プーチン大統領の「夢」

ロシアのウクライナ侵攻 

破壊された都市
取り上げた 人々の命
昔の生活が取り戻せるか 5年 10年 

ロシアの民心 同調 それとも乖離

プーチンの 「夢」が判らない
 


4/14/24/34/44/54/64/74/84/94/10・・・4/114/124/134/144/154/164/174/184/194/20・・・4/214/224/234/244/254/264/274/284/294/30・・・
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プロパガンダロシアのプロパガンダアインシュタインの手紙・・・

第三次世界大戦  ・・・  戦争終結の道  ウクライナ分断  孤立するロシア
 
 

 

●ウクライナ戦争で「ドルの底力」再確認…なぜ基軸通貨は敵なしなのか 4/1
危機の際にはよりいっそう輝くドル。
世界大戦後、英ポンドから基軸通貨の地位を受け継いだ米ドルは、以降70年あまりの間、ユーロ、円(日本)、人民元(中国)などの多くの挑戦者を退けてきており、世界の金融市場で最も強力な貨幣としての地位を失っていない。21世紀に入ってからは、ロシアが別の決済システムを構築するなどにより、「脱ドル」に向けて数年にわたり準備してきていたものの、最近のウクライナ戦争をきっかけとしてドルの覇権ばかりが再確認されている。ドルはなぜ強いのか。
最も信頼される貨幣
「別の通貨を使いたくても相手が受け取ってくれない。それこそまさに基軸通貨の力だ」。大統領選挙期間中、基軸通貨が議論の的になっていた際に、経済省庁の当局者が口にした言葉だ。基軸通貨の核心はほかでもない「信頼」だというわけだ。別の専門家は同じ脈絡から「世界が大きな危機に陥った際に、取り引きが可能な唯一の通貨は何なのか考えてほしい」と問い返す。実際、今年に入り、世界経済の物価上昇や景気低迷への懸念が膨らみ、ドル需要はさらに高まっている。安全資産としてのドルの魅力が浮き彫りになったからだ。主要6カ国の通貨に対するドルの相対的価値を示すドルインデックスは、3月28日に99ポイントを突破し、新型コロナウイルス禍初期の2020年5月以来の最高値を記録した。
ウクライナ戦争においてもドルの底力は再確認される。ロシアは2014年のクリミア半島併合後、脱ドルに力を入れてきた。にもかかわらず、ロシアの金融機関の外国為替取り引きの約80%はドルで行われており、先月米国がドル取り引きを遮断すると、金融市場は大きく動揺した。ロシアと中国がドルに対抗するために作った代替国際取り引き決済網も、予想より力を発揮できずにいるようだ。人民元国際決済システム(CIPS)は、ドルではなく人民元の決済のみが可能だからだ。ある政府関係者は「国際取り引きでドルの代わりに人民元を渡すとしたら、誰が快く歓迎するのか。CIPSにはどうしても限界がある」と説明した。
「信頼」を支える多くの条件
独歩的信頼を得ているドルの覇権の背景には、長い間に様々な要素が絡み合って形成された全世界の人々の暗黙の同意がある。何よりも米国が経済力はもちろん、政治的、軍事的にも大国であるという点が大きい。米国が滅びることはないという信頼のおかげで、ドルに対する信頼も保たれているのだ。世界の覇権の歴史と基軸通貨の歴史が一致する理由がここにある。
ドルは流動性の面でも他の貨幣を上回る。全世界の人々がドルを自由に使うためには、それだけ供給量が多くなければならない。米国は数十年間、相当な貿易赤字に耐えながら、この機能を維持してきている。また、ドルに基盤を置く米国債も、発行量が多いにもかかわらず価値は落ちず、「安全資産」としての役割を十分に果たしている。さらに米ドルは1970年代半ばから、米国がサウジを軍事支援する対価として、原油がドルのみで決済される「ペトロダラー」としての地位も持っている。
準基軸通貨と呼ばれるユーロ、ポンド、円、人民元などは、こうした条件からみて、ドルを代替するには力不足だ。2002年に導入された欧州連合(EU)の貨幣であるユーロの国際決済比率は今年2月現在で37.79%で、それなりにドル(38.85%)を追いかけてはいるが、単一の国家ではないため、国債発行などの流動性の供給で限界が存在する。円は、日本の緩和的通貨政策の継続、マイナス成長に対する懸念などで、今年に入って対ドル相場がここ6年での最安値を記録し、不安定な様相を呈している。
中国は3月15日からサウジと石油代金を人民元で決済するための協議に入り、ペトロダラーに挑戦状を突きつけているが、実際に合意へとつながる可能性は低い雰囲気だ。サウジが米国に対して間接的に不満を示すための政治的行為にとどまる可能性が大きいということだ。中国の人民元が国際決済に占める割合は2.23%にすぎない。
延世大学のソン・テユン教授(経済学)は本紙に対し「基軸通貨となるためには取り引きに不便が生じないよう貨幣量が豊富でなくてはならず、相当な量の国債を発行しても国の信用度が影響を受けてはならない」とし「こうした条件を備えた基軸通貨は、事実上いまは米ドルしかない」と述べた。ドルの覇権は永遠ではないだろうが、かといって容易には崩れないだろうということだ。
●米紙「北方領土出身者たちの望みはウクライナ戦争で打ち砕かれた」 4/1
ウクライナに侵攻したロシアに日本が制裁を科せば「北方領土問題」が後退するという展開は、大半の日本人にとって驚きではないだろう。だが、北方四島の元住民らにとってそれは何を意味するのか? 米紙「ワシントン・ポスト」東京支局長のミシェル・イェ・ヒ・リーらが北海道の根室市で取材した。
1945年9月4日、ソ連兵たちが河田弘登志(かわた・ひろとし)の家に入り込み、日本兵をかくまっていないか、貴重品を隠していないか探しにきた。当時11歳だった河田は、彼らのしゃべっている言葉で2つの単語だけ聞き取れたのを覚えている。時計と酒だ。それらを彼らは略奪していった。
日本の北にある資源豊かな列島を、ソビエト連邦が乗っ取りはじめたのだ。日本が第二次世界大戦で降伏して、悲惨な戦争もこれで終わったと思っていた島民たちにしてみれば恐ろしいことだった。ほどなく日本人たちは自由に働いたり引っ越したりすることを禁じられ、女性や子供は拘束されて強制労働させられた。
多くの家族が、夜中に舟で逃げた。岸から遠く離れるまではまず櫂で漕いで、それからエンジンをかけた。その頃に住む場所を追われた大勢のなかに、河田一家もいた。いま87歳の河田は言う。
「これだけの年月が経っても、目の前で見た何もかも、いまだに忘れられません。いまのウクライナの人たちのことを見て……すごく身につまされます。遠くで起こっていることのようには思えないんです」
日本の東端にある北海道根室市には、北方領土の元住民およそ1万7200人のうちの多くが再定住した。そんな土地柄だけに、ウクライナから何千キロも離れていようとも、ロシアの侵攻と何百万ものウクライナ難民の窮状に寄せる思いは深い。
今回の戦争で、生まれ故郷を再び見たいという彼らの願いは踏みにじられてしまった。ウクライナに侵攻したロシアに日本が制裁を科したことに対して、ロシアが北方四島をめぐる交渉を反故にしたからだ。
平均年齢がほぼ87歳の元住民たちにとって、生きているうちに故郷に戻る望みは消えてしまったのだ。
「島の話を語れるといっても、小学5年生くらいの思い出だけです。あとはみな亡くなってしまい、語れる人はいません」と言うのは、13歳のとき色丹島を追われた、現在88歳の得能宏(とくのう・ひろし)だ。
日本は安倍政権下でロシアとの関係改善に努め、平和条約交渉や領土問題の解決を優先させてきた。ロシアを戦略的パートナーにし、ロシアが中国に接近しすぎないようにとの目論みもあった。
2014年、ロシアがクリミアを併合したとき、北方四島をめぐる交渉が決裂することを懸念して、安倍政権の反応は生ぬるいものになった。ところが、今回のウクライナ侵攻では一転して、日本の岸田政権はロシアに大幅な経済制裁を科すに至った。
交渉は2020年以来行き詰まっていたものの、ロシア政府は3月21日、交渉を再開するつもりはなく、日本人がビザなしで四島に旅行できる「ビザなし交流」も終了するつもりだと発表した。さらには、四島での共同経済活動から撤退するとも脅してきた。
●世界は「ウクライナ戦争の影響」を過小評価している 4/1
経済協力開発機構(OECD)のチーフエコノミストであるローレンス・ブーン氏は、ロシアのウクライナ侵攻による経済への長期的影響を各国政府は十分に認識していないと指摘した。
同氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、世界は「この戦争の中期的な影響を過小評価していると思う。戦争が長引くほど不確実性が増し、不確実性は消費者の支出や企業の投資を妨げるため、懸念が高まる」と語った。
ブーン氏は世界中に広がる避難民の問題に加え、「エネルギー安全保障、食料安全保障、デジタル安全保障、決済システム、貿易に長期的な影響が出るだろう」と述べた。
ウクライナからの避難民が500万人に達すると、定住や適応を助けるための費用は欧州連合(EU)の域内総生産(GDP)の0.5%に達する可能性があるとも述べた。避難民1人当たり約1万2500ユーロ(約170万円)が必要になるとの推計も示し、「大きな額だが、その価値は当然ある」と語った。
●南部で一部奪回−ロシアは国境近くで攻撃受けたと発表 4/1
ロシアは、ウクライナ国境に近いベルゴロドの石油施設がウクライナ軍のヘリコプター2機によって攻撃されたと明らかにした。ウクライナ側の発表はない。
ウクライナ政府は南部ヘルソンの幾つかの村をロシア軍から奪回したとしている。両国の停戦交渉は4月1日にビデオ会議形式で再開されるとウクライナの交渉担当者ダビド・アラハミヤ氏が述べているが、ロシア側は発表していない。
ロシアは同国軍が占拠していたウクライナ北部のチェルノブイリ原子力発電所をウクライナ側に明け渡すことに同意した。国際原子力機関(IAEA)がウクライナ当局者を引用して明らかにした。ロシア軍は施設から撤退しつつあると伝えられており、ウクライナ側はロシア軍が原発周辺に塹壕(ざんごう)を掘ったことで同軍の一部兵士が放射線に被ばくしたとしている。
国連は救援物資の輸送隊がウクライナの激戦地マリウポリにたどり着けていないと明らかにした。ただ北東部スムイには食糧や医薬品などを届けられたとした。
ロシアのプーチン大統領は代金のルーブル建て支払いは求めるが、引き続きロシアは欧州に天然ガスを供給すると述べた。支払い通貨の変更でロシアからの供給に混乱が生じるとの懸念は緩和した。大統領は「ロシアはビジネス上の信用を重視する」とテレビ演説で言明した。欧州当局者は支払い通貨の変更が供給に影響する可能性は低いとの見方を示した。
バイデン米大統領は3月31日、ロシアのプーチン大統領が一部の顧問を解任したか自宅軟禁にした可能性があると述べた。
南部ヘルソンと北部チェルニヒウの複数の村、ウクライナが奪還
南部へルソンの11の村と北部チェルニヒウの複数の村を奪還したと、ウクライナ軍の一般幕僚が明らかにした。両地域での砲撃の激しさは減ったものの、ハルキウの中心部では3月31日夜にミサイル攻撃があった。
ロシア、一部非居住者による国外への外貨送金を停止
ロシア中央銀行はウェブサイトに1日掲載した声明で、同国に制裁した「非友好的」な国の非居住者(個人・企業)によるロシアからの外貨送金は6カ月間停止されると発表した。ロシアの証券会社口座からの外貨送金も停止される一方で、ロシア国民向けの外貨送金規定は緩和。個人はロシアの銀行口座から月1万ドルまでを国外にある個人の口座に送金できるようになる。
世界はウクライナ戦争の影響を過小評価−OECDチーフエコノミスト
経済協力開発機構(OECD)のチーフエコノミストであるローレンス・ブーン氏は、ロシアのウクライナ侵攻による経済への長期的影響を各国政府は十分に認識していないと指摘した。同氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、世界は「この戦争の中期的な影響を過小評価していると思う。戦争が長引くほど不確実性が増し、不確実性は消費者の支出や企業の投資を妨げるため、懸念が高まる」と語った。
サハリン1からも撤退せず、エネルギー安全保障で重要−岸田首相
岸田文雄首相は1日、ロシア極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン1」について、日本は撤退しない方針だと表明した。参院本会議で答弁した。岸田首相は、サハリン1、2について「自国で権益を有し、長期かつ安価なエネルギー安定供給に貢献しており、エネルギー安全保障上、重要なプロジェクトだ」と指摘した。サハリン2については前日に撤退しない方針を表明していた。
ロシア、4月4日満期国債14.5億ドル買い戻し
ロシアは4月4日償還の国債20億ドル(約2440億円)相当の大部分をルーブルを使い買い戻した。これにより、償還日の国債保有者へのドルでの支払額は大幅に減った。
バイデン氏、戦略石油備蓄の大量放出命じる
バイデン米大統領は3月31日、米国の戦略石油備蓄から1日当たり100万バレルを今後6カ月間で放出する計画について、外国からのエネルギー供給への依存脱却を達成する礎を築くものになると説明した。また、今年に入ってからのガソリン価格高騰について、「プーチンによる価格押し上げ」だと表現し、ウクライナ軍事侵攻を命じたロシア大統領を非難した。
国連、スムイに支援物資届ける−他の地域には配給できず
国連は支援部隊がウクライナ北東部スムイに到着し、食糧や医薬品などを届けたと明らかにした。ただ激戦地マリウポリなど他の地域にはなお物資を配給できていないとした。
ロシア軍がチェルノブイリ原発から撤退開始、放射線被ばくで−ウクライナ
ロシア軍は占拠していたウクライナのチェルノブイリ原子力発電所から撤退を開始したと、ウクライナの国有電力会社が明らかにした。同原発の高汚染地域で塹壕を掘ったことから兵士が大量の放射線に被ばくしたためだとした。ただIAEAは被爆の報告を確認できていないとし、「さらなる情報を求めている」と説明した。
バイデン大統領、プーチン氏は一部顧問を解任ないし自宅軟禁の可能性
バイデン大統領は3月31日、ロシアのプーチン大統領が一部の顧問を解任したか自宅軟禁にした可能性があるとした上で、プーチン氏にウクライナでのロシア軍の戦況の十分な情報が伝えられているかどうかについては「議論の余地がある」と述べた。
ロシア、チェルノブイリ原発明け渡し−ABCがロスアトムの書簡引用
ロシア軍は占拠していたチェルノブイリ原子力発電所をウクライナ側に明け渡すと、ABCニュースがロシア国営原子力企業ロスアトムの書簡を引用して伝えた。
プーチン大統領、ガス供給を継続へ−代金はルーブル建てを要求
ロシアのプーチン大統領は欧州向け天然ガス供給でルーブルでの代金支払いを要求したものの、供給を継続する意向を表明した。支払い通貨の変更がロシアからの供給障害につながるとの懸念は緩和した。プーチン大統領は政府関係者に対し、ルーブル建ての新たな支払いメカニズムを打ち出した上で、「ロシアはビジネス上の信用を重視する。ガス供給契約を含む全ての契約で定められた条件にはこれまでも、そして今後も従う」と述べた。発言はテレビ放映された。
米国、ロシアに対する追加制裁を発表−半導体メーカーなど対象
米政府はロシア経済に対する追加制裁を発表した。ウクライナに侵攻したロシアへの圧力を強める。米国の説明によれば、今回の制裁対象には半導体製造とマイクロエレクトロニクス輸出でロシア最大の企業が含まれる。
米政権、石油備蓄から日量100万バレル追加放出
米国は石油備蓄から日量約100万バレルを6カ月間追加放出する。放出開始は5月。こうした歴史的な規模の放出は、ロシアのウクライナ侵攻を受けたガソリン価格上昇や供給不足に対するホワイトハウスの懸念を浮き彫りにしている。
プーチン大統領、ルーブルでの支払い要求
ロシアのプーチン大統領は既存の天然ガス契約について、買い手がルーブルでの支払い条件に従わないなら契約を停止すると明らかにした。
ロシア軍は再編成しており、撤退はしていない−NATO
ロシア軍はウクライナから撤退しているのではなく、東部ドンバス地方に注力するため再編成していると、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長がブリュッセルで記者団に指摘した。「われわれの情報によると、ロシア軍は撤退ではなく再配置を進めている。ロシアはドンバス地方での攻撃態勢を再編成して軍を補強し、補給しようとしている」と発言。「同時に、ロシアはキエフや他都市への圧力を維持しており、さらなる攻撃で被害が拡大すると見込んでいる」と語った。
ガス支払いはユーロやドルで可能、プーチン氏が伊首相にも説明
イタリアのドラギ首相は、プーチン大統領が30日の電話会談で、欧州連合(EU)企業はガスの支払いでユーロまたはドルを引き続き使用できると説明したことを明らかにした。これに先立ち、ドイツ政府もショルツ首相との電話会談でプーチン氏が同様の説明をしたと発表していた。ドラギ首相は、このような契約における支払い通貨の変更は単純な問題では全くないと指摘した。
英国、ロシア国営メディアやマリウポリ攻撃指揮官を制裁
英政府はロシアのRTとスプートニクの所有者を含む国営メディアを対象とした新たな制裁を発表した。またマリウポリ包囲攻撃を指揮しているロシア軍幹部のミハイル・ミジンツェフ氏も制裁対象に加える。
トルコ、ウクライナとロシアの外相会談実現に努力
トルコのチャブシオール外相は同国テレビ局に対し、ウクライナとロシアの外相会談を再び仲介しようとしていると明らかにした。「クレバ、ラブロフ両氏にそれぞれテキストメッセージを送った。正確な日時は言えないが、1−2週間のうちに上級レベルの会合が実現する可能性はあると両氏は話した」と述べた。両外相は3月10日にもトルコで会談した。
ロシア軍、ウクライナの農業に破壊工作−ゼレンスキー大統領
ロシア軍は意図的にウクライナの農業セクターに打撃を与えようとしていると、ゼレンスキー大統領がオランダ議会に対する演説で主張した。農業はウクライナの主要な収入源だが、ロシア軍は農地に地雷を敷設したり、農業機械を破壊したりしていると、同大統領は語った。
チェルニヒフ近郊で砲撃継続、ウクライナがマリウポリを依然死守−英国
南部マリウポリの中心部は激しい戦闘が続いているものの、ウクライナ軍が依然支配しているとの見方を英政府が示した。ロシアが軍事活動を縮小すると発表した北部のチェルニヒフ周辺では「大規模な」砲撃とミサイル攻撃が続いているという。
●日銀短観関西7期ぶり悪化 オミクロン株やウクライナ情勢影響 4/1
日銀大阪支店は、関西の企業に景気の現状などを尋ねた調査、短観=企業短期経済観測調査の結果を公表しました。オミクロン株やウクライナ情勢の影響で、「全産業」の景気判断を示す指数は、7期ぶりに悪化しました。
「短観」は、国内の企業に3か月ごとの景気の現状などを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。
日銀大阪支店が関西2府4県のおよそ1400社を対象に、ことし2月下旬から3月31日にかけて行った調査では、足もとの景気判断を示す指数は、「全産業」でプラス1ポイントとなり、前回・去年12月の調査から5ポイント悪化しました。
悪化は7期ぶりです。
オミクロン株による感染の再拡大を受けて、「宿泊・飲食サービス」では、前回から26ポイント悪化してマイナス53ポイント、「小売」も、前回から10ポイント悪化してマイナス16ポイントとなりました。
また、製造業では、ウクライナ侵攻に伴う原材料価格の高騰の影響で、「化学」が7ポイント悪化してプラス16ポイントとなり、製造業全体でも3ポイント悪化してプラス5ポイントとなりました。
日銀大阪支店では、「オミクロン株とウクライナ情勢の影響が色濃く出た形となった。一方で、中長期的な目線で、投資を行う企業も多く、先行きには明るい兆しも見えている」と分析しています。
●ウクライナ影響 世界で値上げが止まらない  4/1
緊迫の状態が続くロシアによるウクライナ侵攻。小麦粉や原油などの価格が一段と跳ね上がり、世界各国で身近なモノの価格に大きな影響を及ぼしています。フランスでは主食の「バゲット」、インドネシアでは屋台料理の「揚げ春巻き」、そして日本では、食卓に欠かせない家計の味方「もやし」まで…。世界各地で起きている値上がりの最新状況をまとめました。
値上げの4月 コーヒーやティッシュも
まずは日本国内の状況です。4月から暮らしに身近なさまざまな商品が値上げされます。
《ケチャップ》カゴメはトマトの輸入価格の上昇で、1日の納品分からケチャップを含む125品目の出荷価格を約3%から9%引き上げ。
《チーズ》乳業大手3社が家庭用チーズの希望小売価格を約4%から10%引き上げ。
《食用油》日清オイリオグループとJ‐オイルミルズは、原料の大豆・菜種の価格上昇で、家庭用・業務用の食用油を1キロあたり40円以上値上げ。
《コーヒー》コーヒーチェーン大手のスターバックスが、4月13日から主力商品を、約10円から55円値上げ。
《ティッシュペーパー》日本製紙クレシアが、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどを10%以上値上げ。花王は、乳幼児向け紙おむつの主力製品の一部を約10%値上げ。
《飲料水・レトルトカレー》大塚食品は、1日の納品分から飲料水とレトルトカレーの商品の一部値上げ。
《菓子》「うまい棒」の名称で40年以上にわたり販売価格が据え置かれてきたスナック菓子も、1日の出荷分以降、これまでの10円から2円値上げ。
《タイヤ》ブリヂストンは、1日から乗用車用や二輪車用の販売店などへの出荷価格を7%引き上げ。横浜ゴムは4月以降、最大で9%値上げ。去年から続く原材料価格や物流費の高騰が主が要因ですが、ロシアによるウクライナ侵攻が、小麦粉や原油などの価格を一段と押し上げていて、引き続き、値上げの動きが広がりそうです。
1袋30円 ついに「もやし」も!?
さらに、日々の食卓に欠かせない家計の味方の代表格「もやし」にも、今、値上げの動きが出ています。もやしの小売り価格は、1袋(200グラム)30円程度。この価格は、ここ10年、ほとんど変わらず、特売の目玉となれば1袋10円台で販売されることもあります。スーパーやドラッグストアのしれつな価格競争で、安売りに拍車がかかり「デフレの象徴のような商品だ」とぼやく関係者もいたほどです。
もやしの種「緑豆」が高騰
値上げの最大の要因は、もやしの種=「緑豆(りょくとう)」の価格高騰です。「緑豆」の栽培には、豆を乾燥させるため、収穫期の秋に雨が少ないなど、一定の気候条件が必要となり、現在は大半を中国などからの輸入に頼っています。しかし、その「緑豆」の争奪戦が激化しているのです。緑豆を扱う専門商社に話を聞くと、中国国内では需要が高まる一方で「とうもろこし」など、ほかの作物への転作に手厚い補助金をかけられています。このため「緑豆」の栽培をやめる農民が増加し、作付面積が減少傾向にあるというのです。また、ほかの輸入品と同様に「円安」や「コンテナ船のコスト上昇」が輸入価格に跳ね返ってきています。
ウクライナ侵攻で原油高騰 値上げを決断
茨城県小美玉市にある、もやしの生産工場も、「緑豆」の値上がりに頭を悩ませています。首都圏のスーパー向けに1日およそ20万袋を出荷するこの工場では、専門商社からの「緑豆」の仕入れ価格が、去年に比べて2割あまり上昇し、過去最高の水準だといいます。さらに追い打ちをかけているのが、ウクライナ情勢で加速する原油価格の高騰です。この会社では、温度管理のための燃料の重油価格が1年前と比べて4割あまり上昇。この冬の燃料費の負担は、毎月150万以上増えたといいます。さらに、運送代や包装代も上がっています。会社は、「1銭」単位でギリギリのコスト削減を続けてきましたが、「さすがに限界」と感じ、取引先のスーパーに4月からの納入価格の改定を申し入れました。価格改定は実に5年ぶり。すでに一部の取引先には10%程度の値上げを受け入れてもらったといいます。
生産会社「旭物産」林社長「安い食材の代表格だった『もやし』も値上げになると消費者の方はつらいかもしれません。ただ、これまでギリギリのところで消費者にお渡ししていたのが現実で、ご理解いただきたいです。取引先のスーパーの中には、販売価格の値上げはなかなか厳しいと思っているところもありますが、あきらめずに交渉を続けていきます」
「もやし」のジレンマも…
ただ、家計の味方として定着している「もやし」の値上げに、生産者は複雑な思いを抱えています。特に規模の小さい生産者からは「実際に値上げを言いだすのは難しい」という声も聞かれました。
中堅の生産者「スーパーなどの小売り現場には食品の値上げへの強い抵抗感があると感じています。スーパーに納入価格の値上げをお願いしても、店頭の販売価格を上げるのが難しいと判断されてしまえば、スーパーの利益を損なうことになり、もっと安いほかの生産者に切り替えられてしまうおそれもあります。値上げの交渉をするかどうかは、しばらく様子を見ようと思います」
大分県にある大手生産会社は、今回、なみなみならぬ決意で値上げに踏み切ったと言います。
大手生産会社「名水美人ファクトリー」奈良社長「本来、値上げは最後の手段ですが、今回は値上げ以外に選択肢がありませんでした。ここで値上げしなければ、いつ上げるのかという覚悟でスーパーと交渉しました」
“値上げの波”は世界各国で
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1か月あまり。身近な食品の値上がりは世界各国でも広がっています。
屋台から悲鳴 〜インドネシア〜
インドネシアではナシゴレンなどの炒め物、揚げ物など油を使った料理が好まれますが、首都ジャカルタの屋台では、バナナの「揚げ春巻き」の価格を、これまでの「10個」=1万ルピア(約85円)から「8個」=1万ルピアに変更しました。いわゆる「実質値上げ」です。理由は、調理に欠かせない「パーム油」の価格高騰です。政府の統計では、パーム油など食用油の小売り価格が3月30日の時点で前年の同じ時期と比べて45%から70%値上がりしています。ウクライナとロシアが世界1位、2位の生産国になっている「ひまわり油」の供給が滞るという懸念から、代替品としてアジアで生産されるパーム油の需要が拡大したのです。
ジャカルタの屋台の店主「これまでこんな高い食用油を買ったことがありません。屋台の食べ物を買う人がいなくなるのではないかと心配です」
定番料理にも影響 〜タイ〜
タイの屋台の定番、ガパオライスに欠かせない目玉焼き。その卵も値上がりしています。タイでは、家畜の飼料用として輸入する小麦の価格がこれまでの1.5倍に上昇。世界全体の小麦の輸出量のおよそ3割を占めるロシアとウクライナから輸出が滞るとの見通しが価格上昇を引き起こしています。タイの生産者団体は生産コストの上昇を理由に、3月24日から卵の希望小売り価格をおよそ3%値上げしました。卵は幅広い料理に使われるだけに、暮らしへの影響が拡大することが懸念されています。
食卓に欠かせないパンも 〜フランス〜
細長いバゲットを抱えて歩く人が街の風景になっているフランス。その値上がりはフランスの人たちの大きな心配事になっています。平均で90セント(約120円)と安価に抑えられてきましたが、小麦価格の上昇で、業界団体はこれから本格的な値上がりが広がるとみているのです。パン屋はすでに去年からのエネルギー価格高騰で、コスト増に苦しめられてきました。パリでパン屋を営むマキシム・アンラクトさんは、電気料金が値上がりする中、オーブンの電源をこまめに落とすなどして、なんとかパンの価格を維持してきました。しかし、小麦粉の価格が今後、2倍程度になる可能性も考えていて、販売価格を引き上げなければ赤字になってしまうと頭を悩ませています。
パリでパン屋を営むアンラクトさん「コロナ禍でも値上げをしなかったのに、ついに値上げに踏み切らなければならないのは、店にとってもお客さんにとってもつらいことです」
飢餓の危険増す国も 〜イエメン〜
より深刻な影響が懸念される国もあります。中東のイエメンは、小麦の輸入の4割をロシアとウクライナに頼っています。7年以上にわたって内戦が続くこの国では、輸入が減っても国内でその代わりとなる農産物を十分に生産できず、主食のパンの値段は2倍に高騰しました。これまで1日に1度の食事としてパンを家族で分け合ってきたというダルウィーシャ・バヒースさんは、通りに立って人々に施しを求めざるを得なくなったことを明かしました。
ダルウィーシャさん「物価がさらに上がれば私たち家族だけでなくたくさんの人たちが餓死してしまいます」
国連は飢餓状態とされる人がことし中に現在のおよそ5倍の16万人余りにまで増えると予測していて、パンの値上がりが人々の命を脅かす事態を引き起こしています。
さまざまな資源や食料を世界中に供給してきたロシアとウクライナ。軍事侵攻によってインフレは一段と加速し、各地で人々の暮らしに影響が広がっています。ウクライナ情勢の事態打開の道筋は見えていないだけに、値上げが今後さらに進むことも考えざるをえない状況になっています。
●ロシア、ウクライナ侵攻で死亡した兵士の遺族に沈黙を指示か 4/1
・ロシアでは、ウクライナで死亡した兵士の遺族がその事実を伏せるよう言われていると、あるロシア人ジャーナリストが明かした。
・「大騒ぎする必要はないと、彼らは言っています」とジャーナリストはBBCに語った。
・ロシアの国営メディアはウクライナ侵攻に関するニュースを厳しく検閲し、軍事侵攻がうまくいっているように見せている。
ロシアでは、ウクライナで死亡した兵士の遺族はその事実を伏せるよう、新聞は死者数を報じないよう指示されていると、ロシア人ジャーナリストが明かした。
「全ての現地メディアは、ウクライナでの死者に関するデータを一切報じないよう地域政府から指示されています」とシベリア地域で仕事をしているジャーナリストはBBC Worldの特派員オルガ・イフシナ氏に語った。
イフシナ氏によると、「当局が遺族に圧力をかけ、黙っているよう命じることもあります」とジャーナリストは話している。
「今は大騒ぎする必要はないと、彼らは言っています。あなたの息子を追悼する手立ては後で見つける、と」
ロシアはウクライナに対する軍事侵攻でどれだけの数の兵士が犠牲になったのか何週間も公表してこなかったが、3月25日、これまでに1351人が死亡したと明らかにした。
ただ、この数字はウクライナ側が公表しているものよりも大幅に少ない。北大西洋条約機構(NATO)では、7000〜1万5000人が死亡したと見ているという。
イフシナ氏によると、死亡した兵士の数を報じるロシア人ジャーナリストも標的にされている。
「ロシアでは死亡した兵士の数を報じる現地ジャーナリストに対する圧力が増している形跡があります。軍事活動中に死亡した兵士に関する初期報道の一部は削除されました。こうしたことは1日、2日で起きることもあれば、数時間以内に起きることもあります」と同氏はツイートしている。
ウクライナのベレシチュク副首相は先日、ロシア側が消息不明になっているロシア兵のリストをウクライナ側に提供することを拒否しているため、遺体を返すことができないと述べたと、ガーディアンは報じた。
「ロシア当局は遺体を引き取りたくないようだ」と副首相は語ったという。
ロシアはウクライナ紛争でどれだけの兵士が命を落としたのか、本当の数字を隠すために、移動式の遺体焼却炉を使っているとも糾弾されている。
「彼らは自分たちのためにこうした遺体焼却炉を運んでいる」とウクライナのゼレンスキー大統領は3月上旬に語った(ただ、証拠は示していない)。
ロシアの国営メディアはウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、それがうまくいっているように見せていて、戦争に関する報道は厳しく検閲されている。
ただ、従わないジャーナリストもいる。
ロシアの政府系テレビ「第1チャンネル」の職員マリーナ・オフシャンニコワ氏は3月中旬、生放送中のニュース番組で「戦争反対」のメッセージを掲げた。オフシャンニコワ氏の同僚ジャンナ・アガラコワ氏も22日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて辞職している。
●ロシア議員、ウクライナ作戦の内容は知らないが「計画通り」 4/1
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が率いる与党・統一ロシアの国会議員がBBC番組に出演し、ウクライナでの「特別軍事作戦」は完全に計画通りに進んでいると述べた。ただしその後に、作戦の内容は国会に共有されていないとも話した。
マリア・ブティナ議員はBBC番組「ハードトーク」のスティーヴン・サッカー司会者に対し、ロシア側にそのつもりがあれば軍事作戦を一気に終わらせることもできるが、ロシア側は民間人に被害を出さないよう慎重に動いているのだとも話した。
国連人権高等弁務官事務所は3月29日、ロシアによる軍事侵攻開始からウクライナでは民間人が少なくとも1179人死亡し、1860人が負傷したと発表している。
ブティナ議員は2016年米大統領選に先駆けワシントンで保守系団体に接触するなど政治活動を行い、2018年には無登録でロシア政府の工作員としてアメリカ国内で活動した罪で同国で有罪となった。2019年に強制送還されるまで5カ月間、米フロリダ州の刑務所で服役した後、2021年にロシアの国会議員に当選した。
●ウクライナ駐日大使が会見 “避難民に住まいや仕事 学校を”  4/1
ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナのコルスンスキー駐日大使が都内で会見を開き、ロシア軍による攻撃を非難するとともに、日本が受け入れるウクライナからの避難民の生活の支援に、全力をあげる考えを示しました。
1日、都内で記者会見をしたコルスンスキー大使は、ロシア軍の侵攻について「ロシアはおそらく2、3日でウクライナが敗北すると思っていただろうが、われわれは反撃し、一部の地域を解放し始めている」と述べ、首都キーウ、ロシア語でキエフ周辺や第2の都市ハルキウ、ロシア語のハリコフなどでウクライナ軍が反撃し、ロシア軍を後退させている地域もあると訴えました。
そして、ロシア兵による金銭の略奪や性的暴行が報告されていると指摘したうえで「もはやロシア軍は兵士とは呼べない。彼らは人としての名誉もなく、人命や人権への尊重もない」と非難しました。
さらに、ロシア軍が一時占拠していたチョルノービリ原子力発電所、ロシア語でチェルノブイリ原子力発電所では日本との協定に基づいて供与されていた機材も略奪されたと訴えました。
また、日本に対しては、さまざまな支援があったとして、「政府と国民の皆様に心から感謝する。多くの方から共感や支援をいただいた」と述べ、感謝の意を示しました。
そのうえで、来週には、ポーランドに避難したウクライナ人が新たに来日するとしたうえで「在日ウクライナ人とも協力し、日本での住まいや、仕事や学校、日本語の勉強などできるかぎりのサポートをしたい」と述べ、避難の長期化にも備え、日本での生活の支援に全力をあげる考えを示しました。
●日本は「戦後復興のリーダーシップを」 義援金50億円に ウクライナ大使 4/1
ウクライナのコルスンスキー駐日大使は1日、ロシアのウクライナ軍事侵攻に対する日本の役割について、「日本はスーパーパワー(超大国)という認識で、非常に重要(な存在)だ。ウクライナの戦後の復興に向けてリーダーシップを取ってほしい」と述べ、戦争終結後の積極的な関与に期待を表明した。
都内の日本記者クラブで記者会見した。
大使は先のゼレンスキー大統領の国会演説も、日本の「文化的、法的、政治的環境を理解した上で言葉を選んで行われた」と指摘し、日本が軍事的分野で果たせる役割には国内上の制約があるとの認識を表明した。その上で「日本は国際金融機関でも特別な役割を果たしている」と評価。「時代遅れの」国連安保理など、機能不全に陥っている世界の安全保障の枠組みの再構築に日本が寄与できるとの見方を示唆した。
一方、日本国内でこれまでに、ウクライナ支援の義援金が20万人から50億円以上集まったことを明らかにし、「これらの資金は人道支援目的に使われる」と語った。 
●なぜロシア軍は「ドロ道」に苦戦? 「泥濘」での「タイヤの重要性」とは 4/1
ロシアの侵攻をはばんでいる「泥濘(でいねい)」とは
ロシアがウクライナへと軍事侵攻を開始してから1か月あまりが経ちますが、依然として一進一退の攻防が続いており、戦火は止む目処は立っていません。
そのひとつの要因として「泥濘(でいねい)」によって侵攻をはばまれているといいます。
悪路走破性能に長けた軍用車両をもってしても走行困難な泥濘とはいったいどういうものなのでしょうか。
SNSの登場によって、一般市民や兵士たちが直接情報を世界中に公開できるようになったことで、日本にいるわれわれのもとへもリアルな情報が日夜舞い込んできています。
そして、そのなかには、侵攻を続けるロシア軍の戦車や装甲車が、泥のなかで立ち往生してしまっているというものも見受けられます。
もともと、ウクライナは肥沃な大地を持っていることで知られており、「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるほどでした。
しかし、それは同時に、秋から冬にかけての降雨期と、冬から春にかけての雪解け期において、多量の泥濘を生み出すことを意味しています。
深く柔らかい泥濘、つまり泥のなかにあっては、一般的な乗用車はもちろん、悪路走破性能に長けた軍用車でも走行することは容易ではありません。
泥濘は攻める側にとっては脅威であり、守る側にとっては鉄壁にも匹敵する存在です。
実際、ウクライナと気候風土の近いロシアでは、かつてソ連時代にドイツ軍の侵攻を受けた際、泥濘によってドイツ軍を阻んだという歴史があります。
こうした泥濘路では、タイヤの性能が非常に重要となります。
ただ、かつてに比べて、タイヤの性能は劇的に進化していますが、それでもこうした泥濘を乗り越えるのは簡単ではないようです。
SNS上では、ロシア軍関係者によるコメントとして「ロシアの軍用車は、1か月に1回の割合で駐車する位置を変える必要がある」という内容が投稿されています。
その理由として、日光による片方の側面のタイヤの劣化を防ぐためと説明されていますが、そこには泥濘路で走行不能になる可能性を少しでも下げるというねらいもあるようです。
泥濘路をはじめとするオフロードでは、グリップ力を高めるためにタイヤの空気圧は低く設定されることが一般的です。
しかし、空気圧を低く設定するとタイヤの耐久性は下がり、その状態での走行が続くと、タイヤへ過剰の負荷がかかり、最悪の場合には走行不能となってしまいます。
ある識者は、ロシアもしくはウクライナによるプロパガンダの可能性も考慮し、画像の内容を鵜呑みにすべきではないと指摘します。
一方で、広大な国土の大部分が泥濘によって走行困難となっていることで、結果としてロシアの侵攻は事前の予測よりも苦戦していると考えられています。
「たかがドロ道」と思ってはいけない…
今回の話から見えるのは、悪路走破性能に長けた軍用車であっても、泥濘路の走行は困難であるということです。
舗装された道路がほとんどの日本では、長距離の泥濘路を走行する機会というのはあまりないかもしれません。
一方で、前述したように、タイヤの劣化を防ぐために月に1回も駐車位置を変更している人もほとんどいないことでしょう。
定期的にタイヤの空気圧をチェックしていたり、山の残り具合を把握しているユーザーであれば大きな問題はないかもしれませんが、そうでないユーザーが、劣化したタイヤで泥や砂利であふれた道や砂浜などを走行してしまうと、パンクや破裂してしまう危険性は大いにあります。
インターネットをはじめ、現在身近になっている技術のなかには、軍事技術から発展したものも少なくありません。
また、どの国でも軍事予算(防衛予算)は国家予算のなかでもかなりのウェイトを占めることが一般的です。
それにもかかわらず、「ドロ道」でスタックしてしまうというのは意外なように思えるかもしれません。
しかし、裏を返せば、最先端の技術をもってしても、「ドロ道」は強敵だということでもあります。
「たかがドロ道」と思うことなく、未舗装路を走行する際には、タイヤやクルマの状態をしっかりとチェックするようにしましょう。
●ロシア軍「プーチンの戦争」に嫌気で自暴自棄か…誤爆、命令違反、寝返り 4/1
軍事侵攻が6週目に突入し、ロシア軍が“自暴自棄”に陥っている。停戦交渉は1日、オンライン形式で再開するが、即時停戦は期待できない。最大19万人といわれるロシア兵がウクライナ国境に集結させられてから約5カ月。攻撃を続ければ続けるほど、前線の兵士は「プーチンの戦争」にますます嫌気が差してくるのではないか。
3月29日にトルコのイスタンブールで行われた対面形式の交渉で、ロシア側は「攻撃縮小」を発表したものの、ウクライナの首都キーウなどへの攻撃はやむ気配がない。一方、ロシア軍の“ほころび”が次々と指摘されている。
英国の情報機関である政府通信本部のフレミング長官は3月31日、ロシア軍が自軍の航空機を誤って撃墜したと公表。ロシア兵の一部が命令に背いたり、自分の装備を破壊したりしているという。元陸自レンジャー隊員の井筒高雄氏がこう指摘する。
「額面通りに受け取るのは難しいですが、ウクライナに展開するロシア軍部隊の司令官20人のうち7人が死亡したとの情報を踏まえると、指揮命令系統はかなり混乱していると思われます。最前線の兵士は、自分たちの判断で動かず、上から言われた通りに動くことを叩きこまれているはず。それが徹底できないのは裏を返せば、末端が自分たちで考えて動かないといけないほど、組織が壊滅的だからでしょう。結局、戦況の良し悪しは最前線の兵士ならよく分かるので、自暴自棄や『コントロール不能』に陥っていても不思議ではありません」
前線だけでなく、クレムリンも迷走中だ。米ホワイトハウスや米国防総省によれば、プーチン大統領は軍事侵攻での苦戦について、軍幹部から正確な情報を知らされていない可能性があるという。側近すらも近づけさせなくなったプーチン大統領に、幹部が怯えて真実を話せない「恐怖のドツボ」にはまっているようだ。
プーチン大統領すら戦況をよく分かっていないフシがあるのに、現場の兵士の士気が高まるはずがない。訳も分からず前線に送られ命を落とすくらいなら、「プーチンを相手に戦った方がまだマシ」と思っているのではないか。ウクライナのゼレンスキー大統領が明かしたように、「(ロシア兵の)遺体は埋葬さえされず、路上に置き去りにされている」のであれば、なおさらだ。
実際、ウクライナ軍に投降したロシア兵の一部は、プーチン大統領に反旗を翻した。ウクライナ国防省によると、投降したロシア兵100人以上が「自由ロシア軍団」を結成、ウクライナのために戦うことを志願。チェチェン共和国のカディロフ首長率いる私兵部隊「カディロフツィ」を相手に戦うという。
ロシア軍はもはや、情報隠蔽や命令違反、寝返りなど何でもアリ。その隙を狙ってか、ウクライナの弁護士会はネット上でロシア兵に“投降の方法”を図示。1武器を下ろす2手を上げる3「投降する」と叫ぶ4投降の“合言葉”として「ミリオン(100万)」と叫ぶ──と説明している。投降した兵士にはカネを与え、家族などへ安否確認の電話をさせるという。
「ちゃんと捕虜として扱われることが前提ですが、投降の“誘い水”にはなります。とはいえ、なるべく捕虜にはなりたくないでしょうから、軍服を脱いで民間人に紛れる兵士もいるでしょう」(井筒高雄氏)
投降したロシア兵の中には1万ドル(約124万円)とウクライナの市民権を申請する権利を与えられた者もいる。これから先、「プーチン戦争」に付き合いきれない兵士が続出することになるのか。
●ロシア産ガス、「ルーブルで払わなければ供給停止」 大統領令に署名 4/1
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は3月31日、「非友好国」に指定した国への天然ガスの輸出について、ロシア通貨ルーブルでの支払いを求める大統領令に署名した。代金をルーブルで支払わない場合はガス供給を停止するとしてる。ロシアは、ウクライナ侵攻をめぐる対ロ制裁への対抗措置として、アメリカや日本を含む48の国と地域を「非友好国」に指定している。この大統領令は、ロシアから天然ガスを購入する国に対し、「ロシアの銀行にルーブル建ての口座を開設」することを義務付けるもの。プーチン大統領は、「誰も我々にタダで物は売らないし、我々も慈善事業をするつもりはない。つまり、既存の契約は停止される」と述べた。プーチン氏のこうした要求は、西側諸国の制裁で打撃を受けているルーブルの価値を押し上げるための試みとみられている。ロシア産ガスを購入する外国人は、ロシア国営企業ガスプロム傘下の銀行ガスプロムバンクに口座を開設し、ユーロか米ドルを振り込まなければならなくなる。ガスプロムバンクはこれらの外貨をルーブルに両替し、ガス代金の支払いに充てる。ルーブル建て支払いは4月1日の輸出分から適用される。しかし、欧州の買い手からその代金が支払われるのは5月中旬になると、英オックスフォード大学エネルギー研究所の研究員、ジャック・シャープルズ博士はBBCに語った。このことは、ガス供給が直ちに脅かされるわけではないかもしれないことを示唆している。ルーブルへの切り替えはロシアの主権を強化するためだと、プーチン氏は説明。西側諸国がそれに応じるなら、ロシアはすべての契約における義務を守るだろうとした。ドイツはプーチン氏が発表した支払い通貨の変更は「脅迫」に等しいとしている。
ロシア産原油・天然ガスに大きく依存
ロシアがウクライナに侵攻して以降、西側諸国はロシアに対して経済・貿易制裁を発動している。しかし欧州連合(EU)は、加盟国がロシア産原油や天然ガスに大きく依存していることから、アメリカやカナダのような輸入禁止措置は導入していない。EUはガスの約40%、原油の約30%をロシアから調達している。そのため供給が途絶えた場合、代替を確保するのは簡単ではない。一方でロシアは現在、EUへのガス輸出で1日当たり4億ユーロ(約542億円)を得ており、この供給をほかの市場にまわすことはない。
「大規模なエスカレーションの恐れ」
複数のアナリストは、ロシアがEU加盟国へのガス供給を停止して「対決を迫っている」とし、「冷戦中、最も緊迫した状況下ですら行われなかった大規模なエスカレーション」が起こり得ると指摘した。「ロシアの財源にまた大きな経済的打撃を与えることになるだろう」と、市場調査会社フィッチ・ソリューションズのアナリストたちは付け加えた。ロシアが発表したガス代金の新たな支払いメカニズムが、ユーロでの支払いを全面的に禁止するものなのかどうかもわかっていない。西側の企業や政府は、ユーロや米ドルで設定されている既存の契約に反するとして、ガス代金のルーブル建て支払いを求めるロシア側の要求を拒否している。ドイツのオラフ・ショルツ首相は3月30日、ドイツ企業は契約に定められた通りユーロ建て支払いを継続すると述べた。銀行および資産管理会社インヴェステックの石油・ガス研究責任者、ネイサン・パイパー氏はBBCに対し、プーチン氏の動きは経済的圧力を「欧州に戻す」試みだと指摘。外国為替市場でのルーブルの需要が高まればその価値を押し上げる可能性が高いとした。「一方で、長期的にみれば、ロシアは信頼できるガス供給者であり続ける必要がある。そのため、実際にガスの供給を制限するかどうかは不透明だ」と、パイパー氏は付け加えた。「とはいえ、そういうリスクがあるだけでイギリスや欧州のガス価格は過去最高値に迫り、10年平均の6倍に達している。これは消費者が支払う光熱費の急騰につながる」オックスフォード大学エネルギー研究所のシャープルズ博士は、双方が状況に順応し、貿易を中断させることなく続けていくこともできるとしつつ、反対に、一方または双方が契約違反を主張して事態をエスカレートさせる可能性もあるとしている。「事態がエスカレートして、一方または双方が仲裁を求めるような状況になっても、ガス供給が続くことを望むが、供給が停止する可能性は排除できない」
ドイツとオーストリア、緊急事態計画を発動
ガス供給の約半分と原油供給の3分の1をロシアに依存しているドイツは、国民と企業に対し、供給不足に陥ることを想定してエネルギー消費を抑えるよう求めている。ガス供給の約40%をロシアから輸入しているオーストリアは、国内市場の監視を強化している。ガスに関する既存の緊急事態計画では、起こり得るガス供給不足に備えるため、3段階の措置を設けている。ドイツとオーストリアが発令した「早期警戒段階」はその第1段階にあたる。最終段階になると、政府はガスの配給制を導入する。ロシアのガスプロム社からガス供給の90%を輸入するブルガリアは、供給停止に備えてガス貯蔵容量を2倍近くに増やす計画の一環として、地下掘削事業への入札を開始した。ロシアからのガス輸入量が5%未満のイギリスは、供給停止による直接的な影響は受けないとみられる。ただ、欧州での需要増加に伴う世界市場での価格上昇には直面するだろう。英政府はロシア産ガスのルーブル建て支払いを行う予定はないとしている。
●米英が仕掛ける「心理戦」…プーチン政権内の結束乱す「機密情報」 4/1
米国のバイデン大統領は3月31日、記者団に、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について「確証はない」としつつも「彼(プーチン氏)は外部との接触を避けているようだ」と述べ、孤立を深めているとの見方を示した。
ホワイトハウスは30日、米情報機関の機密情報に基づく分析を公開し、プーチン氏が誤った報告を提供されて「軍幹部や側近らとの間で緊張関係が続いている」などと指摘していた。英国の情報機関も30日、同様の認識を明らかにした。
バイデン氏は「彼が側近を更迭したり、自宅軟禁下に置いたりしていることを示唆する情報もある」と語った。米英はウクライナ侵攻阻止へ積極的に機密情報を公開したが、止めることができなかった。米CNNは1日、「米英はプーチン政権内の結束を乱そうと、機密情報を武器化して心理戦を仕掛けている」として、米英が引き続き情報戦を仕掛け、侵攻作戦を停止させるための揺さぶりをかけているとの見方を伝えた。
タス通信によると、露大統領報道官は「米国がクレムリンの内情を何も知らないことを残念に思う」と述べて米側の指摘を否定し、反発を示した。プーチン氏は新型コロナウイルス感染を強く警戒し、この2年間、側近にも面会前の自主隔離を求めてきたとされる。感染対策が対人関係に影響した可能性もある。
2000年から実権を握り続けるプーチン氏は、自身が所属していた旧ソ連の情報機関、国家保安委員会(KGB)出身者や同郷の人物らを重用してきた。ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記、KGB後継の「連邦保安局」(FSB)のアレクサンドル・ボルトニコフ長官が側近の代表格で、ウクライナ侵攻を主導しているとされる。
軍幹部の中では、プーチン氏とセルゲイ・ショイグ国防相は休暇を一緒に過ごす親密な関係にあるとされてきた。ウクライナ侵攻を巡っては距離も指摘される。プーチン氏が2月末の会合で、新型コロナ対策としてショイグ氏、ワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長を約8メートル離れた席に座らせたことが根拠の一つとされる。
ロシアの有力な独立系ニュースサイト「メドゥーザ」は3月末、複数のプーチン政権関係者の話として「政権内部では、首都キーウ(キエフ)陥落を諦める方向で意見がまとまりつつあるが大統領は決めかねているようだ」と報じた。
●孤立するプーチン大統領、戦況知らない恐れ…「怖くて事実を伝えない」幹部 4/1
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍は、ウクライナの首都キーウ(キエフ)周辺の軍事作戦を縮小し、東部2州の制圧地域拡大や、南東部マリウポリの陥落を目指して戦力の再配置を進めている。国際法違反の残虐行為が次々に報告されるなか、英情報当局者は「ロシア兵の命令拒否」や「士気の低さ」を明らかにした。米政府は、プーチン氏が政権内で孤立し、ロシア軍の苦戦など正確な情報が伝えられていないと分析している。戦闘長期化で、民間人にも甚大な犠牲が出ている。これ以上、独裁者の狂気の暴走≠許していいのか。
「(ロシア軍は)撤退ではなく再配置」「だまされてはいけない」
米国防総省のジョン・カービー報道官は先月末の記者会見で語った。キーウ近郊に配置されたロシア軍の20%弱が後退を開始したとの分析を披露した。キーウ北西のホストメリ空港周辺などに展開していた部隊で、補給を整え、ウクライナ国内の戦線に再配置される可能性があるという。
これに対し、ロシア側は「キーウ制圧の失敗」を隠すような姿勢だ。
ロシア国防省は3月30日、キーウ北部などに展開していた部隊は「作戦の主要方面」である東部にウクライナ軍を集結させないためのおとり≠ナあり、目的を達成したための「再編成」を開始したと主張した。
ロシア軍が攻勢を強めるのは、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの2州だ。ドネツク州の親ロ派は「州の55〜60%を支配下に置いた」とし、「州全域の制圧を目指しロシア編入を検討している」と表明した。攻防が続く南東部の港湾都市マリウポリでは、独自の「市行政機関」樹立を主張した。
マリウポリをめぐっては、英BBCなどが、米シンクタンク「戦争研究所」の分析として、ロシア軍がマリウポリ中心部へさらに進出し、数日以内に陥落する可能性があると紹介している。
ただ、ロシア軍は内部の指揮系統が乱れ、兵士の士気が下がっているとの見方も多い。
英ザ・サン紙は、ロシア軍の司令官、ユーリ・メドベージェフ大佐とみられる人物が担架で運ばれる写真を取り上げている。西側当局によると、反発したロシア兵が戦車でメドベージェフ氏の足をひいたというのだ。
さらに英ミラー紙などは、一部のロシア兵が自らの足を撃ち、病院に運ばれることで戦場から逃れようとしているとも報じている。
ロシア軍の崩壊は、軍隊ではあり得ない「命令拒否」として現われたという。
米CNNなどによると、英情報機関である政府通信本部(GCHQ)のジェレミー・フレミング長官は3月30日、オーストラリアの国立大学で「われわれは兵器が足りず士気の低いロシア兵が命令遂行を拒否し、自らの装備を破壊し、さらには誤って自軍機を撃墜するのを目撃した」などと講演したという。
大義のない侵略戦争に、ロシア兵が反旗を翻したようにも思える。ただ、いずれの事例も日時や場所など詳細は明かされていない。
ロシア軍の内部状況をどう見るか。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「ロシア軍は食料や弾薬の補給がうまく機能せず、志願者以外のロシア兵も最前線へ出されているという。こうした状況では、軍の士気が落ち、内部で反発や意図的な脱走が起こっても無理はない」とみる。
前出のフレミング氏は、プーチン氏がロシア軍を過大評価していたとの見解を示すが、プーチン氏は戦況を知らない恐れがある。
米ホワイトハウスのケイト・べディングフィールド広報部長は、プーチン氏がウクライナ侵攻での苦戦や、西側諸国の制裁で疲弊するロシア経済について、軍幹部や高官から誤った情報を伝えられているとの分析を明かした。「怖くて事実を伝えられないからだ」とも指摘している。
この状況では、ウクライナ東部の攻略も想定通りにはいかないのではないか。
世良氏は「北部の部隊を東部に転換しても、兵士が休養していなければ士気は上がらない。この状況が続けば、ロシア軍には味方への誤射や意図的な反発がますます増えるだろう」と語っている。
●ロシアにはできない…プーチンが「JCB」を羨んだ本当の理由 4/1
ロシアに対する欧米各国の経済制裁を受け、世界的なクレジットカード会社であるビザとマスターカードは、ロシア内でのカード事業を全面的に停止している。当初は、ロシア国内の銀行が発行したカードのみだったが、その後、ロシア国外で発行されたものも利用停止とした。その結果、ビザとマスターカードは、ロシア国内では全面停止、国外の金融機関が発行したものだけが国外で使える、という状況となった。
実は、ロシアのキャッシュレス決済比率は高い。『日本のクレジット統計』(日本クレジット協会)によると、2019年時点の民間最終消費支出に占める割合は47.0%で、日本の26.9%を大きく上回っている。カードの利用停止は、ロシアの富裕層の利用を阻止する効果が大きいと言われているが、他の大手カードや、アップル・ペイ、グーグル・ペイといった決済手段も停止されているので、市民の日常生活にも大きな影響が及んでいると推測される。
クリミア制裁を受け独自の国際ブランド育成へ
こうした事態には、一部のロシア国民はデジャブを覚えているだろう。2014年3月に、ロシアによるウクライナのクリミアの併合で金融制裁が科せられ、国内銀行が発行した一部のクレジットカードが、今回同様、国外で利用できなくなったのだ。
事態を重く見たプーチン大統領は、日本のJCBカードや中国の銀聯(ぎんれん)カードを例として挙げ、国内外で決済ができるロシア独自のシステムを開発するように指示した、とされる。当時、JCBカードと銀聯カードは、ビザやマスターカードと並ぶ国際ブランドだったからだ。
クレジットカードの表面には、カードのブランドとなるロゴマークが付いている。そして、世界中に加盟店があり、海外でも使えるカードのブランドを国際ブランドと呼ぶ。現在、国際ブランドは、ビザとマスターカード、JCB、アメリカンエクスプレス、ダイナースクラブ、銀聯カード、ディスカバーカードの7つを数えるだけ。JCBと銀聯カードを除くと、いずれも米国系である。
プーチンがJCBと銀聯カードを持ち上げたのは、非米国系であることも大きな要因だっただろう。ロシアの国営テレビでは、何度もJCBを紹介する番組を放送したと報じられている。
ロシア製「ミール」の国際化は道半ば
果たして、プーチンの指示は忠実に実行された。その結果、生み出されたのが『MIR(ミール)』というクレジットカードのブランドだ。決済システムを運営しているのは、国家決済カードシステム(NSPK)という会社で、NSPKがロシア中央銀行の100%出資会社であることを考えると、決済システムの開発・運営からブランドの立ち上げに至るまで、まさに国家プロジェクトだったことが窺える。
2014年のスタート以降、ミールは、アルメニア、キルギス、トルコ、カザフスタン、タジキスタンなど、おもに周辺国で加盟店を広げていったものの、それ以外の国や地域では思うような展開はできなかった。ただ、比較的早い段階でJCBや銀聯カードと提携し、国内ではミール、国外ではJCBや銀聯として使える体制を整えていた。
「ミール」展開に欠けていた営業力
プーチンの号令の下、およそ7年以上にわたって、国内産のカードであるミールと決済システムを構築してきたが、国際ブランドを育成するまでには至らなかった。そのため、今回のビザやマスターカードの利用停止によって、2014年とほとんど同じ轍を踏むこととなってしまった。その原因は何か? 1つの見方にしか過ぎないが、シンプルに言うと、「企業体としての営業力が乏しい」ということだろう。
実は、クレジットカードの加盟店開拓というのは、恐ろしく地道な作業といえる。基本的には、カードの運営側が、加盟して欲しい店舗に何らかの方法で接触することが必要だ。デジタルツールがどんなに発達しても、この部分は今も昔も変わらない。ミールは、ある程度の実績を残したが、国際ブランドにするまでの営業力がなかったのである。
となると、「国際ブランドのJCBにはあったのか」という話になるが、結論から言うと、それは「あった」。
JCBが国際ブランドになった理由
1961年、JCBの前身となる『日本クレジットビューロー』が当時の東洋信託銀行、日本信販、三和銀行の共同出資で設立された。銀行法によって、銀行本体でのクレジットカードの発行が認められてはいなかった。なお、クレジットカード会社としては国内2番目であり、1番目は日本交通公社と富士銀行が1960年に設立した『日本ダイナースクラブ』である。
そして、1981年にJCBは海外展開をスタートする。当初から、国際ブランドになるという目的を掲げていたが、インターネットの商用利用が始まるはるか前であり、ユーザーの信用情報の照会は、店がカード会社に電話をかけて確認する、という時代。実際の海外での加盟店開拓は、かなり泥臭いものだったらしい。
英語が得意ではなくても、本社の社員が直接海外に出張し、アポなしの飛び込みで営業する……。ビザやマスターカードと提携を決めた同業他社が、「できるわけがないと」冷ややかに見る中、親会社の銀行はもっと懐疑的だったようだ(このあたりの経緯は湯谷昇羊著『サムライカード、世界へ』に詳しい)。
しかし、着実に実績を積み上げ、1984年には海外でのカード発行も開始。80年代後半には国際ブランドの体裁が整っていく。こうした経緯をプーチンがどこまで知っていたのかは知る由もないが、大統領が一民間企業を称賛するだけのことはあったといえよう。
「銀聯カード」との提携が大きな抜け道に
話を現在に戻そう。他の国際ブランドからワンテンポ遅れたものの、JCBもほぼ同様の取引停止に踏み切った。念のために言っておくと、大手カード会社の利用停止措置は、ロシアの銀行に対する国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除といった経済制裁によって、同国内でのカード事業の運営が困難になったという側面もある。
ただ、こうした一連の行動に与していないところがある。前述した、中国の銀聯カード(「ユニオンペイ」とも呼ぶ)だ。逆に、ロシアの銀行と関係を深める方向に進んでおり、すでにロシア最大手のロシア貯蓄銀行(スベルバンク)は、『ミール・銀聯』というダブルネームのカードを発行する可能性を表明している。これは単なるカードの提携ではなく、ミールと銀聯の決済システムを提携するというもの。実現すれば、国内外でのカード利用の障害が大きく減少することになる。
ロシアの通貨ルーブルは、為替市場で主要通貨に対して一時約半値まで大暴落したが、現在はウクライナ侵攻前の約1割安まで値を戻している。また、中国の通貨人民元は、ここ数年でみると、対米ドルで人民元高傾向にある。ミール・銀聯カードが発行された場合、ロシア国民がカードを使うと人民元決済となり、ルーブル安をある程度はカバーできることになる。つまり、大きな抜け道ができるのだ。
銀聯カードは、中国人民銀行が設立した中国銀聯が運営している。したがって、こちらも国が主導したカードといえる。ミールとの提携について、今のところ銀聯側からのコメントは発表されていない。中国の対ロシア政策に変更が無ければ、ロシア側の発表通りに進むだろう。この問題における中国側の対応を注視したい。
●米大統領「プーチン氏は孤立」発言 ロシア内の実状は 4/1
米バイデン大統領は、ロシア・プーチン大統領について「(政権内で)孤立している」と会見で話しました。はたして真偽のほどは?ロシア政治に詳しい慶應義塾大学・教授の廣瀬陽子さんとともに、最新のロシア軍の動向とあわせて解説します。
“軍縮”ではなく“再編成”か ゼレンスキー大統領「そこは地獄」
山内あゆキャスター:人道回廊が機能するかどうか心配されているマリウポリから見ていきます。3月31日、ゼレンスキー大統領は「今マリウポリはヨーロッパで最も怖い場所。そこは地獄、大惨事です。ロシア軍が人々の移動を妨げ、救援物資の輸送もできていない」と危機感をあらわにしました。マリウポリがどうなるのかということが大変注目されています。ただ、ロシア側は停戦交渉の中で、首都キーウ(キエフ)と北部チェルニヒウ方面に関して軍事行動を大幅に縮小すると言ったのです。その北部にあるチョルノービリ(チェルノブイリ)原発について、原発運営会社「エネルゴアトム」は3月31日、「チョルノービリ原発に現在、部外者はいない」とSNSに投稿しました。また、IAEA=国際原子力機関は、「ロシア軍が原発の管理をウクライナ側に戻したと、ウクライナ側から連絡があった」という声明を出していて、状況が一歩進んだような印象を受けます。首都キーウ(キエフ)については3月31日、バイデン大統領が「プーチン大統領がキーウから全軍を撤退させている明確な証拠はない。(軍縮小は)私は懐疑的だ」と疑問を呈しました。さらに、アメリカの国防総省の高官は「北部のチェルニヒウ周辺でも戦闘は続いている」「キーウの北側でロシア軍の再配置が始まっている」として、“ロシア軍が本国に戻る兆候は全く見られない”とし危惧しています。
ロシア内部の動きは?プーチン大統領は孤立?
山内キャスター:ロシア内部の動きについて、ホワイトハウスの広報部長は「プーチン大統領は側近らから、戦況の悪さや経済制裁の影響について、誤った情報を伝えられている」と分析しています。つまり、側近らはプーチン大統領が怖くて真実を報告できていないのではないかとみています。バイデン大統領も3月の会見の中で、「プーチン大統領は孤立しているように見える」としていて、「確実な証拠はない」と前置きした上で「何人かの側近をクビにしたり、軟禁したりしている兆候がある」とも話しました。
ホラン千秋キャスター:プーチン大統領は孤立化しているのではないかという報道がありますが、実際のところ今どうなっているのでしょうか。
慶応義塾大学 総合政策学部 廣瀬陽子教授:実際に孤立していると考えられます。特に、この孤立というのはコロナ時代からずっと続いていることで、まずはコロナ感染を恐れて自ら孤立していったということがあったわけです。それが今でもずっと続いている。孤立の中でさらに疑心暗鬼になって、どんどん殻にこもって、今はどこにいるか殆ど分からないというような状況になっているとも聞いています。そのため、側近も近寄りがたくなってしまい、プーチン大統領が機嫌の悪くなるようなことを言うと何をされるか分からないということで、実情を伝えられない状況が続いています。それがさらに戦況も悪化しているので、またプーチンの怒りが増すというような、悪循環が起きているようです。
ホランキャスター:停戦交渉などで出てきている情報と、現実が乖離している部分があると思いますが、専門家の皆さんは実際に何が起きているのかについて、どのように情報収集されているのでしょうか。
廣瀬教授:今の状況は非常に分かりづらく、全てが情報戦の中で展開されているという部分があります。ですので、色んな情報を総合的に見ていくわけですが、今回の一連の流れでは欧米の情報の精度が非常に高いということがあります。まずそこをメインに見つつ、現地の情報を得られるものを少しずつ総合して、現状判断していくということをやっております。
井上貴博キャスター:ロシアで強権政治を敷いてきたプーチン大統領の足元が、そんなに簡単に揺らぐのかなという見方もありますが。欧米、西側諸国としてはプーチン大統領が失脚するのをみているしかないということなのでしょうか。
廣瀬教授:残念ながらそういうところがあります。今、プーチンに物を言える人というのが国内外にいないんですね。そうなると、やはりロシア国民がプーチン大統領を引きずり下ろしていく、ということしか考えられないわけなんですけれども、まだプーチン大統領の支持率は非常に高いという状況です。しかも情報統制を非常に進めており、各地で起きている反対行動なども熾烈な手段を使って抑え込んでいるということがあります。なかなか国民がプーチン大統領を引きずり下ろす、というのもちょっと難しい展開になっています。
中国とインドの動きは?ロシアとは“つかず離れず”
井上キャスター:最後に中国とインドの動きをどうみているのか教えてください。
廣瀬教授:中国とインドはまともにロシアにつかず離れずの状況で、“基本的に反対はしないけれども積極的に支持もしない”というところです。特に中国は財政などの援助でロシアに寄り添い、そしてインドも制裁をしないような形でロシアに寄り添うというようなところです。欧米との関係とバランスをとりつつ、経済制裁の火の粉が及んでこないレベルでロシアを支えていくとにみられます。
井上キャスター:そのあたりの綱引きというのが、続いていくのかもしれません。 
●プーチン氏が発した“第五列”という文言 それは裏切者を見つけ出す言葉 4/1
プーチン大統領は3月16日、政権幹部を前にした演説で、「第五列」の人間を排除すると語った。「第五列」とは自国にいながら敵の見方をするもの、即ち裏切者を意味する言葉で、ソ連時代にスターリンが行った大粛清を彷彿とさせるものだ。なぜ今、そうした言葉を使ったのか…。そこにはプーチン大統領の危機感も垣間見える。
中露外相会談ロシアの生き残りを模索か
30日午後、中国の安徽省でロシアのラブロフ外相と中国の王毅外相が会談した。会談後、ロシア外務省は、ラブロフ外相と王毅外相が会談で戦略的パートナー関係の強化を続けていくことで一致したと発表した。沈黙を続けてきた中国は今、なぜ、外相会談に臨んだのだろうか。
拓殖大学海外事情研究所 名越健郎教授「中国にすれば、ロシアは国際社会で孤立しているから放置しても中国についてくると。そう冷淡に観ているところがある。一方で、プーチン政権が倒れることを恐れている。その場合、中国の北に親欧米政権が出来る、これは中国にとって悪夢だ」
森本敏 元防衛大臣「プーチン大統領の生き残りではなく、ロシアの生き残りを、ラブロフ外相が自分の職をかけて中国を誘いかけた。仲間を作ってくれと。うっかりしたことをやると自分も危なくなりますから、そういう意味では中国をそそのかして、しかもこれは、王毅を狙ってであって習近平ではないというところに大きなカギがある。習近平氏はこんな考え方は持っていないと思う。習近平はもっと冷淡だと思う」
プーチン氏の「第五列」演説大粛清の始まりか?
こうした政権の焦りは、プーチン大統領の演説にも垣間見ることが出来る。3月16日政権幹部を前に厳しい口調でこう話した。
「西側諸国は“第五列”を使って目的を達成しようとしている。目的はロシアの破壊だ。真の愛国者とクズ野郎や裏切り者は区別できる。裏切り者は口に飛びこんだハエのように吐き出せば済む。自浄のみがロシアを強くする」
自浄というロシア語は「自分」と「粛清」を合わせた言葉だという。この「粛清」という響きと「第五列」という言葉は、ロシアの人々に特別な記憶を呼び覚ますものだという。
防衛研究所 兵頭慎治政策研究部長「これはスターリンの粛清・恐怖政治を予感させる表現だ。今後、反戦的なうねり、反プーチン的な世論の動きが高まるなか、そういう人たちは外国の手先であって愛国者じゃないんだというレッテル貼りをしながら力づくで抑えようと、それぐらいロシア国内の世論の変化をプーチン氏も敏感に感じ取っていて、こういう表現を使い始めているのだと思う」
スターリンは「第五列」という言葉を使い1930年代に反体制派だけではなく、自分に非難的な一般市民を密告させるなどして処刑、その数は少なくとも350万人に及んだといわている。
森本敏 元防衛大臣「プーチン大統領はいよいよ自分の生き残りを図ってきたという印象を強くする。政治的にも自分が不利にある状態であることが分かってきて、軍も自分が思った通りにならない、周りに反抗する者もいる。このままだとプーチン大統領が追い込まれて、刑に服することになる。どうして生き残ったらいいかということを考えて、身内の周りの裏切り者を粛清し、同時に第二作戦を展開する。恐らくその間に軍人の何人かが更迭され粛清され、そういうことをやって自分の生き残りの体制を図ろうとしている」
現実にプーチン大統領の演説以降、恐怖政治の兆しは随所で見られるようになった。ロシア大統領府のぺスコフ報道官は17日、「きわめて多くの人々が裏切り者になっている。こういう人たちは、自ら私たちの社会から消えている」と発言。連邦上院も29日、「第五列」を壊滅させる法案を準備する予定だと発表した。こうした中、ロシアの街でも、住民が反体制派とみられる家にはペンキでZの文字が書かれ「祖国を売るな」などの落書きが見つかっている。Zはロシア軍が今回の侵攻に際し、戦車などの印として用いているもの。ロシア側がいう、ウクライナのジェノサイドから住民を救う“特別軍事作戦”のシンボルとなっているものだ。
防衛研究所 兵頭慎治政策研究部長「年上の人たちはソ連時代を知っている。ソ連の崩壊で自由を知った。この状況に年上の人たちも相当の違和感を持っていると思う。これは中長期的にはプーチン体制に対する疑問符を突き付けることになるのではないか」
交渉で停戦の兆しを“演出”か
こうしたなか、ロシアは29日、トルコのイスタンブールでウクライナと4回目の対面での停戦交渉を行った。ここでウクライナは、いかなる軍事連携にも参加しないことや大量破壊兵器を製造・配備しないこと、それを受け入れる条件として、第三国を「保証国」とする新たな安全保障の枠組みも提案、クリミアの帰属も今後15年かけて話し合っていくなどとした。これをロシア側は前向きにとらえ、キーウ周辺の攻撃の縮小などを表明した。しかし…
森本敏 元防衛大臣「ロシアは全体の戦況は不利なので、外交交渉らしきものをやって時間を稼ぎ、その間に戦力の立て直しをする。部隊を再編してもう一回戦力を作り直す、時間を稼ぐためにやっている」
ロシア側は全く停戦などを考えているわけではなく、作戦だというのだ。そして、戦争が続いている中での交渉は敗けている側が折れるもので、ロシア軍が不利な状況となっている中で、ウクライナが妥協するような提案をしたことは考えられないと話した。さらにプーチン氏の立場から言っても、停戦の合意は不透明だとそれぞれの専門家も分析する。
拓殖大学海外事情研究所 名越健郎教授「プーチン氏は一定の戦争目的を達成したと国民に説明する必要がある。今のところ進展がありそうなのは、ウクライナの中立化だけ。しかし、中立化だけで国民を説得できるのか?合意に達するかどうかはまだ不透明だ。戦争は続いているわけで、戦況によっても落としどころは変わってくる。ますます戦闘が激化する可能性もある。予断を許さない」
森本敏 元防衛大臣「ロシアによるキーウ中心の北部の作戦は基本的に失敗。従って東南部に戦力を集中させるために一旦下がって、もう一回部隊を再編してこちら(東南部)に入れる。ウクライナを東西で分断して東側を確保する、そういう戦略をとっているのかもしれない」
防衛研究所 兵頭慎治政策研究部長「ロシアによるキーウ周辺の動きは滞っていて、これ以上、中心部に進軍することは出来ない。その状況を上手く利用して、ロシアは外交交渉であたかも歩み寄っているかのような姿勢を示しているので、本当にキーウから撤退するのかどうかは見極めないといけない」

 

●「虐殺者」発言…米国内でも非難集中のバイデンが「謝罪」しない理由 4/2
3月26日、ジョー・バイデン米大統領がポーランドの首都ワルシャワ市内にある旧王宮で行った演説が物議を醸した。
「この男が権力の座に居座ってはならない」――。もちろん、「この男」とはウラジーミル・プーチン露大統領を指す。「……ロシアはウクライナで勝利を手にすることはない。自由を求める人々は、失望と暗闇に満ちた世界を拒むからだ。私たちには、民主主義と自由、可能性に根付いた明るい未来が訪れるだろう」と述べ、冒頭の「この男が…」と続けて演説を締めくくったのである。
波紋は大きかった。ロイター通信が速報で「バイデン氏はロシアにおけるプーチン氏の権力や体制転換について語ったわけではないと、米政府高官が述べた」と配信した。
しかし、ロシア大統領府の反発は当然であるとしても、米国内の外交・安全保障専門家らは「大統領発言が困難な状況をさらに困難にし、危険な状況はさらに危険となった」と、一様に強く批判した。
発言の火消しに追われて
ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)、先進7カ国(G7)の各首脳会議を終えてバイデン氏とは別行動で26日にイスラエル入りしたアントニー・ブリンケン国務長官もバイデン発言の火消しに追われて大わらわだったと報じられた。
問題視された「この男が」以下のフレーズがバイデン氏のアドリブ発言だったにせよ、脇の甘さ、無警戒さから来る「失言」であるとの批判が国内外で噴出し、バイデン氏は「体制転換を求める意図はなかった」と釈明を余儀なくされた。
だがバイデン氏は帰国後の28日、ホワイトハウスで記者団に対し「自分が感じた道徳的な怒りを表現したのであり、謝罪はしない」と、態度を一変した。
この豹変の前日ごろからホワイトハウス記者団の一部で、実はバイデン氏は確信犯であり、観測気球として演説直前に訪れたウクライナの難民施設でプーチン氏を「虐殺者」と呼び、その延長線上の発言であった可能性が強いとの見方が広まっていたのである。
言葉による先制攻撃
その理由として挙げられたのは、プーチン氏がウクライナの首都キエフ制圧から東部・南部戦線に戦力を集中させる軍事作戦へ転じたことにより生物・化学兵器使用の可能性が高くなったことがあるというのだ。言葉による先制攻撃である。
ここでロシアがウクライナ軍事侵攻を開始した2月24日以降のバイデン政権の対露制裁を振り返ってみる。極めて入念な事前の準備をしていたことが分かる。
メリック・ガーランド司法長官は3月2日、司法省を中心に国家経済会議(NEC)、財務省、商務省など省庁横断のタスクフォース「クレプト・キャプチャー(Klepto Capture)」の新設を発表した。ロシアのオリガルヒ(新興財閥)を捜査対象とする部隊である。
年初から財務省のブライアン・ネルソン財務次官(テロ・金融犯罪担当)が率いる金融犯罪捜査網(通称「FinCEN」Financial Crimes Enforcement Network)と連携して海外のタックスヘブンに逃避させたオリガルヒの巨額資産の洗い出しから経済・金融制裁のメニュー作りを進めてきた。一言でいえば、プーチン専制体制の弱体化を狙っているのだ。
見据える「最終戦争」
もう一つ見落としてはならないのは、3月24日に開催されたG7首脳会合後の共同声明である。その文中にある「evasion(回避)」、「circumvention(迂回)」、「backfilling(抜け穴)」の3単語が極めて重要である。
すなわち、中国を念頭に置いてロシアとの裏取引で制裁効果を削ぐような行動もまた制裁の対象になると、強く警告を発しているのだ。と同時に、多国籍企業や国際機関はロシアとは従来のビジネス活動をすべきではないとまで言い切っている。そして岸田文雄首相は4月1日の衆参院本会議で行ったG7首脳会合に関する報告の中でも、この「回避」、「迂回」、「バックフィル」という言葉を使った。
こうしたワーディングを使用した共同声明文作りは米ホワイトハウスのダリープ・シン国家安全保障担当大統領副補佐官と英首相府のデービッド・フロスト首相補佐官が中心となってまとめたとされる。シン氏も米財務省出身であり、オバマ政権下ではネルソン現次官と同じポストにいた金融犯罪摘発のプロである。
結論を言えば、バイデン氏は「いまそこにある危機」としてプーチン氏と直接対峙しているが、ウクライナ戦争後の米中覇権抗争を視野に入れた中国の習近平国家主席との“最終戦争”が控えているので、プーチン氏に対し「殺戮者」、「権力の座に居座ってはならない」と、ついつい本音が出てしまったということだろう。従って、世界中から過剰な期待が集まる停戦協議で「成果」があるとは思えない。
●南オセチアにロシア編入論 ウクライナ侵攻さなか―プーチン政権「戦果」模索 4/2
ウクライナで東部の親ロシア派「保護」を口実にしたロシアの侵攻が続く一方、ジョージア(グルジア)北部の親ロ派支配地域、南オセチアのロシア編入論が浮上している。南オセチアのビビロフ「大統領」は3月末、編入に向けた法的手続きに入る方針を表明。プーチン政権の意を受けた発言とみられ、ウクライナ東部の親ロ派が編入を検討している動きとも関連がありそうだ。
ジョージアに共通点
「(ロシア南部)北オセチア共和国との統合が必要だ」。旧ソ連軍出身のビビロフ氏は31日、ロシア国営テレビにこう主張。プーチン政権が勢力圏を重視する中、編入に意欲を示した。
南オセチアは、ロシアが軍事介入した2008年のジョージア紛争の舞台。やはり親ロ派住民の「保護」が名目だった。結果、二つの分離独立地域、南オセチアとアブハジアはロシアから「国家」承認された。
ウクライナもジョージアも旧ソ連構成国で、08年に北大西洋条約機構(NATO)から「将来的」な加盟を約束されるなど、欧米に接近していた点で共通する。ウクライナ東部の親ロ派支配地域「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」は今年2月下旬、プーチン大統領が「国家」として承認。国際社会は認めず、南オセチアと同じ状態となった。
プーチン政権は、ウクライナ侵攻を続けるものの、首都キーウ(キエフ)など北部の制圧に失敗し、激戦地マリウポリを含む東部の親ロ派の勢力拡大に作戦をシフトする。日米欧から大規模制裁を受ける中、停戦を受け入れる際、ロシア国内にアピールする必要がある「目に見える戦果」づくりを急いでいるもようだ。
ただ、東部はもともとロシアが親ロ派を通じて間接支配していた地域。仮に併合を強行しても、軍や経済に多大な犠牲を強いた「特別軍事作戦」の成果としては、明らかに見劣りする。
ロシアと運命共同体
このため戦果を「かさ上げ」しようと、ロシアにとってウクライナと同じく対NATOの前線であるジョージアで、編入論が持ち上がった可能性がありそうだ。くしくも南オセチアは現在、ウクライナに武装部隊を派遣しており、ロシアと「運命共同体」であるとも主張されている。
また、報道管制が敷かれてもロシア軍の苦戦は本国に漏れ伝わっている。南オセチア問題は、国民の目をそらす材料になるとみられる。
アブハジアは、南オセチアに同調しない方針。一方、ルガンスク人民共和国の幹部が3月下旬、編入に向けた住民投票に言及した際は、ロシア下院の有力議員が火消しを図った。この議員は今回、南オセチアの編入は「法的に可能」と指摘するものの、実現に動けば、クリミア半島併合のように国際社会から批判を浴びるのは必至で、あくまで観測気球にとどまることもあり得る。
●ロシア反体制派指導者が暴いた「プーチン」「側近」の腐敗 4/2
世界各国でプーチンとその側近らに対する資産凍結措置が強化されている。本誌(「週刊新潮」)3月24日号で報じたラブロフ外相のダミー会社の存在についても日本の関係省庁が関心を示す一方で、ロシアの反体制派指導者が暴くプーチン・ファミリーの腐敗は底知れぬ闇をのぞかせていた。
プーチン最側近の一人であるラブロフが、通称「青山ハウス」と呼ばれる“秘密拠点”を都内に持ち、コロナ禍前までは来日のたびに同ハウスを愛人との密会に利用していたことは本誌3月24日号で既報の通り。ロシアの諜報活動を捜査する警視庁公安部外事1課(通称・ソトイチ)はこの動きを長期間、監視していた。
その愛人の名は〈スヴェトラーナ・ポリャコーヴァ〉。昨年9月、ロシアの反体制派で野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏がプーチン政権の腐敗を告発した一連の「ナワリヌイ・レポート」で明かされている。同レポートでは、ポリャコーヴァは映画やテレビの制作に携わる元女優で、2019年にラブロフと一緒に撮られた写真も掲載。
さらに彼女は〈過去7年間でラブロフの大臣専用機で60回以上〉、世界二十数カ国の外遊に公費で同行し、そのなかに〈日本〉が含まれていたことも暴露された。具体的に〈17年3月19日から21日〉にかけてポリャコーヴァばかりか、その娘も一緒にラブロフに同行して訪日したと記述している。
「実際、同月20日、ラブロフは岸田文雄外相(当時)と都内で会談しており、レポート内容の信憑性に疑問を挟む声は少ない。むしろロシア国内では“大臣なんて皆、それくらいやってるでしょ”といった反応が大半です」(全国紙ロシア特派員)
モスクワ郊外の刑務所に収監中
20年、シベリアでナワリヌイ氏は神経剤ノビチョクで毒殺されかけ、安全のためドイツで治療。翌年、帰国したところをロシア当局に逮捕され、現在に至るまでモスクワ郊外の刑務所に収監中の身だ。
「昨年2月の収監以降に発表されたレポートは野党関係者や反体制派など、ナワリヌイ氏の仲間が執筆を担当したものとされます。3月15日、ナワリヌイ氏は新たに問われた詐欺罪などで禁錮13年を求刑され、獄中生活は長期化する見通しです」(同)
同レポートで興味深いのがラブロフとオリガルヒ(新興財閥)の一人である“アルミ王”ことオレグ・デリパスカとの関係だ。
レポート内で、ラブロフが〈外相の地位を利用してデリパスカの問題を解決〉し、〈デリパスカのビジネスに貢献〉。その見返りの一つとして、ラブロフと愛人のポリャコーヴァが〈デリパスカ所有の自家用機を自分たちの飛行機として乗り回している〉と記す。
国税が査察
青山ハウスを所有する英領バージン諸島に登記された法人は「デリパスカが実質オーナーを務める会社」(政府関係者)で、同ハウスを管理する都内・有明に本社を置くJ社は「ラブロフのマネーロンダリングのためのダミー会社」(警察関係者)と見られている。
J社にはこれまで海外のデリパスカの関連会社から大量の入金があり、加えて神奈川や静岡にデリパスカの資金で物件を所有。しかし賃料収入などを全く申告していなかった。ソトイチの情報により、16年夏以降、国税当局が法人税法違反の疑いで1年以上の長期にわたって査察に入っていた。
甘い汁を吸った日本人
実はJ社にはラブロフもデリパスカも知らない“秘密”があるという。
「ビジネス面ではラブロフの愛人が采配を振っていたようですが、J社の実務を取り仕切っていたのは日本人女性のIです。代表のMは“雇われ社長”のようなもので、実権は主にIが握っていた」
と話すのは同社関係者。Iはラブロフが青山ハウスに立ち寄った際の食事の手配や、箱根好きのデリパスカが来日した際に彼の子供をディズニーランドに連れて行くなどの世話も担当していたという。
「J社の運営資金はデリパスカが出していましたが、Iは日本人スタッフの人件費やハイヤー代などをバレないように水増し請求。他にも自身が香港に作ったペーパーカンパニーにコンサル料名目でカネを振り込ませ、海外での不動産購入代金に充てていた」(同)
国税のマルサが入った時、すでにIはマレーシアに移住していたため追及は免れたという。アルミ王のカネで甘い汁を吸ったのはラブロフばかりではなかったというのだ。
12人の売春婦
真相を確かめるため、マレーシアの自宅に電話してIに質問したが、「コメントは差し控えさせていただきます」 と言って、通話は一方的に切られた。
スタッフの日本人女性にまんまとカネをくすねられたとしても、デリパスカにとっては目くじらを立てることではないのかもしれない。なにしろ純資産2600億円超という。ナワリヌイ・レポートに〈18年、デリパスカが12人の売春婦を連れてヨット旅行に行った〉という常識外れの豪遊がスクープされており、アルミ王のあり余る資金力がうかがい知れる。
同レポートはロシアの独立系メディアが公表した調査報道記事を参照している部分があり、その引用元の記事には、ラブロフは〈6億円以上の高級不動産を所有〉する一方で、愛人のポリャコーヴァは〈モスクワ中心部の高級住宅〉のほか、〈ソチの高級リゾート地に建つアパートメント〉なども所有し、資産総額はラブロフを上回るとされる。
年収は13億円超
そしてラブロフ以上に財を成したとされるのが、ロシア国営石油大手ロスネフチCEOのイーゴリ・セーチンだ。“ロシアのダース・ベイダー”と畏怖されるセーチンは、プーチンと同じ情報機関出身と噂され、副首相も務めたプーチンの側近中の側近である。
年収は13億円を超え、モスクワ郊外に70億円の大邸宅を建てたほか、〈妻の名前を付けた1億5千万ドル相当のクルーザーを購入〉したことなどがナワリヌイ・レポートで報じられている。しかし、その豪華クルーザーも今月、押収されたという。
「修理のため南仏の港に停泊中だったところをフランス当局に押収されました。セーチンは他にも、アフリカなどで大型獣を狩るトロフィーハンティングが趣味とされ、キリンやライオンを撃ったとの“伝説”も持つ。実際、会社のパートナーに狩猟で殺した動物で作ったソーセージを好んで贈ることはよく知られています」(前出・特派員)
元防衛大学校教授で、国際問題研究家の瀧澤一郎氏が話す。
「ロシアの権力者が取る行動はだいたい皆、似通っています。モスクワ中心部に高級マンションを所有し、同時に田舎に何万坪もある宮殿のような別荘を建てる。さらに3千トン級のヨットを持ち、妻や愛人は毎週のようにパリやロンドンに行って買い物三昧……。西側諸国の人間から見れば腐敗と映るでしょうが、帝政時代の全体主義から共産主義のソレへと移行した後にソ連崩壊を迎えた彼らにとって、健全な市民社会や統治のありようなどは理解できない代物なのです」
●ロシア軍は空爆強化、まだマリウポリに「10万人」…市長側「脱出すら危険だ」  4/2
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの国防省は1日、南東部マリウポリで孤立する民間人の退避ルートを設定すると発表した。一方で、避難がロシア側に妨害されているとの情報もあり、露軍による空爆はむしろ強化されている。マリウポリでは、露軍の包囲攻撃が始まって1か月となる。さらなる人道危機の深刻化が懸念されている。
マリウポリでは停電や断水、食料不足の中で「10万人」(ウクライナ副首相)の住民が取り残されている。英BBCによると、赤十字国際委員会(ICRC)は3月31日に住民退避のための車両派遣を計画していたが、露軍に足止めされ、1日に改めて派遣を試みている。マリウポリ市長の側近はSNSで「住民が脱出することすら非常に危険な状況だ。露軍の妨害で支援物資も届いていない」と訴えた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月31日、国民向け演説で「露軍がマリウポリ方面に強烈な攻撃を加えようとしている」と警戒を促した。
米国防総省によると3月31日時点で、露軍の過去24時間でのマリウポリなどへの出撃回数は300回を超えた。同省高官は「地上部隊の進軍を緩める中、空からの圧力をかけ続けている」との見方を示した。ロシアは民間人退避に協力する構えをみせる一方、制圧に向けた攻撃も継続している。
タス通信によると、親露派武装集団はマリウポリで、行政組織を設置する準備を始めた。マリウポリは、ロシアが2014年に併合したクリミアと東部の親露派支配地域を地続きで結ぶ要衝となる。プーチン露政権は首都キーウ(キエフ)の攻略に失敗したとされる中で、マリウポリを抑えて今回の侵攻の戦果としたい狙いがあるとみられている。
ウクライナ国境に近い露南西部ベルゴロド州の知事は1日、同州の燃料貯蔵施設で火災が発生し、ウクライナ軍のヘリコプター2機に空爆されたと主張した。露軍がこれを口実に攻撃をさらに強化する恐れがある。
一方、英国防省は1日、ウクライナ軍がキーウと北部チェルニヒウを結ぶ幹線道路沿いの村々を奪還しているとの分析を発表した。
ロイター通信によると、ロシアとウクライナは1日、オンライン形式で停戦協議を再開した。露代表団のウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官は1日、SNSに「クリミアと東部についてのロシアの立場は変わらない」と書き込んだ。ウクライナ側が15年かけての解決を主張しているクリミアの地位に関する交渉を拒否する考えを表明したものだ。協議の短期間での進展は見通せない状況だ。
●プーチン大統領 支持率 “4年ぶりに80%超” 独立系の調査機関  4/2
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領の支持率が、およそ4年ぶりに80%を超えたと独立系の世論調査機関が発表しました。
民間の世論調査機関「レバダセンター」が3月24日から30日にかけて、ロシア国内の18歳以上の1632人に対面で調査したところ、「プーチン大統領の活動を支持する」と答えた人は83%に上り、「支持しない」と答えた15%を大幅に上回りました。
去年11月の時点で63%にまで落ち込んでいた支持率は、ウクライナ国境周辺にロシアが軍の部隊を展開させるようになって以降徐々に上がり、ことし2月にロシアがウクライナに軍事侵攻する直前に行った調査では71%でした。
その後の1か月で支持率が12ポイント上がった形で、2018年4月以来およそ4年ぶりに80%を超えました。
また「ウクライナへの軍事行動への賛否」について尋ねた調査では「明確に賛成する」「どちらかといえば賛成する」が合わせて81%で、「明確に反対する」「どちらかといえば反対する」が合わせて14%でした。
特に、大統領を支持すると答えた人だけで見ると、合わせて89%が「賛成する」と答えています。
一方で年齢別に見ると、55歳以上の64%が「明確に賛成する」と答えたのに対して、24歳までの若い世代では「明確に賛成する」は29%にとどまりました。
こうした結果について「レバダセンター」は「政権によるプロパガンダを信じる国民が多いことを示している。地方の人たちや高齢者はプロパガンダを伝える国営テレビが情報源であり、都市部の若者たちがSNSなどから真実を得る状況とはまるで違う」と分析しています。
「レバダセンター」は2016年、プーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも独自の世論調査活動や分析を続けています。
●ウクライナ軍事侵攻下で行われた第94回アカデミー賞を総括 4/2
3月27日(日本時間28日)にロスアンゼルス・ドルビーシアターで挙行された第94回アカデミー賞で、濱口竜介監督(43)の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞した。日本映画としては2008年の「おくりびと」(滝田洋二郎監督)以来の快挙。同作品は他にも作品賞、監督賞、脚色賞にノミネートされ、史上最も高い評価を受けた日本映画になった。
濱口監督は東大文学部で美学芸術学を専攻し、東京藝大大学院映像研究科在学中に黒沢清監督らの薫陶を受けた俊英。これまでに「PASSION」「ハッピーアワー」「寝ても覚めても」「偶然と想像」等の作品で注目されてきた。今回の「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹氏(73)の短編小説集『女のいない男たち』(文春文庫)を題材に、妻を亡くした舞台演出家の男性(西島秀俊)と、母を失った過去を持つ寡黙な女性運転手(三浦透子)の姿を丁寧に描く。昨年のアカデミー賞を席巻した「ノマドランド」(クロエ・ジャオ監督)と同じく、何かを失った人の抱える喪失感を描く系統の作品だが、濱口映画の真骨頂はそれに留まらない。
快挙「ドライブ・マイ・カー」は劇中劇で見せる西島秀俊の演技が超絶
主人公の演出家はチェーホフの芝居「ワーニャ伯父さん」(劇中劇)を手掛けるが、その稽古は独特で、日台韓からなる多様な役者はあえて感情を乗せないでセリフ(多言語)を棒読みにする稽古を重ねる。そうすることによって舞台本番で感情が自ずと発露される効果を期す演出法だ。広島にある稽古場と呉の宿を日々往復する赤いサーブ900の車内ではテープに録音していた亡き妻がセリフ合わせを行う「声」が再生されるが、それも棒読み。運転手との会話も抑制の効いた静かなものだ。そうした極度に「平坦化」された現在の風景と、過去における「秘密」の再生、そして来たるべきチェーホフの芝居本番という三重構造が折り重なり合う中で、大切な人を失った自責の念を、他者の現実をありのままに受容することによって克服する過程と、遺された者が生き続けることの意味が描かれる。
チェーホフの劇中劇で見せる西島秀俊の演技は超絶だ。北海道の雪山における主人公の慟哭は深く心に響き、女性運転手が自らの人生を前に進めるラストシーンは爽快。脇を固める岡田将生と霧島れいか、手話を使うパク・ユリムらの演技も素晴らしい。フェイクが横行する現代にあって、何が本当なのかを決めつけることなく現実と真摯に向き合い、虚実を相対化するという「克己の道程」が、かつてないほどに美しくかつロジカルなカメラワークを駆使して物語られる。3時間近い大作だが、現在の日本映画界が誇るべき傑作であることは疑いようがなく、必見だ。
コロナ禍で映画館興業が苦戦を強いられる中で台頭したのがネット配信映画だが、今年の作品賞は遂にApple配信映画が獲得した。シアン・ヘダー監督(44)の「コーダ あいのうた」で、仏映画のリメイク版。聴覚障害を持つ家族が漁業を営む中、歌手を志すも反対される高校生の娘を主人公に、家族愛を謳い上げて多くの人の共感を得た。助演男優賞に輝いた父親役トロイ・コッツァーが受賞スピーチを手話で行った際、会場の参加者は掌をひらひらさせる手話式「拍手」を贈った。今回のアカデミー賞の象徴的光景だ。
「人間存在への愛」「多様性に対する繊細な感覚」重視は原点回帰
ノミネート段階で本命視する声もあったNetflix配信映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は、ジェーン・カンピオン(67)が監督賞を受賞(昨年のクロエ・ジャオに続き女性監督の受賞は2年連続)したものの、作品賞は逃した。粗野で威圧的な兄と繊細な弟をはじめとする家族の対立と葛藤を1920年代のモンタナを舞台にして骨太に描いた作品だが、コロナの惨禍、経済格差による社会の分断、ウクライナ危機という余りにも冷徹な現実の只中にある今年のアカデミー賞では、広く支持を集めるに至らずに忌避された感がある。アカデミー賞審査員による最終投票は3月17日から22日まで実施されたが、2月24日に始まったウクライナ侵攻の影響は否定できないだろう。「人間存在への愛」と「多様性に対する繊細な感覚」を重視した今年のアカデミー賞は、危機の時代にあっての原点回帰を志向したものだと言える。
受賞式典では、ウクライナのゼレンスキー大統領の中継参加も検討されたが実現せず、代わりにウクライナ支援を呼びかける黙祷メッセージが掲示された。他方で、プレゼンターのクリス・ロックに妻ジェイダ・ピンケット・スミスの頭髪を揶揄されたウィル・スミスが激昂し壇上で平手打ちする後味の悪い場面も。2016年にアカデミー賞の白人偏重批判の口火を切ったウィル・スミスは今回、遂に念願の主演男優賞を獲得した。しかし受賞スピーチでは、アカデミー関係者に謝罪し「家族を守る」大切さを強調したものの、クリス・ロックへの暴力自体を反省する姿勢は見せなかった(その後SNSで謝罪)。図らずも「家族を守る大義」、「行き過ぎた表現の自由の限界」と「暴力行使の是非」について見る者に考えさせる一幕になった。
他にも、撮影賞・美術賞など最多6冠に輝いたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「DUNE/デューン 砂の惑星」はフランク・ハーバートによる傑作古典小説の映画化作品で、一部でカルト的人気を誇るデイヴィッド・リンチ監督作品(1984)を過去のものにする「完成度の高さ」を誇る新生SF大作(全2部作予定の第一弾)。専制政治に虐げられる「砂の惑星」の民が待望する救世主を描いた壮大な叙述詩で、「風の谷のナウシカ」ファンならずとも必見だ。
「ドライブ・マイ・カー」の原作で改めて注目される村上春樹氏は、2009年にイスラエルの文学賞「エルサレム賞」を贈られた際の受賞スピーチで、人間を「冷たい壁を前にした卵」に例え、人間の魂の尊厳、かけがえのなさを訴えた。「爆撃機や戦車やロケット、白リン弾」が「高くて硬い壁」で、「それらに蹂躙され、焼かれ、撃たれる非武装の市民」が「卵」であるとする村上春樹氏の警鐘はまさに現在のウクライナ侵攻を言い当てている。
今回のアカデミー賞はウクライナ危機という、プーチンが仕掛けた非人道的な侵略戦争の真只中で挙行されたからこそ、そうした人間存在のかけがえのなさを讃える結果になったと言えるだろう。
●プーチン大統領、ウクライナ情勢泥沼化で八方塞がりの「誤算」 4/2
人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第35回は、ウクライナへの軍事侵攻で世界から孤立する道を選んだロシアのプーチン大統領の思考回路を推察する。
ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、ロシアの主要銀行が国際的な銀行ネットワークであるSWIFT(国際銀行間通信協会)から外され、マクドナルドやアップルをはじめとした多くの外国企業が撤退するなど、ロシアの世界からの孤立が加速している。
国境を越えた取引が当たり前となり、安定的な成長を遂げてきたグローバル経済のなかで、国際社会が正当化できない軍事侵攻に踏み切れば、孤立することは分かっていたはずだ。グローバル化に背を向ける格好となってまで、なぜプーチン大統領は開戦に踏み切ったのか。
西側諸国と接するウクライナがNATO(北大西洋条約機構)入りすることが断じて許せなかったなど、さまざまな見方が広まっているが、もう少し、頭の中を推察してみたい。以下はあくまで推測でしかないが、私が思うに2つの要素が考えられる。
一つは、ロシア人のメンタリティ。かつて司馬遼太郎は著書『ロシアについて 北方の原形』(文藝春秋)で、ロシア人について「外敵を異様におそれ」、「病的な外国への猜疑心」、「潜在的な征服欲」、「火器への異常信仰」を持つ──などと分析したが、過酷な自然環境に置かれるロシア人には今もそんなメンタリティが息づいているのではないだろうか。そして、そうしたメンタリティが凝縮されているのがソ連の最高指導者だったスターリンであり、プーチン大統領であるように思えてならない。
もう一つは、2024年に予定されるロシア大統領選だ。2000年の大統領就任以来、長年にわたって権力の座を欲しいままにしてきたプーチン大統領にとって、再選は至上命題である。そこに向けて何としても支持率を上げておく必要があったことは想像に難くない。仮にここで失脚するようなら、政治生命のみならず、それこそ自身の「命」の問題にもかかわりかねない。
そうした2つの要素が大きく作用して、開戦に踏み切ったことが考えられる。ただし、いざウクライナ侵攻を始めると、大きな「誤算」に直面したのではないか。
まず、ロシアが2014年にクリミアを併合した際には、いまほど世界的な反発は高まらなかった。そして、旧東ドイツを併合したドイツが、ウクライナに武器を供与するなど方針を大きく転換し、EU(欧州連合)と一体となってこれほどロシアを真っ向から批判するとは思っていなかったかもしれない。さらに、ウクライナのゼレンスキー大統領はタレント出身ということもあり、「追い詰めればすぐに逃げ出すだろう」と踏んでいたのかもしれないが、そうはならなかった。
つまり、プーチン大統領の頭の中では、ウクライナ侵攻もコントロールできるはずという「コントロール・イリュージョン」が働いていたが、そのいずれもが当初の思惑とは違ったと推察される。そして、ここまで泥沼化してしまった以上、プーチン大統領にはもはや命がけで遂行する以外、選択肢が無くなってしまったのではないだろうか。
ここまで来ると、落としどころを見つけるのは相当難しい。ゼレンスキー政権の転覆など、完全に制圧することは厳しい情勢であり、ウクライナ侵攻を止めることはプーチン大統領自身の支持率を大きく下げることにもつながり、場合によっては失脚もあり得るだろう。だからといって、仮にプーチン大統領が失脚したとしても、ロシアに対する世界的な批判がすぐに収まるわけもない。もはや後戻りできない状況にあるのだ。
今、世界はもちろん、当のプーチン大統領でさえも先の読めない、落としどころが見えない状況に陥っている。自らの権力維持に努めてきた強権主義者がこの先、どんな手を打つか。当人の命運も含めて不透明な状況が当面続きそうだ。
●ウクライナ 外国人部隊の広報担当 “採用後すぐ最前線に”  4/2
ウクライナ政府は、ロシアによる軍事侵攻後、外国人にもウクライナの領土を守る部隊に加わるよう呼びかけていて、3月7日の時点でおよそ2万人から応募があったとしています。その外国人の志願兵の部隊で広報担当を務めるノルウェー人のダミアン・マグルー氏がNHKのオンラインでのインタビューに応じました。
部隊はウクライナ西部のリビウに拠点を設けていて、各国のウクライナ大使館で面接を受けた人たちがリビウで最終的な審査を受けたうえで、採用された人が活動しているということです。
マグルー氏は「未経験の人を訓練する余裕はなく、渡された武器をすぐに使えるような軍での経験がある人だけを採用している。言語や経験を考慮してグループに分け、武器や装備を手配したらすぐに最前線で戦闘に加わっている」と明かしました。
外国人部隊はウクライナ軍とともに首都キーウ(キエフ)周辺など各地で戦闘に加わっているということで、部隊の公式ツイッターでは3月26日には外国人部隊がキーウの北西のイルピンでロシア軍を撃退したと投稿されています。
外国人の志願兵についてマグルー氏は「世界中の人々がウクライナのために一致団結していることを示している」と述べる一方、「現地に来てから入れる部隊を探す人がいるが、食料などが不足する中、地元の人や避難民のために使われるべき物資が奪われることになる」と述べ、所定の手続きを経ずに来る人は受け入れてないと説明しました。
一方、この外国人志願兵について日本にあるウクライナ大使館では、募集などの手続きは行っていないとしています。 
●地中海に展開の米空母打撃群、任務期間を延長 ウクライナ情勢で 4/2
米国のオースティン国防長官は2日までに、地中海に展開し、ロシアによるウクライナ侵攻を受け東欧防衛ににらみを利かせている米空母ハリー・S・トルーマン率いる打撃群の任務遂行期間の延長を決めた。
同省のカービー報道官が記者会見で明らかにした。同空母の艦載機はウクライナ侵攻が起きた後、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する東欧諸国の防衛力強化を担う航空作戦などに従事してきた。
米国防総省の当局者はこれより前、同空母は今年の8月中は地中海にとどまる可能性に言及。米空母の派遣期間は通常半年間。トルーマンは昨年12月、米東部海域から送り込まれていた。
同空母の出動期間の延長を受け、随行して打撃群を構成するほかの戦闘艦艇3隻にも同様の措置が取られた。
カービー報道官はまた、ウクライナへの軍事侵攻後に隣国ポーランドへ派遣されていた米陸軍の第82空挺(くうてい)師団の一部兵力の駐留期間も延長されると述べた。米国防総省によると、ポーランドにいる同師団の規模は兵士や支援担当要員含め約7000人。
空挺師団の派遣は、保持する即応能力が有事の際に必要不可欠と判断されたため。米陸軍は今年2月、ドイツに交代で配備されていた兵士約4000人から成る戦闘旅団の任務期間をさらに60日間追加してもいた。
カービー報道官は、ウクライナでの戦争の終わり方やその時期にかかわりなく、欧州の安全保障環境は異なる様相を示すだろうとの見方を表明。「我々はこれに対応しなければならない」とし、「欧州大陸で常駐部隊としての性格をより強めるのか、より大規模に永続的な存在感を強める必要性があるのかなどの議論に柔軟でありたい」とした。
●ウクライナ大統領 “マリウポリ住民3071人の避難に成功” 4/2
ロシア軍が掌握を目指して攻勢を強めているウクライナ東部の要衝マリウポリをめぐって、ウクライナのゼレンスキー大統領は、住民3071人を避難させることに成功したと明らかにしました。一方、ロシア側が設置した住民の避難ルートについて、ICRC=赤十字国際委員会はマリウポリに派遣した支援チームが、安全が確保できず引き返したと発表しました。
ロシアが軍事作戦の重点を移す方針を示しているウクライナ東部では1日、ウクライナ軍の施設がミサイル攻撃を受けたほか、ロシア軍が要衝マリウポリの掌握を目指して攻勢を強めています。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は日本時間の2日午前、国民向けに新たな動画を公開し、多くの住民が取り残され人道危機への懸念が高まっているマリウポリから住民3071人を避難させることに成功したと明らかにしました。
一方、ロシア国防省が設置した「人道回廊」と呼ばれる避難ルートについて、ICRC=赤十字国際委員会は住民たちを避難させるためマリウポリに派遣した支援チームが1日、安全が確保できず引き返したと発表しました。
ICRCは2日に再び支援活動を試みる予定ですが、住民の避難は依然として難航しています。
マリウポリで1日に撮影された映像では、多くの建物が焼け焦げたり崩れ落ちたりして甚大な被害が出ている様子が確認できます。
また、疲れた表情でたたずむ子どもや通りを歩く人の姿のほか、戦車などが走っている様子が映っています。
夫と2人で孤児院の地下に避難しているという女性は「持てるだけの物を持ってここに来ました。住んでいた家がどうなったのかは分かりません」と疲れ切った表情で話していました。
戦況をめぐって、ゼレンスキー大統領は新たに公開した動画の中で「ウクライナ北部ではロシア軍がゆっくりと、しかし目に見えて撤退している」と述べました。
一方で、「東部では非常に困難な状況が続いている。ロシア軍はドンバスやハルキウで軍備を増強していて、新たな攻撃に向けて準備している」と述べ、ロシア軍による激しい攻撃が迫っているとして懸念を示すとともに、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
国連のグテーレス事務総長は1日、ニューヨークの国連本部で記者団に対し、ウクライナでの人道的な停戦の実現に向けて、人道問題を担当するグリフィス事務次長が3日からモスクワを訪問する予定だと明らかにしました。
グリフィス事務次長はその後、ウクライナの首都キーウ、ロシア語でキエフも訪れるということで、停戦に向けた外交努力が続けられています。
●米のウクライナ軍事支援、総額1950億円に… 4/2
米国防総省は1日、ウクライナに対して最大3億ドル(約370億円)相当の軍事支援を行うと発表した。軍事支援の総額は、ロシアの侵攻開始以降だけで16億ドル(約1950億円)に達するとしている。
発表によると、新たに支援するのは、レーザー誘導ロケット砲、攻撃用無人機、偵察用無人機、通信システム、医薬品など。国防総省のジョン・カービー報道官は声明で、「利用可能な全ての手段を活用し続ける」と強調した。東部戦線の攻防が激化する中で、ウクライナ軍への支援を継続する姿勢を示した。
また、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は1日、米当局者の話として、米国が同盟国と協力し、ウクライナに戦車を供与する予定だと報じた。東部戦線への投入が想定されているという。ウクライナ軍が操作できる旧ソ連製の戦車を米国の仲介で同盟国から供与する予定で、当局者は「近く移送される」としているが、戦車の数や供与する国名は明らかにしていない。
●ウクライナ軍、首都周辺を奪還 ロシアの燃料庫出火めぐり応酬 4/2
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナでは1日、首都キーウ(ロシア語でキエフ)の周辺都市をウクライナ軍がロシア軍から奪還したもよう。一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は演説で、東部での状況は依然として困難だと国民に伝えた。ロシア西部ベルゴロド州の燃料貯蔵庫がウクライナ軍の攻撃で出火したというロシア側の主張については、ウクライナは反論を続けている。
首都近郊の都市をウクライナ奪還
キーウ近郊ブチャのアナトリイ・フェドルク町長は1日、ウクライナ軍が街を奪還したと発表した。ビデオで町長は、「3月31日は、ロシア軍からの解放記念日としてこの町の歴史に残る」と述べた。ビデオは町役場の外で撮影されたもよう。
ロシアは29日、ウクライナとの停戦交渉の中で、キーウと北部チェルニヒウ周辺の軍事行動を大幅に縮小すると表明したものの、その後も攻撃は続いている。
対するウクライナ軍は、キーウ周辺でロシア軍に対する反撃を続けており、一部でロシア軍を押し返している。
2月24日の軍事侵攻開始と共にロシア軍が激しい攻撃を展開したキーウ北郊のイルピンでは、ロシア軍が一時、市街地に入ったものの、防衛線を突破することができずに後退したもよう。イルピンとキーウの距離は幹線道路で21キロ。
ウクライナ軍の案内でイルピン中心部に入ったBBCのオーラ・ゲリン記者によると、市内の道路はがれきや寸断した電線であふれ、ひとけはほとんどなかった。戦争開始前にイルピンにいた市民約7万人はすでにほとんどが避難している。ほとんどの民家は激しく破壊され、路上には、大破したり炎上したロシアの軍用車両が複数放置されていたという。
東部の状況「きわめて困難」=ゼレンスキー氏
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日未明、定例のビデオ演説で、ロシア軍がウクライナ北部では「ゆっくりながらも目に見えてそれと分かる」ペースで撤退しているとした上で、ウクライナ東部の軍事状況は「引き続き、きわめて困難」だと述べた。
ロシア軍は東部ドンバス地域や前線の都市ハルキウ(ロシア語でハリコフ)周辺に集結しつつあるため、東部で「あらためて強力な攻撃」が始まると予想し備えているのだと、大統領は説明した。
「厳しい戦闘が待ち受けている。自分たちがすべての関門を通過したなど、思うわけにはいかない」と、ゼレンスキー氏は強調した。
大統領はさらに、南東部の要衝でロシア軍に包囲されている港湾都市マリウポリから、3000人以上が避難したと明らかにした。ドネツク、ルハンスク、ザポリッジャの各州に設けられた人道回廊を通過したという。
大統領は、「これとは別に、死傷者を市内から運び出す方法について合意が得られつつある」とも述べ、この件についてはトルコが仲介していると説明した。
包囲されたマリウポリからの市民脱出については、赤十字国際委員会(ICRC)が避難作戦を実施しようとしているものの、2日連続して中止を余儀なくされた。
キーウにいるICRC広報担当のアリオナ・シネンコ氏は、「正確で具体的な合意がどこにもなく、あらゆる関係者が合意を尊重していないことが、障害になっている」と述べ、支援物資が目的地に到着するようにするのは「この紛争の双方の当事者の責任」だと強調した。
シネンコ氏は現状に「幻滅し落胆」しているとして、「(援助物資の)車列を待っていたマリウポリの人たち、数週間も悪夢にとらわれ脱出を期待しているマリウポリの人たちを思うと、胸が痛い」と述べた。
ロシアの燃料貯蔵庫めぐり応酬
ロシア西部ベルゴロド州の知事は1日、州都の燃料貯蔵庫がウクライナ軍ヘリコプター2機の攻撃に遭い出火したと非難した。ウクライナ側はこれを認めず、双方で非難の応酬が続いている。
ツイッターに投稿された動画では、ロシアとウクライナの国境から約40キロにあるベルゴロドにおいて、集合住宅の近くで燃料貯蔵庫が燃えている様子が見える。中には、ロケット砲が貯蔵庫に直撃する様子に見える映像もある。
ウクライナ軍機はこれまで、ロシア領内の標的を攻撃していない。ベルゴロド州のヴィヤチェスラフ・グラドコフ知事の主張を、ウクライナ政府は認めていない。しかし、ロシア政府のドミトリー・ぺスコフ大統領報道官も後に、ウクライナによる燃料貯蔵庫攻撃を非難。ウクライナとの和平交渉継続にとって、この「空爆」は好ましい条件をもたらさないと述べた。
ウクライナのオレクシー・ダニロフ国家安全保障・国防会議書記は国営テレビに出演し、燃料貯蔵庫攻撃について「(ロシアは)なぜか我々がやったことだというが、こちらの情報によるとそれは現実に合致しない」と述べ、ウクライナ軍による攻撃ではないと言明した。
ダニロフ氏はさらに、燃料貯蔵庫攻撃は戦争の進捗(しんちょく)に不満を抱くロシア人によるものではないかと示唆し、今後も同様の攻撃が起きるのではないかと述べた。
「ロシア連邦の社会は、何かを理解し始めている」と、ダニロフ氏は話した。
ダニロフ氏はさらに、燃料貯蔵庫攻撃は和平交渉にとって有益ではないとしたロシア政府のペスコフ報道官の発言に反応し、「(ロシアが)こちらの子供たちを殺し、女性たちを殺す時、それは協議に有益だというのか? 我々の国土に大混乱をもたらしている時に?」と反発した。
対するロシア側では、国防省のイーゴリ・コナシェンコフ報道官が国営テレビ「ロシア24」に対して、攻撃されたベルゴロドの貯蔵庫は軍用ではなく、あくまでも民生用の燃料しか保管していなかったと述べた。
「あの石油貯蔵施設は、ロシア軍とは何の関係もない」と、コナシェンコフ報道官は話した。
コナシェンコフ氏は、ウクライナ軍のミル24攻撃ヘリ2機が現地時間1日午前5時ごろに「きわめて低い高度」でロシアに侵入し、ミサイル攻撃を行ったのだと述べた。
燃料貯蔵庫攻撃について、イギリス国防省は定例の戦況分析で言及し、「貯蔵庫から燃料と弾薬が失われると想定されるため、短期的には、すでに厳しい状態にあるロシアの物資輸送にさらに負担がかかることになるだろう。とりわけ、(ベルゴロドから60キロに位置する)ハルキウを包囲するロシア軍部隊への補給が、影響を受ける可能性がある」と指摘した。
アメリカが防護服提供 化学兵器攻撃に備え
米政治ニュースサイト「ポリティコ」は1日、ウクライナ政府の要請を受けて米政府が、化学兵器攻撃への備えとして、個人用防護服(PPE)をすでに提供していると伝えた。
ポリティコによると、米国家安全保障会議(NSC)の報道官は、「命を救う装備と物資」の提供を開始したと認めたという。米政府が提供した中には、ガスマスクや化学防護服などが含まれるとみられる。
生物化学兵器をめぐっては、戦況が思うようにならないロシアがウクライナで使用するのではないかと懸念する西側諸国と、ロシアの間で非難の応酬が続いている。アメリカ政府は、ロシアが生物化学兵器の使用をめぐり、敵の行為に見せかけたいわゆる「偽旗作戦」を仕掛けるのではないかと恐れている。
●ウクライナ侵攻で露軍に破壊「世界最大の飛行機」の惨状明らかに 4/2
ウクライナのアントノフ設計局が手掛けた(製造時はソ連)世界最大の飛行機、アントノフAn-225「ムリヤ」。世界に1機のみのこの機は2022年2月末、ロシアによる軍事侵攻によって、首都キーウ(キエフ)近郊のゴストメル飛行場で破壊されました。戦争により大きく損傷したAn-225の姿が、ウクライナ・戦略コミュニケーションセンターの公式SNSやメディアなどにより、2022年4月に相次いで明らかになっています。
アメリカのメディア、CNNは、アメリカ国防省関係者のコメントや衛星画像から、ロシア軍は3月末にゴストメル飛行場から撤退したとしています。その後同飛行場には、An-225のチーフ・パイロットを務めるドミトリー・アントノフ氏なども駆けつけているようです。
写真では、左主翼と機首部分などは原型が残るものの、コックピット部分や胴体中央部は焼失した姿が確認でき、それを見た世界中の航空ファンなどから、悲しみのコメントが上がっています。
An-225「ムリヤ」は全長84m、全幅88.74mで、最大離陸重量は”世界最大”となる640tでした。また、片翼に3発ずつ計6発搭載したエンジン、32個の車輪をもつムカデのような脚など独特の形状を持ち、日本では”怪鳥”とも例えられました。同機は当初、ソ連版スペースシャトル「ブラン」を胴体の上に積んで空輸する目的で開発されたものの、紆余曲折を経て、破壊される直前までアントノフ航空で貨物機として運用され、その巨体が生かされてきました。
なお、政府の公式Twitterは2月末時点で「An-225はホストメル基地でロシア軍に破壊された」という投稿とともに、「私たちはこの機を復活させる」とコメント。この機の未来がどのようになるのかが注目されるところです。
●小麦の輸出大国ウクライナ、侵攻で今年の収穫や種まき不可能か 4/2
世界で最大級の小麦輸出国であるウクライナがロシア軍の侵攻を受け、小麦の収穫や備蓄していた分の輸出が今年、不可能となる可能性が非常に高いことが2日までにわかった。
フランス大統領府筋が明らかにした。国内での戦闘続行や農業従事者の手当てが出来ず、収穫や来年の作物につながる種まきの開始が非常に困難な状況になっているとした。「ウクライナ1国が世界の食糧市場のバランスを取る上での要になっている状況」とも述べた。
ウクライナ政府は3月初め、小麦、トウモロコシ、穀物、塩や肉を含む主要な農産物の輸出禁止を閣議決定した。
国連食糧農業機関(FAO)は先月11日、軍事侵攻によりウクライナ内の穀物の取り入れや輸出に支障が出る可能性を警告。同時に、戦闘やロシア産品に対する西側諸国の経済制裁の影響で価格上昇が起きるとも警戒していた。
米農務省によると、侵攻が起きる前のウクライナの年間の小麦輸出量は新記録に達する基調にあった。半面、ロシアの小麦輸出は減速していた。
仏大統領府筋は特に、ウクライナから中東諸国への穀物輸出が停滞していることの悪影響に懸念を示した。
●「プーチンはすでに負けた」英国軍司令官が宣言 中立国が“反ロシア”に転向 4/2
英国軍司令官が「プーチンはすでに負けた」と宣言している。停戦が実現したとしても、プーチン大統領の行動は短絡的だったと考えざるを得ない。ロシアに対して、中立を宣誓していた国々がどんどん反ロシアになってきているのだ。
「プーチンはすでに負けた」
英国の軍の司令官のトニー・ラダキン(Sir Tony Radakin)は、「In many ways, Putin has already lost the war in Ukraine.」と発言している。これが現在の世界のセンチメンタルである。
最新鋭の武器をもった世界第2位のロシアが、小国のウクライナの占領に、ここまで手間取るとは誰も思っていなかった。それこそ、軍事評論家と呼ばれるテレビに最初から出演していた人々の予想は、180度間違っていたのだ。
NATOもアメリカもEUも国連も、ウクライナがここまで善戦するとは誰も思っていなかった。
ラダキン氏の発言はプーチン大統領がロシア兵をウクライナの前線から後方に少しだけ撤退させるという方向転換に対してのものだが、今後、世界の中でのプーチン大統領の孤立は避けられない。
軍隊の大きさの違い
ウクライナの軍隊のランキングは22位で、ロシアは2位であるとYouTubeなどでは比較されている。
この動画のデータからは、ウクライナがロシアの攻撃をここまで抑えられるというようには想像できない。
例えば、戦闘機の数は325機 vs 4,208機である。しかも、ロシアは、最新鋭の2020年代の飛行機がたくさんあるのに、ウクライナの方の戦闘機は1970年代のソ連時代からの旧型が多い。
通信のハッキング合戦でもウクライナに軍配か
ロシアがオックスフォード大学をハッキングしようとしたことについては、当メルマガで以前に書いた。ロシアは、いろいろな国々の政府機関、有名企業、有名大学をハッキングしようと試みている。
クレミア半島への侵攻もまずは、通信をジャミングさせて、クレミア政府の通信を使えなくして、簡単に制圧してしまった。
ところが、今回ウクライナ政府や軍は、ロシアのハッキングを防いでいるようだ。しかも、逆にロシア側の軍の通信を傍受しているようなのだ。
これは、ソ連時代にウクライナは、IT産業重点地域であったため、多くの優秀なエンジニアを抱えているためだと私は信じている。
日本も早く、優秀なエンジニアを育てるSTEM教育に重点を置かなければいけないという想いが日に日に強くなる。
戦場でのドローンの威力
民間と軍事技術の境目がなくなっているのを感じたのが、今回のウクライナのドローン攻撃である。
ドローンがロシアの戦車を見事に大破させる映像を、皆さんも見たことがあるでしょう。戦車1台分の費用で、ドローン100機は買えるでしょう。
このドローンに必要な部品のいくつかは、アメリカやカナダ製のものだが、アメリカやカナダは、これらの部品の輸出をかなり規制していた。そのため、今回使われたものは、イギリス軍が寄付したものと、ウクライナの民間人のグループが8年前から海外の協力者と同好会グループを創って作り上げたものと考えられている。
実際にこれらドローンを使い、戦車を破壊したのは、もとインベストメントバンカーやコンサルタントだった「民間人」だと言われている。また、別の戦車を手で持てるミサイルで爆破したのは、8年前に夫をロシアとの紛争でなくした人の妻だという。
これら民間人が今回の戦争で活躍しているのが、素晴らしいことだと私は思う。
ちなみに、イーロンマスクは、スターリンクをウクライナ軍やウクライナの民間人たちに使わせているという噂がある。これが本当ならば、民間の力の重要性は日に日に増し、そのこと自体は、健全なことだと思う。
スマホ撮影の映像とYouTubeが世論を作った
子ども病院などウクライナの民間施設が爆破される映像などをみると、プーチン大統領に対して、またロシア軍に対して憤りを感じる。大勢の人々が殺されている。
それに対して、ウクライナの攻撃は戦車やヘリコプターや戦闘機など、限られた戦果でしかない。
これらの惨状と戦果は、スマホだけで撮影・編集され、YouTubeにアップすることができ、これが世界に対して、世論をウクライナ寄りにする効果があった。
また、ロシア軍やロシアの人々がYouTubeにアクセスできれば、戦意を喪失させるにも役立つのだと思う。
Googleがロシアでのオペレーションを辞めてしまったのが残念である。
飛べない500機以上の航空機を没収
今週ロシアは、ロシアの航空機会社がリースしている飛行機をリース会社が返還を求めるには、ロシア政府の許可がいるという法律を成立させた。
結果、500機から900機のロシアの航空会社が海外からリースされている100億ドルから200億ドル分の飛行機の返還をリース会社が要求するのが難しくなったと報道されている。
この法律は、西側の経済制裁の一環で、リース会社がロシアの航空会社との契約を破棄し、海外にある機体をすべて差し押さえてしまったことに対する、プーチン大統領の対抗策である。海外にある機体は、ロシアに持ってくることができなくても、ロシア国内にあるものは、そのまま没収してしまおうという作戦である。
問題は、ボーイングもエアバスも飛行機が飛ぶのに必要な部品・消耗品の供給を止めているので、ロシアにあるボーイングとエアバス製の飛行機が飛べなくなるのは時間の問題であることだ。
ガス代のルーブル支払いに意味はない
ドイツ・インド・中国の、ロシアに対しての「弱腰さ」が目立っている。
ドイツは、天然ガスの供給をロシアから受けなければ、停電が起こってしまうので、天然ガスを買わなくすることができないと判断している。
その支払いをロシア側がルーブルでしろと言ってきたというのに対して、ドイツは断ったというのがニュースになっている。私から見るとこれは、これこそ50歩100歩で、たいした違いはない。
ロシアは、外貨も必要なので、ユーロやドルが手に入るならば、ありがたい話である。もし、本当にルーブルでの支払いをプーチン大統領が要求したとしたら、プーチン大統領は、金融がわかっていない。一時的にルーブルの下落を止めようという考えだろうが、ドイツのガス購入代金ぐらいのルーブルに対する需要がルーブル安を止められるわけがない。
我々の問題は、世界のマスコミがこのことが分かっていないことである。すなわち、ルーブルでしか支払いを認めないとロシアが言ってから、どんどんエネルギー価格が上昇しているのだ。
もしかしたら、プーチン大統領は、金融学的にはインパクトが少なくとも、ルーブルで払えと言えば、エネルギー価格が高騰することを見込んでいたのかもしれない。
交渉では、プーチン大統領の方が西側のリーダーよりも老獪である。
中立だった国々が次々と「反ロシア」へ
かつて、大国ソ連の宣戦布告に対して、自国を守った小国としてフィンランドがある。
フィンランドもスウェーデンも、オーストリアもスイスもアイルランドも、NATOのメンバーではない。ところが、今回のプーチン大統領のウクライナ攻撃を見て、フィンランドもスウェーデンも、民衆はNATO入りを真剣に検討することを望んでいる。スイスも永世中立を辞めた。
プーチン大統領の行動は、短絡的と考えざるを得ない。結局、ロシアに対して、中立を宣誓していた国々がどんどん反ロシアになってきているのだ。
これが、ラダキン卿のコメント「プーチンはすでに負けたのだ」というコメントの真意なのだ。
●ロシア軍の“性暴力”疑惑、ゼレンスキー大統領が告発 避難民の銃殺も 4/2
ウクライナでのクラスター(集束)弾の使用や民間人への無差別空爆などが批判されているロシア軍に、さらなる非道な行為の疑いが浮上している。ウクライナの民間人女性への性暴力や避難民の銃殺が行われているとゼレンスキー大統領が告発、同国当局も調査に乗り出した。都合の悪い情報はプーチン大統領に伝わっていないとの指摘もあるが、「戦争犯罪」はどこまでエスカレートするのか。
ウクライナの国営通信ウクリンフォルム(日本語版)によると、ゼレンスキー氏は3月23日、フランス国会でオンライン演説を行った。そこで「ロシア軍人による被占領地での女性の強姦、ロシア軍人による避難民の路上での銃殺、ロシア軍人による記者の殺害、ホロコーストを生き延びたのにシェルターへと隠れなければならなくなっている高齢者」と民間人の被害を列挙した。
その上で、ロシアに進出している自動車大手ルノー、食品スーパーのオーシャンといった仏企業を名指しし、「ロシアの戦争マシンのスポンサーをやめ、子供や女性の殺害、強姦への資金提供をやめなければならない」と呼びかけた。ルノーは23日、ロシア工場の無期限停止を発表した。
ウクライナのベネディクトワ検事総長は22日、フェイスブックで、「(首都キーウ近郊の)ブロバリー地区の村で、ロシア兵が男性を殺害し、さらに別の兵士とともに男性の妻を暴力や武器で脅しながら繰り返し性的暴行を加えた」と投稿。ロシア兵の拘束を求める請求が裁判所に提出され、公的調査の対象となったと報告した。
ウクライナの政治家、マリア・メゼンツェワ氏も英スカイニュースのインタビューで同様の被害について語った。
安全保障や戦史について研究・執筆するジャーナリストの石井孝明氏は「第二次世界大戦におけるドイツや東欧ではソ連兵により性的暴行が多発したが、戦後のソ連による東欧の支配によって被害女性の告発自体がタブー視され、隠されてきた。一方、1990年代から2000年代のチェチェン紛争ではロシア軍による住民の虐殺や性的暴行がいくつも報告されてきた。ロシアは徴兵制度が続いていて、兵隊同士のいじめなども報告される待遇の悪さが暴行を誘発してきたともいえる」と語る。
ロシア軍の非人道的な攻撃については、ウクライナ東部ハルキウ周辺で、国際条約で禁じられている対人地雷を使用したと国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が指摘した。地雷は「POM―3」と呼ばれ、半径16メートルの殺傷能力を持つ。
バチェレ国連人権高等弁務官は、ロシア軍が非人道的とされるクラスター弾を少なくとも24回、ウクライナの人口密集地域で使用したとの報告があると述べた。
ブリンケン米国務長官は23日、民間人を対象に無差別攻撃を続けるロシア軍の行為について米国は「戦争犯罪」に認定したと表明。高層住宅、学校、病院、インフラ、商業施設、救急車両に至るまで数千人の民間人を犠牲にした「無差別攻撃に関する数々の信頼できる報告を見てきた」とし、犯罪人の告発も視野に調査を続けるとした。病院への攻撃はジュネーブ条約で禁止されている。
ロシア軍の実態と、その行状が国際社会で非難を浴びていることがプーチン氏に報告されているのかは不明だが、そもそも軍事侵攻を命じたプーチン氏が元凶であることは間違いない。
ゼレンスキー氏らの発言のように性的暴行は起きているのか。石井氏は「可能性は十分あるが、注意したいのは、さまざまな国で性的暴行の証言がプロパガンダとして利用されてきた側面もあることだ。今回のウクライナ侵攻でも他の戦争犯罪と共に戦後に国際的な調査が行われると思われる。事実確認の経緯を見守るという目線も必要ではないか」と指摘した。
●バイデン政権が抱えるロシアの核使用リスク  4/2
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、その対応をめぐり米国のバイデン大統領は内政的にも外交的にも不安要素を抱えている。AERA 2022年4月4日号の記事から紹介する。
バイデンの米国内の足元も極めて危うい。
ニューヨーク市内では、英金融大手バークレイズがビル前面の大きな電光掲示板に「ウクライナの人たちと立ち上がり団結します」という文字を表示する。米ファッション大手アメリカン・イーグル・アウトフィッターズの掲示板もブルーとイエローのウクライナ国旗の色で塗りつぶされている。雑貨店やレストランも国旗の色彩を店頭に出し、募金集めのコンサートやアートショーは毎日のように開かれる。街中は「ウクライナ支援一色」だ。
しかし、米国がロシアと武力で直接対決するかは別問題だ。米クィニピアック大学の調査(3月16日)によると、「米ロ間戦争のリスクを回避しつつ、ウクライナへの支援をすべき」とした米国人が75%。「米ロ間戦争になるリスクがあったとしても支援すべき」と答えた17%をはるかに上回った。アフガニスタン・ショックの後、「戦争」「派兵」に対する嫌悪感は、米市民の間でかつてないほど強い。
一方、米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、ロシアによるウクライナ「侵略(インベージョン)」へのバイデン政権の対応について「強く支持」「やや支持」が47%で、「強く不支持」「やや不支持」の39%を上回った。
ただ、大統領としてのバイデンの支持率は42%で、不支持の54%を下回る。01年に起きた米同時多発テロの直後、ブッシュ元大統領の支持率が51%から90%に跳ね上がったのとは異なる(米世論調査機関ギャラップによる)。政権のウクライナ対応が市民の評価を得ていても、内政的にバイデンとしては苦しい「綱渡り」だ。
議会の主張は真っ二つ
国際政治学者で米コンサルティング会社ユーラシアグループ社長のイアン・ブレマーは、こう指摘する。
「バイデン政権はウクライナ対策ではうまくやっているし、議会も超党派で団結した。問題は、このモメンタムがいつまで続くかだ」
その見通しは暗い。11月に迫る中間選挙を前に、ウクライナ問題以外では、民主党・共和党議員が激しく対立する。黒人女性初の連邦最高裁判事としてバイデン大統領が指名したケタンジ・ブラウン・ジャクソンの上院承認をめぐる上院公聴会は、テレビ中継されるため、議員らは有権者向けに真っ二つの主張を繰り返す。
4年ごとの大統領選挙の中間の年に行われる今年の中間選挙は、下院議員全議席、上院議員の3分の1、各州知事など広範囲にわたる選挙で、24年の大統領選挙の行方も左右する。
現在、上院では無党派を含めて民主党がやっと半数を獲得、下院も僅差で民主党が多数派となっている。中間選挙で上下院いずれか、あるいは両院で野党共和党が多数派となると、バイデン政権は政策を通すことがかなり困難となる。ロシアとウクライナの戦争の結果にかかわらず、バイデン政権は中間選挙の結果で骨抜き政権になる致命的なリスクを抱えている。
強硬派議員でさえ
米国が唯一、ロシアに対抗できる軍事大国であり核保有国であることも、バイデンの手足を縛る。
「真珠湾攻撃を思い出してほしい。9.11同時多発テロを思い出してほしい。私たちは毎日同じような経験をしている」
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月16日、米連邦議会でのオンライン演説で強調した。米国人に特に「空から降る」非人道的な攻撃を思い出させ、ウクライナ上空に「飛行禁止区域」を設定するよう繰り返し強く訴えた。これに先立つロイター通信の調査(3月4日)では、米国人の74%が飛行禁止区域の設定を支持している。
しかし、飛行禁止区域の設定はそう簡単に実施できるものではない。強硬派共和党上院議員のマルコ・ルビオでさえ、こう言う。
「(設定は)第3次世界大戦を意味する」
「全面戦争」の引き金
法的には、飛行禁止区域を設定すれば、ロシア軍の空爆を制限することができる。ところが、設定は、NATOの戦闘機が常時ウクライナ上空をパトロールすることを意味し、禁止を犯して飛行するロシアの機体を撃墜することができる。
米国が、飛行禁止区域設定を実行したことは過去にはある。イラク、ボスニア、リビアなどだが、いずれも核兵器を大量に保有する国家に対する戦略ではなかった。
プーチンが「現状の経済制裁でさえ、宣戦布告」と主張するさなか、ロシア軍機が飛行禁止区域内で撃墜されれば、「全面戦争」の引き金となるのは明らかだ。
冷戦後の均衡と安定が保たれるのかどうかという戦況は、見通しが極めて厳しい。米紙ニューヨーク・タイムズは、ウクライナの首都キエフ近郊の都市に対する砲撃で、命を落としたばかりの母子の遺体の写真を1面トップで掲載した。米メディアとしては異例の報道だ。
内戦があったシリアやアフガニスタンなどと異なり、民主主義のウクライナからは、市民のソーシャルメディアを通した窮状が世界に直接伝わる。米市民の84%が、ウクライナ情勢のニュースを追っているというほど関心を集めている「戦争」だ。
外交的には、プーチン大統領がほのめかす核兵器使用の可能性による制約、そして国内では中間選挙を前に攻撃的になれない、という二つの「くびき」がバイデン政権にのしかかる。 

 

●ウクライナの民間サイバー軍やアノニマスが仕掛ける対ロシアサイバー戦争 4/3
IT人材が豊富なウクライナでは、ロシア侵攻を受け民間サイバー部隊「IT Army of Ukraine(ウクライナITアーミー)」が結成され、ロシア政府系ウェブサイトなどを中心にサイバー攻撃を仕掛けている。
この民間サイバー部隊は、ウクライナの第一副首相兼デジタル改革相であるミハイロ・フェドロフ氏(31歳)が2022年2月27日にツイッターで呼びかけたもので、3月末時点で31万人以上が参加する巨大な組織に拡大している。
ウクライナITアーミーの活動の中心となるのは、セキュリティが高いといわれるチャットアプリ「テレグラム」だ。テレグラムのウクライナITアーミーアカウントでは、ターゲットとなるロシア政府機関や政府系企業のウェブサイトやリンクがシェアされ、それをもとに、参加者がDDoS攻撃を仕掛けている。
CNBCの3月23日時点の報道では、ウクライナITアーミーの参加者数は31万1000人に上る。一部ウクライナ国外からの参加もあるが、大多数がウクライナのIT人材である。
ウクライナのIT人材の多くは依然国内に留まっている状況。日常の仕事をしつつ、ウクライナITアーミーのタスクもこなしている。
CNBCがインタビューしたデイブ氏は、ウクライナのソフトウェアエンジニアだが、ウクライナITアーミーに参加し、日々ロシアに対するサイバー攻撃を実施している。
同氏は、テレグラムのウクライナITアーミーアカウントでシェアされる攻撃対象リンクを貼り付けるだけで、自動でDDoS攻撃を仕掛けるボットを自作。3〜5つのサーバーから毎秒5万回のリクエストを送信している。
DDoSのほかには、ロシアでも利用されているソーシャルメディアに、ウクライナの現状を伝える写真や動画を投稿し、現状を知らないロシア人に対し情報を伝えたり、各国の企業ウェブサイトやソーシャルメディアにロシアでのビジネス停止を呼びかけるなど様々なサイバーオペレーションが実施されている。
ロシアに対するサイバー攻撃には、アノニマスをはじめ世界各地のハッカー集団が多数参加しており、ウクライナITアーミー単体の効果を測定するのは難しいが、31万人以上によるサイバー攻撃の影響は小さくないと思われる。
ウクライナのテック教育
ウクライナはテック人材の宝庫。同国におけるテック人材育成の取り組みを見れば、大規模な民間サイバー部隊が短期間で組織された背景が見えてくる。
ウクライナの人口は約4400万人、GDPは1556億ドル(約19兆3687億円)。
ソフトウェア企業Daxxのまとめによると、この5年間でウクライナの年間教育予算は、1140億フリヴニャ(約4770億円)から2280億フリヴニャ(約9540億円)と倍増。2021年にはGDPに占める教育予算の割合は6.6%に達した。この比率は、ドイツ、オランダ、スウェーデン、ポーランド、ハンガリーなどを上回り、世界的にもかなり高い割合であるという。
ウクライナ政府による教育投資は、理系高等教育の拡大につながっている。高校卒業者における大学進学率は75%(約26万2500人)。このうち、STEM(科学・テクノロジー・工学・数学)分野を専攻するのは約13万人と、半数近い学生が理系分野に進学しているのだ。
すでに、グローバルテック大手の研究開発拠点やオフショア開発拠点が数多く開設され、域内テクノロジーハブとして機能しているウクライナ。国内にはデベロッパーだけで、25万人の人材がいるといわれている。
このテック人材プールはさらに拡大することが予想されている。ウクライナの高等教育機関から輩出されるテック人材数は年間2万3000人だが、2030年には2万7800人に増える見込みだ。現在ウクライナにおけるテック人材の大卒率は83.3%。
Daxxによると、テックスキル評価ツール「SkillValue」において、ウクライナのプログラマーの平均スコアは93.17%と世界5位に位置しているほか、TopCoderランキングでも上位にランクインするなど、スキルの高さにも定評があるという。
アノニマスなど多数のハッカーも対ロシアサイバー攻撃に参加
ロシアをターゲットとするサイバー攻撃には、ウクライナITアーミーだけでなく、アノニマスなど様々なハッカー集団が参加している。
アノニマスは、ロシアがウクライナに侵攻してすぐにロシアに対するサイバー攻撃を開始。主に、政府機関のウェブサイト、政府系企業・メディアへの攻撃を実施し、ウェブサイト停止やデータ取得に成功したと主張している。
CNBCが伝えたサイバーセキュリティ企業Security Discoveryの共同創業者ジェレミア・フォーラー氏の指摘によると、アノニマスの主張は事実である可能性が高いという。
フォーラー氏によると、ロシア側の100個のデータベースを分析したところ、実に92個のデータベースがハッキングされたことが判明。データベースファイル名が「putin_stop_this_war」などと変換されていることや、ウェブサイトのアドミン情報の漏洩などが確認されたという。
またアノニマスが主張したロシア国営テレビのハッキングに関しても、事実である可能性が高いと述べている。
直近では、アノニマスに関連があるとされるハッカー集団「NB65」が全ロシア国営テレビ・ラジオ放送会社のデータベースに侵入し、870ギガバイトに相当するデータの取得に成功したと主張するなど、ロシアに対するサイバー戦は激化の様相を呈している。
●実は守りに強いが攻めには弱いロシア軍 侵攻で大量の自国兵死亡 4/3
1812年ロシア戦役でロシア帝国はフランス連合軍を撃退した。連合軍を率いていたのはナポレオン・ボナパルト(1769〜1821)。当時のナポレオン1世だった。
第二次世界大戦中の1941年から45年にかけて独ソ戦が起きた。こちらもソ連軍がドイツ軍を追い返した。更にソ連軍は進撃を続け、最終的にはドイツの首都ベルリンに到達した。
当時、ソ連の最高指導者はヨシフ・スターリン(1878〜1953)。ドイツはアドルフ・ヒトラー(1889〜1945)だった。軍事ジャーナリストが言う。
「ロシアがナポレオンとヒトラーの攻撃から自国を守ったという歴史的事実は、ロシア軍のイメージに大きな影響を与えてきました。何しろ、当時のフランス軍やドイツ軍は連戦連勝で、まさに無敵だったのです。ところがロシアとの戦争で敗れたことから形勢が変わり、彼らが追い詰められていく転換点となりました」
ロシアは軍事大国であり、その軍隊も強い──このような先入観を持っている人は少なくないだろう。
「確かにロシアは、攻め込んできた敵軍は撃退します。守りには強いわけです。しかし、自分たちが他国を攻め込むとなると、かなりの確率で敗北を喫してしまいます。現在のウクライナ侵攻でも、アメリカの情報機関や軍関係者でさえ、当初はロシア軍の圧勝を予想していました。それが実際は、ウクライナ軍の抵抗にかなり苦戦を強いられています」(同・軍事ジャーナリスト)
タンネンベルクの大敗北
ナポレオン1世の侵略から約半世紀後の1853年、クリミア戦争が勃発する。中東の支配権などを巡り、南下政策を採るロシア帝国と、フランス、イギリス、オスマン帝国、サルデーニャ王国の連合軍が戦った。
「戦史家の中には『勝者なき戦争』と指摘する向きもありますが、少なくとも戦略的には、南下政策に失敗したロシア帝国の敗北と言えます。更に南下政策に固執したロシア帝国は、ヨーロッパ側ではなくアジア側で1904年に日露戦争を起こしました。しかし、こちらも敗北に終わっています」(同・軍事ジャーナリスト)
1914年に第一次世界大戦が始まると、ロシア帝国はイギリスやフランスと共に三国協商を形成。ドイツへ侵攻するが、タンネンベルクの戦いで大敗北を喫した。
「タンネンベルクは今のポーランドにあります。ロシア軍の総兵力は41万人を超えていたと言われています。一方のドイツ軍は15万人でした。ところがロシア軍は暗号を使わなかったため、無線による命令はドイツ軍に筒抜けでした。ドイツ軍にロシア軍は包囲殲滅され、死者約7万8000人、捕虜9万2000人を出したという推定値が残っています。一方のドイツ軍の死者数は1万2000人程度だったというのが一般的な見解です」(同・軍事ジャーナリスト)
冬戦争の大敗北
この後もロシア軍の被害は数を増し、ロシア革命が起きる原因の一つとなった。
「ロシアの戦史を振り返ると、死者数の多さに驚かされます。例えば第二次世界大戦で、ソ連は2回、フィンランドに侵攻しています。1939年の『冬戦争』では、フィンランド軍の死者は約2万5000人でしたが、ソ連軍は12万人超。41年からの『継続戦争』でも、フィンランド軍の死亡・行方不明者は約6万3000人だとされる一方、ソ連軍は20万人以上と推計されています」(同・軍事ジャーナリスト)
フィンランドはソ連と戦うためにドイツと組んだこともあり、第二次世界大戦では敗戦国の扱いを受けた。
「フィンランド軍は善戦しましたが、勝利はできませんでした。終戦後、ソ連からは戦争責任を問われ、賠償金も要求されています。東西冷戦下ではソ連の顔色をうかがう必要もありました。敗戦の代償は大きかったわけですが、ソ連に大きな被害を与えることで国家の独立は守り抜きました。ウクライナ人はフィンランド史についての知識が豊富で、今回の徹底抗戦にも大きな影響を与えているとも言われます」(同・軍事ジャーナリスト)
多すぎる戦死者数
フィンランドとの戦争でもソ連軍はこれだけの損害を出したのだ。独ソ戦での死者数は図抜けて多い。
「第二次世界大戦での各国の戦死者数は様々な推計があります。ただ、ソ連が突出しているのは間違いありません。1400万人以上と考えられています。それに対し、ドイツは280万人、日本は230万人、アメリカは29万人という数字が一般的です」(同・軍事ジャーナリスト)
1950年6月に勃発した朝鮮戦争で、“人海戦術”という言葉が注目を集めたことをご存知だろうか。
北朝鮮を支援するため、10月に“義勇軍”として参戦した中国人民解放軍が採用した戦術だ。
たとえ装備が貧弱な軍隊でも、兵士の数が異常に多ければ、敵軍を圧倒することができるという含意もある。
「実は、この“人海戦術”を中国人民解放軍に教えたのは、ソ連軍だったという説があります。中国の参戦で、国連軍は当初、敗走を余儀なくされました。ところが、装備に勝ることから徐々に立て直しを図り、後半ではかなりの損害を与えることに成功しています。中国は朝鮮戦争で“義勇兵”の死傷者があまりに多いことに驚き、『今後はソ連の軍事指導を受けないほうがいい』と考えを改めたというエピソードもあるのです」(同・ジャーナリスト)
NATO軍の誤解
2001年に公開された映画「スターリングラード」[ジャン=ジャック・アノー監督、日本ヘラルド映画配給]は、実在したソ連軍の狙撃手を描いた作品だ。
「冒頭、2人1組にさせられたソ連兵が小銃を1丁だけ与えられ、激戦が続くスターリングラードに放り出されるシーンが描かれます。どこまでリアルな描写かは議論の余地があると思いますが、ソ連軍やロシア軍の膨大な戦死者数を考えるに、あり得ない場面ではないでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
それでもNATO(北大西洋条約機構)諸国はこれまでずっと、ソ連軍やロシア軍を「非常に強い軍隊」と考えてきたという。
「やはり独ソ戦でベルリンまで侵攻したという実績は大きいでしょうし、冷戦下でソ連軍が行うパレードでは、最新式の戦車が西側軍事関係者の注目を集めていました。『非常に性能が高く、西側の戦車は蹴散らされる』と言われていたものです。もし第三次世界大戦が勃発すれば、東側のワルシャワ条約機構の軍隊は、圧倒的に強い戦車で西欧を蹂躙してくる。それをNATO軍は対戦車兵器で、どうやって迎え撃つかというシナリオを練るしかないと思い込んでいたのです」(同・軍事ジャーナリスト)
ウクライナ侵攻の衝撃
それが誤った認識だと気づく機会はあったという。1990年の湾岸戦争だ。
「湾岸戦争ではアメリカ軍が制空権を奪い、圧倒的な戦力でイラク軍を蹴散らしたことばかりが注目を集めました。その一方で、陸上戦に参戦したイギリス軍は、戦車隊がイラク軍の戦車隊と戦闘し、こちらも圧勝しています。イラク軍の戦車はソ連製で、イギリス軍の戦車は性能が劣ると言われていました。この時、一部の軍事関係者は『ひょっとするとソ連製の戦車は弱いのではないか?』と気づいたのですが、世界中の認識とはなりませんでした。まだまだソ連軍、ロシア軍は強いというイメージが強固だったのです」(同・軍事ジャーナリスト)
今回のウクライナ侵攻で、「ひょっとするとロシア軍は弱いのか?」という指摘も散見されるようになってきた。
「多くの記事で指摘されていますが、ロシア軍がウクライナ軍に手こずっていることを、世界中の軍事関係者が驚いています。戦死者が多いのではないかという分析も伝えられており、米下院には2000人から4000人のロシア兵が戦死した可能性があると国防情報局が報告しました。ロシア軍はソ連軍以来の伝統で、兵士の命を軽視してきました。ウクライナ侵攻でも非常に貧弱な装備で戦場に送られていることがよく分かります」(同・軍事ジャーナリスト)
●ウクライナ戦争「アメリカが原因作った説」の真相 4/3
ロシアのウクライナ侵略で故郷を追われ、命懸けで国外に脱出する大勢の人々。街が破壊され、黒焦げになった病院や住宅。そして、日々犠牲となっている無辜(むこ)の子どもたち――。ウクライナの戦場を伝える悲惨な映像や写真を見て、「いったい何がこのような軍事侵攻を招いたのか」と疑問を募らせている読者もきっと多いことだろう。
筆者は、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した2月24日以来、国際法を無視して武力で他国の主権と領土を侵害し、罪なき人々の命を奪っているロシアを強く非難してきた。どんな理由があろうとも、他国への侵略は認められない。
しかし、いま、「今回のウクライナ戦争の原因を作ったのは西側諸国、とりわけアメリカだ」と主張するアメリカ・シカゴ大の国際政治学者、ジョン・ミアシャイマー教授の発言が世界的に注目されている。
ミアシャイマー教授のYouTube再生回数は100万回以上
ロシアのウクライナへの軍事侵攻前後に、ミアシャイマー教授が出演したYouTubeの再生回数はともに100万回以上に達し、いわゆるバズっている状態だ。ロシアに理解を示す識者の言動は、同調圧力が強い日本ではほとんど見受けられない。
筆者が3月中旬にインタビューしたドイツ・ミュンヘン在住の30代のロシア人女性も「このシカゴ大教授の分析は私には客観的に見える」と述べ、視聴を勧めていた。現状を冷静に分析する「考えるヒント」として、ミアシャイマー教授の主張を紹介したい。そして、最後に筆者の反論も記したい。
なお、同教授は、米陸軍士官学校(ウエストポイント)を卒業後、将校として米空軍に5年間在籍した経歴を持つ。大国間の外交に重きを置くリアリズム(現実主義)の論客として知られる。
ミアシャイマー教授は2月15日に出演したYouTubeの冒頭部分で次のように断じている。
「アメリカやイギリスといった西側諸国で広く受け入れられている一般通念では、このウクライナ危機で責任があるのはプーチンであり、ロシアであるということだ。つまり、悪い輩と良い輩がいて、私たちが良い輩、ロシア人が悪い輩だということだ。しかし、これはまったく間違っている。アメリカとその同盟国、とりわけ、アメリカが責任を負っている」
そして、アメリカ主導の西側諸国が3つの柱からなる戦略でロシアをウクライナ軍事侵攻にまで追い込んだと非難している。では、その3つの柱とは何なのか。
   1 NATOの東方拡大
1つ目は、既によく指摘されているように、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大政策だ。
ミアシャイマー教授は、1991年のソ連崩壊後、弱体化したロシアが2度にわたって甘んじてNATOの東方拡大を受け入れてきたと指摘する。1度目は1999年の旧ソ連衛星国のポーランド、チェコ、ハンガリーのNATO入り。2度目は2004年のバルト3国やルーマニアなど7カ国のNATO加盟だ。
もともとこれらの国々は、西側のNATOに対抗し、ソ連を盟主とした東ヨーロッパ諸国が結成した軍事同盟のワルシャワ条約機構のメンバーだ。しかし、冷戦終結に伴い、1991年に東側のワルシャワ条約機構が解散した一方、西側のNATOは存続して拡大を続けてきた。冷戦後、唯一の超大国となったアメリカ、とりわけ民主党のビル・クリントン政権が1990年代後半にNATOの東方拡大を本格化させた。
政治学者でソ連史研究家の法政大名誉教授の下斗米伸夫氏は、著書『ソ連を崩壊させた男、エリツィン』(作品社)の中で、アメリカが「(1990年の)ドイツ統一後の同盟不拡大の東西合意を反故にした」と指摘している。
2008年4月、NATO首脳会議が引き金に
プーチン大統領はかねてNATOの東方拡大に強く反対してきた。ミアシャイマー教授は、このNATO東方拡大問題が2008年4月にルーマニアの首都ブカレストで開かれたNATO首脳会議で一気に爆発したと指摘する。この会議では、時のブッシュ・アメリカ大統領が旧ソ連のウクライナとジョージア(旧グルジア)のNATO加盟を提案。ウクライナとジョージアもNATO加盟を明確に表明した。
今から振り返れば、ドイツとフランスはとても冷静で、ロシアから無用な反発を買うことを恐れ、アメリカの提案に反対した。しかし、結局、ウクライナとジョージアの将来的なNATO加盟については合意に至った。
ミアシャイマー教授は「ロシアはこの時、明確にウクライナとジョージアのNATO入りはロシアの国の存亡に関わる脅威であり、受け入れられないと主張した」と指摘し、今回のウクライナ戦争の起源だと言い切っている。
ロシア軍は、そのNATO首脳会議から4カ月後の2008年8月にジョージアに軍事侵攻した。
2014年のロシア軍によるクリミア侵攻については、ミアシャイマー教授は「クリミア半島にはセバストポリという(黒海に面した)重要な海軍基地がある。ロシアがここをNATOの基地にさせることなど考えられない。これがロシアがクリミアを奪った主な理由だ」と指摘する。
そして、同教授は、1962年にアメリカの喉元にあるキューバにソ連の核ミサイルが配備され、ケネディ政権がそれを撤去させた「キューバ危機」を例に挙げた。
このアメリカの危機対応は諸外国による南北アメリカ大陸への干渉を拒否するアメリカの「モンロー主義」であるとし、ロシアも、それと同じように自らの「裏庭」に当たるウクライナを西側の対ロシア防波堤と化すことは決して認めない、と指摘した。
その指摘通り、2014年のロシアのクリミア半島への侵攻以来、ウクライナは新しい東西対立の最前線となってきた。ロシアにしてみれば、ポーランド、ルーマニア、バルト3国などに加え、ウクライナまでもがNATOに加われれば、NATOとの間の「緩衝地帯」を失うことになる。
   2 EU拡大
ロシアをウクライナ軍事侵攻にまで追い込んだ西側のストラテジーの2つ目の柱としてミアシャイマー教授が挙げたのが、欧州連合(EU)拡大だ。EUは経済的かつ政治的な連合体で、西欧型リベラル民主主義の基盤ともなっている。
そのEUに、ポーランドやチェコ、ハンガリー、バルト3国など10カ国が2004年に、ルーマニアとブルガリアの2カ国が2007年に、さらにクロアチアが2013年にそれぞれ加盟を果たした。
これらの国々に続き、西側がウクライナやジョージアもEUに加盟させようとしていた動きをミアシャイマー教授は指摘する。確かにEUはジョージアやウクライナなどロシアと距離を置く東欧諸国のさらなる加盟に向け、実務的な交渉を進めてきた。そして、ロシアによるウクライナ侵略を受け、ウクライナは2月28日に、ジョージアとモルドバは3月3日にそれぞれ加盟申請を相次いで行った。結果としてロシアを刺激してきたことは想像にかたくない。
ロシアを追い込んだ3つ目の柱
   3 カラー革命
ミアシャイマー教授によると、ロシアを追い込んだ西側のストラテジーの3つ目の柱は、カラー革命だ。
カラー革命とは、ユーゴスラヴィアやセルビア、グルジア、キルギスなど旧ソ連下の共産主義国家の国々で2000年以降、独裁体制の打倒を目指して起きた民主化運動のことだ。
ミアシャイマー教授は、ウクライナでは2014年2月中旬、アメリカの支援を受けて拡大したクーデターが勃発。親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が同月22日、デモ隊の動きを止められずに騒乱の中に解任され、親米派のリーダーが後釜に据えられた事実を指摘した。そして、ロシアはこれを容認せず「違法な政権転覆」と非難、同年3月1日のクリミア軍事侵攻につながったと同教授は述べている。
このウクライナの政変は、プーチン大統領が力を注いでいた2014年のソチ冬季オリンピック期間中に起き、プーチン氏としてもメンツをもろにつぶされる格好になった。
EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相)は、2月22日のパリでの理事会後の記者会見で、プーチン大統領がウクライナ東部の一部地域の独立を承認したことについて、次のように語った。
「(ロシアによる)国際法違反の日付は選ばれていた。決して偶然ではない。2月22日は(親露派の)ウクライナのヴィクトル・ヤヌコビッチ氏が国会で大統領の職を追われてから8周年となる日だった。そして、民主主義の勝利が続いた。プーチン大統領は、ウクライナの民主主義ごっこのプレータイムの終わりと言っている。つまり、プーチン大統領は明らかに意図的にこの日を選んで行った」
つまり、今回のウクライナ侵略は8年越しのプーチン大統領のリベンジだったとの指摘だ。
さらに忘れてはいけないことは、旧東欧諸国が次々と民主国家になり、その民主主義の「津波」がプーチン独裁政権の足元を徐々に揺るがしてきていることだ。今回のウクライナ戦争の背景には、民主主義対独裁体制の対立があることを忘れてはならないだろう。ウクライナは西欧リベラル民主主義と強権的な権威主義の対決の最前線にもなっている。
違和感を覚える点もある
ミアシャイマー教授の主張を聞き、筆者には違和感を覚える点もある。あまりにも大国間の権力政治(パワー・ポリティクス)を重視するあまり、ウクライナのような小国の主権や自国の行く道を選ぶ自主選択権を軽視しているように思えることだ。
ウクライナにしてみれば、チェチェン戦争やジョージア戦争でロシアの脅威を目の当たりにし、早期のNATO加盟入りを果たしたかっただろう。緩衝地帯うんぬんという議論は、大国が小国を容易に扱えるといった帝国主義的な発想とも受け取れる。
いずれにせよ、大国が力尽くで小国の主権を侵害することが許されるようになれば、欧州だけでなく東アジアをはじめとするあちこちで国際秩序が崩れかねない。21世紀のこの時代、大国間外交だけではなく、しっかりと小国の主権保護にも目を向けていきたいものだ。
●ウクライナ国民が直面する「コロナ感染の危機」〜犠牲は戦死より「戦病死」 4/3
ロシアが突如ウクライナに侵攻を開始して1カ月。ウクライナ側の予想以上の抵抗を受け、戦争は長期化の様相だ。
ところで渦中のウクライナでは、新型コロナはどうなっているのか――連日の報道の中で、医師として気になるのはその点だ。
テレビで現地の様子が映し出されても、マスクをしている人のほうが少ないくらいだ。だが、彼らにはもともと着ける習慣がない。この状況では、なおさらマスクどころではないのだろう。かといって、ロシアの侵攻でウイルスが退散するわけもない。
ウクライナの新型コロナ事情を少しだけ調べてみた。
更新が止まった新型コロナ感染者数
と言いながら、結論から言えば、これが実際さっぱりわからない。
これまで感染者数を公表してきた「ウクライナ国家安全保障防衛評議会」のサイトは、ロシアによる侵攻が始まった2月24日から、アクセスできなくなっている。その時点では、1日あたりの感染者は2万7000人超だった。
ジョンズホプキンス大学のデータベースによれば、侵攻直前のウクライナは新型コロナ第4波の中にあったものの、1日あたり感染者数は2月11日の約4万2000人をピークに減少傾向ではあった。
だが、3月初旬のウクライナの気候は最高気温が5℃前後、最低気温が氷点下で、まだ東京の真冬以上の厳しさだった。インフラ施設や医療機関も攻撃を受け、自宅にとどまっている人も避難した人も、体調管理が難しい状況にある人は少なくないだろう。
「そうは言っても、今はワクチンがある。治療薬もできてきた」という指摘があるかもしれない。
だが、同データベースによれば、ウクライナの接種率は2月24日時点で全人口の約35%。追加接種を受けたのはわずか1.7%だ。これまでに504万人が感染しており、これは全人口の約11%にあたる。
少なくとも過半数のウクライナ国民はワクチン未接種かつ未感染で、新型コロナへの免疫がないと推察される。
医療は逼迫している。
WHOの最新報告(3月24日付)によれば、約300の医療機関が戦闘地域の中にあり、600の医療機関が戦地から10km圏内にあるという。これまでに少なくとも64の医療施設が爆撃を受け、37人が負傷、15人が亡くなった。
そのため新型コロナの受け入れ可能病床は、2月24日と比べて27%減少した。街によっては8割減のところもある。
他方、ウクライナ全土の新型コロナ病床使用率は、83%も低下している。オミクロンが下火になってきたこともあるだろうが、医療へのアクセス困難や報告の断絶の影響と考えられている。
たとえ感染者が増加していても受診できず、把握できないということだ。首都キエフは薬の不足が深刻との報道もある。新型コロナどころか持病の治療や薬の入手もままならない。
クリミア戦争では「戦病死」のほうが多かった
私がこれほどまでにコロナ流行下での戦争を懸念するのは、一医師としての思いつきからではない。感染症と戦争は決して切り離せない悲劇的な歴史があるからだ。
今回のウクライナ危機勃発で、クリミア戦争を思い浮かべた人も多いことだろう。
ロシアによる侵攻の発端あるいは大義名分の1つともなっているのがクリミア半島だ。現在、国際的にはウクライナ領だが、2014年からロシアの実効支配下にある。
そのクリミア半島を舞台に19世紀半ば、英仏を中心とした同盟軍等とロシアが2年半にわたって大規模戦争を繰り広げた。
戦闘以上に悲惨だったのは、戦死者よりも病死者のほうが上回ったことだ。
予想外の長期化によって、英国兵舎の衛生状態が悪化し、感染症が蔓延した。当時、その惨状にいち早く気づき、医療に統計学を導入して状態改善に奔走したのが、「クリミアの天使」と称される看護師・ナイチンゲールだった。
関西学院大学・高畑由起夫元教授のブログによれば、クリミア戦争では「戦死者1.7万人に対して、戦病死者数が10万人を超えた」という。さらにその約5年後に起きたアメリカの南北戦争では、「戦死者20万人に対して、戦病死者数は56万人を超えた」としている。
また、人類史上最悪のパンデミックとされるスペイン風邪は1918年、ちょうど第1次世界大戦の真っただ中に発生した。
今日ではインフルエンザウイルスの一種(鳥インフル由来のH1N1亜型)と解明されているが、当時、世界で5億人超が感染し、1億人超が犠牲になったとされる。
第1次世界大戦の戦死者は少なくとも900万〜1000万人と言われるが、この中にも「戦病死者」が多く含まれている。若者に多くの犠牲者を出したことが特徴で、そのために兵士が足りずに大戦終結が早まったとも言われる。
感染症は、戦時下にあっても戦闘以上に命を奪い、戦争や世の中の行方まで大きく左右するのだ。
今回、ウクライナの人々は地下防空壕などに身を寄せて戦火を逃れている。首都キエフには冷戦時代に作られた地下防空壕が5000以上あり、なかには100m以上の深さに位置し2000人を収容するシェルターもあるという。
地下シェルターに籠もれば、砲撃から命を守ることはできそうだ。
だが、新型コロナでは、「換気」と「ソーシャルディスタンス」が感染予防のカギとなる。古い地下施設とあれば換気は最低限だろうし、人が集まれば「3密」となるところもあるだろう。
ウイルス伝播を助ける環境が整ってしまう。
加えて、衛生管理(さまざまな病原体の接触感染・経口感染の予防)に欠かせない上下水道や汚物処理の状況も気がかりだ。
WHOは3月17日付の報告で、ウクライナ国民の健康上の懸念を列挙している。
特にハイリスクとされているのが、新型コロナのほか、ロシア侵攻前からワクチン接種率の低下していた麻疹(はしか)と、結核やHIVなどいくつかの慢性感染症の蔓延。さらに医薬品の入手困難による、心筋梗塞などの心疾患や、ぜんそくなどの慢性呼吸器疾患の悪化。そして、メンタルヘルスの問題だ。
報道(JNN)によれば、ウクライナでは今、人々は基本的な医療も受けられていないという。「妊婦は産前も産後も医師に診てもらえない。持病のある人は薬が手に入らない。そして子どもは予防接種も受けられない状況です」とWHOの広報担当者が訴えていた。
今回初めて知ったが、ウクライナの子どもたちはもともと東欧諸国と比べてもワクチン接種率が低い。多くの国で97%以上の接種率を達成しているBCG(結核)やDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合)、ポリオ、B型肝炎などで、ウクライナの接種率は8割程度にとどまっている(WHO報告3月17日付)。
WHOも懸念する「避難民」の健康
いずれの健康問題も、戦禍を逃れただけで解決するわけではない。周辺諸国に逃れた避難民の多くも、やはり「3密」を避けられず、医療を満足に受けられない状況にある。
再びWHO報告(3月24日付)を確認すると、ウクライナの人口約4400万人のうち、すでに300万人近くが国外へ脱出した。18〜60歳の男性は出国が禁止されたため、そのほとんどが女性と子どもで、子どもだけで100万人に上る。
これまでに最多185万人を受け入れているポーランドのWHO担当責任者からは、避難民施設で発熱、下痢、低体温症、上気道感染症や心不全が報告されている(CNN)。発熱や上気道感染症には、かなりの割合で新型コロナが含まれるはずだ。
戦争が長引くほど、身体の健康のみでなくメンタルヘルス上の懸念も高まる。
ポーランドに逃れたウクライナの避難民のうち、約50万人がメンタルヘルスの手当てを必要とし、推定3万人は深刻な状態だという(ロイター)。
わが国でいわゆる「避難民」を経験した人は、太平洋戦争の引揚者など後期高齢世代のごく一部だろう。しかし、日本は震災や津波の「被災者」の多い国だ。経緯こそ大きく違えど、避難民と似たような境遇に置かれた方々も少なくないことと思う。
避難所生活は、プライバシーもなく、衛生管理も難しい状況だ。仮設住宅に入れても、家族を失い、職を失い、生活のすべてを失った方々の悲しみと苦労は、察するに余りある。
また、東日本大震災から11年が経過したが、今も福島第一原発周辺には、放射線量が高くて住民が戻れないままの帰還困難区域が残っている。当時、着の身着のまま避難し、その日から大きく人生が変わってしまった人たちが何千、何万人といる、ということだ。
同様にウクライナ住民も避難民も、またその受け入れ国の人々も、終わりの見えない戦争の中で、身体も心もストレスにさらされ続けている。
ワクチンを打てる「当たり前の日常」の尊さ
ロシアが侵攻し、戦争状態に陥った経緯には、当事者にしかわからない政治的背景や根深い民族問題等があるのだろう。情報も錯綜し、素人が外から安易にもの言うことはできない。
だが、戦争とは要するに大量殺戮だ。人命と健康、そして日々の生活、人生そのものを奪う。直接的に人々が殺傷されるだけでなく、感染症の広がりや医療の停止で身体が蝕まれ、緊張と不安、絶望の中で心もすり減っていく。
侵攻側のロシア兵の多くも、本意ではない戦争に参加し、劣悪な環境に苦しみながら次々と銃弾に倒れているという(有色系の少数民族が3〜5割との指摘もある)。
人々の命と健康を守ることを使命とする医師として、そのような事態には憤りと悲しみがこみ上げる。ウクライナや避難民の受け入れ国へ、医療物資の提供など日本にできる人道的立場からの医療支援の強化を支持したい。
一方で、ウクライナの子どもたちの各種ワクチン接種率の低さには、正直ショックを覚えた。日本の子どもたちは、ワクチンの接種体制には恵まれている。
遅れていたHPVワクチン接種も、ようやく9価ワクチンを定期接種化する方針が厚生労働省の専門家部会(3月4日 第18回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会)で了承され、欧米先進国に追いつこうという姿勢は見えてきた。
麻疹などコロナで影を潜めていた感染症の再燃は、日本も他人事ではない。どうか日本の子どもたちには、ワクチンの恩恵をもれなく享受してほしい。平和の中にいられるからこそワクチンも打てる、そんな当たり前の日常の尊さを思い、大切にしてもらえたらと思う。
●ロシア、キーウ近郊の空港から撤退…ウクライナ軍前進 4/3
ロシアによるウクライナ侵攻で、米CNNは1日、露軍が首都キーウ(キエフ)近郊のアントノフ国際空港から撤退したと報じた。英国防省の2日の発表によると、キーウ周辺では露軍の撤退に伴い、ウクライナ軍が前進を続けている。一方、露軍は、軍事作戦の重心を移すと表明した東部や南部で支配地域の拡大に向け、ミサイルなどでの攻撃を強めている。
アントノフ国際空港は、2月24日の侵攻開始直後から露軍が制圧していた。CNNは、米宇宙企業が3月31日に撮影した衛星写真と米国防総省関係者の分析を基に、空港に駐留していた露軍の軍用車両などが姿を消したと報じた。
ウクライナ軍参謀本部は1日、キーウ周辺などの約30か所の地区が、露軍の撤退を受けてウクライナ側の管理下に戻ったと発表した。空港の南にあるブチャの市長は1日、「市が露軍から解放された」と明らかにした。
一方、東部では露軍の攻勢が強まっている。ウクライナ軍は1日、東部ハルキウ(ハリコフ)州で輸送の拠点となっているイジュームを露軍が占領したと認めた。露国防省は、東部の複数の軍用飛行場をミサイルで攻撃したと発表した。
南部オデーサ(オデッサ)では1日、ロシアが併合したクリミアから発射されたミサイルが着弾し、死傷者が出ているという。
ウクライナ軍は2日、隣国モルドバのウクライナとの国境沿いでロシア系住民らが一方的に独立を宣言している「沿ドニエストル共和国」で、駐留する露軍部隊がウクライナへの攻撃を準備していると指摘した。
一方、露軍が包囲する南東部マリウポリでは、赤十字国際委員会(ICRC)が住民の退避の支援に向け、2日も引き続き現地入りを試みている。ウクライナ大統領府の高官によると、1日にはマリウポリから独自に住民約3000人が退避したが、約10万人がいまだに取り残されているとされる。
また、露南西部ベルゴロド州の燃料貯蔵施設がウクライナ軍のヘリコプター2機により空爆されたと露国防省が発表したことについて、ウクライナの国家安全保障国防会議のトップは1日、「事実と全く異なる」と露側の主張を否定した。
●プーチンの大誤算、中国に引き込まれた「進むも地獄、引くも地獄」の戦争 4/3
「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、国民に支持されていない。ロシア軍がウクライナに入れば、大歓迎で迎えられる。ゼレンスキー大統領を失脚させて、新しい親ロの大統領をウクライナ国民が自ら選ぶ。『力による現状変更』ではない。ロシアに対する経済制裁は国際社会の支持を得られない」。だが、プーチン大統領の楽観的な思惑は外れた
ウクライナが抵抗できている理由は何か。またロシアが撤退しても、さらなる脅威が生まれる可能性がある。
ロシアの当初の見立ては大誤算
ロシアのメディア・RIAノーボスチが、「ウクライナはロシアの手に戻った」「ロシア、ベラルーシ、ウクライナの3つの州が地政学的に単一の存在として行動している」「我々の目の前に新たな世界が生まれた」と、ロシアの「勝利宣言」を誤送信する「事件」が起きた。
プーチン大統領の軍事侵攻の目的がわかる内容だった。しかし、たとえ、苦心惨憺の果てにウクライナを制圧しても、ロシアの目指す「新たな世界」など絶対に出現しない。
要するに、東西冷戦終結後の約30年間で、旧ソ連の影響圏は、東ドイツからウクライナ・ベラルーシのラインまで後退した。だから、たとえ、ウクライナを制圧しても、それはリング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたボクサーが、やぶれかぶれで出したパンチが当たったようなものなのだ。
ロシアは、「進むも地獄、引くも地獄」という状況に陥っているのではないか。まず、緒戦の電撃的な攻撃でウクライナが降伏しなかったことが誤算だった。
ウクライナが徹底抗戦できたのは、ウクライナで自由民主主義が着実に根付いてきていたからだ。
ウクライナでの自由民主主義の浸透の成果
2014年のロシアによるクリミア半島併合後、ウクライナでは汚職防止や銀行セクター、公共調達、医療、警察などの制度改革が実施されてきた。そして、民主的な選挙が実施され、政権交代で3人の大統領が誕生した。
政権交代が頻繁にあり、ゼレンスキー大統領の支持率は約30%という状況をプーチン大統領は、ウクライナの政情が不安定と捉えていた。ロシアのような権威主義の国ならば、指導者への支持率は80%を超えたりする。ゼレンスキー大統領の権力基盤は脆弱だと判断した。
だが、言論、報道、学問、思想信条の自由がある自由民主主義では、国民の考えは多様だ。野党が存在し、指導者への対立候補が多数存在するものだ。指導者の支持率が約30%というのは、低いわけではない。むしろ、ウクライナでの自由民主主義の浸透を示すものだ。自由民主主義を一度知った人々は、それを抑えようとするものに決して屈しない。
それが、自ら銃を取って民兵となったウクライナ国民だ。
ロシア軍は約90万人(旧ソ連時代の5分の1の規模)で、ウクライナに展開しているのは15万〜20万人だとされる。一方、キエフは人口約250万人の都市だ。徴兵制で、成人男性は皆、銃を扱える。彼らが民兵になれば、ロシア軍の数的不利は明らかだ。キエフの制圧は相当に困難だ。地上戦ではロシア軍は大苦戦し、士気が落ちているという。
プーチン大統領の最大の誤算がここにある。
「進むも地獄、引くも地獄」の苦境とは?
ロシアが置かれた「進むも地獄、引くも地獄」の苦境とはどのようなものか。まずは「進むも地獄」だ。
国連総会は、緊急特別会合を開催し「ロシア軍の即時・無条件の撤退」「核戦力の準備態勢強化への非難」などを盛り込んだ決議を、193カ国の構成国のうち141カ国の支持で採択した。2014年のクリミア併合時の決議への賛成は100カ国で、ロシアを批判する国の数は大幅に増加したということだ。
国際社会は、ロシアの主張をまったく信用しなくなった。例えば、ウクライナ南東部のザポロジエ原発で、火災が発生し、「ロシア軍が砲撃した」と批判された。それに対し、ロシアは「“ネオナチ”や“テロリスト”が挑発行為をしようとしてきた」などと主張している。何が真実はわからないが、国際社会はロシアが原発を攻撃したと決めつけた。さまざまな情報が飛び交う中、世界はウクライナを信じる。情報戦で、ロシアは完全に敗北しているのだ。
このまま、ロシア軍が地上戦の膠着した状況を打開するために、さらに地上軍を投入し、核兵器を使用したとする。ロシアの国際社会からの孤立は決定的になる「自殺行為」だろう。
さらに、国際貿易における資金送金の標準的な手段となっているSWIFTからロシアを排除する制裁措置が決定された。次第に絶大な効果を発揮することになるだろう。
石油・ガスパイプラインが「武器」にならないという誤算
SWIFTからのロシア排除の決定は、ロシアが石油・ガスパイプラインを国際政治の交渉手段として使えなかったことを示す(ダイヤモンド・オンラインでの本連載 第52回)。排除が実施されれば、ロシア経済の大部分を占める石油・天然ガスのパイプラインでの輸出の取引が停止し、ロシアは国家収入の大部分を失う。
取引相手である欧州は、コスト高に直面はするが、LNGを米国、中東、東南アジアからかき集められる。ジョー・バイデン米大統領とウルズラ・ファンデアライエン欧州委員長が、EUが約4割をロシアに依存する天然ガスについて、欧州への安定供給維持のために連携する方針を表明する内容の共同声明を出した。
また、バイデン大統領は、液化天然ガス(LNG)の有力産出国であるカタールを、北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国である「非NATO同盟国」に指名する考えを表明した。カタールに対して、欧州へのガス供給量の引き上げを期待している。
さらに、欧米のオイル・メジャーが次々とロシアの石油・ガス事業から撤退している。英BPは、19.75%保有するロシア石油大手ロスネフチの株式を売却し、ロシア国内での合弁事業も全て解消して撤退することを決定した。米エクソンモービルも、ロシア・サハリンでの石油・天然開発事業「サハリン1」から撤退、英シェルが「サハリン2」から撤退を表明した(ダイヤモンド・オンラインでの本連載 第90回)。シェルは、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」、シベリア西部の油田開発などからも撤退する。
ロシアの石油・天然ガス開発は、歴史的に欧米のオイル・メジャーに依存してきた。メジャーが持つ掘削・採取・精製の各段階の技術、外国市場での販売ネットワークや資金力なしでは、ロシアの石油産業は成り立たなかったからだ。
メジャーの撤退は、ロシアの石油・天然ガス事業の存亡に関わる事態となり得る。そして、ロシア経済そのものの崩壊につながりかねない。
ウクライナ軍事侵攻により、周辺国でも一挙に「ロシア離れ」
ロシアは、「NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約」を米国やNATOに要求してきた。だが、ロシアの軍事侵攻は、NATOの東方拡大を加速させている。
ウクライナがEUへの加盟申請書に署名した。また、ウクライナ東部の親ロ派支配地域と同じように、一方的に「独立」を宣言された地域を国内に抱えている旧ソ連構成国のモルドバとジョージアもEUへの加盟申請書に署名した。
この動きは、NATOの拡大につながる可能性がある。すでに、ウクライナとジョージアは、NATOが加盟希望国と認めている。モルドバはNATOの「平和のためのパートナーシッププログラム」に参加しているのだ。
また、NATO非加盟国のスウェーデンとフィンランドの世論調査で、NATOへの加盟の支持が初めて半数を超えた。ロシアのウクライナ軍事侵攻によって、欧州のNATO非加盟国のあいだで、一挙に「ロシア離れ」が加速したといえる。
さらに、ロシアの軍事行動がエスカレートすれば、ロシアを経済的に支援しているとされる中国、中立を保つインドなども、ロシアを見捨てざるを得なくなるかもしれない。
中国共産党が、プーチン大統領を戦争に引き込んだと言う見方も
「引くも地獄」だが、プーチン大統領がロシア軍のウクライナからの撤退を決めれば、プーチン政権は崩壊の危機に陥る。大統領がアピールしてきた「大国ロシア」が幻想であることを国民が知ってしまう(ダイヤモンド・オンラインでの本連載 第142回)。大統領への支持は地に落ち、政権は「死に体」となる。大統領の失脚や暗殺を企てるクーデターも起こり得る。
紛争終結後にプーチン大統領が失脚する「ポスト・プーチン」がどうなるかを、今から考えておく必要があるのかもしれない。
気になる動きがいくつかある。ウクライナ紛争のきっかけとなった「ウクライナ東部独立承認」をロシア議会に提案したのが野党「ロシア共産党」だったことだ。ロシア共産党は中国共産党の強い影響下にあると指摘されている。中国共産党が、プーチン大統領を「進むも地獄、引くも地獄」の戦争に引き込んだという見方はあり得る。
また、ウクライナがロシアとの仲裁を中国に依頼したことも興味深い。ロシアと中国は親密な関係だが、ウクライナも「一帯一路」を通じて中国と深い関係がある。
中国は、ウクライナ紛争に静観を装っている、だが、すでにプーチン大統領を見限っており、「ポスト・プーチン」をにらんで紛争の仲裁に入り始めたら、自由民主主義陣営にとって深刻な事態となるかもしれない。
一方、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、仲裁役に名乗りを上げた。トルコはNATO加盟国で欧米の代理人といえる。だが、大統領は、権威主義的な国家運営で知られ、ロシアとも良好な関係である。自由民主主義か権威主義か、どちらに顔を向けて仲裁するのかわからない。
ウクライナ紛争は、ウクライナ国民の自由民主主義を守ろうとする行動によって、ロシアを「引くも地獄、進むも地獄」に追い込んだ。しかし、歴史を振り返れば「アラブの春」など、権威主義の指導者を失脚させた後、自由民主主義がもたらされず、混乱の中、よりひどい指導者が出現したことがあった。
「ポスト・プーチン」のロシアに、中国共産党の支援を受けた、プーチン大統領以上に権威主義的な指導者が出現するリスクがあるのかもしれない。米国とNATO、日本など自由民主主義陣営は、これに対抗する想定ができているのだろうか。 
●ウクライナ奪還の街で「280人埋葬、全員が後頭部撃たれた」…ロシア軍 4/3
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は2日、自国への侵攻を続けるロシア軍から、首都キーウ(キエフ)があるキーウ州全域を奪還したと明らかにした。AFP通信などによると、解放されたキーウ近郊ブチャでは、民間人とみられる多数の遺体が確認された。露軍は首都周辺から撤退する一方、東部や南部の制圧を目標として攻撃を強めている。
マリャル氏は自身のSNSで、キーウ北西に位置するブチャ、イルピン、ホストメリの地名を挙げ、「侵略者から解放した」と表明した。
2日、ウクライナの首都キーウ近郊で、ロシア軍との戦闘で破壊された街の警戒にあたるウクライナ軍の兵士ら=AP2日、ウクライナの首都キーウ近郊で、ロシア軍との戦闘で破壊された街の警戒にあたるウクライナ軍の兵士ら=AP
人口約4万人のブチャは露軍が猛攻をかけた後、約1か月間、占拠されていた。ブチャの市長はAFPの取材に、「街中に遺体が散乱している。少なくとも約280人を集団墓地に埋葬した。女性や子どもも含まれ、全員が後頭部を撃たれていた」と述べた。
遺体の多くは、武器を持っていないことを示す白い布を身に着けていたという。現地入りした英BBCも、路上などで約20人の遺体を確認した。後ろ手に縛られた複数の遺体の映像も報じた。
戦闘員ではない民間人の殺害は、「人道に対する罪」に該当する。露軍の地上部隊が、制圧した地域で戦争犯罪を繰り返していた可能性が浮上した。
露国防省は3日、公式SNSで、ブチャに関する報道について「偽情報だ」と主張し、関与を否定した。
露軍部隊がキーウ州から撤退したことに関し、米政策研究機関「戦争研究所」は、「キーウなど主要都市を攻略する当初作戦が失敗し、修正した結果だ」と分析した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2日のビデオメッセージで、ロシアが東部のドネツク、ルハンスク(ルガンスク)両州全域と南部の「占拠」を目指していると指摘し、「防衛のため、あらゆることをしよう」と抗戦を呼びかけた。 ・・・
●ロシア軍の民間人虐殺非難 「戦争犯罪」問う姿勢―欧州 4/3
ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外ブチャで民間人とみられる多くの遺体が見つかったことに関し、欧州主要国は3日、ロシアを一斉に非難した。民間人虐殺は「戦争犯罪」と断じ、捜査に協力する姿勢も示した。
欧州連合(EU)のミシェル大統領はツイッターで「ブチャの虐殺」と断定。「ロシア軍の残虐行為の映像に衝撃を受けた。国際法廷での追及に必要な証拠収集で、ウクライナやNGOを支援する」と強調した。さらなる対ロ制裁に踏み切ることも明らかにした。
トラス英外相は声明で「侵略軍による恐ろしい行為の証拠が、次々と明らかになっている」と指摘。「罪のない民間人に対するロシアの無差別攻撃は、戦争犯罪として捜査されなければならない」と表明した。
ドイツのベーアボック外相も「ブチャからの映像は見るに堪えない。これらの戦争犯罪の責任を問わなければならない」と述べた。
●ウクライナの路上に残される数々の遺体、ロシア後退後の首都郊外ブチャで 4/3
ロシア軍が軍事侵攻を続けるウクライナの首都キーウ(ロシア語でキエフ)から北西近郊にあるブチャで1日、ロシア軍が後退した後の路上に、複数の遺体が残されていることが明らかになった。市内にはロシア軍に殺害された約280人を埋葬した集団埋葬地もあるという。
ロシア軍後退後のブチャに入ったAFP通信記者は、路上で少なくとも20人の遺体を発見したという。そのうち少なくとも1人の男性は、両手を後ろに縛られていた。
キーウから約24キロ北西のブチャに入ったロイター通信のカメラマンも、路上に点在する複数の遺体や大破した車両、砲撃で大きな穴の開いた集合住宅などの様子を撮影している。
ウクライナ軍は数日前にブチャを奪還。現地の映像からは、激しい破壊の様子が見て取れる。
ブチャとは別に、BBCのジェレミー・ボウエン中東編集長と取材チームはキーウ西郊の高速道路で、ロシア軍に殺害されたとみられる13人の遺体を発見。そのうち2人はかつて殺害の様子がドローン映像に捉えられていた民間人の夫妻で、他の犠牲者の一部はウクライナ兵だった可能性がある。
2月24日に始まったロシアの軍事侵攻に、ウクライナ軍は徹底抗戦を続けている。ウクライナから少なくとも400万人が避難する中、西側はロシアに厳しい経済制裁を科し、軍事援助も供与している。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、かつてソヴィエト連邦の一部だったウクライナが北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)加盟を目指しているのは、ロシアにとって常態的な脅威で、そのためロシアは「安全を実感しながら発展も存在もできない」と、ウクライナ攻撃を正当化している。
ロシア軍は軍事侵攻開始から首都キーウに迫り、近郊を制圧していた。しかし3月末になるとロシア軍はキーウ近郊から後退を開始。一部のウクライナ当局者は2日までに、首都周辺の全域をウクライナ軍が奪還したと述べている。
ロシア軍が後にしたブチャで、AFP通信の記者が目視した20人の遺体のうち16人は、歩道や緑地のそばに倒れていた。3人は通りの真ん中に横たわり、1人は破壊された民家の中庭で横向きに倒れていた。
白い布で両手を後ろ手に縛られ倒れていた人の隣には、ウクライナのパスポートが開いて地面に置かれていた。
ほかに2人が上腕部に白い布を縛り付けられていた。
ウクライナ当局はAFP通信に対して、死亡した男性たちはロシア軍の砲撃かロシア兵の射撃で死亡した可能性があるとして、警察が捜査すると話した。
一方、ブチャのアナトリー・フェドルク町長はAFP通信の電話取材に対して、発見された20人の遺体はすべて後頭部を銃で撃たれていたと話した。さらに、砲撃で破壊された複数の車両の中にも、複数の遺体が残されているという。
ロシアの軍事侵攻の結果、ブチャの町は280人を集団埋葬したと、町長は話した。
●ウクライナ国防次官「キーウ州全域をロシア軍から奪還」  4/3
軍事侵攻を続けるロシア軍がウクライナ東部での作戦を強化する中、ウクライナの国防次官は2日、首都を含むキーウ州、ロシア語でキエフ州の全域をロシア軍から奪還したと明らかにしました。停戦に向けた交渉が進められていますが、ロシア側は交渉は容易ではないとしていて、双方の間には依然、隔たりが見られます。
ウクライナのマリャル国防次官は2日、自身のフェイスブックに「キーウ州全域が侵略者から解放された」と投稿し、首都キーウのほか、近郊のイルピン、ブチャ、ホストメリを含むキーウ州全域を、ロシア軍から奪還したと明らかにしました。
ウクライナ政府も30を超える町や村を奪還したとしていて、ゼレンスキー大統領は2日の声明で、北部に展開していたロシア軍は少しずつ撤退していると明らかにしました。
ただ、ゼレンスキー大統領は「ロシア軍は地雷をあらゆる場所に埋めている」として、避難している住民に対し、安全が確認されるまでは戻らないよう呼びかけています。
一方、ロシア軍はウクライナ東部での作戦を強化していて、ロシア国防省は2日、ハルキウ州とドニプロペトロウシク州にある鉄道の駅の付近をミサイルで攻撃し、ウクライナ軍の装甲車や燃料タンクなどを破壊したと発表しました。
ロシア国営のタス通信によりますと、ロシア大統領府のペスコフ報道官は2日「軍事作戦の目的が一刻も早く達成され、敵対行為が停止されることを望む」と述べ、東部地域の解放を理由に戦闘を続けると改めて強調しました。
また、ロシア軍が包囲し、深刻な人道危機が起きている東部の要衝マリウポリからの住民の避難について、ロイター通信は2日、ウクライナのベレシチュク副首相の話として4217人が戦闘地域から避難したと伝えました。
ただ、いまだに10万人以上が取り残されているとみられ、水や電気の供給が止まり医薬品なども届かない中、さらに住民を避難させられるかが大きな課題となっています。
停戦に向けた交渉が進められる中、ウクライナ側の交渉団のメンバーは2日「両国の大統領による直接交渉に向けた十分な進展がある」と明らかにしましたが、ロイター通信によりますと、ロシア大統領府のペスコフ報道官は2日、交渉は継続するものの「ウクライナ側は私たちに対して敵対的だ」と述べ、交渉は容易ではないとしていて、双方の間には依然、隔たりが見られます。
首都近郊からのロシア軍の撤退にともない、激しい戦闘が伝えられた地域の被害の実態が明らかになっています。
ロイター通信が、首都キーウの北西にあるブチャの様子を2日に撮影した映像では、多くの建物が焼けて倒壊し、軍用車両が放置されているのが確認できます。
住民の男性は「2週間地下室にいたが、光がなく、暖まるための暖房もなかった」と話していました。
また、ブチャの市長は、ロイター通信の取材に対し、300人以上の住民が殺害されたと明らかにしたうえで「犠牲者の遺体は、まだ路上に多く残されている。手を縛られ、頭を撃たれた人もいる。この地域でいかに違法なことが行われていたのか想像できる」と話しています。
●ウクライナ“キーウ州全域奪還” ロシア 来月勝利宣言意向か  4/3
ウクライナ政府は、首都を含むキーウ州の全域をロシア軍から奪還したと強調するなど、ウクライナ側は、反撃を強めているとみられます。一方、ロシアのプーチン大統領は、戦略を見直してウクライナ東部の掌握を成果とすることで、来月上旬にも国民向けに「勝利した」とアピールしたい意向とも伝えられ、東部での戦闘がいっそう激しくなるとみられています。
ロシア国防省は3日、ウクライナ南部の黒海に面する港湾都市、オデーサ、ロシア語でオデッサ近郊の製油所や燃料施設をミサイルで破壊したと発表するなど、東部や南部を中心にミサイルや空爆での攻撃を続けています。
一方、首都キーウ・ロシア語でキエフの周辺地域について、ウクライナのマリャル国防次官は2日、自身のフェイスブックでキーウ州全域をロシア軍から奪還したと強調しました。
こうした中、アメリカのCNNテレビは3日までに、複数のアメリカ政府当局者の話として、ロシア軍が苦戦を強いられる中、プーチン大統領はロシア国内向けに「勝利した」とアピールする必要性に迫られ、戦略を見直して東部の掌握を成果とすることに焦点を当てているとみられると伝えました。
その時期は、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した来月9日の「戦勝記念日」が考えられ、例年、首都モスクワで軍事パレードを開くなど、愛国心を高める重要な行事であることから、この場で「勝利宣言」を行いたい意向とみられるということです。
ウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記も今月1日、プーチン大統領の思惑について同じような認識を示していますが、いったん国民向けに成果をアピールするだけで、実際には戦闘は長期化するという見方も出ています。
一方、停戦交渉について、ロシア代表団トップ、メジンスキー大統領補佐官は3日、交渉が4日も継続すると明らかにしましたが、「合意文書の草案の作成は大きく遅れている」とするなど双方の主張の隔たりは依然埋まっていないという認識を示しています。
ロシアとしては、東部でどこまで戦況を有利に進められるか注視しながら、交渉にどのように臨むのか見極めるものとみられます。
●「ロシア苦戦のかげに“SNS戦争”」衛星も駆使…ウクライナ軍のネット戦略 4/3
ロシアによるウクライナ侵攻から1か月以上。ロシア軍に予想外の苦戦を強いているのは、市民が投稿したSNSでした。衛星インターネットをも駆使する“新しい情報戦”とは?
政府の統制を受けていないとされる「テレグラム」に情報が集まる
ロシア軍を苦戦に追い込んでいる要因の1つが、ウクライナ側の「SNSレジスタンス」です。
ロシアで開発され、政府の統制を受けていないとされる、通信アプリ「テレグラム」。ウクライナ政府は、このアプリに、侵攻の直後から、「ロシアの戦争を止(と)めろ」という専用の窓口を設けました。
すると、自分の住む地域で、ロシア軍を目撃したウクライナ国民などが、敵の位置情報などを、次々と投稿し、一気に情報が集まったのです。
実際に、ウクライナ政府は破壊されたロシア軍の車両の画像をツイッターに投稿。市民らの情報を元に、反撃に成功したと言うのです。
ウクライナの呼びかけにイーロン・マスク氏がすぐに応じて…
インターネットを使ったウクライナの反撃は他にもあります。
偵察用ドローンに搭載された赤外線カメラが、ロシア兵の様子を捉えていました。白い点のようにカメラに写るロシア兵。戦場は本来、通信環境が不安定で、情報の共有が難しい場所ですが、ウクライナ軍は、偵察部隊がドローンで集めた情報を、攻撃部隊と素早く共有し、戦果を挙げていると言います。
それを可能にしているのが、アメリカの実業家イーロン・マスク氏の「スペースX社」が手掛ける「スターリンク」という衛星インターネットサービスです。
2000基を超える衛星を使って通信を行う「スターリンク」。衛星が見える範囲なら地球上どこでも、通信が可能になると言います。
また、この衛星は、高度550キロの低軌道上にありますが、攻撃することは容易ではなく、ロシア軍も手が出せないのです。
ウクライナ側がこれを使えるきっかけが、ネット上での、この呼びかけでした。
「ウクライナに、スターリンクを提供してください」とツイッターに投稿したのは、31歳の若さでウクライナのデジタル転換大臣を務める、ミハイロ・フェドロフ氏。この呼びかけに、イーロン・マスク氏がすぐさま応じ、わずか10時間後には、ウクライナは強固なインターネット環境を手に入れたのです。
「戦争の事実が明らかになっている」
一方で、世界の市民の間でも、こんな動きがあります。
3月24日に撮影された、マリウポリにある赤十字国際委員会の倉庫を見ると、攻撃で屋根に穴があいているのが見えます。さらに4日後の画像では、穴が増えているのがわかります。ロシア側は未だに「攻撃対象は軍用の施設」としていますが、画像を見る限り、被害は広がっています。
実は、この画像を公開したのは、アメリカの衛星運用会社「マクサー・テクノロジーズ」という民間企業で、こうした衛星画像を無償で公開しています。
多くの子供が犠牲になったマリウポリの劇場が空爆された際も、画像を公開。劇場の周辺には、ロシア語で「子供たち」という文字が書かれています。
このように、画像を分析できれば、一般の人でも、戦争の被害を検証することが可能になるのです。
東京大学の渡邉英徳教授は「インターネット上で、技術が掛け合わされることで、新しい手法が生まれ、戦争の事実が明らかになっている」と言います。
“新たな情報戦”のもと、ロシア軍は予想以上の苦戦を強いられています。
●ウクライナ支援が「参戦」にはならないワケ 「戦争」「中立」という概念の変遷 4/3
続々集まるウクライナへの支援
2022年2月24日に突如、開始されたロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対して、世界各国は強い関心を示し続けています。とくに、各国によるウクライナに対する各種支援については、日本でも連日報道されているところです。
たとえば、アメリカが提供した「ジャベリン」をはじめ、イギリスの「NLAW(次世代軽対戦車兵器)」やドイツの「パンツァーファウスト3」といった対戦車兵器は、ウクライナへ侵攻してきたロシア軍の戦車や装甲車に対して大きな損害を与えています。また、アメリカをはじめ複数国が提供している携帯型地対空ミサイルの「スティンガー」は、ロシア軍のヘリコプターにとって大きな脅威となっています。
さらに3月4日には、日本政府も国家安全保障会議(NSC)を開き、防弾チョッキやヘルメットなどをウクライナへ提供することを決定しました。その後、3月8日に愛知県の航空自衛隊小牧基地からKC-767空中給油・輸送機が支援物資を搭載してウクライナの隣国ポーランドへと飛び立ち、以降、日本からの支援物資もウクライナへ順次到着しています。
ところで、こうしたウクライナへの支援を実施することに関して、国際法的にはどう評価されるのでしょうか。関連し得るキーワードとなるのは「中立法」です。
中立法とは?
そもそも「中立」は、戦争を行うことがまだ違法とされていなかった19世紀以降に発展してきた概念です。戦争に参加している国同士を「交戦国」とする一方、それ以外の国々は自動的に「中立国」に分類され、自国に対して戦争の影響が及ぶことを免れ得る一方で、中立国にはさまざまな義務が課されました。そして、こうした交戦国と中立国との関係を規定したのが先述した中立法です。
中立国に課される義務としては、交戦国の軍隊が自国の領域を使用することを防ぐ「防止義務」、交戦国に対する一切の軍事的援助などを慎む「避止(ひし)義務」(これらを合わせて「公平義務」ともいいます)、そして交戦国が自国に対して合法な形で害を与えたとしてもそれを容認する「黙認義務」の3つが挙げられます。
ウクライナへの支援はどう評価される?
ウクライナへの支援という観点では、上記の義務のなかでも避止義務との関係が注目されるところですが、実のところ、とくに第2次世界大戦以降は、中立義務のなかでも避止義務や防止義務は必ずしも厳格に順守されてきたわけではありません。これは第1次世界大戦以降、進展した戦争違法化との関係で、戦争をしている国々に関して「違法に武力を行使している国」と「合法的に武力を行使している国」という区別が可能となったことが影響していると考えられています。
もともと、中立法が発展してきた19世紀当時は戦争に訴えることが原則的に禁止されていたわけではなく、そのため戦争に参加している国々の間に合法な側と違法な側という区別はありませんでした。だからこそ、交戦国双方を公平に扱うことを基盤とする中立法が発展したのです。
ところが、2度の世界大戦を経験し、現在の国際法では戦争を含めた一切の武力行使が原則禁止され、例外的に自衛権の行使などが合法な武力行使として認められています。そのため、武力行使に関して違法な側と合法な側という区別が可能となり、これまでのように交戦国双方を公平に扱うことは不合理とされるようになったとともに、合法に武力を行使していると考えられる国を支援する動きが見られるようになりました。
そこで、現在では自国が中立国になるかどうかはその国の任意であり、自国が武力紛争に巻き込まれることを避けるために中立の立場を選択することも可能な一方で、交戦国の片方に軍事的な支援を行いつつも、武力紛争に直接参加するわけではない「非交戦国」なる立場があり得るという主張もなされています。
非交戦国という概念は、古くは第2次世界大戦参戦前のアメリカがイギリスに対して武器などを支援していた事例を契機に盛んに議論されるようになりましたが、現在でも学説上の議論が続いています。
中立法に関する日本の立場
一方で、日本政府はこうした中立法に関して、現在の国際法の下ではもはや伝統的な中立という概念は維持され得ないと整理しています。たとえば、ベトナム戦争に際してアメリカ軍が日本の基地を使用していたことに関連して、日本政府はアメリカの行動を合法な自衛権の行使と整理した上で、そのような合法な措置をとっている国に対して基地の提供を通じた支援を実施することは問題ないという整理を行っています。
また、今回のウクライナへの支援に関しても、日本政府は国内上の制約である「防衛装備移転三原則」などの観点での整理は行っていますが、国際法上の説明はとくになされていません。つまり、日本政府としては、今回のウクライナへの支援については国際法上、問題にはならないと整理していると考えられます。
このように、今回のウクライナのように「合法な武力の行使を行っている国に対して支援を行うことは国際法上、問題とはならない」という整理については、ある程度、国際的な理解が深まりつつあるといえるかもしれません。しかし、どちらが合法に武力を行使しているのかという問題は、通常は必ずしもはっきりと判断できるものではありません。
今回のウクライナへの各国の支援は、ロシアの軍事侵攻に対して国際社会全体がほぼ一致してその違法性を明確に認識したからこそ、可能になったという側面もあるのかもしれません。
●なぜ中東で食糧危機?ウクライナ侵攻影響  4/3
近所のパン屋が値上げした。そんな変化が身近なところで見られるようになっていませんか。ロシアによるウクライナ侵攻で、小麦の価格が世界的に高騰しているためです。とりわけ、深刻な影響が出ているのが、中東地域です。小麦の在庫が1か月程度など、食糧危機を招きかねない事態にまでなっています。現地の状況を詳しく解説します。
なぜ、影響深刻なの?
ロシアとウクライナはともに穀物の輸出大国です。とりわけ小麦は、輸出量でロシアが1位、ウクライナが5位で、両国で世界の3割を占めます。その両国に、小麦の輸入を大きく依存しているのが中東地域です。主食のパンの原料として小麦は欠かせない輸入品です。両国からの輸入の割合はトルコで8割以上、エジプトで7割以上などとなっています。しかし、ロシアによる侵攻で、3月上旬には国際的な指標となる小麦の先物価格がおよそ14年ぶりに最高値を更新。さらに輸入が滞ることで、各国で供給不安も広がっています。
具体的にどのような影響が?
特に心配なのが中東のレバノンです。レバノンの経済・貿易省によりますと、小麦のストックはあと1か月足らずしかないと言われています。レバノンでは小麦輸入のおよそ70%をウクライナが占めていて、ロシアによる侵攻後、輸入がストップし、深刻な小麦不足に陥っています。さらに、レバノンでは2020年8月には首都ベイルートで大規模な爆発事故が起き、国内最大の穀物貯蔵庫が損壊しました。このため、小麦を大量に保管する場所もないまま今回の事態を迎え、深刻な事態となっています。
市民の暮らしへの影響は?
ベイルート市内のスーパーでは、小麦粉の棚だけ空になっていました。買い物客は「ウクライナ危機が始まってから、小麦粉がどこに行ってもありません」と困惑した様子でした。また、レバノン南部にある国内最大規模の小麦粉の生産工場を訪ねてみると、7つの貯蔵庫のうち6つがすでに完全に空となり、小麦のストックが尽きようとしていました。このためパンの価格は、この1か月で50%以上高くなり、1袋当たりの量も減っています。ベイルート市内で妻と3人の子どもと暮らすユセフ・マウラさん(52)はこの半年、口にしていない肉類だけでなく、パンすら食べられなくなるのではと不安を募らせています。「以前から暮らしは大変でしたが、ロシアのウクライナ侵攻で、さらにひどくなりました。この戦争が早く終結し、状況が改善するのを望みます。人々がパンを口にできること、望むのはそれだけです」
代替の輸入先は確保できるのか?
レバノン政府は、ウクライナに代わる小麦の輸入先を探していますが、自国通貨が暴落するなか、輸送コストの問題など課題も多く、同じように小麦の調達を急ぐほかの国との競争に勝てるのか焦りを募らせています。経済・貿易省で小麦の輸入を担当するジョージス・バルバーリ部長は、代替の輸入先を探すのは、容易ではないと話しています。「緊急対策として早く、安く、質のいい小麦を探す必要がありますが、どの国も警戒し、自国の備蓄のために小麦の輸出を止めた国もあるからです。飢えは破滅的で、国民に食べていくための小麦も小麦粉もありませんとは言えず、なんとか早く調達先を見つけるしかありません」
すでに食糧危機の紛争地では?
中東の紛争地では、食糧危機にさらに拍車がかかっています。7年以上にわたり内戦が続く中東のイエメンでは、農業生産が落ち込み食糧不足が深刻で、国連は、国際的な基準で最も深刻な飢餓状態とされる人がことし中に現在のおよそ5倍の16万人余りにまで増えるとしています。さらに、小麦の輸入の4割をロシアとウクライナに頼っていることから、主食のパンの価格がさらに値上がりし、飢餓の広がりが懸念されています。
イエメンの市民生活は?
ただでさえ厳しい生活に、小麦の供給不足でパンの値段が高騰し、深刻な事態になっています。首都サヌアに暮らすダルウィーシャ・バヒースさんとその家族は、内戦で夫の収入が不安定となるなか、十分な食事がとれず、深刻な栄養失調に陥っています。特に心配なのは7人の子どもの末っ子、1歳半のハサン君で、体重は標準とされる体重のわずか6割ほどしかなく、発育にも問題が出ています。食事は1日に1度だけ、家族でパンを分け合っていますが、パンの値段は、通貨の暴落や小麦の供給不足で、この1年で2倍に高騰したといいます。このため、ダルウィーシャさんはパンを買うお金を少しでも得ようと、通りに立って人々に施しを求めざるを得なくなっています。それでも、命をつないできたパンの値段がさらに高くなれば、子どもたちを食べさせていくことは難しくなると言います。「食べるものが見つからず、誰も私たちを助けることができずに、子どもたちは栄養失調になりました。物価がさらに上がれば、私たち家族だけでなくたくさんの人たちが餓死してしまいます」
世界の食糧安全保障はどうなる?
ロシアとウクライナからの輸出の停滞が懸念されるのは、小麦だけではありません。FAO=国連食糧農業機関によりますと、農作物のうち世界の輸出に占める両国の割合は、ヒマワリ油で6割、大麦で2割、トウモロコシで1割などとなっています。ウクライナ危機を背景に、ことし2月の穀物の価格指数は、2013年2月以来の高い水準となっています。FAOのボーバカル・ベンハサン市場・貿易部長は、次のように警告しています。「特に経済的に貧しい国は深刻な影響を受けるおそれがあります。とりわけ、紛争などで、十分な食糧生産ができておらず、外国からの輸入に頼っている国は、影響が避けられません。アメリカやフランス、オーストラリア、アルゼンチンといった農業大国には、国際市場に出す農産品・食料品の輸出を制限しないよう強く求めている」世界の食糧安全保障を揺るがしている、ロシアによるウクライナ侵攻。戦闘の長期化は、さらなる食糧危機をもたらしかねない事態となっています。
●隠されるロシア兵の実態 プーチン氏が恐れる「口コミ」とは? 4/3
最新のプーチン大統領の支持率は実に83%だ。一般に戦時下は国民が一体化するため高い支持率を集める。しかし、私たちが日々得ているウクライナ情勢がロシア国民に伝わっていれば、支持率は違う結果になっているのではないだろうか。今回はロシアのメディアでは決して報じられないロシア兵の実態をひもとく。ロシア軍内部では今何が起こっているのか?
「ロシア軍は味方を置いて逃げていった」
番組では4回目の停戦交渉の翌日、日本時間3月30日の夜、ウクライナ国家親衛隊、アゾフ連隊の上官に直接インタビューし、敵であるロシア兵の実情を聞いた。
ウクライナ国家親衛隊所属 アゾフ連隊 マクシム・ソリン司令官「ハルキウ周辺で30人近いロシア兵を捕虜にした。ほとんどの兵士は抵抗せずに武器を置いた。今朝キーウ周辺で後退するロシア軍は味方を置いて逃げていった。捕虜は若い人が多く、本当に経験を待たない新人ばかりだ。(元々はウクライナ領内の)ルハンシク・ドネツクで徴集された士気の低い人も派遣されている。そういう人はすぐに団体で降伏する」
このインタビューを録ったのはロシア軍がキーウ周辺の攻撃を縮小すると発表した1日後。しかし後ろからは銃声が響いた。だが司令官は、これが日常だと微笑み交じりで語り、現在ロシア軍が攻勢を強めている東南部マリウポリでの戦いについて語ってくれた。
マクシム・ソリン司令官「マリウポリ市内では想像を絶する努力で、本当の英雄といえる3000人くらいで戦い続けている。敵は人数、装甲車、戦車など数十倍規模の戦力で空と海を制圧しているにもかかわらずに・・・」
なぜロシア軍は“弱い”のか
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師「戦争が始まる前からロシア軍の集結は伝わっていた。それを衛星で見ているとテントを張っていた。数か月テントで暮らして戦争が間近になれば駅の構内で雑魚寝するなどせざるを得ない。または装甲車の中で寝るとか・・・。それで戦争に入る。だからロシア兵はもともとかなり疲れていた。勝ち戦であればそれでも士気は上がるが、負け戦であると・・・。実際損害もたくさん出ている、となると相当士気は下がって、規律も乱れるってことになる」
ロシア兵には、いわゆる職業軍人である「将校」21万1200人のほかに、給料を貰って軍に参加する「契約軍人」40万5000人と、18歳から27歳の間に12か月務めなければならない徴兵義務によって集められた「徴集兵」約20万人がいる。
今回のウクライナでの軍事作戦には15万から20万が派兵されたとされるが、その多くは徴集兵が占めるとニューヨークタイムズは伝えている。であるならソリン司令官が話していた捕虜の多くが若い新人だというのも頷ける。
小泉悠 専任講師「ロシアの徴兵は、かつてはもっと長かったんですが、そうするとみんな軍隊に行きたがらないので短くした。ところが徴兵12か月ってことは、MAX1年しか軍隊経験がない兵士たちなんです。日本の自衛隊の基準からみてもプロフェッショナルの軍人になる前に任期が終わる。なので基本的には、“徴集兵は戦争には送らない”ってことに本来はなってる」
戦地へ赴く軍隊は、将校と契約軍人で構成すると決まっているが、これまでも兵力が足りなくなると徴集兵が駆り出されてきた。ジョージアとの戦争でもそうだったと小泉氏は言う。が、それ以上にロシア軍の混乱ぶりをうかがわせる情報が小泉氏の下に入っていていた。
小泉悠 専任講師「軍の中で命令不服従や戦線離脱は起きているらしい。不確実情報ですが、ある旅団で旅団長が部下の反乱にあって戦車で轢かれたと・・・。最初は大けがという情報だったが、のちに病院で亡くなったと続報があった」
日給53ドル…ロシア側の兵募集のチラシが
一方、クリミアではあるものが出回っていることが明らかになった。ロシア軍兵士募集のチラシである。チラシには、ロシア連邦・国防省との短期契約4〜12か月。報酬月額20万ルーブルより。基本給+ボーナス200%+日給53ドル。食事、軍服支給とあり、連絡先の電話番号が書かれている。ちなみに20万ルーブルは日本円で28万円ほどに当たる。
小泉悠 専任講師「月給20万ルーブルはめちゃくちゃ高い。ロシアの平均所得の5〜6倍の金額。正式のロシア軍人の給料より高い。ボーナスと53ドルの日給が不思議な話。ロシアの国防省が、対立するアメリカのドルで日給を支払うとはまず言わないと思う。正式な募集であれば、国防省の紋章であるとか、どこの事務所の募集かが書いてあるはず。電話番号だけっていう・・・、言い方悪いがサラ金の貼り紙みたい・・・。民間の軍事会社がお金の無い人を集めているのかもしれない」
戦地でも国内でもロシアの兵役事情は混乱しているようだ。そんな中、今も若い兵士たちが大勢命を落としている。ロシア国内では、その事実さえほとんど報じられていない。しかし、黙っていない人たちがいた。
「ロシア人は、口コミ民族」
ウクライナに侵攻したロシア軍の死者数について、ロシア国防省は1351人(3月25日)、ウクライナ軍参謀本部は約1万7500人(3月31日)とそれぞれ発表している。数字は10倍以上の開きはあるが、紛れもない事実は死んだ兵士がロシアに帰っていないことだ。その現実を受け、声を上げる女性たちがいる。「兵士の母委員会」、通称「母の会」だ。1989年に設立された兵士とその家族の権利を守ることを目的とした人権団体だ。番組では切実な訴えを直接聞いた。
兵士の母委員会 ゴラブ会長「どの母親も息子と最後に電話が繋がったのは、2月23日(軍事侵攻前日)でした。24日には息子たちは電話ができなくなっていました」
ゴラブ会長は、戦死した兵士の遺体を引き取りたいとウクライナ側に申し入れたが・・・
ゴラブ会長「ゼレンスキーはインタビューでロシアが遺体を引き取りたがらないといっていましたが、引き取りたくないはずがないでしょ! 引き取りたくないはずありません。私が行って全員の遺体を引き取りたいですよ」
国からの締め付けがあろうと我が子を思う母の行動力は揺るがない。しかし、母の会といえども設立当時と現在は事情が異なるという。
笹川平和財団 畔蒜泰助 主任研究員「戦争という言葉も使えない中で、いちばん勇敢にものを言っているのは母親たちだ。だから非常に大きな力を持っている。ただし、会が設立された頃の時代と大きく違うのは情報統制のレベル。今は、母の会も含め“声が伝わらない”統制を政府が徹底している。なので母の会のパワーが落ちてることが懸念されます」
小泉悠 専任講師「西側の国ならSNSなんかで惨状が広まって炎上するってことがあるでしょうが、ロシアはそれが制限されてる。でも、ロシア人って“口コミ民族”なんですよ。公的な制度や情報をあんまり信用してなくて、自分の身近な人から“実はこうなんだよ”と聞いた話っていうのがものすごく信憑性を持つ。戦争始まって1か月ですが、これが長引いて遺体が返ってくる、傷病兵が手足吹き飛ばされて帰ってくる。そこから戦場の現実を聞いた時にロシア国民がどういう反応を見せるのか・・・」
いまロシア兵の亡骸の多くがクリミアも運ばれ、そこで火葬にされているという情報もある。ロシア正教の考え方では遺体は土葬するのが基本…一体これは何を意味するのか。いまプーチン氏を止められるのは、ロシアに送還される亡くなった兵士の遺体だけなのかもしれない。 

 

●首都郊外で大規模虐殺の疑い ロシア軍、撤収時に地雷設置か― 4/4
ロシア軍の撤退でウクライナ側が奪還した首都キーウ(キエフ)郊外のブチャで、民間人とみられる多くの遺体が見つかった。ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、米CBSテレビのインタビューで「実のところ、これは虐殺だ」と述べた。ロシア軍が大規模な殺害を行った可能性があり、ウクライナ当局が現地の被害状況の把握を急いでいる。
クレバ外相は3日「虐殺は故意で、ロシアはできるだけ多くのウクライナ人を殺害しようとしている」と述べ、国際社会に対ロ制裁の強化を求めた。ゼレンスキー氏はこれより先、ロシア軍がブチャを含む北部キーウ州などからの撤収に際し「地雷を仕掛けている」と訴え、退避した人々が戻るのも困難という見方を示した。
キーウの北西に位置するブチャは、過去1カ月にわたってロシア軍が占拠。ウクライナ側が1日までに支配権を回復したとされる。ウクライナ国防省高官は2日、キーウ州の「全域が解放された」と主張した。
AFP通信によると、ブチャでは一つの通りで少なくとも20の遺体が確認されるなど、凄惨(せいさん)な状況。いずれも民間人らしき服装で、手を縛られたままの遺体もあった。外見や状況から、何日間も放置されていたもようという。ブチャの市長は2日、「これまでに280の遺体を集団埋葬した」と話した。
犠牲者らがどのような形で命を落としたかは不明だが、ロシア軍が何らかの形で関与したとみられる。非戦闘員を意図的に狙った攻撃は、戦争犯罪行為に該当する可能性がある。タス通信によると、ロシア国防省は3日、ブチャの状況に関し、関与を否定。ウクライナ側による「挑発」と主張した。
●キーウ近郊 多くの市民が路上で死亡 国際社会に衝撃広がる  4/4
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ロシア軍が撤退した首都キーウ近郊で多くの市民が死亡しているのが見つかりました。ロシア側は関与を否定していますが、フランスのマクロン大統領が「数百人の市民が卑劣にも路上で殺害されており、耐え難い」と非難するなど、国際社会に衝撃が広がっています。
ウクライナに侵攻したロシア軍は首都キーウ近郊まで部隊を前進させたものの、ウクライナ軍の抵抗を受けて撤退を進めていて、ウクライナの国防次官は2日、キーウ州全域をロシア軍から奪還したと発表しました。ところが、ロシア軍が撤退したキーウ北西のブチャにロイター通信などの記者が入ったところ、軍服を着たり武器を所持したりしていない市民とみられる人々が路上で死亡しているのが見つかりました。
ブチャの市長はロイター通信の取材に対し、300人以上の住民が殺害されたとしたうえで「手を縛られ、頭を撃たれた人もいる」と話しています。また、ウクライナのベネディクトワ検事総長は自身のフェイスブックを更新し「これまでに410人の民間人の遺体が運び出された」と明らかにしました。そして「ロシアによる残忍な戦争犯罪の決定的な証拠だ」として、国内外の法廷で責任を追及していく考えを強調しました。
ゼレンスキー大統領「市民が拷問受け 殺害された」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、3日に公開したビデオメッセージで「何百人もの市民が拷問を受けて殺害された。路上には遺体が並んでいる。そして遺体にまで地雷が設置されている」と述べ、ロシア軍が残虐行為を行ったと強く非難しました。そのうえで「世界ではこれまで多くの戦争犯罪が起こってきたが、これで最後にするために全力を尽くす時だ」と訴えました。さらに「ロシアには追加の制裁が科されるだろうが、それだけでは足りない」と述べて、なぜウクライナがこれだけの被害を受けたのか、その経緯にも目を向けるよう国際社会に求めました。
ロシア国防省 “ウクライナや欧米側のねつ造”と反論
ロシア国防省は「ウクライナ側が発表した写真や映像は新たな挑発行為にすぎない。ロシア軍が街を支配していた時に市民に暴力を振るったことはなく、人々は自由に行動できていた」などと否定し、遺体の映像はウクライナや欧米側がねつ造したものだと反論しました。
責任追及求める声 国際社会で広がる
しかしイギリスのジョンソン首相が「プーチン大統領やロシア軍が戦争犯罪を行っていることを示すさらなる証拠だ」と指摘したほか、国連のグテーレス事務総長も「深い衝撃を受けている。説明責任につながる独立した調査が不可欠だ」とする声明を出すなど、国際社会には衝撃が広がるとともに責任を追及すべきだという声が相次いでいます。ウクライナとロシアとの停戦交渉は4日も続けられることになっていますが、キーウ近郊での悲惨な状況が明らかになったことでロシアに対する国際社会の圧力が一層強まりそうです。
岸田首相「国際法違反の行為を厳しく批判する」
岸田総理大臣は4日午前、総理大臣官邸で記者団に対し「民間人に危害を加えるという国際法違反の行為を厳しく批判する。国際社会で非難が高まっていることを承知しており、日本もこうした人道上問題となる行為、国際法違反の行為を厳しく批判し非難していかなければならない」と述べました。そのうえで「さらなる制裁については全体の状況を見ながら国際社会としっかり連携し、わが国としてやるべきことをしっかり行っていきたい」と述べました。
●兵力で劣るウクライナ軍、ドローンと携帯式ミサイル駆使し奇襲攻撃… 4/4
ウクライナ軍が、各国から供与された最新鋭の対戦車ミサイルと軍用無人機(ドローン)を駆使し、奇襲攻撃でロシア軍を苦しめている。特に都市部周辺で効果を発揮しており、露軍が首都キーウ(キエフ)など主要都市攻略に難航する一因とも指摘される。
英紙インデペンデント(電子版)は2日、露軍がウクライナ侵攻後に失った軍用車両が、戦車331台を含む2055台に上るとする研究グループの集計を報じた。ウクライナ政府は3日、戦車だけで644台を破壊したと主張した。1979〜89年のアフガニスタン侵攻で旧ソ連が失った戦車は147台とされる。
要因は、兵力で劣るウクライナ軍の巧みな戦術だ。身を隠す場所が多い都市部周辺で待ち伏せし、露軍戦車部隊の位置を小型の偵察ドローンで把握。米国製「ジャベリン」や英国が供与した「NLAW(エヌロウ)」など対戦車ミサイルを携帯した歩兵が接近して発射する。装甲が薄い戦車の上部を自動で狙う性能があり、大きな戦果を上げている。
都市部から離れて待機する部隊には、トルコ製ドローン「TB2」で攻撃する。低空を静かに飛行でき、最大24時間の滞空性能があるとされ、アゼルバイジャンやエチオピアの紛争でも高い攻撃能力が確認された。
米政策研究機関「戦争研究所」によると、露軍は奇襲対策として対人地雷を使用しているが、効果は薄いようだ。
●「国家のため国民が戦う」が当たり前でなくなる日― 4/4
・ロシアでは強制的な徴兵への警戒感が広がっているが、ロシア軍は外国人のリクルートで兵員の不足を補っている。
・一方のウクライナでも、とりわけ若年層に兵役への拒絶反応があり、「義勇兵」の徴募はその穴埋めともいえる。
・「国家のため国民が戦う」が当たり前でなくなりつつあるなか、外国人に頼ることはむしろグローバルな潮流に沿ったものでもある。
「国家のため国民が戦う」。いわば当たり前だったこの考え方は、時代とともに変化している。ウクライナ侵攻は図らずもこれを浮き彫りにしたといえる。
ロシアの「良心的兵役拒否」
ウクライナ侵攻後、ロシア各地で反戦デモが広がっているが、その中心は若者で、年長者との年代ギャップが鮮明になっている。
家族内でも議論が分かれることは珍しくないようで、ドイツメディアDWの取材に対して29歳のロシア人男性は「両親は国営TVから主に情報を得ていて、政府の説明を鵜呑みにしてウクライナ侵攻を支持している」「友人と一緒になって説明したので、父親は政府支持を止めて自分たちと一緒に抗議デモに参加するようになったが、母親は頑として譲らない」と嘆いている。
こうしたロシアでは今、若者を中心に国外脱出を目指す動きが広がっており、その数はすでに20万人を超えたといわれる。その原因には経済破綻への恐怖だけでなく、強制的に徴兵されかねないことへの危惧がある。
戦争の大義を信用できない若者が兵役を拒絶する状況は、1960-70年代のアメリカでベトナム戦争への反対から広がった「良心的兵役拒否」を想起させる。
ともあれ、プーチンに背を向けるロシアの若者の姿からは「国家のため国民が戦う」ことへの拒絶の広がりがうかがえる。
兵員のアウトソーシング
これと並行して、ロシアは外国人で兵員の不足を補っている。
ロシア政府系の傭兵集団「ワーグナー・グループ」は、2014年のクリミア危機後、ウクライナ東部のドンバス地方で活動してきたが、ここには多くの外国人が含まれる。
しかし、こうした「影の部隊」だけでなく、正規のロシア軍も外国人ぬきに成立しなくなっている。
プーチン大統領は2015年、ロシア軍に外国人を受け入れることを認める法律に署名した。ロシア語を話せること、犯罪歴のないこと、などの条件を満たし、5年間勤務すればロシア市民権の申請がしやすくなる(情報部門は除外)。最低給与は月額約480ドル で、これはロシアの平均月収約450ドルを上回る。
情報の不透明さから規模や出身国、編成などについては不明だが、モスクワ・タイムズによると、貧困層の多いインドやアフリカからだけでなく欧米からも応募者があるという。その任務には戦闘への参加も含まれる。
後述するように、一般的に外国人兵士には条件の悪い任務が当てられる。そのため、今回ウクライナに向かう10万人のロシア軍のなかに少なくない外国人が投入されていても不思議ではない。
逃げられないウクライナ男性
これに対して、「国家のため国民が戦う」が当たり前でないことは、侵攻された側のウクライナでも大きな差はないとみられる。
ロシアによる侵攻をきっかけにウクライナ政府は国民に抵抗を呼びかけ、これに呼応する動きもある。海外メディアには「レジスタンス」を賞賛する論調も珍しくない。
もちろん、祖国のための献身は尊いが、国民の多くが自発的に協力しているかは別問題だ。
ウクライナからはすでに300万人以上が難民として国外に逃れているが、そのほとんどは女性や子ども、高齢者で、成人男性はほとんどいない。ロシアの侵攻を受け、ウクライナ政府は18-60歳の男性が国外に出るのを禁じ、軍事作戦に協力することを命じているからだ。
つまり、成人男性は望むと望まざるとにかかわらず、ロシア軍に立ち向かわざるを得ないのだ。そのため、国境まで逃れながら国外に脱出できなかったウクライナ人男性の嘆きはSNSに溢れている。
裏を返せば、成人男性が無理にでも止められなければ、難民はもっと多かったことになる(戦時下とはいえ強制的に軍務につかせることは国際法違反である可能性もある)。
「どこに行けば安全か」
予備役を含む職業軍人はともかく、ウクライナ人の多くがもともと戦う意志をもっていたとはいえない。
昨年末に行われたキエフ社会学国際研究所の世論調査によると、「ロシアの軍事侵攻があった場合にどうするか」という質問に対して、個別の回答では「武器を手にとる」が33.3%と最も多かった。
しかし、戦う意志を持つ人は必ずしも多数派ではなかった。同じ調査では「国内の安全な場所に逃れる(14.8%)」、「海外に逃れる(9.3%)」、「何もしない(18.6%)」の合計が42.7%だったからだ。
とりわけ若い世代ほどこの傾向は顕著で、18-29歳のうち「海外へ逃れる」は22.5%、「国内の安全な場所に逃れる」は28.0%だった。ウクライナ侵攻直前の2月初旬、アルジャズィーラの取材に18歳の若者は「僕らの…半分は、どこに行けば安全かを話し合っている」と応えていた。
こうした男性の多くは現在、望まないままに軍務に就かざるを得ないとみられる。少なくとも、多くのウクライナ人が「国家のために戦う」ことを当たり前と考えているわけではない。
外国人に頼るのは珍しくない
その一方で、ウクライナ政府は海外に「義勇兵」を呼びかけている。外国人で戦力を補うという意味で、ウクライナとロシアに大きな違いはない。
もっとも、戦争で外国人に頼ることは、むしろグローバルな潮流ともいえる。
例えば、アメリカではベトナム戦争をきっかけに徴兵制が事実上停止しているが、2000年代から永住権の保持者を対象に外国人をリクルートしており、ロシアと同じく一定期間の軍務と引き換えに市民権を手に入れやすくなる。現在、メキシコやフィリピンの出身者を中心に約6万9000人がいて、これは全兵員の約5%に当たる。
ヨーロッパに目を向けると、例えばフランスは1789年の革命をきっかけに「国民皆兵」が早期に成立した国の一つだが、この分野でも歴史が古く、映画などで名高いフランス外国人部隊は1831年に創設された。現代でもフランス人の嫌がる過酷な環境ほど配備されやすく、筆者もアフリカなどで調査した際、フランス軍の現地担当者ということで会ってみたら外国人兵だった経験がある。
また、イギリスもやはり20世紀前半から中東やアフリカなどで兵員を募ってきたが、現在でも多くはやはり海外勤務に当てられる。
近年は英仏以外の小国でも、一定期間その国に居住した経験がある、言語に支障がないなどの条件のもと、他のEU加盟国出身者などから兵員を受け入れている。このうちスペインでは外国人が全兵員の約10%を占めるに至っている。
欧米以外でも、実際に戦火の絶えないリビアやシリアなど、中東やアフリカでは国民ではなく外国人が戦闘で大きな役割を果たす状況が、すでに珍しくなくない。
「国民が戦う」はいつから当たり前か
「国家のため国民が戦う」のを当たり前と考えないことには、様々な意見があり得るだろう。しかし、その良し悪しはともかく、「自分の生命が大事」と思えば、「戦争があれば避難する」という選択は、ほとんどの人にとってむしろ合理的かもしれない。
ただ、従来は戦火を嫌っても、ほとんどの人にとって母国を離れることが難しかった。それがグローバル化にともなう交通手段の発達、国をまたいだ移住システムの普及などで可能な時代になったから目立つようになっただけ、といった方がいいだろう。
もともと「国家のため国民が戦う」という考え方は、近代国家が成立するまで一般的でなく、それまでは基本的に戦士階級と傭兵だけが行なうものだった。
「国民主権」の下、国民が名目上国家の主人となったことは、封建的な貴族やキリスト教会の支配から抜け出すことを意味した。だから、国民にとっても、国家のために戦い、国家の一員であることを証明することは、それまでの従属的な立場から解放されるために必要な道だった。
ナポレオン時代のフランス軍が圧倒的な強さを誇った一因は、ほぼ無尽蔵に兵員を供給できる「国民皆兵」のシステムが他のヨーロッパ諸国にまだなかったことにあった。
21世紀的な戦争
しかし、第二次世界大戦後、普通選挙の普及と社会保障の発達もあって、国家の一員であることはむしろ当たり前になった。さらに冷戦終結後、人権意識が発達し、国家に何かを強制されることへの拒絶反応は強くなった。
そのうえ、どの国でも貧困や格差が蔓延し、多くの国民が困窮するなか、そもそも国家に対する信頼や一体感は損なわれている(コロナ対策への拒否反応はその象徴だ)。
その結果、何がなんでも徴兵に応じなければならないという義務感は衰退し、その裏返しで外国人への依存度が高まっている。各国政府にとっても、国民の抵抗が大きい徴兵制を採用して危険な任務を課すより、その意志をもつ外国人を受け入れる方が政治的コストは安くあがる。
こうした見た時、人手不足を外国人で穴埋めする構図は、多くの産業分野と同じく、国防や安全保障でも珍しくないといえる。これは単に「たるんでいる」という話ではなく、世の中全体の変化を反映したものとみた方が良い。
ウクライナ侵攻は土地の奪い合いという極めて古典的な戦争である一方、外国人ぬきに成り立たないという意味で極めて21世紀的な戦争でもあるのだ。
●プーチンのウクライナ侵攻が、眠れるNATOを「覚醒」させた  4/4
ロシアによるウクライナ侵攻は、一般市民に甚大な被害をもたらしている。初期の電撃戦に失敗したロシアは、その後、無差別的攻撃の恐怖によって、ゼレンスキー政権を屈服させようとしている。その結果、すでにウクライナ人口の約4分の1が家を追われ難民や国内避難民となった。こうした状況に対してNATO(北大西洋条約機構)は、結束してウクライナ支援を実施している。
ところが実はNATOは、ウクライナ侵攻前までは「漂流の危機」にあるとされ、マクロン仏大統領によって「脳死」と評されるほどの機能不全状態にあったことはあまり知られていない。そこで、ウクライナ侵攻に対するNATOの対応をみる前に、まず冷戦後のNATOの軌跡を簡単に振り返ってみたい。
NATO加盟国の協調とすれ違い
ソ連解体によって「敵」がいなくなったNATOは、1990年代、民族紛争やテロとの戦いのような危機管理にその存在意義を見いだした。具体的にはボスニア、コソボ、アフガニスタン、リビアなどで、NATOは作戦を実施した。
しかし危機管理は、紛争地との地政学的関係性や平和構築へのアプローチの違いゆえに各国の思惑の差が表面化しやすい。たとえばリビア空爆ではNATOの作戦に参加した加盟国は半数の14カ国にとどまり、共同で危機管理を担うからといって、必ずしも結束が強化されることにはならなかった。
こうしたNATOの危機管理への活用を積極的に支持していたのが米国や英国であった。それに対してフランスやドイツはEUによる安全保障・防衛政策を重視しており、特にドイツは非軍事的な復興支援に重点を置いていた。一方、バルト三国やポーランドは、隣接するロシアへの警戒感から集団防衛の近代化を求めていた。
とりわけ2008年のジョージア紛争にて、ロシアが今回同様に主権を無視して武力によって介入し、ジョージア内の南オセチアとアブハジアの分離独立を承認すると、対ロ脅威認識が高まった。
このような加盟国間の3通りの思惑を反映して、2010年に採用された現行のNATO戦略概念では、危機管理、協調的安全保障、集団防衛の3つが主任務として併記されていた。
2014年にロシアがウクライナの主権を無視して武力でクリミアを併合し、東部のドンバスにおける反政府勢力を軍事的に支援した際には、バルト三国やポーランドはますますロシアへの警戒心を強めた。米国の有力なシンクタンクであるランド研究所のシミュレーションによれば、ロシア軍がバルト三国に侵攻した場合、72時間でエストニアの首都タリンとラトビアの首都リガが陥落すると予測されていたのである。
2014年以降、たしかにNATOは90年代以来実施されていなかった集団防衛を目的とする演習を再開し、即応部隊の整備強化やバルト三国、ポーランドへの小規模な部隊の展開なども打ち出した。
しかし各加盟国の安全保障戦略における脅威認識はバラバラで、西欧や南欧の多くの国はテロや難民流入を主たる問題だと考えており、ロシアを名指しで脅威とみなす国はバルト三国やポーランドなど、依然として少数派であった。
そうしたNATOの漂流に拍車をかけたのが2017年のトランプ政権誕生だ。トランプ大統領は、ヨーロッパ加盟国の防衛費負担が少なすぎることを問題視し、NATOは「時代遅れ」だと痛烈に批判した。そうした米国の一方的な言動に反発するなかで、冒頭のマクロン大統領によるNATO「脳死」発言が飛び出したわけである。
さらに中国の問題がNATOを揺さぶりはじめる。米国は中国を「体制間の競争相手」と認識して警鐘を鳴らし、政治経済面のみならず軍事面でも警戒する姿勢を強めた。
しかし、ヨーロッパ各国にとっては軍事的に脅威とはいえない上、2020年に中国がEUの最大の貿易相手国となったため、米欧は立場を共有できていなかった。2019年12月のNATO首脳会議の共同声明で、はじめて中国を「機会と挑戦」という言葉で表現したのは、こうした米欧の立場の違いを反映していたのだ。
2021年に成立したバイデン政権は「米国が国際協調に復帰する」と宣言したが、アフガニスタンからの一方的な部隊撤収の決定や、突然のAUKUS(米英豪安全保障協力)結成発表をめぐり、米欧間には依然として亀裂が残っていた。
NATOが果たしている役割
このように漂流の危機にあったNATOにとって、ウクライナ侵攻は、いわば「モーニング・コール」となった。ウクライナ侵攻直後から、まるで「覚醒」したかのように、NATOはかつてない結束を示したのだ。
現在、NATOがウクライナ支援のため果たしている役割は大きく4つ挙げられる。第一は言うまでもなく、同盟国がロシアの侵略に反対し、ウクライナ支援で結束していることのアピールである。
通常は年に1回開催される首脳会議が、ウクライナ侵攻直後の2月25日にはオンラインで、1ヶ月後の3月24日にはブリュッセルで、それぞれ開催された。2月の首脳会議には、非同盟のスウェーデンとフィンランドも参加し、幅広い国際社会の連帯を演出した。
第二は、中・東欧加盟国での部隊増強である。NATOは2014年以降、バルト三国とポーランドに部隊を展開していたが、ウクライナ侵攻後にその増強がはじまった。2022年3月時点では上記4カ国に加えて、従来親ロ的とされてきたスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアにも部隊が配備され、その数は合計で4万人に達している。これは、加盟国の領土を守る集団防衛の決意を示したものである。
第三は、情報収集と監視である。NATOは空のレーダーと言われるAWACS(空中警戒管制機)やUAV(無人航空機)グローバルホークを連日ウクライナ国境沿いの上空に展開し、米軍や英軍の電子偵察機と連携してウクライナを監視している。
AWACSはキエフより西の上空や地上のロシア軍および黒海のロシア海軍の動きを加盟国とリアルタイムで共有でき、それらの情報はウクライナにも提供されている。これがウクライナ軍の抵抗に貢献しているのは言うまでもない。
第四は、輸送支援である。現在ポーランド南東部のジェシュフの空港がウクライナへの物資輸送ハブになっており、AWACSによる監視のもと、NATO加盟各国の大型輸送機が次々に飛来している。そこからウクライナ側へ、人道支援物資とともに対戦車ミサイルや地対空ミサイルなどの攻撃的兵器を送り込んでいるのだ。
このようにNATOは、直接的な戦闘こそないものの、ウクライナに強力な支援を実施している。しかしロシアの無差別攻撃による市民への被害と各国に流出する難民の姿が報道され、停戦交渉の行き詰まりから紛争長期化への懸念も強まってきた。
そのような状況で、ゼレンスキー大統領による各国議会での演説をはじめとするSNSを駆使したウクライナのアピールは、国際世論を動かしつつある。同時にNATOに対しても、より一段と踏み込んだ対応を求める声が高まっている。
「漂流するNATO」は変われるのか?
ゼレンスキー大統領は3月16日の米議会での演説で、「ロシアはウクライナの空を使って、数千の人々を死に追いやっている」と訴えた上で、「ウクライナ上空の閉鎖を(Close the sky over Ukraine)」と呼びかけ、具体的に、1)飛行禁止区域(no-fly zone、以下NFZ)の設定、2)地対空ミサイルの供与、3)戦闘機の供与を要請した。
果たしてNATOは、こうした一段と踏み込んだ対応が可能なのだろうか。ここで問題となるのが戦争をエスカレーションさせるリスクである。
1)のNFZの設定は、軍事的にはかなり激しく、負担も大きい作戦となる。そもそもNFZを設定するためには、ウクライナ上空を警戒監視する複数のAWACSと、NFZに違反した航空機やミサイルを撃墜するための戦闘機が、連日24時間スタンバイする必要がある。
90年代にNATOが国連安保理決議に基づき、ボスニア上空にてNFZを実施した際には、AWACSを6機以上運用し、かつイタリアの基地に同数の戦闘機を配備した。フランスより国土が広いウクライナ領空でロシア軍を相手にNFZを設定するには、10機以上のAWACSを運用する必要がある上、相当数の戦闘機も配備しなければならない。
しかも、ロシアの反対のためNFZを求める国連安保理決議は採択されず、仮にNATOがウクライナの要請に基づいて一方的に空域封鎖を実施すれば、遵守しないロシア空軍と空中戦となる。その際にロシアがNATO加盟国領内に反撃を加えれば、軍事的エスカレーションが高まってしまう。そのためNATOは、ウクライナでのNFZ設定を否定している。
2)の地対空ミサイルについては、従来から供与している携帯型地対空ミサイル(“スティンガー”)の他に、より高度の飛翔体を迎撃できるロシア製S300のような地対空ミサイルを、スロバキア、ブルガリアの保有分からウクライナに供与するという案が検討されている。
この場合のエスカレーションのリスクは、こうした攻撃的兵器の輸送ルートへのロシアの攻撃である。侵攻3週目に入り、ウクライナ東部に続き西部がミサイル攻撃を受けるようになったのは、武器供与にロシアが苛立っている証左である。もしこうしたルートへの攻撃がポーランド側にも及ぶとすれば、エスカレーションにつながる恐れがある。
3)の戦闘機供与については、ポーランド空軍保有のMiG-29を提供し、同じ機を運用しているウクライナのパイロットが乗り込むという案が検討された。しかしこの場合、ロシアがNATOによる挑発的行為とみなして反発するのみならず、発進基地がロシアの攻撃目標になる可能性があるため、提案は却下されている。
他にもエスカレーションのリスクとしては、ウクライナへの脅しや西側の介入への警告として、ロシアが生物・化学兵器を使用するかもしれないという問題がある。ロシア側は、米国の支援を受けたウクライナが生物・化学兵器を開発していたと主張している。
一方でストルテンベルグNATO事務総長は、「(そのように主張するのは、)ロシア自身が偽旗作戦でそうした兵器を使う可能性があるからだ」と指摘した。バイデン大統領は、生物・化学兵器が使われた場合に、NATOによる軍事的対応を排除しない考え方を示しており、ここにもエスカレーションの萌芽がある。
停戦交渉をまとめるにはロシア側の譲歩を引き出す必要があり、そのためにはNATOのさらなる強力な支援のもと、ウクライナ軍優勢の状態が不可欠である。しかし、エスカレーションは回避しなければならない。
なぜならばNATOは核同盟でもあるため、ロシアとの直接戦闘は核戦争につながりかねないからである。
冷戦期のソ連とは対照的に、ロシアはいまや通常戦力において西側より圧倒的に劣っている。したがってロシアの核使用のハードルは冷戦期よりも低い。プーチンは「存亡の危機」になれば躊躇なく核を使用しかねない。この「存亡の危機」かどうかの判断は、もっぱらプーチン次第なので合理的な予測が困難である。
また、仮にNATOとの対決という方向にエスカレーションがすすんだ場合、ロシア社会の愛国心が一層高揚し、かえってプーチンの求心力が強化されてしまうという可能性も考えられる。ロシアにおいては冷戦後もNATOは敵として刷り込まれてきた。したがってNATOとの戦いになると総動員態勢となり、エリートや若者を中心に広がりつつある反戦の動きが弾圧され、社会の変化の可能性が摘み取られてしまう。
NATOには、エスカレーションのリスクを回避しつつ、一段と踏み込んだ対応を模索するという、ぎりぎりの舵取りが求められている。それは、「かつてないほどの強さと結束」(バイデン大統領)を示しているからこそ可能となる。
冷戦後に漂流しつつあったNATOは、2008年のジョージア紛争、2014年のクリミア併合、2022年のウクライナ侵攻と、3度目のモーニング・コールにより、ようやく覚醒しつつあると言えよう。
●プーチン理論のデタラメ ウクライナ侵攻失敗ならロシア連邦が解体の危機に 4/4
多くの識者が指摘するように、ウクライナに侵攻したロシア軍は予想外の苦戦を強いられている。プーチン露大統領はなぜ、無謀とも思える軍事作戦に踏み切ったのか。「ウクライナ人とロシア人は歴史的に一体だった」というのがプーチン氏の論理だが、それはロシア自身を破滅させかねない“諸刃の剣”でもあるという。ロシア国内の民族事情に詳しいジャーナリストが、プーチン思想の危うさを解説する。
私は長年、ロシアを中心とした旧ソ連圏で様々な取材活動を続けてきた。ロシアとウクライナのどちらの国にも友人がいるし、その中には両親それぞれの出身地がロシアとウクライナという人もいる。2月24日のプーチン氏の「宣戦布告演説」をライブ中継で聴いた時は、「大変なことが起きてしまった」と背筋が寒くなる思いをした。同時に、プーチン氏が語った侵攻の理屈には、大きな弱点があるとも感じた。
2月24日のプーチン演説の要旨の第一は、
「ウクライナは歴史的に存在しない。もしあるとしたら、それは作りだされた偽物だ」
というものだ。プーチン氏の主張を要約すれば、「ロシアはもともと一つだったが、それをバラバラにする根拠(民族自決)を、権力を維持したい当時のソ連が作りだした。ソ連は無責任にもそれを放置したまま勝手に自壊し、その結果、ロシアとウクライナが分断されて現在に至る」ということになる。ここでは、ソ連時代をいわば“黒歴史”としている。
プーチン氏によれば、まずロシア革命の際にレーニンが民族自決を宣言してロシアをバラバラの民族構成共和国にした。その後、スターリンが今の西ウクライナを、フルシチョフがクリミア半島と東ウクライナを付け加えてできたのが、現在のウクライナの国土だという。衝撃を受けたのは、開戦直後にロシアの国営放送に登場した地図だ。この地図によれば、中央の黄色部分が本来のウクライナで、他は全てロシア、あるいはソ連が「プレゼント」(地図中のロシア語表記も“贈答品”の意味)したものだという。プーチン氏は昨年7月にも、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文を発表している。今回の侵攻は、その理論の実践という位置づけなのかもしれない。
ロシア国内にいる2つの「ロシア人」
ところが、この論理を追求すれば、ロシア国内にも思わぬ形で飛び火する可能性がある。実はロシア語には、「ロシア人」を表す単語が2つある。Russki(ルースキー)とRossiski(ロシイスキー)だ。前者はいわゆる民族的なロシア人のことで、後者はロシア連邦内に居住する住民(民族問わず)を指す。日本ではロシア人といえば金髪で青い目の白人を思い浮かべる人が多いが、ロシア連邦にはトルコ系のイスラム教徒であるタタール人や、モンゴル系、朝鮮系などアジア系の人々も多く暮らしている。約1億4400万人の人口を抱えるロシア連邦で、民族的なロシア人(ルースキー)は8割程度に過ぎず、残りの約20%は非ロシア系ロシア人なのである。
プーチン氏がウクライナ侵攻の前提としての「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」を語る時、その「ロシア人」とは一義的には民族的なロシア人(ルースキー)を指している。だとすれば、ロシア国内に住むロシア人以外の200以上の民族(人口は合わせて数千万人)は、そもそも今回の戦争には関係がないことになる。
歴史的一体性の説得力は…
ソ連時代の民族自治政策を失敗と呼ぶなら、現在のロシア連邦内の諸民族はどうなってしまうのか。プーチン氏は、ロシア帝国以前の歴史を持ち出して「ロシア人、ベラルーシ人、ウクライナ人の一体性」を強調している。しかし、これは諸刃の剣である。例えば、現在のロシア連邦の領土の相当部分が、かつてモンゴル帝国の支配下にあった。過去の歴史を持ち出すことになれば、トルコ系、モンゴル系のロシア国民の間でも「歴史的一体性」という概念が登場し、最終的にはトルコやモンゴルなどで暮らす同胞との結束を求める声も出てきてしまう可能性もある。これはロシアにとっても非常に危険な論理なのではないか。
今回の戦争でプーチン氏が当初の目的を達成できるかは不透明だ。仮にできたとしても、ロシア側にもすでに多くの死傷者が出ており、経済制裁によるダメージはすべてのロシア国民に影響を与えている。それだけの犠牲を払う理由として、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」は、非ロシア系の国民にとって果たしてどれだけの説得力を持つだろうか。もしこの戦争にロシアが敗れた場合には、国民の不満はかなり大きなものになるだろう。プーチン氏の論理は、下手をすれば連邦国家の解体に繋がりかねないほど危険な意味を持つかもしれない。
最後にひとつ強調したいことがある。今回のウクライナ侵攻については、ロシア人、ベラルーシ人の友人達も胸を痛めている。彼らは皆、温かい人達ばかりである。世界ではロシア人だから悪いと決めつけられている人もいて、日本国内でロシアの商材を扱う店も被害に遭っているという。ロシア連邦が国際ルールに違反しているのは明確ではあるが、ぜひ個々のロシア人にその怒りをぶつけないであげてほしい。何よりも、一刻も早い戦争終結を願うばかりである。
●ナチスに酷似する「プーチン親衛隊」、内部崩壊は間近 4/4
プーチン戦争指導部が迷走の度合いを深めているようです。
私が「敗戦」を前提にプーチン(政権)の末路について具体的に記したのは、3月16日公開の本連載でしたが、この頃はまだ畏友・佐藤優など「今回はロシアが軍事的に勝利」との予測が出ており、筆者として公開には一定の勇気が必要でした。
その風向きが変わり始めたのは3月18日でした。
米中首脳電話会談、そして翌週ジョー・バイデン米大統領がポーランドに飛び、23日にはロシア大統領特別代表を務める新興財閥のチュバイス氏の亡命が明らかになったあたりには敗色は隠しようもなくなりました。
開戦から1か月目の翌3月24日には「キーウ(キエフ)占領電撃戦失敗」によるロシアの「実質的敗北」は、グローバルには衆目の一致するところとなります。
2022年4月、いまやプーチン「大本営発表」を鵜呑みにするのはロシア国内の情報受け身層に限られています。
しかし、問題はそうした受け身層が(様々な理由で)決して少なくない点で、ロシア国内はまだ「翼賛勢力」が幅を利かせている現実があるようです。
戦争を支持して調子に乗る「八紘一宇好き」は、いつの時代、どこの国にも出現する。
それでも富豪の高官チュバイスに限らず、比較的経済状況に余裕のあるロシア市民が近隣諸国に脱出し始めれば、一般大衆もざわつき始めるものです。
敗色が濃厚となったロシア戦争指導部でプーチンが「孤立」しつつあるとか、出身母体である旧KGB「鉄の結束」のはずが・・・とか的外れな日本語見出しも目にするようになしました。
あるいはKGBの後身である連邦保安局FSB「クーデターか?」といった報道も見られ、ロシア戦争指導部は混迷の度合いを深めている。これは間違いないでしょう。
まあ、そもそも本当に「鉄の結束」があったなら、あんな凄まじいスターリン大粛清など、起きるわけがありません。
一寸先は闇というソ連〜ロシアの国情が恐怖政治体制を維持しているとみるべきです。
亡命したロシアスパイを執拗に暗殺する、あれがどう「鉄の団結」なのか?
冷戦期「007映画」の記憶でも引き摺っているのではないかと疑いたくなります。
実際、既にここ10年、ロシアに「鉄の結束」など存在せず、かつてナチスが独裁体制を作り上げたのとそっくりの「暴力装置の多重構造」が存在します。
しかし、どうも日本語の解説ではその種の記載を見かけません。
そこで今回は40万人規模まで膨れ上がっているプーチンの私兵「ロシア国家親衛隊」など、ロシア暴力装置の構造を概観してみましょう。
大統領直属の「国営の私兵」
2016年4月5日、ウラジーミル・プーチンは一通の「ロシア連邦大統領令」に署名します。
これによって成立したのが「ロシア国家親衛隊」グヴァルディアでした。
英語の組織名を直訳すれば「Service of the Troops of the National Guard of the Russian Federation(ロシア連邦国立保安軍)」とでもなるでしょうか。グヴァルディアは「ガード」ボディガードです。
このグヴァルディア、本質は大統領に直属する「親衛隊」で、ロシア国軍とは独立した武力、いわば「プーチン個人のボディガード」「大統領の私兵」として「保安」「警護」「諜報」さらには「工作」「暗殺」などの任務に当たる武力、軍事力です。
トップには、文字通りプーチン長年のボディガードで柔道の仲間でもある、ヴィクトール・ゾロトフが就任しています。
このゾロトフという人物は、なかなか複雑怪奇なので、別途ご紹介の機会があればと思います。
端的に言えば「錠前工」を振り出しに職歴が始まるノンキャリ、完全叩き上げの「プーチン舎弟」。
プーチンは完全に信頼のおける舎弟を直属軍のトップとして将官に据え、既存勢力のクーデターに対しても「プーチン個人の軍隊」で十分圧殺できるよう、武力体制を固めている。
それが2016年4月ということになる。鉄の結束などちゃんちゃらおかしい。誰も信用できない相互監視の恐怖政治がソ連以来105年続くのがロシアの残念な実態です。
「結束」など存在するなら、こんな「私兵」を作る必要はない。
当初は2000とか3万といった人数であった「プーチン私兵」の「国家親衛隊」グヴァルディアは、いまや40万軍勢に膨れ上がっていると言われます。
これはつまりウクライナ国軍の2倍ほどにあたり、それが「プーチン個人」に直属する一種の「国が抱える民兵」として工作している。
それ以外にロシア国軍90万があるのだから、プーチンとしてはウクライナ侵攻、キーウ占領など朝飯前、と高を括った。無理ない話かもしれません。
3月18日、スタジアムに20万人を集めて行われた「クリミア併合8周年記念祭」も、ことによると「国家親衛隊」隊員や、その家族などからメンバーを選び、決してプーチンを狙撃しない数万の群衆を集めて執り行われた示威行為と見ることができそうです。
このように考えるとき、真っ先に思い出されるのが、ナチスドイツの独裁者アドルフ・ヒトラー個人に忠誠を誓うナチス「親衛隊」SSです。
また、親衛隊を核としてヒトラーに忠誠を誓うナチス党員を40万人以上集めて行われた「ニュルンベルク党大会」です。
ナチスが創始したマスゲームなどのイベントは、戦後もソビエト連邦、中国、また北朝鮮などに継承されていくことになります。
スターリンからナチスへ退行 なりふり構わないプーチンの「暴力装置」
1933年、ナチスドイツが政権を奪うに当たっては、南部バイエルン経済界の支援などと並んで、ナチス初期から体を賭けて武力行使してきた「ナチス突撃隊SA(1921-45)」が大きな戦功を挙げました。
しかしいったん権力を掌握してしまうと、ヒトラーを「おい、アドルフ」とファーストネームで呼べるような「大物」は邪魔になります。
翌1934年「長いナイフの夜」と呼ばれるクーデターで「突撃隊長」エルンスト・レームらは「国家反逆罪」容疑で射殺されてしまいました。
この粛清を実行したのが、元はアドルフ・ヒトラー個人の身辺警護からスタートした「ナチス親衛隊SS」(1925-45)で、古株の突撃隊は解体再編され、親衛隊の指揮下に置かれて骨抜きにされます。
これとよく似た状況が、プーチン独裁体制下のロシアで、過去10年来起きていることに注意する必要があります。
ソ連が崩壊すると、悪名高いKGBは「解体」ではなく、あろうことか「再編強化」されてロシア連邦保安庁FSBに格上げされてしまいます。
スターリン時代、大粛清を実行したラヴレンチ―・べリア率いる内務人民委員部NKVDは、自らが「警護」しているはずの「要人」がスターリンの邪魔になると、突然「反革命分子」として銃口を向ける厄介な秘密警察・暗殺部隊となりました。
フルシチョフらの画策で解体、縮小されてできたのが、1委員会規模のKGBでした。
それが再び省庁のレベルに格上げ、拡大され、35万人規模を擁する諜報機関〜秘密警察となったのがFSB、つまりKGBが増強化して権力装置となったのがロシア連邦保安庁という出自に注目する必要があります。
このFSB第4代長官を1998年7月〜99年8月まで務めたのがプーチンにほかならず、FSB長官からプーチンがシフトしたのが、ボリス・エリツィン大統領の指名によるロシア連邦第1副首相→首相代行(8月9日)→首相(8月16日)→エリツィンの引退で大統領代行(12月31日)→大統領選挙で過半数の支持を集め大統領当選(2000年3月26日)。
ほんの1年半前までは大統領府の副長官に過ぎなかったプーチンが、あっという間に政権中枢に躍り出、微妙な選挙を瞬間沸騰で制して権力掌握という経緯は、出身母体である秘密警察の全面的なバックアップあってのことでした。
プーチン「首相」が大衆人気を集めるのに成功したのは1999年10月〜2000年2月にかけて集中的に行われた第2次チェチェン紛争での「勝利」によるもので、ロシア世論はプーチン支持に沸騰。
史上最悪と言われる徹底した軍事攻撃で無人の焼け跡と化したチェチェンの首都「グロズヌイ」にロシア軍は「凱旋」。
こうした「劇場戦争」を背景にプーチンはロシア連邦の権力を掌握し、ロシア版「戦後高度成長」を演出、経済の立て直しをアピールします。
しかし、一度権力を握れば、トップにとっては以前からの「同僚」は邪魔になります。
「旧KGB」などロシアの治安・保安・国防関係者は「シロヴィキ」と呼ばれますが、これはソ連崩壊後のロシア初期、エリツィン大統領が政敵に対抗するため旧諜報関係者を登用、FSBなどを強化し、新興財閥などと結託して勢力化したものです。
そこで担がれたナンバー・ワンがプーチンであって、FSBやシロヴィキ、新興財閥側にとって当初のプーチンは、仮に邪魔になれば挿げ替えるだけの首に過ぎず、事実、プーチン政権の長期化に伴い、様々な粛清や暗殺が続いたのは周知の通り。
プーチンを担ぐ側の実質「オーナー」だった新興財閥オリガルヒの巨頭、ボリス・ベレゾフスキーは「長いナイフの夜」同様の難に見舞われかけ2001年に英国亡命、最終的には2013年に「自殺」したとされますが、幾度もテロリストに命を狙われました。
こうした様々な不安定要素を払拭し、スターリンの秘密警察・べリア機関NKVDより退行したナチスのSSを彷彿させる実質「プーチン私兵」として組織されたのが2016年の「ロシア連邦親衛隊」。
鉄の団結なぞ最初からあるわけがないのです。
「親衛隊」グヴァルディアのトップ、ヴィクトール・ゾロトフは「プーチンにとってのヒムラー」と言うべき「片腕」。
これに対して、プーチンの後任で連邦保安庁FSBトップに就いたニコライ・パトルシェフや、さらにその後任で現在もFSBを率いるアレクサンドル・ボルトニコフらはプーチンと同世代で、それなりの折り合いをつけ、もっぱら「同じ舟に乗っている」人たち。
ナチスで言えば「突撃隊SA」以来の「同志」ではありますが、いつヒトラーにとっての「エルンスト・レーム」同様「長いナイフの夜」の牙にかけられるか、知れたものでないのも事実です。
これに対して、若いFSBエージェントたちは優秀なスパイですから、今後この勝算のない戦争が長引けばロシア社会経済がどのようなダメージを被るか、一番よく分っており、プーチン排除を考えるのは当然のこと。
プーチンは権力母胎のKGB−FSBを解体再編、さらに強化して軍隊化し、スターリン粛清のべリア機関よりも悪質な、ホロコーストのナチス親衛隊の21世紀版を己を警護する武力として身にまとっているわけです。
かつてのナチスが「ドイツ国軍」⇔「ナチス突撃隊SA」⇔「ヒトラー親衛隊SS」という、暴力の三すくみ構造であったのと同様、現在のロシアは「ロシア国軍」⇔「連邦保安庁FSB」⇔「プーチン親衛隊グヴァルディア」という武力の三すくみ構造の上に、プーチン政権は成り立っている。
ですから、もしもこのプーチン私兵である「はず」の「グヴァルディア」内から反逆や暗殺が出てくれば、それより先にプーチンを守る盾は存在しない。
この点も指摘しておくべきでしょう。
人は他者を批判するとき、期せずして己を語るものです。
プーチンがゼレンスキー政権を「ネオナチ」と呼ぶのは、ネオでなく本物のナチスを手本に、ホロコースト/ジェノサイドも厭わない武装勢力を濫造した己の姿を映しているように見えます。
「プーチンのヒムラー」ゾロトフ・グヴァルディア隊長の実像など、今回端折った論点については、別途検討したいと思います。
●窮地に陥ったプーチンはますます危険になる 4/4
ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、デビッド・イグネイシャスが、3月17日付けの同紙に‘Watching Russia's military failures is exhilarating. But a cornered Putin is dangerous’と題する論説を書き、プーチンの軍事的失敗を見ることは愉快かもしれないが、追い詰められたプーチンは危険だ、と述べている。
イグネイシャスは、隠れたリスクとして、
1 必死になったプーチンは益々エスカレートする可能性が高く、問題解決のための妥協は苦痛を伴うが必要だ。
2 コーナーに追い詰められたプーチンの脅威につき、世界の諜報機関はその力を削減する方法を考えるべきだ。
3 ウクライナ戦争は核拡散を刺激することになるかもしれない。
4 抑制した側が抑制しない側の行動を可能にするという西側の自己抑制のパラドックスが起きており、何とか抑止のバランスを回復せねばならない。
5 戦後の世界の再構築にはロシアと中国の参加が必要であり、そうしないとそれは失敗する。
6 次のロシア崩壊の危険に注意しておくべき。
7 ウクライナ戦争はもっと破壊的な紛争のリハーサルなのかもしれない。
との見方を紹介する。いずれも重要な指摘である。
イグネイシャスの指摘で一番注目されるのは、今回の侵略は核兵器の有益性を明確にしたとの指摘である。これは残念ながら正しい。先のミュンヘン安保会議でウクライナのゼレンスキー大統領は、1994年に核を放棄したのは間違いだったと述べた。
核については、リビアのカダフィ政権転覆の際も指摘されたことである。北朝鮮やイランを含め中東の大国、西欧メディアの一部には韓国に言及するものもあるが、関係国は大きな関心を持って注視しているだろう。
日本にとっては、核不拡散の努力と拡大抑止の確保が一層重要となる。ロシアが侵略早々、チェルノブイリを含む原発の確保に出たのは、エネルギー源の確保の他に、核関連施設の確保と言う軍事的狙いもあったであろう。
「西側の自己抑制のパラドックス」についての指摘は、非常によく分かる。西側の抑制には相手にフリーハンドを与えることになる難しいジレンマがある。プーチンがエスカレーション・ドミナンスを保有していることは最初から懸念された。
正気者の狂者に対する抑止は難しい。プーチンの侵略の前に、北大西洋条約機構(NATO)軍をウクライナの東部に予防展開するようなことをすればバランスを回復できたかもしれないが、それほど簡単なことではない。
戦後体制につきロシアと中国を入れなければ失敗するとの指摘については、侵略者であるロシアをこうした体制にすんなり入れることが受け入れられるかどうかは難しいところだ。中国がロシアに加担する場合は、中国も同様である。ロシアは核保有国であり安保理常任理事国であることも大きなジレンマとなる。他方、ロシアに明確な責任を取らせることは必要である。
ウクライナ侵略から約1カ月半が過ぎた。ウクライナとロシアの停戦交渉は、今も続いている。それ自体は良いことだが、一時期双方から出ていた楽観的なトーンはその後消えた。
ウクライナは、新たな安全保障枠組みの設定を条件にNATOへの加盟は何らかの譲歩をするように見えるが、非軍事化など彼我の立場の乖離はどうしようもない程かけ離れている。その間ロシアはミサイル(しかも非誘導性のものが多いという)を中心に重要都市攻撃等を続けている。
ロシアの当面の最重要軍事目的は、マリウポリ(重要港町)を掌握し、ドネツク州などとクリミアを結ぶアゾフ海沿岸地域全域の掌握を達成し、この地域の経済的一体性を完結することであろう。ロシアはウクライナにマリウポリの明け渡しを要求したが、ウクライナは拒否した。
なお、和平交渉について、米国の一部に、ゼレンスキーの意図が見えないとの不安があるとの報道がある。軍事状況は、多くのところで膠着、消耗戦に移りつつあると見られている。戦闘の長期化はゼレンスキーにとり良いことではない。それにつれて市民の犠牲が拡大している(厳しい生活、負傷・殺戮、ロシアへの強制移動など)。人道状況は悲惨である。 
●戦争犯罪の可能性 ウクライナの遺体映像に「がくぜん」―国連人権弁務官 4/4
バチェレ国連人権高等弁務官は4日、ウクライナのキーウ(キエフ)郊外ブチャでロシア軍撤収後、多数の遺体が発見されたことについて、戦争犯罪の可能性があると警告した。
バチェレ氏は声明で「ブチャの路上や即席の墓地で民間人の遺体が横たわっている映像にがくぜんとした」と表明。「戦争犯罪や国際人道法の重大な侵害、国際人権法の深刻な違反の可能性について、深刻かつ憂慮すべき問題を提起するものだ」と指摘した。
●ロシアの新型戦闘機スホイ35が墜落――ウクライナ軍が撃墜か 4/4
ウクライナ戦争で、ロシアの新型戦闘機スホイ35(Su35)が墜落した。イギリスの軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」が4日、画像分析を基に報じた。
ジェーンズによると、ロシア航空宇宙軍(VKS)所属のスホイ35が墜落したのは、ウクライナ東部ハルキウ州イジューム近郊。墜落機は単座型でカナード(先尾翼)がないスホイ35だった。
このスホイ35がウクライナ軍の地対空ミサイルで撃墜されたのか、あるいは機器の故障による墜落か、など詳しい状況は分かっていない。しかし、スホイ35は墜落後、原形をどどめないほど燃え尽きてしまっている。
ウクライナ内外の複数のメディアによれば、ウクライナ内務省のアントン・ゲラシュチェンコ顧問がウクライナ軍によるスホイ35撃墜の事実を確認したという。パイロットは射出座席を利用して脱出したが、すぐに拘束されたとされる。
墜落であれ、撃墜であれ、いずれにせよ、ロシア軍が2010年代初めにスホイ35を実戦配備して以来、初めてスホイ35を戦闘で損失したことになる。
かりにスホイ35が実際に撃墜されたのであれば、ウクライナ軍が引き続き、制空権をめぐる戦闘で能力を発揮している一方、ロシア軍がウクライナ侵攻後、1カ月以上経っても制空権を取れない不能ぶりを浮き彫りにしているとジェーンズは指摘している。
ロシアの新型のスホイ35戦闘機は、第5世代戦闘機に最も近い第4++世代戦闘機だ。NATO(北大西洋条約機構)のコードネームは「フランカーE」となっている。ジェーンズによると、VKSは103機のスホイ35S(スホイ35の量産型)を保有している。スホイ35は能力面でよくアメリカ空軍のボーイング製F15EXイーグルIIと類似していると指摘される。
アメリカ空軍のステルス戦闘機F22やF35、中国空軍のJ20(殲20)と比較されるロシアの第5世代戦闘機スホイ57(NATOコードネームはフェロン)は、まだ実戦で広く使われおらず、ウクライナ戦争でも投入されていないとみられている。
●戦争の実情知らぬロシア国民、ジョージ・オーウェル風のメディア報道に囲まれ 4/4
悲痛な映像は、西側諸国の視聴者がウクライナの戦争で目にしているものとそっくりだ。1人の老婦人が分厚いコートで寒さをしのぎ、村を襲ったロケットで焼き尽くされた木造の家の前で泣きながら立ち尽くしている。「彼らに全てを破壊されました!」と老婆は叫ぶ。「跡形もありません」
だが、これはロシア国営テレビ局「ロシア24」の映像だ。村を襲ったのはロシア兵ではなく、ウクライナ兵だと報じられている。ロシア人特派員はウクライナ兵を「ナショナリスト」と呼ぶ。民間人を「人間の盾」に使う「ネオナチ」「ファシスト」「薬物中毒者」だと言うリポーターもいる。
戦争のニュースはほぼ全て、ウクライナ東部の分離派地域ドンバス地方、ドネツクとルハンスクの自称「人民共和国」から発信されている。主にロシア語が話されているこの地域を、ロシアは2月21日に独立小国家として承認した。
これがロシアのウクライナ侵攻の引き金となり、ロシア政府に侵攻の口実を与えるものとなった。ロシア側は差し迫るウクライナの攻撃から両国を「保護」するしか選択肢がなかったと主張している。とあるニュースの言葉を借りれば、「非ナチ化を実現するには軍事作戦しかなかった」ということだが、ウクライナ側はロシア側の主張を強く否定している。
ロシアのメディアでは、世界中の人々が目の当たりにしているウクライナの他の地域での戦闘はおおむね無視されている。ロシアの爆撃を受けて荒廃したマリウポリ。ロシアの空爆で破壊され黒焦げの住居や建物の残骸が残るハルキウ、チェルニヒウ、ヘルソン、ジトーミルなどの街。血まみれの住人が混乱状態でロシアの砲撃を逃れている首都キーウ(キエフ)周辺の住宅地。こうした光景はロシアのテレビではほとんど報じられない。報じられたとしても、ウクライナ軍の所業とされている。ここ最近ロシア軍が苦戦を強いられていることについても、正確な報道は全くなされていない。
報道は感傷的で、しばしば怒りに満ちた非難や威嚇がにじむ。ロシアの人気トーク番組では司会のウラジーミル・ソロビヨフ氏が欧米を激しく非難し、プーチン大統領が側近からウクライナでの戦況を知らされていないとする米メディアの報道を鼻で笑う場面もあった。
「我々がどんな答えを用意しているか、あなた方はまだわかっていない。アメリカの同志よ、あなた方は今後どうなるか知らないし、知りたくもないだろう」
プーチン大統領もテレビでは感情をあらわにした物言いをしてきた。それはバーチャルで行われる安全保障会議や、コロナ感染の可能性を避けるために滑稽なほど長いテーブルの反対側に閣僚を座らせた対面会議でも同様だ。
プーチン氏はある演説で、欧米の目標はただひとつ、「ロシアの破滅だ」と語った。
「だが誰でも、とりわけロシア国民は」と視聴者を安心させるかのように言葉を続け、「つねに真の愛国者とクズや売国奴を見分けられる。そうした奴らは、口に飛び込んできた蚊のように吐き捨てるまでだ」と語った。
だがプロパガンダがあふれる閉鎖された世界では、高揚感が一貫した論理の欠如を補うとは限らない。プーチン氏はウクライナが本当は国家でなく、歴史的にロシアの一部だったと主張する。昨年夏に公表された冗漫な論文でも、ウクライナ人とロシア人は同じ民族だと述べた。だがプーチン氏本人が命じた戦争で、ロシア人は自分たちの「同胞」ウクライナ人を殺している。
ニュース速報にちりばめられた短い映像は、ウクライナ侵攻への支持をかきたてる狙いがある。そのひとつが、「Z」の形に隊列を組む熱心な若者の姿だ。「Z」はウクライナ侵攻の非公式なシンボルで、戦闘地域ではほぼ全ての戦車や装甲車に描かれている――本国ロシアでは、侵攻に異を唱えるロシア人の家のドアにスプレーで描かれることもある。
別の「決起集会」の動画には、ごく一般的なロシア人とおぼしき人々の短い言葉が引用されている。「大統領を支持します!」と発言する男性や、「国民を守るという大統領の政策に全面的に賛成です」と宣言する者もいる。暗い表情で「NATO(北大西洋条約機構)に近づいてほしくない」と言う者もいる。最後の発言者は「みんなで団結しよう!」と呼びかけている。
ジョージ・オーウェルの小説の世界にいるように、ウクライナの戦争は「特別軍事作戦」としか呼ぶことができない。3月4日に可決された法律により、この戦争を「戦争」「攻撃」「侵攻」と表現することは違法とされた。違反者は最高禁錮15年の刑に処せられる場合もある。ロシア軍や「作戦」について「フェイクニュース」とみなされる報道をした報道機関もその対象だ。
戦争に対する反対意見は、ロシアのマスメディアではまったく見受けられない。戦争開始後の数週間にロシア国内で勃発し、1万5000人以上が拘束または逮捕された反戦抗議デモも、国営テレビでは一度も放映されていない。
情報の鎖国
長年プーチン政権は、ロシアの自由な報道を入念に排除してきた。戦争が始まり、新たに「戦争表現禁止」法が可決されると、残る2つの独立系メディア「TVレイン」と「エコー・モスクワ・ラジオ」も閉鎖した。どの放送局も直接、あるいは親政府派のオーナーを通じて政府の管理下に置かれている。一部の若者を除く大半のロシア人は、テレビからニュースや情報を入手している。
フェイスブックやツィッター、インスタグラム、その他海外のソーシャルメディアプラットフォームなど、インターネット上の情報源はブロックされている。BBCやラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティなど、ロシア語で放送している国際報道機関も同様だ。
情報の鎖国は、大統領が起こした戦争が正当だとロシア人を納得させるのにある程度成功しているようだ。「ナチスがウクライナを支配している」「ドンバス地方のロシア系住民は『大量虐殺』の被害者だ」「ロシアこそがNATOの攻撃で死の危機に瀕(ひん)している」といったうそをまき散らすプロパガンダを浴びせられていては、大勢のロシア人が戦争を支持するのも無理はない。
事実、独立調査機関レバダセンターが3月に行った世論調査によると、戦争以降プーチン大統領の支持率は上昇し、大統領を支持するという回答は1月の69%から83%に増加した。だが国民が大量のプロパガンダにさらされ、反対意見が認められない国の世論調査が必ずしも信頼できないのは明らかだ。
ウクライナはこの先何年も、この無用な戦争による破壊の傷を引きずっていくことになるだろう。だがロシアもまた、自分たちの政府が仕掛けた悪意ある情報戦の後遺症に悩まされることになるだろう。
●集団墓地に民間人150人の遺体か、強まる「戦争犯罪」の声 ウクライナ 4/4
ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の町ブチャでロシア軍撤退後の3日、教会の集団墓地で家族の遺体を捜す市民らの姿を、現地のCNN取材班が伝えた。ロシア軍が占領下のブチャなどで多数の民間人を殺害したとの情報を受け、ウクライナのゼレンスキー大統領や欧米諸国は「戦争犯罪」との非難を強めている。
ブチャでは5週間に及ぶ戦闘の末にロシア軍が撤退し、ウクライナ当局が「解放」を宣言した。
CNN取材班が住民らの話として伝えたところによると、市内にある教会の敷地には、戦闘が始まった直後からこれまでに150人の遺体が埋葬された。その多くが同市周辺での戦闘に巻き込まれた民間人だという。
取材班は、墓穴に積み上がった少なくとも12体の遺体収納袋を目撃した。
ブチャの市長は2日、この墓地に最大300人が埋葬されている可能性があると述べた。CNNは遺体の数や身元、国籍を独自に確認できていない。
ブチャでは2日、路上に民間人とみられる遺体が散乱した光景が撮影され、衝撃的な映像が公開されていた。
ゼレンスキー氏は3日の演説で「これを地球上で最後の戦争犯罪にしなければ」と訴え、ロシア兵による犯罪の捜査機関を設置すると表明。占領中の戦争犯罪は5日に国連安全保障理事会でも取り上げられるだろうと述べた。また、ロシアに新たな制裁が科されるのは確実だが、それだけでは不十分だと主張した。
ゼレンスキー氏は同日、米CBSテレビの番組でロシア軍の行為はジェノサイド(集団殺害)かと問われ、「その通り。これはジェノサイドだ」と答えた。
米国のブリンケン国務長官はロシアによる戦争犯罪の捜査と、対ロ制裁の強化を呼び掛けた。
英国のトラス外相も3日、民間人に対する「無差別攻撃」を戦争犯罪として捜査する必要があると発言。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は対ロシア制裁の強化を表明し、国連のグテーレス事務総長はブチャでの民間人殺害について独立した調査が不可欠だと述べた。
ウクライナ大統領府のアレストビッチ顧問は3日、キーウ郊外のブチャやイルピン、ホストメリから、ロシア軍の「戦争犯罪、人道犯罪」による「世界滅亡後」のような光景が伝えられていると述べ、子どもを含む民間人の殺りくや強姦、強盗などの行為が国内外で裁かれることになると語った。
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は3日、ロシア軍の占領下にあったキーウや北部チェルニヒウ、東部ハリコフの周辺で2月末から3月にかけ、民間人の男女や子どもが銃殺されたり、女性が避難先で繰り返し強姦されたりしたとする報告書を公表した。
一方、ロシア国防省はブチャからの映像を「偽物」だと断じ、占領中に暴力を受けた住民は「一人もいない」と主張。ロシア軍はこの間、住民に452トンの人道物資を配布したとする声明を出した。
同省さらに別の声明で、複数の外国メディアがブチャのニュースを一斉に報じたのは計画的に仕組まれた作戦だと非難。ロシア軍部隊が先月30日に撤退してから映像が流れるまでの4日間の空白は、映像が偽物であることを裏付けているとの主張を展開した。
●EU、戦争犯罪追及へウクライナと合同チーム創設 4/4
ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の各都市で市民への残虐行為が相次いで報告される中、欧米主要国は4日までに「証拠」収集に全力を挙げ、露軍による戦争犯罪を追及する考えを示した。
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は4日、「戦争犯罪の証拠収集と捜査」のため、ウクライナ政府と合同チームを立ち上げた上で、現地に派遣する方針を示した。
フランスのマクロン大統領も同日、仏ラジオで「戦争犯罪だと示す兆しがある。ロシア軍はブチャにいた」と発言し、ウクライナ当局の捜査にフランスが協力する姿勢を示した。ドイツのショルツ首相も3日、「ロシア軍による犯罪を捜査せねばならない」とし、国際赤十字など国際機関による現地入りを求めた。
米国のブリンケン国務長官は米CNNテレビで、「ウクライナで何が起き、誰にどれほどの責任があるのかを評価するのに必要な情報をすべて記録し、関係する機関や組織に提供する」と強調。ブリンケン氏は5〜7日の日程でブリュッセルを訪問し、北大西洋条約機構(NATO)と先進7カ国(G7)の外相会合に参加する。ウクライナへの継続的な支援などに加え、露軍による残虐行為への対応も協議するとみられる。
●ウクライナ情勢 「停戦ラインを意識した戦い」の段階に 米が戦車供与の報道 4/4
キャスターの辛坊治郎が4月4日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。ウクライナ情勢をめぐって、東部地域で「停戦ライン」を意識した“陣地のせめぎあい”が始まっているとニュースを深読みした。
辛坊が解説したニュースは、米・ニューヨークタイムズが1日に報じた記事。「バイデン政権がロシア軍の攻撃にさらされたウクライナ東部地域の防衛強化を目指し、同盟国からウクライナへ(ウクライナ軍が使い慣れている)旧ソ連製戦車の供与を支援すると報じた」というニュース。
辛坊) アメリカのバイデン政権が旧ソ連型戦車の供与を支援する。言うのは簡単だけど実際に実行するのは大変なことですね。空域が閉鎖されているわけじゃありませんから、空路でウクライナに戦車を運ぶわけにはいかない。陸路から入れるとなると、周辺国の同意も得なきゃいけないし、そんなに簡単なことじゃないんです。
でも何でここへきて、戦車供与が浮上しているかと言うと、いま最大の焦点は「どこのタイミングでウクライナとロシアが講和条約のようなものを結ぶか」ということ。つまり「いつ停戦に合意するか」っていうことが焦点になっているということなんです。
停戦した時の最前線、つまり両軍の戦っている“一番フロントライン”というのが「停戦ライン」になります。そこの戦線よりも東側は恐らく実質ロシア領になっているだろうし、ウクライナはかなり国土を減らされることになるだろうと思います。
そうなるといまの状況って、ロシアは首都キーウ(キエフ)の侵略を諦めたようで、軍を東側に移しているんだけど、そうするといま最後の戦いで停戦になるまでに、ロシアとしては東部の占領地域をできるだけ西側に拡大したいと思うし、ウクライナはもうすでに占領されているところをちょっとでも東側に押し戻したいと思いますよね。
増山)はい。そうですね。
辛坊) いままでの戦いであれば、戦車などを撃退するには「ジャベリン」(編集部注 可搬式の対戦車ミサイル)とか「スティンガー」(同 携行式地対空ミサイル)だとかあるんですがね。ジャベリンっていうのは対戦車砲なんですけど、まあいってみれば土管の筒のようなものですね。
あれを人間一人で持って行って、戦車から2キロ〜3キロぐらいまでの至近距離に行かなきゃ効果がないんです。そこに行くまでにロシア側から攻撃されて多分、相当な数の兵士が亡くなっていると思うんだけど。
ロシアの戦車が目視できるところまで近寄ることができたら、その土管みたいなものを肩に掲げてですね、照準を合わせてぶっ放す。そこからミサイルが飛んで行って、戦車に当たる直前で150メートルぐらい上昇して、戦車の真上からドーンと落ちる。
戦車の前面っていうのは、ものすごい分厚い装甲がされているから、攻撃されたってそんな簡単には壊れないんだけど、戦車の上部は弱いんです。戦車全体を分厚くすると、重くて動かないから、どこかを薄くしなくてはいけない。その薄いところを狙うんです。
ジャベリンっていう可搬型の対戦車砲は肩に抱えて照準を合わせてどーんと打つと、自分で戦車の熱源みたいなものを追跡していくから効果的な攻撃できる。それがすごく効いていて相当数のロシアの戦車がやられているわけです。
増山)なるほど。
辛坊) それでまあロシアは東部の方へ逃げていく状況なんだけど、奪われた領地を取り戻すとなると、この道具じゃダメなんです。戦車がいるんですよ。
だからもうアメリカとしては、ここからさらに最後の停戦の時のラインをちょっとでも東側に押し返すための武器というのを供与し始めていると。
戦況はそういうところに、いま進みつつあるという。ニューヨークタイムズが伝えたのは、そういう意味のニュースなんですね。
●岸田首相 ウクライナからの避難民 受け入れ拡大の考え示す  4/4
ウクライナ情勢をめぐり、岸田総理大臣は自民党の役員会で、多くの市民が死亡しているのが見つかったことについて「断じて許されない」と厳しく非難したうえで、日本での避難民の受け入れを拡大していく考えを示しました。
この中で、岸田総理大臣は、ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ近郊などで、多くの市民が死亡しているのが見つかったことについて「罪なき民間人に極めて卑劣な行為が繰り返されていることが明らかになり、世界が強い衝撃を受けている。断じて許されず厳しく非難する」と述べました。
そのうえで、ウクライナからの避難民の受け入れについて「林外務大臣らをポーランドに派遣し、現地の状況を直接確認するとともにニーズを把握し、政府専用機で希望する避難民を日本に輸送したい。受け入れ先とのマッチングや、日本語教育、就労・就学などの支援を行い、円滑に受け入れ数を拡大していきたい」と述べました。
一方、岸田総理大臣は、新型コロナの感染状況について「再び増加に転じており、警戒レベルを引き上げ、状況を注視しながらしっかり対応していきたい」と述べ、ワクチンの3回目の接種を加速するとともに、4回目の接種の検討も進める考えを示しました。
●キーウ近郊 多くの市民死亡 ロシアに厳しい対応求める声強まる  4/4
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ロシア軍が撤退した首都キーウ近郊で多くの市民が死亡しているのが見つかりました。ロシア側は関与を否定していますが、ドイツのショルツ首相が追加の制裁も示唆するなどロシアへの厳しい対応を求める声が強まっています。ウクライナに侵攻したロシア軍は、首都キーウ、ロシア語でキエフの近郊まで部隊を前進させたもののウクライナ軍の抵抗を受けて撤退を進めていて、ウクライナの国防次官は2日、キーウ州全域を奪還したと発表しました。ところがロシア軍が撤退したキーウ北西のブチャにロイター通信などの記者が入ったところ、多くの市民が路上で死亡しているのが見つかりました。ブチャの市長はロイター通信の取材に対し「手を縛られ、頭を撃たれた人もいる」と話しています。ウクライナのベネディクトワ検事総長は3日、キーウ近郊でこれまでに410人の市民の遺体が運び出されたとしたうえで「ロシアによる残忍な戦争犯罪の決定的な証拠だ」と強く非難しました。
ロシア国防省 “ウクライナや欧米側のねつ造”と反論
これに対しロシア国防省は「ウクライナ側が発表した写真や映像は新たな挑発行為にすぎない。ロシア軍が街を支配していた時に市民に暴力を振るったことはなく人々は自由に行動できていた」などと否定し、遺体の映像はウクライナや欧米側がねつ造したものだと反論しました。
各国首脳からロシア非難の声相次ぐ
しかしイギリスのジョンソン首相が「プーチン大統領やロシア軍が戦争犯罪を行っていることを示すさらなる証拠だ」と指摘したほか、フランスのマクロン大統領も「ロシア当局はこの犯罪に対する報いを受けなければならない」とコメントするなど各国の首脳からロシアを非難する声が相次いでいます。さらにドイツではショルツ首相が「同盟国などとともに近くさらなる措置を決める」と述べて追加の制裁を示唆し、ランブレヒト国防相も「このような犯罪をうやむやにしてはならない。EU=ヨーロッパ連合はロシアからの天然ガスの輸入停止も検討すべきだ」と述べ、ロシアへの厳しい対応を求める声が強まっています。ウクライナとロシアとの停戦交渉は4日も続けられることになっていますが、キーウ近郊での凄惨(せいさん)な状況が明らかになったことで交渉への影響が出る可能性もあり先行きは不透明感を増しています。
国際的人権団体 “戦争犯罪として調査する必要ある”
国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」はウクライナ市民がロシア軍の兵士に殺害される様子の目撃証言などを発表し、戦争犯罪として調査する必要があると指摘しています。「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は3日、キーウ近郊の市民など合わせて10人から聞き取った証言を発表しました。それによりますと首都キーウの北西ブチャに住む女性は先月4日、ロシア軍にほかの市民とともに広場に集められたということです。そしてロシア軍の兵士がおよそ40人の市民の前で5人の男性をひざまずかせたうえ1人の頭を撃ち「われわれは汚れを洗い流すために来た」と発言したということです。またハルキウ州の女性は先月13日、避難していた学校に現れたロシア兵に性的暴行を受けたと証言しています。調査を行った団体の担当者は「ウクライナの市民に対するおそろしい意図的な残虐行為と暴力だ」と非難し、戦争犯罪として調査する必要があると指摘しました。
ゼレンスキー大統領「市民が拷問受け殺害された」
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日に公開したビデオメッセージで「何百人もの市民が拷問を受けて殺害された。路上には遺体が並んでいる。そして遺体にまで地雷が設置されている」と述べ、ロシア軍が残虐行為を行ったと強く非難しました。そのうえで「世界ではこれまで多くの戦争犯罪が起こってきたが、これで最後にするために全力を尽くす時だ」と訴えました。さらに「ロシアには追加の制裁が科されるだろうが、それだけでは足りない」と述べて、なぜウクライナがこれだけの被害を受けたのか、その経緯にも目を向けるよう国際社会に求めました。
岸田首相「国際法違反の行為を厳しく批判する」
岸田総理大臣は4日午前、総理大臣官邸で記者団に対し「民間人に危害を加えるという国際法違反の行為を厳しく批判する。国際社会で非難が高まっていることを承知しており、日本もこうした人道上問題となる行為、国際法違反の行為を厳しく批判し非難していかなければならない」と述べました。そのうえで「さらなる制裁については全体の状況を見ながら国際社会としっかり連携し、わが国としてやるべきことをしっかり行っていきたい」と述べました。
松野官房長官「強い衝撃を受けている」
松野官房長官は午前の記者会見で「ウクライナで多くの市民が犠牲になっていることを極めて深刻に受け止めており強い衝撃を受けている。この民間人の殺害は国際人道法違反であり断じて許されず厳しく非難する。わが国としても戦争犯罪が行われたと考えられることを理由にウクライナの事態を国際刑事裁判所に付託した。引き続き同裁判所の検察官による捜査がしっかりと行われることに期待する」と述べました。そのうえで「いずれにせよ今回のロシアによるウクライナに対する侵略は明白な国際法違反であり、断じて許容できず厳しく非難する。ロシアは責任をきちんととられるべきである」と強調しました。さらに松野官房長官は記者団からロシアへの追加の制裁を行うか問われたのに対し「ロシアに対する制裁措置についてはこれまでG7=主要7か国を含む国際社会と連携し機動的に厳しい措置を講じてきたが、引き続き今後の状況を踏まえつつ適切に対応していきたい」と述べました。
●ウクライナから「避難するのか」「留まるのか」 戦時に迫られる“生き残る”選択 4/4
話を聞いて深く考えさせられた。果たしてそこに正解はあるのかと。
先週、期せずして「避難する人」と「留まる人」双方を取材した。1人はウクライナから大阪へ避難してきた17歳のモデルの女性、そしてもう1人は首都キーウ(キエフ)に留まる59歳の日本人男性だ。2人は今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻に直面し、異なる行動をとっている。戦時下において、自らと家族がどのように状況を判断し、行動するのか。平和な日本でおよそ考えることのない命題である。
両親を残して大阪へ「避難」したウクライナ人モデル
リナ・アキンティバさん(17)はウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)から3月9日に日本へやってきた。ウクライナのモデルエージェントに所属し、アジアでもモデルとして活躍していて、これまで日本に3度訪れたことがある。今回の来日もモデルとしての仕事をするという名目だが、実のところ「避難」の要素が強い。
ロシア軍による攻撃が激しいハルキウからすし詰めの列車に乗り、ポーランドを経由して5日かけて関西空港へ降り立った。日本へ来てまもなくひと月が経とうとしているが、祖国に残してきた父(51)と母(42)のことが片時も頭から離れない。両親とは毎日連絡を取り合っていて、水や食料品を買い出しに行く以外はずっと家にいるというが、毎晩、家の外から聞こえる爆発音で目を覚ましているのだという。両親もリナさんを心配させないためか戦争のことはあまり話さず、日本のことや桜について聞いてくるという。そもそも日本へ「避難」することは両親が勧めたという。
「両親を残してくるのはとても辛かった」
 (リナ・アキンティバさん)「わたしは自分の街や国から離れたくはなかった。しかし、両親が私に日本へ行くように言った、私は理解したけど、両親を残してくるのはとても辛かった」「日本にいるほうが安全なのは理解しているけどでも、両親に会いたい」
リナさんは一刻も早く両親の元へ帰りたいと思う一方で、いま帰国することは両親が望まないのではないかと思いが揺れ動いている。戦況を見ながらだが、6月中にはウクライナへ帰国したいという願いは叶うのだろうか。
ウクライナに「留まる」選択した日本人男性
一方でウクライナに残る選択をした人もいる。兵庫県神戸市出身の江川裕之さん(59)は1991年から31年間、首都キーウ(キエフ)で暮らしている。29歳の時に留学し、その後、ウクライナ人の妻(51)と出会い現地で家庭を築いた。今回のロシアの軍事侵攻を受け長女(20)は婚約者とともに西部の街へ避難したが、17歳になる長男とともに3人でキーウに残る選択をとった。4月4日からは日本語講師として勤務するキーウ国立大学でのオンライン授業も再開されるというが、3月上旬には江川さん自身は避難すべきではないかと考えていたという。ロシア軍が接近し砲撃が激しく首都陥落の恐れもあった。「正直、もう終わりかな」との思いもよぎったという。
しかし、妻の思いは違った。江川さんは「このままシリアやチェチェンのようになったら、どうするのだ」などと妻を毎日、説得しましたが「避難」することに同意しなかったという。江川さんの妻は「足が悪い状態で9、10時間も列車には乗れない」、「移動中の車が爆撃されていた、どこにいっても一緒だ」などと反論した。そして「そもそも私の家なのに、私の国なのにどうして逃げなくてはならないのか」とも言われたという。妻の固い意思に接し、江川さんも考えを変えた。
「3人いれば1人や2人よりも生存の可能性が高まるのではないか」
(江川裕之さん)「私がいたった結論は息子を連れて逃げ妻を置いていくと、家族がバラバラになりますよね、私は一生後悔したりとか、(妻を)一生探し回らないといけないことになる」
しかし…
(江川裕之さん)「3人いれば1人とか2人よりも生存の可能性が高まるのではないかなと思った、お互いに助け合うことができる」「例えば1人がもう一人をサポートしている間に他のもう一人が救助を求めるとか、3人いればなんとかいけるのではないか」
現時点での戦況も考え、家族とともに生き残るにはどうすればよいかを考えた上で出した結論。ベストではないがベターな選択なのだという。
「ウクライナの社会基盤をいま空洞化させてはいけない」
そして、江川さんは次のように付け加えた。
(江川裕之さん)「復興するのはどこでするのかといえば日本やヨーロッパではなくウクライナでしないといけない、ウクライナの社会基盤をいま空洞化させてはいけない」
ウクライナに実質がなければ誰も、他国は助けようとしない、実際の姿が無くならないようにすることも大切なことなのだと。
国連難民高等弁務官事務所によると、3月29日の時点で約400万人がウクライナ国外へ避難したとされる。避難する人、留まる人、そして国の将来のために戦う人、それぞれに事情があり、考えがある。そこには完璧な正解などないのだろう。停戦協議がまとまらない中で、いまもウクライナの人々は愛する家族のために究極の選択を迫られ続けている。
●プーチン大統領「5.9勝利宣言」めがけ大暴走 傭兵と地雷で“最終残虐攻撃” 4/4
プーチン大統領の暴走が止まらない。米CNNテレビは2日、米政府当局者の話として、ロシアが5月上旬までにウクライナの東部ドンバス地方などを制圧し「勝利宣言」を目指していると報じた。「宣言」までに戦果を上げたいロシア軍がなりふり構わず、攻勢を強める恐れがある。
ロシア軍は首都キーウなど北部主要都市の制圧に失敗。何らかの「勝利」を印象付けたいプーチン大統領が、制圧の可能性がある東部に重点を移し、目標を設定したとみられている。米当局が傍受で得た情報によると、期限は対独戦勝記念日の5月9日に定められたという。
東部を早期に制圧したいロシアだが、自国軍の犠牲者はできるだけ抑えたい。NATO軍の高官によると、侵攻後1カ月でロシア兵の死者は最大1万5000人。10年間で1万4000人以上の旧ソ連兵が亡くなったアフガニスタン侵攻に匹敵する。そこで、使い捨て要員として傭兵を増やしている。
派遣しているのはロシアの民間軍事会社「ワグネル」だ。プーチン大統領の料理人と呼ばれるプリゴジン氏が資金提供している。ロシア西部に訓練場があり、これまでにシリアやリビアなど28カ国で活動している。民間人殺害や拷問などの疑惑が持たれ、EUは昨年末、拷問や処刑に関与したとして、ワグネルと創始者のウトキン氏に制裁を科している。
英BBC放送によると、ワグネルは侵攻後「サーロ(ウクライナの豚料理)を食べたい人は連絡下さい」と傭兵を募集しているという。12年目の内戦下のシリアからの応募が中心だ。英国のシリア人権監視団によると、シリアの傭兵の月給は約1000ユーロ(約13万円)。他に重傷者に7000ユーロ(約90万円)、死亡者に1万5000ユーロ(約200万円)の補償があるとされる。ワグネルの傭兵はシリアやアフリカなどからウクライナ東部へ転戦し、当初の3倍の1000人以上が投入される見通しだ。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏が言う。
「ロシア兵には、兄弟国のウクライナへの攻撃には抵抗があるものですが、傭兵にはそのような感情はありません。また、正規軍の兵士ではないため、傭兵の行為についてロシア軍は責任を負わない立場を取るでしょう。どうしても傭兵は過激な戦闘行為に走ってしまう。実際、ワグネルの傭兵はこれまでも残虐な攻撃を繰り返してきました。今回もその可能性が高い」
さらに、深刻なのが地雷だ。ウクライナ国防省の高官は2日、キーウ州について「全域が解放された」と宣言したが、ゼレンスキー大統領は、2日のビデオ演説で「撤収するロシア軍が民家や残された遺体に地雷を仕掛けている」と主張。米メディアによると、実際に撤退後のエリアで地雷が見つかったという。転んでもタダでは起きないとはこのことだ。
「地雷によりウクライナ軍や人々は動きを封じられ、撤去には莫大な時間とコストがかかる。また、ウクライナ国民を不安に追いやり、厭戦気分を高めたい狙いもあると思われます。勝利宣言を目指し、ロシア軍が攻勢にかけている表れだと言えます」(世良光弘氏)
これ以上の暴挙は許されない。 

 

●ロシア軍の戦費は「1日3兆円」説 8年前の成功体験がプーチンを狂わせた 4/5
読売新聞オンラインは3月30日、「戦費試算『1日最大3兆円』、高価な長距離精密誘導弾使用にプーチン氏激怒か…『支持失う前に金欠に』」との記事を配信した。
記事によると、イギリスの研究機関が「ロシアのウクライナ侵攻が長期化するにつれ、戦費がうなぎ登りに上昇している」と発表したというのだ。
《英国の調査研究機関などは今月上旬、ロシアの戦費に関し「最初の4日間は1日あたり70億ドル(約8610億円)だった。5日目以降は200億〜250億ドル(約2兆4600億〜3兆750億円)に膨らんだ」と試算した》
この報道に対し、Twitterでは誤訳という声もある。担当記者が言う。
「拡散しているツイートによると、billionの意味を勘違いしたというのです。Billionには『兆』という意味もあるのですが、『10億』を表す場合もあるとの指摘でした。ただ、調査機関の原文を確認すると、単純な『戦費』ではなく、『トータルの経済的損失』を試算した、というのが真相のようです」
これまでに報道された戦費も見てみよう。例えば2021年、アメリカ軍はアフガニスタンから撤退した。その際、アメリカ政府は20年間で約8370億ドル、約92兆円の戦費が使われたと報告した。
「20年間で92兆円を割ると、1年で4兆6000億円という数字になります」(同・記者)
第二次大戦の戦費
ただし、21年8月にNHKが報じた「米軍アフガン撤退完了 20年間の米軍死者2461人 2万人以上けが 戦費92兆円」によると、戦費が253兆円という試算もあったという。
《アメリカ・ブラウン大学のワトソン国際問題研究所が国債の利子などを含めて試算したところ、実際にはその3倍近い2兆3000億ドル余り・日本円でおよそ253兆円に上るとしています》
こちらも20年間で割ってみると、1年間で約12兆6500億円という数字になる。驚くべき金額と言えるだろう。
「過去に戦費の額が報じられたのは、アメリカ軍のものが大半です。今の物価水準に直すと、例えば第二次大戦におけるアメリカの戦費は約452兆円だったとか、ベトナム戦争は約83兆円だった、という報道です」(同・記者)
中国軍事問題研究家の田中三郎氏に、読売新聞の報道をどう見るか、取材を依頼した。
「ロシア軍の戦費が1日に2兆円という額なのかについては、なんとも言えません。とはいえ、ロシア軍の戦費が急激に上昇しており、国家の屋台骨を揺るがしかねないほどの額になっていることは間違いないと見ています」
ロシア軍は貧乏!?
意外に思う人もいるかもしれないが、ソ連の時代とは異なり、ロシア軍は“軽軍備化”を進めている。
朝日新聞デジタルは2021年4月、「世界の軍事支出、過去最多 コロナ禍でも2兆ドル」の記事で、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計値を紹介している。
これによると、以下のような順位となる。
1位:アメリカ 7780億ドル(約95兆4800億円)
2位:中国 2520億ドル(約30兆9200億円)※推定値
3位:インド 729億ドル(約8兆9400億円)
4位:ロシア 617億ドル(約7兆5700億円)
5位:英国 592億ドル(7兆2600億円)
ロシアは4位とベスト5には入っているが、アメリカや中国と比べると桁が全く違うことが分かる。ロシアの軍事費はアメリカの約7・9%、中国の約24・5%に過ぎないのだ。
「ロシアは核兵器にはそれなりの軍事費を投入していますが、軍隊は自国の経済状況を反映させ、身の丈に合った規模にとどめているのです。冷戦時代、アメリカとソ連が二大軍事強国として対峙していた時代からすると、隔世の感があります」(同・田中氏)
ウクライナ侵攻におけるロシア軍の基本作戦は、そもそも多額の戦費を必要とするものだという。
戦車1両は数億円
「2014年、ロシアはウクライナ領土だったクリミア半島に侵攻し、クリミア共和国を誕生させることに成功しました。ロシア軍の被害はほぼ皆無という成功体験から、今回も『大軍でキーウ(ロシア語表記でキエフ)を目指せば、ウクライナ軍は総崩れとなる』と楽観的な見通しを持っていたと見ています」(同・田中氏)
とにかくロシア軍が大軍であることを“演出”するため、国内から戦車や兵士をかき集め、ウクライナに向かわせた。もともと軍事費が潤沢ではないロシア軍にとっては、これだけでも負担は大きかったと考えられる。
「その代わり、短期決戦を目標にすることで戦費を抑えようとしていたと思われます。数日や1週間程度でキーウが陥落すれば、それほどの負担にはならないと考えたに違いありません。ところがロシア軍の目論見は外れ、ウクライナ軍は必死に抵抗してきました」
ロシア軍の主力戦車である「T-90」は、輸出を強く意識して開発された。購入国の軍事予算に合わせ、“ハイスペック”な高額版から廉価版まで、バリエーションが豊富だ。
そのため販売価格に関する報道も諸説が入り乱れ、1両で4億4000億円とか、1億7000億円など、様々な額が伝えられている。
自国で生産している戦車だから、ロシア軍の購入費は輸出価格よりは安いだろう。とはいえ、国費から1両あたり億単位という費用を捻出しているのは間違いない。
ウクライナ軍の対戦車ミサイルで攻撃されれば、億というコストが投下されている戦車が一瞬にしてなくなってしまう。
停戦交渉の意味
「ロケットでウクライナの街を攻撃するにしても、当然ながら戦費がかかります。性能の良いロケットであればあるほど、価格が高いのは言うまでもありません。もともとギリギリの予算で切り盛りしてきたロシア軍にとっては、重い負担になっているでしょう」(同・田中氏)
戦費の増加に加えて、厳しい経済制裁もボディブローのように効いている。
「最近のロシアは、停戦交渉に応じる素振りを見せるようになってきました。もちろん様々な思惑から交渉のテーブルに就くポーズを取っていると考えられますが、その中の一つに国家財政の悪化があるのは間違いないと考えています。戦費の増加はロシアに深刻な影響を与えているに違いありません」(同・田中氏)
●プーチン大統領が大統領府にいる限り「ウクライナを諦めることはない」 —— 4/5
•ロシアのプーチン大統領がウクライナを支配するという自らの目標を諦めることはないだろうと、ロシア外交に詳しい専門家はInsiderに語った。
•「これが彼を長年突き動かしてきたものであり、彼が取りつかれてきたものです」と専門家は話している。
•専門家は、ロシアはウクライナとの和平交渉に「真剣に取り組んではいません」とも指摘している。
ウクライナとロシアの交渉が停戦につながる合意に達することができたとしても、ロシアのプーチン大統領がウクライナを支配するという自らの目標を捨てることはないだろうと、ロシア外交に詳しい専門家は警鐘を鳴らしている。
「プーチン大統領がクレムリン(大統領府)にいる限り、ウクライナを諦めることはないでしょう」とジョージタウン大学の教授で、ブルッキングス研究所のシニアフェローでもあるアンジェラ・ステント(Angela Stent)氏はInsiderに語った。ステント氏は1999年から2001年までアメリカの国務省政策企画本部に勤務し、2004年から2006年まで国家情報会議でロシア・ユーラシア担当を務めていた。
「(プーチン大統領が)ウクライナを従属させるという自らの目標を諦めることはなく」「親ロシア政府を作るでしょう」とステント氏は話している。
「それが彼の目標です。現時点で目標を達成していないことは明らかで、恐らく、近いうちに達成することもないでしょう。ただ、彼は諦めないでしょう」
「これが彼を長年突き動かしてきたものであり、彼が取りつかれてきたものです… ウクライナを従属させると心に決めているのです」とステント氏は続けた。
約20年にわたって国を支配してきたプーチン大統領の下、ロシアはウクライナに対して攻撃的な行動を取って来た。2014年にはウクライナに侵攻し、クリミア半島を併合した。また、同じ年にウクライナ東部ドンバス地域では反政府組織を支援し始めた。
プーチン大統領はウクライナを独立した国家とは考えておらず、「独立したウクライナというアイデンティティーは存在しない」と捉えているとステント氏は指摘した。プーチン大統領はウクライナ人とロシア人を「1つの国民」と呼び、かつてソ連の一部だったウクライナは、実質的な国家ではないと繰り返し主張してきた。
●米政府、週内に対ロシア追加制裁 プーチン氏を裁判に 4/5
バイデン米大統領は4日、ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で民間人とみられる多数の遺体が見つかったのを受け、プーチン大統領を「戦争犯罪人だ」と非難した。「戦争犯罪裁判ができるように詳細を把握しなければならない」と述べた。ロシアへの追加制裁を週内にも発表する。
ホワイトハウスで記者団に語った。ウクライナ検察は3日、キーウ北西のブチャなどで民間人410人の遺体が見つかったと表明した。欧米メディアも遺体が路上に横たわる写真や映像を伝えた。バイデン氏は4日、プーチン氏について「この男は残忍だ。ブチャで起きていることは常軌を逸している」と批判した。
バイデン氏は3月16日、プーチン氏を「彼は戦争犯罪人だと思う」と初めて明言していた。
サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は4日の記者会見で、ブチャの状況を踏まえ「戦争犯罪のさらなる証拠を示している。証拠を集め、事実を明らかにする」と訴えた。ウクライナのゼレンスキー大統領が主張するジェノサイド(大量虐殺)と断定することには否定的な考えを示した。
バイデン氏はロシアに「さらなる制裁を科すつもりだ」と明かした。サリバン氏は「同盟国や有志国と調整中だが、今週に追加の経済的圧力を発表する予定だ」と説明。「欧州とエネルギー関連を含めあらゆる制裁の選択肢を話し合っている」と話した。
近くウクライナに追加の武器支援を実施する。バイデン氏は「ウクライナに戦闘を継続するために必要な武器を提供し続けなければならない」とも強調した。ロシアが攻勢をかけるウクライナ東部の態勢を増強する狙いがある。
バイデン政権は1日に最大3億ドル(370億円)の新たな軍事支援策を発表したばかりで、レーザー誘導ロケット砲や最新鋭ドローン「戦術無人航空機システム」などを供与した。サリバン氏は「ウクライナに米兵は送らないが、あらゆる可能な選択肢を検討し続ける」と指摘した。
●3月の消費者物価指数、前年同月比7.3%上昇、企業は価格転嫁を計画 4/5
ロシアによるウクライナ軍事侵攻の影響により、ドイツの消費者物価指数が急上昇し、企業は消費者や顧客への価格転嫁を余儀なくされている。
ドイツ連邦統計局は3月30日、3月の消費者物価指数(CPI、速報値)が前年同月比7.3%上昇したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。2月の5.1%から上昇率が2.2ポイント拡大し、前月比では2.5%の上昇だった。上昇の要因は、ロシアのウクライナ軍事侵攻以降の天然ガスや石油製品のさらなる価格高騰だと統計局は説明している。加えて、新型コロナウイルス感染拡大により混乱したサプライチェーンによる供給不足や、生産活動に必要な燃料・電気代の高騰などを挙げた。エネルギー価格は前年同月比で39.5%の上昇となり、前月の22.5%を大幅に上回った。また、食品の上昇率も前月の5.3%から6.2%となった。
ドイツ自動車連盟(ADAC)によると、自動車の燃料価格が急騰している。3月29日現在、混合ガソリンE10(注1)の価格は1リットル2.048ユーロ、ディーゼルは2.154ユーロ。ウクライナ軍事侵攻前の2月22日と比較して、それぞれ約18%、30%上昇している。
小売業を中心に価格転嫁を行う企業増加
ifo経済研究所は3月30日、同月の価格計画指数(DI値、注2)を54.6と発表。2月の47.6を上回って過去最高値を記録した。値上げを計画する企業が増加している。部門別では、卸売業が78.1、製造業が66.3、建設業が48.9、サービス業が42.7となった。小売業は、食品小売業で94.0、食品を除く小売業が68.2と、特に食品小売業での値上げ計画が多い。ティモ・ボルマースホイザー調査担当は「ロシアのウクライナ軍事侵攻は、エネルギー価格のみならず、農産物価格も高騰させている」とコメント。さらに、2022年のインフレ率は5%超と見通し、1981年の第2次石油危機後に上昇したインフレ率6.3%以来の高水準だとして警戒感を示した。
(注1)バイオエタノールを10%混合したガソリン。
(注2)Diffusion Indexの略。今後3カ月の販売価格見通しを「値上げする」と回答した企業の割合から、「値下げする」と回答した企業の割合を引いた値。
●中国外相、ウクライナ外相に一定の譲歩を促す 電話協議で 4/5
中国の王毅国務委員兼外相は4日、ウクライナのクレバ外相と電話協議した。中国外務省によると、深刻化するウクライナ情勢について、クレバ氏は「中国が停戦に向けて重要な役割を果たすことを望む」と求めた。王氏は「中国は対岸の火事を眺める気持ちではなく、さらに火に油を注ぐようなこともしない。我々が真に期待するのは平和だけだ」と応じた。
王氏は「バランスのとれた効果的で持続可能な欧州の安全保障を構築する必要がある」と述べ、北大西洋条約機構(NATO)の東方不拡大を求めるロシア側の主張を支持する従来の立場をにじませた。そのうえで「ウクライナ側が自国民の根本的な利益になる選択をする知恵があると信じている」と述べ、一定の譲歩をするよう暗に促した。
ウクライナ情勢をめぐり、王氏は3月30日にアフガニスタン周辺国の外相会合に出席するため訪中したラブロフ露外相と会談。「新時代の中露関係をより高い水準に押し上げる用意がある」と強調していた。
●EU、戦争犯罪捜査チーム派遣へ 4/5
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は4日、ロシアが侵攻したウクライナの首都キーウ近郊ブチャでの多数の民間人殺害を受け声明を出し、戦争犯罪などの捜査と証拠収集のためウクライナと合同捜査チームを立ち上げたと明らかにした。ウクライナ検察当局を支援するため、現地に捜査チームを派遣する方針。
フォンデアライエン氏は4日、民間人殺害を巡りウクライナのゼレンスキー大統領と協議、連携を確認した。声明は「ウクライナ当局、EU、国際刑事裁判所などが(証拠収集などに)協調して取り組む」と述べた 。
●米欧、対ロシア追加制裁へ ウクライナ民間人犠牲の責任追及 4/5
ロシア軍がウクライナ北部で多数の民間人を殺害した疑いが浮上したことを受け、米国と欧州諸国は相次ぎ、対ロシア追加制裁を発動する意向を表明した。欧州連合(EU)がロシアからのエネルギー禁輸に踏み切る可能性もある。
ウクライナ当局は首都キーウ(キエフ)近郊のブチャを含む複数の地域で3日までに民間人421人の遺体を発見したと発表し、ブチャで戦争犯罪があった可能性を調査している。
ウクライナのゼレンスキー大統領はこの日、ブチャを訪れ、「これは戦争犯罪であり、世界でジェノサイド(集団殺害)として認識されるだろう」と強調。「ロシア軍がここで行ったことを見ると、対話を行うのは極めて難しい」と述べた。
ロシア側は民間人の殺害を否定。ネベンジャ国連大使は、ロシア軍が残虐行為に関与していないという証拠を5日の国連安全保障理事会に提示すると述べた。
キーウの北西約40キロにある町のタラス・シャプラフスキー副市長は、ロシア軍の撤退後、法的手続きを経ない処刑の犠牲者約50人の遺体が発見されたと明らかにした。ロイターの記者は、両手を後ろに縛られ頭部に銃で撃たれた跡がある男性が道端に倒れているのを目撃。教会のそばに掘られた集団墓地では、犠牲者の手や足が赤土の間から突き出ていた。
ウクライナのクレバ外相はロシア軍がブチャで行った民間人殺害は「氷山の一角」にすぎないとし、ロシアに対する一段と厳しい制裁措置が必要との考えを表明した。
ロイターは、キーウ西方にあるモティジン村で3体の遺体が森の墓地に埋葬されているのを確認した。内務省当局者は、村長を務める女性のほか、その夫と息子の遺体だと明らかにした。
プーチン氏は「戦犯」
米国のバイデン大統領はロシアのプーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼び、「戦犯裁判を起こすために全ての詳細を把握する必要がある」と述べた。ロシアにさらなる制裁を科す方針も示した。
米国務省のプライス報道官は、ウクライナの要請を受けて残虐行為の証拠収集と分析のためにウクライナに派遣される国際検察官の多国籍チームを支援すると明らかにした。
ショルツ独首相は、プーチン大統領と支持者らはブチャで起きたことの報いを受けることになると強調し、西側諸国が数日内に対ロシア追加制裁で合意をまとめるとの見通しを示した。米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は4日、米政府が週内に対ロシア追加制裁を発表すると明らかにした。
一方、米国防総省当局者はロシア軍がこれまでにキーウ周辺から約3分の2の軍部隊を再配置したと明らかにした。再配置された兵士のは多くはベラルーシで統合され、ウクライナの別の場所に再派遣される可能性があると述べた。
●「戦争犯罪で集団殺害」と非難 ウクライナ大統領がブチャ訪問 4/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、ロシア軍の撤収後に民間人とみられる遺体が多数見つかった首都キーウ(キエフ)郊外のブチャを訪れた。ゼレンスキー氏は「これらは戦争犯罪であり、『ジェノサイド(集団殺害)』と見なされるだろう」と述べ、ロシアを非難した。
キーウ周辺では、3日までに少なくとも410人の遺体が見つかっている。ゼレンスキー氏は「何千人もの人々が殺され、拷問され、手足を切断されたことをわれわれは知っている。(ロシア軍は)女性を乱暴し、子供を殺した」と糾弾した。検察当局は4日、ブチャの児童施設の地下で、手を縛られた男性5人の遺体が新たに見つかったと発表した。
ロシアはブチャでの民間人殺害への関与を否定し、停戦交渉への影響も懸念されている。ゼレンスキー氏は「ウクライナの平和は勝利なくして不可能であり、勝利はわが軍の戦いと並行して外交によって達成し得る」と述べ、交渉を継続する意向を示した。
●ウクライナ戦争の裏で起こる「暗号資産戦争」とは、投資家大注目の“教訓”は 4/5
ロシアのウクライナ侵攻を契機に、暗号資産が「ウクライナ支援の緊急手段」「ロシア人による金融制裁の回避手段」として利用されていることがクローズアップされている。どちらも、暗号資産の即時性や匿名性という特徴を利用したものだ。この両国の暗号資産戦が、現在各国で進行中の暗号資産の規制強化や欧米を中心としたロシアへの経済制裁と併せて、暗号資産を取引する人にとっての興味深いケーススタディーとなっている。この「戦場」で勝利するのはロシアかウクライナか分析するとともに、ここで得られる投資の教訓を考える。
プーチン大統領も暗号資産の普及を後押し
今回の戦争では、仕掛けた側のロシアも巻き込まれた側のウクライナも、多大な額に上る戦費をはじめ、できるだけ早くより多くのお金を必要としている。送金や決済が瞬時に済み、ある程度の匿名性もある暗号資産は両国とも注目するところだ。
シンガポールの暗号資産決済企業であるTripleAによれば、ロシアではその人口の約12%に相当する1700万人が暗号資産を保有する一方、ウクライナにおいては人口比で13%に近い550万人が暗号資産を持っている。普及率に関しては、両国ともほぼ同じレベルである。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2021年10月の米経済専門局CNBCのインタビューで、「ロシアの原油やガスなどのエネルギー取引では、(米ドルやユーロなど)従来の決済貨幣を使用する必要がある。エネルギー資源を取引する時に、暗号資産を使うのは時期尚早だ」としつつも、「資金を各所に送金するために暗号資産を使用することは可能だ。暗号資産には価値がある」とも語っている。プーチン氏は、暗号資産への理解が深い。
しかし、こうした大統領の考えにもかかわらず、ロシア中央銀行は2022年1月時点で、中国と同様に暗号資産を禁止するよう提案していた。ところが、ウクライナ侵攻の数日前、プーチン大統領の意を体したロシア政府が「暗号資産の成長を促す新規則」を発表。西側の金融制裁を見越した上で、選択肢をできるだけ多く残しておきたい意図があったようだ。
事実、米金融大手JPモルガンによれば、侵攻開始当日の2月24日時点で、ルーブル建てで取引されたビットコインの総額は15億ルーブル(約18億円)と、2021年5月以来の最高レベルに達した。価値が米ドルに連動しているステーブルコイン(価格安定性の高い暗号資産)のテザーと、ルーブルの間でも慌ただしい取引が繰り返された。
ウクライナは「法整備」で時代を先取り
一方のウクライナは、政治の腐敗もあって2019年までインフレ率が2桁台と高く、通貨フリヴニャ(フリブナ)の対米ドル価値も下がり続けるため、市民が自己防衛手段として暗号資産を購入するケースが多かったとされる。
さらに、原子力発電による安い電気がウクライナの電力構成で半分以上を占めることも大きい。暗号資産は電力消費量が大きいことから、電気料金の安さが暗号資産のマイニング(採掘)を盛んにしたとされる。こうした背景から、米『ニューヨーク・タイムズ』紙は2021年11月の記事で、「ウクライナは世界の暗号資産の首都だ」と評していた。
また、ロシアの侵攻を目前にしていた今年2月17日には、ウクライナ議会が暗号資産を法定貨幣に指定する法案を可決したほか、中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタルフリヴニャを新規発行する予定も前進した。
同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月18日に、この法案に署名。暗号資産取引所が政府に金融商品取引業者として登録することで、暗号資産を切望されているフィアット通貨に変換できる法的枠組みが確立された。
特に、暗号資産全体の時価総額が昨年11月のピークから今年1月下旬に半減したという不安定な環境の中でも、これらの措置が推進されたことに注目したい。法整備の面では、来たる戦争に備えてDX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れたウクライナがロシアよりも進んでいたことになる。そして開戦後はロシア同様に、フリヴニャ建ての暗号資産取引が急増している。
では戦争という実際の有事に際して、暗号資産はその強みを発揮できたのだろうか。まずは、ロシアのケースを分析してみよう。
ロシアを分析:西側の「制裁網」を抜けられるのか
ロシアは暗号資産大国であるにもかかわらず、紛争局面において匿名性や即時性などデジタル資産の利点を生かし切れていないことが分かる。
まず、エネルギー輸出立国であるロシア経済を主に回しているのは、「敵国」通貨の米ドルとユーロである。年間輸出の4,200億ドル、輸入の2,300億ドルの大半が西側通貨で決済されている。
ウクライナ侵攻以前から、自国通貨ルーブルや暗号資産での取引はほとんどなかった。プーチン大統領の「取引には従来の決済貨幣を使用する必要がある」との発言にもあるように、ロシア経済の仕組み自体が、暗号資産取引を困難にしているのだ。
こうした中、プーチン大統領は西側によるかつてない規模の金融制裁を受けて、3月23日にロシア中央銀行に対し、「非友好的な国」に指定された米国や英国、欧州連合(EU)加盟国、そして日本を対象に、原油や天然ガス購入の代金支払いをルーブル建てに限定する仕組みを開発するよう命じた。「非友好国」は、これを契約違反として拒否した。
一方でロシア政府は3月24日、「友好国」である中国やトルコが、ロシアに対する原油や天然ガス購入の支払いを自国通貨の人民元やトルコリラのほか、代表的な暗号資産であるビットコインで行えることを可能にすると発表して注目された。
たとえ取引先が暗号資産による支払いあるいは受け取りに同意しても、取引所や金融機関など換金プロセスのどこかで西側の金融制裁網に引っかかってしまう。大量購入や大規模取引は、透明性のある記録台帳のブロックチェーン上で目立つからだ。
また、ロシアの銀行預金総額は1兆4,000億ドル超であるのに対し、世界全体の暗号資産の時価総額は約1兆7,000億ドルと意外に小さい。そのため、ロシア人の資産隠しやロシア企業による送金の多くが暗号資産で行われれば、これまた西側当局の目にとまってしまう。
ロシアを分析:アカウント停止でいよいよ“崖っぷち”
さらに、欧米の暗号資産取引所の多くは、制裁措置が課されたロシア人にひも付くアカウントについて、すべての取引を停止している。たとえば、米Coinbaseは25000以上のロシアユーザーにリンクされたアドレスをブロック。米Binanceも制裁対象者にひも付いたウォレット(口座)を手作業で特定し、ブロックしたと伝えられる。
こうした制裁は、ロシアがウクライナ侵攻を続けられるか否かについて、大きく左右すると考えられる。
その似た前例として、新型コロナワクチンの接種義務化に反対するデモがカナダで2月に起こった際、デモの影響で一部地域の経済を10日間以上にわたってマヒさせていたが、同国政府は非常事態宣言を発令し、「マネーロンダリング(資金洗浄)」を根拠にデモ主催者の銀行口座を凍結した。
さらに、デモ参加者が現金凍結に対抗してクラウドファンディングで集めた100万ドル近くの暗号資産支援金を、取引所アカウントのアドレス凍結で引き出せなくした。この兵糧攻めで、デモは継続不能になった。制裁下のロシアにも適用できる手法だ。
加えて、ロシア企業やロシア人が暗号資産を受け取ったウォレットから複数の異なるウォレットに分散して出どころを隠す手法があるが、これは巨額の資産移動には向いていない。また、取引所でロシアなど特定地域での利用を停止させるジオブロック技術が発動されれば、資産は動かせなくなる。
ただし、アカウントのアドレスをロシア以外の国(たとえば日本や米国)に偽装する、西側の規制に従わない取引所を利用する、一時的なオフライン状態で休眠するなどの抜け道がないわけではない。
こうした中で、米財務省外国資産管理局(OFAC)は2021年に、ロシアを拠点とするランサムウェア・ハッキング集団のために3億5,000万ドル(約400億円)以上のマネーロンダリングをしていた、ロシアとチェコに拠点を置く取引所のSUEXと、ラトビアのChatexに懲罰を科しており、西側当局の目を逃れることは困難だ。
完璧な制裁回避策はなく、そもそも論としてコストと手間に見合わない可能性が高い。加えて、ステーブルコインを除けば価値が不安定で、蓄財向けではないことも弱点だ。こうした中、米財務省関係者は「現在のところ、ロシア人による暗号資産を用いた大規模な制裁逃れのエビデンスは見られない」と述べている。
翻って、金融制裁で追い詰められたロシアにとり、暗号資産はまだ頼りになる面がある。たとえば、西側に輸出できなくなったエネルギーを電力に転換して、国内の暗号資産採掘を加速させることが可能だ。ブロックチェーン分析を手掛ける英Ellipticによれば、同じく制裁下にあるイランが採掘で10億ドル以上相当の、制裁対象にならない準備金を生み出している。
すでに、ロシアのサイバー犯罪グループがロシアの対ウクライナ戦争支持を表明しており、彼らが暗号資産採掘でロシア政府に貢献する可能性があるという。また、北朝鮮政府が数百億ドル相当の暗号資産の窃盗に関与したように、ロシアやそのハッカーが盗みを働くのではないかと指摘する声もある。
また、モネロのように、匿名性を高めるように設計された暗号資産も存在する。「デジタルな鉄のカーテン」の内側には、いまだにロシアにとっての安全地帯がいくらか残っている。
ウクライナを分析:暗号資産1億ドル超の寄付集めに成功したワケ
対するウクライナは、敵国ロシアのように、金融制裁を気にする必要がない。また、ウクライナに同情する世界中からのサポート、取引所の支援と協力、元来強固であった暗号資産インフラ、そして弱者にとりありがたい即時取引のメリットを享受しているように見える。そうした面で、同国はロシアより有利な立場にある。
まず、デジタル改革大臣のミハイロ・フェドロフ氏は開戦後数日で、ウクライナ政府のウォレットへの暗号資産寄付を呼びかけた。首都キエフを拠点とする暗号資産取引所のKUNAによって管理されるこのウォレットには、すでに1億ドル相当以上の寄付金が寄せられた。暗号資産関連法規が整備されたウクライナにおいて、KUNAは政府が暗号資産を現金化する役割を果たしている。
こうして暗号資産で寄せられた義援金は、ウクライナ軍の糧食、防弾チョッキ、ナイトビジョンゴーグル、燃料など「非殺人用の軍備品」調達に役立っているという。KUNA創設者マイケル・チョバニアン氏は、「ウクライナはまさに、暗号資産の絶対的な無政府状態と使用可能性の完璧なバランスを提供している」と胸を張る。
もっとも、クラウドファンディングで集まった1億ドル以上の暗号資産は、たとえば米国政府が現時点までにウクライナへ提供した13億6,000億ドルの支援や、日本政府など各国政府から寄せられる数十億ドル単位の人道援助に比べれば少額に見える。だが、今のウクライナにとり、数十万人の兵士を養える糧食が即座に入手できるだけでも、意味は大きい。
事実、デジタル改革副大臣のアレックス・ボルニャコフ氏は、「わが国の中央銀行がロシアからの攻撃で機能しにくくなる中で、暗号資産は5〜10分以内に換金・物資購入に充てられる。通常2〜3日かかる銀行の国際送金承認も必要ない。その即時性と自由度こそ、長所なのだ」と語っている。まさに、「デジタルゴールド」「紛争通貨」だ。
こうして暗号資産がウクライナ側にとり有利に働く一方で、同国政府が西側取引所に呼びかけた、「すべてのロシア関連アカウントの取引ブロック」は実現していない。これは、政府指定以外の制裁対象までブロックしてしまえば、金融制裁に苦しむ一般のロシア人がさらなる困難に直面するからだ。Binanceなどの取引所は批判を受けながらも、政府に命令されない限り、「ロシア市民の命綱を断つような措置」はとらないと明らかにしている。
「暗号資産戦争」から学ぶべき超重要な投資の“教訓”とは
「地上戦」での勝者はロシアになるかもしれないが、「暗号資産戦」ではウクライナが勝者のように見える。ロシア側には暗号資産の国境が出現する一方、ウクライナ側は国境のないグローバルな金融環境を享受しており、しかも義援金として受け取った暗号資産の価値が再上昇しているからだ。
この事実が示すのは、国境がないグローバルな存在であるとされる暗号資産に、実は国境が存在するだけでなく、匿名性や「非中央集権」が神話であり、各国政府の規制や命令に服するものであるということだ。そうした制約は平時には見えにくいが、危機が起こればはっきりと形を表わす。
米当局が暗号資産取引所に対して、顧客の身分証明証の写しやその他の個人情報の収集と保管を義務付ける動き(Know Your Customer、KYC)が出ていることは、そのひとつの兆候だ。投資家は近未来に、そうした現実を頭に入れた上で暗号資産を取引する慎重さが求められるようになったことが、ウクライナ戦争から得られる最大の教訓かもしれない。
●ウクライナ戦争で総額5.5兆円の取引が消滅、IPOやM&Aの延期で 4/5
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、世界の少なくとも100社が、総額450億ドル(約5.5兆円)以上の金融取引を延期または撤回したことがブルームバーグの集計で分かった。ウクライナ問題は、市場を動揺させ、ボラティリティと不確実性が高まる中で投資家の意欲を減退させた。
影響を受けた取引にはIPOや債権、融資、M&Aなどが含まれる。
ブルームバーグによると、2月下旬以降に約50社がIPO計画を中止しており、そこにはバイオテクノロジー企業のBioxytranや、メディア・金融サービス企業のCrown Equity Holdings、製薬企業のSagimet Biosciencesなどの米国で上場予定だった30社が含まれている。
コンサルタント会社EYによると、1月から3月までに世界で行われた約320件のIPOの調達総額は約540億ドルで、前年同期比で51%の減少だった。
M&A市場では、ロシアの侵攻開始以来、総額で50億ドル以上に及ぶ10件が延期になり、1〜3月の世界のM&Aの取引額は前年同期比15%減の1兆200億ドルに減少したとブルームバーグは報じている。最も影響を受けたのは、欧州だったという。
また、債券の発行額は、今年に入り世界で14%減少したとされる。
2021年の世界のIPOの調達額の合計は5940億ドルと、過去最高を記録したが、今年は地政学的な不安や、インフレを抑え込むための金利上昇が投資家たちを脅かしている。
市場の恐怖心を測る指標とされるCboeボラティリティー・インデックス(VIX)は、ロシアがウクライナに侵攻した際に30を超え、年初からの平均は26を超えている。ゴールドマン・サックスやJPモルガンなどの大手は、ロシア市場から距離を置いている。
●ウクライナ戦争の行方とその後の世界  4/5
ゼレンスキーとプーチンの会談開催が近く見込まれ、ウクライナ戦争に漸く停戦の兆しが出てきた。
筆者は予てから、そもそも妥協策によって開戦は避けられたと考える立場であり、一日も早い停戦成立を願って止まない。(<参考拙稿>「緊迫のウクライナ情勢:各国は妥協策を探れ」)
しかし、ウクライナ、ロシア両国間で停戦条件の擦り合わせは続いており、またここに来てロシア軍による民間人虐殺報道等も出ており予断を許さない。
ここで、この戦争の主要プレイヤーのスタンスと思惑を筆者なりに推測すると概ね下記の通りである。
プーチン: 大ロシア帝国への野望はあるが、現下の国力と照らしNATOへの危機感と嘗ての覇権国家としての矜持とロシア系住民保護の観点から、ウクライナの中立化、クリミアの確保、東南部の独立承認等を目指す。
ゼレンスキー: 大統領選当選前後ではロシアとも対話するスタンスであったが、政権維持とアゾフ連隊等政権内部からの圧力による家族の生命も含めた危機回避のため、対露強硬路線を取っている。また非ロシア系ウクライナ国民にとっては、領土割譲等は受け入れ難い。
アゾフ連隊: ウクライナ軍に正式に組み入れられた過激武装集団。歴史的にモンゴルの血が入ったロシア人を非白人と見て、ウクライナからの駆逐を目指す。
バイデン: 今秋の中間選挙を視野に、アフガン撤退不首尾の失地回復、トランプの盟友であるプーチンの悪魔化、息子ハンター・バイデン氏を通したウクライナ収賄疑惑の矮小化等のために戦争の長期化を望む。
英国: 米国と平仄を合わせ、EUとロシアを対立させ両者の弱体化を狙う。
軍産複合体: 対空スティンガーミサイルや対戦車ジャベリンミサイルを含めた兵器ビジネスの利益最大化のため、戦闘の長期化を望む。なお米軍部は死傷者が出る直接参戦より現状の兵器供給、訓練、作戦支援に留めたい。
ウォール街・ビジネス界: 金融相場が荒れる事と、軍需、シェールガス輸出、復興需要等で利益機会を狙う。
ネオコン: 民主化を至上価値とし、手段は問わない傾向がある。
習近平: 漁夫の利を狙う。戦闘長期化ならロシアへの経済制裁により、資源輸入先としてもロシアのジュニアパートナー化を高められる。また停戦調停仲介等に関与すれば中国の国際的地位を高められ、どちらに転んでも利益になる。一部に習近平がロシアのウクライナ侵攻に「頭を抱えている」という類いの言説があったが、「腹を抱えている」の間違いだと筆者は考える。
上記のように、当事者のプーチンとゼレンスキー以外は、戦闘の長期化を望んでいるか、少なくとも短期の停戦合意を強くは望んではいないと筆者には思える。
プーチンが化学兵器や核兵器を使う可能性は、戦局が極端に悪化しない限り現状では高くないと見られる。プーチンがウクライナ側のせいにしてこれらを使うか、あるいは逆にウクライナ側がプーチンのせいにして使う事も第三次世界大戦を招きかねないため、今のところは合理性が見出せない。
だが、アゾフ連隊、ネオコンには、目的のためには手段を択ばない傾向があり懸念される。また、バイデンも自身の疑惑がいよいよ煮詰まったとき、むしろ第三次世界大戦の際まで行く事を望みプーチンを挑発し続ける事も考えられ注視が必要だ。
なお、中国が停戦調停仲介等で国際的地位を高めた場合は、米中対立に腰が引けているバイデン政権と巨大なマーケットを手放したくないウォール街・ビジネス界とそれらを取り巻くマスメディアは、台湾を習近平に売り飛ばす口実を得る。
曰く「国際秩序に貢献を果たし大きな責任を担う中国による台湾併合は、恣意的動機により他国を攻めたロシアのウクライナ侵攻とは質的に異なる」云々の妄言を弄し兼ねない。昨今中国はそのための理論作り、言論工作を日本を含めた各国でやり始めている気配も筆者には感じられる。
何れにしても、中国の関与を最小限にして早期にウクライナ戦争を収束させ、中露疑似同盟に楔を打ち込み、ロシアを寝返らせての「拡大中国包囲網」の構築無くしては中国の世界覇権を抑える事は不可能と思われる。
ロシアは「何ちゃって民主主義」で言論の自由も制限されているが、中国ではそもそもこれらは皆無に等しい上に、唯物論国家のため道徳が担保される縁がない。もし共産中国による世界覇権が確立された際には、ウイグルから漏れ出た証言に照らせば他民族に対する人権侵害は想像を絶するものになるだろう。
地獄への道は、単なる善意というよりも偽善と強欲と無明で舗装されている。
●ウクライナ情勢緊迫化を織り込み悪化した『日銀短観』 4/5
『日銀短観』の22年3月調査では、最も注目される大企業・製造業の業況判断指数(DI)が2020年6月調査以来の悪化となりました。今回の回答期間は2月24日〜3月31日と、国内では全国的にまん延防止等重点措置が実施されている中、ロシアがウクライナへの侵攻を開始して以降の世界情勢を踏まえたものとなりました。ただし、想定為替レートは実勢よりもかなり円高の水準となっており、今後の想定の修正等に注目です。
ウクライナ情勢緊迫化による原材料高で業況判断DIは悪化
4月1日に発表された『日銀短観』では、最も注目される大企業・製造業の業況判断DI(回答のうち「良い」から「悪い」を引いた割合)は、前回調査から▲3ポイントの+14ポイントとなりました。2020年6月調査以来、7四半期ぶりの悪化となりましたが、事前の市場予想よりも底堅い結果となりました。また、大企業・製造業の先行き判断DIは+9ポイントと、足元の+14ポイントからは5ポイントの悪化が見込まれています。一方、大企業・非製造業の業況判断DIは同▲1ポイントの+9ポイント、先行き判断DIは+7ポイントとなりました。
新型コロナウイルスの収束がなかなか見通せないことに加え、ウクライナ情勢の緊迫化に伴う原油価格等の原材料価格の高騰や供給制約、世界情勢の不透明感等が影響していると見られます。
想定為替レートは実勢よりもかなり円高
全規模・全産業の事業計画の前提となっている想定為替レートは、22年度が111.93円となりました。米ドル円相場は3月下旬に一時125円を超え、足元でも120円台前半で推移するなど円安基調となっています。今調査の回答期間は3月末まででしたが、回答基準日は3月11日だったことから、3月下旬の急速な円安は十分に織り込まれなかったと考えられます。日銀は、円安は輸出にはプラスと円安容認の見方を示し、現在の金融緩和は継続する姿勢です。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げに積極的な姿勢を示しており、日米の金利差拡大などから今後も円安傾向は続きそうです。
設備投資計画はプラス、今後も物価上昇を見込む
22年度の設備投資計画は、GDPの設備投資の概念に近い、ソフトウエア・研究開発含む・土地投資額除くもので、全規模・製造業では前年度比+6.8%、全規模・全産業では同+3.2%となっており、企業の設備投資の意欲は底堅いと見られます。また、企業の物価見通しでは、物価全般の見通しに対して全規模合計・全産業で1年後に前年比+1.8%、3年後に同+1.6%、5年後に同+1.6%となりました。いずれも前回調査よりも今後の物価上昇を見込む格好となりました。
ウクライナ情勢は未だ不透明感が高く、今後も原材料価格高騰等の影響は考えられるものの、企業の業況判断は底堅く、新型コロナウイルスの感染が落ち着き、景況感が上向いていくことが期待されます。
●「親プーチン」のハンガリー首相再選へ EUのロシア制裁に影響も 4/5
4月3日、ハンガリー総選挙の投開票が実施され、オルバン氏率いる与党の「フィデス・ハンガリー市民連盟」が勝利した。オルバン氏は既に3期、12年にわたり首相を務めており、さらなる長期政権を築くことになりそうだ。同日、「月から見えるほどの大勝利を収めた」と語った。
同氏は強権的な政治で知られる。自身に批判的なメディアの免許を更新せず、メディア統制を敷いてきた。そのため、公でオルバン氏を批判する大手メディアはほとんどない。また、ロシアのプーチン大統領と良好な関係を築いており、ロシアがウクライナ侵攻の構えを見せていた2月初旬にモスクワでプーチン氏と会談し、天然ガスの供給拡大で合意している。
こうしたオルバン氏の政治手法を批判する有権者も多く、今回は野党勢力が「打倒オルバン」で結集していた。首都ブダペストでは、オルバン氏を批判するポスターが目立っていた。それでも地方ではオルバン氏の支持率が高く、野党の力は及ばなかった。
主要品目の統制価格でインフレ対策
オルバン氏はなりふり構わぬ選挙戦を展開した。他の欧州各国と同じようにハンガリーも物価上昇に苦しんでいるが、昨年後半からガソリンや小麦粉、食用油、鶏むね肉など生活必需品について統制価格を導入。事業者に緩和措置を講じていないため、生産事業者や小売事業者の経営は苦しいが、消費者たちは歓迎しているようだ。
また、ロシアのウクライナ侵攻後、隣国のハンガリーにも避難民が押し寄せた。2015年にシリアから避難民が押し寄せた際には、欧州連合(EU)加盟国でありながらオルバン首相はEUの方針に反して国境を閉鎖したため、ウクライナ避難民への対応が注目されていた。
今回、ハンガリーはウクライナ避難民の受け入れに貢献している。もともと国内にウクライナ人の出稼ぎ労働者が多いことに加え、国民の反ロシア感情にも配慮したようだ。
ゼレンスキー大統領「誰の味方に付くのか」
人口1000万人弱の東欧の小国であるハンガリーだが、今後はウクライナやロシア、EUとの関係上、重要な鍵を握ることになりそうだ。
オルバン氏は3月下旬のEU首脳会議でウクライナのゼレンスキー大統領から名指しされ、「(ウクライナ南東部の)マリウポリで何が起きているか知っているのか?誰の味方に付くのか自らはっきり決めなければならない」と指摘された。
ゼレンスキー大統領にこのように批判されても、オルバン首相はウクライナへの軍事支援を見送った。天然ガスの多くをロシアから調達し、ロシア製の原子力発電を利用するなど、エネルギーでロシアへの依存度が高く、ロシアに配慮しているためだ。
オルバン氏は、火に油を注ぐようにゼレンスキー大統領への対抗意識を露わにしている。ハンガリー議会選での勝利宣言の際には、選挙戦の対戦相手のひとりとして、わざわざゼレンスキー大統領の名前を挙げた。
またオルバン首相は、同首相は様々な局面でEUの方針と対立しており、選挙戦の対戦相手としてEU官僚を挙げた。ハンガリー議会は昨年6月、学校教育や映画などで18歳未満に対し同性愛や性転換を伝えることを禁じる法案を賛成多数で可決し、成立した。これに対し、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、「法律は恥だ」と非難し、EUの価値観と相いれないことを強調している。
これまで、欧州ではハンガリーと共にポーランドが、EUへの「反対勢力」だった。ポーランドは石炭火力発電の比率が高く、気候変動対策でEUの方針に反対することが多かった。またポーランドが導入した裁判官の懲戒制度がEUの司法制度に反するとして、昨年10月にEU司法裁判所から制裁金の支払いを命じられた。だが、ロシアのウクライナ侵攻でポーランドは避難民を積極的に受け入れ、安全保障でもEUと連携する場面が増えている。
こうした中、ハンガリーの動向に注目が集まっている。ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で民間人とみられる多数の遺体が見つかり、EUはロシアへの制裁強化を検討している。ハンガリーの専門家は「EUの決定に反対票を投じることはないだろうが、EUの方針を批判することでプーチン大統領に配慮するだろう」と指摘する。
ただ、EUとロシアの対立が深まれば、こうした両にらみの対応も難しいかもしれない。欧州の対ロシア制裁において、ハンガリーが重要な役割を担うことになりそうだ。
●5月9日に「勝利宣言」かプーチン大統領、甲状腺がんの健康不安説も 4/5
ウクライナへの軍事侵攻が長引く中、ロシア軍の士気の低下を指摘する声も出ています。一方で、プーチン大統領は、来月9日の「戦勝記念日」に一方的に勝利宣言をするとの分析も。また、69歳のプーチン大統領に健康不安説が浮上しています。
ロシアの国営テレビが3日に公開した映像には、住宅の中から狙いを定める兵士や、街中を走る「Z」の文字の戦車が映っていました。南東部・マリウポリでウクライナ軍と戦うロシア軍の部隊です。
アメリカのCNNテレビが、アメリカの情報当局者の話として伝えたのは、プーチン大統領がウクライナ東部の制圧に焦点を当てるとの見方です。ロシア軍が苦戦する中、勝利をアピールする必要に迫られていて、“5月9日”が勝利宣言の目標だとしています。
5月9日は、ロシアの「戦勝記念日」。第二次世界大戦でドイツに勝利したことを祝う日です。“勝利宣言を戦勝記念日に”と考えているのでしょうか。
そのプーチン大統領は、支持率が急上昇していることが明らかになりました。ロシアの独立系の世論調査機関「レバダセンター」によると、先月24〜30日にロシア国内の18歳以上1632人に行った調査では、去年11月には63%にまで落ち込んでいた支持率が83%に上がり、「支持しない」の15%を大幅に上回ったというのです。
一方で、ロシア軍の士気の低下を指摘する声も出ています。イギリスの情報機関のトップは「プーチン大統領がロシア軍の能力を大きく見誤った」とした上で――
イギリス政府通信本部 フレミング長官(先月31日)「ロシア兵は武器も足りず、士気も下がっている。命令に背いたり、自国軍の装備を破壊したり、誤って撃つなどしている。プーチン氏は実際に何が起きていて、自らの判断がいかに間違っていたかは、自分でも十分に分かっているはずだ」
また、69歳のプーチン大統領自身に健康不安説が浮上。ロシアの独立系メディアによると、プーチン大統領は、別荘で甲状腺がんの医師の診察を受けていて、その回数は4年間で35回に上るといいます。
厳しい言論統制が続くロシア国内では、2日、「戦争反対」と掲げた男性ら反戦デモに参加した人々が当局に連行される様子も見られました。ロシアの人権団体によると、軍事侵攻開始以降、拘束された人数は1万5000人以上に上っています。 
●ブチャで「戦争犯罪に直接関与」のロシア軍兵士名簿をネット公表…2千人掲載  4/5
ウクライナ国防省は4日、首都キーウ(キエフ)近郊の複数都市で多数の民間人の遺体が見つかったことについて、このうちブチャで「戦争犯罪に直接関与した」とするロシア軍兵士の名簿を発表した。英BBCによると、約2000人が掲載されている。多数の兵士が関与したとの訴えに呼応する形で、欧米などはロシアへの非難をさらに強めている。
ウクライナ国防省は、露軍兵士のリストを氏名や生年月日、階級などとともにホームページ上で公開し、「ウクライナ市民に向けられた犯罪は、全て裁判にかけられる」と非難した。
ウクライナ側は、ブチャを含む複数都市で計410人の遺体が確認されたとしており、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日にインターネットでの国民向け演説で、露軍に殺害・拷問された市民がブチャだけで300人超になると訴え、「犠牲者は相当増えるだろう」と語った。
ゼレンスキー大統領は5日午前(日本時間同日深夜)、ロシアの侵攻後初めて、国連安全保障理事会で演説する予定。4日に自身が訪れたブチャの状況などを説明するという。
一方、露軍は東部や南部で攻勢を強めている。ウクライナ国営通信などによると、東部のドネツク州とハルキウ(ハリコフ)州では4日、露軍の砲撃で少なくとも計4人が死亡した。南部ミコライウでは中心部に露軍の攻撃があり、子供1人を含む11人が死亡、60人以上が負傷した。
露軍の動きについて、米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は4日、「当初はウクライナのほぼ全土が標的だったが、東部と南部の一部に戦力を集中する戦略に切り替えた」との見方を示し、米国防総省高官は4日、キーウ周辺に集結していた露軍部隊の3分の2が既に撤退したと記者団に述べた。
●ロシア軍兵士1600人以上のリスト公表 ウクライナ国防省「戦争犯罪に関与」 4/5
ウクライナ国防省は、首都キーウ近郊のブチャで「戦争犯罪に直接関与した」とするロシア軍兵士のリストを公表しました。
ウクライナ国防省の諜報機関は、4日、ホームページで、ブチャでの「戦争犯罪に直接関与した」として、ブチャに駐留していたロシアの部隊の名前(第64自動車化狙撃旅団)を明らかにした上で、所属兵士リストを公開しました。
あわせて1600人以上、兵士の名前や生年月日、階級、パスポートナンバーなどが掲載されています。
ウクライナ国防省は「すべての戦争犯罪者が、ウクライナ市民に対して犯した罪のために裁判にかけられる」と非難しました。
ブチャでは、多くの市民の遺体が路上で見つかり、ゼレンスキー大統領が「大量虐殺だ」と非難し、国際社会からも批判の声が高まっています。
●「砲撃のなかで私はコンドームをつかんだ」 レイプを告発するウクライナ女性たち 4/5
ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)から撤退後、性暴力が横行していた証拠が次々と明らかになり、女性たちは戦争の武器として用いられるレイプの脅威と闘っている。
4月3日、写真家のミハイル・パリンチャクがキーウから20キロ離れた高速道路で撮影した一枚に、世界は震え上がった。男性1人と女性3人の遺体が毛布の下に積み上げられていた写真だった。女性たちは裸で、体の一部が焼かれていたと、パリンチャクは言う。
このおぞましい写真は、ロシアの支配下にあった地域で処刑、レイプ、拷問が市民に対して行われていたことを示す数ある証拠のひとつにすぎない。
とりわけ多くの人にとって理解しがたいのは、性暴力がかなりの規模で行われていたことだ。ロシア軍の撤退を受けて、ロシア兵による残虐行為を警察やメディア、人権団体に訴えるウクライナ人女性や少女たちが相次いでいる。
集団レイプ、銃を突きつけられたうえでの暴行、子供の目前での強姦など、捜査当局に寄せられた証言のなかには耐えがたいほど残酷なものがある。
「レイプは、平時でも通報されることが少ない犯罪です。そのため、いま私たちのところに届けられている訴えも、氷山の一角にすぎないのではないかと思っています」と、性暴力の被害者を支援する団体「ラ・ストラーダ・ウクライナ」のカテリーナ・チェレパカ代表は言う。
レイプや性的暴行は、戦争犯罪であり国際人道法違反とされ、ウクライナの検事総長も国際刑事裁判所も調査を開始すると言明している。だが現状では正義が下される可能性は低いと思われるなか、終結にはほど遠い戦争でまだ何が起こるかわからないという女性たちの不安は募るばかりだ。
キーウに住むアントニーナ・メドベチュク(31)は、戦闘が始まった日、爆撃の音で目が覚めると、逃げる前に最初に手にしたのはコンドームとハサミだったと話す。自分を守るための武器として使うためだ。
「夜間外出禁止令や爆撃の合間をぬって、救急キットを準備するのではなく緊急避妊薬を探しに出かけました」と彼女は言う。
「母は『これはそんな戦争じゃない。そんな戦争は古い映画のなかの話よ』と言って、私を安心させようとしました。でもフェミニストである私は、すべての戦争がそうなるのだと知っています」
ウクライナの女性が警戒すべきは、ロシア兵だけではない。ウクライナ西部の街ヴィーンヌィツャでは、ウクライナ領土防衛隊の兵士に学校の図書館に引きずり込まれ、レイプされそうになったという教師からの通報があった(容疑者は逮捕された)。
各地の支援団体は自治体と連携して、被害者が受けられる医療や法的・心理的サポートに関する情報を発信したり、女性向けのシェルターを提供したりしている。それでも、こうした支援団体は軍事戦術としてレイプが用いられたことによるトラウマが、今後何年にもわたってウクライナ社会全体に深い苦しみをもたらすのではないかと懸念している。
これまで何百人もの避難女性を支援してきたウクライナ西部リヴィウの団体「フェミニスト・ワークショップ」のサーシャ・カンツァーは言う。
「女性はいったん逃げることができれば、銃や自分を犯した男から遠く離れて、安全な場所に落ち着いたように見えるでしょう。でも彼女たちの中にはトラウマという爆弾が残り、どこまでも追いかけてくるのです」
●ブチャでの残虐行為、欧米が強い憤りを表明 ロシア外交官追放へ 4/5
ウクライナで、ロシア軍によるものとみられる残虐行為の証拠が次々と明らかになっている。アメリカのジョー・バイデン大統領は4日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を戦争犯罪で裁くべきだと主張。西側の他国もロシア外交官を追放するなど、ロシアに対する非難を強めている。
ウクライナの首都キーウ(ロシア語でキエフ)近郊のブチャでは、多数の民間人が殺害されたとされ、国際的な怒りの声が高まっている。
ウクライナ政府は、キーウと周辺で410人の遺体を確認したとしており、戦争犯罪の疑いで捜査を開始した。集団で埋葬された遺体や、両手を縛られて至近距離から射殺されたとみられる遺体も見つかっている。
キーウ当局は、近郊のモツジン村のオルハ・スヘンコ村長と夫、息子を、ロシア軍が殺害したと非難した。ウクライナ軍を支援したため殺されたとした。
そうした中でアメリカは、国際的な検察チームによる証拠収集への支援を表明している。
一方、ロシア政府は証拠を示すことなしに、残虐行為はウクライナがでっち上げたものだと主張した。
バイデン大統領が強く非難
「この男は残忍だ」。バイデン米大統領は4日、ロシアのプーチン大統領についてそう述べた。
「ブチャで何があったか見ただろう。彼は戦争犯罪人だ。(中略)だが戦犯として裁判にかけるには、すべての詳細を集めなくてはならない」
米国務省は、ロシア軍がレイプ、拷問、裁判なしの処刑を実行したとする、信頼できる情報を得ていると発表。それらの行為について、ロシア政府による「広範かつ問題のある作戦」の一部だとした。
米国防総省は、ブチャの残虐行為の背後にロシア軍がいるのは「かなり明白」だと説明。どの部隊によるものかを明確にするには、捜査が必要だとした。
●プーチンの戦争犯罪を立証せよ 証拠隠滅のため焼かれたウクライナ市民 4/5
バイデン氏「戦争裁判にかけられるよう情報収集する」
ウクライナに侵攻したロシアの戦争犯罪が明るみになってきた。ウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、ロシア軍が撤退したあとの首都キーウ近郊には410もの民間人の遺体が残されていた。手足を縛られ、後頭部を撃ち抜いて処刑した戦争犯罪の証拠を隠滅するため遺体は焼かれていた。西側はウラジーミル・プーチン露大統領による戦争犯罪の立証に照準を定めている。
ジョー・バイデン米大統領は4月4日、記者団とのやり取りで「私はプーチン氏を戦争犯罪人と呼んだことで批判された。キーウ近郊のブチャで何が起きたか見ただろう。彼は戦争犯罪者だ。ウクライナに武器を提供し続ける一方で、戦争裁判にかけられるよう情報を把握しなければならない。この男は残忍だ。 ブチャでの出来事は言語道断だ」と語気を強めた。
ボリス・ジョンソン英首相も4月3日「ブチャやイルピンでの無辜の市民へのロシアの卑劣な攻撃はプーチン氏と彼の軍隊による戦争犯罪のさらなる証拠だ。クレムリンは否定や偽情報で真実を隠せない。ウクライナでの残虐行為について国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)の捜査を率先して支援する」と専門捜査官の派遣とICCへの財政支援を決めた。
ウクライナの大統領報道官セルゲイ・ニキフォロフ氏は英BBC放送に「奪還したキーウ近郊のブチャやイルピン、ホストメリの現場を言葉にするのは難しい。手足を縛られ、頭を後ろから撃ち抜かれた民間人の遺体や集団墓地が発見された。戦争犯罪の証拠を隠すため遺体を焼こうとしたが、隠滅する十分な時間がなく、半焼けの状態だった」と生々しく証言した。
ブチャの虐殺
ウクライナのイリーナ・ベネディクトワ検事総長もフェイスブックで「これは地獄絵図だ。非人道的行為を罰するため証拠を集めなければならない。キエフ近郊で殺害された民間人410人の遺体を運び、4月1日から3日にかけ140体の検視を済ませた。恐怖を生き抜いた目撃者の証言や証拠写真、ビデオを収集している」ことを明かした。
ウクライナ国防省のツイッターに投稿された動画には、ブチャにある地下室で後ろ手に縛られ跪かされ、膝を撃ち抜かれて拷問にかけられた民間人男性の無惨な遺体が映し出されている。隣の部屋は5人が手足を縛られ、壁に向かって座らされたあと、後頭部を撃ち抜かれた処刑現場だった。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4月4日、ブチャの虐殺現場を訪れたあと「地下室で見つかった遺体は縛られ、ロシア軍の拷問にかけられたことが明らかだ」と悲痛な表情を浮かべた。ロシアは全部、ウクライナ軍の仕業だと反論しているため、ウクライナと西側はプーチン氏とロシア軍の戦争犯罪を立証するための証拠収集に全力をあげる。
ユニセフ(国連児童基金)は「ロシア軍のウクライナ侵攻で200万人の子供が難民として国外に脱出し、さらに250万人の子供が国内で避難生活を強いられている」と言う。国連人権高等弁務官事務所によると、この戦争で100人以上の子供が死亡し、さらに134人の子供が負傷したことが報告されているが、実際の犠牲者はもっと多い。
女性を繰り返しレイプしたロシア兵
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、3月13日、ロシア軍が当時支配していた北東部ハリコフの村ではロシア兵が31歳の女性オルハさん(仮名)を殴り、繰り返しレイプした。アサルトライフルとピストルを所持するロシア兵は女性や少女ら約40人が避難する地元の学校の地下室に押し入ってきた。
兵士はオルハさんを2階の教室に連行し、銃を向けて服を脱ぐよう命じ、オーラルセックスを強要した。兵士は女性のこめかみや顔に銃を当て、天井に向け2回銃を発射した。兵士は「子供にもう一度会いたければ言う通りにしろ」と言って再びオルハさんをレイプし、首や頬をナイフで傷つけ、髪を切り落としたという。
戦争犯罪にはジュネーブ諸条約やハーグ陸戦協定など戦時国際法の重大な違反と第二次大戦後に創設され、日本やドイツが裁かれた「平和に対する罪」「人道に対する罪」がある。戦時国際法では捕虜の虐待や毒ガスなど国際法で禁止された非人道的兵器の使用、民間人や生存に不可欠な生活インフラへの意図的な攻撃は禁止されている。
アントニー・ブリンケン米国務長官は3月23日、「ロシア軍はアパート、学校、病院、重要インフラ、民間車両、ショッピングセンター、救急車などを破壊し、何千人もの罪のない民間人を死傷させた。 ロシア軍が攻撃した場所の多くは民間人が使用していることが明確に確認できるものであった」とロシア軍による戦争犯罪を糾弾した。
マリウポリでは病院、学校、幼稚園など建物の9割が損傷
南部の港湾都市マリウポリでは、産科病院や、空から見えるほど大きなロシア語で「子供たち」と書かれた劇場が攻撃された。露チェチェン共和国のグロズヌイやシリアのアレッポと同じように絶望に追い込むため都市を包囲して無差別攻撃が行われた。 病院、学校、幼稚園、工場など建物の9割が損傷。「子供約210人を含む約5千人が死亡した」(市長の報道官)。
ロシア軍は無差別に被害を広げるクラスター爆弾や液体燃料を気化させ周囲の酸素を巻き込んで高温爆発を起こす燃料気化爆弾も使用している。ICCは特定グループを狙った集団虐殺や集団レイプなど「ジェノサイド罪」や拷問など「人道に対する罪」、一般市民の殺害、学校や病院など軍事目的ではない建物への攻撃など「戦争犯罪」で個人を裁くことができる。
ICCのカリム・カーン主任検察官はイギリスなどICCに加盟する39カ国から捜査の付託を受け、3月2日、ウクライナでの戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで捜査を開始すると発表した。しかしアメリカや中国、ロシアなど主要国が参加していないため、ICCによる訴追ができず、加害者が処罰されない恐れがある。
ウクライナは「ロシアは東部でジェノサイド行為が発生していると虚偽の主張を行い、ウクライナに対する軍事行動を行っている」として、国家間の紛争を裁く国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。ICJは暫定措置命令を出したが、国連安全保障理事会の常任理事国で拒否権を発動できるロシアは命令を完全に無視している。
ウクライナ外相顧問のミコラ・ハナトフスキ氏は「第二次大戦以来前例のない欧州の主権国家による欧州の主権国家に対する大規模な侵略が行われている。ウクライナの独立国家としての生存権そのものを否定する声明や戦争犯罪や人道に対する罪も伴っている。侵略行為に対する戦争犯罪者の責任を問う仕組みを作る必要性がある」と指摘している。
●ウクライナ「浄化」が必要とロシアで報道、エリート層除去を主張  4/5
米国のバイデン大統領は4日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどで民間人の遺体が多数確認されたことについて、記者団に「ブチャで起きたことを見ただろう。プーチン(露大統領)は戦争犯罪人だ。裁判にかけるためにもあらゆる情報を収集しなければならない」と述べ、国際法廷の設置を呼びかけた。
ウクライナ侵攻を続けるロシアについては、国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)が捜査を開始している。バイデン氏は、国際法廷設置の具体的な手法には触れなかった。ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は4日の記者会見で「過去にICCで戦争犯罪人が裁かれてきたが、米国だけで決める話ではない」と述べ、設置にあたっては、同盟国・友好国との調整が必要であるとの認識を示した。
露国防省は3日の声明で民間人殺害などへの関与を否定している。一方、国営のロシア通信は3日、ウクライナが親米欧・反露路線の「ナチ化」を志向しているとして「浄化」の必要性を指摘した。民間人殺害を正当化したと受け取れる内容で、露軍が制圧地域で「ナチ政権」を支持しているかどうかの大規模調査を実施することやエリート層の除去を主張している。
●ウクライナから避難民20人 羽田空港到着 外相帰国に合わせ避難  4/5
ウクライナからの避難民20人を乗せた政府専用機は、5日午前、日本に到着しました。政府は、自治体や企業などとも連携しながら、避難してきた人たちをきめ細かく支援していく方針です。
ウクライナからの避難民への支援をめぐっては、林外務大臣が、岸田総理大臣の特使として今月2日からポーランドを訪れ、避難民の滞在施設の視察や政府要人との会談を行うなどして、日本での受け入れや支援に対するニーズを探りました。
その結果、日本への避難を希望しているものの、自力で渡航手段を確保することが困難な20人について、人道的な観点から、林大臣の帰国に合わせて政府専用機の予備機に乗せ、日本時間の4日夜、現地を出発しました。
そして、林大臣ら政府関係者が乗った政府専用機が、5日午前11時前に羽田空港に帰国したのに続いて、避難民を乗せた予備機も午前11時半すぎに到着しました。
今後、避難民は、検疫や入国手続きを経て、国内の滞在先に移動するなどし、速やかに受け入れが進められることになります。
政府は、今回入国する20人も含め、国内で受け入れるすべての避難民に対し、自治体や企業などとも連携しながら、きめ細かな支援を行いたい考えです。
松野官房長官「到着時の抗原定量検査は全員陰性」
松野官房長官は、午後の記者会見で「来日した避難民20人は6歳から66歳までで、男性が5人、女性が15人となっており、到着時の抗原定量検査の結果は全員が陰性だった。日本に親族や知人のいない方も含まれているがプライバシー上の問題があるため、それ以上の詳細は差し控えたい」と述べました。
そのうえで「今後、避難民の方々に対しては、入国後の各場面に応じてさまざまな支援策を実施していきたい。きのうまでに計679件の支援の申し出を受けていて、内訳は、民間企業から321件、地方公共団体から147件、NPOとNGOから17件だ」と述べました。
また、政府専用機を利用した避難民の受け入れの法的根拠を問われたのに対し「調整の結果、林外務大臣に同行する形で来日していただくことになったもので、外務大臣の政府専用機の使用は自衛隊法第100条の5の国賓等の輸送の規定に基づく」と説明しました。
そして、今後、紛争から逃れてきた人たちを積極的に受け入れる考えがあるか記者団から問われたのに対し「一国が他国の領土を侵略するという国際社会でまれに見る暴挙が行われているウクライナの危機的状況を踏まえた緊急措置として、避難される方々に安心できる避難生活の場を提供すべく、政府全体として取り組んでいる」と述べました。
そのうえで「現在のウクライナの方々への対応と、それ以外の方々への対応とを一概に比較して論じること自体が困難で、適当ではない。海外からわが国に避難してきた方々に対しては本国の情勢や個々の置かれた状況などにも配慮しながら、政府全体として適時適切に対応していく」と述べました。
金子総務相「関係省庁と協力し的確に対応」
金子総務大臣は、閣議のあと記者団に対し「総務省としては、出入国在留管理庁と連携し、一元窓口の設置など政府の取り組みを周知しているほか、自治体からの問い合わせや相談を聞き取り、情報提供を行っている。今後も関係省庁と協力し、的確に対応していきたい」と述べました。
就労やことばの壁に不安の避難者も
ウクライナから避難してきた人たちの中には、日本での生活の長期化を見据え、就労やことばの壁に不安を感じている人もいます。
先月10日、夫と孫と一緒に日本に入国したリボフ・ヴィルリッチさん(59)は、埼玉県にある娘のユリアさんと日本人の夫の自宅で避難生活を送っています。
入国からおよそ1か月がたち、気持ちは徐々に落ち着いてきましたが、ウクライナ語しか話せないため、買い物や通院などで外出する際に、ことばの壁を感じる機会も増えているということです。
また、避難生活の長期化を見据え、娘夫妻に負担をかけないためにも日本で仕事を探す必要があると考えています。
ヴィルリッチさんは「日本に来て安心感をすごく感じていますが、ことばが通じないので買い物や病院に行く時には不安があり、翻訳機や日本語を学ぶ場が必要だと感じています。また、避難して来る人は最低限の生活費がかかるのでことばが分からなくてもできる簡単な仕事でもあったらすごく助かると思います」と話していました。
避難民を受け入れる家族にとっては子どもの心のケアも心配の1つです。
ヴィルリッチさんと一緒に避難してきた孫のブラッド・ブラウンさん(12)は、ウクライナで通っていた学校の授業にオンラインで参加していますが、友人たちと直接、触れ合う機会はありません。
ユリアさんは「おいは日本語が話せないので同年代の子たちとも遊べません。この生活が長期化すれば精神的にもダメージがあると思うのでメンタルのサポートも必要になると思います。早く戦争が終わっておいが友達と過ごせるふだんの生活に戻ってほしいです」と話していました。
日本への家族呼び寄せ断念した人も
日本で暮らすウクライナ人の中には、自治体などに問い合わせても具体的に、どのような支援を受けられるか分からず、家族を呼び寄せることを断念したという人もいます。
システムエンジニアで埼玉県に住むロマンさんは、ロシア軍の激しい攻撃を受けているウクライナ第2の都市、ハルキウ出身で両親や妹が住む家もそれそれ攻撃を受けたといいます。
両親は今もハルキウにとどまっていますが、妹のビクトーリヤさんは9歳と11歳の2人の子どもとともにいったんブルガリアに避難したということです。
ロマンさんは、先月2日に政府がウクライナから避難民を受け入れる方針を明らかにしたあとの先月上旬、妹たちを日本に呼び寄せようと考え、地元の自治体などの行政機関や支援を表明した企業にどのようなサポートを受けられるか電話などで問い合わせました。
しかし、いずれも「具体的には何も決まっていない」という回答で、どのような教育や医療が受けられるのか、先が見通せないため、妹たちを日本に避難させることを断念したといいます。
妹一家はその後、ロマンさんが知人を通じて見つけたドイツのホストファミリーのもとに身を寄せ、子どもたちはすでに学校にも通っているということです。
ロマンさんは「私以外のウクライナ人たちも日本では、どこに問い合わせればどのような支援が受けられるか情報が一か所にまとまっていないと話していました。家族で海外に住んでいるのは私だけで、妹たちの力になりたかったので、何もできなくて残念です」と話しています。
そのうえで、「ドイツではすぐに学校に入ることができ、今月の一時支援金も先月末には振り込まれました。避難民を受け入れる日本の対応は改善されているとは思いますが実績があるドイツと比べるとまだまだ遅いと思います」と述べました。
妹のビクトーリヤさんは「ドイツでは半年間の滞在許可のあと2年間、ビザを延長できます。戦争はいつ終わるか分からず、日本で生活した場合、どのような選択肢があるか分かりませんでした。ドイツでの生活は気に入っていますが、兄の所に行けなくて悲しかったです。兄と一緒に暮らしたかったです」と話しています。
出入国在留管理庁は現在、ウクライナから避難してきた人たちを対象にした相談ダイヤルを設けるとともに通訳を募集するなどしていて、さらに対応を充実させたいとしています。
●ウィキペディアに削除要求 ロシア当局、軍事侵攻の記述で  4/5
ロシア通信情報技術監督庁は5日、インターネット上の百科事典「ウィキペディア」がウクライナでのロシアの軍事作戦について「信頼できない情報を拡散している」として、削除するよう改めて要求したと明らかにした。インタファクス通信などが伝えた。
同監督庁は3月、ロシアのウクライナ侵攻に関連して「虚偽の情報を掲載している」としてウィキペディア側に削除を要求。応じない場合は最高400万ルーブル(約570万円)の罰金が科されると警告していた。
ロシアでは3月、軍に関する「偽情報」拡散に最長で懲役15年を科す刑法改正が成立するなど、侵攻に関する情報統制が強まっている。
●プーチンとウクライナの生存を懸けて戦うゼレンスキーが日本より中国を選ぶ  4/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は1カ月以上、ロシアの軍事侵攻に抵抗しながら、世界中の国々になりふり構わず支援を求めてきた。ようやく実現した3月29日からのロシアとの和平交渉では、自国が中立化する条件として提案した安全保障の枠組みに参加を希望する国に、これまで支援を求めてきた米英仏独のNATO(北大西洋条約機構)の主要国のほか、カナダ、トルコ、イスラエル、中国を選んだ。そこに日本はなかった。
一方、ウクライナ紛争における西側諸国の最大の武器である経済制裁は、バイデン米政権の要請を完全に聞く国は少ないようで、実効性の限界が浮かぶ。ロシアのルーブルは、対ドルでいったんウクライナ侵攻前の89ルーブルから177ルーブルまでは暴落したものの、現在では85ルーブルとほぼ侵攻前の水準を回復している。
「SWIFT」からのロシア締め出しは、一時は「金融核兵器」とまで言われたが、SWIFTにかわる送金メッセージの送信はテレックス(国際ファクス)でも可能なので、実はあまり有効な手段ではないことも、ようやく世間は認識できるようになったようだ。SWIFTの本部に行ってみればわかるが、ファーウェイの本社の方が遥かに先進的である。SWIFTとはその程度のものなのだ。
そんな先行きが見えない状況のなか、ゼレンスキー大統領は今、何を考えているのか。そして、日本にはどこまで、何を期待しているのだろうか。あらためて考えてみたい。
ロシア弱体化への現実の行動を求めたオンライン演説
3月23日、衆議院議員会館で行われたゼレンスキー大統領によるオンライン演説を受けての日本のメディアの論調は、「日本への期待が滲み出ている」、「日本の外務省が(米議会演説で真珠湾に触れた事を踏まえて)内容をマイルドにした」、「大統領演説の巧みさに幻惑されすぎていないか」といったものだった。
正直、違和感をもった。ゼレンスキー大統領が演説に込めた真意を捉えていない、どこか甘い論調だと感じたからだ。
ゼレンスキー大統領の国会演説の柱は、
1経済制裁を続けて、ロシアのウクライナへの残忍な侵略の津波を止めて欲しい、
2現状を解決するためには、新たな安全保障組織が必要なので、日本にも支持して欲しい、
3日本に復興支援をして欲しい、
の三つである。
彼は日本人に、気持ちのうえで味方になって欲しいと言ったのではなく、現実の行動として、ロシアを弱体化することをして欲しいと求めたのである。「期待が滲み出ている」とか「内容をマイルドにした」といったレベルの話ではない。
日本はロシアに配慮して厳しい対応はとらない
ウクライナ侵攻の開始から連日、死と隣り合わせで戦ってきたゼレンスキー大統領にとって、日本のロシアへの対応は手ぬるく見えているだろう。 
たとえば日本は事実として(本稿執筆時の4月3日でも)、サハリン1、2のプロジェクトからは撤退しないと表明、ユニクロなどの日本企業はロシアでの営業を一時停止したものの、そのユニクロも従業員への保証として資金送金を続けている(他にも同様の国があるうえ、ロシアが自国の国債の元利払いに注力した結果が出ているため、冒頭のようなルーブルの為替相場につながっている)。
おそらくゼレンスキー大統領には、日本はロシアの背後(極東側)を攻めることが可能な米国の同盟国であるが、同時に日本はロシアに配慮して厳しい措置はとらないという報告が上がっていたことだろう。
アジアを動かすのは中国とインド
ウクライナには、4年前にポロシェンコ前大統領がハンター・バイデン氏(バイデン大統領の次男)に語ったとして伝わる話の中に、「アジアを動かすのは中国とインドである」という言葉が残っている。ハンター氏は当時、ウクライナ企業の顧問を務めるなどして、米国からの武器供与の窓口のような役割を担っていた。
米国に武器の供給を求めるウクライナにとって、中国とインドは当時から、米国がウクライナへの態度を変えた場合の代替国という意味合いがあったとされるが、それはゼレンスキー大統領にも引き継がれてきた。実際、中印両国は、今回のウクライナ紛争でも米国やNATO陣営とは一線を画しており、最後の最後はどう転ぶのかわからないところがある。
中国は、北京冬季五輪の開会式にプーチン大統領を招待し、習近平主席が一対一の晩餐を催した。ウクライナ紛争開始後も一遍してロシア寄りの発言を続けてきており、イスタンブールでの和平交渉当日(3月29日)にも、王毅外相が安徽省にロシアのラブロフ外相を迎えて、「米国等による経済制裁への非難」声明を発表している。
また、インドは、3月3日の181ヶ国による国連総会決議「Aggression Against Ukraine」(日本語では「ウクライナ侵略に対する決議」だが、aggressionは国連用語では「侵略」ではなく「侵攻」である)で棄権した35カ国の一つである。インドのメディアは、米国連大使が決議直前までインド国連大使を賛成に回らせるよう説得したが、「将来に大切な役割を果たすことができるよう中立を守る」という回答は変わらなかったと報じている。
3月28日にはタルーノ元国連事務総長補佐官が、「インドは中立ではあってもロシア非難の声を上げるべきだ」との発言をしたが、同31日には、王毅外相との会談を終えたロシアのラブロフ外相をニューデリーに迎えている。3月19日に岸田首相がインドを訪れた目的は水泡に帰したかたちだ。
また、インド同様、国連決議で棄権したパキスタンも、カーン首相がロシアのウクライナ侵攻後にモスクワを訪問したことで米国との外交関係がギクシャクしているが、逆に独立国の外交主権に対する侵害だと米国を非難している始末である。
有事では期待するところが大きい中国
ロシアの侵攻直後に米国からの国外脱出要請を拒否したゼレンスキー大統領が、二度も仲裁の労を頼んだ中国。ウクライナ侵攻後、最も遅くまで、留学生を帰国させる特別便をウクライナ政府との合意で(病人などウクライナからの人道上の避難民を同乗させて)飛ばし続けたインド。外交は独立国の主権だとして、米国と一線を画すパキスタン。
これらの国は、欧米と一線を画しているからこそ、万一の場合は、独自の判断でウクライナ支援に回るかも知れない。逆から言えば、この三カ国、インド・パキスタン・中国が停戦を働きかければ、ロシアも動く可能性が高まる。
とりわけ中国に対しては、米国とは異なる意思決定が出来る国との期待があったからこそ、これまでに二度も停戦のための仲裁を依頼し、和平交渉の条件である安全保障の枠組みへの参加を期待したのだろう。自分たちの生存を賭けて戦っているゼレンスキー大統領にしてみれば、平時に戻った際には日本への期待があるとしても、有事における中国への期待は、それと比べ物にならないほど大きいのだ。
3月31日、米国は「ウクライナからのインプリケーション」と題した議会公聴会を開いたが、そこでの議論の中心は、ロシア軍の思いも寄らなかった弱体化で流動化する中東などだった。ゼレンスキー大統領には「米国は頼りにならない」と映ったのではないか。そして、米国の言う事を聞くだけの日本もまた同様に、戦時では頼りにならないのである。
ユダヤ人・ゼレンスキー大統領の思いは……
ゼレンスキー大統領がこれほどまでに現実的で強(したた)かなのは、彼がユダヤ人だからだというのが、欧米の歴史学者の見方である。安全保障の枠組みに、一貫してロシア支持の中国を入れたいと考える背景もここにあるはずだというのだ。
ユダヤ人は激しく悲惨な状況をくぐり抜けてきた。モーゼの出エジプト記、バビロン捕囚、ローマ帝国の支配……。歴史的に異民族による支配や攻撃を幾度も経験している。中世以降でも、欧州の諸都市でゲットーに強制的に住まわされたり、ナチスドイツによるホロコーストに苦しめられたり、悲惨極まりない過去がある。ワシントンDCのホロコースト博物館に行くと、索漠とした気持ちになる。
こうしたユダヤ人の歴史を考えれば、祖父と叔父の3人がホロコーストの犠牲者であるゼレンスキー大統領が、ロシアと必死で戦うのは理解できる。しかも、『悲しみの収穫』(ロバート・コンクエスト著)」によると、スターリン時代のウクライナ大飢饉では700万人(300万人との説もある)が餓死したと言われ、ウクライナにとってロシア(旧ソ連)は受け入れ難い国である。国会に招致されたウクライナ人が、「ロシア軍と戦わない選択はないのか」という主旨の議員の質問に、「やがて虐殺されることになる」と回答しているが(YouTubeで視聴可能)、背景にこうした歴史があることを知っておく必要がある。ユダヤ人であるゼレンスキー大統領は、人一倍その観念が強いのではないだろうか。
確率ゼロではない中国に賭ける
ユダヤ人国家の父と言われるベニヤミン・ゼエブ・ヘルツェル(1896年に「ユダヤ人国家」を上梓)が「内なるゲットー、外なるゲットー」と語ったことがある。この言葉の含意は、ゲットーの内部にいる限り(少なくともナチスドイツとは異なる普通の国が作るゲット−ならば)、ユダヤ人は自由は制限されるものの、安全である。しかし、そこから一たび外部に出て暮らそうとするならば、宗教や食生活などユダヤ人の基本的生活とは異なる異民族と同じ生き方をしなければならない、というものだ。
ゼレンスキー大統領は、ユダヤ系ウクライナ人として、カトリック教徒となったユダヤ人の子孫として、「外なるゲットー」に生きてきた。それでも、ロシア侵攻前のウクライナは、彼にとって住みよい国だっただろう。
ところが、ウクライナ紛争によって、周囲に同化して生きていれば安全という「外なるゲットー」の世界が壊れてしまった。ここでロシアの侵攻を受け入れれば、安全と自由は永久に失われる。嵐をしのげば、「台風一過」のごとく再び平和が戻ってくるという日本人的な発想は、彼らにはない。
この戦いは、自分たちの戦いなだけでなく、子孫にまで影響する戦いだ。侵攻を受け入れずに武器を持って立ち上がった以上、屈した後には粛清が間違いなく待っている。それが人類の歴史であり、ウクライナ大飢饉で膨大な数の餓死者を出し、ナチスドイツとの闘いで多くの犠牲者を出したウクライナ人の思いに違いない。
このような立場になった時、彼らは「優しくて親しみやすい国民だから日本が好き」という平時スタンスとは異なり、「ウクライナのことを考えているわけではないかもしれないけれど、ウクライナのためになる行動をとってくれるかもしれない」として、中国を選ぶのだ。もちろん、これは一種の賭けだ。だが、確率ゼロの日本よりは、少しでもプラスの確率を持つ中国に賭けるのである。
イスラエルのベネット首相は、3月27日にエルサレムを訪問したブリンケン国務長官との会談後にコロナ陽性となり、イスタンブールとニューデリー訪問を見合わせている。しかし、ゼレンスキー大統領の要請を受けて、停戦の働きかけをするべくモスクワ訪問を予定していたとの情報もあり、地元メディアによれば、「ユダヤ人」であるゼレンスキー大統領に救いの手を差し伸べるとの期待が高いようだ。
同時通訳者はなぜウクライナ人だったのか
ウクライナは東欧の北に位置し、日本からは(距離的のみならず国交や草の根の関係的にも)非常に遠い。地名にしても、今回のウクライナ紛争後になって(ウクライナ建国後30年を経過して)、ようやく首都をロシア語読みの「キエフ」からウクライナ語読みの「キーウ」に変えたが、それほど遠い国だった。
ただし、逆もまた真なりだ。ゼレンスキー大統領は米議会での演説で、「真珠湾奇襲攻撃の際に、空が日本の戦闘機で空が黒くなったのを覚えているだろう」(Remember Pearl Harbor, terrible morning of Dec. 7, 1941, when your sky was black from the planes attacking you.)と語っているが、同大統領や多くのウクライナ人にとって、日本で想起するのは真珠湾への奇襲攻撃の事だけかもしれないということに、思いをいたす必要がある。
ゼレンスキー大統領は国会演説でウクライナ人を同時通訳に使った。この女性は非常に日本語が堪能で、通訳はとても上手かった。日本人以上と言っても過言ではない。だが、彼女を同時通訳に選んだ理由はより深刻だ。
明日の命さえわからない同大統領にとって、すべての行動において、周囲の人が「味方か否か」で判断する必要がある。ウクライナ政府に近い筋の話では、自身の発言を(ロシア寄りの可能性のある)日本が用意した日本人通訳に任せることは出来なかった、というのである。
日本人通訳だと、外務省など政府への忖度(そんたく)から表現が変えられる。あるいは、(日本に不都合な場合は)あえて訳さないという選択をされるかもしれないリスクがある。そう考えたのだろう。
ゼレンスキー大統領は、侵略者から祖国の独立を守り、生き残るために死力を尽くしており、我々はそこを理解しなければならない。解放後のキーウの惨状を世界に見せているのも、もっと軍事支援をして欲しい、と主張していると見るべきだ。
ところで、すっかり悪者に仕立てられてしまったプーチン大統領だが、さすがに極端すぎるという印象を持っている向きもあるのではないだろうか。次回はプーチン大統領の発言の背景や、彼がなぜここまで世界を敵にしても頑張れるのかについて見ていきたい。
●「攻撃ではなく『特別軍事作戦』」「プーチンは真の愛国者」国民がプーチンを支持 4/5
ロシア軍によるウクライナへの無差別攻撃はすでに一か月以上続き、街の破壊、人道危機が深刻化している。ウクライナでの惨劇をロシア国民はどうみているのか、取材した。
「女性は6歳の子どもの前でレイプされました」ロシアから奪還した街“トロスティアネッツ”の惨状
3月28日、ウクライナ軍を支援するNGO『Come Back Alive』がSNSで動画を公開した。
ウクライナ軍の兵士「ウクライナ・トロスティアネッツの街にはロシア軍が侵攻しましたが、我々と現地のゲリラ部隊が撃退しました」
ロシア軍に占領されていた北東部の街・トロスティアネッツをウクライナ軍が奪還したことを称えている。トロスティアネッツは、約1か月もの間激しい攻撃にさらされ、街並みは荒廃していた。多くの瓦礫が積みあがり、ロシア軍が使ったとみられる戦車や砲弾の残骸が至るところに残されている。この街はロシアの作曲家・チャイコフスキーがかつて“故郷”と呼んだ場所だが、青年期を過ごしたといわれる家も被害を受けた。
地元選出の国会議員のミハイロ・アナンチェンコ氏は「ロシア軍が占領下で数々の残虐行為を行っていた」と強調する。
アナンチェンコ氏「ロシア軍は一般市民をいじめたり、住民の人権を考えず外出禁止令を出したり、物を盗んだりしていました。酔ったロシア兵が、民家に向かって射撃することもありました」
アナンチェンコ氏によると、路上にはロシア兵が吸ったとみられる煙草や脱ぎ捨てられた軍服が放置され、スーパーでは棚から食料品が持ち去られたという。
アナンチェンコ氏「祖父と暮らしていた女性がいたんですが、祖父が殺され、女性は6歳の子どもの前でレイプされました。大人をロープで縛って、子どもをレイプしたケースもありました、隣人などから聞いた話をもとに調査していて、今後戦争犯罪として訴える予定です」
ロシア軍は、首都・キーウ近郊から徐々に撤退しつつあるという。アメリカの『戦争研究所』は、「ロシアはキーウの包囲や占拠を断念した」と分析した。しかし、ロシア国内では、全く異なる戦況が報じられていた。
在日ロシア人交流会会長が語る ロシアのプロパガンダの実態
在日ロシア人交流会のミハイル・モズジェチコフ会長を訪ねた。
ディレクター「今回のウクライナへの攻撃は、多くのロシア国民は正しいと思っているんですか?」
ミハイル・モズジェチコフ会長「攻撃というと…『特別軍事作戦』ですよね」
“攻撃”という言葉を使ったとたん、『特別軍事作戦』に言い変えられた。ミハイル氏はこの作戦を支持するロシア国民は多いと主張する。
ミハイル・モズジェチコフ会長「日本ではウクライナ側(の主張)しか見せないものがあるけど、ロシアでもロシア側(の主張)しか見せないから、戦争が始まった国のリーダーは人気が上がる。それはもう本当に物理みたいですね。もう決まっている動きですね、人間の。」
「プーチンは真の愛国者」ロシア国民がプーチン大統領を支持する理由
ミハイル氏から紹介された、モスクワに住むビジネスマンの男性に聞いた。
モスクワ在住の58歳男性「あくまでも個人の意見ですが、国民の80%が私と同じ考えでしょう。私はプーチンを全面的に支持しています。何をするかわからないところもありますが、賢さ、計算高さ、冷静さは称賛に値します」
ディレクター「ウクライナの惨状、病院や子どもたちが亡くなっているような情報は見ていますか?」
モスクワ在住の58歳男性「もちろんです。ニュース番組でも、自分がよく使っているテレグラムチャンネル(SNS)でも見ています。しかしこれは軍事作戦ですから、破壊なくしては無理です。私たちはウクライナと戦っているのではありません。ウクライナをネオナチやファシストから解放し、西側諸国が大量に持ち込んだ武器をすべて排除しようとしているのです。西側諸国の指導者たちは、プーチンを最大のライバルで潜在能力が高いと見ています。危機感を抱くのは当然でしょう。世界のトップに立とうとするプーチンをどう排除しようか考えているんです。」
なぜそこまでプーチン大統領を支持するのか。
モスクワ在住の58歳男性「プーチンは真の愛国者です。間違いない。それが嬉しいんです」
●日本含む「非友好国」に報復措置、ロシアが入国を制限…  4/5
タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は4日、対露制裁を発動した「非友好国」への報復措置の一環として、「非友好的な活動をする外国人」の入国を制限するよう外務省など政府機関に指示する大統領令を出した。
大統領令では、非友好的な活動の定義や適用対象が不明確で、 恣意しい 的に使われる恐れがある。日本も「非友好国」に指定されている。
大統領令ではこのほか、ノルウェーやデンマークなど一部の欧州諸国に関し、政府関係者や報道関係者らの査証(ビザ)発給手続きの簡素化の取りやめも命じた。ロシアは日本との間でも発給手続きの簡素化を導入しているが、今回の対象には含まれなかった。
●それではプーチンの戦争は止まらない…欧州がいまでも「ロシア産LNG」に大金 4/5
欧州は日米と連携してロシアに経済制裁を科しているが、天然ガスは対象外としている。なぜ天然ガスの輸入をやめないのか。エネルギーアナリストの前田雄大さんは「欧州は政策的に脱炭素を進めてきたため、ロシアへの依存か高まってしまった。無自覚に『プーチンの罠』にはまっている状態だ」という――。
脱炭素に全集中…欧州がハマった「プーチンの罠」
ロシアのウクライナ侵攻は現代社会が抱えるさまざまな問題を露見させた。安全保障はその代表格であるが、社会・経済システムに大きな影響を与える点で見過ごせないのが資源・エネルギーの論点だ。
対ロ経済制裁の中で、アメリカはロシア産の原油・天然ガスの禁輸を3月8日に発表した。もちろん、経済制裁は西側が連帯をして行わなければ効果は薄くなる。ブリンケン米国務長官は、欧州各国と事前に調整を試み、ロシアに対する資源・エネルギーの制裁でも欧州側に協力を求めた。
しかし、この対ロ制裁に同調できたのはイギリスだけだった。資産凍結や国際決済システムからの排除といった制裁では足並みを揃えることができたにもかかわらず、エネルギー分野だけは不十分な形になった。これには明確な理由がある。
EU各国は資源・エネルギー分野でロシアとの関係を断ち切れない弱みがある。これに深く関係しているのが、欧州の焦り過ぎた脱炭素戦略だ。欧州はある意味で「プーチンの罠(わな)」に完全にはまったと言っていい。それも無自覚のままに――。
脱炭素の主導権を握るためにロシア依存を進めた欧州
なぜ欧州は、国家存立の要であるエネルギーに関して、ロシアに致命的な弱みを握られることになったのだろうか。改めて振り返ると、資源・エネルギーに関するロシアと欧州の関係は伝統的に結びつきが非常に強いことがわかる。
ロシア経済の主軸は化石燃料セクターだ。ロシアの輸出品目を見ると、資源・エネルギー関係で輸出額の半分を占めている。お得意さまは欧州だ。また原油にいたっては半分弱の輸出は欧州向けに出されている。したがって、ロシア経済を欧州が支えているといってもあながち間違いではない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月17日、ドイツ連邦議会での演説でドイツ政府の対応を一部強い口調で非難した。それはドイツがロシアから天然ガスを直接買い受けるために敷設したパイプライン、ノルドストリーム2を念頭に置いたものだ。要は、ドイツがロシアに資源・エネルギーを得る対価として支払った資金が、ウクライナ侵攻にも使われたというロジックだ。
欧州から見てもロシア産の資源・エネルギー依存は高い。天然ガスについては4割、ドイツでは5割以上を占めている。この面では欧州のエネルギー事情をロシアが支えてきたといっても、こちらもあながち間違いではない。
実際のところ、この関係性は最近になって構築されたわけではない。冷戦時代から段階的に構築されてきた。
ロシアはソ連時代の1970年代、シベリアのガス田開発と欧州と接続するパイプラインの開発で主要生産国・輸出国になった。1984年に建設されたウレンゴイ-ウージュホロド・パイプライン、1996年に稼働したベラルーシとポーランドを経由するヤマル・パイプライン、バルト海を通ってドイツと結ぶノルド・ストリームで、ロシアは天然ガスを欧州に供給。トルコ向けのブルー・ストリーム(2003年稼働)、トルコと南東ヨーロッパ向けのトルコ・ストリーム(2020年稼働)もある。
今回のウクライナ侵攻は、北大西洋条約機構(NATO)の東側拡大がロシアを刺激したという見方が安全保障の専門家から指摘されることがある。だが、資源・エネルギー分野で言えば、NATO対ワルシャワ条約機構という明確な構図が存在した冷戦期にも欧州はソ連に依存してきたのだ。安全保障は対立するものの経済面では関係性を構築することでバランスを取ってきたという部分もあるのだろう。
冷戦構図の終焉(しゅうえん)とともに、今日に至るまで、世界はグローバリズムを標榜(ひょうぼう)し、国際協調、相互依存によって「平和」と経済的な安定を実現させてきた。ここ数年、国際協調主義から自国第一主義への転換が見られるようになりバランスは揺らいでいる。
そのトリガーこそ、欧州主導の急進的な脱炭素戦略だった。
欧州の焦りが生み出した「ロシア頼みの脱炭素戦略」
気候変動対策をはじめ、欧州はこれまで脱炭素の国際的な旗振り役を担ってきた。各国で事情は異なるが、再エネ比率の拡大に努め、脱炭素転換を世界に先んじて実行してきた。
世界的なメガトレンドになった背景には、気候変動の問題が現実の経済・社会に悪影響を及ぼすようになったこともある。だが、再生可能エネルギーの国際的な価格下落と、脱炭素が経済性を持ってきたことが最大の要因だろう。先行者の利益を得たい欧州にとっては、世界的に吹いた脱炭素の風は大いにプラスとなった。
ルール作りでも、経済的にも主導権を取りたい欧州は一貫してあるブランディングを開始する。それは「CO2を出さないことの正義」という新たな価値観だ。これは脱炭素転換で先行する欧州にとっては非常に都合がいい。気候変動問題はCO2の排出が主要因と考えられている。この欧州の「CO2無排出正義」は、地球環境の保護、国際社会への貢献という大義名分を与えるからだ。 他国が異を唱えるものなら、「気候変動問題は喫緊の課題であるのに、経済成長を優先する姿勢は果たして正しいのか」と欧州勢は反論できる。もちろん、国際貢献の文脈もなくはない。欧州の世論が気候変動対策を支持する土壌があるのも事実だ。
しかし、国際交渉に携わった現場で筆者が見てきたのは、欧州の政策展開は国際貢献の文脈を超えて、自国・自地域にとって都合のよいルール・体制作りを行いたいという主導権争いを色濃くしたアグレッシブな姿勢だった。
特にパリ協定が発足してから、その傾向は一層強くなった。パリ協定はCO2無排出正義にお墨付きを与える枠組みであるが、アメリカや中国の企業を中心に、脱炭素分野で猛追を始めたことが欧州を焦(あせ)らせた。
日本の石炭火力、ハイブリッド車の排除に躍起に
2019年に一度は調整に失敗した「2050年カーボンニュートラル」だが、EUは2020年に合意し、他国に先駆けて方針を打ち出した。欧州はこうして、後戻りでいない一本道に自ら足を踏み入れた。
3月15日にEU加盟国の間で基本合意に至った国境炭素調整措置(CBAM)の導入は、欧州の脱炭素が「気候変動対策」に留(とど)まらないことを明確に示している。
CBAMは、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける措置だ。CO2無排出正義を掲げつつ、EU域内の産業を保護するもので、気候変動対策でも、戦後の国際秩序とも言える自由貿易の原則から言っても問題となり得る措置だ。これは自動車分野にも当てはまる。2015年のディーゼルエンジンの排出規制不正の結果、燃費のいい車の競争で日本に敗れた欧州勢は、CO2無排出正義を掲げて反撃に出る。2021年7月、欧州委員会は2035年に欧州で販売される新車について、CO2の排出を認めない方針を発表した。日本勢が得意とするハイブリッド車は「CO2を出す」という理由だけで欧州市場から排除されることになった。
こうしたなりふり構わない脱炭素方針は、エネルギーセクターでも見られた。標的となったのが石炭火力発電所だ。化石燃料の中でも石炭はCO2の排出が多く、気候変動対策上も低減させる必要性が叫ばれた。2017年11月にはイギリスなどの有志国により脱石炭連盟が発足し、その傾向は加速していった。ここでも日本は大きなあおりを受ける。日本は、相対的にCO2排出の少ない高効率石炭火力を得意としているが、石炭火力は一律に問題視されるようになった。2021年末の気候変動に関する国際会議(COP26)で、締約国は石炭火力を段階的に削減することで合意した。もちろん、その強烈な旗振り役を担ったのは欧州だ。
軍事面だけではない…エネルギー分野にもあった戦争の引き金
すべて欧州の思い描いた通りに脱炭素シフトが進むように見えた。しかし、この急激な脱炭素シフトによって、欧州とロシアのバランスを崩すことになる。
先述の通り、ロシアは天然ガスや石油といった化石燃料セクターで経済がもっている。欧州はロシア産の化石燃料を購入するかたちで、ロシア経済を支えてきた。
しかし再エネが普及すれば、当然ロシアからの化石燃料輸入は減る。それだけでなく、CO2無排出を掲げる欧州が、脱炭素を世界に各国に求めるほど、化石燃料に依存するロシアを圧迫することになる。 ただでさえ、年金制度改革で国内経済の不安をかかえるプーチン政権にとって、これは長年培ってきた欧州との間のバランスを崩す一手であったことは間違いがない。
2021年にロシアが欧州向けの天然ガスの供給を絞ったことは、これとは無縁ではないだろう。ロシアが、天然ガス供給を政治的に利用したことで、欧州は急遽エネルギー不足に見舞われた。
電力価格が高騰し、多くの新電力が各国で倒産したほか、産業界にも影響が波及した。これは欧州にとどまらず、世界的な天然ガス価格の高騰を招き、それと連動する形で原油、石炭の価格も大きく上昇した。また石炭価格の高騰は、中国国内の電力不足の原因となるなど、世界のサプライチェーンにも影響を及ぼすまでになった。
ロシアはこうした一連のドミノ倒しを見て、自国のもつ影響力を再認識したに違いない。
ロシア産の天然ガスに依存するようになった根本原因
なぜロシアが供給を絞っただけで、欧州はエネルギー危機となったのだろうか。その原因もまた、欧州自身が進めた急激な脱炭素戦略と言っていい。野心が招いた結果とも言える。
EUの脱炭素戦略の内実は、脱石炭というエネルギー政策だ。世界にCO2無排出正義を掲げるに際し、欧州は先手を打ってここ数年、脱石炭を一気に加速させた。イギリスは2024年に石炭火力全廃を発表、ドイツも2030年までの段階的廃止を決定した。
もちろん、風力や地熱、水素といった再生可能エネルギーに代替させているが、すべては賄えない。そこで、化石燃料ではあるが、石炭に比べてCO2排出が少ない天然ガスに依存せざるを得なくなったわけだ。 こうして脱炭素への移行期における燃料として、天然ガスの重要性は高まった。隣国で、調達コストが安価で済むロシア産天然ガスが、欧州にとっては最適だった。
天然ガスであっても当然CO2は出る。欧州は脱炭素時代の移行期の方策と考えられたハイブリッド車は排除する方針だが、発電に関してはCO2の排出を許した。この点はいかにも欧州の二面性を象徴している。 いずれにしても、欧州は急進的な脱炭素転換に伴うエネルギーのひずみを埋める役割を、ロシア産の天然ガスに求め、依存度を高めていった。欧州が脱炭素で米中などとの競争を制し、主導権を握り続けるためにはロシアが不可欠なものだった。
ロシアのウクライナ侵攻後も、EUは天然ガスの供給に依存している。対ロシアで結束する形を示しながらも、欧州各国の喉元はプーチンに刃を突き付けられた状態は今も継続していると言っていい。
後戻りはできない脱炭素の隘路
振り返れば、アメリカのトランプ政権はロシア産の天然ガスに依存を強めるドイツに警鐘を鳴らしてきた。メルケル政権はリスクを承知のうえで、戦略的な選択を採ったと見るのが妥当だろう。EUの要、そして脱炭素のトップランナーであるからこそ、ロシアのプーチンに頼らざるを得なかったのだ。
EUはリスクを承知で何を優先したのか。それは脱炭素推進による経済復興であり、今後の脱炭素市場における自国・自地域にとって有利となるルール形成だ。日本や米中に対する産業競争力の優位性を築き上げることを選んだわけだ。新型コロナからの復興という論点も加わり、2021年以降に一気に加速させた。取れる利益が見えたときに、リスクが霞(かす)んで見えてしまった。
そこにウクライナ戦争は勃発(ぼっぱつ)した。ソ連の冷静時代から続いてきた相互依存のゲーム理論が崩れることは当面はない、という読み違いだろう。もはや欧州はロシアの天然ガスなしでは機能しない。もし供給を止められても、中国がいる――。プーチンのこうした打算は侵攻直前の中ロ首脳会談の内容からもうかがえる(もちろん誤算も多々あっただろうが)。
安価な天然ガスという餌に、野心的な欧州は見事に誘い込まれた。先述の通り、脱炭素は後戻りが許されない一方通行の隘路(あいろ)だ。急激な脱炭素戦略によって、欧州は自らプーチンの罠にはまっていった格好となったと言える。
戦争が終わってもエネルギー問題に悩まされることになる
アメリカはこの期に乗じて国産シェールガスの増産をもくろみ、欧州向けの輸出量を増やしている。それでも、地つながりのパイプラインで輸送した低コストのロシア産天然ガスに価格で対抗することは難しい。ウクライナ戦争が終わったとしても、欧州はエネルギー不足、調達先の確保や価格高騰に悩まされ続けることになる。
特に深刻なのは、ドイツだろう。ドイツは欧州各国の中でも、急進的な脱石炭、脱原発方針を掲げ、転換を図ってきた。特にメルケル政権の次に発足をした現政権は、メルケル政権よりもさらに高めの気候変動対策を掲げ、世論の支持を取り付けてきた背景がある。そのため、もはやアイデンティティーにもなったその方策を下ろすことは容易ではない。
ノルド・ストリーム2という天然ガスのパイプライン敷設計画は、さすがに承認手続きを停止せざるを得なくなったうえ、脱炭素方針の見直しについて、ハーベック経済・気候保護相が、現時点での方針見直しに否定的な見解を述べる一方、「タブー」なしに妥当性を検討する姿勢を示すなど、すでに旗下ろしの兆候は見せつつある。実際、すでにドイツでは休止中だった石炭火力が再稼働した。
各国の思惑がうごめく脱炭素戦線ではあるが、その移行期はバランスが崩れるものであり、こうしたリスクの急な顕在化も生じるのも特徴だろう。単にCO2を減らすという観点だけでなく、各国の綱引きやゲームの潮目なども意識しながら取り組まなければならない。 脱炭素は単なる環境対策ではない。日本がこれまで議論を避けてきた、国の根幹をなす安全保障の問題なのだということが、欧州の流転から読み解けよう。
●ハンガリーとセルビアに祝意 プーチン氏 4/5
ロシアのプーチン大統領は4日、ハンガリーのオルバン首相とセルビアのブチッチ大統領に祝意を伝えた。いずれも3日投票の選挙で勝利が伝えられた。ロシア大統領府が明らかにした。
2月24日のウクライナ侵攻開始後、プーチン氏は国際的孤立を深めている。オルバン氏には「困難な国際情勢だが、一層の関係発展こそが両国民の利益だ」と力説。ブチッチ氏には「ロシア人とセルビア人は兄弟のような国民」と呼び掛けた。
●民間人殺害、波紋広がる ゼレンスキー氏、欧米に不満―「戦争犯罪」 4/5
ロシア軍が撤収したウクライナ北部キーウ(キエフ)州ブチャで民間人とみられる多数の遺体が発見された事件は「ジェノサイド(集団殺害)」(ゼレンスキー大統領)と見なされ、国際社会に波紋が広がった。ロシア国防省は「挑発」として関与を否定するが、内外で非難の声が高まっており、本格化したばかりの停戦交渉に影響を及ぼす可能性もある。
「明らかな戦争犯罪」。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は3日、目撃者や被害者に電話で聞き取り調査を行い、ウクライナ各地での処刑などの実態を告発した。うちブチャでは3月4日、占領していたロシア軍が男性5人を道路脇にひざまずかせ、うち1人を射殺。「近くにいた女性たちは叫び声を上げた」という。北東部ハルキウ(ハリコフ)州では、性暴力被害が報告された。
「ドイツのメルケル前首相とフランスのサルコジ元大統領にはブチャに来て、ロシアへの14年間の譲歩が何をもたらしたかを見てほしい」。ゼレンスキー氏は3日夜、動画声明を発表。2008年の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でウクライナの加盟を事実上見送ったことが、今回の惨事につながったと指摘し、当時の独仏首脳に不満をぶつけた。ただ、戦争犯罪を追及されるのはロシア軍と侵攻を命じたプーチン政権だ。
ウクライナ政府によると、ブチャに展開していたのは、極東ハバロフスク地方からベラルーシ経由で展開した部隊。インターネット上では、早くも事件を独自に調査する動きが出ており、この部隊の司令官のものとされる住所や電話番号が掲載された。国際ハッカー集団「アノニマス」は3日、侵攻に関与するロシア将兵約12万人の「個人情報リスト」を公開した。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によれば、2日までに確認された民間人の死者は子供121人を含む1417人。ただ、キーウ州イルピンや南東部マリウポリなどの激戦地では犠牲者の報告が遅れており、これらの数字に反映されていないという。ウクライナ側は、マリウポリだけで推計5000人が死亡したと主張する。
「(過激派組織)イスラム国(IS)よりひどい」「プーチン大統領は責任を負わされる」。3月上旬に解散したロシアのラジオ局「モスクワのこだま」のベネディクトフ元編集長は4日、通信アプリに英各紙の見出しを掲載。その上で「欧米で憎悪の水準が高まっており、必要ならベオグラードのようにモスクワを空爆することになるだろう」と記し、1999年のNATOによるユーゴスラビア空爆になぞらえて深刻さを訴えた。
●プーチンの「ルーブル決済」指令で「ドイツ基幹産業が消滅の危機」 4/5
ロシアのウラジミール・プーチン大統領が3月23日、「非友好国が支払う天然ガス代金はルーブルに限る」と発表した。この発表はドイツの経済界をパニックに陥れ、ガスという「ものづくり大国」の血液が人質に取られた実態を浮き彫りにした。
この発表に最も強い衝撃を受けたのは、ロシアからのガス輸入量が欧州連合(EU)加盟国で最も多いドイツである。2020年にEUが輸入したロシア産ガスのうち、37.6%がドイツ向けだった。
ドイツのエネルギー企業とロシアの国営企業ガスプロムとの間のガス購入契約によると、ドイツ側はガス代金をユーロまたはドルでガスプロムに払うことになっている。これまでドイツなど西欧諸国に供給されるロシア産ガスの代金の60%がユーロで、40%がドルで支払われてきた。
プーチン大統領の発表がドイツを困惑させたのは、ドイツ企業がルーブルをロシアの銀行から調達できないことが理由だ。EUが取り組む経済制裁措置により、ドイツ企業はロシアの大半の銀行との取引を禁じられている。
このため主要7カ国(G7)は3月28日、「ガス代金の支払いをルーブルに限るというロシア政府の決定は契約違反であり、受け入れられない」と発表し、プーチン大統領の指令を拒否した。
これに対し、ロシア政府のドミトリー・ぺスコフ大統領報道官は3月29日、「我々は慈善事業をやっているわけではない。ルーブルによる支払いがなければ、我々はガスを供給しない」と述べ、西欧諸国へのガス供給を停止する可能性を示唆した。ドイツなどEU加盟国に対する露骨な脅しである。
ウクライナ危機をめぐってロシア政府がガス供給の停止を示唆したのは、これが初めてではない。2月22日、ドイツ政府が「ノルドストリーム2(NS2)」の稼働許可申請の審査を停止したときにも、ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相が「我々は、すでに稼働しているノルドストリーム1によるガス供給を止める権利を持っている」と発言した。NS2はロシアからドイツにガスを供給する海底パイプラインだ。
ソ連(当時)は、東西冷戦の期間中も西欧に忠実にガスを送り続けた。ソ連(ロシア)が、西欧に対する政治的武器としてガスを使うのは第2次世界大戦後初めてのことである。
ドイツがガス緊急事態の早期警報を初めて発令
ぺスコフ報道官の恫喝(どうかつ)を重く見たドイツ政府は3月30日、ガス緊急事態宣言(NPG)の第1段階である「早期警報」を初めて発令した。連邦経済・気候保護省のロベルト・ハーベック大臣は「今のところ、ロシアはガスの供給を継続している。しかし、ロシア政府関係者の過去数週間の発言をみると、ドイツへのガス供給量が近い将来大幅に減ったり、途絶えたりする可能性が高まっている」と指摘。企業と市民に対してガス供給に支障が生じる事態に備え、ガスを節約するよう訴えた。
NPGは(1)早期警報、(2)警報、(3)緊急事態の3段階から成る。(1)の早期警報は、企業や市民に対して、緊急事態が起きる可能性を知らせるためのもの。政府は、ガスの需要量や節約できる量などについて企業から情報を収集する。
ガス供給に実際に支障が生じたり、需要が供給を上回ったりした場合には、政府が(2)の警報を発令する。この段階では、政府はまだ直接介入しない。ガス会社が調達や供給を最適化するなど、市場メカニズムを使った措置によって対応する。
しかし、ガス供給量の減少や供給停止が続き、民間企業が対応しきれなくなった場合には、政府が(3)の緊急事態を宣言し、連邦系統規制庁がガスの配給を始める。第3段階になっても、家庭、病院、介護施設、ガス火力発電所などへの供給は制限しない。連邦系統規制庁は、企業が製造活動などにガスを必要とする度合いに応じてガスを配給する。最悪の場合、ガスの供給を断たれる企業も現れる。
ところがロシア側は3月30日、ルーブル決済を義務化する指令を緩和した。プーチン大統領が、ドイツのオラフ・ショルツ首相と電話会談した際に「西欧の企業に例外を認める」と語ったのだ。
プーチン大統領は4月1日、ガス代金に関する政令に署名し「ルーブルによる支払いを行わない外国企業に対しては、ガスの供給をやめる」と警告した。だが、その一方で「ただし西側企業はルクセンブルクのガスプロム銀行に口座を開設すれば、この口座にユーロかドルで代金を支払うことができる。ガスプロム銀行が代金をルーブルに交換して、ガスプロムの口座に振り込む」という例外措置も認めた。
つまりロシア政府は、硬軟織り交ぜた態度を打ち出した。ドイツ政府は、ガスプロム銀行を使った代金支払いを認めるかどうか、まだ決定していない。ショルツ政権は「政令の内容を精査しないと、この方法を受け入れられるかどうか断言できない」として、慎重な態度を崩していない。次のガス代金支払いの期限は今年4月末なので、そのときまでにドイツ政府と企業は公式見解を打ち出すだろう。
「ドイツ製造業に戦後最悪の打撃を与える」
プーチン大統領の意図は何だろうか。ドイツの論壇では「ルーブルへの需要を増やすことで、ルーブルの為替レートの悪化に歯止めをかけることだろう」という見方が出ている。ウクライナ危機に伴う欧米の経済制裁の影響で、ルーブルの対ドルレートは急落していた。3月初めに1ドル154ルーブルだった交換レートは、ガス代金のルーブル決済義務が発表された後の3月24日には1ドル96ルーブルに回復した。
またドイツの論壇には「プーチン大統領は、ガス供給をいつでも停止できることを西側諸国に対して誇示し、恐怖を味わわせようとしたのではないか」という意見もある。ロシアがルーブル支払いの義務化を発表した直後にドイツの製造業界が示した反応は、実際のところパニックに近かった。
ドイツの大手化学メーカーBASFのマーティン・ブルーダーミュラー社長は、ドイツの日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)が3月31日に掲載したインタビューの中で「ドイツが輸入するガスの半分近くがロシア産だ。この供給が止まった場合、我が国では多くの企業が倒産し、第2次世界大戦後で最も深刻な打撃となる」と警告した。
「しかしロシアからのガスに依存し続けたら、プーチン大統領は他の国も侵略するかもしれない」と指摘した記者に対して、同社長は「ロシアからのガス供給が止まって、我々の目の前でドイツ経済が破壊されるのを見たいのですか?」と反問している。
化学業界・エネルギー業界の労働組合IG BCEのミヒャエル・バシリアディス委員長は、BASFの監査役会のメンバーでもある。同氏は3月28日、「ロシアが供給するガスの量が現在の半分以下に減れば、BASFの本社工場は通常の操業ができなくなる。約4万人の従業員が自宅待機になるか解雇される。ドイツ全体では数十万人の失業者が出る」と警告した。
ブルーダーミュラー社長やバシリアディス委員長の言葉には、ドイツの製造業界が抱く危機感の深さがはっきり表れている。
BASFがルートヴィヒスハーフェンに構える本社工場は、世界最大規模の化学コンビナート。この工場の操業が止まると、自動車業界、建設業界、製薬業界、繊維業界などが使う原材料や部品、半製品が不足し、サプライチェーン(供給網)が途切れてしまう。化学製品は社会のあらゆる場所で使われており、ドイツ経済は化学産業ぬきには成り立たない。
ドイツ化学工業会(VCI)のヴォルフガング・グローセ・エントルプ専務理事は「ガスの供給停止は、ドイツの製造業界のネットワークに破局的な崩壊をもたらす」と語った。
ドイツ経済研究所(IW)のミヒャエル・ヒューター所長も「ロシアによるガス供給の停止は、ドイツ経済全体をまひさせ、深刻な不況に陥れる。化学産業というドイツにとって最も重要な産業の1つが、この国から消えることにつながるかもしれない」と述べ、製造業界への打撃が甚大なものになると予想している。
ドイツの製造業界や学界から「ウクライナではロシア軍の攻撃で市民が次々に死亡し、故郷を追われている。戦争なのだから、我々は収益の悪化や失業者の増加を受け入れるべきだ」という声は聞こえてこない。
長年にわたるロシア依存のツケ
ちなみにウクライナや東欧諸国の政府は「ドイツなどは、ロシアに多額のガス代金を支払うことで、プーチンの侵略戦争に間接的に資金を援助している」として、ロシア産エネルギーの即時禁輸を求めている。
米国のバイデン政権は3月8日、ロシア産ガスなどの即時禁輸を発表した。これに対し、EUが禁輸措置を見送ったのは、ドイツなど加盟国の経済への悪影響が大きなものになるからだ。
ガス決済は、SWIFT(国際銀行間通信協会)をめぐる制裁にも影を落としている。G7諸国は、ロシアの大半の銀行をSWIFTから締め出したが、ガスプロム銀行とズベルバンクだけは締め出さなかった。この2行がドイツなどが支払うガス代金の決済を担当しているからだ。ショルツ独政権は、この2行をSWIFTから締め出せば、ロシアにガス代金を払えなくなり、経済の血液であるガスが止まることを強く恐れた。
2020年には、ドイツが輸入するガスの約55%がロシア産だった。今年3月末の時点でもロシア産ガスへの依存度は約40%にのぼる。このためショルツ政権は「ガスを禁輸すると、ロシアよりもドイツが受ける損害の方が大きくなる」と主張してきた。
ドイツ政府は米国やカタールなどから液化天然ガス(LNG)の輸入量を増やすことで、対ロシア依存度を減らそうとしている。しかしショルツ政権がLNG陸揚げターミナルの建設を決めたのは、ロシアがウクライナに侵攻してからのこと。このためドイツ政府がロシア産ガスへの依存度をゼロにできるのは早くても2024年の夏になる。ロシアからパイプライン経由で運ばれてくる、LNGに比べて割安なガスに長年にわたって深く依存してきたツケが、今回ってきた。
プーチン政権が今回、ガス代金の支払いについて例外措置を認めたとはいえ、ロシアがガス供給停止をいつ再びちらつかせるか分からない。プーチン大統領はガスという切り札がいかに大きな「破壊力」を持っているかを、欧州諸国に印象付けた。「世界の終わり」が来たかのようなドイツ企業の反応は、プーチン大統領をさぞかし満足させたに違いない。
一方ロシア軍は、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を短期間で陥落させることに失敗し、戦争は泥沼化の様相を呈している。イルピンなどの地方都市は、ウクライナ軍に奪還された。ロシア軍が一時占領していたブチャではウクライナ軍による奪還後、約400人の市民の他殺体が見つかり、ウクライナ政府は「ロシア軍による虐殺だ」としてロシア政府を強く非難している。欧米諸国は第三者機関による現地調査を求めるとともに、ロシアへの経済制裁を強化する方針を打ち出している。
米国の諜報機関は、これまでのウクライナ戦争で、少なくとも約7000人のロシア兵が戦死したと見ている。戦場での劣勢を挽回し、ロシア経済をじわじわと締め付ける経済制裁に報復するべく、プーチン大統領がEU向けガスの元栓を閉める危険はまだ完全には消えていない。
「ロシアのガスは頼りになる」という安全神話を妄信してきたドイツの失敗は、エネルギーと食糧の大半を外国から輸入している日本にも、重要な教訓を与える。世界中で地政学リスクが高まりつつある今、調達戦略を大幅に見直す必要がある。輸入先の多角化や食料自給率の引き上げは喫緊の課題だ。 
●ロシア、敵対国への食料輸出監視 制裁で世界危機=プーチン大統領 4/5
ロシアのプーチン大統領は5日、ロシアは敵対的な国に対する食料輸出に細心の注意を払う必要があると述べ、西側諸国の制裁措置で世界的な食料危機が引き起こされる恐れがあるとの見方を示した。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け西側諸国が導入した制裁措置で、ロシア経済は1991年のソ連崩壊以来最悪の経済危機に直面する恐れがある。ただロシアは、世界の方がより大きな影響を受けるとの見方を示している。
プーチン大統領は食料生産開発に関する会議で、エネルギー価格の上昇と肥料不足が重なれば、西側諸国が物資を買い占め、貧困国で食料不足が発生すると警告。「貧困国で食料不足が悪化すれば、新たな移民の波が発生し、食料価格は一段と上昇する」と述べた。
その上で「世界的な肥料不足は回避できない」とし、「ロシアは食料輸出に細心の注意を払う必要がある。特に敵対国への輸出を注意深く監視しなければならない」と述べた。
ロシアは世界最大の小麦輸出国であると同時に、肥料の主要生産国。プーチン氏は、制裁措置でロシアとベラルーシからの肥料の輸送が妨げられているほか、天然ガス価格上昇で西側諸国では肥料の製造コストが上昇していると指摘した。
また、ロシアの海外資産の国有化は「もろ刃の武器」だとし、ロシアが対応する可能性を示唆した。
ドイツは4日、ドイツ事業からの撤退を表明したロシア国営の天然ガス大手ガスプロムのドイツ子会社の経営権をエネルギー規制当局が取得すると発表。英政府も、ガスプロムの英小売部門を一時的に運営する可能性を示している。
●ウクライナ戦争のおかげで「トルコが危機から立ち直る」とは、どういうことか? 4/5
<度重なる失政で国際的にも孤立していたエルドアン政権だが、日和見的立場のおかげで好機がもたらされている>
ロシアのウクライナ侵攻がトルコにチャンスをもたらしている。東西冷戦時代と同じく、トルコはロシアに対する防波堤だから、ではない。
現今の危機に伴うチャンスは、もっと複雑で厄介な現実の産物だ。そこには、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と与党が描く自立した大国という自国像、国内とシリアでのクルド人の分離・独立運動の脅威、欧米に対して募る失望と恨みといった要素が絡んでいる。
野望とトラウマが入り交じる動機に駆られて、エルドアンは危機の比較的早い時点でロシアのウラジーミル・プーチン大統領に手を差し伸べた。両首脳は複数回、電話で会談。シリアやリビア、おそらくはウクライナをめぐっても立場が異なるにもかかわらず、両国関係は深まり、トルコと欧米の間の不信感に拍車を掛ける形になった。
トルコは2019年にロシア製S-400地対空ミサイルシステムを配備した。これを受けてアメリカは翌年12月、トルコ当局の武器調達部門に対する制裁を発表している。トルコのNATO追放を求める声が再び高まり、エルドアン政権の外交政策に対する深刻な懸念も持ち上がった。
トルコは今も「西側」なのか。「東寄り」に移行しているのか。中東で、東地中海地域で、イスラム世界で、リーダーの座を目指しているのか――。これらの問いの答えは、どれも「イエス」だ。
わずか数カ月前までトルコは国際的に孤立していた。対欧州関係はキプロス問題やシリア難民の扱いをめぐって緊張化し、中東のほとんどの主要国と対立。アメリカのジョー・バイデン政権にはほぼ無視された。昨年後半になる頃には、深まる孤立や急激な通貨危機の中、自業自得のダメージを修復しようとしたが、焦りの色は隠せなかった。
そこへきてウクライナ侵攻が発生した。トルコの反応については、2つの正反対の主張が浮上している。
一方によれば、エルドアンはウクライナの主権を支持し、殺傷能力のあるドローンを提供。2月末には、ボスポラス海峡の軍艦通過を制限する措置を発表した。これらはトルコが依然、西側の安全保障体制の重要な一部であることを示す証拠だという。
だがもう1つの主張では、トルコはそれほどウクライナ寄りではない。ロシアに経済制裁も領空飛行禁止措置も科しておらず、国内のエーゲ海沿いのリゾート地には、オリガルヒ(新興財閥)の超豪華ヨットが(おそらくトルコ政府の許可を得て)集まっていると、批判派は強く指摘する。
いずれにしても、トルコは「親ウクライナ」も「反プーチン」も徹底できない。この事実自体が、トルコが自身の影響力と主体性を強化しつつ、かつての役割を再び担うチャンスを生んでいる。
近年の不必要に攻撃的な外交政策のせいで忘れられがちだが、05〜11年頃のトルコは中東で建設的な役割を果たそうとしており、その経済力を活用して地域内の各国と良好な関係を築いていた。
トルコは戦争終結の力になれるのか。人道回廊の設置をめぐる貢献は可能だし、仲介役に最適の国だろう。3月29日にイスタンブールで行われた停戦交渉は、希望の持てる一歩だ。
●ダウ平均は反落 ウクライナ情勢と景気後退のシグナルの解釈に注視
NY株式5日(NY時間16:20) / ダウ平均   34641.18(-280.70 -0.80%)
きょうのNY株式市場でダウ平均は反落。一時300ドル超下落する場面が見られた。ブレイナードFRB理事の発言をきっかけに売りが強まった。同理事が「バランスシートを5月にも急速なペースで縮小」と述べたことに敏感に反応した模様。5月のFOMCについては、大幅利上げの可能性はすでに織り込まれているものの、バランスシート縮小については見解が分かれている。
明日はFOMC議事録の公表が予定され、その内容が注目される。FRBのより積極的な姿勢を示唆するものであれば、ドルは上昇する可能性があるとの見方も出ている。今回公表される3月の議事録は、2018年以来初めて利上げを行った金融政策をFOMCメンバーどのように見ていたか、投資家に最新の洞察を与えることが期待されている。米国債利回りも急上昇しており、IT・ハイテク株など成長株への売りが強まり、ナスダックは2%超急落。
ウクライナ情勢については、ロシア軍が占領していたウクライナの首都キーウ近郊の複数都市で多数の民間人の遺体が見つかり、EUがロシアに対する追加制裁を計画。本日はロシアの石炭の禁輸を検討と伝わったほか、ロシアからのトラックと船舶の大半の入国禁止を提案する見込みとの報道も出ていた。石油や天然ガスへの制裁は現時点では予定していない模様。米国とEUおよびG7は、ウクライナでの残虐行為を巡るロシアへの追加制裁を明日発表すると伝わっている。プーチン大統領の娘もその対象に入れることを検討しているとの報道も流れているが、これに対してロシアがどう対抗してくるか警戒されている。
米国債市場が発している景気後退のシグナルについては、象徴的なタームである2−10債の利回りの逆イールドがひとまず解消している。しかし、その他のタームも含めて逆イールドが続いており、2−10債も解消しているとは言え、逆イールドの状態にはある。
ただ、市場からは楽観的な見方も出ており、短期的には、年初からの急激な売りが、特にIT・ハイテク株などの成長株を中心に魅力的なエントリーポイントを生み出しているとの声も出ていた。
ツイッターがきょうも買いを集めている。テスラのマスクCEOが同社株を9.2%取得し、筆頭株主になったことが明らかとなったが、きょうは同社はマスク氏を取締役に指名したことが米証券取引委員会(SEC)への提出文書で明らかとなった。
中古車のオンライン販売を手掛けるカーバナが大幅安。アナリストが投資判断を「買い」から「中立」に引き下げた。目標株価も従来の155ドルから138ドルに引き下げた。
太陽光発電モジュールのファーストソーラーが下落。アナリストが投資判断を「中立」から「売り」に引き下げた。目標株価も従来の76.50ドルから65.50ドルに引き下げた。
質屋のイージーコープが上昇。アナリストが投資判断を「買い」に引き上げ、目標株価を8.50ドルとしている。前日終値から43%高い水準。
VFやラルフローレン、TJXなどのアパレルの一角が下落。アナリストが投資判断を「買い」から「中立」に引き下げた。アパレルセクターに対する短期的な展望には慎重であるべきと指摘。個人消費への打撃は中堅の小売業者に打撃を与える可能性が高いとしている。
マーケットアクセスが下落。3月と第1四半期の取引量を報告。アナリストからは、第1四半期の取引量と手数料の予備的な開示を加味すると、結果はコンセンサスをおよそ0.07ドル下回ると考えられると指摘した。
ブラック・ナイトに買いが強まった。同社は住宅ローンおよび不動産業界に統合技術、ワークフローの自動化、データ、および分析ソリューションサービスを提供。投資会社が同社に対し買収提案を検討しており、同社も売却の可能性を模索していると伝わった。
終盤にスピリット航空に買いが強まった。ジェットブルーが同社に買収提案を行ったと報じられた。
●プーチンの戦争は止まらない…欧州がいまでも「ロシア産LNG」に大金を払う 4/5
欧州は日米と連携してロシアに経済制裁を科しているが、天然ガスは対象外としている。なぜ天然ガスの輸入をやめないのか。エネルギーアナリストの前田雄大さんは「欧州は政策的に脱炭素を進めてきたため、ロシアへの依存か高まってしまった。無自覚に『プーチンの罠』にはまっている状態だ」という――。
脱炭素に全集中…欧州がハマった「プーチンの罠」
ロシアのウクライナ侵攻は現代社会が抱えるさまざまな問題を露見させた。安全保障はその代表格であるが、社会・経済システムに大きな影響を与える点で見過ごせないのが資源・エネルギーの論点だ。
対ロ経済制裁の中で、アメリカはロシア産の原油・天然ガスの禁輸を3月8日に発表した。もちろん、経済制裁は西側が連帯をして行わなければ効果は薄くなる。ブリンケン米国務長官は、欧州各国と事前に調整を試み、ロシアに対する資源・エネルギーの制裁でも欧州側に協力を求めた。
しかし、この対ロ制裁に同調できたのはイギリスだけだった。資産凍結や国際決済システムからの排除といった制裁では足並みを揃えることができたにもかかわらず、エネルギー分野だけは不十分な形になった。これには明確な理由がある。
EU各国は資源・エネルギー分野でロシアとの関係を断ち切れない弱みがある。これに深く関係しているのが、欧州の焦り過ぎた脱炭素戦略だ。欧州はある意味で「プーチンの罠(わな)」に完全にはまったと言っていい。それも無自覚のままに――。
脱炭素の主導権を握るためにロシア依存を進めた欧州
なぜ欧州は、国家存立の要であるエネルギーに関して、ロシアに致命的な弱みを握られることになったのだろうか。改めて振り返ると、資源・エネルギーに関するロシアと欧州の関係は伝統的に結びつきが非常に強いことがわかる。
ロシア経済の主軸は化石燃料セクターだ。ロシアの輸出品目を見ると、資源・エネルギー関係で輸出額の半分を占めている。お得意さまは欧州だ。また原油にいたっては半分弱の輸出は欧州向けに出されている。したがって、ロシア経済を欧州が支えているといってもあながち間違いではない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月17日、ドイツ連邦議会での演説でドイツ政府の対応を一部強い口調で非難した。それはドイツがロシアから天然ガスを直接買い受けるために敷設したパイプライン、ノルドストリーム2を念頭に置いたものだ。要は、ドイツがロシアに資源・エネルギーを得る対価として支払った資金が、ウクライナ侵攻にも使われたというロジックだ。
欧州から見てもロシア産の資源・エネルギー依存は高い。天然ガスについては4割、ドイツでは5割以上を占めている。この面では欧州のエネルギー事情をロシアが支えてきたといっても、こちらもあながち間違いではない。
実際のところ、この関係性は最近になって構築されたわけではない。冷戦時代から段階的に構築されてきた。
ロシアはソ連時代の1970年代、シベリアのガス田開発と欧州と接続するパイプラインの開発で主要生産国・輸出国になった。1984年に建設されたウレンゴイ-ウージュホロド・パイプライン、1996年に稼働したベラルーシとポーランドを経由するヤマル・パイプライン、バルト海を通ってドイツと結ぶノルド・ストリームで、ロシアは天然ガスを欧州に供給。トルコ向けのブルー・ストリーム(2003年稼働)、トルコと南東ヨーロッパ向けのトルコ・ストリーム(2020年稼働)もある。
今回のウクライナ侵攻は、北大西洋条約機構(NATO)の東側拡大がロシアを刺激したという見方が安全保障の専門家から指摘されることがある。だが、資源・エネルギー分野で言えば、NATO対ワルシャワ条約機構という明確な構図が存在した冷戦期にも欧州はソ連に依存してきたのだ。安全保障は対立するものの経済面では関係性を構築することでバランスを取ってきたという部分もあるのだろう。
冷戦構図の終焉(しゅうえん)とともに、今日に至るまで、世界はグローバリズムを標榜(ひょうぼう)し、国際協調、相互依存によって「平和」と経済的な安定を実現させてきた。ここ数年、国際協調主義から自国第一主義への転換が見られるようになりバランスは揺らいでいる。
そのトリガーこそ、欧州主導の急進的な脱炭素戦略だった。
欧州の焦りが生み出した「ロシア頼みの脱炭素戦略」
気候変動対策をはじめ、欧州はこれまで脱炭素の国際的な旗振り役を担ってきた。各国で事情は異なるが、再エネ比率の拡大に努め、脱炭素転換を世界に先んじて実行してきた。
世界的なメガトレンドになった背景には、気候変動の問題が現実の経済・社会に悪影響を及ぼすようになったこともある。だが、再生可能エネルギーの国際的な価格下落と、脱炭素が経済性を持ってきたことが最大の要因だろう。先行者の利益を得たい欧州にとっては、世界的に吹いた脱炭素の風は大いにプラスとなった。
ルール作りでも、経済的にも主導権を取りたい欧州は一貫してあるブランディングを開始する。それは「CO2を出さないことの正義」という新たな価値観だ。これは脱炭素転換で先行する欧州にとっては非常に都合がいい。気候変動問題はCO2の排出が主要因と考えられている。この欧州の「CO2無排出正義」は、地球環境の保護、国際社会への貢献という大義名分を与えるからだ。 他国が異を唱えるものなら、「気候変動問題は喫緊の課題であるのに、経済成長を優先する姿勢は果たして正しいのか」と欧州勢は反論できる。もちろん、国際貢献の文脈もなくはない。欧州の世論が気候変動対策を支持する土壌があるのも事実だ。
しかし、国際交渉に携わった現場で筆者が見てきたのは、欧州の政策展開は国際貢献の文脈を超えて、自国・自地域にとって都合のよいルール・体制作りを行いたいという主導権争いを色濃くしたアグレッシブな姿勢だった。
特にパリ協定が発足してから、その傾向は一層強くなった。パリ協定はCO2無排出正義にお墨付きを与える枠組みであるが、アメリカや中国の企業を中心に、脱炭素分野で猛追を始めたことが欧州を焦(あせ)らせた。
日本の石炭火力、ハイブリッド車の排除に躍起に
2019年に一度は調整に失敗した「2050年カーボンニュートラル」だが、EUは2020年に合意し、他国に先駆けて方針を打ち出した。欧州はこうして、後戻りでいない一本道に自ら足を踏み入れた。
3月15日にEU加盟国の間で基本合意に至った国境炭素調整措置(CBAM)の導入は、欧州の脱炭素が「気候変動対策」に留(とど)まらないことを明確に示している。
CBAMは、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける措置だ。CO2無排出正義を掲げつつ、EU域内の産業を保護するもので、気候変動対策でも、戦後の国際秩序とも言える自由貿易の原則から言っても問題となり得る措置だ。これは自動車分野にも当てはまる。2015年のディーゼルエンジンの排出規制不正の結果、燃費のいい車の競争で日本に敗れた欧州勢は、CO2無排出正義を掲げて反撃に出る。2021年7月、欧州委員会は2035年に欧州で販売される新車について、CO2の排出を認めない方針を発表した。日本勢が得意とするハイブリッド車は「CO2を出す」という理由だけで欧州市場から排除されることになった。
こうしたなりふり構わない脱炭素方針は、エネルギーセクターでも見られた。標的となったのが石炭火力発電所だ。化石燃料の中でも石炭はCO2の排出が多く、気候変動対策上も低減させる必要性が叫ばれた。2017年11月にはイギリスなどの有志国により脱石炭連盟が発足し、その傾向は加速していった。ここでも日本は大きなあおりを受ける。日本は、相対的にCO2排出の少ない高効率石炭火力を得意としているが、石炭火力は一律に問題視されるようになった。2021年末の気候変動に関する国際会議(COP26)で、締約国は石炭火力を段階的に削減することで合意した。もちろん、その強烈な旗振り役を担ったのは欧州だ。
軍事面だけではない…エネルギー分野にもあった戦争の引き金
すべて欧州の思い描いた通りに脱炭素シフトが進むように見えた。しかし、この急激な脱炭素シフトによって、欧州とロシアのバランスを崩すことになる。
先述の通り、ロシアは天然ガスや石油といった化石燃料セクターで経済がもっている。欧州はロシア産の化石燃料を購入するかたちで、ロシア経済を支えてきた。
しかし再エネが普及すれば、当然ロシアからの化石燃料輸入は減る。それだけでなく、CO2無排出を掲げる欧州が、脱炭素を世界に各国に求めるほど、化石燃料に依存するロシアを圧迫することになる。 ただでさえ、年金制度改革で国内経済の不安をかかえるプーチン政権にとって、これは長年培ってきた欧州との間のバランスを崩す一手であったことは間違いがない。
2021年にロシアが欧州向けの天然ガスの供給を絞ったことは、これとは無縁ではないだろう。ロシアが、天然ガス供給を政治的に利用したことで、欧州は急遽エネルギー不足に見舞われた。
電力価格が高騰し、多くの新電力が各国で倒産したほか、産業界にも影響が波及した。これは欧州にとどまらず、世界的な天然ガス価格の高騰を招き、それと連動する形で原油、石炭の価格も大きく上昇した。また石炭価格の高騰は、中国国内の電力不足の原因となるなど、世界のサプライチェーンにも影響を及ぼすまでになった。
ロシアはこうした一連のドミノ倒しを見て、自国のもつ影響力を再認識したに違いない。
ロシア産の天然ガスに依存するようになった根本原因
なぜロシアが供給を絞っただけで、欧州はエネルギー危機となったのだろうか。その原因もまた、欧州自身が進めた急激な脱炭素戦略と言っていい。野心が招いた結果とも言える。
EUの脱炭素戦略の内実は、脱石炭というエネルギー政策だ。世界にCO2無排出正義を掲げるに際し、欧州は先手を打ってここ数年、脱石炭を一気に加速させた。イギリスは2024年に石炭火力全廃を発表、ドイツも2030年までの段階的廃止を決定した。
もちろん、風力や地熱、水素といった再生可能エネルギーに代替させているが、すべては賄えない。そこで、化石燃料ではあるが、石炭に比べてCO2排出が少ない天然ガスに依存せざるを得なくなったわけだ。 こうして脱炭素への移行期における燃料として、天然ガスの重要性は高まった。隣国で、調達コストが安価で済むロシア産天然ガスが、欧州にとっては最適だった。
天然ガスであっても当然CO2は出る。欧州は脱炭素時代の移行期の方策と考えられたハイブリッド車は排除する方針だが、発電に関してはCO2の排出を許した。この点はいかにも欧州の二面性を象徴している。 いずれにしても、欧州は急進的な脱炭素転換に伴うエネルギーのひずみを埋める役割を、ロシア産の天然ガスに求め、依存度を高めていった。欧州が脱炭素で米中などとの競争を制し、主導権を握り続けるためにはロシアが不可欠なものだった。
ロシアのウクライナ侵攻後も、EUは天然ガスの供給に依存している。対ロシアで結束する形を示しながらも、欧州各国の喉元はプーチンに刃を突き付けられた状態は今も継続していると言っていい。
後戻りはできない脱炭素の隘路
振り返れば、アメリカのトランプ政権はロシア産の天然ガスに依存を強めるドイツに警鐘を鳴らしてきた。メルケル政権はリスクを承知のうえで、戦略的な選択を採ったと見るのが妥当だろう。EUの要、そして脱炭素のトップランナーであるからこそ、ロシアのプーチンに頼らざるを得なかったのだ。
EUはリスクを承知で何を優先したのか。それは脱炭素推進による経済復興であり、今後の脱炭素市場における自国・自地域にとって有利となるルール形成だ。日本や米中に対する産業競争力の優位性を築き上げることを選んだわけだ。新型コロナからの復興という論点も加わり、2021年以降に一気に加速させた。取れる利益が見えたときに、リスクが霞(かす)んで見えてしまった。
そこにウクライナ戦争は勃発(ぼっぱつ)した。ソ連の冷静時代から続いてきた相互依存のゲーム理論が崩れることは当面はない、という読み違いだろう。もはや欧州はロシアの天然ガスなしでは機能しない。もし供給を止められても、中国がいる――。プーチンのこうした打算は侵攻直前の中ロ首脳会談の内容からもうかがえる(もちろん誤算も多々あっただろうが)。
安価な天然ガスという餌に、野心的な欧州は見事に誘い込まれた。先述の通り、脱炭素は後戻りが許されない一方通行の隘路(あいろ)だ。急激な脱炭素戦略によって、欧州は自らプーチンの罠にはまっていった格好となったと言える。
戦争が終わってもエネルギー問題に悩まされることになる
アメリカはこの期に乗じて国産シェールガスの増産をもくろみ、欧州向けの輸出量を増やしている。それでも、地つながりのパイプラインで輸送した低コストのロシア産天然ガスに価格で対抗することは難しい。ウクライナ戦争が終わったとしても、欧州はエネルギー不足、調達先の確保や価格高騰に悩まされ続けることになる。
特に深刻なのは、ドイツだろう。ドイツは欧州各国の中でも、急進的な脱石炭、脱原発方針を掲げ、転換を図ってきた。特にメルケル政権の次に発足をした現政権は、メルケル政権よりもさらに高めの気候変動対策を掲げ、世論の支持を取り付けてきた背景がある。そのため、もはやアイデンティティーにもなったその方策を下ろすことは容易ではない。
ノルド・ストリーム2という天然ガスのパイプライン敷設計画は、さすがに承認手続きを停止せざるを得なくなったうえ、脱炭素方針の見直しについて、ハーベック経済・気候保護相が、現時点での方針見直しに否定的な見解を述べる一方、「タブー」なしに妥当性を検討する姿勢を示すなど、すでに旗下ろしの兆候は見せつつある。実際、すでにドイツでは休止中だった石炭火力が再稼働した。
各国の思惑がうごめく脱炭素戦線ではあるが、その移行期はバランスが崩れるものであり、こうしたリスクの急な顕在化も生じるのも特徴だろう。単にCO2を減らすという観点だけでなく、各国の綱引きやゲームの潮目なども意識しながら取り組まなければならない。 脱炭素は単なる環境対策ではない。日本がこれまで議論を避けてきた、国の根幹をなす安全保障の問題なのだということが、欧州の流転から読み解けよう。 

 

●「ロシア人にも悪夢」 トルコに1万4000人渡航か―ウクライナ侵攻 4/6
ロシアの軍事侵攻で400万人を超えるウクライナ人が国外退避を余儀なくされる中、ロシアからもプーチン政権の締め付けを恐れる人々が多数、国外へ脱出している。地元メディアによると、トルコには侵攻開始後、少なくとも1万4000人のロシア人が入国したもようだ。そのうちの一人、モスクワ出身のティナ・ボロデュリナさん(30)は取材に「侵攻はロシア人にとっても悪夢だ」と胸の内を語った。
人類学者のボロデュリナさんは2月24日、それまで「プーチン大統領の虚勢」と思っていたウクライナ侵攻が実際に始まったことをニュースで知り「衝撃を受けた」と振り返る。27日に反戦デモに加わったところ、目の前で友人が拘束され、脱出を決意。トルコで暮らすロシア人の友人を頼り、3月3日にイスタンブールへ渡った。
ロシア軍が撤収したウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外で多数の遺体が見つかり、国際社会で戦争犯罪との声が高まっていることに「ロシア人として、今後どう生きていけばいいのか」と悲しみは深い。トルコ渡航後、多くのロシア人から脱出の相談が寄せられているといい、「(同志たちと)一緒に、いつか愛するロシアに平和をもたらしたい」と語った。
トルコはロシア人に人気の観光地。ディミトリ・チュイコさん(26)は、旅行で訪れたことがある縁でトルコに来た。プーチン政権のメディア弾圧に嫌気が差していたところ、侵攻直前のプーチン氏の演説を聞いて「国と全ての絆を切りたくなった」と話す。「プーチン氏が政権の座にいる限り、帰国を考えることすらしない」姿勢だ。
トルコはロシア人が事前にビザを取得することなく入国できるため、欧米などを目指す人々が当面の行き先として選ぶことも多いとみられる。同様の理由で、トルコに隣接するジョージア(グルジア)やアルメニアなどにも、多くのロシア人が渡っているという。
●中立化は非現実的、ウクライナ戦争の終結、考えうる「6つのシナリオ」 4/6
ウクライナ軍の激しい抵抗で、ロシア軍はウクライナの首都キーウからの撤退を終了しつつあり、東部や南部の戦いに集中し始めた。停戦や和平合意によって現在の前線が固定された場合、ロシア軍は再侵攻に備えて部隊を再編成する時間を稼ぐことができる。
西側はウラジーミル・プーチン露大統領の領土的野心を封じ込めるために「戦争恐怖症」を克服する必要がある。いま考えられるシナリオを検証した。
キーウから撤退し始めたロシア軍
『モスクワ・ルール ロシアを西側と対立させる原動力』の著書があるロシア研究の第一人者で、英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)上級コンサルティング研究員を務めるキーア・ジャイルズ氏が欧州ジャーナリスト協会(AEJ)の討論会に参加し、戦争終結の6つのシナリオを指摘した上で「忘れてはならないのは、プーチン氏はそもそもウクライナという国家を消滅させるためにこの戦争を始めたということだ」と強調した。
プーチン氏がソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的大惨事」と呼んだことはよく知られている。
しかし発言を額面通り受け取ってはならない。プーチン氏は親露派が支配する東部ドンバスの独立を承認した2月21日の演説などで「ウクライナはボリシェビキによって作られた」と歴史を100年以上さかのぼり、このプロセスを逆転させると宣言した。プーチン氏はソ連ではなく、ロシア帝国の領土が失われたことを嘆いてみせたのである。
その「ウクライナを国でなくする」という計画が頓挫した今、プーチン氏は面子を保つ現実的な落とし所を見つけなければならない。ジャイルズ氏は考えられる6つのシナリオを列挙した。
第一のシナリオは、プーチン政権が倒れるか否かにかかわらずロシアが崩壊し、ロシア軍がウクライナの領土から撤退する。ウクライナ軍参謀本部によると、ロシア軍の戦死者は1万7800人。軍事的損失だけで258億ドル(約3兆1700億円)以上という試算もある。
最もあり得るのはロシアの一方的な勝利宣言
第二に、ウクライナが崩壊する。ジャイルズ氏は「ウクライナ軍の復元力がいつまで続くか内部関係者しか分からない」と言う。1940年、ソ連との冬戦争で国土の一部を失いながらも独立を守ったフィンランドのようにウクライナ軍も粘り強い抵抗を見せる。しかしいつまで耐えられるのか。ウクライナも譲歩を迫られる。
第三に、ウクライナが西側の支援を失い、ロシア軍の支配するクリミア半島や東部の領土をあきらめて戦争を幕引きする。
第四に、膠着状態のまま兵員や装備を注ぎ込んで何年も戦争を継続する。双方とも支配地域を拡大できずに消耗戦に突入する。
第五に、2008年のグルジア(現ジョージア)紛争、ロシア軍による15〜16年のシリア軍事介入、14年の東部紛争のミンスク合意と同じように機能しない停戦を西側が働きかける。モスクワでつくられたロシアに有利な停戦案に署名するようウクライナに強いる。「全く機能せず、長続きしないことはみな承知している」(ジャイルズ氏)という。
ジャイルズ氏が最もあり得ると分析するのは第六のシナリオだ。
ロシアが現状に合わせて一方的に勝利宣言を行い、戦闘を終結する。現にプーチン氏はゼレンスキー政権を倒して傀儡政権をつくる作戦をあきらめ、東部や南部を解放する目標に縮小している。兵員や装備の甚大な損失は他の国と違ってロシアではそれほど問題にならない。第一次大戦や第二次大戦でロシア(ソ連)はそれぞれ約330万人、最大2700万人も犠牲を出している。
ゼレンスキー氏が唱える中立とは
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月27日、ロシアとの和平交渉を前に独立系露ジャーナリストとのインタビューに応じ、「安全保障と中立、ウクライナの非核のための準備ができている。これが最も重要なポイントだ」と発言した。ゼレンスキー氏は自国の外務省や国防省の意見にほとんど耳を貸さず、大統領府が中心となって和平案を作成したと言われている。
欧州で中立政策をとる国はスウェーデン、フィンランド、スイス、オーストリア、アイルランドの5カ国。スウェーデンとスイスは軍事的な中立が自国の利益になると考えており、アイルランドは北アイルランド問題を抱えるイギリスとの関係もあって歴史的に中立を続けている。
オーストリアは第二次大戦後、主権を回復する条件として中立を守り、フィンランドは地理的に近いロシアの軍事力や政治的影響力に弱いため、中立を強いられている。
ゼレンスキー氏の中立はフィンランドを意識しているように聞こえる。筆者はジャイルズ氏に「どうしてゼレンスキー氏の中立案を6つのシナリオに加えなかったのか」と質問した。
「中立というのは素敵な響きだ。しかし安全保障を伴うウクライナの中立を求める状況は2014年当時のウクライナと同じだ。ロシア軍のクリミア侵攻と併合、東部紛争を止められなかったことを忘れてはいけない」
ジャイルズ氏はこう答えた。「ゼレンスキー氏のインタビューが西側メディアの見出しになる時、文脈やニュアンスが見逃される。西側研究者が考える中立という言葉はゼレンスキー氏もウクライナも絶対に使えない。今よりひどい状況に追い込まれることが分かっているからだ。見逃されている要素は現実に機能する安全保障だ。その意味で西側がウクライナへの武器供与を止めることはあり得ない」(ジャイルズ氏)
バイデン氏「プーチン氏を権力の座にとどまらせてはいけない」
「この男を権力の座にとどまらせてはいけない」と3月26日にワルシャワでプーチン氏を指弾したジョー・バイデン米大統領の発言をどうみるのか、ジャイルズ氏に尋ねた。「バイデン氏が台本にない発言をする新たな一例に過ぎない。考え抜いたわけではなく、その場で飛び出したアドリブだ。西側メディアは政策を示唆する発言のように取り上げたが、実際にはそのように受け取られることも考えていない、ただの思いつきかもしれない」と言う。
「バイデン氏は米大統領というより1人の人間として発言したと思う。問題はバイデン氏が発言したとたん、米政府によって政策ではないと打ち消されなければならないことだ」(ジャイルズ氏)。レジームチェンジ(体制転換)は幻想だ。プーチン氏がいなくなれば、ロシアは生まれ変わるという考えは甘過ぎる。プーチン氏はロシアであり、ロシアはプーチン氏なのだ。プーチン氏が消えてもプーチン2.0がすぐに現れるだけだ。
ジャイルズ氏は昨年9月、「ロシアを抑止するもの」と題する報告書を発表している。ロシアに侵略を思いとどまらせた過去の成功例と失敗例を詳細に調査した結果、驚くべき一貫性が浮き彫りになったという。ロシアは敵対国が脅威に直面して後退した場合には成功を収めるが、同じ敵対国が自分自身や同盟国、パートナーを守る強固な意志と決意を示した場合には後退してしまうのである。
ロシアは占領下または支配下にある領域を拡大することで自国の安定と安全を追求してきた。バルト海の飛び地領カリーニングラードのように、黒海沿岸を守る軍事拠点にクリミア半島を変貌させたのも、この欲求を強く反映している。もう一つのパターンは大きな抵抗に遭遇した時、引き揚げる用意があることだ。革命家ウラジーミル・レーニンは「銃剣で探り、粥を見つけたら突き進み、鋼鉄にぶつかったら撤退だ」という言葉を残している。
スヴェン・ミクセル元エストニア国防相は「プーチン氏にとって、弱さは強さよりも挑発的である。われわれの弱さで誰かを誘惑してはならない」との懸念を示している。弱さはプーチン氏を挑発する。停戦や和平合意に向け、またぞろ西側ではプーチン氏に対する宥和主義が頭をもたげている。ジャイルズ氏は「ウクライナにおけるプーチン氏の野望を抑えるのは完全な軍事的失敗だけだ」と断言している。
●「最悪の戦争犯罪」ロシア糾弾 ウクライナ大統領、国連改革訴え― 4/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、ロシアのウクライナ侵攻をめぐる国連安全保障理事会の公開会合で、ビデオ回線を通じ初めて演説した。ゼレンスキー氏は「第2次大戦以降で最もひどい戦争犯罪がウクライナで行われている」と常任理事国ロシアを糾弾し、責任追及に向けた行動や国連改革に速やかに乗り出すよう国際社会に訴えた。
「ロシア軍が行わなかった犯罪はそこには一つもなかった。大人も子供も家族全員を殺害し、亡きがらを焼こうとした」。ゼレンスキー氏は演説冒頭、民間人とみられる多くの遺体が見つかったウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外ブチャについてこう語った。
演説後には、井戸に投げ込まれた男性、大人と折り重なるようにして裸で横たわる子供、黒く焼け焦げた遺体など、ロシア軍撤収後の複数の町の様子を収めた1分余りの動画も上映。惨状を訴えた。
ゼレンスキー氏は、子供2000人以上を含む多数の市民がロシアに連れて行かれたとも述べ、「ロシアはウクライナを『無言の奴隷』にするつもりだ」と指摘した。「ロシア軍と彼らに命令を下した者は、戦争犯罪のために直ちに裁かれなければならない」と強調した。
●国連安保理会合 ゼレンスキー大統領「最も恐ろしい戦争犯罪」  4/6
ウクライナの首都近郊の町で多くの市民の遺体が見つかり、ロシアに対する国際的な非難が高まる中、国連の安全保障理事会の会合が日本時間の5日午後11時すぎから始まりました。会合では、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説を行いました。
ゼレンスキー大統領は「きのう、ブチャに行ってきた。ロシア軍は、あらゆる犯罪を犯した。意図的に人々を殺害した。女性や子どもを家の外で殺害し、死体を燃やした」とブチャでの凄惨(せいさん)な現場の様子を訴えました。そのうえで「ロシアが犯した第2次世界大戦後、最も恐ろしい戦争犯罪だ」と訴えました。
また「安保理が保証すべき平和はどこにあるのでしょうか。ロシア軍と命令を下した者に直ちに法の裁きを下さなければならない」と述べました。
そして「ウクライナに平和が訪れるよう国連の安全保障理事会の決断が必要だ。侵略者のロシアを安保理から排除するか、具体的に改革する方法を示してほしい」と述べました。
●ウクライナの穀物輸出、一段と難しく−戦争が世界の取引に変化迫る 4/6
ウクライナの農場地帯では、秋の収穫期から倉庫に蓄えられ出荷を待つトウモロコシが合計1500万トンに上る。
その半分程度は外国に輸出されるはずだったが、買い手への引き渡しは難しさを増している。およそ1200億ドル(約14兆7500億円)の規模を持つ世界の穀物取引で、ウクライナとロシアは合わせて約4分の1を占める。両国からの供給の乱れは、すでに問題化していたサプライチェーンの障害や運賃の高騰、異常気象などと相まって、世界が食糧難に陥るとの見通しを強めている。
ロシアが侵攻を開始する前まで、ウクライナのトウモロコシはオデーサ(オデッサ)やミコライウなど黒海沿岸の港に貨物列車で運ばれ、アジアや欧州向けに船積みされていた。だが、これらの港が閉鎖され、今ではルーマニアやポーランド経由で輸出するためわずかな量が西部国境に向け鉄道輸送されるにとどまる。ウクライナの鉄道の線路幅はソ連時代に標準とされた広軌で欧州連合(EU)内とは異なり、国境で台車を替える必要があることも状況を悪化させている。
同国農業団体の幹部、カテリナ・リバチェンコ氏は「穀物のこのような輸送に鉄道は適さない」とインタビューで指摘。「全体の輸送が極めて高価で非効率になる。時間もはるかにかかる。物流の面で大きな問題だ」と述べた。
ウクライナはトウモロコシ、小麦、ひまわり油の世界最大級の輸出国だが、輸出の流れはほぼ止まっている。同国農業省によると、戦争前の穀物輸出は最大で月500万トンに上ったが、現在は50万トンにとどまり、15億ドルの損失が生じているという。小麦輸出で世界首位のロシアは穀物輸出に支障が生じていないが、将来の引き渡しや支払いを巡り疑問は消えない。
世界の数十億人の主食であり家畜の飼料でもある穀物や油糧種子の供給障害で、価格はすでに上昇。食糧不足を懸念する各国は代替となる供給国の開拓を急ぎ、新たな取引も生まれつつある。
膨大な小麦収穫量を国内に維持してきたインドは方針を転換し、輸出市場に参入してアジア諸国に記録的な量を販売する。ブラジルの小麦輸出は1−3月で、すでに昨年全体を大きく上回った。米国は約4年ぶりにトウモロコシをスペインに輸出する。エジプトはルーマニアから穀物を輸入する代わり肥料を供給する取引を検討し、アルゼンチンとも小麦の輸入を交渉している。
農業市場調査会社アグリソースのダン・バス会長は、こうした取り組みも十分ではないかもしれないとの見方だ。現時点で工面できるとしても、例年ならウクライナなど黒海地域からの小麦輸出が加速する夏まで戦争が長引けば、「問題に突き当たり、食糧不足が世界を襲い始める」と語った。
国連はすでに過去最高値にある食料品価格が今後さらに22%上昇する恐れがあると予想。黒海沿岸の輸出が大きく落ち込めば、さらに1310万人が栄養不足に陥り、世界の飢餓が深刻化する可能性があると警告した。
●ウクライナ情勢下で機能する英国主導の北欧連合JEF 4/6
3月14日、英国が主導する北欧10カ国の連合であるJEF(Joint Expeditionary Force=統合遠征軍)の6カ国首脳を含む代表が初めてチェッカーズ(英国首相別邸)で会合した。エコノミスト誌3月19日号が報じたところによれば、彼らは、ウクライナが要請する武器その他の装備を「相互に調整し、供給し、資金を手当てする」ことに合意した。
また、彼らは、JEFは訓練と「前方防御」を通じてロシアの更なる侵略 ――北大西洋条約機構(NATO)を妨害しあるいはNATOの敷居に至らないようなウクライナの国境外での挑発を含め ―― を抑止することを狙いとする、と宣言した。
JEFは、その存在がほとんど知られていないが、10年前に即応部隊として設立され、英国、アイスランド、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニアの10カ国から成る。NATOと異なり、危機への対応の意思決定がコンセンサスを要しない点が大きな特徴である。
英国にとって、JEFを通じる活動はNATOの北辺における伝統的な軍事的役割を再構築し、同時に英国にとっての自然な同盟国との間にBrexit後の関係を作るものであると言えるだろう。
このJEFが、ウクライナ危機に際して有効に機能しているということのようである。2月末に中立を標榜するスウェーデンとフィンランドが相次いでウクライナに対する武器供与を表明したが、その背後に、このグループがあったのかも知れない。
ウクライナの戦争への対応を巡る議論において、プーチンを追い詰めることは危険であるとして、彼のための「出口車線、取引き、逃げ道」の必要性を説く向きが多いが、現時点では有害である。それは一種の宥和策であり、プーチンに彼は正しい軌道にあると確信させ、その結果は必然的にウクライナに犠牲を強いることになるからである。
英国のジョンソン首相は、エコノミスト誌のインタビューに対し「文明的な振舞いのすべてのルールを完全に破棄するのであれば、そこから抜け出る道は自身で見出さねばならない」と発言している。これは筋の通った議論である。プーチンから要請があれば別であるが、現時点では、仏マクロン大統領と独ショルツ首相は、求めてプーチンと会談すべきではない。
プーチンが追い詰められたと感じ、化学兵器の使用に走った場合にどう対応すべきかは、困難な問題である。これについて、エコノミスト誌のインタビューでジョンソンは「西側とロシアの直接的な衝突というロジックに陥らないことが非常に重要である ―― プーチンは彼とNATOとの戦闘だと描きたがっているが、そうではない。それはウクライナ国民と彼等の自衛の権利の問題である」と答えている。
ジョンソンのこの回答は心許ない。軍事的反応をしないという選択は破滅的な影響を持つであろう。そのような事態におけるNATOの意思決定がどのようなものであれ、行動出来るのは米英の2カ国または米英仏の3カ国(核保有3カ国)であると思われ、これら諸国において均衡の取れた懲罰的な行動が検討されねばならないであろう。
●ウクライナとロシア “市民殺害”で対立激化 停戦交渉に影響も  4/6
ウクライナの首都近郊で多くの市民の遺体が見つかったことについて、ウクライナ政府は戦争犯罪だとして国際社会の協力も得ながら捜査を行うとしています。これに対し、ロシアはねつ造だと一方的に主張し、両国の対立の激化が停戦交渉に影響する可能性も出ています。
ロシアの国防省は5日、ウクライナ西部や南東部など各地にあるウクライナ軍の燃料施設をミサイルで破壊したなどと発表しました。またロシア軍は、東部の要衝マリウポリの掌握に向け攻勢を強めていて、首都キーウ、ロシア語でキエフ周辺に展開していた部隊の東部への投入を進めていくものとみられています。
ただ、戦況を分析しているイギリス国防省は5日「北部から撤退する多くのロシア軍の部隊は、東部の作戦に再配置される前に装備の大幅な改修を必要とする可能性が高い」と指摘し、東部への全面的な展開には時間がかかる可能性もあるとの見方を示しました。
一方、キーウの北西の町ブチャで多くの市民の遺体が見つかったことに衝撃が広がる中、現地を訪問したキーウのクリチコ市長が5日、NHKのインタビューに応じ「これはウクライナの国民に対するジェノサイドだ。とてもショックで一生忘れられない光景だ」と述べてロシアを強く非難しました。ウクライナ政府は、ロシア軍の行為は戦争犯罪だとして、国際社会の協力も得ながら犯罪の証拠を集めるための捜査を行う方針を示しています。
これに対しロシア国防省は5日、キーウ北西にあるモシュンや、北東部スムイやコノトプなどで、ウクライナ側が「ロシア軍によって市民が殺害された」とする自作自演のねつ造行為を行っていると一方的に主張しました。また5日、動画で声明を発表したラブロフ外相は「フェイクの情報を広めるとすぐに、ウクライナ側の交渉担当者は交渉を打ち切ろうとした」などと主張していて、両国の対立の激化が停戦交渉に影響する可能性も出ています。
一方、ブチャでの市民の殺害を受けて欧米側からも、ロシアの責任を追及する声が強まっていて、ドイツやフランス、イタリア、スペインなど、ヨーロッパ各国が、駐在するロシアの外交官を追放する措置を相次いで発表しました。
これに対しロシア大統領府のペスコフ報道官は5日「前例のない危機的状況の中で、外交の窓口を狭めることは近視眼的な動きだ。必然的に、われわれは対抗手段に乗り出すだろう」と非難し、報復措置をとると警告しました。
●なぜ?アメリカがロシアと戦わない3つの理由  4/6
これまで世界各地の紛争に軍を派遣してきた世界一の軍事大国=アメリカ。しかしウクライナをめぐって、バイデン政権は早々に軍事介入はしないと宣言しています。ロシアによる攻撃で市民の犠牲が増え続ける中でも、その方針は変わらないのでしょうか?そもそも、なぜウクライナにアメリカ軍を送らないのでしょうか。
アメリカが軍を送らない3つの理由とは?
「1%でいいんだ。NATOが持つ戦車の1%を供与してほしい」
3月24日に行われたNATO=北大西洋条約機構の首脳会議でウクライナのゼレンスキー大統領が訴えたことばです。
しかし、バイデン大統領は戦闘機の供与はもちろん「アメリカ軍を派遣しない考えに変わりはない」と日々強調しています。バイデン大統領の説明や専門家などの指摘によると、その理由は主に3つ、「守る義務がない」「利益がない」「軍事衝突を避けたい」です。
理由1.ウクライナを守る義務がない
ウクライナはNATOに加盟していないため、アメリカに防衛の義務はありません。
理由2.アメリカの利益がない
アメリカの安全保障に直結し、戦略的利益がある場合、アメリカは戦います。アフガニスタンでは同時多発テロ事件を受けての「テロとの戦い」を掲げて、イラクでは「大量破壊兵器の保有」を口実に軍事作戦に踏み切りました。しかし今回のウクライナはアメリカが直接脅かされる状況ではありません。
理由3.ロシアとは戦えない
アメリカが最も避けたいのは、ロシアとの軍事衝突です。米ロ両国の衝突は「第3次世界大戦」につながりかねず、核戦争という最悪のシナリオまで想定しなければなりません。アフガニスタンからの撤退を終えたばかりのバイデン政権は再び大規模な戦争に突入するリスクは負えません。
戦えないぶん 何してる?
アメリカは軍は派遣しなくても、ヨーロッパ各国とともに異例の規模で軍事支援を続けています。大量の武器を現地に送り、中でも対戦車ミサイルはロシア軍に大きなダメージを与えています。アメリカは、ウクライナの2020年の国防予算の2倍以上にあたる額の軍事・人道支援を行うことにしています。しかし、バイデン政権は支援にあたって越えてはいけない一線を設けています。それは「当事者にならない範囲に収める」ということ。軍事支援がロシアを刺激し、NATOが戦争に巻き込まれることがあってはならないということです。
「飛行禁止区域」設定しないの?
アメリカはウクライナからの強い要請があっても「当事者にならない範囲」を越えるつもりはありません。その象徴とも言えるのが飛行禁止区域の設定です。飛行禁止区域とは、敵国の戦闘機からの攻撃を防ぐため航空機が入ってくるのを禁じる空域を設けること。ウクライナはロシア軍による空からの攻撃を防ぐため、繰り返しアメリカやNATOに要請していますが、アメリカなどは否定的です。なぜなら、飛行禁止区域の設定は「理由3.ロシアとは戦えない」と直結するからです。上空で警戒を続け、敵国機が入ってきた場合には撃墜することを意味します。仮にNATO軍機がロシア軍機を撃墜するようなことがあれば、ロシアとの全面衝突につながりかねないからです。
越えてはいけない一線とは?
越えてはいけない一線が試されたのは、ゼレンスキー大統領が戦闘機の供与を求め、ポーランドが応じたときです。旧ソビエト製でウクライナの兵士が操縦に慣れているミグ29戦闘機の供与を、3月8日にポーランドが発表。しかし、供与先はウクライナではなくアメリカでした。ポーランドが直接供与すれば、ロシアからの報復攻撃を受け軍事衝突に巻き込まれるおそれがあるため、輸送はアメリカやNATOの責任でやってもらう、そのための提案でした。しかしアメリカの反応は「ポーランドの提案が実現可能だとは思わない」と、そっけないものでした。国防総省のカービー報道官が理由として挙げたのは、ここでも、ロシアの強い反発を招き軍事衝突に引きずり込まれかねないとの懸念でした。実際、ロシアは輸送目的を含む空軍基地の使用といったウクライナへの協力について「軍事衝突の当事者とみなすこともありうる」と警告しています。
これから先も戦わないのか?
アメリカの外交政策にも影響を及ぼすアメリカ外交評議会の会長を務めるリチャード・ハース氏は、武力によって相手をねじ伏せようとするロシアの行動は国際秩序そのものに対する挑戦だと指摘します。「世界は一定の原則のもとで動いています。その最も基本的なものは国家の主権や国境が尊重されるというものです。武力でこれを変えることが許されてはいけない。ロシアの軍事侵攻が許されれば『自分たちも同じことをしても大丈夫だ』と考える他の国々が出てきて世界は大混乱になってしまう」アメリカが軍を派遣しない3つの理由は当面変わることはありません。しかし、支援の限界を決める「越えてはいけない一線」の解釈は変わる余地があります。国際秩序や民主主義といったアメリカが掲げる価値観を守るためにどこまで今後踏み込む用意があるのか。現地の戦況や外交の動きだけでなく、アメリカ国内や国際世論も含めて見ていく必要があります。
●ウクライナ避難民 ポーランドで職探す人増加 支援の動きも  4/6
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、およそ246万人が避難している隣国のポーランドでは、避難生活が長引くことを考え、職探しをする人が増えています。
このうち第2の都市クラクフにある日本のハローワークにあたる機関には、一日に100人を超えるウクライナからの避難民が訪れています。施設内には、ウクライナ語で書かれた求人票も掲示されていて、訪れた人たちが内容を確認していました。担当者によりますと飲食業や製造業などを中心におよそ1300件の求人があり、これまでに700人が採用されたということです。ただ、言語の違いが大きな課題となっていて、この機関では職探しをする人たちのために語学研修も行っています。
ウクライナ南部のヘルソンから来た63歳の女性は「いつ帰れるかわからないので、一緒に避難してきた娘や孫のためにも、どんな仕事でもやりたいです」と話していました。西部のリビウから2人の子どもと避難してきた28歳の女性は「以前はマッサージの仕事をしていましたが、ここでは見つかりません」と残念そうな様子でした。
また大手飲食チェーンの人事担当の女性は「これまでにウクライナからの避難民を50人採用しました。彼らには助けが必要です。私たちが彼らのことを気にかけているとわかってほしいです」と話していました。
ポーランド政府によりますと、これまでに3万人以上の避難民が国内で仕事を得て働き始めているということです。
●安倍政権の北方領土返還交渉、日本はロシアとの歴史から何を学んだのか 4/6
今回の、ロシアによるウクライナ軍事侵攻において、どうしても私はシベリア抑留で無念な亡くなり方をした日本人について思いを馳せざるを得ません。もちろん、一連の戦争には大日本帝国の無謀な戦争犯罪が根底にあることは理解しつつも、他方で日露外交の文脈であまりにも軽視され続けてきたシベリア抑留の件について、かねて疑問を抱いてきました。
第2次世界大戦の終戦後、満州や樺太、千島列島などにいた旧日本軍捕虜や民間人らが投降し、武装解除されたあと、旧ソビエト連邦(ソ連)によって主にシベリアなどへ労働力として57万人あまりが連れ去られたこの事件では、34万人とも言われる日本人の命が失われたとされています。失われた命の数だけでなく、いまなお遺骨が戻らない状況には、冷戦を超えて歴史がもたらす惨劇として慄然とせざるを得ません。
「会談で抑留問題を取り上げたことは一度もない」
「ソ連とロシアは異なる国家だ」とか「日本も戦争犯罪を犯したのだから、日本に非難する資格はない」とか「70年以上前の出来事であって、こんにちの紛争とは連想するべきではない」などといった、日本特有の旧来の知識人からも反論を受けるケースは、いまだにとても多いです。
西日本新聞が、日本憲政史最長の政権となった安倍政権末期の2020年8月、終戦記念日に行われる8月15日の全国戦没者追悼式において日本政府は式の追悼対象にはこのシベリアへの抑留者も含まれるとの立場であると説明したうえで、「(安倍)首相がロシアのプーチン大統領との度重なる会談で抑留問題を取り上げたことは一度もない」と批判していました。
SNSの履歴などから反ロシア的とされる人物を連行、殺害
今般のロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナ側の反攻が一定の功を奏し、ロシア軍による攻囲を一部解除し、同時にロシア軍が再編成とみられる撤収をしたことで、当初強く懸念されていた早期のキエフ陥落の危機は遠ざかったと見られます。
しかしながら、報道でもある通り、ロシア軍が防空壕を訪れてウクライナ人の民間人のスマートフォンを調べ、SNSの履歴などから反ロシア的とされる人物を連行、さらには殺害したとの見方が強まっています。
市長や村長などがロシア軍により家族ごと次々と誘拐
また、病院や学校といった非戦闘員の民間人が利用する施設への爆撃・砲撃を行い、2014年のクリミア危機でウクライナ側に立って参戦した元兵士やウクライナ国章などの入れ墨のある人物も多数銃殺したと見られます。つまり、ロシアの言う「非武装化」や「非ナチ化」「非民族主義化」というお題目には、今後ロシアに敵対して反乱を起こす可能性のあるウクライナ人は全員殺害しようという強い意志があるのでしょう。
そればかりか、ウクライナ東部の市長や村長などがロシア軍により家族ごと次々と誘拐され、さらにそれとすぐ分かるように殺害されているとの報道も出るに至ると、シベリア抑留による犠牲者を出した経験を持つ日本が一連の問題についてロシア側を擁護したり、譲歩したりする余地はどこにあるのか真摯に悩んでしまうぐらいの状況になります。
軍隊が国民に対して行ってきた残虐行為
これらの蛮行は、過去にはチェチェン紛争やジョージア侵攻(南オセチア紛争)、またシリア内戦でも明らかなように、ロシア軍が過去に介入した軍事作戦の手法、ドクトリンを忠実になぞっています。また、これらの紛争においてロシア側はほぼ当初の目標を達成しているという点で「成功体験」があることから、同じような手法でウクライナへの侵攻を行い、民間の建物を砲撃し、市街地を爆撃し、ウクライナ国民の避難生活が成り立たないよう物資を寸断して殺害するか、追い出して難民化させる、という形で実施された軍事作戦であることは言うまでもありません。
また、国連も認めている通り、ロシア軍が制圧した地域で、数千人以上のウクライナ国民が拘束され、ロシア軍による強制拉致の対象となっています。これらはむしろ親露派住民が多く、経済的にウクライナの中では豊かなほうであるはずの東部で行われていることを考えると、降伏して武装解除を強いられても死を迎えかねない現状は「チェチェンの戦況」から見ても明らかではないかと思います。降伏してロシア軍に連行された村人は全員拷問にかけられて死に、ロシア軍に抵抗し武器を取って山に籠った村人は全員助かった、という。
問題の凄惨さを見て見ぬふりをしてきた人たち
実際、日本の国会・参院外交防衛委員会に参考人として出席したウクライナ人政治学者のアンドリーさんが、降伏することで無抵抗に殺されてしまうリスクについて明言し、元日本維新の会・橋下徹さんやタレントのテリー伊藤さんらの「ウクライナは降伏して平和を回復するべき」や「ウクライナはロシアに勝てないので抵抗は無駄」などの主張を一掃しています。というか、テレビやラジオなどマスコミがこれらの議論を平然と放送している事実に驚くぐらいです。
いま「ウクライナかわいそう」と言っている人たちは、チェチェンやジョージア、シリアなどでロシア軍を含めた専制主義国家の軍隊がかの地の国民に対して行ってきた残虐行為を知らなかったか、見て見ぬふりをしてきただけでしょう。いざウクライナというルーシ人、もっと言えば白人の住む国家が欧州メディアや英語圏の人たちの篤い同情をひいて繰り返し報じられるようになったからこそ、問題を突き付けられ、その凄惨さの前に右往左往している、というのが実態ではなかろうかと思います。
平和的外交交渉によるロシアからの領土回復
いまの日本の安全保障の文脈で言えば、2014年のクリミア危機、クリミア半島の併合という事実上の武力による国境線の現状変更という抜き差しならない事態に対して、日本外交は穏便な対露外交に終始してきました。
というのも、第2次安倍政権における対ロシア外交は、外務省が重ねてきた日露交渉の過程を必ずしも完全にトレースするものではなく、2003年の総理大臣・小泉純一郎さんの訪露での露大統領プーチンさんとの首脳会談を行う以前と、10年の時を経て2013年に訪露した安倍晋三さんの首脳会談以降とで、様相が大きく異なっています。
実のところ、2014年のクリミア危機について政治学者の六鹿茂夫さんが主査となってまとめた「ウクライナ危機と日本の地球儀俯瞰外交」報告書でも、当時安倍政権が前のめりになっていたロシアとの平和条約締結、一部の北方領土返還論について率直な危惧が示されるとともに、2022年のウクライナ侵攻までの外交的メカニズムやロシア政治の動きがほぼ言い当てています。単に情緒的な「ロシアは約束を守らない」という議論ではなく、日本にもまた、ロシアの性質をきちんと研究し、起こり得る未来に対して警鐘を鳴らす知識人たちがいたという事実は知られるべきでしょう。
クリミア危機の時点で、ロシアとの外交においてLNG(液化天然ガス)や海産物など資源取引においてはともかく、北方領土の帰属という領土問題において深入りするべきではない状況であったにもかかわらず、安倍晋三さんが政権を挙げて平和的外交交渉によるロシアからの領土回復に血道を上げた理由は、歴史に偉大な宰相としての名前を刻みたかったからでしょうか。
完全に行き詰まった、北方領土返還を巡る日露交渉
そもそも、北方領土問題は1956年日ソ共同宣言以降、平和条約を結ぶ方針とともに歯舞群島及び色丹島については、平和条約の締結後、日本に引き渡すことにつき同意されていました。にもかかわらず、旧ソ連が新たに日本領土からの全外国軍隊の撤退などの条件を付けたことで交渉が停滞したまま、いまなおロシアが実効支配しています。
安倍晋三さんはプーチンさんと対面だけでも27回、面談による交渉をしています。かかる歴史的問題について、安倍さんとプーチンさんの個人的な信頼関係をテコに、領土返還を実現させようと考えたのです。
しかしながら、安倍政権最終盤に、これらのロシア外交への前のめりが発生し、また、足元を見たロシア外交筋からの拒絶にあい、立ち往生を余儀なくされます。いままでの日露外交の文脈では必ずしも主流ではなくコンセンサスもなかった「2島返還論」が日本側から譲歩案として提示されたばかりか、2016年には安倍さんの地元である山口県長門市の名館・大谷山荘での日露首脳会談で「4島での特別な制度の下での共同経済活動」という、領土問題よりも経済協力を先行させる外交を進めました。
結果的に、これがロシア側には「領土主権問題の棚上げ」と映り、事実上ロシアの管轄下での極東開発を行うことを意味する北方4島での経済特区事業の拡大を発表。そこにロシア主導のもと、ロシア法に基づいて中国や韓国の資本も入ることから、北方領土返還をめぐる日露交渉は完全に行き詰まることになります。
確実視されるエネルギーコストの上積み
これらの官邸による外交方針は、安倍晋三さんの発意というよりは当時の安倍総理秘書官の今井尚哉さん、総理補佐官・長谷川栄一さん、国際協力銀行(JBIC)の前田匡史さん、および推進役となった経済産業大臣の世耕弘成さんであることは論を俟ちません。いわば、外務省が担ってきたロシア外交と官邸が進めるそれとが完全に二元化してしまい、こんにちにいたる日露外交の禍根を残してしまったことになります。
その代表例は、政府が梯子を外したも同然になっているロシアからのエネルギー輸入についての大事なプロジェクトであって、特にLNGの輸入においては日本政府が直接出資しないオール民間のプロジェクト「サハリン2」から日本のLNG需要の約9%を担うだけでなく、そもそも「サハリン2」から輸入する天然ガスは100万BTUあたり10ドル程度という価格になっています。
しかし、現在エネルギー危機を迎えている昨今、自由に市場から買い入れられるスポット市場で天然ガスを輸入する場合、現在の価格である35ドルから40ドルで計算すると実に年間1兆円前後のエネルギーコストの上積みとなることが確実視されます。
現行の経済を回せるだけの発電量を確保できない恐れも
また、ロシアとの資源貿易においては日本側の資源8社(東京電力フュエル&パワー社と中部電力の火力燃料合弁のJERA社や東京ガス、九州電力など)はテイク・オア・ペイ条項というオプションを結んでいます。
テイク・オア・ペイ条項とは、LNGプラントなど兆円規模の巨額投資を必要とする大規模プロジェクトについては、JERA社など買う側(大口引き受け手)が存在しない限りプロジェクトが成立させられないこともあり、買う側(つまり日本側)が天然ガスを引き受ける、引き受けないにかかわらず産出した代金を支払い続けなければならない、という条件が課せられているわけです。
安全保障上は、ロシアのような武力による現状変更のロジックをそのまま中国が使った場合に、中国にとっての「国内問題」である台湾併合だけでなく、日本のエネルギー輸入の大動脈であるマラッカ海峡から台湾海峡まで危機が訪れる可能性は指摘せざるを得ません。
そればかりか、日本の天然ガスの一角を担う「サハリン2」などのプロジェクトが危機に晒され、資源を産出しない日本が割高なスポット市場でのエネルギー供給に依存し始めると、日本経済は「資源高によるインフレ」どころか現行の経済を回せるだけの発電量を確保できない恐れすらあります。
経済協力という絵空事でロシアを勘違いさせてしまった
ロシアによるウクライナ侵攻によって炙り出された日本の本当の問題とは、長きにわたった安倍政権の、官邸の中で行われてきた側近政治がもたらした対露外交の失敗であって、本来の意味での安全保障やエネルギー調達のグランドデザインを描くことなしに日露経済協力という絵空事でロシアを勘違いさせてしまった面はあるのでしょう。これらの話題は、シベリア抑留もすべて忘れて日露関係改善と安倍プーチン両首脳の人間関係で領土問題の解決を狙った今井尚哉さんや前田匡史さんら側近たちの問題に他なりません。
その点では、日本にとっての戦後はいまだ終わっていないばかりか、シベリアの地に消えた日本人の命もきちんと弔われないまま放置されてしまった面はあります。
昨今では安倍晋三さんも核の共同保有など、センシティブな政治課題でも意欲的に発信を進めていますが、ぜひこのあたりの問題についても光を当て、力を尽くしてくださればと願う次第です。
●プーチン大統領は知っている 《対ロシア経済制裁が“無意味”なワケ》  4/6
侵攻開始から1か月が過ぎた。現在、ロシアに対してさまざまな制裁が課されているが、実際のところ、ロシア人の生活にどれほどの影響が出ているのだろうか。 ウクライナの人々の明日をも知れぬ生活を思えば、ここロシアでの日常について書くことに心苦しさを覚えるが、日本に伝わっている情報とロシアで実際に起きていることに多少のずれがあるように感じ、そこを埋めることができたらと筆を執ることにした。
モスクワの生活が「落ち着いている」ワケ
諸外国ではロシアへの経済制裁を大々的に報じている。しかし、ロシアに住んでいる身としては、危機的な状況にあるとは言えない。ロシアでは大きな混乱は起きていなく、ことにモスクワでは3月15日から公共の場でのマスク着用義務が解除され、人々の生活は比較的落ち着いている。
「制裁で圧力をかければロシア国民は目を覚ますはずだ」
「反プーチンの機運が高まり、戦争を止められる」
世界ではさまざまな議論が湧き起こっているが、そこまで期待できなそうだ。 
たしかに、多少の混乱はあった。
2月24日、プーチン大統領が言うところの“特別軍事作戦”の開始が伝えられると、人々は預金を手元に確保しようと銀行に走った。ロシア中央銀行によると、2月25日には実に1兆4000億ルーブル(約1兆9000億円)もの現金が引き出されたという。ATMへの現金の補充が追いつかず一部店舗では長い行列ができたが、それも数日で収束した。
経済制裁下でも「МИР(ミール)」があれば大丈夫
毎日の買い物は、Apple Pay、Google Payなどの非接触型決済こそ利用できなくなったものの、カードでの支払いはこれまで通りできている。3月6日、ビザとマスターカードはロシアでの業務停止を発表したが、これは国をまたいでの使用ができなくなっただけで、ロシアで発行されたカードは国内においては有効期限まで問題なく使うことができる。今後、制裁の範囲が広がることを見越して、ロシア独自のカード決済システムであるМИР(ミール)に切り替える者も増えている。
ちなみに、このМИРは2014年のクリミア併合で経済制裁を受けたロシアが、欧米依存から脱却すべく新たな決済システムを立ち上げたもので、これまで1億1200万枚が発行され、国内シェアは30%を超えるまでに成長している。ロシア人がよく訪れるキプロス、トルコ、アラブ首長国連邦、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、ベトナムなどでも使用可能で、今後はエジプトやキューバなどに拡大される予定という。
物価の上昇も起きている。
ロシア経済発展省の発表によると、3月25日時点のインフレ率は前年比15.7%ほど。モスクワで毎日買い物している者の肌感覚としても、全体的に10〜15%ほど上昇したように感じている。食品ではトマトとバナナの値上がりが際立っている。ちなみに、先のクリミア併合の際のインフレ率は最大で15.6%であった。
インフレ率15.7%でもロシア国民は「慣れている」
もともとロシアのインフレ率は高めで、侵攻前の1月の段階ですでに8.7%、2月には9.2%であった。率直な反応としては「また上がったか」というものだ。振り返れば1998年、2008年、2014年とロシアは何度となく経済危機に瀕しては、そのたびにどうにかこうにか乗り越えてきた過去がある。国民は、いい意味でも悪い意味でも、慣れてしまっている。
下落するルーブルを車や宝飾品など物に換えるのはもはや手慣れたものだし、知り合いには、株価が暴落するや、石油大手ロスネフチの株を底値で仕込んだしたたかな者もいる。
店内に目を向けても、ソ連末期のように商品棚がまったくの空ということはない。野菜や果物、精肉・加工肉、乳製品などのコーナーはこれまで通りの品揃えである。
一部の品物が入手困難になっているが、これは物価上昇への危機感から来る買い占めによるところが大きい。人々が小麦粉やパスタ類など長期保存が可能な品物を備蓄し始めたからだ。「お一人様3点まで」などと購入制限を設けている店もある。
穀物・砂糖の国外への輸出を制限すると発表
パンと並ぶ主食とも言えるロシア人の毎日の糧、グレーチカ(蕎麦の実)や砂糖はほとんど買えない状態が続いている。生理用品も品薄状態が続いている。しかし、市内のどこかしらに入荷はしているので、何店舗か回って運が良ければ買い占めを免れた商品にありつける。日本であったトイレットペーパーの買い占めと同じような状況だ。
事態を受けて、ロシア政府は3月14日、小麦、ライ麦、大麦、トウモロコシなどの穀物は6月30日まで、砂糖は8月31日まで国外への輸出を制限すると発表。国内には十分な在庫があり、品不足は買い占めによる人為的なものだと説明した。
物価上昇を引き起こす「年金生活者のおばあさん方」
事実、問題を引き起こしているのは年金生活者のおばあさん方で、ペレストロイカ時代から染みついた習性なのだろう。砂糖が入荷したと知るや我先にと売り場になだれ込み、瞬く間に買い占めてしまう。その異様な光景はYouTubeやツイッターに動画が上げられていて、#сахар(砂糖)や#дефицит(不足)などのハッシュタグから見ることができる。
この状況下でロシア人の口から出てくるのは「大丈夫、何とかなるさ(Всё нормально будет)」。ある程度の強がりも含まれるだろうが、経験から来る自信のようなものが感じられる。それは肝が据わっていると言うこともできれば、感覚が麻痺しているとも言える。
ロシア人の危機を救う「ダーチャ文化」
基本的にロシア人は、こうした困難な事態に直面した場合、(1)代わりの物を見つける、(2)直して使う、(3)自分で作る、で対処しようとする(それでも無理な場合は「(4)あきらめる」もある)。そこはやはりお国柄なのだと思う。編み物をしている女性もいまだに電車で見かけるし、男性はアパートや車の修理など大抵のことは自分でやってしまう。
根底にあるのはソ連時代から続くダーチャ文化だ。ダーチャとは郊外にある菜園付きセカンドハウスのことで、そこで夏の間、野菜や果物を栽培し、冬に備えて保存食を作る。先の砂糖の買い占めが起きた理由も、ジャム作りやコンポート作りに欠かせないからだ。これは半分冗談のような話だが、SNSでは「ニワトリの飼い方」が一時期トレンド入りしていた。今年の夏のロシア人は例年に増して忙しくなりそうだ。
「マクドナルド閉店」へのロシア国民の“本音”
3月に入ると外国企業の事業休止が相次ぎ、3日IKEA、9日スターバックス、14日マクドナルド、20日ユニクロと、ロシア人に愛されるブランドが次々と閉店した。
なかでも話題となったのはマクドナルドである。1990年1月、プーシキン広場近くにオープンした1号店は、冷戦終焉の象徴的な存在だった。以降、多くのロシア人に親しまれ、全国847店にまで拡大していたが、3月14日をもって休業となった。
閉店2日前に1号店を訪れてみたが、店内は大変な混雑ぶりで、友人たちとセルフィーを撮る光景があちらこちらで見られた。しかし、ひとつの時代が終わったと感傷的になっている人は少なく、「なくなったらなくなったで他の店に行くよ」とあっけらかんとした声が多かった。
というのも、KFCやバーガーキングは通常通り営業中だからだ。国内に1100店以上あるKFCは、70の直営店は閉店したものの、それ以外はロシア人オーナーのフランチャイズ店であり、契約上は営業を続けることができるのだという。バーガーキングも然りである。コカ・コーラもペプシも、いまだに販売されている。
高級デパートは9割の店舗がそのまま営業
赤の広場に面する130年の伝統を誇るグム百貨店では、ルイ・ヴィトン、ディオール、ブルガリ、カルティエ、エルメス、グッチ、シャネルなどの高級ブランドが軒並み店を閉じ、何ともきらびやかなシャッター商店街が誕生している(実際はガラス張りだが)。
一方で、業務停止を発表してから3、4週間が経つものの、ナイキ、ニューバランス、ギャップなどはまだ営業を続けている。店員に訊ねてみたが、閉店の具体的な時期についてはまだ何も情報がないという。
外資ブランド「ロシア撤退」の打撃は少なめ?
ボリショイ劇場そばのツム百貨店は、日本で言えば新宿伊勢丹のような品揃えの高級デパートだが、9割方の店舗がそのまま営業を続けている。プーチン大統領御用達のイタリア高級ブランド、ロロ・ピアーナもそこで営業中だ。ルーブル安による大幅価格改定で客足こそ鈍っているが、それでもお金があるところにはあるのだろう。買い物を楽しむ客がまだいる。
そして注意すべきは、「ロシアから撤退」と報じられることが多いが、正しくはどの企業も「一時休業」であるという点だ。
たとえば、IKEAは国内17店舗を閉じたが、詳細を確認すると、休業は5月31日まで、1万5000人の従業員の雇用は継続、ロシアから撤退はしないとしている。マクドナルドなど他企業も同様である。
ロシアには、企業側の理由で従業員を解雇する場合、次の仕事が見つかるまでの期間、最大3か月は給与を補償しなければならないという法律がある。仮に今から企業が一時休業ではなく完全撤退を決めたとしても、ロシアで失業問題が本格化するのは6月かそれ以降になるだろう。
制裁は効果が現れるまでに時間がかかると言われているが、現在のところロシアの状況はこのようになっていることをお伝えしたい。
●プーチン大統領の2人の娘、EUが制裁検討− 4/6
欧州連合(EU)は、ロシアのプーチン大統領の娘を制裁対象に加えることを検討している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。ロシア軍がウクライナの民間人を殺害したとされる問題に、EUは対応の取りまとめを図っている。
新たな制裁対象者にはこのほか、政治家や大物実業家、その家族など個人数十人が含まれるという。このリストはEU加盟国政府の承認が必要で、まだ変更される可能性もある。
プーチン氏の2人の娘、マリア氏とカテリーナ氏がロシア国外に多額の資産を持っているかは不明で、制裁対象となっても象徴的な意味合いが強いが、プーチン氏の注意を引く狙いがある。2人の生活は秘密に包まれ、別の姓を名乗っている。ロシア大統領府がこれまで娘の名前を確認したことはなく、成人になってからの写真を公開したこともない。
プーチン氏は2015年、2人はともにロシアの大学を卒業し複数の言語を話すなど、自身の娘について幾つかの詳細を明らかにした。
ロシア大統領府のペスコフ報道官はテキストメッセージで、EUの制裁案を承知していないとして、正式発表を待つ意向を示した。
●「プーチン孤立」報道で浮かぶクレムリンの米スパイ 諜報戦でロシアは完敗 4/6
多数のロシア軍将官の死亡や、首都キーウ近郊からのロシア軍撤退など、ウクライナ軍の善戦が伝えられる。ウクライナ軍を支えるために、アメリカやイギリスが高い諜報能力を発揮していることを指摘するのは、国際アナリストの春名幹男氏である。ロシア側の脅威となりうる情報をどのように収集し戦略に生かしているのか、また、プーチンの側近にいるとみられるスパイの存在についても聞いた。
将官が7人死亡
先月26日、ロシアが制圧したウクライナ南部ヘルソン近郊の飛行場で、ロシア軍のレザンツェフ中将がウクライナ軍による攻撃によって死亡したと報じられた。
「ウクライナ入りしているロシア軍の将官20人の中で、7人目の死亡者です。これだけ死んでいるのは、ロシア軍の司令官が今どこにいるのか、ウクライナ側に“だだ漏れ”になっていることの証左でもあります。さらに、『〇〇が死んだ』と報告するロシア軍の通信を傍受して、ウクライナ軍がその攻撃の成功を確認しているのではないか、とも言われています」(春名幹男氏)
ロシア軍内部の情報が、筒抜けになっているとはどういうことだろうか。
「いまや、ロシア軍内部の通信は、ほぼ100%、ウクライナ側が把握しているのではないでしょうか。アメリカの支援を含め、ウクライナ側が通信傍受に関してある程度高度な技術を持っているということもありますが、それよりもロシア側が相当ずさんだということが言えると思います。というのも、近年ロシア軍が攻撃した相手は、チェチェン、シリア、ジョージアなど、いわば情報技術に後れを取っている国々で、対策を取る重要性の認識が乏しかったのでしょう。一方で、ウクライナ軍は、2014年のクリミア半島侵略以降、ロシア軍の侵攻を見据え、アメリカの支援を受けながら備えを続けてきました」(同)
軍事衛星、ドローンでの監視も
アメリカは、情報を提供することでウクライナを助けているというわけだ。
「戦況を把握する方法は、通信傍受以外にもいくつかあり、その1つが、軍事衛星による宇宙からの監視です。軍事車両の位置や兵士が何人いるのかといった情報まで、衛星からリアルタイムで把握し、それをアメリカがウクライナに提供しています」(同)
アメリカは、自国で情報を得るだけでなく、遠隔操作できる無人の小型航空機・ドローンを供与するなどしてウクライナ軍へ物的な支援も行っている。
「ドローンは、攻撃だけでなく監視目的としても使われています。また、アメリカ軍の電子偵察機からの監視については、ロシア軍との直接の接触を避けるためにウクライナ領空には侵入せず、黒海やポーランド上空から監視をしているようです。そういった情報を基に、ウクライナ軍は作戦を練っているのでしょう」(同)
統合司令部の不在
ウクライナ軍が首都キーウ郊外の奪還を発表するなど、ロシア軍の包囲が進んでいないことも報道されている。
「ロシア軍は高性能な武器は持っているものの、軍部のコミュニケーションや統制が取れておらず、計画通りに侵攻しているとは言い難い状況です。例えば、ロシア軍は、チェチェン共和国の傭兵を使っていますが、この部隊には別の司令官がおり、ロシア軍を含め、全体を見る司令官がいないのです。近年、統合司令部の重要性が改めて認識されており、例えば日本の自衛隊でも、陸海空それぞれの司令官に加え、全体を束ねる司令官が置かれています。ロシア軍の苦戦からは、軍全体を統制する司令官の不在が浮き彫りになります」(同)
首都キーウの包囲が阻止されている理由は、他にもある。
「軍事侵略には、燃料や弾薬の補給、兵士の食料などを確保するために、戦闘部隊に帯同する兵站が必要ですが、ロシア軍はそこも非常に弱いです。燃料を積むタンクローリーが無く、侵攻を進める途中で、燃料の補給が出来ていないという話もあります。そのせいで、国境付近からのミサイル攻撃などが中心となり、キーウ周辺から撤退する一方、ロシア国境に近く、攻撃しやすいウクライナ東部で激しい攻撃を強化しています」(同)
ヒューミントの存在
先月30日、ホワイトハウスのベディングフィールド広報部長は、「プーチン大統領は、ロシア軍がいかに苦戦しているか、制裁によってロシア経済に不具合が生じているか、誤った情報を与えられている。側近たちは本当のことを伝えるのを恐れている」といった見解を示した。同日、イギリスの政府通信本部(GCHQ)のジェレミー・フレミング長官も、同様の認識を表明したのだった。
「アメリカとイギリスが相次いで同じような内容の発表をしたのは、両国が情報を共有しているからでしょう。『ファイブ・アイズ』といって、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国は、UKUSA協定に基づいて機密情報共有の枠組みを持っています。この『ファイブ・アイズ』は1950年代からある枠組みで、70年近くの協力体制の蓄積があり、ウクライナ侵攻に関しても各国が情報の収集、確認を行い情報戦に役立てています。今回のプーチン大統領に関する情報は、アメリカが得たのか、イギリスが得たのか、また双方が事実確認をしあったものなのかは分かりません」(同)
さらにもう1つ、重要な可能性を示唆しているという。
「今回明らかになったプーチン大統領の近況は、ヒューミントつまり人的情報をもとに得た情報だと推測されることです。側近たちが怖がってプーチンが孤立しているというのは、通信傍受だけで得られる情報では無いでしょう。恐らく米中央情報局(CIA)はクレムリンにスパイを配置することに成功していると見ています」(同)
スパイが復活
CIAのスパイがクレムリンにいることが明らかになったきっかけは、2016年に遡る。ロシアのアメリカ大統領選への介入とトランプ大統領との癒着疑惑が発覚したのだ。
「アメリカ大統領選で、トランプを当選させるべく、プーチン大統領の命令でサイバー攻撃を仕掛けたり、SNSを使ってヒラリーの評判を下げる投稿をさせているといったことが明らかになりました。秘密工作はプーチン大統領が指示したとの情報は、クレムリンにいたCIAのスパイが報告を上げたのです」(同)
その後の調査でも、ロシア政府の介入が確認された。
「政権誕生後には、トランプ大統領のプーチン寄りの姿勢が問題になりました。2017年にロシアのラブロフ外務大臣とキスリャク駐米大使がホワイトハウスを訪問した際に、トランプ大統領が、イスラエルが得た中東情報をロシア側に渡したことが明らかになりました。これを受けてCIAは、スパイから得た情報をトランプ大統領に流すことは、彼らの身に危険が及ぶと考えて、クレムリンのスパイを引き揚げさせることにしました。実際にモルドバ経由で出国させたことが分かっています。つまり、その後クレムリンにCIAのスパイがいないという状況になっていた。恐らくそれから数年の間に、何らかの方法でスパイを復活させたのでしょう」(同)
今回のウクライナ侵攻では、アメリカの情報収集能力の高さが際立っているという。
「ロシアの軍事侵攻を巡って、CIAの長官のウィリアム・バーンズ氏は、昨年11月2日にモスクワを訪れ、プーチン氏の右腕ともいわれるパトルシェフ安全保障会議書記に会っています。その時には既に、ウクライナ侵攻の可能性が高いことを把握していたのでしょう。侵攻前から情報公開を積極的に行ってきたことからも分かる通り、アメリカは何とかしてロシアの侵攻を止めようとしてきたようです。侵攻が始まってしまってからは、高い諜報能力を発揮し、各国協力しながらウクライナ軍を最大限支援しています」(同) 
●ロシア国内に異変か、プーチン氏に焦り? 国民へ声明「西側諸国のせい」 4/6
ロシアのプーチン大統領が国営テレビに登場しました。国民に向けて語られたこととは。
執務室で政府高官らとのオンライン会議に臨むプーチン大統領(69)。
アメリカやイギリスなどから「戦争犯罪人」として責任を問う声も上がるなか、何を語るのでしょうか。
プーチン大統領「西側諸国のせいでロシア産の天然ガスは値上がりし、物流も妨げられ、今ヨーロッパでは農業で使う肥料などが減っているが、これも彼らが自ら招いたことだ。経済やエネルギー分野における過ちをロシアに責任転嫁しようとし、さらにはロシアの海外資産を国有化しようとするなど『もろ刃の武器』だということを忘れてならない」
世界最大の小麦輸出国であると同時に肥料の主要生産国であるロシア。
日本など西側諸国の経済制裁によりエネルギー価格上昇と肥料不足が重なれば、世界中で深刻な食料危機などを引き起こす恐れがあると主張しました。
プーチン大統領「今後の輸出については慎重に検討する必要があります。特に我々に対し敵対的な政策を行う国々には、食料の供給を注意深く監視しなければならない」
この発言の裏には、ウクライナ侵攻に対する制裁措置でロシア経済に変化が生じていると専門家は指摘します。
ロシア政治に詳しい筑波学院大学・中村逸郎教授「一番、大きいのはスーパーマーケットで物を買った時にレシートが出ますよね。あのレシートが不足しているんですって。あとオリーブ油が足りない。バナナが足りない。身近なところで、やはり経済制裁が市民生活の中で効いてきているということでプーチン大統領かなり焦りが見えてきているなという印象です」
ロシアの独立系世論調査機関が先週、発表した最新の調査によりますと、プーチン大統領を「支持する」との回答は83%に達し「支持しない」は、15%でした。
また、ウクライナでの“特別軍事作戦”に関する調査でも81%が支持。
テレビやラジオの活動を停止させるなど言論統制を行い「解放」のための闘いと称し、侵攻を続けるロシア軍。
停戦協議が開かれる一方で、ウクライナ市民に起きている惨劇は強い衝撃を与えています。
国連・グテーレス事務総長「ウクライナの戦争は今、止めなければならない。平和実現のため真剣に交渉する必要があります。苦しんでいる人々や弱い立場の人たちを救うため、すべての権限を行使するよう求めます」
人権侵害を疑い国連が対応に乗り出す事態に。プーチン大統領は、一体、どのようにこの戦争を終わらせるつもりなのでしょうか。
今後の去就に注目が集まります。
中村逸郎教授「最初は首都キーウ(キエフ)を狙ったわけですけど手ごわいということで一気に首都陥落ではなく小規模な都市をピンポイントで狙っていくと。プーチン大統領が狙っていることは最終的にウクライナへの焦土作戦」
●プーチン直属の国家親衛隊でウクライナ参戦拒否が続出 4/6
ロシア領内のハカシア共和国でロシア連邦国家親衛隊に所属する兵士少なくとも11人が、ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻への参加を拒否したと報じられた。
国家親衛隊はロシア国内で主に警察的役割を担う大統領直属の軍組織で、ロシア連邦軍とは別の指揮系統に属している。シベリア南部に位置するハカシア共和国の地元メディア、ニューフォーカスによれば、11人は国家親衛隊の特殊部隊に属する兵士たちで、侵攻作戦に参加する意思がないことを上官に告げたという。
その後、兵士たちは国境付近の野営地から連れ出され、ハカシアに送り返された。軍幹部は「任務に不適任」と、この兵士たちを解雇しようとした。11人の兵士は、この決定に異議を唱える用意があるとしている。本誌は現在、情報確認を行っている。
ニューフォーカスによると、特殊部隊の隊員たちは、軍司令部がウクライナにおけるロシア軍の実際の損失をモスクワの中央政府から隠していると考えている。プーチンのいわゆる「特別軍事作戦」では、多くのシベリアの兵士が犠牲になっている。
特殊部隊は指揮官から、負傷者やウクライナでの日々の作戦について沈黙を守るよう命じられたという。隊員は家族にも詳細を話さないように指示された。
ロシア南部の都市クラスノダールでも国家親衛隊12人がウクライナの戦争への出動命令を拒否して解雇され、不当解雇訴訟を起こした。軍幹部らは今後、直面するかもしれない事態を「警戒し、怯えている」とニューフォーカスは指摘している。
国家親衛隊員12人を弁護するロシア人弁護士ミハイル・ベニヤシは、これまで弁護チームには約1000人から連絡があったと語った。
「戦いに行きたくない兵士は多い」というベニヤシのコメントは、4月1日付のフィナンシャル・タイムズに掲載された。
人権派弁護士パベル・チホフは、国家親衛隊のファリド・チタフ大尉と部下11人が2月25日にウクライナ侵攻への参加を拒否し、出動命令は 「違法」と主張したことを、テレグラムへの投稿で明らかにした。
「特別軍事作戦に参加するためにウクライナに入ることも、作戦の任務と条件についても、誰一人として知らされておらず、その結果、彼らは同意しなかった」とチホフは書いている。
ラトビアに拠点を置く独立系ロシア語ニュースメディア、メデューサによると、プーチンが2月24日に隣国ウクライナへの侵攻を開始して以来、ロシア国家親衛隊では少なくとも7人が戦闘で死亡しているという。
つい先日も、装備も整っていないのに、中央政府から明確な計画を知らされることなく、ウクライナのある地域に行くよう命じられた、とロシア兵が不満を訴える動画が公開されたばかりだ。
これまでのところ、ロシア軍の損失については様々な説があるが、ウクライナ政府は1万6000人にのぼると主張している。ロシア軍は指揮官も失っており、ウクライナ側の主張では、将官6人以上が死亡している。
●日本は第2のウクライナ? 米軍基地への攻撃や離島奪取というシナリオ 4/6
ロシアによるウクライナ侵攻から1カ月が過ぎた。情勢が進むにつれ、欧米諸国から大規模な軍事支援を受けたウクライナ軍の攻勢が顕著になり、ロシアはキエフ制圧の戦略目標をひとまず変更するなどプーチン政権の劣勢も目立つようになっている。しかし、米国はロシアが依然として軍の縮小や交渉のテーブルに付く姿勢が見せないとして警戒を続けている。一方で日本はウクライナにようにロシアから侵攻される恐れはあるだろうか。この1カ月間のウクライナ情勢を振り返ると、日本のウクライナ化を考えるにあたり2つのことが懸念されよう。
1つは米国の非介入主義だ。米国が世界の警察官から引退すると歴代の大統領が宣言して久しい。オバマやバイデンとトランプは性格や国家ビジョン、価値観などが大きく違い、これまで互いを罵り合ってきたが、米国はもはや世界のあらゆる問題に首を突っ込まない、他国の紛争にできるだけ軍事関与しないという部分では違わない。バイデン大統領はアフガニスタンからの米軍完全撤退を果たし(バイデンはオバマ政権で副大統領の時から撤退すべきと主張してきたが)、結局ロシアによるウクライナ侵攻でも直接軍事関与することはなかった。バイデン政権が対ロシアで実行しているのは厳しい経済制裁とウクライナへの軍事支援で、これも長年貫かれる米国の非介入主義の一環だろう。無論、プーチン大統領が核の使用をちらつかせたことから、ウクライナで米軍とロシア軍が衝突すれば第3次世界大戦に発展する可能性が現実味を帯びることになるが、たとえその可能性をプーチン大統領が言及しなくても非介入主義は貫かれたであろう。
非介入主義に対する支持は米市民の間でも根強い。米CBSニュースなどが2月に明らかにした世論調査によると、「ロシアによるウクライナ侵攻で米国が積極的な役割を果たすべきか」との問いに対し、「積極的な役割を果たすべきだ」と回答した人は全体の26パーセントに留まり、「最低限の役割に留めるべき」が52パーセント、「役割を果たすべきではない」が20パーセントと7割以上が否定的な見解を示した。バイデン政権は支持率に苦しみ、今年11月の中間選挙でも勝利が危ぶまれており、こういった市民の意見に真剣に耳を傾けなければならない情勢だ。ウクライナの戦局を巡る動向は別として、米国の非介入主義が対外的拡張を進める中国の動きをいっそう加速化させることを我々は常に念頭に置く必要があろう。
もう1つは米国のインテリジェンス能力だ。米欧州軍のウォルターズ司令官は3月29日、侵攻当初米国はロシア軍の能力を過大評価し、ウクライナ軍の能力を過小評価し、首都キエフが数日以内に陥落すると予測していたと米軍のインテリジェンス能力に大きな問題があったと明らかにした。アフガニスタンから米軍が撤退し、関係が良好ではないタリバンが実権を握ったことで、米国では対テロ分野の情報収集・分析能力も低下するとの懸念があるが、中国の核ミサイル戦略、人民解放軍の動きなどでも同様の懸念が現実となれば、台湾や尖閣など日本の安全保障が直接的に脅かされる問題となる。
ウクライナは陸で近隣諸国と接し、険しい山もないことから軍事的には侵攻しやすい。日本は島国でありウクライナ情勢はそのまま日本に当てはまるわけではない。また、中国とロシアが対米共闘で日本本土に侵攻してくるシナリオは非現実的だろう。しかし、上述のように、米国の非介入主義やインテリジェンス能力の低下は中国などの行動を誘発することから、米中対立の激化もあり、在日米軍基地への攻撃や離島奪取というシナリオは現実的問題として我々は考える必要があろう。今年に入ってのウクライナ情勢は、日本にとって大きなシグナルとなっている。
●ウクライナ市民殺害 中国メディア ロシア側の主張中心に伝える  4/6
ウクライナの首都近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったことについて、中国の国営メディアはロシア側の主張を中心に伝えています。
このうち、中国中央テレビは、「ロシア側は、市民が殺害されたとしてウクライナ側が公表した写真や映像は、ウクライナ政府による演技だとしている」と伝えているほか、「アメリカとNATO=北大西洋条約機構による新たな挑発だ」というロシア外務省の報道官の発言を紹介するなどロシア側の主張を中心に伝えています。
一方、中国共産党系のメディア「環球時報」は、6日の社説で「民間人に対する暴力行為はいかなる口実であれ、絶対に容認できず、ロシアとウクライナが停戦しないかぎり、人道的な悲劇は終わらない」としたうえで、「残念ながらウクライナ危機の元凶であるアメリカは、和平や協議を促す姿勢を見せるどころか、ロシアへの制裁強化やウクライナへの武器供与など両国の緊張を高めている」などとして、アメリカを批判しています。
●NATO事務総長「チェコ政府がウクライナに戦車を供与」  4/6
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長が、NHKの単独インタビューに応じ、チェコ政府がウクライナに戦車を供与すると明らかにしました。ロシア軍に対抗するため、より攻撃力が高い兵器の供与を求めるウクライナ側の要請に答えた形です。
ロシア軍が攻勢を強める中、ウクライナのゼレンスキー大統領は戦力で勝るロシア軍に対抗するため、NATO加盟国に戦闘機や戦車といった、より攻撃力が高い兵器の供与を求めています。
ただ、こうした兵器の供与はロシア側との緊張を高めるとの懸念があり、アメリカは先月、ドイツにあるアメリカ軍基地を経由して戦闘機をウクライナに供与するというポーランド側の提案を拒否していて、戦車の扱いが注目されていました。
こうした中、NATOのストルテンベルグ事務総長は5日、NHKの単独インタビューに応じ、「チェコ政府が、ウクライナに対して戦車を供与すると表明した」と明らかにしました。
チェコ政府は詳細を明らかにしていませんが、地元メディアはウクライナに供与するのは、旧ソビエト製の戦車を含む数十両の戦闘用の車両だと伝えています。
アメリカ・ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は4日、ウクライナへの軍事支援をめぐり、「同盟国が保有する兵器がウクライナのニーズに適している場合は同盟国からの供与を支援する」と述べていたほか、国防総省の高官も、「他国によるウクライナへの供与の決定は尊重する」と述べて、戦車の供与を支持する姿勢を示していました。
アメリカなど西側諸国は、今回の戦車の供与がロシアを過度に刺激しないか慎重に判断したものとみられ、ロシア軍がウクライナ東部で攻勢を強める中、ウクライナ側の要請を踏まえて軍事支援のレベルを一段引き上げた形です。
●北欧フィンランド 隣国ロシアに脅かされて  4/6
「私たちが何も恐れずに、平和な時代に生きているのは、特別なことなのかもしれない。私たちの親や祖父母の世代はこんなぜいたくは享受できなかった」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻のあと、フィンランドの市民がつぶやいたことばです。ロシアとの国境は約1300キロ、実に札幌ー福岡間の直線距離と同じくらいの長さです。
ロシアに脅かされてきた北欧の国では今、軍事的に中立の立場をとり続けるべきなのか議論が活発に。なぜなのでしょうか?
フィンランドとロシアの関係は?
人口が約550万のフィンランドに対し、ロシアは1億4000万人以上。フィンランドの歴史は、隣国の大国とどう向き合い、独立国家として生き残っていくのか模索する歴史でもありました。
1917年、ロシアから独立を果たしましたが、その後の第2次世界大戦では当時のソビエトから軍事侵攻を受けました。
“わが国の安全が脅かされる”
ウクライナ侵攻でも繰り返されてきた理由です。
この「冬戦争」「継続戦争」と呼ばれる2度にわたる戦いで、フィンランドは多くの犠牲を出しながらも、独立を守り抜きました。戦後は東西両陣営のはざまでソビエトからの影響力を一定程度受け入れながらも、中立政策をとります。
冷戦が終結したあとEUには加盟しましたが、軍事同盟であるNATOには加盟していません。フィンランドは常にモスクワを刺激しないよう、細心の注意を払い続けてきたのです。
ウクライナ軍事侵攻で方針転換?
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けてフィンランド国内で強まっているのは、NATOへの加盟を支持する意見です。軍事侵攻が始まった2月24日前後に行われた世論調査では「加盟支持」が53%と、初めて半数を超えました。
2月の下旬、マリン首相は「ウクライナにライフルや対戦車兵器を供与する」と発表。「紛争国に兵器を供与しない」という長年貫いてきた軍事的な中立を転換させたのです。
フィンランド国防省で政策立案を担当する部門のトップ、ヤンネ・クーセラ氏は、理由をこう説明しました。
フィンランド国防省 ヤンネ・クーセラ氏「仮に今後、フィンランドがNATO加盟を申請するとしたら、それはロシア自身の行動が原因だ。私たちに今できるのは、ほかのEU諸国と同じように行動することだ。将来フィンランドが厳しい状況に置かれたとき、NATOは私たちを助けてくれるだろう」
ロシア軍のウクライナ侵攻後、3月9日から11日に行われた調査では、NATO加盟支持が62%に達しました。
市民の受け止めは?
ヘルシンキの市民からは「ロシアは脅威であり、今後も脅威であり続ける」「これまでは中立がいいと思っていたが、結局、中立であり続けることはできない」などとNATOへの加盟を肯定的にとらえる声が聞かれました。
これまで、NATOは軍事同盟だとして否定的な見方も強かったといいますが、ロシアに対して加盟国が団結して防衛にあたっていると評価する見方が広がっているようです。
一方で「侵略を受けた歴史や、長い国境を接している現実を考えると、行動には気をつけるべきだ」「経済や社会などあらゆる面で、ロシアとは隣人としてのつながりがある。その関係を一気に変えるのは難しい」という複雑な思いを持つ人もいました。
ロシアへの警戒感の高まりを背景に、みずから有事に備えようという人が増えています。
国防省の関連団体が行っている「防衛訓練」は、参加希望が急増。
最も人気があるという射撃訓練の会場を訪れてみると、若者から年配の人まで、さまざまな人たちが銃で標的をねらっていました。
フィンランドには徴兵制度があり、多くの人は、慣れた手つきで銃を扱っていました。30年ぶりにこうした訓練に参加したという男性は「現在の緊迫した状況を考え、かつて習得した技術を確認しておきたいと思った」と話していました。
ロシアはどう反応?
フィンランドで高まるNATO加盟の議論に、ロシアは神経をとがらせています。
フィンランドが加盟することになれば、ロシアはNATOと国境を接することになり、いわゆる「緩衝地帯」はなくなります。
2月25日、ロシア外務省のザハロワ報道官は「フィンランドなどがNATOに加盟した場合には、軍事的、政治的に対応する必要がある」などと強くけん制しました。
さらに3月に入ってからも、ロシア外務省の高官はロシアの通信社の取材に対し「仮にNATOに加盟すれば、その関係は変わることになる。報復措置が必要になるだろう」と重ねて強調しています。
本当に“中立”から決別するのか?
フィンランド政府は、4月にも安全保障の現状についてまとめ、議会ではNATOへの加盟も含めた議論が交わされる見通しです。
NATOへの加盟は、軍事的な中立と完全に決別することを意味します。
フィンランド議会 アッテ・ハルヤンネ議員「安全保障をめぐる状況が劇的に変わる中でどう行動していくべきか、歴史的な転換点に立っている。答えは私たち自身で見つけていかなくてはならない」
フィンランド国防省 政策担当トップ ヤンネ・クーセラ氏「私のこれまでのキャリアの中で、現在のような不透明な状態は初めてだ。今後どんなヨーロッパになるのか、どんなロシアと隣人として向き合っていかなくてはならないのか。2022年が転換点となるのかどうかは、歴史が示すだろう」
フィンランドは中立を保ちながらも徴兵制度は維持し、ここ数年、国防費はGDPの2%近くに上ります。
民主的な国家と“十分な備えがあれば、ロシアであろうと、どんな国であろうと簡単に攻撃することはできない”ーそれが、フィンランドが学んできた教訓です。
「世界で最も幸福な国」とされるフィンランド。その裏には、大国ロシアと向き合う苦悩と、覚悟があります。
●ウクライナ ボロジャンカ 多くの遺体 “ブチャ上回る被害”  4/6
ロイター通信によりますと、ロシア軍が撤退した首都キーウから北西におよそ50キロにあるボロジャンカで5日、倒壊した建物から多くの住民とみられる遺体が見つかったということです。
配信した映像では、高層住宅が崩れ落ち、全体が黒く焦げているほか、地面にはがれきが散乱していて、その中には遺体の一部が映っています。
地元の警察は、この数日で複数の遺体を確認しているということですが、死者の数は分かっていないということです。
住宅が被害を受けた女性は、「ロシア兵たちは、家中を物色し、ありとあらゆるものをとっていきました。子どもの携帯電話も持って行かれました」と話していました。
住民の男性は、「何が起こったのか正確には分かりませんが、がれきの下にはまだ人々がいます。これは大惨事です」と話していました。
ウクライナのベネディクトワ検事総長は地元メディアの取材に対し、「最悪の人的被害だ」と述べ、多くの市民が殺害されているのが見つかっている、首都近郊のブチャを上回る被害が出ているとしています。
●ウクライナ大量虐殺の遺体を見る事はなぜこんなに苦しいのか 4/6
尊厳を奪われた遺体
早朝に目が覚めた時はスマホで新聞の電子版を読みながら時々Twitterをのぞく。ウクライナの首都キーウ近郊の都市ブチャなどでロシア軍が民間人を大量虐殺した疑いがあるというニュースは日本のテレビや新聞でも連日報じられているが遺体の映像は流れない。
ただ欧米のメディアは報道しており、それがTwitterに流れてくるのでつい目が行ってしまう。生存者のインタビューや記者の現場リポートなどを読んでいると気が滅入ってくる。道路のあちこちに放置された遺体。後ろ手に白い布のようなものでしばられて殺された人。尊厳を奪われた遺体を見るのは苦しい。
食欲がなくなり、その日の朝食はほとんど食べられなかった。あの遺体の映像が原因だと思う。ウクライナ危機が始まった時から戦争のニュースを見ることで強いストレスを受けることがある、という記事を読んだことがあり、確かに銃撃音を繰り返し聞くことはストレスになるだろうと思っていた。だが人の死を実際に目にすることはその比ではない。だから子供には絶対見せてはいけない、と思う。
戦争の実態は「死」
戦争や革命の取材で遺体を見たことはある。ただその時はアドレナリンがものすごく出ていたのか、意外に平気だった。30年前の話なので自分が若かったという事もある。ご飯もちゃんと食べられた。だが今回、平和な東京でスマホを見ながらリアルの戦争に接すると強烈なショックが襲ってきた。
ロシアの軍事侵攻に対しウクライナのゼレンスキー大統領は18歳から60歳の男性を出国禁止にする総動員令に署名し、国民に抵抗を呼びかけた。欧米を中心に多くの国がこれを支持し、戦闘には加わらないものの、武器の供与や人道援助、そしてロシアへの経済制裁などを行っている。
しかし戦争の実態とは平和を許されている私たちが目をそむけている「死」そのものだ。
大量虐殺という非難に対しロシア側は「ニセの映像が拡散された」と反論している。日米欧などはロシアへの経済制裁の強化を検討し、日本の林外相は「ICC(国際刑事裁判所)検察官による捜査の進展を期待する」と述べた。しかし制裁の効果は限定的であり、ICCがプーチンに対してたぶん何もできないであろうことは誰もが知っている。
ウクライナに尊厳ある平和は来るか
米国やNATOが参戦して第3次世界大戦に突入する気がない以上、ウクライナの徹底抗戦でロシアがさらに退却した時点で、少しでもウクライナにとって有利な条件で停戦するしか我々には選択肢はないのだろう。
軍備管理の第一人者である一橋大の秋山信将教授は日本記者クラブでの会見(4月4日)で「この数日、目にした映像から影響を受けた」とした上で、「Peace in dignity」(尊厳ある平和)という言葉を使った。秋山氏はただ紛争が終わるだけでない、そこに住んでいる人たちの尊厳がある平和でなければならない、と訴えた。ウクライナに「尊厳ある平和」は来るのだろうか。
●米が対ロ追加制裁、「重大な戦争犯罪」とバイデン氏 4/6
米国は対ロシア追加制裁を発表した。同国大手銀2行やプーチン大統領の娘2人らが対象。ロシア軍によるウクライナでの残虐行為疑惑を受けて制裁を強化する。
中国の張軍国連大使は5日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで武器を持たない民間人が殺害されていたことへの懸念を表明。ただ今回の事態に関してロシアのプーチン大統領を非難することは控えた。
イタリアはロシア産天然ガスの輸入禁止で欧州連合(EU)加盟国が一致するなら、同国も禁輸を支持すると表明した。現時点ではまだ禁輸で結束できていない。
6日のモスクワ市場でロシア・ルーブルは1ドル=81.16ルーブルを超えて上昇し、ウクライナ侵攻が始まる前日に当たる2月23日の水準を回復した。
バイデン米大統領は6日、ロシアがウクライナで行ったのは「重大な戦争犯罪」で、米国の制裁はロシア経済を粉砕しつつあると語った。
英国、ウクライナに装甲車供与も−タイムズ
英国はウクライナに装甲車を供与する計画を策定している。英紙タイムズが情報源を明示せずに報じた。防護警備車両マスティフなどが候補だという。また対戦車・対空ミサイルを含む追加軍事支援が数日中に発表される見通しだとした。
イエレン財務長官、米国はG20に出席せず−ロシアが排除されない限り
イエレン米財務長官は6日、ロシアの出席が認められている今年の20カ国・地域(G20)の会合に米当局者は参加しないと述べた。
イタリア、EU結束ならロシア産天然ガス禁輸を支持−首相
EU加盟国がロシア産天然ガスの輸入禁止で一致するなら、イタリアは禁輸を支持するとドラギ首相が表明した。
日本政府、ロシア産石炭の禁輸見送りを検討−毎日
日本政府はロシア産石炭の輸入禁止措置は見送ることを検討していると、7日付の毎日新聞朝刊が関係者の話を基に報じた。
IEA加盟国、石油備蓄から追加で6000万バレル協調放出−関係者
国際エネルギー機関(IEA)加盟国は石油備蓄から6000万バレルを追加で協調放出する。事情に詳しい関係者が明らかにした。バイデン米大統領はこれまでに1億8000万バレルの石油備蓄放出を発表しており、市場への供給をさらに増やす。
バイデン氏「重大な戦争犯罪」が行われた
バイデン米大統領は6日、ロシアがウクライナで行ったのは「重大な戦争犯罪」で、米国の制裁はロシア経済を粉砕しつつあると語った。「今起きているのは重大な戦争犯罪に他ならない。責任ある国家は団結し、犯罪人に責任を取らせなくてはならない」とワシントンで演説。米国とその同盟国がすでに導入した制裁でロシア経済は「今年だけで2桁」の縮小が見込まれるとし、「今後長らく経済成長できないよう窒息させる」と述べた。
戦争犯罪調査、数年を要する可能性−米国務長官
ブリンケン米国務長官は、ウクライナの一部からロシア軍が撤退する中で発生した戦争犯罪の調査は始まったばかりであり、数年を要する可能性もあると語った。ただ、「しかるべき者に確実に責任を取らせるよう容赦のない取り組みが行われると保証できる」と述べた。
EUの制裁協議、7日まで継続へ
対ロ追加制裁を巡る欧州連合(EU)の議論は続いており、加盟国大使による承認は早くても7日になりそうだと、EU外交筋が明らかにした。ロシア産石炭の輸入禁止を含む制裁の枠組みはほぼ合意されているが、技術的な問題を中心に話し合いが残っていると、この外交筋は語った。リトアニアのプランケビチウスEU大使はLRTラジオに対し「石油を巡る最大の戦いは次のパッケージに移る。その準備は直ちに始まる」と語った。
米政権、インドに警告−ロシアと協力なら深刻な結果
バイデン米政権はインドに対し、ロシアに協力しないよう警告した。ディース米国家経済会議(NEC)委員長が明らかにした。米国は、ロシアのウクライナ侵攻を巡るインドの反応の一部に「失望している」という。
ロシア債のCDS、1年以内にデフォルト陥る確率99%を示唆
6日のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場で、ロシア国債のデフォルト(債務不履行)に備える保証コストが急伸。同国が1年以内にデフォルトに陥る確率は過去最高の99%に上昇したことを示唆した。
ロシア・ルーブル、戦争開始後の下げ消す
6日のモスクワ市場での取引でロシア・ルーブルは1ドル=81.16ルーブルを超えて上昇し、ウクライナ侵攻が始まる前日に当たる2月23日の水準を回復した。EUと米国は協調して新たな制裁を打ち出す予定。ロシア財務省は国債のドル払いが受け付けられず、ルーブルで支払ったと発表し、同国はデフォルト(債務不履行)に近づいている可能性がある。
国連、人権理事会のロシアのメンバー資格停止を採決へ−AFP
国連総会は人権理事会のロシアのメンバー資格停止について7日に採決すると、AFPが匿名の当局者の情報として報じた。
独首相、ウクライナでの「戦争犯罪」を非難
ドイツのショルツ首相はロシア軍がウクライナで行った「戦争犯罪」を非難するとし、欧州は追加制裁でロシア政府に対する圧力を強め続けていくと表明した。「現在の制裁の強化に今一度取り組んでおり、5回目の制裁パッケージが議論の最終段階にある」と連邦議会で語った。
ロシア軍、遺体焼却で証拠隠滅−マリウポリ市当局
ウクライナのブチャでロシア軍が行ったとされる残虐行為に国際的な非難が集まったことを受け、ロシア政府は同国軍にマリウポリでは遺体を収集して焼却するよう指示したと、同市当局が発表した。市当局によると、ロシア軍の攻撃による同市の民間人の死者数は「5000人を大きく超える」恐れがある。このためロシアはトルコ主導の救護団やその他の団体が目指している民間人避難への許可をためらっている可能性があるという。
ロシアの野望は後退していない、ゼレンスキー氏主張
ロシアは「ウクライナ人全員を支配し、征服する」計画をまだ捨てていないと、ゼレンスキー大統領が6日、アイルランド議会での演説で主張した。
EU、ロシアの石油・ガス制裁が必要になる可能性−ミシェル大統領
欧州連合(EU)はロシアの石油やガスを制限する措置について、ある時点で検討が必要になる公算が大きいだろうと、ミシェル大統領(常任議長)が欧州議会で発言。「石油、ガスすらも遅かれ早かれ措置が必要になるだろうと思う」と述べた。
ロシア軍は農業・経済インフラを攻撃−ウクライナ
ロシア軍はこれまでに6つの穀物倉庫を破壊したが、農業インフラ全体の損傷は「重大ではない」とウクライナのビソツキー農業食料副大臣が述べた。ドニプロペトロウシク州の石油貯蔵施設などウクライナの経済インフラを標的とした攻撃をロシア軍は継続しており、夜間にも砲撃があったと、同州のレズニチェンコ知事が説明した。
インド外相、ブチャでの民間人殺害を非難−独立調査を支持
インドのジャイシャンカル外相は議会で、ブチャでの民間人殺害を非難するとともに、独立調査を支持すると表明した。
ブカレストでロシア大使館のゲートに車が激突・炎上−運転手死亡
ルーマニアの首都ブカレストで6日午前、ロシア大使館のゲートに車が激突し炎上、運転手が死亡した。警察が発表した。警察によると、運転手の身元は今のところ不明で、捜査が続いている。
中国主席、ウクライナに関し「聞く耳を持たない」−EU外交トップ
欧州連合(EU)と中国が1日に開いた首脳会談で中国の習近平国家主席は「聞く耳を持たない」ようだったとEUの外交トップ、ボレル欧州委員会副委員長(外交安全保障上級代表)が5日の欧州議会で証言した。オンライン形式で行われた首脳会議に参加したボレル氏は「中国はウクライナを巡るわれわれとの相違を無視しようとした」と説明した。
中国の国連大使、ブチャでの民間人殺害報道や画像「大変気掛かり」
中国の張軍国連大使は5日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで武器を持たない民間人が殺害されていたことへの懸念を表明した。各国には調査で責任の所在が明らかになるまでは判断を控えるよう呼び掛けた。張大使は国連安全保障理事会のウクライナ情勢に関するブリーフィングで、「民間人への攻撃は受け入れられず、あってはならない」と指摘。「ブチャでの民間人の死者を巡る報道や画像は極めて気掛かりだ」と述べた。
プーチン氏、欧米・NATOと既に「戦争状態」と認識−元オリガルヒ
ロシアのプーチン大統領の目から見れば、米国と同盟国が既にロシアと戦争状態にあるという認識を西側諸国は共有していないとミハイル・ホドルコフスキー氏が指摘した。経営破綻したロシアの石油会社、旧ユコスの元経営トップで、新興財閥(オリガルヒ)の代表的存在だったホドルコフスキー氏(58)はワシントンでのインタビューで、米国をはじめとする主要国は対ロシア制裁を強化し、ウクライナに武器と軍の訓練を提供しており、プーチン大統領はウクライナの国土で欧米と実質的に戦争状態にあると見なしていると語った。 

 

●ロシアの「戦争犯罪」5000件 ウクライナ検察が捜査―集団墓地に最大300遺体 4/7
ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外でロシア軍の撤収後に多数の民間人とみられる遺体が見つかった問題を受け、ウクライナ当局は6日、ロシアによる「戦争犯罪」として、捜査を続けた。ベネディクトワ検事総長は5日、約5000件について捜査していると発表。米欧とも連携し、責任を追及する構えを強めている。
ウクライナ最高会議(国会)の人権オンブズマンのデニソワ氏は5日にキーウ近郊のブチャを訪れ、長さ約14メートルの巨大な集団墓地に「150〜300体の遺体が埋められていた」と述べた。ロシア軍が拠点とし、住民を殺害した場所からは検視のために遺体が運び出されたが、現場には「血だまりが残っている」と説明。「全ての犠牲者の死の状況を明らかにする」と強調した。
デニソワ氏は、キーウ州の児童療養施設の地下から後ろ手に縛られた男性5人の遺体が見つかったことや、北東部スムイ州で民間人3人が拷問によって殺害されたことも明らかにした。ウクライナのメディアによると、南東部ザポロジエの州当局者も5日、ロシア軍が撤収した複数の村で最大20人の遺体が見つかったと述べた。
国際的な非難にもかかわらず、ロシアは民間人殺害への関与を否定し、ウクライナ側による「やらせ」などと主張している。ロシア大統領府は、プーチン大統領が6日、ハンガリーのオルバン首相と電話会談し「ブチャにおけるウクライナの政権の粗雑で恥知らずな挑発」について話し合ったと発表した。
●「戦争は何年も続く可能性」 ウクライナ首都周辺のロシア軍が完全撤退 4/7
ロシア軍によるウクライナの民間人への虐殺が指摘される中、NATO(北大西洋条約機構)の事務総長は、「戦争は何年も続く可能性がある」との見方を示した。
ロシア国防省が公開した、ウクライナ東部ルハンスクの映像。ウクライナ軍によると、ロシアは、東部ドネツクとルハンスクの領土を完全に支配する準備に集中しているという。
NATOのストルテンベルグ事務総長は6日、「この戦争は今すぐ終わらせなければならない」と強調する一方、何年も続く可能性を示した。NATO・ストルテンベルグ事務総長「現実的になり、何カ月、何年も続く可能性があることを認識しなければならない」また、アメリカの軍幹部も「戦争が数年続くのは確実」と述べ、危機感を募らせた。
一方、アメリカ政府高官は「首都キーウ周辺のロシア軍が完全に撤退した」との分析結果を明らかにした。ブチャでの市民殺害については、「計画的で意図的だ」と指摘した。多くの市民が殺害されたボロジャンカでは、数百人ががれきの下にいるとみられる。
●インテル、ロシアで事業を停止--「ウクライナに対する戦争を非難」 4/7
チップメーカーのIntelは米国時間4月5日、ロシアのウクライナ侵攻に対する措置を強化し、ロシアにおける事業をすべて停止したことを明らかにした。この動きは、同国の1200人の従業員に影響する。
Intelは3月3日に、ロシアとベラルーシの顧客に対する製品の出荷を停止していた。今回の事業全面停止は、ロシア軍が先週後半に撤退するまで占領していたキーウ近郊のブチャで、ウクライナ市民に対する戦争犯罪を行っていたことを示す証拠が明らかになった直後に発表された。
「Intelは引き続き国際社会とともに、ウクライナに対するロシアの戦争を非難し、平和への速やかな復帰を求める」と、Intelは発表の中で述べた。
隣国に対するロシアの戦争は、世界の事業概況に急激な変化をもたらしている。多くの国が経済制裁を科し、企業はロシアにおける事業を停止した。ロシア経済は、中国、ドイツ、米国ほどの規模や世界的重要性はないものの、同国はガス、石油、穀物の主要生産国の1つだ。
●学校もショッピングモールもがれきに…ウクライナのハリコフ 4/7
ロシアによる戦争犯罪の疑惑が問題になるなか、ミサイル攻撃にさらされるウクライナ第2の都市ハリコフで、社会問題の解決に取り組む市民団体代表のナタリア・ズバルさん(57)が、戦争犯罪の証拠を残そうと動画を撮り続けている。破壊された学校など一部は公開しており、ウクライナの検察当局とも協力。国際刑事裁判所(ICC)などで、ロシアの戦争犯罪が裁かれる日を待ち望んでいる。
「ちょっと待って。空襲警報が鳴っているから地下壕ごうに移る」。スマートフォンでのオンラインインタビューが始まるや、慌てて地下に身を潜めたナタリアさん。「ロシア軍は夜も砲撃や爆撃をするから、壕じゃないと眠れない」と笑い飛ばす。スマホ越しに、遠くから「ドン」と鈍い爆発音が3回聞こえた。
ロシアは2014年に南部クリミア半島にも侵攻しており「今回も攻撃するつもりだろうと思っていたから、食料や水を確保して備えていた」。そして、2月24日早朝に爆撃音で目覚めて以来、ミサイル攻撃が続く。「私は怖くないけれど、爆撃音は街全体に響くから、大きな音がするとみんな不安になる」と言う。街中のスーパーでは買い物もできるが、物資は滞りがちだ。
そして、3月8日。自宅から200メートルほどのショッピングモールが爆撃された。「1年前にできたばかりで、映画やボウリング場、子供向けの遊戯施設、カフェもあってお気に入りだった」と言う。ジュネーブ条約などの戦時国際法は、民間人への攻撃や生活に不可欠なインフラへの攻撃を明確に禁止している。ロシア軍の行動は戦争犯罪に当たると批判されているが、ロシアは常に攻撃を否定する。だから記録しなければいけないと思った。「もしかしたら、何かが変わるかもしれない」と。
以来、弁護士やジャーナリストらとともに、爆撃された学校や住宅地、ガスパイプラインなどを撮影し、ロシア軍のミサイルによる被害を証明するため破片を集め、目撃者と話し続ける。ごく一部のみ動画投稿サイト「ユーチューブ」でも公開。ロシアの戦争犯罪を捜査するウクライナの検察当局から協力を求められ、情報も提供している。
難しいのは承知のうえだが、いずれICCなどで自身の証拠が採用され「ナチスの戦争犯罪を裁いたニュルンベルク裁判のように、ロシアが裁かれる日が来る」と語った。
もちろん市民が犠牲になった現場も訪れるが、直接遺体を見ていないのは不幸中の幸いかもしれない。首都キーウ周辺では、今月3日以降、ロシア軍が市民を大量虐殺した疑惑が判明。もちろん「胸が張り裂けそう」だが、「ロシアは(第2次)チェチェン紛争やシリアへの軍事介入などでも無差別攻撃を繰り返してきたから、驚きはなかった」と言う。
「ロシアという国に言いたいことなどない。ただ消滅すればいい」と吐き捨てた。そして、世界には―。「ロシアを恐れず、自由のために立ち上がってほしい。彼らはミサイルで攻撃するし、市民を虐げるけど、地上ではウクライナ軍に負ける弱い連中なのだ」
ハリコフから逃げようと思ったことはない。「自分なりの方法で街を守る」と、夫と義母とともに街に残り続ける。
●伊政府、ウクライナ戦争受け成長予想引き下げ 4/7
イタリア財務省は6日公表した経済財政文書(DEF)で、ウクライナでの戦争が国内経済に重しとなっているとして、今年の成長見通しを下方修正した。財政赤字目標については、従来目標を据え置いた。
財務省は今年のGDP伸び率見通しを3.1%とし、昨年9月に予想した4.7%から引き下げた。2023年については2.4%と予想、従来予想の2.8%から引き下げた。
財務省の見通しを閣議で承認した後、ドラギ首相は記者団に対し、ウクライナ戦争が下方修正を招いたことは明白だと説明。信頼感が大幅に低下し、消費者や企業の先行き見通しに陰りが出ていると語った。
財務省は第1・四半期のイタリア経済がおそらく0.5%のマイナス成長だったものの、第2・四半期に回復すると予想。ウクライナ関連の課題が増えているとし、戦争の長期化すればインフレ率や経済成長に大きな影響が及ぶと指摘した。
また、ロシア産ガス・石油が禁輸され、深刻なエネルギー不足に陥るという最悪のシナリオでは、イタリアの成長率は今年が0.6%、来年は0.4%にとどまるとの見通しを示した。
今年の財政赤字の目標は、対GDP比5.6%で維持。ドラギ首相は政策が変わらない場合の財政赤字が対GDP比5.1%と見込まれているため、この目標を承認したと説明した。
これにより、政府には今年95億ユーロ(103億8000万ドル)の財源余地が生まれるが、このうち45億ユーロはエネルギー価格抑制策に充てられる予定で、残りの50億ユーロは追加支出や減税などに使えることになる。
来年の財政赤字も従来目標と変わらず、対GDP比3.9%の見通し。24年には同3.3%に改善し、25年には欧州連合(EU)の財政ルールの上限である3%を下回ると予想されている。
このほか、財務省は消費デフレータを用いたインフレ率は今年が5.8%、来年が2.1%と予想。
今年の公的債務の対GDP比率は147%と予想、従来予想の149.4%から引き下げた。来年については145.2%に低下すると見込んだ。
●プーチン氏の目標は依然「ウクライナ全土支配」、戦争は数年継続も 4/7
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は6日、現在のロシアはウクライナ東部に攻撃を集中させているものの、ウクライナ全土の支配を目指すプーチン大統領の目標が変化したことを示す情報はないと指摘した。
ベルギー首都ブリュッセルで行われるNATO外相会合を前に記者団に語ったもので、ウクライナでの戦争は数年間続く可能性があるとも警告した。
ストルテンベルグ氏は「ウクライナ全土を支配し、国際秩序を書き換えようとするプーチン大統領の野心に変化があったことを示す情報は目にしておらず、長期戦に備える必要がある」と指摘。「現実的な姿勢を取り、この戦争が何カ月、あるいは何年もの長期にわたって続く可能性を認識する必要がある」としている。
NATO加盟国の外相は6、7両日に協議を行い、対ウクライナ支援の強化について話し合う。
ウクライナ政府は既に欧米から供与された防衛システムに加え、戦車や戦闘機の提供も求めている。
ストルテンベルグ氏はNATOが供与する兵器の種類について詳細には踏み込まないとしつつも、重要なのは加盟国が行っていることの全体であり、そこには軽兵器に加え一部の重兵器も含まれると説明した。
また、ウクライナ戦争は終結の時期にかかわりなく欧州に長期的な安全保障上の影響をもたらすだろうと警鐘を鳴らし、「プーチン大統領は自らの目的を達成するためには軍事力の行使もいとわないことが分かった。このことが何年も先までの欧州の安全保障の現実を変えた」と述べた。
●ロシアの“虐殺”に見える戦争プロパガンダ、日本人が見落としている現実 4/7
虐殺を「フェイク」と言わない日本人の歪み
“狂気の独裁者”プーチン大統領とロシア軍の「蛮行」に対して、国際社会から激しい怒りの声が上がっている。
キーウ近郊のブチャでロシア軍によって住民数百人が虐殺されたという。ウクライナによれば、ロシア兵は子どもにまで拷問を行って、遺体の中にはバラバラに切断されてしまったものもあるという。また、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」によれば、女性のレイプ被害も報告されている。
NATO(北大西洋条約機構)は、これらの非道な行いはすべてロシアの責任だと非難、アメリカのバイデン大統領もプーチン大統領を「戦争犯罪」と糾弾して、法に基づいて処罰されるべきだと訴えた。
これを受けて日本国内でも、「プーチンに正義の裁きを!」とロシアへのさらなる厳しい制裁を求める声が多くなっている。あれだけ残虐な行為を目の当たりにすれば人として当然の反応だが、一方でちょっと意外な気もしている。
今回の虐殺について、ロシアは「西側諸国のフェイク」だと反論をしているが、そのような主張をされる方が日本国内でも、もうちょっといるかなと思っていたからだ。
誤解なきように断っておくと、筆者はブチャの虐殺がフェイクだなどと主張をしたいわけではない。ただ、「マスゴミ」という言葉があるように、メディアの大本営発表を懐疑的に見ている方が世の中にはたくさんいらっしゃる。ワクチンにまつわる国際的陰謀論を信じている方もいる。欧州が中心となっている世界的な脱炭素キャンペーンを「インチキ」だと攻撃している人も少なくない。
そのように疑り深い人たちが多いのだから、今回の「虐殺」のニュースに対しても、「本当のところはどうなのかな」くらいの反応があるかと思ったのだが、もしそんなことを少しでも口走ろうものなら、「日本人の恥め!ウクライナの皆さんに土下座して謝罪しろ」なんて感じで袋叩きにされそうなムードさえある。
今の雰囲気には個人的にはちょっと驚いている。日本には、西側諸国が「虐殺」と断定して現代でも戦争犯罪として語り継いでいることを、「フィクション」「でっちあげ」と全否定していらっしゃる方がたくさんいるからだ。
何を指しているのかはもうお分かりだろう。そう、南京事件である。かつての自国による虐殺は全否定するのに、なぜロシアの虐殺は素直に納得できるのだろう。
日本の「虐殺」は否定するのに今回は鵜呑み?
ロシアの「戦争犯罪」を厳しく糾弾する西側諸国が、日本の「戦争犯罪」をどのように捉えているのかがよくわかるのが、イギリス国営放送BBCニュースの<南京大虐殺で、多くの中国人救ったデンマーク人 没後36年目の顕彰>(2019年9月2日)だ。EUの問題を主に取材しているジャーナリストのローレンス・ピーター氏の認識を以下に引用させいただく。
<旧日本軍はその後、6週間にわたって南京で暴挙を繰り広げた。捕虜や市民を拷問し、レイプし、殺害した。この虐殺による死者は30万人に上るとみられている。被害者の多くは女性や子どもだった。レイプされた女性は約2万人に上るとされる。多くの中国人目撃者に加え、シンドバーグ氏のような現地にいた西洋人も、この残虐行為を記録している。>
その「記録」の中で代表的なものが、1937年12月15日に「南京大虐殺」の見出しで「日本兵が中国人の一群を処刑する光景を目撃した」などと報道したシカゴ・デイリー・ニューズや、同年12月18日に「捕虜全員を殺害 日本軍 民間人も殺害」と報じたニューヨーク・タイムズである。
しかし、日本の「南京事件はフィクション」派の方たちはこれらの報道はみな「フェイクニュース」であって、民間人を虐殺したのはすべて中国兵である、という主張をされている方もいらっしゃる。
これらが事実かどうなのかということは、ここではちょっと脇に置く。
筆者が言いたいのは、このように欧米諸国の「日本による虐殺」認定をここまで全否定して、懐疑的に見ている人たちが山ほどいるというのに、今回のウクライナ戦争に関しては、人が変わったように、欧米諸国の主張や報道を鵜呑みにしているという違和感である。
「そんなもんロシアが120%悪いからだろ」という怒声が聞こえてきそうだが、アメリカを中心とした有志連合軍がイラクに侵攻した時も、アメリカは「大量破壊兵器がある」とうそをついたことがわかっている。あの時も日本は「イラクが120%悪い」とコロッとだまされて、イラクへの侵攻を応援してしまった。
繰り返しになるが、ウクライナがうそをついているなどと主張しているわけではない。歴史の教訓を学べば、もうちょっと多様な意見が出てきてもいいはずなのに、世の中的には「ロシアの残虐行為を許すな」の一色になっていることにモヤモヤしているだけだ。
「戦争中のニュースはうそばかり」という現実を忘れた日本人
これは、日本人が「平和ボケ」になってしまったことが大きいのではないかと個人的には考えている。日本人にとって、戦争というものはテレビやネットで“観戦”をして、「もっとロシアに厳しい制裁しないと!」「いや、ウクライナへの支援が大事だろ」なんて感じでヤジを飛ばしていればいいだけのものになっている現実がある。
この平和は何ものにも代え難い尊いものではあるのだが、その弊害で、80年前の日本人や、戦火の中にある人々にとっては当たり前の危機意識がごっそりと欠如してしまっている。
それは一言で言えば、「戦争中のニュースはうそばかり」という現実だ。
戦時中の日本は大本営発表で、国民にフェイクニュースばかりを伝えていたというのは有名の話だが、実は「このニュース、怪しいな」と懐疑的に見ている人はたくさんいたことはあまり知られていない。人の口には戸は立てられないので、戦地から戻った人や、軍の出入り業者などから、厳しい戦局は漏れ伝わっていた。当時の特別高等警察の資料でも、「新聞はうそばかり」なんて落書きや怪文書がたくさん見つかっている。
もちろん、これは日本だけの話ではない。ニュース記事の事実関係の真偽を確認するファクトチェック団体・フルファクトの編集者でもあるジャーナリストのトム・フィリップス氏は「とてつもない嘘の世界史」(河出書房新社)のでこう述べている。
<よく知られていることだが、戦争中は信頼できる情報を得るのが至難のわざだ。「戦場の霧」という言葉が意味するのは、戦地から送られてくる詳細の多くが、最良のときでも不確実で信用ならないことである>
では、なぜ戦争になるとフェイクニュースが氾濫するのかというと、これが「武器」だからだ。今回ウクライナ戦争では、SNSでの情報戦が話題になっているように、「ロシア兵が逃げ出した」とか「原発を攻撃している」などの戦局を伝えるようなニースというのは、時に自国民を奮い立たせて、時に同盟国の支援を呼び込む。そして時に敵国の兵士を恐怖・混乱させて戦意を喪失させることができる。
要するに、自国に有利なニュースを流すことは、ミサイルや銃弾よりも有効な武器になるのだ。
その中でも最も敵国にダメージを与えることができるフェイクニュースが、「残虐行為」である。
歴史上、敵の「残虐行為」を知らしめることは戦術のひとつ
敵が身の毛もよだつような残忍なことをしていれば、最前線の兵士たちは「聖戦」を掲げて士気は上がる。また、国際的な批判にさらして孤立させることができるからだ。その典型的なケースが、第一次大戦中にイギリスの情報機関が仕掛けたと言われる、ドイツの「死体工場」である。前出の「とてつもない嘘の世界史」から引用させていただく。
<詳細がつねに変わっても、基本の話はつねに同じだった。ドイツ人が死体を束ねて前線から戻り、死体を工場に運び、そこで死体を加工して煮詰め、石鹸、火薬、肥料などさまざまな種類の製品にした。この工場には「偉大なる死体搾取施設」という名称さえあったことが、「タイムズ」紙の記事に書かれた>
昔の人はピュアだから、そういうデマを簡単に信じちゃったんだなと思う人もいるだろうが、実はこの手法は現代でもそのまま通用することがわかっている。それがほんの30年前にあった「ナイラ証言」である。
イラクがクウェートに侵攻した1990年、ナイラという少女がアメリカの議会で、イラク軍兵士が新生児を死に至らしめていると涙ながらに証言した。この衝撃的な告発によって、国際社会は今のロシアに対するそれのように、「イラクに制裁を」の大合唱となり、多国籍軍が派遣され、湾岸戦争へと突入していく。
しかし、程なくして「ナイラ」などという少女が存在しないことが判明する。クウェートから業務として、アメリカ国内の反イラク感情を喚起させるように請け負った世界的PR会社ヒル・アンド・ノウルトンによる「仕込み」だったのである。
両国が「戦争プロパガンダ」を駆使していることに気づいているか
このいわゆる「戦争プロパガンダ」というのは、湾岸戦争以降の戦争や国際紛争でもたびたび確認されている。アメリカの「大量破壊兵器」の捏造もそのひとつだ。
大砲から航空機、そして原爆から無人ドローンという感じで戦争のツールはどんどん進化しているが、戦争というものの悲惨さ、醜さの本質は変わらない。それと同じで、「戦争プロパガンダ」の本質は昔から何も変わっていない。
ベルギーの歴史学者アンヌ・モレリはあらゆる戦争に共通するプロパガンダを解明するとして、「戦争プロパガンダ10の法則」(草思社)で以下のようにまとめている。
1.「われわれは戦争をしたくない」
2.「しかし敵が一方的に戦争を望んだ」
3.「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
4.「われわれは領土や覇権のためではなく偉大な使命のために戦う」
5.「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
6.「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
7.「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
8.「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
9.「われわれの大義は神聖なものである」
10.「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」
いかがだろう。プーチン大統領やゼレンスキー大統領が国際社会や自国民に対して発しているメッセージと怖いほど重なってこないか。
近年起きた戦争や国際紛争の指導者たちの発言を見ても同じことがいえる。もっとさかのぼれば、大日本帝国のリーダーたちも同じようなことを言っていた。
今、ウクライナやロシアがSNSを用いて互いに情報戦を仕掛けているというが、ツールが最新になっているだけで、その内容は「10の法則」に合致するものばかりだ。
どちらが正しくて、どちらが間違っているという話ではない。ましてや、ブチャで起きた惨劇が「戦争プロパガンダ」だなどと主張したいわけでもない。
どんな国でも戦争というものに突入して、そこで勝つためにはこのようなプロパガンダを駆使しており、そこでは時にフェイクニュースも平気で垂れ流しているという醜悪な現実がある。そういう「情報戦」に日本人があまりにも無防備ではないか、ということを指摘したいだけだ。
「情報戦」に無防備ということは、簡単に他国のプロパガンダに踊らされてしまう「お人よし」な部分があるということでもある。
これまで見たように、欧米では戦争中にうそをつくのが当たり前で、今はプーチンをぶっ潰すような威勢のいいことを言っているが、自分たちの国が損をしそうになれば、あっさりと前言を翻してロシアと手打ちにすることだってあり得る。
気がついたら、「アジアのリーダー」なんておだてられて、西側諸国に忠犬のようにくっついていて日本だけがバカを見るなんてこともなくはない。
いい加減そろそろ、「アメリカ様にくっついていれば日本は安全」みたいな「平和ボケ」から脱却すべきではないか。
●プーチン大統領「ウクライナの挑発だ」市民殺害 責任問う声  4/7
ウクライナの首都近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったことについて各国の間からロシアの責任を厳しく問う声が相次ぐ中、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナ政府の挑発だ」と一方的に主張しました。アメリカとイギリスはロシアに対する新たな制裁を発表するなど圧力を強めています。
首都周辺“ロシア軍地上部隊 完全に撤退”米国防総省
アメリカ国防総省の高官は6日、ウクライナの首都キーウ周辺に展開していたロシア軍の地上部隊が完全に撤退したという見方を初めて示しました。また北部のチェルニヒウ周辺に展開していた部隊も完全に撤退したとしています。ロシア軍は軍事作戦の重点を東部に移し攻撃を強めていて、ロシア国防省は6日、東部のハルキウや南部ミコライウなどに駐留するウクライナ軍に燃料を供給していた施設をミサイルで破壊したと発表しました。
米・英は新たな制裁発表
一方、ロシア軍が撤退したキーウの北西の町、ブチャでは多くの市民が殺害されているのが見つかり、欧米各国の間からは戦争犯罪だとしてロシアの責任を追及する声が広がっています。アメリカとイギリス政府は6日、ロシアに対する新たな制裁を発表し圧力を強めています。ロイター通信によりますと、ブチャだけでなくキーウから北西およそ50キロにあるボロジャンカで倒壊した建物から多くの住民とみられる遺体が見つかりました。ウクライナのベネディクトワ検事総長はブチャを上回る被害が出ているとしていて、今後被害の実態がさらに明らかになる可能性があります。
プーチン大統領「ウクライナ政府の挑発だ」
ブチャで大勢の遺体が見つかったことについてロシア側は「ウクライナ側による、ねつ造だ」などと主張していますが、ロシア国防省は6日「ボロジャンカや北東部スムイ州のコノトプなどで同様の挑発が行われている」としてウクライナ側が各地でねつ造を繰り返していると主張しました。またロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は6日、ハンガリーのオルバン首相との電話会談の中でブチャで起きたことはウクライナ政府による挑発だと述べたということです。ロシア軍の関与を否定するとともに、住民が殺害されたのはウクライナ側のねつ造だと一方的に主張したものとみられます。
ロシア「期待よりもペース遅い」 停戦交渉は停滞か
こうした中、ここ最近、目立った進展が伝えられていない停戦交渉についてロシア大統領府のペスコフ報道官は6日「作業のプロセスは続いているが、われわれの期待よりもはるかにペースが遅い。長い道のりが待っている」と述べたうえで、ウクライナ側が事態を混乱させていると非難し、交渉は停滞しているとみられます。
●女性捕虜の「頭髪そり上げ尋問」「男性の前で全裸に」…ロシア軍の虐待 4/7
ウクライナ最高会議(国会)の人権オンブズマンは5日、侵攻を続けるロシア軍が捕虜のウクライナ軍女性兵士を虐待していたと指摘した。虐待を受けた人数は明らかにしていないが、今月初めに、ロシアとの捕虜交換でウクライナに帰還した15人とみられる。
露軍が、女性兵士をロシア西部に連行した際、頭髪をそり上げて何度も尋問していたほか、男性の前で全裸にさせるといった性的虐待も加えたとしている。
人権オンブズマンは、国連や全欧安保協力機構(OSCE)に、捕虜への人道的処遇を定めたジュネーブ条約に違反すると訴えた。
捕虜の処遇を巡っては、ウクライナ側も、捕虜のロシア兵の個人情報を明かしたり、ロシア兵を脅し、その様子をSNSで公開したりしていたとして、国際人権団体から同条約に違反すると指摘されている。
●ロシア軍がキーウなどから完全撤退、東部に再投入か… 4/7
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナ情勢を巡り、米国防総省高官は6日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)と北部チェルニヒウ周辺に集結していた露軍部隊が完全に撤退したとの分析を記者団に明らかにした。部隊は東部地域に再投入される可能性が高いとみており、ウクライナ政府は、東部の住民に即時避難を呼びかけた。
高官によると、撤退した部隊は隣国ベラルーシに入ったほか、一部はロシアに戻っているという。高官は、東部に再投入するための補給や整備には「それほど長い時間はかからない」との見通しを示した。再投入されれば東部で攻撃がさらに激化する可能性があり、英BBCによると、ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は「(今後)戦火に見舞われ、死の脅威に直面する」として、住民に警戒と速やかな退避を訴えた。
高官はまた、露軍が撤退した地域では、地雷が敷設された可能性があるといい、除去に一定の時間がかかるとの見方を示した。
露軍が一時占拠したキーウ近郊ブチャでは民間人とみられる多数の遺体が見つかり、キーウ近郊ボロジャンカなど他の地域でも民間人の被害が次々と明らかになっている。
タス通信によると、ブチャでの民間人殺害について、プーチン露大統領は6日、「ウクライナ政府による粗野で冷淡な挑発行為」と述べ、露軍の関与を否定した。ハンガリーのビクトル・オルバン首相との電話会談で語ったもので、ブチャの民間人殺害についてプーチン氏の発言が伝えられるのは初めてとみられる。
一方、露軍による包囲と激しい攻撃が続く南東部マリウポリの市議会は6日、露軍が「移動式の火葬施設」を稼働させたとSNSで明らかにした。露軍の侵攻により死亡した地元住民らの遺体を、地元の協力者が集めて焼却しているという。
ブチャでの民間人殺害を受け、露軍の「戦争犯罪」に非難が高まっていることから、市議会は「ロシアの最高指導部が露軍による犯罪の証拠隠滅を命じた」と批判している。
ウクライナ国営通信によると、露軍による包囲開始から1か月以上が経過したマリウポリでは、少なくとも住民5000人以上が死亡したとみられている。依然約10万人が取り残されているとみられ、戦闘がさらに長期化すれば犠牲者が増えるのは必至だ。
●英外相「プーチンの戦争マシンを破壊」…米英がロシアに追加制裁  4/7
米国のバイデン政権は6日、ロシア最大手銀行ズベルバンクの資産凍結や米国との取引禁止などを盛り込んだ新たな追加制裁を発表した。英国も6日、ロシア産石炭の輸入を今年末までに止める追加制裁を打ち出した。ウクライナに侵攻したロシア軍が多数の民間人を殺害した疑いが強まったことを踏まえ、先進7か国(G7)はロシアへの圧力をさらに強める方針だ。
バイデン大統領は6日の演説で、「戦争犯罪の責任を追及するため、同盟国は団結しなければならない。ロシアの経済的な孤立をさらに深める」と訴えた。
米国はズベルバンクに対し、既に米金融機関との取引を禁じていたが、米国内の資産を凍結し、米国の企業や個人との取引も禁止する。ロシア4位で民間銀行最大手のアルファバンクも制裁対象とし、米国と取引できなくする。
ズベルバンクは、世界最大級の国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT、本部・ベルギー)からの排除対象からは外れていたが、締め付けをより厳しくする。
米国からロシアへの新規投資の全面禁止や、米金融機関を通じた債券の償還や利払いの禁止も盛り込んだ。米財務省はドル建てロシア国債の支払いを認めず、ロシアが債務不履行(デフォルト)に陥る可能性が高まっている。
個人制裁の対象も拡大し、プーチン氏の娘2人、セルゲイ・ラブロフ外相の家族、メドベージェフ元大統領らを指定した。米国内の資産が凍結される。
英政府も米国と歩調を合わせた。既に表明していたロシア産石油製品の段階的な輸入停止に加え、石炭の輸入も今年末までに止める。天然ガスもその後、速やかに輸入停止する。来週には石油の精製に必要な機器の輸出を止め、石油製品の生産と輸出に打撃を与える方針だ。
金融制裁も強化し、ズベルバンクとモスクワ信用銀行の資産を凍結する。プーチン政権を支える新興財閥(オリガルヒ)の8人を新たに資産凍結などの制裁リストに加える。
英国のエリザベス・トラス外相は声明で、「新たな制裁でプーチン(大統領)の戦争マシンを破壊する。我々はウクライナが勝利するまで手を止めない」と強調した。
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は5日、石炭の輸入停止やロシア大手行との取引停止など新たな制裁案を示した。6〜7日に開かれる加盟国の大使級会合で合意を図るが、制裁対象などを巡り意見集約は難航している。
米英の対露追加制裁のポイント
米国
・ロシアへの新規投資禁止
・最大手銀行ズベルバンクの米国内の資産凍結、米企業や個人との取引禁止
・プーチン大統領の娘2人、ラブロフ外相の家族らを制裁対象に追加
・主要な国有企業との取引禁止
英国
・ロシア産の石油、石炭、天然ガスの輸入を停止
・ズベルバンクの英国内の資産を凍結
・オリガルヒの8人を制裁対象に追加
●ウクライナの数万人、ロシア国内の「収容所」に連れ去られた… 4/7
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日、国連安全保障理事会にオンライン参加し、世界の平和と安定に責任を持つはずの安保理が常任理事国ロシアの拒否権行使で機能していないと批判、改革の必要性を強調した。
大統領は「拒否権が『人々に死をもたらす権利』とならないよう、国連のシステムは直ちに改革されなければならない」と訴えた。
首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで多くの民間人の遺体が見つかったことについては「露軍と命令を下した者が戦争犯罪で直ちに裁かれなければならない」と責任追及を求め、国際法廷の設置も提案した。
これに対しロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は「露軍に関する大量のうそを聞いた」と民間人殺害への関与を否定し、「我々は民間人や民間施設を砲撃していない」と強弁した。
会合ではロシア批判が相次いだ一方、米国の国連大使はウクライナ市民数万人が露国内の「収容所」に連れ去られたとの「信用できる報告」があると明かした。
●プーチン大統領 なぜ高支持率? 独立系世論調査機関幹部が分析  4/7
ロシアにある独立系の世論調査機関「レバダセンター」で長く所長を務め、ロシア社会について独自の分析を続ける社会学者としても知られるレフ・グドゥコフ氏(75)がモスクワ市内でNHKのインタビューに応じました。
“国営メディアで意図すり込み”
この中でグドゥコフ氏は軍事侵攻から1か月がたった先月下旬「レバダセンター」が行った世論調査でロシアのプーチン大統領の支持率が83%と、およそ4年ぶりに80%を超えた背景について「支持する人の多くは高齢者や地方に住む人たちなどで、彼らの唯一の情報源となっているのが政権のプロパガンダを伝える国営放送だ」と述べ、多くの人が国営メディアで伝えられることが事実だと政権の意図をすり込まれているためだと指摘しました。
「非ナチ化」で軍事侵攻を正当化
そのうえで「国民は戦争を望まず恐れていた。だからウクライナの『非ナチ化』ということばを作る必要性が出てきた。実際、ナチズムやファシズムということばを使って相手を批判するやり方はロシア社会をまとめるうえで効果的だ。こうした表現や、うそを並べ立てた大衆の扇動がプーチン氏の政策を支持させるために不可欠だとみているのだろう」と述べ、プーチン大統領がウクライナのゼレンスキー政権を一方的にナチス・ドイツになぞらえ「非ナチ化」の必要性を繰り返し強調するのは、国民向けに軍事侵攻を正当化するためだと分析しました。
プロパガンダと情報統制の結果…
グドゥコフ氏によりますと、ウクライナで2013年、ロシア寄りの政権への市民の抗議活動が起きる前はEU=ヨーロッパ連合の加盟を目指すウクライナに対して「ロシアは干渉すべきでない」という意見が75%に上ったのに対して「武力も含めて断固阻止すべき」という回答は22%だったということです。しかし「『アメリカが主導する形でウクライナの東部や南部でロシア系住民の安全が脅かされている』というプロパガンダが語られると状況は一変した」と述べ、プーチン政権によるプロパガンダと情報統制の結果、政権が「特別な軍事作戦」と称するウクライナ侵攻を事実上受け入れる世論が形成されたと指摘しました。
プーチン大統領の考えの原点「怖いからこそ尊敬される国家だ…」
またプーチン大統領のこうした考えの原点についてグドゥコフ氏は「ロシアのファシズムだ」と表現し「強制力や権力の集中に依存し特殊機関の職員を社会の要職に配置することで経済や教育、宗教まで管理を強化しようとしている」と分析しました。そしてプーチン大統領が旧ソビエトの情報機関KGB=国家保安委員会の出身であることを強調したうえで「軍の司令部などと手を組みおそれられる強力な国家を夢みている。怖いからこそ尊敬される国家だ。『恐怖による支配』こそが国家を形成すると信じていて『核兵器を保持している』ことが世界から尊敬される理由になると考えている」と指摘しました。
「プーチン大統領は明らかに目が曇ってしまっている」
そのうえで「彼の最大の過ちは第2次世界大戦以降の国際関係の構造全体に実際に危機をもたらしたことだ」と批判し「プーチン大統領はウクライナへの憎しみと異常なまでの執着によって明らかに目が曇ってしまっている」と述べ、今後さらに攻撃を続けていくことに懸念を示していました。
「レバダセンター」とは
「レバダセンター」は2003年、リベラルな社会学者のユーリ・レバダ氏が設立しました。レバダ氏はソビエト時代末期に発足した政府系の世論調査機関で活動していましたが、志を同じくする同僚とともに独立してレバダセンターを立ち上げ、政府から財政支援などを受けることなく独自の世論調査や分析を続けています。
日本や欧米の政府や団体とも協力して調査を行っていて、2006年にレバダ氏が死去したあとは社会学者のレフ・グドゥコフ氏が所長を引き継ぎました。ロシアの政治経済や社会問題などを幅広く扱い、10年ほど前からは研究報告の中で「ロシアは腐敗した権威主義的な国になりつつある」といった政権批判も展開するようになりました。
レバダセンターは2016年、国外から資金を得て「政治活動」に関わっているなどとして、プーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され厳格な収支報告を求められているほか、発表資料に「外国の代理人」であることを明示するよう義務づけられるなど圧力を受けています。
これに対してレバダセンターは政権に批判的な姿勢を変えることなく世論調査や分析を続けていてグドゥコフ氏自身、去年5月に所長を退任したあとも研究部長として国内の社会問題を鋭く分析しリベラルな論客として活動しています。
●EUの盟主から一気に転落…プーチンを信じて親ロシアを続けてきたドイツ 4/7
「あなた方は経済ばかり!」ゼレンスキー氏から猛批判
3月17日、ゼレンスキー・ウクライナ大統領がドイツ国会でオンラインスピーチをした。その直前、キーウでミサイル攻撃があったことで開始が遅れ、ようやく氏の顔がモニターに映し出されると、安堵(あんど)した議員たちが盛大な拍手。ところが、スピーチが始まったら、そこにはドイツに対する強烈な批判が盛り込まれていた。
「ガスパイプラインの建設は、(ロシアの)戦争準備だと散々言ったはずだ。しかし、あなた方の答えはいつも、『経済、経済、経済! 』」
そういえば、確かについ最近までショルツ独首相はノルドストリーム2の中止を迫られると、「あれは民間事業なので……」と言い逃れをしていたものだ。
ノルドストリームはその成り立ちからして、社民党の虎の子プロジェクトだ。とはいえ、現在、ドイツがエネルギーで窮地に陥ってしまった責任は、もちろん現社民党政権だけにあるわけではない。国の内外からのすべての警告を無視して、ここ10年、ロシアからのエネルギー輸入を急速に拡大し続けたのは前メルケル政権だ。
ノルドストリーム、脱原発…シュレーダー政権の遺産
メルケル氏のモットーは、「自由市場の原則に基づいて交易を深めていけば、どんな国にもおのずと民主主義が根付き、しかも、互いの依存度が増すので争いは鳴りを潜める」というもの。「日本国民は戦わず、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼しよう」という日本の精神と、少し似ている気がしないでもない。いずれにせよこの論を掲げて、ドイツ政府はロシアのみならず、昨今では中国との結託をも大いに正当化してきた。
1本目の海底パイプライン「ノルドストリーム」が開通したのは2011年のことだ。これは05年、まもなくメルケル氏に政権を明け渡さなければならないかもしれないと悟った当時のシュレーダー首相(社民党)が、選挙の直前に、かなりグレーな手法で締結に持ち込んだ世紀の大プロジェクトだった。
脱原発=ガスしか頼れないと分かっていた
シュレーダー氏は選挙での敗北後、政治から退き、運営会社ノルドストリームAGの幹部となり、今では(今もというべきか! )ロシア最大の石油会社のロスネフチの重役まで兼業している。言うなればプーチンの忠実なる僕(しもべ)だ。
実はドイツの脱原発政策の青写真を引いたのも、1998年に政権をとったシュレーダー政権だった。シュレーダー氏はその頃すでに、将来、原発がなくなれば、いくら再エネが増えようが、頼りになるのはガスしかないということが分かっていた。つまり、脱原発とガスパイプライン建設には整合性がある。
そのシュレーダー氏、今や社民党の目の上のたんこぶどころか、ドイツ国民の鼻つまみ者になっているが、いまだにプーチン大統領との「男の友情」は続いているらしく、3月11日、モスクワに飛んだという。ただし、社民党の誰もがシュレーダー氏の訪露など知らないと言っている上、その後の経過も一切報じられず、モスクワでの写真もなく、はたしてプーチン大統領に会ったのかどうかも分からない。
唯一の証拠(? )は、彼の韓国人妻が、モスクワの夜景を背景にして写っているインスタグラムの写真。目を閉じ、両手を合わせ、まるで聖母マリアのようなこの写真には、さすがのドイツ人も失笑を通り越し、嫌悪感をあらわにした。この女性はシュレーダー氏の5人目の妻で、ちなみに歳の差は26歳。
EUで一人勝ち状態だったが…
いずれにせよ、2011年以来、シュレーダー氏の1本目のパイプラインのおかげで、安価なガスがロシアからドイツへ直結で送られてくるようになり、ドイツ経済は大いに潤った。さらに、ユーロ圏で金融政策が統一されていたことが幸いし、調子づいたドイツは、ドイツにとっては安くて有利な為替でどんどん輸出を伸ばした。そして、いつしかEUの中で一人勝ちと言われるようになったが、その一人勝ちをさらに強化しようとして計画されたのが「ノルドストリーム2」だった。
しかし、「ノルドストリーム2」には米国だけでなく、ほぼすべてのEU国が反対だった。第一の理由は、もちろん、ロシアに対するエネルギーの過度な依存だが、その他、ウクライナやポーランドなどは、ノルドストリーム2が開通すれば、自国を通っていた陸上パイプラインがご用済みとなるので反対、デンマークは自国の領海の生態系が乱されるとして反対した。トランプ大統領が就任すると、ノルドストリーム2の建設はついに中断するに至った。
ドイツの政策を完全に狂わせたウクライナ侵攻
ところが、その後任であるバイデン大統領は、政権に就くや否やメルケル前首相に巧みに懐柔されたらしく、止まっていた工事は速やかに再開。ちなみに、メルケル前首相はプーチン大統領とは常に仲が悪そうに装いつつ、最終的に彼女が採った対ロシア政策は、すべて独ロ互助だった。
メルケル氏といえば、EUの牽引役、民主主義の保護者など、日本では名君として名前が知られているが、実は、彼女の過去の行動には、不可解なことが山ほどある。それについては、拙著『メルケル仮面の裏側』(PHP新書)に詳細に記したので、興味のある方はお手に取ってくださればうれしい。
この後、ドイツはあらゆる反対をものともせずに突き進み、パイプラインがようやく完成を見たのが2021年の9月。12月にはガスまで注入され、ゴーサインを待つだけとなっていた。昨今、ドイツが輸入していたガスのロシアシェアは55%を超えていたが、このパイプラインが開通したなら、シェアは70%以上に増えるはずだった。それで安心していたらしく、昨年の暮れ、ブラックアウトの危機まで囁(ささや)かれる中、ドイツは6基残っていた原発のうちの3基を果敢にも止めた。
ところが、ロシア軍のウクライナ侵攻でその計画は覆った。そして、ドイツのエネルギー政策は完全に破綻した。
ガス不足、料金高騰、難民、インフレの四重苦
ドイツは今や、ガスの不足、高騰、そして、ウクライナからの難民、インフレの四重苦に襲われている。しかし、その苦境につけこむがごとく、EUの多くの国はロシアのエネルギー・ボイコットを叫ぶ。ロシアのガスは、ロシアに毎日4億ユーロ(約542億円)をもたらしているため、これを断とうというのが彼らの主張だ。
ただ、本当にボイコットすれば、実は皆、困るが、一番困るのはやはりドイツだ。ドイツが輸入しているロシアガスは、量が量なのでそう簡単に他に切り替えられそうにない。それどころかドイツには、液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地さえ1基もない。これまで安いガスがあったため、誰もそんなものには投資しなかったからだ。
つまり、今、ガスが止まれば、ドイツの産業は間違いなく瓦解する。だったらドイツに、「ボイコットは無理です」と言わせようというのが、おそらくEUの国々の胸の内だ。
これまで肩で風を切っていたドイツのことを腹立たしく思っているEU国は、そうでなくても多い。今やEUサミットは、ドイツにとっては針のむしろ。「ディ・ヴェルト」紙はこれを、“カノッサの屈辱”に喩(たと)えたほどだ(1077年、ローマの王であるハインリヒ4世が、ローマ教皇に破門の解除と赦しを乞うため、雪の中、カノッサ城の門の前で3日間も立ち続けたという話)。国際社会とは怖いところだ。
フランス、イタリアが画策する「ユーロ圏の共同債」
さて一方、このまたとない機会に乗じて、フランスとイタリアが、かねてどうしてもできなかったことをやろうと張り切っている。
3月10日、マクロン仏大統領がホストとなり、臨時のEUサミットがベルサイユ宮殿で開催された。フランスとイタリアの懸案はEUの財政改革。つまり、EUの財政の統一である。それが実現すれば、EUが共同で借金できるようになる。南欧の経済悪化組にとってはまさに千載一遇のチャンスであるが、ドイツにしてみれば、金遣いの荒い破産寸前の親戚にクレジットカードを託すようなもの。国民の抵抗も大きい。
ユーロ圏の金融政策を司るのは欧州中央銀行だが、現在、総裁は、仏クリスティーヌ・ラガルド氏で、前総裁のマリオ・ドラギ氏は現イタリア首相だ。彼らが手綱を握る欧州中央銀行の金融政策は、以前より非難され続けていたが、インフレが進み、ハイパーインフレの危険まで囁かれている今でさえ、彼らはマイナス金利を変えようとはしない。
これではインフレを抑制できないことは自明の理だが、かといって引き締めに切り替えれば、フランス、イタリアなど南欧の財政悪化組がデフォルトを引き起こす危険が増す。つまり、ジレンマでにっちもさっちも行かないというのが、ユーロ圏の金融政策だ。これではお金はますます財政安定国ドイツやオランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマークなどに流れていく。
「尻拭いは困る」と反対したメルケル首相だったが…
この流れを変えることに成功したのが、2020年のコロナ債だった。コロナで甚大な被害を受けた国々は、自力での復興は不可能だということで、その救済に充てるためのEUの共同公債のアイデアが、初めて浮上した。イタリアが持ち出したアイデアで、赤字国のリーダーであるマクロン大統領が、「これほどEUの連帯にふさわしいものはない」と絶賛。しかし、ドイツは当初、財政規律を厳しくしてきた自分たちが借金国の尻拭いをするのは困るとして、他の財政健全国を束ねて反対に回った。
ところが、この時もメルケル首相は突然豹変し、20年7月に開かれたEUの臨時サミットでは、マクロン大統領と共にコロナ復興基金の設立を呼びかけた。総額7500億ユーロのうち、3900億ユーロは返済なしの給付金なので、イタリアなどは沸いた。一方、前述の財政健全国は、メルケルにはしごを外された形となった。くしくも、この決定は7月、ドイツが欧州理事会の議長国となった途端に行われた。
ただ、この時のコロナ復興基金は、総額の9割が「欧州グリーンディール」や「デジタル戦略」との抱き合わせになった。すなわち、融資にせよ、給付にせよ、コロナ救済資金の申請条件は、ただの復興ではなく、温暖化対策やデジタル化に資する使い道でなければならなかった。
欧州のパワーバランスが崩れつつある
そして、おそらく今回、それと同じような公債が、マクロン・ドラギ組によって、インフレショックを和らげるといったような名目で持ち上がる可能性が高い。そして、この動きは今回こそ、EUを間違いなく財政統一の方向に誘導すると想像される。そうなれば、ドイツの経済優位は次第に崩れていくだろう。
もともと、社民党と緑の党はEUの財政統一には賛成の立場をとっており、20年にEUコロナ債を率先して作ったのも、当時、財相であったショルツ氏だった。なお、政権党の一角を担う自民党は、本来ならば財政規律を強化することを公約としていたが、事態はまさにその反対方向に進もうとしている。
いずれにせよ、今、ドイツの立場は極めて弱い。「ドイツはロシアに依存してはいない」という主張が脆くも崩れ、ノルドストリーム2が事実上停止に追い込まれ、さらに、もうしばらくはロシアのガスを買い続けることを、EUに大目に見てもらわなければならない。つまり、この追い詰められたような立場が続く限り、ドイツが共同債に強く反対することはできない。
ロシアのウクライナ侵攻は、思いもよらぬヨーロッパの力学の転換をもたらすかもしれない。
●ウクライナがブチャで「挑発行為」 ロシア大統領が非難 4/7
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は6日、ハンガリーのオルバン・ビクトル(Viktor Orban)首相と電話会談し、多数の民間人が遺体で見つかったウクライナの首都キーウ郊外ブチャ(Bucha)でウクライナ側が「粗野で冷淡な挑発行為」を働いていると非難した。
ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)によると、プーチン氏は会談で、ロシアとウクライナ間の協議の状況や、ブチャでのウクライナ政権の「粗野で冷淡な挑発行為」についての見解を共有した。
ブチャについては先週末、ロシア軍撤退後の市内に遺体が散乱している様子を各メディアが報道。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は、ロシア軍が多数の市民を殺害したと非難している。
ロシア国防省は、ウクライナ北東部のコノトプ(Konotop)とトロスティヤネツ(Trostyanets)、キーウ近郊のボロディヤンカ(Borodyanka)やカチュジャンカ(Katyuzhanka)で、ウクライナ当局が「同様の挑発行為」を準備していると主張している。
一方、オルバン首相は会談後の記者会見で、プーチン氏に対して即時停戦を促し、フランス、ドイツ、ウクライナの首脳とハンガリーの首都ブダペストで会談するよう提案したことを明らかにした。
また、ハンガリーはロシア産天然ガスの対価をルーブルで支払う用意があると表明した。ルーブル建て払いはロシアが要求しているもので、欧州連合(EU)加盟国としては初の対応となる。
●なぜロシア人はウクライナ戦争の真実を見ようとしないのか 4/7
ロシアの最も信頼できる独立系調査機関のレバダセンターが発表した世論調査によると、「戦争効果」でプーチン大統領の支持率が押し上げられているようだ。
2月に71 %だった支持率が最新調査では83%まで上昇している。厳しい経済制裁、戦場での膨大な数の死傷者、世界のメディアによる非難の大合唱の下でも、いまプーチンは過去最高水準の支持率を獲得しているように見える。
どうして、こんなことが起きるのか。ロシアの有名テレビ司会者(現在は国外に脱出)は、プーチンを支持するロシア人の心理をこう説明する。
「私たちは自分の着る服を自分で作ることはしない。それは、服のメーカーを信用しているからだ。ロシア人は、ニュースに関しても、作り手、つまり政府が提供するものを信じている。プーチン体制下の22年間、ロシア人は基本的に1つの情報源からしか情報を得ていない」
とはいえ、今日はインターネットでさまざまな情報を入手できる時代だ。どうして、ロシア人は真実を見ないのか。
長時間労働と家事や育児に追われる大多数の国民にとっては、テレビをつけて、そこで報じられている情報を信じるほうが楽なのだ。戦争が始まって以来、ロシア政府は独立系のメディアや政府に批判的なメディアを徹底的に抑え込んできた。
2021年にノーベル平和賞を受賞したドミトリー・ムラトフが率いるノーバヤ・ガゼータ紙も活動停止に追い込まれた。しかし、この種のメディアはそもそも多くの読者を獲得していたわけではない。多くは既に国外に逃れたリベラル派が熱烈に支持していただけだ。
国民の圧倒的多数は、政権の振り付けどおりの報道を行う国営テレビ以外に目を向けようと思わない。
もう1つ否定できない現実がある。人間は自分が信じたいものを信じる性質があるのだ。
ロシアが虚偽情報を流していると批判するウクライナ人のジャーナリストも「戦時に人々の士気を高めるためには、都市伝説が必要」だと述べている。ロシア軍機を次々と撃墜したとされるウクライナ空軍の戦闘機パイロット「キーウ(キエフ)の幽霊」のストーリーはその典型だ。
ロシアで暮らしていたときに私が理解できなかったことの1つは、第2次大戦の対独戦勝記念日(5月9日)を大々的に祝うことだ。
独ソ戦では2000万人以上が犠牲になり、これをきっかけにソ連のスターリン独裁体制がいっそう強化された。こうした点を考えると、この記念日を派手に祝うことは不可解にも思えるが、ロシア人のアイデンティティーは侵略への抵抗と密接に結び付いていて、その歴史が半ば神格化されている。
ロシア人は、このアイデンティティーを覆す情報をわざわざ探し出す必要性を感じていない。人間は、自分が理想と考えるアイデンティティーに沿った情報を見聞きしたいものだ。その結果、今回の戦争でも「わが国はウクライナ人を抑圧から解放しようとしているのだ!」と信じている。
しかし、政府に都合の悪い情報を徹底的に抑え込もうとすれば情報統制に亀裂が生じる。プーチン政権の「特別軍事作戦」が順調に進んでいるのであれば、どうしてあらゆる情報が規制されるのかと、ロシアの人々は疑問を持つようになるだろう。
既に25 歳未満の国民の過半数は軍事作戦に反対している。この層は、政府が発する情報以外の情報に最もアクセスしている人たちだ。情報統制に亀裂が生まれれば、いずれはそこから水が噴き出す。
人々にとって真実を見ることは愉快でないかもしれないが、いやでも目に入るときはあるのだ。 
●米国が新たな経済制裁を発表 4/7
米国が6日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアの最大手銀行の資産凍結など、新たな経済制裁を発表した。また、ウクライナ国防省が6日に公開したドローン映像に、チェルノブイリ原子力発電所周辺に残されたロシア軍のざんごうなどが映っており、ロシア兵が被ばくした可能性があるという。ウクライナ情勢を巡る日本時間7日などの動きをまとめた。
チェルノブイリ原発周辺の映像公開 露軍のざんごうか
ウクライナ国防省は6日、ロシア軍が占拠していたチェルノブイリ原発の近くをドローンで撮影した映像を公開。露軍が掘ったとされる複数のざんごうや車両が移動した跡が映り、周辺に滞在したロシア兵が被ばくした可能性を示している。
米国が新たな経済制裁 露の最大手銀行の資産を凍結
米バイデン政権は6日、ウクライナに侵攻したロシアへの新たな経済制裁を発表。ロシア最大手の国有銀行ズベルバンクの資産を凍結し、米国の金融機関や企業との取引を停止させる。
国連総会、人権理のロシア資格停止を採択へ
国連総会(193カ国)は7日、ウクライナ情勢をめぐる緊急特別会合で、国連人権理事会におけるロシアの理事国としての資格を停止する決議案を採決にかける。主導する米国によると、採択される可能性が高い。採択されればロシアは国際機関での席も失うことになる。
露財閥によるテレビ局設立の経緯 米捜査で明らかに
ロシアのプーチン政権に近いとされる新興財閥(オリガルヒ)の有力者が2015年以降、米保守系のFOXニュースの元ディレクターを勧誘し、ロシアやギリシャ、ブルガリアで放送局設立を進めていたことが、米司法当局の捜査で明らかになった。
マリウポリに支援物資届けられず ゼレンスキー氏が非難
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、ロシア軍の包囲が続く南東部の港湾都市マリウポリで、依然として人道支援物資を届ける許可がロシア側から下りていないことを明らかにした。ゼレンスキー氏は、残虐行為が「世界に露見することをロシアは恐れている」と強く非難した。
ウクライナ副首相、東部住民に避難呼びかけ
ロシアによる侵攻が続くウクライナのベレシチューク副首相は6日、東部ドネツク、ルガンスク両州と北東部ハリコフ州の一部の住民に対し、早期に安全な地域に移るよう呼びかけた。東部では近くロシア軍の大規模な攻勢が予想されるが、攻撃が続く中での避難は難航している。
●ウクライナ侵攻「少なくとも数年 」米で長期化懸念も  4/7
ロシアによるウクライナ侵攻、アメリカ政府からは長期化する可能性を指摘する発言が出始めています。
5日、議会下院の公聴会でアメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は「ウクライナでは今も地上戦が続いているがこれはロシアが起こした非常に長期化する争いだ。10年かかるかはわからないが、少なくとも数年であることは間違いない」と述べました。
そして「NATO=北大西洋条約機構やアメリカ、それにウクライナを支援するすべての同盟国や友好国は長い間、関与することになるだろう」と指摘し、ウクライナや周辺地域の安定に向けて関係国は長期にわたる関与が必要になるという認識を示しました。
アメリカ政府からは東部のルハンシク州とドネツク州で戦闘が長期化するという見方が出ているほか、ロシア軍が仮にこの二州を制圧しても戦闘を終わらせないのではないか という見方も出始めています。
●ウクライナ戦争長期化の様相 「出口戦略」見えず 4/7
ロシアがウクライナ侵攻の所期目標を達成できず東部戦線に集中しつつある中、バイデン米政権は戦争が長期化するとの見通しを強めている。多数の民間人殺害が判明し、ウクライナ側も抗戦の意を強めているとみられ、停戦交渉の行方は不透明だ。ロシア、ウクライナともに「出口戦略」を見いだせない様相といえる。
「この戦争は長期間続くかもしれないが、米国はウクライナを支え続ける」。バイデン大統領は6日、支持者の集会で語った。
米政権は、首都キーウ(キエフ)制圧とゼレンスキー政権転覆を短期間で達成するプーチン露大統領の「所期目標」が、ウクライナの軍・国民の強靱(きょうじん)さと、西側諸国の結束を前に失敗に終わったと断定している。
露軍は親露派勢力が実効支配する東部ドンバス地域の戦闘に目標をシフトしたが、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「次の段階は数カ月かもっと長くなるかもしれない」との見通しを示した。
ウクライナ全体を不安定化させるためキーウや南部オデッサ、西部リビウなど主要都市へのミサイル攻撃も継続するとみられるが、「ロシアの中長期的な目標は何か、はっきりしない」と国防総省高官は漏らす。
ウクライナ側はキーウ州全域を奪還し、露軍がいったん制圧した南部ヘルソンでも反撃を強め、東部でも激しく戦う。キーウ近郊のブチャで発覚した民間人の殺害を契機に、ロシアの「戦争犯罪」の責任追及を迫る声も国際社会で高まる。しかし、ウクライナにとっても、好転した戦況と国際的な対露圧力でロシアから譲歩を引き出すには、ほど遠いのが現実だ。
国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏は米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で、第一次大戦で独仏戦が双方の所期目標を達成できず長期化した例を引き合いに、「どちらも勝ち方が分からない戦争に立ち往生し、双方が受け入れ可能な和平の輪郭を見いだすのが難しい」との見解を示した。
バイデン政権は「軍事的目標、交渉の目的を定めるのは彼らだ」(サリバン補佐官)とし、米国は可能な支援を継続するが、出口戦略を決めるのはウクライナ側との立場を崩さない。
隣国ルーマニアのバセスク前大統領の外交顧問を務めた米政策研究機関・中東研究所のユリア・ジョジャ氏は本紙取材に「ウクライナが戦争から抜け出す唯一の可能性はロシアに打ち勝つこと」と指摘する。最低でも侵攻前の領土を取り戻し、ロシアが撤退を考えざるをえない状況に持ち込まない限り、攻撃を再開する過去の侵略パターンが繰り返されるとの見方だ。
だが、プーチン氏は5月9日に第二次大戦対独戦勝記念日を控え、初期の軍事的失敗を隠す「成功物語」(米政府高官)を国民に示そうとしているとみられる。そのため手段を選ばず大量破壊兵器使用にエスカレートするリスクが一部で懸念されている。
●ロシアのルーブル安阻止でウクライナ戦争の財源流出=米高官 4/7
アディエモ米財務次官は7日、ロシアが西側諸国の制裁措置に対抗してルーブル安を阻止する取り組みによって、ウクライナでの戦争に振り向ける財源が流出しているとの見方を示した。
また、新たな制裁はロシアの防衛産業を対象としており、材料や部品の入手が困難になるだろうと改めて述べた。
ロシアのシルアノフ財務相は7日、財務省および中央銀行がルーブルの変動を抑え、より予測しやすくするための対策に取り組んでいると述べた。インタファクス通信が報じた。
●ガソリン・電気代も高騰。ロシア・ウクライナ情勢で懸念されるエネルギー問題 4/7
コロナ禍からの景気回復で石炭・液化天然ガスの需要が世界的に高まり価格が高騰した影響で、電気料金が値上がりしている。そこにロシア・ウクライナの情勢の緊迫化が加わり、エネルギー問題に拍車をかけている状態だ。日本国内の大手電力会社は、今年5月の電気料金の値上げを発表し、過去5年間で最も高い水準になっている。
室温管理が必要な食品加工業者やハウス栽培の野菜農家なども燃料費高騰の影響を受け、経費が数百万円単位で上乗せされることもありそうだ。加えて小麦や水産物の販売価格も値上げ傾向が続いている。
コロナ禍で困窮する日本の食産業に追い討ちをかける値上げラッシュの背景には何があるのだろうか。電気料金、ガソリンなどの燃料費の高騰の要因を探るとともに、エネルギー問題が野菜や資材、運送費の値上げにどう関係しているのか紐解いていく。
電気料金の値上げは9カ月連続 過去5年において最も高い料金に
東京電力をはじめとする大手電力会社10社の5月分の電気料金は過去5年間で最も高くなっている。東京電力は、4月から146円の値上げに踏み切り、全国で最も値上げ率が高い結果となった。
各電力会社が4〜5月にかけて、値上げした金額については以下の通りである。
[ 平均的な家庭の一カ月あたりの電気料金・2022年4〜5月にかけての値上がり ]
北海道電力 8,379円 57円増 / 東北電力 8,536円 105円増 / 東京電力 8,505円 146円増 / 中部電力 8,214円 138円増 / 北陸電力 7,211円 24円増 / 関西電力 7,497円 24円増 / 中国電力 8,029 円 24円増 / 四国電力 7,915 円 24円増 / 九州電力 7,221円 60円増 / 沖縄電力 8,847 円 24円増
東京電力の今年5月の一カ月あたりの電気料金は8,505円で、前年同月比では24.6%増、1年間で1,683円も値上がりしている。
法人契約の場合は家庭用電力のプランと料金形態が異なるため、どれくらい値上がりするのか一概にはいえないため、ここでは家庭用電力のプランを元に一カ月あたりの飲食店の電気代をシミュレーションしてみよう。
仮に昨年5月の一カ月あたりの電気料金が10万円で、今年度も同じ電力を使用したとすると、今年5月の請求額は25.6%増の125,600円になる。単純計算ではあるが、一カ月あたり25.6%増、つまり25,600円の電気代が上乗せされると、年間の電気代は30万円ほど増えることになる。
電気料金の値上がりによる経営逼迫(ひっぱく)を懸念する企業では、電気料金プランの見直しが進められており、夜間料金が安いプランや電気とガスのセット割が適応される契約に切り替えるなどの対策を立ててコスト削減に努めているところもある。
ガソリンが174円に値上がりする原因とは? 13年ぶりの高値水準を記録
電気料金の値上げは、燃料の輸入価格の上昇が影響している。それと同じ要因で国内のガソリン価格が13年ぶりの高値水準を記録した。国の委託で石油製品価格を調査している石油情報センターが3月30日に公表したデータによると、3月28日のレギュラーガソリンの店頭現金小売価格は1リットルあたり174円で、依然として価格高騰が続いている。
原油高高騰の長期化を受けた政府は、石油元売会社に1リットルあたり25円を上限に補助金を支給し、石油価格高騰の抑制する処置を下しているが、状況改善の目処は立っていない。これを受け政府は、原油価格上昇に関する特別相談窓口を各地に設置し、原油価格上昇の影響で、経営困難となる中小企業者に対しての資金繰りや経営に関する相談を受け付ける体制を整えた。
エネルギー問題でハウス栽培野菜の価格も高騰 毎月の負担額が150万円以上増えている企業も
こうした原油価格の高騰は、食品卸売業や食品加工業にも影響している。
食品関連の企業では品質維持のため、室内の温度管理が行われている工場も多いが、その燃料である重油価格が高騰していることから、毎月の負担額が150万円以上増えている企業も見られるという。
また、原油価格の高騰は室温管理が必要なビニールハウス栽培のコストアップにもつながっている。ワンシーズンで200万円以上の燃料費がかかる農家も珍しくないことから、たとえわずかな燃料費の値上がりでも経営に大打撃を受けてしまうのだ。
こうした複合的な要因が重なることで、食品業界でも価格改定がやむを得ない状況になっており、消費者からも家計への影響を実感しているとの声が上がっている。ロシア・ウクライナ情勢による様々な価格高騰が、日本の食卓にも少しずつ影をおとしてきているようだ。
●ロシアのウクライナ侵攻、日本国内での影響は? 生活にも直撃! 4/7
2022年2月24日以降、ロシアによるウクライナに対する大規模な軍事行動が続いています。1カ月以上にわたる戦闘が続くなか、徐々に日本国内においても影響がみられつつあります。そこで、帝国データバンクは、ウクライナ情勢に対する企業の見解について調査を実施しました。
ロシア・ウクライナ情勢、企業の50.3%で業績へマイナス影響を見込む
ロシア・ウクライナ情勢により自社の業績にどのような影響があるか尋ねたところ、『マイナスの影響がある』と見込む企業は50.3%と、約半数にのぼりました。その内訳は、「既にマイナスの影響がある」が21.9%、「今後マイナスの影響がある」が28.3%となっています。
他方、3割近くの企業で「影響はない」(28.1%)としたほか、5社に1社は自社業績への影響について「分からない」(20.7%)としていました。
一方で、『プラスの影響がある』と見込む企業は0.9%とわずかとなっています。しかし一部企業からは、「小麦の消費が減り、米の消費が増えればプラスの影響になる」(米麦卸売)や「ロシア製品との競合がなくなるため、自社としてはプラス要因」(一般製材)といった声があがっていました。
※『プラスの影響がある』は「既にプラスの影響がある」と「今後プラスの影響がある」の合計、『マイナスの影響がある』は「既にマイナスの影響がある」と「今後マイナスの影響がある」の合計
※小数点以下第2位を四捨五入しているため、内訳は必ずしも一致しない
ガソリンスタンドや貨物運送などで既に悪影響を受けている
とりわけ業績へ「既にマイナスの影響がある」企業を主な業種でみると、ガソリンスタンドやプロパンガス小売などの「燃料小売」が77.6%、「石油卸売」が71.2%となりました。
そのほか、軽油などの燃料が必要となる「一般貨物自動車運送」(48.9%)、石油由来の塗料やめっきなどの原料が高騰する「金属製品塗装等」(40.4%)が4割台に。ロシア産の木材不足が生じている「木材・竹材卸売」(38.0%)、小麦などの穀物製品の価格上昇などが影響する「飲食店」(34.7%)、「総合スーパー等」(31.9%)、「農・林・水産」(31.3%)が3割台で並んでいました。
企業からも「ロシア産原油の輸入規制による燃料価格の高騰をより一層懸念している」(一般貨物自動車運送)や「新型コロナの影響で仕入れコストが上がっているところに、さらにウクライナ危機で燃料価格・穀物価格上昇の追い討ちがかなりの速度で来ている」(養鶏)といった意見があがっています。
また「今後マイナスの影響がある」と見込む企業は、木材不足を懸念する「木造建築工事」(41.3%)や「包装用品卸売」(40.6%)などでみられ、幅広い業界へのマイナス影響の拡大が懸念されます。
生活に結びつく商品・サービスへの悪影響、政府には早急な経済対策が求められている
本調査の結果、ロシア・ウクライナ情勢に対して約半数の企業で業績にマイナスの影響があると見込んでおり、2割以上の企業で既に悪影響が広がっていました。特に価格高騰が続く燃料や食品関係といった私たちの生活にすぐに結びつく製商材・サービスを扱う業種でその影響は大きくなっています。
また、政府は国民負担を軽減するための緊急経済対策の策定を指示するなど、対応を急いでいます。しかし、ウクライナ情勢の長期化の様相もあり、今後は企業の設備投資、国民の消費活動などが手控えられることも懸念されるでしょう。
先行き不透明感が強まるなか、政府には企業活動の停滞や国民の消費マインドの低下が進まぬよう、早急な経済対策が求められています。
●G7外相会合 ロシア軍事侵攻やめるまで 各国で追加的措置 確認  4/7
ウクライナ情勢をめぐって、G7=主要7か国の外相会合が林外務大臣も出席してベルギーで開かれました。「ロシア軍の残虐行為を最も強いことばで非難する」としたうえで、軍事侵攻をやめるまでG7など各国で追加的な措置をとっていくことを確認しました。
日本時間の午後3時すぎから開かれたG7の外相会合では、ウクライナの首都キーウ近郊などで多くの市民が殺害されているのが見つかったことを受けて「ロシア軍の残虐行為を最も強いことばで非難する」としたうえで「戦争犯罪を行った者の責任は追及されるべきだ」として、国際機関による捜査を支援していくことで一致しました。
そして、ロシアが軍事侵攻を続けていることを踏まえ、制裁による経済的圧力を強めていく必要があるという認識を共有するとともに、侵攻をやめるまでG7など各国で追加的な措置をとっていくことを確認しました。
また、ウクライナや避難民を受け入れている周辺国への支援のニーズが高まっているとして、対応を強化していくことも申し合わせました。
林大臣は続いて、NATO=北大西洋条約機構と韓国、オーストラリアといったパートナー国などとの外相会合にも出席しました。
この中で林大臣は、ロシアの軍事侵攻をめぐり「今回の侵略を直接、間接的に支持している国がいることは憂慮されるべき事態だ」と述べたうえで、中国がロシアを今も非難していないことや、北朝鮮が事態の間隙(かんげき)を利用して弾道ミサイルの発射を繰り返していることを指摘しました。
そして、欧州とインド太平洋地域の安全保障を切り離して議論することはできないとして、NATOとパートナー国などとの連携強化を呼びかけました。
●NATO外相会合始まる ウクライナへの軍事支援など強化へ  4/7
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナの首都近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったことを受け、ロシアの責任を問う声が一層広がる中、NATO=北大西洋条約機構の外相会合が始まりました。加盟国は、ウクライナへの軍事支援を強化するとともに、民主主義などの価値観を共有する国々との連携強化を強調したい考えです。
ロシア国防省は7日、ウクライナ東部のハルキウや南部のミコライウなど各地のウクライナ軍の燃料施設をミサイルで破壊したと発表するなど、東部や南部での攻撃を強めています。
一方、アメリカ国防総省の高官は6日、首都キーウ周辺などに展開していたロシア軍について、地上部隊が完全に撤退したという見方を初めて示しました。
ロシア軍が撤退したキーウ近郊の町ブチャでは多くの市民が殺害されているのが見つかったのに続いて、ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、ロシア軍が首都近郊以外でも市民を殺害した証拠を隠そうとしていると厳しく非難しました。
欧米各国の間で戦争犯罪だとしてロシアの責任を問う声が一層広がる中、NATOの外相会合が日本時間の7日午後5時前からベルギーの首都ブリュッセルにある本部で始まりました。
冒頭、NATOのストルテンベルグ事務総長は「ロシアによる軍事侵攻は国際秩序全体をゆるがしている。きょうの会合はわれわれの結束のしるしだ」と述べました。
また会合に出席したウクライナのクレバ外相は、記者団に対し「ウクライナがより多くの兵器を早く受け取るほど、多くの命を救うことができるし、より多くの町や村が破壊されない。そしてブチャのようなことが二度と起こらないですむ」と述べ、兵器の供与を強く求めていく考えを示しました。
今回の会合には、林外務大臣のほか韓国、オーストラリアなどの外相も「パートナー国」として参加しています。
NATOの加盟国はウクライナへの軍事支援を強化するとともに、民主主義などの価値観を共有する国々との連携強化を強調したい考えです。
●ウクライナ侵攻の背景にあるプーチンの「ロシア・ファシズム」思想 4/7
プーチンによるウクライナへの全面侵攻を予測できた専門家はほとんどいなかったというが、歴史家のティモシー・スナイダーは間違いなく、その数少ない例外の一人に入るだろう。
2014年、ロシアはクリミアを占拠し、ウクライナ東部のドンバス地方に侵攻したが、欧米諸国は限定的な経済制裁に止め、その4年後、ロシアはサッカー・ワールドカップを華々しく開催した。
ヨーロッパ(とりわけドイツ)はロシアにエネルギー供給を依存し、中国の台頭に危機感を募らせたオバマ政権もロシアとの対立を望まなかった。「クリミアはソ連時代の地方行政区の都合でウクライナに所属することになっただけ」「ドンバス地方を占拠したのは民兵でロシア軍は関与していない」などの主張を受け入れ、「ロシアはそんなに悪くない」とすることは、誰にとっても都合がよかったのだ。
だがスナイダーは、2018年の『自由なき世界 フェイクデモクラシーと新たなファシズム』(慶応義塾大学出版会)でこうした容認論を強く批判した。プーチンのロシアは「ポストモダンのファシズム(スキゾファシズム)」に変容しつつあるというのだ。
スナイダーは中東欧の11か国語を操る気鋭の歴史家で、語り尽くされたと思われていたホロコーストについて、その本質はアウシュヴィッツのガス室ではなく、ナチス(ヒトラー)とソ連(スターリン)による二重のジェノサイドだという新しい視点を提示して大きな反響を呼んだ。
じつは私は、2020年に本書の翻訳を手に取ったとき、プロローグと第1章までで読むのをやめてしまった。「歴史家としては超一流でも、それで現代の国際政治が語れるのか」と疑問を感じたからだ。
今回のウクライナ侵攻で自らの不明を思い知らされ、あらためて本書を読み直してみた。原題は“The Road to Unfreedom; Russia, Europe, America”(アンフリーダムへの道 ロシア、ヨーロッパ、アメリカ)で、フリードリッヒ・ハイエクの“The Road to Serfdom”(隷属への道)を意識しているのだろう。
ハイエクはこの名高い著作で、ソ連の計画経済は必然的に破綻し「現代の農奴制(Serfdom)」に至ると説いた。それに対してスナイダーは、プーチンが行なっているのは歴史の改竄と国民の洗脳で、そこから必然的に「自由なき世界(Unfreedom)」が到来するのだと予見する。
プーチンに影響を及ぼしたイリインの思想は「無垢なロシア(聖なるロシア)の復活」
スナイダーによれば、現代のロシアを理解するうえでもっとも重要な思想家はイヴァン・イリインだという。ロシア以外ではほとんど知られていないこの人物は、1883年に貴族の家に生まれ、当時の知識層(インテリゲンチャ)の若者と同様にロシアの民主化と法の統治を願っていたが、1917年のロシア=ボルシェビキ革命ですべてを失い、国外追放の身となる。その結果、理想主義の若者は筋金入りの反革命主義者になり、ボルシェビキに対抗するには暴力的手段も辞さないという「キリスト教(ロシア正教)ファシズム」を提唱するようになった。
イリインは忘れられたまま1954年にスイスで死んだが、その著作は、ソ連崩壊後のロシアで広く読まれるようになり、2005年にはプーチンによってその亡骸がモスクワに改葬された。プーチンは、「過去についての自分にとっての権威はイリインだ」と述べている。
イリインの思想とはなんだろう。それをひと言でいうなら、「無垢なロシア(聖なるロシア)の復活」になる。
イリインの世界観では、宇宙におけるただ一つの善とは「天地創造以前の神の完全性」だ。ところがこの「ただ一つの完全な真理」は、神がこの世界を創造したとき(すなわち神自身の手によって)打ち砕かれてしまった。こうして「歴史的な世界(経験世界)」が始まるのだが、それは最初から欠陥品だったのだ。
イリインによれば、神は天地創造のさいに「官能の邪悪な本性」を解放するという過ちを犯し、その結果、人間は「性に突き動かされる存在」になった。性愛を知りエデンの園を追放されたことで、人間は存在そのものが「悪(イーブル)」になった。だとしたらわたしたちは、個々の人間として存在するのをやめなければならない。
興味深いのは、イリインが1922年から38年までベルリンで精神分析を行なっていたことだ。この奇妙な神学には、明らかにフロイトの影響が見て取れる。
人間が存在として悪だとしても、いかなる思想も自分自身を「絶対悪」として否定することはできない。イリインがこの矛盾から逃れるために夢想したのが、「無垢なロシア」だった。邪悪な革命政権(ソ連)を打倒しロシアが「聖性」と取り戻したとき、世界は(そして自分自身も)神聖なものとして救済されるのだ。
「選挙は独裁者に従属の意思表示をし、国民を団結させる儀式でしかなく、投票は公開かつ記名で行なわれるべきだ」
イリインは、祖国(ロシア)とは生き物であり、「自然と精神の有機体」であり、「エデンの園にいる現在を持たない動物」だと考えた。細胞が肉体に属するかどうかを決めるのは細胞ではないのだから、ロシアという有機体に誰が属するかは個人が決めることではなかった。こうしてウクライナは、「ウクライナ人」がなにをいおうとも、ロシアという有機体の一部とされた。
極左の無法は、極右のさらに大いなる無法によって凌駕するほかないとするイリインにとって、ファシストのクーデター、すなわち愛国的な独裁政こそが「救済行為」であり、この宇宙に完全性が戻ってくることへの第一歩だった。そして、ロシアが聖性を取り戻すには「騎士道的な犠牲」を果たす救世主が必要で、いずれ一人の男がどこからともなく現われ、ロシア人たちはその男が自分たちの救世主だと気づくだろうと予言した。
イリインが理想とする社会は「コーポレートの構造(cooperate structure)」で、国家と国民とのあいだに区別はなく、「国民と有機的かつ精神的に結合する政府と、政府と有機的かつ精神的に結合する国民」があるだけだ。
キリスト教(ロシア正教)ファシズムの社会では、国民は個人の理性を捨てて国家(有機体)への服従を選ばなくてはならない。有権者がすべきことは政権の選択ではなく、「神に対し、この人間界に戻ってきてロシアがあらゆる地で歴史を終わらせるのを助けてくれるよう乞うこと」だけだ。
こうしてイリインは、「ロシア人に自由選挙で投票させるのは、胎児に自らの人種を選ばせるようなものだ」として民主政を否定する。選挙は独裁者に従属の意思表示をし、国民を団結させる儀式でしかなく、投票は公開かつ記名で行なわれるべきだというのだ。
イリインが唱えたのは「永遠に無垢なるロシア」という夢物語であり、「永遠に無垢なる救世主」という夢物語だ。こうして(仮想の)ロシアを神聖視してしまえば、現実世界で起きることはすべて「無垢なロシアに対する外の世界からの攻撃」か、もしくは「外からの脅威に対するロシアの正当な反応」でしかなくなる。
イリイン的な世界では、「ロシアが悪事をなすわけはなく、ロシアに対してだけ悪事がなされるのだ。事実は重要ではないのだし、責任も消えてなくなってしまう」とスナーダーはいう。
マルクス・レーニン主義とイリインの思想は合わせ鏡のような関係
イリインの神学がソ連崩壊後のロシアで広く受け入れられたのは、それが(ソ連国民が徹底的に教育された)マルクス主義、レーニン主義、スターリン主義と「気味の悪いほど似通っていた」からだ。両者が哲学的起源として共有するのがヘーゲル哲学だった。
ヘーゲルは、「「精神(スピリット)」と呼ばれる何か、すなわちあらゆる思考と心を統一したものが、時代を特徴づける種々の衝突を通して発現する」と論じた。その哲学によれば、カタストロフは進歩の兆しであり、「もし「精神」が唯一の善であるならば、その実現のために歴史が選ぶいかなる手段もまた善である」。
マルクスをはじめとするヘーゲル左派は、ヘーゲルが神を「精神」という見出しを付けてその思想体系にこっそり持ちこんだのだと批判した。マルクスにとって絶対善は「神」ではなく「人間の失われた本質」であり、歴史は闘いではあるが、その目的は人間がその本質を取り戻すことだった。
それに対してイリインなどのヘーゲル右派は、ヘーゲルがいったんは自身の哲学から隠蔽した神を堂々と復活させた。ひとびとが苦しむのは、「資本家」が「労働者」を抑圧するからではなく、神が創造した世界が手に負えないほど矛盾に満ちたものだからだ。だからこそ、選ばれた国家が救世主の起こす奇跡によって「神の完全性」を復活させなければならないし、その高尚な目的のためにはどのような手段も正当化される。
レーニンは、「前衛党(教育を受けたエリート)」には歴史を前に進める権利があると信じていた。「この世界で唯一の善が人間の本質を取り戻すことなのだとしたら、その手順を理解している者がその達成を早めるのは当然のこと」なのだ。
それに対してイリインは、「神の完全性」という究極の目的を実現するためには、暴力的な革命(より正確には暴力的な「反革命」)を受け入れるのは当然だとした。ロシアはファシズムから世界を救うのではなく、ファシズムによって世界を救うのだ。
革命直後のレーニンらは、「自然が科学技術の発展を可能にし、科学技術が社会変革をもたらし、社会変革が革命を引き起こし、革命がユートピアを実現する」という科学的救済思想を唱えた。だがブレジネフの時代(1970年代)なると、欧米の自由主義経済に大きな差をつけられたソ連は、こうした救済の物語を維持するのが困難になってきた。
ユートピアが消えたとしたら、そのあとの空白は郷愁の念で埋めるしかない。その結果ソ連の教育は、「よりよい未来」について語るのではなく、第二次世界大戦(大祖国戦争)を歴史の最高到達点として、両親や祖父母たちの偉業を振り返るように指導するものに変わった。革命の物語が未来の必然性についてのものだとすれば、戦争の記憶は永遠の過去についてのものだ。この過去は、汚れなき犠牲でなければならなかった。
この新しい世界観では、ソ連にとっての永遠の敵は退廃的な西側文化になった。1960年代と70年代に生まれたソ連市民は、「西側を「終わりなき脅威」とする過去への崇拝(カルト)のなかで育っていた」のだ。
マルクス・レーニン主義とイリインの思想は合わせ鏡のような関係で、だからこそロシアのひとびとは、ソ連解体後の混乱のなかで、救世思想のこの新たなバージョンを抵抗なく受け入れることができたのだ。
ロシアは「タタールのくびき」によって、西欧文明に毒されることなく「無垢な精神」を保ってきた
イリインのキリスト教(ロシア正教)ファシズムと並んでプーチンのロシアで大きな影響力をもつようになったのが、神秘思想家レフ・グルミョフ(1912-1992)の「ユーラシア主義」だ。
ナポレオンのロシア遠征によって近代の衝撃を受けたロシアでは、「スラブ主義(ロシア的共同体)」と「ヨーロッパ化主義(自由とデモクラシー)」の論争が飽きることなく繰り返された。だが初期のユーラシア主義はこのいずれの立場も拒絶し、西欧文化に対するロシアの優越を「モンゴルによる統治」に求めた。
1240年代初め、モンゴル人はルーシの残党をいとも簡単に打ち負かした。一般には「タタールのくびき(モンゴル支配)」はロシアの歴史における屈辱と見なされているが、ユーラシア主義者はこれを逆転させて、「モンゴルによる統治という幸運な慣習」のおかげで、ルネサンス、宗教改革、啓蒙思想などといったヨーロッパの腐敗とは無縁の環境で、新たな都市モスクワを創ることができたのだと主張した。ロシアがキリスト教世界のなかで特別な存在なのは、「タタールのくびき」によって、西欧文明に毒されることなく「無垢な精神」を保ってきたからなのだ。
詩人の両親のもとに生まれたグルミョフは、9歳のときに父親がチェカー(秘密警察)に処刑され、自らもスターリン治下の大粛清で、1938年から5年間、1949年から10年間を強制収容所で過ごすことになった。
グルミョフはこの過酷な監禁生活のなかで、「抑圧のなかに閃きの兆を見出し、極限状況においてこそ人が生きるうえでの本質的な真実が明らかにされる」と信じた。ユーラシア主義に傾倒したグルミョフは、「モンゴル人こそロシア人がロシア人たる所以であり、西側の退廃からの避難所である」とし、ユーラシアとは、「太平洋岸から、西端の無意味で病んだヨーロッパ「半島」にまで伸びてゆく、誇るべきハートランド」だと考えるようになった。
グルミョフの神秘思想では、人間の社会性は「宇宙線」によって生まれ、それぞれの民族の起源を遡れば、宇宙エネルギーの大放出にまで辿り着く。西側諸国を活性化させた宇宙線ははるか昔に放たれたため、いまや西欧は没落の途上にあるが、ロシア民族はキプチャク・ハン国軍を破った「クリコヴォの戦い」(1380年9月8日)に放出された宇宙線によって生まれたので、いまだ若く生命力に満ちあふれている。
グルミョフによれば、すべての「健康な」民族は宇宙線から誕生したが、なかには他の民族から生命を吸いとる「キメラ(ライオンの頭,ヤギの胴,ヘビの尾をもつギリシア神話の怪物)のような集団」もいる。この集団とはユダヤ人のことで、「ルーシの歴史とは、ユダヤ人が永遠の脅威であることを示すものだ」という強固な反ユダヤ主義を唱えた。
わたしたちはみな、生命体として宇宙エネルギーの影響を受けているが、まれにこの宇宙エネルギーを大量に吸収し、それを他者に分け与えることができる者がいる。これが「パッシオナールノスチ」で、この特別な能力をもつ指導者こそが民族集団を創る。
イリインのいう「無垢なるロシアを復活させる独裁者」と、グルミョフの「パッシオナールノスチを有する指導者」は、その後、アレクサンドル・ドゥーギンによってウラジミール・プーチンという一人の政治家に重ね合わされることになる。
3つの思潮が合流し、「ロシア・ファシズム」が誕生した
1962年生まれのアレクサンドル・ドゥーギンは、1970年代と80年代にはソヴィエトの反体制派の若者として、ギターを弾き、「何百万人もの人間を「オーブン」で焼き殺す歌を歌っていた」とされる。
ソ連崩壊後の1990年代初め、ドゥーギンはフランスの陰謀理論家ジャン・パルヴュレスコと親しくなった。パルヴュレスコにとって歴史とは「海の民(大西洋主義者)」と「陸の民(ユーラシア主義者)」との闘いで、「アメリカ人やイギリス人は海洋経済に従事することで、地に足の着いた人間の経験から切り離されたがために、ユダヤ人の抽象的な発想に屈してしまう」のだと論じた。フランスのネオ・ファシスト運動の提唱者アラン・ド・ブノワも、「アメリカが抽象的な(ユダヤ的な)文化の代表としてこうした陰謀の中心的な役割を果たしている」とドゥーギンに説いた。
1993年、ナチスの思想を母国ロシアに持ち帰ったドゥーギンは、エドワルド・リモノフと共同で「国家ボルシェビキ党」を設立、97年には「国境のない赤いファシズム」を呼びかけた。ドゥーギンはここで、「民主主義は空疎である。中流階級は悪である。ロシアは「運命の男」に統治されねばならない。アメリカは邪悪である。そしてロシアは無垢なのだ……」という「月並みなファシストの見方」を披露した。
ドゥーギンにとって西欧は「ルシファーが堕天した場所」「世界的な資本主義の「オクトパス」の中心」「腐った文化的堕落と邪悪、詐欺と冷笑、暴力と偽善の温床(マトリックス)」だった。さらには、独立したウクライナ国家は「ロシアがユーラシアになる運命を阻む障壁」だとされた。
プーチン政権誕生後の2005年、ドゥーギンは国の支援を受けて、ウクライナ解体とロシア化を訴える青年運動組織「ユーラシア青年連合」を設立し、09年には「クリミアとウクライナ東部を求める戦い」を予見した。ドゥーギンから見れば、ウクライナの存在は「ユーラシア全体にとって大いなる脅威」だった。
さらには、ロシア正教の修道士で、イリインを改葬したティホン・シュフクノフが、ウラジミール・プーチンこそが、ロシア人が「ウラジミール」と呼ぶ古代キエフの王の生まれ変わりだと唱えた。ウクライナではヴォロディーミルまたはヴァルデマーと呼ばれるこのルーシの王こそが、今日のロシア、ベラルーシ、ウクライナの地を永遠に結びつけることになったというのだ。
このようにして、イリインのキリスト教(ロシア正教)全体主義、グミリョフのユーラシア主義、ドゥーギンの「ユーラシア的」ナチズムという3つの思潮が合流し、「ロシア・ファシズム」が誕生したのだ。
「ロシア文明を介してのみ、ウクライナ人は自分たちがほんとうは何者なのかを理解できる」
プーチンは、2004年にウクライナのEU加盟を支持し、それが実現すればロシアの経済的利益につながるだろうと述べたと、スナイダーは指摘する。EUの拡大は平和と繁栄の地域をロシア国境にまで広げるものだと語り、08年にはプーチンはNATOの首脳会談に出席している。
ところが同年のジョージア(グルジア)侵攻が欧米から強く批判されると、一転して2010年には「ユーラシア関税同盟」を設立する。これは「リスボンからウラジオストクまで(大西洋岸から太平洋岸まで)広がる調和的な経済共同体」とされたが、その実態は、「EUの加盟国候補になれそうもないとわかった国々を団結させようとした」ものでしかなかった。
12年1月の大統領選挙直前の論説では、プーチンは「ロシアは元々が無垢な「文明」だった」として、ロシアを国家ではなく霊的な状態として説明した。さらにはイリインを引用して、「偉大なロシアの任務は、文明を統一し結びつけることである。このような「国家=文明」には民族的少数者など存在しないし、「友・敵」を区別する原理は、文化を共有しているかどうかに基づいて定義される」と述べた。
ロシアには民族間の紛争などないし、かつてあったはずもない。ロシアはその本質からして、調和を生みだし他国に広める国であり、よって近隣諸国にロシア独自の平和をもたらすのは許されるべきことなのだ。
このユーラシア主義によれば、ウクライナ人とは、「カルパチア山脈からカムチャッカ半島までの」広大な土地に散らばるひとびとであり、よってロシア文明の一つの要素にしかすぎない。ウクライナ人が(タタール人、ユダヤ人、ベラルーシ人のように)もう一つのロシア人集団にほかならないとすれば、ウクライナの国家としての地位(ステートフッド)などどうでもよく、ロシアの指導者としてプーチンはウクライナのひとびとを代弁する権利を有することになる。だからこそ、プーチンはこう述べた。
「我々は何世紀にもわたりともに暮らしてきた。最も恐るべき戦争にともに勝利を収めた。そしてこれからもともに暮らしていく。我々を分断しようとする者に告げる言葉は一つしかないのだ――そんな日は決して来ない」
プーチンによれば、ヨーロッパとアメリカがウクライナを承認することで、ロシア文明に挑戦状を叩きつけたことになる。「ロシアは無垢なだけでなく寛容でもある」とプーチンは論じた。「ロシア文明を介してのみ、ウクライナ人は自分たちがほんとうは何者なのかを理解できる」のだから。
こうした世界観・歴史観からは、クリミアやウクライナ東部の占拠だけでなく、今回の全面侵攻も「無垢なるロシア」を取り戻し、世界を救済し、神の完全性を復活させる壮大なプロジェクトの一部になる。そして今起きていることを見れば、スナイダーがこのすべてを予見していたことは間違いない。
だがここまで読めば、なぜ私がこの主張を受け入れるのを躊躇したのかわかってもらえるのではないだろうか。スナイダーが正しいとすれば、ロシアは巨大な「カルト国家」ということになってしまうのだ。 

 

●ロシア国民20万人が逃げ出す!プーチンを窮追する「人材スカスカ」危機 4/8
ウクライナでは400万人以上が戦火を逃れて国外に避難している。一方、戦場ではないロシアでも国外脱出が相次いでいる。何が起きているのか。
トルコの地元メディアはウクライナ侵攻後、少なくとも1万4000人のロシア国民が入国したと報じた。ロシア人が事前のビザなしで入国できるトルコ、ジョージア、アルメニアなどにはロシアからの脱出者が大挙しているという。
国の将来に絶望し、出国できるうちに脱出をはかるロシア人は少なくない。ロシア人経済学者のコンスタンチン・ソニン氏の推計によると、侵攻後半月で約20万人がロシアを離れたという。中心は富裕層や知識層。出国するお金があり、政権に批判的な情報も知っているからだ。国家から次々に人が逃げ出すとは末期的だ。
政権にとって痛手なのがIT人材の流出だ。プーチン政権が次々とインターネットへの規制強化を打ち出したため、IT技術者の脱出が加速している。3月下旬の時点で5万〜7万人のIT技術者が出国し、4月にはさらに10万人が離れるとの試算もある。ロシア政府は3月29日、流出に歯止めをかけるため、IT技術者の兵役の「延期」を認めると発表。かなり慌てている様子だ。
国際ジャーナリストの春名幹男氏がこう言う。「ウクライナ侵攻後、海外企業は次々とロシアから引き揚げています。また、統制が強化され、多様な情報にもアクセスできない状態が続いています。とても、マトモなビジネスや研究が行える環境ではありません。ビジネスマンや研究者はこのままロシアに残っていても展望を開けないと思っているはずです。優秀な人材なら、他国も喜んで受け入れる。戦争を続ける限り、人材の流出は止まらないでしょう」
富裕層や優秀な人が次々と去れば、ロシアはスカスカの国になってしまう。
「国の発展にとって重要なのはやはり人材です。これ以上、優秀な人材が流出し続ければ、政権内でも危機感が強まり、戦争継続に『待った』がかかってもおかしくありません。それでも、プーチン大統領がかたくなに戦争を継続すれば、“打倒プーチン”の動きにつながる可能性があります」(春名幹男氏)
戦争にブレーキはかかるのか。
●米国、「ロシアを旧ソ連時代の生活水準に戻す」…プーチンの2人の娘も制裁 4/8
米国がロシア軍の「ブチャ虐殺」などウクライナ民間人に対する残虐行為を非難し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の二人の娘と最大手の銀行などを制裁し、ロシアに対する新規投資を禁止する追加制裁を発表した。ロシアを「ソ連時代の生活水準」に戻すという警告も出した。ブチャ虐殺以後、ウクライナ政府がロシアと進行中だった和平交渉に否定的な見解を示し、米国は文字通りロシア経済を機能不全に陥らせる措置を相次いで発表し、ウクライナをめぐる対立はますます収拾の糸口をつかむことが難しくなった。
ホワイトハウスは6日(現地時間)、プーチン大統領の二人の娘に対し、米国内の資産を凍結し、米金融機関との取引を禁止する制裁を加えると発表した。セルゲイ・ラブロフ外相の妻と娘、大統領と首相を務めたドミトリー・メドベージェフ国家安保会議副議長など、国家安保会議の主要人物も制裁する方針を示した。
米財務省は、プーチン大統領の次女、カテリーナ・ティホノワ氏は、ロシア政府や軍需産業と連携した企業経営者だと明らかにした。長女のマリア・ボロンツォワ氏は、プーチン大統領が直接手がける遺伝子研究プログラムを率いており、同プログラムはロシア大統領府から数十億ドルの支援を受けていると説明した。ホワイトハウスの高官はプーチン大統領の娘たちを制裁するのは、「家族が彼の資産を隠しているため」と説明した。
プーチン大統領が2013年に離婚した妻との間にもうけた二人の娘は、これまで公式席上に姿を現さなかった。プーチン大統領は2015年、二人の娘に関するマスコミの質問に、「娘たちは3カ国語を流暢に話せる」と自慢し、「私は誰とも家族の話をしない」と述べた。また娘たちが「ただ自分の人生を歩むだけ」だと述べた。ロイター通信は2015年、次女ティホノワ氏が現在は離婚した夫とともに、20億ドル規模の石油化学会社の持分を保有していると報じた。
ホワイトハウスは、ロシア銀行資産の3分の1を保有する最大手ズベルバンクと4位のアルファバンクに対する「全面遮断制裁」も実施すると明らかにした。両行の米国内資産は凍結され、米金融システムへのアクセスも遮断される。ただ、欧州を考慮して石油と天然ガスの取引分野は制裁から除外することにした。今回公開された措置は、欧州連合(EU)や主要7カ国(G7)などと共に実施する。
バイデン米大統領は同日、米国人と米国企業のロシアに対するすべての新規投資を禁止する行政命令に署名した。米政府はロシアの航空、造船分野の主要国営企業も制裁リストに載せた。法務部はこれとは別に、ロシア新興財閥のコンスタンチン・マロフェーエフ氏をクリミア半島分離主義者に資金を提供したという理由で起訴すると発表した。
ホワイトハウスは、今回の措置の目的がロシア経済を崩壊状態に追い込むことだという点を隠さなかった。バイデン大統領は同日、北米建設労組の行事での演説で、「たった1年のわれわれの制裁が、この15年間ロシアが積み上げた経済的成果を消してしまうだろう」とし、「ロシアを半導体やクオンタム技術など21世紀の競争に必要な重要技術から遮断したためだ」と述べた。ホワイトハウス高官は別の記者会見で、「ブチャで発生したぞっとするほど残忍な事件で、プーチン政権の野卑な本質が悲劇的な形で露わになった」とし、「主要7カ国の同盟とともに主要国(ロシア)に対して歴史上最も厳しい制裁を強化した」と述べた。さらに、「ロシアは経済、金融、技術的孤立に陥っている」とし、「このようにして1980年代のソ連時代の生活水準に戻るだろう」と述べた。同氏はロシア経済が今年10〜15%のマイナス成長を記録し、物価上昇率は200%に達すると見通した。ロシアが経済難でデフォルトを宣言した1998年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス5.3%だった。当時より2〜3倍も厳しい経済危機に見舞われかねないと予告したということだ。
●ロシア追加制裁、石炭輸入制限も 「残虐行為」非難― G7首脳声明 4/8
先進7カ国(G7)は7日、首脳声明を発表し、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどでロシア軍撤退後、民間人とみられる遺体が多数見つかったことについて、「ロシア軍による恐るべき残虐行為」だとして強く非難した。「大量殺りく」とも表現した。その上で、協調してロシアに追加制裁を科す方針を表明。「戦争犯罪」追及の取り組みも支持した。
声明では「プーチン大統領と加担者にとっての戦争の代償をさらに高める」と強調。石炭輸入の禁止や段階的廃止を含め、ロシア産燃料への依存を速やかに低減すると明記した。原油についても「依存低減の取り組みを加速する」と確認した。
これを受け、日本政府は石炭の輸入制限を含むエネルギー制裁を打ち出す方向で検討に入った。プーチン政権の資金源を断ち、侵攻停止への圧力を強める構えだ。
G7はこのほか、▽エネルギー分野を含む対ロ新規投資禁止▽対ロ輸出規制の拡大▽世界金融システムからのロシアの銀行切り離し継続▽国有機関や新興財閥(オリガルヒ)、防衛分野への制裁強化▽制裁逃れ阻止の対策強化―でも一致した。
●ウクライナ 東部の市民に避難呼びかけ 停戦道筋は険しさ増す  4/8
ウクライナに侵攻したロシア軍が東部への攻撃を強めるなか、ウクライナ政府は東部の市民にすみやかな避難を呼びかけ、緊張が高まっています。一方、首都近郊で多くの市民が殺害され、ロシアの責任を追及する声が広がっていることに対して、プーチン政権は対抗する姿勢を鮮明にし、停戦への道筋は険しさを増しています。
ロシア国防省は7日、ウクライナ東部のハルキウや南部のミコライウ、それに南東部のザポリージャなどにあるウクライナ軍の燃料施設をミサイルで破壊したと発表しました。
ロシア軍がインフラを攻撃する理由について、イギリス国防省は7日、ウクライナ軍の補給能力を弱め、ウクライナ政府への圧力を強めるねらいがあると指摘しています。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は6日、ロシア軍が近く、東部のルハンシク州とドネツク州で大規模な攻撃を行う準備をしている可能性があるという見方を示しました。
ウクライナのベレシチュク副首相は6日、ルハンシク州やドネツク州などの市民に対し「攻撃にさらされ助けられなくなる」として、すみやかに避難するよう呼びかけました。
またルハンシク州の知事も7日「この数日間が避難の最後のチャンスだ。敵は移動経路を断とうとしている」と強い危機感を示しました。
今回の軍事侵攻では、ロシア軍が撤退した首都キーウ近郊の町ブチャで多くの市民が殺害されているのが見つかったほか、他の地域でもロシア側が市民を殺害した証拠を隠ぺいしようとしている疑惑が浮上し、欧米各国からは戦争犯罪だとしてロシアの責任を追及する声が広がっています。
国際的な批判に対して、ロシアのプーチン大統領は7日、国家安全保障会議を開き、ロシア大統領府は会議で「ウクライナ側による情報面での工作活動に対し、積極的に対抗する必要性が強調された」としています。
ロシア側は、ブチャなどで市民が殺害されているのが見つかったのはウクライナ側によるねつ造だと一方的に主張していて、プーチン大統領が対抗する姿勢を鮮明にした形です。
深まる対立は、停戦交渉にも影響を及ぼしています。
ロシアのラブロフ外相は7日の声明で「ウクライナ側が6日に新たな合意案を提示してきたが、それは先月29日、トルコでの交渉で話し合った内容から、最も重要な項目が明らかに逸脱している」などと批判しました。
ラブロフ外相は、ウクライナ側は新たな提案で、南部のクリミアや東部の主権の問題については首脳会談で協議されるべきだとする項目を追加したと、不満を示したうえで「交渉を遅らせ混乱させようとしている」と非難しました。
これに対し、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は「発言の意図を理解しかねる」と反論し、停戦への道筋は険しさを増しています。
ゼレンスキー大統領「ロシア軍を撤退させるには武器が必要」
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、ギリシャの議会でオンライン形式の演説を行い、防空システムの供与などさらなる支援を求めました。
演説のなかで、ゼレンスキー大統領は「ロシアはマリウポリなど攻撃にあったウクライナの住民少なくとも数万人を強制的に移送している。ロシアは処罰されることなく何でもできると考えている」と述べ、ロシアが非人道的な行為を続けていると非難しました。
さらに「ロシアが各国の港を現状のまま使い続ければ、マリウポリだけでなくオデーサやほかの都市を破壊するミサイルや爆弾の資金を得るだろう」と述べ、経済制裁のさらなる強化を訴えました。
その上で「ウクライナはロシア軍を撤退させるために武器が必要だ。早ければ早いほどより多くのウクライナの人々の命を救うことができる」として、防空システムや砲弾、それに装甲車両などの供与をEUの国々に求めました。
リビウ市長「数千人の市民が避難民を自宅に」
ロシア軍の攻撃が比較的少なく避難民が集中しているウクライナ西部の主要都市、リビウのサドビー市長は7日、NHKのインタビューに応じ「きょうもドネツク州のスロビャンシクとクラマトルシクから3000人の避難民を受け入れた。学校や劇場、ジムなどを開放しているほか、数千人の市民が避難民を自宅に受け入れている」と述べました。
その上で「食料や衣服、それに医療の問題などに対処しようとしているが、とても難しい」と述べ、国際社会に対して、ウクライナ国内にとどまる避難民への支援を拡大するよう訴えました。
また、軍事侵攻の人的な被害について「ブチャの虐殺は異常なことだが、マリウポリの状況はさらに厳しく、5000人から6000人の市民が殺害されている」と強い懸念を示しました。
その上で「どこがロシアのミサイル攻撃の次のターゲットになるかはわからない」と述べ、東部や南部と比べて攻撃される回数が少ない西部の各都市でもロシア軍の攻撃を警戒し、緊張を強いられている現状を明らかにしました。
少なくとも1611人の市民が死亡
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から今月6日までに、ウクライナで少なくとも1611人の市民が死亡したと発表しました。
このうち131人は子どもだということです。
死亡した人のうち、1119人はキーウ州や東部のハルキウ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州などで、492人は東部のドネツク州とルハンシク州で確認されています。
また、けがをした人は2227人にのぼるということです。
多くの人たちは砲撃やミサイル、空爆などによって命を落としたり、負傷したりしたということです。
今回の発表には、ロシア軍の激しい攻撃を受けている東部マリウポリなどで確認がとれていない犠牲者の数は含まれておらず、国連人権高等弁務官事務所は実際の数はこれよりはるかに多いとしています。
431万人余が国外に避難
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ロシア軍の侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数は、6日の時点で431万人余りとなっています。
主な避難先は、ポーランドがおよそ251万人、ルーマニアがおよそ66万人、ハンガリーとモルドバがおよそ40万人などとなっています。
また、ロシアに避難した人は、先月29日の時点でおよそ35万人となっています。
●ウクライナ、ロシア産ガス輸入巡りハンガリーを批判 4/8
ウクライナ政府は7日、ハンガリーがロシア産ガスの購入代金をルーブルで支払う用意があると表明していることについて、ロシアのウクライナ軍事侵攻に反対する欧州連合(EU)の結束を破壊する「非友好的な」姿勢だと非難した。
ウクライナ外務省報道官は「ハンガリーが本当に戦争を終わらせることを支援しようとしているのであれば、EUの結束を破壊することをやめ、新たな対ロシア制裁を支持し、ウクライナに軍事支援を行い、ロシアの軍事力を支援するための新たな資金源を作らないことだ」と強調した。
ハンガリーのオルバン首相は6日の記者会見で、ロシアが求めるならばロシア産ガスの購入代金をルーブルで払うと語った。プーチン大統領と経済面で親密な関係を続けてきたオルバン首相は、3日の議会選で自身が率いる右派与党が勝利し、4選を確実にした。選挙では、ガス供給の確保も公約に掲げていた。
ハンガリーのシーヤールトー外相は7日の会見で、ウクライナは「ハンガリーの内政干渉をやめるべきだ」と批判した。
●ロシアによる大虐殺 プーチンを裁く方法はないのか 4/8
ウクライナ国内で市民の惨殺遺体が多数発見された事件は、ロシアによる組織的、計画的な犯行の疑いが指摘されている。死者はさらに増える見込みで、戦後欧州における最悪のジェノサイド(集団殺害)に発展する可能性がある。
ウクライナでの戦争犯罪を捜査している国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)が、今回の虐殺も訴追対象にするとみられる。
ロシアは関与を否定し、プーチン大統領ら政権トップの訴追は簡単ではないが、ボスニア紛争で、旧ユーゴスラビアの大統領が法廷に引きだされたことがあり、望み≠ェないわけではない。法の裁きを逃れたとしても、クーデターや暗殺を呼びかける動き少なくなく、プーチンの末路はきびしいものになることが予想される。
後ろ手に縛られ口に銃弾
激しい戦闘が終わったあとに、戦争犯罪の痕跡が残るのは、現代でもしばしばみられる。1990年代の半ば、旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、8000人以上のイスラム教徒がセルビア人に虐殺された「セレブレニツァの虐殺」がその典型的な例だ。 
キーウ郊外ブチャで多数の遺体が発見された直後は、混乱のなかでもあり、くわしい状況が不明だった。その後、米ABCテレビの映像が日本でも放映されるなど、西側メディアの報道や人権団体の調査によって、次第に惨状が明らかになってきた。
ロシア軍が撤退した後の今月2日、ブチャ(キーウの北東37キロメートル)に入ったロイター通信の取材チームによると、市内には硝煙と死臭と交じり合った強い悪臭が漂っていた。市民らしい遺体が散乱、なかには半分だけ土中に埋まったり、買い物途中に命を落としたのか、ショッピングバッグを握りしめている遺体もあった。
後ろ手に縛られ、口の中に弾丸を撃ち込まれた2人の男性の遺体が放置されていた。 
AFP通信によると、ほとんどは、コート、ジーンズ、ジョギングパンツ、スニーカーなど普通の市民の服装。遺体のそばにはウクライナのパスポートなどが散乱していた。
ウクライナ兵士が戦利品≠ニして燃やしたらしいロシア軍装甲車の脇で写真撮影していた光景も見られたという。
性的暴行し、顔を切りつけた20歳兵士
米・ニューヨークに本部を置く人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は各地で市民から聞き取り調査を行った。
その報告によると、3月13日、ハルキウ(ハリコフ)の学校に5歳の娘、13歳の妹らを連れて地域の人たちと避難していた31歳の女性が、若いロシア兵士に性的暴行を繰り返し受けた。兵士は自ら「20歳だ」と明かし、女性のノドや顔面をナイフで刺し、切りつけたという。
地下室に避難していた別の女性は、一緒にいた29歳の息子と31歳の義弟がタバコを吸いに地上に出た時にロシア兵に拉致されことを知らされた。
近くの検問所で2人の安否を尋ねたところ、「ちょっと脅して尋問したらすぐ帰す」といわれた。しかし2人は帰らず、翌朝、近くビルの前で縛られて抵抗できない状態にして頭を撃ち抜かれた遺体でみつかった。
こうしたリポートは枚挙にいとまがない。
ブチャのアナトリ―・ペドルク市長らによると、同市などキーウ近郊だけで見つかった市民の遺体は400人を超えており、さらに増えるという。まさに悪魔の所業≠ニいうべきだろう。
殺害は「偶発的ではなく計画的」、ICCの刑事訴追も
ウクライナのゼレンスキー大統領は4月5日、国連安全保障理事会の会合でビデオ演説。 「大人も子供も、家族全員を殺害し遺体を焼こうとした」「ロシア軍と彼らに命令を下した者はただちに裁かれなければならない」と強くロシアを非難。あわせて、ロシアが安保理で拒否権を持つ国連の改革を訴えた。
ブリンケン米国務長官も「殺害、拷問、性的暴行のための組織的な犯行だ」と、混乱の中での偶発的な事件ではなく、計画された戦争犯罪との見方を示した。同様の非難が日本を含む各国から相次いでいる。 
ウクライナのクレバ外相は多くの遺体が見つかった直後の4月3日、英メディアのインタビューで、国際刑事裁判所(ICC)と関係国際機関に対し、解放された各地に調査団を派遣し、ウクライナ司法機関と協力して戦争犯罪の証拠を収集することを求めた。これに呼応して、ウクライナ国防省は、関与した疑いのあるロシア軍将兵1600人の名簿を公開、国際手配≠オた。
戦争犯罪として、関与した者を裁くにあたっては、訴追の強制力を持つICCの動向が焦点となる。ICC検事局は、ロシアの侵略直後の2月末から、職権で戦争犯罪に関する証拠集めを行ってきた。英独仏、日本など約40カ国が3月初めに、告発に当たる訴追の付託を行ったことを受けて、カリム・カーン主任検察官(英国出身)は捜査を開始する方針を正式に表明した。
同検事の声明は、今回の事件が明らかになる以前に発表されたが、「捜査にはあらたな訴えも含まれる」と述べていることから、対象に追加される見込みだ。
プーチンの訴追、出廷は非現実的
しかし、実際にプーチンを含むロシア政府高官、軍将兵をICC法廷に訴追するのは簡単ではない。
ウクライナはICCに未加盟だが、その手続き受け入れを表明すれば、国内で起きた事件の訴追が可能になるため、そうした手段をとるとみられる。しかし、ロシアはICC加盟の取り決めを批准しておらず、プーチンを含むロシア政府高官、軍将兵が取り調べに協力して受け入れることはあり得ず、起訴にこぎつけても、法廷に出廷する可能性もほとんどない。
ただ、ICCの訴追に時効はないため、将来の政権が受け入れた場合、起訴されることはありうる。プーチン氏が訴追を逃れ、職にとどまっていた場合でも、外遊などで加盟国を訪問すれば、ICC裁判官が発行した逮捕状によって身柄を拘束される。外国人が日本の法令に違反した場合、訴追されるのと同じ理屈だ。
ICCの前身は、国連決議に基づいて設置された個別の国際法廷。1993年に設置された旧ユーゴ国際刑事裁判所では、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争などでの集団殺害、戦争犯罪を捜査、ユーゴスラビア(当時)のミロシェビッチ元大統領を訴追(審理途中で死去)した実績がある。
ICCになってからも、30万人が死亡したといわれるスーダンのダルフール紛争で、当時のバシール大統領に2009年に逮捕状を発布する(国内で訴追されたた執行できず)など積極的に活動してきた。
プーチン、暗殺やクーデターの危険
戦争犯罪の実態が暴かれたことで、今後のウクライナ情勢はどう展開するのか。ロシアの軍事攻勢がどうなるかなど流動的な要素があるが、ウクライナの安全保障などをめぐって一定の進展を見た和平交渉に影響を与えるのは不可避だろう。当事国のウクライナ、米国をはじめとする西側各国は、ロシア非難を一段と強めており、和平協議においても、これらの問題が無視されることはあり得ないからだ。 
今後の帰趨が不透明な中で、確実なことは、ウクライナを無力化≠オて実質的に勢力下におくというプーチンの当初の目論見はもはや不可能になったということだろう。そして、プーチンの今後の政治的、個人的な立場も、かなり危うくなったということでもある。
米国のバイデン大統領はさきに、プーチンについて「この男を権力にとどめおくべきではない」と述べ、和平協議に影響を与えることを懸念する勢力から批判を浴びた。だが、いまとなっては、だれがプーチンの居座りなど望むだろう。
米国のリンゼー・グラム米上院議員(共和党、サウスカロライナ州)はことし3月3日、テレビ番組、ツイッターへの投稿で、「ロシアにはブルータス、シュタウフェンベルク大佐はいないのか」と呼びかけた。
ブルータスはいうまでもなく、古代ローマの独裁者、シーザーを暗殺した人物。シュタウフェンベルク大佐は、1944年にヒトラーを時限爆弾で殺害しようとして軽傷を負わせ、銃殺されたドイツの将校だ。グラム議員は暗殺≠ニいう言葉こそ避けたが、実質的にはそれを呼びかける内容だった。
英国のオンライン新聞「London loves Business」も2月末、英国の安全保障専門家の話として、「側近によって暗殺される可能性がある」と報じた。
暗殺という違法な手段はともかく、クーデターによってプーチンを権力の座から引きずり下ろすことへの待望論も少なくない。
イギリスのジェームズ・クレバリー欧州北米担当相はウクライナ侵攻が強行された2月24日、英テレビのインタビューで、「ロシアの将軍たちは、プーチンの行動を止められる立場にある。われわれは彼らに、それを計画することを求めたい」と明確に、それを呼びかけた。
武力を持つ軍がクーデターの中心になることはミャンマーの例を引くまでもなく、過去の多くの例を見ても明らかだ。
大統領の職務遂行も困難に
プーチンがウクライナ市民の大量殺害について、指揮し命令を与えたかは明らかではないが、最高指導者たるものはすべての結果について責任を問われる。
全世界からこれほど糾弾されれば、将来とも、そのポストにとどまっておいても、各国から大国の指導者として遇されることはあり得まい。外遊に出れば、ICCからの逮捕状を執行され身柄を拘束されるというのだから、海外で首脳会談を行う機会は大幅に狭められ、大統領としての職務を遂行することはもはや事実上困難だ。
これまでなら、即座に停戦を断行してウクライナ側と和解する方策はあったかもしれない。いったん市民の集団殺害が明らかになったいまとなっては、手遅れというべきだろう。
●「ウクライナ政権は邪悪」プーチンが心酔するロシア正教会“75歳怪僧”の正体 4/8
ロシアのウクライナ侵攻開始から1カ月半が経とうとしているが、ロシア軍は要衝の掌握に苦戦し、欧米の推計では兵士1万人以上が戦死するなど、甚大な被害を出している。ロシア側は市民を対象とした無差別攻撃に走り、いまだ停戦の出口は見えない。
なぜプーチン大統領は、それほどまでの損失を出しても執拗にウクライナ制圧にこだわるのか?
ウクライナ在住ジャーナリストの古川英治氏は「文藝春秋」に寄せたレポートのなかで、今回の侵略には「宗教戦争」の側面があることを指摘する。
侵略を正当化する宗教指導者
ロシア正教会の最高指導者でモスクワ総主教のキリル1世(75)は、プーチン大統領の盟友として知られ、ウクライナ侵攻についても積極的な発言を繰り返してきた。古川氏はこう解説する。
〈キリル1世は今回の侵攻前から「ロシア軍はロシアの人々のために平和を守っている」などと発言。侵攻後も、プーチン政権を批判したり停戦を求めたりすることはなかった。
そればかりか、キリル1世は3月9日、モスクワの大聖堂でウクライナ侵攻を支持するかのような、こんな説教をしてみせた。
「ロシアとウクライナは同じ信仰と聖人、希望と祈りを分かち合う一つの民族だ」
「(外国勢力が)私たちの関係を引き裂こうとしている」
「悲劇的な紛争は、第一にロシアを弱体化させるための(外国の)地政学上の戦略になっている」〉
宗教指導者にもかかわらず、侵略戦争を全面支持するキリル1世とは、いったいどのような人物なのか? 古川氏によると、スパイ組織KGB(国家保安委員会)の工作員だったとの情報もあるという。
〈キリル1世はロシア第二の都市サンクトペテルブルク出身。ソ連時代にはKGBの工作員だったとの噂も絶えない。プーチンは自らの出身地であるサンクトペテルブルク出身者やKGB時代の同僚らを引き上げており、キリル1世が2009年にロシア正教会トップの地位を射止めた理由はそこにあるとの見方もある。〉
さらに、聖職者でありながらクレムリンの宮殿内に住んでいるとされ、豪奢な生活ぶりが問題視されたこともある。
〈キリル1世が総主教になる前に面識があった欧州のある外交官は同氏について、「現実主義者で柔軟、聖職者というよりは出世欲の強い官僚のようだった」と評する。3万ドルのスイス高級時計ブレゲを身に着けている写真が出回り、釈明に追われたこともある。他の政権幹部と同様に、プーチンに忠実な部下のような横顔も浮かんでくる。〉
核兵器を「祝福」
プーチン大統領と一体になって権力をふるうキリル1世は、およそキリスト教の教えにふさわしくない言動を繰り返す。他の聖職者たちに闘争を呼び掛けたり、戦争で使われる武器を「祝福」しているというのである。古川氏はこう指摘する。
〈キリル1世はプーチンの統治を「神による奇跡」と評し、聖職者でありながら、ロシア安全保障会議にもたびたび出席する。(中略)キリル1世は親欧米に転じたウクライナの政権を「邪悪」と呼び、聖職者に事実上の闘争を呼びかけた。
ロシア正教会は軍と関係を深めており、2020年にはモスクワ郊外に祖国の防衛者を讃えるロシア軍主聖堂を創設した。聖職者が聖水を振りまきながら、核を含む兵器類や兵士を祝福する伝統もある。〉
一方のプーチン大統領もキリル1世には全幅の信頼を寄せ、「信仰心」の篤さをアピールしている。
〈プーチンはかつて「宗教と核の盾がロシアを強国にし、国内外での安全を保障する要だ」と語ったことがある。自由・民主主義を柱とする欧米の価値観に対して、専制体制を敷くプーチンは、ロシアの精神的な支柱としてロシア正教会を後押しし、政権の求心力にしてきた。自ら頻繁に教会に姿を見せ、復活祭は政権幹部が揃ってモスクワの教会で祝う。〉
戦争は「ウクライナ人の罪への報い」?
歴史上、キリスト教会は恵まれない者たちに温かい手を差し伸べてきた。
だが、ウクライナ国内にあるロシア正教会では、避難民たちへの援助を断るところも多くある。古川氏は、東部地区から逃れてきた避難民が体験した、こんなエピソードを紹介する。
〈(避難民が)歴史的な大修道院に支援を求めに行った。ところが、「避難民を収容する場所はない」と冷たくあしらわれた。
その大修道院の司祭は、今回のロシアの侵攻について、こう言い放ったという。
「この地(ウクライナ)の人々は罪深い。これ(戦争)はその罪に対する報いだ」
たまらず「子供や女性を殺害しているプーチンこそ悪魔ではないのか」と反論すると、「プーチンの過ちではない、神がお決めになったのだ」との答えが返ってきたという。〉
だが、ここ数週間、さすがにこのような事態を見かねたロシア正教会の聖職者たちから、異論が巻き起こっている。はたしてプーチン大統領とキリル1世の一蓮托生の関係は、どうなるのか? 
●日本駐在のロシア外交官ら8人追放 ウクライナ情勢で 外務省  4/8
ウクライナ情勢をめぐり外務省は、日本に駐在するロシア大使館の外交官ら8人を追放する措置を発表しました。
これは小野 外務報道官が臨時に記者会見して発表しました。
それによりますと外務省の森事務次官が8日、ロシアのガルージン駐日大使を呼び「多数のむこの民間人殺害は重大な国際人道法違反であり、戦争犯罪で断じて許されず厳しく非難する」と述べ、即刻、すべてのロシア軍部隊の撤収を求めました。
そのうえで森事務次官は日本に駐在するロシア大使館の外交官とロシア通商代表部職員、合わせて8人を国外に追放する措置をとることを伝えました。
小野 外務報道官は記者会見で、退去する期限もロシア側に伝えているものの詳細については外交上のやり取りだとして明らかにしませんでした。
一方、小野氏は記者団から今回の措置がロシアに滞在する日本人に与える影響を問われたのに対し「仮定の質問になるので基本的に答えは差し控えたいと思うが、いずれにしても外務省としては引き続きロシアにおける邦人や企業活動の保護に万全を期していく」と述べました。
外務省が日本に駐在するロシア大使館の外交官ら8人を追放する措置を発表したことに対し、ロシア外務省のザハロワ報道官は8日、国営通信に対し「ロシアは適切な対応をとる」と述べました。
ヨーロッパ各国もこれまでに駐在するロシアの外交官を追放する措置を相次いで発表していて、ロシア側はこうした動きについて報復措置をとる考えを示しています。
ウクライナ情勢をめぐり、外務省が日本に駐在するロシア大使館の外交官ら8人を追放する措置を発表したことについて、駐日ロシア大使館は8日、SNSへの投稿で、「ガルージン駐日大使が外務省の森事務次官に対して強く抗議した」と明らかにしました。
そのうえで、「日本の非友好的な措置に断固として対応することになる」としています。
●ロシア ウクライナ東部南部で攻勢強化 欧米さらなる軍事支援へ  4/8
ロシア軍は、ウクライナの東部や南部の拠点をミサイルで攻撃するなど攻勢を強めています。欧米側は今後、大規模な戦闘が行われる可能性があると警戒していて、ウクライナ軍へのさらなる軍事支援に向け、調整を進めています。
ロシア国防省は8日、ウクライナ東部ドネツク州で各地の鉄道の駅をミサイルで攻撃し、この地域に運ばれてきたウクライナ軍の兵器や装備品を破壊したほか、黒海に面する南部の港湾都市オデーサの北東にある「外国人の傭兵訓練センター」をミサイルで破壊したと発表しました。
戦況を分析するイギリス国防省は8日、東部と南部の都市でロシア軍が砲撃を続けていて、東部ハルキウ州にある戦略上重要な都市、イジュームを支配下に置いたあと、さらに南下していると指摘しています。そして、首都キーウ近郊から撤退した部隊の一部が東部に投入されるとみられ、この再配備にむけた補充に少なくとも1週間かかる見通しであると分析しています。
また、アメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は7日、議会上院の公聴会で「ロシア軍は南東部に戦力を集めており、大規模な戦闘はこれからだ」と述べたうえで、戦闘が長期化する可能性があるという見方を示しました。
そして、ウクライナへの軍事支援について、欧米側からこれまでに対戦車兵器およそ6万基と、対空兵器およそ2万5000基を供与したと明らかにし、そのうえで、今後の大規模な戦闘に向けて、ウクライナ軍は装甲車や迫撃砲といった兵器を求めていると指摘し、関係国と調整する考えを示しました。
NATO=北大西洋条約機構も7日、外相会合を開き、兵器の追加供与など、ウクライナに対する軍事支援の強化で一致しています。
一方、ロシアは、アメリカなどのこうした動きを強く警戒していて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は7日、「ウクライナに様々な形式の兵器を提供することは、ロシアとウクライナの交渉の成功につながらない。非常に悪い結果になることは間違いない」と述べて、ウクライナとの停戦交渉に影響が及ぶと、けん制しています。
●「ロシア軍 かなりの兵力が集中」ドネツク州知事が現状語る  4/8
ウクライナに侵攻したロシア軍が東部への攻撃を強めるなか、ウクライナ政府は、東部の市民にすみやかな避難を呼びかけ、緊張が高まっています。アメリカのシンクタンク、「戦争研究所」は6日、ロシア軍が近く、東部のルハンシク州とドネツク州で大規模な攻撃を行う準備をしている可能性があるという見方を示しました。ウクライナのベレシチュク副首相は6日、東部のルハンシク州やドネツク州などの市民に対し「攻撃にさらされ、助けられなくなる」としてすみやかに避難するよう呼びかけました。
ロシア軍が作戦を強化する中どう住民を守るのか。5日、ドネツク州の知事に話を聞きました。
ドネツク州の知事、パブロ・キリレンコ氏は、ロシア軍が東部に集中している現状を語りました。「ロシア軍の集中および再編成が進んでいます。かなりの兵力が集中しています。情勢は緊迫し、戦線の至る所で戦闘が続いています。軍事施設とは全く関係のない民間施設が攻撃を受けているのです」。
ロシアの大規模な攻勢に備えていまキリレンコ氏は住民の避難を急いでいると明かしました。「いま州内から多くの人が脱出しています。住民にはパニックにならなくても良いと説明しています。もちろん現地に残りたいという人もいます。特に年配の方ですが、自分で建てた家を捨てたくないのです。私は道路が(ロシア軍に)寸断されるまで待たず、1日も早く避難するよう呼びかけています」。
知事が強い懸念を寄せるのが、州内にあるマリウポリの情勢です。4日ロシア国営メディアはマリウポリでの市長選出の動きを放送しました。「イワシチェンコ氏を市長に任命 するのに賛成の人は?」。「全員一致」。ロシアよりと見られる候補者を市長代行と一方的に紹介しました。
しかし、州知事はマリウポリはまだ陥落せず、正当性はないと主張しました。「ウクライナ側は団結し、敵の攻撃を迎え撃っています。情報によると敵はマリウポリの陥落を待たずに、勝手に住民投票を宣言し、行政府を設けようとしています。しかし、それは正当性がなく、偽の情報を作り出そうとしているのです。マリウポリにはまだウクライナの旗が立っているのですから」。
35歳の若さで州知事を務めるキリレンコ氏。胸の内をこう語りました。「もちろんつらいです。私たちだって人間ですから。闘う心をなくしてはいけません。あきらめてはならないのです。人が歩けば道は開けるといいます。私たちは勝ちます。ウクライナはひとつ、ここは私たちの土地です。ここを守り抜かねばなりません。」。
●駅にミサイル、避難民ら50人死亡 ウクライナ大統領が非難―「戦争犯罪」 4/8
ウクライナ当局は8日、東部ドネツク州クラマトルスクの鉄道駅が弾道ミサイルで攻撃され、避難民ら50人が死亡したと発表した。うち5人が子供で、犠牲者はさらに増える恐れがある。負傷者は98人。当時、駅は避難を待つ約4000人で混み合い、女性や子供が大半だったという。
クラマトルスクは政府軍が支配している。ゼレンスキー大統領は、ロシア軍について「戦場で戦う勇気がなく、民間人を殺している。これは際限のない悪であり、罰することなしには止められない」と非難した。首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどで多数の遺体が見つかる中、度重なる「戦争犯罪」への厳しい対応を訴えた。
欧米各国も一斉に非難し、トラス英外相はツイッターで「民間人を狙うのは戦争犯罪だ」としてロシアを指弾した。
一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は7日、英スカイニューズのインタビューで「(ロシア)部隊は重大な損失を被った。われわれにとって巨大な悲劇だ」と述べ、侵攻開始以来、ロシア軍に大きな被害が生じていることを認めた。「今後数日のうちに作戦の目標が達成されるだろう」とも強調し、東部や南部の制圧に向け、近く本格攻勢に入ることを示唆した。
●国連、ロシアの人権理事資格を停止 ウクライナは兵器提供を呼びかけ 4/8
国連総会は7日に開かれた緊急特別会合で、ロシアの国連人権理事会における理事国資格を停止する決議案を可決した。ロシアがウクライナ侵攻に際し、戦争犯罪を行った疑惑が浮上したことを受けたもの。
採決に先立ち、ウクライナのセルヒー・キスリツァ国連大使は、首都キーウ(キエフ)近郊のブチャなどで、ロシア軍が民間人を殺害した疑いに触れ、ロシアが「恐ろしい」虐待を行っていると非難した。
これに対し、ロシアのゲンナジー・クズミン国連次席大使は、決議は政治的なものだと批判した。
ウクライナではロシア軍がキーウ周辺から撤退した後、ブチャやボロジャンカといった近郊の村で激しい破壊の様子が明らかになっている。
同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領はフェイスブックに7日夜に投稿した国民に対する演説で、ボロジャンカの破壊はブチャよりもひどい状況だと述べた。
また、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は同日、北大西洋条約機構(NATO)本部での記者会見で、向こう数日の軍事支援が重要との見方を示し、加盟国に兵器供与を呼びかけた。
この決議にはアメリカ、イギリス、ウクライナ、欧州連合(EU)加盟国、日本など93カ国が賛成した。一方、ロシアや中国、北朝鮮、シリア、ベラルーシなど24カ国が反対票を投じた。
また、インド、エジプト、南アフリカなど58カ国が棄権した。残りの18カ国の代表は、「戦略的なコーヒー休憩」を取り、投票前に議場を去った。
ウクライナのクレバ外相は決議を受け、「国連の人権を守る機関に、戦争犯罪人の居場所はない。国連総会で決議を支持し、歴史の正しい側を選んだ国に感謝する」と述べた。
ゼレンスキー大統領もフェイスブックに投稿された動画の中で決議に言及。「ロシアには人権などという概念はない。いつかはそれも変わるかもしれない」と語った。
「だが現時点のロシア政府とその軍隊は、自由や人類の安全保障、人権という概念にとって地球上で最大の脅威となっている」
アメリカは決議を称賛
アメリカのジョー・バイデン大統領は決議を「たたえる」声明を発表し、「プーチンの戦争によってロシアが世界の嫌われ者になっていることを示すため、国際社会が意味のある一歩を踏み出した」と述べた。また、ロシアが「大規模かつ組織的に人権を侵していることを」発見し、ロシアを人権理事会から排除するのにアメリカが一役買ったと述べた。「ロシアが撤退した後に撮影された、ブチャを含むウクライナ各地の映像は恐ろしいものだ」「人々が強姦され、拷問され、処刑された形跡があり、遺体が切断されたケースもあった。我々に共通する人間性に対する残虐行為だ」「ロシアのうそは、ウクライナで起きていることの動かしがたい証拠の前では無意味だ」アントニー・ブリンケン米国務長官も、この決議によって「間違いが正された」と述べた。
ロシアは「違法」と非難
これに対しロシア政府は、国連人権理事会での資格停止は、「違法」かつ「政治的動機」であると述べた。ドミトリー・ペスコフ政府報道官は英スカイニュースの取材で、ロシアはこの決議を残念に思っており、「あらゆる法的手段を用いて」自国の利益を守り続けると語った。人権理事会での資格停止は、2011年のリビアに続いて史上2例目となる。BBCのイモージェン・フォルクス記者は、国連総会が、国連安全保障理事会の常任理事国に対しこのような厳しい態度を示したのは初めてだと指摘。一方で、決議案自体は可決されたものの、実際に賛成票を投じたのは加盟193カ国中93カ国と半分にも満たず、決議をめぐって各国の思惑が分断していると報じた。
倒壊したアパートから26人の遺体=ボロジャンカ
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、フェイスブックに投稿した動画演説で、ボロジャンカの破壊の様子はブチャよりも「さらにひどい状況」だと語った。キーウで撮影された動画でゼレンスキー氏は、「ボロジャンカの崩壊を検分し始めている」、「さらにひどい状況だ。ロシア占領軍の犠牲者もさらに多い」と述べた。キーウにほど近いブチャやボロジャンカでは、首都を狙うロシア軍との激しい戦闘が行われていた。ウクライナのイリーナ・ヴェネジクトヴァ検事総長によると、ボロジャンカの倒壊したアパート2棟から、これまでに26人の遺体が発見されている。検事総長は、ロシア軍が意図的に市民のいる地域を攻撃したと非難。「ここには軍事施設はない。ロシア軍は市民が家にいる夕方を狙って住宅インフラを爆撃した」と述べ、「ロシア軍の戦争犯罪の証拠だ」と話した。
「ロシア軍は遺体をプロパガンダに」
ゼレンスキー大統領は動画演説で、ロシア軍に占領されている南部マリウポリの状況にも言及。「ロシア軍がマリウポリで行ったことの真実を世界が知ったらどうなるか?」と問いかけた。「ブチャを含むキーウ地域からロシア軍が撤退した時に世界が見た光景が、マリウポリではほぼ全ての道路で起こっている。同じ残虐性、同じ恐ろしい犯罪だ」ゼレンスキー氏はその上で、ブチャでの民間人殺害に世界から非難の声が上がる中、ロシアはマリウポリでも「同じような措置」を取るだろうと指摘した。「ロシアはマリウポリの犠牲者をロシア軍によるものではなく、街を守るウクライナによるものだと言うだろう。そのために、占領軍は道端の遺体を集めて運び出している」さらに、これらの遺体が別の場所でプロパガンダに使われる可能性もあると述べた。ゼレンスキー氏は動画の最後に、「勇敢であることはウクライナのブランドだ」と述べ、「もし世界中の人々がウクライナ人の1割でも勇気があれば、国際法に対する危険も、自由な国への脅威もなくなるだろう。私たちはこの勇気を広めたい」と語った。さらに各国首脳に対し、ロシアへのさらなる制裁強化を要請。「最も厳しい制裁になり得る」のは、ウクライナへの兵器供給だと強調した。
残虐行為の証言
ロシア軍がキーウ周辺で行った殺人については、人権団体アムネスティ・インターナショナルも目撃者の証言などから確認を取っている。同団体のアニエス・カラマール事務局長は、「ここ数週間、我々はロシア軍が超法規的な処刑や違法な殺人を犯した証拠を集めてきた。これらは戦争犯罪として調査されるべきだ」と述べた。「証言からは、武器を持たないウクライナ市民が自宅や街中で殺されたことが明らかになった。言葉にならないほど残虐で、衝撃的な暴力だ」キーウ東郊の村に住むある女性は、3月9日に家に入ってきたロシア兵2人に夫を殺され、銃を突きつけられて何度も強姦されたと証言した。その間、幼い息子は近くのボイラー室に隠れていたという。ロシア軍が撤退した地域を取材しているBBCのジェレミー・ボウエン中東特派員の取材では、ウクライナ軍の反撃に備え、ロシア軍が市民を「人間の盾」にしたと話す住民もいた。ロシア政府は一連の批判を一貫して否定しており、暴力行為の犯人は別にいると主張している。
NATOもロシアを糾弾、ウクライナ支援を確認
NATOではこの日、外相会合が開かれた。ウクライナのクレバ外相も出席し、早急な支援が必要だと訴えた。クレバ外相は、ウクライナが必要とする支援を西側が続けることが、NATO加盟国をロシアから守ることにもつながると指摘。NATO加盟国とウクライナの安全保障を守るには「とにかく兵器が必要だ」と訴えた。「あなた方が今すぐ、数週間ではなく数日のうちにウクライナを助けなければ、多くの人が死ぬ。支援が遅れれば、多くの市民が家を失い、村が破壊される」「ブチャの惨劇を防ぐには、どうやってこの戦争を終わらせるか話し合わなければならない」NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長も記者会見で、ロシアの戦争犯罪疑惑に触れ、「ブチャを含む、最近ロシアの占領から解放された地域での恐ろしい民間人殺害を強く非難する」と述べた。また、責任者を法で裁く必要があるとし、NATO加盟国は国際的な調査を支援すると話した。外相会合については、「軍事兵器をもっと供給する準備がある」と明確に表明し、「その緊急性を認識した」と説明した。兵器の詳細には触れなかったものの、旧ソヴィエト連邦時代のものから現代の兵器まで、幅広くウクライナに供給していくと語った。また、サイバーセキュリティー方面の支援も拡大していくほか、化学兵器や生物兵器での攻撃に対する防衛設備も供給する方針を示した。一方で、ウクライナでの戦争が数カ月から数年にわたる可能性があると警告し、「長期戦」の準備が必要だと述べた。NATOはこれとは別に、ジョージアやボスニアヘルツェゴヴィナといった同盟国の「耐久力と自衛能力を高める」ための支援も発表している。
ロシア政府報道官、「部隊を大幅に失った」と認める
ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は7日、同国軍がウクライナ侵攻で「部隊を大幅に失った」と認めた。英スカイニュースの取材でペスコフ報道官は、ロシアが軍隊をキーウから撤退させ、多くの部隊を失ったこと、ゼレンスキー氏がなおウクライナ大統領にとどまっていることなどは、ロシアにとって「屈辱」に当たるのかと質問されると、そうした見解は「間違っている」と答えた。しかし再度、部隊を失ったことについて聞かれると、「そうだ、我々は部隊を大幅に失った。大きな悲劇だ」と語った。一方で、キーウ地域やチェルニヒウからの撤退は、和平交渉中の「緊張緩和」に向けた「善意の印」だと述べた。インタビューの中でペスコフ氏は、ロシアが「特別軍事作戦」を行っているのは、ウクライナの「反ロシア」化や、NATOが「我々の国境を越えることへの深い憂慮」からだと繰り返した。ロシアはこれまで、ウクライナ侵攻で兵士1351人が亡くなったと発表していた。実際の死者数は明らかになっていないが、米メディアは、NATO関係者の見方として7000〜1万5000人の死者が出ていると報じた。アメリカ政府も同様の推測をしている。
和平案に「受け入れられない要素」=ロシア外相
こうした中、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、ウクライナが提示した和平協定案に「受け入れられない要素」が含まれていると述べた。ラヴロフ外相は、イスタンブールで3月末に行われたロシアとウクライナの和平交渉で提示された協定案を、ウクライナ側が修正したと説明。「この交渉能力のなさこそ、ウクライナの本当の意図を示している」と語った。また、アメリカ政府がウクライナ政府をコントロールし、「ゼレンスキーに敵対行為を続けさせている」と主張。ロシアは交渉を続けるものの、自国の要求を強く求めていくと述べた。ウクライナは、ラヴロフ氏の発言はプロパガンダだと反論。ラヴロフ氏は交渉に直接参加しておらず、ブチャでの出来事から世間の関心をそらそうとしていると指摘した。
ドニプロでは市民に避難を要請
ロシア軍のキーウからの撤退に伴い、東部での戦闘が激化する懸念が高まっている。ドニプロのボリス・フィラトフ市長は、女性や子供、高齢者は今すぐ避難するべきだと呼びかけた。動画での演説でフィラトフ市長は、「東部ドンバスの状況が悪化」しているため、市内の主要インフラに直接関わっていない市民は、西部の安全な場所に避難すべきだと説明した。ウクライナ中部に位置するドニプロには現在、東部から避難してきた人々が大量に流入している。ドンバスのルハンスクやドネツクでも、当局が同様の警告を発している。
東部ドンバスは今後どうなる?
ウクライナのクレバ外相は、今後予想されるドンバスでの戦いは、「第2次世界大戦の名残り」のようなものになるだろうと話している。これについて英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のニック・レイノルズ陸戦アナリストは、「正しい予想だ」と述べている。「ウクライナ北部から部隊が全て解放され(中略)、欧州の地で何十年も起きていなかった、軍隊と軍隊のぶつかり合いが起こることになるだろう」また、ロシア軍は北部からは撤退したものの、南部と東部では「ゆっくりとロシアの占領地域が増えている」と指摘し、この地域ではロシア側がなお勢いを持っていると解説した。西側諸国からの武器提供については、ウクライナの状況を変えていることは確かだが、NATOは「備蓄している兵器の相当量を供給しており、その数は有限だ」と指摘。今後数週間についても、西側の武器が「非常に重要になる」としつつ、どこから調達し、どうやって必要な場所に届けるかは分からないと述べた。特に、対空ミサイル「スティンガー」や対戦車ミサイル「ジャヴェリン」は複雑なサプライチェーンを持つことから製造が難しいため、レイノルズ氏は、西側各国は需要への対応に苦慮しているとみている。
●ウクライナ女性、ロシア軍から性暴力 「兵士の妻」と住民密告 4/8
「生きていたくない」。ウクライナ南部ヘルソン州で暮らしていた女性がロシア兵による性暴力を告発した。「ウクライナ兵の妻」とロシア兵に告げて原因をつくったのは、地元住民だった。
エレナさん(仮名)は町から逃れる途中、南東部ザポロジエで取材に応じた。侵攻初日の2月24日、子供4人を中部に避難させた。ウクライナ軍人の夫は前線へ。自分は荷物をまとめているうちに逃げ遅れ、ロシア軍が町を占領した。
被害は今月3日に起きた。店の列に並んでいると、入ってきたロシア兵が客と話し始めた。すると自分を住民の一人が指し「こういうやつらがいたから戦争が起きた。彼女は兵士の妻だ」と言い放ったという。
視線を察し、急いで店を離れたが、ロシア兵2人が後を追って自宅に侵入。「助けを呼ぶ時間もなかった」。被害は医師にも夫にも告げていない。「ひどい。本当にひどい。生きていたくない」と泣き崩れた。
エレナさんは、ウクライナ軍が占領地を奪還して「報復する」と信じる。「自分を密告した住民を探し出し、夫に伝える」とも誓った。
同様のケースは珍しくなく、人権団体はウクライナで性暴力が「戦争の武器」として用いられていると訴える。
●ロシア外相「ウクライナの安全を保証する国にベラルーシ加えるべき」 4/8
ロシアのラブロフ外相は、ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻を支援しているベラルーシについて、「ロシアとウクライナの停戦協議で積極的な役割をしてほしい」と述べました。そのうえで、停戦協議の焦点となっているウクライナの安全を保証する国のリストの中に、ベラルーシも加えるべきだと主張しました。
ウクライナ側は、NATO=北大西洋条約機構の加盟国などを保証国として希望していて、ロシアの軍事侵攻に加担するベラルーシは受け入れないとみられています。
●南を狙うプーチンの思惑 ウクライナの息の根を止める作戦 4/8
キーウ周辺からのロシア軍の撤退で、一応、首都周辺は戦闘区域ではなくなった。しかし一方で、東部ドンバス地方や黒海沿岸の地域では戦闘の激化も伝えられる。プーチン氏のこの後の狙いは何なのか…。
“守”から“攻”へ…武器供与が変わる
これまでもアメリカは様々な形でウクライナに対し軍事的装備の供与を続けてきた。その主力は戦闘機やヘリを撃ち落とす「スティンガー」、戦車を破壊する「ジャベリン」といった人間が持って小型のミサイルを発射する兵器だった。が、今回チェコから、ウクライナ兵が扱い慣れた旧ソ連製の戦車が投入された。これは何を意味するのだろうか。
東京大学先端科学研究センター 小泉悠専任講師「(これまでの兵器は敵の攻撃から防御するものだったが、戦車は攻める兵器に思えるが…)その通りです。スティンガーもジャベリンもウクライナが持ちこたえる上で非常に大きな役割を果たした。(中略)でも、押し返すという力にはならない。そうなると戦車とか…。先月31日にイギリスのウォレス国防相が言ったのは、大砲を供与すると。それから沿岸防衛システムと言ってますから地対艦ミサイル、地対空ミサイルなども含むかと。これだけの重装備が入ってくるとウクライナ軍がロシア軍を押し返す可能性はある。(中略)といっても10輌20輌あっても焼け石に水。数百輌送らないと。まぁ旧東側の国々には旧ソ連製の戦車が残っている、予備保管されているものもかき集めればかなりの数になる。気になるのはロシアが予備役を6万人ぐらい投入する準備を進めていることだが…」
ウクライナ側が重装備を強化し、ロシアが増兵する…。東部戦線の激化は免れそうもない。
「黒海の港を失えば、ウクライナの国民経済は麻痺する」
ロシア軍は東部を固める一方で、南部の町を断続的に攻撃している。
ウクライナ南部、黒海沿いにはロシアが手に入れたい町がいくつもある。親ロシア派の多い東部とクリミアをつなぐ回廊の中心マリウポリは徹底的に破壊され尽くしている。一方、黒海沿いの西の端には、美しい港町オデーサがある。ロシアはここも狙っているようだ。オデーサとはどんな町か、旧ソ連地域の政治経済に詳しい服部倫卓氏に聞いた。
ロシアNIS経済研究所 服部倫卓所長「“黒海の真珠”といわれ、文化的な香りもあって旅情豊かな非常にいい街です。港町ですが、オデーサだけじゃなくこの州に3つ大きな港があって、ウクライナ経済の屋台骨を支えてる。ウクライナは農作物、特に穀物の輸出額はアメリカに次いで世界2位。ひまわり油は、世界1位です。それをどこから輸出しているかというと、オデーサなんです」
ロシア軍はオデーサの東隣の港町、ミコライウへの攻撃を続けている。ウクライナ軍は何とかここで食い止めようと反撃しているというが、ウクライナにとっての港町の重要性は、小泉氏、服部氏二人が口を揃える。
小泉悠専任講師「ミコライウに関しては、ロシア軍が継続的に攻撃していて、何とか落としたい重要目標であることは明らかです。ここを落としたら次はオデーサで、ここまでは攻め込むことは、視野に入っているでしょう。ウクライナにしてみれば大動脈、世界と経済でつながる拠点がオデーサです」
服部倫卓所長「ウクライナは輸出依存度が非常に高い国。それも小麦、トウモロコシ、ひまわり油、鉄鉱石など船で運ばないと成り立たない。市場も地中海沿岸や中東、インド洋周辺。つまり黒海の港から輸出することが国民経済の基本になっている。これを失うことは国民経済が麻痺すること」
キーウ攻略を断念しても東部と南部への侵攻は決して緩めないロシア。実は、軍事侵攻の3日前、プーチン大統領はある言葉でこのエリアに言及していた。
プーチンのノボロシア(新しいロシア)発言の真意
「18世紀オスマン帝国との戦いを経てロシアに組み込まれた黒海沿岸の土地に『ノボロシア』という名前が与えられた。しかし今、歴史の出来事もロシア帝国と軍の偉人の名誉も忘却に追いやられている。ロシア帝国の偉人らの努力なしには現在のウクライナの大都市も黒海へのアクセスもなかったはずだ」(2月21日、ロシア大統領筆のプーチン大統領の演説から抜粋)
ノボロシア(新しいロシア)は、ロシア帝国時代支配下にあった黒海沿岸地域の名称だ。
このエリアには、現在ロシア軍が侵攻しているドンバス地域やマリウポリ、ミコライウ、オデーサなどの港町がすべて含まれている。このロシアの侵攻エリアとノボロシアとの関連性について服部氏は言う。
服部倫卓所長「ウクライナにおけるロシア語圏が東部、南部にある。オデーサも完全なロシア語圏の町。今回、プーチンは歴史的なロシアというものを強調して、そこから始まった妄想で作戦を発動したと思う。帝政ロシアの時代を思い浮かべると、当時からオデーサは随一の穀物輸出港として繁栄したわけです。そういう歴史的ロマンに(元はロシアのものだという)情念を抱いて妄想のような戦争を始めてしまった」
これまで、ロシアの南下政策は凍らない港を求めて進められたと学んできたが、今回の黒海沿岸の独占もそのことと関係があるのだろうか。
服部倫卓所長「ロシア領内にも大規模な港があります。そこは凍りません」
小泉悠専任講師「現在ロシアは不凍港を行動原理にはしない。しかし、ウクライナから港を奪うということには意味がある。港を取ってしまえばウクライナは窒息する」
そして小泉氏は、プーチン大統領のノボロシア発言は今回初めて言い出したことではないと指摘する。2014年にウクライナ東部の親ロシア派勢力が独立を試みた時、名乗ったのが「ノボロシア共和国連邦」だった。結局失敗に終わったが、プーチンの頭の中には、かつてのノボロシア地域を独立させてロシアの仲間にしようという「ノボロシア構想」があったと小泉氏は見る。
小泉悠専任講師「2014年は、ロシアは相当工作を行って、親ロシア派に暴動を起こさせようとしたけれどうまくいかなかった。今回はそれを軍事力で強制的に達成しようとしてるように見える。かつての帝政ロシアの領土をもう一度…という部分もあるかもしれないが、それより、ウクライナの豊かな部分、世界経済とつながっている部分、これを取ってしまってウクライナという国にロシアに逆らえないようにしてしまえっていう構想なんだと思う」
ソ連は農作物を標的とした生物兵器を開発していた
東側や南側をロシアに占領されることは、ウクライナの生命線である穀物を抑えることになる。この穀物を逆手にロシアが次の手を打つ可能性について小泉氏は危惧する。
小泉悠専任講師「生物化学兵器に関して申しますと、ずっと人間を標的にするものばかりが語られていますが、ソ連は農作物を標的にする生物兵器を作っていました。ウクライナを支えるのが穀物だという話からすると、それを狙った生物兵器を標的に撒くという可能性も入ってくる。このことはウクライナにとって耐えがたいだろう、と降伏をせまる可能性はあると思います」
●謎に包まれたプーチン氏の娘たち 米制裁で注目集まる 4/8
ロシアのウクライナ侵攻に伴う「残虐行為」をめぐり、米政府はウラジーミル・プーチン大統領の娘2人に制裁を科した。ただ、この2人については公にほとんど知られていない。
米財務省によると、2人はカテリーナ・チホノワ氏とマリヤ・ボロンツォワ氏。チホノワ氏は「ロシアの防衛産業を支援する仕事に従事するハイテク企業の幹部」。ボロンツォワ氏は、国の出資を受け「プーチン氏が個人的に監督する」遺伝子研究計画を主導する。
米政府は「プーチン氏の資産が家族の間で隠匿されている」とみていると、ある米高官は指摘する。
ロシア大統領府のウェブサイトに掲載されているプーチン氏の公式な経歴によると、ボロンツォワ氏は1985年生まれ。チホノワ氏は、プーチン氏がソ連時代に国家保安委員会(KGB)の諜報(ちょうほう)員としてドイツ・ドレスデンに家族と共に赴いた後の1986年に誕生した。
プーチン氏は過去に、娘たちはロシアで大学教育を受け、欧州の数か国語を話し、ロシアに居住していると明かしている。孫も存在するという。ただ、公式にはこれ以上の情報はあまりなく、大統領府はプーチン氏一家の私生活について情報を公開していない。
ロシアメディアによると、ボロンツォワ氏は内分泌科医でがんの治療に重点的に取り組み、政府との関連もある大手の医療研究企業に関与している。
チホノワ氏については、数学者であり、国内トップクラスの国立大学に関連した科学技術財団を率いていると伝えられている。同氏は、アクロバットロックンロールと呼ばれるダンス競技のプロ選手で、権威ある国際大会への出場経験もあるという。
プーチン氏は2019年の記者会見で、娘たちが実業界で存在感を拡大し、政府とも結び付いているのではないかとの質問を受け、直接的な答えは避けた。両氏を娘とも呼ばず、ただ「女性たち」と表現した。
後年行われた別の記者会見でプーチン氏は「彼女たちのことを誇りに思う。勉学を継続し、職務に就いている」と語った。また、「彼女たちはいかなるビジネス活動にも関与しておらず、政治にも関わっていない」と明言した。
プーチン氏は2020年のインタビューで、「安全上の懸念」があるため、家族に関する情報の共有は望んでいないとの考えを示した。孫の存在は認めたものの、何人いるのかは明かさなかった。
プーチン氏は「孫たちがいる。私は幸せだ。大変良い子たちで、とてもかわいい。一緒に時間を過ごすのを本当に楽しんでいる」と話している。
●中南米やアフリカなどで親ロシアのプロパガンダが広まる 4/8
ウクライナ侵攻でロシアの残虐性や違法性が強調されている。両国の情報戦においてはウクライナの圧勝のように思われがちだ。しかし、私たちの見えないところで、ロシアを支持する情報が広く流布しており、親ロシアの姿勢を取る人が多いのもまた現実だ。
どこでクレムリンのプロパガンダが拡散されているのか
ウクライナのゼレンスキー大統領は、国内外に積極的にメッセージを伝えている。こうした行為が、国内の士気を高めるだけでなく、ロシアの違法性を国際社会に伝え、その効果的な情報戦略が世界で賞賛を集めている。他方、残虐行為を重ねるロシアへの非難は各地で高まる一方のように思われている。
しかし、英紙「ガーディアン」によると、ウクライナはすべての国から支持されているわけではないのだという。ウクライナに不利なフェイクニュースやロシアのプロパガンダがそのまま拡散されている国も少なくないようだ。
市民がプーチンのプロパガンダに染まったことで知られるロシア国内だけでなく、ロシアに近い立場あるいは中立姿勢を取る国々でもロシアの主張がそのまま報道されているという。たとえば中国や南米、サハラ砂漠以南のアフリカの国々などにおいてだ。
中国においては、ソーシャルメディア「ウェイボー」上の投稿を見ても、その約50%が、西側諸国やNATO、ウクライナのせいで戦争が起きたというロシアの主張を支持しているという調査結果がある。
英誌「エコノミスト」によると、ロシアの姿勢に明確に反対している国は131ヵ国あるものの、それらの国の人口を考えると世界のわずか36%にしかならない。中国やインドなどもっとも人口が多い国が、ロシアに反対していないためだ。
中立姿勢を示すインドにおいては、40%の回答者がロシアのウクライナ侵攻を支持、54%がプーチンのリーダーシップを支持していると、英インターネット調査機関YouGovの3月の調査で示されている。
プロパガンダを拡散する反米スペイン語メディア
なかでも特筆すべきは、ラテンアメリカでロシアのプロパガンダが積極的に広く拡散されているという点だ。
ロシアの国営メディア「ロシア・トゥデイ(RT)」と「スプートニク」はEU加盟国やイギリスではの放送が禁止され、アメリカでも制作が停止している。その一方、米メディア「ディスパッチ」によると、ラテンアメリカではこれらのチャンネルの人気が高まっているという。
2009年にスペイン語圏で放送が開始された「ロシア・トゥデイ(RT)」のスペイン語チャンネル「アクチュアリダRT」はスペインでは放送されなくなったものの、南米ではクレムリンの嘘の主張を放送している。
また、その報道内容を、ベネズエラのプロパガンダチャンネル「テレ・スー」やイランが2011年に立ち上げたスペイン語チャンネル「イスパンTV」も放送し、さらに拡散しているそうだ。
たとえば3月6日にロシアとウクライナの停戦合意で、ウクライナ市民が脱出するための人道的回廊をロシア軍が砲撃したという事実があったが、「テレ・スー」と「イスパンTV」は、ロシア側の主張をそのまま報道し、ウクライナ側を非難した。彼らは「ウクライナの過激派勢力」が民間人を人間の盾として使い、ロシアの人道支援を妨害していると言うのだ。
ベネズエラ政府もイラン政府も共に反米的な姿勢を取り、自らを欧米による帝国主義の「抵抗」戦線であると自認している。彼らは、メディアの中で西側諸国とその指導者を悪魔のように描き、西側諸国に世界が抵抗するというシナリオを押し出している。
なお、英「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」の調査によると、両国は、同様にウクライナ侵攻に関しても、ロシアを支持する姿勢を示している。
ラテンアメリカ地域は、以前から陰謀論的な世界観、反米主義、帝国主義への抵抗と結びついてきた。それゆえ、反米的な勢力は、以前からラテンアメリカで自らに都合のいい情報を広めようとする傾向があったという。
なお、プロパガンダの影響力を測るのは難しいが、ソーシャルメディア上の反響を見る限り、一定層に支持されているようだ。たとえば、アクチュアリダRTのツイッターアカウントには現在350万人、テレ・スーのアカウントには300万人のフォロワーがいる。なお、テレ・スーのYoutubeは現在150万のフォロワーがいるが、そのうち6万人はロシアによるウクライナ侵攻が始まった後に増えたそうだ。
スペイン語を母語として話す人口は世界に5億人おり、その間で親ロシア的な言説が広く浸透すれば、その影響は見過ごせなくなるだろう。
●戦争犯罪人と呼ばれるプーチン大統領を支えているものは?〜ウクライナ侵攻 4/8
ロシア軍がキーウから包囲網を解いた後、近郊の街ブチャでウクライナ人410人の死体が見つかった。ゼレンスキー大統領はこれを「ジェノサイド」と呼び、バイデン大統領は再びプーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼んだ。
ウクライナと同国を軍事支援するNATO(北大西洋条約機構)諸国、米国の同盟国である日本などは、政府見解としてプーチン大統領を「戦争犯罪人」と確定的に呼び始めており、国際司法裁判所に提訴するなどの動きも本格化しつつある。
だが、そもそも「かつてウクライナでロシア系住民が殺された」ことを信じているロシア国民は、プーチン大統領はジェノサイドを引き起こした戦争犯罪者だと言っても信用しないのが現実だ。NATO側にはVPN(Virtual Private Network)という通信技術を使ってロシア人に情報提供しようとするの動きもあるが、これをブロックする技術を中ロは持っており、難しいかもしれない。
なお、ルーブルの対ドル相場は、本稿執筆時点の4月7日時点で、ついに79ルーブルまで上昇した。世界から経済制裁を受けながら、ルーブルは対ドルでウクライナ侵攻前より高くなっている。
プーチン大統領は妄想に取りつかれているのか?
プーチン大統領は、2月21日の東部二州(ドンバス、ルハンスク)の独立を承認した時、2月24日のウクライナへの侵攻時、3月18日のラジ二キ・スタジアムでのクリミア半島奪還8周年記念式典時と三度にわたり、「ウクライナでナチを排除した地域は、人々を苦難、ジェノサイドから救うという我々のプランを疑いなく実行している。これが、我々が東ウクライナのドンバスで開始した武装行動の主要な理由であり、動機であり、また目的である」と語った。記念式典があったスタジアムには、「ナチズムのない社会を!」というスローガンが書かれた旗が舞っていた。
これは、プーチン大統領がウクライナ侵攻以前から語っていたことだ。だが、欧米や日本の専門家たちは「プーチンが妄想に取りつかれた」、「精神的におかしくなっている」と憶測する。この2週間ほど、「プーチンには正しい情報が上がっていない」、「側近等が辞職している」という話も出始めており、3月29日に始まった本格的な和平交渉よりも、プーチン政権の崩壊を期待する向きが強まっていると感じるのは、筆者だけではないだろう。
しかし、本当にプーチン大統領は妄想に取りつかれて、側近の報告さえ聞かなくなっているのだろうか。本稿では、プーチン大統領の発言の背景や彼がなぜここまで世界を敵にしても頑張れるのかなど、プーチンをめぐる現状について考えてみたい。
ローマ教皇とロシア正教総主教が2016年2月に会談
ロシアが2014年のクリミア半島奪取の時から、今回の侵攻を想定していたと見るのは、今や世界で一般的となっている。この8年間に最大8万人が死んだとも言われるウクライナ東部・南部でのウクライナ人とロシア人の争いについては、少なくとも現在では、「ロシアが悪い」という評価に異を唱える人は少ない。
しかし、プーチン支持者の理解は異なる。それによると、発端は2016年2月だ。
同月、ローマ教皇はメキシコ訪問の途中でキューバの首都バハマに立ち寄り、そこでロシア正教のキリル総主教と2時間にわたる会談を行った。当時の記録によると、キリル総主教がローマ教皇に面会を懇願したらしい。
この頃のキューバは、オバマ大統領の下で対米国交回復を果たし、ある意味、平和のシンボルのような場所だった。そこまでキリル総主教が面談のためだけにやってきたのである。
実はこの時の共同宣言の中に、今回のプーチンの演説に繋がっていると思われる二つのことが含まれている。
一つは、「ギリシャ・カトリック教とギリシャ正教の間に緊張が存在するところでは、ローマ教皇とキリル総主教の会談が双方の和解と共存の形を必要としている」である。これは、ウクライナにおけるカトリック教徒(ウクライナ人)とギリシャ正教徒(ロシア正教徒のロシア人)との関係を示唆している。
もう一つは、「私達(ローマ教皇とキリル総主教)は、すでに多くの犠牲者を出しており、平和な住民に無数の傷を与え、社会を深い経済的・人道的危機に陥れているウクライナの敵対関係を嘆く。私達は、この紛争に関与しているすべての部分に、慎重さ、社会的連帯、そして平和の構築を目指した行動を呼びかける。私達は、ウクライナの教会に対し、社会の調和を目指し、対立に参加することを控え、紛争のさらなる発展を支援しないよう呼び掛ける」である。どちらが悪いとは書いていないが、ウクライナ人とロシア人の紛争の解決を求めている。
そのうえで、「私達は、ウクライナのギリシャ正教間の分裂が、既存の教会の常識によって克服され、ウクライナの全ての正教徒が平和と調和のうちに生活し、ウクライナのカトリック共同体がこれに貢献し、それによって私達のキリスト教的兄弟愛がますます明らかになることを希望している」と表明している。
プーチン大統領なりの正当性
これを受け、「2014年のロシアによるクリミア半島奪取から今まで続くロシアによるウクライナ侵攻」というウクライナとNATO側の主張とは裏腹に、ロシア側は「2016年にローマ教皇とロシア正教総主教が止めようとしたウクライナ内戦を、ロシア軍を使って終結させる」と主張しているのである。
プーチン支持者のロシア政府関係者によれば、「この共同宣言は、ウクライナ国内におけるロシア系住民への圧迫を止めようとしていたが、それが止まらないのでプーチン大統領が正義の行動をしたのだ」という理解に繋がるらしい。
われわれ日本人が信じるか信じないかは別にして、プーチン大統領には彼なりの正当性があったのだ。
ロシア正教会を含む東方正教会の多くがロシアを批判
今年3月16日、ローマ教皇は6年ぶりにキリル総主教との会談をオンラインで行った。教皇側からは教皇庁キリスト教一致評議会議長のコッホ枢機卿、総主教側からはモスクワ総主教庁渉外部長のヒラリオン大司教が同席した。
この会談で注目されるのは、ローマ教皇がキリル総主教に対して、「教会は政治の言葉を使ってはならず、キリストの言葉(例えば聖書の引用など)を使うべきだ」と語った点だ。これは、プーチン大統領が心の拠り所として支援してきたと噂されるキリル総主教への示唆だったと言えるのではないか。
この前後、ローマ教皇は繰り返し、戦争がもたらす非人道的な結果をなくすべきと発表し、ウクライナに救急車を贈っている。また、欧州安全保障協力機構の永久オブザーバーの地位を持つバチカン市国は、3月30日にウィーンで開かれた会議で、ウルバンチェック・モンシーニョル(高等司教)が戦争をなくすことを求めている。
中東のイスラム教系のメディアがこれらの動きを中立的に報道しているので紹介したい。
それによると、ローマ教皇は3月16日、ウクライナ侵攻前にプーチン大統領を祝福したキリル総主教と会っている。また、ルーマニアのダニエル総主教、フィンランドのレオ大司教、アフリカのテオドア2世総主教など名立たる東方正教会のトップが、ウクライナ侵攻を非難しているという。要は、プーチン大統領の仲間であるキリル総主教がバックラッシュにあっていると表現しているのだ。
また、東欧だけでなく、ロシア正教会の司祭や助祭など300人が、ロシアが戦争を止める方向に動くと信じているという公開書簡を出したこと。プーチン大統領が雇ったというシリア兵を意識してか、シリアのゾコロフ大修道院長の言葉として、「数百人が戦争反対の著名をした一方で、ロシアへの恐れから名乗らない者もいる」と語ったことも報じている。
さらに、キリル総主教がプーチン大統領を支持する背景として、2012年のプーチン大統領の選挙での勝利を、キリル総主教が「神の起こした軌跡」と呼んでいること、プーチン大統領がウクライナをロシアの一部と見なしているように、キリル総主教はロシア教会がウクライナ教会とベラルーシ教会を支配していると考えていることを挙げている。
イスラム教国のメディアをどこまで信じるかという問題はあるが、キリスト教という括りの中でも、プーチン大統領は、彼を精神的に支えるキリル総主教と共に、包囲網をつくられているという印象を受ける。
完全ではないロシア包囲網
米欧日のメディアは、プーチンの側近などが辞任していると報道しているが、バイデン政権でもサキ報道官が辞任表明したほか、長らく日米政府の間に立ってきた戦略国際問題研究所のマイケル・グリーン日本部長が、5月に米国を去ってオーストラリアに行くと発表した。どちらも政権には不安定要素がある。
米国防省の報道官が「NATO諸国はこれまで以上の経済制裁を課する」と言ってはいるが、冒頭で触れたようにルーブルは対ドルでウクライナ侵攻前より遥かに高くなっている。
また、4月5日公開の前稿「プーチンとウクライナの生存をかけて戦うゼレンスキーが日本より中国を選ぶワケ」で書いた中国、インド、パキスタンだけでなく、中東における米国の同盟国であるUAE(アラブ首長国連邦)が2月25日の国連安保理で対ロ非難決議案の採決を棄権したが、その直後に同国のザイド外相がモスクワでラブロフ外相と会談した、という情報は当然プーチン大統領に上がっているはずだ。
ちなみに、インドがロシアの動きをジェノサイドだと批判したとの話はあるが、これはインドの一部の政治家の声であり、結局、同国としての主張は中国と同じく、「事実を調査する」であった。今、米国はロシアに代わるインドへの必要品の輸出を行うとして何とかインドを仲間に入れようとしているが、モディ首相は簡単には動きそうにない。
さらにサウジアラビアは、ドル決済を続けてきた原油代金に人民元決済を加えること、中国の習近平首相が5月に同国を訪問すると発表した。背景には、バイデン政権がイラン外交を復活させたこと、温暖化対策として世界に化石燃料離れのエネルギー政策を推進してきたことへの批判があると言われる。
UAEやサウジアラビアなどイランと対峙してきた国々は、バイデン政権発足後、イランが支援するイエメンのフーシ派によるミサイル攻撃などを受けている。ウクライナ紛争より遥か前から戦争をしているのである。
こう見てくると、極東(中国)、南アジア(インド、パキスタン)、中東(UAE、サウジアラビアだけでなくイランも)は、バイデン政権に追随しておらず、地球儀的にはロシア包囲網は完全ではないことがうかがえる。SWIFT(国際銀行間通信協会)からの締め出しなどの経済制裁が有効にならないのも当然かもしれない。
プーチン大統領の精神状態は今……
繰り返すが、ロシア軍がマリウポリ攻撃で子供を含めた犠牲者を出していること、キーウ包囲網を解いた後(米国防省は「再配置」との見解)に、多くのウクライナ人の死体がブチャで見つかるという事態は許されるべきではない。
このブチャでの惨状(ゼレンスキー大統領が「ジェノサイド」と呼んだことが的確かどうかはともかく)について、プーチン大統領は正常な判断をしたと言えるのか。それとも、ウクライナやNATO側の報道通りに精神的に異常をきたしているのか――。 

 

●EUもプーチン氏娘対象 最大手銀トップも―ロシア追加制裁 4/9
欧州連合(EU)は8日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどでロシア軍撤退後、民間人とみられる遺体が多数見つかったことを受けたロシアへの追加制裁の詳細を正式発表した。プーチン大統領の娘2人を含む217人を新たにEUへの渡航禁止や資産凍結の対象とした。
新興財閥(オリガルヒ)の大富豪オレグ・デリパスカ氏や、ロシア最大手銀行ズベルバンクのグレフ最高経営責任者(CEO)も対象に加えた。
●ウクライナ 駅攻撃され50人死亡 ロシアの短距離弾道ミサイルか  4/9
ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ東部で、避難するため多くの人が集まっていた鉄道の駅が攻撃され、地元の州知事は、50人が死亡したと発表しました。アメリカ国防総省の高官は、ロシア軍が短距離弾道ミサイルを使って攻撃を行ったという分析を明らかにしました。
ウクライナの東部ドネツク州では8日、クラマトルスクの鉄道の駅が攻撃され、地元の州知事は、これまでに子ども5人を含む50人が死亡し、98人がけがをしたと発表しました。
ゼレンスキー大統領は、「数千人ものウクライナの人たちが避難できるのを待っていた駅が攻撃された」と強く非難しました。
この攻撃についてアメリカ国防総省の高官は8日、ロシア軍が短距離弾道ミサイルを使って行ったという分析を明らかにしました。
この高官は、ロシア軍が東部に軍事作戦の重点を移す中、交通の要衝を攻撃することでウクライナ側がこの地域に追加の部隊を投入することなどを妨げようとしているのではないかと指摘しました。
これについてロシア国防省は関与を否定した一方で、ドネツク州の他の鉄道の駅をミサイルで攻撃してこの地域に運ばれてきたウクライナ軍の兵器や装備を破壊したと発表しました。
東部で攻勢を強めるロシア側は、要衝となっているマリウポリで今月6日、親ロシア派の武装勢力が、地元の野党議員の男性を市長だとして一方的に擁立するなど支配を強めています。
ワシントンのシンクタンク「戦争研究所」は7日の分析で近くロシア軍がマリウポリを完全掌握するとみられると分析した上で「ロシア軍は、東部ドネツク州とルハンシク州での大規模な攻勢を意図していて、戦闘力を結集させている」と指摘しています。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、「特別軍事作戦の目標は軍事面と交渉のプロセスで、達成されつつあり軍事作戦は、予見可能な将来に、終わるかもしれない」と述べました。
プーチン大統領は、国民向けに「勝利した」と成果をアピールするためウクライナ東部の掌握を急ぎたい考えとみられますが、欧米の支援を受けているウクライナ軍も激しく応戦する構えで戦闘は長期化するともみられています。
●“ロシア兵から性的暴行”訴え 人権団体「明らかな戦争犯罪」  4/9
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで市民がロシア兵から性的暴行を受けたと被害を訴えるケースが相次いでいるとして、人権団体は「性暴力が市民への武器として使われている。明らかな戦争犯罪にあたる行為であってはならない」と強く非難しています。
国際的な人権団体、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、今月、ウクライナ国内でロシア兵による市民への性的暴行があったとする報告書を発表しました。
報告書によりますと、東部ハルキウの31歳の女性が学校の地下に家族で避難していたところ、ロシア兵が侵入し、女性は上の階の教室に連れて行かれたということです。女性はこめかみに銃を突きつけられるなどして脅され、何度も性的暴行を受けたうえ、ナイフで首や髪の毛を切られたということです。
団体ではこのほかにもチェルニヒウやマリウポリなどで3件の性的暴行が疑われる報告があり、調査を進めているということです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの笠井哲平さんは「ロシア兵が性暴力という戦争犯罪を隠蔽するために被害者を殺害したり、遺体を焼いたりしている可能性がある。明るみに出る被害はごく少数で、大勢の被害者がいることが懸念される」と指摘しています。
そのうえで、「戦争や紛争地域では、これまでにも性暴力が市民に対する武器となっていたが、今回も同じことが起きている。明らかな戦争犯罪に当たる行為で、あってはならない」と強く非難しました。
市民への性暴力を巡っては、ウクライナのベネディクトワ検事総長もフェイスブックで、「ロシア兵による女性、男性、子ども、高齢者への性的暴行が多数報告されている。すべての殺害された女性たちが被害を受けた可能性があるため調査が必要だ」としているほか、被害者が医師や調査員、メディアなどの問いかけに応じることで、さらなるトラウマを抱えてしまわないよう配慮する必要があると呼びかけています。
●「私の子供は飢餓で死にました」ウクライナ戦争の被害がアフリカ東部で深刻化 4/9
ロシアによるウクライナ侵攻の影響は世界のあらゆる場所に及んでいる。 両国からの輸入農産物に大きく依存してきた東アフリカは、今回の侵攻を受けて食料価格が上昇。干ばつなどで、すでに深刻な状態だった飢餓がさらに悪化している。こうした食糧危機については世界的な議題になっていないものの、今すぐ援助が必要なほど事態は深刻だ、と支援団体は米紙に語っている。
1300万人以上が深刻な飢餓
最初に干ばつが訪れ、川が干上がった。ルキヤ・フセイン・アーメッドと家族は、不毛となったソマリア南西部の地方から逃げ出したが、その過程で2人の子供の命が奪われた。
そして、ウクライナで戦争が始まり、食料価格は高騰。首都モガディシュの郊外にたどり着いた後も、アーメッドは、残る2人の子供を生き延びさせようと必死になっている。
「ここですら、私たちには何もないのです」と、アーメッドは話す。
降雨量が平均以下となっている東アフリカ全域では、過去40年間で最悪水準の干ばつが続き、国連によると、1300万人以上が深刻な飢餓状態に陥っている。季節ごとの収穫量は過去数十年で最低となり、栄養失調の子供たちで病院はあふれ、多くの家族が助けを求めて長い距離を歩いている。
ソマリアの大部分では壊滅的な干ばつが起こっており、人口の3分の1近くが飢餓状態にある。隣国のケニアでは、干ばつによって300万人以上が食料不足に陥り、150万頭以上の家畜が死んだ。
エチオピアでは、内戦により北部ティグレ州への援助物資の輸送が阻まれ、過去6年間で最悪の食料不足に陥っている。同州には3ヵ月ぶりとなる食料援助が先月末に届いた。
パンの価格が2倍に
現在、ロシアのウクライナ侵攻を受け、穀物、燃料、肥料の価格が上がり、危機がさらに悪化している。
両国は、この地域の小麦、大豆、大麦などの農産物の最大の供給国だ。国連食糧農業機関(FAO)によると、少なくともアフリカの14ヵ国は半分、エリトリアはすべての小麦をロシアとウクライナからの輸入に頼っている。
「ウクライナの戦争は、すでに複雑な東アフリカの状況をさらに悪化させています」と、慈善団体「オックスファム・インターナショナル」のエグゼクティブ・ディレクター、ガブリエラ・ブッチャーは指摘する。「東アフリカは今、世界的な議題として取り上げられていませんが、この地域は国際社会の連帯を必要としています。それも、今必要なのです」
壊滅的な干ばつとウクライナでの戦争で、過去2年間に起きた一連の危機はさらに悪化した。
新型コロナウイルスの大流行により、食糧のサプライチェーンが寸断され、多くの家庭で主食への支出が増えた。ケニアのイナゴ大発生、エチオピアの内戦、南スーダンの大洪水、ソマリアの政治危機とテロ攻撃の拡大、スーダンの民族紛争の激化といった要因により、農場は破壊され、収穫物は尽き、食糧危機が深刻になった、と援助団体は述べている。
ウクライナの戦争が2ヵ月目に入り、東アフリカ全域で食料価格のさらなる高騰が起こると予想されている。米国のNGO団体「マーシー・コープス」のアフリカ地域ディレクター、ショーン・グランビル=ロスは、戦争が長期化すれば、小麦などの主食の「量と質」が低下する可能性があると指摘する。「干ばつの影響を受けた弱い立場にある人々の基本的ニーズの対応には、より費用が必要となり、難しくなるでしょう」
この前兆は、東アフリカの多くの場所ですでに起こっている。
「マーシー・コープス」のデータによると、ソマリアでは、20リットル入りの食用油の価格が32ドル(約4000円)から55ドル(約6800円)に上昇。豆は25キログラムあたり18ドル(約2200円)から28ドル(約3500円)になった。
スーダンではパンの価格が約2倍になり、戦争開始以来小麦の輸入が60%減ったため一部のパン店が閉店した、と慈善団体「イスラミック・リリーフ」のスーダン担当ディレクター、エルサディグ・エルヌールは述べている。
ケニアでもウクライナ戦争を理由に、燃料の値上げがあり、一部で抗議デモが起きている。
3歳と4歳「飢えで苦しんで死んだ」
飢饉が発生すれば、特に被害を受けやすいのが子供だ。キリスト教系援助団体「ワールド・ビジョン」によると、東アフリカでは推定550万人の子供が干ばつによって最悪水準の栄養失調に陥っている。
「私の子供は飢えで死にました。2人とも苦しんでいました」と話すアーメッドの3歳と4歳の子供は、自宅のあるソマリア南部の下部シェベリ州の村から首都モガディシュ郊外まで何日もかけて移動する際に亡くなった。「木の下で死んだんです」
モガディシュでは、ウクライナ戦争の影響が及び、ラマダンを前に高騰した食料価格が家計を圧迫している。仕事も住居もなく、かつて栽培していた豆やトウモロコシ、トマトも手に入らない。アーメッドは食べ物の寄付に頼り、残された7歳と9歳の子供を養っている。
さらに、援助計画も手薄になっている。ウクライナの戦争は、国連世界食糧計画(WFP)の運営にも影響。同機関は先月、コスト上昇と資金減のため、東アフリカや中東の難民などに対する配給量を減らしたと発表した。
現在、東アフリカで続いている干ばつは、ソマリアだけで約26万人の死者を出した2011年の干ばつと同様の状況を招くと危惧する声もある。まだそのような状況にはなっていないものの、そうした危機を回避するために必要な資金や資源はまだ流れ始めていないと、「オックスファム」のブッチャーは話す。
エチオピア、ソマリア、南スーダンのために国連が今年必要とする60億ドルのうち、割り当てられたのはわずか3%。ケニアでは支援に必要な1億3900万ドルのうち11%しか確保できていないという。
アフリカ開発銀行は先月、農業生産を改善し、アフリカ人が長期的に食糧を自給できるようにするために、最大10億ドル(約1230億円)を調達すると発表した。ブッチャーは、こうした構想は歓迎すべきこととしつつも、より広範な危機を回避するために、今すぐ、惜しみない寄付が必要とされていると言う。
「大惨事を避けるために、世界は東アフリカを救う必要があるのです」と、ブッチャーは話している。
●3月の食料価格指数 前月比12.6%上昇 ロシアの軍事侵攻影響  4/9
FAO=国連食糧農業機関は8日、ロシアのウクライナへの軍事侵攻などの影響で、穀物などの国際的な取り引き価格をもとにまとめている3月の食料価格指数が159.3ポイントと、2月に比べて12.6%上昇し、1990年に記録を開始して以来最も高くなったと発表しました。
品目別では、ロシアとウクライナを合わせて世界の輸出量の3割を占める小麦の価格が、軍事侵攻の影響で高騰していることから、「穀物」が前の月と比べて17%の上昇となりました。
「植物油」もウクライナがヒマワリ油の世界最大の輸出国であることなどを背景に23.2%上昇したほか乳製品や砂糖、食肉もすべて上昇しています。
またFAOはウクライナで冬の作付面積の少なくとも20%が収穫できない見込みだとして、ことしの世界全体の小麦の生産量の予測を3月、発表した予測より下方修正しました。
そのうえで、ウクライナでは港が閉鎖され、ロシアでは経済制裁の影響で決済や輸送に支障がでているため穀物の輸出が妨げられているとして、市場は不透明感を増しているとしています。
●やっぱり出てきた「ロシアには北海道の領有権ある」の不気味… 4/9
やはり来たか、という展開だ。「プーチンの戦争」によって国際社会で孤立化を深めるロシアが、対ロ制裁に連なる日本への牽制を強めている。元上院議長が「ロシアは北海道を領有する権利を持つ」と発言。ロシアから平和条約締結交渉を一方的に蹴っ飛ばされるなど、日ロ関係が急速に悪化する中、波紋が広がっている。
問題発言の主はプーチン体制下で2011年まで上院議長を務め、現在は下院第3勢力の左派系野党「公正ロシア」の党首を務めるセルゲイ・ミロノフ議員。いわゆる体制内野党のトップだ。
ロシアのネットメディア「レグナム」が配信したインタビュー記事(4日付)で、「どの国でも隣国に対して領有権を主張でき、国益の観点からそうする正当な理由がある。これまでクリル諸島(北方領土と千島列島)を欲しがっていたのは日本だけだった」と持論を展開。先立つ1日には「日本はクリル諸島に関して常にロシアにクレームをつけているが、一部の専門家によれば、ロシアは北海道の完全な権利を有しているという」とツイートしていた。
ウクライナで想定外の苦戦にあえぐロシアに二正面で構える余裕はないとはいえ、気味の悪さは拭えない。
「万が一、ロシア軍が北海道侵攻を企てたとすれば、専守防衛が国是である以上、海岸線では防御できない。自衛隊は旭川-帯広ラインで押し戻すのが精いっぱいです」(防衛省関係者)
そうでなくても、ウクライナ戦争の影響で、北海道周辺は緊張が高まっている。ロシアはカムチャツカ半島に拠点を置く太平洋艦隊の潜水艦基地ルィバチに、核兵器を積んだ弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を配備。オホーツク海を潜航し、日本列島の近くを行き来している。
「ウクライナ戦争をめぐり、米国が主導するNATO(北大西洋条約機構)の直接介入を阻止したいプーチン政権は核使用をチラつかせていますが、米国への対抗措置のひとつがオホーツク海からワシントンへの核ミサイル攻撃です。そうしたことから、北方領土や千島列島で軍事演習を繰り返している。在日米軍は当然、そうした動きを監視しています。ウクライナ戦争が米ロ戦争に拡大した場合、SSBNを沈めることが在日米軍の最大の役割になるからです」(米外交関係者)
日本近海で米ロが一触即発……。一刻も早い戦争終結を願うしかない。
●「北海道に権利有する」 ロシア政界で対日けん制論 4/9
ロシアのウクライナ侵攻を受けて日本が対ロ制裁を科す中、ロシアの政党党首が「一部の専門家によると、ロシアは北海道にすべての権利を有している」と日本への脅しとも受け止められる見解を表明した。
プーチン政権は欧米と連携してロシアを非難する日本への反感を強めており、こうした考えが一定の広がりを見せる恐れがある。
見解を表明したのは、左派政党「公正ロシア」のミロノフ党首で、1日に同党のサイトで発表された。公正ロシアは政権に従順な「体制内野党」。ミロノフ氏は2001〜11年に上院議長を務めた。
発表によると、ミロノフ氏は北方領土交渉に関し、日本は第2次大戦の結果の見直しを求めたが、「明らかに失敗に終わった」と主張。その上で「どの国も望むなら隣国に領有権を要求し、正当化する有力な根拠を見いだすことができる」と明言した。ロシアが権利を持つ根拠は明らかにしていない。
一方で、ミロノフ氏は「日本の対決路線がどこに向かい、ロシアがどう対応しなければならないか現時点では言えない」と指摘。「日本の政治家が第2次大戦の教訓と(大戦末期にソ連軍の侵攻で壊滅した)関東軍の運命をすっかり忘れていないことを望む」と語り、「さもなければ(日本側の)記憶を呼び起こさなければならないだろう」と警告した。
ロシアは日本との対決姿勢を強めている。外務省のザハロワ情報局長は6日の記者会見で、「日本の現政権は、前任者らが長年つくり上げてきた協力を一貫して破壊している」と批判。日本への対抗措置を計画しているとけん制した。 
●ウクライナ侵攻、医療施設などへの攻撃100件超…「国際人道法に違反」 4/9
世界保健機関(WHO)は7日、ロシアのウクライナ侵攻に伴う医療施設などへの攻撃が100件を超えたと発表した。テドロス・アダノム事務局長は「医療への攻撃は国際人道法に違反する」と非難し、改めてロシアに停戦を求めた。
WHOによると、医療関係への攻撃は計103件。このうち医療施設が89件を占め、他は救急車を含む輸送機関などだった。これらの攻撃で、医療従事者や患者ら73人が死亡、51人が負傷。また、約1000の医療施設は戦闘地域の近くや露軍に占拠された地域にあり、医薬品などが届かない状況に陥っているという。
戦闘による死者や負傷者の増加に加え、長期的な影響も懸念されており、WHOは「ウクライナの医療に大きな打撃を与えている」と指摘している。
●ウクライナ 駅攻撃で52人死亡 EU 軍事・財政面支援強化と強調  4/9
ウクライナ東部で起きたミサイルによるとみられる鉄道の駅への攻撃では52人が死亡し、市民を巻き添えにした無差別攻撃だったとの指摘が出ています。こうした中、EU=ヨーロッパ連合の委員長らが首都キーウを訪れて連帯の姿勢を示し、軍事や財政面の支援を強化すると強調しました。
ウクライナ東部ではロシア国防省がドニプロペトロウシク州で、ウクライナ軍の大型弾薬庫をミサイルで攻撃したと9日に発表するなどロシアによる攻勢が続いています。
東部のドネツク州では8日、クラマトルスクの鉄道の駅が攻撃され、地元の州知事はこれまでに子ども5人を含む52人が死亡したと発表し、ウクライナ国防省はロシア軍が残虐な兵器とされているクラスター爆弾を使ったと非難しました。
これに対しロシア国防省は攻撃に使われたのは「トーチカU」と呼ばれる短距離弾道ミサイルで、弾頭部分に1万6000もの金属片をまき散らす爆弾が搭載されたクラスター式だと指摘したうえで「ウクライナ軍による攻撃だ」と主張し、関与を否定しています。
ただ、アメリカ国防総省の高官がロシア軍が短距離弾道ミサイルを使ったという分析を明らかにしたほか、イギリス国防省も「ロシア軍が非戦闘員を攻撃し続けている」としてロシア軍による無差別攻撃だったと指摘しています。
さらにイギリス国防省は、ロシア軍が東部の要衝マリウポリや南部のミコライウなどに攻撃の焦点を当て、巡航ミサイルで攻撃を続けているなどと分析しています。
こうした中、EUのフォンデアライエン委員長と外相にあたるボレル上級代表が8日、首都キーウを訪れゼレンスキー大統領と会談しました。
そのあとの記者会見で「伝えたいのは、ヨーロッパは皆さんとともにある、ということだ」と述べて、連帯の姿勢を示し、今後も軍事的、財政的な支援を強化し、ロシアへの追加的な制裁も行っていくと強調しました。
一方、双方の停戦交渉について、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は8日、ロシア軍が撤退した首都近郊のブチャで多くの市民が殺害されているのが見つかったことをうけ「交渉のムードが影響を受けている」と指摘しました。
ロシア側はこれまで「ロシア軍が市民を殺害したというねつ造の情報をウクライナ側が発信し、停戦交渉を混乱させている」などと主張していて、交渉の進展に大きく影響しているとみられます。
●欧米首脳、一斉に対ロ非難 「戦争犯罪」責任追及―ウクライナ東部駅攻撃 4/9
ウクライナ東部ドネツク州クラマトルスクの鉄道駅が弾道ミサイルで攻撃され、多数の犠牲者が出たことを受け、欧米各国首脳は8日、一斉にロシアを非難した。各国首脳は「戦争犯罪」とみなし、ロシアの責任を追及する構えを強めている。
バイデン米大統領は8日、「また一つロシアが恐ろしい残虐行為を犯した。安全な場所に避難しようとしていた市民らを襲った」とツイート。駅攻撃はロシアの仕業だと言明した。サキ大統領報道官は8日の記者会見で、駅攻撃に関する調査に協力する意向を表明。「市民を標的にすることは戦争犯罪だ」と強調した。
また国防総省高官は、攻撃はトーチカ弾道ミサイルで行われたと指摘。クラスター弾が使用されたかは不明だという。クラマトルスクの鉄道駅について「戦略的な要衝にある」と述べ、攻撃にはウクライナ軍への物資供給などを絶つ目的があった可能性があると分析した。
ジョンソン英首相も「プーチン(ロシア大統領)自慢の軍隊がどれだけ救いようのないものかを示している。市民を無差別に攻撃する戦争犯罪だ」と断じ、「罪が見過ごされたり、処罰されなかったりすることはないだろう」と警告した。ジョンソン氏と共同記者会見したドイツのショルツ首相も「ロシア大統領はこれらの戦争犯罪に責任がある」と語った。
フランスのマクロン大統領はツイッターで「忌まわしいことだ」と非難した。さらに「公正な裁きが下されるよう、捜査を支援する」と提案。その上で「ウクライナの人々は最悪の状況から逃げている。われわれの思いは逃げ続ける家族と共にある」と連帯感を示した。
●ウクライナに即時停戦と持続的和平を!戦争を煽るな! 4/9
1)今必要なのは、即時停戦と持続的和平
ロシア軍のウクライナ侵攻から約1ヶ月が経った。今必要なのは、即時停戦と持続的和平を実現だ。これ以上ウクライナ市民の犠牲を出してはいけない。必要なのは、戦争の拡大や持久戦でも、武器弾薬の供与でもない、直ちに停戦することである。
ウクライナ軍とロシア軍では、侵入したロシアが悪いに決まっている。ロシアの今回の侵攻は国連憲章に違反する侵略行為であり断固反対する。たとえ戦争の目的に正当な理由があったとしても、軍事力を行使し実現することは許されない。まずロシア軍の撤退を要求するのは、当然のことだ。
現在は、ウクラウナ側の反撃によって、戦線が膠着している。欧米が大量に供給した兵器、とくに携帯用の対戦車ミサイル・ジャベリンや携帯用のスカッド・ミサイルによって、ウクライナ軍が反撃に転じている。米軍の支援によってロシア軍の通信妨害を引き起こすとともに、米軍事衛星からロシア軍の位置情報を提供して反撃が行われている。これまでとは違った現代的な代理戦争の様相を呈しつつあり、このまま長期戦になりかねない。
2)停戦と和平をどうやって実現するか?
いまは、どうすれば停戦と和平に向けて政治的転換を図るのかを、私たち市民が真剣に考えるべき時だ。
まず、何よりもロシアに停戦と撤退を要求する。ロシアによるウクライナへの戦争は国連憲章違反だからである。国外避難民420万人を含む1,000万人にも及ぶ大量のウクライナ避難民を生み出した責任の大半は、ロシアにある。
しかし、一方的にロシアだけを非難するのは、結局は米・NATOの側に立って戦争熱を煽り戦争を応援することになりかねない。ロシア・ウクライナ戦争を長引かせ、犠牲者をさらに増やすことになる。
私たちはそのような立場には立たない。私たちの立場は非戦である。だから、ロシア軍の撤退と共に、ロシアが侵攻したとする「原因」、すなわちこの地域における対立を取り除くことを同時に求める。プーチンの戦争目的ははっきりしている。ウクライナの領土獲得ではない、NATOの東方拡大を止めロシアの安全保障の確保にある。
したがって、即時停戦・持続的和平において、ロシア軍の撤退とともに、ロシアによるウクライナの安全保障の約束、米・NATO諸国やウクライナ政権がNATOの東方拡大を止め、ロシアの安全保障の確保を約束することが必要である。
和平は、一方が他方を、他方が一方を支配・屈服させることではない。ロシアに即時停戦・持続的和平を求めると同時に、米・NATO諸国やウクライナ政権にも即時停戦・持続的和平を求める。
欧米諸国と欧米日メディア、そしてゼレンスキー政権は戦争拡大、徹底抗戦を煽ってはいけない。停戦が先であって、ウクライナのNATO加盟など、話題にすべきではない。
この地域における対立の歴史的要因は、米・NATOの東方拡大にある。米・NATOは、プーチンの警告や交渉に全く耳を貸さず、ロシアを見下し封じ込めてきた。NATO加盟国にはミサイルが配備され、モスクワまで数分で届くところまで包囲網を狭めてきた。2021年2月、ゼレンスキー大統領は、「NATO加盟と東部2州およびクリミア奪還を今年中に実現する」と宣言し、2015年の「ミンスク合意」(停戦合意と東部2州の高度の自治権)の破棄を公言した。ウクライナのNATO加盟、東部2州とクリミアを奪還が、ロシアとNATOの全面対立になるのは誰の眼にも明らかであるにもかかわらず、だ。ゼレンスキーは米・NATOの意図通りに振るまったのである。
そのような経緯、この地域の対立からすれば、停戦と持続的和平の課題も明確である。それは1ロシア軍の即時停戦、撤退、2ウクライナ軍の戦闘行為の中止を同時に行うこと、3さらにはウクライナのNATO加盟の断念、4ウクライナ軍による東部2州への攻撃中止、5中距離ミサイルのウクライナ配備計画の中止である。
3)停戦はできるだろうか?
3月29日、トルコが仲介者に名乗りをあげ、第4回目の停戦交渉がイスタンブールで行われた。世界はその推移を見守っている。
当初、フランスのマクロン大統領が仲介を試みたが、EUの今の空気のなかにあっては完全に孤立して行き詰まってしまった。
中国はどうか? その資格が十分にあるが、米欧は国連のロシア制裁決議に中国が棄権したことを問題にしている。第一のライバルは中国なので、米国はこの機に中国も抑え込みたいとする本心を露わにし、中国への制裁をちらつかせている。そうすることで中国が停戦の仲介者となることをむしろ妨害している。
欧米は、停戦とは反対の方向に動いているように見える。米欧日など西側諸国は、NATOを巡るロシアとの交渉も、停戦や和平を巡る対話を一切せず、ただ武器を送りウクライナを焚きつけてロシアと戦わせている。32ヵ国が武器をウクライナに送っている。日本はヘルメットと防弾チョッキを送った。米欧日など西側諸国が後押しする限り、ウクライナが停戦に進むのは難しい。
英ジョンソン首相は「制裁はロシアの体制転換のためだ」と公言した。バイデンは訪問したポーランドで「プーチンを政権から引きずりおろせ!」と演説した。英米政府の本音が表にでた瞬間だ。ウクライナ政府の戦争を支持し、長期戦化を狙っている。並行してロシアに制裁を科し、ロシア経済を破綻させ、屈服させるのが米英の戦略のようだ。ウクライナはそのための「捨て駒」である。私たち市民は、米欧日など西側諸国政府の態度を停戦へと変えさせなければならない。
ウクライナ国民を守るべきゼレンスキー大統領自らが徹底抗戦を掲げ、米欧日の西側諸国に武器援助を要求し、国内では18歳から60歳男性を出国禁止とし根こそぎ動員している。非戦の人々、非戦の宗教者もいるだろう、戦闘員になりたくない人もいるはずだが、それを認めない。ゼレンスキーは世界に向かって「戦闘員来てくれ!」と公言し外国人傭兵を募集した。これは国際法違反である。国際法には、傭兵の募集や使用を禁止する条約があり、ウクライナも批准している。
ゼレンスキーは市民にも戦闘を呼びかけ、成人男性の国外退避を禁じ、希望者には無差別に武器を配っている。第2時世界大戦後、非戦闘員の犠牲への反省からジュネーブ諸条約がつくられ、「戦闘員と非戦闘員は区別しなければならない」「非戦闘員は保護しなければならない」と定義した。国家が扇動して「市民よ銃をとれ!」という強制は、現代ではやってはいけないことだ。実際の戦場では非戦闘員を区別できない。すでにウクライナには国家の指揮命令系統では掌握しにくい非正規の戦闘員・傭兵が参戦している。(伊勢崎賢治「ウクライナ危機に国際社会はどう向き合うべきか」3月17日長周新聞)
プーチンの侵略はだめだが、ゼレンスキーもおかしなことを煽っている。それなのに米欧日政府とメディアはゼレンスキーをいまやヒーローに祭りあげている。
その間に犠牲となるのはウクライナの一般市民だ。米欧は、自分たちは戦わず、NATO加盟国でもないウクライナ市民を戦わせている。これがウクライナ戦争の本質的特徴になりつつある。
確かに戦争を始めたのはロシアだ。ロシアは即刻、停戦し撤兵しなければならない。しかし、ゼレンスキーにも重大な責任がある。ゼレンスキー大統領は戦争回避のために何の措置も取らなかった。逆に、膨大な量の対戦車ミサイルや対空ミサイル武器・弾薬を米国から受け取り、戦争体制を整えてきた。ウクライナ市民の命と生活を犠牲に米・NATOと結託してロシアを包囲し攻撃する前線基地になるという行為に出た。それがこの地域の対立を新たにつくったことも間違いない。
欧米メディアは報じないが、東部2州の親ロシア地域では現在も市民がウクライナ軍のロケットや砲撃にさらされている。彼らは2014年以降の8年もの間、ゼレンスキーの国家親衛隊アゾフ大隊などのネオナチ部隊の襲撃でこれまでに1万4千人も殺された。ゼレンスキーはミンスク合意で約束した停戦と特別の自治権を破棄して攻撃してきたのである。
さらに言えば、最大の責任は米政府にある。米政権は、米戦略にしたがってロシアへの戦争挑発と緊張激化を推し進めるゼレンスキー政権を育てたあげたからだ。
ロシア側は昨年12月にウクライナのNATO加盟、東方拡大をやめ、「ミンスク合意」履行を繰り返し求め、そうならなければ軍事的措置を取らざるを得ないと警告した。バイデンはそれにゼロ回答を繰り返した。
停戦をし、このような戦争の原因となる対立をこの地域から取り除かなくてはならない。
4)停戦せよ、人道回廊、原発管理
まずは停戦し、戦場から市民が避難する人道回廊の保障をすぐにでも実現すべきだ。
その次には原発の管理。IAEA(国際原子力機関)や国際監視団がどうやって入っていくかという話となる。
例えば、原発の半径何`b以内は必ず非武装化するなどを決め、原発災害が起きないように管理する。原発の危険性は正規軍であれば理解できるだろうが傭兵は違う。その意味でも、傭兵が戦場を混乱させる前に停戦合意を進める必要がある。(伊勢崎賢治氏、前出)  停戦においては、「プーチンが悪い(もちろん悪いが)」とか、「戦争犯罪をどうするか」とか、「クリミアや東部2州の帰属をどうするか」などと国際社会が不必要に騒ぐのは、停戦を進める当事者と仲介者にとっては、停戦を遅らせるだけだ。それは犠牲者が出るのを止めた後の次の段階でやればいいことであって、一時的に棚上げにしてでも、まず戦闘を止めるべきだ。
停戦交渉は4回目を数えている。楽観視はできないが、粘り強く交渉を続けていく以外にない。とにかくこれ以上の犠牲者を出さないために、戦況の凍結、その一点のみに国際社会の焦点を絞るべきだ。
欧米日諸国政府は、ウクライナ戦争支援ではなく、停戦を求めよ!
5)情報統制、フェイクニュースによる世論誘導
現在メディアは欧米側の視線でしかウクライナ情勢を伝えていない。双方の情報戦や現地の混乱状況を考えれば、市街地・民家などの被害が実際どちらの攻撃によるものかもわからない。映像といえども本物とは限らない。ロシア侵攻前から、ウクライナ軍はロシア系住民の多い東部地域に空爆もしてきた。それらに関するすべての情報は、ウクライナ当局と米国メディアの発表だけが検証もなく垂れ流されており、あまりにも中立性がない。
一方で、ロシア系の放送はすべて遮断され私たちは見ることができない。ロシアのニュース・チャンネル「RT(ロシアン・トゥデイ)」は、プーチン批判もするようなところもある放送局だが、それさえも見れなくなった。ロシア政府の公式サイトにも繋がらない。欧米日のメディアとGAFAは、相手の言い分など何も聞かせないという対応に出ている。現代の情報統制は、ここまでやるのかというレベルにまでなっている、驚くばかりだ。
どのメディアも同じ方向を向いている。これは恐ろしいことだ。
6)ウクライナ戦争からみた日本の教訓
日本の国会は3月23日、ゼレンスキー大統領の要請に応じオンライン演説の場を提供した。ゼレンスキー演説は、停戦や和平が目的ではなかった、戦争拡大への支持取り付けが目的だった。戦争熱の煽動であって極めて危険な内容であったことに、驚いた。交戦国の一方の大統領の好戦的発言を一方的に垂れ流すことも異常だ。
今回の演説は、米欧日の西側諸国とゼレンスキーが共同で推し進めている対ロシア戦争強化拡大政策の一環ととらえざるをえない。バイデンのNATO、ヨーロッパ歴訪と連携している。バイデンは対ロシアの前線基地になっているポーランドで戦争を煽り、ブリュッセルでのNATO、G7、EUの各首脳会議に出席し、対ロシア戦争を激励し、追加制裁を決定しようとしている。バイデンの口から停戦の話は決して出てこなかった。
岸田首相は、ゼレンスキー演説を全面支持し、「極めて困難な状況の中で、祖国や国民を強い決意と勇気で守り抜こうとする姿に感銘を受けた」と語った。日本の国会が戦争を礼賛したことに、強烈な違和感を覚える。停戦を掲げない、戦争熱を煽ることに、私たちは改めて反対する。
日本政府やメディアも、停戦や和平を主張するのではなく、一日中、ウクライナ戦争支援を訴え、戦争熱を煽り立てている。日本国内でも同じ方向を向いた熱狂が作り出されている。このようにして戦争に入っていくのか・・・・と痛感させられた。ウクライナのことでこれだけ扇情的になるのだから、例えば台湾有事などで自衛隊が戦闘を始めたら、この国はどうなっていくのか、本当に恐ろしくなる。
先の大戦で国家のために日本の一般市民があれほど犠牲になったのに、なぜ戦争を応援するのか? 「市民は死ぬな!」という応援ならいいが、「市民よ、銃を取れ!」という大統領の言葉をなぜ応援するのか?
ウクライナをめぐって「善である欧米」か、「悪のロシア」のどちらにつくのかを迫り、善の側につくように世論が醸成され、同調が強制されている。どちらかの国家につくべきだと煽ったり、市民を犠牲にするようなことはしてはいけない。これは二択問題ではない。非戦・中立という市民の選択、中立の主権国家という選択肢もある。また、市民や民衆は、国家に所属しなければならないのではない。
ゼレンスキー政府とその市民を区別する必要がある。ウクライナ市民は戦争の被害者であり保護されなくてはならない。大量の避難民がいる。しかし、そのことはゼレンスキーとその政府の戦争熱の扇動を支持することではない。ロシアの始めたウクライナ戦争に反対し停戦を求める、しかし私たちはウクライナ国旗を掲げない。
2020年代に入り、日本はすでにウクライナと同じように米国と中国に挟まれた緩衝国家になっている。日本はまるでウクライナのように米国による中国挑発の「捨て駒」に使われる可能性が高まっている新しい現実を、私たちは改めて自覚しなければならない。米国が煽る「台湾有事」で戦場となるのは、台湾であり日本であり中国東海岸であって、米国ではない。日本に米軍基地があり米軍が自由に振る舞っている現状は、むしろ危険なことであると私たちは知らなくてはならない。
日本にとって安全保障とは、一方の側に立つことではない。いまや憲法9条を掲げ、米中対立を緩和すること、あるいは米中に中立の立場に移行することこそが、日本の安全保障であるとあらためて認識しなくてはならない。核兵器禁止条約を批准し、核兵器禁止にむけて戦争被爆国・日本が国際的世論を主導していくことこそが、日本と世界の真の安全保障となる。
偶発的な事故などから戦争につながる可能性を排除することも重要だ。南西諸島でのミサイル配備は、時間をかけた中国への挑発行為であって、もってのほかだ。むしろ沖縄と南西諸島は非軍事化しなければならない。東アジアの平和と安全保障、日中友好を掲げ、外交により中国側にも非軍事化を要請していくことが必要となっている。
また、原発を54基も配置している日本は、そもそもミサイル防衛などできはしない(ミサイル防衛できないから、戦争国家イスラエルは原発を持っていない。原発は自国に巨大な原爆を抱えているようなものだからだ)。「先制攻撃能力を持つ」とか米国と「核共有」するなど狂気の沙汰だ。憲法9条と核兵器禁止条約を掲げるとともに、大国と接してきたフィンランド、ノルウエーのような緩衝国家がどういう外交上の工夫をして生存してきたか、その努力と苦しみも含む「知恵」の一部も、日本政府と日本国民は共有しなければならない。「米国にしたがってさえおればいい」という能天気な日本政府を抱いていることこそが、私たちにとって極めて危険なのだ。
日本政府は、ウクライナ戦争支援ではなく、停戦を求めよ! 戦争熱を煽るな!
●プーチン大統領が「理解不足」によって犯したウクライナ侵攻の大きな失敗 4/9
外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が4月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。G7がロシアに対する追加制裁を行う方針を発表したことを受け、ウクライナ情勢の今後について解説した。
G7が首脳声明を発表 〜ロシアからの石炭の輸入禁止、段階的廃止へ
先進7ヵ国(G7)は4月7日、首脳声明を発表し、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャなどでロシア軍撤退後、民間人とみられる遺体が多数見つかったことを受け、ロシアに対する追加制裁の方針を打ち出した。石炭輸入の禁止や段階的廃止を含め、ロシア産の化石燃料依存の低減を速やかに進めることを明記した。
飯田) ロシア軍による残虐行為、あるいは大量殺戮という表現もあります。
宮家) ブチャの映像は衝撃でした。あのような惨状は、敗走する軍隊が統率が取れなくなって起こることはあり得るのだけれども、今回はどうやらロシア軍による組織的な行動だということで、許せるものではありません。
飯田) そうですね。
宮家) こういう形でG7が首脳声明を出し、て外相も厳しく批判しています。何より、G7とNATOが一緒に開かれるようになったのも、珍しいことです。NATOはNATO、G7はG7ということで、昔は日本の出番も少なかったのです。
飯田) NATOに日本の外相が呼ばれて出席するというのは、いままでは考えられなかった。
宮家) 考えられませんでした。しかし、ロシアの私掠は日本にとっても対岸の火事ではないので、ここはしっかりと発言力や影響力を示さなければならない。重要なことだと思います。
有事には経済合理性は関係ない
飯田) その意味では今回、G7が共同で声明を出し、日本ももちろん加わっていますけれども、歩調を合わせていくのが大事ですか?
宮家) 基本的な方向性はそうです。ただ、常に「悪魔は細部に宿る」わけで、細部とは何かと言うと、「具体的にどのくらい制裁をするのか」ということです。今回は石炭の輸入禁止、段階的廃止の話が出ています。石炭でも確かに日本に影響があることは事実です。
飯田) 日本でも火力発電などに影響する。
宮家) サハリン1・2の話になれば当然、天然ガスにも影響が出るわけですが、1つの教訓として私たちが理解すべきなのは、「有事には経済合理性は関係ない」ということです。
飯田) 有事には経済合理性は関係ない。
宮家) プーチンさんがもし本気で経済のことを考えていたら、侵攻など行わないのがいちばんいいのです。「やるぞ」と言って圧力を掛け、政治的な駆け引きをして、経済的にも不利益にならないようにする方がいい。しかし、今回、侵攻してしまった。その結果、ロシア経済が混乱しているではないですか。
飯田) 制裁によって。
宮家) これはまだ序の口です。これからロシア国民は相当耐えなければいけないわけです。NATOは結束してしまったし、ウクライナ軍に対する過小評価など、プーチンさんはいろいろな間違いをしたのだけれど、最も大きな失敗は、経済合理性で物事は動かないということを理解しなかったことです。
飯田) 経済合理性では。
宮家) この点は我々も下手をすると忘れるわけです。エネルギーの問題、石炭の問題は確かに重要です。彼らが経済的に物事を考えていたら、そもそも侵攻しなかったかだろうかというと、そこは、やはり侵攻するのです。経済とは関係ないから。
飯田) 経済合理性を飛ばして。
宮家) バイデンさんだってそうです。どんどん経済制裁を行い、金融も止めるわけでしょう。そんなことをしたら、世界経済が揺らぎますよね。それでもやるのです。なぜならば、有事には戦略的な合理性の方が優先されるからです。このことを我々は肝に銘じなければならないと思いますね。もちろん平時ならいいのです。しかし、有事には違うロジックになるということを忘れてはいけない。
エネルギーは平時にはマーケットで決まるが、有事には政治的に決まる 〜限られた国にエネルギー源を依存してはいけない
宮家) もう1つは、エネルギーは平時だとマーケットによって決まるけれど、有事には政治的に決まるのだということです。現在は供給自体が政治的に決まっているではないですか。その意味では、また難しい時代がやってきたなと思います。
飯田) エネルギーに関して、有事には政治的に、平時には市場で決まるというのは、中東の話で宮家さんがよく話していましたが、もはや中東だけの話ではないということですね。
宮家) いつもこうなるのです。平時のときはこのことを忘れてしまうのですよ。しかし、最近は原油価格が1バレル=95ドルくらいまで下がったでしょう。ですから少し一息つけるのでしょうけれどもね。
飯田) 都市ガスの会社などは、「ロシアから入ってこなくなったら供給もストップする」というようなことを言っていて、「だからサハリン2の事業でLNGを入れるのだ」と主張していますが。
宮家) 短期的にはそれでいいのですが、中長期的に考えたときに、ドイツの場合も同じだけれど、ロシアのような国に重要なエネルギー源を依存していいのかということです。常にロシアがダメになった場合を考え、別の手が打てるようにしておくべきなのです。もちろんコストはかかるから、経済的合理性はないのだけれども、それをやるかやらないかというのが安全保障、危機管理のポイントです。そのことを我々は忘れてはいけません。
ロシア軍の準備不足は明らか 〜東部地方を獲れるかどうかもわからない
飯田) ウクライナ情勢について、経済合理性で判断するようなフェーズではないということですが、この先についてはどうご覧になりますか?
宮家) 大きな流れとしては、「戦争目的が変わった」という議論があります。ロシアはもともとキーウなど獲る気がなかったと言う人もいますが、それはどうでしょうか。でも当初のロシアの兵力の動きを見ていると、わずか20万人弱の部隊でウクライナを東南と北から攻めているわけです。
飯田) 20万人弱の部隊で。
宮家) 特にキーウを獲ろうとしている部隊の主力は、ベラルーシから入っています。友好国とは言え、別の国で演習していて、突然そこから入るというのは準備不足ですよね。
飯田) 準備不足。
宮家) 明らかに準備不足です。という訳で北はもうあきらめて撤退しました。キーウにはもう脅威は少ない。ここからまたやり返すという可能性もゼロではないのですが、プーチンさんはおそらく「名誉ある出口」を探しているのでしょう。「負けてしまいました。すみません」では、あの人は済まないですから。
飯田) 国内も許さない。
宮家) 「勝った」ということにしなくてはいけない。でも勝ってはいません。そうなるとキーウはあきらめて、これからは東部で獲った部分を増やし、それで「この成果を見ろ!」と主張する。獲った部分を領土にするのかどうかはわかりませんが、勝ったのだと言わなければいけないわけです。
飯田) そうですね。
宮家) しかし実際はどうでしょうか。もしキーウの脅威が減ったのならば、ウクライナの主力も東に行きます。そうするとロシアは簡単に東を獲ることはできません。そんななかで5月9日がやってくる。
飯田) 戦勝記念日。
宮家) その日がどのくらい大事かは別として、ロシアが軍事的にそこまで持つかどうか。
情報戦でウクライナに負けているロシア
宮家) いろいろなことを考えると、非常に厳しい状況だと思います。NATO諸国は、確かに直接戦闘には参加していないけれども、それ以外のことは全部やっているのです。しかもいまの戦争は陸海空だけではなく、サイバーと宇宙と電磁があり、そこに情報が入って、7つの戦域があると私は思っています。特に今回、ウクライナは情報戦が強かったわけですけれども、我々の見えないところで、新しい概念の戦闘が行われているのです。
飯田) 新しい概念の戦闘が。
宮家) 国際法の観点から言えば、それが戦争行為なのかということはわかりませんが、実態として、ミサイルや銃などの在来型の兵器によるものではない「見えない戦闘」が行われているということです。それにロシアが勝てなかった。
飯田) 国際法の観点だと戦争行為と言えるかわからないというのは、いわゆるグレーゾーンの部分ということですか? 干戈(かんか)を直接交えないけれどもという。
宮家) 情報戦はロシアが得意としていたことですが。
飯田) 2014年には、それで成功している。
宮家) クリミアでもやったし、ジョージアでも成果を上げました。ところが今回はNATO側、特にアメリカがロシアのお株を奪い、本格的に情報戦を仕掛けたのです。いまのところ、アメリカはよく研究しているなという気がします。
●ウクライナ情勢で制裁強化する日本、ロシア外交官8人追放 4/9
日本政府がロシアのウクライナ民間人虐殺疑惑に対応し、国内に駐在するロシアの外交官8人を国外に追放すると発表した。
日本外務省はこの日、日本駐在ロシア外交官8人を追放すると明らかにした。ここには在日大使館の外交官とロシア通商代表部の職員が含まれた。
日本政府は当初、ロシア外交官の追放に消極的な立場だったが、西側国家が国外追放に踏み切ったことで立場を変えた。これに先立ちドイツ、フランス、リトアニアなどがロシア軍の民間人虐殺に対する責任を問うて自国内のロシア外交官を追放した。
日本が他国の外交官を追放するのは異例で、ロシアに対しては初めてだと、日本外交当局者は伝えた。
●米でEV値上げ相次ぐ 軍事侵攻などに伴う原材料価格高騰背景に  4/9
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などに伴う原材料価格の高騰を背景に、アメリカではEV=電気自動車の値上げが相次いでいて、世界的に加速するEVシフトへの影響を懸念する声が出ています。
アメリカのEVメーカー、テスラは3月、4つのモデルの販売価格をおよそ5%から10%値上げしました。
値上げ幅は最大で1万2500ドル、日本円でおよそ155万円に上っています。
値上げの理由についてイーロン・マスクCEOは「原材料と物流の面で深刻なインフレ圧力に直面しているため」だとしています。
また新興メーカーのリヴィアンもEVの価格を17%から20%引き上げると発表し、原材料の価格動向によってはさらなる値上げの可能性もあるとしています。
ウクライナへの軍事侵攻のあと、ロシアが主要な生産国でEVの電池に欠かせないニッケルの価格が大幅に上昇していて、メーカー各社の課題になっています。
アメリカの環境政策に詳しいロチェスター工科大学のエリック・ヒッティンガー准教授は「EVは急激な需要の高まりですでに生産体制がひっ迫しているところにロシアによる軍事侵攻が起き、より困難な状況に陥っている」と述べ、世界的に加速するEVシフトへの影響に懸念を示しています。
そのうえでメーカー各社は、電池の原料の見直しなどの対策が必要だという考えを示しました。
●安全保障の約束「燃えてしまった」 一度裏切られたウクライナの得た教訓 4/9
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、戦闘の合間に続く両国の停戦協議をめぐり、ウクライナ側は自国の安全保障に法的拘束力を持たせることにこだわりを見せた。過去、ロシア、欧米から同様の「保障」を得たにもかかわらず、裏切られた苦い経験があるからだ。そこから得られた教訓とはどのようなものだろうか。
NATO加盟断念と引き替えに…
3月29日、トルコのイスタンブールで対面形式で再開した停戦交渉。ウクライナ側はロシアがかねて求めてきた北大西洋条約機構(NATO)加盟断念と引き換えに、米ロ、中国を含む国連安全保障理事会5常任理事国(P5)に加え、イスラエル、ポーランド、カナダ、トルコなど関係国による安全保障の枠組み構築を要求した。ウクライナの「中立化」・非核化と、その見返りの国際的安全保障の要求は、同国のゼレンスキー大統領が以前から主張していた。
ラトビアに本拠のある独立系ネットメディア「メドゥーザ」によると、ウクライナ代表団がロシア側に示した要求は計10項目。安全保障の枠組みについては、関連する事項を含め6項目で触れられており、ウクライナ側が重視していることがうかがわれる。
枠組みは条約としてP5・関係国との間で策定し、また、ウクライナ側では国民投票でその是非を問うた上で憲法を改正する。
ウクライナが将来、第三国から攻撃を受けた際は、条約参加国は3日以内にウクライナに飛行禁止区域設定などの協力を提供するとしているが、一方で中立国としてウクライナ国内には外国軍の基地、部隊を置かないとしており、どこまで安全保障の実効性があるのか疑問もある。
ウクライナ側としては条約について、ロシアを含め条約参加国に議会での批准を要求した。過去の核兵器放棄を巡る国際的枠組みが関係国により履行されず、「領土の一体性」が一方的に破られた苦い教訓もあり、条約に法的拘束力を持たせることに腐心している。
ウクライナ、世界3位の核大国に
ここで、ウクライナが核放棄の際にロシアを含む関係国と交わした取り決めを振り返りたい。この取り決めは、1994年12月にハンガリーの首都ブダペストで開催された全欧安保協力会議(CSCE)首脳会議の場で署名されたことから「ブダペスト覚書」と呼ばれる。
91年のソ連崩壊後、ソ連を構成する15共和国のうちロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの4カ国に核兵器が残されたが、中でもウクライナには1200発以上の核弾頭が残され、当時としては米ロに次ぐ世界第3位の「核大国」になることになった。
核不拡散とP5による核独占を戦後の外交政策の基軸とする米ロは、ウクライナに対しロシアに核を移送し、核拡散防止条約(NPT)に加盟するよう圧力をかけた。その際にウクライナで議論になったのが、隣国ロシアの存在。両国間にはウクライナ南部クリミア半島の領有権、同半島のセバストポリを母港とする黒海艦隊の所属、ロシアからの石油・ガス価格を巡る係争があったほか、ウクライナ東部ドンバス地域のロシア系住民の分離運動もあり、何の保障もないまま、核兵器を手放せば将来的に、ロシアから武力侵攻されるとの懸念が強かった。
クリントン、エリツィンが約束
こうした懸念に対する保障として、米ロが提示したのが「ブダペスト覚書」だった。覚書には、核3大国の当時の首脳だったクリントン米大統領、エリツィン・ロシア大統領、メージャー英首相と、クチマ・ウクライナ大統領が署名、ウクライナはこの後、核拡散防止条約(NPT)加盟の手続きを行った。後に中国とフランスもほぼ同様の内容をウクライナに文書で保証した。
覚書は6項目からなり、ウクライナがNPTに加盟し、核兵器をロシアに移送することと引き換えに、署名国が(1)ウクライナの独立、主権を侵さず、国境線を変更しない(2)核兵力を含む武力行使や威嚇、経済制裁を行わない(3)ウクライナに脅威が生じた場合、安保理の行動を要請する―と約束するもので、核と引き換えにウクライナの安全を保障する内容となっている。条約のように各国議会で批准こそされなかったものの、ウクライナは以後、首脳が署名しており一定の法的効力を持つ文書と主張してきた。
財政事情が許さず
実はたとえ、当時のウクライナが核兵器を維持しようとしたとしても、核兵器の運用システム、保持補修のための施設、核弾頭の生産拠点はすべてロシアにしかなく、こうしたシステム構築には多額の支出が必要だった。
クラフチュク元ウクライナ大統領は後に、核兵器維持には650億ドル(現在のレートで約7兆9000億円)の経費が必要で、ウクライナには負担できなかったと語った。弾道の解体をしようにも解体設備もロシアにしかなかった。
さらに、核放棄を拒否すればソ連崩壊による混乱で経済的に疲弊していたウクライナが国際的に孤立、欧米からの経済支援も受けられない状況に陥ることは必至で、事実上、核保有を続けることは不可能だった。ウクライナの核兵器はその後、96年までにすべてがロシアに移送された。
約束したのは「核攻撃しないこと」
ロシアとウクライナの関係はその後も、親ロシア派政権が倒された2004年のオレンジ革命、天然ガスをめぐる「ガス紛争」など、ぎくしゃくしていたが、14年2月に親欧米派の野党勢力が親ロシア派、ヤヌコビッチ政権を倒した直後に、ロシアはクリミア半島を武力で制圧、その後、住民投票を経て強制編入した。
ウクライナ東部ではロシアの支援を受けた親ロシア派武装勢力がウクライナ政府軍と衝突し内戦化。ウクライナは「覚書」の明確な違反と抗議するが、プーチン・ロシア大統領はウクライナ野党勢力が「不法な革命」によりヤヌコビッチ大統領を追放した結果、ウクライナには新しい政府が誕生したのであって、この新政府に対しロシアは何の国際法上の責務も負わないと強弁。また、ラブロフ外相もロシアが約束したのは「ウクライナを核攻撃しない」ことだけだと主張した。
プーチン氏は後に、ヤヌコビッチ政権が崩壊した際、核兵器使用の準備をするようロシア軍に指示したことを明らかにした。一方、ロバートソンNATO元事務総長は「ウクライナが核放棄しなければ、クリミア編入もドンバス地域介入もなかっただろう」と指摘した。
そして今年2月24日、プーチン氏はウクライナに対する「特別軍事作戦」を実施。同国の主権は完全に侵害され、領土の一体性の原則は無視された。プーチン氏は侵攻後の27日、ショイグ国防相に対し「NATO加盟国首脳らから攻撃的な発言が行われている」と述べ、核抑止力部隊を高い警戒態勢に置くよう命じ、“核の威嚇”とも取れる発言をして、米国などをけん制した。
ゼレンスキー大統領は3月初め、覚書を引き合いに「NATO加盟国ができることは覚書を燃やすために50トンのディーゼル燃料を持ってくること。われわれにとって覚書はもう燃えてしまった」と述べ、軍事介入に消極的なNATOを批判。また、4月3日の米CBSテレビとのインタビューでは「覚書は一枚の紙切れに過ぎなかった。だからもう、紙切れだけを信じない」と、安全保障に法的拘束力を持たせる必要性を強調した。
●「300%ロシアを支持」ウクライナ隣国の“親ロシア村”を取材 偽情報拡散の実態 4/9
ウクライナに隣接するモルドバ。ロシアによるウクライナ侵攻後、モルドバ国内の分断を煽るような偽情報やウクライナ避難民へのヘイトが広がっています。その実態を国山ハセンキャスターが取材しました。
国山ハセンキャスター(中継リポート): モルドバの首都キシニョフから南に2時間、コムラトという町に入りました。私の後ろには町の集落が見えます。モルドバという国は、ヨーロッパの中でも最貧国の一つと言われています。その現実を舗装されていない道路や街並みから感じることができます。また、このコムラトいう町は親ロシア派の住民が多く住む場所です。我々も緊張感を持ってここに入りました。全く違う景色が広がっています。そして戦争に対する考え方も異なります。ロシアによる軍事侵攻が始まって以降、モルドバの分断を煽るかのような偽情報工作やウクライナ避難民に対するヘイトが広がっているということです。
「300%ロシアを支持」プーチンを“神”と称えるコムラト住民
人口2万人ほどの小さな町「コムラト」。町の中心部ですぐ目についたのは、旧ソ連時代の象徴でした。
国山キャスター: 町の中心部にレーニン像がありまして、ここはレーニン通りと言われているということなんです。
さらに町を歩いていると。
国山キャスター: モルドバにはルーマニア語とロシア語がありますけれども、看板などの表記がキシニョフは主にルーマニア語でしたが、コムラトですと至るところでロシア語で表記されています。
今回のウクライナ侵攻についてコムラトの住民に聞いてみました。
コムラトの住民(女性): 私たちはロシアを支持します。ロシアはナショナリストからロシアとウクライナの人々を守っています。
国山キャスター: ロシアを支持しますね?
コムラトの住民: 150%、300%ロシアを支持します。それしかないわ。彼らは最高よ。プーチンに健康と幸福を。彼は私達の神、ロシアだけでなく、ここでも。
ロシアがモルドバを第2の侵攻対象に?
モルドバはソ連崩壊に伴い、1991年に独立していますが、前の年にはロシア系住民が民主主義政策に反発し、東部で「沿ドニエストル共和国」の独立を一方的に宣言。モルドバとの間で武力紛争に突入しました。「沿ドニエストル共和国」は、国際的に国として認められていませんが、現在もロシア軍が駐留しています。
複雑な背景があるモルドバですが、EUへの加盟を目指していることから、ロシアがウクライナと同様、住民の保護を理由に第2の侵攻対象にするのではないかという懸念も出ています。親ロシア派が多いコムラトでは、ウクライナへの侵攻を支持する声が目立ちました。
国山キャスター: ロシアがウクライナにしていることは正しいと思いますか?
コムラトの住民(親ロ派・女性): ロシアは正しいよ。ここはロシア、ソ連だった。他の人にも聞いたらいい。私が住んでいたのはソ連、私の家はここソ連にある。モルドバがなんだ!ルーマニアが何だ!
国山キャスター: ウクライナの子どもたちもたくさん亡くなっています。それに関してはどうですか?
コムラトの住民(親ロ派・女性): 自分たちで殺しているんだ、端から全員。小さな子どもから白髪の老人まで関係なく全員、パンパンパンパンだ。
別の住民は。
コムラトの住民(親ロ派・女性): 8年間、プーチンは平和交渉を望み続けたが、なぜかゼレンスキーは交渉を後回しにしていた。今の戦争はロシアが始めたのではない。ロシアが始めたと思わないでほしい。
“偽情報キャンペーン”避難民のヘイト動画も
親ロシア派の住民が多い地域が複数あり、政府は軍事侵攻が始まって以降、ロシアの一方的な情報が広まらないよう対策に乗り出しています。
国山キャスター: モルドバのテレビを見てみますと、EU加盟に向けたニュースが放送されています。親EUのチャンネルということなのですが、1つチャンネルを変えてみると、これは親ロシア派のチャンネルです。元々はこういったチャンネルで、ロシアの国営放送が再放送されていたということなんですが、戦争が始まって、それは禁止されています。
しかし、情報の規制には限界があり、いまロシアが関与しているとみられる偽情報キャンペーンが深刻になっているといいます。偽情報を監視するシンクタンクで、その実態を聞きました。TikTokに上がった動画を見てみると。
「ウクライナの避難民を泊めてあげたのに、わがままで文句ばかり」
避難民への批判を口にする女性。
偽情報とみられる投稿「気に入らない食べ物は床に投げ捨てるし、新しい布団や枕がないのかと要求してくる。嫌なら自分の国に戻って好きなように暮らして」
別の動画でも。
偽情報とみられる投稿「ウクライナ人はモルドバに来ただけでなく私たちの金で暮らしている。ただで食事をして感謝もしない」
避難民へのヘイトを煽るような動画がSNSで次々と拡散されているのです。
偽情報を監視するシンクタンク: こうした動画の制作者に何十人も連絡を取り話を聞いたが、実際には誰一人、自分が経験したことではなく噂について話をしていた。
投稿の多くはロシアやブルガリアなど国外のアカウントからシェアされ拡散していて、ロシアによる組織的なキャンペーンだと指摘します。
国山キャスター: ロシアの狙いは何だと思う?
偽情報を監視するシンクタンク: プーチンが求めているのは、旧ソ連の国々が自分の影響下にあり続けること。ロシアの遠隔地としてロシアの一部であることを求めている。
別の専門家はこう警鐘を鳴らします。
モルドバの記者団体:(投稿画面を見ながら)この人は教会の神父だが『ウクライナの戦争は正義の戦争。神が命じた戦争だ』という投稿もある。モルドバの田舎の人たちは、こういうことを信じてしまう。
モルドバでは、これまで約40万人の避難民を受け入れてきましたが、こうした偽情報は、国内の深刻な分断を生み出すおそれがあると指摘します。
モルドバの記者団体:モルドバは残念なことに社会的にも政治的にも昔から分断されている国だが、この戦争でさらに分断が深まる可能性がある。
「きょうのウクライナはあすのモルドバ」分断を懸念する声
小川彩佳キャスター(東京のスタジオから): ハセンさん、きのうはモルドバのウクライナ避難民の支援の場である避難所から伝えてもらいましたが、一方で国内にはロシアを支持する国民もいると。取材を通してどんなことを感じましたか?
国山キャスター(中継リポート): 私は今、親ロシア派住民が多く住むコムラトの中心部にいます。行政の庁舎のすぐ目の前にレーニン像が立っています。このレーニン像というのは住民にとっては、ソ連時代の愛着を示す、まさにシンボル的な存在です。ですからこれを撤去しようものなら大変なことになる。「ソ連に戻りたい」と話す女性もいました。この町で取材をしてみると、「プーチン大統領を支持する」「戦争には賛成だ」という声も聞きました。正直、衝撃を受けましたが、これも事実です。きのう話を聞いたモルドバのジャーナリストは、「きょうのウクライナはあすのモルドバだ」と話しました。確かに分断を懸念する声もあります。ただ私は、ここでもモルドバから避難してきたウクライナの子どもたちに話を聞きました。みんなに夢を聞くと、「戦争が終わること」「平和」ということを口にします。家族や友人と過ごしてきた当たり前だと思ってきた何気ない日常を突如として奪われた、その子どもたちの夢、平和という夢が現実になることをここで強く願います。
●ウクライナ軍の反撃で膨張するロシアの戦費 国家財政を圧迫 4/9
ロシアがウクライナ侵攻で戦力投入を首都キーウ(キエフ)から親露派が実効支配する東部地域にシフトする中、米欧はウクライナへの武器供与を拡大している。露軍はウクライナ軍の反撃で多数の戦車などを失っており、東部で激しい戦闘が続けば戦費が膨らみ、ロシアの国家財政を圧迫していくことになる。
ロシアが2月24日に始めたウクライナ侵攻の戦費について、欧州の調査研究機関などは3月上旬、人的被害の影響などを含めた1日当たりのコストが200億ドル(約2兆4900億円)超になるとの試算を明らかにした。
露軍は侵攻当初、空爆とともに戦車や装甲車両などを進軍させて支配地域を広げたが、ウクライナ軍の激しい反撃も受けた。米経済誌フォーブス(ロシア語版)はウクライナ軍の情報をもとに、兵器の損失額について、侵攻開始から約16日間で戦車363両やヘリコプター83機などで計51億ドルになると報じた。
ストックホルム国際平和研究所によるとロシアの2020年の軍事費は約617億ドルで、侵攻の戦費負担は決して軽くない。ペスコフ露大統領報道官は今月7日、露軍に「甚大な損失が出ている」と認めた。
ウクライナ軍は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国から供与された携帯型の対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」などで露軍を攻撃している。
さらに、米国は自爆型の無人攻撃機「スイッチブレード」も支援。同兵器は戦車や軍用車両などの標的にミサイルのように突っ込んで自爆する兵器で、規模で露軍に劣るウクライナ軍にとっては有効な打撃手段となる。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は7日、米国と同盟国が約6万基の対戦車兵器と約2万5千基の対空兵器を供与していると明らかにした。
ロシアはウクライナと停戦交渉を進めるが、東部攻撃で手を緩める気配はない。同地域で激しい戦闘が続けば、高額なミサイル攻撃の支出や兵器損失で戦費が拡大するのは必至だ。
ショイグ露国防相は先月25日にシルアノフ財務相と軍予算の増額について協議しているが、軍事費の国内総生産(GDP)比は4・3%と米英に比べても高い。欧米の対露経済制裁で外貨獲得が難しくなる中、戦費拡大はロシアの財政を直撃する。
●ウクライナ東部で駅にミサイル 「使用してない」ロシア主張も…  4/9
ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ東部で駅にミサイルが着弾し、これまでに犠牲者は52人に上っています。ロシア軍は、このミサイルを使用しているのはウクライナ軍だけだと攻撃を否定していますが、その主張には矛盾も見えてきました。
目を背けたくなるような被害。
8日、ウクライナ東部の鉄道の駅にミサイル攻撃があり、これまでに52人が死亡し、98人が負傷しました。
現場に居合わせた人:「何が起きたか分からなかった。電車を待っていたら爆発の音が聞こえて、その後、砲撃が起き、雨のように激しく弾丸が飛んできた」
当時、駅にはドネツク地方で続く激しい砲撃から必死に逃れるために避難用の列車を待つ住民ら約4000人がいたといいます。
そのほとんどが女性と子どもでした。
ゼレンスキー大統領:「5人の子どもの犠牲者も出た。数十人もの重体の患者が病院に運ばれている。これはロシアによる新たな戦争犯罪だ。関与した者は法による裁きを受けるだろう」
駅近くの芝生の上には大きなミサイルの残骸が残されていました。
ドネツク州知事:「住民らが避難のためクラマトルシク駅に着いた時、ロシアは弾薬付きミサイル“トーチカU”を発射した」
ウクライナはロシア軍がミサイル攻撃にトーチカUを使った可能性を指摘。
国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」の兵器専門家によりますと、トーチカUは極めて命中精度が低く、標的を外れることがしばしばあるため、人口が集中しているエリアでは使うべきではないとされている兵器です。
これに対し、ロシア側は…。
ロシア国防省・コナシェンコフ報道官:「トーチカU戦術ミサイルの残骸がクラマトルシク駅の近くで発見されたが、そのミサイルを使用しているのはウクライナ軍だけだ」
ロシア国防省はトーチカUを使用しているのはウクライナ軍だけで、ウクライナ軍が民間人を人間の盾に使用するために住民の脱出を妨害したと主張しました。
現在、ウクライナの東部や南部で攻勢を強めるロシア軍。
一方、アメリカの国防総省は、ロシア軍の戦力は軍事侵攻前と比べて15%以上失われたとの分析を明らかにしました。
しかし、ロシア軍は予備役の動員を始めていて、6万人以上を動員しようとしている兆候があると警戒を呼び掛けています。
こうしたなか、東ヨーロッパのスロバキアは旧ソ連時代に開発された地対空ミサイル「S−300」をウクライナ側の求めに応じ供与したと発表しました。
軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏:「S−300は防空システム、かなり広範囲に使えるもので、これがあればロシア軍の爆撃機がウクライナの射程内に入ってくるのはかなり厳しい」
●「ロシア国民はプーチンを支持するしかない状況」 その理由とは 4/9
ロシア政治を専門とする筑波学院大・中村逸郎教授が9日、ABCテレビ「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」(土曜前9・30)に生出演。ロシア国民はプーチン大統領を支持せざるを得ない状況になっていると語った。
中村氏は「プーチン大統領はロシアそのもの。ロシア国民は支持するしかない状況になってきている」と断言。ロシア国内ではウクライナへの軍事行動を支持する声が大勢を占めているが、「国民が抱いているのは“プーチン愛”ではなく“ロシア愛”」と語った。
さらに中村氏は「ロシア人の中でプーチン大統領とロシアは別々じゃないかという声が出てきている。ただ、戦争しているものですから、今はプーチンを支えないとロシアそのものが危うくなってしまう」と解説し、「したがってプーチンの支持率が、実体としてはプーチンそのものへの支持率ではない」と結論づけた。
●ロシア国内の「ネットの声」を恐れるプーチンが、新たな対策に乗り出している 4/9
日々報じられるニュースの陰で暗躍している諜報機関──彼らの動きを知ることで、世界情勢を多角的に捉えることができるだろう。国際情勢とインテリジェンスに詳しい山田敏弘氏が旬のニュースを読み解く本連載。今回取り上げるのは、ロシアで行われている新たなネット規制について。ウクライナ侵攻を成功させるべく、プーチンは国内の自由な報道や国民の議論を封じようとしている。
プーチンの「高支持率」の背後にあるもの
国際的な注目が集まっているロシアのウクライナ侵攻。連日、ロシア兵の仕業と見られる残忍な戦争犯罪行為が報じられて、同国は批判を受けている。
ウクライナはなんとか防戦している一方で、ロシアはトルコによる交渉の仲介に応じて協議を行っている。軍を一時、首都キーウ(キエフ)近郊などから撤退させた。ロシアは「再編成」という言葉を使っているが、実際にはロシア側の体力もかなり疲弊していると見られている。
ただこの侵攻は、ロシア国内では高い支持を得ているという。米紙「ニューヨーク・タイムズ」によれば、ロシア国民の83%がウラジーミル・プーチン大統領を支持しているという。また58%ほどのロシア国民が、ウクライナ侵攻を支持している。
その背景には、国内の情報をロシア政府が統制できていることがある。ロシア人の多くがテレビからニュース情報を得ていて、コントロールされた情報しか見てないケースが多いのだ。
ただ、これからはどうなるかはわからない。というのも、若い世代が中心に利用するインターネットでの情報が、今後は鍵になるかもしれないからだ。もちろんプーチン大統領もこれまで、インターネットを脅威に感じてコントロールしようとしてきた。
だが実際には、国内情報工作としてインターネットを管理するには苦労してきた歴史がある。
かつてのプーチンはネットを軽視していた
ロシア国内では、インターネットをめぐって何が起きているのだろうか。
外国のホスティングサービスを使っているインターネットサービスに対し、「3月11日までにすべてロシア国内のホスティングサービスに変更する」よう、ロシアのデジタル発展省のアンドレ・チェルネンコ副大臣が命じた。欧州のニュースサイト「Euractiv」はそう報じている。
ホスティングサービスとは、インターネットのサイトを公開する際にレンタルして利用するサーバーのこと。オンラインのインターネットサイトの拠点といえるものだ。そのホスティングサービスを、ロシア政府はすべて国内に移管させようとしている。
つまり、ロシア国内のインターネットサイトすべてを、国内で政府の思うままに管理できるようにしようとしている。ロシア人が読むサイトをできる限りコントロールしたいということだ。
プーチンは、国内統制のためにこうしたインターネット制限は以前から必要だと考えてきた。国内での情報統制と工作が不可欠である、と。
インターネット黎明期には、プーチンはインターネットの力を軽視していたとされる。それが理由で、現在までも効果的にコントロールができていない現実があると指摘されているのだ。
一方でインターネットを徹底的にコントロールしていることで知られる中国は、インターネットが普及し始めてすぐ、検閲などを含め幅広いコントロールに着手していた。そして次々と規制を行ってきたからこそ、今では世界で最も強権的にインターネットを管理している。
プーチンにとって転換点になったのは2011年だ。選挙不正が疑われたプーチン政権に対する大規模な抗議デモが発生した当時、反体制派のブログなどがデモ隊の結束に大きな影響を与えた。
そうしたインターネットのうねりをコントロールできなかったことで痛手を受けたとして、プーチンは規制を強めることになったのである。
そして2014年のクリミア侵攻では、ロシア最大のSNS「フコンタクテ」の制限に動き出した。だが完全なコントロールはできなかった。そして2018年になると、国内の通信会社やサービスプロバイダーに、ユーザーの通信データを保管し、情報機関FSB(ロシア連邦保安局)の要請に応じて情報を提供する決まりを法制化している。
プーチンは特に国内のコントロールを重視している。2019年からますますその度合いを強めてきた。米紙「ワシントン・ポスト」はこう報じている。
「ロシアは、自国内のインターネットでのコンテンツをコントロールするシステムを『統治インターネット』と呼んでいる。この全国規模のシステムは、モスクワに管理センターを置き、ロシア政府が気に入らないインターネット通信を抑圧するためのものだ。ウェブ上の特定の部分を孤立化させたり、デモや混乱が起きた際には、国内の特定地域をまるまるインターネットに接続できなくしたりすることが可能だ」
その管理センターはモスクワ川沿いにある。中国企業「レノボ」のサーバーを30台導入しており、中国とも関係があるアメリカ企業「スーパーマイクロ」のサーバーも30台使われている。ちなみに米「ブルームバーグ」によれば、以前米軍が調達していた「レノボ」のラップトップのコンピューターには、そのマザーボード(基盤)にチップが埋め込まれていたことが判明している。これを通して中国にデータが不正に送られていたという。
2019年にも国防総省の監査部門が、レノボを導入することにはセキュリティリスクがあると指摘していた。
また、スーパーマイクロにも問題がある。米政府機関などから中国のスパイ活動に関与しているとして、調査が行われてきたという。
準備不足のまま始まった侵攻
ロシアはこうしたハードウェアに、インターネットの通信の流れを監視するDPIと呼ばれるシステムを導入している。しかも、匿名通信を可能にするソフトウェアの「Tor」を抑圧し、ツイッターといったSNSの通信をスローダウンさせることに成功しているのだ。
またモスクワの管理センターには、国内全てのインターネット・サービス・プロバイダーが接続されている。検閲も行われているという。そしてこの「統治インターネット」は、2021年から本格的に運用が始まっている。
だがウクライナ侵攻後になって、ホスティングサービスへの規制など、さらに制限を強化する動きを見せているのだ。それでも満足に制限が実施できていない実態があり、そんなことから、独立系メディアやTV局などの強引な閉鎖にも乗り出している。こういった事実からも、プーチンはウクライナ侵攻の準備ができていなかったと筆者は考えている。
インターネットの在り方という意味では、西側諸国はこれを自由な空間にしようと考えてきた。国際的な犯罪対策合意や国際法のルールを当てはめながら、世界的な標準となる行動規範などを決めて、誰でも安全に利用できるものにしようと、国連でも専門家を集めて協議を行ってきた。
だがそうした動きに反対してきたのが、他ならぬロシアや中国だ。簡単に言うと、自国のインターネットは自分たちの主権のもとに、各国がそれぞれ統治すべきだと彼らは主張してきた。
ここまで記事で見てきたような統治が、まさにロシアが主張するインターネット上の「主権」ということだろう。自由な議論が飛び交う情報ツールであるインターネットを、国民の自由にさせておくわけにはいけない、と。ロシアや中国のいうインターネット主権というのは、検閲など、当局によるコントロールを意味するわけだ。
国民が自由に、世界で報じられているロシアによる残忍なウクライナ侵攻の情報を得られれば、冒頭で紹介したプーチンに対する支持率もまた変わる可能性がある。
逆にいうと、戦況が芳しくない今、インターネットを統制しようとするロシア当局の動きはさらに強まるはずだ。西側諸国は、そこにもなんらかの対策を講じていく必要があるだろう。ロシア内部からのプレッシャーも、プーチンの今後の動きに大きな影響を与えることになるからだ。
●マクロンが「プーチンとの関係」を切れない訳…迫る大統領選と、中国ファクター 4/9
ロシア軍のウクライナ侵攻が続く中、フランス大統領選の第1回投票が4月10日に行われる。第1回投票で過半数を獲得する候補者がいなければ同月24日に上位2人の決選投票が行われる。直近の世論調査で現職のエマニュエル・マクロン大統領を極右・国民連合のマリーヌ・ルペン氏が3ポイント差に追い上げる激戦となっている。
世論調査をもとに主要候補者6人の支持率をグラフにしてみた。
エマニュエル・マクロン氏26%(共和国前進)急進中道
マリーヌ・ルペン氏23%(国民連合)女性、極右から右派ナショナリスト政党にイメージ転換図る
ジャンリュック・メランション氏17.5%(不服従のフランス)強硬左派
エリック・ゼムール氏9.5%(極右の政治評論家)
バレリー・ペクレス氏8.5%(共和党)伝統右派
アンヌ・イダルゴ氏2.5%(社会党)パリ市長、伝統左派
共和党と社会党という右派と左派の伝統的二大政党が衰退し、前回の大統領選と同じく決選投票ではマクロン氏とルペン氏の一騎討ちになる見通しだ。社会党の凋落ぶりは目を覆うばかりで、急進中道マクロン氏と強硬左派メランション氏に股裂きにされている。極右の政治評論家エリック・ゼムール氏の支持率が一時16%を超え、フランス社会の右傾化を改めて印象付けた。
英誌エコノミストは独自の選挙モデルをもとに、マクロン氏が決選投票に進む確率は98%、再選の確率は78%と予想する。国民会議で過半数を持つ大統領が再選するのは1965年のシャルル・ド・ゴール以来。マクロン氏はウクライナに侵攻したウラジーミル・プーチン露大統領との対話を続け、期限前日の3月3日に新聞に寄稿した「国民への手紙」で出馬を表明した。
マクロンの3大ライバルはいずれもプーチン支持者
「再選のための出馬表明を最後の瞬間まで待った1988年のフランソワ・ミッテランと同じ戦法だ。マクロン氏の3大ライバル、ルペン、ゼムール、メランション各氏はみな長年のプーチン支持者。マクロン氏もウクライナ問題でプーチン氏と話し合うことが世界の檜舞台で自分が権威を持っていることを大統領選で示すのに有利と考えた」
仏エコール・ポリテクニークのビンセント・マルティニー准教授(政治科学)はこう解説する。「3氏はウクライナの自由ではなく、いかなる代償を払っても平和を守ることを最優先課題に挙げる。フランスは中立を保つべきだという考えだ」と言う。フランスは血も涙もない非道なプーチン氏に理解を示すのはどうしてなのか。
フランスのロマンティック・コメディ映画『シラノ・ド・ベルジュラック』に主演した仏俳優ジェラール・ドパルデュー氏(73)はプーチン支持者として有名だ。ドパルデュー氏は2013年、税金が高い祖国を捨て、ロシアの市民権を取得した。黒海のリゾート地ソチでプーチン氏から直接ロシアのパスポートを受け取った。
ドパルデュー氏は公開書簡で「私はロシア、人々、歴史、作家、文化、知性を愛している。ロシアは偉大な民主主義国だ」と称賛を惜しまなかった。15年にはロシアのクリミア併合を支持し、ウクライナから5年間入国を禁止された。しかし今回のウクライナ侵攻でようやく「狂気の、受け入れ難い、行き過ぎた行為だ」とロシアを非難した。
欧州のロシア依存はスエズ危機から始まった
フランスは西側では比較的ロシア好きが多い国だ。文化的なつながりもある。今回、ウクライナへの武器供与や対露制裁を主導するアメリカやイギリスのロシア好きは20年12月時点でそれぞれ19%、24%。逆にロシア嫌いは71%、70%にのぼる。これに対しフランスのロシア好きは35%、ロシア嫌いは57%で、西側主要国の中ではイタリアに次ぐ親露国である。
アメリカと対立した1956年のスエズ危機以降、フランスは仏独関係を軸に欧州の強化を図り、その中で祖国の利益を追求してきた。対米追従に走ったイギリスの外交政策とは正反対だ。中東のエネルギーに自由にアクセスできなくなった西欧は旧ソ連へのエネルギー依存を深める。EU(欧州連合)は石炭・ガス輸入の45%、石油輸入の25%をロシアに依存する。
欧州がロシアに対して強く出られなかった歴史的背景にはスエズ危機がある。
制裁を科した上でプーチン氏との対話継続を主張するマクロン氏に対して、ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は「大統領、あなたは何度プーチンと交渉したのか。それで何を達成したのか。アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、ポル・ポトでも交渉するのか。ロシアには大量虐殺の責任がある」と厳しく批判した。
自民党の安倍晋三元首相は首相在任中にプーチン氏と27回会談し「平和条約交渉をより大きく進めることができた」と胸を張った。エリゼ宮(仏大統領府)によると、マクロン氏は今年に入って16回以上プーチン氏と話した。マクロン氏は「私はロシアとの対話に努めてきた。欧州各国首脳と同様に停戦について議論した。自己満足でも甘えでもない」と反論した。
ルペン氏に猛追されていることを意識して、マクロン氏は「ポーランド首相の発言はスキャンダラスだ。ウクライナ問題でクレムリンに立ち向かうEUの結束を弱める恐れがある。モラヴィエツキ氏は極右政党の出身で、大統領選で自分のライバルであるルペン氏を支持している」とまで言った。
ハンガリー首相「ロシアの原油・天然ガス制裁はレッドラインだ」
ハンガリーでは4月3日の議会選(一院制、任期4年)で、ロシアや中国との関係を重視するビクトル・オルバン首相率いる中道右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」など与党連合が定数199の3分の2以上に当たる135議席を獲得した。オルバン氏は「月から見えるほど大きな勝利を収めた」と宣言した。
ハンガリーはEUと北大西洋条約機構(NATO)加盟国だが、オルバン氏は「ロシアの原油・天然ガスに対する制裁はレッドライン(越えてはならない一線)だ。制裁は欧州経済にも大きな打撃を与えている」とブダペストでロシア、ウクライナと独仏の停戦協議を開くよう呼びかける。米欧がウクライナに供与する武器が自国内を通過するのも拒否している。
オルバン氏は6日、要請があればハンガリーはEUの方針に反してロシア通貨ルーブルで天然ガス代金を支払うことでプーチン氏と合意したことを明らかにした。ハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外務貿易相は「これはわれわれの戦争ではないので関わりたくないし、関わるつもりもない」と述べた。
シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)パリ事務所のタラ・バルマ所長は「EUレベルではエネルギーのロシア依存を減らすとともに国防費を増やすことが大きなテーマになっているが、仏大統領選では外交や欧州問題が議論されることはない。主な争点はエネルギー価格や購買力、学校、交通など国内問題だ」と指摘する。
「中露接近が欧州に悪影響を与える」
バルマ所長によると、12人の大統領候補のうち外交や欧州問題を扱った経験があるのはマクロン氏だけ。「マクロン氏は以前から中露接近が欧州に与える悪影響を心配していた。彼の基本的な考え方はロシアを中国から引き離すことで、プーチン氏の安全保障上の懸念にも理解を示した」と解説する。安倍、マクロン両氏の対プーチン外交は共通している。
ルペン氏は14年、ロシアの銀行から政治活動の資金として900万ユーロ(約12億1700万円)の融資を受けた。彼女はウクライナの話題を避け、エネルギーや食品価格の高騰に対する有権者の不満をあおる。「エネルギーや生活必需品にかかる税金を下げ、企業に最低賃金を上げるインセンティブを与え、あなたのポケットにおカネを戻す」と訴える。
仏大統領選最大の争点は購買力だ。マクロン氏は大統領就任後、解雇規制の緩和や富裕層減税を進め、「金持ち、大企業優遇の大統領」と皮肉られた。18年には燃料税引き上げを引き金に「黄色いベスト運動」がフランス全土で吹き荒れた。マクロン氏とルペン氏の一騎討ちになれば、決選投票でゼムール支持者は極右つながりでルペン氏支持に回る可能性がある。
フランスの有権者にとってウクライナの戦争や欧州の安全保障より、エネルギーや食品価格の高騰で生活が貧しくなる方がずっと心配だ。外交で大きくリードしていたはずのマクロン氏は国民一人ひとりの購買力低下で守勢に立たされている。ECFRのバルマ所長は「投票率が大きな波乱要因になる」と表情を引き締めるのだが...。 

 

●ブチャの民間人殺害、ジェノサイドに当たるのか ウクライナ危機 4/10
ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで起きた民間人殺害は、多くの国が戦争犯罪だと非難している。ロシアはもっと恐ろしいことをしていると主張する人もいる。「ここで目にしたのは本当のジェノサイド(集団虐殺)だ」。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ブチャでそう語った。ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相も、ブチャと首都近郊の他の町であった殺害について、「ジェノサイドと呼び、そのように扱う必要がある」と同様の見解を示している。さらに、イギリスのボリス・ジョンソン首相は、ブチャにおける民間人への攻撃に関して、「ジェノサイドからかけ離れている」とは思わないと述べた。一方、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)は、ウクライナで起きていることをジェノサイドとまでは呼んでいない。ロシア軍を「犯罪中の犯罪」を犯したとして追及することは、果たして可能なのだろうか。
ジェノサイドとは
ジェノサイドは、人道に対する最も深刻な犯罪と広くみなされている。特定の集団を大規模に絶滅させること、というのが定義だ。第2次世界大戦のホロコーストでユダヤ人600万人が殺されたのが、例として挙げられる。国連のジェノサイド条約は、「国民的、民族的、人種的または宗教的集団の全部または一部を破壊する意図をもって」、次のいずれかをジェノサイドと規定している。
・集団の構成員を殺すこと
・集団の構成員に対して重大な肉体的または精神的な危害を加えること
・全部または一部の肉体の破壊をもたらすために、意図された生活条件を集団に故意に課すこと
・集団内における出生の防止を意図する措置を課すこと
・集団の児童を他の集団に強制的に移すこと
ロシアはジェノサイドを犯したのか
この点で意見の一致はない。米ジョンズ・ホプキンス大学で国際問題を研究するユージーン・フィンケル准教授は、ウクライナでジェノサイドが進行中だとみる。ブチャなどで、ウクライナ人であることを理由とした殺人が行われた証拠があるとしている。「単に人を殺すだけではない。国としてのアイデンティティーをもつ集団を狙っている」とフィンケル氏は話す。ただ、同氏によると、ジェノサイドの意図をもたらしているのは、ロシア政府の言説だという。同氏が指摘するのが、ロシア国営メディアRIA通信が今週配信した、「ロシアはウクライナに何をすべきか」というタイトルの記事だ。筆者のティモフェイ・セルゲイツェフ氏は、ウクライナが「国民国家として存立するのは不可能だ」と主張。国名さえも「おそらく維持できないだろう」としている。また、ウクライナの国家主義者のエリートについて、「抹殺されなくてはならない。再教育は不可能だ」と訴えている。彼の理論の基となっているのは、ウクライナはナチス国家だという根拠のない主張だ。ウクライナ人のかなりの部分が「消極的ナチス」であり、共犯者であって、そのため有罪だとする。さらに、ロシアが戦争に勝利した後、ウクライナ人は少なくとも1世代は再教育が必要で、それにより「必然的に脱ウクライナ化がなされる」と訴えている。前出のフィンケル准教授は、「ロシアの特にエリート層でここ何週間かでみられた論調の変化は、『意図のしきい値』と私たちが呼ぶ転換点だった。単に国を破壊するだけでなく(中略)アイデンティティーを破壊するものだ」と言う。「この戦争の目的は脱ウクライナ化だ。(中略)国家ではなく、ウクライナ人に狙いを定めている」
NGOジェノサイド・ウォッチの創設者で会長のグレゴリー・スタントン氏は、「ロシア軍が実際に、ウクライナの国家集団の一部破壊を意図している」ことの証拠があると話す。「民間人を標的にしているのはそのためだ。ロシア軍が狙っているのは戦闘員や軍だけではない」スタントン氏はまた、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が侵攻前に口にしていた、ウクライナ東部での8年間にわたる戦争はジェノサイドのようだという主張は、一部の学者たちが「ミラーリング」と呼ぶものだと指摘する。「ジェノサイドの加害者が、実際に実行する前に、標的とする犠牲者たちについて、ジェノサイドを犯す意図をもっていると非難することはよくある。今回もそれが起きた」
「証拠はまだ不十分」
だが、この分野の別の専門家らは、ロシアの残虐行為をジェノサイドと判定するのは早過ぎるとする。英キングス・コレッジ・ロンドンの国際政治学講師、ジョナサン・リーダー・メイナード博士は、ジェノサイド条約の厳格な文言の下では、証拠はまだ不明確過ぎると考えている。ただそれは必ずしも、ジェノサイドが起きていないことを意味しない。彼は残虐行為が起きているのは「かなり明確だ」だと主張する。だが、まだ基準をクリアしていないと述べる。「それらの残虐行為がジェノサイドになったり、今後ジェノサイドに発展したりする可能性はある。ただ、証拠はまだ十分ではない」それでもメイナード氏は、ウクライナの独立国家としての歴史的存在を否定する、プーチン大統領の「非常に問題の多い」発言に注目すべきだと言う。そこには、ウクライナには「実体がなく、それゆえ生存権はない」というプーチン氏の「ジェノサイド的発想」が示されているとする。
そうした発言がジェノサイドのリスクを高めていると、メイナード氏は言う。「しかし、そのような言葉が現地での行動につながっていくと、自動的に推量することはできない」。英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンの国際法廷センター所長を務めるフィリップ・サンズ教授は、民間人が標的になっていることから、戦争犯罪の証拠はありそうだとみている。また、港湾都市マリウポリの包囲は、人道に対する罪に当たると思われると言う。だが、国際法に照らしてジェノサイドがあったと証明するには、集団の全部または一部を破壊する意図があったと検察官が立証しなくてはならないと、サンズ氏は話す。そして、そうした立証については、国際法廷が非常に高いハードルを設定していると述べる。意図の立証は、集団を破壊する目的で大勢を殺害していたと加害者が述べるなど、直接的な証拠があれば可能だ。ただサンズ氏は、ウクライナのケースでそうした証拠が存在する可能性は低いとみている。意図はまた、行動パターンから推測することもできる。「しかし、それは難しい判断だ」と同氏は言う。残虐行為をしたとされるロシア人たちの意図は、まだ十分に分かっていないからだ。
「村に入り込み、ある民族や宗教の集団に属する成人男性のかなりの部分を、明らかに組織的に処刑する。もしブチャでそれが起きたのなら、ジェノサイドの意図を示すものとなり得る」「だが現段階では、何がなぜ起きたのか正確に把握するだけの十分な証拠は得られていない。戦争がウクライナ東部に移り、残忍さを増すなか、ジェノサイドの意図の兆候があるかどうか、警戒し注視するのは正しいことだと思う」
米ラトガース大学ジェノサイド・人権センターのアレックス・ヒントン所長は、ウクライナでは確かに、抹殺を狙った爆撃や民間人を標的にした攻撃によって、戦争犯罪と人道に対する罪が犯されたとみられると話す。一方で、プーチン大統領はジェノサイドを想起させる発言をしているが、ジェノサイドの意図を立証するには、戦地での残虐行為と明確に関連付けられる必要があるだろうと述べる。「ゼレンスキー(大統領)が明言しているようなジェノサイドだとは私は思わないが、警戒シグナルは出ている。リスクの脅威は非常に高い」ヒントン氏は、ロシアがジェノサイドを犯しているかどうかという議論によって、ウクライナでロシア軍が犯している明らかな残虐行為だと同氏がみていることが、あいまいになってはならないと主張する。「残虐な犯罪が起きていることは分かっており、対応が求められている。ジェノサイドでないならこれ以上の対応はしない、などということがあってはならない」
●ウクライナ戦争で夢想を語る人たちと“岸田検討使内閣”の誤り 4/10
ウクライナ戦争が起きてから無見識を絵に描いたような識者の発言を目にするようになった。
ワイドショーやメディアでもしばしば「ウクライナとロシアは喧嘩両成敗」「日本は中立に立つべきで制裁に加担すべきではない」「プーチン氏がウクライナで虐殺を行うだろうという過度な批判は慎むべきだ」などと発言する識者がいる。その種のワイドショー的発言に影響されてか、一般の人たちからも同様の発言を目にすることがある。この種のワイドショー的発言に影響される人たちを「ワイドショー民」と個人的に呼称して、しばしば私は批判している。
国際秩序を破壊
首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでの民間人への虐殺事件が明らかになるにつれて、プーチン政権とロシア軍のまさに非道さが世界の人々に衝撃を与えた。よほどロシアよりのバイアスがかからなければ、まさに“中立”的な視点からもプーチン政権と軍の蛮行は明らかだ。
先に紹介した、「プーチン氏がウクライナで虐殺を行うだろうという過度な批判は慎むべきだ」というような空疎な発言は、ブチャ虐殺事件を前に徹底的に自省すべきか、単に発言している人間のユートピア的夢想にすぎない。しかもブチャ虐殺事件が明るみに出る前から、プーチン政権の民間人虐殺は指摘されてきた。
プーチン政権は、シリアでもチェチェンでもジョージアでも同様な民間人への虐殺行為を繰り返してきたからだ。例えば、ウクライナでの退避ルートとして「人道回廊」が話題になっている。シリアのアレッポでもロシア軍はこの「人道回廊」を利用して、アレッポから逃げてくる市民を拘束し、または都市に残った人たちを「テロリスト」として徹底的な攻撃を加えた。「人道回廊」ではなく「非道回廊」だったわけだ。
現在、ロシア軍は当初のキーウ攻略戦を当面断念し、軍を再配置して、マリウポリなどウクライナ南東部の攻略により力を注ぐようだ。マリウポリの住宅地の空撮動画をみると、市民たちの生活基盤は徹底的に破壊され、まさに人道危機が起きていることは明白である。
民間人を巻き込んだ無差別攻撃という手法も、シリアのアレッポ攻防戦などで知られているロシア軍の手法だ。ロシア軍だけではなく、その代理機関として活動している民間軍事会社「ワグネル」も裁判なしでの民間人への処刑、拷問などを各地で繰り返してきたとされている。
このような各地でのロシア政府を批判する声は、国際世論やまた国連内でも強かった。日本政府もロシアのシリアでの化学兵器使用について、調査団の任期延長を提案したが、安保理でロシアの反対で否決されたこともあった。
最近ではワイドショー民や識者の一部から、「日本はロシアの非道を批判しているが、他方でロシアと北方領土問題や資源開発などで親密な関係を築いてきたではないか」という意見を聞くことがある。その種の批判を行う人たちには、日本のロシアへの姿勢が矛盾しているように見えるのだろう。
しかしそれは妥当とはいえない。現在の国際秩序を支える点では、ロシアと友好条約を結ぶこと、民間や政府が交流しロシアとの経済的な連携を強めることと、同時にロシア政府の蛮行を批判することと決して矛盾しない。現在の国際秩序―平和主義、国際法の遵守、自由や民主主義の擁護、国連中心主義、そして人権の尊重など―を守る行為として、いずれも重要だからだ。ロシアがいま徹底的に批判されるべきは、この国際秩序を破壊しようとしているからに他ならない。
さらに踏み込んだ制裁の可能性も
ウクライナ戦争はいまだ不確実性の海の中にある。だが現状の国際秩序が、上記した諸理念を尊重する形で、「新しい国際秩序」に変化することはもはや不可避であろう。日本もその中で重要な地位を占めることは間違いない。
米国、欧州を中心にして自由と民主主義を尊重する「西側世界」中心の新国際秩序をどのように構築していくかが課題になる。対して、ロシアや中国のような権威主義的国家との対立も鮮明になっていくだろう。
この激変する国際環境の中で、現在の岸田政権はどうだろうか。ウクライナのゼレンスキー大統領が国会での演説で評価したように、ロシアへの経済制裁について日本は欧米と歩調を合わせたのが早かったグループにあった。ただし経済制裁の中身は、より慎重な姿勢である。
ロシア中央銀行の対外資産凍結や、最恵国待遇の停止、国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からのロシアの一部銀行の排除などは行った。また北方領土へのロシア違法占拠解決を含む平和条約締結交渉は棚上げの方針である。
日本は天然ガス・石油事業「サハリン1」「サハリン2」からは撤退していない点では、微温的だろう。もっとも天然ガスなどの資源をめぐる制裁に慎重なのは、欧州勢も同様である。そこにロシアへの経済制裁の限界も見えてくる。
今後もブチャ虐殺事件の全容が明らかになり、また同様の悲惨な出来事がわかった段階で、日本も西側社会もより踏み込んだ制裁を行う可能性が出てくるだろう。その時は、いま以上に日本の国民生活にも犠牲が求められるだろう。
だが、岸田政権には現状でさえ、国民生活の犠牲を解消する積極的意欲に欠ける。常に岸田首相は積極的な経済政策について「検討する」を繰り返し、むしろ雇用保険の負担増など事実上の「増税」には積極的である。
つまり岸田首相は「令和の検討使」であり、また「増税」志向である財務省管理内閣の代表者でしかない。そのことが典型的なのは、ガソリンや電気、ガス代の高騰に対して、大規模な補正予算ではなく、予備費を活用した数兆円規模の経済対策を求める姿勢だ。
いまこそ30、40兆円規模の補正予算で、国民の生活を支えること、それが大きな枠組みでいえば、ロシアや中国のような権威主義国家に抗する国際秩序を維持し、発展させるための前提ともいえるだろう。
●ウクライナ戦争で発覚…「難民支援が行き届かない」日本の現実 4/10
今、日本に来るのはリスクだよねって世界的に広まってしまって…
ウクライナからの避難民20人が4月5日、林芳正外務大臣と共に政府専用機で日本に到着した。林外務大臣は岸田文雄総理大臣の特使としてポーランドを訪問し、ウクライナから避難する人たちの受け入れを進めてきた。
しかし3月14日付けのFRIDAYデジタルでお伝えしたように、「避難民」として入国したウクライナの人たちにはまず「90日間の短期ビザ」が発給され、その後「12ヵ月間の特定活動」と分類される在留資格が与えられることが決まっているだけ。林外務大臣は「入国後の支援を行っていく」として一時滞在場所や生活費の支給、日本語教育などの支援を行うとするが、「その後」がまだ見えていない。
そこで立憲民主党は3月29日に「戦争等避難者」という新たな在留資格を作り、避難民を早急に、また円滑に受け入れるための法案を提出した。一体これはどういうものか? 実際に運用されるのか? 提出者である衆議院議員の鈴木庸介さんに話を伺った。
避難勧告が出てもウクライナを出国できなかった120人の日本人…
――そもそものこの法案の主旨はどこにありますか?
「まずは3月1日に私が法務委員会で質疑した内容に、遡らせてください。ウクライナ国内には侵攻当初、300人の日本人がいました。外務省からの退避勧告に出国した人もいましたが、120人で頭打ちになり、その状態が何日も続いていたんです。なんで120人以上が出られないのか? が私の最初の問題意識だったんです。
そこでインスタグラムやYouTubeでウクライナ国内にいらっしゃる日本人の方々に連絡を取って、『お困りごとはないですか?』と聞いてみると、ある日本人男性の妻がウクライナ人で、その方に連れ子がいて、彼と妻の間にも子供いる。しかし、日本で婚姻関係の書類を出していないので妻と子供2人を連れて来られない。『女房子供を置いては、ウクライナを出れないんですよ』と言われました。
他の方ではウクライナ人の妻がいて、日本で婚姻届けを出してるものの、外務省に『妻のお父さんお母さんも連れて帰りたい』と言ったら、『それはできない』と言われて断念したんだそうです。コロナ対策の水際作戦で外国人の1日の入国制限が5000人という枠で新たな短期滞在のビザを受け入れないという政府の方針があって、配偶者と子どもしか連れてきてはいけないとされていたんです。政府には当初、現状がよく見えていなかったんです。
それで法務委員会で、こういうことで日本人が帰って来れなくなっていると質疑で述べたところ、古川禎久法務大臣がその場で手を挙げて、私が何とかしますから、と言ってくれたんです。その翌日には岸田総理が全面的に受け入れると発表し、とりあえず『命のビザ』に関しては良かったなと思いました」
――その対応は評価すべきところだったんですね。そこから新たな在留許可の必要が出て来たわけですか?
「はい、そうです。90日間の短期滞在のビザと、『特定活動』という、働くことや学校に行くことができる、法務大臣の定める特定の活動のみが出来る在留許可を出すと政府は言っています。
ただ問題が2つありまして、特定活動はふつう半年区切で今回は1年間の在留資格。その先が見えません。もう一つ大きな問題は『裁量行政』なんです。裁量行政とは、法務大臣の裁量に委ねてしまうもので、今の難民認定こそ、究極の裁量行政ですよね。法務省が自分の基準で認定し、認定率はわずか0,4%。だから、裁量行政をできるだけ客観的なものにしてあげないと、日本に来られても日々の生活がみなさん、不安なものだと考えます。
それで今回、私たちが提出した法律です。これは『難民認定』と『特定活動』の間のギャップを埋める法律です。これだと働くこともできる、国民健康保険に入ることも、税金を払うことができるというビザになり、定住者に近い資格になります。かつ在留許可を判定するときは『国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)』が定める基準で判定するとしますので、法務省による裁量行政から一定の距離を置けるのが最大のポイントです」
――法務省が認定しなくなるんですか?
「認定は法務省がしますが、基準が法務大臣の裁量に依るではなくUNHCRの基準に基づいて行われます。そうすると、最初に申し上げたようなウクライナ人の妻や連れ子も全員いっしょに日本に来れますし、かつ働くことも、医療を受けることもできます」
岸田総理は「誰でも受け入れる」と言っていたが、実際は…
――夫婦そろってウクライナ人ですというような場合はどうなりますか?
「今はそれも受け入れる、という方針になっています。岸田総理は当初、どなたでも受け入れるように言っていましたけど、実際の現地での運用を見ている限り、日本に保証人がいないとビザがおりにくいというような話も聞こえてくる。そこは今後もっとしっかり検証していきたい。それが野党の役目ですから」
――この法案で注目したいのは、ウクライナから避難してくる人たちだけでなく、シリア、アフガニスタン、ミャンマーと、紛争のある他の国から逃れて来た人たちへの適用も考えているということです。
「きわめて単純な疑問として、『なんでウクライナ人だけなの?』というのがありますよね」
――そうなると、仮放免で就労が認められず、生活が成り立たない人たちも働ける可能性が出て来ます。とはいえ、立憲民主党は野党ですから、このまま法案が通るわけではないですよね? 
法案が国会に提出されると、法務委員会に付託されます。審議されるかどうかは法務員会の理事会で協議され、内閣提出法案の審議が終わった後に時間があれば審議されることがありますが、多くの場合、審議されません。審議されなくても、我々の提案が政府の案に吸収されればいいと思います。
――それは与党も同じような法案を出してきて、抱き合わせになるということですか?
「国は『特定活動』の在留資格にして、いつでも調整できるようにという意思が見え見えじゃないですか? そうじゃなくて、『ちゃんと身分保障を与えてあげましょうよ』という法案を私たちが出しましたから、今、流れが盛り上がってきたときに話し合い、もしくは政府が法案の名前を変えて新たに出してくるとかといったケースが考えられると思います」
――あるべき方向を示したので、政府としても今の硬直化した難民行政を変えていくかもしれない、という感じですか。
「今回は外圧で「蟻の一穴が開いた」と思ってるんです。だから、このタイミングで穴をグワッと広げていかないと! これまで、なんで難民認定がたった0.4%だったのかを有識者に聞くと、日本に受け入れ態勢がまったくできてないのに受け入れを認めてしまうと、社会的混乱が生じてくるからと言うんですね。それが今回は各自治体で受け入れを表明しています。受け入れてもらえるところで受け入れてもらって、働いて、税金を納めて、生活している人たちがいるという事実を積み重ねていきたいですね」
ウクライナ人の難民申請は難しい…その訳とは
――難民を受け入れる態勢が日本では整えられてこなったんですね。それで今回の法案とは別に立憲民主党として『難民等の保護に関する法律』も新たに提出するそうですが、これはそういう態勢を整えるものですか?
「はい。『難民等の保護に関する法律』はもう完成しているんですが、これは難民認定を法務省が決めるんじゃなくて、独立した機関として難民認定を行う、難民等保護委員会というものを作って、そこがUNHCRの見解に基づいて判断していく、というもので、入管改革の一環です。
たとえば今、実はウクライナ人は難民申請が日本で、大変にしにくい状況にあります。なぜかというと、“ウクライナ政府”に迫害されていないと難民申請しにくいんです。その証明はどうしたらいいかと言うと、自分が書いた著作物等に対して実際に政府から圧力を受けたことを証明しなさい、とか。そんなこと難民ができるわけないじゃないですか」
――なんですか、それ? 理解できません。
「今、戦争から避難する人たちが助かるようにしたい。ウクライナの人が難民申請できないというのはおかしいでしょう? ただウクライナからの避難してくる人たちの問題では、これは私がずっと主張してることなんですが、ひとりあたり1年でGDPが3721ドル、年収40万円の国の人たちが、15万円ぐらいする航空券を親子3人で買って来られるか? って、来られないですよね? 
今回は政府チャーター機で来て、日本財団が50億円を出して連れてくるという話もあります。少しずつ動いていますが、受け入れると決めたらそういうことも考えないとなりません」
――これからは「難民を受け入れる日本」を私たちは思い浮かべることが大事ですね。
「そうですね。そもそも論として、ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなったこと、カルロス・ゴーンさんがいい悪いは別としてああいう形になったこと、今、日本に来るのはリスクだよねって世界的に広まってしまって、日本で働きたいと考える人なんて、優秀な人なんて特に来ないでしょう。だから少しずつ、変えられるところから変えていかないと大変なことになる、という意識をみなさんで共有したいです」
ウクライナから他国に逃れた難民は既に400万人を超えている。日本での受け入れもチャーター機で来日した20人で打ち止め、というわけにはいかないだろう。難民の方々と共に暮らす日本を今こそ政治は真剣に構築していくべきだし、私たちもリアルに考えていくべきときだ。
●岸田首相 ウクライナ避難民支援に3億ドルの資金協力を説明  4/10
岸田総理大臣は、ウクライナの避難民を支援するための国際会合にビデオメッセージを寄せ、困難に直面するウクライナの人々と連帯する姿勢を強調したうえで、先に表明している緊急人道支援や借款による合わせて3億ドルの資金協力を実施すると説明しました。
ウクライナの避難民支援に資金協力を呼びかける国際会合がEU=ヨーロッパ連合やカナダなどの共催で開かれ、岸田総理大臣がビデオメッセージを寄せました。
この中で、岸田総理大臣は「日本は困難に直面するウクライナの人々と共にある」と強調したうえで、食料や医薬品の支給、避難民の保護などのため、緊急人道支援や借款で合わせて3億ドルの資金協力を実施すると説明しました。
また、保健・医療分野での人的貢献やウクライナの避難民の受け入れを行っていくことも表明しました。
●英 ジョンソン首相 ウクライナ訪問しゼレンスキー大統領と会談  4/10
イギリスのジョンソン首相は9日、ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。
訪問はメディアなどに対して事前に知らされることなく行われ、ジョンソン首相は外で出迎えたゼレンスキー大統領と英語であいさつを交わしていました。
イギリスの首相官邸によりますと会談でジョンソン首相はウクライナに対するさらなる軍事支援として、装甲車両120台や対艦ミサイルシステムなどを供与する方針を伝えたということです。
ジョンソン首相は前日の8日、対戦車ミサイルなど1億ポンド、日本円で160億円余りに相当する軍事支援をすでに打ち出しています。
会談後に発表されたビデオ声明でジョンソン首相はプーチン大統領がブチャやイルピンなどで行ったことは戦争犯罪だと強調したうえで「ロシア軍が撤退しているのは一種の戦術で、ドンバス地域やウクライナ東部への圧力を強めようとしている」と指摘しました。
そしてほかの国々と協力して今後ロシアへの経済制裁をさらに強化するとともに、軍事面での支援も行っていく考えを改めて示しました。
またゼレンスキー大統領もイギリスによる支援に謝意を示したうえで「制裁という形でロシアに圧力をかける必要がある。そして、いまこそロシアのエネルギー資源を完全に禁輸するときだ」と各国に強く呼びかけました。
ジョンソン首相はゼレンスキー大統領とともにキーウ市内を視察し、市民に「ウクライナの人々を全力で支援したい」などと声をかけていました。
ジョンソン首相のキーウへの訪問は、EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長とボレル上級代表に続くもので、ロシアによる軍事侵攻後、G7=主要7か国の首脳としては初めてです。
●英首相、ウクライナ軍たたえ「今世紀最大の軍事的偉業」… 4/10
英国のジョンソン首相は9日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。ロシア軍の地上部隊が首都周辺から撤退したことについて、「今世紀における最大の軍事的偉業だ」と頑強な抵抗を続けたウクライナ軍をたたえ、今後もあらゆる分野で最大限の支援を続けていくことを約束した。
ジョンソン氏は、新たな軍事支援として、装甲車両120台と最新鋭の対艦ミサイルを供与する方針も伝えた。両氏は、ウクライナとロシアの停戦協議で提案された、ウクライナがロシアが求める「中立化」を確約する見返りに自国の安全の保証を得る新たな枠組みについても意見を交わしたとみられる。この枠組みに関しては、ウクライナ側が米国や英国などが参加する国際条約とすることを求めており、ロシアの扱いが焦点になっている。
●盟友ベルルスコーニ氏もプーチン氏批判「平和な男と思ってきたのに」 4/10
ウクライナに侵攻しているロシアのプーチン大統領について、同氏の盟友といわれるイタリアのベルルスコーニ元首相は9日、「20年前に知り合い、民主主義と平和の男だと思ってきたのに、何という残念なことだ」と批判した。所属する政党の大会での発言をロイター通信が伝えた。
ロイター通信によると、侵攻後、ベルルスコーニ氏がプーチン氏について公の場で発言したのは初めて。ベルルスコーニ氏は、侵略の全責任をプーチン氏が取らなければならないと強調し、「ウクライナを攻撃したことでロシアはヨーロッパに加わることなく、中国の手中に落ちることになった」とも述べた。
ベルルスコーニ氏はプーチン氏と互いに行き来する仲で知られ、「世界のリーダーの中で間違いなくナンバーワンだ」と称賛したこともあるという。
●ロシア、ウクライナ侵攻にシリア作戦の司令官 欧米報道 4/10
ロシアのプーチン大統領がウクライナでの作戦を統括する司令官を新たに任命したと複数の欧米メディアが9日、欧米当局者の話として報じた。ロシアが軍事介入したシリアでの作戦経験が豊富という。ロシア軍が部隊間の連携を強化するなど態勢を立て直し、ウクライナ東部で攻勢を強める可能性がある。
任命されたのは南部軍管区のドゥボルニコフ司令官。内戦下のシリアでアサド政権軍を支援する作戦を指揮したとされる。ロシア軍は2015年にシリアに軍事介入し、市街地への爆撃で民間人の死傷者が多く出たと批判された。
ロシア軍は苦戦した首都キーウ(キエフ)などウクライナ北部から部隊を再配置している。東部などに戦力を集中し、新たな指揮官の下で攻勢を強める可能性がある。ウクライナの民間人の犠牲者が拡大する恐れがある。
欧米の当局者は英BBCに、ロシアが第2次世界大戦の対独戦勝記念日である5月9日までに一定の成果を上げようとしていると指摘。軍事より政治的な要請が優先される可能性があるとも述べた。
ロシア軍は10日、ウクライナ東部のルガンスク州やハリコフ州で住宅などに砲撃を重ねた。ハリコフ州知事は砲撃で2人が死亡したと明らかにした。ロイター通信が伝えた。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、AP通信のインタビューに「撃退するのをやめれば弱い立場に立たされる」と述べ、徹底抗戦を続ける方針を改めて示した。「国民に拷問を加えた人々との交渉など誰もしたくない」としつつ「外交解決の機会があるなら逃したくはない」とも語り、ロシアとの協議による停戦を探る姿勢を示した。
●ウクライナ 駅攻撃“ロシア軍 避難の市民を狙ったか”批判の声  4/10
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの東部の駅で合わせて52人が死亡したミサイル攻撃について、現地では、ロシア軍が避難しようとする多くの市民が駅にいる時間帯をねらったのではないかと批判する声が上がっています。ロシアの責任を問う声が強まる中、ロシア軍は東部での大規模な攻勢に向け、追加の部隊の配置を進めているとみられ、市民の犠牲が増えることへの懸念がいっそう高まっています。
ウクライナ東部のドネツク州、クラマトルスクで8日、鉄道の駅がミサイルで攻撃を受けこれまでに子ども5人を含む52人が死亡しました。
攻撃について、ウクライナ側は広い範囲に被害をもたらし、使用を禁止する国際条約があるクラスター爆弾をロシア軍が使ったと非難しています。
攻撃を受けた駅について、ユニセフ=国連児童基金は「人々が避難する主要なルートだった」と指摘しているほか、地元の市長は「当時、多くの人たちがホームで列車を待っていた。この時間にはおよそ4000人がいたとみられる」と述べるなど、現地では攻撃はロシア軍が避難しようとする多くの市民が駅にいる時間帯をねらったものだったのではないかと批判する声が上がっています。
ロシア側は「ウクライナ軍による攻撃だ」と主張し、関与を否定していますが、欧米各国からはロシア軍による無差別攻撃で戦争犯罪だなどとしてロシアの責任を問う声が強まっています。
一方、多くの市民の犠牲が連日明らかになっている首都キーウ周辺の状況について、ウクライナの複数のメディアは、ロシア軍が撤退したキーウの西、およそ50キロに位置するマカリウで、射殺された132人の住民の遺体が見つかったと伝えました。
こうした中、ロシア国防省は9日「キーウ近郊のイルピンで、ロシア軍が市民を殺害したとする偽装工作を行うため、ウクライナ側が街に遺体を運び込む計画を立てている」と発表し、市民の被害はウクライナ側によって仕組まれたものだという主張を展開しています。
またウクライナ東部の状況についてはアメリカ国防総省が8日、ロシア軍が東部に合わせて数千人の兵士を追加で配置したとの見方を示しました。
さらにキーウ周辺から撤退したロシア軍の一部の部隊が、ロシア西部でいったん補給を受けたあと南下してウクライナ東部地域に入る可能性が高いと分析しています。
ロシア軍はウクライナ東部の掌握に向け大規模な攻勢に乗り出すとも指摘されていて、市民の犠牲が増えることへの懸念がいっそう高まっています。
当時、駅の周辺にいた人たちが状況を語りました。
このうち、西部の都市リビウに列車で避難するため妻と娘とともに駅を訪れていた男性は「燃えている車やミサイルの残がい、それに逃げ惑う人々を見ました」と話しました。
この家族が駅に着いたのは、爆発が起きてから3分後だったということです。
鉄道の駅に向かうために乗る予定だったタクシーが遅れたため、別のタクシーを使うことになったことから、駅への到着が遅れて爆発を免れたということです。
男性は「もし最初に乗る予定だったタクシーが時間どおりに来ていたら、私たち家族は爆発に巻き込まれていたでしょう」と話していました。
また、駅に集まった人たちに食べ物や飲み物を提供する予定だった支援団体の男性は「爆発音が聞こえて駅に向かうと壊滅的な状況だった。多くの死傷者がいるのが見えたし、車が燃え、ミサイルの残がいがあった。恐ろしい光景だった」と振り返りました。
そして「爆発音が6回から10回ほど連続して聞こえたが音だけでなく、体の内側に響くような振動があった。ボランティアが1人駅で亡くなった。攻撃が無差別的に行われたことを示している」と話していました。
●プーチン大統領に反乱も…ロシア軍「続々離反の末期的実情」 4/10
1:武器を捨てる。2:直立不動の姿勢をとる。3:両手をあげるか白旗を掲げ「降伏する!」と叫ぶ。4:投降の合言葉「ミリオン」と口にする――。
これは、ウクライナ弁護士会がネットを通じてロシア兵に訴えている降伏の手順だ。
ウクライナ侵攻から1ヵ月半。前線のロシア軍には十分な食糧や弾薬が行き渡らず、兵士たちは飢餓に苦しみに極度に疲弊している。犬を殺害して、飢えをしのいでいる者もいるという。軍内には厭戦気分が広がっているのだ。
「ウクライナに投入された兵士の多くは、20歳前後の若者です。中には演習だという上官の指示で赴いたにもかかわらず、戦争の悲惨な現実を目の当たりにし精神面の異常をきたす兵士もいるとか。
ウクライナ軍の予想外の反撃を受け、士気は下がる一方。祖国に早く帰りたいというのが兵士たちの本音でしょうが、脱走すれば最大8年の懲役刑を受けます。やむをえず銃で自分の足を撃ち、祖国の病院への送還を望む兵が後を絶ちません」(全国紙国際部記者)
兵士たちを鼓舞するために、指揮官が前線にまで出ている。しかし彼らは、ウクライナ軍に狙い撃ちされているという。20人の司令官のうち、7人が命を落としたという情報もあるのだ。ロシア情勢に詳しい、筑波学院大学の中村逸郎教授が話す。
「原因は、ロシア軍の通信能力の低さにあります。旧型の無線が機能しないため、兵士たちは自分のスマートフォンや携帯電話を使用。GPSの位置情報を傍受され、ウクライナ軍からピンポイントの攻撃を受けているんです」
ウクライナ当局が着目しているのが、このロシア兵のスマホだ。兵士一人一人にSNSで「ちゃんと捕虜として待遇する。快適な環境を用意する」と送信。安心して投降するよう、呼びかけている。
「ロシア兵とは、具体的なやりとりをしているようです。ウクライナのアンドルシフ内務相は、次のようなエピソードをフェイスブックで明かしています。あるロシア兵は、降伏の条件として1万ドル(約120万円)とウクライナでの市民権を要求。受け入れられると、代わりに乗っていた戦車を差し出したそうです」(前出・記者)
ウクライナ国防省によると、軍から離反するロシア兵は日に日に増加しているという。100人以上の兵士が「自由ロシア軍」を結成し、ウクライナ軍への編入を志願。プーチン大統領に反旗を翻したというのだ。
ロシア軍は、統制がとれなくなっているのだろう。4月8日付の産経新聞は、ウクライナ人への虐殺が行われたとされる首都キーフ近郊ブチャで、酔ったロシア兵が次のように口論する様子を紹介している。
「ウクライナはナチスだらけだ」
「プーチンは嫌いだ。戦場に行きたくない」
もはやロシア兵の多くが、戦意を喪失している。それでもプーチン大統領は、泥沼の戦争を続けるつもりなのだろうか。
●プーチン大統領、ウクライナ侵攻の指揮官を任命 4/10
ロシアのプーチン大統領は10日までに、ウクライナの全戦域を統括する司令官に、連邦軍の南部軍管区司令官を務めるアレクサンドル・ドゥボルニコフ大将(60)を任命した。米国と欧州の当局者がCNNに語った。
欧州の同当局者によると、ロシアは形勢が極めて厳しいことを認め、戦法の転換を迫られている可能性がある。
ドゥボルニコフ氏は、ロシアがシリア内戦に軍事介入した2015年9月から16年6月にかけて作戦の指揮を執った人物。ロシア軍は当時のアサド政権を支援し、北部アレッポの反体制派支配地域で人口密集地を空爆して多数の犠牲者を出した。
ロシア軍はウクライナでも主要都市の民間施設を攻撃し、南部の港湾都市マリウポリの街を破壊するなど、当時と同様の行為を繰り返している。ロシア軍の基本思想や戦術は昔からほとんど変わっていないと、同当局者は指摘する。
事情に詳しい専門家や米当局者らによると、ロシア軍将校らは現在、第2次世界大戦の対独戦勝記念日にあたる来月9日までに、何らかの戦果をプーチン大統領に示すことを目指しているとみられる。
元駐ロシア英国大使のロデリック・ライン氏は9日、英スカイニュースとのインタビューで、ロシアが「シリアでの蛮行の前歴」を持つ新たな司令官を任命したと指摘。その狙いは、少なくともウクライナ東部ドネツクで、プーチン氏が誇示できるような領土獲得を果たすことだと述べた。
ロシア軍のウクライナ侵攻をめぐっては、作戦全体を統括する司令官の不在で統制が取れていないとの見方を、CNNがかねて報じていた。米当局者らは総司令官の人選について、ロシア軍が一定の戦果を収めているウクライナ南部の作戦責任者が任命されるとの見通しを示していた。
●ロシア軍、ウクライナ侵攻で総司令官 東部攻撃へ態勢強化か 4/10
ウクライナに侵攻するロシア軍は10日、東部を中心に都市への攻撃を続けた。解放された北部で民間人の遺体が見つかり、東部は砲撃などで犠牲者が増えている。プーチン政権は作戦全体を統括する総司令官を任命。5月9日の旧ソ連の対ドイツ戦勝記念日を1カ月後に控え、「成果」を得る狙いとみられる。
8日に駅がミサイルで攻撃された東部クラマトルスクでは、住民がバスなどで避難を急いだ。広範囲で被害が出たことからクラスター弾使用説が消えていない。
英BBC放送は9日、クリミア半島や南部チェチェン共和国などを管轄するロシア軍の南部軍管区(司令部ロストフナドヌー)トップのアレクサンドル・ドボルニコフ上級大将が、ウクライナ侵攻の総司令官に任命されたと伝えた。これまでは調整役がおらず、各方面がそれぞれ作戦を担っていたとされる。
●廃墟だらけ……ロシアの軍事介入で独立した国の荒廃 4/10
目下、ウクライナへ侵攻を続けるロシア軍は、ドンバス地方など、親ロ派が支配的な東部に戦力を集中して制圧を目指している。仮にロシアの計画通りに進んでしまえば、ウクライナ東部の景色はどうなってしまうのか――。示唆的なのが、ロシアを後ろ盾にジョージア(当時グルジア)からの分離独立を一方的に宣言したアブハジア自治共和国である。そこでは、あたかも占領下のような風景が広がっているのだ。
黒海の東岸にあるアブハジアは、ロシア人が多く訪れる保養地である。“親ロ感情”の表れなのか、お土産物屋さんにはプーチン大統領の姿がプリントされたTシャツが何種類も販売されている。
2015年にこの地を訪れた映像ディレクターの比呂啓氏は言う。
「アブハジアの人は大人しい雰囲気でした。どこかの平和な、少し寂しい国といった印象です」
ジョージアからアブハジアに入る際には、境界でロシア軍とアブハジア軍からのダブルチェックが必要だ。
「ジョージア人を追い出したので、ここに住んでいるのは“アブハジア人”ばかり。人口密度が低く、至るところで廃墟が見られました」
街自体が物々しいわけではないが、アブハジアの大統領や兵士をたたえるポスターや看板があちこちに。また、ロシア革命の英雄レーニンのモニュメントも珍しくない。複雑な経緯を持つこの地を象徴しているようだ。
同じ状況の地域が、ジョージア国内にはもう一つ、南オセチアだ。南オセチアとジョージアの“境界”には、南オセチア側が勝手に設置した柵があり、年に何度か柵がジョージア側に侵食してくるという。
仮にロシアの計画通りに進めば、アブハジアと南オセチアの“占領”の風景はウクライナにとって他人事ではなくなってしまうのだ。
●ウクライナ大統領府顧問 徹底抗戦続ける構えを強調  4/10
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、東部で今後、大規模な戦闘に発展する可能性があるという認識を示したうえで、徹底抗戦を続ける構えを強調しました。ロシア軍が東部での攻勢を強める中、市民の犠牲がさらに増えることが懸念されています。
ロシア国防省は10日、東部のハルキウ近郊などでミサイル攻撃を行い、ウクライナ軍の地対空ミサイルシステムを破壊したなどと主張し、東部での攻勢を強めています。
人工衛星を運用するアメリカの企業「マクサー・テクノロジーズ」は、ハルキウから東に80キロほど離れた、ロシア軍が掌握しているとみられる地域で8日に撮影した衛星画像を公開し、この中では装甲車やトラックなどの大規模な車列が南へ向かって移動している様子が写っています。
こうした中、ロシアとの停戦交渉に当たるウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は9日夜、国内のテレビ番組に出演し「大規模な戦闘のための準備はできている。東部ドンバス地域などで戦闘に勝たなくてはならず、そうなってから実質的な交渉の立場を得ることができる」と述べ、徹底抗戦を続ける構えを強調しました。
そのうえで「大統領どうしは、そのあとに会談を行うだろう。実現には2週間かかるかもしれないし、3週間かかるかもしれない」と述べ、東部での戦闘は長引く可能性があるという認識を示しました。
イギリスの公共放送BBCなどは9日、関係筋の話として、ロシア軍の南部軍管区のトップ、ドボルニコフ司令官がウクライナでの軍事侵攻の指揮を執ることになったと報じました。
ロシア軍が首都キーウから撤退する一方、東部での大規模な戦闘に向けて態勢を立て直すために任命されたとみられますが、ドボルニコフ司令官はプーチン政権が2015年に軍事介入し、多くの市民が犠牲になったシリアの内戦で現地の指揮を執ったことで知られていて、市民の犠牲がさらに増えることも懸念されています。
●ロシア軍、チェルノブイリから放射性物質盗む ウクライナ 4/10
ウクライナのチェルノブイリ原発周辺の立ち入り制限区域の管理当局は10日、1カ月以上にわたって同原発を占拠していたロシア軍が、制限区域内にある研究所から133個の高レベルの放射性物質を盗み出したとフェイスブックで明らかにした。管理当局は「素人が扱えば、少量であっても死に至らしめる」と指摘した。
チェルノブイリ原発をめぐっては、制限区域を訪れたウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相が8日、「(ロシア兵は)放射性物質で汚染された地面を掘り、土のうを作るため土を集め、そのほこりを吸い込んだ」とフェイスブックに投稿。「このように1カ月にわたって被ばくすると、彼らの余命は最大でも1年だ」とし、「ロシア兵の無知は衝撃的だ」と記していた。 

 

●オーストリア首相、プーチン氏と会談へ ウクライナ東部攻撃続く 4/11
オーストリアのネハンマー首相は10日、11日にロシアの首都モスクワを訪れ、プーチン大統領と会談すると明らかにした。ロシア軍がウクライナ東部を中心に攻撃を続ける中、米政府はウクライナが必要とする兵器を提供すると表明した。
ネハンマー首相は「われわれは軍事的には中立だが、ロシアのウクライナに対する戦争では明確な立場だ。(戦争を)やめなければならない」と投稿した。
当局者によると、ロシア軍は10日、ウクライナのルハンスクとドニプロペトロウシク地域にミサイルを発射。ミサイルはドニプロ市の空港を完全に破壊した。
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はABCテレビで、ロシア軍によるウクライナの都市のさらなる占領を阻止するため、ウクライナが必要とする兵器を提供すると表明した。
また、CNNテレビでは、ロシアのプーチン大統領が任命したとされるウクライナ軍事作戦を統括するドゥボルニコフ司令官について、今以上に残虐な行為を指示する可能性があるとの見方を示した。
ルハンスク州当局者は、住民を避難させるため列車9本を10日に用意したと述べた。
ウクライナ政府は10日に人道回廊を使い、マリウポリからの213人を含め、2824人が避難したと明らかにした。
●「プーチンの自滅」が現実味を帯びてきた…ロシア「一日3兆円の戦費」の中身 4/11
戦争には膨大なカネがかかるが、具体的に何に使われているのか即答できる人は少ない。その明細を調べてみると、ロシアはウクライナを攻めているだけでなく、自らの首も締めているのがよくわかる。
国家予算は35兆円なのに
ウクライナ情勢は泥沼化の様相を呈している。そして、苦戦続きのロシアが「自滅」するというシナリオも現実味を帯びてきた。
3月上旬には英国の調査研究機関「CIVITTA」が、ロシア軍の戦費に関して「一日あたり200億〜250億ドル」に上るという試算を出した。これは日本円にして約3兆円だ。
ロシア連邦上院が昨年末に可決した連邦予算案によると、今年の歳出は23兆6942億ルーブル(約35兆円)。侵攻から早6週間が経つが、すでに国家予算の3倍以上のカネがかかっていることになる。
3兆円という試算は、兵士の日給や兵器の損耗など直接戦地でかかる費用だけではない。西側諸国からの経済制裁や貿易制限などによって生じる経済損失も含まれている。
ただ、ウクライナ侵攻に失敗しつつあるロシアが膨大な損害を出していることも間違いない。具体的に、何を失ったのか。今回の侵攻でロシアは、どれだけの兵力を割き、どんな兵器を使っているか公表していないが、専門家に協力を仰いで様々なデータを使い検証した。
米国防総省は、偵察衛星などを駆使して情報を収集し、ロシア軍がウクライナ国境付近に約19万人の兵力を集結させたと推測している。
地上作戦を実施するロシア陸軍は、空挺部隊と合わせて32万5000人いる(『TheMilitaryBalance2022』)。つまり、総兵力の約60%をウクライナに投入したことになる。ここでは兵器も同様に60%が投入されていると仮定しよう。
まず、戦車について解説するのは、物理学者で日本有数の旧ソ連およびロシアの兵器研究家として知られる多田将氏だ。
「ロシア陸軍は現在2900両の戦車を運用しています。その中でもウクライナ侵攻で主力になったのは『T−72』と『T−80』、『T−90』の3系統です。
『T−72』は'73年に制式採用された古い戦車で、一両約8000万円。より高性能の『T−80』は、世界初のフルガスタービン戦車として知られていて、値段は約2億円。『T−72』を改良して作られ、'92年から制式採用された『T−90』の値段は約4億円です」
ニュースなどで報じられたように、4億円もする戦車が米国製対戦車ミサイル「ジャベリン」で次々と破壊されてしまう。ちなみに、「ジャベリン」一発あたりの値段は約1000万円だ。
ウクライナ軍が3月31日に行った発表によると、破壊した戦車の数は614両。2900両の6割である1740両が投入されたとすれば、ロシア軍はその約35%を損失したことになる。
3系統の保有比率から計算した損失額は、「T−72」が約351億円、「T−80」が約196億円、「T−90」が約312億円、合計約859億円となる。
燃費だけで1900億円
「車内に歩兵を乗せられる歩兵戦闘車で主力になっているのは、火力重視の『BMP−2』で、納入された時期によって変動はありますが、約1億円です」(多田氏)
ロシア軍が運用する4900両のうち、6割の2940両が出動したと仮定する。戦車と同程度の比率で歩兵戦闘車「BMP−2」も破壊されたとすれば、損失額は約1029億円だ。
戦場では、戦車や歩兵戦闘車だけでは戦えない。歩兵を大量に運ぶための装甲兵員輸送車や、空からの攻撃に対処するための対空戦闘車両もいる。それ以外にも弾薬運搬車や食事を作る野戦炊事車に食料運搬車、兵員の服を洗濯する車両、移動司令部となる指揮通信車なども帯同する。
こうした部隊も被害に遭うことを想定すると、約116億1300万円かかる。
当然、それだけの車両を動かすには燃費も膨大だ。戦車100両他の師団が1000km走行すると考えた場合、最低でも約75万Lの軽油が必要とされている。
現在の日本における軽油価格で換算すると、ウクライナ侵攻にかかっている燃費は約1936億6200万円だ。
ウクライナ軍は、侵入してくるロシア空軍に対して一定の対空砲火網を敷いているため、ロシア軍は厳密な標的を定めない遠距離砲撃を多用している。
こうした遠距離砲撃をするためには火砲(大砲)や多連装ロケット砲が使われる。火砲は、自走可能な「自走砲」や大型トラックに引かれる「牽引砲」、軽量で大きな破壊力を持つ「重迫撃砲」の3つに分けられる。
多連装ロケット砲とは、複数のロケット弾を一斉発射することを目的としたロケット砲だ。
今回の侵攻でロシア軍が使った燃料気化爆弾は、「TOS−1」という多連装ロケット砲によって発射された。一両あたりの値段は、約7億4000万円。ロシアが保有するロケット砲の6割が戦地で使われ、戦車と同程度の比率で破壊されていたら最大約1325億円の損害だ。
当然だが、戦車や火砲、ロケット砲で使われる弾薬にもカネはかかる。
●プーチン“自滅”か…戦費「3兆円」ムダ遣いで、ロシアが辿る「壮絶な末路」 4/11
ウクライナ情勢は泥沼化の様相を呈している。そして、苦戦続きのロシアが「自滅」するというシナリオも現実味を帯びてきた。ロシア軍の一日の戦費に関して、日本円でおよそ3兆円にのぼり、すでに国家予算の3倍以上のカネがかかっているという。
では一日3兆円ものカネは一体何に使われているのか…? 前編記事『ここにきて「プーチンの自滅」が現実味を帯びてきた…ロシア「一日3兆円の戦費」の衝撃中身』引き続き、その内訳を明かそう。
東京大学先端科学技術研究センター専任講師で、ロシアの軍事・安全保障政策を専門とする小泉悠氏はこう解説する。
「かつて行われたロシア軍の大演習では、1週間で10万トンの弾薬を使用しています。ちなみにこの消費量は、自衛隊の備蓄弾薬(推定11万トン)に匹敵します。ロシア軍が、ウクライナ侵攻を演習レベルで行っているとすれば、1週間で10万〜20万トン使っていても不思議ではありません」
'15年に陸上自衛隊が行った「富士総合火力演習」では、3億7000万円相当の弾薬35・6トンが費やされたと記録されている。
この数字を参考にして、ロシア軍が週に10万トンの弾薬を使ったと仮定してみよう。あくまで単純計算ではあるが、3月末までに約5兆3421億5625万円もの弾薬費をかけたと考えてもおかしくはない。
3月下旬には、ロシアがウクライナ領内に対人地雷を仕掛けていることも明らかになった。その名を「POM−3」という。直径約6〜7cm、高さ約20cmの金属製のシリンダーで、空中から散布して設置できる。地雷内部にある電子機器が周辺の振動を検知し、確実に人だけを狙って殺傷する。
仮に、現在までウクライナ領内に10万個ほど設置されているとすれば、総額約3億円だ。
次に、ロシア軍の兵士にかかるカネも見てみよう。まず人件費だ。EU圏のニュースサイトによると、正規兵の月給は約9万円、徴集された兵士の月給は約3000円だと報じられている。総兵力のうち約7割が正規兵だと言われているので、3月末までにかかった人件費は約145億6920万円となる。
食糧費も忘れてはならない。陸上自衛隊の食費と同じ一日あたり約900円であると仮定したら、食糧だけで約61億5600万円もかかる。
そして、何より大切なのが兵站だ。
実業之日本フォーラム編集委員で元海上自衛隊情報業務群司令の末次富美雄氏はこう語る。
「燃料など物資の補給や食糧などの配給、整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持など後方支援すべてを指します。正確な金額を把握することは不可能ですが、'03年のイラク戦争が参考になります。当時の戦費を確認すると、人件費を4倍にしたら、兵站にかかる経費に近くなるんです」
そうなると兵站には約582億7680万円かかるという計算になる。
ウクライナ侵攻では陸軍が目立っているが、戦闘機などを扱うロシア航空宇宙軍も戦費を垂れ流していると言っていい。
たとえば、最新鋭戦闘機「Su−35」は一機約122億7600万円もする。現在、ロシア軍の主力とされている「Su−30」の価格は約45億9700万円、「Su−34」は約44億1300万円とおしなべて高い。そして、そのすべての機種がウクライナ軍によって撃墜されたことが確認されている。
また、主力の戦闘ヘリコプターも、「Ka−52」は約42億9100万円、「Mi−28」は19億6000万円する。
戦闘機や戦闘ヘリコプターは飛行するだけでも整備費や燃料費など飛行コストがかかる。たとえば、「Su−34」と同程度の性能を持つとされている米戦闘機「F−15E」の一時間あたりの飛行コストは約242万円だ。
ロシアの戦費増大の一因となっているのが、高額な最新兵器の投入だ。特に有名なのは極超音速ミサイル「キンジャール」だろう。3月20日、ロシア国防省は「キンジャール」を使ってウクライナ軍の燃料貯蔵基地を爆撃したと発表している。
英紙「ザ・サン」によると、キンジャール一発あたりの値段は約7億2300万円と推定されている。ロシアの調査報道専門メディア「インサイダー」は、プーチン大統領はロシア軍が高価な長距離精密誘導弾8発を一日に撃ち込んだことに激怒したと報じている。それほど懐を痛める兵器というわけだ。
上に、ロシア軍の戦費をまとめた表があるので確認してほしい。どれだけの金額がウクライナで溶けているのかが一目瞭然だ。
今この瞬間も、兵士や民間人の命が失われている。ロシア兵がキーウ周辺で大量虐殺を行ったというニュースまで報じられるようになった。これに加え、ロシア経済にダメージを与えるレベルの金銭的無駄遣いも続けられているのだ。戦争では命もカネも、かくも無残に消費されていく。この真理に、プーチン大統領はいつ気づくのか。
●キーウ州で死者1222人確認…「ロシアの戦争犯罪容疑者はすでに500人」 4/11
ウクライナの検事総長は10日、英民放スカイ・ニュースとのインタビューで、侵攻を続けるロシア軍が首都キーウ(キエフ)近郊で多数の民間人を殺害した疑惑に関連し、キーウ州内で同日朝の時点で1222人の死者が確認されたと明らかにした。
また、検事総長は、南東部マリウポリなども含め、「ロシアの戦争犯罪の容疑について5600件を捜査しており、すでに500人の容疑者がいる」と説明。民間人殺害や民間施設の破壊を1件ごとに捜査しているケースと共に、数十件以上の被害をまとめて捜査していることもあり得ると指摘した。
●英首相がキーウ訪問、ウクライナの安全保証めぐる新たな枠組み意見交換か  4/11
英国のジョンソン首相は9日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。ロシア軍の地上部隊が首都周辺から撤退したことについて、「今世紀における最大の軍事的偉業だ」と頑強な抵抗を続けたウクライナ軍をたたえ、今後もあらゆる分野で最大限の支援を続けていくことを約束した。
ジョンソン氏は、新たな軍事支援として、装甲車両120台と最新鋭の対艦ミサイルを供与する方針も伝えた。両氏は、ウクライナとロシアの停戦協議で提案された、ウクライナがロシアが求める「中立化」を確約する見返りに自国の安全の保証を得る新たな枠組みについても意見を交わしたとみられる。ゼレンスキー氏は会談後の記者会見で「ウクライナの平和を達成する上で重要な役割を果たすことを期待する」と述べ、英国の参加に期待を示した。
●プーチン氏、ウクライナ侵攻の総司令官を任命…ドボルニコフ上級大将  4/11
ワシントン・ポスト紙など複数の米メディアは9日、ロシアのプーチン大統領がウクライナでの軍事作戦を統括する総司令官に、露軍の南部軍管区トップのアレクサンドル・ドボルニコフ上級大将を任命したと報じた。露軍ではこれまで作戦全体を統括する総司令官が任命されておらず、連携不足から苦戦の一因になったと指摘されている。
ドボルニコフ氏は、ロシアが2015年にシリア内戦に介入した際に露軍の軍事作戦を指揮し、無差別攻撃を仕掛けて多数の民間人死傷者を出したとされる。
ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は10日、米CNNのインタビューでドボルニコフ氏について「シリアで市民に対して残虐行為を働いた過去があり、ウクライナでも同様の行為に及ぶことが予想される」と述べ、攻撃の激化に懸念を示した。
●ロシア軍新司令官に懸念 米政府高官「残虐行為に及んだ過去」  4/11
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍の苦戦が伝えられる中、欧米のメディアは、ロシア軍の幹部が司令官として新たに指揮を執ることになったと伝えました。ロシアが軍事介入し多くの市民が犠牲になったシリアの内戦で現地の指揮を執った人物で、アメリカ政府の高官は「残虐行為に及んだ過去がある」として懸念を強めました。
ウクライナでは、ロシア軍が首都キーウ周辺から撤退したあと、多くの市民が殺害されているのが見つかっていて、ウクライナのベネディクトワ検事総長は10日、イギリスのテレビ局、スカイニュースのインタビューでキーウ州で10日朝までに1222人の死亡が確認されたと明らかにしました。
また、ウクライナ国内で起きたロシアによる戦争犯罪は5600件にのぼり、ロシア軍の幹部や政治家などおよそ500人の容疑者を特定したとしています。
一方、戦況を巡ってアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は9日、キーウ周辺から撤退したロシア軍の部隊は戦闘能力をほとんど失い、兵士の士気などの面で深刻な問題に直面していると分析しています。
こうした中、イギリスの公共放送BBCなど欧米のメディアは9日、当局者の話として、ロシア軍の南部軍管区のトップ、ドボルニコフ司令官がウクライナでの軍事侵攻の指揮を執ることになったと報じました。
BBCは当局者の話として、これまで不十分だった部隊どうしの連携を整え、態勢を立て直す必要に迫られたことが背景にあるとみられると伝えています。
ドボルニコフ司令官はかつてロシア南部のチェチェン紛争に参加したほか、2015年から翌年にかけてはロシアが軍事介入したシリア内戦で指揮を執り、この間、多くの市民が犠牲になりました。
ドボルニコフ司令官について、アメリカのホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は10日、CNNテレビに出演し「シリアで市民に対して残虐行為に及んだ過去がある」と述べ、ウクライナでも同様の行為をするおそれがあると懸念を強めました。
ロシアでは、来月9日にはプーチン政権にとって国民の愛国心を高める重要な行事となる、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利したことを記念する祝日が控えていて、専門家からはプーチン政権としては国民にアピールできる成果を急ぎたいのではないかという指摘も出ています。
ただ、ロシアとの停戦交渉にあたるウクライナのポドリャク大統領府顧問は9日、「大規模な戦闘のための準備はできている。東部での戦闘に勝ってから実質的な交渉の立場を得ることができる」と述べ、徹底抗戦を続ける構えを強調していて、東部で大規模な戦闘になれば市民の犠牲がさらに増えることが懸念されています。
松野官房長官は、11日午前の記者会見で、ロシア軍の幹部が司令官として新たに指揮を執ることになったことについて「報道は承知しているが、コメントは差し控えたい。その上で、ウクライナで多くの市民が犠牲となっていることを極めて深刻に受け止めている。むこの民間人の殺害は重大な国際人道法違反で戦争犯罪だ。断じて許されず、厳しく非難する。残虐な行為の真相は明らかにされ、ロシアの責任は厳しく問われなければならない」と述べました。
また、ウクライナのベネディクトワ検事総長がキーウ州で1222人の死亡が確認されたと明らかにしたことについて「ロシア軍の行為により、ウクライナで多くの市民が犠牲になっていることに強い衝撃を受けている。断じて許されず、厳しく非難する」と述べました。
●ウクライナ難民支援へ91億ユーロ拠出、カナダ政府や欧州委など 4/11
カナダ政府や欧州委員会などは9日、ウクライナ戦争から逃れた難民を支援するため、寄付などの形で計91億ユーロを拠出すると表明した。
ポーランドのワルシャワで資金を募るイベントが開かれ、ウクライナ国内で住む場所を追われた人々を支援するために18億ユーロ、同国から近隣諸国に逃れた難民のために73億ユーロがそれぞれ集まった。
政府、企業、個人から合わせて41億ユーロの寄付が集まった。主にウクライナ当局や国連を通じて分配される。
残りの50億ユーロは欧州連合(EU)金融機関からの融資および支援金で、EU諸国に到着した難民に住宅、教育、医療を提供する40億ユーロ規模のプログラムも含まれている。
8日にキーウ(キエフ)を訪問し、カナダのトルドー首相とイベントを共催した欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、この戦争にウクライナが勝利した後の復興・再建でも支援すると述べた。
●ウクライナ戦争と日本 積極財政で日本をもっと勁く!  4/11
ウクライナ戦争が終わりません。むしろ、日に日に状況が悪化しています。首都キーウ攻略に失敗し撤退したロシア軍の跡に残された侵略の爪痕―無残にも、おびただしい数の無辜の人々の遺体が路上に放置された映像―に、世界が戦慄しました。
すでに、総人口の1割を超える400万人ものウクライナの人々が、家を壊され、肉親を失い、国を追われて、近隣諸国への避難を余儀なくされています。我が国もその避難民を400名以上受け入れていますが、これも前例のない措置です。さらに、大規模な経済制裁により、エネルギーや穀物価格が高騰し、私たちの生活を直撃しています。
私たちは、何としてもこの戦争を一日も早く終わらせるべく全力を尽くすとともに、ウクライナ戦争から得た教訓に基づき、現実的な安全保障、経済、資源エネルギー政策を遂行していかねばなりません。
教訓の第一は、他国による侵略を許さない確固たる国防努力を怠らないということです。ウクライナ戦争はロシアの弱体化をもたらすことになると考えますが、我が国周辺には、依然として北朝鮮の核とミサイル脅威、強大な軍事力を背景に強硬な対外姿勢を誇示する中国が厳然と存在し、これらに対する適時的確な対応が求められます。
とくに、日本全土を射程に収める1900発の地上発射型中距離弾道ミサイル、300発の中距離巡航ミサイル(一部は核弾頭搭載)に対抗しうる同様の中距離ミサイル戦力は、日米にはありません。つまり、有効な反撃手段を持たないということです。反撃できないというのでは、抑止力にはなりません。
じつは、これは我が国防衛をめぐる課題のほんの氷山の一角なのです。従来型の陸海空のアセットはもとより、サイバー、宇宙、電磁波といった新領域における我が国の対処能力は不十分ですし、燃料や弾薬の備蓄、基地や施設の抗堪性にも様々な課題を抱えています。
今回のウクライナ戦争によって文字通り覚醒したドイツ(しかも、左派の社民党と緑の党の連立政権!)が、国防予算をGDP比で1.4から2%に引き上げ、抜本的な国防改革に着手したように、我が国も5年程度で防衛予算をGDP比2%水準まで引き上げて、上述のような積年の課題を克服しなければなりません。
第二の教訓として、「力による現状変更」を行う可能性のある国への、過度な依存を見直さねばならないと考えます。代表的なのが天然ガスですが、経済産業省は、石油・液化天然ガス、半導体製造に必要なネオンなどの希少なガス、排ガス浄化に使われるパラジウムなど、ロシアやウクライナへの依存度が高く対策が必要な戦略物資が7品目あると公表しています。
これが中国となるとさらに深刻です。最新の内閣府報告書『世界経済の潮流』によれば、我が国が中国からのシェアが5割以上を占める「集中的供給財」はじつに1000品目を超え、中国からの全輸入品目の23%に上ると算出。これらの物資の供給が滞った場合のリスクは、米独と比較しても莫大なものとなると警鐘を鳴らしています。
課題解決のためには、サプライチェーンの再編が急務です。具体的には、別の調達先を探したり、使用量を節減する技術開発を推進していくことになりますが、いずれにしても政府が本腰を入れて支援していかねばなりません。
そのためには、思い切った財政政策が必要です。いうまでもなく、防衛費の増額にもサプライチェーンの再編にも、相応の予算措置が必要となります。しかし、1220兆円もの巨額の財政赤字を抱える日本のどこにそんなカネがあるのか、という懸念の声には根強いものがあります。
心配はご無用です。我が国財政は、米英独仏と比べても極めて健全なのです。下の図は、IMF(国際通貨基金)が作成した中央政府・地方政府・中央銀行等、政府関係機関を合わせた国全体のバランスシートの国際比較です。
この図を見れば一目瞭然。我が国は確かに負債は多いものの資産も多く、ほぼ均衡しており、G7の中でもカナダに次いで財政状況が良いことがわかります。「ではあの膨大な国債はどうなってるのだ?」と首をひねる向きもあると思いますが、経済学の標準的な考え方によれば、中央銀行は、政府のいわば子会社として一体として捉えますから、日銀が保有している日本国債は、政府(親会社)が日銀(子会社)から借金しているのと同様、実質的には負債ではありません。
したがって、我が国にはまだまだ積極的な財政支出を行う余力は十分にあります。先に述べた防衛費の増額やサプライチェーン再編のための政府支援、さらには、対露経済制裁によるエネルギーや穀物価格の高騰により打撃を受ける家計を支えるためにも、更なる補正予算の編成に向けて、思い切った財政政策を展開すべきです。私も、政府与党の一員として、国民の命と平和な暮らし、そして安定した経済運営のために全力を尽くしてまいります。
●ウクライナ戦争で「バタフライ効果」…2200万人の飢餓危機 スリランカ 4/11
家庭や商店では数時間にわたる停電が頻繁に起き、道路では信号灯が消えて警察が交通整理をしている。ガソリンスタンドの前にはガソリンを買おうとする長蛇の列ができる一方、用紙不足で学校の試験が中止になり、新聞も印刷することができずにいる。これだけではない。病院・薬局ではよく使われる医薬品が足りなくなり、医者は「医療危機」を宣言した。ある主婦は「粉ミルクの値段がいきなり上がり、子どもにまともにミルクを飲ませてあげられていない」と吐露した。
英紙ガーディアンなど外信が9日(現地時間)伝えた、燃料・電気・食糧・医薬品不足によって現在スリランカで起きている出来事だ。ロイター通信、CNNビジネスなどは、ロシアのウクライナ侵攻による燃料と食糧価格の急騰で社会・政治的混乱が発生した代表的な国がインド洋の島国、スリランカだと報じた。ウクライナ戦争発の一種の「バタフライ効果」という分析だ。
「スリランカ国民が飢餓の危機に直面」
観光産業に依存するスリランカ経済は新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)で大きな打撃を受けたことに続き、ウクライナ戦争による原材料価格の急騰で致命的なダメージを受けた。
スリランカの経済危機は各種指標からも確認することができる。3月の物価上昇率は前年同月比18.7%に達し、食品物価は30.2%も上昇した。
外貨保有額もほぼ底をついた。スリランカ中央銀行によると、3月末基準のスリランカ外貨保有高は19億3000万ドル(約2400億円)で、1カ月の間に16%減少した。
対ドルのスリランカ・ルピー価値は1カ月間に40%も下がった。負債償還の負担も深刻だ。JPモルガンの推算によると、今年スリランカが返済しなければならない負債は70億ドルに達し、目前では7月に海外債権者に10億ドル(約1兆2000億ウォン)の国債を償還しなければならない。
このような傾向でいけば、スリランカ国民2200万人が飢餓の危機に直面しかねないという警告まで出ているとガーディアンは伝えた。CNBCは「1948年の独立国家樹立以降、スリランカは最悪の経済危機に直面している」と評した。
怒った民心、数千人が抗議デモ
怒った民心は大規模な抗議デモにつながった。AP通信などによると、9日、数千人の市民がスリランカの首都コロンボ市内の主要道路などに集結し、国旗や横断幕を持ってゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領執務室までデモ行進を行った。
ラージャパクサ大統領の退陣を要求する声も出てきた。横断幕には「ラージャパクサからスリランカを救え」「我々には責任感ある指導者が必要だ」のような文面が見えた。デモに参加したある20代青年は「行動しなければ(経済的困難のせいで)死んでしまう」と切迫した状況を伝えた。24歳のある学生は「人々は飢え、さらには電気をつけることもできず、国には大きな借金があるのに、大統領は責任を負わないでいる」と批判した。
外貨不足で国家デフォルト危機に直面したスリランカは、結局国際通貨基金(IMF)の救済金融を受けると宣言した。IMFは「スリランカの経済危機を非常に懸念している」とし「救済金融プログラムのためにスリランカ財務省や中央銀行関係者と実務交渉を始めた」と明らかにした。
ウクライナ戦争発の価格上昇…ペルー・パキスタンでも不安高調
新型コロナの大流行に伴うサプライチェーンの混乱とウクライナ戦争によって食糧価格とエネルギー価格は暴騰した。9日、CNNビジネスによると、国連食糧農業機関(FAO)が集計した今年3月の食料価格指数(FPI)は1カ月前に比べて13%近く急騰して159.3まで高まった。
これは食料価格の急騰が起爆剤になった「アラブの春」当時に記録した史上最高値である2010年106.7や2011年131.9をはるかに上回る。ウクライナとロシアは世界の主要食料輸出国だが、それぞれ戦争や経済制裁で輸出が難しくなった影響だ。国際原油価格は1年前に比べて60%近く高騰し、天然ガスや石炭価格も急騰した。
スリランカ以外にも南米ペルーでは燃料価格の急騰によって触発された反政府デモで6人が死亡したほか、パキスタンは経済難の中でイムラン・カーン首相に対する不信任案が可決された。これに対してCNNビジネスはウクライナ戦争発の経済危機に伴う社会不安が世界各国に広がる恐れがあるとの見通しを伝えた。
●バイデン外交の欠陥が露呈しているウクライナ戦争 4/11
3月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストの ジャナン・ガネシュが、ウクライナ問題では、バイデンの理想主義的外交がサウジアラビア等の離反を招き米国外交の足かせとなっており、もっと現実主義的外交をすべきであると論じている。
ガネシュは、ウクライナ戦争を民主主義と独裁主義の戦いと位置付けたのでは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、更には中国の協力を得ることができないので、より現実的な外交政策をとるべきだと述べる。歴史的にも、米国は、ソ連との対抗で中国に肩入れしたり、韓国やラテンアメリカの軍事政権を支援したりしたように、目的のためには、非民主的勢力の協力を得て来たと指摘する。そして、今後の中国との覇権争いにおいても、そのような戦術が必要となると論じている。
バイデン外交には、人権・民主主義を重視する民主党の基本的立場が背景にある。また、トランプの理念なき外交を批判して政権を獲得したこともあり、自らの持論でもある民主主義重視の価値観外交を進めて来た。
また、バイデンの個人的性格にもあるのか、これまでサウジやア首連の指導者、イスラエル首相、ブラジル大統領など、政策的に問題のある政治指導者とは会おうとしなかった。政策や意見が合わなくとも、いざという時のために、首脳レベルで直接働きかけを行なえるような最低限の個人的関係が構築されていることが望ましい。
また、このようなバイデンの頑なさと共に、あまりに率直な発言に、やや不安を覚えるところがあった。バイデンは、早々にウクライナに軍事介入をしないことを明言し、プーチンを戦争犯罪人と呼び、また、制裁が効果を生ずるのには時間がかかるなど、それらが事実であるにしても、外交駆け引き的な要素が少なく選択の余地を自ら狭めている印象もある。
バイデンは、プーチンの理不尽な侵略に対して米国自身が交渉する余地は無く、当面制裁強化一本やりということであろうが、そうであればこそ、実利を重視し民主的とは言えない第三国に対しては今後もう少し柔軟な対応に軌道修正し、少しでも対ロシア制裁への協力を求めることが望ましい。西側同盟以外の国々が制裁に参加せず協力しないということは、制裁の抜け穴が広がることを意味しかねない。ウクライナ後の中国対策においても同様であろう。
3月16日頃には、ウクライナ筋から15項目からなる停戦合意が近いとの見通しも報道されたが、3月23日には、ロシア側から米国が停戦を妨害しているとのコメントがあり、停戦の機運が遠のいているが、これはロシアが交渉を引き延ばしていることを示唆している。プーチンは、もともと停戦するつもりは無く文民に対する無差別攻撃を継続、強化することにより、ウクライナ側の戦意喪失を待つ作戦なのではないかと疑いたくなる。
ウクライナ人の命を救うためには、プーチンがこのような軍事侵攻に踏み切った理由やこれまでの経緯を考慮すべきだとの意見が内外に散見されるが、これは正に信用できないプーチンの主張である。ウクライナ人側には、命を懸けても守りたいものがあることを理解すべきであろう。
ロシアに影響力を持つ国や人脈を持つ人物は、全力でロシア側に即時停戦を働きかけ、無差別攻撃を続けることが利益とならないことをロシア側に理解させるよう努力すべきである。特にプーチンに対しては、その意図は交渉により実現すべきもので、そのためにはまず即時停戦が必要であると説得するべきであり、それができるのはロシアが頼りとしている中国しかない。
3月24日の北大西洋条約機構(NATO)緊急首脳会議でもそのような意見が出たようであるが、中国には、そのような役割を果たす重い責任があるというべきであろう。
●「戦争犯罪」繰り返すロシア軍 兵器一新も徴集兵頼み 陰湿な新兵いじめ… 4/11
ウクライナに侵攻したロシア軍が「戦争犯罪を行っている」として、国際社会からの批判が日増しに強まっている。民間人らに対する残虐行為が次々と明らかになる中、むしろ目立つのは軍隊の弱さと士気の低さだ。近代化を進め、軍事力ではウクライナに圧倒しているにもかかわらず勝てない背景には、ソ連崩壊後も変わらないロシア軍のおぞましい体質が根底にあるようだ。(論説委員・青木睦)
いじめから自殺に追い込まれ、餓死した若者も…
ソ連崩壊後の1990年代、ロシア社会は底無しの混迷に沈んだ。社会主義経済から市場経済への体制移行に苦しみ、国家機能は著しく低下して秩序は崩壊した。
国防予算が大幅に削られた軍も内部荒廃を来した。汚職は蔓延し、徴兵制度は機能不全で兵員は大幅に定員割れ。古参兵による新兵いじめが深刻化した。
新兵いじめはどこの国の軍隊でも起こり得るが、ロシアの場合は規模も陰湿ぶりでも桁外れだった。いじめから自殺に追い込まれたり、満足な食事を与えられずに餓死した若者もいた。毎年、新兵いじめによって数千人が死亡したといわれ、ロシアに駐在していた日本の自衛官が「対外戦争もしていないのに…」と絶句したのを思い出す。
人権団体「兵士の母親委員会」は、新兵いじめから逃れてきた脱走兵の駆け込み寺のような存在だった。90年代半ばに始まったチェチェン紛争では、ろくに訓練も受けていない新兵がいきなり前線に送り込まれた。そんな息子を取り戻そうとする母親らを支援したのも母親委員会だ。
母親委員会のある女性は「軍はその社会を映し出す鏡よ」と言った。軍はロシア社会が抱える不条理や矛盾が凝縮されたような組織だった。
兵士の母親委員会 徴集された若い兵士とその家族の人権を守るために1989年発足。1994に始まったロシアからの独立を求める南部チェチェン共和国との紛争では反戦を唱え、捕虜になったロシア兵の解放交渉にも携わった。
新型装備 通常兵器で7割、戦略兵器は8割以上に
プーチン時代に入り国情が安定するにつれ、ロシアは軍の近代化を進めた。
とりわけ2008年に起きたジョージア(グルジア)との軍事紛争以降の進展は目を見張るものがあった。この紛争では軍の通信装備が悪く、司令官が従軍記者の衛星電話を借りたという逸話も残っている。
プーチン大統領は18年の年次教書演説で、迎撃が難しい極超音速ミサイルシステム「アバンガルド」や、原子力推進式の巡航ミサイルなど6種類の最新鋭兵器の開発を公表した。
近代化は20年の時点で、新型装備の比率が通常兵器で70%、戦略核兵器は80%以上に達したという。兵員面の改革では、徴兵よりも契約制の軍人を増やす「プロフェッショナル化」を進めた。
プーチン氏「職業軍人だけで戦う」はウソ
その軍事力を見せつけてウクライナを圧倒するはずだった侵攻作戦。プーチン氏は徴集兵は投入せず職業軍人だけで戦う、と言った。
ところが、ウクライナ側の捕虜になったロシア兵には徴集兵もいることがすぐにばれてしまった。
しかも、「単なる訓練だから」と上官にだまされてウクライナに送られた捕虜が、スマートフォンで母親に「どうなっているのか分からない」と訴える光景も報じられている。結局、ロシア国防省も徴集兵の派遣を認めた。
侵攻以来、母親委員会にはわが子を捜す親からの問い合わせが殺到しているという。チェチェン紛争時と同じ悲劇が繰り返されている。兵器は一新されたが、軍の体質は変わらないようだ。

ロシアの徴兵制 / 防衛白書によると総兵力は約90万人。米シンクタンク・戦争研究所によると、そのうち徴集兵は約26万人。徴兵は18~27歳の男性が対象で年2回あり、任期は1年。今春は約13万人の徴集を予定しており、欧米メディアによると、ショイグ国防相は「徴集兵は紛争地に送らない」と強調した。
●ウクライナ戦争で激化するサイバー攻撃、保険会社は損害補償するか 4/11
ロシアの軍事侵攻前に起きた大規模なサイバー攻撃
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して1カ月以上が経過した。ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊から撤退して、ウクライナ東部での戦いに焦点を移すとみられるなど、戦争は新たな局面に入りつつある。
両国の間では、停戦交渉も進められている。だが、その一方で、キーウ近郊の街では、多くの民間人が殺害されていたことが明らかとなり、深刻な人道危機として、ロシアの戦争犯罪を糾弾する声が国際的に高まっている。戦争の犠牲者を増やさないためにも、早期の停戦が必要な状況だ。
軍事侵攻前の今年1月には、ウクライナに対する大規模なサイバー攻撃が起こり、外務省など約70の政府機関のウェブサイトが停止した。この攻撃についてロシアは関与を否定しているが、疑う見方が強い。
2017年にも大規模なサイバー攻撃が行われた。2014年のロシアによるクリミア併合以降、東部地域を中心に紛争が継続するなかで、ウクライナに対するサイバー空間での情報戦も続いている。
そこで、ウクライナで起きたサイバー攻撃を振り返って、その影響について考えてみたい。
身代金を支払ってもデータロックが解除されないマルウェア
今回、見ていくのは、2017年6月に発生した“NotPetya”(ノットペーチャ)によるサイバー攻撃だ。
日本では、同年5月に発生した “WannaCry”(ワナクライ)ほど有名ではないかもしれない。WannaCryは日本でも一部の工場などで被害が出たことで、メディアで大きく報じられた。一方、NotPetyaはウクライナを震源に世界に拡散したマルウェア(悪意のあるソフトウェアや悪質なコードの総称)として、欧米でよく知られている。
NotPetyaは、攻撃のあった当時、過去最大規模の被害をもたらしたサイバー攻撃とみられており、被害総額は100億ドル超と推定されている。2016年3月にウクライナで発生した“Petya”というマルウェアに似ていたが、感染力が強く、「Petyaではない」と名付けられたものだ。
実際に、NotPetyaは、それまでのマルウェアと違って、自己拡散する機能を備えており、ユーザーが何もしなくても次々に新たなシステムに感染していった。
企業等のネットワークに不正に侵入して、情報データファイルを人質として暗号化し使用不能とする、典型的なランサムウェアだ。だが、通常のランサムウェアと大きく異なるのは、画面に表示された指示に従って身代金を支払っても、人質であるデータがロック解除されて使用可能となることはなかった点だ。
NotPetyaは、恐喝などによる経済的利益を目的としたものではなく、システムに大規模な破壊を引き起こすこと自体を目的としたものとみられている。
このサイバー攻撃は、いま起きている深刻な人道危機を伴った軍事侵攻の前兆だったのかもしれない。
米英豪は「NotPetyaはロシア軍によるもの」と断定
このマルウェアの手口を、もう少し詳しくみていこう。NotPetyaは、ウクライナ国内で汎用されている会計ソフトを製造するソフトウェア会社のサーバから始まった。
まず、攻撃者はこの会社のアップデートサーバを乗っ取り、それを使ってソフトウェアのアップデートに見せかけたNotPetyaマルウェアを、同社の顧客企業のコンピュータに送信した。その結果、ウクライナの大手企業のネットワークが、わずかな時間で次々にダウンさせられた。
実際に被害に遭ったコンピュータは、感染するとハードドライブに保存されている情報が改変され、ソフトウェアやデータが使用不能となった。コンピュータは自動的にシャットダウンし、再起動すると画面にメッセージが表示され、身代金の支払いとデータ復旧のためのキーの取得が指示されたという。
一部の被害者は、表示された指示に従って身代金を支払おうとしたが、支払ってもデータのロックは解除されない仕組みとなっていた。データがランダムなキーで暗号化されているため、たとえ攻撃者であってもロックを解除する方法はなかったという。
NotPetyaはウクライナ国外にも大きな被害をもたらした。特に、デンマークの海運会社や米国の配送会社では、事業が中断するなどの影響が出て、それぞれ約3億ドルもの被害を受けたとされる。
この他にも、米国の大手化学品・医薬品メーカーや大手食品・飲料会社などが被害に遭った。NotPetyaはウクライナだけではなく、欧米の広範囲に渡って企業等に被害をもたらしたのである。
2018年に米国、英国、オーストラリアの政府は、NotPetyaの攻撃がロシア軍によるものだと公式に表明した。ロシアの目的は「ウクライナのエネルギー生産と金融・政府業務を混乱させること」との政府見解を示して、同国を非難している。
これに対して、ロシアはサイバー攻撃への関与を否定し、ロシアに対する非難は一部欧米諸国が推進する“運動の一環”に過ぎないと反論している。
サイバー攻撃の保険金支払いを巡る係争も発生
NotPetyaのサイバー攻撃は、保険業界にも波紋を投げかけることとなった。
被害に遭った米国の大手食品・飲料会社は、被害額の補償として保険会社に保険金の支払いを請求した。ところが、保険会社はこのサイバー攻撃は戦争的行為に当たるとして、「戦争免責規定」による保険金支払いの免責を主張した。
同様に、攻撃で損失を被った米国の大手化学品・医薬品メーカーも別の保険会社に保険金の支払いを請求したが、その保険会社も戦争免責規定をもとに、保険金を支払わないと主張した。
これらは通常、損害保険には戦争免責の規定が盛り込まれていることが背景にある。その規定によると、保険会社は「戦争、侵略、軍事行動」などから生じる損害については、宣戦布告の有無にかかわらず、保険金を支払う義務を負わないとされている。この規定の内容は、保険会社によって異なっている。
保険金の支払いに関しては、それぞれの当事者間で係争が発生し、訴訟に発展している。NotPetyaのサイバー攻撃が戦争的行為に当たるかどうかがポイントとなる。
大手化学品・医薬品メーカーの訴訟は、今年1月、下級審で保険会社の免責を否定する判決が出た。ただし、戦争的行為をサイバー攻撃に適用しなかった司法判断には批判の声もあがっている。大手食品・飲料会社の訴訟のほうは、現在も継続している模様だ。
保険会社に降りかかる「サイレントサイバーリスク」
これらの係争は、損害保険の戦争免責規定が国家によるサイバー攻撃にも適用されうるのか、といった点で議論を呼ぶこととなった。保険会社にとっては、「サイレントサイバーリスク(沈黙のサイバーリスク)」という新たなリスクに気付かせるきっかけとなったのである。
通常、サイバー保険では、補償対象となるサイバー事象や免責となるサイバー事象が契約規定に明記されている。戦争免責条項も含まれるのが一般的だ。
一方、一般の損害保険契約では、契約規定のなかにサイバーリスクが明示的に含まれていない場合や、免責とされていない場合がある。こうした場合、サイバー事件による損害保険の補償(損害賠償補償など)の範囲があいまいになる。
これこそが、サイレントサイバーリスクだ。契約規定のなかに入り込んで沈黙していたサイバー関連の補償が、サイバー事件の発生により、保険金請求の形で顕在化するわけだ。保険会社側からみると、サイバー攻撃による被害の補償を提供する意図はなかった場合でも、契約者側から保険金請求が生じる事態となる。
たとえば、洪水保険のように自然災害の補償を行うもので、一見サイバー事象とは無関係な保険であっても、サイレントサイバーリスクはありうる。
こんな事例が考えられる。マルウェアなどのサイバー攻撃により、ダムの制御システムがハッキングされて洪水が発生し、その結果、大きな被害をもたらしたとしたらどうなるか。この場合、保険契約上、サイバー攻撃に起因した洪水についての補償の規定があいまいだと、保険会社は保険金支払いのリスクにさらされる可能性がある。
保険会社は、サイレントサイバーリスクに対処するために、サイバー関連の補償を含めるかどうか、契約規定の明確化に着手している。
日本も他人事ではない「サイバーリスク」の標的
このように、2017年のサイバー攻撃は、保険業界にも思わぬ余波を生む形となった。
さて、いま起きている戦争に話を戻そう。現在、ロシアのウクライナ軍事侵攻が進むなかで、サイバー攻撃を含めた情報戦も激化している。
デジタル技術の進歩により、ネット上には、ウクライナ大統領が国民にロシアへの降伏を呼びかける内容のディープフェイク動画まであらわれている。この動画を一見しただけでは、その内容を信用してしまうかもしれない。
一方、ウクライナ側がロシア軍の携帯電話でのやり取りを傍受して、それを公表するといった動きも報じられている。こうしたデジタル技術を活用した攻防は、従来、あまり見られなかったものだ。早期の停戦を願いつつ、情報戦も含めて今後の軍事侵攻の展開を注視していく必要がありそうだ。
また、サイバーリスクに国境はない。マルウェア等によるサイバー攻撃は、ウクライナだけではなく、世界中を標的として行われることも十分に考えられる。日本を含めて、ロシアの非友好国は、これからも深刻なサイバー攻撃を受ける可能性がある。両国が停戦合意や終戦に至った後も、決して警戒を緩めることはできない。
●ウクライナ成長率マイナス45% 22年見通し、ロも11・2%減 4/11
世界銀行は10日、欧州や中央アジアの新興国経済の成長率見通しを発表した。ロシアの軍事侵攻を受けたウクライナは2022年の実質成長率がマイナス45・1%と、記録的な落ち込みになると予想した。日米欧から経済制裁を受けているロシアも、マイナス11・2%になると見込んだ。ウクライナ情勢は先行きが不透明で、世界経済に暗い影を落としている。
ウクライナは21年の3・4%成長から急降下となり、国際社会でさらなる支援が必要との声も出そうだ。ロシアの21年は4・7%成長で、経済制裁がさらに強化されれば、一層落ち込む可能性もある。
●ついにドイツも「脱ロシア」へ…エネルギー輸出に頼るプーチンの行き詰まり  4/11
ロシアのデフォルトは時間の問題か
欧米諸国による金融、経済制裁によってロシア経済の悪化が鮮明だ。ウクライナ危機が発生するまで、ロシアは基本的に自国の原油や天然ガスなどの資源を輸出することで経済を成長させてきた。そのため、ロシア国内では、軽工業やサービス業の分野で企業は育っていない。
欧米諸国の厳しい制裁、中でも中央銀行への制裁などによってロシアの米ドル資金は枯渇し、デフォルト(債務の不履行、当初の約束通りに利払いや元本の返済がなされないこと)は時間の問題になっている。外資企業の撤退も増えている。経済と金融システムが混乱し、ロシアの経済成長率が急速かつ大幅に低下することは避けられない。
ウクライナ侵攻についても、キーウ(キエフ)近郊でロシア軍による民間人の殺害の疑いが浮上したことによって制裁は強化され、そのリスクは高まった。今後、懸念されるのは、追い詰められたプーチン大統領が、欧州向け天然ガスのパイプライン“ノルドストリーム1”を停止することも懸念される。
その場合、世界経済にはかなりの悪影響が生じる。供給制約はいっそう強まり、経済成長率の低下と物価上昇の同時進行が鮮明化するだろう。それ以外にも、ロシアが報復措置を実行する可能性が高い。ウクライナ危機が世界経済のゲームチェンジャーであることは冷静に考える必要がある。
新しい需要を生み出しづらい産業構造
ロシア経済にはいくつかの特徴がある。まず、ロシアは世界有数の資源国だ。ロシアは地中から掘り出される天然ガスなどのエネルギー資源や、農地で収穫される小麦などの穀物を輸出して米ドルなどの外貨を獲得した。手に入れた外貨を用いてロシアは経済運営に必要な機械や資材を輸入した。2020年の輸出の51.3%が鉱物製品、8.8%が食料・農産品(繊維除く)だ。輸入の47.6%は機械や輸送機器、18.3%が化学製品だった。
次に、製造業とサービス業の育成が十分ではないと考えられる。理論的に、経済の発展は第1次産業(農林水産業)、第2次産業(建築や製造業)、第3次産業(サービス業)の順に進む。特に、製造業の成長は、新しいモノの創造を通して人々の新しい生き方を可能にする。それがサービス業の育成に欠かせない。輸出入のデータを見る限り、ロシアは自律的かつ持続的に新しい需要を生み出し、人々の満足感を高めるための産業構造を整備することが難しいようだ。
「天然ガスを止める」と欧州を脅すが…
3月、ロシアのサービス業購買担当者景況感指数(PMI)が52.1から38.1に大きく低下したのはその裏返しに見える。欧米企業の撤退によってロシア資本が運営するサービス業の供給能力の低さがあらわになったといっても良い。製造業(工業力)の弱さは、エネルギー輸出にも関わる。ロシアは主にはノルドストリーム1などパイプラインを通してドイツなどに天然ガスを輸出する。それは液化技術の不十分さを示唆する。
ロシアは天然ガスの供給を止めると西側諸国に警告を発しているが、外貨獲得を考えるとその実行は容易ではないだろう。それは、プーチン大統領の姿勢から確認できる。3月下旬にプーチン大統領は天然ガスの購入代金をルーブルで支払うよう非友好国に圧力をかけた。
その目的はルーブルの売り圧力を少しでも弱めることや欧州などへの脅し、天然ガス価格押し上げによる利得増加などだろう。その後、プーチン大統領と会談したイタリアのドラギ首相はロシアがルーブルでのガス代金支払い要求を後退させたとの見方を示した。
米ドル建て国債の半分以上をルーブルで買い戻し
プーチン政権にとってエネルギー資源などの輸出による外貨獲得は、社会と経済運営のために手放せないと考えられる。その状況下、中銀が海外で保有していた資産が差し押さえられたインパクトは非常に大きい。金融制裁によってロシアの米ドル資金は枯渇し、デフォルト懸念が高まった。
ロシア経済は追い詰められている。3月31日にロシア財務省が4月4日に償還期限(満期)を迎える20億ドル(約2470億円)の米ドル建て国債のうち、14億4760万ドル分をルーブルで買い戻したのは、外貨の枯渇がかなり深刻だからだろう。なお、買い戻しに応じたのはロシア国内の投資家が主だったとみられる。
4月に入ると、ロシア軍が民間人を多数殺害した疑いが浮上し、欧米各国はロシアへの制裁を強化した。4日に米財務省は、米金融機関によるドル建てロシア国債の元利金支払い手続きを承認しなかった。そのため、6日にもロシアはドル建て国債の元利金をルーブルで支払った。ロシアは約束通りに債務の返済を行っていない。
追い詰められたプーチンがとる手段は
ロシアはデフォルトに陥ったと主要投資家らに認定され、ヒト、モノ、カネの海外流出は加速するだろう。GDP成長率の低下は避けられない。ロシア国民の不満は高まり、2024年に大統領選挙を控えるプーチン大統領は追い詰められるだろう。なお、2020年の名目GDPでロシアは世界11位(GDP規模は約1.5兆ドル(185兆円))だ。デフォルトが世界の金融市場を混乱させる可能性は低い。
それよりも懸念されるのが、ロシアがさらに強硬な手段に打って出る展開だ。経済面にフォーカスすると、4月6日時点でノルドストリーム1によってロシアは西側諸国と脆いながらも経済的な関係を保っている。天然ガスの4割をロシアからの輸入に頼ってきたEUは、今すぐロシア産の天然ガスや原油の供給が断たれることは避けなければならない。
ロシアにとってもノルドストリーム1は米ドルなどを確保するために必要だ。しかし、追い詰められたプーチン大統領が報復のために天然ガスの輸出を減らすなどすれば、欧州をはじめ世界経済には大きな負の影響がおよぶ。
“ロシア依存”のドイツが方針転換する意味
キーウ近郊などで多数の民間人の殺害疑惑が浮上した後、西側諸国は、真剣にロシアへのエネルギー依存を断たなければならないと危機感を強めはじめた。特に、ドイツの対ロ姿勢は一段と硬化しはじめたように見える。ランブレヒト独国防相はEUがロシア産ガスの輸入禁止を議論すべきと指摘した。
それはドイツのエネルギーや安全保障政策の転換といえる。その考えに傾斜するEU加盟国は増えるだろう。ロシアとウクライナの停戦交渉の内容、今なお激しい戦闘が続いていることなどを念頭におくと、ウクライナ危機が短期間で落ち着く展開は考えづらい。
ウクライナ情勢は深刻化し、欧州各国をはじめ西側諸国はロシアへの制裁を強めるために石炭、原油、天然ガスの禁輸など踏み込んだ措置を検討、導入しなければならなくなるだろう。6日に米国が発表した追加制裁に加えて、ガスプロムバンクなどが行うエネルギー関連の取引が金融制裁の対象に含まれる展開は排除できない。
円安圧力はこれからも強まる
その一方で、EUはロシアからの供給減に対応するために、米国、アジア、中東、北アフリカなどからのエネルギー資源などの調達をさらに急がなければならなくなる。ロシアも小麦の輸出を制限するなど、対抗手段をとるだろう。
“西側諸国vsロシア”という対立構造は鮮明化し、世界経済のブロック化が加速する。エネルギー資源や穀物などの供給は追加的に制約され、世界全体で経済成長率は低下する。モノの価格上昇によって、各国のインフレ圧力もさらに強まる。米国に加えて、ユーロ圏などでもかなり急速に金融政策が正常化される可能性が高まっている。
その状況下、わが国では経済の実力の低下によって金融政策を正常化することが難しい。内外の金利差は拡大し、円安圧力が追加的に強まる。それは、輸入物価を押し上げ、国内の物価上昇圧力を高めるだろう。ロシアへの制裁強化によって、外需に依存してきたわが国をはじめとする世界経済にはかなりの悪影響がもたらされると懸念される。
●首相が「撤退しない」とした「サハリン1・2」続行を国際世論は許すか 4/11
ロシアの仕掛けたウクライナ戦争でにわかに注目されているのがサハリン(樺太)北東部沿岸で進行中の原油・天然ガス開発計画「サハリンプロジェクト」。主に日ロと石油メジャー(国際石油資本)によって進められてきましたが戦争を契機に米エクソンモービル(エクソン)とイギリス&オランダの「ロイヤル・ダッチ・シェル」(シェル)が撤退を発表したのです。
岸田文雄首相は「(日本は)撤退しない」との方針を表明したものの今や世界の敵と化しているロシアと共同開発を続行して国際世論が納得するでしょうか。
石油ガスともにロシア依存度は高くない
石油は9割が中東に依存。ロシアは5%ほどです。天然ガスはオーストラリア(約4割)、中東と東南アジア(各々約4分の1)、アメリカ5%と石油より分散化していてロシアからの輸入は約8%。依存度はやはり高くありません。
サハリンプロジェクトは旧ソ連時代から提案を受けて石油主体の「サハリン1」と天然ガス中心の「サハリン2」がそれぞれ稼働しています。依存度こそ低いとはいえ、ロシアの存在感は石油が非中東で最大。天然ガスは発電の燃料として最大で他の輸入国より地理的に近いのが魅力的です。
もっとも、いずれの開発もロシアの都合に振り回されてきました。サハリン1は当初、政府や伊藤忠商事、丸紅などの日の丸連合が出資の3割、ロシア4割であったのを前世紀末の大不況で国営石油企業ロスネフチが悲鳴をあげて縮小。代わりに計画を主導するようになったエクソンが権益の3割(日本と同じ)を得、残り2割ずつをロスネフチなどとインド国営石油が保有する形に変わりました。
煮え湯を飲まされた「サハリン2」の過去
「サハリン2」はシェルが55%、日本45%(三井物産25%、三菱商事20%)を出資して進めていたのを2年後の稼働を目の前にした06年、ロシア政府が「環境汚染の恐れ」を理由に工事承認を取り消したのです。
この頃、ソ連崩壊以降低迷を続けていた経済が折からの資源高でロシアに追い風を吹かせていました。ロシア勢を含まない仕組みだと権益が十分ではないとの国内不満をプーチン政権が吸い上げて政府と表裏一体の国営ガス企業ガスプロムを一枚かませたいとの思惑を環境を口実に果たそうとしたようです。
日本は島国なので気体のままパイプラインで天然ガスを供給できず、氷点下162まで冷却した液体として運び込みます。この液化天然ガス(LNG)技術を当時のガスプロムは持っていなかったのも欲しがった理由でしょう。
結局「泣く子と地頭には勝てぬ」ことわざ通り、出資比率を変更してガスブロム50%+1株(過半数)、シェル27.5%−1株、三井物産12.5%、三菱商事10%で折り合いました。
悩ましいEUと中国の動向
今回のウクライナ危機でメジャーが撤退を表明したのは当然と受け止められています。経済制裁の中心となっているアメリカのエクソンはもとより、ロシアの横車で嫌な思いをしたシェルもうま味はないと天秤にかけた損切りと思われます。
対して岸田首相は徹底しない理由として「自国で権益を有している」「長期かつ安価な安定供給に貢献している」「エネルギー安全保障上、重要」を挙げています。
特に契約上「安定供給」が保証されているのは大きい。サハリン一帯は未着手の鉱区を含めると中国との間でイザコザしている東シナ海ガス田の埋蔵量を遙かに超える(100倍とも)可能性が残るのも容易に手放したくない理由です。
仮に日本勢が退いたら待ってましたとばかりに中国が権益を埋めてしまう恐れもあります。四苦八苦してここまでこぎ着けておいて果実を中国に渡すのはしゃくですよね。
国際社会が今のところ日本の判断に強い不満を表明しないのはEU(欧州連合)がロシアからの天然ガスに大きく依存していて禁輸などの措置に踏み切っていないから。言い換えるとEUが既に発表しているように依存度を急速に引き下げていけば日本も「撤退せず」というわけにはいかなくなりそうです。
付き合っていた方が安全保障になるのか
では仮に日本も禁輸に追随するしかなくなったらどうなるか。冒頭に掲げた通り、石油・ガスともに全体に占めるロシアの割合は高くありません。加えてアメリカが「困るならば我々から買え」といってくるでしょう。
アメリカは技術革新によってシェール層(頁岩)から石油・天然ガスを大量に掘削・生産する能力を得ていて世界最大の資源国となっています。価格がネックでしたが下がりつつあるのと、ウクライナ危機などで資源高となっているのが幸か不幸か相対的にシェールの値段に割安感を与えているのもプラス要因です。
もっとも、ロシアと縁切りしたら、それはそれで「エネルギー安全保障」というより文字通りの安全保障を脅かす危険も。「サハリン2」の総販売量の6割が日本向け。ロシアにとって上客で、それを失うような下手なまねはしまいとの推測もできるからです。まあプーチン大統領に通じる理屈かどうかは別として。
プーチンの「三河以来の家臣」が率いるロスネフチとガスプロム
サハリンプロジェクトに大きくかかわるロスネフチとガスプロムのありようも今後の課題となってきそうです。
ロスネフチのセーチンCEOとガスプロムのズプコフ会長およびミレルCEOの3人は、ソ連崩壊直後、まだ一介のサンクトペテルブルグ副市長(後に第一副市長)にすぎなかったプーチン氏と市役所でともに働いた古い友人です。セーチンCEOは後にプーチン政権下で副首相を、ズプコフ会長は首相まで務めた盟友ないしは側近といえます。
ロシアは一見、強い指導者にイエスマンだらけの部下が平伏している印象がありますが裏では陰謀が渦巻き暗闘、裏切り、粛清など何でもありの権力闘争の権化。プーチン大統領が彼らを重用するのは自身がまだ海のものとも山のものとも知れない頃から肝胆相照らす仲であったのが大きな理由です。徳川家康になぞらえれば「三河以来の家臣」といったところ。
うちズプコフ会長は高齢で大統領からすれば寝首をかかれるような心配はありません。セーチンCEOは表だっての経歴からは判然としないとはいえプーチン氏と同じ「軍・諜報・警察」畑の実力者とみられます。ミレルCEOは同じ系譜だとも経済人であるとも。両者はウクライナ戦争にともなうアメリカの経済制裁の対象者。そうした人物をトップにいただいている組織と一緒に油田やガス田を開発していていいのかという批判がいつ襲ってくるか。岸田外交の力が試されそうです。
●「非ナチ化」計画の驚愕の中身…!ロシア国営メディア記事から「本当の狙い」 4/11
2月24日にはじまったロシアによるウクライナ侵攻。戦闘は長期化し、民間人の犠牲者も増え続けている。そんな中、首都キーウ近郊の町ブチャで起こった虐殺が注目されている。
ブリンケン米国務長官は4月5日、「ブチャで起きたことは、ならず者部隊による行き当たりばったりの行為ではない」「殺害、拷問、レイプなどの残虐な行為は意図的な作戦だ」と発言した。 これは、本当にプーチンの指示なのか? あるいはブチャにいた部隊が、たまたま残虐だっただけなのか? 真相は不明だが、ロシアの国営メディアには、ウクライナの民間人弾圧を肯定する驚愕の記事が掲載されているーー。
ロシアはウクライナに何をすべきか
私が注目したのは、ロシアの国営メディア「RIAノーボスチ」4月3日に掲載された次の記事だ。
「Что Россия должна сделать с Украиной」(ロシアはウクライナに何をすべきか)
著者は、ティモフェイ・セルゲイツェフ。「Cyclowiki.org」によると、セルゲイツェフは1963年、ウクライナ生まれ。政治戦略家で、「методологического движения」(方法論的運動)の指導者だという。
この運動は、「ロシア語を話し」「ロシア製品を買い」「ロシア人であれ」などと主張している。要するに、「民族主義運動」だ。
では、セルゲイツェフは、ロシアはウクライナに何をすべきと考えているのだろうか? 彼は、ウクライナの「非ナチ化」の必要性を強調する。
ウクライナおよびゼレンスキー政権は、「ネオナチ」だという説が、ロシアでは広く信じられている。ナチスといえば、「ユダヤ人絶滅」を画策したことで知られている。ゼレンスキーは、ナチスに滅ぼされる側の「ユダヤ系」なのだが……。
セルゲイツェフは、現在のウクライナは、「ロシアの敵」であり、ロシアを破壊するための「西側の道具だ」と主張。そして彼は、「どんな時、非ナチ化が必要なるのか」を説明している。
それは、「国民の大部分が、ナチス政権に取り込まれた時」だ。
彼の言いたいことが理解しやすいように、補足しておこう。
1932年、ヒトラーのナチ党は、議会選挙で37.8%を獲得し、第1党になった。1933年、ヒンデンブルグ大統領の下、ヒトラーは首相に就任。1934年8月2日、大統領が亡くなった。当時首相だったヒトラーは、以後「首相兼大統領」(総統)となる。そして、同年8月19日、ヒトラーが首相と大統領を兼任することに関する国民投票が実施された。結果は、89.9%が支持。
おそらくこれが、セルゲイツェフのいう「国民の大部分が、ナチス政権に取り込まれた」状態なのだろう。
彼は、「国民は良い、政権は悪い、という仮説が働かない状態」と表現している。そして、今のウクライナは、「まさにそのような状況にある」と主張する。
つまり、セルゲイツェフに言わせれば、今のウクライナ国民の大部分は、「ナチス政権に取り込まれた状態」なのだ。
一方、国際社会は、ゼレンスキーではなく、むしろプーチンを、ナチスの本家ヒトラーに近いとみている。
実際、プーチンの顔にヒトラー風の髪の毛とヒゲを描き、「ストップ、プトラー(ヒトラー+プーチンの造語)!」と叫びながらデモ行進する人々が世界中にいる。
「勝者のみが、非ナチ化を実現できる」
セルゲイツェフの主張に戻ろう。
どうやって、ウクライナの「非ナチ化」を進めていくのか。もちろん、ウクライナ軍と民間人は、分けて考えるべきだろう。
彼は次のように言う。
「武器を持つナチス(=軍人)は、戦場で最大限殺されるべきだ」
問題は、民間人に対する彼の態度だ。セルゲイツェフは民間人について、こう書いている。
「国民の大部分も、受動的なナチス、ナチスの共犯者であり、有罪である」
驚くべき見解だ。
では、「ナチスの共犯者」である国民の大部分を、どうすべきなのか? 彼は、国民の「非ナチ化」を実現するために「再教育」する必要があると主張する。「再教育」は、「イデオロギー的弾圧」と「厳格な検閲」によって達成される。イデオロギー的弾圧と検閲は、政治分野だけでなく、教育や文化にも適用されなければならない、と。
しかし、ロシアがウクライナの「非ナチ化」を実現するためには、戦争に勝利する必要があるだろう。
セルゲイツェフは言う。
「勝者のみが、非ナチ化を実現できる」
さらに、驚くべき主張がつづく。
「非ナチ化される国(ウクライナ)は、主権を持つことができない」
では、「非ナチ化プロセス」、つまり、ウクライナが主権を持てない期間は、どのくらいつづくのか? 彼は、「一世代以下は、ありえない」と断言する。セルゲイツェフによると、ウクライナのナチ化は1989年から30年以上かけて進んできた。だから、「非ナチ化」も、そのくらいの期間はかかると考えているのだ。
つまり、ロシアは、ウクライナの「非ナチ化」のために、向こう30年間主権を奪わなければならないと。
セルゲイツェフの「個人的」意見なのか
いかがだろうか? おそらく、かなり驚かれたことと思う。私自身、これを読んだときは、かなりの衝撃を受けた。
ここまでのセルゲイツェフの主張をまとめておく。
・ロシアは、ウクライナを「非ナチ化」しなければならない。
・ウクライナ国民の大部分も、受動的なナチス、ナチスの共犯者であり、有罪である。
・ロシアは、「イデオロギー的弾圧」と「厳格な検閲」による「再教育」で、ウクライナの「非ナチ化」を実現しなければならない。
・ロシアは、ウクライナの「非ナチ化」プロセスを、最低1世代(30年)つづけなければならない。
・「非ナチ化」プロセスがつづいている間、ウクライナに主権を与えてはならない。
「信じられない」「フェイクニュースではないか」という方は、グーグル翻訳を使って原文を読んでみてほしい。かなりおかしな日本語になるが、大意は理解できるだろう。
強調しておくが、ロシア国民の大部分が彼の考えを共有しているわけではない。問題は、「これは、セルゲイツェフ一人の意見なのか、それともロシアの支配層の一般的な意見なのか?」ということだ。
もちろん、真相を正確に知ることは不可能だ。しかし、国営RIAノーボスチが、セルゲイツェフの(私たちから見ると)超過激な記事を掲載している事実は重要だ。
なぜか? 
現在のロシアには、言論の自由は存在しない。ロシアのメディアは完全にクレムリンの支配下にあり、「事実を伝える機関」というよりは、「プロパガンダマシーン」として機能している。セルゲイツェフの記事が、クレムリンの方針と違うのものなら、そもそも掲載されることはあり得ない。
つまり、クレムリンの意向と合致しているからこそ、この記事は掲載されたのだろう。
ということは、プーチンは本当に、この戦争に勝利して、ウクライナから最低30年間主権を奪い、イデオロギー的弾圧と検閲によって、「非ナチ化」を進める計画なのか? 実現可能性はともかく、意図している可能性はある。
「残虐行為は意図的な作戦」だったのか
私がそれ以上に気になったのは、「大部分のウクライナ国民もナチスの共犯だ」という点だ。
「ナチス」と聞いて、日本人はどんな感情を抱くだろうか? ナチスドイツは第2次大戦中、2000万人のソ連人を殺したといわれる。だから、日本人が「ナチス」と聞いたときに抱く感情と、ロシア人が抱く感情には、大きな差がある。ロシア人にとって、「ナチス」は絶対悪であり、憎悪の対象なのだ。
そして、ウクライナの大部分の国民は、「ナチスの共犯者だ」とセルゲイツェフは言う。その主張を国営RIAノーボスチが、堂々と掲載している。
セルゲイツェフの記事は当然、クレムリンの意向に沿ったものだろう。であるならば、ウクライナ国民は「ナチスの共犯者」と考えられていて、ロシアの支配者にとって「憎悪の対象」なのではないか? あるいは、クレムリンは、ロシア国民がウクライナ国民を「ナチスの共犯者」と考え、憎むように仕向けているのかもしれない。
米国のブリンケン国務長官は、「ブチャで起きたことは、ならず者部隊による行き当たりばったりの行為ではない」「殺害、拷問、レイプなどの残虐な行為は意図的な作戦だ」と言う。
もしもロシアの支配者たちが、セルゲイツェフ同様、「ウクライナ国民の大部分はナチスの共犯者」と考えているのなら、「残虐行為は意図的な作戦」というのも、ありえない話ではなくなってくる。もちろん、現段階で断言することはできないが。
今知っておくべきは、「ウクライナ国民はナチスの共犯者」「ロシアは戦争に勝利し、ウクライナの主権を奪い、弾圧によって『非ナチ化』を成し遂げる必要がある」という主張が、ロシアの国営メディアで発信されているという事実だ。
このことを知っておくだけでも、異常に思えるプーチンとロシア軍の行動が、理解しやすくなるのではないか。
●なぜ今、トランプがプーチンに「バイデン叩き」の協力を要請? 困惑の米国政界 4/11
なんで今ここでプーチンに?
共和党関係者の間に、激震が走った。トランプ前大統領がプーチン露大統領に、バイデン米大統領の息子、ハンター・バイデン氏とロシア政府関係者からの資金提供問題をめぐり、追及のための協力を要請したためだ。
「350万ドルは大金だ。元モスクワ市長の妻がなぜバイデン親子に支払ったのか、プーチン氏は説明すべきだ」――3月29日に公開された保守系リアル・アメリカ・ボイス・ネットワークの番組“ジャスト・ザ・ニュース”にて、トランプ氏はこう吠えた。
2020年の米大統領選の際、トランプ氏はハンター氏が元モスクワ市長の故ユーリ・ルシコフ氏の妻、エレーナ・バトゥーリナ氏から資金提供を受け取ったとして口撃。ハンター氏の弁護士は選挙戦中、トランプ氏の批判を正面から否定したにも関わらず、掘り返した格好だ。
中間選挙を控え、共和党議員の一部はトランプ発言の火消しにまわる。2012年の米大統領選の共和党候補であり、トランプ氏とは不仲で知られるロムニー上院議員(ユタ州)は、プーチン氏を「地球上で最悪な人物の1人」と非難した上で、「頼み事をする相手ではない」と一蹴した。
同じく、反トランプ派の1人であるメリーランド州のホーガン知事に至っては「ウクライナで(ロシア軍による)残虐行為が続くなかで、最悪な要請だ」とし、「容認できない」と真っ向から切り捨てた。ホーガン氏といえば、リベラル寄りな州の知事なだけに中道派の共和党員で、3月には親トランプ派による弾劾訴追を回避したことで知られる。
一方で、共和党議員の大半は沈黙を保つ。トランプ氏と近しいグラム上院議員(ノースカロライナ州)は、「プーチン氏に依頼すべきではない」、コーニン上院議員(テキサス州)も「プーチン氏を信用しない」と言及する程度で、トランプ氏を直接槍玉に挙げなかった。2024年の米大統領選出馬が取り沙汰される保守系のクルーズ上院議員(テキサス州)に至っては、その他の同党議員の多くに倣いインタビューを見ていないと回答するにとどめた。
ゼレンスキーに最初に圧力をかけた人
共和党にしてみれば、トランプ氏がウクライナ侵攻開始後の2月末にプーチン氏「英雄」と称賛した事実もあり、中間選挙を控え君子危うきに近寄らずの姿勢が吉と判断されているようだ。トランプ氏に同調すれば無党派層にそっぽを向かれ、反発すれば岩盤の親トランプ派からの攻撃に直面しかねず、沈黙は金なのだろう。
しかも、トランプ氏は在任中に2回の弾劾裁判を受けた史上初の大統領で、そのうちの1回はウクライナ大統領への職権乱用とあって、ウクライナ危機の最中、古傷を蒸し返す余裕はない。
当時を振り返ると、ゼレンスキー氏が2019年5月に大統領に就任して早々、猛烈な圧力を掛けたのはプーチン氏ではなく、トランプ大統領(当時)その人だった。
トランプ氏の顧問弁護士のジュリアーニ氏はゼレンスキー氏に早々に電話で接触、ハンター氏と天然ガス会社ブリスマとの関係につき調査を開始するよう要請した。19年7月25日の米・ウクライナ首脳電話会談では、トランプ氏が再度詰め寄ったものの、ゼレンスキー氏が明確に応じなかったため、4億ドルのウクライナ支援が保留の憂き目に遭った。
それから約3週間後の同年8月12日、内部告発者が情報機関の監察官にトランプ氏による強要を訴え出た。同9月24日にはペロシ下院議長がトランプ氏の行為をめぐり弾劾調査を開始すると宣言し、同年9月25日にトランプ氏とゼレンスキー氏が首脳会談を行う直前、ホワイトハウスが同年7月25日の両者の電話会談記録を公表。目まぐるしい展開を経て、20年1月に開始した弾劾裁判は同年2月に無罪で幕引きを迎えたのは、既報の通りである。
トランプ陣営は、他にも爆弾を抱える。NY州最高裁判所は2月、トランプ氏と息子のトランプ・ジュニア氏、イヴァンカ氏の3人に、トランプ一族が経営する複合企業トランプ・オーガナイゼーションをめぐり、民事調査で証言するよう命じた。融資調達や税の優遇措置を受けるため、保有資産の価値をその都度不当に増減して申告したとの“詐欺疑惑”を受けたもの。
米国立公文書記録管理局(NARA)も2月、トランプ氏がフロリダの自宅に政府機密を保管していたと報告した。米メディアによれば、回収した公文書は15箱に及んだほか、トランプ氏が公文書を無断で破棄するなど記録法違反の可能性があるという。さらに下院特別委員会は3月、21年1月6日に起こった米議事堂襲撃事件の最中、ホワイトハウスの通話記録に7時間37分の空白を発見。他者との連絡を隠匿した疑いが浮上している。
バイデン大統領の泣き所
ただし、バイデン氏の支持率がロイター/イプソスやNBCの世論調査で3月後半にそれぞれ40%と政権発足以来で過去最低を更新するなか、民主党陣営は敵失を待っていられる状況ではない。むしろ、バイデン氏の泣き所が今まさに突かれようとしている。
2020年米大統領選まで1ヵ月を切った同年10月14日、保守系タブロイド紙NYポストは独占スクープとして、バイデン氏の次男ハンター氏の疑惑のラップトップPCについて報じた。
ハンター氏が修理屋に持ち込みつつ引き取りに現れなかったため、規定に基づき90日後に店主がデータを開くと、2009〜19年に取り交わされた217ギガバイトもの夥しいデータを発見する。そこには、ウクライナの天然ガス会社ブリスマからの月5万ドルの報酬や、エネルギー複合大手の中国華信能源から受け取った500万ドル、加えて父バイデン氏の関与を示す記述が明記されていた。
しかし当時、ツイッターを始めソーシャルメディア大手は、店主からトランプ氏の側近だったジュリアーニ氏を介してNYポスト紙に情報が渡った事情もあり、同記事を含めこの疑惑に言及する投稿のブロックを決定。主流メディアも“誤報”あるいは “ロシアが関与した偽情報”として扱い、米大統領選にそれほど影響を与えなかった。
潮目が変わったのは3月16日で、ニューヨーク・タイムズ紙がハンター氏のラップトップPCの存在を認め、これを皮切りにワシントン・ポスト紙の他、主流メディアが続いた。各メディアが方向転換した理由に、ハンター氏に対する連邦検察当局の捜査が前進したことが挙げられよう。
米メディアによれば、海外企業からの報酬に関する税務処理のほか資金洗浄、外国企業によるロビー活動で法令違反の可能性を見据えた捜査が進み、デラウェア州連邦検事局は大陪審での証言を視野に入れているという。
ハンター氏側は違法行為を否定するが、ウクライナ危機下でも、有事での“旗の下の結束(rally ‘round the flag)”が一時的で、バイデン氏の支持率が低迷する理由は、インフレ高進に加えハンター氏への疑惑再燃が影を落としたと考えられる。
国民の関心は低くない
問題は、米国民がハンター氏のラップトップ疑惑をどう捉えているかだ。保守系調査会社ラスムセンが3月20、21日に実施した世論調査では、66%が「重要」と回答、「重要ではない」との回答の31%を上回った。党派別での「非常に重要」との回答は共和党が75%、民主党が26%に対し、無党派層は46%。中間選挙で明暗を分ける無党派層は半数近くに及んだ。
また、ユーガブ・アメリカが3月18〜20日に実施した世論調査で、米メディアのハンター氏のラップトップ疑惑の取り扱いが「不十分」との回答は36%に過ぎない。しかし、こちらも党派別で回答が分かれたためで、共和党が65%、無党派層は44%に対し、民主党はわずか8%だった。
ハンター氏の疑惑をめぐり、共和党支持者だけでなく無党派層の間でも関心が低くないだけに、共和党陣営は慎重に同問題を取り扱いつつある。手始めに、上院議員から下院議員、共和党全国委員会委員長など、ニューヨーク・ポスト紙のスクープ関連投稿を凍結したSNS企業への調査の開始を呼び掛け始めた。うまく世論を味方につけ、中間選挙で勝利し上下院で過半数を獲得すれば、ハンター氏の疑惑を本格的に調査し、弾劾裁判に発展させうる。
複数の共和党議員は、既にバイデン氏の弾劾調査の可能性について言及している。下院監視・政府改革委員のコーマー下院議員(ケンタッキー州)は、ハンター氏の問題に加えワクチン接種義務化をめぐる政権対応、供給制約を対象にすると公言する。ギブス下院議員(オハイオ州)は、アフガニスタン撤退を問題視する。クルーズ上院議員(テキサス州)は、トランプ氏への2回に及ぶ弾劾裁判について「民主党が一線を越えた」としており、共和党が下院で多数派に躍り出れば「(バイデン氏)弾劾の圧力に直面する」と見込む。
ウクライナ支援で団結したように見えた与野党だが、両者の間に入った亀裂の深さを物語る。
共和党は「興行師」トランプを押さえ込めるか
ただし、共和党にも懸念材料がある。バイデン氏の支持率は一部の調査で再び過去最低を更新しているとはいえ、好感度ではトランプ氏を上回っている。
NBCが3月18〜22日に実施した世論調査では、バイデン氏を「好ましい」とする回答が37%に対しトランプ氏は36%と僅差だったが、「好ましくない」との回答はトランプ氏が50%とバイデン氏の46%を上回った。さらに、トランプ氏が支持表明した議員に投票しないとの回答は47%だったが、バイデン氏の場合は42%だった。
振り返れば、21年11月に民主党寄りのバージニア州で行われた知事選で共和党候補が辛勝したのは、トランプ氏の支持を受けながら選挙活動でトランプ氏と距離を置く“ステルス・トランプ作戦”が奏功したためだ。
共和党の課題は、中間選挙で英エコノミスト誌が“興行師”と呼んだトランプ氏を舞台袖に抑えられるかに掛かっている。 
●「驚くほど偽善的」欧米のウクライナ対応、中東からは怒りの声 4/11
欧米諸国はロシアのウクライナ侵攻から数日以内に国際法を行使し、ロシアに厳しい制裁を課した一方でウクライナの難民を手厚く受け入れ、その武装抵抗に喝采の声をあげた。
ところが、こうした対応は中東の人々の怒りを買っている。国際紛争に対する欧米諸国の反応が明らかなダブルスタンダード(二重基準)だというのだ。
パレスチナ暫定自治政府のマリキ外相は3月初旬、トルコで開かれた安全保障フォーラムの場で「70年以上も実現不可能と言われていたあらゆることが、1週間足らずで日の目を見た」とした上で「欧米の動きは驚くほど偽善的だ」と述べている。
2003年3月に勃発したアメリカ主導によるイラク戦争については、特定の国が他国に違法に侵略したという見方があった。だが、アメリカに立ち向かったイラク人はテロリストの烙印を押され、西側に逃れた難民は安全保障上の脅威になり得るという理由で追い返されることもあった。
バイデン政権は先月23日、ロシア軍がウクライナで戦争犯罪を犯したと宣言し、侵略者を裁判にかけるために他国と協力していくと発表した。だが、アメリカは国際刑事裁判所に加盟しておらず、自国や同盟国であるイスラエルを対象とする国際的な調査には断固反対の立場を取っている。
2015年にロシアがアサド大統領側に立ってシリアの内戦に介入し、政府軍による都市への攻撃で住民を飢餓に陥れる動きを支援したとき、世界で怒りの声があがったものの具体的な行動はみられなかった。ヨーロッパに逃れようとしたシリア難民は命がけの航海で命を落としたり、西側文化への脅威というレッテルを貼られて追い返されたりした。
イエメンでは、サウジアラビアが主導する連合軍とイランが支援するフーシ派の反政府勢力との数年にわたる過酷な戦争により、1300万の人々が飢餓の危機にさらされた。ところが、幼児が餓死するという痛ましい報告がなされても世界の関心は持続しなかった。
かつてCIAと国家安全保障会議での勤務経験があり、現在はブルッキングス研究所のシニアフェローを務めるブルース・リーデル氏は、中東の人々が欧米をダブルスタンダードと見ていることを「もっともなこと」とした上で「アメリカとイギリスは、イエメンでの7年にわたるサウジの戦争を支援し、ここ数十年で世界最悪の人道的大惨事をもたらした」と述べている。
パレスチナ人が将来の国家建設を求める土地をイスラエルが占領して60年が経過した現在、数百万人ものパレスチナ人が軍事支配下に置かれた先行き不透明な生活を送っている。パレスチナ人が中心となるボイコット運動を制限することを目的とした法律をアメリカ、イスラエル、ドイツは制定しているのに、マクドナルド、エクソンモービル、アップルなどの大企業がロシアでの事業を停止すると賞賛を浴びている。
ウクライナの人々が火炎瓶を貯め込み、武器を取ってロシア軍と戦う姿に対し、世界中のSNSで賞賛の声があがっている。ところがパレスチナ人やイラク人がこれと同じことをするとテロリストとみなされ、正当な標的となってしまう。
2003〜11年にイラク反乱軍の一員としてアメリカ軍と戦ったシェイク・ジャバー・アル・ルバイ氏(51)は「当時同盟軍だったウクライナを含め世界中がアメリカの味方をしていたときも、我々は占領者に抵抗した。世界はアメリカ側に立っていたので、我々は賞賛を浴びることもなければ愛国的なレジスタンスとも呼ばれなかった」と話す。代わりに、反乱軍が持つ宗教的な側面が強調されたことについて「これはもちろん、私たちが劣った存在であるかのような印象を与えるダブルスタンダードだ」と言う。
バグダッドで配送員をしているアブドゥラミーア・カリード氏(41)は、イラクとウクライナの抵抗運動には「違いがない」とみている。同氏は「強いて言うなら、アメリカが何千キロも移動してこの国に来たことを考えれば、イラクにおけるアメリカへの抵抗は正当化できよう。一方、ロシアの場合は、近隣地域で起きたとされる脅威に対処しようとするものだ」と話す。
確かに、国連加盟国がほかの加盟国を侵略したウクライナ戦争と、内戦やイスラム過激派が関係することの多い中東の紛争とは大きく異なる点がある。
カーネギー国際平和基金のシニアフェローで、共和・民主両党の政権で中東顧問を務めたこともあるアーロン・デビッド・ミラー氏は「一般的に、中東紛争は極めて複雑だ。決して中世ヨーロッパで演じられていた寓話的な演劇のように、単純な話ではない」と語る。
同氏によると、ロシアが隣国に攻撃的かつ破壊的な戦争を仕掛けたと広く見られているウクライナ紛争は、道徳的な判断が容易にできるという点で極めてユニークであるという。中東で近い例を挙げると、1990年のイラクによるクウェート侵攻がある。当時アメリカがアラブ諸国を含む軍事同盟を結成し、イラク軍を追撃した。
それでもミラー氏は、アメリカの外交政策が「異常であり、一貫性がなく、矛盾、さらには偽善に満ちている」ことを認めている。
アメリカがアフガニスタンに侵攻したのは、現地のタリバンにかくまわれていたオサマ・ビンラディンが計画したとされる9.11テロへの対抗措置のためだった。イラクが大量破壊兵器を保有しているという誤った判断でアメリカは戦争を正当化したものの、この侵略によって、国際法を無視し人道に対する罪を犯した残忍な独裁者を打ちのめした。
だが、多くのイラク人やほかのアラブ人からすると、アメリカの侵攻はその後数年にもわたる宗派間の抗争と血みどろの悲劇につながる理不尽な災難であった。
外交問題評議会のシニアフェローで、アメリカのイラク侵攻時にホワイトハウスの顧問を務めていたエリオット・エイブラムス氏は、ロシアの侵略に立ち向かうウクライナ人と、アメリカ人と戦ったイラク反乱軍は同じではないとしている。
イスラム国(IS)集団を引き合いに出しつつ「イランやISのためにアメリカ軍と戦ったイラク人は、自由の闘士ではない。このように道徳的な意味での区別をするのは偽善的ではない」と述べている。
イスラエルとパレスチナの間で起きた紛争の歴史は、イスラエルが東エルサレム、ヨルダン川西岸、ガザ地区を占領した1967年の第三次中東戦争より1世紀以上も前にさかのぼる。世界の多くはこれらの地域をパレスチナ領とみており、イスラエルが進める入植地建設は国際法に違反する行為であるとされた。イスラエルはこの紛争を領土問題と位置づけ、パレスチナ人がユダヤ人国家の生存権を認めないところに問題があると非難している。
エルサレム・ポスト紙は先月1日付の社説に「イスラエルの防衛戦争をロシアの隣国侵攻に例えるのは、文脈を理解できない人がすることだ」と記している。
ロシアのシリア介入は、ISを含む複数の分派が残虐行為に手を染めた複雑な内戦の一部の動きにすぎない。ISがシリアとイラクの大部分を占領したとき、押し寄せてくる難民の波に紛れて過激派がヨーロッパに流入する事態を多くの人が恐れた。
だが、中東の人々は、アラブ人やイスラム教徒の移民が冷遇されるのを目の当たりにしてきた。これは、普遍的な権利や価値を信奉していると主張しているにもかかわらず、依然として文化的な偏見を欧米諸国が抱いていることを示す証拠であるという。
中東はいつも暴力にまみれているという考え方が広く浸透しているため、彼らの苦しみが軽視されていると感じている人は多い。多くの困難な紛争を作り出し、それが永続する責任を西側が負っていることは意識されない。
パレスチナ外交研究所でアドボカシー・ディレクターを務めるイネス・アブデル・ラゼック氏は「植民地主義の産物に、私たちが殺害され、家族を悲しませることがあっても、西側と比べるとごくありふれた光景だという考え方がある」と述べている。
●「ウクライナ侵攻はロシアの恥」ロシア人たちの反戦の声  4/11
「ウクライナ侵攻はロシアの恥」「プーチンは国民と経済を見殺しにしている」「世界に私たちは黙っていないことを示したい」
ロシア国内からSNSを通じてあげられた反戦や政権批判の声です。厳しい言論統制が行われているロシア。そうした状況の中でも、反戦や政権批判の声をSNSで投稿し続けるロシアの人たちがいます。今回、SNSを通じて連絡をとり、彼・彼女たちの反戦へ思い、生活状況、そして政権による弾圧などについて聞かせてもらいました。
ロシアでは厳しい言論統制が行われていて、ロシアの人権団体によりますと、ウクライナ侵攻以降、政権批判などで拘束された人は1万5000人以上にのぼるということです。
こうした厳しい状況の中でも、SNSなどで反戦の声をあげ続けているロシアの人たちがいます。ツイッターを通じて8人の人たちと連絡をとり、以下の5つの質問をしました。今回は、このうち4人の回答を紹介します。
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
(2)2月24日以降、ロシア国内でどのような変化がありましたか?
(3)抗議の声を上げることにどのようなリスクがありますか?
(4)リスクがありながらも声を上げるのはなぜですか?
(5)今の政権をどう考えますか?
(取材に応じてくれた方の中には、名前を公表してもよいという方もいましたが、安全のためすべて匿名としています)
“ウクライナ侵攻はロシア人の恥です”
23歳女性(モスクワ在住、外資系企業のデザイナー)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
考えることはありません。ひどい、考えられない戦争です。傍若無人です。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
物価の高騰 / 社会の分断と国民の中での絶えないもめ事 / 独立系の新聞、テレビ、ラジオ、ウェブサイトが消えた / インターネットの遮断 / VPNをいつも使わないといけない / Zの文字が現れ始めた(公共交通機関やタクシーでみられる) / 戦争反対の旗も(赤のない旗、NOWAR、プーチンは殺人者、ウクライナに栄光あれ、ロシアは自由で平和な国になど) / デモなどを取り締まるものすごい数の警察や特別部隊 / 自由と権利を侵す法律ができたこと。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
私にとっては一番はじめにあるリスクは罰金です。はじめは罰金、その後は刑務所に15年です。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
いま黙っていることは血塗られた独裁者の側につくことです。最大で15年間、刑務所に入ることよりも、黙っていることのほうが私にはずっと怖いことです。私は友達や親戚がウクライナに住んでいます。私の家族は第2次世界大戦でロシア、ウクライナ、ベラルーシの自由のために戦って死にました。このウクライナ侵攻はロシアの恥です、私個人にとっても、世界にとっても。これを支持していないということを見せたいのです。ウクライナとロシア、両方の自由と安全のために戦いたい。私と人々、それに世界の未来のために、軍事主義ではない、独裁者が権力を持たない国に暮らしたい。世界に私たちは黙っていないことを示したい。ロシアはプーチンではない。
(5)今の政権をどう考えますか?
2012年から非合法に今の政党に支配された犯罪の政権です。プーチンはクリミア併合を恥じなかった。彼は唯一の反対派のリーダーのナワリヌイ氏に毒を盛ることをためらわなかった。彼は、この21世紀に、歴史的にも民族的にもつながりのある国に対して戦争を仕掛けたことを恥じていないのです。政権側にいること、プーチン側にいることは、悪魔の側にいるということです。それに対して、声を上げること、通りに出て声を上げること、反撃することが、正しい側につくということなのです。
“戦争犯罪の共犯者になってしまっている気がします”
40歳男性(モスクワ在住、医療関係者)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
ロシアのウクライナへの軍事侵攻について、いろいろな考えがあります。私はこの戦争は世界全体が経済的な犠牲を払うことになる、大きな失敗だと思います。多くの人が死に、さらに多くが負傷するという大きな悲劇です。この戦争が皮肉なのは、世界中が新型コロナウイルスと戦い、人々の命を守り助けようと働き、経済を立て直そうとしているときに、プーチンはこの戦争を始めて、国民と経済を見殺しにしている。ヨーロッパやアメリカの人がウクライナですべてが終わると思っていたら、それは間違いです。ポーランド、ジョージア、モルドバ、それにバルト3国にその脅威はすでにおよんでいます。そして、プーチンは大量破壊兵器を使うくらい狂っていると思います。彼はすでにスクリパル氏やナワリヌイ氏に対して、化学兵器を使っていますから。美しいヨーロッパの国が、美しい文化が、親切な人々が私たちの目の前で破壊されています。すべての街が地球上から消されていく、何千という命が失われていく、その一つ一つは過去と未来の何世代にもわたり、いくつもの家族からなっていて、それを失うことは耐えられない痛みです。この戦火をどのように生き延びることができるのでしょうか。飛行禁止区域を設定することがウクライナの勝利につながると思っています。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
この国では、主に経済と人々のつながりが変化しています。私の仕事はなくなりましたし、物が少なくなりました。電化製品の価格が去年に比べて2倍、3倍になりました。食品の値段も上がり、その種類も少なくなっています。薬がなくなっていますし、ほかの薬は週に何度も値上がりしています。薬は平均で月に30%値上がりしました。それ以外は通常どおりに見えます。人々は仕事に行き、ぜいたくではない日常を過ごしています。多くの人はこの事態をアメリカやNATOやウクライナのせいだと責めています。プロパガンダを信じている人が少なくないのです。私の親戚のほとんどは、プーチンとこの戦争を支持しています。なので、私は彼らと話をしなくなってしまいました。彼らとのつながりはなくなってしまうでしょう。私は街を歩いていて、街を見渡して、この景色がミサイルが落ちてきて破壊されることを想像せずにいられません。これが普通になってしまっている人がいるのです。信じられない状況です。第2次世界大戦でドイツ人がそうだったように、戦争犯罪の共犯者になってしまっている気がします。それがとても怖くて、どうしたらこの悪夢が終わるのか、どうしたら人々が死んでいくのを止められるかを考えています。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
この国には以前から政府の考えに賛成しない人や抗議することに対してリスクがありました。刑罰が重くなっただけです。一番大きなリスクは、逮捕されることでも罰金を科せられることでもなく、拘束された人がなんの助けもなく、人権を侵害され、拷問され、屈辱的な扱いを受けることです。そしてそれは、助けを求めることや正当な防衛ができません。拘束された人を助ける、「OVDインフォ」「Appologia Protesta」などの組織があります。「zona media」というメディアはそのようなことを報道しています。こういった組織は法的なものではありませんが、政権の弾圧のなか活動を続けています。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私は黙っていられないのです。ウクライナで起きている残虐な行為を前に、黙ってみていることはできないのです。今すぐ止めなけれはならない。でも止めるには、世界中が力を合わせて行動することが必要なのです。プーチンは計画を立てていて、止まらないし、やりきるのでしょう。この戦争で彼にとってなにもよいことはなく、それは彼が一番よくわかっているでしょう。
(5)今の政権をどう考えますか?
今のロシアの政権は、独裁的な民主主義による、封建的な奴隷制です。そして悲しいことにこの政権は私たちが作ってしまったのです。でもこの政権には未来はありません。戦争はこの政権を救いません。
“私たちには自由が、ウクライナには平和が必要です”
21歳の女性(モスクワ在住、法学部の学生)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
支持していません。独立した国を攻撃することは許されません。大統領や政府はこの戦争は「特殊作戦」だといいます。ウクライナの非軍事化と非ナチ化のため、そしてロシア語を話す人たちをナチスが迫害していると。私はウクライナ人の友達がいて、ロシア語ではないニュースも見ますが、ウクライナはロシア語を使う人たちを虐げることはしていませんし、極右政党もなく、ネオナチが支持を集めてもいません。友達が送ってくれたミコライウやイルピンの映像を見ました。友達は荒廃した街、殺された市民、レイプ、略奪、恫喝について話してくれました。友達たちは嘘はついていません。それに私は独立系メディアのニュースをチェックしています。そして、私の国は侵略者であり、政府の中の人や兵士たちは戦争犯罪者です。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
価格の高騰です。スマートフォン、テレビ、衣類、食品さえも高くなっています。ルーブルが暴落、アップルペイが使えない、ビザ、マスターカードも使えません。飛行機でほかの国に行くこともできません。ロシア人の中でしかお金を送ることができません。多くの企業がビジネスをやめ、多くの人が仕事を失いました。軍の情報やフェイクニースを犯罪とする新たな法律や検閲ができました。この法律の刑罰は最長15年間の懲役・禁固刑という、おかしな法律です。最高裁判所はこれについて、見解を示していません。将来、法律家になる私としては、人々の行為をどうやって犯罪と認定するのかわかりません。警察の残忍さは増しています。すべての集会は禁止されています。モスクワのスタジアムで行われてた政府を肯定する「クリミアの春」という集会を除いては。ロシアはいまや全体主義の国です。市民は貧しくなっていっています。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
もし当局が私の考えを聞いたり、ツイートを見たりしたら、私は大学を退学させられるかもしれません。警察や調査する機関が犯罪とみなすかもしれません。「お前は軍の信用を失墜させた」とか「過激派だ」と認定するでしょう。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私はプロパガンダに対抗しています。親戚や友達、近所の人たちが目を覚ましてもらえるように働きかけています。人々は真実を知るべきです。この戦争の本当の顔、市民の殺害、戦争犯罪、荒廃した町や学校、産科病院の現状を。政府の嘘を知る必要があります、ロシア兵の死亡数などです。私たちには自由が、ウクライナには平和が必要です。ウクライナの人々の安全を祈っています。それと同時に私はいかなる侵略、暴力を許しません。人の命が最も価値があり、すべての命は守られるべきものです。
(5)今の政権をどう考えますか?
以前から私は好きではありませんでしたが、今は大嫌いです。私たちの国には政治の多様性がなく、人権が侵害され、大統領に反対する人はいません。2015年にはボリス・ネムツォフ氏が殺され、ナワリヌイ氏は刑務所にいて、政治犯罪者にしたてられています。言論の自由はありません。そのほかにも問題がたくさんあります。しかし今、この政権は多くの人を殺しています。強い怒りを持っています。彼らは市民のことは考えていません、兵士のことさえも、自分たち以外の人のことは考えていないのです。この戦争はハーグで裁かれなければなりません。彼らは罰を受けなければならない。
“私たちの政権はファシストの独裁政権です”
52歳男性(サンクトペテルブルク、フリーランス)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
これは戦争犯罪です。加害者は国際的な法廷で裁かれなければなりません。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
1、活動家(多くはナワリヌイ氏の支持者たち)に対する法律が厳しくなり、弾圧も増えている。
2、多くのロシアからの移民。重い禁固刑を言い渡された活動家がロシアを去っています。
重要な職業で、最も高度な知識を持つ専門家がロシアを出て行っている。この悪夢の中で生きることができない普通の人たちも去って行っています。しかし残念ながら、そうしたいと思うすべての人が国を出られるわけではありません。それが大きな悲劇なのです。この国に残る人は、継続的に大きな危険にさらされることになります。ロシア人をこの国から避難させる国際的なチャリティーを作るのがよいのではないでしょうか。
3、すべての価格が上がっていて、特に食品と薬です。店にある商品の種類が劇的に減りました。世界的にメジャーなブランドの店がなくなり、国内から去っています。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
私は、プーチンが言う「特殊作戦」という欺まんに満ちたことばではなく、「戦争」ということばを使ったというだけで、いつでも逮捕され刑務所に長期間にわたって入れられる可能性があります。プーチンの「法律」の中では、私はツイートするだけで15年の懲役・禁固刑を言い渡されるのです。これで、私がどんなところに住んでいるかわかると思います。私たちの政権は、言論の自由、独立したメディア、選挙、独立した裁判所などがない、ファシストの独裁政権です。独裁政権の中ではプロパガンダだけです。どうか信じないでください。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私の国が占領下にあるときに、反対の声を上げないことができますか?私は奴隷ではなく、人間です。私が尊敬し支持する政治家であり市民であるナワリヌイ氏はプーチンが軍の毒薬であるノビチョクを使って毒殺しようとしたあとでさえも、この国に戻ることを怖がりませんでした。リスクを知りながらも。私がどうして声を上げないことができるでしょうか。
(5)今の政権をどう考えますか?
この犯罪者の政権は過去20年、マフィアが牛耳る構造と旧ソビエトのKGBの残党との共生の結果、私のみじめな国で違法に権力を持ち維持してきました。この政権は軍や警察、そして特殊部隊など数百万人とも言われる治安維持部隊と、プロパガンダからなっています。合法な情報源をすべて独占されて。プーチンとプーチンに近い人たちがエネルギー資源を独占し、西側に売って、その金でこの弾圧の構造と宣伝員からなる巨大な軍を維持しています。ウクライナでの戦争もこの金で賄われている。残念ながら、ロシアの予算は国民のために使われるのではなくて、間違った独裁者の非人道的な犯罪の企図のために使われているのです。
●ロシア軍 ウクライナ東部へのミサイル攻撃強める  4/11
ロシア軍は、ウクライナ東部で、ヨーロッパから供与された地対空ミサイルシステムを破壊したと発表するなど、東部を中心にミサイルでの攻撃を強めています。
一方、プーチン大統領は11日、軍事侵攻後、EU=ヨーロッパ連合の首脳では初めてオーストリアの首相をモスクワに招いて会談し、対話を拒まない姿勢も示しています。
ロシア国防省は11日、東部のドニプロペトロウシク近郊を巡航ミサイル「カリブル」で攻撃し、ウクライナ軍の地対空ミサイルシステム「S300」を破壊したと発表しました。
戦闘機やミサイルを撃ち落とす能力を持つ「S300」は、今月8日、スロバキアが、ウクライナに供与したことを明らかにしています。
ロシア国防省は「ヨーロッパから提供された兵器を破壊した」として具体的には明らかにしていませんが、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米を強くけん制するねらいとみられます。
またロシア軍は、東部ドネツク州の各地をミサイルで攻撃したと発表するなど、東部を中心に攻勢を強めていて、イギリス国防省は11日、ロシア軍は、人体に深刻な被害が出る白リン弾を「ドネツク州で使用したことがある」としたうえで、ドネツク州の「マリウポリでも使われる可能性がある」と分析しています。
さらにロシア軍は、精密な誘導ができない爆弾を多用していると指摘したうえで「標的を定めて攻撃を行う能力が低下し、市民が犠牲になるリスクが格段に高まっている」と警鐘を鳴らしています。
ゼレンスキー大統領は10日夜、国民向けに新たな動画を公開し「東部ではロシア軍がさらに大規模な軍事作戦に移行するだろう。さらなるミサイル攻撃や空爆が行われる可能性がある」と警戒感を示しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は11日、軍事侵攻後、EU=ヨーロッパ連合の首脳では初めてオーストリアのネハンマー首相をモスクワに招いて会談しました。
ネハンマー首相は、9日にはウクライナの首都キーウでゼレンスキー大統領と会談していて、「われわれは軍事的に中立だが、ウクライナへの侵略についての立場は明確だ。プーチン大統領は止まらなければならない」とツイッターに投稿し、停戦や避難ルートの設置などを求める考えを示しています。
プーチン大統領は、ウクライナ東部への攻勢を強める一方、欧米側からの非難が高まるなかで対話を拒まない姿勢も示しています。
●ウクライナ情勢の影響で…日ロ漁業交渉開始も難航か…サケマス漁 4/11
例年ですときのう4月10日がサケ漁の解禁日でしたが、ことしはまだ漁に出られる見通しが立っていません。ここにもウクライナ情勢の影響がありました。大ぶりのサケが店先に並ぶ釧路・和商市場。こちらの鮮魚店は50年以上、サケを中心に扱ってきましたが、その品揃えに異変が起きていました。
田村商店店主 「これが残念ながら2年前の定置網で獲れた地元のもの。それから北洋産ロシアで獲れた去年の在庫のものなんですよ。」
鮮度を落とさないまま冷凍したサケも1年を通して販売していますが、近年の不漁で抱える在庫が減っているといいます。私たちの食卓に身近なサケ。値上がりが続くなか、さらに追い打ちをかける出来事が…。
三ツ木靖カメラマン(10日・根室市歯舞漁港) 「例年ならずらりと船が係留してあるのですが漁船の光はなく、あたりは静まり返っています」
10日午前0時の根室・歯舞漁港。船は陸にあげられたままとなっていました。例年は、きのう4月10日がサケ・マス流し網漁の解禁日。水揚げノイズ「ザッパーーン」じつは、多くがロシアの川で生まれるサケやマスを獲るために日本はロシアに毎年、協力費を支払って根室沖などで操業しています。しかし・・・ロシアのウクライナ侵攻を受けた日本の経済制裁にロシアが反発。日本とロシアが漁獲量や協力費の金額を決める漁業交渉はきょう11日からようやく始まりましたが、難航する可能性があります。
田村さん 「(サケの)全体量がないとなると少々獲れても値段というのは安くならない/想像ですけど例年の1.5倍で(値段が)収まればいいかなという期待値です。」
今月下旬からは道東沿岸でのサケの定置網漁が始まりますがこちらも不漁が続いています。私たちに身近なサケは食卓から遠ざかってしまうのでしょうか。
●ウクライナ首都周辺「1千人超遺体」 ロシア軍、対空システム破壊主張 4/11
ウクライナに侵攻しているロシア軍は11日、東部や南部で支配地域を拡大するため、攻撃を続けた。都市部への無差別砲撃で民間人の犠牲者に歯止めがかからず、さらなる戦闘激化への懸念も高まっている。ウクライナのベネディクトワ検事総長は英メディアに対し、北部キーウ(キエフ)州で1222人の遺体が見つかったと説明した。
ロシア軍はウクライナ北部の短期制圧に失敗し、将兵死傷など「重大な損失」(ペスコフ大統領報道官)を被った。4月初旬までの撤退に伴い、占領地での民間人の犠牲が日を追うごとにつまびらかになっている。
ロシア国防省は11日、中部ドニプロ郊外に対する10日の巡航ミサイル攻撃で「欧州の国から送られた地対空ミサイルシステムS300を破壊した」と主張した。S300をめぐっては、これまでにスロバキアがウクライナに提供したことが明らかになっているが、ロイター通信によると、スロバキア政府報道官は「われわれのS300は破壊されていない」と述べた。
●ロシア軍が放射線量の高い物体133個盗む…「ぞんざいに扱えば命取り」 4/11
ウクライナ北部チョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所近くにある研究所から、ロシア軍が放射線量の高い物体133個などを盗み出したと、ウクライナ当局が10日、フェイスブックで明らかにした。放射性物質の所在は不明で、当局は「ぞんざいに扱えば命取りになる」としている。
国際原子力機関(IAEA)によると、研究所では放射線の分析機器も盗まれたり壊されたりした。別の施設では通信回線の一部が破壊され、放射線の観測データを自動送信できないという。
一方、同原発では10日、技術職員が約3週間ぶりに勤務を交代した。周辺の治安が悪化したため、職員らはロシア軍の撤収後も交代せず勤務を続けていた。
露軍は2月24日の侵攻開始直後に同原発を制圧し、3月末まで占拠した。
●“プーチン大統領は政権崩壊への危機感から侵攻”元駐ロ米大使  4/11
アメリカの駐ロシア大使も務めた著名な政治学者、マイケル・マクフォール氏がNHKのインタビューに応じました。
この中でマクフォール氏は、ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったのは、同じ国だと見なすウクライナが、より民主的になることで、自身が率いる独裁的な政権が崩壊するのではないかと、危機感を抱いたためだという見方を示しました。
マイケル・マクフォール氏は、ソビエト崩壊後のロシアの民主化などについて研究を続けている著名な政治学者で、2012年1月、当時のオバマ政権下でロシア大使として2年間モスクワに駐在したあと、現在はスタンフォード大学で教授を務めています。
このほどNHKのインタビューに応じたマクフォール氏は、1999年当時、エリツィン大統領の辞任に伴って大統領代行に就任したプーチン氏について「当時は欧米志向で、いまよりも市場原理に基づく考えを持ち、われわれは協力できると考えていた」と振り返りました。
そして「プーチン氏が一夜にして民主主義者から独裁者になったというのは間違いだ。時間をかけて独裁的になり、独裁的になればなるほど、民主主義からの挑戦を受けるようになった」と指摘しました。
マクフォール氏によりますと、プーチン氏が民主主義からの挑戦だと捉えているのは、2003年、ジョージアで市民の抗議活動により大統領が辞任に追い込まれた「バラ革命」、2004年、ウクライナで大規模な抗議活動をきっかけに政権交代が起きた「オレンジ革命」、2011年、中東各地で独裁的な政権が次々と崩壊した民主化運動「アラブの春」、そして、2012年にロシアの首都モスクワで繰り返された市民の大規模な抗議活動です。
なかでもモスクワで行われた抗議活動は、当時首相だったプーチン氏が3期目の大統領として返り咲くため立候補した選挙を前に行われただけに、プーチン氏にとって「非常に重要な局面だった」と分析しました。
マクフォール氏は「プーチン氏は『革命の背後にアメリカがいる』と非難した。エジプトやジョージアなどでなくまさにロシアで、彼の政権に反対する大規模なデモが起きたことによって、彼は強い恐怖を感じたのだ。そして、民主的な考えやそれを支持する人たちに対して、病的なほどに疑い深くなった。われわれは反体制派に資金提供をしていないし、デモを組織してもいないが、彼は『われわれのせいだ』と非難した」と述べました。
さらに、ロシアとウクライナの関係について「プーチン氏は、ロシアとウクライナは別の国だと考えていない。長い歴史に言及し、一つの国だったと説明しようとしている」と指摘しました。
そのうえで、マクフォール氏は「ロシアと同じ文化や歴史を共有しているウクライナ人が民主的になれば、ロシアという独裁体制にとって直接的な脅威になる。だからこそプーチン氏は、武力を使ってウクライナを取り込もうとし、民主主義を弱体化させようとしたのだ」と述べ、プーチン氏が軍事侵攻に踏み切ったのは、同じ国だと見なすウクライナが、より民主的になることで自身が率いる独裁的な政権が崩壊するのではないかと危機感を抱いたためだという見方を示しました。 

 

●ゼレンスキー「マリウポリで数万人死亡」 ロシア外相“軍事侵攻やめない”  4/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は、韓国でオンライン演説を行い、「マリウポリで数万人が死んだ」と明らかにした。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領「ロシア軍はマリウポリを完全に焦土化して破壊した。マリウポリでは数万人の市民が命を失った」
ゼレンスキー大統領は、「マリウポリでは数万人の市民が命を失った」と明らかにしたうえで、韓国に軍事的支援を求めた。
一方、ロシアのラブロフ外相は、停戦交渉の間に軍事侵攻をやめないとの考えを明らかにした。
ロシア・ラブロフ外相「停戦交渉が最終合意に達し署名しない限り、(軍事行動を)中断しない決定がなされた」
そのうえで、ロシアの軍事作戦の目的は、アメリカなど西側諸国による国際社会の支配という無謀な行動に、終止符を打つためのものだとしている。
●国連安保理 ロシアへ非難相次ぐ ”多くの市民が犠牲に” 4/12
ウクライナ情勢をめぐって国連の安全保障理事会で会合が開かれ、ウクライナ東部の鉄道の駅が攻撃されるなど子どもを含む多くの市民が犠牲になっているとして、各国からロシアを非難する発言が相次ぎました。
国連安保理では11日、ウクライナで女性や子どもが置かれている状況について協議が行われました。
はじめに、ユニセフ=国連児童基金の担当者が「ウクライナの子どもの3分の2が避難を余儀なくされ、とどまっている子どもも半数近くは十分な食料を得られないリスクにさらされている。マリウポリやヘルソンでは、何週間もの間、水道や食料の供給なしで過ごしている」と報告しました。
このあと各国からは、ウクライナ東部の鉄道の駅がミサイルで攻撃されるなど、女性や子どもを含む多くの市民が犠牲になっているとして、ロシアを非難する発言が相次ぎました。
このうち、アルバニアのホッジャ国連大使は「ブチャの恐怖から息をつく間もなく、数千人がいた駅がミサイルで攻撃され、子どもたちが無差別に殺害された」と述べ、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使も「現地の女性や子どもたちに起きていることは、理解を超えたおぞましいものだ」と強く非難しました。
また、ウクライナのキスリツァ国連大使は、ロシア軍に母親を殺害されたという9歳の子どもの手紙を読み上げ「このままでは多くの子どもが孤児になり多くの母親が子どもを失うだろう。将来の世代のためにクレムリンを止めなければならない」と訴えました。
これに対してロシアのポリャンスキー国連次席大使は、鉄道の駅を攻撃したのはウクライナ側だと主張したうえで「軍事作戦はウクライナの将来のため、ロシアや近隣諸国の安全のために必要だ」と述べました。
●ロシアが任命、ウクライナ侵攻の新司令官について分かっていること 4/12
ロシアのプーチン大統領はこのほど、ウクライナでの戦争を統括する新司令官を起用した。
欧米の当局者によれば、ロシア軍南部軍管区のアレクサンドル・ドゥボルニコフ司令官(60)が、ウクライナでの軍事作戦を統括する戦域司令官に任命されたという。
ドゥボルニコフ氏はシリアでのロシアの軍事作戦の初代司令官を務めた人物。プーチン氏は2015年9月、シリアのアサド政権を支援する目的で同国に軍を派遣した。
ドゥボルニコフ氏がシリアで指揮を執った15年9月から16年6月にかけ、ロシア軍機はアサド政権や同盟勢力が反体制派支配下のアレッポを包囲するのを支援し、人口密集地を爆撃して多数の民間人犠牲者を出した。アレッポは16年12月にシリア政府の手に落ちた。
00〜03年には、ドゥボルニコフ氏は長期に及んだ北コーカサス地方での鎮圧作戦に参加。中でも第2次チェチェン紛争では、チェチェンの中心都市グロズヌイが壊滅状態に追い込まれた。
ロシアはウクライナの一部地域でも同様の手荒い手法を用いており、主要都市の住宅を攻撃したり、港湾都市マリウポリの大部分を破壊したりしている。
ドゥボルニコフ氏は16年3月、軍功が評価され大統領府から「ロシア連邦英雄」の称号を授与された。
ロシアがウクライナでの戦争を率いる新たな総司令官を指名したのは、ロシア軍の妨げとなっているもう一つの問題、つまり調整不足を改善する狙いもあるとみられる。
●ウクライナ戦争で広がる憎悪 バイデン氏の過激発言が悪影響を与える懸念 4/12
臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、プーチン大統領やバイデン大統領の“思惑”がもたらす悪影響について。

ロシアのウクライナ侵攻から1か月あまり。世界中でロシア人が差別や脅迫、暴力などの標的になっているが、最近は日本でも、ロシア人やロシア関連のお店に嫌がらせが増えていると聞く。嫌がらせを行っている人が日本人かどうかは分からない。おそらくウクライナの状況に心を痛め、ロシアに憤りを感じているのだろうが、その正義感が向けられた矛先は正しいとは言えない。
ロシアというだけで、そう見えるというだけで、周りにいる誰もが悪ではない。行き過ぎた正義感は偏見を生み、「間違っている、悪い」と思う相手を責め、敵視し、排除するようになる。「自分は正しい」と思い込むため、自らの偏見には気付かない。「バイアスの盲点」だ。私たちはいつの間にか、戦争に巻き込まれているらしい。
連日連夜、ロシアのウクライナ侵攻による悲惨な映像が報じられている。ロシアのプーチン大統領のイメージは冷徹で強硬。今では絶対的権力を持った独裁者と見られている。ロシアによるウクライナ侵攻はプーチン氏の思惑で動いているのだ。
だが3月30日、米ホワイトハウスのベディングフィールド広報部長は記者会見で、「ロシアのプーチン大統領に、側近や軍から誤った情報が伝えられている」、「側近が真実を伝えるのを恐れている」と述べた。ロシア軍の苦戦が報じられていたこともあり、メディアは一斉にこれを取り上げた。専門家も同様の見解を述べ、「独裁者の末期はそういうものだ」と語っていた。
一方、ある番組では、ロシア軍の内情に詳しいアゼルバイジャン軍の副司令官だったアギーリ・ルスタムザデ氏が、ロシア軍兵士の士気の低さを指摘しつつ、「プーチンが知らないはずがない」、「戦争という状況下で大統領が騙されるなどどいうことはない。プーチンはそこまで愚かではない」と話し、「米国の政治的意図がある発表だ」と述べていた。
実際、米国の思惑も恐ろしい。それが戦争を引き起こしたこともあるからだ。ブッシュ政権下の2003年、イラク戦争が開始された。9.11米同時多発テロで大勢の犠牲者が出た米国は、対テロ戦争に突入。イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を所有しているとして、ブッシュ大統領はイラク戦争に踏み切った。
フセイン政権は崩壊したが、大量破壊兵器は見つからず、民間人の犠牲者は10万人以上とも20万人以上とも伝えられている。一国のリーダーの政治的意図や思惑で、すさまじい数の犠牲者が出てしまうのだ。あの時、今のようにSNSが普及していたら、戦況は変わったのかもしれない。
Newsweek日本版に、タレントのパックンによる「大義なき悲惨な戦争…プーチンは、ブッシュの『イラク戦争』を見習った?」と題した記事がある。彼は<相手国に妄想を抱き、もしくは妄想を国民に信じ込ませ、血みどろの結果を招いたウクライナ戦争とイラク戦争の共通点。世界にとっては悲劇的なデジャブだ>と書いている。その通りだと思う。思惑が妄想を生むこともある。
バイデン大統領はプーチン氏を「戦争犯罪人」と呼び、「この男は権力の座に留まるべきではない」と批判した。「さすがに失言ではないか」と波紋を呼んだが、バイデン氏は謝罪も撤回もしなかった。ウクライナで行われている虐殺を見れば、その発言も道徳的、感情的には理解できる。だが、過激な発言は国民のロシアへの憎悪を強くさせてしまう懸念も残る。
日本にいる我々は戦争の当事者ではないが、このような光景を目の当たりにすると、気付かないうちに少しずつ、人々がこの戦争に巻き込まれ始めているのではないかと怖くなる。
●ウクライナで性暴力の報告増加、「侵略者は婦女暴行を戦争の武器に」  4/12
国連安全保障理事会は11日、ロシア軍が軍事侵攻を続けるウクライナ情勢に関する会合を開き、戦時下の女性や子どもたちへの影響を議論した。国連女性機関のシマ・バホス事務局長が出席し、ウクライナで婦女暴行や性暴力の報告が増加していると明らかにした。
バホス氏は具体的な件数などには言及しなかったが、「独立した調査が行われる必要がある」と強調した。
オンラインで参加した地元市民団体の代表者は、露軍兵士による婦女暴行の通報が9件あり、12人の女性や少女が被害に遭ったと説明。その上で「(通報された事案は)氷山の一角。ロシアからの侵略者は婦女暴行を戦争の武器として使っている」と非難した。
ロシアの国連第1次席大使は「露軍兵士を暴行犯に仕立て上げようとしている」と露軍の関与を否定した。ウクライナでの性暴力を巡っては露軍だけでなくウクライナ軍や民兵も関与しているとの情報があるといい、国連が確認を進めている。
●ロシア兵からの「性的暴行」証言 ウクライナで何が 人権団体「武器の一種」 4/12
ロシアによるウクライナ侵攻で、ロシア兵による性暴力などの「戦争犯罪」が今、次々と明らかになっています。戦争犯罪の証拠や証言を集めている人権団体が、ある女性の被害と「性的暴行は“武器の一種”として用いられている」状況について語りました。
ポーランド・クラクフで10日、女性たちがウクライナ国旗を肩にかけるなどして、デモ行進を行いました。
「私たちの家族を救って! ロシアを止めて!」
ウクライナからポーランドに避難した女性たちは、軍事侵攻で亡くなった子どもをイメージした人形を胸に、次のように訴えました。
ウクライナから避難した女性「残虐な行為、子どもへのレイプが毎日のように行われています」
ウクライナ内相顧問が10日、SNSに投稿した映像では、ウクライナ・キーウ(キエフ)近郊・マカリウの民家では、物が散乱した様子が映されていました。また、毛布やベッドには血痕が残されていました。
「彼女はこの部屋で辱められて、むごい目に遭ったのです。なんてひどい…」
この家の隣に住んでいたというタチアナさんの身に起きた出来事も、ウクライナ内相顧問がSNSで明らかにしました。
ウクライナ内相顧問のSNS「侵略者(ロシア側)のひとりが彼女を隣の家に連れ出して、レイプしたあと、残酷に切りつけて殺した」
こうした性暴力などの「戦争犯罪」が今、次々と明らかになっています。戦争犯罪の証拠や証言を集めている国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の笠井哲平さんは、ハルキウ(ハリコフ)から逃れたオルハさん(仮名)という女性の被害について語りました。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 笠井哲平さん「オルハさん(仮名)という女性が、ロシア兵に何度も性的暴行を受けたと(証言している)」
笠井さんによると、「オルハさんは5歳の娘らと、小学校の地下室に避難しているところを襲われた」ということです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 笠井哲平さん「周りが寝静まった時に(ロシア兵が)『一緒についてこい』と指示をして、銃口を彼女に向けたまま『服を脱げ』といって性的暴行をしました。ナイフを首元にあてたり、首の皮膚を切ったりしました。『ほおや髪の毛も切り刻んだ』という証言をオルハさんはしています」
性的暴行は“武器の一種”として用いられているということです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 笠井哲平さん「精神的に深く傷つけ、反抗できないようにする狙い。女性に限らず、男性や子どもに対する性暴力も報告されているので、本当にこれは氷山の一角」
さらに、ロシア軍による“略奪”疑惑もあります。ウクライナの隣国・ベラルーシの団体「ベラルーシ ガユン・プロジェクト」が公開したのは、“略奪の証拠”とされる映像です。
ベラルーシ・マズィルにある宅配サービス会社の防犯カメラには、部屋を埋め尽くすほどの物資を絶え間なく運び入れるロシア兵の姿が捉えられていました。
これらの多くはウクライナでの略奪品とみられていて、机の上にはアルコールの瓶が置かれ、エアコンが入っているといういくつものダンボールの中に、運んできた電動キックスケーターをその場で梱包する様子も撮影されていました。この日、ロシアへ発送されたという荷物は、2トン以上にのぼるということです。
ウクライナの検事総長は「約5600件にのぼる戦争犯罪の捜査を始めた」と明らかにしました。
●ウクライナ戦争がもたらす陰鬱な新世界 4/12
ウクライナ戦争は米国の覇権にもとづく自由主義的国際秩序の威力を遺憾なく示しているが、その亀裂も露呈している。
戦争が勃発すると、米国は前例のない制裁をロシアに加えた。NATOなどの米国の伝統的な同盟は、この戦争を契機に再び結束しつつある。ジョー・バイデン政権は、就任後に標榜していた民主主義対権威主義の戦列を強化するのに利用している。
しかし、米国主導の制裁の隊列には隙間も生じつつある。国連安保理の対ロシア非難決議には中国、インド、バングラデシュ、パキスタン、南アフリカの5カ国が反対し、35カ国が棄権した。投票に参加しなかった旧ソ連地域の新生国家やアフリカ諸国を考慮すれば、米国の制裁の隊列からは少なからぬ国々が抜けている。実際に、米国の友好国といわれるイスラエルを含めた中東地域の国々や、ブラジルやメキシコなども制裁に参加していないか、消極的だ。いわゆる「ミドルパワー」国家の一部が「非米的な」態度を取っているのだ。
ドルの覇権の威力も試されている。インドは、ロシアのエネルギーを安価に輸入することを目的として、ルーブル-ルピー決済方式でロシア産エネルギーを輸入すると発表した。サウジアラビアは、中国に輸出する石油の代金の一部を人民元で決済することを明らかにした。中国がロシア産エネルギーを輸入し続けているのは言うまでもない。
暴落していたロシアのルーブルは、ここのところ戦争前の水準にまで反発している。何よりも、欧州などに輸出するガスなどのエネルギーが禁輸されていないからだ。ロシアは価格の上がったエネルギーの輸出代金を依然として手にしている。今年下半期にはロシアがエネルギー輸出で稼いだ金は過去最高となるとの見通しもある。
イラク戦争以降、米国が手を引こうと努めてきた中東地域での「非米的な」勢力再編もただならぬ気配が漂う。アラブ首長国連邦(UAE)は、親ロシアであるシリアのバッシャール・アサド大統領を招き、関係改善に乗り出した。米国と核合意の修復交渉を行っていたイランは、ウクライナ戦争勃発以降、条件をつり上げ、会談は空転状態に陥っている。トルコはウクライナ戦争の平和交渉を仲裁し、影響力を強めている。
地政学者のウォルター・ラッセル・ミードが定期寄稿する「ウォール・ストリート・ジャーナル」なども、今回の制裁はミドルパワー国家などに恐怖を植え付けたと診断する。これらの国々は外貨保有高を米国などの西側の銀行にドルで預けているが、米国の制裁からヘッジングする必要性を深刻に感じているというのだ。戦争は長期化が懸念されている。米統合参謀本部のマーク・ミリー議長は議会の公聴会で、ウクライナ戦争の終結までには「少なくとも数年はかかると思う」と述べている。
一つ目に、国際経済は深刻なコストを支払わなければならない。新型コロナウイルス禍によるサプライチェーンの混乱、食糧とエネルギーの価格暴騰、インフレは悪化するだろう。戦後もロシアのエネルギーなどを国際経済から絶縁させようとする米国の努力が続くことは明らかだ。
二つ目に、グローバリゼーションの完全な退潮と経済のブロック化だ。戦争以前から米国は、中国を自らが主導する国際経済体制から排除しようとしていた。これから中国は、戦争の後遺症に直面するロシアを含めたユーラシア経済圏作りを急ぐだろう。インド、イラン、中東諸国も米国と中ロの間で綱渡りをするだろう。
ハルフォード・マッキンダー、ズビグニュー・ブレジンスキーなどの西欧の古典的な地政学者たちは、ユーラシア大陸の心臓部に位置するロシアや中国がユーラシア環形地帯のイランやインドと連帯することを、米国などの西欧の覇権にとっての最大の脅威とみている。ウクライナ戦争はユーラシア連帯勢力の出現をもたらす条件となるかもしれない。
これは冷戦時代の資本主義陣営対社会主義陣営の対決を想起させる。いや、それよりも危険かもしれない。冷戦時代には、米国とソ連は互いの勢力圏を暗黙に認め、互いに絶縁された経済体制を営んだ。ウクライナ戦争後に起こりうるブロック化で、米国は果たして中国やロシアの勢力圏を認めることができるだろうか。
ノーベル経済学賞受賞者でコロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツは「プロジェクト・シンジケート」への「新自由主義者のためのショック療法」と題する寄稿で、9・11テロ、2008年の金融危機、トランプの出現、コロナ禍に続くウクライナ戦争で、最小限のコストで最大の利益を創出しようとした新自由主義、あるいは自由主義的国際秩序の基礎は崩れると指摘した。さらに大きな問題は、このような自由主義的な国際秩序の是非とは関係なしに、これに代わる秩序がはっきりしていないということだ。ウクライナ戦争は国際秩序における陰鬱なディストピアを予告する。
●ティンダーが通信手段に。ウクライナ人男性「怒りしかない、戦地へ行きたい」 4/12
ロシアがウクライナに武力侵攻したことで、IT関連のサービスにも影響が出ていることは広く知られる事実だ。フェイスブック、ツイッター、ティックトック、インスタグラムはロシアで利用できなくなっており、アップルは「iPhone」などの販売を取りやめ、グーグルは広告取引を中止し、マイクロソフトも製品の販売を停止するなど、欧米のIT大手がロシア事業を一時停止する動きが広がっている。
そんな中、マッチングアプリにも戦争の影響が出ている。欧米で広く使われているマッチングアプリ、Bumble(バンブル)もロシアとベラルーシでのアプリのダウンロードを停止。片や、マッチングアプリの草分けとも言われるTinder(ティンダー)は、ロシアでもウクライナでもサービスを継続している。
さらにロシアとウクライナでは、デート相手を見つけるというデフォルトのアプリの目的とは違う使われ方がされるケースが増えている。
英字メディア「スクリーンショット」によると、ロシア人のティンダーユーザー向けに、今ウクライナで起きていることをティンダーのプロファイルに説明し、真実を草の根レベルで伝えようとする動きが見られるという。
キーウのウクライナ人男性とやりとりしてみた:「戦争に参加したくて仕方がない」
筆者は自身のスマートフォンにティンダーをダウンロードし、特定の地域の人と繋がることができる「パスポート機能(有料)」を使って、ウクライナの首都キーウ(外務省は3月31日、「キエフ(キーフ)」の日本語呼称をウクライナ語発音の「キーウ」に変更する」と発表した)、およびその周辺地域に住んでいる人とマッチしてみた。10数人とすぐにマッチしたものの、実際にメッセージのやり取りが成立したのは数人。
そのうちのひとり、キーウの40代前半のウクライナ人男性、ユージーンは、戦争が始まってからの日常や怒りの気持ちを「これから話すことにはショックしかないと思うけど」と前置きした上で、チャットで今置かれた状況や思いを共有してくれた。
筆者:現在の心境と状況について教えてほしい。
ユージーン:怒りの感情しか感じられない。ロシア兵を殺すために政府と軍隊がライフル銃を供給してくれないことに憤りを感じている。自分は2002年から予備軍リストに自分の名前があるが、3番目のリストなので、戦争にはまだ呼ばれていない。過去に戦争を経験した人から順に呼ばれているので、自分の番はなかなか回ってこないのが歯がゆく、戦争に参加したくて仕方がない。
ウクライナ人男性はみんな、軍隊から声がかかるのを待っている。戦争が始まって最初の10日間は、入隊を希望する男性たちで長い列ができていた。
筆者:家族はまだキーウにいるのか。
ユージーン:離婚した元妻と娘はポーランドに避難した。私は、キーウにいても安全だと元妻に言ったが、彼女は避難することを選んだ。
筆者:現在のキーウでの生活はどのような感じなのか。
ユージーン:街にはあまり人がいないが、今は、戦争の前のような状態だ。20〜40のビルが破壊されたし、1日のうちにしょっちゅうアラームが鳴るのは確かだけれど。オフィスはクローズしているので、仕事には行っていない。
最初の2週間は水と食料が欠乏したのが問題だった。みんな恐怖から買い占めに走ったからね。供給がストップしたのもある。運転手がキーウに行きたがらなかったんだ。戦争前と同じというわけにはいかないけれど、今は大丈夫だ。ただ、特定の商品、医薬品はないものがある。痛み止め、栄養剤、包帯などはキーウの薬局にはないね。
現在、食事に関しては、スーパーで買い物することはできるけど、レストランは軍向けに料理を提供しているところもあるが一般市民向けには営業していない。料理をしない自分はひたすらサンドイッチを食べている。
筆者:戦争はいつ終わると思うか。
ユージーン:プーチンの身に何かが起こるという運に恵まれない限り、5〜30カ月はかかるだろう。
筆者:諸外国や日本に対して何か望むことはあるか。
ユージーン:ヨーロッパ諸国と米国はパルチザン(抵抗戦)に使える武器を提供したが、私たちが今必要としているのはもっと戦闘機やミサイル、戦車などだ。ウクライナ軍に寄付してほしい。暗号通貨の寄付も可能だ(本記事末尾に情報あり)。
筆者:ティンダーをなんのために使っているか。
ユージーン:自分は離婚歴があって、再婚したいと思っている。平時にはアプリじゃなくて、ナイトクラブで女性とは出会っていたけど、戦争下ではそれも叶わないからね。もしForbes JAPANの記事をきっかけに将来の妻と出会えたりしたらうれしいね。
ルーマニア在住の男性とも:避難する人は受け入れる
また筆者は、ウクライナの隣国であるルーマニア在住の男性からも話を聞くことができた。ウクライナから避難する人を受け入れる国としてポーランドについては頻繁に報じられているが、ルーマニア在住の男性も、求めがあれば自宅で避難してきた人を受け入れる用意があるという。
ビクター(仮名):自分のアパートに空いている部屋があるので、ウクライナから避難してきた人が滞在できる準備はできている。ウクライナ人女性たちとはティンダーを通じてコミュニケーションをとっているよ。デートの相手を探すためというわけじゃなくて、ただ話をしているんだ。
──前述の英字メディア「スクリーンショット」で、メディア「アンハード」ライターのゾーイ・ストリンペル氏は「慎重に使えば、ティンダーは強力な、非暴力の武器にもなり得る」と語っている。死者の数など、連日惨状が伝えられるニュースの前には無力感が大きいが、デジタル戦争がいかにリアルの戦況に影響を与えるかについても注視していくべきだろう。
●ロシアは「密告社会」に戻るのか 録音された戦争批判で教師免職 4/12
旧ソ連時代のような、かつての「密告社会」に戻るのか――。ロシア国内の教育現場で、ウクライナ侵攻に反対した教師や、ウクライナ支持と受け止められるような発言をした教師たちが「露軍の信頼を失墜させた」などとして裁判所に罰金を言い渡されたり、免職となったりするケースが相次いだ。教師らの発言は、生徒や学校の同僚を通じ、親や校長、そして最終的には警察など当局に伝わっていた。
露極東のニュースサイト「サハリン・インフォ」などによると、サハリンの港町コルサコフで4月5日、女性の英語教師が「不道徳な罪を犯した」として免職になった。女性教師は裁判所に行政罰として3万ルーブル(約4万6000円)の罰金も言い渡された。
女性教師は、8年生と11年生(日本では中学2年と高校2年に相当)を対象にした英語の授業で、世界のさまざまな民族の子どもたちがロシア語とウクライナ語で平和について歌うビデオを見せた。
その中に「明るい未来を信じよう。そうしたら世界は少しは良くなる」という歌詞があった。女性教師は「感想を口にせず、黙ってビデオを見ましょう。心で聞いてください」と生徒に呼びかけた。
授業が終わった後、8年生の生徒数人が教室で「先生はウクライナを支持するのか」と詰め寄ってきた。その時の会話を生徒が録音し、親に聞かせたという。翌日、教師は校長に呼ばれ「保護者から苦情が来ている」と聞かされた。その後、免職の処分となった。
コルサコフ市の教育当局は女性教師について「授業をせずに、ウクライナで実施中の特別軍事作戦について、ロシア側を否定的にとらえる考え方を伝えた」と受け止めているという。サハリン州政府教育省も「教師のモラルと倫理に反した犯罪だ。ロシアの法律を順守しつつ、教育課程の範囲内で、確かな情報を生徒に与えることが教師のあるべき姿なのに、それに反した」とコメントした。
ロシアは2月24日、ウクライナ侵攻に踏み切った。反戦デモが全国の都市で相次ぎ、当局は参加者を次々と逮捕し、処罰した。また、ウクライナでの軍事作戦を「戦争」や「侵攻」と呼ぶことを禁じ、「軍の権威を失墜させる行為」に対して禁錮刑や罰金刑、行政罰を科す法改正をした。サハリンの女性教師が罰せられたのは、こうした社会状況が背景にある。
教職歴30年のベテランでもある女性教師は「(生徒とは)軍の話はしていない。平和の話しかしていない」と主張し、免職は不当だと訴えている。
一方、東シベリアのブリヤート共和国オノホイでは、子どもたちにスポーツを中心に教える学校で働く64歳のトレーナーが、校舎の入り口の扉に張られた「Z」の文字のマークを取り払ったことを問題視され、4月5日に裁判所に計6万ルーブル、8日に別の裁判で3万ルーブルの計9万ルーブル(約14万円)の罰金を命じられた。「Z」は露軍のウクライナ作戦への支持を訴えるシンボルとして、侵攻開始後に広まった印だ。地元紙「ブリヤートの人々」によると、裁判所は「公に露軍の信頼を失墜させた」と認定したという。
学校に「Z」の文字が張られたのは3月23日。軍の勲章に使われ「聖ゲオルギーのリボン」と呼ばれるオレンジと黒のストライプのリボンを使ってZ字形にし、セロハンテープで張ってあった。若者らが「Z」マークをあちこちに張る活動をした日だった。夕方、学校を訪れたトレーナーは、「ここは子どもたちが体を鍛えるところだ。政治とは関係ない」との考えからリボンをはがしたという。
翌日、翌々日にも「Z」マークが扉に張られており、トレーナーはそのたびにはがした。これについて学校の女性守衛と口論になり、トレーナーは「自分は戦争に反対だ」などと発言した。その会話を女性守衛が録音し、校長を通じて警察の知るところとなった。
トレーナーは警察で4時間の尋問を受け、「出身民族は何だ」「ウクライナの民族主義者ではないのか」などと聞かれたという。
校長は「今や法律が改正され、プーチン大統領自身も『ロシア軍や(ウクライナでの)軍事作戦に反対するいかなる過激主義をも許してはならない』と話している。だからこういう結末(トレーナーの処罰)になった」と語った。
プーチン大統領は3月16日、対露経済制裁への対処策を協議する政府会合を開いた。欧米がロシア国内に反逆分子を忍ばせてくることへの警戒感を示し、「ロシア国民は、本物の愛国者と、社会のくずや裏切り者とを常に見分けることができる。ブヨが飛んできて、たまたま口に入ったときのように、歩道にペッと吐き出せばいいだけだ」と述べた。「社会の自己浄化が必要だ」とも語り、ロシア社会の中から「裏切り者」をあぶり出し、排除していく姿勢を示した。プーチン氏の強硬な発言は、「国民の粛正も辞さない姿勢」とも受け止められ、社会に影響を与えているとみられる。
●ウクライナ ロシア軍の東部攻撃を警戒 化学兵器への懸念強まる  4/12
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナの国防省は、ロシア軍がまもなくウクライナ東部に大規模な攻撃を始める情報があるとして、警戒を強めています。また、東部マリウポリの防衛にあたるウクライナ軍は「ロシア軍が有毒な物質を使った」とSNSに投稿し、ロシア軍が化学兵器を使用することへの懸念が強まっています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は東部への攻勢を強めていて、ロシア国防省は11日、東部ドネツク州の各地を攻撃し、ウクライナ軍の司令部施設をミサイルで破壊したと発表しました。
こうした中、東部の要衝マリウポリのボイチェンコ市長が11日、NHKのインタビューに応じ、ロシア軍の攻撃による市内の犠牲者は2万人を超えるという見方を示しました。
これは、軍事侵攻前のマリウポリの人口のおよそ5%にあたり、ボイチェンコ市長はさらに、10万から12万人の市民が今も避難できずにいると明らかにしたうえで「ロシア軍はバスや車が市外に出るのを認めず、検問所では市内に戻るよう命令している」と述べ、ロシア軍が市民の避難を妨害していると批判しました。
ウクライナ国防省の報道官は11日「敵はウクライナ東部への攻撃準備をほぼ完了させ、攻撃はまもなく始まるだろう。これは欧米側の情報に基づくものだ」と述べ、ロシア軍が近く、東部で大規模な攻撃を始めることに警戒感を示しました。
一方、東部マリウポリの防衛にあたるウクライナ軍の部隊は11日、SNSに「ロシア軍がマリウポリでウクライナ軍の兵士と市民に対し、有毒な物質を使い、複数の人が呼吸困難の症状を示している」などと投稿しました。
ロシアの通信社によりますと、ウクライナ東部を拠点とする親ロシア派武装勢力のバスーリン報道官は11日、東部マリウポリにある「アゾフスターリ」製鉄所に、最大で4000人のウクライナ兵がいるという見方を示しました。
そして、製鉄所には地下の施設があるとしたうえで、今後の戦闘について「製鉄所を封鎖し、すべての出入り口を探し出す。その後は化学部隊が敵をいぶり出す方法を見つけるだろう」と述べ、製鉄所を制圧するために化学兵器を使用する可能性に言及しました。
これについてアメリカ国防総省のカービー報道官は11日の声明で「われわれはロシア軍がマリウポリで化学兵器の可能性があるものを使用したとするソーシャルメディア上の報告を承知しているが、現時点では確認できず、引き続き、状況を注視する」としています。
ロシア軍が有毒物質を使用したというウクライナ軍のSNSへの投稿をめぐり、化学兵器の保有などを禁止する国際的な機関の査察官としてロシアを査察した経験がある専門家は「ロシアは条約に基づいて化学兵器を全て廃棄したとしているが、化学兵器が使用されたとすれば国際社会の信頼を裏切る行為だ」と話しています。
ロシアは化学兵器の開発や生産、保有などを禁じた化学兵器禁止条約の締約国で、5年前に国内に残っていた化学兵器をすべて廃棄したとしています。
これについて6年前までOPCW=化学兵器禁止機関の査察官として合わせて30回以上、ロシアの化学兵器を査察した藤井雅行さんは「当時、ロシア国内には化学兵器の廃棄作業を行う工場が6か所あり、私たちは現地で作業の詳しい状況を監視するとともに、廃棄された化学兵器の数を確認していた。ロシアは条約に基づいて化学兵器を全て廃棄したとしていて、化学兵器が使用されたとすれば国際社会の信頼を裏切る許されない行為で、怒りや、やるせなさを感じる」と話しています。
また、複数の人が呼吸困難の症状を示しているという情報を踏まえてもし化学兵器が使われたのだとすれば「塩素ガスやサリンといった神経系のガスなどでは呼吸が難しくなるケースがある」としています。
●ウクライナ軍 “ロシア軍が有毒物質使用” 米「状況を注視」 4/12
ロシア軍がウクライナ東部への攻勢を強める中、東部マリウポリで戦闘を続けるウクライナ軍のアゾフ大隊は11日、SNSに「ロシア軍が有毒な物質を使った」などと投稿しました。アメリカ国防総省の報道官は、「現時点では確認できず、状況を注視する」としています。
東部マリウポリで戦闘を続けるウクライナ軍のアゾフ大隊は11日、SNSに「ロシア軍がマリウポリでウクライナ軍の兵士と市民に対し有毒な物質を使い、複数の人が呼吸困難の症状を示している」などと投稿しました。
これについてアメリカ国防総省のカービー報道官は11日、声明を発表し「われわれはロシア軍がウクライナのマリウポリで化学兵器の可能性があるものを使用したとするソーシャルメディア上の報告を承知しているが、現時点では確認できず、引き続き、状況を注視する」としました。
そのうえで「これらの報告がもし事実であれば深く懸念すべきことだ」と指摘しました。
また、イギリスのトラス外相はツイッターに「われわれは詳細の確認を急いでいる」と投稿しました。
化学兵器をめぐって、これまでアメリカのバイデン大統領は、ロシアがウクライナに対して使用した場合には「相応の対応をとる」と述べ、けん制していました。
松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「マリウポリでロシア軍が化学兵器を使用した可能性があるとの報道を承知しているが、他方で、化学兵器の攻撃は確認されていないとの報道も承知しており、引き続き、現地の情勢を注視していく必要がある」と述べました。
その上で「日本政府として、生物化学兵器の使用は、いかなる場所、主体、状況でも容認されない。4月7日のG7=主要7か国の外相声明でも、生物化学兵器のいかなる使用も受け入れられず、深刻な結果をもたらすことになる旨警告しており、引き続き国際社会と連携しながら対応していきたい」と述べました。
●王毅・中国外相、ウクライナ外相と電話会談、「客観的、公正な立場堅持」 4/12
中国の王毅国務委員兼外交部長は4月4日(中国時間)、ウクライナのドミトロ・クレバ外相とウクライナ情勢について電話会談を行った。両外相の電話会談は3月1日以来となる。
王外相はクレバ外相に、在ウクライナ中国人のウクライナからの避難協力に謝意を表明し、引き続きウクライナに滞在する中国人の安全確保を依頼した。
ウクライナ情勢について王外相は「中国の基本的立場は和平を呼びかけ、対話を促すというものだ。われわれは習近平国家主席が繰り返し表明した立場を現在の問題に対応するための重要な準則としている。平和を維持し、戦争に反対することは中国の歴史的な文化と伝統であり、一貫した外交政策でもある。ウクライナ情勢について、中国は地政学上の利己的利益を求めず、対岸の火事を見守るという考えもない。ましてや、火に油を注ぐことはない。心から期待するものは平和ただ1つだ。中国はロシアとウクライナが和平交渉を行うことを歓迎する。どれほど大きな困難、どれほど多くの対立があろうと、対話による和平という大きな方針を停戦および和平が実現するまで堅持すべきだ」と主張した。
また「中国は安全保障の不可分性(注)の原則に基づき、平等な対話を通じて、バランスの取れた、効果のある、持続可能な欧州の安全メカニズムを構築すべきと考える。中国は客観的・公正な立場を堅持し、引き続き自らの方法で建設的な役割を果たしていく。ウクライナは自国民の根本的利益にかなう選択をする知恵を持っていると信じている」と述べた。
3月1日の会談で王毅外相は、各国の主権と領土の完全性は尊重するが、一国の安全は他国の安全を代償としてはならないという中国の基本的立場に沿った主張を述べていた。
ウクライナ情勢についてはこれまで、習国家主席や、外交トップの楊潔篪・共産党政治局委員らも各国要人との会談で中国の立場を表明している。
(注)1975年のヘルシンキ最終文書をはじめとする、欧州安全保障協力機構(OSCE)による一連の文書などで表されている考え。相互の安全保障は不可分な関係にあり、他国の安全保障の犠牲の上に自国の安全保障を強化しないというもの。
●ロシアのウクライナ軍事侵攻による、アジア経済への影響は?  4/12
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、中国やその他のアジア諸国にどのような影響を及ぼす可能性があるのか、そして、それが投資家にとって、どのようなインプリケーションがあるのかを考えます。
アジア経済に与える影響
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、世界経済に大きな影響を与えると考えられます。アジア経済もその影響を逃れることはできないでしょう。アジアとロシアの直接の経済的な結びつきは、限定的なものですが、エネルギー価格の高騰の影響は懸念されます。アジアには、たとえば、タイ、インド、韓国など、原油の輸入依存度が高い国もあります。しかし、韓国やタイ、そしてベトナムなどは経常黒字国であり、こうした外的ショックの影響を比較的うまく吸収できるものとみています。一方、インドやフィリピンといった、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が比較的ぜい弱とみられる国については、慎重にみていく必要があるでしょう。
中国に関しては、経済規模が大きいことから、直接的な影響はより限定的とみられます。また、産業構造が多様化していること、政府による統制などによって、外的ショックをよりうまく吸収していくことが可能と考えられます。ロシアにとって、中国は最も重要な貿易相手国です。ロシアの中国への貿易依存は、今後、いっそう高まることが予想されます。しかし、中国にとってみれば、これによっても大きな影響は及ぼさず、貿易関係の非対称性を強めることになるとみられます。このことは、長期的にみると、中国政府が課題としている、人民元の国際化などを進めることに寄与する可能性があると考えられます。
不動産市場の回復は鈍く、また、ゼロ・コロナ政策によって多くの都市でロックダウン状態が続くと、消費へのマイナスの影響が出ることも懸念されます。中国当局による財政・金融両面の政策動向や、それにより景気が下支えされていくかを注視していく必要があると考えます。
投資へのインプリケーション
昨年2021年に比べて、2022年の金融市場は、値動きが大きく、難しい展開に直面しています。しかし、こうした状況がすべてマイナスであるというわけではないと考えます。
米国のイールドカーブの状況をみると、市場は米金融当局による利上げ見通しの引き上げなどを、既に織り込んでいるとみられます。
債券のアクティブ運用を行う運用者にとっては、投資機会をもたらすでしょう。高クオリティの発行体の利回りは低下するものとみられます。それと同時に、ハイ・イールド債券市場については、利回りは上昇し、高水準に達する可能性があります。中国のハイ・イールド債券利回りは、中国当局の意図に反して、上昇を続けるとみられます。
中国株式市場の動向
足元の中国株式市場は低調です。特に、中国のハイテク企業の株価は大きく下落しましたが、これは、企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)などによって引き起こされたものではなく、米中対立などの影響を受けた下落であると考えられます。反発の兆しはみられますが、回復は道半ばな状況です。当面は、値動きの大きい展開が続く可能性があることに加えて、インフレの影響などの懸念は残るでしょう。いくつかのセクターの株式については、バリュエーション(投資価値指標)水準が低下しています(たとえば、公益事業セクターなど)。一方で、高バリュエーション水準にとどまっているセクターも存在します。短期的には引き続き、経済状況、クレジット市場の動向、新型コロナウイルスの感染状況とそれに伴うロックダウンによる経済へ影響などには注視していく必要があるとみています。
●オーストリア首相 プーチン大統領と会談「楽観的な内容ない」 4/12
オーストリアのネハンマー首相は、ウクライナへの軍事侵攻のあと、EU=ヨーロッパ連合加盟国の首脳として初めてロシアを訪れ、プーチン大統領と会談しましたが「楽観的に報告できる内容はない」として、停戦の呼びかけなどをめぐって進展はなかったという認識を示しました。
オーストリアのネハンマー首相とプーチン大統領の会談は11日、ロシアの首都モスクワで行われました。
会談は、ロシアによるウクライナへの侵攻後EU加盟国の首脳としては初めてです。
会談後、単独で会見したネハンマー首相は「ウクライナの人々のために戦争を止めなければならないと彼に伝えることが私にとって重要だった」と述べ、停戦や避難ルートの設置などを呼びかけたと説明しました。
しかし「会談について楽観的に報告できる内容はない」と述べ、進展はなかったという認識を示しました。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は会談後「最近の会談としては長くはなかった」と述べるにとどめました。
ネハンマー首相はモスクワ訪問に先立って、ウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領とも会談していました。
永世中立国のオーストリアは、NATO=北大西洋条約機構に加盟しておらず、ネハンマー首相としては、双方の仲介を担うねらいがあったとみられる一方、ロシアがウクライナ東部で攻勢を強める中、成果を得るのは難しいとの見方も出ていました。
●「友好的な会談ではなかった」プーチン大統領とオーストリアの首相が会談 4/12
ロシアのプーチン大統領とオーストリアのネハンマー首相が11日、モスクワで会談した。停戦をめぐって具体的な進展はなかった模様だ。
会談はモスクワ近郊でおよそ1時間半にわたって行われた。終了後に会見したネハンマー首相はプーチン大統領に停戦を求め、応じなければロシアへの経済制裁はさらに強化されると伝えたという。また、ロシア軍によるブチャなどでの行動を「深刻な戦争犯罪」だと非難したとしている。
これに対し、プーチン大統領は国際社会に対する不信感を露わにし、ゼレンスキー大統領との会談についても明確な意向を示さなかったという。
ネハンマー首相は「友好的な会談ではなかった」とし、楽観視できるような要素はまったくないとしている。
●ロシアに「前向き印象なし」―オーストリア首相、プーチン氏と会談 4/12
オーストリアのネハンマー首相は11日、ロシアのプーチン大統領とモスクワ郊外の大統領公邸で行った会談について「(事態打開に向けた)前向きな印象は得られなかった」と述べ、ロシア軍によるウクライナ東部での「大規模な攻撃準備が進んでいる」という認識を示した。オーストリアのメディアによると会談後、単独で記者会見した。
2月下旬のロシア軍のウクライナ侵攻後、プーチン氏と欧州連合(EU)加盟国の首脳による対面形式の会談は初めて。ネハンマー氏は会談を振り返り、「ウクライナで起きている事実に関し、1対1でプーチン氏に突き付けるのが重要だ」と語った。ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で民間人の遺体が見つかったことも取り上げたが、プーチン氏は「ウクライナの仕業」と主張して議論は平行線をたどったという。
●プーチン、戦争は「早く終わらせた方がいい」…ゼレンスキーとの直接会談 4/12
オーストリアのカール・ネハンマー首相は11日、訪問先のロシアでのプーチン露大統領との会談を受けてオンライン形式で記者会見し、会談では即時停戦や市民の避難に対する協力を求めたものの、「概して良い印象は得られなかった」として、目立った成果がなかったことを明らかにした。
ネハンマー氏は単独で記者会見した。プーチン氏は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が求める直接会談の提案にほぼ意欲を示さなかった一方で、会談終盤では、戦争は「早く終わらせた方がいい」とも発言したという。
ネハンマー氏は、プーチン氏の発言はウクライナ東部での作戦強化を示唆したか、停滞しているトルコでの停戦協議への期待を示した可能性があるとの見方を明らかにした。協議を仲介するトルコのタイップ・エルドアン大統領に会談内容を伝えるという。会談では、ロシアとウクライナの「双方が敗者になる」として戦争終結を求め、犠牲者が出る限り、対露制裁は継続・強化されるとも伝えた。
会談時間は約75分間だった。タス通信によると、露大統領報道官は記者団に「最近の会談としては、長く続くものではなかった」と述べた。
●厳しい制裁が逆効果 ロシア中間層、プーチン氏支持に転向 4/12
ロシアで広告業を営むリタ・ゲルマン(Rita Guerman)さん(42)は、同国の比較的裕福な中間層の多くと同様、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に長い間反対してきた。
だが、プーチン氏によるウクライナ侵攻の決定を受け、西側諸国がロシアに厳しい制裁を科したことで、大統領に対する見方は変わった。
「私は開眼した」。ゲルマンさんはこう語り、北大西洋条約機構(NATO)からロシアを守ったとして、プーチン氏を称賛した。
西側諸国は制裁を科すことによって、ロシア国内での政府に対する支持を弱めることを期待していた。しかし識者は、厳しい制裁が多くの点で逆効果を生んだと指摘している。
親欧米派が多数を占めていた中間層の多くは、制裁による最初の衝撃がおさまると、自分たちは西側から不当な扱いを受けていると感じるようになり、プーチン氏支持に転向した。
制裁の影響はロシア国民を無差別的に襲い、外国企業との契約を失ったり、欧州への旅行ができなくなったりしたほか、ビザやマスターカードのクレジットカードや西側諸国の医薬品も利用できなくなった。
2月24日、プーチン氏がウクライナに軍隊を派遣したとき、ゲルマンさんはウクライナ企業の広告の仕上げに取り掛かっていた。当初は動揺し、ウクライナ軍に寄付をしようとも考えた。しかし、その後2週間にわたり「歴史家や地政学の専門家」の意見を聞いたことで、プーチン氏を支持するようになった。制裁の結果、外国の顧客をすべて失い、国内の顧客との仕事も途絶えてしまったという。
ゲルマンさんはAFPに対し、「普通の人間であれば戦争を受け入れることなどできない。非常につらいが、これはロシアの主権にかかわることだ」と語った。「プーチン氏はアングロサクソンから私たちを守るため、ウクライナに侵攻するしかなかった」
ロシア科学アカデミー(Russian Academy of Sciences)社会学研究所のナタリア・チホノワ主任研究員は、中間層の多くが抱く心境として、自分はプーチン氏に投票したわけではないのに、ウクライナ侵攻の責任を共同で負わされる理由が理解できないのだと説明。「欧州でロシア人全体を悪者扱いすれば、愛国心をあおるだけだ」と指摘している。
首都モスクワに住むアレクサンドル・ニコノフさん(37)はAFPに対し「反ロシア・ヒステリー」が世界中にまん延していると批判。ロシア人は団結すべきであり、「つまらないことで論争をしている場合ではない」と語った。
●政府 資産凍結の対象にプーチン大統領の娘ら約400人など追加  4/12
ウクライナ情勢をめぐり、政府は、ロシアに対する追加の制裁措置として、資産凍結の対象に、プーチン大統領の娘らおよそ400人や、ロシア最大の金融機関「ズベルバンク」を追加するほか、ロシア向けの新規の投資を禁止するなどを決めました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続き、首都キーウ近郊などで多くの市民が殺害されているのが見つかったことを受け、政府は12日の閣議で、ロシア軍の行為は戦争犯罪で断じて許されないなどとして、ロシアに対する追加の制裁措置を了解しました。
この中では、資産凍結の対象に、ロシア議会下院の議員や軍関係者、それにプーチン大統領の2人の娘など398人と、国有企業を含む26の軍事関連団体のほか、ロシア最大の金融機関「ズベルバンク」や、民間最大の金融機関「アルファバンク」を新たに加えるとしています。
さらに、ロシア向けの新規の投資や、機械類や一部の木材、ウォッカなどのロシアからの輸入を禁止するとしています。
松野官房長官は。閣議のあとの記者会見で「一刻も早い停戦を実現し、侵略をやめさせるため、国際社会と連携してロシアに対する強固な制裁を講ずる必要があるという認識のもと、必要な閣議了解を行った」と述べました。 
●ロシアの化学兵器使用に厳戒 東部で戦闘激化へ―ウクライナ 4/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日夜のビデオ演説で、ロシアによる化学兵器の使用に警戒を強めていると明らかにした。ウクライナの親ロシア派は、包囲下にある南東部の要衝マリウポリで化学剤を使用する可能性を警告。大統領は「最大限深刻に受け止めている」として厳戒態勢にあることを強調した。
東部ドネツク州全域の掌握を目指す親ロシア派幹部は11日、マリウポリの製鉄所に最大4000人のウクライナ兵が陣取っているとし、「モグラをあぶり出すため」に化学兵器を使用することをほのめかしていた。ウクライナの精鋭部隊「アゾフ大隊」はこの日、ロシア軍が無人機で「正体不明の有毒物質」を使用したと主張。ウクライナや米英などが検証を進めている。
親ロシア派幹部はその後、インタファクス通信に対し、化学兵器の使用を否定した。
トラス英外相はツイッターで、化学兵器のいかなる使用も「紛争の無慈悲なエスカレーション」に当たるとし、事実であればロシアのプーチン大統領に責任を取らせると警告した。バイデン米大統領は3月下旬、化学兵器が使用されれば米国と北大西洋条約機構(NATO)が「対抗措置を取る」とけん制している。
英国防省の12日の戦況報告によると、ロシア軍はウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州でウクライナ軍への集中的な攻撃を続けているほか、南部のヘルソン、ミコライウ周辺でも戦闘が起きている。
ベラルーシで物資補給や兵士の補充を受けたロシア部隊がウクライナ東部に再展開する動きが続いており、国防省は「今後2、3週間、東部での戦闘が激化するだろう」と分析している。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)の制圧に失敗したロシアは、5月9日の戦勝記念日までに「成果」を求めているとされ、東部ドンバス地方で総攻撃を仕掛けるとの懸念が強まっている。
●OPEC、22年の世界石油需要見通し引き下げ ウクライナ戦争で 4/12
石油輸出国機構(OPEC)は12日に発表した月報で、2022年の世界の石油需要の伸び見通しを日量367万バレルと前回予想から48万バレル下方修正した。ロシアのウクライナ侵攻による影響や原油価格の高騰に伴うインフレ進行、中国での新型コロナウイルス感染再拡大などが理由という。
月報で「22年はロシアとウクライナの双方がリセッション(景気後退)に直面することが予想されるが、他の世界経済も全面的に影響を受ける」と指摘。「コモディティー価格の大幅な上昇と、中国などで進行中のサプライチェーン(供給網)のボトルネックや新型コロナ関連の物流の行き詰まりが相まって、世界的なインフレを煽っている」とした。
OPECは、インフレが世界経済に影響を与える主因とし、今年の経済成長率予想を4.2%から3.9%に引き下げた上で、さらに引き下げる可能性があると言及。「この予想に対する一段の下方リスクはかなり大きく、特に現在の状況が22年後半まで続くか、あるいは悪化した場合、0.5%ポイント以上(の下方修正)に達すると推定される」とした。
●プーチン氏、情報員150人追放 ウクライナ侵攻難航で―英紙 4/12
12日付の英紙タイムズは、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻の難航を受け、連邦保安局(FSB)に所属する情報員約150人を「追放」したと報じた。一部は「虚偽の情報を大統領府に提供した」との責任を問われたという。
FSBはプーチン氏が在籍した旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後継機関。侵攻難航の責任が古巣の情報機関にあると判断した可能性もありそうだ。
●政府 ロシア追加制裁 アルコール飲料など38品目の輸入禁止へ  4/12
ウクライナ情勢をめぐり、政府は、ロシアに対する追加の制裁措置として、アルコール飲料や木材など合わせて38品目のロシアからの輸入を4月19日から禁止することを決めました。ロシアからのモノの輸入を禁止するのは初めてです。ロシアへの追加の制裁措置としてロシアからの輸入が禁止されるのは合わせて38品目です。具体的には、ウォッカ、ビール、ワインなどのアルコール飲料や、丸太やチップ、それに原木を切って削った単板などの木材のほか、自動車やオートバイとそれらの部品、金属加工機械、ポンプといった、機械類・電気機械が対象となります。輸入禁止は今月19日からで、政府によりますと、ロシアからのモノの輸入を禁止する措置はこれが初めてです。ただ、今月18日までに輸入の契約を結んでいるものについては、3か月の猶予期間が設けられるほか、個人的な使用が目的の場合は、対象外となっています。ロシアから日本への輸入総額は、天然ガスや石油などエネルギー資源を含め、去年は1兆5000億円ほどで、このうち今回、輸入禁止となる品目が占める割合は、全体の1.1%だということです。
ロシア法人の10%以上の株式取得なども許可制にし投資禁止へ
今回の追加制裁では、外国為替法に基づき、ロシアの法人に対し新たに10%以上の株式を取得することや、設備投資などを想定して新たに1年を超える期間の貸し付けを行うことなどを、国による許可制とすることでロシアへの投資を禁止します。ロシアの法人にはあたらない組合や団体などに対しても、日本からの金銭の支払いは禁止されます。こうした措置は、1か月の経過期間を置いたうえで来月12日から実施されるということです。一方で、今回の措置がとられる以前に行われた投資は禁止の対象外となるため、法律を所管する財務省はすでに投資が行われた案件には影響がないと説明しています。
経済同友会 櫻田代表「G7で足並みそろえるのは当然」
政府がロシアへの追加の制裁措置を決めたことについて、経済同友会の櫻田代表幹事は12日の定例会見で「価値観を共有するG7=主要7か国が一体となった制裁なので、足並みをそろえるのは当然だと思っている」と述べました。そのうえで、日本企業のロシアにおける今後の事業の在り方については「経済と安全保障は表裏一体だ。今のウクライナ情勢は数年にわたって続くかもしれず、不確実性が高まっているのは認めざるをえない。今の考え方はロシアへの依存度を下げていきながら、時間をかけて代わりのマーケットを探していかないといけない」として、段階的に縮小させるべきとの認識を示しました。
●日伊防衛相、ロシア非難 ウクライナ情勢巡り 4/12
岸信夫防衛相は12日夜、イタリアのグエリーニ国防相と防衛省で会談した。ロシア軍による侵攻が続くウクライナの情勢を巡り「民間人の殺害は重大な国際人道法違反で断じて許されない」と非難。グエリーニ氏は「国際社会と共に断固として非難したい」と言及した。イタリアは先進7カ国(G7)や、北大西洋条約機構(NATO)のメンバー国。
両氏はインド太平洋地域での中国の覇権主義的な動きを踏まえ、一方的な現状変更の試みに反対する考えで一致。岸氏は会談で「欧州とアジアの安全保障は不可分だ。インド太平洋地域への関与の高まりを歓迎する」と強調した。
●民間人殺害は「フェイク」 ウクライナ侵攻後初の記者会見―ロシア大統領 4/12
ロシアのプーチン大統領は12日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャの民間人殺害は「フェイク(偽情報)」と主張した。ウクライナでの軍事作戦の終了時期は「戦闘の激しさに左右される」と述べ、当初の計画通りに遂行すると強調した。極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で、ベラルーシのルカシェンコ大統領との共同記者会見で語った。
2月24日のウクライナ侵攻開始後、プーチン氏が記者会見したのは初めて。プーチン氏はウクライナとの停戦交渉をめぐり、3月29日に行われたイスタンブールでの協議の合意をウクライナ側が翻したとして、「再び行き詰まりの状態に戻った」と非難した。会見に先立ち、プーチン氏は宇宙基地職員らと交流し、ウクライナ軍事作戦の目標が達成されることに「疑いはない」と自信を示した。
●プーチン大統領「軍が目標達成疑いない ロシアの孤立不可能」 4/12
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻でロシア軍の苦戦が伝えられる中、プーチン大統領は「軍が目標を達成することに疑いはない」と述べました。
プーチン大統領は12日、極東のアムール州で建設を進める新しい宇宙基地「ボストーチヌイ」を訪れ、新型ロケットの発射台などを視察しました。
このあと、プーチン大統領はロシアの宇宙開発をアピールする行事で、ウクライナへの軍事侵攻について言及し、ロシア軍の苦戦が伝えられる中、「軍が目標を達成することに疑いはない」と述べました。
また、「ウクライナ東部の住民を救うためほかに選択肢はなかった」と改めて侵攻を正当化したうえで「われわれは孤立するつもりはなく、今の世界でロシアのような大国を孤立させることは不可能だ」と述べ、欧米などから厳しい制裁を科される中であくまで強気の姿勢を示しました。
現地にはロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領も招かれ首脳会談が行われていて、プーチン大統領は冒頭、経済制裁を念頭に「いわゆる外圧にもかかわらず両国の経済関係は順調に発展している」と述べました。
首脳会談でプーチン大統領はウクライナでの作戦状況を説明するとともに、欧米に対抗するための結束を確認するものとみられます。
ロシアのプーチン政権は、宇宙開発を重要な国家プロジェクトの1つに位置づけていて、宇宙に向けてロケットなどを打ち上げる新たな拠点として、極東のアムール州に宇宙基地の建設を進めてきました。
宇宙基地は、ロシア語で「東」を意味する「ボストーチヌイ」と名付けられ、国営の宇宙開発公社「ロスコスモス」は2016年、この基地から人工衛星を搭載したロケットの打ち上げに初めて成功したと発表しました。
「ロスコスモス」は2025年には有人ロケットの打ち上げを行う方針を示していて、ソビエト時代から利用している中央アジアのカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地にかわる、宇宙開発の拠点としたい考えです。
プーチン大統領がこの宇宙基地を訪れる4月12日は、61年前の1961年、旧ソビエトの宇宙飛行士、ガガーリンが人類初の宇宙飛行に成功した日で、ロシアでは、国民が誇りを抱く特別な記念日として祝われています。
プーチン大統領としては、軍事侵攻を続けるウクライナで苦戦が伝えられる上、ロシア国内で反戦を呼びかける声も相次ぐ中、記念日にあわせて、新しい宇宙基地の意義をアピールすることで、国威発揚につなげたい狙いがあるものとみられます。
●ロシアを孤立させる試みは失敗する=プーチン大統領 4/12
ロシアのプーチン大統領は12日、極東のボストーチヌイ宇宙基地を訪問し、同国を孤立させようとする米欧などの試みは失敗に終わると述べた。
旧ソ連の宇宙計画に言及し、ロシアは厳しい状況下でも目覚ましい飛躍を遂げることができると主張した。
国営テレビで大統領は、ソ連は制裁を受けて孤立していたが、世界で初めて有人宇宙飛行に成功したと指摘。「われわれは孤立するつもりはない。現代においてある国を、とりわけロシアのような広大な国を著しく孤立させることは不可能だ」と語った。
プーチン氏はベラルーシのルカシェンコ大統領と共に宇宙基地を視察。ルカシェンコ氏は「なぜそれほど制裁を懸念するようになったのか」と述べた。 

 

●プーチン氏、「アゾフ大隊」本拠地マリウポリに「懲罰」か…完全制圧目指す  4/13
ウクライナに侵攻しているロシア軍が南東部の港湾都市マリウポリの完全制圧を目指す背景として、ウクライナ民族主義を掲げる武装組織「アゾフ大隊」の本拠地であることが指摘されている。ウクライナの民族主義を反ロシア的だとしてナチス・ドイツになぞらえるプーチン大統領にとって、アゾフ大隊の打倒は国内に「非ナチ化」を実現したと訴える「戦果」となる。
アゾフ大隊は2014年にウクライナの親露派政権の崩壊につながった親米欧派の大規模デモに合わせ創設された。現在はウクライナの軍事機構に組み込まれ、ロシア軍と戦っている。
プーチン政権は、14年の政権交代を「クーデター」とみなし、アゾフ大隊も敵視する。
ウクライナを攻撃するロシア軍は、3月初めから人口約40万人のマリウポリを包囲し苛烈な「兵糧攻め」を続けている。このため人道危機が深刻化している。
米国の政策研究機関「戦争研究所」は11日、マリウポリ攻略は、ロシア軍のウクライナ侵攻作戦の総司令官に任命されたと報じられているアレクサンドル・ドボルニコフ上級大将が指揮してきたと指摘した。
ウクライナ南部クリミアから東部の親露派武装集団の支配地域につながる「回廊」確保を目指すプーチン政権にとって、マリウポリ制圧は戦略的に重要だ。
一方、ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は3月下旬のインタビューで、プーチン氏が「マリウポリが親露派に付かなかったことへの恨みを晴らそうとしている」と指摘した。ロシアが14年にクリミアを併合した後に勃発したウクライナの東部紛争で、マリウポリは親露派地域に入らなかった。このためプーチン氏はマリウポリに「懲罰」を科しているとの見方を示したものだ。
プーチン氏は5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日での「勝利宣言」に向け、国内向けの「戦果」が求められているとされる。マリウポリを制圧できれば「戦果」として強調できる。マリウポリの攻防は、ロシアの侵攻作戦全体の行方に影響する可能性がある。
●国連 “ウクライナで少なくとも1892人の市民が死亡”  4/13
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から今月11日までに、ウクライナで少なくとも1892人の市民が死亡したと発表しました。このうち153人は子どもだということです。
死亡した人のうち1217人はキーウ州や東部のハルキウ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州などで、675人は東部のドネツク州とルハンシク州で確認されています。
また、けがをした人は2558人にのぼるということです。
多くの人たちは砲撃やミサイル、空爆などによって命を落としたり、負傷したりしたということです。
今回の発表には、ロシア軍の激しい攻撃を受けている東部マリウポリなどで、確認がとれていない犠牲者の数は含まれておらず、国連人権高等弁務官事務所は、実際の数はこれよりはるかに多いとしています。
●目的完遂まで作戦継続 ロシア大統領、民間人殺害を否定― 4/13
ロシアのプーチン大統領は12日、ウクライナ侵攻の停戦交渉に関し、ウクライナ側の翻意によって「再び行き詰まりの状態に戻った」と非難し、合意に達しない限りは「最初に設定された目的が完遂されるまで軍事作戦を継続する」と述べた。極東アムール州で行われたルカシェンコ・ベラルーシ大統領との共同記者会見で語った。
プーチン氏は、3月29日にイスタンブールでの停戦交渉で「安全の保証」に関する一定の合意に達した後、ウクライナ側が態度を翻したと主張。「原則的な問題での一貫性のなさが最終合意に達することを困難にしている」と批判した。軍事作戦の終了時期は「戦闘の激しさに左右される」と強調し、当面戦闘を続ける意向を示した。
ウクライナが態度を硬化させたのは、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでロシア軍撤収後に多数の民間人殺害が発覚したことが原因だ。ブチャのフェドルク市長は12日、これまでに403遺体が確認されたと明らかにした。しかし、プーチン氏は会見で民間人殺害について「フェイク(偽情報)だ」と主張した。
●プーチン大統領 “停戦交渉こう着 目的達成まで軍事作戦継続”  4/13
ロシアのプーチン大統領はウクライナと行っている停戦交渉について「ウクライナが合意から後退し、こう着状態に陥った」と非難しました。そのうえで「目的が達成されるまで軍事作戦は継続する」と述べ、現時点では停戦に応じず、軍事侵攻を続けていく考えを強調しました。
ロシアのプーチン大統領は12日、ロシア極東でベラルーシのルカシェンコ大統領と首脳会談を行いました。
会談後、共同で記者会見したプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻について「欧米が育てた極端な民族主義勢力との衝突は避けられず、もはや時間の問題だった」と述べ、改めて正当化しました。
そのうえで「状況は悲劇だが、ウクライナ人はきょうだいのような民族だ」と一方的な持論を展開しました。
そして「軍事作戦をもっと早く進められないのか聞かれるが、戦闘を激しくすることでそれは可能だ。ただ、残念ながら犠牲者を伴う。われわれは、計画に沿って粛々と作戦を実行する」と述べました。
一方、ロシア軍が撤退した首都近郊のブチャで多くの市民が殺害されているのが見つかり、欧米がロシアによる戦争犯罪だと非難していることについてプーチン大統領は「シリアで化学兵器が使用されたと騒がれた時と同じようにフェークだ」と主張し、ロシアの関与を否定しました。
そのうえで、トルコのイスタンブールで先月末に行われた停戦交渉についてプーチン大統領は「ブチャをめぐる挑発行為を受けてウクライナ側が当時の合意から後退し、こう着状態に陥った」と非難しました。
そして、一方的に併合したウクライナ南部のクリミア半島や東部地域の独立の承認が合意の前提になるというロシア側の主張を踏まえ「交渉で最終合意に至り、目的が達成されるまで軍事作戦は継続する」と述べ、現時点では停戦に応じず、軍事侵攻を続けていく考えを強調しました。
また、プーチン大統領は、中長期的には欧米の制裁がロシア経済に影響を与える可能性があるという認識を示しながらも「困難な状況下でロシア人は常に団結する。われわれはこの困難に対処していく」と述べ、ロシアを孤立させようとする欧米側の試みは失敗すると強気の姿勢を示しました。
●キーウ敗北軍の再構築でさらなる大打撃被るロシア軍 4/13
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月24日に開始したロシア・ウクライナ戦争(露宇戦争)は既に50日が経過しようとしている。
過去10年間、ロシア軍の近代化と戦力向上について多くのことが語られてきたため、戦争開始以前は、「ロシアは世界最大かつ最強クラスの軍隊を保有している」と広く信じられていた。
軍事力は米国には及ばないが、ウクライナのような軍事的弱小国を征服する能力はあると思われていた。
プーチンは、2日間で首都キーウを占領し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を打倒し、ロシアの傀儡政権を樹立し、ロシアがコントロールするウクライナの建設を夢想した模様だが、その試みは見事に失敗した。
7週間にわたるウクライナでの戦争で、ロシア軍は首都キーウを占領できず、大きな損害を出して撤退せざるを得ない状況になった。
ロシア連邦軍の評判は地に落ちている。そして今、ロシア軍はウクライナの他の地域でも劇的な成功は望み薄で手詰まり状態になりつつある。
プーチンが始めた露宇戦争は、プーチンの意図とは逆に、米国などの民主主義陣営の結束を強化する結果となり、ロシアの国際社会における孤立を決定的なものにした。
さらに、民主主義諸国のロシアに対する厳しい経済制裁は、ロシア経済に甚大な被害を与え、ロシアの国力は徐々に減衰する可能性が高い。
2014年のロシアのクリミア半島併合に対する経済制裁ですらロシアの製造業、特に軍事産業に大きな影響を与え、西側諸国の部品を必要とする武器の製造を困難にした。
例えば、ロシアの最新戦車「アルマータ(T-14)」は、西側諸国の部品が入手できずに量産(当初の計画では2020年までに2300両の製造を予定していた)を断念した。
世界の軍事専門家が「なぜアルマータが戦場に登場しないのか」という疑問に対する答えがここにある。
2022年の経済制裁は、2014年のそれに比較にならないくらいに厳しい。
西側から半導体やベアリングが入手できず、最新鋭の軍事装備品が製造できないロシアはもはや軍事大国とは言えない状況になるであろう。
考えてみれば、今回のプーチンの歴史的な誤判断のために、世界的なパワーバランスが民主主義陣営にとって有利な状況になる可能性が出てきた。喜ばしいことである。
1 ロシアが敗北したわけ:ロシア側の要因
露宇戦争の初期作戦において、ウクライナ軍がロシア軍に勝利したことは明白である。
ウクライナ軍は、特にロシア軍の主攻撃であった首都キーウ正面において、ロシア軍に大打撃を与え、ロシア軍を撤退せざるを得ない状況にした。
この項では、ウクライナが強大な大国と思われたロシアとの緒戦において勝利したのはなぜかについて、ロシア側の原因に着目して記述する。
   独裁者プーチンの戦争
露宇戦争は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」であると私は思っている。
つまり、今回の戦争に対してはその結果も含めてプーチンにすべての責任がある。
独裁者プーチンが自ら戦争の実施などの重要事項を決定した。プーチンの決定は、プーチンとプーチン以外の断絶を明らかにした。
戦争をやる気満々のプーチンと戦争に乗り気でないプーチンの側近たち、特に国防相セルゲイ・ショイグやロシア連邦軍参謀総長ワレリー・ゲラシモフの間には断絶がある。
プーチンを今まで支えてきたシロビキ(治安・国防関係者)、オリガルヒ(新興財閥)、ロシア軍がプーチンについていけない状況になっている。
20年以上にわたりロシアのトップに君臨したプーチンは裸の王様になっている。
裸の王様には正しい情報が流れない。プーチンが喜ぶ情報しか彼に届かないで、彼にとって不都合な情報は届かない状況になっていると言われている。
この状況がロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価するという致命的な結果を招いてしまった。
   ロシア軍を過大評価しウクライナ軍を過小評価してしまった
プーチンは、ロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価してしまった。
その結果、戦争を始める前に行う情報見積(敵の能力や敵の可能行動に関する見積)や作戦見積(我に関する見積で、行動方針やその結論を含む)が極めて不適切なものとなり、その見積に基づいて作成される作戦計画が問題だらけになってしまった。
例えば、2日間で首都キーウを占領し、ゼレンスキー政権を排除し、傀儡政権を樹立し、ウクライナ全体を数週間で占領するなどの計画は非現実的なものになってしまった。
今回の初期の作戦では大きく分けて北、東、南方向からの攻撃を19万人の兵力で約19万人のウクライナ軍に対して実施してしまった。
通常、攻撃側は防衛側の5倍の戦力で攻撃しなければ成功しないのが原則だ。
この原則に従うと95万人の兵力が必要であるので、そもそもロシア軍の攻撃は失敗するのが必然だったのだ。
甘い見積や計画のために、食料・飲料水、弾薬、燃料などの兵站が機能しなくて大問題を引き起こしてしまった。
「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」という格言があるが、兵站なくして戦争の勝利はあり得ない。
この兵站の問題は深刻な問題で4月12日の時点でも解決していないし、今後とも大幅に改善することはないであろう。
その他の敗北の原因は、ウクライナ軍・ゼレンスキー政権・ウクライナ国民の頑強な抵抗や西側諸国の経済制裁に対する過小評価、情報戦の失敗、航空優勢獲得のための航空攻撃・ミサイル攻撃が不完全、ロシア軍の練度・士気の低さ、厳寒期の寒さ対策の欠如による凍傷の多発などが列挙できよう。
   ロシア陸軍の中核である「大隊戦術群」の致命的な欠陥
ここで、軍事的に非常に重要な部隊編成の欠陥について記述する。
ドゥプイ研究所(TDI:The Dupuy Institute)は、トレヴァー・ドゥプイ(Trevor N. Dupuy)が設立した研究所で、軍事紛争に関連する歴史データの分析を主とした学術的研究機関だ。
TDIがツイッター(@dupuyinstitute)で、「ロシア地上軍の中核である大隊戦術群(BTG:Battalion Tactical Group)の欠陥がロシア軍の作戦失敗の大きな原因である)と本質的な主張しているので紹介する。
BTGとは、簡単に言えば、大隊規模の任務編成された諸兵科連合(combined arms)チームのことである。
第2次世界大戦以降、すべての主要な軍隊が諸兵科連合チームを採用している。
図1を見てもらいたい。BTGは増強された機械化歩兵大隊で、3個の歩兵中隊に砲兵中隊、防空小隊、通信小隊、工兵小隊、後方支援部隊などで編成され、総計で兵員700〜1000人(この中で歩兵は200人)、戦車10両、装甲歩兵戦闘車40両の部隊だ。
ここで注目されるのが歩兵の数が200人と極端に少ない点である。
ロシア軍は、170個のBTGを編成したが、その中で128個のBTGが今回の戦争に参加し、37〜38個が壊滅的損害を受けている。
128個中38個の損害は30%の損害であり、軍事の常識で30%の損耗を被るとその部隊は機能しなくなる。
特に主攻撃であった首都キーウを包囲し攻撃したBTGの損害は最大50%という情報もあり、この正面が攻撃をあきらめて撤退したのは当然のことであった。
   図1:「大隊戦術群の編成」
ドゥプイ研究所はツイートでBTGの問題点を列挙しているが、主要な指摘は以下の通りだ。
・ ロシア軍が現在BTGを重視しているのは、利用可能な人員が不足しているためである。BTGはチェチェン紛争の際に便宜的に使用され、2013年にロシア国防省のマンパワーが少ないことへの対策として全面的に採用されたものである。
・ロシア軍のBTGとドクトリンは、マンパワーを犠牲にして、火力と機動力を重視して構築されている。
・ 西側のアナリストは、ロシアのBTGはリアルタイム(またはほぼリアルタイム)で長距離砲撃をネットワーク化することができると考えていた。例えば2014年のゼレノピリア攻撃*1のように。
(なお、ゼレノピリア攻撃とは、2014年7月11日の早朝、ロシア領土内からロシア軍によって発射されたロケット弾幕が野営していた37人のウクライナの兵士と国境警備隊員を殺害した攻撃のことだ)
・BTGは、実際にはこれが機能しないことが判明した。安全な手段で通信することさえできないし、ましてや遠距離で素早く効果的に狙いを定めて攻撃することはできない。このため、BTGの戦闘力の優位性はほとんど失われている。
・ロシアのBTGは有能な諸兵科連合戦術を実行できないように見える。第1次世界大戦以来、諸兵科連合は近代的な火力・機動戦術の基本中の基本であったから、BTGは基本的に失敗の組織である。
・これは、効果的な歩兵支援の欠如に大きく表れている。BTGの歩兵は、ウクライナの機械化・軽歩兵の対戦車キラーチームが、ロシア軍の装甲戦闘車(AFV)、歩兵戦闘車(IFV)、自走砲を攻撃するのを防ぐことができない。装甲部隊の防護は歩兵の主要な仕事である。
・これは歩兵部隊が有効でないためか、BTGの歩兵の数が足りないためかは不明であるが、おそらく両方であろう。
・実際、BTGは、妥当な戦闘損耗で、防御された市街地を攻撃し占領するのに必要な歩兵部隊の質と量を欠いている。
・BTGの人員構成がスリム(約1000人以下)であるため、多くの消耗を被ると戦闘力と効率性が著しく低下する。
・BTGのパフォーマンスが、ロシア軍の人員と訓練に内在する欠陥によるものか、それとも教義上のアプローチの欠陥によるものかを判断するには、徹底的な分析が必要である。しかし、ここでもまた両者に原因があると思われる。
・いずれにせよ、これらの問題は短期的には改善されそうにない。この問題を解決するためには大規模な改革が必要である。
以上のようなドゥプイ研究所の主張は妥当だと思う。ロシア軍が露宇戦争に勝てない要因が根本的なものであるならば、今後のロシア軍の苦戦は明らかであろう。
*1=2014年7月11日の早朝、ロシア領土内からロシア軍によって発射されたロケット弾幕は、野外でキャンプしていた37人のウクライナの兵士と国境警備隊を殺害した。
2 選択肢を失いつつあるロシア軍
セントアンドリュース大学(スコットランド所在)のフィリップス・オブライエン教授は、ロシア・ウクライナ戦争についてツイッターや有名雑誌への投稿など精力的に情報発信を行っている。
本項は、オブライエン教授の論考「選択肢を失いつつあるロシア軍(The Russian army is running out of options)」やツイッター(@PhillipsPObrien)でロシア軍に対する厳しい批判をしているので紹介する。
   ロシア軍の規模は小さすぎる
キーウの戦いでの失敗後、ロシア軍は東部と南部の軍を統合し、ドンバスのウクライナ軍の包囲殲滅などの大規模な攻勢を再開しようとしている(図2を参照)。
   図2:「4月11日の戦況図」
問題は、ロシア軍の作戦が、小さすぎるロシア軍に依存していることである。
東部で大規模な作戦を展開し、ウクライナの陣地を急速に突破してウクライナの主要都市を奪取するには十分な戦力と新たな戦術・戦法が必要だ。
つまり、敗北した部隊を迅速に再編成して補給し、以前の失敗から多くを学び、複雑な作戦を勝利に導く戦術・戦法を採用する必要がある。
ロシア軍は、今までこれらすべての点で失敗してきた。
ロシア軍はおそらく、東部や南部で大規模な攻撃を成功させる代わりに、作戦開始以来行ってきたように、兵力の維持に苦労し、兵站に苦しむことになる。
ある地域では少しずつ成果を上げ、別の地域では押し戻されることになるだろう。
これは、何よりもまず、ウクライナに投入されたロシア軍の規模が小さすぎるためであり、その他のロシア軍も、指導者が実際に効果を上げることができると信頼できるような兵力を有していないためである。
ロシア軍は特別に大きいというわけではなく、実際には、戦闘力の点で中型の軍隊に過ぎない。
ロシアは19万から20万人の兵士でウクライナに侵攻したが、この部隊にはロシア陸軍のまともな戦闘力を持つ部隊の約75%(170個のBTGから128個BTGが戦争に参加していると仮定)を含むと考えられていた。
これまでのところ、この75%のロシア軍最高の部隊は苦戦している。
キーウ周辺で敗れ、多くの死傷者を出した後、急遽撤退を余儀なくされ、北ウクライナには多くの破壊または放棄された装備が散乱している。
南部と東部でも、ドンバスのイジウムに向けて少しずつ前進しながら、南西部のヘルソンでは実際には後退させられており、3週間前からほとんど動きがない状態となっている。
   敗戦で大きな損害を出した部隊を再使用する長期戦は難しい
もしロシア軍の状態が良ければ、プーチンはウクライナ以外に配置されている部隊を投入し、損害を出している侵攻軍を助けることができるだろう。
しかし、実際にはその逆であるように思われる。
つまり、ネオナチの傭兵(民間軍事会社の私兵「ワグネル」)などを除いて、ロシア指導部はキーウの戦いで敗れた部隊を再使用しようとしていている。
これは、通常の軍事的常識では理解できない話だ。
キーウ正面の戦いで敗北した兵士たちは6週間の戦闘を経験し、多くの仲間が殺されるのを見て、ウクライナ軍を恐れるようになっている。
兵器を整え再編成し、新たな戦場へ移動する前に、何よりもまず休息が必要なのだ。
そのためには、よく組織された軍隊でも通常数週間かかるし、ロシア軍にとっては兵站が再び大きな足かせになる可能性がある。
ロシア兵を早く悲惨な戦争に再び戻そうとすることは、プーチン指導部のパニックの表れであり、プーチン政権にとって大きなリスクとなる。
ロシア軍の兵士がウクライナへの派兵を拒否したという話はすでにある(空挺部隊のような精鋭部隊の一部も拒否している)。
再投入された部隊は、完全に崩壊状態になる可能性がある。
人間は、戦争の緊張に長く耐えることは難しいし、敗戦した軍隊はその緊張をうまく受け止められない場合が多いのだ。
これは、ロシアの兵力がウクライナ全土を占領するのに十分ではないことが原因だ。
南部と東部の一部を占領するのに十分な兵力はあるかもしれないが、その後にそれらの地域を保持しようとすると、良質な部隊が残っていない。
ロシアがより長い戦争をするためには、全く新しい軍隊を創設し、訓練し、装備を与える必要がある。
ロシア社会の戦争へのコミットメントが問われ、ロシア人を解放し、ウクライナを非ナチス化するための戦争であるというロシア国家の嘘が完全に崩れ、すでに西側諸国の経済制裁が威力を発揮しつつある。
ロシアがウクライナで直面している基本的な問題は、その軍隊があまりにも小さく、ロシア政府が信頼する兵士が少なすぎて、実際に戦えないことだ。
ロシア軍は、多くの人が想像しているよりも悪い状態にある可能性が高い。
つまり、ロシア軍は今後、マリウポリの占領などの小さな戦果を得ることがあっても、プーチンが戦争開始にあたり夢見たような大戦果を得ることはなく、戦争が数年間継続する公算が高くなっている。
最後に、我々日本人は露宇戦争から多くの教訓を学び、我が国の問題だらけの安全保障体制を改善する努力をすべきであろう。
●ウクライナ戦争 世界食料安保への影響 食い止めよ−FAO事務局長 4/13
FAO(国連食糧農業機関)は4月8日にウクライナ戦争が世界の食料安全保障に及ぼす影響を議論するためFAO理事会を召集し、屈冬王事務局長が世界のサプライチェーン機能を維持することの重要性を強調した。
FAO理事会は最新の食料価格指数が159.3ポイントと過去最高を更新するなかで開かれた。
屈事務局長は「小麦や植物油など主食の価格は最近高騰しており、世界の消費者、とくに最貧困層に異常なコストを押し付けている」と指摘するとともに、エネルギー価格も上昇しているため「脆弱な消費者や国々の購買力はさらに低下している」と述べた。
一方で肥料価格は高騰し、来シーズン、さらにそれ以降も肥料使用量の減少を招き、食料生産の低下がさらに食料価格の上昇につながるという見通しもあり「2022年以降、さらに多くの栄養不足の人々が発生する可能性がある」と警告した。
ロシアとウクライナは合わせて世界の小麦輸出の3割、ヒマワリ輸出の8割を占め、ロシアは最大の肥料輸出国であることから、「この2か国からの供給途絶は世界の食料農業システム全体に及ぶことになる」と指摘した。
こうしたなか「世界貿易システムを停止させてはならないし、輸出を制限したり課税したりしてはならない」と強調した。
具体的な提案は、もっとも脆弱な国々が肥料を効率的に使用できるように支援する詳細な土壌マップの作成と実施、的確な社会保護計画、アフリカ豚熱など動物疾病蔓延を防ぐため、ウクライナ近隣諸国でのバイオセキュリティの強化、市場の透明性と政策対話の強化により、混乱を最小限に抑え、食料の円滑な貿易の流れを確保するなど。
屈事務局長は「よりよい生産、よりよい栄養、よりよい環境、よりよい生活をすべての人に確保し、誰1人として取り残されることがないよう、効率的で首尾一貫した方法でともに働こうと」と呼びかけた。
●ウクライナ、ロシアに捕虜解放要求 親ロ派有力者と交換で 4/13
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、国内の親ロシア派有力政治家の拘束を解くことと引き換えに、ウクライナ人戦争捕虜を釈放するようロシアに求めた。戦闘の長期化が予想される中、米国はウクライナに追加の軍事支援を行う構えだ。
バイデン米大統領は12日、ロシアのウクライナ侵攻が「ジェノサイド(集団殺害)」に該当するとの見方を初めて示した。その後、発言を補足する形で、法的手続きによって最終的に認定されることになると述べた。
ウクライナ当局は同日、「野党プラットフォーム―生活党」の党首でロシアのプーチン大統領と親交が深いビクトル・メドベチュク氏を逮捕したと発表。同氏は昨年に国家反逆容疑で捜査対象となり、今年2月に自宅軟禁から逃亡したと当局が公表していた。不正行為は否定している。
ゼレンスキー氏は早朝のビデオ演説で「ロシアには(メドベチュク氏)と、ロシアの捕虜になっているウクライナ人との交換を提案する」と述べた。
タス通信によると、ロシア大統領府(クレムリン)の報道官はメドベチュク氏が手錠を掛けられている写真を見たが、本物かどうかは分からなかったと述べた。
プーチン大統領はこれに先立ち、1週間余ぶりにウクライナ戦争について公の場で発言。ロシアは軍事作戦を「規則正しく冷静に」継続すると述べ、安全保障などの目的が達成できると確信していると表明した。
また、ウクライナとの和平交渉は「再び行き詰まった」との見方を示した。
発言中は、要点がまとめらないまま話を続けたり、口ごもる場面が多くあった。プーチン氏の特徴でもある冷徹な表情は時折見せただけだった。
一方、米政府が早ければ13日にウクライナに対する7億5000万ドルの追加軍事支援を発表すると、事情に詳しい関係者2人がロイターに述べた。
ウクライナ南東部ドネツク州のキリレンコ知事は、ロシア軍に包囲されている同州マリウポリで化学兵器が使用された可能性があるとの情報について、確認はできないと述べた。
米英は、ロシア軍が化学兵器を使用した可能性について検証を進めている。
●ウクライナで自壊するロシア、衰退後に中国が得る漁夫の利を阻止するには 4/13
中国共産党の機関紙、人民日報が運営する「人民網日本語版」が、ロシアのウクライナ侵略を奇貨として利益をむさぼる米国を痛烈に批判している。
4月7日付記事「ロシア産エネルギー禁輸で『確実に儲ける』米国の思惑」と題された論評で、中国共産党は「ロシア・ウクライナ紛争を作り出した米国は、利益を得続けるための作戦を早くからしっかりと立ててきた」と主張。「対露制裁の圧力を振りかざしながら、エネルギー・安全保障面で欧州への束縛を強化することで、対露制裁の負の影響の代償を同盟国に払わせると同時に、自国は戦争で大儲け」する米国を難じた。
この批判は、主に米国と欧州の離間を狙ったプロパガンダではあるが、鋭いところを突いている。侵略されるウクライナを支援する正義を掲げる米国だが、我田引水で自国の軍産複合体やエネルギー産業が潤うと同時に、その覇権的影響力が再拡大し、漁夫の利を得ていることは事実である。
もっとも、戦争で漁夫の利を得ることを利益相反、不道徳、利己主義と規定することで、中国共産党は自らの首を絞める結果になっている。ウクライナ戦争の戦況が悪化する中、一連のプーチン大統領の自壊的な行動が中国を経済的・覇権的に利する構造が出現し、それを中国が積極的に利用している現実が明確になりつつあるからだ。
さらに、人民日報が米国の不純な動機を攻撃することで、かえって中露の同盟的な協力関係が浮き彫りになった。結果として、中国共産党が最も世界の目から隠したい自国の利益相反や覇権への野望が浮き彫りになっていることは、誠に皮肉だ。
問い詰められても口を割らないが、勝手に話させると自ら隠すべき秘密をペラペラと喋ってしまうという、ことわざで言うところの「語るに落ちる」という失敗を、中国共産党自身がその米国批判で見事にやらかしているのだ。その矛盾を見ていこう。
中国共産党が放った壮大なブーメラン
まず人民日報は、「米国が欧州向け天然ガス輸出の拡大を発表したのは、決して欧州のためを思ってではなく、自国企業にビジネスチャンスを生み出すためだ」として、利他的に見える行為の裏には利己的な動機があることに読者の注意を向ける。
同紙はさらに、米国が「ロシアの地政学的空間をさらに狭め、欧州に対するコントロールを強化して、日増しに衰退する自らの世界覇的覇権を強固なものにすることを戦略目標としている」と主張する。
こうした中国共産党の言い分から抽出できる普遍的な教訓は、「国々の利他的に見える言動には利益相反があり、利己的な動機と目的が隠されていることがある」「国々は、他国の戦争に乗じて自国の覇権の拡大を図ることがある」である。
人民日報の論評では該当するケースとして米国が挙げられているが、こうした傾向は何も米国に限ったことではなく、歴史的に見てもあらゆる時代の多くの国に適用できる真理であると言えよう。
翻って、中国共産党が「他国の戦争で我田引水を図る利益相反や覇権拡大は悪である」と普遍的な規定を行った以上、自身もその基準で判定され、制約を受ける立場になったということだ。それは、壮大なブーメランと化す。
何となれば中国は、当初意図した結果ではないにせよ、ロシアがウクライナでの戦争で消耗して弱体化することにより、(1)覇権拡大、(2)地政学的な空白の充填、(3)経済的な利益、(4)軍事的な利益の少なくとも4点において有意な恩恵が見込めるからだ。
ロシア衰退後の空白を埋めるのは誰か?
まず覇権の面では、ロシアの国力と通常兵力が衰退することで、米中露の3大超大国からロシアが事実上脱落し、中国の超大国化に貢献することが予想される。世界は米中によりブロック化され、中国が世界の2大盟主の一角を占めることで、「偉大な中華民族の復興」のプロジェクトが加速すると思われる。
次に、覇権と密接に関連して、ロシアの弱体化により将来的に中東、中央アジア、アフリカ、米州に生まれることが予測される地政学的空白に、中国が入り込むチャンスが生まれる。
これには、米国に対するレバレッジとしてロシアを利用するシリア、リビア、エジプトなど中東の国々、ウズベキスタン、トルクメニスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンなど中央アジア諸国、マリ、中央アフリカ、モザンビーク、アンゴラ、ギニア、ブルキナファソ、マダガスカルなどのアフリカの国、キューバ、ニカラグア、ベネズエラなど中南米の国々が含まれる。
これらの国々はいずれも、中国が米国に対抗していく上で重要な拠点になり得る場所ばかりだ。また、ロシアは「中国を除くユーラシア大陸の支配」というあいまいで狭義の秩序構想しか持たないようだが、中国にはより具体的かつ壮大な一帯一路構想がある。将来の潜在的な空白地帯に対する計画と準備は、すでに整いつつある。
一方で、たとえロシアが衰弱しても、その国際的な影響力が即座かつ完全になくなるわけではない。場所によってはロシアの残す空白を、イランやトルコなど中規模の新興勢力や米国が埋めることになるだろう。だが、長期的かつ全体的に見れば、親露国でロシアの地政学的な代替候補にまず挙がるのは中国ではないだろうか。
加えて、イデオロギー面から見ても、ロシアに代わってイランやトルコなど親米的とは言えない有力地域勢力の地政学的パートナーになれるのは、米国ではなく中国だと思われる。中国の得る漁夫の利は、ウクライナにおける戦争で自国の軍産複合体やエネルギー産業が潤い、地政学的な勢いをいくらか回復する米国のそれよりも、はるかに大きいのではないか。
中国が実際に得るであろう漁夫の利
さらに、ロシアがウクライナにおける戦争の泥沼にはまり込むことで金融制裁を招き、国債も債務不履行がほぼ確実だ。外国資産の一方的接収や特許権料の踏み倒し予告などで孤立したため、中国は大きな漁夫の利が望める。
まず、西側による金融・経済制裁で、ロシアの原油や天然ガスの近未来的な大口顧客が減り、中国の比重が増すことで、原油や天然ガスなどを安く買い叩くチャンスを得られる。
また、前回記事「追い詰められたプーチンはいつ生物化学兵器の使用に踏み切るのか」で分析した対露兵器輸出による利益に加え、米国と対立する金融センターとしての地位、反米国グループの決済通貨としての人民元の国際化と地位の向上など、中国には天祐とも言うべき状況だ。ロシアにつぶれてもらっては困るが、弱体化してくれた方が、中国の長期的な利益には合致する。
さらに、西側の国際貿易システムから締め出されたロシアと他国の間接貿易のブローカーとしての儲けも見逃せない。
シグマ・キャピタルのチーフエコノミストである田代秀敏氏は週刊新潮の記事で海産物の例を挙げ、「ロシア産のカニやウニは代替が難しく、日本は今後、中国の商社を経由するなどの形で仕入れるほかない。中国の商社にとっては販路拡大と手数料収入が見込める無二の好機。(日本は)人民元での決済も迫られるだろう」と分析している。
一方、軍事面においても、追い詰められて背に腹は代えられぬロシアから、虎の子のテクノロジーを中国が入手できるチャンスが高まろう。
具体的には、近年の進歩が目覚ましいものの、信頼性、性能、寿命の面でいまだにロシア製の最先端製品に敵わないとされる中国製の戦闘機エンジン向けのライセンス供与や、極超音速ミサイルの技術共有なども話し合われる可能性がある。
戦闘機ターボファンエンジンの技術は、ロシアが大切にして手放さないものだ。中国側が長く不満に感じてきた分野でもあり、特に注目される。そうした技術が手に入れば、中国の殲-20(J-20)双発ステルス制空戦闘機などに採用され、日本の空の脅威になる恐れも考えられる。わが国は「ロシアの弱体化による中国の漁夫の利」に相当の注意を払う必要がある。
中国に漁夫の利を得させない方法
そもそも漁夫の利(漁父之利)とは、前漢の劉向の編んだ戦国策(燕策)が出典である。カワセミ科の鳥である鷸(しぎ)がイシガイ科の二枚貝である蚌(はまぐり)の肉を食べようとして、蚌の貝殻に嘴(くちばし)を挟まれてしまい、膠着状態で互いに争っているうち、現場に居合わせた漁夫に両方とも捕らえられたという寓話にちなむ。
今回の戦争では、鷸たるロシアが、蚌であるウクライナの肉を食そうとして、嘴を貝殻で挟まれてしまったような事態であろう。両者が争って共倒れしてくれた方が、地政学上の新興勢力である「漁夫」の中国にとっては好都合だ。
記事の冒頭に引用した人民日報の記事では、米国が漁夫ということになっているが、本来のことわざの意味とキャラクター設定、そして現在の情勢の推移や利害関係を見ると、虎視眈々と濡れ手に粟を狙う中国こそが漁夫であるとの説明の方がしっくりくる。
この鷸蚌の争い(いっぽうのあらそい)で、地政学上の現状変更を目論む中国に漁夫の利を得させることは、日本や世界の益にはならない。
では、それを阻むにはどのようにすればよいか。すでに鷸役のロシアは疲弊して弱っており、漁夫の中国が独り勝ちすることは防げないように思える。現実的に見て、その底流をここで変えるのは無理だろう。
ただ、中国のコストを吊り上げて、漁夫の利を縮小させることは可能ではないだろうか。
具体的には、前回記事「追い詰められたプーチンはいつ生物化学兵器の使用に踏み切るのか」で見たように、中国がロシアの侵略に作為・不作為の加担をしたエビデンスを収集して2次制裁を課すことが有効であろう。中国外交部の趙立堅報道官も、「制裁は双方または各方面に損害をもたらす」と認めている通りだ。
無論、米欧日を含めて中国が上得意である国々にとっては、対露制裁とは比較にならない経済的な痛みを伴うため、2次制裁が極めて困難であることは自明だ。しかし、どれだけ抜け穴だらけであっても、経済・金融制裁は中国に損害をもたらし、打撃を与える。中国の占める漁夫の利を減らせるわけだ。
●中国に対する2次制裁を検討すべき時  4/13
2次制裁が中国の台湾侵略や西太平洋独占支配に向けた軍事行動を阻止するかと言えば、答えは「ノー」だろう。中国共産党は、「国際社会における中国の立場」という合理性ではなく、「党の核心たる習近平の権威護持」「指導者が成し遂げる中華民族の偉大な復興」という内在的な最重要課題に基づいて行動するからだ。
東京大学東洋文化研究所の松田康博教授は、東洋経済オンラインで以下のように指摘している。
「中国にとって、『平和統一政策』はいまだに現行の政策である。『平和統一政策』があってこそ中国は『平和発展戦略』を続けられるのだ。中国にとって、武力に頼る対台湾政策よりも、経済的交流を通じて台湾独立を阻止し続ける方がはるかにリスクは低い。中国指導部にこのことをきちんと理解させるためにも、日本を含め、関係諸国は対ロシア制裁を貫徹する必要がある」
だが、松田氏のロジックは、中国の内在的論理と整合性がないように思える。「ロシアのウクライナ侵略はない」と開戦前に主張していた識者の言説との深い類似性も気がかりであるし、何より「中国は平和・対話・情勢の沈静化の側に立っている」(中国外交部の王毅部長)との中国の主張にそのまま沿っているように見えるからだ。
また松田教授は、「制裁強化によるロシアの中長期的弱体化は、将来中国が武力行使をする際の後ろ盾を失わせると同時に、中国の対台湾武力行使を思いとどまらせる強い警鐘となる」と主張する。
しかし、西側が対露制裁を貫徹しようがしまいが、対中2次制裁を課されようが課されまいが、どのみち中国は武力に訴えるのではないだろうか。だからこそ人民解放軍は今、類を見ない急ピッチで軍備を過剰に増強しているのだ。
そのため、制裁は中国の漁夫の利を制約する効果しかもたらさない。それでもなお、中国の軍事力増強に経済面から制約を加える効果はある。米欧日は安楽で豊かな生活を一時的に犠牲にする覚悟を固め、中国の侵略に対する準備を加速させるべきだろう。
ウクライナでロシアが行っている戦争犯罪は、近未来に中国が台湾や近隣国に対して実行する残虐行為の前触れに過ぎない。中国がロシアの侵略に作為・不作為の加担をしたエビデンスを早期にとりまとめ、有効な2次制裁の準備を進めることが肝要だと思われる。
●血まみれのウクライナ… 迫りくる「核戦争」 4/13
ウクライナをめぐりロシアとNATO(北大西洋条約機構)の対峙が続く中、ロシアが核兵器を使う可能性をちらつかせたことで、核戦争に対する懸念が高まっている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻初日の2月24日、「誰を問わず、われわれを妨げ、あるいはわが国と国民に脅威を与えた場合、ロシアは直ちに対応し、その結果は歴史上一度も経験したことのないものになるだろう」と述べた。核を直接取り上げたわけではないが、米国などはこれを事実上の「核兵器による威嚇」として受け止めている。プーチン大統領はそれから3日後、核運用部隊に「特殊警戒態勢」への突入を指示し、脅威のレベルをさらに高めた。先月26日には、ロシアのドミトリー・メドベージェフ国家安保会議副議長が乗り出した。同氏はロシアメディアとのインタビューで、ロシア軍の核使用条件について、ロシアと同盟国が核攻撃を受けた場合▽ロシアの核抑止戦力インフラが攻撃を受けた場合▽ロシアと同盟国の存立が危うくなった場合など具体的に示した。
1945年8月、日本の広島と長崎に原爆が落とされて以来、核戦争の懸念が高まったのは今回が初めてではない。核保有国のインドとパキスタンが2000年に武力衝突した時、世界は両国間の「通常戦争」が「核戦争」に飛び火するのではないかと神経を尖らせた。1973年のイスラエルとアラブ諸国のヨム・キプル戦争(第4次中東戦争)の時もイスラエルが核兵器の配備を準備していたことが分かり、波紋が広がった。もう少し時間を遡れば、旧ソ連が1962年、キューバで核基地の建設を進めたことをめぐり、米国と旧ソ連が核衝突の一歩手前まで近づいたこともあった。
核兵器の使用の可能性をちらつかせたプ―チン大統領の発言以降、米軍は監視衛星などを動員し、ロシアの核基地を綿密に監視しているが、まだロシアが実際に核の使用を準備している情況はないという。米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は先月23日、「我々の核態勢を調整すべき何の理由も見つからなかった」と述べた。そのため、プーチン大統領の発言は直ちに核を使用しようとするよりも、米国とNATOがウクライナ戦争に介入することを防ぐための「威嚇」である可能性が高いとみられている。
核使用の敷居を下げたロシア
しかし、専門家らはプーチン大統領の発言を単なる「脅し」と考えてはならないと警告する。ウクライナ戦争が思い通りに解決せず、ロシアが窮地に追い込まれた場合、核使用を実際に検討する可能性があるとみている。ドイツ・ハンブルク大学のウルリッヒ・キューン教授は、「ウクライナ戦争がロシアに不利になり、西側の制裁と圧力がさらに強くなっているため、ロシアが核を使用する可能性は依然として低いものの徐々に高まっている」と分析した。
このような懸念の声があがっているのは、1989年の冷戦解体後、ロシアが核使用の敷居を下げる方向に核戦略を変えてきたためだ。米ソ冷戦時代、核兵器は手をつけてはならない最終手段という認識が強かった。米ソが熾烈な核兵器競争を繰り広げた結果、米国は広島に使用した原爆(TNT15トン規模の威力)より1千倍、旧ソ連は3千倍も強い核兵器を開発した。このような状況で核戦争を繰り広げた場合、共倒れになるという恐怖、いわゆる「相互確証破壊」(MAD)が働いた。旧ソ連は1982年、核の先制使用の放棄を公式宣言した。
このような状況は、1991年末に旧ソ連が解体され、経済難に陥ったロシア軍の通常戦力が急激に悪化したことで、劇的に変わった。米軍は湾岸戦争などで精巧な監視・偵察や情報・通信、精密誘導兵器など最先端の軍事力を誇示したが、ロシア軍はチェチェンとジョージア戦争で通常戦力の弱点を露呈した。これを受け、ロシア軍は米軍に大きく遅れを取っている通常戦力を補完するため、核兵器に対する依存度を高める軍事戦略を立てた。
ロシアは1993年、核先制不使用政策を正式に廃棄し、2000年代以降は敵国のどのような攻撃に対しても核を使用できるという点を明確にしてきた。ロシアは2010年の軍事ドクトリンで敵が核ではなく通常兵器で攻撃しても、「国家の存立が脅かされた時」は核兵器を使用できると明らかにし、2020年の軍事ドクトリンでは「核兵器を抑止力のためだけの手段とみなす」と付け加えたが、依然として使用オプションを比較的幅広く規定している。
ロシア軍はこのような戦略の変化に合わせて核戦争の演習も行ってきた。ロシア軍は1999年、NATOによるカリーニングラードへの攻撃を仮定した戦争演習を実施したが、このシナリオにはロシア軍がポーランドと米国に核攻撃を加えた後、敗北の混乱から抜け出す内容が含まれていたという。また、実際に使用できるように核弾頭の威力を下げた核兵器も開発した。特に2005年に配備されたイスカンデルミサイル(推定射程500キロメートル)の核弾頭は、威力を広島に落とされた原爆の3分の1水準まで下げられるという。「米国科学者連盟」(FAS)のハンス・クリステンセン氏は、ロシアがこのような戦術核弾頭を2千基ほど保有していると推定した。
低威力弾の開発など対応に乗り出した米国
米国も冷戦解体後、一時は核兵器の削減を進めてきた。しかし最近、ロシアと中国の核戦力強化の動きに対する懸念の声が高まり、このような動きにブレーキがかかっている。
冷戦解体とともに、旧ソ連の通常侵略にも核使用オプションを排除しない、いわゆる「柔軟対応戦略」が正式に廃棄された。核ではない攻撃には核使用を自制することにしたわけだ。ジョージ・ブッシュ大統領は1991年、海外に配備された戦術核兵器の削減と撤退を宣言した。このため、朝鮮半島に前進配備されていた核兵器も撤退された。米国がこのような措置に乗り出すことができたのは、冷戦解体で旧ソ連の軍事的脅威が減り、先端兵器とミサイル防衛(MD)などが劇的に発展したためだ。「核なき世界」を目指したバラク・オバマ政権時代に出された2010年の「核態勢見直し(NPR)」では、「核不拡散条約(NPT)に加盟した非核国に対しては核を使わない」といういわゆる「消極的安全保障」(NSA)が明確に宣言された。
このような流れは、ドナルド・トランプ政権以降、止まることになる。トランプ政権は2018年の「核態勢見直し」で消極的な安全保障を一部再確認しながらも、「核ではない他の重要な戦略的攻撃」を受けた場合も核を使用すると明らかにするなど、核使用のオプションを再び広げた。また、威力が広島に使用された原爆の3分の1以下の潜水艦発射弾道ミサイル用の低威力核弾頭「W76-2」を開発した。核兵器使用の敷居を下げたわけだ。ジョー・バイデン大統領も候補時代にはW76-2の開発について「悪いアイデア」だと非難したが、就任以降いまだに廃棄していない。また、候補時代には「米国と同盟国に対する核攻撃を抑止するためだけに核兵器を使う」といういわゆる「唯一目的」の原則を公約したが、先月公開された2022年の「核態勢見直し」の要約版ではこの原則を放棄した。
統制の利かない核衝突…瞬く間に拡大の可能性も
このような状況でウクライナをめぐる米ロ間の対立が激化すれば、予期せぬミスや事故、誤算などが偶発的核衝突の火種になりかねない。専門家らは特に、ウクライナがNATOとロシアの対立の真っ只中に位置している点、また米国とロシアの核使用の「レッドライン」が比較的曖昧な用語に規定され明確ではない点などが、核の危険性をさらに高める要因だと指摘する。
米国とロシアという二大国の間で核戦争が勃発すれば、どんなことが発生するだろうか。米国のプリンストン大学の研究チームが2019年9月に公開したシミュレーションによると、NATOとロシアが核戦争を行った場合、わずか数時間で9千万人以上が犠牲になることが分かった。米ロ間の核衝突は直ちに反撃と再反撃などにつながり、瞬く間に拡大する恐れがある。
核戦争の序幕は、米ロの戦術核兵器が開ける可能性が高い。米ロはまず、人命被害のない公海や荒れ地などに威力の低い核弾頭で警告や威嚇射撃を行うものと考えられる。しかし対立が激化すれば、野戦指揮部や戦闘部隊など戦術目標にその対象が変わる可能性があり、敵の核能力を無力化するために大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略核兵器を動員した全面的な核戦争に飛び火する恐れもある。
問題はこの過程で米ロ両国が自制力を発揮できるかどうかだ。オバマ政権で国家情報局長を歴任したジェームズ・クラッパー氏は、プーチン大統領が核攻撃を行った場合、バイデン大統領にどのように助言すればいいのか確信がないと述べた。核報復と関連し、「いつ止まるのか」というニューヨーク・タイムズ紙の質問に、「反対側の頬も差し出すわけにはいかない。ある時点では、我々も何かをしなければならない」と述べた。米ブラウン大学のニーナ・タネンウォルド氏は「核抑止力」戦略に疑問を呈し、「危機の時、意図通りに作動しないだろう」と述べた。
●ウクライナ情勢が市場揺さぶる 4/13
ロシアの軍事侵攻が、国際エネルギー価格や投資環境に影を落としている。経済の安定のため、国も企業も地政学リスクを踏まえた判断が要る。
ロシアが2022年2月24日に始めた軍事侵攻は、ウクライナの領土や民間人の人命を脅かすにとどまらず、世界経済に多大な影響を及ぼしている。国際通貨基金(IMF)は3月15日、ウクライナ情勢により世界全体で経済成長の減速とインフレが加速が続くとの見通しを示した。二重苦の背景には、食糧とエネルギーの価格急騰が招いた物価上昇、需要の減退がある。
ロシアやウクライナが世界輸出の約3割を担う小麦価格が過去最高を記録。石油・天然ガスの国際価格も急騰している。3月6日に米国がロシア産原油の禁輸を検討していると報じられると、7日のロンドン市場でブレント原油価格が一時1バレル139ドル台と08年のリーマンショック直前を超す最高値を付けた。
エネルギー投資は「安定」模索
国際エネルギー市場におけるロシアの存在感は大きい。欧州は21年、石油輸入量の27%程度、天然ガス輸入量の45%程度をロシアに依存していた。そんな中、ドイツ政府は22年2月、ロシアと直結する新しいガスパイプライン計画「ノルドストリーム2」の認可を取り消す方針を発表した。あおりを受けたのが、計画に出資していた独エネルギー大手ユニパーだ。同社は3月7日、9億8700万ユーロ(約1240億円)の減損を発表した。
制裁が進みつつある今、エネルギー情勢に詳しい日本エネルギー経済研究所の小山堅・首席研究員は警鐘を鳴らす。「ロシア産燃料の供給が大規模に途絶すれば、欧州を中心にエネルギー市場の不安定化が一気に進む。必要なところでエネルギーを確保できない事態も起こり得る」。
そんな危機感から「エネルギー安定供給を図る徹底的な対策強化が急務という認識が世界で急速に高まった」(小山首席研究員)。足元ではロシアからの供給途絶を想定しながら価格安定化を図るため各国が原油備蓄を放出する他、中東産油国の原油増産が重要な役割を果たしそうだという。
中長期では、ロシア依存の引き下げが課題となる。国ごとにエネルギーミックス(燃料・電源の利用計画)の見直しが進みそうだ。欧州では再生可能エネルギーの利用が加速する他、フランスや東欧などで原子力発電のさらなる活用も進みそうだ。
日本では、ロシア極東の石油ガス開発プロジェクト、サハリン1・2を巡る対応で難局が続く。既に英シェルなどの撤退が報じられた。サハリン1には伊藤忠商事や丸紅などの出資会社が、サハリン2は三井物産や三菱商事が出資している。
萩生田光一経済産業大臣は22年3月15日、液化天然ガス(LNG)投資により「ロシア以外の供給源の確保」を進め「ロシアへのエネルギー依存度を低減する」と述べた。そのうえで、岸田文雄首相は3月16日の会見で、サハリン2について「エネルギー安定供給に重要」「長期的に低価格でエネルギーを調達できる、日本が権益を持つ事業」と述べた。
日本は、石油・ガスのロシア依存度は欧州ほど高くないが、中東依存の傾向が強い。サハリン2には燃料供給国を分散させる狙いがある。欧米と異なり再エネ資源に乏しく原発再稼働が進まない日本は、地政学リスクを抑える必要もあるが、足元の燃料需要を賄う判断も要る。サハリン2のLNGを他からの調達で代替すれば調達コストが跳ね上がり、電気やガス料金に反映される。日本はロシア投資を巡る評判リスクと経済への影響との板挟みに悩まされそうだ。
ESG債の遅延や減額も
こうした情勢は、ESG投資にも影響が及ぶ。IMFは今の状況下で、企業による景気判断が曇り、投資家の不安は高まっていると指摘する。
物価上昇を背景に米国の長期金利が上昇する中、ウクライナ情勢による不確実性が影響し、国内の金利動向も見通しづらくなっている。そんな中、企業が発行する「グリーンボンド(環境債)」など「ESG債」の発行の延期や減額が続いた。22年3月11日、イオンモールは同月発行予定の「サステナビリティ・リンク・ボンド」の発行延期を発表。個人投資家向けに年限5年で総額400億円の発行を予定していた。発行延期の理由について同社は、「スケジュールの変更が必要となった」と説明している。
また東京電力ホールディングス傘下の再エネ事業者、東京電力リニューアブルパワーは3月10日、総額100億円の環境債(5年・利率年0.50%)を発行した。2月発表時には200億円規模だった発行額を減額した。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資銀行本部デット・キャピタル・マーケット部の田村良介エグゼクティブ・ディレクターは、「ESG債の発行体は、社内決済や発行計画の発表を一般の社債よりも早めに進める傾向がある。債券の現在の金利水準が、年末と比べてどの年限でも約0.2%上昇している中、計画時の調達レートと見合わなくなり様子見するケースもありそうだ」と見る。
投資家側でも、金利上昇によって既に保有していた債券価格が下がり、評価損を抱えているケースがあるとみられる。新年度予算を使える22年4月を待って債券投資を再開しようとの判断が働きやすい。発行体、投資家ともに4月以降の市場環境次第で、ESG債への関心が再燃する可能性もある。田村氏は「長期で見れば、金利は高水準とも言えない。投資家がポートフォリオの脱炭素を進めている中、環境債やトランジションボンド(移行債)の発行やその投資は加速する可能性がある」という。
企業が脱炭素化することは、化石燃料の利用を効率化し、資源供給国への依存や地政学リスクの抑制につながる。世界情勢が不安定な中でも、脱炭素などに調達資金を投じるESG債は、投資家の期待を集めそうだ。
●バイデン大統領 “ジェノサイド”と非難「私にはそう見える」  4/13
アメリカのバイデン大統領は12日、ウクライナでのロシア軍の攻撃について「集団虐殺」を意味する「ジェノサイド」ということばを初めて使って非難しました。
バイデン大統領は中西部アイオワ州での演説で記録的な物価上昇への対策に触れた中で「国民の家計がどうあるかやガソリンを購入できるかどうかが、地球の反対側で独裁者が戦争を始めたり、『ジェノサイド』に手を染めたりするかどうかに左右されてはならない」と述べました。
さらにバイデン大統領は演説後、記者団から「『ジェノサイド』とみなす十分な証拠があるということか」と問われ「先週とは状況が違ってきている。ロシアによるおぞましい行為の証拠が次々に明るみに出ている。国際的に見て『ジェノサイド』に当たるかどうかは弁護士の判断に任せるが、私にはそう見える」と述べ、集団虐殺を意味する「ジェノサイド」に当たるとの考えを強調しました。
「ジェノサイド」は民族などの集団に対して破壊する意図を持って、虐殺などの危害を加える重大な犯罪で、第2次世界大戦後に締結された「ジェノサイド条約」によって処罰することが規定されています。
バイデン大統領はウクライナの首都キーウ近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったことを受けて先週、記者団から「ジェノサイドに当たると思うか」と問われた際には「そうは思わない。これは戦争犯罪だ」と述べるにとどめていました。
松野官房長官は、午前の記者会見で「多数のむこの民間人の殺害は、重大な国際人道法違反で断じて許されず、厳しく非難する。残虐な行為の真相は明らかにされなければならず、ロシアの責任は厳しく問われなければならない」と述べました。
そのうえで「『ジェノサイド』を含む重大な犯罪を犯した者を訴追し処罰する国際刑事裁判所の検察官は、ウクライナ側と協力して『ジェノサイド』を含む捜査を開始している。わが国としても検察官による捜査の進展を期待している」と述べました。
●フィンランド、ロシアのガスパイプラインからの依存脱却へ 4/13
フィンランドの経済政策閣僚委員会は4月7日、ロシアのガスパイプラインからの依存脱却に向け、エストニアと協力して大型の液化天然ガス(LNG)ターミナル船(a floating storage and regasification unit, FSRU)(注)をリースすることを提案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。フィンランド南部沿岸に配置され、天然ガス供給網と接続される予定。今後、経済・雇用省が、財務省とエストニアのエネルギー関連担当省庁と連携しながら、準備を進め、リースに関する提案を同委員会に提出、決定がされる予定。リース内容の査定や交渉、プロジェクトの実施は、フィンランドの送ガス事業者ガスグリッドが、エストニアの同業エレリングと協力して行う。経済・雇用省は3月末に、ガスグリッドに対し船舶の調達可能性について調査を指示していた。ミカ・リンティラ経済相は、ウクライナ情勢を踏まえると、ガスの輸入停止に備えなければならないとし、浮体式のLNGターミナルは、同国の産業へのガス供給を確保するための有効な手段だと述べた。
また、フィンランド政府は4月8日、1日の国際エネルギー機関(IEA)緊急閣僚会合での石油備蓄の協調放出に関する決定を受け、36万9,000バレルの放出を決定した(2022年4月4日記事参照)。
ペッカ・ハービスト外相は4月6日から7日にかけて、ブリュッセルで開かれたNATO外相会合に参加。会談後に、ハービスト外相は、フィンランドがNATO加盟の可能性について、今後数週間のうちに明らかにすると述べた(「ロイター」4月7日)。さらに「タイムズ」など各紙は11日、サンナ・マリーン首相が早ければ夏までにNATOへの加盟申請を行う意向を示した、と報じた。フィンランドのメディアyleの世論調査(3月9〜3月11日実施)によれば、NATO加盟について、フィンランド国民の62%が支持しているとされている。
ウクライナ支援も進んでいる。同国はウクライナからの避難民に対して、一時保護を与えている。政府によればすでに1万5,000人以上が何らかの保護を申請、その大半が一時保護だとしている。また、物資面でも支援を行っており、直近では4月5日に、救急車2台と救急サービス用品の提供を発表している。
(注)LNG貯蔵・再ガス化設備を備えた専用船。
●ここにきて、ロシアで「プーチンおろし」が始まった…「20兆円超の資産」没収? 4/13
ロシア軍によるウクライナでの大虐殺が次々と明らかになった。プーチンは、今や国際社会から「戦争犯罪人」と呼ばれている。暴走の果てに“狂気の独裁者”とその愛人が行き着く先は破滅しかない。
諜報機関が離反する
過去の歴史を紐解けば、絶対的な力を手中にした独裁者であっても、一夜にして身内ともども権力の座から転がり落ちることがありえる。
ロシアのプーチン大統領(69歳)と愛人たちは、今まさにその危機にある。
ウクライナ検察は4月3日、ロシア軍から奪還した首都・キーウの周辺地域で、民間人ら計410人の遺体が発見されたと発表。ゼレンスキー大統領は「集団虐殺だ」と告発し、欧米諸国の首脳も同調した。
今や「戦争犯罪人」となったプーチンの失脚は、刻一刻と近づいている。
ロシア政治が専門の筑波学院大学教授・中村逸郎氏が言う。
「経済制裁により外貨資産が半分凍結され、天然ガスなどの資源も輸出できない。ロシア国債がデフォルトする可能性も高まっています。経済が破綻し、市民の生活に多大な影響が出れば、反プーチンの集会やデモが始まる。テレビ番組の生放送中に戦争反対のプラカードを掲げたマリーナ・オフシャンニコワさんがヒロインになります。さらに収監中の反体制派指導者ナワリヌイ氏も弁護士を通じて、メッセージを積極的に発信する。最初は5万人程度の参加者でしょうが、どんどん規模は拡大していくでしょう」
プーチンの政権下で富を独占してきた「オリガルヒ」(新興財閥)も、あっさりと手のひらを返すだろう。ロシアの石油会社「ルクオイル」、金融機関「アルファ・グループ」、アルミ製造企業「ルスアル」はすでに、ウクライナ侵攻の中止を求める声を上げている。
キーウ出身の国際政治学者グレンコ・アンドリー氏が指摘する。
「これまで彼らはプーチンのおかげで稼げたかもしれませんが、自分たちの地位や資産が危ないとなれば、財力や政治力によってプーチンを失脚させる手段を厭わないでしょう。オリガルヒは西側諸国とのつながりも強く、それを実現させるだけの力を持っています」
オリガルヒを後ろ盾にして動き出すのは、「シロビキ」(軍、警察、諜報機関)である。公安調査庁職員としてロシアを担当していた日本戦略研究フォーラム政策提言委員の藤谷昌敏氏が語る。
「イーゴリ・セーチン元副首相、ヴィクトル・イワノフ元連邦麻薬取締庁長官、ラシド・ヌルガリエフ元内務相、そしてニコライ・パトルシェフロシア連邦安全保障会議書記など、彼らシロビキは、プーチン支持というよりもロシアを第一と考える国家主義者です。今後の動向次第では『プーチン降ろし』に回る可能性は否定できないでしょう」
デモが拡大する中で、軍部、諜報機関の幹部が相次いでプーチンから離反することになる―。
「後継者はシロビキが推すとされるFSB(ロシア連邦保安庁)の長官、アレクサンドル・ボルトニコフあたりではないでしょうか」(藤谷氏)
中村氏も言う。「ボトルニコフならばプーチンの汚職を白日の下に晒して、国民の人気を集めることができる。後継者となる可能性は高い」
FSBはKGB(ソ連国家保安委員会)の後継組織である。これまでプーチンが自己保身のために利用してきた子飼いの諜報機関が、今度は自分に牙をむくことになる。失脚後はFSBに監視される日々が続くだろう。
莫大な資産も失う。大統領府が公表する所得申告書等で、プーチンの年収は約1400万円と発表されているが、もちろんこれは表向きの数字。実際、プーチンの総資産は20兆円超という報道まであるのだ。
野党『国民自由党』のボリス・ネムチョフ議長('15年に暗殺)らが作成した報告書によると、プーチンは20軒の公館・別荘を持ち、航空機43機、ヘリコプター15機、ヨット4隻を所有している。
また昨年にはナワリヌイ氏が率いる団体が、黒海沿岸に建つ約1400億円相当の私邸をプーチンが事実上所有していると暴露している。拓殖大学特任教授・名越健郎氏が言う。
「後継者次第ですが、プーチンが失脚すれば、不正な手段によって取得した財産は没収されることになると思います。新しい権力者からすればプーチンは不都合な存在になりますから、居場所が無くなる。これまでは約2万人が所属する連邦警護庁(FSO)の最強部隊がボディガードを務めていましたが、権力を失ったプーチンの警護も当然手薄になる。そうなれば命の危険にも晒されるでしょう」
中村氏は、プーチンの脳裏には、ある独裁者の処刑シーンがこびりついていると指摘する。
「ルーマニアのチャウシェスク元大統領の失脚が強く印象に残っているんじゃないでしょうか。当時はソ連が崩壊直前で、東欧諸国で次々と革命が起こり、最終的に彼は拘束されて処刑されました。これは、裏を返せば西側諸国に負けたということ。現在の状況と重なる部分がありますね」
悲惨な末路を迎えた独裁者の典型と言えるのが、恐怖政治を敷いたチャウシェスクである。
首都・ブカレスト市内に約1500億円をかけて「宮殿」を建設。そこには3000もの部屋があり、延床面積は米国ペンタゴンに次ぐ世界第2位(当時)の規模。
映画館、室内プールを備え、贅の限りが尽くされていた。食料不足に国民が苦しむ一方で、チャウシェスク一族はペットの犬に高級牛肉を与えていたという。
妻・エレナは第一副首相を務め、次男のニクも31歳で共産党中央委員に選出。一族で富と権力を独占し、スイスの銀行には560億円相当の金塊を預けていた。
また、ニクはモントリオール五輪の体操金メダリストである「白い妖精」ナディア・コマネチに愛人関係を強要。コマネチが米国に亡命するきっかけになったと報じられている。
だが、そんな黄金時代も突然幕を閉じる。'89年12月に反政府デモが発生すると、軍部も決起するルーマニア革命が勃発。わずか1週間で政権は倒れ、チャウシェスク夫妻は逮捕された。6万人の集団虐殺と1400億円の不正蓄財により、すぐさま死刑判決が下る。
しかし夫妻は自分たちが残酷な死を迎える理由を最後まで理解できず、実に惨めな最期をむかえた。その詳細は後編記事『プーチンと「その愛人」も同じ運命を辿るのか…かつて独裁者はこうして惨殺された』で明かす。
●停戦協議、民間人殺害巡り対立続く…プーチン氏「行き詰まりの状態」  4/13
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は12日、自らが担当するロシアとの停戦協議の見通しは「非常に困難だ」との認識を示した。プーチン露大統領が12日に「行き詰まりの状態に戻った」とウクライナ側を非難した発言に反発したものだ。首都キーウ(キエフ)周辺での民間人殺害を巡って双方の対立が深まる中、協議の早期進展は困難な情勢となっている。
プーチン氏は12日、露極東で開いた記者会見で、3月29日にトルコで開かれた対面交渉で「一定レベルの合意に達したが、ウクライナ側が退いた」と主張した。キーウ近郊ブチャでの民間人殺害についても「偽情報」「挑発」だと改めて主張し、この問題を批判するウクライナ側が協議を停滞させているとの立場を強調した。
停戦協議は2月28日以降、計4度の対面交渉が行われ、ロシアが求めた「中立化」についてウクライナ側が提案を示すなど、一定の歩み寄りもみられた。キーウ周辺での民間人殺害の実態が明らかになって以降、双方から協議の具体的な進展は伝えられていない。
ポドリャク氏は12日、ロイター通信に対し、プーチン氏の発言に「公の発言で協議に圧力をかけようとしている。交渉は作業部会で続いている」と反論した。ウクライナ交渉団の別のメンバーも12日、ウクライナ側は「立場を変えていない」と、ロシアを非難した。
プーチン氏は12日、停戦協議で合意に達しない限りは軍事作戦を継続するとの考えも示した。米国防総省高官は12日、南東部のマリウポリで、陥落を目指す露軍が集中的な空爆を加えていると分析した。同省のジョン・カービー報道官は12日の記者会見で、露軍は、東部への攻撃の「戦略的立地」となるマリウポリへの攻撃を優先しているとの見方を示した。
一方、マリウポリ防衛にあたるウクライナの武装組織「アゾフ大隊」が主張する露軍による化学兵器使用については、カービー氏は「確認できない」としつつ「深刻にとらえており、分析のために最善を尽くしている」と強調した。 
●「プーチン氏恐れるのは民主主義」米元駐ロ大使分析  4/13
プーチン大統領は、なぜウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったのか。その心理を読み解く鍵となるのが、プーチン氏と民主主義との関係だ。
ソビエト崩壊後のロシアの民主化について長年、研究を続ける世界的に著名なアメリカの政治学者で、オバマ政権時に駐ロシア大使を務めたマイケル・マクフォール氏に、プーチン氏の変遷から今後のプーチン政権崩壊の可能性まで詳しく聞きました。
プーチン氏は変わった?
プーチン氏は1999年、当時のエリツィン大統領に大統領代行に任命されましたが、当時は今と同じ世界観を有していたわけではないと思います。彼の思考は、徐々に変化していきました。彼は今でこそ、ソビエトの崩壊に反対だったと主張していますが、崩壊後の10年間、崩壊に導いた人々のために働いていました。当時は、欧米志向で市場原理に基づく考えを持ち、私たちは協力し合えると考えていました。しかし2011年、当時、首相を務めていたプーチン氏は、アメリカの副大統領だったバイデン氏と会談し、「ロシア人は欧米の人々とは違う。異なる文化や歴史を有している」と述べ、欧米との違いを強調するようになっていました。プーチン氏は、ロシア人はヨーロッパの人たちと異なると主張することで、ロシアをより独裁的な手法で統治することを正当化したかったのでしょう。プーチン氏が民主的な志向から一夜にして独裁者になったというのは、間違いです。時間をかけて、独裁者へと変わっていったのです。そして、独裁的になればなるほど民主主義からの挑戦を受けるようになったのです。
どう変わっていった?民主主義からの挑戦って?
始まりは2003年、ジョージアで市民の抗議活動により、ソビエト崩壊後直後から最高指導者を務めていた大統領が辞任に追い込まれた「バラ革命」です。次に2004年、ウクライナで大規模な抗議活動をきっかけに政権交代し、親欧州派の政権が誕生した「オレンジ革命」。そして重要な局面となったのが2011年、中東各地で独裁的な政権が次々と崩壊した民主化運動「アラブの春」、さらには2012年のロシア大統領選挙を前にした市民の大規模な抗議活動です。プーチン氏はアメリカがデモを組織し、反体制派に資金を提供したと非難しましたが、事実ではありません。私たちは、民主主義そして民主化支援グループ、独立系メディアを支援していますが、CIA=中央情報局が政権転覆を図ったというのは、間違いです。プーチン氏が強い恐怖を感じたのは、エジプトでもウクライナでもジョージアでもチュニジアでもなく、まさに足元のロシアで自身が率いる政権に対する大規模なデモが起きたことです。そして、民主主義やその支持者に対し、病的なほどに疑い深くなりました。そして、とどめの一撃が2014年、ウクライナで大規模な市民の抗議活動でロシア寄りの政権が崩壊した「マイダン革命」です。プーチン氏は、「アメリカの支援を受けたネオナチによる政権奪取だ」と非難しています。
ウクライナをどう思っている?
プーチン氏は、ロシアとウクライナが別の国だとは思っていません。長い歴史に言及し「ひとつの国」だったと説明しようとしています。私は、これこそがプーチン氏が望むスラブ民族の統一国家をつくるという帝国主義的な野望の一部だと考えています。
軍事侵攻に踏み切った背景は?
背景には、ロシアとウクライナが「ひとつの国」だというプーチン氏の考えに問題が出てきたことがあります。ウクライナが民主主義で、ロシアが独裁体制であるからです。もし、ウクライナがロシアと同じ文化や歴史を共有しているにもかかわらず民主主義であり続けるなら、自身が率いるロシアという独裁体制にとって直接的な脅威になります。そして、ウクライナが民主的になればなるほど、ロシアとの断絶は大きくなります。だからこそ、彼は武力を使ってウクライナを取り込もうとし、民主主義を阻もうとしたのです。
プーチン氏は今後どう出る?
プーチン氏は当初、ウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」、つまり政権転覆のことですが、これを目指すと言っていました。しかし、彼はウクライナの戦う意志と軍事力を過小評価し、ロシアの軍事力を過大評価していました。彼が、首都キーウの制圧を諦めていないおそれはありますが、私はそれが可能だとは思いません。このため、最終局面を調整しているのだと思います。そして今、プーチン氏が考える最終局面とは、南部の全地域の制圧だと思います。だからこそ、マリウポリへの攻勢を強めているのです。そして、この南部をクリミアやドンバス地方と統合し、ウクライナの新しい国境について交渉を開始し、ウクライナを永久に分断しようと考えているのだと思います。ただ、非常に困難な交渉で、ゼレンスキー大統領が受け入れるかどうかはわかりません。
プーチン政権はどうなる?
プーチン主義、つまりプーチン氏の政治システムの「終わりの始まり」となるかもしれません。1970年代、ベトナムやラオス、カンボジアでマルクス・レーニン主義を掲げる政権が相次いで樹立されたあと、旧ソビエトのブレジネフ書記長が無理をして失敗したのと同じです。アンゴラやモザンビーク、ニカラグアも旧ソビエト陣営に入り、ブレジネフ書記長はアフガニスタンの侵攻を決めました。そして、それは意図せずして、ソビエトの「終わりの始まり」となりました。ただ、プーチン主義を支持する人たちが、立場を強化する可能性も否定できません。プーチン氏が権力の座から退いたあと、プーチン氏の取り巻きやロシアの人々が、プーチン氏のような人物を支持する可能性もあると思います。
●プーチンの狙いは… ロシアの「戦勝記念日」5月9日に“勝利宣言”の可能性 4/13
「プーチン大統領が5月9日に勝利宣言を目指している」という情報が。この5月9日はロシアの「戦勝記念日」であり、プーチン大統領はこうした記念日を大事にしているといいます。小野高弘・日本テレビ解説委員が解説します。
「プーチン大統領が5月9日に勝利宣言を目指している」 アメリカのCNNが情報当局者の話として伝えました。この5月9日は、ロシアにとっては大事な日。第二次世界大戦で旧ソ連がドイツを降伏させた「戦勝記念日」です。
実はプーチン大統領、こうした記念日を大事にしているんです。例えば、2月23日は「祖国防衛の日」。翌日にウクライナ侵攻を開始しました。また3月18日の「クリミア併合を祝う記念日」でも、演説で軍事行動の正当性をアピールしました。そして5月9日の「戦勝記念日」に、勝利宣言を狙っていると言われています。
――その日までに本当にロシアが「勝利」するの?
今、力のいれどころをウクライナ東部に集中し始めました。しかしウクライナは徹底抗戦です。戦闘は長期化するとの見方もあります。それでもプーチン大統領は「勝った」、あるいは「ここまで成果をあげた」とアピールする可能性があり、そんな思惑通りに進むのか世界が注目しています。
●ウクライナ戦争の責任はアメリカにある!――アメリカとフランスの研究者が 4/13
アメリカの国際政治学者で元軍人のジョン・ミアシャイマー氏とフランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏が「ウクライナ戦争の責任はアメリカにある」と発表。筆者の「バイデンが起こさせた戦争だ」という見解と一致する。認識を共有する研究者が現れたのは、実にありがたい。
『文藝春秋』5月号がエマニュエル・トッド氏を単独取材
月刊誌『文藝春秋』5月号が、エマニュエル・トッド氏を単独取材している。見出しが「日本核武装のすすめ」なので、見落としてしまうが、実はトッド氏は「ウクライナ戦争の責任はアメリカにある!」と主張している。
冒頭で、彼は以下のように述べている。
――まず申し上げたいのは、ロシアの侵攻が始まって以来、自分の見解を公けにするのは、これが初めてだということです。自国フランスでは、取材をすべて断りました。メディアが冷静な議論を許さない状況にあるからです。
この冒頭の文章を読んで、深い感動を覚えた。その通りだ。
いま世の中は、「知性」でものごとを考えることを許さず、「感情」で発信することしか認められない。まるで戦時中、大本営発表に逆らう者は非国民と言わんばかりだ。
しかし、このようなことをメディアが続けていると、本当に大本営が招いた結果と同じものを日本にもたらす。真に日本国民の為を思い、日本国を憂うならば、勇気を出して、戦争が起きた背景にある真相を直視しなければならない。
そうしないと、次にやられるのは日本になるからだ。
トッド氏の主張の概要は以下のようになる。
感情に流される中、勇敢にも真実を語った者がいる。それが元米空軍軍人で、現在シカゴ大学の教授をしている国際政治学者ジョン・ミアシャイマーだ。彼は「いま起きている戦争の責任はアメリカとNATOにある」と主張している。
この戦争は「ロシアとウクライナの戦争」ではなく、「ロシアとアメリカ&NATOの戦争」だ。アメリカは自国民の死者を出さないために、ウクライナ人を「人間の盾」にしている。
プーチンは何度もNATOと話し合いを持とうとしたが、NATOが相手にしなかった。プーチンがこれ以上、領土拡大を目論んでいるとは思えない。ロシアはすでに広大な自国の領土を抱えており、その保全だけで手一杯だ。
バイデン政権のヌーランド国務次官を「断固たるロシア嫌いのネオコン」として特記している(拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第五章、p.159〜p.160にかけて、オバマ政権時代、バイデン元副大統領とヌーランドがどのようにして背後で動いていたかを詳述した)。
アフガニスタン、イラク、シリア、ウクライナと、米国は常に戦争や軍事介入を繰り返してきた。戦争はもはや米国の文化やビジネスの一部になっている(拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の「おわりに」――戦争で得をするのは誰か?に書いた内容と完全に一致する)。
何というありがたいことだろう。
日本で筆者1人が主張しても、ただバッシングの対象となるだけで、非常に数少ない知性人しか理解してくれない。
しかし、こうしてフランスの学者が声を上げてくれると、日本はようやく真実に目覚め始める。月刊誌『文藝春秋』の勇気を讃えたい。
米国際政治学者・ミアシャイマー「ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカにある!」
世界には感情を抑えて、知性で真実を訴えていく研究者は、ほかにもいる。トッド氏が事例として挙げているアメリカの元空軍軍人で、今はシカゴ大学の教授として国際政治を研究しているジョン・ミアシャイマー氏が、その一人だ。
彼は3月3日に「ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカとNATOにある」とユーチューブで話している。
非常にありがたいことに、マキシムという人が日本語の字幕スーパーを付けてくれているので、日本人は容易にミアシャイマー氏の主張を聞くことができる。
ミアシャイマー氏が言っている内容で筆者が特に興味を持った部分を以下に適宜列挙してみる。
特に昨年(2021年)の夏、ウクライナ軍がドンバス地域のロシア軍に対して無人偵察機を使用したとき、ロシア人を恐怖させました(ユーチューブの経過時間7:40前後)。(これに関しては拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』のp.177〜p.178で詳述した)。
太平洋戦争の末期1945年初頭に、アメリカが日本本土に侵攻する可能性に直面したとき、何が起こったか、ご存じですか(ユーチューブ経過時間17:29)?硫黄島で起こったこと、そして沖縄で起こったことの後、アメリカが日本本土に侵攻するという作戦は、アメリカ国民をある種の恐怖に陥れました(17:42)。終戦間近の1945年3月10日から、アメリカは日本各地の大都市の無辜の市民に、次々に無差別空襲爆撃を行いました(17:51)。その後、東京に最初に特殊爆弾(焼夷弾)を投下した一夜だけで、なんと、広島(9万人)や長崎(6万人)の犠牲者よりももっと多くの一般市民(10万人)を焼き殺したのです(17:54)。実に計画的かつ意図的に、アメリカは日本の大都市を空襲で焼き払ったのです(18:00)。なぜか?大国日本が脅威を感じているときに、日本の主要な島々に、直接軍事侵攻したくなかったからです(18:04)。
アメリカはウクライナがどうなろうと、それほど気にかけていません(20:34)。アメリカ(バイデン)は、ウクライナのために戦い、兵士を死なせるつもりはないと明言しています(20:39)。アメリカにとっては、今回の戦争が、自国存亡の危機を脅かすものではないので、今回の結果はたいして重要ではないのです(20:43)。しかし、ロシアにとって今回の事態は自国ロシアの存亡の危機であると思っていることは明らかです(20:49)。両者の決意を比べれば、ロシアに圧倒的に強い大義があるのは、自明の理です(20:50)。(筆者注:筆者自身は、この点はミアシャイマー氏と意見を異にする。但し、ミアシャイマー氏が言いたかったのは、前半で繰り返し話しているように、プーチンは何度もNATOの東方拡大を警告し、話し合いを求めたがNATOが無視をして逆の方向に動いたという事実なのだろう。あまりに長いので省略したが、ミアシャイマー氏は、プーチンには切羽詰まって危機感があったと言い、太平洋戦争を例に取ったのは、切羽詰まった危機感を感じたときに何をやるか分からないということのようだ。)
ここで起こったことは、アメリカが、花で飾られた棺へと、ウクライナを誘導していったことだけだと思います(21:30)(これは正に筆者が書き続けてきたことで、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第五章で詳細な年表を使いながら解説した内容と一致し、表現は異なるが内容的には2月25日のコラム<バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛>とも一致する)。
アメリカは棒で熊(ロシア=プーチン)の目を突いたのです(21:58)。当然のことですが、そんなことをされたら、熊はおそらくアメリカのしたことに喜びはしないでしょう。熊はおそらく反撃に出るでしょう(22:12)
ミアシャイマーが言うところの、この「棒」は、「アメリカ(特にバイデン)がウクライナにNATO加盟を強く勧めてきたこと」と、「ウクライナを武装化させてきたこと」を指しているが、筆者自身は、加えて最後の一撃は12月7日のバイデンの発言にあると思っている。
バイデンは、何としても強引にプーチンと電話会談し、会談後の記者会見で、ウクライナで紛争が起きたときに「米軍が介入する可能性は極めて低い」と回答した。
ミアシャイマー氏が指摘するように、2021年10月26日、ウクライナ軍はドンバス地域にいる親ロシア派軍隊に向けてドローン攻撃をするのだが、10月23日にバイデンがウクライナに対戦車ミサイルシステム(ジャベリン)180基を配備した3日後のことだ。ウクライナはバイデンの「激励」に応えてドローン攻撃をしたものと解釈される。バイデンはウクライナを武装化させて「熊を怒らせる」ことに必死だった。
これは戦争の第一砲に当たるはずだが、それでもプーチンが動かないので、もう一突きして、「米軍が介入しないので、どうぞ自由にウクライナに軍事侵攻してくれ」と催促したようなものである。
あの残忍で獰猛(どうもう)な「熊」を野に放ったバイデンの責任は重い。
三者の視点が一致
トッド氏とミアシャイマー氏の見解と、筆者が『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でアメリカに関して書いた見解は、基本的には一致する。
トッド氏は歴史学者あるいは人類学者からの立場から分析し、ミアシャイマー氏は元米空軍軍人で現在は国際政治学者の立場から分析している。
筆者自身は日中戦争と中国の国共内戦(解放戦争)および(避難先の吉林省延吉市で)朝鮮戦争を経験し、実際の戦争経験者として中国問題研究に携わってきた。
1945年8月、まだ4歳の時に長春に攻め込んできたソ連軍にマンドリン(短機関銃)を突き付けられ、1947年から48年にかけて中国共産党軍によって食糧封鎖を受け、街路のあちこちには餓死体が放置されたままで、それを犬が喰らい、人肉で太った犬を人間が殺して食べる光景の中で生きてきた。そして最後には共産党軍と国民党軍に挟まれた中間地帯に閉じ込められ、餓死体が敷き詰められている、その上で野宿をさせられた。
あまりの恐怖から、しばらくのあいだ記憶喪失になり、今もあのトラウマをひきずって生きている。
そういった原体験を通して、骨の髄から戦争を憎み、「如何にして戦争が起き、如何にして戦争が展開されるか」を、全生命を懸けて見てきた。その意味で、原因が何であれ、ロシアの蛮行には耐え難い嫌悪感を覚え、到底許せるものではない。人間のものとも思えないほどの残虐極まりないロシアの狂気は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を蘇らせ、激しい拒否反応を引き起こす。
それぞれの立場と斬り込み方は異なるが、三者が少なくとも、「責任はアメリカにある」という同じ結論に達したことは重視したい。
人類から戦争を無くすためには、私たちは「誰が戦争の本当の原因を作っているか」を正視しなければならない。そうでないと、その災禍は必ず再び日本に降りかかってくる。その思いが伝わることを切に祈る。
●JPモルガン、ウクライナ戦争に絡み5.24億ドルの損失−1〜3月決算 4/13
米銀JPモルガン・チェースの1−3月(第1四半期)業績は、ロシアのウクライナ侵攻による相場の落ち込みに絡む5億2400万ドル(約660億円)の損失により損なわれた。
13日の決算発表によると、損失は「ファンディングスプレッド拡大および、商品エクスポージャー増加とロシア関連カウンターパーティーからのデリバティブ(金融派生商品)債権の評価引き下げに関するクレジットバリュエーション調整」の結果だという。
ただ、債券と株式のトレーディング収入はいずれもアナリスト予想を上回り、純利益も82億8000万ドルと予想を超えた。
ジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は発表資料で、「少なくとも短期的には経済への楽観を維持している。個人と企業のバランスシートも個人消費も、依然として健全な水準だ。ただ今後については、高インフレとサプライチェーン問題、ウクライナでの戦争による地政学的および経済的な著しい困難を予想する」とコメントした。
1−3月の債券トレーディング収入は57億ドルとアナリスト予想を10億ドル上回った。株式トレーディング収入も予想を上回る31億ドル。
一方、投資銀行業務の収入は21億ドルに減少し、市場予想の23億ドルに届かなかった。債券および株式引き受け収入がいずれも減少した。助言手数料は前年同期を超えた。
金利外費用は2%増で2013年以来の高水準。1−3月期末のローン残高は前年同期比6%増だった。
●マリウポリ市長、民間人死者「1万人超」 4/13
ロシア軍が包囲を続けるウクライナ南東部の要衝マリウポリのボイチェンコ市長は12日、同市での民間人の死者が「1万人以上に達し、最悪で2万人を超える可能性がある」と述べた。一方、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャのフェドルク市長は12日、これまでに市内で403人の遺体が見つかったと明かした。日本時間13日などの動きをまとめた。
ロシア軍が包囲を続けるウクライナ南東部の要衝マリウポリのボイチェンコ市長は12日、同市での民間人の死者が「1万人以上に達し、最悪で2万人を超える可能性がある」と述べた。路上に市民の遺体が多数残されている状態だという。一方、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャのフェドルク市長は12日、これまでに市内で403人の遺体が見つかったと明かした。
バイデン米大統領は12日、中西部アイオワ州で演説し、ロシアによるウクライナ侵攻が「ジェノサイド(大量虐殺)」に当たるとの認識を示した。バイデン氏が「ジェノサイド」と言及するのは初めて。
ロシアのプーチン大統領は12日、ウクライナとの停戦協議について「行き詰まっている」と述べた。ロシア極東アムール州でベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、会談後の記者会見などで語った。軍事作戦について「ウクライナで全ての目的が達成されることに疑いの余地はない」と強調し、作戦を継続する考えを示した。
松野博一官房長官は13日の記者会見で、バイデン米大統領がロシアによるウクライナ侵攻が「ジェノサイド(大量虐殺)」に当たるとの認識を示したことに関し「重大な犯罪を犯した者を訴追し、処罰する国際刑事裁判所の検察官は、ウクライナ側と協力しつつ、ジェノサイドを含む捜査を開始している。捜査の進展を期待している」と述べるにとどめた。
●プーチン大統領 “ロシアへの制裁 欧米側に跳ね返っている”  4/13
ロシアのプーチン大統領は、欧米側がウクライナへ軍事侵攻を続けるロシアに対して、エネルギー分野などへの経済制裁を強化していることによって「物価があらゆるところで上昇している」と述べ、制裁措置が欧米側に跳ね返っているとして強気の姿勢を示しました。
ロシアのプーチン大統領は、13日、北極圏の開発に関する関係閣僚との会合に出席しました。
このなかで、プーチン大統領は「欧米諸国がロシアのエネルギー資源を含む通常の協力関係を拒否したことによって、すでに何百万人というヨーロッパの人々に影響を及ぼしている。エネルギー危機を引き起こし、アメリカにも影響がでている。物価があらゆるところで上昇していて、こうした国々にとって、前例のないことだ」と述べました。
ウクライナへ軍事侵攻を続けるロシアに対して、欧米側は経済制裁を強化しているほか、ロシアへのエネルギー依存から脱却を目指す動きもでていますが、プーチン大統領としては、こうした措置が欧米側に跳ね返っているとして強気の姿勢を示した形です。
また、プーチン大統領は「ロシアの石油、天然ガス、石炭について、われわれは国内市場での消費を増やし、本当に必要としている世界のほかの国へ供給を増やすことができる」と述べ、制裁に対抗し、ロシアと友好的な関係にある国を念頭に、エネルギーを供給していきたい考えを示しました。
さらに、プーチン政権が重視する北極圏の開発について「ここには多くの仕事がある。関心のあるすべての人々にわれわれは共同作業を提供する」と述べ、外国企業の参加を呼びかけ、一連の制裁によって、開発計画を延期することはないと強調しました。 

 

●ロシア産エネルギー輸出先、西側諸国からの変更容易=プーチン氏 4/14
ロシアのプーチン大統領は13日、ロシアは石油、ガス、石炭など国内の膨大なエネルギー資源の輸出先を西側諸国から本当に必要としている国々に容易に変更することができると述べた。
当局者とのテレビ会議で「ロシアの石油、ガス、石炭に関しては、国内市場での消費を増やすことが可能だ」とした上で「同時にエネルギー資源を本当に必要としている世界の他の地域への供給も増加させる」とした。
また「西側諸国がロシアのエネルギー資源に関するものも含め(ロシアとの)標準的な協力を拒否したことが何百万人もの欧州の住民を苦しめ、真のエネルギー危機を引き起こしている」と指摘。「もちろん、われわれも問題に直面しているが、これは新たな機会を開くものである」とした。
プーチン大統領はこのほか、「非友好国」がロシアの北極圏におけるサプライチェーン(供給網)を破壊し、一部の国が契約上の義務を果たしていないため、ロシアで問題が生じていると語った。
ロシアのシュルギノフ・エネルギー相はイズベスチヤ紙に対して、政府は「友好国に対してどんな価格帯であれ」原油や石油製品を販売する用意があると述べた。インタファクス通信が12日に伝えた。
●オリガルヒよりもプーチン大統領に近い? ロシアのエリート集団「シロバルヒ」 4/14
ロシアには「シロバルヒ」と呼ばれる治安関係者のエリート集団がいる。「オリガルヒ」(新興財閥)と「シロビキ」(プーチン大統領のかつての同僚であった治安関係者)を組み合わせた言葉だ。
この言葉を作ったダニエル・トリーズマン(Daniel Treisman)氏は、シロバルヒが持つ影響力と権力についてInsiderに語った。
アナリストのヒューゴ・クロスウェイト(Hugo Crosthwaite)氏は、シロバルヒはオリガルヒよりもプーチン大統領に近いと話している。
「オリガルヒ」と呼ばれるロシアの超富裕層はここ数週間、厳しい目を向けられてきた。
ロシアによるウクライナ侵攻やロシア軍が戦争犯罪を行っているとのアメリカ政府からの批判を受け、オリガルヒはさまざまな制裁を科されてきた。
ロシアでは1990年代、「シロバルヒ」と呼ばれる新たなビジネスエリートが出現した。「シロバルヒ」はカリフォルニア大学ロサンゼルス校の政治学教授ダニエル・トリーズマン氏が「オリガルヒ」と「シロビキ」を組み合わせて2006年に作った言葉で、治安関係者のエリート層で構成されている。
トリーズマン氏によると、オリガルヒには一般的に考えられているほどの政治的な影響力はない。シロバルヒの方が影響力は強いという。
安全保障情報に詳しいDragonfly、ユーラシア部門のリード・アナリストであるヒューゴ・クロスウェイト氏は、シロビキはプーチン大統領の側近の中でも特に重要なメンバーだとInsiderに語った。
プーチン大統領もソ連国家保安委員会(KGB) ── 現在のロシア連邦保安庁(FSB) ── の出身であることから、論理的には「シロビキ」ということになる。
その上で「シロビキの重要なポイントは、彼らはプーチン大統領のレジームの一部であって、別の独立した集団ではないということだと考えています」とクロスウェイト氏は語った。
「突き詰めていくと、シロビキはオリガルヒよりも大統領に近いのです」
●ロシアも余裕なし、金融から見たプーチンの急所  4/14
ウクライナに対するロシアの激しい攻撃が続いている。プーチン大統領は5月9日の対ドイツ戦勝記念日に、ウクライナ東部制圧で勝利宣言をしたいと考えているともいわれるが、台所事情はかなり厳しい。
戦争を続けるには「カネ」が必要である。名目GDP(IMF推計)が1兆4785億ドル(約185兆円)のロシアにとって、1日当たり2000億円〜2兆円と推定される戦費は重圧となる。
加えて欧米による経済制裁によりロシア経済はすでに年率10%を超えるマイナス成長に陥っていることは確実だ。世界有数の資源大国とはいえ、戦争を長期間継続することは難しい。経済制裁を受けて使える外貨準備が激減し、資本の海外流出もみられる。
通貨ルーブルの価値はロシア中央銀行が20%近く政策金利を引き上げるなどしたことで一時的なリバウンドはあるにせよ、成長の鈍化とともに趨勢的に低下していくことは避けられないだろう。現状15%程度にとどまっているインフレ率も、いずれ通貨安に伴って上昇し、国民生活を圧迫する。
ロシアのウクライナ侵攻は、入念に準備されてきた側面も指摘できる。侵攻すれば欧米による制裁措置は予想されたものだが、予想を超えた金融制裁にロシアの通貨、株式、国債はトリプル安に見舞われた。
「金」保有が過去10年あまりで4倍超
その一方で、ロシアは対抗余力を保持しているとも見られる。担保するのは「金(きん)」保有だ。
ロシアはウクライナのNATO加盟が先鋭化しはじめた2019年に金地金(きんじがね)の輸入を開始した。当時は、この金地金の輸入については、アメリカドル依存からの脱却を目指すプーチン大統領の指示と見られたが、今回のウクライナ侵攻で、その真意が単なるドル依存からの脱却だけではなく、ルーブル防衛にあったことが明らかになった。
ロシアの金保有高は、2010〜2020年にかけて4倍超に急増。ロシアの外貨準備に占める金地金の割合は最大で、2020年6月現在で約2300トンに達する。アメリカ、ドイツ、イタリア、フランスに次ぐ5位の保有高を誇る。
ロシアは金産出国で、輸出国でもあるが、2018年にはロシア中銀の金購入量は国内産出量を上回り、世界の中央銀行による金地金購入の約4割をロシア中銀が占めた。制裁に強い体制を構築する狙いがあったと見られる。
実際、2022年1月の外貨と金の保有は過去最高の6300億ドル(約79兆円)。世界4番目の外貨準備額高に達している。これに伴い、ロシアがドル建てで保有する外貨の比率は5年前の40%から約16%へと比重が低下している。そして、約13%を人民元で保有している。金積み増しを周到に進めてきたプーチン氏。そのうえでのウクライナ侵攻は、練りに練った戦略とみることもできる。
しかし、その前提となるのは短期の戦争終結だ。長期化すればウクライナ侵攻は自国経済にブーメランのように跳ね返ってくる。プーチン氏の誤算は、ストックではなく、フローで資金封鎖に見舞われたことではないか。
アメリカと欧州は国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの複数の銀行を排除し、アメリカはロシア中銀の在米資産を凍結、ルーブル防衛に外貨準備が利用できないよう制裁措置した。外貨準備に係るIMFの引き出し権も封じられた。
仮想通貨も封じられ、タックスヘイブン(租税回避地)に置かれたプーチン氏やプーチン氏を支えるオリガルヒ(新興財閥)の海外資産も凍結の憂き目にあっている。一部にはオリガルヒは凍結逃れから中東ドバイに資産を移しているともいわれるが、効果は限定的だろう。
厳しい制裁を追加したアメリカ
さらにアメリカは4月6日、ロシア軍によるウクライナでの民間人虐殺の疑いを受け、厳しい追加制裁を科した。ロシア最大の銀行「ズベルバンク」や国内4位の民間金融機関の「アルファバンク」に対し、アメリカの国民、企業との取引を全面禁止した。この制裁措置によりロシアの銀行部門の3分の2以上との取引が禁止されることになる。
同時にアメリカ人によるロシアへの新規取引を大統領令で禁止するほか、プーチン氏やその娘2人などのアメリカ内の資産を凍結した。また、欧州は、4月5日、ロシア産石炭の禁輸制裁案を発表した。原油や天然ガス(LNG)の輸入禁止には加盟国間で温度差があり、全面禁止には至っていないが、ロシア経済は欧米から経済封鎖されつつあることは確かで、金融面では孤立を強いられている。
すでにロシア国債は事実上のデフォルト(債務不履行)状態にある。ロシア財務長は4月6日、4日に償還期限を迎えたドル建て国債21億ドル(約2625億円)について、自国通貨ルーブルで支払い手続きを行ったと発表した。アメリカ財務省が経済制裁としてロシア中銀の外貨準備からアメリカの金融機関を通じて支払うことを認めなかったためだ。
ドル建て国債を他国通貨で償還することは契約違反であり、この時点でテクニカル上はデフォルトに認定された。救済措置として30日以内で契約どおりドルで支払えばデフォルトは回避できるが、状況は厳しい。
戦乱に起因するロシアの外貨建て国債のデフォルトは、1918年の帝政ロシア時代にまでさかのぼる。ボルシェビキ政権によるデフォルト宣言だ。
当時、ロシアは第1次世界大戦に連合国の一員として参戦していた。この戦費の調達を国債発行と海外からの融資に頼っていた。戦争の拡大に伴い調達戦費は増大し続け、財政を圧迫した。
帝政ロシア時代からほぼ100年で、ロシア国債は再びデフォルトする可能性が高い。4月4日期限の外貨建てロシア国債の残高のうち、海外保有分は200億ドル程度と大きくないが、デフォルト認定された意味は大きい。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスやS&Pグローバルは、部分的なデフォルトと見なす「SD(選択的デフォルト)に引き下げ、格付けの付与そのものを取り下げた。ロシアは事実上、国債発行を通じた外貨調達の道を閉ざされたに等しい。
頼みの綱は中国だが…
ただし、穴はある。中国という抜け道だ。中国の中央銀行である中国人民銀行とロシア中銀は1500億元(約2兆7400億円)規模の通貨スワップ協定を結んでおり、中国が金融面でロシアを支える可能性はある。
その際、「ロシアが産出する原油や天然ガス、保有する金は有効な担保になる」(市場関係者)とされる。中国はロシアのウクライナ侵攻に明確な批判を避けており、ロシアから安価な原油、天然ガスの購入を行っていると伝えられる。
中国はSWIFTに代わるCIPSと呼ばれる国際的な決済システムを有している。CIPSにはロシアやトルコなどアメリカが経済制裁の対象とした国々など、中国の一帯一路の参加国89カ国・地域の865行(2019年4月時点)が加盟している。
CIPSに加盟する銀行数で最大なのは日本であり、ロシアは2位、3位は台湾である。このため日本と台湾を除けば、CIPSの力不足は否めないが、SWIFTから締め出されたロシアはこのCIPSを通じて資金決済を担保できる可能性はある。
また、インドもロシアから武器の輸入の7割を頼っており、原油を安く購入している。ロシアの外貨獲得を手助けしている。
中国はロシアのウクライナ侵攻で漁夫の利を得るだろう。ロシアは将来、中国(人民元)経済圏に溶け込んでいかざるをえないかもしれない。依然、プーチン氏は高い支持率を維持しているが、ウクライナ侵攻の後遺症はいずれ国内経済に跳ね返ってくる。
●ウクライナ、21/22年トウモロコシ輸出1700万トンに大幅減も 4/14
ウクライナ農業省高官は13日、ロシアによる軍事侵攻の影響で、2021/22年のトウモロコシ輸出が1700万トンと、前年の2310万トンから減少する可能性があるとの見方を示した。
プラハで開かれた会合で述べた。ヒマワリ油の輸出も530万トンから減少して340万トンとなる可能性があるとした。
調査会社APKインフォームは先週、需要減少と在庫の積み上がりでウクライナ産トウモロコシの輸出価格が下落していると指摘した。
ウクライナは世界有数の穀物輸出国で、以前は黒海沿岸の港から大半の農産品を輸出していたが、軍事侵攻後は鉄道を使った西部国境からの輸出に限定されている。
同国当局者はこれまでに、3月のトウモロコシ輸出は30万トンにとどまり、同月末時点の在庫は約1300万トンに上ったと明らかにしていた。
農業省の別の高官は会合で、6月末までに200万トンの小麦を輸出できるとの見方を示した。21/22年全体の輸出量見通しは明らかにしなかった。
●イギリス ロシア軍事侵攻で機密情報を積極開示 そのねらいは  4/14
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、イギリス政府は、通常は決して公にはしない機密情報を積極的に開示してきました。こうした姿勢は、アメリカ政府も同じで、情報を開示することで、欧米側はロシアの動向を把握していると機先を制するねらいとみられます。
このうちイギリス外務省は、軍事侵攻のおよそ1か月前にあたることし1月下旬の段階で独自の情報に基づく分析として、「ロシアが、欧米寄りのゼレンスキー政権を転覆させ、親ロシア派による政権の樹立を目指す動きがある」と発表しました。
ゼレンスキー大統領に代わる新しい指導者として元首相や元議員などの名前まで具体的に挙げ、ロシアの情報機関と接触しているなどと指摘しました。
また、イギリスの対外情報機関、MI6のムーア長官は、軍事侵攻が始まった2月24日ツイッターに投稿し、イギリスは、プーチン大統領によるウクライナへの侵攻計画のほか、ウクライナ側から攻撃を受けたかのような情報をねつ造する「偽旗作戦」についてもアメリカと協力して、明らかにしてきたと強調しました。
ムーア長官は、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャなどで多くの市民の遺体が見つかった今月上旬には「プーチン大統領の計画には軍や情報機関による即時の処刑が含まれていることはわかっていた」と指摘しました。
さらに、情報機関のGCHQ=政府通信本部のフレミング長官も先月講演で「ロシア軍の兵士が命令を拒否したり、みずからの装備を破壊したりと士気が低下している」と述べるなど、各機関が次々に機密情報を公表しています。
また、イギリス国防省は、ツイッターで、連日、戦況分析を公表し、ロシア軍の動きや攻撃のねらいなどについて、分かりやすく伝えています。
イギリスにとって、冷戦時代から、ソビエトは大きな脅威で、MI6は、KGB=国家保安委員会としれつな情報戦を繰り広げてきたとされています。
冷戦終結後も、2006年には、ロシアの元工作員が亡命先のロンドンで死亡し、体内から猛毒の放射性物質、ポロニウムが検出されたほか、2018年には、イギリス南部で別の元工作員と娘が意識不明の状態で見つかっています。
いまもロシアを脅威と捉えるイギリスの情報機関は、モスクワなどに多くの情報工作員を潜り込ませているとみられ、今回の軍事侵攻を巡っても情報収集と分析に力を入れています。
イギリス国防省の諜報部門に高官としておととしまで所属し、40年近くにわたってイギリスのインテリジェンスの分野で中心的な役割を果たしてきたポール・リマー氏がNHKのインタビューに応じました。
現在、キングス・カレッジ・ロンドンで客員教授を務めるリマー氏は、ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、イギリスが、機密情報を積極的に開示してきたねらいについて「ロシアの偽旗作戦などに対して先手を打って情報を発信することでロシアの立場を弱め、ロシアの政権内の足並みを乱すことだ」と指摘しました。
また、「イギリスには、長年にわたって経験を積んだ情報機関があるが、今回、特に重要なのはアメリカと信頼し合うことで情報が強化されたことだ」と述べ、イギリスの情報機関は、ウクライナ情勢を巡りアメリカ側と連携を強め、積極的に情報を交換していたとしています。
さらに、リマー氏は、2006年、プーチン政権を批判してイギリスに亡命していたロシアの元工作員が暗殺された事件や、2018年に元工作員の男性などへの暗殺未遂事件が発生したことなどを指摘したうえで、「プーチン政権とは普通の関係を築けないことが明らかになり、プーチン大統領のねらいと意図を理解することに多くの資源と労力をつぎ込む必要があった」と述べロシアに対する諜報活動に一層力を入れることになった背景について明らかにしました。
一方、リマー氏は、プーチン政権の今後について、「あすにでもプーチン政権が倒されるというのはおそらく希望的観測で、今後、政権側は、ウクライナとの戦争に勝利したかのようなストーリーを打ち出すかもしれない。政権への影響は、ロシア国民に制裁の効果が出てきてからだが、実際にそれが出るまでには時間がかかる。半年後や1年後、どういう状況になるかは未知数だ」と述べました。
●アメリカ、中国……ウクライナ情勢、素朴な疑問 4/14
ウクライナ情勢はロシア軍による残虐行為が明らかになるなど、日々、状況を新たにしています。2人の専門家の見方をお伝えします。
「ロシアに対し5つの柱からなる追加制裁を科し、外交的、経済的圧力を強化する」……岸田総理大臣は4月8日の記者会見で、ロシアへの新たな追加制裁を発表しました。
(1)石炭の段階的な輸入禁止
(2)機械類、ウオッカなどの輸入禁止措置
(3)新たな投資の禁止
(4)ロシア最大手の銀行などの資産凍結
(5)個人や団体への資産凍結の拡大
あわせて岸田総理は、ロシア軍の残虐行為に対し「戦争犯罪である」と強調しました。
さて、このような制裁というのは「される側」……ロシアにとっては当然、厳しいものですが、“空証文”にならないためには、取り締まりが両輪となります。そういう意味で制裁する側にも覚悟が必要です。特に、アメリカでは違反した場合の厳しさは半端ではないようです。
アメリカの法律事務所「クイン・エマニュエル」東京オフィスの代表で、アメリカ人弁護士のライアン・ゴールドスティンさんは、「アメリカは本気だ」と語ります。ライアンさんはアメリカの裁判で、日本企業を担当する弁護士の1人です。
アメリカの制裁措置は、ロシアの銀行や国有企業に対する取引制限、ロシアの富豪や上流階級に対する取引制限や資産凍結など。これらは「ブロック制裁」と呼ばれます。こうした制裁措置は大統領令に基づく指令も多くあります。最高で100万ドル=日本円で1億円あまりの罰金刑、個人の場合は最高で20年の禁錮刑を科される可能性もあるということです。ライアン弁護士は「アメリカではロシアに対し、戦争はしていないものの、そのマインドになっている」と話します。
オリガルヒに代表される、固有にリストアップされている人物や団体は最もわかりやすいものですが、リストになくても、海外でどういう仕事をやっているかについては確認が必要です。最も注意が必要な業種は金融関係で、例えばヨーロッパへの投資先がロシアと関係がないかどうかも精査すべきでしょう。
そして、日本企業は現地法人、例えばアメリカにある子会社の動きには特に注意すべきと、ライアン弁護士は指摘します。グローバルに展開する日本企業も多いだけに、各国のさまざまな法律と照らし合わせる必要も出てきます。
企業などが、気がつかないうちに禁を犯してしまう可能性はないとは言えません。アメリカはすでにロシアの航空大手への罰則を発表しました。いまのところ、違反の摘発はあまり表面化していませんが、日本もこれから目を光らせていくことになります。そして、アメリカの姿勢は取り締まりをめぐる1つの試金石になっていくとみられます。
続いての疑問は「中国」です。これについては小欄でも一度取り上げましたが、日本を含む先進国を中心に制裁の動きを強めるなかで、中国はこうした流れと一線を画しているように見えます。中国には、ロシアのウクライナ侵攻がどう映っているのでしょうか?
中国情勢に詳しい、拓殖大学教授でジャーナリストの富坂聰さんは、まず、中国のニュースの報じ方に注目します。
「ロシアとウクライナの戦い、ロシアとNATOの戦いを明確に分けて報じている。中国はロシアのウクライナ侵攻をもう少し俯瞰して見ている感じがある。日本は“どちらが悪いか”ということを視点として持つが、中国は情勢が今後どのように向いていくのか、そのとき自分たちにはどういうマイナス、プラスがあるのかという視点が中心になっている」
冷徹に国益を見極めている姿勢が見てとれます。こうした現状の上で、今回の状況は「アメリカとロシアの代理戦争」というのが中国の見方です。
また、あいまいとされている中国のウクライナ侵攻へのスタンスについては、2月24日の侵攻直後に習近平国家主席がプーチン大統領と電話会談し、「ウクライナと話し合って問題を解決しろ」と述べたことを指摘しました。中国はロシアが感じている安全保障上の危機感に賛同しているものの、侵攻には反対しており、その意味でスタンスは明確であると富坂さんは分析します。
その上でロシアと中国が一致しているのは、唯一の国際秩序は国連であり、アメリカ中心の国際秩序ではないということ。つまり、アメリカがやっていることは「ノー」であるとして両国は手を組んでおり、逆に一致しているのはそこだけだとしています。
中国の「ロシア寄り」という見方についても、「中国は一方的にロシアにのることはそもそもできない」と話します。ウクライナと中国は農産品を中心とする貿易関係があることがその理由ですが、一方で、ロシアの貿易も大きく、「両方捨てたくない」というのが中国の本音のようです。
一方、このウクライナ情勢を中国はわが事として観察しているという見方もあります。これは日本もしかり、巷間言われているのが、台湾問題や東シナ海問題との関連性です。事態によっては中国の台湾侵攻につながっていくのか……富坂さんはウクライナ問題とは関係なく、台湾侵攻の可能性があると指摘した上で、次のように解説します。
「中国が主導的に台湾に軍を差し向けるかというと、ハードルは高い。現実的ではない。人口2000万人の台湾を無理やり配下に治めても、きちんと治めていけない。できれば抱えたくないと思っている。ただし、完全に台湾が自分たちから離れていくという状況は受け入れられない。そのときには何らかのアクションをする。もちろん武力行使も入っている。手を出さざるを得ない状況はある。国土を分裂させるようなことをやったら、平和統一という基準から外れる」
これまでの話で言えることは、ウクライナ情勢もそれぞれの国の視点によって、全く違う景色に見えているということです。先の国連総会では、国連人権理事会でのロシアの資格停止決議が採択されました。決議は賛否を示した国のうち、3分の2以上の賛成で採択と規定されていますが、その結果は賛成93、反対24、棄権58というものでした。この結果は解釈が分かれるところです。賛否を示した117ヵ国の3分の2は確かに超えていますが、反対・棄権が82ヵ国に上っています。
ちなみに中国は反対、インドは棄権でした。中国とインドを合わせた人口はおよそ28億人、世界のおよそ3分の1を占める2つの国が賛成しなかったことは、ウクライナ問題が1つの価値観だけで論ずることは難しい、それぞれの利害が絡んだいかに複雑なものであるか、その象徴だと言えるでしょう。
ウクライナの惨状は、もちろん人道的に決して許されることではありません。一方で、こうした現実があるということも頭に入れておく必要があると思います。
●露のウクライナ戦争は「聖戦」でない  4/14
東方正教会のコンスタンディヌーポリ総主教、バルソロメオス1世は10日、ロシアのウクライナ侵攻を強く非難し、「戦争は悪魔的だ。悪の主要な武器はウソをつくことだ。戦争では何事も解決できない。新しい問題を生み出すだけだ」と主張した。バルソロメオス1世はポーランドを訪問し、ウクライナからの避難民の状況を視察してきた。同1世は世界約3億人の正教徒の精神的最高指導者である。
エキュメニカル総主教のバルソロメオス1世は数日前、ギリシャの学生たちの前でも同様の内容を語り、「攻撃者が武装していない無実の人々、子供を攻撃し、学校、病院、劇場、教会さえも破壊することは正当化できない」と指摘し、「ロシア正教会のモスクワ総主教キリル1世の態度に非常に悲しんでいる」と述べている。
ロシア正教会最高指導者、キリル1世はロシアのプーチン大統領を支持し、ロシア軍のウクライナ侵攻をこれまで一貫として弁護し、「ウクライナに対するロシアの戦争は西洋の悪に対する善の形而上学的闘争だ」と強調してきた。
バルソロメオス1世は、「キリル1世はウクライナ正教会のロシア正教会からの分離が紛争のきっかけとなったと説明しているが、不正を正当化するための言い訳に過ぎない。」と述べ、ウクライナ戦争を「聖戦」と呼ぶのを止めるべきだと要求している。
キーウからの情報によると、ロシア軍はウクライナで少なくとも59カ所の宗教施設を攻撃して被害を与えている。正教会の建物が破壊され、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)、イスラム教寺院(モスク)、プロテスタントとカトリック教会の礼拝所も被害を受けている。
ここにきてジュネーブに本部を置く世界教会協議会(WCC)から、「ロシア正教会をWCCメンバーから追放すべきだ」といった声が高まってきた。WCCはスイスのジュネーブに本部を置く世界的なエキュメニカル組織だ。120カ国以上からの340を超える教会と教派の会員が所属している。WCCには、多数のプロテスタント、ほとんどの正教会、東方諸教会が所属している。ローマ・カトリック教会はオブザーバーの立場だ。
WCCのサウカ暫定事務局長(ルーマニア正教会所属)は、「加盟教会をWCCから除外する決定は、事務局長ではなく、統治機関である中央委員会に委ねられている。中央委員会は6月15日から18日まで会合し、今年8月31日から9月8日までドイツのカールスルーエで開催されるWCC第11回総会の準備をする。WCC中央委員会は、関係する教会との真剣な協議、訪問、対話の後、関係教会の除外問題を決定することになる。正教会の一員として自分も苦しい。悲劇的な出来事、大きな苦しみ、死と破壊は、正統の神学と精神性に対立する。その戦争を正当化するロシア正教会の状況に懸念する。キリル1世に個人的に手紙を書き、2人の大統領に戦争を終わらせるよう呼びかけたばかりだ」と述べた。
注目すべきは、ウクライナでキエフ総主教庁に属する正教会聖職者とモスクワ総主教庁に所属する聖職者が「戦争反対」という点で結束してきたことだ。ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)の首座主教であるキーウのオヌフリイ府主教は2月24日、ウクライナ国内の信者に向けたメッセージを発表し、ロシアのウクライナ侵攻を「悲劇」とし、「ロシア民族はもともと、キーウのドニエプル川周辺に起源を持つ同じ民族だ。われわれが互いに戦争をしていることは最大の恥」と指摘、創世記に記述されている、人類最初の殺人、兄カインによる弟アベルの殺害を引き合いに出し、両国間の戦争は「カインの殺人だ」と述べた。同内容はロシア、ウクライナ両国の正教会に大きな波紋を呼んだ。
最近では、イタリア北部のウディネにあるロシア正教会は、モスクワ総主教区から分離したばかりだ。ウディネのロシア正教会は現在、コンスタンディヌーポリ総主教の管轄下に属することを願っている。イタリア日刊紙「イルメッサジェロ」が11日、報じた。
なお、イタリア通信社ANSAが11日報じたところによると、ローマ教皇フランシスコはキリル1世と今年6月にエルサレムで会うことができるかもしれないという。フランシスコ教皇は6月12日から13日にレバノンを2日間訪問した後、同月14日朝にヨルダンのアンマンからエルサレムに到着する。フランシスコ教皇はそこでキリル1世と会い、ウクライナ戦争について話すことができるかもしれないという。
●「ナチスよりもひどい状況」「これは戦争ではなくテロだ」バルト三国の大統領 4/14
ポーランドとロシアに接するバルト三国の大統領がウクライナを訪れ、多くの民間人が犠牲となった現場などを視察しロシアを非難した。
ポーランドやエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国の大統領は13日、多くの民間人が犠牲になったキーウ郊外のボロディアンカで攻撃を受けた住宅などを視察した。
リトアニアのナウセーダ大統領は「ナチスよりもひどい状況」だと表現しロシア軍を非難した。その後、各首脳はキーウでウクライナのゼレンスキー大統領との会談に臨んだ。
会見でポーランドのドゥダ大統領は「これは戦争ではなくテロだ」と指摘した。そのうえで「罪を犯した者は裁判にかけられそれは命令を下したものにも及ぶべきだ」とロシアのプーチン大統領をけん制した。
●ポーランド大統領、ロシアのウクライナ侵攻は「戦争ではなくテロ」 4/14
ポーランドのドゥダ大統領は13日、ロシアによるウクライナ侵攻について、「戦争ではなくテロ行為だ」と述べた。ドゥダ大統領はこれより前、バルト三国の指導者とともにウクライナ首都キーウ(キエフ)を訪問し、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談していた。
ドゥダ大統領はツイッターへの投稿で、「これは戦争ではない。兵士が民間人を殺害するために送り込まれているとき、これはテロ行為だ」とし、戦争として受けとることはできないと指摘した。
ドゥダ大統領は、こうした犯罪に直接的あるいは間接的に関与した犯罪者は処罰されなければならないとし、検察官が大量殺人が行われた場所で証拠を集めていると述べた。
ドゥダ大統領は「すべてのルールを破る人たちとは対話は成立しない。わたしは、ウクライナが自身の立場について決断を下せる自由な主権国家として、すぐに欧州連合(EU)の一部となることを望む」と述べた。
ポーランドは紛争を逃れてきた人々の支援で大きな役割を果たしている。ポーランドの国境警備隊によれば、ポーランドはロシアがウクライナへの侵攻を始めた2月24日以降、268万人のウクライナ難民を受け入れている。
今回の難民受け入れは、2015年から始まった欧州難民危機の時の対応と比較すると、非常に友好的な立ち位置を示している。当時の避難民は中東諸国の紛争から逃れてきた人が大多数だったが、ポーランドはEUから提案された難民の受け入れ枠を拒否する姿勢を示していた。
●サンマ漁 2022年も見送りへ ウクライナ情勢・燃料高騰で...  4/14
5月から始まる予定の公海サンマ漁が、2022年も見送りとなるもよう。
5月から7月にかけて、北海道の根室などを拠点に、北太平洋の公海で操業するサンマ棒受け網漁は、資源数の減少で、2021年と2020年、出漁が見送られている。
漁場に最短で向かうには、ロシア水域を通る必要があり、2022年はウクライナ情勢の緊迫で、漁船がロシアに拿捕(だほ)される懸念があるほか、燃料費の高騰も重なり、3年連続で出漁が見送りとなる見込みだという。
●国内企業の8割超がウクライナ侵攻による経営への影響を懸念 4/14
ロシアのウクライナ侵攻による国内企業への影響について、8割を超える企業が経営への影響を懸念していることがわかりました。
東京商工リサーチが4月1日から11日にかけて行ったおよそ5700社に対するアンケート調査では、すでに経営にマイナスの「影響を受けている」と回答した企業は35.5%、「今後影響が見込まれる」は46.0%で、合わせて81.5%の国内企業が経営への影響を懸念していることがわかりました。このうち「影響を受けている」と「今後影響が見込まれる」を合わせた「影響率」は、アルミニウムや亜鉛などの「非鉄金属製造業」が100%でトップでした。
また、「今後影響が見込まれる」と回答した企業では、影響の表れる時期についておよそ8割が(78.3%)が「6か月以内」としています。
ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰やビジネス圏の縮小などが新たな経営リスクとして急浮上している実態が浮き彫りになりました。
●ロシア国防省「ウクライナ軍1026人が自発的に武器を捨て投降した」 4/14
ロシア国防省は、南東部の要衝マリウポリをめぐり、ロシア軍と親ロシア派武装勢力による攻撃を受け、「ウクライナ軍1026人が自発的に武器を捨てて降伏した」と主張しました。
しかし、ウクライナ側はこの情報を否定しています。ではこの「投降」は本当なのでしょうか?新たな情報戦ではないか?という見方もあります。他にロシア側は「マリウポリの港がアゾフ連隊から完全に解放された」として、港を制圧したとも主張しています。ウクライナ東部で一体何が起こっているのか?専門家に聞きました。
ロシア軍 まもなくマリウポリ制圧か
山形純菜キャスター: 13日アメリカのバイデン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と約1時間の電話会談を行いました。そこで日本円にして約1000億円相当の追加の軍事支援を行うと表明。具体的には、砲撃システムや軍用ヘリなどを提供予定です。
また、アメリカ国防総省高官によると「今後24時間以内にアメリカからジャベリン(対戦車ミサイル)をもう一便送る見通し」だと発表しました。
そんな中、軍事侵攻が激化している東部のマリウポリでは11日から12日にかけて、ロシア軍が制圧したとみられる地域が拡大していて、中心部を包囲する形に変わってきています。ロシアの国防省は13日、マリウポリの港を完全に制圧したと主張しています。さらに、ロシアメディアがマリウポリ「新」市長を“親ロシア派”が選出したとしています。
ただ、現在の市長が辞任した情報はなく、このような報道をすることで、親ロシア派による軍事侵攻が進んでいることを国内外にアピールすることが目的と見られています。
ロシア国防省「ウクライナ軍1026人が武器を捨て投降」
また、ロシア国防省の報道官は「マリウポリでウクライナ軍1026人が自発的に武器を捨てて投降した」と発表しました。ただ、ウクライナ側によるとそのような情報はないと、ロシア側の主張を否定しています。
ホラン千秋キャスター: 廣瀬さん。ロシアの主張、ウクライナの主張、食い違っていることになっていますが、実際はどんなことが起きていると考えられますか?
慶応義塾大学 廣瀬陽子教授: おそらく投降したということはないと思います。そこはお互いの情報戦になってしまっているので、ロシアとしては、ウクライナの戦争に対する意欲をどんどん下げるような情報を出していきますし、他方でウクライナはこのようなことはないと主張することもある。この状況において投降することは、ちょっと考えづらいと思います。
井上キャスター: こういった情報戦が続いている中で、廣瀬教授はプーチン大統領はどこまでの目的を持っているのか、ウクライナ全土を掌握したいのか、それともマリウポリを制圧出来れば、一区切りとなるのか。プーチン大統領の頭の中をどう分析していますか?
廣瀬教授: もちろん最初の狙いとしては、ウクライナ全土だったはずです。今は5月9日の戦勝記念日に向けて、ドネツク・ルガンスク州全土を落とす。その州の全土を取るという考えに変わってきていると思います。ドネツクを全土支配するにしても、このマリウポリは絶対に落としていかなければならない場所で、特に2014年の戦いの時にマリウポリは落とせそうで落とせなかった場所ですので、そのリベンジの意味もあって、まずマリウポリを落とす、そして、ドネツク全土を落としていくというような方向で、最低限のレベルでプーチン大統領は目標を設定していると思います。
井上キャスター: そんな中で停戦交渉は出来ますか?
廣瀬教授: そこは難しいところではありますが、とりあえず東部の2州を完全に落とした後は、一応そこの部分だけの勝利宣言は出来ると思います。まずはそこの勝利宣言をして、その後で次にウクライナの出方を見つつ、どのように戦況を展開していくか考えていくんだと思います
ウクライナ国家親衛隊所属「アゾフ連隊」
山形純菜キャスター: そしてマリウポリでは11日「ロシア軍が化学兵器を使用したのではないか」という情報がSNSで伝えられ、日本でも大きく報道されました。SNSで主張したのはウクライナ政府の正式な軍隊ではない「アゾフ連隊」という軍事組織。
このアゾフ連隊はマリウポリを拠点する軍事組織で2014年ロシアによるクリミア侵攻の際、義勇兵として戦闘に参加しました。笹川平和財団の畔蒜さんによると「アゾフ連隊は2014年の戦闘ではロシアからマリウポリを守り切ったと英雄視された一方で、創設当時は極右的なメンバーも多く過激な行為も見られた」ということです。現在はウクライナ内務省管轄の国家親衛隊に所属しています。
では、このアゾフ連隊はプーチン大統領にとってどんな存在なのかというと、クリミア併合時にマリウポリ制圧に失敗したという悔しさから、アゾフ連隊は「復讐の対象」だと畔蒜さんは指摘しています。
ですからマリウポリを制圧するというのは「過激な行動を取るアゾフ連隊は、マリウポリを占拠するいわゆるネオナチで、それをせん滅してマリウポリを制圧すれば“ウクライナ人を救う”という今回の特別な作戦の大義名分がたつのではないか」と畔蒜さんは分析しています。
ホランキャスター: マリウポリを拠点とする軍事組織で今は国家親衛隊に所属ということなんですけど、このアゾフ連隊とウクライナ軍はどういう風に分けてみればいいのでしょうか?
廣瀬教授: アゾフ連隊は軍ではないのですが、もともと自警団的な存在だったのが非常に活躍が良いということで、国家親衛隊に昇格したというものなんです。今逆にいうと国家親衛隊というような位置づけなので、政府に近い形で積極的に軍事行動を行える。ウクライナ軍と連携をとりながら作戦を遂行しているという状態にあると思います。
井上キャスター: 裏を返すとアゾフ連隊が想像以上に頑張っているというか、ロシアは少し甘く見ていた部分があるということですか?
廣瀬教授: ロシアにとってはなんとしてもやっつけたい相手。非常に強く士気も高いですし、ウクライナ軍を引っ張っていくという存在であるといえます。
●ウクライナ軍の攻撃?ロシア艦隊“旗艦”が爆発…侵攻開始から50日目 4/14
2月24日にロシアのウクライナ侵略が始まり、14日で50日目です。
ロシアとの国境からわずか10キロ程度しか離れていないハルキウ。ロシア軍による侵攻開始以来、毎日のように攻撃にさらされてきました。絶え間ないロシア軍の砲撃のせいで、遺体の回収もままなりません。
マリウポリでは、ほとんどの場所がロシア軍に占領されています。街中で目につくのは、『Z』のマークを付けた兵士や、装甲車だけになりました。
ドンバス地方の分離主義者たちは、残っている住民たちを探していますが、彼らをどこに連れて行くのかは、わかりません。マリウポリでは、製鉄所にアゾフ連隊など、数千人が立てこもり抵抗を続けていますが、現状ではロシア軍よって完全に包囲されてしまっています。
ロシア側は、投降してきたという1026人のウクライナ兵の映像を公開。この様子は、ロシア国営放送で繰り返し放送されました。この半日で15回もです。
ウクライナ側は、こう話します。ウクライナ・大統領府長官顧問:「一部の部隊が突破を試みたが、拘束されてしまったのは事実だ。ただ、それは、ロシア側が発表したような1000人という数ではなく、はるかに少ない」
ウクライナ軍が、地対艦ミサイルを使って黒海艦隊の旗艦『モスクワ』に甚大な損害を与えたというニュースが入ってきています。CNN:「巡洋艦について詳細を確認中だが、ウクライナの主張が本当なら、どのような意味合いがあるのか」軍事アナリスト・ハートリング元米陸軍中将:「戦術上の勝利しょう。ウクライナがネプチューンミサイルを命中させたと発表した。これは、ウクライナ製の地上型対艦巡航ミサイルだ。ロシア側には、予想外の戦力だったはず」
ロシア国防省は「ミサイル巡洋艦・モスクワで火災が起き、弾薬が爆発した。深刻なダメージを受けているが、乗組員は全員無事だ。原因は調査中」と発表しました。
どれだけの命が奪われ、建物や文化、生活が破壊され、国土が蹂躙されたか、そこをはかることはできません。今も侵略者との戦いは続き、生き残っている人たちは、戦時下での生活を余儀なくされています。
ウクライナ支援の拠点になっている西の要所・リビウ。世界中から支援物資が集まってはいますが、今のウクライナでは、軍への供給が優先されます。ボランティア:「ポーランド、フランス、フィンランド、ドイツ、イタリアのボランティアなど持ってきた。ウクライナのいろんな地域からも届いている。人道支援物資の一部は軍に送られ、一部は私たちのところに運ばれてくる。(Q.軍に送られるものは何か)防寒用下着、ズボン、手袋、防弾服、食料、衛生用品など」
これまでにウクライナからは470万以上の人が国外へと避難しています。その一方で、ポーランド側の国境に行ってみると、ある変化が起きていました。
ウクライナに戻る人たちが、列をなしていました。ウクライナ国境警備隊によりますと、2月24日以降、87万人のウクライナ人が帰国したといいます。元々、国外にいた人が戦闘のために戻るケースのほかに、いったんは避難した女性や子ども、高齢者の帰国が増えてきているそうです。
ある避難者は、ユーロニュースの取材に、このように答えています。ザポリージャからの避難者(46):「住むところも仕事も見つけられなかった。少なくとも自分の家では自力で生活することができる。国外に住むという選択肢は選べなかった」
こうしたなか、アメリカは、8億ドル、約1000億円の追加軍事支援を表明しました。ジャベリンミサイルなど、これまでのものに加え、自爆ドローン、装甲車に榴弾砲、化学・生物・核兵器の防護設備、軍用ヘリなどです。ヘリコプターは、ソ連製のものですが、アフガニスタン軍などにもアメリカが供与していた機体です。軍事アナリスト・スペンサー元米陸軍少佐:「ウクライナは開けた場所で戦い、東部の陥落を防がねばならない。ロシアの動きを封じるには、1日に1万〜2万発の砲撃が必要」
●ロシアの軍事侵攻で暮らしが苦しくなる  4/14
「ロシアの軍事侵攻で、この国の家計は歴史的な打撃を受けている」ウクライナの話ではありません。イギリスの中央銀行総裁のことばです。イギリスでは今、日々の食事を慈善団体に頼る人が増え、貧困が広がることへの懸念が強まっています。背景にあるのは急激なインフレです。それは、私たちが暮らす日本も無関係ではありません。
個人の借金が増えている
15億ポンド(約2600億円)。イギリスでは、2月だけでクレジットカードの借り入れ額がこれだけ膨らみました。1993年に統計を取り始めて以来、最も大きい伸び率です。今の収入で必要な支出をまかなうことができず、暮らしを維持するために借金をする人が増えたためとみられています。
なぜ家計が厳しくなった?
イギリスの人たちを苦しめているのは、物価の記録的な上昇です。牛乳に主食のパン、それにビール。身近なあらゆるモノが値上がりしています。例えば牛乳は2月、前年同期と比べて20%高くなり、近く50%に達する可能性があるとされています。背景にあるのが、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに穀物やエネルギーの価格が上昇していることです。牛を育てる飼料から輸送費まで、牛乳の製造にかかわるさまざまなコストが増えているのです。
イギリス農業者連盟 マイケル・オークス酪農委員長「多くの農家が瀬戸際に立たされている。コストが上がり続けて採算が取れない」
4月の電気ガス料金は1.5倍に
イギリスの人たちの負担は増す一方です。その象徴が電気・ガス料金です。4月、家庭向けの電気やガスの料金の上限価格が54%値上げされました。燃料となる原油や天然ガスが高騰し、エネルギー供給会社の撤退が相次いだことを受けてサービスを維持する必要に迫られたイギリス政府が引き上げたのです。こうした物価の上昇はロシアの軍事侵攻以降、一段と進んでいます。中央銀行イングランド銀行のベイリー総裁は「ロシアの軍事侵攻で家計は歴史的な打撃を受けている」と指摘し、今の生活水準を維持することが難しくなると警鐘を鳴らしています。つまり市民が“貧しくなること”が懸念されているのです。
すでに見えてきた“貧困化”
すでにイギリスにはこの変化が目に見える場所があります。生活が苦しい人に食品などを無償で提供する「フードバンク」です。ロンドン西部にある慈善団体が運営するフードバンクは市内2か所に設けられ、一般の人やスーパーからの寄付などで集められた肉や野菜、飲み物などを配っています。ここでは誰もが週に1度、必要な食料などを受け取ることができます。このところ利用が増えているということで、朝から食品を求める人たちがひっきりなしに訪れ、途切れることはありませんでした。訪れた人は暮らしが厳しくなっていると口々に話しました。
娘2人と夫と暮らす51歳の女性「コロナ禍で夫が失業して収入がほぼない中、モノが高くなりすぎて何も買えません。育ち盛りの娘がいるので、パンや牛乳はなんとか手に入れたいと思ってここに来ています。ガスの節約のため毎日料理ができず、料理する日としない日を決めています」
幼い3人の子どもがいる36歳の女性「生鮮食品を手に入れるためにここに来ています。赤ちゃんがいるので、必要な服は中古やチャリティーで手に入れています。どうやって生き延びるかを毎日考えています」
この慈善団体が運営するフードバンクは、時間によっては食料を受け取る人で長い列ができるということです。代表のビリー・マクグラナガンさんは利用者が今後さらに増加すると予想しています。
フードバンク「ダッドハウス」経営者 ビリー・マクグラナガンさん「スーパーに行くたびに値段が高くなっている状況の中、暖房と食事のどちらかを選ばなければならない人が多いのが実情です。困っている人を助けるために食料を寄付する側だったのに、受け取る側になった人もいるんです。これからますます訪れる人は増えるでしょう」
130万人が新たに貧困に陥る?
イギリスの人たちの暮らしは今後どうなるのか。専門家は、ウクライナ情勢でモノの価格が押し上げられ、物価が過去40年間で最も速いスピードで上昇していると指摘します。そして、多くの人が新たに貧困に陥る可能性があるというのです。
レゾリューション財団ハンナ・スローター シニアエコノミスト「物価が上がるスピードがあまりに急で、賃金の上昇が追いつかず、家計はさらに圧迫されることになるだろう。多くの世帯はすでにエネルギーや食料といった必需品の支出をこれ以上削減できない状況だ。今後130万人が新たに貧困に陥り、うち50万人は子どもになるだろう」
40年ぶりのインフレ続くアメリカは
家計が圧迫されているのはイギリスだけではありません。アメリカでは物価の伸びを示す消費者物価指数が3月に前年同月比で8.5%上昇し、1981年12月以来およそ40年ぶりとなる高い水準を記録しました。品目別に見ますと、ガソリンが48%という大幅な値上がりとなったほか、電気料金が11.1%、食品が8.8%、公共交通機関の料金も7.7%上昇しました。いずれも日常生活に必要な支出ばかりです。アメリカでも、所得の低い人を中心に生活が苦しくなる人がさらに増えると見込まれているのです。
日本の暮らしもさらに厳しく
日本でも値上げが相次いでいますが、家計への負担は今後さらに増しそうです。その一つが、電気料金の値上がりです。国内の大手電力会社10社のことし5月分の電気料金は、比較できる過去5年間で、最も高い水準になります。東京電力管内の場合、使用量が平均的な家庭の去年5月分の電気料金は、6822円でした。しかし1年間で料金は1683円上昇。ことし5月の電気料金は、8505円になります。この先が気がかりになる数字も出ています。4月12日、日銀は企業の間で取り引きされるモノの価格を示す「企業物価指数」の最新の数値を発表しました。それによりますと、3月の速報値は、2015年の平均を100とした水準で112.0。1982年12月以来、実に39年3か月ぶりの高さとなりました。ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、石油製品や電力価格などが値上がりしたことが主な要因です。原材料費や仕入れコストの上昇分を価格に転嫁することになれば、生活必需品などがさらに値上がりする可能性もあるのです。世界を見渡すと、フィリピンやスリランカなどでは市民が抗議デモを行って、物価上昇が生活の打撃になっていると訴えています。WTO=世界貿易機関は物価の高騰で貧しい国々での食糧危機が迫っているとの認識を示しています。ウクライナ情勢は事態打開の道筋が見えないままで、世界各地でも暮らしの先行きに不安が高まっています。
●世界で高まる「ロシア嫌悪症」に注意すべきだ  4/14
非道な「住民虐殺」が明るみに出て国際的包囲網がますます狭まるプーチン政権だが、ロシア国民の高い支持が揺らぐ気配はない。この背景には、反戦論への強烈な締め付けで多くの市民が戦争の実態から目を背けていることがある。しかし政権を下支えする最大の「免震安定装置」は、何世紀にもわたってロシア国民の心の深奥に潜む「反西欧」の愛国心である。これを承知しているプーチン氏は国際的孤立を正当化する魔法の言葉≠巧みに駆使して、国民を引きつけるのに成功している。
魔法の言葉「ルッソフォビア」
この魔法の言葉は「ルッソフォビア」。「ロシア嫌悪症」と訳されるが、19世紀以来の長い歴史がある言葉だ。最初にこの言葉を広めたのはフランスだ。当時大国として勃興していたロシアに、ナポレオンが侵略することを正当化するために使い始めた。ロシアが異文化であり、西欧への脅威であることを訴えたキャッチフレーズだ。次第にロシア脅威論の象徴として、この言葉はイギリスやドイツにも広まった。
その後、次第に使われなくなっていたこの言葉を政治の主舞台に復活させたのはプーチン大統領だ。ウクライナへの侵攻を事実上宣言した2022年2月21日の演説でもこう使った。「ウクライナ社会は極端なナチズムの拡大を受けて、攻撃的なルッソフォビア色を帯びた」と。プーチン大統領はゼレンスキー政権を「ネオナチ政権だ」と一方的に攻撃し、非ナチ化を侵攻の理由の1つとして掲げた。ルッソフォビアを使うことで、ロシアがウクライナの根深い反ロシア感情のいわれなき被害者であることを増幅して植え付ける狙いだった。大統領は侵攻開始後も事あるごとにこの言葉を使って、アメリカや欧州を批判している。
ルッソフォビアという言葉をプーチン氏が頻繁に使い始めたのは、2014年のクリミア併合後だ。併合はロシア国内では圧倒的な世論の支持を得たが、国際的には力で一方的にウクライナの領土を奪ったことで米欧から制裁を受け、国民生活も大きな打撃を受けている。「米欧は伝統的なルッソフォビアからわれわれを攻撃しているのにすぎない、ロシアは悪くない」という言い分で国民の反西欧感情に訴え始めたのだ。ロシアはそれまでは単に反ロシア的行動とベタ≠ネ表現で米欧を批判してきたが、歴史的な重みがないこの表現にはロシア人の心に響く訴求力がなかった。これに歩調を合わせて、ロシアのラブロフ外相も海外からの批判を浴びる度に、具体的な反論を省いて「いわゆる、ルッソフォビアだ」と切り捨てるようになった。
2018年12月、ロシアの有力紙「ベドモスチ」は、「ルッソフォビア」の乱発についてこう皮肉った。「ルッソフォビアと言う言葉は、外交上の緊張関係の原因を国民に話すうえで万能の説明になった。外務省やクレムリンに忠実なメディアのみならず、国家トップの辞書にも加わった」。米欧からさまざまな批判を受けてもこの言葉で国内に説明しておけば、詳しい事情に立ち入らなくても国民は「そうか、原因はルッソフォビアなんだ」と一種の思考停止状態のまま政権を支持してくれる便利な言葉なのだ。
しかしルッソフォビアの乱発は単なる世論対策ではない。19世紀にロシアの思想家が唱えた過激な民族主義的国家論に、プーチン氏が急激に傾斜していることが背景にある。
2人の極右民族主義者の思想
2021年10月、ロシア専門家を招いた国際会議でプーチン氏は、最も愛読している本として、20世紀前半の思想家イワン・イリイン氏の著作を挙げた。欧米の専門家から「ファシスト的民族主義者」と酷評されている同氏の主張は簡単に言えば、「ロシアには他の民族にない特別の使命があり、ロシアを守るためには周辺国との戦争が必要だ。そのために軍事的国家制度が必要だ」。ウクライナについては「ロシアから分離されたり、占領されるという点で最も外国から脅威を受けている場所」だから、死守するよう呼び掛けていた。
プーチン氏は2021年7月に発表した論文で、ロシア人とウクライナ人が「1つの民族で、ウクライナはロシアとの友好関係の中でのみ主権が可能になる」との脅迫的主張を展開したが、この言説の下敷きにあるのがイリイン氏の思想と言われている。
プーチン氏の思想的土台になったのがイリイン氏とすれば、プーチン氏周辺では現在、より狂信的な2人の極右民族主義者が存在している。
1人が「プーチンの脳」とも呼ばれているドゥーギン氏だ。同氏が極右派ネットテレビ「ツァリグラド」のサイト上で「ウクライナなしにロシアは帝国になれない」と主張。侵攻に対しては「この危機的時期に特別作戦開始を決定した。これは当然で論理的な一歩だ」と熱烈に讃えた。このサイト上では、捕虜となったウクライナ人兵士らがロシア兵士の前にひざまずかされ「ロシアの一部であるウクライナ」と絶叫させられている映像がアップされている。
プーチン氏がドゥーギン氏の主張を100%取り入れているかどうかは、専門家の間では意見が分かれている。事実、ドゥーギン氏は最近のウクライナとの和平交渉を批判して、ウクライナ全土の制圧を主張している。
同じくクレムリンとつながりのあるもう1人が、民族主義者であるセルゲイツェフ氏だ。彼の論文が2022年4月、波紋を広げた。それは、ウクライナ国民に対する攻撃を是認する内容だったからだ。「ウクライナ最上層部とは別に、国民のかなりの部分はナチ政権を支持したという点で同じく罪がある。彼らへの正当な罰は正当な戦争の不可避の義務である」。
この論文の発表は、ブチャなど各地でのロシア軍による住民虐殺が明るみに出たタイミングと重なる。プーチン氏の直接の指示があったかどうかは別にしても、クレムリン内でこのような住民処罰論が侵攻当初から出ていた可能性も示すものだ。
プーチンが住民虐殺を容認する国家観
いずれにしてもプーチン氏を含めたこの3人の言説の背後で共通して見え隠れするのは、ウクライナをあくまで地政学上の版図拡大の対象としか見ていないことだ。プーチン氏がウクライナ国民を親ナチ政権の虐殺から守ると言いながら、実際には住民への虐殺を容認している背景には、こうした歪んだ国家観があるようだ。
プーチン氏がこうした狂信的世界観になぜ、どこまで引き込まれたのか。国際社会はクレムリン内の闇を解明するという新たな喫緊の課題を抱えたと言える。
一方で、プーチン氏個人の世界観の後背に、もっと深いロシア社会での歴史的な「二項対立」があるということを指摘したい。国のあり方について、19世紀から続く西欧派とスラブ派の論争である。西欧的な資本主義社会への発展の道を選ぼうという西欧派の主張に対し、スラブ派はロシアが特別な国であり、ロシア正教や皇帝を核とした農村社会的な方向性を守るべきとの考えを標榜した。
スラブ派の中でも、今回のウクライナ侵攻との関係で特筆すべき思想がある。ロシアが頂点となってスラブ民族を統合していこうという「汎スラブ主義」だ。西欧の価値観と隔絶した、ロシア・東欧の帝国建設を意味するこの思想を、大作家であるドストエフスキーも晩年支持した。
プーチン政権の汎スラブ主義への傾斜が侵攻のバックボーンになっていることを端的に示すシーンが、侵攻開始後の2022年3月半ばにあった。プーチン氏の取り巻き知識人である外交専門家であるニコノフ氏(ソ連外相モロトフの孫)が、ロシアへの西欧の干渉を不当と批判する有名な愛国詩をテレビ上で鬼気迫る表情で朗読したのだ。
この詩は、国民的詩人であるプーシキンが19世紀初めに発表した「ロシアの中傷者たちへ」というものだ。当時、ポーランドに攻め込んだロシアをフランスが非難したことに対し、強く感情的に反論する内容だ。「あなた方は何を騒いでいるのか。これはスラブ人同士の内輪の争いだ。家庭内の内輪の古い論争だ。われわれを放っておいてほしい」――。
ここでニコノフ氏がウクライナをポーランドに置き換えているのは明白だ。ウクライナ侵攻はスラブ人同士の問題であり、米欧は口を出すな、ということを言いたかったのだ。プーシキンへのロシア国民の敬愛の情は外国人には想像もできないほど大きい。この朗読が、国民の侵攻への支持と、愛国心を鼓舞するクレムリンのプロパガンダだったことは間違いない。
一方で、西欧派的考えも今も脈々と受け継がれている。担い手は、プーチン政権から弾圧されている多くのリベラル派知識人であり、2021年のノーベル平和賞を受賞した独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のムラトフ編集長もその1人だ。
ロシアの近代史を振り返ると、表現の自由、人権擁護といった欧米的な価値が社会の主流になったのは、改革(ペレストロイカ)路線を進めたソ連末期のゴルバチョフ時代の3年間だけだと、ムラトフ氏は言う。この時代、共同通信モスクワ支局に勤務していた筆者もそう思う。ゴルバチョフ氏の代表的スローガンは「全人類的価値」だった。従来の社会主義的価値観にとらわれず、西欧的価値を受け入れるという大胆な価値観の転換を打ち出した。
スラブ派と西欧派の対立が続く
これに対し、ソ連崩壊時、当時の東ドイツでスパイだったプーチン氏は近年、ロシアの「伝統的価値」順守の必要性を強調。2人の価値観は対極の位置関係にある。つまりスラブ派と西欧派の対立は今も続いているのだ。
プーチン氏はゴルバチョフ政権を引き継いだエリツィン大統領に突然後継指名されて、2000年に大統領に選出された。親欧米派だったエリツィン氏の後継者だが、スパイ出身の新しい指導者がどんな国づくりを目指すのか、誰も知らなかった。
これに絡み、当時モスクワにいた筆者にとって苦い思い出がある。就任前、まだ大統領代行だったプーチン氏が2000年1月に明らかにした「国家安全保障概念」を読んだ際、その文言に込められた潜在的攻撃性についてきちんと理解できなかったことだ。
概念は、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を含め、アメリカ主導の「一極支配体制」に対抗していくという姿勢を明確に打ち出していた。とくに「世界の戦略的地域にロシア軍を展開する可能性」にも言及していた。この内容どおり、ロシアは2008年にジョージアに攻め込み、2014年にはクリミアを併合した。 
この不気味なプーチン時代の幕開けについて、一般国民はほとんど気にも留めていなかった。国がデフォルト(債務不履行)となり、混乱の真っただ中にあったエリツィン時代から一転、ロシアは石油価格の大幅上昇によって、過去に例のない好景気に沸いた。「石油の上に浮いた国家」とも呼ばれ、国民は一転して豊かな生活を謳歌していた。政治への能動的アパシー(無関心)状態となっていた。
だから、プーチン政権の外交方針に関心を向ける人は少なかったのだ。いわば、ロシアのあるべき将来の国家像について、国民の気がつかない間にプーチン氏が勝手に国の「自画像」を描いてしまったのだ。20年前に描かれたこの「自画像」の延長線上に今のウクライナ侵攻があると思う。
ウクライナを支援し、侵攻をどう終息させるかという問題に国際社会は集中している。だが、今から対応を検討すべき別の問題がある。それは、仮に近い将来、プーチン政権を退陣させたとしても、対応を誤れば、結局「第2のプーチン」が登場する可能性があるという問題だ。
これまで述べてきたように、ウクライナ侵攻が国民から支持を受けてきた背景には、伝統的な「反西欧」論という世論のマグマ≠ェある。プーチン政権の現状について、米欧という敵国家群に囲まれた「包囲された要塞」となぞらえる評価がロシアで定着している。プーチン政権と、支持する国民の間には一種の連帯感があるのだ。「要塞」内に閉じ込められた国民について、銀行強盗に人質にされるうちに犯人と意気投合してしまう「ストックホルム症候群」に例える専門家もいるほどだ。
現実問題として、今回の侵攻を受けて、ロシアへの嫌悪感が世界中で高まるのは必至だ。クレムリン寄りの政治評論家であるマカロフ氏は、根強い歴史的反ユダヤ人感情を念頭に「ロシア人は新たなユダヤ人だ」と新たなルッソフォビアの高まりを指摘し始めているほどだ。
大事なことは、国民が「要塞」の内側から扉を開けて、民主主義世界への参加を自ら選択してもらうことだ。そのためにも国際社会とロシアとの間にルッソフォビアの新たな壁を作ってはならない。
●偏った歴史認識「プーチン史観」はどのようなものか… 4/14
2021年7月にプーチン大統領が発表した18ページにわたる論文『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性』には、プーチン大統領の歴史観やウクライナに対する考えが書かれている。BSフジLIVE「プライムニュース」では専門家を招き、プーチン大統領の歴史認識とウクライナ情勢の行方について読み解いた。
侵攻の“前章”だったのか 西欧と逆のプーチン史観
新美有加キャスター: プーチン大統領が、2021年7月に発表した論文『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性』の骨子。ロシア人とウクライナ人の一体性を主張し、ウクライナと西側諸国との関係を批判する内容。発表の7カ月後、2022年2月にウクライナ侵攻に踏み切ったこととのつながりは。
湯浅剛 上智大学教授: 思想的下準備とは位置づけられる。内容について官僚任せにしなかったことを強調しており、プーチンの頭の中を窺い知る上での題材と言える。
反町理キャスター: これを読んで、研究者の皆さんは「これはプーチン侵攻するぞ」と思った?
湯浅剛 上智大学教授: 私自身はこの論文からは、戦争に至るまでの攻撃性を読み取れなかった。プーチンのかなり偏った歴史観が、都合のいいファクトをつなぎ合わせてまとめあげられており、「先々思いやられるな」ぐらいの感覚だった。
東野篤子 筑波大学教授: 論文の内容については、ウクライナ人も非常に反発した。ウクライナ人にとっては悪い予感がしただろうし、ヨーロッパ諸国にとっても注意すべきサインの部分はあった。だが、軍事侵攻にそのままつながるかどうかについて、議論は分かれていた。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: 実は2019年9月に、EU(欧州連合)が第二次世界大戦の始まりについて議決している。
反町理キャスター: 第二次大戦は独ソ不可侵条約と密約の直後に開始され、それによって世界征服を目標とする2つの全体主義国家(ナチスドイツとスターリンのロシア)は、ヨーロッパを2つの勢力圏に分割したと。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: ロシアの歴史観はこれとは逆。ロシアは2700万人もの犠牲を払ってナチスドイツを倒し、ヨーロッパを、ユダヤ人たちを解放したと。だから、戦後ヨーロッパにおいて名誉ある地位を与えられるべきという歴史観で、EU決議がこれを真っ向から否定したという流れがあった。
東野篤子 筑波大学教授: このデリケートな決議が可能になったのは、2014年のロシアによるクリミア占領があったため。ここでヨーロッパ諸国の対ロシア認識が非常に大きく変わり、NATO(北大西洋条約機構)も対ロシア軍事同盟という性質を強め始めた。
プーチンの都合のよい「ロシアとウクライナは一体」は無理ある話
新美有加キャスター: ロシアとウクライナの関係について、プーチン大統領は論文冒頭で「ロシア人とウクライナ人は一つの民族であり、一体不可分」と記述。4月12日、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談後の共同記者会見でも同様の発言。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: ウクライナもロシアもベラルーシも、現在のキーウを中心にベラルーシからロシアにかけて存在した、古代のキエフルーシ(キエフ大公国)を起源としているということは事実。だがキエフルーシの最後の王様は、実は今のウクライナ西部の都市リビウに行った。だからこの地域の人々の歴史観は、自分たちこそがキエフルーシの正統な後継者で、プーチン大統領の一体不可分というのは全く違うということ。
湯浅剛 上智大学教授: プーチン論文の突っ込みどころにはきりがない。例えば、ソ連の中で民族・共和国単位で70年間ウクライナが発展してきたが、その歴史を全く否定・すっ飛ばした議論をしており、かなり問題がある。
反町理キャスター: 昔の一体感を強調しながら、その後ソ連での民族自決のロジックは否定しており、都合のいいところだけをとっていると。
東野篤子 筑波大学教授: 例えば、イギリスの研究者アンドリュー・ウィルソン氏も、プーチンは一体性を強調するが、宗教も文化も言語も違う時期の方が多かった、一体だということには大変に無理があると言っている。よく「兄弟国家」と言われるが、男と男のきょうだいだとすると、なぜかいつも前提はロシアが兄でウクライナが弟扱い。しかも兄から徹底的に暴力を受け、殺されている。なぜ兄弟のロジックが成り立つのかというのが、恐らくウクライナ人の本音だと思う。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: ロシアの歴史において、非常に小さかったモスクワ公国は、ウクライナの領土を吸収するプロセスの中でヨーロッパの大国・ロシア帝国になっていく。つまりロシア人の歴史観の中で、ウクライナなしに「ヨーロッパのロシア」はない。ロシアがヨーロッパの大国として名誉ある地位を獲得するには、ウクライナが絶対に必要。
反町理キャスター: するとプーチン大統領は、ロシアはユーラシアというよりヨーロッパの大国であり、そこに重きを置くからウクライナの首を押さえようとする。長らくアジアシフトということを言っていたが。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: 米中対立が深刻化し、世界の中心がインド太平洋に移る中でも、ロシアの欧州中心主義はなかなか変わらないという議論が専門家の中にもある。
東野篤子 筑波大学教授: EUやNATOが関係構築についてどのような提案をしても、全部ロシアのお気には召さなかった。もっとロシアの思う通りの秩序にせよと。でも、EUとNATOには自分たちを崩す動機もない。ロシアとしては、東欧諸国の自分の家臣たちがどんどんEUとNATOのシステムに入っていくことが非常に気に入らなかった。ヨーロッパに対する志向性との間での矛盾をずっと抱えていたのだと思う。
「アンチ・ロシア」に怒るプーチンが、歴史にばかり関心を示す危険
新美美加キャスター: プーチン大統領が論文に記したウクライナや西側諸国のアンチ・ロシアに対する批評では「ウクライナはロシア帝国とソ連の一部であった時期について、占領されていたかのごとく語り始めた」「アメリカとEU諸国はウクライナに対し、ロシアとの経済協力を縮小制限させようと、計画的で必要な働きかけを行っていた」と非常に憤慨している。
東野篤子 筑波大学教授: 2013年にウクライナの2つ前の政権が、EUとの間で経済連合協定を作ろうと交渉していたが、プーチン大統領がそれに対して、ユーラシア経済連合の考え方と合わないからどちらかを取れと言った。その後、EUとロシアとウクライナは必ず3者で話し合おうとなったのだが、それも先細りになった。また仲間外れにされたというルサンチマンはある。
反町理キャスター: プーチンは論文に、そうした積年の恨みを書き連ねているような。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: そもそも軍事侵攻自体、正当化できるものではないが、なぜプーチンがここに至ったのかという議論をするなら、歴史の問題が特にここ数年、プーチンにとって非常に大切な問題になっている。ほとんど他のことには関心がないのではというほど。
反町理キャスター: 歴史家が過去を振り返って論文を書くのと違い、実際の権力を握る一国の元首が、歴史において自ら感じる歪みを修正することに政治的なエネルギーを投入するというのはいかがなものか。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: そうなんです。本来、歴史家が政治をやってはいけない。現在のリアリティーからかけ離れた判断をしてしまう。今回起こったのがまさにそういうことなのでは。
湯浅剛 上智大学教授: 政治的決着はソ連が解体した時点で、もうついていたと捉えるべき。プーチンは彼独自のプーチン史観に固執するような形で政策判断を誤っている。
ミンスク合意は論文で評価されるも、その段階にはもう戻れない
新美美加キャスター: プーチン大統領は、今回のウクライナ侵攻をどういう形で終結させようとしているのか、出口戦略について。論文には「ミンスク合意に代わるものはないと確信している」と書いてあるが、東部の2つの地域ドネツク・ルハンスクの自治権は落としどころになるか。
畔蒜泰助 笹川平和財団主任研究員: 現時点ではもう無理。論文の状況は既に離れている。そもそもこの論文は、2021年に入ってウクライナのゼレンスキー大統領が「ミンスク合意を履行できない、変えないと交渉を続けられない」という発言をしていた中で出てきたもの。今回、ロシアはドネツク・ルハンスクを独立国家として承認してしまっている。ミンスク合意まで戻れば、プーチンはなぜ軍事作戦をやったのだという話になり、負けを認めることになる。
湯浅剛 上智大学教授: 私ももうないと思う。ウクライナ側も自分たちの安全保障を要求する一方で、クリミアやドネツク・ルハンスクは合意の外の問題だと言っており、全く話がかみ合っていない状態。近いうちに何かしらの合意があることは考えられないと言ってよい。
東野篤子 筑波大学教授: ウクライナ側からすれば、ミンスク合意の大前提である停戦もしてくれないし、国境管理権も戻してくれないから、そもそも合意を履行するような条件が整っていないということだった。フランスやドイツがウクライナの妥協に乗り出してきたタイミングで、プーチン大統領がドネツク・ルハンスクの両人民共和国の独立に向けて動き出し、潰してしまった。私もミンスク合意にはもう戻れないと思う。
●ソ連建国から100年 プーチンの暴挙に内在する「帝国」の記憶 4/14
なぜロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻を決断したのか。諸説ある中、ソビエト連邦(以下、ソ連)時代の領土回復を企図したというのもその1つ。くしくもそのソ連が誕生(1922年12月30日)してから今年で100年となる。今はなき社会主義国の歴史とプーチンの暴挙はどう結び付くのか。プーチンの行動原理にうかがえる「帝国」の“栄光の”記憶をひもとく。
今も残るソ連時代へのノスタルジー
世界初の共産主義国家、ソ連が誕生してから2022年で100年を迎える。ソ連は1991年12月26日に崩壊した。
ロシア人には、東欧諸国を傘下に収め、北大西洋条約機構(NATO)と対峙(たいじ)したソ連「帝国」の栄光の記憶が色濃く残っている。そして、ソ連時代を知る年代の多くの国民は、今もノスタルジーを感じている。
プーチン大統領もその一人。ロシア国営テレビが放映したソ連崩壊30年を振り返るドキュメンタリー番組で崩壊についてプーチンは、「大多数の国民と同様、私にとっても悲劇だった」と語っている。
プーチンはかつてソ連の一部だったウクライナをNATOに加盟させないために侵攻を決断した。結果、欧米と日本から厳しい経済制裁を招き、世界中からの非難を一身に浴びている。
ロシアでは、戦争の真実を隠蔽(いんぺい)するために情報管制が敷かれ、反政府運動は徹底的に弾圧される監視社会が再来。まさに、ソ連暗黒時代へと国が逆戻りしている。
なぜプーチンは世界の誰もが「無理筋な暴挙」と思うことをやってしまったのか? それはソ連時代に形成されたプーチンのメンタリティーと大帝国の記憶を抜きには語れないだろう。
筆者が見たソ連
私がソ連外務省付属モスクワ国際関係大学に留学したのは1990年だ。91年12月に崩壊したソ連の最末期と言える。
ソ連は、どんな国だったのか?
まず「照明が暗い」のが気になった。空港、バス、地下鉄、どこも暗い。そして、公共交通機関で人々が話をしたり、笑ったりしないのが印象深かった。
この件について後に私は、得心のいく理由を知ることができた。大学の寮の廊下で、バルト3国(リトアニア、エストニア、ラトビア)の某国から来たという金髪の学生が話し掛けてきて、こう言ったのだ。
「いいかい。気を付けなければいけないことが2つある。まず、食堂とか大学の廊下で政治の話をしてはいけない。聞かれているからね。そして、電話で重要な話をしてはいけない。聞かれているからね」
これを聞いて、私はモスクワの人たちが人前であまり話さず、笑いもしない理由を理解できた気がした。彼らは常に盗聴を恐れているのだろうと。
もう1つ、気になったのは、物質的貧しさだ。「米国と並ぶ超大国」であるはずなのに、首都モスクワでも、車の数は少なく、道路はスカスカだった。テレビは白黒で、洗濯機や掃除機がない家も珍しくない。
私は物質面での日本との「格差」にがくぜんとし、「この国は長く持たないだろう」と感じた。
ソ連時代の栄光の記憶
しかし、歴史をさかのぼってみると、確かにソ連にも「栄光の時代」はあったのだ。
1949年、ソ連は原爆実験に成功。米国の核兵器独占体制は、たった4年で終わりを告げた。
53年、今度は水爆実験に成功。
57年、世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた。
さらに61年、世界初の有人宇宙飛行を成功させた。
この時期、ソ連の宇宙開発技術は米国より進んでいたのだ。
一方、ライバルの米国は第2次大戦後、振るわなかった。
まず、49年、米国は中国を失った。内戦で、米国が支援する国民党は敗れ、ソ連が支援する共産党が勝利。中華人民共和国が建国された。
50年、朝鮮戦争が勃発。米国は韓国と共に戦い、ソ連、中国は北朝鮮を支援した。結果は引き分け。
62年にはキューバ危機が起こり、63年には米国のケネディ大統領が暗殺された。
また米国はベトナム戦争(1960〜75年)に65〜73年まで介入し、完敗している。
米国が沈んでいた70年代、ソ連経済は順調に成長を続けていた。73年と79年にオイルショックが起こり、原油価格が高騰していたからだ。
さて、プーチンは52年10月に生まれている。スプートニク1号が打ち上げられた時は5歳、ガガーリンが宇宙に飛び立った時は9歳だった。プーチンは祖国の偉業を誇りに思っただろう。
そして、彼の10代、20代を過ごした60年代、70年代のソ連は絶好調で、「まもなく米国を超える」と思われていたのだ。彼は祖国を誇りに思いながら成長していったに違いない。
プーチンは子供のころから「スパイになる」という、変わった夢を持っていた。そして75年、レニングラード大学法学部を卒業し、国家保安委員会(KGB)に就職する。夢をかなえ、大いに喜んだことだろう。
ソ連崩壊後のプーチン
1985年、33歳のプーチンは東ドイツのドレスデンに派遣された。第2次世界大戦後、ドイツは資本主義陣営に属する西ドイツと共産主義陣営の東ドイツに分断された。つまり、ドイツは当時、西側陣営と東側陣営の境目であり、極めて重要な場所だった。
プーチンが東ドイツに駐在中、ソ連にとっての悲劇がこの国で起こった。東西ドイツを隔てていたベルリンの壁が89年11月に崩壊したのだ。やがて、5000人の市民がKGBと協力関係にあった東ドイツの秘密警察「シュタージ」のドレスデン支部を襲撃、占拠する事態に。事件後、プーチンは銃で武装し始めたという。
90年、プーチンは生まれ故郷のレニングラードに戻った。この年の10月、東西ドイツは再統一を果たしている。
92年、プーチンはサンクトペテルブルグ(旧レニングラード)の副市長になっていた。
96年には、モスクワに移り、ロシア大統領府で働き始める。
98年、プーチンはKGBの後身に当たる連邦保安局(FSB)長官に任命された。
スパイになることを夢見ていた少年は、ついにスパイ組織のトップに上り詰めたのだ。
しかし、彼はここで終わらなかった。99年には首相に、そして2000年には大統領という頂点を極めた。
「米国陰謀論者」としてのプーチン
プーチンの心の奥深くにあるものは、何だろうか?
モスクワに28年住んでいた私が見るに、彼は「米国陰謀論者」だ。実を言うと、年配のロシア人には、米国陰謀論者が多い。
彼らは、どこかの国の要人が殺されると、自動的に「米国がやったのでは?」と疑ってしまう。
なぜ、そうなのか。これはソ連時代の学校教育で、「私たちの国は悪の資本主義を打倒するために建国された」「具体的には、資本主義の総本山米国を打倒するのが使命だ」と洗脳されたからだ。
プーチンの場合、KGBで教育を受けたため、洗脳はさらに深い。「諸悪の根源は米国だ」と信じて疑わないように見える。そうした「反米メガネ」をかけたプーチンには、世界がそう見えるのだろう。
プーチンは2003年のジョージア革命、04年のウクライナ革命、05年のキルギス革命、14年のウクライナ革命は、全て「米国の仕業」と確信している。
そして、米国がNATO不拡大の約束を破ったことに憤り続けている。90年2月9日、旧ソ連のゴルバチョフ大統領との会談で米国のベーカー国務長官は、以下のように語った。
「もし米国がNATOの枠組みでドイツでのプレゼンスを維持するなら、NATOの管轄権もしくは軍事的プレゼンスは1インチたりとも東方に拡大しない」
プーチンは、しばしば「米国はNATOを東方に拡大しないと約束した」と主張する。「米国がウソをついた」と。
実際、冷戦崩壊時、16カ国だった「反ロシア軍事同盟」であるNATO加盟国は、現在30カ国まで増えている。しかも「旧ソ連」、つまりプーチンから見ると「元自国領」のバルト3国もNATOに加盟した。
さらに、米国は旧ソ連のウクライナ、ジョージアも加盟させようとしている。これが今回のウクライナ侵攻の口実になった。
旧ソ連国の主権を認めようとしないプーチン
ソ連はロシア人にとって、「拡大ロシア」だった。それで、旧ソ連諸国について、いまだに「自分たちの土地」という意識が強い。
例えば、年配の人は旧ソ連産の食料品について「エータ ナッシ プラドゥクティ」などと言う。「これは私たちの食品だ」という意味だが、転じて「国産」という意味になる。実際は31年前に独立を果たした国の「外国産」なのだが、少なからぬ年配者の思考回路はソ連崩壊前で止まっているのだ。
69歳であるプーチンの脳も、ソ連時代のままのようにも見える。ちなみに彼は携帯電話、ネット、メールを使わないと公言している。文字通り、プーチンの「時代」は、ソ連崩壊前で止まっているのだ。
問題は他の国の時間は動いているということだ。ウクライナやジョージアは、すでに31年間、独立国家の道を歩み、自国の進むべき道を自分で選ぶ権利がある。
しかし、「ソ連脳」のプーチンは、そのことを容認できず、ウクライナ侵攻を断行。国内で反戦デモが盛り上がると、容赦なく弾圧した。
ちなみに、ロシア国内では今、「戦争」という言葉を使うと逮捕される。戦争ではなく「特別軍事作戦」という用語を使わなければならない。
さらに、SNSでウクライナで起こっている情報を投稿すると、「フェイク情報拡散罪」で、懲役15年になる。要するに、プーチンは自分が生まれ育ったソ連時代に新生ロシアを逆戻りさせたのだ。
筆者の知り合いのロシア人は口をそろえて言う。「戦争が始まって1週間で、ロシアは30年前に逆戻りした」と。日本、欧米の自動車会社はロシアへの輸出、ロシアでの生産を停止した。マクドナルドやスターバックスは大部分の店舗を閉じている。プーチンは彼の願い通り、ロシアを厳しい情報統制、監視社会、モノ不足のソ連時代へと引き戻した。
しかし、国民は、それを望んでいるのだろうか? 少なくともウクライナ国民はソ連への回帰を望んでいないことは確実だ。 

 

●「標的は私たち全員」ロシア軍攻撃から逃れる者なし ウクライナ大統領夫人 4/15
ロシア軍が母国ウクライナに侵攻した際、ボロディミル・ゼレンスキー大統領とオレナ・ゼレンスカ夫人は亡命も降伏も拒み、代わりに――男女問わず多くの国民がしたのと同じように――軍事侵攻への抵抗を選んだ。
大統領がロシア軍への軍事的反撃に重点を置く一方、ファーストレディーは人道問題や子どもの問題を中心に、戦争によるウクライナの一般市民の苦しみを世界に知ってもらおうと活動している。
CNNのアンカー、クリスティアン・アマンプールはゼレンスカ氏にメール取材を行った。以下、ウクライナ語での夫人の回答を英語に翻訳した。
大統領夫人、こうした状況でご自身やご家族はどうやって持ちこたえているのですか?
まるで綱渡りをしているようです。どうしようか考え始めたら最後、ためらってバランスを崩してしまう。ですから持ちこたえるには、前に進んでやるべきことをやるしかありません。私の知る限り、ウクライナ人はみなそうやっています。
単身で戦場を逃れ、死を目の当たりにした人々の多くが、そうした経験から立ち直るには行動することが一番の薬だと言っています。何かをすること、誰かの役に立つこと。私個人も、誰かを守り、支援しようとすることで救われています。責任感が自制を生むのです。
ファーストレディーになった時、子どもの問題を活動の中心にすると公言しました。ご自身の子どもを含め、ウクライナの子どもたちが戦闘区域で苦しんでいるのを見て、さぞ胸が張り裂ける思いなのではありませんか?
おっしゃる通り、以前は子どもやそのニーズの問題が、全てのウクライナ人に公平な権利を実現することと並んで私の活動の中心でした。戦争前は何年もの準備期間を経て学校給食改革を実施し、子どもが病気にならないよう、おいしくてかつ健康的な給食の実現を目指しました。
今の私の心情ですか? もう何年も、いえ何十年も後戻りしてしまったような気分です。
今の課題は健康的な食事ではなく、食糧全般です。子どもたちの生死がかかっているんです! もはや以前のように、学校に最適な設備について話し合うことはなくなり――(代わりに)数百万人の子どもたちにどう教育を提供するかが課題になっています。
子どもたちの健康な生活を考える余裕はありません――(子どもたち)全員をいかに救うかが一番の課題です。
ウクライナの子どもの半分が国外避難を余儀なくされ、数千人が心身ともに傷を負いました。2月23日(ロシアの侵攻が始まる前日)は他のヨーロッパの生徒たちと同じように時間割があって、休日の予定も立てていました。
想像してみてください、家を建てて、改装して、窓辺には花を飾っていたのが、すべて壊されてしまった。暖を取るために、その瓦礫(がれき)の中で火を起こさなくてはならないのです。それが我が国の児童政策や一般の各家庭に起きていることです。
難民となったウクライナの女性や子どもたちのために、どんな支援をしているのか教えてください。こうした分野で、世界にできることは何でしょうか?
現在は複数の方面で活動しています。昨年夏には国家元首のファーストレディーやファーストジェントルマンを集めてサミットを開催しました。今回、この仲間が力になってくれています。
まずはもっとも弱い立場にいる人々――(がんを患った)子どもや障害児、孤児――を、治療やリハビリのために受け入れ賛同国に避難させています。ポーランド経由でヨーロッパ諸国に避難させるというのが主なルートです。
第2にウクライナに保育器を輸入して、ロシアの爆撃下にある都市で生まれた新生児の支援を行っています。多くの病院は停電状態で、子どもたちの命が危険にさらされています。そのため、滞りなく人命を救助するための器具が必要です。すでに2台の保育器が届き、今後さらに8台が届く予定です。
第3に、難民――子どもたちやその母親たち――が新しい土地に迅速になじめるよう取り組んでいます。人道支援だけでは不十分です。子どもたちは新しい土地で、一刻も早く社会生活や学校生活に慣れなくてはなりません。特に、国外に出た数千人の自閉症の子どもたちはそうです。学校に通いやすくなるよう活動しています。そうしなければ、子どもの成長が止まってしまいますから。
各国大使館と協力して、ウクライナ支援イベントのコーディネートも行っています。すでに国際的なコンサートがいくつか行われ、ウクライナの人道支援のために募金が寄せられました。
戦争の勃発以降、ご主人とは会えていますか?
実をいうと、ボロディミルは閣僚とともに大統領府で生活しています。危険なため、私と子どもたちはそこでの滞在が禁じられました。ですからもう1カ月以上も電話でしか連絡を取っていません。
全世界はご主人の戦時中のリーダーシップに感銘を受けています。お二人は2003年に結婚していますが、大学時代からのお付き合いですよね。当時からご主人にはそういった面がありましたか?
彼は頼りになる人で、この先もそうだろうとずっと思っていました。素晴らしい父親になってくれましたし、家族思いです。そうした性格をいま発揮しているのです。
彼は昔から変わっていません。私に言わせれば、より多くの人の眼に触れるようになったというだけです。
娘のサーシャさんは17歳、息子のキリロ君は9歳です。お子さんたちには戦争についてどのように説明しましたか? お子さんたちはご一緒ですか?
幸いにも子どもたちとは一緒です。先ほども申し上げたように、世話をする相手がいることは自制につながります。これは子どもたちにも言えることで、今回子どもたちも見違えるように成長しました。きょうだい同士、あるいは周囲の人たちに責任感を持つようになりました。
戦争についてとくに説明する必要はありませんでした。今起きているあらゆることについて話します。私もブチャの子どものインタビューを見たり、友人やその子どもの話を聞きましたが、子どもも大人と同じように理解し、ちゃんと本質をとらえています。ある幼い子どもがこう言っていました、「なぜロシア人は意地悪なの? きっとおうちでいじめられていたのかな?」
あなたはご主人に次ぐ2番目の標的としてロシア軍に狙われていると言われています。そうした危険を前にどうやって冷静を保っていられるのですか? あえてウクライナに残ることにしたのはなぜですか?
なぜかこういう質問を頻繁に受けるのですが、よく見てもらえれば、ウクライナ人全員がロシアの標的だということがはっきりわかると思います。すべての女性、すべての子どもたちが標的です。
先日、クラマトルスクから避難しようとして(いた最中に)ロシアのミサイルで亡くなった方々は、大統領の家族でもなんでもありません。ごく普通のウクライナ人です。ですから、敵にとって一番の標的は国民全員なのです。
ご主人はロシア語でロシア国民に直接語りかけていますが、その声を届けるのは明らかに困難です。ウクライナ国民に対する残虐行為をふまえた上で、とくにロシアの子を持つ母親や夫を持つ妻たちにぜひとも伝えたいメッセージはありますか?
ロシアのプロパガンダの度合いは、第2次世界大戦中のゲッベルスのそれとよく比較されますが、私の意見では(それを)越えています。第2次世界大戦には今のようにインターネットもありませんでしたし、情報にもアクセスできませんでしたから。
今ではブチャでのロシア軍による行為など、誰もが戦争犯罪を目の当たりにしています――ブチャでは手を縛られた民間人の遺体が無造作に道路に横たわっていました。
ですが問題は、全世界が目撃しているものをロシア人が見ようとしていない点です。それもひとえに心地よくいたいがためです。結局のところ、故人についての記事を読んだり、悲しみに暮れる親類や友人の姿を見たりするよりも、「あれは全部フェイクだ」と言ってコーヒーを飲んでいるほうがずっと楽ですから。
ブチャのある犠牲者の話を例に挙げましょう。タティアナという女性は、ロシア兵に銃殺されました。彼女の夫は遺体を移させてくれと侵略者に頼みましたが、殴られて拘束されました。
どうすればロシア人にこうしたことを知らせることができるだろうか? ますますそういうことを考えるようになりましたが、残念ながら彼らはあえて目を背けています。見ようとも聞こうともしません。なので私も、これ以上彼らに語りかけることはやめます。
今日ウクライナ人にとって一番大事なことは、他の国々が私たちに耳を傾け、目を向けてくれることです。そして犠牲者が単なる数字になってしまわないように、戦争を「いつものこと」にしないことが重要です。だからこそ私は、海外メディアを通じて皆さんに情報を発信しているのです。
我々の悲しみに慣れてはいけません!
ソーシャルメディアのご自身のアカウントを発言の場として、ウクライナの兵士やウクライナ人の抵抗を称賛していますね。自国について――とりわけあなたが言うところの、ウクライナの抵抗の「女性的な面」と呼ぶものについて、どのぐらい誇りに思っていますか?
戦争の初日、パニックは起きないことがはっきりわかりました。そうです、ウクライナ人は戦争など信じていませんでした――我々が信じていたのは文明的な対話です。ですが、攻撃が始まっても、私たちは敵が望むような「おびえた群衆」にはなりませんでした。私たちは組織化されたコミュニティーになったのです。
どの社会にも存在するような政治的対立やその他の軋轢(あつれき)はたちどころに消えました。誰もが国を守るために一丸となりました。
そうした例を毎日目にしています。そうしたことを発信するのに決して飽きることはありません。そう、ウクライナの人々は信じられないほどすばらしいのです。
確かに私は女性たちについてたくさん投稿していますが、それは女性たちがあらゆる場面で闘いに加わっているからです――軍隊や防衛軍では主に衛生兵として加わっています。子どもや家族を安全な場所へ避難させているのも女性たちです。女性だけが国外に行けるのです。ある意味で、女性たちが果たしている役割は男性よりもずっと多岐にわたっています。平等どころか、それ以上ですよ!
●プーチン大統領「欧州でロシアの天然ガスに代わるものはない」  4/15
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、ロシアのプーチン大統領は14日、エネルギー分野の閣僚と会議を開き「ヨーロッパの市場でロシアの天然ガスに代わるものはない」と述べました。
また「欧米諸国は、供給者としてのロシアを世界のエネルギー市場から締め出そうとしているが、それは必然的に世界経済に影響を及ぼすことになる。市場をさらに不安定化し、自分たちの手で価格を高騰させている」と述べ、世界有数のエネルギー供給国としてのロシアの立場を強調し、経済制裁を強化する欧米側を強くけん制しました。
そのうえでプーチン大統領は「輸出の多角化が必要だ。将来的に西側へのエネルギー供給は減っていくだろう。徐々に、南や東の急成長している市場へ輸出していく」と述べ、中国やインドなどについては友好的な関係を維持しているとしてエネルギーの供給を増やしていく考えを示したとみられます。
●ロシアのエネルギー輸出、対アジアで拡大を プーチン氏訴え 4/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日、エネルギー輸出先の多角化のため、対アジア輸出を拡大すべきだと訴えた。
西側諸国は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア産の原油、天然ガス、石炭の使用を禁止または削減する措置を発表している。
この日、テレビ中継されたエネルギー分野に関する政府会合で、プーチン氏は「当面の間、西側諸国へのエネルギー供給が減少するという前提で進める必要がある」と説明。ロシアの近年の方向性を継続し「南と東の急成長市場に輸出先を徐々に移していくべきだ」と述べた。
また、エネルギーの脱ロシア依存を目指す欧州諸国の動きに対しては「西側諸国がロシアの供給業者を締め出し、われわれのエネルギー資源を他の供給元と置き換えようとする試みは、必然的に世界経済全体に影響を与えるだろう」と非難した。
●「ウクライナ戦争の勝者」はバイデンと習近平、米中が得た3つの大成果とは 4/15
5月9日に迎えるロシアの対独戦勝記念日
ロシア軍によるウクライナ侵攻から2カ月を迎えようとしている。ロシアのプーチン大統領は4月12日、盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領を伴った極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地での会見で、ウクライナでの侵攻計画を計画通りに実行する考えを強調し、「(軍事作戦での)目標達成は疑いない」と自信を示した。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領も、4月10日の夜、国民向けの動画演説で、「我々はより活発に武器を補給し、ロシア軍のすべての攻撃に備える」と述べ、徹底抗戦する姿勢を改めて強調した。
ロシアでは、5月9日に対独戦勝記念日を迎える。ロシア国民が、旧ソ連の勝利を象徴する「ゲオルギーのリボン」を胸に着け、愛国心と祝典の高揚感に浸る特別な日だ。
たとえ、この場で、プーチン大統領による何らかの勝利宣言があったとしても、少なくともウクライナ東部、ドンバス地方の完全制圧が終わるまでは戦闘は続くということだ。同時に、一度は撤退した首都キーウ(キエフ)への再侵攻がないとも言い切れない。
筆者はこれまで、1991年の湾岸戦争以降、ボスニア紛争、アメリカ同時多発テロ事件、そしてイラク戦争と、歴史に残る戦争や紛争を取材してきた。
それらの経験則から言えることは、「戦争当事国に勝者はいない」ということである。
ロシアもウクライナも勝者にはなれない
2月24日に始まったロシアとウクライナの戦争だが、この先、どちらが優勢になろうとも、両国ともに勝者とはなり得ない。
ロシアは、仮にドンバス地方のドネツク、ルハンシク両州を押さえ、「ロシア系住民を守る」という大義名分を成就させたとしても、国際社会では半永久的に「悪玉」のレッテルを貼られる。多くの戦死者を出し、想定以上の経済制裁を受け、1日当たり3兆円ともいわれる戦費と相まって、国内経済は相当疲弊することが予想される。
こうした戦いに備え、巨額の準備金を確保していたとしても、国民生活への影響は計り知れない。
一方、ウクライナも勝者にはなり得ない。ゼレンスキーが2019年の大統領選挙で公約の一つに掲げてきた北大西洋条約機構(NATO)への加盟は実現しなかった。
NATOの規約(第5条)には、「1つ以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する武力攻撃とみなし、その結果、そのような武力攻撃が発生した場合は、各締約国が国連憲章第51条によって認められた個別的または集団的自衛権を行使する」とある。
すなわち、ウクライナが単体でロシアと戦う状況というのは、これに該当しないのだ。
侵攻を受けて申請したEUへの加盟も、EUのフォン・デア・ライエン委員長らの肝いりで手続きが加速化したとしても、「戦争の完全停止」「汚職の撲滅」「経済の安定」といった諸条件がクリアされる日はそう近くない。
南東部の要衝、マリウポリや、第2の都市ハルキウ(ハリコフ)など、ロシア軍の攻撃が激しかった地域では街が廃虚と化し、その復興には時間とコストがかかる。
アメリカが得た3つの成果
では、誰が勝者となるのか。筆者はアメリカと中国だと断言する。
アメリカはロシアのウクライナ侵攻で、いくつもの「利」を得た。第一に、何といっても軍需産業が大もうけできた。
バイデン大統領が、3月16日に発表したウクライナへの具体的な支援策を振り返ると、スティンガー対空ミサイル800基、ジャベリン対戦車ミサイル2000基、攻撃用無人航空機(ドローン)100機、機関銃、榴弾発射器、小銃など合わせて7000丁、小火器弾薬および迫撃砲弾2000万発などとなっていて、CNNの報道では、発表の1週間後から、順次、ウクライナに配備されている。
これだけでも総額は8億ドル(1000億円)に上る。戦争が始まって以降は、ウクライナの周辺国にも相当額の武器が売れたことだろう。
第二は、バイデンは2021年8月、アフガニスタンからのアメリカ軍完全撤退で招いた国際的な信用の失墜を挽回できた点だ。
筆者は、アフガニスタン撤退については、中国の台湾侵攻などに備え、二正面作戦を避けた英断だったと感じ、担当するラジオ番組でもそのように解説してきたが、国際社会での評価はガタ落ちとなった。
ただ、今回の戦争で、EUやNATO加盟国の首脳をけん引し、バイデン大統領自身もポーランドを視察するなど、民主義国家群を率いるアメリカのトップとして、ある程度は存在感を発揮できた。
第三は、ロシア制裁でアメリカ経済が潤い始めたことだ。
ヨーロッパ諸国がロシアへのエネルギー依存を見直す中、石油も天然ガスも自前で賄うことができるアメリカがヨーロッパ向けの輸出を増やせば、インフレとコロナ禍で苦しむアメリカ経済は持ち直す。ひいては、共和・民主両党が激しく競り合う11月の中間選挙でも、バイデン大統領率いる民主党には追い風になる。
つまり、バイデン大統領にとって、ロシアがウクライナに侵攻したことは、表面的には「憂慮すべきこと」であり「断じて容認できないこと」であったが、同時に「ありがたい」という側面も多分にあったことは忘れてはならない。
それどころか、詳しくは後述するが、そもそもロシアとウクライナの戦争はアメリカが仕向けたと言っても過言ではないのだ。
バイデン大統領が仕掛けたロシア・ウクライナへの「甘いわな」
思えば、2021年9月1日、バイデン大統領はホワイトハウスで、ゼレンスキー大統領と会談している。この場で、バイデン大統領はウクライナのNATO加盟に、個人的見解としながらも理解を示し、ロシアの侵攻に直面するウクライナに全面支援を約束した。先に述べたように、ウクライナは加盟できないと理解した上でだ。
それにもかかわらず、会談後に発表された共同声明では、「ウクライナの成功は、民主主義と専制主義の世界的な戦いの中心だ」と位置付けてみせた。つまり、アメリカは完全にウクライナの側に立ち、その安全を重視する考えを打ち出したのである。
ちなみに、バイデン氏が大統領に就任して以降、ホワイトハウスに招いたのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)に次いでゼレンスキー大統領が2人目だった。
44歳という若きウクライナの大統領は、78歳(当時)の老練な大統領にうまく乗せられたのである。
筆者は、この流れが、NATOの東方拡大を嫌うプーチン大統領の心に火を付けたとみる。
もともとアメリカは、ウクライナのNATO加盟には慎重な立場を崩していない。米大統領報道官のジェン・サキもすぐ、「ウクライナには、取らねばならない段階がある」と火消しに走ったが、プーチン大統領を刺激するバイデン大統領の動きは止まらなかった。
9月20日、バイデン大統領はウクライナを含めた15カ国の多国籍軍による大規模軍事演習を実施した。そして、10月23日には、ウクライナにジャベリン対戦車ミサイル180基を配備した。プーチン大統領がロシア軍をウクライナ国境に展開させたのは、これらの動きを受けた10月下旬のことだ。
しかもバイデン大統領は、12月7日、プーチン大統領と会談し、「アメリカ軍をウクライナに派遣することは検討していない」という考えを伝えている。これは「攻めるならお好きに」と言っているようなものだ。
これらから考えても、アメリカが、ロシアの軍事侵攻を可能にする方向に持っていったと考えていいのではないだろうか。
中国が得た3つの成果
ウクライナ侵攻における、もう一人の勝者は中国の習近平国家主席である。
中国は、ロシアがウクライナに侵攻した当初から、ロシアに対し、「非難も支持もしない」というスタンスをキープしてきた。
国際社会から仲介を求める声が相次いでいるものの、習近平自身は今も全く動こうとしていない。
戦争が長期化すれば、対アメリカで共同歩調を取るロシアが傷む。貿易面で関係が深いウクライナも疲弊する。それは中国にとって好ましくないことだ。
特に、ロシアが「ウクライナ東部の少数民族=ロシア系住民を守る」という名目で攻め込み、その独立を承認したことは、新疆ウイグル自治区を抱える中国からすれば認めることはできない。
しかし、中国にとって、戦争そのものはけっしてマイナス材料ではない。ある面、好ましいことかもしれない。
ウクライナ侵攻による中国の成果は大きく3つある。
第一が、ロシアを対アメリカ、対民主主義国家群への切り込み隊長にできることだ。
アメリカがどう動くか、NATOやEUはどうか、国連をはじめ国際社会の制裁はどの程度かを、ロシアを「モルモット」にしながら把握することができる。それが、台湾や尖閣諸島への侵攻を考えた場合、大いに参考になる。戦況を見ながら、ロシア軍の成功例と失敗例からさまざまなことを学べるだろう。
第二が、ロシアと対ドル経済圏を確立できることだ。
ロシアの資源として大きな存在感を示している天然ガスなどに関して、中国とロシアは2月4日、北京冬季オリンピックの開会式直前に、15カ条に及ぶ経済協力を結んでいる。もともと、ロシアの最大貿易相手国は12年間、中国であり、ロシアは制裁のダメージが効いてくればさらに中国マネーに頼らざるを得なくなる。
ロシアは、SWIFT(国際銀行間通信協会)から締め出されるなど厳しい状況にあるが、中国が構築する国際送金ネットワーク「CIPS」を利用して中ロ貿易を活発化させる選択肢が残されている。そうなると、中国はロシアを対ドル経済圏(人民元経済圏)に取り込める。
第三は、日米豪印4カ国による「Quad(クアッド)」を分断できることだ。
対アメリカを考えた場合、日米豪印4カ国の枠組み「Quad」の分断が不可欠。その一角を占めるインドは3月1日、国連総会の緊急特別会合でロシアへの非難決議採決を、中国とともに棄権した。インドは歴史的に非同盟主義を取り、アメリカの同盟網に組み込まれることに懸念を示している。その半面、ロシアとは軍事協力も密な国だ。
そのインドが、ロシア問題で中国と歩調を合わせたことは、インド太平洋地域における中国包囲網に風穴を開けることにつながる。5月下旬に行われる予定の「Quad」首脳会議に向け、くさびを打った形になった。
高まる尖閣有事リスク 日本の安保は試練の時代へ
北にロシア、西には北朝鮮、そして南西には中国と、いずれも核保有国を抱えた日本は今後、安全保障面で試練の時代を迎える。
いざとなれば、日米安全保障条約に基づき、アメリカは手助けしてくれるだろうが、アメリカのシンクタンク、ランド研究所の予測などでは、「尖閣諸島が攻撃を受ければ5日間で制圧される」との見方もある。
「ロシア軍のウクライナ侵攻は、中国が台湾を侵略するシナリオを現実的なものにした」
これは、安倍政権で外相や防衛相、菅政権で沖縄担当相などを務めた自民党・河野太郎の言葉だが、筆者は台湾と並び「尖閣諸島」も加えたい。
自民党の安全保障調査会は11日、敵のミサイル発射拠点を直接たたく「敵基地攻撃能力」について議論し、参加者から名称を「自衛反撃能力」などに変更する案などが出された。あの共産党ですら、志位和夫委員長が「有事の際には自衛隊を活用する」と語らざるを得ない時代である。
政府は今年末をめどに「防衛計画の大綱(大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」の改定を目指す方針だが、名称うんぬんよりも中身の議論を急ぐべきである。
●「第2次大戦並みに激化」ウクライナ戦争の今後 4/15
ロシア軍とウクライナ軍が集結するウクライナ東部からは、多くの民間人が退避した。大規模戦闘の脅威が高まっているためだ。
同地域の戦闘は、首都キーウ(キエフ)をめぐる戦いとは大きく異なったものになる可能性がある。首都周辺ではロシア軍が押し戻され、その後には焼け焦げた戦車や、爆撃された家々が残された。
キーウ周辺から撤退したロシア軍は、ウクライナ東部のドンバス地方で新たな攻勢に出るべく移動を進めている。
軍事アナリストらによると、東部はロシア軍に有利な場所だ。ロシアは2014年に東部に侵攻しており、補給線も短くてすむ。さらに充実した鉄道網を自軍の補給に活用することも可能だ。キーウの北側にはそうした鉄道網が存在しなかった。
「極めて残忍なものになるだろう」
ウクライナ政府の幹部は、ウクライナもロシアと同じく、大規模な戦闘に備えて態勢を整えていると述べている。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は4月上旬、北大西洋条約機構(NATO)の会合で追加の軍事支援を要請した。
ウクライナには西側諸国の兵器が大量に届くようになっているが、さらに大規模かつ迅速な支援が必要だと訴えた。ウクライナ東部の戦いは「第2次世界大戦を彷彿とさせるものになるだろう」とクレバ氏は警告した。
焦点になっているとみられるのが、東部の都市イジュームの周辺だ。イジュームを先日掌握したロシア軍は、ウクライナ南東部のドンバス地方に展開するほかの部隊の陣地とイジュームをつなげようとしている。黒海に面したクリミア半島とドンバス地方とをつなぐ地上ルートの強化も狙っている。ロシアは2014年にクリミアを侵略し、併合した。
両軍が大規模戦闘に備えていることを示す兆候はほかにもある。マクサー・テクノロジーズが10日に公開したウクライナの新たな衛星画像には、何百というロシア軍の車両が、ハリコフの東、イジュームの北に位置する町を通って南下する様子が映っていた。
「戦車や戦闘車両が何百台と投入される大規模な戦いになるはずだ。極めて残忍なものになるだろう」。ロンドンに拠点を置く国際戦略研究所の研究員フランツ・ステファン・ガディ氏は、「軍事作戦の規模は、この地域がこれまでに経験したのとはまったく違ったものになる」と話した。
ロシアはクリミア併合以降、ドネツクとルハンスクというドンバスの東部2州で親ロシア派分離主義勢力の反乱を支援。同紛争による死者は、過去8年間で1万4000人を超えた。
ロシア軍の苦戦を予想する声も
イギリスの紛争研究調査センターのキア・ジャイルズ氏は、「ロシアは非常に慣れた地域で活動している」と語った。ロシア軍は「ウクライナに対する当初の作戦の失敗から学んでくるはずだ」。
ジャイルズ氏によると、ロシアには、すでに制圧した東部地域で運行されている密度の高い鉄道網を使えるといったメリットもある。
東部ではロシア軍がさまざまな点で有利になるとみられているわけだ。それでも、キーウの北で行われた戦闘よりも効果的に戦えるかは疑わしいとするアナリストもいる。
西側諸国の当局者や専門家によると、キーウを攻撃したロシア軍部隊の多くは大打撃を負い、戦闘を再開するには消耗しすぎているという。多くの部隊は士気の低下に苦しんでおり、中には戦いを拒否する兵士もいるもようだ。
「軍を本気で再建するには何カ月とかかるのが普通だが、ロシア軍は戦いに突き進もうとしているようだ」と、アメリカン・エンタープライズ研究所で重大脅威プロジェクトの責任者を務めるフレデリック・ケーガン氏は話した。同研究所は、同じくアメリカのシンクタンクである戦争研究所と連携して、ウクライナの戦況を追っている。
機動性の問題に直面するロシア軍
ケーガン氏によると、ロシア軍は東部でも、北部で経験したのと同じ機動性の問題に直面する可能性がある。ロシア軍の移動ルートは、ぬかるんだ泥にはまるのを避けるため、主に幹線道路に限定された。ロシア軍の装甲車やトラックがウクライナ軍の攻撃にさらされやすくなったのは、このためだ。ウクライナ軍は西側諸国から供与された対戦車ミサイルを使ってロシア軍の車両を何百も破壊した。
ロシア軍にとって、移動の問題はさらに深刻なものとなりそうだ。春の雨によって地面の多くが泥に変われば、ロシア軍の機動性は一段と低下することになる。
ロシア軍は「移動を驚くほど道路に頼っているため、東部では一段と難しい状況に直面する可能性がある」とケーガン氏は指摘した。「東部の道路網はキーウ周辺よりも、ずっと悪い」。
ケーガン氏によると、結局のところ、両軍はどちらも厳しい試練に直面しているという。
「ロシア軍は大きな戦力を有しているが、問題も多い」とケーガン氏は語った。対する「ウクライナ軍は士気もモチベーションも高く、決意も固いが、数で劣っている。軍事国家というインフラの支えもない」。
「状況は五分五分だろう」
●「ウクライナ戦争の真相」語る 原田武夫国際戦略情報研究所の原田CEO 4/15
伊勢新聞政経懇話会4月例会は14日、津市大門の津センターパレスで開き、原田武夫国際戦略情報研究所の原田武夫代表取締役CEOが「『ウクライナ戦争』の真相〜これから何が起きるのか〜」と題して講演した。戦争の本質と米ロ中の覇権争いを分析した。
原田氏は「戦争に反対です。ましてや核兵器」としつつ、「一方向の話をかなり聞かされている」「専門家の話は分からない。大学教授は理論を作るのが仕事。現象を掘り下げて真相を調べるのが我々」と述べ、「プーチンの頭が狂ってという話ではない。もっと大きな構図がある」と語った。
現状について「こんなにたらたら戦争するのはおかしい。領土的野心を持っているのであれば、戦術核を使えばいい」「じりじりやる中で西側の結束が乱れ始める。それがプーチンがやろうとしていること」と話した。
「あくまで仮説」としながらウクライナでの生物兵器開発の可能性を挙げ、「ウクライナの生物医学研究所の大本をつくったのは中国。生物兵器は発症を数カ月後にする調整は可能。難民を通じて拡散されたらどうするのか」「中国は静かにしている」と解説。
米国を巡っては「ゼレンスキー大統領に最初に圧力を掛けたのは米国。トランプが大統領選に絡み、バイデン次男のウクライナ疑惑で支援を大幅にカットした」「米国は的確に開戦のタイミングをつかんでいた。中間選挙でバイデンは絶体絶命。戦争は内政上の話になっている」と述べ、「米国のスタンスをよくよく考えていかなければ」と注意喚起した。
また「ユダヤ人の問題を抜きにしてロシアを語ることはできない」「ゼレンスキー大統領はユダヤ系」「イスラエルはロシアに制裁を掛けていない」と説明し、オフレコで戦争の動因から展開を予測した。
質疑では北大西洋条約機構(NATO)への加盟に意欲を示すスウェーデンについて、「自分自身が戦わない戦争で自国兵器を使ってもらいたいという判断。兵器は需要がない」との見方を示した。
●予想外に弱かったロシア軍、その理由を徹底分析 4/15
ウクライナ戦争の影響はインド太平洋へ
   中国とロシアの関係性:中国の曖昧な態度・姿勢に隠された思惑
ウクライナ戦争の影響は、欧州にとどまるものではない。
この戦争は、グローバルな視点からすれば「民主主義対専制主義・強権主義」の戦いであり、ウクライナは世界の民主主義国の盾となって戦っており、インド太平洋における日米台などの中国の覇権拡大に対する戦いと同じ位置付けだ。
また、ロシアと中国は、対米・対西側で共闘する「全面的戦略協力パートナーシップ」の関係で緊密に繋がっており、中国はロシアの行動を「侵攻」「侵略」と認めないばかりか、直接・間接的に支持している。
さらに、ウラジーミル・プーチン大統領と思想・行動の面で軌を一にする習近平国家主席は、世界覇権の獲得を視野に尖閣諸島や台湾、南シナ海で侵略的行動を先鋭化させ、「力による一方的な現状変更の試み」がインド太平洋での緊張を高めている。
そして、武力行使に当たっては、いま注意深く観察しているウクライナ戦争の教訓が間違いなく反映されると見られるからである。
他方、中国は、ウクライナ戦争で存在感を増した先進7か国(G7)を中心とした国際社会によるロシア包囲網が強まっていることに鑑み、ロシアへ偏重した政策は「孤立化」のリスクをはらむとの懸念から、表向き「ウクライナ問題に基本的に関与しないという態度」あるいは「どちらかの肩も持たないという姿勢」で取り繕おうとしている。
しかし、そのような曖昧な態度・姿勢には、硬軟相交えた台湾統一を控え、それを見据えた中国の思惑と伏線が透けて見え、日米などの猜疑心をますます増大させこそすれ、減少させるものではなかろう。
   中国の台湾の武力統一は不変/台湾侵攻の決意を過小評価してはならない
米議会下院の軍事委員会は2022年3月9日・10日、ロシアのウクライナ侵略が中国の台湾侵攻計画に与える影響などに関する公聴会を開いた。
そこで、中国専門家のイーライ・ラトナー国防次官補(インド太平洋安全保障担当)、ジョン・C・アクイリーノ太平洋軍司令官、ウィリアム・バーンズ中央情報局(CIA)長官およびスコット・ベリア国防情報局(DIA)長官が証言した。
4氏は、まずロシアのウクライナ侵攻の国際法違反、非人道性に対する批判および経済制裁の強化について同趣旨の発言を行った。
その後の4氏の証言を総括すると、中国がロシアのウクライナ侵攻を注視していることから、その行動に与える影響を指摘しつつも、「中国の台湾侵攻の決意は変わらない」「中国の台湾侵攻の決意を過小評価してはならない」と強調した。
そして、米国の協力と台湾独自の努力によってその防衛力を高め、これを支える西側社会の結束した取組みがあれば、中国に対する抑止力を強化できると説いた。
   米国を「弱腰」と見做せば、中国は一層攻撃的に
ウクライナ戦争において、米国はウクライナがNATO(北大西洋条約機構)の加盟国ではなく「集団防衛」の対象ではないことに加え、ロシアが核威嚇を実際に行使し、さらに核攻撃ヘエスカレートする可能性があるとの見通しから、直接軍事介入すれば紛争が欧州戦争あるいは第3次世界大戦へと全面的に拡大することを恐れてその選択肢を排除した。
その代わりに、G7を中心として西側社会を結束させ、経済・金融制裁を主戦場としてロシアを弱体化させる一方、ウクライナに大規模な兵器供与や情報提供などの軍事支援を行って防衛力を補強している。
中国が、主敵と考える米国のウクライナ戦争軍事不介入の決定について、これを合理的判断と見るか否かによってその対応は大きく変わる。
もし、米国を「弱腰」と見做せば中国は一層攻撃的になる可能性がある。
今後、中国はウクライナ戦争の危機に乗じて米国を努めて欧州に釘付けし、インド太平洋への関与を弱めようとするであろう。
さらに、米国のインド太平洋への関与をめぐり地域諸国に揺さぶりをかけ、特に台湾の人々に米国の軍事介入の決意を疑わせるようウクライナ戦争を利用するであろう。
協力者を置き去りにしたアフガニスタンからの米軍撤退、そしてウクライナ戦争における軍事不介入といった度重なる選択に、台湾では米国は有事の際に本当に台湾防衛に動くのかとの疑念や不安が広がるのもやむを得ない。
今後、米国は台湾有事におけるコミットメントの「戦略的曖昧さ」について政策見直しを迫られるかもしれない。
以上のような情勢を背景に、中国は、ウクライナ戦争を注意深く観察しており、その研究成果を台湾武力統一などの軍事作戦に反映させるのは間違いない。
そこで、中国が、ロシアのウクライナ戦争から何を学んでいるかを探り、そこから抽出された教訓や問題点を明らかにすることによって、日米台などが中国の軍事力行使を抑止・対処するに当たって示唆するところを考えてみる。
中国がウクライナ戦争から学んだ教訓
   1 核威嚇と「escalate to de₋escalate」原則を援用した核攻撃
プーチン大統領は、ロシアが最も強力な核保有国一つであることを強調し、ウクライナ侵攻前から大規模なミサイル発射演習を実施して核威嚇を行った。
さらに、同大統領は核を扱う部隊に対して「特別戦闘準備態勢」を取るよう命じ、核戦力部隊が「戦闘態勢」に入ったと発表したことで、核戦争の懸念が一挙に高まった。
米国およびNATOは、軍事介入すればロシアの核威嚇が現実化し、核攻撃が行われる恐れがあるとの判断で、その選択肢を完全に排除した。
実戦において、核威嚇が使われ、それが効果を発揮した瞬間であった。
また、核兵器は政治的手段であり「使えない兵器」であるとの認識が、「使える兵器」との認識に一変した瞬間でもあった。
そして、ロシアは開戦から約10週間を過ぎても期待した目標が達成できず、作戦が行き詰まっていることから、戦況を好転させる目的で、戦術核の使用を検討するのではないかとの懸念が依然として現実味を帯びている。
ロシアは、「escalate to de₋escalate(事態を好転させるために状況をエスカレートさせる)」として知られる戦略原則を援用しつつ、エスカレートさせた責任を敵に押しつけながら、戦場のルールを一変させることを目指して戦術核を使用するかもしれない。
ましてや、独裁者のプーチン大統領は、国際社会の非難を物ともせず、「何をやらかすか分からない」との予測不能性に満ちており、引き続き厳重な警戒が必要である。
識者の間では、ウクライナが、20年前に核による抑止力を放棄したことで攻撃を受けやすくなったのではないかとの議論がある。
核兵器を持つことが他国への攻撃の保証書になること、そして核兵器を持たない平和的な国が侵略者の餌食になることを示したとも言え、イランや北朝鮮のように、核兵器の開発を追求する国が増えるかもしれない。
ジョー・バイデン米政権は、現在策定中の新核戦略指針「核態勢の見直し(NPR)」において、核兵器の役割を縮小しようとしており、同盟国の間では、米国が提供する核抑止、すなわち「核の傘」が大きく弱まるのではないかとの懸念が広がっている。
米国は、1987年に調印したソ連(ロシア)との中距離核戦力(INF)全廃条約に基づき、中距離(500〜5500キロまで)の核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルを廃棄した。
そのため、現在、米中間では中距離(戦域)核戦力に大きなギャップが生じている。
この米国の「核の傘」の信憑性の低下を衝いて、ロシアがウクライナ侵攻で行ったように、中国が核威嚇を使いながら通常戦力による軍事侵攻を行う可能性が高まり、また、戦況が不利な場合には、中距離(戦域)・短距離(戦場)核戦力を使用する蓋然性が高まることが懸念されている。
我が国は、この厳しい現実を直視し、有効な抑止策を講じなければならない。
そのための現実的選択としては、少なくとも非核三原則のうち「持ち込ませず」を破棄し、米国の作戦運用上の要求にともなう核戦力の日本への持ち込みを認めなければならない。
そして、わが国の主権を確保する観点から、自国内に持ち込まれ配備された米国の核兵器を日米が共同で運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」政策について真剣に検討すべきである。
   2 結束した西側:経済制裁と武器供与・情報提供などの軍事支援
ロシアのウクライナ侵攻を巡っては、世界は今もG7の主導で率いられているという現実を、まざまざと中露に見せつける機会を与えた。
また、弱体化が懸念されていたNATOにとっても、ロシアの脅威に目覚め、強力な組織として再現する切っ掛けとなったようだ。
そして、米英や日仏独などがその気になり西側諸国が一致団結すれば、経済・金融制裁を主戦場としてロシアを世界経済から切り離せることを示した。
また、G7やNATOはもちろんのこと、それに属さないスウェーデンやフィンランドなども加わってウクライナに武器を供与し防衛力を補強している。
米英を中心とした最新の動態情報の提供は、ウクライナの戦略判断や作戦遂行の大きな力となっている。
このようなG7を中心とした西側の結束と相互協力・支援の動きは、台湾統一や尖閣諸島奪取の野望を抱いている中国に対し、ロシアを自国に置き換えて考えた場合、外交的・経済的・軍事的あるいは国際世論上の「孤立化」の問題をはじめ多くの教訓や課題を突き付け、対外的優先事項について慎重な対応を迫る可能性がある。
   3 米国の情報優越:見透かされたロシアの行動
ウクライナ戦争における米国の情報戦は、極めて的確である。
特筆すべきことは、2014年のウクライナ紛争を防げなかった反省の上に立って考えられた「格下げと共有(downgrade and share)」と呼ばれる戦略に基づいて情報戦を遂行している点にある。
従来なら外に出せない機密情報の機密レベルを引き下げ、情報を積極的に事前公開することで紛争を方向づけたり、抑止したりするという発想である。
米国は、CIA(中央情報局)、国務省情報調査局(BIR)、DIAなど15の情報機関から構成される「情報コミュニティ」による広範かつ精緻な情報を基に、ロシアの行動を先読みし、その行動に先回りして国際社会に情報を発信し、ウクライナをはじめ関係国に警告を発するとともに、ロシアに揺さ振りを掛けている。
その結果、ロシアは躊躇し、主導性を奪われて後手に回り、ウクライナなどに対応の暇を与えるとともに、国際社会から厳しい非難を浴びることとなった。
米国から国際社会に向けて発信された情報から察すると、ロシアの行動は、相当程度、見透かされていることが理解される。
これに引き換え、ロシアの情報戦は至って低調であるとの印象は拭えない。
なお、ロシアの情報戦については、次の「プーチン大統領の独裁体制がもたらす情報欠陥」の項で触れることとする。
他方、中国は、これからの戦いを「情報化戦争」あるいは「智能化戦争」と捉え、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視している。
そのため、「三戦」と呼ばれる「輿(世)論戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作の項目としているほか、軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律など他の分野の闘争と密接に呼応させて、情報能力の強化を図っている。
この際、従来の軍事情報部門に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を強化するとともに、それらを統括する戦略支援部隊を創設し、情報化戦争を一元的に遂行できる体制を整備して米国を猛追している。
しかしながら、中国が米国の情報優越に追い付き追い越すには、少なくとも10年単位の期間を要すると見られ、さらなる軍改革・情報組織改革に注力する必要がありそうだ。
   4 プーチン独裁体制がもたらす情報欠陥・戦略的失敗
ロシアには、旧ソ連邦の政治警察であった「KGB(国家保安委員会)の影」が付きまとっている。
KGBは、反体制活動の取り締まりをはじめ、国家機関・軍への監視、国境警備、海外での情報活動などを行っていたが、その任務は、現在主としてロシア連邦保安局(FSB)や対外情報局(SVR)に引き継がれている。
KGBの体質を引き摺っている代表格が、元KGB諜報員であったプーチン大統領本人である。
そして、安全保障会議書記やFSB長官、SVR長官などの国の要職が、シロビキと呼ばれる側近で埋められている。
彼らの大半はロシアの諜報機関に所属した経歴を持つ元KGBで、情報に偏りや独特な傾向が生じやすい。そして、恐怖政治の中、周辺に集まるイエスマンたちに、プーチン大統領の気に入らない情報をあえて届けようとする者はいない。
そのうえ、「侵攻前、ロシアによるウクライナの情報収集は外国情報を扱う対外情報局(SVR)ではなく、『ウクライナは本来ロシアだ』という理由で国内治安機関の連邦保安局(FSB)が担当した。彼らがプーチン大統領に上げた情報分析では、ウクライナ軍に戦意はなく、同国のゼレンスキー大統領はすぐに逃亡する、といったもので、見通しが極めて甘かった」と、米戦略家のエドワード・ルトワック氏は指摘している(産経新聞「世界を解く」、令和4年(2022年)3月19日付)。
このように、硬直化した情報活動の下、質の高い情報に支えられない戦略が失敗に帰するのは至極当然である。
侵攻開始から1か月余りが経過した2022年3月末、米ホワイトハウスや欧州当局者は、プーチン大統領がウクライナ侵攻の戦況や欧米の制裁措置による経済へのダメージを巡り、真実を伝えるのを恐れる側近から誤った情報を伝えられている可能性があるという情報を明らかにした。
情報活動・情報伝達の不備によってプーチン大統領が正確な状況、すなわち侵略の失敗を理解していないとすれば、戦争の終結に向けた課題である停戦・和平協議に与える影響も甚大である。
このように、独裁体制・恐怖政治下の情報欠陥が、開戦から出口戦略までに至る「ロシアの戦略的な誤り」を引き起こす致命的な要因となる可能性がある。
同じ独裁体制・恐怖政治をとる習近平国家主席率いる中国にも、ロシアと同じ情報欠陥が指摘されており、その体制が続く限り、克服できない宿痾的問題として引き摺ることになろう。
   5 予想外に弱点が目立つロシア軍:ロシア軍の構造的問題
(1)正規軍と対峙する大規模戦争の経験不足
ソ連邦崩壊後(1991年12月)のロシアの主な戦争・紛争は、第1次(1994〜96年)・第2次(1999〜2009年)チェチェン紛争、ロシア・グルジア戦争(2008年8月7日〜8月16日)、ウクライナ紛争(2014年〜)そしてシリア内戦介入(2015年〜)である。
これらの戦争・紛争は、主として他国内の民族紛争などに介入した対ゲリラ・対テロ戦が中心であり、軍事大国ロシアが軍事小国や反政府勢力などの非国家主体を容易に圧倒制圧できた戦いであった。
ロシア(ソ連)軍が前回、大規模な作戦を実施したのは1968年のチェコスロバキア制圧で、そこにも強力な軍隊は存在しなかった。
今般のウクライナ戦争は、日本の約1.6倍の面積を持つウクライナの全領域を戦場とする国家対国家、正規軍対正規軍の本格的戦争である。
ロシアにとっては、規模的にもまた態様的にも従来の戦争・紛争の経験則では律することのできない「未体験ゾーンの戦争」であり、そこに踏み込んだことから、予期せぬ混乱や錯誤に陥っている。
他方、ウクライナ軍は、独立後、米英などの指導の下、NATO軍標準化に向けた軍改革を進め、大きな戦力格差を乗り越えてロシア軍に善戦敢闘している。
中国は毎年、ロシアと大規模な共同訓練を行ない相互運用性の向上を目指しており、ウクライナ戦争の成行きを決して見逃せないだろう。
さらに、第2次大戦型のベトナム戦争以来、本格的な実戦経験のない中国・中国軍にとって、冷戦終結後、湾岸戦争、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、コソボ紛争、イラク戦争、アフガニスタン紛争など多種多様な現代戦を経験し、いわば「百戦錬磨」の教訓の上に将来戦様相を睨んで常に変革を進めている世界最強の米軍との戦いは、容易ならざるものになるとの認識を深めることになろう。
(2)トップダウン型の硬直した指揮と部隊運用
ロシア陸軍の編制は、軍管区制の下で、軍、軍団、師団、旅団、連隊、大隊、中隊、小隊そして分隊の構成になっている。
まず、ウクライナ侵攻の指揮運用上の問題は、プーチン大統領の杜撰な戦略判断を背景に、伝統的に厳格なトップダウンの指揮系統を持つロシア軍にあって、17万〜19万人規模と見られる大軍を統括指揮する軍司令官が指名されていなかったことにある。
ウクライナ侵攻は、ベラルーシ領土から展開して南下する北方ルート、分離独立派が支配するドンバス地方を経由する中央ルート、そしてクリミア半島を起点として北上する南方ルートの3方向から攻撃が開始された。
しかし、本作戦を一元的に指揮するウクライナ侵攻軍総司令官が不在のため、作戦の全般目標、主作戦方向(主努力を指向する方向)、3方向に対する戦力配分と相互連携、陸海空軍の統合運用、兵站(後方支援)などの面で必要な作戦指揮が行われなかった。
それが侵攻軍内の連携不足という欠点となって、当初の目的通りに作戦が進展しなかった大きな原因であろう。
なお、ロシアのプーチン大統領は遅まきながら、開戦から40日以上過ぎた4月10日までに、ようやくウクライナの全戦域を統括する司令官に、連邦軍の南部軍管区司令官を務めるアレクサンドル・ドゥボルニコフ大将(60)を任命した。
その中で、ウクライナ戦争におけるロシア陸軍は、大隊戦術群(BOG)を基本単位として作戦を行っていると見られている。
前述の通り、ロシア軍は、欧米の軍隊と比較して厳格なトップダウンの指揮系統を持つため、下級指揮官への権限委譲が少なく部隊運用の柔軟性がはるかに低い。
そのため、戦術的な意思決定の細部に至るまで、上級指揮官が関与しているという。
元米第6艦隊司令官のジェームス・フォゴ退役海軍大将は、「ロシアの場合、上から指示が下りてくる。すぐに取り掛かれ、成果を上げろといった具合だ」、そして「彼らの軍隊の指揮系統は、非常に脅迫的だ。成果を上げなければ、交代させられるか、クビになるか、もっと悪い結果が待っている」と述べている(ニューズウィーク日本版、2022.3.23)。
そのため、師団長クラスの将官が自らの命令意思を最前線にいる部隊に理解させ、実行させる必要から第一線の現地へ赴かざるを得ない機会が多くなっており、これがロシア軍全体の指揮統率能力を低下させていると指摘されている。
その結果、師団長クラスの将官がウクライナ兵の狙撃によって命を落とすケースが増えている。また、将官だけではなく、多くの佐官級指揮官や幕僚が犠牲になっていると伝えられている。
指揮官が欠けることによって、司令部の指揮幕僚活動は極度に低下し、隷下部隊の行動はさらに行き詰ってしまう。
そして、統制の効かなくなった部隊の徴集兵が食料を求め、店舗や民家で略奪行為などを働いていると報道されているように、教育訓練の不足で規律とプロ意識に欠ける兵士が戦争犯罪に走るのである。
これらは、共産党軍に共通した問題であり、中国共産党が指導する中華人民共和国の軍隊である中国人民解放軍(中国軍)に対し厳しい課題を突き付けることになろう。
(3)新兵器の優位性の未発揮と旧兵器との未融合
プーチン大統領は、2018年3月の年次教書演説で、米国内外に配備されているミサイル防衛(MD)システムを突破する手段として、「サルマト」「アヴァンガルド」「キンジャル」「ブレヴェスニク」「ポセイドン」の5つの新型兵器を紹介した。
また、その後、最高速度約マッハ9で1000キロ以上の射程を持つとされる海上発射型の極超音速巡航ミサイル(HCM)「ツィルコン」の開発がおおむね完了したと発表した。
そして、ウクライナ侵攻当日のテレビ演説で、現代のロシアは「世界で最も強力な核保有国の一つ」というだけでなく、最新兵器でも優位性があると強調した。
ウクライナ侵攻では、「キンジャル」などの新兵器を使用したとロシア国防省が発表しているが、米国防総省の高官は、そのことについて「米国としては否定もできないが確認もできない」と述べ、発射が本当であっても「軍事的には実用性はない」との考えを示した。
ロシアは、軍事介入したシリアを開発中の各種新型兵器の実験場として利用したはずであったが、その成果を反映した新しい戦い方がウクライナで出現した様子は見当たらない。
他方、ロシアがウクライナの地上戦で実戦に投入したのは、旧式の「T-12」戦車や、装甲兵員輸送車、大砲・ロケットランチャー、短距離(戦術)ミサイルや巡航ミサイルなどが主体であり、最新兵器の優位性の発揮や新旧兵器の融合したシステム運用は確認されていない。
中国は、2019年10月1日の建国70周年の軍事パレードで23種の最新兵器を公開し、軍事力を内外に誇示した。
その中には、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「DF-41」、極超音速滑空ミサイル「DF-17」、超音速巡航ミサイル「CJ-100/DF-100」、超音速対艦巡航ミサイル「YJ-12B/YJ-18A」、最新鋭ステルス戦略爆撃機「H20」、攻撃型ステルス無人機「GJ-11」、高高度高速無人偵察機「WZ-8」、無人潜水艇(UUV)「HSU001」など超音速ミサイルや無人戦闘システム、電子戦などに力を入れていることが明らかになった。
中国は今後、近未来の戦場において、これらの新兵器の優位性を十分に発揮できるのか、そして、多くの旧来の兵器と融合した効果的・一体的な戦いができるのかといった、ロシアがウクライナ戦争で直面し、成果を挙げられなかった重要な課題の解決に力量を問われることになろう。 
(4)軍「プロフェッショナル化」の未発達:徴集兵制と契約勤務制度
ロシアの軍改革の一つである軍の「プロフェッショナル化」については、特に兵士(兵卒)の育成に問題があり、その背景には、徴集(徴兵)義務1年間という制度上の制約がある。
そのため、訓練不足や低い士気といった面で未熟な兵士が本格的な軍事作戦への参加を強いられている。その弱点がウクライナの最前線の現場で露呈し、作戦の失敗に繋がっていると見られている。
現在、この問題を是正するため、有給で3年間勤務する契約軍人(一種の任期制職業軍人)制度を導入しているが、給与や住宅の改善などにさらに国防予算が必要であるため、本制度への円滑な移行が進んでいない。
西側では、志願制を採用している国が多いが、それは、レーダーやミサイル、コンピューターなど高度な軍事技術を駆使する現代・近未来の戦いには、専門的な知識・技能を習得した練度と士気の高い真にプロフェッショナルな戦士が不可欠だからだ。
他方、ロシアの「下士官では(契約勤務制度(職業軍人)の比率が)100%を達成した」(外務省HP「ロシア連邦基礎データ」「国防」「3軍事改革等」、括弧は筆者)模様である。
しかし、その契約期間が3年間に限られるとすれば、部隊の中核的戦力として歴史や伝統を築き、精強性を維持する地位にある下士官層の勢力が極めて弱体であることになる。
このままで推移すれば、ロシア軍は「頭でっかちで下半身の弱い歪な軍隊」としての低い評価を受け続けることになろう。
これを受け、早速渦中の台湾では、2018年に事実上廃止した徴兵制復活の検討が開始された。
また、現行制度では、1994年以降に生まれた18歳から36歳の男性は4か月間の訓練を受けることになっているが、「4か月では戦力にならない」として、その期間延長についても検討されるようである。予備役の訓練も、実戦的な内容とし、期間を14日間に延長している。
中国は、「兵役法」(1998年)に基づき服務期間2年の義務兵制(徴兵制)を敷いている。
旧「兵役法」(1984年)の第2条では「中華人民共和国は義務兵制を主体とし、義務兵と志願兵が結合し、民兵と予備役兵が結合した兵役制度を実施する」と規定していたが、1998年の新「兵役法」では「義務兵制を主体として」という表現が削除された。
そのことにより、人民解放軍では、志願兵の比率がより高まり、兵員構成が大きく変わっている。
しかし、人民解放軍は、経済の急成長と人口減少・少子高齢化のなか、志願者不足に悩んでいるようである。
また、徴兵身体検査で、志願者たちの合格率が大幅に低下しているという。
血液・尿検査、視力、体重、心臓、血圧、風土病(=地方病)など不合格の理由は様々であるが、その大多数が人口抑制策「独生子女政策(一人っ子政策)」の強制を受けた一人っ子であり、両親・祖父母に可愛がられ、甘やかされて育った世代である。
新兵の不足は今後、中国の国防の足かせとなる可能性もあり、軍の危機感は強く、兵士らの給与を上げるなどの処遇改善が検討されている。
また、「一人っ子政策」は2015年末に廃止されたが、その制度的弊害の後遺症が是正されるまでには、相当の年月を要すると見られ、当分の間、中国は「ひ弱な兵士」の存在に悩まされ続けることになろう。
●ロシアがウクライナに「ゴリ押し」を続ける理由、日本への教訓とは? 4/15
今回のロシア・ウクライナ戦争はいまだに進行中だが、「勝利」についての戦争研究の視点からは両者のやり方の違いが見えてくる。あくまで現時点の情報からの観察でしかないが、ロシアとウクライナがいかなる「勝利」に向かっているのか、そしてそこからの教訓を考察したい。
戦争における2つの「勝利」とは
戦争研究では「戦争における勝利」と「軍事的勝利」は峻別される。前者は戦争全体における政治的および戦略的な勝利であり、後者は純軍事的な問題――作戦および戦術レベルの勝利とも換言できる――における勝利だ。
米国陸軍大学元教授のブーン・バーソロミューは、戦術・作戦レベルの勝利は戦争における勝利に直結せず、むしろそうした勝利を果たしたにもかかわらず戦争に負ける例もあると指摘する。むしろ戦術や作戦レベルでは敗北しているのに、戦争に勝利した例もあると説明する。
戦術・作戦レベルの勝利、別の言い方では「軍事的勝利」とは、合理的に定量可能な指標――相対的な損害や軍事目的の達成度――を用いて評価される。孫子と双璧をなす『戦争論』を執筆したクラウゼヴィッツが「敵の物質的な力の喪失、士気の喪失、意図の放棄」と定義したように客観的に測定可能な事実に基づきやすい。
逆に、戦略レベルやそこと重なる作戦レベルの勝利、換言するならば「戦争における勝利」は国際社会や両国内の主観的な意見や見解の総合したものである。直接的な言い方をすれば、戦後の政治状況に対する世論の評価によって決まる。戦争における勝利は、死傷者や領土の拡大縮小などの客観的基準とは直結しない。関係のある場合もあるし、ない場合もある。
また、これは、好ましい政治的結果を伴わない戦術的あるいは作戦的勝利は無意味であることも意味している。
バーソロミューは、戦略的勝利は認識によって決まるからこそ、視点によって異なるとする。戦争に参加した双方が勝利宣言を行う――あのイラクのサダム・フセインですら湾岸戦争で勝利宣言ができた――のは、このためだ。
この考え方を使ってかつての戦争を分析すれば、イラク戦争において米側はフセイン政権全体の軍事力を完膚なきまでに粉砕し作戦・戦術レベルでは勝利した。しかし戦後統治を含めた全体的な戦争の勝利を得られなかった。結局、コストに見合った果実を得ることなく、中東全体から撤兵することとなり、戦略レベルでの敗北に至った。
日露戦争における日本は巨象が薄氷を渡るかのように「軍事的勝利」を重ね、それをロシアの戦争指導部や国際世論を動かし、「戦争における勝利」を獲得した。
太平洋戦争時の日本は緒戦における戦術レベルの軍事的勝利を獲得したが、それを戦争における勝利――好ましい政治的な成果――に転換することができなかった。緒戦の軍事的勝利は、さらなる占領地域の拡大という別の軍事的勝利のために投じられたことで消耗戦に陥り、軍事的勝利も戦争における勝利も失った。
一方、日中戦争を中国の視点から見れば、第二次長沙作戦――終戦時の陸軍大臣の阿南惟幾が勝手に無謀な攻勢作戦を発動し、待ち伏せする中国軍相手に包囲され大損害を出した挙句、部下に責任を押し付け撤退した――といったいくつかの例外を除けば、国民党軍は日本軍に軍事的には連戦連敗したが、援蒋ルートに米国の支援を取り付けたことが最終的には日米開戦に結びつき、「軍事的勝利」が少ないままに「戦争における勝利」を獲得した。
このように、戦争に勝つとは一筋縄でいかない営為なのだ。
ロシアとウクライナが目指す「勝利」の違い
この視点から現在のウクライナ・ロシア戦争を眺めてみると、断片的な情報と現時点での状況ではあるが、ロシアは戦術レベルの勝利に向かって力押しを続けている。キーウ(キエフ)攻略に失敗した後は、ウクライナ東部の領土的支配を目指しつつ、ウクライナ市街地への無差別攻撃を行っているが、これが作戦レベル、特に戦略レベルの勝利にどうつながるか、見えてこない。
キーウ攻略を含めた際は、全打者をホームラン打者にして多方面から進撃したが、全く連携もなく失敗。今度は東部にホームラン打者を集中して目の前の試合でホームランによる得点が量産されれば勝てると思っているかのようだ。
一方、ウクライナ側は戦争における勝利を目指しているようにみえる。まるで、かつての野村ID野球のように小技・大技・番外戦術を駆使して、日本シリーズ優勝を目指しているようだ。
つまり、ロシア側は政治的な勝利の可能性を浪費――情け容赦ない都市部への攻撃と兵糧攻め、過去に比して雑としか評価しようのない情報戦と軍事侵攻、国際的な孤立をいとわぬ力押し――してでも、目前の軍事的勝利に固執しているように思える。
ロシアの戦術に見られる「一貫性」
この観点から眺めると、ロシア側の戦術も理解できる。目前のウクライナ軍や市民の抵抗を物理的に破砕――虐殺行為はその典型であり、戦略的に悪手でしかないのに、目前の反乱の可能性を恐れるという戦術的理由で処刑した――し、ウクライナ政府と国民の心を折り、領土を手に入れ西側の影響力を完全に排除するのであれば、人道性も戦略性もないが現在のロシア軍の行動は一貫性がある。
ウクライナ国土と市民が灰燼(かいじん)に帰そうが、ただ領土を物理的に確保し、西側の影響力を完全排除したいだけ――しかもウクライナのナショナリズムが高揚している状況で――であれば、クラウゼヴィッツが指摘したように、もはや手段を選ばずに物理的に抵抗力を破砕するしかない。西側の経済制裁が決定的な影響をもたらす前に決着をつけねばならないという時間的制約があるなら、なおさらだ。
場合によっては、追い込まれたロシアはポーランドやバルト3国に戦線を拡大する、もしくはその可能性をちらつかせて経済封鎖や西側の支援を切り崩そうとする場合もあるだろう。81年前に日本がじり貧よりも、一縷(いちる)の希望としての戦争を希求したように。戦術的勝利の追求と引き換えに政治的勝利が消えうせればうせるほど、そうした脅迫とエスカレートに頼らざるを得ないのだから。
しかし、仮にそれが純軍事的に成功したとしてもロシアが手に入れるのは「戦争における勝利(戦略的勝利)」の可能性を食いつぶした「軍事的勝利(戦術的勝利)」であり、まさしく古代ギリシアの故事「ピュロスの勝利」だ。失敗すれば悲惨な敗北になりかねない。
しかも、ロシア側は戦術的勝利を追求するあまりか、作戦レベルや戦略レベルでの指導が薄かった。ロシア側が、4月9日になってようやく各方面軍司令官を統率する司令官を任命したと報じられたのも、これを裏打ちしている。要するに、戦略レベルやそれと重なる作戦レベルの軍事作戦を誰も指導していなかったのだ。
「戦争における勝利」に近づくウクライナ
こうしたロシア側の戦術重視、作戦や戦略軽視という弱みを突いているのがウクライナだ。ウクライナ側は個別の戦闘における善戦――戦術や作戦レベルでどうなっているは判断がつかないが――を重ねているのは事実のようだ。ここで注目すべきなのは、トルコ製やウクライナ国産の武装ドローン、民生品改造ドローンによって、ロシア軍の兵站を破壊していたことだ。これらは夜間に低高度で侵入し、ロシア軍の野戦防空を破砕もしくは迂回(うかい)し、ロシア軍の兵站を破壊することでロシア軍の進撃を停止させ、その軍事的勝利の実現を妨害した。
英タイムズの報道によれば、民生改造の武装ドローン部隊がロシア軍の車列の先頭をゲリラ的に夜間に破壊し続け、あの65kmもの大渋滞を作り上げたという。そして、それによって稼いだ時間とその戦果映像で西側の大量の武器供与も引き出し、ついにキーウからロシア軍を追い返した。
一方、ウクライナ側はゼレンスキー大統領や政府がSNSを駆使して、歴史の韻を踏んだ効果的な演説、PR動画、各地で善戦するウクライナ軍の雄姿や戦果、ロシア側の非道な攻撃を巧みにアピールしている。
特に、ドローンによって善戦するウクライナ軍の戦果やロシア軍の破壊を撮影し、それをSNSで拡散させたことで国際世論を動かしつつあることは注目に値する。開戦直後にドイツの高官は救援を求めたウクライナの大使に「48時間以内に消滅する国にできることはない」と無下にしたとの報道があったが、そこからここまでウクライナは情報戦で巻き返したのだ。
これは全て、西側からの支援と協力を引き出し、国内の戦意を保ち、それによってロシアを戦場もしくは経済的な消耗戦で追い込む「戦争における勝利」を狙っているように見て取れる。
少なくとも戦争研究の観点からは、ウクライナはロシア軍の物量に市民を含む多くの被害を出しながらも、戦略・政治レベルでは目的に向かって着実に進んでいる。つまり、ドローン戦などによってロシアの「軍事的勝利」を遅延させつつ、「戦争における勝利」に近づいているように思える。
もちろん戦争は何があるかわからない。クラウゼヴィッツが戦争とは「賭け」であると指摘したように、不確実性こそ戦争の本質だ。しかし、今の状況は、「軍事的勝利」に力押しで突き進むロシア、他方「戦争における勝利」へと複数の戦術を組み合わせる作戦術で戦略目標に着実に迫るウクライナ、という構図と評価できよう。これはロシアがキエフ攻略を放棄し、まずは東部奪取に専念する方針に転換した今も変わらない。
日本はウクライナの戦い方に学ぶべし
以上のように、ロシアとウクライナの戦争は「戦争における勝利」に一足飛びで向かうウクライナ、「軍事的勝利」を力押しするしかなくなったロシアという構図を持つ。
これは近い将来、ゴリ押しするしかないロシアによる暴走が懸念される。ウクライナ軍が「戦争における勝利」に近づき、ロシアの経済的破滅を引き寄せれば寄せるほどその懸念は高まる。例えば、既にその兆候があるように、日中戦争の援蒋ルートならぬ「援宇ルート」となっているポーランドへの戦線拡大、ウクライナ国内でのBC兵器(生物兵器・化学兵器)の行使だ。
日本としても、このウクライナの戦い方に学ぶ必要がある。日本は明治時代から、90年代の読売巨人軍のようなホームラン打者をそろえる防衛力整備になりがちだった。
しかも、90年代の巨人軍は球界一の資金力を誇ったが、今の日本はそうではない。それなのにイージスアショアの調達を過去に目指してみたり、F-35戦闘機の大量調達を行ったり、米海軍ですら諦めたレールガンの開発に予算を投じてみるなど、戦術レベルのホームラン打者を数多くそろえようとしている。
確かに4番打者は必要だ。しかし4番のホームラン打者ばかりの球団がお金持ちであっても日本シリーズで優勝できないのであれば、貧乏球団がそれをやっても勝てるはずがない。ウクライナのようにさまざまな武装ドローンや民生品と戦車や戦闘機、それに情報戦を組み合わせる野村ID野球しかない。
繰り返すが、圧倒的な優勢を誇る敵に対し、「戦争における勝利」を目指すウクライナのやり方は、日本にとっても参考にすべき事例だ。日本はロシアよりもはるかに巨大な中国の脅威にさらされている以上、ウクライナ流の戦争方法は学ぶべき点に富む。
現在の防衛論議はいかにしてミサイル防衛をするか、どのような兵器を使うか、離島防衛をどうするか、台湾有事をどう対応するか、といった「戦術的勝利」のレベルばかりに議論が集中し、今のロシアと同じドグマに陥っている。作戦レベルの発想すらほとんどない。
それではいけない。いかにして作戦術の発想を活用し、有利な講和にこぎつけて「戦争における勝利」を勝ち取るための日本流の戦争全体のデザインを議論するべきだ。ウクライナの善戦は、日本の希望であり、絶望だ。
●ウクライナがミサイル攻撃、露の旗艦「モスクワ」が沈没… 4/15
インターファクス通信などによると、ロシアのウクライナ侵攻を巡り、ロシア国防省は14日、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」(1万2500トン)が沈没したと明らかにした。
「モスクワ」は13日、ウクライナ側が対艦ミサイル「ネプチューン」2発を命中させたと発表し、露国防省も火災が起きて重大な損傷を受けたと認めていた。
露国防省は14日、「目的地の港に引航されている際、船体の損傷が原因で、荒波の中でバランスを失った」と説明した。
「モスクワ」は、ロシアが併合した南部クリミアを拠点とする黒海艦隊の大型ミサイル巡洋艦。巡航ミサイルや対空ミサイル「S300」の艦搭載型が配備されており、ウクライナ侵攻で、黒海艦隊のミサイル攻撃などを指揮していたとみられている。
●露の旗艦「モスクワ」をミサイル攻撃、弾薬が爆発… 4/15
ロシアの軍事侵攻を受けているウクライナ政府は13日、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」をミサイルで攻撃し、「深刻な被害」を与えたと明らかにした。15日で侵攻開始から50日となる中、抗戦の激しさを示すものだ。ウクライナ東部への攻勢を強める露軍は、首都キーウ(キエフ)再攻撃を示唆し、ウクライナ側に揺さぶりをかけている。
「モスクワ」は大型ミサイル巡洋艦(1万2500トン)で、黒海艦隊のウクライナへのミサイル攻撃で中心的な役割を果たしてきたとされる。南部オデーサ(オデッサ)州知事は13日夜、SNSで、ウクライナ軍が対艦ミサイル「ネプチューン」2発を命中させたと発表した。
タス通信などによると、露国防省も「モスクワ」で弾薬が爆発し、重大な損傷が発生したと認めた。
米国防総省高官は14日、記者団に対し、「モスクワ」について「大きなダメージを受け、船上で火災が続いている」との分析を示した。乗組員に死者が出たかは不明で、船は修理のため東に移動中だと指摘した。
「モスクワ」の乗組員は約500人とされ、巡航ミサイル「ブルカン」や艦艇搭載型の対空ミサイル「S300」が配備されている。今回の事態で、露軍のオデーサ攻略など、戦況に影響が出るとみられる。露軍では3月下旬、大型揚陸艦3隻も航行不能となった。
ウクライナ軍特殊部隊は14日、東部ハルキウ(ハリコフ)州で数日前、ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)に向かう露軍の車列を攻撃し、移動ルートの橋も爆破したと発表した。
一方、ロシア国防省は14日、露軍が包囲攻撃する南東部マリウポリで、ウクライナ兵134人が「自発的に投降した」と発表し、制圧作戦の進展を誇示した。
米国防総省高官は13日、マリウポリについて、「ロシア軍が制圧したとは考えていない」との見解を示しつつ、露軍が集中的な空爆を加えていると指摘した。
露国防省は13日、ウクライナがロシア領内への攻撃や破壊工作を実施していると主張し、「首都を含む意思決定機関への攻撃」を示唆し、キーウへの再攻撃を警告した。ウクライナ軍が東部防衛に集中しないようけん制する狙いのようだ。
露軍が占拠地で多数の民間人を殺害したとの疑惑に関連し、東部スムイ州の知事は13日、同州で民間人100人以上の遺体が見つかったことを明らかにした。後ろ手に縛られたり、頭部を銃撃されたりした遺体もあるという。
●ロシア軍、次はフィンランドへ?… NATO拡大ならプーチン大統領は「失敗」 4/15
ロシア軍がフィンランドとの国境にミサイルを移動させていると、複数のメディアが報じています。背景には、フィンランドのNATOへの急接近があります。フィンランドにも侵攻する可能性はあるのでしょうか? 旧ソ連地域の政治に詳しい専門家に聞きました。
フィンランドの動き「許しがたい」
有働由美子キャスター「ウクライナとは全く違うところで、ロシア軍の新たな動きが出ています。イギリスの複数のメディアが、ロシア軍のミサイルシステム2基などが、隣国フィンランドとの国境に向かって移動していると報じました」
「その背景にあるのが、フィンランドのマリン首相がNATO(北大西洋条約機構)への加盟申請の議論を急ぐ考えを示したことです」
「ロシア政治に詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授にうかがいます。これは、ロシアにとってはどうなのでしょうか?」
廣瀬陽子教授「ロシアにとっては非常に許しがたい状況と言えると思います。フィンランドでは1939〜1940年の第2次世界大戦中に、ソ連が攻め込む形で戦争が行われました。戦争の後、フィンランドのカレリア地方をソ連に割譲し、中立を維持してきました」
「ただ中立といっても、かなりソ連に寄った形の、検閲を許すような中立をしてきた国です。そういうフィンランドがNATOに入るのは、ロシアにとっては非常に裏切られたというか、安全保障的にも危険が増してくるということで、許容できないことだと思います」
NATO加盟申請へ…「挑発」懸念
有働キャスター「なぜ今、フィンランドはNATO加盟に傾いたのでしょうか?」
小栗泉・日本テレビ解説委員「フィンランドはかつて、ロシア帝国に併合されたり、その後のソ連と2度戦争したりと、隣の国に翻弄された歴史があります。その経緯から、西側諸国と旧ソ連という大国の対立に巻き込まれたくないと、軍事的には中立の立場を選んで、NATOには加盟しませんでした」
「ただ、8年前のクリミア併合、そして今回のウクライナ侵攻と、ロシアの横暴な振る舞いを見て、『もう中立ではいられない』『自分たちの安全をNATOの集団防衛体制に入って保証する必要がある』となりました」
有働キャスター「ロシアがフィンランドに何かするのでは、と心配になります」
小栗委員「実際、今回のNATO加盟申請から実際に加盟するまでの間に、ロシアがフィンランドなどに何らかの挑発を行ってくることが懸念されています」
「国際安全保障が専門の鶴岡路人・慶応義塾大学准教授は『既にフィンランドとNATO加盟国との間では、その間の安全をどう確保するか、議論されている』と指摘しています」
侵攻あり得る? ロシアの対応は
有働キャスター「今後、ロシアがフィンランドに侵攻する可能性についてどう考えますか?」
廣瀬教授「侵攻の可能性は非常に低いと思います。ロシアにとっては許しがたいことではありますが、今ウクライナの戦争ですら、うまくこなせていない状況です」
「ここでさらにフィンランドと戦争となると、フィンランドはスウェーデンとも軍事協力を結んでいるので、スウェーデンも敵になる可能性があります。NATOとの安全保障のシステムができていれば、NATOが入ってくる可能性もあります」
「そうすると二正面になり、ウクライナよりもっと厳しい戦いを北でも強いられるため、さすがのロシアでも、そのような暴挙には出ないのではないかと今は思います」
廣瀬俊朗・元ラグビー日本代表キャプテン「軍事侵攻はしないとしても、ミサイルシステムが国境に向かっているということで、ロシアは今後、どういうけん制や脅しをする可能性があるのでしょうか?」
廣瀬教授「これまでウクライナに対して行っていたように、国境付近にあらゆる兵器や軍隊を集結させるなどの脅しをしてくる可能性が極めて高いと思います。ただ今はウクライナとの戦争にとにかく勝たなければいけないため、かなり制限されたものになるのではと思います」
プーチン大統領「失敗」で足元は
有働キャスター「もしプーチン大統領がウクライナでやり切ったとしても、フィンランドなど他の国がNATOに加盟してしまえば、『失敗』ということになるのでしょうか? プーチン大統領の足元が揺らぐことにならないのでしょうか?」
廣瀬教授「もちろん大きな失敗で、本来NATOを拡大させないということでウクライナに攻め込みましたが、それが(欧州)北部のNATO拡大(の動き)に広がってしまいました。しかも侵攻で、ウクライナ人はどんどんロシアから心を引き離してしまっています」
「(ロシアは)『二重の敗北』を今回迎えています。これがロシア人の耳にきちんとした形で入れば当然反発は大きいと思いますが、何らかのプロパガンダで事実を覆い隠す形で、国民を説得する努力をするのではないかと思います」
有働キャスター「説得がうまくいかなかった場合、失脚する可能性もありますか?」
廣瀬教授「若干はもちろんありますが、今現在ではまだ支持率は83%という高い率で維持されていますし、今のところはとにかく、国民を説得する方向で、ありとあらゆる手段を考えているものと思われます」 
●ウクライナのために戦うベラルーシ人、プーチンの支配からの祖国解放 4/15
ポーランド・ウクライナ国境のポーランド側の雑木林で、迷彩服を着た男たちが止血帯を渡される。そしてぬかるんだ地面に膝(ひざ)をつき、基本的なサバイバル訓練を始める。
彼らは自分たちを「ポホニア大隊」と呼んでいる。主にポーランドやヨーロッパ各地に住む30人弱のベラルーシ人亡命者グループで、ウクライナを守るための戦いにすでに参加している数百人の同胞の仲間入りをすることを望んでいる。
志願兵たちは、ロシアのプーチン大統領の支配から祖国を解放するためにはまずウクライナで同氏を倒さなければならないと話す。
隊員らの年齢は19〜60歳。自動小銃カラシニコフのレプリカを携帯しているが、戦闘経験のある者はほとんどいない。
プロのポーカープレーヤー、ロックミュージシャン、そして電気技師もいる一団を率いるのは反体制派でレストラン経営者のバディム・プロコピエフ氏だ。
プロコピエフ氏は11日、「私はベラルーシ人にウクライナのための戦いに参加するよう呼び掛けた。それが第一歩となり、続くベラルーシのための戦いへつながるからだ」とCNNに語った。
同氏を含め、メンバーの大半は2020年に国外脱出を余儀なくされた。プーチン氏の盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領が不正選挙で勝利を宣言した後、大規模な抗議運動を取り締まったためだ。
「ウクライナがこの戦争に負ければ、ベラルーシが自由になるチャンスはゼロだ」とプロコピエフ氏は話した。
ポホニアは、外国人志願兵で構成される軍隊「ウクライナ国際防衛軍団」への参加を希望しているが、本稿執筆時点ではまだ入隊が認められていない。
他の数百人のベラルーシ人志願兵は、すでにウクライナ軍と共に戦っている。ベラルーシの野党指導者スベトラーナ・チハノフスカヤ氏によると、開戦以来4人が死亡したという。
「ベラルーシの人々は、自国の運命がウクライナの運命に左右されることを理解している。ウクライナの自由は、ルカシェンコ政権を排除するために非常に重要だ」と同氏は13日にCNNに語った。
ロシアはベラルーシをウクライナ侵攻の衛星基地として利用している。紛争が始まったとき、プーチン大統領はロシアとベラルーシの国境を通ってウクライナに軍隊を送り込むよう命じた。
首都キーウ(キエフ)周辺で地歩を築くのに失敗した後、ロシア軍は再編成と再配置のためにベラルーシに退却した。
北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアがルカシェンコ大統領に軍隊の派遣を要請し、自軍を強化する可能性があると懸念している。それは、ベラルーシの亡命者と同国の軍隊が前線で向き合うことを意味する。
ベラルーシでは、ロシア軍がウクライナへの物資輸送に使用していた鉄道が4月に活動家によって部分的に切断された。
また、サイバー活動家は最近、対ウクライナ戦争に関与したベラルーシの国家機関をハッキングし、オンラインでロシアの偽情報と戦い続けている。前出のチハノフスカヤ氏が明らかにした。
しかし、こうした小さな抵抗は、欧州最後の独裁者と呼ばれるルカシェンコ大統領の28年にわたる支配に真の脅威を与えるには至っていない。
「長い旅には出発点がある。まずは小さな部隊から始めて、大きな部隊を作るのだ」とプロコピエフ氏は話した。
亡命者たちの目下の期待は、ロシア政府に依存するルカシェンコ氏がプーチン氏と将来をともにし、しかるべき結末を迎えることだ。それは、今のところ勢いに欠けるウクライナへの軍事侵攻がもたらす結果を受け入れるということでもある。
●ウクライナ侵攻 中国国営メディア 一貫してロシア寄りの立場  4/15
ロシアによるウクライナ侵攻について、中国の国営メディアは一貫してロシア寄りの立場で、ウクライナ情勢のニュースを伝えています。
中国中央テレビは、ロシア政府が西部のブリャンスク州やベルゴロド州がウクライナ軍から攻撃を受けたと主張していることについても、ロシア側の発表をもとにニュースを伝えています。
また、15日のニュース番組でも、アメリカと対立するイランの専門家や、ロシアの政党関係者を出演させ、アメリカやNATO=北大西洋条約機構に対する批判を展開しています。
ウクライナ情勢について北京市民にインタビューしたところ、ロシアに理解を示す声も一部で聞かれました。
このうち、20代の女性は「戦争は人類にとってよくないが、ウクライナはやりすぎだと思うので、ロシアは戦うべきだ」と話していました。
また、20代の男性は「私たちはイデオロギー的にロシアに近いので、世論は多かれ少なかれロシアに向いていると思う。しかし独立した考え方で偏りなく見ていく必要がある」と話していました。 

 

●ロシア“大打撃”ミサイル巡洋艦沈没 “軍艦に向かうウクライナ兵”切手… 4/16
ロシアのミサイル巡洋艦「モスクワ」が沈没したと発表されたのを受け、米国防総省の報道官は「ロシア軍艦隊にとって、大きな打撃」と述べました。こうした中、ウクライナの郵便局では、“軍艦に立ち向かうウクライナ兵”を描いた切手を求め、多くの人が列を作りました。
15日、ロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まって50日となりました。治安組織「アゾフ連隊」副司令官とされる人物は、「もう50日以上、ウクライナとマリウポリのためのハードな激しい戦いが起きています。私たちは戦うことをやめません」と述べる動画をSNSに公開しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領も自身のフェイスブックで、“50日間耐えたこと”に触れ、「侵略者ロシアは、我々が耐えられるのは長くても5日だと思っていました。ウクライナ人みんながヒーローとなりました。ウクライナの男性も女性も戦って、勝ちます」と述べました。
戦況を振り返ると、ロシア軍は日本時間2月25日、侵攻から1日でウクライナ東部に加え、北部にも侵攻してチョルノービリ原発を制圧しました。
侵攻から10日が経過した日本時間3月6日、首都・キーウ(キエフ)を包囲していくと同時に、南部での戦闘が激化しました。
侵攻から30日が経過した日本時間3月26日では、南東部・マリウポリ陥落の可能性が高まる一方、キーウ周辺ではロシア軍が後退する地域も出てきました。
そして、日本時間4月15日、ウクライナ東部や南部では激しい戦闘が続いているものの、キーウを包囲しようとしていたロシア軍は完全に撤退しています。

14日、そのキーウでは、郵便局の窓口に多くの人が並んでいました。その理由は――
郵便局に並ぶ人「切手を買って、何があったのか、将来、子どもや孫に見せたいです」
この切手は、ロシアの軍艦に立ち向かうウクライナ兵が描かれています。この軍艦とみられているのが、ロシア黒海艦隊の旗艦・ミサイル巡洋艦「モスクワ」です。
ミサイル巡洋艦「モスクワ」について、ロシア国防省は「爆発による火災を受け、暴風雨により沈没した」と明らかにしました。一方、ウクライナ軍は「対艦ミサイル2発で攻撃を行った」と主張しています。
切手を購入した人「我が国の軍隊が、侵略者の軍艦を破壊したのです。この出来事は、みんなの記憶に残るべきだと思います」
アメリカ国防総省のカービー報道官は、ミサイル巡洋艦「モスクワ」の沈没について、「ウクライナ軍の主張を独自に確認する立場にない」としつつも、「(対艦ミサイルによる攻撃は)もっともらしいし、あり得る。ロシア軍の艦隊にとって、大きな打撃だ」と述べました。
●ロシア政府系世論調査 プーチン氏「評価する」5ポイント下がる 4/16
ロシア政府系の世論調査ではプーチン大統領を「評価する」との回答が前の週から5ポイント下がりました。
ロシア政府系の「世論基金」が発表した最新の世論調査によりますと、プーチン大統領の活動を「評価する」と回答した人は77%と、前の週に比べて5ポイント低下しました。
また、プーチン氏を「信頼する」と回答した人は76%で、こちらも前の週に比べて3ポイント低くなっています。
調査では物価に関する項目もあり、砂糖が値上がりしたと回答した人は71%に上りました。欧米の制裁を受けて食料品などの値上がりが国民の意識に変化を与えた事がうかがえます。
●ロシアを「テロ国家」と認定、ウクライナで法案可決…「Z」の文字を使用禁止に  4/16
ウクライナ国営通信などによると、ウクライナ最高会議(国会)は14日、ロシアを「テロ国家」と認定する法案を可決した。法案は、ロシアが「ウクライナの人々のジェノサイド(集団殺害)」を目的に掲げているなどと指摘している。
法案では、ロシアによるウクライナ侵攻の宣伝活動を禁止。露軍車両などに記され、露国内で露軍への支持を表明する際に使われる「Z」の文字も、ロシアの侵攻作戦の「象徴」だとして使用を禁じるという。
一方、米紙ワシントン・ポスト(電子版)は15日、関係筋の話として、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がバイデン米大統領と先日電話で会談した際、ロシアを「テロ支援国家」に指定するよう求めたと報じた。バイデン氏は「圧力強化のため様々な案を検討する」との意向を伝えたという。
米政府は現在、北朝鮮、キューバ、イラン、シリアの4か国を指定している。指定されると輸出規制や金融制裁などの対象となる。
●ロシア“KGBエリート”の戦争 残虐部隊に「全都市を取れ」プーチンの命令は 4/16
マリウポリで化学兵器は使われたのか…また次々と明らかになる住民の大量虐殺。真偽が問われる中、ロシア軍に新しい総司令官が誕生した。今なぜ新総司令官の就任なのか?泥沼化するウクライナ戦争で少しずつ見え始めたロシアの戦いの実態を読み解いた。
「プーチンのイメージでは“ウクライナは外国じゃない“」
キーウ周辺から撤退し、東部南部に戦力を集中させるという、いわば“第2ステージ”に入ったロシア軍のウクライナ侵攻。そこに総司令官として登場したドボルニコフ氏とは果たしていかなる人物か…?2015年からのシリア内戦でアサド政権を支えたロシア。その際のロシア軍を指揮したのがドボルニコフ氏だ。彼の指揮によって大規模空爆が展開され、多数の市民が犠牲になった。そこでは化学兵器の使用もあったという。さらにチェチェンでの戦いでも指揮を執り、ロシア軍の残虐性の象徴のように思われている。今後の戦い方に変化はあるのだろうか。
防衛省防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長: これからドボルニコフ氏が担当していた東と南が重点地域になるので、これまでの作戦指揮の評価に加え、今までウクライナの中での戦闘に統一感がなかったので、より効率的、効果的な総指揮をこの人に託したということ…(中略)ただ、これでロシア軍の動きがロシア側にとって有利な方にガラッと変わるかというと私はそうは見ていない。現場の兵士の疲弊感。長期戦でかなり消耗している。
兵頭氏は、ドボルニコフ氏が就任する前からブチャのような惨状があったことからすると、彼が総司令官になって劇的に残忍性が高まることはないと話す。ただ今後それ以上に危険性が増すことがあるという。
兵頭慎治 政策研究部長: 大量破壊兵器の使用などについてはシリアでの経験をお持ちなので、危険性は高まると思います。
一方、前総合幕僚長の河野克俊氏は、これまで総司令官がいなかったことが通常の軍事作戦の常識から逸脱していると話す。
河野克俊 前総合幕僚長: 本来なら統合的に指揮を執るウクライナ派遣軍司令官というのがはじめから任命されてしかるべきだった。それが今まで、いなかった。だからバラバラに作戦を遂行しているという印象だった。
――なぜそんなことが起きたのか?
河野克俊 前総合幕僚長: 今回のウクライナ侵攻は、プーチン大統領の世界観で始められている。プーチンは去年、論文を出しているように、ロシアとウクライナは一体だと…。ということはプーチンのイメージでは、ウクライナは外国じゃない。外国と戦うなら軍隊が出る。だが、国内のこととなると治安部隊が主体になる。そうなるとKGBの後継であるFSBが主体となってやっていたのでこんなバラバラな行動だった。だがここへきて、いろいろうまくいかない、軍内部の不満もたまってきた、ということで総司令官を置いたってことじゃないですか。
総司令官を得たロシア軍。今後統率がとれた戦いに移るのかというと、なかなかそうはいかないようだ。
「正規軍の後から深い緑の制服と黒い制服の人が来て…」
ウクライナ側は、キーウ州での民間人被害を受けてロシアの戦争犯罪の容疑者リストを公開した。約5600件の戦争犯罪に対して501人の名があがった。そこには対外情報庁(SVR)長官、連邦保安庁(FSB)長官など正式なロシア軍の軍人ではない様々な組織の人物がいる。軍事作戦を遂行するロシア側の組織図を見てみると、約90万人といわれる、いわゆる軍隊を傘下に持つ国防省のほかに兵力を備えた組織が3つある。
約40万の兵力を持つ国家親衛隊。SVR約2万人。FSB約6万人。それぞれのトップがみな戦争犯罪人リストに名を連ねている。その中でショイグ国防相を除く3人、ナルイシキンSVR長官、ボルトニコフFSB長官、ゾロトフ国家親衛隊隊長、さらにその上に立つ連邦安全保障会議パトルシェフ書記、そしてプーチン大統領、以上5人の共通点、それが“元KGB”。これが現プーチン政権を“KGB政権“と呼ぶ所以だ。
このKGB政権の面々は、特殊な部隊を配下に置いたり、軍事組織とつながりを持ったりしている。例えば、FSBの下にあるテロ対策特殊部隊アルファ。化学物質を撒き鎮圧した2002年のモスクワ劇場占拠事件で注目された。さらに汚れ仕事を一手に受け持つチェチェンの私兵カディロフツィや、傭兵を抱える民間軍事会社ワグネルもFSBの支持で動いているといわれている。虐殺の多くは、正規軍ではなく、こうした雑多な組織の人間によって行われた可能性が高いという。世界のインテリジェンス機関の事情に詳しい国際政治学者、小谷氏に聞いた。
日本大学危機管理学部 小谷賢教授: 虐殺のあった町ブチャの住民の証言で、正規軍の後に、深い緑の制服と黒い制服を着た集団がやってきたというのがあった。おそらくその深い緑の制服は、FSBの制服だと思います。黒い服は特殊部隊。アルファやカディロフツィやワグネルの傭兵も黒い制服です。また国防省管轄の参謀本部情報総局(GRU)が抱える防諜や暗殺を行う特殊部隊スペツナズも黒い制服。こういった組織のどれかもしくは複数が虐殺に関与していると見られています。
この複雑な組織を、果たしてプーチン氏は統率できているのだろうか。
――戦争時に、これほど複雑な組織で統制がとれるはずがないと思うのですが?
河野克俊 前統合幕僚長: はい、(統制がとれる)はずがないです。今回ドボルニコフ総司令官が立ちましたけれど、この元KGBたちを仕切れるかと言ったらできないですよ。それからカディロフツィにワグネル、これが総司令官の指揮下に入るかって言ったら入らないですよ。一糸乱れぬ統率が取れるなら総司令官置く意味ありますけど、これでは全体を指揮できる状態ではない。今回見ていてロシアの参謀本部が作戦を立てて遂行してるのか疑問。やっぱり旧KGBが主導してる。だから最初から総司令官を立てることができず非効率なことをやってきた。
「全都市を取るようにプーチン氏の命令を受けた」
軍や諜報機関、特殊部隊、民兵と表裏様々な組織が、統制がとれていない状態で進むロシアの軍事作戦。そんな中、最も残虐とされるチェチェンの部隊カディロフツィを率いるカディロフ首長は4月11日、こんな文章をSNSにあげた。
カディロフ首長のSNS 「ルハンシクとドネツクを最初に完全解放して、その後キーウとそのほかの全都市を取るようにプーチン大統領の命を受けた」
ウクライナを占領することは考えていないと明言していたプーチン大統領だが、この話をどう読み解けばいいのだろうか。
河野克俊 前総合幕僚長: 東部で攻勢をかけても、プーチンの目的がウクライナの中立と非軍事化が目的だとすると、ここで止まることはあり得ない。キーウまでは行くということですから、私は今後かなりの長期戦になると思います。
兵頭慎治 政策研究部長: なぜこれだけ複雑な組織、いろんな勢力が入り込む形で軍事侵攻に踏み込んだかと言うと、軍事オペレーションだけでなくその先、ゼレンスキー政権の打倒やロシア寄りのかいらい政権を樹立という政治工作まで考えていたから。そこに無理があって、それが難しくなっているにもかかわらず、引き続きこの体制でやろうとしている。特殊部隊を含めてクレムリンがコントロールできているのかが問題であって、今後できないのであればプーチン氏がずっと想定している目標達成は難しいのではと思う。
●“ロシア 米へ外交文書で軍事支援やめるよう警告” 米メディア  4/16
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、東部の要衝マリウポリへの攻勢を強めるとともに、首都キーウ近郊をミサイルで攻撃し、今後、攻撃を増やすことも辞さないとしています。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は欧米など各国のいっそうの支援が必要だという認識を示しましたが、アメリカのメディアは、ロシアがアメリカへの外交文書でウクライナへの軍事支援をやめるよう警告したと報じています。
マリウポリの掌握に向け攻勢を強める
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、東部の要衝マリウポリの掌握に向けて攻勢を強めています。
ロシア国防省は15日、マリウポリでウクライナ側が拠点としていた工場を新たに掌握したと主張し、ウクライナ国防省も、ロシア軍が爆撃機などでマリウポリを空爆し続け、さらに地上部隊が港を掌握しようとしていると発表しました。
さらに、ロシア国防省は15日、首都キーウの近郊でウクライナ軍の軍事施設を巡航ミサイルで破壊したと発表しました。
ロシア側は、ウクライナと国境を接するロシア西部の町などがウクライナ軍の攻撃を受けていると主張していて、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は「ロシア領土へのテロ攻撃や破壊活動に応じ、キーウへの攻撃の回数と規模が増していく」と警告しました。
ウクライナ側はロシア領内への攻撃を否定しています。
また、ロシアが併合したウクライナ南部クリミアでは、ロシア側が火災のあと沈没したと発表した黒海艦隊の旗艦「モスクワ」をしのぶ式典が15日、行われました。
「モスクワ」について、アメリカ国防総省の高官はNHKの取材に対し、ウクライナ軍の巡航ミサイル「ネプチューン」2発の攻撃を受けたことを確認したと明らかにしました。
ロシアがアメリカに外交文書送り警告
こうした中、アメリカの複数のメディアは、ロシアがアメリカに外交文書を送り、ウクライナへの軍事支援について「予見できない結果をもたらす」として、やめるよう警告したと報じました。
一方、アメリカの有力紙ワシントン・ポストは複数の関係者の話として、ゼレンスキー大統領がアメリカのバイデン大統領と行った電話会談で、ロシアをテロ支援国家に指定するよう要請したと報じました。
バイデン大統領は、具体的な対応については言及しなかったとしていますが、ウクライナとロシアの両国とも戦況を有利に導こうと、国際社会への働きかけを続けていると見られます。
ゼレンスキー大統領 東部や南部「非常に困難な状況だ」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、15日に公開したビデオメッセージで、ロシア軍が攻勢を強めている東部や南部について「非常に困難な状況だ」としたうえで「ロシア軍は残酷な行為で東部のドンバス地域やハルキウ州などを征服しようとしている。こうした残酷な行為はロシアでは尊ばれているのかもしれないが、ウクライナではさげすまれ、必ず罰せられているものだ」と非難しました。
また「南部ヘルソン州や南東部ザポリージャ州の占領されている地域では、ロシア軍が市民を脅かし続けている。彼らはウクライナ軍や政府機関と関わったことのある人たちを探し出せば地域を掌握しやすくなると考えているが、ロシア軍を受け入れていないのは一部ではなく、すべてのウクライナ人だ。ロシアはウクライナ、そして全世界を永遠に失ったのだ」と述べました。
そのうえで「私たちが要求している武器をより多く、より早く手に入れられれば、立場はいっそう強固になり、平和が早く訪れる。民主主義の国々が、ロシアからの石油の輸入禁止や金融部門の完全な封鎖が平和に向けて必要なものだと早く認識すれば、戦争はそれだけ早く終わる」と述べ、欧米など各国のいっそうの支援が必要だという認識を示しました。
●ロシア軍 首都キーウへの攻撃再び強化か  4/16
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、首都キーウにある軍事施設をミサイルで攻撃するなど掌握を目指す東部だけでなく再び首都への攻撃を強化している可能性があるとみられます。
ロシア国防省は16日、ウクライナの首都キーウにある戦車などを製造する工場をミサイルで破壊したと発表しました。
首都近郊への攻撃は、15日に巡航ミサイルで軍事施設を破壊したのに続き2日連続で、ロシア軍は再び首都への攻撃を強化している可能性があるとみられます。
また、キーウのクリチコ市長は16日、現地時間の朝にキーウ郊外で爆発があり、救助活動が行われていることをSNSのテレグラムで明らかにし、市民に対して安全な場所にとどまるよう呼びかけています。
クリチコ市長はSNSのテレグラムで、この爆発で1人が死亡したことを明らかにしました。
また、病院で治療を受けている人も複数いるということです。
さらにロシア軍は16日に、東部や南部のオデーサ州などを攻撃したほか、南部のミコライウ州にある軍用装備の修理工場をミサイルで破壊したとしていて、東部の掌握に向けて攻勢を一層強めています。
ハルキウ州知事「ロシア軍の砲撃 7か月の乳児を含む7人が死亡」
一方、東部ハルキウ州の知事は、州内にあるウクライナ第2の都市ハルキウで15日、住宅地がロシア軍の砲撃を受け、生後7か月の乳児を含む7人が死亡し、34人がけがをしたことを明らかにしました。
州内では、今月14日までに子ども24人を含む民間人503人が死亡したと発表していて、被害が拡大しています。
“ロシアがアメリカを警告” アメリカのメディア伝える
こうした中、アメリカの複数のメディアは、ロシアがアメリカに外交文書を送り、ウクライナへの軍事支援について「予見できない結果をもたらす」として、武器などの供与をやめるよう警告したと報じました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は15日、ロシア軍は、ウクライナ東部の掌握に向け攻撃を続けているものの、ウクライナ軍の抵抗を受けているとしています。
また、ロシアとウクライナの停戦交渉について双方とも今後、数週間のうちにいかなる形式でも交渉を行う準備ができていないという見方を示していて、被害がいっそう拡大することが懸念されます。
ロシア軍が再びウクライナの首都キーウへの攻撃を強化しているとみられるなか、クリチコ市長は、さきほどSNSのテレグラムで、現地時間で16日の朝に起きたキーウ郊外の爆発で、1人が死亡したことを明らかにしました。
また、病院で治療を受けている人も複数いるということです。
●ロシア、ジョンソン首相らイギリス主要閣僚の入国禁止…  4/16
ロシア外務省は16日の声明で、英国のジョンソン首相やエリザベス・トラス外相など主要閣僚ら13人にロシアへの入国を禁止すると発表した。ウクライナ侵攻を受けた英国の対露制裁やウクライナへの軍事支援に対する報復という。
露外務省は声明で、英国は「ウクライナに武器を供与し、情勢を故意に緊張させている」と主張し、対象を拡大する方針も示した。
●ロシア猛攻のウクライナ東部 「死者数わからない」 その現状は 4/16
首都キーウでCNNのインタビューに応えたゼレンスキー大統領。ロシアの軍事侵攻によるウクライナ軍の死者が現時点で「2500人から3000人に上る」と明かしました。そのうえで…。
ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「ウクライナの南部や東部で、どれだけの人たちが死亡したか、我々は分かりません」
「ロシア軍が東部ドンバス地方の解放に注力する」と、作戦変更を表明してから3週間。マリウポリで激しい攻防が展開されるなど、緊張が続いています。
そのマリウポリを含むドネツク州。アメリカの研究機関の分析では、南の広い範囲がロシア軍に制圧されていて、北部もミサイル攻撃などを受けている状況です。
16日午後、ドネツク州の広報担当者が番組の取材に応じてくれました。
ドネツク州の報道官:「ドネツク州は他の州と比べて状況が異なります。陸での戦いはウクライナ軍と比べてロシア軍の方が弱いと思います。しかし、空からの攻撃はロシア軍の方が強いと感じます」
こうした状況のなか、多くの避難民が押し寄せているのがドネツク州に近い「ザポリージャ」です。
地元議員の話では、これまでに約13万人がマリウポリなどからザポリージャに避難してきたそうです。
ザポリージャ州の議員:「ザポリージャでは、地獄から逃げてきた人たちに必要なお手伝いや住居の提供を行っています。毎日の夜の空襲警報にも慣れてきました。状況は緊迫していますが、完全にコントロールできています」
一方で、ロシア軍への警戒感はさらに高まっているといいます。
ザポリージャ州の議員:「ロシア軍は今も大型大砲などを使って攻撃してきている。インフラの破壊やウクライナ国民の絶滅のために全力を挙げている」
●プーチン大統領の収入約1500万円と発表 ロシア大統領府 4/16
ロシア大統領府はプーチン大統領の去年の収入が日本円にしておよそ1500万円だったと公表しました。
ロシア大統領府は15日、プーチン大統領の収入と資産を公表しました。
発表によりますと、2021年の収入は1020万2616ルーブル、日本円でおよそ1500万円だったということです。
保有する資産は、それぞれ77平方メートルと153平方メートルの2つのアパートのほか、ソ連時代に作られた国産車3台だとしています。
一方、プーチン氏をめぐっては、反体制派指導者ナワリヌイ氏の団体がプーチン氏のために建てられたとする1400億円相当の宮殿や880億円相当の豪華なヨットの動画を公開するなどしています。
●TVに映るウクライナ避難民はなぜ白人だけか――戦争の陰にある人種差別 4/16
・ウクライナから逃れているのは白人ばかりでなく、アフリカや中東からの留学生や移民労働者も多く含まれる。
・白人の避難民はほぼノーチェックで隣国に逃れているが、有色人種はウクライナ側でもEU側でも差別的待遇に直面している。
・シリア難民危機をきっかけに欧米でエスカレートした外国人嫌悪は、ウクライナ戦争で浮き彫りになっている。
ウクライナで人道危機に直面しているのは白人ばかりではなく、むしろ有色人種ほど危険にさらされやすい。
「黒人だから国際列車に乗れない」
民間人殺害や化学兵器使用疑惑など、日々報じられるウクライナをめぐる人道危機はエスカレートする兆候をみせている。
しかし、そのなかで危機にさらされているのは「白人のウクライナ人」ばかりではない。むしろ、ウクライナ在住の有色人種や外国人、とりわけアフリカ系やムスリムは、場合によっては白人より高いリスクにさらされている。
例えば、彼らはウクライナを離れることさえ難しい。
ロシア軍による侵攻が始まった直後の2月末から、ウクライナからの脱出を目指す人々が隣国ポーランドなどとの国境に押し寄せたが、白人のウクライナ人(軍務を課された成人男性を除く)が問題なく逃れられた一方、アフリカ系や中東系の多くは引き戻された。
その多くは留学生や移民労働者だが、なかにはウクライナ市民権をもつ者も含まれるとみられる。ともあれ、SNSにはウクライナ兵が白人を優先して国際列車に乗せ、アフリカ系をはじめとする有色人種は力づくで押し戻されるシーンが溢れた。
西アフリカ、ギニアからの留学生はフランス24の取材に対して、ウクライナ西部リビウの駅でウクライナ兵に押し戻されたと証言し、「白人は問題なく通過しているのに、黒人はダメだと兵士は言うんだ」と不満を口にした。こうした証言は無数にある。
「ここはサルのくる場所じゃない」
ウクライナ政府は差別を否定しるが、アフリカ諸国からは批判が噴出している。アフリカ各国が加盟するアフリカ連合(AU)は2月28日、「アフリカ人に対する異なる対応は受け入れられず、国際法にも違反する」という声明を出した。
以前にも取り上げたように、ウクライナ軍の主体ともいえるアゾフ連隊には、白人至上主義的な極右団体としての顔がある。その意味でウクライナ軍兵士の対応は首尾一貫したものとさえいえる。
とはいえ、「ロシアの非人道性」を強調するウクライナ政府にとって、自らが人道問題で批判されるのは避けたいところだろう。そのため、アフリカ系をはじめ有色人種が少しずつウクライナを脱出できるようになったこともまた不思議ではない。
しかし、それでもやはり差別的な対応はなくなっていない。4月初旬、ポーランドに逃れたコートジボワール人男性はリビウの駅で国際列車に乗るための行列にいたところ、兵士から「ここはサルのくる場所じゃない」と罵られたという。
ウクライナ人ファーストの闇
ウクライナからの避難民の多くは、隣接するポーランドなどのEU加盟国に逃れている。一般市民の間では、ウクライナから逃れてきた避難民を人種に関係なく支援する動きも少なくない。また、EUはウクライナ避難民をその国籍にかかわらず自動的に保護することに合意している。
しかし、実際にはEU加盟国の公的機関が差別的な対応をとることも珍しくない。
例えばポーランドでは、白人のウクライナ人はほぼ無条件に受け入れられる一方、それ以外の人々に関してはウクライナに合法的に滞在していたことや、安全上の理由などで自国に帰還できないことを証明しなければならず、手続きに時間がかかる。その結果、国境付近に数多くの有色人種の避難民が滞留する事態となっている。
ポーランドになんとか入国できたコンゴ人女性は仏ル・モンドに、国境での検査で警官が黒人に対してだけ銃を突きつけて検問をしたと証言した。また、宿泊施設なども白人に優先的に割り当てられており、ウクライナで医学を学んでいたケニア人留学生は「彼らはウクライナ人ファーストだ」と米Voxに語っている。
ポーランドの国連大使はこうした報道が不正確だと反論しているが、批判は各所からあがっている。ケニアの国連大使が「人種差別を強く非難する。それはこうした非常時における連帯を損なうものだ」と力説した他、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「差別、暴力、人種主義」を強く非難している。
ポーランド以外にも、ハンガリーやブルガリアなど東欧のEU加盟国では多かれ少なかれ似たような報告があがっている。
「ウクライナ人はあいつらとは違う」
非常時には平時以上にマイノリティへの排他的感情が剥き出しになりやすい。コロナ禍をきっかけに欧米でアジア系ヘイトが広がり、同じく中国でアフリカ系への差別が噴出したことは記憶に新しい。
ヨーロッパの場合、2015年からのシリア難民危機が反移民感情をそれまでになく高め、なかでもポーランドやハンガリーなどでは白人至上主義者が議会や政府の中核を占めている。ウクライナ避難民に対する差別的な対応は、これを背景としている。
ブルガリアのペトコフ首相はウクライナ避難民を指して「彼らはこれまでの連中とは違う。彼らはヨーロッパ人で、知的で、教育がある。これまでのような、出自も過去もはっきりせず、テロリストでさえあるかもしれない者たちとは違う」と述べている。この露骨なまでの差別的発言は、これら各国の風潮を象徴する。
もちろん、ウクライナから多くの人が避難せざるを得なくなった直接的な原因はロシアによる侵攻であり、さらに自国民を救出する航空機などを派遣できない(あるいはしない)中東やアフリカの各国にも原因はある。
しかし、少なくとも先進国が人権や人道の先導者を自認するなら、避難民への差別的な待遇を許すべきではないだろう。
そうでなければ、人権や人道をめぐるダブルスタンダードが際立ち、「ロシアの非人道性」を強調しても説得力が損なわれる。相手を選ばず殺傷することと、相手を選んで助けたり助けなかったりすることを比べれば、程度の差はあれ人道に反する点では同じだからだ。
グローバル化した現代の「新冷戦」は、かつての冷戦時代より情報やイメージの力が大きく、軍事力や経済力だけでその勝者になることは難しい。しばしば「冷戦型」ともいわれるウクライナ戦争だが、その意味では現代的な戦争でもあるのだ。 

 

●プーチン政権逃れイスラエルへ ロシア人の移住相次ぐ 4/17
ロシア軍の戦車がウクライナに侵入してきた瞬間、映画制作者のアンナ・シショワボゴリュボワさんとドミトリー・ボゴリュボフさん夫妻は、祖国ロシアを去らなければならないことを悟った。
「次は私たちの番だ」と夫妻は感じた。ボゴリュボフさんによれば、ロシアでは「外国の代理人」に指定されると、「自己検閲や、遅かれ早かれ刑務所送り」の人生に直面する。今は、イスラエルの閑静な町レホボトでアパートを借りて暮らしている。
ボゴリュボフさんは2019年、ウラジーミル・プーチン大統領が地方圏で自身の権威を高めるため、ナチス・ドイツとの戦いを引き合いに出す様子を描いたドキュメンタリー作品『栄光の町』をドイツの資金で制作した。
しかしロシア政府は、国際的な孤立が深まる中、外国資金で制作された映画やドキュメンタリー作品に疑いの目を向けるようになった。ボゴリュボフさん夫妻も例外ではなかったという。
「ここ数年、脅威を感じていた。特にここ数か月は当局の監視が張り付き、映画のセットも写真を撮られていた」と、シショワボゴリュボワさんは話した。
夫妻はロシアで仕事を続ける一方、ユダヤ系であることを利用し、万が一に備えてイスラエルの市民権を取得した。イスラエル帰還法では、祖父母のうち一人でもユダヤ人がいれば市民権の付与が認められる。
戦争反対
イスラエル移民当局によると、ロシアのウクライナ侵攻後、イスラエルに逃れたウクライナ人は2万4000人近くに上る。ロシア人も「都市部の中所得層に属する若い大卒者」を中心に約1万人がイスラエルに逃れた。
モスクワ生まれの言語学者オリガ・ロマノワ(Olga Romanova)さん(69)は、プーチン大統領が2014年にクリミア(Crimea)半島を併合した後、「ロシアでは何かがおかしくなってきている」と感じ、イスラエルのパスポートを申請した。
もともと、イスラエルに住む子どもたちの元へいずれ移住しようと考えていた。だが、侵攻が始まった2月24日の朝、「一刻も早く出国しなければならないことが証明された」と語る。
「ウクライナでの戦争は、私の考え方や道徳観とは相容れない。気分が悪くなる」。ロマノワさんは、エルサレム(Jerusalem)郊外の息子の家で孫たちの写真に囲まれながら、涙をこらえた。
永住か、仮住まいか
ここ7週間にウクライナとロシアからイスラエルに流入した移民の数は、ソビエト連邦の崩壊によって1990年代初頭に起きた大規模移住以来の多さとなっている。
「ここなら安心してゆっくり眠ることができる」とシショワボゴリュボワさん。「でも、この先ずっとここで暮らすかは分からない。仕事次第だ。今はただこの瞬間を生きて、気持ちを落ち着かせたい。後のことはそれから考える」
市民権を取得した人たちにとっても、イスラエルは未知の土地だ。ロシアへの郷愁は隠せない。
「私は祖国を失った。盗まれてしまった。プーチンとKGB(旧ソ連国家保安委員会)の悪党たちに奪われたのだ」と、ロマノワさんは物憂げに語った。
●スロバキア国防大臣、トルコの軍事ドローン「バイラクタル」購入に意欲 4/17
スロバキアの国防大臣のヤロスラフ・ナド氏がトルコのバイカル社が開発している軍事ドローン「バイラクタルTB2」の購入に意欲を見せている。ナド国防大臣が自身のツイッターでトルコのバイカル社と交渉しているところを投稿していた。
トルコの軍事ドローン「バイラクタルTB2」はウクライナ軍にも提供されており、ロシア軍の装甲車を上空から破壊してロシア軍による侵攻を食い止めていることにも多いに貢献している。
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。
ロシア軍はロシア製の「KUB-BLA」で攻撃を行っている。そしてウクライナ軍は自国で開発した軍事ドローンでロシア軍に攻撃を行ったり、トルコ製のドローン「バイラクタルTB2」でロシア軍の侵攻を阻止している。
特に戦争勃発直後からウクライナ軍はトルコ製軍事ドローン「バイラクタルTB2」がキエフ北西約100キロの町でロシア軍の進軍を防ぐことに成功したと発表。軍事ドローンがロシア軍の装甲車を破壊する動画も2022年2月27日に公開していた。
またロシアの黒海艦隊の旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ」もウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」による攻撃だけでなく、軍事ドローン「バイラクタルTB2」も使って撃沈させたと米国メディアのフォーブスなどが報じていた。
トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいるが、バイカル社はその中でも代表的な企業である。同社の軍事ドローン「バイラクタル TB2」はウクライナだけでなく、ポーランド、ラトビア、アルバニア、アフリカ諸国なども購入。アゼルバイジャンやカタールにも提供している。2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突でもトルコの攻撃ドローンが紛争に活用されてアゼルバイジャンが優位に立つことに貢献した。
ロシアと対峙しているウクライナに提供されている軍事ドローンは、ロシアにとっても大きな脅威になっていた。そして実際にウクライナに侵攻してきたロシア軍への攻撃に利用された。ウクライナのゼレンスキー大統領とトルコのエルドアン大統領は2022年2月、ロシアが侵攻してくる前に共同会見を開催。ゼレンスキー大統領はエルドアン大統領に向かって「ドローン開発技術はウクライナの防衛力強化になります」と語っていた。「バイラクタルTB2」はトルコが輸出しているし、ウクライナ現地での生産も発表していた。ウクライナの国防大臣のオレクシー・レズニコウ氏はトルコから新たな「バイラクタルTB2」も納品されていることも発表していた。
●ウクライナ軍の弾薬切れの懸念強まる、米政府当局者 4/17
米政府当局者は16日、ウクライナ情勢に触れ、激しい地上戦の発生も今後数日内に予想されるなか、ウクライナ軍が保持する弾薬が尽きることへの懸念が強まっているとの戦況分析を示した。
特に砲門用の砲弾の不足への危惧があり、より迅速に供給する必要性があるとした。
バイデン米政権は最近、ウクライナへの追加の軍事支援を発表。155ミリ榴弾(りゅうだん)砲の18門、砲弾4万発の提供も盛り込んだ。ただ、この砲弾数は数日内に使い切ってしまう可能性もあり、ウクライナ軍が弾薬不足に遭遇する事態もあり得るとした。
同当局者によると、以前に起きた激戦でウクライナ軍は1日で数千発の砲弾を使用したこともあったという。
米国は今後の戦況について、ロシアの戦略はおそらく兵器や部隊を北方からウクライナ東部へ移し、東部に展開するウクライナ軍部隊を囲み、補給網などを切断して孤立化させることを狙うものとみている。
このなかでオースティン米国防長官や米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は連日、ウクライナ周辺国家の関係者に電話し、より多くの兵器と補給物資を出来るだけ早くウクライナへ引き渡すことを促しているという。
米国防総省は先週には、大手の軍事企業8社の最高経営責任者(CEO)を集めてウクライナの戦闘能力の強化を図る方途を話し合う会合も開いていた。
●ロシア軍 旗艦「モスクワ」打撃も キーウへのミサイル攻撃再開  4/17
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、黒海艦隊の旗艦が沈没したことが打撃となり、今後の軍事作戦への影響は避けられないという見方が広がっています。こうしたなかロシア軍はウクライナの首都キーウへのミサイル攻撃を再開し、市民の犠牲がさらに広がることが、懸念されています。
ロシア マリウポリの完全掌握に向けて攻勢を強める構え
ウクライナへの侵攻を続けるロシアの国防省は、16日も各地をミサイルで攻撃したほか東部ハルキウ州のイジュームでウクライナ軍のスホイ25戦闘機を撃墜し、南部オデーサ州でもウクライナ軍の輸送機を撃墜したと発表しました。
また、東部の要衝マリウポリについて、ウクライナ軍の部隊が拠点とする製鉄所を包囲したと主張し、マリウポリの完全掌握に向けて攻勢を強める構えを示しました。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は「もしわれわれの軍がせん滅されれば、すべての交渉が打ち切られるだろう」と述べ、今後、ロシア軍による攻撃でマリウポリの部隊に多数の死者が出た場合には、停戦交渉の中止も辞さない考えを強調しました。
旗艦「モスクワ」沈没の影響避けられないとの見方広がる
一方、ロシア海軍の黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が、14日、ウクライナ側の巡航ミサイルによるとみられる攻撃を受け、沈没したことで、欧米のメディアに加え、一部のロシアメディアの間でも今後の軍事作戦への影響は避けられないという見方が広がっています。
旗艦「モスクワ」は黒海艦隊の指揮命令とともに、防空任務も担っていたため、黒海に面した南部では、今後、ウクライナ空軍の活動が有利に進む可能性があるとみられています。
そして、ロシア軍は、ウクライナ軍の攻撃への警戒を強化することを余儀なくされ、今後、港湾都市オデーサなど黒海沿岸に支配地域を広げる際、上陸作戦が難しくなるのではないかとも指摘されています。
首都キーウへのミサイル攻撃再開
こうしたなか、ロシア軍は、15日、首都キーウ近郊のミサイル製造施設を攻撃したのに続き、16日には、キーウにある、戦車などを製造する工場をミサイルで破壊したと発表しました。
キーウのクリチコ市長も16日、郊外で爆発があり、1人が死亡し、複数のけが人が出ていると、SNSで明らかにしました。
ロシアが、黒海艦隊の象徴とされる旗艦を失ったことは、軍全体の士気の低下につながると指摘されるなか、首都キーウへのミサイル攻撃が再開され、連日、続いていることから、ウクライナ側の市民の犠牲がさらに広がることが懸念されています。
●ドイツ ウクライナ避難民ら反戦デモ エネルギー輸入禁止も訴え  4/17
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に抗議するデモがドイツで行われ、大勢の人たちが戦闘の停止を求めるとともにドイツはロシアからのエネルギーの輸入をやめるべきだと訴えました。
デモは、ドイツのウクライナ系住民などの団体が呼びかけ、首都ベルリンの中心部の広場にはおよそ700人が集まりました。
侵攻のあとウクライナから避難している人も多く参加していて、「戦争をやめろ」とか「ウクライナを助けて」と書かれたプラカードを掲げ支援を訴えていました。
参加者の中には、ウクライナの首都キーウ近郊での市民の殺害の被害を伝えようと、血のように赤く染まった服を着て両手をひもで縛った女性の姿などもありました。
また、ドイツは天然ガスなどエネルギーの輸入のうちロシアが占める割合が高いことから、「輸入を禁止しろ」というシュプレヒコールが繰り返され、ロシアへの圧力の強化を訴えていました。
ウクライナ南部のオデーサから避難している20代の女性は「ドイツはプーチンに戦争をやめろとはっきり伝えて欲しい。ガスや石油などの取り引きをやめるべきだ」と話していました。
また、60代のドイツ人男性は「ロシアの行いには我慢できない。本意ではないがウクライナへの軍事支援が必要だ」と話していました。
●ロシアが超音速爆撃機を初投入、旗艦沈没への報復か… 4/17
ウクライナ東部に侵攻作戦の重心を移したロシア軍が、首都キーウ(キエフ)一帯を再攻撃している。黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ」を沈没させるなど反攻を強めるウクライナ軍への報復とみられる。南東部マリウポリでは、完全制圧に向け、露軍が新たに超音速爆撃機を投入した模様だ。
露国防省は16日、キーウで戦車などの関連工場を長距離精密弾で攻撃したと発表した。ウクライナ国営通信によると、キーウ市長は16日、市南東部で同日朝に複数の爆発があり、1人が死亡、数人が病院に搬送されたと明らかにした。
15日にはキーウ州で、露軍による3発のミサイル攻撃が確認されている。AFP通信は、標的となった工場では、「モスクワ」に命中したとされるウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」を製造していたと報じた。露軍が「モスクワ」攻撃に報復したとみられる。
南東部マリウポリでも激戦が続いている。地元メディアによると、ウクライナ軍報道官は15日、露軍が超音速爆撃機「Tu22M3」を、侵攻開始後初めて投入し、マリウポリを爆撃したと説明した。
タス通信などによると、同機は多様なミサイルを高い精度で発射でき、地下深くの標的も攻撃が可能という。露軍は、地下施設に潜伏して抵抗するウクライナ部隊への攻撃を強める可能性もある。
16日には西部リビウ州当局が、露軍の戦闘機が州内で4発のミサイルを発射し、ウクライナ側が迎撃したと発表した。
国連機関の集計によると、ロシアのウクライナ侵攻に伴って国外に逃れた人は、500万人を超えた。
●マリウポリ包囲戦、重大局面 ロシア軍が最後通告―停戦交渉「打ち切りも」 4/17
ウクライナ侵攻作戦を続けるロシア軍は17日、包囲している南東部の要衝マリウポリの完全制圧を目指し圧力を強めた。ロシア国防省はマリウポリ市街地からウクライナ兵を「一掃した」と発表し、同日午前6時(日本時間同日正午)までに拠点を放棄するよう勧告。マリウポリをめぐる攻防は重大局面を迎えている。
ロシア国防省はマリウポリの戦況について、ウクライナ兵が陣取り抵抗を続けていたアゾフスタル製鉄所になお少数のグループが立てこもっているとしつつ、「完全に封じ込めた」と主張。この後声明を出し、「純粋な人道主義に基づき」敵対行為をやめて武器を放棄するようウクライナ側に提案すると述べた。
AFP通信によると、これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は16日、同国のオンラインメディアのインタビューで「われわれの部隊が壊滅させられれば、いかなる交渉も終わることになる」と表明した。マリウポリでロシア軍が強攻策に出た場合、停戦交渉を打ち切らざるを得なくなるとけん制した形だ。
●ロシア マリウポリ守備のウクライナ側の部隊に降伏迫る  4/17
ロシア国防省は、ウクライナ東部の要衝マリウポリの守備にあたるウクライナ側の部隊に対して、日本時間の17日正午以降、武装を解除し降伏するよう迫りました。これに先立ちウクライナ側は、マリウポリの部隊に多くの死者が出た場合、停戦交渉の中止も辞さない考えを示していて、マリウポリをめぐる攻防は、一段と激しさを増す見通しです。
ロシア国防省は、16日も各地をミサイルで攻撃したほか、東部ハルキウ州のイジュームでウクライナ軍のスホイ25戦闘機を撃墜し、南部オデーサ州でもウクライナ軍の輸送機を撃ち落としたと発表しました。
また、東部の要衝マリウポリをめぐり、ウクライナ側の部隊が拠点とする製鉄所を包囲したと主張し、マリウポリの完全掌握に向けて攻勢を強める構えを示しました。
さらに17日には、SNSのテレグラムにメッセージを投稿し、マリウポリの守備にあたるウクライナ側の部隊に対して、現地時間の17日午前6時、日本時間の正午以降、武装を解除し降伏するよう迫りました。
ロシアのタス通信は、ロシア国防省の高官が、現地時間の17日午後1時、日本時間の午後7時までに、武器を置いて退去するよう、ウクライナ兵に求めたと伝えています。
国防省はSNSの投稿で「武器を置いた者は、全員、命を保証する」としたうえで「キーウの司令部から、そのような命令が来ないことを われわれは理解している。兵士がみずから決断し、武器を置くことを求める」と呼びかけ、マリウポリでの劣勢が伝えられるウクライナ側の兵士の士気を低下させる狙いもあるとみられます。
一方、これに先立ち、ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、「もしわれわれの軍がせん滅されれば、すべての交渉が打ち切られるだろう」と述べ、今後、ロシア軍による攻撃でマリウポリの部隊に多数の死者が出た場合には、停戦交渉の中止も辞さない構えを強調していて、マリウポリをめぐる攻防は、一段と激しさを増す見通しです。
またゼレンスキー大統領は、「ロシアが核兵器を使うのを、ただ待つべきではない。世界各国は、シェルターなどさまざまな方法で備える必要がある」と述べ、各国に改めて警戒を呼びかけました。
そのうえで「ロシアが核兵器の使用という考えを起こさないよう、交渉を行うとともに、経済に圧力をかけるべきだ。ロシアはどんな兵器でも使いかねない国で、絶対に信用してはいけない」と述べ、制裁のさらなる強化が不可欠だという考えを示しました。
●ロシア、マリウポリのウクライナ兵に投降勧告 キーウ周辺の砲撃続く 4/17
ウクライナの軍事侵攻を続けるロシア政府は16日、南東部の要衝マリウポリで防戦を続けるウクライナ兵に対して、17日に投降すれば命を助けると伝えた。これに先立ちウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、マリウポリの守備隊をロシア軍が「排除」すれば、和平交渉の糸口は断たれると述べていた。首都キーウ(ロシア語でキエフ)周辺でのロシア軍の攻撃も続いている。
ロシア政府は、南東部の港湾都市マリウポリで戦い続けるウクライナ兵と「外国の雇い兵」が日本時間17日午前11時から午後6時の間に武器を手放して投降すれば、安全を保証すると発表した。その場合、武装解除した兵は捕虜の待遇に関するジュネーヴ条約に沿って扱うとしている。ロシアによると、マリウポリのほぼ全域をロシア軍が制圧した。
ロシアが定めた投降期限後も戦い続ける兵についてどうするつもりか、ロシアは明らかにしなかった。ロシア政府はこの提案は「あくまでも人道的な原理原則に則ったもの」だとしている。
ロシア政府によると、市内に残るウクライナ兵は、アゾフスタリ製鉄所とその周りのごく狭い地域に限られている。
ロシア政府は、アゾフスタリ製鉄所に残る兵士に向けて夜通し30分おきに投降勧告を流し続ける方針という。
ロシアの国営タス通信が伝えたロシア国防省報道官談話によると、製鉄所内にはウクライナ兵約2500人がたてこもっており、ロシア軍に包囲されているため脱出できずにいるという。BBCはこの情報を独自に検証できていない。
ロシア政府はさらに、ウクライナ政府からの投降許可を待つのではなく、自ら判断するようウクライナ兵に呼びかけた。
マリウポリの状況はきわめて厳しい=ゼレンスキー氏
ロシアがマリウポリの兵士に投降期限を通告したという知らせを受けて、ゼレンスキー大統領はマリウポリでウクライナ軍が守っているのはもはやごく狭い地域に限られていると認めた。マリウポリの守備隊と政府は常時、連絡を取り合っているという。
ロイター通信によると、マリウポリの状況は非常に厳しいと大統領は話した。アゾフスタリ製鉄所にたてこもる兵士を除いて、市内のウクライナ兵はほぼ排除されたという情報については、直接言及しなかった。
マリウポリのウクライナ兵に対するロシアの通告に先立ち、ゼレンスキー大統領は国内メディアに対して、ロシア軍がマリウポリでウクライナ兵を全滅させれば、「交渉はおしまいだ」と述べた。
さらに、「マリウポリはボロジャンカの10倍になり得る」と、激しい攻撃で多数の犠牲が出たと懸念されている北西部ボロジャンカに言及した。
ウクライナ・プラウダのウエブサイトで大統領は、ボロジャンカでは「大勢ががれきの下敷きになったままだ」と述べ、「ボロジャンカのような目に遭う場所が増えれば増えるほど、(和平交渉は)難しくなる」と話した。
首都周辺でも攻撃続く
ロシア軍の攻撃は、首都キーウ周辺や西部リヴィウでも続いている。
キーウのヴィタリ・クリチコ市長は16日、キーウ西部ダルニツキ地区へ夜間に迫撃砲攻撃があり、1人が死亡し複数が負傷したと発表。首都から避難した住民に対して、今は市内に戻るべきではないと強く呼びかけた。
メッセージアプリ「テレグラム」でクリチコ市長は、キーウ市民は今後も攻撃を警戒するよう呼びかけた。北の近郊ではロシア軍が残した地雷の危険もあると警告した。
市長は「早い段階で避難して、すでに首都に戻ろうとしているキーウ市民は、そうせずに、もっと安全な場所にとどまってほしい」と呼びかけた。
15日にはキーウ近郊ヴィザルの軍需工場が、ロシアのミサイル攻撃を受けている。工場では、黒海艦隊旗艦の巡洋艦モスクワへの攻撃に使われたとされる、ウクライナ軍の「ネプチューン」ミサイルに似た対艦ミサイルを製造していた。
●ロシア政府、ジョンソン英首相ら英政府首脳の入国禁止 ウクライナめぐり 4/17
ロシア政府は16日、ボリス・ジョンソン英首相をはじめ英政府首脳がウクライナ情勢をめぐりロシアに対して「敵対的」態度をとり、「反ロシアヒステリーをあおり立てている」と批判し、入国を禁止した。
ロシア政府は、ジョンソン首相のほか、リズ・トラス外相、ベン・ウォレス国防相など閣僚を中心に、計13人のイギリス政府関係者の入国を禁止すると発表した。ウクライナ侵攻開始以降にイギリス政府が発動した対ロ制裁への報復措置だとしている。
ロシア政府は3月、同様の入国禁止措置をアメリカのジョー・バイデン大統領に対しても発表している。
ロシア外務省は声明で、「イギリス政府は、ロシアを国際的に孤立させ、我が国を封じ込める状況を作り出し、ロシアの国内経済を逼迫(ひっぱく)させることを目的に、無軌道な情報戦、政治キャンペーンを展開している」と批判。「要するにイギリスの指導部はウクライナをめぐる状況を意図的に悪化させ、キエフの政権に殺傷力の高い武器をつぎ込み、北大西洋条約機構(NATO)の一員として同様の取り組みを調整している」とも述べた。
ウクライナの首都キーウを、ロシア語ではキエフと呼ぶ。
英外務省はまだロシア政府の発表に直接回答していないが、英政府報道官はロシアのウクライナ侵攻を非難する声明を発表。「イギリスと国際的なパートナーは共に連帯し、ロシア政府がウクライナで繰り広げるおぞましい行動を非難する。そしてロシア政府に対して、戦争をやめるよう呼びかける」と報道官は述べ、「私たちは引き続き断固としてウクライナを支持する」と強調した。
ロシアの入国禁止の対象になったイギリス政府関係者は次の通り。
・ボリス・ジョンソン首相 ・リズ・トラス外相 ・ベン・ウォレス国防相 ・ドミニク・ラーブ司法相 ・グラント・シャップス運輸相 ・プリティ・パテル内務省 ・リシ・スーナク財務相 ・クワシ・カーテング・ビジネス・エネルギー・産業戦略相 ・ナディーン・ドリス・デジタル・文化・スポーツ担当相 ・ジェイムズ・ヒーピー国防閣外大臣 ・ニコラ・スタージョン・スコットランド自治政府首相 ・スエラ・ブレイヴァマン法務長官 ・テリーザ・メイ前首相、保守党議員
ロシアの制裁対象に含まれたスコットランドのスタージョン自治政府首相は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼び、「彼とその独裁政権を非難することを、決してためらったりしない」と強調した。
英首相、ゼレンスキー氏と電話
こうした中、ジョンソン首相はあらためてウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話で会談した。英首相官邸が16日、発表した
官邸によると、両首脳は主にウクライナ南東部の要衝マリウポリの状況について話し合った。ジョンソン首相はマリウポリでウクライナ側が果敢な抵抗を続けていることを称賛したという。
「首相はゼレンスキー大統領に対して、先週発動したイギリスの対ロ追加制裁について説明し、イギリスが今後も装甲車を含めウクライナの自衛手段を提供し続けると伝えた」と官邸は明らかにした。
ジョンソン首相は9日にウクライナの首都キーウを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談している。
軍事支援強める西側にロシア警告
イギリスやアメリカは今月に入り、ロシアへの追加制裁を相次ぎ発表している。両国を含むNATO加盟国は、ウクライナ国内への部隊派遣や飛行禁止区域の設定は対応として除外する一方、武器や砲弾などの軍事供与は続けている。アメリカのバイデン政権は12日にも、計8億ドル(約1000億円)の追加軍事支援を発表。追加支援には旧ソ連製ヘリコプター「Mi17」11機、自爆型ドローン「スイッチブレード」300機、携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」500基などのほか、初めて長距離榴弾(りゅうだん)砲などが含まれた。
アメリカをはじめNATO加盟諸国のこの動きに対してロシア政府は正式な外交文書で、アメリカとNATO各国がウクライナへ武器を提供し続けていることが、ウクライナでの紛争に「燃料を与えて」おり、「予測できない結果に」つながりかねないと警告した。
<解説>西側への怒り強めるロシア――ポール・アダムズBBC外交担当編集委
こうした報復は、常にあり得た。ロシアにとってイギリスは、ウクライナを軍事的に支援し、ロシアを経済的・政治的に孤立させようとする国際社会の動きに密接に関与する当事者の1つなのだ。
ロシアの今回の措置で、対象になったイギリスの政治家13人が旅行の予定を変更することは、まずないだろう。そもそもモスクワ旅行を計画していた人は、13人の中にはおそらくいなかったはずだ。
しかしロシアの今回の措置は、ウクライナ侵攻への西側の反応がいかにロシア政府を怒らせているかのあらわれだ。それと同時に、たとえ過去のことでも、自分たちを孤立させた当事者とみなす相手に、ロシア政府がいかにあからさまに反撃してみせるかをも、如実に示している。テリーザ・メイ前首相が制裁対象に含まれているのが、その証拠だ。メイ氏は2018年、英南西部ソールズベリーでロシアの元スパイに対してロシアが神経剤を使った際、多数の駐英ロシア外交官を国外追放する措置を取りまとめた。
ロシアは、欧米がこれ以上ウクライナへ武器や装備を提供すれば、「予測できない結果」をもたらす可能性があると警告している。
政府要人の入国禁止は、必ずしも予想外ではない。英米政府が心配しているのは、これまでとは異なる軍事手段を行使する能力がロシアにはあり、もしかするとその欲求さえあることだ。しかもその中には、通常兵器以外の兵器の使用も可能性として含まれる。
●北欧フィンランド・スウェーデンがNATO加盟へ?ウクライナ侵攻が“裏目”に 4/17
NATOの拡大を止めるため、ウクライナに侵攻したロシア。しかし、その思惑とは裏腹に、北欧のフィンランドとスウェーデンでは、NATO加盟の機運が高まっています。プーチン氏の誤算、そして新たな緊張とは。
NATO加盟に意欲を示す北欧フィンランド
ロシアや北欧ノルウェー、スウェーデン、フィンランドなどを示した地図。この中のフィランドが4月13日、NATO(北大西洋条約機構)に加盟する意欲を示しました。こうした動きをけん制するためか、ロシアはフィンランド国境近くにミサイルシステム2基を移動するなど、緊張が高まっています。
では、北欧の国がNATOに加盟することは、どのような意味を持つのでしょうか。そもそもNATOとは、1949年、旧ソ連に対抗するため、アメリカやカナダ、西欧諸国が結成した軍事同盟。最大の務めは「集団的自衛権の行使」です。もし、ある加盟国に対する攻撃があった場合、その攻撃をすべての加盟国への攻撃とみなし、攻撃された国を援助する体制を敷いています。これに対抗するため、1955年、旧ソ連が主導し、東側の軍事同盟「ワルシャワ条約機構」を結成。その勢力は東ドイツにまで及び、両陣営の間で“にらみ合い”が続いたのです。1991年、ワルシャワ条約機構は解体されると、旧ソ連と同盟を結んでいたポーランドや、統治下にあったバルト三国などが次々とNATOに加盟。その数は現在30か国にのぼり、NATOの「東方拡大」が進んだのです。
中立の背景にある“苦難の歴史”
フィンランドはこれまで、なぜ中立的な立場を貫いてきたのでしょうか。さかのぼること約100年前まで、フィンランドは旧ロシア帝国に統治されていました。のちにフィンランドは、ロシア革命を機に1917年、独立を勝ち取りましたが、第2次世界大戦中、旧ソ連から侵攻を受けました。約10万人が命を落としたほか、国土の1割を奪われたのです。こうした“苦難の歴史”から、ロシアとの衝突を避けるため、NATOの設立以降も中立を守ってきたのです。
そのフィンランドですが、今大きな転換点を迎えています。メディアの世論調査では、ウクライナ侵攻前、「NATO加盟を支持する」と回答したのは3割未満でした。しかし侵攻後、加盟を支持する人が倍増したのです。マリン首相は「ウクライナ侵攻で全てが変わった。NATOに加盟しなければ安全の保証が得られない」と危機感を強めています。
NATO加盟への動きに核兵器をちらつかせるロシア
NATO加盟への動きは広がっていて、北欧スウェーデンも「6月のNATO加盟への申請を目指している」と報じられています。
軍事的中立を保ってきたスウェーデン、そしてロシアと約1300キロの国境を接するフィンランドの加盟によって、ロシアは、武力衝突を回避する“緩衝地帯”が、ますます無くなることとなります。
こうした動きに対し、核を搭載したロシア軍の戦闘機が、スウェーデンの領空を侵犯したほか、プーチン氏の最側近メドベージェフ前大統領は14日、核兵器の配備も含めて軍備を強化すると警告したのです。
ウクライナへの侵攻が、逆にNATO拡大の動きを招き、地域の軍事的緊張を高める結果となっています。
●ロシア軍が街の6割占領・2万人殺害・シベリアで強制労働… 4/17
ロシア軍が1か月以上も包囲を続けるウクライナ南東部マリウポリのワジム・ボイチェンコ市長が15日、読売新聞のオンライン取材に応じた。市民の退避が難航する中で「約4万人が露軍に連れ去られた」と語り、民間人の殺害や人権侵害が横行する街の窮状を訴えた。
ボイチェンコ氏によると、マリウポリは街の約6割が露軍に占領され、露軍の攻撃で2万人以上が殺害された。露軍は、退避する市民が乗るバスを射撃したり、検問所で追い返したりするなど妨害を繰り返しており、「10万人以上の市民が依然として取り残されている」と明かした。
露軍に連行された市民は、兵士らに尋問されたり、スマートフォンの通信履歴を調べられたりした後、一部はシベリアに送られ、強制労働させられているという。
陥落が近いとの分析もあるが、ボイチェンコ氏は、「ウクライナは多くの国に支援されている。露軍には負けない」と力を込めた。
一方で、ワジム・ボイチェンコ市長は「プーチン(露大統領)や露軍に、必ず戦争犯罪の責任を取らせる」と訴え、証拠収集を始めていることも明らかにした。
マリウポリでは3月、産科病院や、大勢の住民が避難する劇場が攻撃されて多数の死傷者が出た。ボイチェンコ氏によると、ほかにも露軍の戦車が市民や民家に向けて砲撃する動画などを入手しているといい、「証拠はたくさんある。間違いなく悪者を罰することができる」と自信を見せた。
マリウポリ市議会によると、露軍は制圧地域で、住民に遺体の埋葬を禁止したり、すでに埋葬された遺体を掘り起こしたりしているという。禁止の目的や遺体の搬送先は不明だが、「あらゆる方法で、戦争犯罪の痕跡を隠滅しようとしている」と指摘する。
露軍は当初、主に歩兵部隊でマリウポリを攻めてきた。ウクライナ軍の反撃を受けると、ロケット砲や火炎放射器を使うようになった。それでも攻略が行き詰まったため空襲を始めた。30分ごとに爆弾を落とされるような状態が、約2週間続いたという。
ボイチェンコ氏は、「露軍はそもそもマリウポリを(無傷で)獲得するつもりだった。簡単に陥落できないとみると、街を全て破壊しようと決めたようだ」と指摘する。インフラ施設の9割が露軍に破壊され、市の試算によると、被害額は120億ドル(約1・5兆円)に上るという。
包囲が続く市内では、水や食料が不足している。ウクライナ側が支援物資を届けようと近付いても、「露軍が全部奪ってしまう」といい、一部はロシア側の人道支援だとウソをついて市民に配っているという。
市内ではインターネットなどの通信が遮断されている。「市民が事実を知ることができず、それに乗じて露軍がプロパガンダを発信している」ことが、結束を乱しかねないと危惧する。
ボイチェンコ氏は、「プーチンが狙っているのはウクライナだけではない。ウクライナが負ければ、他の国々も負ける」と警鐘を鳴らし、国際社会に支援を訴えた。 

 

●「日露戦争以来」のロシア軍旗艦沈没…死傷者多数の可能性  4/18
ウクライナ侵攻作戦に参加していたロシア海軍黒海艦隊の旗艦の大型巡洋艦「モスクワ」(約1万2500トン)が黒海沖で沈没したことで、プーチン政権や露海軍は大きな衝撃を受けている。露側は人的被害の詳細を公表していないが、約500人とされる乗組員に多くの死傷者が出たとの見方が強まっている。
露国防省は16日、「モスクワ」の乗組員とされる兵士が、黒海艦隊が拠点にしているウクライナ南部クリミアで、露海軍のニコライ・エフメノフ総司令官から訓示を受ける映像を公開した。「モスクワ」の乗組員の姿が公開されたのは、ロシア側が沈没を認めた14日以降、初めてだ。映像には最大約100人が映っていた。沈没時に避難した乗組員とみられる。
露国防省は、乗組員は「モスクワ」に搭載していた弾薬の爆発後、付近の艦艇へ避難したと説明したが、死傷者の詳細は明らかにしていない。
ウクライナ当局は14日、爆発の衝撃や海が荒れていたことで「モスクワ」の救助活動は難航したとの見方を示していた。SOS信号を受けて駆けつけたトルコの船が救助できたのは約50人だったという情報もあり、多くの死傷者が出た可能性がある。
米CNNによると、米国防総省の高官は15日、ウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」2発が命中したことを確認した。ロシア軍は、ネプチューンを製造していた首都キーウ(キエフ)近郊の軍需工場を攻撃した。撃沈されたことを事実上、認めた動きとみられている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、露海軍で艦隊の旗艦が戦時に沈没したのは、1905年の日露戦争の日本海海戦で、バルチック艦隊の旗艦が日本の連合艦隊の攻撃により撃沈されたのが最後という。
「モスクワ」は艦隊の司令塔の役割を果たす旗艦で、自国の首都名を冠しているだけに、プーチン露大統領に強い衝撃を与えているのは間違いない。プーチン氏が今後、ウクライナに対し、大規模動員などを通じて攻撃を強化する可能性が指摘されている。
●ロシア国防省が最後通告、マリウポリで投降しないなら「全員殺害」… 4/18
ロシア軍が包囲するウクライナ南東部マリウポリでの戦闘で、露国防省は17日、抵抗を続けるウクライナ軍に投降を要求し、応じない場合には殺害すると警告した。ウクライナの首相は投降要求を拒否することを表明した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、マリウポリで「全滅」すればロシアとの停戦協議を打ち切る可能性を示唆した。
露軍は人口約40万人の港湾都市マリウポリを3月初めから包囲し、激しい砲撃などを加えてきた。露国防省は16日、市街地を「完全に解放した」と発表し、その後、製鉄所の敷地を拠点に抵抗を続けるウクライナ軍に対し、17日午前6時(日本時間17日正午)から17日午後1時(同午後7時)までの投降を求める最後通告を出した。
これに対し、ウクライナのデニス・シュミハリ首相は17日、米ABCニュースのインタビューで「我が軍の部隊は依然、残っており、最後まで戦う」と述べた。
17日午前の発表で、露国防省は、ウクライナ側の通信内容を傍受したとして、「投降を拒否するよう指示されている」と主張した。約2500人とされるウクライナ軍側にはカナダや欧州などの外国人雇い兵が最大400人含まれているとし、「抵抗を続ければ全員殺害することになる」と警告した。
これに先立ち、ゼレンスキー氏は16日の自国メディアとの記者会見で、マリウポリ情勢に関し、「(自国軍が)全滅すれば、ロシアとの停戦協議は終わりを迎えることになる」と述べ、交渉打ち切りの可能性に言及した。
ウクライナ軍参謀本部は17日、ロシア軍がアゾフ海に面したマリウポリへの上陸作戦を準備しているとの分析を明らかにした。18日から市外との出入りを全面的に禁じるとの情報もある。
ロシア軍は要衝マリウポリを陥落させた上で、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の全域制圧を目指すとみられる。ただ、ウクライナの国防次官は17日、ロシア軍はドンバス地方への総攻撃に向け準備を進めているものの、「ウクライナ軍の抵抗で総攻撃に着手できずにいる」と述べた。
一方、ロシア国防省は17日、キーウ(キエフ)近郊の弾薬製造施設を16日夜にミサイルで破壊したと発表した。南部オデーサ(オデッサ)州で、ウクライナ軍の輸送機を撃墜したとも主張した。南部ミコライウ州でも砲撃が断続的に続いている模様だ。
停戦協議の行方が不透明になる中、米ブルームバーグ通信は16日、プーチン露大統領とのつながりが指摘されているロシア人富豪ロマン・アブラモビッチ氏が非公式な停戦協議のためキーウを訪れていたと伝えた。
●戦争で巨額を失っても…「祖国助ける」誓ったウクライナの1位財閥 4/18
ロシアのウクライナ侵攻以降、約1兆円に上る資産を失ったと言われるウクライナの富豪でシステム・キャピタル・マネジメント(SCM)会長のリナト・アフメトフ氏が「戦争が終わったら祖国の再建を助ける」と誓った。
アフメトフ氏は現地時間で16日に公開されたロイター通信との書面インタビューでこのように明らかにした。SCMはウクライナ・マリウポリに拠点を置く鉱山・鉄鋼メーカーだ。
アフメトフ氏は「マリウポリは世界的な悲劇と同時に英雄的な行動を見せている事例だ。私にとってマリウポリは今までそうだったように、今後もずっとウクライナの都市である」としながら「彼らにとって厳しく難しいことかもしれないが、それでも我々の勇敢な軍人たちが都市を守ってくれると信じている」と明らかにした。
続いて「戦争状況では対立する時ではない。我々はウクライナ全体を再建する」としながら「マリウポリに戻って以前のように我々の鉄鋼が世界市場で競争できるように新しい産生計画を立てて実践することが私の抱負」と強調した。
アフメトフ氏は「私は我々全員がこの戦争で勝利した後に自由で民主的なウクライナを再建できると信じている」と付け加えた。
一方、アフメトフ氏はインタビューの中でウォロディミル・ゼレンスキー大統領の情熱と専門性を高く評価した。
これに先立ち、アフメトフ会長は昨年クーデター勢力を支援したという疑惑を受けていた。ゼレンスキー大統領も疑惑に直接言及した。これに対してアフメトフ会長は疑惑を自ら否定したが、引き続きゼレンスキー大統領との友好的な関係を形成しようと努力しているようだとロイター通信は解釈した。
●ロシアと同盟のベラルーシで“ウクライナ支援の志願兵が増加”  4/18
ロシア軍と戦うウクライナの部隊と連携するため、ベラルーシから少なくともおよそ500人の志願兵が現地に赴き戦闘に参加していることがNHKの取材で分かりました。ベラルーシは、政権としては同盟国ロシアと連携を深めていますが、一部の市民の間ではロシアへの反発からウクライナを支援する動きが出始めています。
ウクライナの精鋭部隊アゾフ大隊は、東部で攻勢を強めるロシア軍と戦闘を続けています。
アゾフ大隊と連携する組織がポーランドの首都ワルシャワにあり、その代表パベル・クフタ氏(24)がNHKの取材に応じました。
クフタ氏によりますと、ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアへの反発からウクライナを支援したいというベラルーシ人の志願兵が増えているということです。
クフタ氏は、こうした人たちとSNSで連絡を取り、ポーランドで訓練を行ったうえでウクライナに送っていて、これまでに少なくともおよそ500人がベラルーシ人部隊としてアゾフ大隊と連携し、戦っているということです。
みずからもベラルーシ人で、ロシアの後ろ盾を得て強まるルカシェンコ政権の弾圧を逃れるためポーランドに移り住んだというクフタ氏は「ウクライナを助けるのは文明社会の義務だ」と述べ、ロシア軍を撤退させるまでウクライナ側を支援する考えを強調しました。
また、クフタ氏は「ロシア人が武器を持つ場所では常に破壊行為が行われ、一般人が殺害される。クレムリンの権力者たちは領土を常に拡大したいという帝国の野望を捨てていない」と述べ、プーチン政権を批判しました。
ベラルーシは、政権としては同盟国ロシアと連携を深めていますが、一部の市民の間では、ロシアへの反発からウクライナを支援する動きが出始めています。
●マリウポリは「軍事的にも悲惨」「都市はもはや存在していない」…窮状訴え  4/18
ロシアの侵攻を受けているウクライナのドミトロ・クレバ外相は17日、米CBSニュースのインタビューで、露軍に包囲された南東部マリウポリについて、「軍事的にも悲惨だ。都市はもはや存在していない」と窮状を訴えた。ウクライナ軍は製鉄所を拠点に抵抗を続けており、情勢は重大局面を迎えている。
クレバ氏は、プーチン露政権が5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日に、ウクライナ侵攻での「勝利」宣言を目指しているとの見方に関し、「露軍は東部での戦闘を激化させ、どんなことをしてでも、マリウポリを制圧しようとするだろう」と懸念を語った。
ウクライナ側が拠点とするアゾフスタリ製鉄所は、アゾフ海に面する市南部のコンビナートの一角にある。旧ソ連時代に建設され、爆撃に備えた地下施設があるといい、ウクライナ軍と武装組織「アゾフ大隊」が拠点としている。露国防省は16日、敷地内で兵士約2500人を包囲したと発表した。ウクライナ側は露側の投降要求を拒否した。
クレバ氏は露側との停戦協議について、実務レベルでの話し合いは続いているが、「高官級の協議は行われていない」と明かした。露側が宣言通りマリウポリのウクライナ軍部隊を全滅させれば、交渉を打ち切るとの考えを強調し、「マリウポリがレッドライン(越えてはならない一線)になるかもしれない」と話した。
露軍はハルキウ(ハリコフ)州などの東部や、南部でも激しい攻撃を続けている。ウクライナの消防当局は17日、ハルキウ市中心部の少なくとも18か所で、アパートが砲撃されたと発表した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日のビデオ演説で、同市で「絶え間ない爆撃」が続き、過去4日間だけで18人が死亡、負傷者は106人に上ったと説明した。
ゼレンスキー氏は17日放送の米CNNのインタビューで、「自分たちの領土を手放すつもりもない」と、東部の領土を放棄する考えはないことを強調し、徹底抗戦の構えを表明した。
ウクライナや米欧は、露軍による首都キーウ(キエフ)攻撃も強く警戒している。英紙サンデー・タイムズは15日、複数のウクライナ軍幹部の話として、侵攻開始前に撤収したとされる英国の軍事顧問団がウクライナに戻り、キーウやその周辺に駐屯しているウクライナ軍への軍事訓練を行っていると報じた。
●ローマ教皇「残酷で無意味な戦争」…復活祭演説でウクライナ侵攻批判  4/18
ローマ教皇フランシスコは17日、バチカンのサンピエトロ広場で復活祭(イースター)の演説を行い、ロシアのウクライナ侵攻を批判した。
ロイター通信によると、教皇はロシアの侵攻を巡り、「残酷で無意味な戦争に巻き込まれ、暴力と破壊によって痛めつけられたウクライナに平和が訪れるように」と訴えた。
また「あまりにも多くの流血と暴力を見てきた」と述べ、名指しを避けつつも、ロシアを批判した。ウクライナからの難民を受け入れている隣国ポーランドなどの人々に謝意を表明し、早期に戦争が終結し、平和がもたらされることに期待を示した。
教皇が広場に集まった一般市民を対象に復活祭の演説を行うのは、新型コロナウイルスの世界的流行が始まって以来初めて。
●「絶対に降伏しない」ウクライナ準軍事組織「アゾフ大隊」幹部  4/18
ウクライナ東部のマリウポリなどでロシア軍と戦闘を続けているウクライナの準軍事組織「アゾフ大隊」の幹部がNHKのインタビューに応じ、降伏を迫るロシア側に対し「われわれには最新の武器があり、効果的に戦うことができる。絶対に降伏しない」と述べ、徹底抗戦する構えを強調しました。
「アゾフ大隊」は2014年、ウクライナ東部の親ロシア派の武装勢力と戦うため義勇兵などで結成され、現在はウクライナの準軍事組織の精鋭部隊として、東部の要衝マリウポリなどでロシア軍と激しく戦っています。
この「アゾフ大隊」の司令官で、首都キーウからマリウポリでの戦闘の指揮をとっているというマキシム・ゾリン氏が17日、NHKのオンラインインタビューに応じました。
ゾリン氏はマリウポリの戦況について「ロシア軍は1万4000人以上の兵士を集結させ、マリウポリの50%以上を支配している。これに対し、ウクライナ側はアゾフ大隊と海兵隊など合わせて1000人程度が製鉄所を拠点に戦い、そのほかにも重要なインフラを守っている。ロシア軍部隊は30分に1回、攻撃を仕掛け、1時間に1回、空爆を行い、2、3時間に1回、海上の艦艇からミサイルを撃ち込んでくる。こうした状況が1か月以上続いている」と述べ、圧倒的に数的不利な状況での戦いを強いられていると説明しました。
そして、ロシア側がマリウポリの防衛にあたっている部隊に武装を解除し降伏するよう迫っていることについて「われわれは数の上では劣るが最新の武器があり、効果的に戦うことができる。アゾフ大隊は戦い続け、絶対に降伏しない」と徹底抗戦する構えを強調し、支援のため、キーウ近郊に配置していた部隊をマリウポリに向かわせていることを明らかにしました。
また、ロシアのプーチン政権が「アゾフ大隊」をネオナチの極右部隊だと主張し、軍事侵攻を正当化する名目としていることについて「ロシアは長年、アゾフ大隊についてうそを広めてきた。今の状況を見ると、『ナチズム』ということばはプーチンに最も当てはまる。私たちはただ、家族や子どもを守りたいだけだ」と反論しました。
そのうえでゾリン氏は「われわれがウクライナを守れなかったら、この戦争はあした世界のどこで起きてもおかしくない。いま最も必要なのは、各国政府の支援、そして最新の武器だ」と述べ、外交と軍事面でのさらなる支援の必要性を訴えました。 
●ウクライナ侵攻で、欧米とロシアの対立が深まるほど…ロシアは日本に対抗 4/18
ロシアのプーチン大統領は4月12日、東部アムール州でベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、ウクライナとベラルーシとロシアはひとつの民族であり、「ウクライナで起きていることは間違いなく、悲劇だが他に選択肢はなかった」と侵攻の意義を強調した。プーチン大統領が公にコメントするのは侵攻が始まった2月24日以来だが、ロシアの巡る対立の長期化はもう避けられないだろう。
ウクライナ各地では、両手を後ろに縛られながら撃たれて死亡した人など、多数の民間人とみられる遺体が見つかるっており、ロシアによる戦争犯罪がどんどん明るみになっている。これに対して、バイデン政権はロシアの最大手銀行ズベルバンクとアルファ銀行の2社に対する制裁拡大に踏み切るなどしている。
一方、岸田政権もロシアへの追加制裁に踏み切る方針で、日露関係のさらなる悪化は避けられそうにないが、岸田政権も既にそれを覚悟している様相である。
ロシア外務省は4月6日、日本の反ロシア的な行動には対して新たな対抗措置を取ると発表した。現在のところ、具体的な中身は明らかになっていないが、ロシア外務省は岸田政権が歴代政権の努力によって築かれた日露関係を根底から破壊していると強い不快感を示し、北方領土問題を含む日本との平和条約締結交渉を中断すると発表した。今回の件で北方領土の返還という問題は、これまでで最も遠のいたと言えるだろう。
北方領土は日本にとってはロシアとの領土紛争であるが、ロシアにとってはそれだけではなく安全保障上重要な位置を占める。軍事上、米国と対立するロシアにとって、北方領土は米国勢力圏の北への拡大を抑える要衝であり、仮に北方領土が日本に返還されれば、それは日米安保条約第5条が定める「米国の対日防衛義務の範囲」が択捉島まで北上することを意味する。
ウクライナ侵攻で米国とロシアの対立がこれまでになく高まった今日、プーチン政権にとっての北方領土の戦略的重要性は飛躍的に増している。プーチン大統領は3月9日、ロシアが実効支配する北方領土へ進出する企業に対して20年間に渡って税金を優遇する措置を盛り込む法案に署名した。また北方領土の国後島では3月30日、ロシアによる軍事訓練が実施され、根室からは照明弾らしき光が相次いで確認された。
ロシアと欧米日本の対立が激しくなればなるほど、ロシアは北方領土での軍事訓練などを強化し、日本に対して軍事的けん制を仕掛けてくることだろう。日本は中国の海洋進出に合わせ南方方面の防衛強化に努めているが、今後は北方方面での防衛力強化も重要性が増してくるだろう。
一方、日露経済の冷え込むも避けられない。ロシアによるウクライナ侵攻から1カ月半が過ぎるが、日本経済への影響も各方面から聞かれる。たとえば、ロシア上空が飛行できなくなったことで欧州と日本を結び直行便は中央アジアや北極海など迂回ルートを飛行し、通常より飛行時間が2時間から4時間ほど長くなり、燃油料がアップしている。また、カニやウニなどその多くをロシア産に依存する日本の水産業界は、ロシア産海産物の提供停止や値上げ、代替品獲得のため第3国への交渉などを余儀なくされている。
岸田政権はロシアに対する厳しい姿勢を堅持しているが、地域経済の衰退を懸念し、ロシア産水産物の禁輸は見送ることを決定した。しかし、ロシアが日本に対抗措置を実施する姿勢を鮮明にしたことで、今後はロシアが率先して日本向け水産物の輸出停止に踏み切る恐れがある。欧米とロシアの対立が深まれば深まるほど、ロシアは日本に対してあらゆる手段で対抗してくることだろう。
●ウクライナ東部2州掌握へ ロシア軍が攻勢 西部もミサイル攻撃  4/18
ロシア軍が侵攻を続けるウクライナで18日、西部リビウの軍事施設などが攻撃を受け、地元の州知事は7人が死亡したと発表するなど、各地でロシア軍のミサイル攻撃が続いています。一方、ロシア軍は、東部の要衝マリウポリで降伏を迫りながら完全掌握を目指し、第2の都市ハルキウでも攻撃を続けていて、東部2州の掌握を急ぎたい考えとみられます。
ロシア国防省は18日、東部ハルキウ州や、南東部ザポリージャ州などで16の施設をミサイルで攻撃し、指揮所や弾薬庫などを破壊したとしたほか、ハルキウ州のイジューム近郊でウクライナ軍のミグ29戦闘機を撃墜したなどと発表しました。
さらに西部リビウ州のコジツキー知事は、日本時間の18日午後、リビウにある軍事施設や自動車整備の施設が合わせて4発のミサイル攻撃を受け7人が死亡したと明らかにしました。
一方、ロシア軍は、東部の要衝マリウポリの完全掌握に向けて、ウクライナの部隊が拠点とする製鉄所を包囲したと主張したうえで「武器を置いた者は命を保証する」などと呼びかけ、日本時間の17日夜までに武装を解除して降伏するよう要求しました。
ただ、ウクライナ側は、降伏の要求に応じておらず、ロシア国防省は、「これ以上、抵抗を続ければ全滅させる」と警告していて、ロシア軍による攻撃がいっそう激しくなるおそれがあります。
またウクライナ東部では、17日には、第2の都市ハルキウの中心部などでもロシア軍による砲撃があり、地元の州知事は5人が死亡、20人がけがをしたことを明らかにしました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は17日に公開した動画で、「一般の住宅地や民間人に対する攻撃で意図的なテロ行為にほかならない」と強く非難しました。
ロシア軍は、要衝マリウポリに対し、降伏を迫りながらこの都市の完全掌握を目指すとともにハルキウやその周辺のイジュームからさらに南下し、北側からと南側から挟み込む形で、東部2州の掌握を急ぎたい考えとみられます。
ウクライナのベレシチュク副首相は18日「人道回廊」と呼ばれる住民の避難ルートを2日連続で開くことができなかったとSNS上で明らかにしました。
この中で副首相は「ロシア軍が東部などで攻撃とルートの封鎖を続けていて、安全上の理由から避難ルートを開くことができない」と、ロシア側の攻撃が避難を妨げていると批判しました。
「人道回廊」と呼ばれる避難ルートは、先月からウクライナ側とロシア側の停戦をめぐる交渉の成果の1つとして運用が始まり、一時は1日で1万人以上の市民が避難しました。
しかし、副首相によりますと、避難できた人は、今月16日にはウクライナ全土で合わせて1400人ほどにとどまっています。
中でもロシア軍の激しい攻撃が続く東部マリウポリでは、避難ルートについて、ICRC=赤十字国際委員会の支援チームが今月1日、安全が確保できず引き返したと発表するなど、住民の避難が難航しています。 

 

●ルーブル決済移行加速の考え プーチン 天然ガス以外の輸出品にも拡大 4/19
ロシアのプーチン大統領は天然ガス以外の輸出品についても自国通貨ルーブルでの決済への移行を加速させていく考えを示しました。
プーチン大統領は18日、海外との貿易をめぐり「非友好国がロシアに科している制裁が輸出入における支払いの障害になっている」と指摘しました。
そのうえで「ルーブルや信頼できる国の通貨での決済への移行を加速させる必要がある」とし、天然ガス以外の輸出品についてもルーブルでの決済を広げていく考えを示しました。
プーチン氏は先月末、欧米や日本などの「非友好国」に対し天然ガスを輸出した際の代金をルーブルで支払うよう求める大統領令に署名しています。
●欧米の経済制裁「失敗した」 プーチン氏“ロシア経済の安定”強調  4/19
ロシアのプーチン大統領は、欧米諸国などがロシアに科した経済制裁は「失敗した」と主張した。
ロシア・プーチン大統領「対ロシア対策は失敗したと自信を持って言える。経済的な電撃作戦は失敗したことが証明された」
ロシアのプーチン大統領は18日、ロシアへの経済制裁について、金融・経済情勢を一気に揺るがしたが、わが国は耐え抜いたとの認識を示し「制裁は失敗した」と主張した。
そのうえで、むしろ欧米諸国の経済が悪化していると皮肉を口にしている。
一方で、モスクワの市長は、外国企業の撤退により、およそ20万人が職を失う可能性があると危機感を示している。
●ロシアのプーチン大統領、ブチャ侵攻の部隊に称号授与 4/19
ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで民間人殺害の戦争犯罪を働いたとされるロシア軍の部隊に、プーチン・ロシア大統領が「親衛」の称号を授与した。
プーチン氏は18日付の書簡で、ロシア軍の「第64自動車化狙撃旅団」が「祖国を防衛し、ロシアの主権と国益を守る」ために示した「特別な功績、偉大な英雄行為と勇気」を称賛した。
ウクライナでの「特別軍事作戦」における「機敏かつ大胆な行動」により、軍の模範になったとも主張した。
キーウ近郊のブチャやボロジャンカでは今月、ロシア軍の撤退後に民間人の遺体が多数発見された。ウクライナの国防省は4日、同旅団のメンバーをブチャ市民への残虐行為に直接かかわった「戦争犯罪人」と呼んで非難。ゼレンスキー大統領もロシアに対し、「戦争犯罪」をやめるよう求めた。
一方、ロシア側は大量殺害への関与を一切否定し、市民の遺体が散乱した光景の画像は偽物だとする根拠のない主張を繰り返している。
国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は先週のブチャ訪問で、「ICCが管轄する犯罪があったと信じるだけの根拠がある」との認識を示した。ただしロシアはICCからの脱退を発表しているため、裁きを下すことは難しいだろうとも指摘した。
●ゼレンスキー大統領 “ロシア軍 ウクライナ東部へ新たな攻撃”  4/19
ロシア軍がウクライナ東部の要衝マリウポリの掌握に向けて圧力を強める中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍による東部への新たな攻撃が始まったことを明らかにしました。そのうえで「どんなに多くのロシア軍の兵士が来ようとも、私たちは戦う」と徹底抗戦する姿勢を示し、停戦にむけた交渉の行方は一層不透明感を増しています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は東部で攻勢を続けていて、このうち要衝マリウポリでは、ウクライナ側に武装解除して降伏するよう要求しウクライナの部隊が拠点とする製鉄所を包囲したと主張しています。
製鉄所で18日に撮影された映像では、爆発音が連続して鳴り響いたり、建物付近で煙があがったりする様子が確認できます。
マリウポリの市議会は18日にSNSで、製鉄所について「ロシアによる激しい爆撃が行われている」としたうえで「製鉄所の地下シェルターには1000人以上の市民がいて、そのほとんどは子どもを持つ女性や高齢者だ」として、ロシア軍による攻撃を非難しました。
また、東部ルハンシク州では、18日、車で避難しようとしていた市民、少なくとも4人がロシア軍の攻撃を受けて死亡したほか、ドネツク州でも、少なくとも4人が死亡したとそれぞれの州知事が自身のSNSで明らかにしました。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、動画を公開し、「ロシア軍は長い間準備してきたドンバス地域での戦いを開始したと言える。ロシア軍のかなりの部隊が、この攻撃に投入されている」と述べ、東部のドンバス地域でロシア軍による新たな攻撃が始まったことを明らかにしました。
そのうえで「どんなに多くのロシア軍の兵士が来ようとも、私たちは戦う」と述べ、徹底抗戦する姿勢を示しています。
ゼレンスキー大統領は15日にCNNテレビのインタビューで「ドンバス地域での戦いは、戦争全体の行方を左右する可能性がある。ロシア軍がドンバス地域を掌握したら、キーウに向かって来ないとは限らないと私たちは理解している」と話していました。
ロシア軍はウクライナ東部での攻撃を強化しているのに加え、首都キーウや西部への攻撃も再開していて、停戦にむけた交渉の行方は一層不透明感を増しています。
●ロシア軍が“ドンバスの戦い”開始 ウクライナ側「戦争の第2段階」  4/19
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍がウクライナ東部のドンバス地方で新たな攻撃を開始したと明らかにした。
ウクライナ政府は、戦争の第2段階に入ったとの認識を示している。
ゼレンスキー大統領は、18日の演説で「ロシアは長い間、準備を進めてきた。ドンバスの戦いを始めた」と述べたうえで、「ロシア軍の大部分は、攻勢をかけるためにそこに集結している。われわれは戦います。ウクライナは何一つ諦めない」と強調し、徹底抗戦する姿勢をあらためて示した。
ロシアと国境を接するウクライナ東部のドンバス地方は、軍事侵攻前、親ロシア派の武装勢力が3分の1程度を支配していて、支配地域の拡大を目指す。
一方、ロシアの国防省は、18日のリビウなどへのミサイル攻撃によって、欧米諸国からウクライナに到着した大量の外国製武器を破壊したと主張した。
ロシアによるウクライナ東部での総攻撃に向け、武器などの軍事的支援を続けるアメリカなどに警告する狙いがあるとみられる。
●ロシア、東部制圧へ本格攻勢 ウクライナ情勢、新局面 4/19
ウクライナのゼレンスキー大統領は18日のビデオ声明で、ロシアがウクライナ東部制圧を目指す「ドンバスの戦い」を開始したと述べた。ロシア軍による本格的な攻勢に対し、徹底抗戦するとも強調した。ロイター通信によると、ウクライナのイエルマーク大統領府長官も「戦争の第2段階」に入ったとの認識を示した。
ロシア軍は4月上旬までに首都キーウ(キエフ)周辺から完全撤退。東部制圧を優先させるための部隊再編を図っており、実行に移した形だ。ロシアのウクライナ侵攻は新たな局面に入った。
ウクライナ国防省報道官によると、ロシア軍機の飛行回数は1.5倍以上に増えた。
●戦争で結ばれる絆、シリアで広がるウクライナ支援 4/19
砲撃から逃れる方法や難民支援、化学兵器による攻撃への対応──ロシア軍が軍事介入し10年以上内戦が続くシリアで、戦いで得た知識や情報をウクライナ支援につなげる動きが広がっている。
救助ボランティア団体「ホワイト・ヘルメット」(正式名称:シリア民間防衛隊、Syria Civil Defence)の代表、ラエド・サレハ氏はAFPに対し、「私たちがシリアで経験してきたことを考えると、ウクライナの人々の痛みを最も理解できるのは私たちかもしれない」と語った。
「シリア市民はロシア軍による砲撃や殺害の他、家を追われる経験をしている」「時と場所は異なるが、被害者は共に民間人で、加害者は共にロシア政府だ」
シリア内戦では50万人以上が死亡したとされる。ホワイト・ヘルメットは反体制派の支配地域で救助活動を行っており、ロシア軍やシリア政府軍の砲撃で破壊された建物の下から多数の市民を救出してきた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は先月行われた国際会議で「マリウポリ(Mariupol)を見てください。シリアのアレッポ(Aleppo)と全く同じことが起きている」と訴えた。
同じような悲惨な体験をしていることから、シリアではさまざまな取り組みが始まっている。
複数の団体が立ち上げた「シリア・ウクライナ・ネットワーク(Syria Ukraine Network)」は、シリア人医師をウクライナに派遣する支援をしている。
米首都ワシントン在住のウクライナ人で、同ネットワークのコーディネーターを務めるオリハ・ライトマンさんはAFPに対し、「戦争犯罪の記録と化学兵器を専門とするシリア人」の派遣を手配する予定だと話した。
反体制派が実効支配するシリア北西部イドリブ(Idlib)県では、医療従事者の育成機関「アカデミー・オブ・ヘルス・サイエンス(Academy of Health Sciences)」の医師が、ウクライナの医師や看護師にオンラインで研修を行っている。
同機関のアブドラ・アブドルアジズ・アルハジ代表は、ウクライナの医療従事者は主に化学兵器による攻撃を受けた際の対応を知りたがっており、「彼らは私たちの経験を生かそうとしている」と説明した。
ウクライナでは今のところ、化学兵器が使われたとの確認は取れていない。化学兵器禁止機関(OPCW)によると、シリアでは塩素・硫黄ガスが使用された。
ホワイト・ヘルメットは、負傷者の手当ての方法などを開設するチュートリアル動画を製作している。
また、ルーマニアのウクライナ国境では、難民支援団体「レフュジー・フォー・レフュジーズ」の創設者でシリア人のオマル・アルシャカル氏がウクライナから避難してきた人を支援している。
英ロンドンを拠点とする「国際戦略研究所」のアナリスト、エミール・ハケーム氏はAFPに対し、「シリア人がウクライナの大義を熱心に支持しているのは、シリアの悲劇に対する国際社会の関心を呼び戻すのに役立つからだ」と指摘。「警告したのに無視した」欧米諸国を批判するためだとも語った。
米シンクタンク「中東研究所」のチャールズ・リスター上級研究員は、反ロシアの波に乗ると同時に、ウクライナと新たに有意義な地政学的関係を築きたいとの思惑がシリア人活動家にはあると指摘する。
シリアの反体制派とウクライナ政府にとってはロシア政府の責任が問われるかどうか、が一番の関心ごとだ。さらにシリア側では、ロシアが支援するバッシャール・アサド大統領の責任もその対象に加わる。
ホワイト・ヘルメットのサレハ氏は「プーチンがウクライナでの犯罪の責任を問われるなら、シリアでの犯罪についても責任を問われることになる。だが、プーチンが責任を免れれば、再び罪を犯すのは単なる時間の問題でしかない」と述べた。
国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」のアニェス・カラマール事務総長は先月、ウクライナでは「われわれがシリアで目撃したことが繰り返されている」と指摘した。
シリアとウクライナにおけるロシア軍の戦術の類似点はこれまでも指摘されている。インフラを標的にすることや街から人を追い出すための「人道回廊」の設置・停戦提案などの手法だ。
かつてはウクライナの首都キーウの著名弁護士だったオレフさんは、今は兵士となっている。「ロシアは、住宅・社会・経済インフラへの爆撃の効果を確かめるための実験場としてシリアを利用した」と非難。インフラが破壊されるとその国には「住めなくなってしまう」と語った。
●戦争の経済的「代償」...ウクライナGDPは45%縮小、では世界全体では? 4/19
ロシアのウクライナ侵攻は経済面でも深刻なダメージをもたらしそうだ。世界銀行によれば、この戦争によってウクライナの今年のGDPは45.1%縮小すると見込まれている。対するロシアのGDPも、西側諸国による経済制裁と国際資本の引き揚げを受けて11.2%の落ち込みが予想される。
もっとも、戦禍の影響を受けるのは当事国だけではない。国によってコロナ禍からの復活の度合いに大きな差が生じるなか、エネルギーや食糧価格の高騰は貧困国と新興国の市場を直撃する。WTO(世界貿易機関)によれば、ウクライナ侵攻により今年の世界のGDP成長率は最大1.3%引き下げられるという。
45.1% / 今年のウクライナのGDPの減少予測
11.2% / 今年のロシアのGDPの減少予測
1.3% / 今年の世界全体のGDP成長率の減少予測
●ウクライナ戦争は第2の理念闘争か  4/19
ロシアのプーチン大統領のウクライナ戦争が領土拡大を狙った典型的な帝国主義的目的か、ロシア正教最高指導者モスクワ総主教キリル1世が主張する「形而上学的な戦い」(価値観の戦い)なのか、その答えが間もなく分かるのではないだろうか。
ロシア国防省は17日、「ロシア軍はウクライナ東部マリウポリをほぼ完全に制圧した」と声明を発表した。その結果、ロシアはウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」、そして併合済みのクリミア半島を結ぶ陸路を完成できる。プーチン氏が前者の目的でウクライナ戦争を始めたとすれば、東部最大都市の一つを制圧したことから戦争の幕を閉じたとしても不名誉なことではない。同時に、プーチン氏がロシア軍のウクライナ侵攻前(2月24日)に声明したウクライナの非武装化、非ナチ化は単なる弁明に過ぎず、ウクライナの領土を奪うことにあったと結論できる。
問題は後者だ。プーチン氏が本当に「形而上学的な戦い」に乗り出している場合だ。プーチン氏はその戦いに勝利しなければならない。それも如何なる犠牲を払ってもだ。なぜなら、ウクライナ戦争は「善」と「悪」の価値観の戦いであるからだ。敗北は許されない。キリル1世はプーチン氏の主導のもと、西側社会の退廃文化を壊滅させなければならないと説明する。中途半端な勝利は許されない。その結果、戦いには残虐性が出てくる。相手を壊滅しなければならないからだ。一時停戦,休戦は本来ない。始めた以上、勝利するまで続けられる。
フランス生まれのロシア系の歴史学者ミシェル・エルチャニノフ氏は、「通常の戦争の場合、相手と交渉し、時には譲歩することで刀を鞘を納めることができるが、『形而上学的闘争』(価値観の戦い)の場合、相手とは交渉(譲歩や妥協)できない。勝利するか敗北するかの戦いとなる」と指摘している。
マリウポリや“ブチャの虐殺”からその残虐性、非情さが読み取れる。徹底した虐殺であり、空爆だ。民間人が避難している場所であろうが、病院、幼稚園だろうが、空爆する。むごいほどだ。領土拡大という戦争の場合、そのような蛮行は本来、必要ではない。しかし、「形而上学的戦い」となれば、相手を壊滅しない限り、勝利とはならないからだ。
ソビエト連邦共産党(CPSU)書記長だったニキータ・フルシチョフ(1894年〜1971年)の曾孫、ニーナ・フルシチェバさん(現在、米在住の政治学者)はBBCとのインタビューで、ウクライナ戦争でロシア軍が不利になれば、プーチン大統領は戦術核兵器の使用も辞さなくなるだろう。プーチンはどんな犠牲を払ってもこの戦争に勝ちたいからだ」と述べている。フルシチェバさんはこの戦いがプーチン氏の「形而上学的な戦い」と受け取っているのだろう。
ウクライナの首都キーウ攻勢で成果がなかったロシア軍はいったん東部地域にその兵力を集中する動きを見せていたが、17日に入るとキーウ州ブロバルイの爆弾工場にミサイル攻撃をした。南部オデッサ周辺でもウクライナ軍輸送機を対空ミサイルで撃墜した。すなわち、ロシア軍は東部地域の占領だけではなく、ウクライナ全土を依然攻撃対象としているわけだ。
旧ソ連・東欧共産圏と西側の民主主義圏との戦いが繰り広げられた冷戦時代は領土拡大戦争というより理念闘争だった。ロナルド・レーガン米大統領(在任1981年〜89年)は共産主義国を「悪」と定義し、民主主義を「善」と宣言し、いち早く理念闘争を展開、善悪の戦いを先導していった。ソ連はミハイル・ゴルバチョフ氏(1931年〜)が登場した後、米国側の戦略防衛計画(通称スター・ウォーズ計画)に圧倒され、勝ち目がないことを悟って後退、最終的には旧ソ連・東欧共産圏は次々と民主化に乗り出し、第1次冷戦は民主圏側の勝利で終わった。
ゴルバチョフ氏が後日、自身の伝記の中で吐露したように、勝利した米欧民主圏は傲慢になり、旧ソ連・東欧圏にその勢力を拡大していったと不満を吐露している。ソ連崩壊を目撃したプーチン氏はロシア大国の復興を掲げて、これまで一歩一歩駒を進めてきた。そして今、米欧側に傾斜するウクライナに軍を侵攻させるという第2の「善と悪」の闘争を始めたということかもしれない。ただし、プーチン氏の理解では、今回はロシア側が「善」であり、退廃した文化の欧米社会は「悪」となる。
第1次冷戦が理念の戦いで終結し、核兵器などの武力闘争に発展しなかったことはラッキーだったが、第2の理念闘争(形而上学的戦い)は理念では終結せず、既に武力闘争に発展している。第1次冷戦時代より状況は厳しい。理念闘争では妥協や譲歩は期待できない。勝つか負けるかの二者択一しかないからだ。それだけに戦争は益々エスカレートする危険性があるわけだ。
ロシアでは5月9日は「対独戦勝記念日」だ。その頃にはプーチン氏のウクライナ戦争の狙いがどこにあるのか明らかになるのではないか。ウクライナ戦争が第2の理念戦争とすれば、世界は長期戦を覚悟しなければならなくなる。第1の理念戦争の場合、民主主義国側は共産主義の間違いを指摘すれば良かったが、第2の理念戦争では西側はロシア側の「退廃文化」という批判に対して堂々と反撃できるだろうか。第2の理念戦争ではロシアも欧米側も双方が血まみれになることが避けられない。
●対ロシア制裁初の輸入禁止 きょうから始まる  4/19
ウクライナ情勢をめぐり、政府は、ロシアに対する制裁措置としてロシアからの輸入を禁止する措置を19日から始めました。輸入禁止措置は初めてでアルコール飲料や木材など38品目が対象となります。
政府は、ロシアに対する追加制裁として初めてとなるロシアからの輸入禁止の措置を19日から始めました。
対象は合わせて38品目で、具体的には、▽ウォッカ、ビール、ワインなどのアルコール飲料や、▽丸太やチップ、それに原木を切って削った単板などの木材のほか、▽自動車やオートバイとそれらの部品、金属加工機械、ポンプといった、機械類・電気機械です。
ロシアから日本への輸入総額は、去年は1兆5000億円ほどで、このうち今回、輸入禁止となる品目が占める割合は、全体の1.1%だということです。
ロシアからの輸入の多くは天然ガスや石油などですが、エネルギー安全保障の観点から政府は、現時点では輸入禁止措置はとっていません。
輸入禁止となる品目でも18日までに輸入の契約を結んでいるものについては、3か月の猶予期間が設けられます。
経済産業省によりますと、対象品目は代替調達が可能なものが多く、国内産業への影響は限定的だということです。
松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「これ以上のロシアによるエスカレーションをとめ、一刻も早い停戦を実現し、侵略をやめさせるため、わが国は国際社会と連携し、ロシアに強固な制裁を講ずる必要がある」と述べました。
そのうえで「これまでの各国の措置で、物価の上昇や外国企業の撤退など、さまざまなロシア経済への影響が出ている。今後の制裁措置は引き続き、G7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携し、適切に対応していく」と述べました。
●自衛隊保有の防護マスクやドローン ウクライナに提供へ 防衛相  4/19
ウクライナへの支援をめぐり、岸防衛大臣は閣議のあと記者団に対し、自衛隊が保有している化学兵器に対応した防護マスクと防護服、それにドローンを提供することを明らかにしました。
この中で岸防衛大臣は、ウクライナ政府からの要請を踏まえ、自衛隊が保有している化学兵器に対応した防護マスクと防護服、それにドローンを提供するとして、準備が整いしだい民間の航空機でウクライナの周辺国に輸送する方向で調整していることを明らかにしました。
岸大臣は「ロシアによる国際法違反の侵略に対し、国際社会と結束して、きぜんと行動することは、わが国の安全保障の観点からも極めて重要で、防衛省・自衛隊は、今後もウクライナにできるかぎりの支援を行っていく」と述べました。
政府は先月、自衛隊の防弾チョッキをウクライナに提供するにあたり「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正し、国際法違反の侵略を受けているウクライナに殺傷能力のない装備品に限って提供できることを明記しており、防護マスクと防護服もこれにあたるとしています。
一方、ドローンは、市販されている物であり、防衛装備品にはあたらないとしています。
防衛省によりますと、今回、新たにウクライナに提供されることが決まったドローンは「状況監視」のために使用されるということです。
具体的には、被害状況の把握に加え、相手の位置を特定するための偵察や、攻撃が命中したかどうかの確認などに使われることも想定されます。
これについて防衛省は「提供する装備品などは、ロシアの侵攻に対する防衛のために使用する」という約束をウクライナ政府との間で交わしており、この範囲内であれば、攻撃を伴う作戦の中で使用されたとしても、防衛装備移転三原則や自衛隊法上の問題はないと説明しています。
一方、ドローンそのものに殺傷能力を持たせ、武器として使われる可能性はないのかという質問に対し、防衛省は「移転三原則や自衛隊法の規定に反しないようウクライナ政府によって適切に使用されると理解している」としています。
松野官房長官は、午後の記者会見で「日本が提供したドローンがウクライナで武器として使用されるおそれはないか」と記者団から問われたのに対し「ウクライナ政府に提供されるドローンは、防衛省・自衛隊で保有している市販品で、一般には情報収集などで用いることができるもので、防衛装備移転三原則上の防衛装備には該当しないものだ」と述べました。
そのうえで「自衛隊法や防衛装備移転三原則に基づき、ウクライナ側との間で締結した国際約束の中で、贈与された装備品や物品が目的外使用されないことを確認している。ウクライナ政府の適正な管理のもと、ウクライナを防衛するために適切に使用されるものと承知している」と述べました。
●プーチン政権逃れイスラエルへ ロシア人の移住相次ぐ 4/19
ロシア軍の戦車がウクライナに侵入してきた瞬間、映画制作者のアンナ・シショワボゴリュボワさんとドミトリー・ボゴリュボフさん夫婦は、祖国ロシアを去らなければならないことを悟った。(写真はパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地にある自宅で取材に応じる、ロシアから移住してきた言語学者のオリガ・ロマノワさん)
「次は私たちの番だ」と夫婦は感じた。ボゴリュボフさんによれば、ロシアでは「外国の代理人」に指定されると、「自己検閲や、遅かれ早かれ刑務所送り」の人生に直面する。今は、イスラエルの閑静な町レホボトでアパートを借りて暮らしている。
ボゴリュボフさんは2019年、ウラジーミル・プーチン大統領が地方圏で自身の権威を高めるため、ナチス・ドイツとの戦いを引き合いに出す様子を描いたドキュメンタリー作品『Town of Glory(原題:栄光の町)』をドイツの資金で制作した。
しかしロシア政府は、国際的な孤立が深まる中、外国資金で制作された映画やドキュメンタリー作品に疑いの目を向けるようになった。ボゴリュボフさん夫婦も例外ではなかったという。
「ここ数年、脅威を感じていた。特にここ数か月は当局の監視が張り付き、映画のセットも写真を撮られていた」と、シショワボゴリュボワさんは話した。
夫婦はロシアで仕事を続ける一方、ユダヤ系であることを利用し、万が一に備えてイスラエルの市民権を取得した。イスラエル帰還法では、祖父母のうち一人でもユダヤ人がいれば市民権の付与が認められる。
戦争反対
イスラエル移民当局によると、ロシアのウクライナ侵攻後、イスラエルに逃れたウクライナ人は2万4000人近くに上る。ロシア人も「都市部の中所得層に属する若い大卒者」を中心に約1万人がイスラエルに逃れた。
モスクワ生まれの言語学者オリガ・ロマノワさん(69)は、プーチン大統領が2014年にクリミア半島を併合した後、「ロシアでは何かがおかしくなってきている」と感じ、イスラエルのパスポートを申請した。
もともと、イスラエルに住む子どもたちの元へいずれ移住しようと考えていた。だが、侵攻が始まった2月24日の朝、「一刻も早く出国しなければならないことが証明された」と語る。
「ウクライナでの戦争は、私の考え方や道徳観とは相いれない。気分が悪くなる」。ロマノワさんは、エルサレム郊外の息子の家で孫たちの写真に囲まれながら、涙をこらえた。
永住か、仮住まいか
ここ7週間にウクライナとロシアからイスラエルに流入した移民の数は、ソビエト連邦の崩壊によって1990年代初頭に起きた大規模移住以来の多さとなっている。
「ここなら安心してゆっくり眠ることができる」とシショワボゴリュボワさん。「でも、この先ずっとここで暮らすかは分からない。仕事次第だ。今はただこの瞬間を生きて、気持ちを落ち着かせたい。後のことはそれから考える」
報復を恐れてセルゲイという仮名表記を求めたバイオリニストは、ピアニストの妻と3人の幼い子どもと共にモスクワからイスラエルに避難した。ただ、このままとどまるかは分らないとし、「また別の場所に移動するだろう」と述べた。
市民権を取得した人たちにとっても、イスラエルは未知の土地だ。ロシアへの郷愁は隠せない。
「私は祖国を失った。盗まれてしまった。プーチンとKGB(旧ソ連国家保安委員会)の悪党たちに奪われたのだ」と、ロマノワさんは物憂げに語った。
●フィンランドの36歳女性首相が、独裁者プーチンの恫喝に「ひるまない」わけ 4/19
「いつまでに決断するかというタイムテーブルは示さない。しかし、かなり早く決定される。数カ月ではなく、数週間以内に」──フィンランドのサンナ・マリン首相(36)は13日、ストックホルムで行われたスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相(55)との共同記者会見で毅然とした表情を見せ、こう語った。
ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、軍事的中立を掲げてきた北欧2カ国の女性首相は北大西洋条約機構(NATO)加盟にそろって意欲を見せた。両国は今年6月にもマドリードで開催されるNATO首脳会議までに加盟申請するとの観測が強まる。中でもロシアと1300キロメートルの国境を接するフィンランドの危機感は国境を接しないスウェーデンより強い。
独裁者ウラジーミル・プーチン露大統領が侵攻に踏み切るまで、マリン氏は「来年初頭に会期が終わる今議会にNATO加盟申請を提出する可能性は否定しないが、極めて低い」と慎重な姿勢を見せていた。しかし共同記者会見では「ロシアがウクライナに侵攻したことですべてが変わった」と自国を取り巻く安全保障環境が一変したことを強調した。
マリン氏は「フィンランド議会議員の幅広いコンセンサスを得ることが重要だ。加盟申請するも申請しないもリスクがある」としながらも「NATOの5条が保証する抑止力と集団防衛の下で安全保障を確保すること以上の方法はない」と言い切った。アンデンション氏も「歴史上極めて重要な時期。2月24日の前後で状況は激変した」と同調した。
NATO加盟支持率は5年前に比べ41ポイントもハネ上がった
フィンランド国営放送、YLEが3月9〜11日に実施した世論調査によると、NATO加盟を支持する人は2017年当時より41ポイントも増えて62%、支持しない人はわずか16%に減った。首相や大統領が支持した場合、加盟支持率は74%に、スウェーデンが加盟申請した場合は77%にハネ上がっていた。別の世論調査では41%が夏までに決断すべきと答えた。
フィンランドでは2008年にロシアがジョージア(旧グルジア)に侵攻するまで国民の半数がフィンランドは軍事的脅威に直面していないと感じていた。しかし今、この割合は10人に1人まで下がっている。マリン政権はNATO加盟申請の是非を審議するたたき台として「安全保障環境の変化に関する政府報告書」を議会に提出した。
報告書は「ロシアが始めた戦争は欧州全体の安全保障と安定を危うくする」と指摘し「フィンランドは自国に対してのみ軍事力が行使される不測の事態にも備えている。ウクライナに対する軍事行動は、高い即応性、持続的な軍事的圧力に対抗する能力、複数の同時戦線における大規模な攻撃を撃退する能力が重要であることを示している」と強調した。
NATO加盟申請をした場合「ロシア国境における緊張の高まりなど予測困難なリスクに備える必要がある。広範囲に及ぶハイブリッド攻撃のターゲットになることへの備えを強化しなければならない」と呼びかける一方で「フィンランドとスウェーデンが加盟すれば、バルト海地域で(ロシア軍が)軍事力を行使する敷居は高くなり、地域の安定は高まる」と記した。
厳密に言えば「中立」ではないフィンランドとスウェーデン
4月に入って、ロシア軍機がフィンランド領空を侵犯し、フィンランド外務省や国防省のウェブサイトがサイバー攻撃を受けた。広範囲のハイブリッド攻撃としてフィンランドは、サイバー攻撃やクリミア併合を強行したのと同じ「リトル・グリーンメン」部隊による侵略開始、化学兵器や低威力核兵器の使用も想定している。
目前に迫る危機に、フィンランド議会の状況も変わる。NATO加盟に反対していた主要政党の中央党も社会民主党もその方針を見直しつつある。反対を続けているのは左翼同盟だけだが、NATO加盟申請を巡る議会での意思決定プロセスはまだ定まっていない。過半数でいいのか、それとも3分の2の賛成が必要なのか、憲法委員会が判断しなければならない。
欧州連合(EU)加盟国のフィンランドとスウェーデンは厳密に言えば「中立」ではない。1994年、NATOの「平和のためのパートナーシップ」に加わり、バルカン半島、アフガニスタン、イラクでのNATO主導の作戦やミッションに貢献してきた。ウクライナ侵攻後、NATOは両国との協力関係を加速させている。両国はNATOの演習にも参加する。
ウクライナ侵攻後、ロシアの恫喝にマリン氏はブレない。「国際法および欧州の安全保障の基本原則に対する重大な違反だ。わが国はウクライナの領土保全と主権を侵害するロシアの一方的な行動を非難する。近隣に自国の権益圏を広げたいロシアの野望は明らかだ」(2月22日、ロシアがウクライナ東部の親露派支配地域の独立を承認した後、フィンランド議会で)
「フィンランドも独立のために戦った歴史がある」
「ロシアの敵対行為の結果、多くのフィンランド人のNATOに対する見方は変わった。この問題は3月1日からフィンランド議会で審議される」(2月28日、アサルトライフル2500丁、弾倉15万個、対戦車ミサイル1500発をウクライナに提供することを発表。エストニアがフィンランドから購入した大砲をウクライナに移送することも許可)
「3月13日は冬戦争(1939〜40年)終結の記念日だった。私たちも当時、独立のために戦ったが今、ウクライナ市民も同じ状況に置かれている。戦争犯罪の責任者は裁かれることになる。冷戦後の秩序は崩壊している。フィンランドも安全保障を強化する方法を見極めなければならない」(3月15日、フィンランド議会で)
「ロシアからエネルギーを買うということは戦争に資金を提供していることになる」(3月25日、ロシア産天然ガス・原油・石炭への依存解消を協議したEU首脳会議後に)。ロシアはフィンランドの石炭輸入の95%、原油輸入の86%、天然ガス輸入の67%を占める。フィンランドはEUの中でもロシア依存度が高い国の一つである。
2008年ノーベル平和賞を受賞したマルッティ・アハティサーリ元フィンランド大統領はオスロでの授賞式で原体験を振り返った。「私も戦争に翻弄された子供だった。2歳の時、ヒトラーとスターリンが不可侵条約を結んだため、フィンランドとソ連の間で冬戦争が勃発した。私の家族は数十万の人々とともにビープリの町(現ロシア領のカレリア地方)を追われた」
クラスター爆弾の禁止条約に署名しないフィンランド
オスロでは授賞式の1週間前、不発弾による民間人巻き添え死が問題になっているクラスター(集束)爆弾の禁止条約の署名式が行われ、94カ国が署名した。フィンランドはその後も「国境を守るために不可欠」として署名を見送っている。ロシア軍が侵攻してきた場合、国民をいったん西部に退避させ、クラスター弾で反撃するというのが国防政策の一つだからだ。
米製の最新鋭ステルス戦闘機F35を64機、調達したのもロシアの侵略に備えるためだ。冬戦争とそれに続く継続戦争(1941〜44年)を首相、大統領として戦ったリスト・リュティ(1889〜1956年)はアドルフ・ヒトラーと手を結ぶ「悪魔の取引」をしてヨシフ・スターリンの侵略を退けた。救国の英雄リュティは戦後「戦争犯罪人」として裁きを受けた。
マリン氏をはじめすべてのフィンランド国民にはソ連を撃退した2つの戦争の記憶が生々しく刻まれている。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟が実現すれば、バルト海周辺におけるプーチン氏の領土的野心は完全に封じ込められ、欧州の安全保障は一変する。欧州の強さではなく、弱さこそがプーチン氏の野心を誘惑してきたのだ。
●ローマ教皇がプーチン氏に激怒 「キリストの代理人」、キーウ訪問の可能性? 4/19
世界に13億人超の信者を抱えるローマ・カトリック教会の指導者、ローマ教皇フランシスコが、ロシアのプーチン大統領に激怒している。「時代錯誤の権力者が戦争を引き起こしている」と強い言葉で非難。ロシアの侵攻を受けるウクライナの首都キーウ(キエフ)への訪問を「検討中」という。しかし実現の可能性はどれぐらいあるのか。4月2、3両日に教皇の外遊に同行した記者が分析した。
ツイッターのフォロワー5300万人超
そもそも教皇とはどういう存在か。ローマ・カトリック教会はキリスト教の最大教派で、教皇は地上でのキリストの代理人と位置付けられている。初代教皇は12使徒筆頭の聖ペテロ(イタリア語でサンピエトロ)とされる。現教皇フランシスコは266代目だ。カトリックの総本山で世界最小の独立国バチカンの立法、行政、司法の全権を行使する元首でもある。
今回訪問したのは地中海の島国マルタ。現教皇は2013年の就任以降、55を超える国・地域を回り平和の大切さを訴えてきた。その発信力は絶大で、ツイッターのアカウントは英語やスペイン語、フランス語、アラビア語、ラテン語版など九つの言語で展開されフォロワーは計5300万人を超える。最近ではウクライナ語やロシア語でツイートすることもある。
キーウ訪問は「テーブルの上にある」
キーウへの言及があったのはローマからマルタに向かう教皇特別機の中だった。ウクライナのゼレンスキー大統領がキーウに来てロシアとの仲介をしてほしいと要請していることについて同行記者団が質問すると「(訪問は)テーブルの上にある」と述べ、検討中であることを明かした。ただ、この発言だけで「訪問へ」とは書けない。
教皇は、過激派組織「イスラム国」(IS)などによる紛争が続いたイラクへの訪問意向も早くから示していたが、実現したのは21年になってからだ。イラク政府がIS掃討の完了を宣言してから3年以上がたっていた。
一方、19年1月にパナマを訪問した際には、同行記者団に加わっていた私に教皇が「(今年の)11月に日本へ行きます。心の準備をしておいてください」と述べ、この言葉どおり10カ月後に訪日が実現した。
忘れられた広島と長崎の教訓
マルタ滞在中、教皇の演説で最も印象に残ったのは痛烈なプーチン氏批判を繰り広げた点だ。同氏の名前は直接挙げなかったものの、「戦火に引き裂かれたウクライナ」から避難民が逃れてきているとして「緊急事態が拡大している」と強調。「東欧から戦争の暗闇がやってきた」と述べると、ロシアがウクライナへの軍事攻撃に踏み切ったことや、プーチン氏が核兵器運用部隊に戦闘警戒態勢を取るよう命じたことを念頭に「他国への侵攻や核による脅迫は大昔のおぞましい記憶だと思っていた」と指弾した。
マルタからローマに戻る機中の記者会見でもプーチン氏批判は続いた。「全ての戦争は常に不正義から生まれる」として、正当化できる戦争は存在しないと言明。第2次世界大戦で広島と長崎に原爆が投下された後、過ちを繰り返さないため核兵器廃絶に向けた機運が高まったのに「70年、80年後に何もかも忘れてしまった。われわれは戦争に取りつかれており、学ぶということがない」と嘆いた。
耳を貸してもらえない人々の声に
ただキーウ訪問について再び聞かれるとトーンダウンした。「私は必要なことは全てやる意志がある」として検討中であると繰り返す一方で、訪問が可能なのかどうかや、問題解決のための最善の策となるのかは分からないとも述べた。この言い方を聞き、私は現時点でのキーウ訪問の実現可能性はかなり低いのだろうと思った。
しかし教皇は2019年11月に広島市の平和記念公園で行ったスピーチで「私は謙虚な気持ちを持ち、声を上げても耳を貸してもらえないような人々の声になりたい」と言った。戦争や不平等、不公正に苦しんでいるのに声を出せない人。出そうとしてもそれを世界に届けることができない人。そんな人々の声なき声を自らが代弁していくと表明したのだ。
こうしている間にもウクライナでは次々と罪のない市民が殺されている。教皇の発信力が今ほど求められている時はない。 
●インフレが加速する中、戦争が世界経済の見通しを曇らせる 4/19
世界経済の見通しは、ロシアによるウクライナ侵攻を主な理由として、大幅に押し下げられた。
今回の危機は、世界経済がパンデミックからまだ完全に回復していない中で展開している。戦争前から、需給の不均衡とパンデミック下の政策支援が原因となって多くの国でインフレが進行し、金融政策の引き締めを促していた。中国における最近のロックダウンは、グローバル・サプライチェーンに新たなボトルネックを発生させる可能性がある。
こうした中で、今回の戦争は直接的かつ悲劇的な人道上の影響をもたらすだけでなく、経済成長を減速させ、インフレ率を加速させることになる。全体として経済的リスクが急激に高まっており、政策トレードオフはより一層困難になっている。
IMFは、世界経済の成長率予測を1月時点から下方改定し、2022年、2023年ともに3.6%とした。これは、対ウクライナ戦争と対ロシア制裁の直接的影響を反映しており、両国では経済の急激な収縮が見込まれている。欧州連合(EU)の今年の成長見通しも、戦争の間接的な影響を理由に1.1%ポイント下方改定されており、世界全体の下方改定幅の寄与度が2番目に大きい。
戦争によって、近年世界経済を悩ませてきた一連の供給ショックに拍車がかかる。戦争の影響は、一次産品市場や貿易、金融リンケージを通じて、地震波のように広範囲に伝播していくことになる。ロシアは石油やガス、金属の主要供給国のひとつであり、また、ウクライナとともに小麦やトウモロコシの主要供給国でもある。欧州やコーカサス・中央アジア、中東・北アフリカ、サブサハラアフリカの一次産品輸入国が最も影響を受けている。しかし、食料・燃料価格の高騰は、南北アメリカ大陸やその他のアジアを含む世界各地の低所得世帯に打撃を与えることになる。
東欧と中央アジアは貿易や送金の面でロシアと大きな直接のつながりがあり、痛手を受けると見られている。約500万人のウクライナ国民がポーランドやルーマニア、モルドバ、ハンガリーをはじめとする近隣諸国に非難していることも、当該地域における経済的圧力を高める。
高まる圧力
エネルギー・食料価格の高騰から恩恵を受ける一次産品輸出国を除き、あらゆるグループについて中期見通しが下方改定された。先進国では、総生産がパンデミック前のトレンドを回復するまでにより多くの時間を要することになる。また、2021年に生じた先進国と新興市場国・発展途上国の間の格差が持続すると見られ、パンデミックが永続的な爪跡を残すことを示唆している。
インフレは、多くの国にとって明白かつ目下の危険となっている。戦争勃発前から、一次産品価格の高騰と需給不均衡を受けて、インフレが加速していた。米連邦準備制度など多くの中央銀行は、金融政策の引き締めに向けてすでに動いていた。戦争関連の混乱によって、そうした圧力が高まり、インフレはより長期にわたって高い水準で推移することになると見られる。米国と一部の欧州諸国では、労働市場が逼迫する中、インフレが40年以上ぶりの高水準に達している。
インフレ期待が中央銀行の物価目標から逸脱するリスクが高まっており、政策当局者はより積極的な引き締め対応を促されている。さらに、食料・燃料価格の上昇は、貧困国で社会不安が起こる可能性を大きく高めることにもつながりうる。
侵攻直後に、新興市場国と発展途上国では金融環境のタイト化が見られた。これまでのところ、こうした価格調整(リプライシング)は概して秩序を保っている。しかしながら、いくつかの金融脆弱性リスクが残存しており、国際金融環境の急激なタイト化と資本流出の可能性が高まっている。
財政面では、パンデミックによってすでに多くの国で政策余地が狭まっており、異例の政策支援の引き揚げが進むことが予想されていた。一次産品価格の高騰と世界的な金利上昇によって、石油や食料を輸入する新興市場国・発展途上国を中心に、財政余地がさらに縮小することになる。
戦争の結果、テクノロジー基準と国際決済制度、準備通貨などが互いに異なる地政学的ブロックに世界経済が分断されていくリスクも高まっている。そのような根本的な変化は、長期的な効率性の低下を招き、ボラティリティを増大させ、過去75年にわたって国際関係と経済関係を規定してきたルールに基づく枠組みに重大な課題を突きつけることになるだろう。
政策の優先事項
以上の予測を取り巻く不確実性は非常に大きく、通常の範囲をはるかに超えている。例えば、制裁がロシアのエネルギー輸出にも拡大されれば、成長はさらに減速し、物価上昇率はわれわれの予測を上回る可能性がある。ウイルスの感染拡大が続けば、ワクチンの効かないより致死率の高い変異株が現れ、新たなロックダウンや生産の混乱を引き起こしかねない。
こうした困難な状況においては、国レベルの政策と多国間の取り組みが重要な役割を果たすことになる。中央銀行は、中長期的なインフレ期待の安定を維持できるよう、自らの政策を果断に調整することが必要になる。金融政策見通しに関する明確なコミュニケーションとフォワードガイダンスが破壊的な調整のリスクを最小化する上で不可欠となる。
いくつかの国は、財政収支を健全化する必要がある。とはいえ、とりわけエネルギー・食料価格が高騰する中で、各国政府による脆弱層向けの的を絞った支援が妨げられてはならない。公的債務の安定化に向けた明確で信頼性のある道筋を示す中期的枠組みにそうした支援策を組み込むことは、必要な支援を実施する余地を生み出す助けとなる。
政策当局者は、戦争とパンデミックによる影響の緩和に注力しつつも、ほかの目標にも注意を払うことが求められる。
最も差し迫った優先事項は、戦争を終結させることである。
気候に関しては、表明された野心と実際の政策措置の間にある隔たりを埋める必要がある。各国の所得水準に応じて差異化された炭素価格の国際的な下限を設定することは、壊滅的な気候事象のリスク低減を目指す各国の取り組みを調整するひとつの方法となるだろう。また、ウイルスを封じ込めるための新型コロナ対策ツール全般に世界が公平にアクセスできるようにするほか、その他の世界的な保健上の優先課題に対処する必要性も同様に重要である。これらの目標を前進させるためには、多国間協調が今後も不可欠となる。
政策当局者は、国際金融セーフティネットが効果的に機能するようにする必要もある。それは、一部の国については、短期的な借り換え難を乗り切れるよう十分な流動性支援を確保することを意味する。しかし、包括的なソブリン債務再編が必要となる国もある。G20の「債務措置に係る共通枠組み」がそのような再編のガイダンスを提供しているが、まだ成果を上げていない。効果的で迅速な枠組みの欠如が国際金融システムの弱点となっている。
何億人もの人々を貧困から救い出してきた多国間の枠組みが決して解体されることがないよう、世界経済秩序の全体的な安定性にも特別の注意を払うべきである。
以上のようなリスクと政策は、さまざまな時間軸で複雑に作用し合っている。金利の上昇と、脆弱な層を食料・エネルギー価格の高騰から保護する必要性によって、財政の持続可能性が維持しずらくなる。その結果、財政余地が狭まれば気候移行への投資が一層困難となるが、気候危機への対処が遅れれば一次産品価格ショックに対する各国経済の脆弱性が高まり、それはインフレと経済の不安定化を助長する。地政学的な分断によりこうしたトレードオフが悪化し、紛争と経済の変動性のリスクが高まるとともに、全体的な効率性が低下する。
パンデミックからの持続的な回復が視野に入ったところで戦争が勃発し、ほんの数週間のうちに、世界はまたしても大きなショックに見舞われた。最近の経済回復が水泡に帰してしまう恐れがある。さらに悪い結果につながることを阻止し、すべての人の経済的展望を改善するために、国レベルおよび多国間レベルで相応かつ協調的な政策対応を取ることでわれわれが直面する数多くの課題に取り組まなければならない。 

 

●マリウポリ防衛部隊が窮地 4/20
ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリの製鉄所にとどまる同国の防衛部隊は数で圧倒されていると説明し、各国首脳に救援を訴えた。一方、ロシア側は武装解除と降伏を求めている。
ウクライナのベレシチューク副首相は、20日にマリウポリから女性や子供、高齢者を避難させることでロシア側と暫定的な合意が成立したと発表。同市の人道状況は「壊滅的」だと表現した。
ウクライナ政府への武器提供で協調が図られる中、バイデン米大統領は19日、主要同盟国と電話会談を行った。大統領はウクライナに重火器を追加供与すると表明した。
中国の楽玉成外務次官は18日のロシアのデニソフ駐中国大使との会談で、中国は引き続き、双方に利益をもたらすようロシアとの戦略強力を強化すると述べた。米国などがロシア軍の戦争犯罪を断じる中でも中国はプーチン大統領を支持する姿勢をあらためて示した。
ウクライナはロシア軍がチェルノブイリ原子力発電所から撤退した後、同原発との直接の通信を回復させた。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が声明で明らかにした。
●ウクライナ戦争で世界の食糧難の状況悪化=イエレン米財務長官 4/20
イエレン米財務長官は19日、ロシアによるウクライナでの戦争は世界が直面している「すでに悲惨な」食糧難の状況を悪化させ、価格面および供給面でのショックが世界のインフレ圧力に拍車をかけていると述べた。
高官級のパネルで、ウクライナ戦争以前から世界人口の10%に当たる8億人以上が慢性的な食料不足に苦しんでいるとし、食料価格の上昇だけで世界で少なくとも1000万人以上が貧困に陥るとの推計があると指摘。各国は一段の物価上昇につながりかねない輸出規制を避ける一方、脆弱な人々や零細農家を支援すべきとした。
その上で「この責任はロシアの行動にあることを明確にしたい」と語り、米国はパートナー国や同盟国と緊急に協力し「世界で最も脆弱な人々に対するロシアの無謀な戦争の影響軽減に資する」とした。
また、ロシアに対する制裁措置などを強化し続ける中でも必要不可欠な人道支援を承認し、世界中の人々のために食料や農産物の供給を確保するという米政府のコミットメントを強調。より長期的な耐性を強化することも重要とし、国際的な金融機関に対し、世界的な肥料不足を緩和し、サプライチェーン(供給網)の混乱を円滑にするよう呼び掛けたほか、各国の食料生産を高めるために農業への投資を増やすことが可能だと訴えた。
ドイツのリントナー財務相は主要7カ国(G7)を代表して、的を絞った協調的な行動が必要だとしながらも、すべての国に対し「農産物市場を開放し、備蓄せず、農産物などに不当な輸出制限を課さない」よう呼び掛けた。
またG7は国際金融機関や同じ考えを持った政府機関と協力し、「機敏に行動する」ことを確約したと述べた。
20カ国・地域(G20)の議長国を務めるインドネシアのスリ財務相は財務相会合の第1セッションで、食料を巡る安全保障が重要になるとした上で、食料やエネルギーの価格高騰が「大きな政治的・社会的不安を引き起こす」可能性があると警鐘を鳴らした。
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、食料の安全保障を巡る危機が債務に圧迫されている低所得国の60%に一段の圧力をかけるとし、中国および民間部門の債権者に対し債務処理に向けたG20の共通の枠組みへの参加を早急に進めるよう要請。「飢饉(ききん)は世界で最も解決可能な問題」とした。
●ブラジル、ウクライナ戦争にも対ロ経済制裁にも反対=経済相 4/20
ブラジルのゲジス経済相は19日、同国はロシアによるウクライナ侵攻を明確に非難するとした上で、ロシアに対する経済制裁には反対と明言し、強硬な対ロ姿勢を取らない方針を示した。
ゲジス氏はシンクタンク主催のオンラインイベントで、ロシアが世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの国際機関から排除されれば「架け橋が失われ、経済戦争が刺激される」とし、そうした組織からロシアが排除されるべきでないとの見解を示した。
同氏はまた、「ブラジルは憲法上を含め、戦争にも経済制裁にも反対だ」と語った。
ロシアのシルアノフ財務相は先に、ゲジス氏に書簡を送り、IMFや20カ国・地域(G20)グループなどの多国間会合において、ロシアが非難されたり、差別的な扱いを受けたりしないようブラジルに支援を要請していた。
ゲジス氏は、東欧での対立による世界的なエネルギー・食糧供給の混乱の中、ブラジルは両市場の安全保障に主要な役割を果たしていると強調した。
●オーストリア、財政赤字拡大を予想 ウクライナ戦争が影響 4/20
オーストリア財務省は20日、ウクライナでの戦争が国内経済にマイナスの影響を及ぼしているため、2022年度の財政赤字および債務予想の修正が必要になったと明らかにした。
10月時点で22年度の財政赤字は国内総生産(GDP)比2.3%と予想していたが、約3%に拡大する見通し。債務のGDP比も当初予想の79.1%から80%に引き上げた。
オーストリアは天然ガスの約80%をロシアから調達しており、政府はこの比率を直ちに引き下げることは不可能だとしている。
財務省によると、戦略ガス備蓄のために今年度16億ユーロ(17億ドル)の予算を確保している。また、ウクライナ難民支援で数億ユーロの予算が必要になる。
エネルギー価格高抑制に向けた新たな支援策のために歳出が拡大することや、電気税引き下げなどに伴い税収が減少するとの見通しを示した。
●ロシア実業家ティンコフ氏、ウクライナでの「狂気の戦争」批判 4/20
ロシアの実業家でティンコフ銀行創業者のオレグ・ティンコフ氏は19日、ロシアによるウクライナ侵攻を「狂気の戦争」と批判し、プーチン大統領が威厳を保ちつつ軍を撤収できる方法を提示するよう西側に呼び掛けた。
「この狂気の戦争で恩恵を受ける人は1人もいない。罪のない市民や兵士が亡くなっている」とインスタグラムに投稿。ロシア軍の象徴とされる「Z」の文字について「Zを描く愚か者は当然いるが、どの国も国民の1割は愚か者だ。ロシア人の9割はこの戦争に反対だ」と強調した。
また、西側に向けて「プーチン氏に、面目を保ちつつ殺りくを終わらせる明確な出口を与えてほしい。もっと理性的で人道的になってほしい」と訴えた。ティンコフ氏が現在ロシアにいるかどうかは不明。
●イギリスの成長率見通し、G7で最低に ウクライナ侵攻が世界経済に影響 4/20
国際通貨基金(IMF)は19日に発表した世界経済見通しの中で、ウクライナでの戦争が世界経済の回復を「著しく後退させる」と述べた。紛争によって食料や燃料の価格が上昇し、世界的に成長が鈍化すると予想。中でも、イギリスが最も大きな打撃を受けるとしている。
IMFは今回、2022年の世界経済成長率見通しを3.6%と、1月予想から0.8ポイント下方修正した。2023年についても同0.2ポイント下げ、3.6%で横ばいになるとみている。
イギリスの成長率見通しも、2022年は1月予想より1ポイント低い3.7%、2023年は同1.1ポント下げてわずか1.2%になると、それぞれ変更された。
これにより、イギリスは主要7カ国(G7)で最も経済成長のスピードが速い国ではなくなる。2023年には、最も成長が鈍化した国になる。
IMFによると、イギリスでは物価の上昇圧力により家計が支出を抑制するほか、金利の上昇で「投資が冷え込む」ことが予想される。
世界銀行も先に、世界経済の成長率の見通しを4.1%から3.2%に下方修正した。
物価上昇、利上げ、ブレグジット
2023年のイギリスの経済成長率の見通しは、中国やインドを含む主要20カ国(G20)の枠組みの中でも、重い制裁を科されているロシアの次に小さい値だ。
IMFの統計では、イギリスは2021年にはG7内で最も経済成長が著しい国だった。2022年も、これまでは2位になると予想されていた。
2023年の経済成長が鈍化する一因としては、イギリスがG7の他の国よりも早く、新型コロナウイルスのパンデミックから回復していたことが挙げられる。
一方で、イギリスは高いインフレ率に悩まされており、実質所得の縮小によって消費が減ることで、2023年の成長に打撃が出るという。IMFは、イギリスのインフレ率は今年後半に9%に達するとみている。
また、利上げが経済成長を鈍化させるほか、政府の一部税制優遇措置の撤廃方針が投資の縮小につながるとしている。
IMFはさらに、イギリスの欧州連合(EU)離脱が輸出の成長を阻害していると指摘。移民が減っていることで、パンデミックに関連した労働力不足が「著しく」悪化し続けるだろうと予測した。
IMFの広報担当者は、「しかし、ブレグジットの影響は数年にわたっており、2023年の成長鈍化の主要因ではない」と述べている。
戦争の影響は他国にも波及
戦争はすでに、ウクライナとロシアの経済に壊滅的な影響を与えている。ロシアについては侵攻開始後、西側諸国が制裁として、主要な貿易や金融ネットワークを遮断した。
IMFによると、ウクライナ経済は今年、少なくとも35%縮小する見通し。ロシアは8.5%のマイナス成長となると予想されている。
しかし、ロシアは世界の主要なエネルギー供給国であり、ウクライナと共に小麦の主要産地としても知られている。そのため、両国経済の後退は他国に影響を与えるとIMFは警告している。
「戦争の経済への影響は広範囲に及ぶ。震源地から広がっていく地震波のように」
たとえば経済的に両国とつながりの深いドイツでは、この戦争によって経済成長が1.7ポイント下がるとみられている。
しかし、直接的な貿易関係がほとんどない国々でも、中央銀行が急激なインフレ率上昇に利上げで対応することで、家庭でも戦争の影響を感じられるかもしれないとIMFは指摘している。
IMFはアメリカについて、より積極的な利上げの可能性があるとして、2022年の経済成長率の見通しを0.3ポイント下げて3.7%とした。
インフレは「明確で差し迫った危険」
IMFは、多くの国でインフレが「明確で差し迫った危険」になっており、コロナウイルスの大流行による供給のひずみに、この状況が上乗せされていると述べた。
ピエール=オリヴィエ・グランシャ調査局長は今回の見通しの中で、「たった数週間のうちに、世界は再び大きな変革的衝撃を経験した」と書いている。
「パンデミックによる世界経済の崩壊からの持続的な回復が見えてきた矢先に、戦争によって、最近得た利益の大部分が帳消しにされるという極めて現実的な見通しが生まれた」
全体として、インフレ圧力は1月にIMFが前回の見通しを発表したときよりも大幅に悪化している。
現在では、「先進国」のインフレ率は今年5.7%に達し、新興国では8.7%に達する可能性があると予測している。
イギリスのインフレ率は、2023年に5.3%になると予想されている。これはG7で最も高く、すべてのEU加盟国よりも高い。G20では危機にひんしているアルゼンチンとトルコ、ロシアが上回るのみだ。
グランシャ調査局長は、「インフレは多くの国にとって明らかに危険な状態になっている」と書いている。
一方、石油輸出国など一部の国は恩恵を受けている。IMFは、たとえばサウジアラビアの経済成長は1月の予想よりも強くなるとみている。
しかし、こうしたリスクは純粋に経済的なものだけではない、とIMFは述べている。
IMFは、戦争は難民危機を生み出し、政治的緊張を悪化させ、「世界経済が、技術標準や国境を超えた決済システム、基軸通貨などの地政学的区画に、さらに永久に分断される」危険性があると指摘。
「こうした 『地殻変動』が長期的な効率低下を引き起こし、ボラティリティー(価格などの変動性)を増大させ、過去75年間、国際関係や経済関係を支配してきたルールベースの枠組みに対する大きな挑戦となるだろう」とした。
解説
2つの深刻なショックが立て続けに世界経済に起こっている。パンデミックとウクライナ戦争だ。
後者は、前者が引き起こした問題に、さらに問題を積み上げた。健全な回復を阻み、さらに速いスピードで物価を上昇させている。
パンデミック後のサプライチェーンのボトルネックによって、食料とエネルギー価格が既に上昇していたところに、世界最大のエネルギー供給国の一つが、世界最大の食物輸出国の一つに侵攻したのだ。
しかし今、中国の一部の地域では、厳しい新型コロナウイルス対策の制限によって、新たなボトルネックが生まれつつある。
物価の上昇は、食料輸入に依存する貧しい国々の社会的安定を脅かす。
インフレが定着することへの懸念から、世界の中央銀行は金利の引き上げに動いている。その結果として多くの国で、パンデミック時に積み上げた記録的な債務のために、借り入れコストが上昇している。
こうした状況では、新旧の金融大国の間で、ある程度の技術と協力が必要になる。しかし、その技術と協力という物資もまた、近年では不足気味だ。
●ウクライナ国防次官「今後数週間が決定的に重要」  4/20
ロシア軍がウクライナ東部への攻勢を強める中、ウクライナの国防次官がNHKとのオンラインインタビューに応じ、「今後数週間が決定的に重要だ」と述べ、西側諸国に対し、重火器などの武器のさらなる供与を求めました。
ウクライナのマリャル国防次官は、ロシアが攻勢を強めている東部の要衝マリウポリについて、「非常に厳しい状況に置かれている。ロシア軍は都市をほぼ壊滅させ、地球上から消し去ったと言える」と述べました。
そして、ロシアが包囲したと主張する製鉄所には数百人の市民がとどまり、中には生後4か月の赤ちゃんも含まれていると明らかにしたうえで、市民を避難させるための人道回廊の設置を改めてロシア側に求めました。
ロシア軍による攻勢については、「ロシア軍はこれまでに1300発のミサイルを発射し、今もなおウクライナの大部分を破壊するのに十分な量のミサイルを保有している」と述べ、ミサイル防衛などの支援について、西側諸国と協議していることを明らかにしました。
そのうえで、「今後数週間が決定的に重要だが、私たちには重火器や航空機が不足しており、補充が必要だ」と述べ、西側諸国に対し、武器のさらなる供与を求めました。
●ウクライナ東部で攻防激化、新たに戦闘機供与…「大規模な攻勢の前触れ」  4/20
ロシア軍が全域制圧を目指すウクライナ東部ドンバス地方で、ウクライナ軍が抗戦し両国軍の攻防が激化している。露軍は19日、ミサイルなどでの攻撃を強める一方、ウクライナ軍は東部ドネツク州の都市を奪還したと発表した。米国防総省は19日、ウクライナが軍事支援として戦闘機を受け取ったことを明らかにした。
ウクライナ国営通信は19日、露軍がドンバス地方のルハンスク(ルガンスク)州の3市で軍用機6機や多連装ロケットシステムなどを投入して住宅地を攻撃し、民間人の避難が困難になっていると伝えた。
北部ハルキウ(ハリコフ)では19日、露軍が住宅地にミサイル攻撃を加え、4人が死亡、14人が負傷した。
ウクライナ軍参謀本部は19日、SNSを通じ、ドネツク州マリンカを露軍から奪還したと明らかにした。
一方、露国防省は19日夜の声明で、南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所を巡り、抵抗を続けるウクライナ軍や武装組織「アゾフ大隊」に対し、20日午後2時(日本時間午後8時)までの投降を要求した。ロシア側は期限を定めて繰り返し投降を要求している。製鉄所内には民間人も残されている。
こうした中、ウクライナに対する軍事支援も進んでいる。米国防総省のジョン・カービー報道官は19日の記者会見で、「ウクライナは戦闘機の数を増やすため、機体と部品を受け取った」と述べた。戦闘機を供与したのは米国以外の国という。
カービー氏は「他国が何を提供しているかは言えない」として、国名など詳細は明らかにしなかった。ウクライナは、自国で運用実績のある戦闘機の供与を東欧諸国などに求めていた。
米国防総省高官は19日、東部地域で露軍の「限定的な攻撃」が始まったと説明した。ただ、同高官は「ロシアが計画している大規模な攻勢作戦の前触れだ。(露軍は部隊の)補強と態勢強化を進めている」とも言及し、東部での戦闘は一層激化する見通しだ。
英国防省は19日に発表した分析で、露軍がドンバス地方で爆撃を強化する一方、ウクライナ側が「露軍の多くの前進を撃退している」との分析を発表した。
●ウクライナに傭兵2万人か シリアやリビアからも―欧州当局者 4/20
欧州の当局者は19日、ウクライナに侵攻したロシア軍に加わっているロシアの民間軍事会社「ワグネル」などの傭兵(ようへい)部隊の総数が1万〜2万人に上るとの分析を明らかにした。
同当局者はワシントンで記者団に対し「彼らは大型車両や重火器を持ち合わせていない。歩兵部隊のようなものだ」と説明した。ロシアのプーチン大統領に近いといわれるワグネルのほかシリアやリビアからの傭兵も含まれるが、それぞれの数を把握するのは困難だと語った。
●東部ドンバス、「数千もの戦車や戦闘機が参加する第2次大戦のような戦い」  4/20
ロシア軍が19日、ウクライナ東部ドンバス地方の全域制圧に向け攻撃をさらに強めた。兵士が身を隠す森林や市街地などが少ないドンバス地方では、首都キーウ(キエフ)近郊などでの戦闘でウクライナ軍が多用した奇襲が通用しにくく、戦車などの激しい地上戦になるとみられる。
ウクライナのアンドリー・イェルマーク大統領府長官は18日、自身のSNSに「戦争の第2段階が始まった」と書き込んだ。ドミトロ・クレバ外相は4月上旬、ドンバス地方の攻防について「数千もの戦車や装甲車両、戦闘機などが参加する第2次世界大戦のような戦いになる」と述べた。
ロシア軍は早期のキーウ攻略に失敗し、戦車約500両を失ったとされる。それでも世界の軍事力を分析しているグローバル・ファイアーパワーによると、ロシア軍の戦車保有総数は約1万2000両で、約2600両のウクライナ軍を大きく上回る。さらにドンバス地方はロシアに隣接しており、キーウ攻略の時のように補給が困難になることもないとみられる。
ウクライナ側はドンバス地方での戦闘激化に備え、戦車や戦闘機などの緊急供与を米欧に求めてきた。
米国防総省のジョン・カービー報道官は18日の記者会見で、ウクライナに供与する「155ミリ 榴弾りゅうだん 砲」の訓練を数日以内に始めると明らかにした。
米政策研究機関「戦争研究所」は18日、ロシア軍はキーウ近郊から3月末に撤退させた部隊の立て直しが不十分なまま、ドンバス地方への攻撃に着手した可能性を指摘した。兵士の間で出征を拒否する動きが相次いでいるほか、入隊してからの期間が短く経験不足の兵士も交じっているとの情報もある。
露国防省によると、ロシア軍の制圧地域は3月25日時点でルハンスク州の「93%」、ドネツク州の「54%」だった。
ロシアは5月9日の旧ソ連の対独戦勝記念日までのドンバス制圧を目標にしているとみられる。しかし「戦争研究所」は「ロシア軍が劇的な成功を収めることはできないだろう」と予測する。
●岸田首相 3億ドル借款を表明 ウクライナ情勢めぐるG7首脳会議  4/20
ウクライナ情勢をめぐるG7=主要7か国などの首脳らによるテレビ会議で岸田総理大臣は、これまでに表明しているものと合わせて3億ドルの借款を行うと表明しました。また、参加した首脳らは東部のマリウポリやドンバス地域での攻防が激化する中で、市民への被害が深く懸念されるなどとして引き続き、ウクライナ政府と国民を迅速に支えていくことが共通の責務だという認識で一致しました。
ウクライナ情勢をめぐって、日本時間の19日午後11時ごろからアメリカのバイデン大統領の呼びかけでG7=主要7か国などの首脳らによるテレビ会議が、1時間余り行われ、岸田総理大臣も参加しました。
この中で岸田総理大臣は「ロシアによる非道な侵略を終わらせ、平和秩序を守るための正念場を迎えている」と指摘し、G7と連携しながらロシアに対する広範かつ強力な制裁を行っていると説明しました。
そのうえで、ウクライナ経済の下支えが急務だとして、これまで表明していた1億ドルの借款を積み増して、合わせて3億ドルの借款を行うと表明しました。また、自衛隊が保有する化学兵器に対応した防護マスクと防護服、それにドローンを提供する方針を説明しました。さらに、「今回の侵略のインパクトはヨーロッパにとどまらず東アジアにも及んでいる」と述べ、アジア諸国に対し積極的に連携を呼びかけていると強調しました。
そして、会議に参加した首脳らは、ロシアによる民間人への残虐な行為は重大な国際人道法違反で断じて許されず、東部のマリウポリやドンバス地域での攻防が激化する中市民への被害が深く懸念されるとして、引き続きウクライナ政府と国民をさまざまな形で迅速に支えていくことが共通の責務だという認識で一致しました。
●ロシア ウクライナ東部で攻勢 マリウポリでは降伏重ねて迫る  4/20
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は19日、東部の各地で攻勢を一段と強め、要衝マリウポリではウクライナ側の部隊に対して降伏を迫っています。ウクライナ側がこれに応じる姿勢を示さない中、ロシア国防省は日本時間の20日夜以降、武装を解除して降伏するよう重ねて迫り、圧力を強めています。
ロシア国防省は19日、東部のルハンシク州やドネツク州にあるウクライナ軍の拠点だとする合わせて8か所をミサイルで攻撃したと発表するなど、東部の各地で攻勢を一段と強めています。
ロシアのショイグ国防相は19日、軍の幹部を集めた会議で作戦の継続を強調したほか、ラブロフ外相はインドのメディアとのインタビューで、「新たな段階が始まっている。作戦全体で重要な節目になる」と述べました。
こうしたなか、東部ハルキウ州の知事は19日、SNSに投稿し、ハルキウでのロシア軍による攻撃で少なくとも3人が死亡し、16人がけがをしたことを明らかにしました。
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から今月18日までに、ウクライナで170人の子どもを含む少なくとも2104人の市民が死亡したと発表しましたが、実際の死傷者の数はこれを大きく上回るとみられています。
こうした状況についてウクライナのマリャル国防次官は19日、NHKとのオンラインインタビューに応じ、「今後数週間が決定的に重要だが、私たちには重火器や航空機が不足しており、補充が必要だ」と述べ、西側諸国に対し、武器のさらなる供与を求めました。
また、ロシアが攻勢を強めている東部の要衝マリウポリについて、「非常に厳しい状況に置かれている。ロシア軍は都市をほぼ壊滅させ、地球上から消し去ったと言える」と述べました。
マリャル国防次官によりますと、マリウポリでウクライナ側の部隊が拠点としていて、ロシアが包囲したと主張する製鉄所には、数百人の市民がとどまり、生後4か月の赤ちゃんも含まれているということです。
製鉄所をめぐって親ロシア派の武装勢力は19日、新たに投入された部隊の一部が攻撃を開始したとする一方、ロシア国防省はウクライナ側の部隊に降伏を迫りました。
降伏の期限は日本時間の19日午後10時にすぎましたが、ウクライナ側は、降伏に応じる姿勢は示していません。
これを受けてロシア国防省は、現地時間の20日午後2時、日本時間の20日午後8時以降、武装を解除して降伏するよう重ねて迫りました。
マリウポリの完全掌握をめざすロシア軍はウクライナの部隊に対して、「このままでは全員に耐え難い運命が待ち受けている」と警告するなど、圧力を強めています。 
●ウクライナの国外避難民 500万人超える 4/20
ロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナから国外に避難した人が500万人を超えたことが明らかになりました。
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は20日、ロシアによる軍事侵攻後、ウクライナから国外に避難した人が19日時点で、503万人に達したことを明らかにしました。侵攻前のウクライナの人口はおよそ4160万人で、国民の10パーセント以上が国外に逃れたことになります。
周辺国の受け入れ人数は、隣国のポーランドが282万人あまりと最も多くなっています。
国外避難が500万人を超えたことを受け、グランディ国連難民高等弁務官は、自身のツイッターで、「新たな攻撃のたびに避難者の希望は打ち砕かれている。戦争を終わらせることが、避難者の生活を再建するための唯一の道だ」とコメントしています。 

 

●ウクライナ侵攻の裏にある「見えない戦争」サイバー工作 4/21
戦力圧倒的なロシアの「意外」な光景
2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから、被害の様子はスマホなどで撮影され、次々とSNSで拡散された。テクノロジーが進化した現代を象徴するような紛争の形だと言える。
一方で、軍事やサイバーセキュリティーの専門家らは、侵攻以降、「意外」な光景を目の当たりにしてきた。
まず一つには、ロシア軍の苦戦ぶりがある。兵力だけで見ても、侵攻が始まった時点で、ロシアは90万人の兵士を抱え、2021年の軍事予算は458億ドルにも達していた。対するウクライナは、19万6000人ほどの兵力で、2021年の軍事予算は47億ドル。圧倒的な差があるにもかかわらず、侵攻開始から1カ月ほどが過ぎた段階で、ロシア軍は各地からいったん撤退せざるを得ない状況となった。
さらに驚きだったのは、ロシアによるサイバー攻撃がまったく目立っていない点だ。近年の軍事作戦は、ハイブリッド戦争と呼ばれている。実際の戦闘に加えてサイバー攻撃などが戦略に組み込まれ、各国の戦闘シミュレーションを見ても、デジタル化が進んだ戦場でサイバー攻撃を効果的に活用するのが当たり前になっている。
それが今回、ロシア側からは見えてこないのである。ロシアが世界有数のサイバー攻撃能力を持っているにもかかわらず、だ。欧米メディアでもその様子は驚きをもって受け取られてきた。例えば、米タイム誌も「なぜロシアはウクライナ侵攻後にサイバー攻撃を実施していないのか」という記事を掲載しているが、同様の趣旨の記事は数多い。
ロシアのサイバー攻撃能力は世界トップクラスだが…
だが現実には、各国の軍関係者や専門家らが想定していたような激しいサイバー攻撃こそ明らかになっていないが、何も起きていないわけではない。
そもそもロシアはサイバー攻撃能力で世界でもトップクラスだと評されてきた。情報機関である連邦保安局(FSB)や対外情報局(SVR)、そしてロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が、それぞれサイバー部隊をもって世界各地にサイバー攻撃を仕掛けてきた。
ロシアはこれまでウクライナをサイバー攻撃の「実験場」と見ていると指摘されるほど、数多くの対ウクライナ攻撃を行ってきた。2015年と2016年には、2年続けてウクライナ国内の電力会社をサイバー攻撃で不正操作して、大規模な停電を起こしている。また2017年には、「NotPetya」という名の感染力の強いランサムウエア(身代金要求型ウイルス)でウクライナの政府機関や民間企業の動きを止めるような広範囲のサイバー攻撃を実施している。
その能力を疑う者は少ないが、なぜか今回、例えば停電のような深刻なサイバー攻撃は報告されていない。米国のバイデン政権が、ロシアはウクライナに侵攻すると繰り返し主張していた2021年1月と2月に2度、ウクライナでは政府機関や活動団体、IT企業などを狙ったロシアからのものと思われるサイバー攻撃が発生している。ただ大した被害は出していない。
2月24日、侵攻開始日にあったこと
実は、ロシアのウクライナ侵攻がスタートした2月24日にも攻撃は起きている。侵攻直前となる早朝5時から9時までの数時間にわたって攻撃が確認されたのである。ウクライナ国内で使われていた衛星インターネットサービスを提供する「KA-SAT」システムが、サイバー攻撃によって一時使えなくなった。このシステムは、ウクライナ軍や情報機関、警察当局が使っていた。
結果的に大事にはならなかったが、米国のサイバー工作を担う米国家安全保障局(NSA)をはじめとする西側の情報機関が攻撃者を現在も徹底追跡している。ただハイブリッド戦では、相手国の防空関連システムや通信をサイバー攻撃でたたくケースが多いとされるため、この通信を狙ったサイバー攻撃についてもウクライナへの攻撃を始めたロシアの関与を指摘する声は多い。
ロシア側からの攻撃では、これら以外でも、小規模なものはいくつも確認されている。話を先に進める前に、まずロシアにおけるサイバー攻撃者たちの実態に触れておきたい。
ロシアはピラミッド型の攻撃組織
ロシアのサイバー攻撃組織はピラミッドのような形になっている。上から三段に分かれており、上部にはすでに触れた政府の情報機関系のサイバー機関がいて、その下には金銭などを目的とする犯罪マフィアがかなりの数いる。そしてその下には、レベルの低いハッカーたちがうごめいている。
そしてこの上部の政府系ハッカー組織と、犯罪マフィアはつながっているというのが欧米専門家などの認識である。
近年、日本をはじめ世界中のサイバーセキュリティー関係者の間で特に深刻視されているランサムウエア攻撃の首謀者らは、ほとんどがロシアを拠点にしている。彼らも犯罪マフィアに含まれる。
今回のウクライナ侵攻では、政府系と犯罪マフィア系がサイバー攻撃に関与していると確認されている。具体的に言うと、GRUのサイバー部隊とされる「Fancy Bear」や「Sandworm」、ベラルーシを拠点にロシアのために活動する「Ghostwriter(UNC1151)」、さらに民間の「Gamaredon」「Killnet」といった25近い組織が動いている。こうした組織は、ハッキング行為を行ったり、DDoS攻撃(大量のデータを送りつけてシステムに負荷を与える攻撃)を実施したりして、ウクライナへ妨害行為を行っている。
大きな被害をもたらしてはいないが、「ウクライナ系サイバー組織を遮断した」といった大袈裟なフェイクニュースをばら撒くような工作も確認されている。
ウクライナを後ろから支える米国
ではなぜロシア側は攻撃ができていないのか。専門家らもロシア側が大きな成果を上げていない事実に首をかしげているのだが、実はその背景にはウクライナを後ろから支える米国政府などの強力な力添えがある。
何年も前からウクライナ軍にさまざまな訓練を施してきた米国特殊作戦軍(SOCOM)に加えて、2021年10月までには米国のサイバー攻撃をNSAとともに主導的に組み立てている米サイバー軍もウクライナに部隊を送り込んでいる。また、米マイクロソフト社などのエンジニアらも同じくウクライナに入り、ロシアから侵攻があった場合のサイバー攻撃に備えて、国内の鉄道や電力などのインフラをはじめとする重要な拠点の保守を行っている。ロシアが平時にウクライナ国内のコンピューターなどに埋め込んでいたとされるマルウエア(ウイルスなど悪意のある不正なプログラム)の駆除も実施したという。
先に触れた2021年2月のウクライナへのサイバー攻撃の際も、DDoS攻撃の対応を米政府側がアドバイスし、直ちに米国企業のツールで対応している。
もっとも、ウクライナにおける米国のサイバー工作はこうした例にとどまらない。元米中央情報局(CIA)副長官のマイケル・モレル氏は、ウクライナ侵攻後に行われた米シンクタンクのオンラインイベントで「今は見えていないが、水面下でロシアが何をしているのか、そして、米国がそれに対抗して何をしているのか、後に明らかになるだろう」と語っている。
米国は、ロシア側から内政干渉ともいえるサイバー攻撃を2016年の米大統領選で受けてから、ロシアに対するサイバー攻撃と防御対策を強化してきた。ロシア国内のサイバー作戦関連の組織や施設などに対して、「積極的な防衛」としてサイバー攻撃作戦を実施してきた。その蓄積も、今回のウクライナでの対策に生きている。
世界中から「民兵」を募ったウクライナ
一方で、当事国であるウクライナもロシアに対してサイバー攻撃で対抗している。
ウクライナにはもともと、米国などのようなサイバー攻撃を行える部隊は存在しない(ウクライナ軍の情報機関に属するサイバー部隊がロシアの石油施設への攻撃に成功したという話もあるが、真偽は現時点で不明である)。そこで、侵攻から3日後の2月27日に、イワン・フョードロフ副首相が、ウクライナIT軍の創設をツイッターで発表し、暗号化できる無料通信アプリ「Telegram」に公式チャンネルを開設した。そこで、ウクライナを支持する世界中にいるエンジニアなどの「民兵」を募集した。
現在、無料登録できるそのチャンネルは会員数が30万人近くになっている。チャンネルでは毎日何度も、ロシア国内の攻撃ターゲットをリストアップし、会員にサイバー攻撃を実施するよう指示している。
さらにウクライナを支持するハッキング集団は、確認されているだけで50組織近くが活動している。日本でもニュースになった活動家集合体のアノニマスもその一つだ。アノニマスのハッカーらは、DDoS攻撃だけでなく、ロシア国内の政府組織などから情報を奪って暴露もしている。先日も、ロシア中央銀行の内部書類とみられる情報を一部暴露した攻撃者がいた。
こうした攻撃に加えて、ウクライナ側には、ロシアへのDDoS攻撃を行うためのウェブサイトがいくつも設置されている。そこのサイトに行けば、ターゲットの情報とともに「攻撃」というボタンが用意されており、誰でもロシアを攻撃するDDoS攻撃に参加できるというものもある。
要するに、日本のどこかのカフェにでもいながら、クリック一つでロシアとのサイバー戦争に日本人でも参加できてしまうのである。
ロシア国内の政府機関や民間企業をサイバー攻撃することによって、政府機関や民間企業のサーバーが一時的に使えなくなるなど被害も出ているようだ。ただ妨害工作の域は出ていないと考えられる。
中国系ハッカーの不気味な動き
もう一つ特筆すべきは、中国系のハッカーらがロシアのウクライナ侵攻前日に、ウクライナ国内で情報収集のためのサイバー攻撃を行っていたと最近報じられたことだ。情報を明らかにしたのは英国政府関係者だった。
これが事実だとすれば、中国はウクライナ侵攻の前にロシアの動きを知らされていた可能性があり、そうなると、戦争犯罪とも言われているロシアの侵攻に肩をもっていたことになると指摘された。
ただこのケースについては、侵攻の前日に情報収集をしようとする行為自体に違和感があるし、どこまで信ぴょう性があるのかはわからない。しかも同じ集団がロシアや、ロシアと関係が近いベラルーシにもサイバー攻撃を行っていた可能性も取り沙汰されている。
攻撃が事実なら、おそらく中国は自分たちのために監視工作をしようとしていたと考えられる。米国がそれまでしつこく言っていたように、ロシアによるウクライナ侵攻が近いので、侵攻前にウクライナやロシアなどのシステムにマルウエアを埋め込んでおいて、ロシアのみならず、米国など西側がサイバー空間で戦時にどういう動きをするのかを見ようとした可能性が考えられる。
サイバー空間上の戦いの詳細はウクライナの戦闘が落ち着くまでは明らかにならないだろう。現時点で確かなのは、ウクライナ侵攻の水面下では実はさまざまなせめぎ合いが続いているということである。
●「ロシアの侵略戦争を強く非難」G7が声明を発表  4/21
G20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議に続いて開かれた、G7=主要7か国による会合は声明を発表しました。この中では、ロシアに対して「ウクライナの主権と領土、国際的な平和や安全を侵害しているとして、侵略戦争を強く非難する」としています。
G7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議が発表した声明では「ウクライナの主権や領土の一体性、それに、国際的な平和と安全への露骨な侵害であり、ロシアの侵略戦争を強く非難する」としています。
これについては、先立って開かれたG20の会合でも、ほとんどの参加者が重要視していたとしています。
また、G20の会議などにロシアが出席したことについて「遺憾だ」としています。
さらに、G20の会議に、ウクライナのマルチェンコ財務相が出席したことに触れ「G7として、ウクライナ国民と政府に揺るぎない支援と、心からの連帯を表明した」としています。
そのうえで「ウクライナでの事態の激化に対応して、ロシアの代償をさらに高めるために、世界中の国々と協調した行動をとり続ける」などとして、さらなる制裁の強化を検討する姿勢を示しました。
今回、G20では共同声明が採択されませんでしたが、G7としては、引き続き結束してロシアに対して強い姿勢で臨むことをアピールした形となりました。
G7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁が発表した声明では、ロシアによる軍事侵攻が世界経済に与える影響について「1次産品や食料価格の大幅な上昇を引き起こし、世界経済をより広範に混乱させている」としています。
また、物価上昇を受けて欧米などで進む金利の引き上げについては「世界の金融環境のさらなる引き締めは、特に新興国や発展途上国で金融のぜい弱性を悪化させうる」と指摘しました。
そのうえで、G7として「世界経済のリスクを警戒し続けるとともに、波及効果を軽減するために必要に応じて共同して行動する用意がある」として、影響を受ける国々への支援や金融の安定に協調して取り組む考えを示しています。
●G7財務相・中銀総裁、ロシアの「侵略戦争」を非難 4/21
主要7カ国(G7)は米ワシントンで20日開いた財務相・中央銀行総裁会議で、ロシアがウクライナで始めた「侵略戦争」を激しく非難する声明を発表し、対ロシア制裁措置が「既に意図した通りの甚大な影響」を及ぼしているとの認識を示した。
バイデン米政権は制裁対象に仮想通貨採掘(マイニング)業者などを新たに加えると発表した。米国とオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国のサイバーセキュリティー当局は共同で、ロシアがサイバー攻撃の選択肢を検討していると警告した。
ロシアの仮想通貨採掘業者やオリガルヒ関連団体、米が制裁対象に追加。
国連のグテレス事務総長はロシアのプーチン大統領およびウクライナのゼレンスキー大統領に対し、個別に会談を申し入れた。ウクライナはロシア軍に包囲されている南東部マリウポリの民間人と兵士の身の安全を議論する緊急会合をロシア側に求めた。
ウクライナのクレバ外相はいかなるロシアとの交渉でも領土を譲り渡すことはないと再び表明。ロシア軍はウクライナ東部で攻勢を強めている。ロシア国防省は次世代の重量級大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」を北部アルハンゲリスク州の基地から試射した映像を公開した。
●「一部のNATO国、ウクライナ戦争の延長望む」…トルコ外相が爆弾主張 4/21
「一部のNATO(北大西洋条約機構)加盟国はウクライナ戦争が続くことを望んでいる」。
トルコのチャブシオール外相が20日(現地時間)、CNNトルコとインタビューでこのように主張した。チャブシオール外相は「先月29日にトルコで開かれたロシアとウクライナの5回目の平和交渉の後、この戦争が長く続くとは思わなかった」とし「ところが7日のNATO外相会合の後、NATO加盟国内に戦争が続くことを望む人たちがいるという印象を受けた」と述べた。その理由については「戦争を延長させてロシアが弱まることを望むため」と話した。
トルコは今回の戦争初期から積極的にウクライナとロシアの仲裁者の役割をしている。先月10日にトルコのアンタルヤで両国外相会談を、先月29日にはイスタンブールで5回目の平和交渉を取り持った。この会談では進展した交渉があり、ウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領の首脳会談についても議論された。また、NATO加盟国として主要NATO会談に出席し、ウクライナ、ロシア、NATOなどそれぞれの立場から意見を聞いている。
チャブシオール外相は「戦争の延長を望む」国には言及しなかった。ユーラシア政策研究院のコ・ジェナム院長は「NATO30カ国のうち米国、英国、ポーランドなどはウクライナに積極的に武器を支援するのに率先し、西側対ロシアで代理戦の様相になっている」とし「民間人の犠牲が大きい今回の戦争を終わらせるべきだが、これらの国はこの機会にロシアとの関係で確実な勝機をつかむために戦争を継続しようとするかもしれない」と説明した。
停戦のための重要な平和交渉も膠着状態になっている。ロシア大統領府はこの日、5回目の平和交渉でウクライナがロシアに提示した協議案に対して「書面で答えた」とし「ボールはウクライナにあり、答えを待っている」と発表した。
しかしウクライナ側はこれに反論した。ゼレンスキー大統領は「ロシアが送ったという(協議案)文書は見たことも聞いたこともない」とし「ロシアはいかなる文書も我々に渡していないと確信する」と強調した。
一方、ロシアはこの日、次世代大陸間弾道ミサイル(ICBM)RS−28「サルマト(Sarmat)」を試験発射して恐怖感を与えた。また、西側はウクライナに対する重火器支援に出た。CNNはこの日、「ノルウェーがウクライナに対空ミサイル100基と対空防御システムを追加で提供した」と伝えた。
●ウクライナのドンバス攻防戦、戦車動員した第2次大戦の様相になる可能性 4/21
「ドンバスをかけた戦いは、数千台の戦車、飛行機、装甲車の大規模な機動を伴う第2次大戦のような戦闘になるだろう」(ウクライナのドミトロ・クレバ外相)
20日に56日目に入ったウクライナ戦争は、東部ドンバスの領有権をかけた「第2段階」に移り、戦闘の様相も大きく変わった。クレバ外相が7日の北大西洋条約機構(NATO)外相会合で予言したように、キーウ(キエフ)などの人口が密集した都市を掌握するための「第1段階」から、戦車などを前面に出しドンバスの広大な地域を早期に占領する、第2次世界大戦時の戦闘に似た突破戦に変わったのだ。当時ナチス・ドイツは、開戦初期に戦車を前面に出す「電撃戦」でフランスを相手に驚くべき勝利をおさめ、北アフリカで行われたドイツと米国・英国との激戦や、ソ連とドイツの間のしのぎを削る独ソ戦も、戦車を前面に出した戦車戦だった。
ドンバスでの戦闘が、かつての第2次世界大戦に似た戦車戦で行われるものとみられる理由は、ドンバス地域の独特な地形のためだ。大都市があちこちに位置し兵力の進撃を防ぐウクライナ北部とは違い、東部は広大な平地で構成されている。身を隠せる市街地や森がなく、防御は容易ではない。現在、ハルキウ州イジュームで激しい戦闘を行っているロシア軍は、そこを制圧した後、ドネツク州スラビャンスクに向けて南下するものとみられる。ランド研究所のスコット・ボストン上級軍事アナリストは、20日付の朝日新聞のインタビューで、「地形によって必要な戦力が変わる。平地なら戦闘機と戦車、防空システムが必要になる」と述べた。
問題はロシアの戦力だ。ロシアはキーウなどを占領し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を除去しようとしていた第1段階の作戦で、戦車約500台を失ったと分析される。しかし、世界の軍事力を分析する機関「グローバル・ファイヤーパワー」の資料によると、ロシア軍の戦車保有台数は1万2000台で、ウクライナの2600台に大きく勝っている。
ウクライナは、戦争の性格の変化を予測し、米国などに要求する兵器の性格を変えてきた。クレバ外相は7日のNATO外相会合で、ロシアの全面攻撃に対抗できるよう「我々はより多くの防空システムと、より多くの対戦車兵器、そしてより強力な兵器を望む」と述べた。それを受け、米国などの支援内容も変わった。米国などNATOはこれまで、少数の歩兵が隠蔽・遮蔽物の後ろに隠れ、敵の戦車や航空機を狙えるよう、携帯用対空・対戦車兵器を供給してきた。しかし最近になり、ロシアの機甲部隊に正面から対抗できるよう、大型の攻撃兵器を供給している。18日に欧州に到着した米国の支援兵器は、ロシア軍を相手に長距離砲撃が可能な155ミリメートル曲射砲18門と砲弾4万発、ロシア製ヘリコプター11機、装甲車200台、「自殺ドローン」 300台などだった。
NATOは一歩踏みだし、戦闘機も提供した。米国防総省のジョン・カービー報道官は19日の会見で、「ウクライナ軍は現在、2週前に比べ、活用可能な固定翼の戦闘機をより多く保有している。ウクライナは追加の飛行機と飛行機の部品を受けとっている」と述べた。ただし、どの国家がどのような機種の戦闘機をどの程度提供したのかについては、明らかにしなかった。
一方、ロシア国防省は19日、「マリウポリのアゾフスタリ製鉄所で発生した災害の状況と純粋な人道的原則にしたがい、19日午後2時(モスクワ時間。韓国時間19日夜10時)からロシア軍は人道回廊を開いた」と明らかにした。マリウポリ警察局のミハイロ・ベルシニン局長は、「我々はロシア側ではなくウクライナに行くことを望む」として、これを拒否した。しかし、ウクライナのイリーナ・ベレシュチュク副首相は、20日午後2時からマリウポリで女性・子ども・高齢者のための人道回廊を開くことでロシアと合意したと明らかにした。
●ロシア国防相 “マリウポリを掌握” プーチン大統領に報告  4/21
ロシア大統領府は21日、ショイグ国防相がプーチン大統領に、ウクライナ東部の要衝マリウポリを掌握したことを報告したと発表しました。
ショイグ国防相は「マリウポリは解放された。マリウポリ全体が、ロシア軍と親ロシア派の支配下にある」と述べ、マリウポリを掌握したと主張しました。
ロシア軍は、2月24日にウクライナへの侵攻を開始し、アゾフ海に面するマリウポリへの攻勢を強めました。
今月16日には、ウクライナ側の部隊が拠点とする製鉄所を包囲したと主張し、その後、武装を解除して降伏するようたびたび迫りましたが、ウクライナ側は徹底抗戦する構えを崩さず、降伏には応じませんでした。
一方で、ショイグ国防相は、マリウポリの製鉄所には、現在も、ウクライナ側の部隊2000人以上が残っていると説明しました。
これに対してプーチン大統領は「これ以上の製鉄所への攻撃は得策とは思えない。攻撃の中止を命令する。マリウポリの解放作戦は成功に終わった」と述べ、製鉄所への攻撃の中止を命令しました。
この発言に対するウクライナ側の反応は、今のところ出ていません。
●ウクライナ東部イジュームの副市長「中心部の80%が破壊」  4/21
ウクライナ東部ドンバス地域の北側にあり、重要な戦略拠点とされる、ハルキウ州イジュームのマツォーキン副市長が、NHKの取材に応じました。
マツォーキン副市長は「イジュームはロシア軍によって占領された。われわれは常に攻撃されていた。市内中心部の80%は破壊されたほか、収容できない遺体が2週間にわたって放置されたままだった。複数の病院が攻撃され、どれくらいの人々が亡くなったか把握できていない」と述べました。
そして「5万人いた住民の中には、すでに避難した人もいるが、今も1万3000人から1万5000人が取り残されている。1か月半以上、電気、水道、ガス、通信などが寸断されていて、人々は川の水を生活用水として利用している」と現地の状況を語りました。
マツォーキン副市長によりますと、市は先月半ば以降、必要としている人たちに薬や食べ物などの支援物資を届けられない状況だということです。
さらに、避難ルートとなる人道回廊の設置に向けた交渉も進んでいないと説明し、マツォーキン副市長は「支援物資を運ぶ車列が攻撃を受けたほか、避難民を乗せたバスなども被害に遭い、亡くなった人もいる。イジュームが解放される瞬間を待ち望むとともに恐れている。ブチャなどで起きたような残虐行為が起きないことを神に祈る」と危機感を示しました。
●ウクライナと連携 ベラルーシ人志願兵 “ロシアと徹底し戦う”  4/21
ロシア軍と激戦を繰り広げているウクライナの部隊と連携して戦闘に参加しているベラルーシ人の志願兵が、NHKの取材に応じ、ウクライナのためにロシア軍と徹底して戦う姿勢を示しました。そうすることで、ベラルーシに対して強まるロシアの影響力を排除することにもつなげたいとする考えを強調しました。
取材に応じたのは、ウクライナでロシア軍と戦い、現在は、首都キーウにいるというベラルーシ人のデニス・キット氏です。
キット氏は、ベラルーシ人の志願兵で作られた部隊の一員として先月初め、キーウ近郊のブチャの周辺でウクライナ軍と連携して作戦を行ったということです。
キット氏は、アメリカなどがウクライナに供与している対戦車ミサイル「ジャベリン」も使用したとしたうえで「ロシア軍の車両は予想以上の数だったので、すべてを阻止できず、6人の仲間を失ったが、ロシア軍の兵士数十人を戦死させたほか、複数の装甲車やトラックを破壊した」と述べました。
キット氏は、ベラルーシのルカシェンコ大統領が、同盟国ロシアのプーチン大統領の後ろ盾を得て反政権派を弾圧するなど強権的な統治を続けていることにも強く反発しています。
キット氏は、ベラルーシにとってウクライナは兄弟のような存在だとして「ウクライナの自由を取り戻すことは、ベラルーシの将来にとっても大事なことだ」と述べ、ウクライナのためにロシア軍と徹底して戦う姿勢を示したうえで、ベラルーシに対して強まるロシアの影響力を排除することにもつなげたいとする考えを強調しました。
ベラルーシ人の志願兵 訓練の様子は
ウクライナ軍を支援するため、ロシアの同盟国であるベラルーシからも多くの志願兵がウクライナに赴き、ロシア軍と戦っています。
ポーランドの首都ワルシャワを拠点にベラルーシ人の志願兵を送り込む活動をしている団体は、志願兵を対象に訓練を行っていて19日、その様子がNHKに公開されました。
訓練は、けがをした仲間を助ける応急救護を学ぶもので、およそ10人が参加しました。
団体の代表を務めるパベル・クフタ氏が講師を務め、手当てをする場合は、危険を察知しやすくするため、戦闘が行われている方向に背を向けてはならないと注意を促したうえで、自動小銃などの武器をけが人の体の側面に押し当てて固定する必要があるなどと指摘しました。
また、血液による病気の感染を防ぐため手袋をつけることが望ましいとしたうえで、止血帯の使い方などを説明しました。
訓練を受けた志願兵たちはワルシャワの拠点を車で出発し、ウクライナに向かいました。
クフタ氏は「最初から戦闘に加わらせたりはしない。まずはキーウに派遣し、そこで銃の扱い方などを学ぶ。 訓練期間は、人によって異なるが、数週間ほどだ」と話していました。
「ウクライナの人たちを1人でもいいから救う」
ベラルーシ人の部隊に志願兵として参加する23歳の男性は、訓練のあと、NHKの取材に対して「救護について実際に学んだのは初めてだ。訓練を何度も繰り返すことで恐怖と戦うことができるようになると思う」としたうえで「ウクライナの人たちをたとえ1人でもいいから救うことができれば、それだけでも達成感を得られる」と話していました。
この男性は、おととし、ロシアと連携を深めるベラルーシのルカシェンコ政権に反対するデモに参加して身柄を拘束されたということで「真に愛国的で、殺される危険を覚悟で反政府活動をしているベラルーシ人がいることを知ってほしい」と訴えていました。
また、35歳の別の男性は、志願兵としてウクライナに行く目的について「ただ座って待っているというわけにはいかなかった。単に行くしかないということだ」と話しました。
そして「将来のベラルーシのために戦いに行く。ウクライナが負けてしまったら、世の中は一層悪くなるので、ウクライナは勝たなければならない。そうすればベラルーシも自由になる」と話していました。
●「プーチン大統領はあらゆる国際法に違反」ロシア人反戦の声  4/21
「私はうそに苦しむよりも、自由に死んだほうがましです」「軍事侵攻はロシア人にとって“特別な痛み”です」
厳しい弾圧、言論統制の中、ロシアからSNSなどで反戦の声を上げ続けている人たちがいます。そして、政権批判などで1万人以上の人たちが拘束されています。
リスクがありながらもどうして声をあげるのか。今回、SNSを通じて連絡をとり、彼・彼女たちの反戦への思い、生活状況、そして政権による弾圧などについて聞かせてもらいました。
日本からツイッターを通じて連絡をとり、以下の5つの質問をしました。これまでに8人に取材に応じてもらい、4人については4月11日公開した記事でご紹介しましたが、今回は、残る4人の回答を紹介します。
以下の質問をしました。
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
(2)2月24日以降、ロシア国内でどのような変化がありましたか?
(3)抗議の声を上げることにどのようなリスクがありますか?
(4)リスクがありながらも声を上げるのはなぜですか?
(5)今の政権をどう考えますか?
(取材に応じてくれた方の中には、名前を公表してもよいという方もいましたが、安全のためすべて匿名としています)
“声を上げずにはいられません”
26歳の女性(モスクワ在住、グラフィックデザイナー)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
主権国家であるウクライナへのロシア部隊の派兵を拒絶し、精神的にも民族的にも私たちに近い人たちへの全面戦争だととらえています。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
公に反戦を訴えている人は、国家から迫害され、危害を加えられるおそれがあります。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
私はいつ見つけ出されてもおかしくないと思います。道端で携帯電話の記録すべて調べ上げられ、尋問される可能性があります。「赤の広場」で抗議活動を行ったことで、罰金を科されるかもしれません。私の同僚の1人は「ロシアの領土から常識がなくなった」と書いたことで捜査され、刑事罰に問われています。抗議活動に対する最も厳しい刑罰は懲役もしくは禁錮15年です。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私はいつだって、言論の自由は最も重要な人権の1つだと信じてきたので、私の周りでこんなひどいことが起きているなか、声を上げずにはいられません。
(5)今の政権をどう考えますか?
私はいつだって現政権に対して反対の立場をとり、自分の立場を公にしてきました。
“大統領は世界を混乱に陥れている”
23歳の男性(モスクワ在住、情報分析メディア)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
ロシアの大統領による権力を保持するための厚かましい試みだと受け止めています。数年間にわたって真実のことばを1つも伝えず、プロパガンダを流すメディアを通じて、ウクライナでナチスが権力を掌握したとロシア人に伝え、外部に仮想の敵を作り上げてきました。私たちの大統領はロシア国民に歴史的な痛みを与えています。ほかの国と同じように、ナチスによって苦しめられてきた過去があるにも関わらずです。それと同時に、ロシア国内で起きている混乱と無秩序、それに大統領の帝国主義的な野望の実現へと焦点を移し、大統領はあらゆる国際法に違反し、世界を混乱に陥れています。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
“この困難な時期に”人々を支配下に置くために、政権は抗議の声を上げる人への抑圧を強めています。重大な結果に直面することなく、真実を伝えることはほとんど不可能になりました。世界全体が私たち、そして私たちの国に背を向け、いずれは“鉄のカーテン”によって世界全体から閉め出されるのではないかと危惧しています。すでにその兆候が出ていると感じています。多くの外国企業がロシア国内での活動を停止していて、その企業の代わりとなるサービスがないことがほとんどです。その損失が、次の世代が待ち受ける恐怖の1つです。いくつかの商品が不足していて、生活必需品などの物価が急速に高騰しています。個人的な話をすると、物価が上がっているので、もっと貯金をしなくてはならなくなりました。しかし、私の雇用主は十分な資金がないため、給料を上げてもらえません。すべてはこの軍事侵攻のせいなのです。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
戦争に、あるいは政権が主張している“特別な軍事作戦”に対して、抗議をする私たちの多くは権力からさまざまな妨害を受けます。それは予測不可能であり、すべてを挙げるのは不可能です。罰金を科される人や、罰金を科されたうえで7日間から1か月間拘留される人。ねつ造された罪によってより長い期間拘留される人。職場を解雇される人。国外に強制的に追放される人。家の扉に落書きをされて脅迫される人や、玄関に肥料をまかれたり、豚の生首を置かれたりする人。「裏切り者がここに住んでいる」などと書かれた紙を貼られる人。そして彼らはウクライナの“非ナチス化”について話をします。もちろん“ウクライナでの特別作戦についてのうその情報を広めること”に対する最も重い罰は、10年以上の懲役または禁錮の刑です。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私にとって自分の良心と折り合いをつけるのは難しいのです。何が起きているのか知りながら、黙っていることは難しいのです。切実に、真実を求めています。そして、平和と正義が打ち勝ち、これがいつか現実となることが私の望みです。本音を言うと、政権が私にとても怖がらせるようなことをしているので、最近は、抗議活動を減らさざるをえませんでした。でも、できるかぎり抗議活動に貢献しようと思います。一方で、強まる抑圧に対して、逆に抗議活動を強めている人もいて、私はそうした人たちを誇りに思い、敬意を表します。
(5)今の政権をどう考えますか?
2014年以降、現政権を支持できないと考えるようになり、2017年以降、抗議活動を行っています。私は現政権にとても否定的で、私の国に変化をもたらし、ウクライナに平和をもたらすために努力し続けると思います。そして、必要ならば、あらゆる平和的で合法的な手段で戦い続けます。
“とくに子どもが殺されるのは嫌です”
49歳女性(モスクワ在住、金融関係)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
私はウクライナへの軍事侵攻は、ウクライナとロシアの人々にとってだけでなく、世界全体にとっての犯罪、そして惨事であると思います。しかし、ロシア国民にとっては“特別な痛み”でもあります。ウクライナ人とロシア人は長い歴史を共有してきました。多くのロシア人とウクライナ人は、夫、妻、叔父や叔母など家族の結びつきを持っている人が多いです。私自身もウクライナ人の血筋があり、ウクライナのヘルソンとドニプロに親戚がいます。不幸なことに、その親戚とは連絡がとれず、何が起きているのかわかりません。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
物価は何度も上がっていて、店の棚からなくなりはじめている商品や生活必需品もあります。外国企業がロシアから撤退し始めました。多くの企業などでは従業員を解雇する動きがはじまっています。国境は閉じられ、国外に出ることが難しくなっています。プーチン大統領のプロパガンダは、国営テレビを通じて増えています。戦争やプーチン大統領の政策に反対する人は逮捕されはじめています。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
高額な罰金を科されるだけで済めば、まだましです。最悪の場合、私は拘留され、親族に危害を加えられるでしょう。そして、最悪のシナリオでは、私は撃たれるでしょう。そうならないことを願うばかりです。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私は戦争に反対しているからです。私は自由で民主的な国で暮らしたいと願っています。市民、とくに子どもが殺されるのは嫌なのです。普通で、常識あるロシア人が世界全体でのけ者にされるのは嫌です。そして“ロシア”ということばが“戦争と支配者”ということばに結びつけられるようになるのは嫌なのです。
(5)今の政権をどう考えますか?
20年ほど前に私は友人と「プーチン大統領は私たちを1937年に引き戻すつもりだ」と話していました。それがいま起きているのです。それはスターリンが抑圧をはじめた年だからです。その結果、私たちの国の状況はスターリン時代のようになってしまいました。プーチン大統領は彼のクローンとともに犯罪国家をつくりました。彼らをオリガルヒにし、政府の要職を与えました。彼らは国をなすがままにしました!彼らは恥ずかしげもなく国家予算を盗み、憲法ですべての人のものと定められた資源を売り払いました。彼らが私腹を肥やしています。彼らは世界で最高の大学で学び、妻や愛人、それにパートナーは世界で最高のリゾートで安らいでいます。ヨーロッパ諸国に別荘を持ち、ヨットを購入し、ヨーロッパや米国でいい生活を楽しんでいます。それなのに、テレビで欧米はどんなに悪なのか伝えています。それはとても腐敗した犯罪の力です。そしていま私たちは第2の北朝鮮になるところまできています。
“政府の行動を恥じています”
52歳女性(モスクワ在住、美容関係)
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
こんなことが本当に起きうるのか想像すらできませんでした。2月24日までは、私は政府の常識を望んでいました。私は戦争に反対です。しかし、不幸なことに、多くのロシア人たちは自分たちの軍と政府を誇りに思っています。私の立場は明確です。これは犯罪なのです。
(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
ルーブルが下落し、私の貯金は半分に減りました。それとは対照的に、ほとんどの商品がドルにひもづけられているため価格が倍になりました。砂糖、女性用品は店の棚から消えました。インスタグラム、フェイスブック、ティックトックへのアクセスが制限されています。近い将来ユーチューブへのアクセスもブロックされるのではないかと言われています。海外サイトへのリンクも検索エンジンから外されていて、ロシアが世界のインターネットから切り離されるのではないかという懸念もあります。私の収入も減りました。顧客が海外に出て行ったり、顧客の収入も減ったりしたためです。多くのものが手に入らなくなってきています。モスクワでアパートを購入するためにお金をためていましたが、いまの価格、抵当と私の収入を考えると、それは夢のまた夢となってしまいました。
(3)抗議の声を上げることにリスクは?
戦争を戦争と呼ぶことを禁じ、真実を話すことをうそを拡散することとする法律が制定されました。自由意思と表現の自由の尊重、それに平和を求め、政府に対して抗議の声をあげることに対して、3万ルーブルの罰金から15年の懲役もしくは禁錮の刑が科されます。
(4)リスクがありながらもなぜ声を?
こんなものが人生ではありません。私は起きていることに胸を痛め、政府の行動を恥じています。そして何よりも最悪なことは、それに対して私に何も変えられないことです。私は神経をすり減らしています。何も起きていないかのように見過ごすことはできません。自分の子どものことが心配です。この先、私の息子が戦争に動員され、逃走したと見なされるかもしれません。私は子どもの将来に鉄のカーテンがかかること恐れていて、子どもたちには私のように苦しんでほしくありません。それが私がリスクを負う覚悟がある理由です。私はうそで苦しむより、自由のまま死んだほうがましです。私は世界に対して、ロシアには実直で、賢明で、平和の実現のために協力できる人がいて、それが自分たちの力だけでできないでいるのだということを伝えたいのです。
(5)今の政権をどう考えますか?
プーチン大統領には弾劾と裁判、それにこれまでの不正を公にすることを望んでいます。そして政府には、市民から奪われたものを取り戻すことを求めます。
●G20閉幕 ロシア代表の発言時 米英などが席を立つ異例の展開  4/21
ワシントンで開かれていたG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議が閉幕しました。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの代表が発言する際、アメリカやイギリスなど複数の国の代表が席を立つ異例の展開となり、共同声明も採択されませんでした。
ロシアによる軍事侵攻以降、G20としては初めての閣僚級の会合となった財務相・中央銀行総裁会議は、ワシントンで日本時間の20日夜開幕しました。そして5時間余りにわたって討議を行い、21日朝、閉幕しました。
会議では、ウクライナ情勢が世界経済に与える影響が議論され、多くの参加国は軍事侵攻がもたらす人道危機と世界経済に及ぼす影響を懸念し、侵攻を今すぐやめるよう求めたということです。
これに対し、オンラインで出席したロシアのシルアノフ財務相は「世界経済の状況は非常に悪化している。ロシアに対する制裁が、すでに生じていたインフレ圧力を強めているだけでなく、経済の新たなリスクになっている」などと述べ、欧米などによる経済制裁を批判しました。
鈴木財務大臣は途中退席しなかったものの、イギリスのスナク財務相は、ツイッターへの投稿で、ロシアの代表が発言する際、アメリカやイギリスなど、複数の国の代表が席を立ったことを明らかにし、異例の展開となりました。
また、議論の成果をまとめる共同声明も採択されず、対立の構図が鮮明になりました。
インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相は、閉幕後の記者会見で「軍事侵攻が世界経済の回復をより複雑にしており、感染症への対応や気候変動などへの努力を阻害しているという見方は参加国の間で共有された」と述べました。
英財務相 “戦争を非難するために団結”
イギリスのスナク財務相はツイッターへの投稿で「ロシアの代表者が発言する際、われわれはアメリカとカナダとともに会場を離れた。われわれはロシアによるウクライナに対する戦争を非難するために団結し、ロシアを罰する強い対応を協調して推し進めていく」と表明しました。また、カナダのフリーランド副首相兼財務相もツイッターに「カナダと多くの民主的なパートナーは、ロシアの発言時に退出した」と投稿しました。現地の複数のメディアは、アメリカのイエレン財務長官も退席したと伝えています。
人道危機や経済影響に深い懸念 一方で制裁反対の声も
会議のあと、議長国 インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相はオンライン形式で記者会見しました。この中でスリ・ムルヤニ財務相は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が会議の議題となったことを明らかにしたうえで「戦争による人道危機や経済の影響に深い懸念が示され、戦争の一日も早い終結を求める声があがった。多くの国が戦争は正当化できず、国際法に違反すると非難した」と述べました。一方で「一部のメンバーは経済制裁による影響に懸念を示した」とも説明しました。また今回、ロシアの参加をめぐって各国の間で意見の違いがあったことについて、スリ・ムルヤニ財務相は「ロシアの参加に反対の声が出るのは驚きではなかったが、議論は混乱なく終えられた。ロシアへの強い非難があるにもかかわらず、すべてのメンバーが協力を維持し続ける必要性を理解していて、G20の協力関係や役割が失われることはないと確信している」と強調しました。
松野官房長官「ロシアを非難したうえで退席せず」
松野官房長官は記者会見で「G20=主要20か国とG7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議ではロシアのウクライナ侵略による世界経済への影響などについて議論が行われた。日本を含むG7各国はロシアの侵略行為を厳しく非難し、一致してロシアに圧力をかけている。鈴木財務大臣は会議の場でロシアを厳しく非難したうえで退席はしなかったが、鈴木大臣が現地でも記者会見を行っているので私からは詳細を控えたい」と述べました。
中国 欧米などけん制
中国政府は21日、G20の財務相・中央銀行総裁会議にオンラインで参加した劉昆財政相の発言の内容を明らかにしました。それによりますと、劉財政相は「リスクと挑戦に対して、G20のメンバーは団結と協力をし、不安定な世界に安定性を提供するべきだ」と述べました。そのうえで「G20は国連を中心とした国際システムと、国際法に基づく秩序の改善に取り組むべきだ。世界経済を政治問題化したり、道具や武器にしたりすべきではない」と述べ、ロシアへの経済制裁を強める欧米などをけん制しました。中国政府は今回のG20の会議で経済を政治問題化することに反対し、議論を経済的な影響に絞るべきという姿勢を強調したとしています。
専門家「国際協調に支障が出ているならば 極めて残念」
今回のG20について、財務省の財務官やIMF=国際通貨基金の副専務理事をつとめた三井住友銀行国際金融研究所の古澤満宏理事長は「ウクライナ侵攻をめぐる各国の立場の違いで国際協調に支障が出ているならば、極めて残念なことだ。会議では議論がなされたとは思うが、その土台となる立場が大きく違っていて、十分な環境が整っていない」と述べました。複数の国の代表が席を立ったことについては「珍しいことだ。ずいぶん国際会議には出てきたがあまり離席をしたというのを見た記憶はない」と述べました。また、今後G20が役割を果たしていけるかについて「世界経済の8割を占める先進国と新興国が参加し、国際協調を進める枠組みのポテンシャルは十分持っている。ただ、今の状況では十分な進展が期待できず一刻も早い戦争の終結による事態の改善が必要だ」と述べました。G20で日本の果たすべき役割については「先進国の1つの国としてリードしていくことだ。いろいろ知恵を絞っていくとか人的な貢献も含めて国際協調に取り組んでいくべきだ」と述べました。
●プーチン大統領「支配下に置いた」宣言 …5/9にマリウポリで戦勝パレードか 4/21
ロシアのプーチン大統領は21日、激戦が続いていたウクライナ南東部のマリウポリを巡り「支配下に置いた」と宣言しました。その上で、最後のとりでとなっていた製鉄所への攻撃を中止して、封鎖するよう指示しました。ロシア側は、ロシアの戦勝記念日にあたる5月9日に、マリウポリで戦勝パレードを行うとしています。
21日、ロシアのプーチン大統領とショイグ国防相の会談の様子が映像で公開されました。
ショイグ国防相「マリウポリ全体がロシア軍と『ドネツク人民共和国』の支配下にあります」
プーチン大統領「提案されている工業地帯の襲撃は、不適切だと思います。中止するように命じます」
プーチン大統領は、ウクライナ南東のマリウポリにあるアゾフスタリ製鉄所の攻撃を中止するよう指示しました。
プーチン大統領「ハエ一匹も出入りしないよう、施設を封鎖してください。マリウポリのような、南部にある重要な中心地を支配下に置くことは成功です。おめでとう」
プーチン大統領は「マリウポリの解放に関する作戦は成功した」と話し制圧を宣言した形です。製鉄所のウクライナ軍に対しては、改めて投降するよう呼びかけるということです。
アゾフスタリ製鉄所を巡っては20日、製鉄所内にいるウクライナ軍の司令官が動画を投稿しました。
第36海兵旅団 ボリンスキー司令官「これが世界に向けた私たちの人生最後の訴えになるかもしれない。あと数日間か数時間しか生きられないかもしれない」
10倍ものロシア軍に囲まれている厳しい現状を訴え、負傷した民間人を第三国へ移すよう求めました。
さらにボリンスキー司令官に日本テレビが接触したところ、音声でのメッセージが送られてきて、改めて、民間人などの安全な避難を求めました。
ボリンスキー司令官(日本時間午前7時ごろの音声)「ここには500人以上、けがをしている兵士がいます。何百人の民間人がいます。戦うチャンスはもう私たちにはない。武器がありません」
ただ、ロイター通信によると、プーチン大統領に忠誠を誓うチェチェン共和国のカディロフ首長は「ロシア軍が21日に製鉄所を完全に支配下に置くだろう」との見方を示していました。
さらに、ロシア側は、ロシアの戦勝記念日にあたる5月9日に、マリウポリで戦勝パレードを行うとしています。
さらに、ロシア軍はウクライナ東部でも攻勢を強めています。ウクライナの警察は、激しい攻撃が続く東部の町から避難してきた人たちの手助けをしている様子だという映像を公開しました。
警察官「侵略者たちは、町から出る車列を砲撃している」
避難してきた人は「すべてが燃えている。すべて破壊されている、毎日のように」と話していました。東部の町では毎日、砲撃があり、地下室から出ることができない状態が続いているといいます。
さらに、ロシアは日本時間20日午後9時すぎ、新型のICBM(=大陸間弾道ミサイル)「サルマト」の発射実験を行いました。
プーチン大統領「暴力的な言葉で私たちの国を脅かそうとする者たちを再考させることになるでしょう」
ロシア国防省は「サルマト」について、「核弾頭搭載が可能で、射程は11000キロ以上と世界で最も長い」と説明しています。軍事力を誇示し、欧米諸国をけん制する狙いがあるとみられています。
●プーチン大統領 マリウポリ掌握と主張 製鉄所の攻撃中止を命令  4/21
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部の要衝マリウポリを掌握したと主張したうえで、ウクライナ側の部隊が拠点とする製鉄所については攻撃を中止し、一帯の包囲は継続するよう命令しました。これに対しウクライナ側は、製鉄所をめぐる状況は何も変わらず、プーチン大統領の主張は国内向けに勝利を強調したいだけにすぎないと反発しています。
ロシア大統領府は21日、プーチン大統領がショイグ国防相からウクライナ東部の要衝マリウポリの状況を巡って報告を受けたと発表しました。
このなかでショイグ国防相は「マリウポリ全体が、ロシア軍と親ロシア派の支配下にある」と述べ、マリウポリを掌握したと主張した一方で、製鉄所には、今もウクライナ側の部隊2000人以上が残っていると説明しました。
これを受けてプーチン大統領は「マリウポリを解放するための戦闘は完了し、成功した」と主張し「これ以上の攻撃は適切とは思えない」と述べ、製鉄所への攻撃を中止するよう指示しました。
そのうえで「ハエ1匹通さないよう一帯を封鎖するように」と述べ、製鉄所がある工業団地一帯の包囲は継続するよう命令しました。
一方、ウクライナ大統領府の顧問のアレストビッチ氏は21日、動画で「プーチンが攻撃の中止を命じたのは、物理的に製鉄所を奪えないからだ。ロシア側は大打撃を被った。ウクライナの部隊は、製鉄所の防衛を続けている」と述べ、ロシア軍が製鉄所を掌握するのは難しいと強調しました。
また、マリウポリ市長の顧問も21日、SNSで、「製鉄所にいる兵士と市民の状況は何も変わらない」と訴えたうえで「破壊された場所を背景に、ありもしない勝利をなんとかして報告したいというプーチンの希望があるだけだ」とコメントしています。
プーチン大統領は、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した来月9日の「戦勝記念日」に向けて、マリウポリの掌握を重要な戦果として、国内向けに強調したい思惑があるとみられています。
ウクライナ側は、マリウポリを掌握したなどというプーチン大統領の主張は勝利を強調したいだけにすぎないと反発しています。
マリウポリとは
ウクライナ東部の都市マリウポリは、ドネツク州にあるアゾフ海に面した港町です。
石炭や鉄鋼などの輸出の拠点になっているほか、沿岸部には工場も建ち並ぶ港湾都市として栄えてきました。
2014年からは、東側の親ロシア派の武装勢力と対じする前線にもなってきました。
一方、ロシアにとっては、マリウポリの南西にはロシアが一方的に併合したクリミアがあり、ロシア南部からクリミアまでを陸路で結ぶ重要な場所になっています。
またマリウポリは、ロシアが「ネオナチ集団」と敵視するウクライナの精鋭部隊「アゾフ大隊」の拠点があり、ロシア軍は軍事侵攻を始めた当初から街の掌握に向けて攻撃を続けてきました。
マリウポリを包囲するロシア側との間で激しい市街戦が伝えられ、女性や子どもが避難していた劇場や学校も爆撃を受けるなど、ウクライナ側は深刻な人道危機が続いていると訴えていました。
ロシアによる軍事侵攻が始まる前の人口は40万余り。
マリウポリのボイチェンコ市長は、今月11日「2万1000人の市民が殺害された」として、少なくとも人口の5%に当たる市民が犠牲になったという見方を示しています。
また、避難できずにいる市民のため「人道回廊」と呼ばれる避難ルートが設置されてきましたが、ウクライナ側は、ロシア軍が攻撃をやめず市民の避難を妨害しているとたびたび訴えています。
ロシア側の攻勢で、ウクライナ側の部隊が拠点としてきた製鉄所をめぐり攻防が続き、ロシア国防省は重ねて降伏を呼びかけてきましたが、ウクライナ側は徹底抗戦の構えを示していました。
アメリカ国防省「りゅう弾砲」提供の背景
アメリカ国防省は、ウクライナへの追加の軍事支援として「155ミリりゅう弾砲」18門と、4万発の砲弾を提供するとしています。
りゅう弾砲は、大口径の砲弾を、数十キロ先の敵の陣地などに大量に撃ち込むことで、広いエリアを一気に制圧することができる重火器で、陸上自衛隊でも運用しています。
アメリカがりゅう弾砲を提供する背景について、安全保障に詳しい、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠専任講師は、戦闘の焦点がウクライナの東部に移っていることをあげ「東部のドンバス地方は、非常に開けた土地で隠れる場所がないので、両軍が真正面からぶつかり合う戦闘になる。そうすると、相手に対してどれだけ集中的に火力を発揮できるかが重要になる」と指摘しています。
そのうえで「ここまでロシアはかなり苦戦してきたが、東部のような平地での戦いであれば、相当な戦力を発揮する可能性が依然としてある。逆にウクライナや西側諸国から見れば、ここでロシア軍の攻勢を頓挫させられれば、当面ウクライナへの大規模な侵略を行うことが不可能になる展開が望める。今回の戦争全体のすう勢にもかなり影響してくるので、こうした大型兵器の援助は戦略的な価値が高い」と話しています。
「バンカーバスター」とは
ウクライナ側は、マリウポリの製鉄所に対してロシアが「バンカーバスター」とも呼ばれる、特殊な爆弾を使って攻撃していると主張しています。
これは厚いコンクリートなどを突き破ったあとで爆発を起こし、地下の軍事施設などを攻撃するために使用されます。
ロシアの軍事戦略や装備体系に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠専任講師は「主にアメリカ軍がテロとの戦いや北朝鮮などを念頭に重視してきた兵器で、ロシア軍も戦闘機などから投下するタイプを開発、配備しているが、過去に大々的に使用されたケースは聞いたことがない」と話します。
今回、実際に使用されたとすれば、地下のトンネルに潜り込んで抵抗を続けるウクライナ側の兵士を攻撃するためだと考えられるとしたうえで、「地中にはかなり複雑にトンネルが走っているはずで、地上からはどこに誰がいるかわからないため、使用されたとして、果たしてどれくらい効果があるかはわからない」と指摘しています。
また、「地下には兵士だけでなく多数の民間人もいるとされ、どうやって区別しているのか、あるいはそもそも区別する気がないのか、そのあたりも問題だ」と述べ、民間人の犠牲がさらに広がることへの懸念を示しました。
●「戦争は第2段階に入った」ウクライナ東部の制圧に本格攻勢のロシア 4/21
ロシア軍はウクライナ東部への攻勢を強めていて、ウクライナ側は「戦争の第2段階に入った」との認識を示しています。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんは戦況について「ロシア軍では当初、軍事作戦を機能させるための司令部がなかったが、4月に入りようやくできた。広げすぎていた部隊を東部に集中し、緻密で連携した作戦を実施し、本気になりだしたのではないか」と分析しています。
また、ロシア軍に包囲されているマリウポリで、最後の砦となっている「製鉄所」のシェルターには1000人超の市民がいて、ロシア側の投降の呼びかけに応じていません。今後のロシア側の対応などについて解説します。
――ウクライナ側は「戦争は第2段階に入った」というふうに話しています。ロシア側の戦況をどのように分析されますか?
「最初はロシア側、プーチン大統領は2月24日に侵攻の命令出したんですけれども、それまでは部内でも秘密にしていたと思うんですね。ですから部隊が訓練だと思っていたし、そういう意味では全体を統括する司令部もありませんでした。これは推測ですけれどもウクライナ軍って本当に弱いと思っていた節があるんですね。なので、プーチン大統領はそのように踏んでいて十分だろうと。しかしウクライナ軍は意外と強かったということで、軍事作戦として司令部がなければ機能しないんですね。部隊任せだったんですけれども、4月に入りようやく司令官を任命して司令部ができたんですね。今までの反省から広げすぎていた部隊をドンバス地方に集中して集めて、それから中央の司令部を作って緻密な作戦、色んな連携した作戦をやると。これは元々オーソドックスなやり方なんですけれども、ロシアがここに来てそれを始めたということです。研究機関とか国防総省が出してくるアメリカの情報というのは、おそらくアメリカの偵察機なり偵察衛星で見てますから非常に確度が高い情報だと思うんですけれども、ただですねウクライナ軍が最初から作戦の方針で一切自分たちの情報を出さないということを徹底してるんですね。普通はこういった西側対東側みたいな形になれば、西側系の部隊は記者を連れて報道上も有利に進めるという作戦を立てるんですけれども、ウクライナ軍はとにかく自分たちの行動を一切秘密にするという目的で、本当にCNNやBBCとかの限られたクルーだけを限られた場所だけ連れて行くとしかしていないです。ですからウクライナ側の動きというのは全くわからないという現状がありますね。なのでその情報をどう出すかみたいなところも一つ大きなポイントになってくるのかもしれません」
――ロシア軍に包囲されている東部のマリウポリですが、その中の最後の砦とされているのが「製鉄所」という場所がありますが、そこに設置されたシェルターには1000人を超える市民がいるということです。ロシア側は投降の呼びかけますが応じていません。一体どうなるのか、黒井さんの見解では、まず弾薬や食料が尽きるのを待つ。そして歩兵で掃討作戦を行う。これも強硬策だということでしょうか?
「もうここまでくると、ウクライナ側はまだ持ちこたえられてるんで強気の姿勢と言ってるんですけれども、やはり巻き返すのは相当難しいと思いますね。ロシアとしては投降させて、要は制圧すればいいということなので、今はもう完全に封鎖してますから、そういうことになると思うんです。しかし、その間何もしないわけではなくて、ロシアは空爆や爆撃はその間もずっと続けるということですね。民間人の方もいますから、その状態がどこまで持つのか、特に食料や水ですね、そこが心配になってきて民間の人にも回らなくなれば、ウクライナ軍はどこまで踏ん張れるのかなと楽観的になれないですね」
――日本政府はウクライナにドローンを提供するという話が進んでいます。市販されているので防衛装備品には当たらないという認識でウクライナに提供してもいいのではないかという話が出ているということです。防衛装備品であれば「防衛装備移転三原則」で移転に制限がありますが、防衛省の見解は「今回は状況監視用です」という見解を示しています。こうした日本の動きをどうご覧になりますか?
「実際は外交で解決できれば一番いいんですけれども、ロシアの今やっていることがうまくできないんですね。結局プーチン大統領が全部決めてるんです。けれども彼らは何か妥協点があればそれを利用してどんどんやってくるということが予想されますので、なかなか妥協することは難しい。かといって直接NATOが入っていけばロシアと直接戦争になる可能性があって、プーチン大統領ですから本当に最後は核ということまで考えなきゃいけない脅威があります。NATOの加盟国は直接介入しないまでも情報面での協力をしたり武器を渡すと。ウクライナ側もそれを望んでいて、自分たちにはやる力はあるが武器が足りないと。何もしないとロシア軍に制圧されますので、制圧された場合はかなり悲惨なことが予想されます。そのため今武器を渡すということで何とかウクライナに踏ん張ってもらうという状況ですね」 

 

●マリウポリ“製鉄所”で抗戦…司令官「人生最後の訴えになるかも」 4/22
ロシア軍などに包囲されたウクライナ南東部のマリウポリ。その製鉄所で抗戦を続けているとみられるウクライナ軍の司令官は、音声メッセージで「ここには何百人もの民間人がいる」「私たちの安全な移動を確保してほしい」と日本などに訴えました。一方、プーチン大統領はショイグ国防相との会談で「作戦は成功した」と述べ、マリウポリの制圧を宣言しました。
20日に公開された映像で、“人生最後”と呼びかけた、ウクライナ軍の司令官。
ウクライナ軍 ボリンスキー司令官「これが人生最後の訴えになるかもしれません」
ウクライナ南東部、マリウポリの“最後の砦(とりで)”、アゾフスタリ製鉄所で抗戦を続けているとみられます。
ボリンスキー司令官「あと数日、数時間しか生きられないかもしれません。私たちは、今いる場所を守っているだけです。ここで犠牲になった民間人もいます。第三国の安全な場所への移動を手伝ってください」
マリウポリを包囲する、ロシア軍や親ロシア派の兵士。マリウポリでは、「人道回廊」が設置される予定でしたが、ウクライナ側は「計画通りに機能しなかった」と明らかにしました。
「news zero」は、先ほどのアゾフスタリ製鉄所で抗戦するウクライナ軍司令官に接触。日本時間の21日朝に送られてきた音声メッセージでは、日本に向けた司令官からの悲痛な訴えが録音されていました。
ボリンスキー司令官「世界に向けて話しています。特に日本、日本国民、日本政府。私たちの安全な移動を確保してほしいです。ここには500人以上の負傷した兵士がいます。何百人もの民間人がいます。女性と子どもたちもいます。戦うチャンスは、もうありません。武器がありません。敵は私たちより何十倍、何百倍も大きいです」
そうした中、日本時間21日午後4時にロシアのプーチン大統領とショイグ国防大臣の会談の映像が公開されました。侵攻直後はショイグ国防相から遠く離れた席で報告を受けていたプーチン大統領が、公開された映像では大臣と面と向かい、至近距離で報告を受けていました。
ショイグ国防相「マリウポリ全体は、ロシア軍と親ロシア派の支配下にあります」
マリウポリ市街地の制圧。一方、製鉄所にはウクライナ側の部隊2000人以上が残っていて、制圧には数日かかると説明しました。
ショイグ国防相「(ウクライナ軍が)残り2000人以上は、アゾフスタリ製鉄所に残っています」
それに対しプーチン大統領は「工業地帯(製鉄所)への攻撃は得策だと思えない。攻撃の中止を命令する。迷路のような地下道に入って、はい回る必要はない」と、製鉄所への攻撃中止を命じた上で――
プーチン大統領「ハエ一匹も出入りしないよう、施設(製鉄所)を封鎖しなさい。まだ武器をおいていない人には、改めて降伏するように提案を。ロシア側は命を保証します」「マリウポリ解放の作戦は成功だ。おめでとう!」
製鉄所の封鎖を指示し、“制圧を宣言”しました。
ウクライナ側はこうしたプーチン大統領の一連の発言について、「言っていることに筋が通っておらず、マリウポリはまだ制圧できていない」と反論しています。
日本時間21日午後9時ごろ、マリウポリのボイチェンコ市長も「今も市民が避難している製鉄所は、攻撃を受け続けています。マリウポリでは10万人以上の市民が残っています。勇気ある兵士たちが全力を尽くして街を守っています。何を言われても、ここはウクライナのものです!」と反論しました。
ロシア側は、5月9日の戦勝記念日のパレードをマリウポリで行うとしています。
●プーチン大統領 マリウポリ掌握主張もウクライナ側は否定  4/22
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部の要衝マリウポリを掌握したと主張しましたが、ウクライナ側はこれを否定し、抵抗を続ける構えです。ロシア側は今後、マリウポリ以外の東部に戦力を投入して、支配地域の拡大を急ぐとみられ、東部で激しい攻防が続くものとみられます。
ロシアのプーチン大統領は21日、クレムリンでショイグ国防相から東部の要衝マリウポリの戦況について報告を受け、「マリウポリを解放するための戦闘は完了し、成功した」と述べ、マリウポリを掌握したと主張しました。
またショイグ国防相が、マリウポリ市内の製鉄所には、今もウクライナ側の部隊2000人以上が残っていると説明したのに対し、プーチン大統領は「これ以上の攻撃は適切とは思えない」と述べ、製鉄所への攻撃を中止するよう指示しました。
そのうえで「ハエ1匹通さないよう一帯を封鎖するように」と述べ、製鉄所がある工業団地一帯の包囲を続けるよう命令しました。
ロシアは製鉄所にとどまっているウクライナ側の部隊に対し武装を解除して降伏するよう迫りましたが、ウクライナ側は徹底抗戦する構えを崩していません。
プーチン大統領は、ショイグ国防相に対し、「われわれの兵士の命を守ることも考えねばならない」とも発言していて、ウクライナ側の抵抗が続く中、ロシアとしてはマリウポリの「掌握」を宣言し、マリウポリ以外の東部にロシア軍の戦力を投入し、支配地域の拡大を急ぐとみられます。
特に、プーチン大統領は、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した来月9日の「戦勝記念日」に向けて、国内向けに戦果として強調したい思惑があるとされています。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は21日の会見で「市のほとんどが掌握されていることは知っているが、まだ一部にはわれわれの部隊が残っている」と述べて、ウクライナ側が抵抗を続けていると主張しました。
そのうえで「12万人近くの市民が市内に取り残されているとみられる」として市民の避難の必要性を訴えました。
また、マリウポリ市長の顧問も21日、SNSで「ありもしない勝利をなんとかして報告したいというプーチンの希望があるだけだ」とコメントしています。
ウクライナ側は、マリウポリを掌握したとするプーチン大統領の主張を否定し、抵抗する構えを示していて、東部で激しい攻防が続くものとみられます。
●「マリウポリ掌握」に懐疑的見方、市長顧問「ロシア軍が爆撃継続」  4/22
ウクライナ南東部マリウポリの当局者は21日、市内でロシア軍による攻撃が続いていると明らかにした。米国防総省高官も、市内で激しい空爆が継続し、ウクライナ軍が依然抵抗しているとの認識を示した。プーチン露政権が21日に宣言した「マリウポリ掌握」に懐疑的な見方が強まっている。
マリウポリ市長の顧問は21日、SNSで、プーチン大統領が突入作戦の中止を命じたアゾフスタリ製鉄所に対し、露軍が「今も爆撃を続けている。製鉄所から離れた場所でも戦闘が行われている」と明かした。「製鉄所にいる人々を全滅するまで(露軍は)止まらない」として非難した。
ロシアがマリウポリを完全制圧したとの主張には、侵攻の成果をアピールするとともに、東部のドネツク、ルハンスク両州の完全制圧に向けて兵力を振り向ける狙いも指摘されていた。
米国防総省高官は21日、記者団に対し、露軍部隊にマリウポリから離れる動きが見られず「まだマリウポリ(の陥落)に集中している」との分析を示した。バイデン米大統領も21日、ロシアの主張に対して「疑わしい」との見方を示した。
一方、ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は21日、SNSに「(マリウポリで)砲撃が起きた」と投稿し、住民の退避が思うように進んでいない現状を訴えた。
露国防省は21日、ドネツク、ルハンスク両州の各地でウクライナ軍の弾薬庫や兵器を破壊したと発表した。ロイター通信によると、ウクライナの大統領府高官は21日、「ドネツク州内の42の村が今日、(露軍に)占領されたリストに加わった」と明かした。マリウポリ以外の東部でも、露軍の攻勢が続いているとみられる。
ウクライナ国営通信などによると、ドネツク州の北方に位置するハルキウ州の州都ハルキウなどでも、露軍の攻撃が続いている。米国防総省高官は21日、露軍がハルキウ州の輸送拠点となっているイジュームから、引き続き南下を図っているのに対し、ウクライナ軍の抵抗により、「両軍共に大きな成果はみられない」との認識を示した。
同通信も「ドネツク、ルハンスク州方面で、過去24時間のうちに10回の攻撃を阻止した」として、ウクライナ側の抵抗を伝えている。
●プーチン氏「ハエも飛ばすな」、マリウポリ完全掌握を宣言…  4/22
ロシアのプーチン大統領は21日、ロシア軍が包囲するウクライナ南東部マリウポリについて、セルゲイ・ショイグ国防相から市内を「完全掌握した」との報告を受け、「戦闘任務が完了した」との認識を示した。ウクライナ側の兵士が抵抗を続けるアゾフスタリ製鉄所については、突入作戦の中止を命じた。ウクライナ側はロシアの主張を否定し、抗戦を続ける構えを示した。
マリウポリは、ロシアが2014年に併合した南部クリミアと東部の親露派武装集団が実効支配する地域の間にある要衝だ。露国営テレビはプーチン氏とショイグ氏の会談の模様を繰り返し放映した。5月9日に旧ソ連による対独戦勝記念日を控え、「完全掌握」の宣言で「戦果」を誇示したものとみられる。
露大統領府によると、ショイグ氏は、ウクライナ軍と武装組織「アゾフ大隊」の兵士らが最後の拠点とするアゾフスタリ製鉄所について、2000人以上が残っているが、周辺を完全に「封鎖」していると語った。3月11日の時点でマリウポリに約8100人いたウクライナ兵のうち4000人以上を殺害し、1478人が降伏したと説明した。
プーチン氏は軍事作戦の「成功」を宣言した上で、製鉄所への突入は「現実的ではない」と述べ、中止を命じた。「ハエも飛ばさぬように」との表現で封鎖の継続を指示し、ウクライナ兵に改めて投降を求めた。
ロイター通信によると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は21日、「マリウポリの大部分はロシアの管理下にあるが、一部は我が部隊のものだ」と述べ、ロシアによる「完全掌握」を否定した。マリウポリの市長顧問によると、露側の宣言後も戦闘が続いているという。バイデン米大統領も21日、記者団に「ロシアが完全に制圧したことを示す証拠はまだない」と語った。
一方、ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は21日、SNSを通じ、製鉄所には民間人約1000人や負傷した兵士約500人がいるとして、ロシア側に退避のための「人道回廊」の設置を求めた。20日にも「人道回廊」の設置で双方が合意したが不調に終わっていた。ミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は20日、民間人救出のため「前提条件なしで現地で協議する用意」を表明した。
東部での露軍の攻撃について、米国防総省高官は20日、記者団に対し、ハルキウ(ハリコフ)州イジューム周辺などで空爆を激化させていることを明らかにした。露国防省は21日、ルハンスク(ルガンスク)州クレミンナを「完全掌握した」と発表した。ルハンスク州知事は20日、「州の約8割がロシアに占拠されている」と述べた。
●「ウクライナ戦争」で苦悩するテレビ報道現場…「遺体映像」はどうする? 4/22
「テレビの現場」は「ウクライナ戦争」をどう報じているか?
長期化するロシアによるウクライナ侵攻。一般人の犠牲者は増える一方で、連日テレビでも悲惨な映像とともに悲しいニュースが放送されている。遺体などの映像を視聴することでストレスを受ける方も増えてきており、報道のあり方についての批判の声も多いのが現状ではないだろうか。
しかし他方、目を覆いたくなるようなものであっても、戦争の現実を報道することが非常に重要な意味を持つことも確かだ。こうした中、テレビ報道の現場では現在どのようなことを思い、どんなジレンマを抱えて日々ニュースを制作・報道しているのだろうか。
長年テレビニュースの制作に関わってきた筆者が、ニュース番組の制作現場で働くディレクターとプロデューサーに「テレビのウクライナ報道のいま」について話を聞いた。以下、太字で紹介する文言は民放の東京キー局のニュース番組の現場で働くスタッフの証言である。
「遺体の映像」をどのように扱うべきか?
今回のロシアによるウクライナへの侵攻を報じるにあたって、テレビニュースのスタッフは、日々どのようなことに気を遣っているのか。その筆頭は「遺体など悲惨な映像の取り扱い方」に関するものだった。
『なぜ遺体を映すのかというと、取材者・表現者としては、そこで発生した悲惨な出来事をなるべく伝えようと思っての事ですが、過剰にならないような配慮はもちろん必要だと思います。線引きは確かに難しいです。
例えば、1993年の湾岸戦争では、米軍が誤爆したシェルターなど凄惨なシーンは、さすがにそのまま放送することは、編集側の判断でしませんでした。翌94年のルワンダ内戦の虐殺現場の映像は、あまり悲惨なのはモザイクを掛けましたが、悲惨さを伝えるため「逃げ惑うまま後頭部を殴打されて倒れたままの遺体」などは、そのまま放映してもらいました。
その後は視聴者側からの細かいクレームも増え、現在は「遺体が映っていてはNG」となっていると思います。
悲惨でなくても遺体が映っているのを見るのはイヤだとか、苦痛だとの声も寄せられているのも確かで、極論を言うと、街中の雑踏の顔すらモザイクをかけて配慮する番組も増えているのが現状で、番組によってまちまちな印象です。』(ニュース番組プロデューサー)
このプロデューサーも指摘するように、筆者の経験から言っても、テレビ局には「ニュース番組で遺体の映像をどのように放送するか」についての具体的な決まりは存在しないと思う。もちろん「視聴者に不快感を与えないようにしなければならない」などの抽象的なルールは決められてはいるが、では実際にどのように映像を加工すべきか?などの詳細については、ケースバイケースであり、それぞれの番組の責任者が判断すべき問題であるとされているはずだ。
今回のウクライナ侵攻についても、現場のスタッフたちに「遺体映像をどのように扱うべきか」についての具体的指示がされているケースは筆者の知る限りなかった。ただ、かつてよりも「悲惨な映像には配慮すべき」という現場の空気は強まっているようだ。しかし、こんな声も聞かれた。
『今の日本のテレビ報道は「きれいな戦争現場」のみを伝えすぎていると思います。
もちろんテレビというメディアの特性上、子供が見る時間帯などに凄惨な映像を流す事は避けるべきでしょう。
しかし、映像には何かを伝える力があると信じるからこそ、我々(テレビ報道関係者)はカメラを使って撮影し、編集し、放送しているはずです。それを安易に捨て去ってしまって良いはずはありません。
また深夜の時間帯や、ネットを活用し、登録者限定の形などの方式を使ったりしながら、モザイク処理なしの映像を使った番組を制作するなどのチャレンジがあっても良いと思います。』(ニュース番組ディレクター)
今回のウクライナ報道では「これから遺体の映像が流れます」という注意喚起のテロップを表示してから、モザイク処理された遺体の映像を流す対応をしている番組がほぼ標準的なようだ。こうしたテロップによる注意喚起は、東日本大震災の津波映像などで多く取られた方法である。
いずれにしろ、戦争の悲惨さを伝えることは報道機関としての使命であり、そこには重要な意味もあると考えられるわけで、いかに「子どもなど、悲惨な映像を見せるべきではない人や見たくない人」に配慮しつつ、伝えるべき真実をきちんと伝えるべきかについての努力が必要なのは間違いのないところだろう。
前出のディレクターも、こうした遺体映像の扱いについて「今回の戦争が終わってから議論するのではなく、現在進行系でもっと議論を深め、その過程も公開していくべきではないでしょうか。こういう議論をする時間がなく、現場の声があまり反映されない点が課題として挙げられると思います。」と指摘している。この指摘は非常に重要なポイントだと私も思う。
現場で「悲惨な映像」を扱うスタッフへのケア
そして、遺体などの悲惨な映像に関しては、こんな問題を指摘する声もある。
『今回ウクライナから送られてくる映像には結構な量の、生々しかったり、焼け焦げた死体が映っています。若い女性の編集担当者は悲鳴に近い声をあげていました。僕がこれまでに仕事で担当した経験では、ここまで厳しい状況の映像はありませんでした。
そういうショッキングな映像を「これは放送すべきか、もし放送するとしたらどのような表現方法が良いか?」など1カットごとに判断し、人力でカットしたり、モザイクをかけたりしながら放送は成り立っています。
編集担当の人たちは、長時間そういう映像を見る事になります。そして当然の結果として、かなりタフな人以外は、精神的にやられてしまいます。イスラム国の時は、生きてる人間を切断する映像が色々と送られてきて、僕も数カ月間ぐらいはトラウマになっていました。
なんというか、こうした問題にそろそろケアが必要なんじゃないかと思います。』(ニュース番組ディレクター)
海外の戦地から送られてくる無修正の映像素材は、私もこれまでに多く見ているが、通常人の感覚では耐えられないほど悲惨で、目を覆いたくなる。こうした映像をディレクターや編集マンなどがひとつひとつ目視で確認し、選別することは避けられないわけだが、長期間にわたってこうした仕事を行うことで、精神的なダメージを受けてしまうスタッフが出てくる可能性にも配慮する必要があるだろう。
しかし、現在のところどこかの放送局がこうしたスタッフのメンタルケアなどに取り組んでいるという話は、私は聞いたことがない。ぜひこのあたり、放送局には早急に対応策を考えてもらいたいものだ。
海外と比較して日本のテレビの問題点は?
ウクライナ報道に関して、日本のテレビ局は、海外のテレビ局と比べてどうなのか?これについては、内部からも厳しい批判の声が上がっている。
『戦場に記者を派遣していない日本のメディアは、「スタートラインに立ってすらいない」と思います。これはとても恥ずべき事ではないでしょうか?
また日本は「署名記事(や番組)」が圧倒的に少ないと感じています。
海外のメディアの中には、すべての記事の文末に記者のメールアドレスを記載しているところもあります。日本ももっと個人の名前を出す形での報道があって良いと思うし、それが画一的な報道を脱却する一つの手立てになると思います。』(ニュース番組ディレクター)
このように、日本の放送局などが現地に入るのが遅れたことや、危険な現場の取材をフリーランスに頼りがちであること、報道内容が画一的になりがちなことについては、テレビ報道の現場でも危機感を持つスタッフが相当数いるようだ。さらに、戦争取材経験豊富なテレビマンからは「日本ではこの戦争はロシアだけが唯一悪だという流れが強すぎると思う。アゾフ大隊が元々はネオナチ集団で、ロシア系住民を迫害したりしていた集団なのは事実。こうした集団を無批判に英雄視するのは正しいとは思えない。」という、日本のテレビ報道全体のスタンスについて問題視する指摘もあったことを紹介しておきたい。
進化する「戦争報道」と現場の試行錯誤
そして、「テレビの戦争報道」も時代を経て大きく変わってきている。例えば1990年代の湾岸戦争の頃と比べると、その取材・放送方法は全く異なってきており、現場は様々な試行錯誤を繰り返して、進化を続けている。
『湾岸戦争の頃はまだ現地テレビ局のパラボラアンテナがある地上中継局などに予約して時間を確保しなければ、現地からの素材送りも掛け合いレポートも出来ませんでした。
2001年のアフガン戦争では、PCと大型アタッシュケースくらいの大きさの「圧縮伝送装置」が開発され、それによって機材や資金力が乏しいフリーや中小のメディアやディレクター集団が独自に活躍できる様になりました。
その10年後の「アラブの春」では、SNSなどプライベートな情報発信が威力を発揮する様になり、マイナーメディアと同様に、反政府組織やグループの情報発信や組織化ツールとして威力を発揮するようになりました。
そして今やウクライナでは、フリージャーナリストが、スマホ一つで遜色のないライブ中継も可能となりました。』(ニュース番組プロデューサー)
『湾岸戦争時との一番の違いは、現地の人が投稿しているSNSから映像や情報を拾ったり、現地の人と直接Zoomで中継やインタビューが出来るようになった点だと思います。
沢山のニセ情報やノイズの中から信頼でき、報道に値する価値のある情報を拾い上げていく事は、簡単なようでいてなかなか難しい事です。
そこはもっと評価されても良いかなと思います。』(ニュース番組ディレクター)
時代が大きく変わる中、テレビ報道を取り巻く状況も大きく、そしてものすごい速さで変わり続けている。ウクライナに関する日本のテレビニュースの報道には、残念ながら多くの問題点があると言わざるを得ないと私は思う。
しかし、現場では今日も多くのテレビマンたちが苦悩しながら、最善を尽くそうとしていることもこれまた間違いのない事実である。ぜひ視聴者の皆さんにも、「どうすれば日本のテレビの戦争報道が少しでも良くなるか」を考えて、積極的に苦言を呈していただき、かつ温かい目で応援していただければ幸いである。
●米財務長官「G20で問題対応に取り組む」、ウクライナ戦争巡り 4/22
イエレン米財務長官は21日、20日に開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でロシア代表の発言時に退席したにもかかわらず、ロシアのウクライナ侵攻によって起こされた問題への対応にG20を通じて取り組むと確約した。
記者会見で「われわれは成し遂げるべき多くの業務があることを認識しながらも非難を表明する方法を模索していた」と指摘。ロシアのウクライナ侵攻は「国際規範にあまりにも反する」ため、米国とその同盟国はロシアが国際的機関に参加することもロシア高官の発言を聞くことも認めないとした。
関係者によると、21日の国際通貨基金(IMF)の運営委員会でも英国のスナク財務相、カナダのフリーランド財務相、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が退席したという。
イエレン長官は「G20や共通の課題に対処する必要があるその他の会合など、世界的な会合への参加に関してロシアが通常通りでいられることは出来ない」と強調。エネルギー価格の上昇や食糧難などロシアによるウクライナでの「恐ろしい戦争」の影響について議論することがG20の重要な業務とし、「われわれはその作業を続けている」と語った。
●ゼレンスキー大統領「ロシアに“戦争税”を」ウクライナ再建に“77兆円”試算 4/22
ウクライナの首相は、ロシア軍の侵攻で大きな被害が出ている国の再建に、およそ77兆円かかるとの試算を明らかにしました。
ウクライナ シュミハリ首相「復興・再建のためには6000億ドルかかるでしょう。しかし、まずは戦争を止めなくてはならない。ウクライナに平和を取り戻し、ロシアに裁きを受けさせなくてはならない」
シュミハリ首相は21日、ワシントンで開かれた世界銀行などの特別会合に出席し、国の再建に6000億ドル=およそ77兆円かかるとの試算を示して国際社会に支援を求めました。
この会合ではゼレンスキー大統領もオンラインで演説し、ロシアとのあらゆる貿易に対して「戦争税」を課し、ウクライナの再建に使うべきだなどと訴えました。
これに先立ち、バイデン大統領は、シュミハリ首相と会談しおよそ640億円規模の新たな経済支援を行うことを伝えました。
●ウクライナ戦争で“大儲け”のアメリカ。最も利を得たバイデンの胸中 4/22
ロシア軍がウクライナに侵攻して2ヶ月が経過しようとしている。ロシア軍がウクライナの首都キーウ近郊から撤退し、東部のドンバス地方(ドネツク、ルハンシクの2州)や南東部の都市マリウポリの制圧に攻撃の軸足をシフトした4月以降は、両国による停戦協議の動きは停滞し、戦争の長期化、もっと言えば泥沼化の可能性が高くなっている。
ロシアの戦い方は「短期決戦型」
歴史をひもとけば、ロシアによる戦争は、旧ソ連時代から短期のものが多かった。短いときは数日、長い場合でも数か月程度だ。いくつか例を挙げてみよう。
•1956年 ソ連軍によるハンガリー軍事侵攻 (1週間)
•1968年 ソ連軍を含むワルシャワ条約機構軍によるプラハ侵攻 (2日間)
•2008年 グルジア侵攻 (2週間)
•2014年 クリミア半島併合 (約1か月半)
このように、これまでのロシア(旧ソ連)は、一気に攻め込んで「利」を得るという短期激烈決戦(ショートシャープウォー)で勝利を収めてきたのである。ところが今回は様相が異なる。
長期化は不可避
4月5日、舞台はアメリカ連邦議会下院の公聴会。発言を求められたアメリカ軍制服組のトップ、統合参謀本部議長のマーク・ミリーは、「これは非常に長期化する争いだ。10年かかるかはわからないが、少なくとも数年であることは間違いない」と述べ、アメリカをはじめ、NATO(北大西洋条約機構)、それにウクライナを支援している国々は、長期にわたり関与することになるとの見通しを示した。
また、国務長官、アントニー・ブリンケンも、同盟国に対し、ウクライナでの戦闘は今年末までには続く可能性があると伝えている。
そのアメリカでは、ワシントンの有力なシンクタンクの1つ、CSIS(戦略国際研究所)が、国家間の武力紛争に関して興味深い調査結果を示している。
 国家間の武力紛争
・その26%が1か月以内に終結し、そのうちの半分近くが最終的な停戦もしくは和平合意に至る。
・また、25%が1か月から1年の間に終結し、そのうちの4分の1が最終的な停戦に至る。
これだけを見ても、紛争や戦争は、長期化すればするほど停戦合意への時間が長くなり、和平に至る確率も下がる。ましてや、1年以内で終結できないものは、さらに長期化してしまい、和平への道はさらに遠のいてしまうといことになる。
1つの目安が5月9日、ロシアの対独戦勝記念日である。この日は、ロシア国民が、旧ソ連の勝利を象徴する「ゲオルギーのリボン」を胸に着け、愛国心と祝典の高揚感に浸る特別な日だ。
この日までに、ロシアがドンバス地方を完全に近い形で制圧できていれば、プーチン大統領による何らかの勝利宣言があり、ウクライナ側への呼びかけも行われる可能性がないとは言えない。
しかし、プーチン大統領の狙いは、ドンバス地方の完全制圧(親ロシア系の住民をウクライナから解放する)というだけにとどまらず、あくまで首都キーウを陥落させ、ウクライナに親ロシア派政権を樹立し、NATOの東方拡大に歯止めをかけることにある。
事実、ロシア軍は東部での攻撃を強化し、再びキーウにも迫っている。NATO加盟を目指すフィンランド国境近くにもミサイルシステムを移動させるなど、むしろ戦線を拡大しようとしているかのように見える。
ゼレンスキー大統領は、ロシアが核兵器や化学兵器を使用する可能性があると、国際社会に向けて警告したが、仮にそこまでエスカレートすれば、事態はさらに深刻化する。
ウクライナ軍のこれまでの想定以上の善戦、アメリカなどによる軍事物資の支援なども考慮すれば、停戦というゴールはまだまだ先と言わざるを得ない。
情報戦で負けたプーチン
ウクライナの善戦は、ひとえに、ロシアがウクライナからの情報発信を制御できなかったことに尽きる。
ウクライナ国内からは、ゼレンスキー大統領をはじめとする政権幹部、そして民間人に至るまで、SNSを通じ、メッセージが動画が国際社会に向けて発信されている。この圧倒的な「メッセージの物量作戦」が、兵力で劣る軍の兵士や国民を鼓舞し、国際社会から支援を取り付けた最大の要因である。
本来であれば、情報戦やサイバー戦はロシアが得意とするものだが、肝心の情報戦で後手に回り、苦戦を強いられている。まさに、ことわざで言う「川立ちは川で果てる」(川に慣れている者は川で死ぬことが多い=人は得意な部分で油断し失敗しやすい)である。
その発信を支えているのが「Starlink」である。これは、人工衛星で宇宙からインターネットに接続できるサービスを提供するシステムで、立ち上げたのは、アメリカの電気自動車テスラや宇宙開発を行う「スペースX」の創業者として知られるイーロン・マスク氏だ。
ウクライナの副首相兼デジタル担当相、ミハイロ・フョードロフが、ロシア軍が侵攻を開始した2日後、Twitterでマスクに「システムを提供してほしい」と呼びかけ、協力が実現したものだ。
人工衛星を介する「Starlink」も、地上の通信機器が標的となれば危ういが、光ファイバーケーブルを陸に揚げ、通信基地と接続する通常のインターネットよりは影響を受けにくい。
31歳と若いフョードロフは、より安全な「Starlink」に目をつけ、ゼレンスキーや国民の発信が継続できるようにした。
「世界は私たちとともにあります。真実は私たちの側にあります」「私たちは自由のために戦っているのです」
このようなゼレンスキー大統領の言葉の数々も、「Starlink」によって国際社会に向けて発信され、「ロシア=悪、ウクライナ=善」の構図が固まったのである。
そればかりでなく、フョードロフは、「Starlink」のシステムを利用してロシア軍の戦車を攻撃するなど、世界第2位の軍事大国ロシアに真っ向勝負を挑んだのである。
最終的に勝つのはアメリカ
長期化が避けられないロシアとウクライナとの戦争。筆者は、この先、どちらが勝利を宣言しようと真の勝者にはなれないと見ている。
ロシアは悪玉のイメージが確立されてしまった。経済制裁と戦費で国力も弱まる。ウクライナも多くの犠牲者を出し、侵攻が激しかった地域は廃墟と化した。
一番の「利」を得たのはアメリカだ。
バイデン大統領は、2021年9月1日、ホワイトハウスにゼレンスキー大統領を招き、個人的な見解としながらも、NATO加盟に理解を示した。そして仮にロシアに侵攻を受けた場合、全面的に支援すると約束した。その月には合同軍事演習も行っている。
これがプーチン大統領に火をつけたと言っても過言ではない。ロシア軍がウクライナ国境に展開し始めたのはその年の10月である。
そして、バイデン政権は、ロシア軍が侵攻する前に軍事支援を発表したほか、2022年3月16日には8億ドル(1000億円)、そして4月13日にも追加で同額の支援を決定している。
つまり、アメリカが誘導してしまったとも言える戦争で、アメリカの軍需産業は大いに潤ったということだ。
第2は、バイデン大統領自身が、2021年9月のアフガニスタンからのアメリカ軍完全撤退で招いた国際的な信用の失墜をかなり挽回できたという点だ。
今回の戦争で、EUやNATO加盟国の首脳をけん引し、バイデン大統領自身もポーランドを視察するなど、民主義国家群を率いるアメリカのトップとして、ある程度は存在感を発揮できたことは、11月の中間選挙にもプラスに働くだろう。
そして3つ目は、ロシアへの制裁で、アメリカ経済全体が潤い始めたことだ。
ヨーロッパ諸国がロシアへのエネルギー依存を見直す中、石油も天然ガスも自前で賄うことができるアメリカがヨーロッパ向けの輸出を増やせば、インフレとコロナ禍で苦しむアメリカ経済は持ち直すことになる。
アメリカだけでなく中国も、ロシアに対し中立的な立ち位置を維持しながら、大いに得るものがあったと筆者は見る。ロシアを対アメリカの切り込み隊長にできた。ロシアの成功例と失敗例から、台湾侵攻の際のヒントも得られる。
さらに、ロシアが経済的に厳しくなって、中国マネー頼みとなれば、ドル経済圏から人民元経済圏にロシアを組み込むことも可能になる。
出口が見えない戦争は、つまるところ、超大国が「利」を得ることになるのである。
●G20議長国インドネシアがウクライナ紛争の世界経済への影響の解決策を期待 4/22
第2回20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁(FMCBG)会議は議長国インドネシアがロシア・ウクライナ紛争に解決をもたらすことを期待していると、インドネシアのスリ・ムルヤニ・インドラワティ財務相が述べた。
インドラワティ氏は21日、第2回G20FMCBG会議の記者会見で「(G20)メンバーは、現在の地政学的状況、特にウクライナでの戦争に関する状況が解決されることを望んでいる」と語った。
同氏は、期待は世界情勢がロシア・ウクライナ戦争に加えて、COVID-19パンデミックのために急速に悪化し変化してきたという事実に基づいているとし、さらに、ロシア・ウクライナ戦争は、エネルギー、食料、肥料の高騰などの面で非常に動的な影響を及ぼすことを確認した。
インドラワティ氏は、現在G20議長国を務めているインドネシアは非常にダイナミックな状況に対処するためすべてのG20諸国と集中的な対話と協議を継続して実施すると述べ、「G20の優れたガバナンスは実際、協議と協力に基づいている」と語った。
インドネシアは、ウクライナの戦争だけでなく、パンデミックにも起因するさまざまな世界的経済リスクから逃れる方法を見つけるため、すべてのG20諸国との話し合いを続けると、同氏は述べた。財務相は、世界のエネルギーと食料の価格高騰が政策担当者にとってますます困難な状況を生み出す一方、いくつかの国は高インフレの脅威下にあるので、現下の出口戦略の必要性を強調した。
インドラワティ氏によると、G20諸国は、いくつかの国の中央銀行に政策金利の引き上げを促す傾向にあるインフレ圧力が、最終的には予想よりも速い世界的な流動性の引き締めにつながることを懸念している。
したがって、より高いレベルの政策は、回復を後押しし、波及効果の潜在的な影響を減らすため、十分に調整、計画、周知された出口戦略に関連する取り組みの実現が焦点になると強調した。
共同協調行動は、ロシア・ウクライナ戦争の影響の軽減だけでなく、パンデミックの制御も目的としている。行動はG20の優先事項のリストの上位に留まるだろうと述べた。
G20メンバーは、いくつかの地域でCOVID-19感染数の増加を記録、成長に負担をかけ、供給の混乱を長引かせ、インフレ圧力を悪化させ、世界的な回復を遅らせた、と指摘した。
●ウクライナ戦争の「2番目の犠牲者」 4/22
「戦争の最初の犠牲者は真実である」という有名な言葉は間違っている。戦争の最初の犠牲者であるだけでなく、最も惜しい犠牲は人だ。民間人であれ、軍人であれ、ウクライナ人であれ、ロシア人であれ、その価値は皆同じだ。そしていかなる名分を掲げても、この犠牲を正当化することはできない。ロシアのウクライナ侵攻が2カ月近く続き、文字通り「数え切れない」命が犠牲になっている。戦争が終わる希望の光も見えない。
「真実」は戦争の2番目の犠牲の対象だ。侵攻初期からオンラインとマスコミを通じた「情報戦争」がどの国際紛争よりも熾烈に繰り広げられ、何が真実なのか混乱する状況が続いている。世界経済フォーラムの「戦略インテリジェンス」プラットフォームのデジタル編集者ジョン・レッチングは、今回の戦争が「最初のティクトック戦争」と言われていると伝えた。短い動画を共有するこのソーシャルメディアで、侵攻に反対する人と支持する人たちた熾烈な攻防を繰り広げていることを表す言葉だという。ツイッターやテレグラムなど、ほかのソーシャルメディアの事情もあまり変わらない。
ウクライナの惨状に対する「異なる真実」がオンライン上に溢れているのには、ロシア政府、そして西側諸国の政府のせいもある。ロシアは侵攻勢力という「原罪」がある上、ウクライナでどのようなことが起きているのかについて、十分に公開していない。国際的な信頼も失って久しい。 戦争ニュースがウクライナと西側の主張一辺倒になる原因を提供している。
米国や英国、欧州連合(EU)など西側政府は、ロシアに対する経済制裁とともに、RT放送などロシアメディアの遮断措置も断行した。フェイクニュースを流してロシア政府の宣伝扇動(プロパガンダ)の道具の役割を果たしているというのが主な理由だ。言論の自由は開かれた社会の譲れない価値という西欧自由主義者の「信念」も、ロシア制裁の前では無力だった。
このような状況ではたとえ少数であっても、「別の主張」に好奇心を抱く人たちがいるものだ。彼らは結果的に、オンラインなどでロシア側の主張の拡散を手助けすることになる。西側諸国がロシアの「フェイクニュース」だけに避難の矢を向けられないのもそのためだ。
オンラインで繰り広げられる情報戦争は、世界の多くの人々の生活に直接影響を及ぼすわけではない。しかし、この問題が目の前の現実である人々もいる。旧ソ連から独立し、ロシア系住民が全体の25%水準のバルト海のエストニアとラトビアの人々が代表的な例だ。
最近、米国のNBC放送は、エストニアのロシア語使用者は3つのグループに分けられると報じた。3分の1程度はロシアのウクライナ侵攻に反対し、少数は侵攻を支持する中、多数は平和を望んでいるが西側諸国のメディアとロシアメディアの相反する報道に混乱を覚えているという。さらに、ロシアのアイデンティティが一時は選挙で利用されるほど一定の力として働いたが、今は安全保障の観点から見る対象になったと、同放送は報道した。
ラトビアでも多数のロシア系住民はどうすることもできない立場に追い込まれている。カナダの「トロントスター」は先月、ロシア語使用者を対象に実施された世論調査で、回答者の約半分はロシアのウクライナ侵攻に賛成も反対もできないという反応を示したと報じた。
ロシアのウクライナ侵攻を強く批判する社会ムードの中で混乱に陥ったロシア系の人々にとって、「真実」は机上の空論のようなのんびりとした遊びの対象ではない。実存的決断を下すのに絶対的に必要な道具であり、力だ。だとすると、冒頭の発言を覆さなければならないかもしれない。「戦争の最初の犠牲者は人と真実である」と。
●ウクライナ戦争長期化が招く世界食料危機 17億人に打撃、米国一人勝ち 4/22
ロシアのウクライナ侵攻開始から間もなく2カ月。戦争の長期化で「食料危機」が顕在化してきた。特に深刻な犠牲者は、中東・北アフリカの途上国に住む人々だ。
ウクライナとロシアは合計で世界の小麦輸出の約3割、トウモロコシ輸出の2割を占める。
世界有数の穀倉地帯で起きた紛争で、小麦価格は年初から約30%上昇。小麦輸入の半分以上を両国に依存する国は36カ国に上り、多くが中東・北アフリカ地域に集中する。現地の穀物自給率は4割程度。両国からの輸入に大きく依存してきただけに、影響は深刻なのだ。
輸入小麦の8割以上を両国に依存するエジプトでは、3月のインフレ率が10%を超えた。要因はパン価格。制裁や供給減の不安の高まりから一時、50%値上がりした。
経済危機下のレバノンは国内に出回る小麦の9割以上がロシア・ウクライナ産。外貨不足で穀物を代替輸入する余裕もなく、パン屋の前は連日、長蛇の列だ。イラクでは小麦などの価格が3〜5倍となり、各地でデモが頻発。内戦下のイエメンも小麦の3割をウクライナに依存し、国連は「年末までに飢餓状態の国民が5倍の16万人になる」と懸念を表明した。
国連のグテレス事務総長は先週、「食糧やエネルギー価格の上昇で貧困と飢餓が拡大している」と指摘。戦争に伴う戦乱により、世界107カ国で17億人が深刻な打撃を受け、うち5億5300万人が貧困状態、2億1500万人が栄養不足との報告書を発表した。
グローバルに見れば、この戦争は軍事攻撃の犠牲者よりも、貧困と飢餓で亡くなる人の方が圧倒的に上回りそうだ。
「食料危機はこれからが本番です。まだ、昨年収穫分のウクライナ産小麦が出回っているようですが、戦争下で春まきの作付けは壊滅状態。トウモロコシの輸出量が減れば家畜のエサ不足に直面し、肉や卵、乳製品も枯渇する。しかも、ロシアは窒素肥料の生産に不可欠な天然ガスや原料の輸出大国です。制裁の影響で肥料の供給が滞れば、あらゆる食料の生産が落ちます。この秋には世界中が深刻な食料危機に陥り、穀物やエネルギー、肥料の代替需要を賄う米国だけが儲かる構図です。米国経済の一人勝ちは飢えた貧困国の犠牲の上に成り立つのです」(経済評論家・斎藤満氏)
なるほど、バイデン政権が戦争の長期化を望むわけだ。
●2500億円のカネが溶けた…“天然ガス”共同開発凍結で「三井物産」大ピンチ 4/22
「日本から5000km離れた北極圏のプロジェクトなんて、そもそも条件があまりに悪かった。これではカネを出させられただけ。その上、サハリン2の稼ぎも吹き飛びかねない」(三井物産幹部)
三井物産が国との合弁で参画する、ロシア北極圏の液化天然ガス採掘プロジェクト「アークティックLNG2」が暗礁に乗り上げている。物産と国は開発費の1割に当たる2500億円を出資しているが、ウクライナ侵攻で新規投資が凍結。
ロシア側の事業主体「ノバテク」大株主のゲンナジー・ティムチェンコ氏が、プーチンの柔道仲間にして「金庫番」と呼ばれる側近であることも不信を招いている。
同プロジェクトは三井物産の最重要案件だ。安永竜夫会長は'19年6月、G20大阪サミットで当時の安倍首相とプーチンの面前で契約書に署名した。経産省関係者が言う。
「平和条約締結交渉のテコとして天然ガス開発を利用したい安倍さんと、ロシア資源ビジネスに強い安永会長の利害が一致したわけです。当時安永会長は『私はロシアで損をしたことはない』と豪語していました。しかしロシアが戦争を止める気配が全くない現在、残念ながら引くしかない」
別の政府関係者によれば、「国際世論に負けてロシアの天然ガス事業から撤退する場合、稼働中のサハリン2ではなく、来年から稼働予定だったアークティック2を止めることになる」。例えば広島ガスは供給量の半分がサハリン2のガスで占められているから、止めるわけにはいかないのだ。
「撤退」とは、機材や保有株式などの権益をすべてロシアに無償譲渡することを意味する。窮地にあるロシアは、中国にそれを売り飛ばして戦費に替えるだろう。前出の幹部が嘆く。
「思えばプーチン以前のロシア企業は、嘘はつくが大らかで、儲かれば何でもいいよという感じだった。それがプーチン以後は元KGBが実権を握るようになり、政治的事情でがんじがらめになってしまった。リスクを知っていて乗っかった、安永会長の責任は大きい」
三井物産は重い代償を払うことになりそうだ。
●ロシア軍が明言 次の目標は「ドンバス」 プーチン氏「真のヒロイズム示す」  4/22
ウクライナ東部マリウポリの制圧を宣言したロシアは、次の目標として、ウクライナ南部などの完全な支配を目指す方針を示した。
これは、ロシア軍の幹部が22日に明らかにしたもので、軍事作戦の第2段階として、東部の「ドンバス」と呼ばれる地域からクリミア半島までを陸路でつなぎ、完全に支配しようというもの。
プーチン大統領は21日、「ドンバスの人々のために、真のヒロイズムを示す」と述べていて、ロシア軍が近く、ドンバスで本格的な攻撃を開始するとみられていた。
東部マリウポリについて、ロシア側は「制圧した」と主張しているが、ウクライナ側は「まだ戦闘が続いている」などとして、これを否定している。
●英印首脳会談 インド首相は直接的にはロシア軍事侵攻非難せず  4/22
イギリスのジョンソン首相はインドのモディ首相と会談し、ロシアによるウクライナへの侵攻を非難しましたが、モディ首相は、これまでと同様、直接的には軍事侵攻を非難しませんでした。
イギリスのジョンソン首相は、22日、インドのニューデリーで、モディ首相と会談し、安全保障面での協力を強化することや、2国間のFTA=自由貿易協定の締結に向け交渉を加速させることで一致しました。
この中には、インドで製造される戦闘機などへの技術支援も含まれ、イギリスとしては、インドの軍事面でのロシアへの依存からの脱却を後押しするねらいもあります。
会談後、ジョンソン首相は「独裁的な支配力が拡大するなか、自由で開かれたインド太平洋地域などで、価値観を同じくするわれわれが協力関係を深めることが重要だ」と述べ、ロシアを非難するとともに、インドとの協力の重要性を強調しました。
一方、モディ首相は「われわれは即時停戦に向けた対話と外交、および、すべての国の領土の一体性と主権の尊重の重要性を確認した」と述べるにとどまりました。
インドをめぐっては、先月19日には岸田総理大臣が訪れたほか、オーストラリアのモリソン首相、中国の王毅外相、ロシアのラブロフ外相、それにアメリカのバイデン大統領が、首脳間または外相間の会談を対面やオンラインで行うなど、主要国による外交が活発になっています。
背景には、ロシアによる軍事侵攻を非難も支持もしないインドを各国がそれぞれの立場に引き込みたいという思惑もあるとみられます。
●ウクライナ、復興でロシア凍結資産の活用を模索 4/22
ウクライナのマリュスカ法相は21日、首都キーウ(キエフ)でロイターの取材に応じ、ロシア侵攻で破壊された国内インフラなどを復興させるため、対ロシア制裁で凍結した資金を活用する仕組みの構築に向け国際弁護士らと協議していると明らかにした。
当局推計によると、軍事侵攻でウクライナ国内のインフラは最大30%破壊されており、損失額は約5000億ドルに上る。
欧州連合(EU)は国際的な復興基金の創設を模索しており、ロシア中央銀行の資産など、欧米が対ロ制裁で凍結した資金を復興資金に充てるべきだとの声も上がっている。
マリュスカ氏は、復興資金としてロシアの中銀資産と福祉基金に言及。資産保有者であるロシア連邦は明らかに犯罪を犯していると述べた。
ロシア中銀データに基づき分析すると、凍結資金は約5000億ドルに上る。マリュスカ氏は「われわれはそれをどこで探すべきかを知っている」と述べ、一部は米国内、残りは英国とEU内で保有されていると説明した。
この件を調査している法務チームは、凍結資産をウクライナが活用できるようにする最短の方法は各国が特別法を可決することだと考えているという。この解決策には「各国からのある程度の勇気と政治的意思が必要になる」と述べた。
ウクライナはまた、欧米主要国が補償メカニズム構築で協力するための国際協定に署名することを提案しているという。それにより、個別の国ではなく、欧米主要国全体のコンセンサスとしての決定が可能になると説明した。
●ウクライナ東・南部の完全制圧目標 ロシア軍高官が初言及― 4/22
ロシア軍中央軍管区のミンネカエフ副司令官は22日、ウクライナでの軍事作戦の第2段階に関し、「ロシア軍の目標の一つは(東部)ドンバス地方とウクライナ南部の完全支配を確立することだ」と表明した。インタファクス通信が伝えた。支配地域の拡大を目指す方針を示したことで、戦闘が長期化する可能性が高まった。
副司令官は、この目標の遂行によりロシアが実効支配するウクライナ南部クリミア半島へとつながる「陸の回廊」ができると指摘。モルドバ東部の親ロシア派支配地域、沿ドニエストルにもつながると主張した。ロシアが首都キーウ(キエフ)攻略に失敗した後、新たな目標に言及したのはこれが初めて。ウクライナは徹底抗戦の構えを示しており、攻防戦の激化が予想される。
副司令官の発言を受けてウクライナ国防省はツイッターに投稿し、「(ロシア側は)この戦争の『第2段階』の目標が単にウクライナ東部と南部の占領であることを認めた。帝国主義そのものだ」と反発した。
ウクライナ侵攻をめぐってロシアのプーチン大統領は21日、南東部の要衝マリウポリの「制圧」を宣言した。クリミア半島と親ロ派勢力が実効支配する東部の中間に位置する港湾都市で、2月24日の開戦以来最大の激戦地の一つとなった。
ただ、最後の拠点となった市内の製鉄所にはウクライナ軍の兵士が立てこもっている。ゼレンスキー大統領は21日、「侵略者たちが何を言おうと、抗戦を続けている」と強調。米国務省も「ウクライナ軍は踏みとどまっている」と分析し、プーチン氏の制圧宣言は「偽情報だと信じるに足る理由がある」と指摘した。プーチン氏は22日、欧州連合(EU)のミシェル大統領との電話会談で、ウクライナ政府が兵士の投降を許していないと主張した。
一方、マリウポリの郊外では民間人らの集団墓地とみられる塹壕(ざんごう)が、米民間企業マクサー・テクノロジーズが公表した衛星画像で確認された。ボイチェンコ市長はロイター通信に「ロシアが死者数を隠蔽するために遺体を埋めている証拠だ」と非難した。
●ウクライナ侵攻のロシア軍、レイプを「戦争の道具」に 人権団体が主張 4/22
ロシア軍がウクライナに侵攻し、首都キーウ(キエフ)に迫ってきた時、アンドリー・デレコさんは22歳の継(まま)娘、カリナ・エルショバさんに、当時住んでいた郊外の町ブチャから退去するよう懇願した。
しかしエルショバさんは、「戦争なんて起きない」と取り合わなかった。ブチャのすし店で働きながら、将来学位を取るのを希望していたという。
3月になり、ロシア軍の兵士がブチャを包囲すると、エルショバさんは友人2人とともにアパートに隠れた。デレコさんに入った最後の連絡の一つは、アパートを出て近くのスーパーに食料を買いに行くという内容だった。
連絡が途絶えたまま数週間が経ち、家族は必死の思いでエルショバさんの消息を探った。そんな中、母親の友人からエルショバさんと同じようなタトゥーを入れた女性の遺体の画像がテレグラムに投稿されていると告げられた。
画像を投稿したブチャの捜査員は、ロシア軍が町から撤退した後に発見された数百人の遺体の身元特定に当たっていた。
デレコさんは上記の画像について、エルショバさんの切断された遺体だと説明。警察からは、ロシア軍に殺害されたと告げられた。
エルショバさんは拷問されたか、抵抗したようだと、デレコさんは話す。遺体は脚とこめかみを銃で撃たれていた。
ロシア軍から性的虐待も受けたと、デレコさんは考えている。「(警察の)捜査員がレイプ被害に遭ったことをほのめかした」からだ。
CNNはこうした訴えを独自に立証できていない。事件を管轄する当局者らは、捜査中であるのを理由にCNNへのコメントを控えた。CNNはキーウの検察当局にコメントを求めている。
ウクライナ当局は、ロシア軍が侵攻開始以降、女性や子ども、男性に性的虐待を加えていると指摘。レイプなどの性的暴行を戦争の武器として活用しているとの見方を示す。
CNNが取材した人権団体やウクライナの心理学者らは、増え続ける性的虐待の被害者の対応に一日中追われていると証言する。そうした虐待にはロシア兵が関与しているとみられる。
欧州安保協力機構(OSCE)は今月13日に公表した報告書で、ロシア軍によるウクライナでの国際人道法違反を複数取り上げている。そこには紛争に関連した性別に基づく暴力としてレイプ、性的暴行、セクハラを示唆する事例が報じられている。
「ロシア兵らは、できることは何でもして自分たちの優位を見せつけようとする。この場合、レイプも一つの手段となる」。心理学者のバシリサ・レフチェンコ氏はそう指摘する。同氏は戦争に関連してトラウマ(心的外傷)を負ったウクライナ人に対し、無償のカウンセリングを提供するサービスを立ち上げている。
レフチェンコ氏のネットワーク、「サイ・フォー・ピース」はこれまで、キーウ州の女性約50人から話を聞いた。彼女らはロシア兵から性的虐待を受けたと訴えている。中には15歳の少女とその母親が親ロシア派のチェチェン人兵士から性的に虐待されたり、1人の女性が兵士7人から集団レイプされる事例もあった。拘束されたウクライナ人らは、その様子を見るよう強制されたという。
CNNは、こうした説明を独自に立証できていない。
レフチェンコ氏によれば、ウクライナ人を侮辱するための武器としてのレイプは、直接被害に遭った本人以外にも広範な影響を及ぼす。「その場にいた人々も、何もできなかったことに罪悪感を覚える。目の前で人が死ぬのを見て、生き残ったことに罪の意識を感じる」
ロシアは戦争開始以降、民間人を標的にはしていないと再三にわたり主張する。しかしその内容に反する数多くの攻撃が、これまでCNNをはじめとする複数のメディアにより報じられている。CNNはロシア国防省にコメントを求めている。
●露「マリウポリ制圧」報告、ウクライナ側は否定 4/22
ロシアのショイグ国防相はプーチン大統領に、ロシア軍が包囲するウクライナ南東部マリウポリを「制圧した」と報告した。一方、ウクライナ側は「制圧」を否定し、「防衛を続ける」と抗戦姿勢を見せている。ウクライナ情勢を巡る日本時間22日の動きなどをまとめた。
露「マリウポリ制圧」宣言
ロシアのショイグ国防相は21日、クレムリン(大統領府)でプーチン大統領と面会し、ウクライナ南東部マリウポリについて、ウクライナの部隊が立てこもるアゾフスターリ製鉄所以外を「制圧した」と報告した。プーチン氏は「マリウポリ解放のための戦闘は完了した」と述べた。
マリウポリ近郊に「戦争犯罪の証拠」 衛星写真に「集団墓地」
ウクライナ南東部マリウポリのアンドリュシチェンコ市長顧問は21日、ロシア軍が市民らの遺体を埋めている集団墓地を市近郊で「発見した」と通信アプリ「テレグラム」に投稿した。投稿の中で「(露軍は)遺体を隠そうとしており、戦争犯罪の明白な証拠だ」と述べた。
IMF委員会 初の共同声明見送り
国際通貨基金(IMF)は21日、米首都ワシントンで金融委員会を開き、ロシアによるウクライナ侵攻を批判する文言を盛り込んだ議長声明を発表した。一方、全会一致を必要とする共同声明は見送った。委員会を構成する24カ国の中で、ロシアが反対したためとみられる。2000年以降、年2回会合を開いてきたが、共同声明の発表が見送られたのは初めて。
ウクライナに無人機120機など追加支援 米国防総省
米国防総省は21日、ウクライナへの追加軍事支援として、120機以上の戦術無人機、155ミリりゅう弾砲72門、砲弾14万4000発を供与すると発表した。追加支援はバイデン大統領が21日の演説で発表し、総額は計8億ドル(約1025億円)に上る。
「人道危機の深刻さに衝撃」 官房長官
松野博一官房長官は22日午前の記者会見で、ロシア側が「制圧」を宣言したウクライナ南東部マリウポリについて「人道危機の深刻さ、破壊のすさまじさに強い衝撃を受けている。ロシアによる非道かつ残虐な行為を最も強い言葉で非難する」と抗議した。 

 

●約8千件の戦争犯罪を捜査 ウクライナ検事総長明かす 4/23
ウクライナのベネディクトワ検事総長は22日までに首都キーウ(キエフ)で英スカイニューズ・テレビのインタビューに応じ、ウクライナ全土で民間人の殺害や性的暴行、子供のロシアへの強制移送など約8千件の戦争犯罪を捜査していると明らかにした。ベネディクトワ氏は、民間人の殺害などについて「露軍最高司令官(プーチン大統領)の戦略だ」と指摘し、あらかじめ計画されていたとの認識を示した。
スカイニューズ・テレビ(電子版)が22日、インタビュー内容を公開。ベネディクトワ氏はキーウ州だけで1000人以上の民間人が殺害されたとの情報があると述べた。
同氏は、ロシアはウクライナの都市を制圧できない場合、住人を脅す計画を立てていると分析。計画には、住人の殺害や性的暴行、拷問などが含まれているとした。
計画について、露軍最高司令官であるプーチン氏の戦略と指摘した上で「この戦争に責任があるのは、ロシアの大統領であることは誰もが知っている」と強調。「ウクライナ国家を破壊しようとするプーチン氏の計画だ」と非難した。
露軍が「ただ気に入らないだけ」の理由で民間人を殺害した膨大な数のケースがあるとも指摘した。
一方、ベネディクトワ氏は、露軍が制圧宣言したウクライナ東部の要衝マリウポリで「さらに多くの残虐行為が行われているのではないかと恐れている」と話した。露軍が街を包囲して攻撃を継続してきたマリウポリでは、戦争犯罪の証拠を集めるのが困難とみられている。同氏は「私は検事総長としてマリウポリにアクセスするべきだ」と述べ、現地捜査に強い意欲を示した。
●ロシア国内で“静かなデモ” お札・小銭などに「戦争反対」と落書き 4/23
ロシア国営テレビは、「必ず勝つ」など、ウクライナで戦う兵士らの強気な声を伝えています。しかし、一方、壁やお札、小銭に「戦争反対」などの落書きをする、“静かなデモ”もロシアで広がっているといいます。
ウクライナ・ルハンシク州の「親ロシア派」が公開した映像には、「ビクトリーシスターズ」と名付けられた、親ロシア派の兵士の妻らで構成されたグループが、ロシアをたたえる歌を歌う姿が映っていました。
「親愛なるロシアに栄光あれ、英雄たちを永遠に記憶せよ。神聖な土地、勝利の5月、ロシア」
ウクライナ侵攻を支持する象徴の、「Z」の文字を表すシーンなど、ロシアの正当性をアピールしていました。
さらに20日、ウクライナ・マリウポリの学校では、ロシア語での授業が行われていました。
先生「右手、左手まっすぐに」
教室に張られたポスターには、「祖国のために!ロシアのために!」と書かれています。
親ロシア派が支配する地域では、“ロシア化教育”が進められていました。
約1か月の間、ロシア軍に占拠されていた、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のアンドリーウカ村では、ロシア兵は村に多くある地下室で、昼間に睡眠をとっていました。住民は、ロシア兵がもらした“ある不満”を聞いたといいます。
ロシア兵と話した村民「彼らは演習目的でベラルーシに連れてこられ、『ある夜、いきなりウクライナに連れてこられた。だまされた』と言っていた」
ロシア兵と話した村民「(ロシア兵は)『戦争をしたくなかった。人を殺したくない』って(言っていた)」「だまされて連れてこられ、戦闘をためらっていた兵士がいた」というのです。
その一方で、ロシア国営テレビには、対照的な兵士たちの姿がありました。
ロシア軍の兵士「我々はずっと、戦いの訓練をしてきました。(敵に)実力を見せつけてやりますよ」「息子、娘たち、我々は元気です。必ず勝つからね」
ウクライナで戦う兵士らの強気な声を伝えていました。
こうした放送についてロシアに家族がいる在日ロシア人YouTuberは――
在日ロシア人ユーチューバー あしやさん(31)「プロパガンダ一色といいますか、若い人たちはSNSとかで情報を得て信じないんですけど、年配の方ですと、プロパガンダ信じてる人も多いみたいですね」
反戦デモを厳しく取り締まるロシア。こうした中――
あしやさん「“静かなデモ”みたいな形で、今はそういう活動も広がっています」
ロシア国内の写真に写った壁に書かれていたのは、「戦争反対!」「ウクライナに平和を!」といった文字です。
あしやさん「お金、お札とか小銭にも、戦争反対の落書きをして、それで支払って、不特定多数の人たちのもとに届いて、『もしかしたら、誰かがそれを見て目覚めるんじゃないかな』とか、そういう希望も込めて(広がっている)。『こんなに周りにも戦争反対の人がたくさんいますよ』っていう認識にもつながります」
●英首相、ウクライナでの戦闘長期化は「現実的にある」… 4/23
英国のジョンソン首相は22日、訪問先のインドで記者会見し、来年末までロシアとウクライナの交戦が続いて最終的にロシアが勝つ可能性を問われ、「現実的にある」と述べた。22日付の英紙ザ・タイムズはこれに先立ち、西側諸国の当局者が同様の見解を示していると報じていた。
ジョンソン氏は会見で、ポーランドがソ連製戦車「T72」をウクライナに提供する代わりに、英国主力戦車「チャレンジャー2」を送る方向で検討していると明かした。ウクライナ軍が使い慣れたソ連製戦車は即時に戦闘に投入できるとして、ウクライナが米欧各国に供与を求めていた。
英国防省によると、提供期間はポーランドがT72に代わる戦車を取得するまでの「短期間」となる見通し。
●ロシア マリウポリの掌握宣言 国連事務総長がモスクワ訪問へ  4/23
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、東部の要衝マリウポリの掌握を宣言し、さらに今後、東部を中心に支配地域の拡大を目指すものと見られます。こうした中、国連はグテーレス事務総長が26日にモスクワを訪問すると発表し、停戦に向けた交渉の進展につながるかが焦点となります。
ロシアは、攻勢を強めていたウクライナ東部のマリウポリをめぐって、プーチン大統領が21日、掌握したと宣言し、国防省のコナシェンコフ報道官も22日「マリウポリの状況は正常に戻った。住民はウクライナ側の砲撃から身を隠すことなく自由に移動できる」と述べ、ロシアの支配下にあると主張しました。
これに対しウクライナ側は、マリウポリの製鉄所にウクライナの部隊がとどまっているとして、抵抗する構えを見せるとともに、残された市民を避難させるよう訴えています。
しかしロシア軍は製鉄所の包囲を続け、22日には市民が避難するための一時的な停戦の条件として、製鉄所にとどまるウクライナ側の部隊の降伏を求めるなど、揺さぶりをかけています。
また、ロシア国防省は22日、東部ドニプロペトロウシク州の鉄道駅付近でウクライナ軍の部隊を巡航ミサイルで攻撃したなどと発表しました。
ロシア軍の中央軍管区の高官は「特別軍事作戦の第2段階が20日に始まったばかりだ。任務の1つは、東部のドンバス地域と南部を完全に掌握することだ。南部クリミアからの回廊を確保でき、ウクライナ経済にも大きな影響を与えるだろう」と述べ、ロシア側は今後、東部のほかの地域に部隊を投入し支配地域の拡大を目指すものと見られます。
こうした中、国際社会からは停戦に向けた働きかけが続いていて、EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領は22日、プーチン大統領と電話で会談し、EU側によりますと、ウクライナのゼレンスキー大統領と直接、対話するよう促しました。
しかし、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は、首脳間の直接対話は停戦交渉の進展しだいだという考えを改めて強調したほか、ウクライナ側の姿勢には一貫性がなく、双方が受け入れられる解決策を模索する用意がないと批判したということです。
さらに国連は22日、グテーレス事務総長が26日にモスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談するほか、プーチン大統領が開くレセプションに出席すると発表しました。
グテーレス事務総長は今月19日、停戦の実現に向けロシアとウクライナを訪れて話し合いたいとして、プーチン大統領とゼレンスキー大統領それぞれに対し、訪問を受け入れるよう要請していました。
モスクワへの訪問でプーチン大統領との会談が実現し、停滞する交渉の打開につながるかが焦点となります。
●ロシア軍事侵攻は新局面 西側諸国ウクライナに戦闘機供与 4/23
ウクライナ東部の完全制圧に向け、軍事侵攻の“第2幕”が上がった。ロシア軍は東部2州を含むドンバス地方でウクライナ軍の防衛を突破しようと、攻勢を強めている。一方、ウクライナ軍は西側諸国の支援で戦闘機を増強。両国の争いは新局面を迎え、「空の戦い」へと拡大する可能性がある。
米国防総省によると、ウクライナ軍が他国から軍用機の部品を受け取り、運用できる機体を数週間前と比べ、戦闘機を含め20機以上増やしたという。米国は戦闘機の供与に及び腰だが、少なくとも1カ国はウクライナに機体供与を検討しているとみられる。
「ウクライナが受け取ったのは、空軍が主力として使っている旧ソ連製の戦闘機『ミグ29』の部品ではないか。『ミグ29』についてはもともと、スロバキアが自国内で運用している機体を、ウクライナのゼレンスキー大統領の求めに応じて提供する考えを示していました。搭載武器はロシア仕様ですが、電子機器はNATO仕様です」(軍事ジャーナリスト・世良光弘氏)
スロバキアはNATO加盟国。戦闘機の供与を求めるウクライナに対し、米国などはロシアの反発を生むとして慎重姿勢を崩していないが、やや踏み込んだ格好だ。方針転換の理由は、ドンバス地方で予想される戦闘の激化である。
米戦争研究所(ISW)は19日に発表した戦況分析で、〈ロシア軍の軍事作戦は次のフェーズに移行〉〈比較的小規模な地上部隊を支援するために、大規模な空爆や砲撃を始めた〉などと指摘。〈ロシア軍は5月9日の対独戦勝記念日に向け、作戦遂行を急いでいる〉との見方を示した。
ロシア軍が空からの攻勢を強めようとしている中、西側諸国も指をくわえて見ているわけにはいかない。西側諸国の支援を受けるウクライナ軍が戦闘機を増強することで、局地的な地上戦だけでなく「空の戦い」にも発展しそうだ。
「ここ半月の間、NATO側が戦闘機などをいつウクライナに供与するのかが焦点になっています。今、ドンバス地方で本格化し始めた戦闘はいわば“前哨戦”。ドンバス地方は平原地帯なので、これからは戦車への奇襲を仕掛けられる市街戦ではなく、開けた土地での『戦車vs戦車』の地上戦が激化すると考えられます。地上戦をサポートするために、ロシア軍が『スホイ35』などの戦闘機を展開してくるのを見越し、NATO側も動いたのではないか。『スホイ35』も『ミグ29』も非ステルス戦闘機なので、地対空ミサイルで撃墜できなければ、戦闘機同士が急接近して機関砲で撃ち合うこともあり得ます」(世良光弘氏)
「空の戦い」を制した側が、終わりの見えなくなってきた戦争の雌雄を決するのか。
●日ロサケ・マス交渉が妥結 ウクライナ侵攻で遅れ 4/23
水産庁は23日、北海道沖でのサケとマスの漁獲量などを決める日本とロシアの漁業交渉が妥結したと発表した。日本の漁業者がロシア側に支払う協力金の見込み額は昨年よりも下限を6000万円引き下げ、漁獲量は同水準を維持した。日本がロシアへの制裁を強めるなかでの異例の交渉が決着した。
11日から22日深夜までオンラインで協議した。25日に予定している署名を経て正式に妥結する。国内での必要な手続きや漁業者の準備を経て、5月初旬には出漁できるようになる。例年よりも3週間ほど遅れ、操業可能な期間が短くなる。
例年は4月10日に解禁しているが、今年はロシアによるウクライナ侵攻の影響で、漁獲量などの操業条件を決める交渉の開始が遅れた。例年は数日で終わっていた交渉期間も長引いた。水産庁の担当者は「日本側の漁業者の漁獲量が低迷していたため、漁業協力金の引き下げで粘り強く交渉した」と説明した。
協力金の見込み額は2億〜3億13万円となり、漁獲可能量の上限は昨年と同様の2050トンに決まった。昨年の漁獲実績は約650トンで、実際に支払ったのは2億6000万円だった。
協力金の支払いはロシアの外貨取得につながるとの指摘も出ていた。水産庁の担当者は「資源の保存管理の協力の一環で支払うもので、問題があるとは考えていない」と述べた。ロシア側に支払われる協力金は研究費などに使われるため、軍事費などに投じられる恐れはないという。
22日までの協議では日本水域での漁獲について合意した。ロシア水域の交渉に関しては、漁が最も盛んになる6月に向けて引き続き日程を調整しているという。
●プーチンは病気?…右手でテーブル端を握り離さず、足は小刻みに揺れて  4/23
ロシアのプーチン大統領が21日にセルゲイ・ショイグ国防相と会談した際、右手でテーブルの端を強く握り続けていたことから、プーチン氏の健康不安説が出ている。米誌ニューズウィーク(電子版)は21日、「病気を隠している」などプーチン氏の健康を巡る臆測がSNSで飛び交っていると紹介した。
露大統領府が公表した約12分間の動画では、プーチン氏はショイグ氏と着席で会談を始めた直後から、右手でテーブルの端を強く握り、最後まで離すことはほとんどなかった。また足を小刻みに揺らしていた。
ウクライナ人記者はツイッターに、ロシアがウクライナに侵攻を始めた「2月下旬と比べて明らかに体調が悪そうだ」と書き込んだ。
英国の元国会議員はSNSで「プーチン氏はパーキンソン病を患っている。テーブルを握っていたのは右手の震えを抑えようとしていたからだ」との見方を示した。
露独立系メディア「プロエクト」は1日、プーチン氏が甲状腺の病気を抱えている可能性を報じた。体調悪化がウクライナ侵攻を巡る判断に影響しているとの見方もある。
●NATOを牽制したつもりがNATO加盟のドミノ倒しを生んだプーチンの自爆 4/23
ロシアのプーチン大統領は、大きな衝撃を受けていることだろう。これまで中立的な姿勢であった北欧のフィンランドとスウェーデンがNATO(北大西洋条約機構)への加盟を本格的に検討しているからだ。
ウクライナ侵攻は、多くの周辺国のロシアへの態度を硬化させた。多数の民間人の殺戮は全世界的に反ロシア感情を高めた。ロシアは長きにわたり国際社会で孤立する可能性もある。
プーチン大統領はNATOの東方拡大への懸念から、西におもねるウクライナに対し侵攻を行ったが、結果として、NATOの東方拡大を助長した。ロシアの投げたブーメランが、見事なまでにロシアをめがけて戻ってきたのだ。
歴史を振り返ると、欧州は植民地を含め、世界各地での覇権を競った帝国主義の時代から、軍事力を基にした影響力を競ってきた激戦地域である。19世紀に欧州で新興の強国となったドイツも、第1次大戦と第2次大戦で敗北した後は、米ソ冷戦の最前線の地域となった。
第2次大戦後の1949年に設立されたNATOに対抗して、ソ連(当時)がソ連と東欧諸国、モンゴルや北朝鮮を加盟国として対抗したのがワルシャワ条約機構だ。
相手からの軍事的脅威を防ぎ、共同で侵略行為に対抗するための集団的安全保障の仕組みだったが、ワルシャワ条約機構は、ソ連が崩壊する直前の1991年7月に失効した(ソ連崩壊は同年12月)。
名称に掲げられているワルシャワは、言うまでもなくポーランドの首都だが、現在ポーランドはNATO加盟国である。ロシア人にとって実に皮肉なことだ。
フィンランドとスウェーデンが中立を捨てる意味
ポーランド以外にも、冷戦時代に東側に属していたルーマニア、ブルガリア、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、クロアチアなどがNATOに加盟した。旧ユーゴスラビアの一部の国を除き、東欧に分類される国は、ことごとくがNATOに加盟したのだ。
それだけではない。ソ連を構成していたエストニア、ラトビア、リトアニアまでNATOに属してしまった。
崩壊後のソ連の軍事組織を引き継いだロシアとしては、自分の影響下にあったはずの「属国」が次々に寝返ってしまったことになる。オセロの色が白であったものが、根こそぎ黒に入れ替わったようなものだろう。
今まで味方だと思っていた仲間が、一気に寝返ったのだ。世界史を見ても、ここまで一気に寝返りがあった例は少ないのではないかと思う。追い込まれたロシアは、無謀ともいえるウクライナ侵攻に乗り出した。
東欧がNATOになびいた中でも、NATOに加盟していない国がある。永世中立を宣言しているスイス、オーストリアと北欧のフィンランド、スウェーデン等である。
永世中立国とは、他の諸国家間の戦争に関係しない義務を負い、かつ、その独立と領土の保全とが他の諸国家によって保障されている国際法上の地位のことである。スイス、オーストリアに加えて、トルクメニスタンがあげられる。この永世中立国がNATOに加盟しないことは当然であろう。
北欧の国々は、米ソ冷戦には比較的距離を置いてきた。また、ロシアと1300キロにものぼる国境を接するフィンランドは、ロシアに対して必要以上の脅威を与えない方が自国の安全保障に役立つという判断もあった。
今回のウクライナ侵攻で、これまで伝統的に中立的な姿勢をとっていたスウェーデンとフィンランドがNATO入りを目指していくことが真剣に検討され始めた。
ロシアにとって数少ない非NATOの数少ない緩衝国家が消滅することになった。
ロシアから見ると、西方の欧州方面はベラルーシなど一部の国を除き、ほとんどがNATO加盟国やNATOの友好国になり、脅威が一気に増すことになってしまった。ロシアにとって西は鬼門となった。
ロシアが東方に目を向け始める必然
一方、ロシアから東を見ると、中国や北朝鮮という親ロシアの国が存在している。私は、今後ロシアはアジアの方を向いてくる可能性が高いと見ている。
ロシアはそもそも広大なアジア地域を含んでいる。アジア系住民も多い。モンゴルの支配を長く受けており、白人のように見えてもモンゴルの血が入っているロシア人も多い。
人種差別は比較的少なく、西欧よりもアジア人との結婚に抵抗感が少ない白人ロシア人も多いと言われる。実際、江戸時代の鎖国時代にロシアに漂着した日本人船乗りは数多いが、現地のロシア人と結婚して定住した人も多かった。
ユーラシア大陸に強大な、中国とロシアが中心のアジア枢軸ができる可能性がある。この枢軸に緩やかな形でインドも加わる可能性もあるだろう。
さて、以上を基に、ビジネスパーソンとしては、欧州の安全保障の変化をいかにとらえ、対応すべきであろうか。
第一に、欧州における軍事的緊張などを踏まえたリスクを十分に考慮すべきである。
物流やエネルギー供給が、軍事的緊張によって、突如として停止する可能性は高まったと言える。ロシアと隣接する国々への貿易や投資については、特に綿密なリスクの分析が必要になる。
隣接国の中でも、NATOでない場合は軍事侵攻の危険性が高まる。現状では、NATOに加盟する可能性が高いフィンランドを除くと、モルドバなどが該当する。
第二に、中長期的にはロシアのアジア地域の成長に目を向けることだ。
プーチン退陣後のロシアとどう付き合うか
現時点のロシアとの経済関係拡張は、投資家や消費者の大きな反発を買うことになり避けるべきことは言うまでもない。
しかし、今後アジア志向を強める可能性が強いロシアは、アジアに積極的に投資をしてくると推測される。そもそも経済成長の度合いはアジアが欧州を上回ることも要因だ。
ロシアは資源が豊富で、人材力も高い。トルストイやドストエフスキー、チェーホフを生んだ文化大国だ。今回の侵攻で未来永劫関係を打ち切ることはもちろんない。
ビジネスパーソンとしては、地理的にも遠くないロシアのアジア地域との経済関係拡大の可能性には常に目を向けておきたい。プーチン氏退陣後の国際社会に復活したロシアとの経済関係構築を視野に入れるべきだ。
今回のウクライナ侵攻は欧州と世界に地殻変動をもたらすことになる。ビジネスパーソンとしては、その影響を十分に見極めながら対応をしていくべきだ。
●独裁色強める「プーチニズム」、リベラル派が去り側近も処罰された 4/23
ロシアのプーチン政権がウクライナ侵攻後、ますます独裁色を強めている。侵攻に反対するリベラル派の主要人物は相次いで政権を去る一方、ウクライナ問題を担当していた情報機関側近は逮捕され、「プーチニズム」を演出し政権の中核にいたスルコフ氏拘束の情報も流れた。対ウクライナ強硬路線の失敗を部下に負わせたとの指摘もある中、その「暴走」を止める勢力はもはやない。独立系メディアの報道などを基に、ロシア政界の現状を追った。
リベラル派が次々と…
2月24日の侵攻前日に、大統領特別代表(国際協力担当)のチュバイス氏が辞任したことが明らかになった。同氏はエリツィン政権時代、第1副首相、大統領府長官など要職を歴任。間接的ながらプーチン氏が大統領府で働くきっかけを作り、プーチン政権下では長年、国営電力企業社長を務めた。リベラル系政党「右派連合」幹部も務め、政権内で数少ないリベラル派だった。侵攻に同意できなかったことが理由とみられる。その後、イスタンブールの空港で姿が確認されて以降、動向は不明だ。
リベラル派では、ロシアの先端技術開発を担う「スコルコボ財団」の代表ドボルコビッチ元副首相も辞任した。米メディアに対し反戦発言を行ったことで、与党議員などから辞任を要求されていた。同氏は経済担当の大統領補佐官、副首相などを歴任した。
また、ブルームバーグ通信などによると、ロシアの銀行システム近代化に大きな役割を果たし、ロシアのベストバンカーとして国際的な評判も高いナビウリナ中央銀行総裁も侵攻後に辞意を表明。プーチン大統領の説得により、その後撤回したという。
インナーサークルにも異変
以上、挙げた人物たちはいずれもロシアの経済分野を中心とするリベラル派だが、政権の中核を担う軍・情報機関出身の「シロビキ」で構成されるインナーサークルでも異変が起きている。
英紙タイムズによると、侵攻前にウクライナについて正確な情報を提供しなかったとして旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後継機関、連邦保安局(FSB)の職員150人が解任された。いずれも、ウクライナなど旧ソ連構成国への政治工作などを担当する第5局の職員で、虚偽情報とはウクライナ軍の抵抗や同国の政治体制などについての間違った情報を指すと思われる。第5局は1998年にプーチン大統領がFSB長官だった際に前身組織が創設された。
中でも、注目されたのが第5局の局長、セルゲイ・ベセダ氏だ。同氏は自宅軟禁の後、逮捕され、秘密警察による政治犯の尋問や拷問で旧ソ連時代から悪名高いレフォルトボ刑務所に収監された。上級大将の階級を持ち、長年第5局を指揮してきた高官を、単に解職するだけにとどまらず、FSBが管理する刑務所に収監までした理由は明らかではないが、対ウクライナ工作での資金横領疑惑のほか、独立系メディアは米国の情報機関に侵攻に関する情報を漏えいした疑いが持たれている可能性を指摘した。いずれにしろ、プーチン政権はウクライナへの政治工作を担当していた組織を、そのトップごと追放してしまった。
体制のイデオローグまで処罰
さらに関係者を驚かせたのが、元副首相のウラジスラフ・スルコフ氏の拘束と、それに続く自宅軟禁の情報だ。情報を明らかにしたのは元下院議員イリヤ・ポノマリョフ氏で、同氏は2014年のロシアによるクリミア編入で、下院の中で唯一、編入に反対票を投じ、その後、政治的迫害を逃れるため米国に亡命した。ポノマリョフ氏のSNSでの発言に対し、ペスコフ大統領報道官は「そうした情報を持ち合わせていない」と、否定も肯定もしなかった。
スルコフ氏は副首相の他、大統領府副長官、補佐官などを歴任。プーチン体制のイデオローグとして、ロシアの伝統を重視し市民の権利より国家の利益を重視する「主権民主主義」を提唱、体制内野党設立など「灰色の枢機卿」として数々の政界工作に関与。プーチン大統領を信奉する青年組織「ナーシ」を創設したことでも知られる。
スルコフ氏はプーチン大統領からウクライナなど旧ソ連諸国への工作を任され、まさに同氏がヤヌコビッチ親ロシア政権への資金供与、2014年のクリミア編入、東部ドンバス地域への介入などロシアの対ウクライナ政策を一手に引き受けてきたとされる。しかし、2020年2月、プーチン大統領はスルコフ氏を突然、補佐官から解任。その理由についてクレムリンは明らかにしていない。
スルコフ氏の拘束について、ポノマリョフ氏はドンバス地域の親ロシア勢力に提供された巨額資金の横領容疑を挙げるが、ウクライナ侵攻後の今、なぜ突然、拘束する必要があったのか不明だ。ウクライナ軍の抵抗などにより、軍事作戦が予想以上に難航していることに対する、責任追及との見方も強い。
残された側近たち
プーチン氏のワンマンぶりを強く印象づけたのが、侵攻直前に国営テレビで流された最高意思決定機関、安全保障会議でのやりとり。ウクライナ東部のドンバス地域の独立承認が討議されたが、同会議の様子がテレビで伝えられるのは極めて異例だ。
下院議長、大統領府長官を務めた大物のナルイシキン対外情報局長官は、プーチン氏の意に反してウクライナに譲歩させるよう西側諸国に最後の機会を与えるよう進言したが、プーチン氏から独立の賛否を「はっきり答えて」と詰め寄られ、口ごもりながら「独立承認」を「ロシアへの編入」と取り違えるなどろうばい。結局、会議ではプーチン氏提案の独立が全会一致で承認された。そのナルイシキン氏も、最近のロシア誌への論文で「米国はウクライナでの戦闘を長引かせ、紛争をアフガニスタンのようにしようとしている」と批判するなど、強硬派ぶりをアピールしている。
ウクライナ侵攻を主導するメンバーを見てみると、ショイグ国防相、ラブロフ外相、ゲラシモフ参謀総長、パトルシェフ安保会議書記、ボルトニコフFSB長官ら、すべて軍事作戦について強硬派で、プーチン大統領の庇護を受けてきた側近ばかり。侵攻を巡るプーチン氏の判断に世界の注目が集まる中、停戦交渉を促すような側近はまったくいない。 
●艦隊司令長官や国防相も消えた…プーチンの大静粛「戦慄の背景」 4/23
もうもうと上がる黒煙。甲板が徐々に傾いていく。爆発炎上し、巨艦は海底へゆっくりと沈んでいった――。
ロシアのミサイル巡洋艦「モスクワ」を映したとされる動画には、その無残な最期が記録されている。「モスクワ」は黒海艦隊の旗艦だ。4月13日、ウクライナ政府は地対艦ミサイル「ネプチューン」2発を命中させたと発表。翌日、沈没が確認された。
「『モスクワ』は長距離対空ミサイルや防空レーダーなどを備え、首都の名前がついていることからわかるとおりロシア海軍を象徴する軍艦です。全長は180mほどで、約500人の乗組員が乗船していました。
前身は、74年に建造が決まった当時最新鋭のミサイル巡洋艦『スラヴァ(ロシア語で栄光を意味)』。黒海艦隊で唯一、長距離対空ミサイルを装備し、防空範囲は半径200kmに及びます。代表する軍艦が沈められたのですから、ロシア軍のショックは相当なものでしょう」(全国紙国際部記者)
ロシア側は沈没を認めたものの、ウクライナ軍からの受けた攻撃は否定。「搭載した爆薬が爆発」したためとしている。だが旗艦を撃沈された屈辱に、プーチン大統領の怒りは凄まじいようだ。
「ウクライナのメディア『ビジネスウクライナ』によると、黒海艦隊司令長官のイゴール・オシポフ氏が4月16日にロシア連邦保安庁により逮捕されたそうです。司令長官の逮捕には、当然プーチン大統領の考えが影響しています」(同前)
プーチン大統領による静粛が疑われる高官は、黒海艦隊司令長官だけではない。「プーチンの右腕」と呼ばれた人物も、一時行方がわからなくなっていた。ロシア情勢に詳しい、筑波学院大学教授の中村逸郎氏が語る。
「セルゲイ・ショイグ国防相です。ショイグ氏はモスクワ州知事などを歴任し、クリミア併合を成功させプーチン氏の信頼厚い人物ですよ。そのショイグ氏が、3月中旬から2週間ほど公の場から姿を消しました。ロシア国内では、心筋梗塞のため集中治療室に入ったと報道されています。
その後は、オンライン会議に参加。21日にはプーチン氏と会談しましたが、笑顔がまったく見られませんでした。顔がこわばり、プーチン氏は握手しようともしない。2人の間の深い溝を感じました。ショイグ氏は、何らかの強い制裁を受けているのかもしれません。過去にもプーチン氏に不都合な人々が、『心筋梗塞』を理由に姿を消した例はいくつもあるんです」
西側の複数のメディアは、ロシア連邦保安庁の幹部たちも逮捕され組織が改変されたと報じている。プーチン大統領がウクライナ侵攻以降、要人の静粛を進めているのはなぜなのだろうか。中村教授が続ける。
「理由は2つあると思います。1つは、日に日にロシア軍の犠牲が大きくなり、政府内にウクライナ侵攻に反発する声が強くなっているためです。おそらくショイグ氏も、プーチン氏のやり方に抗議し逆鱗に触れたのだと思います。
2つ目が責任のなすりつけです。自身の甘い見通しやウクライナ軍の実力軽視で苦戦に陥っているにもかかわらず、現場の指揮官たちのせいにしている。黒海艦隊司令長官の逮捕が本当なら、『モスクワ』沈没のみせしめでしょう。『失敗したらこうなるぞ』と示すことで、自国の兵士たちを脅しているように感じます」
いくら反発する側近たちを排除しても、事態は好転しない。プーチン大統領は静粛により、ますます孤立している。
●ロシア軍、アゾフスターリ製鉄所「しっかりと封鎖」=国防省 4/23
ロシア国防省は22日、ウクライナ軍が立てこもって抵抗を続けるウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所を「しっかりと封鎖した」と発表した。ロシアのプーチン大統領は前日、マリウポリでの激戦で勝利したとし、軍にアゾフスターリ製鉄所突入計画を中止した上で、「ハエ1匹も通さないよう」一帯を封鎖するよう命じていた。
国防省はまた、ロシア軍が22日にドネツクとハルキウで数十の標的を攻撃したと明らかにした。 
●戦費に押しつぶされるプーチン、5月9日勝利宣言が必要な理由 4/23
プロローグ/ロシア軍、ウクライナ全面侵攻開始
ロシア軍は2022年2月24日、満を持してウクライナ国境を越え、ベラルーシ側から首都キエフ(現キーウ)に侵攻開始。ウクライナ東部2州では全面戦闘再開。黒海側では、クリミア半島から進軍しました。
その後の欧米側からの大規模経済制裁強化措置は当然の結果と言えましょう。
この原稿を書いている4月21日、ロシア軍はアゾフ海沿岸のアゾフ・スタール(アゾフ製鉄所)制圧を発表。これは、同製鉄所を今後兵糧攻めにする作戦と思われ、守備隊は籠城戦を展開するでしょう。
同製鉄所の敷地面積は東京ドーム235個分とも言われています。なぜこれほど敷地面積が大きいのでしょうか?
実は、旧ソ連邦諸国の重工業関連施設は皆、広大な敷地の中に建設されています。理由は、周囲を包囲されても自給自足できる態勢になっているからです。
すなわち、戦争を前提に工場が存立するとも言えましょう。
日本の製鉄所は高炉と転炉は同じ敷地内にあることが多いですが、厚板工場や薄板工場は通常別の工場敷地になっています。
旧ソ連邦諸国の製鉄所は高炉・転炉・厚板・薄板・製管工場などが全部一つの敷地に入っており、学校やホテル、病院、劇場などもあります。ですから、膨大な敷地面積になります。
今回のアゾフ・スタール製鉄所はその典型と言えましょう。
自動車工場も同様です。日本では自動車部品は協力工場から供給され、自動車工場は実質、組み立て工場です。
旧ソ連邦諸国の自動車工場は、タイヤとガラス以外は自社工場で作っていると言われるほど、何から何まで自社工場で生産していました。
筆者はモスクワ駐在中、国産車ジグリ(輸出名ラーダ)を製造しているサマーラ州トリアッチ市のAvtoVAZをよく訪問しました。何回行っても広すぎて工場内部の全容が分りませんでした。
今回のロシア軍のウクライナ侵攻問題に関しては、筆者は侵攻前から「ロシアがウクライナに軍事侵攻する意味も意義も大義もない」と主張。
結論として「ゆえにロシア軍のウクライナ侵攻はないだろう」と述べてきましたが、結果は残念ながら正反対でした。
「米側が悪い。ウクライナが悪い」という、ロシア軍のウクライナ侵攻を擁護する論調もあります。
確かに米J.バイデン大統領やB.ゼレンスキー大統領の言動は一つの原因ではありますが、これは、相手を殴っておいて、「お前が悪い」と言っていることと同じです。
V.プーチン大統領代行は2000年5月7日、新生ロシア連邦として2人目の大統領に就任。
その直後、バレンツ海で北洋艦隊所属の最新鋭原潜「クルスク」沈没事故が発生して、新大統領の誇りは「クルスク」と共に沈没しました。
露黒海艦隊旗艦「モスクワ」は2022年4月14日に沈没。「モスクワ」沈没と共に、プーチン大統領の誇りも再び沈没したと考えます。
今、プーチン大統領の頭の中にあるもの、それは復讐心ではないでしょうか。
しかし、「二度あることは三度ある」。プーチン大統領には、近く3度目の沈没が待っているような気がします。
第1部:米国の原油生産量概観
   米国は世界一の産油・産ガス国
現在の世界最大の産油国・産ガス国は米国であり、米国は石油とガスの純輸出国です。
原油生産量を話すとき、一つ重要な視点があります。
それは原油(Crude Oil)生産量にコンデンセート類(天然ガス液類)を含むか含まないかで、数字が全く異なることです。
コンデンセート類を含むと、米国は2014年に世界一の産油国になり、含まないと2018年に世界一の産油国になります。
実例を挙げます。米EIA(エネルギー省エネルギー情報局)発表の原油生産量はコンデンセートを含まず、英BP(英国石油)が発表する原油生産量には含まれています。
米国では2010年頃から原油生産量が増えます。シェールオイルと天然ガス液(NGL=Natural Gas Liquids)の生産量が増えるからですが、上記2つのグラフの差がNGL生産量になります。
この違いを理解しないと、「米国は2014年に世界一の産油国になったので、世界の油価が急落した」などと言う、意味不明の解説になります。
   米国/ロシア産原油・石油製品輸入量推移
米国はロシア産原油(ウラル原油)と重油を輸入しています。特に、2019年から増えました。
米国は従来、ベネズエラ産重質油を輸入していましたが、ベネズエラの大統領選挙に介入した結果、同国との外交関係が悪化。
ベネズエラ産重質油が入らなくなり、2019年から代替品として露ウラル原油と重油輸入を拡大しました。これが、2019年から米露エネルギー貿易が急拡大した背景です。
2021年の米国の原油輸入に占めるロシア産原油と石油製品の割合は原油3.3%、石油製品20.1%(主に重油)、石油(原油+石油製品)は7.9%です。
米国はロシア軍のウクライナ全面侵攻に対する経済制裁措置強化の一環として、ロシア産石油(原油+石油製品)の輸入禁止措置を発表。
ベネズエラ産重質油の代替原油たるロシア産原油(ウラル原油)と重油の代わりに、また元のベネズエラ産重質油の輸入再開交渉に入りました。
日系マスコミは「ロシア産原油の代替としてベネズエラ産原油輸入を探る」と報じていましたが、実はそうではなくて、ロシア産原油がベネズエラ産重質油の代替原油でした。
要するに、先祖帰りです。
ここでのポイントは、ウラル原油も重油もベネズエラ産重質油もサワー原油(硫黄分1%以上)である点です。すなわち、脱硫しないと燃料・原料として使用できません。
ロシア産原油(ウラル原油)輸出の半分は欧州に輸出されています。
欧州(特にオランダ)に脱硫装置があるからです。しかしこれ以上の脱硫余力はないので、米国向け輸出は渡りに船でしたが、この分の対米輸出ができなくなるとロシアは困ったことになります。露国内に十分な脱硫装置がないからです。
一方、米国の脱硫装置を備えた製油所も困ることになるので、また先祖帰りが必要になりました。
かくしてロシアは石油・天然ガス市場を失いつつあり、近い将来、ロシア経済は衰退必至と言えます。
北海ブレントと露ウラル原油の値差は従来バレル2〜3ドル程度でしたが、今では10倍以上の値差になりました。
ウラル原油はサワー原油なので脱硫装置のある製油所でないと精製できず、売り先に困ることになり、バナナの叩き売りが始まりました(後述)。
プーチン力の源泉は油価上昇ですから、油価(ウラル原油)が下がればプーチン力の源泉も縮小します。
これが何を意味するのかと申せば、近い将来、戦費(軍事行動)に影響がでることが予見されます。
   米国/中東諸国との外交関係悪化の背景
米・サウジアラビアの外交関係悪化の背景は米シェールオイル増産です。
米国は2014年、あるいは2018年に世界一の産油国になりました。このため、OPEC(石油輸出国機構)諸国からの石油(原油+石油製品)輸入の必要性が減少。
一方、ロシア産石油の輸入を拡大したことが、両国外交関係悪化の背景になります。
なぜロシア産石油輸入が拡大したのかと申せば、2019年からベネズエラ産サワー重質油が輸入できなくなり、代替品としてロシア産サワー重質油を輸入拡大しました。
ここで参考までに、米国の中東産石油(原油+石油製品)とロシア産石油の輸入量推移を概観します。
第2部:プーチン「力の源泉」ロシア産石油と天然ガス
   露ウラル原油・北海ブレント・米WTI/週間油価推移概観 (油価:ドル/ bbl)
原油の性状(比重や硫黄分含有量など)は採取される油田鉱区毎に異なり、油価に反映されます。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレンド原油で、中質・サワー原油(同1.5%程度)です。
ウラル原油は、英語ではURALsと複数形のsが付きます。
露ウラル原油の輸出ブランド名はREBCO(Russian Export Blend Crude Oil)で、2006年10月にNYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)に登録されました。
ちなみに、日本が輸入しているロシア産原油は3種類ありますが、すべて軽質・スウィート原油で、日本はウラル原油を輸入しておりません。
2022年2月24日のロシア軍のウクライナ全面侵攻を受けて急騰した油価は、その後急落。
4月11〜15日の週間平均油価は北海ブレント105.42ドル/bbl(スポット価格)、米WTI101.46ドル(同)、露ウラル原油66.18ドル(露黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)となり、特にウラル原油が暴落しました。
これは、ロシアのウクライナ侵略戦争に反対する欧米需要家からウラル原油が敬遠されていることを意味します。
この結果、北海ブレントとウラル原油の値差はバレル40ドルにまで拡大。今では、バナナの叩き売り状態となりました。
一方、安値となったロシア産原油を買い増ししているのが、中国とインドと言われています。
   ロシア経済は油価依存型経済
本稿では、ロシア経済を支えるウラル原油の油価推移を概観します。
ロシアのアキレス腱、それは経済です。油価高騰に支えられた経済構造は油価依存型経済から脱却できず、逆に益々依存度を高めていきました。
油価(ウラル原油)と国庫歳入の関係は以下のグラフのとおりです。
上記のグラフのとおり、油価と石油・ガス税収が強い正の相関関係にあることが分かります。
ロシア国庫歳入に占める石油・ガス税収は、プーチン新大統領が誕生した2000年は約2割でしたが、その後、油価上昇と共に石油・ガス税収が国庫歳入案に占める割合は増加し、油価高騰時には国庫歳入の半分以上を占めるに至りました。
油価低迷で大統領職を辞任した人、それは故B.エリツィン大統領。油価上昇を最も享受した人、それはV.プーチン大統領その人です。
換言すれば、プーチン大統領の力の源泉は油価上昇であり、油価が下落することはプーチン大統領にとり力の源泉が縮小することを意味します。
第3部:プーチン大統領の誇り沈没
   プーチンの誇り沈没1/北洋艦隊バレンツ海原潜「クルスク」(2000年8月)
最初に、プーチン新大統領が誕生した2000年8月に発生した原潜クルスク沈没事件を概観します。
沈没原因として様々な説が登場しましたが、搭載した魚雷の液体燃料が漏れ、発火して爆発炎上。他の魚雷が誘爆してバレンツ海に沈没。当時、乗組員118人全員死亡と報じられました。
沈没した原潜「クルスク」のNATO(北大西洋条約機構)コード・ネームは「オスカーU型」。
2000年当時のロシア海軍所有のオスカーU型は計10隻。
うち、下記6隻が北方艦隊所属(艦隊根拠地セーベロ・モルスク)、残り4隻はウラジオストックの太平洋艦隊所属でした(原潜基地カムチャッカ半島ペトロパブロフスク)。
Smolensk(K−410) / Voronesh(K−119) / Omsk(K−186) / Krasnodar(K−148) / Orel(K−266) / Kursk(K−141)
オスカーU型は基準排水量1万8300トン(水中)、全長154メートル、幅18.2メートル、水中速度28ノット、無補給海中行動能力120昼夜の大型潜水艦。
日本海軍の伊号潜水艦は米西海岸やパナマ運河を空襲する能力を備えた潜水空母でしたが(水上飛行機を格納していた)、それ以上の巨大潜水艦です。
第2次大戦で活躍したドイツ海軍のU−ボートに至っては、基準排水量は500トン程度でした。
ちなみに、1905年5月の日本海海戦で東郷平八郎連合艦隊司令長官が座乗した戦艦「三笠」の排水量は1万5000トンですから、いかに巨大な潜水艦か容易に想像できましょう。
クルスクは露海軍の演習中に、北緯69度40分、東経37度35分、水深108メートルのバレンツ海に沈没。
時に2000年8月12日。最初の小爆発はグリニッジ標準時9時28分(現地時間11時28分)、2回目の大爆発は9時30分。この2回目の爆発は最初の小爆発の約50倍で、TNT火薬5トン分相当でした。
原因は何か?
様々な説が流れましたが、ロシア海軍は「米潜水艦と衝突して沈没。乗組員全員死亡」と発表。
一方、『レッド・オクトーバーを追え』の作者トム・クランシー氏は艦内魚雷爆発説を唱え、人為ミスにより1発目の魚雷が爆発、その直後に連鎖爆発が起こり、この時点で乗組員の大部分が死亡したとの説を発表しました(2000年8月30日付け日本語版『ニューズウィーク』22頁)。
一方、人為ミスや操艦ミスは露軍部の責任となるので、露軍部は衝突説を唱えた次第です。
真相は上記のとおり、搭載魚雷の燃料が漏れ火災発生、他の魚雷誘爆による沈没事故です。
問題は、当時ロシア連邦2人目の大統領に就任したばかりのプーチン新大統領の行動です。
プーチン新大統領は8月12日の事故発生後、雲隠れ。マスコミ記者団が待ち構える記者会見の場に新大統領が姿を現したのは8月16日のことでした。
記者団から「なぜ事故は発生したのか、生存者はいるのか」などと質問された新大統領は、「今、分かっていることは潜水艦が沈んだということだけだ」と返答して、マスコミから叩かれました。
原潜クルスク沈没の報に接し、ノルウェーなどは直ちに救助艇派遣を申し出ましたが、新大統領は拒否。
結局、「全員死亡」と発表されました(のちに生存者が居たことも判明しましたが、生存者がいると真相が分ってしまうので、軍部は生存者を隔離して隠蔽していました)。
この時マスコミから叩かれたことがトラウマとなり、以後、マスコミ統制に乗り出すことになります。
「クルスク」は1994年5月に進水。同年10月北方艦隊に就役したオスカーU型シリーズの最新鋭艦であり、文字通り“ロシアの誇り”でしたが、ロシアの誇りとともにプーチン新大統領の誇りも沈没しました。
   プーチンの誇り沈没2/黒海艦隊旗艦「モスクワ」(2022年4月)
ロシア黒海艦隊旗艦ミサイル巡洋艦「モスクワ」は2022年4月14日、黒海の藻屑と消えました。
ロシア海軍の旗艦沈没は1905年5月27日夜のバルチック艦隊旗艦戦艦“Князь Суворов”(「スヴォ―ロフ公爵」号)沈没以来、117年ぶりとなります。
大型軍艦は軍艦同士の砲撃戦、水平爆撃や急降下爆撃による航空攻撃ではなかなか沈没しないもので、ほぼすべての大型軍艦沈没原因は喫水線下の魚雷攻撃です。
バルチック艦隊旗艦「スヴォ―ロフ公爵」は昼間の日本海海戦で大破・炎上して、戦闘能力を喪失しましたが沈没せず、連合艦隊は同日夜、炎上する戦艦に対する魚雷攻撃で撃沈した次第です。
1942年6月のミッドウェー海戦で、日本は正規空母4隻を失いました。
しかし、米軍の航空攻撃で沈没した空母は「加賀」と「蒼龍」の2隻のみです。
空母「赤城」と「飛龍」は大破炎上しましたが沈没せず、連合艦隊は曳航を試みましたが曳航不可能と判断し、味方の魚雷攻撃で沈没させました。
不沈空母「信濃」(大和型3番艦)は実戦に参加する前の艤装の段階で、回航中に米潜水艦による4発の魚雷であえなく沈没しました。
露黒海艦隊旗艦「モスクワ」は4月13日、ウクライナ軍による2発の地対艦巡航ミサイル「ネプチューン」で被弾。
炎上後、搭載する巡航ミサイルと魚雷に引火して爆発。艦隊根拠地のクリミア半島セバストーポリに曳航途上、穴の開いた船腹に海水が入り、横転して沈没しました。
余談ですが、日本のある軍事評論家は「モスクワは轟沈した」と話していましたが、「轟沈」とは被弾後、1分以内に沈没することを指します。文字通り、瞬時に艦体が消えることです。
ですから、ミサイル巡洋艦「モスクワ」は轟沈ではなく沈没です。
黒海艦隊旗艦の沈没と共に、プーチン大統領の誇りも沈没したと言えましょう。
   プーチンの沈没3/軍事行動戦費枯渇?(2022年5月?)
筆者が今一番関心をもっているのは、ロシア軍の戦費です。軍隊を動かすことはお金がかかります。
「毎日いくら戦費が支出されているのか、戦費はどのように賄っているのか」、筆者の独断と想像を交えて推論したいと思います。
日露戦争は戦況有利な中、ポーツマス講和条約をもって明治政府は帝政ロシアと講和しました。
賢明な英断でした。戦争を継続していれば戦費が払底して、恐らく日本が負けていたと思います。
現在進行中のロシア軍によるウクライナ侵攻作戦に関しては当初、「ロシア軍の戦費は1日150億ドルなので、早晩ロシアは戦費がなくなるだろう」との報道が流れました。
戦費1日150億ドルの根拠は不明ですが、何がなんでも多すぎます。恐らく、その10分の1以下ではないでしょうか。
ロシアの兵器は国産が多いのですが、中に入っている部品、特に半導体は外国製品の由。ですから、ドル・ユーロ資金が減少すれば外国からの部品も調達できなくなります。
もちろん、現在は対露経済制裁措置強化により海外から半導体は輸入できないので、既存の兵器・武器弾薬を消耗すれば、近い将来、兵站補給の問題が生じるはずです。
ある有名大学の先生が4月20日、「欧州は天然ガスを今でも輸入して毎日1000億円のガス代をロシアに払っており、これがロシア軍の戦費になっている」と発言。筆者はビックリ仰天しました。
最近ロシアの石油・ガスに関する情報が制限されるようになりましたが、現在分かっている範囲で上記発言を検証してみたいと思います。
ロシア連邦統計庁は2021年の輸出総額と天然資源・燃料輸出額などを発表しており、主要品目は以下の表の通りです。
今年2022年は原油・石油製品・ガス・石炭などの地下資源価格が上昇しており、ロシアからの天然資源・燃料輸出額は順調にいけば3000億ドル程度になるはずですが、今回のウクライナ侵攻の結果、欧米市場向け輸出量は大幅に減少することも予見されます。
上記の通り、ロシアの全世界向け2021年天然ガス輸出金額は総額555億ドルです。
ロシアの原油・ガス輸出総額は1657億ドルゆえ、1日あたりの輸出金額は約540億円(1ドル=120円換算)になります。すなわち、欧州1日当たりの対露天然ガス支払い金額は1桁違うことが分かります。
また、天然ガス555億ドルは輸出金額であり、国庫税収ではありません。
税収はパイプラインによる天然ガス輸出金額の30%、LNG輸出は関税ゼロですから、国庫税収として欧州向け天然ガス輸出から得られる年間関税収入は10億ドル以下と推測されます。
ゆえに、「欧州は1日1000億円のガス代金をロシアに払っている」との発言は間違っていることが判明します。
「二度あることは三度ある」。では、次の沈没は何になるでしょうか?
筆者は戦費の沈没ではないかと予測します。
今年2022年の露国家予算案の歳入は23.7兆ルーブル、うち国防費は3.51兆ルーブル、治安・国家安全保障費2.8兆ルーブルが計上されています。
国家予算案の換算レートは1ドル=72.1ルーブルなので、このレートで換算すると、国防費約490億ドル、治安・安保費390億ドルになります。前者は国防軍用予算、後者は治安・情報機関用予算です。
上記よりお分かりの通り、露国家予算規模は日本の約3分の1にすぎません。
西側試算では1日当たりの露軍ウクライナ侵攻費用は150億ドルと報じられていました。年間国防予算490億ドルであれば、3〜4日間で国防予算は払底しているはずです。
仮に10分の1としても、今日でウクライナ侵攻57日目ですから、もう払底しているはずです。
しかし戦闘は継続していますので、どこか他の貯金(隠し財源?)から支出しているはずにて、輪転機を廻して不換紙幣を印刷していればハイパーインフレになります。
一番疑わしいのは露国民福祉基金です。
油価が国家予算案想定油価(2022年はバレル62.2ドル)よりも高い場合、追加石油・ガス税収は露国民福祉基金に蓄積されることになっています。
昨年(2021)11月1日現在の資産残高は1978億ドル、今年3月1日現在1548億ドルとなり、430億ドル減少しました(年間国防予算に匹敵する数字)。
昨年も今年も予算案想定油価よりも実際の油価(ウラル原油)は高いので、国民福祉基金資産残高は増えるはずなのに、2021年11月以降急減しています。
4月1日現在の資産残高は4月末にならないと発表されないと思いますが、3月1日比さらに急減しているはずにて、筆者はこの点に注目しております。
金・外貨準備高は約6400億ドルありますが、実際に使用できるのは2000億ドル程度のようです。
   プーチン「勝利宣言」を急ぐ背景は?
プーチン大統領は5月9日の対独戦勝記念日までに勝利宣言したい意向ですが、その背景は単に対独戦勝記念日を祝うことではなく、戦費枯渇問題が背景にあるのではないかと筆者は推測しています。
戦費枯渇により自分が沈没することを避けるべく、プーチン大統領は5月9日の対独戦勝記念日祝賀式典において「勝利宣言」する必要性に迫られていると筆者は考えます。
すなわち、「勝利宣言」=「プーチンの焦り」とも言えましょう。
ウクライナ軍は勝つ必要はなく、負けないことを目指しています。
一方、ロシア軍は勝たなければなりません。
ゆえに、今後長期戦になればウクライナ側が有利になると判断します。
余談ですが、欧州では終戦日は5月8日です。なぜ、ロシア(旧ソ連邦諸国)では5月9日が対独戦勝記念日かと申せば、東部戦線では5月8日深夜にベルリンで独軍・赤軍の停戦交渉が合意。その時、時差のあるモスクワでは既に5月9日未明に入っていたからです。
付言すれば、西部戦線では5月7日に停戦合意、翌8日発効しました。
エピローグ/自壊するプーチン・ロシア
ロシア軍のウクライナ侵略戦争は本日4月21日で57日目に入りました。
侵攻2日後には首都キエフ制圧宣言の予定だったので、これは大きな誤算と言えましょう。
首都攻略戦に失敗したロシア軍はウクライナ侵略軍の全兵力をウクライナ東部に集結させ、東部戦線ではロシア軍の総攻撃が始まりました。
マリウーポリは完全に包囲されています。ロシア軍は4月21日、最後の抵抗拠点アゾフ・スタール製鉄所を制圧したと発表しましたが、完全占領ではありません。守備隊は籠城戦を継続するでしょう。
第2次世界大戦の東部戦線では、ドイツ軍はスターリングラード攻防戦で敗退後(1943年2月2日)、第3次ハリコフ戦車戦で勝利(43年3月15日)。
ここから東側にドイツ機甲部隊が突出したクルスクで、独ソ両軍5000輌以上の史上最大の戦車戦となり、最終的に赤軍が勝利しました(43年8月末)。
ドイツでは、「ドイツの進撃はスターリングラードで終わり、ドイツの敗北はクルスクに始まる」と言われています。
「ロシア軍の進撃はマリウーポリで終わり、ロシア軍の敗北はハリコフに始まる」のでしょうか?
マリウーポリのアゾフ・スタール製鉄所の戦闘は白兵戦の様相を呈しており、壁の手前と向こう側で手榴弾を投げ合う戦闘になっています。
西南の役の田原坂の戦いで言えば、警視庁抜刀隊と西郷軍が文字通り刀を抜いて切り合っている姿にて、警視庁抜刀隊の主力部隊は薩摩出身者でした。
壁の双方で手榴弾を投げ合っているのは同じスラブ民族です(一部チェチェン傭兵)。
プロイセンの鉄血宰相ビスマルク曰く、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。
歴史は繰り返す。どうやら、人類は歴史に学んでいないようです。
●「分断して支配する」欧米流儀に染まってウクライナ戦争を見てないか 4/23
仲間割れをさせて「戦わずして勝つ」
「孫子」(の兵法)は、優れた兵法書というだけではなく、政治、ビジネスにおける指南書としても重用されてきた。ナポレオン・ボナパルト、武田信玄、孫正義、ビル・ゲイツの愛読書としても有名である。
その孫子の教えの中でも「戦わずして勝つ」という言葉は、特によく知られている。
「(戦闘行為を伴う)戦争」は国力を消耗する上に、もし負けたら支配者もそうだが、国民はもっと悲惨なことになる。だから、「孫子」は、兵法書と言われながらも、「できる限り戦闘行為を行わない」ように教える「平和主義の書」ともいえる。
その点で、事前に予想されたよりも長期化の気配を見せている「ウクライナ紛争」は、どちらにとっても「消耗戦」となり、4月21日公開の「ウクライナ紛争は米国にとって21世紀の『ベトナム戦争』となるか」のような事態になるのではないかと恐れている。
もちろん、ロシアの軍事力(通常兵力)は、米国(NATO)の足元にまったく及ばない。だが、米国(NATO)とロシアの直接対決になった時や、ロシアが「自国の存亡の危機」と感じた時に「核戦争」となる可能性はかなりある。
「核対決」になれば、米国を上回る6000以上の核をロシアが保有している事実が突き付けられる。
結局、人類滅亡の覚悟が無ければ「ロシアに勝利」するのは難しいように思える。かといって、ウクライナに「代理戦争」を行わせている西側は、武器供給あるいは「義勇兵(民間の戦闘請負人を含む)」のサポートを続けるであろうから、ロシアの完全勝利も困難であろう。
つまりベトナム戦争と同じように、「代理」で戦わされている人々が悲惨な運命に直面することになる。
それでは、戦いに勝つ方法は無いのか? 「孫子」的に「戦わずして勝つ」ことを目指すのであれば、「敵を分断させる」ことが最も需要だ。
関ケ原の戦いでの布陣を見たドイツの武官が、「東軍の勝利はあり得ない」と断言したという話が伝わる。確かに布陣から考えれば、「徳川方圧勝」などという結果を想像することは困難だ。
実際、東軍は序盤で苦戦している。戦況が大きく変わったのは、「日本史上最大の裏切り者」ともいわれる小早川秀秋が徳川方に寝返った後だ。
もちろん、その他にも、徳川家康の西軍陣営に対する「切り崩し工作」が事前に激しく行われ成功したことが、東軍勝利の大きな要因だといえよう。
「戦争」が無く「平和」であることが最も望ましいし、「戦闘以前」の「同盟関係」や「外交交渉」が極めて重要であることを示す典型的事例であろう。良くも悪くも、関ヶ原の戦いは「瞬時」に決着がつき、長い消耗戦を行う必要は無かったのだ。
江戸城は無血開城した
例えば幕末においても、大きく分ければ英国が薩長を支援し、フランスが幕府をサポートした。もし、双方が妥協の余地なく永遠に戦闘を続けていれば、日本の国土は荒れ果てていたであろう。
また、最終的にどちらかが相手を殲滅して勝利しても、弱り切った勝者(政府)は外国の支援をあてにするしかない。結局、日本政府は英仏どちらかの(独裁)傀儡政権になっていた可能性が高いといえる。
したがって、江戸城の無血開城と徳川慶喜の大政奉還は、少なくとも結果的に、その後の日本の繁栄の礎になったと考えるべきだ。
また、英国が、インド植民地支配の都合で、イスラムとヒンズーの分断を行ったことは有名だ。イスラムを中心に登用したため、多数派のヒンズーたちは(その背後にいる英国に対してはもちろんだがそれ以上に)、自分達が差別的扱いを受けているのに「優遇されているイスラム」に対する憎しみを募らせたのだ。
その結果、独立の際、パキスタンはインドと分離することになったといえる。
また、「ルワンダの大虐殺」は、旧宗主国のベルギーが「手下」としてツチ族を利用した上に優遇し、多数派のフツ族を支配させたことが原因といえる。2つの種族は見た目で違いがほとんどわからないとされ、以前は平和共存していたのだが、植民地政策が影響してお互いを憎悪するようになったのだ。
実は、ウクライナでも「侵攻」前から、一種の「分断」が行われていた。
4月3日公開「英語社内公用語化は『ガラパゴス』『形式主義』『同調圧力』の象徴か?」3ページ目「ウクライナでの『ロシア語禁止』はどうなのか?」で述べたように、ロシア語を母語とする国民が3割もいるのに、事実上の「ロシア語禁止」を行うことは、批判されるべき行為である。しかも、このやり方は、「ウクライナで抑圧されているロシア系住民の救済」というプーチン氏の主張を裏書きすることになる。
旧植民地が発展しないのは、分断政策の影響が大きい
前記、「ウクライナ紛争は米国にとって21世紀の『ベトナム戦争』となるか」で述べたように、「ベトナム戦争」は、第2次世界大戦後にベトナムを「再植民地化」しようとしたフランスのインドシナ戦争を引き継いだ形だ。
幸いにして、ベトナムは、現在新興国の雄として健闘している。しかし、多くの「旧植民地」が政治的な混乱から脱出できず、経済的にも不遇なのは、欧米の植民地時代の宗教、民族などによる「国民の分断」の影響だと考えられる。
その結果、国家の統一を維持するために、共産主義か独裁政権かという選択になりがちだ。一度深刻な分断を経験すると、強権でなければまとまらなくなるのだ。
欧米が「分断」して混乱を招いた国々にいきなり民主主義を押し付けても、多くの場合機能せず、「民主主義」とは名ばかりの「腐敗した独裁政権」が誕生する場合がほとんどだ。
現在のところ欧米の「傀儡」とも思える、ウクライナのゼレンスキー政権がその例外と言えるであろうか。
昨今の「言論弾圧」は結局社会を分断させる
もちろん、日本を含む「西側」は、「分断」されることなく「一致団結」すべきである。
しかし、その「一致団結」を強権で行おうとするのであれば、西側の錦の御旗である「民主主義」は崩壊する。
4月1日公開「いつの間にか大政翼賛会が形成されてないか―恐ろしい戦時体制ムード」、昨年2月25日公開「テキサス州が『大統領選挙不正との戦い』を牽引しているのはなぜ」、昨年11月21日公開「注意せよ、不気味な『パンデミック全体主義』が世界を覆おうとしている」、など多数の記事で述べてきた、「強権的手法による『議論することさえ認めない弾圧』」は、我々が誇るべき民主主義社会の崩壊を意味していないだろうか。
もちろん、民主主義社会であっても、最終的には多数派の意見が通る。しかし、ただ多数派の意見が押し通されるのであれば、単なる「多数派による強権政治」だ。民主主義では「決定する前に議論を尽くす」ことが重要なのである。
ところが、上記のような「議論そのものを認めない『言論弾圧』」を行っているし、その『弾圧』を行っている人々が多数派なのかさえわからない。
そのような状況では、西欧社会が批判している独裁国家とどこが違うんだ? という議論が当然起こる。民主主義社会では、「言論の自由」が認められている中で民主主義的手続きによって「相互に歩み寄る」こと以外での、「一致団結」は出来ないはずだ。
米国も欧州も分断
このようなことが続けば、西側の民主主義社会が「分断」されることになる。その典型が、2020年10月27日公開「第2次南北戦争も―選挙結果がどうなっても米国の分断は避けられない」などで「分断」の問題について繰り返し述べてきた米国である。
バイデン大統領がウクライナ紛争を騒ぎ立て、「民主党翼賛メディア」が、「反露無罪」、「鬼畜ロシア」のプロパガンダを大量に流しているのに、「有事」にしては、大統領の支持率はかなり低い。
笛吹けど踊らず程度であればよいが、「バイデンでは民主党がもたない…オバマの院政・3選はあり得るか?」で述べたような、赤(共和党)い州と青(民主党)い州の『激突』はすでに深刻になっている。
また、欧州でも前記「ウクライナ紛争は米国にとって21世紀の『ベトナム戦争』となるか」で触れたフランスは、米国の「独善的な対ロシア政策」にノーを突き付け始めている。
さらに、4月14日のロイター記事「ウクライナの独大統領訪問拒否、ショルツ首相『腹立たしい』」で述べられているように、ドイツの立ち位置も微妙だ。
2020年9月21日公開「メルケル独裁16年間のつけ、中国がこけたらドイツもこけるのか?」、1月16日公開「ドイツは3度目の『敗戦』? メルケル16年の莫大な負の遺産」で触れたメルケル氏はプーチン氏と親しく、「ロシアの工作員説」さえ囁かれるほどだ。
事の真偽はともかく、そのような親露的な人物が16年間もドイツ国民の支持を受けていたことは重要だ。ドイツも、プーチン氏が手を出したことに怒ってはいても、バイデン氏のように、明確な定義づけや証拠もなく一国を代表する人物を「虐殺者」呼ばわりすることに対しては思慮深い対応をしている。
事実、フランスのマクロン大統領は、「ジェノサイド」と呼ぶことを避け、強い非難の言葉を使うことは戦争終結の助けにならないと訴えている。
このままでは西側が、「横暴なふるまいを続ける米国とそのシンパ」と、「ドイツやフランスのように冷静な態度を貫く国々」との2つに分断されてしまう。
「話せばわかる」民主主義が大事
外国からの侵略には武力で対抗しても、国内では「問答無用」があってはならない。
欧米を中心とする世界が全体主義に向かっている。我々は、よほど気を付けないと「戦前と同じ過ち」を犯してしまう。
ウクライナ紛争に関して、民主主義社会においても「問答無用」を是とする考えがはびこっているのは残念なことだ。本来、充分に平和的解決が可能なのに、米国を主体とする西側の「急進派」が「話し合い」を拒絶しているように思える。
詳しくは、私が執行パートナーを務める人間経済科学研究所フェロー八幡和郎の「トルコ仲介の期待と戦争を終わらせたくない英米の迷走」を参照いただきたい。
逆に非西欧世界は「団結」しつつある
逆に、「敵の敵は味方」という事で、米国(西欧)を敵とする国々が、今回のウクライナ紛争をきっかけに、3月29日公開「まさかRIC=露印中が大同団結? 『第2次冷戦』の世界の本音とは」のように「大同団結」しつつある。
さらに、4月15日の産経新聞の報道にあるように「エルサレムのモスクで衝突 150人以上負傷」という事件が起こった。
これにより、イスラエルの背後にいる米国(西欧)に対するイスラムの人々の憎しみに油が注がれるであろう。
西欧は「分裂」の様相を呈しているのに、「非西欧」は、「敵の敵は味方」の論理で結束が強まっていることを、我々は見過ごすべきではない。
●「戦闘」は終わっても「戦争」は続く 難民支援 4/23
日本人カメラマンの糸沢たかしさん(58歳)は、2001年にウクライナの女性と結婚して、ふたりの子供にも恵まれ、2014年まで夫人の家族が住むルハーンシク(ルガンスク)で暮らしていた。
しかし、当時の「2014年ウクライナ騒乱」に端を発する、ドンバス地方(ドネツィク州、ルハーンシク州)における独立派とウクライナ政府軍との紛争の勃発で、一家はルハーンシクからの避難を余儀なくされ、1年間日本で暮らした後、現在はポーランドに移住している。
筆者の古い仕事仲間でもある糸沢さんは、2月下旬に日本へ一時帰国。ちょうどそのとき今回のロシアによるウクライナ侵攻が起こり、都内で何度か彼の話を聞く機会を得た。
「いまウクライナ全土で起きていることは、8年前に私たちの家族が経験したことと同じです」と語る糸沢さん。前編では、かつて一家に降りかかった出来事を彼の口から語ってもらった。後編は、その後の彼らの暮らしと今回のロシアによるウクライナ侵攻に対する思いを、糸沢さんから聞いて、以下に筆者がまとめた。
日本から戻った2015年7月以降、私たち一家はワルシャワで暮らしていました。ただし、ポーランドの永住権を持っているのは妻だけでした。ポーランド政府は、第二次世界大戦前にポーランドを離れざるを得なかった旧ソ連の住民の子孫に対して永住権を与えていたからです。
家財をそのまま残してきたルハーンシクは無理でも、妻の妹夫婦が住むウクライナの首都キーウに住むことも考えました。しかし、生活の基盤を一から始めるという意味で、大変であることは変わりませんでした。
私と子供たちは日本国籍なので、長期滞在者として数年おきに住民登録を延長しなければならなかったのですが、妻には永住権があり、ポーランドという国もウクライナとは歴史的にゆかりがあり、友好的なことも住む理由としては大きかったのです。家族で何度も話し合ったうえ、もうどこにも逃げることなく、ポーランドで生活を始めようと決めました。
ポーランドはカソリックの国で、妻はルハーンシクに住んでいた時代に入信しており、そこで知り合ったポーランド人神父の知遇も得ました。その縁もあり、妻はポーランドカソリック司教会議事務局に勤めることになりました。
ソ連崩壊後、ウクライナでは宗教の禁令の時代から思想・信条・宗教が自由に選べる時代になっていました。ソ連時代に破壊された東方正教会の教堂が次々と建て直され、一方で各地にカソリック教会も建てられ、布教が行われました。
妻も心の拠りどころを必要としていたのだと思います。彼女の祖母がポーランド出身だったことも、東方正教会系ではない教派に身をゆだねる理由だったかのかもしれません。
子供たちは、現在、ポーランドの学校に通っています。「彼らは3つの国の学校に通ったおかげで、ウクライナ語、ロシア語、英語、ポーランド語、ドイツ語、日本語を話します。
私たちがポーランドに移り住んでからも、ウクライナからの移住者はたくさんいて、同じ学校に通うようになった子供たちもいます。
ポーランドでのウクライナ難民支援の現実
こうしてワルシャワでの生活が日常となった今年2月、ロシア軍のウクライナ侵攻で、私たちの生活は再び大きく変わることになりました。ポーランドでウクライナ難民の受け入れが始まったからです。
メディアが報じたところによれば、ウクライナでは1000万人以上が今回のロシアによる侵攻のために住む家を離れ、500万人が近隣諸国へ避難したと言われています。うちポーランドには最大の約270万人の人たちが逃れてきています。
ロシアによるウクライナ侵攻については、日本ではそのような非合理な決断はありえないとする意見もありましたが、ポーランドでは昨年からウクライナ国境周辺に集結していたロシア軍の情勢分析もそうですが、2014年以降の流れから侵攻は不可避のものと捉えられていました。
それゆえ、最大100万人という難民受け入れの施設も準備していたのです。それが可能だったのも、歴史的な経緯を共有するロシア周辺国の反ロ意識も含めた隣国の人たちに対する同情もあったでしょうが、ポーランドがEUの加盟国であり、そこからの支援があったことも事実だと思います。
やっと自分たちの生活が安定してきたと思っていたのに、今度は私たちと同じ道をたどる人たちが1000万人もいる。なにか自分にできることはないだろうかと、日本に一時帰国していた私も考えました。
その思いは子供たちも同じでした。カソリックの施設で司教の秘書として働く妻に代わって、長女は高い言語能力を生かし、難民の支援を進めるカソリック教会と現地から訪れたウクライナ正教会の司教の会議の通訳も務めました。
長男の通う高校では、ウクライナ難民への援助ボランティアが始まりました。彼は以前、故郷から避難してきた自分の境遇について作文に書いて校内で発表していました。ボランティアが始まったのは、それを読んだ教師や生徒の皆さんが、自分たちの学校にも難民と同じような境遇の生徒がいることを知ったからだということです。
日本人とウクライナ人のハーフという存在はポーランドでは珍しいのですが、作文に書いた彼の経験が多くの人たちの心を揺り動かしたのだと思います。現在、長男の通う学校には、難民としてウクライナからやって来た子供たちが増えていて、積極的に受け入れや支援を行っているそうです。
とはいえ現状では、難民の急増によって、ポーランド国内の受け入れ施設はすでにキャパオーバーとなっています。多くのEU加盟国が滞在許可証を発行し、難民の人たちに就労や住居を提供していますが、着の身着のままで脱出してきた人々が後を絶たないいま、支援の手が十分に回らないのも当然です。
ウクライナ政府が徴兵令によって成人男性の出国を禁じたことから、難民の多くは女性と子供たちで、人身売買業者の暗躍も起きています。
EUからの一時的な支援や生活保障金はあっても、今後、難民の人たちは困窮するでしょう。ポーランドの人たちも事態が長期化することで、感情に変化が起こるかもしれない。
妻の一族の複雑なアイデンティティ
ウクライナという国は、言語の面ひとつ取っても地域差が大きいです。たとえば、ポーランド国境に接するウクライナ西部の町リヴィウでは、ほとんどの住民がポーランド語を理解します。一方、東部のルハーンシクではロシア語が生活言語となっています。
さらに言えば、多くのウクライナ国民は、ビジネス言語としてはロシア語を使います。西から東へ行くほど、グラデーションのように言葉が変わっていくのです。
当然、そこで暮らす人たちのアイデンティティも、日本人からみると複雑です。妻の祖母がポーランドを離れることになったのは、ナチスに追われたからでした。ところが、旧ソ連のウクライナにやってきて彼女が知り合った祖父は、大戦終了後に、今度はシベリア送りになってしまう。その地がシベリアの中心都市であるノヴォシビルスクで、祖母は祖父を追って行きました。妻と彼女の父親はそこで生まれています。
妻の一族は、いわば世代をまたいで避難民となり、ロシアとウクライナとポーランドを行き交うことになったのです。私も彼女と知り合う前までは、このような人生を知りませんでした。それでも、多くの経験を重ね、このような複雑なアイデンティティも少しずつ理解できるようになりました。
故郷から逃れて、日本、ポーランドと移り住み、私の子供たちも本当に強くなったと思います。子供たちは自分に日本人の血が半分流れていることを誇らしく思っているようで、私もうれしいです。
おそらく、今後いつか休戦協定が結ばれるでしょう。でも、戦闘はいったん終わったとしても、戦争は続くと思っています。
私はもうすぐ家族の待つポーランドに帰ります。先日も、ルハーンシク時代の旧友が難民としてワルシャワに来たそうで、とても見過ごすことはできないと妻は言っていました。彼らの身の回りの世話もそうですが、政府や支援団体が手の及ばない、細かい支援が必要なことも確かです。
たとえば難民認定のためには顔写真が必要で、プリント代などの費用がかかります。毛布や古着といった支援物資は多く届いているようですが、そういう手続きなどにはやはりお金が必要です。
私たち自身の生活もありますから、すべてをケアすることはできませんが、ポーランドに戻ったら難民家族を自宅に受け入れることを考えています。自分たちの身近でできる支援は何でもやるつもりです。
筆者は、今回、糸沢さんの話からウクライナについて多くのことを教えられた。もちろん彼が語ったことは、彼や彼の家族が経験したことの一部に過ぎないことは言うまでもないが、糸沢さん一家の物語から伝わってくる互いの絆の強さに胸を打たれたのも事実である。
それと、ロシアの極東地域の取材を続けていた筆者が、彼の話のなかであらためて考えさせられたのは、陸続きのユーラシアの人たちが、国家や民族のアイデンティティの問題とともに、時代とともに幾度となく書き換えられてきた国境線に囲まれて生きていることのリアルだ。これを、島国に暮らす私たちはどのように理解したらいいのだろうか。
最後に「戦闘は終わっても、戦争は続く」という糸沢さんの言葉。この言葉に対しては返す言葉が見つからないというのが正直な感想だ。
いま、筆者も含めて日本にいる糸沢さんの友人たちが、彼の考えているポーランドでの難民支援を支えるべく、ささやかな募金活動を始めている。
●ローマ教皇、親プーチン氏のロシア正教会トップとの会談延期… 4/23
カトリック教会のローマ教皇フランシスコは22日付のアルゼンチン紙ナシオン(電子版)のインタビューで、6月にエルサレムで予定していたロシア正教会のトップ、キリル総主教との会談を延期すると述べた。
ローマ教皇はロシアによるウクライナ侵攻で多数の犠牲者が出ていることを非難し、停戦を呼びかけている。一方、プーチン露大統領と関係が近いキリル総主教は、侵攻を支持する発言で物議を醸している。
教皇は同紙のインタビューで「ロシア正教会との関係は良好だが、この時期に会談するのは外交上、混乱をもたらす」と述べた。
ロシア正教会は、キリスト教の3大教派の一つである東方正教会の最大勢力。 

 

●SNSが暴いたロシアの内幕 甦る第二次大戦前夜の「独裁」 4/24
2月24日のロシアのウクライナ侵攻から間もない28日。ロシア軍の敗北を予想したツイートが軍事評論家の間で話題になった。題名は、「なぜ、ロシアはこの戦争に敗北するのか?」。
ツイートではその理由として、1ロシア軍に対する過大評価、2ウクライナ軍に対する過小評価、3ロシアの戦略と政治的なゴールへの誤解──の3点を挙げた。その後、ロシア軍は予想通り、ウクライナの首都キエフの近郊で敗北し、北部からの撤退を余儀なくされた。
ツイートの主は、ロシア人の軍事研究者カミル・ガレエフ氏。米シンクタンク、ウィルソン・センターの在モスクワ研究員だ。北京大学で経済学と経営学、英セントアンドリュース大学で歴史学を学び、ソ連崩壊後のロシア政治などを専門としている。ウィルソン・センターは1968年に米国議会によりスミソニアン学術会議の下に設立された名門シンクタンクだ。
侵攻は第1波しか準備していなかった
ガレエフ氏のツイートを要約すると以下のようになる。プーチン氏は、ショイグ国防相の前任のセルジュコフ国防相に、ロシア軍の改革を進めさせた。セルジュコフ氏は有能だった。どんな国でも一流の陸軍と海軍は両立できないので、セルジュコフ氏は陸軍を強化するため、海軍をリストラしようとした。
だが、その結果、たくさんの政敵を作り、2012年に失脚した。後任で少数民族出身のショイグ氏は政治的な遊泳術にのみ長けた人物であり、陸軍の強化は停滞してしまった。
ロシア軍は、ウクライナに対し、「電撃戦」を展開するには、攻撃を第1〜3波と波状に仕掛ける必要があるが、第1波の準備しかなかった。そもそもプーチン大統領は今回の侵攻で、ウクライナ側の抵抗はなく短期間で終わると考えていた。「戦争」と言わずに「特殊軍事作戦」と呼んだ理由だ。
プーチン氏にとっても未知の領域
一方、14年のクリミア半島併合でロシアに敗北を期したウクライナ軍は、水面下で軍備の強化を着実に進めていた。しかも、ドンバス地方の戦闘で40万人以上の実戦経験のある退役軍人がいた。それに対し、シリアで戦ったことのあるロシア兵は2000〜3000人程度で、ほとんどのロシア兵は実戦経験がない。プーチン氏自身もチェチェン、ジョージアやシリアなどで特殊軍事作戦に関わったのみで、ウクライナのような人口4000万人超の大国と戦争した経験はない。
異例のスピードで制裁
国際政治に詳しい河合秀和・学習院大学名誉教授は、「今回の戦争は、誰でも利用できるSNSなどを使った情報戦争であることが特徴だ」と指摘する。実際、2月24日のウクライナ侵攻前、米バイデン大統領は諜報活動で得た軍事機密を記者会見やSNSで積極的に公開し、ロシアによる攻撃への備えを国際社会に訴えた。
防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長は、「米国はできるだけロシアの軍事機密情報を流すことで、ロシアが侵攻を思いとどまることを期待した。世界の注目が集まる中で戦争が始まったことで、ロシアに対する制裁もスムーズに行われたし、国際世論の批判もすぐに起こった」と説明する。ロシア軍の内情を「暴露」するガレエフ氏のツイートも、そうした「情報戦」の一つと考えられる。
ロシア支配層は「侵攻前の戻りたい」
ガレエフ氏は「ロシアのエリート層は、プーチンの暴走≠深く憂慮している」と指摘するのが、冒頭で紹介しただ。「ロシアの支配層は神経質になっている。すべての決定を取り消し、2月23日以前に戻りたいと思っている」(同氏の3月29日のツイート)。
1938年のミュンヘン会談を例に挙げながらガレエフ氏は「(プーチン氏以外の)ロシア支配層の心境」を代弁する。ミュンヘン会談とはドイツ民族の「自決権」を主張し、ドイツ系住民の多いチェコスロバキアのズデーテン地方を併合しようとしたヒトラーに対し、英仏が譲歩した出来事を示す。
今回の局面で、ロシア系住民が多いクリミア半島や東部ドンバス地方のロシア系住民の保護を理由として両地域の併合を主張するプーチン氏に、往時のヒトラーの姿が重なるという。「ヒトラーがチェコで英仏との全面戦争の危機を起こした時、多くのドイツ人が彼の決断を疑問に思った。ドイツ国防軍は、ヒトラーの暗殺まで計画した」と指摘する。
プーチン氏は集団指導体制だった旧ソ連時代の指導者よりも、はるかに強大な権力を手中に収めているという。このままプーチン氏の独裁を許せば、最後は「第三次世界大戦」に行き着く。それを回避するために、西側諸国は、ロシアのエリート層と連携しながら、プーチン氏に厳しく対峙すべきだとガレエフ氏は主張する。
核兵器を持った独裁者
国際関係論が専門の桜美林大学の大中真教授は、「ミュンヘン会談とウクライナ戦争の類似性を指摘する声が、今年2月ごろから一部で持ち上がった」と話す。
大中氏は、「もし、ミュンヘン会談で英仏が厳しい態度に出て、ドイツとの間で戦争が行われていれば、間違いなく英仏が勝ったといわれている。なぜなら、当時のチェコは軍備を増強し、軍隊の士気も練度も高く、戦車部隊を持つなど機械化も進んでいたからだ」と説明する。だが、実際には当時の英首相チェンバレンが戦争回避のために融和政策を選んだ。その結果、ヒトラーがドイツ国内でさらに支持を集めたのは皮肉だ。
大中氏は「1938年のヒトラーとの決定的な違いは、プーチン氏が核兵器を持っていることだ」と強調する。欧州政治に詳しい東京大学大学院の森井裕一教授も、「欧州は、プーチン氏が生き残るのであれば、冷たい対応であっても、対話を続けることになる」と見る。「核戦争」の危険をはらむウクライナ戦争は、当面、世界を暗雲で覆い続けそうだ。
●「いくつかのNATO国がウクライナ戦争継続を望んでいる」とトルコ外相 4/24
4月20日、停戦交渉を仲介しているトルコの外相が「いくつかのNATO加盟国が、ウクライナ戦争が続くことを望んでいる」と表明した。その国名は明示していないが、アメリカであることは歴然としているだろう。
トルコ外相が「NATOの中にはウクライナ戦争を長引かせたい国がある」
4月20日、トルコのメヴルト・チャヴソグル外相は、CNN TurkのインタビューでSome NATO states want war in Ukraine to continue(いくつかのNATO加盟国が、ウクライナ戦争が続くことを望んでいる)と語った。
トルコはウクライナ戦争の停戦交渉を仲介する役割を果たしている、NATO加盟国の一つだ。
その外相が語った言葉なので、何よりも説得力があると言っていいだろう。
報道によれば、トルコのチャヴソグル外相は「トルコは、ロシア-ウクライナ戦争が、イスタンブールでの和平交渉後、これほど長く続くとは思っていなかった」と述べた後に、以下のように語ったという。
――しかし、NATO外相会談を通して、私はある印象を抱くに至りました・・・つまり、いくつかのNATOメンバー国は、戦争が長引くことを望んでおり、戦争を長引かせることによってロシアを弱体化させようと思っている(=ロシアを弱体化させるためにウクライナ戦争を長引かせようとしている)ということです。
ここで言っているところの「いくつかのNATOメンバー国」とは、もちろん「アメリカ」であることは明らかだろう。複数形で言ったのは、「アメリカ」と明示したくないからかもしれないし、あるいはアメリカにより誘導されている「イギリス」もあると言いたかったのかもしれない。
事実、インドを訪問したイギリスのジョンソン首相は、4月22日、<ウクライナ戦争は2023年末まで続くかもしれない>と言っている。
NATO拡大に燃えるバイデン大統領
トルコの外相が言及しているNATO外相会談とは、4月7日にベルギーで開催された会談で、NATO外相会談だというのに、日本の林外相が招待されて参加している(日本の外務省ウェブサイト)。そこには以下のような説明がある。
――今回のNATO外相会合への出席は、NATOからの招待を受けたものであり、日本の外務大臣による初めての出席です。林外務大臣が出席したNATOパートナーセッションには、NATO加盟国30か国及び招待を受けたパートナー(日本、豪州、フィンランド、ジョージア、韓国、ニュージーランド、スウェーデン、ウクライナ及びEU)の外相等が出席し、ウクライナ情勢や国際的な安全保障情勢等について議論が行われました。(引用ここまで)
NATOは東西冷戦により、共産党圏の最大国家であった旧ソ連に対抗するものとして設立されたので、1991年末にソ連が崩壊したからには、不必要になったはずだが、NATOはひたすら「NATOの東方拡大」の方向にしか動いていない。
トランプ前大統領は「NATOなど要らない」と大統領選挙期間中から言い、危うくNATOを解散させようとしたほど、激しいNATO不要論を主張していた。
しかし、バイデン大統領は何としてもNATOの力を拡大させたいという強烈な意思を持っており、「国際社会に戻ってきた」と宣言した以上、なおさら後に引けない。
そもそも、NATOがなければ、アメリカの欧州における存在価値はなくなるので、NATOを強大化させようと、バイデンは必死なのである。
NATOを強大化させるには、NATOが共通に脅威を感じる「強烈な敵」がいなければならない。トランプはプーチンと仲が良かったが、アメリカのネオコン(Neo Conservative、新保守主義者)たちは、ロシアを「強烈な敵」に仕上げていった。
もともと中立化を望んでいたウクライナ国民に、何としても「NATO加盟」を強く呼びかけ煽っていったのは、副大統領時代のバイデンだ。
2009年7月からウクライナ入りして、「ウクライナがNATOに加盟すれば、アメリカはウクライナを強くサポートしていく」と演説した。その時にはウクライナ国民は「何を場違いなことを言っているのだろう」という反応しかなかったし、その1年ほど前の2008年4月に、当時のブッシュ大統領がウクライナを訪問してNATO加盟を奨励したところ、ウクライナ人が抗議デモを展開したほどである。
そこでバイデンは、副大統領の間に6回もウクライナを訪問してアメリカの言いなりに動く傀儡政権を樹立させ、今日に至っている。
親米の傀儡政権を樹立させるためにウクライナで起こした2013年の政府転覆のクーデター(マイダン革命)に関しては、アメリカが関与したと、2015年1月に、当時のオバマ大統領がCNNの取材を受けた際に認めている。
ウクライナ国民の平和と幸せを犠牲にして、バイデンは狂気のプーチンにウクライナ攻撃をさせるべく、ウクライナをNATO加盟申請に追い込み、今日に至っているのだ。
これらすべては、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第五章に掲載した年表を用いて、徹底して解明に努めた。
習近平・プーチン会談後に始まった停戦交渉をアメリカが阻止
残虐極まりないプーチンのウクライナ攻撃は、日本敗戦後に中国で経験したソ連軍の蛮行と、それに続く中国共産党による食糧封鎖により餓死体の上で野宿させられた経験を持つ筆者にとって、他人事(ひとごと)とは思えないほど許し難い。いかなる戦争に対しても、激しい憤りを覚える。
そのプーチンと蜜月関係にある習近平は、プーチンがウクライナ軍事侵攻に入った翌日の2月25日、プーチンと電話会談して、「話し合いによって解決してほしい」という要望を、プーチンに直接伝えた。
ところが同日、バイデン政権のプライス報道官は、記者会見で、ロシア軍のウクライナからの完全撤退でもない限り「停戦交渉のオファーなどは無意味なので、受けるな」という趣旨のことを言っている。
会見は非常に長いので、そのときのプライス報道官の写真を張り付けたAFP報道のツイートが分かりやすいだろう。そこには「アメリカは、キーウ(キエフ)に話をしたいというモスクワのオファーをしりぞけた。それは現実的な外交ではないから」と書いてある。
このようにアメリカは、最初から停戦交渉を阻止しようとしてきたが、それでもトルコはアメリカの停戦交渉阻止に屈することなく、自ら停戦交渉の仲介を買って出て、今日に至っている。
私たちが望んでいるのは「停戦」
私たちが望んでいるのは、ひたすら一刻も早い「停戦」だ。
一刻も早く、この見るに堪えないような心の痛みを与える蛮行を中止させること以外にない。だから習近平に、プーチンと親しいのなら、もっと強烈に停戦を迫れと言いたい。
4月22日のコラム<ウクライナ戦争は中国の強大化を招く>に書いたように、習近平は圧倒的な経済的優位性を以て、プーチンに「早く停戦しないと経済的協力を中止するぞ」と脅迫してもいいくらいだ。
日本はまた、中国のハイテク製品のコアとなるパーツを中国に提供しているので、「一刻も早い停戦をプーチンに要求しないと、日本はパーツの提供を止めるぞ」というくらいの交換条件を出して、習近平に迫るくらいの気概を持ってほしい。
しかし親中議員によって成り立っているような岸田内閣にはそのような気概はなく、またウクライナ戦争によってアジア・ユーラシア経済圏形成に有利になってきた習近平は、穏やかにプーチンを習近平側に引き寄せたままにしていたい。
となると、トルコ外相が言っている「戦争を長引かせたい一部のNATO国」に、「長引かせる方向に動くのをやめろ」と働きかけるのが、日本にできる唯一の道かもしれない。
私たち一般庶民にもできるのは、戦争がないと困るアメリカの戦争ビジネスを支える軍産複合体(軍需産業や国防総省、議会が形成する経済的・軍事的・政治的な連合体)の存在に目を向けていくことではないだろうか。
●「第3次世界大戦」避けたいバイデン政権、ウクライナが払う「残忍な代償」  4/24
米国のバイデン大統領は、ウクライナへの追加軍事支援策を発表した21日、圧倒的な軍事力を背景に外交的な妥結を迫るというセオドア・ルーズベルト元大統領による外交の名言「大きなこん棒を携え、静かに話す」になぞらえ、こう述べた。
「我々は『ジャベリンを携え、静かに話す』。それらを大量に送り込んでいる」
ジャベリンは対戦車ミサイルで、ウクライナ軍が首都キーウ(キエフ)周辺に迫るロシア軍の戦車や補給車両への反撃に活用し、首都制圧を阻止するのに大きな効果を発揮した。
だが、米国の軍事支援は、いざという時には相手をたたきのめすことができる「大きなこん棒」とはほど遠い。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「戦車と飛行機をください。はっきりした返事を聞けていないのは最悪のことだ」と述べ、米国が戦闘機などの攻撃的な兵器の支援を避けていることに、不満を隠さない。
バイデン氏は、ロシアがウクライナとの国境に部隊を集結させ、侵略の懸念が高まった昨年12月以降、同盟国ではないウクライナに米軍を派遣する考えは「ない」と明言。「米国とロシアが撃ち合いを始めれば世界大戦になる」とも語り、米露直接の軍事衝突を避けたい意向を強調していた。開戦後も、「第3次世界大戦は何としても避けなければならない」と繰り返す。
国際社会と連携して強力な経済制裁を科す方針を表明していたが、こん棒(軍事力)を手放した外交の結果、ロシアの非道な侵略の抑止に失敗したとの印象はぬぐえない。
「家族と一緒に復活祭を」戦時下の母国に戻る人々…ウクライナ侵攻2か月  
米ジョンズ・ホプキンス大のエリオット・コーエン教授は米誌への寄稿で「ウクライナは米国の臆病さのために残忍な代償を払わされている」と批判した。
プーチン露大統領は侵攻直後、露軍の核戦力部隊に戦闘態勢入りを命じ、「我が国への直接攻撃は恐ろしい結果をもたらす」と威嚇した。ロシアは、通常兵器による攻撃への報復でも核使用をいとわない戦略を明らかにしており、核使用に踏み切るハードルは米国より低いとみられている。
バイデン氏はロシアの核使用の可能性を最も気にかけているという。ウクライナの「防衛」を訴えても、戦争の「勝利」とは口にせず、「戦争に勝つことよりロシアを挑発しないことに関心がある」(米メディア)と指摘されている。軍事支援も、核による報復のリスクを生じさせない程度にとどめているのが実態だ。
米外交問題評議会のシーラ・スミス上級研究員は「プーチン氏の核の脅しによって、米国の方が抑止されている」とほぞをかむ。ロバート・オブライエン前国家安全保障担当大統領補佐官も「ウクライナで核兵器が使われた場合に取り得る措置を今すぐ宣言すべきだ。核の悲劇を回避するため、強力な抑止力を回復させなければならない」と訴える。
米国の抑止力は揺らいでいないか――。
日本や欧州各国はこうした疑念を抱き、安全保障の強化に関する議論を活発化させている。
米欧を威嚇
「この兵器は軍の潜在力を強化し、ロシアの安全を確実に守るだろう」
ウクライナ侵攻を巡って国際社会の非難を浴びるロシアのプーチン大統領は20日、大型大陸間弾道ミサイル「サルマート」の発射実験の成功を発表し、米欧を威嚇した。
武力を信奉するプーチン氏は、ロシア軍の侵攻開始から2か月が過ぎても強気を保つ。12日の記者会見では「軍事作戦は計画通りに進んでいる」と強弁した。
だが実際には「誤算の連鎖」が起こり、プーチン氏が描いた「虚構」にはほころびが目立つ。
圧倒的な戦力を背景に数日での達成を目指した首都キーウ(キエフ)掌握は、予想を上回るウクライナ軍の抗戦に阻まれ断念した。ロシア語を母語とする住民が多く、ロシアへの親近感が根付いていると疑わなかったウクライナ東部ドンバス地方では、住民の激しい抵抗に遭っている。
歴史観
プーチン氏はロシア人とウクライナ人をスラブ民族の「兄弟」と呼び、歴史や文化の一体性を強調してきた。「ロシアの南西部(ウクライナの一部)の住民は昔から自分たちを『ロシア人』と呼んできた」などと、帝政ロシアの版図回復への野心さえあからさまに示した。そしてドンバスの「同胞」を「ジェノサイド(集団殺害)」から救うという物語を描いて侵攻を始めた。
プーチン氏の歴史観に基づく独善的な理屈は、21世紀の国際秩序の中で通用するものではない。それでも国内では侵攻後、戦時の一体感が強まりプーチン氏の支持率が上がった。
独立系世論調査機関レバダ・センターが3月末に公表した調査で、プーチン氏の支持率は83%と侵攻前の2月より12ポイント高かった。
背景には徹底した情報統制がある。
国営テレビは連日、戦果を報じ、キーウ近郊ブチャなどで民間人を虐殺した戦争犯罪の疑惑はウクライナ軍の仕業と決めつけた。
モスクワの自営業オリガさん(59)は「ドンバス住民を攻撃してきた『ナチス』は根絶しなければならない」と、政権の主張に共鳴する。
政権の意に沿わない報道や論調は排除され、そうした情報を発信すれば「虚偽の拡散」として最長15年の禁錮刑を受ける。
「平和が重要」
締め付けを強めても、独善的なプーチン氏への反発の広がりは隠せない。
「全ロシア将校会議」のレオニード・イワショフ会長は侵攻前の1月、軍事行動に反対を表明しプーチン氏に辞任を求める書簡を発表した。新興財閥(オリガルヒ)のオレグ・デリパスカ氏は2月下旬、「平和が重要」とSNSで表明し、政権の方針に異議を唱えた。
鎮圧されたものの各地で反戦デモが起き、人権団体の集計では累計で1万5000人以上が拘束された。
プーチン政権は、侵攻を正当化するプロパガンダと強権を組み合わせ国内の異論を封殺する。 閉塞へいそく 感の中で、食料品や生活用品などは値上がりし、米欧などの経済制裁のボディーブローのような痛みを人々は感じ始めている。
制裁はロシアで、テレビ(プロパガンダ)と冷蔵庫(暮らし)の戦いを引き起こしたといわれる。侵攻に反対するモスクワの大学教員は「今はテレビが強い。でも戦争が長引けば冷蔵庫が勝つ」と話し、人々の不満が政権の暴走に歯止めをかけると期待する。
ウクライナ「欧州人」57%…世論調査 昨年8月から倍増
ウクライナの世論調査会社「レイティング」の4月上旬の調査で、「ロシア人とウクライナ人は一体」と考える人の割合は8%にとどまり、昨年8月の41%と比べると激減した。自身を「欧州人」と考える割合は57%で、昨年8月の27%から2倍以上に増えた。
軍事侵攻するロシアについて異質との見方が強まる一方、ポーランドをはじめとする欧州への親近感を抱く人々が急速に増えていることがうかがえる。
もともとウクライナでは、ロシアとの関係を重視する東部と、欧州との関係強化を望む西部で住民意識は分かれるといわれてきた。
だがロシアが2014年に南部クリミアを併合した後、力で支配しようとするロシアへの反発が東部でも強まり地域差は薄れた。
さらに今回の侵攻を通じて、強権体制のロシアへの拒否感が決定的になった。
●ロシアによる軍事侵攻2か月 ウクライナ側は徹底抗戦の構え  4/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で2か月となりました。ロシア軍が来月予定されている第2次世界大戦の「戦勝記念日」に向け、ウクライナ東部や南部で攻勢を強める一方、ウクライナ側は欧米からの軍事支援も受けて徹底抗戦する構えで、戦闘がさらに長期化する懸念も出ています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で2か月となりました。
ロシア軍は、首都キーウの早期掌握を断念したあと東部での作戦を強化していて、21日には要衝のマリウポリを掌握したと宣言しました。ロシア軍は、作戦が「第2段階」に入ったとして、大規模な戦闘に向けた部隊の移動を進めていて、ロシア国防省は23日に東部各地をミサイルなどで攻撃したと発表しました。
また、南部の港湾都市オデーサ近郊の軍用飛行場をミサイルで攻撃し、欧米側から供与された兵器を破壊したとしています。
しかしオデーサのトゥルハノフ市長は、この攻撃で生後3か月の女の子を含む、8人の死亡が確認されたとSNS上で明らかにしました。
一方ロシアのプーチン大統領は、首都モスクワの中心部にあるロシア正教会の大聖堂を訪れ、キリストの復活を祝う24日の復活祭に合わせたミサに参列しました。
プーチン大統領は旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した来月9日の「戦勝記念日」に向け、軍事侵攻の成果をロシア国民に印象づけたい思惑があるとされ、東部2州を完全掌握し、ロシアが一方的に併合した南部クリミアにかけての地域を支配下に置くことをねらっているとみられます。
これに対し、ウクライナ側は、欧米からの軍事支援も受けてマリウポリを含む東部や南部で徹底抗戦する構えです。
ゼレンスキー大統領は23日、首都キーウの地下鉄の駅で記者会見を開き、アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官が24日にキーウを訪問する予定だと明らかにしました。
そのうえで「私たちが必要としている武器や供与してもらえる時期について話し合うことになるだろう」と述べ、アメリカによる軍事支援などをめぐって協議が行われるという見通しを示しました。
また「私は戦争を終わらせたい。さらに多くの犠牲者が出るかもしれず、どんなリーダーであれ、外交による道を閉ざしてはならない」と述べ、ロシア側と交渉を続ける用意があると強調しました。
ロシアとウクライナの停戦交渉は、ウクライナの「中立化」などをめぐって合意文書の草案のやり取りが続いているとみられますが話し合いは大きく停滞しています。
こうした中、国連のグテーレス事務総長が、26日にロシアでプーチン大統領と、28日にはウクライナでゼレンスキー大統領とそれぞれ会談する予定で、現状の打開につながるのか注目されます。
ただプーチン大統領は、軍事侵攻をやめる兆しを見せておらず、戦闘がさらに長期化する懸念も出ています。
●ウクライナ情勢受け米国・欧州で活発化するエネルギー安全保障議論 4/24
エネルギーの多くをロシアに依存する欧州では、脱ロシア依存に向けた動きが加速しつつある。
ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長と米バイデン大統領は3月末、ロシアからの天然ガス依存を軽減することを目的とした、エネルギー安全保障タスクフォースを共同で設置することを発表。米国から欧州への液化天然ガス(LNG)供給などについて議論を進める構えだ。
CNBCの報道では、米国政府は今年中に欧州に対し150億立方メートルのLNGを提供する計画で、今後さらに供給量を増やすことも検討しているという。
また米国政府は、2027年までに欧州のロシア依存をなくすことを目標に、LNG供給を調整する計画だ。一方、欧州は2030年までに年間500億立方メートルのLNG需要を満たすことを目標に取り組みを進めるとのこと。
タスクフォースでは短期の目標だけでなく長期的な目標も検討対象となっていることから、欧州の脱ロシア依存の取り組みは長期のものになることが想定される。
Politicoによる欧州統計Eurostatのまとめによると、欧州が2021年にロシアから輸入したエネルギーの支払額で最大となるのは原油で、485億ユーロ(約6兆5547億円)だ。次いで、原油以外の石油が225億ユーロ(約3兆円)、天然ガスが163億ユーロ(約2兆2000億円)、石炭が52億ユーロ(約7000億円)。
このほどウクライナ・ブチャでロシア軍による虐殺行為が報道され、対ロシア制裁も厳格化されると思われたが、この時点においても欧州は、エネルギーに関して石炭の輸入禁止制裁にとどまっている。
輸入額からも分かるが、ロシアにとって大きな痛手となるのは、天然ガスや原油の輸入禁止制裁だ。しかし、欧州は代替エネルギー源を確保できるまで、これらの輸入禁止は難しいと考えており、短期での脱ロシア依存は難しい状況だ。
実際、欧州最大の経済国ドイツのクリスチャン・リントナー財務相も、ロシアからの天然ガスや原油の輸入を即時停止したいが、ドイツ国内への経済・社会への影響を考えると、その選択は非常に難しいと発言している。
高まる水素経済への期待
欧州と米国は、短期的にLNGにより脱ロシアを進め、エネルギー安全保障を向上させる一方、中長期では次世代エネルギーテクノロジーへの投資を進めエネルギー源の多様化も実現したい考えだ。
影響力が大きな米国シンクタンクの1つ「大西洋評議会(Atalantic Council)」が3月末にドバイで開催した世界エネルギーフォーラムでも、エネルギー安全保障がホットトピックの1つとなった。その中でも注目されたのが水素の可能性だ。
同フォーラムのスピーカーの1人、米国国務省のエネルギートランスフォーメーション担当者アンナ・シュピッツバーグ氏は、上記タスクフォースが欧州へのLNG供給に焦点を当てる一方で、他のエネルギー源にも目を向け、多様化を推進することも重要であると指摘。そのような理由から、米国政府は水素テクノロジー開発に多大な投資を行っていると述べた。
一方、欧州でも数年前から水素経済を実現するための取り組みが始まっている。
1つは、2020年3月に発足した「EU Clean Hydrogen Alliances」だ。欧州内の水素バリューチェーンを拡大し、世界市場でのリーダーシップの実現を目標とする取り組みとなる。また、欧州連合は2020年7月に「Hydrogen Strategy(水素戦略)」計画を発表し、2050年までに計1800億ユーロ(約24兆3200億円)から4700億ユーロ(約63兆5200億円)を投じることを明らかにしている。
このほか、ドイツで90億ユーロ(約1兆2163億円)、フランスで70億ユーロ(約9460億円)、スペインで89億ユーロ(約1兆2000億円)などと欧州各国でもコロナ後の経済復興計画の一環として、水素テクノロジー投資案が次々と公開されている。
水素経済普及への課題
CNBCが2022年2月23日に伝えたゴールドマン・サックスによる水素市場予測によると、2050年の市場規模は年間1兆ドル(約123兆円)以上に達する可能性がある。現在の市場規模1250億ドル(約15兆4961億円)から、30年で10倍近く伸びると予想されている。
水素経済の実現に向けて注目されるのは、水素をクリーンな方法で生成する手段・テクノロジーだ。
一般的に水素は、電気分解によって生成されている。現在その発電方法はほとんどが化石燃料を使ったもので、大量の二酸化炭素を排出している。そのため、化石燃料による電力で生成された水素は「グレー水素」などと呼ばれている。
一方、天然ガスを利用しつつ、二酸化炭素貯留技術を活用し生成したものを「ブルー水素」、再生可能エネルギーで生成したものを「グリーン水素」と呼んでいる。各国の政府や企業が注目しているのは、グリーン水素だ。
グリーン水素普及への課題の1つは、生成コストの高さだ。現在、再生可能エネルギーのコストが高く、グリーン水素生成コストはグレー水素に比べ大幅に高い状況となっている。しかし、再生可能エネルギーのコストはこのところ下落傾向にあり、中長期ではグレー水素よりも安くなることが予想されている。
PwCの分析では、現在グレー水素のコストは1キログラムあたり1〜2ユーロ。一方、グリーン水素のコストは、3〜8ユーロとなっている。
しかし2030年には、グリーン水素のコストは50%下落し、その後も2050年頃まで下落を続ける見込みだ。2050年のグリーン水素のコストは、米国、オーストラリア、中東などの地域で、1キログラムあたり1〜1.5ユーロまで下がる見通しという。
●ロシア軍事侵攻から2カ月 市民の犠牲が拡大  4/24
ロシアによる軍事侵攻から2カ月となり、ロシア軍がウクライナ東部などで攻勢を強める中、市民の犠牲は増え続けている。
ウクライナ各地で攻撃が続いていて、南部の港湾都市オデーサでは23日、ロシア軍のミサイル攻撃により、住宅などが被害を受けた。
ロシア軍は、アメリカなどから提供された武器の保管施設を攻撃したと主張しているが、ウクライナ側によると、この攻撃で、生後3カ月の赤ちゃんを含む8人が死亡した。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領「(オデーサで)生後3カ月の女の子が亡くなった。想像できますか? くず野郎だ! ほかに何と呼べばいいんだ!」
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカのブリンケン国務長官やオースティン国防長官が、軍事侵攻から2カ月となる24日に首都キーウを訪れると明らかにした。
ロシア軍は、21日に南東部の要衝、マリウポリの制圧を宣言し、今後は、ウクライナの東部や南部の完全な支配を目指す方針を示していて、戦闘が長期化する懸念が高まっている。
ウクライナ側は、欧米諸国にさらに武器を提供するよう求めていて、徹底抗戦する構えだが、市民の犠牲は拡大し続けている。
●ロシア軍、記念日までの「戦果」達成困難 核の恐怖は遠のく― 4/24
ロシアのプーチン大統領は、旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日である5月9日までにウクライナ東部ドンバス地方の制圧を終え、「戦果」として誇示したい考えとみられる。だが、国際社会の軍事支援を受けるウクライナ軍は態勢を整えつつあり、戦線は停滞気味。9日までのドンバス掌握は困難な情勢だ。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は、「ロシア軍が9日までにドンバス地方のドネツク、ルガンスク2州を完全制圧することを優先順位の筆頭に位置付けていることは間違いない」と分析。アゾフ海に臨む要衝マリウポリの製鉄所にウクライナ側の部隊が残っているにもかかわらず、プーチン氏が同地の制圧を宣言したのも、「2州に兵力を投入する思惑からだ」と話す。
これに対しウクライナ側は、米欧の軍事援助により戦力を増強し続けている。米政府は21日、ドンバス地方での地上戦に向け、榴弾(りゅうだん)砲72門と砲弾14万4000発を追加で供与すると発表。ウクライナ軍はより高い火力を手にし、兵力の劣勢を装備面でカバーしようとしている。
ロシア軍の進軍が速いとは言えない。兵頭氏は「(2州掌握は)5月9日に間に合いそうになく、ロシア軍は苦戦しているようにみえる」と指摘。東部2州の完全制圧までに「数カ月単位の時間が必要」とし、ロシア軍の退勢が明確でない中では、局面打開を期した核兵器の使用も想定し難いと語った。
ただロシア軍は、9日までに「戦果」を得られなくても、東部2州にはこだわる公算が大きい。2州を支配下に置けば、マリウポリから南部クリミア半島に至る「陸の回廊」を完成できるためだ。さらにその先には、南部オデッサやウクライナの隣国モルドバ東部の親ロシア派支配地域・沿ドニエストルまでの占領地域拡大がある。
ロシア軍中央軍管区のミンネカエフ副司令官は今月22日、ウクライナ南部を制すれば「沿ドニエストルに抜ける道」を確保可能だと述べた。ロシア軍は、ウクライナ側の黒海への出口をふさぎ、同国を完全に「内陸国化」することを長期的な目標に据えているもようだ。
●ウクライナ侵攻2か月 政府 ロシアへの制裁を徹底の方針  4/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で2か月となり、政府は国際社会と連携してロシアに対する制裁を徹底していく方針です。
一方で侵攻が長期化する中、物価の高騰などによる国民生活や経済への影響をどこまで抑えられるかが課題となります。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で2か月となります。
政府は現在、G7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携して、プーチン大統領や側近らの資産凍結、石炭の輸入の段階的な削減をはじめとする輸出入の制限、それにロシア向けの新規の投資の禁止などの制裁を行っています。
また、日本に駐在するロシア大使館の外交官ら合わせて8人を国外に追放しました。
岸田総理大臣は23日、「今が、非道な侵略を終わらせる正念場だ。ロシアが国際社会の声に耳を傾け、侵略をやめるように厳しい制裁措置を講じていく」と述べるなど、政府はG7などと連携して引き続き制裁を徹底していく方針です。
一方で、侵攻が長期化する中、原油や原材料など物価の高騰が続いていて、国民生活や経済への影響がさらに大きくなることも懸念されています。
政府は石油元売り会社に対する補助金の拡充など、近くまとめる緊急対策を速やかに実施に移すことで、影響を最小限に食い止めたい考えで、岸田総理大臣も23日、国民に協力を呼びかけました。
ただ、戦況の先行きが見通せないことから、どこまで効果的に影響を抑えられるかが課題となります。
●ウクライナめぐる異例の情報戦 4/24
英米、秘密を積極開示
ロシアのウクライナ侵攻に関連した大きな特徴の一つに、激しい「情報戦」がある。印象的なのは英国や米国などによる秘密情報の積極的な開示だ。これはロシアの虚偽情報に対抗して「事実」を明らかにし、軍事行動の機先を制することを目的としている。
通信傍受を主任務とする英国の情報機関、政府通信本部(GCHQ)のフレミング長官は3月、「真実の周知を確かなものするため」に極めて秘匿性の高い情報を戦略的に公開していることを明らかにした。その迅速さと規模は「前例がない」という。(時事通信社ロンドン支局 片山哲也)
正しかった暴露情報
英米による秘密情報の開示は、侵攻に先立つ対ウクライナ国境周辺へのロシア軍の大規模な集結に始まり、それら部隊の種類、予想される侵攻のタイミングやルート、さらに侵攻を正当化するためのロシア自作自演による「偽旗作戦」の警告に至るまで多岐にわたった。
情報機関や国防当局の評価を経たこれらの機密事項は、英米政府高官らによる報道機関へのブリーフィング、リークなどを通じ逐次明らかにされた。後の展開を見れば開示された情報が大筋で正しかったことが分かる。
情報の積極公開は侵攻開始後も続いた。フレミングGCHQ長官は3月30日の講演で、士気の低下するロシア兵が命令に背いたり、自らの装備を破壊したりしているほか、自軍機を誤って撃墜したケースがあるなど、ロシア軍に大きな混乱が生じていることを暴露した。情報関係者は「これらの話は機密事項だった。長官が明らかにするとは本当に驚いた」と話していた。
これらの情報は無線傍受によるものとみられ、明かせば敵方が周波数を変えたり、通信に暗号を掛けたりの対抗措置を取る可能性があった。にもかかわらず暴露したのは「ロシア側が対策を講じる余地がないことを西側は分かっていたからではないか」(同情報関係者)との見方がある。
英米やウクライナはロシア軍の比較的安全な通信を妨害し、古いアナログ通信を使わざるを得なくした。一般の携帯電話まで使われるようになった。そうなると通信内容は筒抜けだ。ロシア軍がそうした状況を抜本的に改めることも難しくなったと判断されたからこそ、思い切った暴露が可能になったというわけだ。
「偽情報」対「真実」
フレミング氏は「ますます多くの『真実』がインテリジェンス(諜報=ちょうほう)によってもたらされるようになった。プーチン(ロシア大統領)の機先を制するため、豊富な秘密情報をどれだけ迅速に明らかにするかが既にこの紛争の注目すべき特徴になっている」と語った。
「プーチンは偽情報を道具として使っている。われわれは情報を使って疑念を暴きたい。そうすることで世界やウクライナのみならず、ロシアの人々にもウクライナで何が起きているのか知ってもらうことができる。秘密情報開示の理由はそこにある」。英政府当局者はそのように説明している。
秘密情報活動に詳しい日本大学危機管理学部の小谷賢教授は積極的な情報開示の背景として、ロシアの偽情報工作が2014年のクリミア半島併合を容易にした点を指摘する。「当時、欧米は情報を出し惜しみしたため、ロシア側のペースで事が運んだ。これを反省し、今回はロシアの偽情報を精査して公表し、自らも公開できるぎりぎりの範囲で正しい情報を発信し続ける戦略をとった」。その結果、「ウクライナでは偽情報工作の効果が思ったほど上がらず、ロシアでも侵攻に対する支持が拡大しなかった」と小谷氏は見ている。
ロシア上層部に情報源?
英米は秘密情報をどこから得ているのだろうか。英秘密情報部(MI6)や米中央情報局(CIA)は情報源を明かすことはない。一般論を言うと、偵察衛星や航空機によって集められる画像データ(イミント)、通信傍受で得られる情報(シギント)、人から人へともたらされる情報(ヒューミント)など、多様な手法で情報収集は行われる。
当然、ウクライナの情報機関との連携は欠かせない。さらに今回は、英調査報道機関ベリングキャット、衛星画像の分析などを行う米マクサー・テクノロジーなど、民間からもたらされる情報もインテリジェンスに多大な貢献をした。
とはいえ、決定的な情報はやはり人から人にもたらされたのかもしれない。西側情報機関に近い筋は最近、「想像だが」と断った上で、「侵攻計画に関する秘密情報の評価が詳細かつ、相当正確だったことを考えると、ロシアの上層部に有力な情報源があり、一部はそこから(英米側に)漏れてきているのでないか」と話していた。
4月12日付のタイムズとデーリー・テレグラフの英両紙はそろって、ロシアの連邦保安局(FSB)で旧ソ連構成国を担当する「第5局」のトップを務めていたセルゲイ・ベセダ上級大将が、「CIAに情報を流していた」疑いを掛けられ、モスクワにある悪名高いレフォルトボ刑務所に収監されたようだと伝えた。
●ロシア正教のトップは元KGB?“信仰”と“侵攻” プーチン大統領と宗教の蜜月 4/24
4月6日、ウクライナの子供たちがバチカンを訪れ祖国の悲劇を教皇に伝えた。教皇はブチャなどの虐殺を非難したうえでこう述べた・・・
フランシスコ ローマ教皇「残酷で浅はかな戦争に引きずり込まれ暴力と破壊に苛まれているウクライナに平和がありますように この苦しみと死の恐ろしい夜に希望の新しい夜明けが早く訪れますように」
カトリックの頂点に立つ者が平和を祈るのは至極納得のいくところだが、同じキリスト教でも今回のウクライナ侵攻を支持する宗教もある。キリル総主教率いるロシア正教だ。
戦争がキリスト教の東西対立を顕著にした形だが、ハーバード大学で比較宗教学を学んだパックンは言う。
パトリック・ハーランさん「そもそもカトリックとロシア正教が仲良かったかといったら(11世紀の分裂以降)ずっと対立はしている。2016年に初めてローマ教皇とキリル総主教が会って共同宣言を出した。これが歴史的な友好関係を築くターニングポイントで、宣言には「戦争をやめよう  平和を訴える」という内容が盛り込まれていた。しかし、今回キリル総主教がプーチン政権の乱暴な動きを支持することで、ローマ教皇を含め全世界のキリスト教徒が裏切られた・・・」
ここに名前が挙がったキリル総主教とプーチン大統領、実は親密な関係にある。キリル総主教がトップに立つロシア正教会は、ロシア国民の7割を信奉する、いわばロシア人の心のよりどころだ。
「総主教になってから国に歩調を合わせ始め、知的なブレーンは教会を離れていった」
キリル総主教とはどんな人物か・・・。プーチン氏と同じサンクト・ペテルブルク出身。
2009年総主教の座に就き、今年75歳。3月、世界教会協議会に送った書簡は、まるでプーチン氏の言葉のようだ。
「ロシアを公然と敵視する勢力が国境に迫ってきた。NATOは軍事力を年々毎月増強している。最悪なのはそこに住むウクライナ人やロシア人を再教育しロシアの敵にしようとしていることだ」
驚くのは、キリル総主教について英タイムズ紙は元KGBのエージェントだとしていること。
ロシアとウクライナの宗教を研究する専門家に聞いた。
九州大学講師 高橋沙奈美さん「ペレストロイカで明かされた秘密文書でロシア正教会の高位聖職者が秘密機関のコードネームを持っていたことがわかった。でもそれは本人たちの意思だったのか、それとも宗教弾圧が厳しかったソ連時代、国の一機関になるしか生き残れなかったから、そういう役割を持ったのかはわからない」
キリル氏は総主教になる前の90年代、進歩的な考えを持ちリベラルで多様性があり、教会内でも有望だったと高橋氏は言う。しかし・・・
九州大学講師 高橋沙奈美さん「プーチンの歩んできた道と重なるかもしれなませんが、キリルも正教会のトップとして活動していく中で、自分の活動を国に合わせていくようになった。すると、かつてキリルの近くで働いていた非常にリベラルで知的なブレーンの人たちがどんどんロシア正教会を離れていった。2010年代に入ってからのことですね。それまでは、政府に批判的な人たちも教会内で活動できた・・・」
一体何がキリル氏を変えてしまったのだろうか?
「正教会がプーチン政権の軍事政策のバックアップに回った」
ソ連時代弾圧され資産も奪われ崩壊寸前だったロシア正教は、ソ連崩壊の後、息を吹き返す。
一方2000年に大統領に就任したプーチン氏は、共産党の代わりに人心を掌握するために宗教は有効であると考え、ロシア正教をバックアップした。
2010年、プーチン政権はソ連が没収していた正教会の資産を教会に返還。教会はこれで膨大な不動産を所有する。その前年に総主教に就いていたキリル氏は、いうなれば突然大富豪になったことになる。さらにロシアの大富豪たちオリガルヒの資金も教会に入ることになるが、教会の資産の内容に関しては専門家でも、触れることのできない闇となっているという。
そして、この頃から正教会の政治色が強まり、キリル総主教とプーチン大統領の蜜月が始まる。アメリカとの関係が悪くなる中で、国内をまとめる宗教の重要性を高めるプーチン大統領。政権の意向に沿うことで、知的なブレーンがいくら離れようが地位を絶対的なものとしたキリル総主教。
政治と宗教の深いつながりを象徴する建物があると、東大先端研の小泉氏は言う。
東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠 専任講師「(第2次世界大戦の勝利を記念して)2020年にできたロシア軍主聖堂は象徴的だと思う。これはドイツ軍からぶん捕った武器や勲章を溶かして作った鉄骨で建てられている。場所もロシア軍が所有する“愛国者公園”の中に建てた。ここでロシア軍のための祈りをささげる。(中略)正教会はもともと政治色があったが、それが政治の領域だけでなく軍事や安全保障の領域まで全面的に関与するようになった。つまりこれ以降、教会がプーチン政権の軍事政策のバックアップに回ったといってよい」
“侵攻”を推し進めるプーチン大統領と“信仰”の象徴であるキリル総主教のウインウインの関係。一説には、キリル総主教の腕には200万円の腕時計が光り、ヨットも所有するという・・・。
「プーチンはプーチンの神を信じている…」
プーチン氏は語っている。「子供の頃、母に連れられて洗礼を受けた。父には内緒だった。父は共産党員だったから」
果たしてプーチン氏は信心深いのか?それとも宗教を利用しているだけなのか?
九州大学講師 高橋沙奈美さん「プーチンはプーチンの神を信じている、と聞いたことがあります。プーチンの神という概念と、キリスト教の神の概念は一致するのだろうか、ってよく言われています」
プーチン氏の頭の中は、やはりよくわからない。
●侵攻継続以外の選択肢なし 支持率の低下懸念―プーチン政権 4/24
ロシアのプーチン政権は、5月9日の旧ソ連の対ドイツ戦勝記念日で、ウクライナ侵攻で得られた「戦果」を誇示する方針だ。だが独立系メディアは、プーチン大統領の支持率を維持したまま戦闘を終結させるシナリオは現状では存在しないと政権は結論付けたと報じている。プーチン氏は、内政上も侵攻を継続する以外ないと判断しているもようだ。
独立系メディア「メドゥーザ」が22日、ロシア大統領府に近い複数の関係者の話として報じたところによると、政権内では数週間前から戦闘終結に関するシナリオが検討され始めた。しかし、プーチン氏の支持率低下を避ける「出口戦略」を見いだせず、停戦交渉のための世論づくりを放棄し「すべて成り行きに任せる」ことになった。
こうした方針に至ったのは、ロシアの中産階級の間では侵攻を支持する割合が高く、中途半端な形での幕引きで不満が高まることを警戒したからだという。
メドゥーザが引用した、13〜16日にモスクワ市民1000人を対象に行われた世論調査結果によると、「実質的に何でも買える」収入を得ている層では、「軍事作戦の継続に賛成」が62%で、「停戦交渉に賛成」の29%を大きく上回った。収入的にその一つ下の層でも、作戦継続賛成が54%で、交渉支持は37%。これが「食費も十分でない」層になると、停戦派が53%と作戦継続派(40%)を上回った。
社会学者グリゴリー・ユジン氏はメドゥーザに対し、「ロシアの中産階級のかなりの部分が治安・国防関係者と中堅の官吏」であり、「政権の直接的な受益者」だと分析。大統領府に近い関係者も、米欧が厳しい経済制裁を科し、食品を中心に国内の物価が上昇する中でも、こうした層はそこまで影響を受けていないと指摘した。
政府系の世論調査機関の調査では、プーチン氏の支持率は侵攻後に軒並み上昇。独立系のレバダ・センターの調査でも、3月の支持率は83%を記録し、2月の71%から12ポイントも上昇した。
●ロシア軍 マリウポリ製鉄所に空爆 ウクライナ軍事侵攻から2カ月  4/24
ロシアがウクライナに軍事侵攻してから、4月24日で2カ月となる。ロシア軍は、攻撃を中止するとしていたマリウポリの製鉄所を空爆しているほか、南部オデーサにミサイル攻撃をするなど攻勢を強めている。
ウクライナ南東部・マリウポリにある製鉄所の地下内部とされる映像は、立てこもっているウクライナのアゾフ大隊が公開したもの。
兵士「プレゼントを持ってきたよ」
この映像がいつ撮影されたかはわからないが、地下の部屋には、避難しているとみられる多くの女性や子どもの姿がある。
女の子「空も太陽も見ていない。誰もけがをしないで安全にここから出たい」
男の子「僕たちは家に帰りたい。生き残って帰りたい」
一方的にマリウポリの制圧を宣言し、製鉄所への攻撃を中止したとしたロシア軍だが、ウクライナ政府高官は23日、ロシア軍による新たな空爆があり、製鉄所を襲撃しようとしていると明らかにした。
また、南部にある港湾都市・オデーサの住宅の映像では、中央部分が大きく崩れている。
ウクライナ当局などによると、軍事施設と住宅2棟にミサイル攻撃があり、生後3カ月の赤ちゃんを含む6人が死亡、18人が負傷したという。
ロシア軍が、2月24日にウクライナに軍事侵攻してから2カ月。
キーウ州で市民1,200人以上が亡くなったとしているほか、マリウポリでは、死者が2万人を超える可能性があるとしている。
5月9日の戦勝記念日までに東部や南部の制圧を目指すロシア軍は、各地で攻勢を強めていて、今後も市民の犠牲が増える懸念が高まっている。
●オデーサにミサイル攻撃、8人死亡 マリウポリでは市民の避難実現せず 4/24
ウクライナ南西部オデーサで23日、集合住宅などへのミサイル攻撃があり、生後3カ月の子どもを含む8人が死亡した。ロシア国営メディアはロシア国防省の話として、この攻撃でウクライナの補給基地が機能停止に陥ったと伝えた。他方、ウクライナ政府は近くアメリカの国務長官と国防長官が首都キーウを訪れると明らかにした。
ウクライナ南西部の港湾都市オデーサの当局は、同市に複数のミサイル攻撃があったと発表した。アパートなどの建物が攻撃されたもよう。
ソーシャルメディアに投稿された複数の動画では、オデーサ市内の建物から黒煙が立ち上っているのが確認できる。
ロシアはオデーサ攻撃を認めた。ロシア国営タス通信は国防省の話として、オデーサ近郊にあるウクライナの補給基地が機能停止に陥ったと伝えた。高精度のミサイルが使用されたという。
タス通信は、集合住宅への攻撃については触れていない。ロシア政府はこれまで、民間人を意図的に狙ったことはないと主張している。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同日、首都キーウの地下鉄駅で記者会見を開き、ロシアによるオデーサへのミサイル攻撃で8人が死亡したと明らかにした。死者には生後3カ月の子どもも含まれるという。ウクライナ軍はこの会見に先立ち、2発のミサイルがオデーサ市内の軍事施設と集合住宅2棟を攻撃したと発表した。
ゼレンスキー大統領は会見で、戦争を終わらせるため、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談実現を呼びかけた。「この戦争を始めた者こそ、この戦争を終わらせられると思う」さらに、両国の和平合意を意味するのなら、プーチン氏に「会うことは怖くない」と付け加えた。一方で、ロシア軍が包囲する南東部マリウポリで、アゾフスタリ製鉄所を守るウクライナ兵をロシア軍が殺害したり、ロシア軍の占領地域でロシア編入の是非を問う疑似住民投票を計画すれば、ウクライナは和平交渉から離脱すると警告した。ゼレンスキー大統領の補佐官によると、製鉄所はロシア兵による攻撃を再び受けている。これが事実だとすると、ロシアがまたしても作戦を変更した可能性がある。プーチン氏は21日に、製鉄所への総攻撃を中止し、「ハエ1匹逃げられないよう」封鎖するよう命じていた。
ゼレンスキー氏によると、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が24日にもキーウを訪問する。ロイド・オースティン米国防長官も同行するという。実現すれば、米政府高官のキーウ公式訪問はロシアの侵攻開始後初めてとなる。「明日(24日)、アメリカの政府高官が私たちのもとへ訪れる」と、ゼレンスキー氏は記者団に語った。
こうした中、アゾフスタリ製鉄所に残るウクライナのアゾフ大隊は23日、同製鉄所の地下豪に避難している女性や子どもだとする動画を公開した。動画では、物や人であふれかえった一室にいる女性や子どもたちの姿が映っている。食料も水も尽き、避難したいと懇願する声が聞こえる。2月からここに避難し、何週間も日の光を見ていないと話す人もいる。動画は4月21日に撮影されたとされる。BBCはこの動画の内容を検証できていない。部屋へと続く壁には赤い塗料で「子たち」と大きく書かれてある。赤ちゃんから14歳までの子ども15人以上がこの場所に避難していると話す、女性の声が聞こえる。別の女性は、ロシアの侵攻2日目の2月25日からここに避難していると語っている。1人の少女は、2月27日に母親と祖母と一緒に自宅を離れたという。「それからずっと空も太陽も見ていない。私たちはここからすごく出たい。安全な場所に行きたい。誰も傷つかないように、安全に暮らせるように」と、この女の子は話した。この少女は、西部リヴィウへの避難を希望。同市には、激しい攻撃が続くハルキウから逃れたきょうだいがいるからだという。「逃げたい。安全なところに行きたい。爆弾の破片があたるような危険を冒しては、避難したくない」アゾフ大隊の指揮官の1人は今週初め、子どもを含む多くの民間人が製鉄所の地下に避難しているとBBCに語った。死亡したウクライナ人戦闘員の遺体も残っているという。
マリウポリでは現地時間23日正午から、人道回廊が設置されるはずだった。しかし、マリウポリ当局は民間人の避難は実現しなかったと明らかにした。マリウポリ市長の補佐官によると、ザポリッジャへバスで避難するため、約200人が市内の集合場所に集まっていたが、ロシア軍から砲撃の警告を受け、解散させられたという。民間人をマリウポリから脱出させる試みはまたしても阻まれることとなった。ウクライナとロシアは、人道回廊を設置するという合意を破ったとして互いに非難し合っている。
●「ロシア制圧下」の故郷無念 マリウポリ破壊は「見せしめ」― 4/24
ウクライナに侵攻したロシア軍は、南東部の要衝マリウポリの「制圧」を一方的に宣言した。激しい攻撃で徹底的に破壊されたマリウポリから西部リビウへと逃れた男性が取材に応じ、「故郷の再建に尽くしたいが、ロシアの支配下では絶対に戻らない」と無念をにじませた。
男性はマリウポリ出身の歴史研究者イェウヘン・ホルプさん(33)。故郷を奪われた気持ちを尋ねると、「マリウポリの惨状は、抵抗は無駄だとウクライナの各都市に示すための見せしめだ」と憤った。
イェウヘンさんが母親ら親族4人と共にマリウポリを脱出したのは、3月23日のことだ。当時、所持するラジオから得られたのは親ロシア派のプロパガンダのみ。「携帯電話の電波を求めて外に出てみたら、偶然連絡が取れたリビウの友人から『マリウポリは終わりだ』と忠告された」のが決め手だった。
逃避行の際、マリウポリ包囲に加わるチェチェン人戦闘員は検問所で「(ロシアが併合したウクライナ南部)クリミア半島はどこに属する?」と質問。身の危険を感じ、意に反して「ロシア」と答え、通過した。
次の検問所では、丁重に振る舞うロシア兵に「ウクライナ側に行けば徴兵され、殺されるぞ。クリミアなら良い生活が待っている」と諭されたが、「信用できるはずがない」と振り切った。路上には市民の遺体が無造作に放置され、瀕死(ひんし)の兵士らも倒れていた。
イェウヘンさんによれば、ロシア軍は政治的信条などを理由とする要警戒人物リストを持っていた。検問所ではフェイスブックなど交流サイト(SNS)を調べられた人もいるとされ、「自分も見られたら危険だったかもしれない。脱出できたのは幸運だった」と述懐する。
マリウポリには祖父母を含む親族6人が残ったまま。一緒に脱出を懇願したが、「残りたい」とかたくなに拒まれた。極度の食料不足が続き、支援物資は6人でキャベツ1個だけの過酷な状況。安否は不明だ。
「私が憎むのはロシアではなく、ロシアの指導部だ」と話すイェウヘンさん。「ロシア国民はプロパガンダに毒されて気の毒だ。ひどい過ちだったと気づくのは何年も先だろう」とため息をついた。
●マリウポリ住民を極東ロシアへ強制移送か、ウクライナ主張 4/24
ウクライナ議会の人権オンブズマンを務めるリュドミラ・デニソワ氏は23日、ロシアがウクライナ南東部マリウポリ市の住民を極東ロシアの沿海地方へ強制的に送り出していると主張した。
SNS「テレグラム」への投稿で、ボランティアから聞いた話としてロシアのナホトカ市に今月21日、マリウポリ市の住民ら308人を乗せた列車が到着したと説明。このなかには子ども連れの母親、生徒や身体障害を抱えた住民らが含まれていたとした。
同氏は、同市の駅に着いたこれら住民の写真も掲載した。ウクライナから沿海地方は約8000キロ離れている。
マリウポリ市長の顧問を務めるペトロ・アンドリュシチェンコ氏も21日、「ロシアはマリウポリ住民の308人を沿海地方のウラジオストク市へ移動させた」と報告。マリウポリ市長室のテレグラムの公式アカウントによると、このうちの90人が子どもだという。
「学校や寮に収容された後、沿海地方の異なる場所へそれぞれ送られる計画になっている」と指摘した。ウラジオストク市の地元メディアも、列車で到着したマリウポリ住民の写真や動画を伝えた。
デニソワ氏はまた、マリウポリ住民はバスでウランゲリ市の臨時の宿泊施設へ運ばれ、ロシア内での就労が可能となる新たな文書を受け取る予定になっているともした。「占領国家のロシアによる戦争時の文民保護を定めるジュネーブ条約の重大な違反であり、占領地の住民の強制移住や送還は禁止されている」と強調した。
●ウクライナ大統領府 顧問 “ロシア軍 マリウポリで空爆再開” 4/24
ウクライナ大統領府の顧問のアレストビッチ氏は23日、ウクライナ側の部隊や市民が立てこもる東部マリウポリにあるアゾフスターリ製鉄所について、SNSに動画を投稿しました。
この中でアレストビッチ氏は「ロシア軍はアゾフスターリ製鉄所のある地域で、マリウポリの守備隊の抵抗を抑えようとしている。ロシア軍は工場のある地域と守備隊の防衛線に対して空爆を再開した。さらに強襲作戦を行おうとしている」と述べました。
●ゼレンスキー氏が会見「マリウポリ市民全滅なら、交渉やめる」 4/24
ロシアのウクライナ侵攻から24日で2か月です。ロシア軍が東部と南部の完全制圧を目指し各地で攻勢を強めるなか、ウクライナ側も徹底抗戦の構えで、事態の長期化が懸念されます。
ロシア軍は、ウクライナ東部と南部の完全な制圧を目指す方針を明らかにして攻勢を強めています。南部オデーサでは23日、ロシア軍によるミサイル攻撃があり、ロイター通信によりますと集合住宅と軍事施設に着弾しました。
ウクライナ政府は生後3か月の赤ちゃんを含む少なくとも8人が死亡したとする一方、ロシア国防省は、武器を保管する軍事施設を破壊したと主張しています。
また北東部のハルキウでは23日、激しい砲撃で住宅が炎上したほか、東部ルハンシク州でも砲撃が続いているということです。
一方、南東部マリウポリでウクライナ側の兵士が抵抗を続ける製鉄所については、ロシアのプーチン大統領が「製鉄所への攻撃中止を指示した」としていましたが、ロイター通信はウクライナ大統領府顧問の話として、ロシア軍が空爆を再開し突入を試みていると伝えています。
こうした中、ゼレンスキー大統領は23日、首都キーウ市内の地下鉄の駅で記者会見しました。
ゼレンスキー大統領「ロシア軍がマリウポリの市民を全滅させるなら、(停戦に向けた)交渉はやめるだろう」
ゼレンスキー大統領はこう述べてロシア側をけん制した一方、外交的解決のためにはプーチン大統領との会談が不可欠だとも述べました。
さらに、「現状ではロシア軍の包囲を武力で突破する準備はできていない」とした上で、「必要な武器を入手すれば、ロシア軍の占領地をすぐにでも奪還する」と述べ、西側諸国に武器の供与などの支援をあらためて求めました。
また、ゼレンスキー大統領はアメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官が24日にキーウを訪問すると明らかにしました。実現すれば、バイデン政権の高官として侵攻後、初めての訪問となります。 
●なぜ安倍元首相はプーチンに接近したか? 「中国にらみの対露外交」の行方 4/24
安倍晋三元首相はプーチン大統領と蜜月関係にあると言われた。なぜ安倍氏とその周辺はそうした方針をとったのか。また、そうした方針はロシアのウクライナ侵攻によってどのように変化していくのか。戦後の日本外交史を専門とし『現代日本外交史』(中公新書)などの著書がある上智大学教授の宮城大蔵が、冷戦後の外交の流れのなかでこれらの問題を考える(以下、本文中の肩書き・役職は当時のものです)。
ウクライナ侵攻と没落するロシア
ロシアによるウクライナ侵攻によって国際秩序が大きく揺らいでいる。予想外に苦戦したロシアのプーチン大統領は核兵器の使用までほのめかし、一方で欧米や日本はロシアへの経済制裁を強めている。この紛争がどのような形で終息するか、はっきりと見通すことは現状ではまだ困難だろう。
しかし、今回の紛争の一つの帰結は、ロシアの衰退、没落となることは間違いないように思われる。ロシアはソ連時代の超大国の座からは滑り落ちたものの、核兵器を含めた強力な軍事力を持ち、それがロシアの国際的な存在感の源泉となっていた。
しかし、ウクライナでの苦戦でロシア軍の精強さには疑問符が付き、あげくに民間人に対する大量殺戮疑惑さえ浮上している。プーチン大統領は最終手段として核兵器の使用をほのめかすが、その姿は核兵器の誇示でしか存在感を示すことのできない北朝鮮と重なって見える。
プーチン大統領は、冷戦後にロシアの意向を無視してNATOが東方拡大したことに怒りを募らせたと言われるが、仮に今後ウクライナの中立化を取り付けたとしても、ウクライナの国民感情は当然ながらロシアから離反するだろう。さらに今回の侵攻を受けて、フィンランドやスウェーデンはNATO加盟の意向を示している。くわえて国際社会におけるキープレイヤーとしてのロシアの地位は大きく損なわれ、今後、長期にわたって孤立と疎外に直面せざるを得ない。
中国台頭と日露提携という戦略
そのことは日本外交にとって何を意味するのか。プーチン大統領と蜜月関係にも見えた安倍晋三首相の対露外交がどのようなものだったのかに関心が向くのはもっともだが、ここでは時間軸をより長くとり、冷戦後に模索されてきた「中国にらみ」の日本の対露外交が、今回のウクライナ侵攻によって、実質的に幕引きとなったことに着目すべきだろう。
「中国にらみ」とは、冷戦後に顕著となった中国台頭に対して、ともに中国に押される形となった日露が提携して対中バランスをとるという発想であり、「ユーラシア外交」を掲げた橋本龍太郎政権(1996〜1998年)にはじまる戦略的構想の一つであった。
その端緒となった経済同友会での演説(1997年7月)で、橋本首相はアジア太平洋に大きな影響を及ぼす日米中露の中で、日露関係が一番立ち遅れているとして、「信頼、相互利益、長期的な視点」の三原則で日露関係を発展させようと、ロシアに向けてアピールした。
「ユーラシア外交」に込められたねらい
この演説のポイントは日露二国間を語るのに、わざわざ日米中露というアジア太平洋における四つの「大国」に言及したことにある。日露の提携強化によって、台頭著しい中国とのバランスをとるという、いわば勢力均衡の発想がその真意であった。橋本自身、「中国を牽制するためにロシアをアジアのプレーヤーのなかに入らせるということを本気になって考えていました」と率直に語る(五百旗頭眞・宮城大蔵編『橋本龍太郎外交回顧録』)。
当時、ロシアがNATOの東欧諸国への拡大に対して不満を強めていたことも、日本にとっては好機だと捉えられた。「ロシアは西へ行けば拡大しつつあるNATOにぶつかり、南に行けばイスラム原理主義にぶつかり、北へは物理的に行けず、行けるのは東のみという心理状況にあると、私たちは読んでいた」と、外務省きってのロシア通として橋本を支えた丹波實は語る(丹波實『日露外交秘話』)。
「2000年までに平和条約を」
この日本側からのアピールに対して、エリツィン政権下のロシアは予想以上に積極的な反応を示し、同年(1997年)11月にはシベリアのクラスノヤルスクで日露首脳会談となった。
ここで橋本は「ロシアもみすみす中国に押し込まれるつもりはないんだろ。日本とアジアで完全に組んでやれることがあるはずだ」と日露提携を持ちかけ、そのためには平和条約が必要だと説くと、エリツィンは側近に「2000年までに平和条約を必ず結ぶように約束したからな。リュウ(橋本龍太郎)と握手したからな。そういう文書を書け」(『橋本龍太郎外交回顧録』)と、双方の事務方も驚く急展開となった。
橋本はこの場面について、「中国の話をしたところ、エリツィンがすっと乗って来た」と振り返る。結局、橋本、エリツィンの双方がこの後、退陣へと追い込まれたため、「2000年まで」というシナリオは実現しなかったが、橋本の語る「中国にらみ」の日露提携論は、エリツィンにも魅力的に映ったのだろう。
「中華帝国」に隣接するという日露の「悩み」
台頭する中国に圧迫される日露が提携して対中バランスを回復する。この発想は安倍政権でも濃厚であり、中国台頭がますます顕著になっただけに、より色濃いものとなった。
対露外交が経産省主導となった第二次政権末期を除き、安倍首相の外交面における懐刀であった谷内正太郎(国家安全保障局長などを歴任)氏は、21世紀の日本外交における最大の課題は巨大な隣国・中国とどのような関係を構築するかであり、その観点から日露の距離を縮めておくべきだというのが日頃からの考えであったという。
そして安倍首相も「プーチン大統領の悩みは、私の悩み。(略)巨大な“中華帝国”に隣接する“ロシア帝国”最大のウィークポイント、極東地域の人口激減は少子高齢化に苦悩する日本、プーチン大統領、まずあなたと私とで、日本とロシアの最も緊密な協力が生み出す将来の可能性について、強い確信を共有しましょう」と、プーチン大統領の招きで訪れたウラジオストクで演説し、「中国にらみ」の日露提携の利点を力説した(鈴木美勝『北方領土交渉史』)。
アメリカでは闇雲にも見える安倍政権の対露接近にクギを刺す動きもあったが、安倍首相の側近は、台頭する中国に日露が共同で対処する必要があるとして、米側の理解を求めた(駒木明義『安倍vs.プーチン』)。
「日露提携」vs.「日米離間」
安倍首相はプーチン大統領と数多くの会談を重ね、トップ同士の交渉で平和条約の締結も間近と見えた局面もあったが、今にしてみれば結局、首相官邸と周辺からの「期待値」がメディアを通して喧伝されただけだったとも見える。
そこに発生したのが今回のロシアによるウクライナ侵攻である。中国台頭に対応する日露提携といったシナリオは、対露制裁が喫緊の課題となる中で吹き飛んでしまったといっても過言ではなかろう。
もっとも、安倍=プーチンの会談においても、ロシア側はある時期以降、歯舞、色丹等を日本に引き渡した後に日米安保条約の適用外とすることを求めるなど、平和条約をめぐる交渉を、日米間の離間策として用いる気配が濃厚であった(NATOの東方拡大にいら立つプーチン大統領にとって、北方領土の日本への引き渡し後に米軍基地が設けられるのでは面子丸つぶれということもあるだろう)。
日本側が「中国にらみ」の日露提携を志向するのに対して、ロシアは日米同盟の離間策として平和条約交渉を用いようという構図である。
ロシアは対中連携へ
もっとも、1990年代のロシアの日米同盟に対する姿勢は大きく異なっていた。日米同盟の強化に向けてガイドライン(日米防衛協力のための指針)見直し作業が行われていた1997年、エリツィン政権下のロシアから来日したロジオノフ外相は、「日米両国の密接な関係には懸念しておらず、日米関係の緊密化を歓迎している」と述べるなど、中国がガイドラインを強く警戒したのとは対照的であった。
しかし、1999年にチェコ、ハンガリー、ポーランドがNATOに加盟したのにつづき、2004年には旧ソ連のバルト三国などもNATOに加盟し、「オレンジ革命」と呼ばれる政変でウクライナには親欧米政権が誕生する。その背後に欧米がいると捉えたプーチン大統領は欧米への不信を強め、この時期に将来の戦略的連携相手として、アメリカではなく中国を選ぶ決定をしたとも指摘される。
だとすれば、「中国にらみ」の日露提携という日本の企図は、その時期にはすでに前提を失いつつあったということだろうか。中国を念頭においた日露提携という日本側の発言に対して、ラブロフ外相が「腹立たしい言い分だ」と猛抗議するなど、ロシアは中国の猜疑心を招かぬようにという意図もあってか、神経質なほど強く反発するようになる(『安倍vs.プーチン』)。
今回のウクライナ侵攻の帰結として、ロシアが弱体化し、西側からの経済制裁もあって、さらに中国への依存を強めることになれば、それは、安倍氏が首相としてウラジオストクで描いてみせたような、ロシアが対日提携で活力を取り戻し、日本と組んで中国とのバランスを回復するという未来図とは逆のシナリオということになる。
クリミア侵攻の際などには、安倍政権下で何とか「中国にらみ」の対露戦略を維持しようと粘った日本だったが、さすがに今回の事態では難しい。岸田文雄首相は対露制裁で欧米と歩調を揃え、核共有について盛んに問題提起をする安倍氏も、肝心の対露戦略では多くを語ろうとはしない。
中国、ロシア、そして日本外交
振り返ってみれば、中国に人民共和国が成立して以来、中国とソ連という日本に近接する二つの巨大国家とどのような関係を構築するかは、日本外交にとって主要な課題の一つであり、さらにそこには中ソ関係をどう見るかという要素が加わった。
吉田茂は戦後初期、中ソが強固な社会主義ブロックを形成していた時期に、中国はいつまでもソ連の風下に立つことはないと見て中ソ間の分裂を予見した。
1970年代に中ソ対立が激しくなると、今度は中ソ双方が日本を自国に引き付けようと綱引きを展開した。その中で田中角栄は日中国交正常化を掲げて世論の人気を集め、一気に首相の座に駆け上ったのに対して、ライバルの福田赳夫は、その後に政権に就くと「全方位平和外交」を唱えて、中ソ双方とのバランスをとることに腐心した。
1979年にはソ連がアフガニスタンに侵攻し、東西冷戦の緊張が一気に高まる。大平正芳首相は、「西側の一員」を明確にしてモスクワ五輪のボイコットで西側諸国と歩調を揃えることを決断し、中曽根康弘政権になると、日米中はソ連を共通の脅威として強固な連携を構築するに至る。
しかし、冷戦が終わってソ連も消滅すると、今度は中国の台頭が日本にとって警戒の対象となり始める。そこで出てきたのが日露提携で対中バランスを回復させるという外交戦略であった。
今やそれは幕引きとなり、ますます大国化する中国と、それに依存を深める弱体化したロシアというこれまでにない状況が出現しようとしている。それが日本外交にとってどのような意味を持つのか。新たな模索の時期が始まろうとしている。
●ロシアによる軍事侵攻から2か月 双方の犠牲者が増え続ける  4/24
軍事侵攻が始まってから24日で2か月。ウクライナとロシア双方の兵士たちの犠牲が増え続けています。ウクライナ軍の死者について、ウクライナ側は2500人から3000人としている一方、ロシア国防省は今月中旬、外国人のよう兵を含め2万3000人以上に上ると発表しました。
ロシア軍の死者については、ロシア側は、先月の時点で1351人としています。さらにロシア国防省は22日、今月14日に沈没したロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の乗組員1人が死亡し、27人の行方が分からなくなっていると新たに明らかにしました。
一方、ウクライナ側は、ロシア側の死者は2万1200人に上るとしています。
市民の被害も増えています。国連人権高等弁務官事務所は、ウクライナでは今月21日までに、少なくとも2435人の市民が死亡したと発表。集計の遅れなどで、実際はこれを大きく上回るとの見方を示しています。
首都キーウ近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったほか、東部の要衝マリウポリでは、市長がこれまでに2万人以上が死亡していると述べています。
一方、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ウクライナからポーランドやルーマニアなど国外に避難した人の数は22日の時点で、516万人余りとなっています。
また、ウクライナ側は、ロシア軍が、東部マリウポリの多くの住民をロシアのほか東部ドネツク州とルハンシク州に強制的に連れて行ったとしています。
ウクライナ各地から住民がロシアなどに強制的に移送された可能性もあり、こうした住民が置かれた状況を懸念する声が上がっています。
ウクライナが受けている経済的な損失も深刻です。ゼレンスキー大統領は21日、経済的な損失を補填(ほてん)するため毎月70億ドルが必要で、今後のすべての復興には数千億ドルがかかると明らかにしています。
IMF=国際通貨基金が19日公表した最新の見通しによりますと、ウクライナの成長率は、マイナス35%に落ち込むとされています。
一方、ロシア国内では、欧米などによる制裁で経済への影響が指摘されています。
IMFは、ロシアの成長率について、マイナス8.5%という見通しを示しています。
物価の上昇も続いていて、ロシアの統計庁が20日に発表した最新の消費者物価指数では、15日までの1週間では、ことし初めと比べて、11.05%の上昇となりました。
ロシアの会計検査院の長官は「ことしの物価上昇率が17%から20%の範囲になる可能性がある」という見解を示していて、市民生活や経済活動への影響が続く見通しです。 

 

●デジタル戦争として見るロシアのウクライナ侵攻 4/25
ロシアのウクライナ侵攻は長期化の様相を呈しており、この先どのような展開になるかまったく予断できない状況である。今回の侵攻でとりわけ目を引くのは情報戦、デジタル戦とも呼ぶべき、戦争における新しい側面だ。欧米諸国、ウクライナ、そしてロシアが情報やデジタル技術を武器として扱い、戦っている。どのような戦術や施策が繰り広げられ、何がこれまでと違って新しいのか、検討してみたい。
長期化するロシアのウクライナ侵攻
筆者がこれを執筆している4月第2週目。ロシアがウクライナ侵攻を開始してから、すでに43日が経過している。侵攻が始まった2月24日時点では、数日でウクライナ全土を掌握できるというのがロシア側の見通しだった。ロシアはウクライナの10倍以上の軍事予算を持ち、侵攻開始までにウクライナ国境近くに最大19万の軍隊を待機させていたと言われる。その圧倒的な戦力のために、欧米の分析でもロシアのウクライナ制圧は概ね時間の問題であるように語られていた。
ロシア空軍ヘリコプター数十機でキーウ近くの空港を掌握し、そこを拠点に空から戦隊を送り込む。同時にウクライナ北部、東部を戦車部隊で攻め込んでキーウに迫り、すでにロシアが掌握している南部クリミア周辺から軍艦で戦隊を送り込めば、戦争などしたことのない、元コメディアンのゼレンスキー大統領はすぐに降参してしまう、とロシア側は予測していたのだ。だが、この1カ月半の戦闘では、ロシアの一方的な侵攻に対してウクライナの軍、市民が立ち上がり、ロシアの攻撃を押し返している。
ロシアの戦車、車両部隊は侵攻を進めるものの、元々戦闘経験の少ない前線のロシア軍兵士の士気は下がっている。その要因は様々で、車両部品や機材の品質の悪さ、武器の老朽化、燃料や食糧の供給に必要なロジスティックスの不備、ウクライナの軍や市民による攻撃で補給を絶たれた多くの戦車の立ち往生、寒波による戦車内での凍傷等々である。兵の士気を上げるために前線に立ったロシア軍の将官たちが狙撃や爆撃にあい、将官級20人のうちすでに7人が死亡していることも伝えられている。ロシア軍の軍事的な弱さや統制力のなさだけでなく、プーチン大統領がイエスマンだけを側近にして彼らの分析や意見を鵜呑みにして侵攻を決定し、侵攻の状況や軍の被害を詳細に知らされていないという独裁政権にありがちな欠陥が透けて見える。
同時にアメリカ、イギリス、ヨーロッパ共同体、日本を含む西側諸国が一致団結し、ロシア中央銀行や政府関係者、プーチン氏の側近に対する経済制裁や石油・ガスに至る貿易禁止を実施。ロシア軍のウクライナ市民への殺戮が明らかになるにしたがってより制裁を強め、ついに国連は人権理事会からロシアを排除することを決めた。
ロシアの行動前に情報公開、世界の認識を固めてしまう
戦争において、自国民や他国に向けてどのような情報を流していくか、どのようなストーリーラインを語ってメディアや市民の認識を固めていくかという戦略は重要だ。情報をめぐる今回の西側諸国の対応には、これまでの戦争にはない大きな変化が見られる。ロシアが政府発表や自国に有利なストーリーラインや情報をソーシャルメディアで流す一方で、西側諸国はロシア政府と軍が行動を起こす前に、インテリジェンス活動で知り得た情報を開示している。今までは敵国に潜入したスパイが明らかになることを恐れて行ってこなかったことである。
皮切りは、アメリカ政府やバイデン大統領の発言だろう。侵攻前にバイデン大統領はロシアのウクライナ侵攻を確信し、プーチン氏が軍部に侵攻を許可したと発表した。ゼレンスキー大統領がプーチン氏をあまり挑発しないようにと提言したが、結果的にアメリカ政府は正しい情報を得ていたのだという認識が広がった。その後も、ロシア政府や軍の動きに先んじて様々な情報を発表し、世界へ向け想定通りのストーリーラインを打ち出すことに成功したと言えるだろう。
ウクライナも政府や軍が防衛の様子や市民への被害、そしてロシア軍の被害についてロシア政府が発表する前に情報を逐一アップデートしている。ロシア政府はロシア軍の被害を非常に小さく発表している。だが、その内容を覆すような情報がマスメディアやソーシャルメディアで流れている。欧米政府も独自の、だがウクライナが発表した情報に近い数字を公開しているので、ウクライナ政府発信の情報の信憑性を高めている。結果として、ロシア軍が非常に大きな損害を被っており、ウクライナがこの侵攻の一方的敗者になるわけではないというストーリーラインが西側諸国に定着しつつあるように見える。
偽情報、フェイクニュースも武器に
ロシアは外部のボットネットワークやコンテンツ企業なども利用しながら、偽情報やフェイクニュースを発信していることが様々なメディアで取り上げられている。その中でも最新の手法がディープフェイクだ。ゼレンスキー大統領のウクライナ国民に向けた演説があったタイミングで、彼の演説時と似た姿をさせた偽物のアバターが、ウクライナ国民に武器を捨てて、降伏するようにと呼びかけるビデオがYouTube、Facebookに公開された。このビデオはすでに削除されているが、ウクライナ国民の士気を下げるために作られたことは間違いない。
欧米でも(日本でも一部見られるが)、保守派メディアやSNS上でロシアによる偽情報が共有されている。反ワクチン派の偽情報を配信するネットワークが、ウクライナへのロシア侵攻を機に反ウクライナの偽情報を配信するネットワークに変わり、そこからの情報がボットネットワークを介して共有されている様子が報告されている。アメリカではトランプ前大統領自身、彼が推奨する政治家やサポーター、保守派メディアFox Newsがこのような偽情報を積極的に共有していることも伝えられている。長年にわたるロシアの偽情報キャンペーンの結果と言えるだろう。米共和党支持者は現在のバイデン大統領よりも、プーチン氏を好む割合が高いという調査結果も出ているほどだ。
分散型ITアーミー、暗号通貨利用を進めるウクライナ
2014年のロシアのクリミア占領以降、ウクライナはロシアのサイバー攻撃に対応するために、それまでのロシア企業製を中心とした通信網やデジタルインフラを欧米製に転換すべく、欧米テクノロジー企業を誘致し、独自のテクノロジー産業を興してきた。それが今、ウクライナのデジタル戦争に役立っているとする記事が政治ニュースPoliticoで取り上げられている。2019年に設立されたデジタル変革庁の副大臣であるアレックス・ボルニャコフ氏のインタビュー記事。それによると、ウクライナ内だけでなく国外のテクノロジー業界からも30万人以上の人々が「ITアーミー」と呼ばれるボランティアとして、メッセージングアプリTelegramの同庁のアカウントに集まり、同庁から指示される以下のような活動を次々と実行しているというのである。
・ロシア政府や政府メディア、銀行などのサイトを攻撃して機能不全にする。
・機能不全にしたサイトにウクライナ情勢に関する情報を掲載する。
・Meta(Facebook、インスタグラム、Whatsapp)、Twitter、YouTubeなどのサイトで、偽情報を流すロシア政府や政府メディア、インフルエンサーなどのチャネルやアカウントの削除依頼をする。
・上記SNS上で、ロシア軍の動きが分かるビデオ・写真を集める諜報活動をする。
――など
指示系統が必ずしも設定されていない、分散化したITアーミーであるため、ロシア側も止めることができない。活動はその後も続いており、徐々にITアーミーは増えている。
デジタル変革庁はロシア侵攻に対する人道、軍事、財政支援のための寄付を暗号通貨で受け付けている。これにより、従来の銀行振込などよりも迅速に寄付を集めることができる。元々暗号通貨の利用率が高かったウクライナだからこその施策と言える。ウクライナ国立銀行が得た2億5000万ドル(約311億円)の寄付のうち、暗号通貨による寄付額は6500〜7000万ドル(80〜93億円)に上るという。これらの寄付はウクライナ市民軍のヘルメットや武器の購買に使われているようである。さらに、都市の通信ネットワークが破壊されていく中で、イーロン・マスク氏が率いるSpaceXの衛星通信ネットワークStarlinkを利用するための端末提供を依頼したり、多くの欧米企業にロシア市場から撤退することを依頼したりしたのも同庁であるようだ。
アレックス・ボルニャコフ氏はインタビューの中で「我々はこの新しい戦争方法を世界に初めて紹介した。非常に力強く、同時にシンプルで、この方法を取り壊すことは不可能である」と語っている。
ロシアの戦術はウクライナ南東部地域を占領することに目的が変化したようであり、さらに増強した軍隊を投入することが予想されている。戦争が長期化し、ウクライナ市民にさらなる被害が及ぶことも懸念される。それと同時に、サイバー空間での戦争も様々な局面へと展開されていくだろう。ロシア側のボットネットワークやコンテンツ企業などのアカウントはTwitterやMetaなどに活動を制限された。また、マルウェアを利用したロシア系ハッカーネットワークの実態が欧米諸国とウクライナの協力により徐々に明らかになってきたと、ウォールストリートジャーナルが報じている。今回のロシア侵攻におけるデジタル戦争が世界のサイバーセキュリティ、偽情報、フェイクニュースの今後に与える影響は非常に大きいものとなるだろう。
偽情報、フェイクニュースが無くなることはない。だが、もしかすると欧米政府はデジタル戦争における特定の局面における戦術について、1つの糸口を見つけたのではないだろうか。大きなヒントはこれまでの、そして今後のウクライナ政府の対応に見ることができるはずである。
●サイバー戦争でもあるウクライナ紛争 ロシアは2年前から侵攻を計画していた 4/25
ロシアによるウクライナ侵略は、プロパガンダや偽旗作戦、それらを後押しする偽情報がSNSで盛んに流され、さながらデジタル戦争の様相を呈した。ロシアは、インターネットを遮断したことで、「スプリンターネット(Splinternet)」がもはや空想の世界ではないことを思い知らせた。
スプリンターネットとは、Splint(裂けた)とインターネットを掛け合わせた造語で、本来、自由でオープンなネット空間が、政治や宗教などが理由で国や地域間で分断されることをいう。
侵攻は2年前から計画
2022年2月24日に始まったウクライナ侵略は、武力行使のほか情報戦やサイバー攻撃も同時に行う「ハイブリッド戦」だった。これはロシアが得意とする軍事戦略で、14年のクリミア侵攻時にも確認されている。
情報戦にはさまざまな形態がある。一つはネットに虚偽の情報を大量に流すといった攻撃だ。今回、ロシアが流した虚偽の情報に対して、米国が外交・国防・情報・財務当局からなる混成部隊を立ち上げ、動画やニュースなどをチェックし、虚偽であることを暴き、その情報を公開して反撃した。
情報戦のもう一つの側面は、防御として自国をネットから切り離すことだ。今回、ロシア政府の各機関のウェブサイトが、ベラルーシ、カザフスタンなど一部の国を除き他国とのネット通信接続を遮断された可能性がある。実際にアクセスしようとすると「418」というエラーコードが返ってくる。「418」はネット通信を拒否する場合のコードとして使用されている。このエラーコードが設定された経緯をさかのぼっていくと、ロシアがウクライナ侵攻を2年前から計画していた可能性が浮かび上がる。
発端は、プーチン大統領が19年5月1日に署名し、11月1日に施行された「インターネット主権法(Sovereign Internet Law)」である。この法律は、ロシアのネットが脅威にさらされた場合、通信網の集中管理を連邦通信・IT・マスコミ監督局が行うことやネットの安全保障に関する訓練を1年に1回以上実施すること、ネットトラフィック(送受信情報)や禁止されたウェブサイトへのアクセスを制限できる技術を実装することなどを義務付けている。
デジタル鎖国
この法律に従い、ロシアは19年12月から20年4月までの間に、ロシアのネットサービスプロバイダー(ISP)に対して、海外のネットワークと切り離す実験を行うことを命じている。これは海外から、懲罰的措置としてネットワークを遮断されることを想定して行われたものだ。一連の立法化は、ウクライナ侵略が、当時から計画されていたことを裏付けている。
ロシア政府は、国内の反戦や反プーチンの世論が湧き上がるのを抑え込むため、ウクライナへの攻撃を開始した2月24日から自国民によるフェイスブックとツイッターへのアクセスを制限することに成功している。
ネットの通信は、「IPアドレス」という2進数32桁の数字を使用して行われている。IPアドレスは、いわばウェブサイト上の「番地」として用いられている。このIPアドレスを文字列に置き換えたものが、普段我々が目にする「URL」である。
URLをIPアドレスに変換する役目を果たしている「DNS」というサーバーがある。このDNSをサイバー攻撃で誤作動させる、あるいは停止させれば、ネット通信は完全にまひしてしまう。
ロシア軍によるサイバー攻撃は、いずれもネットに接続されているコンピューターの停止を目的とした攻撃だ。通信機器に大量の接続要求を行い、通信機器を使用不能にするDDoS攻撃、ワイパー(Wiper)と呼ばれるコンピューターウイルスに感染させてサーバーやパソコンを使用不能にする攻撃、DNS(Domain Name System)と呼ばれるネット通信で必須の機能をつかさどる装置を誤作動させる「DNSキャッシュポイゾニング」と呼ばれる攻撃が用いられている。
中でも、DNSキャッシュポイゾニングは、実験室で行われてきた攻撃手法で、理論的には可能だが、成功させるには、かなり難しい攻撃とされているものだ。ウクライナの国防省のホームページは復旧したものの、一時期、アクセス不能に陥っている。有事の際に信用できる情報は、政府の公式サイトから得られる情報だ。その重要な情報源が機能しない状況は危険である。今回のロシアの侵攻は、戦争状態でネットを止める気になればできることを証明したといえる。
一方で、敵国がDNSへサイバー攻撃してくることを想定していたロシアは、既にDNSサーバーを国内に移していた。これによってロシア国外からネット通信を遮断されても、ロシア国内のネットワークは機能し続ける。さらにロシア国内のデータ通信と海外のデータ通信を切り分け、国内のデータのやり取りは継続するが、海外とのやり取りは削除できる仕組みを構築した。
つまり、ロシアは「デジタル鎖国」ともいえる環境を作り出した。デジタル鎖国に必要な費用は、「インターネット主権法」を起草したアンドレイ・クリシャス上院議員によると200億ルーブル(約226億円、1ルーブル=約1・13円)程度だという。ロシアの22〜24年の連邦予算案は約37兆円であるから容易に捻出できる額だ。この程度の費用で有事の際に海外とのインターネット通信が遮断できるという現実は、多くの国で、「スプリンターネット」を加速させる可能性が高い。
今回のロシアによるネットの遮断や攻撃は、他国としても「デジタル戦争」における戦術を組み立てる上で、よく研究すべき事例といえる。すでに詳細に分析していると推測される国の筆頭が中国だ。
中国人民解放軍のサイバー部隊が持つハッキング技術は、旧ソ連から学んだといわれている。中国のネットの情報統制は、今やロシア以上である。その中国が、台湾に侵攻する可能性が取り沙汰されている。中国は「一つの中国」の政策的立場から、台湾を独立国として認めていない。
ここから先は仮定だが、中国が台湾に侵攻するような事態になった場合、中国は真っ先にサイバー攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。そして同時に、武力で尖閣諸島を手中に収めようとするだろう。そこで、日本にある米軍基地や日本のインフラに対して無力化を図るはずだ。具体的には海底ケーブルの切断や日本国内のネット通信インフラへの攻撃である。
しかし、現状の日本のネットは無防備ともいえる。これは、ネットを「グレートファイアウオール」と呼ばれる鉄壁の防護壁を構築している中国と対照的だ。
日本政府は、今回のロシアのウクライナへの侵略を詳細に分析し、ネットそのもののセキュリティーを強化すべきだ。
国産衛星ネット通信を
日本が参考にすべき事例が、今回のウクライナ戦争の中で出てきている。宇宙企業の米スペースXや電気自動車(EV)メーカーの米テスラ創業者であるイーロン・マスク氏が、ウクライナの副首相フョードロフ氏の要請を受けて衛星ネット通信網「スターリンク(Sterlink)」を提供している。
スターリンクは低軌道衛星コンステレーションと呼ばれるもので、従来の静止衛星通信では満たせなかった低遅延で小型送受信機でのネット通信を実現している。日本政府も国産の衛星ネット通信を海底ケーブルの代替手段として整備していくべきであろう。
●プーチンは「親ロシア感情」喪失に気づいていた 4/25
歴史には、そこを過ぎると、もはや引き返すことのできない通過点のような局面があるのかもしれない。
最後にキエフを訪れたのは、新型コロナウイルス禍前の2019年9月である。
2014年の政変(ウクライナ国民は“ユーロマイダン革命”と呼んでいる)から5年以上が過ぎたこの街で、多くの市民はロシアにはっきり背を向けて、西のEUの方を向いていた。
東へ600キロほど離れたロシア国境に近いドンバスでは、ウクライナ軍と親ロシア派武装勢力の衝突がつづいてはいたが(私の滞在中も毎日、数人のウクライナ軍兵士が犠牲になり、累計の死者数はその時点ですでに1万人を超えていた)、それでも人々はビザなし入国を利用して、ヨーロッパへ自由に出入りできることを心底楽しんでいるようだった(ウクライナとEUは、2017年5月にビザ免除協定を締結)。
「覆水、盆に返らず」という。プーチン大統領は、同じスラブの兄弟国であるウクライナの人々が久しくロシアへ寄せてきた親和の情を失わせた。ウクライナは東西の対立を克服し、ひとつの国民国家を形成しつつあった。これが実感である。
“ユーロマイダン革命”が転機だったのだろう。ウクライナ東部で親ロシア派がその一部を支配するふたつの州、ドネツクとルガンスクの人口は合わせてざっと650万から660万。そのうち、ロシア語を母国語とするロシア系住民はおよそ250万。
2019年7月以来、ロシア政府は彼らに対してロシア国籍を付与する政策をすすめてきたが、実際にこれに応じたのは、2021年末時点で全体の3分の1にも満たないわずか70万人足らず。大多数のロシア系住民は、ウクライナ国籍のままでいることを選んだ。
ロシアはすでにウクライナそのものを失いつつあった。ウラジーミル・プーチンは手遅れになるまえに、専制的権力者としての自らの政治的余命とその限りある時間を考慮して、この度のウクライナ侵攻を決意したのではなかったか。
ところで3年前のその夜、私は、倉井高志ウクライナ駐在日本大使(当時)のご好意により、旧友ユシチェンコ元大統領を大使公邸に招いて20年ぶりの再会を果たした。
かつてウクライナ国立銀行総裁として通貨改革を成功させ、首相をへて、2004年12月の“オレンジ革命”によって第3代大統領に就任した。彼が国立銀行総裁だった1990年代後半の一時期、私は専門調査員として日本大使館に勤めていた。毎月のように総裁室を訪れては、好物だった西ウクライナ産のブドウを摘まみながら、またときにコニャックを舐めながら過ごした時間は懐かしい記憶である。
往時、流暢な英語をあやつるアシスタントが通訳として彼の傍にいた。その後、ふたりはロマンスにおちいって再婚する。彼女が実は、アメリカ国務省から送り込まれた移民2世だったことは、後年モスクワの友人から知らされた。ウクライナの歩みを知るためのひとつのエピソードである。
●米国務・国防長官 キーウを訪問 ゼレンスキー大統領と会談  4/25
ロイター通信など複数のメディアは、アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官がウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談したと伝えました。ロシアによる軍事侵攻後、アメリカの主要閣僚がウクライナの首都を訪問するのは初めてで、ウクライナ東部などでロシア軍が攻勢を強める中、軍事支援などについて協議したとみられます。
ロイター通信やAP通信など複数のメディアは、ウクライナ大統領府の顧問の話として、アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官がウクライナの首都キーウを訪れ24日、ゼレンスキー大統領と会談を行ったと伝えました。
会談についてアメリカ政府は発表していませんが、ゼレンスキー大統領は23日に行った記者会見で、両長官と24日にキーウで会談するとしたうえで「私たちが必要としている武器や供与してもらえる時期について話し合うことになるだろう」と述べていて、アメリカによるウクライナへの軍事支援などについて協議したとみられます。
ロシアによる軍事侵攻が始まってからのこの2か月で、アメリカの主要閣僚がウクライナの首都を訪問するのは初めてです。
ロシア軍は、首都キーウの早期掌握を断念したあと、作戦が「第2段階」に入ったとして、東部での大規模な戦闘に向けて部隊の移動を進めています。
ウクライナ東部は見晴らしのよい広大な土地が広がり、砲撃による戦闘が激化することが予想されていて、アメリカ政府は21日、りゅう弾砲72門や14万発を超える砲弾などの追加支援を発表しています。
バイデン政権としては主要2閣僚が首都を訪問し、追加の軍事支援を約束することで、ウクライナとの連帯を示し、ロシアをけん制するとともに、今後の中長期的な対応を協議するねらいがあるとみられます。
このあとオースティン国防長官は26日に、ドイツにあるアメリカ空軍の基地でNATO=北大西洋条約機構の加盟国など関係国を集め、ウクライナの戦況や安定的な軍事支援の在り方などについて協議することにしています。
●フランス大統領選でマクロン氏再選、ウクライナ情勢などで引き続きEUと結束  4/25
フランス大統領選挙の決選投票が24日行われ、即日開票の結果、現職で中道のエマニュエル・マクロン氏(44)が、極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏(53)を破り、再選を決めた。マクロン氏は引き続き、ウクライナ情勢などで欧州連合(EU)各国と結束して取り組む考えだ。
任期は2027年までの5年間。現職大統領が再選を決めたのは、2002年のジャック・シラク元大統領(故人)以来20年ぶりとなる。
仏内務省の集計(開票率100%)によると、マクロン氏は得票率58・54%で、ルペン氏は41・46%だった。前回2017年の選挙で対決した際は、マクロン氏が約66%を獲得して圧勝したが、今回は差が縮まった。投票率は71・99%で、前回の74・56%を下回った。
マクロン氏は24日夜、パリのエッフェル塔前で演説し、「次の5年間は、これまでの任期の延長ではなく、より良いものにしていきたい」と決意を語った。今後は6月の国民議会(下院)選挙で与党の過半数維持を目指す。
マクロン氏の再選は、ウクライナ情勢への対応などが評価されたことに加え、極右のルペン氏を敬遠する有権者が多かったことが影響したとみられる。マクロン氏は左派の有権者を取り込むため、地球温暖化対策の強化なども強調した。
ルペン氏は「反マクロン」勢力の結集を目指し、燃料代などの付加価値税引き下げで低・中所得者層の支持拡大を図ったが、及ばなかった。24日夜、パリ郊外で演説し、「人々と共に、力強く、辛抱強くフランスと関わり続ける」と語った。
ルペン氏はEUの権限縮小を唱え、ウクライナ侵攻を巡る対露制裁ではロシア産の石油や天然ガスの禁輸に反対していたため、欧州各国では警戒感が広がっていた。
●続くミサイル攻撃 戦争長期化か ウクライナ軍事侵攻から2カ月  4/25
ロシアのウクライナ侵攻開始から2カ月がたった。
ロシア軍は、ウクライナ東部を中心にミサイル攻撃などを続けていて、軍事作戦が長期化する懸念が高まっている。
軍事侵攻から2カ月となる24日、ロシア国防省は、ウクライナ東部ハルキウの武器保管施設4カ所など、一晩であわせて400カ所以上の標的を攻撃したと発表した。
また、南部の港湾都市オデーサでもアメリカやヨーロッパの武器が保管されていた施設を攻撃したと主張し、欧米諸国からの軍事支援を標的にする方針を示している。
しかし、ウクライナ当局によると、この攻撃で住宅が被害を受けて、生後3カ月の赤ちゃんを含む8人が死亡した。
ロシア軍はこの2カ月、民間施設を標的にしていないと主張し続けているが、戦争が長期化する中、市民の犠牲は日に日に増えている。
こうした中、アメリカのシンクタンク戦争研究所は23日、首都キーウから一時退却していたロシア軍の増援部隊が、ウクライナ東部への移動を完了したと分析した。
今後、ロシア軍は、東部や南部を中心に攻撃をさらに拡大するものとみられている。
●ロシア軍 ウクライナ東部・南部で攻勢強める 軍事侵攻2か月
ロシアは、ウクライナへの軍事侵攻を始めて2か月となった24日も東部や南部で攻勢を強めています。ウクライナ側は、アメリカに対して一層の軍事支援を求めるとみられ、これに反発するロシアが攻撃を一段と激化させることが懸念されます。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて24日で2か月となり、ロシアは軍事作戦は「第2段階」に入ったとし、東部や南部で攻勢を強めています。
ロシア国防省は24日、ミサイルで東部ドニプロにあるウクライナ軍の爆発物や火薬の製造施設を破壊し、東部ハルキウ州にある武器庫などの軍事施設9か所を攻撃したと発表しました。
また、ウクライナ軍はロシアの戦略爆撃機がミサイルを発射し、南部オデーサにある軍事施設と住宅に着弾したと発表しました。
オデーサの市長は、生後3か月の女の子を含む8人の死亡が確認されたと明らかにしました。
地元メディアによりますと、亡くなった女の子はバレリア・グロダンさんの娘で母親のグロダンさんも死亡したということです。
グロダンさんの夫は23日、哺乳瓶をくわえた娘をグロダンさんがほほえみながら抱きかかえている写真をSNSに投稿し、「安らかに眠ってください。いつも私の心の中にいます」とコメントを添えました。
犠牲になる市民が後を絶たないなか、ゼレンスキー大統領はアメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官が24日、首都キーウを訪問する予定だとしています。
ゼレンスキー大統領は「これはとても重要なことだ。私たちが必要としている武器や供与してもらえる時期について話し合うことになるだろう」と述べ、アメリカによる軍事支援などをめぐって協議が行われるという見通しを示しました。
ウクライナ側は、アメリカに対して一層の軍事支援を求めるとみられ、これに反発するロシアが攻撃を一段と激化させ、戦闘がさらに長期化することが懸念されます。
●軍事侵攻2か月 ロシア軍とウクライナ軍 激しい攻防か  4/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で2か月となりました。ロシア軍はウクライナ東部を中心に攻撃を強める一方で、ウクライナ軍による抵抗で深刻な損害を受けたとも分析されていて、激しい攻防が続いているとみられます。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから2か月となった24日もロシア軍はウクライナ東部を中心に広い範囲で攻撃を行いました。
東部ハルキウ州の当局は24日、ロシア軍による砲撃で子どもを含む3人がけがをしたと発表しました。
また、東部ルハンシク州のガイダイ知事は、州西部にある住宅街がロシア軍によるミサイル攻撃を受け、8人が死亡し2人がけがをしたと24日、明らかにしました。
さらにウクライナのポドリャク大統領府顧問は、ロシアのプーチン大統領が攻撃を中止し包囲するよう指示した東部マリウポリの製鉄所について「今もロシア軍は製鉄所を攻撃し続けている。市民や部隊がいる場所が攻撃にさらされている」とツイッターに投稿し、ロシアを非難しました。
一方、イギリス国防省は24日公表した戦況の分析で、「ウクライナ側はこの1週間、ドンバス地域の戦線でロシアからの攻撃を幾度も退けた」としたうえで、「ロシア軍はいくつかの地域を支配下に置いたものの、ウクライナ側は強力に抵抗していて、ロシア軍に深刻な損害を与えた」と指摘し激しい攻防が続いているとみられます。
こうした中、難航する停戦交渉を進めるため仲介外交の動きも出ています。
トルコ大統領府は24日、エルドアン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を行い、停戦交渉にできるかぎりの支援をすると述べたと発表しました。
また、国連のグテーレス事務総長は、事態打開に向けて26日にロシアでプーチン大統領と、その後、28日にはウクライナでゼレンスキー大統領とそれぞれ会談する予定です。
また、こうした仲介外交の動きとは別に、ゼレンスキー大統領は、アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官が24日、首都キーウを訪問する予定だと明らかにしています。
ウクライナはアメリカに対して一層の軍事支援を求めるとみられますが、これに反発するロシアが攻撃を一段と激化させることも懸念されます。
●プーチン大統領は大誤算…侵攻2カ月でロシア軍戦力25%減 4/25
ロシア軍がウクライナへの軍事侵攻を開始してから24日で2カ月。ウクライナ側の強い抵抗が続き、長期戦は避けられないとの見方が強まっている。ロシア軍は5月9日の対独戦勝記念日に向け、攻勢を強める姿勢を見せているが、ほとんど前進できていない状況だ。とうとう、保有する戦力そのものでも劣勢に立たされつつある。
米国防総省高官は、ロシア軍の戦力が侵攻当初から25%減少したと推計している。米欧がウクライナ軍に供与した対戦車ミサイル「ジャベリン」が威力を発揮。軍事情報サイト「Oryx」によると、これまでにロシア軍が失った戦車、装甲車、火砲、対空ミサイルは約3000に上るという。
戦車保有台数ウクライナ軍下回る
現在、ロシア軍がウクライナに持ち込んでいる戦車保有数は、ウクライナ軍を下回っているという。ロシア軍の戦車をウクライナ側が奪取するというケースも起きている。
ウクライナ政府の「国家汚職防止局」は〈ロシア軍の戦車やその他装備品を奪取しても所得申告不要です〉〈安心して祖国防衛を続けてください〉と発表。戦車奪取を後押ししている。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏はこう言う。「お金と引き換えに戦車をウクライナ側に引き渡すロシア兵も少なくありません。ウクライナ当局はロシア軍から243台の戦車を奪ったと発表しています。もちろん、損傷が激しくて使えないものも含まれているでしょうが、ロシア軍の戦車ならウクライナ兵も操縦できる。相手の戦力をそぎ、自軍の兵器を充実させる戦車の奪取は有効です」
CSTO5カ国が軍事支援を拒絶した背景
米欧はウクライナへの軍事支援を充実させている。一方、ロシアは、旧ソ連6カ国で構成する軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」に加盟するアルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンに兵器や兵士の支援を求めたが、断られたという。同盟国に支援を求めたということは、兵器不足や兵士不足に陥っている可能性がある。
「CSTO5カ国が軍事支援を拒絶したのは、いま露骨にロシアを支援すると、西側から経済制裁などを科せられる可能性があり、様子を見ようという判断なのでしょう。ウクライナには西側からの兵器供与が強化されますが、ロシアは自力で用意しなければならない。ロシアにとって兵器・兵士不足が戦争継続のネックになる可能性があります」(世良光弘氏)
ロシア兵も当初の19万人から2万人程度減ったとの見方がある。
英国防省は24日、ロシアが大規模攻撃をしているウクライナ東部ドンバス地域の前線で、ウクライナ軍が多くの攻撃を退けているとの分析を発表。ロシア兵の士気の低下や、再編の時間が限られ、ロシア軍の戦力が弱体化した可能性を指摘している。
これまで7人の将官が戦死したり、旗艦「モスクワ」が撃沈させられるなど、誤算つづきのロシア軍。ウクライナの予想外の強い反撃に遭っている。怒り狂ったプーチン大統領は禁断兵器に手を付けるのか。 
●プーチンの負け戦…「ロシア経済崩壊」までのカウントダウン 4/25
ウクライナ戦争においてプーチンの勝利は「ない」
ウクライナ戦争勃発以降、連日報道される悲劇の連続に気が重くなる。が、だからといって世界の将来を悲観するべきではないだろう。
ウクライナ戦争でプーチンが勝利する可能性はない。短期決戦での決着に失敗し、長期化すればするほど不利になる。戦争コストが高じ、ロシア軍の残虐性に対する国際批判は高まり、経済制裁がもたらすロシア国民の生活の悪化と死傷者の増加により厭戦気運は高まらざるを得ない。
他方、ウクライナ側は国際世論の支援と米国・NATO諸国の軍事・経済支援、高まる士気により抵抗力を増していくだろう。プーチンは最善でもメンツを保つ休戦に応ぜざるを得ないだろう。
ロシアは経済弱体化と政治的プレゼンスの低下を余儀なくされる。密かにロシアを支援する中国も不動産バブルのピークアウト、コロナ再発による経済の減速、輸出先欧米での対中批判の高まり等により、経済情勢は困難化していく。
国連内では南アフリカやブラジルがロシア非難に及び腰であるが、そうした趨勢が力を増すとは考えにくい。
「米国に有利な決着」の可能性も株価は“大底”か
先走りとの批判は覚悟のうえでの推論だが、最終的には米国に有利な決着となる可能性が高いのではないか。そもそもロシアの経済規模は世界GDPの1.7%程度と小さく、この戦争そのものが世界経済を揺るがすものとはなりにくい。
唯一ロシアからの原油、ガス、石炭の供給減による価格の高騰、小麦価格の高騰がもたらすインフレが懸念されるが、それも心配されたほどcatastrophicではないようである。
石油ガスのロシアからの全面的禁輸が回避されていること、米国のシェールガス増産等、代替供給源へのシフトが1〜2年内には大きく進むこと、エネルギーインフレに対して各国ともリフレ策で対応していくとみられること、などが想定される。
米国株式市場の最大の懸念要因は戦争というよりは、インフレの高進と金融引き締めの行き過ぎによるオーバーキルであるが、それはなんとか回避される可能性が大きい。
CPIは3月前年比8.5%と40年振りの上昇率となったが、原因の多くは供給体制の制約による一過性のものなので今年後半にははっきりピークアウトしていくだろう。供給に原因があるインフレに対して、金融や財政の引き締めで需要を抑える政策は誤りである。
このことは米国政府、FRB、市場のコンセンサスとなっているので、オーバーキルは回避されるだろう。米国株価はウクライナ侵攻直後の急落で大底をつけた可能性が高い。湾岸戦争時の事例のように戦争勃発直後が株価の大底という過去の経験が今回も当てはまりそうである。
年間約100兆円近い米軍事予算…ロシアのおよそ10倍
そうなると米国の圧倒的優位性が浮かび上がってくる。米国は世界最大の石油ガス産出国かつ純輸出国である。エネルギー価格上昇は国全体ではマイナスではない。またトウモロコシ、小麦、大豆など世界最大の穀物輸出国でもある。
実際年初来SP500株価指数が7.8%下落しているなかでエネルギーセクターの株価は43.7%、農産物セクターは43.4%と突出して上昇している。
製造業の衰退が強調されるが、先端産業での競争力は圧倒的である。中国を除く世界のインターネット・サイバー空間を米国のFANGM5社が支配しており、その技術力イノベーションの力は他国を寄せ付けない。また基軸通貨ドルを通して世界の金融を支配している。
ロシアはそのくびきから逃れるために人民元と金保有を大きく高めたが、米、欧、日、英の中銀の連携によりその外貨準備の約半分は凍結されてしまった。
米国の7,782億ドルの軍事予算は、世界第2位の中国の3倍、ロシアの10倍と圧倒的(2020年)で、正面対決すればどの国も敵ではない。世界大戦への展開を回避するために正面からウクライナ支援をしていないが、それは米国が弱いからではない。
批判はあるものの米国は世界最強の民主主義国、人権尊重国であり、大半の避難民が望む最後の目的地は米国である。そこには他国にはない機会と夢がある。米国の政治リーダーのなかには驚くほど東欧からの難民やその子弟が多い。
「米国衰退」は幻…中国とロシアの“致命的な誤解”
この米国が衰退しつつある大国であるかのイメージでとらえられ、それを信じたプーチンがウクライナ侵略をしたり、習近平が覇権挑戦を試みたりしているが、それはシンプルに間違いである。
米国の地政学的プレゼンスの低下は、対テロ戦争が手詰まりになったことから始まった。オバマ氏が核廃絶を標榜し、世界の警察官をやめると宣言したことで、「力による外交」を放棄したと誤解された。
続くトランプ政権はアメリカファーストを唱えて自国中心主義に回帰し、昨年バイデン政権はなにも得ないままにアフガンから撤退したことで、世界に大きな力の空白が生まれたことに疑いはない。
習近平の南シナ海専横もプーチンのウクライナ侵略もそれにつけ入ったものであることは明らかである。それは米国外交の失敗であるが、米国の力の低下によるものではない。
ウクライナ戦争は世界秩序再構築の「突破口」
ウクライナ戦争により、より大きな脅威が誰の目にも明らかになり、米国国内の保守派対左翼リベラルの対立は小異であることがはっきりした。今年11月の中間選挙等を経て、理想主義リベラルに偏った米国世論は再び現実主義に振れていくだろう。
ドイツのパシフィズム(平和主義)からの転換、フィンランド、スウェーデンのNATO加盟意向など、自由民主世界のベクトルも揃っている。力による現状変更を許さない世界秩序の再構築に向けて、かつてない求心力が高まるのは必至である。
世界の自由主義秩序に疑問符を挟んだり、中ロのような米国衰退説を唱えることは、正しくないし、望ましい態度でもないことを強調しておきたい。 
●ウクライナ危機と国際エネルギー情勢 4/25
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって2か月が経ちました。多くの尊い命が失われていることに加え、世界経済にも深刻な影響を与えています。欧米の国々が、ロシアに対し、厳しい制裁を実施していることにより、原油や天然ガスの価格が高騰し、国によっては、今後、エネルギーの確保が困難になる事態も懸念されています。この問題の背景や影響を考えます。
解説のポイントは、ウクライナ危機が国際エネルギー市場に与える影響。考えられる今後のシナリオ。代替の供給地としてカギを握るサウジアラビア。以上3点です。
最初のポイントから見てゆきます。原油や天然ガスの国際価格は、世界経済が新型コロナウイルスの感染拡大による落ち込みから回復に向かう中で、おととし以降、上昇を続けていましたが、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、価格高騰に拍車がかかりました。
こちらは、原油価格の国際的な指標とされるWTIの先物価格を示したグラフです。先月8日、アメリカ・バイデン政権が、ロシア産の原油や液化天然ガス、石炭などの輸入を禁止する措置を発表すると、1バレル120ドルを超える、記録的な水準に跳ね上がりました。その後、中国の石油需要が減る可能性が報道されるなどして、いったん1バレル95ドル前後まで下がったものの、再び上昇し、高値のまま、乱高下しています。
天然ガスは、いっそう激しく高騰しました。原油価格とほぼ同時に、ヨーロッパのガス価格も最高値を記録し、原油に換算して、1バレル400ドルを超える異常な高値をつけました。石炭も例外ではありません。今月7日には、G7・主要7か国とEU・ヨーロッパ連合が、ロシア産の石炭の輸入を禁止すると発表し、石炭価格が急上昇。石炭は火力発電の燃料となるため、電力価格の上昇も招いて、いわば、「同時多発的なエネルギー価格の高騰」を引き起こしています。
背景には、ロシア産のエネルギー資源が、世界市場に占めるシェアの大きさがあります。原油の輸出では世界の11%、天然ガスは25%、石炭は18%を占めています。とくに、ヨーロッパ諸国は、ドイツやイタリアをはじめ、ロシアへの依存度が非常に高くなっています。
欧米各国が、ロシアのエネルギー資源を対象にした制裁をかければ、ロシアの輸出にブレーキがかかり、エネルギー資源の供給不足を招く可能性があります。一方、ロシア側が、欧米などに対し、輸出を制限する対抗措置をとれば、供給不足はいっそう深刻なものとなるでしょう。たとえば、ロシアのプーチン大統領は、「非友好国」とみなした国への天然ガスの輸出について、ロシアの通貨ルーブルでの支払いを要求し、応じなければ供給を停止すると脅しをかけました。エネルギー問題の専門家の間では、「産油国による戦争と禁輸措置が組み合わさった世界的なエネルギー危機」という意味合いで、半世紀前に起きた第4次中東戦争の際の石油危機に似た状況が生まれつつあるという見方も出ています。
エネルギー資源は、誰にとっても、必要不可欠で、価格の高騰が続けば、経済へのマイナスの影響を免れません。企業にとっては経営が、消費者にとっては暮らしが、圧迫されることになります。そして、エネルギー自給率の低い国、とりわけ、ロシアからの輸入に頼ってきた国では、急にエネルギーを確保できなくなるおそれがあります。
ここから、2つ目のポイント、今後考えられるシナリオを見てゆきます。
日本エネルギー経済研究所の小山堅専務理事は、早期の停戦実現が難しくなっている現状に鑑み、主に2つのケースを想定しています。第1に、ロシアの軍事侵攻と経済制裁がしばらく続くものの、エネルギーの深刻な供給不足までは起きないケースです。この場合、原油価格は、1バレル100ドル前後を中心に、プラス・マイナス20ドル程度の幅で変動を繰り返すと見ています。第2に、何らかの理由で、深刻な供給不足が起きるケースです。この場合、原油も、天然ガスも、一気に高騰し、これまでの最高値を更新する可能性もあると見ています。中東の産油国が増産したり、消費国側が備蓄を放出したりすれば、ある程度値下がりするものの、現在よりも高い水準が続くと分析しています。そのうえで、小山氏は、ロシア側の容赦ない攻撃で、大勢の一般市民が殺害されていることなどから、これまでエネルギーを対象にした制裁には消極的だったヨーロッパ諸国が、今後、ロシア産原油の輸入制限に踏み切る可能性もあると分析しています。
その場合、エネルギーの供給不足が起きるおそれがあり、関係国は、ロシア以外から調達する必要が出てきます。中東の産油国、サウジアラビアの対応が、市場を安定させるカギを握ると指摘されています。生産能力に大きなゆとりがあり、指導者が意思決定さえすれば、大幅な増産が可能だからです。
今回の危機を受けて、欧米や日本は、原油の増産を要請していますが、サウジアラビアは、今のところ、応じていません。背景には、この国の外交や石油政策を事実上決めているムハンマド皇太子の意向があると考えられます。サウジアラビアとアメリカは同盟関係にあり、トランプ前政権時代は蜜月の関係でしたが、ムハンマド皇太子とバイデン政権との関係はぎくしゃくしています。4年前、自らを批判するジャーナリストがトルコで殺害された事件や、隣国イエメンの内戦への軍事介入をめぐって、強く批判されているのが理由です。ムハンマド皇太子は、ロシアのウクライナ侵攻後、バイデン大統領との電話会談を拒み、さらに、「石油の供給が不足しても、責任を負わない」と述べたと伝えられます。一方、サウジアラビアは、近年、ロシアとの関係を深めてきました。ムハンマド皇太子とプーチン大統領は、先月と今月の2度、電話会談を行い、プーチン大統領は、「OPECプラス」の合意を守るよう、ムハンマド皇太子に要請したもようです。「OPECプラス」は、OPEC・石油輸出国機構に、非加盟のロシアなど10か国を加えた新たな枠組みで、原油価格を維持するため、小規模な増産を続ける方針で合意していました。サウジアラビアは、「OPECプラス」の枠組みを重視し、大幅な増産には消極的です。ただし、今後、原油価格がさらに高騰し、供給不足が顕著になった場合には、追加の増産を行う用意もあるのではないかと、多くの専門家は見ています。
深刻なエネルギー危機を回避するには、一刻も早く戦争を終わらせることが不可欠で、戦争が長引くほど、経済へのダメージも大きくなります。そして、今回の危機をきっかけに、各国はそれぞれ、エネルギー戦略の見直しを迫られるでしょう。ヨーロッパ諸国は、天然ガスの40%、原油の30%を依存してきたロシアに変わるエネルギーの調達先を探しています。日本にとっても、対岸の火事ではありません。エネルギー自給率が非常に低く、石油の90%を中東からの輸入に頼ってきました。ひとたび、中東地域で軍事的な紛争が起きれば、たちまちエネルギー不足に見舞われますので、エネルギーの調達先の分散化を急ぐ必要があります。そして、ヨーロッパ諸国も日本も、省エネを促進し、新たなエネルギーミックスの戦略をつくる必要があります。両者に共通する切実、かつ、先送りの許されない課題です。 

 

●ウクライナ戦争はこのままでは泥沼化…バイデン大統領の対応に疑問符 4/26
ロシアのウクライナ侵攻から2ヶ月が経ったが、紛争が沈静化するどころか、今後さらに激化する可能性が高まっている。
3月からロシアとウクライナの間の停戦協議が断続的に行われてきたが、ウクライナ首都のキーウ近郊のブチャで多数の民間人の遺体が見つかった4月上旬以降、目立った進展はなくなってしまった。
ロシアのラブロフ外相は4月19日、同国によるウクライナ侵攻が「新たな段階」に入ったと述べた。ウクライナ東部ドンバス地方で戦闘が激化しており、ラブロフ氏の発言はロシア軍による大規模な攻撃開始に言及したものとみなされている。
これに対し、西側諸国は重火器の追加供与を含むさらなる軍事支援を準備している。
ブリンケン米国務長官が欧州の同盟国に対し「ウクライナでの戦闘は今年末まで続く可能性がある」と伝えるなど、ウクライナ危機は泥沼の様相を呈し始めている。
欧州地域で久しく経験していなかった大規模な戦争が勃発してしまったがために、沈着冷静であるべき政府首脳までもが激しく動揺している印象が強い。そのせいだろうか、もともと反ロシア色が強かった西側諸国では「戦略的思考」がすっかり消えてしまい、ロシアへの「怒り」の感情一色に染まっていると言っても過言ではない。
ウクライナ側の抵抗は予想をはるかに上回る見事なものだった。SNSをうまく使っているので、私たちは「ロシアは負け戦となっている」とついつい思いがちになる。
だが、ウクライナ側の軍事的抵抗の成功を喜んでばかりはいられない。
米国がもっと前面に出てくるべき
ウクライナ軍が強く抵抗するほど、ロシア軍はより攻撃的になるからだ。戦闘が激化の一途をたどれば、「1980年代に旧ソ連が侵攻したアフガニスタンのようにウクライナ全土が焦土と化してしまう」との悪夢が頭をよぎる。
このような悲劇を繰り返さないためには早期の停戦合意が不可欠だ。だが両者の隔たりは大きく、国際的な仲介なしでは停戦実現は難しい。
ロシアとウクライナの停戦を仲介するためにトルコなどが精力的に動いているが、筆者は「米国がもっと前面に出てくるべきではないか」と考えている。
戦闘の前線に米兵は派遣されていないが、米軍はロシア軍との間で実質的な戦闘状態になっているからだ。米国からの巨額な支援のおかげで欧州有数の軍事力を有するようになったウクライナは、米国の軍事衛星からの情報に支えられてロシア軍の侵攻を必死に食い止めている。「自国民の死者を出したくない米国は、ウクライナ人を盾にしてロシアと戦っている」との批判も出ているぐらいだ。
ウクライナ政府に最も影響力を持っている米国のバイデン大統領だが、停戦合意に向けた環境整備を行わないばかりか、むしろこの動きを阻害しているようにみえる。
バイデン大統領はプーチン大統領のことを「殺人者」「戦争犯罪人」と呼ぶことにまったくためらいを感じていない。このような発言はロシア側の反発を募らせるばかりで、事態を沈静化させようとしている国際社会の努力に水を差す形になっている。
バイデン大統領はプーチン政権打倒を示唆する発言も繰り返している。
米国の地政学的大目標が「ロシアを自国に対抗できない従属的な地位に追いやること」であることは明らかだが、ウクライナ危機を決着させる具体的なプランを持っていないのではないかと思わざるを得ない。
米国政府は「ロシアの体制転換を望まない」と表明しているが、ウクライナとの戦いでの勝利に固執するプーチン大統領が政変などで排除されなければ、ロシアが外交交渉に転じる可能性は少ないと見ている節がある。
仮に「プーチン失脚」ならば…
「プーチン大統領の失脚」という事態が短期的に起きる見込みは低いが、仮に起きた場合どうなってしまうのだろうか。
1991年のソ連邦崩壊の時には15の共和国という受け皿があったが、現在のロシアにはプーチン大統領に代わって国を統治しうる政治勢力は存在しないと言われている。プーチン体制が瓦解すれば、内戦を含む政治的混乱の中から民族主義的な勢力が台頭するリスクも指摘されている。
経済力は衰えたものの、ロシアは世界最大の領土と約4500発の核兵器を擁する軍事大国だ。プーチン後のロシアの秩序構築に失敗すれば、ユーラシア大陸が大動乱となるのは必至だが、米国にとっては「対岸の火事」なのかもしれない。
プーチン大統領は既に核兵器の使用をちらつかせており、「戦闘が長期化すれば戦術核兵器が使われるのではないか」と懸念されている。そうなれば「第3次世界大戦」という最悪の展開となり、米国にとっても「死活問題」になるはずだ。
米国は21世紀に入り、アフガニスタンやイラクなどで長期にわたり戦争を繰り広げてきたが、これにより安定した国際秩序が構築できたとはお世辞にも言えない。「世界一の軍事大国である米国自身が侵攻されるリスクがないから、戦争の失敗を繰り返す」との嘆き節が聞こえてくる。
ウクライナ危機は既に世界全体に深刻な悪影響を及ぼしている。国際社会は「ロシア憎し」の衝動でひた走る米国に対して、ウクライナ危機の現実的な落としどころを見定めるよう、強く促すべきではないだろうか。
中でも日本は欧州と同様、ロシアと隣国関係にある。感情的にならざるを得ない状況下でも「長期的な国益」をけっして見失ってならない。
●印、ウクライナ戦争後に21年の2倍超のロ産原油購入 4/26
インドが、ロシアのウクライナ侵攻後の2カ月間に2021年通年の2倍超のロシア産原油を購入したことがロイターの試算で明らかになった。西側諸国の制裁で買われなくなったロシア産原油を、インドの石油精製業者が割引価格で大量購入したため。 
西側諸国の対ロシア制裁によって多くの石油輸入業者がロシアとの取引を敬遠し、同等品と比べたロシア産原油の割引率は過去最高水準となっている。
原油の入札業者や取引業者の情報に基づくロイターの試算によると、インドの石油精製業者は2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以来、少なくとも4000万バレルのロシア産原油を発注した。これらは第2・四半期積み込み分。ロイターの試算によると、21年通年のインドへのロシア産原油の輸入総量は1600万バレルだった。
インドは世界3位の石油輸入・消費国で、日量500万バレル(bpd)の原油需要の85%超を輸入に依存している。企業関係者によると、石油精製業者はサウジアラビアなど一部の生産国のより高い公定販売価格の影響を一部相殺するため、より安価なロシア産原油を購入している。
ある製油所の幹部は匿名を条件に「われわれは消費者を価格ショックからできるだけ守ろうとするが、同時に当社の利益も守る必要がある。このためロシア産原油を買っている」と語った。
ロイターの試算によると、民間製油企業のリライアンス・インダストリーズとナヤラ・エナジーによるロシア産原油の購入量は、いずれも国営のインド石油公社とヒンドゥスタン・ペトローリアム、バラト・ペトロリウムによる輸入量合計を上回っている。
貿易関係筋によると、リライアンスは22年第2・四半期にこれまで少なくとも1500万バレルのロシア産原油を購入。ロシアの石油最大手、ロスネフチが一部出資するナヤラ・エナジーは4─5月の出荷分で800万から900万バレルのロシア産原油を購入した。リライアンス、ナヤラはロイターのコメント要請に応じていない。
インド政府はウクライナでの即時停戦を求めているものの、ロシア政府の行動を明確には非難していない。
インドのプリ石油相は22日、同国のロシアからの石油輸入を擁護し、ロシアからの購入はインド全体の石油需要のごく一部に過ぎないと述べた。
●ロシア、米国、中国、日本…ウクライナ戦争で大ダメージを受けた世界経済 4/26
IMFの「世界経済見通し」を読み解く
ロシア軍のウクライナ侵攻から2ヵ月あまりが経過し、世界経済への深刻な影響が浮き彫りになってきた。
国連の専門機関のひとつ国際通貨基金(IMF)が最新の「世界経済見通し」を公表し、今年の世界全体の成長率の予測を3.6%増と、ロシア軍侵攻前の前回予測(今年1月公表)に比べていきなり0.8ポイントも下方修正したのである。
下方修正の理由は、戦争が天然ガスや原油、石炭といった化石燃料や鉱物資源、小麦、トウモロコシといった穀物などの価格高騰に拍車をかけていることに加えて、西側諸国によるロシアに対する厳しい経済制裁が世界の貿易を冷え込ませる懸念があることだ。
戦争や制裁が経済の足を引っ張ることは初めからわかっていたとはいえ、権威あるIMFがこれほど深刻な予測を打ち出したことには目を見張らざるを得ない。日本経済にも深刻な影響があるという。
そこで、今回は、今さら聞けないIMFという国際機関の何たるかと、今回の予測の中身を詳しくご紹介したい。
IMFの3つの使命
IMFは、1929年の世界恐慌の反省から、1945年12月に設立された国際機関だ。本部は、アメリカの首都ワシントンにあり、筆者も新聞社の特派員時代にカバーした経験がある。
日本がIMFに加盟したのは1952年8月のこと。53番目の加盟国だった。現在、加盟国は190となっている。
IMFには主に3つの使命がある。
第一は、外貨不足で対外的な支払いが困難に陥った加盟国に対し、加盟各国からの出資を財源に貸し付けを行い、危機克服の手助けすることだ。
第二は、世界全体、各地域、各国の経済と金融の情勢をモニターし、加盟国に経済政策に関して助言する「サーベイランス」を遂行することである。このサーベイランスへの協力は、IMF協定上、加盟国の義務とされている。
第三は、加盟国の要請に基づいて、必要に応じ、加盟国に対して、マクロ経済・財政・金融などの専門家を派遣。政策遂行能力を高める技術的な支援を実施することにある。
IMFの大きな特色は、その投票制度にある。国連総会のように1国が1票を持つのではなく、各国の出資割当額「クォータ」を基本に投票権が割り当てられる仕組みになっているのだ。現在の投票権は、トップ米国が17.40%、2位日本が6.46%、3位中国が6.39%、4位ドイツが5.58%、5位イギリスが4.23%となっている。
IMFは通常、毎年4月と10月に「IMFC(IMF国際通貨金融委員会)」を、10月には世界銀行と合同の「年次総会」を開催することになっている。IMFの「世界経済見通し」はこれらの会議の討議のための資料だ。この年2回のほかに、毎年1月と7月にもアップデートを公表している。
コロナ、インフレ、そこに「地政学リスク」まで…
今回の「IMFの世界経済見通し」の内容を詳しく紹介する前に、このところの「見通し」の見直しぶりを振り返っておく。
IMFは去年7月の改定で、世界全体の今年の成長率予測をその3ヵ月前より0.5ポイント高い年4.9%に引き上げた。そして、去年10月の改定でも、「年4.9%」という水準を変えなかった。これは、新型コロナウイルスに対する世界的なワクチンの普及などを背景に、世界経済が回復軌道を辿り続けるとみていたからである。
ところが、今年1月公表分の「世界経済見通し」は、風向きが変わる節目となった。去年(2021年)については、コロナ危機からの急ピッチの回復で5.9%とIMF統計の歴史上、最大の伸びを記録したと推計したものの、今年(2022年)については4.4%と、その3ヵ月前、つまり去年10月の予測よりも0.5ポイントも下方修正したからである。
この時点での下方修正の最大の根拠は、米国で長引く様相を呈していた高インフレだった。また、下振れ要因は他にもあるとして、中国のゼロコロナ政策の行方を懸念していたほか、新たな変異型ウイルスの脅威も指摘。さらに『ある種の地政学リスク』として、台湾やウクライナの情勢が緊迫すれば、東アジアや東ヨーロッパの経済下振れもあり得るとしていた。
今回の大幅な下方修正の根拠は、その地政学リスクの現実化だ。今回の「見通し」は、「戦争が経済の回復を抑制する」とロシア軍のウクライナ侵攻が経済の先行きに影を落としている点を強調した。まだ新型コロナ危機から立ち直っていない中で、新たな危機が重なることになったというのである。
戦争をきっかけに、エネルギー、資源、穀物の価格高騰に拍車がかかっており、各地でインフレが深刻化しかねないほか、ロシアへの経済制裁のブーメラン効果で各国の貿易も落ち込むとの懸念を示している。
冒頭でも触れたが、今回の改定では、世界全体の今年の実質成長率見通しを3.6%と、前回1月の予測から一気に0.8ポイントも引き下げたのである。
この結果、世界経済の成長率は2021年の6.1%から大きく減速して、2022年と2023年はともに3.6%になる見込みという。それぞれ、今年1月の予測から0.8%ポイントと0.2%ポイント下方に改定された形なのだ。IMFは今回、加盟190カ国中、実に143カ国について今年の成長予測を引き下げたのだ。
2023年より先の中期的見通しについては、世界経済の成長率がおよそ3.3%近辺の水準に低下すると予測した。
また、物価に関しても、「戦争が主な要因で一次産品が値上がりし、上昇圧力は広範囲に広がっている。これを受け、2022年の物価上昇率予測は先進国が5.7%、新興国と発展途上国が8.7%となる。1月時点の予測からそれぞれ1.8、2.8ポイント上方改定された」と強調した。
ユーロ圏の経済はボロボロ
次に、各地域や国の状況を見ていこう。
深刻さで類を見ないのは、やはり攻め込まれて戦場と化しているウクライナだ。ウクライナは去年の実質成長率が3.4%とされているものの、今年は実に35%のマイナスに落ち込むという。
多くの国民が、国内あるいは国外への避難を余儀なくされており、生産や消費といった経済活動はマヒ状態なので当たり前と言えるが、経済破綻と言わざるを得ない状況だ。
一方、攻め込んだロシアも悲惨だ。ロシアは去年の成長率が4.7%とされており、前回の予測では、今年2.8%のプラス成長を見込んでいたが、今回は11.3ポイントの下方修正となり、マイナス8.5%に沈むと予測した。
西側の厳しい制裁により輸出が落ち込んでいるうえ、多くの外資系企業が撤退や営業停止に踏み切っており、大幅な減速が避けられないというのである。
戦争当事国以外で減速が目立つのは、エネルギーの多くをロシアに依存していたユーロ圏だ。
なかでもドイツは、3ヵ月前の予測と比べて、1.7ポイント減の2.1%と下振れが目立つ。イタリアも同じく1.5ポイント減の2.3%にとどまるとされた。ドイツの場合、ウクライナからの部品供給が滞り、自動車大手のフォルクスワーゲンが製造を停止するなど、サプライチェーンに大きな影響も出ているのだ。
こうした状況を反映して、ユーロ圏全体は1.1ポイント減2.8%にとどまる見通しだ。また、英国も1ポイント減の3.7%の成長に落ち込む予測になっている。
アジアもダメージ、でも米国だけが一人勝ち
アジアに目を移そう。日本は、もともと欧米諸国に比べてコロナ危機の克服が遅れていた。3ヵ月前の予測と比較すると、今回の下方修正幅は0.9ポイントと欧州諸国に比べて大きくない。しかし、見込まれる今年の成長率は2.4%とユーロ圏より低めになっている。
中国は、今回の見通しで、ウクライナで進行中の戦争に次ぐ、リスク・ファクターとして注目されている。
「ゼロコロナ」政策による都市封鎖(ロックダウン)が経済の減速を招いているとして、今年の成長率は4.4%と、去年の8.1%成長に比べて大きく鈍化する見通しだ。
さらに、このところ中国は、感染拡大がなかなか収まらず、厳しいロックダウンと経済活動の停滞の長期化が伝えられており、さらなる下振れ余地があるという。
最後に米国だ。下方修正幅はマイナス0.3ポイントと小さい。そして、先進国としては他に例を見ない3.7%と高い成長が見込まれている。
そもそも米国は産油国であり、ロシアに対する経済制裁の影響をほとんど受けることがない。そのうえ、コロナ危機からの回復も進んでいる。「一人勝ち」状態と言える状況にあるわけだ。
ただ、その米国は、消費者物価が3月におよそ40年ぶりの高い伸び率になっており、連邦準備理事会(FRB)が利上げペースを速める方針を掲げている。このことが、世界経済にとってのもう一つの大きなリスク・ファクターだ。
回復力が乏しい新興国や途上国は利上げに踏み切れず、マネーの海外逃避が急速に進んで、デフォルト(債務不履行)の危機に瀕する懸念が高まっているからである。
すでに、スリランカが4月18日、IMFに支援を要請したが、この種の危機が多発するとの懸念を示している。IMFは、今回も「世界経済見通し」と並ぶ注目のレポート「国際金融安定性報告書」を公表、その中で「戦争があらゆる経路を通して金融システムの強靭性を試す中、金融安定性のリスクが高まっている」と警鐘を鳴らしている。
最後に、IMFが国際社会の課題として、「人道危機に対応し、経済のさらなる細分化・ブロック化を阻止し、世界的な流動性を保ち、過剰債務の問題を管理し、気候変動に立ち向かい、コロナ禍に終止符を打つための多国間での努力が必須となる」と国際協力の必要性を訴えたことに触れておきたい。
筆者も、IMFの指摘が世界経済の立て直しに向けた正しい処方箋であることを否定する気はない。
しかし、ロシアや中国に対する西側を中心とした国際社会の信頼は大きく傷ついている。
信頼を回復して国際的な経済システムの安定性を再構築することは到底、一朝一夕にできることではない。歴史的な試練になると覚悟を決めて、じっくり取り組む必要があることも浮き彫りになっているのだ。
●ロシア外相、核戦争の「深刻なリスク」警告 4/26
ロシアのラブロフ外相は国営テレビのインタビューで、核戦争が起きる「かなりのリスク」があり、過小評価すべきではないとの見方を示し、ロシアはリスクを抑えたいと述べた。また、西側諸国がウクライナに供与する武器はロシア軍の「正当な標的」になるとした。
「このようなリスクを人為的に高めることは望まない。高めたいと考える国は多い。深刻で現実の危険があり、それを過小評価してはならない」と語った。
第3次世界大戦を回避する重要性や、現在の情勢と米ソの緊張が高まった1962年の「キューバ危機」との比較に関する質問に回答した。外務省のウェブサイトに発言内容が掲載された。
ラブロフ氏のインタビューを受け、ウクライナのクレバ外相はツイッターで、ロシアはウクライナ支援をやめるよう外国を脅せるとの望みを失ったようだと指摘。「つまり、敗北感を覚えているということだ」とした。
米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官は24日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問した際、追加支援を約束。
ラブロフ氏は、西側諸国によるウクライナへの武器提供は北大西洋条約機構(NATO)が「実質的にロシアと戦争している」ことを意味するとの認識を示した。
米国務省は25日、ウクライナに対する1億6500万ドル相当の弾薬売却を承認した。また、米政府当局者らによると、米国主催で今週、ウクライナ関連の防衛問題に関する会合が開かれる見通しで、40カ国以上の参加が見込まれている。
首都に落ち着き、東部・南部の危機続く
ロシア軍が攻略を断念したキーウの情勢は正常化しつつあり、西側諸国の要人が相次ぎ来訪し、外交官が帰任している。
ブリンケン氏は、ウクライナから一時退避させた米外交官がまず西部リビウで業務を始め、数週間内にキーウに帰任する計画を明らかにした。米政府は、駐ウクライナ大使にベテラン外交官のブリジット・ブリンク駐スロバキア大使を指名した。
しかし、ロシア軍が戦力を集中させているウクライナの東部と南部では激しい戦闘が続いている。
ロシア国防省は25日、ウクライナ東部ドンバス地域で外国製兵器を輸送する鉄道の送電施設6カ所を高精度ミサイルで攻撃し、破壊したと発表した。
ウクライナ大統領府のアレストビッチ顧問によると、ロシア軍は包囲する南東部マリウポリで、ウクライナ軍兵士が立てこもり民間人も閉じ込められているアゾフスターリ製鉄所への攻撃を続けている。
●ラブロフ外相“核戦争の可能性ある” ウクライナ情勢で西側けん制  4/26
ウクライナ情勢をめぐり、ロシアのラブロフ外相が「核戦争が起きる可能性は十分にあり、過小評価すべきではない」と警告した。
これは、ロシア政府系テレビのインタビューで発言したもので、ラブロフ外相は、「今のロシアとアメリカの指導部の間に、1962年の『キューバ危機』のときのような対話のチャンネルが存在しない」と指摘、「核戦争が起きる可能性は十分にあり、過小評価すべきではない」と述べた。
そのうえで、「ロシアはリスクを人工的にあおりたくないが、そうでない国も多い」と主張し、ウクライナに武器を供与する西側を暗に批判した。
●ロシアのウクライナ侵略は「予防戦争」である  4/26
我が国のロシア・ウクライナ戦争の原因分析で決定的に欠けているのは、「予防戦争」の視点である。予防戦争とは、将来に闘うのは不利であり、今、戦争を始めた方がマシであるという国家の指導者の動機から生じるものである。第1に、バランス・オブ・パワーが不利に傾く状況において、追い詰められた国家は、予防戦争のインセンティブを高める。第2に、こうした国家が限定的で局地的な軍事優勢を保持している場合、迅速な勝利に期待して予防攻撃に訴えやすくなる。ロシアのウクライナ侵略は、この予防戦争理論で説明することができるのだ。
リアリストのジョン・ミアシャイマー教授(シカゴ大学)やスティーブン・ウォルト教授(ハーバード大学)は、ロシアのウクライナ侵略の主因が、NATOの東方拡大によるバランス・オブ・パワーの変化にあると見ている。他方、マイケル・マクフォール教授(スタンフォード大学・元米国駐ロシア大使)らは、西側のウクライナの民主化支援がロシア侵略の原因だと主張しており、我が国の少なからぬ「国際政治学者」は、リアリストの仮説を退けるか、マクフォール氏を支持している。こうした競合する議論を現時点で入手できる証拠により検証すると、リアリストの予防戦争論がより説得的なのである。
NATO東方拡大は、バランス・オブ・パワーでロシアを追い込んでしまった。GDP、軍事支出、現役兵力、人口で、NATO諸国はロシアを圧倒している。この絶望的な劣勢はプーチンを不安にさせるに十分であり、予防戦争の動機になり得るものである。
リアリストが主張するように、これだけの優越的パワーを持つNATOが東方に拡大してロシア国境にじわじわと迫ってきたら、いくら冷酷な独裁者プーチンといえど、不安を感じても不思議ではない。しばしば指摘されるように、独裁者は意外とチキンなのである。
ここで注意しなければならないのは、パワー不均衡下では、防御的措置が攻撃的なものと誤認されやすいことだ。NATO加盟国が、いくら同盟の拡大は防御的だと言っても、ロシアには潜在的な脅威にうつる。
こうした意図せざる敵意のスパイラルは、リチャード・ルボウ教授(キングス・カレッジ)が「戦争の蓋然性は不安定な軍事バランスの下で高まる…防御を意図した措置でさえ、他国から侵略的だと見做されるかもしれない…そうした国家は早めに行動しなければ手遅れになると、ますます不安に駆られるものだ」と指摘する通りである。NATO拡大と英米のウクライナへの軍事支援は、ロシアを抑止するのではなく、かえって挑発してしまったのだろう。
また、プーチン大統領が行ったウクライナ侵攻演説も、予防戦争理論を裏づけている。
「NATOが東に拡大するにつれ、我が国にとって状況は年を追うごとにどんどん悪化している…NATOの指導部は…軍備のロシア国境への接近を加速させている…NATOが軍備をさらに拡大し、ウクライナの領土を軍事的に開発し始めることは受け入れがたい。」
マクフォール氏は、この発言を「ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、2月24日のウクライナ侵略がNATOのせいだと、あなたたちに信じ込ませようとしている」と退けている。しかしながら、ロシアの歴代指導者は、NATO拡大はロシアの死活的利益を脅かす旨、ほぼ一貫して主張してきた。ミハエル・ゴルバチョフ元大統領は、NATO拡大を新帝国主義と強く非難した。ボリス・エリツィン元大統領もNATO拡大は重大な間違いと懸念を隠さなかった。政治指導者の発言には、プロパガンダが必然的に含まれるので解釈には注意が必要だが、プーチン発言が全面的にディス・インフォメーションである証拠は、今のところない。
さらに、国家は局地的に軍事力で優っていると、全般的なパワー・バランスで不利であっても、戦争に走りやすい。おそらく、プーチンや側近たちはNATO諸国の介入は核兵器の脅しで抑止でき、軍事力で大幅に劣るウクライナに限定した戦争なら勝てると踏んだのだろう。プーチンの「今でも、世界で最大の核保有国の1つだ。そしてさらに、最新鋭兵器においても一定の優位性を有している」との発言は、こうした推論の妥当性を示している。
他方、民主主義の波及を恐れて、プーチンが戦争を始めたとする仮説については、これと合致しないデータがある。フリーダム・ハウスの調査によれば、ウクライナは「民主化途上かハイブリッド体制」だったのだ。ウクライナの2022年の民主主義度は39/100にすぎない。民主主義スコアは4/7と、残念ながら高くない。市民の自由度も「部分的」で35/60である。このデータからして、ウクライナがロシアに脅威を与える程の自由民主主義国家とは思えない。これはマクフォール氏の仮説の妥当性に、重大な疑問を投げかけている。
そもそもヨーロッパでの戦争の多くは、予防戦争であった。このことは、軍事史・戦略論の大家マイケル・ハワード氏が、「政治家が敵対国の力の増大を認識して、その国に自国が縛られてしまうことへの恐怖心は、ほとんどの戦争の原因なのである」と喝破した通りである。ロシア・ウクライナ戦争も、この例外ではないだろう。
なお、これはプーチンを擁護するとか、誰に戦争の責任があるとか、誰が悪いとかではなく、価値中立的な観点から、「何がロシアの侵略を引き起こしたのか」に関する諸仮説をエビデンスにより検証する作業である。このことは重ねて強調しておきたい。
●ユーロ圏のインフレ上振れリスク増大=スペイン中銀総裁 4/26
欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのデコス・スペイン中銀総裁は25日、ウクライナにおける戦争が短期的なインフレの上振れリスクを増大させたという見解を示した。しかしインフレが中期的に目標の2%に向け緩やかに収束するというECBの主要シナリオに変更はないとした。
さらに、ウクライナの戦争によるマイナスの影響やそれに伴うユーロ圏経済成長を巡る不透明性が中期的にインフレ圧力を軽減させる可能性があるとも指摘した。
●ロシア軍 ウクライナの鉄道施設攻撃 軍事支援の欧米けん制か  4/26
ロシア軍はウクライナ東部の戦闘で、激しい攻防が続く中、西部や中部の各地を攻撃し、アメリカなどの軍事支援の動きをけん制しています。26日には国連のグテーレス事務総長がモスクワを訪問し、プーチン大統領に停戦を働きかける予定ですが、外交交渉による解決は、依然、見通せない状況です。
ウクライナへの侵攻を続けるロシアの国防省は25日、軍事施設27か所をミサイルで攻撃したと発表しました。
このうち、ロシア軍が掌握を目指しているとみられる東部ドネツク州のスラビャンスク近郊では、指揮所や弾薬庫をミサイルで破壊したとし、東部や南部で攻勢を強めています。
さらに国防省は、西部から中部にかけて6か所で鉄道駅近くの変電所をミサイルで攻撃し破壊したとしていて「ここを通じて東部ドンバス地域のウクライナ軍に、外国からの武器や装備品が供給されていた」と主張しました。
西部、リビウ州のコジツキー知事は、SNSへの投稿で、25日午前、リビウから東に40キロ離れたクラスネにある鉄道の変電所が、ロシア軍によるミサイル攻撃を受け、爆発が起きたと明らかにしています。
ウクライナの首都キーウには、24日、アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官が訪問してゼレンスキー大統領と会談し軍事支援をさらに強化する考えを説明しています。
両長官は鉄道を使ってキーウを訪れていたということです。
ロシアは東部の軍事作戦を強化していますが、アメリカなどの軍事支援も受けるウクライナ軍の抵抗に直面して激しい攻防が続いていて、西部や中部への鉄道施設への攻撃は、欧米側をけん制するねらいもあるとみられます。
こうした中、国連のグテーレス事務総長は26日にモスクワを訪問しロシアのラブロフ外相と会談するほか、プーチン大統領が開くレセプションにも出席する予定です。
グテーレス事務総長はプーチン大統領らとの会談で、停戦の実現に向けて働きかけたい考えです。
ただ、プーチン政権は、およそ2週間後の来月9日に迫った、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した「戦勝記念日」に向けて、侵攻を加速させるものとみられ、外交交渉による解決は、依然、見通せない状況です。
●ウクライナ「昭和天皇とヒトラー」並べたツイッター削除し謝罪  4/26
ウクライナ政府の公式とされるツイッターに、昭和天皇とナチス・ドイツの指導者だったヒトラーらの顔写真を並べた動画が投稿され、その後、批判が相次いで写真が削除されていたことがわかりました。
SNS上で批判相次ぐ 写真は削除
動画は、ロシアの全体主義や言論の自由の制限などを批判するもので、今月1日、ウクライナ政府の公式とされるツイッターに投稿されました。
この動画の後半に「ファシズムとナチズムは1945年に敗北した」と指摘する場面があり、昭和天皇の顔写真とともにヒトラーやイタリアの指導者だったムッソリーニの顔写真が並べられていました。これについてSNS上で批判が相次ぎ、写真は削除されました。
動画が投稿されたツイッターでは「友好的な日本の人たちの気分を害するつもりはなかった。間違いをしてしまい、心からおわび申し上げる」と謝罪しています。
また、日本にあるウクライナ大使館はツイッターで「現在、投稿があったアカウントはウクライナ政府と関係がありません」としたうえで「制作者の歴史認識不足と思われます。ご不快に思われた日本の皆さまに深くおわび申し上げます」などと投稿しています。
磯崎官房副長官「不適切で極めて遺憾」
磯崎官房副長官は記者会見で「ヒトラー、ムッソリーニと昭和天皇を同列に扱うことは全く不適切で、極めて遺憾だ。在京ウクライナ大使館とウクライナ大統領府に対し、不適切であり、直ちに削除するよう申し入れを行った。その結果、現在では動画の関連部分は削除されたと認識している」と述べました。
そのうえで「ウクライナ政府側からは外交ルートで謝罪の意が表され、謝罪のツイートも投稿された。わが国としては、こういう状況ではあるが、今後とも困難に直面するウクライナの人々に寄り添った支援を実施していきたい」と述べました。
●政府 ウクライナに初の直接食料支援へ 魚の缶詰やパックご飯  4/26
ロシアによる軍事侵攻が続き、多くのウクライナ市民が厳しい生活を余儀なくされていることから、日本政府は魚の缶詰やパックご飯などの食料支援を行う方針を固めました。政府によるウクライナへの直接の食料支援は初めてとなります。
ロシア軍の侵攻を受けて、特にウクライナ東部では食料支援の需要が高まっているほか、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ウクライナから国外に避難した人の数は、24日の時点で523万人余りとなっています。
農林水産省は先月、ウクライナ側から非常用の食料支援などの要請を受けて調整を進め、直接、支援を行う方針を固めました。
具体的には、魚の缶詰3万3000缶、パックご飯を3万6000個、缶詰パン1600缶、それに牛乳から水分を除去して乾燥させた、全粉乳を2800袋など合わせておよそ15トンです。
農林水産省が国内の企業から買い上げて、来月上旬にもチャーター機で隣国ポーランドに送ることにしています。
これまで日本は国連のWFP=世界食糧計画などを通じて、ウクライナへの支援を行っていましたが、政府による直接の食料支援はこれが初めてとなります。
●「ロシア軍は大型・長射程のミサイル攻撃で、ウクライナを屈服させる作戦」 4/26
ウクライナに侵攻したロシア軍は再編成して東部に兵力を集め、親ロシア派支配地域があるドネツク・ルハンスク両州などで進軍する。今後の戦いはどうなるのか。ロシアの狙いは何なのか。軍事ジャーナリスト 田岡俊次さんが解説する。AERA 2022年5月2−9日合併号の記事を紹介する。
ロシア軍の侵攻開始以来2カ月、ウクライナ軍の善戦健闘は続いている。4月13日、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」(1万1300トン)にウクライナ製地対艦ミサイル「ネプチューン」2発が命中、撃沈した事件はこの戦争が弱小国の「抵抗」の域を脱し、近代的工業国家同士の戦いであることを示した。
ウクライナはソ連時代からミサイル・ロケット砲の開発、製造の中心地で、外国軍に輸出も行い、モスクワに届く射程500キロの弾道ミサイルも生産する。ロシア国防省は「モスクワ」は弾薬庫の火災で沈没と発表したが、ウクライナの新鋭兵器に負けたことを国民に伝えれば士気に関わると考えたのだろう。
「モスクワ」は1982年12月に就役し、艦齢40年、水上艦の耐用年数は30年程度だから老朽艦で、搭載している対艦ミサイルも旧式だ。戦力喪失の打撃は大きくないが、艦隊司令官や参謀などを含め約500人が乗っている旗艦があっさり撃沈された心理的打撃は少なくあるまい。
「ネプチューン」の射程280キロ圏内にロシア艦隊が入れば標的になるから、要港オデーサ付近への上陸作戦は困難になる。
陸上ではロシア軍は首都キーウの包囲を完成できなかった。南東部のマリウポリだけでも陥落させ、親ロシア派地域ドネツク、ルハンスク2州の海への出入り口を確保しようと兵力を集中、懸命の攻撃をしている。5月9日の対独戦勝利記念日でそれを出し物にする狙いだろうが、ウクライナは領土を奪回するため戦闘を続けるからロシア軍は勝利を祝うどころではない。
開戦から1カ月の3月23日にNATO(北大西洋条約機構)当局者は「ロシア軍の死者は7千人ないし1万5千人」との推計を示した。負傷者は死者の約2倍が普通だから、死傷者は最も低く見積もっても2万人。その後の1カ月でも同様とすれば死傷者は4万人を超える。侵攻したロシア軍は15万人、東部の分離派民兵が4万人で計19万人だから22%の人的損害だ。
米メディアは4月9日、ロシアはウクライナ作戦の司令官に南部軍管区司令官A・ドゥボルニコフ大将を任命したと報じた。本来なら戦争を始める前に司令官を決め、陸、海、航空宇宙など全軍が連携して計画を練る。だが今回の侵攻は「特別軍事作戦」で、演習に集めた部隊を越境させ、威嚇で抑え込むつもりだったのか、燃料、実弾などの準備も乏しく、60キロもの大縦隊が路上で停止する事態が起きた。真剣に侵攻するなら開戦と同時に全力で航空攻撃を加えてから突入するのが定石だろうが、当初は航空攻撃が奇妙に少なく、最近になって増えた。
ロシア陸軍はソ連解体時に140万人だったが現在28万人(陸上自衛隊の2倍)で、空挺(くうてい)軍4万5千人、海軍歩兵3万5千人を加えても地上兵力は36万人だ。東シベリアと極東700万平方キロを担当する東部軍管区の総人員は8万人(自衛隊の3分の1)にすぎず、一部はウクライナに投入されている。ロシアは徴兵制で1年の兵役を終えた予備兵を名目上200万人持つが、就職している社会人を召集するのは余程の場合で、シリア人などの傭兵(ようへい)で補充中だ。
ロシア軍はマリウポリを制圧し、東南部の分離派支配地域を確保した後、キーウや西部地域に進撃すれば自軍の死傷者がさらに増大するからもっぱら航空機・ミサイル攻撃でウクライナの都市や工場、運輸施設を破壊し屈服させる戦略に出ている。
ウクライナ空軍は無きに等しく、携帯対空ミサイル「スティンガー」は射程、射高が4キロ程度で、低空飛行する攻撃機やヘリコプターには有効だが遠距離から空対地ミサイルを発射する爆撃機には対処できない。ウクライナが大型、長射程の対空ミサイルを多数入手できるか否かが戦局を左右する「ミサイル戦争」の様相を呈しつつある。
●焦るプーチン…5.9「対ウクライナ宣戦布告」へ同盟5カ国の巻き込みを画策 4/26
ロシアのプーチン大統領が侵攻の節目とする「5.9対独戦勝記念日」まで2週間を切った。ウクライナの首都キーウ攻略を断念し、東部・南東部戦線に戦力を集中させるも、期待通りの戦果を上げられていない。ウクライナに正面切って「宣戦布告」をする可能性が浮上する中、プーチン大統領は同盟国の参戦に向けた圧力を強めているという。
プーチン大統領はすでに南東部の要衝マリウポリの「制圧」を宣言。親ロ派に牛耳られたマリウポリ市は戦勝記念日に向けた準備を着々と進めている。
ロシア傀儡の副市長は軍事パレードについて、「もちろんある。最も重要で愛国的なイベントになる」と話していた。電撃訪問を視野に入れるプーチン大統領を大々的に迎え入れるためか。
一方のウクライナ側は徹底抗戦の構えを崩していない。最後のとりでとなっているアゾフスタリ製鉄所では、広大な地下シェルターにウクライナ兵2000人が立てこもり、民間人1000人が取り残されている。ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記によると、ヘリコプターを利用した武器供給に成功し、「大きな危険を冒して夜間に向かった。要望を尋ねると兵器が欲しいと言われた」という。ロシアの投降呼びかけには頑として応じない姿勢を鮮明にしている。
そうした中、英紙フィナンシャル・タイムズ電子版(24日配信)はプーチン大統領に近い関係者3人の証言を基に、〈プーチン大統領はウクライナとの戦争を終わらせるための外交努力に興味を失い、できるだけ多くの領土を奪取することに執着しているようだ〉と報道。それゆえ、〈プーチン大統領はゼレンスキー大統領との会談を「全力で」避けている〉とも伝えている。5.9はナチスドイツに対する旧ソ連の勝利を祝う愛国デー。プーチン大統領は住民保護を大義名分とした「特別軍事作戦」を打ち捨て、ゼレンスキー大統領率いる“ネオナチ政権”を打倒するとの名目で「宣戦布告」する可能性が浮上している。もっとも、軍事侵攻の呼称を変えたところで、作戦成功の見通しは立たない。
筑波学院大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「戦局を変えるために何が必要か。プーチン大統領は同盟国を巻き込みたいとの思いを強くしているとみています。具体的には、ロシアが盟主の軍事同盟『CSTO』(集団安全保障条約)の締結国です。ここを動かせば、満を持してウクライナに宣戦布告できる。集団安全保障の名の下に、集団的自衛権の行使にこぎつけるため、策をめぐらしているのではないか」
旧ソ連に組み込まれていた東欧諸国で構成されるCSTOは、1992年に設立。ロシアのほか、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国が加盟し、平和維持部隊も抱える。10年にキルギスで民族間の大規模衝突が起きた際には軍用ヘリコプターの提供などで支援した。
「第2次大戦後の49年に立ち上げられたNATO(北大西洋条約機構)に対抗し、55年に設立されたワルシャワ条約機構はソ連崩壊後に解体。いわば小さく生まれ変わったのがCSTOです」(中村逸郎氏)
ただ、盟友と呼ばれ、ウクライナ侵攻の足場を提供しているベラルーシのルカシェンコ大統領ですら参戦に二の足を踏んでいる。大々的な偽旗作戦の展開で同盟国に有無を言わせない状況をこしらえ、この戦争は深みにハマっていくのか。
●ロシア、支配地域拡大に転換か プーチン氏、停戦交渉に否定的 4/26
英紙フィナンシャル・タイムズは25日までに、ロシアのプーチン大統領がウクライナとの停戦交渉に関心を失い、実効支配地域の拡大を目指す方針に転換したとみられると報じた。ロシア黒海艦隊の旗艦モスクワの沈没後、いかなる合意にも反対しているという。プーチン氏の発言を知る関係者の話として伝えた。
停戦交渉は3月末にトルコで行われ、ロシアは「信頼醸成措置」だとして首都キーウ(キエフ)周辺から撤退した。ただ、キーウ近郊ブチャなどで民間人虐殺が発覚し、交渉は停滞。ウクライナは今月13日、旗艦モスクワを巡航ミサイルで攻撃したと発表した。
●ロシア外相、核戦争のリスクに言及 ウクライナで兵器輸送の鉄道への攻撃 4/26
ウクライナに侵攻しているロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は25日、現在の紛争が核戦争にエスカレートする可能性があると述べ、ウクライナと西側の姿勢を非難した。ウクライナ各地ではこの日も、鉄道の施設が爆撃されるなどロシア軍の攻撃が続き、多数の死傷者が出た。
ラヴロフ氏の発言は、政府系テレビのチャンネル1のインタビューの中で出た。
ラヴロフ氏は、ロシア政府として、核戦争のリスクが「人為的」に高まることは避けたいと主張。「これが、私たちのすべての基礎となっている重要な立場だ。今やリスクはかなり高い」と述べた。
また、「そうしたリスクを人為的に高めたくない。多くの人がそれを望んでいる。危険は深刻かつ現実であり、過小評価してはならない」とした。
ラヴロフ氏は先週、ロシア政府は核戦争の回避に尽力していると述べていた。この日のインタビューでは、紛争がエスカレートする可能性を指摘した一方で、和平協定が結ばれる見通しへの希望も表明した。
ラヴロフ氏の発言について、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は25日、ロシアが「世界を脅してウクライナ支援をさせないようにする最後の望み」を失ったことを示しているとツイート。
「第3次世界大戦の『現実的な』危険について話をしているのはそのためだ。ロシアがウクライナでの敗北を察知しているという意味でしかない」とした。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2月24日のウクライナ侵攻開始から間もない2月27日、ロシア軍の核抑止部隊に「特別警戒」を命じている。
核攻撃をめぐってはロシアの国営テレビが22日、イギリスのボリス・ジョンソン首相がロシアに対して一方的に実施すると脅したと伝えていた。
英首相官邸は25日、「こうした主張は全く真実ではなく、ロシア政府が宣伝する偽情報の新たな一例だ」との声明を出した。
「ロシアと交戦」とNATOを批判
ラヴロフ氏はまた、西側諸国がウクライナに兵器を供与していることについて、北大西洋条約機構(NATO)が「実質的にロシアと戦争をしている」と述べた。
ラヴロフ氏は、「それらの兵器は、ロシア軍の特別作戦の範囲で、正当な標的となる」と主張。「NATOは代理国を通して実質的にロシアと戦争をしており、その代理国を武装している。戦争は戦争を意味する」とした。
ラヴロフ氏はこの日のインタビューでさらに、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領について、交渉する「ふりをしている」とし、「いい役者だ」と評した。
その上で、「彼の言うことを注意深く見て読み取れば、1000の矛盾が見つかるだろう」と述べた。
ロシア軍が鉄道を攻撃
ウクライナ当局は、中部と西部の鉄道駅5カ所が25日朝のほぼ同じ時間帯に攻撃を受けたと明らかにした。
また、西部の都市リヴィウに近いクラスネにある架線用の変電所もミサイル攻撃を受けたとした。
これらのうち、ヴィンニツャ州の2つの町であった攻撃では、少なくとも5人が死亡し18人がけがをしたという。
ロイター通信によると、ロシア国防省は声明で、鉄道の動力施設6カ所をミサイルで破壊したとした。鉄道は、ウクライナ軍への外国からの武器供与に使われているとした。
ゼレンスキー氏「勝利は必至だ」
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日夜に公開されたビデオ演説で、ウクライナの勝利は必至だが、戦争終結の時期は予測できないと述べた。
ゼレンスキー氏は、「多くの都市とコミュニティーがまだ、一時的にロシア軍の支配下にある」と説明。「だが、私たちの土地の解放は、時間の問題でしかないと確信している」とした。
また、ウクライナがロシアを打ち負かす時期については「単純な答えはない」とし、すべての国民が戦えば勝利と平和は早く訪れると述べた。
さらに、「占領者に私たちの土地にとどまるのは耐えがたいと感じさせるため、どのような方法があるのか日々考えなくてはならない」、「ロシアが平和を求めるため、すべてのウクライナ人がまだ戦わなくてはならない」と呼びかけた。
ヘルソン市議会をロシア軍が占拠か
ウクライナ南部の都市ヘルソンのイホル・コリハイェウ市長は25日、ロシア軍が市議会の庁舎を占拠したと、フェイスブックに投稿した。
ヘルソンは、ロシアが2月下旬に侵攻して以降、制圧に成功した唯一の主要都市。ロシアは3月前半に制圧したが、市議会はウクライナ側の影響下で機能を続けていた。
市長によると、ロシア軍は議会庁舎の鍵を奪い、警備員を自軍の兵士に替えた。市長は同日午後7時45分に議会庁舎を出たという。
ウクライナの報道機関プラウダは、ヘルソン市議会が26日以降、機能しなくなると伝えた。また、市長と議会職員には帰宅の機会が与えられたと報じた。
ヘルソンについては、ロシアが2014年に併合したクリミア半島への陸の橋を確立し、ウクライナ南部を支配するために重要だと、英国防省が24日の情勢分析で指摘。占拠を正当化するための「仕組まれた住民投票」を予定していると分析している。
隣国モルドヴァで爆発
ウクライナの西隣にあるモルドヴァの内務省は25日、同国のトランスニストリア地域(沿ドニエストル共和国)にある国家安全保障当局の建物で爆発が数回あったと、通信アプリのテレグラムで明らかにした。
同省によると、建物は携行式ロケット弾で攻撃されたとみられる。けが人はなかったという。
モルドヴァの東部にあるトランスニストリア地域は、もしくは沿ドニエストル・モルドヴァ共和国は、モルドヴァの親ロシア地域でウクライナと国境を接する分離国家。親ロシア派が支配し、モルドヴァからの独立を宣言しているが、国際社会では承認されておらず、国際法上はモルドヴァの一部。
ロシア軍の司令官は先日、同地域で「ロシア語を話す人々への迫害」が起きていると根拠を示さずに主張。ロシアがウクライナ南部を完全掌握し、トランスニストリア地域にアクセスできることが望ましいと述べていた。
一方、ウクライナ国防省は、今回の爆発について、ロシアによる「計画的な挑発」だとし、現地に「パニックと反ウクライナ感情」を植え付けるのが目的だとした。
ロシアの「弱体化」望む=米国防長官
アメリカのロイド・オースティン国防長官は25日、ロシアが「弱体化」し、他国の脅威とならないことを望んでいると述べた。
オースティン長官は、24日にアントニー・ブリンケン国務長官と共にウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と3時間以上会談した。その翌日、ポーランドで記者会見に臨んだ。
オースティン氏は、「ウクライナ侵攻のようなことができくなるほど、弱体化したロシア」が望ましいとの考えを表明した。
また、ウクライナが「適切な装備」と「適切な支援」を得れば、戦争に勝つ可能性があるとの見方を示した。
オースティン氏はさらに、アメリカとしてウクライナと欧州の国々に7億1300万ドル(約900億円)の追加軍事支援を実施すると発表した。
BBCのジェイムズ・ランデール編集委員(外交問題担当)は、ロシアの「弱体化」を望むとしたオースティン氏の発言について、米国防長官としては異例の強い発言だとした。
●「ロシアは戦争で失敗している」米高官がゼレンスキー氏と首都キーウで会談 4/26
ウクライナを訪問したアメリカのブリンケン国務長官が「ロシアは戦争で失敗している」と指摘した。
7億1300万ドルを軍事支援
ブリンケン国務長官とオースティン国防長官は24日、ウクライナの首都キーウでゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナなどに対してあわせて7億1300万ドル、日本円で900億円以上を軍事支援すると表明した。
ゼレンスキー大統領はアメリカの支援に感謝するとともに、優先事項は武器だとあらためて強調した。
ブリンケン国務長官: この戦争でロシアは失敗し、ウクライナは成功している。
一方、オースティン国防長官は、東部で戦う新たな局面に入ったとして、ウクライナには長距離砲が必要で政府からは戦車を求められていると明らかにした。
オースティン国防長官: 適切な装備、適切な支援があれば(ウクライナは)勝てると信じている。
両氏は、今後もウクライナに軍事的支援などを続けていくとしている。
プーチン氏“5・9勝利宣言”は微妙
三田友梨佳キャスター: 風間解説委員に聞きます。 ロシアの軍事侵攻開始からちょうど2カ月での会談ですが、どう見ていますか?
風間晋解説委員: ゼレンスキー大統領をはじめウクライナ側の参加者は、笑顔や安堵した表情を見せていました。
2カ月前、大統領は 「私はキーウの大統領府にいる。ここから逃げない」と悲壮な覚悟で語っていました。それが今、アメリカの国務・国防両長官が片道11時間、列車に揺られてキーウに来てくれたわけです。この戦争でウクライナが成功しており、ロシアが失敗したからこそできることです。アメリカの軍事支援が、その規模でも武器の有用性でも成功しつつあることも示しています。
三田キャスター: 一方、ロシアにとっては5月9日の戦勝記念日が1つの節目とされますが、これについてはいかがですか?
風間解説委員: ロシア軍が東部2州を制圧し、プーチン大統領が勝利宣言するという思惑通りにいくか微妙になってきました。ロシア軍はまだ支配地域を大きく拡大できてはいません。
一方、アメリカが提供する155ミリ榴弾砲は、第一陣が訓練を終了したと伝えられ、ウクライナ軍の火力はこれから急拡大が見込まれます。 NATOなど40カ国は26日、ウクライナへの軍事支援を話し合いますが、「ロシアが当分の間今回のような軍事侵攻ができないくらいに弱体化させたい」というオースティン国防長官の発言は、決して絵空事ではないように思えます。
三田キャスター: バイデン政権幹部として初めてのウクライナ訪問が実現し、支援の姿勢を改めて打ち出す中、ロシアによる爆撃は今日も続いています。事態の長期化が懸念されます。
●プーチンの最も手ごわい敵は、実はロシア国内にいる 4/26
ウクライナ侵攻で大失態を演じているプーチン大統領だが、3月末、プーチンの支持率は83%に跳ね上がり、不支持率は15%に急落した。
2024年の大統領選に勝利して事実上の「終身大統領」に道筋をつけたいプーチンにとっては筋書きどおりの展開だ。
プーチンはチェチェン紛争、グルジア(現ジョージア)戦争、クリミア併合と「有事」に強い指導者を自作自演してきた。
ロシア国内では厳しい情報統制が敷かれ、有権者はウクライナの「非武装化」「非ナチ化」というプロパガンダを信じている。
プーチンの支持基盤は国家主義を信奉する内務省、国防省、情報機関で構成される「シロビキ」、その周りに原油・天然ガスで私腹を肥やすオリガルヒ(新興財閥)、プーチンにへつらうセレブやメディア関係者、その裾野に軍人、公務員、4600万人近い年金生活者がいる。
ウクライナ戦争では強気の構えを崩さない「現代の皇帝」プーチンだが、国内にはアキレス腱がある。それは年金問題だ。
サッカーワールドカップロシア大会の決勝トーナメントで強豪スペインを撃破した熱狂も冷めやらぬ2018年7月、モスクワをはじめ各都市で年金支給年齢の引き上げに反対する大規模集会が開かれた。プーチンの支持率も82%からクリミア併合前と同レベルの60%台に急落した。
野党支持者や労組構成員らは「死ぬまでに年金をもらいたい」という横断幕を掲げた。
プーチンは「自分が大統領の間に年金の支給開始年齢を引き上げることはない」と断言していたが、与党「統一ロシア」は制度の破綻を防ぐため、男性は60歳から65歳に、女性は55歳から63歳に引き上げる改革案を発表。結局、世論の反発で女性の開始年齢を60歳にする緩和措置が取られた。
ロシアの平均寿命は男性68歳、女性78歳。男性の寿命が短い理由はウオッカの飲みすぎだ。
支給開始を65歳に引き上げられると、多くの男性はその年まで生きられない。
新制度へは2018年から2028年までの10年をかけて移行されるが、根本的な制度改革がなければ再び支給年齢を引き上げざるを得ない事態を迎えるだろう。
●ロシアのウクライナ侵略を「日本の中国侵略」にたとえる中国ネット民 4/26
ウクライナ政府はファシストとして昭和天皇を挙げたが、中国の一部のネットではロシアの残虐行為を、日本軍と結びつけている。しかし日露が同じなら、親露的な習近平は批判の対象となる。そこには習近平のジレンマがある。
中国ネット:ロシアのウクライナ侵略は「日本の中国侵略」と同じだ!
4月1日にウクライナ政府が公式ツイッターで、ファシズムの代表として昭和天皇をヒトラーやムッソリーニと同列に扱う動画を投稿したことが4月23日にわかり、多くの日本人の神経を逆なでした。
天皇陛下は日本人にとっては崇高な存在で、その存在を侮辱することなど、到底許されるはずがない。それをあろうことか、ヒトラーやムッソリーニと同列に扱うとは言語道断だ。ネットの圧力と最終的には日本政府からの抗議もあり、ウクライナ政府は結局、昭和天皇の写真を削除したという「事件」が起きた。
あんなに応援してきたウクライナが・・・、と少なからぬ日本人の心は傷ついたが、中国ではさらに「不愉快な」ことが進行している。
ロシアのウクライナ侵略による残虐な場面は、中国政府や中国共産党系列のメディアではストレートには報道されないものの、ウクライナ国民が大変な目に遭っているということは報道されていた。ゼレンスキーの「すでにNATOに見捨てられた!」という怒りのスピーチなどは、むしろ積極的に報道されていたほどだ。
そうなると、一般庶民はネットを通して実際の場面を知りたくなる。
中国ではGreat Fire Wall(万里のファイアウォール)を通して海外からの情報にフィルターを掛け、厳しい情報統制を行ってはいるが、ファイアウォールを越える「壁越え」ソフトを安価に手に入れることができ、多くの若者は「壁越え」ソフトを持っていて、海外の情報に接している。
「壁越え」を通して見たロシア軍による残虐行為は、反射的に若者の頭に刷り込まれた日中戦争時代における日本軍の「蛮行」を思い起こさせるのだろう。1994年から始まった愛国主義教育によって、若者たちは来る日も来る日も「日本軍が中国を侵略して残虐な無差別殺戮をくり返し、中国共産党軍がそれに立ち向かって勇敢に戦った」という「抗日神話」が刷り込まれている。
だからロシア軍侵略の初期段階から、中国のネットでは「日本軍の侵略行為と同じではないか」というネット情報が飛び交っていた。特にブチャにおける映像が報道されると、「日本の侵略戦争の残虐行為を絶対に許さない!」という主張が再燃していた。
日本をあざ笑うような中国のネット発信
たとえば日本で、「わずか生まれて3ヵ月の女の子がロシア軍の攻撃で殺害された」というニュースを流すと、中国では「日本軍はどれだけ多くの乳幼児や女性を殺害したか、妊婦のお腹まで刺して胎児を殺したではないか」とか「日本軍に殺害された無辜の民は3000万人だ」といったネット発信が増える。
日本の報道で「ロシア軍は民間人まで無差別攻撃した。あまりに非人道的だ」と言うと、中国のネットでは早速、「日本軍は三光作戦( 焼き尽くす=焼光、殺し尽くす=殺光、奪い尽くす=搶光)で民間人を殺しまくったじゃないか!」とか、「重慶絨毯爆撃(日中戦争中の1938年12月から1941年9月にかけて日本軍が蒋介石のいる重慶を、絨毯を敷くように隙間なく連続して実施した大爆撃)」などを例に挙げて日本批判が爆発的に多くなる。
そして、「日本人は自分のしたことを忘れて、よくも図々しくロシアを一方的に責めたりできるなぁ」とか、「日本は自国の反省をしろ」、あるいは「日本はどの面ぶら下げて・・・」といった、日本人の反応をあざ笑うようなネット発信が多く見られるようになった。 
これが中国ネット空間の現状だ。
ほとんどの場合、「残虐な殺戮場面の写真」とリンクされており、非常に不愉快になるので、リンク先は張らない。
窮地に追い込まれている習近平
実はこの情況は、習近平を窮地に追い込んでいるという、皮肉な事実も認識しておいた方がいいだろう。
これまで何度も書いてきたように、習近平はロシアのウクライナ軍事侵攻に関して、あくまでも「軍事的には賛同しないが、経済的には徹底して協力する」という【軍冷経熱】の方針を採っている。
習近平がプーチンと蜜月であることを知らない中国人はいないが、「日本軍は極悪非道の大罪人」で、「中国共産党が勇猛果敢に戦って撃退した」という「抗日神話」もまた、中国人の心深くに刷り込まれている。
もし、ロシア軍のウクライナ侵略が、「日本軍の中国侵略」と同じ構図であるなら、プーチンと仲の良い習近平は、「日本軍」同様に、批判の対象とならなければならないことになる。
そのような批判に結び付くネット民の発信など、本来なら削除の対象となるはずだが、何しろ習近平政権でも続いている愛国主義教育を否定するわけにはいかないので、「日本軍への憎しみ」を含んでいる情報を削除するには、中国政府としても慎重にならざるを得ないのだ。
かと言って、習近平批判につながるようなネット情報をそのままにしておくわけにもいかない。
そこで中国政府や中国共産党系の報道は、つい最近になってだが、ロシア軍の正当性をやや多めに報道するようになってきた。
23日夜から変わった中国ネット世論のムード
23日夜と言うか、24日朝あたりから、何やら中国のネット世論のムードが変わってきた。
それは中国政府の誘導により変わったのではなく、23日深夜のゼレンスキー大統領の発言によって変わったのだ。ゼレンスキーが地下鉄でスピーチし、米政府高官(ブリンケン国務長官とオースティン国防長官)のウクライナ訪問に際して「手ぶらで来るのは許されない」といった趣旨のことを言った瞬間からだった。
この日から中国のネットではゼレンスキーに対する批判が突然強くなり、「最近はいい気になり過ぎてるんじゃないか」とか、「なぜ世界中がお前のために支援するのが当たり前みたいなことになってるんだよ!」、「何さま気取りだ!」といったコメントが激増し、ロシア支持派が突然強くなったのである。
アメリカの軍事支援ということにも反感を抱いたのだろう。
実は中国のネット空間では、早くから「ロシアの侵略行為と日本軍の侵略行為」の類似点と差異などが論ぜられており、ウクライナ支持派とロシア支持派に分かれて互いをなじるような、内紛まがいの状態にあったという側面がある。
4月1日に、ウクライナ政府の公式アカウントがロシアを「ファシスト」と非難するに当たり、「ムッソリーニ、ヒトラー、昭和天皇」を同列に並べて批判を展開していることに関して、中国のネットでは「ほらな、やっぱりロシア軍と日本軍は同じなんだよ!」と、ウクライナ派に歓迎されていた。
アメリカ議会においてゼレンスキーがロシアのミサイル空爆を非難する際に「真珠湾攻撃」を例に挙げたことも、ウクライナ支持派を喜ばせ、「やはり、ロシア軍の蛮行は日本軍の蛮行と同じとウクライナだって見てるんだよ」とウクライナ支持派は喜んだものだ。そして、「日本はバカか!ロシア軍と日本軍が同一視されてるのに、ウクライナを必死で応援してる」と日本をあざ笑う発信が増えていた。
しかし、ロシア支持派が強くなると、「侵略行為を容認した」ことにつながる。
そうなると、「日本の中国侵略」を責める声が小さくなるという、奇妙な循環が、そこにはある。
毛沢東は日本軍と共謀していた――日本は毅然とした外交努力を
いずれにせよ、日中戦争中の毛沢東が日本軍と共謀していた事実を、もし中国のネット民たちが知ったら、また反応は違ってくるだろう。
「あなたたちはもう、日本をあざ笑うことはできなくなる」と言ってやりたい。
たまたま昨日、30年ぶりに天津の小学校でのクラスメートから電話があった。私がまだ北京にいた頃に再会を果たしたクラスメートだ。何ごとかと思えば、「中国のネットに、あなたの悪口が書いてある。何だか、毛沢東が日本軍と共謀したとか・・・、あれはデマだろう?あなたは、そんなこと、言ってないよね?デマだよね?」と必死なので、「いいえ、残念ながらデマではありません。そのことでしたら、『毛沢東 日本軍と共謀した男』という本を出しています。中国語版もあります」と答えると、「なんでまた、そういうことはしない方がいいよ。クラスメートだから、これはあなたのために言うのだけど・・・」と忠告してきた。
親切心はありがたいが、こういうことで、切羽詰まったように電話までしてくるのが中国の言論界だ。
だから私は中国に見切りをつけている。
それにしても、今よほど、「日本軍の残虐行為」が中国のネットで話題になっている証拠だと、暗澹(あんたん)たる気持ちにもなった。
「実は、かなり前になりますが、毛沢東が派遣したスパイに関する記録が日本側にあるのを見つけたのです。証拠があるから本を書いたので、日本では、真実を言っても大丈夫なんですよ」と詳細を説明し、「毛沢東の敵は日本軍でしたか?それとも国民党の蒋介石でしたか?毛沢東が倒したかったのは、蒋介石でしたよね?だから、重慶爆撃だって、3年間ほど続いたのに、重慶のすぐ隣にある延安は爆撃されていませんよね?なぜだと思いますか?そこには日本軍と共謀していた毛沢東がいたからですよ。それを考えただけでも、明瞭でしょ?」と言うと、言葉を失い、仰天して電話を切ってしまった。
日本政府となれば、こう簡単にいくわけではないだろうが、日本は中国の顔色を窺(うかが)うことばかりしないで、習近平のジレンマもきちんと押さえて、今般のウクライナの昭和天皇問題のように、毅然とした外交努力をしなければならないと思った次第だ。
●ウクライナの「内陸国化」を画策か、ロシアがクリミアから西方の黒海沿岸狙う  4/26
ロシアによる侵攻が続くウクライナで25日、東部に加えて南部への攻撃が相次いだ。ウクライナ軍参謀本部は同日、露軍が南部でも制圧地域拡大を目指す動きが強まっているとの見方を示した。
ウクライナ国営通信によると、露軍は25日、多連装ロケットシステムなどで南部ミコライウを攻撃し、住宅や食料品工場が破壊されて1人が負傷した。ミコライウの南西約40キロ・メートルの沿岸都市オチャキウでは、ミサイル攻撃で複数の民間施設が被害を受けたという。
南部オデーサ(オデッサ)州当局も25日、ロシアが併合するクリミアからミサイルが発射され、ウクライナ軍が迎撃したと発表した。ウクライナ軍参謀本部は25日、南部の戦況について露軍が侵攻から間もなく制圧したヘルソンから、ミコライウなどに戦力を集中させていると指摘した。
露軍は、中央軍管区の副司令官が侵攻作戦の第2段階の目標として、東部2州に加え、南部も「完全制圧」を目指すと22日に宣言。東部で反攻するウクライナ軍の戦力分散を狙っているとの見方がある一方、ロシアがクリミアから西方の黒海沿岸もおさえ、ウクライナの「内陸国」化を図っているとも指摘されている。
こうした中、インターファクス通信によると、オデーサ州に接する隣国モルドバで、露系住民が一方的に独立を宣言した「沿ドニエストル共和国」は25日、治安組織の建物で複数回の爆発があったと発表した。負傷者はいないとするが、グレネードランチャー( 手榴弾しゅりゅうだん 発射機)で攻撃された可能性があると主張している。
これに対し、モルドバ政府は「事態をさらに緊張させるための口実」と訴え、露側の自作自演の可能性があるとの見方を示した。ウクライナ国防当局も「露側の挑発だ」と非難した。
●ロシアがガス供給停止通告、停戦交渉は継続の意向 4/26
ロシアは27日からポーランドとブルガリアへの天然ガス供給を停止すると通告した。プーチン大統領はロシア産ガスの支払いをルーブルで行うよう各国に要求し、拒否するなら供給を停止すると脅していた。欧州のガス価格は一時17%上昇した。
国連のグテレス事務総長はモスクワでプーチン大統領と会談し、戦争終了に向け外交的な取り組みを再開するよう求めた。プーチン大統領はウクライナとの協議をロシアとして拒まないと応じた。国営テレビが報じた。
オースティン米国防長官は40カ国余りの国防担当トップとドイツのラムシュタイン米空軍基地で会談。ウクライナへの武器供与を増やす方法を議論した。
モルドバの親ロシア派分離主義勢力が実効支配するドニエストル川東岸地域で爆発があった。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
フランスの自動車メーカー、ルノーはロシアの合弁事業アフトワズの68%株式をロシア国営のNAMI(中央自動車エンジン科学研究所)に譲渡する可能性がある。インタファクス通信がマントゥロフ産業貿易相を引用して報じた。ルノーの広報担当者はブルームバーグ・ニュースに対し、コメントを控えた。
ブルガリアの国営ガス供給会社ブルガルガスはロシアのガスプロム輸出部門から27日に天然ガス供給を停止すると通告を受けた。ブルガリアのエネルギー省が声明で明らかにした。
ロシアはポーランドへの天然ガス供給を27日に全て停止すると、ポーランド国営石油ガス会社PGNiGがロシア側から通告を受けたとして発表した。ロシア国営ガス会社ガスプロムはポーランド側に対し、26日までの供給分をルーブルで支払うよう要求しているという。
ロシアのプーチン大統領はグテレス国連事務総長とのモスクワで会談し、ロシアはウクライナとの交渉を拒まないと発言した。ロシア国営テレビが会談内容の抜粋を伝えた。
国連のグテレス事務総長とプーチン大統領の会談後に国連は声明で、プーチン氏はマリウポリのアゾフスタリ製鉄所からの民間人避難で国連と赤十字国際委員会が関与することに「原則的に同意」したと明らかにした。
ブリンケン米国務長官は上院外交委員会に対し、中国はウクライナ侵攻でロシアに「多大」な軍事支援は行っていないと米国は認識していると明らかにした。
ロシア大統領府は9月に予定している地方選挙の中止を検討している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。ウクライナ侵攻や西側の制裁措置で国内の社会的緊張が高まるとの懸念が広がっているためだという。
国連のグテレス事務総長は戦闘発生で身動きがとれなくなった民間人の避難を支援するための連絡部会をウクライナに設置することを提案した。同事務総長がロシアのラブロフ外相との会談後に明らかにした。グテレス氏は戦争を直ちに終了させる必要性についてラブロフ氏と「極めて率直な」議論をしたと発言。ラブロフ氏はウクライナとの和平交渉で行った最新の提案に対する返事を依然待っているところだと応じた。
モスクワ取引所ではMOEXロシア指数が4日ぶりに反発し、6%を超える上げで取引を終了。原油や金属価格の上昇が追い風になり、年初来の下落率を39%に縮小した。
ウクライナは幾つかの国に分裂するだろうと、ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記が語った。ウクライナ国内の分離主義勢力が占拠する地域の支配を固めるだけでなく、さらなる野心をうかがわせる発言がロシア政権幹部から続いている。パトルシェフ氏は政府機関紙ロシア新聞とのインタビューで、戦争の原因は「西側の政策」とウクライナ当局だと非難した。
モルドバのサンドゥ大統領は、ドニエストル川東岸地域で最近発生した爆発はロシアのウクライナ侵攻を支持する分離主義勢力が背後にいると指摘した。週内にはモルドバ政府と同地域の分離主義者の話し合いを仲介するため、欧州安保協力機構(OSCE)の監視団が到着する可能性があるという。
ロシア軍が包囲するマリウポリのアゾフスタリ製鉄所に立てこもるウクライナ兵について、ウクライナ政府が武装を解除して降伏するよう命じるべきだと、ロシアのプーチン大統領がトルコのエルドアン大統領との会談中に述べた。ロシア大統領府が発表した。
ドイツはロシア産原油の輸入が禁止となっても「管理可能」な程度まで依存度を低下させたと、ハーベック経済相がワルシャワで記者団に語った。同相によると、ドイツの原油輸入に占めるロシア産の割合は戦争前に35%だったのに対し、現在は約12%に減ったという。ドイツはロシア産エネルギーの禁輸に否定的な姿勢をとり続けており、ロシアに戦争費用を供給しているとして非難を浴びている。
オースティン国防長官は40カ国余りの国防担当トップとドイツのラムシュタイン米空軍基地で会合を開いた。冒頭で、会議の目的はウクライナの短期的な国防需要について共通理解を確立することだとし、ウクライナが東部と南部でロシア軍の攻撃を撃退するのを支援するため北大西洋条約機構(NATO)加盟国とその他の同盟国が協調をさらに強めることができると語った。「ウクライナの防衛力強化を引き続き支援するため、われわれの軍需産業基盤を通じてやれることがもっとある」とオースティン氏は発言。会議にはウクライナのレズニコフ国防相も出席している。
ドイツ政府はゲパルト自走対空砲50両をウクライナに供与する。同国がロシアの侵攻に対抗できるよう、ドイツによる重火器提供の第1弾になる。
岸田文雄首相は26日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、財政支援の増額や自衛隊の装備品提供などについて説明。ウクライナ側から要請のあった食料品や医薬品などの物資もできるだけ早く供与すると約束した。首相官邸が発表した。
ロシアのプーチン大統領は知事の直接選挙の一時的中止を提案する可能性がある。ロシアメディアのRBCが26日、事情に詳しい匿名の関係者3人を引用して報じた。直接選挙中止はプーチン大統領が有力議員と会談する27日に議論される可能性がある。今年の知事直接選挙は中止される公算が極めて大きく、その場合は地方議会が知事を選出する。また今年の地方議会選挙は来年ないし再来年に先送りされる可能性がある。
●TVが真実を伝えないロシア、陰謀論集団「Qアノン」がプーチンを疑いはじめた 4/26
ロシアに住む多くのQアノン信者が、ウクライナ侵攻の正当性に疑念を抱きはじめた。調査報道グループの『ベリングキャット』が報じた。
もともと影の意図に敏感な陰謀論支持者たちは、侵攻正当化のプロパガンダにまみれたロシアにありながら、プーチンの方針に疑問を投げかけている。図らずも陰謀論のコミュニティが、一般的なロシア国民よりも真実に近づいた構図だ。
2月の侵攻直後、メッセージアプリ「Telegram」上のロシアQアノン用のチャットには、「神よ、ロシアとウクライナを救ってください」との反戦メッセージが書き込まれた。「私たちはお互いを認めあっています。私たち皆の罪をお赦しください。本来はそうあるべきなのです!」
その後もチャットには、プーチンのプロパガンダに警鐘を鳴らす書き込みが続いた。国営メディアが展開するプロパガンダを真に受けることのないよう、チャンネル登録者たちに対して複数の投稿者が警告している。
登録者数9万人を誇る『QAnon Russia』のチャンネルでは、ウクライナ人を殺害しないようロシア兵らに対して求めるメッセージが相次いだ。すべての参加者が賛同しているわけではないものの、ベリングキャットは特定のQアノン用チャンネルにおいて、反戦の投稿が「驚くほど頻繁」にみられると報じている。
一般的なロシアのネットメディアには侵攻以降、戦争を正当化するコンテンツが溢れている。Qアノンで起きた動向は、こうした一般のネット上の反応とは対照的だ。
ロシア外では侵攻肯定論も
ただし、Qアノン全体として足並みが揃うわけではない。世界各地のQアノンは一般に、ウクライナ侵攻を賛美する傾向がある。
そもそもQアノンとは、アメリカ発祥の極右系陰謀論だ。「ディープ・ステート(闇の政府)」と呼ばれる悪魔信仰者と小児性愛者の集団が世界を支配していると主張し、トランプ前大統領の再選を通じてその打倒を掲げる。近年では主張が派生し、反ワクチン運動や無線技術の5G陰謀論なども誕生した。
ロシアがウクライナに侵攻すると、多くの支持者は侵攻に賛同した。支持者の一部は、アメリカが影で操るバイオ研究所がウクライナ国内に30拠点ほど存在し、生物兵器や次期型コロナウイルスなどを開発していると信じている。
支持者たちに浸透したシナリオにおいては、プーチンは闇の政府による生物兵器の使用を食い止めるため、トランプ氏と組んで正当な目的でウクライナに侵攻した、と解釈されている。
バイオ研究所にまつわる風説は古くから存在したが、ウクライナ侵攻後、あるQアノン関連のTwitterアカウントが発信したことであらためて耳目を集めた。英ガーディアン紙は、「そのひとつのツイートから、陰謀論は急速に拡散した」と振り返る。
市場調査を手掛けるYouGov社によると現在では、「米国防総省が資金提供するウクライナの研究所が、ロシアに生物兵器を散布しようとしている」ことが「間違いなく」または「おそらく」事実だと考える人々は、アメリカ人の4人に1人以上を占める。
プロパガンダに警戒
これに対し、ロシア内の一部Qアノン支持者たちはやや傾向を異にする。世界的なQアノンの動きに反し、ロシアのQアノン・チャンネルでは侵攻開始以降、バイオ研究所陰謀論は急速に沈静化した。アメリカが戦争を裏で主導しているとの主張もほぼ聞かれなくなっている。カナダ系米メディアの『ヴァイス』は、「ロシア内部の陰謀論支持者たちは、プーチンの戦争をまったく異なる目でみていた」と論じる。
もっとも、ロシアのすべてのQアノン支持者が侵攻を疑問視しているわけではない。しかし、少なくとも情報の真偽に注意を払う習慣は着実に広まりつつある。9万人のフォロワーをもつQアノンロシアは、ロシア国営メディアによる報道を引用した3月2日の投稿のなかで、「出典が公的な機関だからといって、必ずしも内容の真実性が保証されるものではありません」との注意書きを添えた。
また、ロシアの別のQアノン・チャンネルは、米議会が出資する欧州報道機関である『ラジオ・フリー・ヨーロッパ』による客観的な報道を多く引用するなど、中立的な情報の拡散に心を砕いている。
支持者からすれば、これまで信じてきた陰謀論が、結果的にウクライナでの殺りくを肯定する流れとなった。この事実への戸惑いは大きいのだろう。英シンクタンクに務めるキーラン・オコナー氏はベリングキャットに対し、ウクライナ侵攻をどう受け止めてよいかという葛藤が陰謀論コミュニティにはあると指摘する。「ウクライナ情勢に関し、彼らの陰謀論的な世界観にうまくあてはまるような立ち位置を探るのに苦労しているのです。」
これまで侵攻を支持してきたQアノン・チャンネルのなかにさえ、プーチンへの批判に転じるものが現れた。10万人のフォロワーを擁する『Big Shock Theory』は4月9日、「プーチンはドルと西側諸国を打ち砕こうと決意した英雄などではない」と訴えている。
ロシア国営メディアがプロパガンダを広めるなか、もともと謀略に敏感な陰謀論集団が、結果的に侵略の正当性に厳しい目を向ける展開となっている。 

 

●英首相、プーチン氏の戦術核使用検討に否定的な考え 4/27
ジョンソン英首相は26日、テレビチャンネル「トークTV」の番組で、ロシアのプーチン大統領がウクライナでさらに軍事的な失敗をした場合に戦術核使用を検討するかと聞かれると「そうは思わない」と答えた。
ジョンソン氏は「プーチン氏の行動に対するロシア国民の大々的な支持と、ロシアのメディアがウクライナで起きていることに無関心な様子である点を踏まえれば、逆説的にプーチン氏には後退し、事態収拾に乗り出せる非常に大きな政治行動の余地があることになる」と語った。
またヒーピー国防担当閣外相による先の発言を巡り、英国がウクライナにロシア領内の標的を攻撃するようそそのかし続けるなら、ロシアは即座に「相応の対応をする」と強く反発していることについてジョンソン氏は、ウクライナには自衛する権利があるとしつつ、英国は危機がウクライナとロシアの国境を越えてエスカレートするのを望んでいないと付け加えた。
ヒーピー氏は、ウクライナがロシアの兵たんや補給のルートを破壊する目的でロシア領内深くまで標的を追跡する行為は完全に正当だとBBCラジオに話した。
●「酷い人権侵害だ!」プーチンがスポーツ界の“ロシア追放”に怒り心頭! 4/27
現地時間4月26日、ロシア・モスクワのクレムリンで開催されたのが、北京五輪のメダリストたちを表彰する記念式典だ。ウラジーミル・プーチン大統領の肝煎りでようやく実現の運びとなり、北京パラリンピックの開幕直前で除外を通達されたパラリンピック選手団も招かれた。
そのセレモニーの壇上で、パラリンピアンたちにメッセージを贈るプーチン大統領だったが、やがて怒りの矛先は世界のスポーツ界による“ロシア勢締め出し”の動きに向けられていく。スポーツメディア『Sport24』によると、大統領は「あなたたちが栄光を掴むためにしてきた準備を台無しにする、受け入れがたい決定だった」と北京パラリンピック組織委員会を糾弾し、次のようにまくし立てた。
「いま広がっているロシアとベラルーシの選手たちに対する出場禁止処分は、スポーツの基本理念を踏みにじるだけでなく、あえて言おう、基本的人権をも酷く侵害するものだ! 我々のアスリートたちは国籍と市民権に基づく、純粋な政治的理由だけで差別を受けている。考えられないことだ! オリンピズムとパラリンピズムに明らかに反するものである」
さらに大統領は、東京五輪・男子競泳の自由形で2冠に輝いたエフゲニー・リロフが「9か月の出場停止」を受けた最新トピックにも言及。FINA(国際水泳連盟)はリロフが3月にモスクワで行なわれた「クリミア併合8周年イベント」に参加した政治的行為を理由に挙げたが、どうにも憤懣やるかたない。
「我々のスイマー、リロフにまつわる話はまったく馬鹿馬鹿しい! ロシアとクリミアの再統一を祝したコンサートに出席しただけで、なぜにこれほどまでの仕打ちを受けなければならないのか。彼ら(FINA)は物事を完全に不条理なものへと帰結させてしまっているんだ」
一方で、オリンピアンたちから相次いで感謝の言葉を受けたプーチン大統領は上機嫌。「君たちは真のヒーローだ! 国家のため、国民のため、君たちの成功は非常に重要なんだ。強く強調されてもらうよ。そして君たちのさらなる成功を祈っている!」との激励で締めくくった。
●ウクライナへの軍事支援、米国民の73%が支持=世論調査 4/27
ロイター/イプソスによる最新の米世論調査で、ウクライナへの軍事支援を支持する人の割合が73%に達し、ロシアの軍事侵攻以降で最も高い水準となった。
調査はオンライン形式で米国内の成人1005人を対象に4月25─26日に実施した。
前回3月下旬に行った調査では、ウクライナ軍事支援の支持率は68%だった。
約半数の米国人がロシアが偽情報やプロパガンダで11月の米中間選挙に影響を及ぼそうとしていると懸念しており、民主党員ではこの割合が6割、共和党員では5割近くに達した。
バイデン政権のウクライナ対応を評価すると回答した人は46%で、民主党では70%、共和党では24%が評価した。
政権の経済政策の支持率は37%だった。燃料価格高への対応を支持する人の割合は32%にとどまった。
●国連事務総長とプーチン大統領が会談 避難で合意も情勢不透明  4/27
軍事侵攻を続けるロシアとウクライナとの仲介に乗り出した国連のグテーレス事務総長が、モスクワを訪れてプーチン大統領と会談しました。国連は、ウクライナ東部のマリウポリで取り残されていると見られる市民を避難させるため、国連が関与することで合意したと発表しましたが、事態の打開につながるのかなお不透明な情勢です。
国連のグテーレス事務総長は26日、ロシアによる軍事侵攻が始まってから初めてロシアの首都モスクワを訪れ、プーチン大統領と会談しました。
クレムリンの長机でグテーレス事務総長を迎えたプーチン大統領は、▽軍事侵攻がウクライナ東部のロシア系住民を保護するためだと改めて正当性を強調したうえで、▽首都キーウ近郊のブチャで多くの市民が殺害されて見つかったことについても、ロシア軍は関与しておらずウクライナ側による挑発だと主張しました。
そのうえで東部のマリウポリの製鉄所で市民が取り残されていると見られることについて「ウクライナ軍は市民を盾にしたテロリストと同じ行動をとっている。ロシア側が設けた人道回廊は機能している」と述べ、ウクライナ側を非難しました。
これに対してグテーレス事務総長は「ロシアとウクライナが問題解決のために協力することが必要だ」と訴え、市民を避難させるため双方が協議する場を設けるよう提案しました。
会談のあと国連は「市民の避難に向けて国連と赤十字国際委員会が関与することで原則的に合意した」と発表し、今後の具体的な協議は、国連の人道問題調整事務所とロシア国防省の間で行われるとしています。
グテーレス事務総長はこのあとウクライナへ移り、28日にはゼレンスキー大統領と会談する予定ですが、プーチン大統領はウクライナ側に対する強硬な姿勢を崩しておらず、国連トップによる仲介が事態の打開につながるのかなお不透明な情勢です。
●米「ウクライナ戦争の目標はロシア弱体化」、ロシア「核戦争のリスクは深刻」 4/27
米国がウクライナ戦争における自分たちの目標は、ロシアが二度とこのような戦争を起こせないよう弱体化させることだという点を明確にした。ロシアは、「核戦争」と「第3次世界大戦」のリスクに言及し、米国を強く牽制した。戦争が長期化の道に入り、米ロ間の間接戦という今回の対立の本質が次第に明確になってきた形だ。
米国のロイド・オースティン国防長官とアントニー・ブリンケン国務長官は25日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と前日に会談を終えた後、ポーランド南東部に移動し、米国の記者団との質疑応答に応じた。オースティン長官はその際、「今回の戦争での米国の目標」は何かという記者の質問に、「ウクライナには自分の領土を守れる民主的な主権国家として残ることを望み、ロシアについては、ウクライナを侵攻したようなことができなくなるほど弱体化するのを見ることを望む」と述べた。オースティン長官は26日、ドイツのラムシュタイン空軍基地での約40カ国の国防相と同席した会議で、「ウクライナの抵抗は自由世界にインスピレーションを与えた。あなた方は明らかに戦争で勝つことを信じており、ここに集まった私たち全員もそうだ」と述べ、世界各国により多くの軍事支援を要請した。
米当局者らは、オースティン国防長官の25日の発言は今回の戦争で米国が最終的に望むものが何かについての考えが進化していることを示していると、ウォール・ストリート・ジャーナルに語った。戦争開始直後、米国はウクライナがロシア軍に対抗し騒乱と暴動を続けられるよう助けるという計画だった。しかし、ロシアがキーウ(キエフ)占領に失敗し、3月末から東部・南部地域の掌握に目標を変えると、ロシアを持続的に苦しめ軍事力を弱める方向に向かっているという指摘だ。ニューヨーク・タイムズも、米国がウクライナ戦争に対するメッセージを強硬にしているとして、単に侵攻を挫折させるのではなく、ロシアを弱体化させ、今回のような軍事的侵略をこれ以上できないようにしていると報じた。
オースティン長官の攻勢的な発言に対し、ロシアは核戦争と第3次世界大戦を再び取りあげ、米国に対する警告のレベルを引き上げた。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はこの日、ロシア国営放送「チャンネル1」のインタビューで、「現在、核戦争のリスクは実在しており、非常に深刻なレベルにある。過小評価してはならない」と述べた。ただし、「人為的に核戦争のリスクが高まるのは見たくない」とし、「ロシアは核戦争のリスクを下げるために努力している」と述べた。
また、「すべての人が第3次世界大戦は容認しないという呪文を唱えている」が、第3次世界大戦のリスクは実在すると警告した。米国が第3次世界大戦にまで戦争を拡大することはありうるとして、ウクライナに兵力を直接は投入していなくても、ロシアにとっては、兵器を供給する行為も報復を呼びうる「敵対行為」であることを明確にしたのだ。実際、ラブロフ外相は、「北大西洋条約機構(NATO)は事実上、代理人を通じてロシアとの戦争に乗りだしており、代理人を武装させている」と述べ、西側がウクライナに支援した兵器は「(ロシアの)正当な攻撃目標」だと声を高めた。アナトリー・アントノフ駐米ロシア大使も国営放送「ロシア24」の番組に出演し、「米国が火に油を注いでいる。私たちは、米国がウクライナに兵器を注ぎ込む状況は容認できない」と述べた。
一方、中国外交部の汪文斌報道官は、26日の定例会見で「第3次世界大戦が発生することを望む者はいない」と述べ、関連各国に自制を要請した。これまで、ウクライナ戦争の早期終決に努めてきたトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領も「戦争を中断させ確固とした平和を定着させるために、できるすべてのことを行うと述べた」と、トルコ大統領室が明らかにした。
●震えを抑えるプーチンの「健康不安」がもたらす戦慄の今後 4/27
違和感の残る映像だった。
4月21日にセルゲイ・ショイグ国防相と会談した、ロシアのプーチン大統領(69)。公開された12分間の動画では、右手で机の角を握り続け脚を終始揺らしていたのだ。ロシア情勢に詳しい、筑波学院大学の中村逸郎教授が話す。
「背筋が硬直し姿勢が悪く、体調が悪そうな印象を受けました。机の角を強く握ることで、震えを抑えていたようです。プーチン氏は6年ほど前から、自身の行動を制御できない病気を患っていると言われます。悪化する症状を、ガマンしていたのではないでしょうか」
このところ、プーチン大統領の体調を不安視する情報が多く流れている。4月3日にはロシアの独立系メディア『プロエクト』が、南部ソチにあるプーチン大統領の大宮殿を甲状腺の専門医がたびたび訪れたと報道。16年から20年の4年間で35回訪問し、宮殿内で161日過ごしたという。昨年9月、一時期プーチン大統領が公の場から姿を消した際には甲状腺がんの手術を受けたのではないかとも報じている。
前出の中村教授が続ける。「今年2月にベラルーシのルカシェンコ大統領と会談した時も、体調が悪そうでした。プーチン氏は手をグルリと回し、イスの肘掛を強く握り締めていたんです。つま先を激しく動かし、明らかに落ち着きがなかった。
3月に地方の官僚たちとオンラインで話し合った時も、挙動が不自然でした。背筋を伸ばし、身体を大きく左右に揺らしていた。堂々とした態度で公の場に現れていたこれまでと比較すると、違和感しか残りません」
プーチン大統領の健康不安説は、混迷するウクライナ情勢にも影響している。狙うのは5月9日の「対独戦勝記念日」での勝利宣言。「ネオナチ」とみなすウクライナを打ち破ることで、第2の勝どきをあげようと目論んでいるのだ。だが……。
「現在のところ明確な戦果を得るどころか、苦戦を強いられています。首都キーウ制圧を断念し、黒海艦隊の旗艦『モスクワ』を撃沈されてしまった。焦ったプーチン氏が、手段を選ばず暴挙に出る可能性は十分あります。化学兵器や核ミサイルの危険は、日に日に高まっているんです。
プーチン氏が焦るもう一つの理由が、体調の不安です。プーチン氏は今年で70歳になります。男性の平均寿命が65歳ほどのロシアでは、高齢の部類でしょう。心身両面の衰えが如実になり将来を悲観したプーチン氏が、早く結果を出そうと考えてもおかしくありません。
プーチン氏の目標は、西側諸国を一掃し偉大なるロシアを復活させることです。米国をはじめとするNATOとの、核兵器の使用を含めた全面戦争に乗り出す危険性があります」(中村教授)
プーチン大統領の身体に、何かしらの異変が起きているのは間違いなさそうだ。その異変が、独裁的指導者の判断に悪い影響を及ぼしていることも――。
●ウクライナ、西側の政策で崩壊へ 複数地域に分割=プーチン氏側近 4/27
ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記は26日、西側諸国とウクライナの政策により、ウクライナは崩壊し、複数の地域に分割されると述べた。
パトルシェフ氏はプーチン大統領の側近。ロシアは侵攻開始時はウクライナ占領の意図はないとしていたものの、パトルシェフ氏の発言で、ロシアがウクライナを崩壊に追い込み、その責任を西側諸国に求める可能性があることが示された。
パトルシェフ氏はロシースカヤ・ガゼータ(ロシア新聞)のインタビューに対し、米国は長年にわたり、ウクライナでロシアに対する憎悪を植え付けようとしてきたが、憎しみが国民統合の要素になり得ないことは歴史で示されていると指摘。
「ウクライナの人々を結びつけるものがあるとすれば、民族主義者の軍による残虐行為への恐怖だけだ」とし、このため、西側諸国とウクライナの政策の結果、ウクライナは崩壊し、複数の地域に分割されると述べた。
●プーチンの天敵、ドローンの大活躍で「防衛省・自衛隊」が追い詰められる 4/27
防衛省のドローン対策は圧倒的な出遅れ 政府与党から問い合わせ相次ぐ
ロシア軍が侵攻したウクライナでは、南東部マリウポリを包囲され、ロシア軍が一方的に「制圧」を宣言するなど、被害が拡大している。他方、ウクライナも必死の抵抗を見せている。その反撃の主力となっているのが「ドローン」である。
例えば、日本の一般家電量販店(ヤマダ電機やビックカメラ他)で購入できる民生ドローンで、ロシア軍の位置を偵察・監視。対戦車ミサイル「ジャベリン」を持つ味方歩兵に位置を伝え、撃破しているのだ。
さらには、米政府がウクライナへの支援の新たな兵器として、自爆型ドローン(無人機)「スイッチブレード」100機の提供を表明。米国内でウクライナ兵に対して使用方法の訓練も実施したという。技術を得たウクライナ兵が近く帰国し、実戦への投入に備えている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ軍のドローンには相当手を焼いているようだ。CNNは4月9日付の記事で、「ウクライナ軍がトルコで製造されたドローン(無人機)『バイラクタルTB2』を使用している状況について、ロシアがトルコに抗議した」と報じている。
またウクライナの当局者は、バイラクタルTB2を「現在保有する兵器の中で最も効果的なものの一つと称賛している」のだという。
そんなドローンの大活躍を、苦々しい思いで見つめている存在がプーチン大統領の他にもいる。それは、日本の防衛省だ。彼らはドローンの有効性を否定し続けてきた。しかし、いよいよその姿勢にも限界が近づいてきている。
実は、ウクライナでのドローンの奮闘を指摘した筆者の寄稿文『「カミカゼドローン」100機にロシア兵が逃げ惑う…日本の防衛政策転換は急務』(ダイヤモンド・オンライン、4月6日)が大反響を呼んだ。そしてその記事で指摘していた、防衛省のドローン対策の圧倒的な遅れについて今、政府与党から防衛省への問い合せが増えているのだという。
ウクライナ侵攻でごまかせなくなった 自衛隊のドローン軽視に批判高まる
「アゼルバイジャンがアルメニアをドローン中心の戦術で撃破したナゴルノ・カラバフ紛争においても、ドローンは大したことないと平気で結論づけてきた自衛隊だが、今回のウクライナ侵攻でさすがにごまかせなくなった」(防衛省関係者)
政府与党内ではこれまでの自衛隊のドローン軽視の姿勢が批判され、急ぎ導入するような議論が盛り上がっている。今年改定する国家安全保障戦略と防衛計画の大綱に盛り込む動きも加速している。
こうした状況に青くなっているのが自衛隊の将官たちだ。彼らはサイバー空間や宇宙を戦闘領域として捉えることも嫌がっていたが、ドローンの本格導入も毛嫌いしている。
ドローンの部分的な導入で終わればいいが、ウクライナやアゼルバイジャンなどのように、対ロシア・対中国との現実の戦闘を想定した形でドローンを本格導入するならば、自衛隊の教育や編成を全て見直さねばならない。当然ながらドローン導入の代わりに人員の削減をも視野に入れることになりかねない。これは硬直化した官僚組織として絶対にやりたくないことだ。
これから明らかになる防衛計画の大綱が良いものか悪いものかを見極めるポイントはそこにある。その内容を見れば、防衛省が硬直した官僚組織なのか否かがよく分かるだろう。
自衛隊が「学問を軽視」してきた といえる証拠とは?
今回、ロシアのウクライナ侵攻によって、日本でこれまで冷や飯を食い続けてきた軍事分野を専門とする有識者たちが日の目を見るようになったのは素晴らしいことだ。日本の学問の世界では、第2次世界大戦に敗戦したトラウマによって戦争を研究することさえも避けられてきた。
しかし今日、ロシアや中国の脅威が現実的なものになってしまった。日本で自衛のための国防論議や研究が進んでいくことを期待している。
ただし、これまで「学問・研究」を怠ってきたのは、大学の世界だけではない。自衛隊も率先して学問を軽視してきた節がある。防衛大学の安全保障政策を学ぶ修士課程の総合安全保障研究科に進学した人間で、将官になった人間は数名しかいないことも、その事実を裏付けている。
当然ながら戦略立案に学問的見地は必要であり、それを拒否する理由はないはずだ。大学院に進学しなければ戦略立案をしてはならないと言っているのではない。ただ、自衛隊の将官に安全保障政策を学んだ「高学歴人材」がほぼ皆無ということが、大学だけではなく自衛隊こそ「学問を軽視」している証拠なのだ。
そういったことが遠因となっているのだろうか。いまだにドローンの有効性を認めようとしない、ドローンを軽視する自衛隊を擁護する意見が一部の軍事評論家にもある。
筆者は、ドローンが万能だと言っているのではない。ただ現代の戦場において極めて有効であることが確認されたことを指摘しているのだ。
「戦地では自爆ドローンより 誘導ミサイルの方が優秀」論の死角
例えば、ドローン軽視論の一つとして「戦地においては、自爆ドローンより、誘導ミサイルの方が優れている」という意見がある。確かに、射程距離や攻撃力は誘導ミサイルの方が上回っており、カタログ値では「上位互換」と言えなくもない。役割も、相手が動いても攻撃し爆発するという点では同じだ。
ではなぜ、中国の習近平国家主席は軍事ドローンの導入に積極的になっているのだろうか。なぜ、尖閣諸島に武装ドローンが繰り返し送り込まれるのだろうか。
答えは簡単で、自爆ドローンは誘導ミサイルの「下位互換」ではなく、ミサイルとドローン、それぞれに役割があるからだ。最大の違いは、ドローンは値段が安く、扱いが簡単な点だ。
ただし、攻撃力がミサイルと比べて弱い。であれば、敵の防衛網を大量の自爆ドローンで疲弊させた後、ミサイルを撃ち込むというプロセスは現実的な戦術だ。
もしも中国軍と日本が事を構えることになってしまった場合、ミサイルだけを打ち込んでくるという保証は全くない。中国軍は武装ドローンを大量配備しているのだ。
米国は、ウクライナに兵を送り込まず、ロシアとは直接交戦しないことを繰り返し明言している。その実態から「日米同盟の実効性」が不安視されている。ミサイルを撃ち込めば米国が日本の防衛戦に参戦してくる危険をロシアや中国は感じるかもしれないが、ドローンでの攻撃程度では大丈夫と考えてくる可能性はある。
ドローンが持つ「徘徊性」と 「偵察・攻撃の一体性」が重要
もう一つ、自爆ドローンと誘導ミサイルの大きな違いを挙げよう。それは「徘徊性」と「センサー(偵察)・シューター(攻撃)の一体性」だ。
慶應義塾大学SFC研究所上席所員の部谷直亮氏は、筆者の取材に対して次のように指摘した。
「自爆ドローンや武装ドローンはミサイルと違い、敵の上空で長時間徘徊し、複数のセンサーで入手した情報を後方部隊に送れます。ミサイルにはできない芸当です。また、センサーとシューターが一体であることから、敵を発見次第、攻撃に移れます。シューターでしかないミサイルには不可能なことです」
「ミサイルとドローンを同一視し、互換できるとするのは、単独の兵器のスペックしか見ておらず、軍事を理解していないことからくる誤解です。ドローンを航空機やミサイルの延長で理解しようという議論がありますが、歴史に学ぶべきです。ミサイルが登場した際も、大砲の延長とみなす陸軍と航空機の延長とみなす空軍で奪い合いが起きました。が、結局ミサイルは大砲でも航空機でもなかったのですから、こうした軍事史を理解すべきでしょう」
ロシアが持つ極超音速ミサイルの攻撃や、中国からの武装ドローン攻撃が起きたとき、日本政府はどう対抗しようというのだろうか。
大量の武装ドローンによって北方領土付近や尖閣諸島の日本船舶へ攻撃が加えられても、「激しい怒り」や「遺憾」の弁を繰り返すのが精一杯なのではないか。
事実、自衛隊の一部で今配備の機運が高まっているのが、「シーガーディアン」という非武装ドローンだという。ロシアや中国の不法行為は発見できるのだろうが、それを実力行使によって阻止することなどできない。
もしも日本人の命が失われ、財産・領土が奪われるような事態が起きても、いつものように「遺憾砲」で終わるのだろうか。そういう「歌舞伎ショー」を筆者は望んでいない。
プーチン大統領によるウクライナへのミサイル攻撃、習近平国家主席による大量の武装ドローンの配備。こうした事実を受け止め、日本の防衛担当者は今こそ太平の眠りから目覚めるときではないか。日本にきちんとした防衛力・抑止力がなければ、非常事態が起きたときに国民は逃げるの一択どころか、命を奪われてしまうだけだ。
●プーチン大統領「国連憲章に則り“特別軍事作戦”」 4/27
ウクライナと国境を接するモルドバ。東部は、一方的に独立を宣言した「沿ドニエストル共和国」を親ロシア派が実効支配していて、西側メディアは簡単に入ることができません。
その「沿ドニエストル共和国」内では、このところ、相次いで爆発が起きています。何者かによって、ロケットランチャーが撃ち込まれた治安機関の建物。さらに、ラジオ局のアンテナへの攻撃など、不審な事件が相次ぎました。
ただ、これらは“親ロシア派による自作自演”という見方もあるといいます。
モルドバ国民:「『沿ドニエストル共和国』には、ロシア軍の軍事基地もあります。ウクライナと同じことが起きるかもしれません」
ロシアによる侵攻が始まって、2カ月が経過。ウクライナ東部では依然、激しい攻防戦が続いていますが、停戦の見込みは立っていません。
そんななか、モスクワを訪れた国連のグテーレス事務総長は、ラブロフ外相、プーチン大統領と相次いで会談し、ウクライナの領土を侵害する行為は、国連憲章に反しているとしたうえで、早期停戦を呼び掛けました。
プーチン大統領:「ロシアは国連憲章にのっとって、“特別軍事作戦”を開始した。ロシアは、ウクライナと外交的手段での合意を希望している」 
●モルドバ連続爆発、ロシアの挑発か 「ウクライナ銃撃」主張、飛び火警戒 4/27
ロシアが軍事侵攻するウクライナの隣国モルドバ東部の親ロシア派支配地域で、26日までに政府庁舎などを狙った爆発が連続して起きた。実行犯や動機は不明だが、ロシアによる「挑発行為」を指摘する見方が浮上。27日には当局が「ウクライナ側から銃撃を受けた」と主張した。ウクライナ情勢の「飛び火」を懸念するモルドバ国内で緊張が高まっている。
この地域は1990年、親ロシア派が「沿ドニエストル共和国」として一方的に独立を宣言したが、国際的には承認されていない。沿ドニエストルの当局によれば、「首都」ティラスポリにある治安当局の建物が、ロケット弾の攻撃を受け、窓ガラスが壊された。26日朝には中部の村にある電波塔で爆発が立て続けに起きた。ロシア語放送に使われるこの電波塔は倒壊した。いずれも負傷者は出なかったもよう。
相次ぐ爆発の関連など詳細は分からず、情報も交錯している。沿ドニエストルのクラスノセリスキー「大統領」がウクライナの関与を示唆したのに対し、モルドバのサンドゥ大統領は、沿ドニエストル内の「好戦派」が地域の不安定化をたくらんで攻撃を仕掛けたと指摘した。ウクライナ国防省は「ロシアによる計画的な挑発行為」だと糾弾した。
沿ドニエストルには「平和維持」目的で約1500人のロシア兵が駐留を続け、旧ソ連軍の弾薬や武器2万トンを貯蔵。ロシア軍中央軍管区のミンネカエフ副司令官は22日、ウクライナ南部から沿ドニエストルに至る「陸の回廊」構築を目指す考えを表明し、モルドバ側が反発した。
ウクライナの混乱が沿ドニエストルに波及すれば、モルドバ全土が巻き込まれるのは必至とみられ、モルドバ政府は警戒態勢の強化を迫られている。サンドゥ大統領は26日、国家安全保障評議会を招集し、沿ドニエストルとの緩衝地帯付近での検問や巡回を強化する方針を固めた。国民に「落ち着いて、身の安全に気を付けるよう」呼び掛けた。
●停戦の意味が失われるとき――ウクライナ戦争における転換点  4/27
2月24日のロシアによるウクライナ侵略開始以降、軍事作戦に関しては明確な段階分けが存在する。ロシアは当初、首都キーウを標的にし、ゼレンスキー政権の転覆を目指していた。数日で首都を陥落させられると考えていたようだ。
侵略開始からほぼ1ヶ月の3月25日になり、ロシア軍は、第1段階の目標が概ね達成されたとして、第2段階では東部ドンバス地方での作戦に注力すると表明した。キーウ陥落の失敗を認めたわけではないが、実際には方針転換の言い訳だったのだろう。その後、ウクライナ東部さらには南部での戦闘が激しさを増している。
そうしたなかで強く印象付けられるのは、ウクライナによる激しい抵抗である。ロシアがウクライナの抵抗を過小評価していたことは明らかだ。加えて、米国を含むNATO(北大西洋条約機構)諸国も、ウクライナのここまでの抵抗を予測できていなかった。ロシアの侵略意図については正確な分析を行っていた米英の情報機関も、ロシア軍の苦戦とウクライナの抵抗については、評価を誤ったのである。筆者もウクライナの抵抗能力について、当初は極めて悲観的だったことを認めざるをえない。
以下では、こうしたウクライナ戦争の推移のなかでみえてきた大きな転換点として、ウクライナにとって停戦の意味が失われてきていることについて考えたい。
ロシア軍の占領下で何が起きていたのか:明らかになった市民の多大な犠牲
命をかけても守らなければならないものがある。ウクライナの抵抗については、これに尽きるのだろう。つまり、ここで抵抗しなければ祖国が無くなってしまう。将来が無くなってしまう。しかも、このことが、軍人のみならず一般市民にも広く共有されているようにみえることが、今回のウクライナの抵抗を支えている。
さらに重要なのは、抵抗には犠牲が伴うが、抵抗しないことにも犠牲が伴う現実である。ロシアとの関係の長い歴史のなかで、このことをウクライナ人は当初から理解していたのではないか。ロシア軍に対して降伏したところで命の保証はないし、人道回廊という甘い言葉のもとで行われるのは、たとえ本当に避難できたとしても、それは強制退去であり、後にした故郷は破壊されるのである。
首都キーウ近郊のブチャやボロディアンカにおける市民の虐殺は、ロシア軍による占領の代償の大きさを示している。ロシア軍による占領にいたる戦闘で犠牲になった人もいるが、占領開始後に虐殺された数の方が多いといわれる。抵抗せずに降伏しても、命は守ることができなかった可能性が高い。他方で、ブチャの隣町のイルピンは抵抗を続け、一部が占領されるにとどまり、結果として人口比の犠牲者数はブチャよりも大幅に少なくすんだようである。
ロシア軍による市民の大量殺戮を含む残虐行為は、占領下では繰り返されるのだろうし、占領が続く限り実情が外部に伝わる手段も限られる。ブチャの状況が明らかになったのもロシア軍が撤退した後である。
こうした残虐行為に関しては、軍における規律の乱れや、現場の一部兵士による問題行動だとの見方もあるが、組織的に行われていたことを示す証言が増えている。加えて、ブチャ以外にも似たような大量殺戮の事例が明らかになっており、ロシア当局による組織的行為であると考えざるをえない。組織的だったか否かは、戦争犯罪の捜査、さらにはこれが集団殺戮(ジェノサイド)に該当するか否かを判断する際に重要になる。そのため、証拠集めには慎重を期す必要がある。
ジェノサイド条約は、人種や国籍、宗教などを理由に特定集団を組織的に破壊することを、ジェノサイドの構成要件にしている。バイデン米大統領は、「ウクライナ人の存在自体を消そうとしている」として、ジェノサイドであると明言した。
国際法上ジェノサイドだと認定可能か否かにかかわらず、ウクライナ東部を含め、ロシアの支配下にある地域で、ブチャと似たようなことが起きていると考えなければならない。これから占領される場所でも同様であろう。実際、東部の港湾都市であるマリウポリでは、すでに万単位で市民の犠牲者が出ていると伝えられている。
ブチャの虐殺:ウクライナにとっての転換点
こうした現実が明らかになってしまった以上、ウクライナにとっての平和は、ロシア軍が国内から完全に撤退したときにしか実現しないことになる。これは、今回の戦争における構図の大きな変化である。
そして、ロシアに占領されている場所がある限り平和がありえないとすれば、停戦の意味が失われる。停戦とは、その時点での占領地域の、少なくとも一時的な固定化であり、ブチャのようなことが起こり続けるということになりかねない。これを受け入れる用意のあるウクライナ人は多くないだろう。
結局のところ、停戦のみで平和はやって来ないのである。従来は、ウクライナ政府も停戦協議を重視してきた。侵略開始の数日後からすでに停戦を呼びかけたのはゼレンスキー大統領である。しかし、ブチャの惨状が明らかになるなかで、停戦自体を目的視することができなくなった。あくまでも、平和につながる限りにおいて停戦を追求するという姿勢への転換である。
そして実際、3月末のイスタンブールでの停戦協議では実質的な前進が伝えられたものの、直後にブチャの惨状が明らかになり、交渉機運は急速に萎むことになった。その後も停戦協議はオンラインで断続的に行われているようだが、ほとんど表に出てこなくなった。ロシア側もいまは東部における支配地域拡大を優先しているとみられる。
それではウクライナは自らの力でロシア軍を追い出すことができるのか。これが最大の問題である。ゼレンスキー大統領は、4月23日の会見で、ロシア軍が「入り込むところ全て、彼らが占領するもの全て、私たちは全て取り戻す」という方針を強調している。停戦よりも、ロシア軍を追い出すことが先決なのである。
戦争による犠牲が日々積み重なっていくことを考えれば、早期終戦が望ましいこと自体は変わらない。しかし、軍事的にウクライナが勝利する早期決着は現実には想定しえない。そうだとすれば、ウクライナには、抵抗を続け、少しでもロシア軍の占領地域を縮小していくほかなく、NATO諸国を中心とする国際社会は、武器の供与などを通じてそれを支えていくということになる。停戦を唱えるのみでは平和は実現しないのである。
●「マリウポリ市民避難“国連関与”で合意」国連事務総長発表  4/27
ロシア軍がウクライナ東部や南部で攻勢を強める中、国連のグテーレス事務総長が、モスクワでプーチン大統領と会談し、東部の要衝マリウポリで取り残されているとみられる市民を避難させるため、国連が関与することで合意したと発表しました。ただプーチン大統領はウクライナ側に対する強硬な姿勢を崩しておらず、事態の打開につながるのかなお不透明な情勢です。
ロシア軍は26日に東部ドネツク州のスラビャンスクやその近郊で、武器庫や地対空ミサイルシステムを破壊するなど、ウクライナ東部や南部で攻勢を強めています。
ロシア国防省は声明で、これまでの軍事作戦の成果として、東部のドネツク州とルハンシク州の大部分を掌握したとしたほか、南部ヘルソン州の全域を掌握し、東部ハルキウ州、南東部ザポリージャ州、南部ミコライウ州の一部を掌握したとも主張し、支配地域の拡大を正当化しています。
このうち南部のヘルソンでは、武装した人物が市議会の建物に侵入し、警備員をロシア側の人物に入れ替えたと、市長が25日にSNSで明らかにしました。
市長は26日、自身のフェイスブックで「きょう、ヘルソン市の新しい行政府の長だとする人物を紹介された。ロシア軍の司令官からはヘルソン市長の権限は移ると説明された」として、ロシア側から強制的に解任されたことを明らかにしました。
ウクライナ政府などはロシアが占領を正当化するためにヘルソンで住民投票を実施する動きがあるとしていて、警戒を強めています。
こうした中、アメリカのオースティン国防長官は、26日に記者会見でウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍の戦力について「地上部隊には相当な死傷者が出ている。多くの装備を失ったほか、精密誘導弾を大量に使い、主要な艦艇も失った。軍事力という点では侵攻開始当初より弱体化している」と指摘しました。
一方、軍事侵攻を続けるロシアとウクライナとの仲介に乗り出した国連のグテーレス事務総長が、26日、ロシアによる軍事侵攻が始まってから初めてロシアの首都モスクワを訪れプーチン大統領と会談しました。
会談のあと国連はウクライナ東部の要衝マリウポリで取り残されているとみられる市民を避難させるため「国連と赤十字国際委員会が関与することで原則的に合意した」と発表し、今後の具体的な協議は、国連の人道問題調整事務所とロシア国防省の間で行われるとしています。
グテーレス事務総長はこのあとウクライナへ移り、28日にはゼレンスキー大統領と会談する予定ですが、プーチン大統領はウクライナ側に対する強硬な姿勢を崩しておらず、国連トップによる仲介が事態の打開につながるのかなお不透明な情勢です。
●ロシア原油輸出量 軍事侵攻前の去年上回る 制裁影響は限定的か  4/27
厳しい経済制裁を科されているロシアからのタンカーを使った原油の輸出量は、今月に入って軍事侵攻前の去年を上回っていることが、民間の調査会社の分析でわかりました。インドや中国のほか、ヨーロッパでも受け入れが増えている国があり、現時点で制裁の影響は限定的との指摘が出ています。
ウクライナへの軍事侵攻を受けて、アメリカは先月、ロシアからの原油の禁輸を打ち出し、イギリスやカナダなども調達を取りやめる方針を示しています。
この影響について、世界の石油タンカーの運航の情報をもとに流通の状況を調査している、ベルギーの民間企業「KPLER」が分析した結果が明らかになりました。
それによりますと、ロシアから輸出され、タンカーで各国に到着する一日当たりの原油の量は、侵攻直後の落ち込みから回復し、今月は26日の時点で去年の平均をおよそ7%上回っています。
国別にみますと大幅に減っているのは、アメリカがマイナス83%、フィンランドがマイナス81%、ドイツがマイナス79%、イギリスがマイナス70%などとなっています。
一方で、インドが8.4倍、トルコが2.4倍と大きく増えたほか中国も13%増加しています。
さらに、イタリアが2.1倍などヨーロッパでも受け入れが増えている国があります。
KPLERのマット・スミス主任原油アナリストは「ロシア産原油の価格が割安になっていることから、インドなどは買い増す機会と捉えている。ヨーロッパでも禁輸の措置がない国の中には購入を続けているところがある」と述べ、今のところ制裁の影響は限定的だと指摘しています。
ロシアの原油への対応 各国の足並みそろわず
ロシアの原油輸出量は世界2位の規模で、経済を支える柱になっています。
ウクライナへの軍事侵攻を受けて世界最大の産油国であるアメリカは先月、ロシア産の原油の輸入を禁止する経済制裁を発表しました。
また、カナダやオーストラリアも輸入の禁止を決めたほか、イギリスも輸入を段階的に減らして年末までに停止するとしています。
ロシアからの原油に依存するEU=ヨーロッパ連合は、ロシアからの原油の輸入禁止を目指していますが、時期など詳細はまだ決まっていないほか、日本も輸入の禁止は打ち出しておらず、西側の足並みはそろっていません。
インド ロシアからの原油購入続ける意向
原油の多くを中東などに依存しているインドは、ロシアからの輸入量が全体の1〜2%だとしたうえで、「原油価格が上昇する中、自国の利益になる取り引きを求めるのは自然なことだ」として、ロシアから原油の購入を続ける意向を示しています。
ロシアからのエネルギー購入をめぐっては、今月11日にアメリカの首都ワシントンで開かれたアメリカとインドの外務・防衛の閣僚協議、いわゆる「2プラス2」のあとの共同会見で、インドのジャイシャンカル外相が「ロシアからのエネルギーの購入に目を向けるのなら、ヨーロッパに注目することをすすめる。私たちの今月の購入量は、ヨーロッパが半日で買う量よりも少ないのではないか」と述べ、インドだけに注目すべきではないとする考えを示しています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、インドは自国の利益を最優先に対応する姿勢を示していて、制裁を強める欧米などとは一線を画しています。
●ロシア、イギリスが攻撃挑発と非難 西側の武器提供は正当とイギリス反論 4/27
ロシア国防省は26日、イギリスについて、ロシア領内を攻撃するようウクライナを「挑発」していると非難した。これに先立ち英政府の国防担当幹部は、ウクライナがロシア国内の軍事目標を攻撃する際にイギリスが提供した武器を使用するのは「必ずしも問題ではない」と発言している。
ロシア、イギリスに警告
ロシア国営インタファクス通信が伝えた声明で、ロシア国防省は「(ロシア国内を攻撃するよう)イギリス政府がキエフ政権を挑発しているが、これを実行しようという動きがあれば、我々は直ちに相応に反応すると強調しておきたい」と述べた。
ロシア国防省は自国内が攻撃されれば、ウクライナの首都キーウ(ロシア語でキエフ)の「意思決定拠点」を直撃する用意があると警告。報復攻撃には「長距離高精度兵器」を使う準備ができているとした。さらに、その場所に西側諸国の顧問がいたとしても、報復攻撃の決定に必ずしも影響しないと述べた。
セルゲイ・ラヴロフ外相も、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナを通じてロシアに対する代理戦争を遂行していると批判。西側諸国がウクライナへ送る武器は、攻撃の対象になると述べた。ラヴロフ氏は、西側がウクライナに重火器などを提供して「火に油を注いでいる」と指摘。現在の紛争が第3次世界大戦に至る危険性を、あらためて強調した。
英国防幹部の発言は
ロシア国防省の声明に先立ち、イギリスのジェイムズ・ヒーピー国防担当閣外相は、ラヴロフ外相の発言後にBBCラジオ4の番組に出演。イギリス提供の武器をウクライナが使い、敵対するロシアの軍事目標や補給線を攻撃するのは「まったく合法なこと」だと述べた。
ヒーピー氏は、提供された武器を使ってどこの何を攻撃するか決めるのはウクライナ側であって、武器の製造者や提供者ではないとも指摘。また、ロシアと戦争しているのはNATOだというロシア側の主張を「ナンセンス」だとした。
「敵の深奥にある標的を狙い、相手の後方支援や補給線を混乱させるのはまったく合法なことだ」とヒーピー氏は言い、ロシア軍がウクライナの補給線を混乱されるためにウクライナ西部の軍事目標を攻撃するのも戦争行為の一環としては合法だとも付け足した。ただし、その際には民間人への攻撃は避ける必要があるが、「(ロシア軍は)残念ながらこれまでのところ、その点はほとんど考慮していない」とも述べた。
ヒーピー氏は英紙タイムズのタイムズ・ラジオに対しても、イギリスがウクライナに提供する武器の一部は国境を越えた標的を攻撃できるだけの長距離射程のものだと認めた上で、イギリス提供の武器をウクライナ軍が使用してロシア国内の軍事目標を攻撃することは「必ずしも問題ではない」と述べた。
英国防省の関係者は、国防担当閣外相の一連の発言を受けて、ウクライナ軍による標的選定にイギリスはかかわっていないと説明。ヒーピー氏が「深攻精密攻撃」という表現を使ったのは、ロシア国内の標的を攻撃するという意味ではなく、ロシア軍の絶え間ない砲撃を止めさせるという意味だったと話した。
「包囲下のウクライナの各都市にロシア軍が浴びせ続ける無差別砲撃に対抗するため、イギリスや西側の多くの同盟諸国は今では、射程がこれまでより長い武器システムを提供している」とも、この消息筋はBBCに話した。
「標的の選定はウクライナがやることだが、イギリスはこの紛争の全当事者が、戦時国際法を完全に順守した形で攻撃目標を決定するよう期待している」とも、この国防関係者は述べた。
ボリス・ジョンソン英首相は後に英トークTVのインタビューで、イギリスの武器がロシアの製油所などに対して使われることをどう思うか質問され、ウクライナには自衛権があると答えた。
「この危機がウクライナの国境を越えて激化してほしくない」とジョンソン首相は前置きした上で、「しかしジェイムズ(ヒーピー)が言ったように、ウクライナの人たちには明らかに自衛権がある。ロシア領内から攻撃されているわけで、(ウクライナ側には)自分たちを守り防衛する権利がある」と述べた。
ロシアはこれまで、ウクライナ軍が自国内の標的を攻撃していると主張。4月初めにはロシア西部ベルゴロド州の燃料貯蔵庫がウクライナ軍の攻撃で出火したと主張した。ウクライナ側は、自軍がロシア領内を攻撃したとは認めていない。
西側からウクライナへ武器の追加供与
西側諸国は2月末にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、数百万ポンド規模の軍事支援をウクライナに提供してきた。NATOや欧州連合(EU)当局者は、追加軍事支援についてドイツで協議を重ねている。
イギリス政府もジョンソン首相が23日に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談し、武器の追加供与を約束した。
25日にはベン・ウォレス英国防相が、スターストリーク軽量型防空システムの発射台を搭載したストーマー対空装甲車を数台、ウクライナに提供すると発表した。これによってウクライナ軍は「昼夜両用で強化された短距離防空力」を得ることになると、国防相は英下院に説明した。
ウォレス氏はさらに、ロシアは軍事侵攻開始以来、約1万5000人の兵を失ったと下院に報告。さらにロシア軍の装甲車約2000台が破壊されるか、奪われたという。
ロシアは核兵器を使わない=英首相
ジョンソン首相は後にトークTVのインタビューで、たとえウクライナでロシア軍の戦況がこれまで以上に不利になったとしても、ロシア政府が核兵器を使うとは思わないと述べた。
ジョンソン氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の国内支持基盤は「圧倒的」で、「ロシアのメディアは見る限りまったく分かっていない」ため、プーチン氏が姿勢を和らげて撤退するだけの「政治的な余地」やは十分あるという見方を示した。 
●オデーサ州の橋2日連続でロシア軍が攻撃 4/27
ウクライナ南西部のオデーサ州内の東西を結ぶ戦略的に重要な鉄道の橋が、ロシア軍によって攻撃されました。
ウクライナメディアによりますと、27日、オデーサ州ザトカの橋がロシア軍のミサイル攻撃で損傷したということです。橋へのミサイル攻撃は、26日に続き2日連続となります。
ウクライナの鉄道当局は、この攻撃による鉄道職員の被害は確認されていないとしています。
ザトカの橋はオデーサ州の主要都市オデーサと州の西側の地域を結ぶ戦略的に重要な橋で、通行不能になったことにより、今後の戦況への影響が懸念されます。 

 

●モスクワ駐在の日本大使館外交官ら8人追放へ ロシア外務省  4/28
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、ロシア外務省は27日、モスクワに駐在する日本大使館の外交官ら8人を追放することを決めたと発表しました。日本に駐在するロシア大使館の外交官などを追放した日本政府の対応への対抗措置だとしています。
ロシア外務省は27日、モスクワに駐在する日本大使館の外交官ら8人について追放する措置を決定したと発表しました。
ロシア外務省は、日本大使館の関係者を呼び出したうえで追放の処分を通告し、来月10日までにロシアから退去するよう求めたとしています。
これに先立って日本政府は今月8日、日本に駐在するロシア大使館の外交官など8人を追放すると発表し、今月20日、外交官らは日本を離れていました。
ロシア外務省は「日本の岸田政権は、欧米の仕掛けにのってロシアを積極的に非難し、長年にわたり築かれてきた相互協力関係を壊すという前例のない措置をとった。ロシアとの友好的、建設的な関係を拒否することを選択した日本政府の責任だ」として日本政府の対応への対抗措置だとしています。
これを受けて現地の日本大使館は「軍事的な手段に訴え、今回の事態を招いたのはロシア側である。責任は、全面的にロシアにある。日本側に責任を転嫁するかのようなロシア側の主張は断じて受け入れられない」として改めて抗議したことを明らかにしました。
ロシア外務省の高官は今月25日、28か国に駐在していたロシア人外交官など合わせておよそ400人がこれまでに追放されたと説明し、ロシア側もモスクワに駐在する各国の外交官などを追放する対抗措置をとっています。
●ロシア軍、「制圧」地域で一方的に親露派州知事・市長を任命… 4/28
ウクライナ南部ヘルソン州の制圧を宣言しているロシア軍は26日、州知事や州都ヘルソン市の市長を解任し、親露派の後任を一方的に任命した。ロシアが今後、親露派勢力を前面に出した実効支配を各地で進め、ウクライナ国内の分断を図っていく可能性がある。
ロシア国営テレビが伝えた。州知事や市長は26日、SNS上で相次ぎ、一方的な解任だったと主張した。
ヘルソン州では、露軍と奪還を目指すウクライナ軍との戦闘が続き、住民も抵抗している。露軍は完全制圧に向けてウクライナ側への攻撃を続けつつ、親露派執行部の擁立で実効支配の強化を狙っている模様だ。
プーチン露大統領の最側近で、侵攻計画立案への関与も取りざたされるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記は26日の政府紙「ロシア新聞」とのインタビューで、「ウクライナは複数の国家に分裂し、現政権による統治は限定的になる」と述べた。首都キーウ(キエフ)の早期攻略に失敗したプーチン政権が、国家分断の固定化に軸足を移したことを示唆した可能性がある。
ロシアが、ヘルソン州や南部ザポリージャ州の制圧地域で住民投票を実施した体裁を取り、親露派の「人民共和国」を樹立する準備を進めているとの見方がある。ウクライナ政府は警戒を強めており、27日にはヘルソン市内で「住民投票」に反対する集会が開かれた。
露国防省は26日夜、親露派武装勢力の支配地域拡大を目指しているドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)の「かなりの部分を解放した」と発表した。ウクライナ軍の抗戦で一進一退の攻防が続いているとの分析もある中、プーチン政権が5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日で実績を誇示するための布石とする思惑も指摘されている。
ウクライナ南部オデーサ(オデッサ)と接するモルドバでも、露系住民が独立を宣言している「沿ドニエストル共和国」を巡り、緊張が高まっている。25、26の両日には爆発事件が相次ぎ、ロシアがこれを口実に介入を強める可能性がある。
●ロシア軍 ウクライナ東部・南部で攻勢 支配の既成事実化に懸念  4/28
ロシア軍はウクライナ東部や南部で攻勢を強めていて、南部では、ロシア側が支配を既成事実化することへの懸念が高まっています。欧米側はウクライナへの軍事支援を強化していますが、ロシアのプーチン大統領は「電撃的な対抗措置をとる」と述べ、強くけん制しています。
ロシア国防省は27日、東部や南部でウクライナ軍の指揮所や対空ミサイルシステムをミサイルなどで破壊したと発表し、攻撃を続けています。
国防省は、26日には南部ヘルソン州の全域を掌握したと主張し、この地域の支配を強めています。
ヘルソン市の市長は26日「ヘルソン市の新しい行政府の長だとする人物を紹介された。ロシア軍の司令官からはヘルソン市長の権限は移ると説明された」として、ロシア側から市長を強制的に解任されたことを明らかにしました。
ウクライナ側からは、ロシアが占領を正当化するため、ヘルソンで住民投票を実施するのではないかという懸念が高まっていて、27日、これについて問われたロシアのラブロフ外相は「ウクライナの人々はナチズムに苦しみ、全体主義の抑圧に置かれている。人々の気持ちを最優先にしなければならない。決めるのは彼らだ」などと述べました。
また、ウクライナの隣国モルドバでは、独立を一方的に宣言し、ロシア軍が駐留している沿ドニエストル地方でロシア寄りの地元当局が27日「けさ、ウクライナ側から弾薬庫がある村に向かって砲撃が行われた。昨夜にはウクライナ側から飛んできた複数のドローンが目撃されている」とSNSに投稿しました。
沿ドニエストル地方では、これまで、2つの電波塔が破壊されたほか軍の施設でも爆発が起きているということで、モルドバ政府はロシア寄りの地元当局などによる自作自演の可能性を示唆し、ロシアがこの地域に介入してこないか警戒を高めています。
一方、ロシアのプーチン大統領は27日、サンクトペテルブルクで演説し「外部から進行中の作戦に干渉しようとするなら、ロシアにとって容認できない戦略的脅威であり、電撃的な対抗措置をとる。そのための手段はすべてそろっていて、必要であれば使用する」と述べました。
欧米メディアなどはプーチン大統領が核兵器の使用も辞さない構えを示したという見方も伝えています。
軍事侵攻を続けるロシアに対し、欧米側はウクライナへの軍事支援を強化していて、プーチン大統領は強くけん制した形です。
現地ジャーナリストが語る 東部マリウポリの状況
ウクライナ東部のマリウポリで活動してきた現地のジャーナリストが27日、NHKのインタビューに応じ、厳しい状況を語りました。
インタビューに応じたのは、マリウポリ出身のウクライナ人ジャーナリスト、アルテム・ポポブさん(30)で、1週間ほど前に現地を離れ、現在はウクライナの別の場所で避難生活を送っています。
マリウポリ周辺では地元の市議会などが「ロシア側が集団墓地を作り、市民の遺体を埋めた」としていて、こうした場所はこれまでに3か所確認されたとしています。
ポポブさんは、このうちの1か所の現場を見た人の話として「遺体はロシア軍のダンプ車から直接、穴に入れられ、人間を扱うのではなく、木材を扱うようだったということです」と述べました。
またマリウポリでは、水が飲めず亡くなった子どもや、絶え間ない攻撃のストレスで自殺を選んだ人もいたとして「この心の傷を治せるかどうかわからないです」と話していました。
そして「マリウポリを出ることは本当につらかったし、戻りたいです」としたうえで「ウクライナ軍は数が圧倒的に少ないです。マリウポリで起きた戦いがウクライナのすべての街で起こる可能性がありますが、そう口にしたくはありません」と述べ、各国に対しさらなる支援を訴えました。
●ウクライナに投入した傭兵が4割戦死の衝撃…プーチン「5.9勝利宣言」絶望的 4/28
プーチン大統領は5月9日の対独戦勝記念日での「勝利宣言」を目指し、攻勢を強めようとしているが、絶望的になってきたのではないか。ロシア兵の戦死者数が膨れ上がっている可能性があるからだ。ウクライナに投入した傭兵の4割近くが戦死したとの報道もあり、衝撃が走っている。
ウクライナ戦争のファクトチェックを続けている英調査報道機関「ベリングキャット」の常務取締役、クリスト・グロゼフ氏は19日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がウクライナに派遣した傭兵8000人のうち、37.5%にあたる3000人が戦死したと考えられると語った。21日付の英デーリー・メールが報じた。
ワグネルはプーチン大統領の料理人と呼ばれるプリゴジン氏が資金提供している。ロシア西部に訓練場があり、これまでにシリアやリビアなど28カ国で活動。民間人殺害や拷問などの疑惑が持たれている。ロシアによるウクライナ侵攻直後から、シリアなどで傭兵を募集。ブチャなどの住民虐殺にも関与したとされている。軍事ジャーナリストの世良光弘氏はこう言う。
「外国人が中心の傭兵の戦死はロシア軍に責任は生じず、国内世論の批判も起きにくい。このため傭兵は最も危険な最前線に投入されることが多く、戦死する確率も高い。それにしても、2カ月間で投入の4割近くの傭兵が亡くなるというのは、かなりの確率です。ロシア側が相当苦戦しているということです」
ウクライナ国防省は23日、ロシア軍が、占領したウクライナ東部や南部の地元住民を徴兵していると非難した。
「住民の徴兵はロシア兵の不足が深刻なことを示しています。兵士の戦死数について、報道統制などによりロシア国民には覆い隠せても、兵士は仲間の死を目のあたりにしています。ロシア兵の死者数が膨れ上がれば、兵士数が減るだけでなく、士気の低下も避けられない。ロシア軍が戦争を続け、戦果を上げるのは苦しくなっていくと思われます」(世良光弘氏)
英国のウォレス国防相は25日の下院で「約1万5000人のロシア兵が死亡していると見積もっている」との分析を披露。10年間で1万4000人超の旧ソ連兵が亡くなったアフガニスタン侵攻をわずか2カ月で上回っている。英国防省は25日付の戦況分析でロシア軍地上部隊の進撃は「小規模」にとどまっていると報告している。補給や戦闘面で支援が行き届いていないという。
軍の弱体化に追い詰められたプーチン大統領はどんな手に出るのか。
●ロシア「核戦争は現実的」 ウクライナ支援の米欧威嚇 4/28
ロシアがウクライナへの軍事支援をやめるよう米欧を威嚇している。ロシアのラブロフ外相は核戦争に発展する危険性について「現実的で過小評価できない」と警告。米軍トップのミリー統合参謀本部議長は核保有国の振る舞いとして「全く無責任だ」と非難した。言葉の応酬は緊張を高めて不測の事態を招きかねない。
ラブロフ氏は米欧が強化するウクライナへの武器供与に関し「実質的にロシアと戦争している」とも主張した。ロシアは首都キーウ(キエフ)の制圧に失敗し、キーウ周辺の軍を再配置させてウクライナ東部に戦力を集中させている。5月9日の対独戦勝記念日に向けて成果を焦るロシアはいら立ちを強めているもようだ。
ミリー氏は26日、米CNNのインタビューで「ロシアからの核の脅威を監視している」と述べた。ウクライナ侵攻について「第2次世界大戦の終結以来、欧州の安全保障への最大の挑戦だ。1945年に導入された国際安保秩序は危機にひんしている」と話した。
「ロシアがこのまま逃げ切れば国際秩序は崩壊し、ますます不安定な時代に突入する」とも語り、ウクライナ支援を継続する重要性を訴えた。西側諸国がロシアを放置すれば、覇権主義的な動きを強める中国などの増長につながりかねないとの思いがある。
ウクライナ侵攻以降、ロシアは核兵器の使用を辞さないと繰り返す。米情報機関はロシアによる核使用の兆候を示す「現実的な証拠は見られない」と分析。現時点で「核」に言及するのはロシアによる「脅し」の側面が強いとみられるが、米国は警戒を解いていない。
●プーチン大統領「作戦干渉なら電撃的な対抗措置」欧米側けん制  4/28
ウクライナ情勢をめぐってロシアのプーチン大統領は27日「外部から進行中の作戦に干渉しようとするなら、電撃的な対抗措置をとる。そのための手段はすべてそろっている」などと述べました。ウクライナへの軍事支援を強化する欧米側を強くけん制した形です。
ロシアのプーチン大統領は27日、サンクトペテルブルクで演説し「外部から進行中の作戦に干渉しようとするなら、容認できない戦略的脅威であり、電撃的な対抗措置をとる。そのための手段はすべてそろっていて、必要であれば使用する」などと述べました。
プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻を始めた直後に「現代のロシアは、ソビエトが崩壊したあとも、最強の核保有国の1つだ」と核大国であることを誇示しています。
今回の発言について欧米メディアなどは、ロシアが核兵器の使用も辞さない構えを示したという見方も伝えていて、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米側を強くけん制した形です。
一方、アメリカ国防総省のカービー報道官は27日の記者会見で核兵器をめぐるこのところのロシア側の発言について「核の対立が起こるのではないかと不安にさせるのは無責任だ」と批判したうえで「われわれの核の戦略的な抑止態勢を変えさせるようなことは引き続き何も見当たらない。国土や同盟国などを防衛する能力に自信を持っている」と述べました。
●世界はウクライナに軍事援助を送り、ロシアに巨額のエネルギー代を払う 4/28
プーチン大統領のghastly(おぞましい)侵略戦争は、ロシアが化石燃料を世界、特にヨーロッパに売ることによって得るお金で継続している。石油と石油製品は、ロシアにとって非常に重要な輸出品である。ガスが3番目に重要な輸出品で、残りのすべての輸出品を合わせた金額よりも高い。エネルギー輸出による収入は、ロシアの国家予算の40%以上を占めている。つまり、ロシアの石油とガスを購入することで、プーチンの軍隊に資金を供給しているのである。
ウクライナは喜ばしいことに、ロシアによるキーウ(キエフ)占領の試みをrepelled(撃退した)が、同国東部での攻撃は依然として強化されている。また、世界各国政府による制裁はロシア経済に何らかの影響を与えているようだが、侵攻以来、EUが輸入を減らしていないこともあり、ロシアの石油輸出は減少していない。その一方で、石油やガスの価格は上昇している。プーチンからすれば、戦争のpaying for itself(もとが取れる)ということだろう。
米国は侵攻以来、ウクライナに約160億ドルの援助を捧げている。一方世界は今年、ロシアに3200億ドルをエネルギー代として支払うと予想されている。このgaping(ぽっかりと空いた)loophole(抜け道)がある限り、経済制裁はプーチンに戦争を終わらせるのに十分な効果を発揮しないだろう。世界がロシアへのエネルギーの依存を終わらせない限り、プーチンを決定的に止めることはできないだろう。このロシアへの収入源を断つことは、道徳的にも戦略的にも緊急の課題であると指摘されている。
「共犯者になるな」リトアニア外相の呼びかけ
リトアニアのランズベルギス外相は、「ロシアの石油とガスを買うことは、戦争犯罪に資金を提供することだ」と明快に述べている。彼の国はロシアからのガスの輸入をすべてストップしている。彼はこう続けた。「親愛なるEUの友人たちよ、プラグを抜いてくれ。Accomplice(共犯者)にならないでください 」と。
実際、ロシアの最も重要な顧客はEUであり、ロシアのガス輸出の約60%、石油輸出の50%、石油製品輸出の50%を買っている。欧州は2月24日以降、これらの製品のために190億ドル以上をプーチンに支払っている。プーチンは侵攻までの数カ月間、欧州へのロシアのガスの流れを約4分の1に引き締め、それに呼応する形で価格が高騰した。彼は、欧州ガス市場の支配を経済的かつ政治的武器として利用してきた。
特にドイツは、in effect(事実上)プーチンの主要なenabler(支援者)となっている。長年にわたり、ドイツはガス輸入の半分以上、石油輸入の3分の1、硬質石炭輸入の半分をロシアに依存しており、ロシアによるエネルギー供給のweaponizing(武器化)についての米国や他の同盟国からの警告を無視してきた。ロシアのウクライナ戦争は、ドイツにとってwake-up call(警鐘)となった。ドイツは何十年もの間、モスクワとの貿易と経済の相互依存がヨーロッパの平和を維持することに賭けてきたのである。
ドイツの家庭の半分はガス暖房であり、ドイツのvaunted(自慢)の輸出産業の多くもガスでまかなっている。メルケル前首相の時代に脱原発を掲げ、以前にも増してロシアへの依存度を高めていることも一因である。ロシアからのエネルギー輸入をやめることは、他のヨーロッパ諸国と同様、パンデミックからまだ回復していないドイツ経済にマイナスの影響を与えるため、脱却することは短期的には容易なことではないだろう。
ドイツの金融新聞ハンデルスブラットは社説でこのように書いている。「我々はクレムリンの人質のようなものだ」
今ドイツでは、ロシアの石油や天然ガスからどれだけ早くwean itself off(離脱)できるか、政府は国民にどのような犠牲を求めるべきかという議論がintensifying(活発化している)。ショルツ首相は禁輸は経済にwreak havoc on(大きな打撃を与え)、社会不安の原因になると主張する。ドイツ政府は、ロシアからの供給から独立するには少なくとも2年かかると述べている。
しかし、いくつかの研究によると、ロシアからのエネルギー輸入を禁止すればドイツ経済に打撃を与えるものの、その経済的ダメージは最終的にmanageable(対処可能)なレベルであることが分かっている。ヨーロッパはすでに来年の冬まで十分なガスを確保しており、国際エネルギー機関は、節約と代替供給のためのviable(実行可能)な計画を示し、ヨーロッパのロシア製ガス輸入を3分の1以上減らすことができるとした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ドイツの指導者たちに、この問題を「経済のプリズムを通して」ではなく、道徳的な観点から見るようにとimplored(懇願)している。
脱・化石燃料の険しい道
ウクライナ戦争は、気候変動危機の間、各国政府が学ぶことができなかった真実、すなわちエネルギーは国家の安全保障の問題であり、化石燃料から脱却して再生可能エネルギーに置き換えることが力の源であることを、starkly(はっきりと)明らかにした。化石燃料は気候だけでなく、石油国家であるロシアのような問題のある政権への依存を生み出すことによって、地政学をも不安定にする。
ニューヨーク・タイムズの人気コラムニスト、トム・フリードマンは以下のように述べた。「これは、地下から採掘した石油があるからこそ、そのviciousness(悪質さ)とrecklessness(無謀さ)を可能にする石油独裁者とのumpteenth(何度目か)の対決である。ウクライナでの戦争がどのように終わるにせよ、アメリカが最終的に、正式に、categorically(断固として)、不可逆的に石油への依存を終わらせる必要がある」
石油、ガス、石炭から風力や太陽光などの持続可能なエネルギー源に投資を移すこと、炭素排出の制限と課税、電力を送るための新しいエネルギーインフラの構築は、ヨーロッパと世界の他の地域が化石燃料から離脱するために極めて重要である。しかし、これらはいずれも移行期間中にコストを引き上げる可能性が高く、国民と政治家にとって極めて飲み込みにくい薬である。
3月上旬、バイデン大統領がロシアからの石油の輸入を禁止すると発表した数分後、米国最大の石油・ガスのロビー団体である米国石油協会が、ヨーロッパへのガス輸出の増加を求める声明を発表した。
ロシアのガスをアメリカのガスに置き換えるというのは、分かりやすい選択肢のように思えるかもしれない。しかし、化石燃料産業や一部の政治家の主張があるとしても、米国は一夜にして欧州への輸出を大きく増やすことはできない。
米国内の輸出基地は限界に近いため、米国はまず、採掘されたガスを液化天然ガスに変換する施設を建設し、輸出に対応できるようにする必要がある。EUの輸入基地もすでにフル稼働しているため、ガスを燃料に戻すための新しい基地を建設する必要がある。
代替案としては、エネルギー効率化の取り組みを大幅に強化し、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを大量に導入することが挙げられている。
今こそ、クリーンエネルギーへの移行を促進するための大胆な行動をとるべき時だという声は多い。3月上旬、venerable(由緒ある)ピューリサーチセンターが米国の成人1万人以上を対象に行った調査を発表したところ、約70%が 石油、石炭、天然ガスの生産拡大よりも風力や太陽光などの代替エネルギーの開発を支持する結果となった。
化石燃料への依存度が高まる皮肉
ロシアのウクライナ戦争に絡むエネルギーショックは、地球温暖化対策として二酸化炭素排出量を急速に削減しようとする各国のresolve(決意)に対する試練になっている。皮肉なことに、ロシアのウクライナ侵攻は、各国の化石燃料からの移行スケジュールを破綻させることになった。より安定したエネルギー供給を求め、石油、ガス、石炭への転換を急ぐと同時に、脱石油を進めているからだ。
再生エネルギーの早期導入が困難なため、多くの国が化石燃料への依存を強めている。今後数年間、家庭の暖房や工場の電力供給、物資の輸送をlock up(確保する)ために、ロシア以外の供給源(石炭を含む)から十分な量の供給を確保しようと競い合っているのである。
同時に、特にヨーロッパでは、風力発電や太陽光発電などのグリーンエネルギーへの転換計画を加速させている。その目的は、気候変動に関する目標を達成すると同時に、地政学的に不安定な石油やガスの供給に対するエクスポージャーを恒久的に減らすことにある。また、原子力発電をrevisiting(見直す)動きもある。気候変動がウクライナの戦争で止まることはないので、これはすべて良いことである。
しかし、再生可能エネルギー源への速やかな転換には、技術、財政、規制、政治などの、despair-inducing(絶望を誘う)障害が存在する。トラックや自動車、飛行機の動力源となる水素のようなクリーンな代替燃料を安価に生成、輸送、貯蔵できるようになるのは、まだ何年も先のことである。また、より良いビジネスモデルを見つける必要もある。
多くの国が気候変動に対する大きな野心を抱いているにもかかわらず、再生可能エネルギー分野の多くの企業は、利益を上げ、工場の資金を調達するのに十分な速さで注文を受け続けることに苦労している。例えば、風力タービンの設置にsuitable(適した)地域を特定し、建設に必要な許可を得るには長い時間がかかる。広大なタービンの列が漁業の妨げになったり、海軍の演習の妨げになったり、別荘からの景観をblight(損ねる)のではないかという心配があるからだ。風力発電所の許可取得に7年もかかるようでは、すぐに実現される「自然エネルギー革命」を語ることはできない。
もうひとつの心配は、世界の再生可能エネルギー市場を中国が独占しているという事実だ。風力タービンの部品の85%を供給し、その半分を製造し、ソーラーパネルの70%を製造している。また、風力発電機、ソーラーパネル、電気自動車のバッテリーに使用されるリチウムイオンの90%、レアアースの85%を中国が採掘している。
産業スパイ、知的財産の窃盗、政敵へのスパイ行為でnotorious(悪名高い)中国は、その低い人件費と規模の経済を利用して、グリーンエネルギー分野の国際的な競争相手を廃業に追い込み、また海外の風力発電や太陽光発電会社に投資してきた。現在、太陽電池の95パーセント、太陽電池モジュールの85パーセントが中国製である。
「もし、将来のある時点で、中国が台湾を侵略することになったとしたら、世界は中国のグリーンエネルギーに対して、現在のヨーロッパのロシアの化石燃料エネルギーに依存しているのと同じようになるだろうか?」とある記事が問いかける。日本を含む他の国々は、自国の再生可能エネルギー部門が中国に対抗できるようにする方法を考えるべきだと思う。
●ウクライナ戦争で全世界が武器購入…2兆ドル軍拡競争 4/28
昨年の世界の軍事支出が初めて年間2兆ドル(約2500兆ウォン)を突破した。2014年にロシアがウクライナを脅かすと、欧州各国が先を競って武器を購入して軍拡競争に火がついた。また、中国が米国に対抗して「軍事崛起」を進めると、日本・オーストラリアも軍拡競争に飛び込んだ。2兆ドルは世界79億人の人口の73日分の食費(1人一日平均3.69ドル、アワー・ワールド・イン・データ)にあたる。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が発表した「世界軍事費現況」によると、全世界が昨年支出した軍事費は2020年比で0.7%増の2兆1130億ドル(約2640兆ウォン、約267兆円)だった。インフレ効果を考慮しない名目上の増加率は6.1%だ。軍事強大国の米国は昨年8006億ドルを投入し、全世界の軍事費の38%を占めた。次いで欧州(20%)、中国(14%)などの順だ。SIPRIのルーシー・ベラウ・スドロ軍備および武器生産プログラム責任者は「世界軍事支出が2015年以降増えている。これは欧州の軍事費が増加したため」とし「欧州は2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を合併したことで安保の脅威を感じて軍事費の支出を増やした」と分析した。NATO(北大西洋条約機構)加盟国30カ国のうち11カ国が昨年、GDPの2%以上を軍事費として支出した。
ロシア、ウクライナ侵攻準備で年間659億ドル支出
ロシアはウクライナ侵攻を準備し、昨年の軍事支出が659億ドルとなった。ロシア国内総生産(GDP)の4.1%水準で、前年比2.9%増だ。特に武器調達と作戦費用が増えた。2020年末に決まった当初の金額より14%多い484億ドルだった。ロシアに対抗するウクライナの国防費も増えた。昨年の国防費は59億ドルと、GDP比3.2%だった。7年前の2014年に比べ72%増だ。
ウクライナ戦争ドミノ…欧州の軍事費が大幅増加
2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、ドイツとフランスも驚いた。特にドイツの国防予算増額は破格的だった。特別防衛基金で1000億ユーロ(約125兆ウォン、約13兆円)増額し、今年から毎年GDPの2%を国防費として支出すると明らかにした。再選に成功したフランスのマクロン大統領も2025年までに国防費をGDPの2%水準に合わせることにした。ブルームバーグ通信は「複数の欧州国家が軍備拡張を発表し、今年の世界軍事費はさらに増えるだろう」という見方を示した。
日本・豪州、27年連続で軍備拡張の中国を警戒
アジア・オセアニア地域では中国を警戒している。27年間にわたり軍備拡張を続けてきた世界2位の中国は昨年2933億ドルを投入した。中国の習近平国家主席は2035年には軍の現代化を終え、2049年には米軍のような世界一流の軍隊を作るという野心に満ちた計画を発表した。中国は最近、南太平洋のソロモン諸島とも安保協定を締結し、緊張を高めている。このため日本・オーストラリアが軍事支出を大きく増やした。日本は昨年、前年比7.3%増の541億ドルを国防費に投入した。1972年以降、最も大幅に増えた。日本が国防費としてGDPの1%以上を投じたのは太平洋戦争以降初めて。オーストラリアも2020年比4%増の318億ドルで、これはGDPの2%水準。ウクライナ戦争以降、日本では防衛費をさらに増やすべきだという声が出ている。今月3日、安倍晋三元首相は「予期せぬ衝突は軍事バランスが大きく違う時に起こりやすい。日本と中国でも軍事的アンバランスになっている」と述べ、防衛費本予算を現在より11%多い6兆円規模に増やすべきだと主張した。また自民党は5年以内に防衛費を2%以上に引き上げることを政府に提案することにしたと、共同通信が16日報じた。
軍拡競争で表れた「新冷戦構図」
軍拡競争が加熱し、米国を筆頭とする欧州・アジア・オセアニア地域の同盟国と、中国・ロシア・北朝鮮など反西側国家の間の対立が明確になっている。「新冷戦構図」の強化・固着に対する懸念が強まっている。SIPRIによると、世界軍事支出の3大国家は米国・中国・ロシアで全体の55%を占める。特に覇権競争中の米国と中国が52%で、米中が全世界軍備の半分を超える。またNATOとアジア・オセアニア同盟国(韓国・日本・オーストラリア・ニュージーランド・台湾)など米国と同盟国を合わせると全体の60%以上となる。また、代表的な親露国家ベラルーシ(7億6200万ドル)の軍事支出の増加が異例の水準になったと米メディアのアクシオスは伝えた。SIPRIは中国・ロシアと近い北朝鮮の軍事費は発表しなかった。米グローバルファイヤーパワー(GFP)によると、北朝鮮は2020年の軍事費が16億ドルだった。元空軍大学総長のキム・グァンジン淑明女子大客員教授は「ウクライナ戦争で米国と欧州の結束力が強まり、逆にロシアは経済制裁などの余波で中国とさらに近づいて、新冷戦構図が明確になった。冷戦時代にも軍事支出が多かったが、似た様相に向かっている」と伝えた。峨山政策研究院のヤン・ウク副研究委員は「新冷戦が進行中と見るべき」とし「米中覇権競争にロシアという変数までが浮上し、欧州の軍事支出は今後さらに増えるはず」と述べた。また「ウクライナ戦争で外交的な努力が意味のある進展を得られない状況で、世界各国の自主国防の必要性はさらに高まっている」と話した。
米国の武器が売れる
全世界軍拡競争の中、米国は笑みを浮かべていると、海外メディアは伝えた。仏フィガロは「米国はウクライナ戦争で利益を得る部分がある。武器産業がその一つ」と報じた。欧州国家が先を競って米国企業の武器を購入しているからだ。ドイツは先月、米ロッキード・マーティンからF35ステルス機35機を購入することにし、フランス軍も米国の武器を購入する可能性があるという。フィガロは「フランス軍が導入することにした(欧州の)エアバスの軍輸送機A400Mは米マクドネル・ダグラスが開発したC−17に変更される可能性がある」と伝えた。米国産の先端無人機(ドローン)も人気品目だ。仏ルモンドは「武器契約戦争が欧州・米国企業の間で進行中」とし「欧州の多くの国が『米国産』を好む。これは『主権』を得ようという熱望を表している」と報じた。SIPRIによると、世界10大軍需企業の半分が米国企業だ。ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、ジェネラル・ダイナミクス、レイセオン・テクノロジーズだ。これら企業の株価はこの6カ月間に10−18%上昇している。 
●ウクライナでの“戦争犯罪” ロシアは捜査協力を拒否の姿勢  4/28
ロシア軍の侵攻を受けているウクライナで行われた疑いのある戦争犯罪などについて、捜査を進めているICC=国際刑事裁判所の主任検察官は、国連安全保障理事会の会合で、ロシアに対し独立した捜査に協力するよう求めましたが、ロシアの代表は「ICCに正義はない」として拒否する姿勢を示しました。
オランダのハーグにあるICCは、ロシア軍の侵攻を受けているウクライナで行われた疑いのある戦争犯罪や人道に対する罪について捜査を進めていて、多くの市民が殺害されているのが見つかった首都キーウ近郊のブチャなどの状況を調べています。
こうした中、国連安保理では27日、フランスやアルバニアの主催でウクライナでの残虐行為に対する説明責任をテーマにした非公式会合が開かれ、ICCのカーン主任検察官が報告しました。
この中でカーン主任検察官は、43か国からウクライナの状況を捜査するよう要請があったとして、ウクライナの協力も得て捜査を行っていると強調しました。
一方で、ロシアに対しては、これまでに3度書簡を送ったものの返答がないと明らかにしたうえで「われわれは真実を明らかにしたいだけで、政治的な意図はないと伝えたい。法律はひとしく適用される」と述べ、ICCによる独立した捜査に協力するよう求めました。
これに対しロシアの代表は「ICCは政治的な道具になっており、正義はない」と主張し、要請を拒否する姿勢を示しました。
●トラス英外相、ロシアを「ウクライナ全土から押し出すべき」 4/28
イギリスのリズ・トラス外相は27日、ロシア軍を「ウクライナ全土から」押し出さなければならないと発言した。
ロンドン市長の官邸「マンション・ハウス」での基調講演でトラス外相は、ウクライナの勝利は西側諸国にとって「戦略的急務」となっていると語った。
イギリスはこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻を「失敗させ、そう見せる必要がある」と述べるにとどまっていた。この日のトラス氏の発言は、ウクライナでの戦争をめぐるイギリスの目標を、これまでで最も明確に示したものといえる。
トラス外相は、西側の同盟諸国はウクライナへの支援を「倍増」しなくてはならないと強調。「ロシアをウクライナ全土から押し出すために、これまで以上に、より早く行動し続ける」と述べた。
これは、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとの考えを示唆したものとみられる。
侵攻開始から1カ月の節目に、ロシアはその目的を「ドンバスの解放」と位置付けた。ここでいうドンバスとは主に、ウクライナのルハンスクとドネツクの両州を指している。
これらの地域の3分の1以上はすでに、2014年に始まった紛争で親ロシア派の武装組織が制圧している。
トラス氏の野心的な目標は、全ての西側諸国と共有されているわけではない。武力によってであれ交渉によってであれ、達成は難しいとの懸念があるためだ。
フランスやドイツの政府関係者からは、戦争の目的を明確にすればロシアを挑発するリスクがあるという慎重な声も出ている。それらの関係者は、ウクライナ防衛という表現に絡めて話をすることを好んでいる。
トラス外相の発言は、目標を高く設定することで、ウクライナが今後、交渉の場に立った際に、政治的和解についてより有利に立てるようにしたいという西側諸国の思いを反映している。
トラス外相はまた、西側諸国は「経済的影響力」を使って、ロシアを西側の市場から排除すべきだと述べた。
「グローバル経済へのアクセスは、ルールにのっとっているかで決められるべきだ」とトラス氏は指摘した。
最大野党・労働党のデイヴィッド・ラミー影の外相は27日、トラス氏の演説は、保守党政府の10年超にわたる防衛・安全保障政策の「失敗を認めたように思える」と指摘した。
対ロシア防衛の拡大を強調
トラス氏は演説の中で、西側諸国はロシアのさらなる侵攻を防ぐための対策を講じるべきだと訴えた。
これには防衛費の増額も含まれるとし、北大西洋条約機構(NATO)が各国の拠出目標として設定している国内総生産(GDP)2%という数値は「上限ではなく下限と見るべきだ」と述べた。
さらに、ロシアから脅威を受けている国々に対する武器供与にも積極的な姿勢を示した。
「ウクライナだけでなく、西バルカン諸国やモルドヴァ、ジョージアといった国々が、主権と自由を維持する耐久力と能力を持てるようにするべきだ」
また、スウェーデンやフィンランドがNATO加盟を選んだ場合には「迅速に統合させることが必要だ」と述べた。
「ウクライナの戦争は我々の戦争、全員の戦争だ。ウクライナの勝利は、我々全員の戦略的急務になっているからだ」
「重火器、戦車、戦闘機……倉庫の奥まで探し回って、生産能力を高める必要がある。そのすべてをする必要がある」
「私たちは慢心できない。ウクライナの運命はまだ拮抗(きっこう)している。はっきりさせておきたいのは、もしプーチン大統領が成功すれば欧州全体に甚大な悲劇が起こり、世界中に恐ろしい影響が出るということだ」
プーチン大統領は27日、ウクライナに介入する国は「電光石火」の対応に直面することになると警告した。
議会での演説でプーチン氏は、「我々にはあらゆる手段がある。(中略)我々はそれを鼻にかけるのではなく、必要に応じて使用する」と述べた。
プーチン氏の言う「手段」は、弾道ミサイルや核兵器を指しているとみられる。
●「Z」の意味判明?ウクライナ侵攻のロシア軍車両に書かれた謎マーク 4/28
ウクライナに侵攻するロシア軍車両に描かれた「Z」マークが、ロシアの国内外でトラブルを引き起こしている。軍隊を賞賛するとされたシンボルをめぐって何が起きているのか。
Zの意味は長らく謎だった。ロシア軍の所属部隊を示すのか、勝利のアイコンなのか、諸説ある中、米誌ニューズウィーク(4月19日)が、「ロシア国営テレビのニュース番組が真相を明らかにした」と報じた。
5月9日に予定される第2次大戦の戦勝記念の式典で、ロシアのミグ戦闘機の編隊が、8機で空にZの文字を描く。同誌によると、それは数字の「7」とそれを逆さまにしたものを組み合わせたものだという。7を二つ合わせて77で、2022年に迎える「戦勝77周年」を表すという。
プーチン政権は、第2次大戦でのナチス・ドイツに対する勝利を、国民を束ねる共通の誇りとしてきた。そのため、それを祝う「戦勝記念日」(毎年5月9日に開催)は最も重要な祝日の一つとなっている。
モスクワの赤の広場では今年、1万1千人の兵士が戦車などと軍事パレードを行う予定だ。Zを掲げるプーチン大統領は、その日までに「戦果」をあげようと、あせっているようにも見える。
ロシアは今、プーチン支持者のZであふれている。地下鉄駅の広告、劇場や公民館の壁。Tシャツのデザインにしたり、自家用車の窓ガラスに描いたりする人も少なくない。
ロシア紙コメルサントは4月20日、Zに関する写真を特集。シベリアから欧州部にわたるロシア国内9カ所から、バレリーナなどの人文字、トラクターの車列、焼き菓子や卵の表面に描かれた文字を紹介した。
一方、全体主義的な体制のロシアで、Zは反戦の声を封じ込める手段にもなっている。
モスクワの反体制活動家イリヤ・パホモフさんは4月12日、ツイッターで、Zが二つ描かれた自宅ドアの写真を公開した。パホモフさんの顔写真を印刷した紙の上に「(ウクライナの)協力者」「祖国を売るな」と書かれている。
だが、十分な戦果をあげられない中、クレムリン(ロシア大統領府)にとっては大衆の熱狂が行き過ぎるのは、危険性もはらむ。
ロシア紙RBKによると、ペスコフ・ロシア大統領報道官は3月末、Zを使った嫌がらせを「異常な不良行為」と呼び、「捜査当局に届け出てほしい」と火消しを図った。
では、どれだけのロシア人がZ、つまり、ウクライナでの戦争を支持しているのか。独立系世論調査会社ロシア・フィールドが4月中旬、ロシア全土で「特別軍事作戦」についての世論調査を行った(電話調査、サンプル数1627人)。主な質問と回答の割合は次のとおり。
――もし過去に戻れるならば、軍事作戦を取りやめたいと考えるか。
はい  28%  / いいえ 56%
――「特別軍事作戦の継続」と「和平交渉への移行」のどちらに賛成か。
特別軍事作戦 54% / 和平交渉   35%
――(男性のみ質問)ウクライナでの軍事作戦に加わる機会が与えられたら、どうするか。
参加する   34% / 参加しない  56%
Zには自分以外の人間が戦うのなら応援する、というニュアンスもあるようだ。
一方、Zに反対する声も少数ながらあがっている。
ロシアの著名パンクバンド「ノグ・スベロ!」(リーダー=マクシム・ポクロフスキーさん)は4月20日、自作の反戦歌「Z世代」のビデオクリップをYouTubeにアップした。炎に「Z」と書いた紙をくべて燃やすパフォーマンスをしている。
「大国」や「民主主義」と書かれた紙を次々燃やす。歌詞は、「ロシア人よ、我々自身を滅ぼそうというのか」「こなごなに砕け散り、どこの土地か見分けがつかない」とウクライナに想いをよせ、「(ロシアは)中国の辺境になるだろう」と批判し、「ロシアを征服しようなんて誰も思ってない、落ち着け」と訴える。
マクシムさんは、ウクライナ・メディアTSNのインタビュー取材(4月22日に掲載)に応じ、次のように述べた。
「社会の指導的な立場の人々が許さなければ、こんなことにならなかった。芸術家でプーチン大統領のウクライナでの行いを支持する人がいるが、心底、軽蔑します」
モスクワの南方、トゥーラ州の地元メディア「トゥーラTV」(4月22日)によると、幼稚園で窓ガラスのZの紙が次々はがされる事件が起きた。
はがしたのは園児の母親エカテリーナさん。園長が「国のシンボルへの侮辱だ」と止めるのを振り切り、「幼稚園の恥だ」と訴えた。その日のうちに、ロシア軍の信用棄損の罪で罰金4万8千ルーブル(約8万円)を科された。
地元のネットメディアに対し、エカテリーナさんは次のように語った。
「幼稚園児を政治に巻き込むのはおかしいと思いました。幼稚園の窓に描くのは、Zじゃなくてお花やハトの絵のはずです。市内の小中学校の多くでも窓にZが貼られている。みんなプロパガンダに染まっていて、『今は苦しいけれど、そのうち良くなる』と思っているんです」
SNSで事件を知ったサンクトペテルブルクなどに住む複数のロシア人から、「罰金を代わりに支払いたい」と、支援の申し出があったという。しかし、同じ幼稚園に子供を通わせる親たちからは無視されるようになった。幼稚園は、窓にZの文字を貼り直したという。
国際社会はどうか。Zの出現に戸惑うのは、ロシアと関係が深い旧ソ連諸国だ。ロシア系住民が少数民族として国内におり、民族間の摩擦が懸念されるためだ。
ロシアの影響力が、ベラルーシ以外で最も強く及ぶのは中央アジアで、カザフスタンやキルギスなどがロシア主導の集団安全保障条約機構(CTSO)に加盟し、ロシアの支援を受ける。
ところが、キルギスは4月21日、治安当局が、戦勝記念日にZを身につけないよう警告する公式文書を出した。
理由は、「民族間の争いを招く」ことだという。同国はロシア系住民が人口の5%。彼らがロシア支持の集会を開催する一方、反ロシアの市民も対抗して反戦集会を開いている。
首都ビシュケクに住む20代のキルギス人の団体職員は、オンライン取材に次のように話した。
「ロシアのテレビ番組が放送されているので、50代以上はその影響でウクライナでの戦争を支持する人が多い。若者はSNSが情報源で、反戦集会へ行く。民族だけでなく、世代で世論が割れており、Zは政治を不安定化させかねないのです」
一方、ロシアと対立が続くバルト3国。エストニア、ラトビア、リトアニアのいずれもがNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、ウクライナ支持を明確にしている。
中でも、ラトビアは、ロシア系住民が人口の25%と特に多い。地元メディア「TVNET」は3月17日、ZがTシャツの意匠など、国内各地で使われていると報じた。
政府は対抗策を取った。3月31日、Zの使用を禁じる法律を制定。違反者には400ユーロ(5万6千円)以下の罰金が科される。
リトアニア、エストニアも4月21日までに、Zを禁じる法律を制定した。
ウクライナの隣国モルドバは、Zをめぐり緊張が高まっている。
モルドバではソ連崩壊後、ロシア語を母語とするロシア系住民ら分離独立勢力が、自称「沿ドニエストル共和国」を樹立。ロシア軍が駐屯するようになった。4月22日、ロシア中央軍管区副司令官が、ロシア系住民が「迫害されている」として、ウクライナ経由でモルドバまで侵略する可能性を示唆した。
モルドバ政府は先手を打つように4月19日、反Zの法律を施行。Zのほか、同じく軍用車両に描かれている「V」、ナチズムへの勝利を意味する「聖ゲオルギーリボン」といったロシア軍支持のものを作成・販売したり、身に着けたり、展示したりすることを禁じた。
ウクライナに平和が訪れる日はまだ分からない。多くの国や市民の、Zへの苦悩は続く。
●プーチンの嘘を次々に打ち砕く…ロシアの軍事機密を丸裸にする「衛星」技術 4/28
グーグルマップでロシアの「軍事施設」が丸見えに
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から約2カ月。当初、2日以内に首都キーウ制圧を目指したプーチン大統領だが、思い通りにいかなかった。4月21日には、南東部マリウポリを制圧したと宣言したが、ウクライナ側は認めず、苦戦が続く。そんなプーチン大統領の焦りと苛立ちを加速させているのは、21世紀に飛躍的に発展した「衛星画像」「SNS」という2つのテクノロジーだ。
「ロシアの軍事施設がはっきり見える」「OSINT(オープンソースインテリジェンス、オシント)しよう」――。4月下旬、こんなツイートと衛星画像がまたたく間に世界に拡散した。
オープンソースインテリジェンスとは、公開された情報を突き合わせて分析すること。衛星画像をもとにロシアの軍事能力を皆で分析しようというSNSの呼びかけは、ロシアにとってはさぞ腹立たしいものだっただろう。
きっかけとなったのは、ウクライナ軍を名乗るツイッターアカウントによる投稿だ。グーグルの地図サービス「グーグルマップ」で「誰もがさまざまなロシアの発射装置、大陸間弾道ミサイル」などを「約0.5メートルの解像度で見ることができる」とツイートし、戦闘機や艦船が鮮明に写った高解像度の画像とともに公開した。その後、このアカウントは停止されたが、くっきりとした画像のインパクトは大きかった。
衛星の威力がプーチン氏の狙いを打ち砕いている
衛星画像とSNSは、ロシアにとって大きな脅威になっている。
ウクライナへ向かうロシア軍の車列、キーウ近郊のブチャ路上に放置された多数の遺体などの画像が次々と公開され、ロシアが何をしようとしているか、あるいは何をしたのか、どれほど残虐なことをしているのか、などが目に見える形で人々に示される。
この多数の遺体をめぐってロシアは、ウクライナ側の「挑発だ」と応酬。「ロシアがブチャを掌握していた時に、地元住民が暴行を被るようなことはなかった」と主張した。
だが米メディアなどが衛星画像の撮影日時を分析し、ロシア軍がブチャを占拠していた時にすでに遺体があった、と判定。ロシアの主張が虚偽であるという見方が世界に広がった。
4月21日には、マリウポリの市長顧問が、「死亡した住民が大量に埋められた場所を長い時間をかけて捜索・特定した」と通信アプリ「テレグラム」に投稿。メディアも衛星画像つきで、多数の墓と見られる穴が発見されたことを報じた。ロシアが民間人攻撃を隠蔽(いんぺい)するために、ここに埋めた可能性があることが分かった。
宇宙から地上を監視する衛星の威力と、それを世界に拡散するSNSが、プーチン大統領の狙いを次々と打ち砕いている。
ロシア海軍黒海艦隊の旗艦「モスクワ」がウクライナ沖で沈没した、と14日にロシアが発表したのも、隠していてもいずれ衛星画像付きで報じられると考えたためとみられている。
侵攻がきっかけでかつてない“特需”に
ロシアの軍事侵攻後、衛星画像ビジネスはこれまでになかった特需を経験している。
長い間、衛星画像は安全保障上の機微な技術と考えられてきた。宇宙から撮影することで、その国の重要施設や地形が分かる。一方、衛星画像の精度から衛星の性能や、衛星を保有する国の技術力も推察されてしまう。撮られる側、撮る側、どちらもリスクを伴うからだ。
米国など各国政府は、詳細な画像を軍事機密として扱い、販売や公開を制限してきた。その結果、軍事や政府関係者以外の一般の人の目に衛星画像が触れることは少なく、ビジネスとしても成立しなかった。
1990年代に入ると、米政府は規制を緩和し、軍事用の詳細な衛星画像以外は、商用化を進めた。だが、なかなか市場は成長しなかった。それが変わったのが2000年代だ。IT(情報技術)の進展や、衛星の撮影能力向上など、技術の進歩が後押しした。
宇宙ベンチャーも多数誕生し、ITやAI(人工知能)を活用した画像処理が進み、衛星画像ビジネスは飛躍的に成長する。
「マクサー・テクノロジーズ」の一人勝ち状態
かつては地上の3〜5メートルの物体を識別できるレベルの画像が軍事機密になっていたが、今では商用でも数十センチの物体を識別できる。ひと昔前なら軍事機密レベルのものが、商用画像として世界の人々の目に触れる。米国家地理空間情報局は、少なくとも200の商業衛星の衛星画像を使用しているとしており、膨大な数の衛星画像が毎日生まれている。
自社の保有する衛星で地表を撮影し、その画像を販売している会社は多数あるが、今回、圧倒的な強さを見せているのが、米マクサー・テクノロジーズ社(本社・米コロラド州)だ。地上30センチの物体を識別できるといい、商用としては最高レベルの画像を誇る。メディアの話題をさらっている衛星画像のほとんどは同社のもので、一人勝ち状態になっている。
同社は、「通信、地図作成から防衛や諜報(ちょうほう)まで、世界中の数十の業界にサービスを提供している」「米政府の不可欠なミッションパートナー」などと自社の業務を説明している。
1992年にデジタルグローブ社として発足し、合併などを経て、2017年に現在の社名に落ち着いた。ダニエル・ジャブロンスキーCEOは、宇宙関連シンポジウムで、ロシアの軍事侵攻後、米政府機関からの衛星画像の需要が倍以上に増えたことや、報道機関からも1日に約200件の需要がある、と語った。
米国の“援護射撃”にプーチン氏は苛立っている
今回、米国は衛星画像が拡散することを望んでいるようだ。
ステイシー・ディクソン米国家情報長官代理は4月、「米政府は商業画像を細かく管理していない」「世界で起きていることをもっと共有したい」と発言した。ウクライナへの支援、民間企業振興に加え、21世紀の新しい「武器」という意識があるのだろう。
かつては軍事機密レベルだった詳細な衛星画像が公開され、宇宙から丸見えになるリスクを伴う時代に行われたウクライナへの軍事侵攻。そのもたらしたものに、プーチン大統領は苛立っていることだろう。
当然ながらウクライナ側の動きも衛星で見られている。4月上旬にポーランドが保有する旧ソ連製戦車などが、ウクライナに向けて車両で運ばれる様子を撮影したとされる映像がSNSで出回った。
一方、衛星は地上のすべてを絶えず撮影できるわけではない。北朝鮮は、米国などの衛星が自国の上空を飛行する時には、ミサイルや発射台などに覆いをして衛星から見えるのを防止しているという。宇宙からの目をだますこともできるのだ。
相互監視ともいえる時代。どのように衛星画像を活用、あるいは宇宙から丸見えになることを防御していくか。戦略が重要になっている。
合成や改竄…「偽写真」を見抜くには? 
さらに心配なのは偽情報だ。
AIの「深層学習」の手法を利用して、写真や動画の一部を合成して偽画像や偽動画を作る「ディープフェイク」が問題になっているが、衛星画像もその問題を抱えている。
昨年、米ワシントン大の研究者が、AIを使って、都市の衛星写真を改竄できる、という論文を発表。衛星画像というだけで信じてしまうことの危険性を指摘した。
ディクソン米国家情報長官代理も、膨大な量の衛星画像について、ずさんな分析も可能だと指摘。厳格な分析をせずに、衛星画像をもとに、見通しやさまざまな主張を述べることへ警鐘を鳴らした。
偽画像だけでなく、昔の画像や直接関係ない画像がいかにも現在のもののように使われている可能性もある。衛星画像ビジネス企業に、偽物を作ろうという悪意のある人間が入りこめば、さらに問題は深刻化する。
偽情報をチェックするためには、SNSの真偽を判断する時と同様の方法が考えられる。誰がその情報を発信・拡散しているかを確認したり、グーグル画像検索や、「ティンアイ」などの画像検索サイトを使って、どこでこの画像が使われてきたかを調べたりすることもできる。だが確実に答えを得られるわけではない。
宇宙の目は威力を発揮する一方で、危険とも隣り合わせている。
●カナダ、ロシアによるウクライナ・ドンバス地域併合の加担203人へ制裁発動 4/28
カナダのメラニー・ジョリー外相は4月27日、ロシアによるウクライナ侵攻に関連する追加制裁を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。ウクライナのドンバス地域の一部(いわゆる「ルハンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」)のロシアへの併合の企てに加担した2「共和国」の人民評議会の高官11人とその他のメンバー192人を対象として、資産凍結や個人取引禁止などの制裁を発動する。
2014年のロシアによるクリミアの不法占拠と併合を試みて以来、カナダは同盟国やパートナーとの連携を取るかたちで1,400以上の個人・団体に制裁を科しているが、そのうち約1,000は、ロシアが2月24日にウクライナへの侵攻を開始して以降の発動で既に対象とされている。
ジョリー外相は「カナダは、プーチン(ロシア)大統領とその共犯者がウクライナの国境線を平然と書き換えようとすることを黙認しない。国際法は尊重されなければならない。カナダは、ルールに基づく国際秩序の維持や、国際法違反の加担者が罪を償うことを確実にするために、あらゆる手段を用いていく」とコメントした。
カナダは3月、ロシア軍によるウクライナでの戦争犯罪や人道に対する罪などの深刻な国際犯罪の申し立てについて、国際刑事裁判所(ICC)に加盟する他国と協調してICCに付託している。
ジョリー外相はさらに前日の26日、カナダ政府が制裁法を改正して、押収・制裁した外国資産を被害者に対する補償や、戦争によって損害を被った外国国家の再建のために再分配することを認める準備を始めていることを明らかにした。外相は「制裁を受けた個人や団体の資産を押収するだけでなく、没収を可能にし、その資産で被害者に補償できるようにする権限を模索している」とコメントし、実現すればG7で初となると説明した(CBCニュース4月26日)。上程されている法案によると、差し押さえた資産は「(1)国際平和と安全に対する重大な違反によって悪影響を受けた外国の復興、(2)国際的な平和と安全の回復、(3)国際平和と安全の重大な侵害、重大かつ組織的な人権侵害、または著しい腐敗行為の被害者に対する補償」に使用することができるとしている。 
●マリウポリの製鉄所から民間人退避、枠組み作りに少なくとも数日必要  4/28
国連は27日、ロシア軍の攻撃が続くウクライナ南東部マリウポリの製鉄所に避難する民間人の退避を巡り、国連人道問題調整事務所(OCHA)と露国防省が協議を始めたと明らかにした。実現に向けた枠組みの詳細を詰めるのに、少なくとも数日かかるという。
製鉄所に避難する民間人の退避については、プーチン露大統領とアントニオ・グテレス事務総長が26日、国連と赤十字国際委員会の関与で原則、合意したが、プーチン氏は退避させる義務がウクライナ軍にあるとも主張しており、実現するかどうかは不透明だ。
国連のファルハン・ハク事務総長副報道官は「人々を安全に退避させることができるよう、軍事活動の停止を求める」と訴えた。
一方、グテレス氏は27日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)に到着した。28日に同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領らと会談する予定だ。
●キーウ「脱ロシア化」動き続々…「友好」象徴の銅像解体・地名も変更  4/28
ウクライナの首都キーウ(キエフ)で26日、ソ連時代に建てられた「ロシアとの友好」を象徴する約8メートルの銅像が解体された。侵攻を続けるロシアへの反感が強まる中、ウクライナではロシアやソ連を想起させる記念碑の撤去や、地名変更の動きが広がっている。
ウクライナ国営通信によると、解体されたのは、男性労働者2人がソ連の国旗でも知られた「鎌と 鎚つち 」のシンボルを掲げる銅像で、1980年代初頭にウクライナとロシアの「再統一」をテーマに建てられた。キーウのビタリ・クリチコ市長は撤去の様子をSNSに投稿し、市が今後、ロシアやソ連に関連する約60の記念碑を解体する方針も明らかにした。
ウクライナでは、ロシアの作家やソ連時代の政治家らにちなんだ名称の通りや公共施設も多く、キーウ市は26日、「脱ロシア化」を図るとし、460以上の名称の変更を検討していると発表した。同様の動きは対露関係を重視するロシア系住民が多い東部地域にも広がっている。
●ロシアの進撃を阻止するためにキーウ近郊の村を水浸しに… 4/28
•ウクライナ軍は、キーウへのロシアの攻撃を阻止するために、意図的にデミディウ村を水没させた。
•開戦直後に解き放たれたダムの水によって、ロシアの戦車は首都キーウへ前進することができなかった。
•村の住民はニューヨーク・タイムズに、プーチンの軍隊からキーウを救うために喜んで犠牲になったと語っている。
ロシアの戦車がキーウに到達するのを阻止するために、意図的にデミディウ村を水浸しにしたことを住民は後悔していないと、2022年4月27日にニューヨーク・タイムズが報じた。
開戦からわずか1日後の2月25日、ウクライナ軍は近くのダムから放水し、キーウの北にあるデミディウ村とその周辺の田園地帯に洪水を起こした、とタイムズは報じている。
3月の衛星画像では、キエフの北西にあるイルピン川流域で洪水が起きていることが確認された。しかし、ウクライナ側はこの犠牲的な防衛行動の讃えたが、今まで誰が、なぜ洪水を起こしたのかは明らかにしなかった。
●国連総長がウクライナ入り ゼレンスキー氏と会談へ 4/28
国連のグテレス事務総長は27日、ロシアの侵攻を受けるウクライナの首都キーウを訪れた。国連が明らかにした。28日に同国のゼレンスキー大統領、クレバ外相と会談する。
グテレス氏は26日にモスクワでロシアのプーチン大統領と会談。ウクライナ南東部マリウポリの製鉄所内にとどまる市民の退避について、国連と赤十字国際委員会が関与することで原則合意した。市民退避の実現に向け、ウクライナ側とも調整する。
国連のハク事務総長副報道官は27日の記者会見で、市民退避に向けた準備を支援するため、経験豊富な国連職員を各国からウクライナに派遣していると述べた。
●地下鉄ホームに大統領登場 厳戒態勢の会見 4/28
ロシアからの侵攻が続くウクライナ。日本から記者と同行で入った首都キーウ(キエフ)からの3回目のリポートは、地下鉄駅のホームで行われた23日の大統領記者会見の模様を伝える。
雑居ビルからエスカレーターで
記者会見に参加する記者の集合場所に指定されたのは、大統領府からほど近い普通の雑居ビルだった。
「こんなビルの一室で会見をしていたら、ロシア軍のミサイル攻撃や急襲にあうかもしれないな」。大統領の会見だから大丈夫だろうと、ホテルの部屋に防弾チョッキと防弾ヘルメットを置いてきていた。
大統領の居場所はトップシークレットとして扱われているが、記者会見となればそうもいかない。事前に記者には場所と時刻の案内が周知されている。集まったメディアの数は世界各国から数百人で、立場や信条も違う。当局の事前チェックがあるとはいえ、親露派のメディアや記者がいてもおかしくない。そこから、万が一ロシア軍に事前に情報が漏れていたら‥。
心配をしていると受付が開始された。一人ずつパスポートとウクライナ国防省の取材許可証がチェックされる。ビルに入ると案内されたのは建物に併設された地下鉄駅の改札だった。状況がのみ込めないままホームへと続く長いエスカレーターを降りる。会見場はどこなのだろう?。
地下何メートルなのか、東京の都営地下鉄大江戸線よりも深く感じたエスカレーターを降りると、金属探知機のゲートが置かれていた。大勢の兵士が全員の手荷物検査をしている。さらに数十メートルのエスカレーターを降りると、地下鉄のホームにたどり着いた。ホームの端に演台が用意されている。ここが会見場だった。
まるで映画のセット
時刻は午後5時過ぎ、帰宅を急ぐ市民を乗せた地下鉄の列車が“会見場”の脇を通過していく。ホームには会見を撮影しようと数十台のテレビカメラが並び、組み立て式のクレーンカメラも持ち込まれていた。脇を通過する列車の車内、驚いた様子でこちらを指さしている乗客もいる。映画のセットのような非現実的な空間だ。
確かにここならミサイル攻撃を受けても大丈夫だろう。そもそもキーウの地下鉄駅は核シェルターの役割も兼ねるために地下深くに作られたと聞いたことがある。地下鉄の駅ならば侵入経路も限られるために警備もしやすいはずだ。
午後7時半、ゼレンスキー大統領が側近とともにエスカレーターを降りて会見場に現れるとウクライナ国内のメディアから拍手が湧き起こった。約2時間、時折、記者の質問をメモに取りながら、大統領は自分の言葉で丁寧に記者の質問に答えていく。手元のメモを棒読みすることもなく、原稿を投影するプロンプターも使わない。
俳優出身の大統領だからだろうか、必死に自分の言葉を紡ぐ姿勢に親しみやすさを感じた会見だった。 
●ウクライナ、ロシア兵10人を捜査 ブチャで戦争犯罪容疑 4/28
ウクライナ検察は28日、ロシア軍の撤退後に民間人とみられる多数の遺体が見つかった首都キーウ近郊のブチャで戦争犯罪に及んだ疑いで、ロシア軍兵士10人を捜査していると発表した。
ウクライナ検事総長は、「ロシア第35軍に所属する第64自動車化狙撃旅団の兵士10人に、民間人への残虐行為などの戦時法規・慣例違反の疑いが掛けられている」と説明。容疑者は今後、身柄拘束のため指名手配されるとした。
●米1〜3月GDP 7期ぶりマイナス ウクライナ侵攻でインフレに拍車  4/28
アメリカのことし1月から3月までのGDP=国内総生産の伸び率は年率に換算してマイナス1.4%となりました。7期ぶりのマイナス成長でウクライナ情勢で拍車がかかったインフレや貿易赤字の拡大が影響しました。
アメリカ商務省は28日、ことし1月から先月までのGDPの速報値を発表し、前の3か月と比べた実質の伸び率が年率に換算してマイナス1.4%となりました。
伸び率がマイナスになるのはおととしの第2四半期以来7期ぶりです。
これは前の期がプラス6.9%と大きな伸びだったことの反動に加え、オミクロン株の感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに拍車がかかったインフレが経済活動の重荷になったためです。
内訳ではGDPのおよそ7割を占める個人消費がプラス2.7%と、底堅さが見られました。
一方で輸出がマイナス5.9%に落ち込んで貿易赤字が拡大し、GDPを押し下げました。
アメリカでは個人消費や雇用環境が順調に回復してきたことから、中央銀行に当たるFRB=連邦準備制度理事会がインフレの抑え込みを優先して利上げを進めていく方針を示しています。
しかし金融の引き締めには景気を後退させるリスクもあるため、先行きへの警戒が高まりそうです。
●日本経済の展望〜ウクライナ危機と世界金融引き締め 4/28
最近の金融市場の動向
株式市場は、年明け以降、ウクライナ危機や金融引き締めの影響を受け、例えば米国のS&P500指数は、昨年末から13%下落した。足元ではマイナス5%まで回復したが、ウクライナ情勢次第では、さらなる下落のリスクもある。今後、4-6月期に底打ち、7-9月期に回復すると予想する。
為替市場は、金融政策の先行きにより、通貨ごとに動きが異なる。ドルは、FRBの今後の利上げを見込んで上昇傾向にある。一方、ユーロは、ECB(欧州中央銀行)の利上げペースが米国より遅れる想定から横ばい傾向にある。円は、金融引き締めの動きが見通せず、低下傾向にある。
国債利回りは、日本も含め全般的に上昇傾向にある。米国では、インフレ高進へのFRBの対応を受けて、特に短期金利が急激に上昇した。こうしたなか、2年債利回りが10年債利回りを上回る逆イールドが発生し、将来の景気後退懸念も一部にみられる。
コロナ禍後の経済・政治動向を見通すポイント
経済動向について、1次産品価格の上昇が短期的には景気を下押しするとみている。中長期的な動向は、安全保障を含む情勢次第であり、見通し難い。コロナ禍は、経口薬の普及等により、景気下押しの主因ではなくなると予想している。
政治動向について、ウクライナ危機等による米露対立に加え、米中対立も引き続き懸念材料である。ロシアとウクライナが停戦した後、米国が「世界の警察官」を担う気があるか、中国がロシア寄りまたは中立のスタンスを取るかを今後の注目点として考えている。
金融政策の見通し
米国では、金融緩和が終了し、利上げの流れにある。ただし、日本や欧州など1次産品輸入国では、ウクライナ危機がエネルギー等の供給確保の懸念を高め、景気を下押ししており、金融引き締めの動きは後ずれするだろう。
米国では、今年中に2.75〜3.0%程度へ利上げすると見込む。5月のFOMC(連邦公開市場委員会)を皮切りに0.5%ポイントの利上げを4回続けた後、11月、12月も0.25%ポイント利上げし、景気に中立的な金利水準を超えると予想する。ユーロ圏では、金融緩和が終了し、年内にも利上げの可能性がある。日本では、欧米と異なり、利上げに向けた経済・物価動向の条件は整っておらず、金融緩和を継続するだろう。
内外経済の見通し
2022年の世界経済の成長率は、前年比プラス3.5%と予測する。今後のウクライナ情勢次第では、下方修正もあり得る。
日本経済は、前年比プラス2.0%と予測する。ウクライナ危機の影響による下押しがある一方、21年に他国よりもウィズコロナの動きが遅れた影響で、22年の成長ペースが加速する。自動車セクターの供給制約は改善方向にあり、旅行等サービス消費のペントアップ需要(抑え込まれていた需要)が期待できる。リスク要因として、ウクライナ危機の深刻化や中国国内での感染拡大を注視する必要がある。
●日独首脳会談 ロシアによるウクライナ侵攻 “きぜんと対応”  4/28
岸田総理大臣は28日夜、G7=主要7か国の議長国、ドイツのショルツ首相と首脳会談を行い、G7をはじめとする国際社会がロシアによる軍事侵攻にきぜんと対応しウクライナを全力で支えることが両国共通の責務だという認識で一致しました。また両首脳が参加する政府間協議を新たに立ち上げ、来年の開催を目指すことで合意しました。
岸田総理大臣は就任後初めて日本を訪れているドイツのショルツ首相と午後6時半すぎから1時間余り、総理大臣官邸で首脳会談を行いました。
冒頭、岸田総理大臣は「ロシアによるウクライナ侵略は国際社会の秩序の根幹を揺るがすものだ。日本は各国と連携、協調し、強力な対ロ制裁を実施するとともにウクライナへの支援を強化していく。ヨーロッパとインド太平洋の安全保障を切り離すことはできず、力による現状変更はどこであっても断じて許されない」と述べました。
これに対しショルツ首相は「ロシアによる侵攻は領土への侵害であり受け入れられない。世界の民主主義国家は緊密に連携しておりG7各国がどのようなメッセージを発信していくかが非常に重要だ」と述べました。
会談で両首脳はG7をはじめとする国際社会がロシアによる軍事侵攻にきぜんと対応することが重要だという認識を共有するとともに、ウクライナ政府と国民を全力で支えていくことが両国共通の責務だという認識で一致しました。
そしてショルツ首相が帰国する際、日本の国民から駐日ウクライナ大使館に寄せられたおむつや生理用品などの日用品をドイツの政府専用機で輸送することを確認しました。
また普遍的価値をもとに国際社会をけん引するG7の重要性がかつてないほど高まっているとして、議長国ドイツと、来年その立場を引き継ぐ日本の両国で緊密に連携していく方針を確認しました。
さらに岸田総理大臣は「ドイツが近年インド太平洋地域への関心と関与を強めていることを歓迎する」と述べ、外務・防衛の閣僚協議、いわゆる「2プラス2」の早期開催を含め自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、引き続き緊密に協力していくことを確認しました。
そして両首脳が参加する政府間協議を新たに立ち上げ、来年の開催を目指すことで合意しました。
さらに両首脳は地域情勢をめぐっても意見を交わし、中国を念頭に東シナ海や南シナ海での力を背景とした一方的な現状変更の試みに強く反対することで一致するとともに、香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を共有しました。
岸田総理大臣は共同記者会見で「ことしと来年のG7の議長国である両国が緊密に連携し国際社会の危機に効果的に対処すべく、G7のかじ取りをしっかりと担っていく決意を新たにした」と述べました。
ドイツのショルツ首相は岸田総理大臣との共同会見で「ドイツと日本の関係の重要性を示す訪問が実現できてうれしい。今回の訪問はドイツとEU=ヨーロッパ連合がインド太平洋地域への関与を強化する政治的なシグナルだ」と述べ、日本との関係を一層強化することでインド太平洋地域への関与を強めていきたい考えを示しました。
そしてG7の議長国の立場からショルツ首相はロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対して日本がG7の参加国と歩調をあわせていることに感謝の意を示し「われわれの共通の関心事はウクライナだ。今ある制裁を確実に実行に移し、さらなる制裁についても緊密に連携していくことで一致した」と述べました。
また「このような難しい局面において共に協力することは非常に重要だ。日本との協力関係を拡大させたい」と述べ、日本との間で新たに政府間協議の場を設け、経済安全保障や気候変動対策などの分野で協力関係を発展させたいという意向を示しました。
さらにショルツ首相は「経済的なつながりを切り離す『デカップリング』に反対することで一致した。われわれは一つの国にサプライチェーンを依存しないためあらゆることをする。これはウクライナ危機で学んだことだ」と述べ、ロシアへのエネルギー依存からの脱却などに向けて連携していくことで一致したことを明らかにしました。 

 

●国連事務総長 “マリウポリ 取り残された市民の避難に全力”  4/29
ロシアによる軍事侵攻が始まってから初めてウクライナを訪れている国連のグテーレス事務総長は、ゼレンスキー大統領と会談し「ロシアによる侵略は明らかな国連憲章違反だ」と厳しく非難したうえで、東部マリウポリに取り残されているとみられる市民の避難に向け国連として全力を尽くす姿勢を強調しました。
ロシアに続いてウクライナを訪れている国連のグテーレス事務総長は28日、ロシア軍の激しい攻撃にさらされた首都キーウ近郊を視察したあとゼレンスキー大統領と会談しました。
会談後の共同の記者会見でグテーレス事務総長は「ロシアによる侵略は他国の領土の侵害で明らかな国連憲章違反だ」と改めて軍事侵攻を厳しく非難しました。
そのうえで「国連の安全保障理事会は侵攻を止めることができず失望している。自分には安保理を変える力はないが、その失敗を乗り越えるためあらゆる努力をする」と述べ、国内外に避難している人への人道支援や多くの市民が殺害され戦争犯罪に当たると指摘されていることについて真相究明を進める姿勢を示しました。
またロシア側と合意した東部のマリウポリで取り残されているとみられる市民の避難への国連の関与について「人々を救出するため全力を尽くしている」と強調したものの、具体的な方法や日程などは一切明らかにしませんでした。
一方のゼレンスキー大統領は「事務総長が現場を視察した民間人の虐殺について国連の調査に期待したい」と述べたうえで、ロシアが一部の州の占領を正当化するために住民投票を実施する懸念が出ていることについて「断じて受け入れられない」と強く反発しました。
グテーレス事務総長が訪れているウクライナの首都キーウで28日夜、2回にわたって爆発音が響き渡りました。
これについてキーウのクリチコ市長はSNSで「キーウのシェフチェンキウスキ地区にロシア軍のミサイル2発が撃ち込まれ、集合住宅付近に着弾した。救助活動が進められ、これまでに3人が病院に運ばれた」と投稿しました。
グテーレス事務総長は今週、モスクワでプーチン大統領と会談したあと軍事侵攻後初めてウクライナを訪れていて、28日には多くの民間人が犠牲になったキーウ近郊を視察したほか、キーウでゼレンスキー大統領と会談して「ロシアによる侵略は明らかな国連憲章違反だ」とロシアを厳しく非難していました。
この影響でグテーレス事務総長はウクライナ政府の建物に数時間にわたって足止めされました。
グテーレス事務総長はその後、イギリスBBCの番組に出演し「私が訪れているキーウに2発のミサイルが着弾したと聞いてショックを受けている。私たちは絶対にこの戦争を終わらせる必要がある」と述べました。
●ウクライナ侵攻長期化を想定、米政権が議会に追加拠出要請へ… 4/29
米国のバイデン大統領は28日、ロシアの侵攻を受けるウクライナ情勢に長期的に対応するため、米議会に追加で330億ドル(約4兆3000億円)の資金拠出を求める方針を明らかにした。バイデン政権は侵攻の長期化を見据え、包括的な支援態勢を整えたい考えだ。
バイデン氏は28日、ホワイトハウスで演説し、「今後数週間、数か月にわたって支援を継続していく必要がある」と強調し、議会への要求額が長期戦を想定したものであるとの認識を示した。
ホワイトハウスによると、330億ドルの主な内訳は、軍事支援に約200億ドル、ウクライナ政府への経済援助に約85億ドル、医薬品や食料品の提供を含む人道支援に約30億ドル――などだ。
バイデン政権はロシア軍の「弱体化」を目指す考えを明言しており、内訳では軍事支援への傾斜が目立つ。政権の侵攻開始後の支援額は約37億ドルで、支援が大幅に拡大することになる。
一方、バイデン政権は対露制裁に絡み、米政府が凍結した資産を没収し、ウクライナ支援に充てる方針を固めた。プーチン露政権を支える新興財閥(オリガルヒ)などが念頭にあり、法案として米議会に提出する。
準備している法案では、制裁や禁輸措置違反など、違反行為をあらかじめ指定する。その上で、違反行為が確認された場合、個人・団体の資産を凍結するだけにとどめず、没収して「ロシアの攻撃で発生した損害」の原状回復に充てる。
●ウクライナ情勢で供給懸念のLNG、日本企業の取扱量は増加続く 4/29
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、日本企業の液化天然ガス(LNG)取扱量に関する包括調査結果をまとめた。2020年度の取扱量は前年度比5・3%増の1億1020万トンとなった。第三国向けに供給される取引(外・外取引)が前年度比で約2割増えたのが要因。一方、国内向けの調達分は微減だった。
国はLNG市場で日本の影響力を維持するために、外・外取引への国内企業の関与を後押しする方針を示している。具体的にはLNGの流通に関わる上流・中流事業への参画の強化が必要とみており、こうした取り組みを通じて30年度に取扱量1億トンを確保する。
足元ではロシアのウクライナ侵攻に伴って、LNGの需給が逼迫(ひっぱく)しており、安定供給への懸念が広がっている。しかもカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けて、LNGに関連する開発投資に金融機関が慎重な姿勢のため、公的金融支援の必要性が高まっている。
JOGMECはLNGを取り扱う電力会社やガス会社、商社など30社を対象に、21年6月―8月に同調査を実施した。取扱量について、日本企業が売買契約により一時的にでも所有したLNGの数量と定義している。
●ロシア 東部2州掌握ねらい攻撃続く ウクライナの抵抗で苦戦か  4/29
ロシアのプーチン政権は旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利した「戦勝記念日」に当たる5月9日に向けてウクライナ東部2州の完全掌握などをねらい攻撃を続けています。しかしウクライナ国内の親ロシア派が当日の戦勝パレードの実施を見送るなどの動きも伝えられていて、ウクライナ側の抵抗を前にロシア軍が苦戦を強いられている状況が表面化し始めています。
ロシア国防省は28日、ウクライナ各地の軍事施設をミサイルで攻撃したほか東部ハルキウ州やドネツク州、ルハンシク州、それに南部ヘルソン州でウクライナ軍の無人機を撃墜したとするなどロシア軍は東部や南部を中心に攻撃を続けています。
こうした中、インターファクス通信は28日、東部ドネツク州の親ロシア派の武装勢力の指導者が、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した「戦勝記念日」に当たる5月9日に予定されていた現地での戦勝パレードを実施しないことを明らかにしたと伝えました。
その理由として武装勢力の指導者はウクライナ軍の攻撃の脅威があることを挙げ「州全域を完全に掌握したあとにパレードを開催する」としているということで、来月9日までにドネツク州全域を掌握することは難しくなったという認識を示した形です。
またロシアの独立系ネットメディアの「メドゥーザ」は27日、クレムリンに近い複数の情報筋の話として、親ロシア派の武装勢力が一部地域を事実上支配する東部ドネツク州とルハンシク州やロシアが掌握したと主張する南部ヘルソン州で5月14日と15日にロシアへの編入や独立の賛否を問う住民投票が一方的に行われる可能性があると伝えています。
この住民投票の結果を名目にロシアは東部2州や南部ヘルソン州のロシアへの併合を正当化しようとする思惑があるとみられていますが「メドゥーザ」は住民投票は当初4月下旬に予定されていたもののロシア側の苦戦により数回延期され、今後もさらに遅れる可能性があると指摘しています。
プーチン大統領は来月9日の「戦勝記念日」に合わせて東部2州の完全掌握や南部での軍事侵攻の成果をロシア国民に印象づけようとしているとみられていますが、ロシア軍がウクライナ側の抵抗を前に苦戦を強いられている状況が表面化しつつあります。
●ウクライナ、戦争犯罪の疑い8600件特定 4/29
ウクライナのイリーナ・ベネディクトワ検事総長は28日、ロシアが侵攻を開始して以来、戦争犯罪の疑いがある事例を8600件特定したと明らかにした。
ドイツの公共放送ドイチェ・ウェレに対し語った。加えて、戦争犯罪関連の事例が4000件あると説明。民間人の殺害、民間施設への爆撃、拷問、性犯罪などが報告されているとした。
証拠収集には保安庁や警察、外国の捜査官など8000人が従事しているとし、ロシア軍が占拠している南東部の港湾都市マリウポリ、東部のドネツク州やルガンスク州などでは現地調査ができない状態にあるが、避難してきた人々への聞き取り調査は可能だとした。
裁判はウクライナ国内の裁判所で行う方針としているが、国際法廷で有罪判決を勝ち取れば、ウクライナ側にとって最も大きな勝利となる。ウクライナは国際刑事裁判所(ICC)非加盟だが、過去には管轄権を受け入れたこともあり、ICCでの訴追の可能性は残されている。
●プーチン体制、ついに「終了」か…米国が「ロシア打倒」に本気を出した! 4/29
米国の姿勢が明らかに変わった
米国がウクライナ戦争の戦略を大転換した。戦争の目的を「ウクライナ防衛」から、事実上の「ロシア打倒」に切り替えたのだ。これに対して、ロシアはこれまで以上に「核の使用」をちらつかせて、威嚇している。米国は核戦争に陥る危険を、どう評価しているのか。
私は4月15日公開コラムで「米国は本気でロシアと対決する覚悟を固めている」と書いた。そう考えた理由は、ジョー・バイデン大統領が「プーチンを権力の座から追い落とせ」などと、強硬発言を繰り返していたからだった。
そんな見方は、最近のロイド・オースチン米国防長官の発言によっても、あらためて裏付けられた。オースチン長官は4月25日、アントニー・ブリンケン米国務長官とともにウクライナの首都キーウを訪問した後、ポーランドで開いた記者会見で、次のように語った。
「我々は、ロシアがウクライナ侵攻でやったようなことを(再び)できないようにするまで、弱体化させたい(We want to see Russia weakened)。我々は、彼らが自分の力を極めて迅速に再生産できるような能力を持っていてもらいたくはない」
この発言について、記者から真意を問われたホワイトハウスのジェン・サキ報道官は25日の会見で、こう答えた。
「プーチン大統領は2カ月前、演説でウクライナを飲み込み、彼らの主権と領土を奪取したい、という野望を語っていた。彼らはそれに失敗したが、いまや、その先に行こうとしている。国防長官が言ったのは、そんな事態が起きないようにするのが我々の目的、ということだ。たしかに、戦争はウクライナで起きている。だが、我々はロシアが力を尽くし、プーチン大統領がいま以上に目標を拡大するのを阻止しようとしている」
すると、記者から「ホワイトハウスには、長官発言がロシア国内で『西側は我々をやっつけようとしている。封じ込めようとしている』と受け止められ、それが『プーチンの権力を強める結果になる』という懸念はなかったのか」と質問が飛んだ。報道官はこう答えた。
「いいえ。長官の発言は「プーチン大統領を追い返すために、できることはなんでもやる」という我々とバイデン大統領、そして長官自身の見方と一致している。プーチンはウクライナを征服し、領土と主権を奪いたいのだ。そして、2カ月前に彼が抱いていた野望はいま、その先に進もうとしている(go beyond that)」
以上で明らかなように、国防長官の発言は失言ではない。そうではなく、これはバイデン政権で共有された見方なのだ。そして、一連のバイデン発言とも整合的である。振り返れば、バイデン大統領が3月1日の一般教書演説で「彼を捕まえろ」と絶叫したあたりから、政権はウラジーミル・プーチン体制の転覆を視野に入れていた、とみていい。
長官発言を額面通りに受け止めれば「米国はロシア軍が2度と他国を侵略できなくなるまで、徹底的に壊滅する」という話になる。私は、太平洋戦争で敗北した日本の軍部が、米国との戦いとその後の占領政策によって、完全に壊滅させられた例を思い出す。
加速するウクライナへの軍事支援
米国の決意は、言葉だけでもなかった。
オースチン国防長官は26日、ドイツのラムシュタイン空軍基地に40カ国以上の同盟国、友好国の軍トップや政府代表を集めて、ウクライナ支援の調整会議を開いた。そこで、ドイツはゲパルト対空戦車50両をウクライナに提供する方針を表明した。
ドイツは当初、ウクライナにヘルメットを提供するだけで、軍事支援に腰が引けていた。その後、防御用兵器の提供に踏み切ったが、今回は完全な攻撃用兵器である。こちらも方針の大転換だ。背景には「ここで米国と足並みをそろえておかなければ、戦後体制の構築で発言権を失う」という判断もあったに違いない。
米国は太平洋戦争で、ドイツや日本が降伏するはるか前から、英国、ソ連とカイロ(1943年11月)、テヘラン(同)、ヤルタ(45年2月)、ポツダム(45年7月)で会談を重ね、戦後処理と戦後体制構築を議論した。今回もドイツの空軍基地に集まった約40カ国を中心に、新たな世界秩序を議論していくだろう。
そう考えれば、ドイツも米国に協力する以外に道はない。日本もまったく同じである。ただ、岸田文雄政権の不甲斐なさを指摘するのは、別の機会に譲ろう。
米国は、どこまでやるつもりなのか。
ブリンケン国務長官は26日、米上院外交委員会で「もしも、ウクライナが国の主権と民主主義、独立を守るのが(戦いの)目的であると考えるなら、我々はそれを支持する」と語った。ニューヨーク・タイムズによれば「ウクライナがロシア軍の東部からの追い出しを目指すなら、米国はそれを支援する」という意味だ。これも国防長官発言と整合する。
なぜなら「ロシア軍を壊滅する」と言っても、核戦争の危険を考えれば、米軍が直接ウクライナで、あるいはロシア領土に踏み込んで戦うわけにはいかない。戦場は、あくまでウクライナ領土だ。したがって、ロシア軍殲滅にはウクライナ東部の戦いが鍵になる。つまり「東部から追い出すまで戦う」必要があるのだ。
ロシアの核兵器にどう対峙するのか?
米国の対決姿勢に、ロシアはどう反応したか。
真っ先に声を上げたのは、セルゲイ・ラブロフ外相である。彼は国営通信のインタビューで「危険を過小評価すべきではない。第3次世界大戦の危険はリアルだ」と語った。これだけでは不十分、と考えたのだろう。27日には、プーチン大統領自身が議会で演説し「核の使用」をちらつかせた。
「もしも、だれかが外部から介入し、ロシアの戦略的立場を脅かすようなら、彼らは「稲妻のようなスピード(with lightning speed)」の反撃が起きることを知っておくべきだ」
ロシアはこれまでも核で脅してきたが、東部から追い出されそうになったら、本当に核のボタンに手を伸ばす可能性は否定できない。バイデン政権は危険をどう評価しているのか。国防総省のジョン・カービー報道官は27日の会見で、こう語った。
「ロシアの指導者、最近ではラブロフ外相が核対決の亡霊に言及したが、まったく無責任だ。そんなことは誰も望んでいない。この戦いが核戦争にエスカレートするのは誰も見たくはないし、そうなる理由もない。プーチン氏が、そんなことに興味があるようにも見えない。なぜなら、彼はドンバス地域と南部で、いまも戦っているからだ。我々は核の脅威を毎日、監視している。今日もだ」
重要なのは、最後の部分である。
米国は、ロシア軍の動静を日々、詳細に把握している。26日付のワシントン・ポストは「ロシア軍が戦闘でどう動いているか、彼らの戦術と手順について、米国は宝のような情報を入手している」と報じた。次のようだ。
「我々(米軍関係者)は、それを「フリーチキン(ただのチキン)」と呼んでいる。情報機関はこれまで「相手が何をしているのか」を探るのに、何年も費やしてきた。ところが、いま我々はそれを毎日、タダで手にしている。それは今後、何年も相手の行動プロファイルをつくるのに役立つはずだ」
米軍の情報入手について、実態が報じられることはめったにないが、このコメントは一端を垣間見せている。通信傍受、スパイからの情報など、ありとあらゆる手段を使って情報収集している様子をうかがわせる。報道官発言と合わせてみれば、米国は核兵器の運用についても「詳細な情報をリアルタイムで入手している」とみていいのではないか。
国防長官の大胆な発言は、そうした機密情報の分析を基に「ロシアに本格的な対決姿勢を示しても、深刻な危機は当面ない」と判断したように見える。
ウクライナの戦争は、ロシアが敗北した首都キーウの攻防戦から東部、南部をめぐる攻防に主戦場を移した。米国はさらに一歩踏み込んで、ロシア軍とプーチン体制の打倒を目標に掲げた。それを正確に認識しているのは、ほかならぬロシアである。
ラブロフ外相は、先のインタビューで「西側はウクライナを守ると言いながら、我々と『代理戦争(a proxy war)』を戦っている。それは世界的な核戦争にエスカレートする可能性がある」と語っている。当事者が「真の敵は米国」と認識しているのだ。
ウクライナの隣国、モルドバではロシアの「偽旗作戦」とみられる爆発事件も起きた。戦争は拡大する気配が濃厚になってきた。
●プーチンとオリガルヒの複雑な関係 4/29
キャサリン・ベルトン(47)は、ロシアの大統領を包囲する権力を追求しようとすると、どんな圧力がかけられることになるかをよく知っている。
2007〜2013年まで英「フィナンシャル・タイムズ」紙のモスクワ特派員を務めたベルトンは、プーチンの背後に彼自身と同じ元KGBメンバーのネットワークが存在し、西側の均衡を乱すためにソ連の資力をいかに私物化し、統制する準備ができていたかを著書『プーチンの仲間たち』(未邦訳)で詳細に綴った。
本書が2020年に出版されると、英米の主要メディアからは「クレムリンに関する書籍の決定版」と絶賛された。だが同時に、イギリスの司法制度を利用してベルトンの口を塞ごうとしたロマン・アブラモヴィッチをはじめ、多くのオリガルヒによる訴訟が殺到した。
ベルトンが庶民院(下院)の情報委員会メンバーを前に指摘したように、つい最近までイギリスの弁護士事務所は、億万長者を盾にして、ロシアの顧客について報じるメディアを脅迫するのをためらわなかったのだ。
出版社の「ハーパーコリンズ」は、本書を守るために180万ユーロ(約2億4000万円)ちかくの弁護料を払わねばならず、著者自身は異例のセキュリティ対策を講じる必要があった。
プーチンを陰で操る“枢機卿”
──ウラジーミル・プーチンは西側の前に「独裁者」として現れていますが、あなたは彼がもっと大きな権力集団の一部であると主張しています。
私は、彼が次第に縮小している集団のリーダーだと思っています。おそらく、KGBを軸とする集団は、彼が権力の座に就いた頃はもっと大きなものだったのでしょう。そしてそこには、かつての国防相で、同じくレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)のKGB出身であるセルゲイ・イワノフのような人間が含まれていました。
その集団には、常に2人の“常連”がいます。一人は、現ロシア連邦国家安全保障会議書記のニコライ・パトルシェフです。彼はプーチンが政権に就いたとき、FSB(ロシア連邦保安庁、KGBの流れを汲む機関)の長官でした。プーチンよりも一歳年上で、常に彼に対して影響力を持っていたのです。
──私たちが彼について知ったのはつい最近ですね。
ウクライナのドネツク州とルガンスク州の独立承認について話し合われた、国家安全保障会議の会合で彼の姿が見られました。パトルシェフが今なお、権威ある政治家としての役割を担っていることがわかります。実際、パトルシェフが、アメリカについてどう考えるべきかをプーチンに示し、「ロシアの安定を崩すための足場としてウクライナを利用している」と主張してアメリカを非難していました。
──第2の男は?
2人目の常連は、イーゴリ・セーチンです。彼はプーチンより若く、プーチンがサンクトペテルブルクの副市長だった頃から近くにいます。当時はプーチンの影にいました。それ以来、セーチンはさらに大きな野心を抱き、国家的領域で最も重要なポストを占めてきました。
また、プーチンと提携する企業主でKGBと非常に良好なコネクションを持つ、ユーリ・コヴァルチュクもいます。彼は、ロシア大統領に自由に近づくことができ、影響力があると考えられています。さらに、クレムリンの石油業者ゲンナジー・ティムチェンコもいます。
とはいえ舞台の背後で糸を操り、絶えず“枢機卿”の役に就いているのは、間違いなくニコライ・パトルシェフです。そして当初、プーチンはこのグループ全体の明らかなリーダーでした。次第に彼はさらに独裁的に、そしてその政権も、より一層独裁的になったのです。
──ソ連が崩壊したとき、こうしたKGBスパイたちには皆、統制を繋ぎ止めておこうとする計画があったのでしょうか?
広範な計画があったとは思いません。当時の彼らは単純に、できる限りの資源と資産の支配権を引き継ぐことを目指しました。1990年代初頭、輸出の大半はまだ元KGBメンバーたちの支配下にあり、そのおかげで彼らは外国での勢力網を維持していました。
ところが、エリツィン時代に石油産業が民営化されてオリガルヒの手に渡ったとき、KGBの面々は無収入になったのです。だから、プーチンが権力の座に就いたとき、彼らは石油産業に注力しました。彼らにとって、それが決定的に重要なことでした。彼らは自分たちの権力を再確認し、彼らに挑んだ者は誰であろうと壊滅しなければならなかったのです。
オリガルヒに対する制裁は、どれほど効果があるのか
──真の権力はクレムリンのなかにあり、オリガルヒに対する制裁もたいした役には立たないと示唆する人がいます。
制裁は、ある意味では大衆迎合的です。多くのオリガルヒは、「西側は気分を良くするために、とりあえずその場しのぎの措置を取っているだけだ」と不平を言っています。
でも私は、そうは思いません。著名なオリガルヒの多くはボリス・エリツィン時代からの億万長者で、プーチンが舞台に現れる以前に裕福になっていました。ですが、プーチンの権力パラダイムのもとで、彼らはクレムリンにずっと従順でした。富を維持するのと引き換えに、クレムリンの命令に従ってきたのです。
彼らはプーチン体制の「一部」であり、「犠牲者」ではありません。プーチンの体制に順応するにあたり、彼から恩恵も得ました。彼らは、元オリガルヒであるミハイル・ホドルコフスキーのように政治的独立を放棄したのです。
──あの一件が、すべてを変えました。
あれは、方向が変わった瞬間でした。ロシアで一番の富豪だったホドルコフスキーが収監され、自分の会社が政府によって解体され接収される様を見ることになったのです。
彼は、KGBにとって理想的な生贄でした。というのも、あらゆる事業者のなかで最も独立心が強く、大胆にも政治的にプーチンに挑んですらいたからです。彼らはホドルコフスキーの息の根を止め、残りのオリガルヒたちに恐怖を抱かせることにしたのです。
そのときから、エリツィン時代のオリガルヒたちが、クレムリンの規律を遵守しなければならなくなりました。彼らの一人が私に言ったように──「もしも今、クレムリンから電話がきて、大金をどこそこの戦略的プロジェクトに割り当てるよう依頼されたら、私は従うしかない。拒否することはできない」。
ですから、オリガルヒに制裁を与えず、自由に何十億でも操れるままにしておけば、クレムリンは必需品を準備するよう彼らにいつでも命令できることになると思われます。
西側の反撃の重大さを、認識することが非常に大切です。オリガルヒが遺産に近づくのを避けるためだけではありません。オリガルヒはプーチンが課す体制の共犯者であり、外的圧力なしには、その政権は決して変わらないからです。
アメリカに尊敬されるどころか、顔面を“殴打”され…
──ロマン・アブラモヴィッチとはどんな人物ですか? プーチンの手下ですか?
彼とプーチンの関係は複雑です。和平交渉で担っている役割からみて、アブラモヴィッチは現在「プーチンの部下」であると明言できます。そしてある意味では、「西側にいるプーチンの部下」です。
イギリスのサッカーチーム「チェルシー」の買収によって、アブラモヴィッチはイギリスのエスタブリッシュメント層のあいだで多大なる影響力を持つようになりました。彼は、私たちが過去数年間検討してきたモデルに合致しています。
つまり「全体主義政権が、スポーツチームの獲得を通して西側諸国における自国イメージに釉薬をかけようとする」というモデルです。アブラモヴィッチが最初におこないましたが、現在は、サウジアラビアも「ニューカッスル・ユナイテッド」を買収しようとしています。
ですから、アブラモヴィッチはクレムリンに尽くしてプーチンの後ろ盾を保とうとし、それと同時に自らの利益を保護しようと努めるでしょう。このように、境界は決して完全に明白ではないのです。
──今では、ウクライナ侵攻における役割で、彼の存在が浮かび上がってきています。
はい、和平交渉での振る舞いによって可視化しています。彼は、アメリカによる経済制裁を避けることを可能にし、ウクライナにおける「平和の人」という自己イメージを促進する役割を自分のものにしておこうとしているのです。
一方でプーチンも、公式のルートを避けつつウクライナ代表団との繋がりを保てるよう、非公式な形で対話の場に誰かを置いておきたいと思っています。つまりアブラモヴィッチは、プーチンと直通で繋がっているというわけです。
──9.11同時多発テロ後、プーチンがアメリカに無条件の援助を申し出たときは、冷戦が決定的に葬り去られたように思えました。
当時は彼がその種の開放主義を実現していたこと、引き換えに何かを手に入れたいと期待していたのは明らかです。アメリカ側から報いと尊敬を受ける代わりに, 手に入ったのが顔面への殴打だったとき、ひどく腹を立てたのも間違いありません。
それは、(9.11テロ攻撃後の)アフガニスタンでの軍事作戦における兵糧補給ができるよう、プーチンがアメリカに中央アジア領空への立入りを承認した矢先に、ワシントンが弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約から脱退したときです。それで、プーチンは西側に心底失望しました。
プーチンの大統領任期は、2つの「顔」と共に始まったのかもしれません。彼は、サンクトペテルブルクでの自身のメンター、アナトリー・サプチャーク(元サンクトペテルブルク市長でロシア連邦憲法の共著者。急進改革派の政治家)の影響を、ある意味で受けていました。
ですが同時に、彼はあらゆる元KGBメンバーに囲まれてもいたのです。たとえば、冷戦時代の世界観を持ち続けるパトルシェフ。西側にますます失望するにつれて、プーチンはこの第2のグループに接近しました。彼らのほうが「一理ある」という結論に到ったからです。
──ロシア国内にプーチンの反対派がいると西側が考えるのは、馬鹿正直というものでしょうか?
プーチンは、今なお非常に強力です。ですが、ロシアの秘密諜報機関の内部でさえ、最も進歩主義的な一派はプーチンがしてきたことは「非常に破壊的だ」と考えています。30年かけて構築してきた、西側とのネットワークや影響力を壊してしまうものだと。
ごく一部のみが、何が起こるか知っていました。アメリカの諜報機関もまたそれを知っていました。その事実が、プーチンの妄想症をなお一層助長してきたに違いありません。
けれども、プーチンの閣僚たちの大半が知らなかったのは明らかです。とくに政府による経済封鎖については予期していなかったので、この厳しい制裁に直面する準備ができていませんでした。
私がモスクワの情報源と話すと、彼らは動転しているようでした。こんなことは何もかも、まったく望んでいなかったのです。それはつまり、ある時点で、プーチンはネガティブな反応を受けるだろうということを意味しています。すべては、ウクライナでの軍事作戦がどのように進展するかによりますが。ロシアの完全勝利を証明することができるなら、プーチンが権力をさらに強固にする可能性は増すでしょう……。
──ですが、そうなるとは思えません。
ええ、思えないですね。ロシア軍は疲労困憊と準備不足を露呈しています。そこで、「これがプーチン政権終焉の始まりになるだろう」と考える人がいるのは間違いありません。プーチンは、手に負える以上のことを抱えようとしてしまったからです。
●プーチンが北方領土を「返還しない」どころか、そこで軍拡を進めている理由 4/29
北極海航路は「最初で最後の防衛線」
北極圏の重要性が増せば、「守るべきもの」も増え、そこに軍事力を集中させようとするのは、自然な動きであろう。そのため、ロシアのみならず、諸外国も北極圏の軍事基地を強化している。
中国も北極圏への軍事進出を目論み、2016年には中国鉱業・俊安グループが、デンマーク領グリーンランド(自治政府を持つ)にある旧米海軍基地施設を買収しようとしたが、デンマーク政府が阻止した。
なお、米国のドナルド・トランプ大統領も19年夏にグリーンランドを購入したいと主張したが、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相に即時拒否されたという経緯もあった。それほど、北極圏の軍事基地や土地は魅力的なのだ。
ロシアは軍事基地のみならず、極北仕様の新型兵器を北極圏につぎつぎと配備し、北極海の防衛を固め、米軍力の排除をめざしている。2021年1月1日には、北極圏防衛を任務とするロシアの北方艦隊が軍管区に格上げされ、北極圏に面するコミ共和国、アルハンゲリスク州、ムルマンスク州、ネネツ自治管区が北方艦隊の管区に移管された。北極圏の実効支配を確保し、NATOの艦船の進出を阻止する狙いがあるとされる。
北極圏の防衛をさらに増強するという考え方は、2018年半ばにロシアの軍事問題専門家で、極右的な評論家でもあるアレクサンドル・シロコラドが主張した「ロシアの主目的は米国を我々の北極圏に入れないことであり、北極海航路はロシアの最初で最後の防衛線だ」という見解に影響を受けていると考えられる。
欧米では北極海航路は、主に商業的価値と船舶の安全というポイントで注目されているが、シロコラドは北極海航路のロシアにとっての意味を、北極圏が持つ地政学的、地経学的、軍事的、戦略的重要性という多層的な意義と絡めて強調する。
さらに、氏は、もしソ連時代にソ連が軍事砕氷船を国際的に誇示していなければ、第三国が北極圏での経済活動を継続し、権益を得ていたにちがいないとし、ロシアは北極海航路を国際化しようとする欧米の動きは、ロシアの北極圏における権益と影響力を喪失させるための攻撃だとみなして、対抗措置を取るべきだと主張する。
ロシアが配備を進めている最新兵器
ロシアでは、そのような歴史的な流れにも鑑み、現代においても、高レベルな軍事砕氷船を保持することは、北極圏での権益の維持や、万一北極圏で紛争が発生した時などに、ロシアにきわめて有利に働くと考えられている。それに加え、四つの手段がロシアの北極圏における優位性を支えうるとされている。
第一に、防空・ミサイル防衛能力である。ロシア政府は2020年末までに、弾道ミサイル・巡航ミサイル・極超音速標的・ステルス機を探知できるレゾナンスNレーダー複合体を2基配備すると発表している。
また、ロシアは北極圏の条件に適合するようにTOR-M2DTミサイル・システムの開発もおこない、それによって、ほぼすべての飛翔体を標的にできると言う。
第二に、戦略航空機である。例えば、ツポレフTu160はロシア軍のナグルスコエ基地があるアレクサンドラ島に展開可能であると言う。
同機種の戦略航空機は、通常弾頭と核弾頭の両方を積載できる空中発射巡航ミサイルKh101/Kh102を運搬できるため、欧米にとっては重大な脅威となる。例えば、ロシアがこのようなミサイルを使えば、グリーンランドにある米国のチューレ空軍基地への攻撃を阻止することは不可能だとされている。
第三に、地上輸送車と歩兵戦闘車である。ロシアの新世代歩兵戦闘車であるリザルは極北での作戦に特化して設計されていて、近く実戦配備され、主要な地上装備として位置づけられるという。
第四に、高精密兵器である。核弾頭も搭載可能な空中発射弾道ミサイルであるKh47M2キンジャールは2017年にロシアの南部軍管区にはじめて配備されたが、現在その北方展開もめざしていると言う。
19年111月の発射実験では、Kh47M2キンジャールはマッハ10で飛行し、地上の標的を破壊したとされ、現在、北極の厳しい気候条件でも使えるよう、改良が進められているというが、実際に配備されれば、北極圏でのNATO軍の動きを大きく牽制しうるという。
中国と協力せざるをえない
このようにロシア軍の北極圏での展開は、欧米の動きを封じ込めるべく最先端の技術が集約されていると言ってよい。
だが、現在の北極圏の状態で石油や天然ガスを採掘するためには、やはり欧米の最新技術が必要であるというのもまた事実だ。ロシアは、それら欧米企業と協力して資源開発を進める予定であった。
しかし2014年のクリミア併合、ウクライナ東部へのロシアの介入などで、欧米がロシアに経済制裁を科したことから、ロシアの資源開発に欧米の企業が関われなくなり、しかも、ロシアは14年以降、経済的にも困窮するという悪条件も重なり、ロシアの北極圏開発計画は大きく遅れることになった。
そこでロシアにとって不可避になったのが中国との協力であった。ロシアのプーチン大統領は中国の一帯一路構想と、自国のユーラシア経済連合構想の「連携」を進めてきたが、その連携の軸に北極圏も含めてゆくことを2017年に提案し、中国もそれを快諾した。
中国は中国で、それ以前から、北極圏へのコミットメントを強め、特にアイスランドやグリーンランドに接近して北極圏への足場を確保していった。北極圏のガバナンスを担い、北極圏国8ヵ国が設置したハイレベル・フォーラムである北極評議会(AC:Arctic Council)にも、中国は13年からオブザーバーとして参加している(日本も同年にオブザーバー資格を得た)。
ロシアの北極圏における資源採取は、当初の想定とくらべれば低レベルになってしまっているのは否めないが、それでも自助努力で着実に発展している。
例えば2020年3月、ロシアの石油採掘・供給大手のガスプロムネフチのヴァディム・ヤコブレフ副会長は、北極圏の油田での生産量が大きく伸びており、19年のロシアの原油生産量のうち、約30パーセントを占めたと発表し、今後も北極圏での油田開発を推進すると説明した。
その際、北極圏の厳しい条件での炭化水素の生産は技術的、組織的に困難であるが、それらを克服して同社が着実に任務を果たしていることも強調され、ロシアも自国の技術を発展させていることがうかがえる。
近年、ロシアが長年頼りにしてきた西シベリア地域の原油埋蔵量が次第に枯渇に近づくなか、北極圏の油田開発はロシアの経済を支えるうえで、なんとしても成功させなければいけないプロジェクトとなっているのである。
前述の通り、ロシアは近年、中国のあまりに顕著な北極圏への進出を警戒するようになっているのだが、それでも、現状のロシアは、中国との協力なしには、北極圏での活動を著しく制限されるという実情に直面しており、中国の北極圏におけるプレゼンスの拡大はある程度必要悪として受け止めざるを得ない状況にあると言える。
北極海航路の終点としての北方領土
このことに関連していえば、ロシアの北極圏政策こそが、日本が奪還したい北方領土をロシアが返還できない理由の一つにもなっていると言える。ロシアにとって、北方領土は北極海航路の終点であり、また、ロシアが太平洋に出るための重要拠点なのである。
さらに、日本や韓国に展開する米軍を睨むうえでも、さらに中国を睨むうえでも、軍事的な要衝になっている。特に米国に対抗する核戦力の拠点となっているオホーツク海を守る拠点にもなっている。
そのようなロシアの北方領土にまつわる地政学的な重要性が、ロシアが北極圏のみならず、北方領土の軍拡を進める誘因の一つとなっていると言えるだろう。
ロシアにとってとりわけ重要なのが、択捉島、国後島である。特に、水深が深い国後水道(択捉島と国後島のあいだ)は、潜水艦の展開ということを考えてもロシアが絶対に死守したいものでもある。
かくして2016年、ロシアは択捉島、国後島に最新鋭の地対艦ミサイルであるバスチオンとバールをそれぞれ配備し、18年には択捉島に新鋭戦闘機スホイ35を配備した。ロシアはさらに北方領土の軍拡を進め、最終的には千島列島や北方領土に地対艦ミサイルを増強し、全域を覆って防衛線を作ろうとしている。
なお、色丹島、歯舞諸島にはロシア正規軍は配備されていないはずだが、少なくとも国境警備隊は相当数配備されている。 
●ウクライナでの戦争は「数カ月、数年続く可能性」 NATO事務総長 4/29
北大西洋条約機構( NATO)のストルテンベルグ事務総長は28日、「何カ月、何年も続く」可能性がある戦争でNATOはロシアの侵攻に対抗するウクライナを支援する準備ができていると述べた。
ベルギーの首都ブリュッセルでストルテンベルグ氏は「制裁を科し、ウクライナに経済支援だけでなく軍事支援も行うことで、(ロシアのプーチン)大統領に戦争の終結を迫る最大限の圧力をかけ続ける。我々は長期的に準備する必要がある」と語った。
さらに「ウクライナの状況は非常に予測不可能で不安定だ。しかし、この戦争が長引き、何カ月、何年も続く可能性は間違いなくある」とした。
ストルテンベルグ氏はまた、NATOはウクライナが「古いソ連時代の装備からより近代的な武器やシステム」へと高度化できるよう準備していると述べたが、それには「より多くの訓練を必要とする」と指摘した。
米国や、オランダ、フランスなどの欧州諸国はこのほど、ウクライナに長距離兵器の榴弾(りゅうだん)砲を供給すると発表した。
ドイツは対空戦車を提供すると発表し、戦争で破壊されたウクライナに軍事装備を提供するのが遅かったという批判をかわそうとしている。
ドイツのベアボック外相は27日、「訓練とメンテナンス」を提供してウクライナ軍を支援すると述べた。そして「対戦車兵器のスティンガーなど、公にはしていないが多くの兵器を提供している」と説明した。
英国のトラス外相は同日の講演で、英国が戦闘機やその他の重火器を送ることへの支持を呼び掛けた。「重火器、戦車、飛行機など在庫を詳細に調べ、生産を強化する」という。  

 

●ロシア国内で飛び交う戦争の言葉…プーチン氏また「誤算」  4/30
ロシア軍のウクライナ侵攻が長期化する見通しとなったのは、3月下旬から侵攻作戦の主眼に据えた東部制圧が、短期間では困難な情勢になっているためだ。2月下旬の侵攻開始時点で「48時間での決着」を目指していたプーチン大統領にとって、新たな「誤算」となる。プーチン政権は長期戦をにらみ、国内の世論誘導を活発化させている。
ウクライナの軍事専門サイト「ディフェンス・エクスプレス」は27日、露軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長が作戦指揮のため、東部ハルキウ(ハリコフ)州イジュームに入ったと報じた。イジュームは、ドネツク、ルハンスク(ルガンスク)両州を指すドンバス地方の制圧作戦で、部隊集結の拠点となっている。
プーチン氏は4月上旬、侵攻作戦を統括する総司令官に南部軍管区トップのアレクサンドル・ドボルニコフ上級大将を任命した。参謀総長の前線派遣は、これに続くテコ入れのようだ。
セルゲイ・ラブロフ露外相は今月19日、露軍の作戦が「新局面に入った」としてドンバス制圧に全力を挙げる意向を表明した。だが英国防省は29日、ドンバスの戦況について、「ウクライナ軍の激しい抵抗により、露軍の制圧地域は限定的で、相当な犠牲も出ている」との分析を明らかにした。
5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日という節目も意識し、露軍は部隊の再配置や装備の補強を続ける。米国防総省高官によると、露軍部隊は南東部マリウポリを離れ、北西方向に移動を始めたという。
露国内ではプーチン政権が使用を禁じてきたはずの「戦争」という言葉が4月以降、国営テレビに頻出している。28日夜の討論番組では、ウクライナへの軍事支援を加速させる米欧との対立に関し、出演した政治学者が「我々は植民地主義に反対する戦争を展開している」と述べ、ロシアが国家存亡を懸けた戦いに臨んでいると訴えた。
英王立防衛安全保障研究所は22日に発表した分析で、露軍には「夏までにウクライナを倒そうとする意思がある」と、キーウ攻略を断念していないとの見方を示した。
●「ロシアとの距離」に揺れる中国、「ウクライナへの責任」に揺れるアメリカ 4/30
1.ウクライナ戦争をめぐる中国の動き
ウクライナの戦争は長期化の兆候を示しており、ロシアの侵攻開始直後に想定されていたような短期でのロシアの勝利、そして占領は実現しなかった。ウラジーミル・プーチン大統領は、第二次世界大戦の対独戦勝記念日の「5月9日」を、自らが勝利を宣言する日として設定している。それへ向けてマリウポリなど東部の主要都市への攻撃が激しさを増している。
すでにロシア政府はこの戦争により、厳しい経済制裁の中で膨大な額の戦費と、想定外のロシア側戦死者という巨大な負債を背負っている。戦争継続は、中国がどの程度ロシアを支援するか、あるいはどの程度ロシアから距離を置くかによって大きく左右されるだろう。そのため、最近の論壇では中ロ関係やウクライナ戦争をめぐる中国政府の動向に注目が集まっている。
   「友情」がレアルポリティークの領域に適用されるとは限らない
例えば、著名な冷戦史家でイエール大学歴史学部教授のO・A・ウェスタッドは、歴史的に回顧しても中ロが一枚岩となる可能性は低いと論じ、戦争初期の協力にも拘わらずいずれ亀裂が走るシナリオを示している[Odd Arne Westad, “次なる中露の分裂?”, Foreign Affairs, April 5, 2022]。何よりも、中ロ両国とも、国内政治の力学によって外交が規定されている。歴史家のウェスタッドは、現在の中ロ関係が20世紀初頭の独墺関係に似ていると論じる。すなわち、衰退するオーストリア帝国(現在のロシア)が、台頭国のドイツ帝国(現在の中国)を意図せぬかたちで戦争へと巻き込んだというパターンと同様の動きが見られ、それを中国は回避するべきだと論じている。西側諸国に可能なことは、中ロ間の亀裂を深めることぐらいだ。冷戦期の中ロ関係を専門としてきたウェスタッドだけあり、鋭い指摘である。
モスクワ国際関係研究所上席研究フェローで、中ロ関係が専門のイゴール・デニソフも同様に、中ロがつねに一体となって行動するわけではなく、ウクライナ問題に対する両国の姿勢の違いが浮き彫りになっていると指摘する[Igor Denisov, “「限界はない」? ウクライナ問題での中国の対露関与を理解する”, The Diplomat, March24, 2022]。2月4日のプーチン大統領による北京訪問の際に発表された中ロ首脳会談の共同声明は、両国間の「友情に限界はない」と述べた。だが、共同声明で記されているような、両国が緊密な提携をする対象としての「共同隣接地域」は中央アジアを指しており、ウクライナはその地域に含まれない。また「限界がない」のはあくまで友情の領域であり、必ずしもそれがレアルポリティークの領域で常に適用されるわけではない。アメリカとの戦略的対立にまでこの「友情」が発展すれば両国の提携は強まるだろうが、地域紛争での提携にとどまる限りでは必ずしも両国が思考や行動を一致させるとは限らない、とする。
   「ロシアと一体」視されることへの躊躇
それでは中国政府は、ウクライナ戦争をめぐるロシアとの関係をどのように位置づけているのか。
ワシントンに駐在する秦剛駐米大使は、中国政府が事前にこの戦争について知っていたということも、水面下でロシアの軍事攻撃を支援しているというのも、いずれも「デマ」であると退ける[Qin Gang, “中国大使ーウクライナにおける我々の立ち位置”, The Washington Post, March 15, 2022]。もしも実際に戦争が勃発する危機にあると認識していれば、中国政府は開戦を阻止するために全力を尽くしたであろう。中国の姿勢は客観的かつ公平であり、国連憲章の目的と原則は徹底して遵守されるべきだと考えており、ウクライナを含むすべての国家の主権と領土の一体性は尊重されるべきだと論陣を張った。中国もまた台湾問題を抱えており、その独立を阻止するためにも、「主権と領土の一体性」を強調することで、台湾の独立に向けた動きやそれを支援するアメリカの動きを牽制する意向なのだろう。
同様に、复旦大学国際問題研究院研究員の赵明昊は、ロシアによるウクライナへの侵攻は「戦略的意外(strategic surprise)」であったと論じる[赵明昊(Zhao Minghao)、「俄乌冲突与中美关系(ロシア・ウクライナ衝突と中米関係)」、『中美聚焦』、2022年3月22日]。中国は平和を求めていて、戦争には反対していた。そのような戦争の勃発は、中国が意図したものでもなければ、中国により制御可能なものでもなかった。平和が深刻な挑戦に直面している今こそ、中国とアメリカが平和を回復するために重大な責任を負っていると述べている。
このような主張は必ずしも額面通りに受け止めることはできず、戦争回避の努力をしなかったという中国に対する国際社会からの批判を回避する目的での発信とも理解できる。ただし、いずれにせよロシアの侵略的行動と完全に一体として見られることに対して中国政府内で躊躇が見られることは明らかである。プーチン大統領が当初望んでいた、数日でキーウを陥落できるという楽観的な見通しの通りに事が進行しなかったことも、おそらくは中国共産党首脳にとって意外な展開であったのであろう。
他方で、中国の『環球時報』の英字紙でもある、『グローバル・タイムズ』のコメンテーターの胡錫進によれば、中国国民はこのウクライナ戦争の推移や、経済制裁の影響を慎重に注視しているという[Hu Xijin “中国人民は米露の対決を注視している”, Global Times, March 4, 2022]。
まさにこのロシアによる戦争を「試金石」として、そのインプリケーションが今後の国際情勢にも大きな影響を与えると認識している。中国から見ても、この戦争の推移によって中国の台湾に対する政策や対米関係における基本的な態度に大きな影響が及ぶと見ているのだろう。だとすれば、ロシアによるウクライナへの侵攻に関して、最初から中国政府の基本的立場が固定されていたわけではなく、戦局の推移に応じて柔軟に中国の態度が変わっていくことが推察できる。
中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所研究員の肖斌も同様に、ウクライナ戦争で中国がロシアにあまりにも近い立場に立つことを牽制する論考を発表している[肖斌(Xiao Bin)、「反思战争下的中俄关系(戦時下の中ロ関係を再考しよう)」、『中美聚焦』、2022年3月17日]。そこでは、中国独自の平和外交を進めていく必要性が説かれており、ロシアとの友好関係を維持することでそのような中国の平和外交を損なうべきではないと論じている。また、ウクライナ戦争後の国際秩序についても言及しており、これからの世界は「冷たい平和」、あるいは元の「不穏な平和」に回帰することになると論じる。ウクライナ戦争が中国の対外関係、とりわけ中ロ関係に巨大な影響を及ぼすことを想定するとともに、依然としてアメリカとの関係については抜本的改善の可能性は低いとみていることが分かる。
ウクライナ戦争でロシアがその軍事力と経済力を疲弊させ、さらに国際社会での孤立を深めるなかで、よりいっそう中国への依存が強まることは自明といえる。ロンドン大学キングス・カレッジのアレシッオ・パタラーノ教授は、この戦争を通じて両国の紐帯がよりいっそう強靱なものになることに注目した[Alessio Patalano, “中国は新たな国際秩序建設のためにロシアを使うことができる”, NIKKEI ASIA, March 19, 2022]。
そのことは、2月4日の中ロ両国の共同声明に示されている通りだ。ロシアがよりいっそう中国への依存を高めるということは、中国が自国にとって好ましい国際秩序を打ち立てていく上で、ロシアを利用することが可能となることを意味する。中国には、その長期的な戦略目標を実現する上で、ロシアを都合の良いパートナーとして利用できるというような発想も垣間見られる。
それでは戦争終結へと進む上で、中国自らはどのような役割を担うべきだと考えているのだろうか。
中国の研究機関の全球化智庫理事長で、国務院顧問も務めた経歴を持つ王輝耀は、ロシアのみではなくウクライナや西側諸国との結びつきも強い中国にとって戦争の継続は望ましくなく、むしろ停戦へ向けて仲介できる地位にあると論じた[Wang Huiyao, “ロシアに出口を提供する時だ。中国はそれを助けられる。”, The New York Times, March 13, 2022]。
中国はロシアとウクライナの両国にとっての最大の貿易相手国だ。王は、そのような立場を活用して戦争終結への「出口戦略」を提示できるはずであり、世界の中で中国ほど停戦へ向けて重要な位置にある大国はないと論じる。今後の中国の行動が注目される。
2.アメリカはどのような戦略を選択するべきか
ウクライナ戦争では、はたしてどのような戦略を選択することが最適であるのか。このような難しい問題が、アメリカ政府には突きつけられている。それをめぐって、さまざまな議論が展開されている。
   朝鮮戦争のアナロジーとして捉える視線
オバマ政権下で2009年から4年間、NATO(北大西洋条約機構)大使を務めたアイヴォ・ダールダーは、冷戦時代にソ連に対して成功を収めた「封じ込め戦略」を現在のロシアに対して実施するべきだと主張する[Ivo H. Daalder, “封じ込め政策の再来―西側がクレムリンに勝つ方法”, Foreign Affairs, March 1, 2022]。21世紀版の「封じ込め戦略」は、次のような3つの要素から成り立つ。第一にはロシアに対して十分な抑止力を構築することであり、第二には国際社会が結束してより多くの諸国が対ロシアの経済制裁を行うことであり、第三にはロシア経済を世界経済から切り離してデカップリングを進めることである。このようにしてロシアを封じ込めて、さらにグローバルなレベルでは中国との競争に勝利することが、アメリカに求められていることであると言う。
アメリカの戦略として現在、繰り返し問われているのが、国力に制約があるアメリカが欧州とアジアという2つの地域のいずれを優先するべきか、である。
これまでアメリカの戦略について積極的に発信してきたジョンズ・ホプキンス大学のハル・ブランズは、ロシアがもたらす脅威は中国がもたらすより大きな脅威の一部となっており、その両者が不可分に結びついていると論じる[Hal Brands, “中国に抵抗するというのはロシアを打ち負かすということだ”, Foreign Policy, April 5, 2022]。したがってブランズは、現在アメリカが中国と対立関係にあるのであれば、中国と一体となったロシアを打倒して勝利を収めることが必要だという。
そのような中ロを一体とみなす議論は、戦争勃発当初から見られた。例えば、ジョージタウン大学教授のマシュー・クローニグは、アメリカがヨーロッパとアジアとのいずれを戦略的に優先するべきかという問いに対して、その双方との戦争を想定する必要があると論じている[Matthew Kroenig, “ワシントンは中国とロシアの両方との戦争に備えなくてはならない”, Foreign Policy, February 18, 2022]。この両者を切り離すことができないからだ。
またハル・ブランズは、マイケル・ベックリーとの共同執筆論文の中で今回のウクライナ戦争を朝鮮戦争のアナロジーとして捉えており、民主主義諸国が結束して対応するべきだと論じる[Michael Beckley, Hal Brands, “パックス・アメリカーナの再来?―プーチンの戦争は民主主義同盟を強化している”, Foreign Affairs, March 14, 2022]。朝鮮戦争の際には、北朝鮮の侵略を韓国に対する侵略と限定するのではなく、自由世界全体に対する攻撃として捉えた。それゆえその対応も、西側世界全体として行った。同様にして今回も、ロシアによるウクライナ侵略に対し国際社会全体として対応することが重要だ。また、経済制裁やサプライチェーンの再編などを通じて、戦略的枠組みを再構築することの重要性を指摘する。そして最後に、アメリカは直接的な軍事介入を避けて、あくまでもアメリカが軍事力行使をする優先順位を考慮する必要がある。これらに見られるように、ブランズはあくまでもグローバルな視野からロシアや中国の軍事行動に対抗する民主主義勢力の結集の重要性を強調する。
   グローバルな「新冷戦」を戦う国力はあるのか
他方で、アメリカがどの程度の実質的、実効的にウクライナ戦争への対応ができているのかという問題もまた、冷静に論じられるべきであろう。
共和党下院議員で下院軍事委員会に所属するマイク・ギャラハーは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に寄せたコラムの中で、バイデン政権下で起草され、最近発表された国家防衛戦略(NDS)でも中核に位置づけられた「統合抑止」について、批判している[Mike Gallagher, “バイデン氏の「統合的抑止」、ウクライナで失敗”, The Wall Street Journal, March 29, 2022]。
ギャラハーによれば、抑止が成功するかどうかはアメリカが十分な軍事力を整備し、それを使用する意思があると相手国が評価したときに決まる。ところが、バイデン政権における統合抑止は、軍事力を強化せずにその行使を回避することを正当化するために用いられている理論であって、従来の拒否的抑止の放棄ともいえる。ギャラハーは、そのような統合抑止が機能しなかった実際の帰結が、ロシアのウクライナ侵略であると批判する。
実際に昨年夏の米軍のカブール撤退に際しての混乱に見られたように、ジョー・バイデン大統領は軍事力の行使に強い抵抗感を示し、また軍事力以外の手段を用いて安全保障問題を解決することを好む傾向がある。ギャラハーが示すこのような懸念と批判は、共和党内の安全保障や軍事問題に精通した多くの議員や専門家に共有されているものといえるだろう。
そのような共和党内のリアリストたちからの批判に加えて、軍事介入を嫌い、不介入主義を好む傾向が見られる論者からも、バイデン政権の外交に対する要望が示されている。
クインジー研究所の共同創設者であり、現在はカーネギー国際平和財団に所属するスティーブン・ワーサイムは、ウクライナ戦争からアメリカは距離を置くこと、そしてロシアや中国との「新冷戦」を戦わないことを要求する[Stephen Wertheim, “ウクライナによる誘惑 ―バイデンは新冷戦を戦うべきだという主張を退けなければならない”, Foreign Affairs, April 12]。ウクライナで見られるロシア軍によって引き起こされた人道危機と、アメリカに対する安全保障上の脅威とは、異なる性質のものである。そしてワーサイムは、ハル・ブランズやマイケル・ベックリーが、ロシアと中国の双方を封じ込めるべきだと論じていることを批判する。ロシアが本当にヨーロッパにとっての脅威かどうかは断定できず、またこの2つの大国を封じ込めるための十分な国力がアメリカにあるわけでもないし、そのための国民の支持があるわけでもない。グローバルな「新冷戦」は、アメリカにとってあまりにハイ・コストであり、ハイ・リスクである。アメリカの国力をそのために浪費するべきではないと論じ、むしろアメリカはより優先順位の高い課題に取り組むべきだと述べる。
ワーサイムと同様の主張をして、アメリカがウクライナ戦争へと深く関与することへの警鐘を鳴らすのが、ハーバード大学教授で著名な国際政治学者であるスティーブン・ウォルトである[Stephen M. Walt, “ヨーロッパの安全保障をヨーロッパ人に委ねよ”, “ウクライナ後の米国のグランドストラテジー” Foreign Policy, March 21, 2022]。
ウォルトは、「ヨーロッパの安全保障をヨーロッパ人に委ねよ」と題する論考の中で、ヨーロッパが自らの手で、ロシアの脅威に対応できるようにすることが重要だと述べる。人口や防衛費などの面でも、NATOの欧州加盟諸国には自らでロシアに対抗する潜在的な力が十分備わっている。ウォルトは、アメリカが今後も中国との競争に勝利するために、アジアに目を向けることが重要だと論じる。 
中山俊宏慶應義塾大学教授は、ウォルトも論考を寄せている上記の『フォーリン・ポリシー』誌のウクライナ戦争特集の中で、アメリカが中国へと戦略的な焦点を定めることが重要だと述べ、アメリカの国力を考えるとウクライナ戦争への関与が可能な範囲は限定的であると述べる[Toshihiro Nakayama, “中国への戦略的フォーカスの維持”, “ウクライナ後のアメリカのグランドストラテジー”, Foreign Policy, March 21, 2022]。
確かにアメリカは、ヨーロッパとインド太平洋との双方で深く関与するための十分な国力を有してはいない。それゆえ、ロシアによる現状変更の試みに対して、これからはよりいっそう欧州諸国が自らの力で対応することが重要であり、インド太平洋でもアメリカの同盟国やパートナー諸国の自助努力が重要となるだろう。ただしウォルトよりも中山の方が、アメリカが国際的な責任を果たす必要性については前向きな姿勢がうかがえる。
このように、アメリカ国内ではバイデン政権のウクライナ戦争に対する政策についてさまざまな見解が見られるが、中国のメディアはアメリカの政策を厳しく批判し、戦争勃発に対して、そして戦争がなかなか終結に至らない上でのアメリカの責任を強調するような論考を数多く掲載している。
『環球時報』紙の社説では、アメリカが武器売却により利益を得るためにあえて戦争を引き延ばしているとして、その責任をアメリカに押しつけている[「社评:对俄乌局势负有“特殊责任”的是华盛顿(社説 ーワシントンはウクライナ情勢に『特殊責任』を負う)」、『环球网』、2022年2月28日]。
同社説は、ワシントンが戦争を最大限に利用して、そこから地政学的な利益を得ようと戦争終結を阻害していると批判した。「民主主義同盟」といった美辞麗句を用いて、国際社会の「特権階級クラブ」の「会員証」を与えようとするアメリカの手口はヤクザのそれと同じである。アメリカは、武器売却のような自国利益を最優先することで、戦争終結を妨げている、とする。それはいわば、戦争終結のため、ロシア政府へ十分な働きかけをしようとしない中国に向けられた批判をかわそうという試みともいえる。
●如何にウクライナ戦争終わらせるか  4/30
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナをさらに破壊し、何千人もの人々を殺すのをどうやって止めることができるだろうか。ロシア軍の攻撃をどうしたら止めることができるか。残念ながら、現時点ではその答えを見いだせないのだ。
国連のグテレス事務総長が26日、モスクワを訪問し、プーチン氏と会合して早急な停戦、ロシア軍に包囲されたマリウポリ市から市民を安全に避難させる人道回廊の実施などを話し合ったというが、具体的な合意はなく終わったという。
プーチン大統領が2月24日、ロシア軍にウクライナ侵攻を命じて以来、既に2カ月が過ぎた。国内外避難民の数は同国人口の30%近くに迫っている。犠牲者の数はウクライナ側とロシア側を含めると数万人に及ぶだろう。グテレス事務総長は28日、ロシア軍の攻撃を受けて廃墟化した首都キーウ(キエフ)近郊のボロディアンカとブチャ、イルピンを訪問し、「21世紀にあって戦争は絶対に受け入れられない」と強調したが、その戦争は今なお続いているのだ。
バイデン米大統領は3月25日、ポーランドを訪問し、ワルシャワで演説して、「如何なる独裁者も人々の自由への愛を撲殺させることはできない。如何なる残虐な行為も自由への意思を押しつぶすことはできない。ロシアはウクライナに勝利はできない。自由を求める人々を希望のない暗闇の世界で閉じ込めることはできない」と述べ、「この男(プーチン大統領)は権力の座に留まることはできない」と語った。
人間の自由への美辞麗句が戦時下にあるウクライナ国民の心にどれだけ助けとなったかは知らない。同大統領のこのセリフを聞いたロシア下院のスポークスマン、ヴャチェスラフ・ヴォロディン氏は「ヒステリック」と呼び、バイデン大統領の発言を「米国の無力さの表現」と受け取った。
ウクライナ戦争に駆り立てられているプーチン大統領の大国復興へのファンタジーはこのコラム欄でも数回書いてきた。ここではロシア正教会最高指導者、モスクワ総主教のキリル1世の「この戦争は形而上学的闘争だ」という説明をもう少し考えてみた。
キリル1世は「形而上学的戦い」について、具体的には、退廃文化を享受する欧米社会に対する善側のロシア側の価値観の戦いと説明している。冷戦時代、レーガン米大統領(在職1981年〜89年)は当時、共産主義世界を「悪の帝国」、民主主義世界を「善」として善悪闘争論を展開させたが、キリル1世はその善悪の立場を逆転させ、同性愛を奨励し、薬物世界に溺れる退廃文化の欧米世界を悪に、それに対抗するロシアを善の立場に置く新たな善悪闘争を呼びかけているわけだ。
それに対し、訪日中のドイツのショルツ首相は28日、在日ドイツ商工会議所主催の会合で講演し、民主的価値を守り、共通の価値観を共有する国同士の結束の重要さを指摘、独裁政治を続けるプーチン大統領に対して民主主義の優位性を強調している。
民主主義は主権が国民であり、自由な選挙で政府を選出でき、人権を尊重し、言論・宗教の自由は保障されていることを前提としているが、民主主義国でそれらの条件が完全に守られている国は残念ながら多くはない。キリル1世ではないが、人間の過大な自由への欲望を寛容に受けれる西側文化が退廃文化を生み出している面は否定できない。
だから、第2次冷戦は人権の制限、言論・宗教の取り締まりなどを実施する強権政治の世界に対し、自由への謳歌で退廃下にある欧米社会の世界との戦いということができる。第1次冷戦時代の「善悪の戦い」とは明らかに異なる。
第1次冷戦が終焉した直後、ソ連最後の大統領となったゴルバチョフ大統領は、「冷戦時代の勝利側の欧米社会は傲慢に陥って、敗北した元共産圏にその圧力を広げていった」と非難した。あれから30年以上の年月が経過した。ソ連の後継国ロシアに大国の復興を掲げるプーチン大統領が現れ、失った大国の回復に腐心してきた。プーチン氏は欧米社会の弱点、不統一を巧みに利用し、民主主義システムの崩壊を目指してきている。
問題は、欧米社会が民主主義の理念に対して自信を失ってきていることだ。資本主義経済の問題点、自由社会の逸脱現象などに直面し、民主主義国の盟主・米国も腐敗、堕落、貧富の格差、退廃した性文化、薬物汚染といったさまざまな問題に直面しているからだ。一方、ロシアはプーチン大統領の強権政治で表向きは結束、統一しているが、自由を制限された若い世代は夢を求めて国外に脱出する一方、大多数の国民は経済的困窮を甘受しながら生きている。両者とも理想からは程遠いわけだ。
第2次冷戦時代は、もはや華々しい戦いとはいえなくなった。共に血まみれの状態でリンクに挙がっているボクサーの試合のようだからだ。
ない物ねだりかもしれないが、民主主義の理念を発展させ、世界を平和にできる指導者の出現が願われる。同時に、人間が一人一人良くならない限り、世界は第3次、第4次の冷戦を体験せざるを得ないのではないか。それではどうしたら人間は良くなるだろうか、換言すれば、人はどうして良くなれないのか。これは深刻なテーマだ。
●ロ、国際刑事裁判所に協力せず ウクライナで「戦争犯罪」  4/30
ロシア外務省のザハロワ情報局長は29日、ウクライナ侵攻に関しロシア軍の関与が疑われる残虐行為を戦争犯罪として国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)で裁こうとする動きについて「ICCの検察官は外見上の公正さや客観性すら保とうとしていない」と批判、協力しない意向を示した。ロシアはICCに加盟していない。
発表したコメントでザハロワ氏は、ICCはウクライナ東部の親ロ派支配地域でウクライナ側が行ってきた市民殺害などには目を閉ざしてきたとし「政治的に偏っており、独立した司法機関ではない」と主張、協力の義務はないと述べた。
●ウクライナ大統領、西側の協力に感謝 プーチン氏と会談用意あると 4/30
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナで、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は29日、西側諸国の協力に感謝した。さらに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談する用意はあるが、占領地域でのロシア軍の残酷行為のため、協議は破綻(はたん)する可能性が高いことも認めた。ウクライナ政府はロシア軍の人的被害が甚大なものになったと発表。米国防総省関係者はウクライナ東部でのロシア軍の作戦に遅れが見られるとの見方を示した。
ゼレンスキー大統領は29日、首都キーウに戻ったイギリス大使をはじめ、首都で大使館機能を維持している27カ国に対して、「ウクライナ支援のきわめて重要な行動」だと感謝した。「こうした行動は、自由世界からの強力な防衛・金融・政治支援と合わせて、戦争を終わらせなくてはならない状況がますますロシアに明らかになっている。侵略者の敗北は変えられない」と、大統領は述べた。
イギリスのメリンダ・シモンズ駐ウクライナ大使は29日、「キーウに戻れて本当に良かった」とツイートしていた。在キーウのイギリス大使館はロシアの軍事侵攻のため西部リヴィウに移動し、シモンズ大使は一時国外に退避していたが、ボリス・ジョンソン英首相は22日、キーウの大使館を近く再開すると発表していた。
ゼレンスキー大統領はさらに、米連邦議会がウクライナへの兵器貸与を容易にする「レンドリース(武器貸与)法案」を賛成多数で可決したことに感謝した。法案はすでに上院も通過しており、バイデン大統領の署名を経て成立する。法案は、第2次世界大戦中にアメリカからイギリスなど連合軍への軍事支援を促進した法律の名前にちなんだもの。
ゼレンスキー氏は、2022年武器貸与法が「ロシアとの戦いで大いに役立つ」として、「第2次世界大戦でのナチスとの戦いでも大いに役に立った」と述べた。
「我々に戦争を仕掛けたのはナチスの思想的な後継者だ。武器貸与法は、ウクライナと自由世界全体がその者たちを倒す助けになると確信している」と、ゼレンスキー氏は歓迎した。
これに先立ちゼレンスキー氏はポーランドのメディアに対して、キーウ近郊ブチャをはじめ各地でロシア軍が残虐行為を繰り返したものの、それでもロシアのプーチン大統領と会談する用意はあると述べた。
ゼレンスキー氏は、ロシアでは「1人の人間が全てを決める」ため、プーチン氏と会いたいのだと話した。ただし、占領地域でのロシア軍の行動のため、協議は破綻する可能性が高いことも認めた。
「ブチャや(南東部)マリウポリを経験した今となっては、(ウクライナ)国民はみんな相手を殺したがっている。そういう状態での話し合いは難しい」とゼレンスキー氏は認めた上で、自分自身も気持ちは国民と一緒だが、「わずかにでもチャンスがあるなら、(プーチン氏と)話し合うべきだ」と述べた。
ウクライナ政府は28日、少なくとも民間人400人が殺害されたブチャにおいて戦争犯罪を犯したとされるロシア兵10人について、顔写真と共に追跡捜査の開始を発表した。
ブチャは2月末から1カ月以上、ロシア軍の第64独立自動車化狙撃旅団に占領されていた。その間に市内では多数の民間人が殺害されたもよう。ロシア側は虐殺行為を一切否定しており、プーチン大統領は4月18日、この旅団の「大勢が英雄的行為と武勇、忍耐力と勇気を示した」とたたえ、「親衛隊」の名誉称号を付与した。
11月のG20首脳会議にロシアは
インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は29日、11月にバリ島で開催する主要20カ国(G20)首脳会議について、電話会談したロシアのプーチン大統領が出席の意向を示したと発表した。ジョコ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領もG20に招待している。
これについて米政府のジェン・サキ大統領報道官は、ジョー・バイデン大統領がすでにG20へのプーチン氏の出席に「公に反対」してきた一方、「ウクライナの出席は歓迎している」と話した。
米国務省のジャリナ・ポーター報道官は、国際交渉の場でロシアと「今まで通りに」やりとりすることはできないと述べた。11月のG20サミットにバイデン大統領をはじめ米政府代表団が参加するかどうかは、言明しなかった。
国防総省のジョン・カービー報道官は同日の記者会見で、ロシア軍の戦い方について記者団の質問に答えている最中、こみあげる感情で声を詰まらせたかのように見えた。
「あれほどの暴力と残酷さを(プーチン氏が)示すとは、十分に予想していなかったと思う」と、カービー報道官は述べた。さらに、ロシア軍はロシア人とウクライナ人をナチスから解放して守っているのだという、プーチン氏の言い分について、「ウクライナ国内で罪のない人たちに実際に何をやっているのか、後頭部を撃ち抜き、後ろ手に縛り、妊婦を殺害し、病院を爆撃している、その行為に照らすと、(プーチン氏の主張は)まったく実態に見合わない」と批判した。
国連総長訪問中の首都を爆撃、ロシア認める
ロシア国防省は29日、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が訪問中のキーウに対して爆撃を実施したことを認めた。「高精度長距離空中兵器」を使い、軍事工場を標的にしたとしている。
28日の攻撃では、キーウ中心部の集合住宅も破壊され、住民のヴィラ・ヒリッチ記者が死亡した。
ロシア側は集合住宅への攻撃は認めていない。
ロケット弾2発が着弾し、3人が負傷して病院に運ばれた。
キーウ市のヴィタリ・クリチコ市長は、国連事務総長が訪問中の首都を爆撃したことは、プーチン氏が罵倒を意味する中指を立てているのと同じだと批判した。
モスクワで取材するBBCのジェニー・ヒル記者も、この爆撃を通じてプーチン氏は、自分が国際社会や国際機関を見下しているし、誰も自分を止められないと、そういう強力なメッセージを国際社会に伝えたのだと解説している。
ロシアの東部作戦に遅れ=米国防省筋
米国防総省関係者は29日、ウクライナ東部ドンバス地方を制圧しようとするロシア軍の作戦は予定より遅れていると記者団に話した。
ロシア軍は少なくとも92の大隊戦術群をウクライナの東部と南部に展開し、さらに追加の部隊が国境のロシア側で待機しているものの、その戦力はまだ開戦当初の苦戦から十分に回復していない可能性があると、国防総省関係者は述べた。
ウクライナ軍の徹底抗戦に加え、キーウ制圧に失敗した経験から、ロシア軍が補給線より前に進むことをためらっており、それが作戦遂行の遅れにつながっていると、国防総省筋は分析。「少なくとも予定より数日は進捗(しんちょく)が遅れ」ており、「(ロシア軍は)大規模な長期戦に備えた状況を整備しているようだ」との見方を示した。
ロシア外相、モルドヴァに警鐘
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は29日、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)と戦争しているつもりはないし、そのような展開になれば核戦争の危険が高まるが、核戦争は引き起こしてはならないと述べた。国営ロシア通信(RIA)が伝えた。
外相は、ロシアは誰に対しても核戦争の脅しなどしていないが、西側がそうしていると批判した。
ラヴロフ氏をはじめロシア政府幹部や国内著名人の間ではこのところ、西側との全面戦争や核戦争への言及が相次いでいる。
またウクライナとの和平交渉が中断しているのはロシアのせいではなく、ウクライナ政府が「常に駆け引きをしたがっている」せいだと批判した。
ラヴロフ外相はさらに、ウクライナの隣国モルドヴァに言及し、モルドヴァ国民は未来を心配した方がいいと述べた。
ラヴロフ外相は、「モルドヴァの人たちは自分たちの未来を心配するべきだ。NATOに引きずり込まれているので」と述べた。
モルドヴァの東部トランスニストリア地域では25日、謎の爆発が相次いだ。ウクライナでの紛争が拡大する恐れが出ている。
●G20議長国インドネシア、ロ・ウクライナに戦争終結呼び掛け 4/30
20カ国・地域(G20)議長国を務めるインドネシアのジョコ大統領は29日、ロシアとウクライナに対し戦争終結を呼び掛けると同時に、ウクライナによる兵器供給の要請に応じなかったと明らかにした。
インドネシアは11月に20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を開催。ウクライナはG20のメンバーではないが、ジョコ大統領は同国のゼレンスキー大統領を招待している。
ジョコ氏は今週に入りゼレンスキー氏のほか、ロシアのプーチン大統領とも電話会談を行ったと明らかにし、「戦争が早期に終結し、話し合いを通して平和的な解決がもたらされることを望んでいる」と伝えたと述べた。
また、ゼレンスキー氏から兵器供給の要請があったものの、戦略的な中立を目指すインドネシアの外交政策に従い、要請に応じなかったと述べた。ただ、人道支援を実施する用意はあるとした。
米英やカナダなどは議長国インドネシアに対し、プーチン大統領をG20サミットに招待しないよう呼び掛けているが、ジョコ大統領は「インドネシアはG20を結束させたい。亀裂を生じさせたくない」と表明。ロシア大統領府報道官はこの日、プーチン氏はG20サミットに出席するかまだ決めていないと述べた。
●ウクライナ戦争で戦時体制に拍車、米国の「民主主義」は大丈夫か? 4/30
民主主義から「退化」してきた?
個人的に民主主義は素晴らしいと信じるし、読者の多くもそうであろう。
だが、英国宰相ウィンストン・チャーチルの有名な「民主主義は『最悪の政治形態』といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けばだが……」という言葉が示すように、次々と問題が噴出するシステムでもある。
だから、民主主義を非難する勢力は常に存在するし、それなりの説得力もある。そして、その「説得力」に負けて、国民が「自らの意思で独裁政治を選択」したケースは珍しくない。
1789年から始まったフランス革命で、ようやく絶対王政を打破したフランスが典型例であろう。
『1804年5月18日元老院決議』によって、「ナポレオン・ボナパルト終身第1統領」が皇帝に即位。さらに、国民投票が同年11月におこなわれ、その国民投票の過半数の賛成の結果、フランス共和国の皇帝に即位したことが追認されたのだ。つまり、「絶対権力者」を国民の意思で誕生させたということになる。
また、アドルフ・ヒトラー率いるナチスは、ヒトラー内閣成立直前の1932年の2度の国会選挙で第1党となったが、単独過半数を獲得することはできなかった。
その後、1933年1月30日、ヒトラーはパウル・フォン・ヒンデンブルク大統領よりドイツ首相に任命されて政権を獲得した。
さらに、1934年8月にヒンデンブルク大統領が死去すると、ヒトラーは首相職に加えて国家元首の機能を吸収、国民投票によってドイツ国民により了承された。その結果、日本語で「総統」と呼ばれる「絶対権力者」の地位に上り詰めたのだ。
どちらのケースでも、民主主義を継続することが可能であったかもしれないのに、わざわざ国民の意思で「絶対権力者」を誕生させている。
有事に絶対権力は生まれる
我々は、「独裁政治から民主主義へ『直線的に発展』」するイメージを抱きがちだが、歴史は、「民主主義から独裁政治」への流れが何回も起こっていることを示している。
日本においても、明治維新において議会制民主主義が採用され発展したのにも関わらず、議会制民主主義の低迷もあり、5.15事件や2.26事件を経て「軍部独裁」へと向った。
これらの流れに共通するのは、世の中が混乱したり、「有事」とされるときには、絶対権力者が登場しやすく、国民もそれを追認、あるいは待望する傾向があることだ。
昨年5月27日公開「日本とアメリカ、ここへきて『100年前の世界』と“ヤバい共通点”が出てきた!」、同9月13日「第2次大戦前夜と酷似、『ポスト菅・バイデン』の時代を捉えなおそう」で述べたように、かつてファシズムや共産主義が台頭した時代が再び戻ってくる恐れがある。
3月23日公開「目の前の危機の原因は、実は『制度疲労』なのではないか? 日本も、世界も」の副題「『大乱』で世界秩序が崩壊していく」状況がすでに起こり始めている中で、我々はよほどしっかりしないと民主主義を守っていくことが出来ないように思える。
もちろん、これは、日本だけではなく、米国を含む西欧社会全般に広がっている大問題である。
ローマの民主主義と帝政
米国を始めとする多くの西欧諸国のルーツとされる(あるいは自ら主張する)のが古代ローマである。
神話によれば、古代ギリシア人との戦いで滅んだトロイアの末裔アイネイアースに遡る血筋を持ち雌狼に育てられた双子の1人であるロムルスが、紀元前753年に建国したのがローマの始まりである。
以来、西ローマ帝国はゲルマン人の傭兵隊長が皇帝を退位させることによって476年に、東ローマ(ビザンツ)帝国が1453年にオスマントルコによって滅ぼされるまで長きにわたって繁栄した。
またその領土も現在のフランスや英国(の一部)やルーマニアなど広範囲に及んだため、西欧に与えた影響は極めて大きい。
そして、そのローマも初期には(現在の国民すべてが原則参加する民主主義とは異なっているが)共和制(民主主義)であった。
なお、米国で婦人参政権が実現したのは1920年のことである。また、黒人に形式上選挙権が与えられたのは、1870年であるが、実質的に投票の権利が保障されたのは1965年の投票権法成立以降のこととされる。したがって、米国の民主主義も古代ローマとそれほど変わらないという見方もできるかもしれない。
そしてそのローマの共和制を変質させた象徴が、紀元前44年に「ブルータスよお前もか!」と叫びながら暗殺された、ユリウス・カエサルである。
カエサル自身は皇帝とはならなかったが、彼の養子「オクタヴィアヌス」が初代ローマ皇帝となる。彼が元老院から受けた「アウグストゥス(尊厳者)」という尊称は、「August(8月)」の語源ともなっている。
ローマ皇帝も米大統領も暗殺されてきた
初代皇帝アウグストゥスは、幸いにも紀元14年に自然死でこの世を去ったが、第2代皇帝ティベリウスは暗殺された疑いがある。さらに、第3代皇帝カリギュラは何と、現代でいえば大統領を警護するシークレットサービスにも相当する近衛隊によって殺されている。
また、第4代皇帝クラウディウスも暗殺され、第5代皇帝ネロは自殺に追い込まれている。それでも止まらず、第6代ガルバも近衛隊によって暗殺され、第7代オトも自害している。
韓国大統領の退任後の末路が悲惨なことはよく論じられるが、ローマ皇帝の方がもっと悲惨かもしれない。
また、皇帝が頻繁に暗殺される現象が帝政初期に限られているわけではないことは、「ローマ皇帝一覧」の「没年と死因」を見れば一目瞭然だ。
そして、2020年12月15日公開「暗殺率約10%! 米国大統領という危険な職業の実態を考える」で述べたように、米国大統領の暗殺率も決して低くはない。
これは、米国が「民主主義先進国」というイメージを世界にふりまきながらも、帝政ローマのように、大統領(皇帝)の権限が強い国家であるということを意味しているのではないだろうか?
つまり、大統領(皇帝)に権限が集中しているから、反対派が文字通り「首をすげ替えて」自らの権力を得ようとする動きが活発化するように思えるのだ。
ローマは帝政になってから崩壊への道を歩んだ
米国だけを考えれば、1776年の独立宣言から250年に満たない歴史しか持たないが、宗主国であった大英帝国(英国)の歴史ははるかに長い。また、ポルトガル・スペインを中心とした大航海時代は15世紀から始まっている。
「西欧」というくくりで考えれば、世界の覇者になってから500年程度が経過しているとも考えられる。したがって、米国という強大な「帝国」が、世界を西欧が支配する時代の終わりとともに滅びるシナリオが実現する可能性はそれなりに高いと考える。
ローマ帝国は、共和制から帝政に移行し、最終的に崩壊した。米国はどうであろうか?
振り返れば、9.11テロが大きな転機になったように思える。その直後の2001年10月26日にジョージ・W・ブッシュ大統領によって署名され、発効した「米国愛国者法」は、「テロとの戦い」という大義名分を掲げながらも、「市民の自由・人権を侵害する」という批判も根強い法律である。
この法律の多くの条項は、緊急事態に対応するための時限法であったが、結局、少なからぬ条項が「恒久化」され現在に至っている。
この「有事」を大義名分にした法律の「恒久化」に我々は、最大限の注意を払うべきではないだろうか?
報道も政治もベトナム戦争以降に大きく変わった
ベトナム戦争の時には自由であり、反戦運動に火をつけた米国のジャーナリズムも、現在では「死んでいる」ように思える。
「愛国者法」も大きく影響しているとは思うが、ベトナム戦争での「反戦報道」に懲りた米国政府が、戦地での取材を厳しく統制していることも大きな理由だ。
ウクライナ紛争で、米国は武器の供与は行っても(公式には)戦闘に関与していない。だが、ロシア軍の「問題」だけを大々的に取り上げ、ゼレンスキー大統領やウクライナ軍を英雄のようにほめたたえる姿勢には、戦前の日本の「大本営発表」の面影を感じざるを得ない。
「有事」の際の「国威発揚」が重要な場合もあるが、ベトナム戦争同様「そもそも、この戦争は必要なのか?」という疑問を封殺するような動きは民主主義を崩壊へと導く。
やはり、「愛国者法」以降、米国は民主主義の軌道から大きくそれ始めているように感じる。
ウクライナは本当に民主主義を守るために戦っているのか? ベトナム戦争で典型的であったように、これまで米国が支援してきた多数の腐敗した独裁政権と変わりがないのではないか?
このような疑問が「封殺」されずに冷静に議論されるのが、民主主義社会であると考える。現在の米国政府を見ていると、戦前大本営発表を垂れ流した日本政府やプロパガンダ技術に長けていたナチス・ドイツなどと大きな違いがないようにも感じる。
ロシアは民主化に向かっている途中ではなかったか?
バイデン米大統領は、2020年の「疑惑の大統領選挙」で当選した後、プーチン氏が投票日から1ヵ月以上経つ12月15日まで祝辞を送らなかったことを根に持っているのかもしれない。
だが、元々は、2016年の大統領選挙で「ロシアが米国の大統領選挙に介入した」と、明確な証拠もなくプーチン氏を非難した民主党政権に原因があるといえよう。
また、ロシアは、現在でも毛沢東を建国の父として崇拝している中国と違って、フルシチョフ氏が明確にスターリンの残虐な行いを批判してけじめをつけている。
さらに、運営上の批判は色々とあるが(米国と同じ)「普通選挙」によって大統領が選ばれている。単なる形式上の「共産党への翼賛選挙」しか存在しない、中国とは天と地ほどの違いがあるのだ。
確かに、20年以上にわたり(事実上の)最高権力者の地位を保持してきたことを独裁と呼べるかもしれないが、それは1月6日公開「ドイツは3度目の『敗戦』? メルケル16年の莫大な負の遺産」、2020年9月21日公開「メルケル独裁16年間のつけ、中国がこけたらドイツもこけるのか?」、同5月25日公開「人類の敵・中国を大躍進させたメルケル首相『16年間の独裁』」で述べたメルケル氏も同じである。
それに対して、1回目の停戦協議に参加していたウクライナ代表団の1人が射殺されたという報道があった。スパイ疑惑があったとのことだが、「疑惑」だけで裁判にもかけずにいきなりその場で射殺するなどということを「当然」とするのは民主国家とは言えない。
さらに、18歳から60歳までの男性の出国は禁止されている。これも、民主主義国家が行うべきことではないと考える。
まだ断定をすることはできないが、もし万が一、米国が、「民主化を目指している(いた)国」にげんこつを振り上げ、逆に「演説が上手な独裁者」を支援しているとしたら、世界の民主主義は大きな脅威にさらされることになる。
少なくとも、米国のウクライナ紛争に関する姿勢が中露を接近させたことは明らかであり、これだけでも世界の民主主義をリスクにさらす。
●ウクライナ戦争に中立の立場をとるローマ教皇、西側は落胆―米メディア 4/30
フランスの国際放送メディア・RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)は27日、「ローマ教皇のウクライナ戦争に対する中立は西側を落胆させた」と題し、米メディア・ポリティコの同日付の報道を紹介した。
ロシアのウクライナ侵攻開始後の3月1日に開催された国連人権理事会で、ロシアのラブロフ外相が発言した時、各国のほとんどの外交官が次々と退場する中、ローマ教皇庁から来た特使は会場に残った。これについて記事は、ある西側の外交官が「西側諸国は不愉快な気持ちになった」と述べたことを挙げ、「一部の西側諸国はローマ教皇庁の中立的な態度が腹立たしいものだと認識している」とした。
また、「プーチン氏はロシア正教会の強力な影響を利用してウクライナでの残虐行為を後押しし、戦争を正当化した」と指摘。ローマ教皇庁が今までのロシアに責任を追及する投票を繰り返し棄権してきたことを挙げ、「その代わりにフランシスコ教皇は感動的だが具体性の無い言葉で戦争を非難することを選んだ」とした。また、教皇がロシアやプーチン氏の名前を口に出さず、ロシア正教会長がウクライナへの侵略を「聖戦である」とした主張にも口を閉ざしていることにも言及した。
その上で記事は、現在教皇にとって難しい二つの選択肢は「自身の道徳的地位を利用してロシアをはっきりと非難する」か、「今は動かず、仲裁の時が来ることを望んで待つ」かだとし、一つの建設的な役割の例として「ロシア正教会を戦争解決の選択肢に参加させることかもしれない」と述べた。
一方で、ローマ教皇庁の中立の信念に基づいた「対話と長期的な思考」というやり方で、プーチン氏やロシア正教会に対してどれほどの効果があるのかと疑問を呈した。さらに、教皇がキエフへの訪問を「検討している」と明らかにしたことについて、「(教皇は)象徴的な訪問というだけでなく、少なくとも停戦に向けての一歩を踏み出すことを保証したい考えだ。しかし、これはかないそうにない」と述べている。
●ウクライナが東部で徹底抗戦 一進一退の攻防続く  4/30
ロシア軍が侵攻を続けるウクライナ東部では、ウクライナ側が徹底抗戦していて、ロシア軍の支配地域の拡大が限定的になっているとみられるなど一進一退の攻防が続いています。ロシア軍は部隊の一部を移動させる動きを見せていて、来月9日の「戦勝記念日」に向け、攻勢を強めるねらいとみられます。
ウクライナへの侵攻を続けるロシアの国防省は29日、巡航ミサイル「カリブル」を発射し、キーウ州や南部オデーサ州などにある鉄道関係の変電所3か所を破壊したと発表しました。
国防省は、黒海から潜水艦が「カリブル」を発射したとも説明していて、ロシアのメディアは、潜水艦からウクライナへの攻撃は初めてとみられると伝えています。
一方、ウクライナ側は徹底抗戦する構えで、ゼレンスキー大統領は29日、首都キーウの宮殿で軍の幹部や戦死した軍人の遺族に勲章などを授与して「ここにいる英雄たちとわれわれの『自由に生きたい』という思いのおかげで闘い続けている」と激励しました。
ウクライナ東部の戦況について、イギリス国防省は29日「ロシア軍は東部のドネツク州とルハンシク州の支配を確保する目的のため、この地域の戦いが戦略的な焦点となり続けている」と指摘する一方「ウクライナ側の強い抵抗で、ロシアの領土獲得は制限され、ロシア軍は多大な犠牲を出している」として、一進一退の攻防が続いていると分析しています。
アメリカ国防総省の高官も29日、ロシア軍は、東部ハルキウ州のイジュームから南に向けて徐々に前進しているものの、ウクライナ側の激しい抵抗に直面しているうえ、前線部隊への物資の補給ルートを維持するため、慎重に進んでいると指摘しました。
そのうえで「彼らの東部での計画は当初の予定より遅れていると考えられる」と述べました。
またこの高官は、ロシア側が東部地域のウクライナ軍に対し北と東と南の3方向から圧力をかけるため、要衝マリウポリに展開していた部隊を北へ移動させているのが確認できるとしました。
ロシア軍としては、苦戦を強いられる中、部隊の一部を移動させ、来月9日のナチス・ドイツに対する「戦勝記念日」に向けて攻勢を強めるねらいがあるとみられます。
●ウクライナ ヘルソンの女性 “ロシアがさまざまな形で支配”  4/30
ロシア側が掌握したと主張するウクライナ南部の都市ヘルソンの市議会の職員の女性が29日、NHKのインタビューに応え、ロシアがさまざまな形で支配を強めようとしている市内の状況を語りました。
ヘルソンの市議会に勤めるスビトラナ・ドゥミンスカさんは、軍事侵攻が始まった2月に西部リビウに避難しましたが、現在も市内に残る同僚たちと連絡を取り合っているということです。
ヘルソンでは、市長がロシア側によって強制的に解任されましたが、ドゥミンスカさんは「ロシア側は突然、市議会の職員にも解雇を告げて建物から追い出した。そして庁舎に掲げられていたウクライナ国旗を降ろした」と話し、市議会の職員も一方的に解雇されたと明らかにしました。
職員たちは職場への出勤ができなくなりましたが、在宅で自主的に仕事を続けているということです。
また「ロシア側の人間が図書館に行って、ウクライナの教科書を探している。ロシアの教育プログラムに沿った内容に教科書を書き換えるのが目的だ」と語り、ロシア側がさまざまな形で支配を強めようとしている状況を証言しました。
一方、ロシア側が占領の正当化のため実施するのではないかと伝えられる住民投票については「彼らは準備を進めていたが、住民たちはデモを行い、『ヘルソンはウクライナだ』と強く訴えてきた。このため最近は住民投票の話は聞かれなくなっている」と話しました。
そして「21世紀にこのような残酷なことが起きていることを多くの人に知ってほしい」と訴えました。
●製鉄所退避計画か ロシア軍、再び首都攻撃―ウクライナ 4/30
ウクライナ大統領府は29日、ロシア軍の包囲が続く南東部マリウポリでウクライナ部隊が拠点とするアゾフスタル製鉄所をめぐり「きょう民間人の退避が計画されている」と述べた。AFP通信が伝えた。
グテレス国連事務総長は、26日のロシアのプーチン大統領に続き、28日にウクライナの首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領らと会談。退避に向けた国連による仲介努力が奏功した可能性もあるが、実現するかはなお不透明だ。
一方、ウクライナ当局によれば、キーウでは28日、ロシア軍が発射したミサイル5発が着弾し、1人が死亡、複数の負傷者が出た。ロシア国防省は29日、「ミサイル生産施設などを破壊した」と述べ、攻撃したことを認めた。
キーウへのミサイル攻撃は約2週間ぶりとみられる。ゼレンスキー氏は「国連に屈辱を与えようとする試みだ」と述べ、グテレス氏の訪問に合わせた攻撃だという認識を示した。
●ウクライナ東部 3方向から圧力 戦闘長期化か 米国防総省高官  4/30
ウクライナの東部2州の完全掌握を目指していると見られるロシア軍について、アメリカ国防総省の高官は、3方向から圧力をかけようとしていると分析し、戦闘が長期化する可能性があるとしました。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は停戦交渉について「ロシアが完全に打ち切るリスクは非常に高い」と述べ、先行きに厳しい見方を示しました。
ウクライナ東部の戦況について、アメリカ国防総省の高官は29日、ロシア軍がハルキウ州のイジュームから南に向け徐々に前進しているものの、ウクライナ側の激しい抵抗に直面しているという分析を示しました。
そして、ロシア側が北と東と南の3方向から圧力をかけるため、要衝マリウポリに展開していた部隊を北へ移動させているのが確認できるとしたうえで、双方がともに東部の地形に精通していることや長距離の攻撃を仕掛けていることなどから、長期化する可能性があるという認識を示しました。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は29日、東部の戦況について「ハルキウ州では厳しい状況の中、わが軍は戦術的な成功を収めることができている。ドンバス地域では、ロシア軍がインフラや住宅地への攻撃を続け、一帯からあらゆる命を消し去ろうとしている。私たちの防衛は文字どおり、命をかけた闘いとなっている」と述べました。
また、停戦交渉について、ポーランドメディアの取材に「約束したことが何度も覆されるため、信じることができない。ロシアで権限を持っているのは1人だけで、その人物と直接交渉し、合意することでしか、約束は果たされない」などと不信感をあらわにしたうえで「ロシアが完全に打ち切るリスクは非常に高い」と述べ、先行きに厳しい見方を示しました。
一方、ロシア側はラブロフ外相が中東の衛星テレビ局アルアラビヤとのインタビューで、ウクライナ側が、NATO=北大西洋条約機構への加盟を断念する代わりとなる新たな安全保障の枠組みをめぐり、先月の合意内容から要求を変えたなどとして「交渉が行き詰まっているのはウクライナ側が支離滅裂で、毎回、適当にあしらおうとしているからだ」と主張しました。
ウクライナ東部での戦闘の長期化が懸念される中、停戦交渉の行方は見通せない状況となっています。
●ロシア世論調査、ウクライナ侵攻「支持」は7ポイント下落の74% 4/30
ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターは28日、「特別軍事作戦」と称したウクライナ侵攻に関する4月の調査結果を発表した。「ロシア軍のウクライナでの行為」を支持する回答は3月と比べて7ポイント下落し、74%となった。戦死者の拡大や対ロ制裁が影響したとみられる。
侵攻を支持する層のうち「確実に支持する」との回答は前月比8ポイント減の45%、「どちらかと言えば支持する」は、同1ポイント増の29%。「確実に支持しない」は5ポイント増の11%で、「どちらかと言えば支持しない」は前月と同じく8%だった。
「軍事作戦の進捗しんちょくは順調か」との問いに対しては68%が「順調」、17%は「順調でない」と答えた。年齢層が高いほど「順調」と答える割合が多かった。「順調でない」と回答した人の大半は、戦闘の長期化と犠牲者の多さを問題視した。
レバダ・センターは「軍事作戦に対する国民の関心は徐々に薄れ始めている」と総括した。調査は18歳以上の1600人余を対象に対面式で実施。センターは政府から独立した予算で運営し、欧米各国から業務委託されるなど信頼性が比較的高いとされる。
ウクライナ侵攻に関し、英国のウォレス国防相は25日、ロシア軍の死者が約1万5000人に上るとの推計を公表。モスクワのソビャニン市長は今月中旬、外国企業の営業停止や撤退により、モスクワだけで約20万人が職を失う恐れがあるとの認識を示している。
●米国防総省の報道官 ウクライナの状況にことば詰まらせる  4/30
アメリカ国防総省の報道官が記者会見で、ロシアによる軍事侵攻で市民にも多くの犠牲者が出ているウクライナの状況をめぐり、ことばを詰まらせる場面がありました。
アメリカ国防総省のカービー報道官は29日の記者会見で、記者から「ロシアのプーチン大統領は理性的な人物だと思うか」と問われたのに対し、「彼や彼の軍隊がウクライナでやっていることについて、倫理的な人間が正当だと見なすのは難しい」と述べたあと、ことばを詰まらせました。
そして10秒間ほど沈黙したあと「いくつかの映像を見て、そんなことを真剣な、分別のある指導者がすると想像するのは難しい」と述べたうえで、ロシア軍の侵攻を「プーチン大統領の悪行」と強いことばで表現し、非難しました。
カービー報道官は、オバマ政権時代にも国防総省と国務省の報道官を務め、ふだんは冷静な説明ぶりで知られています。
会見ではその後「感情的になるつもりはなかった。申し訳ない」と陳謝しましたが、アメリカのメディアは、市民に多くの犠牲者が出ているウクライナの状況について、ベテラン報道官も感情を揺さぶられているなどと相次いで取り上げています。
●ポーランド、戦車200両をウクライナに供与 ドローンや砲弾も 4/30
ポーランドのメディアは29日、同国が保有する旧ソ連開発のT72型戦車をウクライナに供与したと報じた。台数は200両以上という。このほか、ドローン(無人機)や砲弾なども含め、軍事支援額は16億ドル(約2070億円)規模になるという。
ロシア軍によるウクライナ侵攻開始から2カ月以上が経過し、依然として戦闘が収束しない中、ロシア軍の攻勢に耐える兵器の支援が不可欠と判断した模様だ。ポーランドにはウクライナからの難民が多数押し寄せている。
英国のジョンソン首相は22日、ポーランドがウクライナに戦車を供与した場合、英国がその「穴埋め」としてポーランドに戦車を送る案に言及していた。欧州ではウクライナへの重火器供与が相次いでおり、ドイツも26日、自走式対空砲(対空戦車)50両をウクライナに供与すると表明している。
●プーチン政権が関与?相次ぐ新興財閥「オリガルヒ」の不審死 4/30
プーチン政権を支え、莫大な利益を得てきた新興財閥「オリガルヒ」。ウクライナ侵攻以降、世界各国から資産を凍結されています。そんな中、4月18日と19日に2人のオリガルヒがロシア国内とスペインで相次いで死亡しているのが見つかりました。またこの2人以外にも5人のオリガルヒが不審死を遂げているということです。この不審死に「プーチン政権」の関与はあったのか?さらに、プーチン大統領が示唆した「核兵器使用」の背景とは何なのか?筑波学院大学の中村逸郎教授が解説します。
プーチン大統領「核兵器使用」を示唆…背景に「黒海全体の掌握」が目的か
――ウクライナへの攻撃が全く収まる気配がありません。そんな中ロシアのプーチン大統領は「反撃は電光石火で行う」というふうに話しました。さらに、『手段は全て揃っている。誰もが持っていないものもある』として核兵器の使用を示唆したと言われています。そしてこの核兵器の使用に関して中村教授の見解は『実行の可能性』は高いということですか?
「そうですね。これから実は戦闘が非常に激しくなってくるんじゃないかと。プーチン政権の思惑がだんだん見えてきまして、実は黒海を制したいというところに実は軍事作戦の目的があるのではないかと思っています。ですから今、ウクライナの東からずっと南下して、ずっと西に向かっているわけですけども、その先に、オデーサという都市があります。ここには、軍と商業の港があってそこを取りたいというプーチン政権の軍事作戦の目的があるということなんですね。しかしなぜ激しくなるかというと、ここの軍港にはアメリカとイギリスの軍艦が出入りする姿が見られているんですね。ですからここをウクライナに取られてしまうと、海への出口を完全に取られてしまうということで、実はプーチン政権もこれからこのオデーサをめぐって、実は戦いが本格化してくる。そうした中で先ほどのプーチン大統領の発言というものが出てきたんだと思うんですね」
――ということはマリウポリからずっと南側の海を制圧してしまうと?
「その先にルーマニアとブルガリアもあるわけですから、黒海全体をとっていきたいというところなんですね」
「オリガルヒ」の相次ぐ不審死…侵攻以降で少なくとも7人
――そしてロシア国内の話です。ロシアの新興財閥「オリガルヒ」で相次ぐ謎の不審死という話です。中村教授によりますと、プーチン政権下で巨額の利益を得てきた新興財閥「オリガルヒ」約210人いるということですが、莫大な財産を築いているということで、プーチン大統領を支える見返りに、既得権益を拡大していると。一方で、オリガルヒはウクライナ侵攻以降、世界各国から資産の凍結があり非常に、苦しい思いをしています。4月18日にオリガルヒのメンバーであるガスプロムバンク元副社長のアバエフ氏がモスクワ市内の自宅で、銃を握った状態で死亡しているのが見つかりました。また、妻と娘も遺体で発見されたということです。その翌日、4月19日には天然ガス大手「ノバテク社」の元副会長・プロトセーニャ氏がスペインのリゾート地で首を吊った状態で死亡しているのが見つかったということで、妻と娘も遺体で発見されています。地元警察は一家心中の可能性があると報道されています。一体どういうことなのでしょうか?
「アバエフ氏は銃で撃たれてますけれども、この銃が不思議でロシアの特殊部隊しか持っていない銃が使われたということで、これは自殺と言われていますが、プーチン政権がそもそも関与したのでなないかという疑いがあるということなんですね。なぜかと言いますと、元々プーチン政権と非常に仲が良かったオリガルヒらが今回の軍事作戦による経済制裁を欧米から受けて大変ひどい目に遭ってるんですね。ですからオリガルヒの中でもプーチン大統領に対する批判というものが出てきてるんですね。そうした中でかつての友人といえども、容赦なくもしかしたら殺害に関わっている可能性があると、ロシア国内のメディアも報じています」
――でも銃はいわゆる証拠ですから、いざとなれば隠したりすることもできるんじゃないですか?
「不思議ですよね。実はこんなことが明らかになること自体がプーチン政権からすれば見せしめですよね。わざとですから今回の軍事作戦に対して少し批判的なことを言ってる人が大勢いるんですけども、『そんなことをしたらこういうふうなことになるよ』という、いわゆる脅しであり、見せしめでもあるわけなんですね」
――気になるのはガスプロムとか天然ガス大手関連ということで、今ロシアで一番外貨を稼げる産業でもありますよね。そこの元副社長と元会長がこういう目に遭ってるのもちょっと引っかかるんですよね。
「2人とも『元』ですよね。ということは、プーチン政権の汚職などお金の動きをよく知っている人たちが、まず消されてしまったという疑いが強いわけですね。プーチン大統領は反逆者に対しては地球の裏側に逃げても引っ張り出すぞということをこれまでに何度も言っています。そういう意味で、裏切った者は絶対に許さないという意思表示にも取れるんですね」
「メーデー」で“不満”たまったオリガルヒらの『反戦機運の高まり』を警戒か
――2人以外にも侵攻後少なくとも5人のオリガルヒが不審死をしているということで、プーチン政権からの圧力があるということでしょうか?
「なぜかというと、実はプーチン大統領にとって直近で5月1日が非常に気になっているところなんですね。5月1日はメーデーです。メーデーと言えば、赤の広場で一般労働者たちが集会を開いたり行進したりするわけです。これはロシア全土でメーデーのお祭りをするのですが、そこで反戦やプーチン大統領への批判を企業単位で参加者たちがやられると非常に困るというところで、実はプーチン大統領はこの5月をどう乗り切るかというところで、こうした見せしめ的なことを容赦なくやるということは考えられるわけなんですね」
――もしメーデーで本格的な反戦アピールみたいな動きが大きくなった場合は、プーチン政権のダメージや支持率低下みたいなことには繋がるんですか?
「一挙に反戦機運がロシア全土で高まる可能性があると、そこをプーチン大統領は非常に気にしているんですね」
●モーリー氏 ロシアでプーチン高支持率のからくり説明 4/30
ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏(59)が、30日放送の読売テレビ「今田耕司のネタバレMTG」(土曜後11・55)に出演し、ロシア国内でのプーチン大統領の支持率のからくりについて説明した。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアでは、プーチン大統領の支持率が上昇している。民間の調査機関が3月24〜30日、18歳以上の1632人に対面で実施した世論調査では、83%がプーチン大統領を支持すると答え、支持しないと答えた15%を大きく上回った。
今田耕司から「これどう見たらいいんですか?我々は」と問われると、モーリー氏は「まず調査の信ぴょう性を多少、疑ってかかる必要があります」と答え、「ロシアが急激に密告社会になっている」と明かした。
モーリー氏は、ロシアのある学校で先生が平和の大事さを歌う動画を流したところ、生徒に追及を受け、「戦争はすべきではないと思う」と答えた部分が録音され、警察の取り調べを受けて失職したケースを紹介。「こういう事件が頻繁に出てきています。あちこちで起きている」と指摘した。
テレビやネットでも、ウクライナや西側諸国を悪者にしたプロパガンダのオンパレード。モーリー氏によると、国民の生活が苦しくなる中、その責任も西側などに押しつけた論調だという。「『何にも悪いことをしてないのに、何でロシア人だというだけで苦しめられないといけないの?』という悔しさを、テレビが『悔しかろう、砂糖の値段が上がって、これはアメリカのせいだぞ』と言うと、『アメリカめ。早く行ってウクライナと戦ってこい』というふうになっちゃう」と説明した。
ネットもロシア政府に厳しくチェックされている様子。モーリー氏は「そういう(批判的な)メッセージをこっそりやりとりすると、追跡されて、その本人が逮捕されちゃう。ブロガーが逮捕されてます。若い20歳くらいの女性が逮捕されている。見せしめに、『この人は国に反することをニセ情報として広めた罪です』とさらし者にする」と流れを解説した。さらに「街中を歩いていると、警察がやってきて、『携帯を見せろ』と言うんです。スマホの中でどういうメッセージを見ていたか、開けられて『何でこんなメッセージを書いていたのか。今から来て話してくれ』と(連行される)」と、抜き打ちチェックも横行しているという。「みんな怖いから、そんな状態の人たちにアンケート取りますと言ったら、『プーチン万歳!』と言うしかないですよね」と説明した。
徹底した情報統制に、ゆうちゃみは「こわ〜!めっちゃ怖いやん」と絶句。今田は、「それ考えたら(支持しないと答えた)15%は大したもんですね。俺は絶対、よう言わんわ」と戦々恐々としていた。
●実は 「プーチンとしっかり繋がっている」 国の名
アメリカはウクライナに兵器を供与しつつも派兵は否定し続けている。元外交官で作家の佐藤優さんは、「バイデン大統領が派兵しないと早々に宣言したことで、世界の国々の地政学的な位置づけが変わった。多くの国が、アメリカを怖がらなくなった」「ロシアは意外と孤立していない」という。
バイデン発言で、多くの国がアメリカを怖がらなくなった
アメリカの関心がウクライナに引きつけられているせいで、すでに漁夫の利を得ている国があります。中国の新疆ウイグル自治区の人権問題はどうなったのか。台湾海峡からも、国際社会の関心が以前よりも薄れています。イランの核問題もそうです。北朝鮮はアメリカ本土まで届く大陸間弾道ミサイル(火星17号)を打ち上げ、核実験再開の動きも見せています。
バイデン大統領がウクライナへ派兵しないと早々に宣言したことで、世界の国々の地政学的な位置づけが変わりました。多くの国が、アメリカを怖がらなくなったのです。何をしでかすかわからなかったトランプ前大統領と、バイデン大統領との違いが浮き彫りになったともいえます。
その意味から言うとプーチン大統領の強さとは、核兵器や生物兵器を本当に使うかもしれないと思わせるところにあります。何をしでかすか予想がつかない相手なら、妥協するしかないという結論へ導けるわけです。もっとも実際にロシアが大量破壊兵器を使用するのは、ロシアが圧倒的な劣勢に追い込まれ、国家存亡の危機に瀕したときだけです。そういう状況にはならないと私は見ています。
「お前なんか怖くないぞ」と宣言したに等しい措置
ロシアはバイデン大統領に対して、入国禁止措置を科しました。大した意味を持たないように見えますが、実は「お前なんか怖くないぞ」と宣言したのに等しい。私の知る限り、北朝鮮もイランもこうした措置はとっていません。米ロの外交関係断絶の可能性すら今後出てくると、私は思っています。
現在のアメリカには、長期戦略があるように見えません。これまで「第3次世界大戦は避けたい」と明言し、ウクライナに対し、戦闘機などの攻撃的な兵器の支援は避けてきました。4月13日にりゅう弾砲や軍用ヘリコプターなどこれまでより強力な重火器の供与を発表、4月19日に長距離の砲撃兵器など重火器を追加供与する考えを示しましたが、対応は後手後手です。
バイデン大統領の胸の内を探るなら、ウクライナに兵器を供与してできるだけ頑張ってもらえば、ロシア人の残虐さを世界中に示せる。そして、この戦争が終わったあとのロシアの立ち位置を、少しでも弱くしたい――。それ以上の戦略は見えてきません。
中国も「できるだけ戦争が長引いてほしい」
戦争ができるだけ長引いてほしい点では、中国も一致しています。バイデン大統領が怖い存在ではなく、有事に米軍が動かないことは、習近平主席にも悟られてしまいました。ならば台湾へ出て行く時期だ、と決断する可能性は大いにあります。
中国と台湾がひとつの国であることに関しては、国際社会が認めています。武力で攻めたとしても他国への侵略ではなく、国内問題の処理にとどまります。懸念は、台湾援助法を結んでいるアメリカが出てくるかどうかでした。今回アメリカがウクライナに軍を送れないせいで、台湾危機が高まったと私は見ています。
「ロシアを孤立させる」戦略はうまくいってるのか
そして見落としてはいけないことは、ロシアは意外と孤立していないということです。西側諸国は、厳しい経済制裁でロシアを締め上げ、音を上げさせようとしていますが、地政学的な変動が起きているのです。
ロシアが国際社会から孤立しているという見方で固まっていると、この戦争が終わったとき、思わぬネットワークが出来上がっている世界を目の当たりにするかもしれません。
ロシアのプーチン大統領は4月12日、訪問先の極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で、侵攻を開始して以来初となる記者会見を行い、「ロシアは世界から孤立するつもりもないし、ロシアを孤立させることも不可能だ」(4月13日・毎日新聞)と話しました。これはけして、ただの強がりではありません。
国連総会で、ロシアのウクライナからの即時撤退を求める決議が3月2日に行われ、193カ国中141カ国が賛成。ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリアの5カ国だけが反対し、中国やインドなど35カ国が棄権しました。人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止させる4月7日の決議では、賛成が93カ国に減りました。中国など24カ国が反対し、58カ国が棄権に回ったのです。
自由と民主主義を掲げる陣営は、この数がもつ意味を深く考えていません。4月7日の決議で反対に回った国は、中国、北朝鮮、イラン、キューバ、シリアなど、一昔前の言葉を用いるならば、いわゆる“ならず者国家連合”ですが、中立的な立場を取ろうとする国を加えると、世界の約半分を占めたのです。さらに国家の人口で言うならば、アメリカの立場に賛成する人々のほうが少ないのです。
ちなみに、1933年(昭和8)に日本が国際連盟を脱退したとき、リットン調査団の報告書採択に反対したのは日本だけ。棄権がシャム(タイ)だけでした。
アメリカの「ロシアを支援したら制裁を科す」発言に中国が反発
ロシアに対するどちらの決議も、中東、東南アジア、アフリカ、中南米で棄権が目立ちました。西側陣営の影響力が小さくなっていることを感じさせます。
たとえば、3月2日の決議で棄権したウガンダのムセベニ大統領は、日本経済新聞の取材に応じて〈ウクライナを巡る日米欧とロシアの対立について、「アフリカは距離を置く」と表明した。〉(3月17日)。タイのプラユット首相も、侵攻が始まって間もない時期から「中立を保つ」と発言しています。
アフリカや東南アジアの国々は、経済的な結びつきから中国に好意的で、ロシアに対しては中立です。ロシアは中東でも、アメリカ最大の同盟国であるイスラエルのユダヤ人社会に強いネットワークを維持しています。
ロシアが独自に提出したウクライナの人権状況に関する決議案について、国連の安全保障理事会が採択を行ったのは3月23日です。理事国15カ国中、13カ国は棄権しましたが、中国だけがロシアと共に賛成に回りました。これは、バイデン大統領が同月18日に習近平国家主席と電話会談をした際、「中国がロシアを支援した場合には制裁を科す」と脅したことが、裏目に出た形です。中国はアメリカに反発したのです。
このように、ロシアを封じ込めてプーチン政権を崩壊に追い込もうというもくろみは、狙い通り進んでいません。停戦を実現させるには、アメリカが軍を介入させてロシアを排除するか、プーチン大統領の納得できる範囲で折り合いをつけて合意するか。このどちらかしかないでしょう。
ロシアとつながっている意外な国々
ロシアがもくろんでいるのは、領域の拡大よりもネットワークの帝国作りです。これを歴史的に見ると、ビザンツ帝国(東ローマ帝国。395〜1453年)の戦略と非常に似ています。プーチン大統領は、あえてまねているのだと思います。
すなわち、地理的には離れていても味方を複数作り、時勢に応じて適宜そのバランスを変えていく。中国、インド、ブラジル、サウジアラビア、トルコ、イスラエル、イランなど、それぞれ力を持っている国が相手です。
同じロシア語圏のベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、アルメニア、アゼルバイジャン、ウクライナの東部や南部に対する情報戦略にも、プーチン大統領は積極的です。
中東にある、ロシアと手を握っている国をご存じか
ロシアとネットワークを築く国として、しばしば中国が挙げられますが、インドもまたロシアと経済的な結びつきを深めています。
「自由で開かれたインド太平洋」を守るために、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国で安全保障や経済について協議する「Quad(日米豪印戦略対話)」が作られました。軍事同盟ではないものの、合同軍事演習も実施しています。
ところがインドは、対ロ非難に加わりませんでした。インドは兵器の4割をロシアから買っていて、既存の装備品の8割はロシア製です。そのメンテナンスの問題も必要です。ただし、武器依存が高いから対ロ制裁に踏み切れないという解説は、違うと思います。ロシアとの関係では極力中立的な地位を維持したいという、むしろインドの主体的な意思の表れです。
インドにとって重要なのは、中国の脅威に対して、オーストラリアとアメリカと日本を巻き込むことだけです。クアッドは価値観同盟ではなく、中国を封じ込める利益があるから付き合っている。それ以上でも以下でもないことが、露見してしまいました。インドはウクライナ侵攻によって割安になったロシア産原油を大量に購入しています。
対ロ関係では、意外と気づかれていないのがサウジアラビアです。アメリカとイギリスはサウジに対し、原油を増産してロシアを孤立させる取り組みに加わるよう働きかけました。しかしサウジは応じていません。ロシアと手を握っているからです。中国に販売する原油の一部を、人民元建てにする方向で協議中だという報道もあります。
サウジアラビアにとって、西側の消費文明を受け入れながらも、政治に関しては権威的な体制を取るロシアや中国は、付き合うのに都合がいい。人権外交を掲げるアメリカよりも、独自のルールを支持してくれるからです。アフリカや中南米の諸国も、同じ感覚です。結局どの国も、イデオロギーや価値観より、利害で動くのです。
日本の周りにいるのは脅威となったロシア、中国、北朝鮮。韓国は…
アメリカや日本と歩調を一にしているのは、EU諸国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ。ロシアが非友好国としている国です。もっともEUの中でも、ハンガリーやトルコは日和見的です。
新しい世界地図の上で、日本はどうやって生き残っていくのか。東アジアにおいて、ロシアと北朝鮮はすでに現実的な脅威です。中ロの軍事協力が進んでロシアの最新兵器を中国が得れば、軍事力はさらに高まります。友好国であるはずの韓国は中ロとの関係も深く、歴史認識などさまざまな問題では日本に厳しく当たってきます。
国ごとに抱える事情を、等閑視してはなりません。ウクライナでの戦争が終わったあとの東アジアは、日本にとって脅威となったロシア、北朝鮮、そして中国。どっちを向いているのかわからない韓国。こうした国際関係の新たな緊張の中で、われわれは最前線に立たされる可能性があります。
アメリカとの同盟は重要です。しかし、それがアメリカと価値観を完全に共有するというイデオロギー同盟という選択肢でいいのかについて、われわれは自分の頭で考えなくてはなりません。
●ドネツク州での戦勝パレード中止…プーチン大統領「5.9勝利宣言」断念 4/30
ウクライナ東部の制圧に向け、攻撃を続けているロシア軍。来月9日の対独戦勝記念日が迫る中、ドネツク州で予定していた戦勝パレードを断念した。「勝利宣言」に暗雲が漂う一方、プーチン大統領は核使用への姿勢を強めている。ブラフなのか、それとも本気なのか。
インタファクス通信によると、親ロシア派武装勢力「ドネツク人民共和国」トップのプシーリン氏は28日、来月9日の戦勝記念日にパレードを行わないと表明。東部での戦闘が来月中旬以降も続くとの見通しを示し、州全域を完全制圧した後に改めてパレードを実施する方針だという。
東部制圧はプーチン大統領にとって、メモリアルデーを祝うための必須条件だったはず。ドネツク州マリウポリでは、ロシアの傀儡副市長がパレード実施の意向を示していた。パレード中止は裏を返せば、東部での「勝利宣言」を事実上、諦めたということか。筑波学院大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。
「ロシア軍は予想以上に東部制圧に苦戦しています。そもそも軍の官僚主義が根深く、陸海空の横のつながりや部隊内の連携がうまくいっていないことが今回の軍事侵攻で露呈しました。東部制圧後のパレード直前にプーチン大統領が現地を電撃訪問するか、リモートで祝福を述べるのではないかと考えていましたが、実現は難しいでしょう。パレード中止は『勝利宣言断念』に等しいと思います」
核攻撃や大戦勃発へのトーンを高めている
今後の戦況で懸念されるのは、プーチン大統領がチラつかせている核使用の可能性だ。プーチン大統領は27日、議会向け演説で「必要があれば我々は他国が持たない手段を用いる」と核攻撃を示唆。ウクライナ侵攻に第三国が介入した場合は、「電光石火の対応を取るだろう」と強調した。
恐ろしいのは、第3次世界大戦まで見据え、ヤケクソ気味になっているフシがあることだ。
ロシアのメディアを分析している「ロシアン・メディア・モニター」によると、国営ニュース専門局「RT(旧ロシア・トゥデイ)」のマルガリータ・シモニャン編集長は26日、テレビ番組で「ウクライナに屈するか、第3次世界大戦になるか。我々の指導者(プーチン)を鑑みれば、私は第3次世界大戦の方が現実的だと思う」などと発言したという。
核使用や大戦勃発を念頭に「どうせいつかは皆死んでしまうのだから」とまで言い放っている。
いつか死ぬのだから、核を使おうが世界大戦になろうが構わない──。メチャクチャな理屈だが、「ロシアによる軍事侵攻はない」という国際社会の予想を裏切ったプーチン氏である。本気で核攻撃に踏み切るつもりなのか。
「今後、ロシア軍が狙っているウクライナ南西部オデーサでの攻防が激しくなりそうです。ウクライナはオデーサを取られてしまうと内陸国家になってしまい、穀物の輸出などができなくなる。オデーサに近いモルドバやルーマニアにとっても痛手です。ルーマニアはNATO加盟国であり、NATOがオデーサへの攻撃を見過ごすとは考えにくい。オデーサを巡る攻防激化を予想して、プーチン大統領は戦術核の使用を含め軍事作戦のトーンを高めています。『NATOが出てきたら、核攻撃も世界大戦も辞さない』と国際社会に見せつけているのです」(中村逸郎氏)
プーチン大統領の暴走を止める術はないのか。
●ロシア壊滅へ米欧40カ国戦略大転換%本は中核メンバーに乗り遅れるな 4/30
米国のロイド・オースティン国防長官主催の「ウクライナ支援協議」が25日、ドイツで開催された。ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアによるウクライナ侵攻が長期化するなか、NATO(北大西洋条約機構)加盟国や、日本やオーストラリアなど、40カ国以上の国防相や高官が参加し、ロシアに断固対峙(たいじ)する姿勢を明確にした。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、「自由・民主主義勢力」として、平然と「戦争犯罪」を続けるロシア軍の暴走を許さず、「ロシア打倒」「ロシア壊滅」も視野に入れた動きだと分析した。
オースティン米国防長官が25日、アントニー・ブリンケン米国務長官とともに訪れたポーランドで、「ロシアの弱体化」を目指す方針を表明した。これは、従来の「ウクライナ防衛」から、実質的な「ロシア打倒」に踏み込んだ「戦略の大転換」とみるべきだ。
先週のコラムで、私はジョー・バイデン政権が戦後の世界秩序づくりをにらんで、「プーチン体制の転覆を視野に入れたのではないか」と書いたが、まさに、そうした意図を裏付けるような発言である。
オースティン氏は「われわれは、ロシアがウクライナ侵攻でやったようなことができないようになるまで、彼らを弱体化させたい」と語った。
額面通りに受け止めれば、米国は今回の戦争でウクライナを防衛するだけでなく、「ロシア軍が2度と立ち上がれないくらい、徹底的に壊滅する」という話になる。
これを聞いて、私は太平洋戦争で敗北した日本の軍部が戦後、徹底的に解体された史実を思い出した。米国はロシアに対して、それと同じような戦いと制裁を考えているのではないか。
言葉だけではない。
オースティン氏は26日、ドイツのラムシュタイン米空軍基地で、約40カ国の同盟国、友好国の軍トップを集めて会議を開き、ウクライナ支援を協議した。ドイツはその場で、「ゲパルト対空戦車」50両の提供を表明した。「ウクライナ連絡グループ」と名付けられた参加国は今後、月に1度、定期的に会議を開いて支援策を調整する、という。
まさに、ロシアとの本格的な戦いを予感させる展開である。米国は本気だ。しかも、長期戦を覚悟している。
ウクライナにヘルメットを提供しただけで、当初は完全に腰が引けていたドイツが今回、率先して戦車提供を申し出たのも、アングロサクソンの決意を察知して、「流れに乗り遅れたら大変だ」と焦った面があるのではないか。
戦後を考えれば、この40カ国が専制主義・独裁勢力に対抗する「自由・民主主義勢力」の中核メンバーになるのは間違いないからだ。
そこで、日本だ。この会議には日本も招待されていたようだが、果たして存在感を発揮できているのか。
岸田文雄政権はウクライナからの難民受け入れに政府専用機を使うなど、パフォーマンスに余念がない。だが、米国など31カ国に感謝を表明して発信したウクライナ外務省の公式ツイッターに、日本の名前はなかった。
つまり、大して評価されていないのだ。これでは、戦後世界で主要な役割を果たすのは難しい。日本は防弾チョッキなどを送ったが、その程度しかできないのか。
自衛隊前統合幕僚長の河野克俊氏は「北海道の北方領土周辺で日本が単独で、あるいは日米で合同軍事演習をすれば、ロシアが西に動くのを牽制(けんせい)できる」と語っている。日本も戦略的なウクライナ支援に動くべきだ。
●ロシア支配層、危機感強める 全面侵攻予期せずと米報道 4/30
米紙ワシントン・ポストは29日、ロシアのウクライナ侵攻から2カ月以上が経過し、プーチン大統領を支えるエリート層にほころびが出始めたと報じた。プーチン氏に近い新興財閥オリガルヒや治安当局者らは全面侵攻に不意を突かれ、欧米が科す経済制裁に危機感を募らせているという。ロシアの複数の銀行、政府関係者らの話としている。
政府が発する一方的な情報しか得られない国内世論は侵攻を支持しているが、制裁による物資不足が悪化して戦死者の増加が表面化すれば、プーチン氏の国内での立場は不安定になるとの関係者の見通しも伝えた。 
●「欧米は悪」というプーチン氏 娘2人や恋人は欧米で優雅な生活 4/30
ロシアのプーチン大統領(69)と政府高官が、恋人や子女を欧米諸国に住まわせたり、留学させたりしている実態が、ウクライナ侵攻後を受けた対ロ制裁強化で明るみに出ている。欧米を「ロシアの存立を脅かす敵」と宣伝するプーチン政権だが、高官らは欧州諸国を資産隠しに利用してきた疑いが持たれており、ロシアの民主派野党指導者ナバリヌイ氏は「彼らの欧米敵視は偽りの愛国主義だ」と批判している。
日米欧は4月上旬、プーチン氏の娘2人の資産を凍結した。長女マリヤ・ボロンツォワ氏(37)はオランダ生活、次女カテリーナ・チホノワ氏(35)は大学で日本語を学習した経験がある。プーチン氏が外国に保有する資産を2人やその夫名義にして隠しているとみられ、日米欧は家族を通じたプーチン氏の制裁逃れを許さない構えを示した。
一方、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は24日、米政府がプーチン氏の恋人とされる元新体操選手アリーナ・カバエワ氏(38)の経済制裁を準備しながら、発表直前に見送ったと報じた。カバエワ氏はプーチン氏との間に設けた子どもたちとスイスで暮らしているとされる。
プーチン氏は前妻との離婚後、私生活が明かされるのを極度に嫌っており、WSJによると米政府はカバエワ氏を制裁対象にした場合のプーチン氏の強い反発を懸念したという。
ロシアメディア「新イズベスチヤ」によると、ラブロフ外相の娘は米名門コロンビア大を卒業、ロンドンで修士号を取得。同様に子女を欧米に留学させたり、国籍を取らせたりした政府高官や下院議長の経験者らは数十人に上るという。
ウクライナメディア「TSN」によると、ペスコフ大統領報道官も娘がパリで少女時代や大学時代を過ごす一方、30代とされる息子は無職にもかかわらず英国に複数のアパートを所有している。TSNは、ロシアの高官が汚職で得た資金を欧州の家族に振り向けている可能性があり、政権の他の高官の家族も追加制裁の対象になる可能性があると伝えている。
●ロシア 東部2州の完全掌握目指すも ウクライナが徹底抗戦  4/30
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、東部2州の完全掌握を目指していますが、ウクライナ側の徹底抗戦を前に、苦戦が続いています。激しい攻防が続く中、ロシアのラブロフ外相はウクライナへの欧米側の軍事支援を改めて強くけん制しました。
ロシア国防省は30日、東部ドネツク州や東部ハルキウ州などでミサイルによる攻撃を行い、ウクライナ軍の弾薬庫や燃料庫などを破壊したとしたほか、ロシア軍の砲兵部隊がウクライナ側の各地の拠点、389か所を攻撃したなどと発表し、東部を中心に戦闘を続けています。
一方、イギリス国防省は、30日に公表したウクライナの戦況分析で、「ロシア軍は、ウクライナ北東部での前進に失敗したことで、部隊の再配置を強いられ、士気の低下に苦しんでいる」として部隊の運用などを巡り、ロシア軍が課題を解決できていないと指摘しています。
また、アメリカ国防総省の高官も29日「ロシア軍のウクライナ東部での計画は当初の予定より遅れていると考えられる」と述べていて、ロシア軍が東部2州の完全掌握をねらうものの、ウクライナ側の徹底抗戦を前に、苦戦が続いていると分析しています。
一方、ウクライナ南部では、ロシアが掌握したとする地域で、支配の正当化を主張するため「ロシア化」とも言える既成事実化が進められています。
南部ヘルソン州ではあす5月1日からロシアの通貨ルーブルが導入されると国営のロシア通信などが伝え、4か月の移行期間のあと、ウクライナの通貨フリブニャから完全にルーブルに切り替えるとしています。
これに対し、ウクライナ保安庁は、26日、ヘルソン州で、ロシア側が一方的に任命した州知事と市長の2人について、国を裏切ったとして、反逆罪で起訴したことを明らかにしました。
ウクライナ側としては、ロシア側がこの地域の支配の既成事実化を強めようとする動きを認めない姿勢を示すねらいがあるとみられます。
こうした中、ロシアのラブロフ外相は30日に公開された中国の国営、新華社通信のインタビューの中で、欧米からの制裁について「ロシアの経済を抑圧し、競争力を弱体化させ、さらなる発展を阻止しようとしている。しかし、われわれが弱体化することはない」と批判しました。
一方、ウクライナ側との停戦交渉は、双方の代表団がオンライン形式で続けているとしたうえで、ウクライナの「中立化」や「非軍事化」だけでなく、ロシアの制裁解除についても議題になっていると主張しました。
また、ラブロフ外相は、「アメリカやNATO=北大西洋条約機構がウクライナの危機の解決に本当に関心を持つなら、まず、ウクライナへの武器と弾薬の供給をやめるべきだ」と述べ、ウクライナ東部などで激しい攻防が続く中、欧米側の軍事支援を改めて強くけん制しました。
掌握地域の「ロシア化」その実態は
ロシアはこれまでも、武力で掌握した地域で支配の正当性を主張するため「ロシア化」とも言える既成事実化を進めてきました。
2014年には、ウクライナ南部のクリミア半島で、軍事力を背景に、一方的に住民投票が実施され、プーチン大統領は、その結果を根拠にクリミアを併合しました。
住民投票を前にクリミアでは、ロシア軍の後ろ盾を得た武装集団が地元行政府や議会の庁舎などを次々に占拠し、ロシアの国旗を掲げたほか、ウクライナのテレビ放送が相次いで打ち切られ、ロシアの国営テレビ放送に切り替わっていきました。
プーチン大統領が一方的な併合を宣言したあとは、通貨がロシアのルーブルに切り替えられたほか、地元住民にロシア国民であることを証明するパスポートが発給され、標準時もモスクワ時間に変更されました。
その後、クリミアとロシア南部を結ぶ巨大な橋や火力発電所を建設するなど、プーチン政権は、インフラ整備にも力を入れ、国際社会からの非難や制裁にもかかわらず、ロシア支配の既成事実を重ねています。
また、ウクライナ東部でも、親ロシア派の武装勢力が事実上支配する地域で、3年前からロシアのパスポートを一方的に発給し、少なくとも70万人がロシア国籍を取得したとされ、「ロシア系住民を保護するため」とする軍事侵攻を正当化する名目として利用されました。
こうした「ロシア化」を強行しようという動きは、ウクライナへの侵攻が続く中でも進められています。
東部マリウポリでは、来月9日、第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利した「戦勝記念日」の式典が、ロシア国内と同じように行われると伝えられたほか、親ロシア派は、新たに学校が開き、700人以上の子どもたちがロシアの教科書を使って学び始めたと主張しています。
さらに南部ヘルソン州では、クリミアと同じように住民投票が行われる可能性が指摘されているほか、あす1日からはロシアの通貨ルーブルが導入されるとも伝えられ、経済面でもロシアによる支配を強めていくねらいがあるものとみられます。
●“小麦大国”ウクライナへの軍事侵攻がもたらす 深刻な世界食糧危機 4/30
「ヨーロッパのパンかご」とも呼ばれる世界有数の小麦生産国・ウクライナ。その農地は軍事侵攻により荒らされ、生産も輸出もできない事態に。この影響が今、世界に深刻な影響を与えています。何が起きているのか、取材しました。
ロシアの軍事侵攻は、ウクライナの農業にも影響を与えている。
増尾聡 記者: こちら中部ドニプロの小麦畑です。このあたりは比較的落ち着いていますので、このように農地も手入れされているような状況です。一方で、さらに前戦に近い農地では農家が危険と隣り合わせの作業を続けています。
「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるほど、広大な穀倉地帯が広がるウクライナ。小麦の輸出量は世界5位を誇り、ロシア産と合わせると、世界全体の3割を占めている。
しかし、その小麦農家では・・・
イベリア・アグロ社長兼ベリコディメルス地区議員 / アレキサンドル・フェシュンさん: 2000平方メートルが焼失しました。常に戦闘が続く中で、農場は戦車や装甲車にひどく荒らされました。
キーウ郊外で地元議員を務めるフェシュンさんも小麦農家の1人だ。攻撃を受け、倉庫や施設が大きな被害を受けていた。
フェシュンさん: エンジンをかける装置が盗まれている!
5台あったトラクター全てが破壊され、部品の略奪もあったという。ロシア軍が去った後にはミサイルの破片などが残され、農業を再開できない場所もあるという。
金平茂紀キャスター: 本当は3月、4月というと、種まきが終わっている頃でしょ?
フェシュンさん: 3月と4月に春麦の種を蒔かないといけませんでしたが、遅れたので今年は蒔きません。この呪われた戦争が早く終わるように期待しています。我々が農業を続けていけるように。
ウクライナ北東部の街・スーミでもこんな惨状が広がっていた。
スーミで農場を経営する アレキサンドルさん: これは戦車とか、軍事車両が通った跡です。
新芽が吹いた小麦畑はロシア軍の戦車で荒らされていた。農場を営んでいるのは、小麦やひまわりなどを生産するアレキサンドルさん。
アレキサンドルさん: ここは砲撃された場所です。むこうにもいくつも穴があります。畑には全部で6つの穴があり、その周りはミサイルの破片だらけになっています。
さらに・・・
アレキサンドルさん: 畑には地雷が仕掛けられている可能性があり、危険です。このままでは、ここで作業はできません。
被害を受けていない場所でなんとか農業を再開させたが、2021年に収穫した小麦などの作物の出荷に困っているという。
金平キャスター: 普通は作った小麦やひまわりは海外に輸出するんですよね?今年はこういう状態になって、どうなっているんですか?
アレキサンドルさん: 現在、倉庫には売れ残っている農産物があります。
本来の輸出ルートだったオデーサなど黒海の港がロシアに封鎖されるなどし、現在、穀物の輸出量は激減しているという。
アレキサンドルさん: 南部の州や港へは現在、アクセスできなくなっています。列車で輸送するには限界があり、計算すると輸送費だけでほとんどの利益が消えてしまいます。
ウクライナでは2021年、2000万トンの小麦を輸出している。しかし、軍事侵攻があった3月の小麦の輸出量は、前の年の4割にとどまっているという。
影響は世界に広がっている。より深刻なのは、食料危機に直面する人々だ。世界の国々で食料支援をしている国連WFP。小麦の半分以上をウクライナから調達しているという。支援国のひとつ、中東・イエメンは7年間続く内戦により、人口の4割以上1300万人が食料不足に陥っている。
男性: 小麦すらない、どうすればいいんだ。どこで手に入るかということばかり考えてしまう。
国連WFPのレーガン氏は、軍事侵攻が食糧危機に拍車をかけていると話す。
国連WFPイエメン事務所代表 リチャード・レーガン氏: WFPは、イエメンに送る農作物のほとんどをウクライナとロシアから調達しています。戦争で市場に出る食料がなくなってしまったんです。わたしたちは何百万もの人々への食料支援を減らさなければいけなくなりました。500万人には支援を維持できていますが、800万人は量を減らしています。
さらに戦争が長引けば・・・
リチャード・レーガン氏: (ウクライナ戦争の)状況が変わらなければ来年の末までに、飢餓に苦しむ人が今よりさらに200万人増加すると考えています。 
 
 

 

●「プーチンの戦争」が誘発する国際秩序の再編 5/1
3.拡大するロシアの軍事行動への不安
   「中国とともに世界を先導する」との意識
そもそもなぜロシアは、自らの国際的孤立を招くことになるようなウクライナへの軍事侵攻を決断したのであろうか。
カーネギー国際平和財団のモスクワセンター上席研究員のアレクサンドル・ガブエフは、2014年のクリミア危機が大きな転換点であったと、以下のように説明する[Alexander Gabuev, “プーチン大統領とその側近が戦争を望む理由について、モスクワからアレクサンドル・ガブエフが寄稿”, The Economist, February 19, 2022]。
ロシアは、2014年にウクライナ領であったクリミアを併合した。それによって国際的な非難を受け、孤立を招く結果となった。だが、そのような孤立に耐え忍んできたことで、皮肉にもむしろ国際社会から切り離されてもある程度機能する自立的な経済が確立された。また、現在のクレムリンを動かしているのが、プーチン大統領の長年の側近である諜報部門出身者たちであり、彼らは対外強硬路線に傾斜する傾向が見られる。彼らの多くが、アメリカが主導する西側民主主義諸国は、様々な失敗や挫折を続け、多文化主義や少数民族保護によって国内社会の混乱が極まっていると認識している。むしろ、伝統的な価値を重視する権威主義体制へとパワー・シフトが続き、多極化に向かっている世界秩序の中で、活力があるロシアこそが中国とともに世界を先導するはずだと確信している。
ガブエフは、すでに8年間続いてきた経済制裁によって、ロシアの政治指導部は自国が経済制裁に耐えうる強靱な体制を確立したと認識しており、皮肉にもそのことが今回のような冒険主義的な決断を促し、国際的孤立を怖れぬ態度に帰結したと論じる。ちなみに、ロシア政府はウクライナ戦争の勃発後にカーネギー・モスクワセンターの閉鎖を決定し、ガブエフもそこを離れることになった。これによって、西側世界とロシアの国際政治の専門家を繋ぐ重要な橋渡しの場が失われることになるだろう。
冷戦終結後の米ロ関係についての優れた著書を刊行したメアリー・イリース・サロッティ・ハーバード大学歴史学部教授は『ニューヨーク・タイムズ』紙への寄稿文の中で、冷戦終結後の比較的調和的な時代が終わりを告げ、これからは恐ろしい時代に突入すると論じている[Mary Elise Sarotte, “私は冷戦史家である。私たちは恐ろしき新時代にいる。”, The New York Times, March 1, 2022]。
サロッティは、ロシアのウクライナ侵略によって幕を開けたこの「新しい冷戦」の時代は、かつての冷戦よりもひどい時代になるであろうと予想する。現在の米ロ関係では、依然として膨大な核弾頭を両国が保持しながら、かつての冷戦時代とは異なり両国間でのコミュニケーションや、相互の暗黙の了解が成立していない。また冷戦時代とは異なり、核戦争に対する恐怖感も薄れている。それゆえサロッティは歴史家として、冷戦終結からコロナ禍に至るまでの時代が比較的幸福な時代であり、またかつての冷戦時代を懐かしむような恐怖の時代に入りつつあると、これからの世界を悲観する。
   「バルト三国への侵攻」の脅威
かつて米ブッシュ政権において影響力を有していたネオコンの理論的支柱の一人であったロバート・ケーガンもまた、これからの世界の趨勢についてきわめて悲観的なシナリオを描いている[Robert Kagan, “プーチンのウクライナ征服後に我々が予期しうるもの”, The Washington Post, February 21, 2022]。
ケーガンは、ロシアがウクライナ侵攻の作戦を完遂すれば、ポーランドやスロバキア、ハンガリーにおいて新たな緊張が生まれると論じる。そこでは、東欧諸国での防衛態勢を強化するNATOと、ウクライナを自らの軍事的支配下に収めたロシアが直接対峙する構図が誕生し、さらにはバルト三国が次の最も差し迫った脅威を感じることになる。また中国はそのような新しい国際情勢の下で、南シナ海や台湾で既存の秩序を破壊して、新たな挑発を行うことが可能になるであろう。ロシアは東欧でより広範に支配地域を広げ、中国は東アジアと西太平洋を実質的に支配する世界を思い描く必要がある。ケーガンによれば、戦争がウクライナの国境の内側にとどまると考えるのは、あまりにも希望的な憶測である。これからの時代の世界地図では、ヨーロッパにおけるロシアの軍事力の再興と、アメリカの影響力の後退を前提とせねばならない。
『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストのマイケル・ガーソンもまた、プーチン大統領の戦争目的がヨーロッパを分断して、自らの勢力圏を確立することにあると論じている[Michael Gerson, “もしプーチンをウクライナで止められなければ、次はバルト諸国だ”, The Washington Post, April 12, 2022]。そして次の段階では、ロシアによるバルト三国侵攻を考慮に入れねばならないと警鐘を鳴らす。
ガーソンはこのエッセイの中で、アメリカの元駐ロ大使のアレキサンダー・バーシュボウによる、プーチンの目的とは「西側に圧力をかけ、ロシア以外の諸国の主権が制限されたロシアの勢力圏により分断されるヨーロッパの誕生、すなわち第二のヤルタ協定のようなものを受け入れさせること」だとのコメントを紹介した。ガーソンは、NATOがウクライナに対してより積極的な支援を提供することにより、ロシアを打倒しなければならないと論じる。そうしなければ、次にはバルト三国が標的になり、アメリカが本当にリトアニアのためにロシアと戦争をする覚悟があるのか、という同様の問いが繰り返されることになる。
同じように、エストニア大統領のアラー・カリスもまた『フィナンシャル・タイムズ』紙に寄稿して、NATOがよりいっそう東欧諸国でのプレゼンスを強化するべきだと、以下のように提言する[Alar Karis, “エストニア大統領−NATOは手遅れになる前に東部地域を強化しなくてはならない”, Financial Times, March 28, 2022]。
かつて1997年5月のNATO・ロシア基本文書では、NATOは東欧の新規加盟国にはNATO軍を常駐させないことを合意していた。しかしながら、ロシアが今回のウクライナ侵攻でNATOとの合意を一方的に破棄した以上、NATOもまたロシアに配慮をする必要がなくなった。西側諸国の抑止は、ウクライナで機能しなかった。それゆえ、NATOは将来の脅威に備えて、より強化された同盟を示さなければならない。そして、バルト三国やポーランドに対して「1センチ」でもロシア軍が侵攻した際には、それはドイツに対して、イギリスに対して、イタリアに対しての侵攻と同様のものとみなし、NATOによる強力な軍事的対応を示さなければならないとカリスは言う。
今回のロシアによるウクライナ侵攻がもたらした1つの明確な、そしてプーチン大統領が阻止しようとしたことでもある帰結は、NATO体制の強化、そしてロシアの近隣に位置する諸国の新規加盟となるであろう。
ブルッキングス研究所の著名な安全保障政策の専門家であるマイケル・オハンロンは、NATOは東欧の前線での防衛態勢を強化する必要があると提唱する[Michael O’Hanlon, “NATOは東欧の前線防衛を強化する必要がある”, The Wall Street Journal, April 13, 2022]。そして、ロシアによる次なる侵略を抑止し、阻止するためにも、バルト三国に米軍を常駐させる必要を説く。とりわけロシア語を母語とするロシア系少数民族が多く住むエストニアとラトビア東部では、NATOの軍事的介入に対する不安が広がっている。それゆえオハンロンは、NATOの防衛態勢を東欧諸国で強化しなれればならないと主張する。
4.国際秩序は再編されるのか
   この戦争はどのような形で終わるのか
現在進行するこの戦争はどのように終結されるべきなのか。これは現在、繰り返し問われているもっとも切迫した問題でもある。
それに対して、オクスフォード大学歴史学部教授のティモシー・ガートン・アッシュは、しばらくは苦しい戦闘が続き厳しい妥協を強いられるだろうが、最終的には自由を守りウクライナがヨーロッパとの関係を強めて勝利を収めることが可能だと論じる[Timothy Garton Ash, “ウクライナはどのように勝利できるか”, The Spectator, March 19, 2022]。確かに、「ウクライナのチャーチル」といえるウォロディミル・ゼレンスキー大統領がロシア軍を撤退させるという奇跡が起これば良いが、実際には「痛ましい膠着状態」が続くであろう。
ロシアとの戦争を戦ったフィンランドのように、主権を守ることができても領土の一部を失うという苦しい妥協が強いられるかもしれない。他方、復興計画が成功してヨーロッパと結びつくという展望が具体的に描ければ、ウクライナの人々は自らの犠牲が無駄ではなかったと感じられるはずだ。ウクライナ国民は、戦闘(battles)には負けても、最終的に戦争(war)には勝利したという歴史的な使命を感じられるかも知れないと、ガートン・アッシュは論じている。
アメリカのトランプ前政権で欧州・ユーラシア担当の国務次官補を務めたウェス・ミッチェルもまた、ガートン・アッシュと同様に、一定の妥協を伴う停戦が可能だとする提案を行っている[A. Wess Mitchell, “ウクライナ中立の場合について”, Foreign Affairs, March 17, 2022]。
ミッチェルは、「ウクライナ中立の場合について」と題する『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄せた論考の中で、激しさを増すウクライナ戦争の早期停戦を実現させるためには、ロシア軍の撤退と引き換えに、ウクライナの「要塞中立化(fortified neutrality)」という妥協案へと前進しなければならないという。この場合の「要塞中立化」とは、軍事的にはウクライナが自国で防衛態勢を確立するとともに、経済的および政治的には西側世界の一員としての展望を抱くことを意味する。それは1955年のオーストリア国家条約のように、ロシア軍の撤退を条件として、ウクライナが西側の集団防衛組織に参加しないこと約束するものである。
さらに重要なこととして、ミッチェルは領土の大部分をウクライナが保持することが不可欠だと指摘する。ロシアが獲得できるのは、戦前から支配していたクリミアと、東部のルハンスクおよびドネツクといった地域に限定される。そのためにはクリミアをロシア領として認め、ルハンスクとドネツクでは自治権を与え、国連が実施する住民投票によって居住する人々の意向を確認することが必要となる。欧米からのウクライナに対する持続的な経済支援も不可欠だ。仮にプーチンが停戦合意を破ったとしても、ウクライナを軍事的に制圧するために必要な軍事力を有しない限り、最終的にはこのような「要塞中立化」を受け入れざるを得ないであろうと言うのである。
   パーソンとマクフォールの共同論文が提示した重要な分析
そもそも、プーチンはなぜ戦争を開始したのか。プーチンは何を恐れ、何を求めていたのだろうか。
米陸軍士官学校准教授のロバート・パーソンと元駐ロ大使のマイケル・マクフォールは、プーチンがウクライナに軍事侵攻を行った目的はNATO拡大を阻止することではなく、同国への民主主義の拡大を防ぐことであったと論じる[Robert Person and Michael McFaul, “プーチンが最も恐れるものとは”, Journal of Democracy, February 22, 2022]。
この共同執筆論文は、広く注目されることになった。国際政治学者のジョン・ミアシャイマーは2014年に、「ウクライナ危機は西側の責任だ」と題する論文を発表して注目を集めたが、ロシアを熟知するこの2人はそのような議論に反論し、NATO拡大がロシアに脅威をもたらしたわけでも、西側諸国とロシアとの間に緊張をもたらしたわけでもないと論じる。仮に、NATOが拡大を停止すると宣言しても、それによってロシアの脅威が自動的に消滅するわけではない。実際に、1997年のロシア・NATO基本文書では、ボリス・エリツィン元大統領はNATOとの協力のメカニズムを賞賛して、2000年にはプーチン大統領自らがロシアのNATO加盟に言及していた。その後、9・11テロの後には「対テロ戦争」で、イスラム過激主義という共通の敵を前にして、ロシアはNATOとの協力を惜しまなかった。2014年のロシアによるクリミア半島併合までNATO諸国は軍事費を削減し続けていたのに、ロシアが軍事的増強を続けていたのはNATO拡大という理由だけでは説明できない。
ロシアにとって最も脅威となったのは、「アメリカの支援を受けていた」とロシア側が説明する一連の「カラー革命」であり、とりわけ2004年のオレンジ革命によってかつての旧ソ連圏に民主主義の波が襲ってきたことであった。それは、旧ソ連圏でロシアの勢力圏を再確立しようとするプーチンの構想の足元を揺るがすものであった。また、ロシアと文化的および宗教的に近いウクライナ人が自由のために立ち上がるのであれば、どうしてロシアでも同じような民主化が起きないと言えようか。プーチンは民主化されたウクライナを何よりも怖れており、これこそが今回のロシアによるウクライナ侵攻のプーチンの本当の理由である。プーチンの長期的な戦略目標が、ウクライナや旧ソ連圏地域での民主化の拡大阻止にあることは明白だ、とパーソンとマクフォールは論じる。傾聴に値する鋭い分析である。
   ロシアが勝った場合の国際秩序/負けた場合の国際秩序
それでは、はたしてこの戦争は、これからの国際秩序にどのような影響を及ぼすのであろうか。それによって、ヨーロッパの安全保障秩序はどのように再編されるのであろうか。それについても、多様な論考が見られた。
コラムニストのデイヴィッド・イグネイシャスは、戦争勃発の直後に『ワシントン・ポスト』紙に寄せた論考の中で、この侵攻作戦をロシアが成功させるかどうかで、ポスト冷戦時代後の新秩序がどのように構築されるかが決定すると論じる[David Ignatius, “プーチンのウクライナへの攻撃は新たな世界秩序を形作る”, The Washington Post, February 24, 2022]。
プーチン大統領によるウクライナ侵攻は、ポスト冷戦時代という1つの時代の終わりを告げることになった。ロシアによって引き起こされた軍事行動の帰結によって、新秩序の在り方は大きく規定される。今回の戦争は、第一次世界大戦勃発のように偶然や漂流によって各国の意図に反して起こってしまったものではなく、第二次世界大戦勃発のようにある特定の指導者の計画と、偏執的な構想によって進められたものであった。だとすればその指導者、すなわちプーチンの計画に基づいて戦争は進行するはずだ。プーチンは、「ウクライナは真の国家ではない」という自らのレトリックを信奉している。そのような自己陶酔は往々にして、挫折に帰結するであろう。ただし、もしもプーチンが勝利を収めれば、新秩序は極めて危険なものになるとイグネイシャスはいう。
アメリカのシンクタンク、ジャーマン・マーシャル基金の研究者、リアナ・フィックスとマイケル・キメージは、『フォーリン・アフェアーズ』誌に連続してウクライナ戦争の今後を展望する論考を寄せている。
まず、「もしロシアが勝ったら?―ロシアが支配するウクライナはヨーロッパを大きく変化させる」と題する論考では、ロシアが勝利するシナリオを以下のように想定する[Liana Fix, Michael Kimmage, “もしロシアが勝ったら?―ロシアが支配するウクライナはヨーロッパを大きく変化させる”, Foreign Affairs, February 18, 2022]。
すなわち、今後長期にわたりロシアと米欧諸国が経済戦争に突入することになり、またEU(欧州連合)とNATOは劣勢に立たされ防御的な立場に追いやられるであろう。NATOは加盟国の東欧諸国にNATO軍を常駐させることになり、軍事的にはロシアと西側諸国の間で冷戦となり経済的には熱戦となる。ロシアが勝利すれば、侵略戦争により利益が得られることが明らかとなり、「力こそ正義」という価値が広がることになるだろう。仮にウクライナが占領されたとしても、その戦後の秩序に欧米諸国が影響力を浸透させることも可能だ。この論考は戦争勃発後の長期的なシナリオを想定したものとして、この期間に同誌で最も注目され閲覧された論考となった。
これに続けて2人が寄せた「もしロシアが負けたら?―モスクワの敗北は西側の明確な勝利にはならない」と題する論考もまた同様に、広く注目された[Liana Fix, Michael Kimmage, “もしロシアが負けたら?―モスクワの敗北は西側の明確な勝利にはならない”, Foreign Affairs, March 4, 2022]。そのシナリオは次のようなものになる。
仮にプーチンが戦闘で勝利を収め傀儡政権を成立させても、それ対してロシアは大きな代償を支払わねばならない。また、それを長期間にわたって維持することも困難で、西側諸国による経済制裁は長期的にロシアを弱体化させてロシア国内での国民の反発も強まるであろう。仮にロシアがウクライナから撤退した場合、西側諸国はウクライナに巨大な復興支援を行う必要がある。仮にプーチンが失脚しても、ロシアが直ちに民主化することは考えがたく、またロシアはよりいっそう中国に依存して中ロが一体となるブロックが誕生するであろう。
フォックスとキメージは、ロシアが負けることは勝つことよりも望ましいとは言え、それは必ずしも西側にとって好ましい結果になることを意味しないと警鐘を鳴らす。バランスのとれた見通しと言えるであろう。 
●ウクライナ東部 ロシア軍の攻勢に抵抗続く 支配の既成事実化も  5/1
ウクライナ東部ではロシア軍が今月9日の「戦勝記念日」を前に戦果をあげようと攻勢を強めているのに対し、ウクライナ軍の抵抗が続いています。一方、南部ではロシア軍が掌握したと主張する一部の地域で1日からロシアの通貨ルーブルを導入するなど、支配の既成事実化を進める動きが加速しています。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利した今月9日の戦勝記念日を前に、戦果をあげようと攻勢を強めています。
ロシア国防省は先月30日、空軍がウクライナの17の軍事施設をミサイルで攻撃し、このうち東部のドニプロペトロウシク州で指揮所やミサイルなどの保管施設を破壊したと発表しました。
東部の戦況についてアメリカやイギリスの国防当局は、ロシア軍がウクライナ側の抵抗に直面し、進軍に遅れが生じ、兵士の士気が低下するなど、苦戦が続いていると分析しています。
一方、ロシアの国営メディアによりますと、ロシアが掌握したと主張する南部ヘルソン州や南東部ザポリージャ州の都市メリトポリなどで1日からロシアの通貨ルーブルが導入され、支配の既成事実化を進める動きが加速しています。
またヘルソン州のノバ・カホウカにはロシア革命の指導者レーニンの像が再建されました。
ウクライナとロシアが一つの国を構成していた旧ソビエト時代を思い起こさせ、「ロシア化」を進めたいねらいがあるとみられます。
さらにロシアの独立系ネットメディアの「メドゥーザ」は、ヘルソン州で今月14日と15日に独立の賛否を問う住民投票が一方的に行われる可能性があると伝え、住民投票の結果を名目に将来のロシアへの併合を正当化する思惑を指摘しています。
一方、ウクライナと国境を接するポーランドの政府は陸軍が1日から1か月間にわたり、国内各地で軍事演習を行うと発表しています。
これをめぐって、プーチン大統領の側近の1人でSVR=対外情報庁のナルイシキン長官は先月28日声明を出し、ポーランドが「平和維持部隊」を名目にウクライナへ部隊を派遣しようとアメリカとともに計画しているという情報があると主張し、欧米側を批判しました。
ロシアは欧米によるウクライナへの軍事支援を繰り返し批判してきたことから、ポーランドの軍事演習にも警戒を強めているとみられ、欧米との対立が一層深まることも予想されます。
●ロシア軍部隊が侵攻当日にキーウへ降下、ゼレンスキー氏らの暗殺を計画  5/1
露軍が2月24日未明、首都キーウ(キエフ)などに爆撃を加え、侵攻が始まった。記事によると、ゼレンスキー氏は当時、家族と一緒だったといい、2人の子供に、爆撃があったことを伝えた。その後、ウクライナの軍関係者から、露軍部隊が自分や家族を「殺害するか拘束する」ため、パラシュートでキーウに降下している、との連絡を受けた。侵入者を防ぐため、大統領府入り口は合板で封鎖されたという。
記事では、24日夜に大統領府など政府庁舎が集まるキーウ中心部で銃撃戦が起きたことも伝えた。大統領府敷地内では明かりが消され、ゼレンスキー氏と大統領府顧問ら側近十数人は防弾チョッキを着用、自動小銃を持って襲撃に備えた。露軍は大統領府に2回、襲撃を試みていたという。
また、ゼレンスキー氏と側近が当時、米英両国の軍から、ポーランドなどに退避して「亡命政府」を置く案も打診されたが、拒否していた、とも報じた。
●プーチン大統領 戦勝記念日に合わせて “戦争状態” 宣言か 5/1
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「特別軍事作戦」と表現してきたプーチン大統領が、今月9日のロシアの「戦勝記念日」に合わせて「戦争状態だ」と宣言する可能性が指摘されています。ウクライナ軍への支援を強化する欧米側との戦いにもなっていると強調する可能性もあり、戦闘が一層長期化するという見方が広がっています。
ウクライナ東部では激しい戦闘が続いていて、イギリス国防省は先月(4月)30日、「ロシアは、戦力を地理的に集中させて補給経路を短くし、統制しやすくすることでこれまでの課題を修正しようとしている」と分析しています。
ただ「上空からの援護も一貫性を欠くなど、戦力を最大限に生かせていない」として、ロシア軍の苦戦が続いていると指摘しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、ロシア軍と戦っている国境警備隊の代表らを前に演説し「ロシアの悪はまだ私たちの領土にいる。占領者たちを追い出さなければならない」と述べ、徹底抗戦する姿勢を改めて強調しました。
ウクライナ軍に対して欧米側は軍事支援を強化していて、地元メディアによりますと、ウクライナ大統領府の顧問のアレストビッチ氏が「5月下旬か6月上旬には、必要な数の兵器が供与され、戦場に大きな影響を与え始める」と述べ、今後、反撃に転じるという見方を示したということです。
一方、ロシアのプーチン大統領は、第2次世界大戦で、旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利して今月9日で77年となるのを記念して、ウクライナ国内でロシア軍が掌握したと主張している地域などに住む退役軍人を対象に、1万ルーブル、日本円にしておよそ1万8000円を一時的に支給することを決めました。
ロシア国内と同じく「戦勝記念日」を祝う機運を高め、この地域の支配の既成事実化を進めたいねらいがあるものとみられます。
こうした中、イギリスのウォレス国防相は地元ラジオ局の番組で、具体的な情報があるわけではないとしながらも、プーチン大統領が「特別軍事作戦」と表現してきた軍事侵攻について、「戦勝記念日」に合わせて「戦争状態だ」と宣言する可能性があるという見方を示しました。
戦闘は、欧米側との戦いにもなっていると強調することで、国民にロシア軍にも犠牲が出ていることなどへの理解を求める可能性もあり、戦闘が一層長期化するという見方が広がっています。
●ウクライナ侵攻2カ月 国際秩序の脆弱性露呈 5/1
ロシアによるウクライナ侵攻から、約二カ月が経過した。当初はロシアを非難し、プーチンの暴走を糾弾する論調一色だったが、ゼレンスキー政権がネオナチの極右民兵と連携してきたことや親ロシア的な野党の活動を停止したことなどが伝わると、ウクライナ側の問題が批判され、「どっちもどっち論」が目立つようになってきた。
このような論調に対して、国際政治学者が批判を強めている。細谷雄一は自らのツイッター(3月26日)で「ロシアもウクライナも両方悪い」は不適切だとし、「どっちもどっち論」の危険性を指摘した。あらゆる戦争が悪であり、どちらが正しいというわけではないという言説は、一見正しいように見えるが、「二十世紀の国際法と国際的規範の歩みを全否定する」ことにつながる。侵略したのはあくまでもロシアであり、ウクライナ政府は国民の生命を守るための自衛的措置をとっている。この構図を無視して「どちらも悪い」と言ってしまうと、「国際的には全く共感されず、単なる国際法の無知とされてしまう」。
ロシアの「悪」とウクライナの「悪」の次元の違いを指摘し、二十世紀以降の平和構築の努力と積み重ねを再確認する姿勢は重要である。しかし、今回のウクライナ侵攻によって、欧米を中心に築かれてきた国際秩序の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈されたことも事実である。戦争の出口は見えず、解決策は見いだせていない。その間も戦闘は続き、多くの命が失われる。
問題は、いかにしてロシアの暴走を正しながら、国際社会にソフトランディング(軟着陸)させるかである。そのための知恵を絞らなければならない。
冷戦終了後、アメリカ一強の時代が続いた。その間、アメリカはイラク戦争などで国際法や国際的規範を踏みにじる行為を繰り返してきた。アメリカの高圧的な態度は、反米意識の増長につながり、アメリカ・NATO(北大西洋条約機構)を中心とした秩序のあり方への不信感を増幅させた。
二十一世紀に入り、アメリカの弱体化とともに中国・ロシアの台頭が顕著になると、一強の時代から多極化の時代へと突入し、アメリカの論理が相対化されていった。国連も常任理事国がルールに従わなければ機能しないことが、今回のウクライナ侵攻で明白になった。現在の国際秩序では、核保有大国の暴走を誰も止めることができない。
世界は、アメリカ・NATOを支持する国々と、そのヘゲモニーに反発する国々の間に分断が生じつつあるように見える。佐藤優は『文藝春秋』5月号(「ベストセラーで読む日本の近現代史 104回−ヘーゲルを通してプーチンの思考を読み解く」)で、プーチンの構想を「21世紀型の帝国」への「再編」という視点で読み解いている。プーチンはロシア単独の世界支配を構想しているのではなく、「米国、欧州、日本などとは別の価値観を持つ、中国、インド、ブラジル、トルコ、イラン、サウジアラビアなどとのネットワークのハブ(結節点)」となることを目指しているという。
世界の新たな二極化は、進行していくのだろうか。
三月十五日付で、和田春樹をはじめとした歴史学者が「ウクライナ戦争を1日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか−憂慮する日本の歴史家の訴え」という声明を出した。ここで彼らは、ロシア・ウクライナの停戦交渉の仲介をするのは「ロシアのアジア側の隣国、日本、中国、インドがのぞましい」と述べ、日本政府の果たすべき役割を強調している。だが、なぜ日本がここに加わるべきなのか、その理由や論理は明確ではない。
プーチンがユーラシア主義を説き、「東方的」なロシア正教との強い関係を結んでいることは周知の事実である。習近平も「一帯一路」というヴィジョンを説き、アメリカ・NATO中心の秩序とは異なる構想を示している。これは、戦前期の日本のアジア主義とも通底する思想を含んでいる。
ロシアのユーラシア主義、中国の一帯一路、日本のアジア主義――。この三者は、いずれも「近代の超克」という思想課題を提起しながら、周辺国に対する覇権主義を発露してきた。かつて中国文学者の竹内好は、「方法としてのアジア」という論考で、「西洋をもう一度東洋によって包み直す」ことで西洋を変革し、「価値の上の巻返しによって普遍性をつくり出す」という構想を説いたが、その前提には覇権主義の解体と克服があった。
第二次世界大戦後に積み重ねられた国際秩序形成の努力を継承しつつ、ロシアや中国を包み込む方法はないのだろうか。日本のアジア主義とその役割について、真剣に考えたい。
●ウクライナで募るロシア憎悪 今後に禍根、隣国共存に苦慮 5/1
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナでは、2カ月超に及ぶ激しい戦闘が刻んだ禍根で、ロシアへの憎悪が一段と募っている。「ウクライナとロシアが共存するには、ロシアが変わる必要がある」。武力を信奉するプーチン政権が横暴な姿勢を強め、和解が難しくなる中、ウクライナ国民は同じスラブ民族の「兄弟国」でもある隣国との距離感に苦慮している。
ウクライナ西部リビウの街角で東方正教会の復活祭(イースター)の集まりをのぞくと、国内各地からの避難民が歓談していた。しかし、記者がロシアの印象を尋ねると、厳しい表情で辛辣(しんらつ)な声が返ってきた。
両親を残し南部ミコライウから逃れたビタリさん(37)は「世界で何か悪いことが起きる時は、大抵ロシアが絡んでいる。あれもこれも欲しがる帝国主義的な思考は捨てるべきだ」。ロシア人の同僚も多く「ロシア人を全員嫌っているわけではない」と言いつつも、「ウクライナが劣っていると考え、今回の戦争を称賛するやつらが憎いんだ。自由のないロシアの占領下で生きるなんて、あり得ない」と吐き捨てるように話した。
首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで化粧品店を営んでいたインナさん(47)は、ポーランドとチェコに避難していたが、「全てを失っても、やはり祖国へ」との思いで娘とリビウに落ち着いた。民間人の多数の遺体が見つかったブチャからロシア軍が撤退した後、一度故郷へ戻ったが、ロシア部隊が店をトイレ代わりにしていたのを見て吐き気がしたという。
インナさんはブチャで、息子と同じ15歳ぐらいの男性の遺体を目の当たりにした。「人間の仕業とは思えない。憎むにも値しない」と憤る。ロシア西部クルスクには今も、侵攻直前に「子供を連れて逃げた方がいい」と忠告してくれたロシア人の友人がいる。それでも「思いやってくれるロシア人はいても、ロシア語を聞くと正直、気分が悪くなる」と吐露した。
戦争は子供の心にも影響する。「僕がプーチンを倒す」。リビウの駅でバフダン君(9)は、おもちゃの剣を振りかざした。砲撃の危険が残る中部ポルタワへ、避難していたドイツから帰郷するところだった。強がる息子の傍らで母親のリアナさん(36)は「(息子が)父親と離れ離れでいるより、一緒に死んだ方がまし」と述べた。
●「餓死者の肉がマーケットで売られた過去」 ウクライナの抵抗理由 5/1
2月24日のロシアによるウクライナ侵攻開始以来、ウクライナの人々はその激しい抵抗ぶりと巧みな情報戦略で世界を驚かせている。池上彰さんは「大きな犠牲を払ってもまったく怯むことなく、団結してロシア軍に抵抗し続けるのは、旧ソ連時代に蹂躙され、筆舌に尽くしがたい悲劇を経験したからだ」という──。
豊かな国土に恵まれた穀倉地帯を襲った悲劇
2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻し、現在、ウクライナの民間人にも大きな被害が出ています。
ウクライナは、北はベラルーシ、東はロシア、南は黒海に面し、肥沃(ひよく)な大地があって、農業が盛んです。「欧州の穀倉地帯」といわれ、面積は日本の約1.6倍。
ウクライナの国旗は、上半分が青、下半分が黄色なんです。上の青は青空、下半分の黄色は小麦畑を象徴しています。青空のもと、見渡すかぎり、小麦畑が続いている。これがウクライナの国旗なんですね。
なぜヨーロッパ有数の穀倉地帯なのかというと、その秘密はロシア語で「チェルノーゼム」と呼ばれる黒土にあります。枯草などの有機物を微生物が分解したあとに残る栄養豊富な腐植を多く含む肥えた土壌のことです。
ウクライナには、世界の黒土の約3分の1から4分の1が存在するといわれ、その恩恵によって非常に豊かな農業国になっているのです。
旧ソ連時代の2度の大飢饉
ところが、そのウクライナで、ソ連時代に大飢饉(ききん)が2度発生しました。
最初は1921〜22年にかけてで、この時は深刻な干ばつが原因でした。ソ連政府は餓死者が出るほどの飢餓の状態を隠していましたが、結局、援助を世界に求めざるを得なくなり、それらの支援と翌年の豊作によって飢餓を脱しました。
2度めは1932〜33年にかけてで、少なくとも400万人が餓死したといわれるほどの大飢饉でした。1000万人以上が餓死したんじゃないかという研究者もいます。この大飢饉は共産主義政権の悪政がつくり出したものだったのです。
当時、ソ連ではスターリン体制のもと、農業の集団化を進めていました。スターリンはなぜ集団農業という方法を考えて実行したのか? 
資本主義においては、資本家が労働者から搾取(さくしゅ)している。だから、社会主義革命によって、労働者が資本家に打ち勝たなければならない、と考えたのです。
では、資本家と労働者は何が違うのか?  それは「生産手段」を持っているかどうかということです。
資本家は生産手段を持っている。たとえば、工場や機械類ですね、これが生産手段。そして、生産手段を持つことで労働者を雇い、労働者から搾取するという構造になっている。それなら、社会主義革命によって、労働者が資本家から生産手段を取り上げて、自分たちのものにすればいいのだ──。
これがソ連、あるいは、スターリン流の社会主義の考え方です。
スターリンの農民収奪計画
資本家が生産手段を持っていて、労働者は生産手段を一切持っていない。自分たちは労働力しか持っていない。資本主義ではこういう構造になっていると考えた時に、問題は農家です。
農民たちはどうなのか?  農民たちは農地を持っているでしょう。あるいは、さまざまな農機具や家畜を持っていますよね。これは生産手段を持っていることになるわけです。スターリンの考える社会主義体制に農民たちを組み込むには、どうすればいいのか? 
そこで、スターリンは、自分の土地を耕して自活していた農民たちから生産手段(農地、農機具、家畜)を取り上げて、集団農場に集めて働かせ、収穫した農産物を国家に納めさせるという方法をとることにしたのです。
そのあと、中国でも、あるいは、北朝鮮でも同じことが行われます。
「農業集団化」で低下し続ける生産性
集団農場入りを強制された農民たちは、自分の家畜を食べてしまうか売ってお金に換えました。この時期にウクライナから家畜の半分が消えたといいます。それは、農民たちのせめてもの抵抗だったのです。
また、比較的豊かな農民は「富農」、貧しい農民は「貧農」に無理やり分け、「富農」はブルジョワで人民の敵であるとされ、収容所に送られたり処刑されたりするなど徹底的に弾圧されました。「貧農」は集団農場の「労働者」にさせられました。農民を、都市の工場労働者と同じように、生産手段を一切持たず、労働力しか持っていない存在にしたのです。
農業は自然が相手です。雨が降ったらどうしようかとか、寒くて霜がおりたらどうしようかということを農民たちは常に考えて、自分の畑に手をかけています。
ところが、熱心に働いてたくさん収穫していた「富農」を絶滅させてしまったので、集団農場で熱心に働く人がいなくなってしまいました。「貧農」はもはや労働者ですから、朝9時から夕方5時まで働いて給料をもらえばいい、ということになり、労働意欲が低下しました。
この農業集団化によって農業生産性がどんどん落ちていきました。
生産者を痛めつける搾取
生産量が減っても、ウクライナは小麦の大産地ということで、収穫した穀物は農民たちの取り分がなくても、強制的に国に持っていかれました。
当時、ウクライナはソ連全体の穀物の27%を生産していましたが、政府調達ノルマは38%だったという報告もあります。
その結果、ウクライナではとてつもない飢饉が広がって、多数の餓死者が出る状態になったのです。食物を隠した者は、人民の財産の窃盗罪で死刑にする法律ができたというから驚きです。
ロシア革命後、ソ連は重工業を重視した政策を進めていました。無理やり先進国の仲間入りを果たして、社会主義がいかに素晴らしいかを世界に示そうとしたのです。
その結果、農村で収穫される穀物は、都市の労働者に与えることが優先され、また機械輸入に必要な外貨獲得のため輸出に回されたのです。ソ連は、ウクライナが飢餓状態だった時も、穀物を外国に輸出し続けていました。
ホロドモールの悲劇
当時のウクライナの写真が残っていますが、餓死者と見られる遺体が通りに置かれたままで、それが日常の風景になってしまったのか、人々がその横を平然と歩いているのです。
あるいは、食べるものがなくなって追い詰められ、人肉食が始まりました。飢え死にした人の肉がマーケットで売られて、それを買って食べる人がいるという、それはそれは悲惨な事態がウクライナで起きたのです。
集団農業政策の失敗のせいで、豊かな穀倉地帯だったところがそんな状態になったわけです。
人為的に引き起こされたこの大飢餓は、ウクライナ語で「ホロドモール」と呼ばれていて、ナチス・ドイツがユダヤ人に対して行ったホロコーストと並ぶ20世紀の悲劇とされています。
ウクライナが内戦状態になった
ウクライナの人たちには、スターリンのもとでひどい目にあったという、歴史的な記憶があるわけだよね。だから、ソ連が崩壊して切り離されたら「とにかくロシアは嫌だ、西側のEU諸国と一緒になりたい」という思いを抱く人が多いわけです。
ただし、ウクライナの東部には昔からロシア系住民が住んでいましたし、ソ連時代に移ってきたロシア人も多いのです。ウクライナが独立をし、西側と一緒になりたいとなると、ウクライナの東部にいるロシア系の住民が「ロシアから離れるなんてけしからん」と、こういう対立の構図ができてしまいました。
ウクライナの西側はEUと一緒になりたい親EU派、東側はロシアと一緒になりたいという親ロシア派に分かれて、ここで内戦状態のようなことになったのです。
きっかけは2014年に起きたロシアのクリミア併合でした。
ロシア人と「クリミア半島」の複雑な関係
ウクライナの南部で黒海に面したクリミア半島は、特にロシアにとって保養地として素晴らしいところなのです。温暖で、ロシア人は冬にクリミアへ遊びに行くのがとても楽しみなのです。
クリミア半島は、もともとロシアに属していました。それをスターリンが亡くなったあと、政権のトップに就いたフルシチョフ第一書記が、ロシア領だったクリミアをウクライナにプレゼントしたのです。
スターリンが進めた集団農業で、ウクライナはひどい被害にあったでしょう。ウクライナの人々には反ロシア感情が植えつけられました。フルシチョフはウクライナを懐柔(かいじゅう)するためにクリミア半島をウクライナに編入したのです。
歴史的にも戦略的にも手放したくない土地
それでも、ソ連時代は、ロシアもウクライナもソ連を構成する共和国でした。クリミア半島がどちらに属していても、同じソ連国内の話です。ところが、ソ連が崩壊して各共和国が独立したので、クリミア半島はウクライナのものになります。
これがロシアには面白くありません。歴史的に見ても、クリミア半島は長い間ロシアに属していました。ヤルタの西に、黒海に面した不凍港のセバストポリがあります。ここはロシアの南下政策の拠点で、要塞(ようさい)が築かれていました。
かつてクリミア戦争(1853〜56年)の際に、ロシア軍5万がセバストポリ要塞を連合軍から守るため、激戦を繰り広げました。ロシアにとって、セバストポリは歴史的にも戦略的にも、手放したくないところなのです。
クリミア危機とは何か
ウクライナには、ウクライナ人もいればロシア系の人もいるでしょう。だから、大統領選挙をすると、ロシアとの関係を改善したいという親ロシア派の大統領になったり、ロシアから離れたい親EU派の大統領になったりするわけです。
2013〜14年にかけて、当時のヴィクトル・ヤヌコビッチ大統領は親ロシア派でした。ロシアとの関係を維持したい大統領に対して、民主化運動が起きて、それが反政府運動に発展。ヤヌコビッチ大統領が逃げ出して、ロシアに亡命するという出来事がありました。
この大統領は、国の金を使って自分の家をまるで宮殿のようにしていたことが、逃げ出したあと暴露されました。それによって、ウクライナの特に西側では、反ロシア感情が一挙に盛り上がります。
クリミア半島を占領した正体不明の武装勢力
すると、プーチン大統領が突然、クリミア半島はロシアのものだと言い出したのです。ウクライナが独立したら、クリミア半島がウクライナのものになったでしょう。プーチン大統領は、クリミア半島がウクライナのものになってしまったことを、苦々しく思っていたのでしょう。
ウクライナの大統領が逃げ出して国内が混乱している。そのすきをついて、突然、このクリミア半島はもともとロシアのものなんだと言い始めたわけです。そして、正体不明の武装勢力がクリミア半島を占領します。組織立った大勢の兵隊が出動したのですが、軍の国籍を示す印もつけていませんでした。
一方、クリミア自治共和国では、クリミアがウクライナから独立をし、ロシアに帰属するかどうかを問う「共和国政府」による「住民投票」を実施しました。その結果、ロシア編入に賛成という票が圧倒的多数を占めたと発表され、ロシアは、クリミア自治共和国の選挙結果を承認するというかたちで、クリミアを「併合」しました。
ウクライナ政府は、これをロシアの武力による違法占拠として承認していません。
プーチンの「うそ」
ウクライナではロシアに亡命したヤヌコビッチ大統領のあと、親EU派のポロシェンコ大統領を経て、2019年からヴォロディミル・ゼレンスキー大統領になりました。
プーチン大統領は、我々はロシア軍をクリミア半島には一切送っていない、とずっと言い張っていました。国際社会は、ロシアが軍事力を使って、クリミア半島をウクライナから奪い取ったと考え、ロシアに対する経済制裁を始めます。EUやアメリカが、たとえばロシア製品を買わない、あるいは、ロシアにいろんなものを輸出しないという制裁をとるようになりました。
プーチン大統領は一切ロシア軍を出していないと言っていましたが、クリミア半島にロシアが入ってから1年経った記念式典で、「我々ロシア軍によってクリミア半島を奪い返すことができた」と言いました。
つまり、前の年、ロシア軍は一切出していないと言っていたのは全部うそだったのですね。そして、この時プーチン大統領は、クリミア半島併合に対して、ヨーロッパやアメリカが反発することに備えて、核兵器の使用を準備していたとまで言ったのです。
2014年は相手にならなかったウクライナ軍
ところで、ロシア軍がクリミア半島を占領した際、ウクライナ軍の兵数はわずか5万人くらいで、ロシア軍の相手になりませんでした。
さらに、ウクライナ東部の親ロシア派の武装勢力にも対抗できず、武装勢力はドンバス地方のドネツク州とルガンスク州に、それぞれ「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」という自称国家を設立しました。
その後、ウクライナは徴兵制を施行して20万人の兵員を確保、軍務経験のある予備役の兵士が90万人に上るまでに軍を強化しました。
2022年1月からは、ウクライナが侵略を受けたら、すべての国民が国土防衛にあたる義務があるという法律が施行されました。
8年続いた内戦から、ついにロシアの侵攻へ…
ウクライナでは、クリミア併合からずっと、親ロシア派の武装勢力とウクライナ政府軍との内戦状態が続いています。この親ロシア派の武装勢力はみんなロシア製の武器を持っています。
でも、プーチン大統領は、「ウクライナにはロシア軍の兵士はひとりもいない、彼らはロシア軍をやめて、自主的にウクライナに行っているんだ」という言い方をしていました。これはどういうことなのでしょう? 
実際に何が起きていたかというと、ロシア軍がウクライナの親ロシア派の住民を支援するために国境まで行きます。すると、そこでロシア軍の将校がロシア兵に向かって、「お前たち、たった今をもって、ロシア軍をやめろ。今から我々はウクライナに行く」と言うのだそうです。つまり、ウクライナ領内では元ロシア兵になる。
ロシアに戻ればロシア軍に復帰しますが、万一捕虜になったり、あるいは、死んでしまったりしたら、元ロシア兵ということにしていたのですね。実際には、ウクライナの親ロシア派をロシア軍兵士が支援をしてきました。
そうして、ついに今回、ロシア軍がウクライナに侵攻したのです。
●「ウクライナの次は私たち」…モルドバの恐怖 5/1
ウクライナとの国境から70キロほど離れたモルドバの首都キシナウ中心部にあるシュテファン・チェル・マーレ公園の露天カフェで25日(現地時間)、十数人の市民がテレビのニュースに耳を傾けながら語り合っていた。市民の一人セルジオさん(51)は深いため息をつきながら「戦争が人(ウクライナ)ごとではなく自分たちの問題になりそうだ」と語った。モルドバのマイア・サンドゥ大統領はこの日、国家安全保障会議を緊急招集し、軍と警察に対し「警戒態勢」を発令した。親ロシア派勢力が実効支配しているモルドバ東部のトランスニストリアが前日、国家保安省の建物周辺で起こった爆発事故を「ウクライナによるテロ」と主張し、国家非常態勢に準ずる「赤色テロ警報」を発令したからだ。
翌26日には状況がさらに悪化した。トランスニストリアで旧ソ連時代の二つの電波塔が相次いで爆発したとのニュースが報じられたのだ。モルドバ国会前でウクライナを支持するデモをしていたカリーナさん(33)は「ロシアによるウクライナ侵攻も(東部ドンバスにある親ロシア派の反政府地域を)ウクライナが攻撃したという口実で始まった」「今回の爆発事故を口実にロシア軍はモルドバにも侵攻してくるだろう」と心配した様子で語った。キシナウでは「ロシア軍はオデッサ(ウクライナ南部の港湾都市)を占領し、トランスニストリアに無血で入り、モルドバ政府に降伏を要求するだろう」とのうわさがすでに広がっている。
米ニューヨーク・タイムズ紙は先日「人口400万人の小国モルドバがウクライナに続いてロシアの次の攻撃対象になる可能性が高まり、モルドバに戦争の恐怖が広がっている」と報じた。ウクライナを侵攻したロシア軍は現在、モルドバ国境からわずか150キロしか離れていない地域にまで進出している。ロシア軍は先日「マリウポリ−クリミア半島−オデッサと続くウクライナ南部を全て占領すれば、ロシアからトランスニストリアまで直接つなげることが可能」として侵攻の可能性を示唆した。
ロシアはモルドバで起こった3回の爆発をきっかけに、トランスニストリア問題に介入する意図をもはや隠そうとしない。ロシア国営のスプートニク通信は「今回の爆発事故はウクライナ工作員3人が起こしたテロ」と報じ、ロシア外務省も即座に「テロ事件について詳しく調査し、その背後を解明すべきだ」との声明を出した。ロシア国営のRIAノーボスチ通信は「トランスニストリアは近く国の利益を守るために対策を発表するだろう」と報じた。これに対してウクライナ外務省は「ロシアが(自作自演で)トランスニストリアを戦争に引き込もうとしている」と強く反発した。
モルドバの現地メディアは「一連の流れはウクライナ戦争が起こった当時と非常によく似ている」との見方を示している。当時も誰の仕業か分からない砲撃事件を巡ってドンバスの親ロシア派勢力が「ウクライナによる攻撃だ」と主張した。直後にロシアが「事件に対する正確な調査が必要」として介入し、その後「同胞(ロシア系住民)を守る」との口実で突然侵攻を開始した。これと同じことがモルドバでいつ起こってもおかしくないということだ。
モルドバはウクライナと同じく旧ソ連崩壊と共に独立したが、NATO(北大西洋条約機構)には加入できず安全保障面で不安を抱えている。現在は西側寄りの勢力が政権を握ってはいるが、その一方でロシア系住民は今も中央政府に反旗を翻している。とりわけモルドバを南北に分けるドニエストル川の東側にあるトランスニストリアでは全人口に占めるロシア系住民の割合が30%に達している。この地域は1992年にモルドバ政府に対して半年にわたり激しい内戦を繰り広げ、その後休戦して住民投票により別の憲法を制定し独立を宣言した。その際にロシアは軍事支援を行っていた。現在この地域には戦車や装甲車などを持つ1500人以上のロシア兵が「平和維持軍」という口実で駐留している。トランスニストリアを国として認めているのは旧ソ連の一部だったアブハジア、南オセチア、アルツァフの3カ国だけだ。
モルドバ国民はロシアがオデッサを占領したときから「モルドバにも侵攻する可能性が高まった」と懸念を持ち始めた。国境からオデッサまでの距離はわずか40キロと目と鼻の先だ。モルドバ国立大学で話を聞いたオレックさん(40)は「最初はただの根も葉もないうわさと考えていたが、今はロシアが描く実際のシナリオかもしれないと思うようになった」「すでにモルドバを離れた人もたくさんいる」と述べた。ニューヨーク・タイムズ紙によると、モルドバ人の約40%はルーマニアのパスポートを持っており、ウクライナ戦争が起こってから3月初めの時点までにすでに6万2000人以上がモルドバを去ったという。
ウクライナ国境に近いモルドバのパランカ検問所を取材すると、モルドバに避難しようとする人よりもウクライナに向かう車の方が長い列を作っていた。夫と2人の子供を連れてオデッサに向かうというハリナさん(43)は「モルドバもウクライナのようにプーチンの標的になるだろう」「(他の国に)避難するよりも、むしろオデッサ近くの自宅に戻った方がよいと考えた」と述べた。
●岸田首相がベトナム首相と会談 5/1
岸田首相が訪問先のベトナムで、チン首相と会談しました。ベトナムはロシアとの関係が深い国ですが、ウクライナ情勢について主権や領土の一体性が守られなければならないとの考えで一致しました。
岸田首相「(ウクライナの)独立・主権や領土の一体性を尊重する原則が守られなければならないことを確認しました。いかなる地域においても、力による現状変更は認められません」
会談でチン首相は、ウクライナへの人道支援として、国際機関を通じて50万ドルを拠出することを表明しました。ベトナムは伝統的にロシアとの関係が深く、国連総会でのロシア非難決議も棄権しました。
岸田首相としてはベトナムから、この問題で一定の支援を引き出した形です。
また、ベトナムが南シナ海で中国と紛争を抱えている中、両首脳は力による一方的な現状変更に反対することでも一致しました。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 5/1
ゼレンスキー大統領「ロシア軍 オデーサの空港を破壊」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、30日、新たなビデオメッセージを公開し、ロシア軍のミサイル攻撃により、南部オデーサの空港の滑走路が破壊されたことを明らかにしました。この中で、ゼレンスキー大統領は、「私たちは空港を再建するが、オデーサはこのようなロシアの態度を決して忘れないだろう」と述べ、ロシア軍の攻撃を強く非難しました。そのうえで、ロシア軍の動きについて、「新たな攻撃のため東部で追加の部隊を集めている。ロシアはハルキウ州に増援部隊を送り込み、ドンバス地域に圧力をかけようとしている。ロシアは無意味なこの戦争で、2万3000人以上の兵士を失っているが彼らはやめない」と述べ、東部でさらなる攻勢の準備を進めているという見方を示しました。
十分な軍事支援届けばウクライナ反撃か ウクライナ大統領府顧問
ウクライナの通信社「ウクルインフォルム」は、ウクライナ大統領府の顧問のアレストビッチ氏が「5月下旬か6月上旬には必要な数の兵器が供与され、戦場に大きな影響を与え始める」と地元メディアに述べたと先月27日、伝えました。アレストビッチ氏は欧米から十分な軍事支援が届けば、ウクライナ軍は反撃に転じるという見方を示したということです。欧米諸国は相次いでウクライナへの軍事支援の強化を打ち出し、ポーランド政府は200両以上の戦車を供与する可能性があると報じられています。一方、ロシア通信によりますと、ロシアのラブロフ外相は30日、中国メディアとのインタビューで「アメリカやNATOがウクライナの危機の解決に本当に興味があるならまずは兵器と弾薬の供与をやめるべきだ」と述べ、欧米をけん制したということです。
ウクライナ 少なくとも2899人の市民死亡 うち210人は子ども
国連人権高等弁務官事務所は先月29日、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から先月28日までに、ウクライナで少なくとも2899人の市民が死亡したと発表しました。このうち210人は子どもだとしています。地域別でみると、キーウ州や東部のハルキウ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州などで1488人、東部のドネツク州とルハンシク州で1411人の死亡が確認されているということです。また、けがをした市民は3235人にのぼるとしています。一方、国連人権高等弁務官事務所は東部のマリウポリなど激しい攻撃を受けている地域での死傷者の数については集計が遅れていたり、確認がまだ取れていなかったりして統計には含まれておらず、実際の死傷者の数はこれを大きく上回るとの見方を示しています。
マリウポリの製鉄所から市民20人避難 アゾフ大隊がSNSで明らかに
ウクライナの「アゾフ大隊」の副司令官は、多くの市民が避難しているとされ人道的な危機が続くウクライナ東部の要衝マリウポリのアゾフスターリ製鉄所から20人の市民が避難したと30日、SNSで明らかにしました。このなかで副司令官は「がれきから救出された市民たちが合意された場所に移された。女性と子どもの合わせて20人がウクライナの支配下にある南東部のザポリージャに向かうことを望んでいる」と述べました。そのうえで「私たちはロープでがれきから市民を救出している。この手続きが継続しすべての市民が避難できるよう願っている」と述べ、製鉄所の中に残されたほかの市民の避難も進むよう訴えました。またロシア国営のタス通信は30日、子ども6人を含む25人がアゾフスターリ製鉄所から出たと伝えています。今回20人ほどの市民の避難が実現した背景など詳しいことは分かっていませんが、マリウポリからの避難をめぐっては国連が全力を尽くす姿勢を示していました。
プーチン大統領 掌握主張の地域などの退役軍人に一時金支給決定
ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部2州で親ロシア派の武装勢力が事実上、支配する地域とロシア軍が掌握したと主張しているウクライナの地域に住む第2次世界大戦の退役軍人を対象に1万ルーブル、日本円にしておよそ1万8000円を一時的に支給することを決めました。ロシア大統領府によりますと、この措置は大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利して今月9日で77年となるのを記念して行われるもので、プーチン大統領は先月30日、これを定めた大統領令に署名したということです。プーチン政権としてはロシア国内と同じく「戦勝記念日」を祝う機運を高め、この地域の支配の既成事実化を進めたいねらいがあるものとみられます。
ゼレンスキー大統領「占領者たちを追い出さなければならない」
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、国境付近などでロシア軍と戦う国境警備隊の代表らを首都キーウに集めて演説し「ロシアの悪はまだ私たちの領土にいる。占領者たちを追い出さなければならない」と述べ、ロシア軍に徹底抗戦する姿勢を改めて強調しました。またロシア軍が掌握したと主張している東部のマリウポリでは、国境警備隊の部隊も応戦を続けているとして「マリウポリを勇ましく守っている国境警備隊の戦士たちに感謝の気持ちを表したい」と述べました。そして「私たちのすべての兵士らがすぐに勝利を目にすることを願っている」と述べ、ロシア軍に抗戦し領土を守り抜くよう指示しました。演説は「国境警備隊の日」に合わせて行われたもので、大統領は国境警備隊の代表らに勲章を授与して功績をたたえました。
アンジェリーナ・ジョリーさん 西部のリビウを訪問
難民の支援に取り組んでいるハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが30日、ウクライナ西部のリビウを訪れ、子どもたちと触れあいました。また鉄道の駅では国内から避難した人たちの支援にあたるボランティアと会話し「子どもたちは大きなショックを受けているでしょうね」などと子どもたちを気遣っていました。ジョリーさんはUNHCR=国連難民高等弁務官事務所の特使を務めていますが、AP通信はウクライナの訪問は私的なものとみられると伝えています。
ロシアが掌握と主張のヘルソン州 レーニン像が再建との投稿
ウクライナのヒョードロフ副首相兼デジタル転換相は、ロシアが掌握したと主張する南部・ヘルソン州のノバ・カホウカにロシア革命の指導者レーニンの像が再建されたと30日、ツイッターに投稿しました。ウクライナとロシアがひとつの国を構成していた旧ソビエトを象徴するレーニンの像を建てることで市民に旧ソビエト時代を思いおこさせ、ロシアによる支配の既成事実化、いわゆる「ロシア化」を進めたいねらいがあるとみられます。
イギリス国防相 5月9日にプーチン大統領が戦争状態宣言の可能性
イギリスのウォレス国防相は、30日までに地元ラジオ局の番組に出演し、第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利した5月9日のロシアの「戦勝記念日」に、プーチン大統領がウクライナとの間で戦争状態にあることを宣言する可能性があるという見方を示しました。ロシアはウクライナへの軍事侵攻についてこれまでのところ、「特別軍事作戦」と表現し「戦争」ということばは使っていません。またプーチン大統領はウクライナのゼレンスキー政権を一方的にナチス・ドイツになぞらえ、「非ナチ化」の必要性を繰り返し強調しています。ウォレス国防相は具体的な情報があるわけではないとしながらも、プーチン大統領が「ナチス」と戦争状態にあると宣言し、戦うためにロシアの国民を大勢動員する必要があるなどと主張する可能性を指摘しました。
東部のイジューム付近 ウクライナ軍が抵抗する様子の動画を公開
戦闘が激化しているウクライナ東部ハルキウ州のイジューム付近で、ウクライナ軍がロシア軍に抵抗する様子をうつした動画が30日、公開されました。ウクライナの内務省が公開した映像では、ウクライナ側の攻撃によって次々と煙があがる様子が捉えられ、ウクライナ側は、ロシア軍の戦車や戦闘用の車両などを砲撃したとしています。ウクライナ東部の戦況について、アメリカ国防総省の高官は、29日、ロシア軍がイジュームから南に向け徐々に前進しているものの、ウクライナ側の激しい抵抗に直面しているという分析を示し、今後、この一帯が激戦地になるという見方が広がっています。
ウクライナから国外に避難した人 546万人余りに UNHCR
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ロシア軍の侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数は、29日の時点で546万人余りとなっています。主な避難先は、ポーランドがおよそ301万人、ルーマニアがおよそ81万人、ハンガリーがおよそ51万人、モルドバがおよそ44万人などとなっています。また、ロシアに避難した人は、およそ65万人となっています。
●タジキスタン、ロシア軍侵攻阻止してるトルコの軍事ドローン購入に意欲 5/1
キルギスと対峙するタジキスタンが軍事ドローンで武装
タジキスタン政府がトルコ製の軍事ドローン「バイラクタルTB2」の購入を予定しているトルコの地元メディアDAILY SABAHが報じていた。
トルコの軍事ドローン「バイラクタルTB2」はウクライナ紛争でウクライナ軍によっても多く活用されている。2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く使われているが、その中でもウクライナ軍は「バイラクタルTB2」でロシア軍の装甲車を上空から破壊してロシア軍による侵攻を食い止めている。ロシア軍侵攻直後の2022年2月27日はトルコ製軍事ドローン「バイラクタルTB2」がキエフ北西約100キロの町でロシア軍の進軍を防ぐことに成功したと発表し、ロシア軍の装甲車を破壊する動画も公開していた。そのためウクライナでは「バイラクタル」はロシア侵略阻止の代名詞のようになり歌にもなってウクライナ市民を鼓舞している。
タジキスタンはキルギスと国境で対立しているため武装化が進んでおり、その一環としてトルコの軍事ドローン「バイラクタルTB2」の購入を検討しているとのこと。トルコ政府がタジキスタン軍を支援するのではなく、トルコの民間企業がビジネスとして軍事ドローンを販売する。
ウクライナ紛争の実戦でも多く使われている軍事ドローン
トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいるが、バイカル社はその中でも代表的な企業である。同社の軍事ドローン「バイラクタル TB2」はウクライナだけでなく、ポーランド、ラトビア、アルバニア、アフリカ諸国なども購入。アゼルバイジャンやウクライナ、カタールにも提供している。2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突でもトルコの攻撃ドローンが紛争に活用されてアゼルバイジャンが優位に立つことに貢献した。
ウクライナのゼレンスキー大統領とトルコのエルドアン大統領は2022年2月、ロシアが侵攻してくる前に共同会見を開催。ゼレンスキー大統領はエルドアン大統領に向かって「ドローン開発技術はウクライナの防衛力強化になります」と語っていた。実際にトルコの軍事ドローンはロシアにとっても大きな脅威になっている。そして実際にウクライナに侵攻してきたロシア軍への攻撃に利用されている。
ウクライナ紛争ではトルコの軍事ドローンだけでなく、多くの軍事ドローンが両国軍によって使われている。ロシア軍はロシア製の「KUB-BLA」で攻撃を行っている。そしてウクライナ軍は自国で開発した軍事ドローンでロシア軍に攻撃を行ったり、トルコ製の軍事ドローンだけでなく、アメリカのバイデン政権が提供した米国製の軍事ドローン「スイッチブレード」でロシア軍に攻撃。英国も攻撃ドローンをウクライナ軍に提供している。
●ウクライナに医療支援を 救命救急医が診た避難民の姿 5/1
「男性はいつでも逃げられるように靴をずっと履いたままで、足がただれていた」。ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナに医療支援に入った国際NGO「国境なき医師団」(MSF)の救命救急医、門馬(もんま)秀介さん(48)が避難所で目の当たりにした住民の過酷な実態とともに、支援の必要性を訴えている。ロシアによる医療機関への攻撃に備えて地下に医療施設を移す活動の支援にも携わったといい、「現地で医療を続ける人たちのサポートをすることが国の復活にもつながる」と語る。
門馬さんは2019年、スイス・ジュネーブに国際事務所を置き世界各地の紛争地での医療支援に携わるMSFに加わり、イスラエルとの衝突が続くパレスチナでの医療支援に当たった。ウクライナには4月上旬までの約2週間、MSFの日本人医師として初めて入った。激戦地のマリウポリに近く、多くの避難民が押し寄せるドニプロとザポロジエで活動した。
ドニプロでは美術館だった建物に設けられた避難所に約60人が身を寄せており、うち数人の診療に当たった。マリウポリから避難してきた男性は地下シェルターに7日間も隠れていた際、いつでも逃げられるよう靴をずっと履いたままだったため足がただれていた。脚が不自由なため、寝たきり状態の高齢女性も避難所で不自由な生活をしていた。
避難所では、両親を亡くし、放心してふさぎ込んでいた男の子にも出会った。門馬さんは「ウクライナ全土でパニックや睡眠障害などが増えている可能性があり心のケアが必要だ。国内にとどまる人には安心して暮らせる環境も整えなければならない」と指摘する。
多くの医療従事者がとどまっているため、医療体制は「一定の水準を維持していた」という。ただ侵攻がさらに長期化した場合、負傷者が増えることが懸念される。また、門馬さんは避難民から「病院に逃げた兵士もいるため(ロシア側に)病院が狙われている」とも聞いており、病院が攻撃対象となることが懸念される。
門馬さんは現地の病院などで、治療の優先順位を決める「トリアージ」について医師らに伝えた他、病院が攻撃を受けても医療を継続するため、地下室で手術ができるように準備を進めた。
門馬さんは「病院は一度壊れてしまうと、なかなか元に戻らない。だが、どんな場所でも民間人の医療が確保されるべきだ」と支援の必要性を語る。
国境なき医師団(MSF)によると、ウクライナではマリウポリなど戦闘地域の都市に残っている人々は、暖房や電気、食べ物やきれいな水や薬がない状態で生活しているという。病院は戦闘による負傷などに対応するため、恒常的に物資不足の懸念があり、糖尿病患者のためのインスリン、ぜんそくや高血圧などの慢性疾患のある患者のための薬なども必要だ。
MSFは医薬品などの支援物資を提供しているほか、国内外のスタッフ330人以上が支援活動に取り組んでいる。医師や看護師のほか、心理職のスタッフらが働いている。戦闘による負傷者の治療やメンタルケア、高齢者らへの健康相談などを行っている。
医療設備を整えた「医療列車」も活用。これまでに270人の患者を高いレベルのケアが受けられる場所に移した。
●プーチンはいったい何に勝利するつもりなのか 5/1
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月24日にウクライナ侵攻を命令してから2カ月が経過した。これを機に改めてプーチン大統領が言う開戦目的を検討し、今後の戦闘の成り行きを展望してみたい。とは言っても、現時点ではおそらく誰も「こうなる」とは断言できないだろう。それには開戦目的の中身が具体的でないことが関係している。
プーチン大統領はなぜウクライナ侵攻を決断したか。彼の2月21日の演説、同22日の記者会見、そして同24日の演説などから判断すると、開戦理由は3点に絞られよう。
ウクライナの「非軍事化」、「非ナチ化」、そしてウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止である。プーチン大統領が挙げたこれらの開戦理由は、さすがに絵空事からひねり出したのではなく、一定程度は根も歯もある。しかし問題は、その「程度」であって、いずれも開戦理由としては根拠薄弱だ。
まず、「非軍事化」だが、プーチン大統領は、東部ドンバス地方(ドネツク州とルガンスク州を合わせた総称)での2014年からの内戦で、ロシア語系住民が多数殺害されてきたことを「ジェノサイド」と指摘、これを止めるためにウクライナを非軍事化する必要があると主張する。
ウクライナでは国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)がドンバスを中心に活動を続けてきた。ウクライナでは2014年4月にウクライナ軍とドンバスの親ロシア派武装勢力との間の内戦が始まった。同監視団によると、以来、今年2月21日までのほぼ8年間に、双方の兵士と民間人合わせて1万4200〜1万4400人が死亡した。
うち民間人の死亡は3407人を超え、兵士はウクライナ軍が4400人、武装勢力6500人が死亡した。ほかに3万9000人が負傷。うち7000〜9000人が民間人だった。
双方が対峙する線(コンタクト・ライン)の両側で市民が砲撃によって多数犠牲になってきた。プーチン大統領はこの死傷者の状況に加え、2月中旬からウクライナ軍による砲撃が大幅に増えたことも問題視する。欧州安全保障協力機構(OSCE)のウクライナ特別監視団(SMM)によると、確かに2月中旬に双方による停戦違反が急増した。
プーチン大統領はこうした事態を踏まえ、2月21日に親ロ派勢力が自称する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家として承認することを宣言、「いわゆる文明世界は、約400万人もの人が直面しているこの恐怖、ジェノサイドがあたかも存在しないかのように無視している」と強調した。だから、ウクライナを非軍事化しなければならないと説いた。400万人とは親ロ派勢力が支配する地域の人口だ。
だが、今回のウクライナ侵攻直前に砲撃件数は増えても、ジェノサイドが起きようとしていたとの報告は、国連からもOSCEからもない。
次に「非ナチ化」という開戦理由。ウクライナでは2014年に親欧米派リベラル勢力が主役となった政変(「マイダン革命」と言われる)の蔭で極右勢力が暗躍したことが分かっている。この中には第二次世界大戦中にナチス・ドイツ軍に協力しソ連軍と戦った指揮官の1人、ステパン・バンデラを賞賛する人たちいる。アゾフ大隊、スボボダ、右派セクターといった組織がこれに該当する。
プーチン大統領が今月21日、制圧を宣言した南部の要衝、マリウポリで戦っているウクライナ軍の主力のアゾフ大隊は、ナチ党の「ヴォルフスアンゲル」を模した紋章を使用している。
しかし、ゼレンスキー政権がこれら極右組織に乗っ取られているわけではない。そもそもウォリジミル・ゼレンスキー大統領はユダヤ人だ。
また極右勢力は2019年の議会選挙で連合し議席獲得をめざしたが、必要な5%という敷居を超えられず、議席を得られなかった。ウクライナ社会にネオナチ分子が存在することは確かだが、強い影響力を持っているとは言い難い。非ナチ化も十分な開戦理由とは言い難い。
ではウクライナのNATO加盟阻止はどうか。
プーチン大統領は就任してまもなく、2000年6月に訪ロしたビル・クリントン米大統領と会談した。その際、ロシアがNATOに加盟したいと言ったらどう思うかとクリントン大統領に聞いた。答えはうやむやだったというが、この逸話が物語るように、プーチン大統領は当初、NATOを敵視していなかった。しかし、第2期目(2004〜2008年)に入ると、米国はNATOを拡大しないと約束したのに、約束を破ったと強く批判し始めた。
冷戦末期のドイツ(再)統一交渉の過程で、米国や当時の西ドイツの首脳からNATOを拡大しないといった発言はあった。1990年2月9日、クレムリンでのジェームズ・ベーカー米国務長官とミハイル・ゴルバチョフ・ソ連書記長とのやり取りがよく知られている。
ベーカー長官はこの会談で、NATOを「東方eastwardへは1インチたりとも」拡大しないと言った。それは公文書で確認されている。
NATOはその後数次にわたり加盟国を増やし、現在30カ国からなる軍事同盟へと成長、今後はフィンランドやスウェーデンも加盟するかもしれない。
確かに米国は約束を破ったように思われる。しかし、米国やNATOは反論する。会談で出た「東方」とは東欧諸国を意味するのではなく、「東ドイツ」という意味だという。NATOの軍事インフラを東ドイツ部分には配備しないとの約束だという。
ベーカー・ゴルバチョフ会談以外の当時の関係者のやり取りから判断しても、米国やNATOの言い分は詭弁のようにも思えるが、ロシア側には残念なことに、それは国際条約の形で約束されていない。1990年9月12日に東西ドイツ、米、英、仏、ソ連の6カ国外相が、ドイツ再統一の「最終解決条約」に調印したが、NATOを拡大しない旨の文言はない。
NATO不拡大の約束違反というプーチン大統領の指摘は相当に説得力を持つが、国際条約にない以上、迫力に欠ける。
もう1つ頭を傾げざるを得ない問題がある。ウクライナに侵攻する直前の段階で、そもそもウクライナのNATO加盟は現実味を帯びた話ではなかった。ジョー・バイデン米政権にもウクライナをすぐに加盟させようという声はなかった。欧州の多くの加盟国も同様だ。
ウクライナがNATOに加盟すると、ロシアがウクライナを攻撃した場合、NATO第5条によって、ほかの加盟国がウクライナのために参戦しなければならなくなる。ロシアと戦争する可能性が高いことが分かっていてウクライナの加盟を受け入れるわけにはいかない。
ウクライナのNATO加盟阻止というプーチン大統領が言う開戦理由も根拠薄弱ということになる。
プーチン大統領のウクライナ侵攻の決定には、クレムリンに近いとされるロシアの有力な国際問題評論家も驚いた。ロシア外務省系のシンクタンク、ロシア国際問題評議会(RIAC)理事長のアンドレイ・コルトノフや、ロシアの国際政治学会の重鎮とも言えるセルゲイ・カラガノフらの名前を挙げることができる。
ウクライナ侵攻はないと彼らはみていた。なぜなら、侵攻はロシアの国益に反し、非合理的だと思っていたからだ。
プーチン大統領が言う開戦理由が根拠薄弱だと考えると、ほかに別の、言わば隠れた開戦理由もあるように思われてくる。第4、第5の開戦理由として2つ挙げておきたい。いずれも彼の個人的な感情の問題に行き着く。
まずは、長年の米欧諸国の対ロ外交に対する恨み辛みである。2月21日の演説の下りには、西側諸国からたくさん口約束がなされたが、すべて空手形だったという文言がある。また、同24日の演説では、米国とNATOを「ウソの帝国だ」と断罪、連中はロシアに対して厚かましく、偉そうに振る舞うと批判した。悔しさが滲み出ている。
次に、プーチン大統領のウクライナに対する愛憎という複雑な思いだ。2月21日の演説は56分に及び、そのうちのかなりの時間を1917年のロシア革命を中心としたウクライナの歴史を語ることに費やした。
この演説の本来の趣旨は指摘したように、ドンバスの2つの自称共和国を国家として承認するとの宣言だったことを考えると少々突飛に思える。
プーチン大統領は昨年7月にはウクライナの歴史について長大な論文を発表、ロシア人とウクライナ人は「1つの民族である」と、ウクライナへの熱い思いを語った。その一方で、現在のウクライナはナショナリズムと汚職のウイルスに感染しているとか、米欧諸国の傀儡政権の下で植民地になっていると批判した。ここでのナショナリズムとは、ロシアに敵対的な姿勢を指すのだろう。
ロシア人とウクライナ人は同胞であると言いながら、なぜウクライナを非人道的に攻撃するのか。プーチン大統領は、男女間の愛憎に似た感情に支配されているのではと疑ってしまう。
戦闘の焦点は当初、首都キーフの攻防かと思われたが、ロシア軍は3月末に首都近郊から撤退を強いられ、4月中旬からはドンバス地方、特にマリウポリでの攻防戦に移った。プーチン大統領は21日にはマリウポリを制圧したと発表したが、戦争全体の行方、いつ戦闘が止むのか見通せない。
それにはプーチン大統領が掲げる開戦理由が深く関係しているように思われる。彼が挙げる3つの戦争目的が具体的に何をもって達成されたとみなすのかが不透明だからだ。
ウクライナの「非軍事化」とは何か。ウクライナ軍の全滅か、それともドンバスの完全制圧か。
ロシア外務省幹部(第2局長)のアレクセイ・ポリシチュクは3月初めに、ロシアに脅威を与える兵器がウクライナに存在しなくなることと説明したことがある。非武装中立を求めているようでもあるが、もしそうだとしたら、停戦・和平交渉は容易にはまとまらない。
「非ナチ化」は何を意味するか。ゼレンスキー政権はネオナチに牛耳られているとプーチン大統領は認識しているようだから、それはゼレンスキーの追放を意味するように思われる。しかし、ユダヤ人の大統領の追放が非ナチ化だとは、さすがにロシア国内でも理解されないだろう。非ナチ化の基準がほかにあるのかないのか、はっきりしない。
最後にウクライナのNATO加盟阻止という目標だが、この目標は既に指摘したように、事実上、侵攻前に達成されている。これだけが戦争目的であるなら、ロシアは侵攻する必要がなかったし、いつ停戦してもよいはずだ。
しかし、仮にNATO不拡大を国際条約の締結で約束させるというのであれば、現状ではその目的はいつまでたっても達成されないと言ってよい。
米欧やウクライナには、プーチン大統領が5月9日のナチス・ドイツとの戦争の勝利を祝う戦勝記念日に、ウクライナ戦争の勝利を宣言するとの見方がある。もしそうであるなら、プーチン大統領は誤った情報を基に判断しているか、政治的意図を持って開戦目的を相当に狭義に解釈しているということになる。掲げた勇ましい看板に偽りがあったと自ら認めるようなものだ。
●ウクライナ・マリウポリの市民約20人、包囲中の製鉄所から脱出 5/1
ロシア軍が制圧したウクライナ南東部の港湾都市マリウポリで4月30日、ウクライナの部隊と民間人が最後までたてこもる製鉄所から、民間人約20人のグループが脱出した。ロシア国営メディアが報道し、現場の部隊指揮官が確認した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は4月21日、アゾフスタリ製鉄所から「ハエ1匹逃げられないよう」封鎖するよう命じていた。他方、ウクライナ東部ではロシア軍の攻撃が激化している。
ロシア国営タス通信などは、アゾフスタリ製鉄所から民間人25人が脱出したと伝えた。14歳未満の子供6人も含まれているとした。行き先は伝えていない。
これについて、製鉄所内にたてこもるアゾフ大隊のスヴィアトスラウ・パラマル副司令官は、計20人の女性と子供が製鉄所から脱出したと確認。「適切な場所へ移動させた。ウクライナが支配する領土の、ザポリッジャへ避難できるよう期待している」と述べた。
プーチン大統領が製鉄所の封鎖を命じて以来、中にたてこもっていた人たちが外に出るのは初めて。まだ中に残る約1000人の民間人の解放について、ロシアとウクライナの協議が続いている。
マリウポリ市のヴァディム・ボイチェンコ市長はBBCに、製鉄所内の人たちは「生きるか死ぬかの境目にいる」と述べ、「みんな待っている。救出を祈っている(中略)みんなの命を助けるのに、残された時間があと何日なのか何時間なのか分かりにくい」と話した。
ロシア軍がマリウポリを完全制圧すれば、ウクライナ南岸全体の掌握が容易になる。そうすれば、親ロシア分離独立派が実効支配するウクライナ東部のドネツクやルハンスクと、ロシアが2014年に併合したクリミアが陸続きになる。加えて、ウクライナの西の隣国モルドヴァでロシア系住民が分離を宣言しているトランスニストリア地域にも、接近しやすくなる。
南西部の港湾都市オデーサでは30日、大きな爆発音が3回響いた。現地当局によると、空港の滑走路が破壊され、使用不能になったという。
トランスニストリア地域では25日、謎の爆発が相次いだ。ウクライナでの紛争が拡大する恐れが出ている。この地域を支配している親ロシアの分離派当局は、ウクライナの「侵入者」の仕業だと発表した。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの特殊部隊によるものだと非難している。
モルドヴァのトランスニストリア地域をめぐっては、ロシア中央軍管区のルスタム・ミネカエフ副司令官が22日、ロシア軍はウクライナ東部ドンバスだけでなく南部も制圧するつもりだと発言。ミネカエフ少将は、「ウクライナ南部を支配すれば、そちらからもトランスニストリア地域へ到達しやすくなる。トランスニストリア地域でも、ロシア語話者の住民が抑圧されている事実がある」と述べていた。
東部の攻撃激化
この間、ロシア軍はウクライナ東部での攻勢を強めている。
ウクライナ国防省のオレクサンドル・モトゥジャニク報道官は、ロシア軍が「ウクライナ東部での攻勢の激しさを、全方位で徐々に増している」と述べ、「侵略者がこれまで以上に大規模な軍事行動の実施に向けて、準備している様子がうかがえる」と話した。
東部でのロシアの作戦行動について、英国防省は30日の戦況分析で、次のように指摘している。
・ロシアはこれまでの侵略作戦の実行を妨げた問題を解消しようと、戦闘力を地理的に集中させ、補給線を短縮し、指揮系統を簡略化している。
・ロシアはいまだに相当の課題に直面している。ウクライナ北東部で失敗した進軍作戦から、装備を失いバラバラになった部隊を集めて編成しなおし、再配備せざるを得なくなった。こうした部隊の多くでおそらく士気が低下している。
・ロシア軍の戦術調整には今なお問題がある。部隊ごとの技術不足と一貫性のない航空支援のため、ロシア軍は局地的な改善はあるものの、その大規模な戦闘力を十分に活用できずにいる。
同様に米国防総省関係者は29日、ウクライナ東部ドンバス地方を制圧しようとするロシア軍の作戦は予定より遅れていると記者団に話した。
ロシア軍は少なくとも92の大隊戦術群をウクライナの東部と南部に展開し、さらに追加の部隊が国境のロシア側で待機しているものの、その戦力はまだ開戦当初の苦戦から十分に回復していない可能性があると、国防総省関係者は述べた。
ウクライナ軍の徹底抗戦に加え、キーウ制圧に失敗した経験から、ロシア軍が補給線より前に進むことをためらっており、それが作戦遂行の遅れにつながっていると、国防総省筋は分析。「少なくとも予定より数日は進捗(しんちょく)が遅れ」ており、「(ロシア軍は)大規模な長期戦に備えた状況を整備しているようだ」との見方を示した。
30日のその他の情勢
この日は両国間で捕虜交換が行われ、ウクライナ人14人(妊娠5カ月の兵士1人含む)と、人数不明のロシア人捕虜がそれぞれ帰還した。
ウクライナ農政次官は、ロシアが占領地域から数十万トンもの穀物を盗んだとして、「窃盗そのものだ」と非難した。ロシア政府はこれを否定している。
ロシアによる戦争犯罪があったとウクライナ側が非難している首都キーウ近郊ブチャでは、縛り上げられ目隠しをされ、拷問された様子の男性3人の遺体を発見したと、警察が発表した。
ロシア外務省の核軍縮交渉を担当するウラジーミル・エルマコフ軍事戦略部長は、核戦争は容認できないという理想をロシア政府は堅持しているものの、西側が緊張を悪化させていると非難した。
ウクライナ軍関係者によると、東部ドンバス地方でロシア軍に攻撃が続くポパスナの町で、住民救出に向かったバス3台のうち2台が行方不明という。
ロシア国防省は、30日にウクライナで17カ所の軍事目標を攻撃したと発表。ウクライナ兵200人以上を死亡させたほか、装甲車23台など装備を破壊したとしている。
武力攻撃で相手に与えた損害について、ロシアとウクライナはそれぞれ様々な発表をしている。BBCは内容を検証できていない。
●ロシア支配固めへ従軍者に一時金 戦勝記念日控えプーチン氏 5/1
ロシアのプーチン大統領は4月30日、侵攻したウクライナの東部ドンバス地域の親露派実効支配地と、ロシア軍が制圧した地域に居住する第2次大戦の従軍経験者に1万ルーブル(約1万8千円)の一時金を支払うよう政府に命じる大統領令に署名し、攻略を進める南東部一帯の支配を固める姿勢を鮮明にした。
ロシアは軍事作戦で制圧した各地にウクライナ側行政府に代わる「軍民政権」を樹立。州知事や市長を一方的に任命し、行政権の掌握を進めている。大統領令には、ナチス・ドイツへのソ連の勝利を祝う5月9日の対ドイツ戦勝記念日を前に従軍経験者らの支持を得ておきたい考えがあるとみられる。
南部ヘルソン州の軍民政権は5月1日からロシアの通貨ルーブルを流通させると表明。タス通信によると、ロシア軍が一部を制圧したザポロジエ州の港湾都市ベルジャンスクでも、ロシア側に任命されたサウレンコ市長代行が4月30日、近く給与や年金をルーブル払いに移行すると表明した。
●ロシア、ウクライナ紛争は「西側との戦争」  5/1
ロシア政府がウクライナとの戦いを西側諸国との戦争と位置づけようとしている。ロシア政府の指導者らやプロパガンダを担う政府系メディアはロシア国民に対し、ウクライナとの対立は世界的な衝突に発展する可能性があると警告している。
ロシア政府や政府系メディアはここ数日、西側諸国は最終的にロシアを封じ込め、崩壊させようとしていると警鐘を鳴らし、核による攻撃の可能性を含め報復措置をちらつかせている。
米国と一部の同盟国は、ウクライナ戦争をロシアの帝国主義的野望を抑えるための機会ととらえる姿勢を強めており、ウクライナへの軍事支援を強化している。
これに対しロシア政府は国民に対し、歩み寄りが不可能でより広範な対立となる可能性があることを伝え始めた。とりわけ、第二次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した9日の戦勝記念日の祝賀式典を利用し、第二次世界大戦とウクライナでの戦争を関係づけようとしている。
ロシアではここ数週間、ロシアは西側諸国からの攻撃を受ける被害者であり、国を守る必要があるという主張が勢いを増している。 

 

●「ウクライナ戦争の原因は米国だ」…米碩学の破格的な主張 5/2
ロシアがウクライナを侵攻した戦争が2カ月を超えて長期化する中、戦争が起きた根本的な原因をめぐる論争が活発になっている。米国の学界と政界の一部では、戦争の原因を従来の通念と異なる視点で分析しようという動きが表れている。現実主義国際関係理論の大家、シカゴ大のジョン・ミアシャイマー教授が代表的な例だ。
ミアシャイマー教授は、バイデン米政権がウクライナに対する軍事的支援とロシアに対する経済制裁、同盟糾合に専念する時に戦争が勃発したという根本的な原因に注目すべきだ、と主張している。戦争の原因を正確に把握してこそ、状況の悪化を防ぐ戦争の終わりも見えてくるとしながらだ。
ミアシャイマー教授はプーチン露大統領がウクライナを侵攻したのは明らかに問題だが、それと戦争が起きた原因は区別することを注文した。さらにロシア−ウクライナ戦争の原因は米国が提供したと主張した。米国政府と与野党、主流学界・メディアからすると非常に破格的な主張だ。ミアシャイマー教授自身も「一般の通念に反して、主流社会でほとんど受け入れられない少数説」と説明する。
しかし最近になって主流メディアがミアシャイマー教授の主張を積極的に紹介し、彼の論理をめぐる論争が激しくなっている。ニューヨーカー誌は3月、「ミアシャイマーがウクライナ危機について米国を非難する理由」と題した記事を出した。英エコノミストは「なぜ西欧はウクライナ危機に責任があるのか」というミアシャイマー教授の寄稿を掲載した。
ミアシャイマー教授は寄稿で「プーチンが戦争を始めて戦争の展開に責任があるということに疑いの余地はない。しかし彼がなぜそうかは別の問題」と主張した。続いて「西欧の主流の見解は(プーチンが)旧ソ連の形態を帯びた、より偉大なロシアを築くことに専念する非理性的で理解できない侵略者というものだ」と説明した。
したがってプーチン大統領が単独でウクライナ危機に対するすべての責任を負うべきだとみるが、こうした主流の見解は誤りだと批判した。西欧、特に米国がウクライナ危機に大きな責任があるということだ。ミアシャイマー教授はロシア−ウクライナ戦争の種は2008年4月にルーマニア・ブカレストで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議でまかれたという見方を示した。
当時のブッシュ米政権はこの会議でウクライナとジョージアがNATO加盟国になると発表した。プーチン大統領とロシアは直ちに反発した。プーチン大統領はウクライナのNATO加盟をロシアに対する「実存的脅威(existential threat)」と見なし、これを必ず阻止すると明らかにした。ロシアがレッドラインを引いたが、米国は警告を無視した。ウクライナをロシアに対する「西欧の防壁(bulwark)」にしようとしたというのが、ミアシャイマー教授の見解だ。当時のアンゲラ・メルケル独首相とサルコジ仏大統領もウクライナのNATO加盟がロシアを刺激するとして反対したが、積極的な動きは見せなかった。
ミアシャイマー教授は、米国がウクライナを軍事的にはNATO、経済的には欧州連合(EU)に編入し、理念的には親米民主主義国家にしようという戦略を持った、と説明した。結局、米国の支援を受けたウクライナが2014年2月の「マイダン革命」で親露性向のヤヌコビッチ大統領を追放すると、これに反発したロシアがクリミア半島を併合し、東部ドンバス地域の内戦を煽ったと見なした。
ミアシャイマー教授が見る戦争の最も直接的な原因は、昨年11月にブリンケン米国務長官とクレバ・ウクライナ外相が締結した「米国・ウクライナ戦略的パートナーシップ憲章」だ。この憲章は2008年のブカレストNATO首脳会議に言及しながら、ウクライナのNATO加盟に対する米国の約束を改めて言明した。ロシアのラブロフ外相は「沸点に到達した」と警告し、ウクライナのNATO加盟放棄を書面で約束するようを要求した。米国とウクライナはこれに応じず、プーチン大統領が「NATOの脅威」を除去するために侵攻したというのが、ミアシャイマー教授の見方だ。
主流の視点では、ウクライナ国民がNATO加盟を望み、すべての国は独自の外交政策を決定できるという反論を提起する。また、すべての国が国境を挟む近隣諸国の性向を選択できないが、ロシアは隣接するウクライナが西欧化するのを武力で防ぐのは説得力がないと主張する。これに対しミアシャイマー教授は「西欧がどう考えるかは重要でない。ロシアがそう考えるというのが核心だ」と反論した。
ミアシャイマー教授は1962年のソ連のキューバミサイル基地建設で米ソが対立した軍事危機に触れながら、当時の米国が現在のロシアのような存在論的脅威を感じたと主張した。また中国が米国の隣国のメキシコやカナダと提携して中国軍を駐留させようとすれば米国は黙っているだろうかと反問する。
ミアシャイマー教授は現在の米国の最も大きな敵はロシアでなく中国であり、ロシアとの敵対にすべての資源を注ぎ込むのは米国の国益にならないと批判する。ウクライナに武器を支援して激励しながら長期戦に向かわせるのではなく、一日も早く戦争を終わらせて中国との戦略的競争に専念するよう注文した。早期終戦のためにはウクライナの中立宣言が解決法だと提案する。
ミアシャイマー教授の戦争原因論に対しては「プーチンに免罪符を与えようとするのか」という批判が多い。ただ、米国の本当の競争者はロシアでなく中国だという指摘には同調する世論も少なくない。
一方、ランド・ポール上院議員は先月26日(現地時間)、上院外交委員会の公聴会でミアシャイマー教授の意見に言及しながら、米国がロシアのウクライナ侵攻に寄与したと主張した。ポール議員はウクライナのNATO加盟に反対しながら、ウクライナがNATO加盟国になればNATOとロシアの戦争に米軍が参戦する可能性を懸念した。
これに対しブリンケン長官は、ウクライナ、ジョージア、モルドバなどロシアが攻撃した国はNATO加盟国でないという共通点があるとし、NATO加盟国になればロシアは侵攻しないかもしれないという反対の主張をした。またウクライナが自国の未来と運命を決定するのは基本的な権利だと擁護した。
●日越、経済・安保関係強化で合意 ウクライナ戦争終結も呼びかけ 5/2
ベトナム訪問中の岸田文雄首相は1日、日本とベトナムが経済と安全保障面の関係強化で合意した表明した。また、ウクライナ戦争の終結も呼びかけた。
ハノイでベトナムのファム・ミン・チン首相と会談した後、記者団に対し、新型コロナウイルスの影響を受けた両国経済を明確な回復軌道に乗せるため2国間関係を強化する、と述べた。
チン氏は、両国が「相互の利益に従い、パンデミック(世界的大流行)後の貿易面での協力強化、サプライチェーン(供給網)とエネルギー転換の強化で合意した」と述べた。
日本はベトナムにとって最大の政府開発援助提供国であり、3番目に大きな海外直接投資実施国。ベトナムの税関データによると、昨年の2国間貿易は8.4%増の429億ドルだった。
岸田、チン両氏は、ロシアのウクライナ侵攻に対する地域的な対応、および南シナ海の紛争についても協議。岸田氏はウクライナ危機について、われわれは力による現状変更は認められないということで合意した、と説明。われわれは戦争を直ちに終わらせる必要性で合意した、とも述べた。
また、南シナ海での力による現状変更の試みに強く反対することでも一致したという。
チン氏は、ベトナムが国際機関を通じてウクライナへの人道支援のために50万ドルを寄付すると表明した。
同氏は、ベトナムが9月に日本へリュウガンの輸出を、その後グレープフルーツ、アボカド、ランブータンといった他の農産物の輸出をそれぞれ開始する見通しだとした一方、日本のブドウに自国市場を開放すると述べた。
岸田氏は、2050年までにカーボンニュートラルな社会を目指すベトナムにおいて、日本がバイオマス、水素、アンモニアといったエネルギー源への転換を支援すると表明した。
●ロシア軍の完全撤退まで制裁を継続−ドイツ外相 5/2
ドイツのベーアボック外相は1日、対ロシア制裁が解除されるのはドンバス地方やクリミアを含むウクライナの領土からロシア軍が完全に撤退した後になると明言した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所からこれまでに民間人約100人が避難したことを明らかにした。これに先立ち国連と赤十字国際委員会(ICRC)が民間人退避の取り組みの詳細を公表していた。AP通信がウクライナ軍司令官を引用して伝えたところによると、ロシア軍は5月1日夜、同製鉄所への砲撃を再開した。
ペロシ米下院議長は複数の民主党議員と共に事前の発表なしにウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談。ペロシ議長は戦闘への支援継続を表明し、総額330億ドル(約4兆2800億円)の緊急資金提供を可能にする法案の可決に向け米議会が取り組んでいると説明した。
ハンガリーは、ロシアからのエネルギー輸入の制限につながる欧州連合(EU)の提案に拒否権を行使する方針だ。オルバン政権の閣僚が発言した。一方、ショルツ独首相は、ドイツによるウクライナへの武器供与が「今や必要だ」と語った。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ロシア軍の完全撤退まで制裁継続−ドイツ外相
ドイツのベーアボック外相は1日、ロシアに対する制裁が解除されるのは、ドンバス地方やクリミアを含むウクライナの領土からロシア軍が完全に撤退した後だと明言した。同外相は公共放送ARDに対し、「導入する全ての制裁措置について、われわれが必要なら何年も持ちこたえられることが重要だ。これらの制裁を解除するのは、ロシア軍が去った後だ」と発言した。
ロシアが製鉄所砲撃を再開−APがウクライナ軍司令官引用
ロシア軍は1日、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所から100人余りの民間人が退避した後、同製鉄所への砲撃を再開した。ウクライナ軍司令官によるテレビ放送での発言をAP通信が伝えた。英紙ガーディアンによると、ゼレンスキー大統領は「全ての条件が満たされれば」マリウポリからの避難は2日も継続されると述べた。
ハンガリーはEUのロシア産エネルギー制裁に拒否権−閣僚
ハンガリーは、ロシアからのエネルギー輸入の制限につながるEUの提案には拒否権を行使する方針だとグヤーシュ首相府長官が1日、HirTVに語った。ブルームバーグは4月30日、EUが年末までにロシア産原油の禁輸を提案する見込みだと事情に詳しい複数の関係者を引用して伝えていた。
ガス代金のルーブル払いを要求−ロシア外相
ロシアのラブロフ外相は1日遅くのイタリアのテレビとのインタビューで、外国からの天然ガス購入代金の支払いはルーブルに転換されるまで完了したとは見なさない考えをあらためて示した。
戦争はウクライナが勝利した時に終わる−ゼレンスキー氏
ゼレンスキー大統領はギリシャ紙カティメリニとのインタビューで、「戦争はわれわれが勝利した時に終わる。開戦時からあらゆる種類の攻撃のシナリオに関する作業に着手した。ロシア側の約束やコミットメントに対する信頼はゼロだ」と述べ、戦争によるウクライナのインフラ被害額は600億ドルとの見積もりを示した。
バイデン大統領、キーウ訪問後の米下院議長と協議
バイデン米大統領は、ポーランドに戻ったペロシ下院議長と今回のウクライナ訪問およびゼレンスキー大統領とのキーウでの会談について協議した。ホワイトハウス当局者が明らかにした。詳細は公表しなかった。
アゾフスタリ製鉄所からの100人が避難−ゼレンスキー大統領
ゼレンスキー大統領は南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所から民間人が避難したことを確認。避難民はザポリージャに移されると話した。これまでに100人余りが避難しており、活動は続くとウクライナのベレシチューク副首相は述べた。民間人を退避させる取り組みは国連と赤十字国際委員会(ICRC)の下で4月30日夜に始まった。
ドイツのウクライナへの武器提供は「必要な行為」−ショルツ首相
ドイツのショルツ首相は1日、ロシアと戦う武器をウクライナに提供することは「今や必要とされている行為となった」と語った。ウクライナが「防衛できるように、武器を届けることで支援する」と、メーデーにちなむ労働組合イベントで語った。他の欧州諸国が申し出ている支援の規模を踏まえると、ドイツが武器提供を拒むことは「時代に反する」とも述べた。
ペロシ下院議長、ゼレンスキー大統領と会談−キーウ訪問
ペロシ米下院議長は事前の発表なしにキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。大統領は1日早くにツイッターへのビデオ投稿で訪問の様子を伝え、「われわれの国家の主権および領土の一体性を守ることへの支援に感謝する」とツイートした。ビデオにはペロシ議長や同行した他の米議員らと握手するゼレンスキー大統領の姿が映されていた。ペロシ議長にはアダム・シフ下院議員(民主)、ジェイソン・クロウ下院議員(同)らが同行している。
●小麦高騰は序章に過ぎない…!史上最悪「食糧危機」が世界を襲う日 5/2
ロシアによるウクライナ侵攻が食糧危機を引き起こそうとしている。
3月29日、国連世界食糧計画(WFP)のデイビッド・ビーズリー事務局長は「ウクライナでの戦争は第2次世界大戦後、目にしたことのないような大惨事を地域の農業と世界の食糧・穀物供給にもたらそうとしている」と警鐘を鳴らした。
ウクライナ、ロシアはともに食糧の輸出大国で、とくに小麦の輸出量ではロシアが世界第1位、ウクライナが第5位と、両国で世界のおよそ30%を占めている。ほかにも、トウモロコシが約20%、ヒマワリ油は70%以上を世界は両国に頼っているのだ。”世界の食糧庫”であるウクライナ、ロシア両国の戦争により、世界の食糧価格が高騰している。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授が語る。
「ウクライナからはほぼ輸出ができていない状況です。輸出の拠点となる大きな港町はマリウポリとオデッサですが、マリウポリはロシア軍に制圧されてしまった状態で港として機能していません。オデッサに関しては出港しようとする船をロシア海軍が黒海で待ち受けていて、使えません。‘21年に収獲された小麦がウクライナに大量に残されているのです」
今後の収穫への影響はさらに大きい。
「ウクライナの国全体が戦場になっているわけではないので、生産できる地域もあります。しかし、問題は労働力です。働き手が戦争に取られたり、海外に脱出したりしています。また、ディーゼル燃料や農薬の値上がりも凄まじく、生産者に大きな負担をかけています。実際、雪どけの頃に行う小麦の種まきがほとんどできていませんから、今年の小麦の収穫はかなり低水準になるでしょう」(前出・鈴木氏)
肥料価格の高騰も深刻だ。肥料の三大要素は「窒素、リン、カリウム」。世界のカリウム生産の20%をロシア産が占めている。影響は世界に及ぶのだ。
「肥料価格は種類によりすでに2〜3倍に上昇しています。さらに価格が高騰すれば、欧州を中心に世界中のあらゆる農業地域が打撃を受ける。生産者が肥料を買い控えれば穀物だけでなく、野菜などの生育状況が悪くなる可能性がありますし、肥料を買えなくて作付けを断念してしまうことさえ考えられます」(前出・鈴木氏)
穀物価格は中国の大量消費などにより、ウクライナ侵攻前からすでに上昇していた。小麦価格で見れば戦争直前の2月中旬の段階で、すでに過去5年平均(2017年〜2021年)を49%も上回っていた。そこに戦争が始まったことで拍車がかかり30%上昇している。環境史・土地開発史・災害史に基づく災害リスクマネジメントが専門の立命館大学・高橋学特任教授はこう語る。
「今世界の人口はおよそ80億人で年に1億人ずつ増えています。一方、全世界で生産できる食糧は100億人分しかありません。すでに世界中で食べ物が足りなくなってきているのです。現在、約8億人が飢餓に苦しんでいます。誰かの贅沢は、ほかの誰かの飢餓につながっているのです。そんな中、中国では穀物の生産が国内消費に追い付かず、’19年から穀物の輸入量がものすごい勢いで増えているウクライナで小麦が作れないとなると、市場でのフローが本当に細くなってしまいます。現在の価格高騰はほんの序章です」
食糧自給率の低い発展途上国は影響をもろに受ける。7年にわたって内戦が続くアラビア半島の国イエメンは、小麦の40%をウクライナとロシアからの輸入に頼っていたため極めて深刻な状況に陥っている。国連世界食糧計画によると、飢餓状態に陥る人々が今年の後半には、人口のおよそ3分の2にあたる1900万人に達する見通しだという。餓死する者は、現在の5倍にまで増えると予測されている。
「ウクライナの小麦を主に買っていたのは地理的に近い中東とアフリカ諸国です。この地域は貧しい国が多く、若い人口が多い。食糧不足が起きると国民の不満は高まり、政権に対する大きな反発が起きます。私は中東やアフリカ諸国ではこれから社会動乱が起きてくるだろう、と考えます」(前出・鈴木氏)
実際、南米のペルーでは燃料や食料品の急激な値上げに抗議するデモが広がり、警官隊との衝突で死傷者も出て、政府は4月5日に非常事態宣言を出している。
「’10年から’12年にかけて中東や北アフリカで起きた大規模反政府デモ『アラブの春』は’08〜’09年の穀物価格や原油価格の高騰が引き金です。今回の穀物価格の高騰は『アラブの春』と同じパターンになる可能性があります。また、貧しい国は独裁的な国家が多く、支配者が暴動を力で抑え込む可能性が高い。力を使えば使うほど社会の不満は高まり、国は不安定になっていく、という負のスパイラルに陥ってしまいます」(前出・鈴木氏)。
ウクライナ戦争は世界中で新たな紛争を生み出しつつあるのだ。
●ウクライナ西隣の小国モルドバ、次の標的か…響く銃声  5/2
ウクライナの西隣にある旧ソ連の小国モルドバが、ロシアによる軍事侵攻の次の標的になる懸念が強まっている。ロシアには、モルドバを足がかりに黒海沿岸部を支配し、ウクライナを弱体化させる思惑があるようだ。
不穏な動き
モルドバ東部に「沿ドニエストル共和国」を名乗る地域がある。約30年にわたり露軍が駐留しており、事実上のロシア支配地域だ。
この地域では最近、不穏な動きが相次ぐ。4月26日、ラジオのロシア語放送に使われていた電波塔2本が何者かに爆破された。25日夜には中心都市チラスポリで、当局の建物にロケット弾が撃ち込まれた。別の場所で治安部隊が襲撃されたとの情報もある。
モルドバは1991年のソ連崩壊に伴い独立国となった。プーチン露大統領がロシアの勢力圏と見なす国の一つだが、現在の政府は米ハーバード大で政治学を学んだマイア・サンドゥ大統領の下、親米欧姿勢が鮮明だ。
露国営メディアは4月、「沿ドニエストルのロシア語系住民が迫害されている」とする露軍幹部の発言を伝えた。「ロシア語系住民の迫害」は、ロシアが侵略の大義名分に使う常とう句だ。
米欧の専門家は、最近の電波塔爆破などについて、露軍が自作自演でモルドバ侵攻の口実を作り出そうとしている可能性を指摘する。
「新ロシア」
この露軍幹部は、ウクライナ東部と南部の「完全掌握」を目指しているとも語り、黒海沿岸全域の制圧を目指す意向を明確にした。プーチン氏はかつてこの一帯を「ノボ(新)ロシア」という帝政ロシア時代の名称で呼び、領土獲得の野心をのぞかせたことがある。
ウクライナ経済は小麦や鉱物資源の輸出に負うところが大きく、その約7割は黒海から船で輸送される。沿岸全域が露軍の手に落ちれば、ウクライナは事実上の内陸国となり、発展の道が狭められることになる。
特に重要なのはウクライナ最大の港湾都市オデーサ(オデッサ)で、経済、軍事両面で戦略的価値が高い。沿ドニエストルからオデーサまでは約70キロと近く、露軍はオデーサ攻略に向けた布石として、モルドバで足場を固めようとしている可能性がある。
沿ドニエストルの露軍駐留部隊は現在、約1500人にすぎないが、今後増強されれば、ウクライナ軍はこの方面に兵力を割かざるを得なくなる。
NATO未加盟
ロシアがモルドバ全土の占領支配に踏み出すシナリオも排除できない。モルドバ政府軍は兵力わずか5000人。兵力20万人のウクライナ軍と異なり、露軍に太刀打ちできる見込みは、皆無に等しい。
英王立防衛安全保障研究所が4月22日に出した報告書によれば、ロシア情報機関・連邦保安局(FSB)が、モルドバ国内で政治情勢不安定化を狙った工作を活発化させているという。
英紙フィナンシャル・タイムズは、ウクライナ情報当局者の話として、露軍は「選択肢としていつでもモルドバを攻撃できる」との見方を伝えた。
米欧諸国はモルドバ情勢への対応を明確にしていない。ただ、モルドバもウクライナ同様、北大西洋条約機構(NATO)加盟国ではないため、米欧が直接的な軍事介入に踏み切る可能性は極めて低いのが実情だ。
不安募らせる住民
ロシアのターゲットと目されるモルドバの住民は、不安を募らせている。
「露軍がウクライナ南部を制圧したら、次はここを狙ってくると村中で話している。非常時のために食料も買いだめしてある」
モルドバ東部を流れるドニエストル川の東岸に位置する人口2100人のモロバタノウア村。ホテル従業員のアンジェラ・アクセンティエブさん(49)が、心配そうに語った。
川に半島状に突き出ている村は、「沿ドニエストル共和国」に隣接している。「共和国」を通過せずに移動するには、陸路は使えず、対岸との間を運航するフェリーに乗るしかない。村側の乗り場には露軍が検問所を設け、カラシニコフ銃を肩から下げた兵士が車の出入りを常時監視する。
露軍がウクライナ侵攻を開始した2月24日には村中がパニックに陥り、住民がフェリー乗り場や銀行に長蛇の列を作った。
その後、沿ドニエストル側から銃声が聞こえてきたこともある。駐留する露軍部隊の訓練とみられる。通常の訓練なら村に事前通告されるが、今回は何の連絡もなかったという。
オレグ・ガジア村長は、「戦闘がここまで近づいた時にどうすべきか軍に問い合わせているが、返答はない。銃器が支給されれば、住民は抗戦するだろう」と語った。露軍が侵攻してきたら、まずは幼児と保護者をフェリーに乗せ、夜間に避難させる段取りだという。
●ウクライナ大統領「マリウポリの製鉄所からの避難 2日も予定」  5/2
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻が続く中、東部の要衝マリウポリにある製鉄所からの市民の避難が、5月1日に続いて2日も行われる予定だと明らかにしました。ただ、ウクライナ東部ではロシア軍が攻勢を強めていて、避難が2日連続で行われるかどうかは、引き続き予断を許しません。
ウクライナのゼレンスキー大統領は5月1日、動画をSNS上に投稿し、東部の要衝マリウポリにあるアゾフスターリ製鉄所から市民の避難が始まったことを明らかにしました。
製鉄所には、数百人の市民がとどまっているとされていて、このうちおよそ100人が第1陣として出発したということで、南東部のザポリージャでウクライナ側の担当者と合流することになっているとしています。
ゼレンスキー大統領は、「重要な回廊が初めて機能し始めている。すでに100人を超える市民が避難した。あすも避難が続けられるよう、すべての条件が整うことを期待する」と述べ、2日朝、日本時間の2日午後に第2陣の避難が行われる予定だと明らかにしました。
ロシア国防省も1日、「プーチン大統領の主導によって、ウクライナの民族主義者に拘束されていた女性や子どもを含む市民80人が、製鉄所の敷地内から解放された」と発表しました。
一方で、ロシア軍がウクライナ南部オデーサの軍事飛行場の滑走路をミサイルで破壊するとともに、ウクライナ東部のドネツク州やハルキウ州の軍事施設7か所も攻撃したとしています。
ドネツク州のキリレンコ知事は、州北部でロシア軍による攻撃があり、市民4人が死亡、11人がけがをしたと明らかにしたほか、ハルキウ州のシネグボフ知事も、住宅地がロシア軍の攻撃を受け、3人が死亡、8人がけがをしたとしていて、市民に対し避難所にとどまるよう呼びかけています。
マリウポリからの市民の避難をめぐっては、国連のグテーレス事務総長が4月26日にロシアのプーチン大統領と会談したあと、国連と赤十字国際委員会が避難に関与することで原則的に合意したと、国連が発表していました。
ただロシア軍は、東部や南部への攻勢を強めていて、アゾフスターリ製鉄所からの市民の避難が2日連続で行われるかどうかは、引き続き予断を許しません。
アゾフ大隊 “製鉄所から避難”の映像公開
ウクライナの東部マリウポリでロシア軍と抗戦を続ける「アゾフ大隊」は、5月1日、拠点としている製鉄所から市民が避難する様子だという映像を公開しました。
映像では、多くの人たちがはしごを伝って、地下から地上に出てくる様子や、製鉄所の敷地内とみられるがれきの中を歩く様子が撮影されています。
バスの中には生後6か月になったばかりだという赤ちゃんの姿もあり、一緒にいた女性は「2か月もの間、待っていました」と話していました。
また別の女性は、「大人は耐えることができていましたが、子どもたちはいつも食べ物を欲しがっていました」と、食料不足だった状況について話していました。
その後、映像では、人々が乗り込んだバスが荒廃した町の中を移動する様子や、国連やICRC=赤十字国際委員会のスタッフであることを示す服装をした人たちがバスから降りる人たちを出迎える様子も確認できます。
●ウクライナ マリウポリの製鉄所から市民の避難始まる  5/2
ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、東部の要衝マリウポリにある製鉄所から市民の避難が始まったことを明らかにしました。ただ、ロシア軍は東部などで攻勢を強めていて、避難が順調に進むかは予断を許さない状況です。
ロシア国防省は1日、ウクライナ南部オデーサの軍事飛行場の滑走路をミサイルで破壊したほか、東部のドネツク州やハルキウ州のウクライナの軍事施設7か所も攻撃したと発表し、南部や東部への攻勢を強めています。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、東部の要衝マリウポリのアゾフスターリ製鉄所から市民の避難が始まったことを明らかにしました。
製鉄所には、数百人の市民がとどまっているとされますが、第1陣のおよそ100人がすでに出発し、2日、南東部のザポリージャでウクライナ側の担当者と合流する予定だということです。
また、ウクライナ国内にいる国連の人道問題調整事務所の報道官は1日、NHKの取材に対し「市民の避難は30日から始まり、いまも続いている。避難を継続して進め市民の安全を守るために、詳しいことは明らかにできない」と話し、国連や赤十字国際委員会とウクライナ、ロシアの当局が連絡をとりながら、製鉄所からの市民の避難を進めていることを明らかにしました。
一方、ロシア国防省は1日「プーチン大統領の主導によって、ウクライナの民族主義者に拘束されていた女性や子どもを含む市民80人が製鉄所の敷地内から解放された」と発表しました。
マリウポリからの市民の避難をめぐっては、国連のグテーレス事務総長が先月26日にプーチン大統領と会談したあと、国連と赤十字国際委員会が避難に関与することで原則的に合意したと国連が発表していました。
ロイター通信は、製鉄所周辺から1日、およそ40人の市民が避難し、東部ドネツク州の村ベズイメンネにある一時的な施設に到着したと伝えています。
現地の映像では、「国連」と書かれた車両や複数のバスが停車している様子や、バスから降りた市民が施設に歩いて移動する様子が確認できます。
ゼレンスキー大統領は、このほかの市民の製鉄所からの避難についても、国連と協力しながら取り組むとしていますが、ロシア軍は東部などで攻勢を強めていて、避難が順調に進むかは予断を許さない状況です。
ゼレンスキー大統領「重要な回廊 はじめて機能し始めている」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、1日に公開した動画で、「ついにアゾフスターリ製鉄所から人々の避難を開始することができた。戦争において、この重要な回廊がはじめて機能し始めている。2日間にわたる停戦が、この地域ではじめて実現した」と述べました。
そのうえで「すでに100人を超える市民が避難した。手順の煩雑さを考えると、最初の避難者はザポリージャにあすの朝、到着するだろう。われわれのチームはそこで彼らと合流する」と明らかにし引き続き、市民の避難に尽力する姿勢を示しました。
●マリウポリからの市民退避、「治安上の理由」で一時停止 5/2
ロシア軍の軍事侵攻が続くウクライナ東南部マリウポリの市議会によると、同市でようやく始まっていた市民の退避が1日、「治安上の理由」でいったん停止された。
市議会はSNS「テレグラム」への投稿で、退避は現地時間の2日午前8時、市内のショッピングセンター付近で再開するとの見通しを示した。
ウクライナのゼレンスキ―大統領はこの数時間前、同市のアゾフスターリ製鉄所に閉じ込められていた市民らの退避が始まったと発表。100人以上がすでに政府支配地域のザポリージャへ向かっているとツイートした。
赤十字国際委員会も退避の開始を確認し、29日に出発した避難用の車列が翌朝、230キロ離れたマリウポリに到達したと述べていた。
だが現地にいるウクライナ軍部隊の司令官が国内のテレビ局に語ったところによると、第1陣の退避が完了した直後に、ロシア軍が製鉄所への攻撃を再開したという。
製鉄所内には負傷者数十人を含む数百人が残っている模様。最新の衛星画像には、敷地内の建物がほぼすべて破壊された様子が写っていた。
ロシアのラブロフ外相は1日、イタリアのテレビ局とのインタビューで、ウクライナ側が製鉄所からの「撤退」に全力を挙げるのは、中に立てこもって抵抗を続ける「過激派」の中に欧米諸国の傭兵や軍要員が含まれているからだと主張した。
当局者らによれば、マリウポリ市内には今も約10万人が残っているとみられる。市議会は1日、人道回廊を通ってザポリージャへ避難できる可能性があるとして、市民らに向け、同日午後4時に市内のショッピングセンター周辺へ集合するよう呼び掛けていた。
●ロシア軍トップ、前線視察か ウクライナ軍が訪問先攻撃 5/2
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は1日、ウクライナ高官の話として、ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長が先週、ウクライナ東部の前線を訪問していたと報じた。米当局者もこの情報を確認した。軍最高幹部が前線に滞在するのは極めて異例。ウクライナでの軍事作戦が長期化する中、ロシア軍が態勢を立て直そうとする動きの一環とみられる。
米当局者は、ゲラシモフ氏の極秘訪問について、ロシア軍がウクライナ東部戦線で問題に直面していることを示していると指摘した。ロシア軍は首都キーウ(キエフ)制圧失敗後、東部での戦闘に注力しているが、依然として補給や部隊間の調整などで苦しんでいるもようだ。
ウクライナ高官によると、ゲラシモフ氏はロシア軍が基地として使っている東部イジュームの学校を訪問。ウクライナ軍は4月30日夜にこの学校を攻撃したが、同氏はすでにロシアに向けて立ち去っていた。高官は「(学校攻撃は)ゲラシモフ氏を狙ったのではなく、重要拠点だからだ」と指摘。攻撃で将官少なくとも1人を含む約200人の兵士が死亡したと主張した。
●東部攻撃継続、市民8人死亡 ドンバス狙うロシア軍―ウクライナ 5/2
ウクライナに侵攻したロシア軍は1日、東部ドネツク州やハリコフ州で攻撃を続け、両州の知事によると、民間人8人が死亡した。南東部マリウポリのアゾフスタル製鉄所では1日、避難を求めていた民間人約100人の脱出が始まったと伝えられたが、東部ドンバス地方の掌握を「最優先」に据えたロシア軍の攻撃は弱まっていない。
ドネツク州のキリレンコ知事は1日、通信アプリ「テレグラム」を通じ「(州北部の)リマンが砲撃され4人が殺害された。他に11人が負傷している」と訴えた。さらにリマン近郊の町でも負傷していた1人が死亡したと明らかにした。
リマンは鉄道の要衝。れんが造りの建物が目立つ産業の街として知られた。ウクライナ軍は既に撤退しており、陥落は時間の問題とみられている。
ウクライナ第2の都市ハリコフ一帯でも、住宅地に砲撃が加えられた。ハリコフ州のシネグボフ知事が1日、テレグラムに「残念ながら砲撃で3人が犠牲になった。負傷者は8人だ」と書き込んだ。
●ロシア外相「5月9日までに侵攻終わらない」 ウクライナ東部・南部への攻撃 5/2
5月9日の対ドイツ戦勝記念日まで1週間となる中、ロシアのラブロフ外相は、ウクライナへの軍事侵攻を、記念日までに終わらせる考えがないことを示唆した。
ラブロフ外相「戦勝記念日など、いかなる日にも無理に行動を合わせることはしない」
ラブロフ外相は、イタリアメディアのインタビューで、戦勝記念日に合わせて、ロシアの軍事侵攻が終結するのではとの見方を否定した。
首都モスクワでは、9日に向けて、軍事パレードのリハーサルが連日行われている。
ロシア軍は、ウクライナ東部と南部への攻撃を強めているが、ウクライナ軍の抵抗に苦戦し、東部制圧の計画に遅れが出ているとみられている。
●ロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長がウクライナ東部の最前線で負傷 5/2
「ゲラシモフは右足に榴散弾による傷を負った」
暗号化メッセージアプリ「テレグラム」の内部告発チャンネル「対外情報局(SVR)の将軍」が2日「ロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長がウクライナの領土で負傷した。ゲラシモフ氏は骨折することなく、右足の上3分の1に榴散弾による傷を負った。破片は取り除かれ、命の別条はない」と伝えた。真偽の程は定かではない。
英大衆紙デーリー・メールやウクライナの英字紙キーウ・ポストもゲラシモフ氏の負傷を一斉に報じた。ゲラシモフ氏は4月29日にモスクワからウクライナ東部への要衝イジューム近くの司令部に移動し、東部ドンバス重工業地帯の一中心地クラマトルスクの占領やウクライナ軍を包囲するための東部戦線の大規模攻撃を指揮していたとされる。
キーウ・ポスト紙によると、ウクライナ軍はゲラシモフ氏の負傷を確認しなかった。米紙ニューヨーク・タイムズも1日、ウクライナ政府や米政府高官の話としてゲラシモフ氏が苦戦するロシア軍の攻勢を立て直すため、ウクライナ東部の危険な前線基地を視察したと報じている。
ウクライナ軍は4月30日夜にイジュームにあるロシア軍の前線司令部を攻撃したが、ゲラシモフ氏はすでにロシアに向けて出発したあとだった。この攻撃で将軍1人を含む約200人の兵士が殺害された。関係者の1人はニューヨーク・タイムズ紙に「ゲラシモフ氏がそこにいたのはロシア軍がすべての問題を解決していないという認識があるからだ」と話している。
軍トップが前線に入るのは極めて異例
「SVRの将軍」は2020年9月に開設され、主宰者は海外で暮らすSVRの退役将官「ビクトール・ミハイロビッチ」と言われる。信頼できる政府筋を情報源にしているという触れ込みで、登録読者は27万9千人に達した。関係者とみられる人物が露当局に摘発されたあとも内部告発は続けられている。しかし告発内容が100%正しいかどうか真相は闇の中だ。
ウラジーミル・プーチン露大統領は所期目標だった首都キーウ(キエフ)攻略をあきらめ、チェチェン紛争やシリア軍事介入を指揮し「シリアの虐殺者」と恐れられるロシア軍南部軍管区トップ、アレクサンドル・ドボルニコフ上級大将を総司令官に任命、東・南部の戦線に兵力を集中させた。しかし兵站や大隊戦術群(BTG)間の連携問題は解消されていない。
ゲラシモフ氏はプーチン氏、セルゲイ・ショイグ国防相とともにウクライナ侵攻を主導した中心人物の1人。ショイグ氏はウクライナ侵攻が上手く行かなかったことからプーチン氏に冷遇されている。ゲラシモフ氏のような軍トップが前線に入るのは極めて異例。ウクライナ軍の情報ではイジュームで指揮を執っていたアンドレイ・シモノフ少将が戦死したとされる。
今回はゲラシモフ氏を狙った攻撃ではなかったようだが、ウクライナ侵攻後、ロシア軍の将官が次々と命を落としている。シモノフ少将の戦死が確認されればこれで9人目である。
【これまでに戦死したロシア軍の将官】
チェチェン特殊部隊のリーダー、マゴメド・トゥシャエフ少将( 2月26日)
中央軍管区第41統合軍副司令官、アンドレイ・スホベツキー少将(3月1日)
第41軍第一副司令官、ヴィタリー・ゲラシモフ少将(3月8日)
第29連合軍陸軍司令官、アンドレイ・コレスニコフ少将( 3月11日)
オレグ・ミチャエフ少将(3月15日)
アンドレイ・モルドヴィチェフ中将(3月18日)
第49連合軍司令官、ヤコフ・レザンツェフ中将(3月25日)
南部軍管区第8警備軍副司令官、ウラジーミル・フロロフ少将
将官殺害には高いインテリジェンスが求められる
第二次大戦中の1943年4月、前線を視察中の連合艦隊司令長官、山本五十六海軍大将を乗せた攻撃機がアメリカ軍戦闘機に撃墜され、山本大将が戦死する「海軍甲事件」が起きた。米軍は山本大将の前線視察の情報や計画を正確につかんでいた。将官を殺害するには高いインテリジェンスが欠かせない。
アメリカはベトナム戦争で9人の将官を失ったが、数週間ではなく、期間は20年以上にわたっており、そのほとんどはヘリコプターが撃墜された際の死亡だという。大きな部隊を指揮する将官は通常、前線から遠く離れた大本営にいることが多い。しかしキーウ、北東部戦線で苦戦を強いられたロシア軍の将官は前線に出ることが求められている。
英シンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)によると、ロシア軍にも暗号化無線機があるが、腐敗が原因で現場に十分な装備が行き届いていない。このため前線で暗号化されていない無線機や普通の携帯電話に頼らざるを得ない。シギント(電子情報)を得意とする米英の情報機関は将官の位置をリアルタイムで正確につかみ、ウクライナ軍に流している。
ロシア軍の下級職業軍人の平均月収は480ドルで、主体性がない。ウクライナ軍はその3倍の給与を受け取っているとされる。ロシア軍の将官は士気の低い下級兵士の尻を叩きに前線に出たところを、米CIA(中央情報局)の退役軍人に訓練を受けた優秀なウクライナ軍のスナイパーに狙い撃ちされているとみられている。
●ロシア、近く「戦争」宣言か 兵力動員へプーチン大統領 5/2
ロシアのプーチン大統領が近く、ウクライナ侵攻の位置付けを現在の「特別軍事作戦」から「戦争」へと拡大するとの観測が浮上している。兵力の大量動員を可能にする狙いがあるようだ。ウォレス英国防相は先週、英ラジオに対し、ソ連の対ドイツ戦勝記念日である9日、「プーチン氏がおそらく『ネオナチと戦争状態にあり、ロシア国民の大量動員が必要だ』と宣言するだろう」と述べ、警戒感を示した。
ロシアは2月、ウクライナの非武装化などを理由に、特別軍事作戦の名目で侵攻を開始した。ただ、当初目指した首都キーウ(キエフ)の制圧に失敗。西側情報当局などの間では、プーチン氏がウクライナ東・南部の支配拡大へと重点目標を切り替え、対独戦勝記念日で誇示する「戦果」の獲得に向け、攻勢を強めているとの見方が多い。
一方、プーチン氏の狙いについて、ここに来て分析に変化が生じている。英シンクタンクの王立防衛安全保障研究所(RUSI)は4月下旬にまとめた特別報告で、ロシアは兵力の大幅増強が急務で、そのために予備役の招集や徴集兵の役務期間延長が必要になるとの見方を示した。
これらは政治的に論議を呼びやすいため、戦時体制を敷くことで異論を封じる構えのようだ。報告書は「対独戦勝記念日に『特別軍事作戦』が公式に『戦争』と位置付けられる可能性が一段と高まっているように思える」と解説した。
4月30日付の英紙デーリー・テレグラフがロシアの治安機関に近いジャーナリスト、イリナ・ボロガン氏の話として伝えたところでは、ロシア軍指導部はキーウ攻防敗北への怒りを強めており、報復を念頭に置いた「全面戦争」を宣言するようプーチン氏に圧力をかけているという。同紙は公式に戦争に突入することで、ロシアでの戒厳令布告や、民間企業の国有化など戦時経済体制に移行する可能性を伝えている。
●ロシアが9日に「開戦」宣言か、大規模動員が可能…長期戦に向け準備 5/2
ウクライナ国防省の報道官は4月30日、ウクライナに侵攻しているロシア軍が兵力増強のため、大規模動員に乗り出す可能性を明らかにした。英国のベン・ウォレス国防相も、5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日に、プーチン露大統領がウクライナへの「開戦」を宣言する可能性に言及しており、侵攻の長期化が現実味を帯びてきた。
ウクライナ国営通信によると、国防省報道官は、露軍が東部ドネツク、ルハンスク(ルガンスク)両州(ドンバス地方)の制圧作戦で、「短期間に成果を得られなければ、大規模動員の可能性を排除できない」と述べた。露軍が長期戦に向けた準備を進めている兆候もあるという。
ウォレス氏は4月28日の英ラジオ番組で、ロシアがウクライナ侵攻を「特殊軍事作戦」と称してきたことに触れた上で、プーチン氏が戦勝記念日に、ウクライナへの「開戦」を表明するシナリオを挙げた。正式な戦争に切り替えれば、予備役の大量動員が可能になる一方、明確な「戦果」を上げるまで終戦が困難になる。
露軍は攻撃対象をドンバス地方以外にも拡大している。4月30日には南部オデーサ(オデッサ)の空港などをミサイルで攻撃した。露国防省は、「米欧からの武器が届く軍用空港の滑走路を破壊した」と発表した。
ウクライナ国防省の情報機関は5月1日、ロシア軍がオデーサに隣接するモルドバで「挑発行為を続けている」と指摘した。
●プーチンが青ざめる…ルーブル回復のウラで、ロシア経済をむしばむ 5/2
ルーブルの急回復
4月に入り、ウクライナ侵攻後に大きく売り込まれたロシア・ルーブルが急回復した。
4月26日には、1ドル=72ルーブル台までルーブル高となり、ウクライナ侵攻前の水準まで戻す局面もあった。
その背景の一つに、米国や欧州委員会などが実施してきた、ロシアへの制裁措置の効果が発揮できていないとの見方が台頭したことがある。
確かに、資源大国であるロシアに対する制裁の効果が限られる面はある。
しかし、やや長めの目線で考えると、ルーブルが米ドルに対して底堅さを維持することは難しい。
すでにロシアの中央銀行への制裁などによって、ロシアの米ドル資金繰りは悪化している。
それは、4月4日が満期日だった米ドル建て国債がルーブルで前倒し償還されたことから確認できる。
先進国企業の撤退などもロシア経済に大きなマイナスだ。
4月26日にロシアはポーランドなどへの天然ガス供給を止めると表明した。
それは、プーチン政権の焦りの裏返しとも解釈できる。
一方、今後、西側諸国はロシアへの金融、経済制裁をさらに強化するだろう。
これまで以上にロシアは世界経済から孤立し、かなりの期間にわたって経済成長率は停滞する可能性が高い。
中長期的にはルーブルが下落する可能性は高いとみる。
ルーブルの反発を支える制裁の抜け道
4月の月初から26日までの間、ルーブルは米ドルに対して約7.5%上昇した。
主要な先進国、資源国、新興国などの通貨と比較しても米ドルに対する上昇率は高い。
4月下旬に差し掛かり、世界的に株価が下落してリスクオフが進む中でもルーブルは底堅く推移した。
制裁が効いていない、ロシアの経済は思ったよりも持つかもしれないといった投資家の見方がルーブルの反発を支えた。
ウクライナ危機の発生以降、米国や欧州委員会などの西側諸国はロシアに対する経済、金融制裁を強化した。
ただし、それには大きく2つの抜け道がある。
まず、中国やインドがロシアから原油などを購入している。
2つ目に、ノルドストリーム1は稼働しており、ロシアの最大手行であるズベルバンクと、天然ガス大手ガスプロム傘下のガスプロムバンクのエネルギー関連取引は金融制裁の対象外だ。
ウクライナ危機の発生以降に減少しはしたものの、ロシアは米ドルをはじめとする外貨を確保することができている。
それが、ルーブルの反発を支えた。
それを見た一部の投資家(投機家)がオフショア市場でのルーブル買いに動いているようだ。
その結果として、金融制裁はあまり効いていないという見方が醸成されている。
そうした見方はかなり楽観的に映る。
厳密に考えると、制裁は効果を発揮している。
経済全体でロシアのドル資金繰りは悪化した。
マクドナルドの事業停止などがロシア国民に与える喪失感も大きいだろう。
ただし、西側諸国は、ロシアと自由資本主義経済圏の関係が途絶えるほどの強力な制裁には、まだ踏み込んでいない。
そのため、短期的には制裁が強い効果を発揮するには至っていない。
徐々に高まるルーブルの売り圧力
制裁効果が限定的との見方に支えられた、ルーブルの反発の持続性が高いとは考えづらい。
やや長めの目線で考えると、徐々にルーブルは米ドルに対して下落するだろう。
そう考える要因は多い。
まず、制裁によってロシア経済の厳しさ増している。
ウクライナ侵攻後、プーチン政権は、ノルドストリーム1経由での天然ガス供給を止めるとドイツなどに警告してきたが実際には止めなかった。
しかし、4月26日にロシアは、はじめてポーランドとブルガリアへの天然ガス供給を止めると表明した。
ロシアは天然ガス供給を絞ることによってEU加盟国に揺さぶりをかけ、譲歩を引き出そうとする意図が見え隠れする。
それだけ、ロシアの外貨獲得と経済運営の厳しさは増しているだろう。
そうした状況は、時間の経過とともにボディーブローのような効果を発揮することになるはずだ。
今回、ロシアに対してEUは協調して対応する意思を示した。
ドイツはウクライナに対して対空戦車を供与すると表明し、ロシアに代わる原油調達先の確保も急ぐ。
ドイツはロシアとの関係を変えようとしている。
ウクライナ情勢の変化にもよるが金融、経済制裁は強化されロシアと西側諸国の分断が深まる可能性は高まっている。
それによって、軽工業とサービス業が育っていないロシア経済への打撃は増す。
制裁以外にもロシア経済への逆風は強まるだろう。
米国ではFRBがこれまで以上に金融政策の正常化を急ぎ始めた。
米金利は上昇し、世界的に株は下落するだろう。
リスクオフに動く投資家は増え、新興国からの資金流出が増加する展開が予想される。
そうなった場合、ウクライナ危機の当事国の通貨であるルーブルの売り圧力は強まるはずだ。
●プーチン大統領、がん手術で指揮権手放すのか…健康不安説 5/2
ロシアのプーチン大統領ががんの手術を受けるため一時的に軍事作戦の指揮権を手放すという。
英大衆紙デイリーメール、ザ・サン、ザ・ミラーの電子版は4月30日、「クレムリン内情に詳しい軍関係者」の話を根拠に「プーチン大統領は胃がんが進行し、医師団から手術を強く勧められ、当初4月後半に予定されていた手術が延期された」とし「今のところ5月9日の戦勝記念日が終わってからになるという」と伝えた。プーチン大統領がが手術を受ける場合、軍事作戦の指揮権を手放すしかない。
プーチン大統領には以前から健康不安説が提起されてきた。露メディアは公開された政府文書を分析し、2016−20年にプーチン大統領がソチの官邸に滞在したり、数日間にわたり姿を見せなかった当時、大統領担当医師が官邸付近のホテルに宿泊していたことを確認したと明らかにした。
医療スタッフはプーチン大統領が官邸に入る前日にホテルに到着し、2016年と19年には投宿する医師の数が多く、プーチン大統領が手術を受けた可能性があると主張した。
4月21日にはプーチン大統領が会議中にやや体をななめにしながらテーブル強く握っている姿が確認され、健康異常説がまた浮上した。プーチン大統領はショイグ国防相と共にロシア軍事作戦を議論する場面がテレビでで中継されたが、片手でテーブルを握って足を少し動かしていた。このためプーチン大統領の健康状態が悪化したことではという疑惑がまた提起されたと、テレグラフなど海外メディアが報じた。
特に一部ではロシアがウクライナを侵攻した2月24日以降、プーチン大統領の健康が急激に悪化しているという主張もあった。元英保守党下院議員は「以前にプーチン大統領がパーキンソン病だと書いたが、今回の映像では震える手を隠すためにテーブルを強く握る姿が確認できる」とし「足が動くのは止めることができなかったようだ」と話した。
●プーチンは日常茶飯事に暗殺を繰り返す。ロシア諜報員が命と引き換えに暴露 5/2
著者だけではなく、制作に協力した人たちが次々と暗殺されたいわくつきの本があります。命じたであろう人物の名はプーチン大統領。そうした出来事が、「本に書かれている内容が真実である」という証明なのかもしれません。メルマガ『1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』』の中で、ロシアのスパイによるロシアの内部事情を暴露したをその本を紹介していきます。
ロシアでは武力侵攻を行う前に、相手側がテロ活動を行ったかのように破壊活動を自作自演することがマニュアル化されています。ロシアのチェチェン侵攻でも同じ手法が行われていたと著者は説明してくれます。
著者のリトヴィネンコ氏はKGB諜報局、ロシア保安庁、連邦防諜庁、連邦保安庁(FSB)に在籍していた本物のスパイであり、1998年にFSBからの違法な暗殺指令を記者会見で暴露して、2006年に暗殺されています。2006年のロシア大統領はプーチンであり、プーチンの命令で暗殺されたのです。
1994年、連邦防諜庁(FSK)はモスクワの鉄橋を爆破します。その犯人は石油会社ラナコの社員で、爆弾を仕掛けているときに暴発して死亡しました。ラナコ社社長のラゾフスキーはFSKの工作員でした。
FSKは「チェチェンのテロリストがロシア国内で活動している」と発表します。これはKGBのマニュアルにある宣伝文句と同じであり、その後チェチェン人が逮捕され、チェチェンでの軍事行動(第一次チェチェン紛争)が開始されたのです。
「1994年12月…FSK工作員で、ラゾフスキーが経営するラナコ社で働いていたウラジミール・ヴォロビヨフという男が、路線バスに遠隔装置の爆弾を仕掛けた」(p77)
さらに1999年9月、ロシアのアパート4カ所が爆破され、300人以上が死亡しました。エリツィン政権はチェチェン人によるテロとして、報復として第二次チェチェン戦争を開始します。FSB長官だったプーチンは1999年8月に首相となり、12月には大統領代行、2000年5月には大統領となっていくのです。
著者が指摘するのは、同時期に起きたアパート爆破未遂事件です。アパートの地下室に時限爆弾が発見され、犯人は逃走し、なんと犯人がモスクワのFSB本部に連絡を入れていたことを捜査官が突き止めたという事実です。プーチンの後任のパトルシェフFSB長官は、「爆破未遂事件は演習であった」と発表せざるをえませんでした。
著者の見立ては、プーチンはFSB長官としてアパート爆破事件を計画し、チェチェン人の犯行に見せかけて、ロシアの第二次チェチェン紛争を画策したということです。プーチンはチェチェン紛争によってエリツィン大統領を退陣させ、FSBの仲間を政府の要職に配置していきます。
プーチンの後任のFSB長官だったパトルシェフは今もロシア連邦安全保障会議書記として、プーチンを支えています。チェチェン紛争を利用して旧KGB勢力によるクーデターで、ロシア支配に成功したのです。
「モスクワとの不審な通話を受信したのだ。「一人ずつ脱出しろ。街じゅう警官だらけだ」電話の相手はそう答えた…電場番号から、テロリストが連絡した相手はモスクワのFSB本部であることが判明したのだ」(p140)
この本に協力した多くの人が殺されました。ロシア下院議員のゴロヴリョフとユーシェンコフは射殺され、ポリトコフスカヤ記者も殺された。シチェコチーヒン下院議員と著者のリトヴィネンコは毒を盛られ、殺害されたのです。
この本から分かることは、プーチンは裏切者は決して許さないということです。ウクライナもロシアを裏切ったので、許さないのでしょう。そして、暗殺や紛争による数万人の死もいとわなかったプーチンですから、70歳の今、目的達成のためなら核兵器の使用もいとわないと思われます。
映画では主人公の奥さんのクビが最後に主人公に送りつけられたり、ギャングに捜査官一家が惨殺されて気分が悪くなる作品がありますが、現実のロシアの方が怖ろしい世界なのです。この本はロシアでは発禁となっており、この本の内容を紹介するだけで暗殺される可能性がありますので注意しましょう。
そういえば、アメリカでもCIAとマフィアが組んで大統領を暗殺したことがあるし、大量破壊兵器を開発しているとの理由で侵攻したこともあるので、諜報の世界は本当に怖ろしいことがわかりました。
●ウクライナ侵攻、世界の食糧価格に「壊滅的影響」 米国際開発局長官 5/2
米国際開発局(USAID)のサマンサ・パワー長官は1日、ABCテレビの番組の中で、ウクライナの戦争によって世界的な食糧不足や値上がりなどの影響が出ていると述べ、「プーチン(ロシア大統領)の一方的なウクライナ侵攻によるもう一つの壊滅的影響」と位置付けた。
米国のバイデン大統領は4月28日の議会演説で、ウクライナに対する330億ドル(約4兆3000億円)の追加援助について検討を促していた。うち30億ドルは人道支援や食糧支援に充てられる。
パワー長官は、世界の食糧価格は1年前に比べて34%値上がりしていると述べ、これもロシアの侵攻の影響が大きいと指摘。「ロシアの戦争による死のカスケード効果がアフリカやそれ以上の地域に及ぶことのないよう、緊急食糧ニーズに応えるため米議会の金融支援を必要としている」と訴えた。
パワー長官によると、アフリカのサハラ砂漠以南の国や中東の国の多くは小麦のほとんどをウクライナから輸入しているが、ウクライナの農家はロシア軍の砲撃や地雷を恐れて作物の植え付けや収穫が難しい状況にある。ウクライナの港はロシアの侵攻で封鎖され、農産物の輸出も大幅に制限されている。
番組の司会者は「見方によっては既に世界戦争の様相を呈していると結論付けざるを得ない」と述べ、パワー長官は「ロシアはこれに乗じて『食糧価格の高騰を引き起こしているのは制裁だ』と言っているが、それは違う」と強調。「ロシアが何の理由もなくウクライナに侵攻していること、交渉テーブルに着き、ウクライナを離れてロシアに戻る意思がないこと」が原因だとの見方を示した。 

 

●ウクライナ戦争がもたらす多面的な経済ショック 5/3
戦争は大きな経済的ショックでもある。
ベトナム戦争は米国の国家財政を揺るがした。1950〜53年の朝鮮戦争と1973年のヨム・キプール戦争(第4次中東戦争)は極めて重要なコモディティー(商品)の価格暴騰を引き起こした。
今回も、巨大なエネルギー輸出国であるロシアと、特に穀物など、その他多くのコモディティーの重要な輸出国であるウクライナが直接かかわっている戦争は、インフレ高進を招き、消費者の実質所得を急激に減少させている。
分裂した世界に相次ぐ厄災
より重要なのは、この戦争が、すでに各国経済と国際関係、世界的統治に満ち満ちていたストレスに拍車をかけたことだ。
4月20日の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、ロシアの代表者が話している間に欧米諸国の大臣と中銀総裁が退席した一幕は、我々の分裂した世界をまざまざと思い出させる出来事だった。
ロシアによるウクライナ侵攻の前でさえ、世界は新型コロナウイルスの社会的、政治的な影響はおろか、その経済的コストからも回復していなかった。
供給混乱が蔓延し、インフレ率は予想外の高水準に跳ね上がっていた。金融政策は急激な引き締めに向かっていた。
デフォルト(債務不履行)と金融の混乱によって悪化する景気後退のリスクは高かった。
ここへ、中国と西側の緊張の高まりと両者の異なる対コロナ政策が加えられなければならなかった。
この戦争は疫病の後に続くもので、飢饉(ききん)を引き起こす恐れがある。
これらは預言者エゼキエルの4つの「破滅的」な神の審判の3つに当たる。悲しいかな、この3つの審判の後には4番目の「死」が続く。
成長鈍化とインフレ高進
今回の戦争は、要約すると、すでに混乱を来していた世界における混乱の増幅器だ。
経済的には、5つの主要経路を通って作用する。コモディティー価格の上昇、貿易の混乱、金融の不安定性、何より数百万人の難民に代表される人道的な影響、そして特に制裁などの政策対応だ。
こうした状況は皆、不確実性も高める。
国際通貨基金(IMF)は世界経済の最新の評価報告で、経済成長の予想を下方修正し、インフレの予想を上方修正した。こうした修正は2回連続になる。
コロナが引き起こした2020年の景気後退からの予想外の急回復の興奮に沸いた後、失望が定着した。
今年の世界経済の成長予想は2021年10月以降、計1.3%下方修正された。
高所得国については成長予想が1.2ポイント、新興国・発展途上国については1.3ポイント引き下げられた。潜在成長率の推計も一般に、パンデミック以前の見通しを下回っている。
インフレ率の予想も急激に引き上げられた。今では、高所得国のインフレ率が5.7%、新興国・発展途上国が8.7%に達すると予想されている。
また、これは単にコモディティー価格の高騰やその他の供給不足だけの結果ではない。
米ハーバード大学ケネディスクールのジェイソン・ファーマン教授が強調するように、このインフレは「需要主導で、しつこい」。
1970年代と同様、力強い需要は賃金スパイラルを引き起こす可能性がある。労働者が実質所得の水準を維持しようとするからだ。
IMFの予想よりはるかに悪い展開も
IMFはこれに対し、石油は以前と比べるとはるかに重要度が低下しており、労働市場が様変わりし、中央銀行が独立していると主張する。
いずれの論点も正しい。だが、政策の過ちと供給ショックの相互作用はまだスタグフレーション(景気停滞と高インフレの併存)の惨事を引き起こす恐れがある。
IMFがベースライン予想で示しているものよりはるかに悪い結果を想像するのは難しくない。
ベースラインは、戦争がこのままウクライナだけに限定され、ロシアに対する制裁がさらに強化されることはなく、より致死性が高い新型コロナ変異株が到来せず、金融政策の引き締めが小幅で、大きな金融危機が発生しないと想定しているからだ。
こうした希望はどれも(実際、多くが)かなわない可能性がある。
世界経済とは言わないまでも人間の幸福にとってとてつもなく大きな問題は、新興国・発展途上国、特にコモディティー価格上昇の打撃も受ける国々で財務難が生じる可能性だ。
IMFの国際金融安定性報告書(GFSR)が指摘しているように、ハードカレンシー(ドルなどの国際決済通貨)建て債券の発行体の4分の1は、すでにディストレス債レベルで売買されている債券を抱えている。
西側諸国は今、新型コロナとの戦いの際よりもはるかにうまく、危機に見舞われた新興国・発展途上国を支援しなければならない。
独裁体制の信用低下はプラスだが・・・
最近の惨事の一つのプラスの側面は、絶対独裁体制が評判を落としていることだ。
過ちを犯す1人の人間の手中への権力集中は、よくてもリスクが高く、最悪の場合は破滅的だ。プーチン体制は、そのような統治制度内で何が起き得るかを思い出させる存在だ。
だが、感染力は高いが、それほど危険ではない病原体を自国から撲滅しようとする習近平の試みは、歯止めの利かない権力が何をもたらすかを表すもう一つの兆候だ。
民主主義も栄光に包まれていないが、民主主義国の指導者は少なくとも権力の座から下ろすことができる。
とはいえ悲しいかな、我々はこうした体制、特に中国のそれと地球を共有している。
ロシアとは異なり、中国は超大国であり、底なしの恨みと数千発の核弾頭を抱えた衰退しゆく大国ではない。
西側は最低でも、途上国債務の管理については中国と協力する必要がある。
より根本的なところでは、我々は確かに平和と繁栄と地球の保護を必要としている。こうしたものは一定の協調がなければ成し遂げられない。
ブレトンウッズ会議から生まれた機関(IMFと世界銀行)はそれ自体が、これを達成する試みの建造物だった。
今から25年前、多くの人は、我々は人類が必要としているものに向かう道筋に立っていると期待した。
悲しいかな、我々は今再び、分裂と混乱と危険の世界へ向かう下り坂に立っている。
一定の協調は不可欠
これ以上のショックが訪れなければ、現在の混乱は克服できるはずだ。
だが、我々は巨大なショックが起こり得ること、そしてほぼ必ずマイナスのショックであることを思い知らされた。
ロシアには何としても抵抗しなければならない。
だが、もし最低限の協力を維持できなければ、結果的に我々が分かち合う世界は恐らく、我々が暮らしたい世界ではならないだろう。
●ウクライナ戦争がアジアに広げている懐疑 5/3
ウクライナ戦争と米中関係
   注意深く見つめる中国
ロシアによるウクライナ侵攻の開始によって、中国が台湾へと侵攻するのではないかという懸念が広がっている。アトランティック・カウンシルの中国専門家であるマイケル・シューマンは、「次は台湾か?」と題する論考のなかで、中国が台湾を武力で統一する可能性を示唆している[Michael Schuman, “次は台湾か?”, The Atlantic, February 24, 2022]。そこでは、民主主義諸国の影響力が後退する一方、権威主義諸国の主張が強まり、そのような有利な情勢の中で中国による台湾侵攻の可能性が高まっているとみるべきだと論じられる。
とはいえ、世界的に著名な中国専門家の多くは、そのような中国による台湾の武力統一の可能性はそれほど大きくはないと見積もっている。たとえば、ジャーマン・マーシャル基金のボニー・グレイザーと東吳大学助教の陳方隅は、インタビュー記事の中で、「台湾の状況は全く違うであろう。中国が台湾に侵攻した場合は、アメリカは軍事介入を行う可能性が高い」と述べ、短期的には台湾海峡で危機が勃発する可能性は高くないことを示唆している[Bonnie S. Glaser、陳方隅(Chen Fang-Yu)「インタビューー今日のウクライナは明日の台湾?」、『コ國之聲』、2022年2月25日]。
また、昨年台湾問題について論じた論考が注目されたオリアナ・スカイラー・マストロも、ウクライナ侵攻は中国による台湾侵攻の可能性を大きく高めることはないと論じている[Oriana Skylar Mastro. “侵略は伝染しない―ロシアのウクライナ戦争は、中国の台湾攻撃の前兆ではない”, Foreign Affairs, March 3, 2022]。
同時に、中国はウクライナ戦争の推移を注意深く見つめており、戦争の帰趨が中国の将来の行動を大きく左右するのも事実であろう。
トマス・コーベットとマ・シュー、ピーター・シンガーは、アメリカの防衛・安全保障関連メディア『ディフェンス・ワン』に寄せた共同執筆論文で、軍事力の近代化を進めた中国の人民解放軍が、「特別軍事作戦」がうまく機能してないロシアの軍事行動や、ロシアが情報空間での優位性を確保できていないこと、SWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシアの排除を含めた経済制裁の効果などを、自らの問題として観察していると分析する[Thomas Corbett, Ma Xiu and Peter W. Singer, “中国はウクライナ戦争から何を学んでいるか?”, Defense One, April 3, 2022]。そのようなウクライナ戦争の現実は、台湾侵攻をオプションの1つとする中国政府にとって、心理的および戦略的に重くのしかかっているであろう。
他方で、アメリカのランド研究所のジェフリー・ホーナンは、「ウクライナから台湾への教訓」と題する論考の中で、台湾有事の備えを進める上でのいくつかの示唆を述べている[Jeffrey W. Hornung, “ウクライナから台湾への教訓”, War on the Rocks, March 17, 2022]。
ホーナンはまず、今回のロシアのウクライナ侵攻を事前にアメリカのインテリジェンスが把握し情報を開示していたように、中国の軍事行動の可能性についても十分にインテリジェンス能力を高めることが重要だと指摘する。また、台湾が効果的に抗戦するためには、残存性が高く比較的安価で入手しやすい兵器を大量に台湾に集積させておくことも求められる。さらに、今回ロシアに対して迅速な経済制裁を行ったように、中国に対しても同様に迅速な制裁が可能となるような準備が必要だ。中国が、ウクライナ戦争の推移から多くを学んでいるように、われわれもまた台湾防衛のためにウクライナ戦争から多くを学ぶ必要があると論じている。
   「台湾をめぐる米国の戦略的曖昧性」転換論を発表した安倍元首相
そのような危機感は、台湾の中でも共有されている。台湾の与党民進党系の『上報』紙では、大国による侵略行動を抑止するための戦争準備こそが、台湾の人々がウクライナ戦争から学ぶべきことだと論じられる[「社説:平和を得たいのであれば、つねに戦争の準備をせよ」、『上報(UP MEDIA)』、2022年2月28日]。
台湾の中でも、ウクライナ戦争をめぐってのさまざまな主張が見られる。侵略者と非侵略者の境界線を曖昧にして、侵略者の行動を正当化するような言論は、台湾にとって大きな問題である。
チェコ共和国のプラハに拠点を置く国際言論NPO『プロジェクト・シンジケート』に向けた安倍晋三元首相による論考、「台湾をめぐるアメリカの戦略的曖昧性は解消されなければならない」は、大きな反響を呼んだ[Shinzo Abe, “台湾をめぐるアメリカの戦略的曖昧性は終焉させねばならない”, Project Syndicate, April 12, 2022]。
この論文で安倍元首相は、ウクライナ危機をふまえて、従来の戦略を転換して、アメリカは台湾防衛に対してより明確なコミットを示すときが来ていると主張する。アメリカの台湾関係法は「台湾を防衛する」と明言しない一方で、これまで保障を行ってきた。この仕組みを変えなければならない。ウクライナとは異なり、中国が台湾に侵攻しても、中国はそれを自国領土の一部で起きた反政府活動の鎮圧に必要な行動であるとして、国際法には違反していないと主張することも可能である。
戦略的曖昧性はアメリカがそれを維持できるだけの圧倒的な力を持ち、中国が保持する軍事力と大きな格差がある場合にうまく機能してきた。だが、そのような時代は終わったのだ。アメリカの台湾に対する戦略的曖昧性は、アメリカの決意を中国に過小評価させ、台湾を不必要に不安定化させる。いまこそアメリカは、中国による侵略に対してアメリカが台湾を防衛することを明確に示すときである。安倍はこのように論じている。
とはいえ、中国が一方的にアメリカとの衝突を望んでいるわけでも、台湾への侵攻を不可避と考えているわけでもないであろう。むしろ、台湾の人々はウクライナへの侵攻によって、中国による武力統一の危機は遠のいたと考える傾向も見られる。
また、中国内部からも、米中協力の必要性を指摘する声も再び聞こえるようになった。3月15日付の『環球時報』紙の社説においては、前日の14日にローマでジェイク・サリバン大統領補佐官と楊潔篪中国共産党政治局委員の会談が行われ、ホワイトハウスは「米中間でのオープンなコミュニケーション・チャンネルを維持する」意向を表明したとの言及があった[「社説―ワシントンは中国を抑圧しながら『協力』を求めることはできない」、『环球网』、2022年3月15日]。対話を望むならアメリカは誠意ある態度を示せとの言葉も並んでいるが、米中協力の必要性を示唆する内容だ。中国はロシアに接近しながらも、同時にアメリカとの協力の可能性も考慮に入れていることがうかがえる。
アジアから見たウクライナ戦争
   インドにおける民主主義への懐疑
ウクライナ戦争の衝撃は、アジア諸国にも大きな衝撃を与えている。そのなかでも、インドがどのような位置に立ち、どのような対応をするかは、停戦後の世界情勢にも大きな影響を及ぼすであろう。なぜインドはアメリカやヨーロッパと同じ側に立ってロシアの侵略を非難することがないのであろうか。そして今後どのような動きを見せるようになるのだろうか。
2010年から14年までインドのマンモハン・シン首相(当時)の国家安全保障担当補佐官をしていたシブシャンカール・メノンは、ウクライナ戦争がアジアに及ぼす影響は限定的だと『フォーリン・アフェアーズ』誌で論じ、多くの民主主義諸国が必ずしもロシアに制裁しているわけではなく、批判すらしていない国も多い点を指摘する[Shivshankar Menon, “自由世界の幻想ー民主主義国は本当にロシアに対して団結しているのか”, Foreign Affairs, April 4, 2022]。
メノンによれば、今回の戦争は民主主義体制対権威主義体制という国際秩序の再編を招くわけではなく、今後の国際秩序はあくまでもアジアにおいて決定されていくであろう。そもそもロシアとのかかわりが深いインドが、米欧と同様に行動することを期待するのは非現実的だ。したがってウクライナ戦争の国際秩序全体への影響は限定的であって、それを通じて民主主義が結集することを期待するべきではない。
おそらくはこれは、インドにおける現実的な見方を代表するものであり、そのような議論も考慮するべきであろう。
同様にロシア極東連邦大学で地域・国際関係学部副部長のアルチョム・ルーキンとインドの独立系シンクタンクでリサーチ・アナリストを務めるアディティア・パリークが『イーストアジア・フォーラム』誌に発表した共同執筆論文によれば、インドとロシアの関係は「特別で特権的な戦略的パートナーシップ」として位置づけられている[Artyom Lukin, Aditya Pareek, “ウクライナ危機におけるインドの冷淡な反応” East Asia Forum, March 5, 2022]。両国は、ユーラシア大陸で多極的な秩序を求め、勢力均衡という基本原理を共有する。さらにインドは、装備の多くをロシアから輸入している。ロシア製の装備は、インドが中国と軍事的に対抗する際には不可欠だ。さらには、アメリカが主導する自由民主主義なイデオロギーに対して、インドはやや懐疑的な立場である。
このようにインドとロシアが歴史的にも深い繋がりを持つことは、十分に考慮に入れるべき要素である。
他方でそれとは異なる意見も見られる。『ディプロマット』誌の南アジア担当エディターのスダ・ラーマチャンドランは、ロシアが抱く安全保障上の懸念を理解しながらも、ウクライナの主権と領土の一体性を支持するような、より慎重で微妙な立場に立つべきだとする[Sudha Ramachandran, “ウクライナ対立におけるインドの「中立」は、長期的にそれを傷つける可能性がある”,The Diplomat, February 25, 2022]。
昨年来ウクライナ情勢をめぐって、インドはアメリカとロシアとの対立の中では慎重なバランスをとった立場を維持してきた。だが、この先に同様のアプローチを続けることはより難しくなり、そのような立場が長期的にインドの利益を傷つけることになるかも知れない。長年の友人であり装備の調達元であるロシアとの関係と、中国に対抗する上で協力が必要となるアメリカとの関係と、この両者の狭間にインドは立たされていると、ラーマチャンドランは指摘する。 
『環球時報』紙の社説は、インドが民主主義諸国による制裁網に加わっていないことを強調して紹介し、そのようなインドのスタンスが民主主義の結束を破綻させるだろうと論じている[「社説:アメリカの『ウクライナ・ナラティブ』の抜け穴を浮き彫りにするインド」、『環球時報』、 2022 年 4 月 12 日]。
その要旨は以下のようになる。4月11日の米印オンライン首脳会談で誇示するように、アメリカ政府はインドと価値観や民主主義的な制度を共有していると主張する。ところが今回のウクライナ戦争は、アメリカとインドが異なる立場にあることを明らかにしている。アメリカがどれだけ米印の戦略的パートナーシップを強調して演出しても、そのような両国間の「巨大な軋轢」を覆い隠せるわけではない。クアッドの一員でありながらも対ロシア制裁に参加しなかったインドは、アメリカの戦略の綻びを露呈させ、アメリカの野望と一体化しているわけではない現実を示した。アメリカによる「民主主義陣営」の結束による制裁に「世界最大の民主主義国」であるインドが参加しないことは、アメリカの大きな不安の原因となっている。
したがって、この社説によれば、「民主主義と権威主義の対決」とラベルをはるアメリカの戦略がますます不可能となるであろう。
   韓国は保守・左派メディアとも「対ロ制裁参加」を強く支持
東南アジア諸国も今回の戦争を通じて、必ずしもアメリカと常に同調しているわけではない。中国国際問題研究院アジア太平洋研究所副所長の杜兰は、ASEAN(東南アジア諸国連合)はウクライナ戦争後に戦略的自律を高めており、より中立的な立場を取っている現実を指摘する[杜兰(Du Lan)、「ロシア・ウクライナ衝突で東南アジア諸国はアメリカの下心に警戒を強めている」、『新华国际』、2022年4月3日]。杜兰の主張は次のような内容だ。
ASEAN諸国の多くは、「反ロシア陣営」に参加するようにというアメリカからの圧力を受けながらも、屈することはなかった。伝統的にASEANは大国間でのバランスをとっており、またロシアとも協力関係を維持しようとしている。また、いわゆる「新冷戦」がアジア太平洋に波及することを、ASEAN諸国は危惧している。インドが中立的外交を展開するなかで、ASEANも戦略的自律を高めており、ASEAN共同体としての結束を強化して、地域経済としての一体性強化を加速していくであろう。
韓国は比較的早い段階から、ロシアに対する制裁を発動して、アメリカの行動に同調した。韓国の保守系の『中央日報』紙の2月25日付の社説では、韓国が対ロシア政策を発動するという国際社会の結束に参加したことを高く評価している。韓国政府はそのような制裁網に参加することで、「韓国は実質的なG10に加わった」と自画自賛する[「社説:ウクライナ事態解決に韓国政府も積極的に参加すべき」、『中央日報』、2022年2月25日]。
またそのような立場は、左派系の『京郷新聞』の社説でも共有されている[「社説―韓国政府の対露制裁、国際社会の責任を負う機会に」、『京郷新聞』、2022年2月28日]。ここでは、世界を核戦争の恐怖に落ち入れたロシアに対して、韓国も国際社会と歩調を合わせる必要が指摘された。韓国政府の独自制裁は、事実上の輸出中断にも匹敵する。同時に、韓国の対外輸出全体においてロシアの割合は1.5%と限られており、韓国にとっての12番目の輸出相手国である。むしろ韓国は、ウクライナ市民への支援を重視するべきだと論じている。
とはいえ、4月11日に韓国の国会でウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がオンラインでの演説を行った際には、国会議員300名のうちで参加したのは60名程度であった。国会のがらんとした空席が、カメラに写されていた。そこには朴炳錫(パク・ビョンソク)国会議長の姿も見当たらなかった。『中央日報』の社説では、武器支援問題とは切り離して、ゼレンスキー大統領の訴えに耳を傾けて、自らにできることがなにかを真剣に検討するべきであったと批判し、「恥ずかしい外交」であったと論じている[「社説:ゼレンスキーの演説に冷たかった国会、国の品格を落とした」、『中央日報』、2022年4月13日]。
韓国大統領選挙の結果は、保守系の尹錫悦(ユン・ソンニョル)候補の勝利に終わった。北朝鮮がミサイル実験を行い、中国がロシアのウクライナ侵略を擁護するかのような立場を取る中で、韓国の有権者は自らが自由民主主義陣営の一員であることを強く感じた結果であるかもしれない。その新政権は、大統領職引き継ぎ委員会の人事において、外交安保分科会には李明博(イ・ミョンバク)政権で外交部次官を務めた金聖翰(キム・ソンハン)と元大統領府対外戦略企画官の金泰孝(キム・テヒョ)、元国防部合同参謀本部次長の李鐘燮(イ・ジョンソプ)を任命した。金聖翰氏と金泰孝氏は李明博政権時の外交ブレーンであり、保守系の『東亜日報』紙は、李明博政権時の「実用主義外交」の復活が予想されると論じる[ジョ・アラ記者「外交安保担当に金聖翰や金泰孝など李明博政権高官起用、実用主義外交の予告」、『東亜日報』、2022年3月16日]。
民主主義陣営が結束を強める上で、韓国がアメリカや日本との関係を強化することは望ましい。韓国は、自らがアジアにおけるアメリカの重要な同盟国であり、自由民主主義陣営の一員であることをあらためて示すことになるであろう。
●ウクライナ “ロシア軍が攻撃再開” さらに避難進むか見通せず  5/3
ウクライナでは5月1日、ロシア軍が包囲する東部マリウポリの製鉄所から、およそ100人の市民が避難しました。避難は2日も行われる予定だとされていましたが、ウクライナ側は、初日の避難が行われたあとロシア軍が攻撃を再開したと主張していて、さらなる避難が順調に進むのか見通せない状況が続いています。
ロシア軍がウクライナ東部2州の完全掌握に向け攻勢を強める中、アメリカ国防総省の高官は2日、東部ハルキウ州のイジュームの東側などでロシア軍の前進はわずかにとどまっているという分析を明らかにしました。
ロシア軍に対するウクライナ側の抵抗も続いていて、ハルキウの周辺に展開していたロシア軍の部隊が東におよそ40キロの地点まで押し返されたとしています。
ただ、この高官は、マリウポリなど東部で現在も空爆が行われていると指摘していて、引き続き一進一退の攻防が続いているものとみられます。
さらに南部のオデーサでも2日、ミサイル攻撃があり、ウクライナのゼレンスキー大統領は、寮が破壊されて、14歳の少年が死亡し、17歳の少女がけがをしたと明らかにしました。
一方、ロシア軍に包囲されたマリウポリのアゾフスターリ製鉄所にとどまっていた市民のうち、およそ100人が1日、製鉄所から避難し、ウクライナ軍は2日、一行が南東部のザポリージャに到着したと明らかにしました。
製鉄所からの避難は2日も行われる予定だとされていましたが、マリウポリでロシア軍と抗戦を続けている部隊の担当者は1日、地元テレビ局のインタビューに対し「製鉄所から最初の市民が避難し終わると、ロシア軍は、あらゆる武器を使って攻撃を再開した」と述べました。
2日に撮影された映像では、製鉄所から黒い煙が立ち上り、何かが爆発するような音が一帯に鳴り響いている様子が確認できます。
また、ICRC=赤十字国際委員会はNHKの取材に対し「現段階で進展があったかどうかについて言えない」などとしていて、2日も避難が行われたのかはわかっていません。
ウクライナのクレバ外相は2日、記者会見で、製鉄所からの避難について「すべてがぜい弱で、いつ崩壊してもおかしくない」と述べていて、さらなる避難が順調に進むのか見通せない状況が続いています。
●ウクライナ軍、ロシア領内の軍事拠点攻撃か…否定も肯定もせず  5/3
ウクライナ軍が、自国に侵攻するロシア軍に打撃を与えるため、ロシア領内の軍事拠点などへの攻撃を始めたとの見方が強まっている。ウクライナ側は否定も肯定もしていないが、被害によって露軍の補給に支障が出る可能性があるなど、ロシア側の「自作自演」では説明困難な爆発や火災が相次ぐ。米紙ワシントン・ポストは「ウクライナによる破壊工作が含まれる可能性がある」と指摘する。
タス通信などによると、露西部ベルゴロド州では1日、ウクライナ東部ハルキウ(ハリコフ)州との国境まで約30キロ・メートルにある国防省の施設で大規模火災が発生し、1人が負傷した。
露軍の動向を調査している露独立系団体「CIT」は、露国防省所属の複数の飛行機が前日、ベルゴロド州に到着していたことを確認したと指摘した。
露西部クルスク州のウクライナとの国境付近では1日、ウクライナと結ぶ鉄道橋で爆発があった。タス通信によると、橋に爆発物が仕掛けてあったとされる。
ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の全域制圧を目指す露軍の補給に支障が出るとみられている。
露西部ブリャンスク州では4月25日に石油貯蔵施設で大規模火災が発生、27日にはベルゴロド州の弾薬庫などで爆発があった。露国防省は4月中旬にもブリャンスク州などでウクライナ軍ヘリコプターによる越境攻撃を受けたと主張した。
ウクライナ側はこれまで、「偽情報だ」と関与を一貫して否定してきたが、ロシアとの停戦協議に参加するウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は4月末、自身のSNSで「ロシアはウクライナを攻撃し、民間人を殺害している。ウクライナは殺人者の拠点を破壊してでも、自国を守るだろう」とロシアへの越境攻撃を示唆した。
米政策研究機関「戦争研究所」は4月末、ベルゴロド州の爆発などについて、ウクライナ軍が「無人機かミサイルで攻撃した可能性」に言及し、「越境攻撃は拡大する」との見通しを示した。
●東部マリウポリ 市民約100人避難もロシア軍が攻撃再開か  5/3
ウクライナでは、ロシア軍が包囲する東部マリウポリの製鉄所からおよそ100人の市民が避難し、南東部の別の都市に到着しました。しかし、ウクライナ側はロシア軍が攻撃を再開したと主張していて、このあと残された市民の避難が順調に進むのか予断を許さない状況です。
ロシア国防省は2日、ウクライナ国内の36か所の軍事施設をミサイルで攻撃し、東部ドニプロペトロウシク州でウクライナ軍の地対空ミサイルシステムや武器・弾薬庫を破壊したほか、東部ハルキウ州やドネツク州、さらに黒海のズミイヌイ島で無人機を撃墜したと発表しました。
ロシア軍は東部2州の完全掌握に向け攻勢を強めていますが、ウクライナ軍の激しい抵抗を受けているものとみられ、旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことを記念する今月9日の「戦勝記念日」までにロシア側が目的を達成するのは難しいものとみられています。
こうした中、ロシア軍に包囲された東部マリウポリの製鉄所にとどまっているとされる市民数百人のうち、5月1日におよそ100人が製鉄所から避難し、ウクライナ軍は2日に一行が南東部のザポリージャに到着したことを明らかにしました。
製鉄所のツキティシュビリ社長はNHKのインタビューに対し「避難のための人道回廊が機能したことは、ゼレンスキー大統領や各国のリーダーなどが働きかけた成果だ」として感謝の意を示しました。
一方で「製鉄所には、爆撃で負傷し手足を失った人もいるが、ロシア側は製鉄所に救急車を向かわせることも拒否した。薬も不足しており、けが人の避難を最優先にしてほしい」と訴えました。
ゼレンスキー大統領は2日も製鉄所からの避難が行われる予定だとしていましたが、マリウポリの防衛にあたっているウクライナ軍の担当者は「最初の市民が避難し終わると、ロシア軍はあらゆる武器を使って攻撃を再開した」と主張していて、このあと残された市民の避難が順調に進むのか、予断を許さない状況です。
米国防総省高官「東部でのロシア軍の前進 わずかにとどまる」
アメリカ国防総省の高官は2日、ウクライナ東部でのロシア軍の動きについて、ハルキウ州のイジュームの東側などで前進したものの、わずかにとどまっているという見方を示しました。
そのうえでロシア軍は、指揮系統や、作戦に必要な物資の維持に依然として問題を抱えているほか、多くの部隊で士気の低下に悩まされていると分析しています。
さらに「地上での動きは非常に用心深く、率直に言って貧弱としか言いようがない例もある」と述べ、ロシア軍の部隊に戦闘での危険や犠牲を避ける傾向がみられるとしています。
一方、ロシア軍に対するウクライナ側の抵抗も続いていて第2の都市、ハルキウの周辺に展開していたロシア軍の部隊が、東におよそ40キロの地点まで押し返されたということです。
この高官は、ロシア軍がハルキウを掌握し、そこを足がかりとして東部地域への攻勢を強めたいと考えていたという見方を示し「ウクライナ側がそれを難しくした」と述べました。
さらに、軍事侵攻が始まって以降、これまでに2125発を超えるミサイルがロシア軍により発射されたと明らかにし、マリウポリなど東部では現在も空爆が続いているという認識を示しました。
このほかこの高官は、ロシア軍の制服組トップのゲラシモフ参謀総長が先週、数日間にわたってウクライナ東部を訪れたのを確認したと明らかにしました。
高官は、ゲラシモフ参謀総長がすでにロシアに戻っているとしたうえで「ウクライナ東部で何が起こっているのか、自分自身で確認するための訪問だった可能性がある」と述べました。
●岸田首相 イタリア到着 4日にドラギ首相と首脳会談  5/3
東南アジアとヨーロッパを歴訪している岸田総理大臣は、4番目の訪問国、イタリアに到着しました。4日はドラギ首相との首脳会談に臨み、ウクライナ情勢などをめぐって意見を交わすほか、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇などと会談する予定です。
岸田総理大臣は日本時間の午後3時ごろ、イタリアに到着しました。
4日、首相府でドラギ首相と首脳会談を行うことにしています。
岸田総理大臣は東南アジア訪問で、各国からロシアに厳しい措置をとるG7=主要7か国との立場の違いが示されたことも踏まえ、さらなるG7の連携強化を確認したい考えです。また岸田総理大臣は、ローマ・カトリック教会の中心地バチカンを、日本の総理大臣としてはおよそ8年ぶりに訪れ、フランシスコ教皇と会談するほか、バチカンの首相にあたるパロリン国務長官と会談を行う予定です。
●ウクライナの民間人死者3000人超と国連 マリウポリの製鉄所への攻撃続く 5/3
国連人権高等弁務官事務所は2日、ロシアによる軍事侵攻開始以来、ウクライナで死亡した民間人は3000人を超えたと発表した。ロシア軍が制圧した南東部の要衝マリウポリでは、製鉄所への攻撃が続いている。他方、南西部の要衝オデーサでは砲撃のため子供が死亡しているという。同日、複数の米政府関係者が、ロシアはウクライナ東部の併合を計画しているものの、その攻勢は「最低限」のものにとどまっているとの分析を示した。
ウクライナの民間人死者3153人を記録=国連
国連人権高等弁務官事務所 (OHCHR)によると、2月24日の軍事侵攻開始以来、3153人の民間人が死亡したことを確認したが、実際の死者数はこれより「かなり多い」だろうという。
情報を入手しにくい地域の実態把握が困難なことに加え、国連としてまだ確認できていない報告があるとOHCHRは説明。たとえば、ロシア軍が制圧したマリウポリなどでは民間人の死亡が多数報告されているが、その多くをまだ検証できていないという。
マリウポリは開戦当初から、徹底的に爆撃された。市当局は、市内の建物の8〜9割が損傷もしくは全壊したと推定し、民間人の間に甚大な被害が出たとみている。人工衛星写真からも、大規模な集団埋葬地が近くで確認されている。
マリウポリの製鉄所に攻撃続く
ウクライナ国家警備隊のデニス・シュレガ司令官は2日、マリウポリでウクライナ兵や市民が最後までたてこもる巨大なアゾフスタリ製鉄所について、ロシア軍が「ありとあらゆる武器」で攻撃していると、ウクライナのテレビ局に話した。
1日には複数の民間人が製鉄所から脱出したものの、「まだ幼い子供数十人が施設の地下に残っている」と、シュレガ司令官は述べ、一部の民間人が避難した直後からロシア軍は砲撃を再開したと説明した。
2日夜には、製鉄所で大規模な火事が発生した様子とみられる映像が、ソーシャルメディアなどで拡散された。ソーシャルメディアでは、ロシア軍の砲撃が出火原因だとも言われている。
マリウポリはすでに製鉄所を除くほぼ全域がロシア軍に制圧された。
ロシアにとっては、マリウポリを押さえれば、ウクライナ南岸全体の掌握が容易になる。そうすれば、親ロシア分離独立派が実効支配するウクライナ東部のドネツクやルハンスクと、ロシアが2014年に併合したクリミアが陸続きになる。加えて、ウクライナの西の隣国モルドヴァでロシア系住民が分離を宣言しているトランスニストリア地域にも、接近しやすくなる。
ザポリッジャへ避難
アゾフスタリ製鉄所からは1日、民間人100人以上が約230キロ離れたザポリッジャへ避難した。ザポリッジャはウクライナが掌握を続けている。
約60日ぶりに地下から屋外に出た人たちは、国連や赤十字国際委員会(ICRC)が手配した車列で移動した。製鉄所内では食料や水、医薬品などが不足しつつあるという。
ロシアは、避難した民間人の一部は、ロシアが支援する分離派が実効支配する東部の村に移動したと明らかにした。ただし国営メディアはのちに、希望者はウクライナが支配する地域へさらに移動するのは自由だと伝えた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1日、製鉄所から第1陣の約100人が避難したことをツイート。「明日(2日)、ザポリッジャでみんなと会う。私たちのチームに感謝している! チームは現在、国連と共に、製鉄所からの他の民間人の避難を進めている」と書いたほか、ICRCの協力にも感謝した。
ロシア国営メディアの一部は、製鉄所内にまだ500人以上の民間人が残っていると伝えた。
マリウポリ市当局は2日夜、国連と赤十字の協力を得て、3日午前7時(日本時間同日午後1時)にも、民間人の退避を開始することで合意を得たと明らかにした。これについてロシア側はまだ反応していない。これまでに、こうした避難の予定はたびたび失敗し、ウクライナとロシアの双方が合意内容に違反したのは相手だと非難し合っている。
ゼレンスキー大統領も2日夜、毎晩の定例動画演説で、マリウポリから新たに3日、人道回廊を通じて市民がザポリッジャ州内のベルディヤンスク、トクマク、ヴァシリウカに移動する予定だと述べた。「マリウポリの人たちを守るために引き続き、できる限りのことはする」と大統領は話した。
他方、製鉄所には避難せず自力で2日、マリウポリからザポリッジャにたどりついた人たちもいる。そうした1人、ナタリア・ツィントミルスカさんはロイター通信に、「私たちは2月27日から自宅の地下で過ごしていた。絶え間なく砲撃され、やがては空爆も始まった。自宅は完全に破壊された」と話した。
別の避難民は、製鉄所周辺が封鎖されているため、避難バスにたどり着くことができなかったと話した。「街は川の左岸と右岸に分かれている。左岸が完全に封鎖されていたので、バスにたどりつけなかった」とこの女性は話した。
「これほど非人道的な戦争になるとは」
アゾフスタリ製鉄所のエンヴェル・ツキティシュビリ社長は2日、BBCに対して、三方を水に囲まれた製鉄所の地下には無数のトンネルが行き交い、36の地下防空壕が備わっていると話した。核兵器の直撃にも耐えるよう設計された防空壕もあるという。
ロシアが2014年にクリミア半島を併合し、東部ドンバス地方の分離勢力を後押ししたことから、ウクライナ政府は製鉄所内の防空壕群を整備したのだと、ツキティシュビリ社長は話した。
ウクライナ政府は今年初めには、製鉄所の地下ネットワークの詳細な地図や説明書を兵士に与えたほか、備蓄用食料4万包(1包が1人1日分)を製鉄所に提供したのだという。
「それでも私たちは、これほどの大虐殺、これほど非人道的な戦争になるとは思っていなかった」と、ツキティシュビリ社長は話した。
南西部の港湾都市オデーサでも砲撃
黒海に面する南西部の要衝オデーサでも2日夜、ミサイル攻撃があったという。市当局によると、砲撃時に5人が中にいた住宅が破壊され、10代の少年が死亡し、ほかに子供1人が病院へ運ばれた。隣接する東方正教会の教会の屋根も破損したという。
ゼレンスキー大統領は毎晩定例の動画演説で、ロシア軍のミサイル攻撃で14歳の少年が死亡し、17歳の少女が破片で負傷したと発言。東部ルハンスクで19世紀末から続く名門校が破壊されたことと合わせて、「いったいこれは何なのか。いったい何のために? この子供たちや学校の寮が、いったいどうやってロシア国家を脅かしたというのか?」と強く非難した。
主要な港湾都市オデーサはこれまで他の地域に比べると、激しい攻撃は免れてきたものの、4月23日にも集合住宅が攻撃され、生後3カ月の赤ちゃんも死亡した。4月30日には空港の滑走路が砲撃で破壊された。
オデーサは街の規模や機能、位置、ウクライナ経済に果たす役割、国際的な知名度などから、戦略的にも象徴的にもきわめて重要な拠点とされている。
南部へルソンではインターネットをロシア経由に
ロシアが占拠する南部ヘルソン州では、ロシア通貨ルーブルの導入に続き、インターネットの通信をロシアの通信インフラを経由するように変更されたという。インターネットのサービス遮断を監視する団体が2日、明らかにした。
「ネットブロックス」(本部・ロンドン)によると、4月30日にはヘルソン州全域でインターネットがほぼ全面的に遮断されていた。これによってウクライナの複数の通信プロバイダーが影響を受けたという。通信回復後の経路を調べたところ、州内のインターネット通信はウクライナの通信インフラではなく、ロシアを経由していることが確認されたという。このため、「今後はおそらく、ロシアの規制や監視、検閲の対象になる」と同団体は指摘している。
ロシアは東部の2「共和国」併合を計画=米大使
アメリカのマイケル・カーペンター駐欧州安保協力機構(OSCE)大使は2日、「最新報告をもとに、私たちはロシアが『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』を併合しようとしていると考えている」とワシントンで記者団に述べた。「ロシア参入の是非を問う住民投票を、ロシアは5月半ばにも現地で仕組むつもりのようだ」と、大使は話した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は開戦前の2月21日、ウクライナ東部の分離派が自称する両「人民共和国」の独立をそれぞれ承認していた。この両地域をロシアに編入すれば、ロシア軍はさらに多くの兵をウクライナ東部に送り込むことができるようになる。
ウクライナ東部のロシア軍の攻勢「最低限」=米国防省幹部
米国防総省の幹部は2日、記者団に対して、ロシア軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長が先週、ウクライナ東部ドンバス地方を訪れていたと明らかにした。
匿名を条件に記者団に話した国防総省幹部は、ゲラシモフ参謀総長がドンバス地方にいたことは確かだが、一部で報道されていたように負傷していたのかは確認できていないと述べた。
ゲラシモフ参謀総長については、4月末から前線に自ら向かい、1日には東部ハルキウの戦場から避難したと一部で伝えられている。
国防総省幹部はさらに、ウクライナ東部でロシア軍が展開している攻勢は、「非常に生ぬるい」もので「よく言って最低限」、かつ「活力に欠けている」と話した。
マリウポリへの空爆は続いており、ロシア軍はこれまで以上に精度が低く、低空からの投下が必要な「無誘導」爆弾に頼っているという。
ロシア軍への評価についてはこれとは別に、北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍の最高司令官だったジェイムズ・スタヴリディス米海軍大将(退役)が1日、アメリカのラジオ局に対して、将軍クラスの戦死が相次ぎ伝えられることについて、ロシア軍の「とんでもない無能ぶり」が原因だと話した。
「2カ月間で軍幹部の将軍を少なくとも12人は失っている」と、スタヴリディス氏は述べ、現代の歴史でこれほど将軍が戦場で戦死するのはかつてなかったことだと話した。
スタヴリディス氏はさらに、ロシア軍がウクライナの民間人を「虐殺」し、「隣国への違法な侵略」を通じて戦争犯罪を相次ぎ繰り広げていると非難した。
●ウクライナ侵攻は米中“新冷戦”の始まり トランプ政権元幹部が警鐘を鳴らす  5/3
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻は2カ月を超え、未だに激しい戦闘がウクライナ東部や南部を中心に続いている。アメリカ政府は「代理戦争」を否定するものの、ウクライナに対して136億ドルの支援に加えバイデン大統領は4月28日に軍事支援などのために330億ドル、日本円で4兆3000億円もの追加予算を議会に要求するなど徹底的なウクライナ支援に舵を切っている。この侵攻は泥沼とも言える状況に陥っているが、こうした中でトランプ政権元幹部のインタビューが注目を集めている。その内容は今回のウクライナ侵攻と「朝鮮戦争」の類似性、そして本当に警戒すべき相手が中国であり、今、世界は米中による代理戦争いわば「新冷戦」の様相を呈しているのだということに焦点を当てたものだった。
インタビューが話題に…ウクライナ侵攻と朝鮮戦争の類似性とは?
「ロシア、中国と新冷戦」この題名で掲載された、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューが話題を呼んでいる。インタビューの主は、トランプ政権で安全保障を担当していた、マット・ポッティンジャー氏だ。このウクライナへの侵攻を、2度の世界大戦やソ連のアフガン侵攻とは異なり、プーチン大統領のウクライナ征服の野望と中国の習近平国家主席との関係から、1950年から始まった「朝鮮戦争」に類似していると提起している。
「1950年スターリンと毛沢東と金日成は、韓国への侵略が簡単であるとひどく見誤り、今日、我々が見ているのと同様に、アメリカの決意をあなどっていた」
第二次世界大戦後に朝鮮半島は、北朝鮮と大韓民国として38度線を境に南北に分断されていたが、1950年6月25日、北朝鮮軍の砲撃とともに韓国への侵攻が開始され、10万人の北朝鮮軍が南進を始めた。侵攻の開始からわずか3日で韓国政府は首都ソウルを放棄し、その後は南に追い込まれたが、アメリカを中心とする国連軍が参戦し、9月の仁川上陸作戦に成功したことで反攻に成功。逆に38度線を北に越えて10月には北朝鮮の臨時首都平壌を制圧すると、今度は中国軍が北朝鮮を支援するため国境を越えて参戦。3年間に及ぶ戦争は膠着し、400〜500万人とも言われる死者を生み、今も終戦に至らず休戦状態となっている。この朝鮮戦争の背景には、米中をアジアに釘付けにしている間に、ヨーロッパなどでの基盤を固めたいスターリンの暗躍があったとされている。この構図が現在は、プーチン氏が毛沢東に、そして習主席がスターリンという構図に変化し、ウクライナ侵攻の本当の脅威は中国であり、ウクライナへの軍事侵攻から見えてきたものは、米中の対立、そして代理戦争(新冷戦)が始まっているというものなのだ。ポッティンジャー氏はこう述べている。
「役割は今や逆転し、習主席はスターリンの役を演じ、プーチン氏は毛沢東が虐殺に軍隊を送る役を演じている。この戦争が、分断された国で何らかの膠着状態に陥り、同様の形で終わる可能性さえ考えられる」
アメリカや欧州、そして日本は何をすべきなのか?
ポッティンジャー氏はさらに、「中国が世界における権威主義の母船であることに疑問の余地はない。しかし、これらの敵対勢力が互いにどのように結びつき、どのように連携を強めているかを見抜けなければ、大きな失態を犯す危険性がある」とも警鐘を鳴らす。
ボッティンジャー氏は今回のウクライナ侵攻によって、アメリカはNATO諸国などと結束して、継続的な軍事支援や情報共有を行っている点を評価する。しかし一方で、日本、オーストラリア、インドが参加する4カ国の安全保障対話「クアッド」が中国に対して果たすべき役割は大きいとも指摘する。奇しくも、5月下旬にはバイデン大統領が就任後初めとなる日本訪問に合わせて、クアッドの会合も東京で開催される。インドが国際社会の期待に反して、今回のロシアの軍事侵攻に対して慎重な対応を続けているという不確定要素はあるものの、ホスト国の日本の岸田首相が、対中国についてどのような方針を4カ国として打ち出することができるかに世界が注目している。
事実、当時のスターリンが朝鮮戦争の隙間を縫って、ヨーロッパでの軍事基盤を拡大させようとしたように、中国の動きも活発化してきている。アジア太平洋地域をみれば、このウクライナ侵攻の間、中国が南太平洋の島国ソロモン諸島と安全保障協定の署名を交わしたことが、世界に衝撃を与えた。ソロモン諸島側は否定しているものの、中国が軍隊と艦船の足場となる軍事基地を設置する可能性も高まっている。中国がこの地域に軍事力を背景に進出することで、一気にアジア太平洋地域の不安定が増すことは想像され、近い未来に日本やアメリカなどが結束して対抗していくのかも確実に問われていくことになる
日本の周辺を見回しても、プーチン氏はかつて「アイヌ民族をロシアの先住民族に認定する」と発言し、昨今では、ロシアの議員が「ロシアは北海道の権利を有している」と発言。中国では沖縄の日本の領有を認めず、「沖縄は中国に本来は帰属している」などの、中国が沖縄の領有権を主張する言説も度々報じられている。日本のいわば、「ウクライナ化」に向けた動きともとれる状況が生じる可能性は否定できない。
中国の台湾侵攻は迫っているのか?その先の日本有事の可能性は?
さらにウクライナ侵攻を踏まえ、日本にとっても大きな脅威となるのが、中国の台湾への侵攻ではないだろうか。去年11月にアメリカの国防総省が発表した報告書では、中国は2027年までに最大で700発、2030年までには少なくとも1000発の核弾頭の保有を目指している可能性があると指摘する。また、中国は軍の近代化を加速させており、台湾有事の際には、信頼性のある軍事的な選択肢を得ることができると警鐘を鳴らしている。まさに日本の眼前に脅威は迫っており、安全保障体制の強化が不可避とも言える現状である。
ポッティンジャー氏は台湾への侵攻の可能性について、「論理的で冷静な分析によれば、中国の戦争プランナーは二の足を踏んでいるはずだ」と指摘するが「しかし、論理的で冷静な分析は習近平の得意とするところではない。習近平はこの時点では、錯覚した鏡の反射で世界を見ているのです」とも述べ、脅威は捨てきれないとしている。
「独裁者が長く権力を維持すればするほど、自信とパラノイアの間のパラドックスは鋭くなります。そして、信頼できる情報が少なくなってきて、戦略的な誤算を犯す素地があるのだと思う」
日本とアメリカの間には、日米安全保障条約が結ばれ、第6条にはこう記載されている
「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリ力合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」
台湾と日本の有事において、アメリカ軍の参戦は疑いないと考える一方で、日本の決心をめぐり激しい世論戦、経済戦が繰り広げられ、国民の決心が問われることになるかもしれない。1955年の保守合同はまさに冷戦期の体制に向けた我が国の大きな政治体制の変換だった。今年の夏に行われる参議院選挙では、ポッティンジャー氏のいう米中対立の「新冷戦」に向けた、国内政治の大きな転換期になるかもしれない。
●「ウクライナに侵攻したロシア大隊戦術群25%が損傷 立て直しに数年 5/3
「数の優位」活かせず
英国防省の情報機関、国防情報参謀部は2日、ロシア軍はウクライナ侵攻に全陸上戦力の65%に当たる120個の大隊戦術群(BTG)を投入、このうち4分の1以上が役に立たなくなった可能性があると発表した。VDV空挺部隊など最精鋭部隊も大きな損害を出している。ロシア軍は陸上戦力を立て直すのに数年かかるとみられるという。
3日の発表では、ロシア政府は2005年から18年にかけ、ハイエンドの陸海空能力を向上させる国防予算をほぼ倍増させた。グルジア(現ジョージア)紛争などを教訓に08年から軍の近代化計画「新たな姿(ニュールック)」を推進した。しかし装備を近代化するだけではウクライナ軍を圧倒できなかった。
今回、戦略の策定と作戦の遂行の失敗によりロシア軍は「数の優位」を活かせなかった。ロシア軍はウクライナ侵攻で装備面でもイメージとしても著しく弱体化している。立て直そうとしても経済制裁によって難航する。通常兵力を国外展開するロシア軍の能力に長期的な影響を与えるだろう――と英国防情報参謀部は分析している。
米国防総省高官「ゲラシモフ参謀総長の負傷、否定も確認もできず」
英国防情報参謀部の分析ではロシア軍は「184個」のBTGを持っている計算になるが、セルゲイ・ショイグ露国防相は「168個」と発表している。一方、米国防総省高官は2日「ウクライナでは現在93個のBTGが“運用可能”と評価している。しかし装備や人員の面で損失が続いており、すべてのBTGの戦闘準備が整っているわけではない」とだけ述べた。
また、この高官はロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長がウクライナ東部の要衝イジュームで負傷したとの情報について「確認できるのは彼が先週数日間、東部ドンバスにいたことだけだ。彼がまだそこに残っているとは思わない。しかし負傷情報については否定も確認もできる立場にない」と述べるにとどめた。
ジョンソン英首相はウクライナ最高議会でビデオ演説
ボリス・ジョンソン英首相は3日、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって以来、世界の指導者として初めてウクライナ最高議会ヴェルホーヴナ・ラーダでビデオ演説する。合わせてキーウの大使館も再開する。電子戦装置、レーダーシステム、GPS(全地球測位システム)妨害装置、暗視装置など3億ポンド(約490億円)相当の新たな軍事支援策を打ち出す。
ジョンソン氏は「わが祖国が第二次大戦で侵略の危機に直面した時、ウクライナと同じように戦争中も議会は開かれた。イギリス国民は結束と決意を示した。われわれは最大の危機を最良の時として記憶している。いまがウクライナの最良の時であり、何世代にもわたって記憶され、語り継がれるであろう、あなたの国の物語における壮大な一章だ」と呼びかける。
「あなた方の子供や孫たちは“ウクライナ人が、侵略者の強大な力は自由になろうと決意した人々の道徳的な力に対しては何の価値もないことを世界に教えてくれた”と言うだろう。イギリスがウクライナの友人であることを誇りに思う」とも表明する。
ジョンソン氏は4月9日、ウクライナ国民との「連帯の証」としてキーウを電撃訪問した。その際も「ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の断固たるリーダーシップと、ウクライナ国民の無敵のヒロイズムと勇気」を称賛している。ジョンソン氏にはアメリカとスクラムを組んでウクライナを軍事、経済両面で支援する有志連合を構築する狙いがある。
グローバルな同盟呼びかけるイギリス
一方、リズ・トラス英外相は4月27日「地政学の復活」と題して演説し「ウクライナでの戦争は私たちの戦争だ。ウクライナの勝利は私たち全員にとって戦略上不可欠だ」と指摘した。
「制裁によって、ロシアはすでに100年ぶりの対外債務不履行に直面している。プーチン氏が戦争資金を調達する場所をなくさなければならない。原油と天然ガスの輸入をきっぱり断つことだ」とグローバルな同盟、北大西洋条約機構(NATO)は世界的な視野を持ち、世界的な脅威に対処できるようにしなければならないとグローバルなNATOを呼びかけた。
英政府は「スターストリーク」対空ミサイル、対戦車ミサイルの「ジャベリン」や「NLAW」、陸上用の高性能ミサイル「ブリムストーン」と防空車両「ストーマー」をはじめ、孤立した部隊を後方支援するためのUAVシステム、ウクライナ東部の民間人保護と前線地域からの民間人避難を支援するための特殊なランドクルーザーをウクライナに供与する。
コロナ規制で厳格な接触制限を有権者に強いながら、自らの誕生会を首相官邸で開き罰金を科せられるなどの不祥事で支持率が低迷するジョンソン氏は5月5日投票の統一地方選を控え、世論調査で最大野党・労働党に最大11ポイントのリードを許している。ウクライナ戦争を支持率回復のために使っているとの批判も根強い。
●ロシア軍、ウクライナ東部でわずかに支配地域広げる 米国防総省 5/3
ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、米国防総省高官は2日、ロシア軍が東部でわずかに支配地域を広げたとの分析を明らかにした。同省は、ウクライナ軍の抵抗によってロシア軍が東部で予定通りの侵攻ができていないとみている。
高官によると、ロシア軍が東部ドネツク州との州境に近いハルキウ州イジュームの東側と、ルハンスク州のポパスナで支配地域をわずかに広げる動きがあった。ただ、ウクライナ軍も激しく抵抗しており、戦況は一進一退だ。高官は、ロシア軍にとって「最小限の進展だ」と述べた。北東部ハルキウではロシア軍が砲撃を続けているが、直近では、ウクライナ軍がロシア軍を40キロ東に押し戻す動きもあったという。
南東部の要衝マリウポリでは、ロシア軍が標的への誘導装置が付いていない無誘導爆弾を用いて攻撃している。一方、ロシア軍はマリウポリから兵力を北進させる動きも続けている。地上部隊の大部分がマリウポリから離れているといい、ドンバス地方で抵抗するウクライナ兵を包囲することが狙いとみられる。
米軍によるウクライナ軍への軍事訓練も進んでいる。国防総省は、新たな攻撃型ドローン「フェニックスゴースト」について、約20人のウクライナ兵への訓練が1日から始まったことを明らかにした。ウクライナ国外で米軍が訓練し、その後ウクライナ兵が国内に戻り、他の兵士に使い方を伝える。フェニックスゴーストは米空軍がAEVEX社と共同開発した新型機で、米国が4月、東部での戦闘のための新たな軍事支援として発表していた。
●1日2兆5000億円の戦費に苦しむロシア、北方領土問題解決の好機 5/3
ロシア疲弊が北方領土奪還のチャンス
ウクライナ侵攻までのウラジーミル・プーチン大統領は生きのいい北極熊ではなかっただろうか。
しかし、今や深手を負ったクマと化した。理不尽な侵攻で多大の国損をもたらしている大統領を国民はいつまで許すのだろうか。
プーチンは西側諸国の金融・経済制裁は全く影響を与えていないかのように語っている。しかし、家計を預かる主婦たちからは、物価の値上がりで困惑している声が聞こえてくる。
金回りが悪くなって各種企業などの経営が行き詰まり、失業者が増えてくれば、暢気なことは言っておれなくなるに違いない。
国民から怨嗟の声がふつふつと上がり、大統領を追い落とす動きも出てくるだろう。
しかし、権力をなくしたら地獄が待っていると知っているプーチンがすんなりと椅子を明け渡すとは思えない。一波乱があるかもしれない。
いま日本が注目すべきは、プーチンの運命ではない。
ロシアの疲弊と北方領土を抱えておけない状況の到来である。その好機を見逃がしてはならない。
ロシアの経済的困窮
ロシアが2月24日にウクライナ侵攻を開始して以降の戦費を試算した欧州の調査研究機関は、3月上旬、人的被害の影響なども含めて1日当たりのコストが200億ドル(約2兆5000億円)超になるとはじき出した。
米国の経済紙フォーブスは、3月中旬時点でウクライナ軍の情報に基づく兵器の損失額について、約51億ドル(約6400億円)と報じた。
ロシアのショイグ国防相は3月25日にルシアノフ財務相と軍予算の増額について協議したとされる。
ストックホルム国際平和研究所によると、ロシアの2020年の軍事費は約617億ドル、軍事費の国内総生産(GDP)に占める比率は4.3%で、米英に比しても高かった。
報道されるコストには大きな開きがあるが、侵攻の戦費負担が軽くないことは確かである。ペスコフ露大統領報道官は、4月7日、「露軍に甚大な損失が出ている」と認めた。
その後も戦闘は続いており、至近距離での戦闘を避け、人的損害の防止のために遠距離攻撃も可能なミサイルを多用する方向にある。
高額のミサイル使用と、兵器の損失・補充で戦費は一段と嵩むことになる。
欧米の対ロ経済制裁で外貨獲得が難しくなる中、戦費拡大はロシアの財政を直撃するとされる(「産経新聞」令和4年4月10日付)。
ロシアが2014年にクリミア半島を併合した時も、国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除案が浮上した。当時のロシア財務相は損失としてGDP(国内総生産)が年5%縮小すると試算したという。
今回は300行近くが加入する銀行の全部ではなく選択的に排除する方針(欧米の共同声明)であるが、主要銀行の多くが対象にされており、ロシア経済への影響は大きいとみられる。
ロシア最大手の銀行などにはドル決済を封じる金融制裁がすでに発動されていたが、新たにSWIFTから排除されれば、あらゆる通貨の国際取引もできなくなる。
制裁直後には通貨ルーブルや株式相場が急落し、米国のロシア専門家の間では国民生活への打撃がロシア国内の厭戦気分を高め、政権への圧力になると期待する声が上がっていた。
しかし、なぜか急落がやむどころか元の水準に戻り、プーチンの強気な発言や強硬姿勢につながっていった。
どんな手を使っているのか詳細は不明だが、監視されている中国はなかなか加担しにくいと思われる。
大国を任じているプーチンにとっては「負けました」と簡単に白旗を挙げるわけにもいかない。
ロシアの今年の経済成長率は10%超落ち込むと予測されている。その上、ウクライナを西側諸国は補強しているので、戦闘は少なくとも年内は続くという見方さえある。
大統領の強気にかかわらず、ロシア国民の厭戦気分が高まるのは必定であろう。
頭脳流出が30万人超
経済成長率の落ち込みも大きいが、頭脳流出はロ経済を長期低迷に追い込むのは必至とみられる。
侵攻直後に、2021年ノーベル平和賞を授与されたリベラル紙「ノーバヤ・ガゼータ」のムラトフ編集長はネット動画で「悲しみと恥ずかしさを感じている」と語ったし、同紙は侵攻翌日の紙面記事をロシア語とウクライナ語で掲載し、「反戦の意」を示したという。
今回の侵攻で、日頃プーチン政権を支持してきた有識者や文化人の間からも「理解を超えている」といった類の発言が聞かれた。
こうした有識者たちが、言論封殺や情報統制に耐え切れず、国外脱出している。その数は2か月足らずで30万人超とも報道されている(「産経新聞」令和4年4月21日付)。
流出の大部はIT(情報通信)、医療、金融、芸術分野など、高い技能や知識を持つ頭脳労働者だと言われ、人数ではIT関係者と企業経営者が3分の1(約10万人? )ずつを占め、残りは医者、コンサルタント、デザイナー、ジャーナリストなどとされる。
出国の理由は「侵略者の国に住みたくない」「自身の自由が奪われないか心配」「(制裁で)多くの事業パートナーを失いロシア国内で収入を得られなくなった」などだという。
しかも、国外脱出の半分以上の57%が34歳以下の若年層で、68%は帰国意思がないかロシアを長期間離れる考えという。
情報統制と違反者への罰則強化などから、プーチン政権支持は従来の60%台から83%にまで上がった。
政府系のテレビからしか情報を得ない高齢者はロシアの行動に賛成する意見が多く、SNSなどから情報が得られる若い年代の人は、ロシアの報道に疑問を持ちながらも、罰則などから発言も慎重にならざるを得ない。
また、調査は対面方式で行われ、「支持しない」などの意見は言いにくい環境であったとされ、限りなく「作られた」支持率に思える。
中国は「千人計画」などによるヘッドハンティングで軍民融合の著しい発展をもたらした。
ロシアの30万人超の頭脳流出には千人や万人を超える超有能な人物も含まれているに違いない。そうなれば、科学技術を初めとする多くの分野で著しい停滞が避けられないのではないだろうか。
ロシアが直面する混乱と困窮
国力が衰退し、あるいは混乱期には領土の割譲や勢力圏の縮小などが生起する。
過去にはアラスカの米国への売却があった。アラスカは元来ロシアの植民地で、セイウチの骨やラッコの毛皮などが主要産品であった。
ところが乱獲から資源が枯渇し、期待されていた金の採掘も見通しが立たなくなっていた。
また、クリミア戦争(1853〜56年)が始まると、英仏トルコの同盟軍が海路をコントロールしていたため、アラスカへの補給や保護ができないことが明らかになった。
今日のような戦略的な価値を見出していたわけでもなかったことから足手纏いになるとして、良好な関係にあった米国に1867年に720万ドルという象徴的(安価)な売却になったとされる。
ベルリンの壁が崩壊(1989年11月9日)すると、ドイツ再統一が語られ始める。
問題はNATO(北大西洋条約機構)との関係であった。
西ドイツの首相も米国の国務長官もソ連の同意を得るために、「NATOは東へ1インチたりとも拡大してはならない」と発言していた。こうして壁崩壊から1年もたたない1990年9月、ドイツの統一が認められた。
この時の「東へ」は「東ドイツへ」の(NATO軍などの)配備はしないということであって、「東欧諸国へ」の意ではなかったというのが、当時取り決めにかかわった東西ドイツと米英仏の見解である。
2年後の1991年12月にはソ連邦が崩壊し、ロシアが誕生する。
ロシアは長年、NATOの東方拡大を自国の命運がかかった重大問題だと訴えてきた。その際、ロシアはドイツ再統一交渉の過程でNATOを東方に拡大しないと約束したのに、その後、一方的にその約束を反故にしたと主張してきた。
ウクライナ侵攻直後の停戦交渉でも、プーチンはウクライナのNATOへの非加盟を求めた。しかし、米国などは「そんな約束はない」と一蹴している。
アラスカ買収でも東ドイツの吸収でもロシア(ソ連)の弱みに付け込んできたことは確かである。
これが国際政治の現実で、日本も北方領土の奪還や国益増大に活用しない手はない。すなわち、ロシアの疲弊と上手に向き合うことだ。
サハリン州知事もモスクワの尻馬に乗って、高飛車な発言を繰り返してきた。しかし、中央からの支援がなくてはどうにもやっていけないことは目に見えている。
煮え湯を飲まされてきた日本
ソ連が解体した直後のエリツィン大統領時代、北方領土問題に明かりが灯ろうとしていた。それを無造作に吹っ飛ばしたのがプーチンの登場であった。
ボリス・エリツィン時代は民主主義的体制への移行期で、主張は合理的でなければ通らなかった。
細川護熙首相との合意で出された東京宣言(1993年10月)も橋本龍太郎首相との会談で出されたクラスノヤルスク合意(1997年11月)、川奈提案(1998年4月)も、領土問題とは4島の帰属問題であり、国境画定の問題であることを明確にした。
プーチンも大統領となって間もなく訪日して森喜朗首相と会談、その4か月後には首相が訪ロしてイルクーツク声明(2001年3月)を出す。
骨子は、日ソ共同宣言(1956年)は有効で、交渉プロセスの出発点とする、東京宣言に基づき4島の帰属を解決して平和条約を締結するというもので、エリツィンの線を離れてはいなかった。
しかし、民主党政権時代にはプーチン首相の手綱で動いていたドミトリー・メドベージェフ大統領が国後を訪問するなど、恰も領土問題はないかのごとく行動し始める。
安倍晋三首相の再登板で交渉停滞を打破するため、経済協力をやりながら領土問題解決につなげるという「新しいアプローチ」を試みた。
しかし、クリミア半島併合(2014年)で支持率を上げたプーチンは北方4島に軍隊を配備し、ミサイル基地化を図り、演習も盛んに行うなど、大統領の態度は日本に煮え湯を飲ませるように一段と硬直化していった。
国家の衰退が解決のチャンス
国際社会は腹黒さに満ちている。日露関係について、エリツィン以降の交渉をみただけでも歴然としている。
ソ連が崩壊した直後のエリツィン時代、一度は領土確定協議まで進みそうになったが、プーチンになり、言を左右し、近年は返還どころか日本を騙して(ダシにして)北方4島の永久領土化の為の法制を作り、軍事基地化さえ果断に進めてきた。
日本に返還する意図はないと言外では語っているも同然で、奪還の夢は遠のくばかりの感じであった。
そうしたところに、ウクライナ侵攻があり、鎧袖一触どころか、国際社会から総スカンを食らう状況が生起した。
2か月経った今も戦争が続いており、年内は続くという見方さえ出てきている。
プーチンの強気とは裏腹に、ロシアの疲弊・衰退は確実であり、北方領土にかまっておれなくなる状況が現出するかもしれない。
領土問題は相手が弱体化したときが千載一遇のチャンスである。
日本がいかなる交渉を持ちかけるか。外務省の交渉力が問われる。
●「ヒトラーにユダヤ人の血」、ロシア外相発言にイスラエルが猛反発 5/3
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相が、ナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーに「ユダヤ人の血が流れていた」と発言し、イスラエルが猛反発している。イスラエル外務省は2日、ロシア大使を呼び出して謝罪を要求した。
ロシアはウクライナへの軍事侵攻について、ウクライナの非軍事化や非ナチス化を実現するためだと主張している。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はユダヤ系だが、ラヴロフ外相の今回の発言はウクライナをナチスと表現することを正当化するためのもの。
イスラエル外務省はラヴロフ氏の発言に対する反発を「明確に示す」ためロシア大使を呼び出し、謝罪を要求した。
第2次世界大戦中のナチス・ドイツによる大虐殺(ホロコースト)では、600万人ものユダヤ人が殺害された。
「ヒトラーにユダヤ人の血」
イスラエルでは4月末、最も厳粛な行事の1つであるホロコースト記念日を迎えたばかり。それから数日後の5月1日、ラヴロフ氏はイタリアのテレビ番組「ゾーナ・ビアンカ」のインタビューでヒトラーについて言及した。
インタビューの中で、ウクライナのゼレンスキー大統領自身がユダヤ系であるにも関わらず、なぜロシアはウクライナの「非ナチス化」のために戦っていると主張できるのか質問されると、外相は「私が間違っているかもしれないが、ヒトラーにもユダヤ人の血が流れていた。(だからゼレンスキーがユダヤ系であることは)全く意味をなさない。最も過激な反ユダヤ主義者はたいていの場合ユダヤ人だと、賢明なユダヤ人は言う」と答えた。
この発言に対し、イスラエル政界からは右派か左派かを問わず、一斉に怒りの声が上がった。
イスラエルのナフタリ・ベネット首相は、「このようなうそは、歴史上最も恐ろしい犯罪をユダヤ人自身のせいにし、ユダヤ人を抑圧した者をその責任から解放するためのものだ」と述べた。
「現在のどのような戦争も、ホロコーストではないし、ホロコーストに似てもいない」
同国のヤイル・ラピド外相は、ラヴロフ氏の発言は「許しがたい」と怒りをあらわにした。
「ラヴロフ外相の発言は許しがたい暴言であると同時に、恐ろしい歴史誤認でもある。ユダヤ人はホロコーストで自らを殺害してなどいない。ユダヤ人自身が反ユダヤだと非難するなど、ユダヤ人に対する最低レベルの人種差別だ」
イスラエルのホロコースト犠牲者を追悼する国立記念博物館ヤド・ヴァシェムのダニ・ダヤン館長も、ラヴロフ氏を非難した。
「彼の発言の大半はばかげていて、妄想で、危険だ。あらゆる非難を受けるべきだ」と、ダヤン館長はツイートした。「ラヴロフはホロコーストにおける立場を逆転させている。ヒトラーがユダヤ人の血筋だという全く根拠のない主張に基づいて、犠牲者を犯罪者に仕立て上げている」。
エルサレムで取材するBBCのジョン・ドニソン記者は、現地での反発の強さから、ラヴロフ氏の発言がイスラエルや世界中のユダヤ人にとってどれほど不快で不謹慎なものかがうかがえると指摘する。ロシア系住民が大勢暮らすイスラエルはここ数カ月、ロシアとウクライナの仲介役として対応しようとすることもあった。
しかし、ドニソン記者によると、イスラエル政府はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して十分な強硬路線をとっていないとの批判にさらされている。それだけに今回の出来事はイスラエルとロシアの関係を試すことになり得る。ラヴロフ氏の発言は多くの人にとっては不快なものだが、ロシア政府支持者の間ではよく見られる話だとドニソン記者は付け加えた。
「ナチスの犯罪をユダヤ人のせいに」
ゼレンスキー大統領は2日の演説動画の中で、ラヴロフ氏の発言を非難した。
「ロシア外相は最大の反ユダヤ主義者はユダヤ人自身の中にいるとされると、公然と、何のためらいもなく発言した」
「そして、ヒトラーにはユダヤ人の血が流れているとも主張した。ナチズムに対する勝利を祝う記念日の前夜に、どうしたらこのようなことが言えるのか。ロシアの外交トップがナチスの犯罪をユダヤ人のせいにしているというわけだ。言葉を失う」
「当然のことながら、今日イスラエルで一連の発言が大スキャンダルになっている。しかし、ロシア政府から反論や弁解の言葉はなく、沈黙が続いている。つまり、彼ら(ロシア政府)は外相と同意見というわけだ」
ゼレンスキー氏はまた、ロシア側の沈黙は、ロシア政府の指導部が「第2次世界大戦の教訓をすべて」忘れてしまったか、「おそらく、そもそもその教訓を学んだことがない」ことを示していると付け加えた。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、ラヴロフ氏の発言はロシアに「根深い反ユダヤ主義」があることを示す証拠だと述べた。
「ラヴロフ外相は、ロシアのエリート層の根深い反ユダヤ主義を隠しきれなかった。彼の凶悪な発言はゼレンスキー大統領、ウクライナ、イスラエル、そしてユダヤ人に対する侮辱的攻撃だ。さらに広く言えば、今日のロシアが他国に対する憎悪に満ちていることの表れだ」
米国務省のネッド・プライス報道官は、ラヴロフ氏の発言は「最低のかたちの人種差別」と「陰湿なうそ」だと述べた。
また、「クレムリン(ロシア政府)は、どこまで低レベルなまねができるか、自分たちには際限がないのだと、自ら証明し続けている」と指摘。ラヴロフ氏の今回の主張が「それを新たに示す一例」となったとした。
ヒトラーの父方の祖父がユダヤ人だという、未確認の説は何十年も前から存在する。ヒトラーの弁護士だったハンス・フランク氏の主張がきっかけで、このうわさに拍車がかかった。
フランク氏は1953年に出版した回顧録の中で、ヒトラーから自分にユダヤ人の先祖がいるといううわさを調査するよう指示されたと書いている。同氏は本の中で、ヒトラーの祖父が本当にユダヤ人だったという証拠を自分は見つけたのだと主張し、陰謀論者の間でこの説が広まった。一方で、主流な歴史学者たちはこれに懐疑的で、通説になっていない。
●ロシア実業家 “プーチン政権批判で圧力受けた” 米紙が報道  5/3
ロシアの実業家が、ウクライナへの軍事侵攻を続けるプーチン政権を強く批判したところ、その翌日、創業した大手金融機関の保有株式を売却するよう政権側から圧力を受けたと、アメリカメディアのインタビューで明らかにしました。侵攻に反対する世論が広がらないか、政権側が神経をとがらせていることをうかがわせています。
ロシア大手の民間銀行を創業したオレグ・ティンコフ氏は先月19日、インスタグラムに投稿し「このばかげた戦争で恩恵を受ける者は1人もいない。シンボルの『Z』の文字を書く愚か者もいるが、ロシア人の90%は戦争に反対している」と強く批判しました。
そして英語で「『西側諸国』の皆さん、プーチン氏の面目を保ちつつ虐殺を止められるような出口を与えて欲しい」と訴えました。
その後、先月28日、プーチン大統領に近いとされる富豪が率いる会社が、ティンコフ氏が保有する銀行のグループ会社の株式35%を取得したと明らかにしました。
アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、5月1日付けでティンコフ氏へのインタビューの内容を掲載し、それによりますと、投稿があった翌日にあたる先月20日、クレムリンの当局者が銀行の幹部に対して「あなたの株主の発言は歓迎されない。所有者が変わらなければ銀行を国有化する」と告げたとしています。
ティンコフ氏は、評価額よりはるかに低い価格で売却することを余儀なくされたとしたうえで「ロシアに将来があると信じることができない」と悲観しています。
ロシアでは、これまでも一部の富豪から軍事侵攻を批判する声は上がっていましたが、政権側としては、露骨な批判に対しては迅速に手を打った形で反対世論が広がらないか、神経をとがらせていることをうかがわせています。
●「戦勝記念日」前夜、プーチンは敗北を認めざるを得ないだろう−− 5/3
ロシアのプーチン大統領が5月9日の「対独戦勝記念日」でどのような演説をするのかが、大きな注目を集めているが、ウクライナの元参謀本部将校オレグ・ジダーノフ氏が、ウクライナ東部の戦況、プーチン政権内部の変動等について、ウクライナの独立系インターネットテレビ「ポリティカ・オンライン」(4月30日)でインタビューに答えた。その中でジダーノフ氏は、「『対独戦勝記念日』である5月9日を前に、プーチン大統領は敗北を認めざるを得ないだろう」と分析している。ジダーノフ氏は、旧ソ連軍時代の同僚がロシア国内の各地にいることから、ロシア軍の情報にも詳しい。なおこのインタビューはYouTubeで5月2日現在、119万ビューを超えている。
5月9日の「対独戦勝記念日」にプーチン大統領が総動員令を出すのではないか、と伝えられているが。
たしかに、ロシアが動員令を発することなしに戦況を変えることは不可能になっているが、総動員令はプーチンにとって、自分の頭を撃ちぬくようなものだ。総動員令を出すためには、「戦争宣言」をおこなわなければならない。現在は「戦争」ではなく「特別軍事作戦」だ。だが一般のロシア国民は、伝説的な「不敗のロシア軍」に期待をかけている。それなのに、プーチンが「ロシア人よ、銃を取って前線へ出ろ。軍がうまくいっていない。成果を出せていない」と言ったら、プーチンにとって最悪の結果を招くだろう。
5月9日には国境付近のいくつかの州レベルでロシアが動員令を出すことはありうるだろう。ロシアは「偽旗作戦」を使って、これまでにも州内での爆発、火災などを「ウクライナによるテロ行為だ」と言って、人びとを動員すべく準備を進めてきたからだ。5月9日にはプーチンは何らかの「勝利」を宣言しなければならないが、それは「新たな戦争」宣言ではないはずだ。それはロシア国民の失望につながるだけだ。ロシア全土での総動員令はありえない。
ロシアの田舎では、ウクライナでの「特別軍事行動」は遠い出来事だと受け止められてきた。しかし地方ではいま別の問題が起きている。シベリアのブリヤートには大きなスポーツ施設があるのだが、そこが葬儀所になっていて、供花が撤去される間もなく、兵士の棺桶が次から次に運ばれてきている。兵士の遺体がようやく家族の元に届けられるようになってきているのだ。わたしの得た情報によれば、ポーランドとの国境付近の飛び地、カリーニングラードに、昨日(4月29日)11体の遺体と34人の傷病兵が着いた。負傷兵のほとんどが手足を失っている。負傷兵たちも徐々に戦場での本当の出来事を語り始めるだろう。
安全保障会議のパトルシェフ書記が、ロシア南部の行政機関に、防空壕や避難所のチェックをするよう通達をだして、地元住民の不安が高まっている。
ロシアはウクライナ人を「狂暴な民族主義者、ファシスト、テロリスト」と呼んでいる。だから、自作自演の火事や爆発を引き金に地域限定的な「戒厳令」を出すことは時間の問題だろう。だがこれも逆効果になりうる。ロシア国内に相当数の難民が発生する可能性があるからだ。これは深刻な国内問題になる。
プーチンは最近ますます安全保障会議書記パトルシェフに信頼を寄せ、全権を任せるようになってきている。パトルシェフはクレムリンの権力闘争で勝ち残っていくようだ。もしプーチンが手術などで大統領職を一時的に離脱する場合、核のボタンはパトルシェフに移譲されることになっている。つまり、FSB(KGBの後身の連邦保安局)は初期の失敗の責任を、うまく国防省に押し付けたようだ。元FSB長官だったパトルシェフが、プーチンの信頼を利用して、軍幹部が懲罰対象となるように仕向けたのだろう。
現在、ロシア国内でもっとも力をもっているのは、FSBと国家親衛隊だ。国家親衛隊も戦闘には加わったが、常備軍ほどの数ではない。国防省は「シロビキ」(力の組織)の中では最も立場の弱いグループになった。
前線はどうなっているのか。ロシア軍は最大の攻撃をかけてくる、といわれていたが。
現状ではロシア軍はウクライナ軍に対して最大限の圧力をかけている。未確認情報だが、ゲラシモフ参謀総長がイジュームに来たようだ(米国防総省も訪問を確認)。現地部隊にハッパをかけ、5月9日までにどこでもいいから突破口を開かせたいのだ。だが、前線は膠着状態で5月9日までには無理だろう。
ウクライナ参謀本部によれば、ロシア軍は国境地域に残っていたおよそ2万の兵員補充をおこなって、部隊を国境からウクライナ領へ進軍させた。
参謀総長が来て、計画いっぱいの補充をおこない、軍を転戦させたわけだから、総攻撃を仕掛けてくるだろう。
参謀総長が現場に来るというのはどういう意味があるのか。
これはプーチンの命令ではなく、ゲラシモフ自身の判断だろう。自分のキャリアを守る最後のチャンスだ。もしドボルニコフ将軍が作戦の指揮を任されているとすれば、二人は競い合うことになる。ドボルニコフ将軍が作戦司令官を任されたというのは西側のメディアが報じているだけで、ロシア国内には確実な情報がない。いずれにしても、二人は同じ釜のメシを食い、同じ戦場で戦ってきたライバルだ。ゲラシモフ参謀総長は今回「電撃戦」に失敗した。一方ドボルニコフ将軍は、ゲラシモフの地位を狙える立場だ。ゲラシモフが来たのはプーチンの命令ではない。われわれはこの二人がどう競いあい、それぞれがどの軍を指揮するのか、注意深く見守っている。
ショイグ国防相は、すでにプーチンの信頼を失っている。パトルシェフとドボルニコフがショイグ国防相の追い落としを図ったのだろう。ショイグはプーチンの不興を買ったため、政治生命は完全に断たれた、という者もいる。当分姿を現すことはないだろう。
戦況は、シーソーゲームだ。敵が攻めてくればわれわれは引き、敵が引けばわれわれが攻める。いずれにせよ、ウクライナ軍が有利だ。防御戦だからだ。損耗はロシア軍の方が大きく、兵力もギリギリだ。われわれは防御しながら敵に陽動作戦を仕掛けている。われわれは多少でも戦闘能力の向上を図ることが可能だが、ロシア側は、この攻撃のためにかき集めた戦力も底をつきつつある。あと7日から10日はまだ戦闘可能だが、その後は再度補充が必要となる。
得てして軍人ではなく政治家が戦争を指導するとロクな結果にならない。現状を見る限り、命令はすべてプーチンが下している。戦場の論理と思想によってではなく、プーチンの政治的判断だ。つまり、どんな犠牲を払おうとも5月9日をめざせ、ということだ。だからこそウクライナ軍には有利な情勢なのだ。
プーチンは赤の広場でロシア国民に演説をしなければならない。すでに言ったように総動員令を発することは身の破滅となる。プーチンはこの特別軍事作戦が失敗したことを認めざるをえないだろう。いく人かの将軍は、プーチンに第二段階の作戦は中止し、戦闘能力をもつ部隊を残すべきだと進言する報告書を作成したようだ。この報告はゲラシモフ参謀総長やショイグ国防相を経ず、パトルシェフ安全保障会議書記が直接プーチン大統領に届けた。
プーチンは「勝つはずだ」という妄想にとらわれているから、もし敗北を認めるしか残されていないとすれば、その絶望と精神的な圧迫はとんでもなく大きいだろう。
プーチンはいつ敗北を認めざるをえなくなるのか。
5月9日の前夜だ。5月7日か8日、軍の指導部が来て、「われわれは課題を遂行できなかった」という報告を受ける時だ。その後、プーチンがどうするのか、わたしにはわからない。これはロシアの内政の決定的な転換点となるだろう。軍事パレードを中止するのかどうか。今回ロシアのいくつかの町ではウクライナで戦死した兵士の遺影を、その家族が胸に抱いて行進することになっている。
ベラルーシのルカシェンコ大統領もパレードには行かないようだが。
ルカシェンコは先日、ポーランドとの国境に軍を配備した。5月1日から始まるポーランドの演習に備えるためだというが、これによって、ルカシェンコはウクライナと戦う意思はないことを示したのだ。ルカシェンコは、身の安全さえ保証されれば、西側との協力も惜しまない姿勢だ。ロシアというタイタニックは沈没しかけている。ベラルーシは中国との関係が深いので、西側よりも、中国を頼りにする可能性はある。軍事部門を含めた共同計画も多い。
モルドバのトランスニストリア(沿ドニエストル)地方はどうなるのか?
トランスニストリアはすでに使い古されたカードだ。ウクライナのオデーサに向けた第二戦線を開こうという試みは成功しないだろう。われわれはオデーサの軍配置を変えるつもりはない。トランスニストリアはNATOから厳しい警告を受けた。米軍の戦術部隊がいざという時に備えてルーマニア・モルドバ国境に投入された。もちろんNATOはこの戦争とは距離を置く姿勢を変えていないが。
現状ではトランスニストリア地方のロシア軍は全モルドバ軍よりも強力だ。だが、大事なことは、ついにモルドバがロシアに対する制裁に加わったことだ。ルーマニアもモルドバへの財政支援を決めた。
米議会がようやくレントリース法(武器貸与法)を可決し、ドイツもようやく重火器の提供を決めたが。
まず重火器類はすぐにウクライナに届くわけではない。そして迫撃砲と違って2,3時間の教習で習得できるものでもない。スペシャリストが西側のシステムを習得する必要があるが、何とかなる。西側での教練も進んでいる。ドイツのラムシュタイン米空軍基地には武器を積んだ輸送機が次々にやってきている。民間の飛行場より忙しいくらいだ。4月26日のラムシュタインでの40カ国国防相会議の後、空軍基地は24時間体制で動いている。あとはウクライナ国内への輸送とスペシャリストの教習だけだ。
戦争というものは、軍改革には最高の時間で、この戦争によってウクライナ軍は旧ソ連の軍事体系から離れて、全面的に西側の軍備とシステムに移行することができる。
この8年、われわれはNATO標準への移行を議論してきたが、ようやく実戦で移行できるようになった。この戦争によってウクライナ軍はまったく別の、西側的な軍隊に生まれ変わった。
これまではロシア領内に届く長距離砲がなかったが、西側の援助で手に入れば、われわれもロシア領内の武器庫や輸送線を叩くことができるようになる。これは大きな利点だ。
ロシア側にも空襲警報が鳴り響くことになる。戦争がどういうものかを実感するだろう。
●「製鉄所脱出はプーチン氏のおかげ」ロシア報道 外相発言も批難の的 5/3
ヒトラーについて「ユダヤ人の血が流れていた」としたラブロフ外相の発言に猛批判が上がるなか、アゾフスタリ製鉄所で激しい黒煙が確認されました。製鉄所には、いまだ子ども20人を含む民間人が取り残されているとする情報もあります。
黒い煙が上がっているのは、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所です。
市民:「逃げ場がないんです。すべて破壊されて、どこに行けばいいの?小さい子どもがいるのに」
民間人の避難が始まったはずの場所で何が起きているのでしょうか。
アゾフ大隊・パラマル副司令官:「きょうは一日中爆弾が投下されている。私たちの計算では子どもが20人ぐらい。女性や高齢者など何百人もの大人がいます」
この製鉄所では1日、第1陣となる100人が脱出しています。その後も避難が続くはずでしたが、ロシア軍がすぐに攻撃を再開。2日に予定されていた第2陣の避難は中止されたとCNNは伝えています。
マリウポリ市議会によりますと、3日に再び民間人の避難が行われるといいます。
国連などの支援を受け、始まったばかりの民間人の避難。一方、この脱出について、ロシア側ではこう伝えられていました。
ロシア24(国営放送):「プーチン大統領のおかげでウクライナの民族主義者が製鉄所に閉じ込めていたマリウポリの市民を開放する作戦を行うことができました」
ロシアの国営放送は市民が脱出できたのは「プーチン大統領のおかげ」と強調。さらに「避難した男性は全員、ネオナチの団体に入っていないかチェックされている」と報じています。
常にウクライナ政府を「ネオナチ」と非難しているロシア。ラブロフ外相の発言が物議をかもしています。
ロシア、ラブロフ外相:「私の記憶が正しければ、ヒトラーにもユダヤ人の血が流れていた」
ユダヤ人を大量虐殺した側にユダヤの「血が流れている」とする謎の理論。
これにユダヤ系のウクライナ人のゼレンスキー大統領は猛反論しています。
ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「ロシアの外相がナチスの犯罪をユダヤ人のせいにしている。言葉が出ない」
さらに、これまでロシアへの制裁を行っていないイスラエルからも批判が…。
イスラエル、ラピド外相:「我々はロシアと良好な関係を保つためにあらゆる努力をしているが、限界があり、今回その限界を超えてしまった」
イスラエル側は謝罪を要求しています。
チャンス記者:「問題は今回のことがイスラエルの立場にどう変化を与えるかです」
そう伝えるのは戦場となったウクライナで取材を続け、ロシア軍とも遭遇したCNNのチャンス記者です。海外メディアが政権を批判することが難しくなったモスクワにあえて戻り…。
チャンス記者:「ウクライナにおけるロシアの行動。私たちは『特別軍事作戦』と呼ばないといけません」
この「特別軍事作戦」という言葉も来週には変わる可能性が出ています。
CNNによりますと、ロシアが「戦勝記念日」を迎える5月9日に「特別軍事作戦」を「戦争」と表現を変え、正式にウクライナに戦線布告する可能性があるということです。 

 

●天皇の戦争責任という難題…ウクライナ政府「昭和天皇とヒトラー」から考える 5/4
ツイッターの投稿が発端に
今年2月にロシアがウクライナに侵攻した。当初は軍事力で勝るロシアが圧倒するという予想もあったが、ウクライナ国民が良く準備していて勇敢かつ頑強な抵抗を示していること、アメリカ・ヨーロッパを含めた多くの国がウクライナを支援していることもあり、情勢は長期化しつつある。
日本も西側諸国の一員としてウクライナへの支援とロシアへの制裁に参加しているが、ロシアの関係者が核兵器の使用や、日本の領土への関心を口にするなど、安全保障の面でも憂慮するべき事態となっている。
そのような中で、4月上旬にウクライナ政府がロシアのプーチンを非難する意図の動画をツイッターに投稿し、そこにヒトラー・ムッソリーニと並んで昭和天皇の写真が登場した。
そのことを日本の一部の団体や人々が問題視して抗議したために、ウクライナ政府がその動画を削除する経緯に至っている。
4月下旬にはウクライナ外務省によるウクライナを支援する国への感謝の意志を表明する動画を投稿したが、その中に日本の名はなかった。ウクライナ側からは、「武器支援の文脈で感謝の意を示した」とあったが、日本からの抗議に謝意の表明があったという。
私は上記の2点に関して、非公式ではあっても日本からの抗議が行われ、それに対してウクライナ側の訂正や謝意といった反応を得たという経緯について遺憾に思っている。そのようなことは行われるべきではなかった。
これは道義的に問題であるし、国際社会における日本の信用を低下させ、ひいては安全保障の分野にも悪影響を与える内容であるからだ。以下に、その理由を説明していく。
日本と天皇の戦争責任をめぐって
昭和天皇の写真が出てきた動画については、次の二つの論点が関係している。
(1)昭和天皇の第二次世界大戦における責任問題を、どのように考えるのか。
(2)日本が全体として、第二次世界大戦でアジアをはじめとした周辺国に多大な損害を与えた事実を認識し、それを反省しているのか。
今回、このウクライナの動画を問題とみなしている人々は、その根拠として(1)の問題について、ウクライナによって「昭和天皇に戦争責任があった」と主張されたと理解し、それに憤り、強く抗議している。
確かにこの問題について考えることは容易ではない。
例えば2000年に出版された『天皇の戦争責任』という書物の中で、橋爪大三郎が「(天皇に)戦争責任はない」「なぜなら、天皇は、帝国憲法の定めに従い、立憲主義の精神に従って、行動したから」と主張したのに対して、加藤典洋は「戦争責任がある」「兵士たちに戦場に行くように命じ、彼らを死なせた」「道義的な責任」があったとする。
筆者も、この点についての意見を本論では表明しない。このような議論は、日本社会や日本的集団の意思決定のあり方、リーダーに期待される責任のとり方が特殊であるという認識と関連している。日本では、集団の格付けにおける最上位者が、必ずしも有事の際の最終責任者とみなされない場合がある。
したがって、昭和天皇の戦争の意思決定へのコミットメントのあり方は、ヒトラーやムッソリーニのそれとは異なっており、それにもかかわらず、ウクライナ政府がその点を同列に扱ったことについては、決して承服できないというのが、今回の一部の日本の関係者から提出された抗議のロジックのようである。
しかし、そのような日本の特殊事情を理解してもらうことを、世界中に求めていくことは、今後わが国が国際社会の中で生きていく上で、本当に現実的なのだろうか。これはあまりに複雑で、通常の近代的な法の感覚からは懸隔のある議論なのではないだろうか。逆に、私たちはそのような水準で、他の国家の特殊な事情を理解して配慮した行動を取れているのだろうか。
私が恐れるのは、上記の(1)について反論しているつもりが、(2)の「日本全体が、第二次世界大戦で周辺の国に多大な迷惑をかけたことを認め、反省していること」という国際社会のからの認識を覆そうとしていると、誤って受け止められてしまう危険性と、そうなった場合の損失の大きさである。
日本は戦後、戦争の過ちを反省し、平和国家に転換したことを表明し、それが受け入れられたことで国際社会に受け入れられた経緯を持つ。その前提を、日本が自ら覆そうとしていると誤解された場合に、国際的な信用・威信がどれほど失われるのかという点について、今回取り上げているようなウクライナへの抗議を行っている人々は、あまりにも軽く考えている。ドイツやイタリアから、同様の抗議が行われていないことの理由を考えてみる必要がある。
日本の安全保障とアメリカとの関係
問題を安全保障の分野に限定して、さらに議論を進めたい。
参照するテキストは古関彰一による『対米従属の構造』である。現在の日本の安全保障の基軸になっているのは日米安保条約であるが、アメリカ側ではそれに先立って、NATO(北大西洋条約機構)を念頭に置いた太平洋協定案が構想されていたそうである。
1951年の段階で、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、日本、アメリカ、場合によってはインドネシアを含めて、安全保障についての相互援助取り決めを結ぶことが目指された。
しかし、第二次世界大戦の記憶が生々しいこの時点で、太平洋島嶼国家から日本が信用を得ることはできなかった。フィリピンから日本の賠償・戦争責任問題が、オーストラリア、ニュージーランドからは、日本が再軍備することへの疑念が提出された。
アメリカは、これらの国に対して、冷静体制下で日本の復興が不可欠であること、そして日本の再軍備の脅威に対しては、アメリカと在日アメリカ軍が日本再軍備に対する「ビンの蓋」となり、日本軍が脅威となることを防ぐことになると力説する必要があった。
アメリカは結局太平洋協定を諦め、これを3分割し、オーストラリア・ニュージーランドとの安全保障条約、フィリピンとの条約、そして日米安全保障条約が締結された。
戦後の日本の安全保障は、日米安全保障条約を基軸に成立している。それについて、日本の主体性があまりにも制限されているという批判がなされている。
しかし歴史的な経緯を見る場合に、日本の周辺の国家は、日本が復興して再軍備を行うことを強く警戒していた。アメリカがそうなった場合の対処を行うという保障を行ったことで、日本の国際社会への復帰が許された経緯がある。
今後日本がこの分野でも主体性を確立したいと望むのならば、アメリカの保証がなくとも、日本が第二次世界大戦の戦禍をもたらしたことを十分に反省しており、戦前・戦中とは異なる新しい価値観を奉じる国家となったという国際的な信頼を得続けることが、不可欠な条件なのである。
その後、日米安全保障条約は、アメリカ側からは東西冷戦下におかえるソ連を封じ込めるための、冷戦終結後はアメリカの安全保障上の世界戦略を日本の協力を得ながら遂行するための機構の一部を担っている。
このような日本の安全保障をめぐる状況については、その注力する方向が、アメリカとの二国間関係に集中し過ぎており、他の同盟国との信頼関係を長期的な視点で構築していくことへ配慮が欠けていると批判することができるだろう。
誤解を避けたいのは、アメリカとの関係は決して軽視できないということである。アメリカとの関係が最重要であるという認識を外すことはありえない。しかしそれを基盤にしつつ、安全保障の観点から他の諸国との信頼関係を構築していくことも、十分に意図されねばならない。
私たちは現在、ウクライナが安全保障について、実に巧みに多くの国からの信頼を得て、多くの援助を引き出している姿を目にしている。一方、もし日本に安全保障上の危機が生じてしまった場合に、同じように多数の国から援助を受けられるはずであると、筆者は確信を持って予想することができない。
このような状況で、安易に「日本は第二次世界大戦の戦禍をもたらしたことについて、本当は反省していないのではないか」と誤解されるような行動は、慎まれるべきである。
●ロシア正教会司祭、ウクライナ侵攻を批判 投獄も覚悟 5/4
ロシア正教会のゲオルギー・エデリシュテイン(Georgy Edelshtein)司祭(89)は、ウクライナでのロシアの軍事作戦に反対している。だが、異論を唱える人との議論は歓迎だ。自宅の居間の肘掛け椅子を指さし、「反対派の1人や2人はここに座っていてほしい」と話す。
ウクライナ侵攻に反対の声を上げたロシア正教会の聖職者は、一握りしかいない。白いひげをたくわえ、黒い祭服を着たエデリシュテイン司祭は震える声で、しかし、ためらうことなく主張する。「私は、悪い司祭なのだと思う。すべての戦争に反対してきたわけではないが、侵略戦争には常に反対してきた」
「(ウクライナは)独立国家だ。彼らが必要と考える国家を築かせればいい」。首都モスクワから車で6時間、コストロマ(Kostroma)州のボルガ川(River Volga)沿いにあるノボベールイカーメニ(Novo-Bely Kamen)村で、AFPの取材に語った。
2月24日にロシアが軍事行動を開始して以来、ロシア正教会の最高指導者キリル総主教(Patriarch Kirill)は好戦的な説教を展開。ロシアとウクライナの歴史的な一体性を損なおうとする「敵」を制圧するため、当局を中心に「結集」するよう国民に呼び掛けている。
ロシア正教会は、旧ソビエト連邦時代には国家保安委員会(KGB)の管理下で厳しい制限を受けていた。キリル総主教は2009年にモスクワ総主教に就任して以来、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領との関係緊密化に務め、西側の自由主義よりも保守的な価値観を重視してきた。
血にぬれた手
侵攻翌日の2月25日、エデリシュテイン司祭は、友人イオアン・ブルディン(Ioann Burdin)司祭(50)が記した書簡に署名した。そこにはこう書かれていた。
「ウクライナ住民の血は、ロシアの支配者や作戦命令を実行する兵士の手をぬらすだけではない。戦争を承認し、あるいは沈黙を守っている私たち一人ひとりの手をぬらしている」
書簡はコストロマ州カラバノボ(Karabanovo)村にあるブルディン司祭の教区教会ウェブサイトに掲載されたが、その後、削除された。コストロマの府主教は、ウクライナ軍事作戦に反対している司祭は160人中2人だけだとして、書簡を非難した。
だが、ブルディン司祭は批判をやめなかった。
3月6日の礼拝では、戦闘で命が失われていることについて説教した。
その日のうちに捜査当局から呼び出しを受け、尋問された。3月10日には、ロシア軍の「信用を失墜させた」罪で3万5000ルーブル(約6万3000円)の罰金を科された。再犯すれば3年以下の禁錮刑が科される可能性がある。
汝、殺すなかれ
それでもブルディン司祭は軍事作戦を非難する。州都コストロマ近郊の自宅で「私にとって『汝、殺すなかれ』という聖書の戒めは、無条件のものだ」とAFPに話した。
ブルディン司祭によれば、プロパガンダに影響されやすい聖職者も多く、制裁や訴追を恐れもあり、ウクライナ侵攻に反対する人はほとんどいない。メッセージアプリのテレグラム(Telegram)に自身のチャンネルを持つブルディン司祭も、警察に監視されている。
エデリシュテイン司祭は、ブルディン司祭について「私より勇気がある。私はもう引退している」と語った。
ただ、2人とも自身を反体制派だとは考えてはおらず、総主教に背くよう信者に呼び掛けているわけでもない。
「話すときに自己検閲し、罪が罪であること、流血は容認できないことについて沈黙するならば、たとえ教会に所属していたとしても、知らず知らずのうちに、徐々に司祭であることをやめることになるだろう」とブルディン司祭は語った。
●ロシアはレイプも戦術利用、プーチン氏は「戦犯」=ウクライナ検事総長 5/4
ウクライナのイリーナ・ベネディクトワ検事総長は3日、ロシアはウクライナ侵攻にあたりレイプを戦術の一環として利用しているとし、ロシアのプーチン大統領は戦争犯罪を犯していると非難した。
ベネディクトワ検事総長は、ロシア軍が占領していた首都キーウ(キエフ)近郊イルピンを訪問。ウクライナ政府は、ロシア軍によるレイプや拷問のほか、その他の戦争犯罪の疑いについて情報を収集していると述べた。
検事総長によると、女性ばかりでなく、子どもや男性もレイプの被害者になった疑いがある。ロシアはレイプを戦略として利用しているかとの質問に対し「戦略だったと確信している」とし、「市民社会に恐怖を植え付け、ウクライナを屈服させるためにあらゆることを実施している」と述べた。
その上で、プーチン大統領はロシア軍の総司令官としてウクライナで起きたことに責任を負っていると指摘。「プーチン大統領は21世紀の主要な戦争犯罪者だ」と述べた。ロシア大統領府からコメントは得られていない。
●ウクライナの隣国モルドバで爆発相次ぐ ロシアの介入懸念  5/4
ウクライナの隣国モルドバの沿ドニエストル地方では、先月下旬、2つの電波塔が破壊されるなど複数の爆発が起きています。これらの爆発について欧米では、ロシアやロシア寄りの地元当局が、モルドバから攻撃を受けたように装うための自作自演ではないかという見方が根強く、ロシアが攻撃を受けたという名目で沿ドニエストル地方に介入してくることが懸念されています。
背景には、モルドバの沿ドニエストル地方が1990年に一方的に分離独立を宣言し、現在、ロシア軍が駐留するなどロシアの強い影響下にある中で、今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻が、ウクライナ東部2州の親ロシア派が事実上、支配している地域の保護を名目に始まったことがあります。
こうした中、2014年までモルドバの国防相を務めたビタリエ・マリヌッツァ氏が3日、沿ドニエストル地方に隣接する町でNHKのインタビューに応じました。
マリヌッツァ元国防相は沿ドニエストル地方で先月、相次いだ爆発について「ロシアによって行われたものだ。なぜなら、沿ドニエストル地方はみずからに決定権はなく、ロシアが完全にコントロールしているからだ」と述べました。
そのうえで「ロシアはモルドバを不安定にするため、混乱を引き起こしたいのだ。そしていつか、国内の動揺を利用してモルドバをも乗っ取ろうとするのではないか。最近のロシアの高官たちの発言を見ると、彼らの標的のリストにモルドバは入っている」と指摘しました。
そしてマリヌッツァ元国防相は「この30年、モルドバでは軍事への投資は十分ではなかった。軍事力は限られている。10年にわたってEU=ヨーロッパ連合に加盟しようとしてきた国としてヨーロッパ各国から支援を受けたい」と述べ、ロシア軍に対抗するには、ウクライナのように欧米から軍事支援を受けることが必要だと訴えました。
●“サイバー攻撃のリスク ウクライナ侵攻などで高まる” 政府  5/4
ロシアによるウクライナへの侵攻や「エモテット」と呼ばれるコンピューターウイルスの感染拡大などを踏まえ、サイバー攻撃のリスクが高まっているとして、政府は大型連休中や連休明けにはセキュリティー対策に注意するよう呼びかけています。
内閣サイバーセキュリティセンターや経済産業省などは、ロシアによるウクライナ侵攻などを踏まえ、サイバー攻撃のリスクが高まっているとして注意するよう呼びかけています。
感染すると端末の連絡先やメールの内容が盗み取られ、偽のメールを広げるコンピューターウイルス「エモテット」は、先月から添付されたファイルを開いただけで感染するおそれのある手口も出てきています。
内閣サイバーセキュリティセンターは、ウイルスへの感染は特に連休明けに起きやすいとしていて、情報システムの責任者には最新の脆弱性の情報を確認したうえで、バージョンアップなどの対応をとることなどを求めているほか、社員や職員にはたまったメールを確認する際は添付されたファイルやリンク先に不用意にアクセスしないことなどを呼びかけています。
内閣サイバーセキュリティセンターの吉川徹志副センター長は「一度被害が発生すれば事業に大きな影響を与える可能性がある。特に連休明けには意識した対応をお願いしたい」と話しています。
●ロシア軍 ウクライナ東部で攻勢 ドネツク州で市民21人死亡  5/4
ウクライナ東部では、ロシア軍が攻勢を強めていて、3日にはドネツク州で市民21人が死亡しました。欧米側は、ウクライナへの軍事支援をさらに強化する姿勢を鮮明にしていますが、ロシアのプーチン大統領は、欧米側による武器供与をけん制するなど、緊張が続いています。
ロシア国防省は3日、ウクライナ東部のルハンシク州やドネツク州にあるウクライナ軍の地対空ミサイルやアメリカ製のレーダーを攻撃したほか、司令部を含む軍事施設を破壊したと発表し、東部への攻勢を一層、強めています。
ドネツク州のキリレンコ知事は3日、自身のSNSで、ロシア軍の攻撃によって州内で市民21人が死亡したと明らかにしました。
また、西部リビウでは3日夜、市内の3か所の変電所や水道関連の施設にロシア軍のミサイル攻撃があり、2人がけがをしたほか、市内の電力供給に影響が出たと、市長がSNS上で明らかにしました。
こうした中、イギリスのジョンソン首相はロシアによる軍事侵攻以降、外国の首脳としては初めて、ウクライナの議会でオンラインによる演説を行い、日本円でおよそ490億円相当の追加の軍事支援を表明しました。
また、アメリカのバイデン大統領は、ウクライナへの軍事支援の象徴ともなっている対戦車ミサイル「ジャベリン」を生産している南部アラバマ州の工場を視察し、さらなる支援の強化のために議会に求めている330億ドル、日本円でおよそ4兆3000億円に上る大規模な追加予算を承認するよう重ねて呼びかけました。
ロシア軍による攻撃が続く中、欧米側は、ウクライナへの軍事支援をさらに強化する姿勢を鮮明にしています。
こうした動きに対して、プーチン大統領は、3日に行われたフランスのマクロン大統領との電話会談の中で「西側諸国がウクライナへの武器供与を停止することで、残虐行為を阻止できる」と一方的に主張して、欧米側による武器供与をけん制するなど、緊張が続いています。
一方、ロシア軍は3日、東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所への攻撃を再開したと発表し、製鉄所にとどまっているウクライナの「アゾフ大隊」の副司令官は、攻撃で女性2人が死亡、およそ10人がけがをしたとしています。
製鉄所からは、国連などの支援でこれまでに101人の市民が避難したということですが、攻撃が再開されたことで今後の避難の見通しはたっておらず、製鉄所の中に残っているとされる数百人の市民が戦闘に巻き込まれることが懸念されています。
●ロシア軍、マリウポリ攻撃再開 オデーサやリビウも砲撃 5/4
ロシア軍は3日、民間人が脱出したウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所に対する攻撃を再開した。東部ドネツクや南部オデーサ(オデッサ)、ポーランド国境に近い西部リビウなどへの砲撃も行った。仏ロ首脳が電話会談を行うなどの外交努力も続けられたが、ロシアが報復的経済制裁を打ち出すなど対立は深まっている。
ロシア軍の攻撃続く
ロシア国防省は3日、ロシア軍がオデーサ港近くの軍用飛行場をミサイルで攻撃し、米国や欧州の同盟国がウクライナに供給したドローン(小型無人機)のほか、ミサイルや弾薬などを破壊したと表明した。
また、リビウのアンドリー・サドビイ市長は、3日夜の空爆で発電所が損傷し、一部の地区で停電していると明らかにした。
このほか、ドネツク州のアビディフカでコーキング工場がロシア軍の砲撃を受け、州知事によると少なくとも10人が死亡、15人が負傷した。ウクライナ大統領府は、ドネツク地域は絶えず砲撃にさらされているとしている。
マリウポリの製鉄所から民間人脱出
国連の人道問題調整官はこの日、アゾフスターリ製鉄所から101人の民間人脱出に成功し、南部ザポロジエで人道支援を受けていると発表。ただ、マリウポリのボイチェンコ市長によると、同製鉄所には依然として200人以上の民間人が残されている。
ロシアによる侵攻前のマリウポリの人口は約40万人。現在も約10万人の市民がまだ市内にとどまっているという。
ウクライナのイリーナ・ベネディクトワ検事総長はこの日、ロシアはウクライナ侵攻にあたりレイプを戦術の一環として利用しているとし、ロシアのプーチン大統領は「21世紀の主要な戦争犯罪者だ」と非難した。
外交努力
この日は英国のジョンソン首相がウクライナ最高会議(議会)でオンライン演説を行い、ウクライナに対する一段の軍事支援の提供を表明。「ウクライナは勝利し、自由を勝ち取る」と述べ、電子戦装備や対砲台レーダーシステムを含む総額3億ポンド(3億7500万ドル)の追加軍事支援の提供を確約した。
また、フランスのマクロン大統領はプーチン大統領と電話会談を実施。ロシアによる黒海の港封鎖でウクライナの食料輸出が制限されている問題の解決に向け、マクロン氏が国際機関と取り組む意思があると伝えたほか、ドンバス地方とマリウポリの状況を深く懸念しているとし、停戦の必要性を改めて訴えた。
ドイツのショルツ首相は、ロシアがウクライナで国際法に違反したことを考慮するとロシアが他国を攻撃する可能性は否定できないと指摘。またフィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)加盟を決定したらドイツは支持すると表明した。
制裁措置
ロシア大統領府はこの日、プーチン大統領が「一部の国や国際機関の非友好的行為」に対する報復的経済制裁の大統領令に署名したと発表。制裁の対象となる個人や団体は明らかにしていないが、制裁対象の個人・団体への製品や原材料の輸出が禁止される。
一方、欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表はEUが策定している対ロシア制裁第6弾について、原油産業を対象とするほか、より多くのロシアの銀行が「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除されると明らかにした。
EUの執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は4日に新たな制裁措置の案を公表する見通しで、ロシア産原油の輸入を年末までに禁止する措置が盛り込まれるとみられている。
●ロシア軍包囲 マリウポリの製鉄所 現地に数百人の市民残る  5/4
ロシア軍に包囲されているウクライナ東部のマリウポリの製鉄所からは、国連などの支援によりこれまでに101人の市民が避難することができましたが、ロシア国防省は3日、攻撃を再開したと発表しました。フランスのマクロン大統領は、引き続き市民を避難させるようロシアのプーチン大統領に求めましたが、現地に残る数百人の市民が戦闘に巻き込まれることが懸念されます。
ロシア国防省は3日、ウクライナ東部のルハンシク州やドネツク州にあるウクライナ軍の地対空ミサイルや弾薬庫のほか、アメリカ製のレーダーを攻撃したと発表しました。
また、司令部を含む軍事施設39か所を破壊したとするなど東部への攻撃を一層強めています。
こうした中、ロシア軍に包囲されている東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所からはこれまでに女性や幼い子どもを含む101人の市民が避難することができたと、支援を行った国連の担当者が3日、明らかにしました。
避難先の南東部ザポリージャに到着した女性はメディアの取材に対し「毎晩、眠るときに再び目を覚ますことができるのかと考えていました。攻撃で大きく揺れる建物の地下のシェルターにいる恐ろしさは、ことばでは言い表せません」などと、製鉄所内での体験を話していました。
しかし、ロシア国防省は3日、製鉄所にとどまっているウクライナの「アゾフ大隊」が攻撃を仕掛けてきたとして、製鉄所への攻撃を再開したと発表し、地上からだけでなく上空からも攻撃したとしています。
「アゾフ大隊」の副司令官は3日、SNSのテレグラムに動画を投稿し、ロシア軍の攻撃で女性2人が死亡し、およそ10人がけがをしたと明らかにしました。
ウクライナのベレシチュク副首相は「製鉄所の中には、まだ数百人の市民が残っている」と述べ、市民の避難を実現するよう、訴えました。
また、3日、ロシアのプーチン大統領とおよそ1か月ぶりに電話会談を行ったフランスのマクロン大統領もマリウポリなどの状況に懸念を示し、引き続き製鉄所から市民を避難させるようプーチン大統領に求めました。
しかし今後の避難の見通しは立っておらず、ロシア軍が攻撃を続ける中、現地に残る数百人の市民が戦闘に巻き込まれることが懸念されます。
●露の侵略長期化 誤りを認めないプーチン氏  5/4
ロシアはウクライナ侵略の誤りを認めず、事態は長期化の様相を呈している。国際社会はロシアの理不尽な主張と威嚇を退け、収拾への圧力を強めなければならない。
侵略から2か月以上が過ぎても、露軍はウクライナの民間施設も含めて攻撃を加え、東部や南部を中心に支配地域の拡大を図っている。ウクライナ軍は徹底抗戦を続けており、一進一退の戦況は当面変わりそうにない。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は、「戦争が何か月、何年にも及ぶ可能性」に言及している。ロシアは対独戦勝記念日の9日に合わせた「勝利宣言」をもくろんでいたはずだが、誤算に終わりそうだ。
すべての責任は、国際社会の厳しい批判に耳を傾けず、外交による事態打開にも応じようとしないプーチン露大統領にある。
モスクワを訪問したグテレス国連事務総長が、侵略は国連憲章違反だとして攻撃停止を求めたのに対し、プーチン氏はウクライナ側に責任があると主張した。露軍による民間人虐殺も否定した。
両者のやりとりはロシアのテレビで流され、プーチン氏がグテレス氏を威嚇しているような印象を与えた。会談を一方的な宣伝に使おうという意図は明白だ。
グテレス氏がその後、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問している最中にも、ロシアのミサイルが撃ち込まれた。国連の権威に挑戦する暴挙である。
ロシアが世界平和を担う国連安全保障理事会常任理事国の責任を放棄し、法に基づく国際秩序を揺るがしているのは許されない。
プーチン氏は「我々の反撃は稲妻のように早い」「誰も持っていないような全ての手段がある」などと核兵器使用を示唆した 恫喝どうかつ も繰り返している。言語道断だ。
国際社会は長期戦に備え、対露制裁とウクライナ支援を一層強化する必要がある。プーチン氏が侵略の失敗と国家の弱体化を認め、停戦や軍の全面撤収に踏み切るような状況を作らねばならない。
一方、ウクライナの民間人保護は一刻を争う問題だ。
露軍が包囲している南東部マリウポリの製鉄所では、地下で救助を求めていた人々の退避がようやく始まった。国連の説得にロシアが応じたとみられるが、全員がウクライナの支配地域に脱出できるかどうかは予断を許さない。
製鉄所への攻撃停止と安全な退避の実現は、ロシアが果たすべき最低限の責務である。
●ロシアがウクライナ侵攻の目標転換か、制圧地域の併合目指す−関係者 5/4
ウクライナ侵攻開始から10週間近く経過しても同国東部のロシア軍掌握地域が大きく拡大していないため、ロシアはこれまでに制圧した地域の軍事・政治的支配を固めることに軸足を置いている。
ロシアは親ロ派の知事・市長を一方的に任命し、ロシア通貨ルーブルの使用を義務化。さらに関係者3人が匿名で明らかにしたところでは、一部地域でロシアとの完全併合に道を開く住民投票の早期実施を計画している。ロシア大統領府にコメントを求めたがこれまでに返答はない。
プーチン大統領はゼレンスキー政権を排除し、ウクライナの大半を支配する親ロシア政権樹立を目指していたが、この目標から大きく後退することになる。
住民投票実施に向けた動きは、既に行き詰まっている和平交渉の新たな障害になる可能性がある。ウクライナ側は同交渉で、2月24日の侵攻開始以降にロシアが占領した地域の返還を求めてきた。米国や同盟国からの武器支援を受けているウクライナ軍はこれらの地域奪還を目指している。
●ジョンソン英首相、ウクライナ議会にビデオ演説 西側の対応遅すぎたと 5/4
ボリス・ジョンソン英首相は3日、ビデオ回線を通じてウクライナ最高会議(国会)に向けて演説し、ロシアの脅威に対する西側の対応が遅すぎたと認めた。ロシアの軍事侵攻開始以来、外国首脳がウクライナ議会へ向けて演説するのは初めて。
ジョンソン首相は通訳を介して、ロシア軍の侵攻に立ち向かうウクライナをたたえた上で、ロシアが2014年にクリミア半島を併合した際に西側諸国がしたような、「同じ間違いを繰り返すわけにはいかない」と述べた。当時の西側は「事態の真相を把握するのが遅すぎ」、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して一丸となって制裁を加えられなかったとも話した。
「私たちは同じ間違いを犯すわけにはいかない」と、ジョンソン首相は述べた。
ジョンソン首相は、「みなさんはプーチンの不敗神話を打ち砕き、軍事史と皆さんの国の命において最も栄えある一章を書き加えました」とウクライナの人たちをたたえ、「抵抗不能と言われたプーチンの戦争の仕組みは、ウクライナの愛国心という不動のものによって打破されました」と述べた。
ジョンソン首相はさらに、第2次世界大戦中のイギリス首相、サー・ウィンストン・チャーチルの言葉を引用し、「今こそウクライナが最も見事な時です。今後何世代にもわたり記憶され語り継がれる日々です」と述べた。チャーチル元首相の言葉は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が3月に英議会へ向けて演説した際にも引用された。
「自分たちの自由を断固として守る人たちの道義の力を前に、侵略者の野蛮な力など無意味なのだと、ウクライナの人たちが世界にそう教えたのだと、皆さんの子供たちや孫たちは語り継ぐでしょう」
ジョンソン首相はさらに、イギリスが提供する3億ポンド分の追加軍事支援の内容を説明した。今後数週間のうちにイギリスからウクライナへ、電子戦の機器、対砲兵レーダーシステム、GPS電波妨害機、暗視装置などが送られるという。
首相の演説が終わると、ウクライナ議員たちは立ち上がり拍手した。続いてゼレンスキー大統領が、イギリスとウクライナは今や「きょうだい」のようだと述べ、「これほどの親友がそばにいてくれるなら、あれほど悪辣(あくらつ)な敵に攻撃されていても、怖くない。イギリスとはそういう友人だ」と支援に感謝した。
ゼレンスキー大統領はさらに、ウクライナ支援を表明しているサー・エルトン・ジョン、エド・シーランさん、デイヴィッド・ベッカムさんと家族など、様々なイギリスの著名人にも感謝の言葉を述べた。
イギリス政府がウクライナに追加供与する軍事支援の中には、砲弾やミサイルを感知し、発射兵器の位置を特定するレーダーシステムも含まれる。孤立したウクライナ部隊に備品を運ぶことができる重要運搬型ドローンも提供する。
英首相官邸によると、文官の政府関係者を指令拠点に移動させたり、ロシア軍が現在集中しているウクライナ東部で鉄道駅の修復を支援するため、特別仕様のトヨタ製ランドクルーザー13台も送る予定。
リズ・トラス外相は、ウクライナ政府が要請した走行車両も数日のうちにウクライナに届くと明らかにした。これは、ロシア軍の砲撃から避難する民間人の救出に使うためという。
●今後の影響…プーチン大統領“がん手術報道” 一時的に指揮権を“腹心”へ 5/4
ウクライナ侵攻の終わりが見えないなか、ロシアのプーチン大統領が、がんの手術のため一時、指揮権を手放すという報道がでています。
製鉄所から100人避難…直後に攻撃再開
黒い煙が上がっているのは、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所です。
市民:「逃げ場がないんです。すべて破壊されて、どこに行けばいいの?小さな子どもがいるのに…」
1日に民間人の脱出が始まった製鉄所では、その日うちに100人が避難。翌日も避難が行われる予定でした。しかし…。
アゾフ大隊、パラマル副司令官:「きょうは一日中、爆弾が投下されている。私たちの計算では、子どもが20人くらい。女性や高齢者など、何百人もの大人がいます」
最初の避難用バスが去った直後に、ロシア軍が攻撃を再開。地下に残っていた女性2人が死亡しました。
ロシアメディアは、攻撃を再開した理由を停戦中にウクライナ軍が地下から出て射撃体勢を整えたためだと報じています。
ミサイル攻撃…ウクライナ全土に空襲警報
そして、日本時間の4日未明、ウクライナ全土に空襲警報が発令されました。ポーランドとの国境近くにある西部の街・リビウでは、ロシア軍による新たな攻撃が行われました。
リビウ市長:「リビウでは、3つの発電所がミサイル攻撃を受けました。町の一部が停電し、2人が負傷、医師の診察を受けています」
他にも、首都キーウ、南部のオデーサ、東部ドニプロなど合わせて8カ所、ウクライナ各地で攻撃が行われたとみられます。
苦戦を強いられているロシア軍が、来週に迫った戦勝記念日を前に攻勢に転じたのでしょうか。
がん手術報道…指揮権を一時的に“腹心”へ?
そんななか、プーチン大統領に関する驚きの報道がでました。
デイリー・メール:「近いうちに、がんの手術を受ける」
デイリー・ミラー:「がんの手術のために姿を消す予定」
ザ・サン:「メスの下のプーチン“がんの手術を受け、強硬派の元スパイチーフに権力を渡す”」
先月30日、イギリスの大衆紙3社がそろって「プーチン大統領が、がんの手術を受ける」と一斉に報じたのです。
デイリー・メールによると、プーチン大統領は4月後半に予定していた手術を延期。5月9日の戦勝記念日より、後に行う予定だといいます。
手術後、すぐに復帰するのは難しく、その間の指揮を腹心であるパトルシェフ氏に委ねると報じました。
パトルシェフ氏は、どんな人物なのでしょうか。専門家は、次のように話します。
ロシアNIS経済研究所・服部倫卓所長:「(パトルシェフ氏は)元々、プーチン大統領と同じく、KGB(ソ連国家保安委員会)出身ですから。情報機関の出身者なわけですよね。政権内部でもNo.2みたいな位置付けですから。万が一、本当にプーチン大統領が一時療養ということになれば、パトルシェフ氏という線は全く妥当だと思います」
プーチン大統領が一時的にせよ、指揮権を譲るという事態になった場合、ウクライナ侵攻にどのような影響があるのでしょうか。
ロシアNIS経済研究所・服部倫卓所長:「今回の戦争に疑問を持って、内心、反対している人は多いと思うんです。そのプーチンが、盤石ではないということになると、そういう人たちが言葉にしたり行動に出したりと、そういうことが可能性として考えられる。ひょっとしたら、ある程度のところでロシアが停戦に動くことはあるかもしれません」
●ウクライナ高官、プーチン大統領の死が侵攻終わらせる唯一の方法と 5/4
ウクライナ国務省情報総局のトップ、キリロ・ブダノフ准将が、ロシアとの戦争を終わらせる唯一の方法はロシアのプーチン大統領の死であると地元メディアに語ったと、米オンラインメディアのデイリービーストが報じた。プーチン大統領に逃げ道を残すことは戦略の1つだが、それはほとんど非現実的だと語り、プーチン大統領が生きたまま戦争を終わらせるのは困難との見方を示したという。「彼は全世界から戦争犯罪者に指定されている。彼はこれで終わりだ。自分自身で袋小路に入り込んでしまった」と語り、暗殺計画やクーデターが起こる可能性があるのかなど詳細には触れていないものの「ウクライナが勝利する」と宣言したと伝えている。
3月末にウクライナの隣国ポーランドを訪れたバイデン米大統領は、「プーチン大統領は権力の座にとどまってはならない」と発言し、記者団から体制の転換を求めたのかと質問されるなど波紋を広げていた。また、先日ウクライナを訪問した米国のブリンケン国務長官は、プーチン大統領が権力を維持するかどうか決めるのはロシア国民次第だとの考えを示唆したことが伝えられている。
ブダノフ准将は、ロシアの将来についてもいくつかの国に分割されるか新たな指導者が誕生するかのいずれかの選択になるだろうと語っており、当初ロシアが「勝利宣言」するとみられていた9日の対独戦勝記念日を前に目標とする戦果達成が困難となっている中での発言だけにその真意が注目されている。
●プーチンが死ぬまで続く。ロシアの核使用で始まる“戦争の時代” 5/4
第2次世界大戦終了後80年近くの長きにわたり平和を謳歌してきた我が国ですが、戦時の生活を覚悟しなければならない時に来ているようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ロシアの核兵器使用による世界規模の戦争勃発が、もはや避けられない状況にあることを解説。さらにこの戦争における日本の役割を記すとともに、大戦後に訪れるであろう世界の姿についての考察も試みています。
世界戦争を覚悟する ウクライナ戦争の推移
ウクライナ戦争が、プーチンの覚悟で世界戦争になる方向である。ロシアの核攻撃になると世界戦争になる。その戦争と結果を検討する。
ウクライナ東部での戦争は、膠着状態である。徐々に重火器がウ軍に配備されて、ロシア軍は押されている。ロシア領内の石油貯蔵施設や鉄道、兵器庫へのドローン爆撃やミサイル攻撃は頻繁になっていた。
そして、いよいよウクライナ戦車隊が、ハルキウから追撃でクルスク方面のロシア本土へ攻撃を強化している。このことで、ロシア軍は防衛ラインを国内に構築する必要になってきた。反撃開始である。
当初ロシア領内攻撃の多くは、バイラクタルTB2ドローンでの攻撃であり、このため、3機がロシア領内で撃墜されている。ドローンとして自爆スイッチブレードやフェニックス・ゴーストなどがウ軍には供与されるので、ウクライナ領内のロシア軍攻撃はそちらに任せて、TB2は足が長く、レーダー捕捉されにくいので、ロシア領内の攻撃に使うようである。
前回英情報筋は、ウクライナ側の弱点を「大型兵器の不足」と指摘したが、米国の榴弾砲の半分が実戦配備されたようである。重火器も徐々にウ軍に供給されてきた。
このため、ロシア軍の被害が増えているようである。ロシア軍としては、西側諸国からの重火器援助を止める必要になっている。このため、モルドバ国内のロシア人の多いトランスニストリア地域からウクライナ西部に入り、ウクライナ東部への支援物資輸送を止めたいようである。
このためには、その地域にロシア軍が行く必要があり、ドニエストル川を上流に上るルートを侵略する必要があり、オデッサを迂回する可能性がある。またはルーマニアのブルト川河口付近での上陸作戦になるが、ルーマニアはNATO加盟国であり、これをすると、NATO軍との激突になる。
このため、ドニエストル川河口はウ軍の弱い地域でもあるので、上陸作戦も可能と見ている可能性もある。そして、モルドバ国内のトランスニストル共和国では、兵役年齢のすべての男性が同国領を離れることを禁止した。ということは本気だ。
それに対して、ゼレンスキー大統領は、「私たちは向こうの能力を理解しているし、ウクライナ軍はこれへの準備ができており、恐れていない」と述べた。上陸作戦に対応する準備があるということだ。もしかすると、準備できていないルーマニアでの上陸作戦もありえる。
そして、モルドバは、欧州で一番貧しい国であり、今までは対ロシア制裁にも加わらないで、ロシアを刺激しないようにしていたが、ロシアのモルドバ侵攻計画が出て、ウクライナへの軍事支援やロシア制裁に舵を切った。ロシアは、また1つ敵を増やしたようである。
もう1つが、プーチンは核戦争リスクに言及して、NATO諸国の援助をけん制している。しかし、NATO諸国は支援を止めるはずもなく、ロシアは、本気で核ミサイルを打つ可能性が出てきている。弾薬が少なくなり、稼働する戦闘機の枯渇もあり、このままでは、戦争に負ける可能性が出てきたことが大きい。
ロシア軍は5月9日の対独戦勝記念日に向けて猛烈な攻撃したが、ウ軍の重火器による反撃で、進めない状況である。目標としたドンバス地域の支配地拡大は、全然できないでいる。南部ヘルソンとマリウポリの制圧しかできていない。
そして、東部地域のウ軍レーダー網として、MQ-9リーパーがウクライナに供与されたことで、それに大型の監視レーダーを載せて、東部の防空システムに組み込むようである。
これにより、東部地域でも低空飛行のロシア軍機でも捕捉されることになる。徐々にウ軍の反撃体制が整い始めている。装甲車も多数ウ軍に供与されている。それに比べて、ロシア軍の歩兵装甲車はなくなり、普通のワゴン車が使われている。装甲車不足になっているようである。
このまま、長期戦になると、ロシアは物資不足と兵員不足になる。すでに、予備役は徴集を開始しているが、それでも不足して、特殊軍事作戦から大祖国戦争にして、ロシア国内で本格的な徴兵を開始するようであるが、戦車兵の訓練には1年程度かかる。
このため、ロシアは周辺同盟国に参戦を依頼しているが、北朝鮮は参戦する可能性がある。軍活動への支援金と装備と交換で戦争に参加することになるし、アルバニアなども参戦する可能性がある。
というように、ロシア軍だけではなく、ロシア同盟軍が参戦することになるが、中央アジアとベラルーシは参戦しないようだ。特にカザフスタンは、5月9日「ソ連、対独戦勝記念」の式典を中止する。明確な脱ロシアである。
手の震えがあるパーキンソン病に冒されているプーチンは時間がない。プーチンは自分が死ぬまでにウクライナを屈服させたいようである。時間との勝負なのであろう。
このため、世界世論でロシアが悪者になっている問題点を把握して、味方を増やすべく、G20に出席の予定という。直接世界の指導層にウクライナ侵攻の背景を説明したいようである。
歴史的に見ても、日中戦争が長期化して、補給路のベトナム国境地域を封鎖するために、戦争を拡大した事例があり、それと同じような志向がロシアの今の指導層に出てきてもおかしくない。戦争の拡大で、日本は米国を敵にするが、ロシアもNATOを敵にする可能性が高い。
ということで、ロシアが負けを大きく意識した時点で、ポーランドなどに核ミサイルを打ち込む可能性があり、心配である。いつになるのかだが、まだ1年程度先かもしれない。このため、米国防総省高官は、現時点でロシア核兵器使用の脅威はないと認識しているようだ。
しかし、この事態が起きると、世界戦争になる。核ミサイルの打ち合いとなり、ロシアは徹底的な破壊になる。日本も北方4島への出兵になるし、米軍は第2戦線構築でシベリア侵攻になる。その援護を日本が行う。
この事態になると、北方4島には少数のロシア軍守備隊しかいないので、簡単に征服できる。このため、ロシアは言葉で日本を脅すしかない。ロシアは自分の弱点である第2戦線構築を恐れている。
このため、シュルツ独首相が、この時期に急遽日本を訪問して、日独連携を確認したのだ。ドイツが中国とロシアとの関係を見直して、日本との関係を重視することにしたようだ。続いて、EUのミシェル大統領とフォンデアライエン欧州委員長が5月にも訪日予定である。
というように、ロシアの東西で挟み撃ちにする第2戦線構築に、日本が大きな力になるので、今から日本を重視してきやのだ。徐々に日本の重要性がEUでも認識されてきた。
世界は、ロシアのウクライナ侵攻で大きく変わったことを、日本も肝に銘じる必要がある。
「戦争の時代」はプーチンがパーキンソン病で死ぬまで続くことになる。次のロシア大統領になる予定のメドベージェフも戦争を続けると、10年以上も続くことになる。
世界大戦後の世界は
とうとう、専制主義国対民主主義国の世界大戦への覚悟をする必要になった。ロシアの苦戦を見て、中国はロシアとともに参戦するとは思えない。
ということは、ロシアが世界大戦に負けた後の世界を見ることになる。戦後は、ロシアも民主主義国になり、中国は民主主義国群に包囲されることになる。
迂闊に台湾への侵攻ができなくなるし、ロシア兵器模倣で近代化が遅れている陸海軍の装備も新しくしないと、民主主義国との戦いに勝てない。このため、侵略自体が当分できなくなる。
もう1つ、NATOまたは、NATO的な集団安保体制ができて、その組織に民主主義国全体が加盟するので、このNATOに戦いを挑むことは難しい。このNATOに台湾は加盟するはずで、その意味でも中国は、台湾侵略が難しくなる。
民主主義国群内部では、グローバルで活躍する人とローカルな人が分離するが、グローバルな人たちは人口の10%であり、その国では少数派である。そして、国の中で党派対立が起きることになる。
その兆候として、フランスではルペン氏とマクロン大統領であり、米国でもトランプ氏と民主党や共和党主流派などの国際派の対立である。
しかし、1つの国では、ローカルな人の方が多数を占めるので、グローバル派は、数の上で多いローカルな人たちをなだめるために、社会福祉を充実させることになる。
グローバルな人たちは、国際的に活躍する人であり、会社も世界企業になり、国の経済とは切り離されている。このため、国の経済を拡大させるインセンティブがない。しかし、グローバルな人たちが国の舵取りをするので、その意味で、国とかかわることになる。
このため、グローバルな人たちは、経済的合理性から国同士の戦いはしなくなり、グローバルな人が経営する世界企業同士の戦いになる。国はいくつの世界企業を持つかで経済規模が決まる。
しかし、経済合理性のない専制主義国は、ローカルな人たちで国の指導をするので、国の経済規模を大きくすることが重要であり、領土拡張という手段も使うことになる。領土拡張という行為は、戦争を意味するから問題である。
このため、戦争なるので、専制主義国を警戒する必要が民主主義国群にはあるのだ。
根本にはグローバルな人たちとローカルな人たちの戦いともいえることである。そして、グローバルな人たちが世界を指導することになるとみる。専制主義国も、早く民主主義国家群に参加しないと貧乏な状態のままになる。さあ、どうなりますか?
●ロシアで核使用プロパガンダ 平和賞編集長が警告「人類の終わり」 5/4
昨年のノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)を受賞したロシア独立系紙「ノーバヤ・ガゼータ(Novaya Gazeta)」のドミトリー・ムラトフ(Dmitry Muratov)編集長は3日、ロシアによるウクライナでの核兵器使用を正当化するプロパガンダを非難し、核を使えば「人類の終わり」の引き金を引くことになると警告した。
ムラトフ氏はスイス・ジュネーブで世界報道自由デー(World Press Freedom Day)の行事に出席。記者団に対し「核兵器が使用される可能性を排除できない」と述べた。ノーバヤ・ガゼータはロシアのウクライナ侵攻を受け、活動停止を余儀なくされている。
ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)は2月24日のウクライナ侵攻開始後間もなく、核抑止力部隊を厳戒態勢に移すよう命じた。西側諸国がウクライナ支援を強化する中、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は戦術核兵器の使用をほのめかし、事実上の脅迫を行っている。
ムラトフ氏によると、クレムリンの「プロパガンダ部隊」が核兵器の使用をロシア国民に受け入れやすいものにしようと画策している。テレビではこの2週間、「核ミサイル用のサイロ(地下発射施設)を開放すべき」、米国や欧州連合(EU)がウクライナへの兵器供与を続けるならば「核兵器を使用すべき」と論じられている。
ムラトフ氏は、ロシアのプロパガンダの筋書きに反して、核兵器の使用は「戦争」ではなく「人類」を終わりに導くと警告した。
さらに、現在のロシアで最も恐ろしいのはプーチン氏が「無制限の絶対的権力」を手にしていることだと指摘。プーチン氏が核兵器を使用すると決断すれば「誰にも止めようがない」と警鐘を鳴らした。 
●露、9日「宣戦布告」も ウクライナに 「戦勝記念日」を機に総動員 5/4
米CNNテレビは3日までに、米欧の政府関係者の見方として、ロシアが早ければ今月9日にもウクライナに「宣戦布告」する可能性があると報じた。同日はロシアにとって第二次大戦の対ナチス・ドイツ戦勝記念日にあたる。これまで「特別軍事作戦」と称してきたウクライナでの軍事行動を「戦争」に格上げし、予備兵投入などの総動員をかける恐れがあるという。
報道によると、ロシアのプーチン大統領が正式にウクライナ侵攻を戦争と宣言することのより、国内で予備兵を投入したり徴兵したりし、総力戦に乗り出すことが可能になるという。
2月下旬の侵攻開始から露軍では人員や軍備に甚大な損失が出ており、兵力などの動員強化が「是が非でも必要」になっていると米欧関係者は分析している。
これまで米欧の軍事・情報筋では、ロシアが5月9日の節目に何らかの「勝利」を示そうとしているとの分析があった。緒戦でウクライナの首都キーウ(キエフ)の攻略に失敗した露軍は、東部や南部に軍事行動の軸足を移している。
ただCNNは、プーチン政権が9日に、東部ドネツク、ルガンスク両州の占領地域の併合や、東部の激戦地マリウポリの完全掌握を宣言する選択肢も残されているとしている。
ロシアの戦勝記念日をめぐっては、英国のウォレス国防相が先週、英ラジオ局の番組で、宣戦布告して総動員をかける可能性があるとの見方を示した。
●9日に「戦争」宣言の見方否定 ウクライナ侵攻でロシア 5/4
タス通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は4日、プーチン大統領がソ連の対ドイツ戦勝記念日である9日にウクライナ侵攻の位置付けを現在の「特別軍事作戦」から「戦争」に拡大するとの見方について、「あり得ない。たわ言だ」と一蹴した。
●ロシア軍 欧米からの武器など輸送の鉄道施設を攻撃 攻勢強める  5/4
ロシア軍は、欧米からの武器や弾薬をウクライナ軍に運ぶための各地の鉄道施設をミサイルで攻撃したと明らかにしました。プーチン大統領が重視する9日の「戦勝記念日」を前に、ロシア軍は攻勢を強めていて、欧米側からの軍事支援を受けて抵抗するウクライナ側との間で攻防が激しくなっています。
ロシア国防省は4日、長距離ミサイルを発射し、西部リビウ州や東部ドニプロペトロウシク州など6つの鉄道駅近くの変電所を破壊したと発表しました。
これについてロシア国防省は、こうした鉄道を通じて欧米側から供与された武器や弾薬が東部ドンバス地域のウクライナ軍に運ばれていたと主張していて、欧米側からの軍事支援を強くけん制した形です。
また、東部ハルキウ州イジュームや東部ルハンシク州、南部ミコライウ州などでウクライナ軍の無人機を撃墜したとするなど、東部や南部での攻勢を強めています。
戦況を分析するイギリス国防省は4日、「ロシア軍は東部ハルキウ州のイジューム近郊に22の部隊を配備し、東部ドンバス地域の北側から前進しようとしている」として、東部でさらなる攻勢の準備を進めているという見方を示しました。
そしてイジュームの南にある、東部ドネツク州のクラマトルスクと東部ルハンシク州のセベロドネツクを掌握しようとしていると指摘し「ロシア軍がこれらの地域を掌握すれば、東部ドンバス地域の北東部の支配が強固なものになる」と分析しています。
欧米側はウクライナへの軍事支援をさらに強化する構えで、3日、イギリスのジョンソン首相はウクライナの議会で演説を行い、日本円でおよそ490億円相当の追加の軍事支援を表明しました。
これに対し、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は3日、フランスのマクロン大統領との電話会談で「西側諸国がウクライナへの武器供与を停止することで、残虐行為を阻止できる」と主張し、ウクライナへの武器の供与をやめるよう求めたということです。
また、プーチン大統領は、同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領と電話で会談して結束を確認したということです。
ベラルーシ国防省は4日「軍事的な脅威に即時に対応するために、軍の部隊が大規模な抜き打ちの点検訓練を開始した」などとし、軍事演習を始めたことを明らかにしました。
今月9日に第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利した戦勝記念日が迫る中、ロシアは欧米側をけん制しながら攻撃を強めていて、これに対抗するウクライナ側との間で攻防が激しくなっています。
●日本・イタリア首脳会談 対ロ制裁 ウクライナ支援強化で一致  5/4
イタリアを訪れている岸田総理大臣はドラギ首相と首脳会談を行い、ウクライナ情勢について平和や秩序を守り抜くための正念場を迎えているとして、両国がロシアに対し前例のない強力な制裁を科すとともに、ウクライナの政府と国民を全力で支えていくことが両国の共通の責務だとして支援を強化していくことで一致しました。
東南アジアとヨーロッパを歴訪中の岸田総理大臣はイタリアの首都ローマで日本時間の午後7時半すぎからおよそ40分間、ドラギ首相と初めての首脳会談を行いました。
この中で岸田総理大臣はウクライナ情勢をめぐって先に訪問した東南アジア3か国で理解と協力を求めたことなどを伝え、両首脳は今後もアジアやヨーロッパと歴史的に関係が深いアフリカへの働きかけを続けることが重要だという認識で一致しました。
また平和や秩序を守り抜くための正念場を迎えているとして、両国がロシアに対し前例のない強力な制裁を科すとともにウクライナへの支援を強化していくことで一致しました。
そのうえでG7=主要7か国をはじめとする国際社会が今回の軍事侵攻に毅然と対応することが重要だという認識を共有するとともに、ウクライナの政府と国民を全力で支えていくことが両国の共通の責務だということを確認しました。
また両首脳はヨーロッパとインド太平洋は安全保障上切り離すことができないとして、力による一方的な現状変更は世界のどこであっても認められないという認識を共有したうえで自由で開かれたインド太平洋の実現に向け協力を深めていくことで一致しました。
さらに北朝鮮のミサイル発射について憂慮する問題だという認識を共有するとともに、北朝鮮の核・ミサイルや拉致問題の解決に向けて国際社会が緊密に連携していくことが重要だという認識を確認しました。
イタリアのドラギ首相は岸田総理大臣との会談のあとの共同記者発表でウクライナ情勢をめぐって「イタリアと日本は一部地域での戦闘停止を含め停戦ができるだけ早く実現するよう力を注ぎ、ウクライナへの支援を続ける。ロシアに敵対的な行為を速やかにやめさせるように圧力をかけ続けていく」と述べ、一致して取り組む考えを強調しました。
またドラギ首相はインド太平洋をめぐって「イタリアとEU=ヨーロッパ連合、そして日本はインド太平洋における安定と安全の重要性を共有している。ルールに基づく国際秩序を守るために結束と決意を示し続けなければならない。それは南シナ海などにおいても同様だ」と述べ、中国の海洋進出を念頭に日本との連携を強める考えを示すとともに北朝鮮のミサイル発射についても懸念を共有するとしています。
●EU、年内にロシア産の石油禁輸へ プーチン氏の資金源を断つ狙い 5/4
欧州連合(EU)は4日、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの追加制裁として、ロシア産石油の輸入を年内に禁止する方針を発表した。EU域内にはロシア産エネルギーの依存度が高く禁輸に慎重な国があるものの、プーチン大統領の戦争遂行の資金源を断つためには、より強い制裁が必要と判断した。
EUの行政トップ、フォンデアライエン欧州委員長が、欧州議会での演説で第6弾の制裁案として表明した。原油は6カ月以内に、精製後の石油製品は年末までに輸入を止める。石炭の禁輸に続く措置で、フォンデアライエン氏は「代替策を確保し、市場への影響を最小化する秩序だった方法で進める」と説明。ボレル外交安全保障上級代表は、16日の外相理事会までに合意したい考えを示している。
EU域内の石油輸入量の約25%をロシア産が占める。民間団体の調べでは2月24日に軍事侵攻が始まって以降、200億ユーロ(約2兆7400億円)を超える代金の支払いが発生している。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアへの軍事資金流入を防ぐよう訴え、ロシアへの警戒感が強いバルト諸国やポーランドがEU全体での禁輸を主張していた。
慎重だったドイツが受け入れ ・・・  

 

●ウクライナ戦争の本当の戦線 5/5
今年に入ってこの紙面を通じてウクライナ情勢を3回扱った。『プーチンが書き直す『大ロシア』の記憶』(1月20日) 、『辺境の国、ウクライナ』(2月24日)、『戦争が終わるための条件』(3月31日)だ。3つ目のコラムでは、希望が見える5回目の交渉結果にもかかわらず「プーチンの戦争は容易に終わりそうではない」と書いた。当時の戦況がロシアが開戦当時に目標としたものに全く及んでいなかったうえ、プーチンとしてはいかなる軍事的代価を払ってもウクライナに知らしめる「新しい秩序」があったからだ。
あれから5週間、プーチンが目標にしたその秩序はさらに乱れている。ロシア軍はウクライナの首都キーウ(キエフ)付近から無気力に撤退したのに続き、東部ドンバス戦線でも力を発揮できずにいる。半面、西側から支援されたミサイル・タンクなど先端武器のためウクライナは戦争を繰り返すほど強くなっている。ロシアの北側の国境では中立国のフィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)加盟を急いでいる。何よりも米国が主導する対ロシア制裁はさらにきめ細かく、さらに強力にロシアを包囲している。プーチンは9日の戦勝記念日にも戦争を終えられない可能性が高い。今はもうロシアが終えないからでなく、西側が結末を見る計画であるからだ。プーチン政権を対象にした「本当の戦い」でだ。
「ウクライナを支援する費用は少なくないが、ロシアの攻撃に屈服するのはさらに大きな損失になる」。バイデン米大統領が先月28日、330億ドルのウクライナ支援予算を議会に要請しながら述べた言葉だ。そしてこう付け加えた。「ウクライナとロシアの戦争は民主主義と独裁政権の間の最前線だ」。他の西側指導者も一貫したメッセージを出している。「戦争が終わるまで共にすることを約束する」(ペロシ米下院議長)、「ウクライナの勝利は我々全員にとって戦略的義務」(トラス英外相)だ。もう西側の目標はウクライナの勝利であり、戦争はより本質的な戦いの一部にすぎないということだ。
米国のエネルギー価格が暴騰し、フランスが物価不安でふらつくが、西側は制裁の逆風を覚悟してもこの戦線から退かないことを決心したようだ。最近、私的な席で会ったクルックス駐韓英国大使はこのように一喝した。「今回の戦争は自由・人権・法治・民主主義などの価値を守ろうとする人たちとそうでない人たちの間の戦いだ。この価値を守るためにもプーチンの侵攻は失敗に終わらなければいけない」。戦争が長期化するほど、この価値の連帯に誰がどう共にするかが鮮明になるだろう。「価値の秩序」をめぐる力比べだ。ウクライナ戦争の本当の戦線はドンバスにあるのではない。
●戦争と子どもたち 憎悪と分断、禍根とならぬか 5/5
前世紀に逆戻りしたかのような錯覚に陥る。
われわれが目にしているのは、大国が武力で介入した内戦ではない。米国がテロ撲滅を標ぼうし、軍事力を行使した戦いでもない。大国ロシアが隣国ウクライナに攻め入り、領土をわがものとするため軍を進めた古めかしい侵略戦争である。
空爆で破壊し尽くされた街並み。犠牲者や傷病者が横たわる街路。避難者が息をひそめて肩を寄せ合う駅や地下室−。かつての戦時下と違うのは、世界中の多くの人が交流サイト(SNS)を通じて戦場のリアルを目撃できるようになったことだ。
2度の大戦や内戦を教訓に、平和を希求し構築した国際秩序が、国連の常任理事国でもあるロシアの暴挙により崩壊の危機にひんしている様も目の当たりにしている。
ウクライナの市民がスマートフォンで撮影した残虐行為の痕跡と住民の証言を、ロシアの独裁者は公然と「フェイク(偽情報)」と反論する。この応酬を見聞きしているのは大人だけではない。
ロシア軍によるジェノサイド(大量虐殺)の疑いが濃厚でも、容疑者を裁く国際刑事裁判所(ICC)の権限はロシアには及ばない。国際法の権威が軽んじられる一方で、より強力になるのは「弱肉強食」の権力政治だ。
無力感が漂い始め、分断と不条理を深めるこの戦争の複雑な実相を、子どもたちにどう説明すればいいのか。
同世代の窮状を目にし、子どもならではの反応をすることもあるだろう。
東部ドニプロの女の子は自分の夢を問われ、「小学2年生になること」と答えた。「戦争のない国に行くことができれば、それだけでいい」と話す子どももいた。平穏な地に住む子は「自分は普段通りの生活を送っていていいのか」と思うかもしれない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は首都キーウ(キエフ)に残り、各国の国会でオンライン演説し、支援を訴えた。米国のバイデン大統領はロシアのプーチン大統領を「戦争犯罪者」と非難した。
ウクライナ側は欧米諸国が最前線に出てきて、守ってくれると期待していたかもしれない。民間人の犠牲がなおやまない現状に、ウクライナの人たちは「人間の盾」にされていると反感を抱いてもおかしくないだろう。
戦争は必ずや憎しみをもたらす。戦況を巡って支援する側とも少なからず摩擦を生み、不協和音や不信感がSNSによって拡散し、やがて遺恨となりかねない。
侵攻と大量虐殺が非難されるのは当然だが、抗議と中傷、差別を混同してはならない。SNSで映像や情報が広がり、憎悪がかき立てられている。当事国のみならず、子どもたちの心に禍根を残すことにならないか。憂慮すべき事態である。
●ロシア 岸田首相ら政府関係者など63人の入国禁止措置を発表  5/5
ロシア外務省は4日、ウクライナ情勢を受けた日本の制裁措置への報復として、岸田総理大臣や林外務大臣をはじめ政府関係者など合わせて63人に対しロシアへの入国を無期限で禁止する措置をとることを決定したと発表しました。
ロシア外務省は4日、声明を発表し「岸田内閣は前代未聞の反ロシアキャンペーンを展開し、ロシアの経済と国際的な権威を損ねようとする措置を講じている」と非難しています。
そのうえで「国家の最高指導者を含むロシア国民に対する制裁を踏まえ、次の日本国民のロシアへの入国を無期限で禁止することを決定した」として、岸田総理大臣や林外務大臣をはじめ政府や議会の関係者、大学教授、報道関係者など合わせて63人に対してロシアへの入国を無期限で禁止する措置をとることを決定したと発表しました。
日本政府はウクライナ情勢を受けた制裁措置としてプーチン大統領をはじめ政府関係者や軍関係者、大統領の2人の娘などに対する資産凍結のほか、日本駐在の外交官ら8人を追放する措置をとっていて一連の制裁に対する報復措置とみられます。
ロシア外務省はこれまでにアメリカのバイデン大統領やイギリスのジョンソン首相をはじめ、アメリカ政府関係者や民間企業のトップなどに対してもロシアへの入国を禁止する措置をとっています。
入国禁止措置は計63人
ロシア外務省が無期限の入国禁止とする措置をとったのは合わせて63人です。
岸田総理大臣のほか、松野官房長官、林外務大臣、鈴木財務大臣、岸防衛大臣、古川法務大臣、領土問題を担当する二之湯国家公安委員長、西銘沖縄・北方担当大臣、細田衆議院議長、山東参議院議長などとなっていて国会議員が半数以上を占めます。
また秋葉国家安全保障局長や自衛隊トップの山崎統合幕僚長、「北方領土問題対策協会」、「北方領土復帰期成同盟」、「千島歯舞諸島居住者連盟」の代表のほか学識経験者や報道関係者なども含まれています。
岸田首相「断じて受け入れることはできない」
岸田総理大臣は訪問先のイタリアで記者団に対し「ロシアによるウクライナ侵略は明白な国際法違反であり、多数のむこの市民を殺害することは重大な国際人道法違反で戦争犯罪だ。断じて許すことはできない」と述べました。
そして「軍事的手段に訴え今回の事態を招いたのはロシア側であり、日ロ関係をこのような状況に追いやった責任は全面的にロシアにあるにもかかわらず、ロシア側がこのような発表を行ったことは断じて受け入れることはできない」と述べ非難しました。
そのうえで岸田総理大臣は「さらなる追加の制裁措置について引き続きG7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携しながら適切に対応していきたい」と述べました。
岸防衛相「孤立の道を歩んでいるのではないか」
岸防衛大臣は訪問先のワシントンで記者団に対し「軍事的手段に訴え今回の事態を招いたのはロシア側であり、日本とロシアの関係をこのような状態に追いやった責任は全面的にロシアにあるにもかかわらず、今回このような発表を行ったことは断じて受け入れられない」と述べました。そのうえで「みずからこのような措置を行って対話の窓を閉ざし、孤立の道を歩んでいるのではないか」と述べ、批判しました。
日本の政府関係者「責任は全面的にロシア側にある」
日本政府の関係者はNHKの取材に対し「日本側に直ちに影響があるわけではない」と述べたうえで「今回の事態を招いたのはロシア側であり、日ロ関係を今のような状態に追いやった責任は全面的にロシア側にある」と指摘しました。
●ゼレンスキー大統領「マリウポリと郊外から344人救出」  5/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は新たに公開したビデオメッセージで「マリウポリからの避難の第2段階が4日完了した。マリウポリと郊外から344人が救出され、南東部のザポリージャへ出発した」と述べました。その一方でマリウポリや、市内のアゾフスターリ製鉄所には依然として女性や子どもが残されているとして、救出に向け交渉を続けていることを明らかにしました。
ウクライナの「アゾフ大隊」の司令官は4日、テレグラムに投稿した動画で「われわれは4月25日以降、アゾフスターリ製鉄所で全方位の防御を続けている。敵が製鉄所の敷地内に侵入してすでに2日目に入り、激しい、血みどろの戦闘が行われている」と述べ、製鉄所内でロシア軍と激しく交戦していることを明らかにしました。
ウクライナ側は、製鉄所内には今も多くの市民が残っているとしています。
●ロシアがマリウポリの製鉄所に総攻撃 ロシアは「宣戦布告」観測を否定 5/5
ロシアによる軍事侵攻の続くウクライナで4日、政府当局は南東部マリウポリでウクライナ兵や民間人が最後に残った製鉄所に、ロシア軍が総攻撃を開始したと明らかにした。製鉄所内には子供を含めてまだ約200人の民間人が残っているとされる。他方、ロシア政府は同日、5月9日の対独戦勝記念日に正式にウクライナに対して宣戦布告するのではとの観測を否定した。欧州連合(EU)ではウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長が同日、ロシア産原油の輸入禁止を加盟国に提案した。
ロシア軍、製鉄所の「敷地内」に=ウクライナ指揮官
マリウポリでウクライナ兵が立てこもり、民間人が避難を続けるアゾフスタリ製鉄所で、ウクライナ部隊の指揮をとるアゾフ連隊のデニス・プロコペンコ司令官は通信アプリ「テレグラム」に短いビデオを投稿。その中で、ロシア軍が「製鉄所の敷地内」に入ったと話した。
プロコペンコ氏によると、製鉄所内の部隊は「血だらけの厳しい戦闘」を2日連続で戦っているという。「敵の圧力を抑え込もうと超人的な働きを続ける我が軍の兵士たちを、誇りに思っている(中略)状況は非常に厳しい」と、司令官は話した。
ロシア軍が製鉄所内への攻撃を開始したという報告について、BBCは独自に検証できていない。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は国連のアントニオ・グテーレス事務総長と電話会談し、製鉄所内の人たちの救出支援を要請した。
アゾフスタリ製鉄所からはこれまでに、国連や赤十字国際委員会(ICRC)の協力を受けながら、民間人100人以上が脱出し、南東部ザポリッジャへ避難した。しかし、製鉄所内には子供を含めてまだ約200人の民間人が残っているとされる。
ゼレンスキー大統領は、約100人の救出支援をグテーレス事務総長に感謝した上で、「私たちには全員が大事だ。負傷者全員を救助するため助けてほしい」と、事務総長に伝えたという。
南東部各地から新たに344人避難
ウクライナのイリナ・ヴェレシチュク副首相は同日、マリウポリを含めた南東部各地から新たに344人が、ウクライナ統治下にある南東部ザポリッジャへ避難したと明らかにした。
「テレグラム」で副首相は、国連と赤十字に協力を感謝し、「マリウポリ、マンフシュ、ベルジャンスク、トクマク、ワシリウカから、女性と子供、高齢者」が避難したと明らかにした。さらに、「困難な状況でこの人たちが特に必要としている心理的サポートを含め、支援を提供していく」と書いた。
国連のウクライナ担当人道調整官オスナト・ルブラニ氏も、マリウポリをはじめとする各地から民間人が避難したことを確認した。
「マリウポリをはじめ各地から民間人の第2陣が避難したことは重要だが、戦闘に巻き込まれた全ての民間人が、それぞれの望む方向へ確実に脱出できるよう、さらに多くの取り組みが必要だ」と、調整官はツイッターに書いた。
ロシア軍は同日、アゾフスタリ製鉄所から引き続き民間人が脱出できるよう、5日から7日の日中にかけて停戦を実施し、避難のための人道回廊を設けると発表した。
一方、多くの市民が避難していた市内の劇場が3月半ばに爆撃された問題で、これまで市当局は劇場での死者は推定300人に上るとしていたのに対して、AP通信は4日、生存者や救助隊などへの独自取材から、死者数は約600人に上ると伝えた。
ロシア軍は2月下旬の開戦当初から、マリウポリを徹底的に攻撃し続けた。ロシアにとっては、マリウポリを押さえれば、ウクライナ南岸全体の掌握が容易になる。そうすれば、親ロシア分離独立派が実効支配するウクライナ東部のドネツクやルハンスクと、ロシアが2014年に併合したクリミアが陸続きになる。加えて、ウクライナの西の隣国モルドヴァでロシア系住民が分離を宣言しているトランスニストリア地域にも、接近しやすくなる。
補給妨害のためロシアはウクライナ各地砲撃=英国防省
英国防省は4日、定例の最新戦況分析を発表した。
ロシア地上部隊の作戦行動はウクライナ東部に集中しているが、ウクライナの補給線を妨害するためロシア軍は国内各地へのミサイル攻撃を続けている。
ロシア軍の作戦が停滞する中、学校や病院、住宅、交通ハブを含めた非軍事標的が、引き続き攻撃されている。これは、ウクライナの決意をくじくため、ロシアが進んで民間インフラを標的にしていることの表れだ。
オデーサ、ヘルソン、マリウポリといった主要都市が引き続き標的にされている。これは黒海へのアクセスを完全な支配下におきたいという意向を浮き彫りにするもので、成功すればウクライナの海上交通路をロシアが支配できるようになり、ウクライナ経済は打撃を受けることになる。
「宣戦布告」観測をロシア政府は否定
ロシア政府はこれまで、ウクライナ侵攻を「侵攻」とも「戦争」とも呼ばず、「特別軍事作戦」と呼び続けている。しかし、ウクライナの首都キーウのほか、東部や南部の制圧作戦も進捗(しんちょく)が遅れている中で、5月9日の戦勝記念日(第2次世界大戦の対独戦勝を記念する日)に正式に宣戦布告すると共に、国家総動員を発令し、ウクライナへの全面戦争に臨むのではないかと、西側当局者の間では観測が続いていた。
これについて、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は4日、そのようなうわさはまったく事実と異なるとして、「ナンセンス」だと退けた。
5月9日にはモスクワで恒例の軍事パレードが行われるほか、マリウポリでも何らかのパレードが予定されているのではないかとの見方もある。
EU、ロシア産原油の禁輸提案
EUのフォン・デア・ライエン欧州委員長は同日、ロシアに対する追加制裁として、ロシア産原油の段階的な輸入禁止と戦争犯罪容疑者への制裁を提案した。
委員長は仏東部ストラスブールで開かれた欧州議会で演説し、「ロシアからの原油輸入を6カ月以内、石油精製品を年末までに段階的に廃止する」と提案を説明。欧州への打撃を最小にとどめながら、ロシアに最大限の圧力を加える意向を示し、「秩序ある形で、ロシアの石油の輸入を段階的になくしていく」と述べた。
加盟国が合意すれば実施されるが、ロシア産原油への依存度が高いハンガリー政府はすでに現行案は受け入れられないと反対している。チェコとスロヴァキアの両政府は、実施までの2〜3年の移行期間を求めている。
●ロシア軍 9日の「戦勝記念日」前に東部で攻勢強める  5/5
ウクライナへ侵攻を続けるロシア軍はウクライナ東部で支配地域を広げていると主張するなど、プーチン大統領が重視する9日の「戦勝記念日」を前に東部で攻勢を強めています。またウクライナ側が武器や弾薬を前線に運ぶ鉄道施設も攻撃の標的にしていて、欧米からの軍事支援に対してけん制を強めています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は4日、東部ハルキウ州イジュームやルハンシク州などでウクライナ軍の無人機を撃墜したと発表するなど、東部を中心に攻勢を強めています。
ロシアのショイグ国防相は4日に行われた会議で東部のルハンシク州とドネツク州で支配地域を広げていると戦果を強調し、要衝マリウポリについてはすでにロシア側が掌握し平和な市民生活が確立されていると主張しました。
そのうえで「最高司令官の命令に従いマリウポリのアゾフスターリ製鉄所の一帯にまだ残っている戦闘員を強固に封鎖している」と述べ、プーチン大統領の命令のもと製鉄所の包囲を続けているという考えを示しています。
これに対し4日、ウクライナ国防省の報道官はマリウポリの製鉄所について「周期的に砲撃や空爆が続けられている」として、今もロシア軍からの攻撃が行われているという認識を示しました。
そのうえで「ロシア軍はウクライナ東部への攻勢を強めようとしている」と述べ、ロシアがさらなる攻撃のため軍の再編成や強化を進めていると分析し警戒を強めています。
またイギリス国防省も「ロシア軍はハルキウ州のイジューム近郊に22の部隊を配備し、東部ドンバス地域の北側から前進しようとしている」という分析を示し、ロシア軍はイジュームの南にあるドネツク州のクラマトルスクとルハンシク州のセベロドネツクを掌握しようとしているという見方を示しています。
さらにロシア国防省は4日、ウクライナ西部のリビウ州、東部ドニプロペトロウシク州など6つの鉄道駅近くの変電所をミサイルで破壊したと発表し、鉄道を通じて前線のウクライナ軍に欧米側から供与された武器や弾薬が運ばれていたと主張しました。
ショイグ国防相も「ウクライナ軍への武器や物資を積んで到着したNATO=北大西洋条約機構の輸送機関はわれわれの合法的な標的となる」と強調し、欧米からの軍事支援に対してけん制を強めています。
ロシアでは第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利した今月9日の戦勝記念日が迫っていて、欧米側の支援をけん制しながら東部の支配地域を拡大しようとしているものとみられます。
一方、戦勝記念日に、プーチン大統領がウクライナと「戦争状態にある」と宣言しロシア国民が総動員されるという見方が出ていたことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「それはない。ばかばかしいことだ」などと否定しています。
●核搭載可能ミサイル、模擬発射 ロシア飛び地カリーニングラード― 5/5
ロシア軍は4日、バルト海沿岸の飛び地カリーニングラード州で、核兵器を搭載可能な地上発射型ミサイルシステム「イスカンデル」の模擬発射を実施したと発表した。インタファクス通信が伝えた。短距離弾道ミサイルか巡航ミサイルかには触れていない。
ロシアのプーチン大統領は最近、核兵器の使用を示唆する発言をしている。欧米は、ウクライナ東部などでこう着状態が続く侵攻の局面打開のために使われる可能性も排除できないとして、強く警戒している。
ロシアは2月の侵攻直前、イスカンデルを含むミサイル演習を実施。4月20日には、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」の発射実験も行った。
カリーニングラード州は北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドとリトアニアの間に位置する。欧米はウクライナへの軍事支援を強化しており、ロシアの一連のミサイル演習には、これを強くけん制する狙いもありそうだ。
●英、ロシア軍従軍記者らも制裁対象に 「侵攻正当化し報道」 5/5
英政府は4日、ロシアの個人・団体に計63件の追加制裁を科すと発表した。ロシア政府系テレビ「第1チャンネル」や、ロシア軍に従軍取材してウクライナで記事を書く複数の戦場ジャーナリストらも対象となった。今後、英国内の資産凍結などの措置が取られる。
英政府は制裁の理由について「プーチン(露大統領)の違法なウクライナ侵攻を『特別軍事作戦』と正当化して報じている」と発表した。大衆紙コムソモリスカヤ・プラウダなどに記事を書いてきた従軍記者らが対象となった。
また、英政府は露国営メディア「RT」と「スプートニク」の報道の遮断も決定。ソーシャルメディア各社などに2社の報道を流さないよう要求する。欧州連合(EU)も既に2社については同様の措置を発表している。
●ロシア、NATO武器供与なら「全て破壊」 5月9日宣戦布告は否定 5/5
ウクライナへの侵攻を続けるロシアのペスコフ大統領報道官は4日、第二次大戦での対ドイツ戦勝記念日にあたる9日にプーチン大統領がウクライナへの「宣戦布告」をするとの見方について、「あり得ない。ばかげている」と否定した。ロイター通信が伝えた。
ロシアは現在、侵攻を「特別軍事作戦」と位置付け、戦争とは表現していない。だがウクライナ東部や南部の戦闘が長期化していることから、プーチン氏が一層の戦力投入を正当化するために「戦争状態にある」ことを宣言するとの観測が欧米で広がっている。英国のウォレス国防相は4月28日、プーチン氏が事実上の宣戦布告をする可能性があると述べた。
ペスコフ氏は、プーチン氏が戦勝記念日に兵士らの大量動員を命じるとの見方についても「真実ではない」と否定した。
こうした中、ロシアは欧米からウクライナへの武器供与にいらだちを強めている。ショイグ露国防相は4日、北大西洋条約機構(NATO)からウクライナに武器が渡る際の輸送手段は「すべて破壊する対象になる」と表明した。ロイター通信によると、ウクライナでは4日までに欧米からの武器運搬に使われていた複数の鉄道施設がミサイルで破壊された模様だ。
欧米からの武器の主な行き先は戦闘が続くウクライナ東部で、ロシア軍は東部への輸送ルートを断ち切るため、東部以外のインフラ施設も攻撃している。英メディアによると、西部の中心都市リビウでは鉄道網に電力を供給する変電所も攻撃された。 

 

●ウクライナ戦争、ドイツのスーパーから消えた「小麦粉と食用オイル」 5/6
ロシアによるウクライナ侵攻開始から2か月以上経った。故郷を後にせざるを得なかった避難民や今も戦火の現地で生活しているウクライナ市民の心情を思うと、胸を締め付けられる。世界が耳目を集める悲惨なニュースとは別に、ここではドイツ市民の生活が2か月でどう変わったかお伝えしたい。
店舗の棚から消えた「小麦粉と食料オイル」
最近になって、運が良ければ穀物類は買うことができるようになった。だが購入は1人1袋(500g)あるいは2袋までと注意書きが貼ってあり、瞬く間に売り切れてしまう。小麦粉類と異なって、食用オイルはオリーブオイル以外全く入手できない状態が続いている。
スーパーに行けば、いつでも買えるという、これまでの当たり前が当たり前ではなくなった現象は、コロナパンデミック規制生活の中で思い知らされた。当時はトイレットペーパーの不足が続いたが、今回は食料品とあって、市民の危機感も一層強いようだ。
「ウクライナは世界で最も重要なひまわり油の供給国」と、ベルリンの油糧種子加工工業会(Ovid)の広報担当者は言う。世界のひまわり油の輸出量の半分以上が東欧の国からと聞き、やはり品薄なのは仕方がないと納得する。そしてひまわりの種まきは4月というから、ウクライナ戦争が終結しない限り、今秋の収穫も見込めない。つまり品薄と値上げはしばらく続くと覚悟した方がよいということだろう。
消費者だけでなく、ガストロノミー、食品メーカーにとっても食用オイルは当分供給不足が続くようだ。ドイツ、フランス、ポーランドでは、それぞれ100万ヘクタール近くで菜種が栽培されている。そのためひまわり油の代替品としての菜種油は不足する心配もないと専門家はいう。しかしスーパーではどの油も見当たらず、入荷なしの日々が続くと、やはり不安になってしまう。
ちなみに食料品価格は数か月前から上昇しており、「欧州の穀倉地帯」であるウクライナに対するロシアの攻撃から値上げがさらに加速している。
そんななか大手ディスカウントストアのアルディは3月、新たな値上げを開始した。アルディの宣言は、他のスーパーにも大きな影響を及ぼすことから、多くの商品の値上げは避けられない。
このような連鎖的な値上げには、他の要因も絡んでいるようだ。例えば、エネルギーや肥料のコストの上昇だ。また、人手不足と最低賃金により、人件費が割高になっている。
不足していない商品も値上げ
連邦農業食糧研究所のデータを基にしたドイツ連邦統計局の調査によると、小麦粉については、国内供給不足の恐れはないようだ。小麦粉の生産に使われる軟質小麦の自給率は125%と特に高い。100%以上というのは、ドイツが国内生産で普通小麦の自国需要をまかなえることを意味する。
一方、ライ麦、ライ小麦、オート麦、穀物トウモロコシについては、野菜や果物と同じく、自給率は100%を下回っていて、他国からの輸入が必須。その結果、ドイツ人の主食パンも値上がりが続いている。
ドイツ製パン業中央協会は「「原材料価格の上昇に加え、人件費の上昇、そして何よりも法外なエネルギーコストが、数ヶ月前からパン屋に大きな不安を与えている」と説明する。コストのうち、原材料・素材は約18〜25%、人員は約40〜50%を占めているというが、急激な値上げをすれば客が離れてしまう。とはいえ、店主は値上げをしない限り、店舗存続が難しいという板挟みに頭を抱える。
食品・嗜好品・飲食店労働組合NGGは、「食品業界に携わる企業の存続がコスト爆発で脅かされている。生産コストの上昇は、中小企業の存続を脅かすものであり、中には廃業せざるを得ない者も出てくるだろう」と述べ、先行き不安に拍車をかける。
今さら言うまでもないが、パンデミックとウクライナ戦争は、世界的に生産とサプライチェーンを混乱させ、インフレを促進している。
食料品の価格は様々な要因で決まるので、正確なことは言えない。だが、世界市場での小麦の価格は上昇を続けているのは事実。ドイツ農業者連盟によると、「昨年は小麦1トン当たり200ユーロ程だったが、現在は400ユーロ前後に高騰。もしドイツに供給されるガスが少なくなれば、食品産業に深刻な影響を及ぼすだろう」と警告する。
さらに残念なことに、輸入に頼っていないジャガイモ、チーズ、豚肉、牛乳なども軒並み値上げが続いている。
例えば牛乳と、バター、チーズ、クリームなどの乳製品。ブランドバター250グラムが安い品で2.09ユーロ。前年比で44%も値上がりしただけでなく、今後もさらなる値上がりが想定されている。また半年前には60セント前後で販売されていた1リットル牛乳は、まもなく1ユーロ以上になる模様だ。
乳業業界は、「農家の飼料、肥料、燃料などの生産コストの上昇で、過去に例を見ない程価格が高騰している」と値上げの背景を説明。しかも牛乳不足も大きな問題という。飼料不足に加え、割にあわない過酷な労働と低額販売価格による不条理を理由に生産を放棄する乳業農家が増えたことが大きな理由だと明かす。
値上げの第二波は二桁代に
専門家によると、現在多くのスーパーで食用油や穀物類の入手が困難もしくは不可能なのは、買い占めと物流の両方の問題があると力説する。またポーランドの運送会社で働いていたウクライナ出身のトラック運転手が不足している点も見逃せない。
そしてドイツ小売業協会(HDE)のヨーゼフ・ザンクトヨハンザー会長は4月上旬、「値上げの第二波は必ずやってくる、それも二桁の値上げになるだろう。農家が農業を続けていくためには、コストを転嫁していかなければならない」と、語る。
今のところ、パン用の穀物や肉、野菜は大幅に値上がりしているが、米や牛乳、砂糖は比較的手ごろな価格で購入できる。それも日に日に状況は悪化していて、3つのコスト要因「人件費、原材料、エネルギー」の高騰三重苦で市民の生活は苦しくなるばかりだ。
食料品と言えば日本と同様、ドイツでも食品ロスが大きな問題となっている。連邦食糧農業省(BMEL)とテュネン研究所が2019年に発表した調査によると、ドイツでは1200万トンの食品廃棄物が発生している。その半分以上を占めるのが個人家庭から出る廃棄品で、1人当たり75キロほどを破棄している。
なかでも「深刻な問題は270万トンの回避可能な食品廃棄物が発生している点だ」と、同省は指摘する。例えば「廃棄時にまだ完全に食べられる食品、または時間内に食べれば食べられたであろう食品」の多さだ。
ドイツの食料品は、日本に比べて安い。「あまりにも長い間、食事にお金をかけないことに慣れきってしまっていた。これを機に食とそれを支える農家の仕事への感謝は、適切な価格にも反映されなければならない」と緑の党政治家、レナーテ・キュナスト氏は訴えている。
名前は忘れてしまったが、ドイツのある政治家は、「ウクライナ戦争はドイツ国民全員を貧乏にする」と語ったことが忘れられない。
物価高騰は避けられないし、市民レベルでできることは少ない。だがもう一度、日々の暮らしをふり返ってみたい。買い溜めを控え、食品ロスを減らし、無駄の少ない日々を過ごすよう努めたいものだ。
●ロシア軍艦 攻撃受けまた沈没か ウクライナメディアが報じる  5/6
ロシア海軍の軍艦が、ウクライナ側の攻撃で沈没した可能性があることがわかった。ウクライナメディアによると、沈没したのは、ロシア軍のフリゲート艦「アドミラル・マカロフ」で、対艦ミサイルで攻撃されたとしている。4月もロシア軍の巡洋艦「モスクワ」が沈没し、ウクライナ側は、ミサイル攻撃を行ったと発表していた。
●マリウポリ製鉄所脱出500人に 5/6
ロシア軍が包囲を続けるウクライナ南東部マリウポリでは、アゾフスターリ製鉄所などから民間人の退避が進んだ。岸田文雄首相は、ロシアへの追加制裁を発表。資産凍結の対象となる個人を約140人追加し、輸出禁止の対象団体なども拡大・追加する。ウクライナ情勢を巡る日本時間5日などの動きや報道をまとめた。【デジタル報道センター】
ウクライナ部隊「製鉄所内で激戦」 マリウポリ
ロシア軍が包囲を続ける南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所に立てこもるウクライナ政府傘下の戦闘部隊「アゾフ大隊」の司令官は4日、製鉄所に突入したロシア軍と「血みどろの戦闘が行われている」と通信アプリ「テレグラム」で語った。
進む民間人退避
国連安全保障理事会は5日、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる公開会合を開いた。グテレス事務総長は安保理への報告で、ロシア軍が包囲する南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所などから、3回目の民間人退避が進行中だと明らかにした。国連と赤十字国際委員会(ICRC)が関与する民間人退避では、これまでに500人近くが脱出した。
露軍 弾道ミサイル模擬発射
ロシア軍は4日、バルト海沿岸の飛び地カリーニングラード州で、核弾頭が搭載可能な弾道ミサイル「イスカンデル」の「電子発射」訓練を実施したと発表した。実弾は発射していないという。モスクワ・タイムズなどが報じた。報道によると、イスカンデルを、司令部などを模した目標に撃ち込んだり、放射能や化学物質に汚染された条件下で発射したりする訓練を実施し、100人以上の軍人が参加した。
岸田首相が追加制裁発表
岸田文雄首相は5日(日本時間同)、ロンドンで記者会見し、ウクライナに侵攻したロシアへの追加制裁を発表した。資産凍結の対象となる個人を約140人追加し、輸出禁止の対象団体なども拡大・追加する。
露外相発言をプーチン氏謝罪 イスラエル首相に
イスラエル政府は5日、ロシアのプーチン大統領がイスラエルのベネット首相との電話協議で、ナチス・ドイツの指導者ヒトラーに「ユダヤ人の血が流れている」と述べたラブロフ露外相の発言について謝罪したことを明かした。イスラエルは人口の約7割がユダヤ人。イスラエルメディアによると、イスラエル首相府は5日の電話協議後に声明を発表し、「(ベネット)首相はプーチン大統領の謝罪を受け入れた」と述べた。
●米ロ大使が応酬 ウクライナめぐりツイッターで 5/6
米国のエマニュエル駐日大使とロシアのガルージン駐日大使が、ロシアの侵攻が続くウクライナ情勢をめぐり応酬を重ねている。両大使はツイッターに相次いで日本語で投稿し、公然と批判合戦を展開している。
エマニュエル氏は4月1日の書き込みで、「ロシア軍は恥ずかしげもなく人道支援部隊を襲撃し、食料や医薬品を盗んでいる」と非難。これに対しガルージン氏は、「米政府のうそ」は「厚かましい限り」とした上で、ウクライナ政府が東部ドネツク州などで(親ロ派の)民間人へのジェノサイド(集団殺害)を続けていると主張した。
4月4日には、エマニュエル氏がウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでの民間人虐殺疑惑について「ロシアが罪のない市民を惨殺した」と批判。「プーチン(大統領)は血まみれのナイフを手にしているも同然だ」と書き込んだ。ガルージン氏は同日、「ウクライナおよび欧米の主張やプロパガンダは捏造(ねつぞう)」と反論した。
●ロシア、388万人が国外流出 反プーチン・生活苦…わずか3カ月で 5/6
ウクライナに侵攻中のロシアで、国民が国外に出る動きが急増している。独立系メディアが6日、連邦保安局(FSB)の統計として、今年1〜3月に約388万人が国外に出たと伝えた。渡航先は旧ソ連の構成国が多く、前年同期の5倍近くにふくれた国もある。今後も人材の流出が続けば、ロシア社会に大きな打撃となる可能性もある。
国外に拠点を構えるロシア系独立メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」が報じた。観光や出張なども含まれているとみられるが、これまでも「プーチン政権に賛同できない」「制裁で国外とのビジネスができない」「生活が苦しくなる」といった理由で、若者を中心に国外に脱出する動きが伝えられていた。まとまった数字が明らかになったのは初めてとみられる。
渡航先別で見ると、ジョージア(グルジア)は3万8281人と前年同期比で4・5倍。新型コロナウイルス対策による渡航制限があったカザフスタンは20万4947人と同1・6倍に増えた。
アルメニアは13万4129人と昨年1〜4月と比べて3倍に急増した。ウクライナには32万8435人で微増だった。
欧米の制裁の影響で、今後、ロシア経済の状況は一層厳しくなるとみられており、ビザが不要な国を中心に、さらに人材の流出が続く可能性がある。
●ロシア正教会司祭、ウクライナ侵攻を批判 投獄も覚悟 5/6
ロシア正教会のゲオルギー・エデリシュテイン司祭(89)は、ウクライナでのロシアの軍事作戦に反対している。だが、異論を唱える人との議論は歓迎だ。自宅の居間の肘掛け椅子を指さし、「反対派の1人や2人はここに座っていてほしい」と話す。
ウクライナ侵攻に反対の声を上げたロシア正教会の聖職者は、一握りしかいない。白いひげをたくわえ、黒い祭服を着たエデリシュテイン司祭は震える声で、しかし、ためらうことなく主張する。「私は、悪い司祭なのだと思う。すべての戦争に反対してきたわけではないが、侵略戦争には常に反対してきた」
「(ウクライナは)独立国家だ。彼らが必要と考える国家を築かせればいい」。首都モスクワから車で6時間、コストロマ州のボルガ川沿いにあるノボベールイカーメニ村で、AFPの取材に語った。
2月24日にロシアが軍事行動を開始して以来、ロシア正教会の最高指導者キリル総主教は好戦的な説教を展開。ロシアとウクライナの歴史的な一体性を損なおうとする「敵」を制圧するため、当局を中心に「結集」するよう国民に呼び掛けている。
ロシア正教会は、旧ソビエト連邦時代には国家保安委員会(KGB)の管理下で厳しい制限を受けていた。キリル総主教は2009年にモスクワ総主教に就任して以来、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領との関係緊密化に努め、西側の自由主義よりも保守的な価値観を重視してきた。
血にぬれた手
侵攻翌日の2月25日、エデリシュテイン司祭は、友人イオアン・ブルディン司祭(50)が記した書簡に署名した。そこにはこう書かれていた。
「ウクライナ住民の血は、ロシアの支配者や作戦命令を実行する兵士の手をぬらすだけではない。戦争を承認し、あるいは沈黙を守っている私たち一人ひとりの手をぬらしている」
書簡はコストロマ州カラバノボ村にあるブルディン司祭の教区教会ウェブサイトに掲載されたが、その後、削除された。コストロマの府主教は、ウクライナ軍事作戦に反対している司祭は160人中2人だけだとして、書簡を非難した。
だが、ブルディン司祭は批判をやめなかった。
3月6日の礼拝では、戦闘で命が失われていることについて説教した。
その日のうちに捜査当局から呼び出しを受け、尋問された。3月10日には、ロシア軍の「信用を失墜させた」罪で3万5000ルーブル(約6万3000円)の罰金を科された。再犯すれば3年以下の禁錮刑が科される可能性がある。
汝、殺すなかれ
それでもブルディン司祭は軍事作戦を非難する。州都コストロマ近郊の自宅で「私にとって『汝、殺すなかれ』という聖書の戒めは、無条件のものだ」とAFPに話した。
ブルディン司祭によれば、プロパガンダに影響されやすい聖職者も多く、制裁や訴追の恐れもあり、ウクライナ侵攻に反対する人はほとんどいない。メッセージアプリのテレグラムに自身のチャンネルを持つブルディン司祭も、警察に監視されている。
エデリシュテイン司祭は、ブルディン司祭について「私より勇気がある。私はもう引退している」と語った。
ただ、2人とも自身を反体制派だとは考えてはおらず、総主教に背くよう信者に呼び掛けているわけでもない。
「話すときに自己検閲し、罪が罪であること、流血は容認できないことについて沈黙するならば、たとえ教会に所属していたとしても、知らず知らずのうちに、徐々に司祭であることをやめることになるだろう」とブルディン司祭は語った。
●ロシア「戦勝記念日」迫る 製鉄所の掌握が最大成果と訴えか  5/6
ロシアでは今月9日の戦勝記念日が3日後に迫っていますが、ウクライナ軍の抵抗によって、プーチン政権が目指す戦勝記念日までの東部2州の完全掌握は難しくなっているという見方が広がっています。一方、ロシア軍は要衝マリウポリでウクライナ側の拠点となっている製鉄所への攻撃を続けているとみられ、マリウポリの支配を軍事侵攻の最大の成果だとして、国民に訴えたい思惑があるとみられます。
ロシア国防省は6日、空軍がミサイルを発射し、ウクライナの東部ドネツク州のクラマトルスクで大型の弾薬庫を破壊したほか、東部ルハンシク州では、ウクライナ軍のスホイ25やミグ29などの戦闘機を撃墜したと発表し、東部を中心に攻撃を続けています。
ロシアのプーチン政権は、東部ドネツク州とルハンシク州の完全掌握をねらい、攻勢を強めてきましたが、欧米の軍事支援も受けるウクライナ側はこれに強固に抵抗していて、9日の戦勝記念日までの2州の掌握は難しくなっているという見方が広がっています。
一方、東部の要衝マリウポリでは、ロシア軍が包囲するアゾフスターリ製鉄所に今も数百人の市民が取り残されているとみられています。
ロシア国防省は5日から7日までの3日間、一時的に戦闘を停止し、市民が避難するための「人道回廊」を設置すると発表しましたが、ウクライナのゼレンスキー大統領は5日「今も、ロシア軍は製鉄所への攻撃をやめていないが、まだ女性や大勢の子どもが残っており、助け出す必要がある。この地獄を想像してほしい。2か月以上も砲撃や爆撃、すぐそばで人々が亡くなる状況が続いている」と訴えました。
イギリス国防省は6日「製鉄所を手に入れ、マリウポリを完全に掌握しようというロシア軍の新たな試みは、9日の戦勝記念日とプーチン大統領がウクライナでの象徴的な成功を望んでいることに関連している可能性がある」と指摘しています。
ウクライナ大統領府の顧問を務めるアレストビッチ氏も5日「ロシア軍は、プーチン大統領に『勝利』を提示するため、9日までにマリウポリの製鉄所を掌握しようとしている。製鉄所の敷地内での戦闘が3日連続で行われていることからも、彼らの必死さがわかる」と述べました。
プーチン政権は、マリウポリに大統領府の高官を派遣するなど、ロシア側の支配を既成事実化しようとする動きも強めていて、軍事的にもウクライナ側が拠点とする製鉄所を掌握することで、ロシア国民に軍事侵攻の最大の成果だと訴えたい思惑があるとみられます。
●ウクライナ軍が「黒魔術」使用 「悪魔の紋章」など儀式の痕跡を発見と露報道 5/6
ウクライナは、ロシアによる侵攻を食い止めるために「黒魔術」を使っている――ロシアのメディアがこんな「疑惑」を報じている。ロシア国営通信社のRIAノーボスチは、カルト研究者のエカテリーナ・ダイスの言葉を引用し、ウクライナ軍の複数の部隊が、東部のドンバス地方で黒魔術を実践した疑いがあると報道した。
この報道によれば、ルハンスク(ルガンスク)地方のトレヒズベンカ村のはずれにあるウクライナ側の軍事基地で、黒魔術の「痕跡」が見つかったという。RIAノーボスチは、この軍事基地の壁に残っていたという「悪魔の紋章」と呼ばれるシンボルの写真を報道した。
ダイスは、このシンボルは「交差する数多くの線から成る」黒魔術のシンボルだと主張し、次のように述べた。
「これが何を意味するのか、確かなことを言うのは難しいが、円の左端に混乱を意味する印が反転したものと、『CC』のシンボルの一部、ルーン文字の一部が明らかに認められる。さらにヘブライ文字の『ザイン』がドイツ語で書かれていて、これは剣や兵器を意味する」
ダイスは、このシンボルは「悪の勢力の魔術の紋章」であり、混乱や兵器、ファシストの象徴を組み合わせたものだと説明。さらに、このシンボルは一筆書きで描かれており、それがこのシンボルの「超自然的な性質」を表しているとも述べた。
「ほかはどこにも血の跡はなかったのに......」
ロシア政府が支援する大手メディアのスプートニクも同様に、ドンバス地方にあるウクライナの軍事基地で「黒魔術の儀式を実践した痕跡」が発見されたと報道。壁に「悪の勢力の魔術の紋章」が見つかったと報じたが、それ以上の詳しい情報はなかった。
RIAノーボスチは、軍事基地にある建物の中で、ドンバス地方で出た犠牲に関する情報を含む文書が発見されたことも明らかにし、「ほかのどの場所にも血の跡がなかったにもかかわらず、文書には縞状に血がついていた」と報じた。
現在、ロシア軍はウクライナ側の激しい抵抗に遭いながらも、進軍を続けている。
ロシア国営のベドモスチ紙によれば、ロシア政府の高官であるセルゲイ・キリエンコは最近、各地方の知事に対して、ロシアの迅速な勝利を約束したり、ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナでの軍事作戦が近いうちに終わるという誤った期待を持たせるような発言をしたりしないよう命じたということだ。
プーチンが隣国ウクライナでの「特別軍事作戦」を命じてから2カ月以上。ロシア側は徐々に、物資の不足や兵士たちの士気の低下、軍事的な損失などに苦しめられつつあるようだ。
イギリスの国防省は5月2日に発表した最新の分析報告の中で、ウクライナでの戦闘を支援するロシア軍の大隊戦術群のうち、4分の1以上が「戦闘不能」になっている可能性が高いと指摘した。
同報告書は「空挺部隊をはじめとする、ロシア軍の精鋭部隊の一部が最も大きな打撃を受けている」と述べ、さらにこう続けた。「これらの部隊の再建には、おそらく数年を要するだろう」
●日本人63人“ロシア出禁”基準はナゾだらけ プーチン大統領の狙いは? 5/6
〈どういった基準なのか不明〉〈選出理由が全く分からん〉──。ネット上で物議を醸しているロシア外務省が公表した日本人63人の入国禁止リスト。対ロシア制裁への報復だが、なぜ今なのか、効果を期待しているのかなど、ナゾだらけだ。一体、プーチン大統領の狙いは何なのか。
ロシア外務省が4日に公表したリストには、岸田政権の閣僚やメディア関係者、ロシア研究者などが並んでいる。入国禁止は無期限。ロシア外務省の声明によれば、リスト公表の理由は〈日本政府は我が国との善隣関係を解体し、ロシアの経済と国際的権威を損なうことを目的とした実践的措置を講じている〉からだという。
リストの筆頭は岸田首相。松野官房長官や林外相など閣僚7人のほか、衆参議長や沖縄・北方問題を扱う衆参両委員会の理事などもリスト入り。対象となった自民党の高市早苗政調会長が自身のツイッターに〈上等やないかいっ。招かれても行かんわい!〉と投稿するなど、国会議員の反応もさまざまだ。ちなみに、ロシアの軍事侵攻について「自分の力を過信した」とプーチン大統領を批判した安倍元首相はリストから外れた。
経済界からは唯一、経済同友会の代表幹事が「出禁」に。産経、読売、日経の新聞3社のトップに加え、週刊誌や月刊誌の幹部なども対象で、大学教授はロシア研究者など6人が名指しされた。
リストに載せられた研究者のひとりである東大公共政策大学院の鈴木一人教授(国際政治学)は5日のTBSラジオの番組で、「他の方々はロシア研究者なのですが、恐らく私は、制裁を研究しているということで『こいつ入れとけ』みたいな感じの雑な分類で入ったのではないか」と分析していた。
同じくリストに載った神戸学院大の岡部芳彦教授は、ウクライナ研究が専門。ウクライナ研究会の会長も務めている。リスト入りについて、日刊ゲンダイにこう答えた。
「私の活動は日本とウクライナの交流がメインですが、日本・ロシア協会常任理事や日露大学協会人材交流委員会委員なども務めており、日ロ学生交流には汗をかいてきた自信があります。したがって、このような形で情け容赦なく切られるのは残念としかいいようがありません。今回のリストは非常に興味深く、少なくとも3人の名前が間違っており、非常に仕事が粗い印象です。本省から言われて在京ロシア大使館が慌ててリストを作ったのは想像に難くありません。恐らく、大使館の情報収集先や重要視している情報源はもっぱらテレビだと思われます。『時代遅れの情報戦術』を使っており、故にロシア側が発信する情報はツイッターなどのSNSでは共感を呼ばないのでしょう」
公表しても、効果がなければ意味はない。なぜ今のタイミングで作ったのか。プーチン大統領の思惑は一体、何なのか。
「世界的にロシアに対する抗議が高まる中、これまでロシアと関係が深い、あるいは交流のあった人々まで抗議の声を上げています。一方、彼らはロシアに行けなくなると、仕事を失う。(リスト公表は)『次はおまえだ』というような牽制の意味合いもあるかもしれません」(岡部芳彦氏)
プーチン大統領が侵攻を続ける限り、対ロシア制裁は続く。入国禁止リストもどんどん増えていくのか。
●プーチン大統領が核兵器を使う条件 『劣勢で?プライドのため?』 5/6
5月9日のロシア戦勝記念日を前にウクライナへの攻勢を強めるプーチン大統領ですが、4月27日には「我々にとって受け入れがたい戦略的脅威を作り出すなら、反撃は電光石火で行われると認識すべきだ」「反撃のための手段は全てそろっている。誰もが持っていないものもある」と述べ、核兵器の使用も辞さないことを示唆しています。こうした中で、本当に核兵器使用の可能性があるのか?どのような条件で判断されるのか?使う場所はどこになるのか?さらに威力の違う『戦略核』と『非戦略核』の違いなども含めて、5月5日に軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんに解説していただきました。
戦勝記念日の軍事パレード控え「マリウポリを開放したことを宣伝するのでは」
―――ロシア全土で5月9日「戦勝記念日」の軍事パレードの準備が進むという情報が入ってきています。9日には具体的にどのようなことが行われそうですか?
「これは例年行われているパレードなんですけれども、ただ今年はやはり装備とか兵士が少ないみたいですね。ウクライナの方に行っていますから。ただ、いわゆる核戦争のときにプーチン大統領が乗る専用機があるんですけども、それが登場するみたいですね」
―――9日までにある程度の戦果が必要なんじゃないか、ここで何か発表したいんじゃないか、というような話も以前ありましたが、そのあたりはどうですか?
「要するに戦果はあまり関係なく、『自分たちはプーチン大統領の指揮のもとで計画通りやっている』『大成功である』という、そういうアピールは必ずやります。おそらく、マリウポリっていう街を1つ象徴的に国内で宣伝に使っていて、ですからマリウポリを開放したということをおそらく大々的に宣伝すると思います」
ロシアの核兵器使用の可能性…危惧されているのは『非戦略核』
―――ウクライナ側は、ロシアの挑発や攻撃を強めることを警戒しているということです。今後の核兵器使用の可能性なんですが、黒井さんによりますと“ロシアの敗北濃厚で?”ということですが、これはどういうことですか?
「ロシアが押しているうちはむしろ可能性が少なくて、敗北してくるということですね。ただそこはどういうときにやるかってはっきり言っていないので、どのくらいになったらこういうこと考えるのかはわからないですね」
―――現状で言いますと、ロシアの戦況はどうなんでしょうか。
「戦況はロシア軍はどちらかというとあまりうまくいっていない、ロシアから見ればですね。今の戦闘というのはウクライナがうまく何とか持ちこたえている状況で、ロシア軍がやはりかなり弱ったものですから、それの補給があまりできていない。その代わり、ウクライナは西側からいろんな武器が来て、この後どうなるかっていうのはわからないんですけれども、西側の武器をどうやって止めるかっていうのがロシアの今の問題ですね」
―――NATOが参戦する可能性もあるということですが?
「そうですね。ロシアが一番怖がってるのはそこで、NATOが直接来るというのはロシアとしてもあまりうまくないということで、それに対する『そういうことをしたら我々は大きなものをやるぞ』という脅しに使っているということですね」
―――西側諸国がたくさんの兵器を供与されてるということですが?
「そうですね、ですからそれに対してロシアは打てる手があまりないんですね、実際。ポーランドのあたりから西の方に来るんですけれども、制空権と言って航空機で空爆できないんで、長距離でミサイルで叩くしかないんですけど、ミサイル1発2発ってそんなに威力大きくないので、わりと補修がすぐできちゃいますから、そういう意味ではロシアとしてもこれを止めるのは難しいという状況ですね」
―――全て憶測、いつ使うかは不明なんだけれども、プーチン大統領が核兵器使用を決める可能性はあるということですか?
「プーチン大統領が全て決める。現場の舞台指揮官にはそういう権限がないんで、プーチン大統領が決める。この人の考えがどうなるかは誰もわからないんですね。ですから、必ずしも劣勢になったから使うとか、そういうふうに安心もできないですし、何かの拍子にプーチン大統領が『これはもうプライドのためにやるんだ』って決めたら使っちゃうということですね。もちろんアドバイザーはたくさんいるんですけれども、プーチン大統領が決めることに対して否定的なことはおそらく言えないと思います」
―――核の使用で危惧されているのが「非戦略核(低出力核)」というものです。戦略核は敵の本国を直接攻撃できる威力の大きいものですが、非戦略核は射程が短く威力も比較的小さい戦場単位での使用を想定したものです。核にも種類があるということなんですね。
「プーチン大統領のそばで度々目撃される黒いカバンが「核ミサイルの発射装置」ではないかと指摘されている話はその戦略核の話で、これは要はアメリカから撃たれたらこちらも撃つぞということで、もう本当に最後の日みたいな感じの世界の話なんですけれども、それとは別に、ロシア軍というのは戦争で使える小さな威力の小さな核を使うという考えがあって、もうおそらく2000発近いものを作っていると言われていますね」
―――ロシアは非戦略核を“使える核”として数多く製造・保有をしている。威力は数10キロトン級ということで、15キロトンの広島型原爆と比べるとだいぶ大きいということになりますが?
「これは誰もわからないんですけれども、小さいものですとおそらく5キロトンくらいのやつもあるとは思うんですが、調節して威力って変えられるんですね。おそらく広島型かそれの2倍かそのぐらいのもの、10キロトン、20キロトン、30キロトンぐらいが多いんじゃないかと思われます」
―――万が一、本当に発射するということになったら、どこに向けて発射されるんですか?
「これは本当にプーチン大統領の命令次第なのでわからないですよね。単に脅しであれば、例えば黒海のオデッサの沖合辺りに落とすということも考えられますし、もしくはウクライナの人の少ないところの可能性もありますし。ウクライナのどこかに落とす可能性はこれからの戦局次第ではゼロではないということになりますね」
『核兵器を使用した場合の報復』はどうする?
―――黒井さんでさえもプーチン大統領がどう決断するかわからないということですが、逆にバイデン大統領や西側諸国は今のところ『そうは言っても撃たないだろう』という瀬踏みをしているのか、その可能性込みで支援を続けているのか、そのあたりはどうなんでしょうか?
「将来の話なのでわからないので、アメリカの政権やNATOの当局は『あり得る』という前提での計画、考えはあると思います。それは考えないわけにはいかないので」
―――そのことで武器支援なりを少し用心しようかっていうことにはならないんですか?
「今のところはロシア側が明確に発射する、核で報復するという流れになってないので、今のところはまだ武器支援を続けるというところ。ただこの後ですね、プーチン大統領ってなんかやる前に自分を正当化するために必ず何かを言うんですよ。その文言によってはちょっとやばいなっていうことも起こり得ます」
―――もしプーチン大統領が核攻撃を行えば、それに対する報復はどうなるのでしょうか。黒井さんによると、NATOが「より強力な経済制裁」か「ロシア軍の核兵器出撃拠点への攻撃」ということですが?
「人によっては核で報復するんじゃないかっていうことをおっしゃる方もいるんですけれども、おそらくそれはかなりお互いの核のエスカレーションを呼びますので、強く動いたとしても核兵器を出撃したところへ通常戦力のミサイルで攻撃するとか、それであれば核で報復っておそらくしてこないということですね。ただ経済制裁の強化で終わるって可能性もあるので、ちょっとここはわからないですね。ウクライナの中っていうのはNATOは直接は報復するということの軍事同盟ではないので。NATO側も強いことをやるとは言っているんですけれども、何かで報復するという具体的なことは言っていないんですね」
●製鉄所から市民逃げられず ゼレンスキー氏、寄付呼びかけ 5/6
多くの市民が取り残されているマリウポリの製鉄所について、アメリカのシンクタンクは、ロシア軍が数日のうちに制圧する可能性が高いとの見方を示した。こうした中、ロシア国内では、3日後に迫る戦勝記念日に向けて準備が進められている。
今も多くの市民が取り残されている、ウクライナ南東部マリウポリの製鉄所。爆発音が響き、いたるところで黒煙が上がっている。ロシア軍による激しい攻撃で、避難は思うように進んでいない。マリウポリからは、国連の支援などで、これまでにおよそ500人が避難。グテーレス国連事務総長は、3度目の救出作戦が進行中と明かし、「この地獄絵図から救出するために、全力を尽くさなければならない」と述べた。
ロシアの攻勢に、抵抗を続けるウクライナ。ゼレンスキー大統領は、「すべての寄付が勝利のために重要です。守るために、救うために、再建のために寄付を」と述べた。ロシア戦への勝利と国の復興を目指して、クラウドファンディングを始めると発表し、新たに寄付を募った。
一方、ロシア国内では、9日に控える対ドイツ戦勝記念日に向けた準備が進められている。モスクワ市内を歩くと、大きな星マークに「英雄都市モスクワ」と書かれたオブジェが。「勝利!」と書かれた、無数の赤い旗もなびいている。この記念日に、軍事侵攻の成果を国民に向けてアピールするために、さらに攻勢を強めるとの見方も出ている。
ロシアが侵攻してから、2カ月余り。戦闘が長期化する中、プーチン大統領の盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領からは、ある本音が。ベラルーシのルカシェンコ大統領「正直言えば、私は、この軍事作戦がこんなに長くなるとは思っていなかった」自身の想定よりも長期化していると、AP通信のインタビューに対し、明かした。さらに、戦争長期化の責任は、アメリカ側にあると主張した。 

 

●国連安保理 軍事侵攻以降初の議長声明採択 ロシア含め全会一致  5/7
ウクライナ情勢をめぐり国連の安全保障理事会は、ロシアによる軍事侵攻以降、初めて議長声明を採択し、平和的な解決策を探るグテーレス事務総長の努力を強く支持すると表明しました。グテーレス事務総長はロシアとウクライナを相次いで訪れるなど仲介外交を進めていて、今後、具体的な成果につながるかが焦点です。
国連安保理では6日、ウクライナ情勢をめぐって緊急の会合が開かれ、議長声明が全会一致で採択されました。
声明は「安保理は、ウクライナの平和と安全の維持に深い懸念を表明する。平和的な解決策を探るグテーレス事務総長の努力を強く支持する」としています。
ことし2月にロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて以降、安保理では繰り返し会合が開かれてきましたが、ロシアも含めたメンバーが一致して議長声明を発表したのは初めてです。
ただ、議長声明に法的拘束力はなく、ロシアの名指しも避けた内容となっています。
声明をとりまとめたメキシコのデラフエンテ国連大使は、記者団が「ロシアは本当に外交を求めているのか」と質問したのに対し「声明が採択されたことから、少なくともその方向に進む意思を示していると言える。これは最初の一歩だ」と述べました。
国連のグテーレス事務総長は先月、ロシアとウクライナを相次いで訪れ、ロシアのプーチン大統領とはウクライナ東部マリウポリの製鉄所から市民を避難させるために国連が関与することで合意し、今週に入り製鉄所や周辺地域からの市民の避難を実現させています。
今回の声明で、ロシアも事務総長の取り組みについては支持する立場を示した形で、停戦交渉が停滞する中、仲介外交による成果につながるかが焦点です。
これについてグテーレス事務総長は声明を発表し「ウクライナの平和のためにきょう、安保理が初めて声を1つにした」と評価したうえで「私はこれからも命を救い、苦しみを減らし、平和の道を見つけるための努力を惜しまない」と決意を示しました。
●世界を震撼させたウクライナ市民の虐殺 ロシア軍兵士「残虐性」の思想 5/7
街のいたるところに横たわる市民の遺体や集団墓地。ウクライナに侵攻したロシア軍の残虐行為は世界に強い衝撃を与えた。これまでの戦争や侵略でも民間人が戦闘に巻き込まれて亡くなったケースはあった。しかし、それと今回ウクライナで起こったことは明らかに異なる。ロシア軍は非戦闘員を虐殺し、しかもおぞましい方法で処刑した例がいくつも見つかった。なぜ、ロシア軍は民間人の殺りくをいとわないのか。現代ロシア史が専門の東京大学大学院人文社会系研究科の池田嘉郎准教授に聞いた。
池田准教授は、「ロシア人が民族的に暴虐とは思いません」としたうえで、こう語る。
「戦争に起因する残虐性を抑えるような仕組みがロシア軍には十分にないといえます。むしろ、占領地で敵を排除するにはどんな手段を使ってもいいという非人道的な意識が感じられます」
それはロシアに限ったことではなく、かつて欧州諸国も同様なことを行ってきたという。
「しかし、人権意識が社会に浸透し、交戦規定が徹底されるようになった現代の戦争では、民間人を殺傷することは処罰の対象となる行為です。ところが、ロシア軍の兵士の間には第一次世界大戦のころの『占領地の住民は敵だ』という思想がいまだ生き続けているように見えます。それが今回の虐殺の原因の一つと推察します」
自国民にも向けられた銃
18世紀末まで、欧州での戦争は国の支配者である君主たちの争いだった。軍を率いるのは貴族で、兵士として駆り出された農民が敵国の住民に対して憎しみを抱く理由はなかった。戦いは互いの軍隊がぶつかり合う会戦で決着がつけられた。戦争はあくまでも軍人たちが前線で戦うものであり、基本的に民間人は関係がなかった。
その後、フランス革命(1789–1804)で国民全体が国防にあたるという発想が登場し、19世紀半ばまでにヨーロッパに広まっていった。
「民間人を戦闘に巻き込まないという風潮が明確に変わってきたのはドイツ(プロイセン)とフランスが戦った普仏戦争(1870〜71年)あたりです。単なる軍人たちの戦いから国民対国民の戦争、つまり『総力戦』へと変わっていきました」
背景にあったのは産業革命だ。工業化社会が成立すると、身分制社会が崩れ、「国民国家」化が進んだ。
「『国民』という概念ができてくると、戦争に勝つか負けるかが『自分たちの国』の運命だけでなく、それが家族や自分自身の運命をも左右するという意識が芽生えました。普仏戦争ではドイツ軍が進撃すると、フランスの軍人だけでなく、民間人も抵抗した。すると、占領地の住民は信用できない、という考えが生まれた。総力戦ではお互いの国民が憎悪し合っていますから、もう二度と立ち上がれないように、徹底的に叩き潰すようになったのです」
それが全面的に展開したのが第一次世界大戦だった。しかも占領地の住民だけではなく、自国民に対しても銃が向けられた。
「例えばロシアは、東部戦線ではドイツとオーストリアを相手に戦ったわけですが、ロシア領内の国境付近にはポーランド系やユダヤ系の人々が多く住む地域があった。自国民であっても、いざ戦争が始まればドイツ側に寝返るかもしれないという恐怖心が支配者にはありましたから、先手を打って敵対する可能性のある住民を前線から遠い地域に根こそぎ強制移住した。反抗したらその場で銃殺したりした」
国家が「敵」とみなした国民
ドイツやその他の参戦国も多かれ少なかれ同様のことを行った。しかし、戦争が終わると、植民地支配下を除き、自国市民に銃を向けるような態度は改められた。
「ところが、ロシアや旧ソ連の場合、敵はすべてせん滅しなければならないとか、住民も監視しなければならないとか、総力戦に由来する思想が第一次世界大戦後も支配層に残り、恒常化してしまった」
第一次世界大戦のさなか、ロシアで革命が起こった。共産党が権力を握り、のちのソ連につながる体制を樹立すると、独裁体制を確立していった。
「旧ソ連では、選挙で指導者が選ばれることがなかったので、国民から説明責任が求められたり任期を終えたら交代したりするシステムができませんでした。そこでは常に支配者側と住民が潜在的に対立関係にあった。国家は国民を潜在的な敵とみなし、取り締まった。人々の間にスパイを送り込み、監視する体制がつくられた。当局の人権意識は薄く、恣意的に市民を逮捕したのです」
ロシア軍によるウクライナ侵攻では、連日、一般人が巻き込まれて亡くなっている。これまでの戦争や侵略でも民間人が戦闘に巻き込まれて亡くなるケースはあったが、今回ウクライナで起こっていることは明らかに異なる。なぜ、ロシア軍は民間人の殺りくをいとわないのか。現代ロシア史が専門の東京大学大学院人文社会系研究科の池田嘉郎准教授によれば、第一次世界大戦下に起きたロシア革命以降、旧ソ連に至るまでの独裁体制による希薄な人権意識が影響していると話す。
旧ソ連は1991年に崩壊した。しかし、支配者集団はロシアに引き継がれたと、池田准教授は言う。
「特に軍や秘密警察の中身は旧ソ連の解体後もほとんど変わりませんでした。共産党のエリートも行政の各所に残った。ですから、国内外の敵をせん滅するためには手段を選ばないとか、非常に残忍なやり方で徹底的に弾圧するという思想は負の遺産ではなく、いまも現役のままです」
国家は市民を監視し、反抗する人間は葬り去る。しかし、軽く扱われたのは国民の命だけでなかった。ロシアは自国の兵士の命をさほど大切にしてこなかったという。
「兵士に対して『駒』『肉弾』という言い方がありますけれど、まさにそんな感じでロシア兵の命は扱われてきた。それをおかしいという空気もロシア社会にはあまり見られない。『兵士の母親委員会』が兵士の権利擁護のために活動していますが、広い支援を得られているわけではない。このように自国の市民や兵士の命を尊重してこなかった態度が、同様にウクライナの住民に対しても向けられていると思われます。だからロシア軍は民間人を殺すことにあまりためらいがないのでしょう」
それはプーチン大統領の指示である、という声もある。
「支配地域の市民の殺害について、プーチンが具体的な指示を出しているかどうかはわかりません。けれど、ウクライナの都市ブチャの虐殺に関わった部隊の責任者を処罰するどころか、部隊に名誉称号を与えている。つまり、これは一部の部隊の暴走ではなく、占領地支配の基本方針としてプーチンやロシア軍の了解を得て行っていることを意味します」
スラブ世界の再統合
国民の権利を十分に守らないどころか、監視してきた国、ロシア。しかし、いまそこで高まっているのは、愛国主義的な団結心だ。
「プーチンの支持率は8割もある。国の主人公として扱われてこなかった国民が皮肉にも支配者を支持している。一見すると矛盾しているようですが、国民の政治的権利を抑える一方で、大国意識を広く涵養(かんよう)する努力は、第二次プーチン政権(2012〜)のもとで体系的に繰り広げられてきました。団結して戦おうというロシア人の意識は、いま非常に高いと思います」
池田准教授はそう言うと、よく似た例として第二次世界大戦中の日本を挙げた。
「あのころの日本は愛国主義的な団結心がとても強かった。兵士の命は軽く扱われていましたが、それに異を唱える人はほとんどいなかった。国際的に包囲され、さまざまな物資が不足して、あれだけ苦しい思いをしても政府に対して反乱を起こそうということもなかった」
ウクライナに侵攻した直後、ロシア国営RIAノーボスチ通信は「ロシアの攻勢と新世界の到来」という論説を配信した(現在は削除)。
「その高揚感たるや激しいもので、われわれはスラブ世界を再統合して、これまでロシアを虐げてスラブ世界を分裂させてきたアメリカ、イギリスに対していよいよ挑戦するときがやってきたと。インドや中国、第3世界とともに新秩序をつくるんだ、というようなことが書かれていました」
ABCD包囲網での団結
現在、欧米諸国や日本は厳しい経済制裁をロシアに科している。「それは兵器生産に打撃を与える上では有効に働いているが、他方で、ロシア側のシナリオに合致している側面もある」と池田准教授は言い、こう続ける。
「われわれは外部から攻められている被害者、だから頑張らなければならない、と」
それはかつて日本が“ABCD”包囲網、つまり米英中蘭の4カ国によって経済封鎖されていたときの状況とも重なって見えると池田准教授は指摘する。
「もともとロシアには豊かさを享受している人が少ない。むしろ、日ごろからつらいことに慣れている人たちですから、経済制裁で生活が苦しくなっても耐えてしまう。子どもが兵隊にとられ、戦場で亡くなるとか、理不尽なことが積み重なっても全国民的な反発はなかなか湧き起こらないでしょう。一方、ウクライナや欧米諸国はロシアの侵略を到底許すことはできない。この戦争はどう終わるのか、ほんとうに先が見えません」
●ウクライナ、穀物2500万トン輸出できず ロシアが破壊と略奪も 5/7
国連食糧農業機関(FAO)の当局者は6日、ロシアが軍事侵攻したウクライナで約2500万トンの穀物が輸出できない状態にあると明らかにした。ウクライナの主要積み出し港である南部オデッサなど黒海に面する港へのアクセスが、ロシアの攻撃により阻害されていることが大きな要因と説明している。
当局者はまた、交流サイト(SNS)などの信頼できる情報として「ロシアがトラックに積んだ大量の穀物をウクライナ国外に運び出している」と述べ、70万トンに上る穀物を略奪した可能性があると指摘。ロシア軍は農業機材も盗み出しているほか、穀物の貯蔵施設も破壊されているという。
●米、ウクライナに追加支援 バイデン氏権限の「資金使い果たした」 5/7
バイデン米大統領は6日に声明を出し、ロシアが侵攻するウクライナに追加で最大1億5000万ドル(約195億8000万円)の軍事支援を実施すると発表した。緊急のため議会の承認なしに大統領権限で米軍の余剰兵器を譲渡する。国防総省によると、バイデン政権は2021年8月以来、同様の方法で計8回の支援を行ってきた。バイデン氏は「今回で(大統領権限で融通できる)資金をほぼ使い果たした」と明かした。
バイデン政権はウクライナや周辺国に対する軍事、経済、人道面の支援強化のため総額330億ドル(うち軍事支援は204億ドル)の補正予算を議会に求めている。バイデン氏は「ウクライナに武器や弾薬を途切れず供給するという意思を示さなければならない」とし、議会に早期の承認を求めた。
国防総省によると、今回の軍事支援は砲弾2万5000発、対砲レーダー3台、電子妨害装置――など。米国はバイデン政権発足から約45億ドル、ロシアによるウクライナ侵攻開始(2月24日)以来で約38億ドルの軍事支援を実施している。
●プーチン氏側近、ヘルソン州入り 「ロシアは永遠にいる」 5/7
ロシア軍が占領するウクライナ南部ヘルソン州に、プーチン大統領の側近が入った。ロシア通信が6日に伝えた。住民への支援物資提供や第2次大戦経験者に対する一時金支給に触れる中で「ロシアは永遠にここにいる」と強調した。
側近は、政権与党「統一ロシア」幹部のトゥルチャク上院第1副議長。4日にはウクライナ担当とされるキリエンコ大統領府第1副長官と南東部の要衝マリウポリを訪れ、港湾などを視察していた。製鉄所で戦闘が続いているにもかかわらず、プーチン氏は「制圧」を宣言している。
●戦闘継続見込みなし、ロシアの敗北「決定的」か最大の不確定要素=@5/7
ウクライナでロシアの苦戦が続いている。来週9日には戦勝記念日を迎えるが、それまでに事態を大きく打開するのは難しい。
それどころか、私は全体情勢がいまのままなら「ロシアの敗北は決定的」とみる。なぜなら、強力な経済制裁に締め上げられたロシアの継戦能力は改善する見通しがない一方、ウクライナの戦闘能力は西側諸国の支援で、逆に高まっていくからだ。
ロシアはジリ貧状態で、敗北していくのか。最大の不確定要素は中国である。
結論を先に言えば、中国はギリギリの局面でロシア支援に動く可能性が高い。
習近平総書記(国家主席)にとって最大の同志は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領だ。近い将来、台湾をめぐって米国との対決が不可避とすれば、そのとき、ロシアが加勢するかどうかは、習氏の運命をも左右する。習氏は、ここで「プーチンのロシア」を失うわけにはいかないのだ。
振り返れば、開戦直前の2月4日、習氏とプーチン氏は北京冬季五輪の開幕に合わせて北京で会談し、盟約を結んだ。それは、「米国による世界の一極支配を打破し、中国とロシアが加わった多極化体制を目指す」という誓いだった。これこそが、両氏の戦略目標にほかならない。
ロシア軍がこれほど苦戦するとは、習氏にも意外だったにせよ、自分自身の目標達成を困難にするような選択はあり得ない。最悪でも、プーチン氏が失脚しないように背後から支えるはずだ。「いまはまだ、動く局面ではない」と見ているにすぎない。
では、どんな対露支援が考えられるか。
ロシアの決定的敗北を避けるためには、「継戦能力の維持」が目的になる。経済支援はもとより、西側諸国に見えない形での軍事支援だ。例えば、中露双方に近いカザフスタンのような国を経由して、武器を供給する可能性があるのではないか。
中国にとっての不確定要素もある。最大の懸念材料は、プーチン氏が戦術核に手を伸ばした場合だ。
中国は「敵に核攻撃されない限り、自分からは核を使わない」という、核の先制不使用ドクトリンを一応、掲げている。だが、ロシアは違う。
プーチン氏は2020年6月、「通常兵器であっても、国の存続が脅かされれば、核で反撃する権利を留保する」という大統領令に署名した。これは「脱エスカレーションのためのエスカレーション」と呼ばれている。「戦術核を一発落とせば、敵は一挙に崩壊し、戦いは終わる」という考え方だ。プーチン氏は一発逆転を狙って、核の命令書にサインするかもしれない。そのとき、中国はどう動くか。
それでも、ロシアを支援するなら「自らのドクトリンに反してでも、米国と対決する」という話になる。そうなれば、いよいよ、「米国を中心とする西側諸国と、中露の本格対決」は避けられない。
米国は、そんな展開を避けるために、「ジワジワと真綿を締めるように」ロシア軍の戦闘能力を奪っていくだろう。当然、戦争の長期化は必至だ。最終的には、プーチン体制の崩壊を目指す。
それが、ロイド・オースティン米国防長官が言った「ロシアの弱体化」である。
●プーチン氏、対独戦勝記念日に「終末の日」示唆か 西側に警告 5/7
ロシアのプーチン大統領は、第2次世界大戦の対ナチス・ドイツ勝利を祝う5月9日の戦勝記念日に西側諸国に対し「終末の日」を示唆する警告を発すると見込まれている。
対独戦勝記念日では首都モスクワにある赤の広場でプーチン氏が演説する予定。その後、軍隊、戦車、ロケット、大陸間弾道ミサイルなどのパレードが実施される。
ロシア国防省によると、核搭載可能な戦略爆撃機「ツポレフ(TU)160」のほか、空中指揮機「イリューシン(IL)80」などが聖ワシリイ大聖堂の上空を飛行する見通し。IL80の飛行は2010年以降で初めて。IL80は核戦争勃発時に大統領らが乗り込むことから「終末の日の飛行機」と呼ばれる。
西側諸国はウクライナに侵攻したロシアに対し厳しい制裁措置を科しており、世界最大の核保有国であるロシアと米国の対立が激化する恐れが高まっている。
ロシアによるウクライナ侵攻では数千人が死亡、1000万人近くが避難を余儀なくされている。
●プーチンとロシア正教会との蜜月の裏にある「子供時代の洗礼」 5/7
「ソ連復活」をもくろんでいると欧米に警戒されるロシアのプーチン大統領。彼が共産主義の「無神論者」ではないかというステレオタイプが存在するが、キリスト教徒であることは既に指摘した。洗礼は子供時代に済ませている。むしろ、革命家レーニンを毛嫌いしている節があり、独裁者の「ウクライナ観」に影を落としている。
ソ連だった昔から、国民は本音と建前をうまく使い分ける。宗教をアヘンとして抑圧する世界でも、教会は「博物館」名目で残り、隠れてクリスチャンでいることもできた。プーチンは米映画監督オリバー・ストーンのインタビューで「私が子供の頃、母は洗礼を受けさせた」と説明する。
ただ、当時と比べると、ロシア正教会は我が世の春を謳歌している。何せプーチンが庇護者なのだ。キリル総主教は、ウクライナを「ナチ」呼ばわりする「聖戦」を応援し、2014年からの東部ドンバス地方の紛争では聖職者が銃を持って戦う例も見られた。
信徒の組織票は、政権与党「統一ロシア」を支えている。
奇跡か作り話か
正教会との蜜月について、プーチンが「面白い話」として逸話を紹介している。
かの映画監督に明かす。
「(総主教に最近)どのような経緯でロシア正教会に入ることになったのか聞いたんだ。すると父親が司祭だったという」
いわく、大統領の故郷レニングラードの司祭。その名を聞いてピンときたプーチンは総主教に告げたそうだ。
「驚くなかれ、私に洗礼を授けてくれたのは、あなたの父上だ」
プーチンとしては「奇跡」を強調したいのか。あるいは、そもそもキリルが「出世」したのはこの洗礼のためで、後から偶然聞いたように小話に仕立てたのか。
レーニンの核爆弾
一方、本人が過去に言及しているように、レーニンへの「恨みつらみ」は強烈だ。要約すると、プーチンの頭痛の種であるウクライナは、ロシア帝国の一部だった。そのままソ連の一部に組み込まれたのはいいとしても「ウクライナ共和国」となり、制度上いつでも離脱できる権利を手にした。
「レーニンはロシアという建物の下に核爆弾をセットした」
過激な表現だが、ソ連崩壊の原因は、成立時にわざわざ分離独立の権利を「爆弾」として仕掛けておいた革命家にある、というのがプーチンの持論だ。
「帝国の復活を企図していない」とウクライナ侵攻前に語った本人。この発言を真に受ける人はいないだろう。しかし「ソ連復活」を狙っているかというと、必ずしもそうとは言えない。 
●「大きな弧に沿った」ウクライナ軍、より広範に反撃… 5/7
ウクライナ軍参謀本部は6日、東部ハルキウ(ハリコフ)の郊外で五つの集落をロシア軍から奪還したと発表した。米政策研究機関「戦争研究所」は、ウクライナ軍がハルキウで「局所的ではなく、より広範な反撃に転じている」と分析した。露軍も米欧からの武器供与ルートを狙った攻撃を強めており、東部での攻防が激しくなっている。
ウクライナ軍の制服組トップは5日、SNSで、ハルキウなどで「反撃作戦への移行」を表明していた。戦争研究所は、ハルキウ周辺でのウクライナの抗戦が「大きな弧に沿ったものとなり、これまでより規模が大きくなっている」とも指摘した。
ウクライナ大統領府のオレクシイ・アレストビッチ顧問は6日、ドネツク州の北部一帯での戦闘に露軍が「最も力を集中させている」と指摘し、ウクライナ軍の抗戦により露軍の進軍を防いでいると強調した。
一方、露国防省は7日、東部で弾薬庫や米欧の武器を破壊したと発表した。米欧からウクライナへの武器供与ルートへの攻撃を強めている。ウクライナ国営通信によると、7日には、南部オデーサ(オデッサ)にミサイル6発が撃ち込まれた。
また、モスクワの「赤の広場」では7日、旧ソ連による対独戦勝記念日の9日に実施される軍事パレードに向け、本番さながらの予行演習が行われた。タス通信は、パレードには、ウクライナに派遣された空挺(くうてい)部隊も参加すると伝えた。9日に「戦果」を誇示するため、攻撃を激化させるとの見方が強まっている。
米政府は6日、ウクライナに対し、1億5000万ドル(約195億円)の追加軍事支援を行うと発表した。バイデン大統領は声明で「ウクライナが次の戦局で成功を収めるため、武器・弾薬の供給を絶え間なく続ける」と表明した。
米国は、射程の長い榴弾(りゅうだん)砲の砲弾2万5000発などをウクライナに供与し、東部での戦闘を支援する。米政府はこれまで榴弾砲90門の供与を表明しており、今回はレーダー3台と電子妨害装置なども供与する。
ドイツのクリスティーネ・ランブレヒト国防相は6日、ドイツ製の自走榴弾砲「パンツァーハウビッツェ(PzH)2000」7両をウクライナに供与し、ウクライナ兵への訓練も行うと明らかにした。
紛争当事国への武器供与に消極的だったドイツは方針を転換し、4月下旬には、自走式対空砲ゲパルト約50両の提供を表明している。
●安保理、初声明も溝深く 米英沈黙、ロシアは正当化―ウクライナ情勢で 5/7
国連安全保障理事会は6日、ロシアの侵攻を受けるウクライナ情勢をめぐり初の議長声明を全会一致で採択した。ロシアを含む全15理事国が初めて歩み寄った形だが、米英は採択について表立ってコメントしておらず、ロシアも侵攻を正当化するなど、溝は深いままだ。
声明は「ウクライナの平和と安全の維持に深い懸念を表明する」と明記。4月下旬にロシア、ウクライナ両国を訪問し、民間人退避の仲介に動くなど、平和的解決に向けたグテレス事務総長の努力を強く支持するとした。
ただ、ロシアや侵攻といった文言は声明に含まれていない。ロシアは2月、自国への非難決議案を拒否権行使で廃案に追い込んでいる。議長声明には、法的拘束力は無い。
ある安保理外交筋は「あまり実質的な内容ではない」と指摘。採択のため緊急に開かれた会合では、次席大使以下の役職の出席が目立ち、発言や拍手などもなく、声明を採択して1分半ほどで閉会した。
グテレス氏は採択を歓迎し「銃を置くため世界は一丸となる必要がある」とツイッターに投稿。一方、ロシアのポリャンスキー国連次席大使は「(ウクライナによる)銃を止めるために特別軍事作戦を始めたのだ」とツイートした。
声明はノルウェーとメキシコが作成した。メキシコのデラフエンテ国連大使は採択後、報道陣からロシアが本当に外交的解決を模索しているのか問われると「少なくともその方向に進もうとしている意思は示されたと思う」と意義を強調。その上で、議論がさらに深まることを願っていると語った。
●露のウクライナ侵攻で 2500万トンの穀物が輸出不可に 5/7
国連はロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで、およそ2500万トンに及ぶ穀物が輸出できない状態にあると明らかにしました。
ウクライナは世界有数の穀物生産国で、軍事侵攻以前、小麦の輸出量が国別で世界5位などとなっていました。
国連FAO=食糧農業機関の幹部は6日、黒海に面する南部オデーサなどの港が軍事侵攻を受けて封鎖されているため、現在、およそ2500万トンの穀物がウクライナから輸出できない状態にあるとロイター通信に対して明らかにしました。
また、新たに収穫する穀物のための貯蔵スペースも足りなくなっていると指摘しています。
これに先立ち、FAOは軍事侵攻の影響で今年、ウクライナ全体の農地のおよそ3割で収穫などが不可能になると推定していました。
また、国連WFP=世界食糧計画も6日、こうした影響は深刻な飢餓に直面している世界の人々にも及ぶとして、オデーサの港などを早急に開き、輸出を再開することを求める声明を発表しました。 

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 5/8
“ロシア軍 東部のハルキウ州の博物館にミサイル攻撃” AP通信
AP通信によりますと、ウクライナの東部ハルキウ州の博物館で6日、ロシア軍によるミサイル攻撃があり、被害が出ているということです。50年前に開館したこの博物館では、18世紀のウクライナの哲学者の生涯などを紹介していたということです。AP通信が配信した映像では建物の外壁や窓が大きく壊れ、がれきが散らばっているのが確認できます。また映像には、博物館のスタッフが哲学者の像を外に運び出す様子や、地面に落ちている本を拾う様子がうつっています。博物館の担当者は、「5月6日はひどい夜だった。夜遅くに博物館が燃えているという電話があった。博物館に爆弾が落ち、大きな被害が出た」と話していました。博物館への攻撃について、ゼレンスキー大統領は7日に投稿した動画の中で、「博物館へのミサイル攻撃は、すべてのテロリストが思いつくことではない。しかし、私たちはそのような軍隊と戦っているのだ」とロシア軍を批判しました。
東部のルハンシク州知事 “ロシア軍が学校を空爆 2人死亡”
ウクライナ東部ルハンシク州のガイダイ知事は8日、SNSに投稿し、ロシア軍が学校を空爆し、2人が死亡したと明らかにしました。学校には攻撃を受けた当時、およそ90人が避難していたということで、これまでに27人が救助されたものの、今もおよそ60人ががれきの下に取り残されている可能性があるということです。知事が投稿した映像では、建物が大きく壊れあちこちで火の手が上がっていて、煙が立ちこめるなか消防隊が消火活動を行っている様子が写されています。
国連 ウクライナで市民少なくとも3309人が死亡 (〜5月5日)
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から今月5日までに、ウクライナで少なくとも3309人の市民が死亡したと発表しました。このうち234人は子どもだとしています。地域別でみると、東部のドネツク州とルハンシク州で1754人、キーウ州や東部のハルキウ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州などで1555人の死亡が、それぞれ確認されているということです。また、けがをした市民は3493人にのぼるとしています。ただ国連人権高等弁務官事務所は、東部のマリウポリなど激しい攻撃を受けている地域での死傷者の数については、集計が遅れていたり、確認がまだ取れていなかったりして、この統計には含まれておらず、実際の死傷者の数はこれを大きく上回るという見方を示しています。
ウクライナ検察当局 子ども少なくとも225人が死亡(5月8日時点)
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で犠牲になった子どもについて、ウクライナの検察当局は、8日の時点で少なくとも225人の子どもが死亡したと発表しました。また、少なくとも413人がけがをしたとしています。死傷した子どもが最も多いのは東部ドネツク州で139人、次いで首都があるキーウ州で116人、東部ハルキウ州で98人、北部チェルニヒウ州で68人などとなっています。また、爆撃や砲撃による被害を受けた学校などの教育施設は1635にのぼり、このうち126の施設は完全に破壊されたということです。
WHO「医療機関への攻撃は戦争犯罪」
WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は7日、ウクライナの首都キーウを訪れ、リャシュコ保健相らと面会しました。テドロス事務局長は、保健衛生に関する需要や支援策について意見を交わしたとしたうえで、WHOはウクライナでの医療支援を続けるとみずからのツイッターに投稿しました。また、WHOで危機対応を統括し、ともにキーウを訪れたライアン氏は記者会見で、ウクライナの医療機関などへの攻撃はすでに200回にのぼったとしたうえで、医療機関への攻撃はいかなる状況であろうと戦争犯罪だと述べました。ゼレンスキー大統領は5日、ウクライナでは400近い医療機関がロシア軍の攻撃で被害を受け、特に東部と南部では壊滅的な状態だと述べています。
ゼレンスキー大統領「製鉄所から市民の避難完了」
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、新たに動画を公開し、東部の要衝マリウポリで、ロシア軍が包囲するアゾフスターリ製鉄所に取り残されていた市民の避難について「女性や子どもなど300人以上が救助された。アゾフスターリ製鉄所から民間人を避難させた」と述べ、市民の避難が完了したと明らかにしました。そのうえで「私たちはマリウポリとその周辺の住民のために人道回廊の継続を計画している」と述べ、ウクライナ政府として、マリウポリからの市民の避難をさらに進める考えを示しました。
ウクライナ東部ドネツク州 ロシア軍の攻撃で少なくとも3人死亡
第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利した今月9日の「戦勝記念日」が迫る中、ウクライナ東部のドネツク州では7日、各地でロシア軍による攻撃が相次ぎ、ロイター通信は、少なくとも3人が死亡したと伝えています。現地からの映像では、道に大きな穴があいて周囲の住宅が崩れ落ちている様子が確認できます。
イタリア「ロシア政府の有力者」関係ある豪華船差し押さえ
イタリア政府は6日、所有者が「ロシア政府の有力者」と関係がある豪華船を差し押さえたと発表しました。差し押さえられたのはイタリア中部トスカーナ州の港に停泊していた「シェヘラザード」という船名の「スーパーヨット」です。AFP通信によりますと、「シェヘラザード」は全長140メートル、2つのヘリポートやプール、映画館などを備えた6階建ての豪華船で7億ドル、日本円でおよそ914億円の価値があるということです。イタリア政府は船の所有者を明らかにしていませんが、「ロシア政府の有力者」とビジネス上の関係があるとしています。ロシア人が所有する豪華船をめぐっては、ことし3月、イギリス政府がプーチン大統領に近い「オリガルヒ」と呼ばれる富豪の船を差し押さえたほか、ウクライナのゼレンスキー大統領もイタリア議会で演説した際、「シェヘラザード」について差し押さえるよう、イタリア政府に求めていました。
ウクライナ国防省「無人攻撃機でロシア軍の揚陸艇を破壊」
ウクライナの国防省は7日、ツイッターで、南部オデーサ沖の黒海にある島でロシア軍の揚陸艇を破壊したと明らかにしました。攻撃には、トルコ製の無人攻撃機「バイラクタルTB2」を使用したとしていて、公開された映像では、港に接岸しているように見える揚陸艇が攻撃を受けて爆発し、煙が上がる様子などが確認できます。
ウクライナの副首相「製鉄所からの避難は完了」
東部の要衝マリウポリで、ロシア軍が包囲するアゾフスターリ製鉄所に取り残されているとみられる大勢の市民について、ロシア側が、避難させるための戦闘停止の期限としていた7日、日本時間の8日午前0時を迎えました。これを受けて、ウクライナのベレシチュク副首相は、日本時間の8日午前1時すぎにSNSで「大統領の命令は実行された。アゾフスターリ製鉄所からすべての女性、子ども、高齢者を避難させた。この部分においての人道的活動は完了した」と発表しました。ただ、人数など詳しいことは明らかにしていません。
ウクライナからの国外避難者 約580万人に上る 国連
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ロシア軍の侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数は、6日の時点でおよそ580万人に上っています。主な避難先は、ポーランドがおよそ316万人、ルーマニアがおよそ85万人、ハンガリーがおよそ55万人、モルドバがおよそ45万人などとなっています。また、ロシアに避難した人はおよそ73万人となっています。
米バイデン大統領夫人 ウクライナから避難の子どもたちと面会
アメリカのジル・バイデン大統領夫人は7日、ウクライナの隣国、ルーマニアにある学校を訪れ、ウクライナから避難してきた子どもたちと面会しました。UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、ルーマニアには、ロシア軍の侵攻を受けているウクライナから1日当たりおよそ7000人が避難して来ていて、その数はこれまでに合わせておよそ90万人に上っています。こうした中、ジル氏が訪れたのは首都ブカレストにある学校で、ウクライナから避難してきた5歳から15歳の子どもたちが学んでいます。教師でもあるジル氏は、子どもたちが工作に取り組む様子を見て回ったり、子どもたちに将来の夢を尋ねたりしていました。訪問を終えたジル氏は、記者団に対し、避難生活が長引いている子どもたちやその母親への精神的なケアの必要性を訴え、アメリカ政府として引き続きルーマニアと協力しウクライナを支援していく姿勢を示しました。ジル氏はこのあとスロバキアに移動して、ウクライナとの国境沿いにある避難民の受け入れの拠点を訪れ、避難してきた親子や、支援活動にあたるNGOの関係者などと面会することにしています。
「戦勝記念日」を前に警戒呼びかけ
今月9日のロシアの「戦勝記念日」を前に、ロシア軍が砲撃などの攻勢を強めることが予想される中、ウクライナの首都キーウのクリチコ市長は6日、SNSへの投稿で「防空警報を無視せず、すぐに避難してほしい。今後数日、ウクライナ全域で攻撃される可能性が高くなっている」と警戒を呼びかけました。また、ウクライナ国家安全保障・国防会議は6日、今月8日から9日にかけて、防空警報に特に注意するようSNSを通じて呼びかけています。この中では「ロシア軍は戦勝記念日を前に重要な成果をあげることができないので、大規模な攻撃のリスクが高まっている」としています。 
●なぜ赤十字はウクライナ戦争で厳しい非難を浴びたのか 5/8
今日5月8日は、世界赤十字デーである。そして、5月は赤十字月間でもある。
ウクライナで戦争が起きているためか、日本でもあちこちで赤十字色の赤で史跡等をライトアップして連帯を呼びかける所が、今年はひときわ多いようだ。
5月7日(土)、やっとマリウポリのアゾフスターリ製鉄所に最後まで残っていた50人の市民ーーすべての子供、女性、高齢者の避難が終わった。残るは兵士のみである。
国連のグテーレス事務総長が4月26日にロシアのプーチン大統領と会談。そこで、市民を避難させる際に、国連と赤十字国際委員会(ICRC)が関与することで「原則同意」を取り付けた。
今回は、5月1日と5日に続いて第三段の避難計画だったが、ロシア側がウクライナ兵士に武器を置くことを要求し、攻撃が続いていたため、先行きが危ぶまれていた。
それでもやっと、人道回路が一応「正常に」機能してきた推移は、少しほっとできるものだった。
同日7日、ウクライナのヴェレシュトゥク副首相は、市民の避難の発表の数時間後に声明で、NGO「国境なき医師団」に、アゾフスターリ製鉄所に立てこもる兵士の避難と治療のためのミッションを組織するよう要請した。
「72日間連続でロシア軍の砲撃と攻撃にさらされ」、「薬、水、食料が不足しているため、負傷した兵士は壊疽や敗血症で死んでいる」ということだ。これは・・・聞いただけで、また新たな困難と議論が予測できて頭を抱えてしまうが、NGO史の新しい1ページになりそうである。
ともかく、グテーレス国連事務総長が首都キーウに赴き、やっと、やっと国連と赤十字国際委員会(ICRC)によって実現したマリウポリの人道回廊。
しかしその1ヶ月ほど前の3月下旬くらいから4月の上旬にかけて、欧州では赤十字に対して、心底びっくりするような非難の嵐が吹き荒れたことは、日本ではあまり知られていない。
赤十字は、どんな非難を受けたのだろうか。
事の発端が何なのか、今でも筆者ははっきりと「知っている」とは言い難いが、大体は理解したつもりである。
市民が犠牲になっているのに、救助できない情勢に対するいらだち、避難した市民が無理やりロシアに連れて行かされたという情報に対する怒りーーそういう状況で、赤十字は何をやっているのか、国連は何をやっているのかという、人々の不満が社会のベースになっていたのは間違いないと思う。
「強制移送に関与した」という批判
まず挙げられるのは、「ロシアによる強制移送に赤十字が関与した」という批判があったことだ。
あるツイッターのユーザーは、「西に逃げるマリウポリの住民は、ロシア軍に止められて、ロシア行きの赤十字のバスに強制的に乗せられた」、「赤十字は、プーチン政権に買収された世界的機関の一つにすぎない」と書いた。そして、3月26日に停止中の車の列と、赤十字のロゴが入った黄色いバスを映したビデオを合わせて共有した。
このツイートをした人は、自己紹介に「キーウ在住」とある(これが本当かどうかは確認する術はない)。
このツイートに対する反応も「ロシアのプロパガンダだ」と言う人もいれば、「そのとおりだ」と言って、かつての英『ガーディアン』の記事のリンクを貼る人もいた。
このツイートにあるYoutubeのビデオを見てみると、この「キーウ在住」者が、「ロシアは西側から逃げてくるバスを止めて、ロシア行きの赤十字バスに人々を強制的に乗せる」とタイトルをつけて、アップしたものだとわかる。自分でYoutubeにアップして、それをツイッターで広めようとしたようである。
フェイク(偽情報)チェックで実績のある仏『リベラシオン』によると、この動画はもともと、ドネツク州のパブロ・キリレンコ知事が、同じ3月26日の上掲のツイートよりも早い時間に、ソーシャル・ネットワークに投稿したものだという。
しかし知事は、赤十字によるウクライナ人の強制移送だの送還だの、そんなことは一言も言っていない。彼は、ロシアによる検問所で何度もチェックされたために、ヴァシリブカの町の近くで大渋滞が起きていることを投稿しただけだ。
そして、停止した車の中には、マリウポリからの難民の車と、ベルディアンスクからザポリージャに人々を運ぶ避難バスがあり、怪我をした子供を乗せた救急車も、同じく列をなしていると説明しただけだ。
しかし、今回の赤十字非難は、ソーシャルメディアのユーザーが誤情報、あるいは偽情報を流したことがそもそもの原因ではないと思う。
大きな原因の一つは、これに先立つ3日前の3月23日、モスクワでロシアのラブロフ外相と、赤十字国際委員会(ICRC)のペーター・マウラー会長が会談したことである。これは偽情報ではなくて、本当である。
この会談は、多くの人に疑惑の芽をまくのに十分だったようだ。
例えば、以下のツイートでは、「ペーター・マウラー会長と赤十字国際委員会は、ジェノサイド(大量虐殺)と戦争犯罪が行われている形跡があるロシアのウクライナに対する戦争で、完全に自分の信用を失わせました」、「この組織は、あなたが寄付する価値はありません」とある。
この投稿者は、「ジャーナリスト・編集者・マネージャー」という肩書と、ウクライナとカナダの国旗を自己紹介に使っている。16万4000人のフォローワーがいて、一定の影響力をもっている人なのだろう。
この会談は、ウクライナ人の移送と、何か関係があるのだろうか。
このツイートが貼っている写真は、国際赤十字・赤新月連盟(IFRC)の公式サイトに見え、「ドンバスから人々をロシアへ避難」と書いてあるのが読み取れる。ここからレポートにリンクされているようだ。
しかし、このページはみつからず、確認することができない。このページは本当に存在したのだろうか。何が書いてあったのだろうか。
レポートの中身は何だったのか
『リベラシオン』の取材に対して、国際赤十字・赤新月連盟(IFRC)の臨時コミュニケーション・ディレクターであるブノワ・カルペンティア(Benoît Carpentier)氏は、このレポートは、確かに削除されたのであり、一般公開されることを目的としていない現地レポートであると説明した。
「これは、各国組織(赤十字社)がそれぞれの活動について、現地レポートを送ったものを掲載するプラットフォームに掲載されたものでした」。国際赤十字・赤新月連盟(IFRC)公式サイトの一つである「GO」というプラットフォームのことである。
「これによって、すべての情報を収集して、何が起こっているのかを把握することができるのです」
掲載されたレポートは、内部配布のみ、または一般に公表することもできるという。
レポートは確かに存在しており、そして少なくとも一般公開からは削除されたことは確認された。
では、どのようなことが書かれているものだったのか。
この現地レポートは、ロシア連邦が2月に報告したもので、「ドンバスから助けを必要としている人々の人数の評価」に関するものだった。
カルペンティア氏は、国際赤十字・赤新月連盟(IFRC)とは、ウクライナやフランス、日本など各国の赤十字社(組織)の行動を調整するのが特に役割であり、「避難には参加しない」と説明する。
インタビューに答えているカルペンティア氏が属する国際赤十字・赤新月連盟(IFRC)は、赤十字国際委員会(ICRC)とは異なる組織である(後述)。
氏は、同連盟は「避難は、役割でもないし、委任されてもいない」と言う。しかし、最初の応急処置や心理的な支援は行っている。
このレポートがGOプラットフォームから削除された理由を、氏は「そのレポートは、ドンバスに関して、我々の呼び方と一致しない用語を使っている」ためだと説明した。
実際、削除後もGoogleで表示されていた短い抜粋によると、この文書は、ロシアによってのみ承認された「ドネツクおよびルガンスク人民共和国の領土」と述べていたという。国際的には、この2つは独立国ではなく、ウクライナの領土とみなされている。
そのことは、同公式サイトのFAQ(よくある質問)欄で、「最近、我々のプラットフォーム『GO』上で、あるレポートが我々の中立性と公平性に一致しない方法で、ウクライナの地域に言及しました。その後、混乱を緩和するために、このエントリーを削除しました」と掲載されている。
地域の名称が不適切だから、レポートを削除した。それは理解できるが、ロシア赤十字社側による内容は、ドンバス地域から避難させるべき人数の報告だった・・・「避難」させてロシアに連れていくためだったのだろうか。そのため要職の二人はモスクワで会談したのだろうか・・・と疑ってしまう。
このような非難に対して、赤十字側は強く否定してきた。
赤十字国際委員会(ICRC)の広報担当のフレデリック・ジョリ氏は説明する。
「我々が避難を計画する際には、双方の同意が必要です。それがなければ、避難は行われることができません。赤十字国際委員会(ICRC)が人々の避難を組織することに同意したら、それは委員会独自の基準に従って行われなければなりません」
さらに、上述の国際赤十字・赤新月連盟(IFRC)のGOプラットフォームでは、「赤十字は、ロシアがウクライナ人を強制移送するのを助けているのか?」という問いには、以下のように答えている。
「いいえ。赤十字は強制避難を組織したり実行したりすることはありません。これは私たちが活動するすべての場所で当てはまります。私たちは人々の意志や私たちの原則に反する活動を支援していません。赤十字のチームは、ウクライナ当局が攻撃を受けている地域からより安全な場所に人々を避難させるのに役立ってきました。これまでにウクライナ赤十字社は、エネルゴダール、スミー、クヴィー地方、ハリコフ、ヘルソン地方から、5万8000人以上を、より安全な場所に避難させる支援を行ってきました。赤十字国際委員会(ICRC)は、3月15日と18日にスミーで行われたウクライナの人々の2回の避難に関与しており、同チームは、都市からの市民の自発的で安全な避難を促しました。どちらの場合も、人々は進んでバスに乗り、ウクライナの別の都市、ルブニに向かいました。」
赤十字側の言い分は理解した。そして素直に信用したいとは思う。それが今までの積み重ねによる、国際的な信頼というものだろう。
ロシアによる拉致計画?
しかし、もしそうならば、なぜ、ペーター・マウラー会長とラブロフ外相は握手しているのか、なぜそのレポートが必要だったのか、という問いにまた戻ってしまう。
ウクライナや他の国には、この会談ではロシアのロストフ・オン・ドンに事務所を開設する計画を話し合ったと非難する声がある。それはロシアによる「拉致(らち)」であり、そんな行為に正当性を与えるものだと糾弾しているのだ。
ロシアと赤十字が握手した波紋
3月下旬に、ロシアは隣国の武装解除と「非ナチ化」を目的とした「特別軍事作戦」の開始以来、ウクライナから数十万人を避難させたと発表した。
一方ウクライナは、ロシアが開戦以来、包囲された都市マリウポリからの約1万5000人の市民を含む数千人を、不法に国外移送させたとしていた。
そんな緊迫する情勢の中、3月23日、ロシアのラブロフ外相と、赤十字国際委員会(ICRC)のペーター・マウラー会長が、モスクワで会談、握手をしたのだ。
会談では、ロシアのロストフ・ナ・ドヌに事務所を開設する計画を話し合ったという。ウクライナ東部国境近くにあるロシアの大都市で、ロストフ州の州都である。ロシアは紛争地域から移送された人々の一時的な宿泊キャンプとして利用してきた。
このことに、ウクライナ当局も驚きを見せた。
ロイター通信によると、ウクライナ当局は赤十字国際委員会(ICRC)に対して、計画されているロストフの事務所を開設しないよう要請した。この動きは、モスクワの人道的回廊とウクライナ人の拉致、ロシアへの強制移送に正当性を与えると主張した。
ロシアのメディアでは、事務所開設を要請したのは、赤十字側だという報道がなされていたという。
さらに、ウクライナ議会の公衆衛生委員会の委員長であるマイカリオ・ラデュツキー氏は声明で、「委員会は、赤十字国際委員会(ICRC)に対し、ロシア連邦の領土における『人道的回廊』を合法化しないこと、また、ウクライナ人の拉致や強制移送を支持しないことを求めます」と述べた。
この会談は、ウクライナの人々にも大きな反発を引き起こした。
例えば、ウクライナ軍への支援を行う団体「Come Back Alive Foundation(生きて戻ってくる基金)」のメンバーであるマリア・クシュレンコ氏は、二人の首脳の発表が理解出来ないと、『リベラシオン』に語っている。
「マウラー会長がラブロフ外相と会談して、ロストフに事務所を開設する意向を示したことは、悪く受け止められています。この決定の背景にある議論、『既にロシア領に後退しているウクライナ人を助けるために必要なのではないか』というものに、皆何よりも驚いていました」
「ウクライナ人や他国の代表たちは、この発表を、ウクライナ人の強制移送を共謀したものであり、赤十字国際委員会(ICRC)の基本原則である中立性の侵害であると受け止めました」
一方で、ペーター・マウラー会長は、ラブロフ外相との会談後、戦乱のウクライナから民間人を適切に避難させるためには、ロシア軍とウクライナ軍の間で合意が必要であると述べた。
そして赤十字国際委員会(ICRC)はロイターに対し、ウクライナからロシアへの強制移送の報告について「直接」情報を持っていないし、そのような活動を促進もしていないと述べた。
そして、ロシアのロストフ・ナ・ドヌに事務所を開設する可能性があるのは、人道的必要性が起こった場合に対応するため、この地域での活動を拡大する取り組みの一環であると述べている。「私たちの優先事項は、武力紛争の犠牲者がどこにいようと、彼らを支援するために、彼らのもとに到着することである」。
前編で登場したフレデリック・ジョリ氏は、『リベラシオン』に対し、以下のように説明している。
「赤十字国際委員会(ICRC)は戦争の経験があります。紛争が起きたら、我々独自のロジスティック(兵站)の手段で、その地域を囲い込むようにします。ロストフに倉庫を開くプロジェクトは、東へのアクセスを可能にするはずです。我々は、可能な限り一貫した手段で、可能な限り紛争地域に近づく必要があります」
これらの議論に、正答を与えることは難しい。少なくとも現地で何が起きたかは、紛争地のあらゆる現場に証人としてのメディアが入るのも不可能なために、赤十字側の「住民の意に反して移送は行っていない」という言葉を信じるか、信じないかになってしまう。
ただ、この「NGOの中立性の議論」そのものは、昔からあるものである。中立とは、どちらにも加担しないので「和」である、というほど、生易しいものではない。矛盾を抱えながら、全身全霊を込めて守り抜くものなのだろう。
フェイスブックで、Sadakazu Ikawaさんという方(開発・人道活動コンサルタントと自己紹介)が、とても問題を理解しやすい発言を載せていた。以下に紹介したい。
「 政治的、人種的、宗教的、思想的な対立において一方の当事者に加担しないという「中立性」は、人道支援団体にとっての生命線。これがあるからこそ、困難な状況において、人道活動に関わるものの命を担保し、最も必要な人々にサービスを届けることができる。
同時にジレンマもこの「中立性」にある。明らかに国際法や人権が脅かされている現状を前にして、人々に必要なサービスを提供するために中立性を保つ(不正義に目をつぶる)べきか、または、サービスが提供できなくなる可能性があったとしても、不正義に対して声を挙げるべきか(中略)。
ミャンマーでも、ウクライナでも、国際NGOの現地スタッフであった若いミャンマー人、ウクライナ人たちが、ミャンマー国軍やロシア軍と武器を持って戦うために離職した話をよく聞く。あまりに明確な国際法違反や人権侵害を前にして、「中立性」は人道組織の限界を規定するものにもなる。
ある記事で、キーフの赤十字国際委員会(ICRC)代表や国際法の専門家が語っていた言葉が印象的だ。「人道組織や国際法は、戦争を終わらせたり、爆撃による被害を止めることはできない。それは政治家や外交の仕事だ」「人道組織は、人々の苦しみを軽減するためにそこにいるのだ」 」
複数の異なる「赤十字」の組織と活動
赤十字の組織は、複雑でわかりにくい。ここで、簡単に説明しておこう。
赤十字国際委員会(左・ICRC)は、ジュネーブ条約の委任を受けて活動する。そのほかにも、国際赤十字・赤新月社連盟(右・IFRC)がある。各国の赤十字社は(日本赤十字社も)、後者に属するのである。
紛争地域で活躍しているのは、赤十字国際委員会(左・ICRC)である。
「赤十字国際委員会(ICRC)は、紛争における中立的な仲介役であり、その委任は世界でも類を見ないものです。民間人や、もう戦闘をしていない人々のために介入します。各国の赤十字社は、例えば難民への援助など、主に紛争地域の外で活動しています。彼らの中立性は、赤十字国際委員会(ICRC)とは大きく異なります。なぜなら、彼らは公的機関の補助機関だからです」とフレデリック・ジョリ氏は説明する。
そして、「戦時中の赤十字である『赤十字国際委員会(ICRC)』、そして平時の赤十字である『国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)』があるのです」と、わかりやすくまとめた。
3月上旬にポーランド国境にボランティア活動に行った人が、場所によってはポーランド赤十字はいたが、赤十字国際委員会(ICRC)がいなかったと語っている。それは当然のことで、後者はウクライナの中、紛争地域にいるのである。役割が異なるのだ。
また、さらに早い段階だと、場所によってはNGOも到着しておらず、何千人の避難民が、ボランティアが集まっているところに押し寄せて、カオス状態だったこともあるという。
爆撃の中の試行錯誤
それでは、赤十字国際委員会(ICRC)は、これまでウクライナでどのような活動をしてきたのだろうか。
「10カ所の異なる場所に、700人のスタッフ(4月上旬時点)がいます。いずれも武力紛争に関連した場所で、人々の避難のように、救援活動の立ち上げが見られる可能性が高い場所です。500トンの支援物資が届けられましたが、中には戦傷者用キット、食糧支援、医療・衛生キット、そして遺体袋などがありました」とフレデリック・ジョリ氏は説明する。
しかしマリウポリでは、3月下旬、敷地から退去しなければならない事態に陥った。「戦闘開始の直後から窮地に陥っており、ICRCは倉庫に保管していたすべての支援物資を配布しました。負傷者用の食料、防水シート、その他の設備ですが、これらのおかげで、被災した後にまだ機能していた小児科病院を分離することができました。これらの支援は、先日攻撃にみまわれた倉庫に保管されていたのです」
「それ以来、ICRCは戦闘のために、物資や援助を持ち込むことができないでいます。さらに、ICRCのウクライナ人の同僚の家族が、事務所に避難してきました。多くの子供を含む100人ほどが詰めかけました。そのために、戦闘が一息ついたときに、すべてのスタッフといくらか別の家族を退避させることになりました」
ICRCは4月1日に再び町に入って、民間人の避難を試みる予定だった。しかし、午後の中頃に「不可能」とわかった。車両3台とスタッフ9名からなるICRCチームはマリウポリに到着せず、民間人の安全な通行を促すことができなかったと、ICRCは声明で述べた。再び週末に新たな試みを行う予定であると付け加えていた。
このような状況で、赤十字のスタッフたちは活動を続けてきた。
確かこのころ筆者は、赤十字が批判を受けていることに気づいたのだった。当時は、ツイートには赤十字のマークをナチスのマークに改造したかのようなものがあったり、陰謀論のようなものが飛び交ったり、ぐちゃぐちゃであった。書いてある言葉は理解できても、頭の中は「???!!??」となっていた。
今思えば、マリウポリの状況が最も緊迫した状況になっていて、製鉄所に避難している人たちが全員死んでしまう! という危機感のなかで起きたのだと思う。
今こうして、ある程度整然と日本の読者に何が起こったかを伝えることができるのは、優れた『リベラシオン』の記事によるところが大きい。フランスで最も有名なフェイク(偽)ニュースのチェックをする編集部があり、その着実な積み重ねで、大きな信用を得てきた。このような機能は、日本のマスコミに存在しないのが残念だ。(購読はこちら)
そして4月28−29日、グテーレス国連事務総長がキーウに赴いて、やっと市民全員がアゾフスタル製鉄所から避難することができた。
赤十字国際委員会(ICRC)のウクライナ代表団のパスカル・フント代表は、アゾフスタル製鉄所からの避難を何度も指揮してきた人物だ。彼はフランスのBFMTVに対し、数週間の地下生活を経て表に出たウクライナ人の苦痛について、「心が引き裂かれる」証言について語っている。
彼らは「何週間も日の光を見ていなかったのです。光も電気もない壕の中で、光を見なかった人たちを想像してみてください。彼らの中には、埋もれて死ぬのが怖かった、爆撃が続くのが怖かったと語る人々がいました。そして、日光を見て、赤十字の旗を見て、涙を流した人々がいました」。
ピーター・マウラー会長は声明でこう述べた。「赤十字国際委員会(ICRC)は、今もそこにいる人々、敵対行為の影響を受けている他の地域の人々、そしてどこであろうと、人道支援を緊急に必要としている人々のことを忘れません」、「そのような人々のもとへ到達するための努力は惜しみません」。
●ウクライナ・マリウポリの製鉄所から民間人全員が避難 5/8
ウクライナとロシアの両政府は7日、ウクライナ南東部マリウポリでロシア軍に包囲されていたアゾフスタリ製鉄所から、避難していた民間人女性、子供、高齢者が全員脱出したと発表した。他方、世界保健機関(WHO)は同日の記者会見で、ロシアがウクライナ軍事侵攻を開始して以来、ウクライナで医療施設が200回以上攻撃されたと発表した。
民間人は製鉄所を脱出
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同日、計300人以上の民間人がアゾフスタリ製鉄所から救助されたと明らかにした。これに対してロシア国防省は、3日間で51人が避難したとしている。
ウクライナのイリナ・ヴェレシチュク副首相は、人道作戦の該当部分は完了したと表明した。
今月初めから続いていた民間人の避難は、国連と赤十字国際委員会(ICRC)が仲介・支援していたが、両機関はまだ全員脱出について確認する声明を出していない。
ゼレンスキー氏は、マリウポリから軍関係者を脱出させるため、外交交渉が続いているとも述べた。
南東部の要衝マリウポリはほぼ全域がすでにロシア軍に制圧されているものの、ウクライナ軍のアゾフ連隊はアゾフスタリ製鉄所に残り、抵抗を続けている。製鉄所に激しい攻撃を続けるロシア軍は、製鉄所内にたてこもるアゾフ連隊の降伏を求めている。
ロシア軍は2月下旬の開戦当初から、マリウポリを徹底的に攻撃し続けた。市内の建物の90%が損傷もしくは全壊したという。
ロシアにとっては、マリウポリを押さえれば、ウクライナ南岸の8割以上を掌握することになる。そうすれば、親ロシア分離独立派が実効支配するウクライナ東部のドネツクやルハンスクと、ロシアが2014年に併合したクリミアが陸続きになる。加えて、ウクライナの西の隣国モルドヴァでロシア系住民が分離を宣言しているトランスニストリア地域にも、接近しやすくなる。
マリウポリで9日に祝賀行事はない=ロシア報道官
ロシアでは毎年5月9日を、第2次世界大戦の対独戦勝を記念する「戦勝記念日」として祝う。モスクワで毎年恒例の軍事パレードに加え、今年はマリウポリでも何らかのパレードがあるのではないかと観測が続いていたが、ロシア政府は7日、これを否定した。
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、「いずれ(マリウポリで)盛大に祝う時が来る」と記者団に述べ、9日にロシア政府関係者がマリウポリを公式訪問する予定もないと話した。
5月9日をめぐっては、この日を機にロシア政府はウクライナへの「特別軍事作戦」について、正式に「戦争」だと宣言し、国家総動員を発令するのではないかと西側当局者の間では観測が続いているが、これについてもペスコフ報道官は4日の時点で、そのような事実はないと観測を退けていた。
ハルキウ州一部自治体はウクライナ軍が奪還か
この間、ウクライナ東部ハルキウ州では、制圧された地域を奪還しようとするウクライナ軍とロシア軍の激しい戦闘が続いている。
ウクライナ軍は7日、第二都市ハルキウの北東で5つの村を奪い返したと発表した。
他方、ハルキウ州の軍事当局によると、ハルキウ南西のコロボチキネ村で民家が砲撃され、28歳の民間人女性が死亡した。
西部リヴィウで取材するBBCのソフィー・ウィリアムズ記者によると、ハルキウ州のオレフ・シニエフボフ知事は通信アプリ「テレグラム」で、ロシア軍は依然として「ハルキウ州の民間人を攻撃」し続けていると書いた。州知事は住民に「不要な外出は避ける」よう呼びかけ、空襲警報を無視しないよう注意した。
各地の現地当局によると、ハルキウ州のほか、南西部オデーサ州、中部ポルタヴァ州でもロシア軍のミサイル攻撃が続いているという。
インタファクス・ウクライナ通信によると、ポルタヴァ州では巡航ミサイルが撃墜されたものの、カルリウカではインフラ施設が被弾し、周囲の建物に延焼した。この攻撃による死傷者はなかったという。
南西部の主要港湾都市オデーサとその周辺も、相次ぐミサイル攻撃を受けているという。
5月9日の戦勝記念日に向けてロシアの攻撃がさらに激化するのではないかと、ウクライナ各地で懸念が高まっている。
医療施設への攻撃は200回以上=WHO
WHOは7日、記者会見し、ロシアが2月24日にウクライナ軍事侵攻を開始して以来、ウクライナで医療施設が200回以上攻撃されたことを確認したと発表した。
WHOの緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏は、医療施設攻撃で戦争犯罪があったかについては、WHOが得た情報を適切な捜査当局に提供するつもりだと述べた。
同じ記者会見では、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長がロシア政府に対して、隣国への戦争をやめるよう呼びかけ、ウクライナ国民には「WHOは皆さんを応援している」と述べた。
ウクライナ独立通信(ウニアン通信)は同日、ウクライナのヴィクトル・リャシュコ保健相の発言として、国内約40の病院が完全に破壊されたと伝えた。保健相は、「約500の病院が損傷し、医療が提供できなくなった」とも述べたという。
ロシアの新型戦車破壊=英国防省
英国防省は7日、定例の最新戦況分析を発表した。
それによると、ロシアは少なくとも新型戦車T-90Mを1台、戦闘で失った。T-90Mは対戦車兵器に対抗するため特別設計の最新式装甲を備え、精鋭部隊に計約100台配備されているという。
英国防省は、「ウクライナでの紛争はロシア軍の中でも特に優秀な部隊や装備に、重度の損害をもたらしている。この紛争を経てロシアが自軍を再構築するには、相当の時間と費用がかかる。中でも、不可欠な小型電子部品の調達が対ロ制裁によって制限されているため、ロシア軍は最新式の最先端装備の補充に特に苦労するだろう」と分析している。
ロシアは核攻撃を計画していない=米CIA長官
米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は同日、ロシアは現在、ウクライナで戦術核兵器を配備したり使用したりする計画はしていないと述べた。英紙フィナンシャル・タイムズ主催の会議で発言した。
バーンズ長官は、「現時点では、ロシアが(ウクライナで)戦術核兵器を配備したり、あるいは場合によっては使用したりするための、そのような計画をしているという実際的な証拠」を、情報機関は得ていないと述べた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は軍事侵攻開始から4日目の2月27日深夜、セルゲイ・ショイグ国防相を含む軍幹部に対して、西側がロシアに「非友好的な行動」をとり、「不当な制裁」を科したとして、核抑止部隊に「特別警戒」を命令した。ロシアの核部隊にとって、「特別警戒」は最高レベルの警戒態勢。
これについてバーンズ長官は、「そうやって武力をひけらかして威嚇(いかく)するような発言をロシアの首脳陣がしているだけに、その可能性を我々は軽視できない」と述べ、「そのため我々は情報機関として(中略)、ロシアにとってのるかそるかのリスクが極めて高い現状で、起きてはならない事態を強く注視している」と話した。
●マリウポリ 製鉄所“市民の避難完了” ロシアは攻勢強めるか  5/8
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、東部の要衝マリウポリにある製鉄所に取り残されていた市民を避難させるため、一時的な戦闘停止の期限とされていた7日、ロシア側とウクライナ側は、ともに製鉄所からの市民の避難が完了したと明らかにしました。ロシアとしては、9日の「戦勝記念日」に向け、マリウポリの完全掌握を狙って一層攻勢を強めることも予想されます。
ロシア国防省は7日、ウクライナ東部のハルキウ州の鉄道駅近くにある武器などの集積場所を、短距離弾道ミサイル「イスカンデル」で攻撃し、破壊したと発表しました。
破壊した武器は、欧米側がウクライナに供与したものだとしています。
一方、ウクライナ国防省は、ツイッターで、南部オデーサ沖の黒海にある島でロシア軍の揚陸艇を破壊したと明らかにしました。
攻撃には、トルコ製の無人攻撃機「バイラクタルTB2」を使用したとしていて、公開された映像では、港に接岸しているように見える揚陸艇が攻撃を受けて爆発し、煙が上がる様子などが確認できます。
こうした中、東部の要衝マリウポリでは、ロシア軍が包囲するアゾフスターリ製鉄所に取り残されていた市民を避難させるためとして、ロシア側が一時的な戦闘停止の期限としていた7日、日本時間の8日午前0時を迎えました。
これを受けて、ウクライナのベレシチュク副首相は、SNSで「大統領の命令は実行された。アゾフスターリ製鉄所からすべての女性、子ども、高齢者を避難させた。この部分においての人道的活動は完了した」と発表しました。
続いてゼレンスキー大統領は新たな動画で「女性や子どもなど300人以上が救助された。アゾフスターリ製鉄所から民間人を避難させた」と述べました。
そのうえで「私たちはマリウポリとその周辺の住民のために人道回廊の継続を計画している」と述べ、ウクライナ政府として、マリウポリからの市民の避難をさらに進める考えを示しました。
また、ロシア国防省も声明を出し「民間人を避難させる人道的な作戦は完了した」と明らかにしました。
ロシアとしては、プーチン大統領が重視する、第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利した9日の「戦勝記念日」に向け、軍事侵攻の成果をアピールしようと、マリウポリの完全掌握を狙っているとみられています。
ウクライナ側は「ロシア軍が製鉄所への突入を行っている」と主張していて、ロシア軍が、徹底抗戦の構えのウクライナ側の部隊がとどまっている製鉄所を制圧するため、一層攻勢を強めることも予想されます。
●すでに7人が消された…プーチン大統領を支える「オリガルヒ」続々“怪死” 5/8
5月9日の対独戦勝記念日を目前に控え、ロシア軍によるウクライナ南東部への攻撃が激しさを増している。軍事パレードで掲げる「成果」の獲得に躍起になっている状況だ。そんな中、プーチン大統領の周辺で異変が起きている。政権を支える新興財閥「オリガルヒ」が、次々に謎の死を遂げているのだ。
ロシアの経済紙RBC(4日付)によると、国内で数十店舗を展開するレストランチェーン「カラバエフ兄弟の料理店」の共同創業者、ウラジーミル・リャキシェフ氏が今月1日、モスクワの自宅マンションのベランダで、頭を銃で撃たれ死亡していたのが見つかった。発見した妻によると、脇には本人の猟銃が置いてあった。
不気味なのは、これまでもオリガルヒの不審死が相次いでいることだ。リャキシェフ氏を含め、2月24日のウクライナ侵攻開始前から少なくとも7人が怪死している。
「ロシアの天然ガス独占企業・ガスプロム子会社のガスプロムバンク元副社長が4月18日、モスクワ市内の住宅で妻と娘を射殺した後に自殺したとされています。その翌日、天然ガス大手ノバテク社の元副会長がスペインの別荘で妻子と共に死亡しています」(国際ジャーナリスト)
7人全員が自殺したとされているが、短期間に次々に自殺するのは、さすがに不自然だ。プーチンに粛清された可能性が高いのではないか。筑波学院大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「これまで亡くなったのは、プーチン大統領の秘密を知りうる立場の人物が中心です。“口封じ”のために粛清されたとみるのが自然でしょう。とくにロシアの主要産業であるエネルギー関連企業の内部で、カネの動きを把握していた幹部ばかりが死亡している。プーチン大統領の汚職の実態を知っていたために殺されてしまった可能性があります」
ただし、リャキシェフ氏の仕事はエネルギー関連でなく、飲食関係だ。
「恐らく、リャキシェフ氏は今回の軍事侵攻について批判的な意見を周囲に漏らし、それがプーチン大統領の耳に届いたのでしょう。オリガルヒに『反戦』を訴えられれば、世間に与えるインパクトは大きい。プーチン大統領は9日の戦勝記念日を無事に迎えるため、批判を徹底的に抑え込みたいはずです。今後、あらゆる業種のオリガルヒが粛清の対象になるでしょう。現状でも、7人以外に不審死を遂げたオリガルヒがいるとみられます」(中村逸郎氏)
政権を支えるオリガルヒの排除は、プーチン政権にとってマイナスにならないのか。
「ほとんどダメージはないでしょう。プーチン大統領は、今回の粛清であいた“ポスト”に、息のかかった別の人物を押し込めばいいだけです。そもそも、オリガルヒは政権とつながることでカネ儲けしてきました。虎視眈々と“ポスト”を狙っている『オリガルヒ候補』は大勢いるとみられます」(中村逸郎氏)
これまでもプーチンは、開戦以来の苦戦にいら立ち、情報機関幹部を粛清してきたとされる。今後、何人が“消される”ことになるのか。
●地獄の文明を築く…プーチンの思想を操る「ヤバイ黒幕」の正体 5/8
3期目に差し掛かった’12年からプーチンは権力に取りつかれていく。そのウラには危険思想を持った歴史学者との接触があった。ロシア政治に詳しい筑波学院大学の中村逸郎教授が語る。
「大統領補佐官を務めるウラジーミル・メジンスキー(51)です。メジンスキーは『ロシアは地獄の文明≠作るべきだ』と説いています。その考えを要約すると、次の3つです。1ロシアには力さえあれば知性は必要ない 2人間を成長させるのは恐怖である 3偉大な権力は地上を楽園にするのではなく地獄に変える。3は、ロシアはモンゴルなどの野蛮≠ネ騎馬民族に支配されていた時代があり、その残虐性と融合し、今日のロシアが生まれたという考えです。
そして、その残虐性こそがロシアの特徴だと唱えています。実際、彼が側近となったのは’13年で、翌年にロシアはクリミア併合に踏み切っています。今回のウクライナ侵攻もメジンスキーの思想が影響しています」
プーチンにとって家族はジャマな存在≠ニなっていた。’13年、リュドミラ夫人と離婚。彼女はフランスへと移住して以来、姿を見せていない。現在は元新体操代表のアリーナ・カバエワ(38)を内縁の妻とし、スイスで生活させ、政治からは遠ざけている。2人の娘も資産隠しの道具として利用する始末だ。
「離婚した際、娘たちにも莫大な資産が分与されました。名義は娘やその夫周辺の人物に書き換えられています。プーチンは家族を中心とした財閥集団を構築しています。西側諸国はそこを対象にしないと経済制裁の効果がないと判断し、娘2人の資産凍結に踏み切ったのです。しかし、資産の多くは制裁の及ばない『オフショア』と呼ばれる国の銀行に預けており、効果は限定的でしょう」(ジャーナリストの常岡浩介氏)
暴走するプーチンを、もう誰も止めることはできないのだろうか。
●プーチン氏「がん手術」で権力一時移譲か 米英メディア指摘 5/8
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、がんなどの病気を抱え、手術を控えている可能性があるとした米英メディアの報道が波紋を広げている。手術中には短期的に側近に権力移譲するとの見方もある。9日には対独戦勝記念日を迎えるロシアだが、ウクライナ侵攻は泥沼化し、内政にも混乱の兆しがみえる。トップシークレットとされる最高権力者の体調問題が命運を分けるのか。
プーチン氏の病状については、ロシアのSNS「テレグラム・チャンネル」で明らかにされた。英大衆紙デーリー・メール(電子版)によると、クレムリン(大統領府)の有力者が情報源だという。
報道では、プーチン氏は1年半前から腹部のがんとパーキンソン病に罹患(りかん)していると報告されたほか、幻覚や躁(そう)病、統合失調症の症状を伴う障害もあると伝えた。医師が4月下旬にがんの手術を受けるように勧めていたが延期されたという。今月9日の「独ソ戦・戦勝記念日」まで手術を避けたとの見方もある。
「今回の情報は信憑(しんぴょう)性が高い」と語るのは、ロシア政治に詳しい筑波学院大の中村逸郎教授。
プーチン氏について「かつては民衆と家庭料理を楽しむ様子などもよく伝えられたが、最近は水や紅茶、食事をとる様子も見られなくなり、食事制限を受けているとの見方もできる。2019年のG20(20カ国・地域)大阪サミットでも各国首脳が赤ワインを飲む中でマイボトルを持参したことがさまざまな憶測を呼んだ」と語る。
今年2月にベラルーシのルカシェンコ大統領と会談した際、プーチン氏がつま先を激しく動かす動画が一時流れた。4月21日にショイグ国防相と会談した際には、机の端を強くつかんでいた。「表情は消え、ユーモアを交える発言も近年は見えない」と中村氏は分析する。
露独立系メディア「プロエクト」は4月、高齢となったプーチン氏が医師の巨大なチームを有しているとするリポートを公表した。腫瘍外科医が4年間で35回、計166日間もプーチン氏と過ごしたとされている。
前出のデーリー・メール紙や米紙ニューヨーク・ポストは、プーチン氏が手術を受けた場合、側近の1人、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記が短期的にウクライナ侵攻の主導権を握る可能性があると報じた。
パトルシェフ氏は、プーチン氏と同様、ソ連国家保安委員会(KGB)出身で、ロシア連邦保安局(FSB)長官もプーチン氏の後継として1999年から2008年まで務めた。BBC(日本語電子版)の人物評では、「大統領に対してパトルシェフ氏ほどの影響力を持つ人はわずかだ」としている。
プーチン氏の本当の体調については分からない部分も多い。ただ、中村氏は「病状の事実関係とは別に、こうした情報が表面化すること自体がクレムリン内部の様子を示しているといえる。戦況が泥沼化するにつれて、侵攻支持派にも反発が増えているのではないか」と語る。
3日付の英紙ザ・サン(電子版)は「ウラジーミル最後の日」と題した記事で、「ロシア軍と保安機関の幹部が、脆弱(ぜいじゃく)で病弱な専制君主の致命的な戦争への対応にますます不満を募らせている」という元米軍将官の発言を紹介した。
また、ロシア軍が首都キーウ(キエフ)を撤退し、東部ドンバスなどに転じた作戦について、シロビキ(軍・治安機関出身者の派閥)が「重大な誤り」だと非難したとし、2年以内に取り巻きによる「宮廷クーデター」でプーチン氏が失脚する可能性もあるとする情報分析を伝えた。
国内の混乱はウクライナ侵攻にどのような影響を与えるのか。前出の中村氏は「プーチン氏は自身の『北大西洋条約機構(NATO)を崩壊させる』という野望の達成に向けて、精神的に追い詰められている可能性がある。さらに戦況が悪化すれば、権力闘争の中で巻き返しを図ろうとする強硬派の発言力が増し、プーチン氏が権力の座から退場せざるをえない状況が生まれてくるのではないか。自身が始めた侵攻で自爆する形だ」との見解を示した。 

 

●プーチン大統領 戦勝記念日で語ったこと 演説全文 5/9
尊敬するロシア国民の皆さん!
退役軍人の皆さん!
兵士と水兵、軍曹と下士官、中尉と准尉の同志たち!
そして同志である将校、将軍、提督の皆さん!
偉大な勝利の記念日に、お祝い申し上げる。
祖国の命運が決するとき、祖国を守ることは、常に神聖なことだった。
このような真の愛国心をもって、ミーニンとポジャルスキーの兵は祖国のために立ち上がった。
ロシアの人々は、ボロジノの草原でも戦った。
そして、モスクワとレニングラード、キエフとミンスク、スターリングラードとクルスク、セバストポリとハリコフ、各都市の近郊でも戦った。
そして今、あなたたちはドンバスで、われわれ国民のために戦ってくれている。
祖国ロシアの安全のために。
1945年5月9日は、わがソビエト国民の団結と精神力の勝利、そして、前線と銃後での比類なき活躍の勝利として、世界史に永遠に刻まれた。
戦勝記念日は、われわれ一人ひとりにとって身近で大切な日だ。
ロシアには、大祖国戦争の影響を受けていない家庭はない。
その記憶は薄れることがない。
この日、大祖国戦争の英雄たちの子ども、孫、そしてひ孫が「不滅の連隊」の果てしない流れの中にいる。
親族の写真、永遠に年をとらない亡くなった兵士たちの写真、そして、すでにこの世を去った退役軍人の写真を持っている。
われわれは、征服を許さなかった勇敢な戦勝者の世代を誇りに思い、彼らの後継者であることを誇りに思う。
われわれの責務は、ナチズムを倒し、世界規模の戦争の恐怖が繰り返されないよう、油断せず、あらゆる努力をするよう言い残した人たちの記憶を、大切にすることだ。
だからこそ、国際関係におけるあらゆる立場の違いにもかかわらず、ロシアは常に、平等かつ不可分の安全保障体制、すなわち国際社会全体にとって必要不可欠な体制を構築するよう呼びかけてきた。
去年12月、われわれは安全保障条約の締結を提案した。
ロシアは西側諸国に対し、誠実な対話を行い、賢明な妥協策を模索し、互いの国益を考慮するよう促した。
しかし、すべてはむだだった。
NATO加盟国は、われわれの話を聞く耳を持たなかった。
つまり実際には、全く別の計画を持っていたということだ。
われわれにはそれが見えていた。
ドンバスでは、さらなる懲罰的な作戦の準備が公然と進められ、クリミアを含むわれわれの歴史的な土地への侵攻が画策されていた。
キエフは核兵器取得の可能性を発表していた。
そしてNATO加盟国は、わが国に隣接する地域の積極的な軍事開発を始めた。
このようにして、われわれにとって絶対に受け入れがたい脅威が、計画的に、しかも国境の間近に作り出された。
アメリカとその取り巻きの息がかかったネオナチ、バンデラ主義者との衝突は避けられないと、あらゆることが示唆していた。
繰り返すが、軍事インフラが配備され、何百人もの外国人顧問が動き始め、NATO加盟国から最新鋭の兵器が定期的に届けられる様子を、われわれは目の当たりにしていた。
危険は日増しに高まっていた。
ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。
それは必要で、タイミングを得た、唯一の正しい判断だった。
主権を持った、強くて自立した国の判断だ。
アメリカ合衆国は、特にソビエト崩壊後、自分たちは特別だと言い始めた。
その結果、全世界のみならず、何も気付かないふりをして従順に従わざるを得なかった衛星国にも、屈辱を与えた。
しかし、われわれは違う。
ロシアはそのような国ではない。
われわれは、祖国への愛、信仰と伝統的価値観、先祖代々の慣習、すべての民族と文化への敬意を決して捨てない。
欧米は、この千年来の価値観を捨て去ろうとしているようだ。
この道徳的な劣化が、第2次世界大戦の歴史を冷笑的に改ざんし、ロシア嫌悪症をあおり、売国奴を美化し、犠牲者の記憶をあざ笑い、勝利を苦労して勝ち取った人々の勇気を消し去るもととなっている。
モスクワでのパレードに来たいと言っていたアメリカの退役軍人が事実上、出席を禁止されたことも知っている。
しかし、私は彼らに「あなたたちの活躍と共通の勝利への貢献を、誇りに思っている」ということを知ってもらいたい。
われわれは、アメリカ、イギリス、フランスといったすべての連合国の軍隊に敬意を表する。
そして抵抗運動の参加者、中国の勇敢な兵士やパルチザンなど、ナチズムと軍国主義を打ち負かしたすべての人たちに敬意を表する。
尊敬する同志たち!
こんにち、ドンバスの義勇兵はロシア軍兵士と共に、自分たちの土地で戦っている。
そこは、スビャトスラフやウラジーミル・モノマフの自警団、ルミャンツェフやポチョムキンの兵士、スボロフやブルシロフの兵士、そして大祖国戦争の英雄ニコライ・ワトゥーチン、シドル・コフパク、リュドミラ・パブリチェンコが、敵を撃破した土地だ。
いま、わが軍とドンバスの義勇兵に伝えたい。
あなた方は祖国のために、その未来のために、そして第2次世界大戦の教訓を誰も忘れることがないように、戦っているのだ。
この世界から、迫害する者、懲罰を与える者、それにナチスの居場所をなくすために。
われわれは、大祖国戦争によって命を奪われたすべての人々、息子、娘、父親、母親、祖父母、夫、妻、兄弟、姉妹、親族、友人を悼む。
2014年5月に労働組合会館で、生きたまま焼かれたオデッサの殉教者たちを悼む。
ネオナチによる無慈悲な砲撃や野蛮な攻撃の犠牲となった、ドンバスのお年寄り、女性、子どもたち、民間人を悼む。
そしてロシアのために、正義の戦いで英雄的な死を遂げた戦友を悼もうではないか。
1分間の黙とうをささげよう。
(1分間の黙とう)
兵士や将校、一人ひとりの死は、われわれ全員にとって悲しみであり、その親族と友人にとって取り返しのつかない損失だ。
国家、地域、企業、そして公的機関は、このような家族を見守り、支援するために全力を尽くす。
戦死者や負傷者の子どもたちを特別に支援する。
その旨についての大統領令が、本日署名された。
負傷した兵士や将校が速やかに回復することを願っている。
そして、軍病院の医師、救急隊員、看護師、医療スタッフの献身的な働きに感謝する。
しばしば銃撃を受けながら、最前線で、みずからの命も顧みず戦ってきたあなた方には、頭が下がる思いだ。
尊敬する同志たち!
今、ここ赤の広場には、広大な祖国の多くの地域からやって来た兵士と将校が肩を並べて立っている。
ドンバスやほかの戦闘地域から直接やって来た人々もいる。
われわれは、ロシアの敵が、国際テロ組織を利用して、民族や宗教どうしの敵意を植え付け、われわれを内部から弱体化させ、分裂させようとしたことを覚えている。
しかし何一つ、うまくは行かなかった。
戦場にいるわれわれの兵士たちは、異なる民族にもかかわらず兄弟のように、互いを銃弾や破片から守っている。
それこそがロシアの力。
団結した多民族の国民の、偉大で不滅の力だ。
こんにち、あなた方は、父や祖父、曽祖父が戦って守ってきたものを、守ろうとしている。
彼らにとって、人生の最高の意義は、常に祖国の繁栄と安全だった。
そして彼らの後継者であるわれわれにとって、祖国への献身は最高の価値であり、ロシアの独立を支える強固な支柱だ。
大祖国戦争でナチズムを粉砕した人々は、永遠に続くヒロイズムの模範を示した。
この世代こそ、まさに戦勝者であり、われわれは常に見習い続ける。
われわれの勇敢な軍に栄光あれ!
ロシアのために!
勝利のために!
万歳! 
●「ウクライナでの軍事作戦は唯一の正しい選択」 「戦勝記念日」式典で演説 5/9
「対ドイツ戦勝記念日」を迎えたロシアでは、首都モスクワで軍事パレードが開催され、先ほどプーチン大統領が演説を行った。宣戦布告や徴兵についての発言はなかった。
ナチスドイツへの勝利から77年を祝う「戦勝記念日」を迎えた9日、モスクワの赤の広場では例年通り、日本時間午後4時ごろから式典が始まった。
プーチン大統領は聴衆を前に演説を行い、ウクライナへの軍事侵攻について、「ウクライナでの軍事作戦は『唯一の正しい選択だった』」と述べた。しかし、いわゆる戦争宣言に言及するような発言はなかった。
●プーチン大統領「戦争宣言」せず ウクライナ侵攻を正当化  5/9
ロシアの首都モスクワで9日、対ドイツ戦勝記念日の式典が行われ、プーチン大統領が演説を行ったが、注目されていた「戦争宣言」はしなかった。
記念式典は日本時間午後4時からモスクワの赤の広場で始まった。プーチン大統領は、演説冒頭で「我々はいまだドンバスのために、ロシアの安全のために戦っている」と強調。「キーウでは核兵器の取得に関する話が進んでいた」、「NATO(北大西洋条約機構)が我が国に近い領土を開発しようとしていて、我々にとって直接的な脅威になっている」と述べ、NATOを批判しウクライナへの軍事侵攻を正当化した。
また、式典についてロシア大統領府は、天候の原因で航空機によるパレードが中止になったと発表した。当初、核戦争の時に大統領らが指揮をとる特別機「イリューシン80」なども飛ぶ予定だった。
●「欧州側がロシア侵攻を準備」ウクライナ侵攻を正当化 対独戦勝記念日で演説 5/9
ロシアの首都モスクワで9日、第2次世界大戦の対独戦勝記念日の式典があった。ウラジーミル・プーチン大統領は演説で、ウクライナ侵攻の正当性を改めて主張した。
プーチン氏はこの日の演説で何らかの重要な発表をするとの見方もあったが、そうした内容はなかった。BBCのポール・アダムス外交担当編集委員は、今後の方針についてプーチン氏は手がかりを示さなかったと指摘した。
プーチン氏は、ロシアの国境地帯で北大西洋条約機構(NATO)とウクライナが「私たちにとって受け入れられない」脅威を作り出していると主張。ウクライナ侵攻を改めて正当化しようとした。
また、西側諸国について、ロシアの言うことを聞こうとせず、「クリミアを含めた私たちの領土の侵攻」を準備するなど、他の計画をもっていたと、根拠を示さずに訴えた。
「戦う必要があった」
プーチン氏は、欧州各国やNATOとの間ではここ1年ほど、緊張状態が続いてきたと説明。「ヨーロッパには公平な妥協点を見いだすよう求めたが、向こうは私たちの言うことを聞かなかった」とし、ウクライナ東部ドンバス地方で欧州側が懲罰的な作戦を準備していたと主張した。ドンバス地方では現在、ロシア軍が集中的に軍事作戦を展開している。
プーチン氏は、「キエフでは政府関係者が核兵器入手の可能性について語り、NATOは私たちの国に近い土地に関して探り始めた。そうした行為は、私たちの国と国境にとって、明白な脅威となった。すべてのことが私たちに対して、戦う必要があると物語っていた」と述べた(編注:ウクライナの首都キーウをロシア語ではキエフと発音する)。
また、ウクライナでの「特別軍事作戦」について、必要かつ「時宜にかなった」対応だったと説明。独立した頑強な主権国家による「正しい決断」だったとした。
ロシアは今回の軍事侵攻を「特別軍事作戦」と呼んでいる。この戦勝記念日を機に正式に戦争を宣言し、国家総動員を発令するのではないかとの観測もあったが、そのような変化を示すものはなかったと、アダムズ外交担当編集委員は指摘する。
「母国のため、未来のため」
モスクワ中心部の赤の広場で開かれた式典では、数千人の兵士らがパレードに参加し、雄たけびを上げた。ロシア国歌が演奏され、大砲が撃たれた。
プーチン氏は演説の冒頭、兵士らに向け、「あなたたちは母国のため、未来のために戦っている」と語りかけた。
そして、「兵士や将校の死はすべて痛ましい」、「遺族の面倒を見るため、国としてできるだけのことをする」と述べた。
その上で、第2次世界大戦で死亡したロシア人を追悼するのに加え、ウクライナ東部ドンバス地方で戦っているロシア兵のために1分間の黙祷(もくとう)を呼びかけた。
●「開戦」は宣言せず…侵攻「ナチスに居場所を与えないため」と正当化  5/9
ロシアのプーチン大統領は9日、モスクワの「赤の広場」で開かれた対独戦勝記念日の軍事パレードで演説し、ウクライナ侵攻について「唯一の正しい決定だった」と述べて正当化した。プーチン氏は侵攻での「戦果」や停戦の条件などについては言及しなかった。
プーチン氏は約1万1000人の将兵や退役軍人らを前に約10分演説し、2月24日の侵攻開始前の状況について、米欧がウクライナへの軍事支援を強化し「危険が日々拡大した」と指摘した。ウクライナが「核兵器を取得する可能性を発表した」とも主張し、米欧やウクライナに責任があると批判した。
露軍と親露派武装集団は、東部ドネツク州、ルハンスク(ルガンスク)州のドンバス地方でウクライナ軍との攻防を続けている。プーチン氏は演説で「皆さんはドンバスのため、祖国の安全のために戦っている」と兵士らを称賛した。作戦の目的に関し「ナチスに居場所を与えないためだ」と語り、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領をナチス・ドイツになぞらえて非難した。
米欧では、プーチン氏が軍事パレードでの演説で米欧の脅威を強調して正式に「開戦」を宣言し、大規模動員に乗り出すのではないかとの見方が出ていた。だがそうした方針は示されなかった。
モスクワでのパレードにはウクライナ侵攻の影響がにじんだ。外国の首脳は招待せず、行進した将兵数は昨年よりも約1000人減り、兵器数も昨年から約60少ない約130だった。
軍事パレードはロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミアを含む28都市で実施された。ロシア通信によると、露軍が制圧した南部ヘルソン州やザポリージャ州の一部、南東部マリウポリでも市民の行進が行われた。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9日、「我々は新たな勝利のために戦っている。道は険しいが、勝利を確信している」と演説した。
演説のポイント
・ロシア軍はドンバス地方やロシアの安全のために戦っている。
・ロシアは合理的で妥協による解決策を模索するため誠実な対話を求めたが、全て無駄になった。
・ウクライナは核兵器取得の可能性を発表した。NATO諸国から最新兵器が供与され、危険は日々拡大した。ロシアが先制的な反撃を与えたのは、タイムリーで唯一の正しい決定だった。
対独戦勝記念日
1945年5月9日、第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した日として、ロシアを含む旧ソ連諸国などが記念している。プーチン政権は、ソ連が多大な犠牲を払ってナチスを倒した歴史を、愛国心を高める観点から特に重視している。
●ロシア プーチン大統領 軍事侵攻正当化 ウクライナ人が非難 5/9
ロシアでは9日、第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利して77年の記念日を迎え、首都モスクワでは式典が開かれました。この中でプーチン大統領が演説し、ウクライナへの軍事侵攻を改めて正当化しました。これについて、関西で暮らすウクライナの人からは、非難の声が聞かれました。
ウクライナ留学生“心傷つく”
ロシアのプーチン大統領が9日、戦勝記念日の式典で行った演説を、ウクライナから和歌山大学に留学しているパーダルカ・オリハさん(22)は時折、涙を流しながら自宅で聞いていました。
オリハさんは、ウクライナの首都キーウにある国立大学で日本語を学び、ことし3月から和歌山市にある和歌山大学に留学しています。
オリハさんは、「演説の内容はすべてうそばかりで、心が傷つけられて涙がこみ上げてきました。多くの人が亡くなっている今の状況で軍事パレードをするのも信じられない」と強く批判しました。
そのうえでオリハさんは、「母国の家族や友人、すべてのウクライナの人が無事でいてほしい。戦争がもっと激しくなる心配はもちろんありますが、戦争が早めに終わってほしいです」と話していました。
ウクライナ出身女性“悲しい”
神戸市の会社で働いているウクライナ西部リビウ出身のシヴェド・マリアさんは、ロシアの戦勝記念日の式典でのプーチン大統領の演説について「ただのショーだ。世界に対してこのようなひどいことをするプーチン大統領に対して、とても悲しいと感じるとともに、ウクライナで多くの人が亡くなり、子どもたちが親を失っている状況にとても痛みを覚える」と話しました。
そのうえで、「戦争はすぐには終わるとは思えない。私たちが予期できない何かが起きるのではないかと恐怖を抱いている」と述べました。
マリアさんが暮らす神戸市の自宅には、ウクライナから弟のヴォロディームィルさんとその妻が避難しているということです。
マリアさんは「もしウクライナに帰ったとしても住んでいる町にミサイルが飛んできたら防ぎようがない」と述べ、国内の安全が確保されていない現状では、弟夫妻が今後、ウクライナに戻るのは難しいとしています。
ロシア出身者“つらい”
ロシアの首都モスクワ出身で京都市に住むナイフズ・イアンさんは、自宅でインターネットを通じてプーチン大統領の演説を聞きました。
ナイフズさんは「とてもつらいです。きょうは先の戦争で犠牲になった家族や友人のことを思うロシア人にとって大切な日です。演説の中で、プーチン大統領は今の軍事侵攻と先の戦争が同じことのように話していましたが、全く違うことだと思います。ロシア人をごまかそうとするプロパガンダだと思います」と複雑な心境を明かしました。
そのうえで、「なぜモスクワがこんな状態になり、なぜ今ロシアが戦争をしているのか、演説を見ていてとてもつらい気持ちになりました。開戦の宣言をしなくてよかったですが、ロシア出身者として、どうやって戦争を止められるか分からず、何もできない無力感があります」と話していました。
●マクロン大統領、プーチン大統領と対話を再開 5/9
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は5月3日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を行い、ロシア軍によるウクライナ・ブチャでの住民虐殺が報道されてから中断していたプーチン大統領との対話を再開した。
大統領府の5月3日付発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、マクロン大統領はプーチン大統領に対し、ロシアによるウクライナ侵略戦争がもたらす極めて深刻な影響をあらためて強調した。ウクライナ東部マリウポリとドンバス地方の状況について深い懸念を表明し、人道支援組織と連携しつつ、国際人道法に沿って避難者に目的地の選択権を与えながら、数日前に始まったアゾフスタリ製鉄所からの避難継続を可能にするよう求めた。
マクロン大統領はまた、ウクライナ戦争が世界の食料安全保障に与える影響に考慮し、ウクライナからの黒海経由での食料輸出について、ロシアによる封鎖解除に貢献するため国際機関とともに努力する用意があることを伝えた。
さらに、プーチン大統領に対し破滅をもたらす侵略を止めてロシアが国連安全保障理事会の常任理事国としての責任を果たすことを求めた。そして、平和とウクライナの主権・領土保全の完全な尊重を可能にするため、交渉による解決に必要な条件を整えることに尽力する意思を表明した。
これに先立ち、マクロン大統領は4月30日、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行い、同国の主権と領土回復に向け引き続き努力することをあらためて表明していた。マクロン大統領は5月5日、ポーランドで開催されたウクライナに対する人道支援に向けた国際会議に際し、ウクライナ支援予算を3億ドル上乗せすると発表した。フランスは既に物資や財政支援など合わせて17億ドルの予算を確保していたが、ウクライナの経済復興のためにさらなる支援が必要だとして、支援予算総額を20億ドルに引き上げる意向を明らかにした。
同発表フランスは戦争勃発からこれまでに人道支援に1億ユーロを拠出し、800トンの人道支援・医療物資をウクライナおよび周辺国に届けた。一方、フランス国内には4月28日までにウクライナから5万1,000人を超える避難民が入国し、このうち2万9,000人が宿泊施設に受け入れられた。
●ウクライナ ロシア軍の攻撃激化に警戒強める  5/9
ロシアで、第2次世界大戦の戦勝記念日の式典が行われる中、ウクライナでは東部ルハンシク州の知事がロシア軍の攻撃がさらに激しさを増すおそれがあるとして、市民に対し屋内にとどまるよう呼びかけるなど、警戒を強めています。
ロシア各地で、第2次世界大戦の戦勝記念日が行われる中、ウクライナ東部ルハンシク州のガイダイ知事は9日、フェイスブックに「ロシア側が攻撃を始めていて外出は危険だ。何をしてくるか予想できないので、外出を控えてほしい」と投稿し、市民に対し屋内にとどまるよう呼びかけました。
ルハンシク州では7日、多くの市民が避難していた学校が空爆を受け、およそ60人が死亡したことが明らかになっていて、ゼレンスキー大統領が「学校が標的にされた。ロシア軍のもう一つの犯罪だ」と強く非難したほか、国連のグテーレス事務総長も声明で「がく然としている。市民と民間施設は常に守られなければならない」と訴えました。
またイギリス国防省は9日に「軍事侵攻がロシア側の事前の予想より長引くことで、ロシア軍の精密誘導兵器の備蓄はかなり減っていて、信頼性や精度が低い兵器を使わざるを得なくなっている。ロシアは民間人の犠牲をほとんど、あるいは全く考慮せず、無差別爆撃の対象にしている」として、ロシア軍の侵攻が長期化する中、精密な攻撃ができなくなってきているという分析を示しました。そして、欧米側の支援を受けるウクライナ側が一部で攻勢に転じているという見方も出ています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は8日に「東部ハルキウの北東部でウクライナ側の反転攻勢を受けたため、ロシア軍はほかの地域での作戦を強化できなくなっている」として、ロシア軍の前進は見られないと分析しています。
ゼレンスキー大統領は9日、新たに動画を公開し「ナチズムに勝利したこの日、われわれは新たな勝利のために戦っている。自由な国民を支配できる侵略者などいない。遅かれ早かれ、われわれは勝利する」と述べ、改めて徹底抗戦を呼びかけました。
●ウクライナでの軍事作戦は「唯一の正しい決定」 プーチン大統領演説要旨   5/9
ロシアのプーチン大統領が9日、対ドイツ戦勝記念日の式典で演説を行い、ウクライナへの軍事侵攻を正当化した。演説の要旨は以下の通り。
「ロシアの安全のため」の戦い
祖国の防衛は、その運命が決まろうとする時、いつも神聖なものだった。本物の愛国心を持ち、祖国を守るためにミーニンとポジャルスキーの民兵が立ち上がりボロジノでロシアを守ったように、モスクワやレニングラード(サンクトペテルブルク)、キエフ(キーウ)やミンスク、スターリングラード(ボルゴグラード)やクルスク、セバストポリやハリコフ(ハルキウ)で戦ってきた。そして今も皆さんはドンバスで我々の人々のために戦っている。我々の祖国・ロシアの安全のために。
ウクライナ侵攻「唯一の正しい決定」
去年12月、我々が安全保障に関する合意を結ぼうと提案したとき、西側に対しても共通の利益を考慮にいれた解決策を模索しようと対話を呼びかけたが、すべて無駄だった。NATO諸国は我々に耳を貸さなかった。彼らは全く別の計画を持っていたということだ。我々はそれを見ていた。クリミアを含む我々の歴史的な土地への侵入のために、ドンバスにおける新しい威圧的な軍事作戦の準備が行われていた。ウクライナ政府は核兵器の取得の可能性について明らかにした。NATOが我が国に隣接する領土への積極的軍事開発に着手した。このような我々が絶対に受け入れられない脅威が我々の国境で体系的に形成された。こうしたことすべてが、米国と若きパートナーが望みをかけたネオナチ派、バンデーラ派との衝突を避けられないものだということを示した。
我々は、どのように軍事インフラが整備されているか、何百人もの外国人顧問がどのように業務をはじめているか、NATO諸国から定期的に最新の兵器が供与される様子を目の当たりにしてきた。危険は毎日増大していた。ロシアは攻撃に対する先制的な打撃を与えた。それが最もタイミングを得た、唯一の正しい決定だった。主権を持ち、強く、独立した国の決定だ。
米国は特にソ連崩壊後、自身の優位性について主張し始め、全世界のみならず、何にも気づかないふりをしてすべてに従わざるを得なかった衛星国にも屈辱を与えた。
我々は別の国だ。ロシアは別の性格を持っている。我々は祖国に対する愛、信頼、伝統的な価値、先人たちの習慣、そして人々と文化に対する敬意を忘れない。しかし、西側ではこうした千年の価値観を全部無視すると決めたのだ。このような道徳の低下は、大祖国戦争(第2次世界大戦)の買い残の基礎となり、ロシア嫌いや裏切り者の賞賛し、犠牲者を辱め、戦勝をもたらし勝ち得た人々の勇気を消し去った。モスクワのパレードに行きたいと思っていた米国の退役軍人は、事実上それを禁じられたことも知っている。我々はそうした人たちに知ってほしい。我々があなたたちの功績や、共通の勝利のためのあなたたちの貢献を誇りに思っていることを。我々は連合軍すべての兵士、レジスタンスの参加者、中国のパルチザン、ナチズムと軍国主義を打ち負かしたすべての兵士を称える。
団結した多民族国家の力
我々の軍とドンバスの民兵組織の皆さんに申し上げる。あなたたちは、祖国のため、その未来のため、そして大祖国戦争(第2次世界大戦)の教訓を忘れないために戦っている。虐殺者やナチスのための場所がこの世界に存在しないために。今日、我々は大祖国戦争(第2次世界大戦)によって命を奪われたすべての世代の人々の記憶の前に頭を下げる。
現在、様々な民族の兵士が、兄弟のように武器で互いを守っている。これはロシアの力であり我々の団結した多民族国家の偉大な、壊すことのできない力だ。あなたたちは我々の父、祖父、曾祖父たちが戦ってきたものを守っている。
大祖国戦争(第2次世界大戦)でナチズムを打ち破った人々は常に我々に英雄主義の模範を示している。この勝者たち世代を我々は常に尊敬する。
我々の勇敢な軍に栄光あれ!ロシアのために!勝利のために!万歳!
●ウクライナ大統領、領土で「譲歩せず」 ロシアはマリウポリで「祝勝行事」 5/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日に合わせて声明を出し、ウクライナの東部と南部の制圧を目指すロシア軍に対して「一片の土地、一片の歴史であっても与えるつもりはない」と述べ、領土面では一切譲歩しない姿勢を強調した。
また、ゼレンスキー氏は「われわれは新たな勝利に向けた戦いを続けている。道のりは険しいが、勝利を果たすことに疑いはない」と訴えた。
一方、ロシア軍が大半を制圧したウクライナ南東部マリウポリの通りでは9日、ロシア側が戦勝記念日に合わせて「カーニバル」(マリウポリのアンドリュシェンコ市長顧問)を行った。マリウポリ市外から親ロシア派の人々が動員されたという。ロシア通信によれば、ロシアが行政庁舎を占拠した南部ヘルソンなどでもイベントが行われた。
●ロ軍が避難所空爆、60人死亡 「ナチス以来の悪の再現」―製鉄所に砲撃 5/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は、東部ルガンスク州で住民の避難場所になっていた学校が7日、ロシア軍の空爆を受け、60人が死亡したと明らかにした。8日に参加した先進7カ国(G7)のオンライン首脳会議で語った。
学校は州都ルガンスク北西約80キロのビロホリウカにあり、前線に近い。ガイダイ州知事によると、当時約90人が避難しており、犠牲者はがれきの下敷きになったとみられる。ゼレンスキー氏は「(第2次大戦で)ナチス・ドイツが欧州にもたらした悪の再現だ」と強く非難した。
ロシア軍は同州を含むドンバス地方やアゾフ海、黒海に面した南部一帯で支配地域の拡大を目指しており、民間人にも多数の犠牲者が出ている。
一方、ロシア軍の包囲下にあるウクライナ南東部マリウポリのアゾフスタル製鉄所をめぐり、ゼレンスキー氏は7日、国連などの協力の下、製鉄所に取り残されていた女性や子供ら300人以上が避難したと発表。次の段階として、負傷者や衛生兵の避難準備を進めていると明らかにした。国連当局者は、製鉄所から退避した民間人約40人が8日、南東部ザポロジエに到着したと述べた。
ロシア国防省は先に、製鉄所からの民間人避難を進めるために5日から7日までの日中の攻撃停止を発表していた。実際はこの3日間も砲撃などが続いていたが、女性らの避難と停戦期間が終了したことで、ロシア側が製鉄所に残るウクライナ部隊の制圧に向け本格的な攻撃を仕掛ける恐れがある。
ロイター通信によれば、ウクライナ部隊の副司令官は8日、激しい砲撃を受けているとした上で「占領軍を撃退するため、生きている限り戦い続ける」と投降を拒否した。
●「ジレンマ深まる可能性」“プーチン演説”分析でみえた“ロシア苦戦” 5/9
モスクワで行われた“対ドイツ戦勝記念式典”で、プーチン大統領が演説。約11分間に渡って行われました。
プーチン大統領は、ウクライナの侵攻について「ドンバスのロシア軍や民兵は祖国の将来のため、ナチスの場所をなくすために戦っている」「去年12月に安全保障システムを築くことを提案したが、NATOは聞き入れなかった」と述べました。また「我が国の軍隊とドンバス民兵へ。あなた方は祖国とその未来のために戦っている。ロシアのために正義の戦いで、勇者の死を遂げた戦友に頭を下げる」と述べました。
ロシア情勢に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治さん、軍事アナリストの小泉悠さんに聞きます。
(Q.演説を聞いて、どのような印象を受けましたか)
兵頭慎治さん:勝利宣言、戦争宣言、核使用示唆する発言がまったくありませんでした。中身は、軍事侵攻の正当化、国民への理解、欧米への批判に終始するものでした。これまで語ってきた内容と差がないと思います。気になったのは、ロシアの言う特別軍事作戦での犠牲者に対する哀悼の意を表明しています。いずれ、ウクライナ侵攻の犠牲の実態が、ロシア国内で徐々に明らかになってくるだろうという認識のもと、ロシア国内で高まるかもしれない反戦的なムードを打ち消すために、闘っている兵士に対して感謝の意を示す。国内世論に配慮するような部分もあったと思います。
小泉悠さん:全体的に同じようなことを言っている感じがしました。戦争が始まったときも、いまも同じようなことを言っている。ということは、プーチン大統領が戦争当初に掲げた目標を、まだ取り下げていないのではないかという印象です。「ゼレンスキ―政権はナチスだから倒さなければいけない」ウクライナの主権そのものを否定するようなものです。「ドンバスは取り返さなければいけない」ドンバスとクリミアは我々の歴史的な土地だという言い方をしていて、同じようなことを言っています。だから、なかなかやめそうにない印象です。だから、いま出ている戦死者や負傷者を放っておくわけにはいかないので、「哀悼の意を表する」と言うし、大統領令で「戦死した家族のための保障をやっている」と言う。それは、戦争をやめないための下準備ではないかという印象を受けました。
今回の戦勝記念日は例年と違う点がいくつかありました。軍事パレードは、例年に比べて小規模でした。また、通称“終末の日の飛行機”と呼ばれる『イリューシン80』、核戦争が起きた場合、大統領が乗って指揮をとる航空機がリハーサルでは飛んでいたものの、悪天候を理由に飛行しませんでした。プーチン大統領の演説では、ウクライナ侵攻に対しての「勝利宣言」や、イギリス国防相が指摘していた「戦争宣言」はありませんした。“核戦争”をちらつかせる様な発言もありませんでした。
(Q.核戦争を見据えた飛行機が飛ばなかったことをどう見ますか)
兵頭慎治さん:上空、悪天候のように見えなかったので、不自然な感じはしました。しかし、実際のところはわかりません。ただ、もし、核戦争、核使用を政治的におわせる意図があるのであれば、飛ばしたと思いますので、あえて飛ばなかったということに何か政治的な意図があるかどうかという観測は出てくると思います。仮に、政治的意図があったら、核戦争を示唆するような言動をプーチン大統領は強めに出してきていたので、政治的配慮があったのかもしれません。
(Q.勝利宣言、戦争宣言をしなかったプーチン大統領の狙いは、どこにあるのでしょうか)
小泉悠さん:勝利宣言をできる材料がないということです。むしろ、一部のところではロシア軍が、相当、後退しているらしいので、軍事的に勝っていると国民に言える状況ではないということだと思います。いまは、戦争ではなく特別軍事作戦と言っていますので、本格的に「戦争です」「国民を動員する」など言っていないので、「これまで通りやる」と。もし、社会も戦時モードにして、男性をみんな送りますと言ったら、戦争に勝てるかもしれませんが、国民からは不人気。そういう風にはなってほしくないでしょうね。今回は、あくまでも国民には負担がないままで、この戦争を続けて勝てるということにしたと思います。
ここにきて、ウクライナ軍が制圧された地域を奪還する動きもあります。キーウに続いて、ハルキウも奪還しました。一方、ロシア軍は、ハルキウ周辺の橋を破壊して、ウクライナの進軍を妨害する動きもあります。
(Q.ロシア軍が攻めから守りに入ったような動きに見えますが、どうでしょうか)
小泉悠さん:そう見えます。ロシアは、第二次世界大戦のときのソ連の栄光を再現したかったと思います。しかし、結果的にドイツ側の役割をやっていると思います。無理な戦争を始めた挙句、大反撃を食らっている。やっていることが真逆。本来、いまごろ、華々しい勝利を祝っているはずだったのに、大都市もとれないし、ドンバスの戦場でも勝てない。何と言っていいのかわからない戦勝記念日だったのかなと思います。このままロシア軍の大規模な動員なしで、ウクライナ軍と対峙し続けると、これから西側から送られてくるものが線状に入って来るので、さらに苦しくなってくるというのは目に見えています。あんまり大きな花火があげられなかった。そうなると、この先、どうするのだろうか。核を使うのではないかという懸念も出てくると思います。
兵頭慎治さん:今回の演説で、プーチン大統領の苦悩が感じ取れました。このままだと、ロシアにとってどんどん戦況は悪化していく。しかし、国内の世論を気にして国家総動員には踏み切れない。さらに、欧米諸国から支援が前線に届いていく。ウクライナの見立てでは、6月中旬くらいにはそろうと。そこから反転攻勢に出られると予測を立てています。戦闘が長期化すればするほど、プーチン大統領のジレンマはどんどん深まっていく可能性がありますので、次、何を打ち出すのか。9日は、明確なメッセージを出なかったが、このままだと中途半端な状況に置かれますので、このあと、何を打ち出すのか注目したいです。
プーチン大統領は、演説の中で、西側との対立構図についても言及。アメリカに対して、「ソ連崩壊後、自国の優位性を常に主張してきた」「全世界だけでなく、衛星国にも屈辱を与えた。しかし、私たちロシアは異なる性質を持っている」と述べました。
(Q.諸外国へのメッセージをどう見ますか)
兵頭慎治さん:今回の演説で、NATO、欧米批判に踏み込んだのは、これまでありませんでした。ロシア国内向けには、ウクライナとの戦いというよりも、背後にいる欧米との闘いである。それを前面に押し出そうと。それによってロシア国内の軍事侵攻に対する支持を獲得していこうという狙いもあると思います。
小泉悠さん:アメリカ中心の国際秩序を書き換えて、もう一回、ロシアが大国の座に戻ってこようとしているが、実際、軍事的にうまくいっていない。経済、イデオロギーでもダメ。軍事力だけは強かったはずなので、その軍事力でも上手くいっていない。その空回り感を強く感じました。
●ロシア「違法な侵略」 プーチン氏は「確実に敗北」―英国防相 5/9
ウォレス英国防相は9日、ロシアのウクライナ侵攻を「違法な侵略」と断じ、「プーチン(ロシア大統領)とその側近、将軍たちは77年前のファシズムや専制の生き写しであり、前世紀の全体主義体制の過ちを繰り返している」と非難した。ロンドンでの講演で述べた。
ウォレス氏はプーチン大統領について「ファシズムを撃退した誇り高い先祖の歴史を乗っ取っている」と指摘。将軍たちがそれに加担し「低俗なギャング主義」に仕える形でウクライナに苦痛を与えていると批判した。
ロシアではこの日、対ドイツ戦勝記念日の式典が行われ、プーチン氏が演説した。ウォレス国防相は「プーチン氏らにとって『勝利の日』はあり得ず、ウクライナでの不名誉と確実な敗北があるだけだ」と述べた。
●プーチン大統領 演説で侵攻正当化も「戦争状態」は言及せず  5/10
ロシアのプーチン大統領は9日、戦勝記念日の式典で演説し「ロシアにとって受け入れがたい脅威が直接、国境に作り出され、衝突は避けられなかった」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻を重ねて正当化しました。一方、一部で指摘されていた、戦闘による具体的な成果や「戦争状態」の宣言については言及しませんでした。
約10分にわたる演説
ロシアでは9日、第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利して77年の記念日を迎え、各地で軍事パレードなどの記念式典が行われています。
首都モスクワでは、日本時間の9日午後4時から赤の広場で式典が開かれ、プーチン大統領が演説しました。
およそ10分にわたる演説でプーチン大統領は「去年12月、われわれは安全保障に関するさまざまな提案を行ったが、すべてむだだった」とし、安全保障をめぐるロシアの提案が欧米各国に受け入れられなかったと批判しました。
そのうえでウクライナのゼレンスキー政権が核兵器を取得する可能性を明らかにしていたなどと、一方的に主張しました。
そして「われわれにとって受け入れがたい脅威が直接、国境に作り出されていた。アメリカやその同盟国が背後についたネオナチとの衝突は、避けられないものになっていた」と強調しました。
そして「NATOの加盟国から最新兵器が提供されるようすを目の当たりにし、危険は日増しに高まっていた。必要で、タイミングを得た、唯一の、正しい判断だった」と述べ、ウクライナを軍事支援する欧米の脅威を背景に軍事侵攻に踏み切ったと正当化しました。
一方、プーチン大統領は、一部で指摘されていたウクライナでの戦闘による具体的な成果や「戦争状態」の宣言については言及しませんでした。
ゼレンスキー大統領「自由な国民支配できる侵略者などいない」
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、新たに動画を公開しました。このなかで「これは2つの軍隊による戦争ではない。2つの世界観の戦いだ。ミサイルが、われわれの哲学を破壊できると信じている野蛮人による戦争だ」とプーチン政権を非難しました。そして「ナチズムに勝利したこの日、われわれは新たな勝利のために戦っている。その道のりは険しいが、われわれは勝利を確信している」と述べました。
そのうえで「私たちの土地に根を張ることができる占領者はいない。自由な国民を支配できる侵略者などいない。もうすぐわれわれは勝利する」と訴え、徹底抗戦する姿勢を改めて示しました。
ウクライナ外相「彼が見ているものは現実と一致していない」
クレバ外相は、9日日本時間の午後5時から、オンラインでNHKの単独インタビューに応じ、モスクワで行われた戦勝記念日の式典でプーチン大統領が行った演説について、驚く内容はなかったとしたうえで「彼は1940年代のスターリンのように、ナチズムと戦っているという彼自身の世界観の中に生きている。すべてでっち上げで、彼が見ているものは現実と一致していない。ウクライナにはネオナチ主義などないからだ」と述べ、プーチン大統領はウクライナへの侵略のための口実を求めているだけだと批判しました。
そのうえで「戦いは長く続くかもしれないが最後にはわれわれが勝利する。これはウクライナだけでなく、民主主義を支持するすべての人たちにとっての勝利だ。もしもロシアが勝った場合、歴史や世界の地図を書き換えたい者たちにとって、侵略がその手段であるというメッセージを与えてしまう。それは許すことができない」と述べ徹底抗戦を続ける考えを強調し、そのためにも、日本を含めた世界各国からの支援が欠かせないと訴えました。
キーウ市民「プーチン発言はどうせ事実ではない」
ウクライナの首都キーウの市民からは、ロシア側にとって都合のいい理屈を並べただけだとして軍事侵攻を止めるべきだと改めて求める声が上がっています。
このうちスポーツ用品店に勤める33歳の男性は「ロシアでの式典には全く興味がありません。プーチンの発言はどうせ事実ではない。軍事侵攻はすぐに止めるべきで、ウクライナ軍のおかげでわれわれが勝つのは間違いない」と話していました。
また弁護士の23歳の女性は「ニュースを見るかぎり、演説では『戦争状態にある』という発言も、ロシア国民を大量動員するという発言もなかったようだが、これはプーチン自身も軍事作戦がうまくいっていないことを認めざるをえないからではないか」としたうえで「ロシアの軍事侵攻によって、逆にウクライナ国民はますます団結している」と話していました。
英 国防相「プーチン大統領は世界を威嚇しようとしている」
イギリスのウォレス国防相は9日、ウクライナ情勢をめぐってロンドン市内で演説し、プーチン大統領は第2次世界大戦の戦勝記念日の軍事パレードを利用して世界を威嚇しようとしていると批判しました。
そして「プーチン大統領や側近たちにとって、勝利の日はない。あるのは不名誉だけで、確実にウクライナで敗北することになる」と強調しました。
大戦で戦った家族などたたえる行進 プーチン大統領も参加
ロシアの首都モスクワでは、9日、第2次世界大戦の戦勝記念日の軍事パレードに続いて、大戦で戦った家族や親族をたたえる行進が行われ、プーチン大統領も参加しました。
この行進は、ロシアでは「不滅の連隊」と呼ばれ、市民が第2次世界大戦で戦った家族や親族の遺影を掲げながら行進する催しです。
10年前に地方都市の市民団体が始めたのをきっかけに、プーチン政権が愛国心を高めて国民の結束をアピールするイベントとして利用してきました。
ことし、モスクワでは日本時間の9日夜9時から始まり、郊外のスタジアムから中心部の赤の広場まで、およそ7キロにわたって大通りを行進する予定で、市当局によりますと100万人以上の参加を見込んでいるということです。
市民に交じってプーチン大統領も父親の遺影を掲げながら大通りを行進し、時折、市民に手を振ったり、笑顔を見せたりする様子も見られました。
また参加者の中には、ウクライナへの軍事侵攻に伴うロシア側の死者の遺影を掲げる人もいたということで、ロシアでは軍事侵攻の死者を「英雄」としてたたえようという動きもみられます。
このうち、中心部にある赤の広場の周辺では、市民が第2次世界大戦で戦った家族や親族などの遺影を掲げながら、「ロシア」や「万歳」などと大声で連呼したり、国旗を大きく振ったりしてゆっくりと行進しました。
軍事侵攻を支持するシンボルとなっている「Z」の文字が記された旗や、ウクライナ東部のドネツク州やルハンシク州で親ロシア派が事実上支配する地域の旗を掲げて、軍事侵攻への支持を示す姿も目立ちました。
参加した40代の女性は「当時、私たちに勝利をもたらした人々、そして今ドンバスやウクライナで私たちのために勝利をもたらしてくれる人々に対して、敬意を表するべきでしょう。おめでとうを言いたいです」と話していました。
一方、初めて参加したという40代の女性は「きょうは頭上に広がる平和な空のために命をささげた祖父たちをたたえる日です。今起きていることと結び付けたくないです」と複雑な心境を語りました。
演説に対し日本国内からは
ウクライナから和歌山大学に留学しているパーダルカ・オリハさん(22)は自宅で時折、涙を流しながら聞いていました。オリハさんはウクライナの首都キーウにある国立大学で日本語を学び、ことし3月から和歌山市にある和歌山大学に留学しています。
オリハさんは「演説の内容はすべてうそばかりで、心が傷つけられて涙が込み上げてきました。多くの人が亡くなっている今の状況で軍事パレードをするのも信じられない」と強く批判しました。
そのうえで「母国の家族や友人、すべてのウクライナの人が無事でいてほしい。戦争がもっと激しくなる心配はもちろんありますが、戦争が早めに終わってほしいです」と話していました。
札幌市に住む、ウクライナ人のベロニカ・クラコワさん(27)は、ロシアのプーチン大統領が戦勝記念日の式典での演説でウクライナへの軍事侵攻を正当化したことについて「ロシアはとてもよいことをしているという、思ったとおりの内容だった。なぜ市民が爆撃されているのか本当にプロパガンダでしかない」と強く非難しました。
またウクライナに残り、戦闘に参加している父親について「私の父がいる場所は詳しく言えないが、今激しく爆撃されている。父からの返事がないとすごく不安だが信じるしかない」と話していました。
そしてウクライナから避難し、先月9日に来日した母親のナタリアさんについては「来日したときはすごく疲れていたが、ここ1か月で元気になった。もちろん早く帰りたいと言っているし父のことも心配している」と話していました。
モスクワ出身で京都市に住むナイフズ・イアンさんは自宅でプーチン大統領の演説を聞きました。ナイフズさんは「とてもつらいです。きょうは先の戦争で犠牲になった家族や友人のことを思うロシア人にとって大切な日です。演説の中で、プーチン大統領は今の軍事侵攻と先の戦争が同じことのように話していましたが、全く違うことだと思います。ロシア人をごまかそうとするプロパガンダだと思います」と複雑な心境を明かしました。
そのうえで「なぜモスクワがこんな状態になり、なぜ今ロシアが戦争をしているのか、演説を見ていてとてもつらい気持ちになりました。開戦の宣言をしなくてよかったですが、ロシア出身者として、どうやって戦争を止めらるか分からず、何もできない無力感があります」と話していました。
40代のロシア人男性は「想像していたよりも演説が短く、新しい情報が盛り込まれていなかったことが印象的だった。役に立つ情報しか出さない今の政権のやり方の1つだと感じた」と話しました。また、軍事パレードの様子について「私が子どものころ、『戦勝記念日』は戦争で亡くなった人を思い、静かに過ごす思い出の日だった。しかし今は祭りのような盛大な行事になってしまい、戦争に利用するためのものになってしまっている」と話していました。
日本に住む30代のロシア人の女性は「今までロシア人にとって5月9日はたくさんの人が命を落としたことや、戦後の大変な暮らしを思い出し戦争を終わらせてくれたおじいさんやおばあさんに感謝する記念日でした。けれど、きょうテレビで流れていたパレードはみんながうれしそうにしていて、違和感がありました。本来はうれしい記念日ではありません」と語りました。そのうえでロシアによる軍事侵攻について「最近はロシア国民が戦争に慣れてきてしまいよくないことだと思っている。早く終わってほしいがどうすればいいか全く分かりません」と話していました。
日本に住むマリウポリ出身のヴィタリ・ルディツキさん(32)は「ロシアにとって受け入れがたい脅威を感じるからと言って、先に戦争を始めてよいのか。自分を正当化しようとしているとしか捉えられない」と述べました。
そのうえで、演説でマリウポリへの言及がなかったことについては「制圧出来ていないから触れなかったのではないか。『地元がなくなった』とか、『多くの人が亡くなった』ということばでは言い表せない悲しみや怒りがある。どれだけ被害者出れば、戦争が終わるのか、早く終わってほしい」と話していました。
北方領土の元島民で千島歯舞諸島居住者連盟根室支部の角鹿泰司支部長代行(85)は根室市内の自宅のテレビでプーチン大統領の演説を聞きました。角鹿さんは「自分の国のことしか考えておらず、ウクライナのことを1つも考えていない。演説で言っていたことをプーチン大統領にそのまま返してあげたい」と話しました。ウクライナへの軍事侵攻を正当化したことについて「話し合いで解決するべきところをどうにもならないからといって軍事侵攻を始めたのは異常だと感じる。私たちはあくまで話し合いでの領土問題解決を目指している。北方四島の返還を求めている身としては、いち早く軍事侵攻が終わって元に戻ってもらいたい。返還運動は続けていく」と話していました。
日本の政界反応
自民党の茂木幹事長は、記者会見で「明らかに誤った行為を正当化するための発言だ。力による一方的な現状変更の試みは、世界のどこにおいても断じて受け入れられず、国際社会が一致団結して、ロシアに厳しく対応していくことが必要だ」と述べました。 

 

●相次ぐ奪還…東部戦線に「変化」 見えてきたウクライナ“反転攻勢”の実態 5/10
華やかな軍事パレードの一方で、ウクライナ国内では「ある変化」が起きていました。プーチン大統領が制圧を目指す東部地域では一度、占領されたものの、ウクライナ側が再び奪還する街が出ています。番組では東部の要衝「イジューム」の副市長を取材、反転攻勢の実像が見えてきました。
ウクライナの軍人「これはロシア軍がウクライナ侵攻に来た時に使った『ファシスト』のシンボルです」
ロシア軍から奪還した地域でウクライナ側は、その後、処理に追われていました。東部戦線が今、大きく動いています。ウクライナ政府は4月の最終週にハルキウ州内でロシア軍に占領されていた少なくとも11の村を奪還したと発表しました。一体なぜ、ウクライナ軍が攻勢に出てロシア軍が苦戦を強いられているのか。
イジューム市、ボロディミル・マツォキン副市長「平地であるため我々に対して大きなメリットになっています。ロシア軍の戦車などを狙いやすいのは間違いない」
番組は今後の鍵となるいまだロシア軍に制圧されている街、イジュームの副市長に話を聞きました。ウクライナ語で「干しブドウ」を意味する4万5000人ほどの小さな街、イジューム。第2の都市ハルキウからは約90キロと近い位置にあります。イジュームが制圧されて西側のマスコミが入れず、状況が分からないなかで、番組は副市長を取材しました。
マツォキン副市長「市内の約8割が破壊されています。インフラも約8割の破壊が確認されています」
まだ、1万5000人の市民が避難できていないなかで、日に日にロシア軍が増えていくと語っていた当時のマツォキン副市長。このところ、近郊のハルキウ周辺でウクライナ軍が攻勢に出るなか、番組では再び話を聞きました。
マツォキン副市長「ハルキウ州とイジューム市の近くに反撃を行いました。その反撃がけっこう強いです。ほぼ毎日のように、占領されていた村が解放されています」
ただ、マツォキン副市長によりますと、イジュームはいまだにロシア軍の制圧が続いていて、街やインフラが破壊されている状況は変わらないそうです。
マツォキン副市長「ウクライナ軍参謀本部の情報だと、現在22部隊で約2万人から2万2000人のロシア軍がいます。イジューム市内は約1万5000人の民間人に対して2万人の占領者がいます」
しかし、大きく変わったところが…。
マツォキン副市長「ハルキウ州では攻撃はまだ続いていますが、以前より静かになっています」
マツォキン副市長から提供された映像では、地上に出て自宅周辺を歩き回る住民も…。
イジューム市の住民「地下室を出たところです」
街には至る所に爆撃や銃撃の跡が…。
イジューム市の住民「地面には爆撃でくぼみが残っています。あそこの破壊されたところはサロンでした…」
マツォキン副市長「ロシア軍はイジューム市内に『刑務所』のようなものを作って、そこに連行された人はどうなっているのか分かりません」
このような状況ですが、なぜウクライナ軍が攻勢に出ることができたのでしょうか。
マツォキン副市長「ここ最近、海外から頂いた武器が届きました。オーストラリア、スロベニア、チェコ、ポーランドなどから色々と頂きました」
ウクライナ陸軍が公開した映像では平原にある森の中に、よく見ると戦車の姿が…。ウクライナ軍が攻撃し、爆破しました。
マツォキン副市長「彼らがいる所は見やすくて平地であるため、我々に対してメリットになっています。ロシア軍の戦車などを狙いやすいのは間違いない。反撃の成功を期待しています」
2万人のロシア軍がいるイジュームにはロシアのベルゴロド州からの補給ルートがあると言われています。現在、ハルキウ周辺のウクライナ軍が攻勢に出ているため、その補給ルートを絶てばロシア軍がますます劣勢になり、イジュームの解放につながる可能性があるわけです。マツォキン副市長は、こんな話も…。
マツォキン副市長「ロシア軍は兵士が着るものも足りないようで、普通の靴を履いている兵士までいました。軍隊には燃料や弾薬だけではなく、服装や食料も提供する必要がありますが、現在ロシア軍には届いてない状態です。食べ物さえ足りない人がこんなに大勢いることで、ますます危険性が高くなってくる」
約2万人の兵隊がいるというイジューム周辺のロシア軍は、すでに物資不足の状態…。このため、現地ではさらなる略奪を心配しているそうです。防衛研究所の高橋室長は、ロシア軍の攻勢もあり、まだ予断を許さない状況としながらも…。
防衛研究所防衛政策研究室・高橋杉雄氏「イジュームのロシア軍部隊の補給線を完全に断てた場合には、イジューム周辺の部隊は壊滅的な打撃を受ける可能性があります。そうなるとウクライナ側としてはそこを起点に、占領されたドンバス地域の反撃、奪回というものが可能性としては見えてくる」
●ウクライナ経済、戦争終結でも今年30%のマイナス成長に−欧州開銀 5/10
ウクライナ経済は、侵攻したロシアとの戦争が年内に終わるというシナリオが実現しても、30%のマイナス成長になると欧州復興開発銀行(EBRD)が予測した。3月時点の20%のマイナス成長見通しを下方修正した。
EBRDは報告書で、「戦争の長期化に伴い、ウクライナ経済の縮小は従来の予想より大きくなった。戦争による直接的な損害に加え、種子や肥料、機器を入手しづらい状況や燃料不足が農業生産を妨げている」と分析した。
ウクライナでは、農地の最大20−30%で耕作・収穫ができないと見込まれる。同国は世界の小麦輸出の約10%、トウモロコシの14%、ひまわり油の37%を占める。
年内の停戦合意を経て、2023年に復興が始まるという前提で、来年は25%のプラス成長になるとEBRDは予想した。
一方、ロシア経済は今年10%のマイナス成長となった後、来年もゼロ成長となる見通し。
●ウクライナへの大規模サイバー攻撃、背後にロシア=西側当局 5/10
米国や欧州連合(EU)、英国、カナダは10日、ウクライナ戦争勃発時に衛星インターネットの数千台のモデムを使用不能にした大規模なサイバー攻撃の背後にロシアがいたと発表した。
ブリンケン米国務長官はロシアが2月終盤、商業用衛生通信ネットワークにサイバー攻撃を仕掛け、ウクライナ侵攻中にウクライナ軍の通信や指揮を混乱させたと非難した。他の欧州諸国にも波及効果が広がったとも指摘した。
さらに、米国は同盟国やパートナー国はロシアの行動を防御する措置を講じていると明らかにした。
欧州理事会も声明で、米通信会社ビアサットのKA−SATネットワークに対する2月下旬のサイバー攻撃はロシア軍によるウクライナ侵攻の際に起き、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻を助けたと言及した。
声明は「このサイバー攻撃の影響は著しく、ウクライナの公共機関や企業、利用者に無差別の通信停止と混乱を引き起こし、いくつかのEU加盟国にも影響した」と言及した。
トラス英外相は、このサイバー攻撃は「ロシアによるウクライナに対する意図的で悪質な攻撃だ」と批判。英国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)の声明を引用し、ロシアの第一の攻撃目標はウクライナ軍だったが、風力発電所や欧のインターネット利用者も妨害したとも訴えた。英外務省は、ロシアがサイバー攻撃の背後にいることを示唆する「英米の新しい機密情報」があるとしたが、詳細は明らかにしなかった。
ウクライナでサイバーセキュリティーを担うビクトール・ゾラ国家特殊通信・情報保護局副責任者は3月、この遠隔妨害行為により「戦争開始直後の通信に甚大な損失が生じた」と述べた。
カナダ政府当局者は、サイバー攻撃の脅威に関する情報をウクライナと共有しているとし、「ロシアの挑発的かつ不当な侵攻に対するウクライナの防衛能力強化に向け」支援を提供していると述べた。
ロシアはサイバー攻撃を否定し続けている。ロシア大統領府はコメント要請に直ちに応じなかった。
●プーチン大統領 10分間演説も「勝利」「戦争」宣言なし… 5/10
ロシアのプーチン大統領が対ドイツ戦勝記念式典で演説し、ウクライナ侵攻を「唯一の正しい判断」と正当化しました。一方、激戦地・マリウポリでは、ロシア軍が化学兵器を使うという情報があり、地元住民に対して「外に出るな」と呼び掛けているといいます。
勝利&戦争宣言“なし”
国威発揚の軍事パレードが始まったモスクワ。ショイグ国防相「同志諸君。戦争勝利77周年、おめでとう」 全世界が注目するなか、プーチン大統領は何を語るのか。およそ10分間にわたる演説が始まりました。
プーチン大統領「ロシアはドンバス地方の人々のため、祖国の平和のために戦っている。ナチズムを打ち負かした人々を記憶し、世界大戦の恐怖を繰り返さぬことが、我々の義務である」
ウクライナ侵略について、戦争の恐怖を繰り返さないためだという、一方的な主張を続けます。
プーチン大統領「ロシアは西側と対話し、合理的な解決策を求めていた。NATO(北大西洋条約機構)は、我々に耳を貸さなかった。つまり、彼らには、全く別の計画があったということ。ドンバス、クリミアを含む我々の領土への侵略準備が、公然と進められていた。危険は、日ごとに増していた。ロシアは侵略に対して、先手を打つことにした。それはやむを得ず、唯一の正しい判断だった」
欧米の脅威を理由に、ウクライナ侵攻を正当化。結局、勝利宣言も戦争宣言もなく、従来の主張を繰り返しただけでした。
“式典の目玉”急きょ中止
演説の後、再開された軍事パレード。ナチス・ドイツを打ち負かした戦車の他、アメリカ本土を標的にする大陸間弾道弾「ヤルス」。ウクライナへの攻撃でも使われている、短距離弾道ミサイル「イスカンデル」が登場し、ロシア人の愛国心に訴えました。しかし、式典の目玉である航空ショーは急きょ中止されました。
「終末の飛行機」登場せず
リハーサルでは、ウクライナ侵攻の象徴となっている「Z」の文字を描いていた戦闘機。そして、「終末の日の飛行機」とも呼ばれる、「イリューシン80」。核戦争の時に、大統領らが乗り込み、指揮を執る、この飛行機も登場する予定でした。ロシア大統領府は、「悪天候のため」戦闘機などの上空飛行は中止したと発表しました。
「制圧都市」にロシア国歌
大部分が制圧されたウクライナ東部のマリウポリでは、ロシアの国歌が鳴り響きました。親ロシア派勢力のパレードには、地元住民も強制的に動員されたとみられます。
ロシア軍“化学兵器”準備か
そのマリウポリを、ロシアの副首相が視察。攻撃に備えて、防弾ベストに身を包んでいます。侵攻以来、最高位の政治家の訪問で、実効支配を進める姿勢を示した形です。不穏な情報も、飛び込んできました。マリウポリ市の地元議員によると、ロシア軍が化学兵器を使用する計画があるというのです。
マリウポリ市議会 アレクサンドル・ラシン議員「11日に、ロシア軍が化学兵器を使う準備をしているという情報が入りました。マリウポリでは、『明日から外に出るな』と地元の人に警告しています。製鉄所にいる我々の兵士を一掃したいようです。攻めあぐねて、うまくいかないから、大量殺戮(さつりく)的な手段に出ようとしているんです」
最後の砦となった製鉄所を、ロシア軍は化学兵器で攻め落とすつもりなのでしょうか。この情報は、マリウポリの市長顧問も把握していて、現在、真偽を確認中だとしています。
東部の衛星写真に“異変”
戦禍の実態を画像解析する研究も進んでいます。東京大学の渡邉英徳教授らの研究チームは、衛星写真やドローン映像などを活用し、ウクライナで何が起きているのかを明らかにしました。
東京大学大学院・渡邉英徳教授「集中的に、東部ドンバス地方に兵力を集めて、制圧しているのが分かる」
地上に感知した熱を赤く反映し、戦闘による火災を視覚化したデジタル地図を作成したところ、要所となる都市を巡り、その周辺で、ロシア軍とウクライナ軍の攻防が頻発。むしろ郊外の方が、甚大な被害が出ているはずだというのです。
渡邉英徳教授「セベロッドネツクという東部の街。今回のウクライナ侵攻で、要所となる場所です。セベロドネツクの中では、火災は検出されていないが、その周りで、たくさんの火事が起きています」
同じような現象は、2カ月前、首都キーウ周辺でも起きていました。郊外には、虐殺の報告もあったブチャなど、小さな町が無数にあります。
渡邉英徳教授「本来の主目的であるキーウには、火災はあまり発生していなくて、ここに攻め入っていく(ルート上の)イルピンやブチャに大規模火災が発生。報道されていないが、壊滅的な被害を受けていたり、虐殺が行われたかもしれない集落が、キーウ周辺に無数にある」
現在の激戦地・ウクライナ東部で何が起きているのか、その実態が明らかになるのは、まだ先のことです。
●アメリカで「武器貸与法」成立 ウクライナへの支援が加速へ  5/10
アメリカで、ロシアの軍事侵攻が続くウクライナなどに対して軍事物資を迅速に貸与することを可能にする法律が成立しました。バイデン大統領は「ウクライナへの支援は今が極めて重要なときだ」と述べて、支援を加速させていく考えを示しました。
ウクライナを支援するための「レンドリース法=武器貸与法」は、ロシアによる軍事侵攻を受けるウクライナや近隣の東欧諸国に対して、来年9月末までの間、軍事物資を貸与するための手続きを簡略化し、迅速に提供することを可能にするものです。
バイデン大統領が9日、ホワイトハウスで署名し、法律が成立しました。
「武器貸与法」は、第2次世界大戦中にも制定され、ナチス・ドイツと戦うイギリスなどに対して武器や装備を提供し、大きな役割を果たしたとされています。
バイデン大統領は法律について「ウクライナの人々がプーチン大統領による残虐な戦争から民主主義を守るための重要な手段を提供することになる。今が極めて重要なときだ」と述べて、ウクライナへの支援を加速させていく考えを示しました。
アメリカの「レンドリース法=武器貸与法」は、第2次世界大戦中の1941年、ナチス・ドイツと戦うイギリスが武器を賄う資金の不足に追い込まれ苦戦を強いられる中で、制定されました。
当時のルーズベルト大統領は「アメリカが民主主義の偉大な兵器庫になるべきだ」として、軍事支援の必要性を訴えました。
この法律のもとでアメリカからイギリスなど連合国へ供給された武器や装備品といった物資は1945年までに総額およそ500億ドルに上り、連合国勝利の要因のひとつになったとも言われています。
またドイツと戦っていたソビエトに対する支援にも適用されました。
当時の法律は効力を失っていますが、今回、ウクライナに対する軍事物資の供給に必要な手続きを簡略化するため、新たな「武器貸与法」が制定されました。
ことし2月にロシアが侵攻を始めて以降、アメリカによるウクライナへの軍事支援は合わせておよそ38億ドル、日本円にして4900億円あまりに上っていますが、新たな「武器貸与法」によって、大統領の権限でより迅速に支援を提供することが可能になります。
署名にあたってバイデン大統領は「ウクライナの人々が民主主義を守るための重要な手段を提供することになる」と述べ、アメリカが軍事支援をさらに推し進めるという決意を表明した形です。
●ウクライナ南・東部でロシア軍の攻撃続く 住民強制移送の「兆候」も 5/10
ウクライナでは9日から10日にかけ、ロシア軍の攻撃が続いた。南部の港湾都市オデッサで9日、ショッピングモールやホテルがミサイル攻撃を受け、米CNNテレビによると1人が死亡、5人が負傷した。
AFP通信によれば、ロシア軍が支配地域の拡大を目指す東部ルガンスク州では9日、攻防の最前線に近いセベロドネツクの周辺で「極めて激しい戦闘」(ガイダイ州知事)が起きた。また、ロイター通信は東部の都市ハリコフの北西にある町がロシア軍の攻撃を受け、4人が死亡したと伝えた。
ロシアとの国境に近いハリコフ周辺ではここ数日、ウクライナ軍が反撃を強め、米シンクタンクの戦争研究所によると、ロシア国境に迫りつつある。ロシア軍はこれを受け、国境を挟んで自国側のベルゴロド州に部隊を集結させているもようだ。
ウクライナ国防省の10日の発表では、ロシア軍は包囲下に置く南東部マリウポリで、ウクライナ部隊が立てこもるアゾフスタル製鉄所に引き続き砲爆撃を加えた。製鉄所には依然、兵士1000人以上と、民間人少なくとも100人が取り残されていると伝えられる。
一方、米国防総省のカービー報道官は9日の記者会見で、ウクライナの住民がロシア領に強制的に移送されていることを示す「兆候」があると述べた。
●英政府、ウクライナ情勢を踏まえ新たな貿易制裁措置を発表 5/10
英国政府は5月9日、ウクライナ侵攻に関連し、ロシア、ベラルーシに対する新たな制裁パッケージを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。プラチナやパラジウムを含む産品の輸入に対して35%の追加関税を賦課するほか、化学品、プラスチック、ゴム、機械などの主要原材料に対して輸出禁止措置を導入する。今後、法案を議会に提出し、施行する予定。歳入関税庁のデータによれば、今回発表された追加関税の対象製品の2021年の両国からの輸入額は約13億ポンド(約2,093億円、1ポンド=約161円)となっている(対象品目リストは英国政府サイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注)。うち、パラジウムなどを含むプラチナ(HS7110項)のロシアからの輸入が12億5,000万ポンドと大半を占めている。さらに、政府はロシア産品を輸入する国内の輸入者に対して、代替サプライヤーから調達するよう呼び掛けた。
政府は5月7日、ウクライナに対して、移動式発電機287台を提供することを発表した。これにより、病院や避難所など比較的大きな施設への電力供給が可能となるとしている。また、政府は同国のエネルギーや燃料需要への対応のため、海外の化石燃料部門への直接的な金融支援などの禁止措置に関して、ウクライナと東欧地域を一時的に対象外とする措置を導入。これにより、ウクライナ国内の物資の供給や冬に向けたエネルギー備蓄の確保を支援するとしている。一方で、長期的には、化石燃料への依存を防ぐため、両地域を含め世界的にクリーンエネルギーに注目する必要があるとし、クリーン発電への移行を加速することで、気候変動対応にもエネルギー安全保障にもつながるとし、あくまで一時的な措置であることを強調した。
(注)政府プレスリリースでは、14億ポンドの輸入に相当すると説明されている。
●仏マクロン大統領と独ショルツ首相 ウクライナ支援の姿勢強調  5/10
ロシアのプーチン大統領が戦勝記念日の式典でウクライナへの軍事侵攻を正当化する中、フランスのマクロン大統領がドイツを訪れ、ショルツ首相との共同会見に臨み、ウクライナに対して両国が結束して支援を続ける姿勢を強調しました。
ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領は9日、首脳会談を前に共同で記者会見を行いました。
この中で、ショルツ首相は、ロシアのプーチン大統領が戦勝記念日の式典で軍事侵攻を正当化したことについて「われわれの要求は明確だ。この戦争は終わるべきだ」と述べ、軍の撤退を求めました。
そのうえで「両国はウクライナのそばにしっかりと並んで立つ。この戦争を終わらせるために財政、人道、そして軍事的な支援を続ける」と述べ、軍事面も含め一致して支援を続ける姿勢を強調しました。
また、マクロン大統領は「制裁を実行し、ロシアへのエネルギーの依存度を下げることに伴う影響から市民と企業を守らなければならない」と述べ、EUとしてロシア産エネルギーの輸入禁止に伴う価格高騰の影響を受ける市民や企業への支援策を打ち出す考えを示しました。
マクロン大統領による今回のドイツ訪問は、先月の大統領選挙で再選を果たしてから初めての外国訪問で、ロシアの軍事侵攻が続く中、EUをけん引する両国が結束してウクライナを支える姿勢を強調するねらいがあるとみられます。
ドイツのショルツ首相は9日、マクロン大統領との共同会見で記者からマクロン大統領が呼びかける「ヨーロッパ政治共同体」についての考えを聞かれ「非常に興味深い提案だ」と述べて評価し、話し合いを進める考えを示しました。
「ヨーロッパ政治共同体」は、フランスのマクロン大統領が9日、ドイツ訪問に先立って、フランス東部ストラスブールにあるヨーロッパ議会で行った演説で提唱したものです。
この中でマクロン大統領は「勇気をもって戦い続けるウクライナは、すでに心ではヨーロッパの一員だ」と述べました。
一方で、ウクライナが求めるEU=ヨーロッパ連合への加盟の実現は、条件面から相当時間がかかり、加盟国と同様にウクライナを支援するには課題があるとの認識を示しました。
そのうえで、マクロン大統領はウクライナとの協力関係を強めていくためにも、民主主義などの価値観を共有する国に開かれた、EUの枠組みを超えた新しい政治的な共同体「ヨーロッパ政治共同体」が必要だと訴えました。
松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「国際秩序の根幹がロシアのウクライナ侵略により脅かされている今こそ、基本的価値を共有する国々の結束を強めることが重要だと考えており、本件を含め、ヨーロッパの安全保障情勢を引き続き注視していく」と述べました。
●ロシアがウクライナ市民「強制連行の兆候」 5/10
米国防総省のカービー報道官は9日、ロシアが侵攻を続けるウクライナの市民を強制的にロシアへ連行している兆候があると明らかにした。また、英国防省は9日、ウクライナに侵攻したロシア軍が「精密誘導兵器の多くを使い果たしている」可能性があると指摘した。ウクライナ情勢を巡る日本時間10日の動きなどをまとめた。
米国防総省「大国のすることではない」
米国防総省のカービー報道官は9日の記者会見で、ロシアが侵攻を続けるウクライナの市民を強制的にロシアへ連行している兆候があると明らかにした。詳細は説明しなかったが、カービー氏は「受け入れがたいことであり、責任ある大国のすることではない」と非難した。
米国、武器貸与法が成立
バイデン米大統領は9日、ロシアが侵攻を続けるウクライナに対する兵器の貸与を容易にする「レンドリース(武器貸与)法」に署名し、同法が成立した。大統領の権限を強化し、ウクライナや東欧諸国に対して兵器や軍装備品を貸与する際に必要な手続きの一部を免除する。
ロシア軍、精密誘導兵器枯渇か
英国防省は9日、ウクライナに侵攻したロシア軍が「精密誘導兵器の多くを使い果たしている」可能性があるとツイッターで明らかにした。枯渇の理由については、侵攻が「想定よりも長引いている」ことを挙げた。
在ウクライナ日本大使館の再開検討
外務省幹部は10日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて3月に閉鎖したキーウ(キエフ)の在ウクライナ日本大使館について、「現地の情勢を踏まえて再開を検討したい」との考えを示した。
●ウクライナ情勢で供給リスク高まる、JOGMECがレアメタル長期需要予測調査 5/10
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と日本エネルギー経済研究所が、レアメタルの長期需給予測の調査に乗り出す。調査期間は6―10月。世界的な脱炭素の流れでコバルト、リチウム、ニッケル、白金族の需要拡大が見込まれる一方、ロシアによるウクライナ侵攻を背景とした価格高騰や供給リスクが高まる。電気自動車(EV)普及の足かせになりかねず、日本のレアメタル需給見通しを正確に把握し、安定供給の確保につなげる。
長期需給予測では再生可能エネルギーや電動車、蓄電池などの導入量や資源国の供給可能量、リサイクル原料の利用量などを考慮する。世界規模の需給予測ではなく、日本の状況を反映した独自調査とする。
レアメタル需要は広がる一方だ。国際エネルギー機関(IEA)によると40年のコバルトの需要は20年比6・4倍、リチウムは同12・8倍、ニッケルは同6・5倍、レアアースは同3・4倍。複数のレアメタルで需要が急拡大し、供給能力を上回ると予想する。
ニッケルはEV需要を受けて上昇基調にあったところロシアのウクライナ侵攻で供給懸念が強まり価格が急騰。投機的な要因も重なり3月8日にロンドン金属取引所(LME)ニッケル取引が一時停止する事態となった。
EV1台当たりのリチウムの使用量は7・2キログラム、ニッケルは27・5キログラム、コバルトは11キログラム。ガソリン車では使わなかったレアメタルが新たに必要となる。EVを100万台生産するために、リチウム、コバルトの現在の国内需要量と同程度の資源量が必要になるとの試算もある。経産省は新規鉱山開発や省資源化・代替技術開発が進まないと、資源供給がEV国内生産の制約になると警戒する。
排ガス触媒などに使われるパラジウムについては、日本は輸入する約4割をロシア産に依存する。当面は企業在庫などで対応できるとみられるが、経産省は中長期対策としてJOGMECの活用を含めた供給源の多角化を検討する。ただ車の電動化で将来的に排ガス触媒用需要が減少するため、鉱山投資が進みにくい状況にある。
中南米では資源を国有化しようとする動きもある。レアメタルをめぐる情勢は複雑さを増し、正確な需給見通しの必要性が増す。
●米CIA長官「習近平はウクライナ戦争で動揺」発言は正しいのか? 5/10
8日、CIA長官の「習近平は動揺」という発言を日本の多くのメディアは伝えたが、発言の根拠は何か?【軍冷経熱】という習近平の国家戦略が理解できずに述べた長官の希望的感想を日本のメディアは喜ぶだけでいいのだろうか?
「ウクライナ侵攻で習近平が動揺」というCIA長官の発言を伝える日本メディア
5月8日6時23分に、時事通信社は<中国の習氏、ロシアのウクライナ侵攻で「動揺」 台湾侵攻の決意変わらず 米CIA長官>という見出しで、<米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は7日、ワシントン市内で開かれた英紙フィナンシャル・タイムズ主催の会合に出席し、ロシアのウクライナ侵攻を受け、中国の習近平国家主席が「動揺している印象を受ける」と語った。>と伝えた。
すると同日12時16分にデジタル朝日が<ロシアとの関係、「習氏は少し不安を抱いてる」 CIA長官が分析>という見出しで、<米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は7日、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、中国の習近平(シーチンピン)国家主席がロシアとの友好関係について「少しの不安を抱いている」との見方を示した。また、台湾との統一を目指す方法や時期についても「影響を及ぼしていると思う」と述べた。>と伝えた。
他のメディアもそれにならい、以下のようなバーンズ長官の発言を伝えている。
・習氏は、ロシアによる残虐行為と結びつけられることでのイメージ悪化に、少し不安を抱いている。
・中国にとって、侵攻がもたらす経済的な先行きの不透明さや欧米諸国の結束も懸念材料になっている。
・2月上旬には中ロで北大西洋条約機構(NATO)に対抗する共同声明を出したものの、3月下旬にウクライナに侵攻したロシア軍の苦戦を受け、中ロの友好関係には「限界がある」ことが示された。
・その上で、中国の指導部はウクライナ情勢から教訓を得ようとしている。台湾の支配に向けた習氏の決意は揺らいでいないが、いつ、どのように実施するかという計算には影響を及ぼしている。
たしかにバーンズ長官発言の原文を見ると、それに相当した内容のことを言っているので、間違いではない。
ただ、こういったバーンズが抱いた「印象」が、まるで事実のように広がっていくのは、日本の国益にとってプラスにはならない。そこには「習近平が動揺しているんだ、やーいやい!」といった「喜び」が垣間見え、日本の政策を誤らせる危険性が潜んでいるからだ。
たとえば「中国経済は明日にも崩壊する」と一部の「中国専門家」が主張し続けてから、早や20年強。それでも中国経済は崩壊どころか、まもなくアメリカを凌駕する勢いにまで成長し続けている。この成長には「日本が最も貢献している」ことには警鐘を鳴らさず、「明日にも滅びる」という希望的観測を広げて日本人を喜ばせているため、日本政府は「安心して」中国に貢献し続けているのである。これと同じ構図が潜んでいるのを懸念する。
では習近平は実際には、どう動こうとしているのか?
習近平の確固たる対ロシア戦略【軍冷経熱】
拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』に書いているように、習近平の確固たる対ロシア戦略は【軍冷経熱】だ。
軍事的にはロシアに同調せず、経済的には徹底して支えていくという戦略である。
軍事的に同調しないのは、プーチンがウクライナにいる少数のロシア系列の人々が独立を宣言しているドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国を「独立国家」として承認し、当該共和国の住民がウクライナ政府に虐待されていると訴えてきたことを口実にウクライナ侵攻をしているからだ。
これはちょうど、中国内にあるウイグルやチベットといった少数民族が中国政府に虐待されているとして海外に訴え、海外の某国がその自治区の独立を助け「独立国家」として承認するだけでなく、ウイグル族やチベット族の要求を受けて中国に軍事侵攻していくのと同じ構図になるから賛同できないのである。
そのようなことを習近平が受け入れるはずがない。
これはクリミア併合の時にも言えることで、2014年にクリミア半島で「住民投票」を行い、圧倒的多数がロシアに併合されるのを望んだという事実に関しても同様のことが言えるので、習近平は「クリミア併合」を承認していない。
もちろんドネツク・ルガンスク両人民共和国の独立も承認していない。
その相違には触れずに、習近平がプーチンと相思相愛の仲になっているのは、両国とも「アメリカに虐められている」と認識しているからである。
アメリカは、アメリカ以外の国が、経済的であれ軍事的であれ、アメリカを抜いて世界一になることを絶対に許さないので、軍事的にはロシアを潰し、経済的には中国を潰そうとしていると、習近平は位置づけ、その種の発言を数えきれないほど行っているので、そこには「根拠」がある。
北京冬季五輪開幕式に北京を訪れて習近平と対面で会談したプーチンとの間の共同声明にも、そのとき締結した多くの経済連携にも、その証拠を見い出すことができる。
この一見、相反するような習近平の言動は、決して「動揺」ではなくて、確固とした「対ロシア戦略」なのである。
習近平はウクライナ戦争をどう位置付けているか
習近平がウクライナ戦争をどう位置付けているかに関しては、数々の、習近平自身が言った言葉がある。それを一つ一つ列挙するのも大変なので、新華社がまとめたものをご紹介したい。
ウクライナへの軍事侵攻が始まった翌日の2月25日、習近平はプーチンと電話会談をして「冷戦時代の考え方を捨て、話し合いによって欧州の安全を維持すべきだ」とか「中国は国際社会と一体となり、国連を中心とした国際社会の秩序維持と国際法の順守を尊重したい」と述べており、その後も表現を変えてはいるが、同じことを言い続けている。
さらに「火に油を注ぐようなことをするな」という言葉を使っているのは、「せっかくロシアとウクライナが停戦交渉をまとめようとしているのに、アメリカが停戦させまいとして、突然、ウクライナへの武器提供や軍事支援増強をし始めて、(戦争の火)が消えないようにしている」ということを指している。
これは多くの中国政府系あるいは中国共産党系メディアが繰り返し言っていることでもあるので、一つ一つリンク先を張ることはしない。
また4月24日のコラム<「いくつかのNATO国がウクライナ戦争継続を望んでいる」と、停戦仲介国トルコ外相>でも述べたように、停戦交渉を仲介しているトルコの外相が言っている言葉と中国が言っている言葉はほぼ一致している。
現に4月25日には、ウクライナを訪問したアメリカのオースティン国防長官がポーランドでの記者会見で、「われわれは、ロシアがウクライナ侵攻でやったようなことを二度と再びできないようになるまで、ロシアを弱体化させたいと思っている。われわれは、彼らが自分の力を迅速に再生産できるような能力を持てないようになることを見届けたい」と述べているほどだ。
これら一連の習近平の言動から、「習近平が動揺している」という証拠は、今のところ、あまり見当たらない。
中国は「日本をNATOに誘っていること」に激怒している
むしろ、中国が積極的に激怒しているのは、アメリカがNATOの会議に「日本や韓国」などを誘い込んでいることである。
この事に対する中国の反応は激しく、官側であろうと、あるいはネット空間であろうと、凄まじい勢いでNATOと日本などへのバッシングに燃えている。
官側では、たとえば中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」が<日本は「NATOのアジア太平洋化」の引導者になるな>という社論を発表して日本に対して警告を発しており、日本はウクライナ危機を利用して平和憲法の「束縛」から脱却し軍国主義への道を歩もうとしていると批判している。
また民間では非常に多くの情報があるが、その中の一つを取り上げれば、たとえば<アメリカの声一つでNATOは猛犬を放っている  中国はもう黙っていない>などがあり、NATO外相会談に日本と韓国の外相を招いたことが、激しい口調で批判されている。
たとえば、そもそも日本は第二次世界大戦の敗戦国だったのに、NATOに加盟すれば、その「戦争犯罪」が帳消しになり、まるで「禊(みそぎ)を受けた」ように、日本軍を打倒した「連合国」側に「晴れて」加盟して、これからは侵略行為をしたことも敗戦国側であったことも「忘れていい」ことになり、連合国側だったソ連(ロシア)と中国を打倒する側に回ることに相当するではないか!「こんな日本など、地球上から消えてしまえ!」といった、もう憤りの表現をどういう言葉で表していいか分からないという雰囲気の憤怒がネットに渦巻いているのだ。
東アジアを取り込めないアメリカの焦りか
アメリカはウクライナ戦争が中国の強大化を招いていることに気が付いているだろう。
たとえば『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第六章ウクライナを巡る「中露米印パ」相関図――際立つ露印の軍事的緊密さや、4月22日のコラム<ウクライナ戦争は中国の強大化を招く>に書いたように、ウクライナ戦争が始まったことにより、インドや中東産油国あるいはASEANのような東南アジア諸国が決して反ロシアではないことが鮮明になってきた。特に G20=主要20か国やAPEC=アジア太平洋経済協力会議などのことしの議長国を務める東南アジアの3か国(インドネシア、タイ、カンボジア)が共同声明を出し、ロシアを含むすべての参加国などを会議に招く姿勢を示したのは、アメリカにとって痛かっただろう。
5月10日には、フィリピンの大統領選で中国寄りのマルコス氏が当選確実になったし、5月21日に行われるオーストラリアにおける選挙も、必ずしも嫌中のモリソン首相に有利な動きは見せていない。
中国は反中強硬なモリソン首相が参加する、クワッド(日米豪印)やオーカス(米英豪)などによる対中包囲網を崩すべく、オーストラリアが自国の勢力圏とみなしている南太平洋のソロモン諸島と安全保障協定を締結したばかりだ。これは嫌中のモリソン首相の失点を招いて、野党・労働党の支持率が高くなる結果を招いている。中国がソロモン諸島と連携したのがストレートに功を奏したのか否かは分からないが、少なくとも結果として野党の支持率が53%と、モリソン首相に不利になっているのは確かだ。
そこでバイデン政権は、反中的な大統領が誕生した韓国と、アメリカに従順な日本をNATOに誘い込んで、なんとか「NATOのアジア太平洋化」を実現しようとしているのではないかとも推測される。
米CIA長官の発言は、こういった事情を反映したものであり、バイデン政権の動きは、世界を戦争に駆り立てて、アメリカの戦争ビジネスとLNG産業が儲かることしか考えていないという側面を見逃してはならないのではないだろうか。
いずれにせよ、ファクトの積み重ねによってしか真相は見えてこない。日本自身を守るために、その真相を究めたいと思う。
●新電力の会社倒産相次ぐ ウクライナ侵攻などによる燃料価格高騰が背景 5/10
エネルギー価格の高騰を受け、電気の小売業に参入した新電力の会社が相次いで倒産しています。
電気の販売などを手掛ける大阪市中央区の「ISエナジー」は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などで燃料価格が高騰した影響を受け、資金繰りがひっ迫。
取引先への支払いなどが困難となり、先月28日、大阪地裁へ破産を申請し電気の供給停止を発表しました。負債総額はおよそ5億7300万円にのぼります。
帝国データバンクによると、2021年度は燃料価格高騰などの背景から、新電力の会社の倒産件数は14件となり、過去最多を更新しました。
新電力の会社の倒産が相次ぐ中、電力会社変更のサポート業務を行う会社では、ことしに入って問い合わせが通常の5倍になったといいます。
エネチェンジ 有田一平 代表取締役COO 「現状は(電気を)売れば売るほど赤字になる状況になってしまっていて、電気の原価がここまで上がっている状態だと小売り価格への反映というのはしていかないと、新電力に限らず電気の小売りの事業が成り立たないと考えています」
●プーチン演説は拍子抜け 逆に際立った“弱気と限界”…「右腕」への権力禅譲 5/10
ウクライナ戦争の節目とされたロシアの対独戦勝記念日は、拍子抜けの展開だった。
有力視されたプーチン大統領による「戦争宣言」も、核戦争時に大統領が乗り込んで指揮を執る軍用機「イリューシン80」が飛ぶ予定だった航空ショーもなし。むしろ、パンパンにむくみ、かつての精気は見る影もないプーチン大統領の老体ぶりが際立った。ロシア軍よりも先に“戦線離脱”する可能性が浮上している。
モスクワの中心部「赤の広場」で行われた9日の式典で、プーチン大統領は約10分間演説。
「昨年12月、われわれは安全保障に関するさまざまな提案を行ったが、すべてムダだった。NATO(北大西洋条約機構)は耳を傾けなかった」
「キエフ(キーウ)は核兵器取得の可能性を明らかにしていた」
「われわれにとって受け入れがたい脅威が国境につくり出された。米国や同盟国が肩入れしたネオナチとの衝突は避けられないものになっていた」
などと、虚実入り交じった持論を展開し、「NATO加盟国から最新兵器が提供される様子を目の当たりにし、危険は日増しに高まっていた。ロシアは侵略に対して先制的な対応を取った。必要かつタイムリーで、唯一の正しい判断だった」と独自のロジックでウクライナ侵攻を正当化。「勝利のために。万歳!」と演説を締めくくったが、勝利を最も不安視しているのは他ならぬプーチン大統領かもしれない。
筑波学院大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう指摘する。「演説の最大の焦点は、ロシア軍の犠牲に言及した点です。負傷兵や遺族の暮らしを保障する大統領令に署名したとも言っていました。『特別軍事作戦』の失敗を認めた事実上の敗北宣言と言っていい。戦況が好転する見通しもなければ、国内基盤も揺らいでいるためでしょう。プーチン大統領は非常に弱気になっている印象を受けました」
電撃戦でキーウを攻略するプランAにしくじり、主要都市を陥落するプランBも失敗。目下、ロシア軍は東部・南東部に猛攻し、ロシア領からクリミア半島をつなぐ「陸の回廊」の確保に躍起だが、戦果は見通せない。先月末、複数の英メディアが「プーチンはがん手術を受ける」と報じたことで、ついに禅譲するとの見方が広がっている。プーチン大統領はかねてパーキンソン病や甲状腺がん、胃がんなどが疑われている。
「体調悪化が深刻な上、体制を支えてきたオリガルヒ(新興財閥)の離反も相次ぐ。肉体的にも精神的にも限界に達したプーチン大統領が、右腕のパトルシェフ安全保障会議書記に禅譲し、引退するシナリオが現実味を帯びています。パトルシェフ氏は対欧米強硬派。『特別軍事作戦』を推奨した人物で、路線は維持される。体面を保つギリギリの線と言えるでしょう」(中村逸郎氏)
パトルシェフ氏もKGB(ソ連国家保安委員会)出身で、後継組織FSB(ロシア連邦保安局)の長官ポストをプーチン大統領から引き継いだ。さかのぼれば、アル中悪化や親族の不正蓄財で進退窮まったエリツィン元大統領は、裏切りそうにないプーチン大統領に権力を譲って逃げ切った。
世界を敵に回したプーチン大統領に同じ手が通用するのか。
●「77年前のファシズムを模倣」…戦勝記念日の演説、欧米から非難噴出 5/10
ロシアのプーチン大統領が9日、モスクワで行った第2次世界大戦の対独戦勝記念日の演説について、「虚偽」の主張を並べてウクライナ侵攻を正当化したと、米欧各国から非難が噴出している。
プーチン氏は演説で、米欧がロシアの国境付近で脅威を作り出しており、先制攻撃に踏み切るしか選択肢がなかったと主張した。これについて米ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官は9日、荒唐無稽な虚偽情報だと指摘し、「この戦争が西側の計画で引き起こされたというのは明白なでたらめだ」と述べた。
ドイツ外務省報道官も9日の定例記者会見で「この戦争はロシアが始めたものだ」と強調した。
プーチン氏がウクライナのゼレンスキー政権を改めて「ネオナチ」と呼んだことも反発を招いている。
英国のベン・ウォレス国防相は9日、「プーチンとその取り巻きは77年前のファシズムを忠実に模倣し、全体主義の失敗を繰り返している」と批判した。
フランスのマクロン大統領は記者会見で演説への感想を問われ、プーチン氏の態度が「戦士のよう」だったと述べて、その強硬ぶりに苦言を呈した。
一方、ロシアではウクライナ侵攻への反発が表面化している。
独立系ニュースサイト「メディアゾーナ」などによると、政権寄りのネットメディア「レンタ」のサイトに9日、「プーチンは哀れな独裁者」「戦争で経済の失敗を覆い隠そうとした」などと政権を批判する約20本の記事の見出しが並んだ。
反戦記事は、編集幹部2人が「良心に従って」掲載したという。その後、記事はサイトから削除された。
ロシアでは軍に関する「虚偽情報」を広めたと裁判所が認定すれば、最高で禁錮15年の罰を受ける可能性がある。記事を掲載した幹部2人は出国したという。
●塞げぬプーチンの“抜け穴”。露呈した「欧米主導の対ロシア制裁」の限界 5/10
欧米が主導し、アジアからも日本や台湾、韓国が参加する対露経済制裁。「返り血」覚悟で厳しい姿勢をもって臨む各国ですが、その効果は期待できるものなのでしょうか。今回、「早くも制裁の限界が露呈してきた」と指摘するのは、国際政治を熟知するアッズーリ氏。外務省や国連機関とも繋がりを持つアッズーリ氏は記事中、対露制裁参加国が限定的であり、ロシアに多くの抜け道が存在する理由を詳細に解説しています。
限界が露呈する欧米主導の対ロシア制裁
ロシアによるウクライナ侵攻から2ヶ月が過ぎるなか、戦況は悪化の一途を辿っており、欧米主導の対露経済制裁も第1段、第2段という形でますます強化されている。モスクワやサンクトペテルブルクなどロシア各都市ではマクドナルドやアディダス、アップルやスターバックス、BMWやIKEAなど世界的な欧米企業が相次いで営業停止、撤退し、今後も再開する目途は立っていない。モスクワの市長は4月18日、ウクライナ侵攻で欧米を中心にロシアへの経済制裁が強化される中、雇用支援策を打ち出しているものの機能せず、今後モスクワ市内の外国企業で働く20万人あまりが失業する恐れがあると警戒感を示した。
また、我が国日本も欧米と共同歩調を取り、ロシアへの経済制裁を強化している。それによって日露関係は冷戦後最悪にまで冷え込み、ロシアも在モスクワ日本大使館の職員たちを国外追放にするなど今後さらなる対抗措置が予想され、日本企業の脱ロシアを巡る動きも活発化している。帝国データバンクが4月に発表した企業調査結果(全国2万4,561社対象で有効回答が1万1,765社)によると、ウクライナ情勢について、「既にマイナスの影響がある」と回答した企業が全体の21.9%を占め、「今後マイナスの影響がある」が28.3%、「影響はない」が28.1%、「分からない」が20.7%、「プラスの影響がある」が0.9%と全体の半数近くで懸念する声が聞かれる結果となった。また、ジェトロが3月末に発表した企業統計(ロシアに進出する企業211社のうち回答した97社が対象)によると、今後半年から1年後の見通しとして、「ロシアからの撤退」との回答が6%に上り、「縮小」が38%、「分からない」が29%、「現状維持」が25%、「拡大」が2%と半数近くの企業がロシア離反の動きを示した。ジェトロは2月24日の侵攻前にも同じ調査を実施したが、その時「縮小」と回答した企業が17%だったので、日本企業のロシア離反は急速に拡大している状況だ。
しかし、ここに来て欧米主導の対露制裁の限界が見え隠れする。それを臭わせる動きはいくつかあるのだが、まずは中国の動きだ。この2ヶ月、中国は侵攻したロシアを批判したことはなく、むしろロシアを孤立化させるべきではないとして経済的にロシアに接近する姿勢を鮮明にしている。中国が米国に国力でますます拮抗するなか、米中のパワーバランスの変化はプーチン大統領にとって極めて都合がいい。
また、今後世界の主要経済大国になるインドは長年ロシア製の武器に頼っており、両国関係は極めて有効だ。インドも国連対露批判決議では棄権に回るなどロシア非難を避け、むしろ欧米がロシア産原油や天然ガスの輸入を制限するなか、エネルギー分野でのロシア依存を深めている。バイデン大統領もインドのこういった姿勢を名指しで非難し、今後の日米豪印クアッドの一体性にも疑問符が生じつつある。5月には日本でクアッド首脳会合が開催されるが、対ロシアでクアッドが一致団結した姿勢を打ち出せない可能性もあろう。
国際社会の分裂で塞ぐことができぬロシアの抜け道
また、世界に目を配れば、欧米主導の対露制裁に参加していない国は日本の友好国にも多い。たとえば、サウジアラビアなど中東諸国だ。トランプ政権時、米国とサウジアラビアの関係は極めて良好だったが、バイデン政権の誕生によってその関係は冷え込んだ。バイデン政権はイラン核合意への復帰を目指し、脱炭素など地球温暖化対策を重視するが、イランと犬猿の仲であるサウジアラビアはイラン核合意復帰を良く思わず、脱炭素は石油輸出大国サウジアラビアにとっては極めて非経済的な話になる。今日、米国シェールオイルはサウジアラビアにとっては大きな競争相手であり、そういう石油のグローバル市場という中では、サウジアラビアにとってロシアは戦略的協力者になりうる。
また、東南アジア諸国でもシンガポール以外の国々はロシア非難を避け、対露制裁には参加していない。中でもラオスやカンボジア、ミャンマーは長年中国が最大の経済ドナーである事情もあり極めて親中的で、中国がロシア非難を回避する中ではそれに追従するほかないという政治的事情もあろう(もちろんそれぞれロシアと独自の関係を有しているが)。また、インドネシアやマレーシア、フィリピンなどは米中の板挟み状態にあり、ロシアを非難する米国、沈黙を守る中国のどちらにも傾きたくないのが本音だろう。近年、米中対立が深まる中、ASEANはその主戦場になりつつあり、ASEAN諸国の中には大国間の争いごとに巻き込まれたくないという思いがある。最近も、今年11月に開催されるG20主要20か国・地域の首脳会議について、議長国となるインドネシアのジョコ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領を招待するほか、ロシアのプーチン大統領が出席する予定だと明らかにした。これについて米国のバイデン政権は反発しているが、ジョコ大統領は世界が結束するべきで亀裂を生じさせるべきではないとの意思を示している。
以上のような分裂した国際社会に照らせば、ロシアには多くの抜け道が存在し、欧米主導の経済制裁の限界というものが今後さらに見えてくるだろう。
●プーチン“自作自演”。ロシアの「ルーブル」が持ち直したカラクリを暴く 5/10
ウクライナへの軍事侵攻後、半値以下に暴落したロシアルーブル。しかし現在は値を戻しており、プーチン大統領は「欧米の経済制裁は失敗に終わった」と主張しますが、なぜこのような現象が起きたのでしょうか。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、ルーブルが侵攻前の水準に戻ったカラクリをリーク。さらに西側諸国による「地獄の制裁」が、今後のロシアに何をもたらすかについて解説しています。
ロシアルーブルはなぜ上がったの?
今日は、読者さんからしばしばされる質問にお答えします。その質問とは、「ロシアルーブルは、ウクライナ侵攻開始後、大暴落しましたが、後で戻しました」「日本では、ウクライナ軍善戦と報じられていますが、為替の動きを見ると、ロシアが勝っているのではないですか?」言葉はいろいろ違いますが、このような主旨の質問をたくさんいただきます。今回は、この【謎】にお答えしましょう。
ルーブルの動向
まず、ルーブルの動向を見てみましょう。ウクライナ侵攻開始は2月24日です。その直前、1ドルは70ルーブルでした。3月7日時点で140ルーブルまで大暴落しています。侵攻後11日で、ルーブルの価値は半分になった。ところが、その後、ルーブルが上がり始めます。5月5日時点で、1ドル69ルーブル。完全に侵攻前に戻しています。これを見て、「経済制裁は効いていない」「ロシアは完全勝利した」と考える人もいる。理解できます。
ルーブルは「紙切れになった」という事実
しかし、ウクライナ侵攻があった2月24日前と後を同じ基準で見ることはできません。2月24日前、ルーブルは、他の通貨と同様、自由に売買されていました。つまり、ルーブルの値段は、需給を反映したものだったのです。2月26日、ロシアの金融機関の多くはSWIFTから排除されました。EUは、最大手ズベルバンクと3位ガスプロムバンクを例外とした。しかしEUは5月4日、最大手ズベルバンクもSWIFTから排除すると発表しました。ロシアの金融機関がSWIFTから排除された時点で、ルーブルは「ただの紙切れ」になったのです。もちろん、ロシア国内では使えます。しかし、外国ではただの紙切れです。たとえば、テレビを見ていたら、こんな様子が流れていました。タイにいるロシア人が、ロシアに戻ろうと思った。それで、チケットを買わなければならない。両替所にいき、ドルやユーロを買おうと思った。すると両替所の人は、「ルーブルは買えません。後で売れないからです」といって断った。その人は、「クレジットカードで買うこともできない」と嘆いていました。なぜかというと、制裁で、ロシアで発行されたカードはロシア国外では使えないからです。この人は、どうやってロシアに戻ったのでしょうか?考えられる可能性は、友達、知人から、ドル、ユーロを借りて帰国することです。実際どうなったのか、もちろんわかりませんが。
なぜ、ルーブルは上がったのか?
では、なぜ紙切れルーブルは上がったのか?これは、ロシア政府とロシア中銀が、「上げた」のです。どうやって? ロシア最大のお得意は、欧州です。欧州は、すでにロシアからの石炭輸入を、8月から停止することを決めています。そして、年内には石油輸入を全面的にストップする方針を打ち出しています。しかし、現状欧州は、ロシアから石油、石炭、天然ガスを輸入しているのです。その代金は、ガスプロムバンクにドル、ユーロで入金されます。ガスプロムバンクは、欧州からエネルギー代金のドル、ユーロを受け取ったら、即座に【ルーブルを買う】のです。なぜ? ロシア中銀が、そう決めたからです。つまり、ルーブルが上がっているのは、【強制的に需要を作り出しているから】なのです。だから、ルーブルが上がっているのを見て、「フォローザマネー。お金の流れはウソをつかない。ロシアが勝っているから、ルーブルは上がるのだ」というのは、今のロシアのケースには、あてはまりません。
制裁の効果は、長期で見る必要がある
ロシアの友人、知人に、「制裁どう?」と尋ねることがよくあります。答えはいつも同じで、「インフレがすごい」です。ロシア連邦統計局の発表によると、今年3月のインフレ率は、前年同月比で16.7%だそうです。びっくりの数字ですが、「壊滅的打撃」とはいえないでしょう。しかし、制裁の効果は、長期で見る必要があります。たとえば、2014年のクリミア併合後の制裁は、今年の制裁よりずっと緩いものでした。しかし、2014年から2020年のGDP成長率は、年平均たったの0.38%です。ちなみにロシアは、2000年から08年まで、年平均7%の成長率を誇る、急成長国家でした。それが、クリミア併合後、まったく成長しなくなった。2014年、ロシア国民は、「制裁なんて効かないね!」と笑っていました。ところが、実際は、「ものすごく効いていた」のです。今回の制裁は、2014年とは比較にならないほど厳しいものです。世銀によると、2022年のロシア経済は、マイナス11%だそうです。しかも、プーチンがトップの間、制裁が解除される可能性は低い。つまり、ロシア経済は、「瀕死の状態」が「長期間つづく」のです。
制裁下のロシアをイメージしてみよう
私の知人は、スズキの車に乗っています。故障したので、修理に出そうとしたら、「修理は無理です。部品が入ってこないので」といわれました。どうするのでしょうか?廃車にするのでしょうか? 
日米欧の自動車メーカーは、ロシアへの輸出と現地生産を停止しました。部品もです。ロシア人は、日本車、ドイツ車が大好きですが、もう日本車、ドイツ車を買うことはできません。すでに日本車、ドイツ車に乗っている人はどうでしょうか?故障したらそこまでです。ロシアの自動車メーカーもあります。AVTOVAZ、GAZ、UAZ、KAMAZなど。しかし、これらの会社は、輸入部品を使っているので、生産できなくなります。飛行機は、どうでしょうか?ロシアが使っているのは、ほとんどボーイングとエアバスです。ロシアは、リース契約していた飛行機の返還を求められ、堂々と盗むことにしました。しかし、故障したらそこまでです。部品がないのですから。
どうでしょう?「制裁は長期で見なければいけない」の意味、ご理解いただけるでしょう。今の経済はグローバル化が進んでいて、「輸入品がなくなってもやっていける国」はありません。あるとしたら北朝鮮ぐらいでしょう。救いは、中国、インドが、これまでどおり貿易をつづけていることです。とはいえ、アメリカは、世界GDPの約24%を占めている。EUは約18%、日本は約6%、イギリス約3%、カナダ約2%。合わせると、世界GDPの53%。つまり世界GDPの半分以上が、ロシアとの取引を拒否している。一方、中国は約18%、インドは約3%です。確かに、ないよりはだいぶマシですが、「53%の取引先を実質失った」ロシアの悲惨さ、商売をしている人なら、理解できるでしょう。というわけで、「ルーブルが戻したからロシアが勝った」という話にはなりません。ロシアは、ウクライナとの戦闘に勝つかもしれませんし、負けるかもしれません。戦闘に勝つことができても、「地獄の制裁」はつづいていきます。だから、私は、ウクライナ侵攻がはじまる前から書いていたのです。ロシアがウクライナに侵攻すれば、【戦略的敗北】は不可避であると。予想通りの展開になっています。 

 

●マリウポリ、「戦争犯罪」の報告800件超 東部では民間人44人の遺体発見 5/11
ウクライナ南東部マリウポリの市議会は10日、ロシア軍の包囲から逃れた住民たちから戦争犯罪とみられる報告を800件以上集めたと明らかにした。東部イジュームでは、ロシア軍の砲撃を受けた集合住宅のがれきの中から民間人44人の遺体が発見された。
マリウポリのヴァディム・ボイチェンコ市長によると、戦争犯罪の疑いに関する情報は全て、地元の検察当局に提供された。
「敵の航空機によって破壊されたマリウポリの産科病棟や、多くの女性や子供が亡くなった劇場、重傷を負ったマリウポリ市民が生きたまま焼かれた病院」など、市内での主要な攻撃について住民が証言したという。
全ての証拠が、マリウポリ住民に対するジェノサイド(集団虐殺)に関する広範な刑事手続きの一部になるだろうと、ボイチェンコ氏は語った。
「一番の犯罪者であるプーチン率いるロシア占領軍による戦争犯罪の事例は数えきれないほどある」
イジュームで民間人44人の遺体発見
戦闘が激化する東部ハルキウ州イジュームでは、3月にロシア軍の攻撃で破壊された5階建て集合住宅のがれきの中から民間人44人の遺体が発見された。住民たちは当時、ロシア軍の砲撃から身を守るために地下に隠れていた。
地元当局者はBBCに対し、救助隊は集合住宅があった場所にたどり着いたばかりだと語った。
この集合住宅と同じ通りにあった別の建物もロシア軍の標的になっていたことから、死者数はさらに増える恐れがある。
ロシア、極超音速ミサイル10数発を使用か
米国防総省の高官によると、ウクライナでの戦争が始まって以降、ロシアは約10〜12発の極超音速兵器を使用したとみられるという。
ロシア国防省は3月に極超音速ミサイル「キンジャル」でウクライナ南西部の軍地下倉庫を破壊したと発表している。ロシア当局によると、キンジャルは時速6000キロ超で飛び、2000キロ先の標的を攻撃できるという。
先週末には、 ウクライナ南西部オデーサの標的に向けてキンジャルが発射されたと、ウクライナ当局が主張している。
ただ、米当局はオデーサに対してキンジャルが使用されたことを「示すものは何もない」としている。
ドンバスでの作戦、「予定より数週間遅れている」
ロシアは先月、ウクライナの首都キーウ周辺から軍を撤退させ、軍事活動の焦点をウクライナ東部に移した。
しかし、米国防総省高官は、東部ドンバスでのロシアの軍事作戦について、当初の予定より数週間遅れているとの見方を示した。
「(プーチン氏が)望んでいたよりも2週間かそれ以上遅れを取っている」と、この高官は話した。
また、西側の対ロシア制裁により、誘導兵器の補充が難しくなっていると指摘。黒海でロシアの巡洋艦モスクワが沈没して以降、ロシア海軍の艦艇は ウクライナ南西部オデーサの「かなり南方」にとどまっているとした。
東部ドニプロ、ウクライナ軍と人道支援の拠点に
ウクライナ東部で戦闘が激しさを増す中、同国第4の都市ドニプロがウクライナ軍と人道支援活動の重要な拠点になっているとみられる。
3月と4月初旬に空爆が続いた後、ドニプロには不安を感じさせる静けさが漂っている。
最近、ドニプロを訪れた英作家デイヴィッド・パトリカラコス氏は、大部分が民兵によって守られている同市について、「ウクライナ国内の2つの世界の間に存在している。西側と東側の間、欧州とロシアの間だ」と述べた。
「その地理的位置は、この国(ウクライナ)の戦争努力にとって極めて重要なものになっている」
「ドニプロは国の中心部に位置しており、最も重要な物流拠点となっている」
●ロシアの主張に耳を傾ける国々 ウクライナ侵攻 5/11
「ウクライナと、イギリスなどの同盟国はこの1000年間、ロシアを脅している。北大西洋条約機構(NATO)をロシア国境まで移動させ、我々の文化を消し去ろうと、長年にわたって私たちをいじめている」
これは、ロシアの国会議員で著名なテレビ司会者でもあるエフゲニー・ポポフ氏が4月19日、BBCのポッドキャスト番組「ウクライナキャスト」に出演した際に述べた言葉だ。
「もちろん、NATOのウクライナでの計画は、ロシア国民にとって直接的な脅威となっている」と、ポポフ氏は付け加えた。
ポポフ氏の見解は、ロシア政府の発表している文脈が西側の見方とは全く異なるという点において、驚きと発見に満ちていた。欧州を含む西側諸国の耳には、こうした主張はほとんど理解不能に聞こえるし、慎重に文書化された証拠をあからさまに無視するものだとさえ思える。
しかしこれは、ロシア国内の政府支持者たちだけでなく、世界の他の場所にいる人々も抱いている信念の一部に過ぎないのだ。
ロシアが2月24日にウクライナへの侵攻を開始してから1週間後、国連は総会で緊急投票を行った。国連加盟193カ国のうち141カ国がロシアを非難する票を投じた。一方で、中国、インド、南アフリカを含む多くの主要国は棄権を選択した。
つまり、西側諸国の指導者たちが、この破滅的な戦争の責任はすべてロシアにあるというNATOの見解を全世界が共有していると信じているとしたら、それは妄想に過ぎないのだ。
では、なぜ多くの国がロシアの侵攻についてどっちつかずの態度でいるのだろうか?
そこには経済的、軍事的な利己主義から、植民地時代の過去についての欧州の偽善に対する非難まで、さまざまな理由がある。一概には言えない。どの国にも、ロシアを公に非難したり、ウラジーミル・プーチン大統領を疎外したりしたくない、特別な理由があるのだろう。
協力に「限界はない」
まずは中国から見てみよう。世界最大の14億人の人口を抱えるこの国では、国民の大半がロシア人と同様、ウクライナに関するニュースを国営メディアから得ている。
2月24日にウクライナ侵攻が始まる直前、中国は北京で開催した冬季オリンピックに注目の訪問客を迎えた。プーチン大統領だ。中国はその後に出した声明で、「両国の協力に限界はない」と述べている。
では、プーチン氏は中国の習近平国家主席に、ウクライナへの本格的な侵攻をひそかに伝えたのだろうか? 「そんなことは決してない」と中国側は言っているが、このような重要な隣人に、これから起こることについて示唆を与えなかったとは、到底想像ができない。
中国とロシアは、いつか戦略的ライバルになるかもしれない。しかし現在はパートナーであり、NATOや西側諸国、その民主的価値観に対して、敵対に近い軽蔑の念を共有している。
中国はすでに、南シナ海への軍拡をめぐってアメリカと衝突している。また、ウイグル族の扱いや香港での民主主義の抑圧、さらに必要なら武力で「台湾を復帰させる」という度重なる誓約をめぐり、西側諸国と衝突している。
中国とロシアはNATOの加盟国に共通の敵を持ち、両政府の世界観は両国の国民に浸透している。その結果、ロシアの侵略と戦争犯罪疑惑に対する西側の嫌悪感を、両国は単に共有していないのだ。
インドとパキスタンにも、ロシアと敵対したくない独自の理由がある。インドはロシア政府から多くの武器を調達している。また、最近になってヒマラヤ山脈で中国と衝突した後、インドはいつか同盟国として、また保護国としてロシアを必要とする日が来るかもしれないと考えている。
一方、最近失脚したパキスタンのイムラン・カーン前首相は、西側諸国、特にアメリカを激しく批判している。パキスタンはロシアから武器も受け取っており、国の北側、中央アジアへの貿易ルートを確保するために、ロシア政府の威光を必要としている。カーン氏はロシアがウクライナに侵攻した2月24日、事前に計画していたプーチン大統領との面会を実行した。
インドとパキスタンは、国連で行われたウクライナ侵攻の非難決議でともに棄権している。
偽善とダブルスタンダード
そして、特にムスリム(イスラム教徒)が大多数を占める国々では、西側諸国に対するある非難が共有されている。世界で最も力のあるアメリカに率いられている西側諸国が、偽善と二重基準(ダブルスタンダード)の罪を犯しているというものだ。
2003年、アメリカとイギリスは、国連や世界の多くの世論を無視して、偽りの理由でイラクに侵攻し、何年にもわたって暴力をはびこらせた。両国はまた、イエメンの内戦を長引かせる手助けをしていると非難されている。イエメン政府を支援するために頻繁に空爆を行っているサウジアラビア王立空軍に武器を提供しているためだ。
さらにアフリカの多くの国々には、もっと歴史的な理由がある。ロシアはソ連時代、サハラ砂漠から南アフリカに至るアメリカと西側の影響力に対抗するため、アフリカ大陸に武器を提供した。その中には、19世紀から20世紀にかけての西欧の植民地化の遺産として、西側に対する恨みが今日まで続いている地域もある。
フランスは2013年、旧植民地のマリに、国際テロ組織「アルカイダ」による占領を防ぐため軍隊を投入した。しかし、同国ではフランスの人気は高くない。フランス軍が撤退した後は、ロシア政府が援助している軍事会社ワグネル・グループが取って代わった。
では、中東諸国はどんな立場を取っているのか?
まず、シリアがロシアの侵攻を支持していることに驚きはない。バシャール・アル・アサド大統領は、2015年に同国がイスラム武装組織「イスラム国(IS)」に占領される危機にさらされて以来、政権維持においてロシアに大きく依存している。
一方で、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった長年の西側の同盟国も、国連の非難決議には賛成票を投じたものの、ロシア非難という点では比較的、声を潜めている。UAEの実質的な指導者であるムハンマド・ビン・ザーイド皇太子(アブダビ首長国)はプーチン大統領と親しい間柄にあり、前任の駐ロシア・UAE大使は、プーチン氏と狩りに行ったことがあるという。
また、サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子とジョー・バイデン米大統領の関係がほぼ機能不全に陥っていることにも留意しておくべきだ。双方が互いに嫌っており、電話を取ることも拒否していると報じられている。
またそれ以前、2018年末にブエノスアイレスで開催された主要20カ国(G20)首脳会議(サミット)では、ほとんどの西側諸国の指導者がムハンマド皇太子を冷遇していた。サミットの数週間前、トルコのサウジ総領事館内でジャーナリストのジャマル・カショジ氏が殺害された事件に、同皇太子が関わったとの非難が起きていたからだ。しかしプーチン氏は対照的に、ムハンマド皇太子とハイタッチを交わした。このことを、サウジの実質的な指導者が簡単に忘れるはずがない。
こうした事実があるからといって、ベラルーシを除く各国がロシアの侵攻を積極的に支持していることにはならない。3月2日の国連決議でロシアを支持したのは、同国とシリア、北朝鮮、ベラルーシ、エリトリアの5カ国だけだった。
しかしここから分かるのは、さまざまな理由から、西側諸国はそのプーチン大統領に対する見方や制裁措置、そしてウクライナにこれまで以上に致命的な武器を供給し、ロシアの侵略に公然と立ち向かうという姿勢を、他の国々も共有していると思ってはいけないということだ。
●ミアシャイマー 「この戦争の最大の勝者は中国」と 5/11
『文藝春秋』がエマニュエル・トッドに次いでミアシャイマーを単独取材。その論説は拙論「ウクライナ戦争は中国の強大化を招く」とほぼ一致している。全く異なる切り口から同じ結論に至っているが、若干の差異もある。
ミアシャイマー氏の視点
『文藝春秋』6月号が「総力特集 誰のための戦争か」でミアシャイマー氏(シカゴ大学教授)を単独取材し、「この戦争の最大の勝者は中国だ」というタイトルで、ミアシャイマーの論考を掲載している。
その視点があまりに筆者がこれまで書いてきたものと一致しているので、深い感動を覚えるとともに、非常に驚いた。彼の論考のうち、特に筆者が強く興味を抱いた点を以下に示す。
1.世界には「米国、中国、ロシア」の三つの大国が存在するが、バイデン大統領はNATOの東方拡大を利用して、プーチンを刺激した。
2.バイデンは2013年のマイダン革命においてウクライナの親露派政権であるヤヌコーヴィチ政権転覆に最も強力に動いたのはNATO加盟の超タカ派であるバイデン(副大統領)だった。
3.ウクライナを西側に引き入れようとした結果が、ロシアをウクライナ侵攻へと追い込んだ。
4.一連の出来事は、米国の戦略ミスだ。
5.ウクライナ戦争により米国は中国封じ込めの「軸足移動」ができなくなっている。
6.ウクライナ戦争はロシアを中国側に追いやった。
7.バイデンは核の「抑止力」を核の「強制力」に変えてしまった。
8.日米両国で「中国封じ込め」に連携せよ
概ね以上だが、このうち完全に賛同できるものと、必ずしもそうでないものがある。
筆者の視点との比較
筆者の視点は拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で詳述したが、この本はウクライナの惨状によって蘇った4歳からのPTSD(心的外傷後ストレス障害)から抜け出すために、10日間ほどで、ファクトに基づいて形成してきた自らの視点を「激白した」のに等しい作品だ。その後に現実に進行している現象を日夜コラムに書いて、相互補完を行っている。したがって、拙著とコラムの両方からの論拠に基づいて、ミアシャイマーの視点を分析したい。
完全に賛同できる「1、2、5、7」
先ず、「1」に関しては、5月10日のコラム<米CIA長官「習近平はウクライナ戦争で動揺」発言は正しいのか?>で、「アメリカは、アメリカ以外の国が、経済的であれ軍事的であれ、アメリカを抜いて世界一になることを絶対に許さないので、軍事的にはロシアを潰し、経済的には中国を潰そうとしていると、習近平は位置づけている」と書いたように、米中露三大国家の位置づけに賛成だ。
そしてアメリカは本来ならば最大の脅威である「中国」に集中すべきなのに、ロシア撲滅に没頭してしまい、中国に軸足を移しにくくなってしまっているという「5」にも賛成である。
「2」に関しても、全くその通りなのだが、ただ筆者の場合は、5月1日のコラム<2014年、ウクライナにアメリカの傀儡政権を樹立させたバイデンと「クッキーを配るヌーランド」>や5月6日のコラム<遂につかんだ「バイデンの動かぬ証拠」――2014年ウクライナ親露政権打倒の首謀者>に書いたように、バイデン個人の動きに踏み込んで考察しているので、ミアシャイマー氏が、この点に関して、どのように見ておられるかを知りたいところだ。
「5」は全くその通りで、そもそもミアシャイマー氏の論考のタイトル「この戦争の最大の勝者は中国だ」と、4月22日のコラム<ウクライナ戦争は中国の強大化を招く>は、表現が違うだけで、論点は完全に一致していると言っていいだろう。
「7」に関しては、5月26日に発売される月刊Hanada7月号で、全く同様の主張を書いているので、是非ともそちらをご覧いただきたい。
賛同だが補足したい「3、4、6、8」
「3」に関して。ミアシャイマーの「ウクライナを西側に引き入れようとした結果が、ロシアをウクライナ侵攻へと追い込んだ」という表現はその通りなのだが、バイデンは「ロシアを怒らそうとしてウクライナのNATO加盟を強く叫んだ」という表現の方が筆者にはピタッと来る。その意味でミアシャイマーの「アメリカが熊(ロシア=プーチン)の目を棒で突いた」という表現が筆者の視点と、より一致する。
バイデンはプーチンを怒らせて、何としてもウクライナへの軍事侵攻を実行して欲しかった。そうすればロシアを制裁して、ロシアの天然ガスなどのエネルギー資源の輸出を阻止し、アメリカのLNG(液化天然ガス)を欧州に輸出することができるからだ。
「4」に関しては、「6」との関連において論じなければならない。
先に「6」に関して言うと、必ずしもウクライナ戦争があったからロシアを中国に追いやったのではなく、習近平政権が誕生した瞬間から、プーチンと習近平は「相思相愛の仲」となっており、「アメリカによる制裁」が二人の緊密度をこの上なく高めていった。
ウクライナ戦争は、むしろ【軍冷経熱】の【軍冷】の部分を浮き彫りにして、「相思相愛」ぶりにヒビが入る役割を果たしている。
しかし【経熱】に関しては、プーチンが習近平に頼らざるを得ない状況を生み出し、さらにインドに関してはロシアとの間の【軍熱経熱】が露呈してきたので、その意味で「アメリカの戦略ミス」ということが言えよう。
拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でしつこく論じたが、今後は「ロシア・中国・インド」という「大陸続き」の三大国家が勢力を伸ばしていく「世界図」が描かれていくだろうことを警戒しなければならない。
「アメリカの戦略ミス」という概念は、エマニュエル・トッドやミアシャイマーに共通しているものの、筆者は「戦略ミス」というより、アメリカの戦争ビジネス戦略がもたらしたもので、そこにバイデンのエネルギー資源に対する個人的な我利我欲が招いたのがウクライナ戦争だという観点に立っている。
最も悩ましいのは「8」だ。
ミアシャイマーも本文で、以下のように書いている。
――現状、中国を封じ込める米国の穴を埋めるのは、日本が一番適任といえますが、日本政府がリーダーシップをとることは考えづらいのは、日本の方々もよく分かっているでしょう。日本も米国も、単独では中国の封じ込めはできません。中国を封じ込めるために、日米の連携強化はさらに必要でしょう。(引用ここまで)
まさにその通りだが、これは言葉の順序を逆にした方が現実に近い。
すなわち、「日本も米国も、単独では中国の封じ込めはできません。中国を封じ込めるために、日米の連携強化はさらに必要でしょう。」が先に来て、しかし、と書いて、その後に「日本も米国も、単独では中国の封じ込めはできません。中国を封じ込めるために、日米の連携強化はさらに必要でしょう。」と書くしかないのが日本の現状ではないだろうか。
5月10日のコラム<米CIA長官「習近平はウクライナ戦争で動揺」発言は正しいのか?>で、「中国経済崩壊論」を唱える一部の「中国研究者」は、日本が中国経済の発展に最も寄与しているという現実を無視して論じていることを嘆いたのは、そのためである。
中国のハイテク製品は、日本が提供するハイテク部品がなければ成立せず、日本のハイテク部品生産企業は、中国を最大貿易国としてこそ成立しているという現実から、日本人は目を背けてはならないことを強調したい。
以上が、ミアシャイマーの論考を読んだ筆者の感想である。
ミアシャイマーのような大家と筆者ごときの論点を比較するのはおこがましいことは分かっているが、しかし筆者自身、ソ連軍のマンドリン銃に脅され、中国共産党軍の食糧封鎖により餓死体の上で野宿するなどの経験を通して、「戦争の残酷さ」と「絶対に戦争だけはしてはならない」という強烈な思いから中国と中国を巡る関係国との研究に没頭している。それ故に、ミアシャイマーやエマニュエル・トッドと見解が一致したのかもしれない。『文藝春秋』がこの二人の単独取材を特集していることに感謝したい。
●ウクライナ外相「戦争目標引き上げ」も 全土回復へ 5/11
ウクライナは戦争の目標を引き上げ、今では西側の支援国が約束した大型兵器を迅速に届けてくれる限り、ロシア軍を国外へ追い出すことを目指している。ウクライナのクレバ外相はこのほど、フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューでこう語った。
東部ドンバス地方でロシア軍の攻勢が行き詰まる様相を示したことを受け、ウクライナ側が自信を深めている兆候として、クレバ氏は「勝利のイメージは進化していく概念だ」と述べた。
「戦争の最初の数カ月は、我々の勝利は、ロシア軍が2月24日以前に占めていた位置まで撤退することとウクライナ側が受けた被害に対する賠償を得ることのように思えた」とクレバ氏は言う。
その上で「今はどうか。もしも我々が軍事面で十分に強く、戦争のその後の形勢にとって極めて重要になるドンバスの戦いで勝てば、当然、この戦争における我々の勝利は残るウクライナ領土を解放することになる」と話す。
クレバ氏は、ウクライナが黒海の港を再開し、国の輸出経済を復活させられるのはロシアが敗北した場合に限られると強調した。ウクライナは「今以上の軍事支援を受ければ、南部ヘルソンからロシア軍を追い出し、黒海艦隊を撃退し、海上封鎖を解消できる」と述べた。
だが、流血の惨事があまりに甚大で、ウクライナが最終的に和解のために交渉しなければならない可能性があることも認めた。その場合、ウクライナ政府は「可能な限り強いカードを手にしてやむを得ない事態に臨みたい」と語った。
「戦場は最悪の状況」
クレバ氏は、ロシアの首都モスクワの「赤の広場」で9日、毎年開催される対ドイツ戦勝記念日の軍事パレードが開かれた数時間後にインタビューに応じた。式典ではプーチン大統領が、総動員の発表や正式な戦争宣言こそしなかったものの、ウクライナを征服する決意を表明した。
クレバ氏は、プーチン氏の発言がエスカレートしなかったからといって、「すでに最悪の事態が起きている」戦場の状況は何も変わらないと主張した。
ロシアを倒すためには、「ロシアの戦争マシンを止めるために」ウクライナの支援国がロシアから石油・天然ガス収入を奪わなければならないとクレバ氏は言う。
また、各国は武器供給の「スケジュールと持続可能性」を向上させる必要もある。ウクライナ政府は、自国が選ぶ射程の長い大型兵器の供給について重い腰を上げないとして欧米の政府を非難してきた。
「戦闘が今日繰り広げられていて、りゅう弾砲やドローンが明日届くのだとすれば、それは本来あるべき仕組みではない」との見方をクレバ氏は示す。
だが、侵攻の初期段階でウクライナが抵抗力を発揮してロシアによる首都キーウ(キエフ)制圧の狙いを阻止したこと、そして欧米諸国から供与された対戦車兵器と地対空ミサイル「スティンガー」の使用が「信頼できる」ことを証明したことが、西側諸国の認識にとって「ゲームチェンジャー」になったという。
恒久的な武器供給を要求
クレバ氏によると、ウクライナは西側諸国の間で武器供給の約束と引き渡しを調整する恒久的な「メカニズム」を望んでいる。支援国が手持ちの兵器在庫からその場限りの供給を約束しないようにするためだ。
これは、オースティン米国防長官が先月、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対して武器供給や能力、射程の拡大を呼びかけた際に達した「新たな力学」を増強することを意味するものとなろう。
クレバ氏によると、ドンバスの戦いにおける喫緊の焦点は、ウクライナの手元に届いているりゅう弾砲などのほか、まだ供給されていない多連装ロケット砲が必要なことだ。
クレバ氏はさらに、ウクライナが備蓄されていた旧ソ連時代の「グラート」ではなく、米国製のロケット砲を受け取れること、それも米議会が330億ドル(約4兆3000億円)に上る経済・軍事的なウクライナ支援予算を5月末にかけて可決・成立する前に実現することへの期待を表明した。
「約束はなされた」とクレバ氏は言う。
クレバ氏は、西側諸国に新たな目的意識を与えたのはロシアの侵略行為だったため、ウクライナを支援する国々はドンバス地方とクリミア半島からロシアを撤退させることを含め、最後の最後までウクライナを支援してくれると確信していると語った。
懸案のEU加盟問題
今から3カ月前、「民主主義が衰退傾向にあり、権威主義体制が攻勢をかけていた時に、米国と欧州連合(EU)を再び結束させた」のはウクライナの抵抗だったとの見解をクレバ氏は示す。
「彼ら(欧米)はすでに、ウクライナの勝利は彼らの勝利にもなると感じており、だからこそ我々の味方についてくれると信じている」
また、ウクライナがEUに加盟するまでには「数年(編集注、おそらく数十年かかるとみられるのが真実)」と述べたマクロン仏大統領の見方に対しては、「3カ月前には、この国は加盟の見込みさえなかった。今では加盟にどれくらい時間がかかるか話し合っている」と応じた。
最も重要なことは、ウクライナが6月にEUから加盟候補国の地位を与えられることだ。「そうなったら一緒にテーブルに着き、残る問題を解決する。どのように、いつ、といったことだ」との考えを示した。
マクロン氏など一部首脳は準加盟国のような形態を提案したが、ウクライナ政府にとっては代替策にならないとクレバ氏は言う。
「加盟候補国の地位を得られなかったら、それが意味することはたった一つ、欧州が我々をあざむこうとしているということだ。我々はそれを受け入れたりはしない」
「ウクライナは欧州において、EUが基盤としている価値観のために人々が命を落としている唯一の場所だ。これは尊重されるべきだと思う」
●次はモルドバが危ない? ロシアのウクライナ侵攻長期化で強まる懸念  5/11
ロシアのプーチン大統領は9日の対ナチス・ドイツ戦勝記念日の演説で、ウクライナ軍事作戦を「唯一の正しい決定」として侵攻を正当化しました。苦戦が続き、次の一手が明確にならない中、ロシア軍幹部から新たな標的としてモルドバへの侵攻を示唆する発言が出て波紋を広げています。モルドバとはどんな国なのか、軍事介入の可能性はあるのか、ウクライナやモルドバ情勢に詳しい松嵜まつざき英也・津田塾大学講師(ユーラシア諸国の政治・国際関係)に聞きました。(聞き手・岩田仲弘)
松嵜講師のポイント
・モルドバのサンドゥ現政権は親欧米であり、戦争ではウクライナを支持しているが、他方でロシアとの関係を完全に断ち切ろうとまでは考えていない。
・モルドバ国内に親ロシア派が樹立した未承認国家「沿ドニエストル共和国」は、ウクライナ東部の親ロシア派の未承認国家と設立の経緯が異なり、単純に比較できない。
・ロシアの対ウクライナ軍事作戦が膠着する中、ウクライナ東部と南部の支配を確立させるために、沿ドニエストルを制圧して、クリミアへと向かう陸の回廊をつくり、状況を打開させる一環としてモルドバ侵攻が語られている可能性はある。
・ただ、モルドバは永世中立国であり、NATOへの加盟も希望していない。中立国に対する軍事作戦は国際社会の非難を一層高めることになり、ロシアが自らつくってきた地域秩序もさらに破壊されるだろう。

Q モルドバの国家としての歴史的な経緯、特徴を教えてください。
A 対外的にも国内的にも、それぞれ大きな特徴があります。モルドバは、ロシア、トルコ、ルーマニアの大国間競争に巻き込まれ、領土がその都度異なる複雑な歴史を経験してきました。今のルーマニアの一部とともに、モルドバ公国として長くオスマン帝国(トルコ)の宗主権下にありましたが、19世紀初めのロシア帝国とオスマン帝国による露土戦争(1806〜12年)では、モルドバ公国の東部がロシアに割譲され、他の領域と組み合わせて、ロシア帝国のなかにベッサラビアができました。
ロシア革命のときに、ルーマニアは介入し、ベッサラビアと合併しましたが、ソ連はそれを奪い返そうとして、当時ソ連を構成していたウクライナのなかに自治共和国(概ね沿ドニエストルに相当)をつくって、ルーマニアに圧力をかけました。そして、第2次世界大戦で、ソ連が再び奪った領土と沿ドニエストルをくっつけて、モルドバはソ連を構成する15の共和国のうちの一つとなりました。
1991年のソ連解体により、独立を宣言して今のモルドバ共和国に至ります。このため、モルドバ国民には、ルーマニアと統合していた時代を重視している人もいれば、ロシア帝国やソ連時代の歴史を重視する人たちもいます。モルドバとは何か、モルドバ人とは何か、という意識を国民が完全に共有しているわけではありません。
Q 国内的な特徴とは何でしょう。
A 九州よりも少し小さい領土に「沿ドニエストル共和国」というロシア系が多く住み、ロシアからかなり強い影響を受けている地域があります。もともとソ連軍が駐留し、ソ連末期の武力紛争を通して、モルドバの支配が及ばない地域となりました。紛争後も自分たちは独立国家と主張していますが、国際法的には承認されていない未承認国家です。
もう一つ、南部にガガウズという自治区があります。ガガウズ語を話し、トルコ系正教徒が多く住んでいることから、トルコとの関係が深く、自治が認められています。ガガウズが世界的に珍しいのは、条件付きの自決権が認められていることです。仮にもしモルドバが独立を失い、ルーマニアと統合されたとしても、ガガウズには自決権を発動することがモルドバの法律で認められているという世界的にめずらしい地域です。
Q 最近の政権とロシアとの関係は。
A ドドン前大統領は筋金入りの親ロ派でしたが、2020年の大統領選で当選したサンドゥ現大統領は、出稼ぎ労働者や沿ドニエストルの和平交渉など、ロシアとは協力できるところは協力するという姿勢に変わりました。
Q サンドゥ大統領は親欧米の姿勢を打ち出しています。
A ロシア・ウクライナ戦争では、ウクライナを支持していますが、他方でロシアとの関係を完全に絶とうというわけではありません。どの国とも良好な関係を保ちたいという全方位外交がベースです。
その中で「『欧州のモルドバ』をつくりあげたい」という国家像があります。経済的に貧しいため、出稼ぎが非常に多く、EU(欧州連合)加盟を目指して、とりわけルーマニアとの関係を改善していきたいという思いがあります。
Q 欧州最貧国といわれますが、なぜそんなに貧しいのでしょうか。
A まず天然資源がありません。大規模な産業もないため、出稼ぎに頼っています。モルドバ人の多くはモルドバ語だけでなく、ロシア語も話せるので、ロシアに出稼ぎに行く人も多いです。
Q ウクライナ避難民の受け入れ数は、人口比でトップです。貧しいのに積極的に受け入れる理由は何でしょう。
A EU加盟を目指すサンドゥ大統領だからこそ受け入れているという面があります。避難民の受け入れは国際貢献として、国のイメージアップに資するからです。実際、ドドン前大統領は、モルドバは中立国なのだからロシア・ウクライナ戦争には関わらない方がいいとして、サンドゥ政権の方針をかなり批判しています。
Q 北大西洋条約機構(NATO)に加盟する意思はないのでしょうか。
A 現行憲法で、加盟は極めてハードルが高いです。モルドバ憲法は第11条で永世中立国として、いかなる外国の軍隊駐留も認めない旨を定めているからです。1994年に世論調査が実施されましたが、大多数が永世中立国を支持していました。
Q 永世中立国を目指した狙いは。
A 「沿ドニエストル共和国」に駐留しているロシア軍を、憲法の規定に照らして違法な存在にすることを意図しています。もし、改憲して永世中立国を放棄してしまうと、ロシア軍の駐留をある意味正当化しかねません。また、モルドバ国内には、永世中立国を放棄してルーマニアと合併すべきだという声もありますが、前述したように、合併すれば今度はガガウズが独立しかねません。
●西側諸国、ウクライナ戦争の裏でシリアへ67億ドルを約束 5/11
•この支援金の大部分は、ヨルダン、レバノン、トルコ、そしてエジプトやイラクに逃れているシリアの人々のために使われる
•ウクライナ戦争による世界の農産物供給への打撃がシリアの食糧難を悪化させるおそれがある、と支援団体らが警告した
ブリュッセル: ブリュッセルで開催された会議で火曜、国際支援者らはウクライナ戦争が世界の注目を集める中でもシリアの危機が忘れられているわけではないと訴え、紛争で苦しむシリアへ67億ドルの寄付を約束した。
「本日、このイベントは特に困難な時期に開催されています」と欧州委員会近隣政策・拡大交渉担当のオリベル・バルヘリ氏は述べた。
「主要な支援者を含む私たちの社会と経済は、ウクライナで戦争が起こっているという衝撃に対処する一方で、未だパンデミックから回復しようと足掻いているところです」
約束された67億ドル( 64億ユーロ)は、昨年集められた64億ドルを上回る金額だ。この資金は、シリアの人々、そしてシリア難民に苦しむ周辺諸国を支援するものであり、ダマスカス政府のためのものではない。
「ヨーロッパで戦争が続く中でも、新型コロナウイルスによるパンデミックを経験していても、寄付者らは現在、シリアとその周辺地域に向けて、以前よりさらに多くのことをする準備があるという非常に強いメッセージを送っているのです」とバルヘリ氏は述べた。
寄付金の大部分は、ヨルダン、レバノン、トルコ、そしてエジプトやイラクへ逃れているシリア難民を支援するために使われる。
支援団体らは、ウクライナ戦争による世界の農産物供給への打撃がシリアの食糧難を悪化させる可能性があると警告している。
国連は、シリア危機への人道的対応を実施するため、2022年には105億ドルが必要になると報告していた。
国連シリア担当特使のゲイル・ペダーセン氏はブリュッセル会議で、「シリアの人々が今以上にあなた方の支援を必要としたことはありません」と語った。
ペダーセン氏は、ダマスカスが政治改革についての国際的な要求をほとんど満たせないままでいる中、大量のシリア人が難民として国外へ流出し続けていると報告した。
「経済危機が続き、たとえ軍の膠着状態のようなものがあったとしても、常に激化するリスクを伴いながら暴力が継続しています」と彼は述べた。
そしてウクライナでの戦争の影響により、外交は「以前よりさらに困難になった」と付け加えた。
欧州連合(EU)の外務・安全保障政策上級代表であるジョセップ・ボレル氏は「シリアを再建するために出向いて資金を使えば、それはシリア政府を支援することになる」と述べ、シリアのバッシャール・アサド大統領が率いる政府との国交正常化も、シリアの再建プログラムもあり得ないとした。
この会議には、約70か国の他、国連機関を含む複数の国際機関が集まった。ウクライナへの侵攻によって西側諸国の標的となったロシアは招待されなかった。
ボレル氏は追加資金10億ユーロ(11億ドル)を発表し、2022年の資金総額は15.6億ユーロに達した。これは昨年の約束と同じ額の支援だ。
バルヘリ氏によると、全体としてEUとその加盟諸国が公約したのは総額の75パーセントにあたる48億ユーロである。
米国のリンダ・トーマス=グリーンフィールド国連大使は、ワシントンから8億ドルが提供されたと述べた 。
「ウクライナに多くの注目が寄せられていることを考えると、ニューヨークからここへ来て、シリアの人々を忘れていないと伝えることが重要だと思いました」と彼女は語った。
人道支援団体のオックスファムは約束された資金を歓迎したが、支援者は優先順位を改めて定める必要があると述べた。
「10年以上にわたり、緊急援助に過度な焦点が当てられるばかりで、食料や水の不足といった問題のための長期的な解決策がおざなりになってきました」と、オックスファムのシリア担当国別ディレクターを務めるムタズ・アドハム氏は声明で述べた。
「シリアの人々に必要なのは学校や病院、そしてしっかりとした、瓦礫や古い爆弾が転がっていない住居。それに、援助に頼らず家族を食べさせられるようになるための仕事なのです」
2011年に始まったシリア戦争は、今年で12年目を迎える。その間に50万人以上が殺害されたと推定されている。
ロシアとイランの支援を受けるアサド軍は統治に逆らう反乱軍と戦っており、そのほとんどはシリア北西部を拠点としている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、570万のシリア人が難民として登録されている。一方で国際連合児童基金(UNICEFに)は、930万人のシリアの子供たちが国内および周辺の広い地域の両方で援助を必要としていると指摘する。
●ヘルソン州親ロシア派勢力 ロシア編入要請へ ウクライナは反発  5/11
国営のロシア通信などによりますと、ロシアが軍事侵攻後、掌握したと主張している、ウクライナ南部のヘルソン州で、11日、親ロシア派勢力の幹部が記者会見を開き、今後、プーチン大統領に対して、ヘルソン州をロシアに編入するよう要請する方針を示しました。
会見を開いたのは、ロシア側が擁立した親ロシア派勢力の幹部、ストレモソフ氏で、ロシアへの編入に向けて、年内に法的な枠組みを準備するということです。
これについてロシア大統領府のペスコフ報道官は11日、記者団に対し「ロシアの一部になるかどうかは、ヘルソンの住民が決めることだ」と述べました。
これに対して、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は11日、ツイッターに投稿し「ヘルソンにいる『裏切り者』は、いずれ法廷で断罪され、許しを請うことになるだろう」と非難しました。
その上で「占領者は火星や木星にも編入を求めればいい。何を言おうともウクライナ軍はヘルソンを解放する」と強く反発しています。
●フィンランド首相 1週間以内にNATO加盟申請に向け決断  5/11
日本を訪れている北欧フィンランドのマリン首相が、NHKのインタビューに応じ、ウクライナ情勢を受けて「ヨーロッパの安全保障の環境はすべて変わってしまった。国際法を守らないロシアに対しては無防備であってはいけない」と述べ、今後1週間以内にNATO=北大西洋条約機構への加盟申請に向けて決断することを明らかにしました。
10日から初めて日本を訪れているマリン首相は、11日午後、都内でNHKのインタビューに応じました。
フィンランドは、ロシアとおよそ1300キロにわたって国境を接しながら、ロシアとの関係に配慮してNATOに加盟してきませんでしたが、ウクライナ情勢を受けて、国内で加盟を支持する声が急速に高まっています。
これについてマリン首相は「ヨーロッパの安全保障の環境がすべて変わってしまった。国際法やルールを守らないロシアに対して、無防備ではいられない」と述べ、NATOへの加盟申請について「国民にも議会にも加盟に賛成する声が多い。今後1週間以内に決断をする」と述べ、帰国後まもなく加盟申請に向け決断することを明らかにしました。
また「私たちは去年12月にも戦闘機に100億ユーロを投資するなど、これまでも最悪の事態に備えて防衛力を維持してきた」と述べ、以前から有事に備えて軍事力を維持してきたと強調しました。
さらに、NATOへの加盟が承認されるまでの間にロシアがフィンランドに対して軍事的な行動をとるのではないかという見方については「複数の友好国が何らかの支援を約束してくれているし、EU=ヨーロッパ連合にも相互に協力する義務がある。NATOが承認手続きを迅速に進めることが重要で、これについても議論されている」と述べ、各国との調整が進んでいることを明らかにしました。
そして、36歳の女性のリーダーとしてフィンランドの歴史的な転換を率いることについて「多くの人の意見に耳を傾け、すべての人とともに決断することが重要です。私は一般的なリーダー像とは違うかもしれませんが、常にその精神を大切にしてきました」と話していました。
マリン首相とは
フィンランドのサンナ・マリン首相はヘルシンキ出身の36歳で、中道左派、社会民主党の党首を務めています。
南部の工業都市タンペレの市議会議員などを経て、2015年に国会議員に初当選したあと、社会民主党が率いる連立政権で運輸・通信相などを歴任し、2019年にフィンランドで最年少の首相に就任しました。
環境問題に関心が高く、温室効果ガスの排出量をEU全体の目標よりも15年早い2035年までにゼロにする政策を推し進めてきました。
幼い頃に両親が離婚したあと、母親と女性のパートナーの家庭で育ち、苦しい経済状況の中で15歳からアルバイトをして家計を支えたということです。
社会な平等や多様性の実現にも力を入れていて、過去のインタビューでは「さまざまなジェンダー、世代、背景を持つ人が意思決定層にいて、一緒に決めていくことがとても重要だ」と述べています。
現在は夫と幼い娘とともに暮らし、趣味はアウトドアだということです。
フィンランドとは
フィンランドは、北欧諸国の1つで、面積は日本より少し小さい33万平方キロメートル、人口はおよそ553万人で、1300キロにわたってロシアと国境を接しています。
主な産業は、豊富な森林資源を生かした林業や製紙業のほか、通信技術などのハイテク産業も基幹産業となっていて、次世代の通信規格「6G」の開発では日本も参加する産官学のプロジェクトを進めています。
福祉国家としても知られており、子育てや教育、医療に対する手厚い補助があり、国連が毎年まとめている世界各国の「幸福度」を数値化する報告書では、5年連続で1位になっています。
また、男女平等の意識が根づいていて「世界経済フォーラム」が発表している男女平等を示す指数でも去年世界で2位となっていて、国会議員のおよそ半数を女性が占め、19人の閣僚のうち半数以上を女性が務めています。
フィンランドの対ロシア政策
フィンランドは19世紀初めから帝政ロシアの支配下におかれましたが、1917年に独立を果たしました。
第2次世界対戦の際には2度にわたって当時のソビエトから軍事侵攻を受け、多くの犠牲を出し領土の一部も失いましたが、独立を守りました。
その後は、民主主義や資本主義を維持するために、国境を接する大国ソビエトとの関係に配慮して、冷戦中も西側の軍事同盟であるNATO=北大西洋条約機構には加盟しませんでした。
こうした大国に隣接する小国が生き残るための政策は「フィンランド化」とも呼ばれるようになりました。
ソビエト崩壊後の1995年にはEU=ヨーロッパ連合に加盟する一方でNATOには加盟しませんでしたが、徴兵制を設けて防衛力は維持し、NATOのパートナー国として軍事演習などに参加しています。
一方でロシアとは毎年、首脳が行き来して会談を行っていて、ウクライナへの軍事侵攻が始まったあとも、ニーニスト大統領がプーチン大統領と電話会談を行いました。
しかし、国民の間ではロシアに対する警戒感が急速に高まり、最新の調査では国民の76%がNATO加盟に賛成していて、地元メディアなどは、近く政府がNATOへの加盟の意思を正式に明らかにする見通しだと伝えています。
●ロシア軍 ウクライナ東部地域に加え 南部や黒海でも攻勢強める  5/11
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は東部地域に加え、南部や黒海でも攻勢を強めています。アメリカの情報機関のトップは、ロシアのプーチン大統領が戦闘の長期化に向けて準備していると指摘し、ウクライナ東部の掌握にとどまらず、支配地域の拡大を目指す兆候があるとの認識を示しました。
ロシア国防省は10日、ウクライナ各地の武器庫や指揮所など74か所の軍事施設を空爆して破壊したとするとともに、ロシア軍の支援を受けた親ロシア派の武装勢力が、東部ルハンシク州ポパスナを掌握したと発表しました。
さらに、南部や黒海でも攻撃が続けられていて、このうち南部オデーサ州の沖合にあるズミイヌイ島では、ことし2月から占拠を続けるロシア軍と、奪還を目指すウクライナ軍との攻防が激しさを増しています。
ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は10日「ウクライナ軍が島を奪還しようとしたが、戦闘機4機やヘリコプター10機、無人機30機などを失い、大失敗に終わった」と主張しています。
こうしたロシア軍の動きについて、アメリカの情報機関を統括するヘインズ国家情報長官は10日、議会上院の公聴会に出席し「ロシアのプーチン大統領はウクライナでの戦闘の長期化に向けて準備しており、東部ドンバス地域を越えた目標を達成するつもりでいる」と述べて、プーチン大統領の目標がウクライナ東部の掌握にとどまらないとの認識を示しました。
そしてロシアが、2014年に一方的に併合した南部クリミアから東部にかけての支配を強めたうえで、ロシアの強い影響下にあるモルドバの沿ドニエストル地方にまで、支配地域の拡大を目指す兆候があると指摘しました。
ただ、ロシア軍が兵士の増員などを行わなければ、南部の港湾都市オデーサや沿ドニエストル地方までの一帯の支配はできないとの認識を示し、今後、数か月間の展開は予測が難しく、事態がエスカレートする方向に進む可能性があると警戒感を示しました。
●「ロシアは紛争長期化へ準備」米高官が指摘 5/11
ヘインズ米国家情報長官は10日、「ロシアは紛争長期化に向けた準備を進めている」と指摘した。また、米国防総省高官は10日、ロシアが2月24日にウクライナに侵攻して以来、「極超音速兵器を10〜12発程度使用した」と述べた。ウクライナ情勢を巡る日本時間11日の動きなどをまとめた。
「ロシアは紛争長期化へ準備」米高官が指摘 「戒厳令」可能性も
ヘインズ米国家情報長官は10日、上院軍事委員会の公聴会で、ウクライナに侵攻するロシアが「紛争の長期化に向けた準備を進めている」との見方を示した。そのうえで、プーチン露大統領が劣勢にあると認識した場合は、戒厳令を出したり、軍事行動をエスカレートさせたりするなど「より過激な手段に訴える可能性がある」と訴えた。
「ロシア、極超音速兵器を10〜12発使用」 米国防総省が言及
米国防総省高官は10日、ロシアが2月24日にウクライナに侵攻して以来、「極超音速兵器を10〜12発程度使用した」と述べた。発射時期や標的の詳細は明らかにしなかった。ロシアは3月中旬に「極超音速」とするミサイルの発射を発表。実戦での使用は初めてとみられていたが、侵攻の長期化に従い使用頻度が高くなっている可能性がある。
●林外相“ウクライナでの大使館業務再開 現地情勢見極め検討” 5/11
欧米各国で、ウクライナの首都キーウでの大使館業務を再開させる動きが出てきていることをめぐり、林外務大臣は、日本の大使館の対応について、現地の情勢などを見極めながら、総合的に検討していく考えを示しました。
ウクライナ情勢をめぐっては、日本を含めた多くの国が首都キーウにある大使館の職員を一時的に国外に退避させましたが、フランスやカナダなどの欧米各国では、現地での大使館業務を再開させる動きが出てきています。
これについて、林外務大臣は記者会見で「日本としては現在、在ポーランド日本大使館などを拠点に、在留邦人への情報提供や安全確保、それに出国支援に最大限取り組んでいる。在ウクライナ大使館の再開については、現地の情勢などを不断に注視し総合的に検討したい」と述べました。
また、林大臣は、欧米各国の首脳などの要人が相次いでウクライナを訪問していることを受けた日本政府の対応について「わが国としての対応は、現地の状況も踏まえつつ総合的に勘案し、不断に検討していく考えだ」と述べました。
●ウクライナ即時停戦迫る 米ASEAN首脳会議声明案判明 5/11
米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)がワシントンで12、13両日に開く特別首脳会議の共同声明案が11日、明らかになった。
ロシア軍の侵攻が続くウクライナ情勢に関し、即時停戦を要求。ウクライナに持続的な平和をもたらすため、政治対話を続けるよう促している。
時事通信が入手した声明案は「すべての国の主権と独立、領土保全は尊重されるべきだ」と強調。迅速かつ安全な人道支援の促進、市民や人道支援要員の保護を求めた。
ウクライナ問題をめぐっては、タイやインドネシアなどASEAN加盟国の多くが中立的な立場を維持。声明案はロシアの名指しを避けており、米国とASEANの温度差が浮き彫りになった。米国は首脳会議でこれらの国に対し、ロシアへの圧力を強めるよう働き掛ける見通しだ。
声明案は、クーデターで権力を握った国軍による市民弾圧が続くミャンマー情勢に「深い懸念」を表明。問題の解決に向け、ASEANが昨年4月に合意した暴力の即時停止など5項目の完全な履行、建設的対話の開始、恣意(しい)的に拘束されたすべての人の解放を呼び掛けている。
一方、声明案は北朝鮮が繰り返すミサイル発射に「重大な懸念」を示した。北朝鮮に対し、国連安保理決議の全面的な順守を要求。また、「朝鮮半島の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を目指す国際的な取り組みに留意するとしている。
ASEANの一部加盟国と中国が領有権を争う南シナ海情勢では「脅しや力の行使によらない法的、外交的手段を尊重し、平和解決を目指す」と記し、軍事拠点化を進める中国をけん制した。
●G7外相会議、13日開幕 ウクライナ侵攻後初の本格討議―独 5/11
ドイツ北部のリゾート地バイセンハウスで12日夜(日本時間13日未明)、先進7カ国(G7)外相会議が3日間の日程で開幕する。G7は今年、ウクライナ情勢緊迫を受けてオンラインを含め緊急の外相会合を6回開いたが、事前に準備し複数日にわたって対面で行われる本格的な会議は、ロシアのウクライナ侵攻開始後初めて。
今回の会議では、対ロシア制裁やウクライナ支援のほか、気候変動や新型コロナウイルス対策、食料問題など幅広い課題を討議する。日本からは林芳正外相が出席し、ウクライナのクレバ外相も参加する見通し。
●ロシア戦勝記念日 “迫力“に欠けたプーチン演説 5/11
ロシアは9日、第二次世界大戦でのナチス・ドイツへの勝利を祝う戦勝記念日を迎え、モスクワの赤の広場で恒例の大軍事パレートが行われた。
今年はウクライナで戦争が進行中でウラジーミル・プーチン大統領が演説で何を言うか、例年になく注目された。しかし、彼はほとんど新しいことは何も言わなかった。
ウクライナ侵攻を「不可避だった」と述べ、それを正当化する理由をいくつか並べ立てたが、戦闘の成果を華々しく語ることはなかった。今後めざすべき目標も口にしなかった。作戦が計画通り進んでいないことをうかがわせる。
ただし、ウクライナ軍が勝利しロシア軍が敗北するという単純な結論を出すことはできない。現時点では戦闘は長引くとみるべきであり、その結末も見通せない。
9日のプーチン演説で最も注目されたのは、宣戦布告と総動員令を発令するかどうかだった。英国のベン・ウォレス国防相が4月28日、英LBCラジオでのインタビューで、発令を予測したからだ。英国の国防相が言うのだから間違いなさそうだと、米欧そしてわが日本でもメディアは相当の真実味を持たせてこの情報を流した。
しかし、結果は“空振り“。米欧でもロシアでも戦争といった緊迫した情勢の下では、こうしたガセ情報が流れやすい。英国防相がそう言ったこと自体は事実だが、メディアは双方で情報戦が繰り広げられていることを念頭に、米欧情報であっても少しは疑念を抱いて検証する努力が求められる。
総動員令の予測が外れると、今度は、総動員を出した場合にはロシア国内でプーチン支持率が下がるかもしれないから思いとどまったのだという解説が登場している。そうであるなら、最初から英国防相の発言に少しは疑義を呈しておくべきだったろう。
9日のプーチン演説で注目すべきは、作戦が計画通り進んでいると言わなかったことだ。これまではそう発言していた。例えば4月12日のベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領との共同会見の場での発言を指摘できる。
そのルカシェンコ大統領は5月5日、米APとの会見で、ウクライナでの戦闘が予想外に長引いていると述べ、計画通りという見方に異論を唱えた。プーチン大統領が個人的にルカシェンコ大統領をどう思っているかはよく分からないが、建前上、ルカシェンコはプーチンの盟友であるはずで、この見解には驚かされた。
しかし、これは当然の見方だろう。ロシア軍は当初、ウクライナの首都キーフに向かって進軍したが、ウクライナ軍の抵抗でキーフ制圧を諦め、いまは東部ドンバス地方に戦力を集中している。しかしここでも作戦は思うように進んでいないようだ。
米国防省高官は2日の記者団向けのブリーフィングで、ロシア軍の作戦について「力強さに欠けるanemic」と表現した。ロシア軍はまず目標に向かって進軍し、制圧を宣言するが、その後、撤収し、ウクライナ軍に奪回されるといった状態が見られるという。
この高官は、指揮統制の混乱、多くの部隊での士気の低下、さらに兵站が十分整っていないことがロシア軍の当初からの課題で、それが今も修正されていないとの見方を示した。
プーチン大統領は4月に、残忍な戦術を取るという噂のアレクサンドル・ドボルニコフ陸軍上級大将を、ウクライナ戦争を統轄する司令官に任命したが、その後もあまり成果はあがっていないようだ。
ウクライナ軍参謀本部の発表では、ロシア軍はこれまでに2万4500人以上の戦死者を出した。米欧の軍当局の推定でも1万5000人を超える。ロシア軍当局は3月25日に1351人と発表、それ以降の発表はない。
仮に1万5000人だとして、ソ連軍が1980年代のアフガニスタン介入で出した戦死者数に既に並んでしまう。
こうしてロシア軍の作戦が計画通りに進んでいないことはわかる。しかし、ロシア軍が負けているわけではないことには留意すべきだ。米国防省には、ロシア軍は予想外に多い戦死者と兵器の損失を考慮し、成果を焦らず、一歩一歩前進しているとの見方もある。
米国のマイケル・カーペンターOSCE(欧州安保協力機構)大使は2日、ロシアが今月中旬に「ルハンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」を併合する可能性があると指摘した。
ロシアは戦闘以外の分野でも次々と攻勢をかけてくることは十分考えられる。ウクライナ戦争が今後、こうした政治分野の動きを含め、どのような経緯をたどるのか、どのような形でいつ終焉を迎えるのかは見通せない。
●ロシアのプロパガンダメディア、戦勝記念日に「反戦記事」を1面に掲載─ 5/11
「私たちにできる唯一の正しいこと」
ソ連がナチス・ドイツに勝利したことを称える「戦勝記念日」を迎えた9日、ロシアの大手ニュースサイト「レンタ・ル」は、ウクライナ侵攻に異議を唱える異例の記事を1面に複数掲載した。
これらの記事では、プーチン大統領を「痛々しい偏執症の独裁者」と呼び、「21世紀で最も残虐な戦争」を始めたと糾弾している。記事を書いた2人のジャーナリストのうちの1人、30歳のイゴール・ポリアコフは、英紙「ガーディアン」にこう語った。
「今日という日に、この記事を掲載しなければならなかった。私たちは皆に、我々の先祖が本当は何のために戦ったのか、平和のために戦ったのだということを、この素晴らしい戦勝記念日に思い出して欲しかったのだ」
9日の午前に行われた演説で、プーチン大統領はウクライナ侵攻を正当化するため、現在の戦争を第二次世界大戦におけるソ連の勝利と結びつけて語った。これについて、レンタ・ルのビジネス記者であるポリアコフは、「これは戦勝記念日に関する話ではない」と話す。
「ウクライナでは、一般の人々が亡くなり、戦闘に参加していない女性や子供たちが亡くなっている。これまでのプーチンの言葉を考えると、この状況が止むことははないだろう。私たちはこれ以上、この状況を受け入れることができなかった。これが私たちにできる唯一の正しいことだった」
9日に公開されたポリアコフらの記事には、「ウラジーミル・プーチンはウクライナにおけるロシアの計画について嘘をついた」、「ロシア軍は泥棒と略奪者の軍隊であることが明らかになった」、「ロシアはウクライナで死んだロシア兵の遺体を放置している」といった内容が含まれている。
レンタ・ルは月間2億人以上が訪問する国内最大級のウェブサイトであり、ウクライナ侵攻を正当化するプロパガンダを量産するのに用いられているメディアのひとつでもある。
同メディアは、2020年にロシア最大の銀行であるロシア貯蓄銀行(ズベルバンク)に買収されたメディアグループ、ランブレルが所有しており、国営の同銀行は米国と英国の制裁対象となっている。
ポリアコフとミロシキナはまた、レンタ・ル上に個人的な声明を発表し、読者にこう訴えた。「恐れないで! 沈黙しないで! あなたは1人じゃない、仲間はたくさんいる! 未来は私たちのものだ!」
彼らの行動は、3月中旬にロシア国営テレビ「チャンネル1」のスタッフ、マリーナ・オフシャンニコワがニュース番組のセットに突入して反戦を訴えて以来、ロシアの国営メディアで見られた大きな抗議行動としては初めてのものだ。
ポリアコフらの記事には、「編集責任者の合意を得ていない」と書かれていた。ロシアでは3月、政権に不都合な言論を弾圧する法律が成立している。ポリアコフはこの法律に言及しながら、自身の安全について「もちろん、怖い。そう認めるのは恥ずかしいことではない。だが、私は自分が何をしているのか、その結果何が起こるのかをわかってやったのだ」と話した。
●プーチン氏はウクライナでの長期戦に備えている=米情報長官 5/11
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナでの長期戦に向けた準備を進めており、たとえ東部で勝利しても紛争は終わらない可能性がある――。米情報機関が10日、そんな見方を示した。
ウクライナでは東部で激しい戦闘が続いている。ロシアは一帯を自国領にしようともくろんでいる。
ロシアは首都キーウを制圧しようとしたが、ウクライナが抵抗。その後、ロシアはドンバス地方の占拠を目指し、同地方に軍を集中させた。
だが、それでもロシア軍は手詰まり状態にあると、米情報機関は分析した。
「ドンバス以上の目標」
アヴリル・ヘインズ国家情報長官は10日の米上院委員会の公聴会で、プーチン氏について、まだ「ドンバス以上の目標を達成する」つもりでいると説明。ただ、「自らの野心と、ロシアの現在の通常軍事能力とのミスマッチに直面しているところだ」と述べた。
また、インフレ、食料不足、エネルギー価格の上昇が悪化するにつれ、アメリカと欧州連合(EU)がウクライナ支援を弱めることを、プーチン氏は「おそらく」期待していると付け加えた。
一方で、戦争が長引けば、プーチン氏が「より過激な手段」に転じる可能性があると説明。ただ、ロシアが核兵器を使うのは、同国が「存亡の危機」にあるとプーチン氏が感じた場合だけだろうとした。
国防情報局のスコット・ベリア長官は同じ公聴会で、ロシア軍とウクライナ軍は「ちょっとした膠着(こうちゃく)状態」にあると述べた。
直近の戦闘において、ウクライナは北東部ハルキウ州の4つの集落を奪還したとしている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍が成功を収めており、開戦以降爆撃にさらされているハルキウからロシア軍を徐々に追い出していると述べた。
同時に、ウクライナ人が「毎週あるいは毎日、勝利を期待するような、行き過ぎた道徳的圧力をかけるような雰囲気を作ってはならない」と話した。
ハルキウ州当局は10日、同州イジュームで、崩壊した建物のがれきから44人の民間人の遺体が発見されたと明らかにした。一帯では支配権をめぐって戦闘が激化している。
この建物は5階建てで、地下にはロシアの砲撃から逃れようとする住民らが身を潜めていた。3月に崩壊したが、救助隊がようやく現場に入れるようになった。
一方、南東部の港湾都市マリウポリでは、市内最後とみられる戦闘が広大なアゾフスタリ製鉄所で展開されている。地下のトンネルや部屋には、数百人のウクライナ兵らがロシア軍に包囲された状態で立てこもっている。
マリウポリの制圧は、ロシアにとって重要な戦争の目標となっている。制圧できれば、ウクライナ最大規模の港を支配し、より広い地域へのアクセスが容易になる。
東部の都市オデーサでは、夜間に複数の建物にミサイルが直撃し、付近の民家を揺るがした。ウクライナ軍によると、1人が死亡、5人が負傷した。
●プーチン氏が劣勢と認識で「より過激な手段も」 米高官が見解 5/11
米国のヘインズ国家情報長官は10日、ウクライナに侵攻するロシアが「紛争の長期化に向けた準備を進めている」との見方を示した。プーチン露大統領が劣勢にあると認識した場合は、戒厳令を出したり軍事行動をエスカレートさせたりするなど「より過激な手段に訴える可能性がある」との考えを示した。
ヘインズ氏は上院軍事委員会の公聴会で、プーチン氏の目標がウクライナの首都キーウ(キエフ)の制圧など当初から変化しておらず、東部ドンバス地方への戦力集中は「主導権を取り戻すための一時的な策略に過ぎない」との分析を披歴。ロシアとウクライナの双方が「軍事的に進展できる」と考えているため、「短期的に(停戦に向けた)交渉が前進する道筋は見えない」と述べた。
さらに、「今後数カ月は、より予測不可能で、事態がさらにエスカレートする恐れがある」と強調。米欧によるウクライナへの軍事支援拡充を阻止するため「ロシアは核兵器の使用をちらつかせ続けるだろう」と指摘した。
また、米国防総省高官は10日、ロシアがウクライナに侵攻して以降「極超音速兵器を10〜12発程度使用した」と述べた。発射時期や標的の詳細は明らかにしなかった。ロシアは3月中旬に「極超音速」とするミサイルの発射を発表。実戦での使用は初めてとみられていたが、侵攻の長期化に従い使用頻度が高くなっている可能性がある。
極超音速ミサイルはマッハ5(音速の5倍)以上の速さで飛行し、低高度で変則的な軌道をとることから迎撃が困難とされる。
ウクライナの反転攻勢の動きも伝えられている。ロイター通信によるとウクライナ軍は10日、北東部ハリコフ近郊の四つの集落を奪還したと発表した。米シンクタンク「戦争研究所」は「ウクライナ軍がロシア国境から10キロの地点まで露軍を押し戻した」との情報があるとし、このまま反転攻勢が続けば「(露軍が東部ドンバス地方攻撃の拠点としている都市)イジューム周辺でのロシアの作戦を混乱させる」可能性があると指摘した。
一方、ハリコフ州知事は10日、イジュームで「ミサイル攻撃で倒壊した建物のがれきから44人の遺体が見つかった」と通信アプリ「テレグラム」で発表した。英BBCによると建物は5階建てで、3月に露軍の砲撃で倒壊したが、露軍の占領下にあったため救助活動が遅れていたという。
●プーチン大統領も大ショック? 31歳年下の“愛人”カバエワさん「妊娠報道」 5/11
アテネ五輪新体操女子金メダリストでロシアのプーチン大統領(69)の愛人とされるアリーナ・カバエワさん(38)が、再びプーチンの子供を妊娠したという。ロシアのニュースサイト「ゼネラルSVRテレグラム」が報じた。
2008年に不倫関係が報じられた2人の間には、7歳の双子の娘、15年と19年にスイスで出産した2人の息子がいるとされる。
プーチン大統領にとって妊娠は想定外だったようで、9日の対独戦勝記念日を前に知らされて「大ショックを受けた」とか。このご時世にやることやってるのがバレるのが恥ずかしかったのかな? 健康不安説が流れているけど、元気だなぁ……。
●米で武器貸与法成立 ウクライナ情勢への影響は? 最も早く終わらせる手段 5/11
ロシア安全保障を専門とする防衛省防衛研究所の山添博史主任研究官が11日、日本テレビ系「news every.」にリモートで生出演し、米国で成立した武器貸与法について見解を語った。
バイデン大統領は9日、ロシアから軍事侵攻を受けるウクライナへの軍事支援を迅速化できる同法に署名し、成立した。これにより、武器を貸与する際に必要な手続きが簡略化され、ウクライナへの迅速な武器供与が可能になる。
同法について山添氏は、「ちょうどロシアで戦勝記念日を祝っていた日付に大統領が署名、発行した」と説明し、「一つの象徴的な意味合いがあると思います」とも話した。
山添氏は、第2次大戦中にナチス・ドイツと戦ったソ連に対し、米国や英国をはじめとした連合国軍が、海などから軍事支援していたと説明。「今は侵略者に抵抗しているのがウクライナで、やはりアメリカが支える。これによって、今までやってきた支援もあるんですけど、これを継続的にできる」と、ウクライナ側へのメリットを強調した。
ヘインズ米国家情報長官は、ロシアが戦闘の長期化に備えているとし、「東部ドンバス地方の確保以上の目標を達成しようと評価している」と分析している。山添氏は「アメリカからの支援が継続的で、ウクライナ側の戦力増強が早いペースで、早く長く続くのであれば、ロシアが回復して立て直そうとしても、その努力が無駄になっていく」と説明した。
その上で、「継続的にウクライナが戦力を高めていく、ロシアが無理だと思えば、ロシアがあきらめる可能性が高くなる」と、ロシアの戦意喪失にもつながると指摘。「つまり、長期化を目指しているんですが、長期化に備えてはいるんですが、それでも最も早く終わらせるための手段、アメリカとしてはそう考えていると思います」と見解を示した。 
●ゼレンスキー氏「ハルキウを奪還した」マリウポリ製鉄所でも抗戦  5/11
ロシア軍に対する、ウクライナ軍の徹底抗戦が続く中、ゼレンスキー大統領は、ロシア軍に制圧されていた北東部にあるハルキウ州の一部地域を奪還したと明らかにした。
ゼレンスキー大統領「ハルキウ州にいる部隊からいいニュースだ。ロシア軍を追い出し、奪還した」
ハルキウでは、ロシア軍の戦車を空から爆撃する様子がウクライナ軍によって公開され、ゼレンスキー大統領は「ハルキウ州の一部地域を奪還し、反撃を始めた」と話した。
一方、ウクライナの部隊が徹底抗戦を続けている南東部マリウポリの製鉄所内で、時折爆音が響く中、女性兵士らが、ウクライナのポップソングを歌う動画が公開された。
女性は、「マリウポリやウクライナのように永遠に生きる」と勝利への確信を見せた。
製鉄所内の女性兵士「ロシア軍がここにいるかぎり、われわれは最後まで戦う」
アメリカ国防総省の高官は、ロシアは大部分の戦闘能力を維持しているとしながらも、東部地域で停滞し進軍できていないとの分析を明らかにしている。 

 

●ズミイヌイ島(蛇島)がなぜ重要なのか:ウクライナ戦争 5/12
黒海に浮かぶズミイヌイ島、別名、蛇島(スネーク島)。
ウクライナ領のこの島を、ロシア軍は2月に占拠した。そして今、奪還を目指すウクライナ軍との戦いが、激しさを増している。
「蛇島」という名前は、14世紀に黒海を支配したジェノバ人が、池に多くの爬虫類をみつけたためだ。ソ連時代に蛇を駆除したらネズミが増えてしまい、殺鼠剤を使ったら島が汚染されたという。
上記写真のように、たった1平方キロメートルの島そのものは、特に価値があるわけではない。重要なのは、存在する場所である。ドナウ川の河口に位置する、黒海の要衝なのだ。
この島の重要性は、以下のものであるという。
1,南部の港湾都市オデーサ(オデッサ)とその周辺一帯を攻略する拠点となりうる。島で巡航ミサイルの配備や、防空面を強化することができる。
2,ウクライナの南西に位置するルーマニアに近く、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるルーマニアからウクライナへの武器の供与を阻止する。
特にロシアは4月14日に、黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を失ったので、これらのことを重視しているという。島へのロシアの補給船は、「モスクワ」が主に保護をしていた。それがウクライナ軍に破壊されてしまった今、補給戦は最低限の保護しか受けられなくなっている、と英国は言う。
実は、この島のことは、筆者の3月27日の記事「ロシア軍が初めてウクライナ西側を攻撃。戦争は新局面か:黒海、オデッサ、モルドバ、ルーマニア」で説明したことがある。
読者の中には2月の「英雄談」を覚えている方もいるのではないか。ロシア海軍が、黒海の小さな島にいるウクライナ国境警備隊に向かって「武器を捨てて降伏するよう提案する。さもなければ爆撃する」と呼びかけたところ、「地獄に落ちろ!」と返答。全員死亡したという話である。このロシア海軍というのは「モスクワ」だったという。
2月25日、この13人の守備隊にウクライナ政府は英雄の称号を与えたが、幸いなことに彼らは生きていた。
この時に島はロシアに占拠されてしまった。この島こそ、今問題になっているズミイヌイ島/蛇島なのである。それ以来、蛇島はウクライナの抵抗のシンボルのように有名になった。
蛇島に2月に起きた事件は、大変不謹慎な例えで表現すると、日韓で争う竹島にロシア軍がやってきて、ぶんどってしまったーーという感じの出来事である。その日本のショックがルーマニアのショックであると考えると、少し近いかもしれない。
歴史的に争い続ける島
蛇島は、存在する場所が地政学的に黒海の要衝を占めるために、ロシア帝国とオスマントルコ帝国が領有を争い、さらにルーマニアが加わって、常に領土争いの対象になった。
19世紀半ばのクリミア戦争中には、フランス、イギリス、オスマン帝国の連合艦隊がクリミア半島に上陸する前の集合地点となったと言われる。また、第二次世界大戦中、ルーマニアの支配下にあったこの島は、枢軸国軍が使用する無線局が置かれた。
冷戦時代はソ連領となり、対空防衛のためのレーダー基地と、ソ連海軍の沿岸監視システムの無線セクションとして使用された。
1980年代に石油とガスが見つかって以来、ルーマニアとソ連との間に国境紛争が起きる。ソ連が崩壊すると、この島はウクライナ・ソビエト社会主義共和国の領域にあったので、ウクライナ領になった。そして今度はルーマニアとウクライナとの間の国境紛争に移行した。
1997年、北大西洋条約機構(NATO)はルーマニアに対し、NATOに加盟するならばウクライナとの国境紛争を解決するよう強く求めた(2004年に加盟が実現)。
その結果、この島を含む6つの島はウクライナに属することが確認された。しかし、蛇島に対応する領海と排他的経済水域は、依然として紛争が続いていた。
2004年9月、ルーマニアはハーグの国際司法裁判所に提訴した。同国の主張は「これは岩」、ウクライナの主張は「これは島」。どこかで聞いたような大変身近に感じる争いだが、裁判では全会一致で、両方で分ける結果となった。
これで公式には島そのものの紛争は終わったのだが、湾と島の間の領海帯で、まだ紛争が残っている。
ところがここに、ロシア軍が侵略してきて、占領してしまったのだ。それがあの2月の「退去しろ→地獄に落ちろ」事件である。
この事件から、ルーマニアの防衛の主張は特に激しさを増した。NATO軍はルーマニアの防備も、かなり前から始めている。最近のオデーサへの攻撃は、ルーマニアをさらなる不安に陥れている。ロシア艦隊が、再び喉元まで戻ってこようとしているのだ。
ルーマニアのコンスタンツァ近郊のミハイル・コガルニチアヌ基地には、2月に援軍として派遣された1000人近いアメリカ軍がすでに配備されていた。
このように、ルーマニアというNATOとEUの加盟国から防御の要望が高くなったことも、島奪還を目指す原因の一つだろう。
ロシアが欧州のガスを止めようと脅しをかけている今、このガスをめぐっても問題は大きくなるだろう。このガスが欧州側のものになれば、アフリカやコーカサスなどの遠くからパイプラインを引いたり、中東やアフリカから液化天然ガス(LNG)を輸入したりしなくても、東欧のエネルギーに恩恵がもたらされるのだ。
ウクライナ軍が相次いで爆撃
2月には「モスクワ」号によって、蛇島はロシア軍に奪われた。反撃に出たウクライナ軍が4月に「モスクワ」を撃沈させた(ロシア側は事故と主張)。そして今また、紛争が激しくなっている。
ウクライナ軍参謀長ヴァレリー・ザルズニーは、ソーシャルメディアのテレグラムで5月2日未明、ロシアのラプター級巡視船2隻が、蛇島付近で破壊された、と書いた。
「バイラクタルは機能している」と述べ、トルコが開発したこの戦闘用ドローンを、両方の攻撃に使用したことを明らかにした。
さらにウクライナ海軍は5月7日、トルコで開発された戦闘用無人機「バイラクタルTB2」ドローンが、「プロジェクト11770・セルナ級の揚陸艇と、2つのトーア(Tor)地対空ミサイルシステムを襲った」と、Facebookで、日付を特定せずに発表した。
ウクライナ国防省は、船の破壊とされる映像の公開に伴い、「今年5月9日(第二次大戦の戦勝記念)のロシア艦隊の伝統的なパレードは、蛇島付近の海底で行われる」と皮肉った。
どちらの件でも、ロシアはこの情報を確認(反応)していない。
筆者は軍事の専門家ではないのだが、まるで第二次大戦の日本軍に起こったようなことが、今ロシア軍に起こっているのではないかと感じることがある。
戦艦大和も武蔵も、威容を誇る日本の軍艦は、新しい「空軍」という存在の前に撃沈を余儀なくされた。今のロシア軍も、戦力は大きいのかもしれないが、その軍艦も戦車も、新しい時代の小回りの効く高威力の武器の前に、次々と破壊されている。
いろいろな意味でこの戦争は、時代の変化の象徴になるのではないかと思う。 
●ロシア領に砲撃、初の死者 戦争犯罪、法廷へ―ウクライナ 5/12
ウクライナ国境に接するロシア西部ベルゴロド州のグラドコフ知事は11日、ウクライナ側から州内の村に砲撃があり、1人が死亡、6人が負傷したと通信アプリで明らかにした。ロシアのメディアは、侵攻後、ロシア領内でウクライナの砲撃による死者が出たのは初めてと報じた。
国境を挟んだウクライナのハリコフ州ではここ数日、ウクライナ軍が反攻を強め、国境に近づいている。砲撃を受けた村は国境から約11キロの地点にある。AFP通信によるとグラドコフ知事は、ベルゴロド州がロシア軍による2月の軍事行動開始以来、「最も困難な状況に置かれている」と述べた。
一方、ウクライナのベネディクトワ検事総長は11日、拘束中の21歳のロシア兵について、非武装のウクライナ民間人を殺害したとして訴追し、戦争犯罪で裁くと発表した。ウクライナ侵攻に関連して戦争犯罪が裁かれる初のケースとなる見通し。
この兵士は侵攻開始から4日後の2月28日、ウクライナ北東部スムイ州の村の路上で、携帯電話で話していた男性の頭を撃った疑いが持たれている。戦闘から逃れようと、盗んだ車で他の兵士4人と共に移動中に犯行に及んだとされる。有罪なら最高で終身刑が科される。
ウクライナの検察は、ロシア軍による戦争犯罪容疑1万700件以上を捜査中。これまでに容疑者622人が特定されている。
●ウクライナ、ロシア軍設置の浮橋を破壊 東部の村奪還も 5/12
ウクライナ軍は11日、ロシアとの激しい戦闘が続いているウクライナ東部ルハンスク州で、ロシア軍が川を渡るために設置した浮橋を破壊したと発表した。また、東部の村を奪還したとも述べた。ウクライナのイリナ・ヴェレシュチュク副首相は、南東部マリウポリの製鉄所内に残る重傷者とロシア兵捕虜を交換する可能性を示唆した。
ウクライナ国防省は、東部の都市リシチャンスクに近いビロホリフカ村で撮影した、破壊されたロシアの戦車や武器庫などとする写真を公開した。リシチャンスクは戦略上重要で、ウクライナが保持している。
ルハンスク州のセルヒイ・ハイダイ知事は、ビロホリフカは南東部マリウポリと同様、ロシア部隊の進軍を「大量に阻止」している「要塞」だと述べた。
ウクライナ側の主張については独自に検証できていない。ロシア軍はこの件についてコメントしていない。
ロシアは侵攻開始からの最初の数週間で、ウクライナの首都キーウや北東部地域の占領に失敗。その後、ルハンスク州と隣接するドネツク州を完全掌握するため、軍事作戦を東部に集中させている。ただ、これまでのところ東部の完全掌握には至っていない。
ウクライナ軍、東部の村を奪還と
ウクライナ軍は11日夜、戦況について最新情報を公表した。それによると、東部ハルキウ州ではロシア軍は守勢に立たされ、新たな進軍を試みていないという。こうした中、ウクライナ軍は同州のピトムニク村を奪還したとした。ウクライナ軍は10日にも近隣の4つの集落を奪還している。ロシアはドンバス地方のルビジュネとリマンの制圧を目指しているとみられる。BBCはこれらの情報について独自に検証できていない。
製鉄所内の負傷者とロシア兵捕虜の交換
ウクライナのヴェレシュチュク副首相は、ロシア軍の攻撃で荒廃した港湾都市マリウポリのアゾフスタリ製鉄所内に残る重傷者と、ロシア兵捕虜と交換する可能性を示唆した。ヴェレシュチュク氏は「まだ合意には至っていない」、「交渉は続いている」とテレグラムに投稿した。ウクライナ政府は製鉄所に閉じ込められた兵士を救出するため、さまざまな選択肢を試みてきたものの、「どれも完璧なものではない」と、ヴェレシュチュク氏は述べた。製鉄所に残る部隊は、ロシア軍には決して降伏しないとしている。
ロシア、ミサイル約800発を発射か
ウクライナ軍によると、2月24日の開戦以降、ウクライナの標的に向けて発射された巡航ミサイルと弾道ミサイルの数は約800発に上るという。ミサイルは主にウクライナ南部と東部を狙ったものだが、ロシア軍は社会的に重要なインフラなども繰り返し標的にしているという。
プーチン氏は「NATOとの対立を望んでいない」
ロイド・オースティン米国防長官は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、ロシア軍と北大西洋条約機構(NATO)の対立は望んでいないとの見方を示した。ロイター通信によると、オースティン氏は議会公聴会で、「これは彼(プーチン氏)が全く望んでいない戦いだ」と語った。オースティン氏は、ロシア軍の多くがウクライナやベラルーシに駐留せざるを得なくなっている一方で、NATO側には約190万人の兵士がいると説明したという。
NATO加盟は「戦争を意味しない」
現在、スウェーデンとフィンランドはNATOへの加盟を検討している。こうした中、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナがNATOに加盟していればロシアとの戦争を防げた可能性があると語った。ゼレンスキー氏はフランスのパリ政治学院の学生たちに、ビデオ通話で講演。その中で、「ウクライナが戦争の前からNATOの一員であったなら、戦争はなかっただろう」と述べた。米CNNによると、ゼレンスキー氏は「手遅れでない限り」、ウクライナには交渉を行う「用意がある」とも述べた。さらに、「ブチャやマリウポリで、何十人者もの死者やレイプ事件が発覚するたびに、交渉への意欲や可能性、この問題を外交的に解決する可能性も消えていく」と付け加えた。
●ロシア ウクライナ南部ヘルソン州で支配を既成事実化する動き  5/12
ロシアが掌握したと主張するウクライナ南部のヘルソン州では、親ロシア派勢力がプーチン大統領に編入を求める考えを表明し、支配の既成事実化を進めようとしています。一方、ロシア軍の激しい攻撃が続く東部マリウポリでは、ウクライナ側が負傷兵とロシア側の捕虜との交換を提案し、兵士の解放に向けた交渉が行われているものと見られます。
ロシアが掌握したと主張するウクライナ南部のヘルソン州では11日、親ロシア派勢力の幹部が記者会見を開き、今後、プーチン大統領にヘルソン州を編入するよう要請するとして、住民投票を経ずに編入を進めるための法的な枠組みを年内に整える考えを明らかにしました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は「ロシアの一部になるかどうかは、ヘルソンの住民が決めることだ」と述べました。
これに対し、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は「何を言おうとも、ウクライナ軍はヘルソンを解放する」とツイッターに投稿し、ロシア側による支配の既成事実化に警戒感を示しました。
また、ロシア国防省は11日、ウクライナ各地の指揮所や弾薬庫などの施設407か所をミサイルなどで破壊したほか、東部のハルキウ州やルハンシク州などで無人機を撃墜したと発表しました。
ただ、ハルキウ州ではウクライナ軍が10日、4つの集落を奪還したと発表するなど、押し戻す動きも見られます。
こうした中、東部ドネツク州のマリウポリで製鉄所を拠点に戦闘を続けているウクライナの「アゾフ大隊」は11日「製鉄所ではこの24時間で38回の空爆があった」とSNSに投稿し、ロシア軍の激しい攻撃を受けているとしています。
マリウポリの部隊について、ウクライナのベレシチュク副首相は「重傷を負った兵士を避難させる代わりに、ロシアの捕虜を引き渡すことを提案した」と明らかにし、兵士の解放に向けロシア側と交渉が行われているものと見られます。
●ウクライナ侵攻のロシア軍内で「命令無視」の動き、米国防総省高官 5/12
米国防総省高官は12日までに、ウクライナへ侵攻したロシア軍兵士や様々な階級の中堅将校内で司令部の進軍命令などを無視する動きを示す情報を入手していることを明らかにした。
中堅将校による命令への順守の拒絶は大隊レベルでも起きているともした。
これらの指揮系統の乱れは親ロシア派武装勢力が拠点を築くウクライナ東部ドンバス地域に配備されたロシア軍内で起きているとしたが、あくまで「仄聞(そくぶん)」段階の情報ともつけ加えた。
将校は命令に応じることを拒否、あるいは将校としての職務として当然視される命令への即座の対応を見せていないとした。
同高官によると、ロシア軍は侵攻に踏み切った以降、軍内の士気の維持で広範な問題を抱え、対応策に苦慮してもいる。戦果の確保を阻んでいる後方支援上の障害もいまだに未解決とされる。
高官はまた、ウクライナ内に展開するロシア軍の大隊戦術群は9日現在で97だが、今年4月28日時点での分析より5個増えたと指摘。11日間内での増強であることに注意を向けた。
1〜2個の大隊戦術群をドンバスからロシアに移動させて補給などを終え、ドンバスにまた戻すのは通常の軍事的なさい配とも説明。だが、5個のウクライナへの派遣、それもロシアが戦術的に重視する同国の東部や南部に全て出動していた大隊戦術群の転戦は異例との見方を示した。
●ウクライナ訪問の米大統領夫人「プーチンさん、どうか戦争を終わらせて」 5/12
「プーチンさん(ミスター・プーチン)、どうかこの無意味で残忍な戦争を終わらせてください」。
バイデン米大統領のジル夫人が11日にロシアのプーチン大統領に向け公開的に戦争中止を促した。自身が目撃したウクライナ戦争の惨状を伝えたCNNへの寄稿でだ。
ジル夫人は8日にウクライナのウジホロドを電撃訪問し、同国のゼレンスキー大統領のオレナ夫人とウクライナ難民と会った。ジル夫人の担当報道官はこの寄稿について「ジル夫人が9日に帰国する飛行機の中で自身の個人的な考えを込めて直接書いた」と明らかにした。
ジル夫人は寄稿で「戦場を訪問し変わらずに帰ってくることはできない。悲しみは心で感じられるために目で見る必要はない」とした。
「母の日」にウクライナを訪れたジル夫人はまずウクライナの母親らと会った話から始めた。ジル夫人は「悲しみがもやのように降りてきて(ウクライナ難民の)顔を覆った。悲しみを抑えきれないのか母親の目頭は涙が乾く日がなく、子どもの手をしっかりと握ったり髪をさわっていた」と伝えた。
その上でジル夫人は「ウクライナ母親たちは勇敢な顔をしているが、彼女らの曲がった肩には隠すことのできない感情が現れており、緊張感が全身に漂っていた。女性の共通言語である笑いが消えた」とした。
ジル夫人はウジホロドだけでなく、スロバキアとルーマニアでもウクライナ難民と会った。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、10日基準で国外に避難したウクライナ難民は598万人に達する。ウクライナ国内にいる避難民まで合わせれば人道的支援が必要な人口は少なくとも1200万人に達する。
ジル夫人はウクライナ難民から聞いた残酷な事例を紹介した。「ウジホロドで会ったある若い母親は、彼女とその家族が食べ物を手に入れるために外に出た時にロシア兵がパン1切れを待って列を作る人たちに向かって銃を撃ったと私に話した」と伝えた。
また、スロバキアとルーマニアで会った母親は私にウクライナを脱出するまで毎夜爆弾が落ち恐怖に震えたと話し、ある11歳の少年は手に家族の電話番号を書いたまま1人でウクライナから逃げてきたと話した。ジル夫人は「2月の寒い日に多くの人々が靴と持ち物もほとんどなくいつか家へ帰れるように願う希望ひとつを抱えて恐怖に震えながら逃げた」とした。
ロシアの侵攻後、ウクライナの民間人死亡者は公式集計である3381人より数千人は多いと国連人権監視団は10日に伝えた。
ジル夫人はゼレンスキー大統領のオレナ夫人と交わした話も紹介した。ジル夫人は「オレナ夫人は私に国民を助けてほしいと話したが、食べ物、衣類、兵器は要請しなかった。彼女はプーチンの無意味で残忍な戦争により苦痛を受ける人々が心理治療を受けられるよう助けてほしいと話した」と公開した。
続けて「オレナ夫人によると、多くの女性と子どもたちが強姦され、多くの子どもたちが人々が銃に撃たれて死んだり家が燃える光景を目撃した」と伝えた。オレナ夫人はロシアの侵攻後も夫のゼレンスキー大統領と2人の子どもとともにウクライナに残り、ソーシャルメディアなどを通じて抗戦メッセージを伝えている。
ジル夫人は作家ハリール・ジブラーンの言葉を引用し「悲しみがあなたに深く刻まれるほどあなたはより多くの喜びを受け入れることができる」とした上で、「私が会った母親たちのためにこれが事実になることを希望するが、これは戦争が終わる時にだけ起こすことができる」とした。
その上でジル夫人はロシア大統領を「プーチンさん」と呼んだ上で「戦争を終わらせてほしい」と促して寄稿を締めくくった。
●食い違うロシアとウクライナの主張 侵攻から2ヶ月で見えた戦争の落とし処 5/12
2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して、はやくも2か月半が経過しました。犠牲者が増え続けるなか、両国は幾度も停戦交渉をおこなってきましたが、いまだ戦争が収束する目途は立っていません。両国の主張がすれ違う歴史的背景や、プーチン大統領の狙い、停戦後の課題などについて、現在ベストセラーとなっている『物語 ウクライナの歴史』の著者で、駐ウクライナ大使を務めた黒川祐次さんに解説してもらいました。
ウクライナ国内の文化や民族の違いは国を分断するようなものではない
Q:黒川さんは、1991年にウクライナが独立して、わずか5年後となる1996年に駐ウクライナ大使として赴任されました。現在の報道では、ウクライナ国内について、「ウクライナ東部は伝統的にロシア語が第一言語の住民や、親ロシア派の人々が多い」とされています。黒川さんが赴任した当時、ウクライナ国内や、ロシアとの関係はどのような状況でしたか。
A:私は1996年の10月から1999年5月までの2年7か月間、ウクライナ大使として滞在していました。
赴任当時のウクライナは独立後間もない時期ということもあって、国内では独立による意気の高揚はあるものの、共産主義経済から自由主義経済への移行が思ったように進まず、国家として、政治、経済の面でも苦しい時期でした。
ウクライナは国土も大きく、東西で文化や民族の違いは確かに存在します。ただ東西の違いが、いかにもウクライナの不安定の根源のように主張する意見や報道も見受けられますが、これはかなり誇張されたものだと思います。
「違いはあるが、国を分断するようなものでは全くない」と当時から感じていましたし、現在もそう思っています。
Q:ちなみに、現大統領のゼレンスキーさんは、かつてコメディアンとして活躍されていたそうです。黒川さんが赴任されていたころに、すでにテレビなどに出演されていたのでしょうか。
A:ゼレンスキーは1978年生まれなので、私がいた頃はまだ大学生ぐらいだったと思います。従って当時私はゼレンスキーという名前を聞いたことはありませんでした。
エリツィン政権とプーチン政権の対ウクライナ施策の違い
Q:ウクライナは独立後、第4代大統領・ヤヌコビッチ氏が2010年に就任するまで親欧米派の大統領が続きました。この間、ウクライナとロシアはどのような関係だったのでしょうか。
A:ウクライナは独立までずっと、ソ連の社会や経済の制度に組み込まれていました。なので独立後も、当面はロシアとはよい関係を続けなければ国家としてもやっていけない時期でした。 
いっぽうで、国民は欧米の新しい社会・経済システムに憧れ、それを導入したいと考えていました。このような世論に後押しされる形で、国家としては欧米とも関係を深めていかなければなりません。欧米指向が段々と強くなっていった結果、ロシアとの関係が少しずつ難しくなっていったのです。
Q:ウクライナ国内で欧米志向が高まっていく時期、ロシアではプーチン氏が1999年に首相に、2000年に大統領に就任します。前大統領のエリツィン政権のころと比較して、プーチン政権では対ウクライナ政策に違いはありますか。
A:私の在任中(1999年5月まで)は、ロシアではまだエリツィン政権の時代でしたが、彼はウクライナを別の独立国として認めていました。もしエリツィンだったら、今回のようなウクライナへの軍事侵攻は起きなかったでしょう。
実はプーチンも、就任初期のころはそれほどウクライナに対して高圧的ではありませんでした。しかし、一方でウクライナが欧米指向を強め、他方でプーチンの国内での権力が強固となり独裁的になるにつれて、ウクライナに対して高圧的になっていったのです。
プーチンは、ロシアがかつてのような大国に戻るためには、ウクライナを取り戻すことが必要だと主張するようになります。また、ウクライナを取り戻せなくても、当面は、ウクライナがロシアから離れ欧米圏内に入ることは絶対阻止しなければならないと考えたようです。
ロシアの論理は国際的にも認められない
Q:ウクライナでは歴代大統領がNATOへの加盟を表明してきましたが、実現には至っておりません。ロシアからの反発も大きかったようですが――
A:ウクライナは、ロシアに従属しロシア式のやり方をとっているようでは真の独立は得られず、また経済の発展も望めないと確信するようになりました。しかしプーチンは、ウクライナ国内でのそのような動きを許すことができなくなっていました。
このような状況で、大きな事件が起こります。2014年、ロシアによってクリミアが併合され、東部ドンバス地域でロシアの傀儡政権が擁立されました。
これがあまりにも簡単に進み、欧米の反発・制裁もそれほど大きくなかったことから、プーチンは第2段階としてNATO加盟を推進するゼレンスキー政権を倒して傀儡政権を作り、ウクライナを自分の意のままに従う国にしようとしたのだと思います。その結果が、2022年2月24日の軍事侵攻でした。
プーチンにとって目下の課題は、NATOがこれ以上東方に拡大してロシアの脅威になることを防ぐことでした。そしてゆくゆくは、ロシアがかつてのロシア帝国やソ連のように広大な領土を持つ大国に復帰することを、自分の手で成し遂げたい、そう考えたのだと思います。
Q:プーチンは、ウクライナ侵攻を正当化する論理として、「ウクライナとロシアは歴史的に一体だった」と主張しています。しかし、黒川さんが『物語 ウクライナの歴史』で書かれているように、ウクライナ民族や国家の成り立ちをひもとくと、プーチンの主張は事実ではないことがわかります。彼はなぜあのような主張を繰り返すのでしょうか。
A:ロシアが長いあいだウクライナを支配してきたため、ロシア人、特にプーチンは、ウクライナはロシアの一部だと考えたり、あるいはウクライナは当然ロシアに従うものだ、と考えるようになったのだと思います。
他方でウクライナ人は、自分たちはロシアとは民族・言語・宗教などで近い関係にあるが、別の民族であり、ロシアには従いたくない、と考えています。
もちろん、現在の民族自決の原理からすれば、ロシアの論理は身勝手であり、国際的に認められるものではありません。
戦争の終着点はどこに
Q:今回のウクライナ侵攻は、ロシアの当初の計画からは想定以上に長期化してしまっている、と報じられています。ロシアにとって、今後の「落としどころ」というのは、どこにあるのでしょうか。
A:プーチンが当初の計画で描いていたのは、ゼレンスキー政権打倒と傀儡政権を樹立するところまでだったと思われます。それがうまくいかず、実現のめども当面立っていないいま、ロシアにとってはドンバスから南部海岸地帯を実質支配するところまでが、最低限の目標になっているのではないでしょうか。
Q:両国の間では数度にわたって停戦合意交渉が行われていました。停戦の条件として、ウクライナのNATOへの加盟断念と、「中立化」が挙げられていました。それぞれに実現可能性はあるでしょうか。
A:ゼレンスキーは、「NATOへの加盟は断念して中立になってもいいが、その代わりに、新しい安全保障の仕組みを作るべきだ」と言っています。
しかし、ロシアも納得し参加したうえで、しかもウクライナにとっても実効性のあるような仕組みが果たして可能なのか、極めて難しい課題ではないでしょうか。
ロシアは、いままさにウクライナに侵攻しており、今後も侵攻してくる可能性があるでしょう。そのロシアを入れたうえで、ウクライナの安全を保障するような枠組みを作るという発想自体が、一種の自己矛盾です。
信頼できる同盟の重要性
Q:最後に日本への影響についてお聞かせください。物理的には離れているウクライナやロシアですが、世界的には経済制裁が発動されたり、特にエネルギー資源の面で、混乱が予想されています。日本へは今後、どのような影響があると考えられますか。
A:エネルギーや経済の面でいろいろ影響は考えられますが、一番重要なことは、これが日本の安全保障を考える上でも他山の石となることです。
今回ウクライナが侵略されてしまったのは、ウクライナが信頼できる同盟であるNATOに入っておらず、周囲の国家からの援護や援助を得られなかったからでした。
あるウクライナの元外相が「日本は日米安保があって羨ましい」と私に言ったことがあります。私はこれを聞いて、むしろウクライナの人から、信頼できる同盟の重要性について教えられたように感じたのです。
●日・EU定期首脳協議 ウクライナ情勢 連携働きかけで一致  5/12
岸田総理大臣と日本を訪れているEU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領らとの定期首脳協議が行われました。ウクライナ情勢をめぐって、日本とEUで協力してアジアやアフリカ諸国に連携を働きかけていく方針で一致しました。
岸田総理大臣とEU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領、フォンデアライエン委員長との定期首脳協議は午前10時半からおよそ1時間行われました。
就任後初めての定期協議となる岸田総理大臣は「ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがすものだ。日本はEUと協調して強力な対ロ制裁を実施し、ウクライナへの支援を強化しており、引き続き断固とした決意で対応していきたい」と述べました。
そのうえで「ヨーロッパとインド太平洋の安全保障は不可分であり、力による一方的な現状変更は世界のどこであれ断じて許されない。基本的な価値を共有する日本とEUで、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けても連携していきたい」と述べました。
これに対しミシェル大統領は「われわれは民主主義やルールに基づいた国際秩序という価値を共有している。今回の協議でさまざまな分野の協力を強化していきたい」と述べました。
協議では、ウクライナ情勢をめぐって、日本とEUを含むG7=主要7か国と協調してロシアに対する強力な制裁とウクライナへの支援を継続する方針を確認しました。
そのうえで、日・EUで協力し、ロシアの軍事侵攻や原材料価格の高騰などの問題で、アジアやアフリカ諸国に連携を働きかけていく方針で一致しました。
また、中国を念頭に、東シナ海・南シナ海への海洋進出や、急速かつ不透明な形での軍事力の強化、そして軍事活動の活発化への強い懸念を共有するとともに、台湾海峡の平和と安定が極めて重要だという認識で一致し一方的な現状変更の試みや経済的威圧に対し、きぜんと対応していくことを確認しました。
さらに新型コロナ対策、気候変動対策、経済安全保障、それにエネルギー分野での協力を進めていくことも確認しました。
そして、ルールに基づく自由で公正な経済秩序の維持に向けて、経済協力をさらに進めることで一致し、岸田総理大臣は、EUが続ける日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃を重ねて要請しました。
また、デジタル分野の包括的な協力の枠組みとなる「日EUデジタルパートナーシップ」を立ち上げることで合意し、閣僚級の会合を設置することになりました。
協議のあと、共同声明が発表されました。
共同声明では「ロシアによる侵略を強く非難しロシアによる戦争犯罪と残虐な行為に責任を有するものが追及され、裁きにかけられなければならない」としたうえで、ロシアが軍事侵攻を直ちに停止しすべての軍と軍事装備を即時かつ無条件に撤収させることなどを要求するとしています。
そして「ロシアに対する制裁の一層の拡大を含め、G7やほかの同志国と協力し、ウクライナを支援する。国際社会とともに侵略によって引き起こされた世界的な負の影響に対処し、緩和するために取り組む」としています。
また、海洋進出を強める中国を念頭に、沖縄県の尖閣諸島周辺の海域を含む東シナ海や南シナ海の状況に深刻な懸念を表明し、場所のいかんを問わず、力による一方的な現状変更の試みは国際秩序全体に対する深刻な脅威であり強く反対するとしています。
岸田首相「日・EUの力強い前向きなメッセージ発信したい」
岸田総理大臣は共同記者発表で「きょうの協議の成果として共同声明を発出し、国際社会に対する日・EUの力強い前向きなメッセージを発信したい」と述べました。
また、ミシェル大統領が13日、広島を訪問し、原爆資料館などを視察することを歓迎するとして「『核兵器のない世界』という大きな理想に向け、EUとも協力していきたい」と述べました。
EU ミシェル大統領「最も緊密な戦略的パートナーだ」
共同記者会見で、EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領は「日本とEUは大きな市場を持ち、民主主義の価値観に基づいた深い関係を有しており、インド太平洋地域における最も緊密な戦略的なパートナーだ」と述べたうえで、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって「私たちはともに、人道的や財政的、軍事的な支援をウクライナとその人々に送っている。制裁逃れを防ぎ、偽情報と戦うための協力についても話し合った。さらに私たちは、戦争犯罪の責任者を裁判にかけなければならないと確信している」と述べました。
また、ミシェル大統領は13日に広島を訪問し原爆資料館などを視察することについて「ウクライナでの戦争に照らし、平和と希望の強力なメッセージを発信する重要な機会になるだろう」と述べました。
EU委員長 “EUはインド太平洋で積極的役割果たしたい”
またEU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は「ロシアはウクライナへの野蛮な戦争を行っており、きょうの世界秩序のもっとも直接的な脅威だ。日本はロシアに対して厳しい制裁を科した中心的な国であり、ウクライナやヨーロッパの将来だけでなく、世界の秩序にとって何が問われているかを理解している」と述べ、ロシアに対する制裁について日本と連携して対応していく考えを示しました。
また、中国や北朝鮮を念頭に「インド太平洋は、東シナ海や南シナ海、北朝鮮からの継続的な脅威にさらされ緊張が続いている。EUはインド太平洋で積極的な役割を果たしたいと考えている」と述べ、インド太平洋地域でも日本と協力していく姿勢を強調しました。
●フィンランド NATO加盟求める方針 ロシアのウクライナ侵攻受け  5/12
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、NATO=北大西洋条約機構への加盟を検討している北欧フィンランドのニーニスト大統領とマリン首相が加盟を速やかに求めるべきだという立場を表明しました。
今後、正式な手続きを経て加盟が実現すれば、ヨーロッパの安全保障の枠組みが大きく変わるだけに、ロシアが強く反発することも予想されます。
ロシアとおよそ1300キロにわたって国境を接しているフィンランドは、これまでNATOには加盟せず、軍事的に中立な立場をとってきましたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、NATOによる集団的自衛権が必要だという世論が急速に高まっていました。
フィンランドでは、大統領と政府が協力して外交を進めることになっていて、ニーニスト大統領とマリン首相は12日、共同声明を発表し、NATOへの加盟を速やかに求めるべきだという立場をそろって表明しました。
声明では「NATOの加盟によって、フィンランドの安全保障は強化される。フィンランドがNATOを強化することもできる。NATOへの加盟を速やかに申請すべきだ」としていて、近く、国としての正式な判断を示すとしています。
NATOをめぐっては、フィンランドの隣国のスウェーデンも加盟を検討していて、両国が加盟すればウクライナ情勢をきっかけにヨーロッパの安全保障の枠組みが大きく変わることになります。
また、両国が加盟を申請したあと実際に加盟が承認されるまでの間に、反発するロシアが軍事的な行動に出る可能性も指摘されていますが、11日にはイギリスが、有事の際に両国を軍事支援することで合意するなど、支援に向けた議論も進められています。
NATO加盟に向けた動きがロシアとの新たな緊張を招きかねないことについて、フィンランドのニーニスト大統領は11日の記者会見で、ロシアのプーチン大統領に対し「この事態を引き起こしたのは、あなた自身だ。鏡を見ろと言いたい」と厳しく批判しました。
北欧フィンランドのニーニスト大統領とマリン首相が、NATO=北大西洋条約機構への加盟を速やかに求めるべきだという立場を表明したことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は12日、記者団が「ロシアに脅威をもたらすと思うか」と質問したのに対し「もちろんそうなる」と述べ、ロシアにとって脅威となるという認識を示しました。
そのうえで「NATOの拡大はわれわれにとって安定と安全をもたらさない」と批判しました。
さらに「NATOがわれわれに向かって来ていることについて、プーチン大統領からはかねてからロシア西部の国境を強化するよう指示されている。フィンランドの動きは、われわれの安全を確保するための特別な分析と、必要な措置をとる要素となるだろう」と述べ、警戒感を示しました。
●ロシアの知事5人が異例の同日辞任!「プーチン降ろし」地方から伝播 5/12
地方から“プーチン降ろし”が広がるのか──。ロシアのニュース専門放送局「RT」(旧称ロシア・トゥデイ)は10日、ロシア国内の5人の知事が一斉に辞任したと報じた。9日の対独戦勝記念日にプーチン大統領がウクライナ侵攻の正当性を熱弁した翌日のことだ。地方で何が起きているのか。
ロシアでは今年9月11日に地方選挙が予定されている。RTによると、トムスク州のセルゲイ・ジバチキン知事とサラトフ州のバラレイ・ラダエフ知事は2期目。2021年の法改正で3期目も可能となったが、次の選挙への不出馬を表明した。キーロフ州のイゴール・バシェリエフ知事は連邦政府で働くため、知事職を退く。退任するリャザン州のニコライ・リュビモフ知事とマリ・エル共和国のアレクサンドル・エフスティフェフ知事は辞任理由を公表していない。
RTは6つの言語でニュースやドキュメンタリーを提供する国際放送局。ロシア連邦政府の予算に依存する実質的な国営放送だ。ウクライナ侵攻後も、政権のプロパガンダの片棒を担いできた。知事の一斉辞任がロシアメディアの関心を呼んだとしつつ、こう報じている。
〈ロシアの政治技術センターの副所長は「目新しいことではない。支持率が低下した場合、知事が選挙前に辞任することはこれまでもあった。1人の知事が辞任しても、(人々は)注目してこなかったではないか」とインタファクス通信に語った〉
筑波学院大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。
「同じ日に知事が5人も辞任するのは異例です。平静を装おうとするRTの報道も政権側の動揺を示しています。戦費が膨らみ、連邦政府は地方にお金を回せなくなっています。また、対ロ経済制裁が強化され、地方の財政がますます苦しくなるのは目に見えている。辞任の理由はいろいろつけられますが、この先、知事として務めるのは難しいと判断したのでしょう。間接的ですが、ウクライナ侵攻への抗議の辞任という意味も持っています」
戦争が長引き、地方は疲弊。停戦が全く見えない中、知事を務めるのは、火中の栗を拾うようなものだ。この先、地方の不満が爆発すれば、プーチン政権の崩壊につながる可能性がある。
「さらに2人の知事も辞任する意向でプーチン政権は必死で思いとどまるよう説得しています。ソ連崩壊時と酷似してきました。ソ連は地方から独立運動が広がり、崩壊につながりました。地方の首長の中で反プーチンの動きが盛り上がり、モスクワ市長が反旗を翻す事態になればプーチン政権は持たないと思われます」(中村逸郎氏)
ソ連崩壊の再現はあるのか。
●反プーチン政権派のロシアのパンクバンドメンバーが国外脱出 5/12
反プーチン政権派のロシアのパンクバンド「プッシー・ライオット」のメンバーが、ウクライナ侵攻を巡って反体制派への弾圧を強めるロシアから国外に脱出したことが分かった。リーダ−のマリア・アリョーヒナ(33)が、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで警察の監視を逃れるためにフードデリバリーの配達員を装って国外脱出に成功したと明かした。現在はアイスランドに滞在しており、ウクライナ支援イベントへの出演を企画しているという。
アリョーヒナは過去10年にわたってプーチン政権への抗議活動を行っており、これまで複数回にわたって逮捕、収監されている。ウクライナ侵攻を巡っても公然と批判し、SNSでウクライナ支援活動をしていたことなどから、自宅軟禁状態に置かれていたという。当局が21日間の実刑判決を決めたことを機に脱出することを決断。配送員に扮(ふん)して追跡を逃れるため携帯電話も残したまま友人の車でベラルーシの国境を目指し、そこから1人で越境し、さらにそこから隣国リトアニアに渡ることにも成功したという。報道によると、パスポートを没収されていたことからベラルーシへの入国を2度拒否されるなどトラブルに遭遇しながらも、アイルランド人のアーティストの協力を得てEUに渡航できる書類を入手できたことなどを明かしている。
アリョーヒナのパートナーで同バンドのメンバー、リューシャ・シュテインも先月ロシアからの脱出に成功しており、自身のSNSに配達員に扮したアリョーヒナの写真やアイスランドで合流して撮影したと思われる2人の写真を投稿している。アリョーヒナは、「ロシア大統領府は大きな悪魔のように見えるが、実際には当局は内側から見ると非常に混乱していたため、ロシアを脱出することができた」と述べ、帰国を望んでいるもののすべての活動家は投獄または追放さていることから、「どうしてよいか分からない」と語っている。
プッシー・ライオットは、2012年にモスクワのロシア正教会救世主ハリストス大聖堂で反プーチン政権とロシア正教会に反対する抗議の歌を演奏して世界的にその名が知られるようになった。それによってメンバーは逮捕され、懲役2年の実刑判決を受けている。
●ロシアへの制裁 各国比較すると 5/12
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。プーチン大統領は、5月9日の戦勝記念日の式典で、軍事侵攻を重ねて正当化した一方、具体的な成果には触れませんでした。戦闘は激しさを増し、長期化する可能性が高まっています。日本はG7=主要7か国と協調路線をとり、日本時間5月9日には、ロシア産の石油の原則輸入禁止も表明するなど次々と制裁措置を打ち出しています。各国や日本の制裁は複雑に入り組んでいます。
経済部の山元康司記者、整理して教えて。
ロシアへの経済制裁、どのようなものがあるのでしょうか。
主なものは5つあります。
1 金融制裁
2 ロシアへの輸出規制
3 最恵国待遇の取り消し・撤回
4 ロシアからの輸入規制
5 オリガルヒの資産凍結
まず金融制裁ですが、効果は?
金融制裁の効果は強力です。
貿易などの送金でも使われる国際的な決済ネットワークSWIFTからの排除は、実質、世界経済からの退出を意味します。
ただ、天然ガスの多くをロシアに依存するEUは、最大手の銀行や政府系ガス会社のグループ銀行を対象から除外し、抜け穴があるとも言われています。
また、ロシア中央銀行の資産凍結は通貨安防衛の手段を縛りつけようとする手法です。
海外にあるドルやユーロを凍結してしまえば、ルーブル売りができなくなる、そういうねらいでした。
当初は効果が高く、ロシア中央銀行は政策金利を20%に引き上げたものの、一時、通貨ルーブルは侵攻前の半分(1ドル=160ルーブル付近)まで急落しました。
しかし、その後は侵攻前の水準にまで戻りつつあります。
その理由について、プーチン大統領が天然ガスの購入にルーブルでの支払いを義務づけたことで、ガス購入のためのルーブル需要が高まっていることなどが背景にあるといわれています。
また、日本はロシアが暗号資産を使って資産を移動させるなど、抜け穴として悪用されないよう規制を強化しました。
外国為替法の改正案を4月5日に国会に提出し、衆参両院で可決・成立。
5月10日に施行されました。
制裁の対象者が第三者に暗号資産を移転することを規制することや、暗号資産の交換業者に対して金融機関と同様に顧客の送り先が制裁対象でないかどうかを事前に確認するよう義務づけられました。
輸出規制はどのようなものがあるのですか?
各国からの輸出を規制してロシアの軍需産業などに打撃を与え軍事侵攻を早期に終わらせる圧力につなげたい考えです。
日本の輸出規制に含まれるのは、トラックやトラクターに使われる高出力のディーゼルエンジン、産業用機械の制御に関わる半導体、半導体製造装置、通信装置やセンサーなど57品目です。
もともと2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを併合したことに対する制裁措置として、工作機械や炭素繊維など230余りの品目は軍事用途のものを輸出禁止にする措置をとってきました。
これに民生用途も禁止とし、57品目を加えて全体で輸出禁止品目はおよそ300品目となります。
さらに、プーチン大統領に近いとされる「オリガルヒ」と呼ばれる富豪への圧力を高めるため、19品目の高額品の輸出を禁止しました。
600万円を超える乗用車、20万円を超えるグランドピアノ、4万円を超える真珠などの宝飾品、ウイスキー、腕時計などが対象です。
これに加え、政府は5月12日から、外国為替法に基づき、ロシアの法人に対し新たに10%以上の株式を取得することや、設備投資などを想定して新たに1年を超える期間の貸し付けを行うことなどを、国による許可制とすることでロシアへの投資を禁止しました。
また、ロシアの法人にはあたらない組合や団体などに対しても、日本からの金銭の支払いを禁止しました。
最恵国待遇の取り消しって何ですか?
最恵国待遇とは聞き慣れないことばですが、WTO=世界貿易機関の協定の基本原則のひとつなんです。
関税などでいずれかの国に与える最も有利な待遇をほかのすべての加盟国にも与えなければならないというルールです。
加盟国みんなで自由貿易のメリットを享受しましょうという趣旨です。
それをロシアに対して取り消すというのが最恵国待遇の取り消しの意味です。
日本の場合、ロシアからの輸入品に適用されていた、WTO関税(低関税)が来年3月末までの間、撤回されました。
ロシアから輸入する木材のうち加工されたマツの関税は4.8%から8%に、魚介類のサケやいくらは、3.5%から5%に、カニは4%から6%に、引き上げられました。
日本政府は上位100品目で追加される関税はおよそ36億円にのぼるとしています。
これらの追加関税は輸入する事業者が支払うことになり、サケやいくらの国内価格上昇につながるおそれもあります。
これ以外に輸入を規制するものってあるんですか?
ロシアからの輸入品の関税を引き上げるのではなく、そもそも輸入を禁止する措置を欧米各国は次々と打ち出しています。
ロシア産の製品の輸入を規制することで、ロシアが外貨を獲得するのを防ぎ、国内経済に打撃を与えるのがねらいです。
アメリカは輸入規制の姿勢が鮮明ですね。
資源の自給率が高いアメリカは、ロシア産の原油などの輸入を禁止。
ロシアの主要産業であるエネルギーの禁輸に踏み出し、圧力を一段と強めるねらいなんです。
バルト3国のリトアニアは、ロシアからの天然ガスの輸入を完全に停止するなど、エネルギーのロシア依存から脱却する動きも出てきています。
ただ、ヨーロッパや日本など、ロシアから石油や天然ガスを調達している国は、難しい判断を迫られています。
こうした中、岸田総理大臣はロシア産の石油の禁輸方針を表明。背景は?
岸田総理は、5月9日、G7のオンライン首脳会合で、ロシア産の石油を原則禁輸する方針を表明。
この理由について、岸田総理は「エネルギー資源の大部分を輸入に頼っているわが国としては大変厳しい決断であるが、G7の結束が何よりも重要な時である」として、ロシアの主要産業であるエネルギー分野への追加制裁に踏み切りました。
その上で、産業界への影響を最小限にするため、時間をかけて削減や停止など段階的な措置をとっていく方針です。
ロシアに対する厳しい姿勢を示す大きな転換点といえます。
また、G7は、ロシア経済に大きな打撃を与え、プーチン大統領による戦費調達を妨げることがねらいだとしています。
エネルギー資源の大部分を輸入に頼る日本、大丈夫?
日本はエネルギーの海外依存率が突出して高いことはよく知られています。
日本は、原油の輸入の90%以上を中東に依存していて、ロシアからの去年の輸入量は全体の3.6%です。
1970年代のオイルショックで経済全体に大きな打撃を受けた苦い経験がある日本。
政府としては、エネルギー安全保障の観点から、中東への依存度を下げてエネルギー調達の多角化を進めることを目標にしていて、ロシア産の原油は戦略上重要だという位置づけでした。
政府内ではこれまで禁輸には慎重な意見が出ていましたが、ロシアによる侵攻は、国際秩序の根幹を揺るがす行為であるとして、G7の結束を優先した形です。
ただ、ロシアは、アメリカ、サウジアラビアに次ぐ世界第3位の原油産出国のため、今後、禁輸が本格化した場合、原油価格が上昇するおそれもあります。
政府は、ほかの産油国への増産の働きかけや調達先の多様化などを通じて、エネルギーの安定供給を維持したい考えです。
極東・サハリンでの石油天然ガスの開発事業には国や大手商社も深く関わっていますが、岸田総理大臣は「権益を維持することについては、変わっていない」としていて、エネルギー安全保障の観点から事業からは撤退しない考えを示しています。
一方、天然ガスの輸入については、今のところ、継続する方針です。
また、石炭の輸入禁止の方針について、政府は、早急に代替策を確保して段階的に削減し、最終的には禁止するとしています。
ロシアからの石炭の輸入は、去年、国内全体の輸入量の11%を占めました。
ロシアへの依存を低減するため、政府はオーストラリアやインドネシアなどの生産国に働きかけています。
一方、ロシアは世界の輸出量のおよそ2割を占める石炭の生産国なので、今後、石炭の価格が上昇する可能性もあり、国内でも電気料金や鉄鋼製品などの価格上昇要因になると指摘されています。
日本初の輸入禁止措置。私たちの生活への影響は?
対象はあわせて38品目。
具体的には▽ウォッカ、ビール、ワインなどのアルコール飲料や▽丸太やチップ、原木を切って削った単板などの木材▽自動車やオートバイとそれらの部品、金属加工機械、ポンプといった機械類・電気機械です。
4月18日までに輸入の契約を結んでいるものについては、3か月の猶予期間が設けられています。
経済産業省は、対象となる品目は金額ベースではロシアからの輸入全体のおよそ1%で、代替調達が可能なものが多く、国内産業や私たちの生活に与える影響は限定的だと分析していて、状況を注視していく方針です。
オリガルヒへの制裁も強化されていると聞きます。そもそもオリガルヒとはどんな人たちなんですか?
政権に近い立場を利用して巨万の富を築いたロシアの超富裕層を意味します。
2月23日の時点で、ロシアは、総資産が10億ドル、日本円でおよそ1240億円以上の超富裕層が保有する資産のGDPに占める割合が21%に達しています。
オリガルヒはプーチン大統領との個人的なつながりが深く、かつての同僚や昔からの柔道仲間などで、プーチン政権を経済面で支えているとみられています。
この超富裕層たちへの制裁を通じてプーチン大統領に圧力をかけるねらいです。
一方のロシア側の対抗措置は?
日本やアメリカ、EU、イギリス、韓国、台湾などの48の国と地域を「非友好的な国と地域」に指定。
プーチン大統領は、EUやノルウェーなどに対するビザの簡素化の手続きを停止する大統領令に署名。
今のところ、日本は含まれていません。
「非友好的な国と地域」がロシアから天然ガスを購入する際には、通貨ルーブルでの支払いしか認めない方針を発表。
一方、G7=主要7か国は、ルーブルでの支払いを拒否することで一致しています。
また、通信や医療機器、農業機械、鉄道車両など200以上の品目を輸出禁止にしました。
このほか、イギリスやドイツ、フランスなどヨーロッパの主要国やカナダなど36の国と地域の航空会社を対象に、ロシアへの運航を制限しています。
さらに、4月27日、ロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムは、ポーランドとブルガリアへのパイプラインによる天然ガスの供給を完全に停止したと発表。
ロシアが天然ガスの供給を止めたのは初めてです。
こうして見てくると、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、厳しい経済制裁とその応酬の連続で、世界を巻き込み、先行きが全く見通せない状況が続いています。
●プーチン氏と正常な関係回復はない=英首相 5/12
ジョンソン英首相は12日、ロシアのウクライナ侵攻を受け、プーチン大統領と正常な関係を取り戻すことは困難との見方を示した。LBCラジオのインタビューで述べた。
ジョンソン首相は、世界は2014年のロシアによるクリミア併合が繰り返されるリスクに直面していると指摘した。当時、世界はロシアを非難し制裁を発動する一方で、今後についてプーチン氏と交渉したが、プーチン氏はウクライナでも同様な展開を想定しているとの見方を示した。
「ウクライナがプーチン氏と何らかの合意を締結することがあれば、(プーチン氏は)全く同じことをするというリスクがある。再び正常化することはない」と語った。 

 

●ロシア、小麦輸出を増加へ 今年の収穫高過去最高=プーチン氏 5/13
ロシアのプーチン大統領は12日、今年の小麦の収穫は過去最高になると予想されるため、輸出を増加させると表明した。
プーチン大統領によると、ロシアの今年の穀物の収穫高は1億3000万トンと予想され、このうち8700万トンが小麦。
プーチン氏は、今年の小麦の収穫高は「ロシアの歴史の中で過去最高になる可能性がある」とした。ただ、輸出量の見通しについては明らかにしなかった。
ロシアは西側諸国の制裁措置にもかかわらず、黒海やアゾフ海などを経由して穀物輸出を続けている。
●ウクライナ軍、東部国境の集落奪還…ロシアはクリミア隣接地の実効支配  5/13
英国防省は12日、ウクライナ軍が東部ハルキウ(ハリコフ)北方でロシア軍に反撃し、国境に通じる複数の集落を露軍から奪還したとの分析を明らかにした。一帯は露軍の重要な補給路となっていたこともあり、露軍による東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の全域制圧作戦に影響しそうだ。
ウクライナ軍参謀本部は11日、自国軍がハルキウとロシア国境を結ぶ幹線道路沿いの集落を露軍から奪還したと発表した。今月に入り、露軍はハルキウ北方の占拠地を相次いで失った。
ウクライナ第2の都市ハルキウはロシアとの国境から約30キロ・メートルに位置する。露軍はその攻略を視野に激しい砲撃を浴びせる一方、自国とを結ぶ幹線道路を部隊の補給のため重視してきたが、露軍が国境付近まで押し戻された、との情報もある。ただ、英国防省は露軍が再編成と補充で部隊を後退させたと指摘した。
東部ドンバス地方では、露軍が12日も攻撃を続行した。ルハンスク州知事は12日、州内全域で水と電気の供給が停止しているとSNSで述べ、東部ドネツク州の親露派武装集団トップは12日、地元メディアに対し、南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所に籠城するウクライナ兵士の退避を認めず、武力制圧を目指す方針を明らかにした。
ドンバス地方での作戦が難航する中、露軍は制圧地域の実効支配を強化している。南部ヘルソン州の親露派「軍民政権」幹部は11日、年内にも、地元住民の「希望者」にロシアの旅券を発給してもらうよう検討していると明かした。
この幹部は、プーチン露大統領にヘルソン州のロシアへの併合を要請する方針も表明した。ヘルソン州はロシアが2014年に併合したクリミアに隣接しており、クリミアに組み込むことを想定している模様だ。
ウクライナ大統領府のミハイロ・ポドリャク顧問は11日、SNSで「ウクライナ軍はヘルソン州を解放する」と強調し、猛反発した。 
●ロシアの「戦争犯罪」、国連などで追及の動き ウクライナでは攻撃続く 5/13
ウクライナでは12日も各地で、ロシア軍による攻撃が続いた。一方、国際社会では、ロシア軍の「残虐行為」を追及する動きがみられた。国連は同日、調査開始を決議。米ソーシャルメディア各社は、戦争犯罪の証拠となり得るコンテンツの保存を求められた。こうした中、BBCはロシア兵が民間人を射殺した場面とされる映像を入手した。
ウクライナでは東部や南部でロシア軍が攻撃を続け、ウクライナ軍と戦闘になっている。
ウクライナ東部ドンバス地方では、ルハンスク州セヴェロドネツクに近いヴォイヴォディフカ付近や、ドネツク州のバフムト、アヴディーフカ、クラホフ周辺で、ロシア軍の攻撃があったと報告された。ただ、ロシア軍の攻撃は成功していないという。
南東部の要衝マリウポリのアゾフスタリ製鉄所でも、ロシア軍が砲撃を続けた。同製鉄所は、同市でロシアが制圧していない最後の地点となっている。
北東部の都市ハルキウ周辺では、ロシア軍がピトムニクとルスキー・ティシュキー付近のウクライナ軍陣地を砲撃した。ロシア軍は、ウクライナ軍の反撃を食い止めようとしている。
南部の都市ヘルソン付近では、一帯の支配を目指すロシア軍が、予備軍を投入して橋の建設準備を進めているとされる。ウクライナのウニアン通信が、南部作戦司令部の話として伝えた。
BBCはこれらの情報を独自に確認できていない。
ロシア軍の船とヘリを損壊か
12日は双方とも大きな戦果はなかったとみられるが、ウクライナ軍がロシア軍に打撃を与えたとする情報が流れた。
ロイター通信は、ウクライナ南部オデーサの同国軍広報担当の話として、同国軍が黒海のスネーク島付近で、ロシア海軍の運搬船を損傷、炎上させたと報じた。スネーク島は、ウクライナとルーマニアの海域境界の近くにある小島。
一方、東部ルハンスク州で、ロシアの攻撃ヘリコプターMi-24が撃墜されたとの情報もある。
ウクライナ軍空襲部隊の司令官は、「敵ヘリコプター4機の一団を発見し、2組目のリーダーを撃墜した」とフェイスブックに投稿した。
BBCはこの説明が正しいか検証できていない。
国連がウクライナでの人権侵害を調査へ
国連人権理事会は12日、ウクライナにおけるロシア軍による人権侵害の可能性に関して、調査を開始する決議を採択した。
同理事会はこの日、スイス・ジュネーヴの本部で緊急会合を開催。民間人の処刑、レイプ、拷問、強制失踪などの戦争犯罪の告発について聴き取りをした。
調査開始の決議は、賛成33、棄権12、反対2(中国とエリトリア)で採択された。ロシアは先月、理事国としての資格を停止されている。この日の会合には、オブザーバーとしても参加しなかった。
ロシアは人権侵害を否定している。同国の国連大使はロイター通信にメールした声明で、西側諸国について、「ウクライナの危機を招いた真の原因を議論し、解決方法を模索せず、ロシアを悪魔化しようとしている」とし、今回の決議を非難した。
米SNS企業に「証拠」保存を要望
アメリカでは民主党議員4人が12日、ソーシャルメディア企業に対し、ロシアの戦争犯罪の証拠になり得る投稿を「保存および保管」するよう求める書簡を送った。米NBCニュースが報じた。
送付先は、フェイスブックやインスタグラムを運営するメタ、Tiktok、ツイッター、ユーチューブ各社の最高経営責任者(CEO)。
議員らは書簡で、「SNSのプラットフォームは、暴力や人々の苦しみを賛美したり、暴力を激化させたりするような映画像コンテンツを日常的に削除している。そして当然、ユーザー保護のためのポリシーを実施している」と指摘。
しかし、そうした特定のコンテンツを削除することで、「戦争犯罪、人道に対する罪、集団虐殺などの潜在的な人権侵害の証拠となり得るコンテンツの、意図しない削除や永久削除が生じる」恐れがあると主張した。
そして、フラグを立てるなどしてコンテンツに目印をつければ、米政府や国際的な人権調査員の助けになるとした。
ロシア軍による「民間人射殺」映像をBBCが入手
BBCは、ロシア軍がウクライナの民間人を銃撃した場面とされる、防犯カメラ映像を入手した。
映像は首都キーウで戦闘が続いていた時期のもので、自転車店で撮影された。重武装したロシア兵が、武器を持たないウクライナ人の警備員とその上司の2人を背後から射殺し、店内を略奪する様子が明確に記録されている。
ウクライナ検察当局は、戦争犯罪の疑いで捜査を進めている。
600万人以上がウクライナから避難=国連
国連の国際移住機関(IOM)は、ロシアの侵攻から逃れるためウクライナを脱出した人が600万人を超えたとする報告書を公表した。
報告書によると、戦争から逃れた人々の大半はポーランドに入国している。スロヴァキア、ハンガリー、ルーマニアにも多くの人が渡っているという。
報告書はまた、ウクライナ国内でも800万人以上が住む家を失っているとしている。
ウクライナは、ロシアが住民の意思に反して、強制的に国外へと移動させていると非難している。
●ロシア・ウクライナの戦争のもたらす長期的な影響  5/13
元フィナンシャル・タイムズ紙編集長のライオネル・バーバー氏による、ロシア・ウクライナ戦争とその地政学的及びマクロ経済への長期的な影響の見通しについてご紹介いたします。

ロシアとウクライナを取り巻く地政学的、経済的リスクが高まり続けています。ロシア連邦のプーチン大統領は、相手国の弱点を利用し、脆弱化させることに長けています。しかしながら、今回はプーチン大統領の思惑通りに事は運んでいません。EU(欧州連合)は往々にして官僚的で意思決定に時間がかかると思われがちですが、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まると驚異的な俊敏さと決断力で対応しました。
プーチン大統領が、欧米諸国がロシアを利用してきたとして、不満を感じているということが重要な焦点と言えます。2019年6月にクレムリンにてプーチン大統領へのインタビューを行った際、プーチン大統領は、欧米諸国側が末期的な衰退期にあると感じており、自由主義は「時代遅れ」であるとの考えを示しました。プーチン大統領が政権をとってから20年が経ち、より大きなリスクをとれるようになったか、という質問に対し、彼は半ば否定しつつも、「ロシアには、『リスクを取らない者はシャンパンを飲めない』という言葉がある」と述べました。そして、今回、ウクライナへの本格的な侵攻というリスクを取る決断を下しました。
当戦争において、ロシア軍の状況はかなり拙劣なものとなっています。適切な戦術がとられず、空、海、陸軍の連携の不備などから、ロシア軍は新しい将軍を任命しなければならないほど、拙劣なパフォーマンスを見せました。
欧米諸国のメディアでは、プーチン大統領が政権内で困難に直面しているという報道もあります。まだこれを確信するには至っていないものの、完全に安全だと感じているリーダーならば、侵攻の直前にプーチン大統領が行ったように、国家安全保障チームを召集し、カメラに向かって忠誠宣誓を求めたりはしないでしょう。また、数名のオリガルヒ(新興財閥)がこうした報道を肯定するような発言をしています。
ロシアは現在、世界から孤立しています。現在行われている経済制裁は、撤回されるまで相当な時間を要することが見込まれます。今後、和平交渉が行われる場合、和平協定において制裁緩和は1つの焦点となり、欧米諸国とウクライナ側がロシアに対して大きな影響力を行使することができるでしょう。
プーチン大統領の当初の狙いが達成できなかった時、彼はどのような行動に出るか。不透明要素は依然として残ります。プーチン大統領はウクライナの東部地方と南部海岸の多くを占領し続けるのではないかと予想されます。その場合、ウクライナも戦いを続けるものとみられますが、どちらかと言えば、現状ではウクライナ人が開戦から自国の戦いぶりを見て、自国優勢であると過信している危険性があります。
もし金融市場が、この戦争が徐々にエスカレートしていることを認識できなければ、大きな間違いを犯すことになるでしょう。ウクライナを支援する国々が続々とより高性能な武器をキーウに供給しています。一方、ロシアは初期段階に非常に拙劣といえる戦いをしていましたが、まだ配備していない強力な武器を保有しています。もしロシアが、ポーランドなどの周辺国を通じた欧米諸国の供給ラインを標的にしようとすれば、ウクライナを超えて戦争が拡大する危険性があるといえます。核戦争に発展するとまではいかないものの、化学兵器を使用する可能性は大いにあると考えられます。
現在はヨーロッパ全体において非常に重要な時であると言えます。当戦争はドイツにとって大きな警鐘であり、軍国主義に対するドイツの見解は根本的に変化しています。ドイツは現在、防衛により真剣に取り組む必要に迫られています。メルケル前首相の、ロシアを経済的な結びつきで包み込み、それにより和平的な行動を促すことを目指した政策は成功せず、より危ういものとして疑問視されるようになりました。また、メルケル前首相が原子力を放棄し、発電所を閉鎖したことにも関連しますが、ドイツのロシアへのエネルギー資源の依存についても大きな不安が残ります。当初、ドイツでの社会民主党、緑の党、自由民主党の三党連立は難しいものとみられていましたが、実際には、多少のぐらつきはあったものの、概ね一体感をもって政権運営がされています。ドイツは現在再軍備を進めており、国防費を増やし、ウクライナに重火器を送ることに合意しました。
フランスでは、マクロンが大統領選挙で勝利し、再選されましたが、これはヨーロッパの安定を維持するために非常に重要なこと言えます。独仏関係は緊密で、依然としてEUの基盤となっています。欧州におけるもう1人の重要な人物は、イタリアのドラギ首相です。彼は制裁措置に関して欧州理事会での多数決を強化するよう呼びかけるなど、イタリアをEUにおける指導的立場へと押し上げました。
スウェーデンとフィンランドがNATOへの加盟を申請していることも大きなニュースとなりました。これにより突然、NATO東側の軍事力が大きく強化されたため、プーチン大統領にとって計算外であったと予想されます。
ロシアに対して、今後更なる制裁を加える余地はあるとみられます。EUはロシアからの石油の輸入禁止を提案していますが、より影響の大きいガスの輸入禁止を実施する予定はまだないようです。ドラギ首相が、ウクライナの自由か、この夏の冷房の増設か、どちらかを犠牲とするかを選ばなければならないと述べたのは興味深いことでした。風力と太陽光を除けば、ほぼ完全にロシアのエネルギーに依存している国の首相としては、非常に大胆な発言と言えます。もし、全面禁止となれば、第4四半期には欧州全体が不況に陥ることが予測されます。
欧州が目指すネット・ゼロ(大気中に排出される温室効果ガスと大気中から除去される温室効果ガスが同量でバランスが取れている状況)実現へのプロセスは長期化すると思われます。今回のロシア・ウクライナ戦争は、特に欧州において、ロシアへのエネルギー依存に対する認識を根底から覆しました。欧州諸国は今後、石油やガス、特に石油への依存度を減らしていくものとみられます。北海油田のように、これまで見放されていた地域がエネルギー資源の生産地として再注目される可能性もあります。今後エネルギー依存とエネルギーの多様化について、より慎重な議論が交わされることになるでしょう。
中国は現状をロシアの弱みにつけ込む絶好の機会と捉えるでしょう。当戦争が終わる頃には、中国がロシアのエネルギー関連企業へ投資し、ロシアの地位は中国の後塵を拝することとなる可能性もあります。
プーチン大統領と中国の習近平主席は、当戦争の前に強力なパートナーシップを宣言しました。しかしながら、中国はこれまでロシアに武器の提供は行っておらず、中国企業も制裁のためロシアからの輸入に神経を尖らせており、ロシアに対して非常に慎重な姿勢をとっています。今後中国がより積極的にロシアを支援する姿勢を見せる可能性はありますが、習近平主席は非常に重要な党大会を控えており、そこで政権3期目を確保したいという狙いがあることから、国内での支持を集めることに注力しています。中国国内では、どこまでロシアや欧米諸国側に傾くべきかをめぐって意見が分かれていることからも、今後中国がどのような方向性をとるのかまだ分からない状況です。
欧米諸国のウクライナに対する決意表明から中国がどのような結論を導き出し、そしてそれが長続きするかが今後重要な焦点となります。この戦争が続き、制裁が強化されるのであれば、不況が見込まれる冬頃に何が起こるのか注視していく必要があります。
●プーチンの野心、ウクライナの怒り、米国の支援…戦争長期化は不可避 5/13
2月24日にロシアが始めたウクライナ戦争が2カ月をはるかに超えたが、終わる兆しが見えるどころかかえって長期的な消耗戦に様相が変わりつつある。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は第2次世界大戦戦勝記念日である5月9日、国家安保とウクライナ東部ドンバスのロシア人保護のために西側の「手下」であるウクライナのネオナチに対する先制攻撃を行ったことは時期適切で唯一の方案だったと正当化した。
知ってのとおり、プーチン大統領は昨年7月にウクライナ人がロシア人と「歴史的、精神的に同じ空間」で形成された同じアイデンティティを有しているが、独立後は西側の「反ロシア計画(Anti−Russian Project)」の影響を受けて分離・支配されていると主張した。クレムリンは、ウクライナがロシア帝国の歴史的領土の上に人為的に作られたとし、ウクライナの中立化と非武装化、ドンバス内の2つの共和国の独立、ロシアのクリミア半島占領認定、ネオナチ中央政府の処罰、NATO東進中断などを要求して「特別軍事作戦」を開始した。
筆者がモスクワで会って観察したプーチン大統領は外交・安保分野において自国の国益と国家間力学関係によって行動する現実主義者だった。だが、戦争の長期化、12日のフィンランドNATO(北大西洋条約機構)加入宣言など想定外の結果につながっている点で彼の戦略的判断に対して大きな論争がある。
現在、ロシア軍はドンバスはもちろん南部地域に対する攻撃を強化している状態だ。南部地域は東部から黒海沿岸に沿ってオデーサ(オデッサ)港に達する地域で、歴史的に18世紀ロシア帝国の支配を受けた「ニューロシア(New Russia)」と称された場所だ。これまでロシア内「新ユーラシア主義者(Neo−Eurasianist)」や極右民族主義勢力はドンバス反乱軍の勢力を積極的に支持して「ニューロシア」地域の掌握とウクライナ分割を主張してきた。プーチン大統領が今回の戦争を通してこのような主張を現実に移しているという懸念が大きくなっている。
だが、大多数ウクライナ国民はプーチン大統領が主張するウクライナの歴史的アイデンティティに対して全く違う考えを持っている。ウクライナ国民は2014年ユーロマイダン革命と今回の戦争での強力な抵抗を通じて、旧ソ連式の影響圏下で制限された主権を持つよりは欧州志向の独立国家を守ろうとする意志がはるかに強いことを見せている。
ウクライナ国民がロシアの武力侵攻に対抗して犠牲を甘受して強力に対応する原動力は1991年独立以来形成してきた国家に対する忠誠心と市民意識から発している。ウクライナ人は2014年クリミア半島併合やドンバス紛争とのようなロシアの占領や干渉を拒否してきた。ここに今回の戦争でロシア軍が見せた民間人に対する残虐さによってウクライナ内の親露志向を持つ要人を含む国民は大きな怒りと敵対感を持つようになった。
ウクライナ「ロシア軍、撤収するか撃退した後に交渉」
最近ウォロディミル・ゼレンスキー大統領がウクライナの究極的目標が完全な領土保全・回復だと明らかにしたことはこのような国民的要求を代弁したものだ。すなわち交渉はロシアが軍隊を自発的に撤収するか、ウクライナ軍がロシア軍を2月24日侵攻以後暫定占領地域から撃退した時に始まるのであり、難民帰還、ウクライナの欧州連合(EU)加入、ロシア軍の戦争犯罪起訴などを交渉対象に挙げた。ロシアの立場から見ると、過去より交渉要求水準が大幅に高まった。このようにロシアとウクライナが政治的に相反する目標を軍事的に達成するために対抗しているため今回の戦争は長期的な消耗戦が避けられないとみられる。
米国、国際秩序を主導しようとウクライナ支援
米国と西側は自由民主主義秩序と主権国家であるウクライナに対する攻撃を退けるために各種支援を大幅に拡大している。米国政府は約330億ドル(約4兆2550億円)規模で軍事、経済、人道主義支援計画を提示し、米下院はこれに対して70億ドルを追加して上院の承認を待機中だ。また、米国防総省は4月末、NATOを含む40余カ国の国防関係官会議を招集して支援拡大方案を議論した。これに対してロシアが「NATOがロシアを相手に代理戦をしている」と非難して、ジョー・バイデン大統領は「ウクライナが自ら決めた目標を達成するために支援をしている」と断固として線を引いた。
米国がロシア年間国防予算の半分、米国国務省年間予算の半分以上に及ぶ規模の支援をするにはさまざまな意図がある。何よりもウクライナで「ニューロシア」掌握方式の領土拡張を試みるクレムリンの野心を挫折させようとすることだ。また、バルト3国(エストニア・ラトビア・リトアニア)、ポーランドなどロシア隣接国が侵攻以降に予想される安保脅威を受けないようにしようとしているのだ。今回の機会に権威主義国家と連帯して西側に挑戦してきたロシアの足場を最大限弱化させて米国主導の国際秩序を円滑に維持しようと考えていることも忘れてはいけない目的の一つだ。
プーチン大統領の野心、怒るウクライナ国民の強い抗戦意志、米国など西側の隠れた意図とこれに伴う強力な支援が一つとなり、この悲劇的な戦争は簡単に幕を下ろさない可能性がある。
●バイデン氏、北欧のNATO加盟是非決定する権利支持 5/13
バイデン米大統領はスウェーデンのアンデション首相とフィンランドのニーニスト大統領に対し、北大西洋条約機構(NATO)に加盟すべきか決定する両国の権利を支持すると伝えた。ホワイトハウスが声明を出した。
米国とロシアの国防相がウクライナでの戦争開始後初めて電話会談を行った。
トルコのエルドアン大統領は、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟への懸念を表明。これに対しスウェーデンは、NATO加盟にトルコから反対の示唆を受け取ったことはなく、14日からベルリンで開かれるNATO外相会合で問題を提起する考えを示した。
この外相会合では、加盟国拡大の問題に大半の時間が費やされるとみられる。 
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
米大統領、スウェーデンとフィンランド首脳と電話会談
バイデン米大統領はスウェーデンのアンデション首相とフィンランドのニーニスト大統領に対し、北大西洋条約機構(NATO)に加盟すべきか決定する両国の権利を支持すると伝えた。ホワイトハウスが声明を出した。NATOに加わるようバイデン氏が促したかは声明は明かしていない。13日午前の電話会談で、首脳らはロシアに侵攻されたウクライナへの支援継続も話し合ったという。
米ロ国防相、ウクライナ戦争開始後初めて会談
オースティン米国防長官とロシアのショイグ国防相が電話会談を行ったと、米国防総省のカービー報道官が明らかにした。両者の会談は2月18日以来。同報道官によると、オースティン氏は「ウクライナでの即時停戦を促し、連絡経路を維持する重要性を強調した」という。
NATO加盟でこれまでトルコから懸念伝えられたことない−スウェーデン
トルコのエルドアン大統領がスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に消極的な姿勢を示したことについて、同国のリンデ外相は「トルコ政府がこのようなメッセージを直接伝えてきたことはなく、NATO理事会でトルコがそうした行動を取ったことはなかった」と述べた。14日に始まるNATOの非公式外相会合でこの問題を取り上げる意向を示した。
イタリア、ロシア産ガス輸入停止は2024年下期に可能
国際的な状況がさらに悪化しない限り、イタリアはロシア産ガスの輸入停止を24年下期に実現できると、チンゴラーニ環境相が語った。同相によると、イタリアがロシアから昨年輸入したガスは290億立方メートルに上るが、このうち250億立方メートルについてドラギ首相が今後半年間に代替する取引を確保したという。
ウクライナ大統領、世界経済フォーラムでオンライン演説へ
ウクライナのゼレンスキー大統領は、22−26日にスイスのダボス・クロスタースで開催される世界経済フォーラム(WEF)年次総会向けにバーチャル形式で演説する。
ロシア兵の戦争犯罪、キーウで初の裁判開始
ウクライナに侵攻したロシア軍兵士の戦争犯罪を裁く初の裁判が13日、キーウ(キエフ)で開かれた。AP通信が報じた。訴追されたのはロシア軍のワディム・シシマリン軍曹(21)で、ウクライナ北東部の村で62歳の男性の頭部を撃った罪。ウクライナ治安当局が公表した動画で、このロシア兵は「撃つよう命令された」と話した。APによると、有罪となれば最高で終身刑が科される。
トルコ大統領、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟に難色
トルコのエルドアン大統領は、スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟に消極的な姿勢を示した。トルコ南東部の自治を求めて数十年にわたり武力闘争を続けるクルド人分離主義勢力の支持者が、両国で活動していることへの懸念を理由に挙げた。NATO加盟には現加盟国による全会一致の支持が必要。ストルテンベルグNATO事務総長は、2カ国の加盟申請を全加盟国が歓迎し、加盟手続きは速やかに進むだろうと繰り返し述べている。NATO報道官は今のところコメントの要請に応じていない。
G7、ウクライナに4兆円支援準備−独誌
主要7カ国(G7)はウクライナが年末まで乗り切れるよう約300億ユーロ(約4兆円)相当の財政支援を準備している。ドイツ誌シュピーゲルが匿名の関係者の情報として報じた。同国のボンで来週開催されるG7財務相会合でこの計画が議論され、支援は無償供与と借款の組み合わせになるという。
英国、プーチン氏親族や協力者に制裁拡大−元夫人や新体操選手も
英国は対ロシア制裁を強化し、プーチン大統領の「ぜいたくなライフスタイル」を支えているとされる同大統領の友人や親族を制裁対象に含めた。英外務省の13日発表によると、今回新たに対象となったのは元夫人のリュドミラ・オチェレトナヤ氏、プーチン氏と親密な関係にあるとされる元新体操選手でナショナル・メディア・グループ会長を務めるアリーナ・カバエワ氏、プーチン氏の親族ら。
ポーランドから帰国したウクライナ人、121万人−2月24日以降
ポーランドの国境当局は同国から2月24日以降にウクライナに戻ったウクライナ人が121万人に達したことを明らかにした。この間、ウクライナからポーランドに逃れたウクライナ人は334万人。
ロシア軍、アゾフスターリ製鉄所への攻撃継続−ウクライナ軍
ウクライナ軍によれば、ロシア軍は南部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所への攻撃を続けている。夜間の空爆も実施しているという。
フィンランドNATO加盟ならロシアは国境防衛強化−駐EU大使
ロシアのチジョフ駐EU大使は、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟計画により、「ロシア・フィンランド国境沿いの防衛の備えを改善ないし強化するなど、一定の軍事・技術的対応が必要になる」と述べた。同大使は英スカイニューズとのインタビューで、NATOに加盟することで「より安全になった国はない」と発言。ウクライナが中立国となり、ドンバスの両共和国とロシアのクリミア併合を承認するという交渉による解決を確信していると語った。
●ウクライナ北部 ロシア軍が学校を攻撃 国際社会から非難相次ぐ  5/13
ウクライナ北部のチェルニヒウ州では12日、学校がロシア軍の攻撃を受けて3人が死亡しました。7日にも市民が避難していたウクライナ東部の学校が空爆を受けおよそ60人が死亡したばかりで、ゼレンスキー大統領が攻撃を強く非難したほか、国際社会からもロシアへの非難が相次いでいます。
ウクライナの非常事態庁は、北部のチェルニヒウ州で12日未明、学校がロシア軍の攻撃を受け、3人が死亡、12人がけがをしたと明らかにしました。
7日には、多くの市民が避難していた東部ルハンシク州の学校が空爆を受け、およそ60人が死亡したばかりで、ゼレンスキー大統領は、12日に公開した動画で「学校を攻撃して何を得られるというのだ。このような命令を下せるロシア軍の司令官たちは病的で救いようがない」と強く非難しました。
ウクライナの検察当局は、12日の時点で、少なくとも226人の子どもがロシアの軍事侵攻により死亡したとしています。
子どもや学校が攻撃の対象になり被害が相次いでいる現状をめぐっては、12日に開かれた国連の安全保障理事会の会合で、ユニセフ=国連児童基金の担当者が「この1か月だけで100人近くの子どもが殺害されたことを確認したが、実際はさらに多いとみられる」と報告し、各国の大使からはロシアを非難する発言が相次ぎました。
これに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は、ウクライナ軍が学校などを拠点として使い子どもの命を危険にさらしているなどと一方的に主張しました。
こうした中で、ロシア軍による戦争犯罪が疑われる事案も明らかになっています。
アメリカのCNNテレビが入手した映像には、ことし3月、ロシア軍の兵士とみられる人物が首都キーウ近郊にある自動車販売店のオーナーと警備員とされる2人を後ろから銃撃する様子や、店内を物色する様子が記録されています。
CNNによりますと、銃撃された2人は死亡したということで、ウクライナの検察当局が戦争犯罪の疑いで捜査を進めていると伝えています。
一方、東部の要衝マリウポリ市の市長顧問、アンドリュシェンコ氏は、12日、SNSで「マリウポリのロシアへの編入に向けて住民投票を計画しているという情報がある」と明らかにしました。
住民投票が、今月15日に予定されているという情報もあるとしています。
また、南部ヘルソン州でも、親ロシア派勢力の幹部が、プーチン大統領にヘルソン州を編入するよう要請したうえで、住民投票を経ずに編入を進めるための法的な枠組みを年内に整える考えを明らかにしていて、ロシアが掌握したと主張する地域で支配を既成事実化する動きが強まっています。
●ウクライナ東部 激しい攻防続く 相次ぐ学校への攻撃に批判の声  5/13
ロシアはウクライナ東部2州の掌握を目指し、攻撃の拠点となる地域でウクライナ軍との間で激しい攻防が続いています。また、ウクライナ北部や東部の州ではロシア軍による学校への攻撃が相次ぎ、批判の声が高まっています。
ロシア国防省は13日、ウクライナ中部クレメンチュク近郊にある燃料施設などをミサイルによる攻撃で破壊したほか、東部ハルキウの周辺ではアメリカ製のレーダーを破壊したなどと発表しました。
ロシア軍の動きについてイギリス国防省は、ウクライナ東部のハルキウ州のイジュームや、ルハンシク州のセベロドネツクの近郊に兵力を集約し、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点への前進に向けた突破口を開こうとしていると指摘しています。
イギリス国防省は「この地域のウクライナ軍がウクライナ西部の部隊から支援を受けられないように孤立させることが目的だ」という見方を示しています。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は12日、ロシア軍は、東部ハルキウ州のイジュームからの侵攻は失敗しているとする一方、東部ルハンシク州のセベロドネツクでは、周辺の町を掌握するなど部隊の進撃がみられ、今後数日間、この周辺で攻勢が激しくなるという分析を示しています。
ロシア軍は東部のドネツク州とルハンシク州の掌握を目指していて、この2州や攻撃の拠点となる地域でウクライナ軍との間で激しい攻防が続いています。
一方、ウクライナの非常事態庁は、北部のチェルニヒウ州で12日未明、学校がロシア軍の攻撃を受け、3人が死亡、12人がけがをしたと明らかにしました。
7日には、多くの市民が避難していた東部ルハンシク州の学校が空爆を受け、およそ60人が死亡したばかりで、ゼレンスキー大統領は「学校を攻撃して何を得られるというのだ。このような命令を下せるロシア軍の司令官たちは病的で救いようがない」と強く非難したほか、国際社会からも批判の声が高まっています。
また、ロシア軍による戦争犯罪が疑われる事案も明らかになっていて、アメリカのCNNテレビが入手した映像には、ことし3月、ロシア軍の兵士とみられる人物が首都キーウ近郊にある自動車販売店のオーナーと警備員とされる2人を後ろから銃撃する様子や、店内を物色する様子が記録されています。
CNNによりますと、銃撃された2人は死亡したということで、ウクライナの検察当局が戦争犯罪の疑いで捜査を進めていると伝えています。
●「米欧が一線を超えた」と懸念する声も ロシア弱体化を狙う危険な賭け 5/13
ロシアのウクライナ侵攻を受けた、アメリカとNATOのウクライナ支援策が大きな転機を迎えている。
当初はロシアに対する経済制裁や、ウクライナ国内の防衛に必要な控えめな武器供与にとどまっていた支援が、ロシアの軍事力を直接弱体化させる支援へとシフトしつつあるのだ。
それはロシアのウラジーミル・プーチン大統領に降伏か、軍事攻勢のさらなる拡大かという選択を迫る恐れがあると、一部の専門家は危惧する。そしてプーチンが降伏するという選択肢が考えにくい以上、戦争はウクライナを超えた地域にまで広がる恐れがあると指摘する。
ジョー・バイデン米大統領は4月28日、ウクライナを軍事的、経済的、そして人道面で支援するため、これまで表明してきた支援の2倍以上となる330億ドルの追加予算を議会に求めた。
バイデンはこのときの会見で、「ウクライナの人々とわれわれの結束は、『ウクライナを支配することは決してできない』という疑う余地のないメッセージを、プーチンに突き付けるだろう」と語った。
さらにバイデンは、「ロシアの侵攻に罰を科し、将来の紛争リスクを低減するため」ならば、ウクライナ防衛に巨額の投資をすることは、わずかな代償にすぎないとも語った。
これに先立つ4月25日、ロイド・オースティン米国防長官も、アメリカの狙いはロシアの軍事力を衰えさせることだと明言した。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)でウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会った後、ポーランドに立ち寄ったオースティンは、「ウクライナ侵攻のようなことが再びできないようにロシアを弱体化させたい」と語った。
おそらくこれを受けて、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、欧米諸国とロシアは「代理」戦争に突入したと発言。それが新たな世界大戦に発展して、核が使われる危険があると示唆した。
「(核戦争の)危険は現実的に存在する。過小評価してはならない」とラブロフは警告した。
プーチン自身もウクライナ侵攻当初から、ロシアを邪魔する直接的な脅威に対しては「あらゆる手段」を講じる準備があり、「必要に迫られればそれを使う」として、核を使用する可能性をほのめかしてきた。
今回、アメリカが攻撃的な姿勢を打ち出すようになったことは、多方面から称賛されている。特に、核を使用するなどロシアの空威張りにすぎないと主張してきたNATO高官らは歓迎している。
「かくあるべきだ」と、アナス・フォー・ラスムセン元NATO事務総長は語った。「こちらが何をしようと、プーチンは、西側の狙いはロシアを弱体化させることだと言うだけだ。それなら公然と言えばいい」
同時にラスムセンは、「これまでのわれわれは、プーチンの野心や残忍性を過小評価する一方で、ロシアの軍事力を過大評価していた」と語る。
アメリカとNATOの新戦略には、ウクライナが引き続きロシアを撃退することが含まれる。実際、プーチンはウクライナ全土の支配をひとまず断念して、東部と南部に戦力を集中しているとされる。
これを受け、NATO諸国は軍事支援を強化してきた。ドイツのオーラフ・ショルツ首相は4月末、ウクライナに対空戦車50両を供与することを発表した。
停戦の成立はさらに望み薄
だが、軍事専門家の間では、この戦略転換により、アメリカと欧米諸国は「一線を越えた」のではないかと懸念する声もある。
バイデンは当初、大型兵器の供給や飛行禁止区域の設定など、本格的な戦争関与と見なされかねない支援を断固否定していた。それが今回の追加支援と新たな経済制裁表明で大きく変わった。
プーチンは、戦闘継続か降伏かの究極の選択を迫られると、一部の専門家は懸念する。
だが、プーチンは約20年前に権力を握ったときから、「強いロシアの復活」を目標に掲げてきた。ジョージア(グルジア)やウクライナなど近隣諸国への侵攻はその目標達成の一環であり、これまで一度侵攻した場所から手を引いたことはない。
「向こうから見れば、欧米がロシアを転覆しようとしているように見える。今まではそう見えただけだが、今ははっきり宣言された」と、米戦略国際問題研究所(CSIS)のヨーロッパとロシア専門家であるショーン・モナハンは語る。
「さらにバイデンは、3月のポーランドでの演説で、プーチンは『権力の座にとどまることはできない』と発言しており、ロシアのウクライナ獲得を目指す領土紛争は、幅広い対立へと発展した。これで交渉に基づく和解による解決を図るのは困難または不可能になったかもしれない」
元CIAロシア分析責任者のジョージ・ビービも、「アメリカにとって最重要な国益は、ロシアとの核戦争を回避すること」だが、バイデン政権はそれを忘れているのではないかと懸念する。
「万が一負けることになれば、ロシアは全世界を道連れにする能力がある。われわれは今、そこに向かっている恐れがある」
プーチンは4月末、アントニオ・グテレス国連事務総長に対し、交渉による解決を望んでいると示唆したが、今となってはそれも困難または不可能になった可能性がある。
「ロシアを弱体化させることと、それを公言することは全く違う」と、欧州の上級外交官は匿名で語った。「プーチンがのめる政治的解決の条件を探るべきときに、弱体化の意図を公言するのは賢明とは思えない」
元米高官で、現在はジョージタウン大学教授(国際関係学)のチャールズ・カプチャンも「(ウクライナに兵器を)供与する段階から政治的な解決に向けて協議する段階に移行すべきだ」と主張する。
「停戦協議がまとまれば、制裁を解除する用意があることを裏ルートでロシア側に伝える必要がある」と言うのはビービだ。「ウクライナへの軍事支援はロシアを交渉の場に引き出すテコとしても使える」
だが、停戦の成立はこれまで以上に望み薄になっている。グテレスは4月末にプーチンと会談した後、即時停戦はあり得ないと認め、戦争は「会談では終わらない」と述べた。
ゼレンスキーが停戦協議の落としどころを探るためNATO加盟を求めず、ウクライナを中立化するとの条件を提案したのはほんの1カ月ほど前のことだ。東部の親ロ派実効支配地域についても譲歩の余地があると述べた。
だがロシア軍の残虐行為で状況は一変。ゼレンスキーはシャルル・ミシェル欧州理事会常任議長に対し、ウクライナの世論は交渉より戦いの継続を望んでいると語った。
一方、フィンランドとスウェーデンはNATO加盟を検討する意向を表明した(編集部注:5月12日、フィンランドの大統領と首相がNATO加盟申請に向けた共同声明を発表した)。
この2カ国が長年の非同盟中立の立場を捨てれば、ロシアの北の国境に新たな緊張が生じ、NATOの東方拡大をウクライナ侵攻正当化の口実にしてきたプーチンは手痛いしっぺ返しを受けることになる。
現状では一触即発の緊張状態が緩和する兆しは全く見えない。マーク・ミリー米統合参謀本部議長は、ウクライナでは「少なくとも何年という単位」の「長期的な紛争」が続く可能性があると述べた。
核兵器配備はスピードアップ
プーチンが戦術核か戦略核を実戦配備した場合、アメリカはどう対応するのか。バイデンは明らかにしていない。
冷戦後の核兵器の配備については、米ロ共に明確なルールを設定していない。厄介なことにINF(中距離核戦力)全廃条約など冷戦時代に成立した核軍縮合意が失効するなか、核兵器はより迅速な配備が可能になり、自動制御のデジタル装置に運用を委ねる流れが加速した。
プーチンはいわゆる「エスカレーション抑止」、つまり自軍が劣勢に陥った場合、限定的な核攻撃を行い自国に有利な形で停戦に持ち込む戦略を実施するため、過去20 年余り、原子力推進式巡航ミサイルや大洋横断核魚雷、極超音速滑空体の建造を進める一方、ヨーロッパで使える低出力の小型核の保有数を増やしてきた。
それでも、プーチンが今ほどあからさまに核の使用をちらつかせたことは過去にはなかったし、どんな場合に、どう使うかも明言していない。
ウクライナ危機以前、アメリカの戦略家たちはロシアの核配備をただのこけおどしとみていた。プーチンが「エスカレーション抑止」にまず使うのはサイバー攻撃など非核攻撃だろうとの見方が主流だった。
今でもウクライナで戦術核を使用したところでロシアはさほど優位に立てないし、プーチンは核を搭載したICBMでアメリカ本土を攻撃するほど狂ってはいないというのが大方の見方だ。
だがプーチンは過去にロシアの支配下から脱した独立国家ウクライナの存在は容認できないと明言し、昨年7月に発表した論文では、ウクライナの完全独立は「われわれに対する大量破壊兵器の使用に匹敵するような結果」を招くと警告している。
ソ連との核軍縮交渉を担当した元米外交官のロバート・ガルーチは、ロシアがいま使用をちらつかせているのは新型の戦術核で、「ウクライナ国内やその周辺でロシア軍との紛争に直接的に関与するなら、決して侮れない」脅威だと指摘する。
アメリカがウクライナに直接的に関与すれば、かつての冷戦以上に不安定で危険な新冷戦が長期にわたって続くことになると、ビービは言う。
「ゲームのルールがない状態で、ウクライナとヨーロッパを分断する米ロ対立が続くことになる。それは新冷戦というより、ヨーロッパの古傷が膿(う)んでただれるような状況だ」
かつてなく明確にロシアと対峙する姿勢を打ち出した西側とNATO。エリザベス・トラス英外相が4月末の演説で示唆したように、NATOがヨーロッパにとどまらず、中央アジア、中東、インド太平洋地域にまで防衛網を広げれば、緊張はさらに高まる。
「NATOはグローバルな脅威に立ち向かう準備をしなければならない」と、トラスは述べた。「(自由で開かれた)インド太平洋地域を守るため日本、オーストラリアなどの同盟国と協力し、この地域への脅威を未然に防ぐべきだ。さらに台湾のような民主主義の地域が自衛できるよう支援する必要がある」
だとすれば、西側がロシアだけでなく、中国も加えた強権主義的な陣営と対峙する新冷戦が延々と続くことになる。
この冷戦は容易に「熱い戦争」になり得ると、ビービは警告する。アメリカとその同盟国は「豊かな資源を持つロシアと今や技術・経済大国となった中国」という最強タッグと対峙することになるからだ。
●ウクライナ、負傷兵の解放に向けロシア側と交渉中 5/13
ウクライナ政府は、負傷兵の解放に向けロシア側と交渉中だと明らかにした。また、国連人権理事会はロシアによる人権侵害の可能性について調査を開始する決議を採択した。ウクライナ情勢を巡る日本時間13日の動きを中心にまとめた。
アゾフ大隊負傷兵の解放へ露側と協議
ウクライナのベレシチューク副首相は12日、ロシア軍が包囲するマリウポリの製鉄所内にいるウクライナ政府傘下の戦闘部隊「アゾフ大隊」などの負傷兵の解放に向け、ロシア側と交渉中だと明らかにした。ロシア兵捕虜との交換をロシア側と協議しているが「大変難しい交渉が続いている」という。
露の人権侵害 国連人権理事会が調査決議
国連人権理事会は12日、ウクライナに侵攻したロシアによる人権侵害の可能性について調査を開始する決議を採択した。ウクライナのクレバ外相は12日、「採択を歓迎する。残忍な犯罪の加害者たちが裁かれるだろう」とツイッターに投稿した。47理事国のうち、中国とエリトリアが決議に反対した。
マリウポリ 流れる屈辱のロシア国歌
ロシア軍の包囲攻撃を受けたマリウポリ。街の大部分は破壊され、露軍の占領下に置かれている。そこから北西約200キロの南部ザポロジエには日々、命からがら逃れてきたマリウポリ市民が到着している。5月上旬、現地に入った特派員が取材した。
●ウクライナ侵攻で激しさを増したロシアからのハッカー攻撃、次の標的は? 5/13
軍事行動とセットで…。
短期決戦をもくろんでいたとされるロシアによるウクライナ侵攻問題。2か月以上がたって、いろいろと明らかになってきたこともあります。このほどMicrosoft(マイクロソフト)は、今年2月23日から4月8日までに、ウクライナを狙った、ロシアからのサイバー攻撃の実体についての調査レポートを発表しました。同期間に主に6つのロシア発のサイバーテロ集団から、少なくとも237のウクライナへの明確なサイバー攻撃が仕かけられたそうです。そのうち40ほどが、深刻な被害をもたらしたとされています。
あくまでもMicrosoftの調査で探知されたものだけなので、実際はもっと多いとのことですけど、ロシアからのサイバー攻撃全体の40%は、ウクライナの政府機関ならびに軍関係のシステムに狙いが定まっていました。ロシアが軍事行動を起こす対象へと、セットでサイバー攻撃が実施されていたケースが少なくなく、まずサイバーテロでターゲットの力を削いでから、軍事作戦へ突入する流れも確認されています。今後もロシア発のサイバー攻撃の勢いは増していくと考えられ、ウクライナを軍事的に支援する国々へも、ターゲットが広げられる危険性が高いとの警告も出されました。
なお、同レポートによると、ウクライナの政府機関などを狙うサイバー攻撃がロシアから仕かけられたのは、さらにさかのぼること1年前の2021年3月。すでにこのころから着々とロシアは侵攻準備をサイバー空間で進め、ウクライナの機密を盗み出したり、今回の軍事侵攻と連動して起動するサイバー攻撃の種をまくことに成功していたそうです。NATO諸国も、同じように自国が狙われている危険を察知し、いま必死の防衛戦略が取られているんだとか。民間企業が狙われる可能性さえ大いにあり、サイバー空間での戦争が、これからますます本格化していくのかもしれませんよね。
●中露蜜月崩壊¥K主席がプーチン氏見捨てた!? 5/13
9日の「戦勝記念日」でウクライナ侵攻の成果を誇示できなかったロシアのウラジーミル・プーチン大統領。国際社会からの孤立と存在感の低下が避けられないなか、専門家は「中国の習近平国家主席がプーチン氏を見限る」との見方を示す。中国の元駐ウクライナ大使からは「ロシアの敗北は時間の問題」とする発言も飛び出した。戦況の泥沼化で疲弊する「プーチン帝国」は、没落への道を歩むしかないのか。
中国の高玉生元駐ウクライナ大使(74)が研究機関のシンポジウムで、ロシアのウクライナ侵攻を巡り「ロシアの敗北は時間の問題だ」などと発言した。
中国語ニュースサイトによると、高氏は背景としてソ連解体後のロシアの衰退があると指摘。今後も、プーチン大統領指導下での復興は不可能だとの認識も示した。
関連記事はその後、ネットから削除されたが、中国側のロシアに対する本音をうかがわせる。
ウクライナ侵攻前は、北京冬季五輪開会式にプーチン氏が出席し、習氏と首脳会談を開くなど中露の蜜月ぶりが目立った。侵攻当初も中国国営メディアが責任の所在を北大西洋条約機構(NATO)を拡大した米国に求めるなどロシア寄りの姿勢は明確だった。
ところが中国の秦剛駐米大使は先月18日、米誌ナショナル・インタレスト(電子版)への寄稿で、「中露は同盟ではない」「中露枢軸≠ニ騒ぐのは危険な誤解だ」との認識を示すなど距離を置き始めた。
中国の趙立堅報道官も記者会見でロシアの戦勝記念日について問われても、直接の評価を避けている。
ヘインズ米国家情報長官は10日、上院軍事委員会の公聴会で、ロシアがウクライナ侵攻で苦戦するのを見て、中国は台湾への軍事侵攻に「自信が持てずにいる」との分析を示した。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は7日、英紙フィナンシャル・タイムズのイベントで「プーチンの行為が米国と欧州の結束を強めた」ことに中国が落胆していると指摘。ロシアの残虐行為により「習氏は中国の威信にも傷が付きかねないと不安に感じている」との見方を示した。
「習氏はプーチン氏を見限るだろう」とみるのは、筑波大学名誉教授の中村逸郎氏だ。
「軍事作戦が失敗で終わる中で、端的に演説では勝利宣言ができず、『敗北宣言』に近い内容だった。盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領も欠席している。習氏はプーチン氏の外交手腕を認めていたが、今回のつまずきは大きい。2人の蜜月は『強制終了』するのではないか」との見方を示す。
中国の張漢暉駐露大使は5日、タス通信に対し、科学技術分野に関しては中露が協力を引き続き推進していくと述べた。だが、G20(20カ国・地域)でも孤立必至のロシアに中国が手を差し伸べるかは疑問だ。
中村氏は「これまでロシアが中国より『やや上』の関係だったが、今後は、天然ガスなど資源供給国に成り下がってしまうこともあるのではないか。ロシアからの人口流出が続く中、労働力でも中国に頼らざるを得ず、ロシア極東部は中国になかば実効支配される可能性もある」とみる。
ロシアの地位低下に伴って注視されるのは、「G20の中で中国とインドが発言力を増す可能性がある」(中村氏)ことだという。
インドは日本と米国、オーストラリアの戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の一角を占めるが、旧ソ連時代から武器の提供を受けてきた経緯もあり、対露制裁には及び腰だ。
こうした中、中国の王毅国務委員兼外相は3月末、インドのジャイシャンカル外相と会談し、関係改善を模索したと伝えられる。
中村氏は「中印関係もプーチンの対欧米の『重し』だったが、今はロシアが完全に孤立化した。中国も経済衰退や巨大経済圏構想『一帯一路』の戦略上もインドの重要性が増してくる。インドはクアッドの一員でもあり、中印両国の関係が重要になってくる」と指摘する。
冷戦時代から「非同盟」を貫いてきたインドは、西側諸国だけでなく、中国やロシアにとっても一筋縄ではいかない相手だ。
ロシアの失敗を機に世界の勢力図が塗り替えられようとしている。プーチン氏自身が大国ロシアの幕引きを速めてしまったようだ。
●世界の食料問題「ロシアに責任」 独首相、プーチン氏と電話会談 5/13
ドイツのショルツ首相とロシアのプーチン大統領は13日、電話会談を行った。ショルツ氏はロシアにウクライナでの即時停戦を求めた上、世界的に食料供給が逼迫(ひっぱく)している問題について「ロシアに特別な責任がある」と、対応を強く求めた。
●英国、カバエワ氏らに制裁 プーチン大統領の「事実婚」パートナー 5/13
英政府は13日、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの制裁として、プーチン大統領の親族や友人への新たな資産凍結などを発表した。元新体操の五輪メダリストで、事実婚の関係にあるとされるアリーナ・カバエワ氏や、元妻らを対象に含めた。英政府は発表文で、プーチン氏は公開資産は質素だが、実際には豪勢な暮らしをしており、それを支える「財布」に対する制裁だと指摘した。
同日発表した制裁対象の筆頭に英政府が記したカバエワ氏は、2004年アテネ五輪で金メダルを獲得した元新体操選手で、ロシア最大手のメディア企業「ナショナル・メディア・グループ」の取締役会長を務める。英政府は「プーチンの現在のパートナーともうわさされる」とした。
他にも、リュドミラ元夫人や、企業経営者の甥、国営企業ガスプロム取締役の親類らが名を連ねた。英政府は、これらの人物は、「プーチン氏は彼らの忠誠の見返りに地位や富を与えていた」としている。
英政府がこれまでに制裁対象にした個人は1千人を超えている。
●「ウクライナの港封鎖で数百万人が死ぬ」 WFP事務局長がプーチンに訴え 5/13
国連世界食糧計画(WFP)事務局長のデービッド・ビーズリー氏はロシアのプーチン大統領に対し、世界的な惨事が起こる前にウクライナの黒海の港を開放するよう訴えている。
「これらの港が封鎖されているために、世界中の何百万人もの人々が死ぬことになる」と、ビーズリー氏は12日の会見でCNNに語った。
プーチン氏に直接伝えたいことを問われたビーズリー氏はこう答えた。「ウクライナのことをどう考えているかにかかわらず、世界のことを考える気持ちがあるのなら、港を開放する必要がある」。
世界の穀倉地帯として知られるウクライナからの重要な農産物の輸送は、オデーサ港と近隣の港がロシアによって封鎖されているため滞っている。
米サウスカロライナ州元知事のビーズリー氏は、今後60日以内に港を再開しなければ、農業中心のウクライナ経済が崩壊すると警告した。
「この問題を解決して港を開放しなければ、ウクライナ経済は完全に破綻(はたん)する。モルドバのように陸の孤島になってしまう。港は重要だ」と、ビーズリー氏はニューヨークで開催された米ビジネスジャーナリスト協会の会議で述べた。
●「勝利」の道筋見えぬロシア:無謀な戦争で国際的な立場が失墜 5/13
ロシアのプーチン大統領は、5月9日の対独戦勝記念日の演説でウクライナでの「戦果」に触れず、侵攻を正当化する主張を前面に押し出した。筆者は、現段階で「ロシアの勝利は見通せない」とし、無謀な戦争でロシアの国際的立場が大きく損なわれたと指摘する。
国連憲章に背くロシアの武力攻撃
ウクライナ戦争は国際法上違法な戦争であり、プーチンの暴挙である。このことをまずはっきりと認識する必要がある。
国連憲章は、第2条4項で「すべての加盟国は…武力の行使を、いかなる国の領土保全または政治的独立に対するものも、…慎まなければならない」と規定している。国連憲章は、武力攻撃があった際の自衛権の行使、国連安保理が許可した武力行使は許している。ロシアの今回の武力行使は自衛権の行使ではなく、国連安保理の決定に基づくものではない。
ロシアのウクライナ侵攻はルールに基づく国際秩序に反するという見解があるが、そうではなく、国連憲章に真っ向から反する。ここに中立や棄権の余地はない。
あり得ないウクライナのNATO加盟
上記の法的評価とは別に、ロシアの行動は政治的には正統性があるのではないかとの議論がある。よく言われるのはNATO拡大がロシアの安全保障上の懸念を深めたからとの議論である。
ミアシヤイマー・シカゴ大学教授は、NATO拡大を進めた米国などに今回の戦争の主たる責任があると言っている。この発言は全くの間違いである。
まず第1に、NATOはその第5条で「加盟国の一カ国が攻撃された場合、全加盟国がその国を防衛する」と決めてある防衛同盟である。それが拡大したからといって、NATO加盟国のどこにも攻め入る気のないロシアが安全保障上の懸念を持つことはない。
第2に、ウクライナのNATO加盟は現状では問題にならない。ロシアは2014年、ウクライナを攻撃してクリミアを併合し、東部ウクライナに二つの疑似「人民共和国」を作った。ウクライナは現に攻撃されている国であり、ウクライナの加盟を認めた途端、NATOはロシアとの戦争にならざるを得ない。このような状況では、加盟国の全会一致の承認は得られない。
ウクライナのNATO加盟を阻止するために、ロシアは今回の戦争を続けているわけではない。すでにウクライナはロシアが要求しているNATO不加盟、中立化は受け入れるとしている。それでも戦争が継続しているのである。
米のダルダー元NATO大使は、逆にNATO拡大が不十分であったことが今次戦争の原因であると指摘しているが、その通りである。2008年のブカレストでのNATO首脳会議で、ウクライナとジョージアの加盟が議論された。その直後にウクライナのNATO加盟が認められていたならば、2014年のクリミア併合も、東部ウクライナの親ロシアの「人民共和国」も、今次のウクライナ戦争もなかっただろう。
今回の戦争を契機に、中立国であったスウェーデンとフィンランドはNATO加盟を検討している。欧州の平和と安全、自国の安全はNATOの拡大によって保たれるということを念頭においた対応である。正しい判断であろう。
目的は「全土のロシア吸収」
今次戦争(ロシアは「特別軍事作戦」と称しており、戦争ではないとし、宣戦布告もしていない)でロシアはウクライナに中立化、非武装化、非ナチ化を要求している。中立化については、上に述べた通りであるが、戦争の相手側に非武装化を求めるのは降伏を求めることで、ウクライナが受け入れるはずはない。非ナチ化については、ゼレンスキー大統領はユダヤ人であり、ユダヤ人虐殺をしたヒトラーに何の共感も持っていないだろう。ウクライナ人はホロコーストを自分の経験として記憶している民族である。
プーチンは何のために今度の戦争をしているのか。プーチンは2005年4月25日、ロシア連邦連邦議会への年次教書で、ソ連邦の崩壊を「20世紀最大の地政的惨事」と述べており、ベラルーシとウクライナとロシアの三国だけの「ミニ・ソ連邦」であってもその再興を夢見ている可能性が高い。プーチンは昨年7月に発表した論文で、ウクライナ人はロシア人と同じ民族であると主張し、ウクライナが独自の民族であること、ウクライナが国家として存在することを否定している。ウクライナ全土をロシアに吸収合併することが当初のプーチンの戦争目的であったと言ってよい。プーチンのNATOへの被害妄想、旧ソ連の復活願望という誇大妄想が今の戦争の原因である。
東部、南部でも「圧倒」できず
2月24日の戦争開始後、ロシアは短期間でウクライナの首都キーウを占領し、ゼレンスキー大統領を拘束または殺害し、代わりに親ロシアの傀儡(かいらい)政権を作ることを狙っていたと思われる。しかし、その第1段階である首都攻撃はロシア側の敗北に終わった。兵站の失敗、ロシア兵の士気の低さ、ウクライナ軍の戦闘能力などが理由である。
それでロシアは首都周辺からは兵を引き、今は東部ドンバスと南部を制圧することに重点をおいている。
5月9日の第2次大戦の対独戦勝記念日に、プーチンはドンバスでの戦果を誇る演説をすると言われていたが、そうではなかった。演説はNATOがロシアの安全保障についての提案を拒否したので、ウクライナ「戦争」は避けられなかったと正当化し、ドンバスではロシア軍が祖国を防衛するために戦っていると述べるにとどまった。一部で取りざたされたロシアでの総動員を可能にする戦争宣言もなされなかった。他方、停戦の可能性のほのめかしもなかった。
ロシアが今後、ウクライナのドンバスと南部を早期に制圧する状況は考え難い。 理由はウクライナ軍が高い士気を維持し、NATO諸国からの武器支援も重火器を含め強化されていること、またロシア軍の士気は低く、兵力も不足気味であるからである。
南部については、特に黒海艦隊の旗艦「モスクワ」がウクライナ軍のネプチューン対艦ミサイルで攻撃を受け沈没したことで、オデッサ上陸作戦が不可能になった。黒海にいるロシアの大型艦は20隻もないが、ネプチューンの射程外、沿岸から150キロ以上離れている。こういう状況でオデッサ周辺への上陸作戦は困難である。南部にいるロシア軍が西に進み、 ムィコライウを掌握し、陸路でオデッサに向かうのには多大の困難が予想される。
「勝利」が見通せないロシア
ウクライナ戦争のもう一つの特徴はロシアがウクライナの民間施設を戦時国際法に違反して攻撃していることである。ロシア軍は戦争犯罪を犯している。ブチャでの民間人虐殺はベトナム戦争でのソンミ村虐殺のように戦争の狂気ではなく、今のロシアの戦争のやり方に内在している。
この戦争の帰趨(きすう)はどうなるだろうか。戦争継続中にその結果を見通すのは難しい。しかし、あえて言えばロシアが勝利することは見通しがたい。
戦争での勝利はその目的を達成した時に得られる。ロシアの当初の戦争目的はウクライナを国家としてなきものにし、ロシアに吸収合併することであった。この目的は首都が陥落せず、西部ウクライナは時折ミサイル攻撃の対象になっても、ウクライナは生き残ると見込まれるので、達成されないだろう。
ウクライナの戦争目的は防衛であり、国家の生き残りである。生き残れば、大きな被害を受けつつも戦争目的を達成し、勝利したということになるだろう。
戦争ではその戦略目標を「勝利にするか、敗北しないことにするか」であるが、ロシアとウクライナの間にはその戦略目標に非対称性がある。
国際的信用も経済も「大逆風」
この戦争はロシアの国際的な立場を大きく損なう結果をもたらすだろう。
プーチンは西側諸国の「経済電撃戦」は失敗し、ロシア経済は安定を取り戻したと主張しているが、ロシア中央銀行のナビウリナ総裁はこれからの経済的困難について懸念を表明している。ルーブルの下落は資本規制などで元に戻ったが、今は金融面よりも、実体経済に問題が出てきている。これまで輸入していた部品が入ってこないなど、サプライチェーン上の問題が出てきている。IMF(国際通貨基金)は、今年のロシアのGDPはマイナス8.5%になると予測している。民間では二桁のマイナスになるとの予測も多い。この戦争の前にも、ロシアのGDPはIMFの統計では韓国以下であった。
国際社会でのロシアの孤立は、ウクライナ侵攻についての国連総会決議、国連人権理事会からのロシアの追放、ウクライナへの武器支援を話し合う米主催会合に40カ国以上が参加したことからも明らかである。
英国、フランスが1956年のスエズ動乱でその国際的立場を大きく害したと同じように、プーチンはこの無謀な戦争でロシアの国際的立場を大きく損なう可能性が大きい。
こういう戦略的大失敗をしたプーチンがこれからもロシアの指導者にとどまりうるのか。これはロシア人が決める問題である。今のところロシア国内でのプーチン支持率は高止まりしていると報じられているが、プロパガンダと弾圧のもとでの支持率は砂上の楼閣である場合が多い。 

 

●G7外相会合 ウクライナの領土と主権支持 引き続き支援確認  5/14
ドイツで開かれているG7=主要7か国の外相会合で、ロシアの軍事侵攻をめぐって協議が行われ、ウクライナの領土と主権の一体性を支持し、引き続き、経済・財政面や防衛面などで支援していくことを確認しました。
G7の外相会合では、日本時間の13日夕方から、ウクライナのクレバ外相や隣国、モルドバのポペスク外相も加わって、ロシアの軍事侵攻をめぐって協議が行われました。
そして、ウクライナの領土と主権の一体性を支持し、引き続き、経済・財政面や防衛面に加え、今後の復興も含めて支援を行っていくことを確認しました。
また、モルドバをはじめとする周辺国による避難民の受け入れをたたえ、モルドバを支援していくことも申し合わせました。
さらに、軍事侵攻の影響で物価が高騰する中、すべての人々が食料やエネルギーへのアクセスを確保できるようあらゆる取り組みを支援し、追加的な資金供与を行っていく決意を共有しました。
一方、林外務大臣は、これまでの日本の取り組みを紹介し、ウクライナや周辺国への人道面や財政面の支援を着実に実施するとともに、引き続き必要な支援を検討していく考えを伝えました。
●G7外相会合 “ロシアに対し 連携して圧力を強化” 声明を発表  5/14
ドイツで開かれていたG7=主要7か国の外相会合は14日に閉幕し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対し、G7が連携して圧力を強めていくことを確認したなどとする声明を発表しました。
12日からドイツで開かれていたG7の外相会合は、ロシアによるウクライナ侵攻への対応をはじめ海洋進出を強める中国や北朝鮮の核・ミサイル開発などをめぐり3日間にわたって協議を行い、14日に閉幕しました。
閉幕後に発表された声明では、ロシアに対し軍事侵攻を直ちにやめるよう求めるとともに、ウクライナへの軍事支援を継続し、G7が連携してロシアへの圧力を強めていくことを確認したなどとしています。
また、ロシアがウクライナの農産品の輸出を制限し、世界の食料安全保障の脅威につながっているとして、ロシアを非難するとともにウクライナの港を含む主要なインフラへの攻撃を直ちにやめるよう求めています。
さらに海洋進出を強める中国を念頭に、南シナ海や東シナ海の状況に深い懸念を表明し、緊張を高める一方的な行動に強く反対する姿勢を改めて強調しました。
また中国に対しては、ロシアによるウクライナへの侵略戦争を支援しないよう呼びかけるとして、西側諸国と足並みをそろえるよう求めました。
このほか、北朝鮮を巡っては相次ぐ弾道ミサイルの発射を強く非難し、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発計画を完全に、検証可能かつ不可逆的な形で廃棄するよう改めて求めています。
●黒海の小島スネーク島、ウクライナ戦争で重要な役割 5/14
黒海に浮かぶ小島スネーク島。岩と草地からなる面積わずか0.18平方キロの島で、淡水はない(蛇もいない)が、ウクライナとロシアの紛争で象徴的な重要性を帯びるようになった。
ウクライナ語で「ズミイヌイ・オストリフ」と呼ばれる同島はウクライナの沖合およそ48キロ、ボスポラス海峡や地中海に通じる海上交通路の近くに位置する。
ロシアがスネーク島の領有権を主張したことは一度もない。同島はロシア本土から遠く離れており、ロシアが2014年に併合したクリミア半島からの距離も290キロを超える。地理的にも歴史的にも、ロシアが自国の領土と主張するのは不可能だ。
だが、歴史がどうであれスネーク島には戦略的な価値があり、ロシアは明らかに同島を簡単に奪取できると考えていた。ウクライナは戦前から同島の脆弱(ぜいじゃく)性を認識しており、ゼレンスキー大統領は昨年、島の重要性を強調するため有権者のいない同島を空路で訪問した際、「この島は我が国の他の領土と同じくウクライナの土地だ。われわれは全力で防衛する」と語った。
ロシアは2月下旬の戦争初日にスネーク島の制圧を試みた。今や有名となったウクライナの守備隊とロシア海軍の間のやり取りがあったのはこの時だ。投降を命じられた島の少数の守備隊が無線で「ロシアの軍艦、くたばれ」と言い返し、ウクライナの抵抗を象徴する言葉になった。
だが、スネーク島には象徴的な重要性にとどまらない役割がある。ロシアによる支配の既成事実化を許せば、ウクライナはオデーサ港と他地域を結ぶ海上交通路の自由を保証できなくなる。ウクライナの豊富な農産物の大半はオデーサを通じて世界市場に輸出される。
ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は13日、スネーク島を押さえた者がウクライナ南部の制海権と一定の制空権を握ることになると指摘。「この島を掌握した者は、ウクライナ南沖のあらゆる方向に向かう民間船の動きをいつでも阻止できる」とも述べた。
それゆえ、ウクライナはたとえ直ちに島を奪還できなくても、ロシアの支配を許さない姿勢を鮮明にしているのだ。
ここ10日間に実施した一連の攻撃では、ウクライナ軍のドローン(無人機)などの兵器が、島でのプレゼンス強化を試みるロシア軍を攻撃した。
12日の衛星画像には、同島唯一の埠頭(ふとう)の近くで沈没した揚陸艦が写っているほか、ウクライナは付近の哨戒艇2隻も攻撃したと主張している。
また先週末の別の衛星画像には、同島から立ち上る2筋の煙が捉えられていた。うち一つはロシアの海兵隊員を運んできたMi8ヘリから出た煙と見られており、ウクライナ軍が公表したドローン動画によると、ミサイル攻撃の標的となったもようだ。ウクライナ軍はこのほか、島に設置された対空設備が攻撃を受ける映像も公開した。
オデーサの地方軍政当局は12日、ロシアの支援艦「フセボロド・ボブロフ」が炎上し、スネーク島一帯からセバストポリにえい航されたと主張。CNNはこの主張を検証できておらず、ロシアは同島周辺での損害発生を否定している。
それでは、なぜロシアはスネーク島の支配維持にこれほど力を注いでいるのだろうか。それは同島が電子戦能力や対艦能力を搭載した不沈空母になりうる潜在力を秘めているからに他ならない。ウクライナ国防省は12日、ロシアは黒海北西部、とくにオデーサ方面におけるウクライナの海上能力などを封じるため、同島の陣地の強化を試みているとの見解を示した。
ブダノフ氏はまた、ロシアがモルドバにある分離派支配地域トランスニストリア(沿ドニエストル)でのプレゼンスを強化したい場合にも、スネーク島は有用になりうると指摘した。トランスニストリアは親ロシア政府の支配下にあり、ロシア兵1500人あまりが駐留する。
実はスネーク島をめぐる争いは以前にもあったが、それはあくまで法廷での争いだった。ルーマニアとウクライナは長年、同島や炭化水素資源埋蔵の可能性がある周辺海底をめぐり領土争いを続けていたが、国際司法裁判所が2009年に同島の地位について判断を示し、両国の排他的経済水域(EEZ)の境界を画定した。
今回の場合、スネーク島の運命が法廷で決まる可能性は極めて低いとみられる。
●アメリカとロシアの国防相が電話協議 侵攻後初 5/14
英、プーチン氏「愛人」に制裁
ウクライナへの侵攻を続けるロシアに対し、英政府は13日、追加制裁を科したと発表した。新たな制裁対象者になったのは、新体操のオリンピック金メダリストで、プーチン露大統領の愛人とされるアリーナ・カバエワ元露下院議員(39)ら。カバエワ氏はプーチン氏の子を2人産んだとされ、事実上の妻ともいわれている。
米露国防相が電話協議 侵攻後初
米国防総省は13日、オースティン国防長官がロシアのショイグ国防相と電話協議したと発表した。両者の協議は2月18日以来で、ロシアがウクライナ侵攻を開始してからは初めて。オースティン氏は即時停戦を強く促し、米露間の意思疎通維持の重要性を強調した。
露軍の戦争犯罪問う初の公判開始
ウクライナで非武装の民間人を射殺したとして、戦争犯罪に問われているロシア兵の公判が13日、首都キーウ(キエフ)の裁判所で始まった。ウクライナ検察はロシア軍による犯罪行為の捜査を進めているが、戦争犯罪を問う公判は初めて。
南部ヘルソン、世界から隔絶
ロシア軍に占領されたウクライナ南部ヘルソン州では、警察が機能しない無法地帯が生まれ、インターネットもつながりにくい「世界から隔絶された場所」に変貌したといわれる。西部リビウに避難した親子が毎日新聞の取材に応じ、変わり果てた街の様子を打ち明けた。
避難民集まるリビウの今
ロシア軍による侵攻を受け、ウクライナ各地から多くの避難民が集まる西部リビウ。ポーランドに近く、戦争の被害が少ないことが理由だ。露軍が首都キーウ(キエフ)近郊から撤退したことを受け、一部の人々は故郷に戻ったが、戦闘が激しい東部などから今でも1日約1000人が流入する。人口の約3割を避難民が占める街の現状を追った。
●ウクライナ、反撃で1000集落解放 ロシア軍、ハリコフ撤退か 5/14
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、動画メッセージで、ロシア軍から過去24時間で6集落を奪還し、これまでに1000以上の集落を解放したと明らかにした。米紙ニューヨーク・タイムズは、欧米などの当局者の情報として「ロシア軍は北東部ハリコフ周辺から撤退しているようだ」と報道。米シンクタンクの戦争研究所も「北部キーウ(キエフ)州からの撤退時に似ている」と戦況を分析した。
ウクライナ側は、東部ドンバス地方で渡河を試みるロシアの戦車部隊を壊滅させており、大規模な反撃に出ている。南部オデッサ州沖合の黒海上にある要衝のズミイヌイ島奪還に向けて戦うとも表明し、双方の戦闘は激しさを増している。
南東部マリウポリの地元高官によると、ウクライナ部隊が抵抗の拠点とする製鉄所にロシア軍が「突入を計画している」とされ、さらなる犠牲につながりかねないとして危機感が高まっている。ただ、侵攻を続けるロシア軍は指揮統制が取れておらず「士気低下も続いている」(米国防総省のカービー報道官)という見方もある。
激戦の一方、外交による解決を模索する動きも出てきた。トルコの報道によると、同国大統領府のカルン報道官は「(ロシアのプーチン政権が)ウクライナだけでなく、欧米とも対話の席に着きたがっている」と指摘した。事実なら、苦戦するロシアが事態打開に向けて欧州の安全保障体制をめぐる交渉を行いたい考えとみられる。
●ロシア、安保理で「ウクライナ生物兵器開発に米関与」と主張… 5/14
国連安全保障理事会は13日、ウクライナ情勢に関連する緊急会合を開いた。ロシアは、米国がウクライナで生物兵器開発に関与していると主張したが、国連は「いかなる生物兵器計画も把握していない」との認識を改めて示した。
ウクライナで生物・化学兵器開発が行われているとするロシアの一方的な主張に基づき、安保理の枠組みで会合が開催されたのは3月11、18日に続いて3回目。ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は「新たな証拠が見つかった」などとまくし立てた。
米国の次席大使は「偽情報と陰謀論をまき散らすために安保理を利用している」とロシアを批判し、ロシアが生物・化学兵器を使用する可能性に警戒感を示した。
●第2の都市「奪還に成功」 ウクライナ軍 反転攻勢  5/14
ウクライナ軍による反転攻勢が続いている。ウクライナ軍は、第2の都市・ハルキウで続いていた戦闘で、ロシア軍から勝利し、奪還に成功したという。ウクライナ軍が奪還したハルキウ近郊のクトゥジフカ村では、破壊された戦車などが残されている。「わたしたちの軍隊が来た時は、とてもうれしかったです」
アメリカの政策研究機関戦争研究所は、第2の都市ハルキウで続いていた戦闘で、「ウクライナ軍が勝利したようだ」と発表した。
これは、ウクライナ側が13日に公開した映像。東部・ルハンスク州で、ドネツ川に橋を架けて渡ろうとしたロシア軍の戦車などを攻撃。進軍を阻止したとしている。
アメリカ国防総省の高官は、「ロシア兵は指示通りに動かず、一部の将校も命令に従うのを拒否しているとの情報がある」と述べ、ロシア軍部隊の士気に問題があるとの分析を示した。
そうした中、首都・キーウでは、13日、民間人を殺害したとして訴追された21歳のロシア兵に対する、初めての裁判が行われた。弁護士「彼は、ここにいることに不満はありません」この兵士は、ウクライナ北部の村で自転車に乗っていた62歳の男性に向けて発砲し、殺害した疑いが持たれている。ウクライナの検事総長は、ロシア軍兵士らによる戦争犯罪で、少なくとも41人の裁判が行われるとの見通しを示した。
キーウ近郊の村・カチュジャンカでは、一時、ロシア軍によって占領され、少なくとも8人の市民が銃で撃たれ、殺害されたという。
道路の脇には、たくさんの大きな穴が掘られており、食べ物の袋や瓶が散らかっている。
チェチェン人戦闘員と共同生活していた レーサさん「もう埋めたけど、ここには、大きな塹壕(ざんごう)が3つありました」村の住民レーサさんの家族は、村に押し入ったロシア軍兵士の人質となり、およそ2週間一緒に生活していたという。チェチェン人戦闘員と共同生活していた レーサさん「わたしたちは、ここのソファで寝ていました。彼らのごはんを、ここで作っていました」庭に塹壕を掘り、ウクライナ軍が来ないか、24時間態勢で、森の方角を見張っていたという。レーサさんの自宅にいたのは、残虐な部隊として知られるチェチェン人の戦闘員だったというが、人間の盾となることで生かされていたという。
ロシア軍は、この村で占領した公民館や図書館を病院として使用していたほか、学校も占領し、本国などと連絡を取る拠点にしていたという。
学校職員・マリアさん「通信指令の拠点にしていました」
ミコラ校長「殺害された市民の掘り起こしをされました。嫌悪と憎悪が入り交じる気持ちでした」
一方、アメリカのオースティン国防長官は、ロシアのショイグ国防相と電話会談し、即時停戦を求めた。両者が接触するのは、侵攻後初めてだったが、具体的な進展はなかったとみられている。
●ロシア艦また炎上…ウクライナ軍の反撃が加速か オデッサ沖で複数撃破 5/14
ウクライナ軍によるロシア軍への反撃情報が相次いでいる。これまで黒海海域では、ロシア海軍の軍艦などが複数撃破されてきたが、新たに最新鋭支援艦の炎上が発表された。ロシア軍の軍用機200機の破壊も伝えられた。ロシアの侵攻が長期化するなか、ウクライナ軍の祖国を守り抜く戦いが続いている。
ウクライナ南部オデッサ州当局は13日までに、同州沖の黒海海域で、輸送や測量を担うロシア海軍の最新鋭後方支援艦「フセボロド・ボブロフ」が、ウクライナ軍の攻撃で炎上したと発表した。ウクライナ軍が誇る最新対艦巡航ミサイル「ネプチューン」が命中したとの情報もある。
ネプチューンは先月、ロシア黒海艦隊旗艦であるミサイル巡洋艦「モスクワ」を撃沈している。この際、米国がウクライナ側に位置情報を提供していたと、複数の米メディアが伝えている。
フセボロド・ボブロフについて、ウクライナ大統領府のオレクシー・アレストビッチ顧問は「損傷したが、沈没は免れた」と指摘した。
オデッサ沖の黒海海域では7日にも、ロシア海軍の哨戒艇2隻と上陸艇1隻が、トルコ製の高性能攻撃ドローン(無人機)「バイラクタルTB2」で撃破されている。
ロシアの航空戦力も損傷している。
ウクライナ軍は13日、ロシアの軍用機200機を撃墜したとSNSで発表した。同軍は、米国が提供した携帯型地対空ミサイル「スティンガー」や、英国提供の近距離防空ミサイル「スターストリーク」に感謝を示した。
また、ウクライナ内務省系の軍事組織アゾフ連隊は同日、SNSで南東部の要衝マリウポリにあるアゾフスタリ製鉄所内での銃撃戦の映像を公開した。同製鉄所はロシア軍に包囲されているが、映像では銃声や爆撃音が鳴り響き、アゾフ連隊が徹底抗戦している様子がうかがえる。
●ロシア兵は戦地で家電漁り兵器補修…食洗機や冷蔵庫の“軍事転用” 5/14
ウクライナ東部の制圧に苦戦しているロシア軍。プーチン大統領は長期戦を覚悟しているといわれるが、最前線で戦う軍の装備は耐えられるのか。ロシア兵たちは現地で「家電」を漁って、半導体を軍事転用しながら、「プーチンの戦争」に付き合わされている。
米国のジーナ・レモンド商務長官は11日、上院公聴会で「ウクライナ側からの報告によれば、ロシア軍の装備に食洗機や冷蔵庫から取り出した半導体が使われている」と指摘。ウクライナ軍が、接収したロシア軍の戦車を調べた際、入手困難な部品が冷蔵庫などの部品で補われていたという。そもそも、家電に使われている半導体を軍事転用できるのか。
「半導体の処理能力によります。例えば、戦闘機の自動操縦用に代替できなくても、ミサイルやロケットを着弾させる誘導装置には使える可能性があります。家電とひと口に言っても、『スマート家電』のようにさまざまな機能を備えていれば、それだけ高性能の半導体を使っていると考えられる。軍事転用できないこともないでしょう」(軍事ジャーナリスト・世良光弘氏)
まさか家電を漁って兵器を補修しているとは、苦戦しているにも程がある。なぜ、こんな窮地に立たされているのか。
「軍事侵攻前から続く世界的な半導体不足に加え、ロシアは半導体の大部分を輸入に頼っていました。ほとんど自国生産しておらず、そもそも電子部品に弱い国なのです。戦車や戦闘機といった軍事兵器は数年おきに『近代化改修』、つまりバージョンアップをしなければ戦場で使い物になりません。装甲を厚くするなどの物理的なアップデートだけではなく、当然、操縦に欠かせないソフトウエアの更新も必須です。ロシアもウクライナも主力戦車として旧ソ連製の『T-72』を使っていますが、同じ設計でも、改修しているかどうかで性能に大きな差が出ます。半導体不足と近代化改修の遅れによる影響が、西側諸国からの制裁によって顕著に表れているのでしょう」(世良光弘氏)
米国からロシアへの半導体やアビオニクス(航空電子機器)などの輸出量は前年比85%減。制裁がロシア軍の苦戦に拍車をかけているのは間違いない。
英国防省が13日公表した戦況分析によれば、ウクライナ軍の孤立化を狙うロシア軍は渡河作戦に失敗。ウクライナ軍に阻止され、少なくとも1つの大隊戦術群(BTG)が装甲機動部隊を失ったという。
「特殊作戦の得意なプーチン大統領は、総力戦で戦う軍隊の整備を怠ってきたのではないか。戦闘機や長距離ミサイルといった見てくれの良い大型兵器にこだわるばかりで、通信や電子技術への軽視がうかがえます。2008年にグルジア(ジョージア)へ侵攻した南オセチア紛争では、通信妨害に遭ったロシア軍の前線部隊が現場の特派員記者に携帯を借りていたといいます。その頃から10年以上、軍事通信の技術は改善していない。見てくれに力を入れてきたロシア軍は、まるで『ハリボテ』です」(筑波大名誉教授・中村逸郎氏)
ウクライナ軍の反転攻勢がささやかれ始めた。プーチンの“虚勢”はいつまで続くのか。
●プーチン氏、独首相に「ナチスのイデオロギー」との戦い強調 5/14
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は13日、ドイツのオラフ・ショルツ(Olaf Scholz)首相との電話会談で、ロシアはウクライナで「ナチスのイデオロギー」と戦っていると主張した。
プーチン氏は2月24日、「非軍事化」と「非ナチ化」を目的に掲げて親欧米国のウクライナに軍事侵攻した。
ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)は電話会談後の公式声明で、「ナチスのイデオロギーを提唱し、テロリストの手法を使う武装勢力による国際人道法違反が続いている点に注意が向けられた」と述べた。
プーチン氏は軍事侵攻について、ウクライナ東部のロシア語話者の保護が目的だと改めて説明。また、ウクライナ政府が和平協議を「妨害」していると非難した。
ショルツ氏は、ウクライナへの兵器供与が不十分でエネルギーをロシア産に依存しているとして、非難を浴びている。
ドイツ経済は現在、ロシア産エネルギーからの脱却を急いでおり、すでにロシア産石炭の輸入をほぼ停止している。
●フィンランド、プーチン氏にNATO加盟通告 ロシアは送電停止 5/14
AFP通信などによると、フィンランドのニーニスト大統領は14日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟方針を通告した。理由について、ロシアによるウクライナ侵攻などが「フィンランドの安全保障をめぐる状況を根本的に変えた」と訴えた。プーチン氏は「フィンランドにとって安全保障上の脅威はなく、伝統的な中立政策の放棄は誤りだ」と主張した。
一方、ロシアからフィンランドに行われていた電力供給が14日に停止した。NATO加盟の動きに対する報復措置の可能性もある。ロシア政府系電力大手インテルRAOの子会社は13日、電力料金が6日以降支払われていないため、14日未明(日本時間朝)に送電が止まると発表していた。
ウクライナ侵攻でロシアの脅威が高まったことを受け、フィンランドはスウェーデンと共に近くNATOに加盟申請する見通しだ。ニーニスト氏とマリン首相は12日、共同声明で「遅滞なく申請すべきだ」という自国の立場を示した。14日のプーチン氏との電話会談で電力供給の問題も話し合ったとみられる。  

 

●プーチン大統領に白血病説…英紙タイムズが重病の可能性報じる 5/15
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領が白血病で重病の可能性があることが14日、分かった。英紙タイムズがクレムリンに近い新興財閥のグループ「オリガルヒ」関係者の話として伝えた。約200人いるこのグループはエネルギー企業などで構成され、政権の経済面を支えることで莫大(ばくだい)な利益を得ている。
この関係者は経営者との会話で、プーチン氏がウクライナへの侵攻を指示する直前に白血病のため、背中の手術を受けたと語り、「気がおかしくなった」と訴えている。グループ内では、ロシアの経済状態について不満が噴出し、同氏が死去することを待望する声も上がっており、「問題は彼の頭だ。一人の狂った男が世界をひっくり返すことができる」と嘆いている。
プーチン氏の健康状態についてはさまざまな憶測がある。先月のセルゲイ・ショイグ国防相と会談では、テーブルの脇をつかんで体を支え、9日の戦勝記念日のパレードでは毛布にくるまる姿もあった。医療の専門家は顔がむくんでいるとし、がん治療として処方されるステロイドを使用している可能性を指摘している。
ロシアの独立系出版社の調査では、プーチン氏はがんの治療として、トナカイの角の血を浴びる習慣があることが明らかにされた。医師3人も常に同行していることも確認され、ロシア政府は、健康状態に関する憶測を打ち消すよう躍起だ。「余命数か月」とする憶測を無視するよう伝えたメモを関係者に送付したとされる。 
●ロシア軍が東部で多数の装甲車失ったとウクライナ 5/15
ウクライナ軍関係者はBBCに対し、東部ルハンスク州でロシア軍が渡河作戦に失敗し、装甲車のほとんどを失ったと述べた。第2都市ハルキウの市長は、ロシア軍との戦いに勝利し、市民が街に戻り始めているとBBCに話した。他方、イギリス政府はプーチン氏の元妻や現在の恋人とされる女性を制裁対象に加えた。
ウクライナ軍関係者はBBCに対し、東部ルハンスク州でシヴェルシキードネツ川を渡ろうとしたロシア軍の大隊が装甲車のほとんどを失ったと語った。ウクライナ軍は3日間で3度、渡河を試みるロシア軍を攻撃したという。
ウクライナ軍は11日にも、ロシア軍が設置した浮橋を破壊したと発表している。
東部ルハンスク州のセルヒイ・ハイダイ知事によると、戦略上重要な東部の都市を包囲するため、ロシア軍はシヴェルシキードネツ川を渡ろうとしている。
しかし、この数日間の激しい戦闘で、現地のウクライナ軍がロシア軍の高速船やヘリコプターを破壊し、「ロシアの舟橋を3度破壊した」と、ハイダイ知事は主張した。また、ウクライナ軍は「ロシア側の重火器など約70台を排除」し、渡河を阻止したという。
●プーチン氏、フィンランドの中立放棄は「過ち」 5/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請する方針を表明したフィンランドに対し、中立の放棄は「過ち」だと警告した。
ロシア政府によると、プーチン氏はフィンランドのサウリ・ニーニスト大統領との電話会談で、「フィンランドへの安全保障上の脅威はない。そのため、伝統的な軍事的中立政策を終えてしまうのは、過ちになる」と強調した。
また、「フィンランドの政治的指向の変化は、パートナー同士として善隣友好と協力の精神に基づき長年にわたって発展させてきたロシアとフィンランドの関係に、悪影響を及ぼす可能性がある」と述べたという。
一方でニーニスト大統領は会談内容について、ウクライナ侵攻に加え、最近のロシアの動きが「フィンランドの安全保障環境を変化させた」と、プーチン氏に伝えたことを明らかにした。
「会談は直接的で率直なもので、言い争いはなかった。お互いに、緊張回避の重要性を認識していた」と、ニーニスト氏は述べた。
フィンランドはロシアと全長1300キロにわたって国境を接している。これまではロシアとの対立を避けるため、NATO非加盟の方針を貫いていた。
しかし、フィンランドのニーニスト大統領とサナ・マリン首相は12日、NATOへの加盟申請を行うべきだとする共同声明を発表した。
ウクライナ侵攻を受け、隣国スウェーデンもNATO加盟の意向を示唆している。
トルコが加盟に反対
ただし、両国のNATO加盟には、加盟国のトルコが反対している。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、両国が「テロ組織」をかくまっていると非難している。これは、トルコ政府がテロ組織と見なすクルド労働者党(PKK) やクルド人民防衛隊(YPG)を意味する発言と受け止められている。
スウェーデンとフィンランドの両国にはクルド人コミュニティーがあり、スウェーデンではクルド系の国会議員もいる。エルドアン大統領は、両国内のこうしたコミュニティーにPKKとかかわりがあるという証拠を示していない。
両国とトルコの外相たちは近く会談し、この件について協議する予定。
●G7外相、対ロ追加制裁で一致 ウクライナへの軍事支援継続へ 5/15
主要7カ国(G7)外相は14日、ロシアを経済・政治的に一段と孤立させるとともに、ウクライナへ軍事支援を継続する方針を示した。また、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けた世界的な食料供給問題への対応も表明した。
外相声明では、ウクライナへの武器提供など軍事・防衛支援について「必要な限り継続する」と盛り込んだ。
共同声明で外相らは、ウクライナ侵攻を受け世界的に食料供給問題が発生していることをロシアが欧米諸国の責任にしようとしていることに対処すると表明。中国にロシア政府を支援したりロシアの軍事侵攻を正当化しないよう促した。
ドイツのベーアボック外相は記者団に「これはわれわれの戦争ではない。ロシア大統領による戦争だがわれわれは世界的な責務がある」と説明した。
外相らはロシアの政府機関や軍などの幹部に追加制裁を科す方針も示した。
会合にはウクライナとモルドバの外相も出席。ウクライナ戦争が隣国モルドバにも波及することや食糧安全保障を巡る懸念が示された。
ベーアボック氏は、ロシアやウクライナからの穀物供給が途絶えたらどうなるか不安が高まっているとし、次の収穫期までにウクライナが農産物を輸出できるよう物流面での解決策を模索すると説明した。
●製鉄所に焼夷弾を使用か 温度は2千度以上「地獄が降りてきた」 5/15
ロシア軍が包囲し、ウクライナ部隊が抵抗を続けるウクライナ南東部マリウポリの製鉄所「アゾフスターリ」をめぐり、同市のアンドリュシチェンコ市長顧問は15日、重いやけどを負わせる焼夷(しょうい)弾などをロシア軍が前日14日に使い、製鉄所を攻撃した疑いがあるとSNSで主張した。燃焼時の温度は2千度以上で消火も極めて難しいとし、「地獄が地上に降りてきた」と記している。
製鉄所内には重傷を負った兵士が多数いるとされ、ウクライナ政府は負傷兵の退避に向けてロシア側と交渉を続けている。
●プーチン氏が重病? 「がんなど様々な病気」 急浮上の後継者とは 5/15
東部で連日、激しい戦いが続くなか、ウクライナの高官はロシアのプーチン大統領が「がん」などを患って重い病気だとの分析を明らかにしました。こうしたなか、ロシアのメディアは後継者として、ある男性が急浮上したと報じています。
ウクライナ軍の攻勢が伝えられているウクライナ第2の都市ハルキウ。アメリカのシンクタンクは、ロシア軍がハルキウから完全撤退を決めたとみられるとの分析を公表しました。
ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく3カ月。ウクライナ国防省の高官が今後の見通しについて語りました。
ウクライナ国防省・ブダノフ情報局長:「ターニングポイントは8月後半になります。年内にはロシア軍との戦闘の大部分が終結する。その結果、ロシアの政治情勢がすべて変わります」
ロシア軍との戦闘の大部分は年内には集結し、その結果、ロシアの政治情勢はすべて変わるとしました。さらに…。
ウクライナ国防省・ブダノフ情報局長:「プーチン大統領は精神的、肉体的に非常に悪い状態にあると分かります。彼は重い病気です。同様に様々な病気を患っていて、そのひとつが、がんです」
プーチン大統領が「がんなど様々な病気を患っている」という分析を明らかにしました。しかし、根拠については言及しませんでした。
プーチン大統領の健康状態については、アメリカ誌「ニューラインズ」もロシア政府に近いオリガルヒの話として「血液のがん」でかなり体調が悪く、ウクライナ侵攻を命じる少し前に背中に手術を受けたと報じています。
そんななか、ロシアのメディアは、これまで無名だった男性がプーチン大統領の後継者に急浮上したと報じています。
9日に行われた、対ナチス・ドイツ戦勝記念日の軍事パレード。この時、至近距離で親しげに話す男性の姿が映し出されていました。
男性はプーチン大統領を気遣っているのでしょうか、手はプーチン大統領の腰に添えられています。
BAZAによりますと、この男性は大統領府の局長、ドミトリー・コヴァリョフ氏(36)。2人には共通の趣味があり、距離の近さは後継者ということを示唆しているといいます。
ロシアネットメディア「BAZA」:「コバリョフ氏のSNSにはアイスホッケーの写真がたくさんあります。彼はアイスホッケーという共通の趣味でプーチン大統領と出会った可能性がある」
これまでプーチン大統領もアイスホッケーに興じる姿が度々、報じられていました。
また、他のロシアメディアによりますと、コヴァリョフ氏はFSB(ロシア連邦保安局)とも深い関係を持ち、父親はガス会社大手「ガスプロム」の関連会社の最高経営責任者だといいます。
突如としてプーチン大統領の後継者に名前が上がったコヴァリョフ氏ですが、自身のSNSは9日以降、非公開にされているといいます。
●ウクライナ軍、軍事ドローン「バイラクタル」でプーチンが使っていたボート爆破 5/15
ロシア軍が2022年2月にウクライナに侵攻。ウクライナ軍はトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」を利用して侵攻してきたロシア軍に攻撃している。
トルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍の装甲車を上空から破壊して侵攻を阻止することにも成功したり、黒海にいたロシア海軍の巡視船2隻をスネーク島付近で爆破したり、ロシア軍の弾薬貯蔵庫を爆破したり、ロシア軍のヘリコプター「Mi-8」を爆破したりとウクライナ軍の防衛に大きく貢献している。
ウクライナ軍が上空からの攻撃に多く利用しているトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍侵攻阻止の代名詞のようになっており、歌にもなってウクライナ市民を鼓舞している。
そして2022年5月にはウクライナ軍は「バイラクタルTB2」で黒海スネーク島付近でロシア海軍のラプター級哨戒艇「Raptor-class boat (Project 03160)」を爆破した。このラプター級哨戒艇はプーチン大統領がロシア海軍を視察した際や海軍のパレードの時にも乗船していたこともあるということから欧米でも多くのメディアが報じており、英国のザ・サンは「Dramatic moment(ドラマチックな瞬間)」と伝えていた。
ウクライナ軍がトルコの軍事ドローン「バイラクタルTB2」を活用してロシア軍を多く攻撃している。そして爆破に成功するたびに上空からの動画をSNSで公開して世界中にアピールしている。このようなSNSや動画だけを見ていると、ウクライナ軍が優勢のように見えてしまう。だがこのようにドローンで攻撃に成功する前にロシア軍に上空で撃墜されてしまうことも多い。今回のラプター級哨戒艇の爆破も、以前にプーチン大統領も乗っていたボートが撃沈したことは「ドラマチック」かもしれないが、決してウクライナ軍が優位になっているわけではないようだ。
ロシア海軍のラプター級哨戒艇が爆破されたスネーク島は戦略的要衝でロシアが侵攻した初日に占領し、ウクライナ軍が空爆を続けている。スネーク島にいるウクライナ軍はロシア軍への降伏を拒否し続けており、ウクライナ軍が爆破したロシア海軍の艦隊「モスクワ」が接近してきて最後通告を突きつけた時に「ロシア軍艦、くたばれ!」と無線で返してウクライナで英雄視されていた。
トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいるが、バイカル社はその中でも代表的な企業である。軍事ドローン「バイラクタル TB2」はウクライナだけでなく、ポーランド、ラトビア、アルバニア、アフリカ諸国なども購入。アゼルバイジャンやウクライナ、カタールにも提供している。2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突でもトルコの攻撃ドローンが紛争に活用されてアゼルバイジャンが優位に立つことに貢献した。タジキスタンも購入を検討している。
トルコの軍事ドローンだけでなく、米国バイデン政権は米国エアロバイロンメント社が開発している攻撃ドローン「スイッチブレード」を提供。さらに「フェニックス・ゴースト」も提供する。英国も攻撃用の軍事ドローンをウクライナ軍に提供している。ロシア軍はロシア製の軍事ドローン「KUB-BLA」で攻撃を行っている。両国ともに軍事ドローンによる上空からの攻撃を続けている。軍事ドローンが上空から地上に突っ込んできて攻撃をして破壊力も甚大であることから両国にとって大きな脅威になっている。
両軍ともに攻撃や監視・偵察にドローンを活用しているが、ドローンは上空で撃破されたり、機能不全にされている。そのためウクライナ軍は各国に武器の提供も呼びかけている。
攻撃ドローンだけでなく監視・偵察用ドローンもウクライナ上空を多く飛行している。日本の防衛省もウクライナ軍に市販品の監視・偵察用ドローンを提供することを岸防衛大臣が明らかにしていた。今までの世界史の戦争でもここまでドローンが多く戦場で活用されているのは初めてだ。
●ロシア苦戦で習近平の対ロシア戦略は変わったか?―― 5/15
駐ウクライナの元中国大使の「ロシアは必ず惨敗する」という言葉がネットに拡散したことから、習近平はプーチンを捨てるだろうといった観測が見られる。そこで真相を究めたく、高齢の元中国政府高官を直撃取材した。
オンライン・フォーラムで「ロシアは必ず惨敗する」
中国国際金融30人フォーラム(CIF 30)と中国社会科学院国際研究学部がオンライン形式で「ロシア・ウクライナ危機は世界の金融情勢にどのような大きな変化をもたらしたか?それは中国にどのような影響を与えるか?中国はどのように対応すべきか?」をテーマとして、内部フォーラムを開催した。その中の元駐ウクライナ中国大使(2005年〜2007年)だった高玉生氏の発言が5月10日にCIF30のウェブサイトに公開されたのだが、彼のスピーチの部分だけが、すぐに削除されてしまった。
なぜなら、高玉生はそのフォーラムでが「ロシアは必ず惨敗する」という趣旨のスピーチを行ったからだ。しかし、削除された内容が香港系列の鳳凰網や、他の中国内の複数のウェブサイトに転載されたために、海外を含めた多くの人の知るところとなった。
スピーチの内容は相当に長いので、それをすべて書くわけにはいかないが、概ね以下のようなことを言っている。
1.そもそもソ連崩壊後のロシアは、常に衰退の一途をたどっている。プーチンのリーダーシップの下でロシアが復活したようなことを言っているが、それは全くの虚偽で、ロシアは崩壊前のソ連の衰退を継続しているだけだ。
2.ロシアの電撃戦の失敗は、既にロシアが敗退したことを意味し、軍事大国などと言いながら、実は1日数億ドルの戦費を負担する財政力などロシアにはない。
3.それでもロシアは会戦当初軍事力と経済力においてウクライナに勝っていたが、ウクライナの抵抗とウクライナに対する西側諸国の巨大で継続的かつ効果的な支援により、ロシアの有利さは相殺された。ウクライナは欧米の連続的に支援により、兵器技術と装備、軍事概念とハイブリッドな戦闘態勢において、ロシアを圧倒している。
4.ロシアが最終的に敗北するのは時間の問題だ。
5.もともとウクライナの世論は親露派と親欧米派に分かれていたが、2014年のロシアによるクリミア併合以降は、親欧米感情が高まった。
6.ウクライナは主権と領土保全の問題でロシアに譲歩するつもりはなく、戦争によりウクライナ東部とクリミアを回復することを決意している。というのも、米国、NATO、欧州連合が、プーチンを打ち負かす決意を繰り返し表明しているからだ。米国は「弱体化し孤立したロシア」を目指す決意を固めている。
7.この目標を達成するために、米国は第二次世界大戦後初めてウクライナのレンドリース法を可決した。さらに重要なのは、米国、英国、その他の国々の戦争への直接参加が深まり、その範囲が拡大していることだ。これはロシアが完全敗北して罰せられるまで戦争を続けるという決意の表れだ。
8.ロシアは弱体化し、重要な国際機関から追放される可能性があり、国際的な地位は大幅に低下する。ウクライナはヨーロッパの家族の一員となり、他の旧ソビエト諸国も非ロシア化をする可能性が高い。
9.日本とドイツは、第二次世界大戦の敗戦国であるにもかかわらず、ロシア・ウクライナ紛争を通して軍備開発を加速させ、政治的権力の地位を目指してより積極的に努力し、あたかも戦勝国として衣を換えて西側陣営に入っていく。
10.(ウクライナ戦争後)米国やその他の西側諸国は、国連やその他の重要な国際機関の実質的な改革を積極的に推進する。改革が阻止されれば、新たな組織を設立していく可能性がある。(第二次世界大戦の戦勝国と敗戦国の線引きではなく)いわゆる「民主的で自由なイデオロギー」の国であるか否かという線引きで「ロシアなどの一部の国」を除外する可能性がある。(概要は以上)
高玉生のスピーチの中で、最も問題となるのは、最後に太文字で示した文言だ。特に「ロシアなどの一部の国」の「など」が、「中国」を指していることは明らかだろう。
CIF30は何を考えているのか。こんな内容を公開して、削除されない方がおかしいだろう。
日本のメディアは「習近平がプーチンを見限ったか?」と大はしゃぎ
この肝心の「ロシアなど」の「など」があることには目を向けないで、日本のメディアは「中国、党内分裂か」とか「習近平がプーチンを見限ったか?」などと大はしゃぎしている。というのも、情報源としてアメリカの元外交官のデービッド・カウヒグが中国のニュースを英訳してブログで書いた内容を二次情報として用いて、5月12日にNEWSWEEKが<「大国ロシアは過去になる」中国元大使が異例の発言>を発表したので、これは「三次情報」になる。こ三次情報では、どこまでが高玉生の発言で、どこまでがデービッド・カウヒグ自身の思惑なのか、さらには、どこがNEWSWEEKの執筆者であるジョン・フェン氏の見解なのかが区別しにくい形で書いてあるため、全体として、あたかも全てが高玉生のスピーチであるかのような印象を与える。
当然のことながら、日本のメディアは「四次情報」として日本人好みに書いてあるので、「大はしゃぎ」したくなるだろう。幾重にもフィルターが掛かり、結果、「ロシアの苦戦を見て、習近平が遂にプーチンを見捨てた」、「中国、遂に党内分裂か」となってしまったわけだ。
そうでなくとも筆者としては5月10日のコラム<米CIA長官「習近平はウクライナ戦争で動揺」発言は正しいのか?>で、アメリカが「習近平が動揺している」と言いたくてたまらないため、この方向の世論誘導が成されていると警告したばかりだ。習近平の【軍冷経熱】という対ロシア戦略を直視しないと、日本が外交方針を誤り、日本に不利益をもたらすことを懸念したからである。
元中国政府高官を直撃取材_ロシア軍苦戦で習近平の対ロシア戦略は変わったか?
そこで、もう相当に高齢の、元中国政府高官を直撃取材する決心をした。
メールは全て検閲されているだろうことは分かっているし、北京のこの古い友人は、私に「しばらくは中国に来ない方が身のためだろう」と忠告してくれた人であり、「いつもデリケートな問題(政治問題)を聞いてくるので、そろそろメールを出すのをやめてくれ」と、言いにくいことを言ってしまった人物でもある。
それでもと、スマホから連絡したところ、受けてくれた。
ともかく「ロシア軍苦戦で習近平の対ロシア戦略は変わったか?」、それだけ答えてくれればいいので、教えてくれと、切羽詰まって頼んだ。
すると、久々の音信に喜び、まるで堰を切ったように、一気に思いを吐き出してくれた。Q&Aの形ではあったが、もう分類するのもまどろこしく、長くもなるので、彼の回答を順不同で羅列する。
一、習近平の対ロシア戦略は微塵も変わらない。そもそも、友人が窮地に陥っているときに見捨てるようなことをしたら、それは必ず本人に跳ね返ってくる。これは人類の原理だ。中露はともに、アメリカによって制裁を受けている国だ。ロシアを支えてこそ、中国の力が温存されるのであり、もしロシアを見捨てたら、それは中国の弱体化にもつながる。中国は絶対に、そのような愚かなことはしない。
二、中国は発展途上国を率いている大国だ。彼らは国連における対露非難決議に関しても、アメリカからの制裁に関しても、中国と同じ立場に立って否定してくれた。だというのに、ロシアが苦戦しているからと言って中国が動揺したら、中国を信じてついてきてくれている発展途上国はどうなるのか。そのような無責任なことをしたら、中国は終わる。したがって習近平の対ロシア戦略は、絶対に揺るがない。
三、ただし、習近平は最初から、ロシアの軍事行動に関して賛同の意を表していない。「反対だ」というストレートな言葉は使ってないが、「賛成ではない」という意思表明は最初からしている。たとえば2月25日、ロシアが軍事侵攻をした翌日に習近平はプーチンと電話会談をしたが、そのときに習近平はプーチンに「話し合いによる解決を」とストレートに言っている。だからこそ2月28日からウクライナとロシアの間の停戦交渉が始まったじゃないか。
四、ゼレンスキーも途中で「NATO加盟を諦める」と表明したので、停戦交渉がまとまり始めたら、突然、アメリカがウクライナに対する激しい軍事支援を始めて、停戦を阻止する方向に動き始めた。アメリカは停戦して欲しくないのだ。ロシアを叩き潰すまで戦いを続けたい。
五、トランプはNATOなど要らないと主張して、NATOを脱退しようとさえした。しかしバイデンは逆だ。NATOを使って世界制覇を続けていたい。バイデンはNATOを使って世界各地で戦争を吹っ掛けていたいのだ。
六、実は中国とウクライナは友好的で、多くの中国人はウクライナが好きで、紛争が始まった最初のころは、ウクライナを応援する人とロシアを応援する人が五分五分だった時期さえある。ところがアメリカが軍事支援を強化し始めてから、中国の民心は突然変わってきた。ウクライナの味方をしているのがアメリカなら、ウクライナもアメリカを同じように中国にとっては「敵」になる。
七、アメリカは自分よりも上に出る国を潰したいという基本的な方針がある、日本だって、かつて半導体は世界一で、アメリカの上を行っていた時期があった。中国人はみんな日本に憧れたものだ。ところがアメリカは、同盟国の日本を、半導体が強いからという理由で叩きのめしたじゃないか。忘れたのか。忘れてないだろう?いま日本の半導体がダメになったのはアメリカのせいで、韓国や台湾が強くなっていった。
八、それと同じことで、アメリカはロシアと中国を潰したいのだ。ロシアの軍事力と中国の経済力を叩きのめしたい。ロシアの次は中国であることを、中国は知っている。しかし忘れないでほしい。中国はロシアではない。ソ連はアメリカの手に乗って滅んだが、中国は滅びなかった。今回も同じだ。中国はそんなに愚かではない。アメリカの手には乗らない。
九、高玉生が何を言ったか、誰も気にしてない。いろんな意見があるのは良いことで、彼の言論もCIF30の公式ウェブサイトから削除されただけで、中国の他のウェブサイトにはいくらでも転載されている。14億人の内の一人が、「ロシアは惨敗する」と言ったからって、それが何だというのか。彼は中央には如何なる力も持っていない退官した高齢の公務員に過ぎない。元ウクライナ大使だからと言って海外が特別視するのは適切でない(筆者注:そう言えば日本にも、高玉生とピッタリ同じく2005年からウクライナ大使になっておられた方もいるようで、たしかに元ウクライナ大使だったからということで特別視するのは適切でないかもしれない)。ただ、高玉生は最後に「ロシアなどいくつかの国が」と、「など」を付けたのは不見識だろう。
十、最後に言っておくが、私自身、ロシアの軍事侵攻には反対だ。賛成していない。バイデンやNATOのやり方は悪辣だが、しかし、それでも、ロシアには他の選択があったはずだ。だからと言って、私はロシアを支援しないわけではない。ロシアが潰されないように支援する。それは中央の姿勢に一致していると私は思っている。
以上だ。なお、高玉生の5番目の発言に関して特別に聞いたが、「あの時期、盛んにアメリカが親欧米派を増やそうと煽っていたことに気が付かない程度の人間だということだ。そういう人はいくらでもいる。気にするな」と切り捨てた。長くなりすぎたので、ここまでにしておこう。
●インド、価格上昇受けて小麦輸出を禁止 生産量は世界2位 5/15
インドの外国貿易担当当局幹部は15日までに、ロシアによるウクライナ軍事侵攻を受け小麦価格が世界的に上昇しているとして、小麦の輸出を即座に禁止するとの声明を発表した。
価格上昇を踏まえたほか、インドや弱い立場にある近隣国の食糧安全保障を確保するための輸出禁止と位置づけた。ただ、撤回出来ない信用状が既に発行された場合や、食糧安保で小麦への依存度が大きい諸国への輸出をインド政府が認めた場合などは対象外とした。
インドは小麦の生産量が世界第2位。多くは国内の消費向けとなっている。
農業関連データ分析企業「グロ・インテリジェンス」によると、小麦生産でウクライナとロシアの小麦生産量の合計は世界全体で約14%を占める。
今年2月下旬にウクライナ侵攻が発生して以降、黒海周辺地域からの小麦輸出は激減。世界各地の買い手は、供給不足への懸念を緩和させるためインド市場に頼る事態ともなっていた。
●「プーチンは偏執症」「ロシアをドブに突き落とす」―― 独裁者の「末路」 5/15
「プーチンとその取り巻きは戦後、法廷で裁かれる運命だ。自分たちを正当化したり、敗戦後に逃げたりすることはできないだろう」これはロシア政府系のニュースサイト「Lenta.ru」に掲載された、所属ジャーナリスト2人による記事の一部である。
こうしたプーチン批判の記事は合計30本余りに及んでおり、「政府系のジャーナリストが、ついに反プーチンの具体的な動きを見せたことに、海外からは称賛の声が上がっています。ロシア議会では今年3月に、ウクライナ侵攻に関する『ニセ情報』を広めたとみなされた場合は最大15年の禁固刑や罰金刑を科す、という法案が成立しました。ジャーナリスト2人は政治亡命するつもりでいるようです」(国際ジャーナリスト)
この勇気あるジャーナリストは他にも、「プーチンは偏執症の独裁者。彼は去らねばならない。無意味な戦争を始め、ロシアをドブに突き落とすつもりだ」などと書き、読者に対しても、「恐れるな、沈黙するな。抵抗せよ。あなたは1人ではない。ウクライナに平和を」と呼び掛けた。
先の国際ジャーナリストが言う。「プーチン独裁政権は徹底した情報統制を行い、国民をプロパガンダに染めてきました。いまだ戦争の実態を知らず、ロシアは素晴らしいことをしていると洗脳されている国民は大多数に及んでいます。当然ながら今回の反プーチン記事も、ロシア政府によって即座に削除されました。が、今後こうした『身内』からの暴露、発信が再び行われ、国民の目に触れるようになれば、ようやくロシア国民は真実を知ることになるかもしれない。そこでプーチン政権撲滅のうねりが生まれるかどうかです」

 

●東部要衝からロシア軍追い出しへウクライナ軍反撃、攻防続く…米分析 5/16
米政策研究機関「戦争研究所」は14日、ウクライナ軍が東部ハルキウ(ハリコフ)州の要衝イジュームからロシア軍を追い出すための反撃を行う可能性が高いとする分析を示した。一方、露軍が州都ハルキウ周辺で爆撃を続けているとの情報もあり、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)を巡る両軍の攻防が続いている模様だ。
露軍はイジュームを、ドネツク州に北方から進軍し、制圧地域の拡大を図るための拠点としてきた。ハルキウ州知事は14日、ウクライナ軍がイジュームに向けて「反撃に転じた」と明かした。ウクライナ国営通信は15日、イジューム方面で戦闘が続いていると報じた。ハルキウ市内から露軍を押し戻したとみられるウクライナ軍は、南方のイジュームに向けても反転攻勢に出ている可能性がある。
一方、戦争研究所は14日、露軍はロシアからハルキウ州の北に入り、イジュームに至る補給路を維持しようとしているとの分析を示した。ハルキウ市長は14日、英BBCに「市内では5日間、砲撃がなかった」と露軍の撤退を示唆したが、地元当局は15日、ハルキウとロシア国境の間にある複数の集落などで、露軍による砲撃やヘリコプターからの空爆が相次いだと明かした。
13〜14日にハルキウの北西や東方の幹線道路沿いの都市が爆撃にあったとの報道もある。ルハンスク州知事は15日、SNSで、同州のセベロドネツクで、露軍が病院や住宅、化学関連工場を砲撃し、民間人9人が負傷したと明らかにした。
また、ウクライナ国営通信は西部リビウ州の知事の情報として、15日午前に州内の軍事関連施設に露軍のミサイル4発が撃ち込まれ、施設が全壊したと伝えた。 
●ウクライナ軍 北東部で攻勢 ロシア 地上戦力3分の1喪失か  5/16
ロシア軍を国境まで押し返す動きが見られる中、ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が行き詰まっていると強調した。一方、イギリス国防省は、ロシア軍について、地上戦力の3分の1を失った可能性が高いと分析した。
ウクライナのゼレンスキー大統領が、新たに公開した動画。ウクライナのゼレンスキー大統領「ロシア軍は行き詰まっていることを認めたくないようだ」今、ウクライナは、北東部で攻勢をかけている。これは、ロシア軍を国境まで押し返したとするウクライナの兵士。国境に、国旗カラーの棒を立て、アピールした。イギリス国防省は、ロシア軍が侵攻以降、地上戦力の3分の1を失ったと分析。
侵攻が失速する中、ヨーロッパでは、ロシアの警戒網がさらに広がっている。ロシアの脅威が高まる中、ヨーロッパでは、歴史的な決断が行われた。ロシアと国境を接する北欧フィンランドが、15日、欧米の軍事同盟、NATO(北大西洋条約機構)への加盟を申請すると正式に表明した。フィンランドのマリン首相「ロシアと国境を接していて、われわれだけでは、これ以上、平和な未来を期待することはできない」またスウェーデンでも、加盟に反対していた与党が方針を変えて、加盟支持を表明した。
北欧2カ国が、NATO加盟に動いたことにロシアは反発していて、緊張がさらに高まるとみられる。
●スウェーデン NATO加盟申請を決定 ロシアのウクライナ侵攻受け  5/16
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、NATO=北大西洋条約機構への加盟申請を検討していた北欧のスウェーデンは、加盟を申請することを決定しました。近く、隣国のフィンランドとともに加盟を申請するとしています。
スウェーデンは、軍事的に中立の立場をおよそ200年にわたってとり続けてきましたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けNATOへの加盟申請を検討していました。
政府は16日、議会の審議を経て臨時の閣議を開き、ロシアの軍事侵攻によって安全保障の環境は根本的に変わり、スウェーデンの安全を守るにはNATOへの加盟が最善の道だとして、加盟を申請することを決めました。
記者会見でアンデション首相は「スウェーデンがNATOに加盟すれば、私たち自身の安全保障が強化されるだけでなく、バルト海周辺やNATO全体の安全保障にスウェーデンが寄与することもできる」などと説明しました。
そして、NATOへの加盟申請を行うことを明らかにしている隣国フィンランドとともに、近く申請を行う計画だとしました。
スウェーデンとフィンランドは冷戦終結後、EU=ヨーロッパ連合に加盟する一方で軍事的には中立を保ってきましたが、両国がNATOに加盟することになればヨーロッパ全体の安全保障の枠組みが大きく変わることになります。
●ウクライナ軍東部で反撃か ロシアは北欧2か国のNATO加盟けん制  5/16
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナでは東部ハルキウ州でウクライナ軍が国境までロシア軍を押し戻したと伝えられるなど、反撃を強めているものと見られます。一方、NATO=北大西洋条約機構をめぐっては北欧のフィンランドに続いてスウェーデンも近く加盟の申請を決定する見通しで、これに対しロシア側は「重大な過ちだ」などと両国の動きを強くけん制しています。
ウクライナではロシア軍が掌握を目指す東部で激しい攻防が続いていて、ロシア国防省は16日にウクライナ軍の弾薬庫や指揮所などをミサイルで破壊したなどと発表しました。
これに対してウクライナ側は東部ハルキウ州の知事が16日、地元メディアに「ウクライナ軍の部隊がロシアとの国境に到達し、領土を取り戻しつつある」と述べるなど、反撃を強めているものと見られます。
ゼレンスキー大統領は15日に公開した動画で「占領者たちは行き詰まり、いわゆる“特別軍事作戦”がすでに失敗していることをいまだに認めようとしない。しかし、ウクライナ国民が現実を理解させるときが必ず来るだろう」と述べ、徹底抗戦する姿勢を改めて強調しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は15日に「ロシア軍はウクライナ軍の部隊を大規模に包囲するという目標を放棄し、東部ルハンシク州の掌握を優先しているようだ」として、ウクライナ軍の反撃を受ける中、ロシア軍がルハンシク州の掌握に重点を置こうとしているという見方を示しました。
一方、ロシア軍の侵攻を受け北欧各国によるNATO=北大西洋条約機構への加盟申請の動きが活発になっていて、15日に申請を表明したフィンランドに続いてスウェーデンも近く申請を決定する見通しです。
これに対しロシア外務省のリャプコフ外務次官は16日、モスクワで記者団に「重大な過ちだ。状況は劇的に変化するだろう。われわれが我慢するという幻想を抱いてはならない」と述べ、両国の動きを強くけん制しました。
●ウクライナは「この戦争に勝利できる」 NATO事務総長 5/16
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は15日、ビデオ通話を通じた記者会見で、「ウクライナはこの戦争に勝利できる」と述べた。
ストルテンベルグ氏は「ロシアのウクライナでの戦争はロシア政府が計画した通りには進んでいない」と指摘。ウクライナ首都キーウ(キエフ)の奪取に失敗したほか、ロシア軍はハルキウ(ハリコフ)周辺から撤退し、ドンバス地方での大規模な攻勢は停滞しており、戦略的な目標を達成していないとの見方を示した。
ストルテンベルグ氏は「ウクライナの人々は勇敢に自国を防衛している。ウクライナの人々が自国を守れるよう、同盟国が関与し、数十億ドルの安全保障上の支援をウクライナに送り届けた」と述べた。
●ロシア主導の軍事同盟 首脳会議始まる 欧米をけん制か  5/16
ロシアが主導する軍事同盟の首脳会議が、モスクワで始まりました。
ロシアのプーチン大統領としては、ウクライナ情勢をめぐって国際社会で孤立を深めるなか、加盟国の結束をアピールし、欧米をけん制するねらいがあるとみられます。
ロシアが主導する軍事同盟のCSTO=集団安全保障条約機構は、条約が初めて調印されてからことしで30年となり、これにあわせた首脳会議が16日、ロシアの首都モスクワで始まりました。
会議には、ロシアをはじめ、旧ソビエトのベラルーシ、カザフスタン、タジキスタン、キルギス、それにアルメニアの、6か国の首脳が全員出席しています。
プーチン大統領は首脳会議の冒頭で演説し「われわれがモスクワに集まったのは条約が結ばれて30年たったからだ。この組織は、ポスト・ソビエトの世界で、安定化という非常に重要な役割をになっている。この地域の情勢に対して、われわれの能力と影響力がますます高まることを願う」と述べ、加盟国の結束を確認するとともに、今後も同盟としての影響力を拡大したい考えを強調しました。
またベラルーシのルカシェンコ大統領は「西側が、ベラルーシやロシアに対して全面的なハイブリッド攻撃を仕掛けている。ロシアを最大限に弱体化させるため、ウクライナでの紛争を長引かせようとしている」と欧米を批判しました。
CSTOの首脳会議が開かれるのは、ことし2月、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから初めてです。
ロシアに対する欧米の制裁が強まり、国際社会で孤立を深める中、プーチン大統領としては、加盟国の結束をアピールし、欧米をけん制するねらいがあるとみられます。
●性的暴行被害を受けたウクライナ女性を待ち受ける、更なる苦しみとは? 5/16
ウクライナ戦争が始まって以来、多くの難民女性が性的暴行の被害を受けている。妊娠しても避難先の国で妊娠中絶できない女性を非営利団体が支援している。最優先で取り組んでいる国の一つがポーランドだ。
ウクライナ戦争が勃発して以来、何百万人ものウクライナ国民が近隣国に避難している。そうした中でウクライナ女性に対するレイプや性的暴行の報告は増えるばかりだ。
特に妊娠中絶を禁止するポーランドでは苦境に立たされる女性が多い。ポーランドに到着する前にロシア軍、もしくは弱い立場に付け込む地元の人に性的暴行を受けた女性たちには、祖国が悲惨な状態に陥ったことや助けてくれるはずの人の不誠実な行為だけでなく、更なる苦しみが待ち受けている:ポーランドでは中絶することがほとんど不可能なのだ。
この国で中絶が認められるのは3ケースのみ。近親相姦、母親の命が危ぶまれる妊娠、そしてレイプ。しかしレイプが成立するのは取り調べが行われた場合のみであり、ほとんどの場合、被害者に不利な結果をもたらす。
認めてもらえないレイプ事件の数々
ウクライナのメディア「ザボロナ」に掲載された一人のウクライナの若い女性の話が、仏リベラシオン紙に紹介され、暴行を受けた後もつらい道のりが待っていることが明らかになった。「先月、戦争から逃れてきた19歳のウクライナ女性は49歳の男性からシェルターを提供されたが、その後レイプされたと届け出た」と同紙は述べた。「警察と検事は証拠を集め、メディカルチェックを行い、取り調べを行った。一週間後、女性による強い抵抗はなかったので暴行ではないと裁判所は判決を下した。裁判官はこの事件を強姦ではなく、支配的状況における性的虐待に変更した」
このような状況を鑑みて世界で多くの団体が警鐘を鳴らし、被害に遭った女性たちの支援に乗り出している。AFP通信が報じたように、NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチは4月29日に「人身売買、暴力やレイプの被害者」であるウクライナ女性を守るための監視と防止策を「緊急に」強化する必要があると警告した。非営利団体のWomen On Webは2005年以来、妊娠中絶に制限をかける法律がある200近い国に暮らす女性を支援し、12週間までの妊娠にピルキットを提供している。ロシアの侵略が始まって以来、この団体はポーランドにおける支援にさらに力を入れている。中絶キットは無料の遠隔診察後に配送されるようになっている。
同様にAFP通信によると、Abortion Without Bordersという6つのNGO(ポーランドのNGOや国際的組織を含む)で構成される支援団体は、3月初頭から4月中旬の間にポーランドに避難した267名の女性の中絶の支援をしたと報告している。経口中絶薬を提供したケースが大半だ。
2880個のアフターピル
一方、フランスや日本が加盟する国際家族計画連盟(IPPF)は、約2880個のアフターピル、妊娠検査薬とHIVの治療薬が入っているDIYレイプキット、そして妊娠24週目まで使える中絶薬をウクライナに送ったと英ガーディアン紙が報じた。同紙によると、それまでウクライナでは緊急避妊薬を利用できたが、戦争で流通が断たれ不足状態となっているそうだ。
仏リベラシオン紙はフランス国内でもAssociation de defense de la democracie en Pologne(ポーランドの民主主義を守る団体)などで支援活動が始まっていると報じた。同紙によればこの団体は「フランスの病院と連携し、難民の受け入れの手伝いをしている」とのことで、すでにパリ10区にあるサン・ルイ病院と提携を結んだそうだ。「妊娠9週目以上で中絶を希望している難民女性のため」だ。
●プーチン氏は血液のがん、ザ・タイムズ報じる… 5/16
ロシアのプーチン大統領が病気を抱えているとの見方が相次いでいる。露軍の最高司令官でもあるプーチン氏の健康状態が悪化しているとすれば、今後のウクライナ侵攻作戦に影響する可能性がある。
ウクライナ国防省の情報機関「情報総局」トップのキリル・ブダノフ局長は14日放映の英民放スカイ・ニュースのインタビューで、プーチン氏に関し「心理的にも肉体的にも非常に状態が悪い」と指摘し、「がんやその他の病気を患っている」との分析を明かした。
ウクライナで苦戦が続いているため、露国内では政権転覆を図る「クーデター計画が進行している」とも主張し、「止められない動きだ」と語った。情報戦の一環として「プーチン氏重病説」を流しているとの見方については否定した。
英紙ザ・タイムズも14日、米誌を引用し、プーチン氏が「血液のがん」を患っていると報じた。ザ・タイムズが引用した米誌「ニュー・ラインズ」は、プーチン政権に近いオリガルヒ(新興財閥)の発言として、プーチン氏が2月24日のウクライナ侵攻開始前にがんの手術を受けたと伝えた。
プーチン氏の健康状態を巡っては、甲状腺の病気や、パーキンソン病を疑う報道も続いている。 

 

●ウクライナ軍 マリウポリの製鉄所 “部隊の戦闘任務が終了”  5/17
ウクライナ東部の要衝マリウポリで、ロシア軍が包囲し、ウクライナ側に投降を迫っていた製鉄所について、ウクライナ軍は戦闘任務を終了したと明らかにしました。多くの兵士らが親ロシア派が支配する町などに移送されたということで、マリウポリの攻防戦は大きな節目を迎えています。
ウクライナでは、ロシア軍が掌握を目指す東部で激しい攻防が続いていて、要衝のマリウポリのアゾフスターリ製鉄所では、ロシア軍が包囲し、繰り返し投降を迫る中、ウクライナの部隊の抵抗が続いていました。
こうした中、ウクライナ軍の参謀本部は日本時間の17日朝、製鉄所にとどまっていた部隊の戦闘任務が終了したと明らかにしました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、新たな動画を公開し、製鉄所について「マリウポリの兵士たちを救うための作戦がはじまった」と明らかにしました。
そのうえで「兵士の中には重傷を負っている者もいる。英雄たちが生きることがウクライナにとって何よりも必要だということを強調したい」と述べ、兵士の避難を急ぐ考えを示しました。
また、ウクライナのマリャル国防次官は16日「53人の重傷者がアゾフスターリ製鉄所から医療施設に搬送され、211人が避難ルートを通じて、移送された」と述べ、兵士の移送にあたって、ウクライナ軍が拘束したロシア軍の捕虜との交換が行われる可能性も示唆しました。
マリャル国防次官によりますと、重傷の兵士が搬送されたのは、東部ドネツク州にある親ロシア派の武装勢力側の医療施設だということです。
ロイター通信は製鉄所の兵士がバスで避難し、ドネツク州に到着した様子だとする映像を配信し、映像には、ロシアの軍事侵攻を支持するシンボルとなっている「Z」の文字が記されたバスで負傷した兵士が運ばれる様子が映っています。
一方、マリウポリのボイチェンコ市長は16日、NHKのオンラインインタビューに応じ、市全体の状況について「マリウポリのおよそ9割がロシア軍に占領されていて、今も10万人以上の市民が取り残されている。市の近郊に避難した人に対してロシア軍は住宅の提供を持ちかけるなどして、市内に呼び戻そうとしている」と述べ、多くの市民の避難が依然として進んでいない実態を明らかにしました。
そのうえで「マリウポリの市民をこの地獄から解放し、命を救えるように避難ルートの設置が必要だ」と述べ、人道回廊と呼ばれる避難ルートを設置して市民の避難が進むよう国際社会に協力を求めました。
ロシア軍が掌握を目指して攻勢を強めていた製鉄所で、ウクライナ側が戦闘の終了を発表したことで、マリウポリをめぐる攻防戦は大きな節目を迎えています。
●EU・米、食料供給混乱への対応で協力へ ウクライナ戦争受け 5/17
欧州連合(EU)と米国は16日、ロシアのウクライナ侵攻によって生じている食料やコモディティーの供給混乱への対応で協力することで合意した。
共同声明で、食料の輸入に関し特定の国への過度な依存低減を目指し、世界食料生産の回復力強化に取り組む方針を明示した。
ウクライナからの穀物輸出の減少が価格高騰を招き、インドによる小麦輸出停止の動きなどによって、状況は悪化している。
欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)は、食料輸出の制限措置などに対抗するため、EUと米国が、6月の世界貿易機関(WTO)などの国際会議で協力していく方向で一致したと明らかにした。
ウクライナから穀物を輸出するために、代替の陸路を模索することも重要とした。
また、EUと米は、「信頼できない供給元」への依存を減らし、ロシアから主要品の供給が突然停止した場合、影響軽減に向け協力することで合意した。
●戦闘機時代の終焉 : 戦争の歴史を書き換えたウクライナ軍 5/17
ロシア軍のウクライナ侵攻当初は、ロシア空軍戦闘機等(戦闘機・攻撃機)による爆撃や対地攻撃の映像がテレビに流れていた。ウクライナ空軍戦闘機も応戦していた。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領も米国大統領に戦闘機の供与を依頼していたが、現在までに戦闘機の供与はない。その代わり、米国は、スイッチブレードやフェニックス・ゴーストなどの自爆型無人機を供与した。ゼレンスキー大統領は最近では、戦闘機を強く要求していないようだ。その理由は、ウクライナ軍が自爆型無人機や無人攻撃を多用し、ロシア軍機甲戦力を破壊できているからであろう。一方、ロシア軍戦闘機の活動も低調になり、無人機の活動が活発になっている兆候がある。戦史から見て、これまで戦闘機が航空優勢を確保してきた。航空優勢がなければ、地上軍も艦艇も、戦闘機による攻撃に撃破されてしまっていた。それが今、航空優勢を獲得していなくても、敵の機甲部隊や兵站部隊を狙って攻撃できているのだ。戦場の様相がこれまでと、大きく変化しているようだ。ロシア軍の防空システム、戦闘機等、ヘリ、無人機および艦艇の損失の推移を分析し、ウクライナでの国土内および海上での航空戦闘の実態、そしてその実態から今後予想される航空作戦について考察する。
1.防空システムの損失
まず初めに、防空システムの損失を最初に列挙したのには、理由がある。現代戦では、防空システムが存在するのかどうかで、戦闘機等やヘリの戦い方が全く異なる。端的に言えば、防空システム上空を飛行すれば、撃墜される可能性があり、多くの制約を受けるということだ。防空システムの損失は、地上軍の攻勢作戦に連動して活動するため、発見されて損失が増加する。ロシア軍の防空システム(ミサイルとその発射機、レーダー、指揮統制装置を含む)の損失は、侵攻開始から5月11日までの間に、87基であった。損失の推移を見ると、侵攻2週目が最も多く、全域で最大の攻勢をかけた週(3月17日の週)が2番目に多い。次に、東部・南部の攻勢、ロシア軍再編成後の攻勢以降の週に損失が多い。損耗は合計で約8%である。投入された第一線で戦闘する戦車・装甲車・火砲等の損耗17〜38%に比べると、8%の損耗ははるかに少ないと言える。つまり、防空システムは敵に発見されずに残存している可能性が高いということだ。第一線から離隔していて発見されにくく、またウクライナ空軍の戦闘機数が少ないこともあり、残存しているようだ。防空システムが残存するということは、戦闘機等やヘリが飛行すれば、撃墜される可能性が高いということである。ウクライナ軍の防空ミサイルシステムも、ロシア軍防空システムと同様の理由により、残存しているだろう。つまり、両軍とも防空システムが残存していて、敵機が飛来すれば防空ミサイルを発射し撃墜することができる。そのことにより、両軍の戦闘機・ヘリの活動が、制限されたのだと考える。
2.ロシア軍戦闘機等の損失
ロシア軍の戦闘機等は、侵攻からの5週間には損失が多く、毎週約20〜30機であった。映像などから判断すると、戦闘機等は作戦当初、防空兵器が残存していたにもかかわらず攻勢に出たために、損失も多かった。空軍機の活動は、本来は侵攻作戦を成功させるために、大々的に攻勢に出たときに、活動も活発化し、損失も当然増加するはずだ。だが、今回、空軍機の損失は攻勢に出る・出ないに関係してはいないようだ。4月以降の損失は、徐々に減少傾向にあり、特に4月21日の週以降は、再編成後に総攻撃を開始したにもかかわらず、損害が減少しているからだ。侵攻開始から5週目までは、ロシア軍戦闘機等の損失は多く、活動は活発であった。だが、その後損失が徐々に少なくなり、活動は低調になった。それはなぜか。侵攻当初には、航空攻撃を果敢に実施したことで、防空ミサイルから撃墜された戦闘機等が多かった。侵攻6週目からは、防空ミサイルの脅威を深刻に受け止めて、その被害を避け、活動を制限したため、損失が減少したのだと考える。
3.ロシア軍ヘリの損失
ロシア軍ヘリは、侵攻の1〜2週間に80機という最も多い損失を出した。ウクライナの首都キーウ北部の空港に対し、空挺兵が輸送機から落下傘で降下して攻撃する空挺作戦や特殊部隊がヘリで降着して攻撃するヘリボーン作戦で、多くのヘリが使用され、この時に多くの被害が出た。次には、ウクライナ全域で攻勢をかけた3月17日の週に40機という2番目に近い損害を出した。ヘリは攻勢作戦の支援に運用されたために、2番目に多い損失が出た。それ以降は、5から10機で、あるいは0機で、活動は低調であったようだ。特に、攻撃ヘリは、地上軍の作戦に連携して、またヘリボーン作戦に運用されているはずだ。侵攻開始の2週間と全域攻勢の1週間に運用され、多くの損失が出たことは、戦術的には当然のことである。ところが、これらの作戦において、ウクライナ軍の防空ミサイル、特に携帯対空ミサイルによる大きな損害を出してしまった。そして、4月21日からの再編成後の攻勢作戦では、運用される機会が少なくなり被害が少なくなった。
4.ロシア軍無人機の損失
無人機の損失の推移は、戦闘機等やヘリのものと大きく異なっている。侵攻当初は被害が少なく、全面攻勢の時には2週間にわたり、それぞれ約35機の損失が出た。キーウ正面からの撤退もあり、活動は低調で、損失も少なかった。その後の再編成後の攻勢では、無人機の運用が多くなり、損害も増加した。無人機の損失は、戦闘機等やヘリの損失が多きときは少なく、戦闘機やヘリの損失が少なくなった時には増加している。無人機の損失の推移は、戦闘機等と真逆になっているのだ。
5.ロシア軍艦艇の損失
ウクライナ軍の反攻作戦で新たに注目されるのが、クリミア半島の奪回とアゾフ海と黒海の航行の自由を獲得することだ。そのためには、黒海艦隊の艦艇を撃破することが必要になる。特に、大型艦のフリゲート艦4隻、揚陸艦3〜5隻および500トンクラスのミサイル艇約20隻だ。ウクライナ軍は、陸上作戦を実施しつつ、海上の艦艇を撃破することも並行して実施している。これまで、ロシア黒海艦隊の12隻(旗艦モスクワ1隻、アリゲーター級揚陸艦1隻を含む)が、ウクライナ軍の無人攻撃機と対艦ミサイルによって、撃破されている。現在もロシア軍の艦艇が、1週間に1〜2隻撃破されている。今後、黒海で活動する艦艇、あるいはセバストポリ港に停泊する艦艇を攻撃するには、ウクライナの基地から300〜400キロの射程が必要になる。対艦ミサイルでは届かない距離だ。したがって、バイラクタル無人攻撃機やフェニックス・ゴースト自爆型無人機が海上作戦の命運を分けることになるであろう。セバストポリ港も射程に入ることで、この港への攻撃の可能性も出てくる。
6.今後は無人機主体の航空作戦に
今回のウクライナ上空での空中作戦では、戦闘機(ステルス性能がない)が十分に能力を発揮ができなかった。性能が良い大型の地対空ミサイルや携帯対空ミサイルが戦場に残存していることで、戦闘機やヘリは自由に飛行することができなかったからだ。自由に飛行できる戦闘機は、ステルス性能を保有する戦闘機だけになった。なぜか不思議なのだが、ロシア空軍はステルス戦闘機を投入していない。ウクライナ軍も、ロシア軍は侵攻1か月後には防空ミサイルが存在する空域では、戦闘機が自由に活動できないことに気づいた。一方で、特にウクライナは、米国から供与された自爆型無人機が戦闘機と同じ、いやそれ以上に能力を発揮することに気づいた。さらに、戦闘機が撃墜されてパイロットが戦死することもない。価格も大幅に安価である。これからの航空作戦は、戦闘機等への期待は少なくなり、逆に小型から大型の各種能力を持った攻撃型無人機、自爆型無人機に大きな期待が寄せられ、主役の座を占めることになろう。海上を移動する艦艇への攻撃、敵基地攻撃にも最適の兵器になるだろう。特に、敵基地を攻撃する場合、無人機が敵基地に接近して重要目標を捜索し、その後ミサイルを発見して、直ちに攻撃することができる。日本には、今後、最も必要となる兵器だ。 
●ウクライナ戦争がアフリカの食糧危機を直撃する理由 5/17
ロシアのウクライナ侵攻によって、東アフリカが深刻な食糧危機に陥りつつある。ロシアが黒海を封鎖した影響で、農業国ウクライナからの穀物輸入が停止しているためだ。
現在、エチオピア、ケニア、ソマリアを含む「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ東部は過去40年で最悪の干ばつに見舞われており、国連は今年、この地域で2000万人近くが飢餓状態に陥ると警告。
気温上昇により、エチオピア南部とケニアの乾燥地帯では昨年半ば以降、300万頭の家畜が死んだ。内戦下のエチオピアでは肥料価格が高騰し、現地メディアによれば今年4月に食品価格のインフレ率が史上最悪の43%に達した。
干ばつが続くケニアでは、ウクライナ侵攻以前に穀物生産は70%減少し、300万人以上が深刻な飢餓状態にあった。6月までに雨が降らなければ、ソマリアで600万人以上が食糧難に陥るとみられている。天候は左右できない。ウクライナからの食糧輸出再開はいつになるのか。
●ウクライナ侵攻で“小麦争奪戦” 「3月から供給停止」で大混乱  5/17
ロシア軍によるウクライナ侵攻は食糧危機を招きかねない状況となっています。ロシアの攻撃で港が閉鎖されたため、大量の小麦が輸出できなくなっているからです。今後、懸念されるのは世界的な「小麦争奪戦」です。G7(主要7カ国)の外相は共同声明を採択。ウクライナ侵攻により、ロシアが世界的な食料危機を招いていると非難しています。
ドイツ、ベアボック外相「ロシアはウクライナに対する軍事戦争を今や『小麦戦争』とでも言うべきものとして、世界の多くの国家、特にアフリカに拡大することを意図的に選択しています」
世界中で「小麦の争奪戦」が巻き起こる懸念が。ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ南部の貿易港オデーサ。WFP(国連世界食糧計画)は、この港から警鐘を鳴らしています。
国連世界食糧計画・ビーズリー事務局長「すぐに港を開いて貿易を再開しないと大惨事になります。世界の何百万人もの人が餓死することになります」
小麦戦争による食料危機は、すでに世界中で起きています。エジプトでは、食卓に欠かせないパンの価格が2倍以上に高騰。
エジプトの市民「値段が上がってしまったから、買うのはいつもの半分です」
エジプトの製粉所、マフムード・サーレムさん「ロシアとウクライナの戦争が始まって、小麦の輸入は止まってしまいました」
エジプトでは食料不足を賄うため、去年約600万トンの小麦を輸入。その8割をロシアとウクライナに依存していました。ブラジルやインドなど他の国からの輸入に切り替えましたが、小麦戦争の影響で、さらなる窮地に…。小麦の生産量、世界2位のインドが国内に安定供給するため、小麦の輸出を禁止する措置を取ったのです。その背景にはウクライナ侵攻による小麦価格の上昇が…。小麦の輸出大国でもあるウクライナで一体、何が起きているのでしょうか。
小麦の輸出会社「ロシア軍が小麦を盗んでロシアへ輸送しています」
ロシア軍がウクライナから強奪した大量の小麦。運ばれたとされる場所は中東のシリアです。ロシア軍が強行する密輸の実態が見えてきました。ウクライナ最大の港湾都市オデーサ。貿易港として栄えてきた町は、ロシア軍の侵攻によって封鎖される事態に陥っています。国連世界食糧計画が食料危機に警鐘を鳴らしています。
ビーズリー事務局長「この港にある穀物は世界の4億人の食糧を支えています。しかし、港は戦争のために閉鎖されてしまいました。すぐに港を開いて貿易を再開しないと大惨事になります。世界の何百万人もの人が餓死することになります」
世界中の人が餓死する危機…。ウクライナ農業省の次官は、ロシア軍による意図的な戦略だと訴えます。
ウクライナ農業省・ビソツキー次官「戦争が始まってからウクライナの小麦の9割が輸出されていない状況です。ウクライナ国内に限らず、国際的に食料不足の脅威を引き起こす戦略」
ウクライナは世界有数の小麦の産地。輸出量は世界5位を誇ります。ところが、ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まってから貨物船での輸出が止まっています。本来であれば、小麦を積んだ貨物船はオデーサの港から黒海を経てトルコの海峡を通るルートを進みます。ところが、ロシア海軍が通行を妨害しているといいます。
ビソツキー次官「ロシアの海軍はウクライナの船が通っていたルートの近くに軍艦を配置しているので、貨物船に危険が及びます。さらにロシアは輸出ルートに機雷を仕掛けているのです」
黒海にはロシア海軍が仕掛けた「機雷」と呼ばれる水中兵器が浮遊しているといいます。貨物船が接触、接近すると爆発する仕組みです。この海路が使えないため、輸出会社は日本を含む世界56カ国以上に小麦などを運ぶことができないのです。
ゼレンスキー大統領「私たちの農産物の輸出がなくなって世界の様々な地域が食料不足の危機にひんしている」
輸出できない小麦は、封鎖されたオデーサ港の倉庫に保管されています。その量は2000万トンにも及ぶといいます。オデーサに倉庫を持つ小麦輸出会社の社長は、さらなる脅威を警戒しています。
小麦輸出会社「テクライン」・ポロシェンコ社長(37)「倉庫に関して最も大きな脅威はロシアのミサイルが直撃することです」
すでに小麦畑では、ミサイルの被害が相次いでいます。
農家「これは私たちの農場の近くに落ちたミサイルの一部です。畑で草を焼き尽くしました」「キーウ州の農場は、3分の1以上がロシア軍の攻撃の被害を受けています」
そして、ロシア軍に占領された南部の地域では、小麦の強奪も起きているといいます。
ポロシェンコ社長「現在、占領された地域にある倉庫からロシア軍が小麦を盗んでロシアへ輸送しています」
ウクライナメディアが報じたのは…。Zマークが付いた車列。ロシア軍が盗んだ小麦を運んでいる映像だといいます。
ビソツキー次官「南部にある倉庫からロシアが小麦を盗んだことは間違いないです。分かっているだけでも50万トンの小麦が盗まれました。彼らは盗んだ小麦をクリミア半島かロシアの地域に移動し、その後は把握しにくい状況です」
ロシア軍が持ち去った小麦は一体、どこへ…。AP通信が、ある衛星写真を公開。中東シリアの港です。映っているのはロシアの貨物船。盗んだ小麦を積んでいるとみられます。果たしてロシアの狙いとは。CNNは港に止まっている船をロシアの貨物船「マトロス・ポジニッチ」と特定。この船は先月、クリミア半島の港で目撃されていました。シリアはロシアの友好国で、ソ連時代から密接な関係を築いています。ウクライナの輸出会社の社長は涙を流しながら切実に訴えます。
ポロシェンコ社長「戦争が終わることを期待しています。戦争が早く終わって引き続き、日本との貿易で協力してもらえると思っています」
●ウクライナ マリウポリの製鉄所 “265人が投降” ロシア国防省  5/17
ウクライナ東部の要衝マリウポリで、ロシア軍が包囲しウクライナ側に投降を迫っていた製鉄所について、ウクライナ軍は戦闘任務を終了したと明らかにしました。ロシア国防省は、ウクライナ側の兵士など265人が投降したと発表し、一部のロシアメディアは、ロシア軍が製鉄所をまもなく制圧するという見方を伝えています。
ウクライナではロシア軍が掌握を目指す東部で激しい攻防が続いていて、要衝のマリウポリのアゾフスターリ製鉄所では、ロシア軍が包囲し繰り返し投降を迫る中、ウクライナの部隊の抵抗が続いていました。
ウクライナ軍の参謀本部は日本時間の17日朝、製鉄所にとどまっていた部隊の戦闘任務を終了したと明らかにしました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は16日動画を公開し、製鉄所について「マリウポリの兵士たちを救うための作戦が始まった」と明らかにしました。
そのうえで「兵士の中には重傷を負っている者もいる。英雄たちが生きることがウクライナにとって何よりも必要だということを強調したい」と述べ、兵士の避難を急ぐ考えを示しました。
またウクライナのマリャル国防次官は16日「53人の重傷者がアゾフスターリ製鉄所から医療施設に搬送され、211人が避難ルートを通じて移送された」と述べ、兵士の移送にあたってウクライナ軍が拘束したロシア軍の捕虜との交換が行われる可能性も示唆しました。
マリャル国防次官によりますと、重傷の兵士が搬送されたのは東部ドネツク州にある親ロシア派の武装勢力側の医療施設だということです。
一方ロシア国防省は17日「この24時間でウクライナ側の戦闘員や兵士、265人が武器を捨てて投降し、このうち51人が重傷を負っていて治療のため病院に送られた」などと発表しました。
製鉄所をめぐる状況について、ロシアの新聞「イズベスチヤ」は17日「ロシア軍が製鉄所を確実に包囲した後はウクライナ側の投降は時間の問題だとみられていた」としてロシア軍が製鉄所をまもなく制圧するという見方を伝えています。
またロシア国防省は、西部リビウ州の鉄道駅付近で、欧米側から供与され東部に輸送する準備中だったとする兵器を巡航ミサイルで破壊したとしたほか、北東部スムイ州や北部チェルニヒウ州でも訓練センターを攻撃し兵士たちを殺害したと発表するなど、北部や西部でも攻撃を続けていると強調しました。
●ウクライナ前大統領が語るプーチン 交渉で見た実態  5/17
止まらない、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。攻撃を指示するプーチン大統領に世界はどのように向き合ったらいいのか。ウクライナの大統領として、何度もプーチン大統領との交渉を経験したペトロ・ポロシェンコ前大統領が、NHKとの単独インタビューで語ったのは「決して信用しないこと」、そして、「恐れないこと」でした。
プーチン大統領と交渉したポロシェンコ氏とは
ポロシェンコ氏は、2014年から2019年までの5年間、ウクライナの大統領をつとめました。大統領に就任後、2014年以降のウクライナ東部での紛争に関して、プーチン大統領との間で長時間の交渉を行い、電話でも何度も話して、「ミンスク合意」と呼ばれる停戦合意を結びましたが、その後も戦闘は続いてきました。
交渉から見えたプーチン大統領 人物像は?
ポロシェンコ前大統領「プーチンとの交渉の経験から導き出した結論は『決してプーチンを信用してはならない』、そして『プーチンを恐れてはいけない』ということです。プーチンは約束を決して守らず、妥協すれば、その分入り込んできます。プーチンと交渉する際にどのような姿勢で臨めばよいかといえば、答えは1つしかありません。それは力強く出ることです。力強く交渉すれば、プーチンを止めることができます。しかし、弱い姿勢で臨むとプーチンに結果を奪われることになるでしょう。」
プーチン大統領は何を目指している?
ポロシェンコ前大統領「彼の目的は、第2のソビエト連邦、あるいはロシア帝国を作ることだと思います。自分自身を中世の皇帝のように考えているのです。交渉によって、彼と何らかの形で折り合うのは不可能です。なぜならば、プーチンはウクライナを世界地図から消し去りたいのに対して、われわれは、1000年の歴史を持つウクライナを守り、発展させたいからです。」
5月9日「戦勝記念日」までに戦果を示せなかったのは?
ポロシェンコ前大統領「いくつかの要因がありますが、最も重要なのはウクライナ軍の功績です。私は2014年以降、大統領として、ウクライナ軍をNATO=北大西洋条約機構のスタンダードに合わせて改革し、新しい兵器、新しい戦術を導入しました。ロシア軍は旧ソビエトのスタンダードで戦っていますが、私たちは新しいNATOのスタンダードで戦っているのです。」
今後プーチン大統領はどう出てくる?
ポロシェンコ前大統領「攻撃が激化する可能性があります。プーチンは何回も首都キーウを攻撃し、奪おうとしてきました。それ以外にいくつものウクライナの都市を狙いました。しかし、実現できなかったのは、ウクライナがプーチンを止めたからです。世界はそのことに驚きました。だからこそ、プーチンが一層攻撃を強める可能性があるかと聞かれたら、私の答えはイエスです。」
事態はどこまで拡大するのか?
ポロシェンコ前大統領「すでに戦争が起きていて、世界中が何らかの形で参加している事実がある以上、第3次世界大戦が近づいていると思います。第3次世界大戦にならないためには、プーチンを食い止める必要があります。」
プーチン大統領を食い止めるために何が必要?
ポロシェンコ前大統領「国際的に連携してプーチンと交渉することが極めて重要です。私は、アメリカ、イギリス、日本、EU、オーストラリアに深く感謝しています。経済や軍事で最も強い国々がプーチンを止めるために団結することこそが、プーチンとの交渉を効果的なものにするために最も大切な要因です。」
日本に期待することは?
ポロシェンコ前大統領「ウクライナと日本は、地球上の別の場所にありますが、ロシアという共通の隣国があります。そしてこの隣国はとても危険です。日本からはぜひ、ウクライナの戦後の復興に参加してほしいし、人道支援も望んでいます。」
インタビューを終えて
予定していた時間を超えて30分に及んだインタビュー。ウクライナ語ではなく、英語で話してくれました。時には早口にもなり、そうした姿勢からは、日本の人たちに少しでも多く、ウクライナの状況や事情を知ってほししいという思いが伝わりました。実際に、プーチン大統領と多くの交渉を経験した人物なだけに、そのシビアな見方を重く聞きました。
●米国、ロシアの債務履行阻止へ−インドに軍事支援用意 5/17
米国内のロシア債保有者にロシアが支払いを履行する能力を、バイデン米政権は完全に断つ見通しだ。現時点で支払いを可能にしているライセンスを延長せず、来週で失効させると関係者が明らかにした。ロシアはデフォルト(債務不履行)の瀬戸際へと近づく可能性がある。
ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所から兵士200人余りがロシアの占領地域に移送されたことを受け、ウクライナ政府はこの兵士らとロシア軍捕虜の交換を模索していると明らかにした。同製鉄所からは17日もウクライナ軍兵士を退避させる活動が継続している。
スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を巡るトルコの懸念は解決可能だとの見方を複数のEU当局者が示した。バイデン米大統領はこの北欧2カ国の首脳を今週ワシントンに迎える。
米国、ロシアの債務履行を阻止へ−関係者
事情に詳しい関係者によると、米財務省外国資産管理局(OFAC)は、現時点でロシアに支払いを可能にしているライセンスを来週25日の期限で失効させる見通し。財務省内ではライセンスを延長して支払いを容認すべきだとの声もあったが、ロシアに金融面の圧力を維持するため延長しないことが決まったと、複数の関係者が述べた。
米国、インドへの軍事支援を準備
米国はインドに包括的な軍事支援を準備している。安全保障上の関係を深め、インドのロシア製兵器に対する依存を低下させる狙いだと、事情に詳しい関係者が明らかにした。検討されている支援には最大5億ドル(約650億円)の兵器購入用資金提供などが盛り込まれる見通しで、戦闘機や艦船の購入には不十分だが、支援の姿勢を示す重大なシンボルとなる。
ハンガリー、ロシア産原油脱却の費用を提示
ハンガリー政府は他の欧州連合(EU)加盟国に対し、国内の石油業界改革に少なくとも7億7000万ユーロ(約1000億円)の費用がかかると通知した。ロシア産原油禁輸に抵抗を続けているハンガリーは、禁輸に従うための製油所整備に5億5000万ユーロ、クロアチアと結ぶパイプラインに2億2000万ユーロがそれぞれ必要だと主張した。事情に詳しい関係者やブルームバーグが確認した文書で明らかになった。さらにロシア産原油の禁輸で価格が急騰する場合に備える追加的な資金も必要になるかもしれないとしている。
プーチン大統領:EUは経済的に「自殺」
EUはロシアの供給を拒むなら長期的に世界最高のエネルギー価格に向き合うことになり、域内の業界の大半にとって「取り返しの付かない」影響が及ぶ恐れがあるだろうと、ロシアのプーチン大統領が述べた。EUは経済的に「自殺」しようとしているとも語った。
バイデン米大統領、スウェーデンとフィンランドの首脳と会談へ
バイデン米大統領は19日にスウェーデンのアンデション首相、フィンランドのニーニスト大統領を迎え、両国の北大西洋条約機構(NATO)加盟とウクライナ支援を協議すると、ホワイトハウスが発表した。
アゾフスターリ製鉄所からの兵士の退避続く
ウクライナのマリャル国防次官はテレビ中継された記者会見で、南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所からの兵士退避は続いているとしつつ、詳細は明らかにできないと述べた。軍事力でマリウポリの包囲を解くことはできないとあらためて説明した。ウクライナ政府は製鉄所内にとどまっている人数を承知しているが、数字は言えないとした。
ウクライナとロシア、交渉は停止
ウクライナとロシアの交渉は「停止」していると、ウクライナ側の交渉チームメンバーであるポドリャク大統領府長官顧問が語った。「ロシアが予定あるいは計画した通りに戦争が進んでいないことを理解しない」ことなどを理由に挙げた。ロシアのルデンコ外務次官はウクライナが実質的に交渉過程から撤退し、現時点では両国間でいかなる形の交渉も行われていないと述べたと、インタファクス通信が報じた。
フィンランド国営ガス会社、ロシアへのルーブル払い拒否
フィンランドの国営エネルギー会社ガスムは、ロシアのガスプロムの要求に従って支払い通貨をルーブルに切り替えることを拒否し、長期ガス供給契約を仲裁に持ち込むと発表した。同社はロシアがフィンランド向けガス供給を停止するリスクが増していると警告した。一方、EUの欧州委員会は、域内のガス会社がロシア産ガスを購入する目的でルーブル建ての銀行口座を開設すれば制裁違反になると指摘しつつ、EUの指針に従って購入を継続することは可能だと説明した。
ロシアのミサイル、ポーランド国境付近の鉄道駅に着弾
ポーランド国境に近いウクライナ西部リビウ州ヤボリウにある軍事訓練施設「国際平和維持・安全保障センター」付近の地域がロシア軍からミサイル攻撃を受けたと、コジツキー州知事がテレグラムで明らかにした。同施設はロシアのウクライナ侵攻前、NATOが定期的に使用。3月にロシアがミサイル攻撃し、少なくとも35人が死亡するなど大打撃を被った。リビウ州はほぼ1週間にわたり空襲警報の鳴らない日が続いていたが、過去2日間はミサイル攻撃が増している。
米財務長官、ウクライナ版「マーシャル・プラン」で多額支援呼び掛け
イエレン米財務長官は17日、ブリュッセル経済フォーラムで演説し、ウクライナへの大規模な経済支援を呼び掛けた。ロシアによる侵攻がもたらした荒廃からウクライナが立ち直るには、これまでに約束のあった支援額では短期的なニーズを満たすことにもならないと警告した。
北欧2カ国のNATO加盟巡るトルコの懸念、EUは解決見込む
スウェーデンとフィンランドのNATO加盟を巡りトルコが表明した問題は速やかに解決するだろうとの見通しを、EU数カ国の国防担当相が明らかにした。ルクセンブルクのバウシュ国防相はブリュッセルで、EU国防担当相の会合前に記者団に対し、「向こう数日で状況が好転し、トルコが2カ国の加盟に合意すると確信している」と語った。
ドイツ、ロシア中銀資産差し押さえを検討
ドイツのリントナー財務相は欧州の新聞4紙とのインタビューで、ウクライナ復興の財源に充当するためロシア中央銀行の国外資産を差し押さえる構想について、ドイツとしては引き続き否定しないと語った。「それについて主要7カ国(G7)と欧州連合(EU)で既に協議しており、提案はテーブルの上にある」と同相は述べ、民間資産については法的に何が可能かを検証する必要があると付け加えた。
●露軍事同盟に足並みの乱れ 首脳会合で侵攻めぐり批判も 5/17
ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会合は16日、モスクワで共同声明を採択し、閉会した。会合では異例のロシア批判やウクライナ侵攻の早期終結を促すような発言が出たほか、共同声明にも侵攻を直接支持する文言は記載されず、足並みの乱れを示唆。友好国の結束を図ったロシアの思惑は外れ、かえって求心力の低下を露呈した。
プーチン露大統領は公開された会合冒頭の演説で、「ウクライナではネオナチと反露主義が横行し、米欧も奨励している」と主張した。だが、ベラルーシのルカシェンコ大統領を除き、各国首脳から同調する発言は出なかった。
アルメニアのパシニャン首相は、係争地ナゴルノカラバフ自治州をめぐり2020年に起きたアゼルバイジャンとの紛争の際、「CSTO諸国はアルメニアと国民を喜ばせなかった」と指摘。アルメニアに実効支配地域の多くを放棄させる条件で停戦合意を仲介したロシアを批判した形だ。
カザフスタンのトカエフ大統領はCSTOと国連平和維持活動の連携を提案。同氏は対話による侵攻の早期終結を訴えてきた。ウクライナのクレバ外相によると、4月末に会談したカザフのトレウベルディ外相は「ロシアに制裁回避の手段を提供しない」と表明。ロシアとの距離感が目立つ。
キルギスのジャパロフ大統領、タジキスタンのラフモン大統領はアフガニスタン情勢について演説した。
唯一、ウクライナに言及したルカシェンコ氏も「米欧はウクライナを支援して戦争を長期化させようとしている。狙いはロシアを戦争に没頭させ、弱体化させることだ。そのために米欧はさらに火を注ぐことができる」と指摘。米欧を批判しつつ、侵攻継続は不利だとしてロシアに停戦を勧めたとも取れる発言をした。
各国はロシアと米欧の対立に巻き込まれる事態を警戒しているとみられる。実際、CSTO事務局によると、プーチン氏は作戦の進捗を各首脳に説明したが、CSTO軍の参戦は議題にすら上らなかった。
共同声明では「ナチズムの美化や外国人排斥に対抗していく」などとしたものの、米欧側やウクライナを直接的に非難する文言は盛り込まれなかった。
●ロシア軍が地上戦力3分の1損失の深刻…プーチンが少年兵15万人動員か 5/17
ロシア軍の深刻な戦力低下が指摘されている。英国国防省の分析ではウクライナ侵攻以降、ロシア軍の死者数は約1万5000人に上る。ウクライナに投入した傭兵の4割近くが戦死したとの報道もある。戦争継続に固執するプーチン大統領が少年を戦場に送り出す“禁じ手”を使う可能性も囁かれている。
英国防省は15日、最新の戦況分析でロシア軍が2月の開戦以降に投入した地上戦力の3分の1を失ったと推定。「多くはすぐに補充や再編ができず、ロシアの作戦行動を妨げるだろう」と指摘している。
戦力損耗率が30%を超えると軍隊として機能しなくなるとされる。ウクライナ軍の発表によると、ロシア軍が新たに約2500人の予備兵を投入する準備をしているというが、戦争を続けるには大幅に兵士を補充する必要がありそうだ。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏はこう言う。「ロシア軍の兵士不足は極めて深刻です。2500人程度の予備兵補充ではとても足りません。さらに予備兵や傭兵を増員し、北朝鮮やベラルーシにも人的支援の要請を行うとみられますが、十分に確保するのは困難でしょう。そこで、ユナルミヤ(全国軍事愛国社会運動協会)に所属する17〜18歳の団員を招集する可能性があります」
実際、ウクライナの国防情報局はロシア国防省が17〜18歳のユナルミヤの団員をウクライナに投入する準備をしていると報告。3月15日にはショイグ国防相がユナルミヤの団員を動員する命令に署名したとされる文書も公開した。
ユナルミヤは8歳から18歳が所属する団体。愛国心を育成する目的で、プーチン政権下の2016年6月にロシア国防省が設立した。ロシア史や軍事史教育のほか、スポーツやサマーキャンプなどの活動もある。軍への入隊を推奨し、入隊前訓練も行う。軍事演習の見学など軍事の専門教育も実施している。全国に支部があり、任意加入だが、85万人が所属している。
「85万人のうち、17〜18歳は約30万人おり、10万〜15万人規模でウクライナに投入される可能性は否定できません。危険な最前線ではなく、後方の業務が中心になるとみられます。ただ、ボーイスカウトのような団体に加入させたつもりの親も少なくありません。プーチン大統領が団員を戦地に送り込めば、国内世論の猛反発を食らうのは間違いありません。反戦の動きが一気に広がる可能性があります」(世良光弘氏)
ナチス・ドイツが設立した青少年団体「ヒトラーユーゲント」に所属する青少年は第2次世界大戦に動員された。
ロシアの世論はプーチン大統領の暴走を止められるか。
●ロシア“非人道兵器”使用か マリウポリの製鉄所に「白リン弾」降り注ぎ… 5/17
ロシア軍が、ウクライナ南東部マリウポリにある同国軍の抵抗拠点「アゾフスタリ製鉄所」に対し、白リン弾など「非人道兵器」を使用した疑いが浮上した。ウクライナ軍の反抗が伝えられるなか、欧米メディアは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の重病説を報じている。追い詰められたロシア軍による残虐非道な攻撃がエスカレートしたのか。
「ロシア軍が初めて焼夷(しょうい)弾か白リン弾を使用した。地上に地獄が降ってきた」「燃焼温度は2000〜2500度で、消し止めるのは不可能だ」
マリウポリのペトル・アンドリュシェンコ市長顧問は15日、通信アプリに映像付きでこう投稿した。映像では製鉄所とみられる場所に無数の光が降り注いでいる。
ロイター通信(16日)によると、製鉄所の地下には、600人のウクライナ兵士が必死の抵抗を続けているという。民間人も残されているとみられる。白リン弾は民間人への使用が国際法で禁じられている。
ロシア軍は他の地域でも、民間人を巻き込む攻撃を続けている。
ウクライナ東部ルガンスク州セベロドネツクでは病院が砲撃を受け、2人が死亡、9人が負傷した。南部オデッサ州当局によると、16日午前にロシア軍のミサイル攻撃を受け、重傷の子供1人を含む4人が負傷したという。
ウクライナ軍は最近、欧米から提供を受けた兵器が威力を発揮し、反攻作戦の成功が報じられている。一部地域でのロシア軍撤退情報もある。
ロシア中枢の異変も伝えられる。英紙タイムズ(電子版)などは、プーチン氏が「血液のがんで重病である」という、新興財閥「オリガルヒ」の証言を伝えている。
こうしたなか、ロシア軍が戦局打開のため、非人道兵器や化学兵器を使用する可能性が指摘されている。現実となれば、戦争の深刻度を跳ね上げ、さらなる戦闘の激化を招きかねない。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「ロシア軍は9日の対ナチス・ドイツ戦勝記念日を過ぎても、東部地域を完全制圧できない。一発逆転を狙い、神経ガスのサリンやソマンなどの化学兵器を使用する可能性が一段と高まっている。もはや、プーチン政権には『国際的な非難を受ける』と考える余裕もないのではないか」と分析している。
●ウクライナ反撃激化 ロシアの撤退は「判断した時はプーチン政権の終わり」 5/17
ロシアの安全保障に詳しい笹川平和財団の畔蒜(あびる)泰助主任研究員が17日、TBS系「Nスタ」(月〜金曜後3・49)に生出演し、ロシアによるウクライナ侵攻の戦況についてコメントした。
米国防省は、ウクライナ北東部ハルキウ周辺でウクライナの反撃が続き、ロシア軍を国境まで3〜4キロの地点まで押し返したとしている。畔蒜氏は「大きな流れとしては、ウクライナ側が徐々にロシアを押し返しているというのが基本的なトレンドになっている。ロシア側としては今後、何らかの形で、戦力を立て直す措置が必要になってくると思う」と分析。9日の対ドイツ戦勝記念日でプーチン大統領が触れなかった、新たな動員の可能性についても言及した。
一方で、ウクライナ側の徹底抗戦で、ロシアが撤退せざるを得なくなる可能性についても話した。「他に手がない、退避せざるを得なくなったという判断をプーチン大統領が下す時は、ロシア国内におけるプーチン政権の終わりを意味することになると思います」と推測。「(撤退指示を)プーチン大統領はできないんだと思う」と話した。
さらに、追い込まれてからのプーチン大統領の動きについて、畔蒜氏は「残るのは、これまで使ってこなかった兵器、化学兵器なのか、戦術兵器なのか、最終的にプーチン大統領が手を伸ばす可能性は、そこまで追い込まれると高まってくると思う」と懸念を示した。
●プーチン氏が部隊に指示か ウクライナ東部、英報道 5/17
英BBC放送電子版は16日、西側諸国の軍事筋の話として、ロシアのプーチン大統領とゲラシモフ軍参謀総長がウクライナ東部ドンバス地域でのロシア軍部隊の移動指示に直接関与しているとみられると伝えた。
こうした前線での攻撃や軍事作戦に関する戦略的な決定は通常、国家指導者やゲラシモフ氏のような軍の制服組トップではなく、より位の低い軍の大佐や准将級が行うものとされる。
BBCは、ロシアがウクライナの首都キーウ(キエフ)周辺から撤退した後、プーチン氏が軍の日常的な軍事作戦への関与を強めたことを示す兆候があると指摘した。
また、ゲラシモフ氏を巡り、数週間前にドンバス地域を訪れ負傷したとの裏付けのないうわさや参謀総長の職務から外されたとの臆測が一部で出ていたと伝える一方、同軍事筋の見方としてゲラシモフ氏は軍に指示を出すなどの職務を続けていると指摘した。
●ロシア産原油禁輸、欧州の一部は速やかに実施できず=プーチン氏 5/17
ロシアのプーチン大統領は17日、一部の欧州諸国は欧州連合(EU)の提案通りにロシア産原油の輸入を速やかに停止できないとの考えを示した。
プーチン大統領は国内の原油産業関係者や政府関係者とのテレビ放映された会議で、ロシアへの依存度が高い一部のEU加盟国は「長期にわたりロシア産原油なしではやっていけない」と指摘。
西側諸国の措置が世界的な原油高につながっているとし、ロシア産原油の輸入を禁止することで欧州は長期的に世界で最も高いエネルギー価格を支払うリスクに直面すると語った。国内の原油業者に対しては、融資や保険などの支援を確約した。
●消えた軍参謀総長、ロシア作戦失敗で仲間割れか 苦戦でプーチン氏激怒 5/17
ロシアのウラジーミル・プーチン政権中枢に異状あり―。黒海では露海軍の最新鋭支援艦が炎上したと伝えられるなど苦戦が続くなか、ウクライナ侵攻の作戦立案について、諜報機関の連邦保安局(FSB)が外され、軍参謀本部情報総局(GRU)に代わったと報じられた。また、軍制服組トップの参謀総長が9日の対独戦勝記念日に姿を見せなかったのも極めて異例で、その背景に憶測が広がっている。
作戦立案部門の移行については、英紙デーリー・テレグラフ(電子版)や英紙タイムズなどが報じた。
2月の侵攻開始以来、ロシア軍は首都キーウ(キエフ)を制圧できずに撤退、黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を撃沈され、前線で少なくとも9人の将校が犠牲になるなど失態続きだ。
作戦を立案してきたFSBについて、3月には侵攻を「完全な失敗」とする内部文書の存在が発覚した。FSBが楽観的な事前情報ばかり報告したことにプーチン大統領が激怒し、FSB第5局のセルゲイ・ベセダ局長らが自宅軟禁され、職員150人がパージされたとも報じられた。
ロシアの軍事・安全保障に詳しい東京大学先端科学技術センター専任講師の小泉悠氏は「真偽のほどは明らかでないが、作戦の立案部門がFSBからGRUに移行したとみられる。FSB第5局は旧ソ連諸国の諜報部門で、ウクライナで騒乱を引き起こすことやゼレンスキー首脳部の捕縛などを狙っていたとみられるが、失敗したため、責任を負わされたのだろう」と話す。
GRUは、前身となる組織の創設が1917年のロシア革命期にさかのぼり、第二次世界大戦でも対ナチスドイツなどで活動してきた。91年のソ連崩壊以降、ソ連国家保安委員会(KGB)は解体され、FSBと、対外情報庁(SVR)に分離したが、GRUは軍の情報部門として存続した。
欧州政策分析センター(CEPA)のリポートによると、作戦立案の新しい責任者となるのは、GRUのウラジーミル・アレクセイエフ第1副局長。特殊部隊出身で、シリアでの軍事行動や、2014年以降のウクライナ東部ドンバスでの戦争にも参加した。
18年に英国でGRUの元大佐が神経剤ノビチョクで襲撃された事件への関与も疑われた人物で、「残忍で、無謀なまでに自信に満ちあふれている」というのが軍の同僚らによる評判だ。
ヘインズ米国家情報長官は10日、上院軍事委員会の公聴会で、プーチン氏が「長期的な紛争への準備を進めている」とし、情勢は「予測不能で激化する恐れもある」と分析する。FSBからGRUに作戦立案が移行したことで戦況に変化は出てくるのか。
「FSBもGRUも残忍な組織であることに変わりはないが、プーチン氏はFSBの権限が強大になることを恐れ、これまでもGRUとSVRを競争させてきた」と前出の小泉氏。
「本気の戦争を考えていれば軍に作戦立案も委ねるべきだが、この期に及んで情報機関に固執するのでは勝算は見込めないのではないか」との見方を示す。
軍中枢の動きにも異状がみられる。
英BBCニュース(電子版)は9日の戦勝記念日のパレードで、ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長について、「影も形もなかった」という複数の報告があると伝えた。
ゲラシモフ氏は1999年のチェチェン紛争で軍を指揮して以来、プーチン政権下の軍事作戦を統括してきた。
ウクライナ侵攻では4月下旬にドンバス地域の最前線を訪れたとみられるが、英大衆紙デーリー・メールによると、右足の上部3分の1に榴散(りゅうさん)弾による負傷を受けたという。
前出の小泉氏は「戦勝記念日のパレードに参謀総長が出席しないのは異様だ。負傷が原因なのかもしれないが、プーチン氏と対立している可能性もゼロではない。いずれにしてもウクライナ侵攻作戦がうまく運んでいないことは間違いなく、プーチン氏、軍と情報機関の三つどもえで責任のなすり付け合いが起きていることも否定はできない」と分析した。
●対露石油禁輸で試される岸田政権の覚悟 サハリン石油・天然ガス権益 5/17
日本を含む主要7カ国(G7)の首脳は8日の共同声明でロシア産石油の段階的輸入禁止を打ち出した。ロシアのプーチン大統領はどう出るか。
欧州連合(EU)委員会は4日に年内禁輸案をまとめた。対露石油依存度が3割にもなる欧州が動くに至り、G7が対露石油禁輸で足並みをそろえた。
EUが対露石油禁輸に踏み切ろうとするのは、これまでに打ち出した対露制裁がプーチン氏を思いとどまらせるほどの抑止力を持ってこなかったからだ。
ロシアは高騰するエネルギー価格の恩恵を受けて、石油、天然ガスの輸出収入を大幅に増やしている。米欧日の金融制裁の狙いの一つは通貨ルーブルの急落だった。米欧日の中央銀行はロシアの外貨準備資産のうち手元に保管している外貨資産を凍結し、ロシア通貨当局はルーブル防衛のために外貨準備の6割を取り崩せなくした。
ルーブル相場は当初こそ暴落状態に陥ったが、1カ月後は制裁前の水準に回復している。主因は欧州向けエネルギー代金収入だ。
ロシアの銀行を国際決済ネット「SWIFT」から締め出す金融制裁も、ロシア最大の民間銀行であるズベルバンクと、天然ガス代金決済最大手のガスプロムバンクが除外されており、ロシアの外貨獲得ルートはほとんど痛まなかった。
制裁不発に焦るEUは石油禁輸と並んで両ロシア銀行大手へのSWIFT制裁も俎上(そじょう)に載せている。その場合、天然ガス輸入決済の混乱は避けられず、異論も多い。石油禁輸はその点、欧州の決意は固い。実際に石油禁輸がロシア経済と財政に及ぼす影響は甚大だ。
グラフは、2021年9月までの12カ月間のロシアの原油・石油製品輸出の国・地域別内訳である。総額は1544億ドル(約20兆円)で、このうち欧州・米国と日本向け合計が52%、大半は欧州向けである。ロシアの21年年間国防支出は485億ドル(約6兆3000億円)である。
欧州のアナリスト集団CIVITTAによれば、ウクライナ侵略戦争開始以来55日間での露軍の損失は386億ドル(約5兆円)という。欧米日が石油禁輸に踏み切れば、ロシアは750億ドル(約9兆7000億円)以上の外貨収入のルートを失う。
ロシアは中国やインドなどへの輸出増を試みるだろうが、各製油所が処理する原油の油種が限定されるため、おいそれとロシア産原油を受け入れるわけにはいかない。欧州の禁輸でロシアは膨大な外貨収入を喪失する公算は大きい。これにSWIFTからのロシア銀行全面締め出しともなれば、ロシアは戦時財政、さらにルーブル相場や物価も大きく動揺することになる。
今後の焦点はプーチン氏の出方だ。報復手段として、ドイツなど欧州各国が石油よりもはるかにロシア産に依存する天然ガスの供給停止に踏み切るかもしれない。日本に対しては官民が持つサハリン石油・天然ガス権益で揺さぶりをかけてくるだろう。岸田文雄首相は同権益維持を強調するが、恫喝(どうかつ)に屈しない日本の覚悟が試されてくる。
●「プーチン大統領のメンツを守ることはしない」停戦協議“打ち切り”か 5/17
ロシアとウクライナの停戦協議をめぐって、両国の担当者が事実上交渉が打ち切られたことを明らかにしました。
タス通信によりますと、ロシア側代表団のルデンコ外務次官は、停戦協議について、ウクライナ側が事実上打ち切ったと主張し「もはや、いかなる形でも行われていない」と述べました。
ウクライナメディアによりますと、ウクライナ側代表団のポドリャク大統領府顧問も「我々はプーチン大統領のメンツを守ることはしない」とコメントし、交渉が打ち切られたことを認めています。
●プーチン大統領 相次ぐ健康不安説 「がん罹患」指摘も 5/17
ロシアのプーチン大統領をめぐる健康不安説が相次ぎ浮上している。ウクライナ情報機関トップは英メディアに「がんを患っている」と発言。露政権に近いとされるオリガルヒ(新興寡占資本家)からも同様の指摘があった。ウクライナ侵攻を統括するプーチン氏の体調に異変が起これば、ロシアの戦略に甚大な影響を与えうる。
ウクライナ国防省の情報機関トップ、キリロ・ブダノフ氏はこのほど、英スカイニューズ・テレビのインタビューでプーチン氏が「心理的、身体的にも非常に状態が悪い」と述べ、「がんやその他の病気に罹患(りかん)している」と発言した。
ブダノフ氏は露国内で「政権転覆の動きが進行している」とも指摘し、「ウクライナ側のプロパガンダ(政治宣伝)ではない。確信がある」と強調した。英情報機関元幹部もスカイニューズに「プーチン氏が深刻な病気にかかっているとの情報がある」と語った。
英紙インディペンデントは、プーチン氏が「血液のがんにかかっている」とするロシアの有力オリガルヒの発言を報道。侵攻直前にプーチン氏が「がん治療のため背中を手術した」とこの人物は述べたという。
●「プーチンは血液のガン」「顔の膨張はステロイドの副作用」 5/17
劣勢、そして敗北の可能性が伝えられる中でも、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻の手を緩める気配はない。
連日の戦争報道を見ていて、プーチン大統領の顔がやけにふっくらしている、いや、妙に膨らんでいると感じている人は多いのではないだろうか。数年前と比べ、明らかに膨れ上がっているからだ。
アメリカのメディアが入手した音声には、プーチン大統領に近いオリガルヒ(プーチンを経済面などで支えてきた大富豪)が語ったものとして、衝撃的な発言がある。それが、「プーチンは血液のガンであり、重症だ」というものなのだ。
国際ジャーナリストが解説する。「この音声は今年3月中旬に録音されたものであり、プーチンがウクライナ侵攻を決断する直前、『血液のガンに関連した背中の手術を受けた』とも語っています」
プーチン大統領の「ガン説」に関しては、様々な出所からの情報があるとされ、だからウクライナ攻略を急いでいる、とも。
先の国際ジャーナリストはさらに、「顔が膨れ上がっている件については、ガン治療の過程で投与されるステロイドの影響ではないかとされ、さらにプーチンは3人の腫瘍学者と行動を共にしているとの調査結果もあるようです。狂気の大暴走を止めるのは、ウクライナの反撃でも国際社会からの締め出しでもなく、もしかすると、自らの体を蝕む深刻な病状なのかもしれません」
果たして真相はどうなのか。虐殺王の「風貌の変化」を注視したい。
●プーチンの顔に出た“死相” 追い詰められた独裁者に「重病」のウワサ 5/17
ウクライナの猛反撃を受け、東部戦線でも苦戦を強いられているロシア軍。国民に対しては厳しい情報統制が敷かれているとされますが、一部では締め付けが効かない状況も発生しているようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ紛争の戦況及びロシア国内の現状を詳しく紹介。各所で戦争継続への疑念が高まりつつある現実を伝えています。
ウクライナ東部での戦争は、ウ軍が反転攻勢に出て、ハルキウ州全体から、ロシア軍を追い出した。イジュームへの補給ラインの途上にある国境の街ボルチャンスクまで15kmのところまで迫っている。
ロシア軍は、撤退で橋を壊しドネツ川に防御線を引き、そこで食い止めたいようであるが、交通の要衝であるボルチャンスクはM777榴弾砲の射程範囲になり、補給路である鉄道線路や駅を砲撃できることになった。
このため、ドンバスに広く展開するロシア軍のメインの補給路が使えず、補給が細って、ここに展開する20BTG(大隊戦術群)の約2万人の軍の食糧も補給できなくなっている。
その1つ、スラビアンスクに進撃していたBTGがドネツ川を渡河しようとしたが、戦車などを破壊されて、車両を捨てて、撤退したようである。ウ軍は、複数の榴弾砲を個別に配置して、それぞれをデータリンクし統合して攻撃したことで、ロシア軍から見ると全方向から車両に向けて弾が飛んできた状態になったようだ。
しかし、ドネツ川渡河失敗のイジューム突出部のロシア軍は、依然川の手前に留まっている。この状況でロシアの潜水戦車部隊を投入し、渡河し再度進撃するようである。が回り込んでイジュームを目指して進撃しているウ軍に補給線を切られる可能性がある。
もう1つ、東部前線では人員の交代もなく、食糧や衣料などもなく、士気は低下して、上部の命令に逆らうような部隊も出ているようで、BTGレベルでも前進命令を無視するようだ。
食糧もなく弾薬の補給もなし、ウ軍の精密な攻撃を見ては、兵が言うことを聞かない。というように、東部に展開するロシア軍は、崩壊する可能性が高くなっている。
ロシア軍全体でも、苦戦の情報が伝わり、頼みとしたシリアやアフリカの雇用兵の供給も最近では途切れ、兵員の補給もままならず、戦争ではないので国民の徴用もできないし、ロシア兵の一部が除隊を申し出ても、それを阻止することもできない。シリア展開のロシア兵を全部ウクライナ戦争に投入したので、これ以上の兵員増強もできないことになってきた。
このように、全体的な攻略失敗から、ゲラシモフ総参謀長が解任されたようである。東部のイジュームを訪問した理由は、早期に東部占領ができない時には解任すると言われていたことが明確化した。
一方、黒海では、スネーク島の攻防が広げられている。ウ軍はここを奪還して、対艦ミサイル「ネプチューン」でクリミア半島の黒海艦隊を攻撃する計画であり、ロシア軍も必至に防衛しているが、TB2の空爆で大きな損害が出ている。そして、「ネプチューン」で、黒海艦隊の後方支援艦「プセボロド・ボブロフ」を撃沈したとウ軍は発表した。しかし、逆にウ軍の上陸作戦も阻止されたようである。
ウ軍の人員、兵器の消耗も大きく、交換部品も底を着き、MIG29の稼働もギリギリになり、F-16などの米国製戦闘機を要求してきた。ウ軍も長期戦を見据えて、体制をロシア製武器から欧米製武器に置き換える必要になってきたようだ。チェコは義勇兵を100名ウクライナに送るようであり、人員の増強も欧米諸国からに広がり始めている。
この全体状況で、5月9日の対独戦勝記念日で、プーチンは、戦争にもせず、勝利宣言もせず、航空機の参加もなく、ベラルーシのルカシェンコ大統領など外国の首脳もゼロで、今後の計画も示せなかった。行き詰まりが色濃く出たパレードになった。
この状態で、南部ヘルソンからロシア軍はオデーサ方向に攻撃をしているが、こちらは補給もあり、東部より状態は良いようである。ウ軍主力も東部戦線に投入されているようであり、こちらは手薄なのかもしれない。
プーチンも最後の望みとして、ロシア軍をトランスニストリアに送り込み、ウクライナ西部の補給路を切断したいようである。このトランスニストリアには、現在ロシア軍1,500名が駐屯している。しかし、このロシア軍では、ウクライナ西部を攻略できないので、ロシア軍を大量に送り込む必要がある。
しかし、そのような作戦は、ウ軍主力が南部に投入されれば、泡と消えることは間違えない。しかし、そこにしか、特別軍事作戦での明かりが見えないようである。
逆に、ゼレンスキー大統領の「クリミア奪還は近い」発言で、クリミア半島では空港が閉鎖され、夏の観光客は半分以下になっている。どんどん、ロシア人たちは逃げ出し始めている。地元民にZのステッカーが配られたが貼らないし、Zのステッカーが貼られている車にペンキを掛けたり、タイヤをパンクさせたりしているようだ。
もう1つ、プーチンの顔には死相が出ている。対独戦勝記念日の演説を聞くと精彩がないし、甲状腺がんとかパーキンソン病とか白血病とかの噂も出ている。
そして、ロシア国内を見ると、トムスク、サラトフ、キーロフ、マリエル州の4人の知事が辞任の意向を示し、他にも複数の知事が辞任の意向で、経済制裁の影響で地方経済が苦しくなり、ウクライナ侵攻の不満もあり、辞任するようである。これに対して、プーチン政権は必至に留任を説得しているようである。
戦争支持率も従前85%の支持率が75%まで落ちている。ウクライナでの戦争状況をロシア国民は知らされていないにもかかわらず、徐々に敗退していることが知れ渡り始めているようである。
その状況で、政府系報道機関にプーチン批判をする記事が出て、すぐに削除されたり、テレビ討論でも軍事専門家が、ウ軍が持つ欧米兵器にロシア軍は勝てないと明言したりしている。この討論会では、国民の反対運動に対して、大粛清をする強い指導者が必要との発言もあり、国内での反戦運動が簡単には抑えられない状態になってきたことを示しているようだ。
この上にフィンランドとスウェーデンが中立からNATO加盟に転換し、英国との防衛相互協定も結び、ロシアと西欧の中立地点から、西欧寄りにシフトした。これに対して、ロシアは軍事的対応も視野に制裁をするというが、ウクライナ戦争で手一杯な状態で、どうフィンランドに対応できるかでしょうね。
ロシア国内、国外でも戦争継続に疑念が出ているようである。
この状況で、米国のオースティン国防長官とロシアのショイグ国防相は、ロシア軍のウクライナ侵攻開始後、初となる電話会談を行って、オースティン氏はウクライナでの即時停戦を求めたが、進展はなかった。まだ、ロシア軍は継戦のようである。 

 

●ウクライナ侵攻での「ロシアの状況は悪化する」 ロシア軍退役大佐が発言 5/18
ロシアの主要メディアはウクライナでの戦争について、国外ではまず見られないような視点を提供している。まず、戦争と呼ぶことすらしない。しかし、16日に国営テレビで放送されたある番組で、驚くべき珍しいやりとりがあった。
国営テレビが1日に2回放送する、目玉トーク番組「60 Minutes」での出来事だった。スタジオでは普段、ウラジーミル・プーチン大統領大統領がウクライナでの「特別軍事作戦」と呼んでいる出来事も含め、ロシア政府のあらゆる主張に沿った宣伝が繰り広げられている。
ロシア政府は現在も、ロシア軍の作戦は予定通りに進んでいるとの主張を貫いている。
しかし16日の夜、軍事アナリストでロシア軍退役大佐のミハイル・ホダレノク氏は、全く違う見方を示した。
ホダレノク氏は番組の中で、ウクライナが欧米から追加の軍事支援を受けると「(ロシアにとっての)状況は明らかに悪化する」、「ウクライナ軍は100万人を武装化できる」と警告した。
またウクライナの兵士について、「祖国を守りたいという思いは非常に強い。戦場での究極の勝利は、守るべき思想のために血を流している兵士たちの高い士気によって決まる」と解説した。
「(ロシアの)軍事的・政治的状況の最大の問題は、どんなに認めたくないとしても、我々が政治的に完全に孤立し、全世界を敵に回している点だ。この状況を解決しなければならない」
「我々に敵対する42カ国の連合が存在し、我々の軍事・政治的な、そして軍事技術的な資源が限られている状況は、正常とは言えない」
スタジオにいた他のゲストは黙っていた。いつもは熱烈にロシア政府を擁護する司会のオルガ・スカベイエヴァ氏も、妙に沈んでいるように見えた。
色々な点で、これはホダレノク氏による「だから言ったのに」というメッセージだ。
ロシアがウクライナに侵攻する以前の2月、同氏はロシアの防衛専門誌への寄稿で、ロシアがウクライナとの戦争に簡単に勝つと主張する「熱心なタカ(強硬派)と性急なカッコウ」を批判している。
ホダレノク氏は当時、「ウクライナとの軍事紛争はロシアの国益にはならない」と結論付けた。
これは、印刷物での批判に過ぎなかった。しかし、何百万人もの視聴者がいるテレビでとなると、まったく別の次元の話だ。ロシア政府は独立系ニュースメディアを閉鎖し、世論形成の主要なツールであるテレビがメッセージ性を持つようにすることで、国内の情報状況をコントロールすることに全力を注いできた。
だからこそ、ロシアのテレビでこうした現実的な分析を聞くことはめったにない。
まれな出来事だ。しかし唯一無二ではない。ここ数週間、テレビでも批判的な意見が聞かれるようになった。3月には別の人気トーク番組で、あるロシア人映画監督が「ウクライナでの戦争は恐ろしいもので、私たちの社会に非常に抑圧的な影響を及ぼしている」と語った。
では「60 Minutes」では何が起きたのか? ウクライナに関する自発的かつ故意の、それでいて予想外の警告が、網の目をすり抜けたのだろうか?
それとも、「特別軍事作戦」の進展に伴うネガティブなニュースをロシア国民に覚悟させるために、あらかじめ計画された現実の吐露だったのか?
結論は出せそうにない。だが、ロシアで出されるシグナルをキャッチするため、テレビでおなじみのフレーズどおり、チャンネルはそのままにしておく必要がある。
●ウクライナ戦争の陰の登場人物 5/18
ウクライナでは戦争が続くが、この2カ月半、何か物事の表面だけを見て騒いできた感じがする。奥で動く見えない力があるのかないのか、考えてみる。
最近日本のテレビを見ていたらこんな場面があった。
ある人がロシアの知人にウクライナ戦争の実態を伝える記事をSNSで送ると、「そんなの知ったこっちゃない」という書き込みがあったという。
ロシア人の反応を解釈すると、「ウクライナが悪いんだろ。ウクライナは俺たちの領域。俺たちの生活も大変なんだ。がたがた言うな」という意味。
これがロシアの大衆レベルの気持ちだ。ロシア人にもいろいろあって、インテリ層とは対話が可能。しかし大衆レベルになってくると、頭、つまり口先で付き合うことは不可能だ。
上司から虐げられ、疲れ切ったガードマンや空港の兵士などは、すっかり内にこもった動物のような鈍い目を「余計なことを言う」者に向けてくる。彼らは、逆ギレしやすいのだ。外国人はもちろん、国内のインテリも自由とか民主主義とか「余計なこと」を言って彼らをコケにする。
だから彼らは、「雇い主」のプーチン大統領を守る。そしてこの構造を元KGB、つまり公安警察が全国に張り巡らした密告者の網を駆使して批判者を摘発・弾圧することで守る。今号の特集記事でも書いたが、これがロシアの全体主義構造の肝だ。
ウクライナ戦争で西側はプーチン1人を相手にしているが、実はロシアの社会自体が問題なのだ。
ウクライナで分からないのは「オリガーク」。つまりウクライナ経済の大きな部分を所有し、そのカネで政治も牛耳ってきた大事業家たちが今、どう動いているかだ。
ウクライナ経済の中心は、いま戦争の焦点となっている東ウクライナにある。ここを拠点とするオリガークたちは2014年、親ロ派勢力に資産の多くを接収されたことになっているが、それは名義だけのことで実際は利権を維持しているかもしれない。
例えば、電力事業から金融業まで手掛ける大富豪のリナト・アフメートフは、親ロ派勢力が支配する東部の炭鉱から石炭を鉄道で西部に搬入してコークスにすると、これを東部の製鉄所で使用して作った製品を輸出していた。
2014年以降に極右がこの鉄道を封鎖すると石炭はロシアを経由してウクライナに搬入されるようになった。これには親ロ派の大物政治家ビクトル・メドベドチュクとロシアの実業家が絡むが、アフメートフはこれに関与している可能性がある。
激戦の舞台になっているアゾフ海の港町マリウポリ近郊のアゾフスターリ製鉄所は、アフメートフの看板企業だ。この製鉄所を守っている「アゾフ大隊」は、元はアフメートフお抱えの私兵だった。
不思議なのは、「激戦」が続いているはずなのに製鉄所の施設がまだ大きくは破壊されていないように見えることだ。中世イタリアの都市国家たちは傭兵団を雇って相戦ったが、戦争の結果は傭兵団同士の「示談」で決められることがあった。
アゾフスターリ製鉄所の防衛をめぐっても、カネが動いている可能性がある。2014年5月、ドネツクの親ロ派地域の「首相」ボロダイはインタビューで、「ウクライナの政治は汚い。カネ次第で立場を変え、それでも非難されない」と言っている。
一方で、アフメートフに対抗するオリガークのイーホル・コロモイスキーが、機に乗じて製鉄所の乗っ取りを狙っているかもしれない。
ウクライナを支援し、ロシアを制裁する上ではこうしたウラ事情も心得ておく必要がある。さもないと、予想もしなかった結果に驚くことになるだろう。
●対ロシア“IT戦争” 武器の代わりにSNSを  5/18
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ。激しい戦いが行われているのは戦場だけではない。軍事力で劣るウクライナ側はサイバー空間で有利な戦いを進めている。SNSを駆使して国際世論を味方につけているのだ。他国を動かし、制裁の強化や軍事支援につなげる。21世紀の戦争の実態に迫る。
インターネット・アーミー 募集中
「スマートフォンであろうと銃であろうと、戦いをやめたら国が滅びてしまう」
ウクライナ政府で情報戦のアドバイザーを務めるバレンティナ・アクソノバさんは、その重要性をこう語った。
ロシアとウクライナはかつてない規模の情報戦を繰り広げている。特にウクライナ側はゼレンスキー大統領から軍、国民にいたるまで、国を挙げて戦っている。
ロシアによる軍事侵攻開始からわずか4日後、ウクライナの文化・情報省はSNSのテレグラムにある投稿を行った。
「多くの国民が『銃を撃てない自分はどう役に立てばいいのか』と自問しているはずだ。ネットにアクセスできるなら『インターネット・アーミー』に参加してほしい」
「インターネット・アーミー」と名付けられたボランティアの募集だった。呼びかけに応じたのはおよそ30万人にのぼった。
ウクライナのSNS情報戦 戦略は?
「インターネット・アーミー」には、毎日、具体的かつ詳細な指示が届く。国際世論に影響を与えるため、大量の書き込みを行えと。
ある日の投稿ではアメリカに武器の供与を働きかけるため、アメリカ議会の軍事委員会の議員らにメッセージを送るよう指示。議員のSNSのリンクに加えて、投稿に使える写真の素材、そして英語ができない人のために投稿用の英語の例文まで用意されている。
ボランティアたちはこうした指示を受けて大量の書き込みを行っている。
「防空システムを供与して私たちの命を救ってください」。
対象となったアメリカの議員のSNSには、ウクライナ政府の指示どおりのことばが数多く書き込まれていた。
書き込みが行われる対象はロシアで事業を続ける企業も含まれている。政府が標的にしたコカ・コーラや大手食品メーカーのネスレのSNSにもロシアからの撤退を求める大量の書き込みが行われていた。ネスレは国際的な批判を受け、事業の縮小と利益の寄付の発表に追い込まれた。
“飽きられない”戦術とは?
発信はSNSの書き込みにとどまらない。
「インターネット・アーミー」の1人、映像クリエーターのセルゲイ・ヴォークさんらは自分たちのスキルを生かして動画の発信を続けている。
ロシア軍のミサイルが着弾する瞬間の映像や変わり果てた街の様子を効果的に編集し、英語のナレーションをつけてメッセージを発信している。
ヴォークさんたちが恐れているのは、ウクライナのニュースが国際社会から「飽きられて」しまい人々が関心を失ってしまうこと。
関心が失われれば支援が途絶えるかもしれないと懸念しているからだ。
セルゲイ・ヴォークさん「毎日ニュースに取り上げられるように、世界の人々がウクライナを忘れないように映画のような見た人が他の人にシェアするなど伝えたくなるように作っている。見た人に事態の深刻さをきちんと伝えられる『通訳』のような役割を果たしたい」
上級者向けの指示は?
ハッキングの知識を持つ人々には、ロシア政府やインフラなどをねらうよう指示している。
ウクライナ国防省は、キエフ郊外のブチャで多くの市民を残虐な手法で殺害したとして、ロシア軍の兵士など約2000人の氏名や生年月日、パスポート番号といった詳細な個人情報を公開した。責任追及のためだという。
アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズはこうした情報の信憑性は確認できないとしたうえで、サイバー攻撃の一環だとの可能性に言及している。
家族との会話も情報戦?
ウクライナの情報戦は国際社会だけでなく、ロシア国内にも向けられている。
ロシアではウクライナでの惨状を伝える映像を「やらせ」だとする政府のプロパガンダを信じる人が少なくないからだ。
ことし3月、インターネット上に投稿された音声が多くの注目を集めた。ロシアに住む父親とウクライナに住む息子の会話を録音したものだった。歴史的に関係が深いウクライナとロシアでは家族が両国にまたがって暮らしているケースも少なくない。
息子: 「ウクライナではナチスがロシア語を話す人たちを抑圧している」なんて、本当に信じているの?
父: ウクライナでは若者がロシアを憎むよう教え込まれている
息子: 父さんが息子の話を信じてくれないなんて間違っているよ
この音声を投稿したウクライナ人のミーシャ・カツリンさんが取材に応じてくれた。
「58歳の父はインターネットは使わないので、ロシアの国営テレビや新聞が情報源のすべてです。私は軍事侵攻の犠牲者ですが父はプロパガンダの犠牲者です」
ロシア側に住む家族に現実を伝えることで、ロシア政府に攻撃を止めるよう圧力をかける。
カツリンさんはウェブサイトを立ち上げてプロパガンダを信じる家族とどうコミュニケーションをとるべきか指南している。アドバイスは具体的だ。
やってはいけない例 「『なぜ分からないんだ』と言ってはいけない」(相手が聞く耳を持たなくなるから)「怒って会話を断ち切ってはいけない」(1回で説得できなくても、相手は電話を切った後も繰り返し相手のことばを考えるから)
ミーシャ・カツリンさん「私たち自身が(ロシアの)国営メディアに代わる彼らのテレビやラジオとなる必要があります。家族とコミュニケーションを続けてロシアのプロパガンダに抵抗するのです」
しかし、情報戦で攻撃は止められない?
情報戦においてウクライナはロシアを圧倒しているというのが多くの専門家の見方だ。SNSを使った情報戦の第一人者は次のように指摘する。
ピーター E.シンガー氏「ウクライナは自分たちのメッセージを広める情報戦に勝っているのではなく、すでに勝利したと言える。ロシア側が自分たちのメッセージを打ち出すことはもう不可能な状態まできている」
しかし、情報戦に勝利してもロシア軍による攻撃は止められず、多くの市民が犠牲になる状況は変えられていない。ならば、情報戦の意味は何か。
それは情報戦がサイバー空間だけでなく現実の世界に大きな影響を及ぼしていることだという。
ピーター E.シンガー氏「戦争における情報戦は外交や国際経済と結び付いている。かつてない規模の軍事支援や制裁は情報戦の勝利なしには起きえなかっただろう」
ロシアはなぜ手をこまねいているのか?
ロシアは情報戦にたけた国として知られている。ロシアは2016年のアメリカ大統領選挙への介入を行ったとされたり、偽アカウントなどを使って大量の誤情報を拡散させることで何が事実なのかわからなくさせたりするなど世論操作も得意としている。
にもかかわらず、なぜ劣勢に立たされているのか。
その前提にあるのがロシアが一方的に軍事侵攻を仕掛けていることで正当化が難しく、そして市民の犠牲もためらわない残虐な攻撃の証拠とも言える映像が大量に出てくる中で、ロシア側の言い分が通りにくくなっていることだ。
それに加えてアメリカのNSA=国家安全保障局でサイバー戦を担当していたジェイク・ウィリアムズ氏は、ロシアがウクライナを短期間で制圧できるとの見通しから、情報戦の準備を十分していなかったのではないかと分析している。
ジェイク・ウィリアムズ氏「ロシアはサイバー戦において世界でも突出した国の1つでウクライナは無名ですらあった。それがいきなり勝者として躍り出たのだ。世界各国がウクライナの情報戦の戦い方を注視し、記録しているに違いない。次に起きる紛争ではウクライナの戦い方から学んだ戦いが繰り広げられるだろう」
「この戦いはロシアとウクライナだけの問題ではない。ウクライナは世界全体の民主主義と自由のために戦っている」――今、ウクライナ政府が全面に押し出しているメッセージだ。
ウクライナ政府のアクソノバさん「西側諸国にはわれわれの戦いを支援し続けてほしいのです。ウクライナが世界の民主主義のために戦っているからこそ、ウクライナを支援し続けることが重要だと理解してもらわなくてはいけません」
「戦争の最初の犠牲者=真実」
戦争ではさまざまなプロパガンダが飛び交うため、事実がわからなくなってしまうことが少なくない。
「戦争の最初の犠牲者は真実」と言われるゆえんだ。
ロシア軍の動きは西側諸国の政府やシンクタンクが詳細な分析を行い、民間の企業も部隊の配置などがわかる衛星写真を公開している。
これに対してウクライナ軍に関する情報はその被害状況も含めて限られている。これはウクライナを支援する西側諸国が、戦闘で不利にならないようにあえて公開していないためだとみられ、出回る情報が意図を持ってコントロールされていることは明らかだ。
さらにSNSの情報は、事実かどうかにかかわらず瞬く間に拡散する。ロシア、ウクライナ双方から真偽不明の情報や一部だけを都合よく切り取った情報も多く出てきている。その情報が誰によってどのようなねらいで発信されているのか。私たちもまた、情報戦の渦中にあるのだ。
●ロシア、投降したアゾフ連隊を「戦争犯罪人」で訴追方針 一方的に裁く恐れ 5/18
ロシア軍が侵攻したウクライナ南東部マリウポリで投降したウクライナ内務省系軍事組織「アゾフ連隊」の兵士らについて、ロシア捜査委員会は17日、「戦争犯罪人」として訴追する方針を明らかにした。タス通信が伝えた。ロシア側が戦争による市民の被害などを責任転嫁するため、一方的に裁く恐れがある。
ロシア国防省によるとマリウポリで16日以降に投降したウクライナ兵は900人を超えた。欧米メディアは、一部がロシア支配地域に移送され、刑務所だった施設に収容されたと伝えた。ウクライナ政府によると、投降は両国の休戦合意に基づく「退避」だった。
ロシア政府は、アゾフ連隊がウクライナの民族性を重視し、反ロ的な態度を示しているとして「ネオナチ」と非難してきた。捜査委員会は、アゾフ連隊には「ウクライナ東部ドンバス地域の市民に犯罪行為を行った」との容疑があると主張している。
ロシア下院は18日に「ナチス的犯罪者は捕虜交換の対象とすることを禁じる」と定めた決議を審議。政界では、ロシアで2009年に事実上廃止された死刑を復活させ、アゾフ連隊の兵士を処刑するよう求める声も出ている。
マリウポリではロシア軍が包囲した3月1日以降、避難所となっていた劇場や病院が空爆され、市民ら2万人以上が死亡したとされる。ロシア軍は被害について「すべてアゾフ連隊やウクライナ軍の仕業」と訴えている。
●中露は軍事同盟国ではなく、ウクライナ戦争以降に関係後退していない 5/18
16日にプーチンが招集した軍事同盟CSTO首脳会談に中国が入っているはずがないし、中露間にも軍事同盟はなく、中国は(北朝鮮以外は)どの国とも軍事同盟を結んでいない。中国は軍事的に中立でNATO結束からも独立している。
プーチンが招集した軍事同盟CSTOと中国
5月16日、プーチン大統領はCSTO(Collective Security Treaty Organization)(集団安全保障条約機構)設立30周年記念にちなんで、関係国首脳をモスクワに呼んで会議を開いた。CSTOはソ連崩壊に伴って1992年5月15日に旧ソ連の構成共和国6ヵ国によって設立された軍事同盟で、設立時から今日に至るまで紆余曲折があるものの、現在のメンバー国は「ロシア、ベラルーシ、アルメニア、 カザフスタン、 キルギス、 タジキスタン」である。
中国と旧ソ連は、1950年代の後半から関係が険悪化し、1969年には中ソ国境にあるウスリー江の珍宝島(ダマンスキー島)で大規模な軍事衝突が発生し、中ソ国境紛争が始まった。一時は中ソ間で核戦争が勃発するかもしれないというほど険悪な状態になり、これが結果的に米中接近を促したと言っても過言ではないほど、中ソは仲が悪かった。
もちろん1989年5月、天安門事件が起きる寸前に、まだ「ソ連」だった頃のゴルバチョフ書記長が訪中し中ソ対立に終止符は打った。しかし1989年6月に起きた天安門事件で中国人民解放軍が民主を叫ぶ丸腰の若者たちに発砲して民主化運動を武力で鎮圧したことにより、ソ連崩壊後のロシアは、まだ「中国人民解放軍」に対して十分には警戒を緩めていなかった。
したがってCSTOは、ある意味、対中警戒的要素を持っているとも言える。
中露善隣友好協力条約が締結されたのはプーチンが大統領になってから
プーチンは、ロシア連邦の第二代大統領(2000年〜2008年)と第四代大統領(2012年〜現在)を務めているが、中国とロシアの間の「中露善隣友好協力条約」が締結されたのは、プーチン政権になったあとの2001年7月16日のことだ。
旧ソ連との間には1950年に中ソ友好同盟相互援助条約が結ばれており、それは軍事同盟でもあれば経済協力に関する条約でもあったが、1980年に失効している。
ソ連崩壊後は上述の軍事同盟が旧ソ連の構成共和国の間で結ばれたくらいだから、中国との間の「中露善隣友好協力条約」に軍事同盟の要素があるはずがない。
日本では、「中露善隣友好協力条約」の第九条が事実上の防衛協定だという人もいるが、そういう事実はない。第九条には以下のように書いてあるだけだ。
第九条:締約国の一方が、平和が脅かされ、安全保障上の利益や締約国の一方に対する侵略的脅威を伴うと認識した場合は、双方は発生した脅威を排除するために、直ちに接触し、協議する。(九条ここまで)
「接触し協議する」すなわち「相談する」だけなので、防衛協定ではない。特に
第七条:締約国は、既存の協定に従い、国境地域の軍事分野における信頼を高め、軍事力を相互に削減するための措置をとる。 締約国は、それぞれの安全保障を強化し、地域及び国際安定を強化するため、軍事分野における信頼醸成策を拡大し、深化させる。締約国は、武器及び軍隊の合理的かつ十分な原則に基づき、自国の安全の確保に努める。関連する協定に基づく締約国間の軍事技術協力は、第三国を標的としていない。(七条ここまで)
となっており、「国境地域の軍事分野における信頼を高め、軍事力を相互に削減するための措置をとる」の部分は「昔のような国境紛争はやめましょうね」という、「中露両国は、もう互いに相手と戦争しませんよ」ということを謳っているくらいで、七条の文末にある「第三国を標的としていない」という言葉は、「中露は第三国に対して互いの国を守る軍事同盟は締結していませんよ」ということを意味している。
すなわち、「中露ともに、相手国のために連携して、第三国と戦うということはしない」ということなので、中露善隣友好協力条約は軍事同盟ではないことが明確に示されている。中露間に確実にあるのは戦略的パートナーシップで、習近平とプーチンの個人的な結びつきが強いということに依存している側面が大きい。
中国の秦剛駐米大使が米誌ナショナル・インタレストに「中露は同盟を結ばず」
今年4月18日に、駐アメリカの秦剛(しん・ごう)・中国大使が米誌ナショナル・インタレストに「ウクライナ危機以降」というタイトルの署名入り文章を発表した。その中で秦剛は以下のように書いている。
――ソ連解体後、アメリカと中国は1992年にそれぞれロシアのエリツィン大統領の訪問を受け入れ、「互いに(ロシアと)敵対しない」という関係を確立した。当時の米露と中露関係は、同じ地点に立っていたのだ。30年後、中露関係は大きく発展したが、「同盟も結ばなければ、対立もせず、第三者を標的としない」という性質に変化はない。中国はこれまでも、そしてこれからも、独立した大国であり、いかなる外部からの圧力を受けることもなく、事の善悪を自ら判断し、自ら自国の立場を決定していく。(引用ここまで)
この「同盟を結ばず(中国語で「不結盟」、英語では“non-alliance”)」という言葉だけを取り上げて、日本では「中露関係が後退し、遂に秦剛が、『中露は同盟国でない』と言った」と喜ぶメディアがあるが、上述した経緯を見れば、それが如何に的(まと)外れであるかが分かるだろう。
5月15日のコラム<ロシア苦戦で習近平の対ロシア戦略は変わったか?――元中国政府高官を直撃取材>にも書いたように、駐ウクライナの高玉生・元中国大使が「ロシアは惨敗する」と言ったことを、「中露関係が後退した」として鬼の首でも取ったように喜ぶジャーナリストがまだいるのは、中露の真相を理解していないためだろう。
気を付けた方がいいのは上海協力機構
前述の秦剛駐米大使は、同じナショナル・インタレストの中で、上海協力機構に関して、以下のように書いている。
――1996年、クリントン大統領がデトロイトでNATOの東方拡大のタイムテーブルを初めて発表した年、「中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン」の5ヵ国は上海で「国境地域における軍事分野における信頼強化に関する協定」に署名し、中国と旧ソ連諸国との国境問題を徹底して解決し、中ソ国境100万人兵士布陣の歴史に終止符を打ち、それを以て上海協力機構の礎(いしずえ)とし、相互信頼、相互利益、平等、協議、多様な文明の尊重、共通の発展の原則を確立し、「上海精神」の核を形成した。その結果、中国とロシア、中央アジア諸国との長期的な善隣関係と共通の平和を実現した。 歴史は、異なる選択が異なる「果実」を産むことをわれわれに教えてくれた。(引用ここまで)
この「上海精神」は、そもそも「NATOの東方拡大に反対」して誕生したようなものであり、そこに今ではインドが入っているということに目を向けなければならない。
インドが上海協力機構に入ったプロセスは、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の「習近平とモディ」による15回以上にわたる辛抱強い中印首脳会談の「果実」の一つなのである。
今月22日〜24日の日程でバイデン大統領が来日し、日米豪印から成る「クワッド」による対中包囲網を、対露包囲網と絡めながら展開させていくようだが、その前に立ち止まって、「中露関係」と「中露印」3ヵ国の実態を把握していく必要があるのではないだろうか(「中露印」3ヵ国が描いている構想に関しては『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第六章で詳述した)。
EUともNATOとも対立構造にない中国
中国は北朝鮮と1961年に中朝友好協力相互援助条約という軍事条約を北朝鮮の要求により結ばされた以外は、どの国とも軍事条約を結んでいない。その北朝鮮との軍事条約も、実は中国にとって足枷であり、早くこの足枷から逃れたいと中国は思っている。
ただ、現在はアメリカの圧力からの緩衝地帯になっているので、それなりの役割を果たしてはいるが、中国は軍事的に危険な北朝鮮と運命を共にしたくないと思っているので、常に北朝鮮の暴走を抑えようとし、関係は微妙だ。
となると、ロシアと違い、中国は特にEUやNATOと対立する要素は少なく、アメリカがウイグル問題で中国を批判せよと迫ってきたので、その批判をして見せて、中欧投資協定を中断させてしまったが、EUが、「中国がロシアを制裁しない」という理由だけで、対中批判を強めることも考えにくい。
むしろ、ロシアを制裁することによって経済的に苦しい立場に追い込まれているEUは、いずれ「経済で結びつきを強めようとする中国」の存在が、ありがたくなる可能性が出てこないとも限らない。
もし、上海協力機構が「NATOの東方拡大に反対して」設立されたのだから、中国はロシアとともに、NATOと対立関係にあると主張すると、上海協力機構の正式メンバー国である「インド」はどうなるのかという矛盾とぶつかる。
そのことには「目をつぶって、真実を見ないようにしよう」というのが日本にはあるのではないのか。日本国民は現実を正視し、バイデンの来日が方向づける日本の未来を、俯瞰的に注意深く読んでいく必要があるだろう。
●マリウポリ陥落で戦争犯罪の証拠隠蔽か ロシアが攻勢強める可能性も 5/18
約3か月におよぶ激しい爆撃の中、推定数千人の死者を出し、恐怖と飢えの話が後を絶たなかったマリウポリ市の戦いが、いよいよ終わりに近づいている。
ウクライナ軍は16日遅く、アゾフスターリ製鉄所での「戦闘任務」を完了したと発表した。この数週間、広大な製鉄所はロシア軍が占領した街で抵抗を続けた最後の砦(とりで)だった。すでに数百人のウクライナ兵が施設から退避し、いまだ施設内に残る兵士の退避も継続中だ。
2月末にロシア軍がウクライナに侵攻して以来、アゾフ海に面した港町マリウポリではとくに激しい戦闘が繰り広げられてきた。ロシア軍が産婦人科棟に壊滅的な攻撃を行ったのも、数百人の民間人が避難所にしていた劇場を爆撃したのもマリウポリだった。
そして今、さらなる残虐行為の証拠が永久に失われるのではないかという懸念が持ちあがっている。
ロシアがマリウポリを支配する以前から、市議会はロシア軍が証拠隠蔽(いんぺい)を図っていると非難していた。移動式焼却炉で遺体を処理し、選別収容所で「残虐行為」の目撃者を特定していたというのだ。CNNはこうした内容を確認できなかった。
「殺人者が痕跡を覆い隠している」と、市議会は主張した。
ロシア側は、選別収容所で不正を隠蔽したことやマリウポリで民間人を狙ったことも含め、こうした主張の数々を否定している。
抵抗の象徴
ロシア軍の容赦ない攻撃が何週間も続く中、マリウポリはウクライナの抵抗のシンボルとなった。街の大半はすでにロシア軍の手に落ちたが、抵抗軍はアザフスターリ製鉄所に立てこもった。そこには一時期1000人近い民間人も避難していた。ウクライナ側が言うには製鉄所内の状況は厳しく、食料や水は徐々に底をつき、数百人の負傷者が適切な治療も受けられないまま取り残されていた。
これまでウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領はマリウポリの死者を「数万人」としてきたが、地方軍政官が先月語ったところでは最大2万2000人に上るという――もっとも、戦火にあっては死者数の特定は難しい。マリウポリ市長の推定では、街のインフラの90%が損傷し、40%が修復不可能な状態だ。
破壊されたマリウポリの姿は、ロシアがウクライナで武器を無差別に使用していることを象徴し、シリアのアレッポやチェチェン共和国の首都グロズヌイといった町の壊滅状況と驚くほど酷似している。
親ロシア分離派の支配地域を越え、より広範なドンバス地方の支配を目論むロシアにとって、マリウポリの制圧は重要だ――こう語るのは、ワシントンを拠点とするシンクタンク「新アメリカ安全保障センター」でロシア軍を専門とするマイケル・コフマン氏だ。
「主要都市の実効支配なくして、ドンバス制圧を宣言するのは非現実的だ」と、同氏は先月CNNにメールで語った。
マリウポリが陥落すれば、ドンバスの他の地域へロシアの兵力と物資がなだれ込むのは必須だとコフマン氏は言う。
だがロシアがマリウポリを掌握し続けるには資源も相当必要になる。ウクライナ東部の攻撃では、ロシアも可能な限り部隊を投入しなくてはならなくなるだろう。すでにロシアはウクライナの他の地域から部隊を引き揚げ、この地域に再配備している。
ルハンスク州とドネツク州の前線では今も砲撃と空爆が続いているが、ウクライナ軍はロシア軍による制圧の試みを退けていると主張する。
専門家いわく、ロシア軍がマリウポリ壊滅を図ったのは支配を容易にするためだった――ロシア軍の戦闘指揮を任された人物、アレクサンドル・ドゥボルニコフ将軍の経歴を考えれば、これもうなずける。
ドゥボルニコフ将軍は2000〜2003年、チェチェンにおけるロシアの鎮圧活動で師団長を務め、2015〜2016年にはシリアでロシア軍の指揮を執った。いずれもロシア軍は死傷者が出ることもほとんどお構いなしに民間地域を爆撃し、破壊的な爪痕を残した。
「同将軍は基本的にシリア第2の都市アレッポを壊滅し、この世から消し去った。戦略は単純明快だ。命あるものはすべて爆撃し、民間施設――病院や学校――を標的にした後、残っているものを根こそぎ奪う」と言うのは、英国を拠点とするシンクタンク「王立国際問題研究所」のオリシア・ルツェビッチ研究員だ。
ルツェビッチ氏は先月、戦闘のさなかも「すでに同じような戦略がマリウポリで展開されている」と語った。
すでにウクライナ軍諜報(ちょうほう)部も、ドゥボルニコフ将軍がマリウポリ占拠の過程で行われた民間人に対する戦争犯罪を看過したと非難している。
全面追及
マリウポリのバディム・ボイチェンコ市長によれば、戦争以前に街で暮らしていた45万人のうち、3分の1は4月中旬までに市街へ避難した。残る住民はわずか10万人。難を逃れた人々はみな戦争の恐怖体験を抱えている。
なんとか街を出られた住民の中には、ロシア軍からいわゆる「選別収容所」を経由してロシアに避難するよう命じられたという人もいる――かつてヨシフ・スターリンが膨大な数の人々をソ連の僻地(へきち)に強制移動させた痛ましい記憶を思い起こさせる行為だ。またロシア軍は一時期、住民が街を出るのを禁じていたとも言われる。
容赦ない砲撃を逃れるため、来る日も来る日も地下で避難生活を送ったと大勢の人々が語った。以前CNNが取材した住民の話では、飲料水の配給の列に並んでいたところ爆発が起き、前に並んでいた3人が死んだという。そのうち1人は頭を吹き飛ばされていた。
ロシア側はこうした数々の主張を否定している。選別キャンプで不正を隠そうとしたことも、マリウポリで民間人を標的にしたことも事実ではないとする。
だがマリウポリ市長顧問のペトロ・アンドリュシチェンコ氏によれば、ロシア軍は早くも戦闘でもっとも被害を受けた場所の一部で撤去作業を開始しているという。
「驚いたことに、瓦礫(がれき)の撤去作業はもっとも破壊が進んだ場所と一致している……劇場、ミル通り、そして今度は突然、病院でも始まった」。アンドリュシチェンコ氏が言う病院とは、3月に激しい爆撃を受けた第3病院のことだ。
爆撃後の映像には、身重の妊婦たちが病院から運び出される様子が映っていた。そのうち少なくとも1人は後日息を引き取った。
ロシアの後ろ盾で新設された市政府のものとおぼしきテレグラムチャンネルでは、市の復旧と「遺体の回収」を行う臨時求人が公開されている。
ロシアが街を完全掌握する中、現地の破壊行為を徹底的に追及することは不可能かもしれない。
ブチャやボロディアンカなど、ウクライナ北部の解放された街で行われたとされる戦争犯罪の規模は、ロシア軍の撤退後に初めて明るみに出た。
マリウポリの住民も同じような残虐行為を受けていた可能性がある。街がロシアの支配下にあるうちは、実際の出来事を正しく伝える記録が、歴史から葬られてしまうかもしれない。
●日中外相会談 “ウクライナ情勢で中国も責任ある役割を”  5/18
林外務大臣は、中国の王毅外相とオンライン形式で会談し、ウクライナ情勢をめぐり、ロシアの軍事侵攻は国際法の明確な違反だと非難したうえで、国際社会の平和と安全を維持するため、中国にも責任ある役割を果たすよう求めました。
会談は、去年11月の電話会談以来、半年ぶりで、冒頭、林外務大臣が、ウクライナ情勢などで国際社会は大きな挑戦に直面しているとして「建設的かつ安定的な日中関係」の構築に向け協力を呼びかけたのに対し、王毅外相は、両国の関係を強固にして発展させていきたいと応じました。
そして、林大臣は、ウクライナ情勢をめぐり、ロシアの軍事侵攻は国際法の明確な違反だと非難したうえで、国際社会の平和と安全を維持するため、中国にも責任ある役割を果たすよう求めました。
また、尖閣諸島を含めた東シナ海や南シナ海、それに香港や新疆ウイグル自治区などでの中国の行動に重ねて深刻な懸念を表明し、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調しました。
さらに、林大臣は、新型コロナの感染拡大により上海で厳しい外出制限が続く中、日本人の安全確保や、日本企業の経済活動の保護などを適切に行うよう求めました。
一方、両外相は、ことしが日中国交正常化50周年であることを踏まえ、双方の努力で、国民の交流や経済の協力を後押ししていくことが重要だという認識で一致しました。
中国外務省によりますと、王毅外相は、林外務大臣との電話会談の中で「ことしは両国の国交正常化50周年であり、両国関係の歴史のうえで重要な節目だ。これを契機に、両国の国民がともに努力してつくりあげてきた友好を強化し発展させていくべきだ」と述べました。
そして、日中間でまとめられた政治文書の原則と精神の順守や、デジタル経済や気候変動などの分野での協力の強化を呼びかけました。
一方で、王外相は「日本側ではこのところ、台湾など中国の核心的利益や重大な関心事に対して否定的な動きが目立ち、一部の政治勢力がいわれなく中国を攻撃し、信頼関係を著しく損なっている」と述べ、日本側に中国への批判を強める動きがあると指摘しました。
また、アメリカのバイデン大統領が日本を訪問し、日米豪印4か国のクアッド首脳会合が開催される予定であることにも触れ「日米が連携して中国に対抗するという論調が勢いを増していることは警戒すべきだ。日米は同盟関係だが、中国と日本は、平和友好条約を締結している。日米の協力は、中国の主権や安全保障、発展の利益を損なうものであってはならない」と述べ、日米両国をけん制しました。
●ゼレンスキー氏、「生還」命令 製鉄所の精兵、淡々と投降― マリウポリ 5/18
ロシア軍による2カ月半にわたるウクライナ南東部マリウポリの包囲戦は、とりでのような地下構造を持つアゾフスタル製鉄所を拠点に抵抗してきた精鋭部隊「アゾフ大隊」の兵士らが16日以降、投降を始め、事実上終結した。「生還せよ」。ゼレンスキー大統領の苦渋の命令が、幕引きのきっかけとなった。
ロシア国防省が公表した映像によると、重装備のロシア兵が屋外でウクライナ兵を囲み、一人一人爆発物を持っていないかなどを入念にチェック。包帯を巻いた負傷兵は担架で車両に運ばれた。頑強に抗戦してきた精兵も「捕虜」の身となり、暴れたり、取り乱したりすることなく、淡々と武装解除に応じた。
ゼレンスキー氏は16日の動画メッセージで「英雄が生きていてくれることが必要だ」と強調。要衝の陥落はもはや時間の問題で、投降を認めてもアゾフ大隊に同情的な国民の理解を得られると踏んだとみられる。
●プーチン大統領、部隊配置など「大佐クラスの戦術決定」に直接関与か… 5/18
英主要メディアは、ロシア軍最高司令官のプーチン大統領が、ウクライナ侵攻を巡り「大佐クラスが下す戦術の決定」に直接関与しているとの西側軍事筋の分析を相次いで報じた。
BBCによると、プーチン氏は露軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長とともに、全域制圧を目指す東部ドンバス地方での部隊配置の決定などに関わっているという。ゲラシモフ氏は4月末、東部ハルキウ(ハリコフ)州イジュームの最前線を訪れた。
露軍は、将官も最前線で陣頭指揮を執っているとされる。ウクライナ側は、露軍の将官10人以上が戦死したと発表している。
ウクライナ侵攻で露軍は「誤算」が続いているといわれ、ザ・タイムズ紙(電子版)は16日、「プーチン氏の介入が失敗を増幅させている」との見出しを掲げた。
●後継者出現!プーチン氏退陣Xデー♀ヤ近か 重病、クーデター説も 5/18
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(69)をめぐり、「重病説」や「クーデター進行説」などの情報が相次いで出てきた。36歳の後継者候補の名前も浮上、「Xデー」は、早ければ1カ月以内にも訪れるとの見方もある。ロシア軍はウクライナ南東部の要衝マリウポリを「陥落」させたが、東部などでは苦戦も続き、損害も大きい。「プーチン後」を見据えて国内の複数の諜報機関が暗闘を繰り広げているようだ。
プーチン氏をめぐっては、英紙タイムズ(電子版)が「血液のがんで重病である」とのクレムリン(大統領府)に近い新興財閥「オリガルヒ」が語ったと報じた。露独立系メディア「プロエクト」や英紙なども体調異変について伝えている。真偽は不明だが、これまでもパーキンソン病やがんなどの重病説が伝えられてきた。
戦況は泥沼化している。ロシア国防省は17日、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所を最後の拠点として抵抗していたウクライナ部隊が「降伏した」と発表した。露軍は侵攻開始から3カ月近くかけて、ようやくマリウポリを制圧したが、ほかの地域では苦戦も続く。
米国防総省高官は16日、ウクライナ軍が同国第2の都市、東部ハリコフ周辺で露軍を国境から3〜4キロの地点まで後退させたとの分析を明らかにした。
東部ルガンスク州のガイダイ知事は、セベロドネツク近郊の2集落から露軍を撤退させたとした。ウクライナ軍参謀本部は侵攻開始以降の露軍の損害は約2万8000人になったと主張した。
英BBC電子版は同日、プーチン氏と、負傷説が出ていたゲラシモフ軍参謀総長が東部ドンバス地域での軍部隊の移動指示に直接関与しているとの見方を西側諸国の軍事筋の話として伝えた。
国家元首や軍の制服組トップが前線での攻撃や軍事作戦について決定するという異例の力の入れ具合だ。だが、前出の米高官によると、ウクライナ軍は米国などからの軍事支援も受け、ドンバス地域の一部で巻き返しているという。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は「ウクライナは勝利できる」と述べた。
一方、旧ソ連諸国でつくる「集団安全保障条約機構(CSTO)」の首脳会合では、プーチン氏がウクライナでの軍事作戦について説明したが、CSTO部隊の参加などは協議されないなど温度差も目立っている。
こうしたなか、ウクライナ諜報部門トップのブダノフ准将が14日、英スカイニュースのインタビューで「プーチン排除のクーデターが進行中」と明かし、ロシアの敗北が指導者の交代につながるとの認識を示した。
重病やクーデター情報について「西側を攪乱(かくらん)する偽情報の可能性はゼロではないが、ロシアの情報機関が積極的に都合の悪い情報を流しているのではないか」とみるのは、ロシア政治に詳しい筑波大名誉教授の中村逸郎氏だ。
ロシアの諜報機関には連邦保安局(FSB)、対外情報庁(SVR)、軍参謀本部情報総局(GRU)がある。
「ロシアの諜報機関はポスト・プーチンをにらみ、自らに都合のいい体制づくりに着手し始め、主導権争いになっている。プーチン氏は諜報機関の離反を把握していても、制止や粛清を実行すれば、離反者が増えるという負の循環に陥っている」との見方を示す。
9日の対独戦勝記念日を境に、有力な後継候補も浮上した。中村氏はこう語る。
「戦勝記念日の映像で、プーチン氏がドミトリー・コバリョフ氏という36歳の男性と親しく話す姿が見られ、ロシア国内では後継者のお披露目ではないかとの憶測が飛び交っている。同氏はオリガルヒの息子で、大統領府の局長級とされ、プーチン氏とはホッケー仲間とされている」
交代の時期までささやかれている。6月12日の「ロシアの日」という祭日だ。1990年にはロシア共和国の国家主権の宣言が採択され、91年には初の大統領選が行われた日だ。
「プーチン氏は退陣し、院政を敷きたいと考えている。大統領令でコバリョフ氏を大統領代行に据えて『終戦宣言』を行わせ、数カ月後に大統領選を実施する可能性がある」と中村氏は語るが、スムーズな禅譲が実現できるかどうかは不確実だという。
「コバリョフ氏と仲が良いFSBが、プーチン氏を説得したとの情報もある。だが、GRUなど他の諜報機関がコバリョフ氏に不満を持てば、大統領選で野党勢力を支援する可能性もある」と中村氏は指摘した。
●プーチン大統領哀れ四面楚歌…北欧2カ国NATO加盟に余裕の笑み 5/18
もう誰も付いていけない──。ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の首脳会議が16日、モスクワで開催され、ロシアの他、ベラルーシやアルメニアなど加盟6カ国の首脳が集った。
目下の懸案事項は北欧2カ国のNATO加盟だが、黄金の扉から会議室に入ってきたプーチン大統領は余裕の笑み。「オレにはこれだけの協力者がいる」と言わんばかりの表情で5カ国首脳を引き連れ、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟について「直接的な脅威にはならない」と語ってみせた。
ところが、肝心のウクライナ侵攻については議論ナシ。CSTOは旧ソ連崩壊後の1992年、NATOに対抗するために設立されただけに、同盟国に協力を呼び掛けるかと思いきや、議題にすら上がらなかった。どんな狙いがあったのか。
「北欧2カ国のNATO加盟はプーチン大統領にとって痛手で、相当な脅威を感じているはずです。そのため、会議を通じて5カ国に対し『ロシアだけの問題ではないぞ』とメッセージを送り、結束を強めようと考えたのでしょう」(筑波大名誉教授・中村逸郎氏)
ところが、CSTO加盟国の反応は冷ややかだった。
アルメニアのパシニャン首相に至ってはハッキリと苦言を呈していた。国営アルメニア放送の電子版記事(16日付)によると、会議で2年前から続く隣国・アゼルバイジャンとの紛争に言及。「われわれは、CSTO加盟国がわが国の非友好国に兵器を売却していたことを問題視してきた」「ところが、結果的にそれらの兵器はアルメニア国民に対して使用された」と批判したのだ。
さらに、カザフスタンはもともと西側諸国と近く、ベラルーシのルカシェンコ大統領も今月上旬に「侵攻が想定より長引いている」と批判とも取れる発言を展開していた。結束どころか仲間割れ。バラバラではないか。
「ルカシェンコ大統領以外の4首脳は『ウクライナ』という単語に一切言及しませんでした。『侵攻に関わりたくない』という意思の表れです。今後は、タイミングを見てプーチン批判を始める首脳も出てくるでしょう。プーチン失脚後、『私はいち早く批判していた』とアピールできるからです。“得点稼ぎ”を狙っている首脳もいるのではないか」(中村逸郎氏)
孤立状態のプーチンは四面楚歌だ。
●ウクライナ侵攻で想定外認める チェチェン首長「初めに間違い」―ロシア 5/18
ロシア南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長は18日、ロシア軍のウクライナでの軍事作戦に関し「初めに間違いがあった」と述べ、想定通りには進まなかったことを認めた。オンライン参加したフォーラムでの発言をインタファクス通信が報じた。
ロシアはウクライナ侵攻で、短期間での首都キーウ(キエフ)制圧を狙っていたとされるが失敗。カディロフ氏はプーチン大統領に忠実で、チェチェンの部隊はウクライナ侵攻に参加している。
●プーチン氏、石油禁輸は「経済的自殺」 5/18
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は17日、同国のウクライナ侵攻を受けて欧州がロシア産石油の禁輸を検討していることについて、「経済的な自殺」行為だとの見方を示した。
プーチン氏はエネルギー関連の会合で、ロシア産エネルギーの調達を段階的に減らしたとしても、欧州自身が打撃を被るだけだと主張。西側諸国の動きは「生煮え」だとし、政府当局者らに対し、有利な展開につなげるよう促した。
プーチン氏は具体的に、制裁を発動すれば欧州はエネルギー価格の高騰とインフレ高進に直面するだろうとし、「当然ながらそうした経済的自殺行為は欧州諸国では国内問題として跳ね返ってくる」と指摘。一方で、欧州の「支離滅裂な行動」のおかげで、ロシアの石油・ガス収入は増大することになると述べた。
その上で「石油市場の変化は地殻変動のようなものだ。従来通りのビジネスが続いていく見込みはない」と強調した。
●ロシア兵、民間人殺害認める 初の「戦犯」裁判 ウクライナ 5/18
ウクライナの首都キーウの裁判所で18日、民間人を殺害した罪に問われたロシア軍の軍曹ワジム・シシマリン被告(21)の公判が開かれた。
戦争犯罪と謀殺を含む検察側の主張に関して、法廷で有罪かと質問された被告は「はい」と陳述し罪を認めた。ロシアのウクライナ侵攻に絡む「戦争犯罪」を扱う初の裁判で、被告は有罪なら終身刑を宣告される可能性がある。   

 

●ロシア 東部2州掌握へ攻勢も “勢い失われている”との見方も  5/19
ロシア軍は、ウクライナ東部の要衝マリウポリの製鉄所で兵士などの投降が続く中、マリウポリを完全掌握し、東部2州全域の掌握に向けて攻勢を強める構えです。一方で、ロシア軍の勢いは失われているという見方も出ていて、ウクライナ側は、一方的に併合されたクリミアの解放も掲げるなど反撃の姿勢を強めています。
ロシア国防省は19日、空軍がミサイルで攻撃し、ウクライナ東部のドネツク州や南部のミコライウ州で武器庫や弾薬庫、対空ミサイルシステムを破壊したなどと発表しました。
また、東部の要衝マリウポリのアゾフスターリ製鉄所では、今月16日以降、ウクライナ側から合わせて1730人が投降したと発表するなど、ロシアが近くマリウポリを完全掌握するとみられていて、さらに東部2州全域の掌握に向け攻勢を強める構えです。
一方、イギリス国防省は19日、ロシア軍の動きについて、ロシアが成果をあげられていないとする幹部を解任していると指摘し、東部ハルキウの侵攻で戦車部隊を指揮した司令官や、旗艦「モスクワ」が沈没した黒海艦隊の司令官などが責任を追及されたという見方を示しています。
そのうえで、ロシア軍が劣勢にあるともされる中、現場の将校たちは責任を回避するため、より上層部に決定を委ねる事態になっているとして「このような状況でロシアが主導権を取り戻すことは困難だろう」と分析しています。
こうした中、ウクライナ側は徹底抗戦を続けていて、ウクライナの内務相顧問は「敵は、6月終わりから7月のはじめにかけて、私たちの反撃を強く感じることになるだろう」と強調しています。
さらに、ウクライナのクレバ外相は17日に公開されたインタビューで、ロシアに勝利したと見なすためには、東部のドンバス地域などに加え、8年前にロシアが一方的に併合したクリミアも解放される必要があるという認識を示しました。
ロシア軍の勢いが失われているという見方も出る中、ウクライナ側はクリミアの解放も掲げるなど、欧米の軍事支援を追い風に反撃の姿勢を強めています。
●ロシア、支配下の原発に送電要請 5/19
ウクライナ南部にある欧州最大規模の原発を巡り、軍事侵攻によって支配下に置いたロシアが、送電を管理するウクライナに電力の供給を要請していたことが明らかになった。欧州でエネルギーの「脱ロシア依存」が進む中、ロシア側にはウクライナと欧州の電力融通を不安定にする狙いがあるとみられる。
ウクライナ、電力供給拒否「物理的に不可能」
ウクライナの国営電力会社「ウクルエネルゴ」は18日、ロシア軍支配下にあるウクライナ国内の原子力発電所からロシアに送電するようロシア側から求められ、「物理的に不可能」として拒否したと発表した。ロイター通信が報じた。
岸田首相、384億円の追加支援を表明
岸田文雄首相は19日、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの財政支援を新たに3億ドル(約384億円)追加し、計6億ドルに増額すると発表した。東京都内で記者団に明らかにした。
バイデン氏、北欧2カ国のNATO申請を支持
バイデン米大統領は18日、フィンランドとスウェーデンによる米欧の軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)への正式な加盟申請を受け、「心から歓迎し、強く支持する」との声明を発表した。NATO加盟国に速やかな加盟手続きを求め、申請中も「米国は両国と連携し、あらゆる脅威を警戒して侵略に立ち向かう」と表明した。
トランプ氏「私なら100%起きなかった」
トランプ前米大統領が、ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、バイデン大統領への批判を強めている。上下両院選や州知事選などの中間選挙を2022年11月に控え、選挙戦の材料にしたい考えだ。「ウラジーミル・プーチンにどう対処すればいいのか分かっていない。私が在任中なら100%起きなかったことだ」。トランプ氏は東部ペンシルベニア州で開いた集会で演説し、バイデン政権のロシアへの対応を批判した。
●米、ウクライナ軍事支援に127億円追加 「東部反撃のために調整」 5/19
米国防総省は19日、ロシアによる侵攻が続くウクライナに対し、最大1億ドル(約127億円)の追加軍事支援を実施すると発表した。同省のカービー報道官は「今回の支援は、ウクライナ東部でロシア軍に反撃するための内容に調整されている」と説明した。
同省によると、支援内容は▽155ミリりゅう弾砲18門とけん引用の軍事車両18台▽対砲兵レーダー3台――など。ウクライナへの軍事支援の合計額はロシアによる侵攻開始(2月24日)以降、約39億ドルに達した。2021年1月のバイデン政権発足からでは約46億ドル。
●G7財務相・中央銀行総裁会議 ドイツで開幕  5/19
G7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議が、ドイツで開幕しました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続き、エネルギー価格の高騰などで世界経済の減速が懸念される中、G7として結束した対応を示せるかが焦点となります。
G7の財務相・中央銀行総裁会議は、ドイツ西部のボン近郊で開幕し、日本からは鈴木財務大臣と日銀の黒田総裁が出席します。
会議では、まず軍事侵攻を続けるロシアへの経済制裁の効果を点検し、追加の制裁が必要かどうかを議論するほか、ウクライナへの支援についても議論することになっています。
また、軍事侵攻によって拍車がかかるエネルギーをはじめとした原材料価格の高騰や食糧の供給不安で、世界経済の減速が懸念される中、対策を協議する見通しで、G7として結束した対応を示せるかが焦点となります。
さらに、インフレ抑制に向けて欧米が進める金融引き締めが新興国経済に与える影響や、気候変動をめぐる対応などについても議論が行われ、日本時間の20日には、会議の成果を声明として取りまとめる見通しです。
●プーチン氏にNATO加盟の直接通告、冷静な応答に驚き フィンランド 5/19
フィンランドのニーニスト大統領は19日までに、自らが先にロシアのプーチン大統領に北大西洋条約機構(NATO)の加盟を申請する方針を直接伝えた際、プーチン氏がこれを「冷静沈着」な態度で受け止めたことに実際驚いたとの印象を明らかにした。
CNNの取材に今月15日に述べた。ただ、安全保障政策でロシアと交渉する場合は特に、「接触した当事者の発言内容が全てを語っていることではないことに留意すべきことだ」と主張。
加入申請についての通告をめぐってロシア側との間で問題が即座に生じている兆候はこれまでないとも述べた。
ニーニスト氏は、ロシアによるウクライナ侵攻は「独立を保つ近隣国への攻撃を仕掛ける準備があること」をあからさまにしたと説明。フィンランドが現段階あるいは将来的に攻撃を受ける恐れはないと判断しているとしながらも、欧州や世界での政治的に分断した状況は非同盟国家の将来的な生存の道のりに大きな選択肢を残していないとの認識も示した。
また、トルコのエルドアン大統領が自国内の少数民族クルド人の反政府組織がフィンランドやスウェーデンで拠点を築いていることなどを理由にフィンランドのNATO加盟に苦言を呈していることには衝撃を覚えたと認めた。
その上でトルコ側がフィンランドのNATO入りを阻止する動きについては心配していないとも述べた。多数の話し合いがあるだろうし、その結末には不安を抱いていないとした。
●「プーチンの側近」プリゴジンが関わった「ヤバすぎる仕事」の数々 5/19
「プーチン大統領の料理長」とも呼ばれる実業家、エブゲニー・プリゴジン。強盗や売春で逮捕された経験もある彼が外食産業で成功し、やがてプーチンの側近へと上りつめる様子については、【前編】『強盗・売春で捕まった元犯罪者が、「プーチンの側近」にのし上がるまで』でも紹介したとおりだ。
政府との蜜月を楽しみ念願の軍事部門にも参入したプリゴジンは、やがてロシアが涵養する戦争の「裏の仕事」も請け負うようになる。引き続きプーチンの国家戦略を分析した書籍『ハイブリッド戦争』から、彼の知られざる素顔について見ていこう。
プーチンの政敵を「徹底的に潰す」
サンクトペテルブルク郊外のオリギノで創設されたIRA(インターネット・リサーチ・エージェンシー)の存在が最初にジャーナリストに暴かれたのは、2013年9月だという。このIRA、世界で「トロール工場」と呼ばれるようになる。
IRAの創設者兼CEOは元警察大佐のミハイル・ビストロフであったが、この組織を支えたのはプロローグで紹介したプリゴジンやプリゴジンに近い人びとであった。IRAについては謎が多いが、ジャーナリストの調査や元職員の発言などにより、さまざまな実情が明らかになってきている。
IRAでは、SNSに大量の投稿をおこない、コメントを書くという仕事のために約400人が雇われ、24時間態勢で働いていた。各人がそれぞれ何十個ものアカウントをもち、事前に準備されたスクリプトに従って、ロシア語、英語、その他の言語でSNSにさまざまな情報を書き込みつづけたという。
また、スペインなど、スペイン語圏への攻撃にはベネズエラの協力も確認されている他、英語での発信に、近年ではアフリカの協力も見られる。
IRAの仕事は対外的なものだけでなく、ロシアの国内向けの仕事も多いという。例えば、プーチンの政敵で、反政府行動を長年牽引してきたアレクセイ・ナヴァルヌイに対し、「嘘つき、詐欺師、ロシアに対する裏切り者、西側から金をもらっているもの」などの書き込みをくりかえしてきた。
また、やはりプーチンの政敵で、ボリス・エリツィン時代には第一副首相も務めたボリス・ネムツォフが2015年2月にモスクワで銃殺された後も、IRAは「西側の挑発によって、野党指導者がロシア政府を打倒するために抗議行動をおこなっている」というような内容をつぎつぎと書き込んだ。
若者の政治コミュニティなどにも深くコミットし、サンクトペテルブルクの祝賀会、フォーラム、スポーツ大会などのイベント開催も18以上の契約を取り、影響力を強めていったという。
IRAの給料は大統領府から支払われていたという話だが、証拠が残らないように、給料は銀行振り込みではなく、すべて現金で支払われたという。そして、その給与額は、他のPR会社などとくらべて、相当高い水準であったとされる。
幅広い「仕事」を請け負った
プリゴジンは、IRA以外のプロパガンダ関連の仕事も当局のためにおこなっていた。
例えば、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領が「ユーロマイダン革命」で失脚する約3ヵ月前の2013年11月に、ウクライナに「ハリコフ」という通信社が設立され、クリミア支社も開設されたが、プリゴジンが資金援助をしていたことが明らかになっている。
同機関は、ウクライナ危機が14年に深刻化するずっと前から「ノヴォロシア」(新しいロシアの意。ロシア帝国が18世紀末に征服した黒海北岸地区を指す歴史的地名であるが、14年に、ロシアの支援を受け、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスクがそれぞれ人民共和国としての独立を宣言した後に、両「人民共和国」を連合させた「ノヴォロシア人民共和国連邦」の樹立を宣言していた)という用語を用いて、ロシアに寄り添った立場をニュース報道などで主張していた。なお、プリゴジンがヤヌコーヴィチの側近と連絡を取っていたという報道もある。
また、2013年9月に米国のバラク・オバマ大統領(当時)がG20サミット参加のためにサンクトペテルブルクを訪れた際に、オバマを歓迎するとしておこなわれたLGBT活動家たちのデモンストレーションもプリゴジンの関係者によるものだとされる。後日、同じメンバーがインターネットでも同様の主張を展開していた。
2015年になるとプリゴジンは軍事部門との関係をふたたび確立してゆく。プリゴジンの「コンコルド」の関連会社である「ノルドエネルゴ」「テプロシンテズ」「テプロスナブ」「TCS」「プロフテフスルギ」の5社は、国防省の住宅および公共サービス関連部門と調達契約を締結した。
その契約内容は、モスクワ、ブリャンスク、トヴェリ地域の軍事関連コミュニティに住宅と地域共用サービスを提供するというもので、260億ルーブル(3億9500万ドル)の価値があったという。
じつは、これら企業は軍事関連の受注を受けるライセンスを所持していなかったが、検察官が正式な根拠を見つけられなかったことから、結局、契約は継続されることになった。それでも、本件については捜査が継続された。
また、プリゴジンは海外での戦闘のために、契約兵をリクルートする仕事にも着手し、ナショナリスト的な視点を強調する(ただし、同社のウェブサイトには、同社の性格は「ロシアと世界の社会政治的生活に特化した最新のインターネットリソース」だとされている、注1)オンラインニュースサービスである「連邦通信社」も設立した。こうして、プーチンにとってさらに必要な人物となっていったのである。
プリゴジンに対する疑惑の数々
とはいえ、国内からの反発があるのも事実だ。2016年3月下旬にモスクワの仲裁裁判所が、必要なライセンスなくビジネスをおこなったとして、プリゴジンの関連会社である「ノルドエネルゴ」を訴える検察官の要求を認め、ブリャンスクとトヴェリ地区の検察官も同様の措置をとった。
プーチンの政敵であり、2020年8月に神経剤ノビチョクにより昏睡状態に陥ったアレクセイ・ナヴァルヌイの腐敗防止財団によると、軍隊から調達契約を獲得した企業は、8社あったが、検察官が問題視しているのはプリゴジン関係の5社だけだという。また、同財団は、プリゴジンが18年時点の過去5年間で31億ドル相当の政府契約を勝ち取ったと報告している。
2015年頃から、プリゴジンに対する疑惑はメディアでも浮上することとなり、さまざまなロシアの媒体がプリゴジンの活動について書くようになっていたが、16年5月末には、プリゴジンがロシアの検索エンジン「ヤンデックス」に対し、15の訴訟を提起し、「忘れられる権利」に関するロシアの新法を利用し、検索エンジンでプリゴジンのビジネスに関する情報がヒットしないようにするよう求めた。
しかし、ヤンデックスは、プリゴジンが訴訟の理由を明らかにせず、また、公開された情報が不正確であるという証拠も提示しなかったとして、それらサイトの検閲を拒否した(注2)。
また、サンクトペテルブルクのニュースウェブサイトである「フォンタンカ」と「腐敗防止財団」の2016年の調査によれば、重要な政府の契約が、競争入札に関する連邦規則を回避するように設定された偽会社の集団に割り当てられていることが明らかになっている。
また、ロシアの規制当局は、プリゴジンに関連する企業が獲得した8つの防衛省の契約を見直し、17年5月に厳しい批判をおこなった。しかし、結局、政府はその件について告訴しないことを発表し、プリゴジンが裁かれることはまったく想定できないのが実情だ(注3)。
このように、プリゴジンの情報はあちこちで出ているものの、プリゴジン自身はジャーナリストとの接触を基本的に拒否していることもあり、多くの謎に包まれた人物である。だが、政府の力に守られ、プーチンに重用されていることはまちがいない。
●初の戦争犯罪裁判、ロシア兵が民間人殺害の罪状認める ウクライナ 5/19
ウクライナの首都キーウ(キエフ)の地方裁判所で18日に開かれた初の戦争犯罪裁判で、検察側が捕虜となったロシア兵に対する論告を行った。
起訴されたロシア兵はワジム・シシマリン被告(21)。ウクライナの刑法438条に基づき、殺人および「戦争の法律と慣習に違反」した罪に問われている。シシマリン被告は同日、罪状を全面的に認めた。有罪になれば終身刑を言い渡される見通し。
検察によると、シシマリン被告はほかのロシア兵4人とともに、ウクライナ軍の砲撃から身を隠すために車1台を窃盗。この車で村へ入ると、自転車に乗って携帯電話で話している丸腰の男性を見かけた。
この男性がウクライナ軍に自分たちのことを告げようとしていると考えたロシア兵の1人が、シシマリン被告に男性を殺害するよう命じたとされる。
シシマリン被告はカラシニコフ・ライフル銃を使って車の後部窓から数回発砲し、銃弾は被害者の頭部に命中した。
被害者は頭蓋骨(ずがいこつ)骨折のために死亡した。ロシア兵5人は現場から立ち去って数日間身を隠していたが、その後地元住民に投降した。
法廷には大勢の報道陣が詰めかけたため、裁判は19日まで中断となった。
19日の公判ではシシマリン被告と被害者の妻が証言に立つ予定。ほかに検察側の証人として、犯行現場にいたロシア兵1人を含む2人が証言を行う。
ロシア軍が2月24日にウクライナに侵攻して以来、戦争犯罪裁判が開かれるのは初めて。ウクライナ当局は1万2000件以上の戦争犯罪を記録している。
●ロシア軍が「明らかな戦争犯罪」 ウクライナで即決処刑―国際人権団体 5/19
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は18日、ウクライナ北部の2州で、2月下旬から3月にかけて一部を支配下に置いていたロシア軍による民間人処刑など「明らかな戦争犯罪」の事例があったとする報告を公表した。HRWは、こうした行為が「迅速かつ公平に調査され、適切に起訴されるべきだ」と訴えた。
4月10日から1カ月間、キーウ(キエフ)とチェルニヒウ両州の17の町や村に入ったHRWは、犠牲者の家族や目撃者らから証言を収集し、映像や物的証拠も調査。裁判を経ない即決処刑22件、非合法の殺害9件、拷問7件などを「明らかな戦争犯罪」と断定した。
●ウクライナでの戦争、世界的な食料危機を引き起こす恐れ=国連 5/19
国連は18日、ロシアによるウクライナ侵攻のため、今後何カ月かのうちに世界的な食料不足が発生する恐れがあると警告した。アントニオ・グテーレス事務総長は、戦争で物価が上昇し、貧しい国の食料難を悪化させたと述べた。また、ウクライナの輸出が戦争前の水準に戻らなければ、世界は何年にもわたって飢饉(ききん)に直面する可能性があると付け加えた。ウクライナでの紛争によって、同国の港からは供給が途絶えている。同国はかつて、大量のひまわり油や、トウモロコシや小麦などの穀物を輸出していた。そのため、世界的な供給が減少し、代替品の価格が高騰している。国連によると、世界の食料価格は昨年同期比で3割近く上がっている。
「全当事者の善意が必要」
グテーレス氏はこの日、米ニューヨークで開かれた会合に出席。今回の紛争で「何千万人もが栄養失調、大規模な飢餓、飢饉に直面し、食料難に陥る恐れがある」と述べた。そして、「皆が協力すれば、私たちの世界には今、十分な食料がある。しかし、この問題を今すぐ解決しない限り、今後数カ月のうちに世界的な食料不足の恐ろしさに直面することになる」と付け加えた。また、ウクライナが生産する食料と、ロシアとベラルーシが作る肥料が国際市場に再び供給されなければ、食料危機の効果的な解決はないと警告した。グテーレス氏はさらに、食料の輸出を通常レベルに戻すため、ロシア、ウクライナ、アメリカ、欧州連合(EU)と「集中的に接触」していると説明。「安全保障、経済、財政の複合的な面から、全当事者の善意が必要だ」と述べた。
ウクライナに穀物が滞留
世界銀行は同じ日、食料難に対処するプロジェクト向けに、120億ドル(約1兆5000億円)相当の追加資金を提供すると発表した。これにより、今後15カ月間にこうしたプロジェクトが利用できる総額は、300億ポンド(約4兆8000億円)以上になる。ロシアとウクライナは、世界の小麦供給の3割を生産している。戦争前はウクライナは世界の穀倉地帯と言われ、毎月450万トンの農産物を港から輸出していた。しかし、2月にロシアが侵攻を開始して以来、輸出は激減し、価格は高騰。インドが14日に小麦の輸出を禁止すると、価格はさらに上昇した。国連によると、ウクライナには前回収穫した穀物約2000万トンが滞留している。これらが放出されれば、国際市場にかかっている圧力は緩和され得るという。
ロシアを非難
食料難に直面する人々の数は、侵攻前から増加していた。ドイツのアナレーナ・ベアボック外相は18日の会合で、ロシアが困難な状況をさらに悪化させたと非難した。ベアボック氏は、「ロシアは穀物戦争を仕掛け、世界的な食料危機をあおっている」、「特に中東やアフリカですでに何百万人もが飢餓に脅かされている時に、そうしている」と述べた。一方、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、世界が「現代における最大の世界的食料安全保障の危機」に直面していると主張。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「自ら選んで始めた戦争」によって、いっそう悪化していると述べた。
●ウクライナ戦争をめぐるトルコの対応―― 5/19
ロシアのウクライナ侵攻に対するトルコのスタンス
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻は、21世紀の国際政治のターニングポイントとなるのだろうか。ウクライナをめぐるロシアの対応は、20世紀の遺物として忘れ去られていた冷戦期の分断された世界や核の脅威を改めて我々に思い起こさせることとなった。ロシアと隣接し、北方領土問題を抱える日本にとってもウクライナ危機は対岸の火事ではない。
日本と同様、黒海を挟んでロシア、ウクライナと隣接するトルコも今回の危機は他人事ではなかった。1949年の北大西洋条約機構(NATO)の発足時から加盟に積極的であり、1952年の第1次拡大でNATOの一員となったトルコの基本的なスタンスは、他のNATO加盟国同様、ロシアのウクライナ侵攻を非難し、ウクライナを擁護するというものである。
その一方で、ロシアはトルコにとって必要不可欠な国であるという事実がある。トルコはシリアやリビアでロシアが支援するアサド政権やリビア国民軍と対立する勢力を支援しているが、シリアでは一連のアスタナ会合やソチ合意など、ロシアと共に停戦交渉を進めている。また、トルコはNATO加盟国でありながらロシアからS-400防空ミサイルシステムを購入し、2020年秋にはその試射にも成功している。トルコ国内に目を移すと、トルコにとってロシアは最大の天然ガス供給国であり、トルコで最初の原子力発電所の建設もロシアと共同で進めている。さらにロシア人観光客はトルコの観光産業に大きく貢献してきた。
一般のトルコ国民に目を移してみると、世論調査の結果などを見る限り、ウクライナ危機が勃発する前のロシアに対する脅威認識は思いのほか低かった。しかし、当然の結果ではあるが、ウクライナ危機以降、トルコ市民のロシアに対する脅威認識も変化し、ロシアを脅威と感じるようになってきている。
ここではウクライナ危機に際してのトルコの仲介外交とトルコ国民のロシアに対する脅威認識の変化について検討し、ウクライナ危機に対するトルコの対応の一端を明らかにしたい。
トルコのロシアおよびウクライナとの関係
(1)ロシアとの密接な関係
ロシアのウクライナ侵攻が始まる前まで、トルコは最もロシアに近いNATO加盟国と見られていた。その大きな理由は、トルコがロシアから防空ミサイルシステムのS-400を購入し、2020年12月14日に米国から「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」、いわゆるロシア制裁法に基づく措置を発動されたことによる。CAATSAより、トルコの国防産業庁(SSB)、そして同庁長官のイスマイル・デミル(Ismail Demir)を含む幹部4人に制裁が適用された。
また、シリア内戦において、ロシアとトルコは対立する陣営(ロシアはアサド政権、トルコは反体制派)を支援しているが、2017年1月以降、イランを含め共同で停戦に向けたアスタナ会議を定期的に開催するなどしていた。リビアに関しても対立する陣営を支援していたものの、トルコとロシアの間でコミュニケーションがとれていたことが、停戦交渉を進める推進力となっていた。
トルコとロシアの経済関係も密接であった。特に石油や天然ガスといった化石燃料が国内でとれないトルコはロシアやイランといった化石燃料が豊富な隣国に対する依存が大きかった。トルコにとってロシアは最大の天然ガス輸入国であった。加えて、トルコは2000年代後半から原子力発電所の建設を目指して各国との協力を模索してきたが、ロシアはその筆頭であり、黒海沿岸のアクッユにおける原発開発に関わってきた。アクッユの原発はトルコ共和国の100周年にあたる2023年の完成を目指していた。観光業に関しても両国の関係は密接であった。近年、観光客として最も多くトルコを訪れていたのがロシア人であった。
(2)ウクライナとの関係とNATOへの回帰傾向
このようにトルコとロシアの関係は深い。他方で、トルコとウクライナの関係も強固であった。トルコとウクライナの関係の象徴となっているのが、2019年からトルコがウクライナに販売しているバイラクタルTB2というドローンである。バイラクタルTB2は欧米のドローンと比較してもコストパフォーマンスが良いと言われており、リビアやアゼルバイジャンとアルメニアの間で起きた第2次カラバフ紛争でも使用された1。トルコとウクライナはロシアのウクライナ侵攻直前の2022年2月3日に自由貿易協定(FTA)を締結しているが、これはバイラクタルTB2のさらなる輸出を念頭に置いたものとも考えられている。また、クリミア半島を中心に居住するクリミア・タタール人は民族的にトルコ人に近いテュルク系の人々であり、トルコとの関係が良好である。そのため、トルコは2014年のロシアによるクリミア併合時にもウクライナの領土的一体性の維持を強調していた。
トルコはロシアと最も親密なNATO加盟国だと指摘したが、トルコの政策決定者たちはNATOを脱退してロシアと中国が主導する上海協力機構に加盟することなどは想定していないように思われる。あくまで、バランスを重視し、米国の中東やユーラシアの問題への関与の低下を危惧し、リスクヘッジする形でロシアとの関係を強化していると考えられる2。この傾向は2020年12月のCAATSA発動およびジョー・バイデン政権の発足以降、より顕著となっている。
トルコの仲介に向けた動き
ここまで見てきたように、トルコはロシア、ウクライナ双方と良好な関係にあり、また、NATO加盟国でありながらロシアにも配慮してきた。ロシアとNATOの間のバランスを重視してきたトルコにとって、ロシアのウクライナ侵攻は、明確にロシア側かウクライナおよびNATO側か、どちらにつくかの選択を迫られる危機であった。そこでトルコは、ウクライナの領土的一体性および人道支援に配慮しつつ、ロシアとの密接な関係を生かして仲介者として立ち振る舞うことを志向した。ウクライナを擁護しつつ、ロシアへの経済制裁には乗り気でないトルコは、積極的な仲介者となることで、どちらかの側につくことで生じるリスクを回避しようとした。
3月10日にトルコ南部のアンタルヤで、トルコのメヴルット・チャヴシュオール外相に加え、ロシアのラブロフ外相およびウクライナのクレバ外相が出席した3者会談が実現した。この外相会議は、ロシアのウクライナ侵攻後、初めてのロシアとウクライナの政府高官の接触であった。3月29日にもイスタンブルでロシア、ウクライナの代表団が停戦交渉を実施し、仲介者としてのトルコの役割が注目されるようになった。
トルコの政策決定者たちは他国の指導者同様、国際社会の平和と安定を望んでいるが、仲介者となることで明確にどちらかの側につくことを先送りにしているようにも見える。トルコは3者会談を実施するために、事前にエルドアン大統領、チャヴシュオール外相が多くの首脳と調整を行っていた。3者会談後も、EU首脳やNATO加盟国の政府高官を中心に積極的に停戦に向けた交渉を実施してきた。4月に入り、各国首脳との調整は下火となっているが、トルコは、明らかにロシア寄りのベラルーシなどと比べると、ロシアとウクライナの首脳会談の実施場所として最も適しているように見える。
とはいえ、トルコとしても仲介者の立場を維持するのは難しい。例えば、ロシアはトルコがウクライナにバイラクタルTB2を売却していることに苦言を呈している3。また、トルコはロシアを国際社会から排除することには反対しているものの、国際的な会合においてはウクライナ支持の姿勢を明確にしている。例えば、トルコはG20の会合などでも一貫してロシアへの経済制裁に反対の姿勢を示してきたが、最近、チャヴシュオール外相は、もし国連がロシア制裁を承認するのであれば、トルコもロシア制裁に加わらざるを得ないと発言したと報じている4。ロシアの国営タス通信の報道なので真相は定かでないが、ロシアがトルコを牽制していると解釈することが可能だろう。
トルコ国民の脅威認識
次に、トルコ国民の脅威認識について検討していきたい。まず、2013年からトルコ国民を対象に世論調査を継続して行っているカディルハス大学の直近3年間の世論調査を見ると(表1参照)、ロシアに対する脅威認識は2021年で12番目となっている。冷戦期にトルコの最大の脅威であり、それがNATO加盟を後押ししたこと、そしてトルコとの地理的な近さを考えると、ロシアに対する脅威認識は冷戦後、特に近年は劇的に改善していたと言える。
 表1 2019年から2021年にかけての「トルコにとって脅威となるにはどの国か」世論調査
 表2 「トルコの外交で重視すべきは欧州連合(EU)・米国か、それともロシア・中国か」世論調査
また、トルコの世論調査会社のひとつであるメトロポール社のツイッターで2022年1月26日に掲載された「トルコの外交で重視すべきは欧州連合(EU)・米国か、それともロシア・中国か」に対する回答および2022年4月3日の同様の質問に対する回答をまとめたのが表2である。2020年から2022年にかけて、ロシアと中国を重視すべきという割合は年々増加し、2022年1月は40%に迫る勢いであった。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後は大きく減り、再度30%以下となった。
ウクライナ危機の責任は誰がとるべきかという2022年3月の質問に関しては、米国・NATOが48.3%、ロシアが33.7%、ウクライナが7.5%となっている5。トルコ国民の半数は、今回のロシアのウクライナ侵攻の責任は米国・NATOがとるべきと考えている可能性が高いことが調査からわかった。ただし、この世論調査だけではトルコもNATOの一国として積極的な役割を果たすべきなのかまでは読み取れない。また、ロシアが責任をとるべきという回答をした人たちのなかにも、ロシアを糾弾している人たちとロシアには責任をとれる能力がまだあると考えている人たちが混じっている可能性がある。
『同盟の起源』で国際関係論における「脅威均衡論」を提唱したスティーヴン・ウォルトは、脅威認識に関して、地理的近接性、総合的なパワー、攻撃能力、攻撃的な意図という4つから成り立つと論じている6。ロシアの地理的近接性、総合的なパワー、攻撃能力に関しては変化していないので、やはり攻撃的な意図の変化に対して、トルコ国民も敏感に反応したと理解できる。
21世紀〈冷戦〉(?)でのトルコの対応
ウクライナ戦争が長期化するにつれ、新たな〈冷戦〉7状態が起こるのではないかということが懸念されている。冷戦という概念は、熱戦に至らない対立状態を指す言葉として、これまでも「アラブ冷戦」8などと言われて、他の地域における対立状態にも援用されてきた。しかし、冷戦は狭義には20世紀の米ソ冷戦を指す概念である。ここでは狭義の冷戦を〈冷戦〉として表記する。それでは、ウクライナ戦争による冷戦は新たな〈冷戦〉となるのだろうか。
〈冷戦〉は3つの対立軸で構成されていた。それらは、イデオロギー対立、核兵器をめぐる対立、そしてコミュニケーション機能の低下である9。20世紀の米ソ冷戦は自由民主主義と共産主義の間の対立であったが、現在は自由民主主義と権威主義の対立の様相を見せている。また、プーチン大統領がしばしば核兵器の使用に言及しているように、核兵器をめぐる対立も存在する。コミュニケーションは一定程度確保されているが、ロシアへの経済制裁などで相互依存の状況も低下しつつある。21世紀型〈冷戦〉が生じつつあるという状況はあながち間違いではないように見える。
それでは21世紀型〈冷戦〉にトルコはどう対応するのだろうか。トルコは、ロシア・中国と米国・EU・ウクライナの間でバランス重視の姿勢をとっている。また、権威主義化しつつあると指摘されることが多いトルコであるが10、ウクライナ戦争が長期化すればするほど、トルコは米国・EU・ウクライナに傾倒すると考えられる。トルコはロシアからの化石燃料の輸入を代替するため、イスラエル、サウジアラビア、UAEとの経済関係を強化し始めている。また、経済政策に不安を抱えるトルコは、欧米からの制裁だけは避けたいはずである。1960年代の「ジョンソン書簡」11に代表されるように、トルコの政策決定者はNATO加盟国ながら、NATOの集団安全保障を十分に信頼していない可能性もあるが、それでも欧米との関係を失うリスクは冒さないだろう。安全保障および経済のリスクを考え、ウクライナ戦争の停戦および長期化を防ぐために、当面トルコは仲介に邁進していくと筆者は予想する。
●再送-ウクライナ戦争で難路、銀行は備えを=ECB 5/19
欧州中央銀行(ECB)銀行監督委員会のエンリア委員長は18日、ウクライナ戦争で今後厳しい道のりが予想されるとし、銀行に対し、身を引き締めて準備を整えるよう求めた。
急激な金利上昇で市場の不安定度が増すとの見方も示した。イタリア紙レプブリカに述べた。
委員長は、どの程度の資本を確保できるかを含め、予想を見直すべきだと主張。「新たなマクロ経済見通しを踏まえ、景気悪化シナリオも検討した上で、予測と資本の見通しを見直すよう銀行に要請している」と述べた。
エネルギー・コモディティー価格の上昇でインフレが進行し景気が減速しており、金利上昇に伴う銀行の利ざや改善効果が減殺されているとも指摘。
新型コロナウイルスの支援策終了により、昨年第4・四半期に企業のデフォルト(債務不履行)が増えたが、銀行は昨年、底堅さを示し、引き続きバランスシートの処理を進めたとの認識も示した。
●世銀、食料安全保障に300億ドル拠出へ ウクライナ戦争で 5/19
世界銀行は18日、ロシアのウクライナ侵攻に伴う食料安全保障上の危機に対処するため、300億ドルを拠出すると表明した。
ウクライナ戦争によりロシアとウクライナからの穀物輸出は減少している。
120億ドルは新規のプロジェクトに充てる。180億ドルは既存の食料・栄養関連プロジェクトから拠出する。
世銀のマルパス総裁は「食品価格の上昇は最貧国と最も脆弱な層に壊滅的な影響を及ぼしている」と表明した。
新規プロジェクトでは農業を支援するほか、食品価格上昇の影響から貧困層を守る。水利・かんがい事業も支援する。資金の大半はアフリカ、中東、東欧、中央アジア、南アジアに振り向ける。
●「勝利宣言なき戦勝記念日」でロシア弱体化へ、プーチンの誤算と大失敗 5/19
ウクライナ戦争は長期化の様相 ロシア軍、弱体化を露呈
5月9日、モスクワの赤の広場で行われた第77回の対独戦勝記念日のパレードは、予想に比べ低調だった。
事前には、プーチン大統領はウクライナ南東部の港町マリウポリを制圧した「戦果」を誇るとか、「戦争宣言」を行うとかなどと言われ、空軍はリハーサルで核戦争の際、ロシアの首脳部が搭乗して指揮を執るイリューション80を飛ばしていたから「プーチン氏は演説で核使用をちらつかす」とも考えられていた。
だがこの日のプーチン氏の演説は控えめで、ウクライナに対する「特別軍事作戦」をやむなく行うに至った経緯を語り、国民に理解と協力を求める弁解のような言辞が多かった。
ウクライナへの出兵を「ナチズムとの戦い」と説いたが、ウクライナのゼレンスキー大統領がユダヤ人であることは、ロシア国民の多くも知っているはずだ。「ナチスと戦っている」という名分が国民を鼓舞しているようには思えない。
欧米などが「近代的兵器を供与し、軍事顧問を送り込んでいる」ことを非難したのは、ロシアの戦況の不利、孤立を示しているが、将兵に「諸君は祖国の未来のために戦っている。ロシア軍に栄光あれ」と締めくくった演説からは停戦、撤退の気配は感じられなかった。
キーウ包囲できず兵糧攻めに失敗 旗艦撃沈でオデーサ上陸不能に
ウクライナ軍との3カ月足らずの戦争で弱体を露呈したロシアは長期戦で衰退に向かうと思わざるを得ない。
2月24日の侵攻以降を振り返れば、ロシア側は誤算と失敗続きだ。
当初、プーチン大統領は国境地帯での大演習によりウクライナを威嚇して中立化させ、NATO諸国との緩衝とするつもりだったのだろう。
だが侵攻前、国境地帯での演習に集まっていた部隊は実戦に十分なだけの予備燃料や弾薬・食料などを初めから持参していなかったから、越境して間もなく補給が不足し、60キロもの停滞が発生。そこを対戦車ミサイルで攻撃され大損害を受けた。
首都キーウへは北のベラルーシからだと約200キロの道程だから、ロシア軍の先鋒は約1週間でキーウ郊外に到着したが、人口260万人の都市への突入は避けて、20キロ程の距離で遠巻きに包囲し、兵糧攻めで降伏させる戦術に出た。
同市の北、東、西の3面に布陣したが、南部につながる交通上最も重要な南側でウクライナ軍の激しい抵抗を受け、包囲網は完成できなかった。
3月15日には、ポーランド、チェコ、スロベニア3国の首相が包囲されているはずのキーウに列車で入り、ゼレンスキー大統領と会談するという珍事態も起きた。
ロシア軍はキーウ陥落を諦めざるを得ず、その後、主力部隊を南下させてアゾフ海岸の港町マリウポリの制圧に投入した。ここでは3月初旬からロシア軍と親露派民兵が頑強に抵抗するウクライナ軍と戦闘を続けていたが、ロシア軍の主力が増援に入っても戦況が急変することはなかった。
対独戦勝記念日になってもまだ右派民兵組織「アゾフ大隊」の一部はアゾフスタリ製鉄所の地下にこもって抗戦を続けた。16日にウクライナ兵265人が投降したが、マリウポリの攻防はロシア軍の苦戦の象徴として歴史に残るだろう。
海上作戦でも4月13日に黒海艦隊の旗艦である巡洋艦「モスクワ」(1万1300トン)がウクライナ製の対艦ミサイル「ネプチューン」2発で撃沈され、他にも輸送艦2隻が焼失した模様だ。
「モスクワ」自体は艦齢41年の旧式艦だが、黒海艦隊司令官と参謀たちが乗った巡洋艦が撃沈された心理的影響は少なくない。実際、ロシアにとって「ネプチューン」の射程280キロ圏内にロシア艦船が入れば攻撃されるということになり、黒海岸のウクライナの主要港オデーサに対する上陸作戦は危険となった。
5月9日時点でロシア軍の明確な戦果は、ドニエプル河口のヘルソン(人口36万人)の確保だけ、といえる状況だった。同市ではロシア軍と親露派が行政も始めているが、欧米からの新たな武器援助を受けたウクライナの反転攻勢が予想される中で、ロシア軍支配地域の最西端だけにウクライナ軍の奪回作戦の目標となりそうだ。
侵攻した兵の24%に人的損害? 兵員数ではウクライナが圧倒的
5月9日に英国のウォレス国防相は「ロシア軍の戦死者は約1万5000人」と述べた。
負傷者は死者の2倍程度になるのが普通だから、これが正しければ、ロシア側の死傷者は4万5000人に達する。侵攻したロシア軍は15万人、それと協同している親露派民兵は約4万人だから計19万人とみられている。
死傷者が4万5000人ならすでに約24%の人的損害が生じていることになる。
ロシア陸軍は1991年のソ連崩壊時には140万人だったが、「ミリタリーバランス」(2022年版)によれば、現在は28万人(陸上自衛隊の2倍)に削減されている。かつては空軍に属していた名残で別組織の空挺軍が4万5000人、海軍歩兵(海兵隊)3万5000人を加えて地上戦兵力は36万人だ。
しかしこの2カ月余りで4万5000人の死傷者が出ているとすれば、補充を急ぐ必要がある。
だがすでに東部軍管区(東シベリアと極東担当)の兵員まで引き抜いてウクライナ戦線に投入した後だから、200万人の予備役兵の一部でも招集し穴を埋めるためには、「戦争宣言」をしたいところだっただろう。
だが1年の兵役を終え、社会人となっている人々を招集するのは一大事だ。
プーチン大統領が、「戦争宣言」で予備役兵を招集しようとすれば、「特別軍事作戦」と言いながら、大規模な戦争を始めてしまい、苦境に立っていることがロシア国民にも明白になる。
このため戦勝記念日で戦争を宣言するのは、結局、見送らざるを得なかったと思われる。
一方でウクライナ陸軍は12万5000人、空挺軍2万人、海軍歩兵6000人で地上戦兵力は計15万1000人。さらに内務省管下の国土防衛隊6万人、国境警備隊4万2000人を加えれば地上戦兵力は計25万3000人で、侵攻したロシア軍を上回る。
そのほか徴兵制の兵役を終えた予備役兵が90万人とされ、若い予備役兵の一部だけを動員しても人数では、圧倒的にウクライナが優勢だ。
ミサイル戦の優位も危うい 誘導装置の部品は輸入に頼る
ロシア軍は死傷者がますます増えるのを防ぐため、地上戦をなるべく避けて地対地ミサイルや航空機による攻撃、銃砲や艦砲の砲撃により、ウクライナ軍の基地や武器弾薬の集積所、交通・通信の要所、発電所や石油タンクなどなど軍事力の基盤を破壊して衰弱させ、相手の降伏か講和を求める戦略に切り替えた様子も見える。
だが重要な施設は地下に移すなどの防衛措置も取れるから、ロシア軍がミサイルなどだけですべてを壊すことは困難だろう。
地上戦からミサイルを主体にした戦いになっても、ロシアが優位に立つとは限らない。
ウクライナはソ連時代からミサイル・ロケット砲の開発・生産の拠点で、今日でも射程500キロの弾道ミサイルを中東に輸出しようとしている。さらに、米欧諸国から新たに供与される大量のミサイルが入りつつある。
一方でロシアのミサイルの誘導装置の部品の一部は輸入に頼ってきたともいわれ、その備蓄が尽きる前に、完全な国産ができるのか、同等以上の精度を保てるのかは疑問がある。
これまでの戦局ではウクライナ軍は主として防御に徹してきたが、5月に入ってからは首都キーウ近郊や第2の都市ハルキウで反攻に出て、ロシア軍を北部国境近くまで押し戻していると伝えられ、攻守が逆転する気配が見える。
結局、ロシア軍はロシア系住民が多い、ウクライナ南東部ドンバス地帯やクリミア半島の支配権だけは必死に守ろうとするのだろう。戦いは長期戦になる公算が大だ。
欧米支援のウクライナとの総力戦 長引けば、経済制裁の打撃大きい
そうなると、軍事力だけでなく経済力も含めた総力戦になる。
ウクライナのGDP(国内総生産)は昨年1983億ドルで世界54位(IMF統計)だったが、世界銀行は今年の場合、昨年の45%減になると推計している。
とはいえ、ウクライナには40カ国の支援があり、特に米国はウクライナを見捨てるわけにはいかず、援助を続けざるを得ない。
これに対してロシアのGDPは、昨年1兆7755億ドルで韓国に次ぎ11位、昨年のウクライナの約9倍はあるが、今年のGDPは昨年の88.5%と推計される。
3月上旬、欧州の調査研究機関が試算したウクライナ侵攻の戦費は、1日当たり200億ドル(約2.5兆円)とされるが、石油の禁輸などの経済制裁が長引けば、多くの国々の援助をもらうウクライナの方が有利になるかもしれない。
この約3カ月の戦局や世界の形勢を見れば、ロシアの苦戦は続き、孤立も深まりそうでロシアには勝ち目は乏しそうだ。
もし万が一、ロシア軍がウクライナ全域を制圧することになっても、ウクライナ軍の兵士や民兵の多くは隣接するポーランド、ルーマニアなどに逃れゲリラ戦や抵抗活動を続けるだろう。
ゲリラを制圧するには少なくとも3倍の兵力が必要とされる。フランスより広いウクライナを平定するにはロシアは数十万人の兵力を数十年間ウクライナに駐留させ、莫大な戦費を負うことになる。この場合も勝利よりは弱体化の道を進むことになる。
フィンランド、スウェーデンを NATOに向かわせた大失敗
ロシアが泥沼に入り悪戦苦闘する中で、これまで中立を維持してきたフィンランドとスウェーデンが、ロシアの脅威を掲げNATOへの正式加盟申請を表明した。
とりわけロシアと1300キロ以上にわたって国境を接するフィンランドは、古くからロシアの脅威にさらされ、ロシア側も自国の安全保障上、神経を使ってきたことは確かだ。
旧ソ連時代も、第2次世界大戦の初期の1939年、ソ連は「バルト海岸のフィンランドとの国境はレーニン・グラード(現在サンクト・ペテルブルク)に近すぎ、ドイツがそこを占領した場合にレーニン・グラードが重砲の射程内になる。国境を遠ざけてくれれば、代わりにラドガ湖の北(約150キロ内陸)で2倍の土地を譲る」と持ち掛けた。
フィンランドがそれを拒否したため、ロシアは50万人を投入して侵攻、フィンランド軍は善戦し、ソ連軍に20万人以上の戦死者が出たが、結局講和し領土の一部を失った歴史もある。
だが今の状況を考えるとフィンランドなどがNATO加盟を急ぐ差し迫った理由はないはずだ。
ロシアが優勢でウクライナを制圧しつつあるのなら、ロシアが余勢を駆ってフィンランドなどに迫ることを恐れ、NATOに入ろうとするのは自然だが、ウクライナに負けつつあるロシアが侵攻し二正面作戦をすることは考えられない。
仮に比較的短期にウクライナと講和して撤退しても、もはやロシアにとってはフィンランドに攻め込む愚行を繰り返す公算もゼロに近いだろう。
フィンランドにとっても、ロシアが弱くなることが予想され、昔のようにその機嫌をとる必要はなくなる。経済上ももはや特別の得意先でもないからNATOに入って米欧諸国との関係を強化するほうが得策、というフィンランド得意の変わり身の早さか、とも考えられるが、政府の決断の背景には、国民の大半がNATO加盟に賛成していることがある。
世論調査ではウクライナ侵攻前には、NATO加盟への支持率は2〜3割だったが、5月には76%までに伸びた。ウクライナ侵攻を契機に加盟気運が一気に高まったことではスウェーデンも同じだ。
長年ロシアを軍事大国と感じたトラウマが染み付いている上、ウクライナ侵攻が恐怖感を国民に抱かせることになったのだろう。
「NATOの東方拡大」を防ぐことを大義に掲げる一方、本来、起きるはずもなかったフィンランドなどへの「NATOの拡大」を自ら招いたということでは、度重なる誤算の果ての大失敗といえるだろう。
●焦点はクリミア… ウクライナの“やり過ぎ”に懸念 5/19
マリウポリ制圧が報じられたロシア軍。しかしハルキウなど東部戦線ではウクライナ軍がロシア軍を退け奪還しているところも出て来ている。ロシア側の侵攻が思うように進んでいないどころか、このままウクライナ側の優勢が続く、つまり勝つ可能性も出てきたとの見方もある。これまでロシア側の落としどころは度々論じてきたが、今回は、ウクライナ側の戦争の落としどころを議論した。
戦争目標について
先月24日、アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官がウクライナのキーウに乗り込んでゼレンスキー大統領と会談した。ホワイトハウスの事情にも精通する明海大学の小谷教授は、この会談で“戦争目標”つまり、“どこまでやるか”が話されたと語る。
明海大学 小谷哲男教授「戦争に関してどこまでやるのか、アメリカとウクライナ双方の考えを交換した。一つの基準は戦争が始まった2月24日(侵攻前)の状態に戻す。ゼレンスキー大統領もそこを基準には考えていると思います」
まるで第2次世界大戦の落としどころを勝利目前の連合国が話し合ったヤルタ会談のようだ。一方的に侵攻された国の大統領と、参戦しないことを明言した国の重要閣僚との会談とは思えない…。
明海大学 小谷哲男教授「ウクライナが何を戦争目標にするかによって今後のアメリカの支援の仕方が変わってきます。停戦交渉をするにしてもアメリカはどうかかわっていくのかということもありますし…」
戦争目標の基準となる2月24日以前の状態とは、すでに併合されていたクリミア半島と、独立を主張している東部の2つの共和国がロシアの勢力下にある状態だが、小谷氏はそれはあくまでも基準としての考え方だという…。
明海大学 小谷哲男教授「さらにクリミアをどうする、場合によってはロシア領内まで…これはわかりませんが可能性としてはそういうことも含めて意見交換されたんだろうと…」
実は、ウクライナ側の戦争目標が、侵攻直前の状態ではなく、もっと前の状態だという声も聞こえてくる。NATOの元高官に話を聞いた。
元NATO戦略予見チーム長 ステファニー・バブスト氏「ここ数日のウクライナ外相とゼレンスキー大統領の話を聞くと、クリミアを含めすべてのウクライナ領土を取り返すことを目指しているように聞こえます。政治的に考えると2014年の状況に戻りたい理由はわかります。それはロシアがウクライナの領土を持っている限り平和は絶対に訪れないからです」
2014年の状況とはクリミア併合以前、つまり本来のウクライナの姿だ。しかしそのハードルは高いとバブスト氏は続ける…。 
元NATO戦略予見チーム長 ステファニー・バブスト氏「これは軍事的に非常に難しいことです。ドネツクとルハンシクは取り戻すことができるかもしれない。でもクリミアはロシアが軍事的に強いエリアです。違法とは言えクリミア併合は事実であり、それを奪還することはとても難しいことです。今はまだ早い。かなり長期的な目標です」
ウクライナが取り戻したいクリミア。2014年以降、事実上ロシアに編入されてはいるが、ウクライナとしては認めたわけではない。しかし、クリミアはロシアにとって絶対に手放せない場所だった…。
「機会があれば確実にクリミア橋を攻撃する」
ドネツクとルハンシクは取り戻せても、クリミアは難しい。なぜクリミアだけは別なのか?
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「ロシアは憲法改正して、クリミア半島をロシア連邦の一部として国内の手続きが終わってますから、ウクライナがクリミアを攻撃した場合、これはロシア領内への攻撃とみなす。そういう受け止めになると戦争のフェーズが変わってきて、いわゆる戦争宣言、戒厳令をプーチン大統領が国内で宣言するきっかけになる」
クリミアにはロシアの黒海艦隊があり、防衛戦略の中で最も大事な部分だという。その中で焦点となるひとつの橋がある。クリミア橋。ロシアとクリミア半島を結ぶ全長約19キロに及ぶヨーロッパで一番長い橋で2014年の3月にクリミアを併合した翌日にプーチン氏が建設を命じた橋だ。開通の式典でプーチン氏はこう語っている…。
「帝政ロシアの皇帝の時代から人々はこの橋を建設することを夢見ていた」
プーチン氏にとってみれば橋もロシア領の一部。この象徴のようなところを攻撃目標にすべきという意見が今ウクライナで上がっているのだ。
ウクライナ国家安全保障防衛評議会 オレクシイ・ダニロフ書記「機会があれば確実にクリミア橋を攻撃する」
ネット上には“クリミア橋破壊カウントダウン時計”まで登場した。また、元議員の一人は…。
クリミア選出 元国会議員 レファット・チュバロフ氏「クリミア橋は我が国の領土に存在しているので法的にも道義的にも攻撃する全権はウクライナにある。まさにあの橋を渡ってロシア軍が侵略し、ウクライナの兵士と住民を殺しているのだから…(中略)私はこの戦争の最終地点はクリミアを取り戻すことだと確信している。そうでなければこの戦いは無意味だ」
ウクライナが優勢になれば、国民感情としては当然クリミアも元に戻せ、ということになる。ゼレンスキー大統領は「15年かけて解決する」と言ってはいるが、勝ちが目の前に見えてきた時、こうした国民の声を無視できるのだろうか。
ウクライナが勝ちすぎるとアメリカは悩ましい…
明海大学 小谷哲男教授「やり過ぎれば敵はエスカレーションします。ロシアには核兵器という手段が残っているわけですから刺激しすぎないようにしたいという考えはある(中略)それはアメリカもNATOも懸念している」
ロシアが核を使うとなれば、ウクライナとロシアの戦いだけにはとどまらない。つまりアメリカ、NATOとロシアの戦いに発展する可能性もあるのだ。さらに、これまで戦いのため供与された、西側の最新鋭の兵器を持った戦勝国となることへの懸念もあるという。
森本敏 元防衛大臣「もしもロシアが劣勢で、ウクライナが先頭に勝ったとして外交交渉が始まった場合どういうことになるか、ウクライナには東ヨーロッパで一番の軍備が集まる。今回西側からもらった兵器を返すことはないですから。(中略)東ヨーロッパで飛びぬけて強力な軍事力を持った国になる。周りにどんな政治的軍事的影響をもたらすか…。戦争が終わった後、ウクライナを含む東ヨーロッパの安定をどうやって維持するのか…そういう重大問題にアメリカは直面することにもなる」
プーチン大統領の後継?36歳が報道された意味
このような、ウクライナの勝ちを心配するような戦況の中、海外のロシア語メディアがこんな記事を配信した。“プーチン大統領の後継者か”ここで紹介されていたのは36歳の男性。新財閥オリガルヒを父に持ち、現在プーチン氏の補佐役で旧KGBのFSBとも親しい人物。世界が注目する5月9日の戦勝記念日、プーチン氏の演説の後、ピッタリと横に付き親しげに会話をしていた姿が世界に配信された。時にプーチン氏の腰に手を当てるようなしぐさも見せていたことなどから、ただモノではない…後継者ではないかと言われたのだ。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「プーチン大統領が後継を指名するタイミングというのがある。体調が絡んでくるんですが、もし問題がなく、任期を全うするとなるとまだ2年後ですから、今の段階で後継者を示唆するというのは早すぎるんです。それをやってしまったらレームダックしてしまう。これまでの動きを見ていると、むしろそういう憶測が出ないように細心の注意を払ってきた。プーチン大統領が任期を全うできるかどうかが一つの判断材料なんですが、この男性がふさわしいのかどうかについては、親がオリガルヒだとかFSBと親しいとか、いくつかの条件はクリアしているのは確か。しかし政治経験もないし、若すぎるというのもあるし…(中略)ただ、この映像は、たまたま親しい姿を撮られたんじゃなくて、プーチン大統領の何らかの政治意図はあると思うんです」
ウクライナの戦いの行方とともにプーチン氏の今後は果たして…
●ウクライナ情勢、今後数週間は「大きな進展見られず」 NATO当局者 5/19
北大西洋条約機構(NATO)は、ウクライナの戦場では、今後数週間はロシア側、ウクライナ側ともに支配地域の大きな拡大はないと考えていることがわかった。諜報(ちょうほう)に詳しいNATOの軍当局者が18日、明らかにした。
同当局者によれば、しばらくの間は、こう着状態に陥るとみているという。
NATOの現在の協議では勢いは大きくウクライナ側に移っているとみており、NATO内では、ウクライナ政府が、ロシアや親ロシア派勢力が実効支配しているクリミア半島やドンバス地方を奪回できる可能性があるかどうかについて話し合いが行われているという。
同当局者は、ウクライナ政府がクリミア半島やドンバス地方を奪回できるかどうかについては「可能」との見方を示した。「今は無理だ、すぐにも無理だ。しかし、もし彼らが戦い続けることができれば、可能だと私は考えている」と語った。
同当局者は、一部地域では地元住民からの反発も考えられることから、ウクライナ政府が実際に領土を取り戻すために戦うべきかどうかについては疑問な点もあると述べた。
●ダボス会議、ロシア勢不在 ウクライナ情勢が影響 5/19
世界経済フォーラム(WEF)は18日、今月22〜26日にスイスで開かれる年次総会(ダボス会議)の主要な出席者のリストを公表した。ウクライナ侵攻の影響で、ロシアからの出席者は不在となる。
ロシアの政府高官や新興財閥(オリガルヒ)は例年、ダボス会議で存在感を示していた。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで、クレバ外相らは対面でそれぞれ出席する。
今年は2年ぶりに対面で開催される。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長、ドイツのショルツ首相らが出席する予定。ただ、バイデン米大統領や中国の習近平国家主席、日本の岸田文雄首相は出席を見合わせた。
●製鉄所から投降のウクライナ兵、計1730人に ロシア国防省 5/19
ロシア国防省は19日、ウクライナ南東部マリウポリ(Mariupol)のアゾフスターリ(Azovstal)製鉄所から今週投降したウクライナ兵が計1730人に上ったと発表した。
同省はウクライナ情勢に関する定例会見で「直近24時間にアゾフ連隊(Azov Regiment)の戦闘員771人が投降」し、「5月16日以降に投降した戦闘員は計1730人となった。うち80人が負傷者だ」と明らかにした。
●ロシア軍は損害甚大、「大規模動員か敗北か」との指摘も 5/19
ロシアはウクライナ南東部のマリウポリを完全に制圧しつつある。だが、マリウポリが属するドンバス地域全体を支配しようとする戦いは敗北の公算が高まってきた。ロシア軍が甚だしい損害を受け、大きく前進するための兵力が不足しているからだ。
ウクライナ側は西側諸国の最新鋭兵器を装備して戦力が増強されており、プーチン大統領としては、力が弱まったウクライナ侵攻部隊を復活させるために、より多くの人員と装備を前線に投入するべきかどうか決断を迫られるかもしれない、と複数の専門家は話す。
ポーランドに拠点を置くコンサルティング企業ロチャンのディレクター、コンラッド・ムジカ氏はロシア軍について「現有の兵力のまま負けるか、(新たな)動員があるかのどちらかになる。その中間の事態はないと思う」と述べた。
ムジカ氏を含めた何人かの専門家によると、ウクライナに侵攻したロシア軍が直面している兵力と装備の損害は作戦続行が不可能な規模で、ウクライナ軍が西側の重砲を投入してきたのに伴ってロシア側が局面を打開できる余地はじわじわと狭まっている。
ロンドンのシンクタンク、RUSIのニール・メルビン氏は「時間が経過するとともにロシア軍が不利になるのは間違いない。彼らは装備、とりわけ新型ミサイルが枯渇している。そして当然ながら、ウクライナ軍はほぼ毎日強くなっている」と指摘した。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は17日、「万事計画通りに進んでいる。全ての目的が達成されることに疑いはない」と断言。しかしロシアの主要テレビ放送で今週、有力軍事専門家が国民に、ウクライナ情勢を巡ってプーチン氏が処方している「情報上の鎮静剤」をうのみにするのをやめるべきだと異例の批判を行った。
ロシアの退役将校ミハイル・ホダリョノク氏は、欧米からウクライナに供与される武器が増加している以上、ロシアにとって情勢は明らかに悪くなると警告した。
変わる重点目標
ロシア軍は2月24日にウクライナ侵攻を開始した後、当初目標としていたウクライナの首都キーウを陥落させることができず、4月19日に作戦が「第2段階」に入ったと称して南部ドンバス地域全部の確保を重視する方針に切り替え、部隊を移動させた。
この南部の戦いでは、今週になってロシア軍が要衝のマリウポリを手に入れた。82日におよぶ大規模爆撃に耐え、ウクライナ軍最後の拠点として抵抗を続けていたアゾフスターリ製鉄所を掌握したからだ。
ロシア軍侵攻前の段階でドンバス地域のおよそ3分の1は親ロシア派が実効支配し、現在はロシアがルガンスク州の約9割を制圧している。一方でドネツク州に関しては支配地域拡大のための重要都市スラビャンスクとクラマトルスクへの大規模侵攻はなお実行できていない。
非営利の米調査分析機関CNAでロシア軍を専門に研究しているマイケル・コフマン氏は「ロシア軍は戦力が劇的に弱まり、恐らく士気も相当低下している事態への対応に追われている。攻勢を続けようとする指揮官の意欲は減退し、ロシアの政治指導部全体は足元で戦術的敗北に見舞われながら、問題を先送りしているように見える」と語った。
ムジカ氏は、ロシア軍がドンバス地域の重点目標を変更し、ドネツク州でウクライナ軍の防衛態勢を打ち破れなかった後、大隊戦術グループ(BTG)を東方に振り向けていると説明。「イジウムから突破できなかったので、シエビエロドネツクとリマンに向かい、この両地でウクライナ軍を包囲することを狙っている可能性がある。これが起きるかどうかで、全く異なる展開になる」と述べた。
米ワシントンのシンクタンク、戦争研究所のジャック・キーン会長によると、ロシア軍のゲラシモフ参謀総長が今月、前線部隊で発生している問題を解決するため現地を訪れたが、彼が成果を残した形跡は見当たらない。「攻勢は事実上止まっている」という。
ハルキウ近郊では、ウクライナ側が反撃を強化し、ロシア軍をハルキウに対する砲爆撃圏の外に追い出したばかりか、ある地点では国境まで押し返している。
ムジカ氏は、ウクライナ軍は今週、ハルキウ北方でロシアとの国境地帯の相当部分を確保するかもしれないとの見方を示した。
とはいえ、ウクライナ側もロシア軍の密集度がずっと高いドンバス地域でそうした急速な盛り返しはできそうにない。コフマン氏は「厳しく長い戦いになるだろう。ロシア軍は攻勢が不首尾に終わったものの、簡単には逃げ出さないし、降伏もしない」とくぎを刺した。
砲兵戦
ロシアとウクライナの戦争は「砲兵戦」の様相も帯びている。この点でウクライナ側に米国やカナダの「M777」155ミリりゅう弾砲などロシア側より射程の長い重砲が入ってきていることが、ウクライナ軍の優位につながる可能性がある。
ムジカ氏は「ウクライナ軍はロシア軍の射程圏外から砲撃し始めている。つまりロシア軍の対砲兵砲撃の脅威にさらされず、作戦を遂行できる」と解説し、砲兵力においてロシアはまだ量的には優勢だが、質的にもそうであるかは分からなくなったとみている。
コフマン氏とムジカ氏は、プーチン氏が追加兵力を派遣するとしても、編成に数カ月かかる恐れがあるとも説明。コフマン氏は「ロシアが過去に兵役経験のある男性を召集するため、少なくとも何らかの措置を準備しているのは非常にはっきりしている。それでも今のところは、プーチン氏は決定を先送りし、ロシア軍内部の状況が悪化するのを野放しにしている。現時点では今がロシア軍の最後の攻勢に見える」と述べた。
●ロシア国営TVが「わが軍は苦戦」、プロパガンダ信じた国民が受けた衝撃 5/19
これまでプーチン政権を擁護し続け、プロパガンダ的な情報を流してきたロシア国営テレビ「ロシア1」。そんなテレビ局の番組で、軍事アナリストがロシアによるウクライナ侵攻を厳しく批判する一幕があった。同局などによるプロパガンダを信じ、ロシア軍の強さと正しさを疑わなかったロシア語圏の視聴者たちからは、驚きの声が上がっている。
ソーシャルメディア上で話題になっているのは、軍事アナリストのミハイル・キョーダリョノクによる発言だ。「ロシア1」は通常、ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻について愛国的なトーンで報道を行っているが、キョーダリョノクは同チャンネルの番組「60ミニッツ」の中で、ロシア軍の部隊がウクライナで直面している状況について、「愛国的」とは程遠い、厳しい指摘を行った。
防空司令官から軍事評論家に転身し、2020年には「祖国貢献勲章」を受賞したキョーダリョノクは、「事実上、全世界が我々に反対している」と、ロシアが国際社会で孤立していると主張。さらに、ロシア軍は士気の高いウクライナ軍を相手に、厳しい戦いに直面することになるだろうと述べた。
キョーダリョノクは、ウクライナ軍の士気が低下しつつあるという「誤った」報道を信じてはならないと主張。ウクライナ政府は、100万人を動員して、西側諸国から供与を受けた武器で武装させることができると述べ、ロシア軍にとっての状況は「率直に言って悪化するだろう」と指摘した。
番組司会者のオリガ・スカベエワ――ロシア政府の「最高プロパガンダ責任者」と呼ばれている人物――がこの指摘を受けて、「ウクライナ軍の部隊はプロではなく、さほど大きな脅威ではない」と反論したものの、キョーダリョノクはその主張を一蹴。ウクライナ軍が徴兵によって集められた兵士の集まりかどうかは大した問題ではないと述べ、重要なのは彼らが「最後の一人になるまで戦う」意思を持っていることだと述べた。
また彼は、フィンランドがNATOへの加盟申請を決定したことを受けて、ロシア政府が核の「脅しをちらつかせている」ことについても批判した。
ロシアの科学者で政治アナリストのアンドレイ・ピオントコフスキーは、キョーダリョノクの発言を受けて次のようにツイートした。「キョーダリョノクが、ロシア軍からの最初の降伏文書を運んできた」
「あの部屋の中で彼が最もまともだった」
キョーダリョノクとスカベエワのやり取りの動画は、ロシアのソーシャルメディアサイト「フコンタクテ」上で拡散され、5月17日朝の時点で380万回以上視聴されている。
戦争反対を掲げるユーザー「History of the War」は、「ロシア国営テレビのトーク番組で、ウクライナについて驚くべき意見のやり取りが行われた」とコメントし、さらにこう続けた。「ロシアにとって唯一の脅威は、オリガ・スカベエワのような妄想にとらわれた人物だ」
オルガ・レベデワは「ミハイル・キョーダリョノク大佐はおそらく、この『変人集団』の中で最も分別のある専門家の一人なのだろう」とコメントし、こうつけ加えた。「彼がもう(番組に)呼ばれないのではないかと心配だ」
ナターシャ・ティモフェーバは、「この発言を軸に、ロシアの状況を変えることができる政治勢力が形成される可能性がある」と書き込み、別のあるユーザーは、国営テレビで「常識のある意見」が放送されたと書き込んだ。また別のユーザーは、「国営テレビで、現在起きていることについての客観的な見解が放送された」とコメントし、「近代では滅多にない」ことだったと述べた。
ロシアの国営テレビで、ウクライナでの戦闘について今回のような否定的な意見が放送されたことに、ツイッター上でも多くのユーザーが反応した。ロシア国営テレビはこれまで、ウクライナでの軍事作戦の成功を大々的に吹聴し、西側諸国に対して脅しをかけてきたからだ。
コラムニストのノア・スミスは、「勇気ある発言だった。現実が広まりつつあるのは嬉しい」とツイートした。この書き込みをさらに、ウッドロー・ウィルソン国際研究センターの研究員であるカミル・ガレエフがリツイートした。
ガレエフは「あの部屋にいた全ての人の中で、彼が最もまともだった。それはおそらく、軍での十分な経験を持っている唯一の人物だったからだろう」と書き込み、さらにこう続けた。「ロシアの多くの有識者は、政府のプロパガンダを基にロシア軍の能力を評価した。キョーダリョノクは、自らの実体験に基づいて評価した。ウクライナでの戦闘について、彼がほかの面々よりもずっと悲観的な意見を述べたのも当然だろう」
だがプーチン体制に害を及ぼすものではない
キョーダリョノクがウクライナでの戦闘について批判的な意見を述べたのは、今回が初めてではない。ロシアがウクライナに侵攻する3週間前、彼はネザビシマヤ・ガゼタ紙への寄稿の中で、ロシア軍がウクライナ軍を迅速に打ち負かすことができる可能性を否定し、「今、ウクライナとの武装紛争を起こすことは、ロシアのためにはならない」と書いていた。
また彼は5月に入って「ロシア1」に出演した際に、ロシア国民を総動員しても、大した戦果は挙げられないと述べ、その理由として、ロシアが保有する時代遅れの兵器では、NATOが(ウクライナに)供与した兵器には太刀打ちできないからだと指摘していた。
ロシアメディア・ウォッチャーのジュリア・デイビスは、キョーダリョノクの今回の発言を受けて、次のようにツイートした。「(政府に)異論を唱えることが許されないロシアのテレビに、なぜキョーダリョノクが出演を許され続けているのか。多くの人が疑問に思っているが、その理由は、彼の言葉がプーチン体制に害を及ぼすものではないから。ほかの有識者たちが迅速で簡単な勝利を約束するなか、彼の意見は国民の期待値を引き下げるのに役立つからだ」 

 

●ウクライナは勝てるか 戦争新局面5つのシナリオ  5/20
ウクライナでの戦争がいつ、どのように終結するかは誰にも分からない。だが、現時点でロシアが勝利に向かっていないことは明らかだ。西側諸国の政府や民間アナリストによると、ロシアは首都キーウ(キエフ)を急襲してウクライナ政府を崩壊させるという当初の目標を達成できなかった。また、ウクライナ東部と南東部で同国軍を撃退するより小規模な攻撃「プランB」の成功はますます困難になっているようだ。
ウクライナの国家崩壊など、開戦時には可能性が高いと考えられていたことも、現在では起こりそうにないと考えられている。英国のトニー・ラダキン国防参謀長は16日のロンドンでの演説で、ウクライナは生き残りを賭けた戦いに臨んでおり、「存続するだろう」と述べた。
戦争のこの最新局面では、戦車による戦闘が砲兵中心の交戦に取って代わられつつある。ロシアは、東部ルハンスク州を含む幾つかの地域で攻撃を行っており、南部の港湾都市マリウポリで残っていたウクライナの抵抗勢力をようやく制圧した。その他の地域では、特にハルキウ以北でウクライナ軍の反撃が目立つ。
ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は17日、欧州連合(EU)加盟諸国の国防相に対し、「戦争は長期化する局面に入っている」と伝えた。その上で、へルソン州およびザポリージャ州における防御陣地の構築など、「ロシアが長期的な軍事作戦に向けて準備している兆候が多く見られる」と述べた。
そうだとしても、遅かれ早かれ、戦争は停戦か休戦で終わるだろう。戦場の新たな現実を踏まえて、戦争が今後どのように展開するのかについて5つのシナリオが考えられ、その幾つかは別のシナリオから続く可能性がある。
1.ロシア側の崩壊
非常に士気が高く、武装が整い、戦術に優れたウクライナ軍が、ロシア軍の弱点を突いてきた。ロシア軍は、兵たんが弱く、作戦のさまざまな要素を調整するのに苦労してきた。装備が貧弱で、訓練が行き届かず、一部地域では士気の低さに苦しんできた。西側の分析によると、ロシア兵に推定何万人にも上る犠牲者が出る中で、将校クラスの弱体化は深刻だ。
戦争に関する西側の大方の分析によると、ロシアの「プランB」(東部と南東部に兵力を集中させ、ドンバス地方で拠点を拡大する計画)の進展は、ロシアが期待していたよりもはるかに遅いようだ。ロシアはウクライナ軍を包囲する計画を立てているようだが、それは達成不可能との見方もある。一方、西側諸国の長距離砲M777やその他の兵器も戦闘に投入されている。米国防総省は、こうした兵器が既に戦況に変化をもたらしていると指摘している。
西側の情報当局者は、ロシア兵によるかなりの戦闘拒否を指摘しているほか、キーウでの戦いで打ちのめされたロシアの部隊が、練度の低い新兵とともに戦闘に再投入されているとも述べている。英国の国防情報当局は、チェチェン共和国出身の戦闘員などの補助的な部隊の利用により、ロシアが部隊をまとめ上げることが一層困難になっていると話す。
米ワシントンにある超党派の政策調査団体、戦略国際問題研究所(CSIS)のエリオット・コーエン氏は、「現在、少し過小評価されている可能性があるのは、ロシア軍の真の崩壊を予想するシナリオだと思う」と述べる。これには、幅広い戦闘拒否、無許可の離隊や無秩序な後退が含まれる可能性がある。
コーエン氏は、そうしたことがなくても、戦争の結末はロシア政府に影響を及ぼす公算が大きいと指摘。「根本的なレベルで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は既に負けていると思う。個人的には、彼が極めて長期にわたって権力にしがみつく姿を想像しにくい」と語った。
2.ウクライナ側の崩壊
ウクライナ軍がロシア軍に与えた損害については十分に立証されているが、ウクライナ軍が受けた打撃の程度を示す証拠は少ない。公開されている情報からは、かなりの犠牲者と装備の損害がうかがえる。だが、西側諸国の推計によると、損失はロシア軍の数分の1にとどまるとみられる。北大西洋条約機構(NATO)の推計によると、ロシア兵の死傷者、ないし捕虜になった者は3月下旬時点で4万人に上る。
アナリストは、犠牲者や装備の損失に関する信頼できる推計がないため、別の手掛かりを基にウクライナ軍の状況を推測せざるを得ない。
アナリストが使っている1つの基準は、ウクライナの戦い方だ。スコットランドにあるセントアンドルーズ大学のフィリップス・オブライエン教授(戦略研究)は、「戦い方が適切かつ賢明に見えるか、うまくいっていない兆候はあるか」といったことだと指摘。そうした失敗の兆候はみられないと付言した。ウクライナ軍の戦闘力は、同国に投入されている西側諸国の装備によっても、増強される。
キングズ・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は、「ウクライナ側が崩壊する可能性は低いと思う。私はその可能性をほぼ排除する。ウクライナにはモチベーションも勢いもある」と話した。
3.泥沼化
戦争はしばしば双方いずれもが敗北を認めず、膠着(こうちゃく)状態へと発展する。西側当局者は現在の紛争が来年かそれより先まで続く可能性があると警告している。
前出のコーエン氏は、「ロシアが態勢を十分強化し、粘り強く対応し、自軍が被ったひどい損失を補充することができた場合を想定するのであれば、膠着状態となることもあり得る」と指摘する。ただし、同氏はそうした見方は説得力に乏しいとみていると語った。同氏はより可能性の高いシナリオとして、ウクライナ軍が機動性と戦術的な優位性を使い、攻撃対象とする地域を選定し、ロシア軍の戦線を突破する可能性を挙げた。
一部のアナリストは、ドンバス地方での現在のロシア軍の攻撃に耐えることができれば、ウクライナ軍は今後数週間のうちに反撃を強化し、今回の戦争は重大な局面に入ると予想している。
英国王立防衛安全保障研究所のマイケル・クラーク元所長は、ロシア軍の規模はウクライナでの限定的な目標を達成するのにさえ、小さ過ぎると指摘する。ロシア政府にとり、より長期的な観点から重要な点は、兵士の徴集がうまくいくかどうか、そして正規軍に15万〜18万人の新たな兵士を追加できるかどうかだとみられる。訓練を施す必要があることを考えると、新たに徴集された兵士は年末近くまで戦地に到着しない可能性が大きい。クラーク氏は「ロシア軍が来年、より大規模な動員力を持つことになれば、その場合には『膠着状態のシナリオ』となるだろう」と語った。
4.ウクライナ軍の前進
兵力をウクライナ東部および南部に向け直したあと、ロシア軍は時間をかけて、大規模な兵力を集めたりせず、キーウから戻した部隊なども使って散発的な攻撃を仕掛けているように思われる。
「ロシア軍の前進が比較的早い時期に徐々に止まりつつあるように思われる」と前出のオブライエン教授は指摘する。「ロシア軍がある段階で前進をやめた場合、問題はロシア軍をウクライナ軍が押し戻すことができるかどうかだ」
そうした局面では、西側からの武器が極めて重要だとアナリストらは指摘する。米国防総省当局者は16日、米国がウクライナに供与したM777砲90門のうち、74門がハルキウ周辺を含む地域に配備されているとの報告がウクライナ側からあったことを明らかにした。
こうした榴弾砲は長い射程を持ち、ウクライナ軍はロシア軍の射程に入ることなく攻撃が可能になる。ウクライナ軍は自爆ドローン「スイッチブレード」や攻撃型ドローン「フェニックス・ゴースト」を含む兵器も西側から取得しつつある。前出のフリードマン名誉教授は「ドローンと榴弾砲の組み合わせは非常に威力がある」と指摘した。
ウクライナ側が実際にロシア軍を押し戻した場合、どこで進軍をやめるかが次の問題になる。ウクライナにとっての最低限の目標は、ロシア軍の侵攻開始前日の2月23日時点での支配地域の奪還だ。その場合には、ドンバス地方内の2つの地域と、ロシアが2014年に併合したクリミア半島の支配権がロシア側に残されることになる。
アナリストらは、ウクライナ側の攻勢が順調に進んだ場合には、どこで進軍を止めるかについて、同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領が政治的判断を迫られると指摘する。ウクライナ側は、ロシア軍をさらに押し戻したいとの誘惑に駆られるだろう。
5. 戦争のエスカレーション
西側諸国、特に欧州諸国では、ロシアが侵攻準備を進めていた間に、対応策について多くの議論が交わされた。だが、その中にはプーチン氏に確実な出口を与えることも含まれていた。一部アナリストは現在、プーチン氏を追い詰めすぎると、彼が例えば戦術核兵器や化学兵器の戦場での使用など、より過激な方向へ戦闘をエスカレートさせるのではないかと懸念している。
西側のアナリストらは、そうした状況も考え得るが、そうなる可能性は低いと述べている。戦術核が使用された場合でも、それによって自動的に戦闘が、ロシアと西側諸国の間での大陸間弾道ミサイル(ICBM)による攻撃の応酬へとエスカレートするわけではない。
ウクライナとロシアの勢力が、距離的に近接しており、ウクライナ軍が特定地域に極度に集中していない状況では、こうした兵器の使用が戦況を有利にする策にならないということが、その使用をためらわせる主要因だとアナリストらは指摘する。
前出のフリードマン氏は「戦場で核兵器を1発使うことは何の役にも立たない。多くの核兵器を使用すれば、多くの放射性降下物がまき散らされ、味方の勢力も被害を受ける可能性が大きい」と述べている。化学兵器は攻撃対象を絞ることが難しく、自軍にとっての危険も大きいため、その使用による効果はより低いとみられる。
戦場以外での使用を含め、これら兵器を使用する動機としては、このほかに2つの場合が考えられる。1つめは、ウクライナをおびえさせ、同国政府の政策決定者の判断に影響を与えようとする場合だ。2つめは、ウクライナに停戦案を受け入れさせるための西側諸国政府による説得を促そうとする場合である。アナリストらは、この2つのケースについて、どちらも仮説としては成り立つが、実現性は低いとみている。
これら兵器の使用はいかなる形であれ、西側諸国の戦争への関与を一層深める可能性が高い。アナリストによれば、西側の諸大国が核兵器で応戦する可能性は低いが、通常兵器で対抗する可能性は十分あるという。
●ウクライナ戦争に見る深刻な環境破壊 5/20
戦争が引き起こす環境破壊や汚染ほど広範で多岐に及ぶものはない。多くのエネルギーや天然資源を浪費し、自然環境を破壊し、有害物質をまき散らし、多くの人命を奪う。
第一次、第二次世界大戦などはその典型だが、不思議なことに戦争が引き起こす様々な環境破壊の全体像は客観的、数量的に把握されていない。
戦争は国家間の争いである。戦争に勝つためには大量のエネルギーが使われる。兵器生産(通常、核、生物・化学など)、輸送手段(トラック、航空機、船舶など)、攻撃手段(戦闘機,ヘリコプター、ドローン、装甲車、駆逐艦、潜水艦、ミサイルなど)を動かすためには膨大なエネルギーが必要だ。
基地内の燃料施設にはガソリンやジィーゼル、軽油、天然ガスなど大量の化石燃料が蓄積されている。さらに様々なデジタル技術、センサー、AI(人工知能)などの先端技術の開発にも多くのエネルギーが投入される。しかも軍事関連事業はいずれも高度な国家機密に属している。このため、戦争が著しく地球環境を破壊してきたにもかかわらず、破壊の全体像は未だによく分かっていない。
そこで、現在進行中のウクライナ戦争を参考に、戦争がどのように地球環境を破壊するかをチェックし、後日、戦争が引き起こす環境破壊の全体像を検証するための参考に供したい。
1.気候変動に与える影響
戦争による環境破壊で最も深刻なのは気候変動に与える影響だ。ウクライナの上空を飛び交うおびただしい数の戦闘機、大地を揺るがして走る戦車、兵員輸送車、兵器や燃料、食糧などを運ぶロジスティクス支援のトラックなどが絶え間なく動き回る。使われる燃料はガソリンやジィーゼルなどの化石燃料が中心だ。
爆撃されたウクライナ側の軍事基地内の燃料貯留場や工場、建屋などが燃え上がる。爆撃地域から避難するウクライナ市民の自動車の長蛇の列。自動車はガソリンがなければ走れない。エネルギー源として化石燃料を使い続ければ、温室効果ガスのCO2(二酸化炭素)が大気中に大量に排出され続ける。
それが地球表面の温度を上昇させ大気や海流の流れに影響を与える。その結果、気候変動を悪化させ,各地に異常気象をもたらす。
気候変動を安定させるため、パリ協定では2050年までに炭素ゼロの世界を目指しているが、無益な戦争が長期化すれば、ウクライナのCO2排出量は通常時の50倍、100倍、あるいはそれ以上に増えてしまう恐れもある。
2.チョルノービリ(チェルノブイリ)原発占拠
ロシア軍は2月24日、ウクライナに侵攻すると、早々に隣国、ベラルーシとの国境近くにあるチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所を攻撃し占拠した。チョルノービリ(チェルノブイリ)原発は1986年に爆発事故が起き、大量の放射性物質が飛散した。この爆発で少なくとも51人が死亡したと言われる。
国際原子力機構(IAEA)や国連によると、約4000人が高レベル放射線を浴びた後にガンで死亡、さらに約5000人が放射線被爆で死亡したとされる。ウクライナ政府は半径30キロ圏内を放射線濃度の高い危険地域として立ち入りを制限している。コンクリートと鋼鉄製で覆われたシェルター内で爆発した原子炉の処理作業を続けている。
ロイター通信によると、占拠したロシア軍の兵士は放射線防御服を着用せずに現地に入り、軍用車両で汚染された土をかき回し、危険な量の放射線に晒されている、と伝えている。幸いなことに高レベル放射性廃棄物を冷却する貯水施設は被害を受けていないが、廃炉を管理するウクライナ人専門家の多くが疲労を訴えている。
彼らが疲労で作業ミスをすれば被爆リスクは一気に高まる。なぜ、ロシア軍が危険極まりないチェルノブイリ原発を占拠したのかわからないが、放射線防御服を着用せず、原発処理の専門家も同行せず占拠したところを見ると、原発リスク対策の知識は皆無だったと推測せざるを得ない。
万一間違って、ミサイル攻撃や砲撃によって、発電や冷却用貯水施設、廃炉作業現場が破壊されれば、大変な事故に発展したかもしれない。
ウクライナには15基の原発が稼働しており、発電量全体の54%を原発が占める原発大国である。稼働中の原発が攻撃されれば、第二、第三のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故を誘発し、欧州全域に高濃度の放射性物質が拡散する懸念がある。
3.膨大な戦争廃棄物の発生
テレビやSNSを通して毎日のようにウクライナ戦争の実情が伝えられている。ロシア軍はミサイルや爆撃機を使ってウクライナの主要都市を爆撃している。当初は軍事関連施設が目標で、一般市民は攻撃の対象にしないと言っていた。
だが最近は高層住宅、ショッピングセンター、行政庁舎、病院、学校など民間施設への攻撃が際立っている。砲弾を撃ち込まれた高層住宅や病院、学校などの被害状況、崩れ落ちたコンクリートや鉄骨、木片、化繊類のシートや衣類などが瓦礫となって辺り一面に散乱している。
焼け焦げた自動車があちこちに放置されている。戦場では破壊され焼失したおびただしい数の戦車やトラックが置き去りにされている。
ロシア軍が包囲するウクライナ南東部の拠点都市、「マリウポリ」は攻撃によって多くの建造物が破壊され、都市そのものが消失してしまったような姿に変わってしまった。戦争によって消滅させられた都市に残るのは膨大な戦争廃棄物だけだ。
これらの廃棄物を処理し、都市を再生するために何年かかるだろうか。また復興のために必要とされるエネルギーや資源の調達をどうするか。残された課題は尽きない。
4.生物・化学、核などの大量破壊兵器による環境破壊
ウクライナ戦争では生物、化学、核などの大量破壊兵器は今のところ使われていない。しかし戦局が不利になれば、ロシア軍がこれらの大量破壊兵器を使う可能性はゼロとはいえない。プーチン・ロシア大統領は西側に対する脅しとして「使用」の可能性に言及している。
生物兵器とは天然痘ウイルス、コレラ菌、炭疽菌、ボツリヌス菌などを使って人、動物、植物に害を加える兵器だ。化学兵器は化学剤を含む弾薬を爆発させ一度に大量の人を殺害する大量破壊兵器だ。
大きく分けて、「血液剤」(塩化シアンなど血液中の酸素摂取を阻害して身体機能を喪失させる)、窒息剤(オスゲンのように気管支や肺に影響を与え窒息させる)、「びらん剤」(マスターなど皮膚や呼吸器系統に深刻な炎症を引き起こす)、「神経剤」(サリンのように神経系統を阻害し筋肉痙攣や呼吸障害を引き起こす)などがある。
一方、戦場で使う戦術核は小型化が進み、広島に投下された原発の10分の一から100分の一に近いものまで開発されている。だが、一度使えば大量の殺人、膨大な放射性物質が排出、拡散される。
大量破壊兵器は多くの人命を奪うだけではなく、自然界に様々な有害物質をまき散らし、生態系を損なってしまう。
ロシアの一方的な侵攻で始まったウクライナ戦争で、同国内は深刻な環境破壊の波に飲み込まれているが、この機会に戦争と環境破壊の全体像をできるだけ具体に映像などで捉え、数字化、数量化して「戦争が生み出す破壊の数々」を検証し、将来に伝え残す努力が求められる。
●ついにロシアを見限った、かつての「衛星国」たち 5/20
隣人と仲良くするのは難しいものだ。とりわけそれがロシアの場合には──。
ウクライナで戦争が始まって以来、かつて「衛星国」と呼ばれた国々が続々とモスクワの重力圏を離れようとしている。
足元でロシアの脅威を感じるモルドバやジョージア(グルジア)から、ロシアに借りのある中央アジアのカザフスタンまで、多くの国がウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアから距離を置き始めた。
ソ連時代の親密な関係を再検証する動きもある。かつてのソ連は「みな兄弟」と言っていたが、そんなのは嘘っぱちだと今は誰もが気付いている。みんな対等なんて話は、暴力でソ連が生まれた100年前から嘘だった。
そのソ連が崩壊してから30年を経た今、かつての衛星国の目に映る今のロシアは、単なる厄介な隣人だ。
カザフスタンは先月、5月9日の対ドイツ戦勝記念日の祝賀パレードを今年は実施しないと表明した。ロシアの、ウクライナへの派兵の要請を拒んだとも伝えられている。そしてアゼルバイジャンとの協力を深め、ロシア領を通らずに欧州へエネルギーを供給する計画だと発表した。カザフスタンの外務次官によれば、「仮に新たな鉄のカーテンができても、わが国はその裏側にいたくない」からだ。
ウズベキスタンでは、長らく外相を務めてきたアブドゥラジズ・カミロフが、クリミア半島やドンバス地方を含むウクライナの領土保全を支持すると表明したが、その後に更迭された。おそらく、ロシアからの政治的圧力があったのだろう。キルギスの外相も解任された。こちらもロシア支持を鮮明にしなかったことが理由らしい。
一方、モルドバはロシア産のエネルギーに依存しているが、ウクライナからの避難民を大量に受け入れている。そして女性大統領のマイア・サンドゥは、国内の沿ドニエストル地域における「親ロシア派」の動向を注視し、警戒していると語った。
ロシアがウクライナに侵攻した数日後、モルドバはウクライナやジョージアと並んでEU(欧州連合)への加盟を申請した。モルドバは沿ドニエストル地域を、ジョージアは南オセチアとアブハジアを、今はロシアに占領されている。
民衆も抵抗する機運
これら中央アジアと南カフカス地方の国々では、市民レベルでロシアの戦争への抵抗が続いている。
中小企業が自社製品に「ウクライナに栄光あれ」というステッカーを貼り付けたり、市民団体がウクライナ向けの人道支援物資を集めたりしている。ウクライナ国旗の色と同じ青と黄の服を着て街を歩く市民もいる。侵攻したロシア軍の戦車などに記されたZやVの文字はどこでも嫌われており、その使用を禁じた地域もある。
社会主義を掲げたソ連も結局は植民地主義の大国だったという認識が、今はかつてのソ連圏諸国を連帯させ、これら諸国を再び支配しようとするプーチン政権への反感と抵抗を募らせている。
今のロシアがウクライナやジョージアでやっていることは21世紀版の帝国主義であり、絶対に許せない──。そう思う人は増えていて、それなりの政治的自由がある諸国では、ロシアの優越性を認めない世論が高まる傾向にある。
カザフスタンではスターリン時代に食糧不足で何百万もの国民が餓死しているが、そのことの政治的責任を問う声が、今は一部の学者だけでなく一般市民にも広がっている。同様にジョージアやキルギスでも、ソ連時代に民族派の知識人が粛清された事実の再検証が始まっている。
国際社会では今も、かつてのソ連が地域の、とりわけ中央アジアの近代化を進めたという解釈が根強い。それが世界中で反植民地主義の動きを加速したという評価もある。
だが、その負の遺産を明らかにしたのが今回のウクライナ戦争だ。かつてのソ連と同様、プーチン政権も全体主義であり、支配下にある全ての民族にロシア文化を押し付けようとしている。
もうたくさんだと、旧ソ連圏諸国の人々は思っている。アルメニアでもジョージアでも、キルギスやモルドバ、ウクライナでも数年前から民衆が立ち上がり、ソ連時代から続く「警察国家」の変革を求めてきた。
民衆レベルで反体制の声が高まるのは、それだけ本物の政治参加と自由選挙を求める思いが強まっている証拠だ。いまウクライナ人がロシアの侵略軍と戦っているのも、強権支配を拒んで民主主義を確立するためだ。
低下するロシアの地位
こうした国民の声が高まるなか、過去にすがる独裁的な指導者たちは苦しい。例えばロシアに最も忠実な国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領。彼は2020年秋からの大規模な民衆の抵抗運動を、プーチンの助けを借りて乗り切ったばかりだ。どうにか体制を維持することはできたが、人々の間には今も不満がくすぶっている。
その証拠に、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって間もない頃、ベラルーシの鉄道労働者はロシアからウクライナへ向かう補給品の運搬を妨害した。この勇敢な行為でロシア軍の計画は狂い、部隊の前進が妨げられた。
中央アジアのカザフスタンはどうか。ロシアと同様、この国でも大統領が権力ピラミッドの頂点に立ち、忠誠と賄賂の見返りに地位や資産を分け与えている。
だが今年1月には国内各地で反政府デモが起き、より民主的な政治体制への転換を迫られている。どんなに長く独裁体制が続いていようと、国民はどこかで立ち上がり、富と権力の公平な分配を求めるものだ。しかも抗議行動の中心はソ連時代を知らない若い人たち。彼らには社会を変える決意と勇気がある。
旧ソ連圏に対するロシア政府の影響力は、既に衰えている。ロシア語を「公用語」として残しているのはベラルーシのみ。
アゼルバイジャンは独立直後にキリル文字(ロシア文字)を捨て、ラテン文字に移行した。ウズベキスタンとカザフスタンも同様の移行を進めている。
ロシア主導の「ユーラシア経済同盟」の加盟国はほかに4カ国だけ。軍事同盟である集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国はロシアを含めても6カ国。どちらの組織も存在感は薄く、評判が悪い。
カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領は1月の反政府デモをCSTOの介入で乗り切ったばかりだが、プーチンの始めた戦争には意外なほど反発している。
衰えたのは政治的影響力だけではない。旧ソ連圏諸国におけるロシア文化の支配的地位も揺らいでいる。若い世代は、文化や世界観が一つだけではないことを知っている。
若い世代は多様で、トルコやアラブ世界、ヨーロッパなどの文化を喜んで受け入れる。伝統的・民族主義的な価値観が残る農村部と、リベラルな思想や価値観を持つ都市部の亀裂も深まっている。ジョージア、カザフスタン、モルドバでは大規模なウクライナ支援デモが行われた。政府が反戦デモを禁止しているキルギスのような国でも、少数の勇敢な活動家が街頭で抗議の声を上げた。
ただし、ロシアから距離を置こうとするこれら諸国が欧米に接近していくとは限らない。中央アジアや南カフカス地域の現政権は、むしろ中国やトルコとの関係強化を望んでいるようだ。
アルメニア、キルギス、タジキスタンなど、ロシアの政治的・軍事的支援に依存する国々は、今後もロシアとの緊密な関係を維持していくだろう。だがそうした諸国の指導者でさえ、ウクライナ侵攻はあの国を「非ナチ化」するためだというプーチンの主張に同意してはいない。
今回の戦争を見て、旧ソ連圏諸国も気付いたのだ。もう、ロシアだけに頼る時代ではないと。
もはや植民地ではない
ロシアの近隣諸国は、もはやロシアのチェス盤の上で動かされる駒ではない。徐々に国際舞台で活躍する主体的な存在になりつつある。そうした国々は多くの地域の勢力との関係維持を目指す。ロシアもEUや中国、トルコ、イランなどと並ぶ隣国の1つにすぎないという位置付けだ。
中央アジアの国々は強国ロシアだけに依存せず、多国間主義を模索し始めた。ウクライナ侵攻支持を迫るロシアの圧力に対抗できたのも、外交上の同盟国を多様化し、自国の主権とアイデンティティーを守ろうとする彼らの長年の努力があってこそだろう。
旧ソ連圏におけるロシアの力を理解するには、ロシアだけを見ていては不十分だ。旧ソ連圏の諸国は過去から完全に抜け出そうとしている。ウクライナ戦争に対する各国の反応は、かつてソ連の支配下にあった国々も、今は独自の意思を持つ主体的な国家になりつつある事実を示している。
中央アジアや南カフカス地方の諸国の国民の多くは、ロシアを歴史的な同盟国としてではなく、大量殺戮を行う好戦的な隣国とみている。
つまり時代は、近隣諸国を「衛星国」と見なし、それらの国々に対するロシアの絶対的支配を再構築したいプーチンの帝国主義的・民族主義的な21世紀版十字軍の味方ではない。ロシアの近隣諸国は、もう昔のような植民地の集合体ではないのだ。
●ロシアがマリウポリ製鉄所の完全掌握主張、G7支援 5/20
ロシア国防省は20日、ビデオ声明で、ウクライナ・マリウポリのアゾフスターリ製鉄所で残りのウクライナ兵が投降し、同製鉄所を完全に掌握したと発表した。同省によると、ショイグ国防相がプーチン大統領に戦闘の結果を報告した。ウクライナ側はロシアの主張に対して現時点でコメントしていない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は国民向けのビデオ演説で、ロシアが同国への侵攻でもたらした被害への賠償を支払う必要があるとして、同盟国に賠償金に関する「メカニズム構築」で協力を求めた。ウクライナは5月初めの時点で、戦争の直接の損失額を1000億ドル(約12兆8000億円)と推計していた。
同大統領は各国が自国内のロシア資産を没収し、戦争の損失額を賄うためのファンドを創設するとともに、賠償請求を調査するための国際的な委員会を設立すべきだと主張した。
主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議はウクライナに対し、198億ドル(約2兆5300億円)規模の短期的な財政支援を表明した。
ロシア・ルーブルが一時、対ユーロで約7年ぶりの高値に上昇。ウクライナの中央銀行は、6月にも通常の金融政策決定を再開する可能性がある。
バイデン米大統領は19日の声明で、400億ドル(約5兆1000億円)強のウクライナ支援法案の議会通過に歓迎の意を表明した。
ロシア軍はドネツク、ルガンスク両州の「歴史的な境界」までウクライナ領を制圧し、近隣地域を「非武装化」すると、ロシア大統領府幹部のセルゲイ・キリエンコ氏が語った。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ムーディーズ、ウクライナを「Caa3」に格下げ
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは20日、ウクライナの信用格付けを「Caa3」に一段階引き下げた。同国の格付けは債務不履行を繰り返すエクアドルなどと同等となった。格付け見通しは「ネガティブ」(弱含み)。
G7が198億ドル支援表明
G7財務相・中央銀行総裁会議は20日、ウクライナに198億ドル(約2兆5300億円)の財政援助を実施すると表明。「ウクライナに人道支援や必要な物資を提供するほか、ウクライナが緊急に必要としている短期的な財政支援を特に認識している」との共同声明を発表した。支援には、会議に向けて早急にまとめられた95億ドルの援助が含まれている。
ロシア、利払いで振替機関に資金移管との声明
ロシア財務省はクーポン支払いの資金をロシア連邦証券保管振替機関(NSD)に移したとの声明を発表。これによると、NSDは2026年5月償還債のクーポン7125万ドル(約91億円)と、36年5月償還債のクーポン2650万ユーロ(約36億円)の資金を受け取った。同省は「完全に」債務を履行したと表明した。
ロシア資産没収措置に他国も関心−カナダ財務相
カナダのフリーランド財務相は、ウクライナ復興資金に充てるためにロシア資産を没収することを認めるカナダの法的措置について、G7の他のメンバーが関心を持っていると述べた。
財政赤字ルール適用停止の延長不要−独財務相
欧州連合(EU)は財政赤字に関するルールの適用停止措置を2023年に延長する必要はないと、ドイツのリントナー財務相が述べた。事情に詳しい複数の関係者はブルームバーグに対し、欧州委員会が適用停止を23年末まで延長する提案を23日に行うと明らかにした。同ルールは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて、今年末までの予定で停止されている。
シュレーダー元独首相、ロスネフチ会長辞職へ  
ドイツのシュレーダー元首相は、ロシア国営石油ロスネフチの会長職を辞することになった。同社によると、シュレーダー氏から任期を延長することはできないとの通知があった。ロシアによるウクライナ侵攻後もプーチン大統領と距離を置く姿勢を見せず、身内の社会民主党(SPD)からも批判の声が上がっていた。
フィンランドへのガス供給停止
フィンランドの国営エネルギー会社ガスムは、ロシアの天然ガス供給が21日未明に停止することを明らかにした。ルーブルでのガス代支払いを拒否したことが背景。
ルーブルが7年ぶり高値
ロシア・ルーブルが対ユーロで一時9%上昇し、2015年6月以来、約7年ぶりの高値を付けた。ロシアは天然ガスの代金をルーブルで支払うよう要求しているが、それに従う外国企業が増えたとみられている。
ウクライナ中銀、6月にも通常の金融政策決定か
ウクライナ中銀は来月にも通常の金融政策決定を再開することを検討している。事情に詳しい関係者3人が明らかにした。同中銀はロシアによる侵攻後の経済崩壊とインフレ高進を受け、金利政策の判断を停止している。
チェルノブイリ原発近くの森林火災は放射線リスクなし
ウクライナ当局者は国際原子力機関(IAEA)に対し、同国北部のチェルノブイリ原子力発電所近くで発生した森林火災は放射線リスクをもたらさないと報告した。グロッシIAEA事務局長が声明で明らかにした。IAEAもウクライナの分析に同意した。
米国と国連がウクライナ穀物鉄道輸送計画を検討−WSJ
米国とグテレス国連事務総長が計画しているベラルーシ経由のウクライナ産穀物輸送計画に関し、米国はベラルーシのカリウム肥料業界に科している制裁措置を6カ月間免除する提案する可能性がある。WSJ紙が当局者の話として伝えた。
米政権、1億ドル相当の軍事支援発表−支援法案大統領送付に先立ち
米上院が可決した400億ドル強のウクライナ支援法案の大統領送付に先立ち、バイデン政権は重火器やレーダーなどを含む1億ドル相当のウクライナ軍事支援を発表した。米国防総省によると、1億ドル相当の軍事支援には155ミリりゅう弾砲18門などが含まれる。
ロシア軍、ドネツク・ルガンスク両州を完全掌握する−大統領府
ロシア軍はドネツク・ルガンスク両州の「歴史的な境界」までウクライナ領を制圧し、近隣地域を「非武装化」すると、ロシア大統領府幹部が語った。ウクライナ軍の頑強な抵抗を前に進軍は滞っているが、ロシアの野心的な戦争目的を再確認した。ロシア大統領府のキリエンコ第1副長官はテレビ中継された会合で、制圧の時間的なめどは示さなかった。ロシア軍が占領する地域の当局は、ロシアへの編入を目指す公算が大きいと示唆している。
●「アゾフ大隊」、製鉄所で抗戦継続か…東部で反撃・ロシアから23集落を奪還  5/20
ウクライナ兵の退避が続く南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所で、ロシア軍への抗戦を続けてきたウクライナの武装組織「アゾフ大隊」の副司令官は19日夜、SNSでビデオ声明を配信し、「自身や他の司令官は製鉄所内にいる。作戦は継続中だが、詳細は明らかにしない」と述べた。籠城を続ける考えを示したとみられる。
また、ウクライナ軍参謀本部は19日、東部ハルキウ(ハリコフ)州で、反撃を表明した今月5日以降に奪還した集落は23か所に上ると説明した。
英国防省は19日、ハルキウ州で作戦を指揮していた露軍戦車部隊の司令官が、職務停止処分を受けたとする分析を発表した。露海軍黒海艦隊の司令官も、今年4月の艦隊旗艦「モスクワ」の沈没を受け、同様に処分された可能性があるという。
一方、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長と露軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長が19日、電話で会談した。両氏の会談は2月のウクライナ侵攻開始後初めて。米統合参謀本部は「両氏は意思疎通の手段を維持することで一致した」としている。
●ロシア軍 東部マリウポリと2州掌握ねらう ウクライナ抗戦強調  5/20
ロシア軍は、東部の要衝マリウポリの完全掌握とともに東部2州全域の掌握をねらい、各地で攻撃を続けています。これに対しウクライナ側は、一部でロシア軍の部隊を押し返していると分析され、クレバ外相が一方的に併合されたクリミアの解放にも言及するなど徹底抗戦の姿勢を強調しています。
ロシア国防省は19日、ウクライナ東部の要衝マリウポリでウクライナ側の拠点アゾフスターリ製鉄所から今月16日以降、合わせて1730人が投降したと発表しました。ロシア軍は、マリウポリの完全掌握とともに東部2州全域の掌握をねらっていると分析され、ロシア国防省は東部ドネツク州などで武器庫や対空ミサイルシステムを破壊したと主張しました。
ロシア軍の攻撃についてウクライナのゼレンスキー大統領は19日、東部2州は「完全に破壊された」などと訴えて攻撃が激しくなっているとしたうえで「大量虐殺だ」と非難しました。
戦況についてアメリカ国防総省の高官は、マリウポリではかつてのような攻撃は見られないとして、ロシア側はウクライナ側の抵抗は終わったと見ているという分析を明らかにしました。一方でこの高官は、第2の都市ハルキウ周辺でロシア軍が空爆を続けているのに対し、ウクライナ軍の部隊が押し返しているという見方を示しました。
またイギリス国防省はロシア軍が勢いを失っているというここ最近の見方とともに、軍の幹部が解任されていると指摘し、東部ハルキウで戦車部隊を指揮した司令官や旗艦「モスクワ」が沈没した黒海艦隊の司令官らが責任を追及されたとしています。
さらに、現場の将校たちは責任を回避するためより上層部に決定を委ねる事態になっているとして「このような状況でロシアが主導権を取り戻すことは困難だろう」と分析しています。
ロシアの攻撃に対しウクライナの内務相顧問は「敵は6月終わりから7月のはじめにかけて、私たちの反撃を強く感じることになるだろう」と述べました。
さらにクレバ外相は、インタビューでロシアに勝利したと見なすには東部2州などに加え8年前にロシアが一方的に併合したクリミアも解放される必要があるという認識を示し、徹底抗戦の姿勢を強調しています。
●米上院、ウクライナ支援で5兆円の追加予算案可決 5/20
米上院は19日、ウクライナや周辺国に対する軍事、経済、人道支援の強化のため、総額約400億ドル(約5兆2000億円)の追加予算案を可決した。一方で、米軍の統合参謀本部は、ミリー議長とロシア軍のゲラシモフ参謀総長が電話協議したと発表。
米、ウクライナ軍事支援に127億円追加
米国防総省は19日、ウクライナに対し、最大1億ドル(約127億円)の追加軍事支援を実施すると発表した。同省のカービー報道官は「今回の支援は、ウクライナ東部でロシア軍に反撃するための内容に調整されている」と説明した。
米上院、ウクライナ支援で5兆円の追加予算案可決
米上院(定数100)は19日、ウクライナや周辺国に対する軍事、経済、人道支援の強化のため2022会計年度(21年10月〜22年9月)に総額約400億ドル(約5兆2000億円)の追加予算措置を取る法案を86対11の賛成多数で可決した。下院は通過しており、バイデン大統領が署名して成立する。
米露の軍制服組トップ、意思疎通維持で合意
米軍の統合参謀本部は19日、ミリー議長とロシア軍のゲラシモフ参謀総長が電話協議したと発表した。米露両軍の制服組トップによる協議は、ロシアがウクライナ侵攻を開始してから初めて。統合参謀本部によると両者は安全保障に関する懸案事項を話し合い、意思疎通を維持することで合意した。
エジプトがロシア船寄港拒否、略奪の穀物輸出か
ウクライナのクレバ外相は19日、穀物を積んだロシア船の寄港を拒否したエジプトに謝意を示した。ロイター通信が伝えた。穀物はロシア支配下のウクライナからの略奪品であるとし、「エジプトの判断に感謝している」と述べた。2020年に人口が1億人を突破したエジプトは世界有数の小麦輸入国で、ロシア産とウクライナ産に大きく依存している。
●首脳会議、孤独だったプーチン氏 視線合わさず、繰り返した自説 5/20
ロシアなど旧ソ連の構成国6カ国でつくる軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議が16日開かれた。条約締結の30周年を祝う会議だったが、テレビ中継された冒頭の各国首脳の発言から見えたのは、同盟国間の不協和音だった。ロシア軍が侵攻したウクライナで苦戦するなか、プーチン大統領の孤独は深まっている。
「現在、我々は連帯と支援の絆で結ばれていると確信できますか?」
モスクワのクレムリンで開かれた首脳会議。最初に発言したベラルーシのルカシェンコ大統領は、各国首脳に問いかけた。
CSTOの加盟国はロシア、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン。記念の会議だというのに首脳らに笑顔はなく、一様に硬い表情で座っている。
ロシアとベラルーシを除く4カ国はウクライナ侵攻に関して「中立」の立場を取る。国連総会のロシア非難決議の採決でも反対せず、棄権していた。
ルカシェンコ氏は「仲間の暗黙の了解のもと、ベラルーシとロシアは侮辱され、国際機関から排除されている」と不満を示し、「我々が共同戦線をはれば、このようなひどい制裁は無かったと確信している」と批判した。
議長国・アルメニアのパシニャン首相からは、発言の時間を3〜5分と言われていたが、ウクライナや欧米への批判にも時間を割き、約16分に及んだ。
もっとも、「欧州最後の独裁・・・
●G7財務相・中央銀行総裁会議 ウクライナに198億ドル支援で合意  5/20
ドイツで開かれたG7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議で、ロシアからの軍事侵攻を受けるウクライナに対し、ことし中に合わせて198億ドル、日本円でおよそ2兆5000億円の財政支援を行うことで合意しました。
ドイツ西部のボン近郊で開かれたG7の財務相・中央銀行総裁会議は日本時間の20日夜閉幕し、2日間の討議の成果をまとめた声明を発表しました。
この中で、ロシアからの軍事侵攻を受けるウクライナの市民生活を支えるため、ことし中に合わせて198億ドル、日本円でおよそ2兆5000億円の財政支援を行うことで合意したとしています。
また、ロシアに対する経済制裁については、ロシアを世界経済から孤立させることで戦争の代償を高めるとし、経済制裁や金融制裁を続ける姿勢を強調しています。
さらに、ロシアの軍事侵攻によってエネルギーや食糧の価格が高騰し、各国で記録的なインフレになっているとしたうえで、各国の中央銀行は物価の上昇が人々のインフレに対する見通しに与える影響を注意深く監視するとしています。
また、為替相場の過度な変動は経済に悪影響を与えるという認識を改めて確認したとしています。
鈴木財務大臣は、ドイツのボン近郊で行われたG7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後に行われた記者会見で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「対岸の火として見過ごすことはできない」として、G7各国と連携して制裁を強化していくことの意義を強調しました。
この中で鈴木大臣は「ロシアの行為は力による現状の一方的な変更であり、領土と国土の一体性を損なうものだ。しかも、その過程で女性や子どもを含む、罪のない市民を虐殺しており、絶対に許すことができず、外交的な圧力をかけて、これをやめさせるのは当然だ。ウクライナは日本から見れば距離は遠いわけだが、決して対岸の火という意識で見過ごすわけにはいかない」と述べ、G7各国と連携して制裁を強化することの意義を強調しました。
また、このところの円相場の動向について、鈴木大臣は「為替については今までのG7の合意事項に従って対処する。そして、対応にあたってはアメリカをはじめとするさまざまな国と連携しながら取り組みを進めるということだ」と述べ、引き続き各国と連携して市場の動向を注意して見ていく考えを示しました。
一方、日銀の黒田総裁は、先月の消費者物価指数の上昇率が目標としている2%を超えたことに関連して「従来から4月には携帯電話料金引き下げの効果がはく落することで、2%に達する見通しだったが、来年度・2023年度には1.1%程度に下がり、2%が続くことにはならない。われわれとしては、引き続き金融緩和を粘り強く続けることで経済を安定させ、賃金や物価の伸びが2%に向かっていくと期待している」と述べました。
●ロシア軍 掌握目指す東部で激しい攻撃 ゼレンスキー氏「ドンバスは地獄」 5/20
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、掌握を目指す東部で激しい攻撃を繰り返し、少なくとも市民16人が死亡した。
ロシア軍は19日、東部ルハンスク州のほぼ全域に対して、激しい攻撃を繰り返した。
州知事は、少なくとも市民13人が死亡したと明らかにし、また20日には、200人以上が避難していた学校が砲撃を受け、3人が死亡したとしている。
ロシアのタス通信によると、ショイグ国防相は20日、ルハンスク州全域の制圧が近づいていると主張した。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領「地獄だ。ドンバスが完全に破壊された。これはできるだけ多くのウクライナ人を殺そうとしている意図的な犯罪行為だ」
ゼレンスキー大統領は、「残酷で無慈悲な砲撃だ」とロシアを非難した。
●ロシア、ウクライナ南・東部の併合目指す動き活発化 5/20
ロシアがウクライナ南・東部の永久占領または併合を目指す動きを活発化させる中、ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)は19日、ウクライナ支配地域の基本的な生活環境を整えることが重要だと述べた。
ロシアは2月24日に軍事侵攻を開始して以来、ウクライナを占領する意図はないと繰り返し強調してきた。しかし、ロシアとウクライナの親ロシア派武装勢力支配地域の当局者の間では、ロシアがウクライナ南部ヘルソン(Kherson)、ザポリージャ(Zaporizhzhia)両州などの支配地域にとどまる意向をほのめかす声が増えている。
ドミトリー・ペスコフ(Dmitry Peskov)報道官はウクライナ南部の今後について問われると、「地元住民がこの先どうするのか、誰と共に生きていくのかを決めないことには何もできない」として、地元住民が決めることだと答えた。
さらに「社会保障制度は必須だ。中断は許されない」「今は多くの地域で電気や上下水道が通っていない。整備しなければならない」と述べ、住民の基本的な生活環境を整えることが重要だと強調した。
ロシアは2014年、住民投票を経てウクライナからクリミア(Crimea)半島を併合した。西側諸国は投票が違法だと非難している。
ウクライナ東部ドネツク(Donetsk)、ルガンスク(Lugansk)両州の親ロ派当局は、クリミアのようにロシアへの編入を希望すると述べている。
ロシアはヘルソンやマリウポリ(Mariupol)、ベルジャンスク(Berdyansk)など、ウクライナの各都市に地方政府を設置。日常を取り戻したかのように取り繕わせるとともに、ロシアと共存する未来に向けて下準備をさせている。
また、公務員の給与と年金をウクライナの通貨フリブナではなく、ロシアの通貨ルーブルで支給する計画も進めている。
ロシア当局者とロシアが任命した親ロ派支配地域の当局者は南部ヘルソン州について、ロシアとクリミア半島を陸路で結ぶ回廊の一角に当たるため、ロシアに編入される可能性が高いとの見方を示している。
ロシアが任命したウラジーミル・サルド(Vladimir Saldo)「ヘルソン州知事」は「われわれはロシアを母国と見なしている」と述べた。
ロシアのマラト・フスヌリン(Marat Khusnullin)副首相は18日、ザポリージャ州を訪問。同州は「友好的なロシアの家族」の一員になれるとして、「統合をできる限り支援するためにここに来た」と述べた。
●ロシア軍苦境のあらわれ?“プーチン大統領の直接関与や司令官解任” 5/20
戦局が泥沼化するなか、ロシアでは大佐クラスが行う戦術決定にプーチン大統領が直接関与しているとする分析が報じられました。これは一体どういう意味を持つのでしょうか。
これは苦境の表れなのでしょうか。
西側軍事筋の分析をイギリスメディアが報じています。
それはロシアのプーチン大統領が通常であれば大佐や准将クラスが行う戦術決定に直接、関与しているというもの。
ガーディアン紙によると、ゲラシモフ参謀総長とともに、ウクライナ東部ドンバス地方での部隊配置の決定などに関わっているといいます。
また、ロシアは十分な戦果を出せなかったとして、陸軍、海軍の司令官をここ数週間で解任したとイギリスの国防省が指摘しています。
ハルキウ郊外にあるアパートの部屋にはロシア兵の軍服が放置されていました。
住民「ロシア兵は私の部屋、4階で過ごしていました。隣人は去りました。どこに行ったか分かりません。ロシア兵は隣のアパートや、あらゆるところにいました「(Q.あなたはどこに?)地下室です。地下に留まっていました」
この村では、およそ100人が地下での生活を強いられました。
住民「外へは出ませんでした。自分たちで閉じこもりました。ロシア兵は解放してくれませんでした。白い腕章をつけて歩かされました」
しかし、今はウクライナ軍によって解放されています。今なお大勢の人が避難生活を続けるハルキウの地下鉄駅。来週からは3カ月ぶりに鉄道の運行が再開されます。
ハルキウ地下鉄職員「外国から大勢の人が帰ってきています。彼らの通勤のために地下鉄を再開します。他に行く場所がない人は引き続き駅にいられます」
ウクライナ政府は南東部マリウポリ、アゾフスタリ製鉄所の戦闘員がロシア軍を引き付けたことにより、ほかの地域での反転攻勢が可能になったと称賛しています。ただ、ロシア側に投降した戦闘員の救出は先が見えません。ポーランドに避難しているケイトさん。父親が製鉄所で戦っていました。
父親がアゾフ大隊・ケイトさん(18)「2週間前、父から連絡が来て『さようなら』と言われました。自分たちが生き残れると思っていなかったんです。今、父はロシアに捕まっています。父や他の兵士のことが心配です。彼らは本物のヒーローです」
ロシアのウクライナ侵攻はNATO(北大西洋条約機構)拡大の動きも生みました。
バイデン大統領「本日、アメリカ合衆国の完全かつ全面的な支持を彼らに保証できることを誇りに思う」」
ただトルコが難色を示すなか、こちらも先行きが不透明です。
●激怒のプーチン大統領、軍指揮官を次々クビ!  5/20
ロシアのウクライナ侵攻から3カ月が近づくが、膠着(こうちゃく)状態が続く戦況にプーチン大統領は怒りを隠せないのか。英国防省は19日の戦況分析で、ロシア軍が最近、複数の上級指揮官を更迭していると指摘した。将校らは失敗の責任回避に躍起となり、露軍内部で「隠蔽と責任転嫁の文化が蔓延(まんえん)しているようだ」との見方を示した。
英国防省の分析によると、東部ハリコフの掌握失敗を理由に戦車部隊を指揮した中将が更迭されたほか、黒海艦隊を指揮した中将も旗艦モスクワの4月の沈没後に解任されたとみられる。
プーチン氏は東部ドンバスなど露軍部隊の移動指示に直接関与したとされ、懲罰人事にも意向が反映されたと考えるのが自然だ。
分析では、制服組トップのゲラシモフ参謀総長は留任のもようだが、プーチン氏の信任を得られているのか「はっきりしない」としている。
英国防省は「将校らが重要な決定を上官に委ねようとする傾向が強まる」とし、「露軍が主導権を取り戻すのは困難だろう」と予測した。
経済では「脱ロシア」が広がる。16日に仏ルノーと、米マクドナルドが撤退を発表したが、ロシアに進出する日本の上場企業168社のうち、42%に当たる71社が事業の停止や撤退を決めたことが帝国データバンクの調べで分かった。4月時点の60社から11社増えた。
製品の出荷や受注を含む「取引停止」が2社増の33社、現地工場などの「生産停止」が3社増の14社、店舗などの「営業停止」が1社増の10社、撤退は3社で変わらず、その他が11社だった。
●ロシア「メディア封じ」の狡猾さ...自由な報道が死滅、国民は何を信じる? 5/20
「 私の新聞は報道管制が敷かれてから3月末まで1カ月近く発行を続けた。ウラジーミル・プーチン露大統領が署名した『偽ニュース法』は、クレムリンにとって不都合な真実を市民が語ると軽犯罪、影響が大きい新聞・ラジオ・TVは組織犯罪並みに扱われる厳しい内容で、モスクワのラジオ局や小さな民放TV局も閉鎖された」
昨年、フィリピンの女性ジャーナリストとともにドミトリー・ムラトフ編集長がノーベル平和賞を共同受賞したロシアの独立系新聞ノーバヤ・ガゼータのロンドン特派員ユージニア・ディレンドルフさんはロシア軍がウクライナに侵攻してからのロシア国内のメディア状況についてこう語る。
「『戦争』ではなく『特別軍事作戦』という言葉を使わなければならなかった。短期間で勝利を収められず、『作戦』はずるずる長期化した。ノーバヤ・ガゼータ紙が『作戦』という言葉を使いながら、包括的な全体像を伝えることに当局は苛立っていた。2回連続で通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(ロスコムナゾール)から警告された」
何が検閲に引っ掛かったのか、法廷で真実を究明することは全く期待できなかった。当局の警告に従わなければ永久に新聞発行のライセンスを失う。次は警告ではなく、廃刊に追い込まれる恐れがある。編集委員会とジャーナリスト全員を集めて会議を開き、新聞の発行停止を決断した。ニュースサイトもそれから更新されていない。
メディア支配はエリツィン時代に始まった
ユージニアさんは「20世紀の終わり、ボリス・エリツィン大統領の政権後半から自由は崩れ始めた。今のロシアを覆う支配構造はエリツィン時代から始まっていた。再選を目指した1996年の大統領選でエリツィン氏の支持率は最初3%だった。誰もが再選は無理だと思ったが、オリガルヒ(新興財閥)が集まってエリツィン氏支持を決めた」と振り返る。
エリツィン陣営はPRのスペシャリストを雇って、なりふり構わぬ選挙戦を展開し、決選投票で共産党候補を退けた。「メディア支配と腐敗、市民社会を装う偽りの構造はプーチン氏以前に作られた。プーチン氏はそれを推し進め、完成させた。今や、いかなるメディアも国防省や外務省が発表する通りにしか報道できなくなった」と肩を落とした。
食料品や燃料の価格、インフレ、生活費、年金などすべてが現在進行中の戦争抜きに語ることはできない。どんな些細な事柄でもロシア軍にマイナスになると判断されれば、警告対象になる。「ロシアでプーチン氏の支配から自由なメディアは地方には残っているかもしれないが、連邦レベルでは存在しない。問題ありとみなされた途端、閉鎖されるからだ」
ロシアでは2千以上のサイトが閉鎖された。ロシア国民の大半はロシア国営テレビから情報を得ている。VPN(仮想専用通信網)接続を使ってソーシャルメディアにアクセスするのも難しくなってきたが、「アメリカでも、イギリスでも、ロシアでもソーシャルメディアは社会を団結させるのではなく、分断させ、争いを引き起こしている」と言う。
アンナ・ポリトコフスカヤ氏ら6人の仲間が殺された
ノーバヤ・ガゼータ紙はチェチェン紛争やジョージア(旧グルジア)紛争、ウクライナ東部紛争で強硬に戦争に反対する姿勢を貫いてきた。さらに政権の腐敗を追及する調査報道にも力を注いできた。「戦争」と「腐敗」という2つの闇はプーチン氏のウィークポイントだ。ここを徹底的に攻めてくるメディアは黙らせる必要があった。
プーチン氏と対決する報道を続けてきた同紙ではチェチェン紛争に反対したアンナ・ポリトコフスカヤ氏、旧ソ連時代から腐敗を追及してきたユーリ・シェコチーヒン氏ら計6人がプーチン時代になって殺害されている。このため「平和賞を受賞したムラトフ編集長は真実の報道に命を捧げた仲間たちに捧げると即座に表明した」とユージニアさんは言う。
ノーバヤ・ガゼータ紙のジャーナリストは自分たちの仕事を正しい形で行う勇気を持ち続けている。しかし今、編集局を再開したら、その日のうちに閉鎖されてしまうのは確実だ。そして新聞を発行するライセンスを剥奪され、廃刊に追い込まれる恐れがある。ノーバヤ・ガゼータ紙が存在できるのはわずか1〜2時間がいいところだ。
「プーチン氏が完全にTVを支配してもう20年以上になる。TV局のトップはプーチン氏のシステムを支えている。メディア支配はウクライナ戦争の1カ月前とか3カ月前ではなく、長年にわたって一つ一つブロックが積み上げられてきた。視聴者は20年以上も真実とは全く異なる偽情報のバブルの中に閉じ込められている。権威主義と報道の自由は両立しない」
戦争を支持する狂信的愛国主義者と軍国主義者
ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターによると、プーチン氏の支持率は3月に83%(不支持率15%)、4月にも82%(同17%)を記録した。「公式数字は信用できない。情報を国家に開示できる人だけが世論調査に答えている。戦争を支持する狂信的愛国主義者と軍国主義者、それと戦争や政権に強く反対するグループがそれぞれ20〜25%ずついる」
「戦争が早く終結して元通りに戻るという楽観的な幻想を抱いている40〜50%のマジョリティーには黙っていてほしいとプーチン氏は考えている。だからノーバヤ・ガゼータ紙を閉鎖させた。国営テレビを通じて、洗練された包括的なプロパガンダが行われている。プーチン氏はウクライナを侵攻しなければならない安全保障上の理由があると信じている」
「報道の自由」の擁護を目的としたジャーナリストによる非政府組織(NPO)「国境なき記者団」の世界報道自由度ランキングでロシアは昨年の180カ国・地域中150位から今年は155位に落ちた。ロシア軍の侵攻1カ月で5人ものジャーナリストやメディア関係者が銃撃され死亡している。ロシア軍は占領地のニュースソースを意図的に標的にしている。
露主要TVニュース番組で3月、キャスターの背後で女性が「戦争を止めて」と大書された紙を掲げるハプニングがあった。オリガルヒや退役将官からもプーチン批判が起きている。「国民は安定をもたらしたプーチン氏を支持してきたが、戦争で安定が失われ、貧困が問題になりつつある。国民も目を覚ますはずだ」とユージニアさんは期待を込める。

 

●プーチン氏「サイバー攻撃の増加」 危機感あおる 5/21
ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、プーチン大統領は「ロシアは激しいサイバー攻撃を受け侵略されている」と述べ、国民の危機感をあおりました。プーチン大統領は20日、ウクライナへの侵攻後、政府機関などへのサイバー攻撃が飛躍的に増加しているとしたうえで、「情報空間は戦争になっていてロシアは侵略されている」と主張しました。国民の危機感をあおり国内の結束を図る狙いがあるとみられます。
一方、ロシア国防省は20日、ウクライナ南東部マリウポリの製鉄所に立てこもっていたウクライナ兵の最後のグループが投降したと発表しました。「武装勢力が潜伏していた施設は完全にロシア軍の支配下に入った」との声明を出しています。これまでに投降した人数は、合計で2439人としています。
●マリウポリ「完全制圧」 製鉄所から全員投降 プーチンにショイグ国防相が報告 5/21
ウクライナ南東部マリウポリの製鉄所からウクライナの兵士ら全員が投降したとして、ロシア側はマリウポリを「完全に制圧した」と表明しました。
ロシアのショイグ国防相は20日、プーチン大統領に対し、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所からウクライナの兵士らが全員投降したとして、「作戦が完了し、製鉄所とマリウポリを完全に制圧した」と報告しました。
ロシア国防省によりますと製鉄所に最後に残った531人が投降し、軍事組織アゾフ連隊の司令官は特別な装甲車で移送したということです。また、製鉄所の地下施設についても完全に掌握したとしています。
また、これに先立ち、ショイグ国防相はロシア軍幹部らとの会議でウクライナ東部のルハンシク州について「解放はまもなく達成される」と述べ、ロシア側が近く州全域を制圧する見通しだと主張しました。
一方、ウクライナ軍参謀本部はルハンシク州と接するハルキウ州について、この2週間で一時ロシア軍が占領していた23の集落を解放したと発表しています。
●ウクライナで苦戦するロシア軍、その失敗の本質 5/21
ウクライナではロシア軍が苦戦を続け、逆にウクライナ軍が見事な応戦を見せている。軍事専門家の目にも驚きの展開だ。
この流れは、侵攻開始当初から見られた。2月24日、ロシア軍はウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の空港を急襲したが、明らかな戦術ミスによって失敗に終わった。ウクライナ軍は少なくとも輸送機1機を撃墜し、ロシアが誇る空挺部隊を退けた。
以来、ロシア軍は苦しんでいる。民間人の居住区域を空爆し、いくつかの都市を破壊したが制圧できた所は一つもない。侵攻開始から2カ月半が過ぎた今も、ロシア軍は大量の装甲車両と兵力を維持しているが、ウクライナ軍はロシア軍部隊の4分の1以上を「戦闘不能」の状態に追い込んでいる。
強力で非情に見えるのに、実は無能なロシア軍──。この特徴は今後も変わることがないだろう。
ウクライナでのロシア軍の戦いぶりは、その歴史と軍事ドクトリンを反映したものだ。第2次大戦時のスターリンの赤軍以来、ロシア軍は同じことを続けている。民間人を標的にし、相手国の戦闘員と民間人の人権を侵害する。大砲やロケット弾、装甲車、兵器と兵力を大量に投入する一方で、兵站(へいたん)を軽んじる。
民間人を標的にするのは戦争犯罪だ。ところがロシアの軍事ドクトリンは、民間人を戦争における正当な標的と見なしている。「自国の死傷者を減らすためなら、(相手国での)大規模な破壊や民間人の巻き添え死は許容される」と、ロシアの著名な軍事戦略家アレクセイ・アルバトフは2000年に書いた。そうした行為が国際社会から非難されても、ロシア政府は「無視」すべきだと、彼は付け加えている。
残虐さは軍事ドクトリンから
軍事ドクトリンと実際の戦闘の内容は、軍の能力と経験に基づく部分が大きい。ロシア軍は1994年のチェチェン紛争で自軍に多くの死傷者を出し、膠着状態に陥って撤退した。だがウラジーミル・プーチンを大統領の座に押し上げた99年の第2次チェチェン紛争では、ロシアは訓練不足の歩兵に攻撃させる代わりに大砲を大量に配備してチェチェンの首都グロズヌイを破壊し、多数の民間人を殺害。2015年にも、ロシアはシリア内戦への軍事介入で同じ戦術を使い、成功を収めた。
ロシアの戦争のやり方は、ウクライナでも変わっていない。地面にロシア語で「子供たち」と書かれていた南東部マリウポリの劇場への空爆は残虐なものだったが、これも意図的であり、民間人を攻撃するロシア軍のドクトリンを示す例だ。
前線の兵士の独断と意図的な方針が合わさることにより、ロシア軍が組織的な人権侵害を行った記録もある。スターリンが、ドイツ軍に対抗して進軍する自国軍に略奪とレイプを許可していたというのがそれだ。ソ連兵がドイツ人女性を集団レイプしているという報告を受けると、「兵士のやりたいようにやらせろ」と指示した。
この流れは今も続いている。欧州人権裁判所は21年、ロシア軍が08年にジョージア(グルジア)に侵攻した際に民間人を「非人道的」に扱い、捕虜を拷問したと結論付けた。
「侵攻以外に選択肢がない」
いまロシア軍は、ウクライナで同じような行為を繰り返している。100万人ともされるウクライナ市民のロシアへの強制連行に、裁判なしの民間人の処刑。ロシア兵がウクライナ女性をレイプした事例も多数報告されている。プーチンは、ウクライナのブチャで戦争犯罪を働いたとされる部隊に名誉称号まで付与した。
ロシアの軍事戦略は、自国の広大な面積と脆弱な地理的条件に基づいている。およそ1000年にわたり東西から侵略を受けてきたロシアの歴代指導者は、中欧の脆弱な平原に位置する緩衝国を支配することで戦略的な安全保障を模索してきた。
ロシアの戦略家が安全保障と帝国の確立を求めてきた場所が、まさに現在のウクライナだ。プーチンは長年にわたってNATOに対し、ロシアにとってウクライナは自国存亡の問題だと警告してきた。ウクライナが親欧路線を強めるなか、「わが国には侵攻以外に選択肢がなかった」とも述べている。
ロシアの軍事文化は貴族社会で発展し、農民が多数死傷しても犯罪的とも言えるほど意に介さず、おびただしい数の兵士を送り込んで圧倒する戦術を特徴とした。自国兵士を軽視するボリシェビキの姿勢にも、類を見ない残忍さがあった。こうした以前からの傾向は、最近ウクライナで傍受されたロシア軍の無線通信にも表れ、「われわれは使い捨ての駒。平和な市民を殺している」と嘆く兵士の声が記録されている。
このような歴史から生まれたロシアの軍事ドクトリンは、いくつかの前提を基にしている。まずロシアは地理的な広さと脆弱性から、戦略的な奇襲に備えておかなければならない。ロシアは戦略的に唯一無二の国だが、西側は自分たちが提案する「軍事改革」(核兵器削減、軍備管理交渉、紛争削減措置など)を通じてわが国の弱体化をもくろんでいる。
さらにロシアの軍事・経済基盤は、敵対する可能性の高いアメリカやNATOより技術的に劣っている......。そのためロシア軍の計画立案者たちは先制攻撃、すなわち「エスカレーション・ドミナンス」に重点を置く。敵にとっての犠牲を増大させる用意があることを示しつつ、応戦すれば危険なことになり得ると思わせて優位に立とうという考え方だ。
ウクライナへの一方的な侵攻は、まさにこの戦略的先制攻撃だ。そしてプーチンが侵攻3日目にして核兵器使用をちらつかせたことも、優位に立って敵を無力化させようとするロシアの典型的なやり方だ。
ロシアの軍事ドクトリンは、先制と奇襲、大規模攻撃の威力による衝撃とスピードを重視してきた。ロシアの戦略担当者は、経済的・技術的に優位な立場にある西側諸国に対して主導権を握るために、短期の通常戦争に重点を置き、核戦争の脅威を利用して西側の優位性に対抗してきたのだ。この点でもウクライナ侵攻は、ロシアの戦略的ドクトリンに合致している。
兵站を軽視したツケは大きい
ロシアは将来の戦争においても、今回のウクライナ侵攻と同じアプローチを、そして同じ失敗を繰り返す可能性が高い。それはロシアが、第2次大戦時の米軍司令官オマー・ブラッドリーの「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」という言葉に耳を傾けてこなかったからだ。
ロシア軍の戦闘部隊は米軍部隊よりも保有している火器は多いが、支援車両や補給車両はずっと少ない。その結果、ロシア軍は何度も燃料切れに陥り、より機敏に動けるウクライナ軍の餌食になってきた。
ロシア軍には通信のトラブルが少なくなかった。軍の装備は長年にわたり修理が行き届かないままの状態で、戦場に配備されている。無線は機能せず、兵士たちが装備の使い方について十分な訓練を受けていないケースも多い。
投入した地上部隊の4分の1が戦闘不能に
さらに大隊や連隊レベルに有能な将校が不足しており、部隊間の連携やリーダーシップがうまく機能していない。そのため、将校たちが前線に出ざるを得なくなった。結果として、侵攻当初に前線に就いたロシア軍将校20人のうち、実に12人がウクライナ軍に殺害されている。
しかしトラックや整備士を増やすだけでは、ロシア側は問題を解決できない。
兵站業務には、従軍期間がわずか1年という、訓練不足で士気も低い徴用兵が割り当てられることが珍しくない。腐敗も兵站能力を弱体化させている。横行する腐敗によって軍予算の20〜40%が不正流用され、そのために質の低い、あるいは不十分な数の装備しか購入できない事態が慢性化している。
米国防総省によれば、いまロシアは地上戦闘部隊の約75%をウクライナに投入している。侵攻からの2カ月余りで、このうち4分の1の部隊が戦闘不能な状態に陥り、その過半数が精鋭部隊だった。戦闘用の装備も少なくとも25%が破壊され、これらを元のレベルに立て直すには何年もかかるだろう。
活かされなかったアフガン侵攻の教訓
歴史は未来を見通す窓である。10年に及んだ旧ソ連のアフガニスタン侵攻はソ連の荒廃を招いたが、それでも指導部や軍の専門家は、アナリストが指摘したいくつもの誤りを一切修正しなかった。例えば、いくつかのポイントは次のように修正されるべきだった。
「現地の協力勢力を、ロシア流に当てはめて組織し直そうとするな」
「彼らがわれわれの大義のために進んで戦おうとしなければ、われわれは敗れる」
さらにここに、「アメリカによる敵対勢力への武器供与の意思を過小評価してはならない」という新たなポイントを加えたい。
ロシア軍は将来の紛争でも圧倒的に優位に立つことを狙うだろう。指導部は即座に全面戦争の脅しをかけ、また核兵器を使って敵を守勢に立たせようとする。軍は兵站の大幅な不足に苦しみ、それが軍全体の動きを減速させるかストップさせる。指揮権は上層部に集中し、連隊以下には回ってこない。それでもロシア軍は、とてつもない数の火器を保有し、それを使用し続ける。
多くの兵士が訓練不足のまま戦場に送られ、戦争犯罪や人権侵害を働くだろう。20年にロシアで発表された報告書は「兵士たちの専門的な訓練のレベルが低下し続けている」と指摘。国内のアナリストも、兵士たちには効果的に機能するための士気が欠けていると警告してきた。
ロシア軍の残虐性も、将来の紛争に受け継がれる可能性が高い。徴用兵の間には長年、「デダフシチーナ」という残虐なしごきの伝統がある。上官が若い兵士を殴ったり、あるいはレイプしたりするのだ。
今後10年、あるいはそれ以上にわたり、ロシア軍の低迷は続くだろう。それでも、プーチンの帝国主義的な野望は消え去らないが。
●ウクライナ戦争と「ナラティブ優勢」をめぐる戦い 5/21
はじめに
ロシアによるウクライナ全面侵攻から3カ月弱が経過した現在、ウクライナ軍は首都キーウに迫るロシア軍を押し返したものの、東部ドンバス地方や南部では激しい戦いが続いている。陸・海・空・宇宙に次ぐ、第五の戦場「サイバー空間」や第六の戦場「認知空間」でも、ウクライナとロシアの戦いが繰り広げられている。ロシアの「情報安全保障」という枠組みの中で「サイバー空間」「認知空間」が峻別されているかどうかは別として、これまでのところ認知空間での戦いはウクライナや米欧が明らかに優位に立つ。
日本でも情報戦への関心が高まっている。防衛省が2022年4月1日、防衛政策局調査課に「グローバル戦略情報官」を新設し、偽情報や対外発信の戦略的意図を分析するという。
そこで本稿はウクライナ戦争をもとに、情報戦・認知戦で用いられる情報の一種である「ナラティブ」および「ナラティブ優勢(narrative superiority)」をめぐる戦いについて考察する。
1.ウクライナ戦争で氾濫した偽情報と「ナラティブ」
ウクライナ戦争ではオンライン上のプラットフォームを中心に数多くの偽情報・不確実情報が氾濫した。単なる悪戯と思われるものから、軍事上の陽動作戦や政治的なプロパガンダまでが含まれる。
ロシアによる典型的な偽情報は、全面侵攻前の2月15日の「ロシア軍の一部は軍演習を終えて撤収を開始」や全面侵攻直後の「ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy)大統領は国外に逃亡した」といったものだ。
前者は各国政府、メディア、シンクタンク、OSINT専門家らが衛星画像、グーグル・ストリート・ビュー、ソーシャルメディアに投稿された画像・動画を用いて検証し、ロシア軍はウクライナ国境から撤収するのではなくむしろ国境に結集していると明らかにした。後者はゼレンスキー大統領が自らキーウ市内で「自撮り」した映像をFacebookにアップロードし、「私たちはここにいる」と反証した。
このようにウクライナ戦争に関する偽情報のファクトチェックでは、ソーシャルメディアが果たした役割は大きい。正確にいえば、ソーシャルメディアに加えて、高性能カメラ付きのスマートフォンや動画などをストレスなくアップ・ダウンロード可能な4G回線の普及によって、戦地からの情報発信や受信が可能となった。いわば、プラットフォーム(SNS)、デバイス(スマホ)、ネットワーク(4G回線)の三位一体が可能にした情報戦といえる。
しかし、ロシアは偽情報に限定されない情報戦を展開した。特にプーチン(Vladimir Putin)大統領はウクライナに対する独特の歴史観・政治観を繰り返し発信してきた。例えば、プーチン大統領がしばしば言及する「現代ロシアの源流はキエフ公国」といった言説は確かに「事実」かもしれないが、ウクライナ侵略を正当化する文脈で用いられてきた。
2021年7月に公開されたプーチン大統領の署名入り論文では「ウクライナの真の主権は、ロシアとのパートナーシップの中でのみ可能となると確信する」としている。このような他国の国家主権を軽視する主張は国際関係論・国際法を学べば誤りであることは明白だが、偽情報というよりも偏った価値判断・意見、プロパガンダに近い。
こうした情報戦で語られる物語は「ナラティブ」と呼ばれる。ナラティブとは、人々に強い感情・共感を生み出す、真偽や価値判断が織り交ざる伝播性の高い物語(詳細は後述)である。
偽情報はファクトチェックが可能だが、「ナラティブ」にはそれが難しい。世界各国のファクトチェック機関が述べているように、主観的な意見はファクトチェックの対象ではないからだ。
2.「ナラティブ」とは何か
改めて、「ナラティブ」とは何か。米国メリアム=ウェブスター辞典によれば、簡単にいえば「語られた何か」であり、「特定の視点または価値観を反映または奨励する、状況や一連の出来事を提示または理解する方法」と定義する。
ナラティブは社会学・経済学や国際関係論・安全保障研究などの幅広い学問領域、マーケティング分野などでも注目を集めてきた。
ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー(Robert Shiller)は経済学の文脈でナラティブの重要性を強調する。シラーは、2000年前後のITバブルのような「根拠なき熱狂」を理解するために、行動経済学や人間の心理的要素を考慮したことが高く評価されている。その際の重要な概念が、「口承やニュース媒体、ソーシャルメディアを通じて広がる、感染性の通俗物語」としてのナラティブである。ナラティブが最も感染性を帯びるのは、「人々がその物語の根底にいる、またはその影響を受ける人間との個人的なつながりを感じる時」だという。
早くから「ソーシャルメディアの兵器化」を指摘してきたP・W・シンガー(Peter Warren Singer)らもまた情報戦の文脈で、ナラティブを「個人の世界観と大きな集団におけるありようを説明する基礎的な要素」と位置付ける。シンガーらによれば、ナラティブが強固なものになるかどうかを特徴づけるのは、シンプルさ(simplicity)、共鳴(resonance)、目新しさ(novelty)の3つだという。
「共鳴」は少し分かりにくいが、シンガーらによれば、「共鳴」は瞬時に強い共感を持つような特定の言語や文化を指し、社会学でいう「フレーム」である。共鳴しやすい「ナラティブ」とは、自分自身がナラティブの登場人物に強い共感ないし反感を感じ、自分がナラティブの生成・拡散に参加できるものである。
シンガーもシラーも、効果的なナラティブの要素として、人々が共感を得て、より大きな集団との関係を感じ、自らもそのナラティブに参加できることを強調する。そして共感を得るための物語は事実ではなくてもよいし、根拠なき意見や価値判断でもよいのだ。
こうした観点で、「Qアノン」などの陰謀論も典型的なナラティブだ。「Qのクリアランスを持つ愛国者(Q Clearance Patriot)」を名乗るユーザ(通称:Q)は、説明や解説ではなく、問いかけや(一見意味不明な)単語の羅列を多く投稿した。こうした形式は、ユーザにとって、隠された陰謀の謎解きに参加する感覚を与え、Qアノン拡散の一因になったとされる。
3.「ナラティブ優勢」を確保する
前節までで「ナラティブ」の意味合いを検討したが、本節では情報空間で優位性を獲得すること、特に「ナラティブ優勢」について検討する。
「ナラティブ優勢」と似た用語として、軍事戦略では「海上優勢」「航空優勢」を確保することが重要だといわれる。「航空優勢」「海上優勢」とは、特定の空域や海域で相手方の利用を妨げ、こちらが自由にアクセス・活動できる状態を指す。圧倒的な軍事的非対称性がない限り、「絶対的優勢(supremacy)」というよりも、「相対的・部分的優勢(superiority)」を目指すこととになるだろう。
海空における優勢と同様に、言論空間や世論における「ナラティブ優勢」も重要である。ナラティブ優勢とは、相手方のナラティブを封じ、影響力を弱め、こちらのナラティブをヴァイラル(viral)にすることだ。「ヴァイラル」とは元々、「ウイルス性の」という形容詞だが、現代のインターネットユーザでは、ウイルス感染のように大勢の人に非常に速いスピードで拡散されることを意味する。
自国、交戦相手国、国際社会といった次元でナラティブ優勢を確保することが、自国の士気を高め、相手国の士気を打ち砕き、国際社会の支援を得ることに直結する。
現代の紛争では、ナラティブは物理的パワーに勝る場合がある。『140字の戦争』で有名なジャーナリストのパトリカラコス(David Patrikarakos)は2014年のイスラエルのガザ侵攻、ウクライナ東部ドンバスでの紛争、イラク・シリアでの「イスラム国」の戦いを取材し、物理的戦争と情報戦争の2つの戦争を目撃したという。そして、重要なことは「強力な兵器を有する者よりも、言葉やナラティブによる戦争を制する者が誰か」だとする。国際政治学者のジョセフ・ナイ(Joseph S. Nye, Jr.)もまた「今日のグローバル情報時代においては、勝利はしばしばどの軍隊が勝ったではなく、誰の物語(story)が勝ったかで決まる」という。
他方、ナラティブ優勢のための取組みは、一歩間違えれば、大本営発表や言論統制につながりかねないリスクもはらむ。それゆえ、民主主義国家の目指す認知空間・情報空間での優位性はあくまでも「相対的・部分的優勢」であり、異論を一切排除した「絶対的優勢」ではない(なりえない)。
ウクライナ戦争でのウクライナや米欧の戦い方を観察すると、ナラティブ優勢を確保するためには、基本的に2つの方向性がある。一つは自らのナラティブをよりヴァイラルにすることであり、もう一つは相手方のナラティブの影響力を削ぎ、場合によっては封じ込めることだ。
第一は、ナラティブにナラティブで対抗し、自らのナラティブをよりヴァイラルにすることである。
誤解を恐れずにいえば、ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナ側もナラティブを発信している。ゼレンスキー大統領が日々、ソーシャルメディアにアップロードする動画は全世界の人々が直接視聴可能であるし、各国メディアもこれを報じた。
またゼレンスキー大統領の各国議会向けの演説は各国向けに調整され、相手国・国民の感情を揺さぶる表現が多用された。例えば、日本向けに用いられた「原発事故」「サリン」「復興」は、多くの日本人の記憶にあり、琴線に触れるものだろう。もちろん、侵略された側がこうしたナラティブを用いることは否定されるべきものではない。
だが、議論を呼ぶナラティブもある。ウクライナのキスリツァ(Sergiy Kyslytsya)国連大使は国連緊急特別総会で、亡くなった若いロシア兵が死の直前に母親と交わしたとされる会話を公開した。しかし、一部のメディアはその事実を確認できなかったという。直ちに「黒」(偽情報)とは断定できないが、「グレー」(不確実情報)だ。
ナラティブをヴァイラルに、という点では、台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン(Audrey Tang, 唐鳳)がいう「噂よりもユーモアを(Humor over rumor)」は示唆に富む。台湾政府はCOVID-19対策の一環として「ミーム」を用いて、ある時は偽情報を訂正し、ある時は必要な情報届けた。具体的には、トイレットペーパー不足の偽情報を解消するため、蘇貞昌・行政院長が備蓄の必要性を説くもの、柴犬を使って必要なソーシャルディスタンス距離を示すものなどだ。
必要な情報は、必要な人に伝わらなくては意味がない。しかし、ソーシャルメディア上では偽情報は正確な情報よりも早く、遠くまで拡散する傾向があることが判明している。こうした特性を逆手にとって、ファクトチェック結果や伝えたい情報がヴァイラルになるように設計したのが「噂よりもユーモアを」だ。これはヴァイラル性を重視したという点で、ナラティブの本質に通ずる。
第二に、相手方の個々のナラティブではなく、そもそもの発信源を封じることで、相手方のナラティブの影響力を抑え、封じ込めることである。例えば、ソーシャルメディア上で投稿・拡散される個々のコンテンツではなく、発信者や拡散そのものを封じることである。
既に述べたように、個々のナラティブは必ずしも偽情報が含まれるものでなはく、直ちに有害と判断できない場合もある。その際、ナラティブの内容そのものではなく、ナラティブの発信者・拡散者を封じることが効果的だ。いうまでもなく、この手法は「表現の自由」を侵害しうるもので、自由民主主義国家や開かれた社会にとって「諸刃の剣」である。しかし、実際に採用されたケースもある。
ウクライナ全面侵攻翌週の3月1日、欧州連合は域内の衛星放送、インターネットニュース、アプリケーション、インターネット動画共有サイトなどでロシア政府系メディアの「RT(英語版、英国、ドイツ、フランス、スペイン)」と「スプートニク」のコンテンツ配信などを禁じた。
また、ベラ・ヨウロバー(Vera Jourova)欧州委員会副委員長(価値観・透明性担当)は、ロシアが「情報を兵器にしている」との認識に立ち、Google、Twitter、Meta社などのデジタルプラットフォームに対して厳格な対処を要請した。つまり、各社が利用ルールを厳格に執行し、規約違反となるような不正行為・影響工作を検知・削除することであり、特にロシア政府組織や在外高官のSNSのアカウントの情報工作への対処を促すものだ。例えば、Meta社は情報・コンテンツの真偽や違法性を検知するのみならず、正しい情報であっても「組織的な不正活動(Coordinated Inauthentic Behavior: CIB)」がないかを検知・対処している。
おわりに 「ナラティブ優勢」をめぐる戦いは平時、そして東アジアでも
ウクライナ戦争では、単に偽情報とその検証のみならず、ナラティブをめぐる戦いが確認できた。ナラティブは事実や偽情報、価値判断・意見が混じりあうもので、特定の政治的目標や価値観を反映する。ナラティブが優勢を得る(ヴァイラルになる)のは、ソーシャルメディアを通じて多くの人々に強い感情・共感を生み出し、ナラティブへの参加を促すときである。
ナラティブ優勢をめぐる戦いは、ロシアの専売特許でもないし、戦時にも限定されない。本稿で論じたナラティブと完全に一致するものではないが、中国もまた認知領域における戦いを検討し、「制海権」「制空権」ならぬ「制脳権」という概念を提唱する。これらは人民解放軍が提唱したもので、特に有事における効果を意図したものだ(平時に展開されていない、という意味ではない)。より広範かつ平時・有事を問わない戦略的ナラティブとしては「制度性話語権(institutional discourse power)」という考え方がある。
中国政府関係者・政府系メディア、インターネット上のトロール(いわゆる「荒らし」を行う人々)、そして最近では軍・情報機関に紐づくと思われるグループが日本語でナラティブを生成・展開する。そのテーマはCOVID-19の起源や各国の対応、在日米軍(特に在沖縄米軍)、日台関係に及び、その目的は中国および現指導体制の卓越性を示すこと、日本の安全保障政策に影響を及ぼすことと考えられる。
将来、仮に東アジア有事が発生した場合、陸・海・空・宇宙・サイバー空間はもちろん、人々の認知空間における戦い、−−「ナラティブ優勢」をめぐる戦いが生じ、日本・日本人は当事者となる可能性が高い。その時に備えて、ウクライナ戦争における「ナラティブ優勢」をめぐる戦いから、今、我々が学ぶべきことは少なくない。
●米国、対艦ミサイル支援を推進…西側諸国とロシアの「黒海衝突」の恐れも 5/21
米国が主要な穀物輸出港であるウクライナ黒海沿岸港を封鎖しているロシアに圧力をかけるため、対艦ミサイル「ハープーン」などの提供を検討しているという。黒海をめぐる西側諸国とロシア間の「制海権争い」が本格化すれば、最悪の場合、両者間の直接衝突が発生する可能性もある。
ロイター通信は19日、米政府当局者の話として、ウクライナが黒海に対するロシアの海上封鎖を撃退するのに役立てるよう、先端の対艦ミサイルを提供しようと検討していると報じた。先端対艦ミサイルは、米国がこれまでウクライナに提供した兵器の中で最も破壊力の高い兵器だ。
米国がこのような動きに乗り出した最大の理由は、ウクライナ戦争で本格化した世界的な食糧危機のためだ。世界的な穀倉地帯に挙げられるウクライナは、2020〜21年の輸出時期に4150万トンの小麦とトウモロコシを全世界に供給した。このうち95%がオデーサ港など黒海沿岸港を通じて輸出された。ここを出発した穀物は、トルコのボスポラス海峡、ダーダネルス海峡を通って地中海に出た後、スエズ運河などを経てアフリカやアジアなど全世界に供給される。
だが、戦争以後ロシアがオデーサなどウクライナの黒海沿岸の主要港を封鎖したことで、穀物輸出が事実上止まった状態だ。ウクライナもロシア軍の上陸を防ぐため、主要港周辺に機雷を設置した。
国際社会はロシアに穀物輸出を妨げる港封鎖を解除するよう求めてきた。主要7カ国(G7)外相は14日、ベルリンで会談した後に発表した共同声明で、ロシアに「ウクライナの穀物輸出に使われる港などへの攻撃を直ちに中止するよう」要求した。ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は、2500万トンの穀物がオデーサなどウクライナの黒海港に積まれているとし、これらの穀物はアフリカや中東諸国が切実に必要とする食糧だと指摘した。アントニオ・グテーレス国連事務総長も18日、ニューヨークで開かれた世界食糧安全保障会議で、ウクライナ戦争は「数千万人の人々を食糧不安に追い込んでいる」とし、ロシアにウクライナの穀物輸出を許可するよう求めた。
一方ロシアは、食糧危機は自分たちだけの責任ではないとし、西欧諸国が先に制裁を解除すべきだと主張している。ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官は19日、「ロシア連邦に訴えるだけではなく、現在の食糧危機を引き起こした複雑な全体の理由を深く考えなければならない」とし、「米国と欧州連合(EU)がロシアに加えた制裁が、小麦や肥料などを含む正常かつ自由な貿易を妨害している」と指摘した。主要な穀物輸出港封鎖の解除を求める西側諸国の要求を、事実上拒否したということだ。黒海制海権は、帝国主義時代にクリミア戦争(1853〜1856)などを通じて西欧とロシアがたびたび激突した事案だ。
双方の意見の相違が容易に解決する兆しがみえない中、米国ではロシア軍の海上封鎖を強制的に解除できるよう、ウクライナ軍を武装させるべきだという声が高まっている。ロイター通信は同日、米政府と議会の消息筋5人の話を引用して「米国はボーイングの『ハープーン』ミサイルとノルウェーのコンスベルグ社が開発した対艦巡航ミサイル『ネイバル・ストライク(NSM)』をウクライナに提供する案を積極的に検討している」と報じた。米国は、これらのミサイルをウクライナに直接伝達するか、欧州の同盟国を通じて渡す案を考慮している。米国は「ハープーン」ミサイル発射台を保有していないウクライナのために、自国の戦艦に設置された発射台を撤去して提供する案も検討している。
射程距離が最大300キロメートルに達する「ハープーン」ミサイルは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が4月にポルトガルに提供を要請した兵器だ。議会のある消息筋は、NSMを提供する国に浮上したのはノルウェーだと同通信に明かした。ハープーンとNSMは1発当たり150万ドルに達する。
米国政府は最近、155ミリM777曲射砲をウクライナに提供することを決めた。この曲射砲は艦艇に搭載できる。米国はまた、ウクライナが要求するM270などの多連装ロケット発射(MLRS)システムの提供も考慮している。米議会は19日、ウクライナに対する400億ドルの追加支援案を可決し、近いうちにM270も提供される見通しだ。
米国の兵器支援が行われれば、黒海沿岸で作戦中のロシア海軍は大きな脅威を感じざるを得ない。英国防省は現在、ロシアは潜水艦を含め20隻の艦艇を黒海沿岸に配置していると述べた。
ハドソン研究所のブライアン・クラーク先任研究員は、射程が100キロメートル以上のハープーンミサイルのような対艦ミサイル12〜24発程度があれば、ロシア海軍に脅威を与えるのに十分であり、海岸封鎖を解除するよう強制できると指摘した。ロシアは4月14日、黒海艦隊の旗艦「モスクワ」がウクライナの攻撃で撃沈される被害を受けた。
しかし、黒海制海権は互いに死活的な利害がかかっている問題であるため、ウクライナが西欧の支援を追い風に本格的な圧力をかけ始めた場合、ロシアも積極的に対応せざるを得ない。この過程で西側諸国とロシアが海上で直接衝突する可能性もある。
●ロシア軍、ウクライナ・マリウポリの製鉄所で勝利宣言 5/21
ロシア軍は20日、ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリでウクライナの部隊が立てこもっていたアゾフスタリ製鉄所で、全面勝利を宣言した。最後まで残っていたウクライナ兵士が投降したという。2月末の軍事侵攻開始から間もなく、多くの市民が製鉄所の広大な地下トンネルや地下壕に避難したほか、多くの兵士が立てこもっていた。ロシア軍の徹底的な攻撃により、マリウポリの街は完全に破壊された。
ロシア国防省は、製鉄所に最後まで残っていたウクライナ兵531人が投降したため、マリウポリと製鉄所は「完全に解放」されたと声明を出し、「武装勢力が隠れていた(製鉄所の)地下施設を、ロシア軍が完全制圧した」と述べた。
ロシア当局によると、20日までに製鉄所から投降したウクライナの戦闘員は計2439人に上る。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこれに先立ち同日、「彼らは今晩、施設を出て自分の命を救ってもよいと、軍司令部から明確な合図を受け取った」と、テレビ演説した。
旧ソ連時代に核攻撃にも耐えられるよう造られた広大なアゾフスタリ製鉄所については、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が4月21日に徹底封鎖を命令した。製鉄所内には女性や子供、高齢者など多くの民間人が避難し、立ち往生していた。ロシア軍は人道援助物資が製鉄所内に入るのを阻止し、空爆を続け、立てこもる兵士の投降を要求し続けた。
国連と赤十字国際委員会(ICRC)の支援を受けて民間人の避難が数回に分けて実施され、今月7日にはロシアとウクライナの両政府が、製鉄所から民間人の避難は完了したと発表した。
民間人以外で製鉄所内に立てこもっていた数百人は、海兵隊や国境警備隊、警察、地域防衛部隊、ウクライナ国家警備隊(アゾフ連隊を含む)の兵士たちだった。食料の備蓄が底をつき、水もなくなる中、日の光の届かない地下トンネルなどで数週間、暮らし続けた。
指揮官たちによると、負傷兵は全員がロシア軍のバスや救急車で搬送されたという。
ロシア軍は2月下旬の開戦当初から、マリウポリを徹底的に攻撃し続けた。ロシアにとっては、マリウポリを押さえれば、ウクライナ南岸全体の掌握が容易になる。そうすれば、親ロシアの分離独立派が実効支配するウクライナ東部のドネツクおよびルハンスクと、ロシアが2014年に併合したクリミアが陸続きになる。加えて、ウクライナの西の隣国モルドヴァでロシア系住民が分離を宣言しているトランスニストリア地域にも、接近しやすくなる。
ウクライナ兵の行方は
ロシア当局は、20日に製鉄所で投降したウクライナ兵がどこへ運ばれたか明らかにしていない。しかしこれまでに投降した兵士たちは、ロシア支配地域に送られている。
ロシア国防省が公表した動画では、行列する非武装の男たちが製鉄所の外でロシア兵に近づき、それぞれ名前を告げる様子が映っている。映像では、ロシア兵がウクライナ兵1人1人とその持ち物を慎重に検査している。
ウクライナ当局は、投降した兵士たちの釈放を、捕虜交換によって確保したい意向だが、ロシア側はこれに応じるか確答していない。
プーチン大統領は、投降兵は「該当の国際法に準じて」扱うと述べているものの、ロシアの管轄下にとどまった場合にどのような扱いを受けるのか、懸念が生じている。
ロシアの国会議員たちは17日、アゾフ連隊の兵士を「ナチスの犯罪者」と宣言し、捕虜交換合意に含めないよう求める計画を提示した。加えて、ロシア検事総長事務所は連邦最高裁に、アゾフ連隊を「テロ組織」認定するよう要請している。これも、同連隊の兵士に、通常の戦争捕虜としての扱いを認めないための措置とみられている。
民兵組織として2014年に発足したアゾフ連隊は、現在は国家警備隊の一部だが、かつては極右とのつながりがあった。
●ロシアがアゾフスターリ製鉄所の「完全制圧」宣言 5/21
ロシア国防省は、ウクライナ南東部の都市マリウポリで、ウクライナ軍が立てこもっていたアゾフスターリ製鉄所を完全に制圧したと宣言した。また、ウクライナ東部ルガンスク州のセベロドネツクでは、ロシア軍が学校に砲撃を加え、少なくとも大人3人が死亡したと、同州知事が発表した。
ロシア、マリウポリの製鉄所「完全に解放」
ロシア国防省は20日、ウクライナ軍の立てこもりが続いていたマリウポリのアゾフスターリ製鉄所を完全に制圧したと発表した。通信アプリ「テレグラム」への投稿で、地下施設を含めてロシア軍の支配下に置いたとし、「完全に解放した」と宣言した。製鉄所内に最後まで残っていたウクライナ兵531人が20日に投降した。
ロシア軍が学校に砲撃 3人死亡
ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は20日、ロシア軍が主要都市セベロドネツクの学校を砲撃し、少なくとも大人3人が死亡したと明かした。通信アプリ「テレグラム」への投稿によると、当時、子供を含む200人以上が避難していた。ロシアによる砲撃を受け、別の場所に退避したという。
ドイツ元首相、石油大手企業の役員辞任
ロシアの国営石油大手ロスネフチは20日、監査役会長を務めるドイツのシュレーダー元首相(78)が辞任すると発表した。欧州メディアが一斉に報じた。シュレーダー氏はプーチン露大統領と関係が近い。ロシアによるウクライナ侵攻後も露企業の役員を続けていたが、国内外で批判が高まっていた。報道によると、シュレーダー氏からロスネフチに対し、会長職の任期を延長できないと連絡があったという。シュレーダー氏は2017年からロスネフチの監査役会長を務めていた。
G7「世界経済から孤立させ代償を」
日米欧の主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は20日、ドイツ西部ボン近郊で2日目の協議を行い、経済制裁の強化でロシアを「世界経済から孤立させることによって、戦争に関するロシアの代償を高める」とした共同声明を採択して閉幕した。2022年にウクライナへ198億ドル(約2兆5000億円)の財政支援を行うと明記して連帯姿勢を示すとともに、ロシアへの圧力強化を打ち出した。会議にはウクライナのシュミハリ首相とマルチェンコ財務相もオンラインで参加し、各国に支援を求めた。
ウクライナのスポーツ選手51人死亡
国際オリンピック委員会(IOC)は20日、スイスのローザンヌで総会を開き、ロシアのウクライナ侵攻でウクライナのスポーツ選手51人が死亡したと報告された。陸上男子棒高跳び元世界記録保持者でウクライナ・オリンピック委員会のセルゲイ・ブブカ会長が明らかにした。
●ウクライナ情報機関トップが「クリミア奪還」明言… 5/21
ウクライナ国防省の情報機関「情報総局」トップのキリル・ブダノフ局長が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じ、ロシアが2014年に併合した南部クリミアも含め、「露軍を全ての領土から撤退させるまで戦い続ける」と語った。インタビューは同紙(電子版)が20日に報じた。
ブダノフ氏は、ウクライナが旧ソ連から独立した年を踏まえ、「私は1991年の国境以外は知らない」と訴えた。その上で、「自衛に際して我々に条件を突きつけられると誰かが考えているのであれば、大きな間違いだ」と強調した。
ブダノフ氏は、ウクライナ軍が今後数か月かけて、南部や東部の占領地域を露軍から奪還することに重点を移すと主張した。中長距離のミサイルシステムや戦闘機を挙げ、「こういった兵器がなければ、大規模な反撃に出ることは非常に困難だ」とも指摘し、米欧に軍事支援の強化を求めた。
ただ、併合されたクリミアも含めてウクライナが全ての領土の奪還を目標に掲げて戦い続けた場合、戦争の長期化は必至で、米国内では慎重論も出ている。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は19日の社説で、こうした目標に関して「現実的ではない」と断じた。「米欧は出費もかさむ長期の戦争に引きずり込まれる恐れがある」とし、「バイデン大統領はウクライナ側に対し、米国としてロシアと全面衝突はできないことや、兵器や資金の提供にも限界があることを伝えるべきだ」と主張した。
●ウクライナから日本へ避難の人1000人に 長期化への対応が課題  5/21
ロシアによる軍事侵攻を受けてウクライナから日本に避難した人たちが、1000人に達したことが、出入国在留管理庁への取材で分かりました。
避難生活が長期化する中、ことばや就労などへの不安にどのように対応し、必要な支援を行うかが課題となっています。
政府はウクライナからの避難民を積極的に受け入れる方針で、日本に入国した人たちは、きょうポーランドから成田空港に到着した便に搭乗していた人たちを含め、少なくとも1000人に達したことが出入国在留管理庁への取材でわかりました。
内訳は、4月5日に政府専用機で避難してきた人が20人、政府が座席を借り上げた民間の航空機で避難してきた人が合わせて81人、そのほかの手段で避難してきた人が少なくとも899人に上るということです。このうち、少なくとも12人はすでに日本から出国しているということです。
政府は避難してきた人たちに90日間の短期滞在を認める在留資格を付与していて、本人が希望すれば就労が可能で1年間滞在できる「特定活動」の在留資格に変更することができます。
5月18日の時点で694人が在留資格を変更しているということです。
避難生活が長期化する中、ことばの壁や就労などへの不安にどのように対応し、必要な支援を行うかが課題となっています。
●米、5兆円追加支援法成立 大統領署名、ウクライナに 5/21
バイデン米大統領は21日、ロシアによるウクライナ侵攻を巡る軍事や経済、人道支援のための総額約400億ドル(約5兆1千億円)の追加予算措置を取る法案に署名し、同法が成立した。ウクライナへの新たな武器供与などに充てる。
AP通信によると、軍事支援には200億ドルを使う。ウクライナ政府への経済支援には約80億ドル、世界で深刻化する食料不足への対応には約50億ドルを充てる。難民支援の10億ドルも盛り込んだ。
同法は米議会が19日までに可決した。野党共和党からは支出が巨額に上るため、財政への影響を懸念する声が出ていた。
●ウクライナ侵攻に厳しい目 楽観論戒め、プロパガンダ批判も―ロシア 5/21
ウクライナ侵攻開始から24日で3カ月を迎えるロシア国内で、軍事作戦への厳しい見方が出ている。プーチン政権は当初、報道管制を敷きつつ首都キーウ(キエフ)の電撃制圧をもくろんでいたもようだが、作戦が長期化の様相を呈する中、世論対策も仕切り直しを余儀なくされている。
「情報の鎮静剤を飲んでいてはいけない」「われわれを取り巻く状況は異常だ」。16日のロシア国営テレビの番組で、軍事評論家のミハイル・ホダリョノク退役大佐は、世界から孤立する自国の現状を指摘した。
ロシア軍の苦戦を伝えず、国防省の「大本営発表」に終始する国営メディアを暗に批判。軍事のプロとして、楽観論に異を唱えたとみられる。ロシア軍の死者数をめぐっては「約1万5000人」(英政府)との推計もある中、ロシア国防省は3月下旬の「1351人」を最後に更新していない。
ホダリョノク氏は「ウクライナ軍は100万人を武装させる可能性がある」とも警告。「最新兵器を供給できるかが問題だが、米国の武器貸与法や欧州の軍事支援がフル稼働すれば現実となるし、近い将来にそうなる可能性もある」と述べ、ウクライナ軍への過小評価を戒めた。
独立系世論調査機関レバダ・センターが4月に実施した調査によると、ウクライナでの軍事作戦を「支持する」と回答したのは74%。依然として高い水準だが、3月の前回調査時の81%からは下がった。
旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日の今月9日、プーチン大統領は演説で「戦果」を強調するのではなく、戦死者の遺族や戦傷者のケアに重点を置いた。公式見解を現実に少しずつ合わせる動きとみられる。
報道にも異変が起きている。9日に大手インターネットメディアで、見出しが「プーチン氏は哀れな独裁者」などと批判的な内容に改ざんされる「事件」が発生。直ちに削除されたが、内部の人間の仕業と判明した。政府系テレビではスタッフの離反が続いており、政権の宣伝戦にもほころびが生じているようだ。
●ロシア世論、侵攻反対でもプーチン氏に変心なし 米諜報分析 5/21
ウクライナ侵攻でロシアの国内世論に反対意見が広がる劇的な形での変化があったとしても、プーチン大統領が戦争終結に変心する効果をもたらさないだろうと米情報機関当局が分析していることが21日までにわかった。
最新の諜報(ちょうほう)に通じる多数の関係筋が明らかにした。ウクライナ侵攻はロシア軍にとって大きな惨事に等しい課題をさらけ出したとの見方もあるが、米情報機関当局者はプーチン氏が権力の座から追われる事態は少なくとも短期的にはないとも予測した。
過去20年以上続く統治の中で、プーチン氏が強固にしてきた権力基盤に根差した見方となっている。同氏は世論のわずかな変化にも非常に敏感とされているが、反発などを封じ込め、メディアの弾圧にもたけているため、国民の大きな蜂起につながりもする怒りが自らに差し向けられない仕掛けとなっている。
結果的に、プーチン氏はウクライナ侵攻を自らが望む条件で自由に進められる立場ともなっている。
米国や西側の諜報に詳しい関係者3人によると、プーチン氏は侵攻作戦の日ごとの統制にも深く関与。CNNの取材に、大半の西側諸国の軍では下位の将校が担うべき決定事項にも直接介入しているとした。
また、時には攻撃の陣形の位置や日々の作戦遂行上の目標など細かい問題でも決定を下しているという。
北大西洋条約機構(NATO)の高官は、プーチン氏は政府内の専門家あるいは閣僚の力に大きく頼っているとは見えず、「ロシアの国内世論の動向が彼の判断を大幅に左右すると想像することは難しい」とも指摘した。
それだけに、ロシア国内で侵攻への不支持を強める狙いもある西側諸国による経済制裁の効果に疑問も生じる。制裁ではプーチン政権に近いとされる新興財閥(オリガルヒ)などが対象となり、世界各地で財産没収もしている。少なくとも現時点では、プーチン氏は西側諸国などの制裁策がロシアの経済のほかの領域へ直接的な波及効果を及ぼす事態への回避に成功しているともされる。
制裁策の影響を受けているエリート層では不満の声も一部聞かれる。ただ、プーチン氏に方針転換を促し、同氏から権力を奪うほどの大きな異議の申し立てのうねりとはなっていない。
米諜報に詳しい関係筋などによると、ロシア軍はウクライナで多大な損失を被ったが、国内の侵攻支持の世論は高止まりの水準にある。メディアの活動規制が厳しい状況もあり、大半のロシア国民が侵攻作戦の現実を十分に把握出来ていない背景要因もある。
プーチン氏は侵攻作戦に伴う自由な言論活動を抑え込む法律も成立させており、独立系の数少ないメディア機関も実質的には封殺されている。
●ロシアへのサイバー攻撃が急増、外国製品減らし対抗=プーチン氏 5/21
ロシアのプーチン大統領は20日、外国「国家機構」によるロシアへのサイバー攻撃が数倍に膨らんだとし、外国製のソフトウエアやハードウエアの使用を減らすことでサイバーセキュリティーを強化する必要があると表明した。
ロシアのウクライナ侵攻以来、多くの国有企業やニュースサイトが時折ハッキングに見舞われ、ウクライナでの戦争に関するロシアの公式路線と対立する情報を発することが少なくない。
プーチン氏は「ロシアの重要な情報インフラのインターネット資源を無効にする標的型攻撃がなされている」とし、メディアや金融機関が標的になっていると訴えた。「政府機関の公式サイトに対する深刻な攻撃が行われている。ロシアの主要企業のネットワークに不正に侵入しようとする試みもはるかに多くなっている」と指摘した。
プーチン氏は安全保障会議で、ロシアは主要部門の情報セキュリティーを向上させ、国産の技術や機器に切り替える必要があると言及した。
プーチン氏は「外国のITやソフトウエア、製品に対する制限は、ロシアに対する制裁圧力のツールの一つになっている」とし、「西側諸国のサプライヤーの多くはロシアでの機器の技術サポートを一方的に停止してきた」と説明。プログラム更新後にブロックされるケースが増えていると指摘した。
●泥沼化のウクライナ侵攻 ますます追い詰められるプーチン大統領 5/21
ロシアによるウクライナ侵攻から3カ月となる中、ここに来てロシアの劣勢があちらこちらで聞かれる。侵攻当初、多くの人はロシア優勢、ウクライナ劣勢を考え、首都キーウは数日以内にでもロシア軍によって掌握されるとの見方が強かった。しかし、昨年夏のタリバンの急速な首都奪還を多くの人が予想していなかったように、その見方が間違っていることが徐々に鮮明になっていった。
侵攻当初、プーチン大統領もその勢いでウクライナ東部だけでなく首都キーウを支配し、ゼレンスキー政権の崩壊と傀儡政権の樹立を思い描いていたはずだ。しかし、欧米各国からの莫大な軍事支援、数万人ともいわれる外国人義勇兵の存在もあり、ウクライナ軍はロシア軍に粘り強く抵抗し、首都掌握というプーチン大統領の目標は困難となり、ロシア軍は東部地域での一進一退の状況を余儀なくされるようになった。
ロシア軍の劣勢は軍の内部にも
そして、ロシア軍の劣勢は内部からも見られるようになっている。最近では、ロシア軍の上層部から末端兵士への指揮命令系統にヒビが生じ、上層部の指示が末端兵士に伝わらず、兵士の反発や士気低下も深刻になっている。兵士の中には戦場の最前線の劣悪な環境に堪忍袋の緒が切れ、地元の人々に水や食糧を求める者の姿がメディアでも報道された。
こういった思ったようにいかない戦況に、プーチン大統領は苛立ちと焦りを感じている。最近では、プーチン大統領と側近たちとの間に確執が生じ始め、ウクライナでの戦況情報がプーチン大統領に正確に伝わらない場合もあるという。一部メディアでは、ロシア国内でプーチン大統領へのクーデター計画が報道されるなど、ウクライナ侵攻が長期化すればするほどプーチン大統領自身の安全が脅かされる可能性も聞かれる。
一方、ロシアの劣勢は近隣諸国の対応からも現れている。たとえば、フィンランドとスウェーデンは大国ロシア(ソ連)の近隣国という自らの立場を考慮し、軍事的中立を長年堅持し、NATO北大西洋条約機構にも加盟してこなかった。しかし、ロシアがウクライナに侵攻したことで状況は一変し、フィンランドとスウェーデンでNATOへの加盟を求める市民の声は急速に高まっている。両国は5月15日、NATOへの加盟申請を正式に発表した。また、英国のジョンソン首相は5月11日、スウェーデンとフィンランドと新たな安全保障協定を結んだ。この安全保障協定は、どちらかの国が攻撃を受けた際にもう一方の国が軍事支援を行うというもので、対ロシアを意識した内容になっている。軍事技術や軍事情報の共有も強化される予定となっている。
ロシア国内からクーデターが起こる可能性も
これもプーチン大統領にとっては大きな誤算と言える。プーチン大統領は長年NATOの東方拡大に強い不信感と警戒心を抱き、今回のウクライナ侵攻もNATOに加盟しない近隣諸国をけん制する政治的思惑もあったはずだ。しかし、結果は全くの裏目に出て、けん制するどころかむしろさらなる東方拡大に繋がっている状況だ。
こういった多方面からの劣勢に、プーチン大統領がどう対応するかが懸念される。プーチン大統領は核使用の可能性もちらつかせており、劣勢になれば核など国際的非難を浴びやすい非人道的な手段に打って出るリスクは高まるだろう。これが今日最も懸念されるところだ。しかし、仮にそういった非人道的手段に出た場合、これまでのように中国やインドなどロシアの友好国もロシア非難を避けづらくなるだろう。
今後の動向はずばりプーチン大統領がどのような行動を取るかにかかっているが、現在の状況の長期化はますますロシア、プーチン大統領の立場を危うくしている。確率的に高くはないが、ロシア国内からのクーデターというシナリオも決して非現実的ではないのかも知れない。
●「隠し子は4人いた!?」プーチンの“最高機密”がダダ漏れ状態に 5/21
地上戦力の3分の1を失い、本人は血液ガンで国内ではクーデター計画が進行中とされ、ロシアの他ベラルーシやアルメニアといった旧ロシア連邦構成国で構成される軍事同盟の「集団安全保障条約機構(CSTO)」の首脳会議を開催したものの、利害の相違ばかりが浮き彫りになる結果となって、まるで弱り目に祟り目といった様子のプーチン大統領。
かつて同じ共産圏だった中国では「水に落ちた犬は打て」という魯迅が言った諺があるが、まさにこの諺のごとく世のプーチン叩きの勢いは増しつつある。
プーチンがひた隠しにするプライベートもどんどん暴かれつつある。ロシアとプーチン周辺に対する制裁で彼の2人の娘が対象に加えられた4月段階では、“恋人”とされる04年アテネオリンピック金メダリストの元新体操選手アリーナ・カバエワに関しては、プーチンの予想外の反応を危惧してアメリカでさえ制裁対象にすることに躊躇していたが、それも解禁。イギリスは13日にプーチンの元妻のリュドミラ・プーチナとカバエワについても制裁の輪を広げ、さらにはEU諸国もこれに追随する見込みだ。
さらには、普通なら一番触れられたくないであろう“隠し子”の存在についても白日の下に晒されつつある。
「イギリスがカバエワを経済制裁の対象に加えると発表したのと同じ5月13日、米紙ニューヨーク・タイムズは、プーチンには2人の娘以外に4人の隠し子がいる可能性が高いと報じました。その存在については過去に断続的に報じられていましたが、クレムリンが公式に認めているのはリュドミラとの間の2人娘だけなので、その存在はタブーとなっています」(全国紙記者)
カバエワとプーチンの関係が云々された始めたのは、08年にスキャンダルが報じられてから。ゆえに公然の秘密扱いとなっていたのだが、今回の報道によると2人の間には少なくとも3人の子供がいるという。
「1人については、15年にカバエワが居住するスイスのメディアにより同国内で出産を終えたことが報じられました。さらに、のちに削除されましたが、19年にロシアのメディアが双子が産まれたとしています」(同)
そして残る1人が、掃除婦だったスベトラーナ・クリヴォノギフさんとの間に産まれたとされる、現在19歳のルイザ・クリヴォノギフさんだ。
実は彼女、ブランドもので着飾ったセルブ生活を披露して8万人以上のフォロワーがいるインスタグラマーで、ちょっとした有名人だった。ところが今年2月にロシアがウクライナに侵攻すると、「悪魔の娘」「戦争犯罪者」など悪質な書き込みが相次いだため、アカウントを閉鎖。それでもネットでは彼女の顔写真や動画が広まっていて、あの冷徹そうな目つきなどはかなりソックリだ。
母のスベトラーナさんについては、21年10月から国際調査ジャーナリスト連合が、世界的な政治指導者や富豪がタックスヘイブンを通じて租税回避を図っている実情を示す「パンドラ文書」に、モナコの邸宅を含む135億円ほどの資産を保有していると記されている。金はあるところにはあるものだが、20年にルイザさんを隠し子の存在として報じたロシアの独立系メディアは、昨年7月にロシア検察庁から「望ましくない組織」として活動停止に追い込まれたとか。 
●イタリア首相が暴露 「EU諸国の多くはプーチン提案に従い天然ガス輸入継続」 5/21
欧州委員会は5月16日、「加盟国がロシア産の天然ガスを購入し続けることは、ドルやユーロで支払いが行われている限り、ロシアに対する制裁措置に反しない」との対露制裁ガイダンスの変更を発表した。
欧州連合(EU)はロシアへの制裁として、今年の夏からのロシア産の石炭の禁輸を決めたほか、石油も禁輸する方針を表明していた。だが、約40%を依存している「天然ガス」については明言を避け、慎重な姿勢をみせてきた。
化石燃料の脱ロシア依存を説くなど、EUは対露制裁を強める意向を示しているが、石油の禁輸方針を表明した5月4日の翌週には、イタリアの首相マリオ・ドラギが、EU諸国の多くはロシア(プーチン)が提案した「ルーブル口座を開設するやり方で、ロシアの天然ガスの輸入を続けている」と、アメリカで開かれた会見で発言し、物議を醸した。
ロシアは当初、EU諸国に対してルーブル建てでのガス代金支払いを要求していたが、これにG7のエネルギー大臣らが強く反対したため、譲歩案を提案していた。具体的には、ロシア国営の天然ガス大手「ガスプロム」の子会社である「ガスプロムバンク」にルーブル口座を開設するというやり方である。
ガスプロムに近い匿名の人物が米メディア「ブルームバーグ」に語ったところによれば、ガスプロムバンクにルーブル口座を開設した欧州の輸入業者は全20社に及んでいたという。
その数は「4月から倍増」。他の欧州ガス輸入業者も続々とルーブル口座の開設手続きを始めていると報じられた。
この匿名の人物の証言によれば、欧州のガス輸入業社がガスプロムバンクにドルやユーロなどの外貨を支払うと、自動的にルーブルへの変換が行われる仕組みになっている。よって、(制裁の対象となる)ロシア中央銀行の関与なしに取引できるのだという。
要するに、このガスプロムバンクを経由する方法であれば、「EUの対露制裁措置には違反しない」わけだ。
今回の欧州委員会の天然ガスに関する発表では、「ガスプロムバンクに口座を開設することに制限はない」とも述べられており、実質、欧州のガスプロムバンク経由でのロシア産天然ガスの購入継続を公式に認めたこととなる。別の見方をすれば、すでに“秘密裏”で行われていた取引を、公式にしたとも受け取れなくはない。
発表後、イタリアのエネルギー大手である「エニ」や、ドイツのエネルギー大手「ユニパー」は早速、ガスプロムバンクに口座を開設する意向を示していると同メディアは報じている。
イタリアもドイツも、EUの中でも特にロシア産の天然ガスを消費している国である。今後、同じ手口を利用してロシアから天然ガスを輸入する業者は増えると予想されている。
この欧州委員会の天然ガスに関する発表に対しては、今後もEU諸国がロシア産のガス輸入を維持できる仕組みを確保するものだとの見方も強い。なかには、「EU諸国の対露スタンスを緩めるものだ」、「EUは本気でロシアを制裁する気がない」との指摘もある。
そんななか、EUは化石燃料の脱ロシア依存を2027年に達成する計画案を18日に発表。欧州委員長は「なるべく早い脱依存が必要」だと強調し、実行可能だと語った。 

 

●外交のみが戦争終結の道=ウクライナ大統領 5/22
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は21日、ロシアとの戦争で、勝利は戦場で獲得するものの、最終的な終戦は外交を通じてしか実現できないと述べた。
ゼレンスキー氏は国内メディアによるテレビ・インタビューで、「勝利は困難なものになる。血を多く流し、戦場で勝ち取るが、戦争の終結は外交を通じて獲得するものだと、私は確信している」と述べた。
「交渉のテーブルに着かなくては、終わらせることができない事柄がある。我々は全てを取り返したいが、ロシアは何も返したがらないからだ」とも大統領は話した。
ウクライナ政府の和平交渉団を率いるミハイロ・ポドリャク大統領顧問は17日、協議は中断したままだと述べた。
ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は18日、ロシアとウクライナの和平交渉は進んでおらず、製鉄所のウクライナ軍が「降伏」した後も交渉を再開しない可能性がかなり高いと述べた。
同国のインタファクス通信によると、ペスコフ氏は「交渉は全く進んでいない。ウクライナの交渉担当側に、このプロセスを継続する意欲が完全に欠けているようだ」と述べた。
ロシア報道によると、和平協議が最後に行われたのは4月22日だという。
他方、ロシア軍はウクライナ東部ルハンスク地方の完全制圧を目指しており、セヴェロドネツク周辺で激戦が続いている。
ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ知事は、ロシア軍がセヴェロドネツクを「破壊」しながら徐々に包囲しつつあると、通信アプリ「テレグラム」に書いた。
ハイダイ州知事によると、ウクライナ軍は前線で11回にわたりロシア軍を押し戻し、戦車8台を含む多数の車両を破壊したという。この内容の客観的な検証はできていない。
南東部の港湾都市マリウポリをめぐる戦闘が終結したため、ロシア軍は部隊を東部制圧作戦に移動させることが可能になった。
BBCのジェイムズ・ウォーターハウス記者は、ロシア軍がルハンスクで砲撃や空爆、ミサイル攻撃を増やしており、ウクライナ軍が後退を余儀なくされる中で、徐々に前進していると伝えている。
米ホワイトハウスは21日、ウクライナに約400億ドル分の援助を提供する支援法案に、ジョー・バイデン大統領が署名し成立させたと発表した。連邦議会の上院は19日に、同法案を可決していた。
ロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まって以来、アメリカが提供する最大規模の支援になる。今後約5カ月の間に、60億ドル分の装甲車や防空システムのほか、経済援助や人道援助を提供する。
ゼレンスキー大統領は謝意をツイートし、「ウクライナが侵略者ロシアと戦うにあたり、アメリカの指導力、そしてバイデン大統領とアメリカの人たちの支援は不可欠だ。新しく強力な防衛支援に期待している。これまでに増して、今それが必要だ」と書いた。
21日には、ロシアへの入国が無期限に禁止されたアメリカ市民900人に、バイデン大統領も含まれていることが明らかになった。
ロシアの入国禁止リストには、アントニー・ブリンケン国務長官、ウィリアム・バーンズ中央情報局(CIA)長官、連邦議会の議員数百人も含まれている。
●ロシア・ウクライナ戦争で覚悟すべきリスクとは何か  5/22
ロシアがウクライナに全面侵略を始めてから、約3か月が経とうとしています。ロシアの当初の目論見は、短期間でウクライナの首都キーウを制圧して、同国を勢力圏内に収めることだったようですが、それは果たされませんでした。
そこで、クレムリンは戦争目的をウクライナ東部のドンバス地方を支配することに下げたようです。そのウクライナ東部では、西側の強力な軍事支援を受けているウクライナ軍とロシア軍が一進一退の攻防を繰り広げています。戦争は長期的な消耗戦争の様相を呈してきました。
ロシア・ウクライナ戦争の刻一刻と変化する展開に目をとらわれてしまうと、われわれは戦争の重要な特徴を見過ごしてしまうかもしれません。その看過されがちな1つの側面は、この戦争が当事国によるリスクを覚悟する競争だということです。こうした暴力を用いたバーゲニングをトーマス・シェリング氏は「リスク受容の競争」と呼びました。
戦争の当事国は、暴力のエスカレーションの危険を冒しながら、より冒険的な行動をとっていきます。戦争に従事する国家は、行使する暴力のレベルを上げていくことで、相手が怯み、自らに有利な条件をのんだり、戦争目的を縮小したり、屈服したりすることに期待します。こうした期待は、戦闘にたずさわる双方が抱きますので、戦争は自動的にエスカレートする傾向にあります。
戦争のエスカレーションのメカニズム
武力行使のエスカレーションは、国家が戦争に賭けたものが大きくなれば、それだけ後には引けなくなるので、どんどん進行していきます。これにはギャンブルにはまる人間行動と同じメカニズムが働いています。
人はギャンブルに負けると、その負債を回収しようとして、負ける確率が高いことが分かっていても、わずかに残る勝ちへ過剰な期待を寄せて、無謀な賭けをしばしば続けてしまいます。その結果、ギャンブルを始めた当初は予想もしなかった途方もない身の破滅へと導かれるのです。
同じことは、戦争にもあてはまります。戦争のエスカレーションについて先駆的な研究成果を残したリチャード・スモーク氏は、これについて次のように説明しています。
「掛け金が吊り上がると、総どりでの勝ちを望むようになる(そして、すべてを失う負けも恐れるようになる)…例えば、何百万人もの若者が死んだり不具になったりした後では、そして恐ろしいほどの経済的負担が支払われた後では、第一次世界大戦が始まった時に掲げていた穏当な目標で問題を解決することが、どの戦争当事国もできなくなってしまった…賭けるものが大きくなると、国家はコストを払うのを厭わなくなり、より高いリスクを進んで冒すようになる…一方の側の行動は他方の側の反応を呼び込む…作用・反作用の効果は最初には全く想像できなかった新しい状況を作り続けて、大抵は、より高い掛け金を危険にさらしてしまうのだ。」
残念ながら、ロシアもウクライナも西側も、こうしたエスカレーションのダイナミズムに入り込んでいます。
第1に、ロシアはウクライナ側の条件を受け入れて妥協するより、何としても敗北を避けようとしているようです。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、ウクライナが態度を硬化させ、米英、EUが自らの戦略的優位のためにウクライナを利用する目的で支援していると非難しています。そしてウクライナが国内の現状ではなく西側の言い分に対話をシフトすれば、協議の前進はあり得ず、和平合意は実現しないと主張しています。
元大統領のドミートリー・メドベージェフ安全保障会議副議長も「わが国が攻撃された場合には即刻、超強大な報復が可能だ」と述べ、ウクライナ侵攻で対立を深める欧米などに対して、核兵器の使用へのエスカレーションをにおわせながら、強くけん制しています。ロシアが「賭け」から降りる気配は、今のところありません。
第2に、ウクライナは領土内に侵攻してきたロシア軍を押し返すに従い、戦争目的を拡大しています。今やウクライナは、ロシアに対する全面的勝利を超えるものを望むようになってきました。
ウクライナのドミトロ・クレーバ外相は、最近になって「勝利とは、クリミアとドンバスを含む被占領地の解放、賠償金の支払い、戦争犯罪者と人道への罪犯罪者の断罪、欧州統合におけるウクライナの場所の確定だ。これらが、私にとって勝利を構成する不可分の4つの要素である」と発言しました。これはウクライナ側が、戦争目的を戦前への原状復帰から大幅に高く動かしたことを意味します。
これまでゼレンスキー大統領は、2月24日に「ロシア・ウクライナ両勢力が支配していた地域の線まで」の回復を目標に掲げていました。しかし、今やキーウは2014年のロシアの侵攻で奪われたクリミア半島の回収のみならず、ロシアに賠償金を支払わせるなど、第一次世界大戦や第二次世界大戦で戦勝国が敗戦国に受け入れさせたような厳しい要求をロシアに突き付けています。また、戦争の行方についても、ウクライナ側はやや自信過剰気味になっています。
ドミニク・ブダーノウ国防省情報総局局長は「転換点は8月後半に訪れる。大半の活発な戦闘行為は年内に終わる。結果、私たちは、私たちはこれまでに失った行政国境に到達し、クリミアとドンバスを含む、全ての私たちの領土にウクライナ政権を完全に回復する」と勝利への自信を深めています。ウクライナは、ここへきて「賭け金の総どり」を目指すようになったのです。
このようにロシアのウクライナ侵略に端を発した軍事衝突は、戦争の典型的なエスカレーションのパターンを示しています。
ロシアは戦況が悪化すれば、敗北することを恐れるでしょう。そして、モスクワは敗北を避けようとして、ますます冒険的で危険な行動をとるようになる恐れがあります。その最悪の1つの選択が、ロシアによる戦術核兵器や化学兵器といった大量破壊兵器の段階的な使用です。他方、ウクライナはロシア軍を撃退すれば、勝利への期待を大きくします。そして、より多くの利得を得ようとして、戦争目的を拡大させるとともに、より大胆な行動をとるようになるでしょう。
こうしたロシアとウクライナの相互作用は、戦争をますますエスカレートするばかりのように見えます。戦争はエスカレートするにしたがい、長引くことになります。「勝利」をめざして攻勢をかけるウクライナ軍と「敗北」を絶対に避けようと守勢にまわるロシア軍は、激しい消耗戦に突入しそうです。
ロシアへの軍事的圧力がもたらす矛盾
こうした泥沼の戦いは、両軍の兵士ばかりでなく、一般市民を巻き込んだ悲劇的な死闘になるでしょう。ロシアがウクライナへの軍事支援の補給路を断つために、東欧のNATO諸国に攻撃を加えれば、一気に西側との大戦争にエスカレートする恐れがあります。そうなると西側諸国が避けたかった「第三次世界大戦」が、意図せざる結果として現実のものになるかもしれません。
あるいは、ロシアはウクライナを恐怖に陥れることで戦闘意欲を削ぐことに期待して、戦術核兵器の使用に踏み切るかもしれません。ロシア政府は、ウクライナの「特別軍事作戦」では核兵器を使用しないと公式に宣言していますが、戦況が変われば、これを「宣戦布告」に切り替えて、自国の生存が脅かされているとの理由から限定的な戦術核兵器による攻撃に打って出るかもしれません。
ウクライナの勝利を目指すロシアへの軍事的圧力は、避けるべき核戦争を招く、自己敗北的予言になりかねないのです。
保守派のテッド・カーペンター氏(ケート研究所)は「ウクライナをNATOの軍事的手先にしないことが、ロシアの指導者にとって死活中の最大の死活的利益だ。モスクワがウクライナ戦争で敗北の苦境に近づけば、クレムリンは必要なことは何でも、必要なリスクは何でも、そのような結果を防ぐために行うだろう…ウクライナの『勝利』の達成すなわちロシアに屈辱を与えることを擁護する者は、善悪を決める世界終末戦争へと選択を狭めている」と警鐘を鳴らしています。
この大惨事の可能性は、フィンランドとスウェーデンの加盟によるNATOの一層の拡大が実現すれば、さらに高まることになるでしょう。この問題について、ロシアはあの手この手で西側諸国にゆさぶりをかけています。
プーチン大統領は「何の問題もない」と静観する姿勢を示す一方で、ロシア外務省は5月12日、ニーニスト大統領のNATO加盟表明を受けてフィンランドがNATOに加盟すれば、「(ロシアとの)両国関係や、北欧の安定と安全の維持に深刻な打撃を与える…安全保障に対する脅威を排除するため、軍事技術やその他の手段で対抗措置を取らざるを得なくなる」と威嚇しています。
核戦争へのエスカレーションを避けるために
このようにロシア・ウクライナ戦争における当事国間のリスク受容の競争は、エスカレートするばかりです。ところが、この危険なチキン・レースには誰もが避けたいことがあります。それは核戦争へのエスカレーションを避けるということです。
これはロシアとウクライナ、そして西側諸国の共通の利益です。しかしながら、利益は戦争で争っている国家間で自動的に調和しません。放置しておけば、戦争は自動的にエスカレートしてしまいます。残念ながら、「全てといわずとも、大半の戦争状況であっても、そこに機械的に適用されるエスカレーションのコントロールのための単純なルールは存在しない」のです(リチャード・スモーク氏)。
この難問に国際政治学の知見が何らかのヒントを与えてくれるのであれば、リスク受容競争の帰結は当事国の利益や決意に左右されるということです。リアリストのスティーヴン・ヴァン・エヴェラ氏(マサチューセッツ工科大学)は、核戦争のリスクを孕む安全保障競争では、国家の生き残りといった死活的な利益がかかる側が、強い決意(覚悟)で対決に臨むだろうから優位に立つと以下のように主張しています。
「ウクライナ情勢において、ロシアは敵国より賭けるものが大きく、より強い決意で臨めると信じる一方で、アメリカとNATOが節度を守る場合に(核戦争のリスクは)発生する。ロシアはリスク受容の争いで勝つことができると信じるだろう。ロシアは強い決意すなわち大戦争へと相互エスカレーションの危険度を上げれば、相手側は最終的に引き下がるだろうと期待してエスカレーションの危険を冒すだろう…プーチン大統領がウクライナの西側との連携はロシアの死活的な国家安全保障上の利益を脅かすと信じているのは明らかだ。したがって、彼はアメリカやNATOより、大きな賭けをしていると感じるだろう。だから、彼は決意で優ると信じることができるのだ。彼は核兵器をゲームに持ち込めば、決意で劣る西側は引き下がるだろうから、この対決で勝てると考えるだろう。だからこそ、彼はエスカレートの方法を探し求められるのだ。」
要するに、核戦争のリスクをどれだけ覚悟できるかが、ロシア・ウクライナ戦争のエスカレーションのカギを握っているのです。
もしリスク受容のバーゲニングがロシア・ウクライナ戦争の本質なのであれば、そして、それに賭ける当事国の利害と決意が争点なのであれば、ロシアを屈服させるには、ウクライナを包括的に支援する西側が、核戦争のより大きなリスクをとり、より強い覚悟を固めなければなりません。
もちろん、戦争の行方は、大戦争や核兵器の使用へのエスカレーションだけで決まるわけではありません。ロシアの意思決定の中核にいるプーチンが健康上の理由により退陣したり、命を落としたりすれば、戦争は予想もしなかった展開になるでしょう。
しかしながら、戦争に関与している指導者の陣容が保たれる条件下においては、リスクと利益という要因が当事国の行動をかなり制約します。核戦争のリスクを賭けたバーゲニングでは、どちらかがエスカレーションを抑制しなければ、破滅的な結末を招くことになります。ここに政治的英知が求められる理由があります。
ロシア侵略へは現実主義で対処すべきだ
政治的リアリストは、国家の対外政策における「中庸」の重要性を主張してきました。古典的リアリストのハンス・モーゲンソー氏は、このことについて次のように説いています。
「軍隊は対外政策の道具であり、主人ではない…対外政策の目的は…相手の死活的利益を害することなく、自己の死活的利益を守るために、必要な限り相手の意思を変化させることだ、挫くのではない…外交の主要目的は絶対敗北と絶対勝利を避けることだ。」
リアリストの英知が戦争の破滅的結末を避けるために役に立つのであれば、関係各国はウクライナの絶対勝利とロシアの絶対敗北を避ける国政術を追求すべきということです。
これについてジャニス・グロス・スタイン氏(トロント大学)の次の指摘は、傾聴に値するのではないでしょうか。
「最初に断固とした決意を示し…NATOがそのコミットメントを確立した後に、プーチンがエスカレーションを止まり交渉する誘因を作る、何らかの見返りを提供することに軸足を移すのだ…エスカレーションを制御する試みは宥和ではない。」
こうした主張は、「親ロシア派」のレッテルを貼られて、ウクライナに寄り添わない「冷笑主義者」とか自由民主主義勢力の「裏切り者」と罵られるのは避けられません。しかしながら、正義と惨劇のジレンマに対するリアリズムの処方箋は、プーチンのウクライナでの野放しの悪事を処罰したい気持ちと、この戦争がより長引くことで失われるだろう命や軍事的エスカレーションのリスクを注意深く比較考慮することを求めています。
戦争の終末的大惨事を避ける道とは
暴力を介したバーゲニングにおける慎慮が導く答えは、外交問題評議会会長のリチャード・ハース氏の提言に集約されると思います。すなわち、
「ホワイトハウスはオースチン国防長官のロシアを弱めるアメリカの目的から引き返すべきだ。目的はウクライナがロシアの侵略に抵抗するのを助けることだ。ロシアはプーチンの愚行でより弱くなるが、アメリカは西側を分断せず、ロシアのエスカレーションの確率を上げない、手段と目的を限定した戦争を追求すべきだ。」
ということです。
そのためには、この戦争に深く関与するアメリカが率先して、エスカレーションを制御するあらゆる手立てを講じなければなりません。チャールズ・カプチャン氏(ジョージタウン大学)が強調するような実利的戦略をアメリカやNATO諸国は感情を抑制して考えるべきでしょう。
「完全な領土的主権の為に闘うキーウの権利はそうすることを戦略的に賢明にしない…戦略的プラグマティズムはキーウの野心を抑制するNATOとウクライナ間の率直な対話と『勝利』に至らない結果で手を打つことを請け合う」
という英知です。
戦略は激情ではありません。戦略研究の大家であるリチャード・ベッツ氏(コロンビア大学)は、戦略を成功させるヒントを次のように述べています。
「戦略は選ばれた手段が目的に対して不十分であることが判明した時に失敗する。このことは間違った手段を選んでしまったためか、目的があまりに野心的であるか、あいまいであるために生じる。」
戦争に賭ける利益とリスクをとる覚悟が戦争の帰趨に深刻な影響を与えるのであれば、ウクライナはもちろんのこと同国を助けるアメリカや西欧諸国、日本などは、それらに合致する実現可能で明確な目標を設定するとともに、十分な慎慮にもとづく合目的的な行動をとるべきでしょう、それこそが戦争の終末的大惨事を避ける道ではないでしょうか。
●ロシア発言中に日米など5カ国退席 萩生田経産相「侵略に抗議」 5/22
APEC(アジア太平洋経済協力会議)の会合で、日本やアメリカなど5カ国の代表が、ウクライナへの軍事侵攻に抗議するため、ロシア政府の発言中に退席した。
萩生田光一経産相「ロシアのウクライナ侵略に対しての抗議の意志を示しました」
APECの貿易担当相会合は、21日から2日間の日程で、タイの首都バンコクで始まった。
この中で、ロシアのレシェトニコフ経済発展相が発言した際、日本の萩生田経済産業相のほか、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国の代表が退席したという。
会合では、ウクライナ侵攻の影響についても議論されるものとみられているが、共同声明が出されるかは不透明となっている。 
●東部で包囲作戦強化 ウクライナ拠点の連絡路遮断―ロシア軍 5/22
米シンクタンク、戦争研究所の21日の報告によると、ロシア軍は同日、ウクライナ東部ドンバス地方ルガンスク州で同国側の最後の拠点であるセベロドネツクの包囲・制圧作戦を強化した。ロシア軍は市の南西を流れるドネツ川の橋を破壊し、対岸にあるリシチャンシクとの連絡路を遮断した。
首都キーウ(キエフ)攻略に失敗したロシア軍は4月中旬、ドンバス地方を構成するルガンスク、ドネツク両州の制圧を目指して攻撃を開始。しかしウクライナ軍の反撃で苦戦し、最近、ルガンスク州の支配強化に当面の優先目標を絞り込んだとみられている。
●ウクライナ、譲歩の可能性排除 ロシアは東部などで攻勢強める 5/22
ロシア軍は22日、ウクライナ東部ドンバスや南部ミコライウで空爆や砲撃を実施し攻勢を強めた。こうした中、ウクライナは停戦や領土の譲歩はしない姿勢を示した。
ウクライナのイェルマーク大統領府長官は22日、ツイッターで「戦争は、ウクライナの領土の一体性と主権を完全に回復して終結しなければならない」と述べた。
侵攻開始後、外国首脳として初めてウクライナ議会で直接演説したポーランドのドゥダ大統領は、国際社会はロシアの完全撤退を要求する必要があり、領土を犠牲にすれば西側全体に「甚大な打撃」になると述べ、ウクライナの立場を支持した。
「ウクライナが(ロシアの)プーチン大統領の要求を受け入れるべきという憂慮すべき声が上がっている」とし「ウクライナだけが、その将来を決める権利を持つ」と強調した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアに対する経済制裁強化を改めて訴え「攻撃が停止されるべき時に、中途半端な措置を用いるべきではない」と述べた。
ウクライナのポドリャク大統領府顧問も21日、ロイターのインタビューで、即時停戦に合意する可能性を排除し、領土の譲歩が絡むいかなる合意も受け入れないと述べていた。
「(譲歩しても)戦争は終わらない。しばらく休止されるだけだ」とし「ロシアはより残忍で大規模な攻撃を新たに仕掛けてくる」との見方を示した。
また、即時停戦を求める声は「非常に奇妙」とし「(ロシア)軍はウクライナから撤退しなければならない。和平プロセスの再開はその後に可能になる」と述べた。
ここ最近では、オースティン米国防長官やイタリアのドラギ首相が即時停戦を呼び掛けている。
こうした中、マリウポリのアゾフスターリ製鉄所を完全に制圧したロシアは、ドンバス地方のルガンスクで大規模な攻勢に出ている。
ルガンスクと隣のドネツクは侵攻開始前から親ロ派勢力が一部支配しているが、ロシアはドンバスでウクライナが依然支配する地域の掌握を目指している。
ウクライナ内務省のデニシェンコ顧問は22日、セベロドネツクやリシチャンスクの周辺で最も激しい戦闘が行われていると述べた。
ルガンスク州のガイダイ知事は地元テレビで、ロシア軍が「焦土」戦術を用いていると指摘。「セベロドネツクを地上から消そうとしている」と述べた。
ロシア国防省は22日、ドンバスと南部ミコライウに空爆や砲撃を行い、ウクライナの司令部や軍事施設、弾薬庫を攻撃したと発表した。
●ロシア軍がウクライナ東部で橋を破壊、攻勢強める… 5/22
ロシア軍とウクライナ軍は21日、東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクを巡り、激しい攻防を展開した。間もなく4か月目に入るロシアのウクライナ侵攻は、双方譲らない構えで、停戦協議が停止したままの対決局面となっている。終結の糸口が見えない中、東部ドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)を中心に交戦が続いている。
ルハンスク州の知事は21日夜、露軍がセベロドネツクで隣接都市と結ぶ橋を破壊したとSNSで明らかにした。ウクライナ軍の援軍を阻止する目的とみられる。南東部マリウポリ全域を事実上制圧したロシアはドンバス地方制圧に向け、さらに攻撃を強めるとみられる。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は21日、地元テレビとのインタビューで、侵攻開始前の位置までロシア軍を押し戻せば、「我々の国にとっての勝利だと考える」と述べた。その上で「次のパートに移り、対話の席で話をしたい」とも述べ、その後は交渉によって解決の道を探る意思を示した。
一方で、米欧が提供する兵器を迅速に前線に運ぶとし、「我々には70万人(の戦力)がいる」と抗戦の構えを鮮明にした。ミハイロ・ポドリャク大統領府顧問も21日、ロイター通信に「戦闘を停止すれば、その後、露軍はより激しく攻撃する」との見方を示した。
プーチン露大統領は今月中旬、停戦協議について「ウクライナ側が真剣で建設的な対話に興味を持たずに止まっている」との立場を示した。9日の演説でも、侵攻を停止する条件に言及しておらず、長期化は不可避な情勢となっている。
●ゼレンスキー氏「ロシアが教育施設1873カ所破壊」 5/22
ウクライナ東部で21日、日本の支援で改修した音楽学校がロシア軍の攻撃を受けて破壊されたと地元州知事が明らかにした。ゼレンスキー大統領の21日夜の演説によると、ロシアがこれまでに破壊した教育施設は1873に達するという。一方、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の貿易相会合は22日、ロシアのウクライナ侵攻を巡って参加国の意見が一致せず、共同声明を採択できないまま閉幕した。
日本支援の音楽学校を露軍破壊とドネツク知事
ウクライナ東部ドネツク州のキリレンコ知事によると、破壊されたのはスビャトヒルスクにある音楽学校で、2016年に日本政府の支援で改修されたという。知事は「何年もの間、ドネツクを助けてくれた日本や同盟国に感謝している。また再建しよう」と通信アプリ「テレグラム」の投稿に書き込んだ。ゼレンスキー大統領は21日夜の演説で「ロシア軍はこれまでに1873の教育施設を破壊した。甚大な損失だ」と訴えた。
ウクライナ侵攻巡り不一致 アジア太平洋経済協力会議
タイの首都バンコクで22日に2日目の協議が行われたAPEC貿易相会合は、共同声明を採択できないまま閉幕した。ロシアのウクライナ侵攻を巡り、参加国の意見が一致しなかった。タイのジュリン副首相兼商務相が議長声明を出す見通し。
バイデン米大統領が初来日 首脳会談でウクライナ支援確認へ
バイデン米大統領は22日、大統領専用機で米軍横田基地(東京都)に到着し、就任後初めて日本を訪問した。23日、岸田文雄首相と会談し、ロシアのウクライナ侵攻に関し、日米を含む主要7カ国(G7)が対露制裁・ウクライナ支援で連携することを改めて確認する。
●米 ウクライナへの兵器供与などで約400億ドルの追加の予算成立  5/22
アメリカのバイデン大統領はウクライナへの兵器の供与や人道支援などを強化するため、およそ400億ドル、日本円にして5兆円余りの追加の予算案に署名し法律が成立しました。
韓国を訪問中のアメリカのバイデン大統領は21日、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援を強化するため、およそ400億ドル、日本円にして5兆円余りの追加の予算案に署名し、法律が成立しました。
予算にはウクライナへの兵器の供与やウクライナ政府への経済支援、それに人道支援などが含まれています。
予算案は19日に議会上院で可決されていましたが、バイデン大統領がすでに韓国に向けて出発したあとだったことから、アメリカCNNテレビによりますと、書類はホワイトハウスの職員が旅客機でソウルに持ち込んだということです。
アメリカ議会は、ことし3月にもウクライナ支援のため136億ドルの予算案を可決していて、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは議会が承認した外国政府への支援としては少なくとも過去20年間で最大規模だと伝えています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、21日に公開した動画で「直ちに署名したバイデン大統領に感謝する。これはヨーロッパでの自由の保護に対する歴史的な貢献だ」と評価しました。
●プーチンが怯える「反ロシア義勇軍」の正体 5/22
1 不満を抱く亡命スパイ
自身の大義に従って決断したはずの「ネオナチ打倒」に、世界中から「NO」を突きつけられたプーチン大統領。ウクライナの制圧地域では徐々に押し戻され、経済面でも亡国へのカウントダウンが聞こえ始めて‥‥。西側諸国の軍事支援にとどまらない「反ロシア勢力」によるプーチン包囲網を徹底解説する。
「NATO加盟国は、我が国に隣接する地域の積極的な軍事開発を始めた。我々にとって絶対に受け入れがたい脅威が、計画的に、しかも国境の間近に作り出された。(中略)ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。それは必要で、タイミングを得た、唯一の正しい判断だった」
5月9日の戦勝記念日、式典の演説でプーチン大統領は高らかに戦争の大義を訴えた。侵攻開始から2カ月半が経った現在、ロシアとの国境付近に位置するウクライナ東部地域では両軍がまさに一進一退。一度はロシア軍が街や集落を支配下に置いても、再び攻勢に転じたウクライナ軍が奪還する、という状況が繰り返されている。
その一方、くだんの演説では、かねてから噂されていた「戦争宣言」が出ることはなく、自国の正当性を訴える内容に終始した。国際ジャーナリストの山田敏弘氏がその理由を解説する。
「そもそもウクライナの首都キーウへの侵攻は、72時間以内に一気に制圧し政権をすげ替える電撃作戦の予定でしたが、結局ずるずると長期戦になってしまった。長引けば長引くほど、経済面での不安も大きくなり、国民の不満も高まるので、プーチン大統領としては早期決着を図りたい。今や戦闘地域は親ロシア派が多い東部に限定されましたが、とことんまで戦う『戦争』ではなく、あくまで『軍事作戦』。しかも、自国を守るために仕方なく行った、というのが演説の主旨になったのです」
世界中から非難を浴びても、国内に限っては絶対的な指導者であるプーチン大統領。先の演説シーンも、国民にはさぞ勇ましく、正義の戦争に映ったことだろう。だが、実際にはウクライナ侵攻の余波で、国内にも「不満分子」の影が見え隠れするようになってきたというのだ。山田氏が続ける。
「ウクライナ侵攻の情報戦における指揮権は当初、FSB(連邦保安庁)の第5局が担当していました。FSBは過去にプーチン大統領が長官を務めた、国内の防諜や防犯を担う情報機関です。しかし『キーウから撤退を余儀なくされたのはFSBの作戦に不備があったから』として指揮権を剥奪。今後はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が作戦を主導することになりました」
これが単なる指揮権の移動ではなく、FSBの職員150人が組織を追放された、という情報もあるため、なかなかにキナ臭い話なのだ。通信社記者が言う。
「英『タイムズ』紙がすっぱ抜いたのですが、中には逮捕された職員もいたという話です。制圧失敗がよほどプーチンの逆鱗に触れた、ということでしょう」
その後の報道では、FSBトップのボルトニコフ長官が更迭されるという話まで出てくる始末だ。山田氏が語る。
「今後はプーチン大統領から冷遇されかねず、不満を抱く職員も少なからずいるでしょう。イギリスなど欧州諸国にはこれまでも『元FSBスパイ』のロシア人たちが亡命し、各国と協力体制を取ることがよくありましたし、今回の措置で他国への情報漏えいが加速する下地が出来上がったとも思えるのです」
プーチン独裁体制が丸裸にされる日は─。
2 「騙された!」新兵の叫び
大国ロシアが抱える難問は、国内専門のスパイ機関であるFSB、破壊工作などを行う軍属スパイ機関のGRUという2つの組織間の不協和音にとどまらない。もうひとつのスパイ機関であり、国外の情報を収集する対外情報庁(SVR)も一枚岩とはいかないようで、
「ウクライナ侵攻の直前、2月21日に行われた安全保障会議で、ナルイシキンSVR長官がプーチン大統領から叱責に近い問答を受け、動揺して返答に詰まる映像が公開されました。数少ない側近中の側近で、しかも重要組織の長であるナルイシキン長官でさえこのような扱いを受けたという事実は、SVR内部に大統領に対する不信感を芽吹かせたとしてもおかしくないでしょう」(山田氏)
また、侵攻以後のロシア軍にも綻びが目立つようになった。ひとつは、戦場に身を投じるロシア兵の質の低下だ。前出の山田氏によれば、
「ロシアの軍隊には職業軍人だけでなく、徴兵制に基づき任期1年の徴集兵が配置されます。4月が入れ替えの時期で、先ごろ新規の兵も入隊しました。プーチン大統領は『ウクライナ侵攻に徴集兵は投入しない』と語っていたのですが、実際には徴集兵も関係なく紛争地に送られていたことが明らかになっています」
ツイッターなどのSNSでは、「軍事訓練だと騙されてここに来た、上官に騙されたんだ!」と泣き叫ぶ、捕虜となった新兵の映像が出回っている。告発の声がロシアに届けば、士気の低下は免れまい。
続いてロシア国内で問題視されているのが、戦死者遺族に対する不誠実な対応だ。
プーチン大統領は侵攻開始まもなくの3月3日、国家安保会議の席上で、
「特別軍事作戦の過程で亡くなった軍人家族たちには、法で定めた保険金と慰労金を合わせた補償金が支給されるだろう」
と発言した。ロシア政府は戦死者一人あたり、約740万ルーブル(約1428万円※5月13日時点のレート1ルーブル=1.93円で換算)を遺族に補償し、今回の軍事作戦に関しては一時金500万ルーブル(約965万円)を上積みすることを公表している。
戦勝記念日には、第二次世界大戦の戦没者を悼むパレードに出席した際、プーチン大統領は遺族との一体感を国内外にアピールしたが、こと今回のウクライナ侵攻に限っては手厚いはずの補償に抜け穴≠ェ指摘されている。
「4月中旬に黒海でウクライナ軍に攻撃され沈没した巡洋艦『モスクワ』ですが、乗船し亡くなった兵士の遺族は、『同艦はウクライナの作戦に加わっておらず、沈没は別の何らかの事故によるものだ』という説明を受けたそうです。つまり、戦死者ではない、ということ。当然ながら補償金も支払われません」(山田氏)
この件に限らず、ロシアは戦死者の過少申告を行っているフシもあるようで‥‥。
「国内の動揺を封じるため、と言えば聞こえはいいですが、ウクライナで亡くなってもそれが遺族に通知されないケースも出てきている。当然、遺族の不満は爆発し、軍や政府への不信感が強まります。戦闘にかかる費用すら危ういロシア軍にとって、戦死者の補償などは二の次になる。それが結果的に新兵を含む内部からの反乱を引き起こしかねない」(通信社記者)
まさに内憂外患の様相なのだ。
3 オリガルヒの不審死と裏切り 
ロシアにとって最大の脅威が、NATO加盟国の軍事的バックアップだろう。軍事ジャーナリストの井上和彦氏が解説する。
「最も恐れているのは、ウクライナに提供される高度な軍事情報でしょう。『モスクワ』にしてもその正確な位置がウクライナ軍に伝えられ、それに基づき攻撃が成功しています。他にも、ロシア軍では将軍級の軍人が何人も死んでいますが、これはどこに誰がいるのか、そういう情報がいっさいがっさい漏れているということ。情報戦でロシアは完全に後手に回っているんです」
ロシア軍には戦車約1000両、航空機は200機、ヘリコプター150機もの甚大な被害が出ている。その背景には、西側諸国が提供する的確な情報に加え、「最適解」の兵器があった。
「地上戦には敵車両を自動追尾する対戦車ミサイルの米国製『ジャベリン』や英国製『NLAW』が大量導入されました。GPSを搭載し30〜40キロ先の目標を精密砲撃する150ミリ榴弾砲も戦果を挙げています。空には携行式の地対空ミサイル『スティンガー』、あるいは一部の巡航ミサイルや弾道ミサイルも迎撃できる『S300』など。これらが尽きることなくウクライナに届けられています」(井上氏)
西側諸国から経済制裁を受けるロシアは、軍需物資の調達もままならず、現場の兵士たちは、食糧や武器弾薬がいつ切れるかわからない恐怖と戦っている。
経済面で支えとなるはずだったのが、ロシアの主要産業で時の政府と連携して大きくなった「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥群だ。しかし彼らの扱いにもプーチン大統領は手を焼いているのが現状なのだ。
「目端の利く一部のオリガルヒ関係者には、国外脱出している者も少なくありませんが、プーチン大統領が戦争後の国内の経済復興を目論むなら、彼らの協力は不可欠です。どうやって手綱を握るか、それは『KGBの流儀』に則った暗殺です」(山田氏)
旧ソ連時代に暗躍した秘密警察「KGB」は、敵や裏切り者は容赦なく排除してきた。そして侵攻開始後、10人近いオリガルヒやその関係者が不審死を遂げている。山田氏が言う。
「24時間以内に不可解な無理心中が2組あった、という例も。ロシア政府やプーチン大統領の関与は確定していませんが、他のオリガルヒにとっては『謎の死を遂げる』という事実だけで、十分裏切りの抑止力になる。彼らが政府にとって重要な情報を持っていることもそうですが、仮に国内の反対勢力に資金提供などをされてもたまりませんからね」
それでも、頼みの金ヅルを失いつつあるようだ。
4 大富豪は高速ネットを提供
プーチン大統領を国内外から追い詰める、「反ロシア義勇軍」。アメリカの電気自動車会社・テスラ社のCEOである大富豪、イーロン・マスク氏もその一員だ。ITライターの井上トシユキ氏によると、
「自身が手がける宇宙開発企業・スペースX社の人工衛星を利用した高速インターネットサービス『スターリンク』をウクライナ側に提供しました。これで基地局などが破壊され、不安定だったウクライナ国内の高速インターネット利用が可能になりました」
ウクライナは「東欧のシリコンバレー」と呼ばれ、政府はIT産業の発展に力を注いできた。井上氏が続ける。
「イーロン・マスク氏を頼ったのはウクライナ副首相でもあるデジタル担当大臣のアイデアだとか。これで各国へのメッセージ中継やロシアからのサイバー攻撃の防衛など、情報戦の部分で優位に立つことができたと言われます」
加えて、山田氏はこんな見方を披露する。
「昨年のノーベル平和賞を受賞したのは、政権批判も辞さないロシアの独立系新聞の編集長、ドミトリー・ムラトフ氏でした。また今年5月には、優れた報道を称える米・ピューリッツァー賞で、不特定多数の『ウクライナのジャーナリストたち』が特別賞を受賞しました。これらは世界が意図的にロシアに対してプレッシャーをかけている証左と言えるでしょう」
政治とは切り離して考えられることの多いスポーツの世界でも非難の声は鳴りやまない。スポーツライターの飯山満氏によれば、
「いち早くワールドカップ予選からロシア代表を排除したサッカーや、ロシアが強化に力を入れるフィギュアスケートを筆頭に、卓球やトライアスロン、カーリング、ボート、カヌー、射撃などが国際大会でのロシア参加を認めない旨を表明しました。ロシアの各競技連盟はスポーツ仲裁裁判所にこれらを『不当な決定』として訴え、それが受理されたケースもあるようです」
メンツを潰されたのが、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長だ。ウクライナ侵攻で北京の冬季パラリンピックに泥を塗られた怒りは察するに余りあるが、
「開幕を2日後に控えた3月2日には、『我々は平和を支持する』と、強硬な姿勢を示し、ロシアとベラルーシの選手に国際パラリンピック委員会から出場禁止処分が下されました。ロシアが謝罪し、非を認めない限り『出禁』は解けないでしょう。10年単位で『オリンピック追放』の措置が取られるのではないでしょうか」(飯山氏)
もはや四面楚歌のプーチン大統領。「手負いの虎」ほど怖いものはないというが、果たして‥‥。
●侵攻前の状況に戻せば「勝利」 ウクライナ大統領 5/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、ロシア軍を2月24日の侵攻以前の地点にまで押し戻せば「ウクライナにとっての勝利となる」との見方を示した。ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島の戦闘を通じた奪回は目指さない考えを示唆した。
ウクライナメディアが報じた。「ウクライナの兵士の命をより多く救うことが最も重要だ」とも述べた。「戦争は外交を通じて終結することになる」とも指摘。クリミア半島の扱いを含めた残りのロシアとの問題は交渉を通じて解決するとの立場を示した。
ウクライナ東部では、侵攻を続けるロシア軍と欧米から武器供与を受けるウクライナ軍の攻防が続いている。米国はウクライナへの支援を拡充している。バイデン大統領は21日、軍事面や人道面での支援のために約400億ドル(約5兆1000億円)を拠出する追加予算案に署名し、成立させた。米国による支援予算は合計で500億ドルを超える。
一方、ロシアは欧米への反発をさらに強めており、21日には対ロ制裁への報復としてロシアへの入国を禁じる米国人963人のリストを公表した。3月に入国禁止としたバイデン米大統領など政府高官に加えて、俳優のモーガン・フリーマン氏などが制裁対象に指定された。
●侵攻前の領土回復で「勝利」 戦争終結めぐりウクライナ大統領 5/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日に報じられたテレビインタビューで、ロシア軍がウクライナへの本格侵攻を開始した2月24日以前の領土を取り戻すことができれば「ウクライナにとっての勝利と見なす」と表明した。現地メディアが伝えた。
ロシアが2014年に一方的に併合した南部クリミア半島などをめぐっては、必ずしも奪還を目指さないことを示唆した形だ。ゼレンスキー氏は「戦争は外交を通じて終結することになる」とも語った。
一方、ポドリャク大統領府顧問は21日、ロイター通信に「ロシア軍はこの国から去らなければならない。和平プロセスが再び可能になるのはその後だ」と言明。ロシア軍の全面撤退が先決であり、それまで停戦や和平交渉に応じないとする厳しい姿勢を示した。
ポドリャク氏は停戦合意で一定期間戦闘がやんでも「ロシアは武器と人員を増強し、(戦い方の)ミスを修正するなどし、しばらく後に一段と血に染まった大規模な攻撃を始めるだろう」と強い不信感を示した。
ウクライナ指導部や軍では、高い士気と米欧からの高性能兵器の供与を背景に、クリミア半島を含む「失ったすべての領土を回復する」(国防情報局トップのブダノフ氏)と、反転攻勢による勝利に自信をつけ始めている。
これに対しゼレンスキー氏はインタビューで「この戦争の代償、(奪われた土地の)支配奪還に払う犠牲を考えなければならない」と述べ、交渉を排して徹底抗戦を続けることに慎重な見方を示した。 

 

●ウクライナ混乱に乗じて侵攻狙う別の旧ソ連国  5/23
アルメニアとアゼルバイジャンが小規模に衝突
ウクライナ戦争が3カ月目に突入するなか、カスピ海と黒海に挟まれた南カフカス地方ではロシアの同盟国であるアルメニアが隣国アゼルバイジャンの動きに神経をとがらせている。両国の国境地帯では今年3月に小規模の衝突が発生。アルメニア側は自国の兵士少なくとも2人が死亡したと発表した(後に死者は3人であることが判明)。
ロシアやウクライナと同じく、アルメニアとアゼルバイジャンはいずれも旧ソ連の共和国。両国の間に横たわる山岳地帯のナゴルノ・カラバフの帰属をめぐり、長年にわたり紛争を繰り広げてきた関係性も似ている。直近では2020年9月に紛争が再燃。44日間にわたる戦闘で、民間人を含む多数の死者が出た。
ナゴルノ・カラバフはロシア革命後にアゼルバイジャンに編入され、ソ連時代にはアゼルバイジャン共和国内の自治州だったが、アルメニア系住民が多く住む。アゼルバイジャンからの分離独立を主張してきたアルメニア系住民はソ連崩壊後、「アルツァフ共和国」として独立を宣言。ただし他国の承認はほとんど得られていない。
20年の紛争を終結させた停戦合意で、この地域の多くはアゼルバイジャンに返還され、アルメニア領内に残された一帯にロシアの平和維持部隊が展開することになった。
ロシア軍がウクライナ東部の制圧に総力を挙げる今、アゼルバイジャンが残る一帯の奪還を目指して本格的な攻撃を仕掛けてくるとみて、アルメニア側は警戒感を募らせている。
「私が話している間にも、アゼルバイジャン軍がアルツァフでアルメニア兵を殺している」。本誌にそう訴えたのは、アルメニアの国会議員、イク・マミジャニャンだ。
アゼルバイジャン軍の最近の攻撃は2020年11月に成立した停戦協定に「明らかに違反する」と、マミジャニャンは言う。「われわれはそもそもこの協定に満足していないが、彼らはそれさえも破った」。アゼルバイジャンはロシアがウクライナと戦っていることに「付け込んで」、その隙に攻撃を開始したというのだ。
3月に起きた衝突についてアルメニアが発表を行った当初、アゼルバイジャン側はこの発表には「意図的な誇張」があると主張していた。
だがロシア国防省がアルメニア領内のロシアの平和維持部隊の駐留地域にアゼルバイジャン軍が侵入したと発表し、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相がアルメニアのスレン・パピキャン国防相、アゼルバイジャンのザキル・ハサノフ国防相とそれぞれ電話で話し合ったため、アゼルバイジャン側も衝突が起きたことを認めざるをえなくなった。
本誌の要請で在米アゼルバイジャン大使館が公開した同国国防省の声明は「違法な分離独立派の武装集団のメンバーがわが国の陸軍部隊に妨害工作を行おうとしたが、(わが軍の反撃に遭い)撤退を余儀なくされた」と述べている。
またこの声明は、ロシアの発表はアルメニア側に肩入れしたもので「事実を反映していない」と主張。アルメニア軍は今もアゼルバイジャン領内に居座っており、「停戦協定に違反しているのはわが軍ではなくアルメニアのほうだ」と断定している。
3月の衝突は小競り合い程度で終わったが、多くのアルメニア人はこの程度では済まないとみている。「ウクライナ危機と同時期に衝突が起きたのはただの偶然ではない」と、アルメニアの国会議員、クリスティン・バルダニャンは言う。
アゼルバイジャンはロシア軍がウクライナ侵攻に手間取っている今を好機とみて「武力でアルツァフからアルメニア人を追い出し、アルメニア人が父祖の地で暮らす権利を奪おうとしている」と言うのだ。
「トルコも重要なプレーヤー」
バルダニャンによれば、アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフに住むアルメニア系住民にさまざまな嫌がらせをし、最近では生活インフラまで断ち切っているという。
「ナゴルノ・カラバフにいる約12万人の住民は日々テロまがいの嫌がらせを受けているうえ、今ではガスも電気もインターネットも使えない。民間人もしばしば銃撃され、家から出ていけ、さもなければ武力で家を占拠するぞと脅されている」
この紛争にはもう1つ重要なプレーヤーが絡んでいると、バルダニャンは指摘する。アルメニアはロシア主導の軍事同盟・集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟しているが、アゼルバイジャンが頼りにしているのはトルコで、政治、文化、軍事的に密接な関係を保っているという。
バルダニャンによれば、ウクライナ軍が対ロ攻撃に使用しているトルコ製の滞空型無人戦闘機バイラクタルTB2は、アルメニア軍の陣地に対するアゼルバイジャンの攻撃にも使われ、威力を発揮している。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナへの攻撃を開始する2日前の2月22日に、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領と会談して「同盟的協力宣言」に署名した。安全保障や軍事、政治分野での協力を強化して、両国の関係を新たな「同盟」に格上げしようとしている。
一方で、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領がロシアとウクライナの仲介役を務めようとしていることは、緊張しているが複雑なトルコとロシアの関係に新たな要素を加えている。
トルコはNATO加盟国だ。アメリカが主導するNATOはウクライナに武器を提供し、ロシアに対して世界的な制裁を強化している。ジョー・バイデン アメリカ大統領はロシアの侵攻開始から1カ月後の3月下旬にNATO緊急首脳会議とEU首脳会議に出席し、ウクライナ侵攻とその人道的な影響について対応を協議した。
ウクライナの危機は、世界のどこでも国家間の緊張が過熱すれば破滅に向かうことを浮き彫りにしたと、バルダニャンは警鐘を鳴らす。
「戦争は大惨事だ。地域を破壊し、時には国全体を破壊して、地域や世界全体を不安定にする。特に(国や地域の間に)密接な結び付きがある場合、危機は多くの人々に直接、影響を与える。その最たる例が今、ウクライナで起きている」
「世界は安定と予測可能性を必要としている」と、バルダニャンは言う。
「ただし、正義に基づく安定と平和でなければならない」
今回、アゼルバイジャンとアルメニアは互いに相手が先に停戦合意を破ったと非難している。在米アゼルバイジャン大使館は本誌に次のように述べた。
「不安定化の懸念は三重の脅威から生まれている。アルメニア軍は(3国間協定で義務付けられているのに)撤退しない。一部の過激派で報復主義が台頭し、アゼルバイジャンへの武力侵略を公然と主張している。アルメニアの多くの政治・軍事組織は、外部の力を味方に付けようとしている」
領土問題を超えた文明の戦い
ここでもまた、ウクライナの紛争と周辺の地政学が絡み合っている。「アルメニアや、ロシアの平和維持部隊が展開している『(アゼルバイジャン側が主張する)アゼルバイジャン領内』でこれらの組織が反ウクライナのデモを行っていることは、そうした感情の表れだ」とも同大使館は述べている。
アルメニアとアゼルバイジャンの不安定な状況に対し、アメリカはバランスの取れた役割を果たそうとしている。アメリカ国務省のネッド・プライス報道官は記者団に、アメリカは「双方に自制を求め、あらゆる未解決の問題の包括的な解決策を見つけるために外交的な関与を強化していく」と説明した。
さらに、アメリカはフランス、ロシアと共に、ナゴルノ・カラバフの和平を担う欧州安保協力機構(OSCE)ミンスク・グループの共同議長を務めてきた。その立場からも「引き続き、紛争の長期的な政治的解決を実現するために双方と協力するべく、深く関与していく」と、プライスは語った。
ウクライナとロシアの戦いと同じ
プーチンは3月31日にアリエフおよびアルメニアのニコル・パシニャン首相とそれぞれ電話で会談し、地域の安定について議論した。ロシア外務省も声明を発表し、「当事者に自制を求め、最高レベルで合意した現在の3国間協定を厳格に遵守するように求める」と述べている。
ウクライナとロシアが自分たちの戦いを、領土問題だけでなく文明の争いでもあると捉えているように、アルメニアの支援を受ける「アルツァフ共和国」も、自分たちを歴史上のもっと大きな争いの最前線と見なしている。
ウクライナとロシアはそれぞれ相手をファシズムと喧伝する戦略を取り、プーチンはウクライナの「脱ナチス化」のためとして戦争を正当化している。
2014年にウクライナで親欧米政権が誕生したことを受けて、東部のドネツクとルハンスク(ルガンスク)の親ロシアの分離独立派が武装蜂起した際も、ロシアはウクライナがロシア系住民を標的にしていると非難した。
「アルツァフ共和国」のダビド・ババヤン外相は、アゼルバイジャンとトルコもナチスドイツのやり方に倣って、分離独立を主張しているアルツァフの領土からアルメニア系住民を追い出そうとしていると主張する。
「アゼルバイジャンはウクライナにおけるロシアの戦争を、この地域で自分たちの目標と計画を最大化する機会として利用している」。すなわち「汎テュルク系諸民族の帝国」の構築だ。
「アゼルバイジャンとカラバフの紛争は、文明社会に対する挑戦でもある」と、ババヤンは続ける。「ここに価値と価格、理想と利害のジレンマがある。アルツァフは破滅の危機に瀕し、ジェノサイド(集団虐殺)と存続の危機に直面したが、国際社会の適切な対応はなかった。『価値』より『価格』が、『理想』より『利害』が優先されるからだ」。
「このジレンマの結果として侵略を容認された者が、実際に侵略する。こうしたやり方は遅かれ早かれ、堕落につながるか、さもなければ破壊があるのみだ」
●軍事侵攻後 初の戦争犯罪裁判 ロシア兵に終身刑 キーウ裁判所  5/23
ロシアによる軍事侵攻後初めて、ロシア軍の兵士が戦争犯罪に問われた裁判で、ウクライナの首都キーウの裁判所は検察の求刑どおり終身刑を言い渡しました。
キーウの裁判所には23日、多くのメディアが詰めかけるなか、ロシア軍の戦車部隊に所属するワジム・シシマリン軍曹(21)が出廷しました。
軍曹は、軍事侵攻が始まった直後の2月28日、ウクライナ北東部のスムイ州にある村で、自転車に乗った62歳の市民の男性に発砲し、殺害した罪に問われました。
これまでに軍曹は殺害については認める一方「狙いを定めずに発砲し、市民を殺害するつもりはなかった」として殺意を否定していました。
23日の判決で、裁判長は上官に命令されて狙ったと指摘した上で「平和や人道、国際法に対する犯罪だ」などとして、検察の求刑どおり終身刑を言い渡しました。
判決の内容を通訳に伝えられると、軍曹はうつむいたまま、小さくうなずくようなそぶりをみせていました。
検察当局によりますと、ロシア軍による戦争犯罪が疑われるケースは、5月13日の時点で1万1239件に上り、623人の容疑者を特定したということで、今後も責任を追及することにしています。
法廷には多くのメディア 残忍な行為を印象づける狙いか
裁判が開かれた法廷には多くのメディアが入りました。被告の軍曹には弁護人がついて通訳が法廷でのやりとりを同時通訳し、インターネットでも配信されました。
これまでの審理では、殺害された男性の妻が出廷し、軍曹に「犯した罪を後悔していますか」と直接尋ねる場面もあり、軍曹は「罪を認めます。あなたが私を許せないことは理解しています」などと答えていました。
ウクライナ側は、ロシア軍の兵士の裁判を公開することで、公平性や透明性を示すとともに国際社会にロシア軍による市民への残忍な行為を印象づける狙いがあるとみられます。
ロシア大統領府 兵士の身柄保護する方法を模索
戦争犯罪に問われたロシア軍の兵士がウクライナで終身刑を言い渡されたことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「現地で、わが国の機関が活動しておらず、直接保護するための選択肢は多くないが、ほかのチャンネルを通じた継続的な試みを検討していないわけでない」と述べ、兵士の身柄を保護する方法を模索する考えを示しました。
●“戦争は外交の敗北”ならば、ウクライナ侵攻は外交で止められたのか 5/23
「戦争は外交の敗北」ともいわれる。ウクライナで起きている戦争も外交の失敗によるものだとしたら、どの国の外交にどんな失敗があったのだろうか?今回はウクライナ侵攻を外交面から読み解いた。
「外交って、“てこ”がないと相手を動かせない」
外交を語るときアメリカを抜きにしては語れない。ロシアによるウクライナ侵攻においてもアメリカの外交ひとつで状況は全く違ったのだろう。
日本総合研究所 国際戦略研究所 田中均理事長「(ロシアのようなルールを守らない国との外交には)抑止力です。十分な抑止力に裏打ちされた外交をしなければならない。しかし、オバマの時からアメリカは世界の警察官ではないと言っている。それが影響している」
田中氏が指摘するのは、冷戦後アメリカがやってきた戦争はほとんど世界の警察官としての戦争だったということだ。「国際秩序を守る」という名目で国連決議があろうとなかろうと圧倒的軍事力で介入してきた。それをやめると宣言したことはロシアが侵略をしやすくなった大きな要因だという。さらに、アメリカの抑止力低下のほかにもう一つ、重要な要素があると田中氏は言う。
田中均理事長「NATOがある時からロシアを真剣に扱うのをやめたんだと思う。とくにアメリカの目は明らかに中国を最大の競争相手としてみている。NATOも戦略の見直しをしていたが、それは中国を念頭に置いた見直しだ。(中略)西側は色々失敗をした。(クリミア併合以降)制裁もかなり緩いものだった。本来は抑止力があるんだけれど、それを損なうような態度をとってきた。それから中国の台頭によって戦略の対象は中国になってしまった」
ウクライナ戦争を止めることはできたと思うが、アメリカもNATOも一貫してロシアを弱体化した国として真剣にとらえてこなかったことで、何度かあった止める機会を逃してきたと話した上で、外務省アジア大洋局長、外務審議官を歴任した外交のプロフェッショナルである田中氏は言う。
田中均理事長「外交って、“てこ”がないと相手に言うことを聞かせられないんですよ。ロシアは、圧倒的な軍事力を持ってる。核もアメリカと同程度ある。それとエネルギーではヨーロッパの最大の供給地である。さらに穀物…。一方ロシアには産業がない。輸出の4割がエネルギー。財政の6割がエネルギー。エネルギーはロシアの西側に対する“てこ”であって、軍事力も同じ。これと対等に渡り合える“てこ”は一つしかない。アメリカなんです。アメリカはエネルギーは自前ですし、軍事力はロシアを圧する。さらにアメリカは金融を握っている。本気でアメリカが動けばロシアを止められるはずなんです。“てこ”のある国が“てこ”を使わなければ外交は進まない」
不幸にして始まってしまった戦争だが、これも遅かれ早かれ終わる。そのあと外交はどこに向かえばいいのだろうか?
「中国がロシアと結託…これは世界にとってバッドニュース」
アメリカとの対立という面で「敵の敵は味方」という理屈から、核を含む強力な軍事力を有するロシアと中国が手を組んだ時、計り知れない脅威だと田中氏は言う。
田中均理事長「(去年10月)ロシア艦隊と中国艦隊の船が大隅海峡を通過して、デモンストレーションをやった。ロシアは意味を持ってああいうことをやっている。ロシアと中国が結託すれば、強い抑止力(軍事力)になるぞっていう…。でもそれだけにとどまらない。経済が問題。ロシアはエネルギーと木材と穀物で、これは止めれば相場が跳ね上がるくらいの影響しかないが、中国はもっと複雑に世界経済に組み込まれている。例えば、今はレクサスなんか生産が止まっている。上海から部品が来ないからですよ。アメリカなんかは既にデカップリング、中国と分断していこう、半導体もサプライチェーンを西側だけで作ろうとしている。しかし、日本のような資源もなく、国際関係の相互依存によって成り立っている国にとっては、拮抗した形で世界が分断されるのはバッドニュースですよ。だから止めなきゃいけない、絶対に…」
では、どうやって結託を阻止すべきなのか?
「中国を追い詰め過ぎないことが中露結託を阻止することにつながる」
田中均理事長「現在は、ロシアと結託することが自国の利益にならないと中国は明確に判断している。中国にとって優先順位1位は経済成長なんです。(中略)今ロシアに対する西側の行動を見ていてこの経済制裁を中国もかけられたら経済成長を大きく阻害される。だから中国が決めているのは、ロシアと通常の関係を作ることだ。軍事的な協力はしない。情報くらいは与える。エネルギーも他が取引をしないので中国が高く買ってあげる契約を作ったが、これも見直され、むしろ安く買っている。中国は冷静に判断して漁夫の利を得ている」
しかし、今後米中の対立が激しくなってアメリカが中国を追い詰めれば、ロシアと結託するかもしれない。だからアメリカが中国を敵視しない、追いやり過ぎないことが中露結託を阻止することにつながるという。
田中均理事長「1972年に、なんでニクソン(米大統領)が中国に行って米中関係を正常化したかといったら、あの時の最大のプライオリティーは米ソ冷戦だった。だから中国をアメリカ側に引き込むことによって敵の敵は味方という形を作りたかった、ということです」
しかし、中国の経済力が世界の中で無視できなくなった今、アメリカが持つ外交の“てこ”はあるのか…。対中政策で弱腰になるように見えることはできないアメリカに、日本は一定程度付き合わなければならない。しかし、地政学上、日本は中国にとって効く独自の“てこ”を見つけ出す努力も今後必要になってくるだろう。
●英外相、ウクライナの隣国モルドバに「NATO水準の武器」供与検討… 5/23
英国のエリザベス・トラス外相は、21日付の英紙デイリー・テレグラフのインタビューで、ウクライナの隣国モルドバに「北大西洋条約機構(NATO)水準の武器」の供与を検討していると明らかにした。
トラス氏は、プーチン露大統領はウクライナの首都キーウ(キエフ)攻略に失敗した後も領土拡張の野心を放棄しておらず、モルドバにとって「安全保障上の脅威だ」との認識を示した。将来の侵攻に備え、モルドバの防衛強化策を同盟国と議論しているという。
旧ソ連構成国のモルドバは国内に親露派支配地域を抱え、ロシアが次に侵攻の標的にするのではないかと懸念されている。NATOには非加盟で、軍の兵力は約5000人にとどまる。
●ロシア軍の死者、侵攻3カ月でアフガン侵攻9年間に相当か 英国防省 5/23
英国防省は23日、ウクライナの戦況をめぐり、ロシアが2月24日のウクライナ侵攻開始以降、3カ月の間に出した自国兵士の死者数が、旧ソ連が9年間のアフガニスタン侵攻で出した死者数に相当する可能性が高いと、SNSに発表した。
英国防省はウクライナ侵攻におけるロシア軍の軍事行動について、「貧弱で低レベルな戦術と限られた空中援護態勢、柔軟性の欠如」などが死傷率の高さにつながっていると指摘。「ロシア国民は自国民の犠牲に敏感だ」とし、「犠牲者が増え続ければ、戦争への国民の不満を声にする意思が高まる可能性がある」とも主張した。
ロシア軍の死者数について、ウクライナ軍は22日時点で2万9千人と主張。英国防省は4月25日時点で1万5千人と推定している。ロシア国防省は3月25日に1351人と発表して以降、新たな数字は発表していない。
旧ソ連は1979年末、アフガニスタンの親ソ派政権に反対する勢力を抑え込むため、同国に軍事介入したが、88年から89年にかけて撤退した。旧ソ連軍の死者数は1万5千人程度とされる。
●WHO総会開幕、ウクライナの情勢も協議 5/23
世界保健機関(WHO)の総会が22日、スイス・ジュネーブで開幕した。28日まで開催し、感染症が発生した際のWHOの権限強化や、ロシアが侵攻したウクライナへの支援などについて討議する。欧米などで感染が拡大する天然痘に症状が似ている「サル痘」への対応についても協議する可能性がある。
総会はWHOの最高意思決定機関。新型コロナウイルス感染拡大を受け、2020、21両年はオンライン形式で開催された。今年は、新型コロナの感染拡大以降、初の対面形式での開催となる。
WHOのテドロス事務局長は今月22日、開会の演説で、新型コロナの流行は「まだ終わっていない」と強調。「低所得国では10億人近くがワクチン未接種のままだ」強調し、全ての国でワクチン接種率を7割超とする目標の実現を訴えた。ロシアの侵攻開始後、ウクライナで医療機関などに対する攻撃が相次いでいることに懸念を示した。
今年で1期目を終えるテドロス氏は総会の会期中に再選される予定。
総会では、強い調査権限を持たないWHOの改革について協議される見通し。 新型コロナが中国で確認された当初、WHOは中国の感染状況を把握しようとしたが、WHOの調査に強制権がないことから中国政府の協力に頼らざるを得なかった。一部の加盟国は、感染症が発生した際、WHOが当該国の同意なしに即座に情報を発信し、現地調査を実施できるように権限を強める方針を求めている。
総会では、ウクライナの避難民や同国への医療物資供給などの支援対策についても話し合われる。
WHO総会をめぐっては、非加盟の台湾がオブザーバー参加を目指し、各国への働き掛けを強めているが実現は困難とみられる。台湾の参加は蔡英文政権発足を受けた中国の反発で17年以降、実現していない。
●ロシア軍 ウクライナ側拠点に攻勢強めるも戦闘長期化の見通し  5/23
ロシア軍は、ウクライナ東部2州全域の掌握に向け、ウクライナ側の拠点の1つ、セベロドネツクへの攻勢を強めていますが、ウクライナ軍による反撃で戦闘は長期化する見通しです。またイギリス国防省は、軍事侵攻から3か月を前にロシア軍の死者数はおよそ1万5000人に上るという分析を示し、ロシア側の厳しい現状が浮き彫りとなっています。
ロシア国防省は23日、ウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州の指揮所や弾薬庫、対空ミサイルシステムなどを攻撃し、破壊したと発表しました。
また、北西部ジトーミル州の鉄道の駅周辺を巡航ミサイルで攻撃して、東部のウクライナ軍の前線に移送されようとしていた兵器を破壊したと主張しています。
ロシア軍は今月20日、東部ドネツク州の要衝マリウポリを完全に掌握したと発表したあと、ドネツク州とルハンシク州の全域の掌握をねらって攻勢を強めています。
中でも激しい攻防が続いているのが、ルハンシク州の都市でウクライナ側の拠点の1つセベロドネツクです。
ウクライナの公共放送は21日、このセベロドネツクで、子どもを含む200人以上が避難していた学校がロシア軍の砲撃を受け、2人が死亡したと伝えています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、セベロドネツクはルハンシク州におけるウクライナ側の最後の拠点で、ロシア軍が包囲しようとしていると分析しています。
ゼレンスキー大統領は、21日「われわれはセベロドネツクなどでロシアの進撃を阻止している。今後も勝利に向かって戦い続ける必要がある」と国民に抗戦を呼びかけ、ウクライナ軍による反撃で戦闘は長期化する見通しとなっています。
一方、イギリス国防省は23日に発表した分析で「ロシア軍は軍事作戦の最初の3か月間で、旧ソビエトがアフガニスタンに侵攻した9年間で経験したのと同様の死者数が出ている可能性が高い」と指摘しました。
1979年からのアフガニスタンへの軍事侵攻で、旧ソビエト側ではおよそ1万5000人の死者が出たとされ、今回の軍事侵攻によるロシア側の厳しい現状が浮き彫りとなっています。
そのうえで、要因として戦術の貧弱さ、航空戦力が限定的であること、柔軟性の欠如、そして失敗とミスを繰り返す指揮などをあげ、ロシア軍の損害がさらに増え続ければ、ロシア国内で軍事侵攻に対する市民の不満が強まり、それを表明する社会の機運が高まるかもしれないと分析しています。
●ジョージア駐日大使 ”ロシアの軍事的脅威 認識改めるべき”  5/23
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、14年前、ロシアに侵攻された黒海沿岸の国、ジョージアの駐日大使は「世界の国々がロシアの脅威をようやく実感するようになってきた」と述べ、ロシアの軍事的脅威について認識を改めるよう、国際社会に訴えました。
14年前、隣国のロシアによる軍事侵攻を受けた、黒海沿岸の国、ジョージアのティムラズ・レジャバ駐日大使は23日、都内で記者会見を開き、ウクライナに侵攻したロシアを改めて非難しました。
レジャバ大使は「世界の国々がロシアの脅威をようやく実感するようになってきた。われわれは『有事があってからでは遅い』と警鐘を鳴らしてきた」と述べ、経済分野でロシアと協力関係を築いてきた国々も、軍事的脅威については認識を改めるべきだと、訴えました。
また2008年、ロシアが一方的に独立を承認し、軍を駐留させている、ジョージア北部の南オセチアで、ロシアへの編入を目指す動きがあることについて「法的な根拠はない。南オセチアが世界から隔離され、より不利な状況になるだけだ」とけん制しました。
そのうえで「ロシアの脅威がどうであれ、われわれがEUやNATOへの加盟を目指す方針を変えることはない」と述べ、今後もウクライナと足並みをそろえ、アメリカやヨーロッパとの関係を強化していく考えを強調しました。
●日米首脳会談受け共同声明 ロシアによる軍事侵攻 強く非難  5/23
岸田総理大臣とアメリカのバイデン大統領は、日米首脳会談を受けて共同声明を発表しました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を「残虐で不当な侵略だ」と強く非難するとともに、覇権主義的行動を強める中国などを念頭に「拡大抑止」をはじめとする、日米同盟の抑止力と対処力を強化するなどとしています。また経済分野でも協力を深めていくことを確認しました。
冒頭
共同声明では、日米両国は、歴史上かつてないほど強固で、その関係は自由で開かれたインド太平洋地域の礎となるとしています。そのうえで、岸田総理大臣がアメリカの、この地域での戦略を歓迎したのに対し、バイデン大統領は、揺るぎない関与を強調したとしています。
ロシアのウクライナへの軍事侵攻
そして、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻については「国際秩序に対する最大の脅威で、残虐でいわれのない不当な侵略だ」としたうえで、ロシアの行動を非難し、残虐行為の責任を負うことを求めるとしています。
国連安全保障理事会
また、ロシアの国連安全保障理事会の常任理事国としての無責任な行動や、拒否権の乱用などに深い憂慮を表明し、国連の強化を決意したとしたうえで、バイデン大統領が、改革された安保理で日本が常任理事国となることを支持したことも盛り込まれました。
中国・台湾
一方、覇権主義的行動を強める中国については、東シナ海や南シナ海での海洋進出に強く反対するとともに、新疆ウイグル自治区や香港などの人権問題、中国と南太平洋のソロモン諸島が結んだ安全保障に関する協定への懸念も表明したとしています。さらに、中国に対しては、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を明確に非難することや、核戦力の透明性を高め、核軍縮の進展に貢献するよう求めるとしています。また、台湾をめぐっては「両国の基本的な立場に変更はなく、台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて確認するとともに、両岸問題の平和的解決を促した」としています。
北朝鮮
北朝鮮については、ICBM=大陸間弾道ミサイル級の発射を含め、核・ミサイル開発が進展しているとして非難するとともに、朝鮮半島の完全な非核化に向けて、国連決議に従うよう求め、拉致問題の即時解決に向けたアメリカ側の関与も改めて確認したとしています。
日米同盟
一方、安全保障分野では、岸田総理大臣が、ミサイルの脅威に対抗する能力を含め、あらゆる選択肢を検討するとしたうえで、日本の防衛力を抜本的に強化し、裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を伝えたのに対し、バイデン大統領は強く支持したとしています。また、バイデン大統領が日本の防衛に対するアメリカ側の関与を改めて表明したほか、アメリカの核戦力と通常戦力の抑止力によって日本を守る「拡大抑止」について、信頼でき、強じんなものであり続けることの重要性や、両国間で協議する意義を確認したとしています。このほか、日米安全保障条約の第5条が沖縄県の尖閣諸島に適用されることや、サイバーや宇宙など、新しい分野での協力を加速させることも確認したとしています。
IPEF
さらに、岸田総理大臣は、バイデン大統領が提唱したIPEF=インド太平洋経済枠組みに対する支持を表明し、将来の交渉に向けた参加国の間での議論の立ち上げを歓迎したということです。このほか、共同声明には、ロシアのエネルギーへの依存を減らすため、アジア諸国への支援を検討することや、新型コロナ対策、「核兵器のない世界」に向けた協力などを確認したことも盛り込まれています。
新資本主義
岸田総理大臣が掲げる「新しい資本主義」やバイデン政権の経済政策について意見を交わし、不平等が解消され、両国で中間層を強化する政策が必要だという認識で一致したとしています。
半導体
重要な技術の保護・育成や、サプライチェーン=供給網の強じん性を確保するために協力していくことを確認し、▽次世代の半導体の開発に向けた共同タスクフォースの設立や、▽経済安全保障の強化に向けてさらに協力していくことでも一致したとしています。
経済版2プラス2
日米両国の外務・経済閣僚による協議、経済版のいわゆる「2プラス2」の枠組みについてことし7月に開催する意思を表明したとしています。
多角的貿易体制
また、自由で公正な経済ルールに基づく多角的貿易体制の重要性を認識し、G7=主要7か国やWTO=世界貿易機関といった国際的な枠組みを通じ、▽非市場的な政策や慣行、▽経済的な威圧に対処するため緊密に取り組んでいくことを確認したとしています。
強制労働・人権
そして、強制労働をなくすことの道徳的・経済的な必要性を再確認し、サプライチェーン=供給網において人権を尊重する企業の予見可能性を高めることなどに取り組んでいくことで一致したということです。
エネルギー
エネルギー分野ではロシアによるウクライナへの軍事侵攻でロシア産の天然ガスへの依存度を減らそうという動きがG7=主要7か国などに広がるなか、岸田総理大臣が世界的な供給制約を緩和するためアメリカのLNG・液化天然ガスが果たしている役割を強調し、石油や天然ガスを増産するためアメリカの産業界による投資を歓迎しました。そして、ロシアへの依存度低減に向けて、アジアのパートナーがエネルギー安全保障を強化するための支援を検討することで一致したとしています。
宇宙
宇宙分野では有人やロボットによる月面探査に日本人の宇宙飛行士を含めるという共通の意思を改めて確認するなど、アメリカが中心となって行う国際的な月探査計画「アルテミス計画」での協力の進展を表明したとしています。
●バイデン氏、台湾侵攻に軍事介入明言 米高官、政策変わらずと釈明 5/23
バイデン米大統領は23日、日米首脳会談後の共同記者会見で、中国が台湾に侵攻した場合に米国が軍事介入する意思があるかと問われ、「イエス。それがわれわれの責務だ」と明言した。ホワイトハウス高官はその後、米国の台湾政策に変更はないと釈明したが、中国は直ちに反発した。
バイデン氏は会見で「米国は『一つの中国』政策に同意しているが、(台湾を)武力で奪えるという考えは適切ではない」と強調。ウクライナに侵攻したロシアに制裁を科し続ける必要性を訴える中で、「制裁が継続されないとしたら、台湾を武力で奪う代償について中国にどのようなシグナルを送ることになるのか」とも踏み込んだ。
また、中国軍機が台湾の防空識別圏に頻繁に進入し、圧力をかけていることを念頭に「既に中国は危険を冒している」と警告した。
●バイデン氏、台湾の防衛を明言 米方針に変化か 5/23
ジョー・バイデン米大統領は23日、日本での記者会見で、中国が台湾をめぐって「危険をもてあそんでいる」と警告するとともに、台湾が攻撃された場合は防衛のために軍事介入すると明言した。
バイデン氏は、米大統領になって初めてアジアを歴訪中で、地域の同盟国を訪れている。この日は東京で岸田文雄首相と会談した後、共同記者会見に臨んだ。
バイデン氏は東アジア地域の問題をめぐり、アメリカの長年の政策と矛盾する方針を示したように見えた。だが、ホワイトハウスは、これまでの政策から離れたわけではないと主張した。
バイデン氏はまた、台湾と、ロシアによるウクライナ侵攻を並列に置いた。中国はこれに怒り、強く非難した。
中国は台湾を、本土と再統一されなければならない分離された省とみなしている。
バイデン氏の発言
バイデン氏は会見で、中国と台湾の状況を、ロシアによるウクライナ侵攻と直接結びつけて発言。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、「ウクライナのアイデンティティーを消滅」させようとしていると述べた。
そして、ウクライナとロシアが最終的に和解し、制裁が続かなかった場合には、「台湾を武力で奪おうとすることの代償について、中国にどのようなシグナルを送るのか」と述べた。
また、中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入したとの報告が増えていることに関し、「中国軍機は現在、すぐそばを飛行し、あらゆる演習を行っており、すでに危険をもてあそんでいる」とした。
さらに、「それ(中国による侵攻)は起こらないし、試みられることもないだろうと予想している」とした。しかし同時に、「その種の行動が長期的な不支持につながることを、世界がどれだけ強く明確に示すか」にかかっていると付け加えた。
ロシアによるウクライナ侵攻では軍事行動はしなかったのに、中国が台湾を侵攻した場合は軍事的に台湾を守るのかと単刀直入に聞かれると、バイデン氏は、「そうだ(中略)それが私たちの約束だ」と答えた。
「武力で奪うことができるという考えは(中略)単純に適切ではない。それは地域全体を混乱させ、ウクライナで起きたのと似たような行動となるだろう」
ただバイデン氏は、アメリカの台湾政策は「変わっていない」と前置きした。ホワイトハウス報道官は素早く、この部分を強調した。
アメリカの曖昧戦略
中国が攻撃してきた場合、米国は台湾を守るとバイデン氏が明確にしたのは、ここ数カ月で2回目。米政権のトーンが変わったと見られている。
アメリカは中国と台湾の問題について、「戦略的曖昧さ」として知られる政策を取っている。これまでは、台湾侵攻のような状況でどのような対応をするか曖昧にしてきた。
アメリカは、台湾と正式な外交関係はないものの、兵器を輸出している。一方で中国とは正式な外交関係を維持しており、中国政府は1つしかないとする中国の「1つの中国」の立場を認めている。
中国外務省の汪文斌報道官は、「台湾は中国の不可分の領土だ」とし、譲歩の余地はないと主張。
「台湾問題とウクライナ問題は根本的に違う。それらを比較するのはばかげている。中国はアメリカに対し、『1つの中国』の原則を守るよう再度強く要求する」と述べた。
●米、出口描けぬジレンマ ウクライナ支援拡大も戦闘長期化 5/23
バイデン米政権はウクライナの勝利を確信し、軍事支援を拡大している。ただ、いつ、どんな形で戦闘を終結に導くのか、出口を描けないジレンマも浮き彫りになっている。
ウクライナ軍は米国供与の155ミリ榴弾砲など重火器、自爆型無人機の使用に短期訓練で習熟。前線の露軍の位置情報も米側から提供されているもようだ。
米国製榴弾砲90門も投入され、追加の18門も輸送途上にある。米議会は「ウクライナが勝利するまで支援を続ける」(ペロシ下院議長)と総額400億ドル(約5兆1100億円)の追加予算をスピード承認し、超党派で後押ししている。
供与する兵器は携帯式対空・対戦車ミサイルが中心だった初期段階から、米国と北大西洋条約機構(NATO)が使用する重火器へと高度化が進む。黒海上の露海軍を撃破するための対艦ミサイル供与も米側で検討されている。
だが戦闘は長期化の様相を強め、「勝利をどう定義するのか」(米紙ワシントン・ポスト)という疑問に米側は直面しつつある。
21日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、ウクライナ情報機関トップの話として、2月24日の侵攻前の段階にとどまらず、東部の親露派支配地域やクリミア半島からも露軍を撤退させ、ロシアがクリミアを併合した2014年の段階まで領土回復を目指すとし、重火器のさらなる支援を要求していると報じた。
ただ、米国防総省のカービー報道官は「勝利の形はウクライナ自身が決めることだ。われわれが注力するのは彼らが自身を守るための能力を提供することだ」と従来の姿勢を崩さない。
勝利の形を描けないのは露側も同じだ。西側の兵器を駆使するウクライナ軍に追い込まれるほど、プーチン大統領が戦術核兵器を使用するリスクも高まる。
米政策研究機関「ハドソン研究所」のワインスタイン前所長は本紙取材に、「戦術核使用はあり得るが、可能性は低い」とした上で、使用すれば「ウクライナ戦争の絶対的な転換点となり、米側と同盟諸国の介入が必要となる」と指摘する。
政権はその際のシナリオについて明言を避けるが、専門家の間では、核報復の可能性は排除しつつ1NATOの地上軍派遣2飛行禁止区域の設定3黒海上の露艦隊攻撃−などの選択肢が浮上している。
一方、侵攻2カ月を経過した4月下旬の時点で、「(再び隣国に侵略できない程度まで)ロシアが弱体化することを望む」と述べ波紋を呼んだオースティン国防長官はその後、ショイグ露国防相との侵攻後初の電話会談を実施した。不測の事態を警戒し、対話維持を模索し始めた証左だ。
米国民の7割超は軍事介入に反対する。バイデン政権はウクライナの戦闘能力の持続を支え続ける一方、露側の核エスカレートを管理・制御する未曽有の難問を突き付けられている。
●プーチン大統領「老兵&障害者」まで戦場投入の非情…ロシアの兵士不足 5/23
ロシア軍によるウクライナ侵攻開始からまもなく3カ月。想定外の長期戦で死傷兵や従軍拒否が増え、ロシア軍の兵士不足が深刻になっている。プーチン大統領は年配者や障害者まで戦場に送り、戦争を続けるつもりだ。政権を支えるエリート層は我慢の限界に達しつつある。
ロシア下院は20日、志願兵の上限年齢を撤廃する法案が提出されたと発表。現行の入隊はロシア人で18歳から40歳まで、外国人で18歳から30歳までが認められているが、年配者も可能にする。下院のウェブサイトはこう説明する。
〈上限年齢の撤廃によって、ロシア軍は年配の専門家の才能を活用することができる〉〈精密誘導兵器などを扱うには高度な専門家が必要。経験上、そのような専門家は40〜45歳が多い〉〈また、民間の医療従事者やエンジニアなどのリクルートも容易になる〉
理由をいろいろと挙げているが、つまるところ上限年齢の撤廃は兵士不足が原因とみられる。ロイターの報道によると、欧州の米陸軍元司令官ベン・ホッジス退役将軍は「明らかにロシアの人々は困っている。上限年齢撤廃は国内世論を刺激せずに、人手不足を解消しようとする新たな試みだが、クレムリンがウクライナでの失敗をごまかすのは難しくなっていく」と語ったという。国民はうすうす、戦況の行き詰まりを感じているのだ。
ロシア軍の死者数について、ロシア国防省は3月25日の1351人を最後に更新していないが、ウクライナ側は約3万人が戦闘不能と主張している。
英国防省の分析によると、侵攻開始以降、ロシア軍は兵力の3分の1を損失。戦力損耗率が30%を超えると軍隊として機能しなくなるとされる。「老兵」までかき集めなければ、戦争を続けられないのだ。
ウクライナ保安庁のHPには片目しか見えなかったり、脳に障害があるロシア兵(捕虜)の証言が公開されている。兵士不足を解消しようと、プーチン大統領は障害者まで戦場に送り込んでいる可能性がある。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏はこう言う。「攻撃側のロシア軍は守る側の3倍の兵力が必要です。本来なら戦場へ送られることのない年配者や障害者まで動員せざるを得ないほどに兵士が足りないということです。この先も戦争が続けば、死傷兵や従軍拒否者は増えていきますが、兵士を補い続けることは不可能です。早晩、ロシア軍は後退を余儀なくされるでしょう」
政権内でもプーチン大統領への不満はくすぶっている。
ウクライナ関連のスクープを連発している英調査報道グループ「べリングキャット」のクリスト・グローゼフ氏は16日のウクライナ「ラジオスボボダ」の番組で、プーチン政権を支える軍や情報機関などの「シロビキ」のエリート層で不満がたまっている実情を明かした。
「ロシア国防省やFSB(連邦保安局)の高官らは多くの情報を入手しており、この戦争が負けていることは分かっている。エリート層はプーチン政権が危険水域にあることを知っている」とし、プーチン大統領自身も“危険水域”の「空気」を感じているという。
プーチン政権の崩壊は近いか。
●「プーチンは来年引退、政権も瓦解か」──元MI6長官 5/23
MI6(英国情報部国外部門)のリチャード・ディアラブ元長官は5月19日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は健康問題により来年までに国家指導者の座を降りるだろうと述べた。
「彼は2023年までに(表舞台から)去るだろうと私は思っている。たぶん療養施設に入る」とディアラブはポッドキャストの番組のインタビューで述べた。プーチンは現在69歳。施設を出て「ロシアの指導者」として再び姿を現すことはないだろうとした上で、ディアラブは「そうなればクーデター抜きで事態は動く」と述べた。
またディアラブは、西側諸国からの対ロシア制裁やウクライナ侵攻、そして現在のロシア軍の戦いぶりを背景に、ロシア現政権が今後12〜18カ月の内に「瓦解する」かも知れないと述べた。
プーチンの健康状態を巡っては憶測が飛び交っている。ちなみにウクライナ侵攻開始以降、ロシア政府がこの件について公式にコメントしたことはない。
プーチンへの直接インタビューをまとめた本や動画が話題となっているアメリカの映画監督オリバー・ストーン(代表作に『JFK』、『プラトーン』など)は、取材時にプーチンは癌を発症していたものの克服したと述べた。
「ロシアの統治に深刻な影響が出ている」
「プーチン氏が癌にかかっていたのは確かだが、すでに打ち勝ったと私は思う」とストーンは述べた。ただしストーンは、プーチンが発症していたのがどんな種類の癌だったかについては述べていない。
イギリスのラジオ局LBCによればストーンは、2015〜2017年にかけて複数回、さまざまなテーマでプーチンに直接インタビューしたという。だがナイジェリアに本拠を置くTDPelメディアによれば、ストーンはもう3年プーチンに会っていない。
元MI6職員のクリストファー・スティールも先ごろ、プーチンが治療のために会議を中座したと語った。
「(テレビでも放映された)安全保障会議は1時間程度続いたと思われているが、実際には数回のセクションに分けて行われた」と英LBCラジオの取材に対しスティールは述べた。「(プーチンは)セクションの合間に外出し何らかの治療を受けた」
またスティールは、プーチンは移動の際「常に医師団を伴なっている」と述べた。プーチンの病気で「ロシアの統治には深刻な影響が出ている」とも語ったが、その根拠については触れなかった。
「ロシア政府内での混乱や混沌の度は増している。プーチンの病気は重くなっており、彼が明確に政治を統率している様子も見当たらない」とスティールは述べた。
東欧諸国のニュースを発信している「ビシェグラード24」は4月、プーチンがパーキンソン病ではないかとする動画をツイッターに投稿した。
「これはたぶんプーチンの健康に何らかの問題があることを最もはっきり示した映像だ。ほら、足と手が震えている! 専門家の意見が聞きたいところだ。パーキンソン病だろうか?」とビシェグラード24は述べた。
また、プーチンがセルゲイ・ショイグ国防相との会議中、テーブルの端を握っていた映像を巡っても、SNSではプーチン健康不安説が取り沙汰されている。
●プーチン大統領の「健康不安説」 足を引きずって歩いている様子も確認 5/23
ロシアによるウクライナ侵攻が混沌とするなか、プーチン大統領の「健康不安説」が取り沙汰されている。
報じたのはテレビ朝日。ウクライナ国防省のブダノフ情報局長にインタビューし、「プーチン大統領は精神的、肉体的に非常に悪い状態にあることが確認できます。彼は重い病気です。同時に様々な病気を患っていて、そのひとつが、がんです」と語る映像をANNニュース(5月15日)で流した。
ウクライナ当局からの情報なので、鵜呑みにはできないが、同様の分析は海外のメディアからも出ている。
米誌「ニューラインズ・マガジン」(オンライン版5月12日付)は、欧米のベンチャーキャピタルが3月中旬にクレムリンに近いオリガルヒ(ロシアの新興財閥)に接触し、「プーチンは血液のがんで重病だ」と話している会話の録音ファイルを入手したと報じた。そのオリガルヒの名は明かせないとした上で、情報当局に照会し、プーチン氏に近い「20〜30人の親しい輪」の一人と確認したという。
「『血液のがん』説に信憑性を与えているのは、プーチン氏の顔の変化です。以前と比べて、明らかに顔がむくんでいますが、抗がん剤と併用するステロイドには顔のむくみが副作用として起きることが知られているからです」(外務省関係者)
これまでもプーチン氏の健康状態を巡っては、様々な憶測が飛び交ってきた。
プーチン氏は6年ほど前からパーキンソン病を患っている可能性が指摘され、今年4月21日のセルゲイ・ショイグ国防相との会談で、右手でテーブルの端を強く握り続けていたのも、手の震えを抑えるためではないかと疑われてきた。3月18日にモスクワで開かれた戦争支持派の大規模な集会でも、プーチン氏が足をひきずって歩いている様子が確認されている。
パーキンソン病は、脳の神経細胞が死滅して、体をコントロールできなくなる病気だ。手足の震えや筋肉のこわばり、歩行障害など運動障害が現われ、認知症の原因にもなるといわれる。国際ジャーナリストの山田敏弘氏はこう言う。
「すべて憶測の域を出ませんが、過去4年に腫瘍専門家と35回会ったとか、昨年秋に甲状腺の手術を受けたため9月はずっと表に出てこなかったとか、イギリスに亡命した元KGBのスパイが、『プーチンはパーキンソン病に加え、認知症も発症している』と証言したとか、様々な説が飛び交っています」
プーチン氏のカルテを見られる人物は限られているので、確認する術はないという。
ただ、もし本当に何らかの病気が進行しているとしたら、時間の経過とともに事実が明らかになるはずである。国際関係アナリストの北野幸伯氏はこう言う。
「プーチン氏が患っているのは、パーキンソン病の他、血液のがん、認知症、パラノイア(偏執病)といわれていますが、私はすべて事実だと思います。海外のメディアでは、プーチン氏はがんの手術を受けるため、しばらくパトルシェフ安全保障会議書記が事実上の大統領代行を務めると報じられています。もし本当にそうなれば、病気が事実だったことになります」
しばらく状況を見守る必要がある。
●プーチン退陣は必至。ロシア「惨めなまでの敗北」の後に不安な国際情勢 5/23
ロシアの軍事侵攻から5月24日で3カ月となるも、未だ先行きが見通せない状況が続くウクライナ紛争。18日にはフィンランドとその隣国スウェーデンがNATOへの加盟申請を行なうなど情勢は目まぐるしく変化していますが、今後この戦争はどのような展開を辿り、そして国際社会はいかなる動きを見せるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、ウクライナ紛争はまだまだ長期化すると予測。その上で、国際協調の時代はもう戻ってこないとの悲観的な見解を示しています。
ウクライナ戦争―止められない世界の分断の波
「要衝マリウポリが陥落した」「アザフスターリ製鉄所に留まっていたアゾフ連隊が、ついに“投降した”」「いや、任務を終了して退避した」
ウクライナおよび欧米側が伝えるニュースと、ロシア側が伝えるニュースでは、対象は同じでも、伝え方が違えばこれほど受ける感触が違うのかと思わされるエピソードです。
誤解を招く言い方になるかもしれませんが、アゾフ連隊が“投降”したのか、“退避”したのかというポイントは、正直さほど気になりません。
あるのは【アゾフ連隊が製鉄所から去り、ウクライナ南東部の要衝マリウポリがロシア軍によって“完全”掌握された】という事実だけです。
もちろんこれで終わりではなく、ロシアとウクライナ、そしてその背後にいる皆さんによる一進一退の攻防が継続されるのだと思いますが、今週、ついにマリウポリが墜ちたのは、一つ大きな区切りだと考えます。
ロシアとしては、親ロシア派が掌握しているウクライナ東部のドンバス地方からマリウポリを通って、クリミア半島に陸続きでアクセスできる回廊が、一応できたことと、ウクライナがもつ港をことごとく押さえたことは、今後、ウクライナとその背後にいる皆さんの出方に影響を与えることになるでしょう。もちろん、ロシアの出方も。
このまま一気呵成にロシアがウクライナ全土を掌握できるかというと、そうは問屋が卸さないことは明らかですが、ウクライナとNATOによる対ロシア抗戦が激化することで、一層、戦争の長期化が見込まれてしまいます。
泥沼化するが、あくまでも軍同士のにらみ合いと交戦に留まるのか?それとも、まだまだ一般市民を巻き込み、さらなる悲劇の渦を拡げ続け、そしていずれ戦火が周辺に、まるで野火のように広がっていき、収拾のつかない事態がまっているのか?
その答えは分かりませんが、“拡大”を懸念させる事態が今週起きています。
それはこれまで中立の立場を取り続けてきたフィンランドとスウェーデンの同時NATO加盟申請です。
5月18日に両国首脳が揃って申請を行い、19日には日本出発前のバイデン大統領を訪問するためにワシントンDC入りし、今後の対応について協議しています。
ロシアに第2次世界大戦時に領土を奪われ、終戦前に奪還したフィンランドは、終戦後、たまたまナチスドイツに与していたことで罰せられ、結局、ロシアに国土の一部を取られることになりました。その経験は1,300キロにわたる国境線をロシアと共有する国に、生存のため、欧米にもロシアにも与しない、中立の立場を保ってきました。
「いつまたロシアに…」
その思いはフィンランドに核シェルターを作らせ、防衛のための軍を強化し、欧州でも有数の軍事力を備えるに至りました。
スウェーデンについては、中立でありつつも、サーブ社を通じて自国で戦闘機を建造することが出来、かつ最先端兵器を有する非常に強い軍隊をもっていることから、ロシアも容易には攻略できない状況にあります。
これまでロシアと欧米のバッファーとして、戦いを防ぐための砦の役割を果たしてきた両国が、安保政策を根本から変更し、NATO加盟申請を決行するにいたったのは、今後の安全保障および地政学的な意味合いを大きく変えることになります。
ただ、この2か国のNATO加盟は容易には進みそうにありません。
その前に大きく立ちふさがったのが、あのエルドアン大統領率いるトルコです。
トルコの言い分は「両国がクルド人を匿っていることと、対トルコ制裁を加えている国であることを受けて到底支持できない」ということですが、これはNATOの“全会一致”の原則を逆手に取った戦略と思われます。
対トルコ制裁の撤回とクルド人の引き渡しという、両国にとって許容できない条件を突き付けているのですが、この裏には、ロシア・プーチン大統領に恩を売ろうとしている姿と、戦争初期に調停役を買って出た特別な立ち位置の確保という狙いが透けて見えます。
それに加えてトルコ政府は興味深い指摘を行っています。
それは「ウクライナからの加盟申請は門前払いともいえる冷酷な対応を取ったのに、どうしてフィンランドとスウェーデンには、まさにファーストトラックともいえる手法で、加盟に向けたプロセスを始めるのか?ダブルスタンダードではないのか?」という指摘です。
NATOと、NATOという笠をかぶった欧米の加盟国のダブルスタンダードの適用は、旧ユーゴスラビア紛争時のセルビア共和国への空爆に対する正当化以降、正直嫌気がさしていますが、今回のように対応に差をつけるやり方には、ちょっと違和感を禁じえません。
「人道上の理由」を盾に空爆に踏み切った旧ユーゴスラビアのケースを正当化するのであれば、どうして今回のウクライナへのロシアによる侵攻に対しても“同じ理由”で直接的な介入を行ってこなかったのか?
そしてどうしてウクライナからのNATO加入申請は、門前払いされたのか?
こういった違和感や疑問に答えが見つかるかどうかは分からないが、冷戦終結後にNATOやアメリカによって行われた様々な“介入”の例を見てみてふとよぎる疑問は、ロシアとウクライナの間で進行している戦いが“終わる”頃、ウクライナに対する各国の関心度合いはどうなっているのか、というものです。
同時多発テロ事件以降のアフガニスタンでの20年、そのあと行われたイラク侵攻とサダムフセインの処刑から18年、民主化の鑑とはやし立て、寄って集って利権を掴んだ末に、ポイ捨てされたミャンマー(注:欧米諸国による軍事侵攻ではないが)…。
結果は惨憺たるものであったと思います。
今回のウクライナ戦争では、ロシアによる侵攻を受けて、欧米、NATOは一致団結して、ウクライナ軍に対してロシア軍と戦うための“助け”をし、人道支援と銘打って、ウクライナから逃れてくる人々や、ウクライナ国内に残らざるを得ない方たちを支援していますが、長期化する戦争の後、勝敗が決した途端、各国は実質的に一気に手を退くことになるだろうと思われます。
NATO軍が派遣されて治安維持を行ったり、国連をはじめとする人道支援団体がウクライナ入りして戦後復興を行ったりするでしょうが、その際、それらの戦後復興はin whose ways(誰の利害および手法によるもの)で実施されるのでしょうか?
そして、国際社会、特にウクライナを支援してきた欧米諸国および日本は、本当にウクライナが自走できるまで支援を注ぎ込み、並走することができるのでしょうか?
恐らく誰もしないでしょう。
そのうち「私たちはプーチン大統領とロシアによる蛮行からウクライナを守るために集っただけで、国づくりまで手伝うとは言っていない」といった声が聞こえるようになるかもしれません。
唯一、これまでのケースとの違いは、NATOおよびアメリカは、“独裁政権に苦しめられる哀れな市民”を救うために介入したと主張してきたことに対し、強大な隣国に侵攻された哀れな国民を救い、ウクライナの政府のすげ替えではないことでしょうか。
恐らく唯一類似しているのは、サダムフセインのイラクが隣国クウェートに侵攻した際に、挙ってイラク軍を叩きに行き、イラクに思い制裁を課した“あの”ケースぐらいでしょう。
「困ったときはお互い様」という精神から、戦時下にあり、悲劇的な状況にいる一般市民を助けるということは100%サポートします。
現在、戦時下という状況の下、大量の武器が供与されていますが、実際、ほとんどはどこに流れているか追跡できないことをご存じでしょうか?そしてこれまでアメリカなどが、自国の外交安全保障政策の理由でばらまいてきた武器弾薬が今、欧米に対して牙をむいている状況をどこまで意識しているでしょうか?
ウクライナ情勢が“落ち着いたとき”、これらがもしかしたら火を噴く可能性は否定できません。そしてその結果、国際的な非難の矛先が、今度はウクライナに向くことになりかねません。
これまでのところ、日本からはもろもろの制約のおかげで、重火器や武器弾薬の供与は行っていませんので、自ら提供したものが自らに対して火を噴くことはないですが、これまでの国際紛争時と異なり、はっきりとG7(欧米)と足並みを揃え、ロシアへの制裁を強化し、挙って支援額を積み増している日本政府を待つ状況は予測できません(ウクライナ外務省からのThank you noteに日本の名前が当初なかったことで、大騒ぎになるような状況ですから、恩を仇で返されたと意識するような事態になったらどうなるでしょうか?)。
ここであえて逆サイドも見てみましょう。
仮にNATOおよび欧米諸国が予測するように、「ロシアが惨めなまでに敗北することになる」としたら、どのような情勢が待つでしょうか?
プーチン大統領の退陣は必至として、国際社会はプーチン大統領がいなくなったロシアに「喧嘩両成敗」とでも宣言して、戦後復興に、対ウクライナと同じ熱量で、乗り出してくるでしょうか?
私自身も含め、それは非常に疑わしいのではないかと思います。
何らかの形で、ウクライナ戦争が決着し、国際社会の目が“その後”に向かうとき、私たちの目は、関心は、自らの日常を襲っている様々な問題に一気に注がれることになります。
コロナのパンデミックで混乱した国際経済と国内の雇用。100%までは戻らないと言われる観光産業。ポスト・コロナが語り始められた矢先、勃発したウクライナ戦争(ウクライナへのロシアによる侵攻)と、欧米諸国主導で発動・強化される対ロ金融・経済制裁の副作用として起こる調達不安と物価上昇。国際的なサプライチェーンが麻痺してしまい、なかなか適応できない各国。ドラギ首相(イタリア)が国民に問うたように「平和かこの夏のエアコンか」という究極の選択への“本当の答え”。
これらの問いや問題への疑問と違和感が、戦争が決着した途端、現実のものとして私たち一人一人に突き付けられた時、どのような反応を私たちは示すのでしょうか?
ウクライナ戦争はまだまだ長期化すると思われますが、それでもいつか、何らかの形で終わりを迎えることになります。
その時、私たちが住む世界はどうなっているのでしょうか?その時、日々、メディアを賑わせてきたウクライナ情勢に対して、私たちはどれだけの熱量を注ぎ込み、支援を提供するのでしょうか?そして、その時、日本が位置する北東アジア情勢はどうなっているのでしょうか?今回の戦争で“敗者”となった側は、今後どのような立ち位置を得るのでしょうか?
世間が使用される武器の話や、戦況に関心を示し、激論を交わす今、私の関心は「いかに停戦に導き、どのように調停するか」「どのような条件を調停において提示するか」そして「どのような未来を一緒に描くことが出来るか」に向き始めました。
ウクライナ戦争の裏で、各国をめぐる状況は刻一刻と変化しています。それと並行して、世界がどちら方向に向くのかわからない中、隣国中国は不気味な沈黙を保っています。戦争当事者であり、思いのほか、苦戦していると伝えられているロシアは、それでもまだ北方領土周辺でのプレゼンスを示し圧力をかけてきています。北朝鮮は、国際社会からの“無関心”の裏で、着々とICBMの能力向上に努め、停止していたはずの核開発を再開しています。
そして唯一の同盟国として、核の傘の下、米軍に自国の防衛を託す日本に対し、有事の際、アメリカはどこまで本気で日本を、約束通りに守ってくれるでしょうか?
このような不確定な問いを投げかけている間にも、NATOサイドにいるグループとロシア側のグループとの間のギャップは大きくなり、世界を二分しそうな様相です。
そしてそこに3つ目の極を作ろうと模索し、比較的安価ながら高性能な武器を提供してしっかり儲け、仲介の任を買って出て外交的な影響力も高めようとしているのがトルコという図式が明らかになってきています。
まだ国際情勢には多くの不確定要素があり、なかなか明確な予測は困難なのですが、恐らくもう国際協調の時代は戻ってこないのではないかと考えています。皆さんはどうお考えになりますか?

 

●プーチン大統領「制裁の打撃にきちんと耐えている」 5/24
ロシアによるウクライナ侵攻から24日で3か月。ロシア軍は、東部2州の完全掌握を目指す一方、ウクライナ軍も反撃を続けており、戦闘は長期化する見通しとなっています。
アメリカの戦争研究所などの分析によりますと、ロシア軍はウクライナのルハンシク・ドネツク両州の完全掌握を目指しているものの、活発な攻撃が行われているのは一部の地域に限定されているということです。
一方で、ロシア軍は占領した南部などの陣地を強化していて、ウクライナ軍の反転攻勢と戦闘の長期化に備えているとみられるなどと分析しています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は、経済制裁には屈しない姿勢を強調しました。
プーチン大統領「ロシア経済は制裁の打撃にきちんと耐えている。主要な経済指標がそれを示している」
プーチン大統領はまた、ロシアの通貨「ルーブル」の価格も安定しているとしています。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、ロシアに侵略行為の代償をより明確に理解させる必要があるとして、ロシア産石油の禁輸やロシアの銀行の完全封鎖など、さらなる制裁を科すべきだと訴えました。
●リトアニアなど、ロシア資産の没収を提案 ウクライナ再建に利用 5/24
欧州連合(EU)に加盟するリトアニア、スロバキア、ラトビア、エストニアの4カ国が、EUが凍結したロシアの資産を没収するよう提案する方針。ロシアによる侵攻後のウクライナ再建に向けた資金に充当する。
ロイターが入手した共同書簡で明らかになった。この書簡は24日開催のユーロ圏財務相会合に提出される。
ウクライナは5月3日の時点で、国の再建に必要な資金を約6000億ドルと見積もっている。しかし本格的な戦争が続いているため、この金額は大幅に増加している可能性が高いという。
書簡は「犠牲者への補償を含め、ウクライナの再建費用のかなりの部分はロシアが負担しなければならない」とした。
さらに書簡では、EU加盟国による新たな対ロシア制裁の準備も要請。「ロシアがウクライナへの軍事侵攻をやめないのであれば、最終的に、EUとロシアの間に経済的なつながりを一切残すべきではない。EUの資金、製品、サービスが、全てロシアの戦争マシンに貢献しないようにすべきだ」とした。
4カ国は、各国がすでに、ロシアの個人および団体に帰属する資産と、約3000億ドルのロシア中央銀行の資金を凍結していることに言及。ウクライナへの賠償や国家再建に向けて「これらの資源を最大限に活用する法的方法を特定しなければならない」とした上で、「中央銀行の預金や国有企業の財産といった国家資産の没収は、直接的な関連性と効果を持つ」とも指摘した。
EUがこれまでに凍結した、ロシアとベラルーシの新興財閥(オリガルヒ)や団体に関連する資産は約300億ユーロ相当。
欧州委員会のクリスチャン・ウィガンド報道官は「資産の凍結は差し押さえとは異なる」と指摘。「ほとんどの加盟国ではこれは不可能であり、資産没収には刑事裁判で有罪判決を受けることが条件となる。また法的に見て、民間団体と中央銀行の資産は同じではない」と述べた。
同報道官によると、欧州委は今週、制限措置違反をEUにおいて犯罪とする提案、および資産没収に関する現行のEU規則の改正・強化などを巡る提案を行う予定。
●喪失領土の4分の1奪還 侵攻3カ月、ウクライナ反撃 5/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から24日で3カ月となる。早期の首都制圧とゼレンスキー政権打倒のもくろみが外れたロシア軍は東部や南部での支配地域拡大を狙う。米欧の支援を受けるウクライナ軍は一部で反転攻勢に転じており、いったんはロシア側に占領された領土の4分の1を奪還した。(関連記事国際面、社会2面に)
ロシアのプーチン政権は2月24日、ウクライナの北、東、南の3方向から攻め込んだ。米シンクタンクの戦争研究所が公開するリポートをもとに日本経済新聞が分析したところ、ロシア軍がウクライナ国土を支配・侵攻した割合が最も高かったのは3月30日前後で全土の約28%(約17万平方キロメートル、侵攻前から実効支配されていたクリミア半島やウクライナ東部の一部地域を含む)だった。
ロシア軍は一時は首都キーウ(キエフ)に迫ったが、激しい抵抗に直面、4月上旬までに首都周辺から撤退した。ロシア軍は東部ドンバス地方(ルガンスク州とドネツク州)に戦力を集中させ、5月20日には南東部マリウポリの完全制圧も発表した。南部の港湾都市オデッサの攻略も狙う。
一方のウクライナ軍には、米欧供与の兵器が前線配備され効果的な戦闘が可能になっている。北東部ハリコフなどで占領されていた集落奪還の動きもみられ、直近のロシア軍支配地域は20%強に縮小。3月末時点と比べロシア軍の占領地域の4分の1を取り戻した。
英国防省は23日、侵攻最初の3カ月間で「ソ連の9年間に及ぶアフガニスタンでの戦争に匹敵する死者を出しているようだ」との分析を公表した。1970〜80年代の同戦争では1万5000人の戦死者が出たとされる。
ルガンスク州の知事は22日、同州のセベロドネツクに4方向から侵入を図ったロシア軍を撃退したと表明した。戦争研究所は「ロシア軍の東部での22日の前進はごく限られた」と指摘した。
ウクライナ最高会議(議会)は22日、侵攻後に敷いた戒厳令について、3カ月延長すると決めた。ゼレンスキー大統領はロシア軍を侵攻以前の地点にまで押し戻せば「勝利となる」との見方を示しており、同国は長期戦を覚悟している。
米国では21日、長期化をにらみウクライナ向けの軍事・人道支援を目的とした約400億ドル(約5兆1000億円)の予算法が成立した。オースティン国防長官は23日、40カ国以上を集めたオンライン会合を開く。
米紙ワシントン・ポストによると、新たな支援に地対空ミサイル「パトリオット」が含まれる可能性がある。高機動ロケット砲システム「ハイマース」も供与候補に浮上している。
専門家の間では現在のロシアの戦力配置のままではウクライナの防衛線を突破するのは難しいとの見方が広まる。ウクライナ軍は東部イジュームやオデッサ沖合のスネーク島でも奪還に向けた攻勢を強めている。ロシアの劣勢が濃厚になれば核兵器の使用リスクが高まるとの懸念も拭えない。
ロシア軍は支配地域を死守する構えだ。ウクライナのレズニコフ国防相は「ロシア軍が(南部の)ヘルソン州やザポロジエ州で要塞化作業を始めている」と指摘している。ロシア軍は支配地域で通貨ルーブルの使用などの「ロシア化」による実効支配の強化を急いでいる。 
●ウクライナとの戦争は「より大きな戦いに向けたリハーサル」 5/24
ロシアはウクライナ侵攻を北大西洋条約機構(NATO)とのより大きな戦争に向けた「リハーサル」だと考えていると、ロシアの政治学者アレクセイ・フェネンコ氏は指摘した。
「我々の武器がいかに強いかを戦場で見る」ことが目的だとフェネンコ氏は話している。「将来の戦いに向けた学習経験になるかもしれない」とも同氏は話している。ロシアの政治学者によると、ロシアによるウクライナ侵攻はNATOを構成する国々とのより大きな戦争に向けた「リハーサル」だという。
これは国際安全保障研究所の研究員アレクセイ・フェネンコ氏が5月19日にロシア国営テレビのトーク番組『60ミニッツ』で語ったものだと、『デイリー・ビースト(Daily Beast)』のジュリア・デービス記者は紹介している。
「我々にとって、ウクライナでの戦争は…… 将来起こり得る、より大きな戦いに向けたリハーサルだ」とフェネンコ氏は語った。「だからこそ、我々は試し、NATOの武器に立ち向かい、(NATOの武器に比べて)我々の武器がいかに強いかを戦場で見ようとしている」「将来の戦いに向けた学習経験になるかもしれない」
ウクライナに侵攻を開始して以来、ロシアはハイテク兵器の開発を自慢してきた。5月中旬にはロシアの政府高官が、ロシア軍がウクライナに何マイルも離れた場所のドローンを数秒で撃墜できるレーザー兵器システムを配備したと主張していた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は4月、この戦争は「ゆくゆくは全ての人に打撃を与える」だろうと語った。「ロシアの侵略はウクライナのみに限られたものではない」とゼレンスキー大統領は話した。「我々の自由や生活を破壊するためだけでもない。ヨーロッパ全域がロシアの標的なのだ」
また、Insiderでも報じたように、ロシアがサイバー攻撃を利用するのではないかとの懸念もある。
米中央情報局(CIA)のロシア担当の元分析官マイケル・E・バン・ランディンガム氏は「アメリカやヨーロッパのコンピューターを使用不能にしたり、ウクライナの重要インフラを破壊するサイバー・アルマゲドンに対する認識はある。ただ、プーチンはウクライナで限定的な戦争を戦いたいと考えているので、恐らくそれは起こらないだろう」と指摘している。
●日米豪印「クアッド」首脳会談、ウクライナ戦争や中国への懸念に言及 5/24
日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国からなる「クアッド」は24日、東京で首脳会談(サミット)を行った。新型コロナウイルスのパンデミックやウクライナでの戦争で世界が揺らぐ中、「自由で開かれたインド太平洋への揺るがないコミットメント」を共同声明で表明した。
アメリカのジョー・バイデン大統領は、ロシアのウクライナ侵攻によって世界は「共有する歴史において暗い時代を生きている」と語った。その上で、国際秩序を守る重要性が増していると述べた。
日本の岸田文雄首相もこれに呼応し、アジアで同様の侵攻があってはならないと述べた。
クアッド首脳会談は、バイデン大統領の就任後初の訪日に合わせて開催された。バイデン氏、岸田首相、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相、インドのナレンドラ・モディ首相が出席した。
会談では、中国のインド太平洋地域での影響力拡大などを含む安全保障や経済上の懸念が話し合われた。一方で、ロシアのウクライナ侵攻をめぐる意見の不一致も見られた。
バイデン氏は23日の岸田首相との共同記者会見でも、中国が台湾をめぐって「危険をもてあそんでいる」と警告するとともに、台湾が攻撃された場合は防衛のために軍事介入すると明言した。
これは、アメリカの長年の政策と矛盾する方針のようにみえるが、ホワイトハウスは、これまでの政策から離れたわけではないと主張した。
●軍事侵攻3か月 ロシア軍 ウクライナ側拠点の都市へ攻勢強める  5/24
ロシア軍がウクライナに侵攻して3か月がたちました。ロシア軍は、東部ルハンシク州の全域の掌握を試み、ウクライナ側が拠点とする都市への攻勢を強めています。
ロシア国防省は24日、ウクライナ東部ドネツク州の各地をミサイルで攻撃し、弾薬庫などを破壊したほか、東部のクラマトルスクでは、ウクライナ軍の戦闘機を撃墜したと発表しました。
ロシア軍は、完全掌握を目指すウクライナ東部の2州のうち、ルハンシク州のおよそ9割を掌握したとみられ、現在、州全域の掌握を目指し、拠点となる都市への攻勢を強めています。
イギリス国防省は24日「ロシア軍は、セベロドネツクとリシチャンシク、それにルビージュネを包囲しようと、東部ドンバス地域で作戦を強化している」と指摘しました。
そのうえで「ウクライナは強固に抵抗し、効果的な指揮統制を維持しているが、ロシア軍は砲兵部隊が一部で局地的な成功を収めた。ロシアがセベロドネツクの一帯を占領すると、ルハンシク州全体が掌握されることになる」と懸念を示しました。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は23日、ロシア軍がセベロドネツクの南側から進軍し、北側ではウクライナ軍の補給路を断とうとしていると指摘し、ウクライナ側が拠点とするセベロドネツクをめぐり、激しい攻防が行われているとみられます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、23日に公開した動画で、侵攻から3か月間にわたるロシア軍の戦闘行為を強く非難したうえで「これからの数週間は困難なものになるだろうが、ウクライナには戦うことしか選択肢はなく、私たちの土地と人々を解放しなくてはならない」と述べ、国民に協力を呼びかけました。
また、欧米諸国などに対しては、積極的な軍事支援を継続するよう訴えました。
これに対し、ロシアのプーチン大統領の最側近の1人、パトルシェフ安全保障会議書記は24日、ロシアメディアのインタビューで「われわれは期限を定めていない。大統領が設定した目標はすべて達成される」と述べ、侵攻の長期化もいとわない考えを強調しました。
●ロシア軍が東部要衝への砲撃強化、兵力1万2500人を投入… 5/24
ロシアのプーチン大統領の最側近、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記は24日に公開された「論拠と事実」紙とのインタビューで、ウクライナ侵攻作戦に関し「特定の期限を目指していない」と述べ、長期戦の構えを強調した。24日で3か月が経過したロシアのウクライナ侵攻は出口が見えにくくなっている。
パトルシェフ氏は「大統領が掲げた全ての目標を達成する」とも語り、ナチス・ドイツと一方的に同一視しているウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の退陣を断念していないことを示唆した。「ナチズムは100%除去しなければ、数年後に再び台頭する」と述べた。
露軍は当面の作戦の主眼に据えるドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)の全域制圧に向け、東部ルハンスク州への攻勢を一段と強めている。ルハンスク州のセルヒ・ハイダイ知事は23日、露軍が州内の要衝セベロドネツク攻略に約1万2500人の兵力を投入し、砲撃も強化していることを明らかにした。
ハイダイ氏は、露軍がセベロドネツク周辺に兵士500人程度で構成する大隊戦術群(BTG)を25投入しているとの見方を明らかにした。露軍はウクライナで約100のBTGを展開しているとされ、約4分の1が集結していることになる。市内の建物の約9割が破壊されたとされる。ウクライナ軍も応戦している。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は24日、SNSで露軍によるドンバス地方への攻撃は、第2次世界大戦後の欧州では「最大規模だ」と指摘し、米欧に軍事支援を強化するよう求めた。
南東部マリウポリの市長顧問は24日、SNSを通じ、露軍の攻撃で崩壊した建物の地下から約200体の遺体が見つかったことを明らかにした。ウクライナの検事総長は23日、米紙とのインタビューで、露軍による戦争犯罪の捜査件数が1万3000件を超えたことを明らかにした。
●ウクライナ東部で攻撃激化 「戦って勝つ以外ない」とゼレンスキー大統領 5/24
ウクライナ東部ドンバス地方の掌握を目指すロシア軍は、主要都市への攻撃を強めている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は23日、動画演説で、戦って勝つ以外に選択肢はないと述べた。他方、ロシアの支援を受ける分離独立派は、南東部マリウポリの製鉄所で投降したウクライナ兵を裁判にかけることになると、ロシア国営メディアに語った。
ウクライナ東部ルハンスク州では、ウクライナの管理下にある最大都市セヴェロドネツクが、ロシア軍による激しい砲撃やミサイル攻撃にさらされている。同州のセルヒィ・ハイダイ知事は23日、セヴェロドネツクを掌握するためにロシア政府が「焦土作戦というアプローチ」をとっていると非難した。「彼ら(ロシア軍)は毎日、防衛線を壊そうとしている」、「ただ組織的に街を破壊している。どこもかしこも常に砲撃されている」とハイダイ知事は述べた。
英国防省関係者は、人口約10万人のセヴェロドネツクがロシア側の「目下の戦術的優先事項」の1つになっている可能性が高いと指摘している。
ハイダイ知事によると、ロシア軍はドネツ川に架かる複数の橋を破壊。残っている橋は1つだけで、セヴェロドネツクへのアクセスが遮断される恐れがあるという。また、ロシア軍の戦車が住宅を攻撃し、セヴェロドネツクを「地球上から」消し去ろうとしていると非難した。
ウクライナの人権オンブズマン、リュドミラ・デニソワ氏は、同市がマリウポリと同じ運命に見舞われる危険性があると指摘。「敵はセヴェロドネツクを襲撃するために全戦力を投入し、郊外では絶えず戦闘が起きている」と、メッセージアプリ「テレグラム」に書いた。
●ロシアによる港封鎖を受け穀物輸出の対応策検討 5/24
エストニアとリトアニアは、ウクライナ産穀物を輸送する貨物船をロシアが妨害する恐れがあるとして、貨物船を保護するため黒海に軍艦を派遣するよう欧州諸国に訴えている。
ロシアが事実上、ウクライナの港を封鎖したことからウクライナ政府は穀物輸出が困難になり、価格は最高値圏に押し上げられた。
エストニアのカリス大統領は、アフリカやその他発展途上国への供給確保が優先課題との考えを示した。スイスのダボスでインタビューに応じた同大統領はスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟へのトルコの反対は解決できる可能性が高いとの見方を示した一方、NATO拡大に伴う手続きは最長1年かかる可能性があると述べた。
EU、ウクライナからの穀物輸出を可能にする経路を模索
欧州委員会のスキナス副委員長によれば、フォンデアライエン委員長が示したウクライナから小麦を輸出させるための輸送経路案は食料危機を解決し、ロシアとの緊張軽減につながる可能性がある。スキナス氏は「世界経済フォーラム(WEF)」の年次総会(ダボス会議)に出席しており、現地でインタビューに応じた。
フォンデアライエン氏はこれより先、欧州連合(EU)はウクライナ国境と欧州の港を結ぶルートの開放に取り組んでいると述べた。スキナス氏によれば具体的な内容はまだ不明だが、ロシアからもある程度のコミットメントを得た上で進めていくことが望ましいとの考えを示した。
英軍が黒海への艦艇派遣を同盟国と協議、穀物輸送護衛で
英軍はウクライナの穀物を積んだ貨物船を護衛するため黒海に艦艇を派遣する案を同盟国と協議している。英紙タイムズが報じた。それによると、リトアニアと英国の外相はロシアによる海上封鎖を解除する案を協議し、それには穀物を輸入に依存する北大西洋条約機構(NATO)が参加する可能性があるという。
リトアニアのランズベルギス外相は今週の英紙ガーディアンとのインタビューで、同国はウクライナからの穀物輸出に対するロシアの封鎖を破るため海軍の有志連合を目指していると語った。
●ロシア外交官が辞職 ウクライナ侵攻を痛烈批判 5/24
スイス・ジュネーブにあるロシア国連(UN)代表部のボリス・ボンダレフ参事官が、同国のウクライナ侵攻に抗議し、辞職した。「これほど祖国を恥じたことはない」と述べている。
AFPは、ボンダレフ氏がジュネーブに駐在する各国の外交団に送付された書簡を入手。同氏はその中で、外交官としての20年のキャリアに終止符を打つと表明した。
同氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に言及し、「プーチン氏がウクライナに対して、さらに言えば西側世界全体に対してしかけた侵略戦争」を非難。「この戦争を企てた者たちの目的はただ一つ、永遠に権力の座にとどまり、豪華で悪趣味な宮殿に住み、総トン数と費用でロシア海軍全体に匹敵するヨットに乗り、無限の権力と完全な免罪を享受することだ」と糾弾した。
外交筋によれば、3か月前のウクライナ侵攻開始以来、ロシアでは複数の外交官が離職。だがボンダレフ氏ほど声高な批判を展開した外交官はこれまでおらず、同氏の辞任に対しては西側諸国や人権団体から称賛の声が上がっている。
●ロシア外交官、抗議の辞職 プーチン氏の「無分別な」戦争を理由に 5/24
ロシアの外交官が、「血まみれで、無分別の」戦争に抗議するとして辞職したことが23日、明らかになった。戦争は「プーチンがウクライナに対して吹っかけた」と述べた。外交官はボリス・ボンダレフ氏。同氏のリンクトインによると、スイス・ジュネーヴの国連機関のロシア代表部に勤務していた。同氏はBBCに、自らの考えを表明することで、ロシア政府から裏切り者とみなされる可能性があると述べた。しかし、今回の戦争をウクライナ人とロシア人に対する「犯罪」だとした自らの発言は変えないとした。ロシア政府はまだコメントしていない。ロシアは、戦争をめぐる政府の公式説明に批判的な人々や、そこから距離を取る人々を取り締まっている。政府は今回の戦争を「特別軍事作戦」とだけ呼んでいる。
外交官の訴え
ボンダレフ氏は、ソーシャルメディアに文書を投稿し、同僚外交官と共有した。その中で、「この血まみれで、分別がなく、まったく不必要な屈辱をこれ以上共有できない」とし、20年にわたった外交官のキャリアを終えることにしたと説明した。また、「この戦争を思いついた人たちの望みはただ一つ。永遠に権力の座に居座り続けることだ」とし、「それを達成するためなら、彼らは人命をどれだけ犠牲にしてもいいと思っている」と主張。「ただそれだけの理由で、すでに何千人ものロシア人とウクライナ人が死んでいる」とした。さらに、ロシア外務省は外交よりも「うそと憎悪」に関心があると、率直に非難した。
同僚の「改心」には懐疑的
ボンダレフ氏はBBCに、辞職する「以外の選択肢はなかった」と述べた。「正直言って、これが大きな変化を生むとは思わない。だが、いずれ築かれるであろう大きな壁の、小さなレンガの1つになるかもしれないと思う。そうなることを願っている」。ボンダレフ氏は、ロシアが侵攻という「過激な手段を講じた」ことに、同僚たちは当初、「幸福、喜び、陶酔」を感じていたと明らかにした。「今ではあまり喜んではいない。いくつかの問題、とりわけ経済の問題に直面しているからだ」、「しかし、そうした人たちの多くが悔い改め、考えを変えるようなことはないだろう」。そして、「それらの人々が過激さを少し弱め、攻撃性をかなり弱めるかもしれない。だが、平和的になることはない」とした。自らについては、そうした同僚とは対照的に、侵攻が始まった2月24日ほど「自分の国を恥じたことはない」と、ボンダレフ氏は書いた。
「裏切り者」になる覚悟
ボンダレフ氏が、勤務していた代表部を辞める初の外交官なのかは不明。ただ、これまで辞職を公表した職員は他にいない。ボンダレフ氏は、ロシア政府が自らを裏切り者と見なすことを覚悟しているという。だが、「違法なことは何もしていない」とする。「私はただ辞職し、自分の考えを述べた」、「しかし、身の安全はもちろん心配しなくてはならないだろう」。
<分析> スティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長
辞表にしては痛烈だった。外交官のボリス・ボンダレフ氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、セルゲイ・ラブロフ外相、ロシアによるウクライナ攻勢を、思いのままに批判した。「侵略戦争」、「最も深刻な犯罪」、「戦争屋、うそ、憎悪」……。ロシア当局者からこうした言葉を聞くのはまれだ。プーチン氏がウクライナで「特別軍事作戦」(世界の大半はロシアの戦争と呼んでいる)を開始してから3カ月、ロシアの国家機関では、反対意見を表明する動きはほとんどない。ロシア当局にとって、恥ずべきことなのか? もちろんだ。当局は、ウクライナ侵攻というプーチン氏の決定を、国家機構が全面的に支持していると示したいと思っている。しかし、1人が辞任したからと言って、他の人が自動的に続くわけではない。ボンダレフ氏は私に、自分は少数派だと認めた。差し当たっては、ロシア外務省の職員のほとんどは政府の公式見解と「特別作戦」を支持するだろうと、彼は考えている。
●「プーチン大統領は謝罪すべき」大物退役軍人がウクライナ侵攻で批判 5/24
プーチン大統領がウクライナへ侵攻する直前の今年2月、退役軍人でつくる「全ロシア将校の会」が、侵攻をやめるようプーチン大統領に直訴したことは大きな反響を呼んだ。これまでプーチン大統領を支持してきた「全ロシア将校の会」の会長、レオニード・イワショフ退役大将(78)がプーチン大統領の辞任までも訴えたからだ。その声明は、もし「対ウクライナ戦争が起きれば、ロシアの国家的存立に疑問符がつき、ロシアとウクライナは永遠に絶対的な敵となってしまう。両国で、千人単位、万単位の若者が死ぬ」と、3カ月後の現状を見通したかのような切迫感あふれた内容だった。
警告が現実となってしまう中で、そのイワショフ退役大将が、ロシアの書店協会のウェブサイトKnizhnyMirのインタビューに答え(5月4日)、改めてプーチン大統領に「知恵と経験あるものの意見に耳を傾ける」よう訴えている。このインタビューはイワショフ将軍の新著『人類−−世界の戦争と疫病』を紹介する番組だが、ほぼ全編がウクライナへ侵攻したロシア軍の批判にあてられている。イワショフ退役大将は、現役時代は国防省の要職を務め、NATOの東方拡大への強硬な批判者として知られており、その保守的論調から現在も現役将校に強い影響力を持っている。その実績と影響力ゆえか、「戦争批判」をおこなったイワショフ退役大将には「フェイク」報道の容疑もかけられていない。インタビューにはソ連時代、軍の高級将校だったイワショフ氏の歴史観が色濃く表れているが、強い報道規制がかかるロシアではきわめてまれな政権批判と言えよう。
歴史上「経験したことのない」危機的状況
軍事行動というものは、個々の戦闘を組み立てる「戦術」の面では、現場の部隊が見事な働きをして成功を収めることもありうる。しかし、上層部で大局的な「戦略」を立てる時、間違った決定が下されると、どんなに現場が奮闘しようが、作戦は失敗し兵士の勇敢な戦いも無に帰してしまう。戦争全体の勝利を最終目標とした正しい戦略が用いられれば、部隊が戦闘で負けても、全体として破局的な敗北に至ることはない。
英米や中国では、そうした「戦略」の研究が行われているのだが、ロシアの上層部ではおろそかにされている。大局的な戦略というものは、対立する他国との関係のなかで自国の最大限の利害を探る「地政学」的に、どんな結果をもたらすかを精査したうえで決定されなければならないのだが、ロシア軍ではその研究が行われていない。スペシャリストはいるが、軍に登用されることはない。
今回の特別軍事作戦では、初期の段階で戦略的な間違いがあったため、兵士はよく戦っているが、作戦は滞っている。ウクライナ領土のいくばくかは獲得できるかもしれないが、地政学的にはすでに敗北を喫した。われわれが直面しているのは、ロシアの歴史上、これまで経験したことのない危機的な状況なのだ。
欧米の長年の“夢”を実現させてしまった「特別軍事作戦」
地政学的に間違った選択をすると、戦略も間違えることになり失敗する。そうなると現場でのせっかくの成果もゼロになる。これが戦争の本質だ。
アメリカや欧州各国は、NATOの元で団結し、「ひとつの拳」となってロシアを叩きのめすことを長い間、望んでいた。EUもロシアの石炭産業を締め出したかったのだが、結局今回、貿易そのものを止めることになった。
以前アメリカは、ドイツとそれに続いていくつかの国がロシアと軍事協力体制を組むことを何よりも恐れていた。私が現役だった1990年代、ユーゴ空爆の1998年までは、ロシア軍とドイツ軍との間には62の合同イベントがあり、合同軍事演習も行われ、軍事装備の協力もあった。米軍との合同イベントは8つだけだった。アメリカの軍人は私に不平を言ったが、「ロシアとドイツは地理的にも近く、合同イベントは対テロ対策で必要だ。アメリカは遠い」と言い返したものだ。ドイツのコール首相やシュレーダー首相の頃、アメリカは気が気でなかったはずだ。それがいまやアメリカと欧州の対立は解消され、アメリカは自らの原理原則のもとに、経済制裁だけでなく、反ロシア、ウクライナ支持という旗の下に、すべての欧州の国々を結集させてしまった。
アメリカがやりたかったことは、19世紀のドイツ帝国宰相ビスマルクが望んだように、ウクライナをロシアから切り離しさえすれば、ロシアに勝てる、ということだった。1948年8月にアメリカの安全保障会議がまとめた「米国の対ソ戦略」の中で、軍事戦略とならんで中央アジアやコーカサス、バルト3国に対する対応が書かれているが、ウクライナについては特に重点が置かれている。そこには、ウクライナ人とロシア人を分けることは困難だ、彼らは一つの民族である、それゆえに亀裂を作り出す必要がある、さらにこの亀裂を政治的対立や軍事紛争にまで拡大する必要がある――と書かれていた。まさに今、このアメリカの思惑が実現している。ジェルジンスキー(※ソ連秘密警察の創始者)が言っていたように、「ロシアはウクライナがあって初めて世界の大国であり、ウクライナを欠いたロシアはただのアジアの一国家にすぎない」のだ。
英米両国にとっては、中央アジアもコーカサスもロシアからもぎ離し、ロシアを孤立させる、というのが19世紀末以来の構想だった。こうした長年の夢を今回の「特別軍事作戦」は実現させてしまった。
スターリンの時代にもなかった「歴史的孤立」
たとえキエフ(キーウ)を奪取しても、われわれは世界で孤立している。国連で誰がロシアに賛成票を投じてくれるというのか。中国さえ棄権している。CIS諸国(旧ソ連の国々)も、反ロシアの経済制裁に加わっていくだろう。残るのはベラルーシだけだ。ロシアがこんなに孤立したことはなかった。
スターリンが第二次大戦直前にやったことを思い返してみればわかる。戦争の匂いをかぎ取ったスターリンは、英米というアングロサクソンの大国をさえソ連の側に引き寄せた。日本との関係には問題があった。しかし1941年春、日本の外務大臣(松岡洋右)がモスクワを訪問した時、スターリンは自ら4度も会い、出発の際には、未曾有なことだが、スターリンが駅頭で見送ったのだ。外務大臣をスターリン自身が見送りにきた唯一の例だ。そして日本と中立条約を結んだ。つまり東と西で安全保障環境を整えたわけだ。
1941年6月、ナチスドイツが電撃作戦を開始した当初は困難な立場に置かれたが、スターリンは英米がソ連支持を表明することを確信していた。日本も動かなかった。その間、ソ連は日本に対する軍備を整え、蒋介石の国民党にも中国共産党にも援助をして日本をがんじがらめにした。
ところが現在、われわれは裸のままだ。
ロシアは情報戦争でも「完全に敗北した」
われわれは何をすべきだろうか。どんな戦争でも勝利するのは知性だ。ハリコフを取ろうが、たとえ沿ドニエストル地方を奪って戦闘に勝利しようが、対立する他国との関係のなかで自国の最大の利害を探るという「地政学的な」戦争では敗北した。
現代の世界には不正や暴力があふれているが、しかしロシアはこのひどい世界の中でも最悪の状態に置かれることになるだろう。この70年でロシアは、特に技術と社会状態は最悪の状態に落ちる。1937年の大粛清のような抑圧がある。「勝利勝利!」と叫ばされ、「戦争反対」と言っただけで投獄されるような法律はスターリンの時代にもニコライ二世の時代にもなかった。
大統領は知恵と経験のある者たちを集めて虚心に意見を聞くべきだ。地政学的な俯瞰図を描き、民衆の心理を示し、社会の極端な階層化、矛盾について論じる必要がある。経済の状況と見通し、安全保障の現状などの客観的分析が必要だ。そして第二に、この状況からどう脱出するかという具体的プランを立てることだ。いろいろな意見が出るだろう。その中から指導者がプランを決め、そのプランに基づいてプロフェッショナルを集める。ふんぞりかえって大声を出すだけで何の役にも立たない者ではなく、役に立つ専門家を集めて、世界におけるロシアの位置を話し合う。ロシア大統領に電話しようという指導者がこの世界のどこにもいない状況だ。大統領は謝罪し、処罰すべき者を罷免し、政府のトップには「特別軍事作戦」に反対する者を据えることだ。大統領も詫びるのだ。
いま世界中の国でロシア人は大変困難な立場に置かれている。ロシア語を話しただけでいじめられたり殴られたりしている。われわれは情報戦争に完全に負けたのだ。ウクライナではロシア軍は花束を持って歓迎されるとか、儀礼用の軍服をした兵が出迎えてくれる、などという誤った情報が上層部まで届いていたのだから。ロシアの戦車は最強だなどと言って敵を侮って過小評価するのは最悪だ。
ショイグ国防相は軍事の素人…「プロが必要だ」
ウクライナ軍はこの20年、ことに2014年以降、プロの軍人に率いられてきた。国防相が文官の場合でも、参謀総長にはすぐれた将軍が抜擢されてきた。ロシアではこの20年間プロの国防相は一人もいない。欧米諸国では国防相に文民が就いているというが、西側とロシアとではまったく事情が異なる。西欧諸国では選挙で勝った与党から国防相が出ることが多いが、これはシビリアンコントロールで、軍機構の再編や国防予算の獲得などに奔走する。
だがロシアでは国防相は最高司令官だ。軍の戦闘準備態勢も決める。素人がその職について、自己PRとしか思えない演習実施を命令するような国はロシアくらいだ。ショイグ国防相は軍事には素人だ。国防第一次官のルスラン・ツァリコフも軍務の素人なのに階級は将軍だ。しかも参謀総長には一流とはほど遠い軍人がついている(2012年からワレリー・ゲラシモフ)。アメリカの統合参謀本部議長は実質的な軍のトップだ。しかし現在のロシアは参謀本部もプロを遠さげている。
いまロシアにはプロフェッショナリズムが必要なのだ。最高の愛国主義者は、テレビでプーチンの腰巾着ぶりを見せる者ではなく、プロの軍人だ。軍人と言う職業を愛し、民衆を思う者こそが最高の愛国者だ。今日ロシアに必要なのはそういう人間だ。
●ロシア将校、危険冒してプーチン氏の戦争から離脱 内幕明かす 5/24
手りゅう弾の入った木箱をベッド代わりに就寝し、募る罪悪感を胸にウクライナ人から顔を隠すこと数週間。ロシアの下級将校はひとつの結論に達した。「これは自分が戦うべき戦争ではない」と。「みなぼろ切れのように疲れていた。周りでは人が死にかけていた。自分がその中にいるとは考えたくなかったが、実際そうだった」と、その将校はCNNに語った。彼は上官のもとへ行き、その場で除隊を願い出たという。CNNでは将校の身の安全を考慮し、氏名や個人の特定につながるような情報は記載しない。彼の話には驚かされるが、そうした人々が大勢いる可能性もある。ロシアやウクライナの反戦論者によると、戦いを拒む兵士――職業軍人も徴集兵も――のケースが後を絶たないようだ。米国防総省をはじめとする西側諸国の分析によれば、ロシアの部隊はウクライナで士気の低下と多大な損害で苦戦している。英政府通信本部によれば、命令に従うのを拒む者すら出ているという。CNNはロシア国防省にコメントを求めたが、返答はまだ得られていない。
知らされなかった任務
CNNの取材に応じた将校は、世界にウクライナ危機の懸念を引き起こした、ロシア西部での大規模な軍備増強に加わっていたという。だが本人はそれについて深く考えていなかった。ロシア南部のクラスノダールに駐留中の今年2月22日、所属していた大隊の全隊員が何の説明もなく携帯電話を預けるよう命じられた際も、あまり深く考えなかった。その夜、隊員らは数時間かけて軍車両にストライプの白線を塗装したが、その後全部洗い流すよう命じられたという。「命令が変わって、怪傑ゾロに出てくるようなZの文字を描けと言われた」と、彼は当時を振り返った。「翌日はクリミアに派遣された。正直、ウクライナに行くとは思わなかった。こんなことになるとは全く思ってもいなかった」と将校は言う。自身の部隊がクリミア――2014年にロシアが併合したウクライナの州――に集まったころ、ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナへのさらなる侵攻に踏み切った。2月24日のことだった。だが将校と仲間たちはそのことを知らなかった。ニュースが自分たちに伝わってこなかったからだ。携帯電話を奪われ、彼らは外の世界から隔絶されていた。ウクライナ進軍を命じられたのは2日後だったとその将校はCNNに語る。「中にはかたくなに拒否する者もいて、除隊願いを出して去った。彼らがどうなったのかはわからない。私は残ったが、(彼らが去った)理由はわからない。翌日、部隊は進軍した」その将校は任務の目的を知らなかったという。ロシアの一部であるウクライナを「非ナチ化」しなければならないというプーチン大統領の爆弾発言も、戦うことを求められた兵士たちの耳には届かなかった。「『ウクライナのナチス』といったフレーズをたたきこまれたことはない。目的は何なのか、自分たちがここで何をするのか、誰もわかっていなかった」将校はずっと外交的解決を望んでいること、ロシアのウクライナ侵攻に罪悪感を感じていることをCNNに語った。だが、政治については詳しくないとも付け加えた。
紛争地へ
長い車列をなして部隊が国境を越えた。その後の出来事で兵士たちの頭に真っ先に浮かぶのは、散乱するロシアの固形食糧の箱と破壊された兵器の山だった。「私はカマーズ(トラック)の座席で銃をしっかり構えていた。他に拳銃1丁と手りゅう弾2個を携えていた」と兵士は言った。部隊は北西のヘルソン方面へ向かった。とある村に近づくと、むちを持った男性が飛び出して車両をむち打ち、「お前たちはみなくそったれだ!」と叫んだと将校は振り返る。「その男は我々がいた運転台によじ登ろうとした。目に涙を浮かべて泣いていた。強烈な印象を受けた」「たいてい地元住民を見かけると、こちらも身構えた。彼らの中には服の下に銃を隠し持っていて、近づくと発砲する者もいた」将校は罪悪感と身の安全から顔を隠していたという。ウクライナの土地にいる自分たちを見るウクライナ人の視線に、いたたまれない思いをしていたからだ。将校によれば、ロシア軍は激しい攻撃にも遭ったという。ウクライナ侵攻から2日目か3日目には迫撃砲で狙われた。「最初の週のころ、私はショックの余波が続いている状態だった。何も考えられなかった」と彼はCNNに語った。「寝る時も、『今日は3月1日、明日目が覚めたら3月2日――とにかく目の前の1日を生きよう』としか考えなかった。ものすごく近くに砲弾が落ちたことも何度かあった。誰も死ななかったのは奇跡だ」
兵士たちの反応
その将校がCNNに語ったところでは、なぜ自分たちがウクライナ侵攻に駆り出されたのか疑問に感じたり、混乱したりした兵士は将校だけではなかった。だが中には、やがて戦闘ボーナスがもらえると喜ぶ者もいたという。「『あと15日ここにいればローンが返済できる』と言っていた者もいた」数週間後、その将校は修理が必要な兵器に同行する形で後方に配備された。そこで実情を詳しく知り、じっくり考える時間と気力ができたという。「そこには無線受信機があって、ニュースを聞くことができた」と将校はCNNに語った。「それでロシア国内の店が営業を停止し、経済が崩壊していることを知った。そのことに罪悪感を覚えた。だがそれ以上に、ウクライナに来たことに罪悪感を感じた」将校は決意を固め、自分にできることはひとつしかないと悟った。「ようやく力を振り絞って司令官のところへ行き、除隊を願い出た」始めのうち、司令官は申し出を却下し、兵役を拒むことはできないと告げた。「軍事裁判もあり得ると言われた。戦闘拒否は裏切りだと。だが私は譲らなかった。司令官は紙とペンをよこした」。将校はその場で除隊願いを出したという。
相次ぐ「リフューズニク(戦闘拒否兵)」の報告
厳しく統制されたロシア国内のメディアでも、戦闘拒否兵のニュースは他にも報道されていた。「ロシア兵士の母の委員会連合」のワレンチナ・メルニコワ事務局長の話では、第1陣として出兵した部隊がウクライナから帰還すると、苦情や懸念の声が数多く寄せられたそうだ。「兵士や将校は、前線には戻れないと言って除隊願いを出した」と、メルニコワ氏はCNNに語った。「主な理由のひとつは精神状態、2つめが良心の呵責(かしゃく)だ。除隊願いを出す兵士は今も後を絶たない」1989年に結成された同組織を率いるメルニコワ氏によれば、どの部隊にも除隊願いを出す権利があるが、一部の司令官が却下をしたり、兵士に脅しをかけたりする場合があるという。同団体では、除隊願いの書き方を兵士にアドバイスしたり、法的支援を行ったりしている。ウクライナ国防省情報総局は、南部軍管区のロシア第8陸軍第150自動車化狙撃師団をはじめ、複数のロシア部隊で兵士の60〜70%が兵役を拒否していると報告した。CNNはこの数字を確認できていない。メルニコワ氏は、ロシア国内でもウクライナでの戦闘を拒む兵士の報告例が「多数」寄せられているとCNNに語ったが、法的および安全上の懸念から詳細は控えた。人権活動家で、ロシア徴集兵の支援団体を運営するアレクセイ・タバロフ氏は、除隊した兵士2人から個人的に相談を受けたとCNNに語った。「彼らもまた戦闘を拒んで帰還した。相談を受けたのは2人だが、彼らが除隊した旅団には他に約30人の戦闘拒否兵がいた」とタバロフ氏はCNNに語った。タバロフ氏によれば、兵士たちは除隊願いを出すにあたり、契約に同意した際に対ウクライナ特別軍事作戦に参加することには同意していなかったことを理由に挙げたという。ロシア軍では無許可離脱は軍事犯罪として禁錮刑が科される可能性がある。だが契約に基づく兵士は離脱の理由を説明すれば、10日以内に除隊する権利が認められている。「こうした現象は大規模だとは言えないが、かなり顕著だ。他の組織からの報告と間接的に聞いた情報を合わせれば、その数は推定1000件以上にのぼる」とタバロフ氏はCNNに語った。同氏の話では、ロシアでは今も新兵募集が行われているという。新兵は将来への展望が少ない貧しい地域の出身者であることが多い。戦争が始まって以来、ウクライナでは数千人規模でロシア兵が命を落としている。ウクライナ軍の推定では、ロシア軍の死者は2万2000人以上。ロシア国防省が最後に死者を発表したのは3月25日で、この時の数字は1351人だった。CNNは最新情報をロシア国防省に問い合わせたが、返答はなかった。CNNの取材に答えた将校は、現在家族とともにいる。「この後どうなるのだろう――わからない」と彼は言う。「だが、家に戻ることが出来てうれしい」
●米国の言いがかり?中国が反論する「ウクライナ戦争を巡る10の疑惑」 5/24
ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、アメリカから多くの批判を浴びている中国。日本においても「疑惑」の粋を出ないそれらの批判が、あたかも事実かのように受け取られ流布されているのが現状ですが、そのような姿勢は結果的に国益を損なうことに繋がる危険もあるようです。今回は、多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、国際問題を考える際に「自国と他国の認識の違い」を意識する重要さと、こうした視点の欠落が招く好ましからざる事態を提示。その上で、中国が自国以外の報道や資料を根拠として理路整然と反論する、アメリカからの10項目の批判を紹介しています。

国際問題を語るとき認識の違いを意識することは極めて重要だ。国と国との関係では、それが誤解を先鋭化させ紛争に至ることもあるからだ。対立の激化を避け、衝突の芽を先回りして摘むことができれば、それだけで国に対する貢献は計り知れないほど大きい。なんといっても戦いよる破壊やコストを免れ、逆に発展の成果を手にできるのだ。戦争が総力戦となり互いにへとへとになるまで「止められない戦争」となった第一次世界大戦以降では、この発想が重要なのだ。
だが、現在の国際環境においてそうした考え方が主流になることはない。認識のギャップを埋めようとすれば相手の視点から物事を理解する必要が生じ、そんなことをすれば自国で相手国の代弁者と罵られ、政治家ならば国益意識の低い者と蔑まれるのが関の山だからだ。場合によっては怯懦、売国奴と謗られることさえある。
ただ主流ではないと言っても価値がなくなるわけではない。だから今回の原稿では中国の視点に立ったアメリカの正義に対する疑義を並べてみようと思う。
民主主義という御旗を掲げてアメリカが行う正義の遂行は、同国と同盟関係にある日本と、時にそのターゲットになる中国ではギャップが鮮明だ。
西側と中国との間のギャップに具体的に触れる前に、少しウクライナ戦争をめぐる視点の難しさについて触れておきたい。
先日、あるロシア出身の学者の研究会に参加した。そのとき、「周囲が海に囲まれて国境が固定されてきた日本と、しょっちゅう国境が動くヨーロッパでは、今回のウクライナ戦争のとらえ方は違う」との発言があった。そこには思い当たる点があった。
ロシアのウクライナ侵攻が正当化されるという意味ではない。将来起こりえる日欧のギャップが見える気がしたのだ。「和解に対する認識の差」が日本人を動揺させる場面があるかもしれない、と言い換えるべきかもしれない。ロシアとウクライナの問題が、案外あっさりと和解へと進む可能性だ。
そうなったとき「絶対に許せない」という価値観で結びついていた日本人は少なからず戸惑うのではないだろうか。
そもそもロシアとウクライナの戦争は「民主主義vs.非民主主義の闘い」であり、戦争の目的が民主主義の防衛であれば、ロシア軍の敗走かプーチン政権の崩壊以外に納得できる終わり方はなかったはずだ。日本はその大義の下でロシアに経済制裁を仕掛けた。だが、ウクライナやその後ろにいる米欧がより現実的な選択をしないと言い切れるだろうか。これまでの歴史を考えれば否定はできない。ロシア人学者が指摘したギャップはそれを思わせたのである。
ところで日本人には死守すべき「民主主義」という価値観に確固たる基準があるのだろうか。例えば、ウクライナがロシアと比べ「民主主義の優等生だった」と具体的な例を挙げて説明できるのだろうか、という意味だ。
ロシア専門家にも訊いてみたが、自信をもって答えられた人は皆無だった。多くの日本人にすれば、独裁者・プーチンと対立するポジションだからウクライナは民主主義の側だという程度の話だ。これは中台関係における台湾の位置づけにも通じる話なのでいつか詳しく書きたい。
さて前置きが長くなったがロシア・ウクライナ戦争をめぐるアメリカの中国批判で、中国が反論を試みているのが10項目ある。以下に並べてみよう。
1. アメリカの情報機関は、中国はロシアのウクライナ侵攻を食い止める力はないといいながら、北京冬季オリンピックが終わるまで侵攻しないでほしいと要求し、かつ中国はロシアに軍事物資を援助している
2. 2月4日に中ロが発表した共同声明は中国のロシア支持の証拠であり、ウクライナ侵攻も暗に了解した
3. 中国は「アメリカがウクライナに生物兵器を持っている」というロシアの偽情報の拡散を助けている
4. 中国は「ウクライナ問題の本質はNATOの東方拡大だ」というロシアの作り話を拡張する役割を果たしている
5. 中国は「ウクライナ戦争の最大の受益者はアメリカの軍需産業」と報じ、世界の目を問題の本質からそらそうとしている
6. ウクライナ問題の平和解決に向けて建設的な貢献をしていない
7. 中国は「国家主権と領土保全の尊重」を唱えながら、現実には国連憲章の国家関係の基本準則を無視している
8. 国連におけるロシア非難決議に中国が賛成しないのは歴史的な誤りである
9. アメリカが発動した対ロ制裁に加わらない中国は誤りだ
10. ロシアとウクライナの衝突は「民主主義と専制主義争い」だ
取り上げたのはこの10の論点だ。
すでに日本では既成事実化された情報もあることに気が付くだろう。だが、中国の反論は極めて詳細で、しかも論拠の多くは中国以外の国の報道や資料だ。
例えば1.の中国の対ロ軍事物資の援助疑惑は、アメリカ政府自身──サリバン大統領補佐官や国防総省のカービー報道官など──がその疑惑を否定したケースだ。
だが、繰り返しになるが日本では多くの人が中ロ間には「暗黙の了解」があったと信じている。とくにメディアがロシアや中国の疑惑を報じるとき、半ば既成事実化したものとして扱うケースも少なくない。
この特徴が逆の意味で発揮されたのが3.のアメリカによる生物兵器開発疑惑だ。日本メディアの多くは「ロシアが一方的に報じているところによると」とこのニュースを報じている。中国の位置づけは、その「一方的な情報を拡散する」一味である。
だが、中国は反論する。根拠はアメリカが「全世界30カ国で336カ所の生物実験室を管理している」という事実やウクライナで46カ所の国防総省と協力関係にある施設が存在する事実だ。フォックス・ニュースも、「アメリカ政府がウクライナを援助し危険な生物実験を行った」(2022年月10日)と報じている。フェイクの一言では済まされない疑惑だとの反論だ。 

 

●ウクライナ戦争で明白になった「経済のボーダレス化」その先に待つ未来は 5/25
ロシアによるウクライナ侵攻は未だ決着の糸口が見えず、世界経済にも大きな影響を与えている。果たしてこのウクライナ問題はどう着地するのか、そして世界経済はどうなっていくのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、100年前の世界情勢との類似点も振り返りながら考察する。
ロシアのウクライナ侵攻はますます混迷の度を深めている。5月9日の対独戦勝記念日の演説でプーチン大統領は武力行使をウクライナでの「ナチス・ドイツの復活」を阻止するための「やむを得ない、唯一の正しい決断だった」などと正当化したが、「ナチスの復活」は事実ではなく、軍事侵攻の大義名分にはならない。それどころか、プーチン大統領こそが一方的にポーランド侵攻を断行したヒトラーと同様の狂気的な侵略・殺戮を繰り広げている。
果たして、これからロシアはどうするのか? 戦術核や化学兵器などでウクライナ軍の拠点を壊滅させ、一方的に勝利宣言するかもしれないが、プーチン大統領がいる限りロシアに対する経済制裁は続く。何をもって戦争の勝利・終結とするのか、着地点が全く見えない状況になっている。
世界大戦を招いた100年前の教訓
明らかなのは、世界経済が今後ますます混乱し、物価高の進行で疲弊していくことだ。第二次世界大戦以降の経済至上主義やボーダレス経済は戦争抑止に意味がなかったことが明らかになったという議論もあるが、それは違う。
ウクライナ戦争は従来の国民国家の枠組みが崩れて人、モノ、カネ、企業、情報が軽々と国境を飛び越えるボーダレス・ワールドになっていることをプーチン大統領が理解していなかったがゆえに起きたものであり、むしろ、いかに今の世界がボーダレスな「連結経済」になっているかということを改めて明白にした。
ロシアとウクライナは欧州向けの天然ガスや原油に加え、小麦、トウモロコシ、ヒマワリ油などの輸出量で世界の大きなシェアを占めている。たとえば、小麦はロシアが1位、ウクライナが6位、トウモロコシはロシアが8位、ウクライナが4位だ。トウモロコシは人間の食料のほか家畜の飼料や燃料などにも使われ、輸入量は日本が世界一である。
また、食用油やスキンケアオイルなどに利用されているヒマワリ油は、生産量も輸出量もウクライナが世界1位、ロシアが同2位だ。
今回の戦争の影響でウクライナとロシアからヒマワリ油が供給されなくなったため、インドネシアとマレーシアのパーム油が高騰しているが、パーム油は加工食品のほか、食器・洗濯・掃除用の洗剤や石鹸・シャンプーなどに欠かせない。
このように見てくると、早期に停戦協議がまとまらなければ、天然ガスと原油、穀物、植物油脂の不足によって世界的な物価上昇が加速することは避けられないことがわかる。ウクライナの国土荒廃やロシアに対する経済制裁は一過性の問題ではなく、これから長期にわたって世界経済に悪影響を及ぼすのだ。
すでに第三次世界大戦が始まっているという見方もある。だが、そう判断する前に改めて今の世界情勢を俯瞰してみるべきだと思う。
私自身、2021年正月に本連載で、100年前に「スペイン風邪」が猛威を振るい、その後に欧米でも日本でも物価が高騰して1929年のアメリカ株バブル崩壊に端を発した世界恐慌、そして第二次世界大戦へつながっていったという歴史のアナロジー(類推)を指摘した。その時点では今日のロシアのウクライナ侵攻までは予想できなかったので、パンデミックやインフレ加速、株バブル崩壊などの類似から「いつか来た道」への警鐘を鳴らしたが、まさに現在、世界は100年前と同じ轍を踏みかねない状況になっている。
いま人類が問われているのは、世界大戦や世界恐慌を繰り返さない知恵があるかどうか、である。では、どうすればよいのか? もはや経済のボーダレス化は不可避であり、不可逆的である。となれば、我々は国民国家の枠組みを超えていっそう密接に経済でつながり、民族・宗教の違いや領土をめぐる争いのない時代へと向かうべきだろう。
「歴史は繰り返す」と言われるが、「賢者は歴史に学ぶ」とも言われる。賢者ではないプーチン大統領が何をしようと、決して世界大戦の過ちを繰り返さないように“その他世界”の市民たちが頑強なスクラムを組んで立ち向かう必要がある。ロシアのウクライナ侵攻は対岸の火事ではないのだ。
●ウクライナ侵攻 「出口なき戦争」の現在地、その被害と損失戦力 5/25
2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、3か月を経ても先が見えず泥沼化の様相を呈している。圧倒的な戦力差で襲いかかったロシアは、ウクライナの反抗に苦戦を強いられている。両国の損失戦力とウクライナの被害の全容とは──。
ロシアによるウクライナ侵攻は、東部を中心に激しい攻防が続いている。ハルキウ州の6つの集落など、ウクライナはこれまで1000以上の集落を奪還。ロシアに対し、大規模な反撃を展開している。
「ロシアの戦力は4分の1以上が失われています。散らばった兵力を再編成していますが、弱体化していることは間違いありません」(軍事評論家・黒井文太郎氏)
軍備で大きく劣るウクライナだが、西側諸国からの兵器供与は拡大している。なかでも米国から5500基以上供与された対戦車ミサイル「ジャベリン」は、ロシアの戦車部隊撃退に大きな威力を発揮している。
「しかし、ロシアを追い出せるほど戦力に差があるわけではありません。プーチンが負けを認めない限り停戦は見込めず、戦いは長期化するでしょう」(黒井氏)
大国ロシアによる侵略戦争は、先の見えない消耗戦となって世界を揺るがす。
ロシアのウクライナの侵略3か月
   3月上旬 ハルキウ州イジューム 集合住宅
44人死亡/砲撃を受けた5階建て集合住宅のがれきの中から民間人44人の遺体が発見された。住民たちは砲撃から逃れるため地下に隠れていたという。
   3月9日 マリウポリ 小児科・産婦人科の病院
17人負傷/ロシア軍の空爆で少なくとも17人の職員が負傷。ドネツク州知事の発表によれば、子どもの負傷者はなく死者も出ていない。
   3月16日 マリウポリ劇場「ドネツク・アカデミック・リージョナル・ドラマシアター」
約600人死亡/多数の民間人が避難し、建物の前に大きくロシア語で「子どもたち」と描いていたが、建物が完全に破壊されるほどの攻撃を受けた。
   4月8日 ドネツク州 クラマトルスクの鉄道駅
52人死亡/女性や子どもなど約4000人の避難民でごった返していた鉄道駅に弾道ミサイルが撃ち込まれ、少なくとも52人が犠牲になったと見られる。
   4月14日 黒海 ミサイル巡洋艦「モスクワ」沈没
1人死亡、27人行方不明/黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ」がウクライナの対艦ミサイル2発によって沈没。ロシア側は当初、弾薬の爆発による損傷と発表していた。
   4月18日 リビウ軍事施設や自動車整備工場
7人死亡、11人負傷/4発の着弾で7人が死亡。ロシア側によれば、軍事物資の補給輸送センターへの誘導ミサイルの攻撃で、欧米から支援された兵器を大量に破壊した。
   5月7日 ルガンスク州 ビロホリフカ村 学校
約60人死亡/約90人が避難していた学校が空爆され、約60人が死亡。ゼレンスキー大統領は「ナチスが欧州にもたらした悪の再現」と強く非難した。
   5月11日 マリウポリ アゾフスタル製鉄所
死傷者数不明/製鉄所に立てこもるウクライナ軍は、5月11日、「過去24時間の間に38回の空爆があった」と発表した6日後に撤退を開始。ロシア軍のマリウポリ制圧が現実味を帯びる。
ロシアとウクライナの通常戦力と損失戦力
   ロシア通常戦力
兵力/85万人、戦車/1万2420両、装甲車両/3万122両、自走砲/6574基、多連装ロケット砲/3391両、戦闘機/772機、攻撃機/739機、ヘリコプター/1543機、攻撃ヘリコプター/544機、航空母艦/1艦、駆逐艦/15艦、フリゲート艦/11艦、コルベット/86艦、潜水艦/70艦、巡視船/59隻
   ロシア損失戦力
戦車/671両、装甲戦闘車両/365両、歩兵戦闘車/721両、装甲兵員輸送車/108両、耐地雷・伏撃防護車両/26両、歩兵機動車/109両(写真【1】)、指揮通信車両 /74両、工兵・支援車両/141両(写真【2】)、自走式対戦車ミサイルシステム/14、重迫撃砲/13基、牽引砲/61基、自走砲/113基、多連装ロケット砲/66基、対空砲/6基、自走対空機関砲/15基、地対空ミサイルシステム/59、レーダー/10、電子妨害・攪乱システム/8、航空機/26機【3】、ヘリコプター/41機、無人航空機/61機、艦艇/9艦、軍用物資補給列車/2両、トラック・ジープ・各種車両/957両
   ウクライナ通常戦力
兵力/20万人、戦車/2596両、装甲車両/1万2303両、自走砲/1067基、多連装ロケット砲/490基、戦闘機/69機、攻撃機/29機、ヘリコプター/112機、攻撃ヘリコプター/34機、フリゲート艦/1艦、コルベット/1艦、巡視船/13隻
   ウクライナ損失戦力
戦車/163両、装甲戦闘車両/80両、歩兵戦闘車/117両、装甲兵員輸送車/67両、歩兵機動車/93両、指揮通信車両/2両、工兵・支援車両/13両、自走式対戦車ミサイルシステム/10、牽引砲/26基、自走砲/31基(写真【4】)、多連装ロケット砲/17基(写真【5】)、対空砲/3基、自走対空機関砲/2基、地対空ミサイルシステム/43、レーダー類/23、航空機/20機(写真【6】)、ヘリコプター/7機、無人航空機/22機、艦艇/17艦、トラック・ジープ・各種車両/290両
   NATO陣営がウクライナに提供した主な兵器
自爆型ドローン「スイッチブレード」700機以上 / 攻撃型ドローン「フェニックスゴースト」121機 / 対戦車ミサイル「ジャベリン」 5500基以上 / 装甲兵員輸送車「M113」200両 / 155ミリりゅう弾砲 90門(弾薬 約20万5000発) / 地対空ミサイル「スティンガー」1400基以上 / 対戦車ミサイル「NLAW」3615基
●新たに20カ国が軍事支援表明 5/25
米国防長官が関係国の防衛当局による会合を開き、約20カ国がウクライナへの新たな軍事支援を表明した。このうちデンマークは地対艦ミサイルを提供する。戦火は依然やむ様子はないが、首都キーウ(キエフ)の大学では復興に向けオンライン講義を再開する動きも。
デンマークは地対艦ミサイル提供へ
オースティン米国防長官は23日、ウクライナを防衛するため、関係国の防衛当局による会合をオンライン形式で開催した。約20カ国が新たな軍事支援を表明、デンマークは地対艦ミサイル「ハープーン」の提供を表明したと明らかにした。
キーウの大学がオンライン講義再開
キーウ国立工科大(KPI)の一部学部がオンライン講義を再開した。ロシア軍との戦闘が断続的に続き、学生や大学職員に死者も出ている。戦火の中での講義再開の理由を同大のミコラ・プシカル准教授らに聞いた。
ウクライナに戦時下ポスター
ウクライナ各地の街頭では戦時下を感じさせるポスターが多数掲示されている。ユーモアを込めて市民を鼓舞するものや、「戦争英雄」をたたえるものなど内容はさまざまだ。現地に入っていた特派員が報告する。
●式典に招待されなかった駐日ロシア大使、「恥ずべき措置」と日本非難 5/25
ロシアのウクライナ侵攻を受け、広島市が8月6日の平和記念式典にロシアの代表を招待しないと明らかにしたことをめぐり、ロシアのガルージン駐日大使は25日、「恥ずべき措置」だとしてSNSで日本側を非難した。
ガルージン氏は日本側を「ロシアがウクライナでの核兵器使用をもくろんでいるというばかげた作り話を、恥知らずにもあらゆる手を尽くして拡散している」と批判。式典に招待されなかったことについて、「核不拡散と核兵器の最終的な廃絶を目指すリーダーである国が、このような状況にあることは注目すべきだ」と反発した。
●ゼレンスキー大統領 単独インタビュー(全文)ロシア侵攻3か月  5/25
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻が始まってから3か月となった24日、日本メディアとしてはじめて、NHKの単独インタビューに応じました。全文は以下のとおりです。

Q ロシアによる侵攻が始まってから3か月。現在の戦況をどのように見ていますか?
侵攻初期が、最も困難な状況でした。世界は、ウクライナは3日間もすれば、ロシアに占領されてしまうと考えていました。一方で、世界のいくつかの国は、私たちがロシアに抵抗する準備ができていると信じてくれました。彼らには感謝しています。しかし、3日でもなく、30日でもなく、もう3か月が経過しました。ロシアは我々の土地を占領するどころか、一歩後退も始めています。世界がウクライナを中心にまとまったおかげで、ロシアに対する制裁も効果が出始めています。
Q 日本のウクライナ支援をどのように見ていますか?
岸田総理大臣とは、4、5回、電話で会談をしました。日本はウクライナを、明確で、率直に、また実質的で全面的に支持してくれました。これは非常に重要なことです。日本はロシアとウクライナの間で、どのようにバランスを取るかを模索していました。ロシアとの間で、複雑な状況を抱えているにもかかわらず、日本の態度は率直で直接的でした。私は日本の政府と国民に感謝しています。しかし、市民を解放するためには、ウクライナは支援をいまも必要としています。都市の封鎖を解除し、人々に食料、飲料水、医薬品を届けること。これは人道的危機を解決するために非常に重要です。また、黒海とアゾフ海付近の海域が封鎖されているため、トウモロコシなどの穀物を輸出することができなくなっています。これはウクライナだけでなく、ヨーロッパ、アジア、アフリカにとって、非常に重要なことです。彼らは穀物を必要としています。私たちは2200万トンの穀物を保有していますが、ロシアによって邪魔されています。封鎖された海域を解除するためには、兵器が必要です。スウェーデン、ノルウェー、オランダ、日本にある対艦ミサイルが必要で、日本政府の支援に期待しています。
Q 日本はウクライナへの支援を明確にしていますが、アジアの国々を味方につけることはどれだけ重要ですか?
これは私たちにとって非常に重要なことです。ロシアがウクライナで行っていることは、外国領土の占領、略奪、住民の拷問、大量虐殺、重要産業の妨害、原子力発電所やインフラの破壊などで、もしこのようなことが許されるなら、ロシアだけでなく、攻撃や占領を考えている他の国にも、そうした行為を許してしまうことになります。そしてそれは、世界を占領するための起爆剤のようなものになるでしょう。だからこそ、アジアの民主主義の国々の支援がウクライナにとって非常に重要なのです。
Q ロシアと関係が深い、中国の動きについてはどのように考えていますか?
中国がロシアと一体化することは望ましくありません。このことは日本も非常によく理解していると思います。そのため、日米豪印4か国の枠組み、クアッドの会合はとても重要なことだと思います。このようなサミットは、間違いなく同盟国の結束を示し、他の国々にシグナルを送る役割を果たすでしょう。そのような結束が機能し、世界全体の強さを示すのです。
Q ウクライナの「勝利」とは、何を意味しますか?
すべてのウクライナ人にとって、勝利の意味はただ一つ。われわれの領土を取り戻すことです。クリミア半島もドンバス地域もわれわれの領土です。しかし、そのためには犠牲を伴うでしょう。まずは2月24日以前の状態に戻したいと考えています。それから、もう一度交渉のテーブルにつき、平和や戦争の終結、領土の返還について話し合いたいと思います。
Q いま、ロシアと停戦交渉に臨むのは難しいのでしょうか?
今のような状況では、われわれは単純な停戦には関心がありません。そして、ロシア側も停戦を申し出ていません。もし彼らが、占領されたヘルソンや、ザポリージャ、ドンバスにいるのであれば、停戦に何の意味があるのでしょうか?停戦はわれわれに何をもたらすのでしょうか?もし私たちが停戦に合意したとしても、それは、2月24日以前のドンバス地域のような状況になるだけでしょう。そのような交渉は望んでいません。プーチン大統領と対話するために停戦を受け入れることはもちろん可能です。なぜなら停戦しなければ会うことができないからです。2、3日の停戦で十分だと思います。会談や対話、そして明確な何かを得るためには非常に重要なことだと思います。
Q プーチン大統領は、ウクライナに対して化学兵器、あるいは核兵器を使用すると思いますか?
それはウクライナだけではなく、世界に対する質問だと思います。そして正確には、次のように問うべきです。「プーチンは、ウクライナを手始めに、世界に対して化学兵器や核兵器を使用すると思いますか?」と。そしてここで考えるべきは、彼がこれまでにどんな兵器を使ったかということです。彼はすでに禁止された兵器を使っています。これが答えです。すでに禁止されている兵器を使用している人が、さらにその先へ進めるかどうかということです。
Q アメリカとNATOにとってのレッドラインは越えたのでしょうか?
われわれの戦争の初日から、NATOは間違った決定を下していたと思います。もしウクライナがNATOに加盟していれば、ロシアによる攻撃はなかったはずです。初日から2000発以上のミサイルが、軍だけでなく、市民やインフラに向けて発射されました。NATOに入っていたらありえないことです。少なくとも、飛行禁止区域が設定され、空が閉ざされていたら、ありえないことでした。これは世界の歴史的にみても大失敗だったと思っています。NATOは世界の安全保障のためのものであって、世界のどこかにあるいくつかの国の輪の中だけの安全保障ではありません。ポーランドやバルト3国はNATOに加盟しています。そして、国境を接しているウクライナはNATOには入っていません。ウクライナの戦争は、ポーランドとバルト3国の国境での戦争でもあります。NATOは空を閉じていません。もし閉じれば大規模な戦争になり、軍隊を送らなければならないからです。そして、彼らは戦う準備ができておらず、死ぬ準備ができていないのです。たとえば、あすにはリトアニアで戦争が起こり、ロシアがやってくるかもしれません。彼らはすでにベラルーシを通じて、移民問題をきっかけに圧力を強めています。彼らは許可なく不法に国境を越えることができることをすでに示しているのです。そして戦闘が行われるでしょう。そのときどうするでしょう?ロシアは2014年にすべてのレッドラインを越えています。ヨーロッパは、ロシアによる戦争と占領が、ヨーロッパの統一に逆行していることを理解していません。それはウクライナで始まったばかりですが、もしウクライナで終わらないなら、それはどこででも起きうるでしょう。ロシアの指導者たちは、自分たちの世界観を持っています。彼らは、ロシアがウクライナやヨーロッパに関与するシナリオを望んでいるのです。
Q ウクライナのメディア戦略のポイントを教えてください。
戦略は非常にシンプルで、われわれの国で起こっている現実と、ロシアが行っていることを誇張することも小さく見せることもなく、示すことです。ウクライナでは長い間、ロシア寄りのメディアが多く活動していました。彼らは毎日のようにうその情報を流し、事実をゆがめているのです。情報はウクライナ側のメディアによる信頼できるものであるべきだと思います。メディアは世界に何が起こっているかを示すために、かなり強力に使っています。
Q ロシアの戦争犯罪に対する国際刑事裁判所の取り組みに満足していますか?
国際社会がウクライナを全面的に支援してくれたことは、われわれにとって重要なことです。日本を含む海外の専門家による調査にウクライナも参加し、国際刑事裁判所の判決が出たときに、ウクライナだけでなく、全世界が「ロシアが何をしたのか」を明言することが、われわれにとって非常に重要なことなのです。ロシアは軍事と政治の両方の指導者が責任を問われることになります。命令した人、実行した人、すべてです。
Q 日本へのメッセージをお願いします。
私は日本の国民に感謝したいと思います。すでに述べたように、ウクライナとロシアの間のバランスを模索するのではなく、われわれの主権と領土の保全を支援してくれました。私たちは、独立のため、自由のために戦っています。私たちの自由は、あなたたちの自由でもあります。私たちは、日本の国民の間に結束があると感じています。戦争が終わった後には、岸田総理大臣に会って、すべての精神的なサポートに感謝したいと思います。ありがとうございました。
●「状況は何も変わっていない」ウクライナ侵攻3か月 5/25
ロシアによるのウクライナへの軍事侵攻から3か月。隣国・ポーランドで避難民の支援活動を続ける千曲市出身の男性がオンラインで講演会を開き、現状を伝えました。
「もう3か月たちました最近はポーランドに(避難して)住んでいる人たちよりもウクライナ国内の状況が深刻なわけです」
千曲市出身の坂本龍太朗さん。ウクライナの隣国・ポーランドで日本語学校を運営しながら避難民の支援活動を続けています。きょうは、県内で企業への支援などを行う団体の集会に招かれ、「ウクライナの現状と未来」をテーマにオンラインで講演しました。
ロシアによるウクライナ侵攻から3か月。国外への避難も進む中、取り巻く環境の深刻さは変わっていないと話します。
「戦争はこれで終わっていないんですよ人が苦しんでいる状況は今でも変わっていないポーランドに住んでいる避難民の状況も変わっていないんです今でも仕事がない、言葉が通じない問題は山積みです、問題がなくなったわけじゃない『状況は変わっていないんだ』関心を持ち続けることがウクライナにとってとても大事なことです」
参加者「全く別の国にいる私たちですけど身近に知ることはすごく大事だし、関心を持ち続けるためにも生の情報をいただけるのはありがたい」「テレビを通して日本で知っている情報とリアルな情報がやっぱり違うなと、何ができるかなって考えていきたいと思いました」
県内にも9人がウクライナから避難していて、坂本さんは「まずは生活の基盤を整えてあげて欲しい」としています。
●プーチンの敗北は避けられない…「ロシア軍の内部崩壊」の現実味 5/25
ロシアの戦争は事実上失敗した
ウクライナ侵攻に関し、ロシアは敗北を回避する手段を失いつつあるとの指摘が出はじめた。
電光石火の首都キーウ陥落を目指したプーチンだが、ロシア兵の練度不足やウクライナ側の徹底抗戦など、複数の要因を受けて戦況は膠着(こうちゃく)状態に陥っている。英ガーディアン紙は英国防省による分析として、ロシア軍が投入した兵士の約3分の1をすでに5月中旬までに失ったと報じた。
同省の分析によると、ロシアは「継続的な高レベルの消耗」に苛まれ、兵力については「2月に投入した地上戦力(19万人)の3分の1を喪失した」とみられる。今後の展望については、「現状を鑑みるに、今後30日間でロシアが進撃の速度を劇的に加速することはないだろう」との見解だ。
首都キーウ陥落をねらう「特別作戦」に事実上失敗したいま、どう動いてもプーチン政権へのダメージは避けられない状況となった。プーチンにとって真の危機は、もはやウクライナを落とせないことなどではない。今後想定されるリスクは、ロシア軍の内部崩壊およびプーチン政権の瓦解(がかい)だ。
軍事大国・ロシアの威信失墜 
英シンクタンクのヘンリー・ジャクソン協会で研究員を務めるタラス・クジオ氏は、米シンクタンクのアトランティック・カウンシルへの寄稿を通じ、ロシア内部崩壊のシナリオはあり得るとの見解を示している。
クジオ氏は、初期のキーウ攻略でロシア側が「壊滅的な損失」と「驚異的な数の犠牲者」を招き、「主目的の達成に失敗した」と断言する。一方でウクライナ側は粘り強く防衛戦線を維持し、ゼレンスキー大統領の巧みな演説とフョードロフ副首相の積極的なIT活用により、国際社会からの支持を獲得した。
氏は、「侵攻からおよそ3カ月となった現在、プーチンは悲惨なまでの敗北を回避するための手段を急速に失いつつある」と論じる。「軍事超大国というロシアの見掛け倒しのステータスを粉々に打ち砕き、彼の政権全体の未来を危機に追いやる敗北だ」とし、その最大の要因は、ロシア軍内部の統率不足による反乱リスクだという。
「ロシア帝国の崩壊前夜に酷似」との指摘も
ロシアにとって最も大きなリスク因子は、かねてささやかれている兵士の士気の低さだ。クジオ氏は、「ロシア軍内部で士気は急下降を続けており、最終的には1917年(のロシア革命)のような形で崩壊に至る可能性がある」と指摘する。
ロシア革命は、第1次世界大戦中の食糧難を受けたデモ行進に端を発する。制圧のため軍が派遣されたが、かねてより不満を募らせていた兵士らの一部がデモ隊側に回ったことで、暴動はかえって拡大した。うねりは首都から各都市へと広がり、ロシア帝国崩壊とソ連誕生への流れを形成する。
当時の状況は、今回のウクライナ侵攻にもよく似ている。短期戦と思われていた大戦・侵攻の長期化、悪化する国内の生活水準、不満の募る兵など、ウクライナ侵攻後の展開はまるでロシア革命の前夜をなぞるかのようだ。
経済制裁に市民が疲弊し、冷遇される兵の不満が募れば、やがてプーチン政権の足元は揺らぎはじめる。これがクジオ氏の示すひとつのシナリオだ。
上官と法廷闘争へ…不満の表面化がはじまった
現在のところ軍崩壊には至っていないが、上層部に対する不満はすでに表面化しはじめている。日々高まるロシア兵たちの不満が、ついに法廷闘争へともつれ込んだ。ロシア国境警備隊に所属していた25名は、ウクライナへの侵攻命令を拒んだことで解雇されたことを不服とし、ロシア国内で上官を相手取り訴訟を起こした。
この訴訟は、数ある派兵拒否騒動の氷山の一角にすぎない。人権弁護士のパベル・チェーコフ氏によると、すでにロシア国内の17以上の都市と地域から、「数百人もの警備兵」が氏に法的助言を求めている。今後、訴訟を起こした25名に続く可能性がある。
危険な任務を嫌っての派兵拒否もさることながら、おなじスラブ人を攻撃することに強い抵抗感を覚える兵士も相当数に上る模様だ。英デイリーメール紙は、徴兵対象となった兵士の最大40%が侵攻への参加を拒否したと報じている。
「良い兵士」と「悪い兵士」
兵隊を切り捨てにするロシアの方針が、侵攻の泥沼化につながったとの指摘もある。米シンクタンク「ランド研究所」のダーラ・マシコット上級政策研究員は、米政治専門誌『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿を通じ、兵を冷遇するロシア軍の文化が裏目に出たと論じている。
マシコット研究員は一般にアメリカでは、「良い兵士」「悪い兵士」という概念があると説く。良い兵士とは幸福な兵士であり、適切な食事、十分な給与、そして市民からの敬意を受ける兵士のことだ。多くのアメリカ兵はこれに該当するといえるだろう。
一方でロシアは、兵士の生活水準に無関心な文化を維持しつづけてきた。アフガン紛争やチェチェン紛争などの例を引くまでもなく、ロシアの兵士たちは十分な事前情報と戦地に赴くための準備期間を与えられることなく、十分な装備もないまま最前線に送り出される。
今回のウクライナ侵攻に関しても、ベラルーシに駐留中であったあるロシア兵は、侵攻前日に移動を知らされたと証言している。
過度の秘密主義が招いた混乱
このように兵への伝達が直前に行われるのは、兵を軽視する文化が根底にあり、作戦の機密保持が過剰に優先されるためだ。
マシコット研究員は、「軍のほぼ全体」の少なくとも一般兵に対して計画が秘密とされ、これによりロシアは「準備の度合いを危険にさらし、自ら不利な条件を課している」と説く。
機密保持の必要性はある程度理解できるにしろ、結果としてその戦略が功を奏したとは言い難い。実際のところ、侵攻の計画は事前に西側にある程度察知されていた。それでもプーチンは兵を危険にさらし、侵攻の強行を選択する。
マシコット氏は、「実に、作戦上の機密がすべてに優先し、兵士たちを簡単に犠牲にできるとでも考えていない限り、侵攻前のロシアの戦略について意図をくみ取ることは難しい」と述べる。
無理な作戦を決行した結果、現地からは悲惨な報告が相次いでいる。荒すぎる計画の犠牲となり凍傷を負ったロシア兵を、衛生兵が44年前に作られた応急処置用の当て布を使って処置したとの話が聞かれるようになった。
別の前線では水も食料もない状態となり、司令官が何の前触れもなく姿を消した。あとには何も知らない兵士たちだけが取り残されたという。
プーチンはすでにNATOに敗北している
明らかな準備不足により、兵の練度も装備品の数もまったく足りていない。米保守派サイトの編集者を務めるジョン・ガブリエル氏は、米アリゾナ・リパブリック紙への寄稿を通じ、プーチンの軍事的損失は「驚くべき規模」だとの見解を述べている。
ロシア軍は明確に苦戦しており、同記事によると、将軍クラス9名と大佐クラス42名の軍人を失ったという。また、ロシアの戦車1170両および航空機119機がこれまでに破壊されたとウクライナ国防省が発表している(5月21日時点)。
記事は、ウクライナ発表の数字が多少誇張されている可能性があるとしたうえで、それでも「プーチンは1904〜05年に日本がロシア帝国の2艦を沈めて以来の、最悪の敗北に直面している」とみる。続けて「この敗北は数年後になって、あわや旧帝国を転覆させようかという革命の引き金となるところであった」とも述べ、こちらもロシア革命との関連を論じている。
ガブリエル氏はまた、ウクライナ侵攻により近隣国が相次いでNATO加盟の意思をみせている事態を受け、ロシアはウクライナ侵攻の成否とは別に、実質的な敗北を喫したとみる。「しかし彼(プーチン)は、すでに本当の敵との戦いに負けたのだ。その敵とは、北大西洋条約機構(NATO)である」。
直近で加盟の意向をみせたフィンランドは、国民人口550万人に対し予備兵100万人と、人口あたりでヨーロッパ有数の規模の軍隊を保有する。ロシアを刺激することを避け中立姿勢を貫いてきたフィンランドまでを、明確にNATO側に回す事態となった。
国民生活、秋口までに限界か
投入した侵略軍の3分の1の兵力をすでに失ったとされるロシアだが、国内に目を向ければ時を経るごとに西側の経済制裁は厳しさを増している。辛抱強い国民とて、不満の噴出は時間の問題だ。
潮目が変わる時期としてクジオ氏は、今夏の終わりごろを見込む。この時期までに禁輸品目の代替品の調達が厳しくなり、かつ一般家庭の貯蓄が底をつきはじめるためだ。
ロシアでは禁輸によるチップ不足を受け、同国最大の自動車ブランドであるラーダが休業に追い込まれた。戦車製造の2社も同じ理由で操業を停止しており、経済への打撃は大きい。
以降、国内経済への影響は一層深刻なものとなり、失業率は上昇を続けるだろう。「今後数カ月のあいだにプーチンの苦境はさらに悪化するとみられ、彼自身が進めるウクライナ侵攻は輪をかけて継続不可能となるであろう」と同氏は述べる。
こうなれば、欠けた兵力を補充し一気に片を付けたいところだが、ロシア軍には十分な予備兵がいない。徴兵を行おうにも、侵攻前にはウクライナの大多数の国民が「解放」を歓迎するだろうと述べていた手前、徴兵に動けば苦戦を認めることになる。プーチンの打てる手は一つまた一つと失われていっている状況だ。
予想外の泥沼化に苦しむプーチン
つい昨年までは世界で2番目に強力な軍隊との評判をほしいままにしてきたロシア軍だが、今年2月の侵攻によりあからさまな弱さが露呈する形となった。
ウクライナ領特有の泥沼化した土壌に文字通り足をすくわれたとの分析もあるが、そうでなくとも、統率された部隊との印象は皆無だ。
戦地では秘匿性の弱い民間の携帯回線で通信し、また、友軍を誤射する事件が多発している。ロシア兵の救護キットを鹵獲(ろかく)したところ、なかにはほぼハサミしか入っていなかったとの海外報道も出ている。先日のドネツ川渡河作戦では作戦ポイントをウクライナ側に予測され、わずか2日間で70両の戦車および装甲車を喪失した。
軍隊としてのロシア軍をみれば、侵攻を正当化し隣国を蹂躙(じゅうりん)する行動は断じて許されるものではない。一方で個々のロシア兵を考えるならば、彼らに多少なりとも同情の余地があるとする議論もあり得る。
民間人を虐殺し民家で略奪を繰り広げる蛮行にはあぜんとする一方、旧式の装備を背負って予告なく戦地へと駆り出され、命を危険にさらしている状況は、彼らと彼らの家族が望んだ今日の生き方ではないだろう。
プーチンの戦争が手詰まりの気配を漂わせはじめたいま、ロシア兵のあいだにも不満が鬱積(うっせき)している。兵の命を軽んじる「特別軍事作戦」へ反感が、今後数カ月のあいだに軍内部や国内からの暴動に発展する可能性は十分に考えられそうだ。
●プーチン氏 ウクライナで負傷した兵士を慰問 5/25
ロシアのプーチン大統領はウクライナへの侵攻で負傷したロシア兵を見舞うため、モスクワ市内の病院を訪れました。
25日にモスクワ市内の病院を訪れたプーチン大統領は入院中のロシア兵と握手を交わし、「お子さんはお父さんを誇りに思うでしょう」などと声を掛けました。
ウクライナ侵攻を始めてから負傷兵を慰問する様子が公開されるのは初めてで、軍部に寄り添う姿勢をアピールする狙いがあるとみられます。
一方、ロシア外務省のザハロワ報道官は、ウクライナ南東部マリウポリの製鉄所で投降したウクライナ兵について、「戦争犯罪を見逃すことはできない」と述べました。
ウクライナ兵は一帯を実効支配する親ロシア派による裁判にかけられることになるという見通しを示しています。
●「ロシア政権内部でプーチンの後継者が議論されている」 5/25
ロシア独立メディア「メデューサ」がプーチン大統領の後継者に対する議論が政権内部で進んでいると24日(現地時間)、クレムリン宮関係者の言葉を引用して報じた。
匿名を求めたクレムリン宮関係者はメデューサに対して「プーチン大統領以降の未来」に対する議論が政権内部で進んでいると語った。この関係者は「今すぐプーチン氏を大統領から退かせなければならないとか、陰謀が準備されているとかいう意味ではない」としながらも「遠からずプーチン氏が国を統治できなくなることもある」と話した。
メデューサはこのような議論が出ている背景には、ウクライナ戦争状況に対して強硬派・穏健派を問わず双方からの不満が占めているとしながら、どちらもプーチン大統領に対して満足できなくなっていると指摘した。
プーチン大統領に代わることができるほどの人物としては、モスクワ市長のセルゲイ・ソビャニン氏、安全保障理事会副議長のドミトリー・メドベージェフ氏、大統領秘書室第1部秘書室長のセルゲイ・キリエンコ氏などが挙がっていると伝えられた。
英国日刊テレグラフは政権内部のこのような雰囲気は、ロシアのウクライナ侵攻以降、西側国家の経済制裁がロシアに破壊的な影響を及ぼすだろうというロシア内部の懸念を反映していると指摘した。
●習政権がプーチン氏のように核恫喝に出たら…日本政府に答えはない 5/25
国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアが、白昼堂々、ウクライナを侵略し、核の恫喝(どうかつ)を行った。世界は震撼(しんかん)した。核兵器は、最終兵器であり、撃ち合えば数百万人が死ぬ。その恐怖と、あまりの愚かさが相互抑止を担保している。そこには、「核兵器国は責任ある理性的な国である」という前提がある。
ところが、ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナに軍を進め、残虐行為を繰り返し、最悪の場合には核を使うと恫喝した。ロシアの核ドクトリンは特殊であり、小規模な戦術核を先制使用することを公言している。核兵器を早めに投入することで、ロシアの決意を示し、敵にエスカレーションを思いとどまらせるという戦術である。
問題は、プーチン氏にとっての核心的利益が、本来のロシア本土防衛ではなく、「ウクライナの属国化」という個人的野望に置き換わってしまっていることである。プーチン氏は、核を使ってでもNATO(北大西洋条約機構)軍の介入を阻止したい。ロシアとの核対決を恐れるNATOは介入しない。ウクライナ南東部は文字通り、市民を巻き込んだ地獄絵図の様相である。
中国は、ロシア同様、「世界秩序の現状打破」をもくろむ。習近平国家主席は今年、ケ小平の遺訓を破り「3期目」に突入する。おそらく、4期目も狙うであろう。
10年後、老いた習氏が、プーチン氏のように歴史に残す偉業として、「台湾の武力併合」を考えるかもしれない。独裁者の心理は凡人の想像を超える。習氏が決断さえすれば、人民解放軍は直ちに怒濤(どとう)の進軍を始める。平和は簡単に壊れる。幸福な日常は失われる。
日本は、日米安保条約第6条によって、在日米軍が日本周辺の朝鮮、台湾、フィリピンを守ることを認めている。日本の外壁のような国々だからである。1990年代の朝鮮半島危機の際、小渕恵三首相は、自衛隊による対米軍後方支援を可能とした。台湾がきな臭くなった21世紀に入り、安倍晋三首相(当時)は集団的自衛権行使を可能とした。中規模とはいえ、総軍25万で最新鋭の装備を誇る日本国自衛隊の加勢である。日米同盟の抑止力は向上した。
しかし、もし台湾に侵攻した習氏が「自衛隊の参戦には核兵器をもって対抗する」「米軍に基地を使わせれば核で報復する」と、プーチン氏のような恫喝に出たら、日本の首相は何と答えるのか。核恫喝に怯まないと言える首相はいない。
かといって、台湾侵略の最中に戦線を離脱すれば、日米同盟は即死する。戦後一貫して、日本の政治家は核の問題から逃げ回ってきた。今の日本政府に、その答えはない。
●プーチン氏を「信じるな」と警告 ウクライナ前大統領 5/25
ウクライナのポロシェンコ前大統領は24日、軍事侵攻を巡るロシアとの交渉について「プーチン(大統領)は危険な交渉相手だ。信じてはいけない」と警告、交渉による解決は極めて困難だと強調。ウクライナの戦力増強がロシアを「止める」と述べ、国際社会にさらなる武器支援を求めた。首都キーウ(キエフ)で共同通信と単独会見した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「交渉のテーブル」での領土回復に言及、話し合いによる解決に含みを持たせている。しかしポロシェンコ氏は2014〜19年の大統領在任中に交渉を重ねた経験から、プーチン氏は「約束を決して守らない」と語った。
●ロシアのウクライナ侵攻、文明存続の危機か ソロス氏 5/25
米投資家ジョージ・ソロス氏は24日、ロシアのウクライナ侵攻は第3次世界大戦の始まりかもしれず、人類文明存続の危機かもしれないと警鐘を鳴らした。一方、天然ガスに関しては、欧州は思っている以上にロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して有利な立場にある可能性があるとの見方を示した。
ソロス氏はスイス・ダボスで開かれている世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)に出席。これに合わせて開催された夕食会恒例のスピーチで、ロシアのウクライナ侵攻について、「欧州の根幹を揺るがしている」「第3次世界大戦の始まりかもしれず、人類文明は乗り越えられないかもしれない」と述べた。
「われわれはウクライナ戦争の早期終結に向けて総力を結集しなければならない。人類文明を維持する最善かつ唯一であろう方法は、一刻も早くプーチンを打ち負かすことだ」
ソロス氏は欧米諸国のウクライナ支援を称賛する一方、欧州が依然としてロシア産ガスに「過剰に」依存していると指摘。主な原因は、ロシアとガス供給に関する「特別な取引」をしたアンゲラ・メルケル前独首相が追求した重商主義的政策だとの見解を示した。
欧州連合(EU)はロシアからのガス輸入量を今年中に3分の2削減することを目標としているが、ドイツが消極的なため、禁輸には至っていない。ロシア産石油の禁輸も、ハンガリーの反対で難航している。
ソロス氏はプーチン氏について「ガス供給を止めるとして非常に巧みに欧州を脅迫してきたが、実は虚勢を張っているにすぎない」「実際は危機的状況にあり、ぎりぎりのところで欧州を脅してきたにすぎない」との見方を示した。
ソロス氏によると、プーチン氏は2021年、ガスを欧州に輸出せずに貯蔵。供給不足を起こして価格を高騰させ、ロシアに莫大(ばくだい)な富をもたらした。だが、貯蔵施設は今年7月に満杯になるため、ロシアは唯一の市場である欧州にガスを輸出せざるを得なくなるという。
ソロス氏はこの点について説明する書簡をイタリアのマリオ・ドラギ(Mario Draghi)首相に書簡を送ったが、返事はないと述べた。
「(プーチン氏は)窮地に立たされている。ガスを使って何かをしなければならない」「欧州は認識している以上に有利な立場にある」
ソロス氏は中国の習近平(Xi Jinping)国家主席にも言及。習氏とプーチン氏を「独裁者」、中国とロシアを「オープンソサエティー(開かれた社会)に対する最大の脅威」と呼んだ。
ソロス氏は中ロの指導者について「無制限の同盟関係で結ばれている。脅迫によって支配し、その結果として信じられないような過ちを犯すなど、多くの共通点もある」「プーチン氏はウクライナで解放者として迎えられると期待していた。習氏は持続不可能なゼロコロナ政策に固執している」と非難した。  
●ウクライナ東部ドンバスで空爆激化、ゼレンスキー大統領「極めて厳しい」 5/25
ウクライナ東部ドンバス地方の制圧を目指すロシア軍は25日、ルガンスク州の要衝セベロドネツクへの空爆や砲撃を大幅に強化し、周辺の集落を占領した。ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、東部などの戦況について「極めて厳しい状況にある」との声明を出した。
ウクライナ国防省報道官は同日、ロシア軍の進撃が「最も活発な局面に入った」との分析を示した。ドンバス地方では、ドネツク州マリウポリが陥落して以降、ロシア軍は兵力を他地域に振り向け、攻勢を強めている。
一方、南部ザポロジエの市当局によると、25日早朝、ロシア軍の巡航ミサイル3発が着弾し、商業施設と民家60軒が破壊された。死傷者が出ているもようだ。
ロシア軍が一部を占領したザポロジエ州では、「政府」を自称する親ロ派幹部は「昔はここはロシア帝国領だった」としてロシア編入を希望すると表明した。
ロシアのプーチン大統領の最側近であるパトルシェフ安全保障会議書記は24日、ロシアメディアのインタビューで「軍事作戦の期限は設けておらず、(ウクライナを非軍事化するなどの)目標を達成する」と長期戦の構えを示した。

 

●東部要衝への攻撃が激化 ウクライナ「極めて厳しい」  5/26
ウクライナ東部ドンバス地方の制圧を目指すロシア軍は二十五日、ルガンスク州の要衝セベロドネツクへの空爆や砲撃を大幅に強化し、周辺の集落を占領した。ウクライナのゼレンスキー大統領は二十四日、東部などの戦況について「極めて厳しい状況にある」との声明を出した。
ウクライナ国防省報道官は同日、ロシア軍の進撃が「最も活発な局面に入った」との分析を示した。ドンバス地方では、マリウポリが陥落して以降、ロシア軍は兵力を他地域に振り向け、攻勢を強めている。
一方、南部ザポロジエの市当局によると二十五日早朝、ロシア軍の巡航ミサイル三発が着弾し商業施設と民家六十軒が破壊された。ロシア軍が一部を占領したザポロジエ州では、「政府」を自称する親ロ派幹部は「昔はここはロシア帝国領だった」としてロシア編入を希望すると表明した。
ロシアのプーチン大統領の最側近であるパトルシェフ安全保障会議書記は二十四日、ロシアメディアのインタビューで「軍事作戦の期限は設けておらず、(ウクライナを非軍事化するなどの)目標を達成する」と長期戦の構えを示した。
●東部要衝で攻防戦が激化 ロシア、ルガンスク州制圧間近か  5/26
ウクライナ国防省報道官は25日の記者会見で「ロシア軍が東部ルガンスク、ドネツク両州で激しく攻撃している」と指摘した。ルガンスク州の要衝セベロドネツク市では攻防戦が激化、ロシア側は同州の9割超を制圧したと主張しており、セベロドネツクが陥落すれば州全域が制圧されるとみられる。
AP通信によると、ルガンスク州のガイダイ知事は「あらゆる兵器によって絶え間ない砲撃にさらされている。状況は厳しい」と述べた。ロシアが地上軍支援のため出撃させた超音速戦略爆撃機ツポレフ22M3などによる空爆も激しさを増しているという。
●ロシアは占領地を「踏み台」に利用、米大使が警告 5/26
米国のカーペンター駐欧州安保協力機構(OSCE)大使は、ロシアは支配下に置いたウクライナの領土を「踏み台」として使い、さらなる領土拡大に動く可能性があると警告した。
ドイツのショルツ首相は、ロシアの望みは「戦争が一般的な政治手段だった時代にわれわれを引き戻すことだ」と発言。北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は、戦争が「長く続くかもしれない」とし、ウクライナへの支援を継続し装備を補充する「用意が必要」だと加盟国に促した。
ロシア銀行(中央銀行)はわずか1カ月強の間に3回目の利下げを決定。世界的な食料危機への懸念で国際社会の批判を受けたロシアは、ウクライナの7港からの輸送を可能にする海上回廊設置を提案した。ただ、ウクライナ側は安全保障上の問題を指摘している。
ロシア、ルガンスク州の95%を占領−ウクライナ
ロシア軍はウクライナ東部ルガンスク州の95%について支配を確立し、州内のウクライナ軍は絶え間ない砲撃にさらされていると、ガイダイ知事がメッセージサービス「テレグラム」で明らかにした。ロシア軍の占領地域は先週の約90%から広がったと、同知事は指摘した。
グーグル、ロシアで77億ルーブルの罰金支払う
米アルファベット傘下のグーグルからロシアは77億ルーブル(約150億円)の罰金を徴収したと、同国連邦執行当局のデータベースを引用してインタファクス通信が伝えた。アルファベットのロシア部門は今月、同国内の銀行口座が凍結となったため破産申請する方針を明らかにしていた。ただ、同国内ではGメールやユーチューブなど無料のサービスは提供を続けるという。
ゼレンスキー大統領、対ロシアで譲歩を警告
ウクライナのゼレンスキー大統領はラトビア議会でのビデオ演説で、世界の「かなり強力な」国の一部がロシアに譲歩するという誤った考えを抱いていると語った。「これは必要な妥協とされるものであるから、領土の一部を断念することが必要だとこうした国は言う」が、ウクライナにとっては侮辱だと、同大統領は主張した。
独首相、ロシア孤立化で幅広い取り組み求める
ロシアを孤立させ、世界秩序を破壊しようとするプーチン大統領の野心をくじくためには一層の幅広い取り組みが必要だと、ドイツのショルツ首相が呼び掛けた。同首相は26日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)年次総会で、「まだ戦争が一般的な政治的手段で、欧州大陸や世界に安定した平和秩序がなかった時代にわれわれを引き戻そうとする試みだ」と論じた。対ロシアを巡っては、欧州連合(EU)の追加制裁協議が難航しているほか、アジアやアフリカ、南米など主要新興国の多くはロシアに制裁を科したり、非難したりする構えをほとんど示していない。
ロシア中銀が再び利下げ、政策金利11%
ロシア中央銀行は26日、約1カ月で3回目の利下げを実施し、追加利下げも示唆した。ウクライナ侵攻後の金融防衛策を解除するとともに、ルーブル高を抑える目的とみられる。
海上回廊設置のロシア提案、「あからさまな脅し」−ウクライナ
ウクライナの港から海上輸送を再開できるよう海上回廊を設置するというロシアの提案について、ウクライナ側は「文明世界に対するあからさまな脅し」だと反発した。ウクライナのカチカ経済次官はブルームバーグニュースに対するテキストメッセージで、「黒海の海上輸送再開が安全保障の信頼性にかかっていることは明白だ」と指摘。「第三国の保証がなければ、ロシアの発表文に対する信頼が基になる。それだけでは機能しない」と続けた。
NATO事務総長:長い戦争に備える
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は「この戦争は長く続く可能性があり、それに備える必要がある」と述べ、ウクライナへの長期的な支援提供と装備補充に備えるよう加盟国に呼び掛けた。ギリシャの金融情報サイト、キャピタルとのインタビューでの発言。スウェーデンとフィンランドの加盟については、引き続き迅速な手続きを目標としていると話し、両国とトルコの間で問題解決を図っていると説明。同事務総長は26日、トルコ外相と協議した。
ロシア、ウクライナの港から海上回廊設置へ
ロシア国防省は25日、ウクライナの7カ所の港からの国際輸送のため明らかにした。ロシアによる港湾封鎖が世界的な食料危機につながりかねないとする国際社会の批判が強まっていた。海上の人道回廊は黒海とアゾフ海の港から設置され、これにはオデーサ(オデッサ)が含まれる。毎日午前8時から午後7時までの運用となる。ロシア国防省の当局者ミハイル・ミジンツェフ氏が電子メールで送付された資料で明らかにした。
●ウクライナ港湾通じた貿易、全面停止の状態 機密解除の米諜報 5/26
ロシアによるウクライナ侵攻を受け同国の港湾を拠点にした海上交易が実質的に全面停止の状態に追い込まれていることが機密扱いが新たに解除された米諜報(ちょうほう)で26日までにわかった。
ウクライナにとって重要な産品の輸出活動が遮断され、国際的な食糧危機を招くリスクが生じているとした。
機密指定が解けたウクライナ港湾関連の地図などをCNNに提供した米政府当局者が明らかにした。今年2月下旬の侵攻開始から数カ月の間に黒海北部の海域の3分の1が事実上、封鎖される状態に陥ったとした。
地図では、侵攻前後の期間でウクライナ港湾に出入りする船舶の密度を分析。侵攻後には黒海やアゾフ海で商船の入港などがほぼ全面的に減少したことが判明した。
三つ目の地図は黒海のウクライナ沖合に集まるロシア海軍船舶の密集度を視覚化したが、これら艦船の活動が集中している様子が浮き彫りになっていた。
同当局者によると、ウクライナによる小麦輸出は世界全体の量の約10%を占める。輸出経路の大半は黒海の港湾を経由していた。
米国務省によると、侵攻前、ウクライナによるトウモロコシの輸出量は世界で4位、小麦は5位だった。小麦の世界的な貿易量の約30%はロシアとウクライナが占めていた。
国連食糧農業機関(FAO)は世界的な食糧安保の不安を解消するためウクライナからは毎年、必要な量の約半分を調達していた。ウクライナの港湾が封鎖されて機能しない場合、食糧安保の確保に深刻な影響が出るとも警告している。
CNNは最近、ウクライナ侵攻を受け世界規模での食糧供給に不安が強まる中、米国と同盟国はウクライナからの穀物輸送を安全に進める経路開設をめぐる協議を続けていると報じた。ロシアは商港に滞留する多数の穀物を盗んでいるとのウクライナ側の主張を裏づけるような新たな衛星画像も伝えていた。
米政府当局者によると、ウクライナ戦争の勃発以降、ロシアは商船の往来を威嚇し、黒海からアゾフ海につながるケルチ海峡を通じてウクライナへ向かう航路を時折妨害してもいる。ウクライナ沖合に戦闘艦艇を配置し、同国の港湾への砲撃なども多発している。
●ロシアが支配の既成事実化も ウクライナ大統領“敵が上回る”  5/26
ロシア軍は、ウクライナ東部2州の完全掌握を目指して攻勢を強めるとともに、すでに掌握したと主張する一部の地域では支配の既成事実化を進めています。ウクライナのゼレンスキー大統領は「一部の地域で敵の装備や兵士の数が大幅に上回っている」として各国にさらなる軍事支援を求めました。
ロシア軍は、東部のドネツク州とルハンシク州の完全掌握を目指し、このうちルハンシク州でウクライナ側が拠点とする都市、セベロドネツクへの攻勢を強めています。
また、すでに掌握したとする一部の地域では支配の既成事実化を進めています。
ロシアのプーチン大統領は25日、南部のヘルソン州と南東部のザポリージャ州の住民がロシアの国籍を取得しやすくするために、手続きを簡素化する大統領令に署名し、ロシアの国営テレビはすでに住民が国籍を取得する手続きを始めているなどと伝えています。
さらに、現地の親ロシア派はロシアの通貨ルーブルの導入を始めたとしているほか、ヘルソン州では親ロシア派の幹部が今後、プーチン大統領にロシアへの編入を要請する考えも示しました。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、新たに公開した動画で「ウクライナ軍や国を守るすべての人々は東部におけるロシア軍の極めて激しい攻撃に抵抗している。一部の地域で敵の装備や兵士の数が大幅に上回っている」と述べ、ウクライナ軍が東部で苦戦を強いられているという認識を明らかにしました。
そのうえで「ロシア軍の意欲をそぐにはまだ時間がかかる。武器などパートナーの協力が必要だ」として各国にウクライナへのさらなる軍事支援を求めました。
●ウクライナ2州住民のロシア国籍取得手続き簡素化 5/26
ロシアのプーチン大統領は25日、ウクライナ南部のヘルソン州とザポロジエ州の住民を対象に、ロシア国籍取得の手続きを簡素化する大統領令に署名した。ロシアが両州での実効支配を強化する狙いとみられる。ロシア、ウクライナの2カ国以外に目を向ければ、ウクライナ侵攻の影響による食料不足の懸念も。
プーチン氏、ウクライナ南部2州住民のロシア国籍取得手続きを簡素化
ロシアのプーチン大統領は25日、ウクライナ南部のヘルソン州とザポロジエ州の住民を対象に、ロシア国籍取得の手続きを簡素化する大統領令に署名した。AFP通信によると、大統領令により、両州の住民はロシアへの居住経験や財産の証明、ロシア語試験なしで、ロシア国籍の取得が可能になる。
食料不足がインドへ波及
ロシアがウクライナ南部主要港を制圧したことにより、穀物の生産大国ウクライナからの輸出が滞っている。連鎖反応を受け、小麦の生産量世界2位のインドが輸出の一時禁止に踏み切るなど、世界的な食料不足への懸念も高まるが、打開策はまだ見えない。ウクライナは小麦、トウモロコシなどの輸出大国で、通常ならば発展途上国を中心に、毎年、約4億人分の穀物を輸出している。現地からの報道によると、戦禍の中、今年も平年の約8割の穀物生産量を維持できる見通しだが、事実上、輸出がほぼ不可能な状態になっている。
隣国モルドバで約100人が反戦デモ
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって24日で3カ月。ウクライナから多くの人が避難している隣国モルドバの首都キシナウではこの日、ロシアへの抗議デモがあり、ロシア大使館前で約100人が反戦を訴えた。
●ロシア ウクライナ“最後の拠点”攻勢 州知事「今週が決定的」 5/26
ロシア軍は、ウクライナ東部2州のうちルハンシク州での完全掌握に向け、ウクライナ側の最後の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めています。ルハンシク州の知事は「今週が決定的なものになるだろう」と述べ、ロシア側との攻防が重要な局面に差しかかっているという認識を示しました。
ロシア国防省は、26日もウクライナ東部ドネツク州や南部ミコライウ州などで、弾薬庫や軍事施設を破壊したと発表しました。
中でもロシア側は、東部ルハンシク州では、すでにおよそ95%を掌握したとしていて、ウクライナ側の最後の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めています。
ルハンシク州のガイダイ知事は25日、地元のテレビで「セベロドネツクへの攻撃が、空爆、砲撃などで大きく増加している。街は一日中破壊され続けている」と訴えました。
そのうえで「今週が決定的なものになるだろう」と述べ、ロシア側との攻防が重要な局面に差しかかっているという認識を示しました。
一方、ロシア国防省は25日、ウクライナ南部に面した黒海とアゾフ海の港で外国の船舶のために「海の人道回廊を開く」と発表しました。
国防省によりますと、ウクライナ南部などの港は封鎖されているため、軍事侵攻以来16か国から70隻の船が足止めとなっているということです。
今後、南部オデーサや東部マリウポリなどの港から船が出るための安全なルートを提供すると主張しています。
また、ロシアの国営通信などによりますと、ロシア外務省のルデンコ次官は25日、世界的な食料問題を解決するためとして、ウクライナの港から穀物などを輸出するため海の回廊を提供する用意があると述べたということです。
一方で、ルデンコ次官は「ロシアに科された制裁の解除が必要だ」とも主張し、ウクライナ側は「国際社会への明らかな恐喝だ」と強く批判しています。
ロシア軍が黒海の主要な港を封鎖していることで、ウクライナからの穀物の輸出が滞り、世界的な穀物価格の高騰を招いていると指摘されていて、ロシアとしては、制裁解除も要求しながら揺さぶりをかけるねらいとみられます。
●ウクライナ情勢、柔軟対応を APEC議長のプラユット・タイ首相 5/26
来日中のタイのプラユット首相兼国防相は26日、東京都内で時事通信などの取材に応じ、ロシアによる侵攻が続くウクライナ問題などの国際情勢を念頭に「経済の回復には柔軟な対応が必要」との考えを示した。ロシア非難を繰り返す日米欧と一線を画し、ウクライナ問題で中立を維持するタイの立場を説明した。
タイは今年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)議長国を務める。先週末にバンコクで開かれたAPEC貿易相会合は、参加21カ国・地域中、日米など5カ国がロシア閣僚の発言中に退席。ロシアは反発し、全会一致が原則の共同声明を採択できなかった。
プラユット氏は「包括的な社会を構築すべきだ」と強調。新型コロナウイルスが広がった過去2年の教訓から「経済を成長させるには柔軟でなければならない」と述べ、「平和と安定には経済回復が必要だ」と語った。
●ウクライナ トウモロコシ輸出量が世界4位も…畑に「地雷」収穫も輸出も難しく 5/26
ロシア軍によるウクライナ侵攻が続く中、ロシアはウクライナ東部などで激しい攻撃を続けているほか、実効支配する地域を「ロシア化」する動きも強めています。一方、ロシア軍が撤退した地域では、地雷が残されて作物を作れない畑があるほか、輸出も滞っていて、日本など世界の食卓に深刻な影響を与えています。
ロシア国防省は25日、「黒海」から発射したミサイルの映像を公開しました。
ウクライナ・ドネツク州とルハンシク州の東部2州の完全掌握を目ざすロシア軍は、ウクライナ軍が拠点としているルハンシク州の町、セベロドネツクの攻略に向けて攻勢を強めています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は25日、ウクライナ南部のヘルソン州とザポリージャ州の住民に対し、ロシア国籍の取得を簡素化する大統領令に署名しました。「ロシア化」を進める強引な動きもみられます。
一方のウクライナ・ゼレンスキー大統領は、領土を譲り渡すことを条件にした停戦交渉には、応じない姿勢を改めて示しました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から、3か月あまりがたちました。ロシア軍が撤退したウクライナ首都キーウ近郊では、復旧作業が進んでいますが、“世界の食卓”を揺るがす深刻な事態が起きています。
ロシア軍の撤退後、畑に植えられたトウモロコシ。ウクライナのトウモロコシ輸出量は年間約2700万トンで、世界4位です。しかし、一時、ロシア軍に占拠された地域にある別の畑には「地雷への注意」を促す看板が立てられていました。実際、近くの街ではトラクターでの作業中、「対戦車地雷」が爆発し、けが人が出たということです。
キーウ近郊でトウモロコシなどを育てる、農業法人の責任者が見せてくれたのは、焼け焦げた農業用車両のそばに山積みされたミサイルの破片です。
農業法人の責任者「これはミサイルの破片です。畑の中でたくさん見つかりました」
所有する畑からは、地雷も見つかったということです。
農業法人の責任者「ロシア軍は撤退しましたが、畑には地雷が残されていて、すぐには農業を再開できません」
全ての畑で地雷のチェックを終えるには3〜4年かかり、多額の費用もかかるということです。
“世界の食卓”に影響を及ぼす事態はほかにもありました。ウクライナ南部、黒海に面する貿易の重要拠点「オデーサ」では、今、港からの輸出がロシア軍によって阻まれ、ウクライナからの穀物の輸出が滞っています。
そのため、先ほどのキーウ近郊の農業法人は――
農業法人の責任者「来月には今年の収穫が始まるのに、まだ去年の分が輸出できず残っています。ビジネスの状況はとても厳しいです」
行き場を失った大量のトウモロコシは、白いカバーに覆われた状態で地面に置かれています。一部はロシア軍の砲撃でカバーが破れ、中身が散乱していました。
こちらの農業法人では、鉄道などでの陸路や、河川での輸出を模索していますが、いずれも課題があるということです。
ウクライナの輸出停滞などにより、トウモロコシは世界的に価格が高騰しています。家畜のえさに使う日本も影響は避けられません。国連や西側諸国は、「世界的な食糧危機につながりかねない」として、ロシアを非難しています。
●ロシア軍、恐怖の神風ドローン「ZALA KYB」で爆撃 ウクライナ軍は被害 5/26
静かに飛行してきて上空から標的に突っ込み爆破
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。
ウクライナ軍は2022年5月にロシアの軍事ドローン「ZALA KYB」が攻撃を行い爆発した動画を公開した。ウクライナ軍は自身がロシア軍に攻撃を行って成功した動画や写真もSNSで公開しているが、このようにロシア軍がウクライナ軍に対して攻撃を行い、ウクライナが被害に遭った様子もSNSで多く伝えている。
今回、ロシア軍が攻撃に使用したのはロシアのZALA Aeroグループが開発した『ZALA KYB』と呼ばれる中型攻撃ドローン。「KYB」は3キログラムまでの爆薬が搭載可能。時速130キロで30分の飛行が可能。攻撃イメージの動画も公開しており、そこでも垂直に上空から標的に突っ込んでいき破壊する様子を伝えている。
「KYB」の特徴の1つは静かに飛行することが可能なこと。地上の人間や装甲車が攻撃ドローンに気がついて避難できないようになっている。つまり地上にいる人間は目視やレーザーなどでしかドローンが近づいてきていることに気が付くことができない。
そして「KYB」が静かに上空からやってきて、標的に向かって垂直に突っ込んできて爆破してしまう。静かに上空からひっそりとやってくることはとても重要で、ドローンは商用でも軍事用でもバリバリと大きな音を立てて飛行していると敵にすぐに察知されやすく攻撃する前に迎撃されて撃墜されやすい。
「どんなドローンでも検知したらすぐに破壊か機能停止を」
攻撃ドローンは「kamikaze drone(神風ドローン)」、「Suicide drone(自爆型ドローン)」、「kamikaze strike(神風ストライク)」とも呼ばれており、標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。日本人にとってはこのような攻撃型ドローンの名前に「神風」が使用されるのに嫌悪感を覚える人もいるだろうが「神風ドローン(Kamikaze Drone)」は欧米や中東では一般名詞としてメディアでも軍事企業でも一般的によく使われている。今回のウクライナ紛争で「神風ドローン」は一般名詞となり定着した。ウクライナ語では「Дрони-камікадзе」(神風ドローン)と表記されるが、ウクライナ紛争を報じる地元のニュースで耳にしたり目にしたりしない日はないくらいだ。ウクライナ軍のSNSにも英語で「ZALA KYB kamikaze UAV」と書かれている。
攻撃ドローンが上空から地上に突っ込んできて攻撃をして破壊力も甚大であることから大きな脅威だ。ウクライナ軍も「攻撃ドローンは命中しないで爆破に失敗することも多いが、決して過小評価してはいけない。どのようなドローンでも検知したらすぐに爆破させたり機能停止させるべきだ」と警告していた。
ロシア軍は小型の偵察ドローンで偵察を行っているが、偵察ドローンに居場所を探知されてしまうとすぐにミサイル弾などが大量に飛ばされてきて大きな被害が出るので、小型の偵察用ドローンだから無視しても良いということは絶対にない。
●プーチン 「ご機嫌取りミエミエ」の茶番 白衣姿で負傷兵お見舞いショー 5/26
ロシアのプーチン大統領は25日、モスクワ市内の陸軍病院を訪れ、ウクライナでの軍事作戦で負傷したロシア軍兵士を見舞った。ロシア大統領府が公表した。
公表された映像によると、ショイグ国防相とともに白衣を着て病室に入ったプーチン大統領は、直立不動の兵士2人に「腕は大丈夫か?」「両親は故郷にいるか?」などと治療状況や家族の様子を尋ねるなどした。しかし、プーチン大統領は終始、硬い表情を崩さず、握手もぎこちない。兵士はどう見ても軽傷だ。
ウクライナ侵攻がドロ沼化し、ロシア軍の苦戦が伝えられる中、退役大佐や退役大将、現役外交官らによるプーチン批判が相次いでいる。兵士を気遣う姿勢を見せることで国民のご機嫌を取ろうという意図はミエミエ。逆に、追い詰められていることを自ら暴露したも同然だ。
●戦争支持するロシア正教会、プーチン氏と深い絆  5/26
4月初めの日曜日、モスクワ郊外のロシア軍大聖堂内にロシア正教会の最高指導者が立ち、ウラジーミル・プーチン大統領の戦争を支持する講話を行った。ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外の町ブチャでウクライナ市民を大量虐殺したとの報道を受け、西側の指導者らが非難したのと同じ日だった。
「ファシズムを打ち破ったのはわれわれだ。もしロシアがいなければ、世界を征服していただろう」。モスクワ総主教キリル1世(75)は、第2次世界大戦でナチスの侵攻にロシアが勝利したことを記念する壮大な建物の中でこう語った。その脇で軍服を着た多くのロシア兵が聴き入っていた。「神は今回もわれわれを助けてくださるだろう」
2月24日のロシアによるウクライナへの軍事侵攻以来、プーチン氏の盟友であるキリル総主教は、同氏の背後にロシア正教会の道徳的権威があることを示してきた。正教徒が国民の63%を占めるこの国で、それはプーチン氏の決定的な支えとなっている。
2009年からロシア正教会を率いるキリル総主教は、信者向けTVチャンネルやユーチューブで放送された講話で、この戦争を西側に対抗する「聖戦」として描いている。モスクワの精神的・政治的体制の下にウクライナを含む東スラブ人の国が連帯する「ルスキー・ミール(ロシア世界)」を守るためだと主張する。キリル総主教が2012年以降特に熱心に信奉するこの思想は、プーチン氏のレトリックの多くに通底している。
キリル総主教の下で、ロシア正教会はプーチン氏のナショナリスト的考えを広める立役者になっている。かつてモスクワ総主教庁で教会月刊誌の編集者として働き、現在は批判的立場を取るセルゲイ・チャプニン氏は、ロシア正教会は国営テレビやガスプロムなどの主要ロシア企業と同じくらい政権に取り込まれていると指摘する。
同氏によると高位の聖職者らは「プーチンに従う腐敗したエリート層の一部」だという。「国家と結びつくことでいかに教会がその意のままになり、道徳心を失うかを考えると恐ろしい」
キリル総主教の支持は、プーチン氏を正当化するための決定的要因になる可能性がある。プーチン氏が侵攻を命じた軍隊がウクライナの領土を奪う作戦に行き詰まり、現地で命を落とすロシア兵が増大し、今や国内で戦争が幅広く支持される裏付けとなっていたテレビの論調にも変化が生じているからなおさらだ。
一方、ロシア国外では、プーチン氏に対するキリル総主教の忠誠心が、より広範な東方正教会(信者は約2億2000万人)内の分断をさらに悪化させている。
欧州連合(EU)当局者は今月、ロシアによるウクライナ侵攻の有力な擁護者であることを理由に、キリル総主教への制裁を検討中だと述べた。資産凍結や渡航禁止などの措置が科される可能性がある。
キリル総主教の広報担当者ウラジーミル・レゴイダ氏は、同教会が過度に政治化されているとの指摘を否定した。「その話をたびたび耳にするが、それは純粋にわれわれの批判者が、教会が(政治的)反対勢力の手中に落ちなかったことを不満に思っている事実と関係がある」。同氏は文書による声明でこう述べた。同氏によると、ロシア正教会が国家と協力するのは社会の要請を反映したものだという。
東方正教会の復活祭にあたる4月24日、プーチン氏はモスクワの救世主大聖堂で行われたミサに出席した。復活祭の年次メッセージの中で、プーチン氏はキリル総主教が「国家との実りある協力関係を発展させ」たほか、「人々の結束と相互理解が深まるよう努めた」などとして直接謝辞を述べた。
キリル総主教は出生時の名をウラジーミル・グンディアエフといい、多くの教会史家の間でソ連国家保安委員会(KGB)の元工作員だと信じられている。広報担当者のレゴイダ氏はこの疑惑を虚偽だと退けた。プーチン大統領もKGBの元工作員だ。
ロシア政府系の世論調査機関FOMが4月に行った調査では、ロシア正教会を信頼する人は66%、キリル総主教個人を信頼する人は54%に上っている。またロシア国民の半数以上がウクライナでの「特別軍事作戦」を支持していることが示された。
一方、ウクライナにある東方正教会のほぼ3分の2は、今も正式にロシア正教会に属している。ロシア正教会の起源は「ルスの洗礼」で知られる10世紀にキーウで行われたキリスト教への集団的改宗にさかのぼる。
同教会の戦争支持を巡ってロシア国内はもちろん、世界2位のキリスト教組織である東方正教会の中でも激しい論争が起きている。
独立系教会ポータルサイト「プラブミール」に3月1日に掲載された戦争反対の主張には、ロシア正教会の神父273人が署名した。また世界中で何百人もの東方正教会の聖職者や神学者が、侵攻を巡ってプーチン氏と連携し、「ロシア世界」思想を唱えているキリル総主教を非難する公開書簡を作成し、宗教的ナショナリズムの一形態だと断じている。
ウクライナでは、ロシアが2014年にクリミアを併合し、親ロシア派分離主義者を支援したのを受け、国内の正教会の約3分の1を占める約7000教区を擁する「ウクライナ正教会」がロシア正教会から独立すると表明。東方正教会の精神的指導者と目されるコンスタンティノープル(現トルコ・イスタンブール)総主教バルトロメオ1世は2019年、ロシアの反対を押し切ってこれを承認した。
バルトロメオ総主教は今回のロシアの軍事侵攻を厳しく批判している。一方、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は、キリル総主教が「プーチンの侍者になってはいけない」とイタリアのコリエレ・デラ・セラ紙とのインタビューで語った。
キリル総主教は1946年、レニングラード(現サンクトペテルブルク)に生まれた。1970年に神学校を卒業後、教会の中で出世し、外交部門に所属していた。
1990年代に公開された旧ソ連時代の資料からは、キリル総主教が「ミハイロフ」のコードネームを持つKGB工作員だったことがうかがえる。直接名前は出てこないが、スイスに本部がある世界教会協議会(WCC)でロシア正教会の代表を務め、国際的な教会会議にたびたび出張し、KGBの担当者に情報を提供していた「ミハイロフ」なる人物に言及した複数の文書がある。これは1971年に当時24歳でロシア正教会代表としてWCCに出席したキリル総主教の経歴と一致する。
「キリルがKGBのエージェントだったことは疑いようがない」。KGBと教会指導者のつながりを調査している英国の作家フェリックス・コーリー氏はそう語る。旧ソ連時代末期には、正教会をはじめとする宗教の指導者がKGBと協力することはよくあった。ただ協力の程度はさまざまだったと同氏は話す。
当初、キリル総主教は教会の中でも改革派と見られていた。政府の方針に従うそぶりを見せず、KGBとの関係で腐敗した教会のイメージを一掃しようとしていた。
2009年に総主教に就任すると、プーチン氏の後ろ盾となり、ロシアの影響力を国外に広げるべきだと唱え始めた。だが、筋金入りの保守的機関にあって自身の改革派の看板だけは守っていた。2011年12月に選挙不正に抗議するデモが沸き起こった際には形だけの支持を表明した。
それが一変したのは数週間後、プーチン氏や他の宗教指導者らと会合を開いたときだ。プーチン氏は2000年〜08年に大統領を務めた後、首相に就任し、さらに大統領3期目を狙っていた。そのことが抗議デモを過熱させる一因となっていた。
キリル総主教はこの公開会合で、プーチン氏がロシアを1990年代の経済崩壊から回復させたと称賛し、プーチン氏の統治を「神からの奇跡」になぞらえたという。
元編集者のチャプニン氏によると、この会合はキリル総主教に公の場で忠誠を誓わせるためにプーチン政権が設定したものだという。「プーチンはキリルに対し、自分は思い通りに状況を操作できる、しかもいとも簡単にできるということを見せつけた」。チャプニン氏は会合を準備した複数の関係者との会話を引き合いにしてこう語った。
ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、確かに政権側が会合を準備したが、「誰かが誰かに強制したわけではない。それは嘘だ」と述べた。
キリル総主教の立場がクレムリン(大統領府)の立場から逸脱することはめったにないが、ウクライナ侵攻より以前は、公然と政治的発言をしないように気を配っていた。だが4月にロシア軍大聖堂で行った講話を境に、総主教がロシアの影響力拡大を支持するだけでなく、公然と戦争を支持するようになったと神学者らは指摘する。
「少なくともこの戦争を理由に彼が態度を変えると予想していた人が多い」。ウクライナ出身の神学者で、キリル総主教の顧問を務めていたシリル・ホボルン氏はこう話す。「衝撃的だったのは、彼が従来の姿勢を変えなかったことだ」
ホボルン氏は総主教の「ロシア世界」思想を巡って2012年に顧問の職を辞したという。「戦争に関するあのような発言は(中略)ひとりの人物、すなわちプーチンに向けたものだ」と同氏は言う。「その趣旨は明確で、『私は最後まであなたと共にいる』というものだ」
●ロシア孤立化は不可能、外資撤退で国内企業に好機=プーチン氏 5/26
ロシアのプーチン大統領は26日、西側諸国の制裁によってサプライチェーン(供給網)が混乱していることを認めつつも、ロシアを孤立化させようとする試みは失敗すると語った。また、一部の海外企業がロシア撤退を決めたことは、国内企業に収益機会が生まれるためむしろ喜ばしいとも述べた。
英石油大手BPや米ファストフードチェーン世界最大手のマクドナルドなど、世界的大手企業によるロシア事業からの撤退発表が相次いでいる。
これについてプーチン大統領は「国内企業はすでに成熟しており、たやすくその後釜に座ることができる」と述べた。
プーチン大統領はビデオリンクを通じ、旧ソ連諸国首脳らに対し、現在ロシア国内で入手できない外国からの輸入品の代替品を模索しているとも語った。
その代表例として高級車のメルセデス・ベンツ600を挙げ、多少値上がりする可能性はあるものの、以前から同車種を購入できる人々は依然として手が届くはずだとの認識を示した。
その上で「ロシア企業はサプライチェーンや輸送といった分野で問題に直面しているが、全てを調整し、新たな方法で構築し直すことは可能だ」と強調。「それはある意味で、ロシアを強化する一助となる。われわれは新しい能力を獲得し、経済・財政面などの資源を画期的な分野に集中させ始めているのは間違いない」と述べた。
同時に、ロシアが外国の技術にアクセスする必要があることを認め、こうした技術から「ロシアを切り離すつもりはない」とも指摘。「西側諸国はロシアを締め出すことを望んでいるようだが、現代の世界において、それは非現実的で不可能だ」と述べた。
西側諸国の部品やソフトウエアの入手方法についての詳細は説明しなかった。
また、米政府を示唆し、「世界の警察」が制裁を使い、ロシアや中国など、「独立した政策」を推進する国を弱体化させることはできない、と述べた。
●「勝てない」戦争、プーチン氏主導の講和容認せず 独首相 5/26
ドイツのオラフ・ショルツ首相は26日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「勝てない」戦争でウクライナに講和を強要するのを許してはならないと述べた。
ショルツ氏は、スイス・ダボス(Davos)で開かれている世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で、「(プーチン氏は)既にすべての戦略的目標において達成に失敗した」と述べた。
ウクライナ全土を掌握するというロシアの狙いは「今日では(侵攻の)初日より遠いものとなった」と指摘した。
ショルツ氏は、「われわれの目標は明快だ──プーチン氏がこの戦争に勝利することはあってはならない。そして、私は勝利できないだろうと確信している」と語った。
同氏はさらに、武器を供与し、ロシアに厳しい制裁を科している西側諸国はウクライナ政府への支援を続けると確約した。
ショルツ氏は「重要なのは強要された平和はあり得ないとプーチン氏に分からせることだ」と述べた上で、「ウクライナはもちろん、われわれもそれを受け入れることはない」と強調した。
●ロシア退役将校 プーチン政権を痛烈に批判 「賢人の声に耳を」  5/26
ウクライナへの軍事侵攻に反対を訴えていたロシアの退役将校が、作戦は戦略面でも情報戦でも敗北している上、歴史的な孤立を招いているなどと政権を痛烈に批判し、ウェブ上で論議となっています。
ロシアの退役将校のレオニード・イワショフ氏は、今月はじめに出版社のウェブサイトで公開されたインタビューで、ウクライナ侵攻について「初期段階で戦略上の大きな見込み違いがあり、作戦が滞っていることが明らかになった」と述べたうえで「ロシアは地政学的な意味ではすでに敗北しており、情報戦や心理戦でも完全に敗れている」と指摘しました。
そして「軍の学校や訓練では常に、敵を過小評価しないことの重要性を教わったものだ。この20年間、プロの国防相は1人もいない」と述べ、作戦を主導するショイグ国防相や軍を批判しました。
さらに「歴史上、ロシアがこれほどの孤立状態に置かれたことはない。大統領は思い上がることなく、賢人の声に素直に耳を傾けるべきだ。謝罪をし、政府の要職には、軍事作戦に反対した人物を据えるべきだ」と述べ、プーチン大統領をも痛烈に批判しています。
イワショフ氏は、ロシア国防省で国際局長も務めた、かつての重鎮で、ことし2月のウクライナ侵攻前には「誰も必要としない戦争を止めるべきだ」と反対を訴えていました。
これに対して出版社のウェブサイト上では「侵攻前の警告が無視され、今や若者たちが命を落としている」と同調する声がある一方で「行動しなければむしろ欧米にやられていた。時代遅れで滑稽な主張だ」などといった意見も多く、退役将校による異例の政権批判が論議となっています。
●ロシアの「プーチン」だけじゃない…密かにアメリカを追い込む「意外な国」 5/26
これは「史上最悪のエネルギー危機」だ
アメリカのガソリン価格の高騰が大変なことになっている。
米国自動車協会(AAA)は5月20日に「ガソリンの平均価格は1ガロン=4.58ドルとなり、過去最高値を更新した」と発表した。
1ガロン=2.985ドルだった昨年同時期のガソリン価格の約1.5倍だ。この価格は1リットル当たりに換算すると150円以上の高値となる。
日本と比べて格段に安かった米国のガソリン価格が日本並みになっているのは異常事態と言っても過言ではない。
バイデン政権は「ガソリン価格の高騰はロシアのウクライナ侵攻のせいだ」としているが、本当だろうか。
確かに2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以来、米WTI原油先物価格は約15%上昇している。ところが、米ガソリン先物価格は30%以上の値上がりとなっており、じつはウクライナ危機だけがガソリン価格高騰の原因ではないのだ。
原油価格は3月上旬に1バレル=130ドルに高騰したが、その後急落し、5月に入ると100ドルから110ドルの間で推移している。中国の新型コロナの厳しい感染対策による原油需要の減少懸念と、西側諸国の制裁によるロシア産原油の供給懸念がせめぎ合う状態が続いている。
石油業界大物が「苦言」のワケ
国際エネルギー機関(IEA)は5月12日に、「ウクライナ侵攻の影響によるロシアの減産で世界的に石油が不足することはない」との見方を示した。ロシアの供給混乱が生じているが、中東産油国と米国による生産量が徐々に増えている上、需要の伸びが鈍化しているため、深刻な供給不足は回避されるというのがその理由だ。
これに対して、米国のガソリン価格の先高感は高まるばかりだ。
米石油・ガス協会のスチュワート会長は「過去50年間で最悪のエネルギー危機が発生しているのにもかかわらず、バイデン政権にはこの状況を解決するための戦略がない」との不満をぶちまけている。
どういう意味だろうか。
「化石燃料からの移行」を公約に掲げるバイデン政権は、国内の石油生産活動を制約する政策を相次いで打ち出していることから、石油企業との関係がギクシャクしているという事情がある。
原油価格の高騰のおかげで石油企業は記録的な利益を上げているにもかかわらず、石油各社に増産を強く迫れないというジレンマも生じている。
史上最大規模の「作戦」
もちろん、バイデン政権も国内のガソリン価格高騰に手をこまねているわけではない。
史上最大規模の戦略石油備蓄(SPR)の放出を行っており、SPRから放出された原油で米国の在庫は大幅に増加した。その一部が不足感が生じている欧州市場にも輸出されてもいる。
にもかかわらず、米国内のガソリン価格が一向に下がる兆しが見えてこない。高値のせいでガソリン需要が減少しているものの、国内の在庫は減り続けており、過去5年のレンジの下限よりも少なくなっているからだ。
米国の製油所はドライブシーズンを控えたこの時期、ガソリン生産を増やすのが常である。
が、世界的な品不足で既に記録的な高値となっているデイーゼルなどの増産に追われ、ガソリンにまで手が回らない状態となっていることが関係している。
脱炭素で投資不足が表面化
米国を始めとする世界の精製企業は「脱炭素」の動きが加速する中、投資不足にあえいでいる。
油田開発などの上流部門の投資不足は認識されるようになってきたが、ガソリンなどの石油製品を生産する下流部門でも投資不足による悪影響が顕在化している。
精製能力不足のせいでドライブシーズンを前にガソリン在庫の管理がうまくいっていないことから、ガソリン価格の上昇に歯止めが効かなくなっており、「今年の夏のガソリン価格は1ガロン=6.2ドルに達する」との観測が出ているほどだ。
各種世論調査によれば、米国民にとっての最大の課題は、新型コロナや移民問題ではなく、記録的なインフレだ。11月の米中間選挙まで半年を切った今、米国の議員たちはガソリン価格高騰に懸念を深めている。
OPECとロシアなどの大産油国が構成するOPECプラスは5日、6月の増産目標を日量43.2万バレル引き上げることで合意し、これまでの小幅な増産路線を維持した。
「OPECはOPECプラスの盟友であるロシアとの関係を重視している」との論調が強まっているが、政治指導者の意向だけではなく、世論の動向も大きく影響しているようだ。 
悪夢の「1バレル300ドル」の世界
米国のワシントン近東政策研究所は4月末に「世論調査の結果、中東地域で米国の影響力が低下し、逆にロシアが存在感を高めている」ことを明らかにしている。
再三の増産要請に応じないOPECプラスにお灸をすえるため、米上院司法委員会は5日、「石油生産輸出カルテル禁止(NOPEC)法案」を可決した。「米司法長官がOPECプラスなどを連邦裁判所に提訴することが可能となる」というのが法案の主な内容だ。
NOPEC法案はこれまで何度も廃案になっており、今回も成立する可能性は低いとされている。
が、バイデン政権誕生以来、冷え込んでいるOPEC、特にサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)との関係がさらに悪化する可能性がある。
産油国の怒り
UAEのマズルーイ・エネルギー相は9日に「米国のガソリン価格高騰をOPECプラスのせいにすべきではない」と述べた上で、「NOPEC法案が成立すれば、OPECと米国との間で訴訟合戦が起き、原油価格は1バレル=200〜300ドルまで上昇するだろう」と警告を発した。
サウジアラビアのアブドラアジズ・エネルギー相も同様の見解を示しており、NOPEC法案はガソリン価格を上げることはあっても下げることにはならないだろう。
「ガソリン価格の記録的な高値は自らの政策の結果である」と反省しない限り、バイデン政権は窮地に陥ってしまうのではないだろうか。
●ウクライナ侵攻の原型は「自作自演」か…プーチン氏が権力を握った爆破事件 5/26
「強い指導者」へのきっかけ
「あの事件について口外しないよう、住民は文書にサインさせられた」
ロシア西部の都市リャザン。住民のナタリア(70)は1999年9月22日に起きた爆破未遂事件のことを鮮明に覚えている。
首都モスクワや南部の都市で8月末以降、大規模アパートなどが爆破される計5件の事件が発生し、計300人以上が死亡。国民の不安は頂点に達していた。
不審な車からアパート地下室に袋を運び込む男女。住民からの通報を受けた警察が地下室で高性能爆薬が入った袋と起爆装置を見つけ、大騒ぎとなった。
旧ソ連国家保安委員会(KGB)の流れをくむ連邦保安局(FSB)長官から首相に就任して間もないプーチンは、2日後の24日、一連の爆破事件などをチェチェン独立派武装勢力による「テロ」と断定。独立派を「トイレに追い詰めてぶち殺す」と強い指導者をアピールし、チェチェンへの空爆を命じた。
くすぶる疑惑
プーチンは、テロにおびえる国民の熱狂的な支持を集め、翌年3月の大統領選で初当選。この事件は最高権力者の原点だった。
しかし、一連の爆破事件は今も疑惑がくすぶる。リャザンで発見された爆薬ヘキソーゲンは軍・治安機関以外には入手できず、起爆装置を仕掛けたとして一時的に拘束された男女はFSB職員だったからだ。
FSB長官のパトルシェフ(現・安全保障会議書記)は当時、「袋の中身は砂糖で、テロを想定した訓練だった」と釈明した。
一方、一連の事件を調査した元FSB大佐で弁護士のミハイル・トレパシュキン(65)は本紙取材に「訓練ではなく爆破の準備だった。プーチンの権威を高めるために、一連の爆破が必要だった」と指摘。連続爆破事件はチェチェンに再侵攻し、無名だったプーチンを大統領に押し上げるためのFSBによる「偽旗作戦」との見方を明かした。
でっちあげ
爆破事件の真相究明に当たった記者や政治家らは謎の死を遂げた。2006年に英国で毒殺された元FSB職員アレクサンドル・リトビネンコ=当時(43)=もその一人だ。ロンドン在住の妻マリーナは本紙に「夫はKGB出身者が国の全権を握るプーチン政権下で築いた(統治)システムを心配していた。今も権力を掌握する人々は大変危険な存在だ」と警鐘を鳴らす。
プーチン政権はウクライナ侵攻にあたっても偽装工作や情報操作を駆使。東部ドンバス地域でのロシア系住民の虐殺をでっち上げ、「保護」を名目に全面侵攻に踏み切った。
都市への無差別攻撃や民間人の虐殺行為などが起きたチェチェン紛争は、ウクライナ侵攻の「原型」とされる。プーチンの後任としてFSB長官に就いたパトルシェフへの信頼は最も厚い。ウクライナ侵攻でも情報戦など重要な役割を果たしているといわれる。
ただ、今回の戦争では欧米各国が先手を打ち、ロシアとの情報戦を優位に進める。軍事侵攻の兆候に気付いた米国は昨年11月、政府横断の特命班を設置。ロシアの偽旗作戦に翻弄された過去の教訓から機密情報を積極的に公開する異例の戦略を進めた。
「機密を解除して情報を開示する取り組みが非常に重要だと確信する」
駐ロシア大使を務めた米中央情報局(CIA)長官のバーンズは3月、議会上院の公聴会で、そう断言した。
●ロシア、志願兵の年齢制限撤廃へ ウクライナ苦戦で兵員不足か 5/26
ロシアのプーチン政権が、志願兵の年齢制限撤廃に向けた手続きを進めている。現行法では18〜40歳のロシア人と18〜30歳の外国人が志願兵として契約できるが、上下両院は25日、年齢の上限をなくす改正法案を賛成多数で可決した。ウクライナ侵攻で予想以上に苦戦して人的損失が拡大し、兵員不足に陥っていることが背景にありそうだ。
法案を提出した議員らは「高精度兵器の使用や武器や軍備品の運用には、高度な専門家が必要」と主張。熟練の域に達するのは「40〜45歳」だとして、年齢制限撤廃の必要性を訴えた。制限をなくすことで、工兵や医療、通信分野などの専門的人材を集めることができるとも説明した。法案はプーチン大統領の署名を経て成立する。
ロシア国防省は自軍の戦死者数に関し、3月下旬に「1351人」と発表して以降は更新していないが、多数の犠牲が出ているとの見方が強い。英国防省は今月23日付の戦況報告で、ロシア軍がウクライナ侵攻開始から3カ月間に、旧ソ連軍がアフガニスタン侵攻(1979〜89年)で失った兵士数に匹敵する犠牲を出したとみられると指摘した。泥沼化したアフガン侵攻で、旧ソ連軍の戦死者は約1万5000人とされる。
英国防省は、ロシア軍の「お粗末で低レベルな戦術と、限られた空中援護」などが高い死傷率につながっており、ウクライナ東部ドンバス地方の攻防戦で犠牲は増え続けていると分析。過去の例を見てもロシア国民は戦死者の数に敏感で、ウクライナで犠牲が増え続ければ、「国民の戦争への不満と、それを表明する気持ちが高まるかもしれない」と予測している。
●放射性物質を摂取させられ死亡…プーチン大統領の暴挙の始まりは2006年 5/26
ウクライナとロシアの対立
まさか、21世紀にこんな戦争が起こるとは――。今回のウクライナ侵攻には大きな衝撃を受けました。
しかし、ロシアをめぐって「今の時代にこんなことが」と衝撃を受けたのは、これが初めてではありません。最初の出来事は14年。プーチン大統領がウクライナ領だったクリミア半島にロシア軍の特殊部隊を派遣し、あっという間に奪ってしまったときでした。
じつはクリミア半島には以前から注目していました。それは、帝政ロシア時代からの要衝・セバストポリ軍港があるからです。
ソ連は長年の間、ここに黒海艦隊を駐留させていました。ところがソ連が崩壊してウクライナが独立国となると、ソ連の黒海艦隊の帰属をめぐり、ウクライナとロシアの間で対立が起きた。結局、1997年5月に結ばれた協定により、ロシア海軍とウクライナ海軍に“分割”されました。
功を奏した“買収作戦”
しかし、セバストポリは黒海への玄関口。冬には周囲の海が凍ってしまうロシアにとっては、喉から手が出るほど欲しいはずの不凍港です。いずれロシアはセバストポリを「ロシア海軍の基地にしてほしい」と言い出すはず。そうなれば、ウクライナとの対立の火種になりかねない――。そう危惧していました。
実際、併合前のクリミア半島に取材に行った際にセバストポリも訪問しましたが、そこではロシア海軍とウクライナ海軍の艦船が並んでいた。「こんな状態がいつまでも続くはずがない」と感じました。14年、その懸念が現実のものとなってしまったのです。
一方で、併合後の15年にクリミア半島に取材に行くと、意外な光景がありました。セバストポリ市内に住む4人家族に話を聞くと、こんな答えが返ってきたのです。
「生活費は前よりかかるようになりましたが、収入が格段に増え、医療費が無料になって、暮らしは前より楽になりました」
ウクライナでは医療費がほぼ全額自己負担だったのに対して、併合後は無料に。給料や年金も約3倍に増えたというのです。ロシアがクリミアの住民に対して、「ロシアになると、こんなに良いことがあるぞ」と“買収作戦”を繰り広げており、それが功を奏していることが分かりました。
ロシアに不信感を持つ先住民族
ロシアが武力によってクリミア半島を占領したのは許されざることです。しかし、住民の中には満足している人たちもいる。現地に行かなければ分からなかった皮肉な現実でした。
ただし、インタビューに「ロシアになって良かった」と答えるのは、ロシア系の住民です。これに対して、クリミア半島の全人口の約1割にあたる25万人の先住民族・タタール人の反応は違いました。彼らはマイクを向けても黙ってしまうのです。
タタール人は第2次世界大戦中、ドイツに協力するのではないかと怖れたスターリンによって全住民が中央アジアに強制移住させられ、多くが犠牲になった歴史を持ちます。そのためロシアには不信感があり、決して併合を望んではいませんでした。
小学校でタタール人の女子児童に話を聞いたところ、彼女からの返答は終始一貫して、ロシア語ではなくウクライナ語でした。ロシア語を使うのを潔しとしなかったのでしょう。
「観光」で来るところではない
国際社会からも強い非難を浴びたクリミア併合。しかし池上氏は、プーチンの“暴挙”は、もっと早くから始まっていたと指摘する。
06年11月、ロシア元情報機関幹部で英国に亡命したアレクサンドル・リトビネンコ氏が、ロンドンで放射性物質「ポロニウム210」を摂取させられ、死亡しました。私は、プーチン大統領の暴挙はここから始まったと捉えています。
ポロニウム210は、主にプルトニウムの生産を目的とした原子炉から取り出される物質です。国家的な組織にしかできない犯行でした。
英国は、ソ連国家保安委員会(KGB)の元職員アンドレイ・ルゴボイを容疑者と特定。ロシア側に引き渡しを求めますが、ロシアは拒否しました。それどころか、ルゴボイはその後、ロシア連邦議会選挙で当選し、国会議員になったのです。ロシアの議員には不逮捕特権がある。こんなことを指図できるのは、プーチン大統領しかいません。
軍の関係者だけが持つ神経ガス「ノビチョク」で一時意識不明に
この事件について、いま自戒も込めて痛感していることがあります。当時、国際社会がもっと非難の声をあげていれば、今日のプーチン大統領の“暴挙”を抑止することができたのではないか――。ところが実際には、私も含めた大勢の人が「ロシアならそれくらいはやりかねないな」と見過ごしてしまったのです。
18年3月には、別の襲撃事件も起こりました。英国南部のソールズベリーで、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の元大佐であるセルゲイ・スクリパリ氏とその娘が、神経剤「ノビチョク」により一時、意識不明に陥ったのです。スクリパリ氏は英国で2重スパイとして働いていたことが発覚し、ロシアで服役後、米ロのスパイ交換の一環で英国に引き渡されていました。
ノビチョクとは「新米」(駆け出し)という意味で、旧ソ連軍が1970年代から80年代にかけて開発した神経ガスです。こんなものを持っているのは軍の関係者だけのはず。実際、英国はGRUの関係者2人が、スクリパリ氏の家のドアノブにノビチョクを塗って殺害しようとしたことを突き止めました。しかし、このときもロシアはこの2人について「単なる観光客」だと主張しました。
「裏切るとこういう目に遭うんだぞ」プーチン大統領による警告
じつは、これはとても苦しい言い訳です。私は事件後、ソールズベリーに取材に行きました。英国南部に位置するソールズベリーは、こう言っては申し訳ないけれど、ロンドンから片道1時間半ほどの片田舎でした。とても「観光」で来るところではありません。
加えてロシア側は「2人はGRUとは無関係だ」と主張していたのですが、英国の民間調査報道機関「ベリングキャット」の調査で、それが嘘だと明らかになった。するとプーチン大統領は、スクリパリ氏について「母国に対する裏切り者だ」と居直るような発言をしたのです。
これではまるで「裏切り者は殺されても仕方がない」と言っているようなもの。さらにプーチン大統領にとっては、「裏切ると、こういう目に遭うんだぞ」という警告の意味合いもあったのかもしれません。
ノビチョクは、20年にロシア国内の反政府活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏の襲撃事件でも使用されました。スクリパリ氏の事件でも国家の関与が疑われていたのに、同じ毒物をぬけぬけと使い続ける、傍若無人の残酷さ。国際社会は、そんなプーチン大統領の行いを、これまで黙認してきたとも言えるのです。
スパイのまま国家元首に
00年の大統領就任以降、“独裁者”として君臨してきたプーチン。20年には憲法改正により自身の大統領任期を2036年まで可能にするなど、長期政権に向けた体制を盤石にしていた。こうした姿と重なるのが、中国の習近平国家主席だ。習主席も18年に国家主席の任期制限(2期10年)を撤廃。長期政権を可能にした。
歴史を俯瞰してみると、いまのロシアと中国には共通する特徴があります。かつては絶対的な権力と広大な領土を誇る巨大な帝国だったのに、現代ではすっかり小さく萎んでしまった。そんなときに、長期政権を敷く“独裁者”が現れた、という状況です。
同じ境遇の2人は、目指す国家像もきわめて近い。それは、巨大な帝国だった時代の栄光よ、再び――というものです。
習主席は「中華民族の偉大な復興」をスローガンに掲げています。念頭にあるのは、漢民族の国家だった明の時代。当時、コロンブスらの時代より100年近くも前に、鄭和(ていわ)という人物が大船団を組んで南シナ海を開発したことを根拠に「南シナ海は明の時代から中国のものだった」という主張もしている。
プーチン大統領の場合は帝政ロシアです。今回の侵攻についても「ウクライナはもともと帝政ロシアのものだったではないか」という本音がチラつきます。
スパイになった者は、死ぬまでスパイ
この観点で世界を見渡してみると、もう一人、肩を並べる“独裁者”がいます。トルコのエルドアン大統領です。トルコもかつては巨大なオスマン帝国でした。14年に大統領に就任したエルドアン氏はいま、式典の際に、オスマン帝国時代の正装をした兵隊を並べます。彼も「オスマン帝国の栄光よ、再び」と思っているに違いありません。
ただし、習主席とプーチン大統領で、決定的に違う点もあります。
習主席は、中国共産党で能力を発揮し、実力で出世してトップに上り詰めた。一方でプーチン大統領の出発点は、KGBの中でも東独のドレスデン支局。エリートコースであるベルリンではなかったことからも、じつはスパイとしては凡庸だったと想像がつきます。しかし、彼はスパイとして磨いた「人たらし力」で当時のエリツィン大統領の懐に飛び込み、後継者となった。仕事の能力ではなく、人の心を掴む力でトップにのし上がったのです。
プーチン大統領が好んで使う言葉に「“元スパイ”は存在しない」というものがあります。スパイになった者は、死ぬまでスパイ。つまり彼自身、スパイのまま国家元首になったのです。そして、スパイ特有の「人たらし力」を駆使して懐柔したのが、米国のトランプ前大統領であり、安倍晋三元首相だったのかもしれません。
今回の戦争は、世界史の新たな転換点となりました。プーチン大統領は、未曽有の暴挙を働いた人物として、歴史に名を刻まれることになるでしょう。
●戦争での「核使用」はありうるのか…"現代ロシアの軍事戦略" 5/26
イントロダクション
ウクライナ情勢が深刻さを増している。ロシア軍によるとされる攻撃で民間にも多数の犠牲が出ており、ロシアに対する国際世論は悪化する一方だ。
なぜ、ロシアは2014年と2022年に、ウクライナへ軍を差し向けたのか。ロシアの目的は何か。世界地図を広げ、ロシアの外交や軍事戦略を探る必要がありそうだ。
本書では、冷戦後の国際情勢を背景にしたロシアの軍事戦略を、各種資料などをもとに読み解く。2021年5月刊行のため2022年3月現在のウクライナ情勢は反映されていないものの、そこに至るロシアのプーチン政権、軍、軍事思想家たちの思考や思惑を理解する糸口をつかめる内容となっている。
かつてのソ連時代には米国と並ぶ超大国としてのプレゼンスを保っていたロシアだが、ソ連崩壊、東西冷戦の終結とともに国力、軍事力、他国への影響力が低下。ウクライナをはじめとする他国への侵攻の根底には、NATO拡大による脅威への対抗があったようだ。
著者の小泉悠氏は東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。専門はロシアの軍事・安全保障。民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て現職。
   はじめに 不確実性の時代におけるロシアの軍事戦略
   1.ウクライナ危機と「ハイブリッド戦争」
   2.現代ロシアの軍事思想――「ハイブリッド戦争」論を再検討する
   3.ロシアの介入と軍事力の役割
   4.ロシアが備える未来の戦争
   5.「弱い」ロシアの大規模戦争戦略
   おわりに 2020年代を見通す
バルト三国はほんの30年前まで「ソ連の一部」だった
エストニア、リトアニアとともにバルト三国と呼ばれるラトヴィア。今でこそ北大西洋条約機構(NATO)加盟国となったラトヴィアだが、ほんの30年前まではソ連の一部とされていた。バルト海を挟んでフィンランドとスウェーデンを目前に臨むバルト地域にはソ連の陸海空軍が配備され、冷戦の最前線となっていた。
しかし2004年3月29日に、バルト三国は揃ってNATOへの加盟を果たした。「東側」の総本山から「西側」の一員へ──オセロ・ゲームのような劇的な転換がほんの15年ほどのうちに起きたのである。
この「オセロ・ゲーム」を、ロシア側の視点で考えてみよう。日本第2の都市である大阪から西に150kmほどというと、ちょうど岡山県の倉敷あたりが相当する。ここに中国人民解放軍の基地ができたとしたらどうだろう。冷戦後のロシアから見ると、これは現実の出来事であった。150kmという距離は、ちょうどサンクトペテルブルグ(*ロシア第2の都市)からエストニアの国境に相当する。戦闘機ならばほんの数分だ。
東欧諸国とバルト三国のNATO加盟で失われた「戦略縦深」
1997年に結ばれた『NATO=ロシア間の相互関係、協力、安全保障に関する基本文書(NATO=ロシア基本文書)』では、両陣営の敵対関係を終結させるとともに、NATO新規加盟国には核兵器や「実質的な戦闘部隊」を常駐させないことを謳っているが、ラトヴィアにはバルト領空警備(BAP)の枠組みでNATO加盟国の戦闘機部隊が3カ月交代で(したがって「常駐」ではないという建前で)配備されている。
さらに重要なのは、これと同じことがかつてソ連の勢力圏だった東欧全体で起きたということであった。こうした動きがロシアにとって極めて面白くないものであったことは、改めて述べるまでもあるまい。
NATO拡大はロシアにどの程度の軍事的な不利益をもたらしたのか。まず指摘できるのは、それがロシアにとって戦略縦深の喪失につながったという点である。「戦略縦深」とは、広大な空間を保持しておけば、それだけで敵の侵略に対してより有利な対応を取るための時間的余裕として機能させられるということである。
冷戦期の東欧はまさにソ連にとっての「戦略縦深」そのものであった。しかし、東欧諸国とバルト三国がNATOに加盟したことによって、ロシアの戦略縦深は1000〜1400キロも東へと後退することを余儀なくされた。
ロシアが国防に割ける額はそう大きくない
軍事面でもう一つ特筆すべきは、NATO拡大によって兵力バランスが著しくロシアに不利に傾いたことである。
ロシアの国内総生産(GDP)は米ドル換算で約1兆7000億ドル、世界第11位に過ぎず、国防に割ける額もそう大きなものではない。このような状況下で東欧・バルト諸国がNATOに加盟していった。冷戦期にはソ連を中心とするワルシャワ条約機構軍が兵力の面でNATOに対して優勢であったが、これが逆転したのである。
ウクライナとグルジアへのNATO拡大論の影響は大きかった
また、一口にNATO拡大への反発といっても、その意味するところは様々である。ロシアにとって受け入れ難かったことの一つは、NATO拡大の政治的側面、すなわち東欧や旧ソ連諸国に対するロシアの影響力が大きく損なわれることであった。
特に旧ソ連諸国については、ソ連崩壊後もロシアはこれを「勢力圏」とみなし、自国こそが政治・経済・安全保障などの中心であるという理解が存在してきた。もちろん、既に独立国となった14の共和国をモスクワの完全な支配下に置くことは困難であるとしても、その主導権を他国に握られることだけは容認せず、「消極的な勢力圏」のようなものを維持しようとしてきたのが冷戦後のロシアであった。
その意味で、2004年のバルト三国へのNATO拡大は極めて面白からざる出来事ではあったが、最終的にロシアはこれを受け入れた。これと大きく様相を異にしたのが、2008年に持ち上がったウクライナとグルジアへのNATO拡大論である。
2000年代の原油価格高騰で国力を回復させていたロシアはこの動きに強硬に反発し、2008年にはグルジアとの戦争にまで発展した。この戦争の後、メドヴェージェフ大統領(当時)は勢力圏を実力で守る姿勢を示し、2014年にウクライナで政変が起きると、クリミア半島とドンバス地方に軍事介入を行った。
「大国」としてのロシアの地位が危ぶまれている
NATOの拡大をロシアが苦々しく思っていたもう一つの理由は、それが「大国」としてのロシアの地位を損なうものとみなされたことである。「大国」はロシア語で「デルジャーヴァ」というが、一言でいえば、外国の作った秩序に従うのではなく自らが秩序を作り出す側の国であるということだ。
本来は欧州の集団防衛を意図して結成されたNATOが今や世界中のあらゆる紛争に介入すること、しかもこれらの軍事行動が(ロシアが常任理事国として拒否権を有する)国連安全保障理事会の承認を経ずに行われてきたこと、そして軍事力行使の結果がしばしばユーゴスラヴィアやリビアなどでの国家体制の崩壊にまで至ってきたこと──ロシアから見れば、冷戦後のNATOの振る舞いは「大国」としての地位に対する脅威そのものであった。
したがって、ロシアから見ると、まだNATOに加盟していない国々の中立をいかに維持するかは、安全保障上、特別の重要性を有していた。具体的には、旧ソ連欧州部でまだNATOに加盟していない6カ国──アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、グルジア、モルドヴァ、ウクライナがその焦点である。この中からロシアの「勢力圏」を脱出しようとする国があれば、軍事力行使に訴えてでもこれを阻止するというのがグルジア戦争以降のロシアの基本方針であり、2013〜14年にウクライナで起きた事態はまさにこれに該当している。
ロシアが採用する「核戦略」の中身
ソ連の崩壊とロシアの国力低下、そして中・東欧諸国のNATO加盟によって通常戦力で劣勢に陥り、ハイテク戦力でもNATOに水を開けられたロシアでは、「地域的核抑止」と呼ばれる戦略を採用する。戦略核(*明確な戦略的目標に向けて使用される威力の大きい核兵器)戦力によって全面核戦争へのエスカレーションを阻止しつつ、戦術核兵器(*通常兵器の延長として用いられる射程距離の比較的短い核兵器)の大量使用によって通常戦力の劣勢を補うというのがその骨子である。
一方、これと並行して発展してきたのが「エスカレーション抑止」とか「エスカレーション抑止のためのエスカレーション(E2DE)」と呼ばれる核戦略である。限定的な核使用によって敵に「加減された損害」を与え、戦闘の継続によるデメリットがメリットを上回ると認識させることによって、戦闘の停止を強要したり、域外国の参戦を思いとどまらせようというものだ。
ロシアの「抑止」概念においては、相手の行動を変容させるために小規模なダメージを与えることが重視される。軍事的事態においては限定核使用による「損害惹起(*損害を引き起こすこと)」がこれに相当するということになろう。
現在の主流は「非核エスカレーション抑止論」
そして、近年のロシア軍では通常兵器を用いたエスカレーション抑止戦略が盛んに議論されるようになった。現在のロシアにおいて主流となっているのは、こうした非核エスカレーション論であるという。
非核エスカレーション抑止論は、単なる理論ではない。2010年代を通じて巡航ミサイルなどの長距離PGM(精密誘導兵器)に集中的な投資を行なった結果、現在のロシア軍は米国に次ぐ巨大な通常型PGM戦力を保有するに至っているからである。
ただ、非核「エスカレーション抑止」は万能ではない。敵が戦闘の停止や参戦の見送りを決断するに足るダメージのレベルを見積もることはもとより極めて困難であり、これが(核兵器ほどの心理的衝撃をもたらさない)通常戦力によるものであるとすればその複雑性はさらに増加するためである。この意味で非核手段はロシア軍においても核兵器のそれを代替し得るとはみなされておらず、両者の関係性についての議論は現在も進んでいる。

本説には、プーチン政権が「非線形戦争」の一環として国内外にロシアの正当性を訴えるためにメディアをコントロールしたり「愛国教育」を施すといった戦略をとっていることも書かれている。実際、2022年のウクライナ危機の最中にも、こうした戦略は実行されているようだ。もちろん、民間人に多数の犠牲者を出すロシアの軍事行動は決して擁護できるものではないが、気をつけなければならないのは、ウクライナや同国を支援する西側諸国もまた、メディアを利用しているということだ。「情報戦」に巻き込まれ、過剰に感情を左右されるのを避け、冷静かつ客観的に情勢を見極める目が必要だろう。 

 

●ウクライナ東部で攻撃が激化 「現実受け入れよ」とロシア報道官 5/27
ウクライナでは26日、侵攻中のロシア軍による東部ドンバス地方への攻撃が激化した。北東部の都市ハルキウも爆撃して多数の死傷者を出すなど、ロシア軍は各地で同時進行的に攻勢を強めている。ウクライナは、戦況は厳しいとの見方を示し、西側諸国に兵器供与を求めている。ウクライナのハンナ・マリャル国防次官によると、ドンバス地方の都市セヴェロドネツクとリシチャンスクで、ロシア軍による猛烈な砲撃があった。ロシア軍の攻撃は「エスカレートしている」という。ドミトロ・クレバ外相は、ツイッターに寄せられた質問に答える形で、東部の状況は人々が思っているよりひどいと説明。追加の兵器を強く必要としているとして、こう訴えた。「もしウクライナを本当に心配するなら、兵器、兵器、兵器を改めてお願いする」「大砲なしでは、多連装ロケット砲なしでは、ロシア軍を押し返せない。ウクライナのことを本当に思うなら、ウクライナに領土を取り戻させたいなら、一刻も早く多連装ロケット砲を送ってほしい」ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナの首都キーウと第2の都市ハルキウの占領を中止し、ロシア語を話す住民が多い東部での軍事的勝利を目指している。東部ではウクライナによる集団虐殺があったと、プーチン氏は偽って非難している。プーチン氏にとって、ドンバスでの目標達成は、軍事作戦を終了させ、成功をアピールするための最低条件となっている。ウクライナによれば、ドンバスでの戦いは、第2次世界大戦以降のヨーロッパにおける地上戦としては最大のものだという。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍が「領土の1センチも渡さずに戦う」と宣言している。
ハルキウでは25人死傷
一方、北東部の大都市ハルキウでは、爆撃によって生後5カ月の赤ちゃん1人を含む8人が死亡、子ども1人を含む17人がけがを負った。ウクライナのイーホル・クリメンコ国家警察長官が、フェイスブックで明らかにした。南部ミコライウ州でも、ロシアの砲撃によって2人が死亡したと、現地の軍当局が明らかにした。商店や住宅などが攻撃を受けたという。キーウで取材に応じたマリャル国防次官は、この先の戦況は「極めて厳しい」とし、ウクライナ側の犠牲者は「避けられない」と述べた。ただ、いかなる譲歩もしない考えを示した。
「現実を受け入れよ」とロシア報道官
こうした中、ロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、「現場の現実」を受け入れるようウクライナに求めた。ロシアが侵攻によって南部などを占領していることを指すとみられる。一方、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、ウクライナのザポリッジャ原子力発電所をロシア軍が押さえたと明らかにした。核燃料と核物質の保護が目的だとし、軍の行動の正当性を主張した。欧州最大の同原発は、ウクライナで原子力発電の半分以上を担い、電力供給全体の2割を生み出している。ロシア軍は3月3日に同原発を砲撃し、のちに占拠した。現在、原子炉6基のうち2基だけ稼働している。他方、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの港湾が封鎖され穀物などが輸出できず、食料危機が起きている状況について、緩和に向けて「大きな貢献」をする用意があると述べた。ただ、西側各国による対ロシア制裁の解除が条件だとした。ウクライナでは、穀物2000万トンが輸出できなくなっているとされる。
ロシア外相、西側の兵器提供に警告
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、西側諸国がウクライナに、ロシアを射程範囲とする兵器を提供することについて、「受け入れ難いエスカレーション」につながると警告した。ロシアのタス通信が、RTアラビア語によるラヴロフ氏へのインタビューを引用して伝えた。それによると、ラヴロフ氏は、「西側は戦場でロシアを倒すことを求めており、そのために必要なのは(中略)ロシア連邦に届く兵器などをウクライナの民族主義者、ウクライナの政権に提供することだ」と述べた。そして、「私たちは西側諸国に対し、すでに実際にはロシア連邦を相手とする代理戦争を仕掛けていると真剣に警告した。(中略)これは受け入れ難いエスカレーションへの重大な一歩となるだろう」とした。
戦争犯罪で1万件以上捜査
ウクライナのイリナ・ウェネディクトワ検事総長は、ロシア軍による戦争犯罪の疑いで捜査している事案が約1万4000件に上っていると明らかにした。また、ウクライナ国内の1000以上の医療および教育施設が、侵攻によって破壊されたと付け加えた。一方、ウクライナにおける2例目の戦争犯罪裁判が26日開かれ、ロシア兵の捕虜2人が有罪を認めた。
WHOでロシア非難決議
世界保健機関(WHO)の総会が26日あり、ロシアによる「医療施設に対する攻撃を含む、ウクライナへの軍事侵略」を非難する決議案が採択された。決議案は欧米各国が支持。賛成88カ国、反対12カ国、棄権53カ国で可決された。ロシアも、ウクライナ危機に関して自国の役割にまったく言及しない決議案を出したが、否決された。WHOによると、ロシアがウクライナに侵攻して以来、医療施設、輸送機関、人員、患者、物資、倉庫など、医療が被害を受けた攻撃は256件報告されている。
●米・ウクライナ、高性能武器による戦争激化リスク巡り協議=米高官 5/27
米国とその同盟国がウクライナ向けに、より高性能の武器を供与している中で、こうした武器による攻撃がロシア領深くに達した場合に戦争がエスカレートする危険について、米政府がウクライナ側と既に協議している。複数の米政府高官や外交筋がロイターに明かした。
関係者3人の話では、協議の狙いはエスカレーションに付随するリスクに関して共通の理解を得ることにある。米高官の1人は「われわれはエスカレーションを心配している。だがわれわれが提供している武器の使用で対象地域を限定したり、あまりに大きな制約を課したりするのも今のところ望んでいない」と語った。
ウクライナは侵攻してきたロシア軍に対して、米情報当局が当初想定した以上の反撃に成功している。西側諸国は「M777」155ミリりゅう弾砲など、より射程距離が長い火力兵器の供与に積極的な姿勢を強化。先週には米国防総省が、デンマークからウクライナに対艦ミサイル「ハープーン」が提供されると発表。ウクライナの保有する武器の射程はさらに長くなる。
また複数の米高官は、バイデン政権が弾薬次第で数百キロという射程を誇る自走多連装ロケットシステム「M142」の供与さえ検討していると話している。
一方で米情報当局からは、特にロシアのプーチン大統領が掲げているとみられる目標と現実にロシア軍が上げた戦果に大きな差がある以上、さまざまなリスクが高まってきたとの警告も聞かれる。ヘインズ国家情報長官は今月の上院証言で、今後数カ月で戦闘は「予測不能度が高まり、エスカレートする方向に進む可能性」があると述べた。
そうした中で2人目の米高官は、西側が供与した特定の武器システムの使用に際して米国とウクライナは「理解」を共有していると強調。「これまでのところ、(使用)限度の面で認識が一致している」と強調した。
●ロシア軍、ウクライナで戦車約1000台失う 米国防当局者 5/27
米国防当局幹部は26日、現在も続くウクライナでの戦争でロシア軍がこれまでに「戦車1000台近く」と「350門を優に超える大砲」、そして「ほぼ3ダース(36)の戦闘爆撃固定翼機と50機以上のヘリコプター」を失ったと記者団に述べた。
ただし、これだけの損失があってもロシアは「まだ能力の大部分を残している」と米国は評価しているという。同高官は「ロシアはこの戦いに非常に多くのハードウェアと人員を投入しており、ウクライナ、ロシアの双方が損失を被っている」と述べた。
また「ロシアは人員、装備、武器の点で、この戦いに注入できる資産の数で優位に立っており、我々はそのことに留意しなければならない」とも付け加えた。
●ロシア国民の無差別殺人も平然とやる…プーチン大統領 5/27
ロシアのプーチン大統領とはどんな人物なのか。軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんは「21世紀最悪の大虐殺者となることは間違いない。すでに直接的には約7万人、間接的な殺人幇助も含めると30万人の犠牲者が出ている。そのなかにはロシアの民間人も含まれる」という――。
万単位の規模で民間人が犠牲になったウクライナ
ウクライナ侵攻では、開戦直後から激しい戦闘で凄まじい数の命が奪われた。
2022年4月4日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、それまでのウクライナの民間人の死者は少なくとも1430人。実際には、はるかに多いだろうと発表した。
前日の4月3日には、ロシア軍が撤退したキーウ北方の街ブチャで多くの惨殺死体が発見されている。ブチャ市長はロイター通信に対し「300人以上が殺害された」と証言している。ブチャ以外でも同様の住民殺戮が行われたとの情報もあり、4月5日にはウクライナ当局が「キーウ周辺で410人の民間人遺体を発見」としている。
他方、南部の港湾都市マリウポリはロシア軍に包囲され、連日砲撃を受けてきたが、市当局は3月28日に「死者は約5000人」と発表している。こうした数字がどれだけ正しいかは不明だが、少なくともウクライナで同時点で数千人の民間人が犠牲になっていたことは、間違いない。開戦2カ月後の4月下旬では、残念ながら万単位の死者数になっていると思われる。
また、ロシア軍による犠牲者ということでは、民間人以外にウクライナ軍の犠牲者もいるが、こちらはウクライナ当局が厳重な情報秘匿を徹底しており、何人が死んだのか一切不明である。
ロシア軍の戦死者も2万人に上ると推定される
対するロシア軍の戦死者数も不明だが、3月21日にロシア紙サイトが「約9800人戦死」と報じ「すぐに削除」された。3月24日にはNATO当局者が「ロシア軍の戦死者が7000〜1万5000人」としていた。
また、4月21日にはロシアの親政府系メディア「レアドフカ」がロシア国防省のオフレコ会見の内容を誤ってネットに流出させてしまったのだが、それによると正確な数字は統計不可能ながら、わかっているだけでロシア軍の戦死者は1万3000人以上、行方不明者が約7000人とのこと。合わせて2万人近い死者ということになりそうだ。
開戦から2カ月で凄まじい数の戦死者推定だが、ウクライナ軍もやはりかなりの戦死者が出ていることは疑いない。ロシア軍と同じくらいの戦死者が出ていてもおかしくはないのだ。
以上はいずれも、プーチンがこの「恥ずべき侵略」を始めなければ、死なずに済んだ貴い命だ。つまり開戦2カ月ですでにプーチンは、おそらく3万人以上のウクライナ人を殺害したのだ。
国内外で暗殺されたプーチン批判派は100人超
   モスクワ「自作自演」連続テロ
旧KGBの後継組織である連邦保安庁(FSB)長官だったプーチンは1999年8月9日に首相代行、同月16日に首相に任命されて実権を握るが、そのわずか半月後の8月31日にモスクワ中心部のショッピングモールで爆弾テロが発生。さらに翌9月半ばにかけてモスクワの集合住宅ほかロシア各地で計5回のテロが起き、計295人が殺害された。
のちに内外の勇敢な記者たちの調査により、これらのテロはチェチェン侵攻の口実とするためにプーチンがFSBに命じてやらせた可能性がきわめて高いとされている。つまり自作自演テロで、プーチンはロシア人同胞を含む無関係の民間人295人を殺戮したと考えられるのだ。
   反対派の暗殺
プーチン政権発足以降、反対派の新興財閥(オリガルヒ)、政治家、記者らの殺害・殺害未遂および不審死があとを絶たない。こうしたプーチン批判派で、ロシア国内で殺害された人数は数十人になる。記者以外の人物、さらにロシア国外にいた人物の殺害まで含めると、おそらく100人を超える人数になるだろう。
また、軍用神経剤「ノビチョク」で暗殺未遂に遭った民主化運動指導者のアレクセイ・ナワリヌイ(2020年)や元情報機関員セルゲイ・スクリパリ(2018年)のように、殺害されないまでも暗殺未遂に遭った人数を含めると、その数はさらに何倍にも膨れ上がるだろう。
ウクライナ侵攻後も続けているシリアへの無差別空爆
   シリア空爆
2011年3月に始まったシリア紛争で、プーチン政権は反独裁を叫ぶシリア国民を殺戮するアサド政権に圧力をかける国連安保理決議をことごとく拒否権で潰し、アサド政権への軍事支援を続けた。
また、2015年9月からは直接ロシア軍を派遣し、反体制派エリアへの無差別空爆を開始した。ロシア軍は病院、学校、市場、民家を破壊し、民間人多数を殺害し続けた。「ダブルタップ攻撃」といって、同一の地点を時間差で攻撃することにより、1発目の攻撃での被害者を救助するために集まった人々をさらに殺害するということまでやっている。
シリアでのそうした攻撃はウクライナ侵攻後も変わらず続けているが、ロシアは一貫して「テロリストのみ攻撃している」と主張している。ウクライナでやっていることと同じだ。
間接的な殺人幇助で20万人以上の民間人が犠牲に
ロシア軍がシリアで殺戮した民間人の人数は、NGO「シリア人権監視団」(SOHR)によれば少なくとも8700人(2021年6月時点)、NGO「暴力記録センター」(VDC)によれば6900人(2022年2月時点)とのことである。
ちなみにVDCは戦闘員を含めたロシア軍による殺害総数を7360人と統計している。「テロリストのみ攻撃している」と言いながら、実際には民間人ばかり殺害していることになる。
それだけではない。プーチンはこうした直接的な殺人だけでなく、間接的な殺人幇助も行っている。前述したようにロシアが国連安保理決議を葬ったことにより、アサド政権は延命し、多くの民間人を虐殺した。その人数は前出SOHRによれば判明しているだけで13万人以上、不明者はさらに数万人規模という。もう一つの有力なNGO「シリア人権ネットワーク」(SNHR)の統計では、20万人以上に及ぶ。
この膨大な数の民間人犠牲者も、プーチンが殺したといって過言ではない(さらに反体制派兵士も8万人以上を殺害している)。
ロシア軍の代わりに紛争国で殺戮を行う民間軍事会社
   GRU指揮下の民間軍事会社「ワグナー」の暗躍
ロシア軍情報機関GRUが、ロシア軍が表立って行動できないときに、軍のダミーとして使っている民間軍事会社が「ワグナー・グループ」だ。所有者はプーチン側近の政商でクレムリンと直結している。
このワグナーはシリア、ウクライナだけでなく、リビア、中央アフリカ、南スーダン、モザンビーク、マダガスカル、マリなどに派遣されている。ワグナーは汚れ仕事を請け負うことが多く、それらの国でも独裁的な権力者もしくはいずれかの政治勢力の側に参加し、現地の反対派を弾圧する任務に就くことが一般的だ。その過程でおそらくそれなりの人数の現地住民を殺戮しているが、その活動は秘匿されている。
2022年4月5日、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が「マリで3月末に約300の民間人が、マリ政府軍と外国人戦闘員に殺害された」との報告書を発表した。この外国人はロシア人だったとの目撃証言があり、おそらくワグナーと思われる。
ウクライナ東部では侵攻前にすでに1万人が死亡
   ドンバス地方侵略
ロシア軍によるウクライナへの不法な侵略行為は、2014年から継続している。最初はクリミア半島に軍を派遣して占領したが、その後ロシアに一方的に併合したと主張している。
さらに、その勢いでウクライナ東部のドンバス地方に非公式に軍および軍情報機関を投入し、地元の親ロシア派を前面に立てて一部を占領した。その後のウクライナ軍との戦いの過程で2022年1月までにすでに約1万4000人が死亡している。これらの犠牲もすべてプーチンに責任がある。
以上のように、2022年2月に開始されたウクライナ侵攻よりずっと以前から、プーチンは数々の殺戮に手を染めてきた。ざっと計算すると、すでに推定で7万人近い殺戮に直接の責任がある。プーチンの事実上の配下のようになっているシリアのアサド大統領による殺戮の責任も加えれば、プーチンはなんと30万人をはるかに超える人々を殺してきた21世紀最悪の大虐殺者といえる。
プーチンは1999年以来、殺戮を続けている。ウクライナ侵攻以前に、すでにヒトラーやスターリン、毛沢東、ポル・ポトといったカテゴリーの人間だったのである。
●行きたい「戦争が終われば」 秋のG20、ゼレンスキー氏が参加意向 5/27
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領が27日、今年11月にインドネシアである主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に戦争が終われば「喜んで参加したい」と話した。G20サミットにはロシアのプーチン大統領も参加の意向を示している。
ゼレンスキー大統領は27日、インドネシアのシンクタンク「インドネシア外交政策コミュニティー」主催のオンラインイベントで演説した。演説後、参加者からの質問がG20サミットに及ぶと、「私はウクライナを離れることはできない。私は国民と一緒に(この国に)とどまる」と前置きしつつ、戦争が終われば「喜んで参加したい」と述べた。秋まで戦争が続いていれば「オンライン(参加)も可能だ」とも話した。
G20サミットにはロシアのプーチン氏も参加の意向だ。ゼレンスキー氏は「(G20)サミットには友好国、パートナー国のみが参加し、占領者や侵略者は参加しないと信じている」と話し、名指しは避けつつも、プーチン氏の参加に反発した。
G20サミットの開催を巡っては、プーチン氏が参加の意向を示したことに対し、米国など西側諸国が反発している。4月に開かれた財務相・中央銀行総裁会議ではオンライン参加したロシアのシルアノフ財務相が発言を始めると、米国、カナダ、英国などの代表らが一斉に退席する異例の展開となった。議長国のインドネシアは世界の首脳陣に参加を呼びかけ、調整に奔走している。
●ロシアが東部で攻勢、中印がロシア産石油を積極購入 5/27
ロシア軍はウクライナ東部で攻勢を強めている。英国のジョンソン首相は領土割譲を伴うとみられる和平合意を求める声を退け、長距離ミサイルを含む軍事支援の追加を呼び掛けた。
ロシアがウクライナに侵攻してから100日がたとうとする中で、タンカーで海上輸送されるロシア産石油の量は記録的な水準に達し、他国が敬遠する中で大半はインドまたは中国に向かっている。中国の石油取引大手ユニペック(中国国際石油化工連合)は5月に、ロシア極東から原油を輸送するタンカーの契約隻数を前月の5倍に増やした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は11月の20カ国・地域(G20)首脳会議までに戦争が終結し、同会議に出席できることを望んでいると示唆した。クレジットデリバティブ決定委員会(CDDC)はロシア債を巡る決定を31日まで先送りした。
ロシア、信頼ある借り手との評価を維持したい−シルアノフ財務相
ロシアは信頼できる借り手であるとの評価を維持したいと考えており、ドル建ての支払いができなくなった後もルーブルで債務の支払いを履行し続けると、シルアノフ財務相が語った。同相はモスクワ金融大学の学生に対し、「外国の投資家に『あなたの国の政府がわれわれの支払いを望んでいない。従って、われわれは支払わない』と言えば、時間がたった後も記憶は残る」と発言。「だからロシアとしては、このような状況にあっても、信頼ある借り手としての立場を再確認するためあらゆる手を尽くす」と言明した。
ロシア、ドンバス地方の鉄道交通の要衝を制圧
ロシア軍はウクライナ東部ドンバス地方で戦略的に重要なリマンの大半を制圧したと、両国の当局が明らかにした。リマンは鉄道交通の要衝でロシアが支配を狙っていた都市の一部だったほか、リマンから東方に位置するウクライナ軍を包囲できる可能性もある。一方、ウクライナ南部のヘルソン州を占領するロシア軍は、民間人がウクライナ政府の支配地域に逃れる交通路を遮断したと、ウクライナの当局者がキーウ(キエフ)で記者団に語った。ロシア軍はウクライナ軍の反撃に備える防御壁の構築を進めているという。同州の生産者は穀物や果実、野菜を輸出しようとするとロシアが支配するクリミアに送られるため、輸出できないでいるともこの当局者は述べた。
ウクライナ大統領、30日のEUサミットに参加へ
30日にブリュッセルで開かれる欧州連合(EU)首脳会議に、ウクライナのゼレンスキー大統領がビデオリンク経由で参加する。EUは新たな対ロシア制裁パッケージでの合意に難航しており、一部の加盟国首脳は主要パイプラインを通じて輸入するロシア産石油を一時的に対象外とし、禁輸を海上輸送の石油に限る案での合意に傾いている。
ゼレンスキー大統領、G20首脳会議までの戦争終結に期待
ウクライナのゼレンスキー大統領は、11月15−16日にインドネシアのバリ島で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議の前にロシアの侵攻が解決し、同会議に直接出席できることを望んでいる。同大統領はシンクタンク、インドネシア外交政策コミュニティー(FPCI)との共同記者会見で、可能であればインドネシアを訪問し、そうでなければオンラインで会議に出席すると表明。「首脳会議では友好国やパートナー国ばかりで、占領国や侵略国はいないだろうと確信している」と語った。
英首相、ウクライナに追加軍事支援促す
ジョンソン英首相は、ロシアとの戦闘を続けるウクライナに対し、多連装ロケットシステム(MLRS)などより攻撃力の高い武器供給も含め、軍事面での追加支援を強く呼び掛けた。ブルームバーグの取材に応じたジョンソン首相は、ロシアのプーチン大統領と交渉する見通しについて問われ、「脚をかみちぎっている最中のワニには対応できない」と返答。「この男は全く信用できない」と続けた。
中国、ロシア産原油輸送でタンカーを追加契約
中国の石油取引大手ユニペックは、ロシア極東から原油を輸送するための契約タンカー数を大幅に増やした。米国や欧州がロシア産石油を敬遠する中で、中国が積極的な買い手として浮上している。トレーダーや海運ブローカーによると、ロシアのESPO原油をウラジオストク近郊のコズミノ港から運ぶため、ユニペックは今月に入り少なくとも10隻のタンカーを契約した。4月に比べて5倍の増加だという。コズミノから中国まで通常は直接輸送され、5日間の航路。
ロシア産石油、中国とインドの購入は過去最高
タンカーで運ばれているロシア産石油は記録的な水準だ。ウクライナ侵攻を理由に輸入を禁止する国もある一方、インドや中国に向かうロシア産石油の量は過去最高に上る。
米、長距離ロケットシステムなどのウクライナ供与を検討−報道
米国は来週にも新たな包括的ウクライナ支援案を発表する可能性があり、これには長距離ロケットシステムなど高性能兵器が含まれる見通しだ。CNNが匿名の複数の政府当局者を引用して報じた。国家安全保障会議(NSC)内にウクライナが同システムをロシア国内への攻撃に使うのではないかとの懸念があり、政権は供与すべきかどうか揺れていたという。
西側主要国、オリガルヒが再建資金拠出なら制裁解除する案検討−報道
西側主要国はロシアのオリガルヒ(新興財閥)がウクライナ再建に資金を拠出する場合は制裁対象から外す案を検討している。AP通信が事情に詳しい政府当局者を引用して報じた。
ホワイトハウス、制裁と食糧輸出関連付けるプーチン氏の案を拒否
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は記者団に対し、米国はウクライナ紛争で阻まれている食糧輸出の促進の条件として制裁解除を求めたロシアの提案を拒否すると語った。
プーチン大統領、制裁緩和なら穀物・肥料輸出促進する用意ある
食糧不足や価格上昇に関する懸念が世界的に高まる中、ロシアのプーチン大統領は同国に対する制裁緩和を条件に、穀物・肥料輸出を促進する用意があると述べた。ロシア大統領府が声明でプーチン大統領とイタリアのドラギ首相の電話会談の内容を発表した。プーチン大統領はロシアとウクライナのどちらの輸出を指しているかは明らかにしなかった。
●ロシア地方議会 野党議員がウクライナからの軍撤退を訴える  5/27
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、地方議会の野党議員が公然と撤退すべきだと訴える一幕があり、軍事侵攻に対する不満の広がりもうかがえる事態となっています。
ロシア極東の中心都市ウラジオストクがある沿海地方の議会で27日、野党・共産党に所属する議員が追加議題の発言として、プーチン大統領に宛てたとする文書を突然、読み上げました。
このなかでは、はじめにウクライナへの軍事侵攻で死亡した兵士などの家族に対する支援策について言及したうえで「軍事作戦をとめなければさらに孤児が増える」と訴えました。
これに対して議長が即座に発言をやめるよう求めましたが、議員は立ち上がってさらに読み続け「国に大きく貢献できたであろう若者たちが軍事作戦で亡くなったり、負傷したりしている」と述べました。
そのうえで「軍事的な手段での成功は不可能だ」として、ロシア軍の即時撤退を求め、同じ共産党に所属する別の議員1人が拍手しました。
一方、政権与党に所属するコジェミャコ知事は「ナチズムと戦っているロシア軍に対する中傷だ。何を考えているのだ」と強く批判し、その後、発言した議員と拍手した議員は議場から退出させられました。
プーチン政権は、ことし3月「軍事行動の中止の呼びかけや軍の信用失墜を目指す活動」などを法律で禁止し、情報統制を強化しています。
このため、公の議会で軍事侵攻を批判する声が出るのは異例で、戦闘の長期化でロシア側にも大きな人的損失が出ていると伝えられる中、不満の広がりもうかがえる事態となっています。
●ロシア兵100遺体、冷蔵貨車に保管…「いつでも遺族の元に返還する」  5/27
ウクライナ軍は26日、首都キーウで、市内に保管されたロシア軍兵士の遺体の身元確認を行う様子を報道陣に公開した。
ウクライナ軍はロシアの軍事侵攻で、露軍兵士約3万人が死亡したと主張しており、遺体の一部はウクライナ軍が保管している。キーウの駅近くに停留した冷蔵貨車の中には、約100体が収容されており、白い服を着たウクライナ軍関係者が26日、遺体の衣服から所属や身元を示すものが残されていないかどうかの確認作業を行った。
遺体は、露軍の捕虜となったウクライナ軍兵士やその遺体と交換されることが想定されている。ウクライナ軍のウォロディミル・リャムジン大佐は、「国際人道法に基づいて保管しており、いつでも遺体を遺族の元に返還する用意がある」と強調した。
●ウクライナ軍、米国が提供した攻撃ドローン「スイッチブレード」初公開 5/27
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。
米国バイデン大統領はロシアに侵攻されているウクライナに対して支援を行っている。2022年3月にバイデン政権は、米国エアロバイロンメント社が開発している攻撃ドローン「スイッチブレード」を提供していた。4月には攻撃ドローンのスイッチブレードをさらに600台追加で提供。また 同社では監視・偵察ドローンもウクライナ軍に提供している。
スイッチブレードは「Switchblade300」と「Switchblade600」が上空からドローンが標的に突っ込んでいき、戦車などを破壊することができる。同社ではイメージ動画も公開している。ドローンが認識した標的を人間が判断して攻撃をしているので、軍事施設や戦車など軍事目標に攻撃できることを強調している。米国がウクライナに提供する予定の軍事ドローンは2010年にアフガニスタンにタリバン掃討のために派遣されたアメリカ軍部隊にも配置されていた。
ウクライナ軍は攻撃ドローン「Switchblade300」でロシア軍に攻撃を行う発射シーンを動画で初公開した。地面に設置した発射台を兵士が足で抑えて、兵士が手にしたスイッチを押すと発射台から簡単に攻撃ドローンが上空に向けて発射される様子が流れている。発射台を上空に向ければ、どのような場所からでも発射できる。
またその後にタブレットで標的の位置を確認しているシーンも流れている。人間の軍事が目視で標的のロシア軍を探している様子が伝わってくる。米国政府が提供した「スイッチブレード」はウクライナ東部での戦いで今まで多く利用されていたが、発射シーンを公開するのは初めてだそうだ。
ロシア軍がウクライナに侵攻してから、両国ともに軍事ドローンによる上空からの攻撃が続いており、ロシア軍はロシア製の軍事ドローン「KUB-BLA」で攻撃を行っており、ウクライナ軍はこの「スイッチブレード」シリーズだけでなくトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」もよく使っている。軍事ドローンが上空から地上に突っ込んできて攻撃をして破壊力も甚大であることから両国にとって大きな脅威だ。搭載している爆弾によるが軍人が死亡してしまう場合もあるし、大怪我や負傷することもある。殺害されてしまうよりも大怪我を負ってしまう方が介護が必要になるので、稼働やコストなど軍への負担が大きい。
小型攻撃ドローンは上空から標的に向かって突っ込んでいき、爆撃することから「Kamikaze Drone(神風ドローン)」、「Suicide Drone(自爆型ドローン)」、「Kamikaze Strike(神風ストライク)」とも呼ばれている。標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。日本人にとってはこのような攻撃型ドローンが「神風」を名乗るのに嫌悪感を覚える人もいるだろうが「神風ドローン」は欧米や中東では一般名詞としてメディアでも軍事企業でも一般的によく使われている。
「スイッチブレード」はドローン自らが標的に向かって突っ込んでいき爆破する、いわゆる「神風ドローン」なので、「スイッチブレード」が報じられるときはよく耳にする。今回のウクライナ紛争で「神風ドローン」は一般名詞となり定着した。ウクライナ語では「Дрони-камікадзе」(神風ドローン)と表記されるが、ウクライナ紛争を報じる地元のニュースで耳にしたり目にしたりしない日はない。
ウクライナ軍が多く使用しているトルコ製の軍事ドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍の攻撃阻止に大きな貢献をしているが、このドローンは上空から爆弾を落下させる。「バイラクタルTB2」を神風ドローンと報じているメディアがあるが、「バイラクタルTB2」は自らが標的に突っ込んで爆破するタイプではないので「Kamikaze Drone(神風ドローン)」ではない。
●ゼレンスキー大統領ら猛反発 米・キッシンジャー氏“ロシアへ譲歩”発言を受け 5/27
アメリカの元国務長官キッシンジャー氏がウクライナは領土の一部をロシア側に明け渡すべきという趣旨の発言をしたことにウクライナ側は猛反発しています。
アメリカの安全保障政策などに大きな影響を与えてきたキッシンジャー氏は23日、オンラインで参加した国際会議でロシアによる軍事侵攻を終結させるためとして次のように発言していました。
米・キッシンジャー元国務長官「理想的には、ウクライナとロシアの境界線が“侵攻前の状況”に戻ることが望ましい」
キッシンジャー氏の発言は、2014年にロシアが一方的に併合したクリミア半島や東部の親ロシア派支配地域の奪還を断念することをウクライナ側に提言したものと受け止められています。
この発言にウクライナのクレバ外相は25日、ロシア側への譲歩姿勢こそが今回の軍事侵攻を招いたと反発しています。
ウクライナ・クレバ外相「(主要国の)2014年以降の戦略は失敗した。それはいつもロシアを交渉に参加させるため、ウクライナに『建設的になれ』『譲歩しろ』というものだった。それは機能しなかった」
また、ゼレンスキー大統領も発言をナチス・ドイツに対する融和政策になぞらえ強く批判しています。
●ウクライナ滞留穀物、迅速な輸送に黒海封鎖の解除必要=高官 5/27
ウクライナは国内に滞留している穀物を陸上や河川経由などで輸出しようとしているが海上輸送よりも効率が悪く、ロシアが黒海の港の封鎖を解かない限り輸出量が目標に達する可能性はほとんどない。政府高官が明らかにした。
2月24日の軍事侵攻前、ウクライナは月当たり最大600万トンの小麦、大麦、トウモロコシを輸出する能力があったが、3月に30万トンに急減し、4月も110万トンにとどまった。
ウクライナ農業食料省の高官、ロマン・ルサコフ氏はアフリカなどの国々はウクライナからの食料を切望していると指摘。「港が必要だ。しかし、鉄道輸送も改善できるし、河川港も良い仕事をしてくれるはずだ」と述べたが、それでも月間輸出量600─700万トンには届かず、200万トンが当面の目標だと述べた。
同省はドナウ川の小規模港からルーマニアに月70万─75万トンを輸送し、残りは陸上および鉄道経由で欧州に届けたい考え。ただ、5月1─22日の陸上輸送量はわずか2万8000トンにとどまった。
鉄道は陸上より有望だが、レール幅が狭い欧州各国に渡る際に積み荷を載せ替える必要があるなど、手間とコストがかかる。
国連食糧農業機関(FAO)の高官はウクライナ南部の港湾都市オデーサ(オデッサ)を「再開する必要がある」と強調し、外交的解決に向けた協議を呼びかけた。
●プーチン氏 欧米諸国の対ロ政策は「侵略行為」 5/27
ロシアのプーチン大統領が演説を行い、欧米各国による経済制裁は「実質的な侵略行為」だと主張しました。
ロシア、プーチン大統領「非友好国からの実質的な侵略行為で厳しい国際情勢になっている」
プーチン大統領は27日、旧ソビエト諸国でロシアの友好国が加盟する「ユーラシア経済連合」の会議で演説を行いました。プーチン氏は「今こそ我々は団結すべきだ」と呼び掛け、ロシアへの経済制裁を発動した欧米諸国などへの対抗を訴えました。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「ウクライナの指導部は発言に整合性がない」などと批判し、ゼレンスキー大統領との交渉について否定的な姿勢を示しました。ロシアとウクライナの停戦交渉が打ち切られた原因についても、「ウクライナ側が決めたことだ」と主張しています。
●プーチン氏「食糧危機克服へ貢献の用意ある」…制裁解除が条件と揺さぶる  5/27
ロシアのプーチン大統領は26日、イタリアのマリオ・ドラギ首相と電話会談し、米欧などの対露制裁の解除と引き換えに、「穀物と肥料の輸出で食糧危機の克服に大きく貢献する用意がある」と主張した。穀物輸出国ウクライナへの侵攻で深刻化する食糧危機を利用して、米欧に揺さぶりをかけた形だ。
露大統領府の発表によると、プーチン氏は食糧危機について、「ロシアへの非難は根拠がなく、米欧の対露制裁で事態が悪化した」と反論した。露軍はウクライナの黒海沿岸で港湾を封鎖しており、黒海を経由するウクライナの穀物輸出が滞っている。露外務省高官も25日、米欧などが対露制裁を解除すれば封鎖を解く用意があると表明していた。
電話会談後に記者会見したドラギ氏によると、プーチン氏は「港を封鎖しているのは、ウクライナが設置した機雷のせいだ」とも主張した。ドラギ氏は「プーチン氏の言葉からは、平和への希望を見いだせなかった」と述べた。
米国のカリーヌ・ジャンピエール大統領報道官は26日の記者会見で、「ウクライナの穀物輸出を阻み、世界の食糧危機を招いているのはロシアだ」と強調。米国防総省のジョン・カービー報道官も26日の記者会見で「残酷にも食糧を武器化している」とロシアを批判した。
露軍は26日もウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)の制圧に向け、攻撃を続けた。米国防総省高官は26日、記者団に対し、ルハンスク州の要衝都市セベロドネツクについて、「露軍が本質的に包囲しており、北東部はほぼ占拠された。だが、ウクライナ軍もまだ抵抗を続けている」との分析を示した。
東部ハルキウ州の知事は26日、ハルキウ市内3地区で砲撃があり、子供を含む民間人9人が死亡、19人が負傷したと発表した。今月上旬に同州で反撃に転じたウクライナ軍は露軍を押し戻し、ハルキウでは今月10日頃から大きな砲撃は起きていなかった。
●プーチン氏、対ロ制裁緩和なら食料危機回避に「貢献」も 5/27
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は26日、イタリアのマリオ・ドラギ(Mario Draghi)首相との電話会談で、西側諸国がウクライナ侵攻をめぐる対ロ制裁を解除すれば、迫りくる食料危機の回避のため「重大な貢献」をする用意があると表明した。
制裁と戦闘の影響で、ロシアとウクライナ両国からの肥料や小麦の供給が滞っている。2か国の小麦生産量は、世界全体の30%を占めている。
ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)は発表で、「西側諸国の政治的動機に基づいた規制を緩和すれば、ロシアは穀物と肥料の輸出を通じ、食料危機の克服に重大な貢献をする用意があるということをプーチン氏は強調した」と説明した。
プーチン氏はまた、世界市場における食料供給の問題の非がロシアにあるというのは「事実無根だ」と指摘した。
米国防総省のジョン・カービー(John Kirby)報道官はこれに対し、「今やロシアは経済的手段を武器として用いている。食料も、経済支援もだ。うそや偽情報も含めありとあらゆるものを武器としていることを考えると、全く驚くべきことではない」と批判した。
●英首相、ウクライナに追加軍事支援促す−プーチン氏は「ワニ」 5/27
ジョンソン英首相は、ロシアとの戦闘を続けるウクライナに対し、多連装ロケットシステム(MLRS)などより攻撃力の高い武器供給も含め、軍事面での追加支援を強く呼び掛けた。
ウクライナでの戦争は4カ月目に突入し、同国のゼレンスキー大統領は領土を割譲することになるとしてもロシアとの和平合意成立に注力すべきだとの声もある。こうした考えをジョンソン氏は退け、ウクライナに対する武器支援の追加を支持すると表明した。
ブルームバーグの取材に応じたジョンソン首相は、ロシアのプーチン大統領と交渉する見通しについて問われ、「脚をかみちぎっている最中のワニには対応できない」と返答。「この男は全く信用できない」と続けた。
ウクライナは、より遠距離の標的を攻撃できるMLRSの供給を求めているが、これに応じれば、北大西洋条約機構(NATO)がロシアと直接対決する事態に近づく恐れもあるとして慎重な意見も上がっている。
ジョンソン首相はMLRSについて、「極めて残酷なロシアの砲撃からの防衛を可能にするだろうし、世界はその方向へ進む必要がある」との考えを示し、ウクライナ東部ドンバス地方で破壊を続けるロシア軍は、「ペースは遅いが、残念ながら確実に進軍している」と述べた。
●「経済はより強力に」プーチン氏“強気”も…航空機を分解し再利用の危機 5/27
欧米諸国による経済制裁が続いても強気のプーチン大統領ですが、ロシア国内を取材すると航空機や鉄道が「運行の危機」に陥っている実態が見えてきました。旧ソビエト諸国が参加する経済フォーラム。プーチン大統領は、欧米企業が続々とロシアから撤退するなか「ロシア経済はかえって強力になる」と訴えました。
プーチン大統領「一部の企業については撤退して良かったと思います。その代わりを私たちが補填するからです。国内産業、特にハイテク産業は今後間違いなく強力になるはずです」
ところが、現実はそう簡単にはいかないようです。ロシア国内では、欧米企業の撤退が進んだことで、鉄道や航空機が、機能しない危機に陥るとの見方が出ています。ロシアの鉄道雑誌の編集長が、番組の取材に応じ、ロシアが抱える深刻な問題を指摘しました。
ロシア鉄道雑誌の編集長「一部の航空機も鉄道も今後使えなくなります。平常通りの提供ができなくなったら大きな問題が発生してしまいます」
航空機が使えなくなる窮地に追い込まれているといいます。アメリカ商務省は、先月、ロシアの航空会社3社に対し、部品などの輸出を禁止すると発表。その影響で…。
ロシア経済紙コメルサント「ロシアの航空会社が所有する飛行機の半分以上は、2025年までに分解される恐れがある」
ロシア航空最大手「アエロフロート」が保有する航空機の大半は、アメリカのボーイング製や欧州のエアバス製です。部品が入手困難となり、3カ月後には、一部の航空機を分解して、部品を再利用する見通しだと、アメリカメディアは報じています。
ブルームバーグ通信「飛行機を運航させるための『共食い』だ」
さらに、「ロシア版新幹線」と呼ばれる高速列車も、存続の危機に…。
ロシア鉄道雑誌の編集長「シーメンスが撤退することはロシアの経済にとって深刻な問題です」
ドイツの産業システム大手「シーメンス」は、ロシアの高速列車「サプサン」などの開発に長年、関わってきました。ところが、今月、ロシア市場からの撤退を発表。
ロシア鉄道雑誌の編集長「シーメンスは今までロシアのさまざまな製造業で大事なパートナーでした。約150年も協力していました。ロシアからの撤退は、今後産業や交通機関で大きな被害を受けます」
「ロシア版新幹線」の「サプサン」は、「はやぶさ」という意味で、時速250キロで走行できる高速列車です。首都モスクワと、第2の都市サンクトペテルブルクを、最短3時間40分で結ぶ、いわば交通の大動脈。しかし…。
ロシア鉄道雑誌の編集長「特急列車を追加で13台導入する予定でしたが、できなくなりました。また、現在動いている列車でも問題が出てきて解決できない状態です」
列車や部品を新たに入手できないため、運行停止に陥る恐れがあるといいます。ロシア国内からは疑問の声も。
ロシア鉄道雑誌の編集長「国内の企業は『国内製造が8割で海外の部品を使わなくてもいける』と訴えたが、私たちは交換できない部品があるのではないかと疑問を持っています。
頼みの綱として浮上しているのが中国です。
ロシア鉄道雑誌の編集長「ロシアのエンジニアは部品の特徴を理解して、交換して使えるものを中国などで探していると思います」
ウクライナ侵攻を続けるなか「ロシア経済は盤石」とアピールし続けるプーチン大統領。資産凍結などの制裁について、こう非難しました。
プーチン大統領「他人の資産を盗む人に良いことはもたらされないでしょう。特に汚い行為に従事している人なら」
●プーチンが招いた兵力「不均衡」..露エリート「空挺部隊」は作戦失敗を連発 5/27
ロシア軍が誇るエリート部隊である「空挺部隊(VDV)」が、ウクライナへの侵攻において幾つものミスを犯したことは、ウラジーミル・プーチン大統領による軍への投資がいかに「全体的な能力の不均衡を招いた」かを示している──英国防省がこう指摘した。
英国防省の当局者たちは、定例の最新状況分析の中で、VDVはウクライナでの戦闘が始まって以降、「幾つもの重要な戦術上の失敗」に関与してきたと論じている。
彼らはたとえば、3月にホストメル空港から首都キーウ(キエフ)への進軍を試みたものの、あえなく失敗。4月以降、北東部ハルキウ州のイジュームでの戦況はこう着状態にあり、東部ドンバス地域ではドネツ川の横断に失敗した。
4万5000人が所属するVDVは、その多くがプロの契約軍人で構成されるエリート部隊で、最も高い能力を求められる作戦に割り当てられる。だが今回のウクライナ侵攻では、より重装備の機甲歩兵部隊の方が適している任務に割り当てられるケースが多いせいもあり、多数の死傷者を出している。
英国防省の当局者たちは、この「ちぐはぐな業績」は「ロシアがVDVの戦略的運用を誤ったことと、制空権を取れなかったこと」の結果だとした。
彼らは、「VDVの誤用」の状況を見れば、いかに「プーチンによる過去15年間の軍への大規模な投資が、全体的な能力の不均衡につながっているか」が分かると指摘。ロシアがウクライナ側の抵抗を予測できなかったことと「侵攻後のロシア軍司令官たちの慢心」が、エリート部隊であるVDVに「多数の死傷者を出す」結果を招いたと述べた。
一方で、米シンクタンク「軍事研究所(IWS)」では、ロシア軍の各部隊がウクライナのインフラ攻撃に航空機を使っているのは、「高精度の兵器が不足しつつある」からだと分析している。
IWSは最新の状況分析の中で、高精度の兵器が不足しつつあることから、ロシア軍の各部隊は「重要インフラを攻撃するその他の方法を模索しており、攻撃を支援するのに航空機の使用を増やしている」という、ウクライナの一般幕僚の見解を引用。この見解は、制裁によって精密誘導兵器の補充がますます難しくなっているために、ロシア軍が「ダムボム(無誘導の自由落下型爆弾)」に頼るようになっているという、西側の複数の当局者からの報告とも一致していると述べた。
この精密誘導兵器の不足が「重要な民間のインフラへの無差別攻撃の増加」を招く可能性が高いと、IWSは警告している。
●ロシア内部分裂で「プーチン暗殺計画」エリート層の暗躍 5/27
先ごろ、ロシアのウクライナへの軍事侵攻が続く中、プーチン大統領に対する“暗殺計画”が実行されていたことがウクライナメディアの報道で分かった。計画は失敗したという。
現在、戦争は長期化の様相を帯びているが、プーチン大統領の暗殺が遂行されれば事態が急転することが予想されており、世界中で期待している人も多いと言われている。
今回のプーチン暗殺計画については、ウクライナ国防省の情報局を率いるキリロ・ブダノフ准将が「公表されていないが、実際にあった」と主張。計画に関わったのは「黒海とカスピ海に挟まれたカフカス地方の代表者と言われている」とも語った。
「ウクライナの情報当局からは他にも、ロシアのエリート層がプーチンの“排除”を計画しており、すでに後継者も決定しているという話も聞こえてきます。もちろん、プーチンも自身が狙われていることは重々承知のはず。信頼できる側近以外は絶対に自分の近くに寄せ付けず、常に監視の目を光らせていることでしょう。ただ、こうした状態が彼をますます孤立化させ、さらなる暴走を招く危険も大いに孕んでいます」(国際ジャーナリスト)
我々の見えないところで情報戦が繰り広げられているのは間違いないが、果たして映画「007」のジェームズ・ボンドのようなスペシャリストが現れ、一瞬で計画を遂行するような展開が待っているのか。
●プーチン氏、ドンバス地方で緩慢ながらも明白な進展=英首相 5/27
ジョンソン英首相は27日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部ドンバス地方で緩慢ながらも明白な進展を遂げているとの認識を示した。
ブルームバーグUKに対し「残念ながら、プーチンは、自身とロシア軍に多大な負担を強いながら、ドンバス地方を破壊し続けている」と発言。
「少しずつ、ゆっくりとだが、残念ながら、明白な進展を遂げている。このため、われわれが引き続きウクライナ軍を支援することが極めて重要だ」と述べた。
首相は、ウクライナには多連装ロケット弾発射システムなど、追加の軍事支援が必要であり、紛争を終わらせなければならないと発言した。
●「プーチン峰」にウクライナ国旗、警察が捜査 キルギス 5/27
中央アジア・キルギスの警察は26日、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領にちなんで名付けられた「プーチン峰(4446メートル)」にウクライナ国旗が立てられているとの報告を受け、捜査を進めていると発表した。
登山家を名乗るツイッター(Twitter)ユーザーが24日、山頂の記念プレートの横にはためくウクライナ国旗の動画を投稿。「無法者あたりが持ってきて立てたのだろう」とコメントを添えた。
首都ビシケクの警察は26日、24日夜にプーチン峰に向かったとされる登山者2人に事情を聴いていると明らかにした。2人は山頂で旗を見つけ、携帯電話で撮影したと説明しているという。旗を立てた者には罰金刑が科される可能性がある。
旗の動画を投稿したツイッターユーザーは26日、一緒に山に登った仲間が同日に警察から事情聴取を受け、自身も27日に事情聴取を受けると説明した。旗の撤去に向かうチームから、登頂のアドバイスを求められたという。
キルギスは国土の90%を山岳地帯が占める貧困国で、ロシアの忠実な同盟国。2010年の騒乱後にロシアとの関係を強化し、翌11年、天山(Tian Shan)山脈の無名峰に「プーチン峰」と命名した。
同国にはロシア初代大統領のボリス・エリツィン(Boris Yeltsin)氏にちなんだエリツィン峰(5168メートル)やロシアの革命家ウラジーミル・レーニン(Vladimir Lenin)の名を冠したレーニン峰(7134メートル)もある。  

 

●「数日で戦争は止められる」ウクライナから避難した女性が支援訴え 5/28
戦争の長期化が懸念されるなか、ウクライナから避難した女性が「本当に望むのなら、数日で戦争は止められる」と各国に最大限の支援を求めました。
ウクライナからの避難民・テチャーナさん「ボンボンボンボン。爆撃は近所でした。あちこちの農場に落ちたようでした。お互いに『さよなら』と言いあっていました。毎日『きょうが最後だね』って」
テチャーナさんは侵攻が始まった時、ロシアとの国境まで15キロしか離れていないウクライナ北部の村にいました。ロシア兵の略奪から守るため、食料を土に埋めるなどして切り抜け、今は母親とともにポーランドに避難しています。
テチャーナさん「支援には感謝しています。でも十分ではありません。最大限の支援をすべきです。戦争は数日で止められます。本当に望むなら」
侵攻開始から3カ月が経ち、戦争の長期化が懸念されるなか、テチャーナさんは、いち早く終結させるためには軍事面も含めて各国の追加支援が必要だと訴えました。
●戦争が溶け込んだ日常 繰り返された悲劇 ウクライナ・ホストメリ 5/28
ロシアによるウクライナ侵攻開始から3カ月が過ぎた。激しい戦闘があったキーウ(キエフ)近郊ホストメリの一角に、黒く焦げた戦車が放置されている。
幹線道路が近いせいか、家族連れや若者が立ち寄り、思い思いのポーズで写真を撮ってゆく。日常に戦争が溶け込む不思議な光景がそこにはあった。
すぐ隣に住むアレクセイ・ドウブシュさんは8年前、親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍の衝突から逃れるため、両親を東部ドンバス地方の街からキーウに避難させた。
今回は自身がキーウに避難し、今は日中だけ修理のため自宅に戻る。「また同じような光景を見ることになった」。戦車を見つめ、ため息をもらした。
●ロシア ウクライナ東部リマン掌握と主張 さらに進軍の可能性も  5/28
ロシア軍はウクライナ東部2州のうちルハンシク州の完全掌握に向けて州内最後の拠点ともされるセベロドネツクへの攻勢を強めています。こうした中、ロシア国防省はウクライナ東部のドネツク州リマンについて「全域を掌握した」と主張し、ここを足がかりにウクライナ軍の東部の拠点へさらに進軍する可能性も出ています。
ロシア軍はウクライナ東部ルハンシク州の95%をすでに掌握したとみられ、全域の掌握に向けてウクライナ側の州内最後の拠点ともされるセベロドネツクを包囲しようと部隊を進めています。
ロシア軍に抵抗するルハンシク州のガイダイ知事はセベロドネツクの状況について28日、SNSでロシア軍を一部の地域から押し戻していると強調したうえで「敵は至近距離から激しく砲撃し、市街戦が始まったところもある」と明らかにしました。
また、ドネツク州のキリレンコ知事はSNSで、ロシア軍による攻撃で27日、市民5人が死亡し、4人が負傷したと発表しました。
こうした中、ロシア国防省は28日の発表で、ウクライナ東部のドネツク州リマンについて「全域を掌握した」と主張しました。リマンはウクライナ東部の鉄道の重要な拠点とされる戦略的にも重要な場所で、南側にはウクライナ軍の東部の拠点にもなっているクラマトルスクやスラビャンスクなど、ドネツク州の主要都市があることからロシア軍は攻勢を強めていました。
また、イギリス国防省も28日、ウクライナでの最新の戦況分析で「ロシア軍は27日までにドネツク州北部リマンのほぼ全域を掌握した」としています。そのうえで「ロシア軍のねらいはリマンから東に40キロのセベロドネツクだ。これから数日間、ロシア軍の部隊はドネツ川を渡ることに力を入れるとみられていて、リマンを掌握することはロシア軍にとって有利となる」として、ロシア軍がリマンを足がかりにウクライナ軍の東部の拠点へさらに進軍する可能性を指摘しています。
また、イギリス国防省は「ウクライナ軍は統制がとれた防衛作戦を続けていて、ロシア軍に多くの死傷者が出ている」として、ウクライナ側による抵抗も続いているとしています。
一方、ロシア国防省は北西部のバレンツ海で海上発射型の極超音速ミサイル「ツィルコン」の発射実験を行い、成功したと28日、発表しました。
ロシアは、北欧のスウェーデンとフィンランドがNATO=北大西洋条約機構への加盟を申請したことに強く反発していて、今回の実験は両国をけん制するねらいもあるとみられます。
●ウクライナ軍の撤収、東部ルハンスク州知事が言及…退路なくなる前に判断  5/28
ウクライナ東部ルハンスク州のセルヒ・ハイダイ知事は27日夜、SNSで、ロシア軍が要衝のセベロドネツクなどへ攻勢を強める同州から、「退路がなくなる前にウクライナ軍の撤収もあり得る」との見方を示した。包囲を回避し、将来的な反転攻勢に向けた戦略的判断を示唆した可能性がある。ただ、市内には住民約1万3000人が残っているとされ、ウクライナ軍は難しい判断を迫られている。
ハイダイ氏は28日にも、SNSを通じ、露軍がセベロドネツク北東部のホテルに「居座っている」とし、市内の一部が占拠されていることを認めた。一方でウクライナ軍が、露軍を撃退していることも強調した。市街戦も起きているという。
露軍は、ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)でウクライナ軍を広範囲に包囲する戦術を、要衝の順次撃破に転換している。露国防省は28日の発表で、ドネツク州北部の鉄道輸送の拠点リマンを「完全制圧した」と発表した。同州の主要都市スラビャンスク、クラマトルスク攻略に向けた足場も固めている。
ルハンスク州でも、露軍はセベロドネツク攻略と並行し、ウクライナ軍の退路と補給を断つため、隣接するリシチャンスクと軍の拠点バフムトを結ぶ幹線道路の掌握も進めている。ハイダイ氏が示唆した軍の撤収は、こうした露軍の戦術転換が影響している可能性がある。ウクライナ軍は今月24日、住民約1万人を残し、ドネツク州北部スビトロダルスクから撤収している。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は27日夜のビデオ演説でも、「リマンやセベロドネツクが自分たちのものだと思うのは間違いだ。ドンバス地方はウクライナのものになる」と述べ、今後の反転攻勢で全域奪還を図ると強調した。
米国防総省の高官は、露軍の制圧地域の拡大は「限定的だ」と指摘した。一方で、ウクライナ軍によると、露軍は南部ヘルソン州やザポリージャ州で制圧した地域の周囲に3重の防衛線を構築し、ウクライナ軍の反転攻勢に備えている。
独立系ロシア語ニュースサイト「メドゥーザ」は27日、プーチン露政権内で、秋頃までに首都キーウの再攻略を目指す案が浮上していると伝えた。また、志願兵の年齢の上限を撤廃する法案も28日、プーチン大統領の署名で成立した。兵力増強の狙いがある。
   
セベロドネツク= 東部ルハンスク州西部に位置し、2014年に親露派武装集団が州都ルハンスクを実効支配した後の州の中心都市。人口約10万人で化学工業の一大拠点。市名は「北ドネツク」の意味。ロシア系住民も多く、14年には一時、親露派に支配された。ドネツ川対岸には同規模の都市リシチャンスクがある。
●ウクライナ東部でロシアの攻勢続く 主要都市からウクライナ軍撤退か 5/28
ロシア軍が大攻勢を続けるウクライナ東部で27日、現地幹部が、主要都市セヴェロドネツクからウクライナ軍が撤退する可能性を示唆した。ロシアは東部ドンバス地域の完全制圧を、主要な軍事目標に定めている。
東部ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ州知事は、セヴェロドネツクにとどまりロシア軍に包囲されるのを防ぐため、「ウクライナ軍が市内を出るしかない事態になる可能性もある」と述べた。
セヴェロドネツクにいるハイダイ氏は、市内にある住宅の半数以上が破壊され、ほぼ全ての建物がなにかしらの被害を受けていると話した。市内に残る住民は全員がシェルターに避難しているという。
セヴェロドネツクを出てウクライナ支配地域まで移動するための道路は常時、砲撃されているものの、まだ通行可能だとも知事は話した。
27日にはこのほか親ロシア派武装勢力が、セヴェロドネツクの南にあるリマンの町を掌握。これによって、ロシア軍はリマンを足がかりに、主要都市スロヴィヤンスクやクラマトルスクへの進軍が可能になった。
ドンバスへの圧力――ポール・カービー欧州デジタル編集長
ロシアの代理部隊はこれまでウクライナ東部でゆっくりと進軍していたが、リマンの掌握は重要なポイントとなる。ウクライナ軍は今週初めから後退を始めていたが、それでもリマンでの激しい攻防は続いていた。さらに南のスヴィトロダルスク制圧に続き、ロシアにとっては今週2カ所目の大きな成果となる。
リマンはそれ自体が大きい都市ではないが、親ロシア勢力はこれで東西に走る幹線道路を押さえることができた。さらに、南西にある主要都市スロヴィヤンスクまで20キロと迫ることもできた。スロヴィヤンスクを通る鉄道はもうずっと運休しているが、それでもこの街はウクライナにとって主要な交通の要衝だ。
さらに東へ移動すると、近接するセヴェロドネツクとリシチャンスクの双子都市がロシア軍の標的になり、激戦が続いている。両都市は「ドンバス」と呼ばれるウクライナの製造業の一大中心地域で重要な位置を占めるだけに、ここを失うことはウクライナ軍にとって大きな打撃となる。
長距離兵器の提供は
ロシア軍のこうした進軍への防戦のため、ウクライナ政府は長距離兵器の提供を西側に強く求めているが、これまでのところアメリカ政府は応じていない。
ボリス・ジョンソン英首相は27日、ウクライナは長距離多連装ロケット発射システムを必要としていると述べた。首相は米ブルームバーグに対し、「残念ながらプーチンは、自分とロシア軍の多大な負担をよそに、ドンバスでぐいぐい前進しつつある」と話した。
「ゆっくりとしたものだが、遺憾ながら着実な前進を続けているので、我々がウクライナ軍を支え続けるのは完全に不可欠だ」と、首相はつづけた。
ウクライナが和平協議「妨害」=プーチン氏
ロシア政府によると、ウラジーミル・プーチン大統領は同日、ウクライナが和平交渉を「妨害」していると述べた。オーストリアのカール・ネハンマー首相との電話会談で発言したという。
ロシア政府が発表した会談内容によると、プーチン氏はさらに、世界の食料供給に混乱が生じているのは、ロシア軍がウクライナの港を封鎖しているからではないと主張。ウクライナ産の穀物などが出荷されずにいる本当の原因は、欧米による対ロシア制裁だと述べた。
国連はすでに、ロシアによるウクライナ侵攻のため、今後何カ月かのうちに世界的な食料不足が発生し、何年も続く恐れがあると警告している。
ウクライナ侵攻開始から、すでにトウモロコシや小麦といった穀類のほか、食用油の供給量が世界的に減少し、代替品の価格が急騰している。国連によると、世界全体で食品価格は前年比30%近く上昇しているという。
他方、ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)は27日、ロシア正教会のキリル総主教がウクライナ侵攻を支持していることから、ロシア正教会との関係を断つと発表した。
ウクライナ正教会の一部は、すでに2019年の時点で独立している。
●プーチン大統領「制裁解除なら黒海の港から穀物輸出も」  5/28
ロシアのプーチン大統領は28日、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相とウクライナ情勢をめぐって電話会談を行い、ロシアに対する欧米の制裁の解除を条件に「黒海の港からの穀物輸出も含め、選択肢を見つけることに貢献する用意がある」と強調しました。
フランス大統領府によりますと、電話会談ではウクライナ情勢をきっかけとした世界的な食糧不足の問題について意見が交わされ、マクロン大統領とショルツ首相は、ウクライナから黒海を経由して穀物を輸出できるように南部オデーサの港の封鎖を解くよう求めました。
ロシア大統領府によりますと、これに対しプーチン大統領は「問題は欧米諸国の誤った経済政策とロシアに対する制裁によって引き起こされたものだ」と欧米を批判しました。
そのうえで制裁の解除を条件に「黒海の港からのウクライナの穀物輸出も含め、穀物輸出が妨げられないような選択肢を見つけることに貢献する用意がある」と強調しました。
一方、ドイツ政府の報道官によりますと、ショルツ首相とマクロン大統領は、プーチン大統領にウクライナのゼレンスキー大統領との直接交渉を呼びかけました。
これについてロシア大統領府は、プーチン大統領がウクライナとの停戦交渉について再開に向けた用意があるという姿勢を示したとしていますが、具体的な条件については明らかにしていません。
●異例…ロシア地方議員が公然と侵攻批判「終結を要求する!」 5/28
ウクライナ情勢について、東部のルハンシク州でウクライナ軍の最後の拠点が陥落寸前に追い込まれていて、ロシア軍に包囲されて「第2のマリウポリ」になる前にウクライナ軍が撤退する可能性が出てきました。
ロシアの地方議会では突然、一人の議員が…。
ワシュケビッチ議員「ここで提案があります。プーチン大統領へ伝えたいことが…」
議長「待ちなさい。待ちなさい、私の声聞こえますか?」
プーチン大統領に軍事作戦をすぐに中止するよう訴えたのです。
ワシュケビッチ議員「軍事作戦でロシアに貢献するはずの若者が犠牲になっています。作戦開始から3カ月が経って…」
議長「今は別の議題について審議中です」
議長はたまらず静止しますが、ワシュケビッチ議員は訴えをやめません。
ワシュケビッチ議員「このままではもっと多くの死者が出る。ロシア軍の即時撤退を要求する。戦争行為をすぐに止めるべきだ」
議長「あなたは規則を破り、私の許可なく発言している」
議員「議長と同じく彼にも発言権がある」
ロシアメディアによりますと、この議会で共産党の議員らが連名でプーチン大統領に対してウクライナからの軍の即時撤退を求める意見書を提出したといいます。ロシアでは軍を侮辱したり、「虚偽情報」を広めたりする行為は刑事罰の対象となり、公然と反対の声が上がるのは異例の事態とみられています。こうした訴えがあってもプーチン大統領は攻撃の手を緩めません。
ゼレンスキー大統領「ドンバス地方は非常に厳しい状況です」
現在、州の95%がロシア軍に制圧されているルハンシク州。ウクライナ軍にとって最後の拠点となっているのがセベロドネツクです。セベロドネツクの市長によりますと、住宅の6割が破壊され、死者はこれまでに1500人に上り、市内にはいまだ1万3000人が残っているということです。なぜ、ウクライナ軍は窮地に追い込まれているのでしょうか。アメリカ国防総省の分析によりますと、当初ロシア軍は北はハルキウ、南はマリウポリから進軍し、ドンバス地方全体を包囲する狙いでした。ただ、ウクライナ軍の抵抗で膠着(こうちゃく)状態が続いたことから、狙いをより小規模なエリアに絞り、戦力を集中させたとみられています。ルハンシク州の知事は「我々には十分な防衛力があるが、包囲されるのを防ぐために撤退しなければならなくなる可能性もある」と明らかにしました。ウクライナのメディアは激戦の末に陥落した南東部の要衝になぞらえ、第2のマリウポリになると警鐘を鳴らしています。
●ロシアの地方議員がウクライナ侵攻を批判し、議場から強制退場  5/28
ロシア極東の沿海地方議会で27日、プーチン政権の「体制内野党」とやゆされてきた共産党のワシュケービッチ議員が、特別軍事作戦と称するウクライナ侵攻を批判する一幕があった。政界から非戦の訴えが上がるのは異例だが、議員らはその場で議場から退場させられた。独立系メディア「メドゥーザ」などが伝えた。
ワシュケービッチ氏は、議案審議中に突然、プーチン大統領に宛てたという声明を読み上げ「作戦をやめなければ、孤児が増える。国に貢献できたはずの若者たちが死んだり、障害を負ったりした。軍の即時撤退を要求する」と述べた。
同地方のコジェミャコ知事はこの発言に怒り、議会側との申し合わせの上、ワシュケービッチ氏と賛同の拍手をしたとみられる議員を退場させた。
ロシア極東は帝政期、北朝鮮から逃れた農民らが開拓を進める一方、現在のウクライナやモルドバからの入植も進められ、東欧出身の先祖を持つ住民が半数以上を占める都市もある。共産党は2月下旬に侵攻が始まった直後、下院議員が「(軍事作戦の根拠となる)ウクライナ東部住民の保護には同意したが、全土での軍事行動には賛成していない」と抗議している。
●プーチン露政権の「身内」から侵攻への批判続々 統制に綻びか 5/28
ウクライナに侵攻したロシアで最近、エリート外交官やプーチン政権に近い軍事評論家、親政権派メディアから侵攻への批判が相次いでいる。侵攻の長期化と露軍の損害拡大が背景にあるとみられ、欧米メディアなどからはプーチン政権の統制に綻(ほころ)びが出ている可能性も指摘される。ただ今後、侵攻に批判的な意見が露社会全体に広がり、プーチン体制を動揺させうるかはなお不透明だ。
在ジュネーブの国連の露代表部に勤務してきた露外交官、ボリス・ボンダレフ参事官は23日、侵攻に抗議するため辞職すると表明。交流サイト(SNS)上で「侵略戦争はウクライナ国民だけでなくロシア国民に対しても犯罪だ」とプーチン政権を痛烈に批判した。
これに対し、ペスコフ露大統領報道官は24日、ボンダレフ氏の見解について「少数意見に過ぎない」と切って捨ててみせた。
しかし、公の場での侵攻批判は最近、ボンダレフ氏以外からもなされている。
5月16日、退役大佐の露著名軍事評論家、コダリョノク氏は国営テレビ番組で「露軍は苦戦しており、今後も状況は悪化する」「作戦はロシアを孤立させた」などと発言。親政権派オンライン新聞「レンタ・ルー」も今月9日、プーチン大統領を「哀れな独裁者」「血みどろの戦争を勃発させた」などと断罪する一連の批判記事を掲載した。
コダリョノク氏は国営テレビでの発言を数日後に事実上、撤回。レンタ・ルーも「記事掲載はごく一部の編集者が無断で行った」とし、記事を削除したが、欧米メディアは一連の動きについて「露政権周辺で侵攻に否定的な声が強まっている」との見方を示した。
強固な統治基盤を築いてきたプーチン政権にとり、周辺から侵攻への批判が出るのは異例の事態だ。ただ、批判が個人レベルの域を出て、社会的な反戦運動や反政権デモにつながるかは現時点では不透明だ。
露世論調査によると、プーチン氏の現在の支持率は約8割で、侵攻への支持率も7割超に上る。政権側の言論圧力や情報統制が行われている中での調査で、実態とかけ離れているとの指摘もあるが、一方で反戦デモなども起きていない。
ただ今後、仮に経済状況の悪化や大規模な徴兵などで侵攻の不利益を多くの国民が実感した場合、反発がプーチン政権に向かい、政権の意思決定に影響を与える可能性も排除されない。
●「酔いがさめた人が増えている」ウクライナ侵攻から3か月 出兵拒むロシア兵 5/28
ロシアによるウクライナ侵攻開始から3か月。出兵を拒むロシア兵が増えているという。相談に乗る弁護士が報道特集の取材に応じ、その実情を語った。
ロシア南西部の街で弁護士をしているミハイル・ベニヤシュさん。家宅捜索を受けるなど、政府から弾圧を受けながらも、ロシア兵の支援活動をしている。
3月下旬以降、特に30歳以下の若いロシア兵からの相談が急増したという。
――何人くらいから相談を受けていますか?
ミハイル・ベニヤシュ弁護士「200人ぐらいです。直近では昨日でした。ウクライナに行くのを拒否するとどうなるのか。法律上はどうなっているのかという問い合わせが多いです。出兵を拒否する文書の書き方についての問い合わせも多いです」
ウクライナ側が公表した、ロシア兵が書いたとする文書。この文書を部隊の司令官に提出することで、出兵を拒否できるという。文書には、悲痛な心の叫びが並ぶ。
「指揮管理がなっておらず、通信手段や物資がないため、再び戦地に行けないと考えていることをこの書面をもって報告します。私は砲弾の餌食になりたくありません」
「戦闘が行われている地域に出兵することを拒否します。私は家族の世帯主であり、妻が妊娠しているためです」
だが、兵士たちを躊躇させているのが、出兵を拒んだ際の罰則だ。
ミハイル・ベニヤシュ弁護士「“15年以下の懲役になる”と司令官に脅かされるので、兵士たちは困惑しています。人を殺したくないし殺されたくもありません。刑務所にも行きたくありません」
「実際には刑事責任は3年以下の自由刑(懲役・禁固・拘留)です。法律上、初めてこの罪を犯した人は刑務所には入らないで、別の罰則が与えられます。兵士たちは法律を知ることで、少し落ち着くようです。」
侵攻開始から3か月。出兵を拒否するロシア兵が増えた理由について・・・
ミハイル・ベニヤシュ弁護士「ロシア政府はなぜ軍事作戦が必要なのか、国民を説得できなかったからです。プロパガンダにはドーピングのような効果があります。しかし、最後に効き目は消えて、酔いがさめます。そして、今は酔いがさめた人がどんどん増えています。それは軍人だけではなく、ロシアの国民も同じです」
●地方議員、軍隊、宗教界…ロシア相次ぎ「反プーチン」のノロシ上がる 5/28
ロシアの地方議会、軍隊、宗教界から相次いで「反プーチン」のノロシが上げられている。
ロシア極東の沿海地方の議会で27日、野党・共産党の議員が、ウクライナでの軍事作戦の中止を訴えた。議会での反戦表明は異例中の異例だ。
この議員は議場で読み上げたプーチン大統領宛ての声明で、ウクライナで死亡した兵士に触れて「軍事作戦をやめなければ、さらに多くの孤児が生まれる」と強調。「わが国に大きく貢献できたであろう若者が障害者になっている」「軍事的手段での成功は不可能」として即時停戦を訴えた。
また、26日のインタファクス通信によると、ロシア兵115人がウクライナへの派遣を拒否し、除隊処分に。英国防省によれば、ロシア軍はウクライナ侵攻で約1万5000人の兵士を失い、人員や兵器の不足に直面。ロシア上下両院は25日、40歳までだった志願兵の年齢制限を撤廃する改正法案を可決した。
さらに、ロシア正教会の傘下にあったウクライナのキリスト教東方正教会が27日、ロシアのウクライナ侵攻に反発し、関係断絶を発表。「戦争は神の教えに反する」と強調し、停戦交渉の継続を訴えた。
●「プーチン峰」のウクライナ国旗、キルギス登山連盟が撤去 5/28
中央アジア・キルギスの登山連盟は27日、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領にちなんで名付けられた「プーチン峰(4446メートル)」に立てられていたウクライナ国旗を撤去したと明らかにした。
今月24日、登山家を名乗るツイッター(Twitter)ユーザーが山頂の記念プレートの横にはためくウクライナ国旗の動画を投稿。「無法者あたりが持ってきて立てたのだろう」とコメントを添えていた。
同ユーザーはその後、自身と登山仲間が警察の事情聴取を受けたことを認めたものの、訴追されることはなかった。警察は、旗を立てた者には罰金刑が科される可能性があるとしていた。
登山連盟のメンバーが26日にウクライナ国旗を撤去し、キルギス国旗に取り換えた。
同連盟の会長は27日、ウクライナの国旗の撤去について、政治的な意図は一切なく、同連盟が自主的に行ったことだとAFPに説明した。
「政治に巻き込まれるのは不愉快だ」として、「キルギスの山にはキルギスの国旗が掲げられるべきだと私は信じている」と述べた。 

 

●ロシアはウクライナで戦術核を使わない=駐英ロシア大使 5/29
ロシアのアンドレイ・ケリン駐英大使は28日、BBCの取材に応じ、ウクライナでロシアが戦術核兵器を使うとは思わないと話した。
ケリン駐英大使は戦術核兵器の使用に関するロシア軍の規則はきわめて厳密で、ウクライナで起きている紛争のような事態で使う決まりになっていないと話した。戦術核兵器は主に、ロシア国家が存亡の危機にさらされている場合に使用する決まりだという。
「現在の作戦とは何の関係もない」と、大使はBBC番組「サンデー・モーニング」による取材で話した。インタビューはイギリス国内で、現地時間29日午前9時(日本時間同午後5時)に放送される。
2月24日にウクライナ侵攻を開始して間もない2月27日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、戦略的核抑止部隊に「特別警戒」を命令した。諸外国はこれを警告と受け止めた。
プーチン大統領は西側諸国と北大西洋条約機構(NATO)がロシアに「非友好的な行動」をとり、「不当な制裁」を科したからだと説明。しかし、イギリスのベン・ウォレス国防相は当時、ロシアの当初の思惑とは異なりウクライナ制圧が遅れているため、軍事作戦の進捗から世界の目をそらそうとして、自分たちの核抑止力を誇示したのだと批判していた。
射程距離がきわめて長く、全世界を巻き込む全面的な核戦争の恐怖を呼び起こす「戦略核兵器」とは異なり、「戦術核兵器」は比較的短距離の目標に対して使用できるとされている。ただし、小型爆弾や戦場で使うミサイルなど、様々な種類の武器が「戦術核兵器」に分類される。
ロシアはこうした戦術核兵器を2000以上保有するとみられている。
戦争犯罪は「捏造」と大使
BBCのクライヴ・マイリー記者の質問に、時には厳しい口調で応酬しながら、ケリン大使はロシア軍が戦争犯罪を重ねているという指摘を否定した。
ロシア軍がウクライナ各地で民間人を攻撃し、首都キーウ郊外のブチャでは多くの市民を虐殺したとされることについて、大使は「捏造(ねつぞう)」だと反論した。
記者に、「なぜロシアはこのような形で戦争を遂行し、戦争犯罪を重ねているのですか」と質問された大使は、「ブチャの市長は解放後、最初の声明で、ロシア軍は街を出て行った、何もかも清潔で落ち着いている、街はいつも通りの正常な状態だと話していた。何も起きていない、道路に横たわる遺体などないと言っていた。しかしその次になると、ともかく……」と答えた。
そこでマイリー記者は重ねて、「では何もかも、でっちあげなのですか?」と質問。「なにもかも捏造で? これほど証拠が集まっているのは、捏造だとおっしゃるのですか?」と追及した。
これに対して大使は、「私たちは、捏造だと考えている。交渉を中断させるために使われているだけだ」と答えた。
●ウクライナ侵攻は長期化の見通し ロシアは「勝っても負けても没落」 5/29
ロシアによるウクライナ侵攻から約3カ月。当初は圧倒的に有利だとされていたロシア軍の苦戦が続いている。今後の戦況の見通し、そして戦争後のロシアの未来はどうなるのか。AERA 2022年5月30日号で専門家が解説する。
フィンランドは5月18日、スウェーデンとともに北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した。これまでNATOにも、ソ連側のワルシャワ条約機構にも加盟せず中立を保ち、経済発展、教育、福祉などで世界の模範とされてきたフィンランドが米国主導の軍事同盟に加わる決意をしたことはロシアのウクライナ侵攻が欧州に与えた衝撃の強さを示し、他の地域の安全保障政策にも影響しそうだ。プーチン大統領はウクライナのNATO加盟を阻止するために戦争を始めたが、逆にフィンランド、そしてスウェーデンのNATO加盟を推進し、藪(やぶ)をつついて蛇を出す結果となった。
だがなぜ今フィンランドがNATOに入る必要があるのか、奇異な感じもある。もしロシアの軍事力が強大化し、フィンランドなどが脅威にさらされているならば、人口550万人の小国がNATOに頼ろうとするのは自然だ。だが実際にはロシア軍はかつての衛星国ウクライナに侵攻して苦戦し弱体を露呈している。
苦戦が続くロシア軍
ソ連崩壊の時点で140万人だったロシア陸軍は28万人(陸上自衛隊の2倍)に減り、別組織の空挺(くうてい)軍と海軍歩兵を加えて地上戦兵力は36万人。ウクライナには陸軍15万人が侵攻、分離派民兵4万人が協力している。他方ウクライナ陸軍は12万5千人だが、空挺軍、海軍歩兵、国家防衛隊、国境警備隊を加えると25万人余だ。
ウクライナはソ連時代からミサイル開発、生産の拠点でレーザー誘導の対戦車ミサイル「スタグナ」を国産しており、米国の「ジャベリン」約7千発などの供与も受けていたからロシアの戦車、装甲車は大損害を受けた。ロシア軍は首都キーウ制圧を目指したが、人口約300万人の都市での市街戦は危険だから包囲して兵糧攻めで降伏させようとした。だがウクライナ軍の頑強な抵抗で交通に最重要の同市の南側面の封鎖に失敗した。ロシア軍はキーウ攻略を諦め南部の港町マリウポリに向かったが制圧に2カ月以上がかかり、黒海艦隊旗艦「モスクワ」がウクライナ製の対艦ミサイル「ネプチューン」で撃沈されたり、開戦から2カ月半に将官12人が戦死したりする苦戦が続いた。
ウォレス英国防相は4月25日、下院でロシア軍の戦死は1万5千人との推計を述べた。負傷兵は普通、死者の2倍ほどだから死傷者は約4万5千人。ロシア軍と分離派民兵19万人のうち24%の兵力を失った計算になる。
ロシア軍は人的損害を少なくするため地上戦をなるべく避け、ミサイル攻撃で相手の戦力低下を図ろうとするが、誘導装置の部品の一部は輸入しているため、精密誘導ミサイルの補充は難しいのでは、との説もある。他方これまで防御戦闘を主としたウクライナ軍は5月初めから反攻に転じ、キーウ近郊やロシア国境に近い第2の都市ハルキウ付近で被占領地の奪還作戦を始めた。ロシア軍には退却の動きが見え、敗色が濃い。
もしロシアが現在の支配地域を確保できても、優勢のウクライナが領土の割譲を認めて停戦する可能性は低く戦争は長期化するだろう。万一ロシアがウクライナ全土を制圧できてもウクライナ兵は隣国に逃れ、その一部は難民キャンプを拠点にウクライナに出没しゲリラ活動を続け、ロシアは莫大(ばくだい)な戦費を投じて戦い続けなければならない。国内総生産(GDP)では韓国に次ぎ世界の11位であるロシアは今回の戦争で勝っても負けても没落し、近い将来再び近隣諸国に侵攻する悪行を繰り返す余力も戦意も持たないのではないかと思われる。
●“第一次情報大戦”か 惨劇伝える映像が世界中に…ウクライナ侵攻で情報戦 5/29
ロシアによるウクライナ侵攻が開始して3か月。この間、私たちが目にしたものは、これまでに例のない戦争の姿でした。
世界に拡がるウクライナの生々しい映像
ウクライナ侵攻から3か月。連日、戦争の惨劇を伝える映像が世界中に届けられています。
父親をウクライナに残したまま、避難する幼い男の子は―
男の子「パパは『僕たちの軍隊を助ける』って。もしかしたら戦うことになるかもしれない…」
マリウポリの防空壕に避難した女の子も―
女の子「きょうは大きな音で目が覚めたよ。それが戦争だって」
医師「この状況をプーチンに見せろ!」
スマートフォンなどが広く行き渡るなか起きた、今回のウクライナ侵攻。人道危機や戦争犯罪を捉えた生々しい映像が、世界中の多くの人々の目に飛び込んでくるようになりました。
遺体があった通りに住む男性「このおじいさんは自転車に乗っていたところを殺された。1か月も経って体が黒くなっている」
湾岸戦争やイラク戦争では、おもに報道関係者が現地の情報を伝えましたが、今回は一般の人々が発信。情報量は当時に比べ、格段に増えています。
溢れる映像・・・「第一次情報大戦」の様相を呈するウクライナ侵攻
こうした状況をイギリスのガーディアン紙は「第一次情報大戦」だとしたのです。ロシアの侵攻開始直後、ウクライナ政府は、動画投稿によって国際世論に訴える「インターネット・アーミー」への参加を、SNSで募集。それに応じたボランティアは30万人に達しました。そして、今回のウクライナ侵攻でとりわけ大きな役割を果たしているのが、衛星からの画像です。「オープンソース・インテリジェンス」、通称「オシント」と呼ばれる情報収集の手法で、公開されているSNSや衛星の画像などの情報を丹念に集め、分析しようというものです。例えば、マリウポリから約20キロ離れた村の衛星写真。同じ位置で撮影された3月の写真と4月の写真を比べてみると、4月の写真には塹壕のようなものが拡がっている様子が分かります。写真を公開したアメリカの民間衛星会社は「200以上の集団墓地」だと指摘しました。
マリウポリ市長「ロシアは市民を殺害し、戦争犯罪を隠している」
他にも衛星が捉えたマリウポリの劇場には、空に向けて「子どもたち」と書かれた文字が。劇場ではその後、子供たちを含め多くの市民が犠牲になったといいます。また、人権侵害を調査するアムネスティのチームは、ハルキウの市街地で、クラスター爆弾が使用された可能性が高いとする画像を公開しました。
アムネスティ「エビデンス・ラボ」 ミレーナ・マリン氏「どんな武器が使用されたのか、攻撃の責任は誰にあるのかを検証することできます。国際司法裁判所による本格的な捜査が始まった時、裁判に提供できる証拠となります」
映像が次々と真実を明らかにしていく一方で、それに対抗するかのような動きも出てきています。
氾濫する情報 高まる“ディープフェイク”への懸念
ゼレンスキー大統領のディープフェイク動画「ウクライナ兵の皆さんは武器を置いて家族のもとに帰ることをすすめます」
“戦いをやめて降伏するよう”呼びかけるこの動画。実は「ディープフェイク」というAI技術で作られた偽物です。こうしたフェイク映像が人々の混乱を招く一方、今回ウクライナ側は、ドローンを使った映像によって効果的に戦況を把握しています。ところが5月18日、ロシアはドローンを狙って破壊できる新型レーザー兵器の投入を表明したのです。
ロシア・ボリソフ副首相「このレーザー兵器は5キロ離れた場所のドローンを5秒で破壊できる」
戦争犯罪の記録 キーウ近郊を360度カメラで撮影
状況の把握を阻止するかのような動きの一方、こうした試みも… ビルが崩壊し、がれきが散乱するキーウ近郊のボロディアンカ。ロシア軍の撤退後、多くの民間人の遺体が見つかっていますが、アムテスティの調査チームが、ロシアの戦争犯罪の記録をとどめようと、先日360度カメラを使って撮影を行いました。
アムネスティ「エビデンス・ラボ」 ミレーナ・マリン氏「攻撃で崩壊した建物は復興の際に全て撤去されます。撤去されれば、ロシアの攻撃の証拠も全て失われます。証拠を残すことが重要です」
膨大な映像がネットやSNSで瞬く間に世界中に拡がり、影響力を増すなか、情報を巡る戦いもまた激しさを増しています。
●ゼレンスキー大統領 “東部で劣勢 欧米各国の軍事支援を”  5/29
ロシア軍はウクライナ東部ルハンシク州で、全域の掌握をねらって攻勢を強めています。ウクライナのゼレンスキー大統領は「情勢はことばで表せないほど厳しい」と、東部で劣勢に立たされているとしたうえで、欧米各国によるさらなる軍事支援の重要性を強調しました。
ウクライナ東部2州の掌握をねらうロシア軍は、このうちルハンシク州で、ウクライナ側の最後の拠点とされるセベロドネツクを包囲しようと部隊を進めています。
ロシア国防省は28日、セベロドネツクから西におよそ40キロ離れた戦略拠点の1つ、ドネツク州のリマンを支配下に置いたと主張し、ロシア側がリマンを足がかりにさらに進軍する可能性が指摘されています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日に公開した動画で、ロシア軍の攻撃がセベロドネツクなどいくつかの町に集中し、これに対しウクライナ軍が持ちこたえているとしながらも「情勢はことばで表せないほど厳しい」と述べ、東部で劣勢に立たされているという見方を示しました。
そのうえで「ウクライナ軍は技術的にも攻撃能力的にもロシア側を上回る局面に近づいている。ただ、それはウクライナのパートナーたちがわれわれの自由を守るために必要なものを提供する用意がどれだけあるかにかかっている」と述べ、欧米各国によるさらなる軍事支援の重要性を強調しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は28日、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相との3者による電話会談を行いました。
ロシア大統領府によりますと、この中でプーチン大統領は、欧米によるウクライナへの相次ぐ兵器の供与について「事態のさらなる不安定化と人道危機の悪化を招くおそれがある」と警告しました。
また、マクロン大統領とショルツ首相が南部の黒海に面する港の封鎖を解除するよう求めたのに対し、プーチン大統領は「ウクライナからの輸出を含め、穀物輸出が妨げられないような選択肢を見つけることに貢献する用意がある」と伝えるとともに、世界的な食糧危機を招かないためにもロシアへの制裁の解除が必要だと改めて主張しました。
●契約軍人の年齢上限を撤廃、改正法が発効 ロシア 5/29
ロシアのプーチン大統領は28日、同国人や外国人が契約軍人としてロシア軍に入隊する場合の年齢の上限を撤廃する改正法案に署名した。国営タス通信が報じた。
同法はロシア下院で今月25日に可決されており、プーチン氏の署名で発効した。
契約軍人として入隊出来る年齢はこれまで、ロシア人は18〜40歳、外国人は18〜30歳だった。
今回の改正法は下院の国防委員会委員長らが主導。年齢上限の廃止により、医療支援、工学技術や通信などの分野の専門家を招き入れることが可能になると期待している。高精度兵器や軍装備品の導入には専門家の存在が求められ、必要な経験を身に着けるには40〜45歳までかかるともした。
改正法の発効は、侵攻したウクライナでロシア軍兵士らが深刻な損失を被っている事態と重なってもいる。
ロシアには徴兵制度もある。プーチン政権は当初、召集兵はウクライナへ派兵されないと明言していたが、その後、同国での戦闘任務に駆り出されていたことを認めていた。
●ロシア、志願兵の年齢上限撤廃 人的損失は相当数に 5/29
ロシアのプーチン大統領は、軍への入隊志願者の年齢上限を撤廃する法案に署名し、同法が成立した。米CNNなどがロシア国営タス通信を引用して28日伝えた。ウクライナ侵攻による露軍の人的損失は相当数に上っており、上限撤廃で兵士数増加につなげる狙いがあるとみられる。
死者数、アフガン侵攻に匹敵か
従来の制度では、若年者が対象の徴兵制とは別に、ロシア国籍の人は18〜40歳が、外国籍の人は18〜30歳が、それぞれ露軍に入隊できる。法案はこの二つの上限を撤廃するもので、ロシア国会が25日に可決していた。医療支援や工学、情報通信などの分野の専門家が軍に参加することを期待しているという。露国防省は公式発表(3月25日)で、2月の侵攻後1351人が死亡し、3825人が負傷したとしている。英国防省は5月23日、約1万5000人が死亡したソ連のアフガニスタン侵攻(1979〜89年)に匹敵する死者数が出ていると推計している。
ロシア、ドネツク州リマン「制圧」
ロシア国防省は28日、ウクライナ東部ドネツク州の都市リマンを制圧したと発表した。ウクライナ軍は同地域周辺で防戦一方になっているとみられ、米国などに反撃用の兵器の供与を求めている。リマンはルガンスク州の主要都市セベロドネツクから約60キロの距離に位置する鉄道の要衝で、ロシア国防省は28日、ロシア軍と親露派武装勢力が管理下に置いたと発表した。一方、ロイター通信などによると、ウクライナ側はリマンで戦闘が継続していると主張している。
食料問題解決に「欧米の制裁解除必要」
ロシアのプーチン大統領は28日、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相と電話で協議した。ロシアによるウクライナ侵攻により世界的な食料危機の懸念が高まっていることについて協力の用意を伝えたが、食料問題の解決には欧米諸国による対露制裁の「解除が必要」と迫った。
●仏独首脳、プーチン氏にゼレンスキー氏との直接対話促す 5/29
フランスとドイツの首脳は28日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話で会談し、ウクライナの大統領と「真剣な直接対話」をするよう強く促した。さらに、世界的な食料価格高騰の中、ウクライナに滞留する大量の穀物などを出荷できるよう、南部の主要港オデーサの封鎖解除を求めた。ドイツ首相府が公表した。
ドイツ首相府によると、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、80分にわたりプーチン氏と電話で会談。「ただちに停戦し、ロシア軍をウクライナから引き上げる」よう促したという。
これに対してプーチン氏は、ロシアにはウクライナとの対話を再開する用意はあると答えたという。ロシア大統領府が明らかにした。ただし、プーチン大統領が、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と直接対話する可能性があるのかについては、ロシア政府は言及しなかった。
ウクライナのゼレンスキー氏はこれに先立ち、自分はプーチン氏との直接対話に「前向き」ではないものの、紛争終結には必要だと述べている。ロシアとウクライナの両代表団は2月24日の軍事侵攻開始以来、複数の協議を重ねたが、進展は得られていない。
戦争捕虜の解放も促す
フランスとドイツの両首脳はさらにプーチン氏に、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所で戦争捕虜となった約2500人のウクライナ兵を開放するよう呼びかけた。
ロシア軍は今月20日、ウクライナの部隊が長く立てこもっていたアゾフスタリ製鉄所で、全面勝利を宣言。最後まで残っていた兵について、ロシア側は投降したと言い、ゼレンスキー氏はこれについて軍が離脱を認めたのだと話していた。
ロシアはこれまでに、投降した兵のうち900人以上を、ロシア支配下ドネツク地方のオレニウカ村で再開した捕虜収容所に移送したと説明している。負傷兵はドネツクのノヴォアゾウスクにある病院に収容したという。
ウクライナ側は、捕虜交換による送還を希望しているが、ロシア側は態度を明示していない。ロシアの国会議員は17日、アゾフスタリで拘束したウクライナ・アゾフ連隊の、国際法上の権利が保障されている通常の戦争捕虜でなく、「ナチスの犯罪者」として扱う計画を提示。犯罪者として裁判にかけ、場合によっては処刑するよう求めている。
民兵組織として2014年に発足したアゾフ連隊は、現在は国家警備隊の一部だが、かつては極右とのつながりがあった。
穀物の出荷を
マクロン氏とショルツ氏は加えて、ウクライナに滞留する穀物を国外へ出荷できるようにするため、黒海に面するオデーサ港の封鎖解除をプーチン氏に求めた。
ロシア政府によると、プーチン氏は世界的食糧危機の危険に取り組むため可能な選択肢を検討すると答えたものの、まずは西側がロシアへの制裁を解除するよう要求した。
プーチン氏はさらに、仏独両首脳に対し、ウクライナへの武器供与をこれ以上増やせば、情勢はさらに不安定なものになると警告したという。
国連はすでに、ロシアによるウクライナ侵攻のため、今後何カ月かのうちに世界的な食料不足が発生し、何年も続く恐れがあると警告している。
ウクライナ侵攻開始から、すでにトウモロコシや小麦といった穀類のほか、食用油の供給量が世界的に減少し、代替品の価格が急騰している。国連によると、世界全体で食品価格は前年比30%近く上昇しているという。
東部主要都市で市街戦
ウクライナ東部ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ知事によると、東部の主要工業都市セヴェロドネツクでは路上で市街戦が起きている。
ウクライナ支配が続く場所として最東に位置するセヴェロドネツクでは、27日までにすでに外周の3分の2がロシア軍に包囲されていた。
ハイダイ知事は、「完全包囲を避けるため、(ウクライナ軍は)撤退せざるを得ないかもしれない」と話している。
ウクライナのデニス・シュミハリ首相は28日、軍事侵攻開始以来、ロシアは2万5000キロ以上の道路、数百の橋、12の空港を破壊したとBBCに話した。ほかにも、100以上の教育機関、500以上の医療施設、200以上の工場が全壊あるいは被害を受けたという。
シュミハリ首相は、ロシアが破壊したものの修復費はロシアに補償させる必要があると述べ、各国政府が凍結したロシア政府関係の資産は、ウクライナ復興費用に充てるため、ウクライナへ転送すべきだと主張した。
戦争が作り出す複数の「現実」
プーチン大統領が、マクロン仏大統領およびショルツ独首相と行った電話会談の内容を、ロシア大統領府の発表で読むと、ロシアはまるでウクライナで平和維持活動に携わっているかのように思える。南東部の港湾都市マリウポリは今やがれきだらけだが、そこでのロシア軍の行動は「平和的で穏やかな生活の確保」と「解放」のためだったのだと、ロシアは言う。
同じ通話に関するドイツとフランス側の発表とは、あまりに対照的だ。両国政府の発表では、投降した2500人のウクライナ兵の安全が通話の主な話題だったという。
さらに、あらゆる第三者の現地報告とも、ロシアの言い分はあまりに異なる。ウクライナの一部を占領するロシア軍が、数々の戦争犯罪を重ねてきたことについて、信頼できる報告が複数出ているからだ。
とはいうものの、欧州連合(EU)二大主要国の首脳が、ロシア大統領と直接話をしたのは重要だ。
ロシア軍がウクライナ東部ドンバスで戦果をあげている中で、仏独はロシアに外交による紛争解決を呼びかけた。西側の全同盟国がこれに同意しているわけではない。領土割譲を引き換えに和平を受け入れるよう、ウクライナに圧力がかかる懸念があるからだ。
この間、ロシア軍はドンバスで交通の要衝リマンを掌握したと発表し、主要工業都市セヴェロドネスクへの攻撃を続けている。セヴェロドネスクはすでに数日前からロシア軍に包囲されており、現地当局はウクライナが戦略上、ここから撤退するかもしれないと見通しを示している。
ロシアに対する西側の団結がほどけつつあるのか、それを今日の仏独ロ会談から判断するのは性急すぎる。しかし、立場の違いは表面化しつつある。
●ウクライナ正教会 ロシア正教会と関係断絶を表明 5/29
ロシアによる軍事侵攻が続くなか、キリスト教東方正教会でロシア正教系のウクライナの教会がロシア正教会との関係断絶を表明しました。
ロシア正教系の傘下にあるウクライナ正教会は27日に声明を発表し、ロシアによるウクライナ侵攻を批判したうえで、「ウクライナ正教会の完全な自主性と独立」を宣言しました。
ロシア正教会のトップであるキリル総主教がプーチン大統領と近い関係にあるとされ、軍事侵攻に支持する立場を取っていることも非難しています。
ウクライナ正教会はロシアからの独立派とロシアの傘下にある宗派がありますが、断絶を宣言したのはロシア正教会に融和的だった宗派です。
ロシアによる侵攻後、ウクライナの400以上の教区がロシア正教系から離脱しています。
●プーチン氏に同調するロシア正教会に反発…ウクライナ正教会「完全独立」  5/29
キリスト教東方正教会の中で、ロシア正教会の傘下にあったウクライナ正教会の一派が27日、ロシアのウクライナ侵攻を非難し、「完全に独立する」と発表した。ウクライナでの軍事作戦を擁護するロシア正教会トップのキリル総主教の立場に同意できないと反発している。
ウクライナ国内のキリスト教は、東方正教会とカトリックに大きく分かれるが、東方正教会の信者が最も多い。ウクライナの東方正教会は、もともとはロシア正教会の管轄下にあったが、一部はロシアのウクライナ南部クリミア併合後の2018年に独立した。
今回、独立を表明したのは、これまでロシア正教会との関係を重視してきた一派で、「戦争は神の教えに反する」として、ウクライナとロシアの双方に対して停止中の停戦協議の再開も訴えた。
キリル総主教はプーチン大統領と親しい関係にあり、ウクライナ侵攻についてはプーチン政権の主張に同調する発言をしている。タス通信によると、今回、独立を宣言した一派の中でクリミアを管轄する教区は28日、今回の決定に反対し、ロシア正教会の管轄下に残る意思を示した。
ロイター通信などによると、今月初旬には欧州連合(EU)内でキリル総主教を制裁対象に加えるべきだとの提案があり、ロシア正教会は強く反発している。
●ロシア軍“入隊事務所”に次々と火炎瓶を…「徴兵に反対」国民の不満高まる 5/29
ロシア軍による完全包囲が懸念される東部ルハンシク州“最後の拠点”セベロドネツク。最前線で戦うウクライナ兵が撮影した緊迫の映像を入手しました。
東部“最後の拠点”で戦うウクライナ兵
ウクライナ兵 ジュリロさん「戦闘が激しくなっている。奴ら(ロシア軍)の砲撃だ。ウクライナに栄光あれ。我々は生き残る。」
これは、ルハンシク州“最後の拠点”セベロドネツクで戦うウクライナ兵のジュリロさんがSNSに投稿した映像です。
ジュリロさん「この血はルハンシクの土地に落としてきた。破片で足をけがした。でも乗り越えられるだろう。我々は生き残る。ウクライナに栄光あれ。」
「東部ドンバスの解放」を掲げて侵攻するロシア。ルハンシク州では95%がロシア軍に掌握されたとみられ、「セベロドネツク」が制圧されると、州全域がロシアの支配下になります。今も1万3000人の市民が残るセベロドネツク。「包囲される前にウクライナ軍“撤退”の可能性もある」と言及していたルハンシク州知事は、28日、週明けの状況は「厳しいだろう」との見方を示しました。1週間前までセベロドネツクで支援活動をしていたバギロフさんは、こう話します。
バギロフさん「先週から激しい攻撃が始まり、地下の避難所から出られなくなりました。物流ルートも閉鎖し、薬や支援物資も届かなくなりました。軍事施設のない住宅街も攻撃されました。毎日移動することで攻撃を逃れましたが生き残る保証はありませんでした。」
“火炎瓶襲撃”相次ぐロ軍入隊事務所
ウクライナ侵攻から、3カ月が経過。長期化するにつれ、ロシアでは、国民の不満も高まっているようです。今月初め、ネット上に投稿された映像。フードをかぶった男が袋から取り出したのは…7本の瓶です。そして、火をつけ―。次々と火炎瓶を窓へと投げつけます。地元メディアの報道では、放火事件が起きたのは今月4日、ニジネヴァルトフスクでのこと。この建物は、ロシア軍の入隊事務所だと言います。似たような事件は、他にも―。2月28日、モスクワ郊外のルホヴィツィでも入隊事務所が火炎瓶で襲撃されました。地元メディアによると、逮捕された男は「徴兵に反対するため」と供述。ウクライナ侵攻が始まって以降、このような入隊事務所への放火事件は少なくとも12件に及んでいるといいます。
プーチン氏に“反戦声明”議員を直撃
独立系世論調査機関「レバダセンター」の研究部長は…
独立系世論調査機関 レバダセンター レフ・グドゥコフ研究部長「戦争が日常となり、プロパガンダも同じようなことを繰り返すだけになってきている。国民は “特別軍事作戦”の壊滅的な結果に気づき始めて、不満や批判的な態度が増えている。(西側の経済制裁の)悪影響を隠すことができず、不満の増大を弾圧で抑え込めなくなっている。」
●欧州の米軍兵力、ウクライナ侵攻前に比べ30%増 統参議長 5/29
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は26日までに、欧州内での作戦に従事する米軍兵力は現在、約10万2000人規模でロシアによるウクライナ侵攻前と比べ30%増の水準にあると報告した。
ウクライナへの軍事支援に関する2回目の国際会合を終えた米国防総省での記者会見で明らかにした。
侵攻前に欧州に展開していた米軍の兵力規模は、米軍欧州軍や陸海空軍、海兵隊、宇宙軍を合わせ約7万8000人だったと説明。これがわずか数カ月で30%増となり、米軍欧州軍が展開する多くの欧州諸国内で10万2000人態勢に拡大したとした。
海上戦力にも触れ、地中海やバルト海に出動する兵力は1万5000人を超え、計24隻の海上戦闘艦や潜水艦を配備しているとも指摘。昨年秋の時点での海上戦闘艦は6隻のみだったとした。
空軍戦力は現在、12飛行大隊と2つの戦闘航空旅団を運用、地上戦力では2軍団、2師団に6個の戦闘旅団などを投入しているとした。
CNNは最近、ウクライナ情勢を踏まえ米国は当面、10万人の兵力規模を欧州で維持する見通しと報じてもいた。
●「小柄なスパイ」プーチンが最も残忍な独裁者になるまで 5/29
国際社会からの批判を受けながら、収束の見通しがまったく立たないロシアによるウクライナ侵攻。この蛮行の「芽」は、ロシア・プーチン大統領自身のなりたちによっている。この戦争を考えるときに、そいうった視点は欠かせないだろう。
プーチン重病説に、根拠はない
プーチン大統領に関して、根拠のあやふやな「噂」がいくつも飛び交っている。
例えば「重病説」だ。パーキンソン病説、ガン説などさまざまな説が報道されており、なかには「ガンで手術が決まっている」などという話まであるが、それらの情報の出所を辿ると、いずれも単なる未確認情報である。
さらには「ガン手術を控えて、パトルシェフ安全保障会議書記を代行に指名した」「いや、36歳の大統領府職員を後継者に指名した」などというもっともらしいニュースもあったが、それもエビデンスはまったくない。これらの情報の震源をみると、イギリスの各タブロイド紙、あるいはいくつかのメディアのロンドン支局、あるいはイギリス紙「ザ・タイムズ」の場合が多い。
そのネタ元をみると、ロシア語圏で人気のSNS「テレグラム」に投稿された怪しい記事が多く、ときおり「ウクライナ側の情報機関発」などもある。可能性はゼロではないが、現時点での情報の価値は低い。いずれせよ「ロンドン発情報」にはにわかに飛びつかず、一呼吸おいて他の国際メディアの反応を見るのが賢明だろう。
とはいえプ―チン大統領に関する情報は重要だ。今回のロシア軍のウクライナ侵略はプーチンが決め、プーチンの命令で実行された。プーチンこそがこの悲劇の元凶である。
となれば、プーチンがどう考えているかによって、今後のこの戦争の行方は大きく変わってくる。個人の頭の中は他人にはわからないが、推測は有益だ。そうした「プーチンの正体」を知るうえで、彼がどんな人生を歩んできたかを振り返ってみよう。
小柄な「一介のスパイ」が、政界に転じるまで
ウラジーミル・プーチンは1952年生まれで、2022年5月現在は69歳。出身はレニングラード(現・サンクトペテルブルク)である。少年時代からKGBに憧れていたとの逸話もあるが、後付けの可能性もあり、事実か否かはわからない。
学業成績は優秀で、名門レニングラード大学法学部を卒業し、KGBに幹部コースで入った。KGBでは防諜部門の第2総局を経て対外諜報活動を担当する第1総局に配属され、レニングラード支部を経て、1985年から東ドイツのドレスデン支部に勤務した。
プーチンはそこで1990年まで勤務していた。東ドイツ勤務は5年間で、年齢でいえば32歳から37歳。スパイとしては若手の終わりから中堅にかけてといった時期だろう。その帰国直前、37歳になる頃に、ライプチヒでのデモからベルリンの壁の崩壊に繋がる「時代の激変」を体験している。この体験はプーチンにとって大きなものだったと推測できるが、当時の彼がどう思っていたかは本人にしかわからない(※プーチンは独裁者に上り詰めた後、過去の自分を何度か語っているが、それらの“物語”の真実度は不明である)。
いずれにせよ故郷レニングラードに帰った後、プーチンはKGB予備役となり、母校レニングラード大学で働き、大学時代の恩師であったアナトリー・サプチャーク教授と関係を深める。サプチャークは当時、政界に転じてレニングラード市党議長になっており、プーチンは彼の補佐となって正式にKGBを離れた。
プーチンの「成り上がり」がはじまった
サプチャークはエリツィンに並ぶ改革派の旗手として注目を集めており、そのままサンクトペテルブルク市長となるが、プーチンは市長の腹心として市行政の中枢ポストを歴任。瞬く間に出世して1994年には、第1副市長に就任している。
その後、1996年に、後ろ盾であるサプチャークの市長退陣と同時にプーチンも辞職するが、すでにロシア官界である程度の評価を得ており、エリツィン政権に誘われてモスクワに行き、ロシア大統領府の要職に就任。翌1997年にはロシア大統領府副長官、1998年には大統領府第1副長官、さらにFSB長官に就任した。つまり一介の中堅の現場スパイから冷戦終結でKGBを退職した後、わずか8年で古巣にトップとして返り咲いたわけである。
FSB長官となったプーチンは、昔からの仲間を要職に就け、FSBを短期間で掌握した。その頃に深い関係を築いたのが、FSB生え抜き幹部のニコライ・パトルシェフだ。ほぼ同世代で同じレニングラード出身であり、後にFSB長官から政権の対外戦略の司令塔である安全保障会議書記となり、現在もプーチンを支え続けている。
そして、こうしてFSB長官の椅子を得たことが、プ―チンの、政治家としてのさらなる飛躍に繋がった。エリツィン大統領の汚職疑惑を捜査していたユーリー・スクラトフ検事総長がスキャンダルで失脚した事件でも、その失脚に手を貸している。
その後、1999年8月に首相代行、すぐに首相に指名された。当時、エリツィン大統領は重度のアルコール中毒で職務がおぼつかなくなっており、事実上、政府はプーチン首相が采配することになった。プーチンがモスクワに移ったのは43歳で、中央政界ではまったくの無名の男が、あっという間に46歳で「次期最高権力者」に上り詰めたのだ。
「無名の43歳」は、チェチェン攻撃で一気に
当時のプ―チンはロシア政界では無名の新参者だった。ところが、彼は首相に就任するとすぐにチェチェンへの攻撃を命令し、第2次チェチェン紛争を開始した。
こうしてプ―チンは“強い指導者”像を自己演出してロシア国民の人気を集め、1999年末には大統領代行に指名され、翌2000年に47歳で正式に大統領に就任した。その間、さらにFSBレニングラード支局時代からの仲間を政権要所に配置し、独裁への下地を素早く作っている。
こうしてみると、彼は生まれてから37歳まではソ連共産党・KGBの文化の中で育ち、ソ連崩壊後は改革派市長の補佐として働きながら、ロシアの経済と社会秩序の崩壊を体験した。エリツィン政権下のロシアは自由ではあったが、世界の最貧国のような悲惨な状況だった。その惨状を、プ―チンは37歳から権力層の一端で見聞し、46歳で権力を掴んだのだ。
この37歳から46歳までに体感した「大国ロシアの屈辱」が、権力者となったプーチンの政策に色濃く反映されている。
彼は同じ体験を持つKGBレニングラード支局時代の友人、あるいはサンクトペテルブルク副市長時代の部下などを重用し、彼の考える一種の「世直し」を始める。それはロシア人が君臨する強大な勢力圏を再建することだが、その過程で邪魔な外部の人間、あるいは自分たちに反発する国内の人間は躊躇なく「消す」。その手法はまさに、ソ連共産党・KGB式手法の復活だった。そしてその先に、今回のウクライナ侵略があったのである。 

 

●中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか 5/30
バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、5月7日に行われたフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、ウクライナ情勢は中国指導部の台湾統一戦略に何らかの影響を与えているだろう、と述べた。バーンズは以下の諸点を指摘する。
・習近平がロシアによるウクライナ侵略の残忍性との関連により中国にもたらされる可能性のある評判の低下に少々動揺し、戦争がもたらした経済的な不確実性にも不安になっているとの印象を強く受ける。
・中国は「プーチンがやったことが欧州と米国を接近させた事実」にも失望しており、台湾につき「どんな教訓を引き出すべきか慎重に検討している。
・プーチンのロシアからの脅威を過小評価することは出来ないが、習の中国は「われわれが国家として長期的に直面する最大の地政学的課題」だ。
上記のバーンズの発言は、慎重な言い回しのなかにも、米CIA当局の判断が的確に示されている、と言って良いだろう。
プーチンと習近平は、オリンピックの開会式に合わせて北京で会談し、両者の間の連携には「限界」はない、と宣言した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、欧米各国の間で反ロシアの同盟関係が急速に進んでいることを見て、習近平は不安の色を隠せないようだ。
バーンズの見る通り、習近平にとっては、ロシアの侵略がはじまってから、10〜12週間がたち、中国にとっては、台湾問題との関係で、自分たちの計算が狂ってきたと思っているのではないか。習近平にとっては、ロシアの無謀な侵略とロシア経済が制裁によって受ける不確実性を中国としては今後どのように考えればよいのか、という点も重なっているだろう。
ウクライナのケースと台湾のケースを比較することには慎重でなければならないが、「台湾関係法」という国内法をもち、台湾の防衛に事実上コミットしている米国としては、台湾を「準同盟国」として扱う以上、もし将来、中国から台湾への一方的な軍事侵攻があれば、台湾を如何に支持、防衛するか、について、今回のバーンズ発言からは、今一つ明瞭な答えは出ていないといえよう。
現在、台湾住民たちにとっての最大の関心事は、依然として「いざとなったとき、米国は助けにきてくれるだろうか」という一点に尽きるといえよう。これは、現在のバイデン政権の一大課題である。
なお、バイデン大統領は5月23日、クワッドの首脳会合のために訪日した際、岸田文雄首相との首脳会談後の共同記者会見で、台湾が攻撃された際の米国の台湾防衛の意思を問われ、「一つの中国」政策を維持するとしつつ、「イエス」と答えた。
●ウクライナ戦争長期化…欧州は主戦派と和平派に分かれた 5/30
英週刊誌エコノミストは27日、ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、西側は「交渉を通じてできるだけ早く戦争を終結させるべきだ」とする「平和派」と「ロシアに大きな代償を払わせるために戦争を続けるべきだ」とする「正義派」に分かれていると報じた。いわゆる和平派と主戦派に分裂しているとの指摘だ。
同誌によると、ドイツ、フランス、イタリアなど欧州連合(EU)の中心加盟国が和平派の先頭に立った。積極的な「休戦仲裁」にも乗り出した。ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領は28日、ロシアのプーチン大統領との電話会談で、「戦争行為の早期終結」を強調し、「交渉を通じた外交的解決策を探ってもらいたい」と改めて要求した。イタリアは今月19日、停戦および平和体制構築のための「4段階の平和ロードマップ」を示した。そこにはウクライナ、ロシア、EUによる多者間の平和協定も盛り込まれている。
エコノミストは「戦争後、ロシアが占領した領土を巡り、ウクライナは『1ミリの領土も譲歩すべきではない』との立場だが、和平派は『一部譲歩すべきだ』とみている」とし、「戦争が長引けば長引くほどウクライナと西側が払う費用が増大することに懸念が大きい」と伝えた。
正義派(主戦派)は英国、ポーランド、そしてロシアと国境を接する旧ソ連国家のバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)などが代表的だ。これら国々は「対露制裁が効果を上げており、今後時間をかけ、より良い武器を多く支援すれば、ウクライナが勝利する可能性がある」との立場だ。
英国は開戦以降、対空、対戦車、対艦ミサイル、装甲車をウクライナに供給し、米国に次いで活発な武器支援を行っている。「ロシアの脅威に直面したモルドバとジョージアにも武器を送るべきだ」とする主張もある。ポーランドはウクライナにT72戦車200台余りを提供し、ミグ29戦闘機の支援も推進した。22日にはポーランドのドゥダ大統領がキーウのウクライナ議会を訪れ、「ロシアが完全に撤退するまで戦争を続けるべきだ」と演説した。
一方、エコノミストは西側のリーダーである米国の立場はあいまいだと分析した。「武器貸与法」を成立させ、400億ドルの軍事支援も承認したが、野砲や自走砲は構わないが、長距離多連装ロケット砲の支援は見送るなど事実上限られた支援を行っている。オースティン米国防長官も24日、キーウ訪問時に「西側はウクライナの勝利を助けるべきだ」と発言したが、今月13日にはロシアのショイグ国防相との電話会談後、「即時停戦すべきだ」と要求するなど米国のあいまいさが増している。
エコノミストは「米ニューヨーク・タイムズが『ロシアの敗北は非現実的であり、危険でさえある』と主張し、キッシンジャー元国務長官も『今後2カ月以上戦争を継続することはウクライナの自由ではなく、ロシアとの新たな戦争になる』と警告した」とし、米国内で戦争早期終結を支持する意見が強まっていることを示唆した。
●駐英ロシア大使、戦争犯罪は「でっちあげだ」と発言… 5/30
アンドレイ・ケリン駐英ロシア大使は、29日に公開された英BBCのインタビューで、ウクライナとの戦闘でロシアが戦術核兵器を使用する可能性は「ない」と否定した。
ケリン氏は「ロシアでは戦術核兵器の使用に関して非常に厳格なルールがある」とし、使用は「主に国家の存在が脅かされている場合」に限られると指摘。「現在の(ウクライナでの)軍事作戦とは何の関係もない」と述べ、戦術核兵器を使用する局面ではないとの認識を示した。
プーチン露大統領は4月下旬、ウクライナ情勢に第三国が軍事介入すれば「我々の反撃は稲妻のように素早いものになる」と発言。核兵器の使用も辞さない構えと受け止められ、波紋が広がった。
一方、キーウ近郊ブチャでの民間人殺害など露軍による戦争犯罪の疑惑についてケリン氏は、「でっちあげだ」と 一蹴いっしゅう 。ウクライナ側がロシアとの停戦交渉を中断するために仕組んだものだと主張した。
●トルコ「戦争が終わることを夢見ている」ロシア・ウクライナに首脳会談促す 5/30
トルコのエルドアン大統領は、ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領に対し、首脳会談の開催を促す意向を示しました。
タス通信によりますと、エルドアン大統領はプーチン大統領、ゼレンスキー大統領と30日に相次いで電話会談すると発表しました。
エルドアン大統領は「両国の戦争が終わることを夢見ている」として、両首脳に対話を呼び掛ける意向を表明しています。
ウクライナ大統領府は、トルコの仲介を受け入れる形で、ゼレンスキー大統領とプーチン大統領の電話会談を検討する姿勢を示しました。
一方、ロシア大統領府は、プーチン大統領が30日にエルドアン大統領と会談することは認めたものの、ゼレンスキー大統領との電話については「予定されていない」とコメントしています。
●トルコ大統領、プーチン氏に国連交えたウクライナとの協議を提案  5/30
トルコのタイップ・エルドアン大統領は30日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、露軍が侵攻を続けるウクライナ情勢を中心に協議した。トルコ大統領府によると、エルドアン氏はロシアとウクライナが一刻も早く信頼を醸成する必要があると指摘し、イスタンブールで国連を交えた協議の開催を提案した。
会談では、露軍による黒海沿岸封鎖でウクライナからの穀物輸出が滞っている問題についても協議した。
露大統領府によると、プーチン氏は、安全な船舶航行に協力する用意は表明しつつ、米欧が対露制裁を解除すれば「ロシア産の農作物や肥料を輸出できる」と述べた。エルドアン氏はロシアとウクライナ双方の合意を前提にした「監視メカニズム」の設置を提案した。
エルドアン氏は30日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とも個別に電話で会談する。
●ウクライナ危機で原発再稼働に前向きになってきた日本── 5/30
新潟県柏崎市で育ったミカ・カサハラ(45)は幼い頃、故郷の日本海沿いにある原子力発電所を「父が働いている場所」「冷却タンクと鉄塔」くらいにしか思っていなかった。彼女は言う。
「悪いことが起こらなければ、それでいいと思っていた」
しかし彼女はいま、発電所でのセキュリティ違反や破損したインフラに怯え、発電所の閉鎖を望んでいる。
11年前、福島第一原子力発電所は地震と津波で3度のメルトダウンを起こした。事故後、日本はほとんどの原子力発電所を停止させた。そしていま、福島の事故後初めて、原発再稼働への反対派が過半数を下回っている。これは、混乱のなかで日本が限られた資源と向き合い、電力を供給し続けるのに苦労するかもしれない、という認識が高まっているからでもあるだろう。
岸田文雄首相は、ウクライナ戦争による燃料供給への脅威に直面し、日本のエネルギー安定供給のために原発の再稼働を進めると述べている。しかし決断には、感情や政治的な思惑が絡む。まして地震の多い日本では、将来の災害に備えて原発を強化するのは技術的に大変なことである。
新潟県柏崎市と刈羽郡刈羽村にまたがる柏崎刈羽原子力発電所は、世界最大の7基の原子炉を抱える。
●東部のルハンシク州 ウクライナ側“最後の拠点”で攻防  5/30
ロシア軍は、ウクライナ東部のルハンシク州の完全掌握をねらい、ウクライナ側の拠点の包囲に向け攻勢を強めていて、これに対しウクライナ側は、欧米からの軍事支援を受けて徹底抗戦する構えです。一方、ロシアのプーチン大統領はトルコのエルドアン大統領と電話で会談する予定で、北欧の2か国のNATO=北大西洋条約機構への加盟や、暗礁に乗り上げている停戦交渉の再開をめぐって、意見を交わすとみられます。
ロシア軍は、東部のドネツク州とルハンシク州の掌握をねらって攻撃を続けていて、特にルハンシク州では、ウクライナ側の最後の拠点とされるセベロドネツクを包囲しようと攻勢を強めています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は29日、動画を公開し、セベロドネツクの状況について、「建物の90%が損傷を受け、住宅の3分の2以上が完全に破壊された」と述べ、大きな被害が出ていることを明らかにしました。
そのうえで、「われわれは、より多くの近代的な兵器を手に入れようとしている。最後にはわれわれが平和を取り戻す」と述べ、欧米からの軍事支援を受けて、徹底抗戦する決意を強調しました。
ロシアのラブロフ外相は、29日に放送されたフランスのテレビ局とのインタビューで、今後の作戦について、「東部のドネツク州とルハンシク州の解放が絶対的な優先事項となる」と述べ、少なくともこの2州の全域を掌握するまで軍事侵攻を続けると主張しました。
こうした中、戦況を分析しているイギリス国防省は30日、「ロシア軍は今回の紛争で、中堅クラス以下の将校に壊滅的な被害が出ている可能性がある。また、ロシア軍の兵士が一部で反乱を起こしているという報告もあり、信頼できる部隊の司令官が不足していることで、兵士の士気や規律のさらなる低下につながる可能性もある」と指摘しました。
プーチン大統領 トルコ大統領と電話会談へ
一方、ロシアのプーチン大統領は30日、トルコのエルドアン大統領と電話で会談する予定です。
プーチン大統領としては、トルコが北欧のフィンランドとスウェーデンのNATOへの加盟に難色を示していることから、会談を通じて、NATO拡大に向けた動きをけん制するねらいがあるとみられます。
これに対しエルドアン大統領は、ゼレンスキー大統領とも電話で会談することにしていて、暗礁に乗り上げている停戦交渉の再開に向けて直接働きかけたい思惑がありそうです。
ゼレンスキー大統領 保安庁のハルキウ州トップを解任
ウクライナのゼレンスキー大統領は、東部ハルキウ州を訪れ兵士たちを激励した29日に公開したビデオ演説で、治安機関にあたる保安庁のハルキウ州のトップを解任したことを明らかにしました。
その理由について、ゼレンスキー大統領は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、保安庁のハルキウ州のトップが「街を守るために働かず、自分のことばかり考えていた」と述べ、今後、さらに詳しく調べる考えを示しました。
●ゼレンスキー大統領がハリコフ視察 首都離れる 5/30
ロシアによる侵攻が続くウクライナで大統領府は29日、ゼレンスキー大統領が北東部ハリコフ州を視察したと発表した。ゼレンスキー氏が首都と近郊のキーウ州を離れるのは2月24日に侵攻が始まってから初めてという。また、ロシア極東の沿海地方で今月27日、野党議員がウクライナで続ける「特別軍事作戦」の即時中止と軍の撤収を呼びかけた。処罰対象とされる恐れもあり、異例の発言だ。
ウクライナの大統領が露の侵攻以来、初めて首都近郊離れる
ロシアによる侵攻が続くウクライナで大統領府は29日、ゼレンスキー大統領が北東部ハリコフ州を視察したと発表した。ゼレンスキー氏は4月上旬に民間人の虐殺疑惑が浮上した首都キーウ(キエフ)近郊のブチャなどを訪問しているが、首都と近郊のキーウ州を離れるのは2月24日に侵攻が始まってから初めてという。
「軍事作戦中止、軍撤収を」 ロシアで野党議員が異例の呼びかけ
ロシア極東の沿海地方で27日、野党議員がウクライナで続ける「特別軍事作戦」の即時中止と軍の撤収を呼びかけた。現在のロシアでは軍を毀損(きそん)する発言が処罰対象とされる恐れがあることから、異例の発言といえる。また、ロシア南部の軍事裁判所は従軍を拒否して除隊処分となった兵士らによる異議申し立てを棄却した。ロシア国内で軍事侵攻に賛同しない声や動きが相次いで露呈している。
ロシア船舶がマリウポリ港に入港 鉄製品略奪か
ロシア軍が制圧したウクライナ南東部マリウポリの港で28日、露船舶の入港が始まった。タス通信によると、2700トンの金属が積まれ、東に約160キロのロシア南部ロストフナドヌーに向けて30日出港する予定だが、ウクライナ側は「ロシアに金属を盗まれている」と非難している。
●EUがロシア産石油の一部禁輸で合意、制裁第6弾へ 5/30
欧州連合(EU)首脳は30日、ロシア産原油の部分的な禁輸で合意した。ウクライナに軍事侵攻したロシアとプーチン大統領への制裁第6弾に道を開く動きだ。今回のEU合意に先立ち、バイデン米大統領は同国が「ロシアを攻撃できるロケットシステムをウクライナには供給しない」と述べた。ウクライナはより攻撃的な兵器の供与を繰り返し求めていた。
EU首脳、ロシア産原油の一部禁輸で合意
欧州連合(EU)首脳はロシア産原油の一部禁輸で合意した。ミシェルEU大統領(常任議長)が30日遅くに明らかにした。対ロ制裁第6弾に道を開くものになる。制裁はロシアから海上経由でEU加盟国に輸送される原油・石油製品の購入を禁じる内容。ただパイプライン経由の原油は一時的な適用除外となる。
ロシア、オランダ企業へのガス供給を停止へ
ポーランド、ブルガリア、フィンランドに続き、ロシアはオランダ企業にもパイプライン経由のガス供給を停止すると警告した。オランダのガステラはロシア側の支払い要件の受け入れを拒否したことから、ガスプロムからの供給が31日に停止する。
バイデン大統領、ロシアを攻撃できるロケットシステム供給しない
バイデン大統領は、ウクライナに遠距離ロケットシステムを供給するかとの質問に対し、米国は「ロシアを攻撃できるロケットシステムをウクライナには供給しない」と述べた。
ロシア産石油巡るコンセンサスない−ハンガリー首相
ハンガリーのオルバン首相は、EU首脳らの間でロシア産石油の禁輸を巡るコンセンサスはないと述べた。その上で、EUがハンガリーに対し引き続きパイプライン経由での石油供給とパイプラインが封鎖された際に別の手段での供給を保証する場合には、禁輸措置を支持する用意があることを示唆した。
韓国与党「国民の力」、来月のウクライナ訪問を計画
韓国の与党「国民の力」は30日、同党所属議員の代表団がウクライナを来月訪問する計画だと明らかにした。尹錫悦政権はウクライナへの追加支援供与を検討している。
ロシア、西側金融インフラ経ずに元利払い行う方法を準備−財務相
ロシアは西側の金融インフラを迂回(うかい)する形でユーロ債の元利払いを行う方法を構築しつつある。シルアノフ財務相がベドモスチ紙とのインタビューで明らかにした。シルアノフ氏が同紙に説明したところによると、外国人投資家はロシアの銀行にルーブルおよびハードカレンシー(交換可能通貨)の口座を開設し、支払いを受けられるようになる。欧州諸国が現在、制裁による障害を回避しながらロシア産天然ガスの代金を支払っている方法とちょうど逆のイメージとなる。
ゼレンスキー大統領、保安局のハルキウ責任者を解任
ウクライナのゼレンスキー大統領は同国保安局のハルキウ州責任者を解任したと明らかにした。戦争が始まって以来、自身の保身のみを考え、市の防衛を怠ったためだとソーシャルメディア「テレグラム」で説明した。責任者の名前など詳細は明らかにしなかった。
ロシア産石油禁輸巡るEU協議の難航続く、ハンガリー反対で−関係者
EUは首脳会合に先立ち29日開いた大使級会合で、ロシア産石油禁輸を含む対ロ制裁修正案を協議したが合意に至らなかった。協議は週内続く予定。事情に詳しい複数の関係者によると、修正案はハンガリーへのロシア産石油の確実な供給を目指す内容だったが、同国は拒否の姿勢を変えていない。大使級会合は30日午前に再開する予定だが、合意形成にまだ成功していないため、30日から2日間の日程で開かれる首脳会合では制裁が主要議題の一つとなる可能性がある。EU当局者の一人は数日中の合意はなお可能だと述べた。
ロシア大統領、セルビアに天然ガス供給約束
ロシアのプーチン大統領はセルビアのブチッチ大統領に途切れない天然ガス供給を約束した。ロシア政府が29日の両首脳の電話会談後に声明で明らかにした。ブチッチ大統領はセルビアで記者団に対し、同国がロシアの政府系天然ガス企業ガスプロムと3年契約を結ぶと説明した。
ゼレンスキー氏がハルキウ視察
ゼレンスキー大統領はハルキウ地域を訪れ、ウクライナ軍の前線の拠点を視察した。戦況について報告を受けたほか、軍関係者に勲章を授与。激しく損壊したアパートなども見て回った。ロシアによる侵攻後、同大統領がキーウ周辺の外に位置する軍拠点を訪問したと公に伝わったのは今回が初めて。
●北マケドニア外相 フィンランド スウェーデンのNATO加盟に期待  5/30
おととしNATO=北大西洋条約機構に加盟した、北マケドニアの外相が来日して記者会見し、NATOに加盟した意義を強調したうえで、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、フィンランドとスウェーデンが加盟申請をしたことについて、早急に実現するよう期待を示しました。
ヨーロッパ南東部のバルカン半島に位置する北マケドニアのオスマニ外相は、29日から日本を訪れていて30日都内で会見しました。
まず、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、オスマニ外相は、「民主主義を重んじる世界が結束して対応しなければ、ほかの地域に紛争が波及することを防ぐことができない」と述べ、ヨーロッパだけでなく、世界全体で対応する必要があると指摘しました。
北マケドニアは、おととしNATOに加わった最も新しい加盟国で、オスマニ外相は「領土の隅々までNATOの防衛の傘に守られているため、領土についての脅威はない」と述べ、NATOに加盟した意義を強調しました。
そのうえで、フィンランドとスウェーデンがNATOへの加盟申請をしたことについて「NATOの強化につながり、平和と安定に資する」と歓迎しました。
一方、オスマニ外相はトルコがこの2か国の加盟に難色を示していることについては「できるだけ速やかに3者間の対話を進めて、意見の食い違いを乗り越え、完全な加盟を確立してほしい」と述べ、早急に実現することに期待を示しました。
●反露のリトアニア、市民が募金で軍用ドローンをウクライナに購入 5/30
バルト3国の1つリトアニアで、先進的な軍事用ドローン(無人機)を購入してウクライナに提供しようという募金活動が行われた。
募金活動を行った地元のインターネット放送局の話としてロイター通信が伝えたところでは、多くの一般市民が募金に応じ、3日半で予定額に到達したという。募金総額は約470万ドルで、対ロシア戦でおおいに威力を発揮しているトルコの「バイラクタルTB2」を購入するのに使われる予定だ。
ロイターはまた、「一般市民がバイラクタルのようなものを購入するために募金活動を行うのは歴史上初めて。前代未聞で驚くべき話だ」との駐リトアニアのウクライナ大使の談話を伝えている。
ウクライナは近年、TB2をトルコの企業から20機以上購入したが、今年3月上旬にも16機を追加した。今回のロシアによるウクライナ侵攻では大いに戦果を上げて伝説的な存在となり、ニューヨーク・タイムズによれば「(TB2が)ロシアの無法者たちを幽霊に変える」という歌が生まれたほどだ。
リトアニアはかつてソ連に属し、いまではNATOに加盟している。ロシアのウクライナ侵攻を一貫して激しく非難するとともに、バルト3国のラトビア、エストニアと同様に、ロシアが自国にも侵攻してくることへの懸念を表明してきた。この数カ月は国防の強化に向けて舵を切っている。
次は自分たちが危ないという危機感
リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相は27日、ロシアがウクライナにおいて「ジェノサイド(集団虐殺)」を行おうとしていると非難。また、もし和平のためにウクライナが領土をロシアに割譲する事態になれば、それはプーチン政権の行為に「お墨付き」を与えることになってしまうと警告した。TB2購入のための募金に応じたリトアニア人の中からは、血みどろの戦争を終わらせようとするウクライナを支援できてうれしいとの声も聞かれる。
100ユーロ相当を募金した32歳のリトアニア女性はこう語ったとロイターは伝えている。「この戦争が始まる前には、武器を買うことになるなんて誰も考えもしなかった。だが今ではそれが当たり前のことになっている。世界をよりよくするには何かをしなければ」
またこの女性は「ここのところ、ウクライナに武器を支援するために募金していた。勝利まで続けるつもりだ」と述べた。次はリトアニアがロシアに侵攻されるのではという恐怖心もあるという。
ロシアがウクライナへの侵攻を開始してから3カ月以上が経過し、ウクライナの兵士や一般市民が多数、命を落とした。もっともロシア軍は激しい抵抗に遭い、ろくな戦果を挙げるに至っていない。
●最初は「愛国」だった…ロシアのために立ち上がったプーチンが「独裁者」に 5/30
ロシアのプーチン大統領はなぜ強権的な手法をとるようになったのか。東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠さんは「プーチンはロシアという国を愛している。だからこそ、自らの考える『ロシアのためになること』に逆らうものは容赦なく弾圧するようになった」という――。
権力の虜になるプーチン
プーチン大統領が大変な愛国者であることは疑いないでしょう。プーチンが尊敬する歴史上の人物として挙げるのは、ピョートル大帝とストルィピン(ロシア帝国時代の首相)です。どちらもロシアの近代化に尽力したリーダーであり、ここに自らを重ねることは不自然ではありません。
同時に、ピョートルもストルィピンも「上からの近代化」主義者であり、自らの考える「ロシアのためになること」に逆らうものは容赦なく弾圧しました。どうもプーチンの愛国心はこういう方向に発揮されてしまっているのではないでしょうか。
プーチンが大統領に就任したとき、ロシアはガタガタの状態でした。経済も政治も混乱し、公共部門は腐敗し、医療も治安も崩壊状態にありました。
1990年代のロシアでは警官が市民に何かと難癖をつけてカネをゆするなんていうことが日常茶飯事でしたし、病院にかかるのも大学に入るのもカネ次第というのが「常識」でした。うちの娘は2010年にモスクワで生まれたのですが、やっぱり病院の医師から賄賂を要求されて幾らか払った記憶があります。
法律の一時停止と外出禁止令でロシアを立て直す
こうした状態にある祖国を前にして、プーチンは「戒厳司令官」として自らを規定したのだ、というのが私の考えです。非常事態において戒厳令が敷かれると、一時的に平時の法律は停止され、私有財産が接収されたり、外出禁止令が出されたりします。こういう方法でプーチンはロシアを立て直そうとしたのではないでしょうか。
実際、プーチン大統領は政権に逆らう大富豪(オリガルヒ)を粛清して経済やメディアに対する国家統制を強め、チェチェンの分離独立主義者を軍事力で鎮圧していきました。こうして、モスクワの意向がロシアの全土・全社会に反映される秩序(垂直的権力構造)を回復しようとしたのです。
さらにこの間、ロシア経済は未曾有の好景気を経験し、国民の生活も目に見えて改善しましたから、プーチンは一時期「名君」扱いでした。もともとロシア人は強いリーダーが好きですし、強権的な統治手法も、一部のリベラル派を除けば「必要悪」として許容してきました。
腐敗度指数は180カ国中136位
問題は、戒厳令がいつまでも解除されなかったことです。プーチン政権が強権的な手法を用いるほどに、これに反発する人は増えていきますが、プーチンはその中でも目立った人たちを弾圧したり、場合によっては殺害してきました。
2021年のノーベル平和賞はリベラル紙『ノーヴァヤ・ガゼータ』の編集長が受賞しましたが、同紙の記者でプーチン批判の急先鋒だったアンナ・ポリトコフスカヤは2006年に何者かに射殺されるという壮絶な最期を遂げています。
しかも、強権による秩序の回復は政権の外側においてであって、プーチンに近い政・財界の有力者たちの間では途方もない蓄財やコネ人事が罷り通るようになっていきました。
2022年現在、ロシアの腐敗度指数は全180カ国中の136位であり、富の多くは一般庶民には回らずに一部の超富裕層に集中しているとされます。
こうした歪(いびつ)な統治のツケは、プーチンが権力を手放した瞬間に回ってくるでしょう。だから、最初は愛国的な動機で始まった「プーチンの戒厳令」は、次第にそれ自体が自己目的化し、いつまでも解除できなくなってしまったのです。要するに、プーチン大統領は自らの権力の虜になっているのではないでしょうか。
陰謀論に彩られた「市民社会」観
権力の虜になったプーチンは、ロシアの国内に対しても独特の視線で臨んでいます。
例えばロシア政府は毎年、世界の有識者を集めた「ヴァルダイ会議」というものを開催していますが、2020年の総括セッションでプーチンはこんな発言をしています。すなわち、市民社会というものはたしかに重要だが、「市民の声」なるものはどうやって作られるのか? 
それは本当に民衆の声なのか、それとも誰かに囁かれた意見なのか? 
外国の「善意の声」に過ぎないのではないか?  ……などです。
ここには、市民社会に対するプーチンの深い不信が見て取れます。要するに、自発的な意志を持った市民という存在には非常に懐疑的であり、むしろ「大国」による認識操作の対象だと見ているのではないかということです。
さらに最近のプーチンは「第五列」なる言葉をよく使います。1930年代のスペイン内戦のときに生まれた言葉で、国内にありながら外国のために働く裏切り者、といった意味で使われます。
プーチンにいわせれば、ロシアの民主化団体とか、リベラルなジャーナリズムとか、場合によっては環境団体さえもが外国の意向を受けて活動する「第五列」に見えているようです。プーチン政権の統治手法に対して国民が反発すると、それはみな西側が操っているからだと見るわけです。
こうした世界観に基づいて、スターリン時代の人権弾圧を調査・記録する団体「メモリアル」を解散に追い込み、反プーチン運動の指導者アレクセイ・ナヴァリヌィを逮捕し、メディアやインターネット空間に対する統制を強めてきました。
戦争が始まってからは、政権の意向に沿わない報道を続けるテレビ局「ドーシチ(雨)」やラジオ局「エホー・モスクヴィ(モスクワのこだま)」を閉鎖し、TwitterやFacebookといった西側のSNSもブロックしています。YouTubeもそろそろ危ない……という話もあります。
国内での騒擾が西側諸国との大戦争にエスカレート? 
また、ロシア軍が毎年秋に実施する大演習を見ると、まずは西側がロシア国内の「第五列」を武装蜂起させるというところから始まるシナリオが採用されている場合が多く、国内での騒擾がその背後に居る(とプーチンが考える)西側諸国との大戦争にエスカレートしていくとされています。
考えてみると、プーチンは若い頃に国家の崩壊を2度目撃しています。最初はKGBの諜報員として赴任していた東ドイツが崩壊し(1989年)、帰国後の1991年には祖国ソ連が崩壊しました。
また、プーチンは1990年代半ばにクレムリンの中堅官僚へと転じていますが、ここではメディア王グシンスキーが展開した激しいメディア・キャンペーンで当時のエリツィン大統領の再選が危うくなったところも見ています。
こうした経験が西側諸国への警戒感と結びついた結果、民衆は常に押さえつけておかないとどうなるかわからない、という恐怖に繫がっているように見えます ・・・
●ロシアで「反戦の動き」…撤収を要求する議員、出征拒否で除隊処分の兵士も 5/30
ウクライナ侵攻への異論を厳しい情報統制で封じているロシアで、侵攻に反旗を翻す動きが相次いで表面化した。露極東沿海地方の議会では、野党議員が本会議中に、プーチン大統領にウクライナ侵攻停止を要請する異例の行動に出た。
露有力紙コメルサントなどによると、この議員は、共産党のレオニード・ワシュケービッチ氏。27日にウラジオストクで開催された本会議で突如、声明を読み上げた。極東からも兵士が派遣されていることを念頭に「軍事作戦を中止しなければ、我が国の孤児が増えてしまう」と述べ、ウクライナからの撤収を求めた。
プーチン政権与党「統一ロシア」のオレグ・コジェミャコ知事は、「ロシア軍と、ウクライナでナチズムと戦う人をおとしめる裏切り者だ」と非難した。共産党会派の代表は、ワシュケービッチ氏と、賛同した議員を厳罰に処す方針を明らかにした。
英字紙モスクワ・タイムズによると、露国内の地方議員が侵攻に公然と反対を表明したのはこれで3人目で、これ以前の2人はいずれも出国したという。
一方、インターファクス通信によると、露南部カバルジノ・バルカル共和国の軍事裁判所は26日、ウクライナへの出征を拒否した治安組織「国家親衛隊」の隊員115人に対する除隊処分を支持する判断を示した。露当局が、参戦を拒否した兵士の存在を認めたのは初めてとみられる。
●ロシア国内で“反戦の声”相次ぐ 政府は排除に必死か 5/30
ロシア国内でプーチン大統領にとって不測の事態が次々と起こっています。
ロシア連邦を構成する共和国の一つ、ダゲスタン共和国の学校の卒業式での出来事。卒業式の一言メッセージで、少女が「プーチンは悪魔だ!」と叫びました。しかし…。
反プーチンメッセージを叫んだ少女「私の名前は×××。11年B組××××高校の2年生です。卒業式の場で自分が行ったことを反省しています。私はただ、注目を浴びたかっただけでした。最近、学校のテストのストレスやお母さんとのけんかがありました。自分の非を認めます。卒業式を台なしにしてしまって申し訳ありません」
少女は地元当局によって謝罪させられ、実名と顔出しの謝罪動画もSNSに投稿。さらに、少女の母親までも…。
反プーチンメッセージを叫んだ少女の母親「私はロシアのプーチン大統領の行いをすべて支援します。ロシアの愛国者です。娘の教育に問題があったことを反省し、同じことがもう起きないよう約束します」
さらに、地方議会でも…。
共産党、レオニード・ワシュケビッチ議員:「プーチン大統領へ…」
立ち上がって話を始めた野党のワシュケビッチ議員。
ワシュケビッチ議員「我が国が軍事作戦を止めなければ孤児が増えることは分かっています。ロシアに計り知れない利益をもたらすはずだった若者が、この軍事作戦で命を落としています」
議長からは再三の警告。マイクのスイッチを切られても、なおプーチン大統領へのメッセージを訴え続けましたが、議会は発言権を剥奪(はくだつ)することを決めました。
最近のプーチン大統領は動きにも緊張感があり、自信がないように見えると指摘するロシア最大級のニュースサイトの社員だったポリャコフさん。政府を批判する記事を書いて今月9日に突然、解雇されました。
ロシア最大級のニュースサイト「Lenta.ru」の元社員・ポリャコフさん「制裁を受け、色々と制限されているのにロシア政府の動きは全く駄目です。以前、行った新型コロナの対策よりひどい。政府は今の問題がどれだけ深刻なのか理解していないようです」
批判の声は今のところ抑えているロシア側ですが、ロシア議会は25日、志願兵の年齢上限を撤廃する法案を可決。軍入隊の年齢制限が50歳に引き上げられました。
ポリャコフさん「軍隊の中では最高司令官であるプーチンに関する不満が高いとみられます。なぜならほとんどの司令官を退任させて、自分で命令を出そうとしていますから。それで我慢できなくなった兵士は『批判する可能性』があります」
今は、押し潰されている「批判の声」。国を追われた自分と同じような批判の声が周囲からも上がることを期待しているそうです。
ポリャコフさん「批判した私も犯罪者として罰されなければ国に残りたかった。上がってくる批判の声を押し潰していたら、いつか国はドミノのように崩れ落ちます」
●ロシアスパイの暴露…「プーチン大統領、がん急速に進行…余命3年宣告」 5/30
ロシアのプーチン大統領のがんが急速に進行し余命宣告を受けたという主張が出てきた。
英日刊紙デイリーメールは29日、ロシア連邦保安局(FSB)のスパイの暴露を引用してプーチン大統領が余命宣告を受けたほど健康が良くないと報道した。
消息筋によると、プーチン大統領は最近医療陣に最長3年の余命宣告を受けた。FSB関係者は「プーチン大統領のがんが急速に進行している。生きられる期間は2〜3年しかない」と伝えた。
彼はプーチン大統領が視力を喪失しつつあると明らかにした。消息筋は「プーチン大統領が公式の席上に出る時に原稿を大きな文字に直した紙が必要だ。文字のサイズがあまりに大きく紙1枚で数段落しか入らないほど」と説明した。続けて「プーチン大統領の腕と脚も手のほどこしようもなく震えている」と説明した。
だがロシア大統領府はプーチン大統領の健康に何の異常もないとし関連疑惑を否定し続けている。AFPとタス通信などが29日に伝えたところによると、ロシアのラブロフ外相はこの日フランスTF1とのインタビューで健康不安説に対し「まともな精神状態の人ならこの人(プーチン大統領)から何か病気にかかった兆候を見たとは言わないだろう」と反論した。
●ゼレンスキー氏、東部ハルキウを視察 ロシア外相は「東部解放が最優先」 5/30
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は29日、激しい戦闘が続く東部ハルキウ州の軍部隊を訪問した。2月24日にロシアによる侵攻が始まって以来、大統領が首都のあるキーウ州の外に公式に出たのは初めて。一方、ロシア外相は、ウクライナ東部の「解放」が「優先事項」だと述べるほか、ウラジーミル・プーチン大統領の病気説を否定した。
ウクライナ第2の都市ハルキウへの砲撃を、ロシアは2週間ほど停止していた。しかし、ここ数日で再開している。
ゼレンスキー氏は、防弾ベストを着て、ハルキウ市内の廃墟を視察。兵士たちに、「あなたたち一人ひとりの軍での働きに感謝したい」と話した。
訪問時の映像によると、ウクライナ兵たちはゼレンスキー氏に、道路脇の破壊された軍用車など戦争の被害について説明した。
ゼレンスキー氏はのちに、「この戦争で、占領者はどうにかして何らかの結果を手に入れようとしている」、「しかし、私たちが最後の一人まで土地を守ることを、占領者はもっと早く理解すべきだった。向こうに勝ち目はない。私たちは戦い、必ず勝利する」と投稿した。
また大統領は訪問後、ハルキウ州で領土防衛の任務を果たさなかったとして、ウクライナ保安局の同州責任者を解任したと、国民向けの演説で明らかにした。
今もロシア軍の射程圏内
侵攻の初期には、ハルキウはロシアの激しい砲撃にさらされ、高層の集合住宅ががれきと化した。
しかし、4月から5月にかけ、ロシア軍は周辺の町から徐々に後退。避難していた住民の一部がハルキウに戻り、地下鉄も侵攻後初めて営業が再開された。
ただ、同市は今もロシアの大砲の射程圏内にある。ゼレンスキー氏が視察を終えた後、市内では大きな爆発音が数回聞こえた。
大統領府はこの日、通信アプリ「テレグラム」に動画を投稿。字幕には、「ハルキウと周辺では2229棟の建物が破壊された。私たちは復活し、再建し、生活を取り戻す。ハルキウで、そして邪悪な存在がやって来たすべての町と村で」と書かれていた。
BBCのジョー・インウッド・ウクライナ特派員は、大統領の訪問は、ハルキウの戦況の変化を物語っていると説明。しかし、別の場所ではウクライナは劣勢とみられており、ハルキウの安全も一時的なものだと伝えた。
ハルキウ州の保安トップを解任
ゼレンスキー氏は29日、ウクライナ保安庁のハルキウ州トップ、ロマン・ドゥディン氏について、「全面戦争の初日から街の防衛に取り組まず、自分のことしか考えなかった」として、解任したと明らかにした。
「動機は何だったのか? 司法当局が解明する」と、ゼレンスキー氏は付け加えた。
同氏はまた、ハルキウの市長と州知事にも会い、復興計画を協議した。
アンドリー・イェルマク大統領首席補佐官によると、ハルキウ州では現在、領土の31%をロシアが占領している。ウクライナは5%をロシアから奪い返したという。
ドネツク州の町を制圧とロシア軍発表
ロシアは、ウクライナ東部ドンバス地方の制圧を重要目標に掲げており、攻撃を集中させている。目下、セヴェロドネツク市とリシチャンスク市の包囲を目指している。
ロシア国防省は28日、ドンバス地方ドネツク州の町リマンを制圧したと発表した。
ゼレンスキー氏は同日、「状況は非常に厳しい。ドンバス地方とハルキウ州では特に厳しい」と、国民向けの演説で述べた。
セヴェロドネツクには、推定1万5000人の民間人がまだ残っている。地元当局者は、「絶え間ない砲撃」で市内外への移動が困難になっていると述べた。水の供給も一段と不安定になっている。
ロシア外相、プーチン氏の病気説を否定
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は29日、同国にとってドンバス地方の「解放」が「絶対的な優先事項」だと、フランスのテレビ局TF1のインタビューで語った。
ラヴロフ氏はインタビューで、進行中の軍事作戦を擁護。隣国ウクライナの「非軍事化」が目的だと改めて主張した。
そして、ロシアは「ネオナチ政権」と戦っているとする説明を繰り返した。ロシア政府のこの説明は、各国で広く一蹴されている。
ラヴロフ氏はまた、ウラジーミル・プーチン大統領が病気だとの憶測を否定した。
プーチン氏について、公の場によく姿を見せているとし、「この人(プーチン氏)に病気や不調の兆しなど、正気な人間には見つけられないはずだ」と外相は述べた。
米政府、長距離ロケットを提供か
アメリカは近く、長距離の多連装ロケットシステム(MLRS)をウクライナに送るとみられている。ゼレンスキー政権は、ドンバス地方でロシア軍に対抗するため、MLRSの提供を訴えてきた。ロシアは、こうした重火器の提供を、挑発的なエスカレーション行為だと見ている。
ウクライナ軍は現在、アメリカから送られた、射程距離が約25キロのM777ハウイツァー榴弾(りゅうだん)砲を使っている。これに対して、提供される見通しのMLRS/M270は、射程距離が最大300キロに及ぶ。
これを入手すれば、ウクライナ軍の能力は大幅に向上し、ロシア国内の標的も攻撃できるようになる。一方で、アメリカや北大西洋条約機構(NATO)加盟国を、ロシアとの直接的な紛争に引き込む危険性をはらんでいる。
米紙ワシントン・ポストによると、米政府はウクライナへのMLRS供与については心配していないが、このシステムに適合した最長距離ロケットの提供は保留するつもりだと、米高官は話したという。
プロパガンダ発信メディアを特定
「サザン・フロント」(南部前線)という名の会社が、親プーチン大統領のプロパガンダを広めていることが、BBCの調査で明らかになった。ユーチューブ、ソーシャルメディアのテレグラム、ロシアが支配下に置いたウクライナ地域向けのウェブサイトを通し、虚偽で誤解させる主張を発信している。
同社のニュースサイトは、ロシアによるウクライナ侵攻の初日に、最初のメッセージを掲載した。現在では数人の特派員が毎日、報告している。
報告の大半は、占領地で「平和な生活」が確立されていると説明している。ロシアの侵攻を正当化する報道が目立つ。
親ロシア政府のソーシャルメディアアカウントをよく取り上げ、ロシア語を話す人たちにその内容を広めている。 

 

●ウクライナ苦戦。攻勢強めるプーチンが勝利宣言する「ロシアの日」 5/31
ウクライナ戦争の転換点にきている。ロシア軍が主力をセベロドネツク包囲に投入、ルガンスク州の完全な支配をして、当面の勝利宣言をするようである。今後を検討する。
ウクライナ東部での戦争は、ウ軍の主力が、イジュームやボルチャンスクに向けて進軍したが、ロシア軍の主力はセベロドネツク包囲に向けて攻撃しているが、これが成功している。
ロシア軍は、ポパスナ方面でウ軍前線を突破して、セベロドネツクの補給線を切った状態になったが、その後、ウ軍はメイン道路だけは確保したようである。
しかし、ロシア軍はポパスナの高い地点を占領したことで、広範囲のウ軍の動きが監視できるようになり、このため、再度、補給路が切られたようである。この高地にあるロシア軍の榴弾砲や多連装ロケット砲を潰さないと、ロシア軍が有利だ。
この高地の榴弾砲やロケット砲を潰すには、航空戦力が必要であるが、ウ軍には今時点で有効な航空戦力がない。
このため、ルガンスク州のガイダイ知事は、ウ軍の同州からの撤退が「可能性としてあり得る」とした。セベロドネツクはロシアが占領することになる。6月12日の「ロシアの日」を目指して、リマンなども取り、これでルガンスク州全体をロシアは完全制覇して、ロシア編入を進め、勝利宣言をしたいようだ。
この攻撃に、ロシア軍は有効に多連装ロケット砲を使うので、ウ軍は劣勢に立たされている。ロシア軍は、第2次大戦末期ドイツ軍の「バルジの戦い」のような攻撃であり、残り少ない現有の優秀な部隊を集め、それに多連装ロケット砲やBMP-Tなどの温存していた兵器を渡して戦っている。リマン方面でも同様であり、ウ軍はドネツ川東岸から撤退することになるようだ。
これに対して、宇ゼレンスキー大統領は27日、テレビ演説で東部ドンバス地方を死守するために「あらゆる手」を尽くすと明言し、「ミサイル攻撃や空爆、何でもありだ」と述べた。
このような事態になり、強くウクライナはM270多連装ロケット(MLRS)とM142高機動ロケット砲(HIMARS)を要求し、この供与を米国は事態改善のために決定するようだ。しかし、射程300キロのM26ロケット弾の提供はしない。射程70キロ程度のロケット弾だけの提供になる。M777榴弾砲の射程距離は25キロであり、それより長いし、集中的に1ケ所に弾を集めて攻撃できる。
これにより、ロシア軍と対抗ができるようになる、この訓練に1週間程度必要であるが、6月中には実戦で使用されることになるが、セベロドネツクの防衛には間に合わない可能性はある。
もう1つ、ロシア軍は、50年以上前のT-62戦車を近代化改修して、実戦で使うようだ。T-72戦車の損耗が激しく、1,000両以上が破壊されて、予備がなくなったことで、仕方なく、旧世代の戦車を使うしかない。
このため、戦車を先頭に立てる戦いができないが、この戦車を配備したBTG(大隊戦術群)を複数個作ったようである。これで、再度、ハルキウへ向けて攻撃を再開した。
この攻撃で、ロシア軍は戦車を先頭に攻撃する方法ではなく、攻撃地域への砲撃から開始して、偵察隊を出し状況を見て、その後に戦車隊を送る攻撃手法になり、攻撃速度は落ちたが、確実性は増している。その分、ウ軍の防御は苦しくなっている。今までの手法が使えない。
このような攻撃では、火力の量が勝敗を決定する。また、ZALA攻撃ドローンをロシア軍も使い始めて、ウ軍と同等になってきたが、スティンガーミサイルで撃ち落されているようだ。しかし、ロシア軍も今までの敗戦を反省して、攻撃手法を見直しているので、今までのような負け方はしなくなってきた。
このため、現時点での火力の量は、セベロドネツク方面攻撃のロシア軍の方が上であり、火力が少ないウ軍の苦戦が目立ち始めている。ロシア軍の集中した物量作戦がやっと、有効に機能し始めたようである。
この苦戦を乗り越えるには、ウ軍に訓練の必要がないMIG29の拡充やF-16Vでの航空力のUPとMLRSやHIMARSなどの火力の増強が必要になっている。その到着で戦況が変化するはずであり、逆にそれまでに、ロシア軍は占領地を増やして、停戦して有利に交渉を進めたいようである。
このようにロシア軍が、やっとこの戦争に適合し始めたが、西側の制裁で兵器工場の操業停止で、弾薬とミサイル不足と戦車などの装備不足は続いている。このため、どこかで停戦しないと、物量や火力の逆転になり、ウ軍が勝ち始めることになる。
そして、ロシア軍の元将校のボタシェフ氏63歳が戦死した。SU-25でウ軍攻撃中にスティンガーミサイルで撃墜されたが、老人が前線で活躍しないといけないほど、パイロットが不足しているようである。ロシアの平均寿命は男性69歳であるから、63歳は十分老人である。
ボタシェフ氏は、民間軍事会社ワグネルの雇用兵として従軍していたが、パイロットなどの熟練度が必要な兵の不足が目立っているようだ。50歳以上のパイロットが多数いて、かつ複数戦死している。
その上、戦闘機は200機以上が破壊されて、ロシア軍VKSは空爆もできない事態になっている。出撃回数が大きく減ってきている。ヘリの損耗も大きく、Z-20Kという中国製ヘリも登場している。
このため、志願兵の年齢制限をなくして、技能熟達が必要な兵の補充を進めるようである。IT技術者や通信兵なども技能者が必要であり、その補充もできるようにする。
核利用の前に、まだまだロシアには人的資源があり、それを利用した戦い方があるはずであり、戦争当初は、攻撃スピード重視で進んだことが、負けた原因であったようである。
ここからは、米国もロシア軍の装備に対応した兵器をウクライナに提供しないと、ロシア軍を撃退できないことになる。ウ軍の負けは西側の敗北となるので、米国もウ軍支援に必死である。もし負けると、次は中国の台湾進攻となり、負けるわけにはいかない。
資金的にも、天然ガスは中国が大量に買い、石油はインドと中国が買っているので、外貨は不足していない。また、中国の人民元を使い、海外との送金入金もできるので問題がないとしていた。
その状況で、ロシア国債のテクニカル・デフォルトになる。まだ、その判定が出ないが、近々、そのようになる。このことで、シルアノフ財務相は27日、ウクライナでの「特別作戦に巨額の資金が必要だ」とし、3ケ月を超えたウクライナ侵攻の財政負担の重さを認めた。デフォルトでロシア国債の販売ができなくなることは、大きな痛手になるようだ。
しかし、ルーブルは上昇している。この原因は、ルーブルを金本位制に復帰させたことのようであるが、自由にお札を刷れないことになる。財政的な問題があっても、量的緩和で財政出動ができなくなることを意味する。財政問題に直面し始めたようだ。
もう1つ、このままにすると、財政問題がありながら、長期戦になり、ロシアもウクライナも疲弊することになる。ロシア軍は当初戦力の19万人の内、今いるのは半分の10万人であり、10万人を新兵で補充しても、戦車兵でも訓練が半年は必要であり、どこかで戦力不足になる。ウ軍は国民皆兵であり、ロシア軍より動員力はあるが、それでも損耗が激しいようである。
ということで、どう戦争を終結させるかが問題であり、ダボス会議で、キッシンジャー氏は、ロシア敗北濃厚な状態では核戦争になり、欧州に悲惨な結果をもたらすから、ウクライナは国内分割でも我慢して、ロシアとどこかで停戦するべきであるとしたが、ゼレンスキー大統領やソロス氏は、2月24日以前の状態にするまで戦うという。
現時点では、どちらもどの条件でも納得できないことと、ロシアの疲弊で国内的に限界になるまで、停戦は難しいのであろう。まだ、長く戦うことになる。さあ、どうなりますか? ・・・ 
●「防衛費増額の必要性」「ウクライナ戦争の衝撃」防衛研究所が年次報告書 5/31
防衛省の研究機関・防衛研究所は31日、東アジア地域の戦略環境を分析する年次報告書「東アジア戦略概観2022」を刊行した。
この中で、日本の防衛費について、2000年には東アジア全体の防衛支出の38%を占めていたのに対して、2020年には17%に低下したことを紹介。アメリカと中国による大国間競争が激しくなる中、日米同盟の「安定的な抑止力の確保」のためにも日本の防衛費を増額させる必要性を訴えている。
また、今年は2月下旬に始まったロシアによるウクライナ侵攻を受け、防衛研究所に緊急チームを編成。「東アジア戦略概観」の刊行を1カ月ほど遅らせた上で、新たに別冊「ウクライナ戦争の衝撃」を執筆し、アメリカや中国など国や地域ごとのウクライナ情勢への対応と動向をまとめた。
別冊の第2章「ロシアのウクライナ侵攻」では、ロシアが侵攻に至った背景に、プーチン大統領の「ウクライナが自由意志をもってロシアから離れた行動をとることを許容しないという強い意志」があると分析。今後の戦況については「ウクライナが抵抗する以上、(戦争の)長期化を想定せざるを得ない」と記した。
さらに、今回の侵攻は「ロシアの常套手段である、相手を分断し行動を躊躇させるやり方と異なっている」とした上で、ウクライナ国民やNATO(=北大西洋条約機構)といった、ロシアの“対立相手”を結果的に団結させ、「ロシアはもはや、これまでと同じ国際環境には生きていくことができない」と指摘した。
●戦争犯罪でロシア兵600人以上特定 ウクライナ検事総長 5/31
ウクライナのベネディクトワ検事総長は5月31日、ロシア軍の戦争犯罪の容疑者として軍幹部や政治家らを含む600人以上を特定し、うち約80人の訴追手続きを始めたと明らかにした。国際刑事裁判所(ICC)の捜査チームとオランダ・ハーグで記者会見した。ロイター通信が伝えた。ウクライナ検察は戦争犯罪の疑いのある事案を1万4千件以上把握したとしている。
ウクライナ検察当局は5月30日、北部キーウ(キエフ)州ブロワリで3月、住民の男性を射殺し、他の兵士と共に男性の妻をレイプした疑いで、ロシア兵の男を訴追したと発表した。レイプによる訴追は初めて。身柄は拘束できていないという。
中部ポルタワ州の裁判所は5月31日、ロシア領内から東部ハリコフ州内の住宅などを攻撃し破壊したとして、ロシア兵2人にそれぞれ禁錮11年6月の判決を言い渡した。2人は攻撃後にウクライナ側に侵攻し拘束された。裁判では罪を認めていた。
●インドGDP、昨年度は8.7%増−コロナやウクライナ戦争が影響 5/31
インドの昨年度(2021年4月−22年3月)の経済成長率は同国の予想を下回った。新型コロナウイルス感染抑制策で活動が妨げられたほか、ウクライナでの戦争がインフレ問題を増幅させた。
統計省が31日発表した昨年度の国内総生産(GDP)は前年比8.7%増。ブルームバーグがまとめたエコノミスト予想中央値と一致したが、同省が3カ月前に示した予想の8.9%増を下回った。
1−3月期は4.1%増で、昨年度においては最も低い伸びにとどまった。
インドでは新型コロナ対策を要因とする景気低迷から回復し始めたばかりだった1月に、オミクロン変異株感染拡大で一部の制限措置が再び導入された。
●ドンバスでの「小さな勝利」にすがるプーチン、「局地的な反乱相次ぐ」 5/31
ウクライナに侵攻するロシアのウラジーミル・プーチン大統領がすでに3万350人の兵士を失ったにもかかわらず、東部ドンバスでの「小さな勝利」を手にするためには支払うに値する代償だと考えている──英大衆紙デーリー・ミラーは、ロシア軍の現状と問題点を分析した英機密報告書の内容をスクープした。
英国防情報部も5月30日のツイートで「ロシア軍は中堅・下級将校が壊滅的な損失を被っているとみられる」と指摘。「旅団や大隊の指揮官は部隊のパフォーマンスに対し容赦ない責任を負わされるため、危険な場所に前方展開せざるを得なくなっている」と分析している。
「ロシア陸軍は米欧の軍隊のように高度な訓練を受け、権限を与えられた下士官の幹部がいない。このため、訓練不足の下士官が最下層の戦術的行動を指揮しなければならない状況に追い込まれている。また、若手の専門将校を大量に失ったことは、指揮統制を近代化する上ですでに抱え込んでいるロシア軍の問題をさらに悪化させる可能性が高い」という。
ロシア軍はウクライナ戦争で生き残った大隊戦術群(BTG)を再編しているものの、若手将校不足により、あまり成果を期待できない可能性がある。さらに経験豊富で信頼できる小隊や中隊の指揮官も足りず、さらなる士気低下や規律低下が続いているとみられる。ロシア軍内では局地的な反乱が起きているという信頼できる報告が複数あると報告している。
国内強硬派に突き上げられるプーチン
一方、米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」によると、ロシア軍内部や戦争推進派の間でクレムリンが戦争に勝つために十分なことをしていないと主張する声が増え続けている。例えば、元ロシア連邦保安局(FSB)の強硬派イゴール・ガーキン氏は「特別軍事作戦」の優先順位は東部ドンバスの解放だというセルゲイ・ラブロフ露外相の発言を批判した。
クレムリンは大軍による威嚇で親露派の傀儡政権をキーウに樹立するという戦争目的を達成できなかったため、目標を繰り返し下方修正している。これに対してガーキン氏は、クレムリンはウクライナ全体ではなくドンバスに焦点を絞ることで、ウクライナの「非ナチ化」や「非武装化」という「戦争の大義」を放棄してしまったと非難している。
「ドンバス解放に失敗すれば、プーチンは退陣する」
プーチン氏とその側近たちは今や生ぬるい「宥和主義者」として、これまで強力な支持基盤になってきた強硬派、軍事愛好家、元軍人、民族主義者から突き上げられている。「ロシア軍は東部ルハンスクでウクライナ側最後の拠点とされるセベロドネツク市を包囲するため兵力を注ぎ込んでいる。ウクライナ軍に反撃のチャンスが出てきた」とISWは分析する。
デーリー・ミラー紙のスクープによると、機密報告書は、クレムリンの有力者がプーチン氏にウクライナ侵攻は大惨事だと説得しようとしたものの全く聞き入れられず、プーチン氏は依然としてドンバスでの「部分的勝利」は勝ち取れると信じていると示唆している。しかし、おびただしい「血の犠牲」はロシア軍にとって重すぎるかもしれないと分析する。
「もし限定的なドンバス解放作戦に失敗してもプーチン氏が核攻撃を命令するとは考えられない。それはロシアの指導者はドンバスでの勝利が目前に迫っており、キーウに対して大きな影響力を与えられると確信していることを示唆している。しかし失敗すれば、プーチン氏は退陣することになる」と同報告書は分析する。
「ドンバスで迅速かつ決定的な勝利を収めようとするロシア軍の試みは、まだ成功していない。ロシア軍はまだ1日に1〜2キロメートルずつしか前進できていない。ロシア軍は現在の2022年ではなく第二次大戦の1945年を思い起こさせる非常にコストのかかる歩兵攻撃を繰り返す泥仕合で成功を収めている」
「プーチン氏はこれまで作戦の甚大な失敗をロシア国民からうまく隠蔽し、逮捕または更迭した役人に責任をなすりつけてきた。ロシア国民はつい最近までプーチン氏が拡散する偽情報を鵜呑みにしていた。クレムリン内部で、物事が間違っている、おそらくは破滅的に間違っているというメッセージをプーチン氏と側近に伝えようとする動きが出ている」
ウクライナ軍参謀本部によると、2月24日から5月30日までのロシア軍の戦闘損失は兵員 約3万350人、戦車1349両、戦闘装甲車3282両、大砲システム643門、多連装ロケットシステム205基、防空システム93基、航空機207機、ヘリコプター174機、無人航空機507機、ミサイル118発、艦艇13隻、燃料車など2258台となっている。
兵員の犠牲者数が同じため、英機密報告書はウクライナ軍と情報を共有している可能性がある。
EUはロシア産原油輸入の3分の2を止める
5月30、31日の日程で開かれている欧州連合(EU)首脳会議は、ロシア産原油輸入の3分の2以上を止める対ロシア制裁第6弾で合意した。プーチン氏がEU内に仕組んだ「トロイの木馬」と化した感があるハンガリーの反対で、当面はパイプラインでの原油輸入は一時的に除外するという妥協案となった。
シャルル・ミシェルEU大統領(首脳会議の常任議長)によると、EU首脳はロシア最大の銀行であるスベルバンクと、プーチン氏のプロパガンダマシーンである国営放送3局を標的とした厳しい措置にも合意した。プーチン氏のウクライナ戦争を支える「巨大な資金源」を断ち切るとミシェル氏は語った。
ドイツとポーランドは年末までに自発的にパイプラインによるロシア産原油輸入を停止する方針を打ち出しているため、EUの行政執行機関である欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は「EU全体で年末までに事実上、ロシア産原油のうち約90%の輸入が停止されるだろう」との見通しを語った。
筆者は5月28日からポーランドのクラクフやルブリンでウクライナの戦火を逃れてきた難民の大型宿泊施設や支援物資のロジスティクス拠点を訪れている。停戦や負傷者の回復、帰国、復興までの気の遠くなるような長い道のりを考えると、中長期的な支援は欠かせない。プーチン氏の非道な戦争を絶対に許してはならない。
●ウクライナ、EUのロシア産石油禁輸を歓迎 「経済崩壊加速化」 5/31
ウクライナ外務省は31日、欧州連合(EU)がロシア産石油の輸入停止で合意したことについて、ロシア経済の崩壊を加速化させると同時に、戦争資金を枯渇させられるとして、支持を示した。
ウクライナ外務省は声明で「年末までにロシアは欧州向け石油輸出の最大90%を失うと予想される」とし、これによりウクライナに対する戦争の資金源が失われるとの見方を示した。ただ、ハンガリーが抵抗したことに不服を示した。
EUは30日の首脳会議で、ロシア産石油について今年末までに90%の輸入を停止することで合意した。
●ウクライナ軍の秘密兵器は「eバイク」 旧日本軍の「銀輪部隊」がヒントに? 5/31
第二次世界大戦中、軍隊では偵察用としてオートバイが広く使われた。日本軍もマレー作戦において、徒歩でゆっくり移動するイギリス軍を出し抜くために自転車を使い、「自転車電撃作戦」や「銀輪部隊」などと呼ばれた。
そして今、ロシア軍と戦うウクライナ軍も二輪車を活用している。現代のウクライナ軍が使うのは、スポーツタイプの電動自転車「eバイク」だ。
主に偵察任務、地雷除去作業、医療品の運搬などに電動自転車を使用されているほか、スナイパーチームが利用することもあるという。最高速度は時速90キロ弱。比較的静かなためロシア軍に見つかりにくい。
ウクライナのメーカーであるEleek社は、戦争が始まった当初、軍に数台のバイクを提供した。だがその後すぐに、車体を軍用グリーンにして、後輪に小さなウクライナの国旗を施した、戦闘員のためのeバイクを大量生産するようになった。
「戦争が始まったとき、最初はショックでした。みんな先行きが心配で、どうしたらいいのかと考えていました。でも私たちは力を合わせたのです」と、Eleekのロマン・クルチスキーは言う。
Eleekは在庫として残っていたリチウムイオン電池をもとに、モバイルバッテリーの製造を防空壕のなかで始めた。そのうち部品の調達が困難になってくると、電子タバコのバッテリーに目をつけ、人々に電子タバコを送ってもらうようSNSで呼びかけた。
軍用eバイクは、ミラーや回転灯など、戦地でのライドに不要と思われるパーツを取り払った。その代わりに、フットレストの追加やバッテリー制御システムの導入を行い、兵士がガジェットを充電したり、衛星インターネット端末の電源として使用できるようにしたとクルチスキーは言う。
タイヤは太いものを装着しているため、舗装されていない道や森林地帯でも難なく走行できる。重量は約65キロとオートバイに比べると軽いが、そこそこ重い荷物を積んでも大丈夫なほど頑丈だ。
eバイクのもう一つの利点は、おそらく敵の赤外線画像システムに見つかりにくいことだろう。赤外線システムは温度差を感知して軍事目標を特定するために使用されるが、eバイクの電気モーターは内燃エンジンのように熱くならないからだ。
●ウクライナ軍が民生品ドローンで小型爆弾を投下・地上のロシア軍はパニック 5/31
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。
攻撃用の軍事ドローンではウクライナ軍が使っているトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」でのロシア軍への攻撃ばかりが目立っている印象がある。「バイラクタルTB2」は中型攻撃ドローンで爆弾を上空から落として攻撃するので破壊力もあり、ロシア軍へのダメージも大きくロシア軍の装甲車を上空から破壊して侵攻を阻止することにも成功したり、黒海にいたロシア海軍の巡視船2隻をスネーク島付近で爆破したり、ロシア軍の弾薬貯蔵庫を爆破したり、ロシア軍のヘリコプター「Mi-8」を爆破したりとインパクトも大きい。そのため「バイラクタルTB2」で攻撃が成功するとウクライナ軍が動画や写真をSNSで世界中にアピールしているので目立っている。
だが今では大型の攻撃ドローンだけでなく、民生品ドローンから小型の爆弾を地上のロシア軍に投下している。そして今回ウクライナ軍は民生品ドローンから小型の爆弾を投下してロシア軍がパニックになって逃げ惑っている様子の動画をその民生品ドローンで撮影して公開した。ロシア軍のシンボルの「Z」を書いた車も見える。
民生品ドローンなので、簡単に上空で破壊されたり、機能停止させられやすい。上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル(soft kill)"と、対空機関砲のように上空のドローンを爆破させる、いわゆる"ハードキル(hard kill)"がある。
だが民生品ドローンは安価に入手しやすいし、ロシア軍に上空で破壊されたり機能停止されても簡単に代わりの民生品ドローンも調達しやすい。
ウクライナ軍では攻撃用の軍事ドローンは「バイラクタルTB2」だけでなく、ウクライナで開発した軍事ドローン「PD-1」また米国バイデン政権が提供した米国エアロバイロンメント社が開発している攻撃ドローン「スイッチブレード」でロシア軍の装甲車や弾薬庫などを上空から破壊している。さらに米国は攻撃ドローン「フェニックス・ゴースト」も提供する。イギリスもウクライナ軍に攻撃用ドローンを提供している。またロシア軍もロシア製の攻撃ドローン「KUB-BLA」でウクライナへ攻撃を行っている。
このような攻撃ドローンは破壊力はあるがコストは民生品ドローンに比べるととても高い。ウクライナ政府は各国に軍事ドローンなど兵器提供を呼び掛けているが、このような攻撃ドローンはすぐに何台でも調達して攻撃を行えるわけではない。
爆弾を上空から落としたり、ドローンごと標的に突っ込んでいき爆破させる攻撃ドローンだけでなく、このような小型の民生品ドローンでも簡単に上空から攻撃ができる。小型爆弾や手榴弾を上空から投下するので殺傷力もある。死に至らなくともロシア兵の手足が吹っ飛んでしまうような大けがを負う方が、そのような負傷兵の介護が必要となるため軍全体へのダメージは大きい。
小型爆弾なので投下しても敵にダメージを与えることができなかったとしても、民生品ドローンで偵察・監視も行っているので、敵陣の様子をリアルタイムに伝えることができるので、敵がいるところにミサイルなど殺傷力のさらに高い兵器で一気に攻撃することもできる。そのためどのようなドローンであっても検知したら、すぐに破壊するか機能停止する必要がある。
ウクライナでは民生用ドローンも監視・偵察のために多く使用されている。ウクライナ市民らは軍に自身が持っているドローンを提供している。世界中からもウクライナ支援でドローンが送られている。日本の防衛省もウクライナ軍に市販品の監視・偵察用ドローンを提供することを岸防衛大臣が明らかにしていた。
上空からどのようなドローンであっても攻撃できることから攻撃ドローンと監視・偵察ドローンの境界線もなくなってきている。
●次はガス禁輸でEU意見相違、南部の原発にロシア兵 5/31
欧州連合(EU)臨時首脳会議はロシア産石油の部分的禁輸で合意し、31日に終了した。ウクライナに軍事侵攻したロシアとプーチン大統領への制裁第6弾に道を開いた。反対していたハンガリーを説得して合意にこぎ着けた各国だが、次の措置としてロシア産天然ガスを制裁対象に加えるかどうかを巡り、既に意見の相違が目立っている。ベルギーのデクロー首相は「いったん間を置く」局面だと主張。ラトビアのカリンシュ首相は天然ガスの禁輸を推し進めるべきだとの意見を表明した。ロシア軍は東部ルガンスク州の制圧に向けて攻勢を強めている。
プーチン氏と話すことの是非、EU首脳が議論
5月30、31日に行われたEU首脳会議では、ロシアのプーチン大統領と電話で話し合うことに価値があるかどうかを巡って議論が行われた。チェコのフィアラ首相が明らかにしたもので、一部の首脳はプーチン氏には誰も連絡を取るべきではないと主張。これに対し、ロシアによるウクライナ攻撃終了に寄与するとして、プーチン氏の考えを知ることは重要だとの意見もあったという。
デンマークへのガス供給、ロシアが停止へ
ロシアはデンマークへのガス輸送を停止する。デンマーク最大の公益企業オーステッドは6月1日に供給が止まるとの見通しを明らかにした。同社は5月30日、ロシア政府系ガスプロムが要求したルーブルでの支払いに応じるつもりはないと発表していた。
ロシア国債巡る決定を延期
クレジットデリバティブ決定委員会(CDDC)は31日、ロシア国債に関して支払い不履行の事由が発生したかどうかの検証を続けるため、6月1日に3度目の会合を開くことで同意した。
ザポロジエ原発にロシア兵−ウクライナ原発公社トップ
ウクライナ南部にあるザポロジエ原発に約500人のロシア兵や戦車、兵器などが集結していると、ウクライナ原子力発電公社エネルゴアトムのトップ、ペトロ・コティン氏が記者団に対して述べた。
ルガンスク全州制圧に向けて進軍
ロシア軍はルガンスク州セベロドネツク市の中心部に向かってゆっくりと進軍している。同州のガイダイ知事が明らかにした。セベロドネツクは同州でウクライナ軍がなお支配している都市の一つ。
ウクライナ穀物輸出、62%減少
ウクライナの穀物輸出が5月に前年同月比62%減少したことが政府データで示された。ロシア軍がウクライナの海港を閉鎖していることが影響した。
スウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請にトルコ引き続き難色
トルコのエルドアン大統領は英経済誌エコノミストへの寄稿で、スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟に向けた「妥協なき主張」はNATOのアジェンダに「不必要な項目」を加えると指摘。両国が参加すればトルコと将来のNATOの安全保障リスクが増すとして、加盟阻止を辞さない構えを改めて示した。
ゼレンスキー大統領、ロシアは混乱をもたらそうとしている
ウクライナのゼレンスキー大統領は欧州理事会へのビデオ演説で、ロシアが欧州に「混乱」をもたらそうとしていると批判した。同国への制裁第6弾を各国に促す演説の中で、ロシアはエネルギー価格を急騰させることで欧州市民が自国政府に抗議する展開となるよう仕向けていると主張した。また、ウクライナからの食料供給を絶つことでアジアやアフリカに飢饉(ききん)を引き起こし、両地域から欧州への大量移民の流れをつくりだそうとしているとの見方も示した。
EU首脳、ロシア産原油の一部禁輸で合意
EU首脳はロシア産原油の一部禁輸で合意した。ミシェルEU大統領(常任議長)が30日遅くに明らかにした。対ロ制裁第6弾に道を開くものになる。制裁はロシアから海上経由でEU加盟国に輸送される原油・石油製品の購入を禁じる内容。ただパイプライン経由の原油は一時的な適用除外となる。
ロシア、オランダ企業へのガス供給を停止へ
ポーランド、ブルガリア、フィンランドに続き、ロシアはオランダ企業にもパイプライン経由のガス供給を停止すると警告した。オランダのガステラはロシア側の支払い要件の受け入れを拒否したことから、ガスプロムからの供給が31日に停止する。
バイデン大統領、ロシアを攻撃できるロケットシステム供給しない
バイデン大統領は、ウクライナに遠距離ロケットシステムを供給するかとの質問に対し、米国は「ロシアを攻撃できるロケットシステムをウクライナには供給しない」と述べた。
●ウクライナ孤児のロシア国籍取得、プーチン「簡素化」命令…子供をロシアへ  5/31
インターファクス通信によると、ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナのロシア軍による占拠地域や親露派武装集団の実効支配地域のウクライナ人の孤児らを対象に、ロシア国籍の取得手続きを簡素化する大統領令に署名した。
大統領令では保護施設の長による代理申請も認めている。ウクライナ最高会議(国会)の人権オンブズマンは31日、SNSを通じ、14歳未満は本人の意思が必ずしも考慮されない点などを指摘し「親の保護を受けられない子供の拉致を正当化し、ウクライナの子供をロシア人の養子とするのを容易にする」と非難した。
タス通信によると、ロシアが侵攻を開始した2月24日以降、ウクライナから子供だけで約25万人が露国内に移動した。ウクライナ政府は、ロシア側が子供を含むウクライナ人の強制連行を進めていると繰り返し非難している。
●マリウポリの製鉄所からウクライナ兵152人の遺体発見 5/31
ロシア国防省は、完全制圧を発表したウクライナ南東部マリウポリの製鉄所でウクライナ軍の兵士152人の遺体が発見されたと発表しました。
ロシア国防省によりますと、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所の地下を捜索していたロシア軍の兵士が敷地内にあった冷蔵車の中から、ウクライナ軍の兵士152人の遺体を発見したということです。また、遺体の下には冷蔵車をふき飛ばすのに十分な爆発物が仕掛けられていたとしています。
ロシア側は近日中に、兵士の遺体をウクライナ側に引き渡す予定だとしています。
アゾフスタリ製鉄所では包囲するロシア軍との間で激しい戦闘が繰り広げられ、ロシア国防省が今月20日、完全に制圧したと発表していました。
●ウクライナ東部で市街戦 EUが対露制裁案で合意 5/31
ウクライナ国防省は、ロシア軍との激しい攻防が続く東部ルガンスク州の主要都市セベロドネツクで市街戦が起きていることを明らかにした。欧州連合(EU)は、ブリュッセルでロシアのウクライナ侵攻などを巡る特別首脳会議を開き、ロシア産原油の禁輸を柱とする対露制裁案について合意。
セベロドネツクで市街戦 「戦いの激しさが最高潮に」
ウクライナ国防省は30日、ロシア軍との激しい攻防が続くルガンスク州の主要都市セベロドネツクで市街戦が起きていることを明らかにした。ウクライナメディアが伝えた。ロシア軍は市内への突入を図っているとみられ、同省のモトゥジャニク報道官は「(東部を巡る)戦いの激しさが最高潮に達している」との認識を示した。ウクライナメディアによると、地元当局者もロシア軍の部隊が2方向からセベロドネツク市内に侵入したことを認めたが、「ウクライナ軍の防衛により大きく前進できていない」と述べた。
バイデン氏「ロシア領を攻撃する兵器は送らない」
バイデン米大統領は30日、ウクライナへの軍事支援に関連し、「ロシア(領)を攻撃できるロケット(砲)システムは送らない」と述べた。米メディアは、米政府が追加支援の一環として最大射程300キロに及ぶ高機動ロケット砲システム(HIMARS)の供与を検討していると報じており、バイデン氏は支援が「防衛用」だと予防線を張った形だ。バイデン政権はウクライナに米軍地上部隊を派遣しない方針を明確化しているが、戦争の長期化に伴ってウクライナへの武器供与を拡充している。
ロシア産原油禁輸 海上輸送に限定、ハンガリー除外
EUは30日、ブリュッセルでロシアのウクライナ侵攻などを巡る特別首脳会議を開き、ロシア産原油の禁輸を柱とする対露制裁案について合意した。原油禁輸に対してはハンガリーが強い難色を示していたが、同国が利用するパイプライン経由の原油を禁輸対象から当面除外する妥協案でまとまった。ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)は30日深夜、ツイッターで各国首脳が「ロシアによるEUへの原油輸出の禁止で合意」したと明かした。
トルコ大統領、国連含めた3者協議を提案
トルコのエルドアン大統領は30日、プーチン露大統領と電話協議した。トルコ大統領府によると、エルドアン氏はロシアとウクライナの信頼関係を早期に回復させるため、トルコ・イスタンブールで両国と国連による協議を開催することを提案した。両氏は、露軍による侵攻でウクライナからの穀物輸出が滞っている問題についても協議。露大統領府によると、プーチン氏はトルコと協力し、ウクライナ産農産物の海上輸送を「促進する準備はできている」と強調した。
●プーチンに握られた16億人の命 ロシア海上封鎖で世界を「食糧危機」が襲う 5/31
プーチン大統領の蛮行により、多くの罪なき一般市民が命を落としたウクライナ。しかし残虐極まりない独裁者は、この先桁違いの人命を奪おうとも良心の呵責を感じることはないようです。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、ロシアによる海上封鎖で2億5,000万人が飢饉の瀬戸際に立たされているというニュースを取り上げ、全世界に及ぶウクライナ紛争の影響を解説。さらに独仏首脳の海上封鎖解除の要請に対して、プーチン大統領が口にした「脅迫」の内容を紹介しています。
世界的食糧危機を誘発するプーチン
ウクライナ戦争は、現状どうなっているのでしょうか?
2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻がはじまりました。プーチンは当初、首都キーウを電撃戦で陥落させようとしました。しかし、キーウは落ちなかった。
そこでプーチンは、東部に戦力を集中させることにしました。ルガンスク、ドネツク支配を確立することを目指し、「ドンバスの戦い」が開始されたのは4月18日です。目標は、5月9日の対ドイツ戦勝記念日までに、ルガンスク州、ドネツク州の支配を確立すること。
ここ少しわかりにくいですが。2014年に独立を宣言し、2022年2月21日にロシアが国家承認したルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国。その支配領域は、ルガンスク州、ドネツク州全土に及んでいません。
だから、プーチンは、ルガンスク人民共和国の支配領域をルガンスク州全土に広げること、ドネツク人民共和国の支配領域をドネツク州全土に広げることを目指したのです。そして、5月9日の対独戦勝記念日で、【勝利宣言】をする。
しかし、2番目の目標も、達成できませんでした。その後どうなっているのでしょうか?
いわゆる「ドンバスの戦い」は、いまもつづいています。「いつまでに勝たなければならない」という縛りがなくなったロシア軍は、ゆっくりですが支配地域を広げることに成功しています。現状ルガンスクの要衝セベロドネツクで激しい戦いが続いています。
ロシアは、停戦交渉に動く
朝日新聞DIGITAL5月29日を見てみましょう。
「フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相が28日、ロシアのプーチン大統領と電話会談した。ウクライナへの軍事侵攻について仏独の首脳は、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重したうえ、交渉で解決策を見つけねばならないと訴えた。」
フランスのマクロンとドイツのショルツは、プーチンとの対話をつづけているのですね。しかし、マクロンに関しては、ゼレンスキーを激怒させた事実があります。東京新聞5月14日。
「ゼレンスキー氏は12日にイタリアのテレビ番組にオンライン出演し、マクロン氏が「外交的な譲歩をする可能性がある」と述べ、停戦条件としてウクライナの領土を犠牲にすることをけん制した。さらに「プーチンに(停戦への)出口を与える必要はない」とも訴えた。」
マクロンはゼレンスキーに、「戦争を終わらせるために、領土の一部をロシアにあげてもいいじゃないか」といいはじめている。それでゼレンスキーは「冗談じゃない!」と激怒した。
「戦争を終わらせるために、ウクライナは領土の一部を断念しろ!」という圧力は、まだあります。5月23日、キッシンジャーのダボス会議での発言が、世界中で話題になりました。ニュースウィーク日本版5月26日から。
「アメリカの元国務長官ヘンリー・キッシンジャーは、ウクライナが和平協定の締結にこぎ着けるためには、ロシアに領土を割譲するべきだという趣旨の発言を行い、ソーシャルメディア上で猛烈な批判にさらされた。」
というわけで、ゼレンスキーは現在、マクロンやキッシンジャーから、「ウクライナの領土の一部をロシアに譲って、戦争を終わらせろ!」という圧力にさらされているのです。この二人の発言は、もちろんプーチンを喜ばせているでしょう。
ロシアが出してくる停戦条件は、おそらく、
•クリミアをロシア領と認めること
•ルガンスク、ドネツク人民共和国の独立を認めること
•クリミアの北隣にあるヘルソン州と、ヘルソンの西隣にあるザポリージャ州をロシアに割譲すること
•NATO非加盟の約束
などでしょう。ちなみに、ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンをロシアが支配するようになると、ロシア本土とクリミアが陸路でつながるようになります。
ゼレンスキーは、もちろんこのような要求を受け入れることができません。彼は現在は、「悪の独裁者プーチン」と戦う「世界的ヒーロー」です。もし領土をロシアに譲渡したら、一転「売国奴」「国賊」に転落するでしょう。だからゼレンスキーは、2月24日の侵攻前の状態に戻すことを目指しています。
しかし、この目標の実現は簡単ではありません。いまさら、ヘルソンや、(ドネツク州の一部である)マリウポリを奪還するのは不可能とはいいませんが、かなり難しいでしょう。
というわけで、現状ロシアは、クリミア、ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンをロシア領、あるいは独立国と認めさせることを目指している。一方ウクライナは、「領土は絶対譲らない」とし、戦いをつづける決意を示している」状況です。
プーチンは、世界的食糧危機を誘発する
ウクライナ侵攻で、エネルギー価格と食糧価格の値段が世界的に高騰しています。日本も少なからず影響を受けています。そして、もっと深刻な問題が起こる可能性が日々高まっています。英エコノミスト誌5月21日を見てみましょう。
「戦争のために脆弱な世界が大飢饉に陥ろうとしている。この事態の収拾は世界全体の問題だ。ウクライナに侵攻したことで、ウラジーミル・プーチン大統領は戦場から遠く離れた人々の暮らしを破壊する。それも自分が後悔するかもしれないほどの規模で、だ。
今回の戦争は新型コロナウイルス感染症、気候変動、そしてエネルギー・ショックによって弱体化していた世界の食糧供給システムに大きな打撃を与えている。
ウクライナからの穀物や油糧種子の輸出はほとんど止まり、ロシアのそれも脅かされている。」
ちなみに、ロシアは小麦輸出国世界1、ウクライナは5位です。
「国連のアントニオ・グテレス事務総長は5月18日、何年も続く恐れのある「世界的な食糧不足の影」が向こう数カ月で姿を現すと警鐘を鳴らした。
すでに、必需食品の高騰は、十分な食べ物が入手できるかどうか分からない人の数を4億4,000万人増の16億人に押し上げている。
飢饉の瀬戸際に立たされている人も2億5,000万人近くに上る。(同上)」
もう少し、具体的な話をしましょう。
なぜ、ウクライナは、穀物を輸出することができない状態なのでしょうか?ロシアが、オデッサを海上封鎖しているからです。共同5月29日。
「黒海に面し、ウクライナの主要な食料輸出港を抱える南部オデッサのゲンナジー・トルハノフ市長が28日、共同通信のインタビューに応じた。「市を包囲されるような事態は絶対に避けなければならない」と要衝防衛の決意を表明、黒海沿岸の港湾活動の妨げが世界的な食料危機を引き起こしかねないとして、ロシアによる海上封鎖を批判した。」
つまり、これから世界的食糧危機が起こるとすれば、「プーチンのせいで起こった」といえるでしょう。
マクロンとショルツは、プーチンとの電話会談で、世界的食糧危機を回避するために、オデッサの封鎖を解くように説得しました。プーチンは、どう答えたのでしょうか?BBCニュース5月29日を見てみましょう。
「マクロン氏とショルツ氏は加えて、ウクライナに滞留する穀物を国外へ出荷できるようにするため、黒海に面するオデーサ港の封鎖解除をプーチン氏に求めた。
ロシア政府によると、プーチン氏は世界的食糧危機の危険に取り組むため可能な選択肢を検討すると答えたものの、まずは西側がロシアへの制裁を解除するよう要求した。」
プーチンは、「西側がロシアへの制裁を解除してくれたら、オデッサ港の封鎖解除を検討してもいい」といった旨の回答をした。つまり、彼は「制裁を解除しなければ2億5,000万人が餓死することになるが、それでもいいのか?」と脅迫しているのです。
これから世界的食糧危機が起こる可能性があります。私たちは、「誰のせいで世界的食糧危機が起こるのか」をはっきり知っておく必要があるでしょう。
●ロシア・ウクライナ会談を提案 トルコ大統領が両大統領に 5/31
ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領に対し、会談を行うよう、トルコが呼びかけた。
トルコのエルドアン大統領は、プーチン大統領と電話会談し、ロシアとウクライナ双方が合意すれば、両国に国連を加えた形でトルコのイスタンブールで会談を開催することを提案した。
またエルドアン大統領は、ゼレンスキー大統領とも電話会談して両国の会談を促し、交渉の継続のために必要な援助をすると伝えたという。
ゼレンスキー大統領は、ツイッター上で「トルコの支援に感謝する」と表明している。
一方、提案された会談についてのプーチン大統領の反応は、明らかになっていない。 
 
 
 
 
 
 
  
 
 

 



2022/4-
 
 
 
●プロパガンダ [propaganda]
特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為のことである。通常情報戦、心理戦もしくは宣伝戦、世論戦と和訳され、しばしば大きな政治的意味を持つ。政治宣伝ともいう。最初にプロパガンダと言う言葉を用いたのは、1622年に設置されたカトリック教会の布教聖省 (現在の福音宣教省) の名称である。ラテン語の propagare(繁殖させる、種をまく)に由来する。
観念​
あらゆる宣伝や広告、広報活動、政治活動はプロパガンダに含まれ、同義であるとも考えられている。利益追求者(政治家・思想家・企業人など)や利益集団(国家・政党・企業・宗教団体など)、なかでも人々が支持しているということが自らの正当性であると主張する者にとって、支持を勝ち取り維持し続けるためのプロパガンダは重要なものとなる。対立者が存在する者にとってプロパガンダは武器の一つであり、自勢力やその行動の支持を高めるプロパガンダのほかに、敵対勢力の支持を自らに向けるためのもの、または敵対勢力の支持やその行動を失墜させるためのプロパガンダも存在する。
本来のプロパガンダという語は中立的なものであるが、カトリック教会の宗教的なプロパガンダは、敵対勢力からは反感を持って語られるようになり、プロパガンダという語自体が軽蔑的に扱われ、「嘘、歪曲、情報操作、心理操作」と同義と見るようになった。このため、ある団体が対立する団体の行動・広告などを「プロパガンダである」と主張すること自体もプロパガンダたりうる。
またプロパガンダを思想用語として用い、積極的に利用したウラジーミル・レーニンとソビエト連邦や、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)とナチス・ドイツにおいては、情報統制と組み合わせた大規模なプロパガンダが行われるようになった(詳細は「ナチス・ドイツのプロパガンダ」を参照)。そのため西側諸国ではプロパガンダという言葉を一種の反民主主義的な価値を内包する言葉として利用されることもあるが、実際にはあらゆる国でプロパガンダは用いられており、一方で国家に反対する人々もプロパガンダを用いている。あらゆる政治的権力がプロパガンダを必要としている。
なお市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)は、戦争や人種差別を扇動するあらゆるプロパガンダを法律で禁止することを締約国に求めている。
報酬の有無を問わず、プロパガンダを行なう者達を「プロパガンディスト(propagandist)」と呼ぶ。
プロパガンダの種類​
プロパガンダには大別して以下の分類が存在する。
ホワイトプロパガンダ
情報の発信元がはっきりしており、事実に基づく情報で構成されたプロパガンダ。
ブラックプロパガンダ
情報の発信元を偽ったり、虚偽や誇張が含まれるプロパガンダ。
グレープロパガンダ
発信元が曖昧であったり、真実かどうか不明なプロパガンダ。
コーポレートプロパガンダ
企業が自らの利益のためにおこなうプロパガンダ。
カウンタープロパガンダ
敵のプロパガンダに対抗するためのプロパガンダ。
プロパガンダ技術​
アメリカ合衆国の宣伝分析研究所は、プロパガンダ技術を分析し、次の7手法をあげている。
1. ネーム・コーリング - レッテル貼り。攻撃対象をネガティブなイメージと結びつける(恐怖に訴える論証)。
2. カードスタッキング - 自らの主張に都合のいい事柄を強調し、都合の悪い事柄を隠蔽、または捏造だと強調する。
3. バンドワゴン - その事柄が世の中の趨勢であるように宣伝する。人間は本能的に集団から疎外されることを恐れる性質があり、自らの主張が世の中の趨勢であると錯覚させることで引きつけることが出来る。(衆人に訴える論証)
4. 証言利用 - 「信憑性がある」とされる人に語らせることで、自らの主張に説得性を高めようとする(権威に訴える論証)。
5. 平凡化 - その考えのメリットを、民衆のメリットと結びつける。
6. 転移 - 何かの威信や非難を別のものに持ち込む。たとえば愛国心を表象する感情的な転移として国旗を掲げる。
7. 華麗な言葉による普遍化 - 対象となるものを、普遍的や道徳的と考えられている言葉と結びつける。
また、ロバート・チャルディーニは、人がなぜ動かされるかと言うことを分析し、6つの説得のポイントをあげている。これは、プロパガンダの発信者が対象に対して利用すると、大きな効果を発する。
1. 返報性 - 人は利益が得られるという意見に従いやすい。
2. コミットメントと一貫性 - 人は自らの意見を明確に発言すると、その意見に合致した要請に同意しやすくなる。また意見の一貫性を保つことで、社会的信用を得られると考えるようになる。
3. 社会的証明 - 自らの意見が曖昧な時は、人は他の人々の行動に目を向ける。
4. 好意 - 人は自分が好意を持っている人物の要請には「YES」という可能性が高まる(ハロー効果)
5. 権威 - 人は対象者の「肩書き、服装、装飾品」などの権威に服従しやすい傾向がある。
6. 希少性 - 人は機会を失いかけると、その機会を価値のあるものであるとみなしがちになる。
ウィスコンシン大学広告学部で初代学部長を務めたW・D・スコットは、次の6つの広告原則をあげている。
1. 訴求力の強さは、その対象が存在しないほうが高い。キャッチコピーはできるだけ簡単で衝撃的なものにするべきである。
2. 訴求力の強さは、呼び起こされた感覚の強さに比例する。動いているもののほうが静止しているものより強烈な印象を与える。
3. 注目度の高さは、その前後に来るものとの対比によって変わる。
4. 対象を絞り、その対象にわかりやすくする。
5. 注目度の高さは、目に触れる回数や反復数によって影響される。
6. 注目度の高さは、呼び起こされた感情の強さに比例する。
J.A.C.Brownによれば、宣伝の第一段階は「注意を引く」ことである。具体的には、激しい情緒にとらわれた人間が暗示を受けやすくなることを利用し、欲望を喚起した上、その欲望を満足させ得るものは自分だけであることを暗示する方法をとる。またL.Lowenthal,N.Gutermanは、煽動者は不快感にひきつけられるとしている。
アドルフ・ヒトラーは、宣伝手法について「宣伝効果のほとんどは人々の感情に訴えかけるべきであり、いわゆる知性に対して訴えかける部分は最小にしなければならない」「宣伝を効果的にするには、要点を絞り、大衆の最後の一人がスローガンの意味するところを理解できるまで、そのスローガンを繰り返し続けることが必要である。」と、感情に訴えることの重要性を挙げている。また「大衆は小さな嘘より大きな嘘の犠牲になりやすい。とりわけそれが何度も繰り返されたならば」(=嘘も百回繰り返されれば真実となる)とも述べた。
杉野定嘉は、「説得的コミュニケーションによる説得の達成」「リアリティの形成」「情報環境形成」という三つの概念を提唱している。また敵対勢力へのプロパガンダの要諦は、「絶妙の情報発信によって、相手方の認知的不協和を促進する」事である、としている。
歴史​
有史以来、政治のあるところにプロパガンダは存在した。ローマ帝国では皇帝の名を記した多くの建造物が造られ、皇帝の権威を市民に見せつけた。フランス革命時にはマリー・アントワネットが「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と語ったとしたものや、首飾り事件に関するパンフレットがばらまかれ、反王家の気運が高まった。
プロパガンダの体系的な分析は、アテネで紀元前6世紀頃、修辞学の研究として開始されたと言われる。自分の論法の説得力を増し、反対者への逆宣伝を計画し、デマゴーグを看破する技術として、修辞学は古代ギリシャ・古代ローマにおいて大いに広まった。修辞学において代表的な人物はアリストテレス、プラトン、キケロらがあげられる。古代民主政治では、これらの技術は必要不可欠であったが、中世になるとこれらの技術は廃れて行った。
テレビやインターネットに代表される情報社会化は、プロパガンダを一層容易で、効果的なものとした。わずかな費用で多数の人々に自らの主張を伝えられるからである。現代ではあらゆる勢力のプロパガンダに触れずに生活することは困難なものとなった。
国家運営におけるプロパガンダの歴史​
国家による大規模なプロパガンダの宣伝手法は、第一次世界大戦期のアメリカ合衆国における広報委員会が嚆矢とされるが、ロシア革命直後のソ連 で急速に発達した。 レーニンは論文 でプロパガンダは「教育を受けた人に教義を吹き込むために歴史と科学の論法を筋道だてて使うこと」と、扇動を「教育を受けていない人の不平不満を利用するための宣伝するもの」と定義した。レーニンは宣伝と扇動を政治闘争に不可欠なものとし、「宣伝扇動」(agitprop)という名でそれを表した。十月革命後、ボリシェヴィキ政権(ソビエト連邦)は人民に対する宣伝機関を設置し、第二次世界大戦後には社会主義国に同様の機関が設置された。またヨシフ・スターリンの統治体制はアブドゥルアハマン・アフトルハーノフによって「テロルとプロパガンダ」の両輪によって立っていると評された。
1930年代にドイツの政権を握った国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)は、政権を握る前から宣伝を重視し、ヨーゼフ・ゲッベルスが創刊した「デア・アングリフ」紙や、フェルキッシャー・ベオバハター紙による激しい言論活動を行った。また膨大な量のビラやポスターを貼る手法や、突撃隊の行進などはナチス党が上り調子の政党であると国民に強く印象づけた。
ナチ党に対抗した宣伝活動を行ったドイツ共産党のヴィリー・ミュンツェンベルク(ドイツ語版)は、著書『武器としての宣伝(Propaganda als Waffe)』において「秘密兵器としての宣伝がヒトラーの手元にあれば、戦争の危機を増大させるが、武器としての宣伝が広範な反ファシズム大衆の手にあれば、戦争の危険を弱め、平和を作り出すであろう」と述べている。
ナチス党が政権を握ると、指導者であるアドルフ・ヒトラーは特にプロパガンダを重視し、ゲッベルスを大臣とする国民啓蒙・宣伝省を設置した。宣伝省は放送、出版、絵画、彫刻、映画、歌、オリンピックといったあらゆるものをプロパガンダに用い、ナチス党によるドイツとその勢力圏における独裁体制を維持し続けることに貢献した。
第二次世界大戦中は国家の総動員態勢を維持するために、日本やドイツ、イタリアなどの枢軸国、イギリスやアメリカ、ソ連などの連合国を問わず、戦争参加国でプロパガンダは特に重視された。終戦後は東西両陣営の冷戦が始まり、両陣営はプロパガンダを通して冷たい戦争を戦った。特に宇宙開発競争は、陣営の優秀さを喧伝する代表的なものである。
1950年代、中華民国政府(台湾政府)が反共文芸を推奨し、趣旨に共鳴した「中華文芸奨金委員会(中国語版)」が活躍していた。
プロパガンダポスター​
・満州国を天国、中国を地獄と表現したポスター
・日本人を戯画にした、アメリカ人の勤労意欲を刺激する為のプロパガンダポスター、第二次世界大戦中。訳:どうぞ休みを取って下さい!
・ヴィーンヌィツャ大虐殺の事実を以って共産主義の暴虐性を強調する反共主義のプロパガンダポスター。下端の文字はロシア語読みで「ヴィーニツィア」と書かれている
・バターン死の行進の事実を以って旧日本軍の暴虐性を強調するアメリカのプロパガンダポスター。『あなたはこれにどう抵抗する? 日本兵がフィリピンにて捕虜5200名を虐殺。残酷な「死の行進」の詳細。人殺しジャップを殲滅するまで仕事を全うしよう!』
・日本軍による日華基本条約一周年の伝単。基本国策要綱で規定された東亜新秩序建設の国是に基づき、「互助互尊」「共同防共」「互恵共栄」「顕揚文芸」を掲げている。
コーポレートプロパガンダ​
コーポレートプロパガンダ(企業プロパガンダ)は、企業がその活動やブランドイメージに関する市場・消費者意見を操作するために行なうプロパガンダの一種である。
特定の人間がその企業の製品やサービスに対して支持を表明する事で、社会における好意的な印象形成に影響をもたらす。このようなコーポレートプロパガンダについてジークムント・フロイトの甥であるエドワード・バーネイズは著書「プロパガンダ(1928年刊行)」の中で詳細に解説しており、また一般大衆の稚拙さについても歯に衣着せず言及している。バーネイズは大衆向けのイベント、メディアや有名な俳優などを多用し、その影響力を駆使して大衆の意思決定を操り、大衆行動をクライアントの利益に結びつけてきた。叔父であるフロイトが示唆した、人間の潜在的な欲求に関する心理学理論を駆使し、バーネイズは人々に現実的には何の利益もない商品を一般大衆が自ら買い求めるように仕向ける事に成功し、そのプロパガンダの手法を進化させていった。現実に、今日多用されているような、有名人の広告への起用や、実際には偽科学的だが一見科学的な主張のようにみえる意見を利用した広告など、悪意的な現在の大衆操作に関する知識の多くは、バーネイズの開発したミーム論を利用した広告戦略に基づいたものであり、彼の著書「自我の世紀」に、その手法の多くが言及されている。大衆の世論操作に際してのプロパガンダの有効性について、バーネイズは次のように述べている。
「もし我々が、集団心理の仕組みと動機を理解するならば、大衆を我々の意志に従って 彼らがそれに気付くことなしに制御し組織化することが可能ではないだろうか。プロパガンダの最近の実践は、それが可能であることを証明してきた。少なくともある地点まで、ある限界の範囲内で。」— エドワード・バーネイズ
企業プロパガンダは一般的に、婉曲的な表現として広告、広報もしくはPRとも呼ばれている。
国策プロパガンダ​
宗教組織や企業、政党などの組織に比べて、強大な権力を持つ国家によるプロパガンダは規模や影響が大規模なものとなる。国策プロパガンダの手法の多くはナチス体制下のドイツ、大東亜戦争直前・戦中の日本、太平洋戦争直前・戦中のアメリカ合衆国、革命下のロシアやその後のアメリカ合衆国、ソビエト連邦、中華人民共和国など全体主義・社会主義の国のみならず資本主義諸国でも発達した。社会主義国や独裁国家では情報活動が国家によって統制・管理されることが多いため、国家による国内に対するプロパガンダは効率的で大規模なものとなりがちである。
どのような形態の国家にもプロパガンダは多かれ少なかれ存在するものだが、社会主義国家や ファシズム国家、開発独裁国家など、情報を国家が集中して管理できる国家においては、国家のプロパガンダの威力は強大なものがある。また、特定のグループが政治権力とメディアを掌握している国でも同じ事が起こる。こうした国家では、国家のプロパガンダ以外の情報を入手する手段が著しく限られ、プロパガンダに虚偽や歪曲が含まれていたとしても、他の情報によって情報の精度を判断することが困難である。
さらに、こうした国家では教育とプロパガンダが表裏一体となる場合がしばしば見られる。初等教育の頃から国民に対して政府や支配政党への支持、ナショナリズム、国家防衛の思想などを擦り込むことにより、国策プロパガンダの威力は絶大なものとなる。
しかし、こうした国家では情報を統制すればするほど、また国内向けのプロパガンダが効果を発揮すればするほど、自由な報道が保障されている外国のメディアからは疑惑の目で見られ、そのプロパガンダが外国ではまったく信用されない、という背理現象も起こりうる。
また、国家のプロパガンダは国家、政府機関、政党などが直接手がけるとは限らない。民間団体や民間企業、個人が自主的、受動的、または無意識に行う例もある。
「大衆の受容能力は極めて狭量であり、理解力は小さい代わりに忘却力は大きい。この事実からすれば、全ての効果的な宣伝は、要点を出来るだけ絞り、それをスローガンのように継続しなければならない。この原則を犠牲にして、様々なことを取り入れようとするなら、宣伝の効果はたちまち消え失せる。というのは、大衆に提供された素材を消化することも記憶することもできないからである。…… ……大衆の圧倒的多数は、冷静な熟慮でなく、むしろ感情的な感覚で考えや行動を決めるという、女性的な素質と態度の持ち主である。だが、この感情は複雑なものではなく、非常に単純で閉鎖的なものなのだ。そこには、物事の差異を識別するのではなく、肯定か否定か、愛か憎しみか、正義か悪か、真実か嘘かだけが存在するのであり、半分は正しく、半分は違うなどということは決してあり得ないのである。」— アドルフ・ヒトラー「我が闘争」より
軍のプロパガンダ​
   部隊・装備​
軍隊は国家が直接行動を命令できるため、プロパガンダに利用されやすい。このため本来軍事行動には必要の無い人員や装備が配備されている。
多くの軍隊では国民や諸外国に正当性や精強さをアピールするため、見栄えの良い宣伝用の写真や映像を多数公開しており、それらの撮影のために第301映像写真中隊(自衛隊)のような専門の部隊が編成されている。特にアメリカ軍は兵器が運用される様子から休憩中の兵士にいたるまでほぼ全ての広報写真をウィキメディア・コモンズに投稿し、ウィキペディアなどで自由に使えるようにしているが、公開されるのは軍に都合が良い写真だけである。アメリカ軍では第二次世界大戦時に隊員教育やプロパガンダ用の映画を制作するため第1映画部隊を編成し、映画業界人を徴兵扱いで多数動員していた。
第二次世界大戦時のアメリカによる日系人の強制収容に対し、日本は「白人の横暴の実例」として宣伝し日本の軍事行動は「アジアの白人支配からの解放」であると正当化した。アメリカではこれに対抗するため日系移民の志願者による部隊(第100歩兵大隊)を急遽創設した。
多くの空軍では実戦部隊以外にも曲技飛行による広報活動を任務とする曲技飛行隊を有している。これは国民向けに曲技飛行を披露し軍への関心を高めることに加え、パイロットの技量を外国へ誇示する目的もある。使用する機体は既存機の流用であっても武装の撤去、スモーク発生装置の搭載、派手な塗装を施すなど実戦には不適格な改造を施したり、既に時代遅れとなった複葉機を曲技専用に配備するなど予算的に優遇されている。またアメリカ軍では空軍(サンダーバーズ)、海軍(ブルーエンジェルス)、太平洋空軍(PACAF F-16 Demo Team)など複数の部隊が併存している。なおブルーエンジェルスは、第二次大戦終結により海軍航空隊への国民の関心が低下し、予算の減額や空軍との統合など権限縮小を危惧したチェスター・ニミッツ提督が「大衆の海軍航空兵力への関心を維持しておく事」を意図して組織され、第1映画部隊はアメリカ陸軍航空軍司令官だったヘンリー・アーノルド将軍が陸軍航空軍の独立性を強調する為にも独自の撮影部隊が必要だと考え、宣伝映画を担当していた陸軍信号隊とは別の組織として映画業界人に依頼して編成されたなど、宣伝部隊でありながら純粋な広報ではなく政治的な意図で創設された例もある。
軍楽隊が担ってきた国賓栄誉礼や軍の式典での音楽演奏は、現代では録音した曲を流すことで代用できるが、多くの軍楽隊では国歌や行進曲を生演奏させるために、音楽大学などで専門教育を受けた者を演奏専業の軍人として雇用している。これは警察音楽隊や消防音楽隊の多くが一般職員の有志で編成されているのとは対照的である。軍楽隊は国民向けの広報演奏を行うこともあるが、その際は流行しているポップスなど国民の関心が高い曲を演奏することが多い。自衛隊では毎年大規模な音楽イベント「自衛隊音楽まつり」を開催しているが、その演奏曲目の中で行進曲や旧軍歌・自衛隊歌は一部に過ぎず、大半はポップス、テレビドラマのテーマ音楽、アニメソング、民謡など自衛隊とは無関係な曲である。
   顕彰​
戦傷は名誉の負傷とされ、パープルハート章のような戦傷章の授賞式はマスコミを通じて報道される。さらに戦死者は二階級特進の他に英雄的な扱いを受け、戦時中には英霊・軍神など神格化されることも多く、爆弾三勇士のように愛国心を煽るために軍の宣伝として利用される例が多い。
   示威​
観閲式・観兵式や観艦式は非実戦的な訓練や兵力の移動が必要なため軍事的には無駄であるが、軍の規律や能力をアピールする目的で定期的に行われている。また式典のための礼装用の軍服が規定されている。北朝鮮では車両や航空機の燃料を調達することも難しい状況であるが、大規模な軍事パレードは定期的に行われている。
   公開​
軍では退役した車両や航空機を展示する広報施設を整備したり、博物館に寄贈するなどしている。自衛隊では陸上自衛隊広報センター、海上自衛隊佐世保史料館・呉史料館、航空自衛隊浜松広報館と陸海空それぞれ別の広報施設を有している。
駐屯地などの軍事施設に部外者を立ち入らせることには警備上の問題が多いが、国民の理解を得るという目的で多くの軍隊では特定の日に基地祭として公開している。特に駐屯地や基地周辺の住民に対しては別にツアーを用意していることが多い。
多くの軍隊ではマスコミを駐屯地、航空機、艦船へ招待し訓練の様子を報道させているが、これも事前にプログラムが組まれたツアーであり、軍は都合の良い部分だけをマスコミに見せることが出来る。海上自衛隊ではマスコミや要人を接待する専用艦「はしだて」を保有している。
   民間との相互利用​
戦争映画の製作に協力することもあるが、軍が美化されるなどの作品には協力するが都合の悪い作品には協力しないなど、軍側で協力の可否や程度をコントロールしている。1964年の米国映画『未知への飛行』では、アメリカ軍の核兵器が適切に管理されていないことが前提の作品であるため協力を得られず、航空機の映像は一般公開されていた資料映像に頼っている。1978年の角川映画『野性の証明』も自衛隊が悪役であるため協力を得られず、アメリカ陸軍州兵の演習場などで映像を収録している。
・アメリカ海軍が保有するF-18の飛行を体験できる移動式シアター。訓練に使うフライトシミュレータではなく座って映像を見るだけである。
・「スクランブルに向かうB-58のクルー」とされたアメリカ空軍の広報用写真。B-58はスクランブル任務に就く機体ではなく実戦にも投入されていないが、最新鋭機であったため宣伝に使われた。
・駐屯地の一般公開で行われた74式戦車の試乗体験(タンクデサント)。仮設の座席を取り付ける作業が必要となる。
戦争遂行のためのプロパガンダ​
国家が戦争を遂行するためには、国民に戦争以外の選択肢はないことを信じ込ませるために国策プロパガンダが頻繁に行われる。アーサー・ポンソンビーは、第一次世界大戦でイギリス政府が行った戦争プロパガンダを分析して、主張される事に関する10の要素を以下のように導き出した。
1.我々は戦争をしたくはない。
2.しかし敵側が一方的に戦争を望んだ。
3.敵の指導者は悪魔のような人間だ。
4.我々は領土や覇権のためではなく、偉大な使命(大義)のために戦う(正戦論)。
5.我々も誤って犠牲を出すことがある。だが、敵はわざと残虐行為におよんでいる。
6.敵は卑劣な兵器や戦略を用いている。
7.我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大(大本営発表)。
8.芸術家や知識人も、正義の戦いを支持している。
9.我々の大義は、神聖(崇高)なものである(聖戦論)。
10.この正義に疑問を投げかける者は、裏切り者(売国奴、非国民)である。
フランスの歴史家アンヌ・モレリは、この十要素が第一次世界大戦に限らず、あらゆる戦争において共通していることを示した。そして、著書『戦争プロパガンダ10の法則』の序文中で、「私たちは、戦争が終わるたびに自分が騙されていたことに気づき、『もう二度と騙されないぞ』と心に誓うが、再び戦争が始まると、性懲りもなくまた罠にはまってしまう」と指摘している。
「もちろん、普通の人間は戦争を望まない。(中略)しかし最終的には、政策を決めるのは国の指導者であって、民主主義であれファシスト独裁であれ議会であれ共産主義独裁であれ、国民を戦争に参加させるのは、常に簡単なことだ。(中略)とても単純だ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者を愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張する以外には、何もする必要がない。この方法はどんな国でも有効だ。」— ヘルマン・ゲーリング ニュルンベルク裁判中、心理分析官グスタフ・ギルバートに対して
使用されるメディア・媒体​
プロパガンダには様々なメディア・媒体が利用されるが、マスメディアは、一度に多くの対象に強烈なメッセージを送ることができるため、プロパガンダの要として最も重要視されている。権威主義的国家では、マスメディア(インターネットメディアを含む)に対する様々な統制が行われ、実質体制の宣伝機関となっているところもある。
自由主義国家では利益関係はさらに複雑なものがあり、体制からの圧力だけではなく、私企業・外国・政党・宗教・団体の影響を受け、自主的にプロパガンダを行うこともある。また、新聞社や雑誌社、テレビ局のスタッフなどの個人的信条が影響を与えることがある。
テレビの手法​
・ソビエト連邦では、アメリカ合衆国の「貧富の差」を強調してアメリカの貧民街や低所得者の住宅などの映像を流すプロパガンダを行った。しかし、配給不足が慢性化するにつれ視聴者は干してある下着など生活物資の豊富さに気づき、結果的にプロパガンダとしては逆効果となった。
・東西分断時代のドイツでは、イデオロギーの異なる両国が自国の優位・正統性をアピールするため、西ドイツが「赤いレンズ」、東ドイツが「黒いチャンネル」という番組をそれぞれ放送していた。これらの番組は互いの敵対する陣営で起きたニュースに関して、司会者が恣意的に批判・誹謗中傷を加えた解説を行うというスタンスを取っていた。ドイツ統一後は、いずれの番組も必要性が無くなり打ち切りとなっている。
・王制国の国営放送では、定時ニュースのトップは国王の動静に関する事項であることが多い(絶対制の国に多いが、イギリスやタイなど立憲制の国にも見られる。日本でも天皇・皇族の動きは扱いの違いこそあれ必ず報じられる)。また北朝鮮などの独裁国家でも、国家指導者の動静を定時ニュースのトップとして扱うことが多い。
・軍事パレード(観閲式観艦式)や兵器実験、またマスゲームや元首・指導者演説の様子をニュース映像に取り入れ、自国の軍事力、指導者の権威を宣伝する。また対立国ではこれを逆用し相手国政府の異常さと脅威を強調する。
・ニュース番組や討論番組などで特定の団体の構成者やその支持者を多く出演させ世論の支持が大きいように見せる。また出演者が放送局の意向に合わない意見を出すと、司会がわざと別の話題に話をそらしたり大声で相手の話を遮り妨害する。
・やはりニュースで、伝えるべき情報・論議されるべき問題を黙殺しそれ以外の話題を大きく採り上げる。報じられない話題は存在しないことにされる。報道しない自由も参照。
・政策などで政策上の争点を限定し、世論を誘導する。
・特定の政党や勢力を持ち上げ、その組織に都合のいい番組構成にする。または対立する勢力への批判を行う。
・戦争報道ではエンベデッド・リポーター(兵士と一体的に行動する従軍記者)のみの同行を認める。特に湾岸戦争以降のアメリカ軍が重視している。
・スローガンの流布のために人気タレントなどを起用したCMを制作し、そのファンを中心に意識の誘導を図る。
ラジオの手法​
1933年当時、ドイツ国内のラジオ受信機の市場価格は大体250マルク前後であった。これに対して宣伝大臣ゲッベルスの後押しで発売された「国民ラジオ」の価格は76マルクと極めて安価であり、どれほどラジオ宣伝の重要性を認識していたかが窺える。
日本では1925年の放送局発足後、太平洋戦争における日本の降伏に伴う改組(1952年6月の民間への電波開放)まで、唯一の放送局だった社団法人日本放送協会(現在のNHKの前身)は政府の宣伝機関であった。
第二次世界大戦開戦後、ドイツはベルリンからアイルランド人のホーホー卿が対英宣伝放送を担当し、枢軸サリーと呼ばれるアメリカ女性が対米宣伝放送で活躍した。また日本も英語に堪能な女性パーソナリティ、通称:東京ローズを起用し、太平洋戦域のアメリカ軍兵士向けに宣伝放送を行った。戦後彼らは共に反逆に問われた。支那事変時の中華民国では『南京の鶯』を放送した。その後の戦争でも朝鮮戦争でのソウルシティ・スー、ベトナム戦争でのハノイ・ハンナなどのプロパガンダパーソナリティが活躍した。
ソ連では第二次世界大戦中から国外への対外宣伝を行う機関としてドイツ語や日本語によるモスクワ放送(現在のロシアの声)と呼ばれる積極的な対外放送を行った。また、アメリカもボイス・オブ・アメリカやラジオ・フリー・ヨーロッパ、ラジオ・フリー・アジアによる対外放送を行っている。
近年は頻度が減ったが、朝鮮半島の軍事境界線を挟んで、複数スタックさせた高出力の拡声器を使用した宣伝放送が相互に行われていた(拡声器放送)。
ルワンダ虐殺を煽ったラジオ局のように、普段は音楽などを流すラジオ局が政治的扇動を行うこともある。
映画の手法​
プロパガンダを目的として国家や軍、政治団体やその支援者が映画を直接製作したり、積極的に協力していることがある。
ソ連ではレーニンの「すべての芸術の中で、もっとも重要なものは映画である」との考えのもと、世界で最初の国立映画学校が作られ、共産主義プロパガンダ映画の技法としてモンタージュ理論が発明された。特にエイゼンシュテインの作品がその代表である。1920年代のソ連映画は当時としては非常に革新的であり、ダグラス・フェアバンクスなどのハリウッドの名士、後のドイツの宣伝相ゲッベルスを絶賛させている。また、この頃のソ連では、宣伝映画を地方上映できるよう、移動可能な映写設備として映画館を備えた列車・船舶・航空機を製造・活用している(例:マクシム・ゴーリキー号など)。編集することで対象を操作しようとしたモンタージュ理論は現代の映画にも生かされている。『ベルリン陥落』のようにスターリンを神格化する国策プロパガンダ映画も作られた。同作はあまりにもプロパガンダ色が強く、スターリン批判によりソ連国内でも上映禁止となる。
アメリカの映画産業は政府の要請よりも利潤追求が優先される。投資家に利益を還元する目的で経営者が選ばれ、市場においても資本の合併と分割が営利を目的に繰り返される。憲法も裁判所も政府からの映画産業への介入を禁じている。しかし第二次世界大戦下には数多くのプロパガンダ的作品が製作され、『カサブランカ』(1942)は政府からのホワイトプロパガンダとの関連も指摘される。
アメリカ映画は基本的にアメリカ人の時の視点に拠っている。暴力的で敵に対して容赦をしない姿勢と、自由主義の裏側を鋭く描く自己を告発する両面でバランスを取ってきた結果として発展を遂げた。この意味でアメリカ人気質を飲み込んだ製作者が成功を収め権力と大衆の橋渡しを務める場合がある。大衆文化史におけるミッキーマウスなどがこの例である。観客も当然アメリカ人を対象としている。登場人物は英語を話し、アメリカの価値観と信条を守る不文律で形成される。映画の主題もこの原則からは不即不離の関係にある。商品として輸出される場合は音楽や文芸と同様に文化の先遣隊としての役割を果たす結果となる。また、時の視点により過去は味方として扱われた対象が、その後敵、もしくは憎悪の対象として扱われるケースも多い。
アメリカ政府は基本的に国内における人気が支持基盤に直結する点を熟知しており、大衆に対して正義、公正、真実を守るための運動を提唱し賛同を求めようとする。ここでは事実の強さ、迅速さ、正確さが優先される「ニュース」が主眼であり「映画」の順位は相対的に低い。近年はアメリカ国内における階層格差が深刻化した結果、統合させる思想面の弱体化を普遍的価値観の一つである「家族愛」(国家が安全保障上の危機を迎える=国内で生活している愛する家族の生存権・生命・健康・財産が脅かされる→家族を守る為にも国家・連邦政府に協力し続けないといけない といった誘導構図)で代用する事があからさまになってきている半面、同時にマイケル・ムーアなどの社会告発的な映画が暗い面を指摘するなど全体としての先細りも指摘される。
満州国では満州映画協会により日満友好の国策宣伝映画が数多く製作され、日本や満州などで上映された。人気女優李香蘭は中国語が堪能な日本人であったが、中国人女優、また歌手として絶大な人気を集めた。また、同盟国である日本とドイツの友好関係を醸成するために、日独共同で「新しき土」などの映画が制作されている。
日本では1939年、国策に則った映画を製作させる映画法が制定されている。これにより設立された日本映画社が『日本ニュース』などのプロパガンダ映画の制作に関与。特に太平洋戦争の開戦後は戦意高揚映画と称される戦争映画が盛んに制作され、東宝が製作した『加藤隼戦闘隊』は陸軍が全面協力で実物の戦闘機が多数登場する他、円谷英二が開発した特撮技法が駆使されるなど日本映画史においても重要な作品が多数撮影されている。また予科練を描いた『決戦の大空へ』は映画だけでなく挿入歌『若鷲の歌』も大ヒットを記録した。1945年の敗戦後はこのような国策映画は撮影されなくなったが、1990年代以降、防衛省・自衛隊が『ゴジラ』など怪獣映画、『男たちの大和/YAMATO』などの戦争映画、『守ってあげたい!』などの自衛隊をテーマにした映画に協力しているが、これらは映画を利用した自衛隊の宣伝という指摘もある。
イギリスの植民地であった香港では、1997年に中華人民共和国に返還されるまで、映画の上映が始まる前にイギリス国歌の演奏が必ず行われたほか、地元資本のゴールデン・ハーベストの作品においても、イギリス植民地軍や警察は常に「正しき側」として扱われた。さらに映画の内容はイギリス植民地政府の検閲を必ず受けることとなっており、これらの映画はいわばイギリスによる植民地支配のツールの一つとして機能していた。
ドイツのナチス政権は絵画、音楽など古いメディアだけでなく、新しいメディアである映画も重視した。映画産業を積極的に支援し、ナチス政権時代には1100本に上る映画が制作された。レニ・リーフェンシュタールによる『意志の勝利』や『民族の祭典』などは、その大胆な映像美から戦前は世界的に高く評価された。しかし、戦後は一転して「典型的なナチプロパガンダ」と酷評されるようになる。また、『コルベルク』のように大戦末期にもかかわらず、多くの資金や資材、多人数の軍人エキストラを動員して撮影された作品もある。
建国から15年ほど経った北朝鮮において、映画など娯楽産業の宣伝効果を知り所轄ポストの席を狙った金正日と朝鮮労働党甲山派との間で党内抗争が起こった。詳細は、甲山派#北朝鮮国内文化事業を巡る金正日との闘争を参照のこと。
俳優や女優、歌手は大衆にとって親しみやすい対象であるため、彼らへの好感を彼らが支持している対象への好感にすり替えることができる。現在もイラク戦争においてアメリカが使う手段として、キャンペーンやアピールに俳優や女優、歌手を起用したり、彼らを戦地へ慰問させ、士気を高める手法などがある。
タイでは本編上映前に、必ず国歌演奏と共に国王肖像が投影され、観客はこれに対し総員起立で表敬することが義務付けられている。
新聞報道・出版の手法​
言論統制により新聞や書籍でもプロパガンダ的手法がとられる場合がある。第二次世界大戦中の日本の新聞やイギリスのタイムズ紙などが行った例では、記事の構成や社説などを操作し、対象への印象を悪化させたり、好ましい印象を与えたりする(但し日本での場合は自発的なものではなく新聞紙法による強制)。例として産経新聞は保守層と財界のために、財政支援を受ける代償として論調を転向した。
国家が書籍を検閲し、発禁処分等を行うことで反対意見を封殺することもある。ナチス政権下のドイツの焚書が代表的である。
内外を問わず白書、各種政党機関紙や団体の宣伝冊子、国営新聞や政党新聞はその政党の主張に則った報道を行うが、民間の新聞でもその新聞社の思想的背景や株主や広告主などの資金源、または個人的信条からプロパガンダとなる報道を行うこともある。アメリカでは新聞社も、立場が保守とリベラルに分かれることが許容されており、またそれが当然視されている。
また、政府のみならず企業によっても、意図的な言葉や単語の言い換え、使い換えも行われる。たとえば、第二次世界大戦後のドイツにおいては、ナチス党が自由選挙によって(つまりドイツ人の意志として)選ばれたにもかかわらず、「ナチス政権下において行われたことはナチス党とその関係者のみが行ったことで、ドイツ人の総意として行われたわけではない。つまり、近隣諸国やユダヤ人のみならず、ナチス党政権下のドイツ人もまた被害者である」という理論のすり替えがなされ、それを象徴する言葉として、「ナチス・ドイツ」という造語が「ドイツ」という国家と切り離されて使われ、結果的にこの理論を手助けすることとなっている。
写真​
1920年代に実用的な小型カメラが開発されたことから報道写真が急速に発展した。これに対応し政治家や独裁者の報道写真が新聞や雑誌、ポスターに使われるのみならず、肖像写真が出回ることになる。
例として、イタリアのファシスト党党首のベニート・ムッソリーニは、自らのサイン入りのブロマイドを全国にばらまいた他、中華人民共和国やソビエト連邦、北朝鮮などの一党独裁制の共産主義国家を中心に、独裁者の正統性や権威を高めるために合成写真が作られたり、逆に失脚した有力者を集合写真から削除することすら行われた(当時としては最新の特殊技術)。
グラフ誌による宣伝活動​
また、報道写真の発展に伴い、フォトモンタージュなど多くの撮影、編集技法や利用法が生み出される。多くの民間写真雑誌(グラフ誌)が創刊されたが、国家や軍などもその宣伝効果に着目し、機関誌や国策会社からの出版という形で世界中で創刊された。これら国策で出版された雑誌は、採算を度外視して資材や人員を投入したため、非常に技術的完成度が高いものが多い。しかし第二次世界大戦後、テレビの普及により徐々に衰退する。
国策グラフ誌の例​
・戦時下ドイツ
『Signal』:25ヵ国語で30ヵ国に向けて発行され、交戦中のアメリカでさえ1942年まで発行されていた。
・大日本帝国
『NIPPON』:日・英・仏・西の4か国語版が有。 / 『FRONT』:内閣情報部の支援により東方社が発行。一時は日本語を含む16か国語で製作されていた。 / 『写真週報』:日本国内向けの国策グラフ誌。
・琉球列島米国民政府
『守礼の光』『今日の琉球』いずれも日本語版のみ。住民向けの宣伝誌。
・ソビエト連邦
『CCCP НА СТРОЙКЕ(ソビエト連邦の建設)』:5か国語版が有。 / 『今日のソ連邦』 / 『月刊スプートニク』:欧米の著名雑誌『リーダーズ・ダイジェスト』を参考に創刊。日本語版も存在した。 / 『ママとわたし』:日本万国博覧会で、ソ連館の入場客に配布された。
・中華人民共和国
『人民中国』『人民画報』
・朝鮮民主主義人民共和国
『朝鮮画報』:1996年まで発行されていた日本語版は、かつて日本国内にあった朝鮮総連系企業の朝鮮画報社で発行・印刷されていた。
インターネットでの手法​
現実世界で既存の集団・国家・勢力が道具・手段として利用するケースの他、近年の傾向として、掲示板サイトそのものが歪んだ連帯意識・独自の思想を育み、書き込みが自由である他掲示板サイト・ウィキ(Wiki)・ブログのコメント・投票形式サイトに支持掲示板で大勢を占めている価値基準に則った記事やレスポンスを大挙書き込み(或いは不正連続投票し)、力を誇示(甚だしい場合は乗っ取りを目論む)するケースも増えつつある。
国家や団体などによるインターネット・プロパガンダ組織には、中国の五毛党、韓国のVANK、アメリカ合衆国のOEV、ロシアのWeb brigades、ユダヤのJIDFなどがある。
・立場を偽った(何らかの公式サイトを偽装する、全くの第三者を装う)サイトを作って情報を発信し、誤認させる。
・ネット掲示板などで匿名性を利用して自作自演などを行い、多数派意見を装う。
・コピー・アンド・ペーストによる情報の大量頒布。2007年の統一地方選挙の際には、匿名掲示板2ちゃんねるやブログ等で民主党を中傷する捏造情報が大量に書き込まれ、組織的犯行として警察が捜査に乗り出す事態に発展した。
・賛同ウェブサイトや団体(グループ)を多数立ち上げて自分たちをあたかも多数であるかのように見せかける。
・検索エンジンに登録させなかったりエンジン運営者に苦情を申し入れて外させたり、検閲をおこない、利用者に情報開示を行わないなど。例:中華人民共和国におけるネット検閲、タイ王国のYouTube接続遮断。
・検索エンジンにおける検索結果・検索候補の操作。例:グーグル爆弾、サジェスト汚染(検索エンジン最適化の亜種)
・自社の広告を出稿しているポータルサイトのニュース欄において、自社のトラブルの記事を早期にトップ画面から削除するよう、また、自社にとって都合のいい記事をトップに掲載するよう、広告代理店などを使い運営会社に対して圧力をかける。
・特定団体お抱えの弁護士もしくは団体幹部が、ISPやレンタルサーバーの管理者(企業)に対して、都合の悪いHPを削除するように圧力を掛ける。
・ウィキペディアのような、誰でも編集可能なウェブサイトで執拗に宣伝意図を持った編集を繰り返す。また主観的な、あるいは特定利益集団にとっての視点的な記事を新規作成したり、既存の内容をそう変貌させるよう」に虚偽の内容を加筆する。あるいは情報を編集する際にニュアンスを変えたりさりげなく削除したりする、あるいは記事についての議論を起こしたり編集合戦に持ち込んだりして容易に編集できなくしたり、できるだけ有利な状態を保つようにしたりする。最近ではWikiScannerの公開によりウィキペディアでも編集者の所属する組織と密接に関わった記事の編集が大量に存在したことが発覚し、問題視された。
・ウィキを用いて、都合のよい情報だけを集めた「まとめサイト」を作り公開する。
外部の組織や個人を媒介とした手法​
イギリスのシンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサエティー」(HJS)が実施した中国の対外政策に反対するキャンペーンで、HJSは在英日本大使館からひと月1万ポンドの資金提供を受けていた。HJSはその関係性を伝えないまま元外相のマルコム・リフキンドに、ヒンクリー・ポイントC原子力発電所への中国企業関与に対する懸念を訴える2016年8月の新聞記事 の執筆者となるよう頼んでいた。
貨幣、切手、有価証券などの手法​
公共性や価値が高く、極めて広く流通するため、支配権の誇示に用いられる。紙幣や硬貨に国家指導者の肖像が彫刻・印刷で入れられることが多い。イギリスやイギリス連邦各国で切手に国王(2015年現在は女王)の横顔のシルエットが入れられているのを始め、アメリカ合衆国のアメリカ合衆国ドルなど、共和制国家では歴代の国家指導者の肖像画を紙幣や硬貨に入れて使用している国も多い(一方でフランスのフランは自国の偉人、ソ連及びロシアのルーブルは都市が用いられている)。そのため、1979年にイラン・イスラム革命で国王が失脚したイランでは、紙幣に描かれた国王の肖像を全て塗り潰した。
逆に日本では、皇太子(徳仁親王・雅子親王妃)夫妻の肖像が記念切手に使われた例が1度だけあるのみで、在位中の天皇の肖像が硬貨に刻まれたり切手肖像になったりした事は一切ない。“陛下のお顔が手垢にまみれるなど畏れ多い”という菊タブーがあるためであるとか、明治天皇が自身の肖像を切手や硬貨に載せることを嫌ったからだといわれるが、正確な理由は明らかではない。
街宣車による手法​
戦後、日本では国家主義や皇室礼賛を標榜する右翼団体による街宣車を使った公道での街宣活動がしばしば見られる。使用される街宣車は、大判の日章旗や菊花紋章旗を掲げ、団体名が大書された黒塗りの大型車であることが多く、取り付けられたスピーカーから大音量で軍歌や演歌を流す、あるいは自らの政治的思想等を喧伝する。こうした右翼団体(街宣右翼)の構成員は少なからず暴力団員であるために反社会的な勢力と見られることや、大音量のスピーカーを使った街宣行為が騒音として迷惑がられることも多い。
選挙活動中に立候補者や政党が名前等を連呼する為に使用される選挙カーも、現代日本における一つの街宣およびプロパガンダといえる(諸外国では候補者の戸別訪問が容認されており、こうした選挙カーの使用は、日本特有のものである。また公職選挙法の規定により、走行中の演説は出来ないので、勢い、党名と人名の連呼だけになる)。
なお、日本のように威圧的なものではないが、アメリカのロビー活動を行う団体の中はワシントンD.C.周辺などを自動車で周回し、特定の政策の宣伝活動を行う事例が存在する。
集会・イベントの手法​
・会場の規模や装飾などの豪華さ・贅沢さ。または逆に貧弱なものを見せつけ、大衆の味方であるように装う。1934年のナチス党大会は、党大会自体が映画『意志の勝利』として記録され、政治宣伝に用いられた。
・デモ・集会に支持者を大量に動員し、如何にも多数の支持を集めているかのようにメディアで演出する。逆に反対者は少数しか集まらなかったように見せる(会場が“広場”“公園”なら定員はあって無きが如し。また“来る者拒まず、去る者追わず”の自由参加であることがほとんどなので、その場にいる人数も一定しない)。公表される参加者数は「警察発表」と「主催者発表」で大幅に異なるのが通例である。企画された演説集会の成功例としては、第二次世界大戦中にドイツで行われた「総力戦演説」がある。
・式典における演説や部隊の行進、マスゲームなどの一糸乱れぬ団結力の誇示。
・記念日制定や運動週間(旬間・月間)など宣伝活動の実施。
・国内や国際的なスポーツ大会での国威発揚(特にオリンピック)。
・敵対国での運動を支援し、自勢力に有利な状況を作り出す(色の革命)。
ポスター・看板の手法​
・街頭のポスターや看板を、色や図柄で埋め尽くし強い印象を与える。
・ポスターや看板を大量に設置することで、その勢力を大きく見せる。
・キャッチコピーに、強い口調・表現を用いる。
音楽の手法​
国歌に愛国的な歌詞や他国を攻撃するような歌詞、元首を称える歌詞を挿入し、繰り返し聞かせ、また歌わせることで洗脳していく。また、イギリスにおける「希望と栄光の国」やアメリカにおける「ゴッド・ブレス・アメリカ」などの「第2国歌」的な「愛国歌」や、共産主義国における「インターナショナル」のような「革命歌」や「党歌」をあえて制作し、戦時のみならず平時においても、国威発揚のためのツールとして、国家とともに様々な場面で流したり合唱させることも多い。いわゆる「軍歌」もこの手法の1つと言える。
日本でも戦時になると、庶民的人気を誇る「流行歌」に対する厳しい取り締まりが行われ、戦意高揚を狙った戦時歌謡や軍国歌謡が政府や軍の主導だけでなく民間でも自主的に製作され、ラジオを通じて放送された。戦後になると、左派による「うたごえ運動」として反戦歌、労働歌や革命歌などが広く歌われ、左派の政治活動と深く結びついた。
敵国の音楽を悪い文化の象徴であると喧伝する手法もあり、ナチス・ドイツではアメリカで始まり1920年代にはイギリスでも流行していたジャズをシュレーゲムジーク(ドイツ語で「変な音楽」の意)と呼び、アメリカ人が広める退廃的な文化であるというプロパガンダを流していた。ソビエト連邦など共産主義国家でも同様にジャズやロックなどの西側の音楽を敵視するプロパガンダを流していた。
ソ連や共産主義国家においては社会主義革命を正当化させ、人民の団結を奨励する「革命歌」が作られた。これらの曲は、事実上の共産党の「党歌」であり、他の共産主義国のみならず、資本主義国における左翼的な労働組合運動においても歌われることがあった。なお、ドイツのナチス党も「旗を高く掲げよ」のような「党歌」を国家内に広めた。
軍隊においても愛国心や団結精神の高揚を狙った隊歌が部隊単位で制作され、式典の際に唱和される。
代表的な「第2国歌」や「革命歌」、「党歌」としては、次のようなものがある。
・「ラ・マルセイエーズ」:フランス国歌だが、元はマルセイユの義勇部隊の隊歌であった。
・「威風堂々」(希望と栄光の国):イギリスの愛国歌、なお、現在この曲がイギリスの公共放送局である英国放送協会(BBC)で流される時には、エリザベス2世女王の画像が必ず同時に流される。
・「ルール・ブリタニア」:イギリスの愛国歌
・「旗を高く掲げよ」:ドイツ、ナチス党の党歌。ナチス政権下では国歌に準じる扱いを受けた。(ホルスト・ヴェッセルの歌とも)
・「ゴッド・ブレス・アメリカ」:アメリカ合衆国の愛国歌
・「星条旗よ永遠なれ」:アメリカ合衆国の公式行進曲
・「インターナショナル」:ソ連及び共産主義国家、共産党における革命歌、党歌
・「東方紅」:中華人民共和国の愛国歌
・「ワルチング・マチルダ」:オーストラリアの愛国歌
かつて日本においても、君が代に代わり得る新国歌や第2国歌を作る幾つかの運動が起こり、各種の企業・団体が公募などで集めた歌より選び、世に広めようとしたが、GHQの占領政策の影響もあり、その後の世代に伝えられなかった。
・「愛国行進曲」:1937年(昭和12年)
・「海行かば」:1937年(昭和12年)、当時の日本政府が国民精神強調週間を制定した際のテーマ曲。敗戦までの間、玉砕を伝える大本営発表等のニュース映画で流された。
・「われら愛す」:1953年(昭和28年)、壽屋(現・サントリーホールディングス)社長佐治敬三が中心となって呼びかけ公募された。
・「若い日本」
・「緑の山河」:1951年(昭和26年)1月、日本教職員組合(日教組)が『君が代』に代わるものとして公募し選定した。曲は軍歌調。
・「この土」
芸術などの手法​
第二次世界大戦時の日本では、国家の統制管理下に芸術家らをおき、政府直轄の芸術家協会(報国会)に所属させ表現を利用した。反体制主義の芸術家は投獄、協会へ所属しない者は即召集とされた(兵役は経験済みなのでみな予備役)。日本の植民地であった台湾島での実話を基に誇張、脚色した「サヨンの鐘」など愛国美談として語られ製作されたものもある。
ナチス党政権下のドイツでは、抽象画やモダンアート、アバンギャルド芸術やコンテンポラリー・アートを「退廃芸術」と称し、かつて美術館が買い入れた作品を集め、「退廃芸術展」という美術展を各地で開催した。作品は粗末に扱われ、罵倒に満ちた解説と、国による購入価格も並べて展示された。退廃芸術展の総入場者数は300万人を超え、史上最大の観客数を集めた美術展となった。また、音楽分野でも「退廃音楽展」が開かれている。
一方で、ナチス党が奨励する芸術を集めた「大ドイツ芸術展」も開かれている。その内容はヒトラー好みの分かりやすい内容であり、その描写方法や内容は敵であるはずのソ連の社会主義リアリズムにも類似する。
プロパガンダと芸術家​
古代から芸術家は権力者から庇護を受けることで芸術活動を行い、作品が後世に残される可能性が高まる。現在、名作とされる作品にも権力者の依頼により製作されたものが多くあり、その権力者を礼賛する為に制作された作品も少なくない。近代以降、芸術の大衆化により芸術家は必ずしも権力者から庇護を受ける必要はなくなったが、商業上の成功を目的として作家みずからが大衆の求めに応じる形で意図せずプロパガンダを助長する作品を製作する例も多い。また、権力や時流により不本意ながら体制を称える作品を製作せざるを得なかった芸術家もいた。逆に体制に便乗して、多少の不満は抑えて自分の才能を積極的に売り込むことを意図した芸術家もいた。
また、ロシア・アヴァンギャルド運動やプロレタリア文学のように、芸術の表現により政治的な変革を目指すといったプロパガンダと不可分な芸術活動も存在する。
一方でこうした芸術家は、プロパガンダに協力したということで、後に不当に低い芸術的評価を受けることもある。藤田嗣治は戦時中に戦争画を描いたことで、戦後になって日本の美術界を追放され、フランスで制作活動に従事せざるを得なくなった。
それに対し、体制側が自己が主張する政治信条に合わせた芸術を嗜好する傾向も見られる。たとえば、全く新しい体制を目指す場合は新進の芸術運動を保護し、復古的体制を目指す場合には復古的芸術運動を保護する。
   主要な人物​
・ロシア・アヴァンギャルド
カジミール・マレーヴィチ、ウラジーミル・タトリン、アレクサンドル・ロトチェンコ、エル・リシツキー、パーヴェル・フィローノフ、グスタフ・クルーツィス
・映画
ソ連:セルゲイ・エイゼンシュテイン
ドイツ:レニ・リーフェンシュタール(『意志の勝利』、『オリンピア』)、ヘルベルト・セルピン(『タイタニック』)
・画家・彫刻家
ドイツ(画家):アドルフ・ツィーグラー、イヴォー・ザリガー、マルティン・アールバハ、パウル・マーティアス・パードゥア、ルドルフ・リプス、ゼップ・ヒルツ
ドイツ(彫刻家):ヨーゼフ・トーラク、ゲオルグ・コルベ、アルノ・ブレーカー
フランス:ジャック=ルイ・ダヴィッド(ナポレオンに重用され、ナポレオンを讃える作品を多く描いた)
日本:藤田嗣治 (戦争画)
日本(漫画・イラストレーション):小松崎茂、横山隆一(漫画家。アニメ映画に『フクちゃんの潜水艦』。また、アメリカ軍の宣伝ビラにも無断でキャラクターが使用された。)
アメリカ:ベン・シャーン、国吉康雄など(太平洋戦争中、アメリカ人画家としてアメリカの対日プロパガンダに参加)
・小説・劇作家
ドイツ:テア・フォン・ハルボウ
日本:菊池寛(内閣情報部参与、文芸銃後運動を提唱)、海野十三、住井すゑ
・音楽
ソ連:ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(『交響曲第2番ロ長調「十月革命に捧げる」』、『交響曲第3番 変ホ長調「メーデー」』など)
アメリカ:マレーネ・ディートリヒ(歌謡曲リリー・マルレーンをカバーし、ヨーロッパ戦線の連合軍兵士を慰問した)
日本:大木惇夫(作詞家、『国民歌山本元帥』などの作詞)、西条八十、山田耕筰(オペラ『黒船』、軍歌『燃ゆる大空』などを作曲。軍服姿を好んだため、戦後戦犯論争が起きた)、北原白秋、高階哲夫、藤原義江、佐々木すぐる、古関裕而
・写真
ドイツ:アンドレ・ズッカ(fr:André Zucca ナチス宣伝誌『シグナル』専属カメラマン)
アメリカ:マーガレット・バーク・ホワイト
日本:木村伊兵衛、名取洋之助
・アニメーション
日本:瀬尾光世(アニメ映画『桃太郎の海鷲』、『桃太郎 海の神兵』)
アメリカ:ウォルト・ディズニー(ドナルドダックが主人公の短編アニメ映画『総統の顔』は1943年アカデミー短編アニメ賞を受賞した)、フライシャー兄弟、ウィリアム・ハンナ・ジョセフ・バーベラ(ハンナ・バーベラ・プロダクション)
・漫画家
日本:はすみとしこ(『そうだ難民しよう! はすみとしこの世界』)
   旗・紋章・マーク​
旗や紋章はその所属する立場をわかりやすくし、プロパガンダの効果を高める。古代から洋の東西を問わずに用いられてきた。軍隊の軍旗などが典型例である。ドイツのナチス党によって使用されたハーケンクロイツは特に有名であり、現在もナチスの象徴として広く知られている。そのため欧米では似通った模様の「卍」の使用すら忌避される傾向がある。
他にも共産主義の象徴としての赤旗・鎌と槌、各国の国旗などが広く知られている(アメリカ同時多発テロ事件直後、アメリカでは街じゅうに星条旗が掲げられ、“団結するアメリカ市民”を印象付けた。行動する保守はデモ活動の際に必ず日章旗と旭日旗を掲げる)。
   建造物・像・都市計画​
巨大建造物の建設は古代から為政者にとり、自己の権力を誇示し、己の世界観を視覚的に宣伝する手段として広く用いられてきた。現代でもそれは変わらず、為政者の権力を誇示し、イデオロギーを視覚的に宣伝する手段として、特に権威主義的中央集権国家でこれらの構造物が多く見られる。たとえば新古典主義建築はナポレオン・ボナパルト治世下のフランスやナチス党政権下のドイツ、ファシスト党政権時代のイタリアで多数建てられている。
また、国家や民族の創始者とされる人物や英雄、信仰対象である神や仏の像も集団の在り方を具体的に提示し権力者の権威を示すものとして用いられている。
一方で貧困などの不都合な事実を隠すために、立派な外観の建物やモデル村落などを作り、外国人や報道陣などに公開する場合もある。こうした見せかけだけの建物は「ポチョムキン村」と呼ばれる。
   特徴​
・既存都市に対する都市計画・デザインについて、指導者を讃える壮麗な建築を行う(巨大な宮殿や城、パレード用の大通りや広場など)。:全く新規に都市を建設することについては、計画都市を参照のこと。
・統一した建築様式や記念碑の巨大さで、民族性や政治性の誇示・偉大としたい文明の後継者であることの誇示・巨大建築を作らせる技術力や動員力の誇示を行う。
・その勢力のお抱え建築家に主要建造物の設計を任せるケースは、過去より多くみられる。たとえばスターリンにとってのボリス・イオファン、ヒトラーにとってのアルベルト・シュペーアやヘルマン・ギースラーが知られる。シュペーアとイオファンは1937年のパリ万博で、ソ連とドイツの双方の国家出展パピリオン建物のデザインを担当し、しかもその建物が道路一本だけ隔てて向かい合うというエピソードを持つ。
・シリアのクネイトラ、ドイツのドレスデン旧市街、広島市の広島県産業奨励館(原爆ドーム)、ドイツ首都ベルリンのカイザー・ヴィルヘルム記念教会初代建物(「旧教会」と呼称)のように、戦災などで被害を受けた建造物は、あえてその痕跡を残すことで、被害の記憶を留める効果がある。
・建造物の建設予定地の選定(即ち、元々そこに存在していた施設やモニュメントの破壊も意味する)自体が政治ショー的意味合いを持つこともある。この場合、その体制が崩壊した後に、旧体制を否定するためにその建造物を解体したり、旧施設を再建する例もみられる。
   ・ソ連のソビエト宮殿(未完成)は共産主義思想の敵とされた、ロシア正教会の救世主ハリストス大聖堂を破壊した跡地に建設される予定であった。ソ連崩壊後、救世主ハリストス大聖堂は再建された。
   ・旧ドイツ民主共和国でもやはり共産主義思想の敵である旧プロイセン王政およびドイツ帝政時代の象徴・ベルリン王宮破壊後に共和国宮殿が建設された。ドイツ統一後の2008年に解体され、「フンボルトフォーラム」という名称で旧王宮を再現した建造物が建設されている。
   ・ソウルにあった朝鮮王朝の正宮である景福宮は、日韓併合後に日本政府により宮殿正門の光化門をはじめとする8割以上の建物が破却され、宮殿正面に朝鮮総督府庁舎を建設して、街から宮殿を見えなくした。戦後成立した大韓民国では「旧王宮の景観改善」(他、同国内で広く信奉されている風水術上での問題や日本治世下時代への忌避を背景とした世論の後押しなど)を理由に旧朝鮮総督府庁舎を解体した。
   ・ルーマニアの独裁者チャウシェスク大統領が建設した大統領官邸である「国民の館」未完成のままチャウシェスク政権が崩壊したが、その後も建設工事が進められ、ルーマニア議会議事堂、博物館として利用され、ルーマニア最大の観光名所にもなっている。
・これらに準じる行為として、都市や道路、広場の改名がある。特に欧州諸国では、都市の大通の名が歴史上の英雄や政治家の名に因んでいることが多い。
・国の経済力や技術力を示すため、また、ランドマーク的な意味合いを持たせ、国や都市としての存在感を示すために、「世界で最も高いビル」、もしくは「世界で最も高いタワー」を建設する。
・戦場において、敵勢力の戦意を削ぐ(あわよくば戦わずして、停戦・降伏交渉を促す道具とする)のを主目的としたプロパガンダ建築の場合、芸術性などは特に考慮されない。史実上の例としては、安土桃山時代の日本に於ける豊臣秀吉の一夜城(石垣山城、益富城、墨俣城)が挙げられる。
   主要例​
・ソ連:スターリン建築やレーニン廟、指導者の銅像、ソビエト宮殿計画、オスタンキノ・タワー、ソ連国民経済達成博覧会、第三インターナショナル記念塔、コミンテルン記念塔
・中華人民共和国:天安門の毛沢東の肖像画、人民大会堂、北京展覧館、上海展覧センター
・中華民国:台北国際金融センター、中正紀念堂、国立故宮博物院(台湾台北市)
・朝鮮民主主義人民共和国:主体思想塔、金日成の巨大像、平壌市復旧建設総合計画、凱旋門(エトワール凱旋門より10m高くなるように建設された)、柳京ホテル
・日本 大日本帝国:八紘一宇の塔、大東亜聖戦大碑、奉安殿、大東亜建設記念営造計画、靖国神社の大鳥居
・満州国:建国忠霊廟、コミンテルンとの戦闘者の記念碑(ロシア語版)
・マレーシア:ペトロナス・ツインタワー
・ラオス:アヌサーワリー・パトゥーサイ
・パキスタン:ミナーレ・パーキスターン
・インド:クトゥブ・ミナール
・イラク:サッダーム・フセイン元大統領の銅像
・アラブ首長国連邦:ブルジュ・ハリーファ
・トルコ:アヌトゥカビル(アタテュルク廟)、アタチュルクタワー
・イギリス:インド門、オベリスク
・ドイツ
   ・ナチス・ドイツ:勝利の塔、ツェッペリンフェルト(ニュルンベルクナチス党大会会場)、オリンピアシュタディオン、世界首都ゲルマニア計画
   ・ドイツ民主共和国(東ドイツ):ドイツ民主共和国首都ベルリンの社会主義的都心改造、ベルリンテレビ塔、スターリンシュタット(現・アイゼンヒュッテンシュタット)、カール=マルクス=アレー(旧東ドイツ建国〜1961年の期間は「スターリンアレー」という名称。戦前のベルリンでの中心繁華街であった「ウンターデン・リンデン通り」に代わる存在かつ旧西ベルリン一の中心繁華街「クーダム通り」への対抗として整備されたが、やがて後に同じ東ベルリン内のフリードリヒ通りにその座を奪われていく)
・フランス:エッフェル塔、エトワール凱旋門、オベリスク
・イタリア:エウル(ローマ新都市42)
・ルーマニア:国民の館
・アメリカ:自由の女神、ワシントン記念塔、リンカーン記念堂、第二次世界大戦記念碑、海兵隊記念碑(硫黄島の星条旗)、ラシュモア山の4大統領像、アラモ伝道所、アリゾナ記念館、ワールドトレードセンター (ニューヨーク)、フリーダム・タワー計画
・ブラジル:バンデイランテスの丘
   自然物​
山、岩、海、川なども民族や国家の象徴としてプロパガンダとなる。アメリカのラシュモア山のようにプロパガンダとして自然物に手を加え、環境破壊が発生することもある。
白頭山・ラシュモア山・富士山・ライン川
   ファッションの手法​
ファッションは発言者の印象を大きく左右するために、イメージを向上させるために様々な工夫が施される。また、独自の衣服を着ることでイメージを定着させる方式もある。集団で独自の衣装を着、集団内での団結力の向上や、示威作用を得ることもある。黄巾の乱や紅巾の乱、ボリシェヴィキの革服、ファシスト党の黒シャツ隊、国家社会主義ドイツ労働者党突撃隊の茶色開襟シャツ、毛主席語録が必携でこれを掲げて練り歩いた紅衛兵、日本の国旗や旭日旗を掲げてデモ行進する行動する保守の事例が知られる。
建国神話・英雄譚・伝説・学説の利用​
建国神話は国家の正当性を表すため、重要な位置を占める。また、人々に広く知られる伝説や物語はプロパガンダに利用されるものがある。革命により成立した共和制の人工国家(例としてアメリカ合衆国とソビエト連邦、中華人民共和国、中華民国)は神話は持たない。
・ラーマヤーナ、マハーバーラタ、リグ・ヴェーダ、古代核戦争説#モヘンジョダロ遺跡、ヴィマナ復元研究:インド人民党政権下のインド
・古事記、日本書紀、神風、義経=ジンギスカン説、復興軍神、皇国史観、神州不滅:大日本帝国。また復興軍神には楠木正成、新田義貞といった中世時代にて武家優位の趨勢であるにもかかわらず当時の天皇に忠誠を尽く通した武将が選ばれ、小学校教育の題材にもされた。
・古代ゲルマン神話、北欧神話、アトランティス大陸神話、ワーグナー作楽劇、チベット・シャンバラ神話、宇宙氷説、優生学、優性遺伝、遺伝子汚染:ナチスドイツ
・ミシェル・ノストラダムス師の予言集:第二次世界大戦中の英国、ナチスドイツ
・新約聖書、ヨハネの黙示録:チェルノブイリ原発事故直後のソ連
・旧約聖書:神聖ローマ帝国、十字軍、島原の乱、太平天国、イスラエル
・檀君神話:韓国、北朝鮮
・「金日成元帥」「金正日将軍」の伝説(金日成・金正日を参照):北朝鮮
・バビロンの空中庭園:サッダーム・フセイン政権下のイラク
・アーサー王物語:イギリス
・三皇五帝神話:中国諸王朝
・西遊記:清朝末期の義和団
・原初年代記、スラヴ神話:帝政ロシア
・スタハノフ運動、ルイセンコ学説:ソビエト連邦
・ヘネッケ運動:東ドイツ
・ポール・リビアの伝令活動:アメリカ合衆国 
 
 
 
 
●ロシアのプロパガンダ
●ロシアのプロパガンダを発信してしまう日本の「専門家」たち 2/5
2021年秋から、ロシアがウクライナ周辺に兵力を集結させており、すわ更なる侵攻か、と欧米とロシアの間で冷戦終結以降最大の緊張が生じている。これにあわせて、日本語空間でも様々な解説記事が現れているのだが、その中には、事実に基づかない偽情報や誤情報も少なくない。
今回筆者が紹介したいのは、2014年以降、ウクライナへの侵攻、領土占領を続けるロシアが、国際社会の情勢理解や決定を誤らせることを目的に発信している「偽情報(プロパガンダ)」である。
ロシアは、2014年のウクライナ侵攻以降、ロシア・ウクライナ情勢に関して、根幹部分に誤りがあり、それを知りながら読み手・聞き手を騙すために伝える「偽情報」を積極的に発信している(厳密には政府発信のものは「プロパガンダ」であるが、ここでは「偽情報」で統一する)。ロシアは特に英語空間で極めて活発に偽情報を拡散しているが、一方で日本では日本語がフィルターとなっており、偽情報の量は英語空間より少ない。
なお、ロシア発の偽情報が日本語空間に入ってくる際のチャンネルは以下の3つに大別できる。
(1)ロシア大使館がSNSアカウントを通じて発信する公式チャンネル
(2)「スプートニク」や「ロシア・ビヨンド」といったロシア国営メディアによる半公式チャンネル
(3)ロシア発の情報を用いて日本語で発信する日本人専門家による間接的発信
その中で日本における特徴は、(3)の専門家の情報発信の中に紛れ込むロシア発偽情報が特に多いことである。例えば、現在の緊迫するロシア・ウクライナ情勢に関しても、ロシア大使館やスプートニクはそれほど活発に偽情報を発信していないのに対し、(3)の専門家の情報発信に見られるロシア発偽情報は過去2カ月で急増している。
そもそも、ロシア語を理解し、ロシア発の情報を日本で伝えられる人は、日本のメディアでは「ロシア専門家」として重宝されがちであるが、問題はその専門家がしばしばロシア政権が拡散する偽情報を検証せずに日本社会に伝えてしまうことにある。しかも、その情報の真偽検証ができる人が日本にはまだ少ないために、ロシア発偽情報がそのまま日本の読者に伝わり、その結果、ロシア政権が望む対日世論操作が実現する余地が生じてしまっているのだ。
以下では、そうした専門家たちが日本で広めている偽情報について、どのような点が誤りであるかを検証してみたい。
ウクライナは本当に「東西分裂」しているのか
日本で拡散している典型的な偽情報に「ウクライナは東西で分裂している」というものがある。
例えば外務省主任分析官であった佐藤優氏は「Business Insider Japan」の記事で、「ウクライナは東部と西部で文化が異なる」として、以下のように述べている。
「西側のガリツィア地方は、歴史的にはハプスブルク帝国に属する地域で、ウクライナ語を使い、宗教はカトリックです。一方、ロシアに近い東側のハリコフ州やドネツク州に住む人々はロシア語を常用し、宗教的にもロシア正教なんです」
残念ながら、このウクライナを西と東で決定的に異なる地域かのように紹介する、いわゆる「ウクライナ東西分裂論」は、ロシア政権が2014年のウクライナ侵攻の際に好んで用い続けた、典型的な偽情報だ。ウクライナの実態は、このように東西を2つに単純に分けることは不可能である。地図を見ながらその問題を検証してみよう。
この地図における赤の部分が、佐藤氏の言う西の「ガリツィア地方」(ウクライナ語ではハリチナ地方)、青の部分が佐藤氏の言う「ハリコフ州やドネツク州」(ウクライナ語ではハルキウ州、ドネツィク州)にルハンシク州を加えた地方である。一目でわかる通り、この2つの地方は、ウクライナの西端と東端に位置しているだけであり、あくまで「ウクライナ西部の西端」「ウクライナ東部の東端」に過ぎない。つまり、佐藤氏の説明からは、それ以外のウクライナ大部分(その他の西部・東部、南部、中部)の人々の存在が抜け落ちている。これは、日本で言えば、沖縄県と北海道の住民だけを紹介して「ほら、南と北の住民は言葉も文化も食生活もこんなに違う、だから日本は南北分裂国家」というようなものであろう。
しかも、ウクライナにおいて特に忘れてはならない点は、その他の大部分の地域に暮らす住民の多くが、ウクライナ語もロシア語も場面によってどちらも使い分けることのできるウクライナ人であり、その彼らがウクライナの人口の大半を占めていることである。
ウクライナは西部でも正教徒が多い
前述の通り、ガリツィア地方(地図の赤の部分)はウクライナ西部のあくまで一部に過ぎず、あたかも西部全体がガリツィア地方であるかのような言い方は不適切である。通常「ウクライナ西部」という場合は、ガリツィア地方以外に、ヴォリーニ地方、ポジッリャ地方、ブコヴィナ地方、ザカルパッチャ地方などを含む(概ね地図の黄の部分)。
「(西部の住民が)ウクライナ語を使い、宗教はカトリック」という説明については、ガリツィア地方にて、ウクライナ語利用がウクライナで最も盛んであることは間違いないのだが、他方で、同地方の「宗教はカトリック」という表現には問題がある。2015年4月発表の民主イニシアティブ基金実施の世論調査によれば、ガリツィア地方のギリシャ・カトリック教会とローマ・カトリック教会の信者は合わせて約68%であるのに対し、ウクライナ正教会の信者も約30%いることがわかっている。そのため、「ガリツィア地方の住民はカトリック信者」と記述すると、それ以外の3割もの人の存在を無視することになってしまう。
さらに、キーウ(キエフ)国際社会学研究所の2021年7月の世論調査によれば、ガリツィア地方に限らないウクライナ西部(黄色の部分)全体で見ると、約57%が自らを正教徒とみなしており、自らをカトリック教徒とみなすものは約28%に過ぎない。西部全体では、むしろ正教徒の方が、カトリック教徒よりはるかに多い(約2倍)のである。
ウクライナ人の多くはバイリンガル
「ロシアに近いハリコフ州やドネツク州に住む人々はロシア語を使い宗教的にもロシア正教」という主張も問題が多い(これはロシア政権が特に好むプロパガンダである)。
まず言語問題を見ると、東部において日常的にロシア語利用が比較的盛んであるというのは概ね正しい。しかし、先ほどの「西部はウクライナ語利用が盛ん」との説明とも関係するが、ウクライナの言語状況を語る上で何よりもまず理解しなければならないのは、「多くの国民がウクライナ語とロシア語の両言語を相当程度自由に操るバイリンガル」であるということである。
つまり、ウクライナでは、ある人物が日常的にロシア語を使うことが、その人物がウクライナ語を使わない(使えない)ことや、ウクライナ語を嫌悪していることは必ずしも意味しない。実際には、多くの住民が場面や必要に応じて言語の使い分けを行うことが学術調査によりわかっている。
例えば、家族・友人と話す時、職場で話す時、周りにロシア語話者あるいはウクライナ語話者が多い場面、お店で注文をする時、数字を数える時、本を読む時、テレビを見る時といった具合に、多くの人がその場面に応じてウクライナ語とロシア語を使い分けているのである(詳細は、拙著『ウクライナ・ファンブック』参照)。そのため、ウクライナの住民を言語を通じてあたかも2つの分断されるようなコミュニティが存在するかのような解説は、実態から乖離しており、大きな誤解を生み出すものであり、避けなければならない。
次に、東部住民の宗教が「ロシア正教」かどうかである。上記のキーウ国際社会学研究所の調査では、ウクライナ東部諸地域において、自らを「正教徒」だと答える者は78〜84%であり、正教徒信者は西部より若干多い。ただし、その回答者の内訳を見ると、独立「ウクライナ正教会」の信者だと答える回答者が48〜54%であるのに対し、ロシア正教会系列の「ウクライナ正教会モスクワ聖庁」の信者だと答えたのは約24〜35%でしかない。つまり、東部住民の間では確かに正教徒は比較的多いが、しかし、彼らの間では自らを「ロシア正教徒」よりも「ウクライナ正教徒」だと考えている者の方が多いことがわかる。
(なお、参考までに、同調査では、ウクライナ全体では、正教徒の割合は約73%、カトリック教徒の割合は9%であり、正教徒の割合の方が圧倒的に多い。そして、正教徒と回答した者の内の約58%が自らを独立「ウクライナ正教会」に属していると考えている。)
作り出される「ロシア国民」
日本の専門家からは、「ウクライナ東部の人たちは自分がロシア人だと考えている」「ロシアに統合されることを望んでいる」という主張も聞かれる。だが、これも実態に即していない。
まず、ウクライナで行われた2001年の国勢調査(最新)では、ドネツィク・ルハンシク両州の自らの民族アイデンティティ問う設問では、約55%が自らをウクライナ人と答えている。この2州に限れば「ロシア人」アイデンティティを持つ者の割合がその他の州より比較的多いことは客観的事実だと言える。だが、それでもその数は過半数ではない。
そして、より深刻に考える必要があるのは、この地の「ロシア国籍」問題である。というのも、ロシアは、2019年4月以降、ウクライナ東部の紛争地域にて、住民がロシア国籍取得する際の手続きを簡素化する決定を下しており、それ以降、同地住民に対して国籍のばらまきを行っているのである。これは、紛争地における「パスポーティゼーション」と呼ばれる行為であり、紛争解決を困難にするものとみなされている。つまり、現在ロシアは、ウクライナの主権を侵害しながら、「自国民」を簡易的に作り出し、その保護を名目にウクライナへとさらに武力を行使しようとしているのである。
言うまでもなく、それは非難すべき対象であり、侵略の正当化の根拠とみなしてはならない。実際に、欧米はロシアによるパスポーティゼーションを繰り返し非難している(なお、ロシアはジョージアでも同様の国籍ばらまきを行っている)。
「ウクライナ東部の人たちがロシアに統合されることを望んでいる」ことを裏付ける客観的データは存在しない(被占領地では信頼できる世論調査ができない)。ただしこの点において、重要な客観的判断材料となるのが、紛争開始後に生じた「国内避難民」の存在である。東部のドネツィク州とルハンシク州では、2014年以降のロシア・ウクライナ紛争の結果、住民の約150万人がウクライナ政府から「国内避難民」のステータスを取得しており、この地位によりウクライナから特別な支援を受けられるようになっている。他方で、同地の住民の中には、紛争開始後、ロシアに避難した者もいることがわかっている。つまり、ドネツィク・ルハンシク両州被占領地の住民は、「国内避難民として国内その他の地域へ避難した者」「難民としてロシアへ避難した者」「引き続き現地に居住している者」というように、現在様々な境遇の下で生活しているのである。
言うまでもなく、彼ら全員がこの地の代表者であり、今後この地の将来を決める際に意見を述べる権利を持っている。さらに、「国内避難民」地位を有しながら、被占領地に戻って生活している者も少なくない。
このような情報を総合すると、様々かつ複雑な状況にある彼らが、自らを一様に「ロシア人」だと考えているとは想像し難く、またウクライナ政府への支援を求める者がいる中で、皆がウクライナへの統合を望んでいないと見るのは大きな誤りだと言えよう。
「専門家」が広めるロシアの偽情報
上記のような偽情報は2014年以降、さまざまな専門家の間で頻繁に見られる。特に昨年(2021年)秋以降、「ウクライナがあたかも2つに分断している」かのように示す、専門家による日本語記事は急速に増えている。
例えば、最近では「朝日新聞GLOBE+」の関根和弘記者の1月22日付記事(「ウクライナ国境にロシア軍10万人、プーチン氏は本気だ クリミア併合の取材記者が解説」)では、ウクライナを「親欧州」「親露」の2色で塗り分けた、読者を大きくミスリードする地図が使用された。
しかし、各世論調査を見れば、実際のウクライナ国民の政治的志向ははるかに複雑であり、地図のようにはっきり2つに分けられるようなものでは決してない。地図や世論調査を用いて分析すればその真偽検証はさほど難しくないし、ウクライナ各地で現地調査を行えば「現実はそんなに単純ではない」ことにはすぐ気づけるであろう。
ここで卑近な例を挙げよう。筆者の知り合いには、クリミアや東部出身の者が多くいるが、彼らの実態はまさに多様である。彼らの一部を紹介したい。
ロシア語の方が得意だが、ロシア発偽情報への警戒感から、ニュースだけはウクライナ語で情報収集しているハルキウ出身者
・大学のある政府管理地域と東部の被占領地にある実家の間を行き来し、家族との会話やSNSではロシア語を使うことが多いが、仕事では自由にウクライナ語を使う者
・ドネツィクに生まれたが、2014年以前から日常生活はロシア語、SNSではウクライナ語のみを使う者
・クリミアとウクライナ本土を行き来し、日常活動のほぼ全ての場面でロシア語のみを用いるが、ロシア政権のことは密かに嫌悪している者(ただしリスク回避のため、意見を公言することはない)
・クリミアの人気ブロガーで、普段はロシア語を使うが、対談相手によってはウクライナ語での動画投稿も行う者
ウクライナはこのような多様な人々で溢れており、その多様さこそが現在のウクライナの現実である。ある映画監督が「ウクライナで映画を作る時には、ロシア語だけ、ウクライナ語だけで撮影することはまず不可能だ」と述べていたが、それだけウクライナでは2つの言語が1つの町、1つの通り、1人の人の中で混在しているということである。そこに1本の明確な境界線を引くことが不可能であることは言うまでもない。
日本は偽情報を払い除け、毅然とした決定を
さて、佐藤氏は前述の記事にて、ロシアが現在、今にもウクライナに対して更なる侵攻に踏み切ろうとしている状況に対して、「日本は安易にどちらかに肩入れすることなく、中立を保つことが重要」だと主張している。
しかし、プーチン大統領が行おうとしているのは、一国が別の主権国家に対して軍隊を送るという、れっきとした侵略行為である。紛争地で簡易的に作り出した「ロシア国民」の保護という口実をもって、正当化を試みているに過ぎない。そうした明白な侵略行為に関して、日本が、厳しい対露制裁を準備する欧米とは異なる、「中立」という「独自対応」を取った場合、今後、台湾海峡や尖閣諸島にて類似の力による現状変更が生じた時に、日本の主張が欧米から理解を得ることは極めて困難となる。
日本政府は、たとえ日本から遠く離れた出来事であっても、ロシアによる偽情報を根拠とした侵略正当化の試みを適切に払い除けつつ、実際の状況を正しく把握した上で、G7、国際社会の一員として、「力による現状の変更は断固として受け入れない」という原則を示す、毅然とした決定を採択することが極めて肝要であろう。
●ウクライナ侵攻を、ロシアはどうやって自国民に隠しているのか。 3/13
戦争が始まって以来、ロシア当局はメディアを抑圧し、SNSへのアクセスを制限し、政府に近しい少数の女性を通してプロパガンダを行っている。フランス国際関係研究所のジュリアン・ノセッティ準研究員が解説する。
ある国は包囲され、ある国は封鎖される。ウクライナ侵攻以来、ロシアは「特別軍事作戦」という言葉を使い、国民に耳障りの良いプロパガンダを展開している。いくつかの独立系メディアは閉鎖や放送停止を余儀なくされ、外国人特派員もモスクワやロシア国内での活動を停止せざるを得なくなった。SNSはブロックされ、制限され、親プーチンのレトリックであふれかえっている。
プロパガンダの立役者には、プーチン大統領の行動を正当化するために前線に立つことをいとわない女性たちがいる。その中には、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官、人気トーク番組の司会者オルガ・スカベーエワ、そして2月末から欧州連合(EU)によって放送が禁止されているチャンネルネットワークRT(ロシア・トゥデイ)の代表マルガリータ・シモニアンが含まれている。この3人はいずれもEUの経済制裁の対象だ。彼女たちの役割は? ロシア国民がこの戦争の本質と悪事を知るのを防ぎ、その抗議を避けることだという。フランス国際関係研究所(Ifri)のジュリアン・ノセッティ準研究員に話を聞いた。
——(マダム・フィガロ)手ごわい検閲にもかかわらず、ロシア人は当初からウクライナ侵攻に反対するデモを行ってきました。情報はどのように届くのでしょうか?
(ジュリアン・ノセッティ)主にSNSと、TelegramやWhatsAppなどのインスタントメッセージアプリが使用されています。アプリを使っている人たちは、当局に目を付けられていることも認識しています。ロシア当局は、これらのアプリの普及を認識しており、長い間、アプリを制御、あるいはブロックしようと試みてきました。
——Facebookは開戦の1週間後にアクセスを遮断されましたが......
ロシア当局は10年近くFacebookを制限しようと試みてきました。この状況下で、これまで実行に移せないでいたことを断固として実施できる理想的な政治的正当性を見いだしたのです。
——どういうことでしょうか?
ロシアはメドベージェフ大統領の時代の2010年代以降、インターネットの「主権化」を進めてきました。具体的には、通信経路を国が一元管理することで、ネットに流通するコンテンツや情報を統制することです。2019年12月に採択された法律に基づくプロジェクトは、非常に大きな経済的コストがかかり、ロシア国民に対する過酷な社会政治的対価をも払わせることになりました。2017年以降、モスクワをはじめとする主要都市では、デジタル領域を標的とした一連の抑圧に対して、数多くの抗議活動が行われてきました。
——オールドメディアを対象とする法律もあります。
そうです。そして、ロシア政府は、ここ数週間で新たな一歩を踏み出しました。異論を唱える声を封じるだけでなく、SNSを含め、「戦争」や「侵略」など、事実を表現する言葉の使用を禁じ、法律で15年以下の懲役を課したのです。国営メディアも、クレムリンに近い実業家が支配する民間メディアも公式の発表に忠実です。前例のない、極めて流動的な状況です。ロシアは鎖国状態です。このことは、数カ月後、あるいは数年後に、私たちがこの国についてどれだけ理解しているのか、という疑問を投げかけるでしょう。現在のロシア政権が存続したとしても、メディアやデジタル領域を封鎖し続けることができるでしょうか?
——自由の残るインターネットが、オールドメディアを補填すると期待できるでしょうか?
この10年、「テレビ派の国民」と「SNS派の国民」の対立が鮮明になってきています。前者は、労働者や年金生活者を中心としたプーチン大統領の支持基盤。一方のSNS派は、主に若者と都会で教育を受けた人々で構成され、デジタル・アクティヴィズムの中核をなしています。しかし、テレビでロシアのナンバーワンメディアであることに変わりはなく、また、政府に楯突くことはない。そして、テレビの視聴者は、都会の若者以上に、投票所に足を運ぶのです。
——この情報戦の標的はSNS派の国民ですか?
主な対象は、ロシア人全般です。政府は、ロシア国民の耳にプーチン政権の正当性に異議を吹き込むような出来事についての情報流出を防ぐことを目的としています。クレムリンのもう一つの標的は、当然ながらウクライナ人です。大統領が逃げる、あるいは死亡するといううわさをSNS上で流し、彼らと大統領との間にある信頼の絆を切り崩そうとしています。最後に、ウクライナに対するロシアの侵攻は、ヨーロッパに対する政治戦争でもあります。私たちの事実関係の認識にある程度の混乱を起こし、法の遵守や表現の自由といったヨーロッパの政治的価値観から距離を置くように仕向けることも目的です。
——このプロパガンダはグローバルな問題だということでしょうか?
過去15年間、欧米人はテクノロジーが民主主義のイデオロギーも同時にもたらすという約束と恩恵を前提として、デジタル外交を行ってきました。しかし、2016年以降、米国の選挙運動へのロシアの干渉に見られるように、クレムリンは敵対的なシナリオに対抗し、目的を達成するための手段としてデジタルを利用しています。我々欧米人の目は曇っていたのかもしれません。テクノロジーは中立ではない。反民主主義的、権威主義的な目的に使用することもできるのです。今回の戦争でも、そのように使用され、重要な役割を演じています。
●ロシア国営テレビの放送一瞬中断、「うそ伝えている」と女性が抗議 3/15
ロシア国営テレビのニュース番組の生放送中にアンカーの背後で若い女性が「戦争をやめろ。プロパガンダを信じるな。彼らはあなたにうそをついている」と書いたプラカードを掲げて報道を遮る驚きの一幕があった。
テレプロンプターに表示された放送原稿を読み上げるアンカーの背後で、黒のスーツを着た金髪の女性が主張したのはわずか数秒で、第1チャンネルはすぐに病院の映像に切り替えた。
●ロシアを囲む厚いプロパガンダの壁を、ウクライナの人々は突き崩そうと 3/17
ロシアの人々は政府の情報統制とプロパガンダによって、ウクライナへの侵攻について正しい情報に接していない──。そう考えたウクライナの活動家たちは、TinderやGoogle マップ、Telegramなどのプラットフォームを通じて“正しい情報”を伝えようと活発に動いている。
ウクライナから1,000km以上も離れたドイツのニュルンベルクに住んでいる34歳のレネは、ロシアによるウクライナ侵攻とは何のかかわりもない。ウクライナに親戚はいないし、現地に行ったこともないのだ。
それでもロシアがウクライナに侵攻したとき、彼は手助けをしたいと思った。そこでマッチングアプリ「Tinder」で自身の位置設定をモスクワに変更し、現地の女性と戦争について話し始めたのである。
「ある女性が『ロシアによる侵攻は単なる軍事作戦で、ウクライナ人は自国民を殺している』と話したときは口論になりました」と、レネは言う(クライアントに彼の活動について知られたくないという理由で名字は伏せている)。「『教えてくれてありがとう』といった反応もありました」と、彼は続ける。
ロシアがウクライナに侵攻して以来、ロシア人が知る情報と現地で起きていることとの間には“プロバガンダの壁”がある。ロシアの国営メディアは侵攻を「特別な軍事作戦」と呼び、決して戦争とは呼んでいない。そして放映するのは軍隊が建物を爆破する様子ではなく、救援物資を配給する姿だ。
公式の世論調査の発表によると、ロシア政府のプロパガンダはうまく根付いている。ウクライナへの「軍隊の派遣」に対する支持率は70%程度と高い水準にあるのだ。
この数字がどれだけ信頼できるものかは不明である。だが、『ニューヨーク・タイムズ』は高い支持率を裏付ける証拠として、ウクライナ人の親戚がいるロシア人でさえ「ロシア軍は軍事的なインフラを限定的に攻撃しているだけであって、民間人への被害を示す画像は偽物だ」と考えているという話を取り上げている。
ロシアの一般市民にウクライナの現実を
こうしたなか、ネット上ではある考えに関心が集まっている。ロシア人がウクライナで起きている本当のことを知れば、人々は立ち上がって戦争を主導しているウラジーミル・プーチン大統領を失脚させるかもしれない──。そこで人々は、マッチングアプリ「Tinder」や「Google マップ」のレビュー欄、さらにはロシアでFacebookがブロックされるまでは政府主導の投稿のコメント欄を通じてロシアの一般市民にメッセージを送り、この仮説を検証しようとしたのだ。
情報から隔離されたロシア人にインターネットを通じて働きかける方法は、ウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーが2月23日に投稿したロシア語で話す自撮り動画で示唆したものだった。「この戦争はウクライナの国民に自由をもたらすためのものと聞いているかもしれませんが、ウクライナの国民はすでに自由なのです」と、ゼレンスキーは語っている。
侵攻が始まった初期のころは、ハッカーの義勇軍がウクライナの防衛のために立ち上がった。いまではロシア政府がまだブロックしていないソーシャルメディアを使い、インターネットの一般ユーザーまでもが戦争で自分たちにできることを見出している。
先日はロシア国営通信社のイタルタス通信によるFacebookの投稿に対し、ある女性が「ロシアのみなさん、こんにちは」から始まるメーセージを書き込んでいた。「ロシア政府がすべての情報を統制しています。そこでドイツにいるわたしたちは、プーチン大統領の引き起こした恐ろしい戦争がウクライナで起きていることをお伝えしたいと思います」
「ロシア国内にいるロシア人に情報を届けることは、誰にとっても非常に難しいのです。ロシア政府は自国のメディアを厳しく統制していますから」と、ニューヨーク大学で誤情報について研究しているコンピューター科学者のローラ・エデルソンは指摘する。「ウクライナ政府にはナチスがたくさんいて戦争で残虐な行為をしている」といった共通の理解を、ロシア政府は効果的に醸成しているのだとエデルソンは指摘する。「そうした誤った物語を少しずつ崩していきたいものです」
マッチングアプリを通じた対話
こうした取り組みを、レネはTinderを通じてやろうとしているのだと説明する。Tinderはまだ欧米諸国とロシアがつながっている数少ないソーシャルメディアのひとつだ。レネはTinderで活動を始めるにあたり、ロシアに住む人々が戦争に対して「声を上げる」よう促す文章をロシア人の友人に翻訳してもらい、それをアプリのプロフィール画像に掲載した。これと同じ文章をTwitterに投稿したところ、同じことを試している人たちがほかにもいることに気付いたという。
ルクセンブルクに住む54歳のIT企業社員のイェンス・オスターローが、そのひとりだった。彼がTinderの位置情報をウラジオストクといったロシア東部の都市に変更したのは、3月3日のことである。10人ほどの女性とメッセージを交換し、ウクライナで起きていることについて知っているかと尋ねたという。
すると、6人ほどが「何が起きているかは知っているができることは何もない」と返信し、ほかの4人は「米国もイラクやアフガニスタンなどで戦争をしていた」と主張してきた。そんな話が出たときは、「米国の過去の過ちが、いまロシア人がウクライナ人を殺すことを正当化する理由になると本当に思いますか」と返しているのだと、オスターローは言う。たいていの場合、会話はそこで終わるのだという。
テック企業は、ロシアのプロパガンダに対抗する手段として自分たちのサービスが使われていることを懸念している。こうしたなかオスターローは、Tinderから永久追放されてしまった。ロシア人女性とのメッセージを始めてから、わずか4日後のことである。
そこでオスターローはTinderのカスタマーサポートに対し、ロシアに情報を伝えようとしただけで例外的な事情だった、と説明するメッセージを送った。オスターローの嘆願に回答はなく、『WIRED』US版もコメントを求めたが回答は得られていない。
投稿をブロックした「Google マップ」
ロシアのプロパガンダに対抗する試みを禁止したプラットフォームは、Tinderが初めてではない。
「Google マップでロシアの大都市にある適当な店やカフェ、レストランを見つけて、ウクライナで実際に起きていることをレビューに書こう」と、「@Konrad03249040」というハンドルネームのユーザーがTwitterに投稿したのは2月28日のことだ。このユーザーはその後、「わたしはハッカーではないが、わたしにできることをやる」ともツイートしている。
この投稿は、特に匿名のハッカー集団「アノニマス(Anonymous)」がシェアしたことで注目された。「あなたの国の政府はウクライナとの紛争について嘘をついている」と、「stop war」を名乗るユーザーがモスクワの「Grand Cafe Dr Jhivago」というレストランのコメント欄に書き込んでいる。「これは救援活動ではないし、そこにナチスなんていない!」
こうした事態に対してGoogle マップは、ウクライナ、ロシア、ベラルーシのサイトでの新しいレビューの投稿を一時的にブロックする対応をとった。「Google マップのレビュー機能はウクライナでの戦争について人々がコミュニケーションをとるために設計されたものではない」と、グーグルは説明している。また、このような使われ方では高品質な情報提供は保証できなくなる、とも指摘している。
捕虜や遺体の身元確認サイトも登場
こうした努力は突発的かつ小規模なもので、情報を伝えることで変化を起こそうと空からビラをまく方法のデジタル版と言えるだろう。それでもウクライナ政府のために動く人々は、ロシアで指折りの人気プラットフォームであるTelegramとYouTubeを活用してロシア人に情報を一斉に届けることで、ロシア政府のプロパガンダを崩そうとしている。
こうしたなか「200rf Look For Yours」と呼ばれるウェブサイトが立ち上がったのは、2月27日のことだった。その目的は、ロシア人が親しい人が戦争で捕虜になったり、死亡したりしていないか調べられるようにするものだという。ウェブサイトの名称は、1980年代に旧ソ連軍がアフガニスタンから兵士の死体を自国に送り戻していた輸送機のコードネーム「Cargo 200」にちなんでいる。
このサイトには、亡くなったり捕虜になったりしたロシア兵の写真が並び、YouTubeには捕虜となったロシア兵の録画映像が投稿・共有されている。登録者数は60,000人を超えるTelegramのチャンネルには、さらにむごたらしい写真を掲載している。
その残酷さは想像を絶するものだ。Telegramのチャンネルには死体の山や、あごの割れた男性が泥のなかに倒れて死んでいる様子が投稿されている。こうした画像を投稿する理由は、故郷に戻った遺体の身元を特定する鍵になる情報が含まれているかもしれないからだと、200rf Look For Yoursは説明している。
「多くのロシア人が、自分の子どもや息子、夫がどこにいて、どうしているのか心配しています。そこで、プーチンがウクライナでの戦いに送り込んだ愛する人をロシアの人たちが探せるように、オンラインで情報を掲載することにしたのです」と、ウクライナ内務省の顧問を務めるヴィクトル・アンドルシフは、200rf Look For Yoursのサイトに投稿した動画で語っている。アンドルシフがサイトを独自に立ち上げたのか、内務省の代わりに立ち上げたのかは定かではない。どちらにもコメントを求めたが、回答はなかった。
「ロシアの国民だけでなく、ロシア軍へのアピールにもなり、一石二鳥で実に効果的な戦略だと思います」と、ニューヨーク大学のエデルソンは言う。「こういうものを見ることは相手の軍の戦意を喪失させますし、故郷の両親や友人、家族が戦争への意欲を大きく下げることにもつながります」
とはいえ、このような戦術はロシアの人たちがほかの国々とインターネットとつながっている間のみ効果がある。確かにTinderやGoogle マップ、Telegram、YouTubeは、ロシア人とロシアのプロパガンダの影響を受けていない人々との橋渡し役になっているが、ロシアで展開されているプラットフォームの行く末は不透明だ。
ウクライナでの危機が始まってからロシアではFacebookがブロックされ、Twitterは一部で使えなくなった。TikTokもロシアからのライブ配信や動画のアップロードを一時的に停止すると発表している。こうした発表のたびにロシア人を取り巻くプロパガンダの壁は厚くなり、それを突き抜けようとする声がさらに届きづらくなるのだ。
●自発的だと信じてもらえなかった 生放送で反戦抗議のロシア人 3/18
ロシア国営テレビ「チャンネル1」の編集者、マリナ・オフシャニコワさんは14日夜、ニュース番組の生放送中、原稿を読むアナウンサーの後ろで、「戦争反対。戦争止めろ。プロパガンダを信じないで。ここの人たちは皆さんにうそをついている」と書かれたプラカードを掲げ、「戦争反対! 戦争を止めて!」と声を上げた。
この抗議行動の前に、オフシャニコワさんは動画メッセージを録画。ウクライナで起きていることは「犯罪」で、侵略者はロシア、責任はウラジーミル・プーチン大統領1人にあると発言していた。
オフシャニコワさんは放送後、直ちに逮捕され、ビデオメッセージについて罰金3万ルーブル(約3万3000円)を科せられた後、釈放された。
BBCのキャロライン・デイヴィス記者による単独インタビューに応じたオフシャニコワさんは、事情聴取した捜査員について、自分の抗議行動が自発的なものだと信じようとしなかったと話した。
「職場で何かもめごとがあったのかとか、ウクライナについて怒っている親類がいるんだろうとか、私が西側の特殊機関のためにやったんだろうとか」捜査員に繰り返し聞かれたと、オフシャニコワ氏さんは説明。「私があまりに政府に反対することだらけで、もう黙っていられないんだと、理解してもらえなかった」とした。
また、「(モスクワの)中央広場に行って抗議すれば、ほかの人たちと同じように逮捕されて警察車両に放り込まれて、裁判にかけられるのは分かっていた」ため、生放送中にプラカードを掲げることにしたと述べた。
オフシャニコワさんは、自分が「ロシアのプロパガンダ・マシーン」の歯車でいることを止める必要があったと話し、他のロシア人に「クレムリンのプロパガンダ」に抵抗するよう呼びかけた。
●ロシアがプロパガンダ拡散に安保理利用 理事国6か国 3/19
国連安全保障理事会(UN Security Council)理事国6か国は18日、ロシアが安保理を利用してウクライナ侵攻に関する偽情報やプロパガンダを広めていると非難した。
安保理はロシアの要請に基づき、ウクライナが生物兵器を開発しているという主張をめぐる緊急会合を開いた。この議題での会合は先週に続き2回目。
米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は同会合で、「ロシアは再び安保理を偽情報の出どころの隠蔽(いんぺい)、プロパガンダの拡散、ウクライナに対する不当で残忍な攻撃の正当化に利用しようとしている」とする共同声明を読み上げた。
共同声明には米国の他、常任理事国の英国、フランス、非常任理事国のノルウェー、アルバニア、アイルランドの6か国が名を連ねた。
●“20万人が大喝采”ロシア プロパガンダを徹底 3/20
ロシア国営テレビのトップニュースは。 ニュースキャスター「プーチン大統領が、クリミアの国民投票記念コンサートで演説しました」。4年前、サッカーワールドカップの決勝が行われたスタジアムに登場したプーチン大統領。プーチン大統領「クリミアとセバストポリの人々は、ネオナチの過激な民族主義者たちを食い止めてきました。今の(ウクライナ東部の)ドンバス地方も同じ状況です」。プーチン大統領は、2014年のクリミア併合を、今回のウクライナ侵攻とともに正当性を訴えました。プーチン大統領「ジェノサイドから人々を解放させることこそが、私たちが軍事作戦を始めた動機と目的です。私たちは今、仲間たちがいかに英雄的に戦ってるのかを目の当たりにしているのです」 また、大勢の市民が避難していたマリウポリの劇場が破壊されたことに関し、ノーヴァヤ・ガゼータ紙は攻撃を受ける前の写真を掲載しロシア国防省の「当時ロシア空軍は、マリウポリ市内の地上標的の攻撃を含む、軍事任務を一切行っていない」、とのコメントを紹介。また、ロシア国防省は19日、ロシア軍が住民へ支援活動を行う映像を公開しました。人々は一体何を信じたらいいのか。情報戦が続いています。
●紛争国での偽情報とプロパガンダに対抗するには 3/22
情報は強力な武器だ。デジタル技術の発展に伴い、真実を歪曲させることがかつてなく容易になった。真実が標的にされることはウクライナ戦争だけでなく、今日の紛争で多くなっている。錯綜する情報の背景にあるものとは?そして真実を取り戻す方法とは?平和構築の専門家に聞いた。
ロシアがウクライナの都市に初めてミサイルを打ち放った日の数週間前、クレムリンはウクライナ政府について一連の主張を行った。ロシア国営テレビは、ウクライナ軍がロシア国境沿いのドネツクとルハンスクの分離独立派支配地域で大量虐殺をしていると報道。ソーシャルメディアには、ウクライナを侵略国として描く目的で、犠牲者とされる人々を登場させたフェイク動画が投稿された。
侵攻が始まると、偽情報が洪水のように氾濫した。ロシア発祥のSNS「テレグラム」では、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が国外に脱出したという偽情報他のサイトへが親ロシア派のアカウントから拡散された。ロシア政府は侵攻開始から10日後、政府見解に従わないロシアの独立系メディアや外国人ジャーナリストを業務停止にする「フェイクニュース」法を打ち出した。
スイス平和財団スイスピースのデジタル専門家エマ・バウムホーファー氏は、「これは(真相が把握されることを)さまざまな角度から防ぎ、カオスと混乱のムードを生み出すための戦略だ」と言う。
プロパガンダは紛争国が民衆の心をつかみ、勝利するための手段として昔から戦争で用いられてきた。だがソーシャルメディアやインターネット、スマートフォンの普及を背景に、交戦国は情報を比較的容易に、迅速に、そして広範囲に「武器化」できるようになった。オンラインで拡散した偽情報はその後、オフラインでも広がる。すると、バウムホーファー氏が言うところの「複雑な情報環境」が強まり、真実と虚偽の区別が難しくなる。
ウクライナからアフリカまで、偽情報で危機が悪化
ウクライナもロシア同様、独自のプロパガンダ活動を通して情報戦争に参加している。例えばウクライナ当局は、ロシア兵の死者数は米情報機関の推定死者数やクレムリン発表の死者数をはるかに上回ると主張。捕虜とされる人々を報道陣の前に登場させたことさえある。
スイスのシンクタンク「フォラウス」のジュリア・ホーフシュテッター氏によれば、どの戦争でも当事者は成功を強調して軍の士気を上げようとする。
サイバー空間における紛争とデジタル平和構築を専門とする同氏は、「多くの紛争では、インターネット上の偽情報は自国民の支持を集め、敵を動揺させ、和平プロセスを崩壊させるために使われている」と語る。
情報戦争には、場合によっては民間人、非国家主体、さらには他国政府が参加することもある。ウクライナでは、ロシア兵捕虜とされる人物が映る真偽不明の動画を、一般市民がソーシャルメディアに投稿。有志のハッカーたちはロシアの「プロパガンダマシーン」にダメージを与えるために同国政府機関ウェブサイトや国営メディアを攻撃した。また、バウムホーファー氏によれば、米国はロシアが侵攻に先駆けて描いていたシナリオを崩す目的で独自の機密情報を公開した。
ウクライナ戦争では偽情報を巧みに発信しているロシアだが、国外の紛争に偽情報を使って介入したこともある。バウムホーファー氏は、ロシアは長年にわたり今回の戦争と同様の偽情報戦略を頻繁に用いてきたと指摘する。その例が中央アフリカ共和国のケースだ。同国では激しい選挙が行われた2020年後半以降、暴力が増加。米国平和研究所の研究者他のサイトへによれば、これは「ロシアとフランスが発信元とされるフェイクニュースやプロパガンダが拡散した時期と重なる」という。
紛争下の人々に信頼の置ける情報を届けることを目的にしたスイスのNGOヒロンデル財団のニコラ・ボワセ広報部長によると、ロシアは政府軍と非国家武装集団との戦闘がこの1年で激化した中央アフリカ共和国で、影響力の拡大を目指している。同氏はまた、緊迫した政治状況や治安情勢における偽情報の重要性が大きくなったと語る。
事実で反撃
偽情報が国内の人々に与える影響は「重大であり、安全保障の危機が深刻化し、平和構築に関わるアクターの活動がさらに弱まる」と、ヒロンデル財団は指摘する他のサイトへ。
ローザンヌに拠点を置く同NGOは、事実に基づくジャーナリズムは平和に貢献できるという理念のもと、危機的状況にある国々の独立系メディアの支援およびジャーナリストの育成を25年以上行ってきた。この団体が中央アフリカ共和国で行ってきた活動を見れば、偽情報に対抗するための手段の一部を知ることができる。
「活動の中核は、分かりやすい言葉で、できるだけ簡単に事実を伝え、説明することだ」とボワセ氏。「私たちは日常的な関心事に関係する情報に焦点を当てることで、信頼の絆を作っている」
ヒロンデル財団は2年前に、2000年設立のラジオ・ンデケ・ルカ(RNL)他のサイトへと共に偽情報に対抗するための取り組みを開始。その一環として、RNLにファクトチェックの放送枠を設けた。これは今や同国で最も人気のある情報発信源だ。できるだけ多くの人に伝えるため、ファクトチェッカーの報告内容はRNLやパートナー放送局、ウェブ、ソーシャルメディアで放送される。
事実確認はウクライナ戦争でも盛んに行われている。ジャーナリストや、英調査報道機関「ベリングキャット」などの市民団体は、侵攻開始以前からオープンソースのオンライン情報ツール(OSINT)を使って、ウクライナ側が攻撃を仕掛けたとする写真や動画がフェイクであることを暴き、侵攻を肯定するためのロシアの理屈に穴があることを示してきた。ゼレンスキー大統領もスマートフォンで撮影した動画を自ら投稿し、ロシアの主張に反論している。
しかし、ファクトチェックをしたり独立系メディアを支援したりすることだけが偽情報への対抗手段ではない。
バウムホーファー氏は「事実を示すだけでは、人々の心を変えることはできない」と述べる。「人々が偽情報を信じてしまう原因を元から断つ必要がある」
中央アフリカ共和国のケースでは、ヒロンデル財団はアーティストやミュージシャンなどのオピニオンリーダーに対し、「フェイクニュース」や偽情報の拡散防止について啓蒙するための公共イベントに出演するよう協力を求めている。
しかし、ホーフシュテッター氏もバウムホーファー氏も、とりわけ報道管制の影響下にある人々を支援するにはデジタルリテラシーの向上が必要だと考える。報道によれば、ツイッターとフェイスブックへのアクセスが遮断されているロシアでは、何十万人もの人々が仮想プライベートネットワーク(VPN)を使って他のニュースソースを探している。しかし、大抵の人はこうした選択肢があることも、それがどう機能するのかも知らないとバウムホーファー氏は指摘する。
テック企業に行動求める圧力
ただ、変革が最も望まれる分野はソーシャルメディアだ。フェイクニュースと検証済み情報の拡散に非常に大きな役割を果たしているからだ。
今回の戦争で特に警戒心を高めているのがプラットフォーマーだ。外国メディアから高い注目を浴びていることがその要因だとシンクタンク・フォラウスのホーフシュテッター氏は推測する。グーグル、ツイッター、メタ傘下のフェイスブックはロシアの侵攻開始後すぐ、欧州連合(EU)での放送が禁止された2つのロシア政府系メディア、ロシア・トゥデイとスプートニクをブロックした。ツイッターとフェイスブックはまた、偽情報を投稿したアカウントを利用規約違反で停止または削除した他のサイトへ。
しかし、こうした対応はテック企業がこれまで取ってきた態度から逸脱している。ホーフシュテッター氏によれば、これらの企業は大抵の紛争に関して、ヘイトスピーチや偽情報の拡散を防ぐための対策を十分にはしてこなかった。大きなターゲット市場ではない国の、現地言語で制作されたコンテンツを監視するためにリソースを投資することには消極的だったためだ。
巨大テック企業が偽情報に十分に対応しなかったことで、暴力が起き、死者が出るという最悪のケースも発生している。ある独立調査報告書他のサイトへによると、フェイスブックが17年にミャンマーのロヒンギャ族に対するヘイトスピーチの拡散を野放しにしたことで、ロヒンギャ族への暴力を「可能にする環境」が作り出されたという。
「プラットフォームは、その成り立ちからして紛争を助長するものだ」とバウムホーファー氏は言う。「悪意のある行動や怒りの投稿が最も注目を集めてしまうため、プラットフォームではこうした言動が助長されがちだ」
平和構築に従事する人たちがプラットフォームと連携すれば、プラットフォームは「より平和な議論の場」になると同氏は考える。例えばプラットフォームには分裂したコミュニティーを仲介し、共通点を見出してきた経験がある。そうした経験を生かせば、プラットフォームはユーザー間の対立を助長する場ではなく、共通点を強調する場へと抜本的に変化できると同氏は言う。
つまり、あらゆる紛争において、テック企業にさらなる行動を求めて圧力をかけていくのが重要ということだ。紛争時に偽情報が問題となったのはウクライナ戦争が初めてというわけではない。
「どの紛争にも新たなシナリオがある」とバウムホーファー氏は言う。「だが、そのためにもっと備えることはできるはずだ」
●ロシアTV、特派員も辞職 「プロパガンダと知って」 3/23
ロシアの政府系テレビ「第1チャンネル」で欧州特派員を務めたジャンナ・アガラコワさんが22日、駐在していたパリで記者会見し、プーチン政権のプロパガンダを非難した。ロシアのウクライナ侵攻を受けて辞職し、公の場に初めて姿を見せて涙ながらに語った。
国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」が設けた会見で「ロシア国民には私の声を聞いて、プロパガンダが何かを知ってほしい」と訴えた。自身の記者人生は「妥協の連続」だったが、ウクライナ侵攻で「一線」を越えたと心境を明らかにした。
●分断するロシア社会 プロパガンダにあらがう反戦派 3/23
ロシアによるウクライナ侵攻開始から24日で1カ月。ロシア国内ではプーチン政権が「ウクライナのゼレンスキー政権こそが悪」というプロパガンダによる引き締めを強めている。全体主義的なムードが国を覆う一方で、政権に対する国民の疑念がおりのようにたまり、始まった分断が社会の重しとなり始めた。
関西の大学にモスクワから留学しているロシア人男性は最近、「実家にテレビ電話するのが憂鬱になった」という。話題がウクライナ情勢になり、ロシア軍の無差別攻撃ぶりなどを伝えても「そんなことはない」「聞きたくない」という反応だからだ。
同じような現象は国内のロシア人同士でも起きている。家族や親戚、友人、近隣住民らの間で話がかみ合わなくなるケースが増え、社会の分断が浮き彫りになってきた。
ロシア主要紙イズベスチヤ電子版は17日に「ロシア軍、(激戦地の)マリウポリのウクライナ人4万3000人を避難支援。民族主義者、ウクライナ民間人を殺害」と伝えた。
ロシアの主要メディアはウクライナのゼレンスキー政権が「ネオナチと化し、反ロシア的行為を繰り返す」と、糾弾する内容を報じる。
「打倒ナチズム」は、一定の年齢以上のロシア人にとって、こころに刺さる言葉だ。第2次世界大戦でナチスドイツと戦い、多くの犠牲者を出して勝利したからだ。
高められた愛国心
愛国心の盛り上げ方はまさに戦時中だ。
「ロシア!ロシア!」。18日、モスクワ市内のスタジアムでクリミア半島編入8周年の記念コンサートが開かれた。愛国的な歌手が勢ぞろいし、そのもようは国営テレビでも放映された。場外を含めると約19万人が動員されたという。
プーチン大統領が登場すると、いくつものロシア国旗が振られ、熱狂は最高潮に達した。プーチン氏が「ロシア部隊は英雄的に戦っている」と称賛すると、万雷の拍手が湧き起こった。前線で戦う軍を鼓舞し、国民の団結を高めようという意図は明らかだ。
広がったシンボルマークの「Z」
軍を支援するシンボルマーク「Z」は、いつの間にか定着した。もともとウクライナ侵攻に参加したロシア軍の戦車などに目印で書かれた文字とされるが、いまでは国のいたるところで目につくようになった。
ロシアの独立系調査機関レバダセンターによると、プーチン氏の支持率は今年2月時点で71%で上昇傾向にある。全体主義的な傾向が強まっているのは間違いない。
そうなるのは仕方ないのかもしれない。独立系メディアは徹底的に弾圧されている。3月4日の法改正で独自取材による戦争報道は事実上できなくなった。全国規模のラジオ局「モスクワのこだま」は放送をやめ、ネットメディアの多くも閲覧不能になった。インスタグラムが閲覧できなくなるなど使えるSNSも少なくなっている。
国営テレビの社員、オフシャンニコワさんが14日夜のニュース番組中に「プロパガンダを信じないで。あなたはだまされている」などと書いた紙を掲げたように、大半のロシア国民にとって知りうる情報はプロパガンダしかないのだ。あるいは、ロシアが悪いと認めたくないため、意識的に事実を知ろうとしない人も高齢者を中心に多いようだ。
社会に芽生える疑心暗鬼
一方で、事実を知ろうとする人も多い。VPN(仮想私設網)を設定すれば、独立系メディアや海外メディアにアクセスすることは可能だ。冒頭のロシア人留学生によると、モスクワにいる同級生はほとんどがそうしているという。
いまのところ、表だった反戦派は少数派にとどまるが、社会の中にプーチン政権に対する疑心暗鬼が芽生えている。
象徴的なのが16日の政府会議でのプーチン氏の発言だ。
「ロシア人はクズどもと裏切り者を愛国者と見分け、誤って口に入ってきたブヨのように彼らを吐き出すことができる」。反対勢力を脅迫するかのようなこの言葉は、恐怖政治を敷き、一般市民まで粛清の対象にしたスターリン時代を思い起こさせるのに十分だ。
無意味な戦いを強いて、国民を疲弊させているという意味では、汎スラブ主義のもと第1次世界大戦に参戦した1910年代の雰囲気になぞられる向きもある。
プーチン氏が恐れる「声」
そんななか、全体主義的体制にもほころびが見え始めた。
政府系財団代表ドボルコビッチ元副首相は米メディアに「戦争は最悪だ」と発言し、18日に辞表を提出。エリツィン政権の時代に外相を務め、今は海外に住むコズイレフ氏はツイッターでロシアの外交官に対し「あなた方はプロであり、安っぽいプロパガンダの工作員ではない」とし、全員辞任するよう呼びかけた。
彼らの声はこれから広がっていくのか――。侵攻作戦が長期戦の様相を見せ始め、西側の制裁が強まるなか、プーチン氏がもっとも恐れるのはこの点に違いない。
●「ロシアのプロパガンダは20年以上前からだ」 プーチン政権を辛辣批判 3/27
2月24日に始まったロシアのウクライナへの軍事侵攻は、1か月が経過したいまも収束の気配は見えない。その間にも、ウクライナで多くの民間人が犠牲になっている。
そんななか、元ウクライナ代表の英雄セルゲイ・レブロフがロシア政権について非難した。母国メディア『SPORT』などが伝えている。
現役最後のクラブがロシアのルビン・カザンだったストライカーは、「残念ながら、ロシアは何も変わっていない。プロパガンダは20年以上続いている。ロシア人は、これで快適だと思っている。冷蔵庫やテレビがあれば、大多数のロシア人は十分なんだ」と語っている。
「進歩させたい、発展させたいと思っているロシア人はたくさんいるが、彼らはそうすることを許されない。だから、そうしたロシア人の大部分は国を去るんだ」
現役時代はウクライナ代表やディナモ・キエフでアンドリ―・シェフチェンコと2トップを組んで活躍した47歳は、「ロシアでも、これからも同じだと思う。彼らは自分たちが持っているものに満足しており、それを失うことを恐れている。自分の立場を表現しようとする人々は、力でねじ伏せられる」とコメント。ウラジミール・プーチン政権を批判している。
「私は今、この戦争の現状について。本当に真実を語っている人々の記事をよく見かける。(ロシア人ミュージシャンの)アンドレイ・マカレビッチに完全に同意する。彼はロシア人にこう言った。『これが単なる軍事作戦だと言うなら、なぜあなたの耳と口はシャットアウトされているのか?あなた自身が考えなければならない』と」
現在、UAEのアル・アインで監督を務めるレブロフは、シーズンが終わり次第、ウクライナに戻って、祖国の防衛に参加したいとの意思を表明している。
●露、ウクライナ住民を大量連れ去りか プロパガンダに利用も 3/28
ロシア軍の激しい攻撃にさらされるウクライナ東部から、大量の住民が露側に連れ去られているとの懸念が強まっている。逃げ場を失った住民が露軍兵士により移動を促されている実態も浮かび上がる。ロシアの国営メディアは住民を保護≠オているとの主張を展開。露側は住民の帰還を停戦交渉で有利な条件を引き出すカードに利用する思惑だとも指摘されている。
露軍が包囲を続けるウクライナ東部マリウポリの市議会は24日、露側に住民約1万5000人が連れ去られたと主張した。東部のスタニツァルガンスカヤやボルノバハからも連れ去りがあったとされ、ウクライナ政府は全土で約4万人が連行されたと主張している。マリウポリ市住民は英BBC放送に対し、露軍兵士に市からの退去を求められ、親露派武装勢力の支配地域に連れていかれたと証言した。
住民は同地域にとどまるか、露国内に移動するかを決めるよう要求されたという。住民らは食べ物や水も枯渇するなど厳しい状況に置かれ、兵士の要求を拒否することは事実上不可能だったとみられる。
ウクライナ外務省は24日に声明を発表し、マリウポリで連れ去られた1万5000人のうち6000人は露軍により「選別収容所」に送られたと非難した。ウクライナ側によれば、住民らは選別収容所で電話の交信記録や対面での調査を受ける。ロシア連邦保安局(FSB)がウクライナ軍関係者などと照合するためのリストも用意しているという。
住民らはその後各地に送られ、雇用を提供される一方で2年間は出国を禁じられる。行き先にはサハリンなど経済的に立ち遅れた極東も含まれているという。
一方、ロシア側ではこうした行為は美談≠ニして伝えられている。政府系の国営ロシア通信は20日、モスクワ北方のヤロスラブリにマリウポリから避難民480人が到着し、地域の保養施設に宿泊するなどと報道。避難民らは「もう地獄(マリウポリ)には住めない」「ロシアに住むことが夢だ」と語ったとした。
日本在住のウクライナ人政治学者、グレンコ・アンドリー氏はロシアがマリウポリ市民らを露側に連れ去った狙いについて「住民らにカネを渡すなどして懐柔し、ロシア国内向けのプロパガンダ(政治宣伝)に利用する」ためと指摘した。
グレンコ氏は露側が停戦交渉を優位に進めるため住民の帰国を交渉の「カード」に利用する可能性があるとも分析する。ロシアはウクライナ東部支配に注力しており、さらに多くの住民が露側に引き入れられる事態も懸念される。
●英国、制裁を露プロパガンダ関係者や軍人に拡大 3/31
英国政府は31日、ロシアに対して、ウクライナへの侵略継続を受けて、新たな制裁を発動した。
英国政府広報室が公表した。発表によれば、今回の追加制裁はロシアのプロパガンダテレビの関係者とロシア軍人の計14人が対象となっている。
プロパガンダメディア関係者からは、アレクサンドル・ジャロフ・ガスプロムメディア総裁、アレクセイ・ニコロフ・ロシアトゥデイ総裁、アントン・アンシモフ・スプートニク代表が制裁対象となった。
また、マリウポリの包囲を指揮しているとして非難されているロシア軍のミハイル・ミジンツェフ上級大将も大将となった。 
 
 
 
 
●「アインシュタインの手紙」  
ロシアのウクライナ侵攻には、多くの人が衝撃を受けた。なぜ、この21世紀に侵略戦争をする必要があるのか。戦争は止められなかったのか。その後も現地から届くニュースによって、わたしたちは戦争の悲惨さを目の当たりにしている。1932年、ナチスの台頭するドイツで書かれ、その後は戦禍の中に埋もれた、世界的な物理学者アインシュタインと、精神分析の大家フロイトとの幻の往復書簡がある。「戦争を避けるにはどうすればよいか」を考え続けていたアインシュタインは、政治のみで戦争の問題を解決することは難しいと感じ、「人間の衝動に関する深い知識」をもつフロイトに、この問題について手紙で尋ねることにした。そのやりとりが、この幻の往復書簡である。
●なぜロシアは戦争を始めたのか? 「アインシュタインの手紙」が示唆するもの 
人間を戦争から解き放てるか?
一九三二年七月三〇日 ポツダム近郊、カプートにて
フロイト様
あなたに手紙を差し上げ、私の選んだ大切な問題について議論できるのを、たいへん嬉しく思います。国際連盟の国際知的協力機関から提案があり、誰でも好きな方を選び、いまの文明でもっとも大切と思える問いについて意見を交換できることになりました。このようなまたとない機会に恵まれ、嬉しいかぎりです。
「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」
これが私の選んだテーマです。
技術が大きく進歩し、戦争は私たち文明人の運命を決する問題となりました。このことは、いまでは知らない人がいません。問題を解決するために真剣な努力も傾けられています。ですが、いまだ解決策が見つかっていません。何とも驚くべきことです。
私の見るところ、専門家として戦争の問題に関わっている人すら自分たちの力で問題を解決できず、助けを求めているようです。彼らは心から望んでいるのです。学問に深く精通した人、人間の生活に通じている人から意見を聴きたい、と。
私自身は物理学者ですので、人間の感情や人間の想いの深みを覗くことには長けておりません。したがってこの手紙においても、問題をはっきりとした形で提出し、解決のための下準備を整えることしかできません。それ以上のことはあなたにお任せしようと思います。人間の衝動に関する深い知識で、問題に新たな光をあてていただきたいと考えております。
なるほど、心理学に通じていない人でも、人間の心の中にこそ、戦争の問題の解決を阻むさまざまな障害があることは感じ取っています。が、その障害がどのように絡み合い、どのような方向に動いていくのかを捉えることはできません。あなたなら、この障害を取り除く方法を示唆できるのではないでしょうか。政治では手が届かない方法、人の心への教育という方法でアプローチすることもできるのではないでしょうか。
ナショナリズムに縁がない私のような人間から見れば、戦争の問題を解決する外的な枠組を整えるのは易しいように思えてしまいます。すべての国家が一致協力して、一つの機関を創りあげればよいのです。この機関に国家間の問題についての立法と司法の権限を与え、国際的な紛争が生じたときには、この機関に解決を委ねるのです。
個々の国に対しては、この機関の定めた法を守るように義務づけるのです。もし国と国のあいだに紛争が起きたときには、どんな争いであっても、必ずこの機関に解決を任せ、その決定に全面的にしたがうようにするのです。そして、この決定を実行に移すのに必要な措置を講ずるようにするのです。
ところが、ここですぐに最初の壁に突き当たります。
裁判というものは人間が創りあげたものです。とすれば、周囲のものからもろもろの影響や圧力を受けざるを得ません。何かの決定を下しても、その決定を実際に押し通す力が備わっていなければ、法以外のものから大きな影響を受けてしまうのです。私たちは忘れないようにしなければなりません。法や権利と権力とは分かち難く結びついているのです! 司法機関には権力が必要なのです。
権力――高く掲げる理想に敬意を払うように強いる力――、それを手にいれなければ、司法機関は自らの役割を果たせません。司法機関というものは社会や共同体の名で判決を下しながら、正義を理想的な形で実現しようとしているのです。共同体に権力がなければ、その正義を実現できるはずがないのです。
けれども現状では、このような国際的な機関を設立するのは困難です。判決に絶対的な権威があり、自らの決定を力尽くで押し通せる国際的な機関、その実現はまだまだおぼつかないものです。
そうだとしても、ここで一つのことが確認できます。
国際的な平和を実現しようとすれば、各国が主権の一部を完全に放棄し、自らの活動に一定の枠をはめなければならない。
他の方法では、国際的な平和は望めないのではないでしょうか。
人間の心には、平和への努力に抗う力が働いている
さて、数世紀ものあいだ、国際平和を実現するために、数多くの人が真剣な努力を傾けてきました。しかし、その真撃な努力にもかかわらず、いまだに平和が訪れていません。とすれば、こう考えざるを得ません。
人間の心自体に問題があるのだ。人間の心のなかに、平和への努力に抗う種々の力が働いているのだ。
そうした悪しき力のなかには、誰もが知っているものもあります。
第一に、権力欲。いつの時代でも、国家の指導的な地位にいる者たちは、自分たちの権限が制限されることに強く反対します。
それだけではありません。この権力欲を後押しするグループがいるのです。金銭的な利益を追求し、その活動を押し進めるために、権力にすり寄るグループです。戦争の折に武器を売り、大きな利益を得ようとする人たちが、その典型的な例でしょう。
彼らは、戦争を自分たちに都合のよいチャンスとしか見ません。個人的な利益を増大させ、自分の力を増大させる絶好機としか見ないのです。社会的な配慮に欠け、どんなものを前にしても平然と自分の利益を追求しようとします。数は多くありませんが、強固な意志をもった人たちです。
このようなことがわかっても、それだけで戦争の問題を解き明かせるわけではありません。問題の糸口をつかんだにすぎず、新たな問題が浮かび上がってきます。
なぜ少数の人たちがおびただしい数の国民を動かし、彼らを自分たちの欲望の道具にすることができるのか? 戦争が起きれば一般の国民は苦しむだけなのに、なぜ彼らは少数の人間の欲望に手を貸すような真似をするのか? 
(私は職業軍人たちも「一般の国民」の中に数え入れたいと思っています。軍人たちは国民の大切きわまりないものを守るために必死に戦っているのです。考えてみれば、攻撃が大切なものを守る最善の手段になることもあり得るのです)
即座に思い浮かぶ答えはこうでしょう。少数の権力者たちが学校やマスコミ、そして宗教的な組織すら手中に収め、その力を駆使することで大多数の国民の心を思うがままに操っている! 
しかし、こう答えたところで、すべてが明らかになるわけではありません。すぐに新たな問題が突きつけられます。
「憎悪と破壊」という心の病
国民の多くが学校やマスコミの手で煽り立てられ、自分の身を犠牲にしていく――このようなことがどうして起こり得るのだろうか? 
答えは一つしか考えられません。人間には本能的な欲求が潜んでいる。憎悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求が! 
破壊への衝動は通常のときには心の奥深くに眠っています。特別な事件が起きたときにだけ、表に顔を出すのです。とはいえ、この衝動を呼び覚ますのはそれほど難しくはないと思われます。多くの人が破壊への衝動にたやすく身を委ねてしまうのではないでしょうか。
これこそ、戦争にまつわる複雑な問題の根底に潜む問題です。この問題が重要なのです。人間の衝動に精通している専門家の手を借り、問題を解き明かさねばならないのです。
ここで最後の問いが投げかけられることになります。
人間の心を特定の方向に導き、憎悪と破壊という心の病に冒されないようにすることはできるのか? 
この点についてご注意申し上げておきたいことがあります。私は何も、いわゆる「教養のない人」の心を導けばそれでよいと主張しているのではありません。私の経験に照らしてみると、「教養のない人」よりも「知識人」と言われる人たちのほうが、暗示にかかりやすいと言えます。
「知識人」こそ、大衆操作による暗示にかかり、致命的な行動に走りやすいのです。なぜでしょうか? 彼らは現実を、生の現実を、自分の目と自分の耳で捉えないからです。紙の上の文字、それを頼りに複雑に練り上げられた現実を安直に捉えようとするのです。
国際紛争こそ、人間の攻撃性が露骨な形であらわれる
最後にもう一言、つけくわえます。
ここまで私は国家と国家の戦争、すなわち国際紛争についてだけ言及してきました。もちろん、人間の攻撃性はさまざまなところで、さまざまな姿であらわれるのを十分承知しております。例えば、内戦という形でも攻撃性があらわれるでしょう。事実、かつてはたくさんの宗教的な紛争がありました。現在でも、いろいろな社会的原因から数多くの内戦が勃発しています。また、少数民族が迫害されるときもあります。
しかし、私はあえて国家間の戦争をこの手紙で主題といたしました。国家と国家の争い、残酷きわまりない争い、人間と人間の争いがもっとも露骨な形であらわれる争い――この問題に取り組むのが、一番の近道だと思ったのです。戦争を避けるにはどうすればよいのかを見いだすために! 
あなたがいろいろな著作のなかで、この焦眉の問題に対してさまざまな答え(直接的な答えや間接的な答え)を呈示なさっているのは、十分知っております。しかしながら、あなたの最新の知見に照らして、世界の平和という問題に、あらためて集中的に取り組んでいただければ、これほど有り難いことはありません。あなたの言葉がきっかけになり、新しい実り豊かな行動が起こるに違いないのですから。
心からの友愛の念を込めて   アルバート・アインシュタイン 
●「戦争を避けるにはどうすればよいのか」アインシュタインに対するフロイトの答え 
アインシュタインの疑問
1932年、アインシュタインは国際連盟からの提案で、「誰でも好きな方を選び、いまの文明でもっとも大切と思える問いについて意見を交換」することになった。彼は、精神分析の創始者フロイトに手紙を書くことにした。テーマは、「戦争を避けるにはどうすればよいのか」。
フロイトが選ばれたのは、「専門家として戦争の問題に関わっている人すら自分たちの力で問題を解決でき」ないからだ。アインシュタインは手紙でこう書いている。「私自身は物理学者ですので、人間の感情や人間の想いの深みを覗くことには長けておりません」。「人間の衝動に精通している専門家の手を借り、問題を解き明か」したいのだ、と。
アインシュタインによれば、「人間の心のなかに、平和への努力に抗う種々の力が働いている」。その1つは権力欲だという。
」いつの時代でも、国家の指導的な地位にいる者たちは、自分たちの権限が制限されることに強く反対します。それだけではありません。この権力欲を後押しするグループがいるのです。金銭的な利益を追求し、その活動を押し進めるために、権力にすり寄るグループです。戦争の折に武器を売り、大きな利益を得ようとする人たちが、その典型的な例でしょう。彼らは、戦争を自分たちに都合のよいチャンスとしか見ません。個人的な利益を増大させ、自分の力を増大させる絶好機としか見ないのです。社会的な配慮に欠け、どんなものを前にしても平然と自分の利益を追求しようとします。数は多くありませんが、強固な意志をもった人たちです。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
それなら、少数の「指導的な地位にいる者たち」と、その「権力にすり寄るグループ」の権力欲だけが問題なのだろうか。アインシュタインは、戦争の問題を解き明かすには、他にも考えなければならないことがあるという。
「なぜ少数の人たちがおびただしい数の国民を動かし、彼らを自分たちの欲望の道具にすることができるのか? 戦争が起きれば一般の国民は苦しむだけなのに、なぜ彼らは少数の人間の欲望に手を貸すような真似をするのか? 即座に思い浮かぶ答えはこうでしょう。国民の多くが学校やマスコミの手で煽り立てられ、自分の身を犠牲にしていく――このようなことがどうして起こり得るのだろうか? 答えは一つしか考えられません。人間には本能的な欲求が潜んでいる。憎悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求が!」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
アインシュタインによれば、「破壊への衝動」は、通常時には心の奥深くに眠っている。しかし、特別な事件が起きたときには、表に顔を出すという。とはいえ、この衝動を呼び覚ますのはそれほど難しくはない。歴史的に見ても、多くの人は、破壊への衝動にたやすく身を委ねてしまうのだ。
人の心から衝動を引き剥がせるか?
このように話を進めてきたうえで、アインシュタインは、この手紙の中心となる究極的な問いをフロイトに投げかける。これこそ、彼が心理学の大家フロイトに聞きたかったことだろう。
「人間の心を特定の方向に導き、憎悪と破壊という心の病に冒されないようにすることはできるのか?」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
アインシュタインは、どうにかして、憎しみや破壊への衝動に突き動かされてしまう人々の心を、戦争から引き剝がしたかったのだ。ただし、この質問には、2つの補足がある。1つめは「知識人」についてだ。
「私の経験に照らしてみると、「教養のない人」よりも「知識人」と言われる人たちのほうが、暗示にかかりやすいと言えます。「知識人」こそ、大衆操作による暗示にかかり、致命的な行動に走りやすいのです。なぜでしょうか? 彼らは現実を、生の現実を、自分の目と自分の耳で捉えないからです。紙の上の文字、それを頼りに複雑に練り上げられた現実を安直に捉えようとするのです。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
これは、ネットで情報が氾濫する現代では、「知識人」に限られないことかもしれない。そして、2つめの補足は、この手紙の主題が「国家間の戦争」であるということだ。
「もちろん、人間の攻撃性はさまざまなところで、さまざまな姿であらわれるのを十分承知しております。例えば、内戦という形でも攻撃性があらわれるでしょう。事実、かつてはたくさんの宗教的な紛争がありました。現在でも、いろいろな社会的原因から数多くの内戦が勃発しています。また、少数民族が迫害されるときもあります。しかし、私はあえて国家間の戦争をこの手紙で主題といたしました。……この問題に取り組むのが、一番の近道だと思ったのです。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
国家間の戦争については、それまでにもグロティウスの『戦争と平和の法』をはじめとする多くの蓄積があった(ちなみに、国家間に限らない現代の国際紛争については『国際紛争を読み解く五つの視座』を参照)。しかし、アインシュタインは、戦争を避けるために、「政治では手が届かない方法、人の心への教育という方法でアプローチすること」を考え、フロイトに尋ねたのだった。
人間にとって、根源的なものは暴力である!?
さて、フロイトは、この手紙に対してどのように応えたのだろうか。ここでは、そのさわりの部分を紹介しよう。フロイトは当初、アインシュタインの手紙を受け取って驚いたものの、自分の知るかぎり、推測できるかぎりで、戦争を防ぐにはどうすればよいかを述べようとしている。
「権利と権力の関係からあなたは議論をはじめました。私もここから考察をはじめるのがよいと思います。ですが、私としては「権力」という言葉ではなく、「暴力」というもっとむき出しで厳しい言葉を使いたいと考えます。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
アインシュタインの問題意識に別の側面から光を当てるように、フロイトは正当にも、暴力の歴史から考察を始めている。
「権利(法)と暴力、いまの人たちなら、この二つは正反対のもの、対立するものと見なすのではないでしょうか。けれども、権利と暴力は密接に結びついているのです。権利(法)からはすぐに暴力が出てきて、暴力からはすぐに権利(法)が出てくるのです。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
人類の歴史を見れば、人間にとって暴力がどれほど根源的なものであるかがわかる。こうしてフロイトは、人間の攻撃性を完全に取り除くことはできそうもないという結論を出す。それなら、どうすれば戦争を避けることができるのだろうか。
そこで彼が取り上げるのが、精神分析の欲動理論だ。
人間の欲動には2種類あるという。1つは、保持し統一しようとする欲動。もう1つは、破壊し殺害しようとする欲動だ。「人間がすぐに戦火を交えてしまうのが破壊欲動のなせる業(わざ)だとしたら、その反対の欲動、つまりエロスを呼び覚ませばよい」というのだ。 
●「人はなぜ戦争をするのか」アインシュタインとフロイトが話し合った「壮大な問題」
アインシュタインがフロイトに手紙を書く
——1932年7月、ナチスが勢力を拡げつつあるドイツで、アインシュタインは手紙を書いた。すでに一般相対性理論を発表し、ノーベル物理学賞を受賞していた彼は、国際連盟の国際知的協力機関からある提案をされたのだ。「誰でも好きな方を選び、いまの文明でもっとも大切と思える問いについて意見を交換」してほしい。
そして、「世界最高の天才」と呼ばれたアインシュタイン(当時53歳)が選んだ相手は、同じくユダヤ人で、精神分析の大家フロイト(当時76歳)だった。アインシュタインの手紙の冒頭には、こう書かれている。
「 「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」 これが私の選んだテーマです。技術が大きく進歩し、戦争は私たち文明人の運命を決する問題となりました。このことは、いまでは知らない人がいません。問題を解決するために真剣な努力も傾けられています。ですが、いまだ解決策が見つかっていません。何とも驚くべきことです。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
アインシュタインはなぜ、このようなテーマを選んだのか。もちろん、アインシュタインはこの問題の解決が簡単ではないことを知っている。それまでにも、彼は第一次世界大戦以降、公的に平和運動にかかわっていた。
だから、彼が戦争をテーマにしたのは、決して思いつきではない。ナチスが台頭する時代に、「ナショナリズムに縁がない」ユダヤ人であった彼にとって、戦争は重要な問題だった。以前から平和について考え、自ら行動してきたからこそ、彼はこの手紙を書いたのだ。
「私の見るところ、専門家として戦争の問題に関わっている人すら自分たちの力で問題を解決できず、助けを求めているようです。彼らは心から望んでいるのです。学問に深く精通した人、人間の生活に通じている人から意見を聴きたい、と。私自身は物理学者ですので、人間の感情や人間の想いの深みを覗くことには長けておりません。したがってこの手紙においても、問題をはっきりとした形で提出し、解決のための下準備を整えることしかできません。それ以上のことはあなたにお任せしようと思います。人間の衝動に関する深い知識で、問題に新たな光をあてていただきたいと考えております。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
この手紙を、フロイトはどう受け取ったのだろうか?
手紙を受け取ったフロイト
アインシュタインのこの手紙に、フロイトは「本当に驚きました」として、このテーマは自分にもアインシュタインにも手に余る問題なのではないかと率直に答えている。
「私は当初、こんなふうに思っていました。今日の知のフロンティアにあるような問題を、あなたは選ぶのではないか。そして私たちは物理学者と心理学者という別々の立場から問題にアプローチしていけばよいのではないか。それでも、最後には共通の土台にたどり着けるのではないか。ですから、あなたが取り上げたテーマを聞いたとき、驚きを禁じ得ませんでした。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
しかし、フロイトは思い直す。「(アインシュタインは)自然科学者や物理学者として問題を提起したのではない。人間を深く愛する一人の人間として、国際連盟の呼びかけに応え、この問題を投げかけたのだ、と」。フロイトは、自分の知るかぎり、推測できるかぎり、これに応えようとする。
アインシュタインの質問の前提
では、アインシュタインはどのように考えてこうした質問をしたのか。アインシュタインの手紙の内容を確認しよう。現在からすれば無茶ぶりともとれるようなものだが、当時の心理学の大家に、アインシュタインがどれほど大きな期待をしていたのかが伝わってくる。
「なるほど、心理学に通じていない人でも、人間の心の中にこそ、戦争の問題の解決を阻むさまざまな障害があることは感じ取っています。が、その障害がどのように絡み合い、どのような方向に動いていくのかを捉えることはできません。あなたなら、この障害を取り除く方法を示唆できるのではないでしょうか。政治では手が届かない方法、人の心への教育という方法でアプローチすることもできるのではないでしょうか。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
戦争を避けるためには、「政治では手が届かない方法」が必要だと、アインシュタインは考えていたようだ。このようなアインシュタインの考え方は、当時も広く共有されていたと思われる。
当時も広く共有されていた考え方とは、以下のようなものだ。
「ナショナリズムに縁がない私のような人間から見れば、戦争の問題を解決する外的な枠組を整えるのは易しいように思えてしまいます。すべての国家が一致協力して、一つの機関を創りあげればよいのです。この機関に国家間の問題についての立法と司法の権限を与え、国際的な紛争が生じたときには、この機関に解決を委ねるのです。個々の国に対しては、この機関の定めた法を守るように義務づけるのです。もし国と国のあいだに紛争が起きたときには、どんな争いであっても、必ずこの機関に解決を任せ、その決定に全面的にしたがうようにするのです。そして、この決定を実行に移すのに必要な措置を講ずるようにするのです。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
現代に生きるわたしたちも、こうした国際機関がこれまで歴史的に実現できなかったことを知っている。アインシュタインは続けてこう言う。
「ところが、ここですぐに最初の壁に突き当たります。裁判というものは人間が創りあげたものです。とすれば、周囲のものからもろもろの影響や圧力を受けざるを得ません。何かの決定を下しても、その決定を実際に押し通す力が備わっていなければ、法以外のものから大きな影響を受けてしまうのです。私たちは忘れないようにしなければなりません。法や権利と権力とは分かち難く結びついているのです! 司法機関には権力が必要なのです。権力――高く掲げる理想に敬意を払うように強いる力、それを手にいれなければ、司法機関は自らの役割を果たせません。司法機関というものは社会や共同体の名で判決を下しながら、正義を理想的な形で実現しようとしているのです。共同体に権力がなければ、その正義を実現できるはずがないのです。けれども現状では、このような国際的な機関を設立するのは困難です。判決に絶対的な権威があり、自らの決定を力尽くで押し通せる国際的な機関、その実現はまだまだおぼつかないものです。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
「国際連盟」と「国際連合」は、こうした国際的な機関になることを目指したものだ(ちなみに、これらの理念を策定する際に参考にされたといわれているのが、カントの『永遠の平和のために』だ)。アインシュタインは続けてこう言う。
「数世紀ものあいだ、国際平和を実現するために、数多くの人が真剣な努力を傾けてきました。しかし、その真撃な努力にもかかわらず、いまだに平和が訪れていません。とすれば、こう考えざるを得ません。人間の心自体に問題があるのだ。人間の心のなかに、平和への努力に抗う種々の力が働いているのだ。」 『ひとはなぜ戦争をするのか』より
アインシュタインが、さまざまなテーマのなかから戦争を選び、世界の平和のためにフロイトに取り組んでほしいと、手紙で問いかけた背景には、こうした期待があった。そして、これに対するフロイトの回答は、「死の欲動」に関するものだった。