」
4月の電気ガス料金は1.5倍に
イギリスの人たちの負担は増す一方です。その象徴が電気・ガス料金です。4月、家庭向けの電気やガスの料金の上限価格が54%値上げされました。燃料となる原油や天然ガスが高騰し、エネルギー供給会社の撤退が相次いだことを受けてサービスを維持する必要に迫られたイギリス政府が引き上げたのです。こうした物価の上昇はロシアの軍事侵攻以降、一段と進んでいます。中央銀行イングランド銀行のベイリー総裁は「ロシアの軍事侵攻で家計は歴史的な打撃を受けている」と指摘し、今の生活水準を維持することが難しくなると警鐘を鳴らしています。つまり市民が“貧しくなること”が懸念されているのです。
すでに見えてきた“貧困化”
すでにイギリスにはこの変化が目に見える場所があります。生活が苦しい人に食品などを無償で提供する「フードバンク」です。ロンドン西部にある慈善団体が運営するフードバンクは市内2か所に設けられ、一般の人やスーパーからの寄付などで集められた肉や野菜、飲み物などを配っています。ここでは誰もが週に1度、必要な食料などを受け取ることができます。このところ利用が増えているということで、朝から食品を求める人たちがひっきりなしに訪れ、途切れることはありませんでした。訪れた人は暮らしが厳しくなっていると口々に話しました。
娘2人と夫と暮らす51歳の女性「コロナ禍で夫が失業して収入がほぼない中、モノが高くなりすぎて何も買えません。育ち盛りの娘がいるので、パンや牛乳はなんとか手に入れたいと思ってここに来ています。ガスの節約のため毎日料理ができず、料理する日としない日を決めています」
幼い3人の子どもがいる36歳の女性「生鮮食品を手に入れるためにここに来ています。赤ちゃんがいるので、必要な服は中古やチャリティーで手に入れています。どうやって生き延びるかを毎日考えています」
この慈善団体が運営するフードバンクは、時間によっては食料を受け取る人で長い列ができるということです。代表のビリー・マクグラナガンさんは利用者が今後さらに増加すると予想しています。
フードバンク「ダッドハウス」経営者 ビリー・マクグラナガンさん「スーパーに行くたびに値段が高くなっている状況の中、暖房と食事のどちらかを選ばなければならない人が多いのが実情です。困っている人を助けるために食料を寄付する側だったのに、受け取る側になった人もいるんです。これからますます訪れる人は増えるでしょう」
130万人が新たに貧困に陥る?
イギリスの人たちの暮らしは今後どうなるのか。専門家は、ウクライナ情勢でモノの価格が押し上げられ、物価が過去40年間で最も速いスピードで上昇していると指摘します。そして、多くの人が新たに貧困に陥る可能性があるというのです。
レゾリューション財団ハンナ・スローター シニアエコノミスト「物価が上がるスピードがあまりに急で、賃金の上昇が追いつかず、家計はさらに圧迫されることになるだろう。多くの世帯はすでにエネルギーや食料といった必需品の支出をこれ以上削減できない状況だ。今後130万人が新たに貧困に陥り、うち50万人は子どもになるだろう」
40年ぶりのインフレ続くアメリカは
家計が圧迫されているのはイギリスだけではありません。アメリカでは物価の伸びを示す消費者物価指数が3月に前年同月比で8.5%上昇し、1981年12月以来およそ40年ぶりとなる高い水準を記録しました。品目別に見ますと、ガソリンが48%という大幅な値上がりとなったほか、電気料金が11.1%、食品が8.8%、公共交通機関の料金も7.7%上昇しました。いずれも日常生活に必要な支出ばかりです。アメリカでも、所得の低い人を中心に生活が苦しくなる人がさらに増えると見込まれているのです。
日本の暮らしもさらに厳しく
日本でも値上げが相次いでいますが、家計への負担は今後さらに増しそうです。その一つが、電気料金の値上がりです。国内の大手電力会社10社のことし5月分の電気料金は、比較できる過去5年間で、最も高い水準になります。東京電力管内の場合、使用量が平均的な家庭の去年5月分の電気料金は、6822円でした。しかし1年間で料金は1683円上昇。ことし5月の電気料金は、8505円になります。この先が気がかりになる数字も出ています。4月12日、日銀は企業の間で取り引きされるモノの価格を示す「企業物価指数」の最新の数値を発表しました。それによりますと、3月の速報値は、2015年の平均を100とした水準で112.0。1982年12月以来、実に39年3か月ぶりの高さとなりました。ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、石油製品や電力価格などが値上がりしたことが主な要因です。原材料費や仕入れコストの上昇分を価格に転嫁することになれば、生活必需品などがさらに値上がりする可能性もあるのです。世界を見渡すと、フィリピンやスリランカなどでは市民が抗議デモを行って、物価上昇が生活の打撃になっていると訴えています。WTO=世界貿易機関は物価の高騰で貧しい国々での食糧危機が迫っているとの認識を示しています。ウクライナ情勢は事態打開の道筋が見えないままで、世界各地でも暮らしの先行きに不安が高まっています。
●世界で高まる「ロシア嫌悪症」に注意すべきだ  4/14
非道な「住民虐殺」が明るみに出て国際的包囲網がますます狭まるプーチン政権だが、ロシア国民の高い支持が揺らぐ気配はない。この背景には、反戦論への強烈な締め付けで多くの市民が戦争の実態から目を背けていることがある。しかし政権を下支えする最大の「免震安定装置」は、何世紀にもわたってロシア国民の心の深奥に潜む「反西欧」の愛国心である。これを承知しているプーチン氏は国際的孤立を正当化する魔法の言葉≠巧みに駆使して、国民を引きつけるのに成功している。
魔法の言葉「ルッソフォビア」
この魔法の言葉は「ルッソフォビア」。「ロシア嫌悪症」と訳されるが、19世紀以来の長い歴史がある言葉だ。最初にこの言葉を広めたのはフランスだ。当時大国として勃興していたロシアに、ナポレオンが侵略することを正当化するために使い始めた。ロシアが異文化であり、西欧への脅威であることを訴えたキャッチフレーズだ。次第にロシア脅威論の象徴として、この言葉はイギリスやドイツにも広まった。
その後、次第に使われなくなっていたこの言葉を政治の主舞台に復活させたのはプーチン大統領だ。ウクライナへの侵攻を事実上宣言した2022年2月21日の演説でもこう使った。「ウクライナ社会は極端なナチズムの拡大を受けて、攻撃的なルッソフォビア色を帯びた」と。プーチン大統領はゼレンスキー政権を「ネオナチ政権だ」と一方的に攻撃し、非ナチ化を侵攻の理由の1つとして掲げた。ルッソフォビアを使うことで、ロシアがウクライナの根深い反ロシア感情のいわれなき被害者であることを増幅して植え付ける狙いだった。大統領は侵攻開始後も事あるごとにこの言葉を使って、アメリカや欧州を批判している。
ルッソフォビアという言葉をプーチン氏が頻繁に使い始めたのは、2014年のクリミア併合後だ。併合はロシア国内では圧倒的な世論の支持を得たが、国際的には力で一方的にウクライナの領土を奪ったことで米欧から制裁を受け、国民生活も大きな打撃を受けている。「米欧は伝統的なルッソフォビアからわれわれを攻撃しているのにすぎない、ロシアは悪くない」という言い分で国民の反西欧感情に訴え始めたのだ。ロシアはそれまでは単に反ロシア的行動とベタ≠ネ表現で米欧を批判してきたが、歴史的な重みがないこの表現にはロシア人の心に響く訴求力がなかった。これに歩調を合わせて、ロシアのラブロフ外相も海外からの批判を浴びる度に、具体的な反論を省いて「いわゆる、ルッソフォビアだ」と切り捨てるようになった。
2018年12月、ロシアの有力紙「ベドモスチ」は、「ルッソフォビア」の乱発についてこう皮肉った。「ルッソフォビアと言う言葉は、外交上の緊張関係の原因を国民に話すうえで万能の説明になった。外務省やクレムリンに忠実なメディアのみならず、国家トップの辞書にも加わった」。米欧からさまざまな批判を受けてもこの言葉で国内に説明しておけば、詳しい事情に立ち入らなくても国民は「そうか、原因はルッソフォビアなんだ」と一種の思考停止状態のまま政権を支持してくれる便利な言葉なのだ。
しかしルッソフォビアの乱発は単なる世論対策ではない。19世紀にロシアの思想家が唱えた過激な民族主義的国家論に、プーチン氏が急激に傾斜していることが背景にある。
2人の極右民族主義者の思想
2021年10月、ロシア専門家を招いた国際会議でプーチン氏は、最も愛読している本として、20世紀前半の思想家イワン・イリイン氏の著作を挙げた。欧米の専門家から「ファシスト的民族主義者」と酷評されている同氏の主張は簡単に言えば、「ロシアには他の民族にない特別の使命があり、ロシアを守るためには周辺国との戦争が必要だ。そのために軍事的国家制度が必要だ」。ウクライナについては「ロシアから分離されたり、占領されるという点で最も外国から脅威を受けている場所」だから、死守するよう呼び掛けていた。
プーチン氏は2021年7月に発表した論文で、ロシア人とウクライナ人が「1つの民族で、ウクライナはロシアとの友好関係の中でのみ主権が可能になる」との脅迫的主張を展開したが、この言説の下敷きにあるのがイリイン氏の思想と言われている。
プーチン氏の思想的土台になったのがイリイン氏とすれば、プーチン氏周辺では現在、より狂信的な2人の極右民族主義者が存在している。
1人が「プーチンの脳」とも呼ばれているドゥーギン氏だ。同氏が極右派ネットテレビ「ツァリグラド」のサイト上で「ウクライナなしにロシアは帝国になれない」と主張。侵攻に対しては「この危機的時期に特別作戦開始を決定した。これは当然で論理的な一歩だ」と熱烈に讃えた。このサイト上では、捕虜となったウクライナ人兵士らがロシア兵士の前にひざまずかされ「ロシアの一部であるウクライナ」と絶叫させられている映像がアップされている。
プーチン氏がドゥーギン氏の主張を100%取り入れているかどうかは、専門家の間では意見が分かれている。事実、ドゥーギン氏は最近のウクライナとの和平交渉を批判して、ウクライナ全土の制圧を主張している。
同じくクレムリンとつながりのあるもう1人が、民族主義者であるセルゲイツェフ氏だ。彼の論文が2022年4月、波紋を広げた。それは、ウクライナ国民に対する攻撃を是認する内容だったからだ。「ウクライナ最上層部とは別に、国民のかなりの部分はナチ政権を支持したという点で同じく罪がある。彼らへの正当な罰は正当な戦争の不可避の義務である」。
この論文の発表は、ブチャなど各地でのロシア軍による住民虐殺が明るみに出たタイミングと重なる。プーチン氏の直接の指示があったかどうかは別にしても、クレムリン内でこのような住民処罰論が侵攻当初から出ていた可能性も示すものだ。
プーチンが住民虐殺を容認する国家観
いずれにしてもプーチン氏を含めたこの3人の言説の背後で共通して見え隠れするのは、ウクライナをあくまで地政学上の版図拡大の対象としか見ていないことだ。プーチン氏がウクライナ国民を親ナチ政権の虐殺から守ると言いながら、実際には住民への虐殺を容認している背景には、こうした歪んだ国家観があるようだ。
プーチン氏がこうした狂信的世界観になぜ、どこまで引き込まれたのか。国際社会はクレムリン内の闇を解明するという新たな喫緊の課題を抱えたと言える。
一方で、プーチン氏個人の世界観の後背に、もっと深いロシア社会での歴史的な「二項対立」があるということを指摘したい。国のあり方について、19世紀から続く西欧派とスラブ派の論争である。西欧的な資本主義社会への発展の道を選ぼうという西欧派の主張に対し、スラブ派はロシアが特別な国であり、ロシア正教や皇帝を核とした農村社会的な方向性を守るべきとの考えを標榜した。
スラブ派の中でも、今回のウクライナ侵攻との関係で特筆すべき思想がある。ロシアが頂点となってスラブ民族を統合していこうという「汎スラブ主義」だ。西欧の価値観と隔絶した、ロシア・東欧の帝国建設を意味するこの思想を、大作家であるドストエフスキーも晩年支持した。
プーチン政権の汎スラブ主義への傾斜が侵攻のバックボーンになっていることを端的に示すシーンが、侵攻開始後の2022年3月半ばにあった。プーチン氏の取り巻き知識人である外交専門家であるニコノフ氏(ソ連外相モロトフの孫)が、ロシアへの西欧の干渉を不当と批判する有名な愛国詩をテレビ上で鬼気迫る表情で朗読したのだ。
この詩は、国民的詩人であるプーシキンが19世紀初めに発表した「ロシアの中傷者たちへ」というものだ。当時、ポーランドに攻め込んだロシアをフランスが非難したことに対し、強く感情的に反論する内容だ。「あなた方は何を騒いでいるのか。これはスラブ人同士の内輪の争いだ。家庭内の内輪の古い論争だ。われわれを放っておいてほしい」――。
ここでニコノフ氏がウクライナをポーランドに置き換えているのは明白だ。ウクライナ侵攻はスラブ人同士の問題であり、米欧は口を出すな、ということを言いたかったのだ。プーシキンへのロシア国民の敬愛の情は外国人には想像もできないほど大きい。この朗読が、国民の侵攻への支持と、愛国心を鼓舞するクレムリンのプロパガンダだったことは間違いない。
一方で、西欧派的考えも今も脈々と受け継がれている。担い手は、プーチン政権から弾圧されている多くのリベラル派知識人であり、2021年のノーベル平和賞を受賞した独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のムラトフ編集長もその1人だ。
ロシアの近代史を振り返ると、表現の自由、人権擁護といった欧米的な価値が社会の主流になったのは、改革(ペレストロイカ)路線を進めたソ連末期のゴルバチョフ時代の3年間だけだと、ムラトフ氏は言う。この時代、共同通信モスクワ支局に勤務していた筆者もそう思う。ゴルバチョフ氏の代表的スローガンは「全人類的価値」だった。従来の社会主義的価値観にとらわれず、西欧的価値を受け入れるという大胆な価値観の転換を打ち出した。
スラブ派と西欧派の対立が続く
これに対し、ソ連崩壊時、当時の東ドイツでスパイだったプーチン氏は近年、ロシアの「伝統的価値」順守の必要性を強調。2人の価値観は対極の位置関係にある。つまりスラブ派と西欧派の対立は今も続いているのだ。
プーチン氏はゴルバチョフ政権を引き継いだエリツィン大統領に突然後継指名されて、2000年に大統領に選出された。親欧米派だったエリツィン氏の後継者だが、スパイ出身の新しい指導者がどんな国づくりを目指すのか、誰も知らなかった。
これに絡み、当時モスクワにいた筆者にとって苦い思い出がある。就任前、まだ大統領代行だったプーチン氏が2000年1月に明らかにした「国家安全保障概念」を読んだ際、その文言に込められた潜在的攻撃性についてきちんと理解できなかったことだ。
概念は、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を含め、アメリカ主導の「一極支配体制」に対抗していくという姿勢を明確に打ち出していた。とくに「世界の戦略的地域にロシア軍を展開する可能性」にも言及していた。この内容どおり、ロシアは2008年にジョージアに攻め込み、2014年にはクリミアを併合した。 
この不気味なプーチン時代の幕開けについて、一般国民はほとんど気にも留めていなかった。国がデフォルト(債務不履行)となり、混乱の真っただ中にあったエリツィン時代から一転、ロシアは石油価格の大幅上昇によって、過去に例のない好景気に沸いた。「石油の上に浮いた国家」とも呼ばれ、国民は一転して豊かな生活を謳歌していた。政治への能動的アパシー(無関心)状態となっていた。
だから、プーチン政権の外交方針に関心を向ける人は少なかったのだ。いわば、ロシアのあるべき将来の国家像について、国民の気がつかない間にプーチン氏が勝手に国の「自画像」を描いてしまったのだ。20年前に描かれたこの「自画像」の延長線上に今のウクライナ侵攻があると思う。
ウクライナを支援し、侵攻をどう終息させるかという問題に国際社会は集中している。だが、今から対応を検討すべき別の問題がある。それは、仮に近い将来、プーチン政権を退陣させたとしても、対応を誤れば、結局「第2のプーチン」が登場する可能性があるという問題だ。
これまで述べてきたように、ウクライナ侵攻が国民から支持を受けてきた背景には、伝統的な「反西欧」論という世論のマグマ≠ェある。プーチン政権の現状について、米欧という敵国家群に囲まれた「包囲された要塞」となぞらえる評価がロシアで定着している。プーチン政権と、支持する国民の間には一種の連帯感があるのだ。「要塞」内に閉じ込められた国民について、銀行強盗に人質にされるうちに犯人と意気投合してしまう「ストックホルム症候群」に例える専門家もいるほどだ。
現実問題として、今回の侵攻を受けて、ロシアへの嫌悪感が世界中で高まるのは必至だ。クレムリン寄りの政治評論家であるマカロフ氏は、根強い歴史的反ユダヤ人感情を念頭に「ロシア人は新たなユダヤ人だ」と新たなルッソフォビアの高まりを指摘し始めているほどだ。
大事なことは、国民が「要塞」の内側から扉を開けて、民主主義世界への参加を自ら選択してもらうことだ。そのためにも国際社会とロシアとの間にルッソフォビアの新たな壁を作ってはならない。
●偏った歴史認識「プーチン史観」はどのようなものか… 4/14
2021年7月にプーチン大統領が発表した18ページにわたる論文『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性』には、プーチン大統領の歴史観やウクライナに対する考えが書かれている。BSフジLIVE「プライムニュース」では専門家を招き、プーチン大統領の歴史認識とウクライナ情勢の行方について読み解いた。
侵攻の“前章”だったのか 西欧と逆のプーチン史観
新美有加キャスター: プーチン大統領が、2021年7月に発表した論文『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性』の骨子。ロシア人とウクライナ人の一体性を主張し、ウクライナと西側諸国との関係を批判する内容。発表の7カ月後、2022年2月にウクライナ侵攻に踏み切ったこととのつながりは。
湯浅剛 上智大学教授: 思想的下準備とは位置づけられる。内容について官僚任せにしなかったことを強調しており、プーチンの頭の中を窺い知る上での題材と言える。
反町理キャスター: これを読んで、研究者の皆さんは「これはプーチン侵攻するぞ」と思った?
湯浅剛 上智大学教授: 私自身はこの論文からは、戦争に至るまでの攻撃性を読み取れなかった。プーチンのかなり偏った歴史観が、都合のいいファクトをつなぎ合わせてまとめあげられており、「先々思いやられるな」ぐらいの感覚だった。
東野篤子 筑波大学教授: 論文の内容については、ウクライナ人も非常に反発した。ウクライナ人にとっては悪い予感がしただろうし、ヨーロッパ諸国にとっても注意すべきサインの部分はあった。だが、軍事侵攻にそのままつながるかどうかについて、議論は分かれていた。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: 実は2019年9月に、EU(欧州連合)が第二次世界大戦の始まりについて議決している。
反町理キャスター: 第二次大戦は独ソ不可侵条約と密約の直後に開始され、それによって世界征服を目標とする2つの全体主義国家(ナチスドイツとスターリンのロシア)は、ヨーロッパを2つの勢力圏に分割したと。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: ロシアの歴史観はこれとは逆。ロシアは2700万人もの犠牲を払ってナチスドイツを倒し、ヨーロッパを、ユダヤ人たちを解放したと。だから、戦後ヨーロッパにおいて名誉ある地位を与えられるべきという歴史観で、EU決議がこれを真っ向から否定したという流れがあった。
東野篤子 筑波大学教授: このデリケートな決議が可能になったのは、2014年のロシアによるクリミア占領があったため。ここでヨーロッパ諸国の対ロシア認識が非常に大きく変わり、NATO(北大西洋条約機構)も対ロシア軍事同盟という性質を強め始めた。
プーチンの都合のよい「ロシアとウクライナは一体」は無理ある話
新美有加キャスター: ロシアとウクライナの関係について、プーチン大統領は論文冒頭で「ロシア人とウクライナ人は一つの民族であり、一体不可分」と記述。4月12日、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談後の共同記者会見でも同様の発言。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: ウクライナもロシアもベラルーシも、現在のキーウを中心にベラルーシからロシアにかけて存在した、古代のキエフルーシ(キエフ大公国)を起源としているということは事実。だがキエフルーシの最後の王様は、実は今のウクライナ西部の都市リビウに行った。だからこの地域の人々の歴史観は、自分たちこそがキエフルーシの正統な後継者で、プーチン大統領の一体不可分というのは全く違うということ。
湯浅剛 上智大学教授: プーチン論文の突っ込みどころにはきりがない。例えば、ソ連の中で民族・共和国単位で70年間ウクライナが発展してきたが、その歴史を全く否定・すっ飛ばした議論をしており、かなり問題がある。
反町理キャスター: 昔の一体感を強調しながら、その後ソ連での民族自決のロジックは否定しており、都合のいいところだけをとっていると。
東野篤子 筑波大学教授: 例えば、イギリスの研究者アンドリュー・ウィルソン氏も、プーチンは一体性を強調するが、宗教も文化も言語も違う時期の方が多かった、一体だということには大変に無理があると言っている。よく「兄弟国家」と言われるが、男と男のきょうだいだとすると、なぜかいつも前提はロシアが兄でウクライナが弟扱い。しかも兄から徹底的に暴力を受け、殺されている。なぜ兄弟のロジックが成り立つのかというのが、恐らくウクライナ人の本音だと思う。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: ロシアの歴史において、非常に小さかったモスクワ公国は、ウクライナの領土を吸収するプロセスの中でヨーロッパの大国・ロシア帝国になっていく。つまりロシア人の歴史観の中で、ウクライナなしに「ヨーロッパのロシア」はない。ロシアがヨーロッパの大国として名誉ある地位を獲得するには、ウクライナが絶対に必要。
反町理キャスター: するとプーチン大統領は、ロシアはユーラシアというよりヨーロッパの大国であり、そこに重きを置くからウクライナの首を押さえようとする。長らくアジアシフトということを言っていたが。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: 米中対立が深刻化し、世界の中心がインド太平洋に移る中でも、ロシアの欧州中心主義はなかなか変わらないという議論が専門家の中にもある。
東野篤子 筑波大学教授: EUやNATOが関係構築についてどのような提案をしても、全部ロシアのお気には召さなかった。もっとロシアの思う通りの秩序にせよと。でも、EUとNATOには自分たちを崩す動機もない。ロシアとしては、東欧諸国の自分の家臣たちがどんどんEUとNATOのシステムに入っていくことが非常に気に入らなかった。ヨーロッパに対する志向性との間での矛盾をずっと抱えていたのだと思う。
「アンチ・ロシア」に怒るプーチンが、歴史にばかり関心を示す危険
新美美加キャスター: プーチン大統領が論文に記したウクライナや西側諸国のアンチ・ロシアに対する批評では「ウクライナはロシア帝国とソ連の一部であった時期について、占領されていたかのごとく語り始めた」「アメリカとEU諸国はウクライナに対し、ロシアとの経済協力を縮小制限させようと、計画的で必要な働きかけを行っていた」と非常に憤慨している。
東野篤子 筑波大学教授: 2013年にウクライナの2つ前の政権が、EUとの間で経済連合協定を作ろうと交渉していたが、プーチン大統領がそれに対して、ユーラシア経済連合の考え方と合わないからどちらかを取れと言った。その後、EUとロシアとウクライナは必ず3者で話し合おうとなったのだが、それも先細りになった。また仲間外れにされたというルサンチマンはある。
反町理キャスター: プーチンは論文に、そうした積年の恨みを書き連ねているような。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: そもそも軍事侵攻自体、正当化できるものではないが、なぜプーチンがここに至ったのかという議論をするなら、歴史の問題が特にここ数年、プーチンにとって非常に大切な問題になっている。ほとんど他のことには関心がないのではというほど。
反町理キャスター: 歴史家が過去を振り返って論文を書くのと違い、実際の権力を握る一国の元首が、歴史において自ら感じる歪みを修正することに政治的なエネルギーを投入するというのはいかがなものか。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: そうなんです。本来、歴史家が政治をやってはいけない。現在のリアリティーからかけ離れた判断をしてしまう。今回起こったのがまさにそういうことなのでは。
湯浅剛 上智大学教授: 政治的決着はソ連が解体した時点で、もうついていたと捉えるべき。プーチンは彼独自のプーチン史観に固執するような形で政策判断を誤っている。
ミンスク合意は論文で評価されるも、その段階にはもう戻れない
新美美加キャスター: プーチン大統領は、今回のウクライナ侵攻をどういう形で終結させようとしているのか、出口戦略について。論文には「ミンスク合意に代わるものはないと確信している」と書いてあるが、東部の2つの地域ドネツク・ルハンスクの自治権は落としどころになるか。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: 現時点ではもう無理。論文の状況は既に離れている。そもそもこの論文は、2021年に入ってウクライナのゼレンスキー大統領が「ミンスク合意を履行できない、変えないと交渉を続けられない」という発言をしていた中で出てきたもの。今回、ロシアはドネツク・ルハンスクを独立国家として承認してしまっている。ミンスク合意まで戻れば、プーチンはなぜ軍事作戦をやったのだという話になり、負けを認めることになる。
湯浅剛 上智大学教授: 私ももうないと思う。ウクライナ側も自分たちの安全保障を要求する一方で、クリミアやドネツク・ルハンスクは合意の外の問題だと言っており、全く話がかみ合っていない状態。近いうちに何かしらの合意があることは考えられないと言ってよい。
東野篤子 筑波大学教授: ウクライナ側からすれば、ミンスク合意の大前提である停戦もしてくれないし、国境管理権も戻してくれないから、そもそも合意を履行するような条件が整っていないということだった。フランスやドイツがウクライナの妥協に乗り出してきたタイミングで、プーチン大統領がドネツク・ルハンスクの両人民共和国の独立に向けて動き出し、潰してしまった。私もミンスク合意にはもう戻れないと思う。
●ソ連建国から100年 プーチンの暴挙に内在する「帝国」の記憶 4/14
なぜロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻を決断したのか。諸説ある中、ソビエト連邦(以下、ソ連)時代の領土回復を企図したというのもその1つ。くしくもそのソ連が誕生(1922年12月30日)してから今年で100年となる。今はなき社会主義国の歴史とプーチンの暴挙はどう結び付くのか。プーチンの行動原理にうかがえる「帝国」の“栄光の”記憶をひもとく。
今も残るソ連時代へのノスタルジー
世界初の共産主義国家、ソ連が誕生してから2022年で100年を迎える。ソ連は1991年12月26日に崩壊した。
ロシア人には、東欧諸国を傘下に収め、北大西洋条約機構(NATO)と対峙(たいじ)したソ連「帝国」の栄光の記憶が色濃く残っている。そして、ソ連時代を知る年代の多くの国民は、今もノスタルジーを感じている。
プーチン大統領もその一人。ロシア国営テレビが放映したソ連崩壊30年を振り返るドキュメンタリー番組で崩壊についてプーチンは、「大多数の国民と同様、私にとっても悲劇だった」と語っている。
プーチンはかつてソ連の一部だったウクライナをNATOに加盟させないために侵攻を決断した。結果、欧米と日本から厳しい経済制裁を招き、世界中からの非難を一身に浴びている。
ロシアでは、戦争の真実を隠蔽(いんぺい)するために情報管制が敷かれ、反政府運動は徹底的に弾圧される監視社会が再来。まさに、ソ連暗黒時代へと国が逆戻りしている。
なぜプーチンは世界の誰もが「無理筋な暴挙」と思うことをやってしまったのか? それはソ連時代に形成されたプーチンのメンタリティーと大帝国の記憶を抜きには語れないだろう。
筆者が見たソ連
私がソ連外務省付属モスクワ国際関係大学に留学したのは1990年だ。91年12月に崩壊したソ連の最末期と言える。
ソ連は、どんな国だったのか?
まず「照明が暗い」のが気になった。空港、バス、地下鉄、どこも暗い。そして、公共交通機関で人々が話をしたり、笑ったりしないのが印象深かった。
この件について後に私は、得心のいく理由を知ることができた。大学の寮の廊下で、バルト3国(リトアニア、エストニア、ラトビア)の某国から来たという金髪の学生が話し掛けてきて、こう言ったのだ。
「いいかい。気を付けなければいけないことが2つある。まず、食堂とか大学の廊下で政治の話をしてはいけない。聞かれているからね。そして、電話で重要な話をしてはいけない。聞かれているからね」
これを聞いて、私はモスクワの人たちが人前であまり話さず、笑いもしない理由を理解できた気がした。彼らは常に盗聴を恐れているのだろうと。
もう1つ、気になったのは、物質的貧しさだ。「米国と並ぶ超大国」であるはずなのに、首都モスクワでも、車の数は少なく、道路はスカスカだった。テレビは白黒で、洗濯機や掃除機がない家も珍しくない。
私は物質面での日本との「格差」にがくぜんとし、「この国は長く持たないだろう」と感じた。
ソ連時代の栄光の記憶
しかし、歴史をさかのぼってみると、確かにソ連にも「栄光の時代」はあったのだ。
1949年、ソ連は原爆実験に成功。米国の核兵器独占体制は、たった4年で終わりを告げた。
53年、今度は水爆実験に成功。
57年、世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた。
さらに61年、世界初の有人宇宙飛行を成功させた。
この時期、ソ連の宇宙開発技術は米国より進んでいたのだ。
一方、ライバルの米国は第2次大戦後、振るわなかった。
まず、49年、米国は中国を失った。内戦で、米国が支援する国民党は敗れ、ソ連が支援する共産党が勝利。中華人民共和国が建国された。
50年、朝鮮戦争が勃発。米国は韓国と共に戦い、ソ連、中国は北朝鮮を支援した。結果は引き分け。
62年にはキューバ危機が起こり、63年には米国のケネディ大統領が暗殺された。
また米国はベトナム戦争(1960〜75年)に65〜73年まで介入し、完敗している。
米国が沈んでいた70年代、ソ連経済は順調に成長を続けていた。73年と79年にオイルショックが起こり、原油価格が高騰していたからだ。
さて、プーチンは52年10月に生まれている。スプートニク1号が打ち上げられた時は5歳、ガガーリンが宇宙に飛び立った時は9歳だった。プーチンは祖国の偉業を誇りに思っただろう。
そして、彼の10代、20代を過ごした60年代、70年代のソ連は絶好調で、「まもなく米国を超える」と思われていたのだ。彼は祖国を誇りに思いながら成長していったに違いない。
プーチンは子供のころから「スパイになる」という、変わった夢を持っていた。そして75年、レニングラード大学法学部を卒業し、国家保安委員会(KGB)に就職する。夢をかなえ、大いに喜んだことだろう。
ソ連崩壊後のプーチン
1985年、33歳のプーチンは東ドイツのドレスデンに派遣された。第2次世界大戦後、ドイツは資本主義陣営に属する西ドイツと共産主義陣営の東ドイツに分断された。つまり、ドイツは当時、西側陣営と東側陣営の境目であり、極めて重要な場所だった。
プーチンが東ドイツに駐在中、ソ連にとっての悲劇がこの国で起こった。東西ドイツを隔てていたベルリンの壁が89年11月に崩壊したのだ。やがて、5000人の市民がKGBと協力関係にあった東ドイツの秘密警察「シュタージ」のドレスデン支部を襲撃、占拠する事態に。事件後、プーチンは銃で武装し始めたという。
90年、プーチンは生まれ故郷のレニングラードに戻った。この年の10月、東西ドイツは再統一を果たしている。
92年、プーチンはサンクトペテルブルグ(旧レニングラード)の副市長になっていた。
96年には、モスクワに移り、ロシア大統領府で働き始める。
98年、プーチンはKGBの後身に当たる連邦保安局(FSB)長官に任命された。
スパイになることを夢見ていた少年は、ついにスパイ組織のトップに上り詰めたのだ。
しかし、彼はここで終わらなかった。99年には首相に、そして2000年には大統領という頂点を極めた。
「米国陰謀論者」としてのプーチン
プーチンの心の奥深くにあるものは、何だろうか?
モスクワに28年住んでいた私が見るに、彼は「米国陰謀論者」だ。実を言うと、年配のロシア人には、米国陰謀論者が多い。
彼らは、どこかの国の要人が殺されると、自動的に「米国がやったのでは?」と疑ってしまう。
なぜ、そうなのか。これはソ連時代の学校教育で、「私たちの国は悪の資本主義を打倒するために建国された」「具体的には、資本主義の総本山米国を打倒するのが使命だ」と洗脳されたからだ。
プーチンの場合、KGBで教育を受けたため、洗脳はさらに深い。「諸悪の根源は米国だ」と信じて疑わないように見える。そうした「反米メガネ」をかけたプーチンには、世界がそう見えるのだろう。
プーチンは2003年のジョージア革命、04年のウクライナ革命、05年のキルギス革命、14年のウクライナ革命は、全て「米国の仕業」と確信している。
そして、米国がNATO不拡大の約束を破ったことに憤り続けている。90年2月9日、旧ソ連のゴルバチョフ大統領との会談で米国のベーカー国務長官は、以下のように語った。
「もし米国がNATOの枠組みでドイツでのプレゼンスを維持するなら、NATOの管轄権もしくは軍事的プレゼンスは1インチたりとも東方に拡大しない」
プーチンは、しばしば「米国はNATOを東方に拡大しないと約束した」と主張する。「米国がウソをついた」と。
実際、冷戦崩壊時、16カ国だった「反ロシア軍事同盟」であるNATO加盟国は、現在30カ国まで増えている。しかも「旧ソ連」、つまりプーチンから見ると「元自国領」のバルト3国もNATOに加盟した。
さらに、米国は旧ソ連のウクライナ、ジョージアも加盟させようとしている。これが今回のウクライナ侵攻の口実になった。
旧ソ連国の主権を認めようとしないプーチン
ソ連はロシア人にとって、「拡大ロシア」だった。それで、旧ソ連諸国について、いまだに「自分たちの土地」という意識が強い。
例えば、年配の人は旧ソ連産の食料品について「エータ ナッシ プラドゥクティ」などと言う。「これは私たちの食品だ」という意味だが、転じて「国産」という意味になる。実際は31年前に独立を果たした国の「外国産」なのだが、少なからぬ年配者の思考回路はソ連崩壊前で止まっているのだ。
69歳であるプーチンの脳も、ソ連時代のままのようにも見える。ちなみに彼は携帯電話、ネット、メールを使わないと公言している。文字通り、プーチンの「時代」は、ソ連崩壊前で止まっているのだ。
問題は他の国の時間は動いているということだ。ウクライナやジョージアは、すでに31年間、独立国家の道を歩み、自国の進むべき道を自分で選ぶ権利がある。
しかし、「ソ連脳」のプーチンは、そのことを容認できず、ウクライナ侵攻を断行。国内で反戦デモが盛り上がると、容赦なく弾圧した。
ちなみに、ロシア国内では今、「戦争」という言葉を使うと逮捕される。戦争ではなく「特別軍事作戦」という用語を使わなければならない。
さらに、SNSでウクライナで起こっている情報を投稿すると、「フェイク情報拡散罪」で、懲役15年になる。要するに、プーチンは自分が生まれ育ったソ連時代に新生ロシアを逆戻りさせたのだ。
筆者の知り合いのロシア人は口をそろえて言う。「戦争が始まって1週間で、ロシアは30年前に逆戻りした」と。日本、欧米の自動車会社はロシアへの輸出、ロシアでの生産を停止した。マクドナルドやスターバックスは大部分の店舗を閉じている。プーチンは彼の願い通り、ロシアを厳しい情報統制、監視社会、モノ不足のソ連時代へと引き戻した。
しかし、国民は、それを望んでいるのだろうか? 少なくともウクライナ国民はソ連への回帰を望んでいないことは確実だ。 

 

●「標的は私たち全員」ロシア軍攻撃から逃れる者なし ウクライナ大統領夫人 4/15
ロシア軍が母国ウクライナに侵攻した際、ボロディミル・ゼレンスキー大統領とオレナ・ゼレンスカ夫人は亡命も降伏も拒み、代わりに――男女問わず多くの国民がしたのと同じように――軍事侵攻への抵抗を選んだ。
大統領がロシア軍への軍事的反撃に重点を置く一方、ファーストレディーは人道問題や子どもの問題を中心に、戦争によるウクライナの一般市民の苦しみを世界に知ってもらおうと活動している。
CNNのアンカー、クリスティアン・アマンプールはゼレンスカ氏にメール取材を行った。以下、ウクライナ語での夫人の回答を英語に翻訳した。
大統領夫人、こうした状況でご自身やご家族はどうやって持ちこたえているのですか?
まるで綱渡りをしているようです。どうしようか考え始めたら最後、ためらってバランスを崩してしまう。ですから持ちこたえるには、前に進んでやるべきことをやるしかありません。私の知る限り、ウクライナ人はみなそうやっています。
単身で戦場を逃れ、死を目の当たりにした人々の多くが、そうした経験から立ち直るには行動することが一番の薬だと言っています。何かをすること、誰かの役に立つこと。私個人も、誰かを守り、支援しようとすることで救われています。責任感が自制を生むのです。
ファーストレディーになった時、子どもの問題を活動の中心にすると公言しました。ご自身の子どもを含め、ウクライナの子どもたちが戦闘区域で苦しんでいるのを見て、さぞ胸が張り裂ける思いなのではありませんか?
おっしゃる通り、以前は子どもやそのニーズの問題が、全てのウクライナ人に公平な権利を実現することと並んで私の活動の中心でした。戦争前は何年もの準備期間を経て学校給食改革を実施し、子どもが病気にならないよう、おいしくてかつ健康的な給食の実現を目指しました。
今の私の心情ですか? もう何年も、いえ何十年も後戻りしてしまったような気分です。
今の課題は健康的な食事ではなく、食糧全般です。子どもたちの生死がかかっているんです! もはや以前のように、学校に最適な設備について話し合うことはなくなり――(代わりに)数百万人の子どもたちにどう教育を提供するかが課題になっています。
子どもたちの健康な生活を考える余裕はありません――(子どもたち)全員をいかに救うかが一番の課題です。
ウクライナの子どもの半分が国外避難を余儀なくされ、数千人が心身ともに傷を負いました。2月23日(ロシアの侵攻が始まる前日)は他のヨーロッパの生徒たちと同じように時間割があって、休日の予定も立てていました。
想像してみてください、家を建てて、改装して、窓辺には花を飾っていたのが、すべて壊されてしまった。暖を取るために、その瓦礫(がれき)の中で火を起こさなくてはならないのです。それが我が国の児童政策や一般の各家庭に起きていることです。
難民となったウクライナの女性や子どもたちのために、どんな支援をしているのか教えてください。こうした分野で、世界にできることは何でしょうか?
現在は複数の方面で活動しています。昨年夏には国家元首のファーストレディーやファーストジェントルマンを集めてサミットを開催しました。今回、この仲間が力になってくれています。
まずはもっとも弱い立場にいる人々――(がんを患った)子どもや障害児、孤児――を、治療やリハビリのために受け入れ賛同国に避難させています。ポーランド経由でヨーロッパ諸国に避難させるというのが主なルートです。
第2にウクライナに保育器を輸入して、ロシアの爆撃下にある都市で生まれた新生児の支援を行っています。多くの病院は停電状態で、子どもたちの命が危険にさらされています。そのため、滞りなく人命を救助するための器具が必要です。すでに2台の保育器が届き、今後さらに8台が届く予定です。
第3に、難民――子どもたちやその母親たち――が新しい土地に迅速になじめるよう取り組んでいます。人道支援だけでは不十分です。子どもたちは新しい土地で、一刻も早く社会生活や学校生活に慣れなくてはなりません。特に、国外に出た数千人の自閉症の子どもたちはそうです。学校に通いやすくなるよう活動しています。そうしなければ、子どもの成長が止まってしまいますから。
各国大使館と協力して、ウクライナ支援イベントのコーディネートも行っています。すでに国際的なコンサートがいくつか行われ、ウクライナの人道支援のために募金が寄せられました。
戦争の勃発以降、ご主人とは会えていますか?
実をいうと、ボロディミルは閣僚とともに大統領府で生活しています。危険なため、私と子どもたちはそこでの滞在が禁じられました。ですからもう1カ月以上も電話でしか連絡を取っていません。
全世界はご主人の戦時中のリーダーシップに感銘を受けています。お二人は2003年に結婚していますが、大学時代からのお付き合いですよね。当時からご主人にはそういった面がありましたか?
彼は頼りになる人で、この先もそうだろうとずっと思っていました。素晴らしい父親になってくれましたし、家族思いです。そうした性格をいま発揮しているのです。
彼は昔から変わっていません。私に言わせれば、より多くの人の眼に触れるようになったというだけです。
娘のサーシャさんは17歳、息子のキリロ君は9歳です。お子さんたちには戦争についてどのように説明しましたか? お子さんたちはご一緒ですか?
幸いにも子どもたちとは一緒です。先ほども申し上げたように、世話をする相手がいることは自制につながります。これは子どもたちにも言えることで、今回子どもたちも見違えるように成長しました。きょうだい同士、あるいは周囲の人たちに責任感を持つようになりました。
戦争についてとくに説明する必要はありませんでした。今起きているあらゆることについて話します。私もブチャの子どものインタビューを見たり、友人やその子どもの話を聞きましたが、子どもも大人と同じように理解し、ちゃんと本質をとらえています。ある幼い子どもがこう言っていました、「なぜロシア人は意地悪なの? きっとおうちでいじめられていたのかな?」
あなたはご主人に次ぐ2番目の標的としてロシア軍に狙われていると言われています。そうした危険を前にどうやって冷静を保っていられるのですか? あえてウクライナに残ることにしたのはなぜですか?
なぜかこういう質問を頻繁に受けるのですが、よく見てもらえれば、ウクライナ人全員がロシアの標的だということがはっきりわかると思います。すべての女性、すべての子どもたちが標的です。
先日、クラマトルスクから避難しようとして(いた最中に)ロシアのミサイルで亡くなった方々は、大統領の家族でもなんでもありません。ごく普通のウクライナ人です。ですから、敵にとって一番の標的は国民全員なのです。
ご主人はロシア語でロシア国民に直接語りかけていますが、その声を届けるのは明らかに困難です。ウクライナ国民に対する残虐行為をふまえた上で、とくにロシアの子を持つ母親や夫を持つ妻たちにぜひとも伝えたいメッセージはありますか?
ロシアのプロパガンダの度合いは、第2次世界大戦中のゲッベルスのそれとよく比較されますが、私の意見では(それを)越えています。第2次世界大戦には今のようにインターネットもありませんでしたし、情報にもアクセスできませんでしたから。
今ではブチャでのロシア軍による行為など、誰もが戦争犯罪を目の当たりにしています――ブチャでは手を縛られた民間人の遺体が無造作に道路に横たわっていました。
ですが問題は、全世界が目撃しているものをロシア人が見ようとしていない点です。それもひとえに心地よくいたいがためです。結局のところ、故人についての記事を読んだり、悲しみに暮れる親類や友人の姿を見たりするよりも、「あれは全部フェイクだ」と言ってコーヒーを飲んでいるほうがずっと楽ですから。
ブチャのある犠牲者の話を例に挙げましょう。タティアナという女性は、ロシア兵に銃殺されました。彼女の夫は遺体を移させてくれと侵略者に頼みましたが、殴られて拘束されました。
どうすればロシア人にこうしたことを知らせることができるだろうか? ますますそういうことを考えるようになりましたが、残念ながら彼らはあえて目を背けています。見ようとも聞こうともしません。なので私も、これ以上彼らに語りかけることはやめます。
今日ウクライナ人にとって一番大事なことは、他の国々が私たちに耳を傾け、目を向けてくれることです。そして犠牲者が単なる数字になってしまわないように、戦争を「いつものこと」にしないことが重要です。だからこそ私は、海外メディアを通じて皆さんに情報を発信しているのです。
我々の悲しみに慣れてはいけません!
ソーシャルメディアのご自身のアカウントを発言の場として、ウクライナの兵士やウクライナ人の抵抗を称賛していますね。自国について――とりわけあなたが言うところの、ウクライナの抵抗の「女性的な面」と呼ぶものについて、どのぐらい誇りに思っていますか?
戦争の初日、パニックは起きないことがはっきりわかりました。そうです、ウクライナ人は戦争など信じていませんでした――我々が信じていたのは文明的な対話です。ですが、攻撃が始まっても、私たちは敵が望むような「おびえた群衆」にはなりませんでした。私たちは組織化されたコミュニティーになったのです。
どの社会にも存在するような政治的対立やその他の軋轢(あつれき)はたちどころに消えました。誰もが国を守るために一丸となりました。
そうした例を毎日目にしています。そうしたことを発信するのに決して飽きることはありません。そう、ウクライナの人々は信じられないほどすばらしいのです。
確かに私は女性たちについてたくさん投稿していますが、それは女性たちがあらゆる場面で闘いに加わっているからです――軍隊や防衛軍では主に衛生兵として加わっています。子どもや家族を安全な場所へ避難させているのも女性たちです。女性だけが国外に行けるのです。ある意味で、女性たちが果たしている役割は男性よりもずっと多岐にわたっています。平等どころか、それ以上ですよ!
●プーチン大統領「欧州でロシアの天然ガスに代わるものはない」  4/15
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、ロシアのプーチン大統領は14日、エネルギー分野の閣僚と会議を開き「ヨーロッパの市場でロシアの天然ガスに代わるものはない」と述べました。
また「欧米諸国は、供給者としてのロシアを世界のエネルギー市場から締め出そうとしているが、それは必然的に世界経済に影響を及ぼすことになる。市場をさらに不安定化し、自分たちの手で価格を高騰させている」と述べ、世界有数のエネルギー供給国としてのロシアの立場を強調し、経済制裁を強化する欧米側を強くけん制しました。
そのうえでプーチン大統領は「輸出の多角化が必要だ。将来的に西側へのエネルギー供給は減っていくだろう。徐々に、南や東の急成長している市場へ輸出していく」と述べ、中国やインドなどについては友好的な関係を維持しているとしてエネルギーの供給を増やしていく考えを示したとみられます。
●ロシアのエネルギー輸出、対アジアで拡大を プーチン氏訴え 4/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日、エネルギー輸出先の多角化のため、対アジア輸出を拡大すべきだと訴えた。
西側諸国は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア産の原油、天然ガス、石炭の使用を禁止または削減する措置を発表している。
この日、テレビ中継されたエネルギー分野に関する政府会合で、プーチン氏は「当面の間、西側諸国へのエネルギー供給が減少するという前提で進める必要がある」と説明。ロシアの近年の方向性を継続し「南と東の急成長市場に輸出先を徐々に移していくべきだ」と述べた。
また、エネルギーの脱ロシア依存を目指す欧州諸国の動きに対しては「西側諸国がロシアの供給業者を締め出し、われわれのエネルギー資源を他の供給元と置き換えようとする試みは、必然的に世界経済全体に影響を与えるだろう」と非難した。
●「ウクライナ戦争の勝者」はバイデンと習近平、米中が得た3つの大成果とは 4/15
5月9日に迎えるロシアの対独戦勝記念日
ロシア軍によるウクライナ侵攻から2カ月を迎えようとしている。ロシアのプーチン大統領は4月12日、盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領を伴った極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地での会見で、ウクライナでの侵攻計画を計画通りに実行する考えを強調し、「(軍事作戦での)目標達成は疑いない」と自信を示した。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領も、4月10日の夜、国民向けの動画演説で、「我々はより活発に武器を補給し、ロシア軍のすべての攻撃に備える」と述べ、徹底抗戦する姿勢を改めて強調した。
ロシアでは、5月9日に対独戦勝記念日を迎える。ロシア国民が、旧ソ連の勝利を象徴する「ゲオルギーのリボン」を胸に着け、愛国心と祝典の高揚感に浸る特別な日だ。
たとえ、この場で、プーチン大統領による何らかの勝利宣言があったとしても、少なくともウクライナ東部、ドンバス地方の完全制圧が終わるまでは戦闘は続くということだ。同時に、一度は撤退した首都キーウ(キエフ)への再侵攻がないとも言い切れない。
筆者はこれまで、1991年の湾岸戦争以降、ボスニア紛争、アメリカ同時多発テロ事件、そしてイラク戦争と、歴史に残る戦争や紛争を取材してきた。
それらの経験則から言えることは、「戦争当事国に勝者はいない」ということである。
ロシアもウクライナも勝者にはなれない
2月24日に始まったロシアとウクライナの戦争だが、この先、どちらが優勢になろうとも、両国ともに勝者とはなり得ない。
ロシアは、仮にドンバス地方のドネツク、ルハンシク両州を押さえ、「ロシア系住民を守る」という大義名分を成就させたとしても、国際社会では半永久的に「悪玉」のレッテルを貼られる。多くの戦死者を出し、想定以上の経済制裁を受け、1日当たり3兆円ともいわれる戦費と相まって、国内経済は相当疲弊することが予想される。
こうした戦いに備え、巨額の準備金を確保していたとしても、国民生活への影響は計り知れない。
一方、ウクライナも勝者にはなり得ない。ゼレンスキーが2019年の大統領選挙で公約の一つに掲げてきた北大西洋条約機構(NATO)への加盟は実現しなかった。
NATOの規約(第5条)には、「1つ以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する武力攻撃とみなし、その結果、そのような武力攻撃が発生した場合は、各締約国が国連憲章第51条によって認められた個別的または集団的自衛権を行使する」とある。
すなわち、ウクライナが単体でロシアと戦う状況というのは、これに該当しないのだ。
侵攻を受けて申請したEUへの加盟も、EUのフォン・デア・ライエン委員長らの肝いりで手続きが加速化したとしても、「戦争の完全停止」「汚職の撲滅」「経済の安定」といった諸条件がクリアされる日はそう近くない。
南東部の要衝、マリウポリや、第2の都市ハルキウ(ハリコフ)など、ロシア軍の攻撃が激しかった地域では街が廃虚と化し、その復興には時間とコストがかかる。
アメリカが得た3つの成果
では、誰が勝者となるのか。筆者はアメリカと中国だと断言する。
アメリカはロシアのウクライナ侵攻で、いくつもの「利」を得た。第一に、何といっても軍需産業が大もうけできた。
バイデン大統領が、3月16日に発表したウクライナへの具体的な支援策を振り返ると、スティンガー対空ミサイル800基、ジャベリン対戦車ミサイル2000基、攻撃用無人航空機(ドローン)100機、機関銃、榴弾発射器、小銃など合わせて7000丁、小火器弾薬および迫撃砲弾2000万発などとなっていて、CNNの報道では、発表の1週間後から、順次、ウクライナに配備されている。
これだけでも総額は8億ドル(1000億円)に上る。戦争が始まって以降は、ウクライナの周辺国にも相当額の武器が売れたことだろう。
第二は、バイデンは2021年8月、アフガニスタンからのアメリカ軍完全撤退で招いた国際的な信用の失墜を挽回できた点だ。
筆者は、アフガニスタン撤退については、中国の台湾侵攻などに備え、二正面作戦を避けた英断だったと感じ、担当するラジオ番組でもそのように解説してきたが、国際社会での評価はガタ落ちとなった。
ただ、今回の戦争で、EUやNATO加盟国の首脳をけん引し、バイデン大統領自身もポーランドを視察するなど、民主義国家群を率いるアメリカのトップとして、ある程度は存在感を発揮できた。
第三は、ロシア制裁でアメリカ経済が潤い始めたことだ。
ヨーロッパ諸国がロシアへのエネルギー依存を見直す中、石油も天然ガスも自前で賄うことができるアメリカがヨーロッパ向けの輸出を増やせば、インフレとコロナ禍で苦しむアメリカ経済は持ち直す。ひいては、共和・民主両党が激しく競り合う11月の中間選挙でも、バイデン大統領率いる民主党には追い風になる。
つまり、バイデン大統領にとって、ロシアがウクライナに侵攻したことは、表面的には「憂慮すべきこと」であり「断じて容認できないこと」であったが、同時に「ありがたい」という側面も多分にあったことは忘れてはならない。
それどころか、詳しくは後述するが、そもそもロシアとウクライナの戦争はアメリカが仕向けたと言っても過言ではないのだ。
バイデン大統領が仕掛けたロシア・ウクライナへの「甘いわな」
思えば、2021年9月1日、バイデン大統領はホワイトハウスで、ゼレンスキー大統領と会談している。この場で、バイデン大統領はウクライナのNATO加盟に、個人的見解としながらも理解を示し、ロシアの侵攻に直面するウクライナに全面支援を約束した。先に述べたように、ウクライナは加盟できないと理解した上でだ。
それにもかかわらず、会談後に発表された共同声明では、「ウクライナの成功は、民主主義と専制主義の世界的な戦いの中心だ」と位置付けてみせた。つまり、アメリカは完全にウクライナの側に立ち、その安全を重視する考えを打ち出したのである。
ちなみに、バイデン氏が大統領に就任して以降、ホワイトハウスに招いたのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)に次いでゼレンスキー大統領が2人目だった。
44歳という若きウクライナの大統領は、78歳(当時)の老練な大統領にうまく乗せられたのである。
筆者は、この流れが、NATOの東方拡大を嫌うプーチン大統領の心に火を付けたとみる。
もともとアメリカは、ウクライナのNATO加盟には慎重な立場を崩していない。米大統領報道官のジェン・サキもすぐ、「ウクライナには、取らねばならない段階がある」と火消しに走ったが、プーチン大統領を刺激するバイデン大統領の動きは止まらなかった。
9月20日、バイデン大統領はウクライナを含めた15カ国の多国籍軍による大規模軍事演習を実施した。そして、10月23日には、ウクライナにジャベリン対戦車ミサイル180基を配備した。プーチン大統領がロシア軍をウクライナ国境に展開させたのは、これらの動きを受けた10月下旬のことだ。
しかもバイデン大統領は、12月7日、プーチン大統領と会談し、「アメリカ軍をウクライナに派遣することは検討していない」という考えを伝えている。これは「攻めるならお好きに」と言っているようなものだ。
これらから考えても、アメリカが、ロシアの軍事侵攻を可能にする方向に持っていったと考えていいのではないだろうか。
中国が得た3つの成果
ウクライナ侵攻における、もう一人の勝者は中国の習近平国家主席である。
中国は、ロシアがウクライナに侵攻した当初から、ロシアに対し、「非難も支持もしない」というスタンスをキープしてきた。
国際社会から仲介を求める声が相次いでいるものの、習近平自身は今も全く動こうとしていない。
戦争が長期化すれば、対アメリカで共同歩調を取るロシアが傷む。貿易面で関係が深いウクライナも疲弊する。それは中国にとって好ましくないことだ。
特に、ロシアが「ウクライナ東部の少数民族=ロシア系住民を守る」という名目で攻め込み、その独立を承認したことは、新疆ウイグル自治区を抱える中国からすれば認めることはできない。
しかし、中国にとって、戦争そのものはけっしてマイナス材料ではない。ある面、好ましいことかもしれない。
ウクライナ侵攻による中国の成果は大きく3つある。
第一が、ロシアを対アメリカ、対民主主義国家群への切り込み隊長にできることだ。
アメリカがどう動くか、NATOやEUはどうか、国連をはじめ国際社会の制裁はどの程度かを、ロシアを「モルモット」にしながら把握することができる。それが、台湾や尖閣諸島への侵攻を考えた場合、大いに参考になる。戦況を見ながら、ロシア軍の成功例と失敗例からさまざまなことを学べるだろう。
第二が、ロシアと対ドル経済圏を確立できることだ。
ロシアの資源として大きな存在感を示している天然ガスなどに関して、中国とロシアは2月4日、北京冬季オリンピックの開会式直前に、15カ条に及ぶ経済協力を結んでいる。もともと、ロシアの最大貿易相手国は12年間、中国であり、ロシアは制裁のダメージが効いてくればさらに中国マネーに頼らざるを得なくなる。
ロシアは、SWIFT(国際銀行間通信協会)から締め出されるなど厳しい状況にあるが、中国が構築する国際送金ネットワーク「CIPS」を利用して中ロ貿易を活発化させる選択肢が残されている。そうなると、中国はロシアを対ドル経済圏(人民元経済圏)に取り込める。
第三は、日米豪印4カ国による「Quad(クアッド)」を分断できることだ。
対アメリカを考えた場合、日米豪印4カ国の枠組み「Quad」の分断が不可欠。その一角を占めるインドは3月1日、国連総会の緊急特別会合でロシアへの非難決議採決を、中国とともに棄権した。インドは歴史的に非同盟主義を取り、アメリカの同盟網に組み込まれることに懸念を示している。その半面、ロシアとは軍事協力も密な国だ。
そのインドが、ロシア問題で中国と歩調を合わせたことは、インド太平洋地域における中国包囲網に風穴を開けることにつながる。5月下旬に行われる予定の「Quad」首脳会議に向け、くさびを打った形になった。
高まる尖閣有事リスク 日本の安保は試練の時代へ
北にロシア、西には北朝鮮、そして南西には中国と、いずれも核保有国を抱えた日本は今後、安全保障面で試練の時代を迎える。
いざとなれば、日米安全保障条約に基づき、アメリカは手助けしてくれるだろうが、アメリカのシンクタンク、ランド研究所の予測などでは、「尖閣諸島が攻撃を受ければ5日間で制圧される」との見方もある。
「ロシア軍のウクライナ侵攻は、中国が台湾を侵略するシナリオを現実的なものにした」
これは、安倍政権で外相や防衛相、菅政権で沖縄担当相などを務めた自民党・河野太郎の言葉だが、筆者は台湾と並び「尖閣諸島」も加えたい。
自民党の安全保障調査会は11日、敵のミサイル発射拠点を直接たたく「敵基地攻撃能力」について議論し、参加者から名称を「自衛反撃能力」などに変更する案などが出された。あの共産党ですら、志位和夫委員長が「有事の際には自衛隊を活用する」と語らざるを得ない時代である。
政府は今年末をめどに「防衛計画の大綱(大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」の改定を目指す方針だが、名称うんぬんよりも中身の議論を急ぐべきである。
●「第2次大戦並みに激化」ウクライナ戦争の今後 4/15
ロシア軍とウクライナ軍が集結するウクライナ東部からは、多くの民間人が退避した。大規模戦闘の脅威が高まっているためだ。
同地域の戦闘は、首都キーウ(キエフ)をめぐる戦いとは大きく異なったものになる可能性がある。首都周辺ではロシア軍が押し戻され、その後には焼け焦げた戦車や、爆撃された家々が残された。
キーウ周辺から撤退したロシア軍は、ウクライナ東部のドンバス地方で新たな攻勢に出るべく移動を進めている。
軍事アナリストらによると、東部はロシア軍に有利な場所だ。ロシアは2014年に東部に侵攻しており、補給線も短くてすむ。さらに充実した鉄道網を自軍の補給に活用することも可能だ。キーウの北側にはそうした鉄道網が存在しなかった。
「極めて残忍なものになるだろう」
ウクライナ政府の幹部は、ウクライナもロシアと同じく、大規模な戦闘に備えて態勢を整えていると述べている。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は4月上旬、北大西洋条約機構(NATO)の会合で追加の軍事支援を要請した。
ウクライナには西側諸国の兵器が大量に届くようになっているが、さらに大規模かつ迅速な支援が必要だと訴えた。ウクライナ東部の戦いは「第2次世界大戦を彷彿とさせるものになるだろう」とクレバ氏は警告した。
焦点になっているとみられるのが、東部の都市イジュームの周辺だ。イジュームを先日掌握したロシア軍は、ウクライナ南東部のドンバス地方に展開するほかの部隊の陣地とイジュームをつなげようとしている。黒海に面したクリミア半島とドンバス地方とをつなぐ地上ルートの強化も狙っている。ロシアは2014年にクリミアを侵略し、併合した。
両軍が大規模戦闘に備えていることを示す兆候はほかにもある。マクサー・テクノロジーズが10日に公開したウクライナの新たな衛星画像には、何百というロシア軍の車両が、ハリコフの東、イジュームの北に位置する町を通って南下する様子が映っていた。
「戦車や戦闘車両が何百台と投入される大規模な戦いになるはずだ。極めて残忍なものになるだろう」。ロンドンに拠点を置く国際戦略研究所の研究員フランツ・ステファン・ガディ氏は、「軍事作戦の規模は、この地域がこれまでに経験したのとはまったく違ったものになる」と話した。
ロシアはクリミア併合以降、ドネツクとルハンスクというドンバスの東部2州で親ロシア派分離主義勢力の反乱を支援。同紛争による死者は、過去8年間で1万4000人を超えた。
ロシア軍の苦戦を予想する声も
イギリスの紛争研究調査センターのキア・ジャイルズ氏は、「ロシアは非常に慣れた地域で活動している」と語った。ロシア軍は「ウクライナに対する当初の作戦の失敗から学んでくるはずだ」。
ジャイルズ氏によると、ロシアには、すでに制圧した東部地域で運行されている密度の高い鉄道網を使えるといったメリットもある。
東部ではロシア軍がさまざまな点で有利になるとみられているわけだ。それでも、キーウの北で行われた戦闘よりも効果的に戦えるかは疑わしいとするアナリストもいる。
西側諸国の当局者や専門家によると、キーウを攻撃したロシア軍部隊の多くは大打撃を負い、戦闘を再開するには消耗しすぎているという。多くの部隊は士気の低下に苦しんでおり、中には戦いを拒否する兵士もいるもようだ。
「軍を本気で再建するには何カ月とかかるのが普通だが、ロシア軍は戦いに突き進もうとしているようだ」と、アメリカン・エンタープライズ研究所で重大脅威プロジェクトの責任者を務めるフレデリック・ケーガン氏は話した。同研究所は、同じくアメリカのシンクタンクである戦争研究所と連携して、ウクライナの戦況を追っている。
機動性の問題に直面するロシア軍
ケーガン氏によると、ロシア軍は東部でも、北部で経験したのと同じ機動性の問題に直面する可能性がある。ロシア軍の移動ルートは、ぬかるんだ泥にはまるのを避けるため、主に幹線道路に限定された。ロシア軍の装甲車やトラックがウクライナ軍の攻撃にさらされやすくなったのは、このためだ。ウクライナ軍は西側諸国から供与された対戦車ミサイルを使ってロシア軍の車両を何百も破壊した。
ロシア軍にとって、移動の問題はさらに深刻なものとなりそうだ。春の雨によって地面の多くが泥に変われば、ロシア軍の機動性は一段と低下することになる。
ロシア軍は「移動を驚くほど道路に頼っているため、東部では一段と難しい状況に直面する可能性がある」とケーガン氏は指摘した。「東部の道路網はキーウ周辺よりも、ずっと悪い」。
ケーガン氏によると、結局のところ、両軍はどちらも厳しい試練に直面しているという。
「ロシア軍は大きな戦力を有しているが、問題も多い」とケーガン氏は語った。対する「ウクライナ軍は士気もモチベーションも高く、決意も固いが、数で劣っている。軍事国家というインフラの支えもない」。
「状況は五分五分だろう」
●「ウクライナ戦争の真相」語る 原田武夫国際戦略情報研究所の原田CEO 4/15
伊勢新聞政経懇話会4月例会は14日、津市大門の津センターパレスで開き、原田武夫国際戦略情報研究所の原田武夫代表取締役CEOが「『ウクライナ戦争』の真相〜これから何が起きるのか〜」と題して講演した。戦争の本質と米ロ中の覇権争いを分析した。
原田氏は「戦争に反対です。ましてや核兵器」としつつ、「一方向の話をかなり聞かされている」「専門家の話は分からない。大学教授は理論を作るのが仕事。現象を掘り下げて真相を調べるのが我々」と述べ、「プーチンの頭が狂ってという話ではない。もっと大きな構図がある」と語った。
現状について「こんなにたらたら戦争するのはおかしい。領土的野心を持っているのであれば、戦術核を使えばいい」「じりじりやる中で西側の結束が乱れ始める。それがプーチンがやろうとしていること」と話した。
「あくまで仮説」としながらウクライナでの生物兵器開発の可能性を挙げ、「ウクライナの生物医学研究所の大本をつくったのは中国。生物兵器は発症を数カ月後にする調整は可能。難民を通じて拡散されたらどうするのか」「中国は静かにしている」と解説。
米国を巡っては「ゼレンスキー大統領に最初に圧力を掛けたのは米国。トランプが大統領選に絡み、バイデン次男のウクライナ疑惑で支援を大幅にカットした」「米国は的確に開戦のタイミングをつかんでいた。中間選挙でバイデンは絶体絶命。戦争は内政上の話になっている」と述べ、「米国のスタンスをよくよく考えていかなければ」と注意喚起した。
また「ユダヤ人の問題を抜きにしてロシアを語ることはできない」「ゼレンスキー大統領はユダヤ系」「イスラエルはロシアに制裁を掛けていない」と説明し、オフレコで戦争の動因から展開を予測した。
質疑では北大西洋条約機構(NATO)への加盟に意欲を示すスウェーデンについて、「自分自身が戦わない戦争で自国兵器を使ってもらいたいという判断。兵器は需要がない」との見方を示した。
●予想外に弱かったロシア軍、その理由を徹底分析 4/15
ウクライナ戦争の影響はインド太平洋へ
   中国とロシアの関係性:中国の曖昧な態度・姿勢に隠された思惑
ウクライナ戦争の影響は、欧州にとどまるものではない。
この戦争は、グローバルな視点からすれば「民主主義対専制主義・強権主義」の戦いであり、ウクライナは世界の民主主義国の盾となって戦っており、インド太平洋における日米台などの中国の覇権拡大に対する戦いと同じ位置付けだ。
また、ロシアと中国は、対米・対西側で共闘する「全面的戦略協力パートナーシップ」の関係で緊密に繋がっており、中国はロシアの行動を「侵攻」「侵略」と認めないばかりか、直接・間接的に支持している。
さらに、ウラジーミル・プーチン大統領と思想・行動の面で軌を一にする習近平国家主席は、世界覇権の獲得を視野に尖閣諸島や台湾、南シナ海で侵略的行動を先鋭化させ、「力による一方的な現状変更の試み」がインド太平洋での緊張を高めている。
そして、武力行使に当たっては、いま注意深く観察しているウクライナ戦争の教訓が間違いなく反映されると見られるからである。
他方、中国は、ウクライナ戦争で存在感を増した先進7か国(G7)を中心とした国際社会によるロシア包囲網が強まっていることに鑑み、ロシアへ偏重した政策は「孤立化」のリスクをはらむとの懸念から、表向き「ウクライナ問題に基本的に関与しないという態度」あるいは「どちらかの肩も持たないという姿勢」で取り繕おうとしている。
しかし、そのような曖昧な態度・姿勢には、硬軟相交えた台湾統一を控え、それを見据えた中国の思惑と伏線が透けて見え、日米などの猜疑心をますます増大させこそすれ、減少させるものではなかろう。
   中国の台湾の武力統一は不変/台湾侵攻の決意を過小評価してはならない
米議会下院の軍事委員会は2022年3月9日・10日、ロシアのウクライナ侵略が中国の台湾侵攻計画に与える影響などに関する公聴会を開いた。
そこで、中国専門家のイーライ・ラトナー国防次官補(インド太平洋安全保障担当)、ジョン・C・アクイリーノ太平洋軍司令官、ウィリアム・バーンズ中央情報局(CIA)長官およびスコット・ベリア国防情報局(DIA)長官が証言した。
4氏は、まずロシアのウクライナ侵攻の国際法違反、非人道性に対する批判および経済制裁の強化について同趣旨の発言を行った。
その後の4氏の証言を総括すると、中国がロシアのウクライナ侵攻を注視していることから、その行動に与える影響を指摘しつつも、「中国の台湾侵攻の決意は変わらない」「中国の台湾侵攻の決意を過小評価してはならない」と強調した。
そして、米国の協力と台湾独自の努力によってその防衛力を高め、これを支える西側社会の結束した取組みがあれば、中国に対する抑止力を強化できると説いた。
   米国を「弱腰」と見做せば、中国は一層攻撃的に
ウクライナ戦争において、米国はウクライナがNATO(北大西洋条約機構)の加盟国ではなく「集団防衛」の対象ではないことに加え、ロシアが核威嚇を実際に行使し、さらに核攻撃ヘエスカレートする可能性があるとの見通しから、直接軍事介入すれば紛争が欧州戦争あるいは第3次世界大戦へと全面的に拡大することを恐れてその選択肢を排除した。
その代わりに、G7を中心として西側社会を結束させ、経済・金融制裁を主戦場としてロシアを弱体化させる一方、ウクライナに大規模な兵器