プーチンの新冷戦

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第三次世界大戦  プーチン大統領の「夢」  戦争終結の道  ウクライナ分断  孤立するロシア ・・・  どこへ行くプーチン大統領  プーチン大統領の冬支度   
 
 

 

●アメリカを名指し「安全保障上の主要リスク」ロシア新外交政策方針 4/1
ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻で対立を深めるアメリカを名指しして「安全保障上の主要なリスク」とする新たな外交政策の基本方針を承認しました。
ロシア プーチン大統領「非友好国に対し、わが国への敵対政策を放棄するよう特別な注意を払う」
プーチン大統領は、きのう安全保障会議を開催し、新たな外交政策の基本方針について「ロシアの主権を強化し、より公正で多極的な世界秩序の構築に努める」と強調しました。
基本方針では、アメリカを名指しして「ロシアの安全保障と平和を脅かす主要なリスク」と指摘。欧米との対決姿勢を鮮明にするとともに、中国やインドなどとの関係強化を打ち出しています。
そのうえで「アメリカと共存し戦略的安定を保つことに関心がある」としています。
また、ナチス・ドイツや日本の「軍国主義」の見直しなど歴史を修正することは容認できないなどと一方的に主張しています。
一方、プーチン大統領は先月30日、春の徴兵に関する大統領令に署名しました。4月1日から7月15日にかけて14万7000人の徴兵を行うとしています。
ロシア国防省はウクライナの戦地に送ることはないとし、職業軍人や動員兵だけで軍事作戦の遂行は可能だと強調していますが、民間軍事会社ワグネルはモスクワ市内に巨大な広告を出すなどして、5月までに戦闘員3万人を募集するとしています。
●プーチン大統領「米が反ロの動きを主導」〜新外交政策概念定める大統領令 4/1
ロシアのプーチン大統領は、新しい外交政策概念を定める大統領令に署名した。
プーチン大統領が3月31日に署名した新しい外交政策概念では、アメリカが反ロシアの動きを主導していると指摘。
「政策の優先順位は、反ロシアの動きにロシアが対抗することだ」と、欧米との対決姿勢を鮮明にした。
そのうえで、「ロシアは自らを欧米の敵とは考えていないし、欧米から孤立しているわけでもない。敵対的意図も持っていない」と摩擦を引き起こしているのは欧米の方だと批判した。
また、今後の方針として「21世紀におけるロシアの主要なプロジェクトは、ユーラシア大陸を1つの平和な空間に変えることだ」としたほか、「中国・インド・ラテンアメリカ諸国だけでなく、イスラム文明を友好的とみなし、包括的な互恵協力関係を強化する」と明記した。
ロシアメディアによると、ロシアの外交政策概念の改訂は、2016年以来、7年ぶり。
プーチン大統領は「バランスの取れたものだ」と評価している。
●人権侵害が「恐ろしいほど日常化」、ウクライナ戦争=国連高官 4/1
ターク国連人権高等弁務官は31日、ロシアが侵攻を続けるウクライナで重大な人権侵害が「恐ろしいほど日常的」に行われており、民間人の犠牲者数は公式発表よりもはるかに多いという認識を示した。
ターク氏は演説で「ロシアのウクライナに対する戦争は13カ月続き、人権と国際人道法の深刻な違反が恐ろしいほど日常化している」とし、ウクライナでは「国中で人々が大規模な苦しみや喪失、剥奪、破壊に直面している」と語った。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、ロシアのウクライナ侵攻開始後、民間人の死者8400人超、負傷者1万4000人超を確認している。
ターク氏は「これら数字は氷山の一角に過ぎない」とし、「犠牲者の大半はロシア軍の居住地域での爆発兵器使用によるもの」と述べた。
国連人権理事会は来週、ウクライナで人権侵害の可能性などを調査するために設置した独立調査委員会の任期を延長する決議を採択する見通し。
●ドネツクで攻勢仕掛けるウクライナ軍、ミサイル・自爆ドローンで装甲車を破壊… 4/1
ロシアが武器と引き換えに北朝鮮へ食糧を提供する計画だとホワイトハウスが主張する中、ソーシャルメディアでは、ウクライナ軍がロシアの戦車、装甲車を破壊し、ロシア軍の指揮所を空襲する動画が相次いで公開された。
国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官は、ロシアが北朝鮮へ代表団を派遣し、武器と引き換えに食糧を提供する計画だと語った。BBCが30日(現地時間)に報じた。
米国政府はウクライナ戦争で、ロシア軍およびロシアの民間軍事会社ワグネル・グループに対する北朝鮮の武器供給説を何度か提起してきた。北朝鮮はこうした疑惑を否定している。
ここ数カ月にわたり最も激しい戦闘が繰り広げられているウクライナ東部のバフムトで、ワグネルの雇い兵グループは「勝利」を公言しているが、その一方、弾薬の枯渇により攻勢が弱まっている。
ニューヨーク・タイムズ紙は30日、ウクライナで最も優秀な部隊の一つに挙げられる「アダム戦術群(Adam Tactical Group)」の指揮官イェウヘン・メゼビキン大佐(Col. Yevhen Mezhevikin、40)が「敵は全ての資源を消耗した」と語り、同じくウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官とオレクサンドル・シルスキー東部地上軍司令官も、バフムトの状況は安定していると評価している−と伝えた。
ツイッターでは、ウクライナ東部のドネツクでウクライナ軍のミサイル攻撃によりロシア軍の装甲車が次々と爆発し、炎に包まれた装甲車から飛び降りたロシア兵が肝をつぶして散り散りに走っていく動画が公開された。
ルハンスクのクズモウカで、米国の支援したM142高速機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)でロケット弾を発射し、ロシア軍の指揮所を破壊する動画も公開された。
また、アブディウカでウクライナ軍の自爆ドローンがロシア軍の戦車2両を破壊する動画も公開された。
ただし、これらの動画の正確な撮影時期は公開されていない。
ウクライナのオレクシー・レズニコウ国防相は前日、エストニアのテレビ局のインタビューで、西側から支援されたレオパルト2、チャレンジャー2などの戦車を利用した大規模な反撃が4月もしくは5月に始まることもあり得ると暗示しており、注目を集めている。
●仏マクロン大統領 5日から訪中 EU委員長も同行 習主席と会談へ  4/1
フランス政府は、マクロン大統領が4月5日から中国を訪れ、EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長とともに、習近平国家主席と会談を行うと発表しました。3月にロシアを訪問したばかりの習主席に対し、ウクライナ情勢をめぐる中国とロシアのさらなる接近をけん制したい考えです。
フランス大統領府は3月31日、4月5日から3日間の日程でマクロン大統領が中国に滞在し、首都・北京や南部・広東省を訪れると発表しました。
6日には、同じく中国を訪問するEUのフォンデアライエン委員長も交え習近平国家主席と3者で会談を行うほか、先月選出された李強首相らとも協議を行うということです。
中国の習主席は先月20日から3日間、ロシアを訪問し、プーチン大統領と会談を行って2か国の緊密な関係を誇示したばかりです。
今回の中国訪問の目的について、フランス大統領府は「ウクライナ情勢をめぐり、中国がロシアを軍事的に支援するという致命的な決断を下せば、戦争に大きな影響を与える」と説明し、中国とロシアのさらなる接近をけん制したい考えです。
フランスからは、大手航空機メーカー「エアバス」などの企業関係者も多く同行して中国の経済界と会合を持つ予定で、経済関係の連携強化を図るねらいもあるとみられます。
●活発化する中国の外交攻勢 「世界平和」への新秩序づくり、加速か  4/1
欧州連合(EU)や欧州各国の首脳の中国への訪問が相次いでいる。22年11月にドイツのショルツ首相、同12月にはEUのミシェル首脳会議常任議長が北京を訪れ、習近平国家主席と会談。23年3月にスペインのサンチェス首相が訪中したほか、マクロン仏大統領やEU委員長も4月中の訪中を表明している。米バイデン政権や日本の岸田政権も対中関係改善に動き出した。
日米欧、対中関係改善へ動く
米ホワイトハウスのインド太平洋調整官、カート・キャンベル氏は3月30日の講演で、米政府はバイデン大統領が中国の習近平国家主席と新たに電話会談する用意があると言明した。キャンベル氏は「(中国との)対話ルートを維持する準備が整っており、これらのルートを開き続けるつもりだ」と強調した。キャンベル氏は台湾海峡と平和と安全の重要性にも触れ、信頼醸成と危機時の首脳同士の直接対話(ホットライン)をめぐる枠組みを米中両国が設けることが「責任ある対応」になると訴えた。
中国の李強首相は3月30日、経済問題などを討議する「ボアオ・アジアフォーラム」の年次総会で基調演説を行い、「一方的な制裁や新冷戦に反対する」と強調した。米国による対中輸出規制の強化や、ウクライナ侵攻に伴う西側諸国の対ロシア制裁を念頭に置いた発言とみられる。中国経済については「成長の勢いは強い」と先行きに自信を示した。李氏は3月中旬に首相に就任したばかり。新政府が景気回復を最優先課題に位置付ける中、実現には対外関係の「安定」が不可欠となる。
中国首相「平和的方法で国家間の争いを解決」
李氏は演説で「アジアが発展するためには、混乱や戦争があってはならない」と訴えた。その上で、「一方的な経済制裁や新冷戦には反対し、平和的な方法で国家間の争いを解決していく」と表明した。経済対策としては、内需拡大を重視すると説明。経済成長を続けるため、外資の投資を歓迎する考えも示した。米銀の破綻などを受けて世界経済の先行きに不透明感が漂う中、「金融の安定を維持する」と強調した。
ボアオ会議は中国主導の国際会議で、スペインのサンチェス首相やシンガポールのリー・シェンロン首相、マレーシアのアンワル首相、国際機関トップらが出席。海外の要人を現地に多数招いて開催するのは2019年以来、4年ぶりとなった。スペインは次期EU議長国。サンチェス首相は、3月31日、北京で習近平国家主席と会談し、ロシアが侵攻を続けるウクライナをめぐる情勢などについて意見交換した。
会談後の記者会見でサンチェス首相は、習主席に対しロシアによる侵攻への懸念を伝えた上で、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談するよう求めたことを明らかにした。ウクライナ情勢をめぐり中国が2月に発表した停戦を呼びかける文書について、サンチェス氏は調停役としての中国への期待を示した。また、サンチェス氏はスペインと中国の関係について「相互主義に基づくバランスのとれた関係を推し進めたい」と述べ、両国の観光フォーラムを6月に開催することを明かした。
中国は欧州との関係改善を目指しており、「スペインとの包括的戦略パートナーシップを新たな段階に進めたい」(外交部報道官)と歓迎している。さらに欧州連合の報道官は3月24日、フォンデアライエン欧州委員長が4月初めに、フランスのマクロン大統領とともに中国を訪問すると明らかにした。習主席らと会談する予定だ。
ウクライナ大統領、習主席との対面会談を希望
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は2月24日、ロシアの全面侵攻から1年を迎えたのに合わせて首都キーウで記者会見し、中国がロシアとウクライナに停戦を促す文書を発表したことに理解を示し、「中国がロシアに武器を供与しないことを強く信じている」と言明。中国の習主席との会談を計画していると述べた。
AP通信によると、ゼレンスキー氏は3月下旬に前線近くの訪問先から首都に戻る電車内でインタビューに応じ、「(習主席と)キーウで会う用意がある」と対面での会談を希望した。
習氏は3月20〜22日にモスクワを訪問しプーチン露大統領と会談。ロシアとの戦略的協力を強化する意向を表明する一方、プーチン氏にウクライナとの和平協議を促した。中国のシンクタンク幹部によると、ゼレンスキー大統領は「ロシアにとって、良くない訪問だった」との見方を示しているという。その理由として、中国がロシアに武器や弾薬を提供するとの発表がなかったことを挙げ、プーチン大統領が25日に同盟国で隣国のベラルーシへの戦術核兵器の配備を発表したことも「中国からの支援がないことに対し(国際社会からの)目をそらすためだった」と指摘した。
習氏は2月24日に「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」という12項目からなるウクライナ戦争の「和平案」を発表した。これ以上の戦火の拡大を抑制し、当事国が停戦に向けた対話を行うべきだというのが「和平案」の趣旨である。ウクライナをめぐる関係諸国の外交が活発化することを見越し、中国の和平への意志をアピールする思惑があるとの見方が有力だ。
ウクライナのクレバ外相は3月16日、中国の和平案を評価。米国の軍部トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は「ロシアもウクライナも軍事力によって目的を達成することはできない」との見方を示した。プーチン氏も本心は「停戦」に導いてほしいと中国高官は踏んでいる。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官はゼレンスキー氏と習氏との対話を支持する考えを示した。
中国とウクライナは友好的
中国外交部の「中国とウクライナの関係」に関する資料には、政治関係、経済貿易関係、両国協力機構など、多方面にわたる緊密な友好関係が列挙されている。それら資料によると、中国とウクライナはいち早く1992年1月4日に国交樹立した。2001年に全面的な友好協力関係を結び、2011年には戦略的パートナーシップ関係を締結。友好関係を深めてきた。2013年12月5日には、「中国ウクライナ友好協力条約」を結んだ。すべての共同声明や協力関係締結の際、ウクライナは、台湾やウイグルやチベット問題などにおいても、常に中国の立場を支持し、台湾の独立に反対する立場を明確にしてきた。
ウクライナは中国の巨大インフラ構想「一帯一路」の加盟国でもあり、中国は巨額の投資をしてウクライナの穀物業などを育成。中国は最大の貿易相手国となっている。ウクライナとしては戦後復興に中国からの巨額の支援を期待しているという。
欧米の動きにつれて日本も動き出した。林芳正外相が4月1日から訪中するほか、自民党きっての親中派・二階俊博元幹事長が多くの経済関係者とともに訪中予定だ。中国人観光客の誘致を働き掛ける。
現在、台湾情勢をめぐり、蔡英文総統の米国訪問や、前総統・馬英久氏ら国民党関係者の訪中など、目まぐるしい動きが交錯している。こうした動きが一段落したら、「仕切り直し」で、劇的な変化があるかもしれない。中露首脳会談で頻出した「多極化」という言葉は、米国の一極支配的先進国価値観による秩序ではない世界のこと。中国がグローバルサウスを包含した世界新秩序を形成する一歩になるとの見方も強まっている。中国がイラン・サウジ和睦の仲介をしたことによって新秩序形成が加速されつつある。  
●ロシア 冬の侵攻 “失敗が明確”との見方も 東部で攻撃鈍化か  4/1
ロシアが掌握を目指すウクライナ東部の激戦地バフムトでは、ロシア軍の攻撃が鈍化しているという指摘が出ています。また、ロシアのゲラシモフ参謀総長が新たな総司令官として冬の間侵攻を続けたものの、失敗が明確になっているという見方も出ています。
ウクライナ東部ドネツク州のバフムトについて、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは先月30日、「街がロシア軍に包囲される差し迫った危険は阻止された」とするウクライナ軍の司令官の話を伝えました。
アメリカ軍の制服組トップ、ミリー統合参謀本部議長も29日「過去20日か21日の間で、ロシア軍はバフムトやその周辺で全く前進していない」との分析を明らかにするなど、ロシア軍の攻撃が鈍化しているという指摘が出ています。
また、イギリス国防省は1日、ロシア軍の制服組トップ、ゲラシモフ参謀総長が1月にウクライナ侵攻の新たな総司令官に任命されて以降東部ドンバス地域の支配拡大を目指したものの、ロシア軍に数万人の死傷者が出る一方、わずかな地域しか掌握できず、失敗が明確になっていると分析しました。
そして、ロシア指導部が、ゲラシモフ氏の失敗に対し、どこまで許容できるのかという問題を指摘しています。
一方、ロシアのプーチン大統領は31日、新たな外交政策の基本指針を承認し、この中で「アメリカなど西側諸国はロシアがウクライナにおける重要な国益を守るためにとった措置に対して新たなハイブリッド戦争を開始した。目的はロシアを弱体化させることだ」などと軍事侵攻を正当化し、欧米との対決姿勢を鮮明にしています。

 

●ロシア 新たな外交政策の基本指針 欧米への対抗勢力構築目指す  4/2
ロシアのプーチン政権は、新たな外交政策の基本指針のなかで、欧米との対決姿勢を鮮明にし、中国やインドなどとの連携強化を打ち出しています。
外交面で、欧米に対抗する勢力の構築を目指し、働きかけを強めていくものとみられています。
ロシア国防省は1日、軍への弾薬供給に関する会合を開いたと発表し、ショイグ国防相が「製造能力を強化し、通常の弾薬とともに、精密誘導兵器を増やしていく」と述べました。
ショイグ国防相は、先月28日には兵器工場を視察し、欧米諸国がウクライナへの軍事支援を加速させるなか、国内の軍需産業に兵器の増産を促しています。
一方、ロシア政府は外交政策の基本指針を2016年以来、7年ぶりに改定して先月31日に発表し、この中で「アメリカなど西側諸国は、ロシアがウクライナにおける重要な国益を守るためにとった措置に対して、新たなハイブリッド戦争を開始した」などと欧米との対決姿勢を鮮明にしました。
また「ロシアは国連安全保障理事会の常任理事国であり、2大核保有国の1つだ」と強調した上で、中国やインドなどとの連携強化を重視し、多極化した国際秩序の構築を目指すとうたっています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、先月31日「新たな基本指針はロシアが潜在的な反欧米連合を築こうとするものだ」と分析し、先月行われた中国の習近平国家主席との首脳会談の機会でもプーチン大統領からこうした働きかけがあったと指摘しました。
そしてロシアは今月、国連安全保障理事会で議長国を務めることから、新たな外交方針をその前に示し、国連でも働きかけを強めたいねらいがあると分析しています。
一方、「戦争研究所」は「ウクライナ侵攻でロシアの経済力や軍事力は低下している。各国には、ロシアの提案に同意する理由がほとんどない」という見方を示しています。
●ロシア、4月の国連安保理議長国に 「最悪のジョーク」とウクライナ怒り 4/2
ロシアは4月1日から1カ月間、国連安全保障理事会の議長国を務める。ロシアの侵攻を受けるウクライナは加盟国に対し、ロシアの議長国就任を阻止するよう求めていた。ロシアの安保理議長就任にウクライナのドミトロ・クレバ外相は、「エイプリルフール史上最悪のジョーク」だと強い怒りを示した。
安保理の議長は輪番制で、ロシアを含む15理事国が毎月交代で務める。
ロシアが前回、議長国を務めたのは、ウクライナへの全面的侵攻を開始した昨年2月。
ウクライナ侵攻をめぐっては、国際刑事裁判所(ICC)が先月、戦争犯罪容疑でウラジーミル・プーチン大統領らに逮捕状を出している。
逮捕状が出ている人物が率いる国が今後1カ月間、安保理を主導することとなる。
国連安保理の常任理事国5カ国はイギリス、アメリカ、フランス、中国、ロシア。
アメリカは、常任理事国ロシアの議長国就任を阻止することはできないとしていた。
議長国の役割はほとんど手続き的なものだが、ロシアのヴァシリー・ネベンジア国連大使はロシア国営タス通信に対し、軍備管理などいくつかの討論を差配する予定だと語った。
同大使は「一極支配に取って代わる」、「新しい世界秩序」について議論するつもりだとした。
ウクライナは反発
ウクライナのクレバ外相は、「エイプリルフール史上最悪のジョーク」で、「国際安全保障構造の機能が、どこかおかしいとあらためて痛感させるもの」だとツイッターで批判した。
ロシアが議長国に就任した1日に外相はさらに、「国際社会への平手打ち」で、ロシアは「国連安保理の無法者」だと書いた。
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、この動きは「国際法に対する新たな破壊行為だ。(中略)侵略戦争を行い、人道及び刑法の規範に反し、国連憲章を破壊し、原子力安全性を軽視する存在が、世界の主要な安全保障機関のトップを務めることなどできない」とツイートした。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は昨年、安保理がロシアの侵攻を防ぐために十分な行動を取らなかったと非難し、改革するか「完全に解体」するよう迫っていた。
ゼレンスキー氏はさらに、ロシアを安保理から除名するよう求めている。
しかしアメリカは、国連憲章では常任理事国の除名に関する規定がなく、なすすべがないとしている。
「残念ながら、ロシアは安全保障理事会の常任理事国で、この現実を変えるための実行可能な国際的な法的手段は存在しない」と、ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官はこのほど定例会見で述べた。
さらに、ロシア政府が「偽情報を広めて」ウクライナでの行動を正当化するため、安保理の議席を利用し続けると、アメリカ政府としては予想していると付け加えた。
15カ国で構成される国連安全保障理事会は、世界の平和を維持する責任を担う。
常任理事国5カ国の顔ぶれには、第2次世界大戦後に安保理が設立された当時の権力構造が反映されている。
非常任理事国10カ国は、任期2年で地域ごとに選出される。日本は今年1月から非常任理事国として、安保理に参加している。
常任理事国のロシアには拒否権がある。安保理決議案を採択するには15カ国中9カ国が賛成し、なおかつ全ての常任理事国が賛成しなくてはならない。
ロシアは昨年2月、ウクライナ侵攻を受けてロシアの即時撤退を求める決議案に拒否権を行使した。中国、インド、アラブ首長国連邦は棄権した。
同年9月にも、ロシアによるウクライナ東部・南部4州の違法併合を非難し、ロシアの即時撤退を求める決議案に、ロシアが拒否権を行使。この時はブラジル、中国、ガボン、インドが棄権した。
●プーチン“次の一手”は隣国への核配備…正当化の口実「核シェアリング」? 4/2
ロシアが隣国のベラルーシに核兵器を配備すると発表しました。これを正当化するプーチン大統領が、その口実に使ったのが、アメリカが同盟国の領土内に核兵器を配備している「核シェアリング」とうい仕組みです。日本でも安倍元首相らが「議論の必要性」を主張した、この“核兵器の共有”政策。どんなものなのか、そして今、核の脅威は世界でどこまで広がっているのか、お伝えします。
ベラルーシに核を置くロシアの言い分
3月25日、ベラルーシに核兵器を配備すると表明したプーチン大統領はこう言っています。「アメリカは何十年も前から核兵器を同盟諸国に配備している」これはどういうことでしょうか?
世界の核兵器の分布
現状、世界にはこれだけの核兵器があります。保有している国ですが、国連安保理の常任理事国でもある5か国、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の他、イスラエル、パキスタン、インド、北朝鮮にも広がっています。そして実は、これら“核保有国”以外にも核兵器は配備されているんです。それが、アメリカとNATO加盟国の「核シェアリング(共有)」と呼ばれる仕組み。ドイツ、オランダ、ベルギー、イタリア、トルコには、アメリカが管理する核兵器が配備されていて、有事の際に、NATOやアメリカが判断したうえで、それぞれの国の軍が使用することになっています。ロシアはこの「核シェアリング」の仕組みを持ち出し、自分たちも同盟国ベラルーシで同じことをやるのだと正当化したのです。
核シェアリングの始まり・そして日本でも…
アメリカの「核シェアリング」が始まったのは1950年代。NATO加盟のヨーロッパ諸国では、旧ソ連と核戦争になった場合、「アメリカは同盟国のために本当に核を使ってくれるのか」と不安が高まったため、アメリカの核兵器をそうした国々に配備して使える体制をとったのです。現在も、戦闘機から投下するタイプの核爆弾がNATO加盟国にあわせて100発ほど配備されているといいます。日本でも2022年、核シェアリングについて、安倍元総理大臣が「タブー視することなく議論しなければならない」と主張しましたが、岸田総理大臣は「政府においては認めない」としています。
核軍縮の終わり? 核弾頭増加の予測
こちらは、世界にある核弾頭の数の推移です。冷戦の終結に伴いアメリカとロシアは、「INF中距離核戦力全廃条約」や核弾頭を削減する「START」などでその数を減らしてきました。しかし、2018年にトランプ大統領がINFから離脱を表明。2023年、プーチン大統領が新STARTの履行を停止するなど、逆行する動きが止まらず、核弾頭の数は「今後10年間で増加に転じる」と分析されているんです。こうした中で、5月には広島でG7サミットが開かれます。岸田総理は、「核保有国と非核保有国の橋渡しをする」と繰り返していますが、G7議長国として「核なき世界」に向けたリーダーシップを発揮することはできるのでしょうか?
●ロシアの作戦「失敗は明白」 英国防省分析、統括司令官任命後 4/2
英国防省は1日、ロシアのウクライナ侵攻で、ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長が1月に軍事作戦の統括司令官に任命された後、東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)の完全制圧を目指した作戦は「失敗したことが明白になった」との分析を発表した。
ゲラシモフ氏の統括司令官任命は異例の人事で、ロシア軍が大規模攻勢に出るとの見方が強まっていた。英国防省は、ロシアがドンバス地域の戦線で数万人の死傷者を出しながら、制圧した地域はわずかだと指摘。昨年9月の部分動員令で多数の予備役を投入し、人員を増強したが「ほぼ無駄に終わった」とした。
●「究極の政治的裏切り」を先に決断するのは、プーチンかゼレンスキーか? 4/2
外交を通じて平和を実現するか、さもなければ「茫漠たる人類の埋葬地」のみが残される「殲滅(せんめつ)戦争」に陥るか──1795年に発表した『永遠平和のために』でカントは当時の人々にそんな選択を迫った。
残念なことに歴史を振り返れば、人類は往々にして後者を選んできた。少なくとも、目を覆うばかりの惨禍が戦争当事国を交渉のテーブルに着かせるまでは......。
そしてその時点でさえ、戦いを終わらせたければ指導者には胆力が求められる。
ウクライナのゼレンスキー大統領が豪胆な戦時の指導者であることは誰もが認める。一方、今の彼が政治的ムードの人質になっていることも否めない。
隣国の領土にずかずかと侵入し破壊の限りを尽くすロシア。その残虐非道な敵に1_たりとも譲歩せず、完全な勝利を目指さなければ、ゼレンスキーは政治生命ばかりか、文字どおり命を失うことにもなりかねない。
戦争当事国が和平の道を探る段階では、しばしば世論は政治指導者以上に好戦的になっている。ウクライナ戦争のような祖国防衛戦争では国民は打って一丸となるが、戦争が長引いて政治指導者が不完全な形の和平を求めれば、国論は二分され、政治指導者は裏切り者呼ばわりされかねない。
それでも政治指導者が国民の反発を恐れずに停戦交渉を進めるなら、それは恐らく「高邁な裏切り行為」でしかない。
「政治においては祖国か世論のいずれかを裏切らねばならない時がある。私は世論を裏切るほうを選びたい」
これはフランスの元大統領シャルル・ドゴールの有名な言葉だ。彼は1962年3月にこう語り、アルジェリアの独立を認めるエビアン協定に署名した。そのため極右の怒りを買い、協定締結の数カ月後に危うく暗殺されそうになった。
保守強硬派で鳴らすイスラエルのアリエル・シャロン元首相ですら、ユダヤ民族主義者の期待を裏切った。
民族国家の再建を目指す人々は占領地内のパレスチナ人の土地を奪おうと精力的に入植を進めたが、シャロンは2005年、ガザ地区全域とヨルダン川西岸の一部のユダヤ人入植地を解体した。
シャロンは保守派の期待ばかりか、自身が高々と掲げてきた政治的信条まで裏切ったのだ。
ウクライナが望む形での戦争終結、つまりロシアの完全な敗北はそう簡単には実現しそうにない。
激戦が続くなかロシアの残虐なやり口はウクライナ人の怒りをかき立て、和平のための妥協を一切許さないムードが醸成されている。この状況で停戦交渉を進めるには相当の覚悟がいる。
結果的にウクライナ戦争は、長引く持久戦で膨大な死者を出した第1次大戦の哀れなレプリカの様相を呈しつつある。
ロシアが劣勢に追い込まれるにつれ、プーチンが核の使用に踏み切り、NATOが直接的に戦争に介入する危険性が高まる。ロシアと戦略的に手を組む中国がこの機に乗じて台湾に侵攻し、破滅的な世界戦争の火ぶたが切られるシナリオすらあり得る。
ウクライナの指導者たちはイラン・イラク戦争の教訓に学ぶべきだ。80年に始まったこの戦争は、イラクの侵攻に疲弊し切ったイランが国連安全保障理事会の停戦決議を受け入れるまで8年間もかかり、100万人超の死者が出た。賢明な決断のおかげで、イラン国民は全滅を免れた。
本人も驚いているだろうが、この1年余りでゼレンスキーは戦争の英雄となった。だが今、彼は耐え難いジレンマに直面している。
戦争を終わらせるには完全な勝利ではなく、不完全な和平に甘んじざるを得ない。遅かれ早かれゼレンスキーか、望むらくはプーチンが究極の政治的裏切りをせざるを得ないだろう。
●ロシア、反欧米鮮明に ウクライナは戦争犯罪追及 4/2
ロシアのプーチン大統領は3月31日、外交政策の指針となる新たな「外交政策概念」を承認する大統領令に署名した。この中で米国を「反ロシア路線を主導している」と名指しで非難。「多極化した世界秩序の構築」を掲げ、欧米諸国との対決姿勢を鮮明にした。
ウクライナでは、ロシアによる侵攻開始から400日が経過。ロシア軍が多数の民間人を殺害した首都キーウ(キエフ)近郊ブチャの解放から、31日で1年を迎えた。ゼレンスキー大統領は「ブチャを正義の象徴とするために、われわれはあらゆることをする」と述べ、ロシアの戦争犯罪追及を誓った。
2016年以来の改定となる外交指針で、ロシアは「欧米諸国がロシアの弱体化を目的に(軍事力と非軍事力を組み合わせた)ハイブリッド戦争を始めた」と主張。中国やインド、イスラム圏や東南アジアなどとの連携を深め、「非友好国の反ロシア的な動き」に対抗する方針を打ち出した。
ただ、米シンクタンクの戦争研究所は、この指針について「ロシアの経済力と軍事力の低下で、各国にはこの提案に真剣に関心を示す動機がない」と分析。「モスクワを訪問した中国の習近平国家主席にプーチン氏が提案した反欧米圏の形成は、肯定的に受け止められなかった」とも指摘した。
侵攻のさらなる長期化が見込まれる中、国際社会によるウクライナ支援も続いている。国際通貨基金(IMF)は31日、ウクライナに対する総額156億ドル(約2兆円)の金融支援を承認。ロイター通信によると、米国は26億ドル(約3500億円)の追加武器支援を近く発表する見通しだ。  

 

●ロシア・サンクトペテルブルクの飲食店で爆発 親プーチン政権ブロガー死亡 4/3
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクの飲食店で爆発があり、プーチン政権寄りの立場で知られる著名な軍事ブロガーが死亡、20人以上がけがをしました。
タス通信などによりますと、サンクトペテルブルクの飲食店で2日、爆発があり、「ウラドレン・タタルスキー」のペンネームで活動していたロシアの著名な軍事ブロガーが死亡し、25人がけがをしました。
タタルスキー氏はウクライナ侵攻についてプーチン政権寄りの立場でSNSなどで情報を発信し、フォロワーは50万人以上にのぼります。
飲食店では当時、愛国的なイベントが催されていて、タタルスキー氏に贈られた像に爆発物が仕掛けられていたということです。
この飲食店はかつて、民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が所有していた物件で、度々、こうしたイベントが行われていたとされています。
ロシア外務省のザハロワ報道官は2日、声明を発表し、「ロシアのジャーナリストはウクライナの現政権とその黒幕による殺りくの脅威に常にさらされている」と主張しています。
一方、ウクライナ政府の高官は、ロシア国内での争いでウクライナは関与していないとの認識を示しています。
●プーチンは「同志・習近平」に勝利の可能性を潰された…!? 4/3
ゲラシモフ総司令官の苦戦
ロシア―ウクライナ戦争について筆者は、現代ビジネス1月19日付記事で「大きな戦いが近づいている」と予測した。
「ロシア・ウクライナ最終決戦」の予兆…!  歴史の教科書に載るであろう「大きな戦い」が近づいている
そして、2月16日付記事では、予想通り「大きな戦い」がはじまったことをお伝えした。
「ロシア・ウクライナ最終決戦」が始まった…!  はたしてプーチンは「戦術核」使用に踏み切るのか
ロイター2月14日付には、こうある。
〈 北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は13日、懸念されていたウクライナでのロシアの新たな大規模攻撃がすでに始まっていると述べた 〉〈 ウクライナ侵攻から1年が近づく中、ロシア軍は13日、ウクライナ東部のバフムトを攻撃。NATOの事務総長は、長い間恐れられていたロシアの大規模攻撃が始まったとの見方を示した 〉
では、その後の戦局はどうなっているのだろうか? 「大きな戦い」は、今もつづいている。だが、ロシア軍は、プーチンが願ったような戦果をあげていない。
プーチンは1月11日、ロシア軍のトップであるゲラシモフ参謀総長を、ウクライナ特別軍事作戦の総司令官に任命した。ロシア・ハイブリット戦略生みの親で、世界的に有名な戦略家がいよいよウクライナ戦争の指揮を執るーー世界中の軍幹部が、「ゲラシモフの戦い」に注目した。
そして、ロシア軍は、大きな戦果をあげつつあった。
3月8日、NATOのストルテンベルグ事務総長は、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトが、「今後数日中にロシア軍によって陥落する可能性がある」と語った。
この時点で、ロシア軍はかなり優勢だったのだ。
しかし、英国防省は3月25日、バフムトで、ロシア軍が激しい人員の損失によって「失速している」との分析を発表した。
プーチンは、ゲラシモフに「3月末までにドンバス(ルガンスク州、ドネツク州)を完全制圧しろ」と命じた。しかし、ゲラシモフは、プーチンに与えられたミッションを期限内に完遂できなかった。
習近平に武器弾薬の支援を求めるプーチン
なぜ優勢だったロシア軍は、劣勢に転じたのか? それには三つの要因が挙げられる。
一つは、ロシア兵士の士気の低さだ。自国の領土を防衛しているウクライナ軍の士気は高い。一方で、他国を侵略しているロシア軍の士気は低い。
プーチンは、「この戦争をはじめたのは西側とウクライナだ」とフェイク情報を拡散し、ロシア国内のテレビ世代をだますことには成功している。しかし、前線で戦う兵士は、戦闘が「ウクライナ領内で起こっていること」を知っている。「なんのための戦争なのか」意味を見いだせない。
しかも、動員で連れてこられて人たちは、超短期間の訓練しか受けていない、いわば素人だ。
二つ目の理由は、人員不足。
プーチンは昨年9月、「部分的動員令」を出した。ロシア国防省はこの時、「30万人を動員する」と発表した。それでも、人員が足りなくなってきている。
三つ目は、武器弾薬の不足。
「BBC NEWS JAPAN」3月6日を見てみよう。〈 イギリス国防省は5日、ウクライナ侵攻を続けるロシアの予備役が、弾薬不足のために「シャベル」を使って「接近戦」を行っている可能性が高いとの見方を示した。英国防省の最新のアップデートによると、ロシアの予備役が2月下旬、「『銃器とシャベル』のみで武装して」ウクライナの陣地を攻撃するよう命じられたと述べたという 〉
ウクライナは、欧米から、ほとんど無尽蔵の武器支援を受けることができる。一方、国際的に孤立しているロシアに武器を提供してくれる国はほとんどない。
たとえば、トルコのエルドアン大統領は、「独裁者つながり」でプーチンと良好な関係を保っている。だが、そのトルコは、ロシアの敵ウクライナに無人機「バイラクタル」を輸出している。そしてこの無人機が、ロシアの戦車部隊に壊滅的打撃を与えている。
その一方で、トルコは、ロシア軍に無人機を提供することを拒否しているのだ。困ったロシアは、イラン製の無人機を輸入している。
日経新聞2022年10月27日。〈 イランの最高指導者ハメネイ師は最近、自国の軍事用ドローン(無人機)の効果を称賛した。ウクライナ政府や欧米諸国によると、イラン製のドローンはロシアに売却され、ウクライナの大都市を爆撃するのに使われている 〉
武器弾薬にいたっては、さらに悲惨だ。ロシアは、北朝鮮に輸出した物を買い戻している。
東洋経済1月1日。〈 2022年11〜12月にかけて、ロシアが北朝鮮にかつて販売した武器・弾薬などを北朝鮮から買い戻したという証言も出てきた。東洋経済の取材に応じたビジネス面で北朝鮮と関係が深い中華系実業家によれば、「携帯型の武器や弾薬などを北朝鮮からロシアが買い戻した」という 〉
欧米から全面的に支援を受けているウクライナ。ロシアが支援を受けているのは、イランと北朝鮮。ロシア軍が劣勢なのも理解できるだろう。「ゲラシモフの戦略以前」の問題だ。
しかし、3月20日、プーチンにこの劣勢を挽回するチャンスが訪れた。世界第2の経済、軍事大国・中国のトップ習近平が、モスクワにやってきたのだ。
プーチンの要請を拒否した習近平
習近平との首脳会談。プーチンの目的は、一つしかない。すなわち、習近平を説得し、中国から武器弾薬を提供してもらうことだ。
ところが、習近平には、まったく違う思惑があった。なんだろうか? 習近平には、「ロシア―ウクライナ戦争を和平に導きたい」という野心がある。
では、なぜ、中国は、ロシアとウクライナの和平を願うのか? それは「プーチンを救うことで、習近平自身を救うため」だ。どういうことか? 中国の戦略観では、「二匹のトラの戦いを山頂で眺める賢いサル状態」を最上とする。現状は、どうだろうか? プーチン自身が断言しているように、「ロシア―ウクライナ戦争」の本質は、米国とロシアの戦いだろう。まさに「二匹のトラ」が戦っている。そして、「賢いサル」である中国は、山頂でそれを眺めている。中国は今、最良のポジションにいる。
実際、中国はこの戦争最大の勝ち組だ。
この戦争で、欧米日とロシアの経済関係が切れた。欧州は、ロシアからの石炭、原油、天然ガスをほとんど輸入しなくなっている。結果、中国はロシア産の資源を激安で買うことができている。
「The Moscow Times」3月20日付は、中国が、ロシア産天然ガスを、欧州向けよりも70%安い価格で輸入していることを報じている。
さらに、制裁でドルもユーロも入手できなくなったロシアは、資源を「人民元」で中国に輸出している。
では、ロシアは、資源輸出で得た人民元をどうするのか? 
もちろん中国製品を購入する。要するに、ロシアは、「人民元経済圏」に組み込まれてしまった。つまりプーチンは、ウクライナを侵略するという愚かな決断によって、ロシアを「中国の属国」にしてしまったのだ。
以下の動画を見ていただきたい。
注目していただきたいのは、習近平とプーチンの目線だ。
習近平は、プーチンを一直線に見つめている。一方、プーチンは、習近平と一瞬目をあわせると、すぐ下を向いてしまう。ロシアでは「目を見て話すのがマナー」であるにもかかわらずだ。
習とプーチンは、いまや「皇帝と属国の長」の関係になっている。
習近平はあくまで「チャイナ・ファースト」
筆者は、この戦争がはじまる前から、「ロシアの大戦略的敗北は不可避」と主張してきたが、予想通りの展開になってきた。
このように、中国は現状、ロシア―ウクライナ戦争でもっとも得をしている国だ。ロシアの「弱体化」についても、中国への依存度が高まるので、中国は大歓迎だ。
しかしその一方で、ロシアがウクライナに「敗北」すると困ったことになる。なぜか? ロシアがウクライナに完敗し、プーチンが失脚したと仮定する。そして、親欧米派のロシア新大統領が誕生したとしよう。その新大統領は、ロシアの間違いを認め、クリミアと昨年9月に併合したルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州をウクライナに返還する。
さらに、賠償金の支払いも約束する。ここまでいけば、欧米と日本は、対ロシア制裁を解除するだろう。欧米日とロシアの経済関係は改善され、ドルとユーロの使用が再開され、ロシアは、「人民元経済圏」から離脱していく。
最悪のシナリオは、ロシアの親欧米新大統領が、「反中包囲網」に参加することだ。習近平は、このような最悪の事態を招かないために、「和平の仲介役」を買って出た。
中国政府は2月24日、12項目からなる停戦案を発表している。
停戦案の中には、〈(8)戦略的リスクの低減。核兵器の使用及び使用の威嚇に反対するべきだ〉など、一部「反ロシア的内容」も含まれている(核兵器をもたないウクライナは、核兵器を使うことも、威嚇することもできない)。
しかし、2項では、「軍事ブロックの強化、拡大」(つまりNATO拡大)に反対。10項では、欧米日によるロシア制裁に反対している。
要するに、この停戦案は、「ロシアを救う内容」になっている。そして、習近平が停戦案を出してきた理由は、「戦争に負けてプーチンが失脚したら困るから」だ。
習近平は、プーチンに「中国の停戦案を認めろ」と要求した。習は、プーチンの承認を得たうえで、ゼレンスキーとも会談し、より具体的な話に移行したかった。
ところがプーチンは、中国の停戦案について、「西側とウクライナの準備ができていない」といった。要するに、西側とウクライナを「ダシ」にして、中国の停戦案を遠回しに拒否したのだ。彼は、「武器さえあれば勝てる」と信じているのだから。
そして、プーチンは、「武器をくれ!」と習に迫った。しかし、習は了承しなかった。なぜか? 中国がロシアに武器を供与するようになれば、欧米日から制裁を科される可能性が出てくる。世界GDPの2%以下のロシアのために、世界GDPの約半分を占める欧米日との関係を犠牲にできない。習近平は、どこまでも「チャイナ・ファースト」なのである。
こうして、プーチンが「中国製兵器」によってこの戦争に勝利する道は閉ざされた。
そしてウクライナの反転攻勢がはじまる
ロシア―ウクライナ戦争は、これからどうなっていくのだろうか? 「大きな戦い」は、まだつづいている。しかし、ロシア軍の大攻勢は、兵力と武器弾薬不足で止まってしまった。これからは、ウクライナ軍の反転攻勢がはじまるだろう。
なぜプーチンは、ゲラシモフに「3月末までにドンバスを完全制圧しろ」と命じたのか? 期限を切ったことには、理由がある。3月末になると、英国、ドイツ製の戦車がウクライナに届き始めると予想されたからだ。
そして、実際、戦車が届き始めた。
「NHK NEWS WEB」3月28日。〈 ウクライナのレズニコフ国防相は27日、自身のSNSでイギリスの主力戦車「チャレンジャー2」などを受け取ったことを明らかにしました。レズニコフ国防相は「1年前には、パートナーの支援がこれほど強力なものになるとは誰も考えられなかった。ウクライナは世界を変えた」と書き込み、欧米の軍事支援に感謝の意向を示しました。ウクライナへの軍事支援をめぐって、ノルウェー軍は20日、8両の「レオパルト2」がウクライナに配備されたと発表しています。また、ドイツは27日、18両の「レオパルト2」を引き渡したと明らかにし、ウクライナ軍の軍備の強化が進んでいます 〉
戦車を得たウクライナ軍は、反転攻勢の準備を進めていく。
「大きな戦い」の第2幕がはじまろうとしている。
●ロシアの東部ドンバス地方制圧「失敗が明白に」…英国防省 4/3
英国防省は1日、ロシア軍が、ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク・ルハンスク両州)の全域制圧を狙って今年1月から進めてきた攻勢の拡大について「失敗が明白になっている」との分析を明らかにした。米政策研究機関「戦争研究所」も、プーチン露大統領が掲げた3月末までのドンバス地方の全域制圧を実現できなかったと指摘した。
英国防省は露軍の攻勢拡大について「何万人もの犠牲を払いながら、制圧地の拡大は局地的で限られたものにとどまった」との見方を示した。露軍は昨年秋にプーチン政権が実施した予備役の部分的動員で「一時的に兵員数の優勢」を得たが「浪費した」と分析した。
露軍は1月中旬に侵略作戦の総司令官に制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長が就任した。ゲラシモフ氏の主要任務はドンバス地方の全域制圧だったとみられており、目立った戦果を上げられなかったことで、解任を含めた処分を受ける「現実的な可能性がある」と評した。
露軍はドンバス地方での攻撃を続けている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1日のビデオ演説で、ドネツク州の州都ドネツク近郊アウディーイウカへの露軍の攻撃で生後5か月の男児が殺害されたと非難した。露軍は戦果を求めてアウディーイウカの包囲を目指している。
露軍側が1月以降、攻勢を特に強めていたドネツク州の要衝バフムトでは、攻撃ペースの鈍化が相次いで伝えられる一方、攻略の主力を担う露民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員が、市内中心部の行政庁舎まで数百メートルの距離まで到達しているとの情報もある。
ドネツク州で露軍の侵略作戦に参加しているプーチン大統領直轄の治安組織「国家親衛隊」の幹部は1日、SNSで、露軍は攻勢よりも防衛に重心を移すべきだと主張した。この幹部は3月末にプーチン氏から「昇進」の辞令を受けた。
ウクライナ軍は4月か5月に大規模な反転攻勢の着手を計画しており、プーチン政権が占領地域の確保を重視し始めた可能性がある。
●ウクライナに欧州の主力戦車集結 「戦場に違い生む」 40両超到着 4/3
ロシアの侵攻を受けるウクライナが切望してきた西側諸国の主力戦車が続々と集まり始めている。
英国やドイツなど10カ国超が供与に加わった「戦車連合」からは40両以上が到着。反転攻勢の機会をうかがうウクライナ軍は、ロシア軍戦車との性能差を生かし、領土奪還につなげたい考えだ。
主軸を担うのはドイツ製の「レオパルト2」。移動しながら数キロ先の標的を攻撃できる精密さに、スピードと高い防御力を併せ持つ。ポーランドやカナダ、ノルウェー、スペインなどの保有国が供与に参加。全体で独政府が目標とした戦車大隊2個分(60両前後)を超える見通しだ。
ドイツなどで実施されたウクライナ兵に対する習熟訓練はおおむね終了。担当した独軍幹部はメディアに、一連の兵器支援で「(戦場に)違いが生じる。ウクライナ軍が主導権を取り戻す」と語った。米シンクタンクの軍事専門家も米欧の主力戦車について「ロシア軍が築いた陣地を突破し、追い詰めるだけの優れた火力と機動力がある」と解説している。
対するロシアは打つ手に乏しいのが実情とみられる。プーチン大統領は戦車供与に反発して、核保有国として取り得る「対抗手段」に言及。核の威嚇で米欧を揺さぶり、ウクライナにとって頼みの綱である支援の先細りを狙う。軍需産業へのてこ入れも伝えられ、長期戦に持ち込みたい思惑もありそうだ。
ウクライナのレズニコフ国防相は「1年前はこれほど強力な支援は想像できなかった」と自信を示しているが、万全とは言えない。第2陣として、米国製戦車「エイブラムス」が秋にも届き、さらに旧式のレオパルト戦車が100両超供与される見込み。それでも、ウクライナ軍が必要だと主張する300両には届かない。
気温の上昇でぬかるんだ地面が固まれば戦車部隊が本領を発揮できる環境が整う。ロシア側もウクライナの攻勢を迎え撃つ構えで、一段と激しい戦闘が予想される。 
●ロシア軍が遊牧民型の戦法で著しい戦果、ウクライナ軍壊滅は間近か 4/3
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2023年3月15日、バフムートなど東部ドンバスの諸都市の運命はウクライナの運命を左右すると訴えた。
3月22日には自らバフムートを視察し将兵を労うなど、戦意の高揚に努めている。
2月20日には米国のジョー・バイデン米大統領がキーウを秘密裏に電撃訪問した。
訪問の目的は、その後のゼレンスキー・習近平会談、中露首脳会談の動きから、停戦交渉の道筋を開くことにあったとみられる。
これらの動向から、ウクライナ戦争はこれまで報じられてきたようにウクライナ軍が優勢とは言えず、かなりの劣勢に追い込まれているのではないかと思われる。
戦場の実相は現在どのようになっているのであろうか。
要塞都市バフムートの防御態勢
以下の分析は、衛星画像分析とウクライナ軍、ロシア軍双方の国防省の日々の戦況発表、他の分析機関の分析結果(例えば、DPA War、Weeb Unionなど)、米国防省とパイプのあるダクラス・マグレガー米陸軍退役大佐、中立国の報道、独立系分析機関の報道などに基づいたものである。
互いの分析結果、特に戦況の進展度、両軍の損耗などの結果がほぼ一致しており、軍事合理性にも合致している。
その昨年開戦来の戦争の推移予想もおおむね的確になされている。総合的に判断して、信頼性の高い分析結果と言えよう。
ゼレンスキー大統領がウクライナの運命を決める戦闘が進展している町として挙げ、その直後に直接訪問し前線部隊を激励したのが、東部ドンバスの要衝バフムートである。
バフムートは、かつては人口7万人を擁し、東部ドンバスの交通の要衝であり、軍需物資の集積拠点でもあった。
ウクライナ軍は2014年以降、NATO(北大西洋条約機構)の支援も受けながら、バフムート市街地全域に堅固な要塞を構築してきた。
建物はそれ自体が堅固な陣地となり、旧ソ連時代から構築されていた地下シェルターには大量の弾薬、燃料、食糧などが備蓄され、長期戦が可能な態勢がとられていた。
陣地はコンクリートで強化された塹壕や地下道で結ばれ、要所には戦車・対戦車ミサイル・対空ミサイルなどの掩体が築かれ、防御陣地の周りには何重もの地雷原、対戦車壕、対戦車障害などが構築されていた。
ロシア軍は2022年5月から、このように要塞化されたバフムート市街地に対し攻撃を続けていたが、2023年1月頃までは、あまり戦線の前進は見られず、一見すると膠着状態にあるかのようにみえた。
しかし実態は、2022年10月頃から熾烈な火力消耗戦をロシア軍はウクライナ軍に強い、その結果、ウクライナ軍の兵員と装備に大量の損耗が出ていたのである。
火力消耗戦の総指揮をとっていたのが、航空宇宙軍総司令官から南部軍集団司令官を経て、2022年10月8日にロシア軍の総司令官に抜擢されたセルゲイ・スロヴィキン上級大将である。
彼は、ドニエプル川北岸のヘルソン州からの撤退をセルゲイ・ショイグ国防大臣に進言し、承認されたとされている。
遊牧民の戦術戦法を多用するロシア軍
ロシア軍はその戦術戦法の多くをユーラシア大陸を席巻したモンゴル軍、トルコ軍などの遊牧民族から大変な犠牲を出しながら学んできた。
遊牧民族は土地の確保に執着せず、柔軟で大規模な機動戦法を得意としている。
敵の陣地線の弱点から包囲し背後に出るのは、どのような軍も多用する戦術だが、ロシア軍はソ連軍と同様に、両翼からしかも内外二重の包囲攻撃を得意としている。
また、わざと負けたふりをして後退し、敵を準備した陣地地域に誘致導入し、背後を断って包囲殲滅するという戦法もよくとられる。
敵を包囲した場合には、わざと一方向だけは退路を残しておき、敵がその退路を利用して撤退する際に、退路沿いに準備した火力の集中射撃や伏撃を加えて殲滅するという戦法もとられる。
今回、スロヴィキン氏が追求した戦法は、弓矢の射程が優勢な点を利用して敵を包囲しながら突撃をせず、弓矢のみを射かけて包囲された敵を全滅させるという、モンゴル軍がとった火力消耗戦法である。
その際には、土地の確保にはこだわらず、敵の兵員と装備にできるだけ多くの損耗を出させることに主眼が置かれる。
2022年のヘルソンやハリコフでの戦いもそうであった。
スロヴィキン氏は航空宇宙軍司令官としての経験から、地域の確保にこだわらず、敵の火力が届かない長距離からのミサイル・ロケット弾火力の質と量の優位性を最大限に発揮すれば、損害を最小限に止めながらウクライナ軍の戦力を減殺できると判断していたのであろう。
人的損耗回避の政治的要請が火力戦法の背景
もともとウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ侵攻作戦を「特別軍事作戦」と称して、ロシア系住民の保護、ウクライナ軍のNATO軍化の阻止、ウクライナの中立化、極右武装勢力の脅威の排除など、限定した目的のための限定作戦として位置づけている。
そのために、投入兵力も当初は約19万人程度に過ぎず、キーウの直接攻略ではなく、包囲すればゼレンスキー政権はすぐに降伏するとみていたのではないかと思われる。
しかし開戦前から約90トンのNATOからの武器・弾薬を集積し防御を固めていたキーウの抵抗力は予想外に強力で、ゼレンスキー大統領も降伏要求に屈しなかったため、その思惑が外れた可能性がある。
その後、情報関係者が処罰されたとの情報があり、一撃で簡単にウクライナ政府は降伏するとの過度に楽観的な見通しを情報関係者が上申していたのかもしれない。
あるいは意図的に陽動作戦としてキーウ攻略を行い、その間に本来目的としていた南部と東部の占領を既成事実化しようとしていたのかもしれない。
その後の北部からの撤退と、その後の東部ドンバス、南部での戦いの推移からは、その可能性も否定できない。
いずれにしても、投入兵力とキーウからの迅速な撤退ぶりからみて、プーチン大統領としては、ウクライナ全土の征服やウクライナ軍の殲滅を当初から企図していたとはみられない。
もし当初からウクライナ全土の征服を企図していたのであれば、約200万人の予備役の全面動員を開戦時から行っていたはずである。
しかし動員は2022年9月になりようやくかけられ、それも戦闘経験のある約30万人のみの部分動員であった。
ここにも、プーチン大統領のできる限りロシア軍の兵員の損耗を少なくして、当初の戦争目的を達成しようとする意志がうかがわれる。
スロヴィキン総司令官が火力消耗戦法を採った背景には、このようなプーチン大統領の政治的意向があったと思われる。
特に、少子化が進んでいるロシアにおいては、戦死者が多発すれば、それが母親を中心とする市民の反政府感情に火をつけ、政権すら危うくなりかねないことを、チェチェン紛争などで体験しているプーチン大統領としては痛感しているはずである。
死傷者を最小限に止めながら、当初の戦争目的を達成することが、プーチン大統領の一貫した戦争指導方針とみられる。火力消耗戦法はそのような政治的要請にも適った戦法であったと言えよう。
またスロヴィキン総司令官は、ウクライナ軍に消耗を強いるとともに、ロシア軍を過広な正面に展開して背後に回られて包囲殲滅される危険を避け、自軍の兵力規模に適した防御正面に河川障害などの地形を利用して再編し、無理のない展開正面に縮小するという作戦もとっている。
ヘルソンもハリコフ州も、ロシア軍はウクライナ軍に敗退し壊乱状態で撤退したわけではない。
ロシア軍の撤退後には、遺棄死体、遺棄兵器、捕虜など、部隊の組織的戦闘の崩壊を示す兆候は遺されていない。ロシア軍が計画的に後退作戦を行い、態勢を建て直したとみるべきであろう。
火力消耗戦の実態とその威力
バフムート守備兵力は開戦時には、約4万人程度だったが、その後ロシア軍の攻勢が強まるにつれ、2022年秋には約6万人に増強されたとみられている。
その際に増援部隊を差し出したのは、南部正面に集結していた約3万人の予備隊主力であった。
ウクライナ軍としては、クリミア半島と東部ドンバス地区をつなぐ陸橋の要衝マリウポリを奪還し、クリミア南部正面と東部ドンバス地区のロシア軍を分断するとの戦略的意図をもって、ザポリージャから南部に向けて、大規模攻勢をかける予定であったとみられる。
しかし、バフムート防衛を最優先するとのゼレンスキー大統領以下の最高司令部の意図が働いたとみられるが、南部での攻勢よりもバフムート防衛を重視し、南部での攻勢戦力主力のうち約2万人がバフムート防衛に転用された。
その結果、バフムートの守備兵力は約6万人に増強されたが、それに対して発動されたのが、スロヴィキン総司令官の火力消耗戦法であった。
ロシア軍は、ウクライナ軍陣地に対し第一線部隊を過早に攻撃させて犠牲が出るのを避け、2022年10月以降、徹底的な火力消耗戦を挑んだのである。
開戦時には対空レーダ、ミサイル・航空基地と滑走路、地上の航空機とその掩体壕、弾薬集積所、燃料集積所などが、ロシア軍の奇襲的なミサイルの集中射撃により制圧された。
しかし、2022年10月以降のミサイル攻撃、無人機・有人機の航空攻撃では、ウクライナ全土の鉄道・道路の中枢・橋梁・トンネル、送電網・変電所・発電所・ダムなどの電力インフラ、軍需物資の集積所など、軍事的な兵站特に輸送網と補給機能のマヒ、民間のエネルギー・物流システムの破壊に重点が置かれた。
それにより、NATOから送られた装備、弾薬・ミサイル、燃料などの軍需物資の中で輸送途上や集積拠点で破壊されるものが続出した。
送られた装備・弾薬等の約3分の1しか第一線部隊には届かなかったとみられている。
それを可能にしたのは、ISRと呼ばれる、情報・監視警戒・偵察ネットワークとウクライナ軍火力の射程外からの長射程のミサイル・ロケット弾、火砲、攻撃型無人機などの火力の組合せである。
ISRを支えたのは、偵察衛星、偵察機、地上の偵察兵など従来の手段だけではなく、特に威力を発揮したのが、両軍とも何千機も運用した無人偵察機である。
これらの中には偵察と攻撃の両任務を果たす無人機もあり、リアルタイムで確認した目標に対し、即座に攻撃をかけることもできた。
ただし、特にNATOから供与されたウクライナ軍側の無人機については、ロシア軍の電子戦と濃密な対空ミサイル・火力網に阻まれ、期待したほどの威力を発揮できなかったとみられている。
もう一つの特色は、火力の射撃精度の向上である。
ダグラス・マグレガー米陸軍退役大佐も強調しているが、湾岸戦争で目を見張る威力を発揮した米軍の精密誘導兵器の威力は、今では世界各国の軍が同様のシステムを構築し、ほぼ同レベルの誘導精度を可能にしており、ロシア軍も例外ではない。
ロシア軍は、自国のグロノスと呼ばれる全地球航法衛星システムをミサイルやロケット弾の誘導に利用し、飛躍的に誘導精度を挙げているとみられる。
その結果、ウクライナ軍は前線に到着する前の移動途上や集結段階でロシア軍の無人機等に発見され、発見されればその直後に精度の高いロケット弾やミサイルの集中射撃を受け、大量の損耗を出している。
ウクライナ軍の損耗の約75%は、これらの遠距離からの火力攻撃により発生したと見積もられている。
ウクライナ軍の甚大な人員の損耗
特に、今回のウクライナ戦争では、攻勢を企図して前進した場合、敵との交戦圏に入る前に無人機等に発見され精度の高い集中火力を被り、攻撃側の部隊損耗が極めて高くなるという特性がある。
そのような特性を無視して、ロシア軍に占領された地域を奪還するために、無理な攻撃を繰り返したことにより、ウクライナ軍の損耗は急激に増加した。
2022年9月頃まではウクライナ軍の損耗は、1日平均戦死傷者、行方不明者を含め1000人程度とみられており、200日間で約20万人の損耗と見積もられていた。
しかし、その後ヘルソン、ハリコフ両州での攻勢の間に損害が急増し、2022年12月初めには、戦死者が約10万人に上るとのNATO事務局長の発言も報じられている。
なおロシア軍は、戦死傷者を含めて12月初旬までの累積の損害は約10万人との西側の見積りも報じられている。
兵員の損耗について、ウクライナ軍は現在、戦死者が約25万人、行方不明者が約7万人、戦傷者が約30万〜40万人と見積もられており、合計約62万〜72万人の損害が出ている。
これは、開戦時の総兵力104.5万人の約6割を超えており、ウクライナ軍の組織的な人的戦力はほぼ壊滅しているに等しい。
現在のウクライナ軍の兵員補充の実態について、ダグラス・マグレガー退役大佐は、以下のように述べている。
「ウクライナ軍は3度軍を編成した。一度目の正規軍主体の軍は2022年7月までに壊滅し、2度目の予備役主体の軍は2022年12月までに壊滅した」
「ウクライナ軍は2022年のクリスマスから3度目の軍を再編し今年の春季攻勢に備えているとされるが、その主体は40歳から50歳の後備役の老兵と徴兵年齢に達しない少年兵などで訓練期間も数週間しかなく、戦場に送られて数日で戦死している」 
さらに「ピザの配達に来た少年をそのまま拘束して軍に送り込んでいる」と、そのウクライナ軍の徴兵の窮状について述べている。
バフムートでも、守備兵力の約半数が死傷し、約4万人から2023年1月末には約2万人に、さらに現在は後述するように4000人以下に減少している。
ウクライナ軍の兵員不足を補ってきたのが、ピーク時には約9万〜10万人とみられた、NATO加盟国などからの傭兵、義勇兵などだが、その損耗も増加している。
開戦前から米英独などで訓練されていたウクライナ軍の兵員は、2022年の作戦で大半が死傷している。
また、その後徴集された新兵は、後備予備が主で訓練水準が低く、そのうえ訓練期間が不足しているため、最新兵器を操作するのは困難である。
そのため、NATO供与のHIMARS、ジャベリン、攻撃ヘリ、新型戦車などの最新兵器を操縦しているのは、主にこれらの外国人傭兵とみられ、それが彼らの損耗の増加をもたらしている。
NATO加盟国も、傭兵や義勇兵として兵員を出すには限界があり、これ以上の兵員の支援をするとすれば、軍事顧問団や特殊部隊に加え、正規軍を派遣する必要が出てくる。
しかしそうなれば、NATO条約第5条の規定により、一国の戦いはNATO加盟国全体の戦いとなり、ロシア軍とNATO軍の全面戦争を招きかねない。
さらに核戦争にエスカレートするおそれもあり、NATOとしてはこれ以上の兵員をウクライナに派遣することは困難な状況になっている。
圧倒的格差の兵站支援能力
ロシアは約10年前からウクライナ戦争を予期し、国を挙げて戦争準備に取り組んできた。
例えば2019年3月、当時のゲラシモフ参謀総長は、軍事科学アカデミー総会に出席し、『軍事戦略発展の方向性』と題する講演を行い、「部隊装備の即応態勢の重要性」を指摘している。
すなわち、「現代の兵器は複雑なため、軍事作戦が始まってから短期間で生産に移行することはまず不可能である。必要なものは平時のうちに所要数を生産し、部隊に配備しておかねばならない」と強調している。
このことが、この方針がウクライナ戦争でも貫かれている。
すなわち、ロシア軍の軍需産業はNATO見積りの2倍のミサイル・砲弾などの弾薬を備蓄し、その緊急時生産能力は見積りの3倍に達しているとダグラス・マグレガー退役大佐などはみている。
ロシア軍は弾薬量において、ウクライナ軍の約10倍の水準を維持している。
例えば、ロシア軍は1日約6万発の長射程のミサイル・ロケット弾・砲弾を射撃しているが、NATOが全面的に支援しているウクライナ軍の弾量は1日約6000〜7000発である。
砲弾の生産量についても、ロシア軍は1日3万数千発を生産しているが、NATOは米軍が2千数百発、NATO全体でも3千数百発と約10分の1にとどまっている。
米国防省は、ウクライナと米軍の弾薬備蓄増強のため14億5000万ドルを投じて弾薬の増産計画を立てている。
計画では、155ミリ榴弾用砲弾の生産能力を今年末までに現在の2倍の月産2万4000発にする計画である。ジャベリン対戦車ミサイルについては、倍増し月産330発に増産する予定になっている。
それ以上の本格的な増産は年内には間に合わず、ジャベリンやHIMARSのような複雑なシステムでは数年は必要になる。訓練にも同様の期間が必要で、年内の戦力化は困難とみられる。
これらの増産は、今年末を目標としており、かつ倍増程度に留まり、ロシア軍とは5倍程度の格差が残ることは否めない。
またこれらの弾薬が、航空優勢もない中、ポーランド国境から800キロ以上も陸路を無事に前線部隊にまで届けられる保証もない。
これまでの結果では、無事に届くのは全体の3分の1程度に留まっていると米軍筋もみている。
戦車についても、ロシア軍は年間約250両の戦車生産能力をもっているが、それ以外に油漬けにして保管している戦車約1万両の中から、「T-72」をエンジン、装甲、射撃統制装置などを改良して新型にし、年間約600両を生産可能とみられている。
それに対し、NATO側では米軍も年間百両以下、ドイツなどもレオパルト戦車は年間22両程度しか生産していない。増産し乗員を訓練するには、やはり数年かかるとみられている。
NATO側では、当面保有している戦車をウクライナに送ることで合意している。
ドイツの「レオパルト2」が18両ウクライナに届いたと報じられ、英国も「チャレンジャー2」を14両、ポーランドも74両のレオパルトを供与することをウクライナに約束した。
しかし、その数はロシア軍に比べ少数で、年内に全部で約150両程度にとどまるとみられている。
他方のロシア軍は国境から百数十キロで前線に届き、ロシア領内の安全圏内に大規模な生産工場、備蓄基地などが展開され、そこから武器・弾薬を安全に大量輸送できる。
ただし、今年に入りウラル地区に備蓄されていた大量の弾薬が底を尽き、極東方面からも追送が必要になったが、長距離輸送間にその約半数が錆びついているとの未確認の情報もあり、ロシア側の備蓄も欧露正面では枯渇しつつあるのかもしれない。
しかし、ロシアは極東などの備蓄の転用、増産能力の向上、他国からの輸入などの手段はとれるであろう。
多種多様な武器・弾薬からなり、規格が異なる物を同時使用せざるを得ないウクライナ軍の兵站面・訓練面の負担に比べると、兵器体系が一本化されているロシア軍の方がはるかに効率的に兵站面の支援を行うことができる。
ウクライナ軍は開戦時の航空戦力や航空基地に対するミサイル攻撃などにより、航空戦力の主力は破壊され、滑走路も整備施設・弾薬庫・燃料庫も大半が使用できない。
残存した戦闘機もポーランド国内に退避し、発進している状況である。
そのため、ウクライナ空域での航空優勢は確保できていない。ロシア軍の濃密な対空火力網に阻まれ、東部ドンバスでの作戦時に戦車部隊の上空を掩護するのは困難とみられる。
2023年3月8日付『ニューズウィーク』誌によれば、2023年2月の欧州訪問の際、ゼレンスキー大統領は戦闘機の供与を要求しており、ウクライナ軍空軍のパイロットが「通常の軍事対話の一環」として米国に来ているとも報じられている。
しかし、パイロットの訓練には1年半程度はかかるとみられており、戦闘機の供与に米国は依然として慎重である。
少数の戦車で航空掩護もなく圧倒的に優勢な戦車戦力と掩護態勢を持つロシア軍に攻勢をかけても、成功の可能性はなく、犠牲を出すだけで終わるであろう。
質の点でも、ロシアを侮ることはできない。
前記のゲラシモフ演説でも、「先端的な科学技術を軍事面に全面的に応用すること」の重要性を強調し、特に核抑止力については、「世界の最先端を走っているという事実に疑いをはさむ余地はない」との自信を示している。
その具体例として、新兵器「キンジャール」は高い有効性を示し、「ポセイドン」、「ブレヴェストニク」の試験は順調に進み、「海洋配備型極超音速ミサイル「ツィルコン」の開発計画も進んでいると述べている。
これらの兵器のうち「キンジャール」は、ウクライナ戦争で使用されている。
「キンジャール」は当初1日6発程度の使用にとどまっていたものが、その有効性が実証され3倍に生産能力が引き上げられたとみられている。
「キンジャール」は高価で複雑な兵器のため、多数を生産・使用はできないが、現用のNATOの防空システムでは撃墜手段はなく、正確に目標に命中し1発でも多大の破壊効果を挙げている。
そのため、ロシア軍は他の攻撃手段では破壊できない、最も重要な目標に「キンジャール」を使用している模様である。
また上記演説で、ゲラシモフ氏は「地上配備型の短・中距離極超音速ミサイル複合体の研究・設計作業も実施が決定された」と述べており、今後はイスカンデルなどに搭載した地上配備型極超音速兵器も登場し、その攻撃威力を増すことになるかもしれない。
ロシア軍冬季攻勢と崩壊寸前ウクライナ軍
2023年1月、ロシア軍の最高司令部改編に伴い、スロヴィキン総司令官からワレリー・ゲラシモフ総司令官に交替した。
路面凍結を待ち、これまであまり動かなかった両軍の接触線が動き始めた。ロシア軍が犠牲覚悟でバフムートその他の要塞都市に対し、全面攻勢を開始した。
1月末から、路面の凍結を待ち、ロシア軍のバフムートに対する占領地域拡大を目標とする本格的な地上部隊の攻勢が開始され、民間軍事会社のワグネルを主体とする歩兵部隊が熾烈な市街戦を戦い、徐々にウクライナ軍の防御陣地を蚕食し始めた。
特に第一線部隊として活躍しているのは、民間軍事会社のワグネルの部隊である。
彼らは近接格闘戦を余儀なくされ犠牲を伴う市街戦や森林内での戦闘に長けており、市街地の東部から徐々に陣地の制圧を進めた。
それと同時にロシア軍正規軍と連携し、バフムート市街地の南北両翼から同市を包囲し、市街地に通じる道路網を遮断している。3月20日過ぎには1本を除き主要な道路はすべてロシア軍の制圧下に入った。
ウクライナ軍は包囲を避けるため撤退を始めているが、装甲車、戦車などは泥濘にはまり動きが取れなくなり、そこを無人機に発見され、精密火力で集中攻撃を受け大半が破壊されている。
そのため、徒歩で撤退を余儀なくされている。
これも、包囲環を縮めながら、一方向にわざと退路を残し、待ち伏せや火力で撤退中の部隊を殲滅するというロシア軍の慣用戦法である。
前述したように、ゼレンスキー大統領は3月15日には東部ドンバスの諸都市の運命は国の運命を左右すると訴え、20日にはバフムートの前線視察も行っている。
しかし3月25日頃には市街地の約7割がロシア軍に占領され、バフムートの守備部隊の戦力は約4千人に減少し、包囲環は縮まっている。
ウクライナ軍の第一線部隊では、砲弾も装備も不足し、部隊の交代もなく将兵の士気も低下しており、窮状を訴える第一線将兵の生の声がSNSなどにも掲載されている。
ゼレンスキー大統領自身も、3月25日、追加の戦車や火砲、HIMARSがなければ、ウクライナ部隊を前線に出すことはできないと、読売新聞のインタビューで述べている。
また、ウクライナ東部の戦況は、「良くない」としている。
バフムートの南方、ドネツク市のすぐ北にある要衝のアディエフカも、バフムートの北方にある要衝のシベリスクも同様に包囲されている。
ウクライナ軍はこれらの要衝都市の郊外に予備隊を集中し、反撃を試みている。
しかし数個旅団規模の予備隊は、集結段階からロシア軍の1.5トン長距離滑空爆弾などの集中射撃により制圧され、反撃後もロシア軍の火力打撃により損害を出し押し戻されている。
その間にも、ロシア軍やワグネルの部隊は、進撃を続け、各要塞都市の間の弱点からさらに深く二重に包囲しつつ、最後の陣地帯である、コンスタンチノフカ〜クラマトルシク〜スラヴィヤンシク方向に追撃を続けている。この最後の陣地帯まで十分な戦力を離脱させ、再編してロシア軍の攻勢を食い止めることは、おそらく困難とみられる。
兵站面でも今夏にはウクライナ軍の弾薬は枯渇するとみられている。
また、装備も弾薬も増産・追送が間に合わず、その前にウクライナ軍が戦力を失い、ロシア軍がウクライナ西部まで制圧するおそれがある。
現在、北部正面のロシア領内、ベラルーシ国内に各15万〜20万人、南部正面にも18〜22万人の兵力が集結し攻撃準備態勢をとっているとみられている。
泥濘期が過ぎれば、ロシア軍の本格攻勢が北部、東部、南部の三正面から開始され、ハリコフ、オデッサ、キーウ、リヴィウなどの要域が占領されるおそれもある。
特にポーランド国境が封鎖された場合には、NATOの支援が絶たれることになり、ウクライナの戦争継続は数週間以内に不可能になるであろう。
このような戦況推移予測を踏まえて、3月20日のバイデン大統領のキーウ訪問がなされ、その後のゼレンスキー・習近平会談、中露首脳会談など、停戦をにらんだ一連の外交交渉が展開されたとみられる。
ウクライナ戦争がウクライナの敗北に終わる可能性が高まっていることを踏まえ、日本の安全保障政策全般を見直さねばならない。
●ゼレンスキー大統領「全領土を取り返す」ブチャなど奪還1年  4/3
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、東部の激戦地バフムトやその周辺で一進一退の攻防が続いているとみられます。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアからブチャなどキーウ州の全域を奪還して2日で1年になると強調したうえで、「すべての領土を取り返す」と決意を新たにしました。
ウクライナ東部の激戦地バフムトの戦況について、ウクライナのマリャル国防次官は2日、SNSで「依然として厳しい」としたうえで、ロシア側が民間軍事会社ワグネルの戦闘員だけでなく、精鋭とされる空てい部隊も投入しようとしているとしました。
そのうえで、ウクライナは困難な状況だが適切に軍事的決定や段階を踏んでいるとしています。
こうした中、ゼレンスキー大統領は2日に公開した動画の中で、2日がロシアからブチャなどキーウ州の全域を奪還して1年となる日だとしたうえで「最後の占領者が去るか殺される日は来る。ウクライナはすべての領土を取り返す」と述べ、ロシアに支配されている東部や南部の領土を奪還する姿勢を改めて示しました。
そして「ロシアは敗北しなければならない。今後1週間が、われわれの勝利に向けて特に重要だ」として、近く攻勢を強める計画を準備していると強調しました。  
●ロシアの侵略支持する評論家、胸像に仕込まれた爆発物で死亡… 4/3
タス通信などによると、ロシア西部サンクトペテルブルク中心部のカフェで2日夕、爆発があり、ロシアのウクライナ侵略を支持する軍事評論家が死亡、30人が負傷した。露連邦捜査委員会は殺人事件として捜査し、爆発物を仕込んだ胸像を評論家に手渡した女が容疑者だと特定した。
死亡したのは、SNSで侵略支持の投稿を続けていたマクシム・フォミン氏。「ウラドレン・タタルスキー」のペンネームで、通信アプリ「テレグラム」に約56万人の登録者を抱えていた。
カフェでは爆発当時、侵略支持派の会合が開かれていた。女がフォミン氏をモデルにした胸像を手渡した5分ほど後に爆発したとみられ、すでに拘束されたとの情報もある。ロシアの侵略開始後、女は地元で反戦集会に参加し、当時も拘束されたと伝えられている。
露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏は3日、爆発があったカフェを所有していることを明らかにし、哀悼の意を表明した。
一方、ウクライナ大統領府の顧問は2日、今回の爆発について「クモは共食いをするものだ」とSNSに投稿し、関与を否定した。
ロシアでは昨年8月、プーチン政権の外交方針に一定の影響を与えたとされる民族主義的な思想家アレクサンドル・ドゥギン氏の娘がモスクワ郊外で車ごと爆殺され、ウクライナの関与が疑われていた。
●プーチン大統領が国内に缶詰状態…同盟国まで「入国すれば逮捕」と警告 4/3
ICCの逮捕状で国内に缶詰状態
ロシアの同盟国のアルメニアが、プーチン大統領に「逮捕せざるを得なくなるから来ないよう」警告していたことが分かり、同大統領はロシア国外には出られない缶詰状態になっているようだ。
ロシアの日刊紙「モスクワ・タイムズ」電子版は29日「アルメニア与党、ハーグからの令状でプーチン逮捕を警告」という見出しの記事をアルメニア国民議会のカギク・メルコニアン副議長の大きな写真とともに掲載した。
それによると、同副議長は地元メディアとのインタビューで「もしプーチンがアルメニアへ来れば彼は逮捕されなければならない」と語ったという。
アルメニアは昨年12月に国際刑事裁判所(ICC)への加入のための批准法案をまとめICC入りを目指しており、加入すればICCから逮捕状が出ているプーチン大統領がアルメニアが拘束する義務を負うことになる。
「もし我々がICCに加盟すれば、その義務を果たさなければならないことになる。ロシアの問題はウクライナと解決すればよい」
メルコニアン副議長はこうとも語っている。
同盟国もロシアの侵攻に疑問?
アルメニアは旧ソ連の構成国の一つ。現在もロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国で国内にロシア軍の基地もある。ロシアの軍事同盟国であるわけだが、隣国アゼルバイジャンとの抗争をめぐって戦争犯罪を追及する目的でICCへの加盟に踏み切ったとされる。
一方プーチン大統領は、ウクライナ侵攻でウクライナの子供たちを不法に拉致した戦争犯罪で国際刑事裁判所(ICC)から3月17日逮捕状が出されたが、米国や中国はICCに加盟しておらず主に西欧の123の加盟国を避けて通れば逮捕は免れるので実質的な拘束力はないだろうという見方が有力だった。
しかし、アルメニアはロシアが再三警告したにも関わらずICC加盟を強行したわけで、プーチン大統領自身の威信を損ねることになっただけでなく、大統領の行動範囲を著しく制限することにもなった。
さらにアルメニアの決断はロシアの同盟国の間で、今回のウクライナ侵攻をめぐって疑問が生じていることを物語っていると注目されている。
気になる南アフリカの対応
今のところ、アイルランド、クロアチア、オーストリア、ドイツなどがプーチン大統領が入国すれば直ちにICCの逮捕状を執行することを公言しているが、今注目されるのが南アフリカだ。
南アフリカでは8月後半にBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興経済5大国)首脳会談がダーウィンで開催が予定されている。プーチン大統領は2013年の第6回会議以来参加しており、今回は特にウクライナ侵攻問題が主要議題になると考えられるので出席を希望しているはずだ。
しかし南アフリカはICCの加盟国であり、ICCの逮捕状対象者が入国すれば身柄の拘束に協力する義務が生じる。このため、南アフリカ政府は専門家に対応策を検討させているが今のところプーチン大統領に出席を断念させる以外に手立てはないようだ。
プーチン大統領がロシアに心情的に近い指導者とのこの会議さえも出席できないとなると、その打撃は計り知れない。
形式だけと思われていたICCの逮捕状は、プーチン大統領を国内に缶詰状態にしてその権威を失墜させるという意味では大きな役割を果たしているようだ。
●プーチン氏、特別基金を創設 ウクライナで戦う兵士支援 4/3
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は3日、ウクライナで戦う兵士とその家族を支援するための特別基金を創設する大統領令に署名した。
「祖国の防衛者」を支援するこの大統領令は、政府の公式サイトに掲載された。新基金は、対ウクライナ戦に臨む兵士をはじめ、そのパートナーや子どもたちに対する「十分な生活保障」を目的としているという。
プーチン氏は、ウクライナ侵攻開始から約1年がたった2月21日に、連邦議会でこの支援策を発表していた。
その際「われわれの義務は、愛する人を失った家族を支援し、子どもたちを養育して教育と仕事を与えること」であり、この基金により「特別軍事作戦で戦死した兵士の遺族や退役軍人に的を絞り、各人に適した支援を提供する」と述べていた。
●北方四島、日本領と認めず 習主席、ロシアに歩み寄り  4/3
中国の習近平国家主席がロシアのプーチン大統領と先月20〜21日に行った会談で、北方四島の領有権問題について「(どちらか一方の)立場を取らない」と表明していたことが分かった。中国関係筋が3日までに明らかにした。中国は1964年に最高指導者だった毛沢東が北方四島は日本領だと明言して以降、その認識を崩していなかったが、ロシア側に歩み寄り、中立の立場に変更した。
昨年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻で、北方領土問題解決を含む日ロ間の平和条約締結交渉は中断。中国の立場変更を受けてロシアが自信を深め、対日姿勢をさらに硬化させることは確実で、領土返還交渉はいっそう困難になった。
同筋によると、プーチン氏が中ロ首脳会談で、昨年3月にロシアが北方四島に設置した免税特区の活性化が重要だと指摘。先月16日の日韓首脳会談で日韓関係が改善したため、韓国企業による投資は望めないとの認識を示し、中国企業の投資を要請した。
これに対し、習氏は領有権問題については「立場を取らない」と表明した。
●放送禁止用語「戦争」も使用──ロシア国営メディアが政府批判 4/3
ウクライナでの戦闘中に負傷したにもかかわらず、プーチン大統領が約束した補償を受け取れていない。
ロシアの国営通信RIAノーボスチが3月28日、「こんなはずではなかった」と題した記事で兵士らの不満の声を特集し、同国メディアとしては異例の政府批判を繰り広げた。
ロシアでは昨年3月、軍に関する「フェイクニュース」を拡散した者に最高15年の実刑を科す法律が成立し、反プーチンの言説への弾圧が強化された。
「戦争」という表現も禁じられ、メディアは「特別軍事作戦」と称してきたが、今回の記事では「戦争」が用いられた。
プーチンは侵攻開始の1週間後、負傷者に300万ルーブル(約500万円)の補償を約束し、死傷者の家族を支えるのは国家の「義務」だと述べた。
だが死傷者が増加するなか、昨年5月には補償の条件を厳格化。取材に応じた兵士らは、当局がさまざまな理由を付けて補償を拒んでいると訴えた。
●「戦争犯罪の処罰を」=岸田首相、ブチャ解放1年で 4/3
岸田文雄首相は、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し「侵略は深刻な国際法違反で責任が問われるべきだ。戦争犯罪、残虐行為の不処罰はあってはならない」と非難した。外務省が3日に発表したビデオメッセージで語った。
メッセージは、多数の民間人が犠牲となった首都キーウ(キエフ)近郊ブチャの解放から1年となった3月31日にウクライナ政府が開いた国際会議に送った。
首相は先の同国訪問の際にブチャも訪れた。メッセージで「侵略の惨劇を直接目の当たりにし、ロシアの暴挙の理不尽さに強い憤りを覚えた」と強調。犠牲者への弔意を示し、「美しい大地に平和を取り戻すべく、日本はウクライナと共に歩んでいく」と結んだ。
●ワグネル創設者「市庁舎にロシア国旗掲揚」 ウクライナ東部要衝 4/3
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者エブゲニー・プリゴジン氏は2日、通信アプリへの投稿で、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトの市庁舎にロシア国旗を掲げたと主張した。
「法的な観点で言えば、バフムトを奪取した」と語った。ロイター通信が報じた。
ただ、戦闘は依然として継続しているもようだ。ウクライナ軍参謀本部は3日朝の戦況分析で「敵はバフムトを完全支配下に置くべく、攻撃を止めていない」と述べる一方、同国軍が20回以上、ロシアによる攻撃を撃退したと明らかにした。ゼレンスキー大統領も2日、バフムトを中心に激戦が続いているとの認識を示し、兵士への謝意を述べた。
米シンクタンク「戦争研究所」は1日、ロシアによるドネツク州やルガンスク州での攻撃を巡って、戦力不足を指摘。ロシアの軍事ブロガーらからも、今後数週間でバフムトなどを攻略しなければ、大規模攻撃が続けられないとの見方が出ており、ロシア側でウクライナによる反撃に警戒感が広がっているという。
一方、ポーランドのメディアは3日、ゼレンスキー氏が5日に同国を訪問すると報じた。ドゥダ大統領と会談するほか、ウクライナ避難民とも面会するという。 

 

●死亡の戦場記者に勲章 プーチン氏、ロシア「ウクライナによるテロ」 4/4
ロシアのプーチン大統領は3日、サンクトペテルブルクのカフェの爆発で死亡した、ウクライナ侵攻を支持していた戦場記者のウラドレン・タタルスキー(本名マクシム・フォミン)氏に、勇気勲章を授与する大統領令に署名した。インタファクス通信が伝えた。
タタルスキー氏はウクライナ東部ドネツク州出身。人気の「軍事ブロガー」で、SNSには50万人以上が登録する。この日はカフェで開かれた愛国主義的なイベントに参加していた。
ウクライナ侵攻では戦闘員や戦場記者として活動した。昨年9月にプーチン氏がウクライナ4州を一方的に併合した際の式典にも出席していた。
ロシア当局は「ウクライナの特殊機関がロシアの反政権派を使って計画したテロ事件だ」と発表している。
●ブラジル特使がプーチン氏と会談、ウクライナ和平交渉巡り協議 4/4
ブラジルのルラ大統領がロシアに特使を派遣し、プーチン大統領とウクライナの戦争終結に向けた和平交渉の可能性を巡り協議したと、CNNブラジルが3日報じた。
ルラ大統領の外交政策顧問トップを務めるアモリン元外相はCNNブラジルとのインタビューで、3月30日にクレムリン(ロシア大統領府)でプーチン大統領と1時間にわたり協議したと明らかにし、「和平交渉の扉が開いていると言えば言い過ぎだが、完全に閉じているというのは真実ではない」と語った。
「魔法のような解決策は存在しないが、政治的および人的・経済的コストを含む戦争に絡むコストが、平和に向け必要な譲歩のコストよりも大きいということを認識する時が来るはずだ」とし、「その時期にはまだ至っていないが、予想よりも早期に訪れる可能性がある」という考えを示した。
プーチン大統領との会談のほか、17日にブラジル訪問を予定しているラブロフ外相と昼食を共にし、パトルシェフ安全保障会議書記やウシャコフ大統領補佐官(対外政策担当)らとも顔合わせたしたという。
●習近平の訪露によるウクライナ侵攻仲介と多極化構築 4/4
「一部の日本側指導者は、いわゆる《秩序》を大いに語っている。ならばわれわれはそれをビリビリに引き裂いてやる! 今日の世界秩序は世界反ファシスト戦争の勝利の上に築かれており、それに挑戦する歴史修正主義を中国は絶対に受け入れない!」
「米国側のいう米中関係のセーフガードや衝突回避とは、中国側を縛って転倒させ手足も出させず、罵られるままに口ごたえもさせないようにすることだ。しかしそうはさせるものか! 米国が偉大であるならば、別の国が発展するのを受け容れる雅量を持て!」
王毅氏に代わって新たな中国の外交部長に就任した秦剛氏は、去る3月8日に催された記者会見の場で、およそ職業外交官の洗練とはかけ離れた表現で、「開かれたインド太平洋戦略」を通じた日本の役割拡大と対中批判、ならびに国際的な連帯を説く米国の戦略を切り捨てた (中国外交部公式HP所載全文の語感をそのまま直訳した)。
このことは、昨今の日米をはじめとした西側諸国による規制強化の結果、今般の全国人民代表大会(以下、全人代)での政府活動報告が示した「さらなる外資・外国技術の導入によって中国の自立・自強を進め、高度科学技術における争奪戦に勝利し、サプライチェーン自立を強靭化し、製造強国を実現する」という方針に暗雲が垂れ込め、中国経済そのものの再起にも問題が山積しているという吐露に他ならない。
その「中国の秩序は認めよ。外国が示す秩序は受け入れられないし、かつての振る舞いを忘れて正義ぶった者が示す秩序はなおさら受け入れられない。ただ単純に貿易の自由は認めよ。強き者は競争相手に少しは手加減せよ」という狼狽は、あたかも20世紀の世界史でいつか見た光景である。
しかし習近平思想は、内外におけるさまざまな強権への批判を「国情」の名において決して受け入れないばかりか、ごく当たり前な人間の尊厳をも「反人権」と切り捨てるものであり、現在進行形で世界の姿を確実に不安定なものにしている。しかも中国は、「自立・自強」と「多極化」の名において囲い込んだ「圏域」「共同体」によって、既存のグローバリズムを圧倒しようとしている。
その可能性に米国をはじめ西側が次第に気付き、しかもロシアのウクライナ侵攻に対して中国が明確な立場を示さないことが、西側の危機感を強めていることの意味を、中国は真剣に考えるべきであろう。
とは言え筆者の見るところ、「中国中心の多極化グローバリズム」を掲げる習近平思想の立場は、ロシアのウクライナ侵略1周年を機に、ロシアと西側の間で逡巡するのを止めたのかも知れない。習近平政権は西側への憎悪、そして「多極化した新型国際関係」における同志国ロシアの戦略的立場への配慮のため、何一つ侵略されたウクライナの側には立っていない。しかも「侵略戦争は許されない」という、そもそも中国自身が(特に日本に対して)掲げている規範を自ら損ねつつある。
反西側言説・多極化世界構想としてのロシア支持
2月24日に習近平政権が発表した「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」では、「各国の主権・独立と領土の一体性は切実に保障されるべきである」という。しかし、各国の独立のありようや領土が具体的にどのような状況・範囲を指すのかについて、習近平政権は一切説明しない。さらに中国は「一国の安全は、他国の安全を代価とすることはできない」「地域の安全は軍事集団を強化し、拡張することによっては保障されない」という。
要するに習近平思想は、ウクライナ南東部を強奪して得られた「新領土」を含む「ロシアの一体性」を尊重するかたちでの「平和的」な解決が望ましいとみている。そして習近平思想は、ウクライナの安全保障を求めるウクライナや北大西洋条約機構(NATO)の立場は、ロシアの利益を毀損するため認められない、と暗に言いたいのである。
しかし、NATOのストルテンベルグ事務局長が「中国はあまり信用されていない」とコメントした通り、ある意味当然のように「立場」の評判が芳しくないためであろうか、3月7日に記者会見を行った秦剛外相は、ウクライナ危機をめぐって次のように述べ、事態の責任を米国とNATOに転嫁した。
「ウクライナ問題の本質は、欧州における安保ガバナンスの矛盾が大爆発したものである。見えざる手(=米国とNATO)が衝突の引き伸ばしと悪化を仕掛け、ウクライナ危機を通じて地政学的な利益を得る陰謀を試みている。ウクライナ危機における各方面の合理的な安全への関心は全て尊重されるべきだ。中国は独立自主で判断し、和平と対話を重視している。危機の製造者・当事者ではないし、武器供与もしない。何を根拠に中国に責任をなすりつけ、制裁や威嚇を加えるのか?」
しかしそもそも、徹頭徹尾ロシアの側に立ち続けていることこそが習近平政権の責任である。結局は習近平思想における反西側言説・多極化世界構想こそが最優先であり、プーチン・ロシアは得難い協力者だということなのであろう。
習近平氏がモスクワを訪問し、伝えられるところによると10時間以上にわたって緊密な会話を交わし、パートナーシップを大々的に誇示したことは、そのような態度表明に他ならない。昨年9月の上海協力機構・サマルカンド首脳会談の際に、プーチンを前にして習近平氏が示した今ひとつれない態度とは全く対照的である。
この時はまだ、中共第20回党大会における習近平3選の前であり、西側とロシアの双方を睨んで中国の立ち位置を測りかねていたか、それとも自らの3選を前に外交上明確すぎる態度を示すのを先送りしたかのいずれかであろうが、少なくとも方針が明確にならなければ、かくも大々的で記念すべきモスクワ訪問にはならないはずである。
ウクライナを犠牲にする中国
実際、3月21日に発表された「中露新時代の全面戦略的協力パートナーシップの深化に関する共同声明」は、目下のところ習近平政権の発展観・文明観・グローバル観の集大成の一つとなっている。要約すると、以下のように言う。
多極化された国際秩序が加速度的に形成され、新興国と途上国の地位が増強され、グローバルな影響力を増している。その中から、自国の正当な権益を断固として守ろうとする地域大国が増え、米欧中心の覇権主義・一方的なやり方・保護主義の横行に反対するのは当然である。
「法の支配に基づいた秩序」なるものによって、一般的な国際法の原則にとって代わることは受け入れられない。
「民主主義が権威主義に対抗する」という西側の言説は虚偽である。(筆者注:ゼレンスキー政権もまたこのような言説によりウクライナ国民を鼓舞している以上、習近平思想はウクライナとの対立を暗に覚悟したことを意味する)
各国の歴史・文化・国情は異なり、いずれも自主的に人権と発展の道を選択する権利がある。他者よりも抜きん出た「民主」は存在しない。だからこそ世界の多極化を実現し、国際関係を民主化すべきである。中露両国はその実現のためのパートナーである。
総じて習近平思想はプーチンとともに、これまで人類社会がさまざまな摩擦や葛藤を繰り返しながらも次第に確認しあってきた普遍的価値を否定し、力を持つ者が自らの論理を内外で強め、物質的発展と勢力圏拡大を目指すという事実こそが普遍的であると言わんとしている。そのような国々が互いに一目置きパワーシェアリングすれば「多極化された国際社会の民主化」だという。
したがって習近平氏が、自らの強権や誤った政策のために苦しむ人々の声に耳を傾けることはないし、侵略されたウクライナの痛みを共にするとも思えない。
既に習近平氏は国内において、「これこそが中華民族共同体意識であり、中国の人権と発展観念である。外部勢力の干渉を拒否して中国の正しい声を受け入れれば誰もが幸せになれる」と称して人々を動員・参加させてきた。そして反発する人々に対しては「外部勢力の影響を受けた分裂主義者・極端主義者への打撃」と称して、一切の容赦なき鉄槌を下してきた。
そしてプーチン・ロシアも「東スラブ民族の共同体意識」を説き、ウクライナが「米国やNATOの悪影響から脱し、ロシアの声を受け入れれば幸せになれる」と称して侵略を続けている。
このように、習近平・プーチン思想は、彼らが影響力を持つと称する範囲において、過酷なガバナンスを通じて思想を統一するという点でも、多極化した世界において西側の影響を排除した「圏」を確立するという点でも、極めて似通っている。
習近平思想の立場は、仮にロシアに対して直接の軍事支援はしないとしても、プーチン思想を擁護し放置し続けることによって、ウクライナの永続的な犠牲と引き換えに成り立つ「多極化世界」を享受しようとしている。少なくとも、ロシアの侵略が引き続くことになれば、西側とロシア双方が莫大な戦費を使うことになり、相対的にみて中国の軍事的プレゼンスに寄与する。また、ロシアは確かに資源を擁する大国であり、完全に衰退する可能性は恐らくない中、それでも今後は中国に依存しながら生きる「弱小な極」であり続けるならば、中国主導の多極化世界構築と「国際関係の民主化」にとって有利である。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、岸田文雄首相のキーウ電撃訪問で日本の強い支持を得たのを受けて、習近平をウクライナに招待した。しかし恐らく、習近平氏はウクライナ国民一般に響く言葉を持たないはずである。
日本がとるべき選択
この先にあるのは、ユーラシア大陸にくすぶる剥き出しの強権がグローバルな規模で広がり続け、彼らなりの「国情」を振りかざしつつ、規範に基づく国際秩序を揺るがす混沌の世界である。それは、文明や文化を異にする他者どうしが時間をかけて共通の規範を見出し共有しようとしてきたこれまでの人類社会の知的営為の否定であり、グローバリズムの深刻な危機・敗北を意味する。
その中で習近平思想は具体的に、多極化世界における自らの足元たる東アジア、そしてアジア・西太平洋地域を自らの「圏」と見なし、その中心にいるのはかつての「反ファシスト戦争」の勝者にして、今や「西側にも勝った」中国であるという姿勢をいっそう強めよう。そして、ウクライナに対するロシアの発想と同じく、「米国や西側ではなく中国との協力・中国の恩恵があってこそ、真正の日本の繁栄がある」と称して、日本の政策決定の余地を狭めようとするであろう。
それが好ましくないと思うのであれば、日本は一層、開かれたアジア太平洋秩序、法の支配に基づく国際秩序の擁護に向けて、志を同じくする国々やNATOなどの組織との一層緊密な協力を打ち立てつつ、日本自身の経済と社会の質と魅力を盛り返すことが喫緊の課題と言える(とりわけ中国は「グリーン経済」を掲げ、莫大な投資を続けている)。そして中国に対しては、「現状の内政と外交では中国の将来の可能性を狭めるだけであり、他国を圧倒する世界観ではなく、誰もが受け入れられる共通の規範のもとで相互尊重の関係を築く」ことを求め続けるべきである。
このような意味において、日本が秦剛新外相から「日本のいう秩序などビリビリに引き裂いてやる!」と罵られたのは、実は日本が普遍的価値観に照らして適切な方向を歩んでいるということであり、この上もない名誉なのである。
その秦剛外相は、去る4月2日に開催された林芳正外相との会談の場で、「平和共存、友好協力が中日両国にとって唯一の正しい選択だ」と強調しつつも、同時に経済的な規制をめぐって「矛盾や分岐をめぐって一部の国々と結託して(拉幇結派)、大声を叫んで圧力をかけるだけでは問題は解決せず、相互の溝を深めるだけだ」と牽制した。中国は、自国の市場の巨大さという魅力と、それが中国自身の「自立・自強」のために日本を排除したものになる可能性を目の前にちらつかせ、改めて日本に対して「米国・西側を選択して低迷するのか、それとも多極化世界における弱小な極として自立しつつ、中国との協力によって生きる道を選ぶのか」と暗に迫ったと言える。
しかし、そのような交渉を前にして日本人ビジネスパーソンを拘束することと、プーチン・ロシアに従わないウクライナを侵略し「ナチからの解放」を掲げることと、発想において一体何が異なるのだろうか。中露両国を日本単独で牽制できないのであれば、やはり開かれた規範を重んじる国々との協力により、中国自身の変化を待つ以外にない。 
●プーチンはヒラリー・クリントンが怖くて歴史を変えるような真似をした 4/4
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2016年の米大統領選挙に干渉したのは、民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン元国務長官をプーチンが「最も」おそれていたからだ、とナンシー・ペロシ元下院議員が発言した。
ペロシは4月3日、コロンビア大学国際公共政策大学院(SIPA)で、クリントンとともに国際政治と国家安全保障について講演した。バラク・オバマ政権で国務長官を務めたクリントンは、1月にSIPAの教授に就任している。
クリントンから、「わが国の民主主義が直面する最大の脅威と課題」について見解を問われたペロシはまず、クリントンによるこれまでの政治的奉仕に対して謝意を述べた。
「彼女の明晰さと断固たる姿勢が、プーチンをアメリカの大統領選に介入する形で彼女に敵対するよう駆り立てた」とペロシは述べた。「ウラジーミル・プーチンがわが国の民主主義に干渉したのは、民主主義のないロシアにとって最大の脅威となる人物がヒラリー・クリントンだったからだ」
クリントンへの怨念
2016年の大統領選挙後、米国の諜報機関は、プーチンが米国の大統領選に干渉し、クリントンをドナルド・トランプより不利になるよう工作していたことを明らかにした。ロシアによるサイバー攻撃には、クリントンなどの民主党幹部に悪い評判を立てるために民主党全国委員会のサーバーをハッキングして、電子メールや文書を入手した件も含まれていた。
何人かの専門家が述べてきた説によれば、こうした干渉の原動力は、クリントンに対する積年の怨恨だった可能性があるという。クリントンは国務長官時代に、ロシアで2011年12月におこなわれた下院選挙を公然と批判し、選挙プロセスは「自由でも公正でもなかった」と述べている。2016年に米ニュースサイト「ポリティコ」が伝えたところによれば、プーチンは選挙後にモスクワで起きた抗議活動を、クリントンによる攻撃のせいだと考えていた。デモ参加者たちは、「米国務省の支援」を受けて、プーチン政権の土台を揺るがそうとしていると発言していたという。
2016年の大統領選でクリントンを破ったトランプは、プーチンが選挙に干渉したとする主張に繰り返し疑念を投げかけている。2018年には、ロイターに対して次のように語った。「わが国の諜報員には大きな信頼をおいているが、プーチン大統領は今日、きわめて強く、パワフルに否定したと言っておこう」
「ロシアの仕業ではない、と彼(プーチン)ははっきり言った」とトランプは続けた。「私に言わせれば----ロシアの仕業だという理由はいっさい見あたらない」
だがトランプ政権下で国家情報長官を務めたダン・コーツは当時、2016年大統領選でロシアがなんらかの役割を演じたとする主張を支持していた。トランプの大統領就任に先立ちってコーツは、ロシアの影響をめぐる調査を支援すると約束し、「大きな懸念をもって見ている」と述べていた。
●プーチンが核のボタンを押す可能性がゼロではない「恐怖」が、欧米に影響 4/4
ボリス・グリズロフ駐ベラルーシ露大使は4月2日「戦術核兵器はわれわれの連合国家の西側国境に移され、安全を確保する可能性を高めるだろう。米国や欧州で騒がれても、これは実行される」とベラルーシ国営放送で表明した。同国はリトアニア、ラトビア、ポーランドと国境を接するが、同大使は戦術核がどこに配備されるか明言しなかった。
戦術核は射程が短く、限定的な攻撃を行うため設計されている。ロシア軍が昨年2月にウクライナに侵攻して以来、北大西洋条約機構(NATO)はバルト三国とポーランドに駐留する部隊を10倍近くに増やした。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は3月31日、必要ならロシアが大陸間核ミサイルを自国に配備することも認めると述べている。
ロシアの国防問題に詳しい米シンクタンク、ランド研究所のダラ・マシコット上級政策リサーチャーはベラルーシへの戦術核配備について「慎重に事の軽重を見極める必要がある。いずれベラルーシに戦術核が配備されるが、旧ソ連製攻撃機スホイ25のためのものだ。これはロシア・ベラルーシ連合国家がより緊密化したことを表している」と筆者に語る。
ベラルーシはロシアのウクライナ侵攻に協力し、両国は昨年3月、連合国家の統合強化を表明した。マシコット氏は「しかし戦術核配備でウクライナ戦争の軍事的な現実が大きく変わるとは思わない。これは彼らが送ってきたシグナルだ」とベラルーシへの戦術核配備はウラジーミル・プーチン露大統領が西側に送ってきた新たなメッセージに過ぎないとみる。
プーチン「米国は何十年も欧州に戦術核兵器を配置」
3月25日、プーチンはベラルーシの要請により同国に戦術核兵器を配備すると露国営テレビ「ロシア24」で発表した。プーチンは「何も珍しいことはない。米国は何十年も欧州のNATO同盟国に戦術核を配備してきた」と説明。7月1日までに戦術核の貯蔵施設を建設するという。
「戦術核を運搬できるようベラルーシの空軍機10機をすでに改造した。核弾頭搭載可能な短距離弾道ミサイル9K720『イスカンデル』をベラルーシに移し、4月3日から訓練を始める」とプーチンは宣言した。ロシアが他国に核兵器を配備するのは1991年のソ連崩壊後、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンからロシアに移管して以来、初めてのことだ。
プーチンは「英国が劣化ウランを含む砲弾をウクライナに供与しようとしていることに対する対抗措置だ。米国が同盟国に戦術核兵器を譲渡しないのと同様にロシアもベラルーシに譲渡しない。核拡散防止条約にも違反しない」と述べた。劣化ウランの比重は鉄の2.4倍で対戦車用の砲弾として使われる。
英国のアナベル・ゴールディ国防省担当相は3月20日「ウクライナにチャレンジャー2主力戦車1両を供与するのと同時に劣化ウランを含む徹甲弾などの弾薬も提供する。この弾丸は戦車や装甲車を倒すのに有効だ」と書面で上院議員の質問に答えている。ロシア軍も劣化ウラン弾を保有している。ベラルーシでの貯蔵施設工事も随分前から始まっていた。
英首相官邸「劣化ウラン弾は核兵器と全く関係ない」
英首相報道官は筆者に「昨年、本格的な侵略が始まって以来、ロシアが発している無責任極まりない核のレトリックの最新例だ。軍備管理にこれほどダメージを与え、欧州の安定を損ねている国はロシアを置いて他にない。チャレンジャー2と一緒にウクライナに送られている劣化ウラン弾は通常兵器であり、核兵器とは全く関係がない」と説明する。
「英陸軍は何十年も前から徹甲弾に劣化ウランを使用している。これは標準的な装備で、ロシア軍も使用している。核兵器とは何の関係もない。ロシアはそのことを知っていて意図的に真実を歪めようとしている。われわれはウクライナが違法でいわれのない戦争をはねのけるのを助けるために必要なことを続けていくつもりだ」(英首相報道官)
英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)上級コンサルティング研究員キーア・ジャイルズ氏は「ロシアはウクライナとの戦争で核兵器を実際には発射せずに、その『使用』に成功している。ウクライナへの全面的な軍事支援をためらう米国と西側の同盟国はロシアの核の脅威に対して、より明確な対応を示す必要がある」と指摘する。
「モスクワの絶え間ない核の威嚇のレトリックは西側諸国の対応を抑止することで今のところロシアに成功をもたらしている。ロシアはウクライナ侵略の結果責任から逃れている。不確実性の幅は考えられているよりはるかに狭いとはいえ、プーチンがウクライナへの核攻撃を命令する可能性はゼロではない。しかし、その可能性は極めて低い」
プーチンが手にした「免罪符」
「ロシアの脅威がいかに非現実的であるかを考慮せず、ロシアの核態勢に変化が見られないこととも照らし合わせなかったため、西側諸国は『恐怖による麻痺』を招いてしまった。レッドライン(超えてはならない一線)を越えたらエスカレートさせるという脅しによって、ロシアはこれまでのウクライナでの行動に対して『免罪符』を手に入れることに成功した」
ウクライナは生き残るための武器は米欧から供給されているが、勝つために十分な武器は供給されていない。しかし、実際にロシアが核兵器使用に踏み切った場合、さまざまな制度的・現実的な障害を乗り越えなければならない。西側諸国の対応いかんにかかわらず、核のタブーを破ることは、ロシアにとっても深刻な結果をもたらすのだ。
ジャイルズ氏は「核兵器の使用はロシアだけでなく、プーチン個人にも壊滅的な影響をもたらすことを思い知らせるため、米国と西側同盟国から発信するメッセージを早急に見直す必要がある。ロシアが核の威嚇で成功を収めたら、世界中の攻撃的で自己主張が強い不正国家にとっても核による強制という考え方が正当化される」と警鐘を鳴らす。
侵攻1年を控えた年次教書演説でプーチンは米露間に残された最後の核軍備管理条約、新戦略兵器削減条約(新START)への「参加を停止する」と表明した。米国務省によると、ロシアは戦略核兵器の情報提供を停止。米紙ウォールストリート・ジャーナルは米国も情報提供の停止を決めたと報じた。軍備管理が崩壊すれば、米露の戦略核兵器は倍増する恐れがある。
●西側からのウクライナ軍事支援、9.3兆円に NATO事務総長 4/5
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は3日、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった昨年からの1年間のウクライナへの軍事支援が700億ドル(約9兆3000億円)に上ると明らかにした。
ストルテンベルグ氏はブリュッセルでの記者会見で、ロシアのプーチン大統領が和平のための準備を進めている兆候はなく、さらなる戦争の準備を進めていると警告した。
ストルテンベルグ氏は「この戦争がいつ終結するのかわからない。しかし、その時には、ウクライナが将来の侵攻を阻止できるように準備を整えておく必要がある。歴史は繰り返さない。ロシアが欧州の安全保障を切り崩し続けることを許してはならない」と述べた。
ストルテンベルグ氏は、近代的な戦車や装甲車がウクライナに届いていることを歓迎した。ストルテンベルグ氏は、そうした戦車や装甲車が前線で真の変化をもたらし、ウクライナ軍がより多くの領土を解放できるようになると述べた。
ストルテンベルグ氏は、NATOによる支援が長期的なものであると確認し、支援の強化をどのようにするのか協議を行っていると述べた。そうした協議のなかには、ウクライナ軍の強化の継続や、旧ソ連時代のものからNATOの水準の装備や軍事ドクトリンへ転換することへの支援が含まれる。
ストルテンベルグ氏は、NATO加盟国は他の脅威や課題にも対処する必要があるとし、情勢の不安定化やテロをはじめ、イランやロシア、中国の影響力の増大を挙げた。ストルテンベルグ氏は、こうした広範な問題全てに取り組むために防衛分野への支出を増やすよう促した。

 

●反プーチン派が犯行声明 ロシア・カフェ爆発 4/5
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで2日に起きたカフェ爆発事件で、反プーチン政権派の組織「国民共和軍」が4日、犯行声明を出した。
事件では、死亡した軍事ブロガーに爆発物を渡したダリヤ・トレポワ容疑者が拘束された。治安当局は「ウクライナ情報機関が計画した」と発表。一方、国民共和軍は外国の支援はないと主張しており、真相は不明だ。
カフェは、ウクライナ侵攻や民間軍事会社「ワグネル」を支持するイベント会場に使われてきた。国民共和軍は爆破したことに満足の意を表明。これに対し、ワグネル創設者のエブゲニー・プリゴジン氏は4日、爆発現場で集会を開き、活動継続をアピールした。 
●敗北を予期したプーチンが「核兵器発射」を決断するとき… 4/5
開戦から1年を過ぎても、ウクライナでは泥沼の戦闘が続く。ロシアが簡単に倒れないのは、最凶の兵器「核」を持っているからだ。プーチンはどう動くのか、「軍事のプロ」二人が徹底分析した。
最終決定はプーチン一人で
小野田「核は絶対に使ってはいけない。それを使うことは世界を滅ぼすことである」という考えは、冷戦時に米ソに戦略的安定をもたらしました。
しかし現在は、そうした安定感は崩れてしまっており、”核兵器を実際にどう使うか”という危険度が冷戦時より上がっていると思います。プーチンは、「核兵器の活用を躊躇しない人物」であると言えるからです。
高橋 必要であれば核を使う、プーチンの姿勢は変わっていません。使うことによる利益とコストのバランスを見て、利益のほうが大きいと判断したら、ということです。
一連のウクライナ戦争の中で、核が使われる可能性が高まった局面がいくつかありました。ひとつは侵攻開始から1ヵ月あまり、ロシア軍がキーウから撤退した'22年3月末〜4月頃です。あの時点でロシア軍が撤退せずに第二次キーウ攻勢をかけていれば、その時には核兵器を使うという選択肢があったでしょう。核兵器の使用によって、戦争を早期終結できる可能性があったからです。
核兵器が使われる際は、国防大臣(ショイグ)、参謀総長(ゲラシモフ)、そして大統領(プーチン)の間に通信回線が設定されます。大統領が核使用について判断し、参謀総長が具体的にどのような兵器を使うかについての助言をして、3人で話し合った上で命令が出されると考えられています。
ただし、使うかどうかの最終判断はあくまでプーチン一人で行う。核兵器の使用は集団決定ではありません。現実にはプーチンは昨年、核を使用しませんでした。
地理的理由で核兵器をためらう事に
小野田 核を使わなかった理由としては、地勢的な条件もありますね。太平洋戦争時、すでに勝勢だったアメリカが日本に対して核を使ったのは、沖縄を制圧して、九州に侵攻する直前でした。沖縄戦での人的損害が莫大だったため、本土に侵攻するとさらに莫大な被害が出ると考えられていました。
その状況で、たまたま史上初めて開発された核兵器があった。核兵器がどのような威力、意義を持つのか、アメリカの為政者がどの程度認識していたのかはわかりませんが、目の前にあった核を使って「戦争を早く終わらせよう」と考えたということです。
これをそのままウクライナに当てはめてみましょう。ロシアは現在、かつて米軍が沖縄を占領していたように、ドンバス地域(東部のルハンスク州とドネツク州を合わせた地域)の大半を占領しています。ここから戦争を早く終わらせるためという、アメリカと同じ思考になるのであれば、首都のキーウではなく第3、第4の都市あたりに核を落とすことになるでしょう。かつて広島や長崎に原爆が投下されたように。
しかし日本とアメリカは太平洋で隔てられていたわけですが、ロシアとウクライナは地続きで、自国の軍隊が地上侵攻しています。ここに軍事的、戦術的な困難さがある。
「使わないと負ける」なら
高橋 威嚇のために陸ではなく、黒海上に核爆弾を落とすという説もありましたね。しかし、ここまで地上戦をやっていたら、海上での核爆発で威力を見せる程度では、おそらくウクライナは抗戦を止めないでしょう。たとえば、現在、最激戦地になっている東部ドンバス地域のバフムトは、すでに核を落とされたのと同じぐらいの規模で破壊され尽くしています。
そう考えると、プーチンが「使うことで勝てる」という判断をして核を使用する状況は、なかなか考えにくい。ただ、核を使う可能性がある状況はこれだけではありません。「使わないと負ける」という状態になった時も、プーチンが核のボタンを押す危険性があるのです。
実際、私を含めた世界中の核の専門家が最も恐怖を感じたのは、ウクライナ軍によるハルキウ反攻でロシア軍が大敗し、壊滅状態に陥った'22年9月でした。
「アメリカは信用できない」
小野田 ウクライナの戦いぶりは、非常にクレバーだったと言えます。ウクライナ軍は南部のヘルソン方面で反撃を起こすという偽情報を流した。ロシアはそれに引っかかり、ハルキウ正面から部隊を南部へと移動させてしまいました。
守りが手薄になったハルキウを目指し、ウクライナ軍は一日20〜30kmという電撃戦を展開して数日間で100km近く占領地域を奪回しました。アメリカはその戦況を見ていて、「まさかハルキウ奪還にとどまらず、さらに北上しロシア領内に入ろうとしているのではないだろうな?」とウクライナ政府を牽制したと思います。
高橋 この時、もしウクライナ軍が実際にロシア国内に逆侵攻していれば、プーチンは核兵器を使っていた可能性があります。ハルキウを突破したときに、そのまま(ロシア領内の)クルスクまで北上するという選択は理論的にはありえた。おそらくロシアは核しか食い止める手段がなかったはずで、緊迫した状況になっていた。
あの時、プーチンは10日ほど核兵器について言及しませんでした。9月21日になって、30万人の「部分動員令」を発表しますが、その時にようやく核を匂わせます。この時は、部分動員令によって「通常戦力を再建する」意思があることを表明するのと同時でしたから、逆に核兵器使用のリスクは下がったと感じられました。その意味で、プーチンは無責任に核をちらつかせているわけではないと言えます。
この戦争が始まって以来、アメリカはロシアに対し、万が一ロシアが核を使用した場合には強い対応を取ることを直接伝達しています。これはあまりにも重要な問題なので、メディアを挟む形のコミュニケーションではなく、直接伝えているはずです。
小野田 中国の関係者と話していてよく彼らが言うのは、「世界で核兵器を使った唯一の国はアメリカだ。だからアメリカが一番信用できない」という言葉です。プーチンが同じように考えているとしてもまったく不思議ではないと思います。
ロシアの人たちは、ソ連時代から「アメリカは核を使う」という前提で動いてきました。冷戦当時、ソ連は「我々はいつか奇襲作戦で核攻撃を受けるかもしれない」と考えて「デッドハンド」と呼ばれる自動報復装置を作っていました。核で攻撃された際には、自動的に核を撃ち返せるようにしていたのです。
ロシアという強靭な国
高橋 プーチン大統領が、アメリカによる核報復ないし軍事介入というリスクがあると認識する限り、核を使うことは難しいでしょう。
ウクライナによるハルキウ反攻の際、通常戦力で大敗したという状況は、核兵器を使ってもおかしくない状況でした。しかし、この時点では部分動員という策を選んだのです。
小野田 しかしこれからのロシアは守勢になって、時間を稼ぐという形にならざるを得ないでしょう。
高橋 今後また、'22年9月のハルキウ反攻と同じように、ロシア軍が戦場で大敗したとしても、当面は追加の動員で凌ぐと思われます。しかし、動員兵を戦力化するためには何ヵ月もかかります。その間にウクライナ軍の進撃を阻止できなければ、核使用のリスクは高まるかもしれません。ただ、ロシアでは予備役、兵役を終えて比較的動員しやすい人間が200万人いると言われている。ということは、あと170万人分の動員能力があることになります。
ロシアは資源と食料が自給できる国なので、戦い方はいくらでもある。政治的意思が続く限り、旧式戦車だろうが第一次世界大戦時の機関銃だろうが、引っ張り出してきて戦い続ける。ハイテク兵器でなければ戦えないわけではありません。
小野田 欧米の有識者の中には「明らかにロシアは負けている」「ロシアは長く持たない」という方々がいます。あれはある意味、プロパガンダという側面もあると理解しなければなりません。ウクライナが勝っていると言い続けることで、西側諸国が「支援疲れ」しないようにしているのです。しかしそうした人たちが思っている以上に、ロシアという国が強靭であることは間違いありません。
目的は「心理的ダメージ」
高橋 一方のウクライナにしても、この戦いは国家の存亡をかけた戦いです。西側の武器供与が止まったら止まったで、イラクのようにレジスタンス化して戦い続けるでしょう。またウクライナが占領されている土地を奪回したとしても、ロシアは戦争をやめないでしょう。結局はロシアが変わらない限り、この戦争は終わらないと思います。
天候が厳しい冬の間、両軍は前進できず、戦線は膠着化していました。しかし本格的に春が来て、ウクライナの反攻が行われる可能性があります。
小野田 ロシアはドネツク州とルハンスク州を完全に取りたいので、現在ウクライナ側が抗戦を続けているバフムトが非常に大きな焦点になっています。同時に、クリミアを守る緩衝地帯となる南部2州(ザポリージャ州とヘルソン州)も絶対に捨てないでしょうね。
では、具体的にどう核を使うのか。ハルキウ反攻のようなケースなら、ロシアはおそらくウクライナ軍の前進を食い止めるために、後背部の予備兵力や補給拠点を標的として狙うでしょう。最前線だと自軍が巻き込まれてしまいますから。
従来の考えからいえばこの時は「戦略核」(首都や司令部を標的にする大型の核)ではなく、「戦術核」(戦場での軍事目標にダメージを与える小型の核)を使うと思われます。高橋さんは、その辺りをどう思われますか?
高橋 よく戦術核、戦略核という言葉が使われますが、これは人為的な分け方にすぎません。世界でもごく一部の専門家しか議論していませんが、運用を考える時にはちょっと違う発想が必要になると私は考えています。
重要なのは「戦場使用」か「都市使用」か、という選択です。ハルキウ反攻で見た場合、ウクライナ軍が最初にハルキウに攻め入った時の戦線は、幅10km、奥行き50kmほどでした。この戦場を広島型原爆より少し小さい10キロトン程度の核で制圧しようとすると、100発が必要です。
しかしICBMに積んでいる500キロトンから800キロトン級の弾頭であれば2〜3発で十分です。ですから戦場使用の場合には、大型の核兵器(いわゆる戦略核)を使ったほうが、使用する数が少なくて済む。
一方、都市攻撃の目的は、物理的な破壊ではなく「心理的ダメージ」です。とすると、使用する核はそれほど大きくなくてよい。「キノコ雲」が起こって犠牲者が出れば、目的を達成できるのです。広島型の10倍、20倍である必要はありません。逆説的ですが、心理的インパクトを狙った都市攻撃は小型の核(いわゆる戦術核)でいいわけです。
核戦争を抑止できるか
小野田 もしロシアが核を使ったら、日本にも大きな影響が出る可能性がありますね。
高橋 アメリカがもしロシアの核に反応しなければ、「アメリカが深く関わっている戦争において、核が使われても何も反応しなかった」という前例ができる。アメリカの「核の傘」に対する信頼性が、同盟国側でも対峙する側でも低下することになるでしょう。
小野田 アメリカが何らかの形でロシアに反撃しなければ、たとえば北朝鮮は核実験を活発化するでしょう。下手をすれば、太平洋にミサイルを撃って核を爆発させるといった、一歩踏み込んだ実験をやるかもしれない。
高橋 一方、アメリカが軍事介入したらどうなるか。これはもう、アメリカとロシアの戦争です。その時、米ロの最前線である日本にも、戦火が及ばない保障はありません。
小野田 プーチンは、ロシアが核を使えばアメリカが対応に迷うということをわかっているわけです。だから「核を使うぞ」と言って、アメリカを抑えようとしている。しかし、それも限界が来ているのかもしれません。
高橋 私たちはあらゆるシナリオに対して準備しなければなりません。核が使われた場合、核戦争になる可能性もゼロではない。その場合、アメリカの同盟国である日本も巻き込まれることになる。だからこそ、核抑止を機能させることが重要なのです。
●フィンランド、NATO正式加盟 ロシアは「対抗措置」警告 4/5
フィンランドは4日、北大西洋条約機構(NATO)に正式に加盟した。フィンランドはロシアによるウクライナ全面侵攻を受け、長年の中立政策を転換。ロシアはNATOの拡大に「対抗措置」を取ると警告した。
フィンランドのハービスト外相がブリュッセルのNATO本部で米国のブリンケン国務長官に公式文書を手渡し、フィンランドのNATO加盟手続きが完了。NATOのストルテンベルグ事務総長は「フィンランドの加盟を歓迎する」と述べた。
ストルテンベルグ氏は、ロシアのプーチン大統領はNATOの東方拡大を食い止めることをウクライナ侵攻の正当的なの理由の一つに挙げているが「正反対の結果になっている」と指摘。ブリンケン長官も「ロシアのプーチン大統領は阻止したいと考えていることを逆に引き起こしてしまった」とし、フィンランドの加盟実現は「プーチン氏に感謝すべきことかもしれない」と述べた。
フィンランドのニーニスト大統領はストルテンベルグ事務総長との共同記者会見で、NATOに対するフィンランドの最大の貢献は自国の領土防衛だと表明。「フィンランドにとっても、NATOにとっても重要な日になった」と述べた。
フィンランドとロシアの国境線は約1300キロメートル。フィンランドのNATO加盟により、ロシアとNATO加盟国との境界線の長さは約倍になる。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、NATOの拡大は「ロシアの安全保障と国益に対する侵犯」とし、ロシアはフィンランドにNATO軍が配備されないか、注意深く見守ると述べた。
ロシアのショイグ国防相は、フィンランドのNATO加盟でウクライナでの紛争がさらにエスカレートする可能性が高まると警告。ただ、ウクライナでの「特別軍事作戦」の結果には影響を及ぼさないと述べた。
前日にはグルシコ外務次官が、NATOの軍などがフィンランドに配備されれば、ロシアは軍事的安全保障を確実に確保するための追加措置を講じる」と警告している。
ロシアの首都モスクワでは、親ロシア派の活動家らが米大使館前で「NATOを止めろ」「NATOはナチス主義のスポンサーだ」などと書かれたプラカードを掲げ、反NATOデモを実施した。
ロシア外務省は声明で、フィンランドはNATO加盟によって世界的な舞台での自国の影響力を弱め、ロシアとの関係を損なうという危険な歴史的過ちを犯したと指摘。「フィンランド政府の軍事的非同盟政策は、長期にわたりフィンランドの国益に貢献し、バルト海地域および欧州大陸全体における信頼醸成の重要な要因だったが、今や過去のものになった。フィンランドは何も決めない同盟の小さな加盟国の1つとなり、国際問題における特別な発言力を失った。この軽率な措置は歴史が判断すると確信している」とした。
一方、ウクライナはフィンランドのNATO加盟を歓迎。ゼレンスキー大統領は「フィンランドの全ての人々に祝意を示す」とし「ロシアの侵略は、集団的、予防的保障のみが信頼できるものであることを明確に証明している」と強調した。
イエルマーク大統領府長官も「フィンランドは正しい選択をした。ウクライナにとってもNATOは重要な目標だ」と対話アプリ「テレグラム」に投稿した。
ロシアによるウクライナ全面侵攻を受けフィンランドと共にNATOに加盟申請したスウェーデンについてはトルコとハンガリーが承認しておらず、同時加盟は実現しなかった。
スウェーデンのビルストロム外相は記者団に対し、7月にリトアニアの首都ビリニュスで開かれるNATO首脳会議での加盟を望んでいると表明。フィンランドのニーニスト大統領も声明で「フィンランドのNATO加盟は、スウェーデンの加盟なしには完全ではない」とし、スウェーデンの早期加盟実現に向け取り組みを続ける方針を示した。
●「プーチンが最も恐れた男」ナワリヌイが身をもって示したロシアの良心 4/5
アレクセイ・ナワリヌイ。46歳。ロシア人の民主活動家、弁護士。妻と1女1男。
2021年1月以降、9年の刑期で服役中。一応罪名はついているが、独裁国家のつねで、そんなものに意味はない。
ナワリヌイは2010年前後から、政府批判の舌鋒の鋭さで一躍注目を浴びるようになった。クレムリンの頭痛の種で、見逃せば弱腰といわれ、捕まえれば殉教者になりかねない存在だったが、しかしもう捕まえてしまえばクレムリンのもの。
プーチンはナワリヌイを忌み嫌い、「反体制の人」とか「その人物」などといって、ナワリヌイの名前を決して口にしない。「プーチンが最も恐れた男」といわれるゆえんだが、プーチンはかれの存在を認めたくないのだ。肝っ玉の小さい男だ。
そんなナワリヌイを追ったドキュメンタリー映画『ナワリヌイ』が、第95回アカデミー賞(2023年3月開催)の長編ドキュメンタリー賞を受賞した。監督は撮影時まだ29歳だったダニエル・ロアー。
飛行機内で毒殺されかけた
2018年、ナワリヌイはプーチンに対抗してロシア大統領選挙に立候補したが、立候補は無効とされた。SNSに発表した「一緒に詐欺師を捕まえよう」という一連の汚職追放の動画は国民の間で大人気だった。しかしテレビは出禁、新聞はかれのニュースを載せず、最初の頃は盛り上がっていた集会も禁止された。事務所は警官に荒らされ、ナワリヌイは有害な緑色の液体を顔に浴びせられ、拘束された。
2020年8月20日、決定的な事件が起きた。その事件がこのドキュメンタリー映画の中心でもある。
シベリアのトムスクからモスクワへの帰途、ナワリヌイは機内で急に意識不明の重体に陥ったのである。オムスクに緊急着陸したが、夫人やかれのチームは当局に妨害されて会えない(次の写真)。毒の痕跡が消えるまでの時間稼ぎだったといわれる。
夫人の働きかけと、メルケル首相の受け入れもあって、やっと22日にベルリンの病院へ移送された。ドイツの医師は神経剤のノビチョクが見つかったと発表した。
昏睡から覚めたナワリヌイは、ノビチョクを使われたと知って逆に驚く。というのもノビチョクというのはモスクワのシグナル化学センターで生産されていたもので、即プーチンと結びつく毒物なのだ。殺したかったのなら撃ち殺せばいいのに、かれらは「あほ」「ばか」「まぬけ」なのかと毒づくナワリヌイが、おもしろくもあり、タフである。
容疑者を8人に絞り込んだ
オープンソースを駆使するオンライン調査機関べリングキャットの主任調査員クリスト・グロゼフは、当初ナワリヌイを「本当に後ろ盾がないのか」「ロシア政府が操るエセ反体制派の1人ではないのか」と疑っていた。かれが極右や民族主義者とも付き合っていたからだ。しかしかれの毒殺未遂事件を知って、独自に調査を開始する。
クリストは電話、電子メール、免許証などあらゆる情報の膨大なデータベースを調べ上げ、その結果、暗殺実行犯の容疑者を8人にまで絞り込んだのである。その分析の手法は驚くべきもので、わたしは、世界はこんなことになっているのかと知って驚いた。クリストは、容疑者たちの顔写真も名前も住所も電話番号もすべて手に入れ、ナワリヌイと連絡を取ったのである。
ここでナワリヌイとクリストは思い切った賭けに出た。ナワリヌイがドイツから容疑者たちに直接電話をかけ、単刀直入に、なぜおれを殺そうとしたのかと聞く、というのだ。このドキュメンタリーのハイライト部分である。まず「筋肉バカ」(FSBロシア連邦保安庁の軍人)3人に電話をかける。かれらは絶句し、とぼけ、すぐ電話を切る。
そこでナワリヌイたちは方針を変え、関係者の偽名を使って今度は化学者に電話をかける。コンスタンチンという化学者が騙されて、もし飛行機が緊急着陸しなければ暗殺は成功したこと、毒物を仕込んだのはナワリヌイのパンツの縫い目だったことなど、暗殺の詳細をしゃべったのである。ナワリヌイのチームはそのすべてを録音し録画した。
2020年12月17日、モスクワでプーチン大統領の年次記者会見が開かれた。内外の記者たちの前で、ひとりの記者がプーチンに問う。ナワリヌイが自身の毒殺未遂事件の調査結果を発表したが(この段階では、まだコンスタンチンの録音は公開していない)、なぜ警察は捜査しないのか。
「プーチンを大統領にしたくない」と帰国
プーチンが答える。「ベルリンの病院にいる患者の件」だが、といって例のごとく、名前を呼ぶに値しない存在だと余裕を見せながら、「あれは米国の諜報機関の情報」で、「例の患者はCIAの支援を受けている」と。まったく、しゃべっている本人も、また聞いている全員も、ウソだとわかっているウソを平然とつくのである。こうでなくては、独裁者はつとまらない。
さらに「もしその人物が毒殺されるべき存在なら」と、ここでプーチンは小ばかにしたように笑い、「とっくに殺されてる」といったのである。そして「あの人物は自分を格上げしたいのだろう。(略)国のトップと互角なんだぞ」と。
ドイツでこの会見を見ていたナワリネイは頭にくる。冷静につとめてはいるが、あきらかに頭にきている。「上等じゃないか」「ああいう屁理屈を丸ごと叩きつぶしてやる」と、例の化学者との通話内容を公表したのである。だがそんなことでプーチンを「叩きつぶす」ことは当然できなかった。動画が7時間で770万回再生されただけである。
2021月1月17日、ナワリヌイは妻のユリアを伴って帰国した。「プーチンを大統領にしたくない。帰って国を変えたい」とその理由を語ったが、当然逮捕されることは織り込み済みだったはずである。それとも読み違えたのか。
機内での記者たちのインタビュー。モスクワ到着。空港に集結した出迎えの群衆。そのなかのひとりが、ナワリヌイを「ロシアの自由の象徴」という。しかし警察が市民も記者もかたっぱしから連行する。機内の緊迫した様子が映しだされる(次の写真)。別の空港に着陸する。ナワリヌイの周りを記者たちがとり囲む。入国審査。警官がくる。弁護士を呼ぼうとするが無視。警官たちはカメラなど平気だ。そのまま連行する。群衆はナワリヌイの妻のユリアの名前を連呼する。
逮捕2日後、チームは「プーチンの宮殿 世界最大の賄賂」の暴露映像を公開した。1週間で1億回再生された。ナワリヌイの逮捕とビデオの公開は、ロシア全土で抗議行動を巻き起こしたが、結局鎮圧された。調査チームは国外に逃れて活動をつづける。コンスタンチンという化学者は行方不明である。
国営テレビ局の女性は無事密出国
あのロシアで反政府運動をする人がいるというのは驚きである。もちろん国民の大半は、触らぬ神に祟りなし、の無関心派か、プーチン支持派である。それでも勇気ある反対派が存在する。しかも女の人が少なくない。
一番有名なのは、2022年3月14日、国営テレビの第1チャンネルの夜の生放映中に、反戦メッセージを書いた紙を掲げてテレビに映りこんだマリーナ・オフシャンニコワ(当時43歳)である。彼女はロシア第1チャンネルのスタッフだった。
彼女の手書きの紙には「戦争をやめて。プロパガンダを信じないで。あなたはだまされている」と書かれていた。
わたしは、彼女は何年も刑務所に入れられるだろうと思った。ところが意外なことに、翌日、モスクワの裁判所は、オフシャンニコワに3万ルーブル(約5万5000円)の罰金を科しただけで釈放したのである。釈放後、フランスのマクロン大統領が亡命受け入れの用意があると表明したが、彼女はロシアにとどまった。しかし4月11日、ドイツのメディアに記者として採用され、ドイツに渡った。
しかしこれで終わりではなかった。
娘の親権問題で元夫が訴訟を起こしたことから、彼女は7月にロシアに帰国した。そこでまたクレムリンの近くで、たったひとりで「プーチンは殺人者だ」などと書いた紙を掲げ、逮捕されたのである。なんともすごい女性だ。
また罰金刑をいい渡されたが、その後、新たに自宅軟禁下に置かれる決定がなされた。しかしオフシャンニコワはその前に、11歳の娘を連れてロシアを脱出したのである。
2023年2月10日、彼女はパリで記者会見をし、フランスに亡命したことを明らかにしたした。密出国については、足首のGPSをペンチで破壊し、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」の支援を受けて7台の車を乗り継ぎ、4時間歩いて国境を超えたという。もちろん脱出ルートは明らかにされていない。
反旗を翻す女性たち
こういう女性もいる。今年の1月、SNSにロシア批判のコメントを書き込んだ罪で、足にGPSをつけられ自宅軟禁されていた女子大生オレシャ・クリブツォワ(20)が、3月11日ロシアを脱出し、16日にリトアニアに到着した。ロシアのGPSの「追跡装置は頻繁に誤作動」するらしく、当局はまだ彼女の「脱出方法」がわかっていないという。
クリブツォワが自宅軟禁されたのは大学の同級生の密告によるものらしい。彼女は「私の大学の場合は無関心の人が一番多いです。二番目に多いのはウクライナ侵攻の支持者で、戦争反対派は残念ながら三番目です」といっている。
プーチンがいまだに自信をもっているのも、これらの無関心層と侵攻支持層が大半を占めているからである。ほんとうに反対している人間は、すでに国外に脱出しているのだ。クリブツォワは「当局に証言する教師もいますし、勉強は順調だったのに内容の悪い内申を当局に提出した大学幹部の人もいます。彼らのことは馬鹿な告げ口野郎だと思っています」という。
独裁主義者政権下の軍人や警察はどこもおなじなのだろうが、ロシアの警察は子どもでも容赦しない。3月9日、教師から侵攻支持の絵を描くよう指示されたにもかかわらず、「戦争反対」「ウクライナに栄光あれ」と書いた13歳のマリア・モスカリェワを更生施設に送り込んだ。
13歳の少女が、ロシア人のバカな男たちよりもよほど立派という事例だが、彼女が捕捉されたのも、教師や生徒からの密告だったのか。
ナワリヌイがロシア人におくるメッセージとは
映画『ナワリヌイ』のロアー監督に、もし逮捕され投獄されるか殺されるとしたら、ロシアの人々にどんなメッセージを残すか、と訊かれたナワリヌイは、こう答えている。
「仮に僕が殺された場合のメッセージは“諦めるな”だ」「僕が命を狙われたのは、僕らが信じられないほど強いからだ。(略)僕らが持っている巨大な力は悪い連中に押しつぶされている。本当は強いのに僕らに自覚がないからだ。悪が勝つのはひとえに善人が何もしないから。行動をやめるな」
ナワリヌイはこういって、最後に笑った。
すでに書いたように、ナワリヌイは現在刑期9年で服役中。しかし刑期は最大20年になるおそれがあるという。
●ウクライナ戦争への理解が欠ける「トランプのライバル」 4/5
2024年の大統領選で共和党においてトランプ前大統領のライバルになり得るデサンティス・フロリダ州知事のウクライナ戦争についての発言が物議を醸している。米ワシントンポスト紙コラムニストのヘンリー・オルセンは、3月16日付の論説‘Ron DeSantis’s stance on Ukraine is a serious political blunder’で、「ウクライナ戦争でウクライナを支援してロシアに対抗することは米国の国家利益ではない」とするデサンティスの立場は政治的失策である、と論じている。要旨は次の通り。
デサンティスがウクライナ戦争を「領土紛争」だと切り捨てたことは、顕著な政治的失策である。
ウクライナへの軍事援助に対するトランプ派のMAGA(「米国を再び偉大に」の頭文字)共和党員の支持は最近落ち込んでいる。デサンティスがウクライナを声高に支援することに距離を置く選択をしたのは、そのためだ。
しかし、これは共和党内における政治的ダイナミクスを見逃している。デサンティスがトランプに勝って共和党の指名を獲得するチャンスは、MAGA有権者の多く(必ずしも全てではない)をトランプから引きはがすべく誘い、かつ彼らを大多数の非MAGAの共和党員に合体させることにかかっている。デサンティスのステートメントは後者のグループから自身を遠ざけ、第三の候補者がつけ入る隙を与えたことになる。
現に、ニッキー・ヘイリー前国連大使とマイク・ペンス前副大統領は、デサンティスとは見解を強く異にし、ウクライナを支持することは米国の利益であるとの信念を再び述べた。MAGA共和党員は反対するだろうが、世論調査では約40%の共和党員がウクライナ支持に賛成である。
米国の安全保障は敵対国を封じ込め得る同盟のネットワークにかかっている。欧州の北大西洋条約機構(NATO)諸国はそのネットワークの主要な一部であるが、彼らにとってウクライナをロシアが征服することは自身の存立に係わる脅威である。「ウクライナを守ることは主要な利益でない」と言うことは、米欧関係を核心から揺さぶるであろう。デサンティスにとっての優先事項である中国とのグローバルな競争に勝つためにも欧州との緊密な同盟は必須である。
デサンティスのステートメントは、ロシアとウクライナの戦闘それ自体への巨大な誤解を示している。戦闘を「領土紛争」と規定することによって、戦争はウクライナのロシア語圏がウクライナの一部にとどまるべきか否かを巡るものだと彼は示唆しているようである。
しかし、それはロシアがウクライナに侵攻した理由ではない。プーチンは、ウクライナの「真の主権はロシアとのパートナーシップにおいてのみ可能」だと主張した。それゆえ、彼は2014年にはウクライナに侵攻してクリミアを奪取し、2022年に再び行動を起こしたのである。
デサンティスはこのことを理解していないように見える。彼はプーチンの明白な意図に無知であるか、彼の意図を脅威とは見ていないか、どちらかである。どちらにせよ、米国の対外政策を主導する彼の能力の評価を高めることにはならない。
この論説が主題としているデサンティスのステートメントなるものは、保守系メディアの米フォックス・ニュースの扇動的ホストとして知られるタッカー・カールソンが、大統領選挙の共和党の候補および潜在的候補に送り付けたウクライナ戦争に関する質問状に対するデサンティスの回答である。回答は3月14日の放送でカールソンにより紹介され、ちょっとしたニュースとなった。
「ウクライナでロシアに対抗することは米国の主要な国家利益か?」という質問に対してデサンティスは、ウクライナとロシアの「領土紛争」に更に巻き込まれることは、そのような利益に当たらない、と述べている。
主要な国家利益として、国境を確保すること、米軍の即応体制の危機に対処すること、中国共産党の経済的・文化的・軍事的な力を抑制することなどを国家利益に数えているので、優先順位においてウクライナ戦争はこれらの挑戦に劣るということらしい。
デサンティスは、ウクライナ戦争を「領土紛争」と規定していることを含め、ウクライナ戦争の国際秩序に対する脅威の重大性に対する認識が危険なまでに欠落している。
「ウクライナにおける米国の目的は何か?」という質問には、「平和」だと回答しているが、無条件に「平和」を語ることはプーチンに報償を与えることになりかねない。彼は、米軍の展開を必要とし、あるいはウクライナが国境を超えて作戦を行うことを可能にするような援助はすべきではなく、F-16戦闘機や長距離ミサイルは供与されるべきでない、とも述べている。
ウクライナに対する支援の限界を問われたのに対しては、バイデン政権による「白紙手形」の財政支出は最も差し迫った挑戦への対応を阻害するとの趣旨を述べている。
デサンティスは不意打ちの質問に答えたのではない。書面での回答であるので、考えた上での回答であるはずである。それだけに、彼に米国外交を任せ得るのかの疑問を抱かせる。
トランプに支持率でリードされるデサンティス
最近の米クイニピアック大学の世論調査によれば、共和党の指名争いではトランプがデサンティスを46%対32%でリードしている。論説も指摘する通り、トランプの支持層を丸ごと取り込もうとする戦略ではうまくいかないであろう。
デサンティスは過去にはロシアに強く当たることを主張したことがある。例えば、2014年のロシアによるクリミア奪取以降、当時下院議員だった彼はオバマのプーチンに対する弱腰を批判し、ウクライナに「防御的および攻撃的」兵器を供与することを主張したことがある。トランプには、「彼は俺の言っていることを真似ている。これは手のひら返し(flip-flop)だ」と揶揄される始末である。
デサンティスは勉強が必要であろう。その上で、外交政策について包括的に考えを表明する機会を持つべきであろう。 
●収監、殺害、亡命……ロシアの反政府指導者たちは今どこに? 4/5
ロシアにはウラジーミル・プーチン大統領の対抗相手が実質的にいない。彼に批判的な声を上げてきた人の多くが、亡命を余儀なくされたり、投獄されたり、時には殺されたりしている。
2022年2月にウクライナに全面戦争を仕掛けるまでの20年以上にわたり、プーチン氏は反体制派を封殺し、ほとんど消滅させていた。
大統領就任当初、プーチン氏は非常に裕福で政治的野心を持つオリガルヒたちを従わせた。
ロシアの石油大手ユコスのトップだったミハイル・ホドロコフスキー氏は2003年、野党に資金援助した後、脱税と窃盗で禁錮10年の実刑判決を受けた。釈放後、ホドロコフスキー氏はロシアを離れている。
ボリス・ベレゾフスキー氏は、プーチン氏を政治的に支援していたが、決裂後の2013年に亡命先のイギリスで死亡した。自殺だと報じられている。
ロシアの主要メディアも徐々に政府の制御下に置かれるか、ロシア政府の公式発表に沿った報道をするようになった。
アレクセイ・ナワリヌイ氏
現在のロシアで最も著名な野党指導者はアレクセイ・ナワリヌイ氏だ。ナワリヌイ氏は、プーチン氏が「犯罪的な侵略」戦争で何十万もの人々に徹底的な打撃を加えようとしていると、刑務所から非難している。
ナワリヌイ氏は2020年8月、シベリアを訪問中に軍事用の神経剤「ノビチョク」を盛られた。この攻撃でナワリヌイ氏は生死をさまよい、ドイツに搬送されて治療を受けた。
2021年1月にナワリヌイ氏がロシアに戻ると、反政府派の抗議が一時的に高まった。しかし同氏はすぐに詐欺と法廷侮辱罪で逮捕され、禁錮9年の実刑判決を受けた。服役中の同氏は現在、米アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画「ナワリヌイ」で注目を集めている。
ナワリヌイ氏は2010年代、積極的に反政府デモに関与していた。また、政治基盤だった反汚職基金(FBK)による数々の暴露が、インターネット上で大きな注目を集めていた。FBKは2021年に過激派組織として非合法化された。ナワリヌイ氏自身も汚職疑惑をかけられたが、政治的な動機によるものと繰り返し否定した。
ナワリヌイ氏に関わった多くの人物が治安当局からの圧力にさらされ、一部は国外に逃亡した。これにはFBKのトップだったイヴァン・ジャノフ氏や元主任弁護士のリュボフ・ソボル氏、そしてロシア全土にあったナワリヌイ氏の事務所の所長たちの大半が含まれている。
ナワリヌイ氏の右腕だったレオニド・ウォルコフ氏も、2019年に資金洗浄(マネーロンダリング)疑惑で捜査が始まった際に、ロシアを離れている。
反戦活動家
服役中のプーチン氏批判者でもう1人著名なのは、ロシアのウクライナ侵攻を強く批判しているイリヤ・ヤシン氏だ。ヤシン氏は2022年4月、ユーチューブのライブ配信で、ロシア軍による戦争犯罪の可能性を捜査するよう求めるとともに、プーチン大統領を「この戦争で最悪の殺人者」と呼んだ。
このライブ配信により、ヤシン氏はロシア軍に関する「偽情報の拡散」の罪に問われ、8年半の禁錮刑を受けた。この罪を定めた法律は、昨年2月のウクライナ侵攻開始直後に、ロシア議会で急ぎ制定された。
ヤシン氏は、プーチン氏が初めて政権を握った2000年には17歳で、その頃から政治活動を行っている。
2017年にモスクワ市クラスノセルスキー区の区議会長に選ばれた後も、ロシア政府に批判的な主張を続けていた。
2019年には、モスクワ市議会議員選挙をめぐり、当局が無所属や野党支持の候補者の登録を拒否したことに対する抗議活動に積極的に参加したとして、1カ月以上拘束された。
英ケンブリッジ大学卒のジャーナリスト兼活動家、ウラジーミル・カラムルザ氏は、2015年と2017年に謎の毒をもられ、意識不明となった。2022年4月には、ロシアのウクライナ侵攻を批判した後に拘束され、ロシア軍に関する「フェイクニュース」の拡散、「望ましくない組織」活動への関与、そして大逆の罪で起訴された。弁護人によると、有罪となれば最長で25年の禁錮刑となる可能性があるという。
カラムルザ氏は、ロシア国内外の主要メディアでプーチン氏を批判する記事を数多く執筆していた。2011年には、ロシアの人権侵害者を対象とした欧米の制裁措置の採択に向け、野党の活動を主導した。
多くの欧米諸国が科すこれらの制裁は、マグニツキー法と呼ばれている。これは、当局による横領疑惑を内部告発した後、2009年にロシアの刑務所で死亡した弁護士のセルゲイ・マグニツキー氏にちなんでいる。
民主化闘争
カラムルザ氏は、元オリガルヒで亡命中のホドロコフスキー氏が立ち上げた民主派グループ「オープンロシア」の副代表を務めていた。この組織は「望ましくない」組織に認定され、2021年に解体された。オープンロシアの代表だったアンドレイ・ピヴォヴァロフ氏は、同グループへの関与によって禁錮4年の実刑判決を受けている。
カラムルザ氏はそれよりも長い刑を受けるかもしれないが、親しい友人で主要な反政府指導者だったボリス・ネムツォフ氏とは違い、少なくとも生きている。
プーチン政権以前、ネムツォフ氏はニジニ・ノヴゴロド州知事やエネルギー担当相、副首相を務めたほか、ロシアの議会議員でもあった。その後、ロシア政府に批判的な立場に転換し、プーチン氏を批判する記事を数多く執筆。多くの反プーチン政権デモを主導した。
2015年2月27日、ネムツォフ氏はクレムリン(ロシア大統領府)近くの橋で4発の銃弾を受けた。前年にロシアがクリミアに軍事介入したことに反対するデモ行進への支持を呼びかけた数時間後のことだった。
ネムツォフ氏殺害で、チェチェン共和国出身の5人が有罪となったが、殺害の目的や誰の指示だったのかは明らかになっていない。同氏の死から7年後に発表された調査報告書では、殺害までの数カ月間、ネムツォフ氏が秘密暗殺部隊に連なる政府職員によってロシア全土で尾行されていた証拠が明らかになった。
メディアや個人も標的に
これら反体制派の有力者は、反対意見を表明したことで標的にされたロシア人のほんの一部に過ぎない。
昨年のウクライナ侵攻開始以来、ロシア国内の独立系メディアは厳しい規制や脅迫にさらされている。
先にロシアを離れていたニュースサイト「メドゥザ」に続き、テレビ局「ドシチ(TV Rain)」も国外に拠点を移した。リベラル紙「ノーヴァヤ・ガゼータ」はモスクワにとどまっているが、新聞の発行を止めている。ラジオ局「エコー・オブ・モスクワ」は、当局によって閉鎖された。
多くのニュース解説者がロシアから亡命した。ベテラン記者のアレクサンデル・ネフゾロフ氏は「外国の代理人」と見なされ、ロシア軍に関する「偽情報」を拡散したとして、欠席裁判で禁錮8年の実刑判決を受けた。
数百万人規模の読者や視聴者を持たなくても、標的にされる可能性がある。今年3月には、メッセージアプリ「テレグラム」に反戦チャンネルを開設していた数学科の学生ドミトリ・イワノフ氏が、やはり軍に関する「フェイクニュース」を拡散したとして禁錮8年半を言い渡された。
アレクセイ・モスカレフ氏は、13歳の娘が描いた反戦絵がきっかけで捜査対象となり、ソーシャルメディアで反戦的な投稿をしたとして禁錮2年となった。
プーチン大統領は20年以上かけて、自分の権力に挑戦する手ごわい敵を排除した。これがプーチン氏の計画なら、それはうまくいっていると言える。
●「プーチン大統領、携帯電話やネットのない情報真空状態」 4/5
「プーチン大統領は世の中との連絡を絶った。バンカー官邸で情報真空状態で暮らしながら自身と家族の命だけ大切にする。(こうした)戦争犯罪者の大統領に従うのを中断し戦争をやめるよう声を上げなければならない」。
プーチン大統領を近くで補佐していたロシア連邦警護局(FSO)のグレブ・カラクロフ元情報将校がプーチン大統領の健康状態と偏執症的性格などについて公開し、ウクライナ戦争を終わらせなければならないと訴えたとAP通信が4日に伝えた。
プーチン大統領、携帯電話やネット使用しない
軍事宇宙士官学校を卒業したカラクロフ氏は2009年にFSOに入り約13年にわたりプーチン大統領に暗号化された通信を提供した。彼は昨年10月に家族とともにトルコを経て西側の国に脱出した後、プーチン政権の腐敗を暴く非営利団体であるドシエセンターにプーチン大統領について暴露した。カラクロフ氏は最近ロシアから西側に亡命した最高位の情報将校の1人だ。
カラクロフ氏はプーチン大統領が「情報真空状態」にあると伝えた。彼は「13年間プーチン大統領が携帯電話やインターネットを使うのを一度も見たことがない。彼はすべての情報を最も近い人たちから得て事実上情報真空状態で暮らしている」とした。
プーチン大統領の情報孤立はコロナ禍でさらに激しくなったという。カラクロフ氏は「プーチン大統領は以前は活気に満ちて活動的だったのに、2020年以降のコロナ禍で世の中と自身を遮断し現実に対する考えがゆがんでいった。21世紀にまともな精神状態の人ならウクライナ戦争が起きるように放っておかなかっただろう」と強調した。
カラクロフ氏によると、プーチン大統領は健康を極度に気にしている。最近まで15〜20分の行事でも2週間の厳格な防疫を順守させ、2週間隔離した職員だけ同じ部屋で仕事ができるようにした。プーチン大統領の補佐官は依然として1日に何度もPCR検査を受けているという。
ただし、プーチン大統領の健康に深刻な問題があるのではないと強調した。健康上の理由で海外出張が取り消されたのは1〜2回だけで他の70代の人より健康な方だとした。
暗殺恐れセキュリティに執着
プーチン大統領が暗殺を恐れてセキュリティを徹底させる偏執症的な姿も紹介した。例えばプーチン大統領が滞在するモスクワ、サンクトペテルブルク、バルダイ、ソチなどすべての官邸の執務室を同じく整えたが、これは彼が正確にどこにいるのかわからないようにするためだという。海外に行く時は秘密が保障された対話ができる高さ約2.5メートルの電話ブースを持って行く。昨年10月のカザフスタンとの首脳会談時にロシア大使館内に爆弾退避所を設置するなど防空にも一層気を遣う状態という。
このほかロシア反体制派活動家のアレクセイ・ナワリヌイ氏が暴露したプーチン大統領の豪華な宮殿やヨットなどと、プーチン大統領が明らかにしていない2人の娘がいるのも事実だと話した。
カラクロフ氏は2014年のクリミア併合の際にプーチン政権に失望を感じた。彼は「当時クリミアに行って人々と直接会ったが併合に対する賛否は半々だった。ところが100%近い賛成が出てきてその時初めてプーチン政権に疑いを持った」とした。その後昨年のウクライナ侵攻を見てロシアを離れることを決めた。
カラクロフ氏は「戦犯であるプーチン大統領に従って生きたくなく、娘をもっと良いところで育てたかった。同僚がもっと多くの証拠を出して戦争を止められるように助けてくれることを望む」と頼んだ。彼は現在ロシア内務省の犯罪容疑者公開データベースに指名手配者と登録されている。
●ロシアのインフレは「低下基調」 プーチン氏 4/5
ロシアのプーチン大統領は4日、ロシアのインフレは低下しつつあると述べたほか、ロシア政府が国内の経済や企業を強化するためのプログラムを実施すると語った。
トゥーラにある鉄道関連の工場を訪問したプーチン氏は、インフレは低下基調にあり、3月のインフレは4%を下回るとの見通しを示した。
プーチン氏は従業員からの質問に対し、物価は上昇しているものの賃金は上がっていないことは認識しているとし、ロシア全体、働く人々全員にとっての重要な質問だと答えた。
プーチン氏は「この問題を解決することは国家にとって重要な任務だ。ロシアの家庭の収入が現代の要件にかなうようにすることが第一の任務だ」と述べた。
プーチン氏は2014年にロシアが直面した数々の制裁に言及し、懐疑的な見方があったにもかかわらず、ロシア経済は過去に回復力があることを証明してきたと述べた。
プーチン氏は、今回のウクライナ侵攻のために直面している制裁については言及しなかった。しかし、プーチン氏は先に、ウクライナとの戦争の資金を枯渇させることを目的とした西側諸国による制裁がロシア経済に打撃となる可能性があることを認めていた。
●“国民共和国軍”名乗る反プーチン派が犯行声明 カフェ爆発事件 4/5
ロシアのサンクトペテルブルクのカフェで爆発が起き、ウクライナ侵攻を支持していた軍事ブロガーが死亡した事件で、反プーチン政権派の組織が犯行声明を出しました。
2日、サンクトペテルブルクのカフェで起きた爆発では、「タタルスキー」のペンネームでウクライナ侵攻を支持してきた軍事ブロガーが死亡。26歳のロシア人の女が拘束されていますが、ロシアの当局は「ウクライナの情報機関が計画したテロ行為だ」としています。
こうした中、「国民共和国軍」を名乗る反プーチン政権派の組織は4日、SNSを通じて犯行声明を公開。事件について「外国の組織や情報機関の支援は受けていない」と主張しています。
爆発のあったカフェは、民間軍事会社ワグネルの創設者・プリゴジン氏がかつて所有していたとされ、侵攻を支持するイベントがたびたび催されていましたが、犯行声明では、爆発によりカフェが営業停止となることについて「満足している」としています。
一方、プリゴジン氏は4日、爆発現場で支持者らと集会を開き、イベント活動を継続していくとアピールしています。
●米仏首脳が電話協議、ウクライナ戦争終結へ中国の関与望む 4/5
フランス大統領府は5日、マクロン大統領が中国訪問に先立ちバイデン米大統領と電話協議し、ウクライナでの戦争終結加速に向けて中国の関与を求める立場で一致したと発表した。
仏大統領府の声明によると、両首脳は「ウクライナでの戦争終結を加速させるため中国の関与を求め、地域の持続可能な平和構築に参加する共通の意思に言及した」という。
また、両首脳はグローバルノース(北半球を中心とした先進国)とグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)の連携に向けた取り組みに中国が貢献し、気候や生物多様性の問題に関する共同計画を構築することを望む立場を示した。
マクロン氏は5─7日に訪中する。中国外務省は、習近平国家主席がマクロン氏と会談し、2国間関係の方向性を示すと発表している。
●バフムート西側の高地、ウクライナ軍が「掌握」 4/5
激しい戦いが続くウクライナ東部バフムートで、現地で数週間にわたって従軍しているウクライナ軍の兵士は5日までに、バフムートの西側に位置する高地の街チャシブヤールはウクライナ側が掌握していると述べた。
この兵士は過去にもCNNの取材に答えたことがあり、所属は第46独立空中強襲旅団。
兵士によれば、戦争前にはチャシブヤールには数千人の住民がいた。街は周囲よりも高い位置にあるため特に大口径の火器の砲撃で有利で、こうしたことから街はウクライナとロシアの両軍にとって重要だという。
兵士は、ロシア軍がチャシブヤールの南東に位置するウクライナ軍の防御を突破できずにいると述べた。
兵士は「ロシア軍は約1カ月前には機会があった。彼らは道路から数百メートルの位置に立っていた。しかし、ロシア軍には十分な予備兵がなく、押し返され、現在は道路から2キロメートル離れた場所にいる」と述べた。
この道路はバフムートから西へ低地を進んでいく。
兵士によれば、道路周辺の防衛が強固なため、ロシア軍はチャシブヤールへ進攻する方法がない状態だという。
ロシア軍がチャシブヤールに進攻しようとすると、側面からの攻撃に弱くなるという。
兵士は、もしウクライナ軍がバフムートから撤退すれば、チャシブヤールがロシア軍の次の標的となるだろうとの見通しを示した。

 

●「いまのウクライナ危機はアメリカが招いた」ロシア・プーチン大統領 4/6
ロシアのプーチン大統領は新たに着任したアメリカ大使らを前に演説し、「いまのウクライナ危機はアメリカが招いた」と批判しました。
ロシア プーチン大統領「世界の安全保障と安定性に深く関わるロシアとアメリカの関係が深刻な危機に陥っている」
プーチン大統領は5日、アメリカのトレーシー大使ら各国の新任大使らを前に「2014年に起きたウクライナのクーデターをアメリカが支援したことが、いまの危機を招いた」と演説、ウクライナ侵攻の責任はアメリカにあると強調しました。
その後、安全保障会議に臨んだプーチン氏は、侵攻を支持する軍事ブロガーが爆発で死亡した事件などを念頭に、「ウクライナ当局がロシアで行ったテロ行為や破壊工作の準備に西側の情報機関が関与している」と証拠を示さず、一方的に主張しました。
●米駐露大使と初対面のプーチン氏、関係悪化は「米に責任」… 4/6 
ロシアのプーチン大統領は5日、露大統領府で外国大使から信任状を受け取る式典に出席し、1月に着任した米国のリン・トレーシー駐露大使と初めて対面した。プーチン氏は演説で、対米関係悪化の責任は「米国にある」との一方的な主張を展開し、ロシアのウクライナ侵略も正当化した。
ウクライナ侵略の要因については、「米国が(民主化運動を指す)『カラー革命』の手法を用いたためだ」と述べた。露情報機関は3月末、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのモスクワ特派員を「スパイ容疑」で拘束しており、米国が政権転覆を画策しているというプーチン氏の認識を反映した発言とみられる。
一方、ロシアの独立系報道機関や人権団体、記者らは4日、特派員の即時釈放を求める書簡を公表した。書簡には約200の個人・団体が署名し、露有力紙の記者らも参加している。
●プーチン氏、ウクライナ戦争で米国を非難  4/6
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5日、駐ロシア大使に着任した米国のリン・トレーシー氏に対し、ウクライナ戦争の責任は米国にあると非難した。
プーチン氏は、モスクワのクレムリン宮殿で行われた新任大使17人の信任状奉呈式に出席。テレビ放映された式典で、米国が意図的に世界の安定を損なうような外交政策を堅持していると厳しく非難した。
「世界の安全保障と安定を直接左右するロシアと米国の関係は、残念ながら深刻な危機に直面している」とし、「現代の世界秩序の構築に向けた、両国の根本的に異なるアプローチが原因だ」と主張した。
また、「米国がカラー革命を支持するなどの手段を外交政策で用いたことが、結果的に現在のウクライナ危機を招き、ひいては米露関係の一段の悪化につながった」と指摘した。カラー革命とは、2014年のウクライナでの政変や、それ以降に旧ソ連諸国などで起きた民主化運動による政権交代を指す。
プーチン氏はトレーシー氏に対し、ロシア政府は常に「平等、互いの主権と利益の尊重、内政不干渉の原則のみに基づいて米露関係を構築することを提唱してきた」と語った。
欧州連合(EU)大使に対しても、EUはロシアとの地政学的対立をあおっていると非難し、こうした姿勢がロシアと欧州各国政府との「深刻な関係悪化」につながっていると主張した。
●西側情報機関、ロシアで「テロ攻撃」支援 プーチン氏 4/6
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5日、西側諸国の情報機関がロシア国内でのウクライナによる「テロ攻撃」を支援していると非難した。
プーチン氏は、ロシアが昨年併合を宣言したウクライナ領土の法秩序維持に関する安全保障会議で、西側諸国の情報機関が「破壊工作とテロ攻撃」に関与したことを示す「根拠」があると発言した。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでは2日、カフェで起きた爆発により、ウクライナ侵攻を支持する著名軍事ブロガーのウラドレン・タタルスキー氏が死亡した。
ロシア政府はこの事件について、ウクライナが仕組んだもので、収監中のロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の支持者による支援を受けて実行されたと主張。これに対しウクライナ政府は関与を否定し、事件はロシアの内紛によるものだと反論している。
●プーチン大統領 戦術核兵器配備合意のベラルーシ大統領と会談  4/6
ロシアのプーチン大統領は、戦術核兵器の配備で合意しているベラルーシのルカシェンコ大統領と首都モスクワで会談し、両国の安全保障などを巡り意見を交わしたものとみられます。一方、新たに任命されたロシア駐在のアメリカ大使を前に「アメリカによるウクライナ支援が現在の危機を招いた」と主張しアメリカを強く批判しました。
ロシアのプーチン大統領は5日、同盟関係にある隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領をモスクワのクレムリンに招き会談を行いました。
会談の冒頭でプーチン大統領は、両国が連携して対処すべき多くの課題を話し合うとしたうえで「国際社会での協力関係や両国の安全保障問題も含まれる」と述べました。
プーチン大統領はベラルーシに戦術核兵器を配備すると先月表明していて、両首脳は配備に向けても意見を交わしたものとみられます。
これに先立ってプーチン大統領はロシア駐在の新任の大使らを前に演説しました。
アメリカのトレーシー大使も出席する中でプーチン大統領は「世界の安全保障と安定に直結する、ロシアとアメリカの関係は残念ながら深刻な危機にひんしている。アメリカが2014年にウクライナでクーデターを支援したことが現在の危機を招いたと言わざるをえない」と主張しアメリカを強く批判しました。
併合したウクライナ東部と南部の4州の治安対策徹底を指示
プーチン大統領は5日、安全保障会議を開き、去年一方的な併合に踏み切ったウクライナ東部と南部の4州について治安対策を徹底するよう関係閣僚などに指示しました。
閣僚らがオンラインで出席する一方で、プーチン大統領の両脇には4州の支配地域の親ロシア派の代表らが座る様子が国営メディアで映し出されました。これらの地域についてロシアが支配を維持する姿勢を強調した形です。
またロシア第2の都市サンクトペテルブルクにあるカフェで今月2日、爆発が起きたなか、安全保障会議では国内の治安情勢を巡っても協議し、プーチン大統領は「ウクライナがロシア側に仕掛けている破壊工作やテロ行為の準備には、欧米の情報機関が関与していると言える十分な根拠がある」と述べました。
●ロシア外相、トルコ訪問でウクライナ戦争や穀物取引など巡り協議 4/6
ロシアのラブロフ外相は今週6─7日に予定されているトルコ訪問で、トルコのチャブシオール外相と会談し、ウクライナでの戦争やエネルギー協力、黒海経由の穀物取引について協議する。ロシア外務省が発表した。
ロシア外務省によると、両外相は「ウクライナ情勢」のほか、地域および国際的な問題について幅広く協議する予定。「両外相は、ウクライナ危機の現状について意見を交換し、ウクライナがロシアの国益と懸念を考慮する場合にのみ可能な紛争の平和的解決の原則と手段について話し合う」という。
また穀物取引の状況についても協議するとした。
●IOC会長「平和の扉開ける」 ウクライナ侵攻念頭に訴え 4/6
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は5日、国連が制定した6日の「開発と平和のためのスポーツの国際デー」へ向けて動画メッセージを発表し、ロシアによるウクライナ侵攻などを念頭に「スポーツは排除や分断ではない方法で平和への扉を開くことができる」と訴えた。
IOCが侵攻が終わらない中、ロシアとベラルーシ両国選手について「中立」などの条件付きで復帰を認めるよう各競技の国際連盟に勧告したことにウクライナなどが反発している。しかし、バッハ会長は「ほぼ全ての五輪で自分の国が戦争や紛争をしている状態にもかかわらず平和の象徴として競い合う姿を見てきた」と主張した。 

 

●ウクライナがロシアに侵入攻撃、プーチン氏威信に傷… 4/7
ロシア国防省は6日、ロシアが侵略を続けるウクライナと接する露西部ブリャンスク州に「ウクライナ軍の破壊工作・偵察集団」が侵入したと発表した。ウクライナに拠点を置くロシア人部隊「ロシア義勇軍団」は6日、SNSで侵入の成功を発表し、露当局の発表は虚偽と主張した。
義勇軍団のブリャンスク州への越境は3月2日以来で、2度目となる。プーチン露大統領は前回の侵入攻撃後にウクライナとの国境地帯の防衛強化を指示しており、威信が傷ついた。義勇軍団は身を隠す場所の提供で地元住民の協力を得たと主張し、「ロシアの解放闘争は勢いづいている」と訴えた。
一方、露有力紙コメルサントによると、ブリャンスク州に5日朝、ウクライナから軽飛行機2機が飛来して爆弾を投下した。1機は墜落し、露治安当局が60歳代の操縦士を拘束した。露当局は、ウクライナ軍が露側防空網の偵察と攻撃目的で投入したとみている。
インターファクス通信によれば、首都モスクワ南方約50キロ・メートルの民家付近で5日、爆発物を搭載していない自家製とみられる無人機が墜落しているのが見つかった。
ロシアへの軽飛行機や無人機の飛来について、ウクライナ側は関与の有無を含めた反応を示していない。
●プーチン氏「拍手なし」に臆測 侵攻で孤立、イメージ重なる 4/7
ロシアで5日に行われた外国大使の信任状奉呈式で、プーチン大統領の演説後に拍手が起きなかったことに対し、インターネット上で「異変」という見方が広がった。奉呈式では拍手がないのが慣例だが、ウクライナ侵攻に伴うロシアの国際的な「孤立」のイメージと重なり、臆測を呼んだようだ。
信任状奉呈式は、新たに着任した大使を迎える定例行事。今回の奉呈式で、プーチン氏は演説後、拍手を促すような表情でトレーシー駐ロシア米大使ら17人の新任大使らをしばらく見ていたが、反応はなかった。これについて、ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は「(プーチン氏が演説後)別れのあいさつを何度しても、拍手はなく、微妙な沈黙が流れた」と冷ややかに伝えた。
近年の奉呈式では、プーチン氏が演説後に拍手を受けた例がある。しかし、大半の奉呈式では大使が拍手することはなかった。報道によると、ロシア外務省関係者は「外交儀礼上、拍手する決まりはない」と解説し、自分がその場にいてもしないと述べた。
●「プーチンの名前が読み上げられると大歓声が…」 グローバルサウス 4/7
ナミビアではプーチンが大人気?
3月21日、アフリカ南部・ナミビアで独立33周年を祝う記念式典が開かれた。首都から離れたウタピ(Outapi)で開かれた式典だったが、大勢の市民が見物に訪れた。
ナミビア政府のフェイスブックに掲載された式典の映像によれば、式典では各国からの祝電が読み上げられた。ベラルーシのルカシェンコ大統領、日本の天皇陛下、中国の習近平国家主席、と淡々と名前が読み上げられた。ところが、プーチン大統領の名前が読み上げられると、突如、大歓声と拍手がわき起こった。貴賓席に並んだ人々もずっと無表情だったが、なかには笑顔を浮かべる人もいた。
ナミビアは1966年から90年まで続いた独立戦争で、南アフリカのアパルトヘイト政権などと戦った。当時、ナミビアを支援したのが、アパルトヘイト政策に反対した旧ソ連だった。そのアパルトヘイト政権を倒したアフリカ民族会議(ANC)政権はロシアと親密な関係を築いている。今年2月も、南アフリカで、ロシア、中国両国とともに合同軍事演習を実施した。
また、ロシアや中国は、グローバルサウスと呼ばれる南半球の発展途上国や経済新興国などへの影響力も強めている。米国の経済アナリストの一人は「特に南米のスペイン語圏では、ロシアの影響力を強く感じる」と語る。ロシアの政府機関がスペイン語圏でフェイクニュースを作り、米国のヒスパニック向けに情報を輸出しているという情報もあるという。
米2016大統領選、グローバルサウスでの認知戦を制したロシアとプーチン
前述のアナリストは「2020年米大統領選で、トランプ・ペンス陣営がフロリダ州を制した原因のひとつは、フロリダに住むキューバ系市民などヒスパニックの支持を獲得したことが大きい」と指摘する。ロシアは2016年大統領選では、ヒラリー・クリントン候補のスキャンダルなどの偽情報を流し、トランプ氏の当選を支援したという指摘が多数出ている。
松村五郎・元陸上自衛隊東北方面総監は「日本を含む西側世界では、ロシアが仕掛ける認知領域の戦いは成功していないように見える。でも、グローバルサウスではかなり奏功しているようだ。たとえ、目標の国の政府が偽情報を信じなくても、国民が信じれば、政府がロシア支持や中立の立場を取りやすくなる」と語る。
世界は今、日米や西欧諸国などの自由・民主主義陣営と、ロシア・中国が主導する権威主義陣営、そしてどちらにも属さない陣営の三つに分かれている。習近平国家主席とプーチン大統領は3月にモスクワで行われた首脳会談で、自由・民主主義陣営の動きを牽制し、国際秩序を変えていく姿勢を示した。
「劣化ウラン弾は核兵器」「西側諸国はナチス・ドイツやイタリアのファシスト政権、日本の軍国主義が作った枢軸体制を新たにつくろうとしている」といった、プーチン氏が仕掛ける「認知領域の戦い」の主戦場は、グローバルサウスなのかもしれない。私たちは「何をばかなことを」と高をくくっている場合ではないだろう。
●何も言わないほうがむしろいい? トランプ起訴に沈黙するプーチン氏の内心 4/7
ロシアに友好的だったトランプ前米国大統領が起訴されたが、クレムリン宮は関連の言葉を控えている。トランプ前大統領と厚い親交を続けてきた各国の極右・ポピュリスト志向のストロングマンたちが公開支持の意思を明らかにしたのとは対照的だ。しかし一部ではロシアがこのように関連のコメントを自制している暗黙的なトランプ擁護だという分析がある。
5日(現地時間)、ロシア官営タス通信によると、クレムリン宮のドミトリー・ペスコフ報道官はこの日「我々は米国の内政にいかなる方法であろうとも干渉する資格があるとは考えない」とし「逆に米国もロシア問題に干渉する資格はないと考える。したがってこれに対して言及したくない」と明らかにした。
ペスコフ氏のこの発言は、ロシアのウクライナ侵攻にもプーチン大統領に対して友好的な発言を繰り返してきたトランプ前大統領の起訴関連の質問に対する回答だった。
トランプ前大統領とプーチン大統領はどちらも鉄拳リーダーシップを前面に出した国際社会の代表的な「ストロングマンリーダー」だ。トランプ前大統領は在任期間にプーチン大統領に好感を示して交流を重ねてきた。トランプ前大統領がプーチン大統領の長期執権を羨み、自分も独裁者のように行動したかったという米中央情報局(CIA)前職局長の暴露もあった。ウクライナ侵攻以降はトランプ前大統領がプーチン大統領を「天才」と表現して物議を醸すこともあった。
ロシアの沈黙の裏面には、ロシアと友好的な関係を維持してきたトランプ前大統領を擁護しようとする意図が含まれているという観測もある。コーネル大学歴史学科のデービッド・シルビ副教授は「クレムリン宮は沈黙でプーチン大統領がバイデン大統領よりトランプ前大統領のほうを好むということを表わした」としながら「クレムリン宮は言及そのものが、米国社会の混乱を引き起こした『ロシアの友人』トランプに対して何の役にも立たないと考えている」と明らかにした。
シルビ副教授は「前職大統領の起訴が『米国では何人も法の上にない』というメッセージを含有しているが、プーチン大統領はロシア人にこの点を強調したくない」とも話した。
また、ロシア内政に米国が干渉するなというメッセージが含まれているという分析もある。ジョージメイソン大学政策・政府大学院のマークN.カッツ教授はニューズウィーク誌に「ソ連の時期からロシアは米国とは違って他国の内政に干渉しないと主張してきたが、実際は違う」とし「ロシアの沈黙には『我々も米国内政に干渉しないから、反対に米国も干渉するな』という意図が含まれていると解釈できる」と主張した。
反面、トランプ前大統領と近い他国の極右・ポピュリスト志向の国際リーダーたちは公開支持の意思を明らかにした。ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相は3日、ツイッターに自身とトランプ前大統領が握手する写真を上げて「大統領、ずっと相対して戦ってください。我々はあなたと共にいます」と書き込んだ。エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領も米国の民主主義を批判してトランプ前大統領を擁護した。
メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は5日の記者会見で「私は彼ら(米検察)がトランプ前大統領にした行為に同意しない」とし「選挙のための政治的目的」と批判した。
トランプ前大統領は4日、米国大統領経験者として初めて起訴されて刑事裁判所に立った。2016年大統領選挙を控えてポルノ女優出身のストーミー・ダニエルズさんに会社のお金を渡した後に企業文書を改ざんした疑惑などを含めて合計34件の容疑が適用された。トランプ前大統領はすべての容疑を全面否認している。
●中仏「平和への努力支持」 ウクライナ巡り核戦争反対 4/7
中国とフランス両政府はマクロン大統領の訪中日程最終日の7日、共同声明を発表し「国際法と国連憲章の目的と原則に沿って、ウクライナの平和回復に向けた全ての努力を支持する」と表明した。核戦争や、原発への武力攻撃に反対する立場でも一致した。中仏両国の関係強化もうたった。新華社電が伝えた。
7日、中国広東省広州の中山大で演説するフランスのマクロン大統領(AP=共同)
マクロン氏は7日、広東省広州を訪問。学生と交流するため地元の名門大学を訪れ、演説でウクライナに侵攻したロシアを非難した。習近平国家主席は北京から赴き、前夜の公式夕食会に続いて連日マクロン氏と夕食を共にし、歓待した。
フランス大統領府によると同国大統領が中国有数の商業都市、広州を訪れるのは初めて。18世紀にフランスが中国で最初の外交施設を開いた場所が広州だった。広東省は習氏にとり父親の故習仲勲氏が省トップを務めたゆかりの地。習氏は夕食の場所に父も使った公邸を選んだ上、茶でももてなし、親密感を高めた。
●中仏が共同声明 ウクライナ情勢「平和回復の努力を支持」 4/7
中国とフランスは7日、ウクライナ情勢について「平和回復に向けたすべての努力を支持する」ことなどを盛り込んだ共同声明を発表しました。
中国南部の広東省で庭園を散策した習近平国家主席とフランスのマクロン大統領。
非公式会談の後、両政府が発表した共同声明ではウクライナ情勢について「平和回復に向けたすべての努力を支持する」と表明したほか、核戦争や原子力発電所への武力攻撃に反対することなどでも一致しました。
また、経済面の連携強化や人的往来を活性化することについても盛り込まれています。
習主席がわざわざ広東省まで同行するなど、その厚遇ぶりが目立っていますが、中国側としてはゼロコロナ政策で傷んだ経済を回復させるため、欧米からの投資を呼び込みたい考えで、今回の対応にもこうした思惑が透けて見えます。
●ウクライナ東部のバフムト ロシア側が勢い取り戻しか 英分析  4/7
激しい戦闘が続くウクライナ東部のバフムトでは、掌握をねらうロシア側がここ数日、勢いを取り戻しているとイギリス国防省が分析しています。
ロシアは、東部ドネツク州でウクライナ側の拠点の一つ、バフムトの掌握をねらい、攻撃を続けています。
戦況についてイギリス国防省は7日、「ロシア軍の進軍は先月下旬以降はこう着していたが、ここ数日の戦闘では勢いを取り戻している。街の中心部まで到達し、西側にあるウクライナの主要な供給路が深刻な脅威にさらされている可能性がある」と指摘しました。
その要因について、ロシア軍が精鋭の空てい部隊を投入して作戦を強化したり、砲兵部隊を効果的に使っていたりすることや、確執が続いてきたロシアの正規軍と民間軍事会社ワグネルとの間で前線では関係が改善していると分析しています。
これに先立ち、ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、訪問先のポーランドで行った記者会見で、バフムトの戦況について「私にとっては兵士を失わないことが最も重要だ。包囲されて兵士を失う危険がある場合は司令官が相応の正しい決断を下すことになる」と述べ、戦況がさらに厳しくなれば撤退する可能性を示唆したとも受け止められていました。
一方、ウクライナ軍も大規模な反転攻勢に向けた準備を進めていて、欧米側に軍事支援の強化を求めています。
●ロシア外相とウクライナ情勢協議 NATO会合直後に配慮―トルコ 4/7
トルコのチャブシオール外相は7日、首都アンカラ訪問中のロシアのラブロフ外相と会談した。ロシアの侵攻下にあるウクライナ情勢を巡り、チャブシオール氏はロシアの権益にも配慮する立場を強調した。トルコ南部の原発建設での協力についても協議した。エルドアン大統領もラブロフ氏と面会した。
チャブシオール氏は4、5両日、ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)外相会合に出席し、フィンランドのNATO加盟に立ち会った。NATO拡大に「対抗措置を取る」と危機感を強めるロシアの外相訪問をこの直後に受け入れた形。6日には夕食を共にして歓待しており、トルコのNATO内での独自の立ち居振る舞いが改めて浮き彫りとなった。

 

●ウクライナの大規模反攻、数週間以内か…作戦計画の機密流出情報も 4/8
ウクライナ軍が大規模な反転攻勢の開始を視野に、ロシア軍が占領する南部ザポリージャ州の施設への攻撃を強化している。タス通信によると、ウクライナ軍は6日未明、高機動ロケット砲システム(HIMARS)6発を物流拠点メリトポリに発射した。ドイツメディアによると、ブリンケン米国務長官は、反攻が「数週間以内に始まるだろう」との見方を示している。
6日のメリトポリへの攻撃に関し、ウクライナ側の現地市長(市外退避中)は6日、露軍が基地として使っている飛行場が「使用不能になった」とSNSで明かした。3月下旬には露軍が物資補給で重視する鉄道駅も攻撃対象となった。
一方、米紙ニューヨーク・タイムズは6日、米国と北大西洋条約機構(NATO)が3月1日時点で作成したウクライナの反攻計画に関する機密文書が一部改ざんされて流出したと報じた。反転攻勢のために、ウクライナ軍は4000〜5000人規模の12戦闘旅団を編成し、戦車250両を含む600超の戦闘車両が必要との記述もあったという。
ウクライナ国防省情報総局の幹部は7日、流出文書に信ぴょう性がないと強調した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7日、軍司令官らとの会合で情報漏えい対策も協議した。
●“ウクライナ軍事支援の機密文書 SNSで拡散”米国防総省も調査  7/8
ロシアによるウクライナへの侵攻をめぐって、アメリカなどが計画したウクライナへの軍事支援に関する機密文書が、SNS上で拡散していたと、アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」が伝えました。
アメリカ国防総省も事態を把握していて、調査を進めています。
「ニューヨーク・タイムズ」が複数のバイデン政権高官の話として伝えたところによりますと、今週、SNSのツイッターやテレグラムに、ウクライナへのアメリカやNATO=北大西洋条約機構の軍事支援に関する機密文書が投稿され、拡散しているということです。
この中には、武器の供与計画や戦闘地域でのウクライナ軍の戦力のほか、高機動ロケット砲システム=ハイマースに使われるロケット弾の消費ペースなどの情報も含まれているとしています。
情報は3月1日時点のもので、ウクライナ軍が計画しているとされる大規模な反転攻勢についての戦術などは含まれていないということです。
投稿された機密文書の中には、ロシア軍の死者数も含まれていたということですが、この部分は大幅に少なく書き換えられていて、専門家は、ロシア政府がみずからを有利に見せるよう意図的に修正し、情報戦に利用している可能性があると指摘しています。
アメリカ国防総省のシン副報道官は、NHKの取材に対し「報道は把握しており、現在、調査を進めている」とコメントしています。 
●ロシア軍 東部激戦地バフムトの掌握ねらい 攻撃強化か  4/8
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、東部の激戦地バフムトの掌握をねらい、一層攻撃を強めているとみられます。一方、ロシア軍は、ウクライナ各地のエネルギー関連施設をねらって大規模なミサイル攻撃を行ってきましたが「エネルギーシステムを損なわせる試みは失敗に終わった」との指摘も出ています。
ウクライナ軍の参謀本部は8日、ロシア側は東部ドネツク州にあるウクライナ側の拠点の1つバフムトや、バフムトからおよそ50キロ南にあるアウディーイウカなどへの攻撃に注力していると発表しました。
このうちバフムトについては、一部の攻撃を撃退したとしながら「ロシア側は完全に支配しようとしている。激しい戦いが続いている」という認識を示しました。
バフムトをめぐっては、イギリス国防省が7日「ロシア軍は、街の中心部まで到達した」などとしたうえで、ロシア側が勢いを取り戻しているという分析を示していて、一層攻撃を強めているとみられます。
激しい攻防が続くバフムトについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は5日「包囲されて兵士を失う危険がある場合は司令官が相応の正しい決断を下すことになる」と述べ、戦況がさらに厳しくなれば撤退する可能性を示唆したとも受け止められています。
一方、ロシア軍は、去年10月以降、ウクライナ各地のエネルギー関連施設をねらって大規模なミサイル攻撃を行ってきましたが、イギリス国防省は8日、先月上旬以降こうした攻撃が少なくなっていると指摘しました。
そのうえで、施設の復旧が進められているなどとして「エネルギーシステムを著しく損なわせる試みは失敗に終わった可能性が高い」と指摘しています。
●ウクライナ軍事支援の機密文書が流出、わかっていること 4/8
米国防総省は7日、ウクライナ戦争に関する機密情報が詳細に記された複数の文書がソーシャルメディアに出回っており、調査を行っていると発表した。情報流出の背後にいるのが何者かについては、ほとんどわかっていない。
バイデン政権の当局者は米紙ニューヨーク・タイムズに対し、Twitter(ツイッター)やTelegram(テレグラム)で拡散された文書に、ロシア軍への反転攻勢に備えてウクライナ軍を増強するための米国と北大西洋条約機構(NATO)の機密計画の詳細が記されていることを認めた。ただし、当初は正規の文書かどうか不明だったとしている。
米高官がニュースサイトのポリティコに認めたところによると、問題の文書は本物で、米軍統合参謀本部が作成した。だが、米国が推計したウクライナ側の死者数を誇張し、ロシア側の死者数を過小評価するなど、不正な改竄の後がみられるという。
ニューヨーク・タイムズによれば、文書は5週間前に作成されたもので、ウクライナ軍の反転攻勢に何が必要となるかについて、1カ月前時点での情報が記されている。具体的な戦闘計画は記載されていない。
文書の中には、米国がウクライナ軍に供与したロケット砲システムの弾薬消費量や、今後供与される武器の写真、部隊・大隊の戦力などが記されたものもあるとされる。
英紙フィナンシャル・タイムズによると「最高機密」と明記された文書はウクライナ東部バフムートで続く戦闘を概説し、別の文書は来るべき反転攻勢に関連してウクライナ軍の部隊を列挙していた。これについてウクライナ軍顧問は、これらの情報は機密ではないとの見方を示した。
軍事アナリストらは英紙タイムズに対し、一連の文書には機密やタイムリーな情報は記載されていないものの、情報漏洩は米国の情報活動における重大な違反であり、ウクライナとの情報共有に悪影響を及ぼす恐れがあると指摘している。
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問はテレグラムへの投稿で、問題の文書について「はったりにすぎず、目に入ったゴミだ」と一蹴。ウクライナの反転攻勢に「影響を与える」ためにロシア当局が公開したものだと示唆し「実際のウクライナの計画とは関係ない」と主張した。ウクライナ政府は7日、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が軍関係者と会合を開き「国防軍の計画に関する情報漏洩」の防止策について協議したと発表した。
一方、ロシア政府とつながりのある民間軍事会社ワグネル・グループ系のテレグラム・チャンネル「Grey Zone(グレーゾーン)」は、一連の文書はウクライナがロシア軍司令部を「惑わすため」に流した「偽情報」だと主張している。ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は米CNNテレビに送った声明文で、文書に直接言及はしなかったが「ロシアとウクライナの紛争に米国とNATOが関与していることに微塵の疑いもない」と述べた。
文書の流出させ改竄したのが何者かは不明。ロシアとウクライナは互いを非難している。米ホワイトハウスは本件についてまだ反応していない。
●ロシア情報機関に「不満を持つ」要員が多数、米FBI長官 4/8
米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は8日までに、ロシアによるウクライナ侵攻に関連し、情報機関の要員を含め「不満を持つ」ロシア人が多数いるとの見方を示した。
時事問題や米国が直面する試練へのFBIの対応をテーマに、米テキサス州カレッジステーションにあるテキサスA&M大学で開かれた討論会で述べた。
同大学の公式サイトによると、長官はこの中でFBIが引き入れたいとする「不満を抱く」多くのロシアの情報機関要員がいると指摘。
「これら異論を持つロシア人と話を交わしたいと我々が思っていることを知らせたい」ともし、「彼らは歴史の行く末を変えられる役目をおそらく持つことができる」ともした。
レイ長官はまた、米国と同様に中国もウクライナ情勢を凝視し、教訓を得ているだろうと主張。
中国側が焦点を当てている教訓はロシア経済に及ぼす西側の制裁の影響であろうと推測。その上で「潜在的な制裁の発動が自国の経済へ及ぼす影響を緩和させるための措置を講じ始めている」との批判をにじませた分析も示した。
中国のこの動きは台湾に対して将来的にあり得る行動を占う材料としても受け入れられるとも見立てた。「例えば中国が台湾を押さえる強硬措置に出た場合、多数の制裁が打ち出されることは予想し得る」とした。
●ウクライナ、ブラジル大統領の和平案一蹴 クリミア放棄せず 4/8
ウクライナは7日、2014年にロシアに併合された南部クリミア(Crimea)半島の領有権を放棄するというブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ(Luiz Inacio Lula da Silva)大統領による和平案を一蹴した。
ウクライナ外務省のオレグ・ニコレンコ(Oleg Nikolenko)報道官は、「ウクライナの領土を1センチでも譲ることを正当化する政治的・道徳的理由はない」「和平調停の試みはいかなるものであれ、主権尊重に基づき、ウクライナの領土保全を完全に回復するものでなければならない」とフェイスブック(Facebook)に投稿した。
ルラ氏は6日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は「すべてを手に入れることはできない」として、ウクライナがクリミア半島の領有権を放棄して和平交渉を開始すべきとの考えを示唆していた。
ルラ氏は来週、同じく和平案を提示している中国を訪問する際、本件についても協議するとみられている。ウクライナ紛争の解決に向けた多国間グループの創設も提案しており、訪中後の実現を「確信」していると述べている。

 

●「あばずれを射殺すべき」と叫ぶ司会者 ロシア、高まる死刑復活の声 4/9
ロシア・サンクトペテルブルクのカフェで2日、ウクライナ侵攻を支持する戦場記者が爆殺された事件をめぐり、ロシアで死刑復活を求める声が強まっている。1996年以来「凍結」してきた死刑制度は、これまでも復活が取りざたされてきたが、侵攻後に欧州との関係が決定的に悪化したことで現実味が増している。反政権派への弾圧に利用される恐れがある。
「あばずれと旦那を一緒に射殺すべきだ。我々は戦争をしている。死刑を復活させ、世界のどこにいる敵でも容赦なく壊滅させる」
3日に放映されたロシア国営テレビの番組。プーチン大統領の支持者として知られる司会者のウラジーミル・ソロビヨフ氏は、戦場記者のウラドレン・タタルスキー氏殺害に関わった容疑で逮捕されたダリヤ・トレポワ容疑者を、声を張り上げてののしった。
●ポーランド「MiG-29追加で送る」 F-16は“ちょっと待って”? 4/9
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は現地時間の2023年4月6日、ポーランドを訪問し、同国のアンジェイ・ドゥダ大統領らと会談しました。
会談では、クラブ自走砲とロソマック装甲兵員輸送車のウクライナへの供与に加え、MiG-29戦闘機14機の追加供与も確認されました。具体的な供与時期に関しては、8機を先行させ数日中に引き渡し、残りの6機に関しても準備が整い次第送る予定であるとウクライナメディアでは報じられています。
また、ウクライナはポーランドほか北大西洋条約機構(NATO)加盟国に、アメリカ製のF-16戦闘機の供与も呼びかけていますが、ポーランド当局は情勢に鑑みて、すぐに供与の決定は下せないという考えのようです。
なお今回、ゼレンスキー大統領のポーランド訪問や、2月の欧州訪問によるNATO諸国の兵器・武器供与に関して、ロシア当局やロシアメディアは猛烈に批判。ウクライナへの武器供与や援助に反対する一般のツイッター投稿を引用し、西側諸国の人々がゼレンスキー大統領の傲慢な態度に激怒した、という報じ方をしているメディアもあります。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 9日の動き 4/9
ウクライナ軍 近く反転攻勢の構え ロシア警戒強める
ウクライナ軍の参謀本部は8日、ロシアが南部のザポリージャ州とヘルソン州で大規模なざんごうを築くなど防衛線を強化し、現地の住民を他の地域に移動させる準備を進めていると指摘しました。ウクライナ軍が近く大規模な反転攻勢に乗り出す構えを示す中、ロシア側は警戒を強めているとみられます。
ゼレンスキー大統領 クリミア奪還の決意改めて示す
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、「残念ながらクリミアはロシアに支配されているが、悪は打ち負かせると確信している。クリミアの解放は、ウクライナだけでなく、全世界にとっても他に替えられるものではない」と述べ、クリミアも奪還する決意を改めて示しました。
ロシア ザポリージャ州などの爆発 ウクライナの攻撃と主張
ウクライナ南部では6日、ロシアが軍事侵攻により占拠したザポリージャ州の主要都市メリトポリの飛行場などで爆発が起きたと現地のメディアが伝えました。また、9年前にロシアが一方的に併合したクリミアでも8日朝、爆発があったと伝えられ、ロシア側はいずれもウクライナ側からの攻撃によるものだと主張しています。 
●旧ソ連・アルメニアがロシア離れ? ナゴルノカラバフ巡り不満か 4/9
親露国家とみられてきた旧ソ連のアルメニアが、米軍主導の演習に参加を発表するなど対露姿勢に変化が生じている。ウクライナ情勢を巡ってプーチン露大統領に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)への加盟検討も進めており、ロシアは反発を強めている。
地元メディアによると、アルメニア国防省の報道官は7日、年内に欧州地域で米軍が主導する二つの演習に参加する方針を明かした。アルメニアは隣国アゼルバイジャンとの係争地ナゴルノカラバフを巡り、ロシアが十分に介入しないとして不満を強めてきた。
アルメニアはロシアが主導する軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)に加盟するが、ナゴルノカラバフ情勢への対応の不満から、今年は自国領内での演習を受け入れない方針を表明した。米軍主導の演習に参加すれば、ロシアとの関係が悪化する可能性もある。
アルメニアのパシニャン首相は7日、ロシアのプーチン大統領と電話協議した。ロシア大統領府によると、ナゴルノカラバフ情勢などを話し合い、演習参加も議題になったとみられる。
ICC加盟に向けた動きも、背景にあるのはナゴルノカラバフ情勢だ。散発的に続く衝突を巡り、ICCでアゼルバイジャン軍の「戦争犯罪」を追及する狙いがある。アルメニア首相府は2022年12月にICCへの加盟を検討する方針を発表し、憲法裁判所は3月下旬に加盟は「合憲」との判断を下した。
ロシア通信などによると、ロシア外務省はアルメニアに対し、ICCへの加盟は「非常に重大な結果を招く」と警告したという。ICCは3月中旬、ロシアがウクライナから子供の連れ去りに関与した疑いがあるとして、プーチン氏に逮捕状を出した。アルメニアがICCに加盟すれば、拘束の恐れがあるためプーチン氏が同国を訪れる機会は制限される。
両国の関係がもつれる中、ロシアは3月末、アルメニアからの乳製品の輸入を禁じると発表した。衛生上の理由だとしているが、ICCへの加盟を巡り、アルメニアに圧力をかける意図もあるとみられる。
●数千人のウクライナの子どもたちがいまだ行方不明 4/9
複数のウクライナの子どもたちが先月末、家族の元に戻ったとの報道があった。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が主導するウクライナ侵攻で行方不明になった子どもたちだ。
国際刑事裁判所(ICC)は先月17日、同大統領と同国のマリア・リボワベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)に対し、ウクライナの子どもに対する戦争犯罪に関与したとして逮捕状を出した。それ以降、ウクライナの子どもたちが帰還し始めている。だが、ロシアにいると言われる行方不明のウクライナの子どもたちの数と比べると、帰還した子どもたちの数はまだ少ない。行方不明の子どもたちは数千人におよぶとの試算もあるが、プーチンのウクライナ侵攻によってもたらされた強制退去や混乱の中、正確な数字を検証するのは困難だ。
ウクライナの子どもたちの拉致や強制的な養子縁組の問題は今に始まったことではないが、最近になってさまざまなやり方に関する情報が続々と表面化してきている。こうした中、国連ウクライナ調査委員会は先月16日、ウクライナからロシアへの子どもの移送を巡り「人権と国際人道法の違反」を指摘。同委員会によると、子どもの移送や国外退去に関する現在の状況は戦争犯罪に当たる。目撃者は同委員会に対し、移送された低年齢の子どもたちの多くが自分の家族と接触することができず、家族との接触を永久に失ってしまうかもしれないと証言した。また、民間人の本国送還の遅延も戦争犯罪に当たる可能性があるという。
欧州評議会のドゥニャ・ミヤトビッチ人権委員は先月上旬、ロシアやロシアの占領地に移送されたウクライナの子どもたちを家族と再会させるための緊急行動を呼び掛けた。同委員は、この問題に関する詳細な調査と事実調査団を指揮し、プーチンによる侵攻がウクライナの子どもたちに壊滅的な結果をもたらし、多くの子どもたちが死傷し、医療や教育といった基本的権利を享受する機会を奪われるとともに、強制退去させられ、両親や養育者から引き離される危険にさらされていると指摘した。
欧州評議会は、こうした状況にさらされる子どもたちをいくつかのカテゴリーに分類している。1つは、ウクライナのロシア占領地域に居住していた孤児や施設の子ども、次に2014年から昨年2月24日の侵攻開始以前にロシアに連行された子ども、さらに昨年の侵攻開始以降にウクライナのロシア占領地域または一時支配下に入った地域にある保護施設からロシアに連行された子どもたちだ。
欧州評議会が国際社会に呼び掛け
欧州評議会の説明によると、ロシア当局は子どもたちが孤児であるか、親からの世話を受けていないと主張し、定期的に後見人を変更したり、里親に預けたりすることが多いという。こうした事態は、ロシア当局がウクライナにいる子どもの親族や既存の法定後見人の確認や連絡に十分な努力をしないために起こることが多い。子どもやその親族の身元や居場所に関する正確な情報は、すべての事例で入手できるわけではないが、ミヤトビッチ人権委員は、ロシアに連れ去られたウクライナの子どもたちは現在、自国で法定後見人がいるとの報告をウクライナ当局から受けているという。
もう1つのカテゴリーには、戦闘中に親や養育者が死亡、負傷、拘束、失踪したことで同伴者がいなくなった子どもや、いわゆる「ろ過」プロセスで家族と引き離された子どもが含まれる。(訳注:ロシア当局はウクライナの占領地で拘束した地元住民を尋問していると指摘されている。この尋問プロセスが「ろ過」と呼ばれる。)
欧州評議会は次のように指摘する。「ロシア軍の一時的な支配下に入った地域では、ロシア各地やクリミア半島などロシアに占領されたウクライナ領で、娯楽キャンプに送られた子どもたちもいる。親が直接引き取りに来ない限り、キャンプ当局が引き渡しを拒否すると言われているため、規定の滞在期間が終わっても、多くの子どもたちが親元に戻されていない。このようなキャンプに収容された子どもたちは、親ロシア的な世界観やウクライナ人のアイデンティティーをおとしめる歴史物語に洗脳され、反ウクライナ感情が一般化しているとも言われている」「家族や養育者から長く離れることで生じるストレスや不安は、ロシアに連れ去られた多くのウクライナの子どもたちに壊滅的な長期的悪影響を及ぼす可能性がある。これは、特別な支援が必要な子どもたちや施設に入れられた子どもたちなど、最も弱い立場の子どもたちに特に当てはまる」
ICCが子どもに対する戦争犯罪に焦点を当てたことは、この軽視されがちな犯罪に対する正義と説明責任に向けた重要な一歩といえる。しかし、状況に対処するためにはさらなる対策が必要だ。そのため、欧州評議会はウクライナの子どもたちを家族や法定後見人と再会させる仕組みの確立などを求めてきたのだ。ミヤトビッチ人権委員は「子どもの利益を最優先にする原則を十分に尊重した上で、離散したすべてのウクライナの子どもの居場所を特定し、追跡するとともに、家族または法定後見人と再会させる努力を追求すること」を、欧州評議会の全加盟国に呼び掛けた。また同評議会は国際社会に対し、同伴者のいないウクライナの子どもたちの家族との再会を促す分野で活動する信頼できる組織を支援するよう喚起した。同評議会は最後に、子どもに対する犯罪の責任者全員に正義と説明責任を追求するよう訴え掛けた。
ウクライナの子どもたちが帰還し始めているのは、好ましい展開といえよう。だが、それ以上に多くの子どもたちが行方不明になっており、国際社会はそういった子どもたちの帰還を優先させなければならない。
●ウクライナが電力輸出を再開 ロシアのインフラ攻撃から復旧 4/9
ウクライナのエネルギーインフラが、数カ月にわたるロシアの攻撃から復旧し、6カ月ぶりに電力輸出を再開した。
ロシアは昨年10月以降、ウクライナのエネルギーインフラに長期間、意図的な攻撃を繰り返していた。
これにより冬の間、ウクライナの各都市で停電が起きたり、電力不足による計画停電が行われたりした。また、電力輸出も停止せざるを得なかったが、余剰電力を外国に売れるまでに回復した。
ヘルマン・ハルシュチェンコ・エネルギー相はこのたび、輸出を承認する特別令に署名。ただし、国内の顧客を最優先するとした。
ハルシュチェンコ氏によると、ウクライナでは2カ月近くにわたって電力に余裕が出ており、国民は電力使用に制限を受けていないという。
「最も困難な冬は去った」と、ハルシュチェンコ氏は述べた。
「次は電力輸出を開始することだ。そうすれば、破壊されたり損害を受けたりしたエネルギーインフラについて、再建に必要な財源がさらに手に入ることになる」
その上で、電力システムの復旧に携わったエンジニアや各国のパートナーの「多大な仕事」を評価した。
BBCの取材では、ウクライナ市民は3月の時点で、電力供給が安定してきたと話していた。
ドニプロ在住のインナ・シュタンコさんは、「街は変わった。やっと街灯が戻って来たし、街中を歩くのが怖くなくなった」と話した。
しかし、国営エネルギー会社「ウクルエネルゴ」は、ロシアが攻撃を止めるという保証はないと警告した。
ウクエネルゴは8日、ロシアはこの戦争で1200発以上のミサイルとドローンをエネルギー施設に向けて発射してきたと報告。欧州国のエネルギーシステムを破壊しようとする攻撃としては最大のものだと述べた。
ウクライナではこの冬、停電と厳寒の中、各地に設置された暖房付きシェルター「不屈センター」で暖を取った市民もいた。このシェルターでは電力や暖房に加え、食料や医薬品も提供していた。
ロシアがエネルギー施設への攻撃を始めて以降、被害を受けなかった地熱発電所や水力発電所はないという。
また、ウクライナは欧州最大のザポリッジャ原発を抱えているが、同原発は現在、ロシアが占領している。
ウクライナ政府は昨年6月、戦争開始後に最大輸出市場となった欧州連合(EU)への電力輸出で、年内に15億ユーロ(約2180億円)の売り上げを達成したいとしていた。
●ロシア“弾薬供給止めた” 攻撃よりも大規模反転攻勢に備えか  4/9
ウクライナで侵攻を続けるロシアは、一部で攻撃に向けた弾薬の供給を止めたとする声が出ていて、前線での攻撃よりも、ウクライナの大規模な反転攻勢に備えているという見方が強まっています。
ウクライナ東部のドネツク州でロシア軍による侵攻に加わる、親ロシア派の部隊の幹部は8日、SNSで、弾薬の供給がなくなったと訴え、「ロシア軍の司令部は、一部で供給を完全に止める決定をしたようだ。敵の反撃への準備のためだろう。前線の部隊にとっては非常につらい」と不満を書き込みました。
これについて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は8日、「ロシア軍の司令部が、弾薬を供給する優先順位を厳密につけざるをえないことを示している」と分析し、ロシア側が前線での攻撃よりも、ウクライナ軍が近く行う構えの大規模な反転攻勢に備えているという見方を示しています。
これに関連してウクライナ陸軍の幹部は8日、地元メディアに対して、ロシア側は前線での攻撃のペースが落ちていると指摘しました。
そして、ロシア軍が仕掛けている攻撃は、もはや前線を突破するためではなく、反転攻勢を食い止めようとウクライナ軍の戦力を分散させることに集中しているようだと分析しました。

 

●中国の属国と化すロシア 「戦後」も依存は続くのか 4/10
アレクサンドル・ガブエフ(米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンター所長)が、3月18日付の英エコノミスト誌に、「ロシアの中国依存はプーチン後も続く」と題する寄稿をし、ロシアの中国の属国化時代を予想している。
習近平が3月20日に国賓としてロシアを訪問する。ロシアは両国間の対等性を示そうとするだろうが、広がる両国間の力の差は隠せないだろう。
プーチンは、ウクライナ攻撃を米国支配への反乱、ロシアの完全な主権への跳躍にしようとしている。しかし現実は異なる。開戦後13カ月、ロシアは、経済的にも外交的にも中国にますます依存している。2022年、ロシアの輸出の30%、輸入の40%を中国が占めた。ロシアのドル・ユーロへのアクセスが西側制裁下にあるので、この貿易の大きな割合が中国元で決済されている。西側がロシアの天然資源への依存を低める中、この依存は今後も増大する。
今のところ、中国はロシアへの経済梃子を強めることで満足しているが、今後中国は政治的譲歩をより多く求めるだろう。中国はロシアに機微な軍事技術を共有することを求めうるし、北極海や中央アジアでの中国の存在感は高まるだろう。
ウクライナ戦争によって、中国は3つの理由で、ロシアの最も影響力のあるパートナーになっている。第1に、中国のロシア商品の購入増大はプーチンの戦時財政を満たしている。第2に、中国はロシアの兵器の部品や工業機械への半導体の代替不可能な源泉である。
最後に、ロシアは、米国の世界的敵対者である中国を助けることがバイデン政権のウクライナ支援に復讐する最も良い方法であると考えている。これが機微な軍事技術の共有やその他中国の軍事力を助けることがもはやタブーではないように見える理由である。
ロシアにとっての悲劇は、プーチンが政治から引退した後でさえ、中国の「大君主」に従属する巨大なユーラシア独裁制が生き残るという事である。数年後、西側はロシアに経済的に依存することをやめ、代わりに、中国はロシアの輸出の大半を受け入れ、ロシアの金融は中国の通貨である元に釘付けられよう。
西側との結びつきを再建し、この中国の支配から這い出るためには、ロシアは戦争犯罪人についての責任追及、賠償、併合した領土の返還についてのウクライナの要求を満たさなければならない。これはプーチン後でも、ほぼあり得ないシナリオである。ロシアの中国への属国化が予見可能で、利益も多いように見える。
このエコノミスト誌の論説は、カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのガブエフ所長が書いたものであるが、ガブエフはロシアの事情に精通し、かつ中国のユーラシア政策にも詳しい人である。
ガブエフは、ロシアが今後中国の属国になるだろうと予見している。ウクライナ戦争を受けての情勢の発展の中で、ロシアの中国属国化は、大いにありうる事態である。ガブエフは、プーチンが退場した後も、たとえロシアが民主化した場合にも、ロシアの中国属国化は続くと見ている。
ガブエフが言うような情勢が出てくる蓋然性は大きいと考えられるが、そのような情勢は極めて望ましくないとも考えられる。特に、プーチン退場後に民主化した場合にも、ロシアは中国の属国であり続けるとのガブエフの判断には大きな疑問がある。
情勢判断においては、希望的観測は排除すべきであるが、ウクライナ戦争後の情勢の進展によっては、ロシアの民主化や欧米諸国との関係改善の可能性もあると考えられる。その理由は、ウクライナ戦争は平和協定ではなく休戦協定でいつか終わるが、ウクライナが国家として生き残ることは休戦ラインがどこになるかにかかわらず、今の時点で明らかであると思われるからである。
繁栄する「兄弟」を見た時、ロシア人は何を思うか
おそらく、生き残ったウクライナは、欧州連合(EU)に加盟することになるだろう。ウクライナは人権が尊重され、法の支配がある民主国家になり、その経済は奇跡的に回復する可能性さえある。EUで1人当たりの国民所得が最も低い国はブルガリアであるが、ウクライナの一人当たり国民所得は戦争前でブルガリアの半分であった。EU 諸国への出稼ぎだけでも経済の高度成長はできるだろう。
ロシア人とウクライナ人はプーチンが言うような一つの民族ではないが、よく似た兄弟民族である。民主化し繫栄するウクライナを目の当たりにすれば、ロシア人が何故われわれは自由でもなく、貧しいままなのかと疑問を持っても不思議ではない。ここにロシアが民主化するきっかけがある。
それに中国のジュニア・パートナーでいることに誇り高いロシア人が甘んじるとは考え難い。ロシアの歴史を巨視的にみると、欧化論者とスラブ主義者が政権交代してきたように見える。
ガブエフの論は、そうなる蓋然性が高いとは思うが、ロシアの今後には別の発展もありうると考えて、政策展開を考えていく必要があるだろう。
●ベラルーシと信頼関係強調 ロシア報道官 対NATOで結束 4/10
ロシアのペスコフ大統領報道官は9日放映の国営テレビのインタビューで、国家統合を進める同盟国ベラルーシとの間には完全な信頼関係があると述べ、ウクライナ侵攻を非難する米国主導の北大西洋条約機構(NATO)側の圧力に結束して対抗する考えを示した。
プーチン大統領が3月に表明したロシアの戦術核兵器をベラルーシ領内に配備する計画への欧米の批判について、ペスコフ氏は「ヒステリックな反応だ」と指摘。「米国も戦術核を欧州諸国に配備している」と述べ、正当な対抗措置だとの姿勢を改めて強調した。
ロシアとベラルーシは今月6日、プーチン、ルカシェンコ両大統領が出席し、両国でつくる連合国家の最高国家評議会をモスクワで開催。プーチン氏は連合国家の「安全保障政策概念」作成に着手すると表明し、軍事や経済分野での協力を拡大する方針を鮮明にした。
●ウクライナ戦争が今後の国際秩序を規定する理由  4/10
ロシアのウクライナ侵攻から1年以上が経過したものの、未だに戦争収束の道筋は見えない。
ロシアの近隣諸国に対する武力行使は、近年でもジョージア紛争(2008年)、クリミア半島併合(2014年)、シリア介入(2015年)など枚挙にいとまがない。それでも、主権国家の政権転覆と占領を目的とする侵略行為であること、また国連安全保障理事会の常任理事国の行為であることにおいて、ロシアのウクライナ侵攻は極めて秩序破壊的だった。
現代の国際安全保障秩序の前提は、国連憲章第2条4項に明記される領土の保全や政治的独立に対し、武力による威嚇や行使を慎むことにある。国際法上の武力行使の例外は、憲章51条における個別的・集団的自衛権の行使と、憲章第7章における集団安全保障に限られる。
この基本的ルールに背いて他国を公然と侵略する国に対しては、国際社会から厳しいペナルティを課されることで秩序の前提は維持される。しかし公然たる武力行使がむしろ利得を生み出し、ペナルティも生じないとすれば、この秩序の前提は崩壊する。
ロシアのウクライナ侵攻が国際安全保障秩序にどのような変化をもたらすかは、現在進行している戦争の始まり方、戦い方、終結の仕方に大きく依存する。ウクライナ戦争がなぜ始まったかは、武力侵攻に対する抑止力と抑止失敗の教訓として記憶される。戦争がどのように戦われたかは、現代戦の勝利と敗北、利得と損耗のプロスペクト(見通し)に影響を与える。そして、何より戦争がどのように終結するかは、今後の侵略行為の起こりやすさにかかわってくる。
換言すれば、ロシアのウクライナ侵攻後に世界の安全保障秩序を軌道回復できるかが、問われているのである。国際社会がロシアの侵略行為を歴史的失敗に追い込むことができるか、それともペナルティなく追認してしまうかによって、安全保障秩序の基盤は大きく変化するからだ。国際社会はまだその最終的な答えに至っていない。
戦争はどのように始まったか:抑止失敗の教訓
ロシアのウクライナ侵攻はなぜ起こってしまったのか。その原因について、プーチン大統領の偉大なロシア復活への野心(=選択した戦争)と、ロシアの地政学的懸念(=選択せざるを得なかった戦争)の対比に関する論争がある。しかし原因はどうあれ、仮にプーチン大統領が侵略の意思を固めたとしても、なぜロシアの侵略を抑止できなかったのか(抑止の失敗)は、国際安全保障秩序におけるより重要な論点である。
抑止力が成立するためには、相手が有害な行動をとったとしても利得が得られず、むしろ重大な損害が生じることを損得勘定にかけ、相手の行動を思いとどまらせることが必要となる。相手の侵略行為に対する反撃によって、相手に耐え難い損害を与えることが、懲罰的抑止の基本的考え方である。もう一つの抑止力は、相手が有害な行動をとったとしても、防御能力や強靭性によって作戦目的を達成できないようにし、相手の行動を思いとどまらせることだ。これが拒否的抑止の基本的考え方となる。
戦争開始前に、ロシアとウクライナの軍事力は明らかにロシア優位だった。ウクライナには、ロシアに耐え難い損害を与え得る反撃能力は存在しなかった。ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟国であれば、集団防衛の原則によって反撃能力を調達することができたであろう。しかし、当時のウクライナの安全保障を支えていた国際協定は、アメリカ、ロシア、イギリスがウクライナに安全の保障を約束した拘束力のない「ブダペスト覚書」(1994年)に過ぎなかった。実際、ロシアのクリミア半島併合、ドンバス軍事介入、ウクライナ侵攻に対して、同覚書は何の役にも立たなかった。
しかしNATO加盟国でないウクライナに対しても、アメリカや欧州諸国が任意に軍事介入する可能性を示唆し、ロシアの予見される行為に厳しい制裁を課すことにより、ロシアの行動を抑制する道筋は残されていた。しかし、アメリカ政府は早々にウクライナに地上軍を派遣することを否定し、欧州諸国も軍事介入の意思を示さなかった。プーチン大統領の戦略計算における損失の見通しが低く見積もられたことは、想像に難くない。
また侵略行為に対する強靭性(防御)に関しても、ロシアがウクライナ軍の抵抗能力、ウクライナ国民の団結、欧州諸国の対ウクライナ支援に関する見通し、ロシアに対する経済制裁を過小評価していたことは明白である。ロシア軍の戦力優位を利用して、迅速かつ効果的にウクライナを制圧できると考えたのであろう。これが明らかな自らへの過信と相手に対する過小評価であったことは、その後の戦争の経緯が証明している。
戦争の始まり方における教訓は、侵略する意図を持った指導者に侵略のコストを過小評価させたことにある。NATOが軍事介入の可能性を強く示唆し、ウクライナ軍の強靭性や苛烈な経済制裁によってロシアに甚大な損害が及ぶことが事前に示せていれば、この戦争は防げていたかもしれない。
戦争の戦い方:継戦能力の維持と防御優位
2022年2月の戦争開始から1年間で、ロシア・ウクライナ戦争は4つのフェーズ----1初期のロシアの電撃作戦の失敗と北部撤退戦、2ロシア軍の東部2州制圧と南部侵攻を経た東南部4州の併合、3ウクライナ軍の反攻・反転攻勢(ハルキウ・ヘルソン)とロシア軍の追加動員、4戦線の膠着と打開に向けた欧州諸国の支援とウクライナ軍兵装の転換----が展開した。
この戦争の経過において、もっとも特筆すべきは、ウクライナ軍が組織的抵抗力と継戦能力を維持し、ロシア軍の作戦遂行能力を拒否し続けたことだった。
ウクライナ軍の抵抗力・継戦能力を支えた決定的要因は、ウクライナ軍の防空能力が維持され、ロシア軍が各フェーズにおいて制空権を獲得できない環境下で、地上戦を継続できたことにある。ウクライナ軍は米軍およびNATO諸国から防空システムの供与や情報支援を受け、ロシア軍の効果的な航空作戦と制空権獲得を困難にした。また、地上では地理的要因を生かした遊撃戦術や携行型の対戦車・対空ミサイルの効果は顕著で、榴弾砲や多連装ロケットによる砲兵火力でもロシア軍に多大な損耗を与えた。
ロシア軍はウクライナ軍に対して圧倒的な機動部隊(戦車・機械化歩兵)と火力の優位を誇りながらも、ウクライナ軍の抵抗により甚大な損耗を被っている。戦争開始から1年間でロシア軍は全軍が保有する戦車の半数近い1500両以上を喪失し、歩兵戦闘車両の喪失も2000両を超える。ロシア軍が効果的に機甲戦による攻勢作戦を展開できなかったことにより、激戦地においてはしばしば第一次世界大戦を彷彿させる塹壕戦が展開されるようになった。両軍の戦況の膠着は徐々に消耗戦の様相を強めていった。
今後の戦況の変化を見通すことは困難であるが、西側諸国によるレオパルト2やM1エイブラムス等の戦車の集中投入によってウクライナ軍の機甲戦を抜本的に立て直し、NATO諸国から提供される戦闘機の投入によって航空戦を優位に展開できれば、ウクライナ軍が東部および南部において戦局を打開し、領土奪還のための攻勢作戦へとフェーズを移す可能性がある。
しかし、ロシア軍も追加装備の動員や、ミサイル対地攻撃の強化によってウクライナ軍の攻勢を阻止し、さらに追い込まれればワイルドカードとしての戦術核兵器の使用も視野に入れざるを得ない。ロシアが戦争エスカレーションや核兵器の使用を示唆して、NATO諸国の直接的な軍事介入を抑止する構図には変化がない。
戦争の戦われ方における教訓は、継戦能力の維持と持続性・強靭性を担保することによる防御優位の軍事態勢の重要性である。継戦能力の維持には指導者・軍・国民の士気を前提にして、組織的に軍事作戦を遂行できる能力、中でも武器・弾薬の生産・供給能力を系統的に維持し続ける能力が重要となる。こうした防御優位の軍事態勢によって、作戦遂行を拒否し、軍事侵攻を成功させないことを示したことが、国際安全保障秩序への大きな教訓となる。
戦争の終わらせ方:今後の国際安全保障秩序を規定
ウクライナ軍とロシア軍の双方が継戦能力を維持する中で、ウクライナ戦争の早期終結の見通しは立たない。しかし、この戦争がどのように終結するかは、今後中長期にわたる国際安全保障秩序に決定的な影響を与えることは確実である。
ウクライナ戦争の終結には、1交渉による両当事者の停戦・和平合意、2いずれか一方の軍事的勝利(もしくは優位性を固定化した状態)による終結、3消耗と厭戦による戦闘維持能力の喪失による停戦という主たるシナリオがある。千々和泰明氏が「戦争終結の理論」(『国際政治』第195号、2019年3月)で論じたように、「妥協的な和平」と「紛争原因の根本的解決」にはジレンマが生じやすい。
前者については、早期の妥協的和平は戦争による人的・物的犠牲を抑えるだろうが、その間の優勢勢力側の優位を確定し、将来の危険(当事国のさらなる主権侵害や国際安全保障秩序の劣化)を増すことにつながる。ロシア・ウクライナ双方に早期停戦を促すことは、ロシアが侵略によって獲得・支配した地域の現状を固定化することに結びつく。それは、結果として侵略戦争の利得を是認する態度と切り離すことは困難である。
しかし後者の紛争原因を根本的に解決すること、すなわちウクライナが侵略された国土を回復(2月24日以前の状況に回帰)することは、ウクライナ軍が攻勢を続けて戦況を打開して東南部地域の実効支配を再獲得するか、ロシア軍の損耗率を高めて組織的な戦闘能力を低下させるか、ロシアに対する経済制裁を強化して国家として戦争を継続する能力を奪うか、いずれかの方法を追求する以外にない。このいずれもが、甚大な人的・物的・経済的な損失を伴うものとなる。
ロシアに対する経済制裁が十分に効果を上げていないことも、戦争を長期化させる原因となる。ロシア連邦統計局が発表した2022年の国内総生産(GDP)は、前年比−2.1%に過ぎなかった(ウクライナは前年比−30%とみられる)。経済制裁の影響によりロシア国内の個人消費や生産活動は落ち込んだが、輸出の要である原油・天然ガスの価格高騰がGDPの下支えに寄与したとみられている。リーマンショック時には−7.8%(2009年)、新型コロナウイルス感染拡大の影響時に−2.7%(2020年)だったことと比較しても、経済制裁の効果は限定的であることを物語る。
重要なことは、ロシアのウクライナ侵攻が歴史的に失敗であると位置付け、戦争を可能な限り早期に終結させることである。ウクライナ軍が剥奪された領土を奪還する権利を支持し、その軍事作戦を支援するとともに、ロシアの継戦能力とそれを支える国家的体力を奪うことが、現時点での解である。そのために国際社会が努力すべきことはまだまだ多い。
●ロシア、砲弾不足で攻勢減速か ウクライナ反撃に準備―米研究所 4/10
米シンクタンクの戦争研究所は8日付の戦況分析で、ウクライナに侵攻するロシア軍の攻撃ペースが減速している可能性を指摘した。背景にはロシア側の砲弾不足があるとみられる。
研究所によると、ウクライナ軍関係者は、ロシア側の攻撃が全体として「停滞した」と評価し、東部ドネツク州の激戦地バフムトでも一部で攻撃がわずかに弱まったと言及。ロシア側はウクライナが準備している反転攻勢を想定し、ウクライナ軍の分散に注力していると分析した。
ロシアの著名な軍事ブロガーも、ドネツク州の別の激戦地アウディイウカでの攻撃が「ここ1日で速度が落ちた」と断言した。他の前線でも「ロシア軍は前進に苦戦している」と強調した。
研究所は、ロシアは地上での戦闘能力の低さなどを補うため、砲撃に依存していると説明。ロシア軍がウクライナの反攻に備えるため、砲弾の供給を制限したとの報告を紹介した。こうした事情がロシア軍の停滞につながった可能性がある。
ただ、ウクライナ軍参謀本部は9日の戦況分析で、ロシア軍が依然としてバフムトの完全支配を狙っており、戦闘が続いていると明らかにした。英国防省は7日、ロシア軍がバフムト市中心部まで進軍した可能性があると分析していた。  
●テレビ司会者、核兵器使用に反対する国民を「いかれた平和主義者」と罵倒 4/10
ロシア国営テレビの著名司会者、ウラジーミル・ソロビヨフが、核兵器の使用に反対する同国内の人々を「いかれたロシアの平和主義者たち」と攻撃した。ソロビヨフはイデオロギー面でウラジーミル・プーチン大統領との共通点が多く、「プーチンの代弁者」とのあだ名で呼ばれている。
ソロビヨフがこの発言をしたのは、司会を務める番組の中で、2日にロシアの主戦派ブロガー、ウラドレン・タタルスキーが暗殺された事件に触れた時のことだった。
ウクライナのロシア軍は、思うように占領地域を広げることができずにいる。この数カ月は、予想されるウクライナ側の反転攻勢の前にドンバス地方の都市バフムトを攻略しようとしてきたが思うようにいかず、もし撃退されれば、ロシアが2014年に併合したクリミア半島まで危うくなるかもしれない。そうなれば「核使用の根拠になる」と、ドミトリー・メドベージェフ前大統領は言っている。
番組の中でソロビヨフは、タタルスキーが暗殺された今、ロシア政府の敵はプーチンを暗殺するかも知れないと自説を展開。もしプーチン暗殺が「外国の情報機関の手で実行」されたなら、それは正当な「開戦の理由」になるだし、「すぐに核攻撃も続くだろう」と主張した。
「かつてなく戦意は高揚」
さらにソロビヨフは「いかなる場合も」核兵器を使うべきではないと主張する「ロシア国内のいかれた平和主義者たち」に対する激しい批判を繰り広げた。
番組はロシアン・メディア・モニターという独立系の団体によって録画・翻訳され、ユーチューブに投稿された。ジャーナリストのジュリア・デービスが「ロシアのプロパガンダと戦う取り組み」として立ち上げた団体だ。
ソロビヨフは、もしウクライナによる反転攻勢が「戦略的成功」を収めた場合、ロシアは「全面的に戦時体制に移行」するだろうと予言した。
戦況が悪化した場合のプーチンの対応は「手に取るように分かる」と胸を張り、こうも述べた。「必要ならロシアの社会や産業への動員が行われるだろう。軍の予備役も必要なだけ招集されるだろう」
「国は戦時体制に完全に移行する。一時的な敗北にも関わらず、過去にないほど戦意は高揚し、ロシアは戦い続けるだろう。ナチス国家のウクライナが、ポーランドやバルト諸国や汚らわしい国々やその協力者たちとともに完全に打ち倒されるその日まで」
アメリカのシンクタンク戦争研究所が8日に発表した最新の分析によれば、ロシアは自軍の「(兵員など)足りない部分を補うために砲撃に大きく依存している」という。
だが、砲弾不足によりこうした戦い方が「難しくなる」可能性があるという。
8日にはウクライナ軍も、ロシア軍の陣地を攻撃するのに使われている自走式榴弾砲「AHSクラブ」の映像を公開した。ウクライナは昨年、ポーランドからAHSクラブを18両、供与された。
ウクライナ軍は映像とともにこう述べた。「AHSクラブは照準を合わせる速度や射程という点で優れた能力を見せつけた」
「われわれはこの機器のリソースや能力について研究し、製造元に対して改善の提案を行っている」
●ロシア、防空部隊を改革へ フィンランドのNATO加盟にも対抗 4/10
ロシアはウクライナ戦争の経験を基に防空部隊の改革を計画しているほか、フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟に対抗して防空態勢も強化する。
ロシアのウクライナ侵攻以来、ドローン(無人機)やミサイルを多用した戦闘が展開されており、両国の防空態勢が試されている。
ロシア国防省機関紙「赤い星」が10日付で掲載したインタビュー記事によると、同国の航空宇宙軍副総司令官のアンドレイ・デミン中将は、ウクライナの攻撃に直面して防空部隊は多くの課題に直面していると指摘。50以上の移動式レーダーステーションを加え、A50早期警戒管制機による24時間態勢の巡視を行っているほか、ウクライナに隣接する地域のミサイル・対空施設を強化したと述べた。
ロシアの支配下にあるウクライナの地域では、重要施設を守るために防空部隊が設置された。また、ロシアは対ドローンシステム「RLK−MC」の生産を強化しているという。
デミン氏は「(改革は)間違いなく計画されており、実施される」と表明。「ロシアの防空システム改善を目指し、軍を発展させる」と語った。
●ウクライナ地対空ミサイル枯渇か 5月に、ロシア攻勢対処に懸念 4/10
米紙ニューヨーク・タイムズは9日、ロシアのミサイルや自爆型ドローンの迎撃のためウクライナ軍が地対空ミサイルを大量に消費しており、5月には主力システムの弾薬が底をつく恐れがあると報じた。米国防当局者らは、ロシアの戦闘機や爆撃機が制空権を握り、攻勢に出る可能性があると危惧しているという。
交流サイト(SNS)に流出した米国の機密文書や米当局者らの話を基に伝えた。
同紙によると、米国防総省の2月28日付の機密文書は、ウクライナ軍が使う地対空ミサイルシステムのうち旧ソ連製「ブク」のミサイルは4月中旬に、「S300」のミサイルは5月3日に払底すると試算している。

 

●武器供与で習近平を怒らせたプーチンの誤算 4/11
長期戦に移行か、年内終結か。ウクライナ戦争は2023年4月、その行方を左右する決定的な局面に入った。ロシアとウクライナはそれぞれ、このヤマ場をどう乗り切ろうとしているのか。双方の本音を探ってみた。
プーチン大統領が1日に2回、ショイグ国防相など軍トップに必ず報告させている問題がある。ウクライナの戦況、とくに東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州)での情勢だ。
ロシア軍が2023年1月末から開始した冬季大規模攻勢における最大の激戦地、ドネツク州の要衝バフムトをめぐっては、4月上旬の本稿執筆時点でまだ血みどろの市街戦が続いており、ロシア軍が制圧する可能性も残っている。これが実現すれば、2022年6月以降、戦果がなかったプーチン氏にとっては、待ちに待った戦果となる。
攻撃回数が減るロシア軍
しかし全長1000キロ以上の戦線全体を俯瞰すれば、実現したとしてもバフムト制圧はあくまで局地的勝利。これでロシア軍全体に弾みがつくとは思えない。事実、ドンバスの他の地域では目立った進展もない。プーチン氏が軍に厳命していたと言われる3月末までのドンバス制圧の期限も過ぎた。
おまけにロシア軍の攻撃回数は全体として減ってきている。バフムトの攻防戦の結論を待つまでもなく、大規模攻勢は結局失敗だったとの見方がウクライナや米欧から出ている。それはなぜか。2022年夏以降続いているバフムトの攻防戦がここまで長期化したこと自体、ウクライナ側が仕掛けた、一種の罠だったからだ。
2023年4月以降に南部などで大規模な反転攻勢を計画しているウクライナ軍は、バフムトになるべく多くのロシア軍兵力を引きつけ、多数の人的損失を被らせることにより、反転攻勢への防御に回す兵力を削ぐことを狙っていたからだ。
バフムトではロシア軍に数万人規模の戦傷者が出たと見積もられており、その意味で今後バフムトを失うことになっても、戦略的にはウクライナの思惑通りの展開になったと言える。
バフムトをめぐっては、ウクライナ側にも数千人の死傷者が出ており、アメリカなどからバフムトからの撤収を求める意見もあったが、この時点まで徹底抗戦を続けることは、ゼレンスキー氏が指導者として、自軍の人的損失より、反攻作戦の成功に向けた戦略実現を優先するという冷徹な判断を貫いた形だ。
2022年秋以降、ロシア軍が苦戦した要因としては、お粗末な作戦や士気の低さ、兵器・兵員不足などがすでに表面化していた。しかし今回のロシア側の攻勢の失敗をめぐっては、最近ウクライナの軍事関係者の間で新たに話題になっていることがある。それは地上部隊の攻撃に航空部隊が空からの応援として投入されなかったことだ。キーウの軍事筋の一人は「地上軍と空軍の間で共同作戦が行われなかったことは驚きだ」と指摘する。
元々ロシア軍では、陸空海など各軍の指揮統制を自動的につなぐシステムがないことが問題視され、2010年ごろから全軍をつなぐネットワーク型の指揮統制システム構築の試みが始まっていた。今回陸空共同作戦が実施されなかった要因が、この自動型指揮統制システムの未整備だったかどうかは断定できないが、こうしたロシア軍の前近代的な欠陥が露呈した可能性が高いと筆者はみる。
そうだとしたら、アメリカが提供する衛星情報などを取り込んで立体的な作戦を展開するウクライナ軍の近代的作戦とあまりに対照的だ。
ベラルーシへの戦術核配備はどうなる? 
いずれにしても、ロシア軍の攻勢は今後も継続するとみられる。ウクライナ軍はとくに、ミサイル攻撃を警戒している。しかしウクライナの軍事アナリスト、オレクサンドル・ムシエンコ氏は「(2023年)3月31日までのドンバス制圧を実現できなかったロシア軍の攻撃は今後減っていき、ウクライナの反転攻勢への備えに重点が切り替わるだろう」と予測する。
プーチン氏は2023年3月25日、ロシアと「連合国家」を形成するベラルーシへの戦術核配備を決定、同年7月1日に弾頭の保管庫が完成すると発表した。この発表には2つの狙いがあるとみられる。
2023年4月4日に決まったフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を前に、NATOがロシア国境へ大幅に接近することへの強い対抗姿勢を強調することがまず1つ。同時に、ウクライナの反攻作戦開始を前に、ゼレンスキー政権を強く牽制、軍事支援を続ける米欧に対しても、これ以上の軍事支援を控えるよう強いプレッシャーを掛ける「核の威嚇」を狙っているのは間違いないところだ。
しかし、この新たな「核の威嚇」は、クレムリンが期待していた「脅し効果」を得られなかった。ワシントンも、ゼレンスキー政権も比較的冷静な対応をしているからだ。これを象徴するのが、2023年3月28日にアメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官による記者会見での発言だ。「プーチン氏が公言したことを実行に移す動きは見られない」。
それはなぜか。先述したウクライナの軍事筋は「プーチン氏が配備発表の効果を読み誤ったため」と指摘する。まず、アメリカもウクライナも実際に戦術核が実際に配備されるかどうかわからないとみている。これまで侵攻への直接参戦をロシアに強く求められながらも、のらりくらりと参戦を回避してきたベラルーシのルカシェンコ大統領が今回も結局、言を左右にして、実際の配備を先送りするのではないかとの読みがある。
さらに、実際にベラルーシに配備しても同軍事筋は「反転攻勢をとめる抑止力にはならない」と指摘する。「根本的な勘違いをプーチン氏はしている」というのだ。
なぜなら、ベラルーシでロシア軍が戦術核を発射しようという動きを見せれば、「アメリカがその段階で事前に通常兵器で攻撃するのは確実だ」と軍事筋は言う。戦術核は普段は弾頭部分を倉庫に保管し、使用する直前にミサイルに装着するために倉庫からミサイルまで運搬する。
ロシア国内の場合、戦術核の弾頭が保管場所から発射場所まで移送された場合、アメリカは動きを確実に捕捉できる。今後ベラルーシに発射基地と保管場所を新設しても、アメリカはロシア国内と同様に発射準備の動きを事前に探知できるという。
「これが、クリミアに戦術核を配備するのであれば一定の抑止効果はあるだろうが、ベラルーシの場合、アメリカを含むNATOは攻撃をためらわないだろう」と言う。この場合、ウクライナも同様にベラルーシを攻撃するのは間違いないと同筋は強調する。
習近平を怒らせたプーチン
その場合、ロシアはどう行動するのか。同筋は「ロシアがベラルーシを守るために参戦するとは思えない」と指摘。結局、今回のベラルーシへの戦術核配備発表は、軍事的に大きな脅威と映っていないという。
さらにプーチン氏には、より大きな外交上の誤算があった。2023年3月末の中ロ首脳会談で、訪ロした習近平・国家主席がプーチン氏からの武器供与要請を断ったからだ。外交筋によると、プーチン氏は会談で再三、武器供与を習主席に求め、主席に不快な思いをさせたという。
もともと、事務方の事前協議で中国側は、供与を求めたロシア側に対し、明確に拒否の方針を伝えていた。それにもかかわらず、プーチン氏が面と向かって供与を求めたことで習主席が立腹する原因になったという。
さらに習主席のメンツをつぶすことも起きた。首脳会談の結果として署名した共同声明で、国外に核兵器を配備しないことなどを明記したにもかかわらず、その数日後にベラルーシへの戦術核配備をプーチン氏が発表したからだ。
今回の共同声明で中ロは戦略的協力と包括的パートナー関係深化をうたったが、同外交筋は「中ロが準同盟関係を維持しているのはアメリカをにらんだ太平洋地域の話。ウクライナ問題をめぐっては、この1年間で隙間風が吹いている」と指摘する。
一方で、ウクライナ軍の大規模反攻作戦は当初、2023年3月にも始まるとみられていたが、ずれ込んでいる。同年1月末以降、米欧からの軍事支援がドイツ製主力戦車レオパルトなど質量ともに大幅に拡充し始めたことを受け、ウクライナ側がこうした武器が到着するのを待ってから開始する戦略に切り替えたことが遅れの第1の技術的要因だ。
もう1つの大きな要因は、今回の反攻作戦が、年内の全領土奪還と対ロ軍事的勝利に向けた、1回限りの最後のチャンスとみるウクライナ側が、より慎重に準備を進めていることが挙げられる。
軍事筋は「これに失敗したら、アメリカから(ロシアとの停戦と妥協に向け)タオルを投げ入れられる可能性もある」との危機感を示すほどだ。現時点で反攻開始の時期は公表されていない。ウクライナのメディアに対しても、侵攻計画の事前報道に関して事実上の「ギャグ・オーダー(箝口令)」が掛けられている。ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、大規模攻勢について政府内で「開始時期など情報を持っている人物は3〜5人だ」と明かしたほどだ。
ウクライナ軍の大規模反攻は4〜5月か
それでも、反攻は2023年4月か5月には始まるとみられている。しかし、反攻作戦の開始場所は明らかにされていない。レズニコフ国防相は3カ所と語ったのみだ。当初、反攻作戦は1カ所で始まるといわれ、南部ザポリージャ州の要衝メリトポリが攻撃対象となるといわれてきた。
しかし、その後、ターゲットは複数に増えたが、米欧から供与された戦車など兵器の配備先も発表されていない。ロシア軍に手の内を見せず、防御網を必要以上に薄く広く、延ばす狙いだ。
とは言え、メリトポリが最初の標的にひとつになるのは確実だ。クリミア半島へ南下する鉄道・道路の結節点で、反攻の最終的な目標であるクリミア奪還を早期に実現するうえで欠かせない都市だからだ。
ロシア本土とクリミア半島を結ぶ輸送回廊の重要拠点であり、ウクライナがここを確保すれば、ロシア軍は補給の大動脈を失うことになる。ウクライナ軍はすでに高機動ロケット砲、ハイマースなどでメリトポリに砲撃を加え、制圧への下準備を始めている。
クリミア奪還作戦の可否を巡って、ウクライナに対してアクセルとブレーキを同時に踏んでいると評されていたアメリカも、ここまできたらウクライナに任せるしかないと踏ん切りがついたようだ。
ブレーキ役の代表格だったアメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長も3月末の米議会公聴会でこう述べた。「個人的にはクリミアを軍事的に奪還するのは極めて難しい目標だと思っているが、試みるかどうかはウクライナ政府が決めることだ」。
実は、公表されていないが、2023年3月初めにアメリカのブリンケン国務長官がウクライナ側に対してブレーキを掛けていた。「クリミアを攻撃した場合、ロシアが核兵器を使う恐れがある」との懸念を密かに伝えてきた。
反攻作戦はどこから始まるか
この直前に長官は、G20(20カ国・地域)外相会合が開かれたインドのニューデリーで、ロシアのラブロフ外相と短時間接触していた。このため、同軍事筋は「この際にブリンケン氏はロシア側から核を使うぞと脅されたのだろう」とみる。しかしウクライナ側はこのブレーキを無視した。
クリミア奪還作戦をめぐっては現在でも興味深い議論がネット上で行われている。ロシア軍基地が多数あり黒海艦隊司令部もあるクリミアか東部ドンバスのどちらが、反転攻勢の標的としてより容易かとの問いに対して、戦況をウオッチしている複数のロシア系イスラエルの軍事専門家たちが口を揃えて「クリミアに決まっている。イスラエル軍だったら、当然そう選択する」と明快に回答したのだ。
その理由はこうだ。メリトポリなどを制圧してロシア軍の陸上補給回廊を絶つ。そのうえで、ロシア本土とクリミア半島を結ぶ、もう1つの大動脈であるクリミア大橋を2022年10月に続いて再度攻撃して、通行不能にする。そうなれば、クリミア半島は事実上「島」と化し、ロシア軍は完全に補給路を断たれる。これに長期間耐えられる軍隊はない。事前に撤退しなければロシア軍は降伏するしかなくなる、というものだ。
一方でウクライナ軍のクリミア奪還に向けた軍事的態勢が万全か、というとそうではない。同軍事筋は、ロシア軍の防衛陣地を攻撃するための航空機など兵器が足りないのは事実」と打ち明ける。
いずれにしても、全領土奪還による2023年内勝利達成という歴史的悲願をウクライナが勝ち取ることができるかどうか。その成否の見通しは、今夏には見えてくるだろう。
●ロシアで「中国製の自動車」急増が示す不都合なサイン…「供給不足」問題 4/11
ロシアがウクライナに侵攻してから、すでに1年以上の歳月が経過した。
ウクライナ侵攻を批判する欧米日、特にヨーロッパとの関係が極端に悪化したことを受け、ロシアはそれまでヨーロッパに依存していたサプライチェーン(供給網)の再構築に努めてきた。しかし、そうした取り組みの成果は今のところ、限定的な模様だ。
実際に直近の自動車や化学品の生産動向を確認すると、ロシアが慢性的なモノ不足状態となる道を突き進んでいることが浮かび上がる。
ロシア最大の自動車メーカー・アフトバスの「異変」
サプライチェーンの再構築が必ずしも順調ではないことを物語る象徴的な事例として、ロシア最大の自動車会社であるアフトバス(AvtoVAZ)社の発表がある。もともとは7月24日から始まる予定だった3週間の夏季休暇を、5月29日からに前倒しすると発表した。夏季休暇を前倒しにした理由は、生産に必要な部品の不足にある。
ロシアの自動車産業は、欧米日からの経済・金融制裁の影響を最も強く受けた産業だ。
主にヨーロッパから、ロシア国内の生産に必要な部品の供給が途絶えたことを受けて、ロシアの自動車生産は2022年2月から4月の間に、7割近くの減産を余儀なくされた(図表1)。2023年2月時点でも、侵攻前の5割程度の水準にとどまっている。
アフトバス社は、欧米日からの制裁を受けて入手できなくなった200品目を超える部品に関して、その代替供給元を確保したと発表していた。にもかかわらず、ロシアの自動車生産は低調なまま推移してきた。さらにこの春に、多くのサプライヤー企業が納入を終了し、さらに2023年の契約を破棄した企業も少なからずあった模様だ。
このようにして部品不足に直面、供給制約に伴う生産調整を余儀なくされたアフトバス社だが、同社は2023年の目標生産台数を、2022年の販売台数(約19万台)の2倍以上となる40万台と掲げた。夏季休暇後も部品不足がどの程度解消しているか定かではなく、この計画を達成することは非現実的であるように考えられる。
中国製の自動車が増えていることは「モノ不足」のサイン
他方で、ロシアの市場では、中国製品が急増している模様だ。自動車に関しても、新車・中古車を問わず、中国製の自動車が市場を席巻しているようだ。
見る人によっては、「もともと、ロシアの自動車市場は中古車が中心であり、その中古車が中国から入手できるだから、ロシアの自動車産業が低迷していても問題はない」という見方もあるが、これは的外れに思う。
ロシアにおける中国車の輸入急増は、国内での自動車生産の低迷と同時に生じている。言い換えれば、この2つの現象は、「ロシア国内で輸入品の代替生産がうまく行っていない」ことを意味している。つまりロシアでは、需要ではなく供給に問題が生じている。供給不足に基づく超過需要、これはまさしく、モノ不足につながる流れだ。
ロシアを飲み込み始めた「中国依存」
もともと、ロシアの前身国家である旧ソ連は、軍需品の生産には長けていたが、民生品の生産は不得手だった。1991年の旧ソ連崩壊以降、ロシアが克服を最優先してきた課題が、民生品の生産力を高めることであった。それから30年をかけて、ロシアは食料品など、低付加価値の製品に関しては、民生品の生産力を高めることに成功した。
他方で、自動車に代表される高付加価値の製品に関しては、部品や中間財の国産化が進まなかった。そのため、国内で高付加価値の製品を生産するにしても、部品や中間財を海外、特にヨーロッパから輸入せざるを得ず、国産化からは程遠い状況だった。ロシア自身、この状況に危機感を覚えて、国産化を後押ししてきたが、成果は出なかった。
ロシアと中国は、今のところ友好関係にある。しかし中国製品に対する依存度が高まることは、ロシアの経済的な自立を考えた場合、必ずしも好ましいことではない。それに、ロシアと中国の関係がいつ悪化するかも分からない。ロシアが中国に接近するということは、裏を返せば、ロシアが中国への集中リスクを抱えるということと同じだ。
化学品も不足している恐れ
もう一つ注目される動きに、化学品の生産の低迷がある。ロシアの化学品生産は、ウクライナ侵攻に伴う制裁を受けて、一時10%ほど生産が落ち込んだ(図表2)。その後は多少、持ち直したが、水準は低迷している。化学品は工業原料として用いられるため、生産が十分でなければ、幅広いモノの生産が停滞することにつながる。
国内での化学品生産が悪化した一方で、ロシアは友好国から多くの化学品を輸入したようだ。例えば中国国家統計局によると、2022年の中国の対ロ輸出額は762.6億ドルと前年比12.8%増、うち化学品(「化学工業(類似の工業を含む。)の生産品」)は67億ドルと同76.9%増、全体の増加率に対する寄与度は4.3%ポイントに達した。
そもそもロシアが通関統計の公表を止めている以上、ロシアが国内で不足する化学品のどの程度を輸入でカバーできたか、数量的に確認はできない。とはいえ、国内生産の減少分の全てを輸入でカバーできたとも考えにくい。そのため、2022年の化学品の総供給量(国内生産量+輸入量)は、2021年よりも減少したと考える方が自然だろう。
反面、ロシアでは、ウクライナとの戦争の長期化で軍需品の需要が強まっている。少なくとも、2021年よりも2022年以降の方が、軍需品の生産量は増えたはずだ。したがって、民生品の生産に充てることができた化学品の量は、おのずと減少したと考えられる。そして化学品の不足は、幅広い民生品の生産の下押し圧力になったはずである。
もちろん、企業は在庫を抱えている。とはいえ手当てが遅れたままだと、在庫の取り崩しが進み、結局、在庫は空になってしまう。
もともと、ロシアにおけるモノ不足の問題は、中長期的に顕在化してくると考えられていた。しかし化学品の動向を見る限りにおいては、思いのほか早期に顕在化する可能性が高まってきたと言えそうだ。
着実に忍び寄るモノ不足の問題
ロシアの最大の武器は、原油に代表される豊富な天然資源だ。天然資源を輸出して得た外貨で、国内で不足するモノを買えば、一見すると問題がないように見える。しかし、こうした経済成長モデルは、原油価格の動向にぜい弱であるし、また他の製造業やサービス業の発展を阻むものでもある。これがいわゆる「資源の呪い」だ。
ロシアの場合、ウクライナ侵攻以降、その資源の輸出で得た外貨を、軍需品の生産や輸入に費やしている。これはまさに、国富の浪費に他ならない。戦争が長期化すればするほど、こうした性格は強まっていくことになる。仮に停戦に達したとしても、軍事費は高止まりするだろうから、国富の浪費が直ぐに改善されるとは見込みがたい。
そもそもロシアでは、欧米日による制裁でモノの輸入が制限されており、新興国からの輸入にも限りがある。一方で、国内で軍需品の生産が優先されるなら、国内に出回る民生品は徐々に減少し、ロシアはモノ不足に苛まれることになる。
いずれにせよ、自動車や化学品の生産動向を確認するに、ロシアは慢性的なモノ不足状態となる道を突き進んでいると感じざるを得ない。
●戦争で霞む核軍縮 日本の課題は中国の核軍拡抑制 4/11
3月22日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は「ウクライナ戦争は新核軍拡に繋がる恐れ」とのローレンス・ノーマン同紙コラムニストの解説記事を掲載し、ロシアの核使用の恫喝と中国の核軍拡を踏まえ、米国の核戦略議論が割れている現状を説明している。
ウクライナ戦争で軍備管理体制の崩壊と核軍拡競争の再発が懸念されている。プーチンは先月、戦略核兵器を制限する新戦略兵器削減条約(新START)を中断すると発表した。
ロシアが米国のウクライナ支援を新START議論に絡めている結果、交渉再開は実質的に難しい。
米国で核戦略議論も始まった。ロシアの新START中断を奇貨とし核武装を拡大すべきとの意見もあるが、専門家の多くは、ロシアが核弾頭数上限を守っている限り新STARTを潰すのは避け、選択の責任をロシアに負わせるべきだとする。
先月の情報脅威分析では、中国は核計画を制限する合意には関心がなく、米露優位維持の交渉には応じないと見ている。米政府高官によれば、中国の約400発の核弾頭は、2035年には配備数で1500発に増加する可能性がある。
論争は抑止の意味の違いにも帰着する。ある専門家は、中露核兵器数合計の増加に対応し配備済み核弾頭数を増加して中露の基地、指揮統制施設、ミサイルサイロの攻撃を可能にすべきと言う。
一方、これは危険な軍備競争に繋がるとの意見もある。中国の核増強への対処には未だ時間があり、最優先すべきは米露が新START上限超過を避けることだとする専門家もいる。米露はいずれ核心的懸念(ロシア戦術核兵器への米国の懸念と、米国ミサイル防衛へのロシアの懸念)を議論する余地がある。
真の問題は敵の核兵器使用抑止のために何発の核兵器保有が必要かということで、相手が持っているものではなく、自分に必要なものを持つことだからだ。
このWSJの記事掲載後、3月25日、プーチン大統領は、記者会見で、「ベラルーシへの戦術核配備で同国と合意した」と発言した。懸念されていたことが起きた。ただ、両国がしばらく前からこの核兵器配備を議論してきたのは明らかで、新しい話ではない。
重要なのは、米国側が、米国の戦略核態勢を調整する理由はなく、ロシアが核兵器を使う準備をしている兆候もない、としていることだ。実際、プーチン大統領はベラルーシにおける核兵器貯蔵施設を7月1日までに完成させるとは表明したが、戦術核配備の時期については何も述べていない。
より重要なのは、ロシアに核を使わせないようにすることである。なお、米国の核兵器が欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国に配備されているのは公知の事実であり、ロシアが同様のことをベラルーシで行っても即座に核不拡散条約(NPT)違反とは言えないだろう。
日本の核軍縮政策の基本は「究極的核廃絶に向けて現実的な歩みを進めること」、要は核抑止を維持しながら核軍縮を進めることだが、このようなアプローチは、以上のような状況でますます難しくなってきている。
第一に、核軍縮では米露は(冷戦中の米ソでさえ)基本的には同じボートに乗っていた。その背景には「相互確証破壊」、即ち、核戦争が起これば双方が滅亡することが確実なだけの核兵器を持つに至ったという実態がある。
また、核兵器保有のコストは非常に高い。厳密な管理体制を維持し、不拡散防護に完璧を期し、劣化に応じて必要な保守を行う。このコストは相当なものである。米露共、必要以上の核兵器を持ちたくないのは同じで、「相互確証破壊」を維持しつつ均衡のとれた形で核兵器数を削減できるならそうしたい訳だ。
これが、冷戦を通じて米ソ、米露間で各種核軍縮条約が締結された理由だ。しかし、ウクライナ戦争でロシアが核使用の恫喝を行い、この基本的「信頼」関係に疑問が生じつつある。
第二に、中国の核能力が無視できない規模に拡大しつつあり、米露の優越を固定化する核軍縮合意には応じないと言う現実がある。この2つの面で、ゲームのルールが変わっている。
広島でのサミットで日本は何ができるか
それでは、主要7カ国(G7)広島サミットという、本来であれば、核抑止と核軍縮の両立という日本のアジェンダ推進に最適の機会が来るにも拘らず、何もできないのか。後約1カ月半に迫ったG7広島サミット自体に高い期待を持つべきではないが、それを一つのきっかけとしてモメンタム(勢い)を形成してくことは不可能ではないだろう。
現下の状況で、核抑止と核軍縮の両立が一番求められているのは、中国の核軍拡への対応においてだ。日本の国益から見て明確なのは、中国の核軍拡を抑制する、少なくともその政治的コストを大きく上げることが必要なことだ。そのためにどのような対応があり得るのか、知恵を集める必要がある。
少なくとも、中国の核軍拡に対応するにはまだ時間があるというのは米国の力の過信であり、中国の核軍拡が正当化されるような世界的核軍拡の道を米国が先頭に立って始めるのは良い考えだとは思われない。
●ロシア 空爆などでバフムトの建物など徹底的に破壊する作戦に  4/11
ウクライナ東部の激戦地バフムトをめぐってウクライナ軍は、ロシアが空爆や砲撃で建物などを徹底的に破壊する作戦に切り替え、厳しい状況になっているという認識を示しました。そのうえで「防衛は続く」として徹底抗戦の構えを崩していません。
ウクライナ東部ドネツク州のウクライナ側の拠点、バフムトでは激しい戦闘が長期にわたって続いています。
こうした中、ドネツク州の親ロシア派の代表プシリン氏は10日、国営のロシアテレビを通じて、ロシア側がバフムトの75%を掌握したと主張しました。
これに対し、バフムトの前線を視察したウクライナ陸軍のシルスキー司令官は10日、ロシアが戦術を切り替えて、空爆や砲撃で建物などを徹底的に破壊する作戦に出ていると、SNSで明らかにしました。
ロシア軍は、特殊部隊や空てい部隊も投入し、厳しい状況になっているという認識を示しています。
そのうえで、「防衛は続く」として徹底抗戦の構えを崩していません。
ベラルーシの大統領 ロシアに安全の保証求める
こうした中、ロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領は10日、ロシアのショイグ国防相を首都ミンスクに迎えました。
この中でルカシェンコ大統領は、先の首脳会談でプーチン大統領と議論した安全保障の問題について触れ、「会談ではベラルーシが侵略された場合、ロシアはベラルーシを自国の領土のように守るというような話があった」と述べ、ロシアによる安全の保証を求めました。
●ロシアとウクライナ、新たに200人超の捕虜交換 4/11
ロシアとウクライナは10日、新たに200人を超える捕虜を交換したと発表した。
ロシア人106人、ウクライナ人100人が解放され、ウクライナ大統領府のイエルマク長官によると、東部マリウポリ市と同市にあるアゾフスタル製鉄所でロシア軍に抵抗し拘束された兵士らが含まれる。
ロシア国防省も、交渉の末、ロシア人の捕虜が解放されたと発表した。
●ウクライナの「弱点」も流出機密文書に…米国、ゼレンスキー氏も傍受対象か 4/11
米CNNは10日、米政府などの機密文書の流出を受け、ウクライナがロシアに対する大規模な反転攻勢の作戦の一部を変更したと報じた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に近い人物がCNNに明らかにした。米国がゼレンスキー氏を通信傍受の対象にしていたことを示す文書も見つかったという。
ウクライナのゼレンスキー大統領=ロイターウクライナのゼレンスキー大統領=ロイター
CNNによると、文書にはウクライナの兵器や防空能力、即応態勢などの「弱点」も含まれていた。通信傍受で得た情報に基づき、ゼレンスキー氏がロシア南部ロストフ州での無人機攻撃を示唆したとの文書もあった。ウクライナ側は、米国の傍受は想定内としているが、流出に強い不満を持っているという。
一方、米紙ワシントン・ポストは10日、流出文書の内容として、エジプトがロシアに最大4万発のロケット砲などの供給を計画していたと報じた。エジプトのアブドルファタハ・シシ大統領が2月、軍高官に計画を秘密にするよう指示していたという。
●駐日米大使「中国、善き隣人ではない」 経済での威圧批判 4/11
エマニュエル駐日米大使は内外情勢調査会での講演で、過去数年間に国際社会を根底から変えた出来事の一つとして、新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵攻に加え、中国の経済的威圧を挙げた。中国が自国の主張を押し通すため、輸出入規制などさまざまな手段を駆使し威圧していると批判。「中国は善き隣人ではない」と断言した。
中国は2010年、沖縄県・尖閣諸島を巡る問題が先鋭化すると、日本へのレアアース(希土類)輸出を事実上停止した。南シナ海問題で対立を深めたフィリピンには、同国産青果の検疫を強化。16年に韓国が弾道ミサイル防衛策として米国製迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を決めた際には、韓国への旅行を制限した。
中国の「標的」となったのは近隣国だけではない。新型コロナの起源解明に向けた独立調査を求めたオーストラリアに対しては、牛肉などの輸入制限を発動。バルト3国の一つ、リトアニアが台湾の名を冠した「代表処」(大使館に相当)開設を認めると、外交関係の格下げに加え、輸入停止などの報復措置を取った。
エマニュエル氏は「経済的威圧は一種の政治的戦いだ」と批判。ロシアも中国と同様、石油・天然ガス輸出の規制などで、ウクライナを支援する西側諸国を揺さぶっているとして、日米やその友好国は「包括的な戦略」を構築し、連携して対抗する必要があると訴えた。 
●プーチン氏、追い込まれ核使用も 4/11
AP通信は10日、SNSに流出した米国の機密文書とみられる資料に、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について、兵員や装備の不足などで追い詰められた場合、戦術核兵器の使用を承認する恐れがあるとの分析が記載されていると報じた。
APによると、資料は機密指定で、プーチン氏やウクライナのゼレンスキー大統領が死亡するなど「想定外の事態」を分析した。その一つとして、プーチン氏が軍幹部を解任し戦闘は激化、高官らは同氏の意思決定に疑義を唱え、兵員や武器も充足できないような状況になれば、プーチン氏が戦術核使用に踏み切る可能性があると指摘した。
ゼレンスキー氏が死亡した場合には、欧州諸国が兵器提供を制限する恐れがあると説明。一方で、新たな指導者が出現し、国内外の支持を獲得する可能性もあるとした。
別の文書にはロシアの連邦保安局(FSB)当局者が、米英に対抗していくことでアラブ首長国連邦(UAE)の情報機関と一致したと主張していると記載されていた。
●戦時の米機密情報流出、同盟国に打撃  4/11
ウクライナ戦争に関連した米国の機密資料が流出したことは、多くのレベルで大失態のように見える。同盟・友好諸国の米国に対する信頼を損ない、軍事に関するロシア国内の協議について米国がどれだけ知っているかを暴露し、そして何よりも、ウクライナの防空能力の弱さをさらけ出してしまった。
流出元は不明であり、それ自体が不安を引き起こす。これらの資料は最初にソーシャルメディアに掲載され、報道機関はそれが本物であるかどうかを確認できていない。しかし、米政府関係者の間に広がる明らかな警戒感は、流出した情報の多くが正確であることを示唆している。どれだけ意味があるか分からないが、米司法省と国防総省は先週、刑事事件として捜査を開始した。
今回のリークがとりわけ有害なのは、それによって、戦争の進展に関する米国の内密な判断が明らかになったからだ。部隊がどこに展開しているのかを漏らすのとは違うが、それに近いものがある。ロシアの軍事計画について米国がどれほど知っているかが明らかになることは、ロシアにいる情報提供者にとって死刑宣告になり得る。
最も厄介なリークは、ウクライナの防空システムが5月までに打ち負かされる可能性があるという情報だ。そうなれば、ロシアが制空権を掌握して、戦術的にかなり有利になる可能性がある。ロシア政府は、制空権を握れば早期の勝利実現の後押しになると期待していたが、ウクライナの防空システムは当初の攻撃をうまくしのいだ。
ロシアは高価な空軍兵力を温存するため、ウクライナへの空軍機の出撃回数を最小限に抑制し続ける選択肢をとった。代わりにロシアはイラン製のドローン(無人機)と巡航ミサイルに依存してきた。このため、ロシアはウクライナ軍の車両部隊や砲兵隊の展開を阻止することが一層困難になっていた。
しかし、流出した資料はウクライナのミサイルが枯渇しつつあるとの分析を行っている。ウクライナの防空体制が崩壊すれば、ロシアはウクライナの地上部隊への攻撃や、さらに多くのウクライナ領土の占領に向けた前進などを思い通りにできるようになる。
今回の情報漏えいによって、ロシア側に極めて重要な情報がもたらされたことで、かなり前から予想されていた春の反転攻勢に向けたウクライナ側の決断は難しくなるだろう。また、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は今回の漏えいを受けて、ロシア軍がウクライナ軍に粘り勝ちを収められるとの新たな自信を得るかもしれない。
米国のウクライナ支援では、特に先進防空システムの供与の進展ペースが、あまりにも遅々としたものだった。そのためウクライナは、主としてソ連時代の旧式な防空システムで対応を強いられてきた。ジョー・バイデン米大統領は昨年12月になってようやく、地対空ミサイル「パトリオット」システム1基のウクライナへの供与を承認し、これにドイツからの1基が加わった。フランスとイタリアは、両国が共同開発したミサイル防衛システムの供与に動いている。しかし、これら防空システムのいずれも、まだ実戦配備されていない。
こうした対応の遅れは、今になって戦場での深刻な事態につながりかねない。今回の情報漏えいを受けて米国は、西側の防空システムとF16のような最新鋭ジェット戦闘機の供与ペース加速に向け、以前よりもずっと重い責務を負うことになった。こうした装備は、ロシアが自国の戦闘機をウクライナに投入した場合に空の防衛を可能にする。
それと同時に、今回の機密情報漏えいが一回限りの失態で終わることを願う。情報をリークした者がもっと多くの資料を盗み出していて、情報流出の大洪水のような事態が起きれば、打撃を被るのはウクライナだけにとどまらないだろう。
●ウクライナ、インドと関係強化意向 モディ首相の訪問期待 4/11
ウクライナのジェパル外務次官は10日、訪問中のインドで行ったインタビューで、対ロシア戦争の解決に向けてインドの一段の関与を望んでいるとし、モディ首相がウクライナを訪問することを期待していると述べた。
CNBCテレビ18の取材に、インドがウクライナ高官を20カ国・地域(G20)関連イベントに招待し、政治的対話を強化することも望んでいるとも語った。
インドは今年G20議長国を務め、9月に首脳会議を開催する。インド政府はウクライナ侵攻を巡り他国ほどロシアに批判的な姿勢を取っておらず、ロシア産原油の輸入も拡大している。
ジェパル氏は4日間の日程でインドを訪問。「インドはウクライナ問題に関与すべきだと考えている」と述べ、「トップレベルでの政治的対話の強化はこの大きな目標に向けた第一歩だと考えている。われわれの大統領は(モディ)首相との電話会談を求めている。いつかキーウに迎えることを期待している」と説明した。

 

●ロシアの石油・ガス収入、第2四半期末までに増加=プーチン大統領 4/12
ロシアのプーチン大統領は11日、石油・ガス収入が第2・四半期末までに増加するとの見通しを示し、世界的な原油高を背景に国内経済全体に一段と前向きな傾向が見られると指摘した。
ロシアの第1・四半期財政収支はエネルギー輸出収入の減少などで290億ドルの赤字となった。
プーチン氏は、欧米の制裁に直面する中でも国内経済は底堅いとの考えを示した。
予算の主要項目である石油・ガス収入は第1・四半期に約1兆3000億ルーブル(158億ドル)減少したと明らかにした上で、「原油価格の上昇により、第2・四半期末には状況が変化する見通しだ。追加の石油・ガス収入が予算に加わる」と説明した。
●ウクライナ民間人8490人死亡、ロシア侵攻後 国連発表 4/12
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は10日声明を発表し、ロシアの侵攻以降、ウクライナで民間人8490人が死亡したと明らかにした。
OHCHRによると、本格的な侵攻が始まった2022年2月24日から今年4月9日までの間のウクライナでの死傷者は2万2734人にのぼる。うち負傷者は1万4244人。
南部マリウポリや東部セベロドネツクなど前線となった一部の都市からの情報が遅れており、また確認中の報告が数多くあるため、実際の数字は「かなり多い」可能性が高いとOHCHRは指摘した。
OHCHRによると、確認された民間人の死亡の多くはロシア軍の攻撃を受けているウクライナ政府支配地域で発生し、東部のドネツク、ルハンスクの2州で3927人が犠牲になった。両州ではこの戦争でこれまでで最も残虐な戦闘が展開された。死傷者が出た際にロシアが占領していた地域では少なくとも民間人1894人が死亡した。
●米機密情報、ロシア側に警戒感「油断誘うため意図的に流出」 4/12
インターネット上に流出したロシアのウクライナ侵略を巡る米政府の機密文書では、米情報当局が両国から情報を入手していた実態の一端が明らかになった。米CNNは10日、ウクライナが計画する大規模な反転攻勢の作戦を一部変更したと報じており、文書流出は最前線の攻防に影響を及ぼし始めている。
CNNなど米メディアによると、文書にはウクライナの兵器や防空能力、即応態勢などの「弱点」に関する記述があった。流出した文書の大部分は、偽造や改ざんがないという。
ウクライナの地対空ミサイルの消耗が激しく、主力になっている「S300」のミサイルが5月3日に底をつくと指摘されていた。補完が急務となっている防空システムの現状が露側に伝わったことになる。
米情報当局がウォロディミル・ゼレンスキー大統領や周辺を通信傍受の対象にしていたことを示す文書も見つかった。ゼレンスキー氏が露南部ロストフ州への無人機攻撃を示唆したことを把握したのは、通信傍受によるものだった可能性が浮上した。ウクライナはロシアへの越境攻撃について、公式に関与を認めない方針を貫いている。
米国と北大西洋条約機構(NATO)が3月1日時点でまとめた文書では、ウクライナ軍が反転攻勢に向けて12旅団を編成し、4月末に訓練が完了するとの見通しも漏えいした。戦力に関する機密情報の流出が続けば、ウクライナと米欧の間で情報伝達に支障が出かねず、西側陣営では戦況への影響が懸念されている。
一方、米情報当局はプーチン露政権や露軍参謀本部からも詳細な情報を得ていた。米紙ニューヨーク・タイムズによると、流出文書には、露軍参謀本部が作成したドイツ製戦車「レオパルト2」など米欧製戦車への対抗策が記されていた。
ウクライナにミサイル攻撃を行う日程や標的を特定した露国防省の計画などを記した文書が確認された。
米バイデン政権は侵略開始前から露軍の計画を事前に把握しており、情報源の存在を裏付ける形となった。米中央情報局(CIA)が露国防省の通信を傍受するなど情報収集の手法に言及した文書も見つかったという。
今回の流出を受けて、ロシアは通信手段の変更や関係者の情報統制など対応を進めるとみられる。ニューヨーク・タイムズは「ロシアが米国の情報収集方法を把握し、情報の流れを断ち切ることができれば、ウクライナの戦場に影響を与える可能性がある」と指摘した。
ロシア側には、米欧が意図的に文書を流出させたとの警戒感も広がっている。露元国防省当局者らが運営する軍事SNS「Rybar」は10日、米主要メディアがウクライナの戦闘準備が整っていないと強調しているのはロシアの油断を誘うためだと分析し、「露指導部の失敗を狙っている」との見方を示した。
ロシアが制圧を目指すウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトを巡り、ロシアが一方的に任命したドネツク州の「暫定トップ」は10日、「75%を掌握した」と主張した。全域制圧に言及するのは「時期尚早だ」と述べ、戦果を誇張する従来の手法を封印した。
●台湾情勢「最悪なのは米中に追随」仏マクロン大統領発言が波紋  4/12
フランスのマクロン大統領が緊張の高まりが懸念される台湾情勢に関して「最悪なのは、アメリカや中国に追随しなければいけないと考えることだ」と述べ、米中の対立から一定の距離を保つべきだと主張した発言をめぐって波紋が広がっていて、閣僚が釈明に追われる事態となっています。
今月中国を訪問し習近平国家主席と会談したフランスのマクロン大統領は、フランスの経済紙「レゼコー」などが9日に報じたインタビューのなかで、台湾情勢に関して自身の見解を述べました。
この中で大統領は「最悪なのは、台湾の問題についてアメリカの歩調や、中国の過剰な反応に合わせヨーロッパの国々が追随しなければいけないと考えることだ」と述べました。
そのうえで「陣営間の対立の論理に立ち入ることは望ましくない」と述べ、ヨーロッパは、米中の対立から一定の距離を保ち、世界の「第3極」になるべきだと主張しました。
この発言をめぐっては、欧米の有力メディアも「中国への抑止力を損ねる」とか、「習主席への接近はロシアのウクライナ侵攻前にプーチン大統領へ接近し、失敗したことをほうふつとさせる」などと批判的に報じ、波紋を広げています。
フランスのルメール経済相は、11日のラジオ番組に出演し「アメリカと中国のライバル関係に乗せられるのではなく、ヨーロッパの独立を築きたいのだ」と発言の意図を説明するなど閣僚が釈明に追われる事態となっています。 

 

●プーチン氏、米記者拘束承認 4/13
米ブルームバーグ通信は12日、ロシアのプーチン大統領がウォールストリート・ジャーナル紙のエバン・ゲルシコビッチ記者の拘束を承認していたと報じた。プーチン政権で対米強硬派が影響力を高めていることが背景にあるという。
冷戦終結後、米メディア記者がロシアで拘束されるのは初めて。ロシアはスパイ罪で起訴し、拘束の長期化が見込まれている。ロシアのウクライナ侵攻を巡り緊張が続く米ロの対立が先鋭化する原因となっている。
ロシアは3月30日、軍産複合体に関する機密情報を入手しようとしていたとして中部エカテリンブルクでゲルシコビッチ氏を拘束した。
●「プーチンの政敵」ナワリヌイ氏、急激な容態悪化… 4/13
収監中のロシアの代表的な反体制派アレクセイ・ナワリヌイ氏が最近、体重が急減するなど容態が大きく悪化したという。
12日(現地時間)dpa、AFP通信によると、ナワリヌイ氏の弁護人はナワリヌイ氏が最近2週間独房収監中に体重が8キロ減少するなど救急車を呼び出すほど健康が大きく悪化したとテレグラムを通じて伝えた。
また弁護人はナワリヌイ氏が医学的問題に関連して適切な治療を受けておらず、刑務所行政当局が彼に渡す薬を受け取ることを拒否したと明らかにした。
特に「ナワリヌイ氏が原因不明の病気を患っている」とし、ロシア当局が彼の健康をゆっくり悪化させ続けた可能性も排除しなかった。
このため、正確な問題把握のために毒性および放射線検査を要求すると明らかにした。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政敵とされるナワリヌイ氏は、2011年に創設した反腐敗財団を通じてロシア高官の不正疑惑を数多く暴露した。
ナワリヌイ氏は2020年8月、飛行機で突然毒物中毒の症状を見せて倒れた後、ドイツに搬送され治療を受けていたが、2021年1月帰国と同時にロシア当局に逮捕された。続いて開かれた裁判で裁判所は詐欺と法廷侮辱などの疑いで計11年6カ月の実刑を言い渡されたが、彼は政治的判決だとして獄中でも潔白を主張している。
●兵士の「斬首」動画流出 ロシア仕業か、戦争犯罪と非難―ウクライナ 4/13
英BBC放送(ロシア語電子版)は12日、ロシア部隊がウクライナ兵の頭部を切断したとみられる動画2本がインターネット上に流出したと伝えた。うち1本では、ロシア側が識別に使う白いテープを身に着けた人物が実行する様子が収められ、もう1本では破壊された装甲車の横にウクライナ兵2人の胴体だけが残されている。
ウクライナでは「戦争犯罪」(外務省)として怒りをもって受け止められ、クレバ外相は「過激派組織『イスラム国』(IS)より残忍だ」と非難。ゼレンスキー大統領は「ロシアの本質が映っている。偶発的な事件でなく、以前から数千回と繰り返されてきたことだ」と糾弾した。
撮影日時や場所は不明だが、ロシアのSNSでは、民間軍事会社「ワグネル」の仕業で、ウクライナ東部ドネツク州バフムト周辺で撮影されたのではないかという見方が広がっている。ロシアのペスコフ大統領報道官は記者団に「われわれは偽情報の世界に生きている」とコメントし、真偽は確認できないという認識を示した。
●ウクライナでの両軍死傷者すでに35.4万人、長期化も=米機密文書 4/13
ネット上に流出した米国機密情報とされる文書に、ウクライナ戦争でロシア・ウクライナ両軍の兵士合わせて最大35万4000人が死傷したとの記述があることが分かった。また、同戦争が2023年以降も続く長期戦に発展する可能性があるとも記されていた。
2023年2月23日付の分析では「ウクライナ東部ドンバス地方の戦いは年内いっぱいこう着する見込み」と題し、ロシアがをドンバス地方を奪取できる可能性は低いとの見方が示されている。
米国防情報局がまとめたとされる推計では、ロシア側の死傷者は18万9500─22万3000人。うち3万5500─4万3000人が戦死、15万4000─18万0000人が負傷したという。
一方、別の文書では、ウクライナ側の死傷者は12万4500─13万1000人に上り、戦死者は1万5500─1万7500人、負傷者は10万9000─11万3500人とされている。
この数字は、ロシアとウクライナの両国政府が発表した公式発表の約10倍に相当する。
ロイターはこの文書の真偽を独自に検証することはできなかった。ロシアやウクライナを含む複数の国が、流出した文書の信ぴょう性に疑問を呈している。また米政府関係者は、ファイルの一部が改ざんされているようだと述べている。 
●「ロシアは中国の植民地になる勢いだ」──CIA長官 4/13
ウクライナにおける軍事作戦はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「壮大な戦略的失敗」だった──ウィリアム・バーンズCIA長官は11日、ヒューストンのライス大学ベーカー公共政策研究所で行なった講演でそう断じた。ロシアは経済的な生き残りのために中国頼みを加速させることになると、バーンズはみる。
「ロシアは(戦場で)多大な人的・物質的損失を出しているだけではない。特殊部隊や指揮官が屈辱を味わい、ロシア軍の弱体ぶりが白日の下にさらされたばかりか、ロシア経済もまた制裁と貿易制限、1000社を超える西側企業の大脱出による長期的ダメージにあえいでいる」
「戦争初期におけるプーチンの狙いはNATOを分断し弱体化させることだった」と、バーンズは指摘。「だが、現実にはNATOの結束はかつてなく強まり、新たにフィンランドが加盟し、スウェーデンも後に続こうとしている」
支援疲れに期待する勘違い
「ロシアはエネルギー資源と原材料の輸出などで中国頼みを加速させていて、このまま行けば中国の経済的植民地になりかねない勢いだ。こうした状況をすべて勘案すると、ロシアのウクライナ侵攻はプーチンの壮大なるオウンゴールとしか言いようがない」
ジョー・バイデン米大統領はロシアがウクライナ侵攻に向けて着々と準備を整えつつある2021年11月、元駐ロシア大使のバーンズを2021年11月にモスクワに派遣し、侵攻計画を断念するようプーチンを説得させた。だがバーンズが持ち帰ったのは、プーチンは既に決意を固めているとの情報だった。
侵攻開始後1年と2カ月近く、これほど苦戦を強いられても、プーチンは自らの誤りを認めようとしないと、バーンズはライス大学で語った。
「プーチンはウクライナの抵抗をねじ伏せ、西側に支援疲れを引き起こせると信じている。持久戦になれば勝てると思い、西側にもそう思わせようとしている」と、講演の冒頭でバーンズは述べた。
「自分がウクライナに執着しているほど、西側はこの国を重視していないと踏んでいるのだ。私のみるところ、(短期に決着がつくという)侵攻前の読みと同じくらい、この読みも間違っている」
西側がロシアとの経済的デカップリング(切り離し)を進めるなか、ロシアは損失を穴埋めするため対中貿易に望みを託してきた。中国は格安価格になったロシアのエネルギー資源に飛びつき、2022年の中ロの貿易額は前年比35%近く増加。2024年までに2国間の通商規模を2000億ドルに拡大するという目標を予定より早く達成できそうだ。
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は先月モスクワを訪れ、プーチンと2030年を目処とする経済協力の拡大で合意した。これにより金融、技術、農業、宇宙開発などの部門で、中国企業はロシア市場に優先的に進出できることになった。合意にはロシアが人民元による決済を増やすことも含まれる。
ベテランの中国ウォッチャーによれば、この合意でプーチンが得たのは政治的な見返りだ。ハーグの国際刑事裁判所から戦争犯罪で逮捕状が出された直後に習の訪問を受けたおかげで、プーチンは中国が仲介するウクライナ和平に前向きなゼスチャーを国内外に示せた。
あいまいな習近平、限界を試すプーチン
「今回の会談で、習率いる中国とプーチン率いるロシアの協力関係が深化したのは確かだ」と、バーンズは述べた。両首脳はロシアのウクライナ侵攻の数週間前にも会談を行い、「無制限」のパートナーシップを宣言。しかし中国はロシアのウクライナ侵攻を直接的に非難することを避けてきたため、プーチンは習にどの程度協力の意思があるのか半信半疑で、繰り返し限界を試してきた。
今のところ中国はロシアに対して実戦用兵器を供与することは控えており、見かけ上の「ウクライナ和平案」を提示する一方、プーチンがちらつかせる核の脅しに対しては距離を取っている。
「中ロのパートナーシップは決して侮れないし、両首脳とも本気で協力するつもりだが、少なくとも今のところは無制限と言えるほどの信頼関係はない」とバーンズは語った。
CIAの「最大の長期的」な監視対象は中国だと、バーンズは以前に述べている。
「習近平の中国は(国際社会の)テーブルに就くだけでは満足せず、その場を仕切りたがっている」
●中国とロシアの3月貿易額、過去最高 欧米企業撤退で中国製品に人気 4/13
中国税関総署が13日に発表した3月の貿易統計によると、ロシアとの貿易額(輸出入の合計)が前年同月比7割増の200億ドル(約2・7兆円)となり、月ごとでは過去最高額となった。特にロシアへの輸出額は同2・3倍にまで膨らんだ。ロシアのウクライナ侵攻後、両国の経済関係は深まり続けている。
昨年2月の侵攻開始直後は、米国による金融制裁を警戒する動きが中国で一時広がったこともあり、対ロ輸出は伸び悩んだ。しかし、その後は欧米企業がロシアから多く撤退するなかで、中国のスマートフォンや建設機械、自動車などが現地で人気となり、人民元を使った決済も広まるなど足元は伸び続けている。
一方、3月のロシアからの輸入額は同4割増。原油や天然ガスなどのエネルギーを中心に輸入を増やしている。前年同月比での増加は25カ月連続。習近平(シーチンピン)国家主席は3月にプーチン大統領とロシアで会談し、エネルギー分野の協力拡大で合意しており、今後も輸入の増加傾向は続くとみられる。
中国の輸出額全体では前年同月比で半年ぶりに増加に転じた一方、輸入額全体は微減だった。
●ロシア ウクライナ東部バフムトの完全掌握へ攻撃続ける  4/13
ロシア軍は、ウクライナ東部の激戦地バフムトの完全掌握に向け攻撃を続ける一方、南部の支配地域では、大規模な防衛線を築くなど、ウクライナ側の反転攻勢への警戒を強めているとみられます。
ロシアが侵攻するウクライナ東部ドネツク州のバフムトでは、激しい戦いが続いています。
ロシア軍とともに攻撃を仕掛ける民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏は11日、市内の80%以上を掌握したと主張しました。
アメリカのシンクタンク戦争研究所も12日、ロシア側がバフムトの76.5%以上を支配しているとみられると発表し、ウクライナ軍は13日「敵は市内を完全に占領しようと試みている」と指摘しました。
一方、イギリス国防省は12日、ロシア軍がウクライナ南部ザポリージャ州でおよそ120キロにわたって3重にもなる大規模な防衛線を築いていると明らかにしました。
そのうえで「ロシアは、ウクライナ軍が州内の主要都市メリトポリへの反撃に出ると確信し、防衛に注力しているのだろう」と分析し、ロシア軍はウクライナ側の反転攻勢への警戒を強めているとみられます。
一方、ウクライナの複数のメディアは、ウクライナ軍の兵士がロシア側の兵士によって首を切断される様子だとする動画がSNSで拡散されていると伝えました。
いつどこで撮影されたかは明らかになっていませんが、ウクライナのゼレンスキー大統領は12日に公開した演説で「世界は目を背けてはならない。殺人者を許しはしない」と述べ、ロシア側を非難しました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官はこの動画について「私たちはフェイクの世界に住んでいる。この動画の真偽を確認する必要がある」と述べ、ロシア側の関与を否定しました。
●クリミア奪還が近い?家を売り払って逃げるロシア系住民 4/13
ロシア・ウクライナ戦争で、近々ウクライナ軍の反転攻勢があるとの恐れから、ロシア系住民によるクリミア脱出が加速しているという。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権でクリミア問題を統括するタミラ・タシェワ大統領代表が、国営テレビに出演して述べた。ロシア系住民は、2014年にロシアが一方的に併合したクリミア半島をウクライナが奪還しようとすることに不安を募らせているという。
クリミア半島では、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの本格侵攻を開始した数週間後の2022年4月11日以降、テロ警戒レベルが上から2番目の「黄色」に引き上げられており、ロシア軍はウクライナ軍の進軍に備えてクリミア半島を要塞化している。
クリミアは「売り出し物件だらけ」
タシェワは「大勢の人が家を捨て、クリミア半島から脱出している」と発言。これに先立ち、現在クリミア半島には50万人から80万人のロシア人が違法に暮らしていると述べ、ウクライナがクリミアを奪還すれば、彼らはウクライナの法律や国際法に従って、国外退去処分となる可能性があると指摘していた。
何千人ものロシア人がクリミアから脱出しているため、クリミアの住宅市場は売り一色だ、とつけ加えた。
「どれだけの人がクリミアを去ったのかについては、統計がないから分からない。残念なことに数十万人単位とはいかないが、数千人単位だと理解している。その証拠に、クリミア大橋にも大行列ができている」と彼女は述べた。クリミア大橋は、ロシア本土とクリミア半島を結ぶ橋だ。
本誌はこの件についてロシア外務省に問い合わせたが、返答はなかった。
クリミア奪還こそ戦争の
クリミア半島の先住少数民族タタール人を支援する「Q-Hub」の代表を務めるエミール・イブラギモワは、ウクライナのNVラジオに対して、ロシア系住民はいずれウクライナ軍がクリミアを解放し、報復を受けるのを恐れている。
2022年8月にクリミアのロシア空軍基地が空爆を受けたときも、多くのロシア系住民が逃げた。生き延びるため、彼らはクリミア大橋を渡った先にあるロシア南部のクラスノダールに逃れたという。
まだクリミアに残っているロシア系住民は、「ウクライナ軍が近い将来、クリミアを奪還しそうだと見て怯え、パニックに陥っているのだ」と、イブラギモワは言う。
ゼレンスキー大統領はクリミアを奪還すると宣言しており、2022年8月29日のテレビ演説の中で、ウクライナ軍はクリミアが併合されて以降ずっと、クリミア奪還を「目標に掲げてきた」と述べた。「今回の戦争は、ロシアが我々の領土であるクリミアを奪い、(東部の)ドンバス地方をも奪おうとしたことから始まった。だからクリミアの解放によって締めくくらなければならない」
ウクライナ国家安全国防会議のアレクセイ・ダニロフ書記は先週、「クリミア解放に向けた12のステップ」を公表。この中には、クリミア大橋の解体や、「2014年2月以降にクリミア半島で暮らすようになった」全てのロシア系住民の追放などが含まれている。
2014年以降、クリミアの首長を務めているロシアの政治家セルゲイ・アクショーノフは、クリミア半島はウクライナによる反転攻勢への「備えは出来ている」としている。
●ロシア、3層構造の防御陣地120キロ…南部メリトポリでウクライナ反転に備え 4/13
英国防省は12日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部ザポリージャ州で、露軍が占拠する主要都市メリトポリを守るため、120キロ・メートルにわたる3層構造の防御陣地を構築したとする分析を示した。2014年に併合したクリミアと露本土の間に位置する同州で今後、ウクライナ軍の反転攻勢が行われる可能性が高いとみて、露軍は防衛態勢の強化を急いでいる模様だ。
3層構造の防御陣地は、最前線の部隊から離れた場所で後方部隊が2段階に分かれて控える隊形を指すとみられる。英国防省は「手厚い人員や砲撃支援がある場合、手ごわい障害になる可能性があるが、この地域の露軍に十分な資源があるかは不明だ」と評価した。米政策研究機関「戦争研究所」も11日、同州で露軍の特殊部隊が展開している可能性を指摘した。
ウクライナ軍は3月下旬以降、同州の南側7割を占領する露軍が補給拠点とするメリトポリの空港や鉄道駅を高機動ロケット砲システム(HIMARS)などで攻撃している。
●ウクライナ、22年GDPは29.1%減 ロシアの侵攻で 4/13
ウクライナ統計当局が12日遅く発表した2022年の国内総生産(GDP)は29.1%減だった。
ロシアの侵攻により、多数の死者や避難民が出たほか、重工業、送電、農業部門が打撃を受けた。南部と東部の多くの地域はロシアの支配下にあり、穀物・金属輸出に不可欠な黒海の港も利用が難しくなっている。
政府は今年のGDPが輸送・小売り・建設部門の改善により、1%増加する可能性があると予測している。
経済省によると、22年の輸出は35%減少した。
22年の穀物生産は5300万トンで、過去最高だった前年の8600万トンから減少した。
●ロシア戦争犯罪で展示会=ウクライナ大使「現状知って」―NY 4/13
ウクライナに侵攻を続けるロシアの戦争犯罪に焦点を当てた展示会が、米ニューヨークの国連本部近くで開催されている。
ウクライナのキスリツァ国連大使は12日、日本メディアの取材に応じ「今何が起きているかを知ってもらいたい」と訴えた。
会場には、ロシア兵が着用していた迷彩服やブーツ、軍用ヘリの残骸など1000点以上の実物を展示。ロシアの占領から解放された地域で集められたといい、キスリツァ氏は「侵略者に囲まれた(ウクライナ国民の)気分を感じさせるものだ」と説明した。
展示物には、北部チェルニヒウ州で住民360人以上が約1カ月にわたり監禁された学校の地下室につながる扉も。殺害されたり、監禁中に命を落としたりした人々の名前を壁に木炭で書き残した様子も再現された。
キスリツァ氏は「日本の一貫した支援に心から感謝する」と述べた上で、「安全保障の基本的原則(を巡る問題)に全世界がどう対応するかが問われている」と語り、支援継続を要請した。日本で将来、同様の展示会を開く構想があるとも明らかにした。 
●IMFや世界銀行など ウクライナへの全面的支援を確認 米で会合  4/13
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの資金面の支援や復興プロジェクトについて話し合う会合が、12日、アメリカの首都ワシントンで開かれ、今後もウクライナを全面的に支援していくことを確認しました。
この会合はIMF=国際通貨基金と世界銀行が首都ワシントンで開催している春の総会に合わせて開かれ、12日、オープニングセッションが公開されました。
冒頭、オンラインで参加したウクライナのゼレンスキー大統領が、これまでの支援に感謝を伝えたうえで、住宅やエネルギー、交通インフラなどで必要となる支援は今後も変わらないと訴えました。
これに対して世界銀行のマルパス総裁は、ウクライナの復興に必要な資金は長期的に4110億ドル、日本円にしておよそ54兆円にのぼり、ヨーロッパの歴史上最も大きい規模の投資プロジェクトになると強調しました。
また、アメリカのイエレン財務長官は「ウクライナ政府による汚職撲滅などの取り組みを評価している。国際的な援助が適切に使われていると確認することが不可欠だ」としたうえで、ウクライナへの支援を必要なかぎり行うとするバイデン大統領のメッセージを伝えるなど、今後もウクライナを全面的に支援していくことを確認しました。

 

●プーチン氏承認の報道否定 ロシア高官、米紙記者拘束で  4/14
ロシアのペスコフ大統領報道官は13日、スパイ罪で起訴された米紙ウォールストリート・ジャーナルのエバン・ゲルシコビッチ記者の拘束をプーチン大統領が承認していたとの報道について「拘束は大統領ではなく、治安機関の権限だ」と述べ、否定した。タス通信が報じた。
米ブルームバーグ通信は12日、プーチン氏がゲルシコビッチ氏拘束を承認していたと報じていた。
ロシア連邦保安局(FSB)は3月30日、軍産複合体に関する機密情報を入手しようとしたとして中部エカテリンブルクでゲルシコビッチ氏を拘束した。
●「今年戦争は終わらない」機密文書に記されていた米国のウクライナ戦の展望 4/14
米国政府から流出した機密文書に、ウクライナ戦争が今年中に終息する可能性がなく、2024年にも続くだろうという米情報当局の分析が含まれていたことが分かった。
12日(現地時間)、ワシントン・ポスト(WP)は最近オンラインに流出した米国機密文書のうち未公開文書を入手したとし、これを分析して公開した。
該当の文書は米国防情報局(DIA)がウクライナ戦争に対して集めた資料とこれを土台に下した結論などがまとめられているという。文書内容はウクライナとロシアは年内にどちらも確実な勝機をつかめない状態で平和会談も拒否したまま退屈な消耗戦を続けるだろうとうのが骨子だ。この他に主な内容を整理した。
(1)和平会談はない
該当文書によると、DIAはウクライナが相当な領土を奪還してロシア軍に戦争遂行が不可能なほどの打撃を与えても和平会談にはつながらないだろうとの結論を出した。WPは「文書には『予想可能なすべてのシナリオを分析した結果、2023年内に戦争終息のための交渉はない』と明示された」と伝えた。
このような結論はウクライナとロシアの武器や装備など兵力に対する米国の綿密な調査に基づいて下された。文書は現在両者ともに「効果的な作戦を実行するには兵力も補給品も不足した状態」であり、「わずかな領土利益」でも達成されるならば戦争を終わらせる可能性も完全に排除できない状態とも伝えた。ただし「現在最も可能性が高いシナリオは、どちら側も決定的利益を得られない状態で膠着状態を持続すること」という結論を出した。
(2)ウクライナ、ロシア本土に対する攻撃の可能性
消耗戦が持続する場合、ウクライナ側は内部から批判が強まって「指導部交代」に入る可能性が高いとも記されていた。WPは「この内容が政治的・軍事的脈絡でリーダーシップの変化に言及しているのかどうか確実ではない」としつつも「現在ウクライナのゼレンスキー大統領と軍隊首長であるヴァレリー・ザルジヌイ将軍の間に緊張が存在するのは事実」と伝えた。
また、長期戦実行のためにより多くの若者を最前線に送り込み、ロシア本土に対する空襲意志も高まるよりほかはないと展望した。このようなウクライナの雰囲気はロシアのプーチン大統領にとって戦争を激化させたり中国が致命的殺傷武器をロシアに提供したりする名分になるかもしれないと懸念した。
(3)「ロシア、追加動員…核使用の可能性は極めて低い」
ロシアに対しては膠着状態によって戦闘力が急低下するだろうと見通した。また、ロシア軍が占領したウクライナの領土を統合しようとする努力を加速するだろうと説明した。
ロシアは今回の戦争でウクライナに相当な打撃を加えて多くの領土を占領するのが1次目標だ。これを達成した時はウクライナの政権交代のような追加目標を成し遂げるために動く可能性があるとみている。ただし「ロシアが核を使う可能性は相変らず低く、追加戦闘作戦のために『新たな国家動員令』が発表される可能性がある」と予測した。
米国シンクタンクであるジャーマン・マーシャル財団のヘザー・コンリー会長は「今回の戦争はどちらが先に資源の底がつくかを競う様相」としながら「どちらか一方が資源が枯渇した後に交渉が始まるというDIAの主張に同意する」と述べた。
WPはこの文書に対して論評を要請したがDIAはこれを拒否し、ロシアとウクライナ政府報道官はこれに応じなかったと伝えた。
●米軍事機密流出、空軍州兵の男逮捕 4/14
ロシアのウクライナ侵攻関連の情報を含む米軍事機密文書がインターネット上に大量流出した問題で、連邦捜査局(FBI)は13日、空軍州兵の男を逮捕した。メリック・ガーランド司法長官が発表した。
逮捕されたのはジャック・テシェイラ容疑者。米メディアによると、21歳の同容疑者は、機密文書が最初に投稿された通信アプリ「ディスコード」のチャットルームのリーダーとみられる。
米メディアは、マサチューセッツ州ノースダイトンで、赤い短パン姿の容疑者が重武装した捜査官により身柄を拘束され、車に乗せられる様子をヘリコプターから撮影した映像を放送した。 
●ベラルーシ西部に緊急配備…一触即発のロシア「プーチンが核攻撃する」 4/14
ヨーロッパ情勢がめまぐるしく動いている。
4月2日、ロシアの駐ベラルーシ大使が戦術核を配備するという見通しを表明。
4月4日、フィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟。
4月6日、ロシアとベラルーシのプーチン、ルカシェンコ両大統領が会談。ベラルーシ西部への核配備を事実上承認。
ヨーロッパ北部で、西側諸国とロシアが激しい駆け引きを繰り広げているのだ。
「侵攻したウクライナで、ロシアは苦戦を強いられています。米紙『ニューヨーク・タイムズ』によると、漏えいした米国防総省の機密文書にはロシア軍の損害は最大22万3000人にのぼると記されているそうです。死者は4万人以上になるとか。反転攻勢しようにも、西側からの経済制裁などで資源不足になり、武器や弾薬の生産が限られているといわれます。
かりにロシアがウクライナから撤退すれば、ヨーロッパ南部・黒海との接点を失うことになります。フィンランドのNATO加入は、さらなるダメージでしょう。黒海に続き、北部バルト海を喪失することになりかねませんから。ベラルーシへの戦術核配備は、そうした西側諸国の動きへの牽制とみられます」(全国紙国際部記者)
ロシアの重要な飛び地が危機に
ベラルーシ西部に配備されるとみられる核の真の標的は、ウクライナではないようだ。ロシア情勢に詳しい、筑波大学名誉教授・中村逸郎氏が解説する。
「ロシアには、バルト海に接するカリーニングラードという飛び地領土があります。バルチック艦隊の拠点であり、NATOへ圧力をかけるための重要な土地です。カリーニングラードへはベラルーシから100kmにわたる幹線道路がのび、そこから軍事物資を運びこんでいます。現在、フィンランドのNATO加盟に勢いを得たポーランドとリトアニアに、この幹線道路を封鎖しようという動きがあるんです。両国ともカリーニングラードと国境を接しています。戦術核配備の本当の狙いは、こうした動向への対抗でしょう。道路を封鎖されれば重要拠点カリーニングラードが事実上無力化されるため、プーチン大統領がポーランドやリトアニアを核攻撃する可能性は十分考えられます」
バルト海の状況は、ウクライナ情勢よりさらに危険性が高いという。中村氏が続ける。
「もしロシアとポーランド、リトアニアが戦争状態になればバルト3国やフィンランドも戦闘に巻き込まれることになります。当然、ロシアを支援するベラルーシも参戦する。他のヨーロッパ諸国や米国も黙っていられないでしょう。世界中を核の恐怖におとしめる、第3次世界大戦の勃発です」
緊迫しているのはウクライナ情勢だけではない。バルト海でも、複数の国がからんだ一触即発の状態が続いているのだ。
●ウクライナでのロシア戦死者数めぐりロシア当局内で争いか 4/14
米国防総省の機密文書が多数流出した問題で、ウクライナでのロシア戦死者数の数え方をめぐりロシア軍や治安当局で争いが生じている可能性が明らかになった。機密流出については米当局が13日、21歳の空軍州兵を逮捕したと発表した。
米司法省によると、機密文書を流出させた疑いでマサチューセッツ州空軍州兵のジャック・テシェイラ容疑者を逮捕した。ウクライナ情勢などに関する米軍の機密文書が数カ月前から50〜100点以上が、ゲーム愛好家に人気のソーシャルメディア「ディスコード」に投稿されていた。
テシェイラ容疑者は、空軍州兵の情報部門に所属。機密文書の流出先となったオンラインのゲーム・チャットグループのリーダーだったとされている。空軍州兵は米空軍の予備部隊に相当する。米当局筋によると、機密指定された防衛文書の送信を禁止するスパイ法違反の疑いで訴追される見通し。
ロシアは、今回の流出文書について、米政府が意図的に漏洩させた偽情報の可能性があると批判している。
ロシアの戦死者数は
オンラインに投稿されていた文書からは、ウクライナでのロシア兵の戦死者数について、ロシア国防省の集計は少なすぎると、ロシア連邦保安庁(FSB)が批判している様子がうかがえる。ロシア国家親衛隊や民間雇い兵組織「ワグネル」などの死者数を、国防省が計上していないと、FSBが指摘しているもようだ。
ロシアはウクライナでの戦死者数について、ほとんど公表していない。しかし、ロシア軍とその他の治安当局や組織の間で、ウクライナでの戦争についてしばしば対立が生じていると、これまで西側で指摘されていたことが、米軍文書からも裏付けられたことになる。
米軍文書によると、FSBは2月までのロシアの死傷者数を約11万人としている。他方、過去に明らかになった米政府の情報では、米政府はロシアの死傷者数を18万9500人〜22万3000人と推定。このうち、戦死者は3万5500人から4万3000人に上るとみられている。
ロシアが最後に示した公式な戦死者数は昨年9月のもので、その時は兵士5937人が戦死したと明らかにしていた。
戦死者数をめぐる国防省とFSBのいさかいを指摘した米軍文書は、ロシア軍の指揮系統には依然として、悪い情報を上層部に伝えたがらない傾向がみられると指摘している。
ロシア軍が戦場でどれほどの被害をこうむっているのか、実態のほどをウラジーミル・プーチン大統領は知らされていないのではないかと、これまでも複数の専門家が推測していた。「特別情報」に指定された米軍文書でも、同様の分析が示されていることになる。
別の米軍文書には、ワグネル代表のエフゲニー・プリゴジン氏とロシア国防省の間で2月に「情報戦」が繰り広げられていたという言及がある。
ウクライナ東部バフムート攻略の主力となったワグネルに対し、軍部が砲弾の供給を停止したとプリゴジン氏は繰り返し主張していた。
ロシア国家親衛隊が相当の被害を被っているため、「併合領土のすべてをロシアが確実に掌握することは難しいかもしれない」という分析も、米軍文書には記されている。ロシア国家親衛隊はこれまで、戦闘に参加するほか、昨年9月のウクライナ4州「併合」につながった見せかけの「住民投票」実施を担当した。
米紙ワシントン・ポストによると、流出したのは基地内で容疑者が書き写し、後に内容をパソコンで打ち出した内容と、撮影した文書そのものの写真。
文書を撮影した中には、ウクライナ東部ドンバスでロシア軍が展開する「消耗戦」に対する米軍の分析が書かれていた。それによると、ロシア軍が「予想外に回復」しない限り、ロシアが戦争目的を果たすのをウクライナは阻止し続けるだろうし、その結果「戦争は2023年以降も長引く」ことになるとされている。
情報戦の裏側か
ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、こうした文書はアメリカが意図的に流出させた可能性があると指摘。アメリカは「紛争当時国」として「敵、つまりロシア連邦をかく乱」しようとしたのかもしれないと述べた。
他方、別の流出文書には、ロシア参謀本部からの情報として、ベラルーシ発のロシア・ベラルーシ合同攻撃が起きると2月初めにウクライナ情報機関を信じ込ませたと、ロシア側が「作戦成功」を喜んでいたという内容が書かれていた。
開戦1周年の2月下旬に向けて、ロシアがベラルーシ駐留部隊を増強しているとの情報が相次いでいた。昨年2月の開戦当初、ベラルーシからウクライナを侵攻しようとして失敗した作戦を、今度こそ成功させるのが狙いだとも言われていた。
この情報を受けてウクライナは、東部や南部の前線から部隊を首都キーウ周辺や北部へと移動させざるを得なかった。
同じ文書によると、ロシア軍は3月に「さらにウクライナ軍をかく乱するため」情報操作を2段階に分けて展開するよう推奨していた。流出文書には、この計画がベラルーシ軍幹部の承認を得るよう伝達されたことも明示されている。
●太平洋艦隊が軍事演習を開始 ロシア国防相 4/14
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は14日、極東ウラジオストクの港を拠点とする太平洋艦隊が軍事演習を開始したと発表した。
ショイグ氏は軍幹部との会合で、ウラジーミル・プーチン大統領の命令で急きょ始まった軍事演習の期間中、太平洋艦隊は厳戒態勢に置かれていると述べた。
ショイグ氏は「演習の主な目的は、海から来る潜在的な敵の攻撃を撃退する任務遂行能力を強化することだ」と説明した。
演習では、潜水艦の探知と破壊のほか、「大規模なロケット攻撃や空域からの攻撃の撃退」、陸海の標的に対するロケットや魚雷、砲弾の発射訓練が行われるという。
●戦争犯罪、7万7千件を記録 ウクライナ検事総長「正義を」  4/14
ロシアが侵攻したウクライナのアンドリー・コスチン検事総長は14日までに共同通信の単独インタビューに応じ、「7万7千件の戦争犯罪を既に記録した」と述べ、殺傷や拷問、性暴力被害のほか、ミサイルで自宅を破壊されるなど私有財産を失ったケースがあると指摘した。「被害者に正義をもたらす」必要があり、ロシアの資産を没収できる仕組みづくりなど補償制度確立が急務だと訴えた。
コスチン氏は、欧州連合(EU)が、ウクライナでの戦争犯罪捜査の証拠を保全するデータベースを構築したと紹介。ウクライナは、ポーランド、スロバキア、バルト3国、ルーマニアとの合同捜査チームにも加わっている。今後は、国際刑事裁判所(ICC)との捜査協力に消極姿勢だった米国とも収集した証拠の共有を進めるなど連携を深める考えを示した。
またICCが、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出したことを「歴史的決定だ」と評価。着手から5カ月で逮捕状を発出できた背景には、ウクライナの検察や司法当局の「100%の協力があった」と強調した。
●ウクライナ 東部のバフムトで劣勢か ロシアは外交活動を活発化  4/14
ロシアはウクライナ東部の拠点バフムトの完全掌握をねらい攻撃を強めていて、ウクライナ側は厳しい状況が続いているとみられます。また、ロシアのラブロフ外相は中南米の友好国を歴訪する予定で欧米との対立が深まる中、外交活動を活発化させています。
ウクライナ軍の参謀本部は、14日もロシア軍が東部ドネツク州のバフムトなどで激しい攻撃を仕掛けていると発表しました。
バフムトの戦況についてイギリス国防省は14日、ロシア側は国防省と民間軍事会社ワグネルとの協力関係が改善して攻撃が強化され、戦闘には、精鋭の空てい部隊も加わっていると指摘しました。
そして、ウクライナ側は依然、バフムトの西部地区を保持しているものの、特に過去48時間、激しい砲撃にさらされ、一部の地域からは撤退を余儀なくされているとしています。
バフムトについては、アメリカのシンクタンク戦争研究所も12日、ロシア側がバフムトの76.5%以上を支配しているとみられると発表していて、ウクライナ側は厳しい状況が続いているものとみられます。
一方、ロシアのラブロフ外相は13日、訪問先の中央アジアのウズベキスタンで中国の秦剛外相と会談し、ウクライナ情勢などをめぐり意見を交わすとともに、両国の結束をアピールしました。
また、ロシア外務省はラブロフ外相が4月後半からブラジル、ベネズエラ、キューバ、ニカラグアの中南米各国を歴訪すると発表し、友好関係にある国々との関係を強化し、アメリカをけん制するねらいもあるとみられます。
さらにラブロフ外相はロシアが4月、議長国を務める国連安全保障理事会の今月下旬の会合に出席したい考えも示していて、欧米との対立が深まる中、外交活動を活発化させています。

 

●ロシアで招集令状“電子化”の改正法成立 通知後の出国禁止に 4/15
ロシアで軍への招集令状を電子化し、オンラインでの通知を可能とする改正法が成立しました。ウクライナ侵攻が長期化する中、効率良く兵員を確保する狙いがあるとみられます。
プーチン大統領は14日、軍への動員や徴兵などの招集令状を電子化させる法改正案に署名しました。数時間の審議で下院で可決されるなど、改正法は異例の速さで成立した形です。
これにより当局側が招集対象者をインターネット上のリストに登録すれば本人に招集令状が通知されることになります。通知を受けた者はロシアからの出国が禁止されるほか、自動車の運転や不動産の取引なども認められなくなるとしています。
プーチン政権は去年、30万人の予備役の動員に踏み切りましたが、国外に脱出する人などが相次いだことから、今回の法改正は兵役逃れを防ぎ、効率良く兵員を確保する狙いがあるとみられます。
こうした中、ロシアではインターネットの検索ランキングで「アパートを妻の名義にする方法」などのキーワードが急上昇するなど、改正法への関心の高さがうかがえます。
●ロシア、「電子招集令状」法成立 予備役の出国阻止―プーチン大統領が署名 4/15
ロシアのプーチン大統領は14日、徴兵忌避の対策として「電子招集令状」を導入する法案に署名し、成立させた。ウクライナ侵攻の長期化を見据え、安定的な動員を可能にするとともに、反戦デモや国外脱出で混乱が広がらないよう国内の引き締めを図る。
インターネットを通じ電子令状が通知された瞬間から、予備役など対象者は出国禁止となる。独立系メディアは「ロシアは前線で戦うにふさわしい男性が国境をまたげないよう封鎖する」と警鐘を鳴らした。
従来の紙の令状は、本人に手渡さなければ原則無効だった。昨年秋に予備役30万人を招集した「部分動員令」の際、直接の受領から逃れることが徴兵の「抜け道」となった。法改正により、ロシア特有の公共サービスサイトの個人ページに電子令状が通知される。気付かなかったと主張しても、運転免許停止などの罰則があり、通知を確認するかどうかは「自己責任」(下院議員)となる。
●ワグネルトップ「停戦すべき時が来た」 ロシア軍の敗北にも言及 4/15
ロシアによるウクライナ侵略で、露軍側で参戦している露民間軍事会社「ワグネル」トップのプリゴジン氏は14日、「プーチン政権は軍事作戦の終了を宣言すべき時だ」とする声明を交流サイト(SNS)上で発表した。同氏はまた、露軍は「東部ドネツク州全域の制圧」とする主目標を達成できそうもない上、ウクライナ軍の反攻で敗北する可能性があるとも警告した。
ワグネルの部隊は最激戦地の東部ドネツク州バフムトを巡る攻防で露軍側の主力を担当。プリゴジン氏は、露軍側の戦力低下を認識し、作戦の終結を求めた可能性がある。ただ、プーチン政権は「軍事作戦は目標達成まで続ける」としており、現時点で停戦に動く可能性は低いとみられる。
プリゴジン氏は声明で、ロシアはウクライナ領の重要地域を占領し、露本土と実効支配するクリミア半島を結ぶ陸路も確保するなど十分な「戦果」を達成したと指摘。侵攻開始から1年に当たる今年2月24日時点の前線を停戦ラインとすべきだと主張した。停戦しない場合、露軍はウクライナ軍の反攻で占領地域を奪還され、威信も失う恐れがあると指摘。「ウクライナはかつてロシアの一部だったかもしれないが、今は国民国家だ」とも述べ、「ウクライナはロシアの一部だ」とするプーチン露大統領の持論に暗に異を唱えた。
一方、ドネツク州のキリレンコ知事は14日、同州の中心都市スラビャンスクの集合住宅などに露軍のミサイルが着弾し、2歳の子供を含む民間人8人が死亡したと交流サイト(SNS)上で発表した。ウクライナのゼレンスキー大統領は「邪悪な国家が再びその本性を表した」と非難。「ウクライナは国内にロシアの痕跡を一つも残さない。全ての敵を罰さずにはおかない」と表明した。
●ウクライナ政府 中国のスマホ大手「シャオミ」を「戦争支援企業」リストに追加 4/15
ウクライナ政府は、中国のスマートフォン大手シャオミを「国際的な戦争支援企業」リストに加えたと発表しました。シャオミは「戦争を支持していない」と反論しています。
ロイター通信によりますと、ウクライナ政府は13日、中国のスマートフォン大手「シャオミ」を「戦争支援企業」のリストに加えたと発表しました。ロシアによるウクライナ侵攻後もロシアでビジネスを続けていることを理由にあげています。
これに対し、シャオミは声明を発表し、「私たちはグローバル企業であり、高品質のスマートフォンや家電を世界中の消費者に提供している。リストに加えられたことに強く反対する。私たちは平和を願い、戦争行為は一切支持しない立場だ」と反論しています。  
●ロシア民間軍事会社トップが「侵攻終結」に言及 一方で戦闘継続も主張 4/15
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジン氏がウクライナ侵攻の終結について言及しました。プーチン大統領周辺で侵攻終結に言及した初めてのケースになります。
プリゴジン氏は14日、声明を発表し、ロシアはウクライナの重要地域を占領し、クリミア半島への陸路も確保するなど十分な「戦果」を挙げたと主張しました。
そして、「特別軍事作戦を終了させることが理想的な選択肢だ」と言及し、今年2月24日時点の前線が、アメリカがロシアに譲歩できる内容だと指摘しました。
このまま侵攻を続けた場合、ロシアが占領地域を拡大できる可能性は「あまりありそうにない」と強調し、別のシナリオはロシアの敗北だとしています。
こうした一方で、プリゴジン氏は戦闘の継続も主張しました。
また、プリゴジン氏は、西側諸国が戦争の長期化を利用してプーチン氏に不満を抱いているロシアのエリートを説得しようとしていると指摘しました。
今回、侵攻終結に言及した真意は分かっていませんが、2月24日までに占領した地域の維持を前提とするプリゴジン氏の主張に、ウクライナが妥協する可能性は低く、現実的な提案ではないとみられます。
戦争の終結時期を示せないプーチン大統領に対するメッセージの可能性もあります。
プリゴジン氏は最近、体制内野党である「公正ロシア」に急接近したり政治政党を立ち上げるという見方も出ていて、来年のロシア大統領選を見据えたとみられる動きを加速させています。
●ロシア特殊部隊スペツナズ、ウクライナ戦争で著しい戦力低下か 米紙報道 4/15
米紙ワシントン・ポストは14日、インターネット上に流出した米情報機関の機密文書をもとに、ロシア特殊部隊スペツナズがウクライナでの戦争により著しい戦力低下を被っていると報じた。
CNNは一連の文書を確認しておらず、その内容について検証できていない。
ポスト紙によると、一連の文書はSNS「ディスコード」を通じて入手されたもので、傍受された情報に言及している。スペツナズの第346旅団はほぼ全滅状態で、活動できるのは「派遣された900人のうち125人のみ」だという。
米当局者はロシアの膨大な死傷者数を踏まえ、ウクライナをはじめとする軍の活動地域で甚大な影響が出るとの見方を示す。ポスト紙によると、高度な訓練を受けた部隊の場合、隊員の補充に最大10年かかると米当局者は見ている。
CNNは米国防総省やロシア国防省にコメントを求めている。
ウクライナの複数の当局者によると、ロシアの特殊部隊は現在、ウクライナ東部バフムートに派遣されている。バフムートは現時点で最も激しい戦闘が繰り広げられている地域。
ウクライナのマリャル国防次官は13日、「敵はワグネルの戦闘員や空中強襲部隊、特殊部隊を含むプロの部隊をバフムートに集中させているが、現地で目標を達成できていない」との見方を示した。
ロシア特殊部隊は侵攻初期にキーウ周辺などで拙劣な使い方をされ、大きな損失を被った。CNNは開戦当初、キーウ近郊ホストメリにあるアントノフ空港で、ロシア空挺(くうてい)軍がウクライナ軍と撃ち合う様子をライブ報道。その後ロシア側は大敗を喫し、4月初めまでに撤退する結果になった。
●ブラジル大統領、米国に「戦争促進」やめるよう要請 4/15
ウクライナでの戦争などに関連する米機密文書がインターネット上に流出した問題で、米空軍州兵のジャック・テシェイラ被告が14日、ボストン連邦地裁に初出廷した。捜査当局は、流出で敵対国が何らかの役割を果たしたかどうかを調査している。
米機密文書流出、21歳の州兵を訴追−バイデン氏は機密配布の制限指示
ウクライナ東部で戦闘が続く中、同国の欧州同盟国の一部は、ウクライナ軍が年内に決定的な突破口を開けるか懐疑的な考えを持っている。一方、ロシアのプーチン大統領は、徴兵逃れするロシア人に新たな厳罰を科す法律に署名した。
ブラジルのルラ大統領は中国・北京を訪問の際、ウクライナでの戦争終結に向けた進展が見られないとして米国を批判した。「米国は戦争を促進するのをやめ、平和について話し始めることが重要だ」とルラ氏は述べた。
●訪中のブラジル大統領「米国は戦争扇動やめよ」 4/15
中国を訪問しているブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領は15日、米国はウクライナで「戦争を扇動する」のをやめ、平和について話し始めるべきだと訴えた。
ルラ氏は、中国で習近平国家主席と会談。アラブ首長国連邦に向けて出発する前に記者団に対し、「米国は戦争を扇動するのをやめ、平和について話し始めなければならない。欧州連合も平和について話し始める必要がある」と語った。
そうすることで国際社会は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に「和平は世界全体の利益になる」と「説得」することができると主張。
プーチン氏やゼレンスキー氏と協議するには「忍耐が重要だ」とした上で、「何よりも必要なのは、武器を供与し、戦争をあおっている国を説得によって止めることだ」と続けた。
中国とブラジルは西側諸国と異なり、ウクライナ侵攻をめぐってロシアに制裁を科しておらず、自らを平和実現に向けた橋渡し役と位置付けようとしている。
ルラ氏は訪中前、ウクライナ紛争の仲裁に向けた多国間グループの創設も提案し、本件について習氏と協議する意向を示していたが、会談後、本件の進展状況についての質問には詳細を明らかにしなかった。
●ウクライナ軍がバフムトの一部から撤退か、補給に重大な問題 4/15
英情報機関は14日、ウクライナ軍が東部ドネツク州バフムトの一部地域からの撤退を余儀なくされているとの見方を示した。ロシア軍が再び攻勢を強め、2日にわたって激しい砲撃を行っていると指摘した。
「ロシアはバフムトへの攻撃を再び強めている。ロシア軍と(民間軍事会社)ワグネル・グループの部隊の連携が改善した」と分析した。
「ウクライナ軍は重大な補給の問題に直面しているが、明け渡さざるを得なくなった陣地から秩序ある撤退を行っている」との見方を示した。
「ウクライナ軍はバフムトの西地区を維持しているが、48時間前からロシア軍の非常に激しい砲撃を受けている」とした。
ワグネルの部隊はバフムト中心部での前進に照準を合わせており、ロシアの空挺部隊は街の側面への攻撃により援護しているという。

 

●プーチン大統領の政敵ナワリヌイ氏、毒物を盛られた疑い… 4/16
収監中のロシア野党の主要人物アレクセイ・ナワリヌイ氏(46)が、正体不明の毒物に徐々におかされている症状を示していると、氏の報道担当者が13日(現地時間)明らかにした。
ナワリヌイ氏の報道担当のキラ・ヤルミシュ氏はこの日、ナワリヌイ氏が中毒症状のため食べ物を食べられず、7日夜には収監中の刑務所に救急車が出動したと述べた。ロイター通信が伝えた。ナワリヌイ氏はロシアの首都モスクワから東に250キロ離れた地域の刑務所に収容されている。
ヤルミシュ氏は、ナワリヌイ氏が腹痛に苦しんでおり、刑務所が提供する食べ物を食べられないにもかかわらず、他の食事を供給されずにいると主張した。同氏は「ナワリヌイ氏は刑務所で与えられる食べ物を食べると腹痛がますますひどくなる」として「毒物中毒の可能性を排除できない」と述べた。ただし、過去にナワリヌイ氏が経験したように大量の毒物によって中毒になるのではなく、少量の毒を継続的に盛られているものと疑われると明らかにした。ドイツ政府も12日、ナワリヌイ氏の健康が悪化し続けていると懸念を表明した。
ナワリヌイ氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対抗する代表的な人物として浮上した2020年8月20日、毒物中毒になり意識不明に陥ったことがある。その時は、シベリア地域で地方選挙出馬を控えた野党候補の支持活動をした後、モスクワに向かう途中、飛行機で意識を失った。飛行機は途中で緊急着陸した。その後、ドイツのベルリンに移り、治療を受けて回復した。ナワリヌイ氏は退院直後、毒物中毒はプーチン大統領の指示によるものだと主張した。
同氏は2021年1月17日、ロシアに帰国した直後に逮捕され、2014年の金品違法取得容疑で下された有罪判決の執行猶予が取り消され、収監された。その後、法廷冒涜の疑いまで加わり、11年6カ月の拘束刑に処された。ナワリヌイ氏は刑務所に収監されている間も、ロシアのウクライナ侵攻を批判するなど、プーチン政権に対する批判を続けている。
ロシア政府はナワリヌイ氏拘束後、関連する反腐敗財団、市民権利保護財団、ナワリヌイ本部などの団体を過激派団体と規定して解散させるなど、ナワリヌイ氏とその支持者の活動を極度に統制している。
ヤルミシュ氏は「プーチンには越えてはならない線が存在しない。ナワリヌイ氏は無実だがプーチンの個人的な恨みのため刑務所に入れられている」と主張した。
●米国の機密文書「ロシア軍の内部分裂が深刻」…NYTが追加入手 4/16
ウクライナ戦争でのロシア軍の内部分裂が深刻化していることを米国が把握しているという事実が、最近流出した米政府の機密文書によって新たに明らかになった。
米「ニューヨーク・タイムズ」紙は13日(現地時間)、最近流出した米国の機密文書のうち、これまで公開されていなかった文書を追加入手したとし、その中には戦争でのロシア軍の死傷者数を正確に集計していないとロシア連邦保安局(FSB)が国防省を批判する内容が含まれていると報じた。この記事によると、FSBは「実際の戦争に参加して死亡または負傷したロシア人は計11万人」であると把握しているが、ロシア国防省は、昨年9月に死傷者数を5937人と発表して以降、さらなる公開は行っていない。米国は、これまでのロシア軍の死傷者数を約20万人と推定してきた。
具体的にニューヨーク・タイムズが入手した資料の2月28日付の内容を見ると、FSBは自国の国防省の死傷者集計を批判しつつ、死傷者数には大統領直属の準軍事組織である国家親衛隊(内務省軍)、民間傭兵グループ「ワグネル」、チェチェン共和国の参戦部隊などが含まれていないと指摘した。米国の情報当局はこれらの文書で「ロシア軍の関係者が上層部に否定的なニュースを報告することをはばかる状態が続いている」と分析した。
今年1月以降に流出したと把握されている米情報当局の文書は100ページ余りあると認識されてきた。しかし、8日のニューヨーク・タイムズの最初の報道以降にメディアが公開してきた内容は、その半分ほどの53ページ。同紙は、これまで報道されていなかった27ページほどを追加入手し、上のように報道した。同紙は、追加文書は写真のかたちで入手し、一部のページは抜けているものの、総じて国家安全保障局(NSA)、大統領直属の国家情報長官室(ODNI)、国防総省統合参謀本部などが作成したものとみられると説明した。
一方、今回の文書では、ロシアのプーチン大統領が2月22日に、互いに公開批判を続けているセルゲイ・ショイグ国防相と傭兵組織「ワグネル」グループの長であるエフゲニー・プリゴジン氏を呼んで和解させようとしたことが明らかになった。同紙は追加文書を分析し、「プーチン大統領が13カ月以上続いてきた戦争で勝利を保証することに失敗した理由の一つは、内部分裂と相互批判」、「クレムリン(ロシア大統領府)がウクライナ戦線に配した雑多な複数の兵力は、時に目的が相反することで、ロシアの戦闘力をさらに複雑にしている」と指摘した。
●ロシア 激戦地の郊外奪ったと主張 ウクライナ側は一部で撤退か  4/16
ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトの掌握をねらって侵攻を続けるロシアは、郊外2か所の区域を奪ったと主張しました。ウクライナ側は一部で撤退を余儀なくされているという見方が出るなど厳しい状況が続いているとみられます。
ウクライナ側の拠点バフムトをめぐってロシア国防省は15日の発表で、民間軍事会社ワグネルの部隊が街の南と北にある2か所の区域を奪ったとした上で、市内に残るウクライナ軍は退却していると主張しました。
イギリス国防省は14日の分析で、ロシア側は国防省とワグネルの関係が改善され、精鋭の空てい部隊も加わってバフムトへの攻撃を再び活発化させていると指摘した上で、ウクライナ側は一部で撤退を余儀なくされているという見方を示しました。
ウクライナ軍の東部方面部隊の報道官は15日、地元メディアに対して「過去数十年で例のない血みどろの戦いになっている」と述べ、ロシア側が24時間で、バフムトや周辺に150発を超す砲撃を行うなど激しい攻撃を続けていると訴えました。
その上で「われわれは敵の戦闘能力をそぎ落とし、体力と士気を奪うことに全力を注いでいる」と述べ、バフムトでロシアの侵攻を食い止める考えを強調しました。  
●強制併合のウクライナ4州にモスクワ時間、プーチン氏が法律署名 4/16
ロシアのプーチン大統領は16日までに、同国が昨年9月に一方的な併合を宣言したウクライナ東部と南部の4州にモスクワ時間を適用する法律に署名した。
政府の公式サイトに掲載された法令で判明した。対象の地域は東部のドネツク、ルハンスク両州、南部ヘルソン州に中南部ザポリージャ州。
ただ、これら4州では併合の宣言以降、モスクワ時間が実質的に導入されていたという。
ウクライナのキーウ時間は夏はモスクワと同じだが、冬は1時間遅くなっている。
ロシア軍は4州の全土を占領しているわけではなく、ウクライナの実効支配地も混在している。
●ウクライナ 復活祭も南部で砲撃 東部でも激戦続く厳しい状況か  4/16
ロシアが侵攻するウクライナでは、キリストの復活を祝う復活祭にあたる16日も各地では戦闘が行われ、東部の激戦地バフムトでは、ウクライナ側は厳しい状況が続いているとみられます。
ウクライナでは、キリストの復活を祝う復活祭にあたる16日も各地で戦闘が続き、地元の当局者などによりますと南部ミコライウ州で、ロシア軍の砲撃で10代の若者2人が死亡したほか、前日の15日には南部ザポリージャ州で地元の教会が破壊されたとしています。
ウクライナ軍の参謀本部は16日、東部ドネツク州の拠点バフムトと、州都ドネツクの南西にあるマリインカが激戦地となっていると指摘しました。
一方、ロシア国防省は15日、バフムトについて、民間軍事会社ワグネルの部隊が街の南と北にある2か所の区域を奪ったとした上で、市内のウクライナ軍が退却していると主張するなど、ウクライナ側は厳しい状況が続いているとみられます。
こうした中、ワグネルの代表プリゴジン氏は14日、SNS上にウクライナの侵攻に関する長文の論文を投稿しました。
論文でプリゴジン氏は、バフムトを掌握する重要性を強調するとともに、「理想的なのは、特別軍事作戦の終了を発表し、ロシアの成果が得られたことを人々に知らせることだ」などと主張しました。
そして、ウクライナ軍が大規模な反転攻勢を行えば、ロシア側のリスクになるとしていて、侵攻から1年たった2023年2月24日時点でロシア側が占領した領土を維持したうえで停戦することなどを提案しています。
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は15日に発表した分析で、「プリゴジン氏はウクライナ侵略の終結を提案したわけではない。ウクライナを倒すか、または、ロシア国内の愛国主義の勢力を再生してから、将来的にロシアが勝利できるように求めたものだ」と分析しています。
プーチン大統領 ロシア正教会の大聖堂で夜の礼拝に参列
ロシアのプーチン大統領は、キリストの復活を祝う16日の復活祭にあわせて首都モスクワの中心部にあるロシア正教会の大聖堂で、側近のひとりであるモスクワのソビャーニン市長や多くの市民とともに夜の礼拝に参列しました。
プーチン大統領は火をともした赤いろうそくを手にし、ロシア正教会を率いるキリル総主教にあわせて祈りをささげていました。プーチン大統領はウクライナへの侵攻を続ける中、去年もこの時期に、復活祭の礼拝に参列しています。
ロシア正教会のキリル総主教はプーチン政権の軍事侵攻についてロシア正教の信者の世界を守るためのものだとして支持する立場を鮮明にしています。

 

●ゼレンスキー大統領 クリミア含む全領土を奪還する考え示す  4/17
ロシア軍による軍事侵攻が続くウクライナでは、キリストの復活を祝う復活祭にあたる16日も各地でロシア側の攻撃が続き、ゼレンスキー大統領は改めて国民に結束を呼びかけました。
ウクライナでは復活祭にあたる16日も東部や南部でロシア側の攻撃が続き、地元メディアによりますと、南部ザポリージャ州では未明のミサイル攻撃によって教会が大きな被害を受けました。
攻撃があった時間は例年なら大勢の人が復活祭の礼拝を行っていますが、夜間の外出禁止令が続いていることしは礼拝は行われていなかったということです。
また東部ドニプロペトロウシク州でも宗教施設が攻撃を受け、けが人が出たと地元の当局者がSNSで明らかにしました。
復活祭にあわせてウクライナの伝統的な服に身を包んだゼレンスキー大統領は、16日に公開した動画で「すでに長い道のりを歩んできたが、最も難しい峠はまだ先だ。われわれがともにそれを乗り越えた時、国じゅうを太陽が照らす夜明けが来る」などと述べ、改めて国民の結束と徹底抗戦を呼びかけました。
そのうえで、「太陽は南部でも東部でも、そしてクリミアでも輝くだろう」と述べ、2014年にロシアが一方的に併合したクリミアを含むすべての領土を奪還する考えを重ねて示しました。
●中国要人、3カ月連続でロシア訪問 プーチン氏が国防相と会談 4/17
ロシアのプーチン大統領は16日、モスクワを訪れた中国の李尚福国務委員兼国防相と会談した。プーチン氏が中国要人と会談するのは、3月の習近平(シーチンピン)国家主席らに続いて3カ月連続。ウクライナ侵攻をめぐりロシアと米欧が激しく対立するなか、中ロは蜜月関係を国内外に誇示している。
プーチン大統領は週末、ロシア正教会の復活祭の日にもかかわらず、到着したばかりの李氏をショイグ国防相とともに歓迎した。
プーチン氏は、両国の関係が包括的に発展していると評価した。特に軍事分野は、極東と欧州で合同軍事演習が活発に行われ、「ロ中関係の、極めて信頼性の高い、戦略的な性格を強化する一つの重要な分野だ」と述べ、軍事協力の拡大に期待を示した。
李氏は「週末に私のために時間を割いてくれて、とても光栄だ」とプーチン氏に感謝し、「最近のロシアと中国の軍事と軍事技術分野での協力は、大変発展しており、世界と地域の安全保障に多大な貢献をしている」と強調した。中ロ関係の特別な性格と戦略的な重要性を示すために最初の外国訪問にロシアを選んだと説明した。
ロシア国防省によると、李氏は18日までロシアに滞在し、ショイグ氏らと軍事協力や世界の安全保障問題などを協議するという。
ウクライナ侵攻を批判する米欧諸国は、中国がロシアに武器を供与する可能性があると警戒している。中国はロシアへの軍事支援はないと否定しているが、2月に中国外交部門トップの王毅(ワンイー)共産党政治局員、3月にも習近平氏が相次ぎ訪ロし、ロシアとの関係を強化する考えを示している。
●プーチン大統領 中国の国防相と会談 軍事面の連携深まりを強調  4/17
ロシアのプーチン大統領はモスクワを訪問している中国の李尚福国防相と会談し、両国の軍事面での連携が深まっていると強調しました。
プーチン大統領は16日、クレムリンで李尚福国防相と会談し、会談にはショイグ国防相も同席しました。
会談の冒頭、プーチン大統領は「われわれは定期的に有益な情報を交換し、軍事技術の分野で協力し、極東やヨーロッパ、そして陸海空のさまざまな場で、合同演習も実施してきた」と述べ、中国と軍事面での連携が深まっていると強調しました。
ロシアの国営通信社によりますと、この中で李国防相は「われわれの関係は、非常に強固だ。冷戦時代の軍事や政治の関係よりも上回っている」と応じたということです。
李国防相は今月19日までのロシア滞在中に軍の幹部との会談や軍の学校の視察を行う予定で、両国としてはアメリカなどに対抗する姿勢を打ち出したいねらいとみられます。
ウクライナ情勢をめぐって、ロシア軍が兵器不足に直面する中、欧米やウクライナは中国がロシアへの兵器の供与などに踏み切らないか警戒を強めています。
●ウクライナ東部バフムート、「前例のない」戦いに 通りごとに戦闘 4/17
ウクライナ軍とロシア軍が激しい戦いを続けているウクライナ東部バフムート市での戦況について、ウクライナ軍報道官は、過去24時間で100回近い砲撃が行われたと明らかにした。
両軍が街の支配をめぐって、通りごと、あるいは家ごとに約30の戦闘が行われたという。
ウクライナ軍が新たに公開した映像は戦闘の激しさを物語っている。
映像の一つでは、ウクライナ軍の兵士が集合住宅の1階から銃撃を行っているが、部屋の角は完全に吹き飛ばされて粉々になっている。
銃を撃ち合う音や爆発の音が途絶えることはなく、報道官は前日について「過去数十年で前例のない、最も血にまみれた戦闘」と形容した。
ロシア国防省は16日、ロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員がバフムートの北部と南部の2区画を占領したと主張した。ロシア国営RIAノーボスチ通信が伝えた。
CNNはこの報道について独自に確認ができていない。しかし、米シンクタンク「戦争研究所」は、位置情報を基にした映像で、ロシア側の主張を支持しているようだ。
ウクライナ軍の報道官によれば、ロシア軍は15日にチャシブヤールから西に向かうバフムートの主要な補給路沿いにある街への攻撃を開始した。
●G7外相会合 初日は中国の一方的な現状変更の試みに反対で一致  4/17
G7=主要7か国の外相会合は16日夜、長野県軽井沢町で開幕し、中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みに反対していくことで一致するとともに、台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて確認しました。2日目の17日は、ウクライナ情勢や「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国を念頭にした支援のあり方などをめぐって意見が交わされます。
長野県軽井沢町で16日夜開幕した外相会合では、議長を務める林外務大臣と各国の外相が、夕食をともにしながら2時間余り、中国を含めたインド太平洋地域の情勢をめぐって意見を交わしました。
この中で林大臣は中国について、東シナ海や南シナ海で海洋進出を強める動きや、大手製薬会社の日本人男性らの拘束などを含め、さまざまな課題への懸念を表明し、国際社会の一員として責任ある行動を求めることが重要だと指摘しました。
その上で、G7の結束が極めて重要だとして、力を背景とした一方的な現状変更の試みに反対することで一致するとともに、台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて確認しました。
一方で、林大臣は、中国と意思疎通を継続しながらグローバルな課題への対応では協力し、建設的で安定的な関係の構築を図ることが重要だと強調し、各国の外相も同様の認識を示しました。
また、北朝鮮が前例のない頻度と方法で弾道ミサイルを発射していることに対し、G7として強く非難することで一致しました。
外相会合は、2日目の17日は、ウクライナ情勢をめぐって意見を交わし、結束してロシアへの制裁とウクライナ支援を継続していく方針を改めて確認する見通しです。
また「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国を念頭にした支援のあり方なども議論することにしています。
●ポーランドとハンガリー、ウクライナ農産物を禁輸 自国農業を保護 4/17
中欧のポーランドとハンガリーは15日、穀物などウクライナ産農産物の輸入を一時的に禁止すると発表した。ロシアによる侵攻後に大量流入した安価なウクライナ産農産物から、国内農業を保護する目的という。AP通信などが伝えた。
ウクライナ産の農産物は、ロシアの軍事侵攻の影響でアフリカや中東への黒海経由での輸出が困難になっている。欧州連合(EU)は支援策として関税を免除して輸出を促進しようとしたが、安価なウクライナ産の多くが中東欧の国々にとどまって農産物の価格を押し下げ、地元農家に損害を与えているという。
こうしたEUの対応にポーランドなどは不満を強めており、ブルガリアも禁輸を検討しているという。
EUの報道官は16日、ポーランドなどの措置について、「通商政策はEUの独占的な権限であり、加盟国の一方的な措置は受け入れられない」と述べた。
また、ウクライナの農業政策・食料省は声明で、「ポーランドの農家が苦境にあることは理解しているが、現状ではウクライナの農家が最も難しい局面にあることも強調したい」と懸念を表明した。 
●ロシア軍関連施設で相次ぐ不審火。反プーチン勢力「黒い橋」の犯行声明も 4/17
ロシア西部カザンで4月15日、戦車の訓練場で火災が発生したと地元メディアが伝えた。火災の前には爆発音が聞こえたという。
カザンはモスクワの西約700キロ、100万人以上が暮らす都市だ。ウクライナのネットメディア、キーウ・インディペンデントによれば、爆発音が聞かれたのは市の南部、戦車の訓練に使われている場所の近くだったという。
ロシアが「特別軍事作戦」ことウクライナ侵攻を開始したのは昨年2月。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は当初、短期間での勝利を見込んでいたが、今もロシア軍は期待通りの戦果を挙げるには至っていない。春を迎え、ウクライナはロシア軍に支配されている地域を奪還すべく、反転攻勢の準備を行っているとみられている。
15日午後の時点で、カザンの火災の詳細はほとんど分からないままだった。ロシア当局は考えられる火災の原因について黙して語らないばかりか、火災によるけが人や死者の有無についても明らかにしていない。
そもそもロシア当局は、報道されたような火事の報告は受けていないとの立場だと、地元メディアのインカザンは伝えている。動画も撮影されているのにだ。
インカザンによれば、周辺住民はメッセージアプリのテレグラムに「大きな爆発音」が聞こえたと投稿、爆発の発生を伝えたという。自宅アパートが揺れたとの投稿もあった。
反政府勢力が「犯行声明」を出した例も
カザン市内で煙が高く立ち上る動画も15日朝にソーシャルメディアに投稿されている。
「カザンの住民は戦車の訓練場近くで強力な爆発が起きたと伝えている。地元当局はいつも通り、全てを否定している」と、ベラルーシの報道メディア、ネクスタはツイートした。
地元当局は10月、プーチンが9月に出した部分動員令を受けてウクライナでの戦闘に動員された一部の住民がカザンに送られたと明らかにしている。ちなみに部分動員令が出されたのはウクライナの反攻のさなか。この反攻でウクライナは、北東部ハルキウ州の大半を奪還した。
今回の火災の原因は分かっていないが、ウクライナ侵攻が始まって以降、ロシアでは軍などの関連施設で火災が相次いでいる。
3月には、大陸間弾道弾(ICBM)トーポリMの発射装置などロシア軍向けの兵器を製造している工場で出火。地元当局によれば、建物から7人が救助されたという。
同じく3月には、ウクライナとの国境に近いロシア南部の都市ロストフナドヌーで、連邦保安局(FSB)が使用している建物で火災が発生。「黒い橋」と名乗る反プーチン派勢力が犯行声明を出した。この火災では少なくとも4人が死亡、5人がけがをした。
また昨年12月には、モスクワのクレムリン近くの軍の関連施設でも火災が起きている。
本誌はロシア外務省に電子メールでコメントを求めたが回答は得られていない。
●ワグネル創設者「反転攻勢でロシア敗北の可能性」 プーチンに異を唱える 4/17
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジン氏が突然、ロシアが敗北する可能性があると指摘した。
さらには、“蜜月関係”と言われたプーチン大統領に、異を唱えるような発言もしていて、臆測を呼んでいる。
ナワリヌイ氏の体調悪化 何が?
16日、プーチン大統領がロシア正教会の復活祭の礼拝に参加した。
ロシアメディアによると、プーチン大統領は電報で「復活祭は親切な考えと善行を鼓舞し、社会において非常に道徳的な理想と価値観を促進するのに役立ちます」とメッセージを送ったという。
和やかな雰囲気の一方で、過酷な状況に置かれているとみられるのが現在、刑務所に収監されている反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏だ。
ロイター通信によると、広報担当者はナワリヌイ氏が激しい胃痛を訴えているとし、こんな見方を示したという。
ナワリヌイ氏の広報担当 キラ・ヤルミシュ氏:「すぐには死なないものの、苦しみながら徐々に健康を害するよう、少量ずつ毒を盛られている可能性を排除できない」
そして、ナワリヌイ氏は、7日夜から8日にかけて救急車を呼ぶ事態になったという。
ワシントンポストによると、ナワリヌイ氏の弁護士は、毒物検査などの医療検査を要求し、ロシア当局に苦情を申し入れているという。
これに対し、ロシア大統領府は「ナワリヌイ氏の健康状態は把握していない」とし、「刑務所が対処する問題だ」と述べたという。
「ワグネル」創設者“敗北示唆”
そんななか、14日に民間軍事会社「ワグネル」の創設者・プリゴジン氏が驚きの声明を発表した。
プリゴジン氏(SNS):「ロシアはウクライナ軍の反転攻勢で敗北する可能性がある」
ロシア敗北の可能性を指摘し、特別軍事作戦を終了させるべきだと主張したのだ。果たして、その意図とは…。
大統領に異唱え? 侵攻終結主張
プリゴジン氏が発表した声明。この意図について、詳しく見ていく。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者・プリゴジン氏は14日、SNSに投稿した声明で、「ロシアが敗北する可能性がある」とし、「特別軍事作戦を終了させるべきだ」とした。
また、このまま侵攻を続けた場合、ロシアが占領地域を拡大できる可能性はあまりありそうにないと強調。
侵攻開始から1年にあたる今年2月24日時点の前線を停戦ラインとすべきだとし、占領した地域の足場を固めるべきだと主張した。
また、声明では、プリゴジン氏と蜜月関係といわれるプーチン大統領を意識したと思われる部分がある。
それが「ウクライナはかつてロシアの一部だったかもしれないが、今は国民国家だ」と述べている部分だ。
これが、プーチン大統領の「ウクライナはロシアの一部」という持論に異を唱えるような発言とあって臆測を呼んでいる。
「愛国勢力の分裂が始まる可能性」
そして、プリゴジン氏は最近、親プーチン派野党である公正ロシアに急接近しているようだ。
アメリカのシンクタンク戦争研究所によると、プリゴジン氏は公正ロシアの党首、セルゲイ・ミロノフ氏との関係が深まっているそうで、プリゴジン氏がこの党の支配権を獲得し、クレムリン内の分派化をさらに引き起こす可能性があると報告している。
そんなプリゴジン氏が声明を出した意図について、元時事通信モスクワ支局長で拓殖大学の名越健郎特任教授は「来年3月の大統領選への出馬を意識した声明への可能性はある。プーチン政権はプリゴジン氏の活動を警戒しているが、簡単に手を出せない。プリゴジン氏は右派・愛国勢力の英雄。プーチン政権が弾圧すれば、愛国勢力は反プーチンに動きかねないとし、プリゴジン氏はこのまま政治的活動を加速させていく可能性が高く、そうなればプーチン氏を支える愛国勢力の分裂が始まる可能性がある」と分析をしている。
●「世界一の富豪」がウクライナを救った…プーチン得意の「情報工作」失敗 4/17
なぜロシアによるウクライナへの軍事侵攻は長期化しているのか。ジャーナリストの池上彰さんは「理由のひとつにロシアが得意とする情報工作がうまくいっていないことがある。世界一の富豪であるイーロン・マスクがウクライナに提供した衛星通信回線『スターリンク』が戦況に大きな影響を与えた」という――。(第3回)
なぜロシアは「ハイブリッド戦」を展開しなかったのか
もしロシアが軍事行動に出る場合、戦車などによる軍事行動とともに、サイバー攻撃も駆使する「ハイブリッド戦」を展開すると言われてきました。
ところが今回の戦況の推移を見ると、ロシア軍のサイバー攻撃が有効だったとは、必ずしも言えない状態が続きました。
たとえば2014年にロシアがクリミア半島に電撃的に侵攻して占領した際には、ウクライナ政府のコンピューター網にサイバー攻撃が仕掛けられ、政府の機能がマヒしてしまったケースがありました。
そこで今回も同じような攻撃が仕掛けられるのではないかと危惧されていたのですが、それほどの被害が出ないで済んでいます。2014年以降、アメリカがサイバー攻撃を防ぐ技術や装備をウクライナに提供していたからです。
つまり、ロシアのサイバー攻撃は、アメリカが供与した技術や装備によって防がれたというわけです。実際、どの程度の攻撃が行われたのか。
アメリカがウクライナに提供したもの
たとえばマイクロソフトは2022年4月27日に、ロシアが行ったサイバー攻撃に関するレポートを出しています。
そのレポートによれば、ロシアは実際の侵攻前から、積極的にウクライナのインフラに対するサイバー攻撃を加えていました。わかっているだけで実に237回の攻撃を行い、そのうち約40件はウクライナの数百のシステムファイルを破壊・抹消したと報告されています。
さらにロシアは原発などの発電所、空港などにサイバー攻撃を加え、その直後にミサイルなどの実際の攻撃を加えていたこともわかっています。おそらくこれは、サイバー攻撃だけではインフラ機能を破壊しきれなかったので、実際の火力による攻撃、つまり物理的な破壊に切り替えたのでしょう。
2014年とは違い、ウクライナがロシアのサイバー攻撃を防御できたのは、アメリカが提供した「相応の備え」があったからこそです。
アメリカは、2021年の10月から11月にかけて、陸軍のサイバー部隊やアメリカ政府が業務委託した民間企業の社員をウクライナに派遣し、ウクライナ政府のコンピューターシステム自体にコンピューターウイルスが忍び込んでいないかチェックしました。
その結果、鉄道システムに「ワイパー」と呼ばれるウイルスが潜んでいるのを発見、駆除しています。「ワイパー」は、普段はじっと潜んでいるだけですが、外部から指示を受けると突然作動し、システムを破壊するウイルスです。ロシアがウクライナに侵攻した際、大勢のウクライナ国民が鉄道で避難しました。
もしワイパーの存在に事前に気づかなければ、鉄道網は大混乱に陥っていたことでしょう。
最も役に立った機器
今回、ロシアのウクライナ侵攻で、ウクライナにとって極めて役立ったのは、アメリカのスペースXの最高経営責任者のイーロン・マスク氏が提供した「スターリンク」でしょう。
「スターリンク」は、2000基を超える小型の通信衛星を低い軌道に乗せて地球を周回させています。この衛星を使うと、ウクライナのどこにいても通信が途切れることはありません。
ロシア軍がウクライナに侵攻し、携帯電話の中継基地などを破壊したため、通信が難しくなりました。そこでウクライナの副首相がツイッター上でマスク氏に助けを求めると、いち早く通信が可能になるようにスターリンクの機器5000基以上が寄付されたというのです。
これにより、ウクライナ軍はどこにいても連絡が取れ、戦闘に大きく貢献しました。実際の戦闘と同じくらい重要なのが情報です。侵攻開始当初から、ロシアは「ゼレンスキーは首都を捨てて逃げだした。国民を見捨てた」という偽情報をSNSやメディアによって拡散してきました。
こうしたロシアの情報工作、世論や決定権者に対する影響力工作はソ連時代からの「得意技」で、KGB仕込みの工作戦術を、インターネットと組み合わせることで磨き上げてきました。
ウクライナ戦争においても当然、ロシア側の言い分を客観情報のように装って流したり、ウクライナの言い分を否定するフェイク画像をネット上で拡散したりするなどの情報戦を展開しています。
もしスターリンクがなければ…
ロシアの情報戦は、ウクライナの人々だけではなく、NATO諸国の国民はもちろん、日本や、いわゆる西側諸国全体をターゲットとしているのです。もしスターリンクがなく、ウクライナ発の情報が国民に届かなければ、ウクライナ国民は戦意を喪失していたか、ゼレンスキーを敵視するようになっていたかもしれません。あるいは周辺国も、ウクライナへの支援を打ち切っていた可能性があります。
しかしゼレンスキーは、「私は首都にいる」と他の閣僚と一緒にスマートフォンを使って「生中継」し、ウクライナ国民だけではなく、ウクライナを支援する各国の人々を安心させました。
ロシアの偽情報を自らの情報によって打ち消すという、ウクライナ戦争の情報戦を象徴するような場面でした。ゼレンスキー大統領による日々の発表が、途絶えることなく国民に、あるいは全世界に届いたのは、スターリンクの働きがあったからなのです。
さらに2022年3月にゼレンスキーが降伏を呼び掛ける偽の動画が、ロシアのSNSで拡散されるという出来事もありました。実際にゼレンスキーが喋っているかのような、一見しただけでは見分けのつかない動画です。こうした動画や画像は「ディープフェイク」と呼ばれ、新たな戦争の武器になるだろうとかねて指摘されてきました。
新しい戦争の形
「ゼレンスキー降伏勧告動画」は、誰が作ったのか明らかになっていませんが、当然ながらロシアの関与が疑われています。これまでにも、オバマ大統領やトランプ大統領が実際には言ってもいないセリフを話しているかのような偽動画が作成されてきましたが、まさにこのゼレンスキー動画は、ディープフェイクが「実戦投入」された事例となりました。
ただ、これもゼレンスキー自身が「偽物だ」と発信したことで事なきを得ました。もしこうした発信がなければ、戦況が大きく変わっていた可能性さえあります。
さらには、ウクライナの人々が地下壕(ごう)や地下鉄に避難を余儀なくされている実態、自分の部屋から爆音が聞こえる動画などを、自分のスマートフォンから発信したことも、国際世論に対する強いアピールになりました。
戦時の情報戦は、インターネットやスマートフォンによって、個人個人が発信者となり、さらには工作のターゲットにもなるということを、このウクライナ戦争はまざまざと見せつけたのです。
マイクロソフトが発表した「教訓」
マイクロソフトは2022年6月、「ウクライナの防衛 サイバー戦争の初期の教訓」というレポートを発表しています。ここでは「各国は最新テクノロジを駆使して戦争を行い、戦争そのものがテクノロジの革新を加速する」としたうえで、ロシア対ウクライナのサイバー空間の戦いから得られた結論を示しています。
レポートでは4つのポイントを取り上げています。
第1に、先にも述べた「ワイパー」攻撃のような、事前に仕込まれた脅威を見つけることの重要性。
第2に、肉眼で見えないサイバー上の脅威に対する防御を、AIなどを駆使して迅速に行うことの必要性。
第3に、ウクライナ以外の同盟国の政府を標的としたサイバー上の攻撃やスパイ活動に対する警戒。
そして第4に、サイバーを介したネットワーク、システムの破壊などの攻撃や情報窃取だけでなく、情報戦・影響力工作に留意することを挙げています。
国境もなく、目に見えない状態で日常的に行われているサイバー空間でのつばぜり合い。実際の戦地からは遠く離れている日本も、サイバー戦争については全く他人事ではありません。
ロシアが「ワクチン脅威論」を流布したワケ
特に4つ目の影響力工作には注目する必要があります。
マイクロソフトの分析によれば、開戦後にロシアは自国を有利にするためのプロパガンダ情報を拡散し、その拡散度合いは開戦前と比べてウクライナで216%、アメリカで82%拡大した、と報告しています。
しかも直接戦争にかかわる話題だけではなく、ロシアが「ワクチン脅威論」を流布し、他国の国民に自国政府に対する不信感を植え付けようとしていたことも指摘されています。目に見えないサイバー空間で、実際に戦争を行っているわけではない国に対しても、日常的に攻撃が行われている実態――。
ハイブリッド戦の時代は、軍事手段と非軍事手段の区別だけでなく、戦時と有事、さらには戦争当事国とそうでない国の境目をなくすものであり、攻撃対象も、かつてのスパイが工作対象とした政府や軍の要人、メディア関係者などに限らず、「一般市民」までも巻き込むものであることに留意しなければならない時代なのです。
ロシアのスパイが行っていたこと
一方で、ウクライナ国内ではロシアのスパイの摘発に追われました。2022年7月には検事総長とウクライナの「保安局」の長官が解任されています。両氏が管轄する機関で60人以上がロシアに協力した疑いが出たため、その責任を取らされたのです。
解任された2人はいずれもゼレンスキー大統領の側近でした。ウクライナ政府にとっては大きな痛手でした。ゼレンスキー大統領は、国民向けのビデオ演説で、「国家反逆」などの疑いで、650件を超える捜査が進められていると説明しています。
保安局とはウクライナの情報機関。ソ連時代にはKGBでした。一方、ロシアの情報機関のFSBも、もともとはソ連のKGBです。いわば仲間同士でした。
ウクライナが独立を果たした後も、ロシアのスパイだった局員が多数保安局の中に潜伏していたということなのです。熾烈(しれつ)なスパイ合戦の一端が見えました。
当初アメリカは、自らが掴んだロシアの軍事情報について、ウクライナに速報することをためらっていました。情報を加工しないでウクライナ側に伝えると、ウクライナ政府内に潜んでいるロシアのスパイが内容をロシアに伝えることで、ロシア内のアメリカの情報源が暴露されてしまうことを恐れたからです。
ウクライナ国内でロシアのスパイ網が摘発されたことで、アメリカはロシアの軍事情報を速報するようになりました。ロシアによるウクライナ侵攻でも、このようにスパイ活動が展開されていました。
スパイ活動は、時として大きく報道されることがありますが、普段は目にすることがないものです。でも、スパイ活動によって世界史が大きく書き替えられたこともあるのです。
●「そこまでは手が回らない」 旧ソ連の国々の紛争にはプーチンもお手上げ 4/17
旧ソ連のアルメニアと隣国アゼルバイジャン間の係争地ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で4月11日、両国軍の兵士が発砲し、双方に7人の死者が出る事態となった。
今回の衝突は、2020年に起きた6週間のナゴルノカラバフ紛争の延長線上にある。この紛争はロシアの仲介で停戦に至ったが、火種が全て取り除かれたわけではない。
衝突に先立つ7日にはアルメニアのパシニャン首相がロシアのプーチン大統領と電話会談し、ナゴルノカラバフの状況について協議。
双方で停戦合意を履行することの重要性を確認し合ったとされるが、その直後にアルメニア側に通じる唯一の補給路であるラチン回廊で両軍が衝突した。
ロシアはこれまで、旧ソ連構成国であるアルメニアとアゼルバイジャンに影響力を及ぼそうとしてきたが、ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、この2カ国の紛争にまで手が回らないとの見方もある。
プーチンにとっては新たな頭痛の種かもしれない。
●北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない 4/17
ロシア海軍がアジア太平洋地域で軍事・安全保障任務を遂行するためにある太平洋艦隊は、他国から脅威とみなされるには「戦闘力」不足の可能性が高いと、米シンクタンクが指摘した。
アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)は、4月14日にウクライナ戦争に関する最新の分析を発表。ロシア軍が太平洋艦隊の抜き打ち検査の一環としてミサイル発射と魚雷のテストを実施したことについてコメントした。
ロシア政府は目前に迫った5月のG7サミットにおいて日本のさらなるウクライナ支援を抑止する材料として、太平洋艦隊の戦闘点検で威嚇しようとしたのだろう、とISWは述べている。
ドイツのキール世界経済研究所が4月4日に発表したデータによると、この戦争が始まってから、日本がウクライナに提供した援助の総額は、2月24日の時点で56億6000万ユーロ(62億ドル)に達している。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は14日、今回の抜き打ち検査の目的は 「海洋における敵の攻撃を撃退するために、軍隊の能力を高めることだ」と、国営テレビで発表した。
この検査は「あらゆる戦略的方向で任務を遂行するための軍司令部や各部隊の状態を評価し、準備態勢を高めること」をめざすものだ、とショイグは述べ、それには千島列島南部とサハリン島に上陸する敵を撃退する能力も含まれる、と付け加えた。
対ウクライナ追加支援を警戒
千島列島の国後、択捉、色丹、歯舞の4島は、第二次世界大戦の終結時にソ連が占領し、自国領に「編入」した島々だ。日本はこの4島を日本固有の「北方領土」と主張しており、この問題で日露関係は何十年にもわたって緊張している。第二次大戦を正式に終結させる平和条約が日露間で締結されなかったのは、日本が領有権を主張し、ロシアが占領している島々をめぐる紛争が主な理由となっている。
この4島は日本の北海道とロシアのカムチャッカ半島の間に位置するため、多くの軍事的、政治的な利点がある。
5月19日から21日にかけて開催されるG7サミットで議長を務める予定の岸田文雄首相は、3月にウクライナの首都キーウをサプライズ訪問。議長国を務める日本として「ウクライナ侵略への対応を主導する決意を示すことができた」と語った。
「ロシアの東部を管轄する東部軍管区(EMD)は最近、日本の千島列島の北に位置する幌筵島(パラムシル島)に、ロシアが開発した沿岸防衛用地対艦ミサイルシステムの砲台を配備した。これは日本がウクライナへの追加支援を行うことに対する警告であろうと当研究所は評価した」とISWは報告している。
ISWは、広島で開催されるG7で日本がウクライナへの支援を増やさないように、ロシアは北太平洋で「軍事態勢」をとり、日本の鼻先で軍備増強をしてみせようとしている可能性が高いと述べた。
だがISWの評価によれば、ロシア軍は「現時点で日本を脅かす立場にない」という。そして、太平洋艦隊の第40海軍歩兵旅団と第155海軍歩兵旅団の部隊が、昨年末と今年初めにウクライナ東部ドネツク州のヴフレダール付近の戦闘で、大きな損害を被ったことを指摘した。
「太平洋艦隊は、太平洋地域におけるロシアのパワー・プロジェクション(戦力投射)能力に必要な戦闘力が不足しているようだ。そうであれば、日本にとっての真の脅威となるような姿勢を見せたり、対等な軍事大国であることを中国に確信させたりすることは難しい」と、ISWは主張している。
●G7外相会合 ウクライナ情勢 ロシアに即時無条件の軍撤退求める  4/17
G7=主要7か国の外相会合は2日目を迎え、ウクライナ情勢をめぐって、ロシアに即時・無条件で軍の撤退を求めるとともに、中国や中東の国々を念頭に、ロシアが「第三国」を介して制裁を回避し、武器提供を受けることを防ぐため、連携して対処することで一致しました。議長を務める林外務大臣は、ロシアによるウクライナ侵攻によって国際社会が歴史の転換期を迎える中、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くG7の決意を世界に示したいと強調しました。
長野県軽井沢町で開かれているG7外相会合は、2日目の17日にウクライナ情勢をめぐっておよそ1時間40分、意見を交わしました。
この中で、林外務大臣は、ロシアによる侵攻が長期化する中、G7をはじめ同志国が結束を維持するとともに、中間的な立場をとる国が多い「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国との連携強化が重要だと指摘しました。
その上で、日本がこれまでに総額76億ドルのウクライナなどへの支援を表明していることを説明し、プーチン大統領が隣国ベラルーシに核兵器を配備するとしたことを非難しました。
そして、各外相は結束してロシア制裁とウクライナ支援を継続していくことを確認し、ロシアに対しすべての軍を即時・無条件で撤退させるよう求めていくことで一致しました。
さらに、ロシアによる核の脅しは受け入れないという認識を改めて共有し、中国や中東の国々を念頭にロシアが「第三国」を介して制裁を回避し、武器提供を受けることを防ぐため、連携して対処することで一致しました。
林外相 “法の支配に基づく国際秩序守り抜く決意示す”
G7外相会合の17日午前中の最初のセッションでは、16日夜に続き、インド太平洋地域の情勢をめぐって、およそ1時間意見を交わしました。冒頭、議長を務める林外務大臣は「国際社会が歴史の転換期を迎える中、われわれはロシアによるウクライナ侵略や核の威嚇など、力による一方的な現状変更を許さない。法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7の強い決意を世界に示したい」と強調しました。また「『グローバル・サウス』と呼ばれる新興国や途上国が直面するさまざまな課題に、G7としてともに取り組む用意がある」と述べました。そして、セッションではG7としてインドとの協力をさらに進め、ASEAN=東南アジア諸国連合、それに太平洋の島しょ国への関与を強化していくことで一致しました。
“エネルギー安定供給や食料安全保障” 緊密連携で一致
G7外相会合は、昼食をともにする「ワーキングランチ」で、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国を念頭にした支援の在り方などをめぐって意見を交わしました。この中で、林外務大臣はG7が地球規模の課題で積極的に貢献することで、「グローバル・サウス」の国々などへの関与を強化することが議長国を務める日本の優先課題の一つだという認識を示しました。そのうえで、「それぞれの国の個別の状況に配慮し、価値観を押しつけるのではなく、法の支配に基づく国際秩序の意義を示していくことが重要だ」と主張しました。そして、各外相は、ウクライナ情勢の影響を踏まえ、エネルギーの安定供給や食料安全保障をめぐる対応で緊密に連携することで一致しました。また、「グローバル・サウス」の代表格とされ、ことし、G20=主要20か国の議長国を務めるインドとの協力をさらに強化することを確認しました。
イランを含む中東情勢めぐり意見交換
G7=主要7か国の外相会合は、17日午後、イランを含む中東情勢をめぐり1時間余り意見を交わしました。この中で、林外務大臣はイランの核開発について、先月、イランがIAEA=国際原子力機関の調査に積極的に協力するとした合意を無条件で実施することが不可欠だという考えを示しました。そして、G7として、引き続き、核不拡散への義務を果たすよう求めていくことで一致しました。また、ロシアがイラン製の無人機でウクライナを攻撃していると指摘されていることを踏まえ、イランに対しロシア軍への支援をやめるよう求めることを確認しました。
“アフガニスタンの人権や自由の制限に強く反対”
G7=主要7か国の外相会合は、17日夕方、アフガニスタンと中央アジアをめぐり、およそ1時間、意見を交わしました。この中で林外務大臣は、アフガニスタンの人権や人道状況の悪化について深刻な懸念を示し、イスラム主義勢力 タリバンが、女性の権利の制限を強めていることなどを非難しました。そのうえで、G7として人権や自由の制限に強く反対し、アフガニスタンがテロの温床となるのを防いでいくことなどを確認しました。また、中国やロシアと隣接する中央アジアの5か国をめぐり、対話を通じて、それぞれの国が抱える問題への対応を支援していくことで一致しました。
日英外相 「日英円滑化協定」早期発効目指し緊密連携
G7=主要7か国の外相会合に合わせて、林外務大臣は、17日午後、イギリスのクレバリー外相とおよそ30分間、会談しました。この中でクレバリー外相は15日、岸田総理大臣の演説先で発生した爆発事件についてお見舞いのことばを伝えました。また、両外相は自衛隊とイギリス軍が共同訓練を行う際などの対応を定める「日英円滑化協定」の早期発効を目指し、緊密に連携していくことを確認しました。そして、ウクライナ情勢や中国を含めた東アジア情勢をめぐり、引き続き連携して対応することで一致しました。
林外相「核兵器による威嚇を断固拒否」
G7の外相会合の2日目の議論を終え、林外務大臣は記者団に対し「G7の外相間で胸襟を開いて議論を行うことができて手応えを感じている。国際社会は歴史的な転換期を迎えており、こうした中で、力による一方的な現状変更の試みや、ロシアによるウクライナ侵略、核兵器による威嚇を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くG7の強い意志を力強く世界に示したい」と述べました。また「『グローバル・サウス』と呼ばれる新興国・途上国がさまざまな課題に直面する中、G7としても、ともに課題に取り組みたい」と述べました。
林外相 仏外相から台湾海峡めぐり説明受ける
フランスのマクロン大統領が、台湾情勢をめぐり、ヨーロッパは、米中の対立から距離を置くべきだという考えを示し、波紋が広がっていることについて、林外務大臣は、G7外相会合が開かれている長野県軽井沢町で記者団に対し、フランスのコロナ外相から説明を受けたことを明らかにしました。この中で林大臣は「コロナ外相から、フランスは現状の尊重や台湾海峡の平和と安定の維持に深い思いを持っており、力による一方的な現状変更に反対だ。マクロン大統領からも、このようなメッセージを習近平国家主席に伝えたという旨の説明があった」と述べました。そして、「G7外相間で台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認するとともに、問題の平和的解決を求めることで完全に一致することができた」と述べました。
中国「台湾問題 いかなる外部の干渉も容認せず」
G7=主要7か国の外相会合で、中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みに反対していくことで一致するとともに、台湾海峡の平和と安定の重要性が改めて確認されたことについて、中国外務省の汪文斌報道官は17日の記者会見で「台湾問題は、中国の内政であり、いかなる外部の干渉も容認しないということを関係国は認識すべきだ」とけん制しました。そのうえで「台湾独立分子が外部勢力の黙認と支持のもとで手段を選ばず分裂活動を進めていることこそが台湾海峡の現状を破壊し、情勢に緊張をもたらす根本的な原因となっている。台湾海峡情勢の安定と、地域の平和を守るには『1つの中国』の原則をきし鮮明に堅持し、台湾独立活動に反対すべきだ」と強調しました。

 

●中国国防相、米国の制裁にもロシア訪問しプーチン大統領とサプライズ会談 4/18
米政府の制裁対象である李尚福国防相が就任後初の訪問先としてロシアを選び、プーチン大統領と会談した。中国の習近平国家主席のロシア国賓訪問後、軍事的にも中ロが緊密になっているという観測が流れている。
16日(現地時間)ロイター通信などによると、李氏は同日、ロシアの首都モスクワでプーチン氏と会談し、「中ロ関係は、冷戦時代の軍事・政治的連合体制を越えている」とし、「両国の協力が地域の安全保障の強化にも役立っている」と述べた。また、「軍事および軍事技術分野で両国の協力が非常に活発で成果も豊富だ」と強調した。プーチン氏は、「両国が合同訓練など協力を持続的に強化することを望む」と話したという。
ロシアのショイグ国防長官の招待でロシアに到着した李氏とプーチン氏の会談計画は事前に伝えられず、異例だと指摘されている。
特に、李氏は米国の制裁を受けていることから、さらに注目を集めている。李氏は中国人民解放軍(PLA)の武器購入及び開発担当である中央軍事委員会装備開発部(EDD)部長だった2018年、米政府の制裁リストに含まれた。中国が当時、ロシアの戦闘機スホーイ(Su)-35や防空ミサイルシステムS-400などを購入したが、これがロシア、北朝鮮、イランを対象に制定された「米国への敵対者に対する制裁法(CAATSA)」に違反したという理由だった。制裁法は、ロシアが2014年にウクライナのクリミア半島を一方的に併合し、16年の米大統領選挙に介入したとし、ロシア企業と取引した第3国に制裁を加えた。これにより、李氏は米国ビザの発給が凍結され、米国管轄権内の金融システムの利用や資産保有などが禁止された。
にもかかわらず習氏は李氏をPLA最高階級の上将に昇進させ、先月、国防相兼国務委員に昇格させて重用した。中国共産党系「環球時報」の英語版、グローバル・タイムズは17日、「米国が本当に中国との国防および軍事交流の再開を望むなら、李氏に対する制裁を撤回し、中国封鎖戦略を止めなければならない」と主張した。 
●中露の軍事連携強化を確認…李国防相、プーチン氏と会談 4/18
中国の 李尚福リーシャンフー 国務委員兼国防相が16日、ロシアを訪問し、モスクワの大統領府でプーチン大統領と会談した。軍事面での連携を強化していく方針を確認した。
露大統領府の発表によると、プーチン氏は会談で「訪問は非常に生産的なものになる」と歓迎。両国が「情報交換や軍事技術協力、極東や欧州などでの合同演習」を進め、連携を強化しているとも指摘し、協力拡大に期待を示した。
李氏は3月の国防相就任後初の外遊となった。李氏は訪露を選んだ理由について「両国関係の特別さと戦略的重要性を強調するためだ」と説明した。中国国防省によると、李氏は「中露の軍事面での相互信頼は日増しに強固になっている」と言及したうえ、「さらに密接に中露両軍の戦略的な意思疎通を進めたい」と呼びかけた。
会談にはセルゲイ・ショイグ露国防相も同席した。露側は会談でウクライナ侵略の現況について説明し、中国側に武器供与を働きかけた可能性がある。
●ロシア、反体制活動家に禁固25年…実刑判決の活動家「見せしめ裁判だ」  4/18
ロシアのウクライナ侵攻を批判したなどとして起訴されていた、ロシアの反体制派の活動家に、禁固25年の実刑判決が言い渡された。
この裁判は、ロシアの反体制派の活動家でジャーナリストのウラジーミル・カラ・ムルザ氏が2022年3月、アメリカ・アリゾナ州議会で、ロシアのウクライナ侵攻を批判する演説をし、国家反逆罪など3つの罪に問われていた。
モスクワの裁判所は17日、カラ・ムルザ氏に禁固25年の実刑判決を言い渡した。
弁護士によると、カラ・ムルザ氏は判決後、「禁固25年は最高点だ。私が市民や愛国者、政治活動家として信じたことを証明する、最高の点数だ」と述べ、自身のプーチン政権批判が正しかったことで、最高刑が言い渡されたとの立場を示した。
カラ・ムルザ氏は今月の最終弁論で「独裁者スターリンによる”見せしめ裁判”と同じだ」と批判し、無罪を求めなかった。
裁判所にはアメリカの駐ロシア大使が訪れ、判決後、「ロシアを覆っている弾圧の新たな凶悪な兆候だ。我々は彼の即時釈放を要求する」と述べた。
ロシア外務省は、アメリカの外務省などに対し、内政干渉だとして、ロシアからの外交官の追放の可能性にも言及して批判している。
カラ・ムルザ氏は、プーチン大統領を批判していて、2015年と17年に2回、何者かに毒物を盛られている。
●プーチンとルカシェンコ 腐れ縁でも核兵器については…… 4/18
今年に入ってから、ベラルーシの独裁者ルカシェンコ氏による外交攻勢が目立っている。なお、欧米諸国はもはや同氏を正式な国家指導者とは認めておらず、本稿でも「ルカシェンコ大統領」という表現は用いない。
改めて、今年に入ってからのルカシェンコの外国行脚をまとめておこう。まず、同氏は1月30日〜2月1日、アフリカ南部のジンバブエを訪問。そして、その足で中東に向かい、2月2〜4日にアラブ首長国連邦(UAE)を訪れている。
2月28日〜3月2日には、国賓として中国を訪問。間髪を入れず、3月12〜13日に今後はイランを公式訪問した。さらに、4月5〜6日にはロシアを訪問し、プーチン・ロシア大統領との首脳会談に臨んだ。
もっとも、一連の外遊の重要度には、かなりの開きがある。最初の2つ、ジンバブエとUAEは、物見遊山の域を出なかった。それに対し、中国、イラン、そしてロシアへの訪問は、体制の存亡にもかかわるものだった。
そして、ルカシェンコの不気味な動きは、ロシア・ウクライナ戦争、ロシアと欧米の敵対関係との関連からも注目を集めた。
ルカシェンコ訪中の際には、中国がウクライナ危機の和平原則を発表した直後だっただけに、「ルカシェンコが露中間のメッセンジャー役を務めるのではないか」といった見方も広がった。また、ルカシェンコがイランに出向いた時には、「イランからロシアへの武器供給の交渉を仲介しに行ったのではないか」との憶測も浮上した。
また、最近のロシアによる動きの中でも、国際社会を騒がせたのが、3月25日にプーチン大統領が、ベラルーシに戦術核兵器を配備することで同国と合意したと明らかにしたことであった。4月上旬のルカシェンコ訪露は、その衝撃冷めやらぬ中で行われたため、「核配備に向けた詰めの協議か?」との警戒感が広がった。
しかし、ルカシェンコとプーチンの関係性を長年ウォッチしてきた筆者などは、だいぶ捉え方が異なる。両者が一枚岩という前提で考えてはならないと思うのだ。
ルカシェンコの夢はクレムリン玉座だった
荒唐無稽な話ながら、1994年にベラルーシ大統領に就任したルカシェンコは、ロシアと統一国家を築き、最終的に自分がクレムリンの玉座に収まることを夢見ていた。当時のロシアのエリツィン政権にとっても、常にロシアになびいてくるベラルーシの存在は都合が良く、場合によってはエリツィン政権の延命工作に使えるかもしれないという計算も働いた。新国家を作った体にしてエリツィンの新たな任期を開始するという案である。両者の思惑が交錯し、ロシア・ベラルーシ間で「連合国家」を創設する旨の条約が結ばれることになった。
しかし、1999年8月にプーチンが首相に就任すると、状況が一変する。プーチンがエリツィンの頼りがいのある後継者として浮上することで、政権延命云々は必要なくなり、ロシアの国家体制を脅かしかねない大胆な統合案は無用の長物となった。
ロシア側は、他ならぬプーチン首相が陣頭指揮を執り、条約案を骨抜きにした。結局、同年12月にエリツィン・ルカシェンコ間で条約は調印されたものの、中身はすっかり空文の羅列と化していた。
この条約が成立した直後、99年の大晦日にエリツィンは電撃辞任し、ロシアの最高権力はプーチンに移行した。プーチンは2000年5月に正式に大統領に就任し、以降本格政権を築いていく。ルカシェンコがクレムリンの玉座に収まるなど、夢のまた夢となった。
これを境に、ルカシェンコはクレムリンのトップに立つ野望を封印し、ベラルーシという一国一城の主として生きることを決意する。ただし、資源もない小国のベラルーシが、自力で食っていくのは至難である。
そこで、ルカシェンコはロシアの内と外を都合良く使い分ける戦法を編み出した。ロシアがベラルーシに供給する天然ガスや石油の価格については、「わが国は統合パートナーだ」として、ロシア国内と同じ格安水準を要求する。しかし、ロシア側が共通ルール受け入れをベラルーシに迫ると、「それはわが国の主権事項だ」として拒絶する。絵に描いたようなダブルスタンダードだ。
こうした路線はロシア側を苛立たせ、両国間でしばしば波風が立った。「クレムリンがルカシェンコを引きずり下ろし、より従順な後継者にすげ替えるのではないか」といった憶測も、しばしば語られた。
しかし、「欧州最後の独裁者」の異名を持つルカシェンコは、ベラルーシが欧米に接近しない担保になる。ロシア側は、狡猾に立ち回るルカシェンコを忌々しく思いながらも、安価なエネルギー供給などを通じ、年間100億ドルとも言われる援助をベラルーシに提供して、ルカシェンコ体制を扶養してきたのである。
甦るゾンビ条約
ところが、2018年暮れになって、ロシア側は突如として、連合国家創設条約の最大限の履行をベラルーシに求めるようになる。上述のとおり、1999年の条約はプーチンが主導して骨抜きにした。確かに、将来的に両国が合意すれば、連合国家の憲法、議会、単一通貨等を導入する可能性があるとされてはいたが、現実にはその機は熟していなかった。にもかかわらず、ロシアが唐突に「最大限の統合に応じなければ、もうベラルーシを支援しない」と迫ったため、これはロシアへの編入をベラルーシに迫る「最後通牒」だとして物議を醸した。
この背景にはやはり、14年のウクライナ政変を受け、ロシアが自らの勢力圏維持に危機感を抱いたことがあっただろう。そこで、20年前にはあえて死産とした連合国家に、新たに命を吹き込み、ベラルーシをロシア圏に固定するために活用しようとしたものと見られる。
統合を渋るベラルーシ側に、ロシアからの支援が細ったこともあり、20年8月の大統領選でルカシェンコは大苦戦した。「ルカシェンコが8割得票し圧勝」とする現実離れした公式発表に憤ったベラルーシ国民は、脱ルカシェンコを掲げて立ち上がった。1994年の政権発足以来、最大の窮地に陥ったルカシェンコは、プーチンから物心両面の支援を取り付けて、どうにかピンチを切り抜けた。
ただ、これですっかりロシアの言いなりになり、要求されるがまま全面的な国家統合に応じるかと思われたが、そこはやはり「食えない男」ルカシェンコであった。その後もロシアからの統合要求を、のらりくらりとはぐらかしている。
また、ロシアも22年2月にウクライナへの軍事侵攻を開始したため、目下のところベラルーシに対し、経済・国家統合よりも、軍事面での協力を優先的に求めている模様である。それでも、本年2月には、クレムリンのベラルーシ併合計画なる秘密文書が流出し、ロシアは中長期的な構えながらやはりベラルーシを飲み込もうとしているとの観測が再び強まった。
プーチンのメッセンジャーではない
こういった次第であり、ルカシェンコとプーチンはもう20年以上も、狐と狸の化かし合いのようなことを続けてきたのである。お互いのことを信用していないし、顔も見たくないのが本音であろう。それでも、自分の権力を守るために、今は我慢してこの男と付き合うしかないと割り切り、腐れ縁を続けているのだ。
そう考えると、「ルカシェンコがプーチンのメッセンジャーとして中国に行く」とか、「プーチンがルカシェンコを通じてイランに武器の追加供給を求める」などといった見方が、いかにピント外れであるかが理解されよう。プーチンが中国やイランに伝えたいことがあるなら、自国の外交ルートを使えばいいわけで、ルカシェンコを介したりすれば話がこじれるだけである。
それではルカシェンコ訪中の主眼はどこにあったのか? これに関しては、普通に中国との二国間関係の発展、とりわけ中国からの投資呼び込みが主目的であったと考えられる。実際、ルカシェンコは習近平国家主席と、中国の一帯一路政策に沿って両国の経済協力を深めていくことを確認し合った。
もっとも、中国にとりヨーロッパをにらんだ橋頭保としてのベラルーシの利用価値は、急激に低下している。代表例を挙げれば、中国からカザフスタン〜ロシア〜ベラルーシを通って欧州市場に至る「中欧班列」というコンテナ列車がある。近年順調な拡大を遂げ、一帯一路の成功例とされることも多かった。ところが、欧州連合(EU)とロシア・ベラルーシの関係が悪化したことで、22年には鉄道による中国〜欧州間のコンテナ輸送量も大きく落ち込んだ。
また、ベラルーシの首都ミンスクの郊外には、中国資本によって建設された工業団地「グレートストーン」がある。ここも一帯一路の一環とされ、中国企業が当地で現地生産を行い、EU市場に輸出する青写真だった。しかし、EUがベラルーシに厳しい制裁を導入した今となっては、そんなビジネスモデルは成り立たない。
他方、ルカシェンコのイラン訪問でも、「23〜26年の全面的協力ロードマップ」に調印するなど、やはり中心となったのは二国間の経済協力であった。そうした中、イラン側が制裁をやり過ごす方法をベラルーシに伝授すると申し出て、ルカシェンコが身を乗り出す一幕があった。
核のボタンの行方
3月25日にプーチン大統領が表明したベラルーシへの戦術核配備の決定も、ルカシェンコとの容易ならざる関係性を考慮に入れると、違う景色が見えてくる。
筆者は、当然のことながら、プーチンが言っているのは、ベラルーシ領に展開するロシア空軍機に戦術核を配備するという意味なのだろうと理解した。これならば、グレーゾーンではあるが、核不拡散を遵守していると強弁できる。ところが、ルカシェンコの言動からは、ベラルーシ軍に戦術核を導入し、自らが核のボタンを握る気満々であることが見て取れたのである。
筆者が最も信頼するベラルーシ人政治学者であるV.カルバレヴィチ氏も、最近発表したコラムの中で、そのあたりの矛盾について論じている。プーチンが3月25日に「ベラルーシに核兵器を引き渡すわけではなく、ロシアの核兵器をベラルーシ領に配備する」と発言したのに対し、ルカシェンコは3月31日の教書演説で「これはわが国の核兵器であり、わが国の領内に置かれた兵器はすべてわが国が管理する」と述べ、根本的な隔たりが露呈した。
おそらく、3月25日にプーチンが配備方針を表明した時点では、ルカシェンコには事前の説明がなかったのではないか。こうした対立ゆえ、4月5日の首脳会談は紛糾し、深夜まで6時間も続いたのだろうと、カルバレヴィチ氏は舞台裏を推理する。
率直に私見を申し上げれば、プーチンがルカシェンコのような気の許せない相手に核のボタンを委ねるなど、ありえないことである。そんなことをしたら、事の成り行き次第では、ルカシェンコが核を使ってロシアを恫喝するような事態も、起きない保証はない。
国際社会を騒がせたプーチンによるベラルーシへの戦術核配備発言であったが、ルカシェンコ側との調整が難航し、実現しない可能性もありそうである。
●ウクライナの農産物を輸入禁止 ポーランドなど自国農家保護で  4/18
ウクライナの隣国のポーランドなど3か国は、ウクライナ産の農産物の輸入を禁止すると相次いで発表しました。3か国を経由してアフリカなどへ運ばれるはずの農産物が国内で流通した結果、打撃を受けている自国の農家を守るためだとしていますが、ウクライナは輸入禁止の見直しを求めていて、影響が懸念されています。
ウクライナと国境を接する国々では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、アフリカなどへ海上で輸送できなくなったウクライナ産の農産物が、ヨーロッパの別の港を使うための経由地として陸路で運び込まれています。
しかし、貨物列車やトラックといった輸送能力などに限界があり、ウクライナ産の農産物がそれぞれの国内で流通した結果、価格の安さから自国の農家が打撃を受ける事態となっていて、抗議活動も起きています。
このうち、ポーランドとハンガリーは今月15日、自国の農家を守るためだとして、ウクライナ産の農産物の輸入を6月30日まで禁止すると発表し、スロバキアも17日、輸入禁止を明らかにしました。
これについて、ウクライナの農業食料省は、隣国の農家の苦境に理解を示す一方、ウクライナの農家の状況はより厳しく解決策を模索したいとして、輸入禁止の見直しを求めています。
また、ウクライナからの農産物の輸出を支援してきたEU=ヨーロッパ連合は17日、ポーランドなどの措置は受け入れられないとして、対応を協議する考えを示しました。
ロシアの軍事侵攻が長期化し、ウクライナ産の農産物の海上輸送が滞る中、隣国の輸入禁止による影響が懸念されています。
●ウクライナ産農産物輸入中断するポーランド…EU、不和が始まった 4/18
欧州連合(EU)加盟国であるポーランドとハンガリーが自国の農産物保護のためウクライナ産農産物輸入を一時的に中断すると発表した。欧州委員会は「容認できない行為」と警告したが、ブルガリアなど他の東欧諸国も同様の措置導入に向けた検討に入った。これまで「ウクライナ支援」を擁護してきたEUの単一隊列が農産物対立を契機に亀裂が入りかねないとの懸念まで提起される。
ロイター通信とフィナンシャル・タイムズなどが16日に伝えたところによると、この日ハンガリー農業省はウクライナ産穀物と油糧種子(ヒマワリやアブラナなど油を絞るための種)など農産物輸入を6月30日まで禁止すると発表した。前日ポーランド農業省は穀物、肉類、卵、乳製品など数十種に達するウクライナ産農食品の輸入を6月末まで一時中断すると明らかにした。
ポーランドは第三国に輸出されるウクライナ産農産物が自国を経由することも遮断した。ポーランドのブダ経済開発技術相は15日、ツイッターに「ポーランド経由の禁止を含め(ウクライナ産農産物)禁輸措置は完全に施行中」と明らかにした。続けてルーマニアもやはり16日にウクライナ産穀物の輸入禁止を考慮していると現地BTA通信に話した。
東欧に貯まるウクライナ産低価格農産物
東欧諸国が相次いでウクライナ産農産物の禁輸措置を施行した理由は、これまで値段が安いウクライナ産農産物が東欧に大挙流入しこの地域の農産品価格急落を引き起こしたためだ。
昨年のロシアのウクライナ侵攻後、黒海航路を通じたウクライナ産の穀物輸出が事実上遮断され、アフリカ・中東への輸出の道が閉ざされると、ウクライナはポーランドとルーマニアなど東欧を経由する陸路を利用して穀物を運送してきた。
当初EUは陸路で入って来たウクライナ産穀物を近隣の港湾に運んで中東とアフリカに再輸出する予定だった。だが東欧に入ってきた穀物はトラックと鉄道など交通インフラが劣悪で港に運送されずそのまま放置された。合わせてEUは域内食糧供給網とウクライナ農家保護を名分にウクライナ産農産物に対し6月30日まで無関税措置を下した。
これに対し安価なウクライナ産農産物が大量に流入した東欧では農産物価格が急落するなど農業市場に大きな打撃が続いた。特に昨年中欧と東欧地域で豊作となり供給過剰が深刻化し、1年前1トン当たり1500ズウォティ(約4万7460円)だったポーランドの穀物相場は最近750ズウォティと半分になった。
国境封鎖、デモ…農民の不満爆発
最近東欧諸国では農民を中心にウクライナ産穀物輸入に反対するデモが相次いでいる。デモ隊はウクライナのトラックが自国に入ってくるのを防ぐためルーマニアとブルガリアの国境に沿ってトラクターで交通と国境検問所を封鎖したりもした。
状況が深刻化すると、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、チェコ、スロバキアなどは先月EUにウクライナ産農産物に対する無関税措置を撤回する緊急措置を出してほしいと書簡を送った。だが欧州委員会はウクライナ産農産物に対する関税免除を1年延長するという方針を明らかにしたまま特別な措置を出していない状態だ。損害を受けた東欧諸国に5630万ユーロ(約82億7616万円)の補助金を提案したが、加盟国の承認手順を踏まなければならない。
ハンガリーのナジ農業相は「ハンガリーとポーランドは意味のあるEUの措置がない状況に適切な行動に出るほかない」と話した。ポーランドのコバルチク農業相は「ウクライナの農産物がポーランドにとどまらず欧州に深く入り込むよう許容するEUの早急な追加措置を促すために今回の禁輸措置が必要だ」と話した。
「農産物対立、ウクライナと東欧不和の兆候」
EUとウクライナは東欧諸国の禁輸措置にただちに反発した。欧州委員会報道官は声明を通じ「EU加盟国の貿易政策はEUの独占権限であり、個別の加盟国の一方的措置は容認できない」と厳重警告した。続けて「(戦争という)厳しい時期にはEU内ですべての決定を調整することが重要だ」と強調した。
ウクライナのソルスキー農務相は16日にハンガリーのナジ農業相と会談し、「一方的な決定は受け入れられない」と反発した。前日はポーランド政府に「ポーランド農民の苦しさは理解するが、ウクライナ農民こそ最も厳しい境遇であることを理解してほしい」と要請した。これに先立ち5日にウクライナのゼレンスキー大統領はポーランドを訪問し農産物紛争を解決すると約束している。
フィナンシャル・タイムズは農産物をめぐるウクライナと東欧諸国間の対立は容易には鎮まらないと予想した。メディアは「ポーランドとスロバキアなど東欧主要国が選挙を控えている状況で、各国の野党は農村の有権者の支持に依存している保守政権を攻撃するため穀物紛争を激化させている」と伝えた。ニューヨーク・タイムズは「農産物対立は今回の戦争でウクライナの最も強力な同盟国のひとつだったポーランドに不和の兆候として広がっている」と伝えた。 
●プーチン大統領 ロシアが「併合宣言」したウクライナ2州を訪問 4/18
ロシア大統領府はプーチン大統領が去年9月に一方的に併合を宣言したウクライナ南部のヘルソン州と東部のルハンシク州を視察したと発表しました。
ロシア大統領府は18日、プーチン大統領がウクライナ南部のヘルソン州と東部のルハンシク州の軍司令部を訪問したと発表しました。
事前に予定されていない急な訪問だったとしています。
ヘルソン州では、プーチン大統領は現地の司令官を務めるテプリンスキー大佐から戦況報告を受けたとしています。
テプリンスキー大佐を巡ってはイギリスの国防省が16日、1月に解任された後、激戦が続いているバフムトへの攻撃を強化するために前線に戻った可能性が高いと報じていました。
プーチン大統領がロシア軍の制圧地域を訪問するのは3月に東部ドネツク州のマリウポリを視察して以来、2回目となります。
●プーチン氏、ヘルソン州など占領地死守の構え…特殊部隊の離脱「9割超」も  4/18
ロシア大統領府は18日、プーチン大統領がウクライナを侵略する露軍が占領している南部ヘルソン州と東部ルハンスク州の司令部を17日に視察したと発表した。ウクライナ軍が目指す大規模な反転攻勢に備え、占領地域を死守する構えを示した。
プーチン氏の両州訪問は、ロシアによる昨秋の一方的な併合後初めて。占領地の訪問は3月中旬、東部ドネツク州マリウポリと、ロシアが2014年に一方的に併合した南部クリミアを訪れて以来だ。
タス通信によると両州にいずれもヘリコプターで入り、車で司令部に移動した。
ヘルソン州の露軍現地司令官は、プーチン氏から占領地域の防衛を命じられたと公開された動画で明かした。プーチン氏は「あなたたちの意見を聞き、情報交換することはとても重要だ」と述べた。露軍はヘルソン州ドニプロ川東岸地域を占領している。
プーチン氏には「戦時指導者」としての存在感をアピールする意図もあったようだ。ウクライナ侵略に戦闘員を派遣し、露国防省と主導権を争う露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏が14日、SNSに声明を発表し、露軍が敗北する可能性に言及したためだ。
今回の視察では、一時解任されていた 空挺くうてい 軍のミハイル・テプリンスキー司令官の復権も確認された。
空挺軍はじめ露軍の精鋭部隊の消耗が激しい中、士気を高める狙いもありそうだ。米紙ワシントン・ポストは14日、インターネット上に流出した米政府の機密文書を基に、特殊部隊スペツナズの一部に関し、兵士の死傷などによる戦線離脱が「90〜95%」に達し、再建には「最長10年を要する」との米側分析を報じた。
●プーチン大統領が前線視察 復活祭を祝いイコンを贈呈 4/18
へルソン州、ウクライナ、4月18日 (AP) ― ロシアのプーチン大統領は4月18日早朝、3月に続いて2度目となる、ウクライナで「特別軍事作戦」を遂行中のロシア軍前線司令部を視察した。
クレムリンが公開したビデオ映像には、ヘリコプターでへルソン州南部のロシア軍戦闘指揮所を訪れ、戦況報告を受けるプーチン大統領の姿が映っている。
プーチン大統領は次に、ヘリコプターで東部ルハンシク州の国家親衛隊の前線本部に移動し、ここでも指揮官から戦況報告を受けた。
どちらの場所でも、同大統領は正教会の復活祭を祝い、それぞれの司令官にイコンを贈呈した。
プーチン大統領は3月には、2カ月に及ぶ激戦の末5月に制圧したアゾフ海に面する港湾都市マリウポリを視察した。
ロシアは昨年9月、ドネツク州とザポリージャ州とともに、へルソン州とルハンシク州のウクライナからの独立を宣言し、一方的にロシアに併合した。
侵略戦争が開始から400日を超える今、ウクライナはロシアに占領されているこれら4州とクリミア半島の奪還を目指して、一大反転攻勢の準備中といわれている。
●プーチン大統領 ウクライナ南部と東部を訪問 地域支配を誇示か  4/18
ロシアのプーチン大統領は、一方的に併合したウクライナ南部のヘルソン州や東部のルハンシク州を軍事侵攻後初めて訪問しました。侵攻を続ける姿勢を示すとともに、ロシア側が掌握する地域の支配を誇示するねらいもあるとみられます。
ロシア大統領府は18日、プーチン大統領が去年9月、一方的に併合したウクライナ南部ヘルソン州を訪問したと発表しました。
プーチン大統領は、軍の作戦司令部でヘルソン州と南部ザポリージャ州の戦況について報告を受けました。
この中では、精鋭の空てい部隊のテプリンスキー司令官の功績をたたえ、プーチン大統領が空てい部隊の役割を重視していることがうかがえます。
またプーチン大統領は、一方的に併合した東部ルハンシク州も訪れ、兵士を激励しました。
国営通信社によりますと、プーチン大統領がヘルソン州やルハンシク州を訪問するのは、ウクライナへの軍事侵攻後、初めてだということです。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は18日、大統領の訪問はいずれも前日の17日に行われたと明らかにしました。
プーチン大統領は、3月も一方的に併合した南部クリミアと東部ドネツク州の要衝マリウポリを訪問し、ウクライナ政府は強く反発しています。
欧米からの軍事支援を受けるウクライナ側が、ロシアに占領された地域の奪還を目指すなかで、プーチン大統領としては、兵士たちを激励するなどして侵攻を続ける姿勢を示すとともに、ロシア側が掌握する地域の支配を誇示するねらいもあるとみられます。
ロシア外相 中南米各国との関係強化しG7に対抗か
ロシアのラブロフ外相は、中南米各国を歴訪し、17日、最初の訪問国ブラジルで、ビエイラ外相やルーラ大統領と会談しました。
外相会談後の記者会見で、ラブロフ外相は経済やエネルギー面などで協力していくと強調し、新興5か国=BRICSを構成するブラジルとの連携を打ち出しました。
また、ルーラ大統領が、ロシアによるウクライナ侵攻の停戦に向けた仲介に意欲を示していることをめぐり、ラブロフ外相は「ブラジルの友人たちは現在の状況の原因を正しく理解し、解決に貢献したいと願っていて、感謝する」と述べ、ブラジルが欧米とは一線を画した立場を示していると謝意を示しました。
一方、欧米側がロシアへの制裁を強化する中、ビエイラ外相は会見で「一方的な制裁は、特に途上国にとって悪影響となる」と述べました。
ラブロフ外相はこの後、ベネズエラやキューバ、ニカラグアも訪問する予定で、その後、今月議長国を務めるニューヨークの国連安全保障理事会の会合に出席する考えを示しています。
G7=主要7か国の外相会合がウクライナへの支援継続を確認し、ロシアに対してすべての軍を即時かつ無条件で撤退させるよう求めていくことで一致する中、ロシアとしては、友好関係にある国々との関係を強化し、対抗したい思惑があるとみられます。
ロシアと中国の国防相が会談 “軍事協力拡大”強調
ロシアのショイグ国防相はモスクワを訪問している中国の李尚福国防相と18日、会談しました。
この中で、ショイグ国防相は「われわれの協調的な取り組みが国際情勢を安定させ、紛争の可能性を減らすことに役立っている。ロシアと中国の軍事協力は拡大していくと確信している」と強調しました。
これに対し、ロシアの国営通信社によりますと、李国防相は「中国とロシアの関係が高いレベルで発展し、戦略的協力を強化する決意を世界に示すため、就任後初めての外国としてロシアを訪問した」と述べたということです。
プーチン大統領も今月16日にクレムリンで李国防相と会談して軍事面での連携が深まっていると強調していて、李国防相は、17日にはモスクワのロシア軍の学校の視察を行っています。
G7=主要7か国の外相会合で、中国の力や威圧による一方的な現状変更の試みを強く反対したり、ウクライナに侵攻するロシアを非難したりするメッセージが打ち出される中、両国は結束を誇示し、対抗する姿勢を示すねらいがあるとみられます。
一方、ウクライナ情勢を巡り、ロシア軍が兵器不足に直面する中、欧米やウクライナは中国がロシアへの兵器の供与などに踏み切らないか警戒を強めています。
●ロシア、軍事演習でG7けん制 日本意識、対中アピールも 4/18
ロシアのプーチン政権は18日、太平洋艦隊(司令部ウラジオストク)の臨戦態勢の緊急点検を続け、最終段階としてミサイル発射演習を開始した。
一連の演習は、北方領土への「敵の上陸」阻止も想定しており、ウクライナを支援する先進7カ国(G7)の議長国である日本を意識し、G7をけん制する狙いもありそうだ。
ペスコフ大統領報道官は17日、「あらゆる軍事演習は国際法を厳守して実施している」と記者団に説明。日本が外交ルートを通じ「北方四島に関するわが国の立場に反する」と抗議したことに反論した。
緊急点検を名目とした演習は、プーチン大統領の命令により14日に始まった。18日の国防省発表によると、日本海では対潜水艦戦を専門とする部隊が射撃訓練を実施。太平洋には核兵器を搭載可能な戦略ミサイル原潜が展開したほか、ベーリング海とオホーツク海の公海上をTU95爆撃機2機が飛行し、ウクライナ侵攻で対立する米国を威嚇した。
16日からは中国の李尚福・国務委員兼国防相がモスクワを訪問。プーチン氏は初日に会談し、中ロの軍事協力は「戦略的関係と信頼を強化している」と強調した。米シンクタンクの戦争研究所は演習について、ウクライナ侵攻で軍事力が低下する中でも「ロシアは中国と対等なパートナーだとアピールしようとした」と指摘した。
演習は18日に長野県軽井沢町で閉幕したG7外相会合の日程とも重なった。戦争研究所は「(プーチン政権が)5月の広島市でのG7首脳会議(サミット)に先立ち、日本にウクライナ支援を思いとどまらせるよう意図した可能性が高い」と分析している。 
●中国に屈服するロシア エネルギーとその先 4/18
ウクライナ侵攻後のロシアは同盟国を欲している。ベラルーシ、エリトリア、ニカラグア、北朝鮮、ベネズエラなど少数の「いつもの顔ぶれ」が支持を表明する一方で、外交的には孤立してしまった。ロシアと「無限の友好関係」にあり、西側の制裁に対する万能薬となるはずだった中国にさえ、意図的に距離を置かれたままだ。
エネルギーに依存するロシア経済は打つ手がなくなり、ますます中国に目を向けるようになった。これは、ウラジーミル・プーチン大統領が約20年前に始めたプロセスの加速である。だが、中国がロシアを必要としている以上に、ロシアは中国を必要としている。
ウクライナ侵攻から1年、ロシアの天然ガス売上高は開戦前と比べて半減した。習近平国家主席のモスクワ訪問で、いくらかの安心材料がもたらされるとロシアは期待していた。習主席はロシアとの関係について「今、100年来見られなかったような変化が起きている。その変化をともに推進しているのが私たちだ」と美辞麗句を披露した。また、公開書簡でもエネルギーの重要性を強調し「中国はロシアと連携して、より緊密なエネルギー協力パートナーシップを築く用意がある」と表明した。
しかし、中国は明らかに自国の利益を重視し、悠長に構えている。天然ガスに関する新たな協定は、いまだ締結されていない。プーチンは露中首脳会談に先立ち、シベリアから中国へ天然ガスを輸送する新パイプライン計画を持ち出して、合意は最終段階にあると主張した。中国側の反応はまだない。ロシアは再三にわたり中国に中身のある支援を求めてきたが、中国は応じていない。
中国は世界最大のエネルギー消費国であり、ロシアに対して大きな影響力を持っている。プーチンは、旧ソビエト連邦とソ連崩壊後の指導者たち(自分自身を含む)が慎重に育ててきた欧州の巨大な天然ガス市場を失った。年間1500億立方メートルの天然ガス輸出収入は、ロシアの生命線だった。中国はその収入を代替する存在にはほど遠い。ロシアは中国にとって第5位の天然ガス供給国にすぎず、中国経済の成長への影響は微々たるものだ。中国の天然ガス輸入に占めるロシアの割合はわずか6%で、一方、最大のパートナーであるオーストラリアは40%に上る。ロシアは2022年9月、シベリア東部のパイプラインの保守点検が必要だとして中国への天然ガス供給を1週間以上にわたり停止し、中国政府を威圧しようとする失策を犯した。
中国にロシアの威圧は効かない
石油だけでは、ロシアは救済できない。現在ロシアは中国の石油輸入の6分の1を占める最大の石油供給国となっているが、中国には他にも多くの石油供給源があり、ロシアの威圧が効果を発揮しようもないほど多様な化石燃料ポートフォリオを有している。また、中国の南シナ海における埋蔵量は、天然ガスが約5兆立方メートル、石油が160億〜330億バレルとされる。サウジアラビアとイランの関係改善を仲介した外交的勝利も相まって、中国は極めて豊かな代替供給源を確保しているのである。
天然ガス輸出も万能薬とはならない。英経済紙エコノミストの調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)のグローバル予測担当ディレクター、アガテ・デマレは「ロシアの天然ガスパイプラインは、ほぼすべてが欧州向けだ。新規敷設は高くつき、高度な技術も必要となる。時間とコストがかかる」と指摘する。ロシアがガスの代替供給先を何よりも必要としている今、中国の支援の動きはにぶい。天然ガス開発には時間と先行投資が求められるが、中国はロシアにそれを割きたくはないのだ。
中国はエネルギー輸入削減計画を掲げつつ、ロシアからの石油購入量を増やしており、2022年10月にはロシア産石油の購入額を102億ドル(約1兆3700億円)に倍増した。中国の石油精製会社はロシアが提供する割引を活用している。ロシアにとって石油輸出の拡大は難しいことではないと証明されたわけだが、これによってロシアが膨れ上がる財政赤字と経済の停滞から救われることはなかった。ロシアがOPECプラスに減産を迫れば(それは景気後退を招く恐れがある)、原油価格が上昇し、すでに過熱している世界経済にさらなるインフレ圧力がかかり、ロシア経済をも弱体化させる結果になりかねない。
ロシアは中国の属国と化した
ロシアの中国依存は、エネルギーや輸入にとどまらない。人民元への依存度も高まっている。開戦当初、プーチンは西側とのエネルギー貿易をルーブル建てに切り替えようとした。しかし、先日の露中会談では、中国をはじめ外国との貿易決済通貨を人民元に移行すると発表した。中国にとっては勝利だが、ロシアの立場はとてつもなく脆弱になった。人民元は厳格に管理され、通貨交換性が確保されていないため、中国政府はいつでも意のままにロシアを押さえ込むことが可能となり、ロシアに対する影響力はいっそう増大する。ロシアの人民元建て輸出決済は、すでに2021年の0.5%から2023年初頭には16%に増加。ロシアは北朝鮮に次いで中国からの輸入に依存する国になっている。
ロシアがこのような屈辱に耐えているのは、それが戦費をまかない、切実に必要な武器や物資などの軍事援助につながると期待しているからだ。だが、後者はまだ実現していない。これは、中国にとって経済的なつながりがはるかに深い西側諸国から大々的な報復を招くだけでなく、プーチンを中国の厳しい管理下から逃すことになりかねない。しかも、ロシアが必要としている援助は、設計図や先端技術ではなく、弾薬や燃料、トラックなど、あらゆる軍事活動の基幹となるものである。中国共産党中央政治局は、戦略的備蓄について別の計画を持っているかもしれない。
中国のロシア支配は拡大している。プーチンが帝国を追い求めた結果、皮肉にもロシアは中国に何十年も原材料を提供することになるであろう属国と化してしまった。習近平がロシアと中国は「変化をともに推進している」といくら強調したところで、中国人がロシア人を動かしているのは明らかだ。ロシアのエリートは、早くそれを理解したほうがいい。
●ウクライナでの戦争、「できるだけ早期」の終結に関心 ロシア外相 4/18
ロシアのラブロフ外相は17日、訪問先のブラジルで、ロシアがウクライナでの戦争を「できるだけ早期に」終結させることに関心があると語った。ブラジルのビエイラ外相との共同記者会見で述べた。
ラブロフ氏は、ブラジル側がウクライナ情勢について「優れた理解」を示したことに謝意を示したほか、ブラジルの和平交渉模索の意欲にも感謝した。
ブラジル外務省の発表によれば、ラブロフ氏は同日、ブラジルのルラ大統領とも会談を行う。
ウクライナは、和平の実現は、ロシアが国境を回復して、ウクライナ政府がクリミア半島を奪還した場合にのみ達成できると繰り返し表明している。
ウクライナのクレバ外相は先週、ルーマニアで開催された黒海の安全保障に関する会合で、「本当の平和とは、国際的に認められたウクライナの国境を回復することを意味する。真の平和とは、ウクライナのクリミア半島で標的となっている人々にとっての安全な故郷を意味する」と述べていた。
ビエイラ氏によれば、紛争の平和的な解決に貢献するブラジルの立場を改めて示したほか、ロシアとウクライナの交渉を仲介する友好国のグループを結成するというルラ大統領の考え方を伝えたという。
ビエイラ氏は、一方的な制裁に反対するブラジルの姿勢についても強調した。
ビエイラ氏は、一方的な制裁は、国連安保理の承認を得ることに加えて、世界各国の経済、特に新型コロナウイルスの世界的な流行から完全には回復していない発展途上国の多くに悪影響を及ぼすとの見方を示した。

 

●米高官、ロシア核配備に対処必要 NATO会合でプーチン氏批判  4/19
シャーマン米国務副長官は18日、ロシアのプーチン大統領が3月に戦術核兵器をベラルーシ領内に配備する計画を発表したことについて「対処し、非難しなければならない。緊張を高める危険なものだ」と批判した。ワシントンで開かれた大量破壊兵器の不拡散に関する北大西洋条約機構(NATO)の会合で述べた。
シャーマン氏は、計画はプーチン氏による核の威嚇の一環で、今後もウクライナや欧米をけん制し続けるとの見方を示した。現時点でベラルーシへの配備の動きは確認されていないとした。
ロシアが戦術核の使用に踏み切る可能性にも懸念を示した。
●ロ軍、激戦地バフムト空爆強化 ウクライナ陸軍声明、兵力集中か 4/19
ウクライナのシルスキー陸軍司令官は18日、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトで空爆と砲撃を一層強化し、街を「廃虚にしている」とする声明を発表した。英国防省は、ロシア軍が州都ドネツク周辺での攻撃を縮小させ、兵力をバフムトの戦闘に集中させる可能性を指摘した。
バフムトはドネツク州の主要都市へと通じる幹線道路上に位置し、ウクライナ軍は防衛を重視してきた。シルスキー氏は18日の声明で「バフムトの戦いは続く」と述べた。だがロシア軍の制圧地域が広がる中でウクライナ軍は補給に問題が生じているとされ、一部撤退の動きも伝えられ始めている。
●ウクライナ戦争長期化巡るブラジル大統領の見解は誤り=ホワイトハウス 4/19
米ホワイトハウスのジャンピエール報道官は18日、ブラジルのルラ大統領が、欧米のウクライナ向け武器供給が戦争を長引かせているとの見解を示したことを受け、その論調は中立ではないと批判した。
同報道官は、ルラ大統領の発言のトーンが中立ではなかったことに米当局は衝撃を受けたとした上で、「われわれはもちろん戦争終結を望んでいる。ルラ氏の論調は誤りであるため、反論し続ける」と述べた。
●ブラジル大統領、ウクライナ侵攻を非難 中立国に調停呼び掛け 4/19
ブラジルのルラ大統領は18日、ロシアによるウクライナの領土侵害を非難し、戦争終結に向けた調停を改めて呼び掛けた。
ルーマニアのヨハニス大統領との昼食会で、和平仲介へ中立的な国が結集する必要があると述べた。
ルラ大統領は先週末、西側諸国はウクライナへの武器供与で戦闘を長期化させていると発言し、関係国から批判を受けていた。
ホワイトハウス報道官は「事実を見ずにロシアと中国のプロパガンダを繰り返している」と非難。18日もルラ氏の口調は中立ではないと不快感を示した。
関係者によると、米高官はルラ氏の発言について相手側にバイデン政権の不満を伝えている。
ルラ氏の外交政策顧問は米国の批判を「ばかげている」と一蹴し、ブラジルはロシアの立場を共有していないと強調した。
ロシアのラブロフ外相は17日にブラジルを訪問。ブラジルとロシアはウクライナ問題に関する見解を共有しているとして、ルラ大統領の和平への取り組みに謝意を示した。
ルラ大統領は戦争終結に向けた仲介役を自認。不干渉と中立というブラジルの伝統に基づき、戦争に関与していない国にロシアとウクライナの双方に協議を促すよう呼び掛けている。
●プーチン大統領 支配地域訪問 ゼレンスキー大統領 激戦地へ  4/19
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部や南部の支配地域を訪れ、軍事侵攻を続ける姿勢を示すとともに、支配を誇示するねらいがあるとみられます。これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は東部の激戦地を訪れて前線の兵士を激励し、徹底抗戦していく姿勢を改めて強調した形です。
ロシア大統領府は18日、プーチン大統領が去年9月に一方的な併合に踏み切ったウクライナ南部ヘルソン州と東部ルハンシク州の支配地域を相次ぎ訪問したと発表しました。
ロシアの国営通信社は、訪問はウクライナ侵攻後、初めてだと伝えています。
プーチン大統領は、支配地域の軍の作戦司令部で戦況について報告を受けたり、空てい部隊の司令官の功績をたたえたりし、ロシアが併合したとするウクライナ東部と南部の州全域を掌握しようと侵攻を続ける姿勢を示すとともに、支配を誇示するねらいがあるとみられます。
一方、ウクライナ大統領府は18日、ゼレンスキー大統領が東部ドネツク州の激戦地の1つアウディーイウカを訪れたと発表しました。
ゼレンスキー大統領は、前線で戦闘を続ける兵士らに対して「あなた方に望むのは勝利だけだ」などと激励しました。
ウクライナ軍の参謀本部は、連日、ロシア軍がアウディーイウカ周辺で攻撃を仕掛けていると発表しています。
ゼレンスキー大統領としては、国民が結束して徹底抗戦を続け、欧米の支援を得ながら占領地を奪還していく姿勢を改めて強調した形です。
●ウクライナ大統領、東部の激戦地訪問 4/19
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は18日、ロシア軍の激しい攻撃にさらされている東部アウディーウカを訪問し、自国軍兵士と面会した。
アウディーウカは、ロシア軍の占領下にあるドネツク市に近い。ウクライナ大統領府によると、ゼレンスキー氏は兵士に感謝を伝えた。兵士と共に屋外に立つ姿を映した映像も公開されたが、防護服を着用している様子はなかった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も前日、ウクライナ南部ヘルソンと東部ルガンスクの両州を訪問し、司令官から報告を受けた。 
●ウクライナ訪問は事前収録か プーチン氏「もうすぐ16日」 ロシア 4/19
ロシア大統領府が18日に映像を公表したプーチン大統領のウクライナ占領地訪問について、ペスコフ大統領報道官は「前日(17日)」に訪れたと主張したが、独立系メディアは東方正教の復活祭(イースター)の16日より前の「事前収録」だった可能性を指摘した。
映像は当初、プーチン氏がキリスト教の祝祭を「未来形」で呼んでいたが、報道を受けて音声が修正された。
南部ヘルソン州と東部ルガンスク州を視察したとされる映像で、プーチン氏は勝利のお守りといわれるイコン(聖像画)を作戦司令部に贈呈。この際に「もうすぐ(16日の)復活祭だから」と述べていたが、しばらくして音声が差し替えられ「もうすぐ」という一言だけ消された。国営テレビのニュースでは、無音部分に雑音を重ね合わせ、巧妙に隠蔽(いんぺい)した。
記者団の指摘に対し、ペスコフ氏は「復活祭は40日間祝う」と主張。未来形でも不自然ではないと強弁した。ただ、音声を修正した理由については説明しなかった。
一方、ウクライナ大統領府によると、ゼレンスキー大統領は18日、ロシア軍による包囲が進む東部ドネツク州アウディイウカを訪問し、最前線の兵士らを激励した。両首脳がそれぞれ部隊を視察したと発表されたのは同じ18日。ただ、場所も日時も異なることになり、前線の近くで「ニアミス」することはなかったとみられる。
●ロシア側「バフムトの9割支配」 プーチン氏が併合地訪問 4/19
ウクライナ東部ドネツク州の要衝・バフムトを巡り、ロシア側は「9割を支配した」と主張しました。
親ロシア派武装勢力「ドネツク人民共和国」の幹部は18日、バフムトで攻勢を掛けるロシアの民間軍事会社「ワグネル」が「バフムトの9割を支配していて、前進を阻止することはできない」と主張しました。
ロシア大統領府は同じ日に、プーチン大統領がロシアが一方的に併合したウクライナ南部のヘルソン州と東部のルハンシク州の軍司令部を訪問したと発表しました。
ヘルソン州では現地の司令官から戦況報告を受けたとしています。
ウクライナ軍が東部の激戦地などを巡って反転攻勢を計画するなか、プーチン氏は現在の支配地域を維持するためにも現場を訪れ、士気を高める狙いがあったとみられます。
●大使たちに無視されたプーチン いよいよ袋小路か 4/19
ウクライナ危機で先鋭化した米国とロシアの対立が、冷戦期を彷彿とさせる様相を呈している。3月にはソ連崩壊後初めて、ロシアで活動していた米主要紙の記者がスパイ容疑で逮捕され、4月に外国大使らが出席して行われた信任状奉呈式で、プーチン大統領は米大使に「ウクライナ危機は米国が原因だ」と突きつけた。
侵攻開始から2年目を迎えても戦況が打開できず、無謀な戦略で自軍の人的損害が増え続けるなか、プーチン政権は苦境の理由を米国に押し付けて、国民の目を外に向けるほかはない。ウクライナ危機の長期化が確実視されるなか、両国間の対立は今後も悪化の一途をたどることが確実だ。
狼狽したプーチン氏
「私はこの儀式の前向きな雰囲気を壊したくはない。そしてあなたは私の意見に同意しないだろう。しかし大使、あなたの国が2014年のウクライナをはじめとした各国のカラー革命≠扇動したことが、結果として現在のウクライナ危機を招き、ロシア・米国関係の悪化を引き起こしたのだ」
4月5日、クレムリンで新たに任命された各国の駐ロシア大使たちを前に演説したプーチン氏は、新任のトレーシー米国大使に対しこう言い放った。トレーシー氏は憮然とした表情を浮かべながら、じっとプーチン氏の顔を見つめていた。
プーチン氏はギニア大使には「ロシアとギニアは伝統的に親密な関係にある。ロシアは主要投資国でもある」などと語りかけ、赤道ギニア、ジンバブエ大使には「7月にはサンクトペテルブルクで第二回アフリカフォーラムが行われる」などと呼び掛けるなど、他国の大使にはそれぞれ好意的に言及した。各国の大使の面前で、米大使を辱める意図が鮮明だった。
ただ、ここで異変が起きた。プーチン氏が演説を終えても、参加した大使らは誰一人として拍手を送らず、プーチン氏が逆に狼狽する様子が全世界に映像で配信された。ロシアの孤立がむしろ鮮明になった。
WSJ記者を逮捕
ロシアでは3月下旬、モスクワに駐在していた米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のエバン・ゲルシュコビッチ記者が不明瞭なスパイ容疑で逮捕される事態も発生した。米国人記者がスパイ容疑によりロシアで逮捕されたのは、ソ連崩壊前の1986年に逮捕されたUSニュース&ワールドリポートのニコラス・ダニロフ記者以来の出来事だ。
報道関係者の逮捕は外交関係にも甚大な影響を与えるため、今回の事態は西側メディアに強い衝撃を与えた。ソ連崩壊後に自由化されたロシアでの海外メディアの活動が、これほど明確に当局の標的になったことはなく、米露関係が冷戦時代の対立状態に戻ったことを強く印象づけた。
86年に逮捕されたダニロフ氏はスパイ活動とは何ら関係がなく、旧ソ連国家保安委員会(KGB)が罠として送り付けた「国家機密」と記載された文書が入っていた封筒を明けてしまったために、当局に逮捕された経緯がある。最終的にダニロフ氏はソ連のスパイとの囚人交換で米国に帰国した。
ゲルシュコビッチ氏はWSJの記者として、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」や、ロシアの軍需産業の実態を報じようとするなか、ロシア中部エカテリンブルクで突然逮捕された。ロシア側は、ゲルシュコビッチ氏が米当局に情報を流していたと主張しているが、米側は一切否定している。
ロシア外務省の高官はゲルシュコビッチ氏の処遇をめぐり、ロシアが囚人交換に応じる可能性を指摘しているが、仮に実施されるとしてもゲルシュコビッチ氏をめぐる裁判が終了した後としており、年単位で時間がかかる可能性もある。
ゲルシュコビッチ氏をめぐる一連の事態からは、ロシアが西側メディアに対し、これ以上ロシアの内情に迫る報道を容認しないという強いメッセージが伝わってくる。外交関係者と異なり、不逮捕特権がないジャーナリストは、裁判で有罪になれば長期の懲役を免れない。仮にスパイ容疑で有罪となれば、同氏は20年程度の懲役刑が課される可能性もあるという。今後、西側の主要メディアがモスクワから脱出する動きが加速しそうだ。
背景にロシア軍の苦境か
プーチン政権が米国や西側メディアとの対立を表立って先鋭化させる理由のひとつには、ウクライナにおける前線での苦戦が続くなか、米国に対し対抗姿勢を見せ続けるのと同時に、苦戦の理由が米国という「外敵」にあると国民に繰り返し訴え、その責任を西側諸国に押し付ける意図が伺える。
侵攻開始から2年目に突入するなか、ロシア軍は依然として前線の膠着状態から抜け出せないままでいる。英国防省は4月上旬、ウクライナ東部ドネツク州でロシア軍を指揮していたルスタム・ムラドフ司令官が「解任された可能性が高い」との見方を、SNSを通じて示した。現地メディアは、解任されたとも報じている。
ムラドフ氏はドネツク州で戦闘を展開するロシア統合軍グループ「ボストーク」のトップだ。3月にショイグ国防相がウクライナの前線を視察した際には、同氏のもとを訪れるなど、ウクライナにおける軍事作戦における同氏の役割の重要性が伺えた。
ただ同氏が手掛けた作戦では、膨大な数のロシア軍の死傷者が出ていたとされ、同氏の手法を疑問視する声が上がっていた。特に、2月に行われた東部ブフレダルでの攻防戦では、ロシア軍はわずか3日間の作戦で戦車36両を含む100以上の主要装備を失い、100人規模の部隊で8人しか生き残らなかったなどと現地メディアで報じられている。ムラドフ氏の命令のもと、地雷を避けるため無理な隊形で突進を試みたことが原因とされるが、東部での戦況が打開できない状況が続くなか、焦りで無理な作戦を遂行した可能性が伺える。
ロシア軍はウクライナ侵攻開始以後、総司令官が繰り返し交代しており、1月に異例の形で総司令官に就任したゲラシモフ参謀総長も目立った成果を上げられていない。軍主要幹部の交代が止まらないという事態そのものが、ロシアの戦線での苦境を物語っている。ウクライナでのロシア軍の戦死者数をめぐっては、英国防省は侵攻開始から1年間で最大20万人規模に達していると推計している。
戦闘終了を求める声もあからさまに上がりつつある。ウクライナ侵攻に参画するロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏は4月、「政権は軍事作戦の終了を宣言すべきだ」とSNS上で表明した。東部で十分な「戦果」を挙げたからなどとしているが、ロシア軍の主目標とされる東部のドネツク、ルガンスク両州の制圧もできていないまま、戦力の損失でこれ以上の制圧地域の拡大も困難と判断している可能性がある。
ウクライナ軍が欧米諸国と連携して大規模な反撃を準備するなか、現状での凍結を求めることは都合の良い¢iえだと言えるが、東部戦線の激戦地で戦闘を続けてきたワグネルのトップがこれ以上の占領地の拡大が困難と判断した事実は重い。
米機密文書流出の影響は
そのような最中に、米国防総省の機密文書がインターネット上に多数流出していた事態が発覚し、ウクライナ危機に対する米国や西側各国のかかわりや、米側が抑えていたロシア軍の詳細な状況が表面化する事態が起きた。ウクライナ軍の防空ミサイルの枯渇が視野に入っていた事実や、米国や欧州諸国のウクライナ軍への関与の一部などが明らかになった。
ネット上に流出した文書がどこまで本物で、それが実際に戦況へどう影響するかといった点は不透明な部分が多く、現時点では評価が難しい。ただ、ウクライナ危機をめぐる情報は、事実としても想定しうる内容のものが多く、さらに数カ月前の情報もあり、今後の戦闘にどこまで影響を及ぼすかは見えないのが実情だ。
冷戦を終結させたゴルバチョフ元ソ連大統領が死去し、1980年代以降のソ連の民主化の流れを生み出した市民の力は、プーチン氏の登場以後、着実にその勢力を弱められ、ウクライナ危機で完全に封じ込められた。米露の対立激化はもはや、冷戦期に匹敵する様相を呈しているが、ロシア国内ではそれを止める勢力は皆無となっている。ウクライナ侵攻というプーチン氏の暴走が止まらない限り、事態が改善に向かう可能性を見いだすことはできない。
●米機密文書流出、ウクライナでの戦争の重要情報はあったのか 4/19
米国防総省の機密文書の流出が明るみになってから10日ほどがたった。ウクライナでの戦争について、どんなことがわかったのか。
流出文書の大半は今年2〜3月に作成されており、ウクライナでの紛争の状況についてかなり突っ込んだ洞察を含んでいる。詳細な記述にあふれ、その多くは非常に複雑だ。
しかし行間を読むと、米国防総省が紛争の成り行きを理解しようと、時に困難を伴いながら、最大限の努力をしている様子がみえてくる。
「戦場の霧」があるのは明らかだ。
例えば、双方の人的・物的損害がどれくらいなのかという重要な問題。生データから状況は浮かぶが(死傷兵はロシアが22万3000人、ウクライナは13万1000人)、国防総省はこの数字に「低い信頼性」しか置いていないことが、流出文書から分かる。
理由はいくつかある。作戦上の秘密保持、意図的な改変、「ウクライナによる情報共有についての潜在的偏見」と呼ばれるものなどだ。
つまり、ウクライナにとってアメリカは最も重要な同盟国かもしれないが、アメリカは提供される情報を信用しているとは限らないのだ。
ドンバスの戦闘をめぐっては
似たような「確信のなさ」は、東部ドンバス地方における戦況を要約した文書(2月22日付)にも表れている。
その中では、この戦闘が「2023年を通して膠着(こうちゃく)状態に陥る可能性が高い」という見方に、国防総省は「中程度の信頼性」をもっていると書かれている。
しかし、「ウクライナの作戦の持続力を正確に推定できれば」さらに大きな信頼性をもてるとも記されている。さらに、2022年後半のウクライナの反攻がロシアの士気と装備に及ぼした影響は、完全には把握できないと書かれている。
これらは、国防総省の計画立案者らの頭の中で日々渦巻いている疑問の一部でしかない。他にもまだたくさんある。
どうすればイスラエルをもっと関与させられるのか? 韓国を説得し、ためらいなくウクライナに砲弾を供給させることは可能なのか? ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が死んだらどうなるのか?
物事の不確実性が高いことを考えれば、現状への理解を深めるため、アメリカが非公然の手法を使うのは驚くことではない。
たとえそれが、支援を約束している国に対するスパイ活動であってもだ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と側近らが、ベラルーシやロシア国内のロシアの標的を攻撃することの是非を協議している会話が傍受されていたとされるのは、そのためだ。
そして、うわさもある。
文書によれば、ゼレンスキー氏の首席補佐官を務めるアンドリー・イェルマク氏は2月17日、「ロシアの陰謀」に関する情報を得た。軍のワレリー・ゲラシモフ総司令官と、安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記が関与し、プーチン氏の「特別軍事作戦」を妨害するという内容だった。
この計画は、プーチン氏が化学療法を開始する日に合わせて実行予定だったとされた。だが結局、そうしたことは起こらなかった。
それでも、ロシアの亀裂や弱体化の情報を得たい米国防総省にとっては、この計画に関する報告書は1日ほどは、興味をそそるものだっただろう。
軍事紛争は大規模で複雑な事象だ。軍事、政治のさまざまな要因によって常に変化する。
つまり、文書が作成されてからの数週間で、状況は微妙に変わっている可能性が高い。
多くの報道がなされているウクライナの防空システムがいい例だ。
枯渇するとみられていたが
2月後半に作成された少なくとも2点の文書では、ウクライナの防衛にとって重要な地対空ミサイルである、ソヴィエト連邦時代のSA-11とSA-10が、それぞれ3月31日と5月2日までに枯渇する見込みだと書かれている。
この二つのシステムがウクライナの中・長距離の防衛の89%を占めていると文書に記されていることを考えると、恐ろしい予測のように思える。
この予測は「現在の迎撃ミサイルの消費量」に基づいたもので、ウクライナはロシアの生活インフラに対する攻撃に、あと2〜3波しか耐えられないと結論づけている。
だが実際には、ウクライナのインフラに対するさらなる大規模攻撃は実施されていない。そのため、ウクライナは貴重な在庫を少しばかり長く保有できている。
流出文書には、スロヴァキアが3月中旬に承認したばかりのミグ29戦闘機13機が届いたことも一切書かれていない。
必然的に、これらの文書のトーンはアメリカの発表より冷めていて、悲観的ですらある。
予測されているウクライナの反攻が今後数週間のうちに始まれば、ウクライナが大成功を収めるだろうといった予測はない。
その代わり、「若干の領土の獲得」が語られている。
ウクライナの「弱点」は、それが公になるずっと前から、アメリカとウクライナの共同計画に反映されていた可能性が高い。
ただ、そうした弱点がどれほど改善されたかはわからない。今回の流出文書は、最近作られたものではあるが、常に変化する状況の断面に過ぎないからだ。
●韓国大統領、ウクライナへの軍事支援容認を示唆 4/19
韓国の尹錫悦大統領はロイターのインタビューで、ロシアの侵攻を受けるウクライナで民間人への大規模攻撃などが実施された場合、軍事支援に踏み切る可能性を示唆した。
来週の訪米を前に行われたインタビューで尹氏は、韓国が1950─53年の朝鮮戦争で国際支援を受けたように、ウクライナの防衛と再建を支援する方法を政府として模索していると述べた。
「民間人への大規模攻撃や虐殺、重大な戦争法違反など、国際社会が容認できない事態が発生した場合、人道・資金援助だけに固執するのは難しいかもしれない」と語った。
韓国政府がウクライナへの兵器供与に前向きな姿勢を示唆したのはこれが初めて。
「違法に侵略された」ウクライナの防衛・再建への支援に制約はないとの認識を示した上で、「戦争当事者との関係や戦況を考慮して最も適切な措置を講じる」とした。
日本を含めたアジア版の北大西洋条約機構(NATO)「核計画グループ」を想定しているかとの質問には、情報共有、共同有事計画を強化するための米国との2国間対応に軸足を置いていると応じた。「強力な核攻撃への対応という点では、NATOより強硬な手段を準備すべき」だとし、日本の参加に大きな問題はないが、まずは米韓の体制作りをする方が効率的だと述べた。
●ロシアの装備は「過去に後退」と西側当局者 第2次大戦後世代の戦車も 4/19
西側諸国の複数の当局者は18日、ロシアがウクライナでの戦闘で使用している装備について「過去に後退している」との見解を示した。ロシア軍の配備する戦車の中に、第2次世界大戦後間もない時期に導入されたものが含まれていることが念頭にある。同軍は戦闘で失われた戦車の補充に苦慮している。
同日の状況説明に臨んだこれらの当局者らは、ロシア軍の装備の大幅な増加を確認していないと主張。使用中の装備も比較的古い年代のものだと指摘した。またロシア政府について、今回の戦争でより旧型の戦車への依存を強めていると付け加えた。
具体的には当初使用されていた戦車「T80」、「T90」から、戦闘の経過と共に「T72」へと移行し、今回初めて改修の施された「T55」が投入されるのを確認したという。同様の構図は大砲についても当てはまるとしている。
T90とT80はそれぞれ1992年と76年に初めて導入された。T72の運用開始は72年。T55は第2次大戦後間もない48年の導入だ。
「彼らは装備の面で過去に後退している」と、当局者らは述べた。
当局者らによれば、ロシア軍は依然として兵力に関しても苦しい状況にある。多数の人員の招集は可能なものの、適切な訓練を施すことが今なおできていないのがその理由だ。
比較的小規模な訓練を隣国ベラルーシで行ってはいるが、動員したとされる15万人のうち、中隊レベルの訓練を受けたと当局者らが確認できるのは1万5000人とみられている。
ロシア軍の現状はウクライナに侵攻した当初から低質化していると、当局者らは述べた。
●ウクライナ東部バフムト ロシア軍攻撃強化か 反転攻勢に備えも  4/19
ロシアが侵攻するウクライナ東部のバフムトでは、ロシア軍による砲撃や空爆が増加していて、完全掌握に向けて攻撃を強化しているもようです。また、プーチン大統領は、支配地域の前線を相次ぎ訪問していて、ウクライナの大規模な反転攻勢に備えるねらいともみられています。
ウクライナ軍の参謀本部は19日、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点バフムトと、州都ドネツクの南西にあるマリインカが激戦地となっていると発表しました。
バフムトについてウクライナ陸軍の司令官は、前日には「敵が最も力を注ぎ、支配しようとしている。砲撃や空爆の回数を増やし、街を廃虚にしようとしている」と指摘しています。
イギリス国防省は、ロシア側がバフムトに戦力をさらに移そうとしているとしたうえで、ロシア軍と民間軍事会社ワグネルの部隊が前進を続け、中心部の主要な鉄道が最前線となっていると分析しています。
こうした中、ロシア大統領府は18日、去年9月に一方的な併合に踏み切った南部ヘルソン州と東部ルハンシク州の支配地域をプーチン大統領が相次いで訪問し、作戦司令部で戦況について報告を受けたと発表しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、プーチン大統領が訪問で、精鋭の空てい部隊の司令官らを名指しして激励したことなどについて、「今後のウクライナの反転攻勢を見越し、潜在的なスケープゴートを特定することを意図していた可能性も高い」として、ウクライナの反転攻勢に備え、前線の責任を明確化するねらいだと分析しています。
一方、ウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、17日のAP通信のインタビューで、大規模な反転攻勢について「準備が整えばすぐにでも開始する。準備不足のまま始めることはない」と述べ、欧米の兵器供与を受けながら反撃への準備を進めていると明らかにしています。
●「仏大統領、終戦のため中国と秘密作業…夏の露ウ平和会談が目標」 4/19
マクロン仏大統領がウクライナ戦争を終わらせるために中国と秘密交渉を進行中という海外の報道があった。フランスは中国とのこの作業を通じて、早ければ今夏にロシアとウクライナが参加する平和会談が開かれると予想した。
18日(現地時間)のブルームバーグ通信によると、マクロン大統領は最近、エマニュエル・ボン外交政策顧問に中国外交トップの王毅共産党中央政治局委員と協力してウクライナ終戦交渉の基盤を用意するよう指示した。これを受け、ボン顧問と王委員は近く電話会談をするという。
仏大統領室の関係者は「こうした作業が順調に進めば、ロシアとウクライナの間の平和会談が早ければ今年夏に開かれる可能性がある」と伝えた。また「ロシア・ウクライナのこの春の攻勢の結果しだいで、平和会談でいくつかの条件が変わることもある」とも話した。
西側の同盟国にもマクロン大統領と中国の秘密作業が伝達されていると、ブルームバーグは報じた。ウクライナにもこうした内容が伝えられたとみられる。これに先立ち15日、マクロン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と1時間半ほど電話会談した。
ゼレンスキー大統領は電話会談の直後、「マクロン大統領から最近の中国訪問の結果を聞き、(ロシアとの)平和会談開催の次の段階について議論した」と明らかにした。ただ、ロシア大統領府は18日、「フランスが提示した平和協定計画を見ていない」と伝えた。
マクロン大統領は今月5−7日、中国を国賓訪問し、中国の習近平国家主席と会談した。両首脳はウクライナ戦争の解決に向けた外交的努力と後続措置について議論した。この席で習主席はゼレンスキー大統領と電話会談をする用意があるとし、時期を眺めながら電話をするという意思を表した。
習主席は先月20−22日にロシアを国賓訪問し、プーチン大統領と会談した。習主席がゼレンスキー大統領と接触する場合、ロシアとウクライナの間で平和交渉のきっかけが生じるという見方が出ている。
英日刊テレグラフによると、マクロン大統領は中国との秘密計画を順調に進めるため、中国を含む複数な国とウクライナに対する安保保障を構想している。7月にリトアニアの首都ヴィリニュスで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会談でこれに関する議論が行われる予定だ。
一方、ゼレンスキー大統領とプーチン大統領は春の攻勢を控えてそれぞれウクライナ最前線を訪問し、兵士を激励した。ゼレンスキー大統領は18日、東部ドネツク州の最前方激戦地アウディイウカを訪問し、指揮官から戦況の報告を受けて兵士を褒賞した。
アウディイウカはロシアが占領中のドネツク州ドネツク市の中心街からわずか10キロ離れた地域で、最近バフムトと共に最大激戦地になったところだ。
プーチン大統領は17日、ウクライナ占領地の南部ヘルソンと東部ルハンシク(ルガンスク)地域の軍部隊を訪問し、軍指揮官から戦況の報告を受けた。ロシアが昨年9月に同地域の併合を発表した後、プーチン大統領がこの地域を訪問したのは今回が初めて。
●ロシアの侵攻「糾弾」 米国の反発受け厳しい姿勢 ブラジル大統領 4/19
ブラジルのルラ大統領は18日、ロシアのウクライナ侵攻について「ウクライナの領土の一体性を損なうことを糾弾する」と強調し、ロシアへの厳しい姿勢を明確にした。
ブラジルを訪れたルーマニアのヨハニス大統領との昼食会で語った。
ルラ氏は先に中国を訪問した際、米国が「戦争を後押し」しており、ウクライナ側にも非があるとの認識を表明。米高官が17日、「ブラジルは事実に全く目を向けず、ロシアと中国のプロパガンダをオウムのように繰り返している」と強く反発していた。 

 

●「国家反逆」に終身刑 ウクライナ侵攻で引き締め―反対派の弾圧懸念・ロシア 4/20
ロシア下院は18日、「国家反逆罪」の最高刑を現行の禁錮20年から終身刑に引き上げる刑法改正案を可決した。ウクライナ侵攻で動揺する国内を引き締める狙い。プーチン政権はこうした重罪を恣意(しい)的に適用して反対派を弾圧しており、国内外で強い懸念が示されている。
戦時下で即可決
「(1930年代のソ連のような)大粛清とは言えないが、独裁者スターリンの論理だ」。独立系メディア「メドゥーザ」は、最近の法の運用に危機感を抱く専門家の話を伝えた。
昨年秋に出された予備役30万人の部分動員令は、反戦デモと徴兵忌避を生んだ。ロシア軍の劣勢と侵攻の長期化から追加動員の観測が強まり、今も徴兵事務所への放火がたびたび伝えられている。プーチン政権はそうした放火事件に「テロ罪」を適用し、厭戦(えんせん)気分の封じ込めに躍起だ。
「ウクライナ軍に協力しようと出国を試みた」などと疑いを掛け、当局が「要注意人物」を拘束するケースも相次ぎ、昨年7月からは国家反逆罪に問えるようになった。ロシアでは死刑制度が存続しているが、執行は凍結されており、実質的な最高刑の終身刑を科すインパクトは強い。
改正法案では、国家反逆罪の厳罰化に加え、テロ罪の最高刑も15年から20年に引き上げられる。改正内容だけでなく、戦時体制が強まる中、重要法案が下院で事実上、即日可決されたことにも衝撃が広がっている。今月中旬にも、上下両院のスピード審議を経て「電子招集令状」を導入する法律が可決、成立したばかりだ。
「抑圧の証拠」
プーチン政権を批判する記者で活動家のウラジーミル・カラムルザ氏は、ウクライナ侵攻下で拘束された。ロシア軍に関する「偽情報」流布や「好ましからざる団体」での政治活動の罪のほか、国家反逆罪にも問われ、17日に禁錮25年の判決を言い渡された。
欧米で著名なカラムルザ氏への判決について、トレーシー駐ロシア米大使は「抑圧の証拠だ」と非難した。これに対し、ロシア外務省は18日、トレーシー氏らを呼んで「あからさまな内政干渉だ」と抗議。やめなければ大使館員を国外追放すると警告した。
国家反逆罪が厳罰化されれば、政権のさじ加減一つで、記者や活動家に終身刑が科されることも理論上あり得る。昨年9月にはロシア有力紙コメルサントの元記者が、国家反逆罪などで禁錮22年の判決を受け収監されている。
●イタリアで緊急事態宣言――「史上最大の難民危機」の原因、影響、有利な者 4/20
・コロナやウクライナ侵攻による生活苦を背景に「居住地を追われる人々」は地球上で1億人を超えた。
・それにともない、先進国だけでなく新興国でも難民ヘイトが急増している。
・「史上最大の難民危機」はナショナリズムを重視する保守政党の台頭を促す一因になっているが、そのなかにはプーチン政権と近いものも少なくない。
難民急増でイタリアは緊急事態宣言を出したが、これは氷山の一角に過ぎず、世界は「史上最大の難民危機」に直面している。
1億人以上が居住地を追われる
イタリア政府は4月12日、緊急事態を宣言した。難民が多すぎて「混雑している」ことが理由だった。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、イタリアにいる難民は一昨年の約8万人から昨年には約30万人に急増した。
このうち約17万人がウクライナ難民で、残る約13万人はそれ以外からだった。なかでも北アフリカや中東から地中海を超えてイタリアに渡る難民は、この数年で急増している。
急増する難民の対策に、イタリア政府はEUに支援を求めている。
もっとも、これは氷山の一角ともいえる。UNHCRによると、「居住地を無理やり追われる人々」は昨年末、地球上で1億人を突破したからだ。
居住地を追われる人々のうち約半分(5320万人)は国境を越えられない国内避難民(internally displaced people)で、安全な国に逃れられる人々よりむしろリスクが高いが、難民ほど注目されない。
アメリカでは4年前の4倍に
難民だけに限っても、現在の危機はかつてない規模だ。その結果、例えばアメリカは難民申請受け付けの上限を2019年段階の3万人から2021年には6万2500人に引き上げ、2022年にはこれが12万5000人に至った。
難民を数多く生み出している国の多くは、治安悪化や経済破綻などに直面している。
例えば、アフガニスタンの場合、2021年だけで12万人以上が国外に逃れた。この年、アフガンではイスラーム主義組織タリバンが激しい戦闘の末に首都カブールを奪還し、その後も各地でアルカイダやイスラーム国(IS)残党が活動している。
また、南米ベネズエラでは2018年に経済が破綻して以来、生活が極度に悪化して700万人以上が流出し、2021年だけでも9万人以上が国を離れた。
世界的にほとんど注目されない中央アフリカ共和国では2013年、イスラーム、キリスト教徒それぞれの民兵が民間人の殺傷を繰り返すようになった。旧宗主国フランスも見放すなかで人道危機はエスカレートし、2021年だけで5万人近くが居住地を追われた。
それぞれの国には個別の理由があるが、その多くでコロナ禍やウクライナ侵攻などによる経済悪化、食糧危機、治安悪化が拍車をかけてきた。「史上最大の難民危機」はいわば現代世界の一つの縮図ともいえる。
難民をブロックする動き
これに対して、各国では難民の流入阻止を加速させている。
例えばイタリアでは昨年、法律が改正され、地中海を小さな船で渡ってくる難民の救助活動を行うNGOなどに、救助後ただちに関係機関に届け出ることが義務化された。その理由は「状況を正確に把握するため」と説明された。
しかし、支援団体などからは「役所での手続きに必要な時間が増え、これまでより救助活動のペースが落ちた」といった批判や苦情が相次いでいる。
一方、中南米からアメリカを目指す人々に(自らも移民系の)ハリス副大統領が「来ないでもらいたい」と繰り返してきたアメリカ政府は、難民申請の基準も厳格化してきた。
とりわけ滞在許可の得やすい子連れ家族の入国制限強化を検討中ともいわれ、人権団体などから「(人の移動を制限した)トランプ政権のレプリカ」とも批判されている。
2014年からのシリア難民危機がヨーロッパを二分し、イギリスのEU離脱の引き金になったように、難民増加は国内政治問題になりやすいため、経済が不安定化する状況で各国政府がブレーキを踏みやすくても不思議ではない。
先進国の「防波堤」とは
先進国がドアを閉ざすのと連動して、その周辺の新興国・途上国では「混雑」が先進国以上になっている。
具体的には、中東とヨーロッパの継ぎ目にあるトルコ、アメリカと中南米の境目であるメキシコ、地中海を挟んでイタリアの対岸にあたるチュニジアなどがそれにあたる。
これらの国には、欧米各国に入れない難民の多くが滞留してきた。しかも、同じような難民は後から後からやってくる。そのため、例えばトルコは世界最大の難民受け入れ国であり、390万人が滞在している。
トルコほどでなくとも、メキシコには約21万人、人口1200万人程度のチュニジアにも約1万人の難民が滞在している。
もともと難民のほとんどは新興国・途上国で保護されてきた。UNHCRによると、2021年段階で難民のうち出身国の隣国で保護される割合は69%を占めた。難民を生み出した国のほとんどが途上国で、途上国の隣国の多くは途上国だ。
そのなかでもトルコ、メキシコ、チュニジアなどは、いわば先進国の防波堤になっているともいえる。
新興国にも広がる難民ヘイト
それだけに、これら各国でも先進国と同じく、難民ヘイトが横行するのは不思議ではない。
最大の難民受け入れ国トルコでは今年2月の大地震後、シリア系難民への嫌がらせや襲撃が多数報告されるようになった。「難民が略奪している」といったデマが原因だった。
メキシコでは他の中南米からやってきた難民、とりわけ先住民系に対する軍や警察の超法規的な拘束や暴行もしばしば報告されている。
さらにチュニジアでは2月21日、サイード大統領が「アフリカの不法移民の群れが暴力や犯罪を運んでくる」、「犯罪的な陰謀によってチュニジアがアラブ人の国ではなくアフリカの国にされてしまう」と述べた。
サイードの演説をきっかけに黒人への襲撃は急増し、人権団体アムネスティ・インターナショナルは一部の警官までもこれに加わっていたと報告している。
周辺国からも批判が噴出するなか、サイードは「自分の発言がねじ曲げて解釈された」と弁明に追われた。
史上最大の難民危機は、これまで先進国で目立っていた難民ヘイトが新興国でも表面化するきっかけになったといえる。
有利なのは誰か
しかし、こうした難民ヘイトを先進国が批判することは稀で、むしろこれら各国への援助は増えている。これらが先進国の防波堤になっている以上、不思議ではない。
メキシコの人権活動家でコラムニストのベレン・フェルナンデスは「難民を制限したいアメリカの汚れ仕事をメキシコは引き受けている」と指摘する。
この状況で有利な者があるとすれば、その最有力候補はロシアのプーチン大統領かもしれない。
「多くの難民はロシアまで来ないので高みの見物ができる」という意味だけではない。難民危機が深刻化するほど、プーチンに近い政治的立場が欧米で広がるからだ。
ウクライナ侵攻以前からプーチンは「リベラルな価値観は時代遅れ」と公言し、外国人や異教徒、女性、性的少数者などの権利保護にも消極的だった。その国家主義、伝統主義的な主張は、多様性や流動性といった価値観を否定するものだ。
しかし、こうした主張はグローバル化に拒絶反応を示す欧米の多くの白人右翼をひきつけ、ロシアは「キリスト教の伝統的価値観を守る大国」の認知も勝ち取った。「異物」を排除しようとするアメリカのトランプ前大統領やフランスの最大野党・国民連合のルペン党首なども、プーチンと良好な関係で知られた。
プーチンに近い立場の台頭
欧米ではウクライナ侵攻後、ロシアへの反感は強いものの、それはプーチンに近い政治的立場が信頼を失ったことを意味しない。実態はむしろ逆で、ナショナリズムの高まりにより、「反多様性、反流動性」という点でプーチンと似た政党・政治家の台頭が目立つとさえいえる。
それは昨年からの欧米での選挙結果からうかがえる。
昨年4月のフランス大統領選挙決選投票でルペンは現職マクロン大統領に敗れたものの、その得票率はこれまでで最多となる41.45%を記録した。
さらに、昨年11月のアメリカ中間選挙で共和党は議会下院を握ったが、それを率いるマッカーシー下院議長はトランプと近く、バイデン政権がウクライナ問題に入れ込むあまりメキシコ国境を軽視し過ぎていると主張してきた。
トランプもルペンもウクライナ侵攻そのものは支持していないが、選挙戦では国民生活を強調し、ウクライナ支援やロシア制裁に消極的だった点で共通する。
プーチンに近い立場はそれ以外にもある。
昨年9月のスウェーデン総選挙で民主党が初めて政権を握り、今月初めのフィンランド総選挙で「真のフィン人」党が第二党に躍進した。どちらも反EU、反移民政党としての顔をもつうえ、北欧最大の極右団体「ノルディック抵抗運動(NRM)」との結びつきが指摘されている。
NRMの一部のメンバーは、プーチン政権の支持基盤であるロシアの極右団体「ロシア帝国運動」の訓練所で軍事訓練を受けていたことが判明している。
こうした背景のもとで進む「史上最大の難民危機」は、欧米でプーチンと思想的に近い者の台頭を促す一因といえる。ウクライナ難民以外の難民を単に厄介者とみなす風潮が西側で高まることは、プーチン擁護にも繋がりかねないのである。
●ロシア「韓国によるウクライナへの武器支援は戦争への介入を意味」 4/20
ウクライナに対する武器支援の可能性を示唆した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の発言に対し、ロシアは「確実な戦争への介入を意味する」と反発した。
ロイター通信が19日に報じたところによると、ロシア大統領府のペスコフ報道官は記者団との電話会議で「韓国はロシアに対して非友好的な立場を取った」「ウクライナに対する韓国の武器支援は紛争への明らかな介入を意味する」と述べた。
尹大統領はロイター通信とのインタビューで「もし民間人に対する大規模攻撃だとか、国際社会で到底黙認できない大量虐殺、あるいは戦争法の重大違反などが発生した場合、人道支援や財政支援にとどまり、これだけにこだわるのは難しいかもしれない」との考えを示した。
民間人への大規模攻撃などを前提とした発言だが、「殺傷兵器の支援は不可」としてきた韓国政府の立場が変わった可能性に言及したものだ。
●EU“ウクライナ産農産物 輸入禁止適切でない” 農家の支援検討  4/20
ポーランドなどが、アフリカなどへ運ばれるはずのウクライナ産の農産物が国内で流通し農家が打撃を受けているとしてウクライナからの輸入を禁止したことを受けて、EU=ヨーロッパ連合は、個別の輸入禁止は適切ではないとしたうえで、農家への支援策などを検討していることを明らかにしました。
EUは、ロシアによる軍事侵攻で黒海の港から輸出できなくなったウクライナ産の農産物について、域内の港から輸出できるよう支援してきました。
しかしポーランドやハンガリーなどEUの一部の加盟国は、アフリカなどへ運ばれるはずの農産物が国内で流通して農家が打撃を受けているとして、今月、ウクライナ産の農産物の輸入を相次いで禁止しました。
こうした中、EUの執行機関、ヨーロッパ委員会のフォンデアライエン委員長は19日、EUとしての対応を求めていたポーランドやハンガリーなど5か国に書簡を送って懸念に理解を示しつつも、各国が個別に輸入禁止を行うことは適切ではないという考えを示しました。
そのうえでヨーロッパ委員会は、5か国に対して農家の損失を補償するために1億ユーロ、日本円で140億円余りの支援策などを検討していることを明らかにしました。
EUとしては、一部の加盟国の不満によってウクライナへの支援に影響が出るのを防ぎたい考えです。 
●【露兵もシラケる】“プーチンの似顔絵”に「そういうことかクソッ!」 4/20
戦地のロシア兵にプーチン大統領の似顔絵が“支援物資”として届けられた。
キリスト教の復活祭に合わせて、ウクライナの前線にいるロシア兵に届いた意外なものーー。
映像に映っているのは、戦場のロシア兵に送られた支援物資だ。
水や食料と一緒に入っていたビニールの袋を手に取ると、兵士は思わず叫んだ。
ロシア兵: そういうことか。クソッ!カメラを止めろ!
兵士が手にしているのは、「お祈り用」と書かれた袋。
袋の中に入っていたのは、プーチン大統領の、似顔絵だった。
キリスト教では、“イコン”と呼ばれる聖職者の似顔絵が教会などに数多く描かれている。
今回、兵士たちに送られたのは、イコン風に描かれたプーチン大統領の似顔絵だった。
支援物資は政権を支持する政党が送付
プーチン大統領の「自分を神のように崇拝しろ」というメッセージだろうか。
そのプーチン大統領は、一部を実効支配しているウクライナの領土を電撃訪問した。
そして、軍の幹部に、金色の豪華な装飾が施された扉付きの“イコン”をプレゼントした。
しかし、こちらは、自分の似顔絵ではなかった。
兵士に届けられた支援物資は、プーチン政権を支持する政党から送られたもの。
しかし、似顔絵については「そんなものは送っていない」と否定している。
●ドイツ大統領、プーチン氏とナチスを比較 ワルシャワ・ゲットー蜂起の追悼式 4/20
ナチス・ドイツによる迫害に抵抗したユダヤ系住民が大量虐殺された1943年4月の「ワルシャワ・ゲットー蜂起」を追悼する式典が19日、ポーランドの首都ワルシャワで行われ、ドイツのフランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領が出席し、ナチスによる残虐行為になぞらえてロシアによるウクライナ侵攻について語った。ドイツの大統領が、ワルシャワでのこの式典で演説するのは初めて。
シュタインマイヤー大統領は、ウクライナ侵攻によってロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「国際法に違反し、国境を無視し、領土を収奪した」と非難した。さらに、ナチス・ドイツによる「犯罪を許していただきたい」と謝罪した。
1943年4月19日に始まったユダヤ人の蜂起では、ワルシャワのゲットー(ユダヤ人が強制的に隔離された地区)で起きた。ユダヤ人を強制収容所に連行しようとするナチスに抵抗し、数百人が拳銃や機関銃、手りゅう弾などで3週間にわたりナチスと戦い続けた。ナチスはゲットーを区画ごとに燃やし、蜂起を弾圧した。約1万3000人のユダヤ人が殺害され、その多くは炎や煙によって死亡した。残るゲットーの住民約5万人のほとんどは、ナチス占領下のポーランドに作られていたマイダネクとトレブリンカの強制収容所に送られた。
シュタインマイヤー大統領は19日の追悼式で、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領、イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領と共に、ゲットー蜂起の英雄をたたえる記念碑に花輪を手向けた。
追悼式では、プーチン大統領による戦争が「果てしない苦しみと暴力、破壊と死を、ウクライナの人たちにもたらしている」と述べた。
さらに、「ポーランドの皆さん、イスラエルの皆さん、あなた方は自分たちの歴史から、自由と独立のために戦わなくてはならないこと、自由と独立を守らなくてはならないことを知っています。民主主義が自らを守ることがいかに大事か、皆さんは知っています」と述べた。
その上で大統領は、「しかし私たちドイツ人もまた、自分たちの歴史から教訓を学んでいます。決して二度と。つまり、ロシアがウクライナに対して行っているような犯罪的な侵略戦争は、決して欧州であってはならないのです」と呼びかけた。
シュタインマイヤー大統領はさらに、これはつまりドイツをはじめ他の欧米諸国が「しっかりとウクライナと共に立ち、ウクライナを支え続ける」という意味だと強調した。
ワルシャワ・ゲットー蜂起の追悼式で、ドイツの大統領が演説するよう求められたのは初めて。
ドイツは他の欧米諸国と異なり、ウクライナ侵攻の開戦当初、ウクライナの関係は必ずしも良好とは言えなかった。ドイツが最新兵器の提供を渋ったことや、ロシア産天然ガスの購入を継続したことから、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナ政府幹部はしばらくの間、ドイツを公然と批判していた。
シュタインマイヤー大統領が昨年、他の西側首脳と一緒にキーウを訪れようとした際、ゼレンスキー大統領から断られたという報道さえあった。
しかし、今やドイツは、ウクライナにとって最強の支援国の一つだと見られている。
昨年2月24日の侵攻開始以来、数万人が殺害され、多くのウクライナの市町村が破壊されてきた。
ウクライナとその協力国は、ロシア軍が大量虐殺や強姦や市民の強制移住など、無数の戦争犯罪を繰り返してきたと非難している。
ロシアの占領下にあった複数の地域では集団墓地が見つかり、民間人の遺体の一部には拷問の痕跡が残っている。
オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、プーチン大統領らに逮捕状を出した。これについてロシア政府は激しく反発している。
●「ピオネール」への改名求める 子ども全国組織でロシア大統領  4/20
ロシアのプーチン大統領は19日、閣僚とのオンライン会議で、「ソ連版ボーイスカウト」と呼ばれた「ピオネール」の再興を目指して昨年12月に創設された子ども組織の全国統一団体「一番の運動」をソ連時代と同じ名称に変更するよう求めた。ロシア主要メディアが伝えた。
ウクライナ侵攻を巡る欧米との対立を背景に、プーチン氏は自給自足で経済や科学の発展を目指したソ連時代を見習うよう国民への訴えを強めている。
プーチン氏は家族政策を担当するゴリコワ副首相とのやりとりで「『一番の』とはピオネールのことではないのか」と質問。ピオネールという言葉に「既にイデオロギー的色彩はない」と述べ、改名の検討を求めた。
「子どもたち自身が選んだ名前ですが」と食い下がるゴリコワ氏に「それは知っているが、彼らと相談する必要がある」と議論を打ち切った。
社会主義に奉仕する少年の育成を目指したピオネールは昨年が創設100周年に当たり、12歳の女の子が全国統一団体の創設を提案。投票で「ピオネール」は退けられ「一番の運動」になっていた。
●露核弾頭「アヴァンガルド」 利権まみれで役立たず 4/20
ロシアの戦略核兵器に関する連載第3回は、極超音速で滑空する核弾頭「アヴァンガルド」について。
この開発は不調かつ利権まみれで、2019年の配備開始以来まだ僅か6発しか配備されていない、しかも開発関係者が反逆罪で続々と逮捕されていると、ロシアの軍事専門家、米国タフツ大学フレッチャー・スクールの客員研究員のパベル・ルジンが説明する。
『ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』のインタビュー。聞き手は反プーチンの立場で知られるジャーナリストのユリア・ラティーニナ。

(質問)「アヴァンガルド」を搭載するICBMのSS-19「スティレット」(UR-100N UTTKh)とはどのようなものか。
(訳注:「アヴァンガルド」は単体で発射されるのではなく、ICBMに搭載される。)
(ルジン)SS-19「スティレット」は、かなり成功したソ連のミサイルだ。1980年代に多く生産された。しかし液体燃料方式なので、基本的に全て配備から外された。燃料の注入・排出を繰り返すため、すぐに使用できなくなる。
1990年代、ロシアはウクライナから約30基を入手し、燃料抜きで保管していた。今日、これが「アヴァンガルド」搭載のため使用されている。
このミサイルは「ヤルス」より強力だが、「サタン」ほど強力ではない。その投射重量は4トンだ。「サタン」は10トンだ。
いわゆる極超音速で滑空する物体は非常に重く、断熱材が特に重い。そのため1基のミサイルに1発の「アヴァンガルド」しか搭載できない。現在「アヴァンガルド」6発を、ミサイル6基を配備している。
(質問)プーチンのお気に入りの「ヤルス」に「アヴァンガルド」を搭載しないのは、「ヤルス」が重さに耐えられないからか?だから、かつてウクライナで生産され、現在は生産されていないミサイルに搭載しているのか?
(ルジン)その通り。
「ヤルス」は、「アヴァンガルド」搭載には向いていない。しかし「スティレット」は「アヴァンガルド」搭載に問題ない。
核弾頭そのものは小さく、スペースを取らない。しかし極超音速滑空体は、過負荷や高温などに耐えるために扁平な形にしている。これは断熱材の巨大な塊だ。米国のスペース・シャトルと同様だ。
滑空体は大気圏突入で燃え尽きないように、セラミックで覆われる。セラミックが全重量のかなりを占める。
(質問)「アヴァンガルド」を「サタン」に搭載しないのは、「サタン」が実際には機能しないことを意味するのか?
(ルジン)おそらくそうだろう。
また「サタン」には、多くの「アヴァンガルド」を搭載できない。もし「アヴァンガルド」1発を「サタン」に搭載するとすれば、「サタン」に搭載していた10発の核弾頭を取り外す必要がある。
そうなると、米国との核の均衡の計算がおかしくなってしまう。
紙に10発の核弾頭があると書いてあるので、ロシアは米国人に対して「ロシアは米国を破壊できる」と言える。
したがって、「サタン」に「アヴァンガルド」を搭載するのは馬鹿げたことだ。
(質問)「アヴァンガルド」の優れた点は何か?マッハ20以上の速度で大気圏に突入するというのは、どういう意味か?核弾頭はいずれもマッハ20を超える速度で大気圏に突入するのではないのか?プーチンは、「アヴァンガルド」が米国のミサイル防衛を突破できると言っている。だが、他のICBMも米国のミサイル防衛システムを突破できるのではないのか?
(ルジン)「アヴァンガルド」の意義も、ロシアの組織に関わるものだ。
「サタン」が、ロシア国内の3つの工場に利益をもたらすことを述べた(第1回)。
同様に「アヴァンガルド」について、企業「戦術ミサイル兵器」が多額の資金を受け取っている。
滑空体開発に数百億ルーブル(数百億円〜1千億円超)をかけたのに、配備は僅か6発だけだ。
つまり、これらの滑空体は、非常に高価だ。関連する工場、企業、経営者が得るものも巨大だ。
「アヴァンガルド」の制御システムのため、新しいジャイロスコープ(回転儀)を開発したが、噂によればあまり成功していない。
(質問)つまり「アヴァンガルド」は制御不能なのか?
(ルジン)公式には制御可能だが、実際には非常に大きな問題があるようだ。
公開情報でも、極超音速機が大気圏に突入し、プラズマの雲に入ると、極超音速体の制御に問題が生じると言われている。
この物体は、いわば盲目で耳も聞こえず、連絡がつかず、材料には膨大な負荷がかかる。どうしたらよいか、誰にも分らない。
極超音速体が、クレムリンが言う程バラ色ではないという最も明確な兆候は、この開発に関与した科学者、学者、エンジニアが反逆罪で続々と逮捕されていることだ。2010年代後半から逮捕され、今も逮捕が続いている。モスクワ、サンクトペテルブルク、ノヴォシビルスクの何人もが拘留され、既に判決を受けた者もいる。
(質問)米国も1960〜70年代に極超音速滑空体の開発を試みたが、やる価値がないという結論になったのか?
(ルジン)米国は2000年代と2010年代に開発しようとし、テストも実施した。太平洋でも極超音速機を実験した。
しかし機体が耐えきれなかった。制御された極超音速飛行の実現は不可能だ。
(質問)不可能というのは、当面の話か?
(ルジン)当面の話だ。永遠に不可能とは言っていない。
飛行機のように飛ばすことが試みられてきた。30〜40分で世界のどこにでも飛んで打撃を与える。しかしどうしても機体そのものが壊れてしまう。
現在、「ツィルコン」の後、彼らは極超音速滑空体を備えた巡航ミサイルに別のアプローチを行っている。これまでの試験の結果は満足できるものではない。
(訳注:「ツィルコン」は、ロシアの超音速ミサイルで、艦船に搭載される。)
(質問)どのようなミサイルを開発しようとしているのか?
(ルジン)空中発射即応武器(ARRW、Air-Launched Rapid Response Weapon)だ。それは爆撃機から発射される。米国が開発に取り組んでいる。
(質問)つまり、プーチンは地球の他の誰よりも進んでいると言うが、誰もそれを検証できないということか?
(ルジン)プーチンは基本的にそのように言っている。米国人はそれをまともに受け止めた。
(米国人の反応は、)「もしロシア人が(そのような兵器を)持っているなら、私たちは持つことになるだろう。」これまでのところ、特に何かが起きたということもない。(訳注:米国の開発も前進がないとの趣旨。)
(質問)まとめると、「アヴァンガルド」は存在するが、実際には翼のある弾頭にすぎない。従来の弾頭とは異なり、セラミックで防護されているため、遙かに重たい。飛行が不安定になる恐れもある。超高速飛行は予測不可能で制御できない。結局利点はなく、欠点ばかりだ。そういうことか?
(ルジン)その通り。理論上は自動制御だ。慣性システム、光学ジャイロスコープなどがある。
しかし、ジャイロスコープにも問題山積だ。仕様書の通りに機能しない。コースからの逸脱という問題ではなく、ジャイロスコープが機能しないために飛行を制御できないのだ。
(質問)最も単純なものが最も信頼できると言われている。ミサイルが幾何学的にあるべき形のものならば、計算通りの場所に飛ぶだろう。しかし翼を付けたり、色々いじったりすれば、うまくいかない。
(ルジン)問題は翼だけではない。
普通の弾頭は円錐形だが、「アヴァンガルド」は扁平で玉石のようだ。
そこでは、制御は翼によるものではなく、爆薬、あるいは何らかの動力よるのだが、このためシステムが更に複雑になる。動力の起動、軌道の修正等の課題が追加的に出てくることを意味する。
これはすべて、このおもちゃを非常に高価でまったく意味のないものにする。
第1に、発射する人にとってさえ、軌道が予測不可能だ。
第2に、操作しようとすれば速度が低下するため、操作の余地が殆どない。
(質問)軌道が予測不可能ということの意味は何か?ロケットがワシントンの米国議会を狙って発射されたとしよう。それはホワイトハウスで爆発するのか、それとも大西洋で爆発するのか?
(ルジン)ミサイル防衛システムでは、弾頭を捉えると、その軌道を計算する。
この滑空兵器は、水平と垂直の両方の方向で動くので、軌道が予測できない。ミサイル防衛システムのコンピューターに、過剰な負荷がかかる。これが、この兵器の狙いだ。
しかし紙の上では機能しても、現実には膨大な問題がある。
(質問)(「サタン」や「ヤルス」がミサイル防衛システムを突破できるのなら、)そもそもなぜ「アヴァンガルド」が必要なのか?
(ルジン)工場を維持するためだ。それ以外の理由はない。
(質問)液体燃料の「サタン」は廃棄されることになり、「サルマート」はまだ実用化されておらず、固体燃料「トーポリ」と「トーポリM」も最早利用できない。他方、成功している「ヤルス」、そして「アヴァンガルド」の運搬手段である「スティレット」はある。このような理解で正しいか?
(ルジン)概してその通り。「サルマート」が戦闘任務に配備されれば、「スティレット」は退役するだろう。或いは、保管している30基の「スティレット」を利用し、「アヴァンガルド」を搭載し配備するかもしれない。
米国との新しい交渉が始まった場合、それらを静かに配備から外すこともできる。善意のジェスチャーとして、それらを廃棄するかもしれない。いずれにせよ資金は出され、どこかで使われる。
(質問)300基以上あると言われるICBMは、実際には約200基ということか?
(ルジン)その通りだ。
●ウクライナに初めてパトリオット到着…ロシア、米国向け新型固体ICBM公開 4/21
19日(現地時間)、ウクライナに西側が支援する最初のパトリオット(PAC)対空ミサイルが到着したことが分かった。この日、米国は3億2500万ドル(約4315億ウォン)規模のウクライナに対する追加軍事支援も発表した。
ロシアのプーチン大統領がウクライナの戦場を訪問するなど戦況が時々刻々と変わる中、ウクライナの戦力が急速に拡充する状況だ。これに対しロシアは新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を公開して対抗した。
ウクライナのレズニコウ国防相はこの日、ツイッターを通じて「我々の美しいウクライナの空はパトリオット防空体系が到着したおかげでより一層安全になった」とし、関連写真と共にパトリオットの最初の引き渡し事実を明らかにした。そして「我々の防空部隊員は(パトリオット体系に)短期間で熟達し、我々のパートナーは約束を守った」とし、西側の支援を評価した。これに先立ちウクライナ軍は65人の防空部隊員を米国に派遣し、パトリオット運用および維持保守のための訓練を受けた。
しかしレズニコウ国防相は今回到着したパトリオットに関連し、どの国がどれほど提供し、どこに配備するかなどの具体的な事案については公開しなかった。これまでパトリオット支援計画を明らかにした米国・ドイツ・オランダに対する感謝の意を表しただけだ。レズニコウ国防相が公開した写真に登場するパトリオットは「PAC−2」で最新型でない。専門家の間では「在庫として保有していた旧型パトリオットをウクライナに先に支援したようだ」という分析が出ている。
こうした中、米国防総省はこの日、ウクライナ軍に対する追加武器支援計画を明らかにした。
最近の支援計画を発表して以来16日ぶりで、バイデン米政権が承認した36回目の支援だ。ウクライナ戦争が消耗戦の様相に向かっている中、米国は主に砲弾・弾薬中心の支援を続けている。今回も多連装ロケットの高速機動砲兵ロケット体系(ハイマース)用の精密誘導ロケットと155ミリ・105ミリ砲弾、トウ(TOW)対戦車ミサイル、900万発以上の弾薬などが追加支援目録に入った。
一方、ロシアは米国を戦略武器で脅かした。この日、ロシア国防省はショイグ国防相がモスクワから南西に190キロほど離れたカルーガ州の戦略ミサイル部隊(SVN)を訪問し、新型ICBM「ヤルス」を点検したと明らかにした。固体燃料ICBMの「ヤルス」は射程距離が1万2000キロで米本土全域を射程圏とする。
一方、この日、米ホワイトハウスはプーチン大統領が最近、激戦地のウクライナ南部ヘルソンを訪問したことに関連し、士気を高めるための「ショー」という立場を明らかにした。ホワイトハウスのカリーヌ・ジャン=ピエール報道官はこの日の定例記者会見で「プーチン大統領の訪問は彼らの状況が良くないという兆候であり、プーチン大統領は明確にこれを知っているようだ」とし「プーチン大統領はロシア軍が侵攻の目標達成において困難に直面していることを知っている」と話した。戦争の長期化で悪化したロシア国内の民心をなだめるための訪問とみられる。

 

●ロシア軍機がロシアの都市に弾薬投下、大きな爆発 国営通信 4/21
ロシア軍の戦闘爆撃機Su34が20日、ウクライナとの国境の北にあるロシアの都市ベルゴロド上空を飛行中に「航空用弾薬の緊急投下」に迫られ、市中心部で大規模な爆発が起こった。国営通信や地元当局者が明らかにした。
国営RIAノーボスチ通信はロシア国防省の話として、弾薬の投下が必要になった理由は調査中だと伝えた。
ベルゴロド州のグラトコフ知事はSNS「テレグラム」への投稿で、現時点で人的被害は確認されていないと述べた。
同氏によれば、爆発は市中心部の交差点を揺らし、直径約20メートルの「非常に大きな衝突穴」ができた。付近の集合住宅の窓や駐車中の車数台が壊れ、電柱も倒れたという。
RIAノーボスチ通信によれば、高層マンション近くの店舗の屋根にはひっくり返った車がある。緊急部隊が現場に展開しているという。
ベルゴロドはウクライナとの国境から北方約40キロに位置する。 
●ロシア西部で大規模爆発 ロ軍戦闘機から誤って弾薬落下か 4/21
ロシア西部のベルゴルドで大規模な爆発がありました。ロシア国防省はロシアの戦闘機から弾薬が落下したためだと説明しています。
ロシアのウクライナとの国境近くのベルゴルドで20日夜、市内中心部の交差点に巨大な穴ができる大規模な爆発がありました。
地元当局によりますと、2人が負傷したということです。
今回の爆発についてロシア国防省は、上空を飛行していたロシアの戦闘爆撃機「スホイ34」から弾薬が誤って落下したためだと発表しました。
去年10月には、ロシア南部の湾岸都市エイスクでロシアの戦闘機が住宅地に突っ込み、15人が死亡する事案が発生しています。
●ロシア 北方領土元島民らの組織を「好ましくない組織」に指定 4/21
ロシア検察当局は21日、北方領土の元島民らで作る、千島歯舞諸島居住者連盟をロシア国内での活動を禁じる「好ましくない組織」に指定したと発表しました。
ロシア検察当局は「この組織の目的はロシアの領土の一部を奪おうとしている」「ロシアについての否定的な意見を形成し、反ロシア感情を高めている」などと主張しています。
連盟は北方領土の返還を目指すほか、元島民の墓参などの実施に向けた働き掛けなどを行ってきました。
ロシアは最近、北方領土周辺での軍事演習を行うなど日本への牽制(けんせい)を強めています。
望ましくない組織に指定されるとロシア国内での活動が禁止されるほか、組織を金銭的に支援したり、組織が作成した資料などを拡散することも禁じられます。
●「核戦争」で脅すプーチンに自由陣営諸国はどの国も屈しなかった 4/21
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領がインタビューでウクライナへの軍事支援の可能性に言及したことを受け、ロシアは連日「敵対的反ロシア行為」「戦争への介入」「目には目を」などと過激な言葉で非難を続けている。韓国政府に対して脅迫のようなメッセージを出し続けているのだ。ロシアはウクライナへの軍事支援を行っている他の国に対しても同じような脅迫を行っている。しかしそれらの国々でロシアからの軍事支援中断要求に応じた国は一つもない。
ロシアはウクライナに軍事支援を表明した欧米各国への脅迫を続けているが、その行動パターンは昨年2月にウクライナ侵攻を開始して以来ずっと繰り返されている。これらの脅迫によりNATO(北大西洋条約機構)を中心とする欧米の結束がさらに強まると、ロシアは今度は核兵器の使用をちらつかせ、各地で戦闘訓練を行うなど脅迫の方法も多様化している。
先月は英国がウクライナに劣化ウラン弾の支援を発表したが、その直後にロシア外務省のザハロワ報道官はメッセージアプリのテレグラムに「この砲弾はこの地に住む人々を殺害するのはもちろん、環境を汚染しがんを誘発する」「(英国が劣化ウラン弾を支援した場合)ロシアもこれに相応する対抗措置を取るだろう」と警告した。
ドイツもロシアの代表的なターゲットだ。ロシアのプーチン大統領は今年2月にボルゴグラードで開催された第2次世界大戦戦勝記念式典での演説で「不幸にもナチスのイデオロギーがロシアの安全保障にとって再び直接の脅威になったことを目の当たりにしている」「十字架が描かれたドイツ製戦車レオパルドの脅威を受けているのは事実だ」と訴えた。プーチン大統領はさらに「ロシアは核兵器を含む全ての武器を使う準備ができている」と警告した。「核戦争」にまで言及しながら欧米諸国をけん制したのだ。
プーチン大統領の側近であるメドベージェフ国家安全保障会議副議長も昨年9月「ロシアに編入された領土を守るためには、戦略核兵器を含む全ての武器が使用されるかもしれない」と発言した。ロシアのボロジン下院議長も今年1月にテレグラムを通じ「ロシア領土の占領に使用される武器をワシントンとNATOがウクライナに供給するのであれば、より強力な武器で報復するだろう」と述べ、核兵器使用の可能性をにじませた。
このような一連の脅迫にもかかわらず、NATOはもちろんNATOに加盟していないオーストラリア、日本、韓国までウクライナへの軍事支援、あるいはさまざまな支援を積極的に検討しているため、ロシアの対応はサイバー攻撃や軍事訓練などを強める形に変わりつつある。
●プーチンの首にある「謎の深い傷跡」は治療跡 意味深な「形」にも注目集まる 4/21
4月16日に撮影された、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(70)の写真が話題になっている。プーチンの首に傷跡のようなものが見られ、「医療処置の跡ではないか」と健康不安説が再び取り沙汰されているのだ。
プーチンはこの日、モスクワにある救世主キリスト大聖堂で行われた正教会のイースター礼拝に出席。その際に撮影された写真の1枚には、神妙な面持ちでろうそくを持つプーチンの首に、傷跡か深いシワのようなものが写っている。
ウクライナの国会議員のオレクシー・ゴンチャレンコは、翌日YouTubeに投稿した動画でこの傷についてコメントし、プーチンは「あまり元気そうではなかった」と述べた。「(プーチンは)教会で昨日、あまり元気そうではなかった。動くのも大変そうだった。彼の首には傷跡がはっきり見える。しかも、よく見ると『Z』の文字に似ている」「それが何かはわからない。彼らは全身にマークがあるのかもしれない。しかし、最も可能性が高いのは、彼が何らかの医療処置を受けたことだ」とゴンチャレンコは述べた。
ウクライナのブロガー、デニス・カザンスキーも自身のテレグラムチャンネルで同じ画像を共有し、首のマークがZに似ていると指摘した。Zは、ロシアのウクライナ侵攻を支持するシンボルだ。「ボロージャ(ウラジーミル)はどうしたのだろうか。Zの意味が、やっと理解できた気がする」
甲状腺がんやパーキンソン病との憶測も
この傷跡によって、プーチンの重病説が再び浮上している。ロシア独立系調査メディア「プロエクト」は昨年、プーチンが甲状腺がんを患っていると主張。甲状腺がん専門医のエフゲニー・セリバノフが頻繁に彼に同行していると伝えた。
ウクライナ国防省のキリーロ・ブダノフ情報総局長も以前、プーチンが「長い間」がんを患っていると主張し、「死期は近い」との見解を示していた。
プーチンの健康をめぐっては、昨年2月にベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と会談を行った際、手や足が震えていたことから、がんに加えてパーキンソン病も患っているとの報道も相次いだ。一方でロシア当局は、プーチンが深刻な健康問題を抱えているとの憶測を繰り返し否定している。 

 

●「好ましくない組織」北方領土の元島民らの団体 ロシアが指定 4/22
北方領土の元島民などでつくる千島歯舞諸島居住者連盟についてロシアの検察当局はロシア国内の活動を禁じる「好ましくない組織」に指定しました。
ロシア検察当局は21日、日本の千島歯舞諸島居住者連盟について「ロシアの領土の一部を奪おうとしている」「ロシアについて否定的な意見を形成し、反ロシア感情を高めている」と非難しました。
そして、「好ましくない組織」に指定したと発表し、ロシア国内での活動などを禁じる方針を打ち出しました。
この連盟は北方領土の返還を目指すほか、元島民の墓参などの実施に向けた働き掛けなどをしています。
ロシアは今月、北方領土周辺で軍事演習を実施するなど日本への牽制を強めています。
●「習近平が外交辞令から態度を一変し、プーチンに大きく歩み寄った理由」 4/22
中国、ロシア、イラン、サウジアラビア… 四つの出来事から浮かび上がる事実
別々に見える出来事の意味を深く読むと、裏でつながる事実が浮かび上がってくる場合があります。最近の国際情勢でいえば、そうした出来事が四つありました。
核開発を進めるイランが、ウランの濃縮率を核兵器への転用が可能なレベルまで引き上げつつあると発覚したこと。そのイランとサウジアラビアの国交回復の準備が、中国の仲介によって軌道に乗ったこと。中国、ロシア、イラン3カ国の海軍が、合同演習を行ったこと。中国の習近平国家主席がロシアを訪問して、プーチン大統領と会談したことです。
ウランの濃縮率が90%になると、核兵器を作ることができます。イランで83.7%という高い濃縮率の粒子ができたことが、2月末に発覚しました。イランはIAEA(国際原子力機関)に対して「技術的な問題による偶然で、意図してはいなかった」という趣旨の言い訳をしましたが、そんな偶然が起こるものでしょうか。
これは、米欧と2015年にまとめた核合意に違反します。かつての米国であれば、ペルシャ湾に航空母艦を派遣して威嚇するくらいはやったに違いありません。しかし今回は、IAEAに対応を丸投げしました。IAEAのグロッシ事務局長はイランのテヘランを訪問してライシ大統領と会談しましたが、核開発の責任者は最高指導者のハメネイ師です。権限を持たないライシ大統領と何を合意しても、核開発阻止にはつながりません。
中東の問題が北京で解決されるのは前代未聞
私にとって今年最大の事件は、そのイランとサウジが、16年以来断交していた外交関係を正常化させることです。しかもその合意は、中国・北京においてなされました。
イランのシャムハニ国家最高安全保障委員会事務局長とサウジのアイバン国家安全保障顧問が訪中し、中国からは外交担当トップの王毅・共産党中央外事工作委員会弁公室主任が参加して、4日間の非公開協議が行われたのです。
国交回復は3月10日に「三カ国共同声明」として発表され、この合意が「習近平国家主席の寛大なイニシアチブに応えたものである」という一文が含まれていました。4月6日に初めて行われた両国の外相会談も、場所は北京でした。中東の問題が、北京で解決されるとは前代未聞です。米国は、事後に報告を受けただけでした。
この経緯は、中東における最大のパートナーだったサウジアラビアと米国の関係が大きく変化したこと、さらに言えば米国が中東においてプレゼンスを失いつつあることを示しています。『ニューヨークタイムズ』が、〈過去4分の3世紀にわたって中東の中心的であったアメリカは、重大な変化の瞬間に傍観者となってしまった〉(3月11日)と報じた通りです。
サウジアラビアが中国を担いだ理由
中国は逆に、中東での影響力を徐々に高めています。イランは21年9月に、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンによって設立された上海協力機構(SCO)の正式な加盟国となっています。今年2月には、ライシ大統領が中国を訪れました。
サウジアラビアへの接近は顕著です。昨年12月に習主席がサウジを訪問して、サルマン国王と包括的戦略パートナーシップ協定に署名し、両国の企業は34件の投資で合意しています。サウジは3月末、SCOの対話パートナー国になることを決めました。
サウジは、米国との関係を悪化させたいわけではありません。中国を引きずり込むことによって、中東における米国のプレゼンスを相対的に低下させたい。あちらが兄貴分、自分が弟分だった力関係を、今後は対等だと誇示したいのです。その点で、中国、サウジ、イランの思惑は一致しています。
そして中ロ・イランの3カ国は3月15日から19日まで、アラビア海で海軍の合同演習を実施。米海軍への挑発と受け取るのが自然ですが、今回も米軍は何の手出しもできませんでした。中東湾岸諸国の関係が中国を軸として激変しているのに、日本ではさして話題になっていないのは不思議です。中ロは2月にも、南アフリカ共和国を加えた3カ国海軍の合同演習をインド洋で実施したばかりです。
入れ込み気味のプーチンに対して社交辞令にとどまった習近平
4つ目の大きな出来事が、政権3期目に入ったばかりの習氏が、3月20日から22日までロシアを訪れて、プーチン氏と会談を行ったことです。
このとき私が気になったのは、習氏の態度の変化でした。19日にプーチン氏が「人民日報」に、20日に習氏が「ロシア新聞」に、それぞれ寄稿しています。そこには、明らかな温度差がありました。プーチン氏の寄稿は、現在の中ロ関係の認識を入れ込み気味に表明しています。
〈ロシアと中国の関係は歴史上最高のレベルに達し、さらに強くなり続けています。冷戦時代の軍事・政治同盟よりも質が高く、リーダーもフォロワーも存在せず、制約も禁じられた話題もありません。われわれの政治対話は極めて信頼できるものとなり、戦略的交流は包括的なものとなり、新しい時代を迎えています。
習近平主席と私はこれまで約40回会談していますが、常に時間と機会を見つけ、さまざまな正式な形式で、「ネクタイを外した」環境の中でコミュニケーションを取ってきました〉(ロシア大統領府HPより筆者訳)
ウクライナ戦争下のロシアにとって、中国との関係を維持することがいかに重要かが伝わってきます。これに対して習氏の寄稿は、この訪ロが〈友好、協力、平和の旅になる〉と、いわゆる外交辞令にとどまっていました。
同盟から協商へ緩い2国間関係が増えていく
ところが4時間半に及んだ首脳会談では、習氏は冒頭からにこやかな態度に一変します。これは習氏がモスクワに入った後、考えを改めたためでしょう。大使館でブリーフィングを受けて、ビジネスライクに一定の距離を置いてバランスを取るより、ロシア側へ一歩踏み込んだ方が得だと判断したものと思われます。
会談後の共同声明も、〈両国関係は歴史上最高のレベルに達し、着実に成長している〉と両国の緊密さを誇示する、プーチン氏の寄稿を踏襲するような内容でした。
両国の関係は同盟ではなく、協商と呼ぶべき緩い関係です。同盟ならば、一方が攻められたら共同防衛しなければいけませんが、そこまでの責任はお互いに負いません。中国はロシア産の原油や天然ガスの輸入を増やすことで、ウクライナに対する戦争を間接的に支援しています。ロシアは中国に、軍事的な支援や兵器の供与を求めていません。中国が中立的な立場を保ちながら、国連と共に和平を仲介してくれた方がロシアの国益にかなうからです。
現にウクライナのクレバ外相は、中国の秦剛外相兼国務委員と3月16日に行った電話会談で、2月に中国が提案した12項目の「和平案」を評価したと伝えられています。
この中ロのような緩い2国間関係が、今後増えてくるはずです。どちらが兄でどちらが弟といったきつい縛りではなく、対等の立場を保ち、是々非々で問題ごとに協力していく関係です。これは米国につき従う西側諸国連合の構図とは異なります。ここに挙げた4つの出来事から見えてくるのは、世界のパワーバランスが大きく急速に変わりつつある現実です。

 

●岐路に立つウクライナ戦争 習近平・マクロンの停戦に応じたいゼレンスキー 4/23
4月5日に訪中したフランスのマクロン大統領と欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、「(米国のように)中国との関係を切るのは利口ではない」(マクロン)、「習近平主席はタイミングが来ればゼレンスキー大統領と会うと語った」と話すなど、長期化かつ泥沼化するロシアのウクライナ侵攻の解決に、中国の力を借りたい気持ちを滲ませた。
また、マクロン大統領は帰国後の12日、「(米国の)同盟国であることは下僕になることではない」と、米依存のウクライナ支援に疲れたフランスや他の欧州諸国の世論を代弁するような発言をした。
欧州から見たウクライナ戦争は、明らかに転換点を迎えつつある。キーウ訪問を視野に入れた習主席もいよいよ本格的な停戦調停に向けた地ならしを始めたようだ。
4月13日にはウズベキスタンで中国の秦剛外交部長が、ロシア、イラン、パキスタンの各外相と第2回アフガニスタン問題会合を開催し、その中でウクライナ問題の平和的解決も話し合った。これが、中国はロシアに武器供給をしているイスラム圏をまとめようとしているとの噂に繋がった。
同14日にはベアボック独外相が訪中して「中国はもっとロシアに終戦を働きかけるべきだ」と語り、中国はそれを受けて李尚福国防部長を16日から訪ロさせ、ロシアはプーチン大統領が歓迎し、ショイグ国防相との三者会談も行っている。
岸田首相キーウ訪問時のル・モンドの記事
3月22日、キーウを電撃訪問した岸田首相がゼレンスキー大統領と共同記者会見を行っていた頃、ル・モンドが「Guerre en Ukraine : Volodymyr Zelensky dit avoir « invité » la Chine à dialoguer et « attendre une réponse »(ウクライナ戦争:ヴォロディミル・ゼレンスキー氏、中国を対話に『招待』し『返答を待つ』と発言」という見出し記事を電子版に流した。モスクワ電だと聞いているが、デモの続くパリは日米の思惑や評価とは異なる雰囲気を感じさせた。
習主席は、3月20日から22日まで国賓として、新チャイナセブンの蔡奇政治局常務委員や王毅中央政治局委員など8人を連れて、4年2カ月ぶりにロシアを訪問した。これは、昨年9月のウズベキスタンでの上海協力機構総会で、プーチン大統領と面会するために連れていた旧チャイナセブンの栗戦書中央弁公庁主任や王毅外相など7人よりも多い。王毅が外相から昇格していることとも併せて、今回は昨年より重要度を引き上げたことを意味する。
モスクワの高層ビルには「熱烈歓迎」の垂れ幕がかけられ、プーチン大統領が国賓として迎えた習主席とクレムリン宮殿の大広間を2人で歩く傍らに立った交渉参加者は、中国側がこの8人、ロシア側が6人と中国側の方が多かった。習主席の方がプーチン大統領より格上だと言わんばかりの演出だ。
習主席は5年前に北京を訪問したプーチン大統領に友誼勲章を授与しているが、これは世界平和の維持に卓越した貢献を果たした外国人に授与するもの。この時から習主席は、中国がロシアと同格かそれ以上にあると考え始めたと言われている。
この延長線上で流れたのがル・モンドのゼレンスキー大統領が中国を招待したという見出し記事なのだが、これはモスクワ訪問最終日に岸田首相がゼレンスキー大統領と共同記者会見をした裏で、中国を軸とした停戦への動きが密かに進んでいたことを示唆していたのである。
中国の停戦仲介に必要な欧州の協力
中国は2月24日にウクライナ問題への和平仲介として12項目の提案を発表。これは現状のロシア占領地域の存在を追認することでもあり、反ロシア陣営は異口同音に批判した。しかし、終わりの見えない戦闘状況を考えれば、米国の思いとは裏腹に、そろそろ自国予算を国内向けに振り向けたい欧州諸国の首脳にとっては、またとない機会に写ったのかも知れない。
ル・モンドは昨年9月の上海協力機構の総会では、プーチン大統領が習主席に対して語った「貴兄の配慮ある対応に感謝する」との言葉を含めて首脳会談の様子を細かく取材していた。この会談に参加した栗戦書中央弁公庁主任は、事前にモスクワ入りして同大統領と会談を重ねてきたとされ、こうした背景を知る関係者にとってプーチン大統領の言葉は、中国がロシア支援を行っていることへの謝意を示したと理解できた。
その後、昨11月にはドイツのショルツ首相が訪中して習主席と会談。ドイツ企業の対中輸出の大型商談をまとめたうえで、ウクライナ情勢の平和的解決と核の不使用を訴えることで一致。本年1月には、ゼレンスキー大統領がワールド・エコノミック・フォーラムに参加した中国政府代表にで習主席への手紙を託している。
また、仏経済誌レゼコーによれば、2月15日に王毅外相(当時)がドイツ、イタリアと共にフランスを訪問して、マクロン大統領と会談し、「(両国が)国際法を尊重し、平和に貢献するための同じ目標」を持っていることを確認。中国とフランスを中心とする欧州は、北京・広州での二回の習・マクロン首脳晩餐までに、プロセスを踏んできたことが窺える。
しかも、マクロン訪中直前の3月28日には、ゼレンスキー大統領が習主席のキーウ訪問を招待したと公表し、ウォールストリート・ジャーナルのインタビュー(Zelensky: Ukraine Is ‘Ready’ for Chinese President Xi to Visit (wsj.com))で、「ロシアと全面戦争になる1年以上前に習主席とコンタクトを取ったことがある」とも語り、同大統領のベクトルが一段と中国依存に傾きつつあることを感じさせた。
欧州は中国の仲介を求めているし、ウクライナもそこに期待を持っているのだ。
しかし、中国が米国の反中感情の下でウクライナ問題に介入するには、欧州諸国の協力が必要である。半年以上前から仏独やロシア・ウクライナ等と交渉してきた中国にとって、マクロン大統領の訪中は重要だった。だからこそ、米大統領以上とも言える歓待をしたと言えるだろう。
極東経由で貿易拡大するロシア
西側諸国はウクライナ侵攻をめぐり対ロシア経済制裁を行なってきたが、それはほぼ完全に失敗に終わった。今ではルーブルの対ドル相場は1年前の65ルーブル程度からさらに上昇して81.7ルーブル(4月13日)と、侵攻前の状態に戻っている。
筆者は昨年5月7日付拙稿「NATOのウクライナ軍事支援本格化で一段と注目される中国の動向」で、中国は清朝時代に帝政ロシアに奪われたウラジオストックなど極東領土の奪還を考えていると書いた。今回の習主席の訪ロに際して、中国メディアはサハリン(樺太)が台湾の2倍の広さで、エネルギーや鉱物資源が豊富にあることを相次いで報じ、習主席の目がオホーツク海まで及んでいることを示唆している。
2022年の中ロ貿易は、中国からの輸出が前年比12%増の762億ドル、輸入が43%増の1122億ドルだった。本年3月は輸出が前年同月比約2倍、輸入も4割増と拡大を続けている。
NATO諸国はロシアからの天然ガス輸入を止め、他の貿易についても基本的に大幅に減少させているものの、ロシアには極東にウラジオストックなどの港があり、そこから欧米以外に船積みして貿易を続けている。ロシアやモンゴルで活動する欧米人事業家によれば、シベリア鉄道は輸送量が目一杯で、モンゴルの同鉄道利用は後回しにされているため、輸出予定が大幅に遅れているとのことだ。
また、コロナ感染症のためにモンゴルとの国境を超える鉄道を止めていた中国は、2月下旬にこれを再開。シベリア鉄道からモンゴルを経て中国に入るロシアからの輸入品、逆にシベリア鉄道を経て、モスクワやサンクトぺテルブルグなどへの輸出品の輸送も満杯状態が続いている模様だ。
米国が対ロ輸出を禁止している半導体も、第三国を経由してロシアに流れ込んでいるとの記事が出ているが、ロシアの各空港もイランなどロシアを支援する国々と往来する旅客機のスケジュールがコロナ前の状態に戻っているとのこと。武器商人(=死の商人)が行き交っているのかも知れない。
ロシア経済は生き延びている。ウクライナ南部と東部の占領地域へのウクライナ軍による反転攻勢が間近と言われ、劣勢にある印象のロシアだが、それは両軍の死傷者だけを増やして両陣営を疲弊させるだけという懸念もある。
停戦仲介が本格化する時期は?
こうした状況下、ロシアはゼレンスキー大統領が習主席へのウクライナ訪問を求めたことについて、「全ては中国に任せる」(ラブロフ外相)とコメントしたほか、イランのほかサウジアラビアも期待を表明。ロシアや中国依存度を高める他の国々は中国の停戦仲介に肯定的である。
NATO諸国とて、対中制裁と言いつつ、欧州にも影響する半導体規制のためのCHIPS法への不満や、ロシアからの天然ガスパイプライン・ノルドストリーム2の破壊をしたのは米国ではないかという疑念を持っており、米国への不信感を持ちながらの戦闘長期化は、無理な軍事予算に怒る国民の声もあって回避したいところだろう。
一方、停戦仲介に本腰を上げつつある中国は、習主席がマクロン訪中時にエアバス160機注文等の大盤振る舞いをした。秦剛外交部長は4月14日、中国はロシア・ウクライナのどちらへも武器を売らないと語った。15日には王毅中央政治局委員が、ベアボック独外相との面談で台湾問題への理解を求めている。中国は強かである。
ウクライナ東部や南部での反転攻勢を準備中と言われるなか、ゼレンスキー大統領は攻勢によるある程度の領土回復後の停戦を望んでいるのかもしれないが、ロシア寄りの中国がいつ停戦仲介に動き始めるかは自分では決められない。武器供与を依存する欧州が中国案に乗れば、それが現状維持であっても受け入れざるを得ないかもしれない。
米国も、中ロの貿易などを考えると、中国にイニシアチブを取られるのが我慢できなくても、時間と共にロシアが「これは世界のための米国一極による覇権への挑戦である」と言い始めたこともあり、どう動くかを考え始めたとしてもおかしくはないだろう。
国際情勢を見る際、ウクライナ問題だけに注目したり、台湾問題に特化していては全体を見間違う。中東も南米もアフリカも新たな動きをしているからだ。同時に、ロシアのベラルーシへの戦術核配備の動きは、仮に中国の停戦仲介が失敗したらこれを使うという脅しとも考えられる。いずれにせよ、中国の今後の動向が注目される。
●侵攻長期化でロシア異変 原油下落で“財政悪化”値引幅制限の奇策 4/23
ウクライナ侵攻の長期化により国内で異変が生じている。ロシアで最も重要な祝日とされる5月9日の戦勝記念日の軍事パレードを巡り、占領地域や国内各地での中止の発表が相次いでいる。さらに、例年、プーチン大統領も参加して、戦没者の遺影を掲げながら、全土で市民約1000万人が街を行進する「不滅の連帯」が盛大に開催されていたが、今年は「不滅の連帯」が全土で中止となった。侵攻開始以来、反体制派や反逆者に対する処罰の強化が継続する。ロシアの裁判所は17日、政府に批判的なジャーナリストで活動家のウラジーミル・カラムルザ氏に対し、国家反逆罪などで25年の禁錮刑を言い渡した。去年、2月のウクライナ侵攻後、反政権派に対して、最も厳しい判決となった。カラムルザ氏は、10日の最終意見陳述で、プーチン政権や侵略を批判した自身の発言について、「誇りに思っている。ロシアを覆う闇が払われ黒は黒、白は白だと言える日が必ず訪れる」と語った。また、ロシア下院は18日、国家反逆罪の最高刑を現行の禁錮20年から終身刑に引き上げる刑法改正案を可決した。
侵攻長期化に伴う戦費膨張と西側による経済制裁の影響を受け、ロシア財政は悪化による荒波で揺れている。ロシア財務省が7日に発表した第1・四半期の財政収支は2兆4000億ルーブル(3.9兆円)の赤字となった。政府が2023年に見込む赤字額全体の8割超を占めている。ロシア経済を支えているロシア産原油の価格低迷が背景にあるとされる。ロシア産原油の輸出価格に上限を設定した先進国の制裁措置を契機に、価格に大きな変動が生じている。番組アンカーで野村総合研究所・エグゼクティブエコノミストの木内登英氏は、「ロシア産原油の主な輸出先であるインドや中国などに足元を見られ、大幅に値引きして輸出することを強いられている」と分析する。ロシアは税収確保の対応策として、ロシア産原油の価格に対し、値引き幅の上限を制限する措置を講じた。値引き幅の上限は、4月は34ドル、5月は31ドル、7月は25ドルと設定されており、徐々に縮小させていく。上限価格と実際の販売額の乖離分は、税金納付の際に石油会社の負担となる。 木内氏は、「仕組みはウラル原油の価格の値下がりをとめる要素にはならない」と有効性と持続性に懐疑的な見解を示す。
G7(主要7カ国)が、5月に広島で開催される首脳会議に合わせ、ロシアへの輸出を全面的に禁じる措置を検討していると米国メディアが報じた。20日の米ブルームバーグによると、G7が検討を進める新たな輸出禁止の制裁案は、「医薬品と農産物が除外される可能性が高い」と伝えた。西側の経済制裁及び規制をよそに、中国は、ロシアに対する資材輸出を拡大させている。米ウォールストリート・ジャーナル紙によると、中国はロシアへの半導体の輸出は、2021年の7400万ドルから2022年の1億7900万ドルと約2.4倍に増えており、一方、トルコによるロシアへの半導体の輸出は、2021年の7万9000ドルから、2022年の320万ドルとおよそ40倍にも増加している。 G7 がほぼ全ての品目の輸出禁止措置を講じた場合、制裁の実効性はあるのか、また、戦争に与える影響などを考察する。 

 

●ロシア軍とワグネルが銃撃戦、死者も──ウクライナ軍発表 4/24
ロシア軍兵士と民間軍事会社ワグネルの傭兵の間で撃ち合いが起きたとみられると、ウクライナ軍当局が23日に明らかにした。原因は、ウクライナ侵攻でロシアが戦果を上げられない責任がどちらにあるかをめぐる対立だったという。
ウクライナ東部では今も激しい戦闘が続いている。一方で、奪われた領土の奪還を目指すウクライナ側の反転攻勢も近いとみられる。
ウクライナ軍参謀本部の23日の発表によれば、ウクライナ侵攻でともに戦っているはずのロシア軍とワグネルの間の緊張が、ここへきて頂点に達している。
発表によれば「大した戦果を上げることができなかったロシア軍とワグネルは、敗北の責任を互いに転嫁しようとしている」という。「どちらも自軍の戦術ミスや被害の責任を相手に押しつけようとし、挙げ句の果てにルハンスク州の村で衝突が起きた」
対立は銃撃戦へとエスカレートし、双方で死者も出たという。事件が発生した正確な日時や死者数といった詳細は分かっていない。
予想外の善戦
ロシア側は事件の発生を認めていない。弊誌もウクライナ側の主張の真偽を検証することはできていない。弊誌はロシア国防省にコメントを求める電子メールを送ったが回答は得られていない。
軍事アナリストによれば、ロシアが短い期間にウクライナに勝利できなかったのは、士気も戦うモチベーションも低いなど、原因はいくつも考えられるという。
欧米諸国から供与された武器も、ウクライナの予想外の善戦に一役買っている。昨年秋の反攻でウクライナは広い範囲の領土を奪還したが、これも供与された兵器があってのことだった。
戦闘員が帰国後に殺人
ロシアは東部の都市バフムトを奪取して象徴的な勝利としたいと考えており、その目標に向けてワグネルはロシア軍とともに戦ってきた。だが戦況は数カ月間にわたって膠着状態が続いている。ちなみにワグネルの戦闘員は主に元受刑者で、ウクライナでの戦闘に参加することで恩赦を受けた人々だ。
バフト周辺では、ウクライナ侵攻以降では最も激しい戦闘が繰り返されてきた。ここ数カ月戦況は一進一退を続けているが、ロイターによればロシアは23日、占領地域を拡大したと発表したという。
また英紙ガーディアンは23日、ロシアに帰国したワグネルの戦闘員が、殺人事件に関与した疑いが持たれていると伝えている。報道によれば、すでに2人のワグネル元戦闘員が、殺人容疑で逮捕されている。
●中国のウクライナ和平案の狙いは何か? 4/24
ノルウェーの元外交官で中国専門家のベッケボルドが、3月21日の習近平のロシア訪問での中国のウクライナ和平提案について、グローバルサウス(南半球を中心とした途上国)、欧州および戦後のウクライナとの関係で中国の立場を強化するという隠された意図があると米国外交専門メディア「フォーリン・ポリシー」で論じている(4月4日付け‘China’s ‘Peace Plan’ for Ukraine Isn’t About Peace’)。要旨は次の通り。
中国の12項目のウクライナ和平提案は戦争を終わらせるロードマップとしては抽象的過ぎる。むしろ、米国に対抗するための外交上の情報発信として見るべきだ。中国は、特にグローバルサウス、欧州および戦後のウクライナの3者との関係で立場を強化することを狙っている。
第一に、中国はグローバルサウスに対して、将来の平和の担い手として自らを提示する目的がある。中国は、グローバルサウスの多くの国が、ウクライナ戦争を西側とは違った解釈をしており、ロシア寄りで早期の交渉による戦争終結を望んでいることを知っている。
第二に、中国の和平提案は、欧州との関係をリセットしようとする試みの一部である。中国は、米国の経済的なデカップリングと安全保障上の対抗関係への政策転換を永続的なものと考えているが、ロシアが最大の課題である欧州については、米中関係において完全に中立となる見込みはないとしても、「単に米国の路線に従うことだけが、唯一の選択肢ではない」とリマインドし続けるであろう。
欧州の指導者は、習近平がプーチンに戦争を止めさせる上で何ができるのか、また何をする気があるのか、現実的に理解することが必要である。一部の欧州国政府は、北京をモスクワから引き離すことができると考えているかもしれないが、それは、あり得ないシナリオである。
第三に、中国の和平提案は、戦後のウクライナの復興において自らを位置付ける努力の一環であり、中国は、ウクライナ復興を支援し役割を果たす用意があると明言している。中国にとっては、ウクライナ復興支援は、欧州全体に対する中国の関与を強化するものとなろう。
結局のところ、中国がウクライナ戦争に平和的な解決をもたらす能力は限られている。しかし、中国の和平提案が戦争終結に役に立たないとしても、中国が失うものはない。逆に、中国は、西側とグローバルサウスの間に楔を打つことができる。そして、戦後の復興支援への関与を含むこの提案が欧州との関係を改善するのに資するのであれば、極めて大きな成果だと言えるであろう。

この論説は、中国のウクライナ和平提案を中国の外交政策全体の中で位置付けており、また、ウクライナ問題および中国に対する欧州の見方を代表するものとして参考となる。
中国の第一の狙いであるグローバルサウスに対して平和実現の担い手としての中国の役割をアピールすることについては、ウクライナ和平提案においても穀物の輸出の促進が謳われており、特に戦争により生じた経済的困難を解決する上で南の諸国からの期待が追い風になっている。この論説では、提案が実を結ばなくても中国は失うものは無いとしているが、西側としては、グルーバル・サウスの期待感を中国がより責任感を持ってウクライナ和平に取り組むような圧力に転換したいところだ。
第ニ点の中国が和平提案を欧州連合(EU)との関係改善に活用しようとしているとの見方は注目に値する。中国側に米国との関係悪化を埋め合わせる意味でもEUとの関係改善の強い動機があり、EU側にも経済面での中国との協力が自国経済の活性化にもつながることから、相互に必要とする余地がある。従って、EU側としては、関係改善と引き換えに、中国がウクライナ問題に対してよりバランスの取れたアプローチを行い、ロシアに影響力をかけるよう交渉の余地があるかもしれない。
ロシアに対する抑止となるか?
中国の12項目の和平提案には、国連憲章の原則や国際法の順守、主権、独立、領土保全の支持(第1項)、停戦のための敵対行為の停止(第2項)、和平交渉の再開(第4項)、人道的危機の解決(第5項)、民間人の保護(第6項)、原子力発電所の安全、(第7項)、核兵器の不使用(第8項)、穀物輸出の促進(第9項)といったロシアの更なる侵略行為や残虐行為を抑止する効果を持ち得る条項が含まれている。
これらの部分をベースに、例えば、習近平がウクライナ側の言い分も聞くべくセレンスキーと会談すべきこと、あるいは、第1項の趣旨からすればロシア軍の撤退を要求すべきことなど、中国側に要求することが、間接的にロシアに対する抑止的効果を持つかもしれない。
第3点は、ウクライナの戦後復興において中国の役割を確保する狙いがあるとのことであるが、そのような状況が来るとすれば大変結構なことだ。ウクライナとしては、中国の資金援助や投資を受け入れても、EU加盟や安全保障についての考慮は変わらないであろうから、それが中国の復興支援と両立するのであれば大歓迎ということであろう。
EU側としては、中国批判派のバルト諸国やチェコと云ったメンバーもいて、対中関係改善に一枚岩ではないが、フランスやドイツは、米国のデカップリング(分断)政策とは一線を画し、中国との経済関係の継続と引き換えに、中国に対しウクライナ問題に対するより中立的なアプローチを要求するのであろう。
同時に、戦略的自律という建前論と中国との冷戦構造を求めないとして、中国との信頼関係の構築に努めようとするようであるが、EU内でのコンセンサスや北大西洋条約機構(NATO)における米国依存という現実との間でのバランス、更には、中国の人権問題の扱いなどにも気を遣う必要があり、西側同盟とG7(主要7カ国)の協調の枠内で進めてもらう必要があろう。
●ウクライナ軍、ドニエプル川東岸に拠点か 米戦争研究所が分析 4/24
米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)は22日、ウクライナ南部ヘルソン州で、ウクライナ軍がロシア軍に占領されているドニエプル川東岸に拠点を築いたとする見方を示した。ロシアの複数の軍事ブロガーが投稿した画像などを基に分析した。ウクライナ軍が東岸での反攻のきっかけとする可能性がある。
ウクライナのメディアによると、ウクライナ軍報道官は23日、「進行中の軍事作戦については情報を秘匿する必要がある」と述べ、この分析についてのコメントを避けた。
ISWによると、ウクライナ軍の拠点は州都ヘルソン市の南方10キロ前後の地点とみられる。同軍が一定の陣地を構え、補給路を確立した可能性があるという。ウクライナは、同州のほぼ全域をロシア軍に制圧されていたが、昨年11月に州都ヘルソンを含む西岸を奪還した。ウクライナ軍はこの春にも大規模な反転攻勢に乗り出すと予想されており、ドニエプル川東岸はその主要な目標地域の一つだとみられる。
●ロシアでの“活動等禁止”へ 北方領土元島民が怒り… 4/24
21日、ロシア当局が北方領土の元島民らでつくる日本の団体に対し、ロシア国内での活動などを禁止する方針を打ち出した。元島民から怒りの声が上がっている。一方で、南の島にロシア人が押し寄せていて問題となっている。
ロシア検察当局「好ましくない組織」…連盟は“抗議”
ロシア検察当局:「ロシアの領土の一部を奪おうとしている」「ロシアについて否定的な意見を形成し、反ロシア感情を高めている」
ロシア検察当局は21日、北方領土の返還を目指し、元島民などでつくる「千島歯舞諸島居住者連盟」を非難。さらに、「好ましくない組織」に指定したと発表し、ロシア国内での活動などを禁じる方針を打ち出した。
新型コロナの影響で2020年から中断している北方領土への墓参りの再開も困難になるとみられ、元島民から次々と怒りの声が上がった。
元島民・大塚誠之助さん「我々はずっと友好的だったんです。今回のような扱いをされる覚えはないですね」
元島民・岩崎忠明さん「気持ちだけはくじけない、そういう気持ちです」
連盟の脇紀美夫理事長はコメントを発表し、「きわめて一方的な対応であり断じて受け入れることはできない」と抗議した。
“招集令状電子化”テスト開始 プーチン氏が法案署名
今回、ロシア側が発表した意図についてロシア情勢に詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授は、次のように話す。
廣瀬教授「北方領土問題で、まさにロシア側が全く譲歩する気がないということを改めて示したことになると思います。国後島と択捉島の間の国後水道(海峡)という所が唯一、潜水艦が通れる所なんですね。やはり、軍事戦略的な意味合いからも北方領土は非常に重要となっています」
一方、14日にプーチン大統領が招集令状を電子化する法案に署名したばかりだが、インタファクス通信によると20日、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクの軍事委員会幹部が徴兵などの招集令状を電子化するテストが始まったことを明らかにしたという。
ロシア人の“バリ島渡航”急増 要因は?
プーチン政権が去年9月、部分的動員令を発令してから、ロシアから海外に渡る人が増えていると報じられているが、ある南の島に渡っているという。
多くのロシア人が行く先は、インドネシアのバリ島だ。インドネシアメディアによると、去年9月の部分的動員令の発令後にバリ島への渡航が急増し、今年1月だけで2万2500人が渡ったそうだ。
要因として考えられるのが、簡単なビザの取得サービスだ。去年5月、インドネシア政府はロシアを「到着ビザ」の給付対象国に加えた。
これによって事前手続きなしでも、到着時に空港などで30日間の観光目的ビザを取得できるようになった。
さらに、ビザ発給にかかる手数料もおよそ4500円と比較的安く、延長も可能だということだ。
強制送還“ロシア人は最多” 徴兵回避のためか
そして、ロシア人によるトラブルも増えているようだ。現地メディアによると、3月上旬の1週間、交通違反で摘発された外国人の数は171人、うち3分の1の56人がロシア人だったようだ。
またCNNによると、今年1月1日から4月2日までの間に、バリ島で法律に違反し、強制送還された外国人は40人で、そのうちロシア人は最多の14人だったという。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、強制送還されたロシア人の中には、ロシアでの徴兵を回避するために、ビザで許可された在留期間を超えて滞在していた人もいると伝えている。
“楽観的態度”示すジョコ大統領「問題ではない」
一方、ロシア人のトラブルを巡っては、インドネシアの自治体と政府で温度差があるようだ。
ロイター通信によると、バリの州知事が「到着ビザ」の発給対象国からロシアを外すよう、インドネシア政府当局に要請したということだ。
一方、インドネシアのジョコ大統領は「(トラブルを起こすロシア人に対し)彼らは逃亡しているのではなく、観光できているのだから問題ではない」といった楽観的な態度を示したと、現地メディアは伝えている。
ロシア情勢に詳しい慶應義塾大学の廣瀬教授によると、「インドネシアはロシアから石油や兵器などを多く購入していて、安定的な国家運営において、ロシアとの関係維持は極めて重要」とし、そのためインドネシア政府は、プーチン政権を刺激し、外交問題に発展するのは避けたいのが本音ではと分析している。
●「プーチンは単に恐怖を感じている」 病的な精神状態を元情報将校が暴露 4/24
長らく中立を保ってきたフィンランドが今月4日、NATOの一員となった。これによりNATO加盟国とロシアとの国境はおよそ2600キロに倍増、欧州に緊張が高まりつつあるのだが、そんな折“張本人”のプーチンが、深刻な精神状態にあると暴露され……。
さる4日にAP通信が公開したインタビュー動画は、驚くべき要素に満ちていた。
「2009年からロシア連邦警護庁(FSO)に所属し、昨年亡命するまでプーチンの間近で警護にあたっていたグレブ・カラクロフという情報将校が、大統領の精神状態や特異な行動を赤裸々に語っているのです」とは、全国紙デスク。
「彼は、昨年10月にカザフスタン経由でトルコへ脱出。直前までプーチンと政府高官との通信管理を担っており、今回『13年間、大統領が携帯電話やインターネットを使うのを一度も見たことがない』『国外でも、テレビはロシアの国営放送しか見ようとしない。全ての情報を側近たちから得ていて、ある種の“真空状態”の中で暮らしている』などと、その“裸の王様”ぶりを暴露しました」(同)
「プーチンは単に恐怖を感じている」
インタビューは昨年12月に行われたといい、〈プーチンは追跡可能な飛行機を好まず、ウクライナ侵攻に備え、特別な装甲列車で移動していた〉〈(モスクワ以外の)都市に机や壁掛けなどが全く同じ執務室を設置していた〉〈盗聴を防ぐため、外国訪問の際には、トラック1台分ほどの大きさの通話ブースを持参していた〉などと発言。その上で、「プーチンは単に恐怖を感じているのだと思う」と、言い捨てていたのだった。
大統領選も懸念
浮き彫りになったのは、独裁者の孤独と病的な妄執である。防衛研究所の兵頭慎治・政策研究部長は、「これまでプーチンの通信の秘密を扱う部署の実態はほとんど明かされませんでした。彼がそこに強いこだわりを持っていたのは間違いなく、外国訪問時に巨大な機器を持参して肉声を漏らさないようにしていても、何ら不思議ではありません」としながら、「各地の執務室を同じデザインにしているというのも、映像などで特定されて所在地をつかまれないようにするためだと考えられます。もっとも、彼が暗殺や盗聴を恐れているのはウクライナ侵攻以前からで、今回のフィンランドのNATO加盟で、メンタルの状態がいっそう悪化する恐れはあります」
元時事通信社モスクワ支局長の名越健郎・拓殖大学特任教授も、こう言うのだ。
「バイデン政権きってのロシア通であるバーンズCIA長官は、一貫して『プーチンが自暴自棄になる可能性を考えると、核に頼る恐れを軽視できない』と語っています。それもあって米国は、ウクライナへの決定的な援助に踏み切れず、中途半端な対応が続いているのです」
不安要素はむろん国内にもあり、「これまでプーチンを支持してきたロシアのエリート層が、戦争の長期化に伴う欧米からの制裁で孤立し始めている。来年3月の大統領選に向け、彼らから『あと6年任せていいのか』といった議論が出てくると、支持層の分裂をもたらす可能性もあります」基盤が揺らげば、ますます捨て鉢になりかねない。
●「プーチンは英国攻撃を準備している」英議員が警告の深刻度 4/24
ロシアのプーチン大統領が、「英国攻撃の準備をしている」と報じられた。反露感情が強く、ロシアはウクライナを支援する英国など西側諸国の動向に神経をとがらせており、英国東部に面する北海で工作活動を実施したり、サイバー攻撃も急増させたりしているという。
英保守党のボブ・シーリー議員が21日、英紙デイリー・テレグラフの電子版「ザ・テレグラフ」に「プーチンは英国を攻撃する準備をしている」と寄稿した。「潜在的な敵対国が、より大規模な紛争に向けて準備を進めていることは、厳然たる事実である」と警告している。
また、3本のパイプラインがガス供給の43%を担い、5本の送電ケーブルが英国と欧州を結ぶ電力を供給していることなどを挙げ、「海での妨害工作があれば、一発も撃たずにこの世界を停止させることができる」と指摘した。
ロシアは北海で漁船や調査船を装って海中を監視し、通信やエネルギー供給に必要なインフラ施設の位置を確認していることが判明している。デンマークの情報当局者は、ロシアが西側との軍事衝突に備え、破壊工作の準備をしているとの見方を示した。
ザ・テレグラフは19日には、英政府通信本部(GCHQ)の関係者の話として、西側諸国がロシアのハッキングの活動の急増と戦っていると報じた。ダウデン内閣府担当相は、「ロシアが最近、英国とその同盟国に目を向け始めている」との見方を示した。
ロシアの外交・安全保障に詳しい笹川平和財団の畔蒜(あびる)泰助主任研究員は、「ロシアが欧米と紛争状態になった場合、攻撃する可能性があると警告したものだ。英国は歴史的にも反露感情が強く、ウクライナ侵攻後も情報戦や宣伝戦を行ってきた。英国も、欧州とロシアが衝突すれば『まず最初に狙われる』と敏感なのだろう」と分析する。
英露間に軋轢(あつれき)を生じた事件は少なくない。2006年には英国に亡命中の元ロシア諜報員、リトビネンコ氏が死亡した。ロシアの情報機関によって毒殺された疑いがある。18年にも同様に元諜報員のスクリパリ氏が毒殺未遂に遭った。
ウクライナ戦争でも英国は主力戦車「チャレンジャー2」の供与を表明するなど支援に積極的だ。
先進7カ国(G7)はロシアへの追加制裁案として、一部の医療品などを除く「ほぼ全面的な輸出禁止措置」を検討するなど敵対姿勢を明確にしている。
ロシアと西側が実際に戦火を交えることはあるのか。畔蒜氏は「西側もエスカレーションは避けたいだろうが、米国がウクライナに長距離ミサイルやF16戦闘機を供与することで、緊張に拍車がかかることも想定される。タガが外れる状況になる可能性もゼロではない」と指摘した。 

 

●ロシア、海外2社の資産を一時管理 プーチン氏が法令署名 4/25
ロシアのプーチン大統領は25日、海外のエネルギー企業2社がロシア国内で保有する資産を一時的に管理する法令に署名し、必要に応じ他の外国企業に対しても同様の措置を取る可能性を示唆した。
法令は国外にあるロシアの資産が差し押さえられた場合に取り得る対抗措置を記したもので、独電力大手ユニパーのロシア部門およびフィンランドのエネルギー大手フォータムの資産に対し既に措置を講じたことを示している。双方の株式は一時的に連邦国家資産管理局の管理下に置かれた。
また、米国や他の国による「非友好的で国際法に反する」行為に早急に対応する必要があるとしている。米国などの行為について具体的には言及していない。
タス通信によると、連邦国家資産管理局はさらに多くの外国企業の資産を一時管理する可能性があるとし、経済における重要性に応じて当該資産を運営する方針を示した。
「同法令は所有権の問題には関係なく、所有者から資産を奪うものではない。外部管理は一時的であり、元の所有者がもはや経営上の決定権を持たないことを意味する」と述べたという。
●ロシア大統領府、プーチン氏に複数の「替え玉」説否定 4/25
ロシア大統領府(クレムリン)のぺスコフ報道官は25日、プーチン大統領には多くの「替え玉」がおり、プーチン氏自身は大半の時間を核シェルターで過ごしているという話は「うそ」と一蹴した。
ぺスコフ報道官は「プーチン氏はいつも非常にアクティブで、周りで働く者はついていけないほどだ」と述べた。
長らくささやかれているプーチン氏の病気説について、クレムリンは繰り返し否定している。
また、プーチン氏は2024年に予定されているロシア大統領選への再選出馬を表明していない。 

 

●ウクライナ軍、5月にも大規模軍事作戦か 米紙報道 4/26
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は24日、米当局者の話として、ウクライナ軍が早ければ5月にも大規模な軍事作戦を始めると伝えた。作戦は、アゾフ海沿岸を含むウクライナ南部で展開される可能性が高いという。
同紙によると、ウクライナ軍は作戦に向け、計約5万人の兵力を持つ12部隊を4月末までに準備しており、そのうち9部隊を米国と北大西洋条約機構(NATO)軍が訓練したという。米当局者は同紙に対し、米国やNATO加盟国が作戦に向け、ウクライナ側に多くの火器や弾薬を供給したと主張。その上で、今回の作戦が決定的な成功を得られない場合、欧米諸国はウクライナへの支援を減少させ、ウクライナには紛争を凍結、または終了させるため、ロシアと真剣に交渉するよう圧力がかかる可能性があると指摘した。
一方、ウクライナ軍広報官は25日、ウクライナ側が過去3日間で、ロシア軍が占領しているウクライナ南部ヘルソン州のドニエプル川東岸で「目覚ましい戦果を挙げた」と述べた。露軍の戦車や戦闘用車両、対空防衛システムなどに打撃を与えたと主張し、近い将来、さらなる攻撃を仕掛けることを示唆した。
米シンクタンク「戦争研究所」は22日、ウクライナ軍がドニエプル川東岸に一定の陣地を構え、補給路を確立した可能性があるとの分析を発表している。東岸は軍事作戦の目標地域の一つとみられている。
●黒海穀物合意巡る状況は暗礁に、ロシア輸出に障害=ラブロフ外相 4/26
ロシアのラブロフ外相は25日、黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意を巡る状況が暗礁に乗り上げたと述べた。ロシアの輸出を阻む障害がまだあるという。
また、黒海穀物合意を巡り国連のグテレス事務総長がプーチン大統領に送付した書簡についてはいずれ反応を示すとした。
グテレス氏はこの日、ラブロフ氏とニューヨークで会談。ラブロフ氏にプーチン大統領に書簡を渡すよう依頼したという。国連によると、グテレス氏は書簡で黒海経由の穀物輸出合意の「改善、延長、拡大を目指す道」を提案した。
ラブロフ氏は国連で行われた記者会見で、グテレス氏とグリフィス国連事務次長による「ロシアに対する違法かつ横暴な制裁」を発表した国との合意に向けた取り組みを称賛した上で、「ただ、実質的に何の結果も出ていない」と指摘した。
また、黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意について中国とは議論していないと説明した。
●プーチン氏、資産接収への報復を命じる大統領令に署名 4/26
ロシアのプーチン大統領は25日、ロシアが国外に保有する資産が差し押さえられた場合の報復措置を指示する大統領令に署名した。
ロシア国営タス通信が報じ、大統領府の公式サイトでも公表された。
大統領令は、ロシアの資産が「敵対国」によって差し押さえられた場合、ロシア側は国内の外国資産を一時的に管理下に置くと定めている。
この一時的管理は、大統領の判断によってのみ解除できるとも明記されている。
タス通信によると、すでに独エネルギー大手ユニパーのロシア部門の資産が、ロシア政府の一時的管理下に入った。 

 

●ロシア、西側企業の資産を一時管理下に プーチン大統領が法令に署名 4/27
ロシアはフィンランドのエネルギー会社フォータムと独電力大手ユニパーがロシア国内に保有する資産を一時的に管理下に置いた。ロシア政府は、ロシア企業に対する海外の動きへの報復としてさらなる資産差し押さえ措置を講じる可能性があると警告した。
プーチン大統領が25日夜、法令に署名した。この決定は覆される可能性があるとしている。
ペスコフ大統領報道官は「この法令は、非友好的な国々の攻撃的な行動への対応だ。ロシア企業の海外資産に対する西側諸国の姿勢の写し鏡だ」と述べた。
「(法令は)財産問題には触れず、所有者の資産を没収するわけではない。外部管理は一時的なものであり、元の所有者が経営決定をする権利を失ったことを意味するだけだ」とし 「法令の主な目的は、ロシア資産が海外で違法に収用された場合に対抗措置を講じる可能性に備えて補償基金を創設することだ」とした。
ユニパーのロシア部門ユニプロUPRO.MMは国内で総容量11ギガワット(GW)以上の発電所5基を運営しており、従業員は約4300人。ユニパーはユニプロの株式83.73%を保有している。
ユニパーはユニプロに対する措置について検討していると発表した。
ドイツ財務省の広報担当者は、ロシアの法令が具体的にどのような影響を及ぼすか評価する必要があると述べた。
フィンランドのトゥッティ・トゥップライネン国有企業担当相はツイッターで、今回の情報は憂慮すべきものであり、この問題を注意深く見守ると述べた。
フィンランド外務省はコメントしなかった。
フォータムは「当社の理解では、新たな政令は登記上のロシア国内資産や企業の所有権には影響しない」との声明を発表。「しかしこれがフォータムのロシア事業や進行中の事業売却プロセスなどにどのような影響を及ぼすかは依然として不明だ」とした。
フォータムのロシア部門はウラル地方と西シベリアに7つの火力発電所を有している。また現地のパートナーと共同で風力・太陽光発電所のポートフォリオを保有している。これらの資産の簿価は2022年末時点で17億ユーロ(18億7000万ドル)だった。
●ゼレンスキー大統領が習国家主席と電話会談 ロシアの侵攻後初 4/27
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は26日、中国の習近平国家主席と「長く意義のある」電話会談を行ったと発表した。両国の首脳が言葉を交わしたのは、昨年2月のロシアの侵攻開始以来、初めてとなる。
ゼレンスキー大統領はツイッターで、この電話会談と、駐中国・ウクライナ大使の任命が、「両国関係を進展させる力強い推進力」になるだろうと述べた。
中国も電話会談があったことを認め、「我々は常に平和の側にいる」と述べた。
26日の電話会談で習国家主席は、中国は「責任感のある多数派の国」として「対岸の火事を眺めることも、そこに燃料を加えることもしない。ましてや、この危機から利益を得ようともしていない」と述べたという。
これは、中国最大の国際的ライバルであり、この戦争でウクライナに最も協力しているアメリカを非難したものとみられる。
習氏はまた、ウクライナと直接かかわる意思を表明。欧州問題特別大使をキーウをはじめとする諸都市に送り、政治的和解に向けて「深いコミュニケーション」を取るとしたという。
一方のゼレンスキー氏は、元閣僚のパヴロ・リャビキン氏を駐中国大使に任命した。
米ホワイトハウスのジョン・カービー報道官は、電話会談は「良いことだ」と評価した一方で、これが「何らかの有意義な和平の動き、計画、提案」につながるか見極めるには時期尚早だと話した。
西側諸国と違い、中国はロシアの侵攻について中立の立場にいると見せようとしている。
しかしロシア政府との強い関係を隠そうとはせず、侵攻を非難してもいない。3月には習国家主席が2日間にわたりロシアを公式訪問した。
習氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「大切な友人」と呼び、12項目からなるあいまいな和平案を提示した。一方で、ロシアへの武器供与は約束しなかった。
中国の和平12項目は、ウクライナと西側諸国から広く批判されている。ウクライナの将来の安全保障やロシアに占領された領土について明確な計画が示されておらず、ロシアへの一方的な制裁の解除も求めているからだ。
習氏の訪ロの数日後、ゼレンスキー氏は習氏をウクライナの首都キーウへ招待すると発表。中国政府とはロシアの侵攻以前には連絡を取っていたが、侵攻後は途絶えていると述べていた。
中国が戦争終結に協力する可能性は低いと思われる。これは、ロシアがウクライナの領土から軍を撤退させる用意を見せないからだけではない。ゼレンスキー氏が、「領土での妥協と引き換えの平和はありえない」と強調している点も挙げられる。
また、習氏とプーチン氏の友好関係に加え、中国がロシアとの貿易を拡大していることや、「侵攻」という言葉を使うことすら否定していることなどからも、中国政府が仲介役になるのか疑問の声もあがっている。
ロシアのマリア・ザハロワ外務報道官は、ロシア政府は中国のアプローチに「幅広い一致」を見たものの、主な障壁はウクライナの「非現実的な要求」だと述べた。ロシアは和平の条件として、2014年に侵攻したクリミアを含め、併合したと主張しているウクライナ領土をロシアのものと認めるよう求めている。
   ロシアの対中輸入高と輸出高の推移を現したグラフ。年々拡大している
外交に意欲、そのわけは
それでも、1時間にわたるゼレンスキー氏と習氏の電話会談は、突然のものではなかった。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は4月初め、習氏が「条件と時期が合えば」ゼレンスキー氏と話す意向を示していたと述べた。フォン・デア・ライエン委員長は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の訪中に同行していた。
ゼレンスキー大統領は何度も習国家主席に接触しているが、これは中国の膨大な富と世界的な影響力が戦局を揺るがす可能性があることの証左だ。
習主席は先に、イランとサウジアラビアの関係を修復するなど、外交で成功を収めている。国際的に重要なステークホルダーとしての役割に味をしめた可能性もあるが、こうした介入には経済的な要素もあるだろう。
中国経済は長年にわたる厳しい新型コロナウイルス規制が終わってもなお脆弱(ぜいじゃく)だ。輸出に依存しており、ウクライナでの戦争が長引く中、完全に立ち直ることはできない。
今回の電話会談のニュースは、慎重に制御されている中国の国営メディアでトップニュースとして取り上げられ、中国側の解釈が報じられた。
中国のソーシャルメディアでは、多くのユーザーが平和的な対話を呼びかけ、中国が責任ある国として行動していると見て、支持を表明した。
典型的なコメントは、「中国は行き詰まりを打破し、氷を溶かさなければならない!」といったものだった。
●ゼレンスキー大統領 習主席に ロシアへの協力控えるよう強調  4/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、中国の習近平国家主席と電話で会談しました。ゼレンスキー大統領は会談で「ロシアへの支援が少なければ少ないほど、戦争は早く終結し、国際関係に平穏が戻るだろう」と述べ、ロシアへの協力を控えるよう強調しました。
ゼレンスキー大統領は26日、中国の習近平国家主席とロシアによるウクライナへの軍事侵攻後、初めて電話会談を行いました。
ウクライナの大統領府は会談は1時間にわたり、2国間のあらゆる話題について議論したと発表しました。
会談で、ゼレンスキー大統領は習主席に対して、戦況は厳しい状況が続いていると伝えたうえで「ロシアへのどんな支援も侵略の継続やさらなる平和の拒否につながる。ロシアへの支援が少なければ少ないほど、戦争は早く終結し、国際関係に平穏が戻るだろう」と述べ、ロシアへの協力を控えるよう強調しました。
また、ゼレンスキー大統領は、会談後みずからのツイッターに中国語で「習主席と長く、充実した電話会談を行った。両国関係の発展に強い勢いを与えるものと信じている」と投稿し、中国が果たす役割の重要性を訴えました。
一方、中国外務省は習主席は電話会談で「中国はできるだけ早い停戦や平和の回復のために努力する」と述べ、仲介役として建設的な役割を果たす姿勢を強調したと伝えました。
また、会談では、中国政府が政府の特別代表をウクライナなどに派遣する考えを示したということです。
ゼレンスキー大統領「長く合理的な会談だった」
ゼレンスキー大統領は26日に新たに公開した動画で中国の習近平国家主席との会談について「主にどのようにして平和を回復するかについて意見を交換した。長く、合理的な会談だった」と述べました。
そして「両国はともに国家の主権や領土の保全、安全保障のルールを順守することに関心を持っている」とした上で中国の国際社会での影響力を利用して和平に向けた土台作りが進むことに期待を示しました。
ロシア外務省「中国側の対応を評価」
ロシア外務省のザハロワ報道官は26日声明を発表し「われわれは中国側が交渉のプロセスの確立に向けて努力する用意があることを認識している。中国外務省がことし2月24日に示した立場とわれわれのアプローチは広く一致している」として、中国側の対応を評価する姿勢を示しました。
一方で「これまでのところ、キーウの政権はウクライナ危機の政治的かつ外交的な解決を拒否している。ワシントンに支配されている操り人形たちが平和への呼びかけに応じることはほとんどない」として、ゼレンスキー政権を非難しました。
米ホワイトハウス 歓迎も注視する考え示す
アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は26日、記者団に対し「習主席や中国当局がウクライナの考えを知ることは重要であり、よいことだと思う」と歓迎しました。
一方でカービー調整官は「会談が有意義な平和への一歩や提案につながるかどうかは現時点ではわからない」と述べて注視していく考えを示しました。
そのうえで「われわれは平和につながるいかなる取り組みも歓迎する。その平和は持続的で信頼できるものでなくてはならず、ゼレンスキー大統領やウクライナ国民が賛同するものでないかぎりそうはならないと思う」と強調しました。
●米機密文書「ロシアの財政、ウクライナ戦争最小1年持ちこたえられる」 4/27
ロシアが西側の強力な経済制裁にも「ウクライナ戦争で最小1年は持ちこたえる資金がある」と米情報当局が評価したことがわかった。ワシントン・ポストは26日、最近オンラインに流出した米政府の機密文書のうちこうした内容が含まれた文書があったとして内容を公開した。
同紙によると、先月初めに作成されたこの機密文書には「ロシアの民間企業代表ら経済エリートがロシア政府に資金支援を続けており、戦争を1年以上引っ張っていくことができる」という米情報当局の評価が入れられた。多くのロシア企業が欧米連合(EU)などの制裁で経営に深刻な打撃を受けたが、プーチン大統領に対する支持を撤回するどころか戦争資金を出しているという話だ。
この文書には「ロシア当局は(制裁による)経済的圧力を避けるため法人税引き上げと政府系ファンドの収益などに依存している」という内容も入っていた。
ただ、文書では追加制裁やロシア産石油に対する原油価格上限制などにともなう影響は排除されていたことがわかった。また、戦争長期化にともなう弾薬支出、追加兵力徴集の必要性などロシアの戦闘力に影響を及ぼしかねない他の要因も情報判断から抜けていた。この文書と関連した質問に米財務省とホワイトハウスは回答を拒否したと同紙は伝えた。
これに先立ち今月初めに米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)も「ロシアが依然として西側の制裁に対する驚くべき水準の適応力を持っている」という内容の報告書を出している。
このように米情報当局がロシアの財政的余力を予想よりしっかりしていると評価してはいるが、持ちこたえられる期限を1年ほどとみただけでロシアの経済事情が完全に楽観的なだけではないという解釈も出ている。
実際に先月初めにロシアのシルアノフ財相はミシュスティン首相に、国際投資銀行(IIA)と国際経済協力銀行(IBEC)、ユーラシア投資銀行などロシア主導の金融機関が「潜在的に当惑する崩壊を避けられるよう非常計画を支援してほしい」という内容の書簡を送った。これと関連して、ワシントン・ポストは流出した文書の中に「ロシアの銀行の外貨準備が十分でなく、ロシアの情報機関である連邦保安局(FSB)の懸念が深い」という内容の文書もあると伝えた。
一方、プーチン大統領は25日に自国内の外国企業の資産を一時的に統制できる法案に署名した。今回の措置は米国など西側諸国がロシアの資産を差し押さえたことに対する正面対抗の性格とみられる。
これに先立ち西側は昨年2月のロシアのウクライナ侵攻直後に制裁違反を理由としてロシア中央銀行とロシアの財閥、企業の海外資産を凍結した。こうした凍結資産をウクライナ難民支援と戦後再建に使おうという議論も起きている。
●現在のロシア地上部隊、ウクライナ開戦時より「規模大きい」 米軍司令官 4/27
米欧州軍のカボリ司令官は26日、ロシアはウクライナでの戦争で損失を被っているものの、依然として豊富な戦力が残っているとの見解を示した。
カボリ氏は上院軍事委員会で証言し、「ロシアの地上部隊は今回の紛争でやや劣化したが、現在の規模は開戦時よりも大きい」と述べた。
空軍が失った航空機は80機にとどまり、まだ戦闘機と戦闘爆撃機が合わせて1000機残っているという。海軍が失った艦艇は1隻。
米空軍州兵がリークしたとされる軍の機密文書からは、ロシアの地上部隊が戦争のどの場所に投入されたのかがうかがえる。2月と3月の日付が入った文書によると、使用可能なロシアの大隊544個のうち、ウクライナ戦争に投入された大隊は527個。このうち474個は既にウクライナ入りしているという。
文書の一つでは、ウクライナで戦死したロシア兵の数を3万5000〜4万3000人と推計している。
ウクライナ東部バフムート周辺の戦闘では特に死傷者数が多い。ウクライナ軍東部方面部隊の報道官は25日、ロシアは「すべての戦力をバフムートに集中させている。我々が管轄する作戦区域の他の場所では、それほど強力な戦闘作戦は実施していない」と指摘した。
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長も先月、バフムートを巡る戦闘でロシア兵が大きな犠牲を出していると述べていた。
ただ、こうした損失はロシアの総兵力のごく一部に過ぎないとみられる。カボリ氏は大西洋におけるロシア潜水艦の哨戒活動について聞かれ、ロシア軍の大部分はウクライナ侵攻で影響を受けておらず、近年になく高い水準で活動しているとの見解を示した。
●ロシア軍 南部ザポリージャ原発敷地内に陣地築いたか 英国防省  4/27
ウクライナ情勢をめぐり、ロシア軍が南部ザポリージャ州の原子力発電所の敷地内に戦闘のための陣地を築いたとイギリス国防省が指摘しました。ウクライナ軍の大規模な反転攻勢に備え、警戒を強めているものとみられます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、SNSで、南部ミコライウ州で夜間、ロシア軍の黒海艦隊から攻撃を受け、ビルや住宅などが破壊され、市民1人が死亡し、23人がけがをしたと明らかにしました。
また、ゼレンスキー大統領は、ウクライナのチョルノービリ原子力発電所の事故が起きてから26日で37年を迎えたのに合わせて、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長とも電話で会談し、ロシア軍が占拠している南部のザポリージャ原発を取り戻すことの重要性を強調しました。
そのザポリージャ原発についてイギリス国防省は27日、衛星写真の分析から先月までにロシア軍が敷地内の6つの原子炉の建屋の屋根に土のうを設置し、戦闘のための陣地を築いたと指摘しました。
そして、「ロシアが戦術的な防衛計画の中に、原子炉の建屋を組み込んだことを示す最初の兆候だ。戦闘が起きれば安全システムが損傷される可能性が高まる」と懸念を示しました。
ウクライナ軍が南部の州などで大規模な反転攻勢を仕掛けるとされる中、ロシア軍が警戒を強めているものとみられます。

 

●ロシアのドローン産業、120億ドル規模に拡大も=プーチン氏 4/28
ロシアのプーチン大統領は27日、生産増強計画が実行されれば同国のドローン産業が近く1兆ルーブル(122億5000万ドル)規模になる可能性があると述べた。
プーチン氏は昨年、ロシアは無人航空機(UAV)の生産量を増やし、軍事・民生用途に広く使用するためのインフラを構築する必要があると述べた上で、2030年までのドローン開発戦略を指示していた。
プーチン氏とドローン関連産業の幹部は、ドローン産業が近い将来5000億ルーブル規模になると見込んでいるという。これは非常に控えめな数値で、官民が協力すれば1兆ルーブル規模になる可能性があるとプーチン氏は説明した。
同氏は、ドローンを製造するために設計されたモスクワの工業団地を視察した後に演説し、UAVは経済のほぼ全ての分野において使用可能だと強調した。
ロシアでは既に無人機が多数製造されているが、さほど高機能ではなく、ウクライナへの攻撃には主にイラン製無人機「シャヘド」を利用している。
ある幹部はドローンは特に農家にとって有益だと指摘。プーチン氏は農業省がこれに留意すべきと述べた。
●ロシア・トルコ大統領が電話会談、協力深化で合意 4/28
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が27日、ロシア国営原子力企業ロスアトムによって建設されたトルコ初の原子力発電所の記念式典を前に電話会談を実施したと、両国の大統領府が発表した。
トルコ大統領府によると、エルドアン大統領はプーチン大統領との会談で、原発に関するプーチン大統領の協力に謝意を表明。国連とトルコが仲介した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)やウクライナ情勢についても協議したという。
また、プーチン大統領はエルドアン大統領と経済、貿易、農業に関する協力深化で合意したと発表。ロシアの穀物から作られた小麦粉を必要とする国に送るというエルドアン大統領の計画について両国が協力していると述べた。
ロシアはこれまで資源の主な輸出先だった欧州に代わる市場を模索。プーチン氏は、天然ガスを「関心のある外国の買い手に市場価格で供給する」輸出ハブとしてのトルコの役割への期待を改めて表明した。
ロスアトムがトルコ南部メルシン県に建設しているアックユ原子力発電所の総工費は200億ドル。原子炉4基が設置され、発電能力は4800メガワット(MW)。この日に初めて燃料が搬入され、プーチン大統領もオンラインで式典に参加した。
プーチン氏は「これは旗艦プロジェクトだ。相互に経済的利益をもたらし、両国の多面的なパートナーシップの強化に役立つ」と表明。アックユ原発は「世界最大のプロジェクト」だとし、これによりトルコは将来的にロシア産天然ガスの輸入量を減少させ、最も安価なエネルギーの一つである原子力エネルギーを持つという利点を享受できると述べた。
エルドアン大統領は、アックユ原発へのプーチン氏の支援に謝意を表明。「トルコに第2、第3の原発をできるだけ早く建設するための措置を講じる」と述べた。
ロスアトムによると、アックユ原発の安定的な電力供給開始は2025年。
エルドアン大統領は健康問題のため記念式典にはオンラインで参加。トルコのコカ保健相は27日、エルドアン大統領の健康状態は良好で、可能な限り早期に日々の業務を継続すると述べた。
●ロシアの支援を受けトルコで初建設の原発で式典 両首脳が出席  4/28
ロシアの支援を受けてトルコで初めて建設されている原子力発電所で、燃料を搬入する式典が27日行われ、両国の首脳がオンラインで出席しました。
トルコ南部のアックユ原子力発電所で行われた式典で、ロシアのプーチン大統領は「この原発は、互いに経済的な利益をもたらすとともに、両国の多面的な協力関係を確実に強化する」と述べました。
プーチン大統領としては、ウクライナへの軍事侵攻で欧米との関係が断絶する中、トルコと、エネルギーなど経済協力を通じた関係強化を進めたい考えです。
一方、エルドアン大統領は「ついに原子力を持つ国の仲間入りを果たした」と成果を誇り、2028年までに4基すべてが稼働する見込みだと強調しました。
エルドアン大統領は、4月25日に体調不良を訴え、その後の公務を取りやめていました。
この日の式典で、オンラインとはいえ公に姿を見せた背景には、5月14日に大統領選挙を控える中で、トルコで初めてとなる原発の建設を主導している姿を示すとともに、健康状態に不安があるという見方を打ち消したいねらいもあったとみられます。
●ロシア産エネルギーを運ぶ「灰色の船団」、壊滅的な石油流出への懸念 4/28
ギリシャ・ペロポネソス半島の南東側にあるラコニア湾。海は鮮やかな青緑の水をたたえ、海岸地帯はウミガメの重要な営巣地だ。
ただ、ここは自然が美しいだけの場所ではない。一帯はロシアのエネルギー輸出品を運ぶタンカーの重要拠点にもなっている。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州連合(EU)は海上輸送による石油輸入の大半を禁止した。通常であればEUに向かう原油製品や石油精製品がアジアに行き先を変える中、積み荷は長旅に備え、ここラコニア湾でより大型の船に積み替えられる。
調査会社S&Pグローバルによると、ロシア産原油の船から船への積み替えはこの数カ月で急増し、今年1〜3月には過去最多の水準に達した。ギリシャ付近では今年3月、暖房や輸送機関に使われるロシア産軽油350万バレル以上が船舶間で積み替えられた。これはS&Pグローバル調べで前年同月比の7倍を超える。
こうした積み替えは、ロシアのプーチン大統領が1年2カ月近く前にウクライナ全面侵攻を命じて以降、世界の石油市場が一変したことを浮き彫りにしている。これまで最大の買い手だった欧州の穴を中国やインド、トルコが埋めるなか、航海の距離は伸び、以前に比べ多くの船が必要になっている。S&Pグローバルのデータからは、航海途中での積み替えが増えている状況がうかがえる。
データ企業クプラーのシニアアナリスト、マシュー・ライト氏は「地中海における船舶間の積み替えが急増した」と指摘。「ロシアの港から小さめの船が現れ、より大きな船に積み荷を移し替えた後、大きな方の船はアジアに向かう」と説明する。
こうした船の多くは「灰色の船団」と呼ばれる船舶の一部だ。ライト氏のような業界関係者は、過去1年の間にロシア産石油の輸送を始めた船を指して、この言葉を使っている。船の所有者についてはほとんど知られておらず、ペーパーカンパニーの可能性もある。
「灰色の船団」は必ずしも不正を行っているわけではない。しかし、ライト氏のような西側のウォッチャーは、所有者が伏せられていることが多い船の登場で石油市場の透明性が薄れ、規制当局による監視が難しくなっていると指摘する。
オーストラリアとカナダ、米国は国際海事機関(IMO)に最近提出した書類で、トランスポンダーを切り、「姿を消して」、公海上で石油を積み替える船が増えていると指摘した。位置情報を送信するトランスポンダーの切断は制裁逃れの手段になりうると、これらの国々は主張する。
IMOの法務・渉外ディレクター、フレッド・ケニー氏はCNNに対し、海上積み替えへの警戒感がここ1年で高まったとの見方を示した。このような状況では衝突が起きやすく、壊滅的な石油流出事故の確率が高まる。
ケニー氏によると、船の所有者がはっきりしない場合、石油の海上積み替えに関する厳格な規則を順守しているかどうかの確認も難しくなるという。
「きれいな海での安全な輸送を確保する規制体制が損なわれているとの懸念が高まっている」(ケニー氏)
怪しげな事業
国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアの石油輸出量はウクライナ侵攻前の水準に回復したものの、輸出から得られる収益は依然として大きく落ち込んだ状況にある。主要7カ国(G7)はロシア産石油や石油製品の価格に上限を設定したほか、買い手の減少で値引き交渉力が増しているとの事情もある。
クプラーのデータによると、中国によるロシア産石油の輸入は今年1〜3月、前年同期比で38%増大。インドの輸入量は10倍近い水準に激増した。
ロシア船石油の取引がより複雑になるにつれ、欧米の舟荷主の多くは手を引いた。現在はそこに怪しげなプレーヤーが参入し、「灰色の船団」の形成を促している状況だ。
英国を拠点とする市場情報会社、ベッセルズバリューによると、今年のタンカーの取引のうち、新設企業や非公開の買い手への石油タンカーの売却は約33%を占める。非公開の買い手への売却が全体に占める割合は2022年は10%、21年は4%にとどまっていた。
船を追跡する
CNNは宇宙テクノロジー企業マクサーの人工衛星画像を用い、ラコニア湾に停泊する2隻の石油タンカーを精査。クプラーと協力して、積み替えの詳しい様子を調べた。
2隻のトランスポンダーのデータによると、小さい方のタンカーは2月下旬にロシアのサンクトペテルブルクに寄港し、燃料油の貨物を積み込んだ。CNNはその後、同船が西欧沿岸をぐるりと回って地中海に入る様子を追跡。ここまで来たところで、同船は黒海沿岸にあるロシアの港湾ノボロシスクの方向から来た大型船に貨物を移し替えた。クプラー氏はこの船を「灰色の船団」の一員だとみている。
大型タンカーはそこからさらに航海を続け、欧州とアジアを結ぶ主要航路であるスエズ海峡を進んだ。
こうした取引が頻繁になるにつれ、専門家の間ではリスクへの懸念が高まっている。
IMOのケニー氏によると、一つの船から別の船に石油を積み替えること自体は珍しくないが、所有者が不明確で追跡が難しい「灰色の船団」の場合、最善の慣行に従っていない可能性もあるという。
ケニー氏は「船から船への積み替えで発生しうる問題は無数にある。積み替えに関する複雑な業界ルールがあるのはこのためだ」と述べ、流出の可能性に言及した。
カナダや日本、英国は、船がトランスポンダーを切っていれば、偶発的な衝突のリスクが高まると指摘。トランスポンダーの切断はほぼ常に違法であり、クプラー氏は2022年以降、こうした例を複数記録している。
「トランスポンダーを切っている船を目撃したり、そうした報告を受けたりすれば、私たちにとって憂慮すべき事態になる」(ケニー氏)
●ウクライナ 新たな旅団を編成し訓練も本格化 反転攻勢へ準備  4/28
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナ側は、東部の激戦地で徹底抗戦を続ける一方で、領土の奪還に向けて新たな旅団を編成し訓練も本格化しているとして、反転攻勢への準備が進んでいると強調しました。
ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトをめぐり、ロシア国防省は27日、空てい部隊の支援のもとで、突撃部隊が北西部や南西部の4つの区画を新たに支配したと主張しました。
一方、ウクライナ国家警備隊の幹部は27日、会見で、バフムトで徹底抗戦を続け、西部の補給ルートを確保しているとしました。
また、ロシアに支配されている領土の奪還に向けて、新たに編成された9つの旅団では、多くの志願兵が加わり訓練も本格化しているとして、反転攻勢への準備が進んでいると強調しました。
こうした中、バフムトで戦闘員を投入しているロシアの民間軍事会社ワグネルのトップは26日、再び弾薬不足に陥っているとした上で、気象条件が良くなればウクライナ側が反撃に出る可能性があると訴えました。
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は26日「ウクライナ側の反転攻勢に対する不安がロシアで広がっていることが明らかになった」と指摘しています。
ロシア大統領府は27日、プーチン大統領が28日にサンクトペテルブルクで演説を行い、とくにウクライナに派遣された兵士やその家族に対する支援策について言及すると明らかにし、長引く軍事侵攻に対する国民の理解を得たいねらいもあるとみられます。
●ロシアの戦費支える中国の原油輸入、ウクライナ戦争勃発後は急増 4/28
ロシアによるウクライナ侵略戦争について、中国の習近平政権は対外的には「中立」と、「和平仲介」の意志を表明している。だが、だまされてはいけない。中国は西側の制裁下のロシアを財政金融面で支え、戦争を長引かせている。
中国のロシア支援の極め付きはロシア原油の輸入である。中国関税庁統計から算出したロシア原油輸入量はウクライナ戦争勃発後、急増の一途で、この3月には日量227万バレルと前年同期比50%増となった。
先進7カ国(G7)は昨年5月にロシア産石油輸入の段階的禁止、さらには12月にはロシア産原油の価格上限を1バレル当たり60ドルに設定する措置を打ち出した。価格制限は上限価格を超えるロシア原油の海上輸送に対し、損害保険適用を禁じるというものだ。しかし、対露制裁に加わっていない中国とインドなどがロシア原油の購入を増やしている。
ロシア原油の価格はどうなっているか。グラフはロシア産の代表的な油種であるウラル原油、ロシア制裁まではほぼ同等の価格水準だったブレント原油の国際相場、さらに中国のロシア原油輸入の1バレル当たりの価格である。
戦争直後、ウラル原油はブレント原油急騰とは真逆に急落した。ブレントは22年6月に最高値をつけた後、下落基調にあり、ウラルも同時並行して下がっている。他方で、両油種間の価格差は大きく開いたままで西側の制裁は国際相場上では効果を発揮している。1バレル当たりではウラルは30ドル前後もブレントよりも低い。しかし、中国のロシア原油輸入価格をみると、ブレント相場との価格差は10ドル以下で、ウラル原油相場よりも20ドル以上高い。
ロシアの石油輸出は日量1000万バレル程度で、うち200万バレル以上が中国向けとして、1日当たり約4000万ドル、年間で約146億ドルを中国はロシアに補助している計算になる。世界の軍事費を計算しているストックホルム国際平和研究所によると、ロシアの軍事費は23年は868億ドルで、ウクライナ戦争などの要因で前年比で73億ドル増えた。中国によるロシア原油買いの割り増し分はロシア軍事費増の2倍にも相当するのだ。
ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵略開始の20日前、北京で習近平党総書記・国家主席との共同声明で「限りない友情と制限のない協力関係」をうたったが、中国はロシア原油輸入だけでもまさに、その盟友関係を実践していることになる。
3月21日にモスクワを訪問した習氏とプーチン氏の共同声明で、中露関係について「軍事・政治的同盟ではない」とし、ウクライナ戦争の外交的解決を促す中国の提案をロシア側が「建設的」と評価した。ところが、中国の駐フランス大使は4月21日、ウクライナを含む旧ソ連圏諸国について「主権国家としての具体的な地位に関する国際合意は存在しない」と述べた。ロシアのウクライナ併合の野心を正当化する習政権の本音がにじみ出た格好だ。 
●侵攻を批判すればロシア国籍をはく奪か プーチン氏、改正法案に署名 4/28
ロシアのプーチン大統領は28日、ロシア国籍を取得した人がロシア軍の信用をおとしめる行為などをした場合、国籍を剝奪(はくだつ)できる改正法案に署名した。政府がサイトで公表した。180日後に施行される。ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ4州の出身者も対象となっており、ウクライナ侵攻への批判を封じる狙いがあるとみられる。
改正法によると、軍の信用失墜のほか、ロシアの領土保全を脅かす行為も含まれる。4州を「ウクライナ領」と主張することも処罰される可能性がある。発言の時期は問わないとしており、過去にさかのぼって適用される恐れもある。
ロシアの独立系メディアによると、国籍剝奪の決定に裁判所の同意は必要なく、ロシア連邦保安局(FSB)が決められるとしている。
●ウクライナ南部のロシア支配地域、複数の場所で爆発の報告 4/28
当局の報告やSNS上の目撃証言によれば、ウクライナ南部にあるロシア占領地域の複数の場所で27日、激しい爆発が発生した。
ヘルソン州で開設されているSNSテレグラムの非公式チャンネルは、同州の町ノバカホフカやその近郊で複数の爆発があったと報告した。ノバカホフカにはドニプロ川に面する重要な水力発電施設がある。
テレグラムのチャンネルの一つは「ノバカホフカで攻撃音が聞こえた。何かが燃えている」と説明。「煙が見える。爆発音のような音も聞こえた」とも述べた。
CNNはどの目標が攻撃を受けたのか確認できていないが、ロシアが任命したノバカホフカの地元当局は、ウクライナ軍の砲撃で電力供給が断たれていることを明らかにした。
ウクライナが支配するドニプロ川西岸地域からも攻撃があった。ヘルソン州の軍政当局によれば、近郊の村への砲撃で女性1人が死亡、その夫が重傷を負ったという。
ザポリージャ州メリトポリでは大きな爆発音が聞こえた。同市のフェドロフ市長が明らかにした。メリトポリはロシアの占領下にある都市で、前線から離れたロシア軍の拠点になっている。
ロシアが任命したザポリージャ州占領当局の高官によると、集合住宅の入り口付近で即席爆弾が爆発した。建物はやや損傷したものの、死傷者は出ていないという。
●NATO事務総長 ウクライナ支援 “戦闘車両の98%以上を供与”  4/28
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は27日、ベルギーのブリュッセルにある本部で記者会見し、NATOの加盟国や関係国がこれまで行ってきたウクライナへの軍事支援について「ウクライナに約束した戦闘車両の98%以上がすでに引き渡されている」と述べました。
具体的には、1550両以上の装甲車と230両の戦車、合わせて1700両以上の戦闘車両が各国からウクライナに供与されたとしています。
ストルテンベルグ事務総長はウクライナの9つ以上の旅団が訓練を受けてきたことを明らかにしたうえで「ウクライナは、占領地の奪還を継続するにあたって有利な立場に立つことになる」と述べ、各国からの支援の成果を強調しました。

 

●ロシア、国家反逆罪に終身刑 プーチン氏が法令に署名 4/29
ロシアのプーチン大統領は28日、国家反逆罪に対する最高刑を終身刑とし、従来の懲役20年から引き上げる大統領令に署名した。ウクライナ全面侵攻開始後の政府に対する反対意見を抑圧する措置の一環と見られる。
大統領令は大統領府のウェブサイトに掲載された。終身刑への引き上げは議会ですでに承認されていた。
議会はこのほか、「人命を危険にさらし、ロシアの不安定化を目的とした行為」と定義される「テロ行為」に対する最高刑を懲役20年とし、現在の15年から引き上げることも承認した。
政府は、ウクライナや欧米の情報機関の侵入から国を守るためにこうした措置が必要との見解を表明。人権団体は、わずかながらに国内に残っている反対派の声を抑え込もうとしているとしていると懸念を示している。
●ロシア市民権取得拒否なら国外退去も、支配地域で プーチン氏署名 4/29
ロシアのプーチン大統領は28日、ウクライナのロシア支配地域の住民にロシア市民権取得の道を開く法令に署名した。しかし来年7月1日までにロシア市民権取得を拒否もしくは取得に向けた行動を取らなければ、国外退去処分となる可能性がある。
法令はロシアが一部を支配するウクライナのドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポロジエの4地域に適用される。
さらに同法令の下、ロシアの国家安全保障を脅かすと判断された場合や無許可の抗議活動に参加した場合も、国外退去処分となるという。
●ロシア、中南米・アフリカとの関係拡大 欧米に対抗=プーチン氏 4/29
ロシアのプーチン大統領は28日、ロシアは欧米の「経済的侵略」に対抗するために迅速に行動する必要があるとし、ロシアはユーラシア、中南米、アフリカ諸国との関係を拡大すると述べた。
プーチン大統領は議員との会合で「欧米の経済的侵略に直面している現在、議会、政府、全ての地方当局が一つのまとまったチームとして迅速に行動しなければならない」と指摘。「われわれはロシアが孤立することを放置するつもりはない。それどころか、ユーラシア、アフリカ、中南米の友好国と実利的かつ平等で、双方に利益をもたらす、独占的な協力関係を拡大するつもりだ」とした。
また、「新たな地域」のロシアに戻るという選択を守るためにあらゆることをしなければならないと表明したほか、ロシアとの協力を望む世界的企業と協力する用意があると語った。
ロシア通信社によると、シルアノフ財務相は2023年の財政赤字の対国内総生産(GDP)比率が2%を超えないとの予測を維持しているが、これを達成できるかは石油・ガスの収入次第とした。
●ナワリヌイ氏の釈放要請、各界著名人がプーチン氏に公開書簡 4/29
ロシアで収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の釈放を求め、ノーベル文学賞受賞作家を含む各界の著名人がロシアのプーチン大統領宛ての公開書簡に署名した。
署名したのはノーベル文学賞作家のスベトラーナ・アレクシエービッチ氏(ベラルーシ出身)とマリオ・バルガス・リョサ氏(ペルー出身)のほか、世界的バレエダンサーのミハイル・バリシニコフ氏、小説「悪魔の詩」で知られる作家のサルマン・ラシュディ氏、カナダの作家マーガレット・アトウッド氏ら。
元弁護士のナワリヌイ氏はプーチン政権の汚職や腐敗を糾弾。現在、詐欺などの罪で計11年6月の禁錮刑で服役している。
ナワリヌイ氏の広報担当者は今月13日、同氏が激しい胃痛を訴えていると明らかにし、ゆっくりと毒を盛られている可能性があるとの見方を表明。支持者の間で同氏が獄中で死亡する恐れがあると懸念が高まっている。
●ウクライナ各地でロシア軍によるミサイル攻撃 子ども含む23人死亡 4/29
ウクライナでは28日、各地でロシア軍によるミサイル攻撃があり、子どもを含む23人が死亡しました。
ウクライナ当局によりますと、中部ウマニでは集合住宅などへのミサイル攻撃で子ども3人を含む少なくとも21人が死亡。
また、東部ドニプロでも民家などが攻撃を受け、2歳の女の子とその母親が犠牲となったほか、首都キーウにも51日ぶりとなる攻撃があったということです。
ゼレンスキー大統領は「テロ攻撃を打ち負かすことができるのは、ウクライナへの武器供与とロシアに対する厳しい制裁です」と改めて各国に訴えています。
一方、レズニコフ国防相はロシアへの反転攻勢に向けた準備が「最終段階にある」と明らかにしています。
こうした中、プーチン大統領は28日、サンクトペテルブルクで議会関係者らを前に演説し、一方的に併合したウクライナの4つの州について「ロシアの歴史的領土であり、地域の住民はわれわれの親戚だ」と主張しました。
また、来月9日の戦勝記念日をめぐり、ドローン攻撃などへの懸念から複数の地域で軍事パレードを中止する発表が相次ぐ中、プーチン氏は「戦勝記念日はロシアにとって神聖な日だ」と述べ、重要視する姿勢を示しています。
●ロシア軍攻撃で市民25人死亡 ウクライナ軍反転攻勢の構え強調  4/29
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は28日、ウクライナ各地をミサイルや無人機で攻撃し、これまでに子どもを含む25人が死亡しました。ウクライナ側はロシアを強く非難するとともに、近く大規模な反転攻勢に乗り出す構えを強調しています。
ロシア軍は28日、ウクライナの首都キーウなど各地を巡航ミサイルや無人機で攻撃し、このうち中部のウマニでは、集合住宅が被害を受けました。
多くの住民ががれきの下敷きになったとみられ、ウクライナ政府によりますと、これまでに子ども4人を含む23人が死亡したということです。また、東部のドニプロでは、2歳の女の子と母親のあわせて2人が死亡しました。
ゼレンスキー大統領は28日、キーウを訪れたスロバキアとチェコの大統領との共同記者会見で「ロシアはこの戦争で敗北しなければならず、その指導者は侵略と大量虐殺の罪で罰せられなければならない」と述べ、プーチン政権を強く非難しました。
またレズニコフ国防相は記者会見で「われわれの準備はできている。天候や指揮官の決断しだいで、すぐにでも実行に移す」と述べ、近く大規模な反転攻勢に乗り出す構えを強調しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は28日、第2の都市サンクトペテルブルクで議会の代表らを前に演説し、動員で招集されるなどした兵士とその家族への支援策を強化する必要があるとして、兵員不足も指摘される中、待遇改善に力を入れる姿勢を示しました。
その上で、ウクライナへの軍事支援を強める欧米諸国を念頭に「かつてのパートナーたちはみずからの意見を押しつけようとしている。われわれは彼らのルールに従うつもりはない」と述べ、改めて対決姿勢を鮮明にしました。
●ウクライナ各地へ攻撃、23人死亡 高層住宅などミサイル被弾 4/29
ロシアが侵攻を続けるウクライナ各地で28日、ロシアによるミサイル攻撃があり、ロイター通信によると、少なくとも23人が死亡した。各地で空襲警報が発令され、爆発音が響いた。
ウクライナ軍によれば、ロシア軍は28日未明にカスピ海からTU95爆撃機で攻撃を実施。ウクライナ側は、防空システムで首都キーウ(キエフ)上空などで巡航ミサイル21発を撃ち落とし、ドローン2機も撃墜したと明らかにした。
地元メディアなどによると、中部チェルカスイ州ウマニでは、高層住宅にミサイル数発が撃ち込まれて火災が発生。当局者は子どもを含む少なくとも21人が死亡したと明らかにした。東部ドニプロではミサイル攻撃で30代の女性と2歳の子どもが死亡。中部のポルタワやクレメンチュク、南部ミコライウにも爆撃が加えられたもようだ。 
●ロシアによる“子どもの連れ去り”に安保理で非難相次ぐ 4/29
国連で戦時中の子どもの連れ去りに関する非公式会合が開かれ、各国からロシアへの非難が相次ぎました。
ウクライナ キスリツァ国連大使「責任あるすべての国がともに行動することは、私たちに共通する責務です。そうでなければ、罪のない子どもたちが犠牲になるという暴力の悪循環を断ち切ることはできません」
28日に安全保障理事会が開催した子どもの連れ去りに関する非公式会合で、ウクライナの国連大使は「ウクライナという国のアイデンティティを消し去ろうとしている」とロシアを強く非難。欧米諸国を中心に出席した多くの国も「国際法違反だ」などと相次いで批判しました。
ウクライナ当局は侵攻以降、およそ1万9500人の子どもが強制的に連れ去られたとしていますが、ロシアの代表は「根拠のない糾弾だ」と反発しています。
この件についてウクライナのゼレンスキー大統領は、中国の習近平国家主席と電話会談した際、子どもたちを取り戻すための支援を要請したと明らかにしました。
ところで、ロシアのプーチン大統領は28日、国家反逆罪の最高刑を懲役20年から終身刑に引き上げる法改正案に署名しました。これにより、政権に反対する勢力や人物を合法的に処分する動きが早まることも懸念されます。
●ロシア “人々がパニックに” 招集令状のオンライン通知可能に  4/29
ロシアのプーチン大統領は、今月14日、兵役義務の招集令状について、書面による手渡しから、オンラインによる通知も可能とする改正法案に署名し成立させました。
招集令状は、政府のポータルサイトに登録した個人のアカウントに通知される仕組みで、本人が通知を開いていなくても届いた時点で効力が発生するということです。
招集令状が届くと、ロシアからの出国が禁止されるほか、通知から20日以内に招集に応じなければ、自動車の運転や不動産の登録、それに銀行などからの融資を受けることができなくなるなど、生活する上でさまざまな制約を受けるということです。
ロシアの国営通信社は、今月20日、プーチン大統領の出身地サンクトペテルブルクで試験運用が始まったと伝え、携帯電話のショートメッセージで招集令状を送る方法も検討されているとしています。
プーチン政権は去年9月、予備役の動員に踏み切り、ロシア国内では、招集令状の受け取りを拒んだり、国外に脱出したりする市民も相次いでいて、今回の法改正は、政権側が招集逃れを抑え込もうとしているという見方がでています。
ロシア兵支援のNGO「人々はパニックに陥っている」
ロシア兵などの人権保護に取り組むNGO「徴集兵の学校」の代表で、現在は、ロシア国外で活動を続けるアレクセイ・タバロフ氏はNHKのオンラインインタビューに対し、招集令状がオンラインで通知されることが可能になったことについて、「令状を受け渡す原則が厳格化された。人々はパニックに陥っている」と述べました。
その理由について、タバロフ氏は「人々にとってロシアから出国禁止になることが恐ろしく、『鉄のカーテンが下りてもう終わりだ。どこにも行けなくなる』と考えているからだ。また、国民は、すぐに招集され、ウクライナへ派遣されると考えていて、軍から逃れることも隠れることもできなくなるという雰囲気が作られた」と指摘しました。
また、タバロフ氏は「国民は動員に否定的だったため、政権は、動員から契約による兵士募集という、異なるパッケージで包み込んだ。しかし、これは動員のようなものだ」と述べました。
その上で政権側は、高額な報酬を掲げてロシアの地方で兵士を募集するほか、徴集された若者に対し、軍が圧力を強めてウクライナの戦地に行くよう新たな契約を結ばせる可能性があると懸念を示しました。
一方、来月9日の第2次世界大戦の戦勝記念日にあわせて各地で行われてきた「不滅の連隊」と呼ばれる市民の行進がことしは見送られることについて、タバロフ氏は「プーチン政権は、ウクライナの戦争で犠牲になった兵士の遺影を持った人々が路上に出てくることを懸念している。反戦運動につながる制御できない激しい怒りを呼び起こす可能性もある」と述べ、政権側が戦争をめぐる国内世論に神経をとがらせているという見方を示しました。
タバロフ氏が代表をつとめるNGO「徴集兵の学校」は今月、プーチン政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力が強まっています。
●ウクライナ、5月に大規模反攻か プーチン氏を震え上がらせる1700両の戦車 4/29
ロシアの侵略を受けたウクライナの大規模反攻が5月にも始まるとの観測が強まっている。ゼレンスキー大統領が各国に供与を求めた戦車や装甲車などの戦闘車両は1700両以上集まった。ロシア軍が掌握する東部や南部での攻勢が予想されるが、「大戦車軍団」で戦況を打開し、ロシアのプーチン大統領を震え上がらせることはできるのか。
反撃の口火どこから
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長によると、NATO加盟国と友好国がウクライナに供与した戦闘車両は装甲車が1550両以上、戦車が230両以上で、各国がウクライナに約束したうちの98%以上が引き渡されたことになる。
戦車では、ドイツ製の「レオパルト2」や、英国の「チャレンジャー2」、米国の「エイブラムス」などが到着した。

ストルテンベルグ氏は「同国の9つ以上の旅団を訓練した」と表明。今月末までに12旅団を編成する予定と伝えられている。
ロシアは昨年、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州、南部のヘルソン州とザポロジエ州について一方的に併合を宣言した。2014年にはクリミア半島を併合したが、ウクライナはどこで反撃の口火を切るのか。
元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は、1ザポロジエ州からアゾフ海の海岸線到達を目指す2ヘルソン州からクリミア半島の付け根を目標とする3激戦が続く東部地域―のいずれかを想定する。
「通常、優勢を確保するには敵方の3倍の戦力を要する。ウクライナ軍は戦力を集中させるため、3正面のうちいずれかを選択するだろう。戦車や歩兵戦闘車は、なるべく障害の少ない地域をロシア軍が対応できない速度で進軍し、配備が薄い主力部隊の後方を狙う迂回(うかい)戦術が考えられる」という。
「成功確率は50%」
渡部悦和氏「戦力集中のため、3正面のいずれかを選択するだろう」
供与された戦車はどのように使われるのか。軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「戦車は敵の塹壕(ざんごう)を越え、戦車砲が敵方の戦車や歩兵戦闘車、塹壕の中の歩兵を標的に攻撃しつつ、相手の前線を押し下げる戦力になる。ただ、戦車単独で万能なわけではない。対戦車ミサイルを持つ敵兵には歩兵戦闘車の兵士が対峙(たいじ)し、鉄条網や対戦車壕、地雷原などには工兵が対処することが必要だ。空域からの攻撃にも弱いので制空権を握れるか、戦車の燃料の補給が続くかもカギになる」と指摘する。
ロシア軍も主力戦車「アルマタ」を作戦地域に投入したと国営ロシア通信が伝えた。米欧製戦車に対抗する狙いもみえるが、渡部氏は「『レオパルト2を超える』など宣伝されたが量産もできず、信用できない」とみる。
ウクライナ軍にとっては航空兵力も課題だ。ポーランドやスロバキアが旧ソ連製の「ミグ29」を引き渡す一方、欧米製戦闘機の供与は決まっていない。「ミグ戦闘機を十分に活用し、ドローンを偵察や戦果の確認に用いるしかない」と世良氏はいう。
ウクライナは勝機をつかめるか。渡部氏は「反攻の前提条件はそろいつつある。成功する確率は50%以上とみているが、楽観はできない」と強調した。
●ウクライナの反攻準備「ほぼ完了」、後は実行命令待ちと国防相 4/29
ウクライナのレズニコウ国防相は28日、ロシア軍に対する反転攻勢の準備が終わりつつあるとの見解を示した。オンライン上の情勢説明で述べた。
「次の問題は参謀本部次第」とし、「神の意思があり、天候条件が整い、司令官たちの決定があれば直ちに実行する」と主張した。
反攻に投入される兵器を既に確保したのかとの質問には、米国が提供を約束した主力戦車「エイブラムス」は間に合わないと指摘。ドイツの主力戦車「レオパルト2」と英国の主力戦車「チャレンジャー」は届いたとし、「レオパルト1」もこの後に到着すると述べた。
様々な型式の装甲車両を多数保持しているとし、歩兵戦闘車「ブラッドレー」、同「マルダー」や装甲戦闘車両「ストライカー」などに言及した。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は先に、外国の支援国がウクライナへ約束していた戦闘車両のうち98%以上が既に引き渡されたとも明かしていた。
ウクライナのマリャル国防次官は先週、軍事戦略上の問題などを踏まえ、反攻の開始やその時期は発表しないと宣言していた。

 

●ロシアとの戦争「数十年続く可能性」 ゼレンスキー氏、支援訴え 4/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は29日までにフィンランド放送協会(YLE)などのインタビューに応じ、ロシアとの戦争が数年もしくは数十年続く可能性があると指摘した。ウクライナが準備する大規模反攻の成否は欧米の軍事支援次第だとの認識を示し「できるだけ多くの命を救いたい。そのためには武器の数が重要だ」と訴えた。
ロシア軍を撤退させ、2014年にロシアが併合したクリミア半島の奪還にも成功すると信じていると強調。「第3次世界大戦のリスクを高めるよりも、ウクライナを支援する方が安上がりだ」と述べた。
ウクライナ国防省情報総局の報道官は29日、クリミア半島セバストポリの石油備蓄施設で同日発生した火災について、ロシアがウクライナ中部ウマニの集合住宅を攻撃したことへの「天罰だ」と語った。ウクライナの関与は明言しなかった。地元メディアが伝えた。集合住宅の攻撃では子どもを含む23人が死亡した。
●ロシアの「反逆罪」、終身刑に引き上げ…反戦封じ込めへプーチン氏が改正  4/30
ロシアのプーチン大統領は28日、国家反逆罪の最高刑を禁錮20年から終身刑に引き上げる改正刑法に署名し、同法は成立、発効した。ウクライナ侵略を巡る反戦や反政権の機運を厳罰で封じる狙いがある。
国際刑事裁判所(ICC)が戦争犯罪の疑いでプーチン氏らに逮捕状を出したことを踏まえ、ロシアが加盟していない国際機関の決定執行に協力した場合、最高禁錮5年の条文を加えた。テロ行為の最高刑は、禁錮15年から20年にするなど厳罰化した。
ロシアが一方的に併合したウクライナの東・南部4州のウクライナ人を念頭に、ロシア国籍取得者が破壊工作に関与したり、露軍の権威を失墜させたりすると露国籍をはく奪する法律も28日、プーチン氏の署名で成立した。180日後に発効する。反露住民を排除し、強制移住を正当化する布石との見方が出ている。
侵略作戦に参戦する兵士や治安要員の確保を容易にするため、「国際平和維持任務」の範囲を拡大し、参加要件を緩和した。18〜27歳が対象の徴兵者は最前線に派遣されない原則だが、平和維持活動を名目とする志願者の派遣が合法化された。
●クリミア燃料施設で火災 ウクライナ高官 “天罰は今後も続く” 4/30
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアにある燃料の貯蔵施設で大規模な火災が起き、ロシア側は無人機の攻撃を受けたとしています。
一方、ロシアでは来月の第2次世界大戦の戦勝記念日で恒例となっている軍事パレードが各地で見送られ、長期化する軍事侵攻の影響が広がっているものとみられます。
ウクライナ中部のウマニで28日に起きたロシア軍によるミサイル攻撃について、クリメンコ内相は29日、集合住宅が倒壊して23人が死亡し、このうち6人が1歳から17歳までの子どもだったと明らかにしました。
こうした中、29日には、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアの軍港都市にある燃料の貯蔵施設で大規模な火災が起き、現地を支配するロシア側の代表は無人機の攻撃を受けたとしています。
これについてウクライナ国防省の情報総局の高官は地元メディアに対して、ロシア海軍の黒海艦隊の施設が爆発したものだとしたうえで「ウマニでの住民殺害に対する天罰だ。この罰は今後も続くだろう」と述べ、住民に軍事関連の施設に近づかないよう呼びかけました。
一方、ロシアでは来月9日の第2次世界大戦の戦勝記念日を控え、首都モスクワをはじめ各地で式典の準備が進められています。
しかし、国境付近や中部の州などでは安全上の問題を理由に恒例の軍事パレードの中止が相次いで発表され、プーチン政権が国民の愛国心の高揚を図るために重視してきた行事にも、長期化する軍事侵攻の影響が広がっているものとみられます。 
●最大の支援国がなぜ?ポーランドが決断したウクライナ産農作物禁輸措置 4/30
ロシアによるウクライナ侵攻の長期化を受け、ヨーロッパではウクライナに対する「支援疲れ」が広がっている。それはウクライナ支援の最前線にあり、同国と国境を接するポーランドでも同様だ。歴史的な経緯もあり、ポーランドはウクライナに強い連帯感を抱き、同国からの避難民を大々的に受け入れ支援してきた。だが、風向きが変わってきたようだ。
ポーランド政府は4月15日、ハンガリーとスロバキアとともに、ウクライナ産の農作物の輸入を一時的に禁止すると発表した。具体的には、穀物、乳製品、砂糖、果物、野菜、肉類の輸入を6月末まで禁止すると発表したのである。結局、欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会の批判を受けて、ポーランドはこの措置を21日に解除した。
EUの通商政策は、いわゆるEUの排他的権限に属し、原則としてEUレベルでの政策決定のみが容認される。そのため、欧州委員会はポーランドなどによるウクライナ産の農作物の禁輸措置を批判したわけだが、ポーランドだけでなく、ブルガリアやルーマニアもウクライナ産農作物の禁輸措置を検討しているという事実がある。
それではなぜ、中東欧諸国でウクライナ産の農作物の禁輸措置が検討されるに至ったのか。その主因は、EUの通商政策が中東欧諸国の農作物価格を急落させたことにある。その通商政策とは、EUがウクライナを支援すべく、同国産の農作物を無関税で輸入するとともに、EUを通じて第三国に輸出することを奨励するという内容のものだ。
周知のように、ウクライナ産の農作物は、ロシアとの戦争を受けて、黒海からの輸出が困難になった。この状況に鑑み、EUはウクライナを支援すべく、同国産の農作物の輸入の強化と再輸出の奨励を図ったわけだ。しかしながら、その結果、中東欧諸国にウクライナ産の農作物が大量に流れ込み、農作物の価格が急落する事態となったのである。
 
 

 

●ロシア軍がキーウなどミサイル攻撃−防空は機能と当局 5/1
ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループを率いる創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は、モスクワの軍司令部が追加の弾薬を供給しない場合はウクライナ東部のバフムトから部隊を撤退させると述べた。傭兵部隊とロシア国防省の緊張関係を示す最新の兆候となった。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官と米欧州軍司令官を兼任するカボリ陸軍大将と対面で会談した。この数日前、ウクライナのレズニコフ国防相は南東部でロシア軍に反転攻勢を行う準備が最終段階に入ったと明らかにしていた。
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアのセバストポリにある燃料貯蔵施設の大規模火災は発生後数時間で鎮火した。親ロシア派の当局者はウクライナが攻撃を行ったと非難した。
ロシアがキーウや主要都市にミサイル攻撃
ウクライナの首都キーウや主要都市が1日早朝、ロシア軍のミサイル攻撃を受け、空襲警報のサイレンが鳴り響いた。キーウ当局は防空システムは機能していると説明。地元メディアによると、東部ドニプロでも爆発音が聞かれた。
キーウ南方のウマニでは4月28日、ミサイルが高層住宅に着弾し、民間人23人が死亡。これとは別にドニプロでも2人が死亡した。
仏大統領とウクライナ大統領が電話会談、軍事支援を協議
フランスのマクロン大統領は4月30日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、主権と領土一体性の回復のためにウクライナが必要とする支援をフランスは提供するとあらためて確約した。仏大統領府が声明で明らかにした。
●ワグネル「ロシア軍がバフムトへ補給せねば撤退も」 ウクライナ軍は補給路確保 5/1
ウクライナ軍は29日、激戦が続く東部の要衝バフムトへの主要補給路を依然として確保していると表明した。
「命の道」と呼ぶこの補給路はバフムトと西方の近隣町チャシウ・ヤルを結ぶもので、距離は17キロ余り。ロシア側は兵たんの遮断を目指している。
一方、ロシア民間軍事会社「ワグネル」の創始者エフゲニー・プリゴジン氏は同日公表のインタビューで、ロシア軍がさらに弾薬を送らなければバフムトから部隊の一部を撤退すると警告した。
インタビューがいつ収録されたかは不明。正規軍が必要な弾薬を供給していないとしばしば発言している同氏は「われわれは国民を欺き、全てがうまくいっていると言うのをやめる必要がある」とした上で、「正直なところ、ロシアは大惨事の瀬戸際にあると言わざるを得ない」と述べた。
●ロシアの民間軍事会社25社がウクライナ侵略に参加… 5/1
ウクライナの英字紙キーウ・ポストは4月末、公開情報収集(オシント)企業の調査に基づき、雇い兵を戦地に送るロシアの民間軍事会社25社がウクライナ侵略作戦に参加していると伝えた。東部バフムト攻略で露軍側の主力を担う「ワグネル」以外にも、露国防省や情報機関「連邦保安局」(FSB)との関係が深い軍事会社が確認された。
調査を行った国際的なオシント企業「モルファー」によると、露軍事会社はウクライナ以外で活動している12社と合わせて37社あり、全社がプーチン政権と何らかの関係があるという。ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は複数の会社に関わっている。
37社のうち67%が公金を資金源とし、実業家が運営資金を拠出している会社は16%だった。残る17%は官民の資金で活動しているという。露軍事会社は非合法だが、プーチン政権は戦死者を出しても責任を負う必要がなく、財政負担を軽減できることから特例にしているようだ。
正規軍と軍事会社間や軍事会社同士の勢力争いが露側の攻撃に影響しているとの見方がある。米政策研究機関「戦争研究所」は4月下旬、バフムト攻略でワグネルと国営ガス会社「ガスプロム」系とされる軍事会社などの競争が激化していると指摘した。
●ウクライナの反攻、ロシアの「惨事」に ワグネル創設者 5/1
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は4月30日、ウクライナの反転攻勢が始まれば、ロシアにとって「惨事」になりかねないと警告し、同社部隊の弾薬不足に不満を漏らした。
ワグネル部隊は、ウクライナ東部の激戦地バフムートで数か月にわたってロシア側の先頭に立って戦っている。
プリゴジン氏はウラジーミル・プーチン大統領の盟友だが、ワグネルのトップとしてロシア国防省との権力闘争に巻き込まれている。
プリゴジン氏は大統領府(クレムリン)寄りの従軍記者とのインタビューで「われわれ(ワグネル)には必要な弾薬の10〜15%しかない」と述べ、ロシア軍幹部を批判した。
また、ウクライナが5月中旬に反攻を開始するとの見方を示した上で、「この反攻はわが国にとって惨事になりかねない」と警鐘を鳴らした。
●習・ゼレンスキー協議 中国は責任果たす関与を 5/1
ロシアのプーチン大統領に対する影響力を行使して、侵攻したウクライナからの軍撤退に応じるよう働きかけるべきだ。
中国の習近平国家主席がウクライナのゼレンスキー大統領と電話協議した。侵攻後、両首脳が意見を交わしたのは初めてだ。
習氏は「速やかな停戦と平和の回復のため独自の努力をする」と表明した。3月のプーチン氏との会談に続き、対話による解決を呼びかけた。
ゼレンスキー氏は「中国の政治的影響力」に期待を示す一方、ロシアに有利な中国の提案に対し「領土を犠牲にした平和はあり得ない」とくぎを刺した。武器供与など対露支援を控えるよう求めた。
米国に対抗するため、ロシアと連携する中国の戦略が大きく変わったわけではない。それでも、国内で絶大な権力を握る習氏が、主権や領土一体性を尊重する原則を確認した意義は小さくない。
侵攻から1年2カ月を経て、習氏がゼレンスキー氏との電話協議に臨んだのは、国際社会において中露が一体とみなされるリスクを気にしたからだろう。
中国にとって最も避けたいシナリオは、ロシアに向けられた欧米の結束が、自国への包囲網に発展することだ。
欧州諸国では、中国の対露姿勢への警戒感が高まっている。最近も、ウクライナの主権を疑問視するような駐フランス大使の発言が物議を醸し、習指導部は火消しに追われた。
今回の協議で、習氏は、出口の見えない戦争について「対岸の火事と傍観せず、火に油を注ぐこともしない」との立場を強調した。「核戦争に勝者はいない」とも指摘し、核兵器による威嚇を辞さないプーチン氏との違いをアピールした。
習氏の言動からは、ロシア、ウクライナの双方と対話ができる優位性を誇示し、対外イメージの改善につなげる思惑がうかがえる。
ただ、中国が停戦の実現に向けて力を尽くすというならば、国連憲章を踏みにじったロシアの暴挙を見過ごすことは許されない。
「仲介役」を果たすには、責任ある大国として火中の栗を拾う覚悟が求められる。本気度が試されるのはこれからだ。
●ゼレンスキー大統領反攻宣言=uまもなく重要な戦闘が始まる」 5/1
ロシアの侵略を受けているウクライナのゼレンスキー大統領は4月30日、「まもなく重要な戦闘が始まる」と述べ、大規模反攻の開始時期が近いことを示唆した。ロシアが実効支配する南部クリミア半島で発生した大規模火災も反攻の前触れとみられる。対するロシア側は、民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏が国防省への不満をあらわにし、東部戦線からの撤退の可能性があると指摘した。軍周辺の足並みの乱れは、プーチン政権の指導力の低下を浮き彫りにしている。
ゼレンスキー氏は「国境警備隊の日」に合わせた演説で、「侵略者が私たちの平和を奪うことは絶対にない」とも述べた。ただ、欧州メディアなどのインタビューではロシアとの戦争が「数年もしくは数十年続く可能性がある」としており、厳しい戦いが続くとの見方を示した。
ウクライナ軍のフメニュク報道官は同日、クリミア半島セバストポリで29日に起きた石油備蓄施設の火災は無人機(ドローン)による攻撃で、ウクライナ軍が計画する大規模な反転攻勢の「準備の一環」だと述べた。「ロシア軍は浮足立ち、家族を半島外に移動させている」とも発言、大規模反攻の準備が進んでいることを示してロシア側の動揺を狙ったとみられる。
大規模火災が発生したセバストポリにはロシア黒海艦隊が司令部を置く。けが人は出なかったが、ウクライナ軍当局者は同艦隊用の計4万トン超の容量を持つ10以上の石油タンクが破壊されたと述べた。
ロシア国防省は30日の戦況説明で、激戦が続く東部ドネツク州バフムトの西部で新たに4つの街区を支配下に置いたと表明した。だが、バフムトでのロシア側の主力部隊であるワグネル創設者のプリゴジン氏は「弾薬の供給問題が解決されなければ、バフムトを放棄し、前線を明け渡す」と宣言、ショイグ国防相に対し、最後通告を突きつけた。プリゴジン氏はウクライナの反転攻勢が5月15日までに始まるとの見方も示し、「ロシアにとって悲惨な結果をもたらす」と指摘した。
筑波大学名誉教授の中村逸郎氏は「ワグネルはスーダン情勢に関与しているとの情報も浮上した。民間軍事会社である以上、資源もあるスーダンの方が『カネになる』と考え、ウクライナ戦線から離脱する可能性があるのが現状だ。プーチン氏にとっては、官僚的な正規軍よりも戦争のプロ集団であるワグネルを頼りにせざるをえない。軍事組織の対立を統制できず、反攻に抵抗できる態勢が十分に整っていないのではないか」と分析した。
●ローマ教皇、ウクライナ和平努力に参加と明かす 5/1
ローマ・カトリック教会のフランシス教皇は30日、ローマ教皇庁(バチカン)がウクライナの戦争終結に向けた取り組みに参加していることを明らかにした。
ハンガリーの首都ブダペストへの3日間の訪問を終えた記者会見で語った。
この取り組みは進行中だが、まだ公表されていないと述べ、公表時には自身で詳細を明かす意向を示した。
教皇はブダペスト滞在中にオルバン首相のほか、プーチン・ロシア政権と連携するロシア正教会の代表者、イラリオン府主教と会談した。
会見では、両会談が和平を加速させるかという質問に「和平は常に窓口を開くことによって実現すると確信している。閉鎖によって成立することはあり得ない」と答えた。
ウクライナのシュミハリ首相は先週、教皇との会談で、同国からロシア領へ連れ去られた子どもたちの帰還に向けた支援を要請していた。教皇は会見でこの支援について問われ、「教皇庁は行動を取る用意がある。なぜならそれが正義だから。間違いなく正義だ」と述べた。 
●ワグネルが「軍事的反乱」を企てる──元ロシア軍情報将校 5/1
元ロシア軍情報部門将校で、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力の司令官も務めたイーゴリ・ギルキンは4月29日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が民間軍事会社ワグネルの「軍事的反乱」に直面するかも知れないと警告した。ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンは、補給不足が続くなら激戦が続くウクライナ東部バフムトから撤退すると述べている。
ギルキンはメッセージアプリのテレグラムで、「最高司令部の同意なしに前線からの」撤退を命じるのは「軍事的反乱以外の何物でもない」とする投稿を行った。
ワグネルはバフムト攻略戦においてロシア軍とともに戦い、大きな役割を果たしてきた。だがプリゴジンは弾薬の支給も支援も不十分だとして、ロシア国防省を繰り返し公然と批判してきた。
同じく29日にギルキンはテレグラムで、プリゴジンが28日までに弾薬の供給不足が解消されなければワグネルの部隊をバフムートから撤退させると警告したことについて、ロシア軍上層部に対する「公然の」脅迫だと述べた。
撤退すればロシア側には大きな痛手に
ギルキンはワグネルが撤退すれば、近々始まると見られるウクライナの反転攻勢を前にロシア側に「壊滅的な打撃」を与える可能性があることはプリゴジンも承知していると主張した。反攻の準備を進めるウクライナに対し、アメリカを含む西側諸国は先進的な軍事装備品や戦車、ミサイルなどを支援している。
ギルキンはまた、プリゴジンがロシアのセルゲイ・ショイグ国防相への書簡の中でワグネルの撤退の可能性をちらつかせたと述べた。一方、ロイターは28日、プーチン政権からの支援が不十分なためにワグネルが多数の死傷者を出しているとのプリゴジンの発言を伝えている。
一方、ギルキンは29日、プリゴジンは過去にも「ロシア軍司令部とロシア軍全体の両方について非常に悪く言うことがあった」とテレグラムに投稿した。
ギルキンはウクライナ侵攻をめぐり、ロシア国防省にもプリゴジンに対しても非常に批判的な姿勢を取ってきた。3月にはプリゴジンの排除が「今すぐに必要だ」と述べている。
「彼の政治的野心はワグネルにも、ウクライナに対する勝利の大義にも害をなすだけだ。(プリゴジンの)精神病やワグネルの戦争犯罪、恥知らずで偽りだらけの自己顕示や軍に腐った『犯罪的な考え』を広める傾向は、さらに深刻になっている」とギルキンはテレグラムで述べている。
ギルキンは一方で、ロシア軍部隊もワグネルもともに前線から撤退する必要があると述べた。理由は「補給路の再編成を行い、前線の突破に向けてもっと見込みのある戦略的方法で(ワグネルの部隊を)使えるようにするため」だという。
●南アフリカがプーチン大統領側にサミットに来ないで 5/1
BRICS(新興5カ国首脳会議)で今年の議長国を務める南アフリカがロシア側にプーチン大統領の出席をやめるよう求めていると地元メディアが報じました。
南アフリカのサンデータイムズは30日、南アフリカ当局がロシア大統領府に対し、プーチン大統領のオンラインでの首脳会議出席を提案していると報じました。
ICC(国際刑事裁判所)がプーチン大統領に逮捕状を出していて、ICC加盟国の南アフリカはプーチン大統領が南アフリカへ入国する場合には逮捕しなければなりません。
南アフリカは一時、プーチン大統領を受け入れるためにICCを脱退する動きも見せましたが、今は一転してICCにとどまる方針を明らかにしています。
タス通信などロシアの国営メディアもサンデータイムズ紙の報道を引用して報じています。
●ロシア軍、兵たんトップの国防次官を交代 5/1
ウクライナ軍の反転攻勢に備えるロシア軍は4月30日、兵たん担当のトップに当たる国防次官の交代を発表した。
ロシア国防省は、数日前から解任のうわさがあったミハイル・ミジンツェフ大将と国家警備隊の元幹部アレクセイ・クズメンコフ大将が交代し、「クズメンコフ氏がロシア連邦の国防次官に任命され、軍の後方支援を担当する」と発表した。
ミジンツェフ氏は約1年前、ロシア軍がウクライナ東部の港湾都市マリウポリを占領した際、一部の西側メディアから「マリウポリの虐殺者」と呼ばれた。兵たん担当には昨年9月、ウラジーミル・プーチン大統領が部分動員令を発した数日後に任命されていた。
わずか7か月で解任された理由については明らかにされていないが、ウクライナ侵攻ではロシア軍の兵たんにおける問題が露呈しており、特に部分動員令により生じた混乱でそれが顕著になっていた。
●ウクライナ 近く大規模な反転攻勢の構え ロシアは備え強化か  5/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は「重要な戦闘がまもなく始まる」と述べ、近く大規模な反転攻勢に踏み切る構えを示しています。一方、ロシア側は支配地域で防衛線を築いていると指摘されるなど、備えを強化しているとみられます。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は5月1日、未明の時間帯にロシア軍が18発の巡航ミサイルで攻撃し、このうち15発は迎撃したと発表しました。
ただしこの攻撃で、東部ドニプロペトロウシク州の当局は子ども5人を含む34人がけがをしたとしています。
ゼレンスキー大統領は4月30日「重要な戦闘がまもなく始まる」と述べ、大規模な反転攻勢が近いことを示唆しました。
反転攻勢について、欧米側はすでに1700両以上の戦闘車両を引き渡したとしていて、早ければ5月にも開始されるという見方がでています。
また、ロシアが一方的に併合した南部クリミアの軍港都市セバストポリにある燃料の貯蔵施設で4月29日に起きた大規模な火災について、ウクライナ軍の南部方面司令部の報道官は30日「大規模な攻撃に向けた準備だ」と述べ、ウクライナ側の関与を示唆しました。
破壊されたのは、およそ4万トンの燃料が保管できるロシア海軍の黒海艦隊の燃料施設で、無人機による攻撃だとも指摘されています。
こうした中、イギリス国防省は5月1日、衛星写真の分析から、ロシアが一方的に併合したクリミアの北側などのほか、ウクライナと国境を接するロシア領内の西部ベルゴロド州やクルスク州にも、ロシア軍がざんごうを掘るなど大規模な防衛線を築いていると指摘しました。そして「ウクライナが大きな突破を成し遂げる可能性があるというロシア指導部の深い懸念を浮き彫りにしている」と指摘し、ロシア側も反転攻勢への備えを強化しているとものとみられます。
「ワグネル」代表 “反転攻勢 15日までに始まる可能性”
ウクライナへの軍事侵攻に多くの戦闘員を投入している、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の代表プリゴジン氏は、ウクライナ軍の反転攻勢が5月15日までに始まる可能性があるという見方を示しました。
SNSで戦況を発信している、ロシアの軍事ジャーナリストとのインタビューで主張したもので「天候がよくなり戦車などは移動しやすくなってくる。15日には間違いなく反転攻勢に出るだろう」としています。
インタビューの動画は4月29日までに投稿されたものですが、実際にいつ発言したのか、それに15日という日付に具体的な根拠があるのかは分かっていません。
また、プリゴジン氏は弾薬不足を重ねて訴え、東部の激戦地バフムトからの撤退まで示唆していて、ロシア国防省への不満を表した形です。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は29日、「プリゴジン氏はウクライナ東部で守りに入るよう政権側を説得しようとしている。バフムト撤退の脅しは、後方のロシア側の陣地が反撃に対してぜい弱だという懸念を示しているとみられる」と分析しています。
“ロシア 少なくとも25の軍事会社が戦闘員を派遣か”
ウクライナへの侵攻を続けるロシアは、正規軍だけでなく、ワグネルなど少なくとも25の民間軍事会社が戦闘員をウクライナに派遣し、軍事侵攻に関わっているという見方がでています。
これは公開情報を元に調査を進める国際的なグループ「モルファー」が、4月24日に公表したものです。
それによりますと、ロシアでは、違法となっているものの37の民間軍事会社が確認され、そのすべてがプーチン政権と何らかの関わりを持っていると指摘しています。
37の民間軍事会社は、世界の34か国で活動しているとしていますが、7割近い25の民間軍事会社は、ウクライナで活動していると分析し、ウクライナの侵攻のためだけに設立された民間軍事会社も多数存在するとしています。
調査グループは、ロシアの民間軍事会社は戦闘員が仮に死亡しても正規兵に比べて、政府の補償など負担が少なく、紛争地への投入も容易にできることから近年、その数が急速に拡大していると指摘しています。
●ロシア、国境から遠く離れた場所に長大な塹壕か 英国防省が指摘 5/1
英国防省は1日、撮影された画像をもとに、ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部のクリミア半島北部だけでなく、国境から離れた本土の奥深くにも長大な塹壕(ざんごう)を掘っていると指摘した。
同省はこうした現象について「ロシア指導部がウクライナの反転攻勢の成功を恐れている」証しと指摘。その一方で、「一部は『ロシアはウクライナや北大西洋条約機構(NATO)から脅威にさらされている』と訴えるため、地方当局が独自に命じた可能性がある」ともした。
ロシア側は国境近くの地域がウクライナ軍から攻撃を受けていると主張するが、ウクライナ側は否定している。
●ウクライナ各地で死傷者、ロシアが新たなミサイル攻撃 5/1
ウクライナ軍は1日、同国東部や中部の各地がロシアの新たなミサイル攻撃を受け、死傷者が出たと報告した。
同軍によると、東部クラマトルスク、コスティアンティニウカ、パブロフラドや中部ドニプロペトロウスク州が標的となった。
ロシア軍はウクライナ軍や住宅地域に向けて27回の空爆を行い、多連装ロケットシステム(MLRS)から45発を撃った。市民に死傷者が出たとしているが、人数は公表されていない。
首都キーウでも同日早く、ロシアのミサイル攻撃を受けたが、ウクライナの防空能力で撃退したという。キーウ市軍政トップは「初期報告では、すべてのミサイルとドローンが我々の空軍によりキーウ上空で破壊された」との声明を発表した。
キーウでは人的、物的被害の報告はないという。
●ウクライナ、反転攻勢控え米欧と調整 ロシア軍、未明にミサイル攻撃 5/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は4月30日、フランスのマクロン大統領と電話会談し、ロシアの侵攻を巡る情勢について1時間以上にわたり意見を交わした。ウクライナ軍のザルジニー総司令官も、米欧州軍のカボリ司令官と面会したと発表。政治と軍事の両面で、近く予想されるウクライナ軍の反転攻勢の見通しや、今後の支援方針について擦り合わせたもようだ。
ウクライナ大統領府によると、ゼレンスキー氏は電話会談で「前線の状況と5〜6月に想定される展開」を詳細に伝えたという。30日のビデオ演説では、会談について「勝利による戦争終結を早めるために、自分たちの態勢を調整している」と語った。
ザルジニー氏はフェイスブックで「(カボリ氏に)この先の行動の起こりうるシナリオと脅威、前提条件について説明した」と明らかにした。カボリ氏は北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官を兼務している。
5月1日もロシアによるミサイル攻撃が続いた。ウクライナ軍によると、1日未明にロシアの爆撃機から巡航ミサイル18発が発射され、防空システムにより15発を撃破した。現地メディアは、東部ドニエプロペトロフスク州ではミサイル攻撃により少なくとも25人が負傷したと伝えた。
一方、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島セバストポリで4月29日に起きた燃料タンクの炎上については、ウクライナ軍の報道担当者が攻撃を認め、「誰もが期待している広範かつ本格的な攻勢の準備作業だ」と述べた。

 

●教皇「ウクライナ停戦に向け秘密任務を遂行中…必要なことする」 5/2
ローマ教皇フランシスコがウクライナ戦争の停戦に向け「秘密和平任務」を遂行中だと明らかにした。また、ロシア本土に連れ去られたウクライナの子どもの帰還のために努力すると述べた。
AP・ロイター通信によると、教皇は先月30日(現地時間)、3日間のハンガリー訪問を終えてバチカンに戻る際、飛行機で同行する取材陣に「大衆に公開されていない任務を進行中」とし「時が来ればこれについて明らかにする」と述べた。
教皇は「私はすべての必要なことをする用意がある」とし「和平は常に開かれたチャンネルを通じて実現する。意思疎通のチャンネルが閉じられていれば決して和平は来ない」と話した。
教皇はハンガリー訪問中、オルバン首相のほか、ハンガリーにあるロシア正教会の関係者とウクライナの和平について対話をしたと紹介し、「みんなが和平に進む道に関心を持っている」と伝えた。
また、教皇はロシアに強制移住させられたウクライナの子どもの帰還を助けるとし、「家族を再結合させるために可能なすべてのことをする」と明らかにした。
教皇は「すべての人間的な振る舞いは役に立つが、残忍な振る舞いは役に立たない」という発言もした。ロシア側の行為に対する迂回的な批判と解釈される。
教皇はローマ教皇庁が関与した両国間の捕虜交換過程がうまく進行したことに言及し「これ(子どもの帰還)もうまく進行しそうだ。極めて重要なことだ」と強調した。
先月27日、ウクライナのシュミハリ首相は教皇庁を訪問し、「ロシアに強制的に連れ去られた子どもたちを取り戻せるよう助けてほしい」と要請した。昨年2月にロシアがウクライナを侵攻して以降、ロシアが占領した地域から子ども約2万人がロシア本土に連れ去られたという。国際刑事裁判所(ICC)は先月、ロシアがウクライナの子どもを不法に移住させた行為が戦争犯罪に該当するとし、ロシアのプーチン大統領に対する逮捕状を発行した。一方、ロシアは安全ために子どもを移住させたと反論し、拉致疑惑を否認している。
●ロシアのバフムト攻勢「失敗した」と米推計、死者2万人以上か… 5/2
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は1日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトを巡る戦闘で、昨年12月以降のロシア側の死者数が2万人以上に上るとの推計を示した。このうち約半数が露民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員だという。カービー氏は記者団に、ロシアのバフムト攻勢は「失敗した」と述べた。
4月30日、ウクライナ東部バフムト付近で泥道を歩くウクライナ兵=AFP時事4月30日、ウクライナ東部バフムト付近で泥道を歩くウクライナ兵=AFP時事
ロシア側の死傷者は10万人を超えると推計し、「ロシアは軍事的な備蓄や戦力を使い果たしている」と指摘した。ワグネルの戦闘員は大半が受刑者で、「十分な訓練を受けずにバフムトの戦闘へ投入された」との見方を示した。ウクライナ側の死傷者数には言及しなかった。
4月30日、ウクライナ東部バフムト付近に集まるウクライナ兵=AFP時事4月30日、ウクライナ東部バフムト付近に集まるウクライナ兵=AFP時事
ウクライナ軍が計画する大規模な反転攻勢の開始時期については、「(ウォロディミル・)ゼレンスキー大統領が決断することだ」と述べた。ウクライナが反転攻勢に必要だとして求めた物資の提供は「ほぼ100%完了した」と明らかにした。
●米下院議長、ウクライナ支援に「賛成」 慎重姿勢から変化か 5/2
マッカーシー米下院議長(共和党)は1日、訪問先のエルサレムで記者会見し、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの軍事・経済支援に「賛成する」と明言した。これまで共和党内の慎重意見を踏まえ「白紙の小切手は切らない」と語っていたが、姿勢を変化させたと米メディアが注目している。
世界の軍事費、過去最高 ウクライナや東アジア情勢が影響―国際平和研
マッカーシー氏は、ロシア人記者が質問の中で「あなたは際限ない武器支援を支持していない」と述べたのに対し、「違う。私はウクライナ支援に賛成票を投じた」と反論。「私が支持しないのは、あなたの国がウクライナにしていることだ」と述べ、子供を含む民間人殺りくを非難した。 
●ロシア大統領、「非友好国」株主への配当支払い規則明確化指示 5/2
ロシアのプーチン大統領は2日、ロシア企業がいわゆる「非友好国」の株主に配当金を支払う手続きを「明確にする」よう政府に指示した。
ロシアは、ウクライナ侵攻を受けて自国に制裁を科した国を「非友好的」と見なし、非友好国企業の利益・配当の本国送金を制限するなどの対抗措置を講じている。
ロシア大統領府は、配当金支払いに関する提案は「居住者がロシアで生産を拡大し、新技術に基づく事業を展開し、ロシア経済に投資することを条件とする」べきだと述べた。プーチン大統領は、5月20日までに提案を出すよう政府に指示したという。
ロシアは先週、フィンランドのエネルギー会社フォータムと独電力大手ユニパーがロシア国内に保有する資産を一時的に管理下に置いた。ロシア企業に対する非友好国の攻撃的措置への対応とし、さらなる資産差し押さえ措置を講じる可能性があると指摘した。
●ウクライナ副首相、占領地の国民に「ロシア旅券取得拒否」を呼びかけ… 5/2
ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は1日、ロシアに占領された地域に住むウクライナ人に対し、ロシア旅券の取得を拒否するようSNSで呼びかけた。一方、ウクライナ最高会議(議会)の人権委員会は「生き残るため」の取得に理解を示し、当局の見解が分かれる事態となっている。
プーチン露大統領は4月27日、ロシア国籍を拒む住民の国外追放を可能にする大統領令に署名した。対象はロシアが一方的に併合した東部「ドネツク人民共和国」と「ルハンスク人民共和国」、南部ザポリージャ、ヘルソン両州。ロシア化を進める動きの一環とみられ、2024年7月1日までにロシア国籍を取得して旅券を受領するよう求めている。
ベレシュチュク氏はこの大統領令に対し、「ウクライナ人をロシア人にするのは不可能だ」と述べ、露軍への協力拒否や占領地からの脱出などを呼びかけた。
一方、ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」によると、ウクライナ議会の人権委員会は4月30日、「ロシア国籍を取得しなければ拘束されて人質になる恐れがある」と指摘。占領地のウクライナ人は厳しい選択を迫られている。
●ロシア戦死者、昨年12月以降で2万人超す 米政府が推定 5/2
ウクライナ侵攻によるロシア側の死者が、昨年12月以降で2万人を超えているとの見方を、アメリカ政府が1日に示した。うち半数は民間の雇い兵企業「ワグネル」の所属だとした。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官が、新たに機密解除された情報をもとに記者団に説明した。
カービー氏は、「私たちの推定では、ロシアは10万人以上の死傷者を出した。そのうち戦死者は2万人超とみられる」と述べた。
これらの人数について、BBCは独自に検証できていない。ロシアはコメントを出していない。
ロシアは東部の都市バフムートの占拠を狙い、昨年からウクライナと消耗戦を続けている。双方にとって、同市は象徴的な意味が大きい。現在、住民は数千人が残るだけになっている。
ウクライナ当局はこれまでに、バフムートの戦いで可能な限り多くのロシア兵を殺害し、ロシアの予備兵力を削ぐ考えを示している。ただ、ウクライナが現時点で掌握しているのは、同市のわずかな地域に限られている。
「ロシアの攻勢は裏目」
カービー氏はこの日、「ロシアが主にバフムートを通してドンバス地方で仕掛けた攻勢は失敗した」と説明。「ロシアは真に戦略的重要性のある領土を奪えていない」との見方を示した。
また、「ロシアの攻勢は裏目に出た。何カ月も戦闘を続け、多大な損失を被った」と述べた。
ウクライナ側の死傷者数については、「ウクライナは犠牲者で、ロシアが侵略者」であることから、推定は明かさないとした。
ロシアがバフムートを占領すれば、東部ドネツク州全域の支配という目標にわずかに近づく。同州は昨年9月、東部と南部の3州とともにロシアに併合された。
アナリストらは、バフムートに戦略的な価値はほとんどないとしている。ただ、めぼしい戦果を報告できていないロシア軍司令官らにとっては、重要な場所になっているという。
ワグネルのトップが撤退に言及
同市におけるロシアの攻撃は、ワグネルが中心となっている。
ワグネルのトップのエフゲニー・プリゴジン氏にとっては、バフムート制圧の可否に、自らとワグネルの評価がかかっている。
だが、プリゴジン氏は最近、バフムートからの部隊を撤退をちらつかせている。
ロシアの有名戦争ブロガーとのインタビューでは、ロシア国防省から必要な弾薬が提供されなければ戦闘員らを引き揚げると述べた。
そして、戦闘員らは西アフリカのマリに送ることになるかもしれないとした。
プリゴジン氏は、ワグネル戦闘員らがロシア国防省から十分な支援を受けていないとし、同省としばしば衝突している。
同氏はまた、ロシアのメディアと軍指導者たちに対し、ウクライナの春の反攻を前に「すべて大丈夫だと言って、ロシア国民にうそをつくのをやめる」よう求めている。
さらに、ウクライナ軍について、「見事で正しい軍事作戦」と、その指揮をたたえている。
状況は「困難」とウクライナ司令官
ウクライナ地上部隊のオレクサンドル・シルスキー司令官は1日、バフムートでの反撃によって、ロシア部隊をいくつかの拠点から撤退させたと、テレグラムに投稿した。だが、状況は依然として「困難」だと述べた。
同司令官はまた、空挺部隊やワグネル戦闘員などの新たなロシア部隊が、大きな損失を被りながら「絶えず戦闘に投入されている」と説明。
「だが、敵が街(バフムート)を支配することは不可能だ」 とした。
●ロシア軍 東部の激戦地バフムトの完全掌握へ 攻撃強める  5/2
ロシアでは、5月9日に第2次世界大戦の戦勝記念日が近づく中、ウクライナ東部の激戦地バフムトの完全掌握をねらい攻撃を強めています。一方、バフムトなどで、ロシア側の死傷者はおよそ10万人に上るとの見方が出ています。
ロシアでは5月9日の第2次世界大戦の戦勝記念日が近づく中、ロシア軍は東部ドネツク州の激戦地バフムトの完全掌握にむけて攻撃を強めていて、プーチン政権としては国民に戦果を示したいねらいもあるとみられます。
これに対してウクライナ陸軍のシルスキー司令官は2日、SNSでバフムトを訪問したと明らかにし「われわれは防衛作戦を続け、敵を阻止していく」などと述べ、徹底抗戦するとして兵士を激励しました。
一方、アメリカ ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は1日、バフムトとその周辺におけるロシア側の死傷者は去年12月以降、およそ10万人に上るとの見方を示しました。
このうち2万人以上が死亡し、その半数はロシアの民間軍事会社ワグネルの戦闘員だとしています。
バフムトの戦況について、ワグネルの代表のプリゴジン氏は弾薬不足を重ねて訴え、バフムトからの撤退まで示唆していて、ロシア国防省への不満を表しています。
こうした中、ロシア国防省は4月30日、軍事物資の補給部門を統括する国防次官についてミジンツェフ次官を交代させ、新たにクズメンコフ氏が就任したと明らかにしました。
国防次官の交代について理由などは明らかにされていませんが、イギリス国防省は2日、「ロシア軍が補給問題でいかに苦戦しているかを浮き彫りにしている。攻撃が成功できる十分な弾薬を保有していない」と指摘しました。
そして、弾薬不足の問題がロシア国防省とワグネルの確執も引き起こしているとしたうえで「ロシアの政治指導者は戦場で成果を要求するが、一方で補給部門の担当者たちは板挟みにあっている」として、軍事物資の補給が依然、大きな課題になっていると分析しています。
ロシアの攻撃でウクライナ側は3人が死亡
ウクライナのゼレンスキー大統領は、30日から1日にかけて行われたロシア軍による各地への攻撃の被害について、1日夜、大統領府のホームページで明らかにしました。
それによりますと、ウクライナ東部ドニプロペトロウシク州のパウロフラードでは2人が死亡したほか、40人以上がけがなどをして手当てを受けたということです。
また、北部のチェルニヒウ州にある村では学校が攻撃を受け、近くにいた14歳の男性が死亡したということです。
ゼレンスキー大統領は「こうした攻撃の一つ一つに対し、侵略者ロシアはわれわれからの報いを受けることになる」と述べて、ロシア側に対し反撃を続けていく考えを示しました。
●北部チェルニヒウ州で学校に被害も ウクライナ各地でロシアのミサイル攻撃続く 5/2
ウクライナ情勢です。東部の戦闘でのロシア側の死者について、アメリカ政府高官は去年12月以降の5か月間で2万人を超えたとの推計を明らかにしました。一方、ウクライナ各地でロシア側のミサイル攻撃は続いています。
ウクライナ各地では、1日もロシア側の攻撃が続き、ゼレンスキー大統領はパブログラードで2人が死亡したと明らかにしました。北部チェルニヒウ州では学校が被害を受けたということです。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「この攻撃は2009年生まれ、14歳の少年の命を奪いました。学校の近くにいただけなのに」
一方、この日、ロシア西部ブリャンスク州では、石油製品などを運んでいた貨物列車が脱線し炎上。けが人は出ていませんが、州知事は「爆発装置が作動した」と主張しています。前日には、ウクライナ軍による砲撃で住民4人が死亡したということです。
こうした中、アメリカ政府のカービー戦略広報調整官は、激しい戦闘が続くウクライナ東部の要衝バフムトやその周辺でのロシア側の死傷者が、去年12月以降だけで10万人以上にのぼるとの推計を明らかにしました。死者は2万人を超え、その半数近くは民間軍事会社「ワグネル」が手配した戦闘員だとしています。

 

●ロシア ショイグ国防相 ミサイルなど兵器の製造を急ぐよう指示  5/3
ロシアのショイグ国防相は軍需産業に関わる企業に対し、ミサイルなど兵器の製造を急ぐよう指示したと明らかにしました。欧米の軍事支援を受けるウクライナが近く反転攻勢に乗り出す構えを示す中、ロシアは兵器製造を強化し侵攻を続ける考えとみられます。
ウクライナでは2日、南部ヘルソン州でロシア軍による砲撃を受け地元当局は市民3人が死亡し5人がけがをしたと明らかにしました。
また、東部ドネツク州の激戦地バフムトをめぐり、ウクライナ軍の参謀本部は「激しい戦闘が続いているがウクライナ軍は持ちこたえている」と発表しました。
バフムトとその周辺について、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は1日、ロシア側の死傷者は去年12月以降、およそ10万人に上るとの見方を示していますが、ロシア大統領府のペスコフ報道官は2日「完全にでたらめだ」と反論しています。
ロシア軍はバフムトの完全掌握に向けて攻撃を強めていて、プーチン政権としては今月9日のロシアの第2次世界大戦の戦勝記念日が近づく中、国民に戦果を示したいねらいもあるとみられます。
一方、ロシアのショイグ国防相は2日、軍の幹部を集めた会議で「ウクライナでのロシア軍の活動は兵器や軍装備の補充に大きく依存している」と述べ、軍需産業に関わる企業に対し兵器の製造を急ぐよう指示したと明らかにしました。特にミサイルについては短期間で倍増させるよう求めたとしています。
ロシア国防省は先月30日、軍事物資の補給部門を統括する国防次官を交代させたと発表したばかりで、弾薬など兵器不足が深刻化していると指摘されています。
ウクライナが欧米側の軍事支援を受け近く反転攻勢に乗り出す構えを示すなか、ロシアは兵器製造を強化し、侵攻を続ける考えとみられます。
●ウクライナ反攻の予兆か 戦勝記念日前、ロシアで爆発相次ぐ  5/3
ウクライナではロシアの侵攻が続く中、ゼレンスキー政権側が予告した大規模な反転攻勢がいつ始まるかが焦点となっている。
けん制目的とみられるロシア軍の空爆が激しさを増す一方、ロシア側で爆発が相次ぎ、反転攻勢の予兆という見方もある。
ロシアが支配するウクライナ南部クリミア半島では4月29日、ドローンによるとされる攻撃で燃料タンクが炎上。5月1日には国境近くのロシア側で、貨物列車が爆発に見舞われ脱線した。
緊張の高まりを受け、5月9日の対ドイツ戦勝記念行事は地方で次々と中止が決まった。プーチン大統領の「弱さ」と受け止められれば、大統領選前の求心力低下につながりかねない。
ロシア側による全域制圧が間近といわれた東部ドネツク州の激戦地バフムトの情勢も流動的だ。ウクライナのシルスキー陸軍司令官は4月30日に前線を視察。「敵は市内の一部で反撃を受け、複数の陣地から撤退した」と主張した。
シルスキー氏は「(ロシアは)大損害にもかかわらず(民間軍事会社)ワグネルの突撃部隊、他の民間軍事会社、空挺(くうてい)部隊を投入し続けているが、市全域を制圧できていない」と戦況を分析した。事実なら、新たな民間軍事会社に依存せざるを得ないほど、ワグネルが弱体化した可能性がある。
ワグネル創設者プリゴジン氏は最近、対立するロシア国防省に不満を表明。「不足する弾薬が補充されなければ(バフムトから)部隊を撤退させざるを得ない」と述べた。ウクライナ軍の反転攻勢が5月15日までに始まると予想した。
一方、ゼレンスキー大統領は北欧メディアの取材に対し、反転攻勢の時期は明らかにしなかったが、準備していると確認。成否は西側諸国の武器供与次第という考えを示した。「われわれがクリミア半島に迫れば、ロシア人は逃げ惑うだろう」と語り、軍事力による奪還を示唆した。
●なぜロシアは制裁に屈しなかった? 世界の基軸通貨は米ドルから人民元に? 5/3
ロシアのウクライナ侵攻から1年余りが過ぎた。西側諸国による厳しい経済制裁にもかかわらず、プーチン大統領は「勝利を確信している」と強気の姿勢を崩さない。核兵器の使用をほのめかし、友好国のベラルーシに戦術核兵器の配備を宣言。明白な侵略戦争を、いまも“特別軍事作戦”と正当化する姿は独裁者そのものだが、そのロシアを水面下で支えているのが中国である。
中国の狙いは、米国に取って代わり世界に冠たる覇権国家になることだ。習近平国家主席はその野望を隠そうともしない。複数の偵察用気球を飛ばして超大国・アメリカの領空を侵犯しながら、気球が米軍に撃墜されると謝罪どころか「明らかに過剰反応であり、厳重に抗議する」と開き直ったのは記憶に新しい。
背景には習氏の覇権主義(ヘゲモニズム)がある。自分たちの考え方や制度を世界標準とし、それに他国を従わせて自国の利益を確保するやり方ともいえる。覇権主義国家は世界の人々が生きていくために必要なモノやサービスの独占を狙う。水や食料、原材料、エネルギー、そして物流だ。これらを支配できれば自分たちに逆らう国はなくなるからである。
人民元を世界の基軸通貨に据えようと画策
いまや覇権主義をむき出しにする中国は、自国通貨の人民元を米ドルに代わる世界の基軸通貨に据えようと画策している。その狙いを解説する前に、基軸通貨とは何かを説明しておこう。
グローバルビジネスの現場では、決済の際に世界のどこでも通用し、価値が安定している通貨が必要だ。これが基軸通貨であり、現在は米ドルがそれに当たる。最近はクレジットカードでの支払いが主流だが、私たちは海外旅行や出張の際、円を訪問先の国の通貨に交換する。しかし、いまもアジアや中東、アフリカでは米ドルでの支払いが可能なことが多い。理由は、米ドルが基軸通貨として高い信用を勝ち得ているからだ。
極めて有効な戦略兵器を保持することと同義
誤解を恐れずに言えば、基軸通貨を保有することは極めて有効な戦略兵器を持つことと同義だ。最も大きなメリットは世界で通用する通貨を自国で生み出せる点にある。例えば、100ドル札の原価はわずか20セントほど。アメリカは100ドル札を1枚印刷するだけで、原価の500倍ものモノやサービスを世界中で手に入れることができる。
もちろん、無計画に刷ればハイパーインフレを招きかねない。だからアメリカは各国に国債を売りつけて、その価値を担保している。現在のアメリカの債務残高は30兆ドル超で、円に換算すると4千兆円に達する。アメリカは世界一の借金国だが、それでも超大国の地位を維持できているのは米ドルに基軸通貨という信用があるからに他ならない。これこそが、アメリカが超大国として君臨し続ける力の源泉ともいえる。
決済の際、為替の変動リスクがないことも大きなメリットだ。私たちが海外の旅先で円を米ドルに両替する時、為替市場が円高ドル安なら得をするが、逆の場合は損をする。それが数十億ドルから数百億ドルという額のビジネスシーンだったらどうか。為替差損を被るリスクがないことが、いかに大きな強みなのかが分かるだろう。
世界中の取引、資金の流れを把握
基軸通貨は他国と交渉する際の大きな“武器”にもなる。2014年にはフランス最大手の銀行BNPパリバが、アメリカが金融制裁の対象としていたスーダンやイランなどと金融取引を秘密裡に続けたとして、アメリカ政府から総額89億ドル(約9千億円)もの罰金を科された。翌15年には外国為替市場における指標レートを不正に操作した、イギリスのロイヤル・バンク・オブ・スコットランドなど金融6社が数千億円規模の制裁を科されている。
こうした海外の金融機関による不正を、アメリカ政府はどうして把握できたのか。それは、国際貿易のおよそ6割が米ドルで決済されているからだ。米ドル決済とは、アメリカの金融機関を通じた決済を意味する。つまり、アメリカ政府は自国の金融機関を介して世界中の政府機関や企業の取引、資金の流れを把握できるのだ。しかも、利用される金融機関は手数料収入による莫大な利益を手にしている。
各金融機関に蓄積される、グローバルな商取引データは膨大で、貿易の最新トレンドの把握や将来的な成長産業などを見極めることにも役立つ。基軸通貨の保有は、世界経済を支配することに限りなく近い。
なぜ基軸通貨になることができた? 
米ドルが世界に基軸通貨として認められた経緯はこうだ。第2次世界大戦後、戦勝国のアメリカは欧州各国から、貸付金や輸出品の代金を、信用力が落ちた各国の通貨の代わりに金(ゴールド)で回収し、世界最大の金保有国となった。その後、アメリカは国の復興を急ぐ各国との貿易に力を注ぎ、「米ドルでの決済」を定着させていった。
本来なら建国から200年にも満たない国の通貨は信用力に乏しい。ところがアメリカには大量の金があった。1944年にスタートした金ドル本位制=ブレトン・ウッズ体制が戦後の金保有量の増加でより強固になり、米ドルが国際的な基軸通貨として定着したのである。1ドル=360円とされたのもこの頃のことだ。
この金本位制は1971年にニクソン大統領が米ドルと金との兌換を停止した、いわゆるニクソンショックによって終焉(しゅうえん)を迎えた。概念的には金の裏付けがなくなることから米ドルの価値が下落する危険性が高まるが、当時ニクソン政権で国家安全保障担当の大統領補佐官だったキッシンジャーは、世界中のモノやサービスの決済で米ドルが使われ続ければ、将来も米ドルが基軸通貨として君臨できると考えた。
ペトロダラー制
1970年代は世界のエネルギーのほぼ100%が石油に依存していた。そこで彼は、原油取引の決済をドルに固定すれば、あらゆる国や地域の経済活動を支配下に置けることに気付く。金とドルの交換が停止されると、キッシンジャーは政情が不安定だった中東諸国を訪問。先々でアメリカが中東地域の平和を担保すると申し出る一方、見返りとして各国が原油を輸出する際は必ず米ドルで決済することを求めた。各産油国は圧倒的な軍事力を誇るアメリカの要求を受け入れ、この商慣習が定着した。
原油が「1バレル=〇ドル」と決済されるのは、この時からである。やや古い表現ながら、国際金融の世界では金ドル本位制を廃止した後の体制を「ペトロダラー制」と呼ぶ。“石油本位制”というイメージで、とくに80年代に多用された。
改めて指摘すると、産油国が米ドルでの決済を受け入れた最大の理由は、アメリカが世界最強の軍事力を保有していたからだ。ところが、最近は超大国・アメリカのプレゼンスが低下しつつあり、対照的に軍事的にも経済的にも中国の台頭が著しい。アメリカや欧州は中国を「価値観の共有ができない国」と非難するが、その背景には「中国は西側の標準に従わないけしからん国」とのホンネがある。戦後、民主主義陣営が培った国際秩序が脅かされていると感じているのだ。
「決済を米ドルから人民元に変えてほしい」
第2次大戦後、国際社会における法のスタンダードは英米法とされた。いまでも国際金融の世界における基準は英米法であり、世界の共通語も英語だ。ものづくりの基準も、かつてイギリスが作ってアメリカが世界に普及させたISO(国際標準化機構)規格である。企業の会計基準も英米式に倣うというように、世界経済は英米が用意した基準で動いている。
中国はそんな既存の秩序の変更に敢然と挑んでいる。象徴的な出来事が、昨年12月の習氏によるサウジアラビアへの訪問だ。習氏はGCC(湾岸協力理事会)にも出席し、周辺国の首脳たちに経済関係などの緊密化を提案した。その際、「輸出される原油の決済を米ドルから人民元に変えてほしい」と臆面もなく訴えている。この時、習氏は「サウジとイランの懸け橋になりたい」と両国の仲介も申し出ており、4月6日に行われた7年ぶりのサウジとイランの外相会談を演出した。
一連の習氏の動きに、私は「いよいよ来たな」との印象を禁じ得なかった。中国で社会主義市場経済が始まった94年〜95年ごろ、勤務先の金融機関で中国政府に対する資金の貸し付けを担当していた時のことだ。中国の財務部職員から「おかしいと思わないか? どうして原油は米ドル決済と決まっているんだ。どうして日本は円で決済しないんだ? 日本はGDP世界第2位の経済大国じゃないか」と言われた。30年近くも前から、中国はペトロダラー制に強い不満と疑問を感じていたのだ。
急速にムハンマド皇太子との関係を悪化させたバイデン大統領
先の習氏の動きで重要なのは、訪問先が世界第3位の石油産出国であるサウジアラビアだったことだ。習氏は首都・リヤドの王宮で、サルマン国王より先にムハンマド皇太子と会談した。確かに皇太子は将来の国王と目され、国政に大きな影響力を持つ実力者だ。が、私はこの背景に、2018年に起きたサウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏の殺害事件があるとみている。
かねてカショギ氏は、ムハンマド皇太子に批判的な言説で知られ、17年に拠点をアメリカに移してからもサウジアラビアにおける言論弾圧の実態や、隣国のイエメンで続く内戦への介入を激しく批判する記事を発表していた。その矛先は主に皇太子で、それが原因でカショギ氏は訪問先のトルコのサウジ領事館内で殺されたとみられている。
ムハンマド皇太子は、イラン核合意から離脱するなど対イラン強硬派だったトランプ前大統領と親しい関係にあった。ところがバイデン大統領は、悪化したイランとの関係を修復する方針を掲げた。カショギ氏の不審な死についても「ムハンマド皇太子が暗殺作戦を承認した」とするCIAの報告書を公開し、急速に皇太子との関係を悪化させた。習氏はそこにつけ込み、実力者の皇太子に「この際、ドルでの決済を人民元に」とオファーしたのである。
米ドルの弱体化
中国がサウジアラビアに決済通貨を米ドルから人民元に乗り換えるよう求めた理由は明らかだ。大国のサウジが動けば他のGCC諸国も同調すると見込んでいるからで、すでに多くの国際金融の専門家が「いずれサウジは人民元での決済を受け入れる」とみている。早ければ今年が“ペトロダラー制崩壊元年”になるかもしれず、それは米ドルの基軸通貨たる地位からの失墜を意味する。アメリカだけでなく、日本や西側諸国にとって最悪のシナリオだ。
昨年、米ドル基軸通貨体制を大きく揺るがす事態が勃発した。発端はロシアのウクライナ侵攻である。アメリカはロシアを潰す絶好の機会と捉えた。今後、圧倒的な経済力を背景に軍備の増強や挑発行為を繰り返す中国が、ロシアと共同でアメリカに対抗してくれば安全保障上の懸念が増大するからである。
弱い方からたたく方針を取ったアメリカは、2021年3月には、バイデン大統領は記者からの「プーチン大統領を人殺しと思うか」との問いに「イエス」と答えた。さらに侵攻開始の6日前には「現時点でプーチン大統領は(侵攻を)決断したと確信している」とロシアをあおった。プーチン大統領はその挑発に乗って軍事作戦を開始した。
バイデン大統領は金融面でロシアの“首”を絞めれば、プーチン大統領はすぐに音を上げると踏んでいた。“首”とは米ドル決済を拒否する措置のことで、SWIFT(国際銀行間通信協会・銀行間の国際金融取引に関するネットワークシステム)からの追放である。
SWIFTにはおよそ200の国や地域から、1万1千を超える金融機関が参加している。通信システムには、「いつ、誰が、どこで、誰から、何を買い、どれだけの対価を支払ったのか、それはどこで決済されるのか」といった情報が流れている。システムが利用できなくなれば、ロシアは一切のグローバル決済ができなくなる。本来なら、その時点でロシアはお手上げ状態に陥るはずだった。
米ドルを駆逐する千載一遇のチャンス
ところが、プーチン大統領は各国に自国通貨のルーブルでの決済を求めた。西側を含むロシア産の原油やガスに頼る国々は輸入を途絶えさせるわけにいかず、すぐにルーブルの調達を始めた。為替市場はドル安ルーブル高に振れ、ドル決済の比率が低下し、逆にルーブル決済の比率は上昇した。一時的なものとはいえ、この現象は米ドルの基軸通貨としての評価が弱まったことを意味する。中国はこれを米ドルを駆逐する千載一遇のチャンスと捉えた。その第一手が、習氏のサウジ訪問だったのである。
ところで、ロシアは原油と天然ガスの産出量がともに世界2位の資源国だ。数年前、ロシアの金融機関の関係者が「米中が半導体分野で覇権争いを繰り広げているが、俺たちが工業用ガスの輸出を止めたらどうするんだろうな」などとうそぶいていた。
現時点でロシアからの輸入に依存している国は、CIS(独立国家共同体)に加盟する10カ国をはじめ、統計ではおよそ50カ国に上る。世界の国数は196だから、約4分の1がロシアとの取引をやめるわけにはいかないのが現状である。
国際経済秩序の崩壊
欧米による制裁の失敗は、この点を軽視したことにある。ロシア産の天然ガスにはフィンランドやバルト3国、ポーランド、ドイツなどが大きく依存しており、小麦やトウモロコシ、食用油などの食料が世界中に輸出されている。原材料では軍需産業や半導体の生産に必須のニッケルをはじめ、白金や金、ダイヤモンドも大量に採取されている。半導体の生産に必要なネオンガスなどの工業用ガスは、いまも主要な製造国がロシアに頼っている。
ところで、経済は商品やサービスを扱う「実体経済」、預金や金融商品がメインの「金融経済」、そして軍事産業が主導する「軍需経済」に大別される。戦後のアメリカは「実体経済を束ねるもの」として金融経済を重視し、その上で他国を圧倒する軍事力を保持していれば実体経済を押さえられると考えた。が、ウクライナ侵攻を機に、世界には「金融経済より実体経済が重要」との認識が広まった。私を含む国際金融の専門家たちは、激しさを増す欧米とロシアのせめぎ合いを「実体経済の中ロvs.金融経済の英米」との構図で捉えている。
この争いはどちらに軍配が上がるのか。私には実体経済を押さえているロシアが有利で、欧米が堅持してきた金融経済の優位性が崩れていくとの予感がある。残念なことだが、それは米ドルを基軸通貨とする国際経済秩序の崩壊の始まりを意味する。
ロシアには豊富な天然資源やエネルギーのほかに、多くの食料生産拠点がある。そのロシアに接近する中国も、現在は世界のものづくりのおよそ3割を占めるとされるほど実体経済が強い。歴史的にロシアは中国を嫌ってきたが、自国が欧米から包囲網を敷かれている現在は「敵の敵は味方」である。日増しに強まる中ロの結びつきは、世界にとって大きな脅威と化している。
デジタル人民元の脅威
あまり知られていないが、中国は2018年から「人民元版SWIFT」とも言うべきCIPS(人民元決済システム)という独自の国際決済システムを運用している。米ドル基軸通貨体制を揺さぶるツールの一つだが、すでにロシアはこれを利用しており、他国にもその輪は広がりつつある。こうした中国の戦略的な動きは加速する一方だ。
無論、バイデン大統領は危機感を強めている。日本をはじめ西側諸国にサプライチェーンの見直しを訴え、半導体などの戦略物資の生産を自国か同盟国内に限定し始めた。昨年5月にアメリカが旗振り役となって日本やオーストラリア、インド、フィリピンなど14カ国が参加したIPEF(インド太平洋経済枠組み)を発足させたのはその一環だ。
中国が通貨における覇権の奪取を企図するデジタル人民元の推進も同様だ。一般に誤解があるようだが、中央銀行デジタル通貨(CBDC)は暗号通貨(仮想通貨)とはまったくの別物だ。暗号通貨とは、ブロックチェーンやスマートコントラクトなどの技術を用いた取引の仕組み自体が価値を裏付ける通貨で、デジタル通貨は既存の法定通貨と同様、国家・中央銀行が発行と管理を担う。ちなみに日本では、2021年からデジタル円の実証実験が始まっている。
このデジタル通貨の世界において、アメリカは「米ドルのデジタル通貨が国際標準」と主張し、中国は「デジタル人民元こそ、世界中の決済で使われるべきだ」と訴えているのである。
デジタル通貨の決済では金融機関の介在を必要としない。A社とB社が共通のデジタル通貨を保有していれば、現金取引のように直接決済ができるからだ。極めて利便性が高いが、それでも導入が遅々として進まない理由には、銀行などの消極姿勢がある。金融機関の仲介を経ない通貨が普及すれば、莫大な手数料ばかりか、金融機関そのものの存在意義を大きく失うことにつながる。
デジタル人民元の浸透に加担する日本企業
それは中国も同じだが、現時点では中国が一歩リードしている印象が強い。理由は金融先進国のアメリカやイギリスでは金融機関の発言力が強く、彼らが導入に及び腰だからだ。その点、中国のすべての金融機関は中国共産党の統制下にある。
巨額の損失が生じようとも、政府が割り切ってデジタル人民元の普及を優先すれば、金融機関はそれを受け入れざるを得ない。その中国では、国営企業の一部は給与の半額をデジタル人民元で支払い始めている。習氏は独裁国家ならではのスピード感で、デジタル人民元を浸透させるべく動いているのだ。
結果的に、ではあるものの、その中国に加担している日本企業がある。東南アジアでグローバル展開を進めているユニクロがその一社だ。ユニクロは中国で人気があり、全国におよそ900もの店舗を持つ。すでに中国政府はユニクロにデジタル人民元での決済を求めている。中国国内の店舗に限るが、日本企業がデジタル人民元の拡大に一役買う形になっているのだ。今後はタイやマレーシアのユニクロでも、デジタル人民元での決済が可能になるとみられる。いずれアジアの大半のユニクロでは、デジタル人民元しか使えなくなるかもしれない。
タイはデジタル人民元に協力的な国の一つだ。現政権を率いるのは元陸軍司令官のプラユット首相で、元軍人だけに中国人民解放軍とのつながりが深い。いまやタイ政府は、デジタル人民元の本格的な導入を検討している。中国はタイの高速鉄道整備計画に協力しているが、両国の経済力の差はあまりに大きい。将来的には中国がタイの鉄道網を実質的に支配するだけでなく、デジタル人民元の普及によって、中国の経済圏に飲み込まれる危険性すら指摘されている。
米中覇権争いの行方
では、米中のデジタル通貨を巡る覇権争いの行方はどうなるのか。仮に米ドルが“デジタル基軸通貨”の地位を得たとしても、競争は終わらない。デジタルルピー(インド)といった第三極の登場も予想されており、地球規模でデジタル通貨圏を巡る“陣取り合戦”が始まるだろう。少しでも多くの国や地域を取り込めば、それだけ広い経済圏を支配下に置けるからだ。
来たるべき新たな通貨秩序にわれわれはどう備えればいいのか。それは日本を世界が依存する強靭な国家にすることだ。ロシアは戦時下にありながら、エネルギーや物資をタテに、ウクライナを支援する西側の国々をけん制し、経済制裁で譲歩を迫った。同様に、われわれは世界の国々が日本に頼らざるを得ない環境を構築すればいい。それは国際社会における、日本のプレゼンスを増すことにもつながるだろう。
今後も大幅に需要が高まる半導体などの核心部品と、その製造装置の供給が日本の大きな“武器”になる。いまでこそ、台湾や韓国の半導体が世界を席巻しているが、その生産には日本の製造装置が不可欠だ。こうした日本にしか作り得ない、高度な技術による製品がカギを握っている。
世界に類を見ない新素材の開発も有効だ。川崎市には、砂から鉄を生み出す素材の研究を進めている企業がある。実用化されれば、日本は鉄鉱石を輸入せずに済むようになる。こうした先進技術を誇る日本企業は、全国に散在している。
「ものづくり」を戦略的に展開
さらに、グローバルメンテナンスという視点も大きな意味を持つ。日本独自の製品や製造装置、あるいは製造ラインを輸出するだけでなく、現地での維持管理や修理を担うことだ。時には契約が数十年という長期にわたるケースもあり得るので、リユースやリサイクルといったSDGs思想にもつながる。
日本が誇る高度な技術はいまも健在だ。世界が必要とする「ものづくり」を、国を挙げて戦略的に展開する。これこそが、日本を大国の思惑に翻弄されない強くたくましい国家に生まれ変わらせる道である。
●2日連続で列車脱線 「爆発」「破壊工作」主張 ロシア 5/3
ウクライナと国境を接するロシアのブリャンスク州で2日、前日に続いて貨物列車が脱線し、直後にボゴマズ知事が「(線路で)爆発物がさく裂した」と再び主張した。
地元メディアによると、関係筋は「同じ破壊工作グループの仕業の可能性がある」と指摘したが、詳細は不明だ。
1日はウクライナやベラルーシとの国境近くで石油製品や建材などを輸送する貨車のうち7両と機関車が脱線し、一部が炎上した。2日は貨車20両が脱線。火災は起きなかったが、積んでいた硫黄や硝石などが流出したという情報がある。現場は州都ブリャンスク郊外で、前日に比べて都市部に近い。けが人は伝えられていない。
モスクワでの対ドイツ戦勝記念行事を9日に控える中、ウクライナのゼレンスキー政権が近く大規模な反転攻勢を開始するとの見方が出ている。プーチン政権は警戒を強める一方、緊張の高まりに乗じて国内を引き締め、「祖国防衛」の宣伝に利用している側面もある。 
●ロシア、ウクライナがドローンで大統領府攻撃と主張 ウクライナは否定 5/3
ロシア政府は3日、クレムリン(ロシア大統領府)を狙った2機のドローンを撃墜したと発表した。ウクライナがウラジーミル・プーチン大統領を暗殺しようとしたと非難している。ウクライナは、一切の関与を否定している。
ソーシャルメディアに投稿された未検証の映像では、小型の物体がクレムリン上空を飛行した後、小規模の爆発を起こす様子が映っている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の報道官は、ウクライナは現在、ロシアに侵攻された自国領土の解放に注力していると述べた。別のウクライナ政府関係者はBBCに、この件はロシアがウクライナで「大規模で挑発的なテロ行為の準備をしている」兆候だと話した。
ロシアが昨年2月にウクライナ侵攻を開始して以来、両国はしばしば相手を非難し、非難された側はそれを否定するというやりとりを繰り返している。
ロシア政府は、クレムリンを狙ったドローン2機を電子レーダーで無効化したとしている。プーチン大統領の報道官によると、大統領は当時クレムリンにいなかった。
クレムリンは声明で、「キエフ(ロシア語でキーウ)の政権は昨夜、ロシア連邦の大統領のクレムリン公邸を無人航空機で攻撃しようとした」と述べた。さらに、ロシアは「これを計画的なテロ行為で大統領暗殺を意図した行為」とみなすとして、「我々が必要とみなす報復策をどこでも、いつでも実行する権利を保有する」と主張した。
ロシアはプーチン氏に対して厳重な身辺警護を徹底している。BBCのスティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長は、ドローンがクレムリンに接近できるなど驚嘆すべきことだと話した。
クレムリンによるとプーチン氏は無傷で、執務を予定通り続ける。3日にはモスクワ郊外のノヴォ・オガリョヴォにいたという。
ロシアのソーシャルメディアに投稿された映像には、3日未明のモスクワ上空に煙がたなびいている様子が映っている。
クレムリンによると、ドローンの破片がクレムリン敷地内に落下したものの、負傷者はなく、建物への損傷もなかった。
クレムリンはさらに、9日には第2次世界大戦で旧ソ連がナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」を控えており、式典には外国から複数の要人が出席する予定だと指摘。戦勝記念日のパレードは予定通り行われると、ロシアのメディアは伝えた。
これに対してウクライナのセルヒイ・ニキフォロフ大統領報道官は、「モスクワでの出来事は明らかに、5月9日を前に状況をエスカレートさせるためのものだ」との見方を示した。
ウクライナ大統領顧問のミハイロ・ポドリャク氏は、これを機にロシアはウクライナの民間施設や民間人を標的にすることを正当化するかもしれないと話す。あるいは、ロシア国内の「抵抗勢力によるゲリラ活動」の可能性も指摘した。
「ロシア連邦で何かが起きている。しかし、ウクライナのドローンがクレムリン上空を飛んだなど絶対にあり得ない」と、ポドリャク顧問は強調した。
米中央情報局(CIA)出身で元国務省幹部のミック・マルロイ氏はBBCに、出来事の報告が正確ならばプーチン氏への暗殺未遂だったことは「ありえない」と指摘。ウクライナはプーチン氏の行動を逐一追跡しており、当時プーチン氏はモスクワにいなかったからだという。
「ロシアの人たちに、我々はいつでもどこでも攻撃することができる、ロシアがウクライナで始めた戦争はやがてロシアに到達する、ひいては首都にも到達すると、示すための行動だったのかもしれない」と、マルロイ氏は話した。
逆に、もしドローンについての報告が事実と異なる場合、「ロシアはこれを口実にゼレンスキー大統領を標的にするため、この事案をでっち上げたのかもしれない。ロシアはこれまでもゼレンスキー氏を狙ってきた」からだと、マルロイ氏は指摘した。
●米、「プーチン氏暗殺未遂」へのウクライナ関与真偽まだ確認できず 5/3
米ホワイトハウスは3日、ウクライナがロシアのプーチン大統領殺害を狙いクレムリンをドローン(無人機)で攻撃したというロシア側の主張を認識しているとしつつも、現時点で真偽の確認は取れていないという認識を示した。
ロシア大統領府は3日、ウクライナが夜間にドローンを使ってプーチン大統領殺害を図ったものの未遂に終わったと表明した。ウクライナ政府側は関与を否定しているが、ロシアは報復する権利を留保していると表明。強硬派はウクライナのゼレンスキー大統領に対する迅速な報復を要求している。
●クレムリンに無人機、ロ大統領府「ウクライナがプーチン氏殺害未遂」 5/3
ロシア大統領府は3日、ウクライナが夜間にドローン(無人機)を使ってプーチン大統領殺害を図ったものの未遂に終わったと表明した。ウクライナ政府側は関与を否定した。
ロシア大統領府によると、大統領宮殿内のプーチン氏の居所を目指して無人機2機が飛来したが軍と特殊部隊がレーダー戦システムを用いて無効化した。
「これは、9日の戦勝記念日パレードを目前にした計画的なテロ行為であり、大統領の命を狙ったものであるとみなす」とし、「ロシアは、適切と思われる場所と時間に報復措置を取る権利を有する」と表明した。
周辺にはドローンの破片が散乱しているが、人的・物的被害は出ていないとしている。
RIA通信によると、プーチン氏は当時クレムリンにはおらず、モスクワ郊外ノボオガリョボの大統領公邸で執務していた。
ウクライナ大統領府高官は、クレムリンへのドローン攻撃とは無関係だと主張、そのような行為をしても戦果につながらずロシアを刺激してより過激な行動を取らせるだけだと述べた。
ポドリャク大統領顧問はロイターに対し、ウクライナ政府が攻撃の背後にいるという主張や、ロシアがウクライナの破壊工作員とされる人物を逮捕したという話は、ロシアが今後数日内にウクライナに対し大規模な「テロリスト」攻撃を準備していることを示唆すると述べた。
●中国は「戦争を終わらせるようロシアに圧力を」 米大使 5/3
米国のバーンズ駐中国大使は2日、米国は、中国がロシアにウクライナでの戦争を終わらせるよう圧力をかけることを望んでいると述べた。
バーンズ氏は米シンクタンク「スティムソンセンター」のイベントにバーチャル形式で出席し、「ウクライナが領土全てを取り戻し、文字通り完全に主権を再び手にすることができるよう、中国はロシアに対して軍を撤退するよう圧力をかけるべきだ」と述べた。
バーンズ氏はさらに「中国がロシアにウクライナの学校や病院、アパートなどへの攻撃をやめるよう圧力をかければ非常に助かる。ここ1、2カ月、ウクライナ市民へのひどい空爆やドローン(無人機)攻撃で多くの犠牲者が出た」と指摘。その上で「だからこそ米国、そして欧州の国々、ウクライナが中国にそうしたことを期待している」と述べた。
同氏は、中国の習近平(シーチンピン)国家主席とウクライナのゼレンスキー大統領の電話協議は「良い第一歩」だが、その後何らかの動きがあるのかは不明と述べた。
バーンズ氏は「我々は中国に対して、より厳しい姿勢でロシアに助言することを望んでいる。もちろんウクライナ政府が受け入れられる条件で可能な限り早期に戦争を終わらせるための行動を取ってほしい」と述べた。
バーンズ氏によると、米国は中国がロシアに殺傷能力のある兵器を提供する可能性がある問題を「何カ月もの間、非常に注意深く」見守っているという。
「中国が実際に兵器を提供しているという証拠は目にしていないが、我々は注視し続ける」と述べた。
中国政府はウクライナでの戦争については中立を主張してきたが、ロシアの侵攻を非難しておらず、過去1年にわたり同国との経済・外交関係を強化している。
●ロシア ウクライナと国境接する地域で火災や事故相次ぐ  5/3
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナが近く反転攻勢に乗り出す構えを見せる中、ロシアでは、一方的に併合したクリミアに近い石油施設で火災が起きるなど、ウクライナと国境を接する地域で火災や事故が相次いでいます。
ウクライナでは2日、南部ヘルソン州でロシア軍による砲撃を受け、地元当局は市民3人が死亡し、5人がけがをしたと明らかにし、イエルマク大統領府長官は「テロ攻撃だ」と批判しました。
一方、ウクライナと国境を接するロシア西部のブリャンスク州の知事は2日、SNSに「鉄道の駅の近くで正体不明の爆発装置が爆発した。貨物列車の機関車など数両が脱線した」と投稿しました。
ブリャンスク州では、前日の1日にも貨物列車の脱線が起き、州知事は爆発装置が爆発したと発表しています。
さらにブリャンスク州では、3日も一部のロシアのメディアがロシア軍の飛行場が5機の無人機から攻撃を受け、航空機が損傷したなどと伝えています。
また、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアの「クリミア大橋」に近いロシアの南部クラスノダール地方で3日朝、地元の州知事がSNSに「石油を貯蔵する施設で火災が起きた」と投稿しました。
ロシアの国営通信社は火災が起きた施設は、貯蔵容量が2万トンに上り、当局の話として「無人機が落下したあと火災が起きた」などと伝えています。
クリミアをめぐっては、先月29日も軍港都市セバストポリで黒海艦隊に供給されるとみられる燃料の貯蔵施設で大規模な火災が起き、ウクライナ側は「大規模な攻撃に向けた準備だ」と関与を示唆しています。
こうした中、ロシアの治安機関FSB=連邦保安庁は3日、クリミアで、ロシア側の要人の暗殺やインフラ施設へのテロ攻撃を計画していたとしてウクライナ側の複数の工作員を逮捕したと発表しました。
犯行は、ウクライナ国防省の情報機関、情報総局のブダノフ局長が主導したとしていて、ウクライナが近く反転攻勢に乗り出す構えを見せる中、警戒を強めているものとみられます。

 

●ウクライナ・ゼレンスキー大統領「我々はプーチンもモスクワも攻撃していない」 5/4
ロシア大統領府がクレムリンに対しウクライナによるドローン攻撃が試みられたと発表したことに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は「攻撃はしていない」と否定しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「我々はプーチンもモスクワも攻撃はしていない。自国の領土で戦い、村や町を守っている。その兵器も十分ではないのだ」
3日、訪問先のフィンランドで記者会見に臨んだゼレンスキー大統領は、ロシア側が発表したクレムリンへの攻撃へのウクライナの関与を全面的に否定。
国際刑事裁判所がプーチン大統領に対し戦争犯罪で逮捕状を出していることを念頭に「我々は法廷に委ねたい」と語りました。
●クレムリンに無人機攻撃か 被害はなし ロシア大統領府 5/4
ロシア大統領府は、プーチン大統領を狙って首都モスクワのクレムリンをウクライナの無人機が攻撃しようとしたと主張し、報復措置をとると発表しました。これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は「われわれがプーチン大統領やモスクワを攻撃することはない」と述べて関与を否定しました。
ロシア大統領府は3日、「2機の無人機が夜、首都モスクワのクレムリンにある大統領府を攻撃しようとした。無人機は軍や特殊部隊によってレーダーで無力化され、クレムリンの敷地内に破片が落下した。被害は出ていない」などと発表しました。
また、「大統領にけがはなく、大統領のスケジュールに変更はない」としています。
ロシアでは今月9日、第2次世界大戦の戦勝記念日を迎え、クレムリン近くの赤の広場ではプーチン大統領の演説や軍事パレードが予定されています。
大統領府は無人機による攻撃の試みはウクライナのゼレンスキー政権によるものだとしていて、「戦勝記念日の前に行われたものだ。ロシアの大統領を狙ったテロ行為だ」と主張しています。
そのうえで「ロシアは適切な時期と場所で報復する権利がある」として報復措置をとるとしています。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、プーチン大統領は当時、モスクワ郊外の公邸にいてクレムリンにはいなかったとしたうえで、「軍事パレードは行われる。計画は変わらない」として9日の戦勝記念日のパレードは予定どおり実施されるとしています。
ロシア大統領府は3日、プーチン大統領がモスクワ郊外の公邸でロシア西部の州知事から報告を受けるなど通常の公務を行う様子を公開しました。
またモスクワのソビャーニン市長は、事態を受けてモスクワ上空では当局が許可したものを除きすべての無人機の飛行を禁止したと発表しました。
ウクライナ大統領「プーチン大統領を攻撃することない」
一方、この無人機攻撃についてウクライナのゼレンスキー大統領は訪問先のフィンランドで行われた会見で「われわれがプーチン大統領やモスクワを攻撃することはない。自国の領土のために戦うだけだ」と述べて関与を否定しました。そしてロシアがウクライナによる攻撃だと主張する意図について「ロシアは何も勝ち得ていない。プーチン大統領は国民を前進させるために何らかの動機づけが必要なのではないか」と述べました。
ウクライナ大統領報道官 関与を否定
ウクライナのゼレンスキー大統領の報道官は声明を出し「ゼレンスキー大統領が繰り返し述べているように、ウクライナはすべての利用可能な戦力や資金を自国の領土解放のために差し向けているのであって、国外への攻撃のためではない」と述べて、関与を否定しました。
米国務長官「確認できることはない」
ロシア大統領府が、首都モスクワのクレムリンをウクライナの無人機が攻撃しようとしたと主張していることについて、アメリカのブリンケン国務長官は「この件で確認できることはない。ロシア政府が言うことは、到底うのみにはできず、何が事実かを見極めていく」と述べ、事実関係を調査中だとの立場を示しました。
またブリンケン長官は、もしウクライナがロシアの領土を攻撃すると決めた場合アメリカは批判するかと聞かれたのに対し「ウクライナがどのように自国を防衛し領土を取り戻すかは、ウクライナが決めることだ」と述べました。
一方、ホワイトハウスのジャンピエール報道官は会見で「アメリカは戦争が始まった当初からウクライナ軍が国外で爆撃を行うことを推奨しておらず、それを可能にするような支援もしていない」と強調しました。
モスクワ市民 不安や懸念の声
ロシア大統領府が首都モスクワのクレムリンを狙ってウクライナによる無人機の攻撃があったと発表したことについて、モスクワに住む70代の女性は「ぞっとする。こんなことはよいはずがない」と話し、不安な表情をみせていました。
また60代の男性は「予測できない状況だ。あらゆることがいま起きている」と懸念を示しました。
一方、50代の会社員の男性は、ウクライナを批判した上で「特別軍事作戦でもっと攻撃を強めるべきだ」と話し、ロシア軍はウクライナへの攻撃を強めるべきだと主張していました。
別の70代の女性は「モスクワに近づく前に撃墜されるはずだ。クレムリンの上空で起きるはずがない」と驚いた様子で話した一方「私たちは政府に守られているという信頼があり、心配はしていない。9日の戦勝記念日も無事に行われるだろう」と話していました。
ロシア国内 これまでも各地で無人機による攻撃
ロシア国内では、これまでも各地で無人機による攻撃があったり墜落した無人機が見つかったりしていて、政権側はウクライナ側によるものだとして警戒を強めています。
去年12月には、中部と南部にある空軍基地で爆発が相次ぎ、ロシア国防省は、ウクライナ側が無人機を使って駐機中の軍用機に攻撃を仕掛けたと一方的に主張しました。
ことし2月には首都モスクワから南東およそ100キロ余りの場所で無人機が墜落したと地元知事が発表し「民間インフラが狙われた」と主張しました。
さらにモスクワ近郊では先月下旬、無人機が3機、落下した状態で相次ぎ見つかったと伝えられ、このうち1機には爆発物が積まれていたとされています。
ロシアの新聞は、今月9日の戦勝記念日にあわせてロシア国内で無人機による攻撃が起きる可能性に備えて、国防省が警戒態勢を強化していると伝えています。
一方、ロシアが9年前、一方的に併合したウクライナ南部クリミアでは、先月29日、燃料の貯蔵施設で大規模な火災が起き、無人機による攻撃だという見方が出ていて、これについてはウクライナ側が「大規模な攻撃に向けた準備だ」と関与を示唆しています。
●ゼレンスキー大統領、軍事支援要請のためにフィンランド電撃訪問… 5/4
ウクライナのゼレンスキー大統領が3日(現地時間)、フィンランドを電撃訪問した。
フィンランド大統領室は同日声明を出し、ゼレンスキー大統領がフィンランドのヘルシンキで開かれる北欧5カ国の首脳会談に出席する予定だと明らかにした。
大統領室は「会談ではロシアの侵攻とウクライナに対する北欧諸国の持続的な支援、ウクライナとEU・NATOとの関係、ウクライナの平和計画が議論される予定」と説明した。
同日の日程は、安全保障上の理由でゼレンスキー大統領がヘルシンキに到着した後、電撃的に公開された。
ロイター通信は、フィンランド大統領宮の一帯にゼレンスキー大統領を見るために数百人が集まって歓呼したと伝えた。
ゼレンスキー大統領は北欧首脳会談への出席とは別に、フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領をはじめ、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランドの首脳と相次いで二国間会談を行う予定だ。
ゼレンスキー大統領はこの席で、各国に追加の軍事支援を直接要請するものとみられる。ウクライナ大統領室報道官も「今回の会談は韓国に対する追加的な軍事支援調整のために用意された」と説明した。
フィンランドをはじめ北欧諸国は昨年2月、ロシアのウクライナ侵攻以降、ウクライナに比較的積極的な軍事支援を続けている。
この中でフィンランドとスウェーデンの場合、長い間維持してきた軍事中立路線を廃棄し、軍事支援はもちろん各自の安保不安を解消するために北大西洋条約機構(NATO)への合流を決めた。
フィンランドは先月、NATOの31番目の加盟国として公式加盟し、スウェーデンは手続きがまだ進められている。 
●「アメリカの指示のもとドローン攻撃」ロシア大統領報道官が主張 5/4
ロシア大統領府は、ウクライナがクレムリンへの“ドローン攻撃”を試みたと発表したことをめぐり、アメリカの指示のもと攻撃が行われたと主張しました。
ロシアのペスコフ大統領報道官は4日、“ドローン攻撃”をめぐり、「こうしたテロ行為を決定するのはワシントンだと知っている。ウクライナはそれに従っているだけだ」と述べ、アメリカの指示のもとで攻撃が行われたと主張しました。そのうえで「ウクライナとアメリカが関与を否定するのは馬鹿げている」と述べています。
また、プーチン大統領の様子について、「大統領は極限状態でも常に冷静沈着であり、的確な命令を出している」と強調しました。5日にプーチン大統領が安全保障会議を開催するとしていて、ドローン攻撃に関しても協議を行う可能性があるということです。
そして、今後の報復措置については、「バランスの取れたロシアの国益に沿ったものになる」と述べています。
●攻撃先に?プーチン大統領の執務室 “謎の人影”も… 5/4
ロシア大統領府のクレムリンでドローンが爆発した瞬間の映像です。一体、誰が何の目的で飛ばしたのか。そこには“謎の人物”も映り込んでいて、映像を独自に検証すると新たな可能性が見えてきました。
米国「ロシア偽旗とは判断尚早」
ロシア側の“衝撃的な発表”。情報はいまだ錯綜(さくそう)しています。
米・ホワイトハウス、ジャンピエール報道官「ロシアに“偽旗作戦”してきた過去があるのは明白ですが、今回の攻撃についてそう判断するのは時期尚早」
ロシア大統領府が「ウクライナがクレムリンに対してドローン攻撃を試みた」と発表したのは3日午後2時半ごろのこと。攻撃はドローン2機によるもので、防空システムによって防御されたとしています。映像はその12時間前、午前2時半ごろに撮影されたものとみられます。
攻撃先に?プーチン氏執務室が
映像から分かることを整理します。爆発が起きた「クレムリン」は「城塞(じょうさい)」を意味し、世界遺産にも登録されています。その歴史は古く、現在に至るまでロシア政治の“中心地”として存在します。モスクワ川沿いにある建物が大クレムリン宮殿です。ロシア外交の舞台としても利用され、首脳会談などが度々、この宮殿で行われてきました。今回、ドローンで攻撃されたのは大クレムリン宮殿の反対側、観光名所「赤の広場」の正面にある「元老院」と呼ばれる建物です。
筑波大学・中村名誉教授によりますと、ドローンが爆発した屋根の下にプーチン大統領の「執務室」があるといいます。プーチン大統領は未明まで、この執務室にこもることも珍しくないそうです。今回、ドローンが飛んできたとみられるのは南東の方角からです。その方向にはモスクワ川の下流、そして古い市街地が広がっています。タワーマンションのような高層ビルは見当たりません。ウクライナの首都キーウは画面の上の方角に位置します。今回、爆発したドローンは赤の広場にあるショッピングモールのあたりから撮影されたとみられます。2機、飛んできたというドローン。午前2時半の映像に映っていたのが1台目なのか、2台目なのかは分かっていません。そして、映像には気になる点も…。爆発が起きたその瞬間、屋根の辺りに“人影のようなもの”が映っています。人だとしたら、なぜ未明にこんなところにいるのでしょうか…。
3日未明にロシアのクレムリンで起きた爆発。ロシア大統領府は「ウクライナが2機のドローンでクレムリンへの攻撃を試みたが、プーチン大統領はけがをせず無事だった」と発表しました。ウクライナのゼレンスキー大統領は攻撃への関与を否定しています。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領「我々はプーチンやモスクワを攻撃しない。我々は自分の領土で戦っている」
ドローン爆発「自作自演の可能性」
食い違う主張…。専門家はどう見ているのでしょうか。
安全保障が専門、明海大学・小谷哲男教授:「ウクライナがドローンを2機飛ばしたとして、果たしてロシア側の何重もある防空網を突破して、たどり着くことができたのかが疑問。明らかに今回のドローンが搭載していた爆弾の爆発力は小さい。とてもクレムリンを破壊できるようなものではない。ロシア側が自作自演した可能性がいまのところ高い」
映像には爆発の瞬間、屋根の辺りに2人分の“人影らしきもの”も映っています。この点については…。
安全保障が専門、明海大学・小谷哲男教授:「人が映っている映像は、実は2機目のドローン爆発であることが分かってきたので、普通に考えれば1機目がクレムリンのドームに衝突して爆発して、確かめに警備員が屋根に上ったところ、2機目がやってきたのでは。ロシアの自作自演だったとして、現場のクレムリンの警備員まで計画が知らされていなかった可能性が十分ある」
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も「ドローン攻撃はロシアによる自作自演の可能性がある」との分析を明らかにしています。
ロシア記念日が関係? 専門家指摘
では、なぜこのタイミングで“工作”を行う必要があったのでしょうか。専門家が理由の一つとしてあげたのが、プーチン大統領にとって“大切な記念日”との関係です。
クレムリンで起きた爆発は自作自演なのでしょうか…。仮にそうだとしたら専門家は今、ロシアがこうした動きを見せる理由について5月9日、ロシアの戦勝記念日を挙げます。
安全保障が専門、明海大学・小谷哲男教授:「パレードをやることが難しいということは言えるかもしれない」
この日はソビエト連邦がナチス・ドイツに勝利したロシアにとって特別な日。毎年、クレムリンの前にある「赤の広場」で大規模な軍事パレードが行われ、約1万人の兵士が参加しますが今、ロシアにその余力がないのではと小谷教授は指摘します。
安全保障が専門、明海大学・小谷哲男教授「実際には戦闘でかなり兵力を使っているので、戦勝パレードをする余裕はないはずだから、モスクワが攻撃されたので戦勝パレードも縮小、あるいは中止しなければならないとそういう口実に使う可能性はあると思う」
●米戦争研究所 クレムリンへのドローン攻撃は「ロシアの自作自演の可能性」 5/4
アメリカのシンクタンク、戦争研究所は、クレムリンへのドローン攻撃はロシアによる自作自演の可能性があるという分析を明らかにしました。
クレムリンへの攻撃でロシア国民に対して、ウクライナ侵攻を身近な出来事だと実感させたうえで、追加徴兵などより広い、社会的動員の条件を設定するためだと指摘しています。
●ロシア与党院内代表「プーチン大統領に対する攻撃はすべてのロシア人狙うもの」 5/4
ロシアのプーチン大統領が属するロシア与党「統一ロシア」のワシリエフ下院院内代表が「大統領を狙った攻撃は私たち(ロシア国民)各自に向かっている」と明らかにしたとタス通信が4日に伝えた。
ワシリエフ院内代表は前日夜、党のテレグラムアカウントへの投稿で「今日テロリズムが再び台頭しロシアの心臓部を狙っている」としてこのように話した。
これに先立ちクレムリン(ロシア大統領府)は前日に発表した声明で「2日夜にウクライナがドローンで大統領官邸に対する攻撃を試みた。2機のドローンがクレムリンを狙ったが軍が電子戦システムを適切に使いこれらを無力化した」と明らかにした。
ロシアのソーシャルメディア(SNS)にはドローンとみられる飛行体がクレムリンの屋根の上で爆発する場面を収めた未確認映像が広がっている。ワシリエフ院内代表はこれと関連し「クレムリンに対する攻撃、政治指導者に対する暗殺の試み、クリミア大橋爆発を含めた鉄道・送電線などインフラ施設破壊行為、ガスパイプライン爆発などはウクライナのテロ活動というのは事実」と主張した。
彼は「1990年代にロシアは北コーカサス地域をわれわれの領土から奪おうとする国際テロリズムに直面した。テロリスト組織に向けた傭兵、資金、武器などが送られた」と話した。続けて「われわれロシアは高い代償を払ってテロリズムをはね除けた経験がある。プーチン大統領は軍隊と法執行機関などの支援を受け国際テロリズムに途轍もない打撃を与えて国を統合した」と説明した。
ワシリエフ院内代表はその上で「テロリズムに抵抗するには最大限の団結と警戒、協力が必要だ。最も重要なのは祖国と大統領に対する防衛はすべての人がやることだと理解すること」と強調した。
ロシアがウクライナのテロだと主張するドローンの爆発に対しウクライナのゼレンスキー大統領はロシアの主張を否定した。ゼレンスキー大統領は前日のフィンランド訪問中、記者らの質問に「ウクライナはプーチンまたはモスクワを攻撃していない。われわれはわれわれの地で戦う」と明らかにした。
●「我々はプーチンもモスクワも攻撃はしていない」 ゼレンスキー大統領否定 5/4
“ウクライナがモスクワの大統領府、クレムリンにドローン攻撃を試みた”ロシアはこう主張し、“報復の権利がある”と発表しました。ゼレンスキー大統領は全面否定していますが攻撃の激化が懸念されます。
「ドローン攻撃」の発表から一夜明けた4日朝のモスクワ・クレムリンです。
大きな被害は見られませんが、ロシア大統領府は3日未明、ウクライナがドローン2機を使ってクレムリンへの攻撃を試みたと発表。「ゼレンスキー政権によるテロ行為だ」と主張しています。そして… ロシア大統領府「必要な報復措置をとる権利がある」
一方、ゼレンスキー大統領は… ウクライナ ゼレンスキー大統領「我々はプーチンもモスクワも攻撃はしていない」 攻撃への関与を否定し、“ウクライナは自国の領土を守る兵器も十分には持っていない”と訴えました。
アメリカのブリンケン国務長官は攻撃について「確認できない」としています。アメリカ ブリンケン国務長官「単純にわからないのです。ただ、ロシア政府からの情報は大きな疑いを持って受け止めるようにしています」
一方、ウクライナでは、この日も。南部ヘルソン州の当局者はロシア軍による砲撃がスーパーマーケットや鉄道の駅など多くの人が集まる場所に直撃し、23人が死亡したと明らかにしました。ウクライナメディアによりますと、翌4日も広範囲で空襲警報が出されたほか、首都キーウなどにドローンが飛来し、軍が24機中18機を撃墜したとしています。専門家はこうした4日の攻撃は「“クレムリンへの攻撃に対する報復”の初期段階なのではないか」と分析しています。
東京大学先端科学技術研究センター講師 小泉悠さん「(ロシア)大統領府側からも『これはウクライナによるテロなのだ』『大統領を狙ったものなのだ』という声明が出ている以上、これは何らかの厳しい対応をするのだと思います」また、「今後ロシアが様々な形で相当の“報復措置”を講じるのではないか」と指摘しています。
●ゼレンスキー氏、ICC電撃訪問 プーチン氏の処罰訴え 5/4
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、戦争犯罪の容疑で3月にロシアのプーチン大統領に逮捕状を出したオランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)を電撃訪問した。ハーグでは演説も行い、ウクライナに侵攻したロシアの「侵略犯罪」を裁く特別法廷の設置を要求。プーチン氏への処罰も訴えた。
ゼレンスキー氏のオランダ訪問は侵攻後初めて。トレードマークのカーキ色の服でICCを訪れ、ホフマンスキ所長の歓迎を受けた。
ゼレンスキー氏は演説で「われわれはここハーグで(プーチン氏の)別の姿を見たいと願っている」と述べ、プーチン氏がハーグの法廷で裁きを受けるよう訴えた。「ロシアの侵略犯罪は法廷によってのみ裁かれるべきだ」とも指摘した。
滞在中、ゼレンスキー氏はオランダのルッテ首相と会談する。
ゼレンスキー氏は3日、フィンランドを訪問し、ニーニスト大統領と会談。その後、オランダに向かった。

 

●ロシア「対独戦勝記念日」の行事中止広がる…国境で攻撃誘発を避けるため 5/5
ウクライナに侵略するロシアのプーチン政権が、国威発揚に向けて重視する9日の旧ソ連による第2次世界大戦の対独戦勝記念日にちなんだ行事を中止する動きが、ウクライナとの国境付近の州を中心に広がっている。露大統領府が3日、モスクワの大統領府を標的にした無人機攻撃があったと発表したことで、中止の動きに拍車がかかる可能性がある。
政権は最重視
ウクライナと国境を接する露西部ブリャンスク州政府は3日、戦勝記念日に軍事パレードを実施しないと発表した。この州では1、2の両日、線路が爆発して貨物列車が脱線し、露当局が捜査を開始した。タス通信によると、ブリャンスク州知事は、パレード中止は「市民の安全確保のため」としており、ウクライナ軍による攻撃の誘発を避けることが目的とみられる。
プーチン政権は昨年2月のウクライナ侵略開始前から、ナチス・ドイツに勝利した記念日を国民の結束を維持する観点から最重視してきた。旧ソ連側だけで2700万人以上の犠牲を出したとされる対独戦をロシアは「大祖国戦争」と呼び、侵略開始後の昨年も、規模は縮小しつつも全土で兵士らによる軍事パレードを実施した。
パレードの中止は9州に広がっている。ロシアが一方的に併合しているウクライナ南部ヘルソン州とクリミアも中止を表明している。
ロシア第2の都市で、プーチン大統領の故郷でもある西部サンクトペテルブルクは、軍事パレードは実施するものの、露軍機の編隊飛行を取りやめると地元メディアが報じた。
デモ発展警戒
最大規模となるモスクワ中心部「赤の広場」での軍事パレードについて露大統領報道官は3日、「予定通り実施する」と述べたが、編隊飛行の中止が取りざたされている。
中止の動きで特に注目されているのが、独ソ戦で犠牲になった家族や先祖の写真を掲げて住民が各地で自発的に行進する「不滅の連隊」と呼ばれる行事だ。
不滅の連隊は、2012年にシベリア・トムスクで独ソ戦の記憶の風化を防ごうと始まった市民活動で、昨年は全土で約1200万人が参加した。プーチン氏も昨年、モスクワ中心部で行進に参加するなど事実上の官製行事になっている。
今回の中止を巡っては、ウクライナ侵略で戦死した兵士らの遺族が参加して、侵略を継続するプーチン政権への抗議デモに発展する事態を警戒しているとみられている。
●ゼレンスキー大統領 国際刑事裁判所でプーチン氏の処罰訴え 5/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は、戦争犯罪の疑いでロシアのプーチン大統領に逮捕状を出したICC=国際刑事裁判所を訪れ、プーチン氏の処罰を訴えました。
ゼレンスキー大統領は4日、ウクライナの占領地域から子どもをロシアへ不法に移送した戦争犯罪の疑いがあるとして、プーチン大統領に逮捕状を出したオランダ・ハーグのICC=国際刑事裁判所を訪問しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「我々がここで見たいのはプーチン氏だ。戦争行為において、国際法の都市ハーグで刑を下されるべきだ」
ゼレンスキー大統領は「侵略の罪を裁くことができる機関は法廷のみだ」と述べ、プーチン氏の処罰を訴えました。
●プーチン氏に「侵略罪」で裁きを、ゼレンスキー氏がハーグ訪問 5/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、訪問先のオランダのハーグで行った記者会見で、ロシアのプーチン大統領はウクライナでの戦争について裁かれなければならないと述べ、「侵略罪」を裁く新たな国際法廷の設置を呼びかけた。
ゼレンスキー氏は国際刑事裁判所(ICC)があるオランダのハーグを電撃訪問。記者会見で、ウクライナに対する侵攻そのものをロシアによる「主要な犯罪」と見なす必要があるとし、侵攻を行っている人々を裁くために「特別の法廷を設置したい」と述べた。
ICCは3月、プーチン大統領に対しウクライナでの戦争犯罪の責任を問う逮捕状を発行している。
ゼレンスキー氏は記者会見に先立ちICCで行った演説で、プーチン大統領は犯罪行為に対する裁きを受けなくてはならないとし「われわれが勝利したとき、実現すると確信している」と述べた。
●茂木氏 キューバ大統領とウクライナ情勢協議 ロシアの伝統的友好国  5/5
キューバを訪問している自民党の茂木幹事長は日本時間4日夜、ディアスカネル大統領と会談した。
北中米を歴訪中の茂木氏は、3カ国目のキューバの首都・ハバマで、ディアスカネル大統領と会談した。
キューバは、新興国を含め途上国が所属する国連の「77カ国グループ」で議長を務めていて、会談に先立ち、茂木氏は「G7広島サミットに向けて、幅広い国の支持を獲得したい」と述べている。
また、キューバは社会主義国で、伝統的にロシアとも友好関係にあり、茂木氏は3日、ロドリゲス外相と会談し、「ウクライナ情勢の改善に向け、働きかけをしてほしい」と要望した。
●中ロ外相 会談で結束強調 上海協力機構の外相会議を前に  5/5
中国とロシアが主導する枠組み、上海協力機構の外相会議が、5日にインドで開かれます。会議に先立ち、中国とロシアの外相が会談して結束を強調し、ウクライナ侵攻をめぐって欧米などがロシアへの経済制裁を強める中、どのような議論が行われるか注目されます。
中国とロシアが主導する安全保障や経済協力の枠組み、上海協力機構の外相会議は5日に議長国インドにある南部ゴア州で開かれます。
会議に先立って、4日に中国の秦剛外相とロシアのラブロフ外相が会談を行い、ロシア外務省によりますと、両外相は結束を強調し、ウクライナ情勢についても「平和的に解決するための取り組みを含めて議論した」としています。
その上で「新植民地主義は容認できないことで一致した」としていて、アメリカなどに対抗する姿勢を確認したとみられます。
一方、インドのジャイシャンカル外相も中国とロシアの外相とそれぞれ会談を行いました。
ロシアとしては、欧米などが経済制裁を強める中、中国やインドなど加盟国との経済面での連携を強化したいねらいがあるとみられます。
また、中国としても、経済や安全保障面で対立するアメリカへの対抗軸として結束をアピールする思惑があるとみられ、今回の外相会議でどのような議論が行われるか注目されます。 
●ロシアが戦勝記念日の軍事パレード縮小 「戦力低下を覆い隠そうとしている」 5/5
9日に予定されるロシアの戦勝記念日を前に、アメリカのシンクタンクはプーチン政権が軍事パレードを縮小し、ロシア軍の戦力低下を覆い隠そうとしているようだという見方を示した。
来週9日の戦勝記念日に、ロシア国内の少なくとも21の都市が軍事パレードの中止を決めている。アメリカのシンクタンク「戦争研究所」はプーチン政権が3日のクレムリンでのドローン攻撃を理由にして軍事パレードを縮小し、ロシア軍の戦力低下を覆い隠そうとしているようだと指摘した。
首都モスクワで4日に行われたリハーサルでは、先導車を除いて戦車の姿が見あたらなかった。去年の同じ時期に実施されたリハーサルに比べて状況が変わっている。
●ロシア民間軍事会社ワグネル、10日にバフムト戦線離脱か 5/5
ロシア民間軍事会社ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は5日、10日に部隊をウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトから撤退させると表明した。
プリゴジン氏は軍参謀総長、国防省、最高司令官であるプーチン大統領に宛てた書面の声明で「撤退するのは、弾薬がなければ無意味に滅びる運命にあるからだ」と述べた。
撤退は、ロシアの対独戦勝記念日の翌日というタイミングでプーチン大統領にとっては打撃となる。ロシア大統領府は、声明について、ウクライナでの「特別軍事作戦」に関わるとして、コメントを差し控えた。
ワグネルはロシアのバフムト攻略を先導する形で戦い、3週間前にはバフムトの80%以上を制圧したと主張していた。
しかしウクライナ軍も激しく抵抗、ワグネルはロシア政府の支援を得られず消耗し、プリゴジン氏はプーチン政権に対する不満を募らせた。
プリゴジン氏は声明で「弾薬が不足しているため、われわれの損失は毎日飛躍的に増加している」とし、声明に添付された動画で「配下の若者たちは弾薬のないバフムトで無駄で不当な損失を被るわけにはいかない」と述べた。
弾薬はどこだ!
5日、声明とは別に投稿された動画で、プリゴジン氏は、ワグネルの戦闘員とする数十人の遺体の中に立ち、「弾薬が70%不足している。ショイグ(国防相)! ゲラシモフ(参謀総長)! 弾薬はどこだ」と声を張り上げた。
プリゴジン氏は声明で、ゲラシモフ参謀総長に対し、バフムトのワグネル部隊を正規軍に置き換え、その時期を明示するよう求めた。
撤退については非難を覚悟しているとした。また再び戻るとも約束。「傷を癒し、祖国が危険にさらされたとき、祖国を守るために再び立ち上がるだろう」と述べた。
●ロシア 各地で無人機の飛行禁止 南部では3日連続火災で警戒  5/5
ロシアのプーチン政権が、ウクライナの無人機がクレムリンに攻撃を仕掛けたと発表したことを受けて、ロシアの国営通信社は、各地で無人機の飛行を禁止する措置がとられたと伝えています。また、クリミアに近いロシア南部では、3日連続で燃料の貯蔵施設で火災が発生し、ロシア側は警戒を強めているとみられます。
ロシア大統領府は3日、ウクライナの無人機がプーチン大統領を狙ってクレムリンに攻撃を仕掛けたと発表し、さらにアメリカも関与したと主張して批判を強めています。
国営のロシア通信は3日、今回の事態を受けて、首都モスクワだけでなく、第2の都市サンクトペテルブルク、それにウクライナとの国境に近い州などおよそ40の地域で無人機の飛行を禁止する措置がとられたと伝えています。
また、ロシアの国営通信社は5日、一方的に併合したウクライナ南部クリミアに近いクラスノダール地方にある燃料貯蔵施設の敷地内で火災が発生したと伝えました。
当局者の話として「無人機による攻撃だ。60平方メートルにわたり火災が発生した」としています。
クラスノダール地方では、今月3日と4日にも石油貯蔵施設で火災が起き、いずれも無人機による攻撃だと伝えられ、3日連続で発生した事態にロシア側は警戒を強めているとみられます。
戦況を分析するイギリス国防省は4日「燃料施設からの供給が寸断されることで、ロシア軍への燃料補給の作戦が変更を余儀なくされる可能性が高い」としてロシア側の作戦に影響が出る可能性を指摘しています。
●「ロシア、今年大きな攻撃は不可能」 米国家情報長官 5/5
ヘインズ米国家情報長官は4日、ウクライナとロシアの戦争について、ウクライナ軍の反攻の成否にかかわらず、ロシア軍は弾薬と人員の不足により「今年大きな攻撃」をかけることはできないとの見方を示した。
ヘインズ氏は上院軍事委員会に対し「実際、ロシアが強制動員を開始せず、イランなど既存の供給元に加えて第三者からのかなりの弾薬供給を確保しなければ、小さな攻撃すらロシアにとっては続けることが難しくなるだろう」と述べた。
さらにヘインズ氏はロシアのプーチン大統領について、「おそらく」ウクライナにおける短期的な野心を縮小したと指摘。「ウクライナの東部と南部の占領地支配を強固にし、絶対にウクライナを北大西洋条約機構(NATO)の加盟国としない」ことを勝利と考えていると付け加えた。
ただこうした評価にもかかわらず、ロシアが今年停戦を交渉する可能性は高くないと同氏は述べた。政治的な要素が「プーチン氏の考えを変える」ことがない限り、そうした交渉に入る公算は極めて低いとした。
また、ロシア軍はウクライナ軍の反攻に備えて「新たな防衛態勢」を整えつつあり、「4月に獲得した領土は、その前の3カ月のどの月よりも少なかった」と説明した。
●米政府、「クレムリンへのドローン攻撃はアメリカが支援」とのロシア主張を否定 5/5
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を狙ったドローン(無人機)攻撃があったとロシア政府が主張している問題で、アメリカ政府は4日、関与を否定した。プーチン大統領の報道官が、「クレムリン(ロシア大統領府)へのドローン攻撃はウクライナがアメリカ政府の支援を受けて実行した」と主張したのを受けてのこと。
ロシア政府は3日、クレムリン(ロシア大統領府)を狙った2機のドローンを撃墜したと発表した。ウクライナがプーチン大統領を暗殺しようとしたと非難している。ウクライナは一切の関与を否定し、ロシアがこれを口実に戦争の激化と拡大を図っていると反論している。
ロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は4日、モスクワ中心部にあるクレムリン(ロシア大統領府や大統領官邸などが入る)への攻撃は3日早朝に起きたと述べ、アメリカが関係しているのは「間違いない」と主張。ただし、証拠は示さなかった。
「このような攻撃について決定するのはキエフ(キーウのロシア語読み)ではなく、ワシントンだ」とペスコフ氏は強調した。
これに対して米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は記者会見で、「ばかげた主張だ」、「ペスコフはうそをついている。それだけのことで、単純な話だ」と述べた。
「アメリカは何も関係していない。いったい何が起きたのかさえはっきりと分かっていないが、アメリカは何の役割も果たしていない。そのことは保証できる」と、カービー氏は述べた。
カービー調整官はさらに、アメリカ政府はウクライナによる自国外への攻撃を奨励も支援もしていないと説明。個々の国家首脳への攻撃も支持しないと話した。
ソーシャルメディアで拡散している動画には、クレムリンから煙が上る様子や、大統領官邸の入る旧元老院の上で小規模な爆発が起きる様子が映っている。旧元老院のドーム屋根を男性2人が登ろうとしている様子も見える。
これについてウクライナは、ロシアによる自作自演の偽旗作戦だと非難している。他方、クレムリンを脆弱(ぜいじゃく)に見せる攻撃をロシアが自作自演するメリットを疑問視する声も上がっている。
ウクライナに対するロシアの攻撃は続いており、3日には南部へルソンで駅やスーパー、集合住宅などが砲撃され、21人が死亡した。ただし、本格的な攻勢の激化の様子はまだみられていない。
ゼレンスキー大統領は対ロ特別法廷を要求
こうした中でウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4日、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)を訪れ、ロシアによる「侵略の犯罪」を裁く特別法廷の設置を求めた。
ICC訪問後の演説でゼレンスキー氏は、ロシアがウクライナで戦争犯罪を繰り返していると述べ、「国際法の首都」においてプーチン氏が「自らの犯罪行為について罰の言い渡しを受けるべきだ」と主張。開戦間もなく首都キーウ近郊ブチャを占領したロシアが、民間人を多数殺害したと指摘し、東部ドンバス地域でロシアが「数百万回」もの砲撃を重ねていると述べた。
ICCは今年3月、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、プーチン大統領らに逮捕状を出した。ロシアが占領したウクライナの地域から子どもたちをロシアへと不法に移送しており、プーチン氏にこうした戦争犯罪の責任があるとしている。また、ロシアが全面的な侵攻を開始した2022年2月24日から、ウクライナで犯罪が行われていると指摘している。
ただし、国家間の侵略行為について訴追する権限をICCは託されていない。
●「ロシアが海底ケーブル狙う懸念高まる」 NATO高官 5/5
北大西洋条約機構(NATO)のキャトラー事務総長補佐は3日、ウクライナでの戦争の一環としてロシアが海底インターネットケーブルなど同盟国の重要なインフラを標的にするかもしれないという「持続的で重大なリスク」があるとの考えを示した。
情報・安全保障担当のキャトラー氏は「ロシアが西側諸国の生活を混乱させ、ウクライナを支援している国々に対する影響力を手に入れようと、海底ケーブルなど重要なインフラを標的にするかもしれないという懸念が高まっている」と記者団に語った。
同氏によると、国際的なインターネットトラフィックの95%超が約400本の海底ケーブルを通じて伝送されている。これらのケーブルは「毎日、推定10兆ドル(約1340兆円)相当の金融取引に使われている」とした上で、ケーブルは「経済の要」だと指摘した。
また、ロシアがケーブルを「積極的にマッピング」している一方で、「中国も海底に関して大きな動きを取っている」という。中国は「他国の脆弱(ぜいじゃく)性を広範に試すのではなく、自前の海底インフラを築く方向で動いている」と説明した。
NATO加盟国は状況を注視しているという。キャトラー氏は「これは真に全体的であらゆる方面や領域に関わる脅威だ。脅威を明確に浮かび上がらせるために、民間部門、NATO、加盟国の相互協力が本当に重要だ」と述べた。
●「欧州は戦争経済に入る」EUが弾薬生産増強へ750億円拠出案… 5/5
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は3日、欧州の弾薬生産能力を増強するため、5億ユーロ(約750億円)を防衛産業に投資する案を発表した。域内で使われていない弾薬工場の再稼働や、既存の工場の生産ラインを向上させ、ロシアの侵略を受けるウクライナ支援の長期化に備える構えだ。
加盟国の承認を受けて施行される。投資の対象は、ウクライナで不足する152ミリや155ミリ砲弾などの生産が中心となる。1年間で100万発の生産能力を目指すという。
現状では、EU圏内の約15か所の工場が候補に挙がっている。その多くが冷戦後の防衛産業の縮小を受けて稼働停止した工場となる。
EUによるとギリシャでは、2016年と19年にそれぞれ閉鎖された2か所の弾薬工場が候補に入っている。欧州委・域内市場担当のティエリー・ブルトン委員は3日の記者会見で「(2か所の)設備はそのまま残っており、資金を投入すれば即座に稼働できる」と述べた。
財源は、EUが4割、恩恵を受ける加盟国などが6割を拠出する。EUではこれまで、防衛産業への投資はタブーだった。ブルトン氏は「今重要なのは、生産能力を高めることだ。欧州は戦争経済に入る」と訴えた。
一方で、EUは3日、大使級会合をブリュッセルで開き、ウクライナに今後1年間で弾薬100万発を供給する計画と18か国による弾薬の共同調達計画に、計20億ユーロ(約3000億円)を拠出する案を承認した。

 

●精鋭部隊も使い捨て、勝利を自ら捨てたロシア軍は近く潰走か 5/6
1.兵器技術やバイブリッド戦でも敗北
ロシア軍がウクライナに侵攻して14か月以上が経過した。
この間、ロシア軍の兵器は、米欧製のジャベリン対戦車兵器、HIMARS(長射程精密誘導ロケットシステム)、スイッチブレード自爆型無人機などの兵器によって、木っ端微塵に破壊されている。
ロシア軍が、戦力で圧倒的に優勢だったにもかかわらず勝利できない大きな理由の一つは、報道にもあるように兵器の性能が劣っていることだ。
また、脅威であると見られていたロシア軍の電子戦やサイバー攻撃などを含めたハイブリッド戦も、ことごとく見破られて、ウクライナ軍の防御的措置がとられた。
ウクライナ軍に勝利できないもう一つの理由である。
2.戦争目的や目標を達成する覚悟なし
米国の研究所などの情報をまとめると、ロシアの戦争戦略では、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の政権を崩壊・屈服させウクライナをロシアの傀儡政権の国家にしたいという目的があった。
そして、短期間にウクライナの全域あるいは首都を占領しようという戦争目標があったと考えられる。
このための軍事作戦として、ベラルーシを含めたロシアとウクライナが接する国境の全域から攻撃を行った。
作戦が上手くいくと想定した場合、ウクライナ全域を占領するというのであれば、両国の国境線約2000キロの全正面から同時攻撃するのは、当然採用される作戦だと考えてよいだろう。
全域を占領する作戦が、上手くいかない可能性が高い場合の案としては、次の3つのうち、1〜3の順に優先順位を決めて作戦することであったはずだ。
1 政権を転覆するためにキーウを占領する。
2 ロシア領内からクリミア半島までの回廊を確保する。
3 ドンバス地域を完全にロシア領にする。
しかし、2と3だけでは、戦争目的・目標の達成とはならない。
ロシアは、キーウ侵攻作戦が失敗に終わったため、早々に1を諦め、2クリミア半島までの回廊の確保と3ドンバスをロシア領にする作戦を採用した。
これは、ロシア軍の現実的な戦力から判断すれば、やむを得ない判断だったのかもしれない。
だが、この案を採用しても戦争目的・目標は達成されず、ウクライナの現在の政権が存続する間は、徹底的に抗戦される可能性は残ると考えたはずだ。
ロシアは、キーウを占領することを諦め、ウクライナ政権の息の根を止めることに集中しなかったのだ。
これが、ロシアが苦戦に至る遠因となった。
今、振り返ってみると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は戦争目標であるキーウを早期に占領し、ゼレンスキー政権を潰して戦争を終結させるために、ロシア軍のすべての戦争手段を投入しなかった。
その覚悟がなかったことが致命的であった。
3.プーチンの誤算:軍の腐敗
ロシアは、戦争目的・目標を重視して短期間に作戦を実行すべきであった。その理由を次に述べる。
ミハイル・ゴルバチョフ氏が1985年、書記長に就任し、ペレストロイカ(ロシア政治体制の改革)の方針に基づき、ロシア軍の解体が始まった。
ソ連邦崩壊後には、軍の解体に拍車がかかった。
その後、ロシア兵に給与が払われなかったり遅配されたりが頻繁に起こるようになった。
そのため、ロシアの兵器や弾薬は倉庫から盗み出され、海外に売られた。
米国は当時、「ロシア軍は脅威ではなくなった」と発表した。また、「Soviet Military Power」(1981年発刊)というソ連軍の実態と脅威を紹介した米国国防情報局の報告書は廃刊にされた。
約10年後に、プーチン氏が大統領に就いて、軍の健全化と即応態勢が部分的に回復したが、軍内に巣食った腐敗は残ったままだった。
世界に恐れられた旧ソ連軍の軍隊には戻ってはいなかった。
軍全体の軍紀が腐敗してしまい、10〜20年かかっても回復できなかった。
首都モスクワなどのウラル山脈の西側(欧州正面)では、回復が早かったのだが、中央から遠く離れた地方、例えばウラル山脈以東の旧極東軍管区や旧シベリア軍管区では回復させるのは難しかった。
なぜなら、軍中央(総参謀部)の命令指示が行き渡らず、目が行き届かなかったからだ。
プーチン氏は、中央の目が届くところや、近代化を進めていた戦略ロケット軍という近代化が進められた軍部隊を主に視察していた。
また、モスクワで開かれる戦勝パレードで、精鋭の部隊や兵と装備を見ていただけなので、軍の腐敗した実態を把握できてはいなかった。
ソ連邦崩壊前から始まったソ連軍解体と縮小、兵士への給与の未払い、兵器とその部品、弾薬の窃盗と横流しなどで、ロシア軍の規律・士気はどん底へと落ちて行った。
2000年頃から少しずつ戻り始めたものの、ソ連軍解体前の強いロシア軍には戻ってはいなかった。
特に、シベリア軍管区や極東軍管区では、兵器の墓場までできた。
この軍の実態をプーチン氏が十分に掌握していれば、今の段階でウクライナを占領し、屈服させるという本格的な戦争を仕掛ける愚かなことはしなかったはずだ。
これらのことは、防衛省・自衛隊の情報分析官として、旧ソ連軍やロシア軍、特に旧極東軍管区やシベリア軍管区を長年分析してきた筆者の知識に基づく結論である。
4.精鋭部隊を早期に大量損失
とはいえ、ロシア軍部隊の軍紀がすべて腐敗していたわけではない。
空挺部隊、特殊部隊(スペツナズ)、海軍歩兵、モスクワなどの都市に所在するエリート部隊は、士気・規律とも優れていた。
だが、これらエリート部隊や各部隊の百戦錬磨の兵士は侵攻当初から地上戦に投入された。
現在までに、作戦の失敗と混乱で多くを失った。
では、これらのエリート部隊は、どのように運用されたのか。
通常、空挺部隊は敵の後方に降着し重要拠点の襲撃を行う空挺作戦を行い、特殊部隊(スペツナズ)は密かに潜入し重要施設や要人を襲撃する特殊作戦を行い、海軍歩兵は渡洋・渡河作戦時に戦闘をしつつ上陸作戦を行う。
しかし、ロシア軍の侵攻作戦においては、陣地攻撃や陣地防御を担任する部隊として使われているのだ。
つまり、これらの部隊の機能を生かさず、機械化部隊などと同様に地上戦闘に投入されているのだ。
エリート部隊なので勇猛果敢ではあるが、地上戦闘には不向きな部隊であるために、損失は大きい。
ロシア軍には、新たに徴収した兵員は十分にいる。
だが、新兵たちは実際に戦理に合った戦い方ができるかというとそうではない。戦いでは、かえって足手まといになってしまう。
ウクライナ軍とロシア軍は、約700キロという広大な接触線で対峙して戦っている。ロシア軍は、実際に戦える兵員が不足している。
空挺作戦・上陸作戦・特殊作戦に使う予定がないのであれば、機甲部隊を主体とした攻撃や防御においては、予備の部隊として使われるのが、軍事作戦上からすれば戦理に合っている。
やむを得ず空挺部隊などを機甲・機械化を主体とした攻撃・防御部隊として投入しているのだ。
ロシア軍の部隊は、その役割に応じた運用がされず、エリート部隊の誇りもなく投入されている。結果、これらの多数が無駄死にさせられた。
5.戦術なきロシア地上軍
このような中、現在どのような戦い方を行っているのか。
ルハンシク州やドネツク州で攻撃しているロシア軍部隊は、それぞれの地域において、ウクライナ軍部隊の陣地に対して、戦術もなくただ単に攻撃しているだけだ。
そして、何度も何度も同じ攻撃を繰り返しては、撃退されている。
プーチン氏に「ルハンシク州やドネツク州の境界まで占領せよ」と言われて攻撃しているのだから仕方がない。
ロシア地上軍は、砲弾などから守られた陣地から出て、攻撃前進するような単純な攻撃を行っている。
そのため、ウクライナ軍に発見されてまず砲撃を受け、対戦車ミサイルで攻撃され、接近すれば、手榴弾や機関銃などで殺傷される。
次から次へと大量の犠牲を出しているだけだ。
6.ワンパターンな二重包囲攻撃
ロシア地上軍は、ドネツク北のバフムトやアウディウカの市街地で、どのような攻撃を行っているのか。
この2か所では、市街地で守るウクライナ軍をロシア軍が歴史的に採用してきた左右からの挟撃(2重包囲作戦)と正面突破攻撃を何度も繰り返している。
ロシア軍は、ルハンスク州からヘルソン州までの両軍の接触線の中で、最も兵力を集中させて攻撃しているが、多くの犠牲を払っている。
   ロシア地上軍の二重包囲攻撃イメージ
これらが成功しないとみると、左右からの挟撃している部隊を撤収し、正面攻撃に転用している。
多くの犠牲を払っても、次から次へと攻撃を繰り返している。
囚人を加入させた傭兵部隊なので、死傷しても構わないという考え方なのだろう。
ここには戦術はない。大量の砲弾を撃ち込んで、そして傭兵に攻撃前進させているだけだ。
もしも、この地を必成目標として占拠したいのであれば、他の正面を犠牲にしてこの地に戦力を集中すべきだろう。
また、包囲攻撃するのであれば、2重包囲ではなく、ウクライナ軍が最も弱い部分を見つけ出し、兵站連絡線を止める地域の1か所に集中して攻撃する方が効果的だ。
だが、いつも同じパターンで攻撃している。
   戦闘力を集中して行う包囲攻撃イメージ
7.弾薬が枯渇して敗北へ
戦術で敵を混乱させるのではなく、火砲弾薬を多く撃ち込んで破壊するというのが、ロシア軍の戦い方だ。
戦術を考案するのではなく、力を信奉しているのだ。戦力、すなわち物量で勝利するというのがロシア軍の戦い方だ。
これも一つの戦法ではあるが、その物量は無限ではない。
ウクライナ軍砲兵に破壊され、枯渇してくれば、戦場で敗北の道をたどる。
米国統合参謀本部議長が、「ロシア軍には戦略・戦術がない」と話したことがあるが、現在戦っている地域の戦い方には戦術がなく、参謀本部議長の発言通りだと思う。
このように、戦術もなく隣接部隊との協力もなく、いつものワンパターンで攻撃すれば、いずれ砲弾や兵器も枯渇する。
その時、ウクライナ軍が優れた兵器を保有し、態勢を整えて戦略・戦術を駆使して反撃を開始すればどうなるであろうか。
ウクライナ軍は、ロシア領内の軍事工場、ロシアが不法に占拠している地域では、作戦全般に影響する兵站施設を破壊している。
また、軍の戦闘に直接影響する砲兵や弾薬庫も破壊し続けている。
したがって、防御ラインの前方に設定しているロシア軍の火力ポケットは、十分に機能しないかもしれない。
5月に入ってからは、直接攻撃するロシア軍第一線防御陣地へ砲撃も開始した。
ウクライナ軍はロシア軍を混乱させ、戦闘能力を十分に発揮させない戦術を採用し、反攻するだろう。
いったん防御ラインを突破されれば、ロシア軍は防御の弱い部分から瓦解して行くだろう。
その場合、突破されたところへ新兵主体の予備部隊を投入し、突進するウクライナ軍に対して反撃(逆襲)することは、極めて困難であろう。
なぜなら、ロシア軍の予備部隊や予備の兵器は、ほとんどなくなっているからだ。  
●ポーランドの軍事力強化へ米が協力 調達協定を更新、ウクライナ支援策も協議 5/6
オースティン米国防長官は5日、ワシントン郊外の国防総省でポーランドのブワシュチャク国防相と会談し、ポーランドの軍事力強化について話し合った。相互の防衛調達に関する協定を更新した。
ポーランドはロシアの侵攻を受けるウクライナの隣国で、ロシアの脅威に危機感を強めている。
会談では、ウクライナへの支援策も協議。オースティン氏は、ドイツ製主力戦車レオパルト2などを提供しているポーランドの取り組みを称賛した。
●ロシア軍 バフムトの優先度下げ ほかの地域の防衛に重点か  5/6
ウクライナが大規模な反転攻勢に乗り出す構えを示す中、ロシアは、完全掌握を目指してきた東部の激戦地バフムトに対する優先度を下げて、ほかの地域の防衛に重点を置き始めているという見方がでています。
ウクライナ東部の激戦地バフムトをめぐり、ロシアの正規軍とともに戦闘に加わっている民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏は5日、ロシア国防省が意図的に弾薬の供給を止めているとして政権側の対応を批判しました。
そして5月10日にバフムトから撤退すると表明しました。
この発言についてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は5日「ロシア国防省がバフムトの優先度を下げていることを示している。ウクライナの反転攻勢に備え、弾薬や物資の供給を控えている可能性がある」として、ウクライナが大規模な反転攻勢に乗り出す構えを示す中、ロシア側はほかの地域の防衛に重点を置き始めているという見方を示しました。
こうした動きに対してウクライナ軍の参謀本部は6日、バフムトでは激しい戦闘が続いているとし、徹底抗戦する構えを示しました。
一方、ロシアでは、プーチン政権が5月3日、ウクライナの無人機がクレムリンに攻撃を仕掛けたと発表した中、9日に各地で行われる予定だった第2次世界大戦の戦勝記念日の軍事パレードなどが中止されると相次いで明らかになっています。
こうした中、ロシア大統領府は5日、プーチン大統領が安全保障会議を開き、戦勝記念日の準備について話し合われたと発表しましたが、詳しい内容は明らかにされておらず、モスクワの赤の広場で行われる行事についても慎重に議論が進められているとみられます。
“撤退表明は非難の矛先を国防省・軍に向けるねらいか”
ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏がバフムトから5月10日に撤退すると表明したねらいについて、防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は「5月9日のロシアの対独戦勝記念日までにバフムトの完全掌握が間に合わなかったことの責任を国防省側に転嫁するとともに、プーチン大統領が国民に戦果を示せないことへの非難の矛先を国防省、軍の側に向けるねらいがある」と指摘しました。
その上で「ロシア軍の空挺部隊が投入されているので、ワグネルの部隊がバフムトから撤退したとしても、今こう着しているバフムトの戦況自体には大きな影響がないのではないか」とも述べワグネルが実際に撤退するかや撤退した場合の影響を慎重に見極める必要があるという見方を示しました。
また「プリゴジン氏は大統領に対しては政治的なアピールを続けるのではないか」とも述べ、プリゴジン氏はバフムトから撤退したとしても戦闘には関わり続けるという見方を示しました。
一方、プリゴジン氏が「ロシア国防省が弾薬の供給をとめている」と訴えていることについて兵頭氏は「ワグネルの部隊は損耗率が激しく戦闘能力が大幅に低くなっている一方で、ロシア軍としては武器や弾薬を供給せずに維持することで、ウクライナ側の反転攻勢に備えようとしているのではないか」と指摘しました。
一方、ロシア大統領府が5月3日、ウクライナの無人機がプーチン大統領を狙ってクレムリンに攻撃を仕掛けたと主張し、報復措置をとるとしていることについては「可能性としては、首都キーウの大統領府、国防省の建物といった権力の中枢をねらった報復攻撃が考えられる」と述べました。
ただ、実際に行うかどうかについては、ピンポイントで攻撃可能な精密誘導ミサイルがどのくらい残っているかや、5月9日の戦勝記念日といった政治的な動きを踏まえて判断するとみられると分析しています。
●ロシア側当局者 ウクライナ側の攻撃そなえ、住民およそ7万人の避難発表 5/6
ロシアが占領するウクライナ南部ザポリージャ州の当局者は、ウクライナ側の攻撃にそなえ、住民およそ7万人を避難させると発表しました。
ザポリージャ州でロシア側の占領当局代表を務めるバリツキー氏は5日、ウクライナ側からの砲撃が激化しているとして、前線に近い地域の住民を州内の別の地域に避難させると発表しました。
対象地域にはザポリージャ原発があるエネルホダルも含まれていて、ロシア国営メディアはおよそ7万人が避難すると伝えています。
これについてアメリカの政策研究機関「戦争研究所」は、「強制移住」だとしているほか、ロシア側がウクライナ軍の反転攻勢に備えて防衛ラインを後退させようとしていると分析しています。
また、ザポリージャ州メリトポリのウクライナ側の市長は5日、ロシアが子供たちをキャンプを名目にして連れ去るおそれがあるとして。キャンプには参加しないよう呼びかけています。
●ロシア、ベラルーシ招待なし ウクライナ侵攻で英の制裁対象  5/6
英国の首都ロンドンで6日実施のチャールズ国王の戴冠式に、昨年2月のウクライナへの侵攻に伴い英政府の制裁対象となっているロシアとベラルーシなどは招待されなかった。ロイター通信が報じた。
ロイターによると、軍事政権が民主派排除を続けるミャンマー、内戦が長期化するシリアのほか、アフガニスタン、ベネズエラも首脳の招待はなかったという。北朝鮮とニカラグアは大使級の招待にとどまった。
昨年9月19日にロンドンで執り行われたエリザベス女王の国葬にも、ロシアやベラルーシ、ミャンマー、シリアなどは招待されなかった。

 

●プーチン氏支持の作家爆発事件「ウクライナの指示と自供」「米国も関与」主張 5/7
プーチン政権のウクライナ侵攻を支持するロシアの作家ザハル・プリレーピン氏の車が爆発し運転手が死亡した事件で、ロシア連邦捜査委員会は6日、拘束した容疑者の男がウクライナ特務機関の指示を受け、道路上に爆発物を仕掛けたと自供したと発表した。インタファクス通信が伝えた。
ロシア外務省は声明で、責任はウクライナを支援して反ロシアの計画を実行している米国にもあると批判。事件について沈黙していることが「米国の関与を暴露している」と主張した。
ロシアは今月3日に大統領府があるモスクワ中心部のクレムリンにウクライナの無人機攻撃があったと発表。政権幹部は具体的な根拠を示さずに米国の関与を指摘するなど、今月にも大規模反攻に踏み切るとされるウクライナに軍事支援を続ける米国への一方的な批判を強めている。
捜査委によると男は1993年、ウクライナ東部ドネツク州生まれ。2018年にウクライナ特殊機関に入り、22年にプリレーピン氏殺害のためロシアに入国した。
プリレーピン氏は6日、ロシア西部ニジニーノブゴロドで乗っていた車が爆発。運転手が死亡し、自身も重傷を負った。
プリレーピン氏はウクライナ侵攻の前から、独立を主張するドネツク州などで義勇軍に参加していた。
●ロシア作家の爆殺未遂事件、当局「男がウクライナの指示で実行した」 5/7
ロシアの作家で、プーチン政権支持の体制内野党「公正ロシア」の共同議長でもあるザハール・プリレピン氏の爆殺未遂事件で、ロシア連邦捜査委員会は6日、拘束した男がウクライナ側の指示で実行したと自供した、と発表した。4月には戦場記者が爆殺されており、ロシアは「ジャーナリストらを狙った卑劣なテロだ」と主張し、ウクライナや米欧を批判している。
同委員会によると、男は、アレクサンドル・ペルミャコフ容疑者。プリレピン氏の車を狙い、モスクワから東に約400キロ離れたニジニノブゴロド付近の道路に、あらかじめ遠隔操作できる爆発物を仕掛けた。
爆発で車は大破し、プリレピン氏が重傷を負い、運転手は死亡した。男は逃走したが、拘束されたという。
●ウクライナとロシアの代表団が“けんか” 国際会議の会場で 5/7
トルコで開かれた国際会議の会場で、参加していたウクライナとロシアの代表団がウクライナの国旗を巡り、激しくもみ合う事態となりました。
トルコの首都アンカラで4日、国際会議の会場に来ていたウクライナとロシアの代表団がもみ合いとなりました。
CNNなどによりますと、ロシア代表団の女性のインタビュー中にウクライナ代表団の1人が背後で国旗を掲げたため、ロシア側が国旗を奪い取りました。
ウクライナ側が国旗を取り返そうと殴りかかり、両者はもみ合いになったということです。
映像には、周囲の人たちが仲裁に入る様子が収められています。
これに先立ち、会議の最中にもロシア側の発言中にウクライナ側が国旗を掲げ抗議したことで両者で小競り合いとなり、会議が一時中断していました。
●ロシアがバフムートで白リン弾使用か ウクライナが映像公開 5/7
ウクライナは6日、ロシアが東部バフムートでの戦闘で白リン弾を使ったと非難した。
ウクライナ軍が公表したドローン映像には、白いリンとみられるものがバフムートに降り注ぎ、街が燃える様子が映っている。
白リンを使った兵器は禁止されていないが、民間人のいる場所での使用は戦争犯罪に当たるとされている。
白リン弾の火は燃え広がりやすく、消火が非常に難しい。ロシアは以前にも、白リン弾の使用で非難されている。
ロシアは昨年後半からバフムート占領を試みているが、同市の戦略的価値は疑問視されている。西側当局は、バフムートでの戦闘でロシア兵数千人が死んでいるとみている。
ウクライナ国防省はツイッターで、今回の攻撃は「焼夷(しょうい)弾を使った、バフムートの非占領地域を狙ったもの」だと説明した。
この攻撃がいつ行われたのかは明らかになっていない。しかし、ウクライナが公表した、哨戒ドローンで撮影されたとみられるこの映像には、高層ビルが炎に包まれる様子が映っている。
ソーシャルメディアに投稿された他の映像では、地面に火が燃え広がり、白い雲が夜空を照らしている。
BBCの分析では、ウクライナ国防省が投稿した映像はバフムートの市街地の西側で、小児病院に近い場所と特定された。この分析では、攻撃に何らかの焼夷弾が使われたことは確定したものの、リンが使用されたかは特定できなかった。
ロシアは侵攻開始当初のマリウポリ占領など、ウクライナで白リンを使った攻撃を行っていることを非難されている。
ロシア政府は公に白リン使用を認めたことはない。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は昨年、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がこの件に言及した際、「ロシアは国際条約に違反したことはない」と述べた。
白リンは蝋(ろう)のような化学物質で、燃焼温度は800度。酸素に触れることで発火し、明るい煙を発生させる。
人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、白リンは「深刻なけがをもたらすことで悪名高い」としている。
粘度が非常に強く、はがすのが難しいだけでなく、包帯を解くと再発火することもあるという。
ロシアは、焼夷弾の使用を禁止している「特定通常兵器使用禁止制限条約」に署名している。
しかしHRWは、白リン弾は当初「本来、軍事作成を隠蔽する煙幕を作り出す」のが目的だったため、この条約の対象になっていないのだと説明する。
HRWによると、白リンはアメリカ軍によるシリアおよびイラクでの過激派組織「イスラム国」との戦闘を含め、「ここ15年間、繰り返し使われている」という。
一部の専門家からは、民間人のいる地域で白リン弾を焼夷弾として使うことが、違法なことに変わりはないとの意見も出ている。バフムートの侵攻前の人口は8万人だったが、現在では民間人はほとんど残っていない。
●ウクライナ軍 近く反転攻勢の構え ロシアは足並みの乱れ続く  5/7
ウクライナ軍が領土の奪還を目指して近く大規模な反転攻勢に乗り出す構えを示す中、ロシア側は南部ザポリージャ州で支配地域にいる住民7万人を移動させると発表するなど、一段と警戒を強めているとみられます。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は6日、SNSで「アメリカ軍の制服組トップ、ミリー統合参謀本部議長と電話で会談し領土解放に向けた軍の準備状況について伝えた」と明らかにし、ウクライナ軍は近く大規模な反転攻勢に乗り出す構えとみられます。
こうした中、ロシアが一方的な併合に踏み切ったウクライナ南部、ザポリージャ州の親ロシア派のトップ、バリツキー氏は5日、「ここ数日、ウクライナ軍の砲撃が強まっている」として、ロシアの支配地域にいる住民を移動させると発表しました。
ロシア軍が占拠するザポリージャ原子力発電所がある地域も含まれ、対象の住民はおよそ7万人に上ると伝えられ、ウクライナ軍の動きに一段と警戒を強めているとみられます。
一方、ロシアが9年前、一方的に併合した南部クリミアでは6日、地元行政府トップのアクショノフ氏がSNSで「ウクライナ軍の弾道ミサイルを上空で迎撃した」と主張しました。
ロシアでは9日に第2次世界大戦の戦勝記念日をむかえますが、プーチン政権が完全掌握を目指してきた東部の激戦地バフムトでは民間軍事会社ワグネルの代表が弾薬不足を訴えて10日に撤退すると警告し、足並みの乱れが続いています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は5日「ウクライナの反転攻勢に備え、弾薬や物資の供給を控えている可能性がある」としてロシア側はバフムト以外の地域の防衛に重点を置き始めているという見方を示しています。
●米戦争研究所「ロシアはバフムトの優先度下げた」 5/7
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がウクライナ東部の激戦地バフムトからの撤退を表明したことについて、アメリカのシンクタンクは「ロシアはバフムト攻略の優先度を下げた」と指摘しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は5日、激戦地バフムトについて「ロシア国防省はウクライナ軍の反転攻勢への準備のため、バフムト攻略の優先度を下げている」との見解を示しました。
そのうえで「ワグネル」が被った損害やロシア軍は新たな人員を配置する余裕がないことが前線のウクライナ軍に有利に働く可能性があると指摘しました。
一方、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は6日、「ワグネル」のバフムト撤退の表明に対して「敵の発表を深読みする必要などない」と切り捨て、「我々は常に最も陰湿なシナリオに備えるべきだ」と強調しました。
●トルコ大統領選 投票まで1週間 エルドアン大統領に逆風  5/7
今月14日の投票まで1週間となったトルコ大統領選挙では、物価の高騰などを受けて、再選を目指すエルドアン大統領が逆風にさらされています。
トルコはウクライナ情勢においても仲介役を買って出ていて、選挙の結果は国際情勢にも影響を与えるだけにその行方が注目されます。
トルコの大統領選挙には4人が立候補していて、再選を目指すエルドアン大統領と最大野党の党首で、6つの野党の統一候補として立候補したクルチダルオール氏の事実上の一騎打ちとなっています。
エルドアン大統領はロシアの軍事侵攻が続くウクライナからの農産物の輸出の合意をはじめ、トルコの仲介外交の成果を誇るなど、首相時代も含め20年にわたる政権運営の実績を訴えています。
これに対し、クルチダルオール氏はエルドアン政権のもとで「通貨安や物価高騰が起きた」と指摘しているほか、ことし2月に南部で発生した大地震をめぐっては、耐震基準を満たさない建物の建築を許したことが多くの犠牲をもたらしたと批判しています。
また、外交面ではエルドアン大統領のもとでぎくしゃくした欧米各国との関係改善を打ち出しています。
調査会社各社による最新の世論調査では、クルチダルオール氏がわずかにリードしているものの、一部ではエルドアン大統領が追い上げているという結果も出ていて、接戦が予想されています。
今月14日は議会選挙の投票も同時に行われるほか、大統領選挙については、過半数を獲得する候補がいなければ今月28日に上位2人による決選投票が行われます。
国民からはエルドアン大統領に厳しい声も
トルコの大統領選挙の投票まで1週間となる中、再選を目指すエルドアン大統領をめぐっては、国民から支持する声のほか、政権交代を強く求める声も上がっています。
イスタンブールで話を聞いたところ、工場で働いているという36歳の男性は「今の生活に満足している。エルドアン政権を変える必要はないと思う」と述べ、エルドアン氏に投票すると話していました。
一方、44歳の運転手の男性は「経済状況が悪く、生活が安定しないのは政府のせいだと思っている。クルチダルオール氏に投票する」と話していました。
震源に近い南部カフラマンマラシュでも話を聞きました。
50歳の女性は「長年エルドアン氏が自分たちの生活を楽にしてくれたと感じている」として、エルドアン氏の続投を支持するとしています。
一方、避難先から投票のために一時的に戻ってきたという43歳の女性は「地震のせいではなく施工主などの怠慢で家が壊れたのです。この状況を作り出した政府を支持する気はありません」と批判し、クルチダルオール氏に投票すると話していました。 
●ロシア、深刻な労働力不足か 予想より200万人多く減少 英国分析 5/7
英国防省は7日、ロシアがウクライナ侵攻が原因で、過去数十年で最も深刻な労働力不足に直面しているとの分析を公表した。
同省は、1万4千人の被雇用者を対象にしたロシア中央銀行の調査をもとに、ロシアでは雇用可能な人の数が1998年以来、最低水準にあると指摘。過去3年間に予想よりも200万人多く人口が減少したと伝えられていると明らかにした。若い世代や価値の高い産業で働く高学歴層を含む最大130万人は、ウクライナ侵攻の始まった昨年にロシアを去ったという。
同省は、労働力の不足はロシアの経済の減速やインフレにつながる可能性が高いとしている。
●爆破された「クリミア大橋」、鉄道の運行再開…対独戦勝記念日前に復旧誇示  5/7
ロシアのマラト・フスヌリン副首相は5日、昨年10月に爆破された露本土とウクライナ南部クリミアを結ぶ「クリミア大橋」の鉄道復旧工事が完了し、運行を再開したとSNSで明らかにした。9日の旧ソ連による対独戦勝記念日を前に、素早い復旧を誇示する狙いがある。
火の手と黒煙が上がるクリミア大橋(2022年10月)=ロイター火の手と黒煙が上がるクリミア大橋(2022年10月)=ロイター
クリミア大橋は、ロシアのウクライナ侵略で軍事上の重要な補給路となっており、今年2月下旬に車道が全面復旧した。鉄道部分は24時間態勢の工事により、予定よりも早く復旧が完了したという。ロシアは、ウクライナが橋を爆破したと主張している。

 

●「ロシア国防省が弾薬供給を約束」 ワグネル創設者「部隊は前進」 5/8
激戦が続くウクライナ東部バフムートの情勢をめぐり、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジン氏は7日、「(ロシア国防省から)作戦継続に必要な弾薬や武器の供給を約束された」とSNSへの投稿で明らかにした。ロイター通信などが報じた。
プリゴジン氏は5日、弾薬供給の遅れに不満を示し、10日にバフムートから撤退すると表明していた。6日には、ロシア・チェチェン共和国のカドイロフ首長に戦闘を引き継ぐ意向を示していた。カドイロフ氏はロシアのプーチン大統領の盟友とされ、ウクライナ侵攻にチェチェンの独自部隊を派遣している。
米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)は6日、プリゴジン氏らの一連の動きについて「国防省と正規軍を無能と決めつけ、バフムート攻略の挫折の責任をなすりつけようとしている」と分析した。
プリゴジン氏は7日の投稿で、撤退を中止するかどうかは明言していない。ただ、ロイター通信によると、音声メッセージで同日夜には「我々の部隊は280メートル前進した。弾薬を受け取ることを期待している」とSNSに投稿した。
●目指すべき休戦とは 岐路に立つ米国のウクライナ支援政策 5/8
米外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長とチャールズ・カプチャン上級フェローが、米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」のウェブサイトに4月13日付で掲載された論文‘The West Needs a New Strategy in Ukraine’において、ウクライナ戦争について西側は新たな戦略を必要としていることを論じ、今年末にかけて休戦に持ち込むべきことを提唱している。長文であるので、主要点のみをごくかいつまんで紹介すると、次の通り。
ウクライナを屈服させようとするロシアの努力は失敗したが、この紛争の最もあり得る結末はウクライナの完全な勝利ではなく血生臭い膠着状態である。従って、紛争を外交的に終結させるべしとする要請は強くなっている。
しかし、双方とも戦うことを誓っており、交渉による解決のための条件は熟していない。ロシアはドンバスの大きな部分を占領するつもりである。ウクライナはドンバスとクリミアの間の陸上回廊を打破し、その全土からロシア軍を排除し領土的一体性を回復する準備をしているようである。
西側はその原則を犠牲にすることなくこれらの現実を認めるアプローチを必要としている。最善の方策は2本柱の戦略である。まずは、ウクライナの軍事能力を強化し、しかる後、今年末にかけて戦闘の時期が過ぎるに伴い、モスクワとキーウを交渉のテーブルに付かせることである。
西側はウクライナに対する武器支援を直ちに迅速化し、その量と質を強化し、ウクライナの反転攻勢をできるだけ成功させて、モスクワに外交的解決を考慮するよう仕向けるべきである。反転攻勢が終了するまでには、戦場で最善の努力を尽くした後であり、また、兵員と外国の支援の制約の増大に当面して、キーウも交渉による解決という考えを受け入れることに傾くかも知れない。
第二の柱は、停戦とこれに続く和平プロセスを今年末に向けて斡旋することである。この外交的な賭けは失敗するかもしれない。双方とも戦い続けることを望むかもしれない。しかし、衝突の再発を防止し、うまく行けば永続的な平和のための舞台をしつらえ得る、永続的な休戦を追及する価値はある。
キーウに休戦と不確かな外交努力という路線に同調させるのは、モスクワに同調させるのと同様、困難なことである。多くのウクライナ人は、この提案を裏切りと見なし、休戦ラインは新たな事実上の国境になるに過ぎないことを怖れるであろう。ゼレンスキーはその戦争目的を劇的に縮小することが必要になる。
過去1年、西側はウクライナが成功を定義し西側の戦争目的を定めることを認めてきたが、この政策は、戦争の当初はともかく、今やその使命を終えた。この政策は賢明ではない。何故なら、ウクライナの目標は西側の他の利益と衝突しつつあるからである。
また、この政策は持続可能でもない。何故なら、戦争のコストが増しており、支持の継続に対する西側の一般市民と政府の疲れが増大しつつあるからである。

米国の政策形成にも影響力を有すると思われる両名が西側の政策の転換を求める見解を公にしたことは注目されなければならない。要は、今年末にかけて休戦に持ち込むということである。休戦の先にあるのは永続的な和平ではなく、朝鮮半島と同様の「凍結された紛争」だと見通している。
それを実現するための前提として、ウクライナが西側の戦争目的を定めることを認めて来た従来の路線を放棄すべきだと明言している。バイデン政権は、戦争を終わらせるための交渉を何時どうするかはウクライナの判断であり、圧力をかけることはしないと言ってきた。
これに対し当論文は、ウクライナに休戦を押し付けるとは言わないまでも、強い姿勢で説得に当たるべきことを示唆しており、戦い続けるウクライナにいつまでも支援は続かないとの強硬姿勢が垣間見える。
当論文は、西側のプライオリティは「主権的で確たる民主主義としてのウクライナの存在を維持すること」と認めつつ、それは短期的には領土的一体性の回復を必要としない、として休戦を正当化している。
しかし、2014年に占領されたクリミアとドンバスの一部はともかくとして、海に面したザポリージャとへルソンを占領され海への重要な出口を封じられた状態は、ウクライナの経済的な存立に重大な障害とならないのか? この地域の産業は破壊されたかも知れないが、その潜在的重要性はどのように評価されるのか?
この地域をウクライナが奪回出来れば、それは2022年2月以前の状態に近づくことを意味し、ロシアに報償を与えないとの原則に近づくことにもなろう。この論説が、休戦は「凍結された紛争」に転じると想定しつつ、休戦ラインの位置に無関心であることは理解し難い。
ウクライナの失地回復は必須だが……
上記に関連するが、西側はウクライナが反転攻勢に際しロシア軍を極力2022年2月の線に押し戻せるよう、ウクライナに対する武器支援を格段に強化すべきである。それによって、ウクライナが黒海とアゾフ海沿岸地域を解放することに成功すれば、休戦をよほど受け入れ易くなるであろう。成功とまでは行かなくとも、戦場で最善を尽くしたとの達成感をウクライナに抱かせることは重要であろう。
確かに、ウクライナが定義する戦争目的に沿ったウクライナ支援という政策は、西側の他の利益・プライオリティと衝突しつつある。支援疲れの問題もある。従って、今年末にかけて休戦に持ち込むべきだとの論旨は理解し得るものである。米国の大統領選挙を来年に控え、対ウクライナ支援政策が党派的駆け引きの餌食となることを避けることは賢明であろう。いずれ戦争が終わるとすれば、それは「凍結された紛争」の形とならざるを得まい。
しかし、問題は、その状態である。ウクライナが説得されるとすれば、それは反転攻勢で失地を回復する重要な戦果をあげた場合ではないかと思われる。ただし、その場合、ロシアが休戦に応ずるかは見通し難い。 
●ウクライナ大統領 “5月8日を戦勝記念日に” ロシアと決別強調  5/8
ウクライナのゼレンスキー大統領は、第2次世界大戦でナチス・ドイツが降伏した日の5月8日を戦勝記念日にすると明らかにし、5月9日を戦勝記念日としているロシアと決別し、領土を奪還して勝利する考えを強調しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、動画を公開し、この中で第2次世界大戦でナチス・ドイツが降伏した日の5月8日について、多くの国がナチスに勝利した日として記憶していると指摘し、この日をウクライナの戦勝記念日にする法案を議会に提出すると明らかにしました。
そして5月9日は、ナチスとロシアに対するヨーロッパの団結を記念する「ヨーロッパの日」にするとし、5月9日を戦勝記念日としているロシアと決別する姿勢を示しました。
そのうえで、「残念ながら悪が戻ってきた。当時のように私たちの都市や村に押し寄せ、ウクライナの人々を殺している。今回は別の侵略者だが目的は同じだ。支配か破壊だ」と述べ、第2次世界大戦のナチス・ドイツになぞらえて、軍事侵攻を続けるロシアを非難しました。
ゼレンスキー大統領は、ロシアからすべての領土を奪還した日が新たな「ウクライナの勝利の日」になるとして、「勝利の日はわからないが、ウクライナにとって、そしてヨーロッパ、さらに自由な世界全体にとって、祝日になることは知っている」と強調しました。
●ロシアに大規模攻撃の余力はない──ウクライナ軍情報トップ 5/8
ウクライナ軍の情報トップが、ロシアには「ウクライナ領内で再度の大型攻勢を試みる」力は残っていないとの見方を示した。
米ヤフーニュースは6日、ウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ情報局長のインタビュー記事を公開した(取材日は4月24日)。この中でブダノフは「今日の時点で、ロシアには軍事的にも経済的にも政治的にも、ウクライナ国内のどこであれ、再度の大型攻勢を試みる力はない」と述べた。
ブダノフに言わせれば、ロシアのミサイルの在庫は枯渇しつつある。それでもロシアには今も「大規模な防衛戦を行う能力は十分にある」という。
「これこそが、われわれが直面しようとしている問題だ」とブダノフは述べた。「ロシアは(ミサイルの)在庫をまとめて、ウクライナの攻勢を防ぐためにそれを配備しようとしている。だが実際のところ、すでに在庫はゼロに近いのだが」
ウクライナはこの春にロシア軍に対する反転攻勢に出ると見られている。だが今後の軍事戦略に関し、ウクライナ政府の口は固い。
アメリカのシンクタンク、戦争研究所は6日、ウクライナの反転攻勢を前に、ロシアはウクライナ各地で「防衛戦」を戦うため、兵站などの検討に力を注いでいるようだと指摘した。
反攻を世界が「過大評価」? 反攻がどんな形になるかは分かっていないが、ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相は4月末に、「準備はまもなく終わる。兵器や軍の装備品に加え、兵士たちにその使い方の訓練を施す必要がある」
レズニコフはメディアに対し「われわれは(西側諸国から)最新鋭のシステムを受領した」と述べた。
5月初め、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジンは、「ウクライナ軍の前進はすでに始まっている」との考えを述べた。
ロイターによればプリゴジンは「非常に近い将来、(戦況は)活動期に入ると考えている。それは数日後のことかもしれない」と述べた。
ウクライナ政府は以前から、ロシアに占領された地域(2014年に併合されたクリミア半島を含む)の奪還に努めているとしてきた。
だがチェコのペトル・パベル大統領は英紙ガーディアンに対し6日、ウクライナ政府は「作戦を成功させるのに必要なものがまだそろっていないと感じている」との見方を伝えた。
パベルはこうも述べた。「もし反攻が失敗すれば、ウクライナにとっては大きな痛手となるだろう。なぜなら少なくとも年内は、チャンスは2度とないからだ」
「われわれの反攻作戦の見通しは世界で過大評価されている」とレズニコフは述べたと、6日のワシントン・ポストは伝えている。
●ワグネル代表 “活動継続に必要な弾薬 供給を約束された”  5/8
ウクライナ東部の激戦地で弾薬不足を訴え、ロシア軍との確執を深めているロシアの民間軍事会社ワグネルの代表は、7日「われわれは弾薬と武器の供給を約束された」とSNSに投稿しました。弾薬の供給をめぐる今回の混乱は、ロシア側の指揮系統の問題で、今後のウクライナ軍の反転攻勢への対応に影響を及ぼすという指摘も出ています。
ウクライナ東部の激戦地バフムトでロシアの正規軍とともに戦闘に加わっている民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏は「われわれはこの先も軍事活動を継続するために、必要なだけの弾薬と武器の供給を約束された」とする音声メッセージを7日、SNSに投稿しました。
プリゴジン氏は、これまで前線の弾薬不足を理由にロシアの国防相や軍の参謀総長を名指しで非難し、ワグネルは今月10日バフムトから撤退し、そのあとはロシア側の別の部隊がワグネルに替わって戦闘を継続すると主張していました。
ロシア国防省はワグネルの主張に対して、これまで公式の見解を示していません。
弾薬の供給をめぐる今回の混乱についてアメリカの戦争研究所は、ワグネルを含むロシア側の強硬勢力が「ウクライナ戦線の総司令官であるゲラシモフ参謀総長に対して無理やり、弾薬を供給させたかもしれない」と指摘しています。
そして、ロシア軍がこうした指揮系統の乱れの問題を短期間で解決する可能性は極めて低いとしたうえで、今後のウクライナ軍の反転攻勢への対応にも影響を及ぼすと分析しています。
●ロシアへの反転攻勢 最終目標はクリミア? 各国の思惑は? 5/8
「重要な戦闘がまもなく始まる」ロシアに対する大規模な反転攻勢が近いことを示唆した、ウクライナのゼレンスキー大統領。領土の奪還を目指すウクライナにとって最終的な奪還の目標であり、今後、焦点となりそうなのが、2014年にロシアが一方的に併合したクリミアです。なぜクリミアが注目されるのか。ロシア、アメリカなど各国の思惑はどこにあるのか。詳しく解説します。
クリミアで何が起きてる?
「天罰は今後も続くだろう。侵略者の軍施設の近くにいることは避けるべきだ」
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミア。
その軍港都市セバストポリにあり、ロシア海軍黒海艦隊が使用している燃料の貯蔵施設で4月29日に起きた大規模な火災について、ウクライナ国防省の情報総局の高官は、そう述べました。
ウクライナ軍の南部方面司令部の報道官は「誰もが待ち望んでいる大規模な攻撃に向けた準備だ」と関与を示唆。
さらに5月3日には、「クリミア大橋」に近いロシアの南部クラスノダール地方の石油貯蔵施設でも火災が起き、無人機による攻撃だと伝えられました。
ゼレンスキー大統領も「重要な戦闘がまもなく始まる。わたしたちの土地や国民をロシアの支配から解放しなければならない。陸と海で国境を完全に取り戻さなければならない」と述べ、大規模な反転攻勢に踏み切る構えを示しています。
これに対し、ロシアの治安機関FSB=連邦保安庁は「クリミアで、ロシア側の要人の暗殺や、インフラ施設へのテロ攻撃が計画されていた」として、ウクライナ側の7人の工作員を逮捕したと発表。
ウクライナ国防省の情報機関、情報総局のブダノフ局長が主導したと主張しました。
さらに、ロシア軍はクリミアの北側などで塹壕ざんごうを掘るなど、ウクライナの進軍に備えた大規模な防衛線を築いているとの指摘も出ていて、緊張が高まっています。
そもそもクリミアとは?
黒海の北側から南に大きく突き出したウクライナ南部のクリミア半島。
戦略上重要な拠点として何世紀にもわたって係争が続いてきました。
18世紀にオスマン帝国からロシア帝国に併合されたあと、1850年代には列強の勢力争いを背景に、ロシアとイギリスやフランスなどとの間で行われた「クリミア戦争」の戦場になりました。
ロシア帝国の崩壊後はソビエトに引き継がれましたが、1954年にソビエトの当時の指導者フルシチョフが、クリミア半島の帰属をロシア共和国からウクライナ共和国に移管。
しかし、1991年にソビエトが崩壊しウクライナが独立すると、ロシアとウクライナの間で帰属をめぐる対立が始まりました。
プーチン大統領にとってのクリミアとは?
プーチン大統領にとって、クリミアはみずからの力を誇示する象徴的な場所でもあります。
2014年にウクライナで起きた政変でロシア寄りの政権が崩壊したのを機にプーチン政権を後ろ盾とする親ロシア派は、ロシア系住民が多くを占めていたクリミアで住民投票を強行。
圧倒的多数の賛成を得たとして、プーチン政権は3月18日にクリミアを併合すると一方的に宣言しました。
当時の演説でプーチン大統領は「人々の心の中でクリミアはこれまでも、これからも、ロシアの不可分な一部であり続ける」と述べ、併合の正当性を主張しました。
ことし4月に大規模な火災があったセバストポリは、ロシア海軍の黒海艦隊が駐留する戦略的に重要な拠点でもあります。
9年前に一方的に併合を宣言した3月18日には、そのセバストポリをプーチン大統領が軍事侵攻後初めて訪問。
私服姿で地元幹部から説明を受ける姿や、みずから車を運転する様子も公開し、その支配を誇示しました。
ロシアによる併合後のクリミアは?
“ロシア化”とも言える既成事実化が進められ、プーチン政権はクリミア支配の正当性を主張し続けています。
標準時間をモスクワと同じ時間帯に変更。
通貨もロシアのルーブルに切り替えたほか、地元住民にロシア国民であることを証明するパスポートも発給しています。
2018年にはクリミアとロシア本土を結ぶ全長19キロの「クリミア大橋」を完成させ、プーチン大統領みずからダンプカーを運転して橋を渡り、クリミア支配を内外にアピールしました。
また、クリミアへの支配を続けるための特別プログラムを作り、火力発電所や空港、道路などのインフラ整備を進め、巨費を投じてクリミアの発展に力を入れています。
クリミアに住む住民は?
ウクライナとゆかりがある市民の動きに、クリミアを支配しているロシア側の当局は神経をとがらせ、締めつけを強めているとみられます。
地元の人権団体は、侵攻開始からの1年でウクライナの歌を歌ったり侵攻に反対したりしたとして200人以上が摘発されたと非難しています。
ことし2月、ロシア側からクリミアに入ったアメリカのNBCテレビは、ロシア系住民が「ここは自分たちの土地だ。自分たちで防衛したい」と話すなど、クリミア奪還を目指すウクライナ側の動きに反発する市民の声を伝えました。
一方、「侵攻について話すと涙が出る。なぜこんなことになってしまったのか。平和に暮らすことはできないのか」という女性の声も紹介し、ロシア系住民が多く暮らしプーチン政権寄りの考えを持つ人が相当数に上る中で、ウクライナ侵攻に否定的な声を上げにくい状況があると伝えています。
ウクライナにとってのクリミアとは?
ロシアによる軍事侵攻が長期化する中で、ウクライナ側はクリミア奪還を目指す方針を明確にしています。
去年3月、ゼレンスキー政権はロシアとの停戦交渉で「クリミアの主権は15年間かけて協議する」として、一時的に棚上げする姿勢も示していました。
ゼレンスキー大統領自身も去年5月、NHKとのインタビューで「まずは領土を2月24日以前の状態に戻した上で、ロシアとの交渉のテーブルにつく」と明言。
クリミアの奪還を待たずに和平交渉に入る可能性も示唆していたのです。
しかし、ブチャで起きたロシア軍による市民虐殺、そしてその後、ウクライナ東部で大規模な領土奪還に成功したことで、ゼレンスキー政権はしだいにクリミア奪還を目指す姿勢を強めます。
ことし3月、クリミアの問題を統括するタシェワ大統領代表は、2021年に定めたクリミアを巡る戦略についてクリミア奪還を明記する方針を明らかにしました。
政府としての戦略の内容をより具体化し、奪還を目指す方針を明確にしたのです。
クリミアを巡る攻防 ロシアはどう出る?
「クリミアはロシアにとって明らかに越えてはならない一線、レッドラインだ」
プーチン政権に近い、ロシアの政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」でことし3月まで会長をつとめたアンドレイ・コルトゥノフ氏はこう、警告します。
コルトゥノフ氏「クリミアを奪還する試みはロシア指導部にとってはもちろんレッドラインだ。
クリミアは、ロシアから切り離せない一部として認識され、クリミアに住む人々もロシア社会の一部として認識している。ウクライナが時々、クリミアのロシア側の施設に攻撃を加える試みを目の当たりにするが、ロシア指導部は、相当いらだっているようだ。ただ、ウクライナがクリミアを、奪還できる可能性は、大きくないと思う。クリミアは基本的にしっかりと防衛されている」
プーチン大統領の側近で、強硬派として知られる安全保障会議のメドベージェフ副議長も国営メディアとのインタビューで「核抑止力の原則に規定されたものを含む、あらゆる防衛手段を使う根拠になる」と発言。核戦力をちらつかせて威嚇しています。
クリミアでは3月、アメリカとロシアの双方の軍によって、一触即発になりかねない事態も起きました。
クリミア沖合の黒海上空で、アメリカ軍の無人機と、ロシア軍の戦闘機が衝突したとアメリカ側が発表し、映像を公開。ロシア側も反発し、非難合戦になりました。
コルトゥノフ氏は、クリミア周辺の黒海はロシアが「領海」と捉えているため、ロシア側とNATO=北大西洋条約機構が直接、衝突する危険性が高まっていると懸念を示しています。
コルトゥノフ氏「3月の案件は、意図しないエスカレーションが起こりうることを示すものだ。双方が意図していなくても、負の連鎖が続き、最悪の場合、核すら含む直接的な軍事衝突に発展する危険性もある。これは誰もが注意を払うべき深刻な警告だ」
ウクライナのクリミア奪還にアメリカは?
最大の軍事支援国アメリカは、ウクライナがクリミアの奪還を目指すことについて、慎重な姿勢をとり続けているとみられています。
アメリカの戦略を見る上で注目されている兵器がATACMSと呼ばれる射程がおよそ300キロの地対地ミサイルです。
これまでアメリカが供与してきたどの兵器よりも射程が長く、ウクライナ側は、長い射程によって安全な場所からロシア軍を攻撃できるなどとして供与を要望。
ただ、クリミア半島のほぼ全域を射程にとらえられることから、アメリカでは、クリミアを攻撃する際に使用されるという見方が出ているのです。こうした理由もあってか、ウクライナ側の要望に対してアメリカ政府はこれまでのところ応じる姿勢を見せていません。
ウクライナを巡る国際情勢などに詳しいカリフォルニア大学リバーサイド校のポール・ダニエリ教授は「ロシアを刺激し戦闘をいっそうエスカレートさせることは避けたい」というアメリカ側の懸念を指摘します。
ダニエリ教授「アメリカは、供与した兵器でウクライナがクリミアを攻撃することに神経をとがらせている。もしATACMSを供与するならウクライナがどのように使うのかを巡ってきちんとした取り決めが必要だとアメリカは考えている」
その一方、アメリカはことしに入って、提供しないとしていた戦車の供与を一転して決めるなど、軍事支援については、さまざまな方針も示されています。
ダニエリ教授「アメリカは、ウクライナにロシアを打ち負かしてほしい一方で、ロシアが衝突をエスカレートさせたり、核兵器の使用に踏み切ったりすることは避けたいと考えている。兵器の供与を巡って一貫性がないのは、そのための戦略を打ち出すことにアメリカが苦心しているからだ」
アメリカが、ロシアを刺激することは避けつつ、ウクライナへの支援を強化して勝利につなげるための明確な戦略を見いだせないでいるというのです。
ウクライナ、ロシア双方にとって譲れない一線になっているクリミア。
5月にも領土奪還に向けたウクライナの大規模な反転攻勢が開始されるという見方も出る中、そのクリミアをめぐって、各国の思惑は複雑に交錯しています。

 

●ロシア「戦勝記念日」 プーチン「ナチスの思想継承者を正当化させない」主張 5/9
ロシアできょう第2次世界大戦の対ドイツ戦勝記念日を迎えるのにあわせ、プーチン大統領はウクライナ侵攻を念頭に「ナチスとその思想的継承者を正当化させないことがわれわれの義務だ」と表明しました。
ロシアは対ドイツ戦勝記念日にあたるきょう、モスクワの赤の広場で軍事パレードを行い、プーチン大統領が演説する予定です。
ロシア大統領府によりますと、これに先立ちプーチン大統領は8日、旧ソ連諸国の首脳や国民に向けて祝辞を送りました。
その中でプーチン氏は「ナチスの侵略者を粉砕したすべての人たちに尊敬と感謝の意を表する」と述べたうえで、ウクライナ侵攻を念頭に「ナチスとその思想的継承者を正当化させないことがわれわれの道徳的な義務だ」と主張しました。
去年はウクライナの国民にも祝辞を送っていましたが、今年は取りやめています。
一方、きょうの軍事パレードには、当初キルギスの大統領のみが出席を明らかにしていましたが、8日になってアルメニアやカザフスタンなど旧ソ連諸国の首脳の出席が相次いで発表されました。
ロシアとしては孤立していないとアピールする狙いがあるとみられますが、カザフスタンのトカエフ大統領は去年11月、ウクライナ侵攻をめぐり「和平を模索する時だ」と発言し、ロシアと距離を置く姿勢を示しています。
こうした中、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏は、ウクライナ東部の要衝バフムトで部隊が前進を続けているとSNSに投稿しました。
ロシア国防省から「供給を約束された」としていた弾薬については、その後の投稿で「受け取り始めている」と主張。バフムトでは激しい戦闘が続いているとしています。
●ロシアの対独戦勝記念日、プーチン氏が「赤の広場」で演説へ… 5/9
旧ソ連による第2次世界大戦の対独戦勝記念日の9日、ロシアのプーチン大統領はモスクワで演説する。演説では改めてウクライナ侵略を正当化し、国民に協力を呼びかける見通しだ。式典会場に隣接する露大統領府が3日に無人機で攻撃されており、厳戒態勢の中で軍事パレードが行われる。
式典はモスクワ中心部「赤の広場」で午前10時(日本時間午後4時)に始まる予定だ。露大統領府への無人機攻撃を巡り、露大統領府は「ウクライナによるテロ攻撃」と主張し、「報復の権利」をアピールしている。プーチン氏はこれまで対応を明らかにしておらず、演説でどう言及するかが注目される。
軍事パレードはモスクワ以外でも行われる見通しだが、ウクライナとの国境付近を中心に20都市以上が「安全上の理由」などから中止を発表している。ウクライナ軍による攻撃の誘発を避けるためとみられる。露国防省は昨年と異なり、モスクワでのパレードに参加する戦車などの装備を事前に発表していない。
独ソ戦で犠牲になった家族や先祖の写真を掲げて住民が各地で自発的に行進する「不滅の連隊」も中止する。露政府は反戦デモに発展する事態を警戒しているとみられる。
一方、プーチン氏はモスクワの式典に旧ソ連構成国の首脳を次々と招待している。タス通信によると、ベラルーシやカザフスタン、アルメニアなど6か国の首脳が8日、モスクワ入りした。ロシアは侵略開始後、「勢力圏」と位置付ける旧ソ連構成国への影響力低下が指摘されており、プーチン氏には求心力を誇示する狙いがあるとみられる。
●ロシア、キルギス内の軍事施設「発展」で合意 大統領会談 5/9
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8日、首都モスクワを訪問した中央アジア・キルギスのサディル・ジャパロフ大統領と会談し、キルギス国内のロシア軍事施設を「発展」させることで合意した。ロシア大統領府が発表した。
ロシアは、旧ソ連構成国の同盟国であるキルギス国内に空軍基地や海軍施設などを保有している。ジャパロフ氏は、9日にモスクワで予定されている対ドイツ戦勝記念日の軍事パレードに出席する予定。
●G7結束が最善の中国抑止策、依存引き下げと防衛力強化の加速を 5/9
ホメロスの「オデュッセイア」を基にした「スキュラとカリュブディスの間」はどちらの道を選ぶか判断が困難であることを指すことわざだが、広島で今月開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、中国に関して同じような状況に置かれていると感じられるかもしれない。台湾を中国に侵攻してほしくないが、同国との戦争も避けたい。
この2つの「怪物」の間で舵を操る最善の方法は、G7が強力な抑止戦略で合意することだ。そうすれば中国の習近平国家主席は台湾への侵攻に消極的になるかもしれない。そうでなければロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争に当たって西側が弱すぎると誤って判断したように、習氏はG7の分裂を利用できると考えるかもしれない。
ユーラシアは一つの大陸
米国のアジアの同盟国に断固とした姿勢のメリットを説得する必要はないだろう。しかし、欧州の指導者の中には疑念を抱いている者もいる。フランスのマクロン大統領は先月、欧州連合(EU)が台湾を巡る危機に巻き込まれないよう警告を発した。
習氏がウクライナ戦争直前にプーチン氏と「制限なし」の友好関係を宣言して以来、欧州とアジアは地政学的に一つの広大な大陸になった。
中国が武力で台湾を併合すれば、日本や韓国など他のアジア諸国は脅威を感じるだろう。中国がこの地域の覇権国になりかねない。台湾への侵攻が成功した場合、米国は孤立主義に陥るか、ウクライナから中国に目を向けるか、いずれかの反応を示す可能性がある。
中国はまた、ロシアへの武器供与に勢いづくかもしれない。そうなれば欧州にとって恐ろしい話だ。
2つの加速
G7各国が抑止の必要性に合意できたなら、次にそれを達成するための効果的な戦略を立案する必要がある。それは中国への依存度引き下げと防衛力強化の両方を加速させることだ。
イエレン財務長官を含む米高官は最近、経済の「デカップリング(分断)」とは対照的に、中国へのエクスポージャーを「デリスキング(リスク低減)」する政策を求める欧州に賛同している。
また、米国は中国が先端半導体など軍事的に有用な技術を獲得するのを阻止するため同盟国に働きかけている。中国と米国およびその同盟国の軍事的格差が縮まるのを防ぐことができれば、それも侵略の抑止になり得る。G7が冷戦時代のココム(対共産圏輸出調整委員会)のように、輸出管理に関する行動を調整する事務局を設置すればより効果的だろう。
G7各国は軍事力強化に向けた既存の計画を加速する必要もある。これは米国とアジアの同盟国だけでなく、欧州諸国も同様だ。欧州の防衛力を強化することで、米国の焦点はより東方に向けられる。
米国が欧州から目をそらすべきと言っているわけではない。結局のところ、中国を抑止する唯一の最良の方法はウクライナがロシアを撃退するのを支援することだ。
コンティンジェンシープラン
G7の抑止戦略のもう一つの柱は、中国が台湾に侵攻した場合にどうするかというコンティンジェンシープラン(不測の事態を想定した緊急対応策)だ。
一つの選択肢は徹底的な経済制裁だろう。しかし、これは賢明ではないかもしれない。中国との関係を急速に断ち切った場合の経済的、財政的コストはG7にとっても、そして他の国々にとっても恐ろしいものになる。例えば、米国とその同盟国が対ロシアと同じように中国の3兆2000億ドルに及ぶ外貨準備を凍結すれば、中国は外国人が保有するほぼ同額の国内資産を没収することで対抗できる。
もちろん、中国が医薬品の製造に必要な原薬といった重要物資の供給を停止すれば、G7は報復をしなければならないだろう。しかし、中国にはデカップリングによる痛みに耐えられるだけの力があるかもしれない。したがって、侵略に対抗して全面的な経済戦争を起こさないという戦略であればG7内のコンセンサスを得ることはより容易になりそうだ。
バイデン米大統領も、同盟国を納得させるために、戦争は最後の手段であることを明確にする必要がある。緊張が高まった際に米国がどのように対応するかについて、コンセンサスを得ることが理想的だ。
例えば、中国による台湾封鎖シナリオが取り沙汰されている。米国は封鎖を突破するため全面戦争を引き起こす可能性があるのだろうか、それとも1948年のソ連によるベルリン封鎖時のように、米国と同盟国が台湾に物資を空輸するのだろうか。
中国による台湾占領というスキュラと、紛争というカリュブディスの間を航行するのはコストゼロではないだろう。G7は最低でも防衛とサプライチェーン(供給網)確保に多額の資金を投じなければならなくなる。
オデュッセウスは何人かを失った。しかし、少なくとも彼の船と乗組員の大半は生き残った。
●ロシア新興財閥から「ひどい」戦争の批判、ウクライナ侵攻巡り 5/9
ロシアの新興財閥(オリガルヒ)の一人、アンドレイ・コバレフ氏が8日、政府のウクライナ侵攻や侵攻行為が自国にもたらした結果を批判した。
コバレフ氏はSNS「テレグラム」で共有した動画で、自分は当初、ロシア軍がウクライナ軍の防衛を打ち破り、キーウを2、3週間以内に掌握すると信じていたと発言。それが現実とならなかったことに驚きを示した。
コバレフ氏はウクライナ侵攻以降にロシアが被った大きな損失を指摘。侵攻当初に到達した地点からのロシア軍の撤退、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の沈没、クリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア大橋の爆発、クレムリン(ロシア大統領府)に対する無人機攻撃と主張される事案に言及した。
コバレフ氏の発言は自身が会長を務める企業家団体の生配信で行ったもの。同氏は「これは特別軍事作戦ではなく、ひどい戦争だ」と述べた。
さらに「世界全体が我々に敵対している。122カ国が我々を侵略者と認識する票を入れた」とも語り、先月国連総会で採択された決議に触れた。ウクライナに対する戦争を「ロシア連邦による侵略」と位置付けるこの決議には、中国とインドも賛成票を入れた。両国はこれまでロシアによる全面侵攻を非難していなかった。
テレグラム上にある事前録画した別の動画では発言のトーンを少し抑え、戦争での勝利を確実にするため、プーチン大統領が「国家企業家の奉仕の呼びかけ」をすべきだと述べた。
コバレフ氏は不動産実業家で「全ロシア企業家運動」の会長を務める。同団体のホームページによれば、公職の経験もあり、モスクワ市議会の議員だった時期もあるという。
ロシアでは政府への異議を唱える余地はほとんどない。プーチン氏が情報空間の統制を強め、市民の多くはウクライナ侵攻の正確な情報にアクセスできない。公然と異議を唱えようとすれば長期の禁錮刑かそれ以上の刑罰を受ける可能性がある。
だが、一部のロシア人の間では、つまずきの多い侵攻の今後の行方に動揺が広がり始めている兆候がある。歌手のアーラ・プガチョワ氏は昨年9月、ロシア兵が「我々の国をのけ者にする幻想の目的のために死ぬ」のを止めるように訴えた。
コバレフ氏の批判は1945年のナチス・ドイツ降伏を記念する5月9日の「戦勝記念日」前日に行われた。 
●プーチン大統領「ウクライナの国民は西側諸国の人質」… 5/9
ロシアのプーチン大統領は9日、モスクワの中心部「赤の広場」で行われている式典での演説で、ウクライナ侵略を第2次世界大戦の独ソ戦と重ね合わせ「ロシアに対する戦争が再び始まった」と強調し、「ウクライナの国民は西側諸国の人質となっている」と米欧を批判した。
●ロシアで戦勝記念日のパレード、プーチン氏が演説 「ウクライナは人質」 5/9
ロシアの首都モスクワにある赤の広場で9日、対ドイツ戦勝記念日のパレードが始まった。プーチン大統領が演説し、ウクライナは「西側の主人」に率いられる政権の「人質」になったと主張した。
ショイグ国防相は軍隊を視察し、第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利してから78年を迎えたことを祝った。
戦勝記念日はプーチン大統領の日程で最も重要なイベントになる。プーチン氏は長年、国民の支援を結集し、ロシアの軍事力を誇示するためにこの日を利用してきた。
だが、今年はパレードの豪華さとは対照的に、ウクライナでの軍事作戦の停滞が目立つ。モスクワの外では、ウクライナ国境地帯をはじめとする複数の地域で、安全上の懸念や展示する軍事装備の不足から準備の規模が縮小された。
パレードにはロシアの「特別軍事作戦」に参加した兵士も姿を見せた。
プーチン大統領は演説で、ロシアに対して「真の戦争」が仕掛けられていると主張。ウクライナ国民については、「西側の主人率いる犯罪政権の誕生につながったクーデターの人質になった。西側の残酷で自己中心的な計画の駒になったのだ」と述べた。
●“異例ずくめ”のロシア戦勝記念日・・・ 5/9
9日、ロシアでは戦勝記念日の軍事パレードが行われ、プーチン大統領が演説をしました。プーチン大統領の演説からどのような現状が読み取れるのでしょうか。解説です。
異例ずくめのロシア戦勝記念日 プーチン大統領の狙いは
日比麻音子キャスター: そもそも戦勝記念日の式典は、国民の愛国心を鼓舞する目的があり、また軍事力を国内・国外にアピールする重要な行事とされていますが、今回はどのように行われたのでしょうか。
・軍事パレードの兵器→事前の説明なし
・外国メディアに対して取材制限→TBSのカメラも建物の中から撮影
・軍事パレード→今回は少なくとも21の都市が中止を表明。2022年は全体で28の都市でパレードが行われたので、2023年は小規模の開催となった。
「ロシアに対する真の戦争」プーチン大統領が演説で語ったこと
日比キャスター: では、こういった中でプーチン大統領は何を語ったのでしょうか?
プーチン大統領「ロシアのために戦っている全ての人々を歓迎いたします」「全世界の人々と同じように、我々は平和的な自由で安定した将来を見たいのです」「ロシアに対して真の戦争が行われています」「ロシア国民のみなさん、ロシアの運命を決する戦いはいつも神聖なものでした」などと、ロシア国民に対しても鼓舞するような内容が語られています。
一方で、西側諸国に対してはこのような言葉がありました。
プーチン大統領「西側諸国はいつも優位性について語っている。世界を分裂させようとしている。彼らの目的は、我々の国を破壊することだ」
この行事はそもそも犠牲者の追悼や国際社会の結束といった象徴の側面もある中で、西側諸国に対しては強い非難の言葉があったわけです。
ホラン千秋キャスター: ウクライナ侵攻が始まって2回目の戦勝記念日になるわけですけれども、前回と比べて今回は規模が縮小されたり、今までと勝手が違ったりというのはどんな背景があるんでしょうか?
防衛省 防衛研究所 高橋杉雄氏: 基本的には今、最前線で激戦が繰り広げられているので、最前線で使っている兵器を出せなかったということだと思います。また、最前線で泥まみれになっている兵士がアイロンの通った軍服でパレードをしている兵士たちを見てどう思うかを考えたときに、あまり派手に演出できないといったところがあったのではないかとも思います。同時にここでナショナリズムを高揚させないと、軍隊に入ってくる人を増やすことができないので結構ジレンマがあったのではないかなと感じます。
ホランキャスター: 海外のメディアを入れないのはどういうことでしょうか?
防衛省 防衛研究所 高橋杉雄さん: おそらく全体をコンパクトにしたいということと、あとは基本的にこれはロシアのものだというところで、国際的なアピールに気をつかわなくなっているということではないかと。
ホランキャスター: 肝心の内容に気になる部分はありましたか?
防衛省 防衛研究所 高橋杉雄氏: 言った部分と言っていない部分がポイントだと思います。発言した部分で言えば、西側に対する敵愾心ですよね。これはこれまでの演説でも一貫していて、プーチン大統領は民主主義とかだけではなくLGBTの問題などについても、はっきりと敵意を示しているわけです。あと、対独戦勝記念日ですからナチスに対する勝利を祝うイベントなわけですけれども、そこにおいて西側がナチスみたいになっているというか、西側がウクライナを支援しているからウクライナの国民が悪いんじゃなくて、ウクライナを支援する西側が悪いんだっていうトーンを強調しているのも言ったことですね。言わなかったこととして言うと、戦意を煽るような挑発的な言葉はあるんですけれども、喋り方としては非常に穏やかに喋っていましたし、そのあたりをどう読み解くかを考えていく必要があると思います。
ドローン攻撃は“自作自演”?
日比キャスター: そして軍事パレードを迎える数日前にこういったことがありました。ロシア大統領府によりますと、5月3日にクレムリン(ロシア大統領府)へのドローンの攻撃があったと発表がありました。
・ロシア側=“ウクライナ側がドローン攻撃を試みた”
・ウクライナ側=攻撃を“全面否定”
高橋さんによると、これはロシアによる自作自演の可能性があるということです。
防衛省 防衛研究所 高橋杉雄氏「“ロシアの政府の中心地”が攻撃されたとすることで、軍を拡大し、さらなる攻撃の“動機づくり”に利用したのではないか」
ホランキャスター: この“さらなる攻撃”が懸念されますよね。
防衛省 防衛研究所 高橋杉雄氏: ここのところ4日続けて首都キーウがドローンで攻撃されています。ただし2022年の秋からやっていた大規模なミサイル攻撃がなくなっていて、もしかしたらミサイルの数が足りなくなっているのではないかということも推測できますね。おそらくロシアはウクライナの反攻に備えてます。そのときのために弾を取ってるんだと思いますけど、まだわからない部分はいっぱいあります。
●プーチン大統領演説 侵攻正当化 今後も続ける姿勢強調  5/9
ロシアでは9日、第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利してから78年の記念日を迎え、首都モスクワでは、日本時間の9日午後4時から中心部の赤の広場で記念の式典が行われました。プーチン大統領は演説で、「われわれの祖国に対して、再び本当の戦争が行われている」などと述べ、ウクライナへの軍事支援を強める欧米側を非難したうえで、ロシアによる軍事侵攻を正当化し、今後も続ける姿勢を強調しました。
―――演説の内容―――
“祖国に対して再び本当の戦争が行われている”
プーチン大統領は演説で、「文明は再び重要な岐路に立たされている。今、われわれの祖国に対して再び本当の戦争が行われている。しかし、国際的なテロを撃退し、東部ドンバス地域の住民を保護し、われわれの安全を確保する」と述べ、ウクライナへの軍事支援を強める欧米側を非難したうえで、ロシアによる軍事侵攻を正当化しました。
“ロシアの将来 特別軍事作戦に参加のあなたがたに”
プーチン大統領は演説で、「ロシアの将来は、特別軍事作戦に参加しているあなたがたにかかっている。勝利に万歳」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻を続けていく姿勢を強調しました。
“西側のエリートがロシア嫌いをまきちらした”
プーチン大統領は演説で、「西側のエリートは、ロシア嫌いをまきちらし、人間らしさとは反対の価値観を広めた。自分の命をかえりみず、ヨーロッパの自由のためにナチスを打ち倒したのが誰だったのか、彼らは忘れてしまったようだ」と述べ、欧米を批判しました。
“国全体がわれわれの英雄たちを支援するため結束”
プーチン大統領は演説で、「われわれは特別軍事作戦に参加した人々、 最前線で戦っている人々、負傷者を救っている人々のすべてを誇りに思う」と述べました。そのうえで、「国全体が、われわれの英雄たちを支援するために結束している。すべての国民は、英雄を支える準備ができている」と述べ、国民に一層の結束を呼びかけました。
プーチン大統領 日本を批判的に言及 友好関係強める中国たたえる
プーチン大統領は、演説で「われわれは、ナチズムと勇敢に戦ったレジスタンスの参加者と、アメリカやイギリス、その他の国の連合軍の兵士に敬意を表す。日本の軍国主義と戦った中国の戦士たちの偉業を記憶し、尊重している」と述べました。プーチン大統領としては、ロシアへの制裁などで欧米側と歩調を合わせる日本について批判的に言及する一方で、プーチン政権が友好関係を強める中国をたたえた形です。
戦勝記念日の式典と軍事パレード終わる
ロシアの首都モスクワ中心部の赤の広場で行われた第2次世界大戦の戦勝記念日の式典と軍事パレードは、日本時間の午後4時45分頃に終わりました。
“クレムリンへの無人機攻撃”への直接の発言なし
ロシア大統領府は今月3日、クレムリンに対して無人機による攻撃が仕掛けられたと発表しましたが、プーチン大統領からこれについて直接の発言はありませんでした。
ゼレンスキー大統領 “ロシア軍はバフムトを掌握できなかった”
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、首都キーウを訪れているEU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長とともに記者会見し、ロシアで第2次世界大戦の戦勝記念日にあたる9日までに、ロシア軍が何らかの軍事的な成果を得ようとしていたと指摘しました。ゼレンスキー大統領は「ロシア軍はバフムトを掌握できなかった。ロシアにとっては5月9日までに終わらせたかった最も重要な軍事作戦だった」と述べ、ロシア側が東部の激戦地バフムトの攻略に失敗したと強調しました。
ワグネル “不足の弾薬 要求の10%もバフムトで数日戦う”
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に参加している民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏は、これまで不足していると訴えてきた弾薬について、ロシア国防省から受け取ったとしたものの「要求した10%だった。われわれはだまされた」と述べました。ただ、「われわれはバフムトを離れず、あと数日は戦うだろう」と述べ、弾薬を使って東部の激戦地バフムトでの戦闘を続けると主張しました。プリゴジン氏は5月5日に、ロシア国防省が弾薬の供給を意図的に止めていると非難し、10日にバフムトから撤退する意向を表明していましたが、これを事実上、撤回したものとみられます。
「赤の広場」の軍事パレード 規模は縮小に
首都モスクワの赤の広場で行われた戦勝記念日の軍事パレードについて、ロシア大統領府は9日、参加した兵士の数はウクライナへの軍事侵攻にも加わった530人の兵士を含む8000人以上だったと発表しました。ロシア国防省はことし3月、1万人以上が参加すると発表していましたが、規模は小さくなっています。また軍事パレードでは、ウクライナへの攻撃にも使用されている短距離弾道ミサイル「イスカンデル」や、核兵器の搭載が可能なICBM=大陸間弾道ミサイル「ヤルス」などの核戦力も披露されました。一方、去年と比べて軍用車両の数は少なく、戦車は第2次世界大戦で旧ソビエト軍の主力を担った「T34」が1両だけで、戦闘機などによる上空の飛行も実施されませんでした。さらに、例年、戦勝記念日に、軍事パレードとともに恒例行事となっていた「不滅の連隊」と呼ばれる市民が行進する催しについても安全上の懸念を理由に全土で中止されました。
旧ソビエトの首脳7人が式典に出席
ロシア大統領府によりますと、旧ソビエトのアルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、それにウズベキスタンの首脳が式典に出席したということです。
ロシアの「戦勝記念日」とは
ロシアで、5月9日は第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」で、最も重要な祝日の1つとなっています。第2次世界大戦の期間中、旧ソビエトでは世界で最も多い、少なくとも2600万人の兵士と市民が死亡したとされ、ロシアで戦勝記念日は苦難の末に勝利した栄光と誇りの日と位置づけられています。例年、この日には各地で記念式典などが行われ、戦勝国・敗戦国を問わず大戦の犠牲者を追悼し、平和に向けた国際社会の結束が誓われるなど「追悼と和解」の象徴という側面もありましたが、プーチン政権は、この戦勝記念日を国威発揚の場として利用してきました。ウクライナへ軍事侵攻開始後の去年の戦勝記念日では、プーチン大統領が演説で、「アメリカやその同盟国が背後についたネオナチとの衝突は、避けられなかった」などと述べ、ウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」だとする主張を繰り返し、欧米の脅威が背景にあったとして侵攻を正当化しました。また軍事パレードでは、天候を理由に実施されなかったものの、核戦力による戦争など、非常時に大統領が乗り込む特別機の飛行も計画されました。さらにロシア側は、ウクライナ東部や南部の占領地域でも記念の催しを行い、ロシアの支配下に置いたと誇示しました。
軍事パレード ことしは相次ぎ中止
ロシアのプーチン政権は、第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した5月9日の戦勝記念日を国民の愛国心を高揚させ、結束を強める機会として重視してきました。しかし、ことしは4月に入ってから安全上の懸念などを理由に、軍事パレードの中止が相次いで発表されました。中止が決まったのは、ロシア西部のベルゴロド州やクルスク州、ブリャンスク州などウクライナと国境を接する地域のほか、北西部のプスコフ州や中部のリャザンなど国境から離れた地方、さらに、ロシアが9年前、一方的に併合したウクライナ南部のクリミアや、軍事侵攻後の去年9月に併合したとしている東部ルハンシク州や、南部ヘルソン州、ザポリージャ州などでも軍事パレードの中止が決まっています。ロシアのメディアは、5月4日までに軍事パレードの中止が発表されたのは、20以上の都市に上ると伝えています。一方、首都モスクワの中心部赤の広場で行われている軍事パレードについては、ロシア大統領府はプーチン大統領の演説とともに、予定どおり実施されるとしています。ただ、一部のロシアメディアは4月、赤の広場で行われる軍事パレードでは、航空機による上空の飛行は中止が検討されていると伝えていて、規模が縮小される可能性もあります。
「不滅の連隊」は全土で実施見送りに
また、軍事パレードとともに恒例行事となっている「不滅の連隊」と呼ばれる市民の行進について、国営通信社は安全上の懸念を理由に、ことしは全土で実施が見送られることになったとしています。「不滅の連隊」が中止される背景についてイギリス国防省は4月、ウクライナでのロシア側の損失に参加者の目が向くことを政権側が懸念している可能性が高いとする分析を発表しています。
旧ソビエト6か国の大統領や首相 出席予定
モスクワで9日開かれる戦勝記念日の式典には、旧ソビエトのベラルーシ、ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタン、キルギス、それにアルメニアの6か国から大統領や首相が出席する予定です。プーチン大統領は8日、キルギスのジャパロフ大統領とモスクワで会談し、「第2次世界大戦では、36万人のキルギス国民が前線に行き、そのうち13万4000人が帰らぬ人となった」と述べ、当時、ソビエトの一員として、ともにナチス・ドイツと戦った両国の歴史を強調しました。ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は8日、関係が良好な旧ソビエトの国々の首脳に対して、戦勝記念日を祝うメッセージを送ったということで、欧米との対立が深まる中、第2次世界大戦の歴史を共有する旧ソビエト諸国をつなぎ止めたい思惑があるとみられます。
●プーチン氏演説要旨 「西側の目的はロシアの破壊」 5/9
文明は再び決定的な転換点にある。わが国に対して戦争が起こされたが、われわれは国際テロリズムに反撃し、ドンバス地域(ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州)の住民と自らの安全を守っている。
あらゆる優越のイデオロギーは嫌悪すべきであり、犯罪的だ。しかし、西側のグローバル主義のエリートらは、自らを特別な存在と考えて流血や政変を引き起こし、ロシア嫌悪と攻撃的ナショナリズムを植え付けている。自らの意思やルールを押し付けるためだ。
彼らは、ナチ主義者による世界支配の試みが何をもたらしたかを忘れたようだ。彼らの目的はわが国の破壊である。第二次大戦の結果を消し去り、世界の安全保障のシステムや国際法を破壊することだ。
彼らの法外な野心と傲慢こそが、今日のウクライナの民衆を苦しめている破局の原因だ。ウクライナの民衆はクーデター(2014年の親露派政権崩壊)と、その上に生まれた西側の主人たちの犯罪的体制の人質となった。
われわれにとって祖国防衛の記憶は神聖だ。ナチズムと戦った人々、米英などの同盟軍の戦士を正当に評価する。日本軍国主義と戦った中国戦士の偉業も敬う。共通の脅威に団結して戦ったことは極めて貴重な遺産だ。ソ連の全民族が共通の勝利に貢献した。
(ウクライナでの)特別軍事作戦の参加者を誇りに思う。今、あなた方の戦闘業務に国の安全と将来がかかっており、国全体が団結している。
●プーチン大統領[演説全文] ロシア対独戦勝記念日・軍事パレード… 5/9
ロシアで最も重要な祝日の一つ、対ドイツの5月9日、恒例の軍事パレードが行われました。プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻を継続する考えを示し、ウクライナを支援する欧米の動きを批判した上で、戦争責任を転嫁しました。そのうえでウクライナへの軍事侵攻を継続する考えを示し、国民に団結を求めました。プーチン大統領の演説の全文は以下の通りです。

尊敬するロシア国民よ!
親愛なる退役軍人の皆さま!
ロシアの兵士、水兵、軍曹、下士官、中尉、准尉! 将校、将軍、提督!
特別軍事作戦の参加する兵士、指揮官!
戦勝記念日、おめでとう。
この日は、祖国を守りながら、その名をはせ、不滅の存在となった我々の父、祖父、曽祖父をたたえる日だ。
彼らは、計り知れない勇気と多大な犠牲を払い、人類をナチズムから救った。
今日、文明は再び重要な転換点を迎えている。祖国に対して再び真の戦争を仕掛けられたが、我々は国際テロを撃退し、ドンバスの住民を守り、安全を確保した。
我々にとって、ロシアにとって、西にも東にも非友好的で敵対的な民族は存在しない。この地球上の大多数の人々と同様に、我々も平和で、自由で、安定した未来を望んでいる。
我々は、自国が他国よりも優れているイデオロギーは反感を買い、嫌悪すべき犯罪的なもので危険だと確信している。
欧米は世界を征服しようとしたナチスの狂気が何をもたらしたかを忘れているようだ。この怪物的な完全悪を打ち破ったのは誰か、祖国のために立ち上がり、ヨーロッパの人々の解放のために命を惜しまなかったのは誰かを、彼らは忘れてしまったのだ。
我々は、多くの国でソ連兵や偉大な指揮官の記念碑が無慈悲かつ無惨にも破壊され、ナチスとその協力者が再びあがめられている。
本物の英雄たちの記憶が消し去られ、ゆがめられている様子を目の当たりにしている。
勝利という偉業を果たした世代の犠牲者を冒涜(ぼうとく)することは犯罪以外の何ものでもない。
世界中からネオナチ崩れのゴロつきを集め、ロシアに対する新たな敵対キャンペーンを皮肉的かつ公然と準備すること、これは彼らのあからさまな仕返しだ。
彼らの国的に、新しいものはない。我が国を崩壊・消滅させ、第二次世界大戦の結果を覆すことで、国際的な安全保障とシステムを決定的に破壊し、各国の主権を絞めつけることだ。
彼らの過剰な野心、傲慢(ごうまん)さ、手段を選ばないやり方は、必然的に悲劇を招く。これこそが、ウクライナ国民が現在直面している悲劇の理由だ。
ウクライナ国民は、欧米という支配者、犯罪政権によるクーデターとの人質となり、残酷で利己的な計画を実行するための交渉材料にもさせられている。
我々ロシア人にとって、祖国を守った人々の記憶は神聖なものであり、我々は、その記憶を心に刻んでいる。我々はナチズムと勇敢に戦った権力への抵抗(レジスタンス)した兵士たち、アメリカ、イギリス、その他の国の連合軍の兵士に敬意を表する。
また、我々は日本の軍国主義との戦いにおける中国の戦士たちの武勲にも敬意を表する。
私は共通の脅威との戦いにおいて、連帯とパートナーシップを築いた経験は、我々のかけがえのない財産であると確信している。
信頼と決して損なわれてはならない安全保障、すべての国、民族が独創的に、かつ、自由に発展する平等な権利という大原則に基づき、より公正な多極化世界へ向けた不可逆的な動きが勢いを増している今、それは確固たる支柱となる。
今日、独立国家共同体の首脳が、ここモスクワに集まったことは、非常に重要なことだ。私は、我々の祖先の武勲に対する感謝の表れだと考えている。
ソ連の民族はともに戦い、ともに勝利した。ソ連のすべての国民が、共通の勝利に貢献した。
我々は、このことを決して忘れてはならない。戦争によって命を奪われた、すべての人々、息子、娘、父親、母親、祖父、夫、妻、兄弟、姉妹、親族、友人をしのび、我々はこうべを垂れます。
ここで1分間の黙祷。(1分間の黙祷)
尊敬するロシア国民よ!
祖国の運命を左右する戦いは、常に国家的、民族的、神聖なものになった。我々は祖先の教訓に従い、その軍事的、労働的、道徳的業績の高みにふさわしいとはどういうことなのか、深く、はっきりと理解している。
我々は、特別軍事作戦に参加した人、最前線で戦っている人、銃撃の中で前線を守っている人、負傷者を救っている人、すべてを誇りに思う。戦闘における皆さんの任務ほど、重要な大義はない。
我が国の安全、国家・国民の未来は、あなた方にかかっている。
あなた方は名誉ある軍務を果たし、ロシアのために戦っている。
あなた方の家族、子どもたち、友人たちは、あなたの後ろについている。彼らはあなたを待っている。
あなた方は、彼らの限りない愛情を感じていると確信している。
ロシア全体が我々の英雄を支援するため、一つに団結している。誰もがあなたのために祈り、協力する準備ができている。
同志よ! 友よ!  親愛なる退役軍人の皆さま!
今日、ロシアのすべての家族が大祖国戦争の退役軍人をたたえ、親族や英雄をしのび、戦勝記念碑に花を手向ける。
今、我々が立っている赤の広場は、英雄ユーリ・ドルゴルーキーとドミトリー・ドンスコイ、ミーニンとポジャルスキー、ピョートル大帝やクトゥーゾフ将軍の兵士、1941年と1945年のパレードにちなんだ場所だ。
今日、特別軍事作戦の参加者は、軍隊の幹部、部分動員で軍隊に加わった人、ルハンスクとドネツクの人民共和国軍の兵士、多くの義勇兵、ロシア国家親衛隊、内務省、ロシア連邦保安庁、非常事態省、その他の特殊サービスや機関の職員だ。
友人諸君に告ぐ!
戦場でロシアのために戦っている、今、この瞬間も任務に就いているすべての人々に敬意を表する。
大祖国戦争の間、我々の英雄的な祖先は、我々の団結ほど強く、強力で信頼できるものはないことを証明した。
祖国への愛ほど強いものはこの世に存在しない。
母国ロシアのために!
勇敢なる我が軍のために!
勝利のために!
ウラー!(万歳!)
●プーチン大統領「本物の戦争」発言の狙いは? 市民の行進“不滅の連隊”中止 5/9
プーチン大統領の「本物の戦争」という表現ですが、どういった狙いがあるのでしょうか?
赤の広場はまだ封鎖されていますが、周辺の規制はすでに解除され、現在は観光客の姿が戻っています。
プーチン大統領は演説の中で「われわれの祖国に対し、再び本物の戦争が開始された」と述べ、これまで「特別軍事作戦」と称していたウクライナ侵攻について「本物の戦争」という表現を使いました。ただ、あくまで西側諸国から仕掛けられたものであり、西側が「ロシアの崩壊を求めている」と主張し、ウクライナ侵攻を祖国を守る戦いと位置づけて正当化するとともに侵攻を継続する姿勢を示しました。
旧ソ連がナチスドイツを破り「大祖国戦争」と呼ばれる第2次世界大戦と侵攻を重ね合わせ、国民の団結を呼びかけた形です。
一方、パレード後のこの時間帯は例年、第2次大戦の戦死者らの遺影を掲げて市民が行進する「不滅の連隊」が行われてきましたが、今年は全土で中止となりました。
表向きは「安全上の理由」ですが、ウクライナでの戦死者の遺影を掲げる人たちが出ることで損失が強調されることや、侵攻そのものへの抗議につながることを政権が警戒しているとの見方も出ています。
こうした動きはいずれも、政権が侵攻のさらなる長期化をにらんだものといえそうです。

 

●やはり雑すぎた、ドローン「プーチン暗殺説」 5/10
ロシア大統領府(クレムリン)への5月3日のドローン攻撃は「ウクライナによるプーチン大統領暗殺計画」とのロシアの主張に、多方面から疑念の声が上がっている。
首都モスクワで取材するBBC記者のリザ・フォクトは、攻撃が違う方向から2機のドローンで行われたと発信。「別方向から正確に大統領府ドームを狙った点は特筆すべき」と言う。
新米国安全保障センターのサミュエル・ベンデットは「暗殺説には疑念を抱いているが、もしウクライナによる攻撃なら重要な時期にロシア中枢を狙える能力を示した点で象徴的だ」と言う。
一方で東欧専門家のセルゲイ・サムレニーは、ロシアによる「偽旗作戦」だと主張。
元駐ロシア米大使のマイケル・マクフォールも暗殺説を否定し、「使用されたドローンには破壊能力も殺傷能力もないし、プーチンはクレムリンで暮らして(寝て)いない」とツイートする。
「ロシアのプロパガンダを繰り返すのはもうやめるべきだ」
「この人たちは誰なのか、なぜ爆発直前からクレムリンの屋根に登っているのか?」
●ウクライナ戦争の停戦を邪魔する西欧のロシア観  5/10
人間の思考は、すでにすり込まれたイメージを壊すことを嫌う。すり込まれたとおりのことが起こると、安心するのだ。敵国への憎悪となると、多くの場合、このワンパターンの思考回路から生まれている。
この思考回路から出ると、仲間はずれになり、時として非国民の烙印を押されかねないからだ。こうして人間の自由な思考は停止し、唯々諾々とオウムのようにワンパターンの言説に従うのだ。
プロパガンダは、すり込まれたイメージを増幅することで起こる。すり込まれたイメージを、一般には偏見という。しかし、偏見ほど楽なものはない。なにしろ考えたり、調べたりする手間が省け、おまけに仲間もそれに簡単に同意してくれるからだ。内輪だけで盛り上がるとはこのことをいう。
しかし、こうした偏見を外交担当者が持つと、それは大変なことになる。だからこそ、フランスのルイ14世時代の外交官であるジャン=クロード・カリエールは『外交談判法』の中で、こう述べているのだ。
「間違いを犯したくなければ、彼らの物の考え方を考慮に入れることが必要である。…… 自分自身の考え方を、いわば脱ぎ捨てて、相手の立場に身をおき、いわば相手そのものとなり、相手と同じ考え方や気質になることである」
相手の立場を考えないで、自らの思考パターンだけを押しつければどうなるか。それは徹底した対立と戦争という悲惨な結果を招くことになる。その典型的な例のひとつが、19世紀のクリミア戦争(1853〜1856年)へ至る西欧のロシアに対するワンパターンの思考回路だったともいえる。19世紀に増幅された憎悪が、結果的に戦争へと導いたのである。
クリミア戦争という前例
オーランドー・ファイジズという人の『クリミア戦争』(上下巻、染谷徹訳、白水社)という書物がある。クリミア戦争に至る過程の中で、ロシアに対する紋切り型の考えが西欧に広まっていった過程が、そこでうまくまとめられている。
とりわけ1812年、ナポレオンがロシアに侵攻するちょうどそのときに出版された『ピョートル大帝の遺書』という偽書の出現が、その発端だという。現在この書物は偽書であり、ピョートル大帝のものではないことはわかっている。しかし、この書が作り上げたイメージは、強烈であった。
たとえこれが偽書であったとしても、「ロシアはアジア的で、根っからの侵略者で、世界征服をねらっている野蛮で危険な国家である」という、現在に至るまで繰り返される「西欧のロシアに対する思考回路」が、これによってつくりあげられたことは間違いない。
今でもこの書物は、ロシアとの関係が悪化するたびにどこかで再版されて、繰り返し読まれている。それはあたかも反ユダヤ主義をかき立てるために今でも再版される、偽書『シオン賢者の議定書』(1903年)にも似ている。
日本でも、日露戦争(1904〜1905年)勃発時に、国威発揚のために『ピョートル大帝の遺書』が、紹介されていた。伊地知茂七は日露戦争の際に出版した『露西亜小史』(巌正堂、1904年)の中で、この偽書を使ってロシアという国の持つ侵略性と野蛮さを、高らかに語っていた。
この偽書は、ナポレオンがロシアを征服する口実として効果のあった書物だが、この野蛮でアジア的で侵略好きのロシアというイメージは、その後ナポレオンが敗北し、ナポレオンを追ってパリまでロシア軍がやってきたことで、より現実的なものになる。
ロシアからみたら、この戦争は祖国を救うための祖国戦争にすぎなかったのだが、西欧から見たら、野蛮なロシアが西欧を蹂躙し侵略した征服戦争のように見えたのだ。
とりわけロシアの悪しきイメージが大きな意味を持ってくるのは、ギリシア独立戦争(1821〜1830年)の後、ワラキアやモルダビアをロシアが占領し、黒海沿岸でオスマントルコに変わって覇権を握り始めた1830年代以降だ。イギリスとフランスもオスマントルコの衰退の中で、バルカンの派遣を握ろうとしていたがゆえに、ロシアの南下は脅威となっていた。
マルクスも陥った思考回路
その中で、大のトルコびいきである文士でイギリスのデヴィッド・アーカートが、ロシア批判の宣伝を行ったことで、イギリスの世論は反ロシア一色にそまっていく。『ロシアとイギリス』という書物を1835年に出版し、世論に大きな影響力を持つ新聞『タイムズ』紙を味方につけ、時の首相パーマストンに対してロシア批判を、狂気のごとく繰り返したのだ。これがクリミア戦争へと、世論をかき立てる要因になったわけである。
クリミア戦争(ロシアでは東方戦争、トルコでは露土戦争)の時代、カール・マルクスはアメリカの有力紙『ニューヨーク・デイリー・トリビューン』のヨーロッパ特派員という肩書で、世界情勢について健筆を振るっていた。ロシア嫌いであったマルクスは、アーカートのロシア論に飛びついた。
1848年革命が、ロシアのツァー体制の野蛮さによって敗北したことに怒りをもっていたマルクスは、アーカートと一時期懇意になる。そして彼を、半分疑いながらも、その主張を全面的に取り上げ、お決まりのロシア批判の論説を書く。
最近復刻された『一八世紀の秘密外交史』(白水社、2023)は、マルクスが、アーカートが編集していた資料集などを典拠にし、アーカートを支持していた『フリープレス』に1856年掲載した、マルクスのロシア観を知るために重要な論文である。
ジャーナリストとして鋭いマルクスも、ある意味アーカートを含む西欧的思考回路に翻弄されていた。やがてアーカートの狂気じみた部分に辟易したマルクスは、ロシアに対する見方を変えていくが、クリミア戦争の頃はやはりマルクスもワンパターンの西欧的視点に振り回されたことは間違いない。
もっともマルクスのために付け加えておくが、マルクスは、アーカートのファナティックさを懸念していた。だからこそ、この人物の怪しさを周りの人から諭され、「彼についてはまったく仲間などではなく、パーマストンに関すること以外彼とは何の共通性もない」と、やがて主張することになったのだ。
このマルクスの論説を快く思わなかったロシア人がいた。それは、西欧人のロシア嫌いの典型的な思考回路に辟易していた、帝政ロシア時代の哲学者・作家だったアレクサンドル・ゲルツェン(1812〜1870年)である。
彼は、マルクスがアーカートの言説を無批判に採用していることを、こう批判している。
「すべての者をロシアの手先だと考え、またそのように公然と語っていた人物(アーカート)は、マルクスという第一級の、無名の天才をとりまいていたドイツの不遇の政治家たちの一味にとって、掘り出された宝のもののようであった」
思考回路の閉塞性を打ち破れ
とはいえ、マルクスは自らロシア語を学び、ロシア人と文通することで、それまで影響されてきた西欧的ロシア観からやがて脱却していく。さすがにマルクスは、優れたジャーナリストであったのだ。
しかし今、ウクライナ戦争の言論は、いったいどうなっているのであろうか。こうした西欧のパターン化した議論を、ただ垂れ流しているだけではないだろうか。冷静に、相手の立場も考えるという努力をしているといえるのであろうか。
ワンパターンの思考回路は、確かに受け入れやすい。しかし、それを乗り越えてこそ、ジャーナリズムの真骨頂があるのではないか。たとえ非国民とののしられようと、しっかりとした見識をもつことはウクライナ戦争の停戦を導くためにも重要なのだ。
●米、防空システムなど12億ドルのウクライナ支援発表 5/10
米国は9日、12億ドル(約1620億円)のウクライナ向け追加軍事支援を発表した。防空システムなどが含まれる。
ロシアのプーチン大統領は対独戦勝を記念する軍事パレードに出席し、演説でウクライナ侵攻を継続する意向を表明するとともに、敵はロシア解体を画策していると非難した。
ウクライナのゼレンスキー大統領はキーウを訪れた欧州委員会のフォンデアライエン委員長と会談。同委員長は「プーチン氏の軍事機構と収入を損なわせるために」欧州連合(EU)は最善を尽くすと話した。9日もキーウでは空爆による爆発音が聞かれた。同市への空爆は今月5回目。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
欧州委員長、ロシアの侵略裁く「特別法廷」設置を支持
フォンデアライエン欧州委員長はロシアの侵略を裁く「特別法廷」の設置を支持するとともに、国際社会の支援が不可欠だと述べた。同委員長はキーウでのスピーチで、「ロシアの戦争犯罪を巡る責任追及こそが正義だ」と述べた。特別法廷の形態などには言及しなかった。
ワグネルは当面バフムトから撤退せず−プリゴジン氏
ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループの創設者、エフゲニー・プリゴジン氏はロシア国防省に求めている弾薬の10分の1程度しか供給されていないものの、ウクライナ東部バフムトからワグネルは当面撤退しないと述べた。
●プーチン大統領「祖国相手に戦争起きている」…侵攻初めて「戦争」と規定 5/10
ロシアのプーチン大統領は9日、同国最大の祝日である戦勝記念日の記念演説で「現在祖国を相手に『戦争』が起きている。われわれはこれに対抗し主権を守護している」と主張した。ロシアはこれまでウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼んできたが、今回の記念式を通じて初めて「戦争」と規定した。
続けて「ロシアは平和な未来を望むが、西側諸国はむしろわれわれに対する憎悪と嫌悪を育てている。彼らの目標はロシアの没落」と非難した。ロシアのウクライナ侵攻を西側のせいにしたのだ。
プーチン大統領はこの日、赤の広場で旧ソ連構成国の連合体である独立国家共同体(CIS)首脳らと軍事パレードを見守った。ロシア政府はこれまで戦勝記念日の軍事パレードを軍事力誇示行事として活用してきたが、今回はウクライナの攻撃の可能性を懸念して規模を大幅に縮小し警戒レベルを高めた。
ロイター通信などによると、爆発とドローン攻撃が相次ぐロシア西部とクリミア半島など20カ所余りで戦勝記念日の軍事パレードが取り消されたり縮小された。
行事場所周辺のセキュリティは大きく強化された。モスクワ上空ではドローンの使用が禁止された。少なくとも15都市ではドローンの飛行を防ぐため衛星利用測位システム(GPS)の信号をかく乱する電波妨害作業も実施された。
ロシア軍は戦勝記念日を控えてウクライナ全域に大規模自爆ドローン攻撃に出た。ウクライナ軍は8日に声明を通じて「ロシア軍が60機以上のイラン製自爆ドローンで空襲した。このうち36機は首都キーウに向かった」と主張した。ウクライナ南部オデーサでもロシアのドローン攻撃により食糧倉庫が燃え関係者3人が負傷した。
●プーチン大統領 軍事侵攻の継続を強調 バフムトの戦況が焦点  5/10
ロシアのプーチン大統領は第2次世界大戦の戦勝記念日の演説で、ウクライナへの軍事侵攻を継続する姿勢を強調しました。これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア側は戦勝記念日までにウクライナ東部の激戦地を掌握しようとしたが失敗したと指摘し、引き続きバフムトの戦況が焦点のひとつとなります。
ロシアのプーチン大統領は9日、第2次世界大戦の戦勝記念日にあわせた演説で「われわれの祖国に対して再び本当の戦争が行われている」などと述べ、ウクライナへの軍事支援を強める欧米側を非難してウクライナへの軍事侵攻を正当化し、今後も継続する姿勢を強調しました。
これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は、9日の会見で、東部の激戦地バフムトについて「ロシア軍はバフムトを掌握できなかった。ロシアにとっては5月9日までに終わらせたかった最も重要な軍事作戦だった」と述べ、戦勝記念日にあわせて軍事的な成果を示そうとしたロシアの思惑は失敗したと指摘しました。
バフムトをめぐっては、ロシアの正規軍とともに戦闘に加わっている民間軍事会社ワグネルが弾薬の不足を理由にバフムトから撤退する意向を示し、ロシア側の足並みの乱れが指摘されています。
これについてワグネルの代表プリゴジン氏は9日、要求していた弾薬の一部をロシア国防省から受け取ったとした上で「われわれはバフムトを離れず、あと数日は戦うだろう」と主張し、引き続きバフムトの戦況が焦点のひとつとなります。
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、「われわれは5月と6月の新たな出来事に備えて、活発に準備を進めている」と述べていて、今後の東部や南部での反転攻勢を示唆しました。
●習近平恐るべし ロシア制裁のウラで 「中国・人民元」が世界を席巻… 5/10
ロシア制裁の罠
中国の人民元が国際通貨としての存在感を高めている。ウクライナ戦争を契機に中国人民元による国際決済が大幅に増加しているのだ。
もちろん、これに危機感を募らせるのはアメリカである。
ブルームバーグによれば、今年3月、中国の輸出入の決済での人民元の比率(48%)が初めて米ドル(47%)を上回った。
人民元決済が最も増えているのは、エネルギー大国ロシアとの間の貿易だ。
西側諸国の制裁により国際金融決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除されたロシアは、中国が構築した「人民元国際決済システム(CIPS)」を利用するようになった。ロシア中央銀行は、4月上旬「昨年のロシアの輸入決済の人民元のシェアが前年の4%から23%に急上昇し、今年もその比率は上昇している」ことを明らかにしている。
背景にあるのは、もちろん西側陣営のロシアへの経済制裁だ。しかし、人民元の広がりはロシアだけではない。
サウジもブラジルもアルゼンチンも…
中国は今年3月、アラブ首長国連邦(UAE)産LNGについても人民元建てで購入することを取り決めており、エネルギー取引の分野で人民元の存在感が高まりつつある。
ロシアとともに人民元決済に意欲的なのはブラジルだ。
ブラジル政府は3月末、中国との間の決済をSWIFTではなくCIPSで行うことを決定した。ブラジルは大豆やトウモロコシなどの大輸出国であることから、今後、穀物取引の分野でも人民元のウエイトが大きくなることが予想される。
南米ではアルゼンチンも4月26日「中国からの輸入に関する決済をドル建てから人民元建てに変更する」と発表している。
中国が関与しない貿易でも人民元での決済が始まっている。
4月28日付サウスチャイナ・モーニングポストは、「バングラデシュはロシアが建設する原子力施設の資金を人民元で支払う予定だ」と報じた。
中国のこうした動きに、アメリカは神経をとがらせている。
さらに後編記事『習近平の「通貨覇権」戦略が本格始動していた…! 中国・人民元が世界で巻き起こす「脱アメリカ」と「次の戦争」のヤバすぎる関係』では、勢いを増す中国・人民元が如何にして世界を揺るがしていくのか、歴史の教訓から世界で高まる戦争のリスクについて考えていこう。
●中国外相とドイツ外相が会談 ウクライナ情勢めぐり応酬  5/10
ドイツを訪問した中国の秦剛外相はベアボック外相と会談しました。ウクライナ情勢をめぐり、ベアボック外相がロシアによる侵攻をやめさせるために行動するよう促したのに対し、秦外相は対話による解決が重要だとする従来の立場を繰り返しました。
ドイツの首都ベルリンを訪れた中国の秦剛外相は、9日、ベアボック外相と会談し、その後開かれた共同会見で、気候変動問題などで協力していくことや来月にも予定される両国の首脳と閣僚を交えた政府間協議に向けて準備を加速させることを確認したと明らかにしました。
一方、ウクライナ情勢をめぐってベアボック外相は「中国は、戦争を終わらせる重要な役割を果たすことができる」と述べ、ロシアによる侵攻をやめさせるために行動するよう促しました。
これに対し秦外相は「政治的な解決のための条件を整えることが唯一の出口だ」と述べ、対話による解決が重要だとする従来の立場を繰り返しました。
またベアボック外相はEU=ヨーロッパ連合が軍事転用が可能な機器をロシアへ販売したとして中国企業への制裁を検討していると一部メディアが伝えたことについて問われると、明言を避けつつも「中国政府が企業へ影響力を行使することを期待する」と述べました。
これに対し秦外相はロシアへの軍事支援について改めて否定したうえで、中国企業に制裁が科されれば「中国も企業の正当な権利と合法的な利益を断固として守るために必要な対応をとる」とけん制しました。
秦外相は、このあとフランスとノルウェーを訪問する予定で、中国としてはアメリカとの対立が続くなか、ヨーロッパとの関係を重視する姿勢を示しています。 

 

●戦勝記念日で権力誇示図ったプーチン氏、孤立が浮き彫りになるばかり 5/11
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって、赤の広場で行われた今年の戦勝記念日のパレードは、歴史をかけた戦争を継続させるチャンスだった。だが結局は、地政学上の孤立を強調しただけだった。
集められた軍隊の前で演説したプーチン大統領は、ウクライナ侵攻と第2次世界大戦で払った犠牲を直接結び付けた。ロシアでは今なお「大祖国戦争」と呼ばれる戦争を生き延びた退役軍人に囲まれながら、大統領は自分こそが西側諸国の「グローバル主義のエリート集団」に包囲されたロシアを救う救世主で、庇護(ひご)者だと位置づけた。
「今日、文明社会は再び分岐点に立たされている」とプーチン氏は演説した。「またもや我が祖国に対して、真の戦いの火ぶたが切って落とされた」
ロシアには「東西いずれにも敵国はいない」としながらも、プーチン氏は闇の勢力がロシア政府に陰謀を企てているとほのめかした。
「欧米グローバル主義のエリート集団はいまだに例外論をぶち、人々を互いに反目させて社会を分断している。血なまぐさい紛争やクーデターを扇動し、憎悪やロシア嫌悪、好戦的ナショナリズムを植え付けている」「ウクライナ国民は、西側の支配者に操られた犯罪政権が引き起こしたクーデターの人質にされた。彼らの残忍で身勝手な計画の駒にされてしまった」(プーチン氏)
ここで説明しておいたほうがいいだろう。プーチン氏は以前から、ウクライナが正当な国家ではないという見方をしてきた――ウクライナ人とロシア人は「ひとつの民族」で、ウクライナ国家は人工国家だというのが同氏の意見だ。同氏の陰謀論的な世界観では、ウクライナをはじめとする国家は単なる属国で、米国政府が支配していることになる。もし世界的な秘密結社がウクライナ政府を裏で操っているのであれば、ウクライナにおけるロシアの「特別軍事作戦」も正当化される。
だが思い出してもらいたい。2014年、ウクライナの欧州連合(EU)加盟を支持する群衆がキーウ市内の独立広場に押し寄せ、親ロシア派の大統領を追放した暴動は紛れもなく民衆によるもので、米中央情報局(CIA)やジョージ・ソロス氏の差し金ではなかった。現在もロシア語を話すウクライナ人や、時にはロシア国籍を持つ人々さえも、ウクライナ側について戦い、命を落としている。
だが、こうした事実確認もプーチン氏には馬の耳に念仏だ。ロシアにとって、国を挙げて第2次世界大戦をしのぶことは国家宗教に限りなく近く、5月9日――1945年にロシアがナチス・ドイツに勝利した記念日――は最も聖なる日とされている。国内の群衆にとって戦勝記念日のパレードは、78年前に終わった戦争の退役軍人と現在ウクライナで行われている戦争の参加者との視覚的な類似性をもたらすものとなる。
国営メディアによると、9日に赤の広場で行われたパレードにはウクライナでのロシアの「特別軍事作戦」に参戦した兵士も500人以上が参加した。またプーチン氏も演説の中で、参戦者を大祖国戦争の勝利の末裔(まつえい)だと称えた。当然ながら、ウクライナ側はこうした歴史認識の刷り込みに反論している。
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は動画の中で、公式な戦勝記念日を5月9日から8日に変更する法案をウウクライナ議会「ベルホーブナ・ラーダ」に提出したと発言した。またロシアの攻撃を、ヒトラー時代のドイツになぞらえた。
「世界でもほとんどの国が、ナチスに対する大勝利の記念日は5月8日だ」「反ヒトラー連合が共同でもたらした勝利の悪用は決して認めない。連合国が関与せずとも勝利がもたらされたかのような嘘(うそ)を認めるわけにはいかない」(ゼレンスキー大統領)
プーチン氏が戦勝記念日のパレードを祝った同じ日、ゼレンスキー大統領は重要な来賓をキーウで出迎えた。欧州はウクライナに今後も支援を継続するという約束を引っ提げて訪れた、欧州委員会のウルスラ・フォンデアライエン委員長だ。
「ウクライナは我々欧州の価値観すべてを守るため、最前線に立っている。すなわち自由、民主主義、思想や言論の自由だ」「現代人が享受する欧州の理想のために、ウクライナは果敢に戦っている。ロシアではプーチン政権がこうした価値観を消滅させてしまった。そして今、ここウクライナでも壊しにかかっている。ウクライナが体現する成功、ウクライナが示す規範、ウクライナのEU加盟を恐れているからだ」(フォンデアライエン委員長)
ゼレンスキー大統領はフォンデアライエン委員長との共同記者会見でプーチン氏の戦勝記念日パレードに少々水を差し、金ばかりかかってなかなか進まないロシアの戦況についてふれた。
「(ロシア軍は)バフムートを占領できなかった」。苦戦を強いられ、広い範囲で損害を負った東部ウクライナの街についてゼレンスキー大統領はこう述べた。「ここはロシアが5月9日までに達成しようとしていた軍事作戦の最後の要衝だった。残念ながら、街はもう存在しない。すべてが完全に破壊されてしまった……だからロシアは勝利として提示できる何らかの情報を必要としている。どこかの街でも奪い取りたいところだが、それを果たせずにいる」
ロシアで毎年行われる戦勝記念日の祝典は、国威発揚も兼ねた大規模な公開行事になっている。今年のパレードではロシアの軍事力の一部が披露されたものの――S400防空システムや大陸間弾道ミサイル「ヤルス」など核兵器の一部が公開された――ロシア軍が誇る近代戦車の大行列の不在が際立っていた。
フォンデアライエン委員長のキーウ訪問で、プーチン氏が欧州や西側から孤立していることが浮き彫りになった。ロシアの戦勝記念日祝典の来賓席は、EUの制裁対象となっている大統領(ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ氏)、中央アジアの独裁者(タジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領)、産油国の世襲君主(トルクメニスタンのセルダル・ベルディムハメドフ大統領)の姿があった。
ウクライナの戦場では、壊滅状態のバフムートでロシア軍との攻防が続いており、赤の広場での堂々たる式典とはこれ以上ないほどの対照を成している。
そうした事実は、ロシアの民間軍事組織「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジン氏の発言からもひしひしと感じられた。同氏はソーシャルメディアで、ロシアの軍指導部を痛烈に非難した。
「現在彼ら(ウクライナ軍)は、アルチェモフスク(訳注:バフムートのロシア語での呼称)方面で陣形の側面を突破し、ザポリージャで軍を再編成している。反転攻勢が間もなく始まろうとしている」。同氏は9日、ソーシャルメディアで発言した。「反転攻勢はテレビ画面上ではなく、現場で行われるときっぱり明言している」
戦勝記念日は過去の世代のものだとプリゴジン氏は続けた。
「戦勝記念日で祝うのは祖父の代の勝利だ」と同氏。「我々はまだ1ミリも勝利を獲得していない」
●ロシア、欧州通常戦力条約破棄へ…プーチン氏が下院に法案提出  5/11
ロシアのプーチン大統領は10日、欧州の通常戦力の配備数に上限を設定する「欧州通常戦力(CFE)条約」の破棄を決め、下院に破棄の承認を求める法案を提出した。セルゲイ・リャプコフ外務次官を破棄手続きの担当者に任命する大統領令も出した。
CFE条約はロシアの前身であるソ連時代の1990年に北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構の加盟国が締結した。ただ、ロシアは2007年に一方的に履行を停止し15年には離脱を表明しており、既に形骸化している。
プーチン氏は9日の旧ソ連による対独戦勝記念日の式典での演説で、「我が祖国に新たな戦争が仕掛けられた」などと主張し、ウクライナ侵略を正当化しており、国内向けに強硬姿勢を打ち出したものとみられる。
●ロシア、欧州通常戦力条約破棄へ プーチン氏が法令に署名 5/11
ロシアのプーチン大統領は10日、欧州通常戦力(CFE)条約の破棄に向けた法令に署名した。
欧州通常戦力条約は、旧ソ連などで構成されたワルシャワ条約機構加盟国と北大西洋条約機構(NATO)加盟国が配備できる通常兵器の上限を定める軍縮合意。ロシアは2015年に同条約の履行を完全に停止すると表明していた。
プーチン大統領は署名した法令で、同条約の破棄を巡る議会での審議の政府代表にリャプコフ外務次官を任命した。
●CFE条約破棄へ ウクライナ巡りNATOに対抗―ロシア大統領 5/11
ロシアのプーチン大統領は10日、欧州通常戦力(CFE)条約を破棄する法案を下院に提出した。ロシアは既に、北大西洋条約機構(NATO)との対立を踏まえ2007年からCFE条約の履行を停止しており、条約は死文化していた。昨年2月からのウクライナ侵攻を巡り関係が悪化するNATO加盟国に対し、ロシアがさらなる強硬措置を取った形だ。
10日の大統領令によると、プーチン氏はCFE条約の破棄問題に関する上下両院の審議を担当する大統領代表にリャプコフ外務次官を任命した。
通常戦力ではNATOが優位に立ち、ロシアは核戦力が頼みの綱。プーチン氏は今年2月、米ロ間に唯一残る核軍縮の枠組み、新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止も表明している。
CFE条約は、戦車をはじめとする通常兵器の保有数を制限し、欧州の東西両陣営で均衡を図るために1990年に署名。しかし、冷戦終結に伴うワルシャワ条約機構の消滅やNATOの東方拡大といった情勢変化を受け、99年に修正する条約が締結された。
プーチン政権は14年にウクライナ南部クリミア半島を一方的に「併合」した後、15年にCFE条約に関する協議から離脱すると発表した。
●ロシア、旧ソ連「血の結束」誇示 孤立回避、プーチン氏が首脳招集 5/11
ロシアのプーチン大統領は、モスクワの「赤の広場」で9日に催された対ドイツ戦勝記念行事に、独立国家共同体(CIS)各国の首脳を急きょ招待した。
ロシアが隣国に牙をむいたウクライナ侵攻で旧ソ連圏に動揺が広がる中、第2次大戦で約2000万人の犠牲者を出した往年の大国の「血の結束」をアピールした。
航空機パレードや公式レセプションの中止が事前に報じられた今年の記念日。各国首脳の訪ロで雰囲気が変わり、ロシア国営テレビは朝食会を含む慌ただしい「戦勝外交」を放映した。
記念行事に当初から首脳が参加を予定していたのはキルギスのみ。報道を総合すると、プーチン氏は公式・非公式な電話会談で、CIS各国首脳に「招集」をかけたとみられる。侵攻に伴う対ロシア制裁や国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が重くのし掛かる中、自国民に孤立のイメージを持たれるのは避けたかったようだ。
プーチン氏は演説で「CIS各国首脳が集まったのは重要だ。(旧ソ連国民)全員が勝利に貢献した」と謝意を表明。アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの首脳は行事に付き添った。
中でも目立ったのは、全首脳が参加した中央アジア5カ国。ユーラシアの地政学上の要衝で、中国が巨大経済圏構想「一帯一路」の観点から熱い視線を送る。戦争に伴う旧ソ連圏の動揺は、ロシアと微妙な距離を生みかねず、勢力圏に引き留めるのはプーチン政権の優先課題と言える。
中国は今月18、19の両日、中央アジア5カ国と首脳会議を開催する。中ロは戦略的パートナーシップを深めるものの、中央アジアを巡って水面下で綱引きを演じている。米シンクタンクの戦争研究所は8日、「プーチン氏は軍事パレードを中央アジアへの影響力誇示に利用しようとしている」と指摘した。 
●ウクライナ高官「計画はまだ承認されていない」反転攻勢めぐり  5/11
ウクライナ政府で安全保障政策を担当する高官は、軍事侵攻を続けるロシアに対する反転攻勢について「計画はまだ承認されていない」と述べ、いくつかの選択肢を検討している段階だと明らかにしました。ウクライナ側としては、反転攻勢で確実に成果を得るためにも慎重に準備を進めているものとみられます。
ウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は9日、公共放送のインタビューに応じ、領土の奪還を目指して行うとする反転攻勢について「時期や方向性の最終決定はウクライナ軍の最高司令官である大統領の執務室で行われる」と述べ、最終的な決断は、ゼレンスキー大統領が下すと強調しました。
その上で「われわれの計画をすべて知っているものは誰もいない。なぜなら、計画はまだ承認されていないからだ」と述べ、いくつかの選択肢を検討している段階だと明らかにしました。
ウクライナ国内などでは、反転攻勢への期待が高まっていますが、ウクライナ政府と軍としては、確実に成果を得るためにも慎重に準備を進めているものとみられます。
反転攻勢をめぐってはレズニコフ国防相が先月末「全体としてわれわれの準備はできている」と述べるなど早ければ今月にも始まるという見方が出ています。
●習近平の「中国通貨覇権」が本格始動していた…! 5/11
ウクライナ戦争を契機に中国人民元による国際決済が大幅に増加している。
人民元決済が最も増えているのは、エネルギー大国ロシアとの間の貿易だが、サウジアラビア、ブラジル、アルゼンチンなどにも人民元決裁が広がり、中国が関与しない取引でも人民元決済が行われ始めている。
これに神経をとがらせているのは、基軸通貨ドルの地位を棄損されかねないアメリカだ。
新たな戦争の火種となりかねない人民元台頭の影響を見ていこう。
中国の「通貨覇権」
とはいえ、人民元決済の流れは大きくなっているが、国際貿易決済に占める人民元の存在はドルの足元に及ばない。国際銀行間通信協会(SWIFT)によれば、今年2月時点のドルのシェアは84%であるのに対し、人民元のシェアは前年の2倍以上になったものの、4.5%にとどまっている。
しかし、アメリカが神経をとがらせているのは、中国の「通貨覇権」を警戒しているからだ。
米大統領経済諮問委員会(CEA)のメンバーのジャレッド・バースタイン氏は米上院銀行委員会が4月18日に開いた公聴会で「中国が国際基軸通貨であるドルの弱体化を望んでいるという一定の証拠がある」と述べた。
「アメリカに代わって通貨覇権を握る」との野望を中国が抱いているのかもしれないが、足元のドル離れはアメリカ自身に問題があると言わざるを得ない。イエレン米財務長官は4月15日「アメリカの金融制裁の実施がドルの国際的覇権を弱体化させつつある」と述べたように、ロシアへの経済制裁が災いしている。
揺らぐアメリカの信頼
通貨は決済に使えることはもちろんだが、それ自体が財産的な価値を有する。
アメリカが冷戦終了後に「世界の警察官」になったことでドルの価値は飛躍的に高まり、アメリカと敵対する勢力も争ってドルを求めるようになった。
世界の外貨準備に占めるドルの割合は2001年に7割を超えたが、アメリカ政府がドルを制裁の手段として利用するようになったせいでその魅力が落ち、直近の比率は6割弱にまで低下した。
今回の制裁でロシア政府が保有するドル建ての外貨準備(約1000億ドル相当)を凍結したことから、ドルの財産的な価値は再び毀損した。「アメリカの意向に背けば手元のドル自体が無価値になる」との恐れから、ドル離れが加速しているというわけだ。
ドル離れは今後も進んでいくだろうし、また人民元は次の基軸通貨と噂されてもいる。とはいえ、人民元がドルに代わる存在になることは不可能だ。
決済通貨としての役割は大きくなったとしても、資本取引が自由化されていない人民元は中国政府の意向に大きく左右され、その価値はドルと比較にならないほど低いとの見方が一般的だ。
アメリカの国際社会の威信が落ちる中、基軸通貨ドルの価値を支えているのは、世界で最も大きく、かつ流動性に富んだ国内の金融市場だ。ドル離れが喧伝されているが、中央銀行も民間セクターもドル建て債券の保有を増やし続けている(4月26日付ロイター)。
しかし、アメリカの金融市場に暗い影が忍び寄っている。
世界を騒がせるアメリカの「財政の崖」
連邦政府の債務は、6月1日にも法定上限の31兆4000億ドルに達することが予測されているが、党派対立が激化している議会で上限の引き上げについての合意が得られる見通しが立っていない。下院は4月26日、マッカーシー議長が提案した債務上限引き上げと引き換えに大幅な歳出削減を求める法案を可決したが、バイデン政権がまったく受け入れられない内容だ。
上限が引き上げられなければ、「アメリカ政府がデフォルトに陥る」という前代未聞の事態となる。
アメリカが誇る金融市場が大混乱し、前述のバースタイン氏が懸念するようにドルの基軸通貨としての地位が大きく揺らぐことになる。混乱に乗じて中国が人民元の基軸通貨化を進める可能性も排除できないだろう。
通貨覇権が引き起こした「第2次世界大戦」
気になるのは「通貨覇権を巡る争いが世界戦争の引き金になった」という悲しい歴史の前例があることだ。
第2次世界大戦勃発直後の1940年、欧州での戦争を優位に進めていたドイツが「欧州共通通貨」構想を提唱すると、英ポンドに代わってドルの基軸通貨化を目論んでいたアメリカは「トンビに油揚げをさらわれる」と大慌てとなった。
ドイツとの対決姿勢が一気に高まり、アメリカの大戦参加の遠因になったと言われている。
通貨を巡る興亡が米中の決定的な対立を引き起こさないことを祈るばかりだ。
●ロシアは「量」で勝負、ウクライナは「質」で対抗=NATO高官 5/11
北大西洋条約機構(NATO)のロブ・バウアー軍事委員長は10日、ウクライナでの戦争について、時代遅れの装備で訓練不足だが人数の多いロシア軍と、西側の優れた武器を持ち良く訓練された相対的に小規模なウクライナ軍との戦いになるとの認識を示した。ブリュッセルのNATO本部で開かれた同盟各国の軍事責任者会議の後、記者団に語った。
バウアー氏は、ロシア軍が現在、第2次世界大戦後に設計された古いモデルであるT─54戦車を、かなりの数配備していることを指摘。
「しかし、問題は彼らがまだ、多くのT─54を持っているということだ」とした上で「ロシアは今後、あまり訓練されておらず、旧式の装備を持つ多数の兵士という『量』で勝負することになろう」と述べた。
一方、ウクライナ側は「西側の兵器システムと訓練を受け、『質』に重点を置くだろう。それが、今後数カ月間の大きな違いだ」とした。
バウアー氏によると、NATO加盟各国の軍事責任者は会議で、ウクライナに対する「揺るぎない支援」改めて表明。バウアー氏は「NATOが必要な限りウクライナを支援することは間違いない」と述べた。 
●軍事訓練のために予備役招集、大統領令に署名 プーチン氏 5/11
ロシアのプーチン大統領は10日、予備役の民間人を招集して軍事訓練を行うことを認める大統領令に署名した。ロシア政府のウェブサイトで公開された文書で明らかになった。
大統領令によれば、プーチン氏は、ロシア連邦の軍隊や国家親衛隊、治安機関、連邦保安庁などでの訓練のために、予備役の市民を2023年に招集することを命じた。
予備役のロシア人に対する軍事訓練は毎年行われている。
ロシア軍の予備役は、最大200万人の特別戦闘部隊の予備役と、さらに人数の多い適格者の予備役からなり、ショイグ国防相によれば推計2500万人規模。
数十万人を戦場に送り込もうとするロシアの動きは反発や抗議を生み、若い男性をはじめとする多くのロシア人が国外に脱出した。プーチン氏は4月、ロシアの徴兵制をより効率的、より近代的にする法令に署名した。この法令により、徴兵逃れがより難しくなった。
●ロシア、最大1万人の受刑者と戦闘契約か 英国防省「4月だけで」 5/11
英国防省は11日、ロシア国防省が今年4月だけでも国内で最大1万人の受刑者とウクライナでの戦闘に加わる契約を交わしたとの見方を示した。ロシアでは昨夏以来、民間軍事会社「ワグネル」が国内各地の刑務所から恩赦と引き換えに戦闘員を募り、激戦地に投入してきた。今年初めからは正規軍の兵力不足を補うため、国防省自らが同様の募集に乗りだしたとされる。
一方で、英国防省は、ワグネルはロシア国防省や軍との対立が原因で今年2月以降、刑務所での戦闘員募集を禁じられているとも指摘した。代わって国防省が受刑者の募集に力を入れるのは、国民の多くが警戒する正式な大量動員を避けながら兵力増強を図る政策の一環という。
ロシアのプーチン政権は昨秋、「部分的動員」の名目で30万人の予備兵の招集に踏み切ったが、動員を逃れようとする男性らが大量に国外に逃れる事態に発展した。戦闘地のロシア軍の死傷者はその後も増え続け、深刻な兵力不足が続いているとされる。
●ウクライナでの戦争、「私が大統領なら1日で終わらせる」 トランプ氏 5/11
トランプ前米大統領は10日、CNNが東部ニューハンプシャー州で開いた対話集会に参加し、ロシアによるウクライナ侵攻について、自身が大統領であれば戦争は起こらなかったとの認識を示した。
来場者の女性から米国によるウクライナへの軍事支援を支持するかどうか尋ねられた中で言及した。トランプ氏は、現在自身が大統領なら「1日で戦争を終わらせるだろう」と述べた。
その上でウクライナのゼレンスキー大統領やロシアのプーチン大統領と会談するだろうと付け加えた。
「彼らは共に、弱みと強みの両方を持っている。24時間以内に戦争は解決する。完全に終わるはずだ」(トランプ氏)
一方、ウクライナへの侵攻を踏まえてプーチン氏を戦争犯罪人と考えるかどうかについては明言せず、「後から議論すべき」問題だと述べた。
「彼を戦争犯罪人ということにすれば、現状を止めるための取引が非常に難しくなるだろう」「彼が戦争犯罪人となれば、人々は彼を捕まえ、処刑しようとする。その場合、彼は格段に激しく戦うだろう。そうしたことは後日話し合う問題だ」(トランプ氏)
その上でトランプ氏はプーチン氏について、「間違いを犯した」との認識も表明。ウクライナへの侵攻を示唆しつつ「彼の間違いは行動に踏み切ったことだ。私が大統領であれば決してそうすることはなかった」と指摘した。
●戦争の影響は温暖化対策にも 機能低下の北極評議会、高まる氷解リスク 5/11
北極評議会は30年近くにわたり、冷戦後の協力関係の成功例として知られてきた。ロシアや米国を含む加盟8カ国は、気候変動に関する研究や、生態系に注意を要するこの地域の社会開発で協力してきた。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、加盟国はロシアとの協力を中止。北極の海岸線の半分以上を支配するロシアと協力できない以上、北極評議会の存在意義は脅かされかねないとの懸念が専門家の間で高まっている。今月11日にはノルウェーがロシアから議長国を引き継ぐ予定だ。
北極評議会が機能不全に陥れば、この地域の環境と400万人の住民に悲惨な影響が及びかねない。海氷融解の影響を受ける上、ほぼ未開発の鉱物資源に対して非北極圏諸国が関心を抱いているからだ。
評議会はフィンランド、ノルウェー、アイスランド、スウェーデン、ロシア、デンマーク、カナダ、米国の北極圏8カ国で構成。過去には環境保護・保全に関する拘束力のある合意を生み出している。
評議会は、北極圏の先住民族が声を届けられる貴重な場でもある。安全保障問題は取り扱わない。
だが、ロシアとの協力関係が断たれたことで、130のプロジェクトのうち約3分の1が棚上げされ、新規プロジェクトは進められず、既存のプロジェクトは更新できていない。欧米とロシアの科学者が気候変動の研究成果を共有することはなくなり、捜索救助活動や原油流出事故についての協力も停止している。
アンガス・キング米上院議員は、ロイターに対し「北極評議会が様々な問題を解決する上で、この状況が深刻な足かせになるのではと心配している」と述べた。
地域分断も
北極圏は、世界の他の地域と比べて約4倍の速さで温暖化が進行している。
海氷が消え、北極の海は海運の他、石油、ガス、金、鉄鉱石、レアアースなど天然資源の開発に熱心な産業に開放されつつある。
ロシアと他の加盟国との不和により、こうした変化に有効な対応が採れる可能性は大幅に低くなった。
ハーバード・ケネディースクールの北極圏イニシアチブ共同ディレクターで、オバマ元米大統領の科学顧問だったジョン・ホールドレン氏は「ノルウェーが大きな課題を抱えている。ロシアを欠いた状態で、北極評議会の優れた活動を最大限守り抜くという課題だ」と述べた。
一方、ロシアは同国なしに活動は続けられないと主張する。同国のニコライ・コルチュノフ北極圏大使はロイターに、北極評議会は弱体化しており「北極問題に関する主要なプラットフォームであり続けることができる」という自信はないと語った。
さらに心配なのは、ロシアがこの地域の問題で独自の道を歩むばかりか、対抗する評議会を設立する可能性だ。
ロシアは最近、北極圏で非北極圏諸国との協力関係を拡大するための措置を講じている。ロシアと中国は4月24日、北極圏における両国の沿岸警備隊の協力関係を定めた覚書に署名した。
それに先立つ4月14日、ロシアは中国、インド、ブラジル、南アフリカのBRICS諸国をスバールバル諸島のロシア人居住地に招き、調査を実施した。同諸島はノルウェーの主権下にあるが、1920年の条約に基づき他国も産業活動を行える。
米ホワイトハウス北極圏運営委員会の執行ディレクター、デビッド・バルトン氏は「ロシアが北極圏以外の国、特に中国と関係を築こうとしており、これは懸念すべき事態だ」と述べた。
ロシアのコルチュノフ氏は、軍事的な意図を持たない限り、北極圏に非北極圏の国が来るのをロシア政府は歓迎すると説明。「われわれが純粋に平和的なパートナーシップ形態に専念している背景には、非北極圏諸国と科学・経済協力を築くことの必要性もある」と述べた。
ロシアとの関わり方
ノルウェーは、ロシアからの議長国の円滑な引き継ぎを「楽観視」していると言う。北極評議会を維持することが、全ての北極圏諸国の利益となるから、というのがその理由だ。
ノルウェーのペテルソン外務副大臣は、ロイターに対し「北極圏協力のための最も重要な国際フォーラムとして北極評議会を守り、存続させる必要がある」と述べた。
しかし、ノルウェー自体、ロシアとの関係が緊迫化している今、それは容易ではないだろう。ノルウェーは今年4月、ロシア外交官15人をスパイだとして追放した。ロシアはこれを否定。コルチュノフ氏は、この追放によって協力に必要な信頼が損なわれたと語った。
それでも、ノルウェーはロシアとの微妙なバランスを取る役目に適している、とアナリストは言う。ノルウェーは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、北極圏でロシアと国境を接している。
オスロのフリチョフ・ナンセン研究所で北極の統治・安全保障の上級研究員を務めるSvein Vigeland Rottem氏は「政治的に許されるようになった場合、ロシアを北極評議会に再び迎え入れるべくドアを開けておく可能性について、ノルウェーは最も率直に発言してきた」と述べた。
デンマークのAaja Chemnitz Larsen議員は「将来的にロシア抜きの北極評議会はあり得ない」と指摘。「いつか(ウクライナでの)戦争が終わり、違う時代が訪れた時に備えておく必要がある」と語った。

 

●プーチンはなぜウクライナに攻め続けるのか…どうしても「欲しいもの」とは 5/12
地政学の新たな入門書『戦争の地政学』が話題になっている。そもそも地政学とは何か? ロシアはなぜウクライナに侵攻したのか? 
地政学とはなにか
地政学とは読んで字のごとく、国に備わった地形が政治に大きな影響力をもつという考え方のことです。
ロシアによるウクライナ侵攻は、地政学への関心を大きく高めました。なぜロシアは国際的な非難を浴びてまで、ウクライナを領有したがるのか。地政学的な視点をもとにすると、それに一応の答えをもたらすことができます。簡単に述べてみましょう。
ロシアは本当に古い時代から(帝政ロシアの時代から)領土的野心をあらわにしてきました。かの地は広大な北極海に面していますから海には困らないように思えますが、気温が低いため、冬になると海が凍結してしまうのです。
日本に住んでいれば理解しやすい事象かもしれません。北海道の知床は冬になると海が凍り、流氷が見られるようになります。美しいので観光資源になっていますが、港をつくることはできません。凍ってしまえば船が入ることはできないからです。
ウクライナは黒海に面し、凍らない港を持っています。ロシアとしてはどうしても欲しい地です。
日清・日露の両戦争は朝鮮半島を舞台にしていますが、これもロシアの「凍らない港が欲しい」という考えと無縁ではありません。朝鮮半島を領有するということは、凍らない港を手にすることとイコールだからです。日本としてはそんなところにロシアに来られては困ります。日本本土を守るために朝鮮半島を支配下に置く必要があり、朝鮮半島を防衛するために満州が必要だったと見ることも可能でしょう。
半藤一利さんが「日本の戦争の要因はすべて『ロシアがおっかない』だ」(修辞は筆者)と言っていましたが、言い得て妙と思います。
地政学とはごく簡単に言えば上のような論を展開するものです。
「・・・本書の執筆にあたって、あらためて「地政学」という文字が題名に入っている、近年に公刊された書籍を数十冊買いあさって渉猟してみた。カラフルな挿絵が数多く挿入されていたり、漫画の登場人物が会話をする形式であったり、趣向が凝らされていて、楽しめた。地政学には、様々な引き出しがある。わかりやすい地図があって便利なもの、思い切った単純化を施して劇画化しているもの、詳細な国際情勢分析を施しているものなど、多様である。地政学の視点の魅力の一つは、地理的条件が国際情勢に影響を与えているという簡明なメッセージとともに、切り口の多様さでもあるだろう。その地政学が持つ懐の深さは、今後も維持されるべきだし、発展させていくべきだ。・・・(『戦争の地政学』より)」
だがちょっと待てよ。地政学ってそんな単純なもんじゃないぜ。本書の執筆動機はなによりそれだ。著者はそう語っています。
地政学はともすれば、世界を単純化してわかったつもりになりがちです。粗雑な見解や解釈も多く見られます。
しかし、地政学を扱うならば、ひとつの考えに固執することは類型的思考に至ることであり、まったく異なる価値観が存在することも知らねばなりません。本書は、戦前の日本やナチスドイツが、ひとつの地政学を信奉したために大きな失敗を招いたことを指摘しています。
地政学をその誕生からひもとき、深くまで入って論を展開する本書は、地政学を題材とした書籍の決定版と呼べるものです。
ふたつの地政学
『戦争の地政学』の冒頭、著者は次のように述べています。
「・・・地政学の視点が明らかにする国際紛争の構図は、どのようなものか。
本書はこの問いに取り組む。地政学の視点を用いて、国際政治情勢を見ていく。安全保障の分野に特に焦点をあてながら、地政学の視点が、どのような有用性を持っているのかも考える。そこで本書が特に重視するのは、異なる地政学の視点が映し出す世界観の違いである。・・・(『戦争の地政学』より)」
地政学には大きくわけて、「英米系地政学」と主としてドイツで発達した「大陸系地政学」、ふたつの潮流があります。これらは単なる学派の相違ではなく、その出発点から異なるまったく別の考え方です。ひとくちに「地政学」と言うと誤謬をふくむことが多いのは、まったく異なるふたつの考え方が存在し、それが国際紛争に発展することも多いからです。
戦中の日本が高らかに宣言した「大東亜共栄圏」という発想は、あきらかに大陸系地政学に基づくものです。しかし、日清・日露のふたつの戦争にからくも勝利することができたのは、日英同盟があったためでした。すなわち、そのころの日本は英米系地政学に近い考え方であったことがわかります(日英同盟は、英米系地政学の誕生に寄与しました)。
太平洋戦争/日中戦争の敗戦後、日本は米国に統治され、やがて強固な同盟関係を築くことになりますが、敗戦後の日本の再出発に英米系地政学が果たした役割はきわめて大きなものでした。すなわち、同じ国が、英米系→大陸系→英米系と変遷を遂げているわけです。本書はなぜその変遷があったのかを詳細に述べるとともに、近年大きな注目を集める中国の動向についても言及しています。
ウクライナ戦争も、ロシアの大陸系地政学を参照するならば、まったく別の視座を得ることができます。
「・・・プーチンが激怒したのは、アメリカが支援した民主化運動によってマイダン革命が起こったことだ。民主化支援は、アメリカ側から見ればロシアの勢力圏の切り崩しとは異なる事柄であっただろうが、他方において、プーチンにとっては、暗黙の合意に対する裏切り行為であった。そこでプーチンは、首都キーウがアメリカの勢力圏に入ったとみなし、代わりにクリミア併合と、東部地域の分離主義運動への軍事的加担を行ったのであった。・・・(『戦争の地政学』より)」
●ゼレンスキーが宣言した「反転攻勢」でウクライナがロシアに勝利する方法 5/12
ゼレンスキー大統領は4月30日、「重要な戦闘がまもなくはじまる」と述べ、大規模な反転攻勢が近いことを示唆した。来るべき反転攻勢は、今回の戦争の行方を決定づける重要なものになるだろう。
はたして、ウクライナ軍は、ロシア軍に勝つことができるのだろうか? 勝つことができるとしたら、どんな方法があるのだろうか? 
これまでの戦局を整理すると
まず、今日までの流れを簡単に振り返ってみよう。
プーチンは1月、ロシア軍のトップ、ゲラシモフ参謀総長を、ウクライナ特別軍事作戦の総司令官に任命した。ゲラシモフはロシアの「ハイブリッド戦略」を考案した世界的に有名な戦略家だ。
プーチンは、ゲラシモフに「3月中にルガンスク州、ドネツク州を完全制圧しろ」と命じた。そして、ロシア軍は2月半ば、大規模な攻勢を開始。当初、かなり優勢に戦いを行っていることが報じられていた。
NATOのストルテンベルグ事務総長は3月8日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトが、「今後数日中にロシア軍によって陥落する可能性がある」と語っていた。
しかし、ロシア軍は結局、バフムトを越えて次に進むことができなかった。バフムトのほとんどを支配しているが、完全制圧には至っていないのだ。
結局、ゲラシモフは、プーチンから与えられた「3月中にドネツク州、ルガンスク州を完全制圧する」というミッションを完遂できなかった。
なぜ、猛攻をつづけていたロシア軍の勢いは止まったのか? 原因は、「武器弾薬不足」だ。
〈 イギリス国防省は5日、ウクライナ侵攻を続けるロシアの予備役が、弾薬不足のために「シャベル」を使って「接近戦」を行っている可能性が高いとの見方を示した。英国防省の最新のアップデートによると、ロシアの予備役が2月下旬、「『銃器とシャベル』のみで武装して」ウクライナの陣地を攻撃するよう命じられたと述べたという 〉(BBC NEWS JAPAN 3月6日)
それで、プーチンは3月20日、モスクワで習近平と会談した際、「武器弾薬を送ってくれ」と哀願した。ところが、日本と欧米から経済制裁されたくない習近平は、これを拒否した。
この会談について、筆者は4月3日付の現代ビジネス記事『プーチンは「同志・習近平」に勝利の可能性を潰された…!? ウクライナの反転攻勢で「大きな戦い」第2幕がはじまろうとしている』で触れている。
「武器弾薬が不足していること」「習近平がプーチンの要求を拒否したこと」は、バフムトで戦うロシアの民間軍事会社ワグネルのトップ・プリゴジンの発言からもわかる。
プリゴジンは5月5日、激高した様子で、「ショイグ(国防相)!  ゲラシモフ(参謀総長)!  弾薬はどこにあるんだ? !」と叫ぶ動画を投稿している。以下の動画(ANNnewsCH)の1分頃からプリゴジンの発言を見ることができる。
プーチンが習近平に会った3月から現在に至るまで、武器弾薬不足は解消されていない。そのため、バフムト以外でロシア軍の動きは、事実上止まっている。そして、プリゴジンも、「弾薬を受け取れなければ撤退する」と、軍上層部を脅している状態なのだ。
ウクライナがロシアに勝利する方法
ロシア軍の動きが3月末、武器弾薬不足で鈍ってきた。一方、ウクライナには、西側からの武器が続々と届きはじめている。
〈 ウクライナのレズニコウ国防相は27日、英国の主力戦車や欧米諸国の装甲車の第1陣を受け取ったと明らかにした。レズニコウ氏はフェイスブックへの投稿で、空挺部隊の司令官らとともに、機甲部隊に新たに加わった兵器の試験を行う栄誉を得たと報告した。 レズニコウ氏によれば、英国から主力戦車「チャレンジャー」を受け取ったほか、米国からは装甲車の「ストライカー」と「クーガー」、ドイツからは歩兵戦闘車「マルダー」の供与を受けた。レズニコウ氏は各国からの支援の継続に謝意を示した。ドイツのショルツ首相は、主力戦車「レオパルト2」をウクライナに引き渡したことを明らかにした 〉(CNN.co.jp 3月28日)
そして、ゼレンスキーは4月30日、「重要な戦闘がまもなくはじまる」と宣言したのだ。
ウクライナ軍は、いつどこを攻めるのだろうか? これはトップシークレットなので、もちろん正確に知ることはできない。だが、「ウクライナがロシアに勝利するためには、何をしなければならないか」は、ある程度わかる。
ここでは、2014年から2017年まで米軍駐欧州軍司令官を務めたベン・ホッジス氏の見解を紹介する。同氏は4月19日、ドイツの国際放送ドイチェ・ヴェレ(DW)のインタビューに答え、ウクライナがとるべき戦略について語っていた。
まず、いつ反転攻勢は始まるのか? ホッジス氏は、「1〜2か月後」と答えた。つまり、5月半ばから6月半ばということだろう。
ウクライナ軍は、どこを攻めるのだろうか? ホッジス氏は、「クリミアが一番重要だ」としている。なぜか? ホッジス氏は、以下のように解説した。
〈 クリミアがロシアに占領されている間、ウクライナは安全にはならない。ロシアは、いつでもウクライナへの侵略を再開できるからだ。だから、停戦交渉の結果クリミアがロシアに留まれば、ロシアはとても有利でいることができる。セヴァストポリの黒海艦隊から、空爆も補給も行われている。安全保障の観点から、ウクライナはクリミアを奪還しなければならない。ウクライナの経済は、穀物の輸出で成り立っている。現状、ロシア黒海艦隊は、いつでもウクライナの穀物輸出を止めることができる。それで、ウクライナは、ロシアの許可がなければ穀物を輸出できない状態だ。だから、「クリミアなしでもウクライナは停戦を受け入れる」と考えるのは、おかしなことだ 〉
では、どうすれば、クリミアを奪還することができるのか? 重要なことは、「クリミアを孤立させること」だ。その為には、まずロシア本土とクリミアをつなぐ陸路を使えなくする必要がある。
ロシア本土とクリミアは、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州経由でつながっている。プーチンは昨年9月、この4州の併合を宣言し、陸路を確保した。だから、ウクライナ軍はまず、この陸路を分断するための戦いをする必要がある。
そして次に、クリミアの軍事施設を破壊して、使用不能にする。ホッジス氏はいう。
〈 クリミアを奪還するためには、まずクリミアを孤立させなければならない。その後、高精度の長距離砲を使う。セヴァストポリの軍港、クリミアのサキ空軍基地、ジャンコエ兵站センターやその他の軍事施設を破壊して、使用不能にする 〉
残る、クリミアとロシア本土のつながりは、「クリミア大橋」だけになる。クリミア大橋は、どうするのだろうか? 
〈 クリミア大橋は、脱出したいロシア人が逃げられるように、しばらく残されるだろう。しかし、最終的には、破壊される 〉
ロシア人、ロシア軍に逃げ道を残しておくのは、いいアイディアだろう。逃げ道のない「背水の陣」では、激しい抵抗にあうかもしれない。しかし逃げ道があれば、競って逃げ出す可能性が高くなる。
プーチンは本当に戦術核を使うのか?
2000年から2008年まで、つまりプーチンの1期目2期目、ロシアは年平均7%の経済成長をつづけていた。原油価格が上昇しつづけていたからだ。
1998年、1バレル10ドルだった原油価格は、2008年夏には140ドル台まで高騰していた。つまり、10年で価格は14倍化したのだ。
しかし、その後「シェール革命」による供給増で、原油価格は上がらなくなる。2014年3月のクリミア併合後の制裁も、追い打ちをかけた。そして、ロシア経済は、長期低迷するようになった。
ロシアの一人当たりGDPは2022年度、15443ドルで世界61位。10年前の2012年は、15287ドルで世界52位。10年で一人当たりGDPの額は、ほとんど変わらず、順位は9位も下がった。
23年つづくプーチンの治世で、彼は何を成し遂げたのだろうか? ほとんど何もないが、唯一ロシアで「歴史的偉業」と思われているのが「クリミア併合」だ。これは、ウクライナや国際社会にとっては「暴挙」だが、ロシアでは「天才戦略家プーチンがクリミアを無血で取り戻した」ことになっている。
もしウクライナがクリミアを奪還したら、プーチンには誇れるものが何もなくなってしまう。だから、クリミア奪還を阻止するために、彼は「戦術核の使用」を決断するのではないか? ホッジス氏は、その可能性を否定した。
〈 ロシアが核兵器を使う可能性は極めて少ないと思う。ロシアの核兵器が有効なのは、ロシアが核兵器を使っていない間だ。「ロシアは核兵器を使うかもしれない」と思い、私たちは自分自身を制限する。ロシアが、ベラルーシに戦術核を配備すると宣言した時、どれだけ多くの人が反応したか思い出してほしい 〉
それでもプーチンが核を使ったらどうなるのだろうか? 
〈 ロシアがウクライナに対し戦術核を使ったとしても、ウクライナは戦いつづけるだろう。ロシア軍のトップは、「われわれが戦術核を使っても、ウクライナは戦いつづける」ことを知っていると思う。バイデンは、「ロシアが核兵器を使ったらロシアにとって破滅的な結果になる」といった。習近平も、「核兵器を使わないよう」呼びかけた。インドも、「核兵器を使わないよう」呼びかけた。プーチンの側近たちも、プーチンは核兵器を使うことができないことを知っていると思う 〉
ホッジス氏の見立てが正しいことを、心から願う。
ここまでの、ホッジス氏の見解をまとめると、次のようになる。
・ウクライナ軍は、反転攻勢で、クリミア奪還を目指す可能性が高い。
・そのためにウクライナ軍は、ロシア本土とクリミアを結ぶ陸路を分断し、クリミア内の軍事施設を破壊、最後にクリミア大橋を破壊し、孤立させる。
・ウクライナ軍がクリミアを奪還しても、プーチンは、戦術核を使わない。
ホッジス氏は、「われわれが必要なものを供与すれば、ウクライナは年末までにこの戦争に勝利できる可能性がある」と語った。
反転攻勢でウクライナ軍が勝つのか、ロシア軍が勝つのか、現時点ではもちろんわからない。しかし、いずれにしても、来るべき反転攻勢が、この戦争の帰結を決める重要な戦いになるのは間違いない。
●米中高官 ウクライナや台湾情勢など協議 対話継続で一致  5/12
アメリカ本土の上空を飛行した中国の気球の問題などをめぐり、アメリカと中国の対立が深まる中、両国の高官が会談し、対話を継続していくことで一致しました。
バイデン政権の高官は会談後、閣僚などの訪問が数か月以内に実現するという見通しを示しました。
アメリカのホワイトハウスは安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官が、中国で外交を統括する王毅政治局委員とオーストリアの首都ウィーンで10日と11日、会談したと発表しました。
双方はロシアによるウクライナ侵攻や台湾情勢などについて協議し、両国の間で対話を継続していくことで一致したとしています。
バイデン政権の高官は記者団に対し会談は8時間以上に及んだと明らかにしたうえで「率直で実質的、建設的な議論だった」としています。
また、アメリカ本土の上空を飛行した中国の気球の問題を受けて延期となっていたブリンケン国務長官による中国訪問について、具体的な日程については話し合われていないとする一方、「数か月以内に両国の間で訪問が実現するだろう」と述べ、国務長官を含め閣僚などの訪問が実現する見通しを示しました。
アメリカと中国は気球の問題などをめぐり対立を深めていますが、アメリカはこれまで対話を重視する姿勢を強調していて、バイデン大統領も10日、習近平国家主席との電話会談について「進展はあった。うまくいくだろう」と述べています。
一方、中国としては、来週のG7広島サミットを前にアメリカと対話を継続する姿勢を示すことで対立の激化を避けるねらいがあるとみられます。 
●ロシア報道官「我々は戦争をしていない」発言に相次ぐ非難 5/12
「なぜロシアの行動がこれほど遅いのか疑問に思うかもしれない。ロシアは戦争をしていないからだ」
5月11日、ロシアの国営通信社「タス通信」によると、ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は、ボスニア・ヘルツェゴビナのテレビ「ATV」のインタビューにこう語った。
ロシアは戦争をしていない――。誰もが疑問符を浮かべざるを得ない、突拍子もない話に聞こえるが、ペスコフ報道官はインタビューで平然とこう続けている。
「我々は、戦争をしているわけではない。戦争をするのはまったく別のことだ。(戦争とは)インフラの完全な破壊であり、都市の完全な破壊だ。我々はそんなことはしていない。我々は(ウクライナの)インフラを維持しようと努めており、人命を守ろうとしている」
たしかに、冒頭のペスコフ報道官の発言のように、ロシアのウクライナ侵攻は、当初の目論見より大幅に遅延しているようだ。
「5月5日、ロシアの民間軍事会社・ワグネル創設者のプリゴジン氏は、ロシア国防省から供給を約束されている弾薬や武器の供給が遅れていることを理由に、5月10日にバフムートから撤退すると表明しました。その後、武器が供給されたことで撤退は撤回されたと見られますが、ちぐはぐな印象はぬぐえません」(ジャーナリスト)
たしかに4月8日、英国防省は、ロシアによるウクライナの電力供給網などのインフラ施設への大規模攻撃が、ほとんどなくなっていることを発表している。しかし、その理由について、「侵略が長期化し、ロシアのミサイルの在庫が尽きかけていること」が理由だと分析している。ものは言いようなのだ。
5月3日には、ウクライナ南部ヘルソン州のスーパーマーケットや駅などが攻撃を受け、23人が死亡。多くの人命が奪われているなか、一連のペスコフ報道官の発言を「共同通信」が紹介すると、日本国内でもネット上で非難が相次いだ。
《どうしたらこういう嘘をいえるのだろう? ロシアのウクライナ侵攻のどこに「人命尊重」があるのか》
《「人命尊重」で作戦の遅れなんてよく言える。無差別攻撃で電気、水道などインフラはもちろん図書館、駅、デパート、住宅・・・・を攻撃し、罪のない子供たち、多くの人々を殺害し、何が人命尊重なのか。》
《他国に侵攻し罪無き人々を大量虐殺しておきながら、人命尊重とは悪い冗談にもほどがありますよね、もう戦争する物資も人員も枯渇してるのでしょう》
5月9日、ロシアのプーチン大統領は戦勝記念日の演説で「本当の戦争が開始された」と語り、戦意を昂揚している。戦争を長引かせる“嘘”や“言い訳”は、もう聞きたくない。
●中国、特別代表をウクライナ・ロシアなど5か国に派遣 5/12
中国政府は12日、元駐ロシア大使の李輝氏を、ユーラシア担当の特別代表としてウクライナやロシア、欧州各国に派遣すると発表した。ロシアによる侵攻開始以降、ウクライナを訪れる政府関係者としては最高位に当たる。
中国外務省の汪文斌報道官は定例会見で、李氏が15日から、ウクライナ、ポーランド、フランス、ドイツ、ロシアを歴訪し、「ウクライナ危機の政治的解決について、全関係者との意思疎通を進める」と明らかにした。
汪報道官は李氏の訪問について、和平と交渉を促す中国側の意欲を示すものだと説明した。
先月には中国の習近平国家主席が、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談に臨んでいる。
李氏は、2009〜19年に駐ロシア大使を務めていた。退任し帰国する直前には、同国のウラジーミル・プーチン大統領から友好勲章を授与されていた。

 

●ウクライナ、バフムートで前進をあらためて主張 ロシアの否定受け 5/13
ウクライナ政府は12日、自軍が東部バフムートで前進し、領土を奪還していると明らかにした。バフムートをめぐる攻防戦はロシアがじわじわと前進しながらも数カ月にわたり膠着(こうちゃく)していただけに、ウクライナ軍の前進は情勢変化のきざしをうかがわせる。
ウクライナ政府によると、ウクライナ軍は1週間で2キロ前進した。ロシア側は、自軍を一つの地域に集結させたのだと説明している。
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は通信アプリ「テレグラム」への投稿で、ウクライナが拠点を一切失うことなく2キロ前進したのに対し、ロシア側は多数の兵を失ったと書いた。
ロシアの軍事ブロガーたちは、ウクライナ軍が複数の地域で前進したか、あるいは部隊を移動させていると書いている。
アメリカのシンクタンク、戦争研究所も11日、ウクライナはバフムートでおそらく2キロ前進したと分析している。
BBCが検証した5月11日投稿の動画では、ウクライナ軍の標章をつけた兵士たちが門の前でポーズをとっている。後方には、ウクライナ軍の標識のついた戦車が見える。撮影場所はバフムート工業大学の近くで、最近までロシアの雇い兵会社「ワグネル」が掌握していた地域だと特定された。
こうした数々の分析はバフムート情勢の変化のきざしをうかがわせるものの、ウクライナの全面的な反転攻勢が始まった明確な兆候はない。
その一方で、ロシア占領下の東部ルハンスク市では12日、2回の爆発が報告された。ソーシャルメディアに投稿された画像には、市内から黒煙が上る様子が映っている。画像はBBCが検証、確認した。爆発の原因は確認されていない。ルハンスクは戦闘の前線から約90キロ離れている。
この前日にはイギリス政府が、長距離巡航ミサイル「ストームシャドウ」をウクライナに提供したと明らかにしていた。製造元によると、「ストームシャドウ」の射程は250キロ以上。ウクライナはこれまでロシアの標的攻撃には、高機動ロケット砲システム「ハイマース」(射程80キロ)に頼っていた。
ただし、ルハンスクでロシアが任命した現地当局者は、12日に砲撃されたのはかつて企業2社が入っていたビル2棟で、使われたのはウクライナ製ミサイルだと思うと話している。
これに先立ちロシア国防省は、バフムート南部にいたロシア軍部隊が戦略的な理由から位置を変更したのだと説明していた。マロイリニウカ地区にいた部隊は「ベルヒウカ貯水池の方が防衛拠点として好ましい」として、移動したのだという。
しかし、「ワグネル」代表のエフゲニー・プリゴジン氏は、国防省が言っているのは部隊の移動や再編成などではなく、「残念ながら『逃走』だ」と非難した。
激しい攻防戦が長引くほどにバフムートの象徴的な重要性は増しているものの、戦術上の意味は多くの専門家に疑問視されている。
ウクライナの反転攻勢は
昨年2月のロシアによる侵攻開始から間もなく占領された南東部メリトポリでは、11日朝に大規模な爆発が報告されている。
原因は不明だが、ウクライナ軍は同日、ロシア軍の部隊や備品を計14回にわたり空爆したほか、ロシアのドローン9機を破壊したと発表。さらに、砲兵隊や弾薬庫、防空装備など数十の軍事拠点に対する攻撃を成功させたとしている。
ウクライナの反攻開始については、さまざまな見方が出ている。ウォロデミル・ゼレンスキー大統領は10日、BBCなど欧州の公共放送局に対して、時期尚早との見方を示し、「(手持ちの兵器でも)前進し成功できると思う」と説明。「しかし多くの人を失うことになる。それは受け入れられないと思う。だから待つ必要がある。まだもう少し時間が必要だ」と話し、西側諸国が提供を約束した武器の必要性を強調した。
他方で、複数の親ロシア派の戦争記者や軍事アナリストが、ウクライナ軍の戦車がハルキウの環状道路をロシアとの国境に向けて進むなど、反攻を開始していると指摘している。
匿名の米軍幹部はCNNに対して、ウクライナ軍が大規模な反攻に備え、敵の武器庫や司令部、装甲・砲兵システムなどを攻撃していると話した。
ウクライナ軍が昨年春に南部や南東部で大規模な反撃を展開した際には、その前触れとして戦場の「形」を作るため、ウクライナは空からの攻撃を繰り広げていた。
●南ア「ロシアへの武器供給承認せず」、米の非難に反論 5/13
南アフリカは12日、制裁対象のロシア船が昨年12月に南アフリカ・ケープタウン近郊の海軍基地で武器を積載したとする米国の非難に反論した。
米国のブリゲティ駐南アフリカ大使は11日、ロシアの船舶が昨年12月に南アフリカのサイモンズタウンの海軍基地で武器を載せたと確信していると述べ、南ア政府が公言するウクライナ紛争での中立性に合致しないことを示唆した。
南ア大統領府は11日、退役判事を中心にこの疑惑を調査すると発表。12日にはロシアへの武器輸送があったとされる時期に通常兵器規制委員会(NCACC)のトップだったグングベレ通信相が「702ラジオ」で「われわれはロシアへのいかなる武器も承認していない(中略)、制裁も承認もされていない」と語った。
南ア外務省はこの日、ブリゲティ大使を呼び、前日の発言について抗議。外務省は声明で「昨日の行動と発言に対して政府の強い不快感を表明した」とした。外務省によると、ブリゲティ大使は「一線を越えた」ことを認め、「南ア政府と国民に無条件で謝罪する」と述べたという。
この件に関して米国務省は現時点で反応していない。
これに先立ち、米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官はこの日の記者会見で、南アの武器提供疑惑について直接触れなかったものの、「米国は一貫して各国に対しロシアの戦争にいかなる支援も提供しないよう強く求めてきた。ロシアのプーチン大統領に罪のないウクライナの人々を殺すことを容易にさせてはならない」と改めて表明。問題の積み荷が南ア政府の承認を受けていない民間のものだったのかについてはコメントを避けた。
ブリゲティ氏は11日の記者向けのブリーフィングで「ロシアの貨物船『レディR』が2022年12月6─8日にサイモンズタウンに停泊し、武器と弾薬を積載してロシアに戻ったと確信している」と指摘。
リフィニティブの船舶データによると、「レディR」はサイモンズタウン出港後、北上してモザンビークに向かい、23年1月7日から11日までモザンビークのベイラ港に停泊。その後、紅海のポートスーダンに向かって航行し、2月16日にロシア南部クラスノダール地方にある黒海沿岸の主要港ノボロシースクに到着した。
米国は22年5月、ロシア政府のために武器を輸送しているとの疑いで「レディR」と関連の海運会社「トランスモルフロート」を制裁対象に加えている。
●ロシア、「核の威嚇」強める 使用に高いハードル 米の原爆投下を政治利用 5/13
ロシアはウクライナ侵攻が長期化する中、「核の威嚇」を続けている。
クリミア半島など占領地を死守し、西側諸国のさらなる介入を阻止するための最後の手段として、核兵器を使う可能性を排除していない。被爆地・広島で開幕する先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、広く国際社会を巻き込んで「核兵器使用は決して認められず、極めて高い代償を伴う」という強力なメッセージを発することができるかが焦点になる。
「国家存立の危機」。ロシアが核を使用できるとする基準は、曖昧さをまとう。2014年に併合したクリミア半島支配は「レッドライン(譲れない一線)」であり、ウクライナの奪還作戦が核攻撃を誘発しかねないとの見方は根強い。
取り沙汰されているのは、戦術核兵器を限定的に使ってあえて緊張を高め、相手に停戦などを強いる「エスカレーション抑止」という理論だ。プーチン政権は侵攻開始当初から核の威嚇を強化。使用が現実味を帯びた。
だが、実際に核攻撃に踏み切れば、厳しい制裁を科されて国際社会から孤立するのは必至で、当のロシアへの悪影響は計り知れない。思い通りの効果を得られるかも不明で、ハードルの高い「使えない兵器」という側面が浮き彫りになっている。ロシアに一定の距離を置く中国が支持せず、見切りを付けるのではないかとみるロシア人専門家もいるほどだ。
ゼレンスキー政権はひるむどころか、大規模な反転攻勢を予告。苦慮するロシアは、戦勝記念日を控えた3日、「ウクライナのドローンによるプーチン大統領暗殺未遂」があったと主張した。高官は「テロリストを抑止・破壊できる兵器の使用を要求する」と述べ、核のハードルを下げる情報戦に出た。
プーチン政権はたびたび米国による広島と長崎への原爆投下に言及。米国への非難に「政治利用」し、被爆者の核廃絶に向けた思いを無視してきた。メドベージェフ前大統領は1月、ロシアがウクライナで核を使用するシナリオに警鐘を鳴らす日米首脳共同声明に反発。「(岸田文雄首相は)切腹するしかない」とSNSに記した。
ロシアは核拡散の動きも見せている。プーチン氏は3月、同盟国ベラルーシに戦術核兵器を配備すると表明。7月1日までに核貯蔵施設が完成予定だ。「核拡散防止条約(NPT)に違反する」(ウクライナ高官)と懸念が出ている。一方、最近では中国へのロシアの高濃縮ウラン提供が報じられ、核戦力の増強につながるのではないかと警戒されている。 
●ロシア・南ア首脳が電話会談、プーチン氏「外交路線拒否せず」 5/13
ロシアのプーチン大統領は12日、南アのラマポーザ大統領と電話会談を行い、ロシアはウクライナの紛争を解決するための「外交路線」を拒否したことはないと伝えた。ロシア大統領府が発表した。
ロシア大統領府によると、プーチン氏はウクライナ和平協議にアフリカ諸国も参加するとのラマポーザ大統領の提案に支持を表明。このほか、ロシア産の穀物と肥料をアフリカ諸国に無償で提供すると改めて提案した。
●プーチン演説から読み解く ロシアの苦境と財政悪化 5/13
プロローグ / 歳歳年年軍不同
旧ソ連邦諸国にとり、毎年5月9日は1年で最大の「祝日」(お祭り)になります。この日、ドイツ軍がソ連軍に降伏したからです。
しかし、欧州では「終戦記念日」は5月8日です。なぜでしょうか? 
昨年2月24日のウクライナ侵攻開始後のウラル原油下落により、ロシア(露)の国家予算赤字幅は今後さらに拡大し、戦費問題はますます表面化・深刻化するでしょう。
ロシアのV.プーチン大統領(70歳)にとり、油価下落は大いなる誤算でした。ウクライナ侵攻電撃作戦は2〜3日で収束する予定でしたが、泥沼化・長期化は想定外でした。
ウクライナ戦争は誤算の連続であり、今ロシアで一番困惑しているのは、実はプーチン大統領その人ではないかと筆者は想像する次第です。
筆者は毎年、モスクワ「赤の広場」で挙行される軍事パレードの実況中継をTVで観察し、V.プーチン大統領の一挙手一投足に注目してきました。
今年も観ましたので、本稿では「赤の広場」における軍事パレードの印象と、発表されたプーチン大統領演説を総括してみたいと思います。
もちろん、筆者の個人的感想にすぎない点を明記しておきます。
最初に結論を書きます。
モスクワ「赤の広場」にて5月9日に挙行された今年の軍事パレードは、結果として過去最悪の軍事パレードになったと判断します。
ロシア国民もこのパレードを観て、ロシアの行く末を案じていることでしょう。
ロシア経済は油価(ウラル原油)依存型経済構造です。その油価は現在下落傾向にあり、油価低迷と戦費拡大によりロシア財政は破綻の危機に瀕しています。
ロシア財務省は5月10日、今年1〜4月度のロシア財政収支を発表。今年の国家予算案は2.92兆ルーブル(約5兆円)の赤字予算ですが、1〜4月で既に3.42兆ルーブルの赤字となりました。
このまま油価(ウラル原油)低迷と戦費拡大が続けは、今年は10兆ルーブル以上の財政赤字となるでしょう。
「赤の広場」の軍事パレードで流れる軍歌と「カチューシャ」(戦時歌謡曲)は毎年同じです。
しかし、今年の軍事パレードで軍楽隊が奏でる音楽はロシア軍の「軍隊行進曲」ではなく、ロシアの「葬送行進曲」に聞こえました。
唐の詩人劉希夷の「代悲白頭翁」(白頭を悲しむ翁に代わる)に、人口に膾炙する名句があります。
年年歳歳花相似 歳歳年年人不同(年々歳々花相似たり 歳々年々人同じからず)
この名句を拝借すれば、今年の「赤の広場」における軍事パレードには下記対句がよく似合います。
年年歳歳曲相似 歳歳年年軍不同(年々歳々曲相似たり 歳々年々軍同じからず)
第1部 / 「赤の広場」でのプーチン演説
最初に、今年5月9日にモスクワ「赤の広場」で挙行された軍事パレードにてプーチン大統領が演説した内容を訳出します(筆者仮訳)。
筆者は毎回、露TVの実況中継を自分のパソコンで観ながら、演説するプーチン大統領の一挙手一投足を観察してきました。
今年は露タス通信の実況中継を観ておりましたが、途中で画面がフリーズしたり音声が一部途切れたりする部分もあったので、演説後にロシア大統領府のサイトに接続して露語原文を取り込み精読しました。
大統領府にアップされているロシア語を直訳すると以下のようになります。急いで翻訳しましたのでお見苦しい点があるかもしれませんが、ご容赦ください。
(全文訳)
皆様(呼びかけ詳細略)
祖国を防衛し、その名を後世に残した我々の父親、祖父、曾祖父の名誉のために本日の式典を祝福いたします。あなた方の不滅の勇敢さと多大なる犠牲が人類をナチズムから救いました。
今日、文明は再び決定的な転換点に差し掛かっています。我らが祖国に対し、またもや本物の戦争が仕掛けられているのです。
しかし、我々は国際テロには断固として反撃しました。我々はドンバス住民を保護し、自国の安全を確保します。
我々にとりまたロシアにとり、非友好的国民や敵対する国民は西側にも東側にも存在しません。地球に住む圧倒的多数の人々と同様、我々は平和な自由な安定した未来を希求しているのです。
自分たちが優れているといういかなる優越感も有害であり、犯罪であり、死に至る病です。
一方、グローバリズムを標榜する西側エリートたちは相変わらず自分たちは例外であると見なし、人々を煽り、社会を分断し、血なまぐさい闘争や交渉を扇動し、憎悪とロシア嫌いと攻撃的ナショナリズムの種を撒き散らし、人間を人間たらしめんとする家族的、伝統的価値を破壊しているのです。
彼らは今後も独裁を続け、実際には搾取システムや暴力、圧力にほかならないのですが、国民に自分達の意思・権利・規則等を押し付けているのです。
西側エリートはどうやら、世界支配を目論むナチストがどのような結果をもたらしたのか忘れてしまったようです。誰が奇跡を起こしたのか忘れたのです。
これは、誰が故郷の大地のために立ち上がったのか、ヨーロッパの国民を解放すべく、ソ連軍の兵士が自分を犠牲にしたことを残念にも思わない完全悪です。
いくつかの国では、ソ連軍の兵士像を無残にも破壊し撤去しようとする動きもあります。彼らは代わりにナチズムの現代版カルトを創り出そうとしており、真の英雄の記憶を消し去ろうとしているのです。
平和のために戦ったソ連軍兵士の記憶を消し去ることは犯罪です。
彼ら欧米の目的は何ら目新しいものはありません。彼らはロシアの崩壊と消滅を画策しており、第2次世界大戦の結果を消し去り、世界の安全と国際法を破壊し、主権国家の発展中枢を窒息死させようとしているのです。
計り知れぬ野望や自分たちにはすべてが許されているという思い上がりは、結局悲劇で終わることになるでしょう。
今、ウクライナの国民が耐え忍んでいる悲劇の原因はまさにここにあるのです。
ウクライナ国民は国家クーデターと西側支配者の犯罪的体制の人質となったのです。
ロシアに住む我々にとり祖国防衛者の記憶は神聖なものであり、我々の心の中に生きています。
ナチズムに対する抵抗運動に参加した人々、連合国たる米軍や英軍、その他の国々の軍人は当然の報酬を受けるべきです。
日本の軍国主義と戦った中国将兵の功績にも敬意を表します。
全体主義に対する戦いの時代に培った連帯と協力は我々の何物にも代え難い遺産である、と私は確信しております。
信頼と揺るぎない安全、すべての国と国民が自由に発展する平等な可能性の原則に基づく、より公平な多極化の世界を目指す不退転の運動は今まさにその力を発揮しつつあります。
今ここモスクワにCIS(独立国家共同体)の指導者達が参集したことは大変重要なことです。我々の先達、共に戦い共に勝利したソ連邦の全国民がこの勝利に貢献したのです。
我々は先達の功績を忘れることはありません。
戦争の犠牲となった神聖な記憶、息子や娘たち、父母、祖父、夫、妻、兄弟姉妹、祖国の友人の前に我々は頭を垂れるものであります。
(黙祷)
皆様
我が祖国の運命にとり決定的な戦いは常に、祖国愛であり国民的であり、神聖なものになりました。我々は先達の尊厳ある労働や道徳の価値を知っています。
我々は、最前線で戦っている人、戦火の中で前線を守っている人、戦傷者を看護している人、この特別軍事作戦に従事しているすべての人たちを誇りに思います。
国家の安全、国家と国民の未来はあなた方の双肩に掛かっています。あなた方は戦う義務を立派に果たしており、祖国ロシアのために戦っています。
あなた方の銃後には家族が、子供が、友人が控えています。彼らはあなた方の帰りを待っています。あなた方は彼らの惜しむことのない愛を感じているはずです。
我々の英雄を支援すべく、国中が団結しています。我々全員があなた方を支援しており、あなた方の無事を祈っています。
皆様
今日、すべての家族は大祖国戦争従軍者の名誉を讃えており、故郷の英雄たちに思いを馳せ、軍人の記憶に花束を捧げています。
我々は今、この赤の広場に立っています。ユーリー・ドルガルーキー公やD.ドンスコイ公の像、抵抗者ミニナやパジャールスキーの像もあります。
ピヨートル大帝やクツーゾフ将軍の勇士たち、1941年と1945年の軍事パレードを想起させるこのロシアの大地に立っているのです。
今日ここに、特別軍事作戦に従事している人たちが集まっています。
動員されたロシア国防軍の軍人、ルガンスクやドネツク州の民兵、義勇兵、国家親衛隊、内務省、連邦保安庁、非常事態省、その他特別任務を担当する省庁の人たちです。
皆様を歓迎します。祖国ロシアのために前線で戦っている人、軍務に就いているすべての人を歓迎します。
大祖国戦争の時代、我々の先達は我々の団結以上に強固なもの、強いもの、信頼あるものは存在しないことを証明してくれました。我々の祖国愛以上に力のあるものは存在しないのです。
祖国ロシア万歳、我らが栄えある国軍万歳、勝利万歳、ウラー! 
第2部 / 「赤の広場」 軍事パレード概観
   2-1 / 総括:
実況中継を観ていて驚いたのは、突然「日本軍国主義」がプーチン大統領の口から飛び出したことです。
日本の軍国主義と戦った中国将兵を賛美する内容でしたが、これはロシアの対中依存度が深化したことの証左と筆者は理解します。
換言すれば、そこまでプーチン大統領は追い込まれているとも言えます。
対日関係で言えば、日露関係は日暮れて途遠しではなく、日暮れて途消滅となりましょうか。
今年のプーチン大統領演説を一言で表現すれば言い訳と詭弁に満ちた内容であり、注目すべき内容は何もなく、筆者に言わせれ何を今更、道頓堀よとなります。
登場した戦車は「T34」1輌のみ。自走砲も登場せず、戦車も自走砲も多分ウクライナの最前線で活躍(? )していることでしょう。
プーチン大統領は冒頭、「今日、文明は決定的な転換点にある。我が祖国に対し、またもや本物の戦争が仕掛けられている」と述べています。
しかし、本物の侵略戦争を仕掛けたのは誰でしょうか? 
「彼ら欧米の目的は何ら目新しいものはない。彼らはロシアの崩壊と消滅を画策しており、第2次世界大戦の結果を消し去り、世界の安全と国際的権利を破壊し、主権国家の発展中枢を窒息死させようとしている」
主語と目的語を入れ替えるとその通りですね。
本稿では、「赤の広場」における軍事パレードの歴史と今年の軍事パレードをみた筆者の個人的感想を述べさせていただきたいと思います。
   2-2 / 「軍事パレード」の経緯:
最初の対独戦勝記念日は、ドイツが降伏した1945年の6月24日に実施されました。
2回目の対独戦勝記念日のパレードが開催されたのは1965年5月9日です。
この日、「勝利の旗」が赤の広場に登場しました(「勝利の旗」は1945年5月1日にドイツ国会議事堂の屋上に掲げられた赤旗)。
対独戦勝記念日はお祭りですから、従来は将兵や大戦参加者の行進が主体でした。
プーチン新大統領が2000年5月に誕生後、戦車や自走砲などの重火器が「赤の広場」の軍事パレードに登場したのは2008年のことです。
60周年記念日となる2005年5月9日には、独G.シュレーダー首相(当時)が参加。
65周年記念日となる2010年5月9日には、英・米・仏・ポーランドを含む計13か国の外国軍隊が「赤の広場」の行進に参加しました。
史上最大規模の対独戦勝記念軍事パレードは70周年記念日となる2015年5月9日でした。
この日は194輌の軍用車輛と軍用機140機が参加。軍用機参加数では空前絶後となりました。
ロシアの最新鋭戦車「T-14」が初めてテレビに登場したのもこの軍事パレードでした。
参考までに、直近4年間の軍事パレードの規模は以下の通りです。
ちなみに2020年の75周年軍事パレードは、第1回対独戦勝記念軍事パレードが1945年6月24日に挙行されたことに鑑み、6月24日に実施されました(下記数字は概算)。
2020年:将兵1万4000人/戦闘車輌200輌/軍用機75機(75周年に合わせ75機)
2021年:1万2000人/190輌/76機
2022年:1万1000人/130輌/悪天候のため、軍用機パレード中止
2023年:8000人/ 80輌/軍用機パレードなし
昨年の軍事パレードはウクライナ侵攻直後となり、外国からの賓客はゼロ。参加将兵1万1000人、軍用車約輛130輌、航空機パレードは悪天候のため中止となりました。
昨年5月9日のモスクワ「赤の広場」における対独戦勝77周年記念日の軍事パレードでは、プーチン大統領はウクライナ特別軍事作戦における「勝利宣言」するはずでした。
しかし「勝利宣言」も「戦争宣言」もなく、海外からの賓客は一人もおらず、結果としてロシアの孤立を浮き彫りにした軍事パレードになりました。
付言すれば、昨年の軍事パレードの注目点は、プーチン大統領が戦争宣言するかどうかでした。
プーチン大統領が対ウクライナに宣戦布告して一番迷惑を受けるのが、集団安全保障条約(CSTO/計6か国)に参加しているカザフスタンやベラルーシなどです。
軍事同盟ですから、ロシアが戦争宣言すれば、参戦しなければなりません。
しかし、意味も意義も大義もない戦争にカザフスタンやベラルーシが参戦するはずもなく、この場合、ロシア軍事同盟国の間に亀裂が入ったことでしょう。
昨年の軍事パレード終了後にプーチン大統領が無名戦士の墓を歩いている時、隣に寄り添う大統領府の若者が話題になりました。
あるロシア専門家が「大統領代行は大統領令で置くことができる。彼はプーチン大統領の後継者と目されている」と解説していましたが、この解説は間違いです。
大統領代行職は憲法第92条に規定されています。
現職大統領が辞任した場合や健康上の理由などで職務遂行が一時的に不可能になった場合、大統領は大統領代行を置くことができます。
しかしその場合、「大統領代行は首相」とロシア憲法に明記されています。
プーチン氏は1999年8月に首相就任。同年12月31日のエリツィン大統領辞任表明により大統領代行に就任し、2000年3月の繰上げ大統領選挙で当選。これはロシア憲法の規定通りの動きです。
マスコミでは時々、N.パートルシェフ安保会議書記を大統領代行に指名するかもしれないとの話が浮上しますが、これも憲法違反です。
ただし、プーチン大統領がロシア憲法を順守するのか・しないのかは別問題です。
戒厳令を敷けば露連邦法は効力を失い、実質大統領令で何でも可能になります。
   2-3 / 今年の「軍事パレード」:
モスクワ時間5月9日午前10時(日本時間午後4時)に始まり、10時47分に終了。
終了後、プーチン大統領は「赤の広場」から退出。歩いて隣の「無名戦士の墓」に移動、11時に到着して献花。11時5分に解散となりました。
5月8日までは、参加予定の外国要人はキルギスのジャパロフ大統領1人でした。
しかしプーチン大統領はさすがにこれではマズイと思ったのか、急遽K.トカエフ大統領(カザフ)/A.ルカシェンコ大統領(ベラルーシ)/S.ベルディムハメドフ大統領(トルクメン)/S.ミルジョエフ大統領(ウズベク)/E.ラフモン大統領(タジク)/N.パシニャン首相も(無理やり)呼びつけました。
タジクのラフモン大統領に至ってはいったん断っていましたが、強制連行された感じです。
モスクワ時間午前10時に始まり、10時7分にショイグー国防相とサリュコフ地上軍総司令官がプーチン大統領に軍事パレード準備完了を報告。
約10分間のプーチン大統領演説後、10時24分に礼砲と国家演奏。27分に軍楽隊が場所を移動して、軍事パレードが始まりました。
10時33分に「カチューシャ」の演奏が始まり、女性士官が行進。将兵による行進は10時41分に終了して愈々「T-34」戦車の登場となりましたが、今年はなんと戦車1輌でした。
付言すれば、「カチューシャ」は日本ではロシア民謡として親しまれてきましたが、実は「戦時歌謡曲」です。
日本で親しまれている「ポールシュカ・ポーレ」に至っては立派な赤軍軍歌であり、赤軍騎馬隊が敵陣営に突撃していく歌です。
その後、各種軍用車、地対空ミサイル「S-400」(4輌)の後、3輌の大陸間弾道ミサイル「ヤルス」が登場して、10時47分に軍用車輛のパレードが終了。
プーチン大統領は「赤の広場」から退場して、「無名戦士の墓」に歩いて移動。
毎年この軍事パレードを観ている筆者にとっては、あまりにもあっけなく終わった感じです。
将兵の行進も揃っておらず、事前の練習不足が否めませんでした。
   2-4 / 欧州とロシアではなぜ「戦勝記念日」が異なるのか? :
ではここで少し脱線します。
欧州の終戦記念日は5月8日、旧ソ連邦諸国の対独戦勝記念日は5月9日です。なぜでしょうか? 
実は、答は簡単です。
欧州戦線は東部戦線と西部戦線の2つの戦線があり、西部戦線では5月7日に停戦協定が締結され戦闘行為終結し、8日夜11時発効。ゆえに、5月8日が終戦記念日になります。
一方、5月9日は旧ソ連邦諸国最大の祝日「対独戦勝記念日」です。
ドイツのA.ヒトラーは1945年4月20日、ベルリン総統官邸地下壕にて56歳の誕生日を迎えました。
同日、ソ連赤軍のジューコフ元帥率いるベルリン攻略軍はベルリン総攻撃開始。4月30日には、総統官邸100メートルにまで肉薄。
ヒトラーはその前日、「生きて虜囚の辱めを受けず」と宣言。地下壕にてエバ・ブラウンと挙式後、デーニッツ海軍総司令官を総統後継者に任命して翌日ピストル自殺。新婦も後を追って服毒自殺しました。
ゲッベルス後継首相は翌5月1日朝、ベルリン攻略軍との単独講和を試みるも、連合軍側から交渉当事者の資格なしとして相手にされず失敗、家族一同服毒自殺。
翌2日、ベルリン防衛軍バイドリング中将はベルリン攻略第8親衛軍チャイコフ大将と休戦協定を締結、ベルリンにおける戦闘は終了しました。
すなわち、ベルリン陥落は5月2日です。
5月7日にはドイツ国防軍総司令部統制局長ヨードル元帥は仏ランス村に出向き、連合軍総司令官米アイゼンハワー元帥に降伏を申し入れ、降伏文書に調印。降伏文書は現地時間5月8日午後11時発効。
これが、西部戦線(西欧)において5月8日が戦争終結記念日となるゆえんです。
一方、ドイツ国防軍と赤軍との降伏交渉は赤軍総司令官ジューコフ元帥と独カイテル元帥の間でベルリンにて行われましたが、交渉は長引き、降伏文書に調印したのは5月8日深夜となりました。
この時モスクワでは時差の関係で既に9日未明に入っており、これが東部戦線においては5月9日が対独戦勝記念日となるゆえんです。
ちなみに、独デーニッツ元帥と英モントゴメリー元帥の間では、それ以前に北ドイツにおける休戦協定が成立。
バルト海の制空権と制海権が空き、東部に入植した数十万のドイツ人がケーニッヒスベルク(現カリーニングラード)から無事ドイツ本国に帰還しています。
上記の流れは、日本が1945年8月14日に受諾したポツダム宣言をソ連(軍)がどのように理解していたかという問題にも繋がります。
   2-5 / 軍事パレード後のロシアの重要記念日:
5月9日の軍事パレードに続くロシアの重要記念日は、来る6月12日の通称「ロシア独立記念日」、正式には「ロシア国家主権宣言記念日」になります。
1990年3月に創設されたロシア共和国人民代議員大会は同年6月12日の第1回総会にて、ロシア国家主権宣言を採択。
この「国家主権宣言の日」を「ソ連邦からロシア共和国(当時)が独立宣言した日」と解説する人が多いのですが、それは間違いです。
1990年当時、M.ゴルバチョフ・ソ連邦初代大統領とB.エリツィン・ロシア共和国最高会議議長という大物政治家2人の個人的確執があり、モスクワは二重権力状態でした。
エリツィンはソ連邦共産党政治局員候補まで登りつめた共産党の大物幹部ですが、ゴルバチョフ書記長により1987年11月に解任されました。
しかし1989年3月の露共和国人民代議員選挙で当選。1990年5月には露共和国最高会議議長に選出されました。
一方、ゴルバチョフ書記長は1990年3月、ソ連共産党の指導的役割を規定した憲法第6条を廃止。
複数政党制と大統領制を導入する憲法改正案(通称「ゴルバチョフ憲法」)を採択、ソ連邦初代(そして最後の)大統領に選出されました。
その後、エリツィン最高会議議長は90年6月12日、ロシア共和国人民代議員大会にて、「ソ連邦構成員としてのロシア共和国の主権を宣言する」という主権宣言を採択しました。
すなわち、主権宣言はロシア共和国の主権を確認しただけで、ソ連邦からの独立宣言ではありません(この点、誤解している人が結構います)。
第3部 / ウクライナ戦況、ロシア軍の被害状況と戦争の帰趨 (2023年5月11日現在)
ロシア軍が2022年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから本日5月11日でプーチンのウクライナ侵略戦争は442日目となり、1年と3か月目に入りました。
開戦後2〜3日でキエフ(キーウ)は陥落。ゼレンスキー大統領は国外逃亡か拘束され、親露派ヤヌコービッチ元大統領の傀儡政権を樹立する予定でしたから、戦争長期化・膠着状態はプーチン大統領にとり誤算の連続となりました。
プーチン大統領は今年2月21日の大統領年次教書の中で、「NATO(北大西洋条約機構)との戦い」と「祖国防衛」を繰り返し強調しましたが、この戦争の戦場はウクライナであり、ロシアではありません。
この戦争はロシアの侵略戦争です。
ロシアの祖国防衛戦争ではなく、ウクライナの祖国防衛戦争です。
皮肉な話ですが、今のゼレンスキー大統領は1941年6月のスターリン首相を想起させます。
側近からの忠告にもかかわらず、ドイツ軍のソ連侵攻はあり得ないと固く信じていたスターリンにとり、1941年6月22日のバルバロッサ(赤髭)作戦発動は文字通り「青天の霹靂」でした。
ゼレンスキー大統領も、米国からのロシア軍事侵攻可能性大との情報にもかかわらず、ロシア軍のウクライナ侵攻は「青天の霹靂」となりました。
注目すべきは侵攻後です。
スターリンはモスクワに踏みとどまり、赤軍の陣頭指揮を執りました。
ゼレンスキー大統領は、ロシア側が「ゼレンスキーは国外逃亡した」と偽情報を流す中、キーウに踏みとどまり、キーウから毎日情報を発信しました。
中国の習近平国家主席(69歳)は2023年3月20日訪露、プーチン大統領と中露首脳会談を開催。プーチン大統領は中国側から全面的軍事支援を期待していました。
筆者は従来、「中国が本格的対露軍事支援を開始すればウクライナ版第2次朝鮮戦争になるので、このシナリオはあり得ない」と主張してきましたが、習近平主席は言質を与えず、筆者の予想通りの展開となりました。
共同声明には「平和のための交渉促進」が謳われたのみです。ゆえにプーチン大統領は3月25日、態々「中露同盟は軍事同盟ではない」と釈明せざるを得ませんでした。
この点、プーチン大統領にとっては大きな失望であったと推測します。
一方、露北極圏ヤマル半島からモンゴル経由中国向け天然ガスパイプライン「シベリアの力(2)」建設構想も協議され、交渉促進で両首脳合意。ただし中国側に急ぐ動機はなく、動機はロシア側にあります。
露ガスプロムは金城湯池の欧州ガス市場を喪失したので、代替市場創設が喫緊の課題となりました。
習近平国家主席は3月20日の非公式会談の冒頭、プーチン大統領に対し「来年の露大統領選挙で当選を確信しています」と発言。
中国の悪夢はロシアに親欧米政権が成立することですから、弱いプーチン大統領が政権の座にしがみつくことは中国の国益に適います。
もう一つニュアンスがあります。
欧州が対ウ支援において決して一枚岩ではないのと同様、中露も一枚岩ではありません。隣国は最大の敵性国家です。
旧ソ連邦は中国と約7000キロ、現在のロシア連邦は約4200キロの対中国境線を有しているので、中国にとり米国に次ぐ敵性国家はロシアになります。
ロシアがほどほどに負けて、対中依存度が増す形(=露の資源植民地化)で停戦・終戦の方向に収束していくことは中国の国益に適います。
換言すれば、プーチン大統領が居残り、ロシアがほどほどに負けることは中国にとり「一石二鳥」となります。
ここで、ウクライナ戦況を概観します。
5月11日朝のウクライナ参謀本部発表によれば、ロシア軍が全面侵攻した昨年2月24日から今年5月11日朝までのロシア軍累計損害は以下の通りです。
破壊されたロシア軍兵器の在庫が減少していることは確かですが、新規に生産、あるいは修理している兵器もあるはずです。
故に、あくまでも一つの参考情報(目安)として記載する次第です。
もちろん、ウクライナ大本営発表ですからこのまま上記の露軍戦死者数を信じることは危険ですが、それにしても信じられないようなロシア軍の被害です。
他方、ロシア軍の自軍被害に関する大本営発表は2022年3月25日に発表したロシア軍戦死者「1351人」が最初です。
その後、ショイグー国防相は同年9月21日に「ロシア軍戦死者は5937人」と発表しましたが、以後戦死者に関する公式発表はありません。
この戦死者数自体、もちろん大本営発表の偽情報ですが、ここで留意すべきは「ロシア軍戦死者」とはロシア軍正規兵の将兵が対象であり、かつ遺体が戻ってきた数字しか入っていないことです。
ロシア軍の遺族年金支払対象者はこの「戦死者」のみで、「行方不明者」は対象外です。
付言すれば、ウクライナ東部2州の親露派民兵集団、チェチェンのカディロフ私兵集団や民間軍事会社ワーグナーなどの傭兵部隊等の戦死者は、ロシア軍の戦死者に算入されておりません。
一方、ウクライナ軍は今春反攻開始予定と言われてきましたが、米州兵によるウクライナ関連軍事機密情報漏洩事件などにより、戦略・戦術の変更を余儀なくされた模様です。
ただし、欧米が約束した新規武器供与は順次始まり、米防空システム「パトリオット」、最新鋭「レオパルト2」型戦車や歩兵戦闘車、自走砲等も戦場に投入開始。
ポーランドからは「MIG29」戦闘機も供与され、ウクライナ軍の反転攻勢準備も徐々に整い始めた感じです。
プーチン新ロシア大統領が2000年5月に誕生した時、彼のスローガンは強いロシアの実現と法の独裁でした。
油価上昇を享受したプーチン大統領ですが、ウクライナ侵攻の結果としてウラル原油の油価は下落開始。
油価下落によりロシアは弱いロシアの実現と大統領個人独裁の道を歩んでおり、結果としてプーチン大統領は自らロシアの国益を毀損していることになります。
第4部 / 2油種(北海ブレント・露ウラル原油)週次油価動静(2021年1月〜23年5月)
2021年1月から23年5月までの2油種(北海ブレント・露ウラル原油)週次油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より2022年2月末まで上昇基調でしたが、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル原油は下落開始。
ウラル原油以外は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレンド原油で、中質・サワー原油です。
日本が輸入していたロシア産原油3種類(「S-1」ソーコル原油/「S-2」サハリン・ブレンド/ESPO原油)はすべて軽質・スウィート原油にて、日本はウラル原油を輸入していません。
ちなみに、2022年6月〜2023年3月度のロシア産原油輸入はゼロでした(例外:2023年1月度S-2サハリン・ブレンドを少量輸入)。
露ウラル原油の5月1〜5日週次平均油価は$49.92/bbl(前週比▲$4.55/黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)、北海ブレント$74.62(同▲$6.78/スポット価格)となり、ブレントとウラル原油の大幅な値差は続いています。
この超安値のウラル原油を輸入し、自国で精製して石油製品(軽油や重油)を国際価格で輸出して、“濡れ手に粟”の状態がインドと中国です。
付言すれば、露ウラル原油の油価は、欧米が上限設定し昨年12月5日に発効したFOB価格$60を超えていません。
一方、中国が輸入しているロシア産原油は主にESPO原油であり、ウラル原油ではありません。
ESPO原油はシベリア産原油であり、主に原油パイプラインでロシアから中国に輸出しているので、$60条項は適用されません。
中国はウラル原油よりもバレル約20ドルも高い価格で原油を輸入しており、ロシアに補助金を払っているという奇妙な説も流れましたが、ESPO原油がウラル原油よりも$20高いだけなら、バナナの叩き売り原油になります。
近代戦は補給戦、継戦能力の原動力は経済力と資金力(戦費)です。
ロシア経済は油価(ウラル原油)に依存しており、油価下落は露経済を弱体化させます。
今後の油価動静はウクライナ戦争の帰趨に大きな影響を与えるので、筆者は今後の油価動静に注目している次第です。
第5部 / ロシア経済は油上の楼閣経済 国庫税収は油価次第
   5-1 / ロシア経済は油上の楼閣経済構造:
下記グラフをご覧ください。露経済と国庫税収は油価(ウラル原油)に依存していることが分かります。
ウラル原油の油価が国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価に依存しています。
ちなみに、石油・ガス税収の8割以上が地下資源採取税で、非石油・ガス税収の大半は付加価値税(消費税)と利潤税(利益税)です。
   5-2 / 露財務省/2023年1〜4月度国庫財政収支発表(2023年5月10日):
露財務省は5月10日、今年1〜4月度の露国家予算案遂行状況を発表。財政赤字は3.42兆ルーブルを超えました。
原油生産量が未発表になるなどの情報統制が厳しくなる中で、ロシアにとって芳しくない財政状況が依然として公表されていることは、ロシア研究者にとり一服の清涼剤になります。
下記で注目される点は、石油・ガス税収は前年同期比半減。非石油・ガス税収は増えていますが、増えているのは付加価値税(消費税)であり、利潤税(利益税)は約2割減少していることです。
これは企業収益、特に石油・ガス関連企業の財政状況が急激に悪化していることを示唆しています。
油価が下落すれば、露経済・財政を直撃。油価下落=露経済弱体化=戦費枯渇です。
これが、露ウラル原油の油価動静が注目されるゆえんです。 (単位:10億ルーブル)
エピローグ / ロシアの真の国益は? 
ロシア経済は油価依存型経済構造であり、GDPも国家財政も貿易収支もすべて油価次第です。
プーチン大統領は油価高騰を享受した大統領ですが、換言すれば、油価が下落すれば彼の権力基盤も弱体化することになります。
最近、ようやく日系マスコミでもロシア財政悪化問題が脚光を浴びるようになりましたが、財政悪化の根本原因がウラル原油の油価下落であることを理解している人はあまりいないようです。
ちなみに、ロシアの石油・ガス税収の8割以上が地下資源採取税、その他は石油・ガス輸出関税などです。
石油・ガス税収は2020年までは石油輸出収入の方がPL(パイプライン)ガス輸出税収より多かったのですが、2021年から逆転。
今では石油・ガス輸出関税の大半がPLガス輸出関税となり、PLガス輸出減少=石油・ガス関税収入減少になります(付言すれば、LNG輸出関税はゼロ)。
ロシア政府の赤字対策は石油・ガス産業に対する大増税であり既に導入されましたが、この財政悪化問題は今後ますます深刻化・先鋭化していくこと必至です。
今年の露国家予算案想定油価はバレル$70.1ですが、現在の油価は大幅に下回っています。
油価(ウラル原油)がこのままバレル$50前後で推移すれば、実施した大増税も焼け石に水となり、早晩ロシアの財政破綻は不可避となりましょう。
ロシアはウクライナ戦争の長期戦を覚悟しているようですが、長期戦の前に経済悪化と財政破綻危機(=戦費枯渇)が表面化すること必至にて、その結果「国破れて山河在り」の姿が透けて見えてきます。
ウクライナ戦争の長期化を予測する人は多いのですが、筆者はそうは思いません。
油価水準が低迷している中で、現在のような大規模な戦闘を継続する余裕はロシアにはありません(逆も真なり)。
油価低迷が継続すればロシアの戦費は枯渇して、今年中に停戦・休戦・終戦の帰趨が見えてくるものと筆者は予測しております。
英W.チャーチル曰く、「ロシアは謎の中の謎に包まれた謎の国である。しかしロシアを理解するカギが一つある。それはロシアの国益だ」
現在の局面におけるロシアの国益、それはロシア軍の早期撤退・停戦・終戦にほかならないと筆者は考えます。
●ロシア併合のウクライナ東部で大規模爆発、露側「ミサイル攻撃」主張… 5/13
タス通信などによると、ロシアが一方的に併合したウクライナ東部ルハンスク州の州都ルハンスク中心部で12日夕、複数回の大きな爆発が起きた。露側はSNSを通じて「ウクライナがミサイルで攻撃した」と主張した。ウクライナ側は関与を認めていない。
露側によると、プラスチック工場の事務所がある建物などに2発が着弾した。少なくとも子供6人が負傷したとしている。
米CNNは、ルハンスクは米国供与の高機動ロケット砲システム「HIMARS」の射程(約80キロ・メートル)圏外にあり、攻撃されるのは珍しいと伝えた。露側は、英国提供の巡航ミサイル「ストーム・シャドー」(射程250キロ・メートル超)や、HIMARSの可能性は低いとの見方を示している。
一方、タス通信によると、やはり併合下にある南部ザポリージャ州の主要都市メリトポリの変電施設でも12日夕、大規模な爆発が起き、一部で停電と断水が起きた。爆発に関与したとして複数の容疑者が拘束されたという。また、南部クリミアでは、露側が一方的に任命した「首長」が、露軍が12日に「敵の無人機」を撃墜したとSNSに投稿した。 
●ロシア、ICC裁判官を「指名手配」へ プーチン氏の逮捕状で 5/13
重大犯罪を担当するロシアの連邦捜査委員会は13日までに、国際刑事裁判所(ICC)が先にウクライナ侵攻に絡む戦争犯罪の容疑でプーチン大統領らに逮捕状を出した問題に触れ、この決定に積極的に関与したとするICCの裁判官ら4人をロシアの指名手配リストに近く含めるとの方針を明らかにした。
ロシア国営RIAノーボスチ通信が同委のアレクサンドル・バストルイキン委員長の発言として報じた。ロシア・サンクトペテルブルクで開かれた法律問題に関する国際フォーラムに出席し、述べたとした。
ICCは今年3月17日、ウクライナの子どもたちをロシア内へ違法に連れ去った戦争犯罪に加わった容疑でプーチン氏に逮捕状を発布。同国で子どもの権利問題を担当するリボワベロワ大統領全権代表にも同様の疑いで逮捕状を出していた。
ロシア連邦捜査委はICCの決定を受け、裁判官ら4人に対する刑事捜査を迅速に始めたとの対抗措置も明らかにしていた。ロシア大統領府は「法外かつ容認できない決定」とも反発していた。
ただ、ロシアはICCに加盟していない。プーチン氏が出廷しない欠席裁判はICCで原則的に認められておらず、開廷の可能性は逮捕状の対象者をロシアが引き渡したり、訪問先の海外で拘束されたりした場合に出てくる。
●FRB議長も、メルケル元首相も! 要人を次々に騙す「ロシアの2人組」 5/13
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がロシアのイタズラの「被害」に遭っていたことが判明したのは4月末のことだった。ロシア人コメディアンである「ボバンとレクサス」というコンビに騙されて、リモート会談に臨んでいる姿が公開された。
パウエル議長は2023年1月に、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の「声真似」をしたボバンとレクサス側と、15分以上、真面目に経済の話をした。アメリカの中央銀行にあたるFRBの議長がまんまといたずらに騙されたことで、リテラシーとセキュリティを懸念する声が上がった。
パウエルは、ロシア中央銀行のエリヴィラ・ナビウリナ総裁について、ロシアのウクライナ侵攻による西側諸国からの経済制裁の中で踏ん張っていると評したという。さらに、2023年はアメリカは景気低迷すると述べ、その理由はインフレ抑制のために利上げしたためだとも述べたという。
ちなみに筆者の取材に応じたウクライナの政府関係者は、「ボバンとレクサスは、ロシア情報機関であるFSB(ロシア連邦保安庁)とつながっている。そうでないと、これまでのように錚々たる面々にアクセスすることもできないだろう」と述べている。
そう、これまでにボバンとレクサスに騙された要人は多い。
エルトン・ジョンにはプーチンが謝罪する羽目に
2014年に活動を始めてから、当初はロシア人著名人にイタズラをしていたが、その後は外国要人を狙うようになった。
例えば、ボバンとレクサスは2015年に、ウラジーミル・プーチン大統領のフリをして英歌手のエルトン・ジョン氏を騙して、同性婚事情について話をした。この件では後に、プーチンがエルトンに実際に謝罪をしたと報じられている。
それ以外にも、2022年には、イギリスのベン・ウォレス国防相をウクライナのデニス・シュミハリ首相からの連絡であるかのように騙して、15分ほどウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟の是非について議論し、その様子を動画で公開している。
さらに過去には、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領もやられているし、最近では、ドイツのアンゲラ・メルケル元首相や欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁も騙して、その様子を動画で公開している。
ちなみに、ボバンとレスサス側は、ロシア政府やFSBとのつながりを否定しているという。
●独、4000億円の追加兵器供与 ウクライナ反転攻勢後押し 5/13
ドイツ政府は、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対して歩兵戦闘車などを含む27億ユーロ(約4000億円)規模の新たな軍事支援を決めた。欧米メディアが13日、一斉に伝えた。昨年2月の侵攻開始以来最大規模といい、近く見込まれるウクライナ軍の反転攻勢を後押しする。
追加供与するのは、歩兵戦闘車「マルダー」20両と対空防衛システム「IRIS―T」4基、旧式の主力戦車「レオパルト1」30両など。独誌シュピーゲルは数週間から数カ月以内にウクライナに送られる計画だと伝えた。
●ウクライナ軍バフムートで進撃 ロシア軍も事実上の後退を認める 5/13
激戦地のウクライナ東部ドネツク州バフムート周辺で、ロシアが重視する5月9日の対独戦勝記念日後にウクライナ軍が攻勢を強めている。ロシア国防省は、軍が北西郊外で後退したのに続き、占領下の近郊ソレダルが激しい攻撃を受けたことも明らかにした。ロシアでは「ウクライナの反転攻勢が始まった」とするSNSの投稿が一時拡散。同省は国内の動揺を抑えるのにも腐心している。
同省がソレダルへのウクライナ軍の攻撃があったのを明らかにしたのは12日午後。前日の11日、95キロの戦線に戦車40台、兵士約千人を動員した26回にわたる攻撃を受けたが、「撃退した」とした。
バフムートの北東約10キロの位置にあるソレダルは昨年2月の侵攻開始以降もウクライナ軍の支配下にあったが、今年1月にロシアの民間軍事会社「ワグネル」の部隊を中心にロシア軍が制圧。その後ワグネルはバフムート市内に進軍し、市内の9割以上と西部をのぞく周辺を支配し、ロシア軍にとって状況は安定しているとみられていた。
10日には、ウクライナ陸軍トップのシリスキー司令官がバフムート北西郊外の前線でロシア軍を「最大2キロ後退させた」と発表。ロシア国防省も11日、「より有利な条件の境界線を作った」と事実上後退を認めていた。

 

●ロシアの労働力不足 ウクライナ侵攻で悪化 5/14
ロシアによるウクライナ侵攻は、ウラジーミル・プーチン大統領の長年の懸案事項である少子高齢化を加速させた。侵攻により西側諸国から制裁を科され悪化した経済が、さらに停滞する可能性もある。
低出生率が何年も続き、労働力の減少に直面していたロシアにとって、ウクライナ侵攻は状況の悪化と、長期間にわたりその影響が残り得ることを意味する。
動員により、男性数十万人が労働市場から消えた。さらに、高学歴者の多くは国外に脱出した。
ロシア連邦統計局の元職員で人口統計学者のアレクセイ・ラクシャ氏はAFPに対し、ロシアは以前から労働力不足に陥っていたが、「動員と大量出国でさらに悪化した」と指摘した。
ロシアでは1990年代のソ連崩壊後、経済難や将来への不安などから出生率が半減し、今も回復していない。
プーチン大統領は少子化対策として、第2子以降を対象に一時金給付などを導入してきた。
新型コロナで打撃
ロシア当局はウクライナでの戦死者数について、昨年9月に国防省が5937人と発表して以降、更新していない。
西側は、ウクライナ、ロシア両国の死傷者はそれぞれ15万人に上ると推計している。
モスクワ国立大学のナタリア・ズバレビッチ氏は「軍事作戦による正確な死者数は分からないが、30万人が動員され、若い労働力がさらに減った」と指摘した。
さらに、新型コロナウイルスによって約40万人が死亡したと公式統計ではされているが、実際の死者数はこれを大幅に上回るとみられる。
労働力が減少していることを考えると、3.5%という失業率は良いとはいえない。人手がおらず、さまざまな業種で人材不足が起きていることを示している。
ロシア中央銀行が先月19日に公表した統計から、「急激な」人手不足が起きており、特に加工業や輸送業、水道業などで顕著であることが明らかになった。
人は戻ってくるか?
高等経済学院は先月、ロシアが人口減少を回避するには、21世紀末まで、毎年39万人から110万人の移民を受け入れる必要があるとの研究結果を発表した。
だが一部の業種では労働力を補えず、特にIT関係など高いレベルの教育を必要とする仕事では人材不足が続くという。
人口統計学者のラクシャ氏によると、侵攻後の昨年2月から3月にかけて、男性約10万人を含む15万人がロシアを離れた。9月の部分的動員発表を受け、さらに約50万人が出国したと推定されるという。
最近では、動員回避者に経済的な制限を課す法律が施行された。これにより出国者の外国永住がさらに後押しされる可能性もある。
だが、ズバレビッチ氏は出国者の60%以上がリモートでロシア企業の仕事を続けていると指摘。「一部は戻ってくる」との見方を示した。
●イタリア電撃訪問のゼレンスキー「今日はロシアのドローン17機撃ち落とした」 5/14
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は13日、ローマを予告なしで訪問し、イタリアのジョルジャ・メローニ首相と会談した。ゼレンスキー氏は会談後の記者会見で「今日は露軍のドローン17機を撃ち落とした」と述べ、米欧からの軍事支援継続の必要性を強調した。
メローニ氏は「ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)との関係強化を支援する。7月のNATO首脳会議の中心議題になるだろう」と応じた。
ゼレンスキー氏はバチカンで、ローマ教皇フランシスコとも会談した。教皇はプーチン露大統領と親しいロシア正教会トップのキリル総主教との会談を通じた和平仲介を模索している。
●ゼレンスキー大統領 ローマ教皇と会談 和平実現へ支援求める  5/14
ウクライナ軍は、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ東部の激戦地バフムトでの反撃の成果を強調しました。こうした中、ゼレンスキー大統領は、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇とバチカンで会談し、和平の実現に向けた支援を求めました。
ウクライナのマリャル国防次官は13日、東部の激戦地バフムトについて「近郊の2つの戦線で、われわれの軍は徐々に前進している。敵を撃破し、かなりの数を捕虜にした」とSNSに投稿し、反撃の成果を強調しました。
一方、ロシア国防省は、東部ルハンシク州の中心都市で、親ロシア派が事実上統治するルハンシクを12日、ウクライナ軍の戦闘機が攻撃したと発表しました。
攻撃には「イギリスがウクライナに供与した巡航ミサイル『ストームシャドー』が使われた」として、ウクライナへの軍事支援を強化するイギリスを非難しています。
さらに、ロシアの有力紙「コメルサント」によりますと、ウクライナと国境を接するロシア西部のブリャンスク州で13日、ロシア軍の戦闘機と戦闘爆撃機、それにヘリコプター2機のあわせて4機が墜落したということです。
「コメルサント」は複数の専門家の指摘として、敵に撃墜された可能性が高いと伝えています。
こうした中、ゼレンスキー大統領は13日、ロシアによる軍事侵攻が始まって以降初めて、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇とバチカンで会談し、和平の実現に向けた支援を求めました。
ローマ教皇庁によりますと、会談で双方は、ウクライナへの人道支援を継続する必要があるという認識で一致したということです。
また、ドイツ国防省は13日、ウクライナに対し新たに27億ユーロ、日本円でおよそ4000億円相当の軍事支援を行うと発表しました。
今回の支援には戦車30両のほか、歩兵戦闘車両や防空システムなどが含まれ、ドイツからウクライナへの軍事支援は倍増することになると、ドイツのメディアは伝えています。
●あのポーランドがなぜ?ウクライナ産農産物拒絶の裏側 5/14
4月に、ポーランドをはじめとする一部の欧州連合(EU)加盟諸国がウクライナ産農産物の輸入を禁止したことは、国際的に波紋を広げた。
2022年2月24日にプーチン・ロシアがウクライナ侵略を開始して以来、EUはウクライナと連帯し、手厚い支援を提供してきた。そのEUの中から、ウクライナの商品を拒絶する国が現れたのである。
しかも、ウクライナ産農産物禁輸の動きは、ポーランドから始まった。これまで難民受入等で、EUの中でも最もウクライナに寄り添ってきたはずの国だ。
ポーランド政府は4月15日、ウクライナ産の穀物およびその他食品の輸入を一時的に禁止すると発表し、その後品目を拡大していった。ほどなくして、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアもこれに追随した。
そもそも、EUでは共通通商政策が絶対のルールであり、加盟国が単独で輸入禁止措置を講じたりするのはご法度である。今回、ポーランドをはじめとする国々は、なぜその禁を犯してでも、ウクライナ産農産物の流入にストップをかけようとしたのか?
むろん、一言で言ってしまえば、「自国の農業生産者を守るため」である。しかし、その切実さを理解するためには、これまでの経緯と、問題の全体像を知っておく必要がある。
関税割当という障壁
ウクライナとEUは14年に「連合協定」に調印し、両者間では「深化した包括的な自由貿易圏(DCFTA)」が成立した。これに伴い、EUはウクライナ産品に対する関税を、基本的に撤廃した。
しかし、EUは多くのセンシティブな農産物・食品に関してはウクライナ産品に「関税割当」という制限を残した。一定量までは無関税で輸入できるが、それを超えると関税が課せられるという仕組みである。関税は、たとえば穀物であれば1トン当たり100ユーロ近くに上り、ばかにならない額である。
14年4月から関税割当制が施行されると、その後の実際の割当利用状況は、ややちぐはぐなものとなった。
小麦、とうもろこし、はちみつ、加工トマト、ぶどう・りんごジュース、砂糖などは、当該年の割当が年明け早々に使い切られてしまうのが通例だった。「欧州のパンかご」と称されるウクライナの輸出ポテンシャルに、割当の規模がまったく見合っていなかったのである。
他方、豚肉、牛肉、一連の乳製品などでは、ウクライナの生産者がEU市場に輸出するために、EUの認証を取得しなければならない。コスト面などから、そのハードルは高く、これらの品目では、せっかくの割当がほぼ利用されない状態が続いた。
結局のところ、EUは農業保護主義の牙城であり、ウクライナと連合協定を結んだからといって、ガードは固かったのである。ウクライナ穀物輸出業界のある大立者は16年、「DCFTAは欺瞞だ」と吐き捨てた。
状況を一変させたロシアの侵略
その状況を一変させたのが、やはりロシアのウクライナ侵略だった。EUはウクライナ支援策の一環として、22年5月30日付のEU規則870号により、同年6月4日から1年間、ウクライナ産品に対する輸入制限措置の適用を全面的に免除することを決めた。農産物に対する輸入割当、輸入関税も課せられなくなった。
こうして、不充分な輸入割当がウクライナの対EU農産物・食品輸出を制約する状況は、時限的ながら解消されたわけである。実際、22年夏以降、ウクライナの対EU農産物輸出は全般に勢い付いていくことになる。ただし、筆者の理解する限り、ウクライナの畜産・酪農生産者等がEU市場に輸出するのにEUの認証取得が必要な状況は変わらず、この点は障壁として残った。
そして、もう一つウクライナの農産物輸出への影響が大きかったのが、「黒海穀物イニシアティブ」である。22年7月に国連とトルコの仲介で合意が成立し、ウクライナ産農産物をオデーサ州港湾から輸出することが8月から可能になったものだ。
以降、ウクライナの対EU農産物輸出の半分ほどが、同スキームによる海上輸出だったと見られる。スペイン、イタリア、オランダ、ベルギー、ポルトガルなど、地中海および北海沿岸諸国への輸出は大部分がこれであったはずだ。
図1に見るとおり、ウクライナからEUへの農産物・食品輸出額は、21年の93億ドルから、22年の148億ドルへと、58%の伸びを見せた。
一方、ウクライナ側の統計によれば、22年の農産物・食品の輸出総額は234億ドルで、輸出全体の53%を占めた。現時点で、ウクライナで本格的に機能している唯一の産業が農業であり、おそらくはその輸出の3分の2近くをEUが受け入れていると見られる。
近隣諸国へのしわ寄せ
現状ではウクライナの対EU農産物輸出の半分ほどが、黒海穀物イニシアティブによる海上輸出になっていると見られる。西欧の裕福な国々が、ウクライナの安価な穀物やひまわり油を買い入れている形であり、こうした国には充分吸収する余裕がある。
問題は、残りの半分である。これらが、陸路を伝ってポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアに溢れ出していた。また、ブルガリアには(ルーマニアにも一部は)海路によってウクライナ産農産物がもたらされた。
驚くべきは、これら中東欧5ヵ国によるウクライナ産農産物輸入の急増振りである。図2に見るとおり、22年の輸入額は、前年の4倍強に膨らんでいる。ウクライナを支援するためにEUとして決定したウクライナ産農産物輸入の自由化だったが、そのしわ寄せが近隣の中東欧諸国に集中的に及んでしまったのである。
ウクライナの安い農産物が、これだけ急激に流入すれば、地元生産者が悲鳴を上げるのも当然だろう。中東欧は、EUの中でも所得水準が低い地域であり、なおかつ農業の重要性は無視できない。年内に総選挙を控えるポーランドをはじめ、各国ともウクライナ産農産物の輸入禁止という非常手段に訴えたというのが真相だった。
ひとまず妥協は成立したが
EUは共通通商政策を取っている。ポーランド等が単独でウクライナ産農産物の輸入を禁止したことに関し、欧州委員会は憂慮を示した。
EUと一連の中東欧諸国は、どうにか4月28日までに、本件に関する妥協に達した。これらの国が自国へのウクライナ産農産物の流入をブロックすることは容認するものの、同諸国はウクライナ産農産物を然るべく通過させ、他のEU諸国に輸出できるようにするという合意が成立した。また、中東欧諸国には1億ユーロの支援金が提供されることとなった。
同時に、EU諸国は4月28日、ウクライナ産品に対するすべての関税および関税割当の免除を、さらに1年間継続することも決定した。
それにつけても、今回の騒動にしても、そもそもロシアがウクライナを侵略し、その後も食料を武器に駆け引きなどしなければ、起こらなかった問題だ。侵攻前は、ウクライナの穀物輸出の99%、ひまわり油輸出の91%が、海運によるものと言われていた。それが、黒海穀物イニシアティブでかなり復活したとはいえ、同プロジェクトではロシアが意図的に荷物検査を遅らせているとされ、海上輸送がフル稼働するには至っていない。そこで輸送し切れない分が、ポーランドなどの中東欧諸国に溢れた形であり、同諸国を責めるのは酷である。
今回のウクライナ産農産物輸入禁止をもって、中東欧諸国や、ましてやEUのウクライナ支援疲れなどと決め付けるのは、不適切であろう。現時点では、ウクライナと連帯するEUの姿勢に、揺らぎは見られない。ただ、ロシアによる侵略が長引けば、その「とばっちり」で、今回のような騒動が増えていくことが懸念される。
●徴兵で人手失うウクライナ農業、種まきや収穫に試練 5/14
ウクライナ中部チェルカースィ州で大規模な農場と牧場を経営するオランダ出身のキース・ホイジンガさん(48)は、過去20年間で数多くの試練に見舞われてきたが、ロシアの侵攻で予想もしていなかった新たな問題を突きつけられた。
この農場の従業員350人のうち40人前後が兵役に就いたため、代わりに未経験者を採用せざるを得ず、作業効率の低下を余儀なくされた。ホイジンガさんは今、穀物収穫量と牛乳生産量の落ち込みによる収入減少を恐れている。
戦争のために農業分野で貴重な働き手を失ったのはホイジンガさんだけではない。ロイターが3人の農家、大手穀物企業1社と業界団体関係者1人に取材したところによると、1年の中で最も大事な種まきと収穫の時期はただでさえ大変だが、軍による招集のために一層困難な事態を迎えている。
ウクライナでは戦争が始まって以降、穀物輸出が滞った上に、肥料の入手ルートが細り、農地が広範囲にわたって破壊されたため穀物生産が急減。輸出収入の目減りを懸念した政府が、主要農業セクターの一部人員に対する兵役を免除する対策を講じているものの、その効果は限定的だ。
ロイターの取材に応じた関係者の大半は、代わりの働き手を雇ったり、幾つかの仕事で増員したりすることが可能だが、経験を穴埋めすることはできないと語る。
ホイジンガさんは「(作業面で)相応の能率と質がなくなっている」と嘆き、農地1万5000ヘクタールと乳牛2000頭の農場にとって数十万ドルかそれ以上の損失につながる恐れがあるとの懸念を示した。
作付けと追加徴兵が重複
しかもタイミングの悪いことに、今年は種まきの時期が大雨のせいで例年より遅れ、ウクライナが準備を進めている大規模反攻作戦に向けた追加的な徴兵手続きと重なってしまった。
「350人の従業員のうち40人が軍にいる。全員が最前線に配置されているわけではないが、彼らがいなくなって困っている。ウクライナ全土の農家で見ても、平均して労働力の15%前後を軍に供給していると思う」と、ホイジンガさんは述べた。
ホイジンガさんはウクライナ軍に機器や資金を積極的に供出しており、軍が農機やトラックの運転に慣れた人を徴募するのはもっともだと理解を示しつつも、機械修理の中心的な担い手が14カ月前に出征した痛手を実感している。
「彼はとても素早く機械を直してくれる。トラクターが壊れても対応できる。今いる新人は(修理に)1時間か1時間半はかかる。もちろんこれから経験を積んでいくが、数年を要するだろう」という。
兵役免除の限界
ウクライナは、肥沃な黒土に覆われた大平原と黒海沿岸の港湾を持つ世界有数の穀物輸出国。農産物輸出は、ロシアの侵攻前には国内総生産(GDP)の約12%を占め、全輸出の6割に達していた。
ただ戦争で状況は一変し、2021穀物年度に過去最高の8600万トンだった穀物生産量は22年度におよそ5300万トンに減少したもようで、今年度は最悪の場合、4430万トンにまで落ち込む恐れがある。
そうした中でウクライナ政府は、穀物増産に向けて一部の農場を経済にとって極めて重要な機関と指定し、従業員の兵役免除を認める法律を制定した。
先月にはこの指定を受ける基準が緩和され、農場の面積に関する要件が1000ヘクタールから500ヘクタールに下がったほか、保険適用労働者の平均人数も最低50人から20人に変更された。その結果、対象となる農場が増えた。
農務省高官は「状況は非常に緊迫している。だが軍の動員が農業セクターにとって必要な労働を阻んだり、大幅に制限したりしたと言うのは間違っている」と述べた。
それでも、特に年初時点で徴兵対象者が拡大されたため、農業従事者が兵役を必ずしも回避できる状況になっていない、と2人の農家は反論している。
そもそもウクライナの農村地帯では、過去数十年で多くの若者が都市部へ去っていく流れが続いているため、働く意思や能力がある人材の母集団がそれほど大きくないとみられる。
また過剰に徴兵されるのを防ぐ上では、こうした法律や規則よりも地元の徴兵事務所と良好な関係を築いたり、軍に物資提供を申し出たりする方が効果的なケースもある。
首都キーウ東部バリシェフカの穀物企業グレイン・アライアンスは、従業員1100人中51人が現在、「ウクライナを守っている」と明かした。同社は5万7000ヘクタールの土地を有し、このうち5万4000ヘクタールを耕地化している。
同社は声明で「ウクライナの国防力を強化する措置の緊急性と重要性は理解している。しかしその次には、農業セクターに対して適切な人材を供給するという重大な問題がある」と指摘。「ウクライナと国民の食料保障は戦争に勝利するためにも大事だ」とした上で、種まきと収穫の作業に十分な労働力を確保するため国防当局と協力していると付け加えた。
農業団体のある幹部は、今年の状況は「難しいが致命的ではない」と語り、その理由としてある程度の労働力を守る手だてがなされている点を挙げた。具体的には女性のより積極的な活用や、戦争で行き場を失った人の採用、今いる従業員の再訓練などに取り組んでいるという。
●G7広島サミットで発表 ウクライナに関する声明の原案明らかに  5/14
今週19日に開幕するG7広島サミットで発表する予定のウクライナに関する声明の原案が明らかになりました。
ロシアによる侵攻を国連憲章を無視した侵略戦争だと強く非難し、ウクライナにできるだけ早く恒久的な平和をもたらすためのあらゆる努力を払うとしています。
今週19日に開幕するG7広島サミットで議長国を務める日本は、首脳宣言とは別にウクライナに関する声明を発表する方向で各国と調整を進めていて、その声明の原案が明らかになりました。
原案では、ロシアによるウクライナ侵攻について、不当で、国連憲章を無視したいわれのない侵略戦争であり、食料とエネルギーの安全保障などで弱い立場の国に影響が出ていると指摘した上で最も強いことばで非難するとしています。
そしてロシアに対してすべての軍を即時かつ無条件で撤退させるよう求め、永続的な平和の実現はロシア軍の撤退なしには実現できないと強調しています。
さらに、ロシアが核兵器や生物・化学兵器を使用すれば、深刻な結果に至ると指摘し、去年、ロシアも参加したG20サミットで「核兵器の使用、もしくは使用の脅しは容認しない」などとした首脳宣言を採択したことに触れています。
また、ウクライナが必要とする経済支援を確保するとしたほか「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国も念頭に、ウクライナ情勢で影響を受けている国や人を支援するとしています。
そして「平和の象徴」である広島から、G7がすべての政策的な手段を動員しウクライナにできるだけ早く恒久的な平和をもたらすためのあらゆる努力を払うことを誓うと結んでいます。
政府はロシアへの制裁などの具体的な記載についてさらに検討するとともに、首脳間の当日の討議も踏まえ、声明を固める方針です。  
●ゼレンスキー氏、米大統領選に杞憂せず 「それまでに勝利」 5/14
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日までに、来年の米大統領選の勝敗結果が米国によるウクライナへの支援態勢の変更につながりかねない可能性について杞憂(きゆう)していないとの考えを示した。
英BBC放送を含む欧州の公共放送との会見で11日に述べた。「米大統領選の実施時期に我々が直面している状況がどうなっているのか誰がわかるだろう?」とし、「それまでに我々が勝利を収めている」との信念を伝えた。
ウクライナは米連邦議会における超党派の支援を得られ続けるだろうとも期待した。
ゼレンスキー大統領の今回の発言は、米国のトランプ前大統領が今月10日、CNN主催の米有権者らとの対話集会に臨み、大統領に新たに当選した場合のウクライナ支援の是非に触れ、「約束はしない」などと明言を避けた態度を受けたものともなっている。
トランプ氏は集会で、ウクライナ情勢に触れ、「誰が勝つべきなのか」の質問には明確には応ぜず、「誰もが死なないで欲しい」「勝敗の側面から問題を考えていない」などとかわしてもいた。
ロシアの侵攻を受け、米政府はウクライナへ相当な規模での財政支援などを実施。最近ではウクライナが近く踏み切るとされる大規模な反攻作戦をにらんだ追加の援助も打ち出していた。
この新たな援助分を含めた場合、米国によるこれまでの軍事支援の拠出額や約束分はロシアの侵攻が始まった昨年2月以降、369億ドルに達した。

 

●ワグネル・プリゴジン不満大爆発、明らかにプーチンのロシアはしくじった 5/15
しのびよる反転攻勢の足音
「特別軍事作戦」という名のプーチンによるウクライナ侵攻が始まってから、早くも15ヵ月が経過している。ロシアの侵攻前であれば、多くの専門家がNATO加盟国によるウクライナへの大規模な武器支援は「絶対にありえない」と思っていた。しかし、この常識はすでに時代遅れのものだ。ウクライナに対する各国の武器支援も増え、今ではウクライナによる反転攻勢がそろそろ始まるのではないかと注目されている。
ただウクライナに対する支援は、ウクライナがロシアを完全に打ち負かすためにはまだ十分とは言えないだろう。NATO加盟国からしたら、ただでさえロシアはウクライナ支援に対してかなりの不満を持っており、いつの間にかロシアと戦っている相手であると責められている。各国はそうした中で、ロシアの逆鱗には触れても、プーチンが怒りのあまり(今以上)我を忘れて核ミサイルの発射ボタンを押してしまわない範囲でしか、ウクライナを支援できていない問題がある。
ウクライナは限られたリソースでより大きな成果を出すために様々な工夫をしており、公式には認めていないが、クリミア半島での燃料貯蔵施設に対するドローン攻撃や、ウクライナ国境近くのロシアの貨物列車の爆発に関与していると思われる。これらはロシア軍の補給に影響を与える。
これらを含めて反転攻勢の第一段階として捉えていいのか、ウクライナの反転攻勢はどこまでロシア軍に打撃を与えるのか、そして占領地をどの程度奪還できるのかについてはまだわからない。ただウクライナにとっては今後も国際社会からの支援を得続けるためには、反撃によって成果をあげる必要がある。ゼレンスキーとしても、作戦の開始時期については慎重にならざるを得ない。
むろん反転攻勢の結果、ロシア軍の戦線が崩壊したとしても、プーチンが敗北を認めウクライナから軍をすぐに撤退させない可能性が高い。しかし、今後ロシアはウクライナから奪還される「失地」を簡単には取り返せる保証がない。
この反転攻勢はウクライナにとって天王山になるだろう。
準備不足で始めてしまった侵略の弊害
ロシアの「特別軍事作戦」がうまくいっておらず、予想よりも長引いているというのは周知の事実である。その理由はいくつもあるが、中でも特に深刻なのはロシアが準備不足なまま戦争を始めてしまったという問題であろう。
プーチンがいつウクライナへの侵攻を決意したのかについては、未だにわからないことがたくさんある。しかし、それでも専門家の間では今回の戦争の青写真を作ったのは情報機関であったという見方が主流であり、仮に軍上層部の作戦立案への関りがあったとしても弱かったと考えられる傾向にある。
ウクライナに侵攻させた軍の部隊の規模を見ても、プーチンは、侵攻前、明らかに楽観視していた。欧米から制裁が課される覚悟はしていても、ウクライナでの戦争が長期戦になることはあまり考えていなかったように見える。そのため、国内における弾薬や兵器の増産体制を構築しないままウクライナへ侵攻してしまった。
この問題は欧米のメディアでは何度も指摘されたが、ロシアの前大統領のメドベージェフ・安全保障会議副議長も以前SNSにて「敵は我々の生産体制について色々と指摘しているが、我々は近いうちに生産スピードを上げることができるだろう」と半ば認めていた。しかし、まだ改善は見られない。
プーチンの選択肢を狭める対ロ制裁
ロシアがこの状況を打破できていないのは経済制裁によるところが大きい。ウクライナに侵攻してから、ロシアは、SWIFTからの排除や石油価格上限設定をはじめとする様々な経済制裁を課されている。これらはロシアの戦争継続能力に対して直接打撃を与えることは出来なかったとしても、プーチンの資金繰りにはある程度の影響を及ぼすことができる。
制裁のせいで、プーチンは戦争のための資金調達にエネルギーを注がないといけないし、ルーブル安が続けばより高い金額で武器・兵器に使う半導体や材料を外国から買わなければならなくなる。
またプーチンはこの戦争で中国からの支援を期待していたようだが、それも限定的である。中国としてはロシアが倒れることは避けたいと考えていても、制裁を課されてまでロシアに協力したいとは考えていない。そのため、ロシアに対して半導体は輸出しても、すぐに実戦で使える弾薬や兵器を売ることに対しては慎重だ。
制裁の効果はすぐに出ないかもしれないが、プーチンの行動の選択肢を狭めることができる。
不満を表明するプリゴジン 
ロシアのウクライナ侵攻がうまくいっていないことに対しては、戦場からも不満の声が聞こえる。中でも目立つのは民間軍事会社「ワグネル」の創始者であるプリゴジンの発言だ。
彼は「プーチンのシェフ」という異名も持っているが、事あるごとにSNSに「ワグネルの兵士は俺のためではなく、祖国のために命を落としてきた」「弾薬が十分にあれば、大半の兵士が命を落とさずに済んだ」という旨の動画を上げ、国防省を批判し、弾薬不足問題について日々不満をぶちまけている。
これらの発言は良心からではないだろう。正確な数はわからないが、プリゴジンは「6カ月程ウクライナでの戦闘に参加したら恩赦をやる」と元囚人も刑務所からスカウトしてきた。そしてワグネルの戦い方は相当過酷であり、突撃部隊は上官の許可なく撤退したり、命令に背いたりしたらその場で処刑されると有名だ。「弾薬さえあればワグネルの兵士は死なずに済んだ」という主張には説得力がない。
そのプリゴジンだが、ここ最近では目立つ発言をしている。例えば、4月の中旬に「ロシア軍がドネツク州全域の制圧が出来そうにない」「ウクライナの反攻で敗北する可能性がある」という旨の理由で「プーチン政権は軍事作戦の終了を宣言する時がきた」という主張をした。このような主張はロシアでは異例である。
また5月4日にはワグネルの兵士とみられる死体を背に放送禁止用語を連発しながら「ショイグ、ゲラシモフ! 弾薬はどこだ?」と問い詰めるビデオをあげ、6日には弾薬がなければワグネルは5月10日にバフムトから撤退すると騒いでいた。たださすがにこれに対してはかなり厳しいことを言われたようで、プリゴジンは「バフムトからの撤退は祖国に対する反逆になると示唆された」と発言している。
穿った見方をすれば、プリゴジンはワグネルの名前を宣伝する目的で過激なことを言って注目を浴びようとしている。ただこのようなやり方でワグネルの知名度が上がったとしても、「国防省から弾薬をもらえない組織」に積極的に入ろうとする人は出るとは考えられない。
ワグネルの担当しているバフムトでの戦闘はかなり長期化しており、ロシア側が期待しているような成果を出せていない。またロシア軍とワグネルの連携はうまくいっていない。そのため、プリゴジンはその責任を国防省に対して擦り付けようとしているように見える。
●あまりに奇妙な「プーチン暗殺未遂ドローン攻撃」、現場に緊張感なし 5/15
ウクライナ侵攻は、その1「ワグネル・プリゴジン不満爆発、明らかにプーチンのロシアはしくじった」で解説したようにプーチンがどう言いつくろうと、あまい見通しで始めてしまったことで、とんでもない窮地にロシアを陥れている。そんな中、奇妙な騒動が起こった。
注目だけ集めたドローンによる「プーチン暗殺」未遂
もう一つ重要な出来事として、5月3日未明にクレムリンにてドローンによる攻撃が2回あり、その映像が拡散された。この事件については、わかっていることがほとんどない。ただロシアによる偽旗作戦、ウクライナによる攻撃、もしくはロシアに恨みを抱いている勢力による犯行が有力であったという見方が多数である。
ただ誰がやったにせよ、あの規模のドローン攻撃に軍事的な意味はなく、象徴的な効果しかない。「プーチンに対するテロ攻撃」という見出し文のインパクトと映像のインパクトが釣り合っていないのか、ドローンが爆発する映像はSNSでは流通しているものの、ロシアのメディアでは見かけない。
この事件に対し、ロシア大統領府は「プーチンを狙ったテロ攻撃である」と断定し、「アメリカが支援した」と主張。メドベージェフもSNSに「ゼレンスキーとその取り巻きを物理的には排除する以外の選択肢は残っていない」と投稿した。
奇妙なことに、この攻撃に対する肝心のプーチンは反応してこない。昨年の自身の誕生日の翌日にクリミア大橋での爆発があった際、プーチンはすかさず「市民の平和な生活が脅かされている」とウクライナとその支援国を批判した。
それまでもロシア軍によるウクライナの住宅や病院、あるいは学校といった施設への攻撃があったが、ロシア側はそれらを否定してきた。また認めたとしても、「そこは軍事施設の近くにあったから巻きこまれてしまった」という旨の言い訳をしていた。だが、このクリミア大橋の爆発を契機にロシアはウクライナに対する攻撃の規模をあげ、ウクライナ全土へのミサイル攻撃を繰り返してきた。今回のドローン攻撃は本当にウクライナによるものだとしたら、プーチンの反応はあまりにも不自然である。
余談だが、筆者は事件当日にクレムリン周辺の状況を見に行ったが、驚くほど警戒がなかった。パレード当日に向けて、赤の広場は例年通り閉鎖されていたが、警備の人員は増員されておらず、クレムリン内の観光も普通に行われていた。
またクレムリン周辺は電波妨害がされており、Bluetoothの接続がやたらと悪くなるところや、GPSがクレムリン周辺ではなくモスクワ郊外の空港を示すエリアもあるが、少なくとも事件当日にそれが拡大されてはいなかった。
仮にこれが偽旗作戦だったとしたら、何をしたかったのかが見えてこない。奇妙さだけが残った。
ロシア・ウォッチャーはこうした不可解な現象に極めて高い頻度で遭遇する。プーチンの今年の「戦勝記念日」演説は別の意味でも注目されることになる。
すっかり身近に感じるようになったロシア軍
この一年間の間に戦争はモスクワでも身近な存在になった。一年前はロシア軍がキーウ周辺から撤退し、ブチャの虐殺が明るみになっていた頃だったが、謎な高揚感は漂っていた。あの頃は多くのロシア人にとって、ウクライナにおける戦争はまだ自分たちの戦争であるという自覚はなかった。
ただ昨年の第二次世界大戦以来の部分動員によって、この戦争はロシア人にとってかなり身近な存在になった。部分動員はまだ一回で済んでいるが、招集令状がオンラインで強制的に渡される法律もでき、追加の部分動員があった場合、逃げるのが難しくなっている。
またロシア軍の人員を拡充すべく、街のいたるところに「我々の仕事は祖国を守ることだ」とロシア軍への入隊を呼び掛けるポスターが貼られている。観光地ではその場で入隊届けが書けると思われるスペースが設立され、以前よりもロシア軍が身近な存在になっている。
ロシア軍は特別軍事作戦への従事者の給与を公開しているが、それによると最低月給は約20万ルーブル(約35万円)であり、モスクワの平均の3倍以上である。筆者が見かけた求人の中で、これを超えていたのは24万ルーブルのワグネルだけだった。
消え失せつつある楽観論
モスクワに住んでいて、変化を少し感じるようになってきた。流石に一年以上も続くと「戦争はすぐに終わるだろう」という楽観論はすっかりなくなっている。
いつも流している討論番組では、ロシアの専門家たちは相変わらず連日「アメリカはウクライナを最後の一人になるまで戦わせるだろう」という議論を続けており、戦争の展望については「アメリカに必要なのはロシアの敗北だが、それはありえない。アメリカが手を引くときは責任をウクライナ政権に擦り付けるだろう」という予測を出している。
ただ見ていると、悲観的なコメントをする専門家が司会者から「もっと楽観的になれないのか」と叱責されても、「ありとあらゆる可能性を考えるのがプロだ」と反論される場面が何度かあった。
周りのロシア人と話していても、変化を感じることが多くなった。以前は聞いてもいないのに「ウクライナ軍がロシア軍に勝てるはずがない」「どうせすぐに終わるさ」と絡まれることが何度もあったが、気が付けばこのような話が振られることはほとんどなくなった。
●「プーチンを守る」と決めた習近平。隣国が“戦争の仲介役”で得る大きな果実 5/15
内向き志向を強めるアメリカとは正反対に、積極的に世界の難題解決にコミットし始めた中国。一体そこにはどのような「裏事情」があるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、中国政府の思惑と彼らが描いている壮大な計画を深掘り。さらに習近平政権がロシア支援を継続し、ウクライナ戦争を長引かせることにより得られる「とてつもなく大きな果実」について解説しています。
崩さぬロシア寄りの姿勢。それでも中国がウクライナ戦争の仲介役を買って出た訳
「中国はロシアとウクライナの停戦を仲介すると表明したが、どこまで本気に取り組むつもりなのだろうか?」
習近平体制が第3期目に入り、外交活動を再開する中、次々と国際社会の難題に取り組む姿勢を見せる中国の変容に、正直戸惑うことが多々あります。
サウジアラビア王国とイランの歴史的な和解の仲介の実現。国際社会が見放したミャンマーを支え続け、国軍と民主派の停戦に向けた話し合いを促す姿勢。一帯一路政策によって、債務地獄に陥れた各国に“寛大な”姿勢を見せようとする方向性。重い腰を上げてロシアとウクライナの停戦の仲介に乗り出すことを表明した変容。そして、解決の糸口が見えないスーダン情勢へのコミットメント。
コロナ前までにもすでに経済力と軍事力を合わせて周辺国に、時には強引に勢力圏を拡げてきた中国ですが、それは主に中国の経済的な影響力と中国製品の販路の開拓、そして国際社会における外交的なサポートの拡大などを目的としてきたと思われます。
ところがコロナが一段落し、習近平国家主席が異例の3期目の任期に入った途端、これまでにないほど積極的な外交を展開し、これまであえて距離を置いてきた国際紛争に対しても、まるで火の中の栗を拾うかのように、積極的にコミットする姿勢を示しだしました。
中東地域、アジア地域、そして東アフリカ地域に対する外交攻勢については、これまで経済面での戦略的パートナーシップを通じて強化してきた関係をベースに、欧米諸国、特にアメリカが去った後の力の空白に入り込んで、一気に勢力圏を拡大するという戦略が見られますが、スーダンへの介入はまだしも、ロシア・ウクライナ紛争への介入は少し趣向が異なるような気がします。
スーダンとロシア・ウクライナ紛争への介入を見てみた際、一つ明確に言えることは、他のケースと異なり、中国はどちらか一方のサイドをサポートしているということでしょう。
スーダンでの内戦では、経済的な理由から明らかに国軍側の味方ですが、それでもRSFに対しても一定の影響力を持っています。
先の内乱(2021年)にはアメリカ政府が調停に乗り出し、今でも国務省においてスーダン問題特別代表が任命されるなど、スーダン情勢の安定に努めていますが、今回の内戦に対しては、強い懸念は表明するものの、これまでのように軍事的な支援は行わず、距離を置いているように思われます。
その一因にはongoingのウクライナ情勢へのコミットメントを優先していることがありますが、事態の鎮静化に向けた働きかけを行ってはいません。
そこに他のケース同様、アメリカのコミットメントの空白が出来、そこに中国が入り込むという図式が成り立つのですが、スーダンのケースでは、ロシアと共に恩恵にあずかっているスーダンの金鉱の権益保持のために、一刻も早く紛争を終結させなくてはならないという思惑が働いています。
そのために、これまで明らかに国軍・政府支持であった姿勢を少し曖昧にし、政府とRSF双方に働きかけ、迅速な停戦と事態の沈静化、そしてどちらが今後、政権の座についても中国とロシアが持つ金鉱の保全と保護を確約させるべく、“仲介者”というお面を被って介入し、紛争終結後の決定的な影響力の確保に乗り出しています。
影響圏を中国本土からスーダンに至るまで拡げる習近平
加えてすでに隣国エチオピアを中心にHorn of Africa (アフリカの角)一帯に勢力圏を築いていることを活かして、スーダンとエチオピアの不仲の調停にも乗り出すことで、当該地域からアメリカを追い出して、一気に権益を掌握するという狙い・戦略も透けて見えます。
すでにジブチに港を確保し、ジブチとエチオピアのアディスアベバを繋ぐ鉄道を敷設することで物流網を独占していますし、アメリカCIAがおくblack site(注:ブッシュ政権以降のGlobal War on Terrorの重要な拠点としてエチオピアに置かれていると言われており、中東・北アフリカを監視しているもの)に対しても圧力をかけることで、アメリカに監視される対象国の支持も得て、一気に地域に影響力を広めるというgrand strategyがあるようです。
そうすることで、先に調停し、関係修復をお膳立てしたサウジアラビア王国(実はエチオピアとジブチの対岸)からイランに至るアラビア半島にまで影響を拡げ、その影響圏が中国本土からスーダンにまで至ることになるという状況です。
そのど真ん中にインドが位置し、中国に対して警戒心を持ちつつも依存度を高めるASEANが存在しますが、そのすべての国々ですでにアメリカの影響力が低下していることから、程度の強弱はあるものの、一つの緩い勢力圏が成り立つと言えるかもしれません(これに横やりを入れられるのは、実は日本“だけ”なのですが、果たしてそれに気づいているのでしょうか)。
ただこの勢力圏の拡大と確保は、まだ経済的な側面が強いように思われ、習近平体制下で広げてきた中国の拡大パターンに沿っていると考えられます。
しかし、目をロシアとウクライナ情勢への介入に移すと、違った景色が見えてきます。
昨年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻までは、中国とウクライナの関係は非常に良好だったと思われます。
中国の初めての空母・遼寧は、元々旧ソ連の空母をベースにしており、ウクライナ所属の空母であったことから、中国がウクライナから購入したものです。
その際、中国の新疆ウイグル自治区をはじめとする少数民族に対する人権侵害への抗議の一環として、欧米諸国はウクライナにこの売却を思いとどまるように圧力をかけましたが、ウクライナは「約束は守らないといけない」と圧力に屈せず、予定通りに中国に空母の引き渡しに応じたことで、義を重んじる中国の心をつかみ、その後、中国資本によるウクライナへの投資拡大につながりました。
つまりウクライナは中国にとっては“特別な国”だったはずです。
しかし、その状況はロシアによるウクライナ侵攻を受けて、変化したように思われます。
中国は表面的にはロシアの侵攻に対して懸念は示すものの、本格的な抗議にはつながらず、ロシア寄りの態度を貫き、国連安全保障理事会をはじめ、さまざまな外交フロントでロシアと共同戦線を張り、ウクライナの後ろ盾となり、ロシア包囲網を固めた欧米諸国とその仲間たちに対峙する姿勢を明確にしました。
欧米諸国とその仲間たちから幾度となく“ロシアへの支援”を止めるように圧力をかけられても耳を貸さず、べったりではないにせよ、ロシアを支持する姿勢を貫いています。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けた国際社会の激しい反応を横目に見つつ、いずれ来ると予想されている中国による台湾侵攻を実行に移した際に、どのような反応が予測されるかを見ながら、表立っては目立たないように、まさにステルス状態の外交を行ってきました。
ただその間、プーチン大統領とは数十回、リモート形式ではありますが、連絡を密に取り合い、ロシアと中国が進めてきた国家資本主義陣営の拡大を着々と進めるべく協力を貫いてきました。
その間、明らかに両国の力関係・バランスに変化が訪れて、中国優位が鮮明になってきましたが、ジレンマは抱きつつも、中国はロシア側の仲間であり続けています。
中ロ間で交わされた「決して公表されないdeals」の内容
ちなみにロシアによるウクライナ侵攻以降、ゼレンスキー大統領からの再三の協議依頼をことごとく無視し、やっとそれに答えたのが今年4月20日に入ってからで、それは中国がロシアとウクライナの停戦の仲介に名乗りを上げてから1か月以上経ってからのことで、それはまた習近平国家主席がモスクワ訪問してプーチン大統領と3日間に及ぶ協議をしてから1か月後の出来事であったことからも、中国の立ち位置が透けて見えるかと思います。
以前、ウクライナからの訪問要請を受けて、習近平国家主席がどのように対応するのか注目すると書きましたが、進むも退くもリスクを負うことになるキーウ訪問を見送り、1時間に及ぶ電話会談に切り替えたのは、仲介役として取るべき最低ラインのコミットメントを行ったに過ぎないと考えられます。
このような若干冷たい対応になった理由はいくつか考えられます。1つは、中国が仲介の意思を表明し、停戦合意案を提示した際、評価はしたものの、公然と中国に要求と条件を突き付けたゼレンスキー大統領の姿勢に反発したことがあります。
2つ目は、それでも中国の仲介を受け入れる用意があるのか分からないウクライナを警戒し、ロシアを除く全方面にいい顔をするゼレンスキー大統領の真意を探る狙いがあったものと考えられます。
3つ目は、中国の仲介に対する国際社会の“本当の”評価と反応を見極めるために、ゼレンスキー大統領と習近平国家主席の直接の協議に対する可能性を棚上げにしておき、ぎりぎりのタイミングで電話会談に切り替えて、一応メンツは保ったと考えられることです。
いずれにせよ、仲介のオファーをしつつ、明らかにロシア寄りな習近平国家主席の思惑が見えてきます。
ロシアへの明らかな肩入れは、中国にも共通する欧米への反発が存在しますが、本来中立であるべきとされる仲介者が明らかにロシア寄りの姿勢を崩さないのには、3月のモスクワでの首脳会談時に交わされた“決して公表されないdeals”の存在があると思われます。
その一例は【中国に対するロシアのウラン濃縮技術とノウハウの提供】と【ウラニウムのロシアから中国への提供】の約束です。
表向きは脱炭素に向けた取り組みの強化と言っていますが、実際には中国人民解放軍の核戦力の迅速な拡大に欠かせない(でも中国がキャパシティーを十分に持っていない)ウラン濃縮技術と、ウラン鉱石の安定的な供給についての密約を両首脳間で結んだという分析があり、これは高い確率で信用できると思われます。
別の例は、ロシアが持つ様々なエネルギー権益に対する中国のアクセス権の保証ではないかと思います。
ちょうど今週に入って、中国の艦船がサハリンIとIIの域内にはいってきて操業するという事態が起こっていますが、中国に対する安定的・持続的な天然ガスの供給という約束に基づく行為だと思われます。
3つ目の例は、第3国を経由した中国からロシアへの軍事物資の共有です。中国からロシアへの直接的な供給は、NATOとの軋轢を強め、中国がロシア・ウクライナ戦争に軍事的に巻き込まれる恐れと、対ロシア制裁の煽りを食って中国に対する経済制裁が発動される恐れが生じますが、中ロと友好的な関係もしくはピュアに経済的な関係がある第3国を経由しての供給となると、なかなか追跡が難しくなると言われています。
もともとKGB時代から行われ、FSBに引き継がれている同様の手法は、実質的な供給者などが割り出せない仕組みになっており、今回も中国と共にこのスキームを活用し、同時に、インドなどのグローバル・サウスの国々をうまく取り込んで行うという仕組みの存在に対する疑念があり、それが中ロをしっかりと結びつけていると思われます。
中国の「プーチン政権のロシアを守り抜く」という戦略
そして今週聞いてハッとした分析内容は、【中国にとって、仮にウクライナが負けても、一時期の経済的なつながりが断たれるだけで、同様、それ以上の規模のつながりをロシアとすぐにでもつなげると信じているが、プーチン大統領のロシアが負けてしまうような事態だと、欧米とその仲間たちと中国単独で対峙しなくてはならない状況に陥り、中国は国際社会における孤立を極める恐れがあると考え、プーチン政権のロシアを守り抜くという戦略】の存在です。
明らかにロシア寄りであるにもかかわらず、どうして中国はロシアとウクライナの仲裁役に名乗りを上げたのでしょうか。
一説によると、習近平国家主席に忖度したフライング行為と言われています。聞くと習近平国家主席は本件の仲裁には乗り気ではなかったが、周辺が習近平体制の基盤を国内外に対して固めるための手法として打ち出したのではないかとのことでした。ただ、これについては少し疑わしいと感じており、仲裁がなかなか前に進まないことに対して、国際社会から習近平体制が非難されることを避けるためのいいわけではないかと思います。
別の見方では、戦争の結果がどうであれ、ロシアとウクライナ両国における権益の確保と復興事業契約の獲得など経済面が強調されますが、ここでもアメリカが見捨てた国・地域に中国がすかさず入り込んでくるという勢力圏の拡大を狙ってのことというものがあります。
実際の理由がどのような内容であれ、どうして中国は沈黙を破り、急に国際紛争の調停に乗り出すことにしたのかについては謎が多く存在します。
ただいろいろな側面から見た場合、ロシアとウクライナという当事国を除いて本紛争に対して決定的なカギを握っているのは、もしかしたら中国だけではないかと思われます。
その理由は中国がロシアに対してどのような形であれ、武器の供与を行わなければロシア側の対話への機運とモチベーションが高まる半面、ウクライナ側がNATOからのプッシュに応えてロシアを攻撃するような事態になった場合、プーチン政権が倒れ、ロシアの存亡にかかわる事態に迅速につながりかねないと考えられることでしょうか。
また逆にどのような形であれ、中国がロシアに対する支援を継続する限り、調停は成り立たず、代わりにあと数年はロシアとウクライナの戦争が継続してしまうという懸念に繋がります。
後者の場合、冷酷な見方をすると、ロシアもウクライナも回復不可能なレベルまで経済が落ち込み、戦争継続に対する疲弊感が募り、それぞれの存在が危ぶまれるまでにロシアもウクライナも弱体化すると同時に、戦争が継続されることで、ウクライナを後押しする欧米諸国とその仲間たちの余力も削ぐことができるため、中国としては自国の力を蓄え強化しながら、他国の力を削いでいくという戦略が成り立つ可能性が出てきます。
来週末に開催されるG7広島サミットでは、中国に対する懸念にG7が一致団結して取り組みを強化するという方向で話し合われるようですが、同時に日本としては、隣接する国としての立場からも“いかに中国と付き合うか・対峙するか”について戦略を立てておく必要があると考えます。
5月15日にもウクライナによる対ロ反転攻勢が本格化すると予想されていますが、その結果がどのようなものになるのかのcasting voteを握っているのは、もしかしたらロシアでもウクライナでも、そしてNATOとその仲間たちではなく、実は中国なのではないかと感じています。
●ゼレンスキー大統領 反転攻勢に自信 欧米の軍事支援を背景に  5/15
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻以降初めてイタリアやドイツなどを訪れ、「ことし中にロシアの敗北を決定づけることができる」と述べて、欧米側の軍事支援を背景に反転攻勢を成功させることに自信を示しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日から14日にかけてイタリアやバチカン、ドイツを相次いで訪れました。
14日にはドイツでショルツ首相と会談し、会談後の共同の記者会見で「ドイツの支援はウクライナ国民の命を救うものだと強調したい」と述べ、兵器の供与を含めたこれまでの支援に感謝しました。
これに対しショルツ首相は「ドイツはウクライナを今後も支え続ける」と応じ、支援を続ける考えを示しました。
ドイツ政府はゼレンスキー大統領の訪問にあわせて、日本円でおよそ4000億円相当の新たな軍事支援を発表していて、反転攻勢を支える構えです。
ドイツに先だって訪問したイタリアも必要な限り軍事支援を行うと表明していて、ゼレンスキー大統領は「今こそ、この戦争を終わらせるときだ。ことし中にロシアの敗北を決定づけることができる」と述べ、欧米側の軍事支援を背景に反転攻勢を成功させることに自信を示しました。
一方で、反転攻勢について「われわれはロシア国内への攻撃はしない」と述べ、あくまで領土の奪還のためだと強調しました。
また、アメリカが供与に応じていないF16戦闘機などを念頭に「われわれは戦闘機同盟の創設に取り組んでおり、ヨーロッパ各国の首都を訪れているのはそのためだ」と述べ、ドイツにも戦闘機の供与を呼びかけていることを明らかにしました。
これに対しショルツ首相は今後、供与するかどうか、明言は避けました。
●ウクライナ ゼレンスキー大統領が独首相と会談 5/15
ウクライナのゼレンスキー大統領は、訪問先のドイツでショルツ首相と会談し、共同記者会見で「不法に占拠された領土を奪還する準備をしている」と述べました。
ゼレンスキー大統領は14日、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後初めてドイツを訪問し、ベルリンでショルツ首相と会談しました。
会談後の共同記者会見でゼレンスキー大統領は、「ウクライナの目標は、国際的に認められた国境内の領土を解放することだ」と強調しました。
近く見込まれる反転攻勢については「成功を信じている。成功のための準備は、ほぼ整っている」と述べ、年内にロシアに勝利し、戦争を終結させることに意欲を示しました。
ウクライナはイギリスから長距離巡航ミサイルの供与を受けましたが、ロシア国内への攻撃については「関心がない」と否定しました。
一方、ショルツ首相は、「必要な限り支援する」と述べ、ウクライナへの支援を続ける考えを示しました。
ドイツは13日、戦車や弾薬など27億ユーロ(約4000億円)の軍事支援を発表しています。
ヨーロッパ歴訪中のゼレンスキー大統領は13日にはイタリアを訪れ、メローニ首相と会談し、バチカンではローマ教皇と会談していました。
フランスメディアによりますと、14日夜遅くにはパリも訪れるということです。
●米・スペイン首脳が会談、ウクライナ支援や防衛協力を協議 5/15
バイデン米大統領とスペインのサンチェス首相が12日、ホワイトハウスで会談した。ウクライナ支援を強調するとともに、移民問題や防衛面での協力を話し合った。
会談では、バイデン氏が「われわれは共にウクライナを支援する」と述べる一方、サンチェス氏はウクライナ戦争についてプーチン・ロシア大統領を非難。「国際法と国連憲章の趣旨を尊重する恒久的かつ公平な和平に向け尽力していく。間違えてはならない。この戦争には侵略者と被害者が存在し、侵略者はプーチン大統領だ」と述べた。
サンチェス氏はウクライナのゼレンスキー大統領に「無条件の支援」を表明し、2014年のクリミア編入以前の状態への領土復帰要求を含むゼレンスキー氏の和平案を支持している。
●ロシア軍司令官2人死亡、バフムトでウクライナ前進か 5/15
ロシア国防省は14日、ウクライナ東部バフムト近郊で旅団長ら軍幹部2人がウクライナ軍の攻撃により死亡したと発表した。バフムトではウクライナ軍が本格的な反攻に転じたとの見方が強まっており、戦闘が激化しているとみられる。
露国防省の発表によると、死亡したのは現地で指揮を執っていた旅団長と別の部隊の副司令官。いずれもウクライナ軍の攻撃を受け、撃退を試みていたという。
バフムトではウクライナが少しずつ進軍している模様だ。ウクライナのマリャル国防次官は13日、通信アプリ「テレグラム」で、ウクライナ軍がバフムト郊外の2方面で前進を続けていると明らかにした。
米シンクタンク「戦争研究所」は13日、「ウクライナ軍がバフムト地域で反攻を続けている」との分析を公表。推計では約17平方キロを奪還したという。英国防省も13日、ウクライナ軍が1キロ前進したとの見方を示した。
一方、ウクライナ各地ではロシアの攻撃による民間人の被害も続いている。ウクライナメディアによると、東部ハリコフ州の村では14日、砲撃により50〜60代の男女が死亡。南部ザポロジエ州でも砲撃で4人が負傷した。南部ヘルソン州の村では不発弾が爆発し、少なくとも5人が死亡した。  
●ロシア、北欧国境に核爆撃機16機 NATO拡大で対抗 ウクライナ退避も狙い 5/15
ノルウェーのメディア「バレンツ・オブザーバー」は13日、ロシア北西部ムルマンスク州のオレニヤ空軍基地に核兵器を搭載可能な戦略爆撃機16機が駐機しているのが、7日撮影の衛星写真で確認されたと伝えた。
同基地は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のフィンランドやノルウェーまで約200キロの距離。ウクライナ侵攻を踏まえたNATOの「北方拡大」への対抗措置の可能性がある。
確認された16機の内訳は、TU160超音速戦略爆撃機2機とTU95戦略爆撃機14機。同メディアによると、ノルウェーの軍事専門家は「(ロシアによる)警告だ」と指摘した。
オレニヤ空軍基地は州都ムルマンスク南方にあり、2011年までは海軍飛行場だった。核貯蔵施設から近いとされる。ウクライナ侵攻開始前はTU22M爆撃機などが置かれていたが、昨年8月にTU160が確認され、10月までにTU95を含めて10機以上に増えたという。
戦略爆撃機は、遠方から巡航ミサイルを発射する形でウクライナ各地への空爆に使用。昨年12月には拠点であるロシア中部サラトフ州のエンゲリス空軍基地などに対し、ウクライナ軍によるとされるドローン攻撃が起きた。この際に移動させた戦略爆撃機がオレニヤ空軍基地にあるというが、同メディアは機体の増加について「短期的な退避のためだけではない」と伝えている。 

 

●聞こえ始めた「プーチンはクソ馬鹿」の声。ロシア国内でも噴出する独裁者批判 5/16
東部の激戦地バフムトで「効果的な反撃」を展開し、一部領土の奪還に成功したと伝えられるウクライナ軍。ゼレンスキー大統領は海外メディアのインタビューに対し「大規模な反転攻勢を準備している」と語りましたが、この先戦況はどのような変化を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、バフムトでの反撃が持つ意味と、ウクライナ軍が反転攻勢で狙う「本命」の地を予測。さらにプーチン大統領への批判や国民感情の変化等、ロシア国内の様子についても詳しく紹介しています。
プーチンは負ける。ロシア首脳部も国民もついに「敗戦」を覚悟し始めた理由
ウ軍は反転攻勢に出て、バフムトやアウディーイウカやボラレダラなどで、威力偵察や本格的な反撃をおこなっているようだ。特に、本格的な反転攻勢に出たのがバフムトであり、ロ軍の弱い所を攻めている。
また、ザポリジャー州やヘルソン州などの複数地点でも偵察に出ているし、攻撃準備をしている。
   バフムト方面
ウ軍はバフムト郊外で本格的な反転攻勢に出ている。ウ軍の攻撃は諸兵科連合軍作戦であり、前線部隊にもパッドでウ軍全体の動きがわかるようにして連携を取る。これでロ軍は対応できない速度で攻められている。
郊外のクロモベのO0506道路の近接地域のロ軍陣地をウ軍第92機械化旅団が攻撃・奪還し、ロ正規軍は後退している。この方面には、ワグナー軍はいないという。ロシア国防省も12日「(バフムート北の部隊は)防衛ラインの安定性を高めるためベルヒフカ貯水池周辺の有利な位置を保持している」と後退を認めた。この方面では、ロ軍が総崩れの状態になり、立て直せるかが問題である。
イワニフスクでもウ軍第24突撃旅団がロ軍陣地を攻撃して、ロ軍を後退させている。ウ軍の戦車が至近距離で砲撃し制圧、その後歩兵がBMP-1から下車展開して、塹壕を掃討している。歩兵だけでは、戦車に対抗できないし、RPGは持っているが、戦車に当てるのは難しいようであり、ジャベリンのような優れた対戦車ミサイルをロ軍は持っていないようだ。これでは、戦車で蹂躙されるだけである。
もう1つが、ウ軍第3突撃旅団が、運河を渡河してクリシチョウカ方向に攻撃して、進撃中であり、ここを守っていたロ軍第72自動車化狙撃旅団の2個中隊が壊滅して、第72自動車化狙撃旅団全体が2kmほど後退した。取り残されたワグナー軍の500人も全滅したが、第72自動車化狙撃旅団がワグナー軍に撤退の連絡もないことで、孤立したからだとプリゴジンは言って、側面のロ軍旅団は、戦わずに逃亡したと、怒っている。
しかし、第3突撃旅団とはアゾフ連隊のことで、そこの指揮官は「真っ先に逃げ出したのはワグナーの兵士達で第72旅団の兵士達は包囲され降伏を受け入れるまで懸命に戦っていた。プリゴジンは嘘つきだ」と述べている。
ウ軍第3突撃旅団の一部は、クリシチョウカ市内に到達しているようである。このため、イワニフスク近郊の第72自動車化狙撃旅団全体は、既に包囲されている状態になっている。数千名のロ軍兵は、絶体絶命の状態である。ウ軍第3突撃旅団は、戦車T64や装甲車M113などで構成されている。
ここまでで、今年の2月に、ロ軍が手に入れた地域が、たった1日で取り返されたことになっている。ロ軍の弱さや装備のなさが、どうしようもないレベルであることがわかる。ロ軍が3ヶ月かかってとれた土地も、後数日で取り返される運命にあるようだ。
市内北側では、ウ軍は第2市立病院までロ軍を押し戻している。東側はワグナー軍は前進できずにいる。ヘッドマンスーパーマーケットでもワグナー軍は停滞している。
市内南側は、ウ軍の攻撃で、工業大学を取り戻している。しかし、工業大学の南側では、ウ軍がワグナー軍を押し戻したが、再度、ワグナー軍は第2小学校まで前進してきた。
バフムトに到着した攻撃の主役レオパルト2戦車隊
プリゴジンは、市内攻撃兵力をバフムト郊外側面の防衛に回さないと、逆包囲される可能性があると、危機感を持っているようである。このため、兵力不足で攻撃ができないようだ。
ウ軍は、西と南から市内のワグナー軍を逆包囲する作戦であり、プリゴジンの心配は当たっている。ウ軍がバークヒフカを取れば、バフムトを徐々に包囲し始めるだろうとプロゴジンは言う。
そして、攻撃の主役であるレオパルト2戦車隊が、バフムトに到着した。ここからが、春の攻勢を開始することになる。
しかし、米軍の高官は「ウ軍は待望の反攻作戦に向けて形成作戦を開始した」と述べているが、形成作戦自体は「敵を欺くためにも行われる」と付け加えており、一般人が「戦場で何が起こっているのか」を予測するのは本当に難しい。ということだそうだ。
バフムトでの反転攻勢は、欺くために行い、ザポリージャ州に展開するロ軍をバフムトに応援で送ると、今後はザポリージャ州が手薄になる。
プーチンを「幸福なじいさん」呼ばわりしたプリゴジン
前回からの続きでは、ワグナー軍は、ロ軍から弾薬が提供されることになり、バフムト攻撃を続行していたが、要求の10%程度しか弾薬が届かないとプリゴジンはクレームを付けた。
しかし、プリゴジンは9日、「我々が(バフムトの)陣地を離れたら、祖国に対する国家反逆罪になると明確に書かれていた」とロ軍幹部から言われて、渋々、バフムトにいる状態である。
これに対して、プリゴジンは、ロシアの戦勝記念日に公開した動画で「一人の幸福なじいさんがロシアによるウクライナ侵攻はロシアの勝利で終わると確信している。このじいさんが最終的にクソ馬鹿であることが明らかになれば、国はどうすればいい?戦争にどうやって勝てばいいのか?」と述べたが、バフムトでの戦闘を見ると、それが実感することになる。
プリゴジンは、後援者の一人である、ロシアの億万長者にしてプーチン大統領の「個人銀行家」ユーリー・コヴァルチュク氏と連絡が取れなくなったというが、この動画が影響している。
プーチンは、プリゴジンの言葉を聞いたら激怒すると思うが、しかし、これまでプーチンを支持していた戦争推進派が、幻滅している。そして、プーチンに愛想をつかした極右勢力が、最前線で勇敢に戦うプリゴジンを支持するようになっている。
しかし、ウ軍の大攻勢を受けて、バフムト死守の方向にワグナー軍はなっているようだ。プリゴジンの政治生命も危うい。それと、英国は、ワグナー軍をテロ組織に指定する方針だという。金融制裁を科すとされ、ワグナー軍の資金調達にも影響が出るとみられる。
このため、プリゴジンは、ジョイグ国防相に「バフムトに来て、ロ軍の状況を見ろ」と要求している。
それと、ロシアのミルブロガーによると、「ソレダル方向では、ウ軍は接触線全体(長さ95キロメートル)に沿って攻撃作戦を実施した。ウ軍は1,000人以上の軍人、最大40台の戦車と特殊装備を用いて26回の攻撃を開始した」。ロ軍は逃げ出すものがいるという。
ということで、ボダニウカからウ軍第56歩兵旅団が、ロ軍陣地を攻撃し、ここをロ軍第200独立親衛自動車化狙撃旅団が守っているが、後退するロ軍兵士に対して督戦的な行動を行っている。バークヒフカを取られるとバフムト逆包囲されることになる。プリゴジンの心配も分かる。
それと、ザルジニー軍総司令官とシルスキー陸軍司令官は、ともにバフムト地域で作戦指揮をしているようであり、ロ軍は、この2人を殺したと嘘の情報を流している。
しかし、ゼレンスキー大統領は最高司令官本部会議を開催し、「私たちは、シルスキー将軍の報告を聞いた。その部隊は圧倒的な力で敵を阻止し、さらには敵をある方向に押し戻したそうです」と発言した。
キーウへの攻撃で露呈したロシアの巡航ミサイル枯渇
   その他方面
クレミンナ方面では、セレブリャンスクの森方向にロ軍は攻撃したがウ軍に撃退されている。
アウディーイウカ方面でも、プレボマイスクにウ軍は攻撃したが、ロ軍の砲撃で、損害を出し撤退した。逆にロ軍は要塞に攻撃したが失敗している。
ロ軍は、マリンカとノボミハイリフカに攻撃して来たが、ウ軍は撃退している。ウ軍はノボドネツクの川を渡河し攻撃して、ロ軍は、後退している。ここからマリウポリまでは、一直線であり、マリウポリのロシア人や親ロ派住民は、逃げ出している。ここが本命であるとみるが、まだ分からない。
ロシア支配地のルハンシク市が長距離攻撃された。ウ軍はミサイルシステム「グロム(フリム)」が使用されたとロ軍は主張した。攻撃されたのは、機械製造工場と弾薬保管拠点と石油貯蔵所のようだ。
ドニプロ川東岸や中州のウ軍拠点をロ軍は砲撃している。しかし、ベリスラフにウ軍が集結して、ドニプロ川に大量のウ軍小型船が集結し、水陸両用車も目撃されているという。
ロ軍は、9日朝にかけて巡航ミサイル25発をキーウなどに発射し、うち23発が迎撃された。5月9日は戦勝記念日であり、戦果が欲しいが、巡航ミサイルが枯渇していて、100発も打てないようだ。
ウクライナに供与された真のゲームチェンジャー
ウ軍は、ロ軍への反転攻勢を前に、準備段階に当たる「形成」作戦を開始したと、米軍や欧米当局の高官が明らかにした。
形成作戦の内容には、部隊の進軍に備えて戦場の状況を準備するため、武器集積所や指揮所、装甲車、火砲を攻撃することで、大規模な諸兵科連合作戦の前に行われる標準的な戦術だ。
しかし、ゼレンスキー大統領は11日、欧米から約束された軍事支援のさらなる到着を待つ必要があるため、反攻開始には「もう少し」時間が必要だとの認識を示していた。
それと戦争には、後方支援も必要であり、ドイツのラインメタル社がウ軍戦車を修理・製造する合弁会社をウクロボロンプロム社と設立した。長期戦になると、ラインメタル社は考えているようだ。
それと、ウクライナ国防省は月12日、国産戦車「オプロート」を国内企業ウクロボロンプロムに発注すると発表した。「オプロート」は、既存のT-80UD戦車をベースにウクライナが開発した重量50t超の主力戦車で、いくつかのモデルが存在し、主砲だけ見てもロシア規格の125mm滑腔砲とNATO規格の120mm滑腔砲の2種類が存在する。
この戦闘で効果があるのは、英国が射程距離250km以上の巡航ミサイル「ストームシャドウ」をウ軍に提供したことである。空対地ミサイルなので、ポーランドとスロベニアのMIG29を改修して、改修後ウ軍に供与して、この戦闘に間に合ったようであり、これで、クリミア大橋を破壊できることになった。
この供与に対して、「イギリスによるミサイル供与は破壊と人的犠牲の点で、紛争をさらに深刻化させる」とロシア外務省が非難した。
米高官も、ストームシャドーは「射程の観点から見て真のゲームチェンジャー」であり、ウクライナが開戦当初から要求してきた戦闘能力を与えるものだとした。
しかし、ウ軍はロシア国内への攻撃には使えないという。
もう1つ、ウ軍のHIMARSの命中精度が下がっているのは、ロ軍の電子戦装置によるが、スタンドオフデコイジャマー「ADM-163B MALD」をウ軍が使用しているが、これを米国が極秘に供与したようである。使用方法は、スタンドオフデコイジャマーを放ち敵防空網を撹乱して、その隙に本命のミサイル攻撃ないし航空攻撃を行う流れになる。ルハンシク市の長距離攻撃に使用されたようだ。
もう1つが、11日に、ウ軍兵の訓練に使う米主力戦車エイブラムスがドイツに到着した。ここから訓練が開始する。
ゼレンスキー大統領はいつまで待つのあろうか。このエイブラムス訓練後まで待つとすると、9月以降迄待つことになる。
「自分が大統領なら1日で戦争を終らせる」。トランプの大風呂敷
もう1つ、米国の支援がいつまで続くのかが問題である。大統領候補のケネディ氏は、800もの海外の米軍基地を閉鎖するという。米国の国防予算は世界一でありながら内部から空洞化してきているとした。
一方、トランプ前米大統領は10日、ロシアによるウクライナ侵攻について、自身が大統領であれば戦争は起こらなかったとの認識を示した。
また、トランプ氏は、現在自身が大統領なら「1日で戦争を終わらせるだろう」と述べた。「彼らは共に、弱みと強みの両方を持っている。24時間以内に戦争は解決する。完全に終わるはずだ」とトランプ氏は言う。
プーチン氏を戦争犯罪人と考えるかどうかについては、「彼を戦争犯罪人ということにすれば、現状を止めるための取引が非常に難しくなるだろう」「彼が戦争犯罪人となれば、人々は彼を捕まえ、処刑しようとする。その場合、彼は格段に激しく戦うだろう。そうしたことは後日話し合う問題だ」とトランプ氏。
「敗戦」の方向に傾くロシア国内の世論
5月9日の対独戦勝記念日に、プーチンの演説や軍事パレードなど恒例の催しが行われた。プーチンはロシアの崩壊を狙う西側に対し祖国を守るための戦争であることを強調し、あたかも被害者のようにした。そして規模を縮小した軍事パレードは外国メディアの取材を許可せず、現役の戦車も航空機も登場しないものだった。
プーチンは10日、予備役の民間人を招集して軍事訓練を行うことを認める大統領令に署名したが、予備役を集めて志願兵にしたいようである。兵員不足が起きていて、戦線を維持できない状態である。
そして、欧州通常戦力(CFE)条約の破棄に向けた法令に署名した。欧州通常戦力条約は通常兵器の上限を定める軍縮合意であるが、既にロ軍は通常兵器を大幅に失い軍縮している状態である。
それと同時に、ロシアのペスコフ大統領報道官は、ウクライナでの軍事作戦について「非常に難しい」状況だが、今後も続けるとの立場を示した。「特別軍事作戦が進行している。非常に難しい作戦で、当然ながら特定の目標は1年で達成した」と述べた。
それと、12日、ペスコフ大統領報道官は、西側メディアのプーチンへの直接取材やインタビューなどを原則拒否するにした。「真実を伝えようとする姿勢が見られない間は彼らと話さない」と述べた。
このあたりが、ロシア上層部でもウ軍に負ける可能性を見始めているように感じる。
そして、ロシア国民もかなり不安になっていると独立系世論調査機関『レバダセンター』の副所長は言う。「4月の世論調査で75%が“戦争を支持しロシアが必ず勝利すると信じている”という結果が出ている。
しかしこれは表面的な結果だ。より深い分析をすれば国民はこの戦争に不安になっていることが分かる。不安が圧倒的に多い。どんなウ軍の反転攻勢があるのかわからない。反転攻勢とは単なる戦闘ではなく、弱いウ軍に抵抗できないロシアの威厳に対する攻撃でもある。そもそも何のために、この戦争を始めたのかと国民が考え始める」という。
この調査報告書では、ウクライナの反転攻勢を心配している人が62%。欧米からの武器供与を心配している人も77%。何より今後難しい局面が来る、これまでより大変なのはこれからと考えている人が過半数いる。どんどん状況が厳しくなっているという受け止めが感じられるという。敗戦の方向にロシア国内では世論が傾いている。この傾向は、プリゴジンの発言も影響しているようだ。
このような不安から、ロ軍の元大佐イーゴリ・ストレルコフ氏らが創設した民間団体「怒れる愛国者クラブ」が12日、ウクライナ侵攻は「停滞している」としてプーチン政権を批判した。ロ軍の戦いぶりを「受け身に回っていて、作戦の目的が達成できていない」と訴えた。「戦略と目的がはっきりせず、勝利に必要な手段を使っていない」と指摘。社会のあらゆる力を総動員すべきだと述べた。
ルカシェンコは昏睡状態か。唯一の支持者失うプーチン
また、ウ軍に迎撃された極超音速ミサイル「キンジャール」は、パトリオットミサイルを撃破しようとして発射されたが、逆に迎撃されたようだ。
ウクライナ原子力企業エネルゴアトムは10日、同国南部のザポロジエ原発を占拠するロシアが、原発が立地する都市エネルゴダールから職員ら約3,100人の退避を準備していると発表した。原発を維持できずに、核汚染の可能性を見て、退避するようだという。
もし、原発の核物質の暴走になると、福島第1原発や、チェルノブイリ原発と同様に、50kmまでの住民の退避も必要になる。そうすると、ザポリージャ州の広範囲が対象になる。これは戦況に大きな影響を受けることになる。
一方、9日の対独戦勝記念日の昼食会に欠席したルカシェンコ大統領は、心筋梗塞を患っており、おそらく人工的な医学的昏睡状態に置かれているようだという。プーチンに取って、強い支持をしてくれる唯一の存在を失うことになる。
もう1つ、14日はトルコの大統領選挙であるが、エルドアン大統領が負けそうであり、負けるとクルチダルオール氏は、欧米的なセンスでロシアと対応するので、ロシアとしても、この選挙に介入してきたが、負けると大きい。
それと、12日、モスクワ近郊のジェルジンスキー市で火災が発生したが、MiG航空機のエンジンを製造する工場のようである。
中央アジアサミットにロシアを呼ばず。プーチンを見限る習近平
NATOのストルテンベルグ事務総長は10日、東京に連絡事務所を新設するために日本政府と協議しているとした。中国は、NATOの日本進出を危惧しているようだ。
中国は、秦剛外相を欧州に派遣している。背景には、米中の対立激化から欧州を引き離そうとする中国側の思惑があり、米国のやり方に従えば欧州の利益が損なわれると警告している。しかし、NATOの日本進出となる。
中国は、4月CPIが前年比0.1%(前回0.7%)へと減速して、デフレの状態になりそうだ。経済も低調であり、欧米企業の撤退も「反スパイ法」拡大で加速している。このため、経済面を考えるなら、欧州を引き留めたいようである。
このため、中国は特別代表をウクライナ・ロシアなど5か国に派遣して、和平交渉の仲介役を果たして、中国の威信を上げたいようである。
9日の対独戦勝記念日にもロシアに友好的なメッセージも送らず、反対に、中国の船舶は、ロシアのザルベジネフチとペトロベトナムの合弁会社ベトソフペトロの「04-03」ブロックに入り、ロシアの権益を障害していた。
5月19日からは、中央アジアサミットで、中国と中央アジア諸国との首脳会談も予定しているが、ロシアを招待していない。
このように、中国は非常に微妙な外交を展開している。
イスラエルでは、ガザから400発以上のロケット弾が打ち込まれて、アイアンドームへの飽和攻撃になり、民間人が複数、けがをしたようである。同時にビスボラからもロケット弾攻撃を受けている。裏には、イランがいるし、サウジはイランとの和平が成立、シリアはアラブ連合会議に復帰している。
イスラエルが、中東で孤立的な立場になってきたようである。この紛争にエジプトが仲介するようであるが、こちらも微妙なことになってきた。戦争が近い感じである。
というように戦争の時代になり、日本でも、有事に輸入が止まるなど国内で食料が不足する事態に備え、農林水産省が農産物の増産を農家や民間事業者に命令できる制度をつくる方向で検討を始めた。
さあどうなりますか?
●プーチン氏の後継者、ウクライナ侵略「黒幕」との良好な関係が重要… 5/16
慶応大教授の廣瀬陽子氏がロシアによるウクライナ侵略について講演し、戦争の背景や特徴、今後の展望などについて解説した。
廣瀬氏は国際政治や旧ソ連地域の研究が専門で、政府の委員も歴任している。冒頭、ロシアの外交戦略の根幹となる「勢力圏構想」について説明。ロシアが勢力をもつ旧ソ連の領域に向け、拡大している北大西洋条約機構(NATO)の動きを踏まえ、ウクライナは「重要な緩衝地帯だった」と背景を解説した。
今回の戦争は、経済制裁や情報戦などに実際の戦闘を組み合わせた「ハイブリッド戦争」だと指摘。米国などと比べ軍事予算が少ないロシアにとって、正規の軍より安いコストで運用でき、国際的な影響力も高いなど利点があるという。
廣瀬氏は「ハイブリッド戦争の黒幕」ともいえる人物として、エフゲニー・プリゴジン氏の名前を挙げた。民間軍事会社「ワグネル」の創設者で、ホットドッグ販売などで財をなし「プーチンのシェフ」とも呼ばれる。「ロシアの研究者と議論したとき、『プリゴジンと良好でなければプーチンの後継者になれない』と言っていた」といい、内政への影響力も大きいことがうかがえるという。
今後の戦況については、どちらかの勝利で終結する可能性は低く、長期化するとの見方を示した。今後始まるというウクライナ軍の大規模な反転攻勢が命運を分けると指摘。「風化させず、我がこととして支援し続ける必要があるのではないか」と締めくくった。
講義後、参加者からは「北方領土返還について、どうロシアと接するべきか」という質問が出た。廣瀬氏は、2020年にロシアが領土割譲を禁止する憲法改正を行ったことを踏まえ「『国境をどう設定するか』という議論に持ち込めばぎりぎり交渉の可能性はあるが、ロシアは次々と日本との関係を断つ行動に出ており、返還交渉は厳しくなっている」と述べた。
●プーチン氏、旧ソ連諸国との協力に意欲 安全保障会議 5/16
ロシアのプーチン大統領は15日、ロシア安全保障会議のビデオ会議で、旧ソ連諸国との協力から得られる利点について協議しなければならないだと述べた。
安全保障会議は通常金曜日に開かれるが、今回は前倒しして実施。前倒しの理由は明らかにされていない。会議には閣僚らも出席。テレビ放映された冒頭発言でプーチン氏は「ロシアと旧ソ連の各共和国は幅広い競争上の利点を持っている」とし、共同で良い結果を出すために何ができるか話し合いたい」と述べた。
昨年のウクライナ全面侵攻開始以降、西側諸国が対ロシア制裁を強化する中、一部の旧ソ連諸国はロシアの重要な経済パートナーになっている。
●G7に対抗したロシア 食糧恫喝戦略≠ナアフリカ囲う? 5/16
5月19日から広島市内で開催される主要7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、欧米や日本など自由主義諸国が結束を高めようとする中、その動きに対抗するかのようにロシアが中国、インドなどに加えアフリカ諸国との連携強化を誇示しようとしている。アフリカは食料輸出や武器供給などでロシアに依存する国々が多数あり、政治、経済面でその影響力を色濃く受けている。
5月中旬には、南アフリカがロシアに武器を輸出していた疑惑まで浮上したが、プーチン大統領は即座にラマポーザ大統領と電話会談を実施し、食料危機が進行するアフリカへの穀物供給を約束するパフォーマンスを見せた。ロシアはG8からかつて、ウクライナのクリミア半島を併合したことで排除された経緯もある。
自らのウクライナ侵攻と、黒海封鎖がアフリカを中心とする国々の飢餓状態を急激に悪化させているにも関わらず、あたかも救済者のようにふるまうプーチン氏の姿勢は偽善≠ノほかならない。政権基盤が弱い国々に武器輸出や私兵集団「ワグネル」の派遣を通じロシアに依存させ、自陣営に引き込む手法は恫喝に等しいが、プーチン政権はそうやって培ったアフリカ諸国との関係性を最大限に利用している。
冷戦時代から続くアフリカとの関係
「プーチン大統領は食料安保をめぐる協議において、南アフリカのラマポーザ大統領に対し、必要ならばアフリカ諸国に対しては、大量の穀物と肥料を送る準備がある。一部は無料≠ナ送る用意があると伝えた」
5月12日、プーチン氏はラマポーザ氏との電話会談でそう提案したという。あたかもアフリカの食料危機をロシアが救うかのような言いぶりだ。
南アフリカをめぐっては11日、同国に駐在する米国大使が「南アは2022年12月に、ロシアへ秘密裏に武器や弾薬を提供したとの情報がある」と指摘し、国際社会に衝撃を与えたばかりだった。ロシアとの関係を理由に国際社会の批判を浴びかねない南アを、プーチン氏が即座に救済≠オた格好だ。
両氏はまた、7月下旬にロシア・サンクトペテルブルクで開催される「ロシア・アフリカ首脳会議」や、8月にヨハネスブルクで開催されるロシアや中国、インド、ブラジル、南アがメンバーの「新興5カ国(BRICS)首脳会議」をめぐっても意見を交換したという。プーチン氏の言動からは、G7が対ロシアで協調を強めようとするなか、アフリカ諸国などとの関係を誇示して国際的な孤立イメージを払拭する狙いが透けてみえる。
プーチン氏はウクライナ侵攻を背景に国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状を出されており、ICC加盟国の南アはプーチン氏が首脳会議で訪問すれば同氏を逮捕する義務を負う。しかしラマポーザ氏は、ICCからの脱退を目指すと発言するなど極端にロシア寄りの姿勢を繰り返し示している。
多くのアフリカ諸国は冷戦時代、ソ連による政治的、経済的支援を受けた経緯があり、南アについてもそれは同様だ。現在政権を握る与党「アフリカ民族会議(ANC)」も、ソ連からの支援を受けていた経緯がある。欧米による植民地支配に苦しめられたアフリカ諸国が国連などの場で、ロシアに同調する姿勢を示すのは決して故なきことではない。
ロシアがウクライナに侵攻した直後に開催された国連総会の緊急特別会合で、ロシア軍に対する「即時かつ無条件の撤退」などを求めた決議では、賛成票を投じなかった国の実に半数がアフリカ諸国だった。
食糧を武器に恫喝
しかし、そのようなソ連、ロシアとの歴史的な結びつきだけがアフリカ諸国をロシアになびかせているわけでは決してない。
米シンクタンクの調査によれば、サハラ砂漠以南のアフリカや南アジアを中心とした世界の少なくとも36カ国が重大な飢餓に直面しており、その主要な理由がロシアによるウクライナ侵攻が食料や燃料価格高騰を招いたことにあるという。また米ワシントンを拠点とする「対アフリカ戦略研究センター」によれば、アフリカにおいて消費される穀物の30%はロシアから輸入されており、その95%が小麦だ。アフリカ諸国はさらに、ウクライナ産の穀物にも多く依存している。
ロシアはウクライナに侵攻し、農地の占領や地雷の敷設、さらにウクライナ南部の黒海周辺の主要港の占領や黒海を封鎖するなど、ウクライナ産穀物の輸出を妨害する戦略をとっている。ロシアは昨年7月には、トルコと国連の仲介で黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出に合意しているが、一方的に履行を停止するなどしてウクライナと関係各国を揺さぶっている。合意期間は断続的で、期限が近づくたびに関係各国は再交渉を強いられる構図が生まれている。
そのような中で、ロシアは自らがアフリカに穀物を供給する姿勢を繰り返しアピールし、逆にウクライナやロシアに経済制裁を科す西側諸国を非難し続けている。アフリカ諸国としては、食糧という文字通りの命綱をロシアに握られた格好で、その意向をむげにはできない。穀物輸出をめぐる次回の合意期限は5月18日に設定されており、これはG7サミットの開幕前日にあたるため、その動向が注視される。
武器や傭兵も
昨年3月以降、ロシアによるウクライナ侵略を非難する趣旨で実施された5度の国連決議において、すべての決議で棄権、または反対したアフリカ諸国は中央アフリカ共和国、マリ、スーダンだったという。カーネギー国際平和基金によれば、これら3カ国はいずれも政権基盤が弱いが、ロシアによる軍事支援やロシアの私兵集団「ワグネル」の支援を受けるなどして、政権を維持している国々だという。
例えばスーダンでは、ロシアから軍事支援や政治支援を受けることと引き換えに、軍がスーダン国内に埋蔵された金への利権をロシア側に付与していた実態が米CNNの調査で判明している。この動きは2014年のロシアによるクリミア併合後に活発化し、その後国際的な制裁を受けるロシアがスーダンの金を調達するケースが増えたという。マリや中央アフリカ共和国においても、国軍に対するワグネルの関与がかねてから指摘されている。
ソ連崩壊後、その後継国のロシアはアフリカ大陸の大半から軍事支援の手を引いたが、2000年に発足したプーチン政権は旧ソ連時代の軍事支援国との関係回復を再び進めた。ロシア政府は18年にはギニア、ブルキナファソ、ブルンジ、マダガスカルと軍事協定を結び、イスラム過激派に手を焼くマリ、ニジェール、チャドなどがロシアに軍事支援を要請した。ロシア製の武器に頼る国も少なくなく、アフリカ市場で出回る武器の約半数がロシア製といわれる。
特にアルジェリア、エジプト、アンゴラがロシア製武器を多く調達している。これらの国の多くは、国連での対ロシア決議で棄権や反対するなど、ロシア寄りの立場を示している。
象徴的な出来事もあった。ロシアは4月下旬に、自国が議長を務める国連安全保障理事会において、「国連憲章の擁護」をテーマにした会合を開催し、自国の立場を正当化する主張を展開してみせた。ここではロシアと連携する中国が対米批判を展開したほか、ガーナ、ガボン、モザンビークはロシアによるウクライナ侵攻に言及しなかった。
アフリカは国連総会の場では54票を有するなど存在感が高く、中国やインドなども出席する国連の場では、ロシアは国際社会から孤立しているとのイメージを抑えることができる。
G7側も対抗
ただ、このような現状をG7側も十分に理解している。米国のバイデン政権は今年に入り、ブリンケン国務長官やハリス副大統領らを相次ぎアフリカに派遣したほか、3月に主催した「民主主義サミット」では約120カ国・地域を招待し、アフリカ5カ国を新たに加えた。日本も、岸田文雄首相が4月末からアフリカ4カ国を歴訪するなど、議長国としてアフリカとの連携を強化している。
アフリカ諸国に対しては、ロシアと連携する中国も浸透を強めており、欧米や日本がアフリカでどこまで巻き返せるかは不透明な部分がある。ただ、ロシアは実際にはアフリカ全体との貿易額では欧州連合(EU)の20分の1程度しかなく、対アフリカの直接投資にいたっては1%しか占めないほか、ワグネルが入った国々では逆に暴力が過激化している実態も伝えられており、その関与が各国の発展につながっているかは強い疑問がある。
ウクライナ侵攻でロシアが今後さらに劣勢に陥れば、ロシアを見限るアフリカ諸国が今後増加する可能性もある。
●ロシア核使用なら「追放」 サミットでNPT再確認―駐日仏大使 5/16
フランスのフィリップ・セトン駐日大使がインタビューに応じ、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の主要議題となるウクライナ情勢に関し、ロシアが核兵器を使用すれば国際社会から「追放」され、強力な制裁に直面することになると警告した。主なやりとりは次の通り。
――ロシアが核使用を示唆している。
無責任な受け入れ難い脅しだ。軍事的、人道的にあらゆる悲劇を招くため、その可能性について言及したくはない。ロシアを含む核保有国は2022年1月、核戦争を絶対に起こしてはならず、決して勝者はいないとする声明を発表した。
――ロシアが使用した場合の対応は。
まずロシアが使用しないようにすることが最優先だ。ロシアは各国から政治的非難を受けるだけでなく、確実に国際社会から追放されるだろう。そして間違いなく対ロ制裁が強化される。
――岸田文雄首相はサミットで核廃絶に向けたメッセージを打ち出したい考えだ。
広島という象徴的場所で行われるサミットについては、核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用を定めた核拡散防止条約(NPT)を尊重する強いメッセージを発する機会であるべきだとわれわれは言ってきた。北朝鮮やイランに関係した核拡散の脅威が高まる中、非常に高い政治レベルでNPTの原則と目標を繰り返すものであるなら、首相のメッセージはサミットで支持されるだろう。
――インド太平洋地域で中国が存在感を高めている。
中国がさまざまな手段で影響力を拡大しようと企てているのを目の当たりにしている。フランスの国家戦略は欧州連合(EU)と同様で、地域の国々が必要とし、彼らの主権を尊重した支援を提供することだ。
――台湾に対する中国の脅威をどう見るか。
フランスの姿勢は一貫している。G7外相会合の共同声明でも、この地域の安定と現状維持に加え、当事者に対話を通じて相違を解決するよう求めている。さらにわれわれは、この地域で航行の自由をはじめとする多くの原則を尊重し、適用するよう要請している。
●EU G7サミット前に会見 “中国との関係めぐる議論が重要”  5/16
G7広島サミットに出席するEU=ヨーロッパ連合の大統領と委員長が会見し、サミットでは、EUのウクライナへの支持を改めて明確に示すとともに、台湾情勢といった安全保障上の観点などから中国との関係をめぐる議論が重要だと強調しました。
今週19日に開幕するG7広島サミットへの出席を前に、EUのミシェル大統領とフォンデアライエン委員長が15日、ベルギーのEU本部でそろって会見を行いました。
この中で、ミシェル大統領は「われわれはゼレンスキー大統領が提言した和平に向けた10項目への支持を表明する」と述べ、ロシア軍の撤退やウクライナの領土保全の回復など、和平に向けたウクライナの立場に対してEUの支持を明確に表明する考えを示しました。
また、フォンデアライエン委員長は中国との関係をめぐる議論も重要だという認識を示し「核心的な外交政策や安全保障上の課題についてパートナーと結束する。台湾海峡の平和と安定への揺るぎない関与を改めて確認する」と述べました。
EUは現在、中国との関係のあり方をめぐって加盟国の間で議論を続けています。
議論のたたき台として、EUがこのほど加盟国に示した文書では台湾情勢をめぐって緊張が大幅に高まる事態への備えが必要だとしたうえで、現状が損なわれることを防ぐためにパートナーの国々と連携する必要があると指摘していて、EUはこうした認識のもと、G7サミットに臨むとみられます。  

 

●世界原油市場、ロシアの減産で「完全に安定」=プーチン大統領 5/17
ロシアのプーチン大統領は17日、世界的な原油市場について、ロシアが価格を支えるために減産を維持しているため、全体として「完全に安定している」と述べた。
プーチン大統領はテレビ中継された政府会議で、ロシアは「必要な水準」での減産を続けているとし、「自主減産を含めロシアが行っている全ての措置は、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と構成する『OPECプラス』との取り組みの中で一定の価格を維持する必要性に密接に関連している」と述べた。
ロシアは4月2日、2月の産油量を基準とする日量50万バレル(約5%)の減産を年末まで延長すると発表。OPEC主要国も同日、減産を発表した。
イランを訪問中のロシアのノバク副首相は同日、ロシアは今月、日量50万バレルの減産を達成したと述べた。
●アフリカ、ロシアとウクライナを仲裁…「プーチン氏・ゼレンスキー氏と合意」 5/17
アフリカ諸国がロシアとウクライナの終戦交渉の仲裁に乗り出すことを決めた。ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領もこの提案を受け入れた。
16日(現地時間)、英紙ガーディアンなどによると、南アフリカ共和国(南アフリカ)のシリル・ラマポーザ大統領は同日、ケープタウンでシンガポールのリー・シェンロン首相との共同記者会見で「プーチン大統領やゼレンスキー大統領とこの提案について話し合った」と明らかにした。
ラマポーザ大統領はプーチン大統領とゼレンスキー大統領ともアフリカの指導者と潜在的な平和計画について話し合うことで合意したと述べた。また「両首脳との議論は、彼らがアフリカの指導者たちを迎え、この紛争をどのように終息できるかを議論する準備ができていることを示した」と説明した。同時に「成功するかどうかは今後進められる議論にかかっている」と述べた。
アフリカの首脳で構成された平和使節団には、南アフリカやセネガル、ウガンダ、エジプト、コンゴ共和国、ザンビアが参加する。プーチン大統領とゼレンスキー大統領は、それぞれの首都モスクワとキーウで彼らを迎える予定だ。具体的な日程は公開されていない。
ラマポーザ大統領は、米国と英国が同計画に「慎重な」支持を表明し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長も同計画について報告を受けたと明らかにした。これとは別に、中国、ブラジル、トルコなど一部の国家も仲裁者として平和解決への努力を支援している。
●極超音速キンジャール6発を撃ち落してわかった、ロシア核はそんなに怖くない 5/17
ウクライナは、ロシアが5月16日にキーウ上空に発射した極超音速の空対地ミサイル「キンジャール」6発を撃墜したと発表した。西側の防空システムの有効性を実証するとともに、ロシアがこの戦争にもたらす核リスクの大きさが変わる可能性もある出来事だ。
ウクライナの発表によると、MiG-31戦闘機から発射された6発のKh-47キンジャールは、ロシアが一晩で発射したミサイル18発の一部だ。キンジャールのほかには、陸上から巡航ミサイル3発、黒海から「カリブル」巡航ミサイル9発が発射されたという。
ウクライナ軍総司令官のヴァレリー・ザルジニーは、18発すべての迎撃に成功したと述べている。とりわけキンジャールは核弾頭を搭載可能で、最高速度マッハ10とされており、ロシアは「誰にも止められない」と豪語してきた。
ドイツのシンクタンク、ヨーロッパ・レジリエンス・イニシアチブ・センターの創始者であるセルゲイ・サムレニーは本誌に対し、「ロシアが止められないと言った兵器はこれが初めてではなく、ほぼ止められることが判明している」と語った。
ロシアに勝った防空システム
「今回の件は、ロシア軍とロシア技術の信憑性に傷をつけた」とサムレニーは続ける。「通常、このような攻撃においては、防空システムが手一杯で迎撃が間に合わなくなるはずだ」
「西側の武器支援を受けたウクライナ軍は、ロシアによる、これまでで最も現代的な兵器を使った激しい攻撃も撃退できることがはっきりした」
またサムレニーは「西側では、核戦争へのエスカレーションが起こり得るという恐怖はいまだに根強い」と言う。「しかし、すべてのリスクの重みを改めて見直す必要がある」と述べた。
ウクライナがロシアの最先端のミサイル迎撃に成功したのが本当だとしたら、ロシアによる核攻撃が成功する可能性は「私たちが考えていたより大幅に低くなる」とサムレニーは言う。
開戦以来、ロシアの国営テレビはしばしば、自国の核兵器を自慢してきた。ウラジーミル・プーチン大統領も核威嚇を行ってきた。
ノルウェー、オスロ大学の博士研究員ファビアン・ホフマンは本誌の取材に対し、これほど激しく、時間調整された、多ベクトルのミサイル攻撃を封じたウクライナの能力は、「たとえこれらのミサイルに核兵器が搭載されたとしても、途中で撃ち落とせる可能性が十分ある」ことを示唆すると述べている。
「この事実は、ロシアの意思決定者に難しい問いを投げ掛けることになる。核兵器の有効性について、これまでよりも不安を感じることになるだろう」とホフマンは話す。
だからといって西側が、これまでより核エスカレーションのリスクを冒そうしてはならないが、「核で対峙することがロシアの利益になるとは思わない」とホフマンは述べた。
ウクライナは5月4日、アメリカの「パトリオット」防空システム(広域防空用の地対空ミサイルシステム)を使って、初めてキーウ近くの上空でキンジャール1発を撃墜したと発表している。
パトリオットは、NATO諸国がウクライナに供与している先進的な防空システムの一つだ。ドイツの短距離空対空ミサイル「IRIS-T」は、2022年10月にウクライナに到着し、以来、60以上の目標を撃墜している。フランスとイタリアが共同開発する地対空ミサイルシステム「SAMP/T」も最近到着した。
パトリオットが、18発のうち何発を迎撃したかは不明だが、ウクライナ軍の成功は、ウクライナが集中砲火に耐えられる防空システムを持ったことを示している。ウクライナ軍の指揮を執るセルヒイ・ポプコは今回の集中砲火について、「異例の密度」と表現する。
プーチンは、ロシア語で「短剣」を意味するキンジャールをロシアの次世代兵器と謳っていたが、「高度な防空システムを回避できる」といったロシアの主張に対しては、専門家から疑問の声が上がっていた。
●ロシア軍と民間軍事会社ワグネル 確執が深刻化  5/17
ウクライナの激戦地バフムト周辺では、ロシア軍と民間軍事会社、ワグネルとの確執が深刻化しています。そうした中でプーチン大統領はどう考えているのか。石川一洋専門解説委員に聞きました。
バフムトをめぐる戦況は
(石川さん)東部の要衝バフムトは、ロシア軍が去年の秋からじわじわと支配地域を広げていました。
バフムトの都市部はここ、民間軍事会社ワグネルが制圧の主力となっていました。しかし先週バフムト周辺のロシア軍に対してウクライナ側が反撃に出て、ロシア軍が一部撤退に追い込まれました。ロシア軍も現場指揮官の大佐二人が戦死したことを認めています。ロシアの軍事専門サイトルィバリによればバフムトの北東部でウクライナ軍がロシア軍の陣地を攻撃し、地域を奪還したとしています。またワグネルの発表した戦況地図ですとウクライナ軍が南部でも一部地域を奪還しています。こうした中、バフムト周辺の状況について国防省とワグネルの対立が深まっています。
ロシア国防省コナシェンコフ報道官
「ロシア軍はより優位な状況を作るために部隊を転戦した」
ワグネル・プリゴジン代表
「国防省の報道官は、ウソをついている。無断で撤退すれば反逆罪だというが、ロシア軍指導部こそが反逆罪ではないか」プリゴジン氏は、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を呼び捨てで弾薬不足を非難するなど、軍の統制を乱す行為を続けています。ロシアの軍事専門記者などがワグネル支持の発信を続けロシア軍の権威が低下しています。
最高司令官のプーチン大統領は どのような立場を?
(石川さん)プリゴジン氏に対して、もしも戦線を勝手に離脱したら反逆罪に問うと警告したようです。しかし軍指導部への批判は黙認しています。都市部の制圧というもっとも困難で犠牲を伴う作戦をワグネルに依存しているからです。ワグネルは中東やアフリカなどで都市部での戦闘経験が豊富で、囚人を動員し犠牲を厭わない残酷な非人道的な戦術でバフムトなど都市部の制圧を担ってきました。最高司令官のプーチン大統領もワグネル依存を許容しました。プリゴジン氏は軍指導部とともに財閥など富裕層やエリートを裏切り者を意味する「第五列」として批判し、極右の支持層のはけ口という政治的な役割も果たしており、プーチン大統領はそれも許容しています。ただ軍事力を持ったワグネルのプリゴジン氏に政治的な動きを許すことはプーチン体制の脅威になりかねないという懸念も体制内部では深まっています。
政治情報センター ムーヒン所長
「ワグネル指導部の政治的な動きは許しがたい 国の政治指導部の力を弱めている」
プリゴジン氏がウクライナ軍の情報機関と接触の報道も
このワグネルをめぐってはアメリカの新聞ワシントンポストが、プリゴジン氏がウクライナ軍の情報機関と接触し、ウクライナがバフムトから撤退するのを条件にロシア軍の位置情報を教えるという取引を持ち掛けていたと報じられました。どう見ますか?。
(石川さん)取引の情報が事実かどうかは確認できません。ただこれまでもプリゴジン氏はウクライナ側と独自に交渉し捕虜の交換はしています。お互いに偽情報工作を含めて接触があった可能性はあります。ウクライナから見ればロシア軍の指揮統制の乱れは、反転攻勢に利用できないのかどうか、慎重に分析を進めているでしょう。ただプリゴジン氏が弾薬不足という軍非難は、軍内部での主導権争いのために利用している側面があり、額面通りには受け取っていないでしょう。ウクライナ軍がバフムトで局地的な反撃を試みて、ロシア軍を一部撤退に追い込んだのは、軍事的な意味とともに、ロシア側の足並みの乱れを確かめようという軍事偵察の意味もあるかもしれません。
ロシア国内で奇妙な事件が続いているが背景は?
一方、ロシア国内では民族主義の作家への暗殺未遂や国境付近で戦闘攻撃機や軍用ヘリがほぼ同時に4機墜落するなど奇妙な事件が続いていますが、この背景はどう見ていますか?
(石川さん)国境付近での墜落については、軍は原因を発表していません。ただプリゴジン氏はウクライナ側の攻撃ではなく、ロシアの防空システムが誤って撃墜したのではと示唆しています。テロでは今月には軍事侵攻を積極的に支持してきた現代作家プリレーピン氏への暗殺未遂事件が起きました。去年8月、プーチンの頭脳といわれる思想家ドゥーギン氏の娘のドゥーギナ氏が爆殺、そして4月にはドンバス出身の軍事ブロガー・タタルスキーことフォミン氏も爆殺されました。いずれもロシア民族主義の強硬派です。ドゥーギン氏を含めて三人ともプリゴジン氏と国防省の対立ではプリゴジン氏の立場を支持していました。ロシアの捜査当局は事件の背後にはウクライナの治安当局がいると断定していますが、ウクライナにとって何の利益があるのか疑問もあります。強硬派を狙ったテロには、何者かがロシアのプーチン体制内部の亀裂を深めるという政治的な思惑があるのかもしれません。プーチン大統領はプリゴジン氏をいわば子飼いとして操り、来年3月の大統領選挙に向けてプリゴジン氏を利用しているつもりでしょう。極右支持層の中にはプリゴジン氏を大統領に推そうという動きも出ており、プリゴジン氏の独断専行を野放しにしていきますと、プーチン体制にとって危険な存在になるかもしれません。
●ウクライナ、ロシアの極超音速ミサイルを迎撃したと発表 5/17
ウクライナは、16日に首都キーウを襲った「異例なほど密度の濃い」ミサイル攻撃の中で、極超音速空対地ミサイルを迎撃したと発表した。
ウクライナ当局は、ロシアの極超音速ミサイル「キンジャール」6発を空軍が撃墜したと発表した。空軍はこの日、キーウへ向けて短時間に集中的に撃ち込まれたミサイル計18発を迎撃。キンジャール6発はこの中に含まれるという。
ロシアは、キンジャールが既存の防空システムを回避できると主張している。その上でロシアは、ウクライナによるキンジャール撃墜を否定。アメリカがウクライナに供与した防空システム「パトリオット」1基を、キンジャールが破壊したとしている。
ウクライナはコメントを控えている。BBCは、双方の主張を独自に検証できていない。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は16日夜、同国はウクライナが撃墜したと主張するほど多くのキンジャールを発射していないと述べた。
だが、ウクライナの主張が正しい場合、ロシアは最上級のミサイルが撃墜されたことにいら立ちを感じているだろう。これは、パトリオットを含む西側の近代的な防衛システムがウクライナに供給されていることが大きい。
ロシアはなお、時速1万1000キロメートルで飛ぶキンジャールを破壊できる防空システムは、世界に存在しないと強調している。
「キンジャール」はロシア語で「短刀」の意味。ほとんどの弾道ミサイルは飛行中に極超音速、つまり音速の5倍(時速約6000キロ)以上の速度に、一時的には到達する。
ウクライナ政府は先週、初めてキンジャールを迎撃したと発表した。
ウクライナは近く反攻を開始すると見られており、ロシアはここ数週間、空からの攻撃を加速させている。キーウは5月に入ってすでに8回の空爆を受けている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は13日のイタリア訪問を皮切りに、ヴァチカン、ドイツ、フランス、イギリスを歴訪しており、数十億ドル規模の軍備供与の約束を取り付けている。
16日に撮影された映像には、防空システムがキーウ上空で標的を破壊している様子が映っている。
ウクライナ軍のヴァレリイ・ザルジニー総司令官は、ロシア軍は北と南と東からキーウを攻撃。海上と陸地から計18発のミサイルをキーウへ放ったが、ウクライナ側はそのすべてを迎撃したと述べた。
これには、黒海の戦艦から発射された巡航ミサイル「カリブル」9発と、地上から発射されたミサイル3発も含まれているという。
キーウの軍当局トップを務めるセルヒイ・ポプコ氏は、「最短の時間で最多の数のミサイル攻撃」が続いたと話した。
迎撃ミサイルの破片落下を警戒して、建物の窓から離れるよう政府は警告した。
キーウのヴィタリ・クリチコ市長は、市内の動物園を含めた市中心部にもロケット砲の破片が落下したと話した。動物や職員にけがはなかったという。
昨年2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始して以来、民間人と戦闘員の死傷者は数十万人に上るとされる。複数の市町村が破壊され、820万人近いウクライナ人が欧州内で難民として登録されている。そのうち280万人はロシア国内にいる。
●ウクライナ軍 反転攻勢 ロシア軍のミサイルなどの攻撃が激化  5/17
ウクライナ側が反転攻勢に乗り出す構えを示す中、ロシア軍による航空戦力やミサイルによる攻撃が激しくなっています。ウクライナ軍はロシアが極超音速兵器だとするミサイルなどを迎撃したと発表し、ゼレンスキー大統領はロシアの攻撃に対抗するため欧米側にさらなる支援を求めました。
ウクライナでは16日、首都キーウなど各地で、ロシア軍が集中的にミサイル攻撃を行い、ウクライナ軍はロシア側が極超音速ミサイルだとする「キンジャール」などの迎撃に成功したと発表しました。
ゼレンスキー大統領は16日、地対空ミサイルシステム「パトリオット」をはじめとする兵器を供与した各国に感謝の意を示し「各国とともにテロ行為に対する防衛を可能なかぎり強化していく」として、ロシアの攻撃に対抗するため欧米側にさらなる支援を求めました。
一方、ロシア国防省はキンジャールによる攻撃でウクライナ軍の「パトリオット」を破壊したと発表するなど、ウクライナ側の主張を否定しています。
戦況を分析するイギリス国防省は17日「ロシアとウクライナの国境周辺で空の戦闘が激化している。ウクライナは今月3日、キンジャールの迎撃に初めて成功した。その後、ロシア軍はウクライナの防空能力を無力化しようとしたが、さらに数発のキンジャールを失った可能性が高い」と指摘しました。
そして「プーチン大統領はキンジャールを『無敵だ』と誇示してきたが、これがぜい弱だったことはロシアにとって驚きであり、困惑しているだろう」という見方を示しています。
●バフムト近郊でウクライナ軍領土奪還、市内でロ軍前進 5/17
ウクライナは同国東部の激戦地バフムト近郊の北部と南部で同国軍が前進し、この数日間で領土約12平方マイル(約31平方キロメートル)を奪還したと発表した。一方、ロシア軍は重火器と増援に支えられ、バフムト市内で前進した。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、16日未明にキーウに向けて発射された極超音速ミサイル「キンジャール」6発のほか、巡航ミサイル「カリブル」9発、地上発射型ミサイル3発の合計18発を迎撃したと説明した。この攻撃によりキーウ市内で少なくとも3人が負傷した。
ウクライナ検察当局は収賄の疑いで同国のクニャゼフ最高裁判所長官を拘束した。同長官は罷免された。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
独首相、ウクライナの損害記録する枠組みを高く評価
民主主義の促進や人権保護を目指す国際機関、欧州評議会はアイスランド・レイキャビクでの首脳会議で、ロシア軍がウクライナに与えた損害を記録する枠組みを立ち上げる方針で、ドイツのショルツ首相はウクライナの今後にとって極めて重要になるだろうと述べた。

 

●プーチン大統領が演説  5/18
ロシアのプーチン大統領が5月9日、首都のモスクワで演説しました。
この日は戦勝記念日。第2次世界大戦で、アメリカやソ連(現在のロシアを含む15の共和国で構成された国)などの連合国軍がナチスドイツに勝った日です。ソ連は1991年に崩壊しましたが、ロシアにとって、戦争での犠牲者を追悼する大事な日です。
プーチン大統領は毎年、このイベントで国民の結束を高めようとしています。演説では、ウクライナを侵略していることについて「私たちの国を守るため」と述べました。
この日は軍事パレードも行われましたが、参加した兵士やお披露目された兵器は昨年よりも減りました。ウクライナ軍の猛反撃にあい、パレードに参加させる余裕がなくなっているとみられています。
●ロシアはG7諸国を恐れない? 西側視点では見えない「世界」 5/18
5月、ワシントンでロシア系米国人の学者と昼食を摂った。北朝鮮問題が共通の関心事項で、10年以上の付き合いがある人物だ。訪日経験もあり、当時の安倍晋三首相や菅義偉官房長官らとも面会している。私が挨拶代わりに、北朝鮮の問題を取り上げると、彼は首を振ってこう答えた。「北朝鮮のようなマージナル(限定的)な話はどうでもいい。今はロシアだ。ウクライナの話をしよう」。彼が語った世界は、西側世界が描いているロシアとは正反対の話だった。
「砲弾不足」情報は間違い?
「西側世界は楽観的に過ぎないか。ロシアはそれほど追い詰められていないぞ」
私が3月の中ロ首脳会談について尋ねたときの、彼の答えだ。西側の報道では、ロシアが中国に軍事支援を求めたのではないかという観測が流れていた。
「ロシアは中国に軍事支援を期待していない。ただ、経済制裁には加わらないで欲しいと思っている。武器はロシアのなかで生産できる。ごく単純に言えば、ロシアが中国に燃料を提供する代わりに、中国から(ミサイルなどに必要な)半導体を売ってもらえれば良いのだ」
米国などは情報衛星を使い、ウクライナの戦況を逐一把握している。ロシアの砲弾が枯渇しそうなのかどうかは、ロシア軍が使った砲弾の薬莢(やっきょう)を見ればわかる。
薬莢には製造年とメーカーを示す刻印がある場合が多い。砲弾は基本的に古いものから使っていく。砲弾が古くなれば、火薬が劣化して、不発弾になったり、想定した距離を飛ばなくなったりするからだ。味方を掩護(えんご)するつもりで、後方から撃って、敵まで届かず、味方の頭の上に落ちたら大変だ。
ところが、西側世界が観察している限り、いつまで経っても、ロシア軍の薬莢から、新しい砲弾を次々に使っている兆候が出てこない。本当に砲弾が不足しているなら、生産したての新しい砲弾を次々に投入するはずだが、そうでもないらしい。
ただ、ロシアの民間軍事会社ワグネルは砲弾不足を訴えている。創設者のプリコジン氏が砲弾不足を理由に、ウクライナ東部の激戦地バフムートからの撤退を宣言したこともある。
「ワグネルは昨年秋、北朝鮮から砲弾を調達したではないか」。私がそう問うと、知人は反論した。
「北朝鮮軍の砲弾が使い物になると本気で思っているのか。あれは、韓国がウクライナを支援するなら、ロシアは北朝鮮と接近するぞ、と脅すのが本当の目的なのだ」
確かに、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が4月、ロイター通信とのインタビューでウクライナへの軍事支援の可能性に言及した直後、メドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)が、SNSで北朝鮮に対する軍事支援をほのめかした。
私がプーチン政権の現状について尋ねると、「安定している。がんだとか、クーデターの可能性だとか、ありえない」と即答した。「同じような楽観論はロシアのなかにもある。ロシア人の間では、バイデン(米大統領)が政治的にも肉体的にも不安定だという見方が広がっている。それと同じだ」
ただ、「ロシアが困っていない」ということではないという。中国がロシアに対する経済制裁に踏み切れば、ロシアには致命傷になる。だから、ロシアは中国への傾斜を強めているのだという。
ロシアは4月、太平洋艦隊の「緊急点検」だとして、極東で大規模な軍事演習を行った。約2万5千人、艦艇約170隻、核兵器を搭載できる戦略爆撃機などが参加した。演習が、中国の李尚福国務委員兼国防相のロシア訪問中に行われたことをみても、中国に対するアピールであった可能性が高い。
「極東での演習は珍しくないが、あれだけフルスペックで実施するのはあまり例がない。目的は二つ。第1に、クリルやサハリンを日本に侵略させないというメッセージだ。日本がトマホーク巡航ミサイルを購入するなどしている動きに反応した。そして、第2の理由が、台湾有事の際に中国を助けるというシグナルだ」
プーチン大統領は9日の対独戦勝記念日での演説で「日本の軍国主義との戦いでの中国兵の功績に敬意を表す」と語り、中国の歴史認識を支持する考えも示した。日米などの専門家の間では、台湾有事の際、ロシアや北朝鮮が軍事挑発を行い、日米などの戦力を分散させるのではないかという懸念の声が出ている。
「ウクライナに核兵器使わない」
ロシアが中国を引き留めておくための材料である「燃料」とは、天然ガスのことなのか。この問いには、こんな答えが返ってきた。「ロシアは昨年、濃縮ウラン240トンを中国に売却している」
そんな話は聞いたこともない。IAEA(国際原子力機関)は知っているのか、と尋ねると、「IAEAも把握しているはずだ」という。まさか、そこまでのことをロシアがするだろうか、と半信半疑で聞いていた。
会食から数日後。
香港メディアなどが、「ロシアが中国に高速増殖炉で使用する高濃縮ウランを供給している」と報じた。
「ロシアはウクライナには核兵器を使わない。血を分けた兄弟だと思っているからだ。だが、英国やドイツには使っても構わないと、ロシアは考えている。北朝鮮やイランとの関係を強めるため、核開発で協力する可能性もある」
非常に興味深い話を繰り返すので、私はオンレコでのインタビューを申し入れた。「それは断る」と言われた。
「私の分析は、米国の一般のそれとは異なる点が多い。オンレコでインタビューに応じたら、私の仕事に障害が生じる可能性が高いからだ」
19日から広島で始まる主要7カ国首脳会議(G7サミット)はウクライナを主要議題の一つとして取り上げる見通しだ。おそらく、ウクライナへの支援強化とロシアに対する制裁強化を打ち出すのだろう。
しかし、ロシアにそれほど大きな衝撃にはならないという。「ロシアはG7など恐れていない。様々な枠組みの一つに過ぎないと考えているからだ」
3月、アフリカ・アンゴラのジョアン・ロウレンソ大統領をインタビューしたときのことを思い出した。アンゴラは歴史的に旧ソ連・ロシアとの関係が深く、ロウレンソ氏自身、旧ソ連への留学経験がある。
インタビューのなかで、日本には中国のアフリカへの影響拡大を懸念する声もあることを指摘すると、ロウレンソ氏の表情が厳しくなった。「なぜ、そんな質問をするのか。アンゴラにとって中国も日本も関係ない。みなと仲良くするのがいいのだ」という答えが返ってきた。
3月21日、アフリカ南部・ナミビアで独立33周年を祝う記念式典が開かれた。ナミビア政府のフェイスブックに掲載された式典の映像によれば、式典では各国からの祝電が読み上げられた。日本の天皇陛下、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩総書記と、次々に名前が読み上げられた。誰も特に反応を示さない。
ところが、「ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領」と読み上げられると、突如、大歓声と拍手がわき起こった。ナミビアは独立戦争で、南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離政策)を行った白人政権などと戦った。アパルトヘイトに反対した旧ソ連はナミビアを支援した。南アフリカのアパルトヘイトを推し進めた政権を倒したアフリカ民族会議(ANC)政権は、ロシアと親密な関係を築き、2月には、ロシア、中国両国とともに合同軍事演習を実施した。
西側の「常識」と異なる話の連続に、頭が混乱した。自分の英語が下手だから、聞き間違えているのかとも思ったぐらいだ。
自分が、主に日本語と英語の情報世界に生きてきた反動なのかもしれない。最後に、第2次世界大戦(1939〜1945年)と比べた場合、今はどの時点にあたるのだろうか、と聞いた。
「ようやく1942年ごろといったところだ。まだ先は長い」
●ロシア軍 広域で攻撃強化 英 オランダ 戦闘機調達などを支援へ  5/18
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、国境を接する広い地域で攻撃を強めているという指摘が出ています。こうした中、イギリスとオランダは戦闘機の調達などを支援する「国際的な連合」の構築に向けてともに取り組むことで合意し、反転攻勢に向けて航空戦力の強化につながるか注目されます。
ウクライナでは16日、首都キーウなど各地でロシア軍による集中的なミサイル攻撃があったほか、ロシア国防省は17日、南部の都市ミコライウにもミサイル攻撃を行ったと発表しました。
一方、ウクライナ大統領府のイエルマク長官は17日、ロシアと国境を接する東部ハルキウ州や北東部のスムイ州、それに北部のチェルニヒウ州でロシア軍が攻撃を強めているとSNSに投稿しました。
16日までの1週間で合わせて160回を超す砲撃があり、子どもを含む16人が死亡したとして「敵は戦闘の前線だけでなく、あらゆる場所でテロを行っている」と非難しました。
これについてウクライナのマリャル国防次官は17日、SNSに「敵はわれわれの軍をその場にとどめようとしている」と書き込み、ウクライナ軍の部隊がほかの地域に展開するのを阻止しようとしているという見方を示しました。
こうした中、イギリスのスナク首相とオランダのルッテ首相は16日、ウクライナへの戦闘機の調達などを支援する「国際的な連合」の構築に向けて取り組むことで合意しました。
イギリスの首相官邸によりますと、この枠組みではパイロットの訓練からウクライナ側が求めているF16戦闘機の調達まで幅広く支援するということです。
これに関連してウクライナのクレバ外相は、F16などを念頭に新たな戦闘機の供与を受ける可能性を示唆していて、反転攻勢に向けて航空戦力の強化につながるか注目されます。
●ハンガリー、EUのウクライナ軍事支援基金阻止も OTP銀巡り 5/18
ハンガリーのシーヤールトー外相は17日、ウクライナ政府が戦争支援者リストからハンガリーのOTP銀行を削除しない限り、欧州連合(EU)による次回の対ウクライナ軍事支援資金や対ロシア制裁を阻止する考えを示した。
ハンガリーは今週、EUが運営する基金「欧州平和ファシリティー(EPF)」からウクライナ軍事支援に追加で5億ユーロ(5億5040万ドル)を充てる案に反対した。
EU加盟国政府がウクライナに供与した武器や弾薬の費用を請求できるようにするものだが、ハンガリーは承認の条件として、バルカン半島や北アフリカなど他地域にも資金を充てるよう保証を求めた。
だがEU外交官によると、非公開の場では、ウクライナがOTP銀行をブラックリストに指定していることが反対の主な理由であることを明確にしたという。
EU当局者は、ブラックリストの対象がOTP全体かロシア支店のみか確認を進めるなど問題解決に取り組んでいると述べた。
●ウクライナ産農産物の輸出“ロシアとの合意 さらに2か月延長” 5/18
ウクライナ産の農産物の輸出をめぐるロシアとウクライナの合意について、仲介にあたったトルコや国連はさらに2か月延長するとして、7月中旬までいまの輸出の枠組みが維持される見通しとなりました。この合意をめぐっては、ロシア側が延長に同意しない姿勢を示し、懸念の声が上がっていました。
ロシアとウクライナは去年7月、国連とトルコの仲介でウクライナ産農産物の輸出の再開で合意し、これまでに2度、期限が延長されましたが、ロシア側は「ロシア産の農産物などの輸出が滞っている」と主張して、今月18日以降は延長に同意しない可能性を示唆し、懸念の声が上がっていました。
この合意についてトルコのエルドアン大統領は、さらに2か月延長すると、17日自身のSNSなどで発表し、7月中旬までいまの輸出の枠組みが維持される見通しとなりました。
また国連のグテーレス事務総長も17日、ニューヨークの国連本部で会見し「決定を歓迎する。世界にとってよいニュースだ。食料は世界で最も弱い立場にある人々のもとに届いている」と述べました。
これを受けてウクライナのクブラコフ副首相兼インフラ相もツイッターで「食料安全保障の強化に力を尽くしてくれた国連とトルコに感謝している」と歓迎しました。
一方、ロシア外務省のザハロワ報道官は2か月延長で合意したことを確認したと述べたうえで「最も困っている国々を助ける機会となる」と指摘し、ロシアが関係強化を目指すアフリカなど途上国に寄り添う姿勢を示すねらいもあるとみられます。 
●プーチン「再び本当の戦争が始められた」発言が示唆する“核を使う可能性” 5/18
「われわれの祖国に対し、再び本当の戦争が始められた」。これは5月9日、戦勝記念日の式典におけるロシアのプーチン大統領の発言だ。ウクライナ侵攻が始まって1年以上が経ったいま、“新たな戦争”を仄めかした意図はどこにあるのか。プーチン大統領研究の第一人者で筑波大学名誉教授の中村逸郎さんが解説する。
「戦争に核を用いることを示唆していると考えられます。なぜなら、ロシアにはもう戦局を変える兵器がなく、残されている決定打は核だけだからです。以前とは違うステージに入ったことを強調したかったのでしょう」
もし現実となれば、どんな展開が予想されるのか。
自作自演で核攻撃を正当化する
すでにプーチン大統領は今年3月、ベラルーシに戦術核兵器を配備する計画を発表している。
「プーチン氏が核を撃つ『Xデー』は5月19日から始まるG7広島サミット期間の可能性があります」(中村さん)
世界はいま、過去に例がないほど緊迫しているのだ。自衛隊元陸将の福山隆さんがこう話す。
「戦争をやめるとプーチン大統領は国内で求心力を失い、政治生命はもちろん命も失うことになる。また、いま戦争をやめれば勢力を増してきている中国が世界のイニシアチブを取ってしまうばかりか、ロシアが崩壊する危険もあります。だから、プーチン大統領は走り続けるしかない状況なのです。何より、どの戦争も同じですが、継続すればそれだけ際限なくエスカレートしていくのがセオリーです。つまり、人やものがいくら犠牲になったとしても、可能な作戦はなんでもやるようになる。そこで登場するのが、最終兵器である核というわけです」
中村さんが続ける。
「“経済がめちゃくちゃになっても戦うべき”と主張する強硬派もいますが、ロシア国内でも“戦争は間違いだった”との声が日に日に高まっています。大統領府の高官まで“今回の戦争はやりすぎだ”と公言するありさま。プーチン氏の地位そのものが危うい状況です。そういった“内なる抵抗勢力”を沈黙させるためにも、一発逆転を狙って核兵器を使う可能性があるのです」
では、「核のボタン」が押されるとき、一体どこが狙われるのか。
「標的として第一に考えられるのが戦争相手国のウクライナ。第二にウクライナ国境近くのロシア領内に“自作自演”で落とすことが考えられます。周囲でとやかく言う人たちや自身の言うことを聞かない人たちを一掃しつつ、ウクライナやアメリカのしわざだと主張し、他国へ核攻撃するのを正当化するシナリオです」(中村さん)
福山さんもウクライナへの核使用があるとみる。
「ウクライナ領内のどこに落とすかは、100通りのターゲティングをしているはず。大量殺戮に見えないようにしつつ、かつゼレンスキー大統領やNATO(北大西洋条約機構)にとどまらず世界中に恐怖心を植え付けられるようシミュレーションを重ねていることでしょう。標的として考えられるのはロシアがウクライナから奪い、占領した地域です。激戦地域で人が少ない空白地帯に核を撃ち込めば、ウクライナ軍も入って行けなくなる」
懸念される核攻撃は爆弾だけではない。
「核を高層大気圏で空中爆発させ、通信や電力システムを断絶させる『電磁パルス(EMP)攻撃』という手段もあります。瞬間的に高電流、高電圧が発生し、あらゆる電子機器が故障する。電力インフラが破壊されて広範囲で停電が起きるほか、電話や銀行のオンライン回線など通信が途絶、大混乱を引き起こします」(福山さん)
広島から西日本全体に被害が及ぶほどの威力
最悪のシナリオとして日本が狙われる可能性もある。
「ロシアは過去、日本に何度も警告を発しています。例えば3月28日、ロシア海軍が日本海で超音速対艦ミサイルを使用する演習を行いましたが、あれもそのひとつです。加えてG7が開催されている期間の広島には、バイデン米大統領をはじめ各国の首脳が多数来日する。それを一網打尽にするために核を撃ち込んでもおかしくない。世界の主要国の中で日本が最も核兵器に弱く、迎撃できないのもその理由です」(中村さん)
日本に撃ち込まれるとすれば、どんな核兵器が使われるのか。中村さんが続ける。
「ロシアが撃つとすれば、おそらく大規模な目標の破壊を目的とした『戦略核』になる。広島から西日本全体に被害が及ぶくらい強大な威力を持つ核を使う可能性が高いです」
一方、福山さんはこうみる。
「現在のところロシアが日本を直接撃つ大義名分はないですが、このまま戦争がエスカレートすると第三次世界大戦に突入する恐れがある。もし戦争が始まれば極東にあるロシア基地だけではなく、中国や北朝鮮からも核で狙われる可能性があります。そうなれば例外なく、日本のどこにでもミサイルが降ってくる可能性があります」
ロシアが日本を直接核攻撃するとなれば、やはり米軍基地が狙われるのだろうか。
「逆です。米軍基地に直接撃ち込んだ瞬間から、米露対決という世界的戦争にエスカレートします。だから、米軍基地は避けるはずです。日本に撃ち込むとすれば、まずは離島など人の少ないところに威嚇的に発射するのではないでしょうか」
実際に核を撃ち込まれたとき、日本は自国を守れるのだろうか。
「日本になすすべはない。核ミサイルの迎撃はまだ人類が経験したことがなく、放射性物質が大気中に飛散するのか、単に破片が落ちてくるのかまったくわかりません。国を守るためには核ミサイル攻撃を受けても防衛できる迎撃システムの開発が必要です」(中村さん)
たとえ攻撃されたのが他国であったとしても核には甚大な被害が伴う。
「ウクライナの首都キーウに核が使われ、南東から北西に風が吹いた場合、ポーランドやドイツ、フランスにかけて、ヨーロッパ北部の広い範囲が汚染されます。日本に直接の汚染影響はすぐにはこないものの、食料やエネルギーなどの供給に大きな影響を及ぼし、いま以上の経済的な大混乱は免れない。日本が空襲や原爆に苦しんだ日々が、明日またやってくるかもしれない。世界は極めて不安定な時期にあることを忘れてはなりません」
核の危機は決して“対岸の火事”ではない。
●ロシア、フィンランド大使館の銀行口座を凍結 5/18
フィンランド外務省は17日、在モスクワの大使館と在サンクトペテルブルクの総領事館の銀行口座がロシア政府によって4月末に凍結されたと明らかにした。
外務省は声明で、「フィンランドはロシア当局と連絡を取り、調査を求めた。フィンランドはロシアに対して、フィンランド外交団の現地通貨と決済取引を確保するよう求めた」と述べた。
外務省によれば、ロシア当局から口座凍結の決定に関する説明はまだない。
フィンランドは4月に北大西洋条約機構(NATO)の31番目の加盟国となった。これにより、欧州北東部の安全保障の態勢に大きな変化が生まれ、NATO加盟国がロシアと接する国境線の長さは約1300キロ増加した。
フィンランドのNATO加盟はロシアのプーチン大統領にとって打撃となった。プーチン氏は長年にわたってNATOを弱体化させようと試み、ウクライナへの侵攻の前にはNATOのさらなる拡大を停止するよう求めていた。
フィンランドは今年に入り、ロシアと国境を接する東部で、フェンスの建設を開始した。計画では東部国境に130キロから260キロのフェンスを構築する。
●キーウに今月9回目のミサイル攻撃 前日の砲撃で少なくとも9人死亡 5/18
ウクライナの首都キーウで18日早朝、ロシアによる空からの攻撃があった。キーウへのこうした攻撃は今月になって9回目。前日には各地で砲撃があり、5歳男児を含む少なくとも計9人が死亡、19人がけがを負ったとされた。
キーウのヴィタリ・クリチコ市長は18日、落下した破片によって市内のガレージで火災が発生したが、負傷者はいなかったと通信アプリ「テレグラム」に書き込んだ。
ウクライナ当局によると、南西部の港湾都市オデーサではミサイル攻撃で1人が死亡、2人が負傷した。このほか、ウクライナ中部ヴィンニツャ、フメリニツィキー、ジトーミルの各州でも爆音が響いた。
キーウの軍事行政当局は初期の情報として、飛来したミサイルはすべて撃墜したとみられるとした。キーウのセルヒイ・ポプコ行政府長官は、カスピ海上空でロシアの戦略爆撃機から多数のミサイルが発射されたと述べた。巡航ミサイルも含まれていた可能性があるとし、空爆後にロシアはキーウ上空に偵察用ドローン(無人機)を飛ばしたとした。
ポプコ氏はまた、キーウの東で住宅以外の建物が炎上したと説明したが、負傷者の有無は明らかにしなかった。
前日には5歳児が犠牲に
前日17日にはウクライナ各地が砲撃され、少なくとも計9人が死亡、19人がけがを負ったとされた。ウクライナとロシアは互いに、相手が民間人を攻撃したと非難している。
南部ヘルソン州のオレクサンドル・プロクジン知事は、州内のゼレニウカ村をロシアが砲撃し、5歳男児など3人が死亡、2人が負傷したと話した。商店の外を砲弾が直撃したという。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ゼレニウカ村で死亡した少年は7月で6歳になるはずだったと説明。「これはテロリストによる新たな砲撃だ。人々はごく普通の店の近くの通りにいただけだった」とし、国際社会にロシアへの圧力強化を訴えた。
一方、ロシア占領下の東部ドネツク市では、ウクライナの砲撃によって5人が死亡、15人が負傷したと、ロシアの支援を受けるアレクセイ・クレムジン市長が述べた。
同市長は、ウクライナ軍が17日だけで砲弾163発とロケット弾20発を同市に向けて発射したと非難。負傷者には13歳の子どももいたとした。また、砲弾が民家や集合住宅を直撃し、インフラが被害を受けたと述べた。
BBCは、どちらの主張とも独自に検証できていない。
ドネツク市は2014年から親ロシア派の分離主義者が支配している。同市があるドネツク州は、ロシアが昨年、不法に併合した4州の一つ。
ウクライナの反転攻勢
ウクライナはゆっくりと確実に、ロシア侵略軍に対する大規模な反転攻勢の準備を進めている。
西側当局によると、ウクライナ軍は戦車や戦闘車、工兵などを結集させているという。また、地雷除去や架橋、長距離砲による攻撃といった技術も整えているという。
西側当局はロシア軍について、困難な状況にあるものの防衛線は「潜在的に手ごわく」、部隊は「広範囲の地雷原」に守られているとみている。
そのため、ウクライナ軍の反攻を評価するには、獲得領土の広さだけでなく、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に戦略の見直しをさせられるかも考慮すべきだとした。
こうしたなか、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は17日、キーウで中国の外交官と会談。ロシアに領土を明け渡すことになる和平案を拒否した。
ウクライナが黒海を通じて数百万トンの穀物を輸出できるようにする協定は、期限切れ前日に2カ月間延長された。
●「前例ない」首都空爆続く 南部で1人死亡―ウクライナ 5/18
ウクライナの首都キーウ(キエフ)市当局幹部のポプコ氏は18日、ロシア軍によるキーウへの「前例のない火力での空爆」が続いていると述べた。ウクライナとロシアの間では17日、トルコと国連の仲介でウクライナ産穀物輸出の2カ月延長が決まったが、戦況への影響はみられない。
ポプコ氏によると、ミサイルを防空システムで探知し、破壊しているものの、各地に破片が落下。ウクライナ軍によれば、キーウでは17日夜から18日にかけて飛来したミサイル計30発のうち、29発の迎撃に成功した。空爆はキーウ以外でも行われ、南部オデッサで1人が死亡した。
●ウクライナ軍、バフムト周辺で500m前進 ロシア軍は空挺部隊などを追加投入 5/18
ウクライナ軍は17日、東部の激戦地バフムト周辺でさらに前進を遂げたと明らかにした。ロシア側が空挺部隊を含む新たな兵士投入を続けているとも指摘した。
ゼレンスキー大統領は演説で、ロシアの砲撃が複数の地域で続いていることに言及し、国際社会はロシア政府への圧力を強める必要があると訴えた。
ウクライナ軍報道官は同国テレビで「われわれは防衛作戦を成功させ反撃しており、この日は一部で500メートル前進した」と述べた。
ロシア側に弾薬不足の兆候は見られないとし、「敵はあらゆる(兵器)システムを使ってバフムトを制圧しようとしている。何らかの暫定的な成功を収めようと空挺兵を中心に新たな部隊を投入している」と語った。
ロシア側はこれについてコメントしていないが、RIAノーボスチ通信はロシア軍がバフムト西部制圧に向けて戦闘を続けているとする国防省の発表を伝えた。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジン氏は「敵の前進を受け、ロシアの空挺兵は敵に有利な位置を取っている」と語り、ウクライナ軍がバフムトで優位に立っていることを示唆した。

 

●ナゴルノカラバフ巡り首脳会談 25日にプーチン氏仲介で 5/19
アルメニアのパシニャン首相は18日、仲介役ロシアのプーチン大統領の提案を受け、係争地ナゴルノカラバフを巡って対立するアゼルバイジャンのアリエフ大統領と25日にモスクワで会談すると明らかにした。
タス通信などが伝えた。アルメニアは本土と支配地域を結ぶ回廊の封鎖解除を要求している。 
●プーチンも青ざめる…ウクライナの「反転攻勢」がいよいよ近づいてきた! 5/19
「反転攻勢」が近づいてきた
ウクライナの「反転攻勢」が秒読み段階に入っている。いつどこで大規模作戦を開始するのか、世界が見守っているが、なかでも、私は「ドネツク州」に注目している。バッテリーの材料になるリチウムをはじめ、重要な戦略資源が大量に埋まっているからだ。
ウクライナはまだ、正式には反転攻勢の開始を宣言していない。だが、実際には、すでに一部が始まっている可能性が高い。ロシア国内やクリミア半島のロシア軍施設などで、原因不明の爆発や火災が相次いでいるからだ。
CNNは5月11日、西側の情報を基に「前段階である形成作戦(shaping operation)を開始した」と報じた。本格攻勢の前に「ロシア軍の司令部や武器集積所、大砲などを攻撃している」という。わざわざ、敵に作戦開始を伝える必要はないので、この見方が妥当だろう。
世界情勢を左右しうるウクライナの地下資源
本格攻勢のタイミングもさることながら、場所も注目だ。ロシア軍が実効支配するクリミア半島と東部ドンバス地域を分断するために「その中間を攻撃するのではないか」という見方も有力だ。私は、とりわけドネツク州の行方に注目している。
そこには、リチウムやタンタル、ニオブといった重要鉱物が埋まっているからだ。とりわけ、自動車などに使われるバッテリーの原材料であるリチウムが貴重だ。その希少性から、リチウムは専門家の間で「ホワイト・ゴールド」と呼ばれている。まさに、ゴールド並みなのだ。
ウクライナの地質学者であるスヴィトラナ・ヴァシレンコ氏とノメンコ・ウリアナ氏は2022年2月、学会に「ウクライナに眠るリチウム資源開発の見通し」と題する論文を発表した。両氏は、ウクライナに眠るリチウム酸化物の埋蔵量を50万トンと推計している。まったく未開発だ。そのうえで、埋蔵が確認されている場所の地図を紹介した。有望視されているのは、シェブチェンキブスケ(Shevchenkivske)と呼ばれる地域である。
重要鉱物の開発、生産をめぐる世界の現状は、中国が圧倒的な支配力を握っている。たとえば、世界に占めるリチウム加工の割合は58%、ニッケルは35%、コバルト65%、グラファイトは71%といった具合だ。
先週のコラムで紹介したように、米国は3月31日、インフレ抑制法に盛り込んだ米国産業優遇政策の一環として、米国製電気自動車に対する優遇税制を発表した。そこで重要な意味を持ってくるのが、リチウムである。
最大で7500ドル(約100万円)もの優遇税制措置を受けるためには、米国製バッテリーと認定される必要がある。だが、肝心の原材料であるリチウムが手に入らなければ、米国は自前でバッテリーを作れないからだ。中国との競争に勝つためにも、ウクライナのリチウムを確保できるかどうかが、決定的な鍵を握っている。
プーチンの狙いはウクライナの資源?
ウクライナのリチウムは、戦争開始前から世界が注目していた。
たとえば、ビル・クリントン元米大統領は昨年4月、米誌「アトランティック」に寄稿した論文で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が侵攻を決断した理由の1つとして「彼はウクライナの地下に眠る貴重な資源を支配したかったのだ」と書いている。
目先の戦いに目を奪われて、欧米メディアも地下資源について、ほとんど言及しなくなってしまったが、実は「地下資源こそが開戦理由」という見方もあったのだ。偶然かもしれないが、先に紹介した論文が発表されたのも、開戦と同じタイミングだった。
米国が資源に関心を抱くのは当然だが、いまとなっては、あからさまに口にできない。「米国はリチウム欲しさにウクライナを応援している」などと受け止められたら「自国の利益のために、ウクライナを戦わせているのか」と批判されてしまうからだ。
とはいえ、ウクライナに膨大な地下資源が眠っている事実に変わりはない。
リチウムなどが集中しているドネツク州を含む東部ドンバス地域の帰趨は、米国にとって、ロシアだけでなく、中国との対決でも鍵を握る。そうだとすれば、この問題は「ウクライナをどこまで支援するか」という話にも直結する。
3月17日公開コラムで指摘したように、米国は「必要とするだけ支援する」と言いながら、水面下では停戦交渉の可能性を探ってきた。共和党のトランプ支持議員を中心に「ウクライナよりも中国の台湾侵攻抑止に、米国の資源を集中すべきだ」という議論も高まっている。
ウクライナの地下資源は「長期的に見れば、中国に対抗するためにも、ウクライナ支援が必要だ」という有力な反論材料になるのだ。
日本にも大きな影響がある
日本の経済産業省は3月28日、米国と日米重要鉱物サプライチェーン強化協定に署名した。この協定は、先週のコラムで紹介した米国の「新しいワシントン・コンセンサス」に同調し、かつ西側陣営がリチウムなど重要鉱物のサプライチェーンを確保するうえで、重要な意義をもっている。
日本は協定締結によって、電気自動車のバッテリー製造で、米国の自由貿易協定(FTA)締結国と同等に扱われる資格を得た。遠からず、日本の電気自動車も米国車並みの税制優遇措置を受けられるようになる可能性が出てきたのだ。
私は、先週のコラムで「日本としては当面、米国に付き合っていくしかない」と書いた。日本は英国やフランスと違って、中国に近いうえに、独自の核兵器はなく、核の持ち込みも許さず、安全保障を米国に頼り切っている国であるからだ。重要鉱物をめぐる日米協定は、その第1歩になる。
東部ドンバス地域をめぐる戦いの行方は、巡り巡って、日本にも大きな影響を及ぼす。これから夏までの戦いが、今回の戦争の最大の山場になるだろう。
●6月にナワリヌイ氏支持デモ ウクライナ侵攻下で異例 ロシア 5/19
ロシアのプーチン政権を批判し、収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の陣営は18日、本人が47歳を迎える6月4日、釈放を求めて国内外各地で街頭行動に出るよう支持者に訴えた。
ウクライナ侵攻を続けるロシアでのデモ呼び掛けは異例。
「戦時体制」の言論弾圧で国民の一部に不満がくすぶる中、デモが拡散すれば、多数の拘束者が出る恐れがある。
毒殺未遂の治療をドイツで受け、ロシアに帰国した2021年に拘束・収監されたナワリヌイ氏にとっては、刑務所で迎える3回目の誕生日。国外脱出を余儀なくされた側近らは動画メッセージで、自由を求める国民一人ひとりもナワリヌイ氏も「独りぼっちではない」と強調した。
●シリアに関するロシアとの取引によってウクライナ戦争終結を早める可能性 5/19
先週、ロシア軍が「信頼できる戦闘部隊の深刻な不足」によりバフムトで後退したとの報道があった。ロシア政府は急いでこのニュースを否定した。ロシア軍が後退するたびに欧米の人々は喜んでいるが、彼らは自分たちが何を望むかに慎重になるべきだ。欧米が最も望まないのは、ロシアが自暴自棄になって自暴自棄な手段を取ることだ。
ロシアは敗北を受け入れないだろう。それはウラジミール・プーチン大統領やクレムリンを超えて、ロシアの国家威信の問題なのだ。彼らはあらゆる手段で敗北を防ごうとするだろう。したがって、死傷者数と損害を可能な限り抑えつつこの戦争を終わらせるためには交渉を通した解決が必要だ。シリアはそのような解決の入り口になる可能性がある。欧米とロシアには同国の安定化という共通の目標があるからだ。しかし当然ながら、争点となるものが一つある。バッシャール・アサド大統領の存在である。
これまでのところ、欧米の対ロシア政策は同国を孤立させるというものだ。しかし、ロシアを孤立させることで戦争が終わる可能性は低い。ロシアは生き残るために巧妙な方法を見つけている。同盟相手として米国の競合国に目を向けているのだ。ロシアは現在、中国に近づいており、イランにも間違いなく接近している。サウジアラビアやトルコなどの米国の同盟国はロシアに関して中立を保っている。これらの国は、信頼できない気まぐれなパートナーを喜ばせるためにロシアとの関係を断つことに価値を見出していないのだ。
欧米諸国でロシアの資産が差し押さえられているにもかかわらず、ロシアは生き残ることができるようだ。ドイツは今年中にロシア産原油の輸入をほぼ全て停止することを予定しており、2024年半ばまでにロシア産天然ガスの輸入を停止するというより広範な計画も持っている。EUにも同様の計画がある。2027年までにロシア産化石燃料の輸入を停止しようとしているのだ。これらは全て、ロシアと関わり合うのではなく孤立させるための取り組みだ。それでも、ロシアは天然ガスを代わりに買ってくれる国を見つけるだろうし、東側で友好国を作るだろう。経済的苦難がロシアを降伏へと追いやることはない。
これまでのところ紛争解決の可能性はないように見える。ロシアと関わり合うのではなく孤立させることがトレンドだからだ。紛争解決のためには関わり合いが必要であり、関わり合いが上手くいくためには信頼構築が必要だ。現在、欧米とロシアの間には非常に大きな不信感がある。問題も複雑だ。ウクライナをめぐっては、クリミア、ドンバス、ジョージア、欧州におけるNATOの地位のほか、多くの複雑な要因が絡んでいるのだ。
より容易な道は、シリアに関してロシアとの関わり合いを開始することだろう。それは、国際社会とロシアの両方にとっての長期的目標がシリアの安定化であるという単純な理由による。アラブ諸国は現在、シリアにおけるイランやトルコの影響力を封じ込めるためにアサド大統領との関わり合いを段階的に行っている。一般に考えられているのとは逆に、それがロシアの影響力の低減につながるのであれば米国はこのプロセスを容認するだろう。
しかし、アサド大統領はいかなる変化を起こすことにも乗り気ではなく、その能力もない。同国南西部の麻薬密売人を一人捕まえる筋力さえない。ヨルダン空軍が彼の代わりにその仕事をしなければならなかった。アサド大統領には約束を反故にした前科もある。彼には今さら自身の行動を変える理由はない。したがって、地域の諸大国と関わり合う必要があるのだ。そして、ロシアはシリアの安定化のために登場する必要がある主要プレイヤーである。
「シリアは紛争解決の入り口になる可能性がある。欧米とロシアには同国の安定化という共通の目標があるからだ。」 ダニア・コレイラト・ハティブ博士
アサド大統領はロシアの同盟者だが、彼がシリアを安定化できないことをロシアは知っている。ロシアはいくつかの問題に関してアサド大統領と衝突してきた。例えば、アレッポをめぐる戦闘の際、ロシアはチェチェン軍警察を送り込んだ。地元住民が感情を害したり攻撃を受けたと感じたりしないよう、スンニ派部隊が派遣された。これらの部隊の任務はアレッポを安定化させることと、家屋が没収されないようにすることだった。しかし、アサド大統領とイランの民兵組織はロシア軍に対する作戦を継続した。最終的にロシア軍は撤退した。アサド大統領やイラン人らと対決したくなかったからだ。
そして2018年、難民の帰還を促すために、ロシアはアサド大統領に対し、徴兵に応じなかった人々に恩赦を与えるよう圧力をかけた。アサド大統領は難民の帰還を防ぐために、18歳になったのに徴兵に応じなかった男性全員に懲役と罰金を科す法律を作っていた。この法律のせいで、国外にいる間に18歳になった男子がいる難民家族は帰国できなかったのだ。恩赦は与えたものの、アサド大統領は難民の帰還を妨げるための巧妙な方法を見つけ出した。帰還者を恣意的な容疑や偽の容疑で逮捕したのだ。そのため人々は帰還を思いとどまった。
アサド大統領が妨害者の役割を果たしたもう一つの例はダルアーの件だ。シリア体制と反体制勢力の和解に向けたロシアの努力が地域の安定化に至らなかったため、彼はダルアーに関する全ての約束を反故にしたのだ。
それでもロシアにとって、シリアにおける利益を守ってくれる存在はアサド大統領以外にはいない。彼がいなくなれば、ロシアは自国の利益を守るために投資してきたもの全てを失うだろう。具体的にはタルトゥースとフメイミムの基地のことだ。だから、欧米がロシアと取引をまとめ、同国を対等な存在として扱えば、信頼構築に向けた最初の一歩となり得る。
欧米の心構えはロシアに対していかなる譲歩を行うことにも反対するというもので、ゼロサム的メンタリティによって駆動されているが、柔軟性が必要だ。そうでなければ、ウクライナはロシアと長い紛争を戦うことになるだろう。さらに悪ければ、より壊滅的な戦争へと発展し、ロシアが極限的な手段を使うことになる。そのため、関わり合うことが重要であり、シリアは比較的容易な入り口になる可能性がある。また、シリアに関する取引を行えばプーチン大統領の面子を保つことができるだろう。ロシアの戦略的利益を守るような取引を行えば、プーチン大統領は国民に対して「欧米とやっと話が付いた。ロシアに恥をかかせるわけにはいかないことを欧米が理解したのだ」と言いつつ、さらなる取引を行う気になるかもしれない。
欧米は早くロシアと関わり合ってシリアを安定化すべきだ。それが他の諸問題の解決を効率化するための良い入り口だからだ。しかしその第一歩は、欧米がロシアを相手にする際のゼロサム的な考え方を捨てることだろう。
●中国和平案でG7切り崩し 制裁への武器は「穀物」―ロシア 5/19
ロシアのプーチン政権は、ウクライナ侵攻の長期化を視野に「戦時体制」を既に固めている。有利な停戦に向けて期待するのは、ゼレンスキー政権の後ろ盾である先進7カ国(G7)が、ロシアへの強硬論と妥協論で分断されることだ。目下、友好国・中国が「和平案」を掲げて欧州に特使を派遣しており、G7を切り崩したいロシアに助け船を出している。
ロシア経済は西側諸国の制裁による崩壊を免れ、昨年の国内総生産(GDP)は前年比2.1%減にとどまった。だが、これ以上の悪化は許容し難く、今年4月に「G7が対ロ全面禁輸を検討中」と外国メディアで報じられると、メドベージェフ前大統領は「(黒海経由の)穀物輸出合意を打ち切る」と警告した。
G7議長を務める岸田文雄首相がウクライナの首都キーウ(キエフ)を電撃訪問した3月21日、モスクワでは中ロ首脳会談が行われた。議論した「中国の立場」は和平案とも称されるが、ロシア軍撤退を要求せず、制裁に反対する内容。実質的に「ロシアの立場」に近く、ゼレンスキー大統領は「和平案」ではないと強く主張している。
中国は支持を得るべく、李輝ユーラシア事務特別代表が15日、ウクライナ、ドイツ、フランス、ポーランド歴訪を開始した。月末のロシア訪問で締めくくる予定。迎えるルデンコ外務次官は「(李氏が)歴訪で得た印象を伝えてくれるのを心待ちにしている」と述べ、G7に対抗する中ロの共闘をアピールした。
●制裁解除なければ穀物輸出合意の延長なし ロシア 5/19
黒海のウクライナの港からのウクライナ産穀物の輸出延長に関する合意について、ロシア外務省は18日、特定の制裁解除という要求を西側諸国が満たさなければ合意は延長されないと警告した。
世界の飢餓を解決するために重要と位置付けられている輸出合意について、ロシアは7月17日まで2カ月間延長することに同意した。
合意によってウクライナは穀物を黒海の港から輸出できる一方で、ロシアの輸出は西側諸国の制裁によって妨げられているとロシアはたびたび不満を示してきた。ロシア大統領府は、ロシアからの輸出促進を支援する国連との合意は成果を生んでいないと主張している。
ロシア外務省は譲歩がない限り合意延長の協議はないと警告。同省の声明には「ロシア産の肥料や食料に対する一方的な制裁を実際に解除する必要性を米国、英国、欧州連合(EU)に喚起する。最貧国へのロシア産肥料の寄付すら制裁のために阻止され続けている」とある。
穀物に関する輸出取引はロシアによる戦争に端を発する。ウクライナへの本格侵攻後、ロシアは黒海にあるオデーサ、チョルノモルスク、ピブデンニといったウクライナの主要な港からの輸出を封鎖した。
国連とトルコが仲介するまで、何百万トンというウクライナ産の穀物はロシアの封鎖によって必要とする国々に届けられずにいた。
ウクライナのボドナール駐トルコ大使は「現在の合意延長はロシアの外需を満たすことを考慮しているものではない」と指摘。さらに「ロシアが取り付けようとしているのは、アンモニアの補給ルート、そして穀物や肥料の取引に関係している銀行や組織に対する制裁の解除に関連したものだ。この問題はまだ協議中だ」と述べた。
●中国、中央アジア5か国と首脳会議…「12項目の提案」支持取り付け狙う  5/19
中国と中央アジア5か国による首脳会議が18日、西安で開幕した。中国の 習近平シージンピン 国家主席は先進7か国首脳会議(G7サミット)開催をにらみ、中央アジア各国との連携を誇示しつつ、ウクライナ情勢を巡る国際世論にも影響力を及ぼそうとしている。
対面での開催は初めてとなる。習氏は19日に各国首脳との共同記者会見に臨む。中央アジアとの関係強化に関する演説も行い、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた経済協力や投資の強化を提唱する。ロシアによるウクライナ侵略が主要議題となるG7サミットに対抗する形でウクライナ問題も議論する。中国が掲げる「12項目の提案」への支持取り付けを図る見通しだ。
中国外務省によると、習氏は17、18の両日、各国首脳との個別会談もこなした。強権的手法が指摘されるカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領には「カザフが国情にかなった発展の道を歩むことを支持する」と述べた。中国が「内政に干渉している」と批判の矛先を向ける米欧を意識した発言となる。
ロシアとのつながりが深い中央アジアには日米欧が取り込もうと動き、中国側は「地政学的な駆け引きの戦場にしてはならない」( 秦剛チンガン 国務委員兼外相)と警戒する。中央アジアは習氏が重視する一帯一路の起点でもあり、鉱物資源も豊富で、経済面での要衝でもある。
ロシアは中国との連携を重視する一方、「勢力圏」と位置づけてきた中央アジアで中国の影響力が強まることを警戒している。プーチン露大統領は9日、モスクワでの旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日の式典に中央アジア5か国の首脳全員を招待。演説で「ソ連の人々すべてが共通の勝利に貢献した」と一体感を強調した。しかし、中央アジア各国には、ウクライナ侵略を受けて、ロシアと政治的に距離を置く動きも見られる。
●アフリカ代表団がモスクワ訪問へ、ウクライナ和平巡り=ロ報道官 5/19
ロシア大統領府(クレムリン)は18日、ウクライナでの戦争終結に向け主導的役割を果たそうとするアフリカ諸国の代表団がモスクワを訪問すると明らかにした。
ロシア・ウクライナ間の和平交渉を巡っては複数の国が仲介を申し出ており、中国の特使も今週に欧州を訪問している。
アフリカの計画詳細はまだ公表されていないが、南アのラマポーザ大統領はゼレンスキー・ウクライナ大統領とプーチン・ロシア大統領がアフリカ指導者らとの会談に同意したと述べた。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は「複数の国から代表団が派遣され、モスクワに滞在する」と記者団に述べた。
また、「ウクライナ情勢打開につながるいかなる助言も、大いに注意を払って傾聴する用意があると既に述べている」とした。 
●「ソ連が原爆投下と米吹聴」 プーチン氏側近、責任転嫁―ロシア 5/19
ロシアのプーチン大統領の最側近パトルシェフ安全保障会議書記は19日、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に絡み「(米国は原爆使用について)謝罪してこなかったし、今後も謝罪するつもりはない」と批判した。「落としたのは米国ではなく、ソ連だと日本人に吹聴している」と根拠なしに述べた。タス通信が伝えた。
ロシアによる核兵器の威嚇をG7が非難する中、米国に責任転嫁を図ろうとしたとみられる。
パトルシェフ氏は、米国が軍事的必要性なしに広島と長崎に原爆を投下したことが「破滅と膨大な数の市民の犠牲をもたらした」と語った。
●インド記者「戦争は反対だが中立的立場」カギ握る“グローバルサウス”本音 5/19
ウクライナのゼレンスキー大統領の電撃来日について、世界のメディアはどう見ているのでしょうか。
ゼレンスキー大統領の来日には、大きな注目点があります。“ロシア寄り”ともいえる国のトップに、直接、会えるかもしれないことです。それがG7に招待されているインド、ブラジル、インドネシア、ベトナムの4カ国。グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国の中で、ロシアに対する経済制裁に非協力的な国です。
そのリーダー格が今年のG20議長国であるインド。エネルギー高騰に苦しみながら制裁を続ける各国をよそに、割安になったロシア産の原油を大量に買っています。
『新興国がロシアの制裁逃れに利用されている現状を変えなければ、この戦争は終わらない』。ゼレンスキー大統領の来日は、そんなメッセージを、直接、訴える機会になるかもしれません。
インドメディア『WION』は、「広島でウクライナとインドの首脳会談が決定」と報じました。率直に聞いてみました。インドメディア『WION』シダーン・シバール上席特派員:「(Q.ゼレンスキー大統領の来日の目的はグローバルサウスとの対話とも言われている。グローバルサウスの国際社会での立場が重要になりつつある。どう評価する)グローバルサウスがどっちつかずなのは、G7ほど豊かでないからです。ゼレンスキー大統領が働きかけても中立的な立場は変わらないでしょう。なぜなら国によって優先事項や懸念は違います。ヨーロッパが懸念するのはウクライナ情勢でしょう。ウクライナには同情するし、戦争には誰も賛成しませんが、ほかの国の見解や、その経緯も考えるべきです。インドやインドネシアなどを大国は味方につけたいでしょうが、インドはエネルギーや食料など、何が得られるかを考えるのです。ゼレンスキー大統領に協力すれば、インドの重要度は増します。モディ首相との会談は、重大なイベントになるでしょう。インドはすでに世界で重要な役割を担っているのです」
同じくグローバルサウスのベトナムにも聞きました。ベトナム国営放送のブィマィンフン東京支局長:「(Q.ゼレンスキー大統領がロシアを説得してほしいと言ってきたら)個人的な意見だが、できればベトナムは、日本を含めたG7各国に対し、対話的方法で、できればロシアとウクライナとの対話、あるいは面談を主催したほうがいい。この対話を通じて、ウクライナもロシアもG7の各国もある。できれば、それぞれ国の立場を調整して、これは良いか反対か。G7の各国が中心的な役割を果たしたらいいのでは」
ロシア、ウクライナ、そしてG7国の間にベトナムがたち、対話での解決方法を模索するべきという意見です。
重要なのは、こうした国から少しでも“ウクライナへの歩み寄り”を引き出せるかどうかです。そんな新興国と友好関係を築いてきたのが日本です。岸田総理:「G7を越えた国際的なパートナーとの関与を強化することであり、この2点をG7として明確に打ち出したいと思います」
アメリカ・バイデン政権を取材している記者にこんな質問をしてみました。CNNホワイトハウス担当のフィル・マッティングリー記者「(Q.サミットは ウクライナが反攻を備えた重要なタイミングで行われます。ウクライナとの連携をめぐり、このサミットの位置付けや重要性は)ゼレンスキー大統領の来日が重要性をすべて物語っています。G7同士も西側の民主主義国も、太平洋地域も互いに接近しています。昨年2月までは、ここまでの接近はあり得ないと考えられていました。ウクライナが反攻を控えたいまこそ 、支援の維持、強化が何より大切です。同時に自国内の支援の重要性を訴えることも重要です。少なくともバイデン大統領はそうです。ウクライナが反攻を控え、なぜ、いまが重要なのか。米当局は、反攻の結果が何らかの和平、解決策の基礎になると考えています」
フランスの主要メディアも同じ見解を示しました。仏紙『ル・モンド』のフィリップ・メスメール東京特派員:「紛争の出口が多く取り沙汰されるなか、G7サミットはとても重要だと思います。ウクライナを支援する国家が広島に集結しているからです 。ここで出口戦略を議論しようとしている。(Q.当然ながら ウクライナ政府は、G7各国に期待を寄せていますが、一方で中国の後押しも期待していますよね)中国を交える必要はあるでしょう。中国は、和平プロセスに関わっています。私は、関係国がそろって、テーブルを囲み、紛争が終わる方法を見つけてほしいです。少なくとも犠牲となっているウクライナを納得させるよう方法です。同時にロシアに恥をかかせないこと。恥をかかせれば、代償を伴います」
●「課題は中国への不信感」戦争終結に向けた対話の可能性は? 5/19
岸田総理はグローバルサウスとの連携強化を掲げていますが、簡単ではなさそうです。
大越キャスター: G7は、支援の規模や中身に違いはあっても、ウクライナに全面的に寄り添うという点では完全に一致しています。しかし、G7が一致しているからといっても、世界が、必ずその方向に動くとは限りません。グローバルサウスの代表格であるインドのジャーナリストの話には深く考えさせられるところがありました。彼は「ロシアによるウクライナ侵攻には誰も賛成していないし、G7がインドを味方につけたいのはわかる。しかし、インドは、エネルギーや食料などの国益が第一で、どちらにも偏らない」と話していました。こうした国々と、ウクライナでの戦争終結に向けて、どう協力関係を築いていくか、そこには難しさがあるなと実感しました。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.ウクライナにとって、グローバルサウスの国々は、どのような重要性を持つのでしょうか)
ウクライナからすると、ウクライナ支援・ロシアへの制裁は、欧米・G7だけでは十分ではないと思っていると思います。何とかして、グローバルサウスを取り込みながら、国際社会の輪を広げていきたいという願いがあるのではないかと思います。また、欧米諸国は民主国家が多いので、今後、選挙や政権交代があると、中長期的なウクライナ支援が、どこまで維持されるのかという懸念もあるのではないかと思います。
ただ、グローバルサウスの代表格であるインドを取り込むのは、簡単ではなさそうです。20日にクアッドの会合が行われます。他方で、中国とロシアの枠組みであるBRICS、ここにもインドは入っています。インドは、したたかな外交を展開しています。モディ首相とゼレンスキー大統領の首脳会談が予定されていますが、ゼレンスキー大統領が、インドの立ち位置を引き寄せられるのかが注目されると思います。
(Q.欧米各国がウクライナに軍事支援を強め、プーチン政権を追い詰めるのは必然の流れだとしても、やはり外交の力も大きいと思います。その際、G7とは一線を画す中国の動きがポイントになると思います。ウクライナに平和をもたらすうえで、どのようなポイントが大事になっていくと思いますか)
最近、中国は、ウクライナ問題に関して、和平仲介の動きを強めています。ただ、欧米諸国からすると、中国に対する不信感があります。さらに、ポドリャク統領府顧問が対中不信感について言及しています。実際に、中国は影でロシアを支えているところもあり、制裁の抜け穴になっていたりするなど、戦争を継続するプーチン政権を支えようとしているところがあります。戦闘が続く段階においては、ウクライナ自身が中国の和平案を受け入れるのは難しいのではないかと思います。ただ、戦後の復興・復旧となれば、そもそもウクライナと中国の経済的な関係は密ですので、経済力の大きい中国の支援を受け入れるのではないかと思います。
大越キャスター: 広島でゼレンスキー大統領が、どのような日程で動いてくのか、まだ明らかになってはいませんが、G7首脳との合同会議に加え、日本やアメリカとの1対1の会談が行われる日程が浮上しています。
そして、グローバルサウスの代表格・インドのモディ首相との1対1の会談も行われるとインドメディアは伝えています。世界経済、環境問題など、グローバルな問題の議論に加えて、ゼレンスキー大統領の動向がこのサミットの焦点となっています。
●G7広島サミットの”ウクライナ支援” 「去年のサミットより内容が充実」 5/19
G7広島サミットの「会議の最新情報」をお伝えします。国際メディアセンターから青坂記者です。青坂さん!
(青坂記者)ここからは、サミットを長年研究する名古屋外国語大学の高瀬教授とお伝えします。高瀬先生よろしくお願いいたします。
さて、19日午前中、G7の首脳たちは歴史的な平和公園の訪問を果たしましたが、それに先立ち、岸田総理大臣は各国首脳との2国間会談を精力的に行いました。
岸田総理は19日朝、カナダのトルドー首相を皮切りにドイツのショルツ首相、それにフランスのマクロン大統領と相次いで会談を行っています。
そして午後はまず世界経済や生成AI・人工知能などデジタル分野について議論しました。また、つい先ほど終わったウクライナ情勢をテーマにしたセッションでは声明が発表されました。「ロシアのウクライナ侵攻に対してG7が一つに結束することで一致しロシアとロシア侵攻を支援する国に更なる措置を講じた」としています。またロシアによる「核兵器の威嚇」、加えて「使用も許されない」との立場を改めて表明しました。
Q:さて高瀬先生今回のウクライナに関する声明なんですけども、どのように評価されますか?
(名古屋外国語大学・高瀬淳一教授)去年のドイツのエルマウのサミットと比較しますと、非常に内容が充実したなという印象を持ちます。去年は、結束と人道支援というものを中心に特別な文書を出しましたが、今年はさらに復興からの支援とか、財政支援、そしてロシアを追い込むためにいろいろな制裁をさらに幅広く行っていくということも盛り込みました。
Q:過去のものと比較してもかなり進んだ形になった?
(高瀬教授)外務大臣会合のときよりもより多く、財務大臣会合時より幅広くという感じがいたします。
Q:そんな中でウクライナに関してはゼレンスキー大統領の広島訪問はかなりこれ現実味を帯びてきました。
(高瀬教授)そうですね。ゼレンスキ―大統領がいらっしゃって、対面で話をすることによってウクライナ支援というものがさらに拡大し、さらに大きくなる、具体性を持つというようなことが期待されます。
●ロシア軍が巡航ミサイルをキーウへ発射、5月10回目の攻撃… 5/19
ウクライナ空軍などによると、ロシア軍は19日、自爆型無人機22機と巡航ミサイル「カリブル」6発をウクライナの首都キーウなどに発射した。ウクライナ軍は無人機16機とミサイル3発を撃墜したという。露軍によるキーウへの攻撃は2日連続で、5月に入ってから10回目となった。キーウの軍関係者はSNSで、「短い間隔で数波に及んだ」とし、露軍がウクライナ軍の防空網の弱体化を狙っているとの見方を示した。
キーウ周辺に展開している米国製の地対空ミサイルシステム「パトリオット」は露軍のミサイル攻撃で損傷していたが、米国防総省のサブリナ・シン副報道官は18日の記者会見で、損傷は軽微で「完全復旧した」と明らかにした。
一方、ウクライナ軍の報道官は19日、最大の激戦地である東部ドネツク州の要衝バフムト情勢に関し、「我が軍が一定程度、戦闘の主導権を握っている」と述べ、周辺での反撃の進展を強調した。露国防省は19日、セルゲイ・ショイグ国防相が、ウクライナ南部ザポリージャ州の露軍司令部を視察したと発表した。ウクライナ軍の大規模な反転攻勢に備えた動きとみられる。

 

●プーチン大統領「極めて強力な反ロシアプロパガンダ」欧米非難 5/20
G7広島サミットで対ロシア制裁の強化が示される中、プーチン大統領は「極めて強力な反ロシアプロパガンダが繰り広げられている」と述べ、欧米を非難しました。
ロシア プーチン大統領「経済、軍事、政治、情報など事実上、すべての武器がわれわれに向けられている。極めて強力な反ロシアプロパガンダが繰り広げられている」
プーチン大統領は19日、ロシア南部で開かれた会議でこのように述べ、欧米がロシアの歴史や文化、価値観を攻撃し、多民族国家であるロシアを分断させようとしていると主張しました。
そのうえで「制裁や中傷が強まれば強まるほど、ロシア全体の結束は強固なものになっている」としています。
G7広島サミットでロシアに対する制裁強化が盛り込まれた声明が出される中、欧米の動きをけん制する狙いもあるとみられます。
●プーチン体制崩壊の予兆か?ロシアで「民間軍事会社」乱立の3つの事情 5/20
ロシアによるウクライナ侵攻で一躍脚光を浴びた民間軍事会社「ワグネル」。そのトップのプリゴジン氏が東部の激戦地バフムトで「ショイグ!ゲラシモフ!弾薬はどこにあるんだ!」とロシア国防相と軍参謀総長を呼び捨てにしながら、弾薬の供給がなければ撤退すると凄んで見せた映像が記憶に新しい。
ワグネルだけじゃない…ロシアに37の「民間軍事会社」
本来、雇い兵組織は法律で認められていないのだが、実はロシアの民間軍事会社はワグネルだけではない。公開情報の収集分析を行う国際企業「モルファー」が4月下旬に公表したリストには37の民間軍事会社が名を連ね、このうち25社がウクライナで活動しているという。
例えば、ロシアが2014年に併合したクリミア半島の首長、アクショノフ氏が資金面等で支援する民間軍事会社「コンボイ」。約3000人いるという戦闘員にはワグネル出身者もいて、ロシアの主力戦車T80やT90、航空機を保有している。ヤシク副司令官はBS-TBS『報道1930』とのインタビューで「ロシア国防省と契約を締結し命令に従って軍務を遂行している。訓練センターもあり、志願した人に対してスナイパー育成、爆発物の取り扱い、ドローンや戦車の操縦などを教育している」と証言している。
国営企業ガスプロムやショイグ国防相も民間軍事会社を設立
最近注目を集めているのは、ロシア最大の国営天然ガス企業のガスプロムが設立した民間軍事会社で、「ポトーク」「ファンケル」「プラーミャ」という複数の会社の存在が明らかになっている。エネルギー企業が掘削施設やパイプラインなどを守るため警備部隊を設けるのは不思議ではないが、国防省の傘下に入ってウクライナ侵攻に参加している。米国の政策研究機関「戦争研究所」によると、バフムトではワグネルとの主導権争いが激化しているという。
プーチン大統領に近いオリガルヒ=新興財閥のデリパスカ氏とティムチェンコ氏がスポンサーになっている民間軍事会社「レドゥット(リダウト)」もウクライナ侵攻に戦闘員を派遣している。ウクライナの捕虜となったロシア人戦闘員が「前線ではレドゥットの指揮下にあった」と語っている映像がSNSで流れた。
また、興味深いのはショイグ国防相までが「パトリオット」という民間軍事会社を立ち上げていることだ。ウクライナ東部軍の広報担当官は去年12月、ドネツク州南東部のウフレダルでパトリオットの部隊がワグネルと競う形で活動していると指摘していた。
ワグネルを排除へ…ロシアで民間軍事会社が乱立する3つの事情
ロシアの民間軍事会社は、いずれも国防省や治安機関FSB=連邦保安局など政権側と何らかの関わりを持っている。本来は非合法のはずなのに、プーチン大統領のお墨付きのもと数多くの民間軍事会社が設立され活動している背景には大きく3つの事情がある。
まずはウクライナで戦うための兵力の補充だ。欧米の推計によると、今回の戦争によるロシア軍の死傷者は最大で20万人に上る。不足する兵員を確保するために国家総動員令を出すのは可能だが、国民の動揺と反発を恐れる政権側はとても踏み切れない。そこで民間軍事会社の戦闘員を代わりに戦地に送り込むのである。彼らはロシアの平均給与の数倍で雇われるが使い捨てにされ、仮に多数が死傷したとしても政府は責任を問われない。
2つ目は、クレムリン内の権力・利権争いとの関係だ。影響力を強めるワグネルのプリゴジン氏は、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長ら軍の主流派と対立。権力への野心を隠さなくなったことで大統領周辺からも疎まれている。プーチン大統領のサンクト・ぺテルブルク時代からの盟友、ミレル氏が率いる国営企業のガスプロムが“官製”の民間軍事会社を相次いで設立したのも、ワグネル排除の動きの一環とみられる。
プーチン体制崩壊でスムータ=大動乱の時代が来るか?
そして3つ目は、プーチン体制が崩壊する時に備えて、力ある政治家やオリガルヒたちが私兵部隊を整え、自らの身の安全を確保するとともに権力や利権を奪取しようと目論んでいるというものだ。
ロシアの腐敗を告発するサイト『グラグ・ネット』の運営者、オセチキン氏は「彼らは権力移譲の準備をしている。ロシアにおける権力の分配は権力者の間のみで行われることを完全に理解している」としたうえで「何かが起こった場合に彼らは民間軍事会社に頼ることができる」と指摘している。
ロシアの人たちはスムータ=大動乱を恐れる。スムータとはムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドノフ』でも描かれた17世紀初頭のロシアの大動乱を言うが、ロシア革命の時の大混乱やソ連崩壊直後の混迷の時代を指す言葉としても使われる。プーチン体制が本当に崩壊するのかはわからないが、民間軍事会社の乱立はスムータを予感させる現象の1つと言えなくもない。
●プーチン大統領の孤立がさらに深まる−ゼレンスキー大統領 広島サミット参加 5/20
ウクライナのゼレンスキー大統領がG7広島サミットに対面で出席することがわかった。ゼレンスキー大統領にとって、アメリカのバイデン大統領やG7の首脳らに加え、アフリカやアジアなど新興国・途上国「グローバルサウス」に対して直接訴えることができる意味は大きい。 厳しい経済制裁下にあるロシアは、今回広島サミットに出席する「グローバルサウス」を頼みの綱としているためだ。
ゼレンスキー大統領がインドのモディ首相やブラジルのルーラ大統領、ベトナムのファム・ミン・チン首相といったロシアが拠り所にしたいグローバルサウスの首脳らに直接呼び掛ける姿が映し出されれば、ロシアにとって衝撃は少なくない。
孤立深まるロシア「他の世界との隔絶 鮮明に」
クレムリンに近い関係者は、ゼレンスキー氏とインドやブラジルとの直接会談を警戒しつつ、「広島サミットは『レッド・ライン』になる。西側とロシアとの交渉の余地は完全に失われ、ロシアと他の世界との隔絶を鮮明にする」と述べる。
ゼレンスキー氏の広島サミットへの出席は、プーチン氏の国際的な孤立を際立たせることになる。
中国は中央アジア5か国の首脳を集めた「中国・中央アジアサミット」を主催し、G7への対抗勢力を着実に構築しているが、そこにプーチン氏の姿はない。
さらにプーチン氏は、ロシアが主導するBRICS(新興5カ国)の首脳会議への参加すら危ぶまれている。8月に南アフリカで開かれるが、ICC(国際刑事裁判所)による逮捕状発行を受けて、南アフリカがプーチン氏の出席に難色を示しているのだ。
関係者は「プーチン氏はできるだけ国際会議に出席し、国際的に孤立していないのだと示したいが、それができないでいる」という。
存在感を増すインド・モディ首相
ロシア政府関係者は「今回の広島サミットでもG7の首脳らは、プーチン氏の動向を受けたG20への対応についても話し合うだろう」とみている。
この関係者によると、「プーチン氏は9月にニューデリーで開催されるG20首脳会議への出席を望んでいる」。一方で「ドイツ政府は、プーチン氏が出席するのであれば、首脳レベルでの出席は取りやめるとの方針を示している」という。
プーチン氏とも個人的に親しいモディ首相が、すでに1年以上続くウクライナ情勢をめぐりG20をどのような舞台にするのかも今後の国際情勢を大きく左右することになる。
プーチン氏は国内の動きにも警戒が必要
広島サミットへのゼレンスキー大統領の出席で、ロシアの国際的な孤立が改めて強調されることでプーチン政権を支えるエリートたちに動揺が広がる可能性もあり、ロシア国内の動きにも注意が必要だ。
さらにロシアの反体制派も動き始めている。現在服役中の反体制派指導者ナワリヌイ氏の陣営が18日に声明を発表し、ナワリヌイ氏の誕生日である6月4日に国内各地の主要都市でデモを行うよう訴えかけた。
独立系メディア「重要な物語」によると、ロシア大統領府が国内とウクライナの占領地の500以上の大学で秘密裏に行った調査では、ロシアの現状を最もよく表す言葉にとして44%が「危機」、32%が「衰退」と答え、3分の1以上の学生が国外への出国を希望しているという。
ロシアでは部分的動員に反対する昨年9月のデモが厳しく弾圧されて以降、半年間以上、大規模なデモは行われていない。ロシアの国際的な孤立が改めて強調される中で、6月にデモが行われれば、大きく広がる可能性もある。プーチン大統領の内憂外患の状況は、一層深まっている。
●ウクライナ戦争の仲裁、「基本原則」の尊重必須=クレバ外相 5/20
ウクライナのクレバ外相は19日、どの国でもロシアとウクライナの戦争を仲裁する役割を担うことができるが、「基本原則」には従わなければならないと述べた。
ポルトガルのジョアン・ゴメス・クラヴィーニョ外相との共同記者会見で、仲裁は「ウクライナ領土の完全な回復につながる」べきで「紛争を凍結」してはならないと指摘。「この2つの原則を尊重し、誠実に行動すれば、誰もが役割を果たすことができる」とした。
また主要7カ国(G7)は「親しい友好国かつパートナー国」であり、ロシアに対する新たな制裁やウクライナへの財政支援など「常に議論すべきことがたくさんある」としたほか、7月にリトアニアの首都ビリニュスで開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、ウクライナのNATO加盟に向けた「意味のある一歩」が踏み出されることを期待していると語った。
●ロシア後退のウクライナ、広がる隣人への不信 5/20
ウクライナ南部ヘルソン市で地区長の仕事をしているバレンティナ・ハラスさん(74)は、自分は裏切り者ではないと訴える。
しかし彼女が住む家の庭の壁には、赤いペンキでウクライナ人でありながらロシアのファシストであることを意味する「ラシスト(Rashist)」という言葉や、モスクワの戦争マシンへの支持の象徴とされる「Z」の文字がびっしり書き込まれている。
8カ月余りにわたって占領していたロシア軍が昨年11月に撃退された後も、なおロシア側の容赦ない砲爆撃にさらされているヘルソン。そこに渦巻くのは相互不信と恐怖だ。
ロシア軍の占領から半年が経過した時点で、隣人同士が疑心暗鬼に陥り、裏切り者がどこから現れても不思議はないと思わせる状況になった。
ハラスさんの場合は、昨年11月26日にウクライナ軍の関係者4人が自宅を訪れ、ロシアに協力した疑いがあると告げられた。事実と認められれば最大で10―15年の禁固刑を科せられる重罪だ。関係者らは家宅捜索をして彼女のコンピューターと携帯電話を押収し、近所の人たちから彼女がロシアに従い、ロシアのパスポートを取得するよう積極的に呼びかけたとの申し立てがあったと説明したという。
その後ハラスさんは警察からも尋問されたが、今のところ具体的な罪状を挙げられて逮捕ないし起訴はされていない。もちろん彼女は全ての容疑を否定し、なぜ協力者のレッテルを貼られたのかも見当が付かないと困惑。ロシア軍が追い出されたのはうれしいと付け加えた。
「正直なところ、何が何だか分からない。捜査結果でも何も見つからなかった」と涙ながらに話した。
一方、隣人のイリーナさんの説明は全く異なる。
イリーナさんは「ハラスさんは公然とロシアを支持し、ロシアは偉大で、自分はウクライナの支配下で恐ろしい思いをしたと誰彼となく触れて回っていた。それは決してこっそりとした告白ではなかった」と語った。
さらに「住民らはハラスさんがすぐ連行されると思っていた。われわれは何カ月間も彼女を弾劾する文書を書いてきた。だが彼女は逮捕されず、住民はショックを受けている」と打ち明けた。
このような対ロ協力者を糾弾する動きは、ロシア軍がウクライナの領土から大きく後退した後、日常的に目にされる光景になっている。
キーウのある軍事アナリストの分析では、ロシアはこれまでに昨年2月の侵攻開始後に占領したウクライナ領の40%強を失っており、現在掌握しているのはクリミアを含むウクライナの約5分の1だ。
ウクライナ検察当局のウェブサイトを見ると、国内全体で対ロ協力者に関して5300件を超える捜査が進められている。ただ各捜査が具体的にどの段階かにあるかは、はっきりしていない。
氷山の一角
ロシアがヘルソンを占領した際には、同市や周辺地域がロシア領の一部に編入されるのを望むかどうかを決める住民投票を実施。ロシア側は編入が支持されたと発表したものの、ウクライナと西側諸国はこの投票結果に信頼性はないと切り捨てている。
こうした空気の中でロイターは、知人や関係者がロシアに協力した疑いがあると話す住民5人から話を聞くことができた。
またヘルソン地区検察幹部に取材したところ、対ロ協力容疑で立件された事案はこれまで152件で、地元議員や警察当局者、医師、ビジネスマンなど対象者は合計162人。早い段階で立件されて法廷での審理が行われた幾つかの事案では有罪が認定されている。この中には住民投票で賛成票を投じるよう働きかけたとの容疑もある。
ヘルソンはなお戦闘地域となっているため裁判所が稼働できず、別の場所で審理が進められている関係で手続きは遅れているという。
ただ立件されたのはあくまで氷山の一角かもしれない。ヘルソン地区のウクライナ治安当局の報道官は、詳しい内容には触れずに住民投票の組織化や運営に関与した1147人を特定したと述べた。
生き残る手段
ウクライナが計画している大規模な反転攻勢によってロシア軍をさらに領土外に駆逐できた場合、より多くの都市や農村で、ヘルソンが足元で経験しているような事態に直面しそうだ。
実際のところ、対ロ協力は人々が占領下で生き残るための厳しい選択という面がある。
例えば一部の農家は、純粋に事業を継続していくためだけにロシアの法制度に基づいた農場の登録を行ったため、訴追されかねなくなっている、とウクライナの農業団体は指摘する。
複数の団体は、対ロ協力を取り締まる法令はあいまいな部分があり、占領下で何とか生活を維持していこうとした人々の現実をきちんと反映するように改正しなければならないと主張している。あるいは、本物の裏切り者と生存のために行動した人を明確に区別するべきだ、といった声も聞かれる。
●年明け以降もマイナス成長が続くロシア経済、その裏側で起きている変化 5/20
ロシア連邦統計局が5月17日に発表したロシアの2023年1〜3月期の実質GDP(国内総生産)は、速報値はで前年比1.9%減という結果だった。2022年4〜6月期以降、ロシアの実質GDPは4四半期連続で前年割れとなっているが、マイナス幅そのものは3四半期連続で縮小しており、経済は最悪期を脱している(図表1)。
   【図表1 ロシアの実質GDP】
速報段階で公表されるデータは、主要産業別の付加価値の動きにとどまっている。
1〜3月期も不調が続いた産業としては、まず卸売り(前年比10.8%減)と小売り(同7.3%減)が挙げられる。さらに、貨物も前年比2.1%減と悪化が続いた。反面、製造業が同1.1%増と前年増に転じ、建設(同8.8%増)や旅客(同15.7%増)が回復した。
ロシアがウクライナに軍事侵攻を仕掛けたのは2022年2月24日のことだった。その後、矢継ぎ早に欧米日が経済・金融制裁を強化し、ロシア経済は圧迫された。そのため、同年4〜6月期の実質GDPは前年比4.5%減と腰折れした。ただ、実質GDP成長率のマイナス幅が徐々に縮小しているように、その影響は徐々に吸収されてきた。
この過程で、ロシア経済は欧米日による経済・金融制裁の強化と、ウクライナとの戦争の長期化を受けて、その構造を変化させていったと考えられる。
具体的に言えば、対外的には貿易の取引先がヨーロッパから中国やインドといった新興国にシフトした。金融面でも、脱ドル化を進めて人民元や金(ゴールド)による決済や保有が増えた。
そして、戦争の継続を前提に、ロシアは経済運営の統制色を強めてきた。ロシアの企業は政府の命令次第で民生品よりも軍需品の生産を優先せざるを得なくなったし、何より、働き盛りのロシア国民が徴兵される仕組みが整ってきた。
実質GDP成長率のマイナス幅が徐々に縮小する過程で、ロシアの経済構造は着実に変化したわけだ。
ロシアの経済統計の信ぴょう性はともかく、GDP統計の需要の構成項目(コンポーネント)の変化を確認しても、この1年間でロシア経済の構造が着実に変化したことがよく理解できる。
ロシア連邦統計局はまだ2022年10〜12月期までしか実質GDPの季節調整値を公表していないが、このデータからも興味深い事実が見て取れる。
回復するGDPの影で急増しているある数値
まず、コロナ前の2019年の平均を基準(=100)としてロシアの実質GDPの推移を確認すると、ウクライナに侵攻した2022年1〜3月期の実質GDPは104.3であったが、それが翌4〜6月期には99.3まで急減した(図表2)。その後、ロシア経済は緩慢ながらも回復軌道に乗っており、2022年10〜12月期の実質GDPは100.4に達した。
   【図表2 ロシアの季節調整済実質GDPと公需依存度】
他方で、この間の政府支出の対GDP比率の動きを確認すると、2022年1〜3月期から4〜6月期にかけて急上昇していることが分かる。
具体的には、この間に政府支出の対GDP比率は18.7%から19.9%に急上昇した。同年10〜12月期には20.1%にまで上昇し、コロナショック直後の2020年4〜6月期(20.2%)の水準に迫っている。
コロナショック直後は、都市封鎖(ロックダウン)などに伴う民需の腰折れに加えて、経済対策が実施されたため、政府支出の対GDP比率が急上昇せざるを得なかった。いわばこの動きは、腰折れした民需を公需が支えるという、マクロ経済運営における基本的な絵姿そのものを示すものであり、正常な経済の構造だと言っていい。
しかし、2022年1〜3月期から4〜6月期にかけて生じた政府支出の対GDP比率のジャンプアップは、公需が民需を支えた結果、生じたものではない。7〜9月期以降も同比率が上昇していることが示すように、この間の政府支出の増加は構造的な性格を強く帯びている。これは戦争に伴う軍事費の増加を反映した動きであるとみるべきだろう。
戦争を受けて圧迫される民需の姿
実際、コロナショック後と異なり、ロシアの経済では民需の低迷が続いている。
実質GDPと同様にコロナショック前の2019年を基準(=100)とする指数でロシアの民需の動きを確認すると、ロシアの民需は2021年4〜6月期に107.3でピークを付け、2022年1〜3月期には、2月のウクライナ侵攻に伴い102.3まで減少した。
直近2022年10〜12月期の民需は99.4まで低下したが、一方で公需(政府支出)は2022年1〜3月期から10〜12月期の間に106.1から109.9と3.6%増加している。厳密に言えば、公需には政府支出のみならず公共投資も含まれる。民間投資以上に公共投資が好調だった場合、公需はさらに膨らみ、民需は圧迫されたことになる。
   【図表3 ロシアの公需と民需の推移】
ロシア財務省は月次の連邦財政統計を公表しており、歳入に関しては費目まで公表されている。しかしながら、歳出の費目が確認できるのは、現時点で2021年12月期までである。そのため、歳出総額に占める軍事費の割合を統計的に把握することは不可能であるが、歳出増の最大のドライバーが軍事費であることはまず間違いない。
GDP統計は「基礎統計」を用いて算出する「加工統計」だ。したがって、その作成に当たっては、政治的な思惑が強く働きかねない性格を持つ。そうした危うさを持つGDP統計からでさえも、ロシアでは戦争の開始を受けて、公需が民需を圧迫するようになった構図が窺い知れる。恐らく、実態はGDP統計以上に深刻なのではないか。
軍需がけん引する成長は拡大再生産にはつながるか
ロシアの2023年1〜3月期の実質GDPの季節調整値は、今のところ、6月の中旬に公表される予定のようだ。前年比のマイナス幅が2022年10〜12月期より縮小しているため、季節調整値の水準もまた、前期から上昇しているはずである。
一方で、1〜3月期も激しい戦争が行われたため、公需が増えた反面、民需の低迷が続いた公算が大きい。
計算上、民需が圧迫されても、それ以上に軍需が増えればGDPは成長する。しかし、そうして達成された経済成長は拡大再生産にはつながらないし、経済の発展につながるものではない。
事実、2022年の季節調整済の実質GDPの動きは、軍需の増加に伴う公需の増加が、民需の増加を伴うものではないことをよく示している。
ロシアがウクライナとの戦争を続けるのみならず、仮にウクライナとの間で停戦に合意したとしても、政権の経済運営の在り方が根本的に変化しない限り、公需が民需を圧迫する構図は続くだろう。
今後、ロシアのGDP統計を分析するに当たっては、今まで以上に、成長率の裏にある需要や産業の構造変化に注目する必要がある。
●ロシアの集中的な攻撃 ウクライナ反転攻勢への警戒強化か  5/20
ロシアが今月に入ってウクライナ各地への集中的な攻撃を繰り返していることについて、ウクライナ国防省の幹部は、反転攻勢に向けた準備を妨害しようとしているという見方を示しました。こうした中、ロシアのショイグ国防相は、前線の司令部を訪れて偵察活動の強化を指示し、ロシアが反転攻勢への警戒を強めていることをうかがわせています。
ウクライナ空軍は19日、ロシア軍が巡航ミサイル6発と22機の無人機で攻撃を仕掛けたと発表しました。
このうち3発のミサイルと16機の無人機を迎撃したということですが、一連の攻撃によって、ゼレンスキー大統領の出身地でもある東部のクリビーリフでは2人が重軽傷を負ったと、地元当局がSNSで明らかにしました。
ロシアは18日も各地でミサイルや無人機による攻撃を仕掛けるなど、今月に入って異例ともいえる頻度で集中的な攻撃を繰り返しています。
これについてウクライナ国防省情報総局の幹部は19日、地元メディアに対して、ロシアは冬の間に仕掛けた電力インフラへの攻撃に失敗した今、ウクライナ側の反転攻勢に向けた準備を妨害しようと、標的を軍事施設や弾薬庫などに切り替えているという見方を示しました。
こうした中、ロシア国防省は19日、ショイグ国防相が、ウクライナ南部ザポリージャ州の支配地域にある前線の司令部を視察したと発表しました。
ショイグ国防相は現地の司令官に対して、ウクライナ軍の計画を事前に察知し、その実行を阻止するため偵察活動を強化するよう指示したということで、領土の奪還を目指すウクライナの反転攻勢への警戒を強めていることがうかがえます。
●ウクライナに占領地返還必要 中国に対ロ非難求める―ポーランド 5/20
中国政府の李輝ユーラシア事務特別代表は19日、ワルシャワで、ロシアが侵攻を続けているウクライナの情勢を巡りポーランド高官と協議した。ポーランド外務省が発表した。ポーランド側は「ロシア軍の撤退と占領した領土の返還が唯一の受け入れられる解決策」だと伝えた。
ポーランド高官はまた、中国がロシアの侵略を非難することへの期待も表明した。李氏は「ウクライナの情勢は誰の利益にもならない」と強調し、停戦と和平交渉の重要性を指摘。中国は核兵器の使用に反対すると説明した。
●ゼレンスキー大統領 軍事侵攻めぐり「目をつぶっている国が」  5/20
ウクライナのゼレンスキー大統領は、サウジアラビアで開かれたアラブ連盟の首脳会議に出席し、ロシアの軍事侵攻をめぐって「目をつぶっている国がある」と述べ、ロシアと協力関係を維持しているアラブ諸国に苦言を呈しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、サウジアラビアの西部ジッダで開かれたアラブ連盟の首脳会議に出席しました。
ゼレンスキー大統領が中東を訪問するのは、ロシアによる軍事侵攻が始まって以来、初めてです。
演説のなかで、ゼレンスキー大統領は「残念ながらこの場も含め、世界にはロシアの違法な併合に目をつぶっている国もある」と述べ、ロシアによる軍事侵攻のあともロシアと協力関係を維持しているアラブ諸国に苦言を呈しました。
その上で「ロシアがいかに影響力を及ぼそうとも、みなさんには正直な目を向けてほしい」などと述べて、アラブ諸国に対し、ロシアに厳しい姿勢で臨むよう求めました。
アラブ諸国をめぐっては、OPECプラスでロシアと関係が深いサウジアラビアをはじめ多くの国が、ウクライナ侵攻のあともエネルギー分野などでロシアとの協力関係を維持していて、ゼレンスキー大統領としては、アラブ諸国にくぎを刺した形です。
そのうえで、ロシア軍の撤退など、ウクライナが和平に向けて掲げる10の項目に対する支持を呼びかけました。 
●バイデン米政権がロシアに追加制裁、資産凍結や禁輸など 5/20
バイデン米政権は19日、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの制裁の対象に、300を超える個人や企業、団体を追加すると発表した。対象は20カ国を超え、海外からロシアを支援する動きに幅広く網を掛ける。広島市で開かれている先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で、ロシアを非難する声明をまとめたことに合わせた措置となる。
イエレン財務長官は声明で、「プーチン(ロシア大統領)が野蛮な侵略を行う能力をさらに狭め、制裁を逃れようとするロシアの試みを断ち切るための世界的な取り組みを進める」と述べた。
財務省は個人22人と104の企業や団体を対象に、米国内の資産を凍結。国務省は約200の個人や団体、船舶、航空機を制裁対象に加え、商務省は71の企業や団体について、米国の製品や技術の輸出を実質的に禁止する。
主な対象はロシアが軍事的な重要技術や機器、物資を調達するための取引先や、資金源となる石油・ガス採掘の研究機関、資金調達を支援した金融機関など。拠点はロシアだけでなく、欧州諸国や中東、インドなど広範にわたる。
米財務省は、これまでの制裁措置によってロシアの軍需産業は部材を調達するため、国外の個人や団体を通じた「脱法行為や回避行為が増えている」と指摘。今回の制裁により「第三国や国際的な団体に対し、ロシアの戦争への物的支援を停止するほか、厳しいコストを課すことを求めたG7首脳の呼び掛けを実行する」と説明した。
●ロシア、F16供与方針を批判 欧米に「重大なリスク」 5/20
ロシアのグルシコ外務次官は20日、バイデン米政権が欧州の同盟国による米国製F16戦闘機の対ウクライナ供与を容認する方針に転換したことについて「状況をエスカレートさせるものだ」と批判、「欧米自身にとって重大なリスクになる」と警告した。タス通信が伝えた。
プーチン政権は、ウクライナへの軍事支援を続ける欧米が交戦を長引かせていると批判してきた。欧米製戦闘機の供与は北大西洋条約機構(NATO)側とロシアとの直接の交戦に発展する危険性があるとのけん制を今後強めるとみられる。
F16の供与にグルシコ氏は「今後、考慮に入れることになる」とする一方で、軍事作戦を続ける姿勢を明確にした。
●中国、中央アジアサミットで布石、「一帯一路」強化=ウクライナ戦争尻目に  5/20
5月18、19日の両日、中国・中央アジアサミットが古代シルクロードの出発点(陝西省西安市)で開催された。このサミットには、中国のほか、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンが参加した。6カ国首脳が対面で集まるのは初めて。中国と中央アジア諸国が連携し、新たなページを画したイベントとして注目される。会議は2年に一回定期開催され、次回は2025年にカザフスタンで開くこととなった。
中央アジアは、豊富な資源を有し、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」の主要ルートとなっている。習近平国家主席は共同記者会見で、自ら提唱した「一帯一路」が今年で10年の節目を迎えるとして、中央アジア諸国と産業・投資の協力拡大などを進める方針を表明した。「新たな出発点」として協力を強化発展させると謳った。ユーラシアを貫く「シルクロード経済帯」の拡充強化の意義は大きい。中国と中央アジア5カ国の昨年の貿易総額は700億ドル(約9兆5000億円)を超え、過去最高水準を記録した。
中国・中央アジアサミットは最終日に「西安宣言」を採択。中国と中央アジアは「運命共同体」として、経済や文化の領域から国家安全の領域まで幅広く協力すると宣言した。 さらに、中央アジアに隣接するアフガニスタンについても「平和と安定を守ることを助ける」として、影響力を行使する考えを示した。中央アジアにとって喫緊の課題であるインフラ開発などの支援策も提示した。上海協力機構(SCO)の枠組みの中でも、中国、ロシア、インドと中央アジア諸国は、地域の安全保障と経済発展で積極的に協力していくとしている。
東アジア―欧州間の「国際貨物列車」が急拡大
中央アジア5カ国は、重要なハブとして、中国が欧州域内で経済的な役割を拡大するのを可能にしてきた。ロシア経由で中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」もその一例。2011年3月に重慶市からドイツのデュイスブルクまで運行したのが始まりで、湖北省武漢市、四川省成都市、河南省鄭州市、陝西省西安市など他都市からも運行されている。中国各都市と欧州23カ国180都市を結んでいる。
2021年の「中欧班列」の運行本数は前年比22.4%増の1万5183本、輸送されたコンテナ数は前年比29%増の146万4,000TEU(20フィートコンテナ換算値)と大きく増加した。同年の輸送貨物の付加価値額は749億ドルと、2016年の80億ドルから大きく増加した。輸送貨物も、当初の携帯電話やノートパソコンなどのIT製品から、自動車部品、完成車、化学工業品、機械電気製品、穀物、酒類、木材などに拡大した。欧州と中国を繋ぐ中央アジア諸国は鉱物資源に富み、中国西部の中国企業にとって、重要なマーケットとなっている。
習近平国家主席は19日、中央アジアサミットで基調演説し、中国と中央アジア諸国の協力に関する8項目の提案を打ち出した。
提案内容は(1)メカニズムの構築強化=中国と中央アジアの協力の計画・発展、(2)経済貿易の拡大=多くの貿易円滑化措置により貿易規模を新たなレベルに引き上げること、(3)交通網の深化=中国・キルギス・ウズベキスタン高速道路、中国・タジキスタン・ウズベキスタン高速道路の拡充整備と、中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道プロジェクトに関する交渉推進、(4)エネルギー協力の拡大=中国・中央アジア天然ガスパイプライン建設を加速、(5)グリーンイノベーションの推進=中国は中央アジア諸国と塩害の管理・開発などの分野で協力し、アラル海の生態系危機の解決に取り組むこと、(6)発展レベルの引き上げ=中央アジア諸国の貧困削減のための科学技術特別協力プランの策定への協力、(7)文明対話の強化=中央アジア諸国の「文化シルクロードプラン」への参加、(8)地域の平和維持=地域の安全維持とテロ取締りへの協力――など。
中央アジアは一帯一路の要衝で、天然ガス・石油や鉱物資源の供給地。中国はウクライナ侵攻によってロシアの影響力が低下するなか、地域を支える役割を強めようとしている。日本が議長国を務めるG7サミットでは、中国とロシアによる「力による一方的な現状変更は許さない」というメッセージを打ち出した。これに対し、中国は「G7の言うルールは国際社会共通ではない」との立場。異例の3期目に入った習政権は、新興国や途上国への独自の外交攻勢を展開している。
複雑な地域情勢下、中国が先行
一方で、中央アジア5カ国はウクライナ問題で難しい立場に置かれ、複雑な状況に直面している。カザフスタンはロシアと軍事的、経済的にも同盟関係にあるが、トカエフ大統領が昨年6月、プーチン・ロシア大統領を前に、ロシアが承認したウクライナ東部の親ロシア派地域の独立を認めない考えを示すなど、「ロシア離れ」の動きを強めている。ロシアの同盟国であるキルギスやタジキスタンには4月下旬、米国高官が訪問。昨年8月には、トルクメニスタンを除く4カ国が、タジキスタンで米国と軍事演習を実施した。
侵攻をめぐる国連総会でのロシア非難決議でも、5カ国は反対していない。背景には侵攻への不満があり、米欧の制裁に巻き込まれれば、ロシア以上に打撃を受ける。ただ、地理的に米欧の手厚い支援は期待できず、急激にロシアから距離を置くのも難しい。
そこで中央アジア諸国が期待するのが中国。ロシアや米欧は地域へのインフラ投資には消極的で、一帯一路を推進する中国とは利害が一致する。習氏とトカエフ氏との首脳会談では、貿易やエネルギー分野などでの協力推進で一致。トカエフ氏は18日、「中国への石油パイプラインの拡張を計画している」と期待を示した。
5カ国はロシアと一定の距離
サミットに参加する5カ国は旧ソ連構成国で、元々ロシアの強い影響を受ける。ただ、ウクライナ侵攻後は、カザフスタンのトカエフ大統領が、ロシアが独立を承認したウクライナ東部の親露派「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を承認しない考えを示すなど、5カ国はロシアと一定の距離を置く。中国としてはロシアの影響力の低下を見極めながら、今回のサミットで中央アジア諸国との関係強化に動いた形だ。
ロシアも「勢力圏」の維持に必死だ。今月9日にモスクワで開催された対ドイツ戦勝記念式典には中央アジア5カ国の首脳を招待し、結束を演出した。出口の見えないウクライナ戦争を尻目に、地政学的に複雑な中央アジアだが、中国が一歩先行している格好だ。

 

●ロシア軍、バフムト制圧へ兵力増派…ウクライナ軍報道官「戦闘は続いている」 5/20
英国防省は20日、ウクライナに侵略するロシア軍が東部ドネツク州の要衝バフムトで、兵力を増強したとの分析を明らかにした。これに対してウクライナ軍は東部での反撃を強化し、反転攻勢の準備を進めている。
ウクライナ国防次官は19日、露軍側が「数千人規模」の兵力を増派し、バフムト市内全域の制圧を試みていると指摘した。バフムト周辺でのウクライナ軍の戦闘については「ペースはやや落ちたが、前進が続いている」と述べた。
これに対し、バフムト攻略で露軍側の主力を担う露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏は20日、バフムト市内全域を制圧したとSNSで主張した。ウクライナ軍の報道官は20日、「戦闘は続いている」と述べ、陥落を認めていない。
露軍は20日、首都キーウを3日連続で攻撃した。ウクライナ空軍によると、露軍は19日夜と20日未明に自爆型無人機20機を発射し、ウクライナ軍が全機を撃墜した。20日に発射された18機は全てキーウが標的だったという。ウクライナ軍の地対空ミサイルを消耗させて、反転攻勢を遅らせる狙いとみられる。
一方、タス通信は、ウクライナ軍が20日、露軍の占領下にあるドネツク州の港湾都市マリウポリを複数のミサイルで攻撃したと報じた。露軍が基地にしている空港などで爆発が発生したとの情報もある。
●ロシアのプーチン大統領、激戦地バフムト制圧発表 5/21
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトを制圧したと主張し、民間軍事会社ワグネルを名指しでたたえた。タス通信が21日伝えた大統領府の発表によると、プーチン氏は「(作戦に当たった)ワグネル突撃部隊と共に、必要な支援を行ったロシア軍に対し、解放作戦の完了に祝意を表明した」という。
ワグネルの創設者プリゴジン氏は20日、通信アプリ「テレグラム」に投稿した動画声明で「きょう正午(日本時間20日午後6時)、バフムトを完全に制圧した。作戦は224日間続いた」と発言。ただ、ウクライナ軍報道官はメディアに対し「事実でない」と否定し、反転攻勢が続いていると訴えていた。
ロシア国防省がその後、20日深夜にバフムト掌握を発表。プーチン氏の「制圧宣言」はこれらを受けた。大統領府や国防省がワグネルの功績を認めることは極めてまれで、プリゴジン氏と国防省の間で表面化した対立に「終止符」を打つ思惑もあるもようだ。
20日は、ロシアがドネツク州の港湾都市マリウポリを激戦の末に制圧宣言してから1年に当たる。ウクライナが大規模攻勢を予告する中、プーチン政権として「戦果」を誇示するとともに、占領地の奪還を許さないようロシア軍の引き締めを図った格好。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)やゼレンスキー大統領訪日から自国民の目をそらす狙いもありそうだ。
プリゴジン氏によると、25日からワグネル戦闘員を順次撤退させるという。制圧地域は既に展開しているロシア軍が担当するため、今後、ウクライナの反転攻勢でロシア側が後退を強いられてもプリゴジン氏は責任を回避できる形だ。
●ロシア国防省がウクライナのバフムト制圧を発表 プーチン氏も祝福 タス通信 5/21
ロシア国防省はウクライナ東部の激戦地バフムトの完全制圧を発表し、プーチン大統領もこれを祝福しました。
ロシア国防省は21日、ウクライナ東部の激戦地バフムトについて、「ロシア軍の支援を受けたワグネルの攻撃で、解放が完了した」と発表しました。
これに先立ちロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者・プリゴジン氏も廃墟の街の中でロシア国旗を掲げる映像をSNSに投稿し、バフムトの完全制圧を主張していました。
タス通信によりますと、プーチン大統領がバフムトでの作戦完了を受け、ワグネルとロシア軍を祝福したということです。
一方、ウクライナ軍の報道官は20日、現地メディアに対して「戦闘は続いており、我々はバフムトで多くの建物を保持している」とプリゴジン氏の主張を否定しています。
●ロシア “バフムト完全掌握の国防省をプーチン大統領が祝福”  5/21
ロシア大統領府は、プーチン大統領が、ウクライナ東部の激戦地バフムトを完全に掌握したとする国防省を祝福したと発表しました。ウクライナのゼレンスキー大統領がG7広島サミットに参加し、反転攻勢に向けてさらなる支援を求める中、戦果をアピールし、軍事侵攻を続ける姿勢を示すねらいがあるとみられます。
ロシア大統領府は21日、「プーチン大統領がバフムト解放作戦の完了を祝福した」と、国営通信社を通じて発表しました。
これに先立ちロシア国防省は、ウクライナ東部ドネツク州のバフムトについて、民間軍事会社ワグネルとともに攻撃を続けた末に完全に掌握したと、SNSで主張していました。
また、ワグネルの代表プリゴジン氏も20日、SNSに動画を投稿して街の掌握を主張したうえで、今月25日以降に部隊を撤退させてバフムトの防衛をロシア軍に引き継ぐとしました。
バフムトは、ドネツク州の全域掌握をねらうロシア側が、スロビャンシクなどウクライナ側の拠点への足がかりとして重視し、連日攻撃を繰り返してきました。
一方、ウクライナ軍の徹底抗戦によって戦闘は長期化し、最近ではウクライナ側が反撃に出て郊外で一部を奪還したと発表するなど、激しい攻防が繰り広げられていました。
ウクライナのゼレンスキー大統領がG7広島サミットに参加し、反転攻勢に向けてさらなる支援を求める中、プーチン大統領としては、バフムトを掌握したと戦果をアピールし、軍事侵攻を続ける姿勢を示すねらいがあるとみられます。
バフムトを掌握したとするロシア側の主張に対して、ウクライナ軍の東部方面部隊の報道官は20日、ロイター通信に対して「主張は事実ではない」と否定しました。
また、ウクライナのマリャル国防次官もSNSに、「バフムトの状況は危機的だが、防衛を続けている」と投稿し、双方の主張は食い違っています。
●激戦地バフムート、ワグネルとロシア国防省が掌握を宣言 5/21
ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムートについて、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏は20日、「完全に掌握した」と発表した。ロシア国防省もアルチェモフスク(バフムートのロシア名)での作戦完了を宣言した。
プリゴジン氏はSNS「テレグラム」に投稿した動画の中で、「バフムート掌握に向けた作戦は224日間続いた」と述べて勝利を宣言。25日には同市をロシア軍に引き渡すと述べた。
同氏は動画の中で、プーチン大統領に「母国防衛の栄誉」を与えられたと感謝の意を表したが、同時にショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長を名指ししてロシアの「官僚主義」を批判。両氏が戦争を「自分たちの娯楽」にした気まぐれのせいで、本来の5倍の死者が出たと批判した。
続いてロシア国防省も20日、ワグネルの突撃部隊による攻撃の成果として、バフムートの解放が完了したと発表した。
さらにロシア国営タス通信によると、プーチン大統領は同日、バフムート「解放作戦」の完了を確認したワグネルとロシア軍に祝意を表した。
ただしウクライナのマリャル国防次官は、プリゴジン氏の投稿の直後にテレグラム上で、バフムートが「重大」な局面にあることを認める一方、ウクライナ軍部隊が市西端の地区で産業、インフラ施設などを引き続き掌握し、防衛線を維持していると主張した。
CNNは双方の発言の真偽を独自に確認していない。
●ワグネル代表「バフムトを掌握」 ウクライナ軍「事実でない」  5/21
ウクライナ東部の激戦地バフムトについて、ロシア国防省は完全に掌握したと発表しました。一方でウクライナ軍は、戦闘は依然として続いていると強く否定しています。
ロシア国防省は21日、ウクライナ東部ドネツク州のバフムトについて、民間軍事会社ワグネルとともに攻撃を続けた末に完全に掌握したと、SNSを通じて発表しました。
これに先立ちワグネルの代表プリゴジン氏も20日、SNSでバフムトの掌握を宣言し、25日以降に部隊を撤退させるとしていました。
ドネツク州の全域掌握をねらうロシアにとって、バフムトはウクライナ側の拠点となっているスロビャンシクなどへの足がかりとして重視してきた街で、ワグネルの戦闘員を中心に長期間にわたって攻撃を続けてきましたが、このところウクライナ軍が周辺の一部を奪還したと発表するなど、激しい攻防が続いてきました。
ロシア側の主張に対してウクライナ軍の東部方面部隊の報道官は20日、ロイター通信の取材に「主張は事実ではない。われわれの部隊は戦っている」と強く否定し、ウクライナのマリャル国防次官もSNSに「状況は危機的だが、今もバフムトで防衛を続けている」と投稿し、双方の主張は食い違っています。
●プーチン大ショック、極超音速「キンジャール」まで撃墜、封じられる核攻撃 5/21
バイデン氏、F-16のパイロット訓練認める
[ウクライナ中部クリヴィー・リフ発]日本時間の5月19日金曜日の正午過ぎ、英フィナンシャル・タイムズは、「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が今週末のG7サミットに対面で出席する」「ゼレンスキーは、日曜日に広島で行われる議論に参加する見込み」と報じた。
その一報があった翌20日土曜日の午後3時30分、ゼレンスキー大統領は専用機で広島空港に降り立った。
19日のG7で、ジョー・バイデン米大統領はF-16を含む第4世代戦闘機でウクライナのパイロットを訓練する計画への支援を表明した。バイデン氏は今年初め「ウクライナがF-16を必要とするとは思わない」と否定的な見方を示していた。そこから一転、米国が欧州諸国によるウクライナへのF-16供与に初めてゴーサインを出した格好だ。
ロシアを刺激しないよう少しずつ武器供与の既成事実を積み重ねる「サラミ戦術」がこれまでは功を奏している。
対ロシア制裁について曖昧な態度を取り続けているインドのナレンドラ・モディ首相やブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領もG7に招待されている。ゼレンスキー氏の直接出席は、G7にとって西側と中露に対し等距離外交を続ける“第三勢力”の巨頭モディ、ルラ両氏への圧力を増し、味方に引きつける絶好の機会となる。
ゼレンスキー氏は最近、イタリア、ドイツ、フランス、英国を訪問し、武器弾薬供与の約束を取り付けた。19日にはサウジアラビアで開催されたアラブ連盟の首脳会議にサプライズ出席、「私たちの国土での戦争に異なる見解を持つ人々がいても、ロシアの刑務所の檻から人々を救うという点では一致団結できると確信している」と訴え、外交にも力を入れている。
ロシア軍はミサイル、ドローン攻撃でウクライナ軍の反攻計画を妨害
英国における戦略研究の第一人者である英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は最新の有料ブログで「ウクライナの反攻は電撃戦による短期決戦ではなく、長期の攻撃を準備している」と分析した上で「ウクライナの防空はミサイルや無人航空機(ドローン)攻撃を含むロシアの航空戦力に対処できるのか」と問いかけている。
米紙ニューヨーク・タイムズは米当局者や漏洩した米国防総省の機密文書をもとに、ウクライナの防空網は1年以上にわたって西側の兵器で強化されてきたものの、大量の弾薬を供給しなければ、最短で4月中旬までにロシア軍のミサイルやドローンの度重なる砲撃で脆弱になった防空網が崩壊に追い込まれる恐れがあると伝えていた。
だが現在までの戦況を見ると、ウクライナにとって最悪の事態は免れている。
ウクライナ空軍司令部によると、5月に入ってロシア軍によるミサイル、ドローン攻撃は激化しているのだが、ウクライナ国防情報部のヴァディム・スキビツキー代表は「ロシア軍はこれらの攻撃でわれわれのエネルギーシステムの破壊を試みたが、失敗した。今はわれわれの春、夏の反攻計画と準備を妨害することを最優先にしている」と分析している。
「ロシア軍は現在、指揮統制センター、弾薬や装備の供給ルートや集中地点、燃料貯蔵所、兵員集中地帯に対してミサイルを使用。われわれの防空システムが配備されている地域に特別な関心を持つようになった。ロシア軍の航空戦術は毎日約20〜25発の精密誘導弾KAB-500を前線と前線地域で使用している」とスキビツキー代表は言う。
実際、ウクライナ軍はロシアのミサイルやドローンを含む航空戦力を相手に、よく凌いでいる。
ロシア軍の極超音速空対地ミサイルKh-47M2キンジャールを撃墜
ウクライナ空軍の発表から5月に入ってからのロシア軍のミサイル、ドローン攻撃を見ておこう。
【5月1日】ロシア北西部ムルマンスクから9機の戦略爆撃機Tu-95、カスピ海地域から2機の可変翼超音速戦略爆撃機Tu-160を使って空対地巡航ミサイルKh-101/Kh-555を18発発射。うち15発はウクライナ軍によって破壊される。
【5月3日】ウクライナに近いロシアのブリャンスクと、アゾフ海の南東岸から最大26機のイラン製神風ドローン「シャヘド136/131」を使用。うち21機がウクライナ軍によって破壊される。ウクライナ南部ミコライフとヘルソンでロシアのドローン4機が破壊される。
【5月4日】ブリャンスクとアゾフ海東岸から最大24機のシャヘド136/131を使用。ウクライナ軍によってうち18機が破壊される。またキーウ上空でウクライナ軍のトルコ製バイラクタルTB2が制御を失ったため同軍が撃墜。
ロシア領の戦闘機MiG-31Kから発射された極超音速空対地ミサイル「Kh-47M2キンジャール」が、キーウ上空でウクライナ軍の広域防空用の「地対空パトリオット」によって破壊される(5月6日に発表)。
【5月5日】南東方向から2機のシャヘド136/131で攻撃するもウクライナ軍によって破壊される。
【5月6日】アゾフ海東岸から8機のシャヘド136/131で攻撃するも破壊される。さらにロシアのドローン5機が破壊される。
【5月8日】ブリャンスクの空港から35機のシャヘド136/131が攻撃をしかけるも、ウクライナ軍によって破壊。ヘルソンでもロシアのドローン3機が破壊される。クリミアの中距離爆撃機Tu-22Mからミサイル8発を発射し、ウクライナ南部オデーサを攻撃。黒海の空母から巡航ミサイル「クラブ」を8発発射するが、ウクライナ軍により破壊される。
【5月9日】カスピ海の戦略爆撃機Tu-95から17発の「Kh-101/Kh-555」を発射。ウクライナ軍によりうち15発が破壊される。25発の巡航ミサイル、クラブとKh-101/Kh-555を発射、ウクライナ軍によりうち23発が破壊される。3機のシャヘド136/131も破壊される。
【5月12日】ロシアのドローン4機が破壊される。
【5月13日】21機のシャヘド136/131のうち17機とロシアのドローン1機が破壊される。
【5月14日】4機のシャヘド136/131とロシアのドローン「オルラン10」が撃墜される。ヘルソンでロシアのドローン3機が撃墜される。夜間攻撃では18機のシャヘド136/131、ロシアのドローン7機、黒海の艦船からクラブ、Tu-95からKh-101/Kh-555 /Kh-55が使用されるが、うちドローン25機、巡航ミサイル3発が破壊される。
【5月16日】6機のMiG-31からキンジャール6発、クラブ9発、黒海の艦船から3発の短距離弾道ミサイル、9K720イスカンデルを発射するが、すべて破壊される。6機のシャヘド136/131、3機のドローンも撃墜される。
【5月17日】2機のTu-160と8機のTu-95から22発のKh-101/Kh-555、黒海の艦船から6発、地上からイスカンデル2発が発射するも29発が破壊される。2機のシャヘド136/131と2機のドローンが撃墜される。
【5月19日】22機のシャヘド136/131と、黒海の艦船から6発のクラブでウクライナを攻撃したが、16機のシャヘド136/131と3発のクラブが撃墜される。2機のシャヘド136/131とロシアのドローンが撃墜される。
【5月20日】キーウに向かった18機のシャヘド136/131が破壊される。
「ウクライナの反攻作戦の能力を短期的に低下させるのが目的」
米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は「ロシア軍のドローンやミサイルによる定期的な攻撃はウクライナの反攻作戦の能力を短期的に低下させることを目的とした新たな航空作戦の一部である可能性が高くなっている」と分析。2022年秋から23年冬にかけての重要インフラ攻撃と比べ、高精度ミサイルの使用は大幅に減少した。
「ロシア軍は精密ミサイルのかなりの割合を使い果たしている可能性が高く、現在限られた在庫を節約するためこれらのミサイルの使用数を大幅に減らしている可能性がある。ロシア軍の新たな航空作戦はキーウと後方地域のウクライナ軍の産業と物流施設に焦点を当てているようだが、ウクライナ軍全体の能力が大きく抑制されているとは考えにくい」という。
前出のフリードマン氏は「ゼレンスキー氏が武器を増やすために最優先にしたのは防空システムと最新の戦闘機だ」と指摘する。「最終的にはF-16がウクライナに届くだろう。米国は現在、同盟国(オランダの可能性が高い)がF-16を提供することに反対していないように見える」。実際、バイデン政権は欧州の同盟国に対してF-16のウクライナへの供与を認める意向を示し始めている。
ただ都市部が常に攻撃を受けていることへのウクライナ側の懸念は非常に強い。
「ミサイルやドローンを使ってウクライナ全土を攻撃してもウクライナの戦略的立場を根本的に変えるほどの一貫性と有効性を持ってはいないが、実害、痛み、ストレスを与えているのは間違いない。電力供給を中断させることを目的とした当初の作戦は失敗。ウクライナの反攻が迫っているため物資の供給妨害や指導者の注意をそらすことに優先順位をシフトした」
強化されたウクライナの防空システム
今年3月、ウクライナの10都市を狙った80発以上のミサイル攻撃でインフラが破壊された「困難な夜」(ゼレンスキー氏)を受け、ドイツの地上防衛用地対空ミサイルIRIS-T、米国とノルウェーが開発した中高度防空ミサイルシステムNASAMS、米国とドイツからそれぞれパトリオットが供与された。
これにより、ウクライナの防空能力は格段に向上した。
核弾頭も搭載できる極超音速空対地ミサイル「キンジャール」は速度、不規則な飛行軌道、高い操縦性の組み合わせにより迎撃困難と考えられてきた。しかし5月4日、ウクライナはパトリオットを使ってキーウ上空でキンジャールを撃墜。5月16日にもキーウの防空力を圧倒するため複雑な攻撃があったが、6発のキンジャール、9発のクラブ、3発のイスカンデルはすべて破壊された。
「ミサイルが撃墜されたとしても、ウクライナ側はそのために貴重な防空資源を使い果たし、前線部隊を支援できなくなる恐れがある。しかし、その目的はやはり、傷つけ、罰することであり、運が良ければウクライナの攻撃計画を妨害することだ」とフリードマン氏は指摘する。ゼレンスキー氏は最近の欧州歴訪で防空システム強化の約束も取り付けた。
5月15日には、ウクライナとの国境から50キロメートル近く離れたロシアのブリャンスクで2〜3機のロシア製ヘリコプターと戦闘爆撃機Su-34、多用途戦闘機Su-35が撃墜された。ロシアの防空網の致命的な欠陥なのか、それともウクライナ軍が車両搭載システムを用いて国境付近を攻撃しているのか、さまざまな憶測を呼んだ。
「ウクライナの、ミサイルを無力化する能力の高さには目を見張る」
オスロ大学研究員でミサイル技術の専門家ファビアン・ホフマン氏は英紙デーリー・テレグラフへの2回にわたる寄稿で「英国はウクライナに英仏が共同開発した空中発射巡航ミサイル、ストーム・シャドウを送り、クリミア大橋などこれまで届かなかった標的を攻撃できるようにする。送られたバージョンの射程は250キロメートルと思われる」と解説する。
低空飛行でステルス性の高いストーム・シャドウは迎撃するのが難しい。ウクライナ軍は国内のほぼ全域を標的に、要塞化された構造物や埋もれた構造物も破壊できるようになる。「しかしロシア軍の電子戦部隊はGPS(衛星測位システム)誘導を妨害することで、ストーム・シャドウの成功を妨げる恐れがある」(ホフマン氏)との懸念もあったが、すでに戦果を収めている。
「ウクライナのミサイル撃墜率は、ウラジーミル・プーチン露大統領の最大の脅威が無力化されたかどうかを問うものだ。ウクライナひいては米欧がミサイルを無力化する能力の高さには目を見張るものがある。おそらく、すべてではないにせよ、ほとんどのミサイルが無力化され、ロシアのミサイルの威力は大きく損なわれた」(同)
核弾頭も搭載できるキンジャールは戦術核の基礎をなす。「ロシアの短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルに対するウクライナのミサイル防衛が明らかに有効であることを考えると、ロシアが戦術核をうまく配備する能力に疑問符が付くだろう。ロシアの意思決定者は戦術核で目標を攻撃できるかどうか、疑問を持ち始めるかもしれない」とホフマン氏は指摘する。
●ロシア企業、湾岸マネーに熱視線 会合で投資呼び掛け 5/21
ウクライナ侵攻で西側による制裁や外国企業の撤退に直面するロシアは、ペルシャ湾岸産油国の投資家に自国への投資を呼び掛けている。
アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビでこのほど開催された年次投資会合では、ロシア政府が投資の好機だと訴え、ロシア企業は湾岸マネーを取り込もうと特設パビリオンに出展した。
ロシア経済発展省のパベル・カルミチェク氏は「アラブをはじめ、あらゆる投資家を呼び込むためにやって来た」と述べた。
ウクライナ侵攻をめぐり、西側諸国にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領が孤立したように映っているが、サウジアラビアとUAEは中立的な立場を保ってきた。
ロシアの富裕層は西側による制裁の影響を回避するため、UAEに殺到してビジネスを展開。不動産購入ではロシア人が最大の顧客になっている。
会合で演説したマクシム・レシェトニコフ経済発展相は、中東・北アフリカとの協力は「ロシアの外交・経済政策の優先課題の一つだ」と述べた上で、「共同プロジェクトを始める時だ」と訴えた。
さらに湾岸諸国の「独立した外交政策」を評価するとともに、「ロシアにとって信頼できるパートナーだ」と称賛。貿易を促進するため、制裁の影響を回避できる「独立した金融・銀行システム」の創設を呼び掛けた。
デニス・マントゥロフ副首相によると、ロシアとUAEの昨年の貿易額は前年比68%増の90億ドル(約1兆2000億円)に達した。
「競争優位性」
ロシア代表団は会合で、西側の制裁にもかかわらずモスクワは依然、世界最大級の都市経済圏であり、主要な投資先だとアピールした。
モスクワ市外交経済局長のセルゲイ・チェレミン氏は投資家に向けた演説で、「制裁下の困難な時期にあるが、モスクワにはいくつもの競争優位性がある。ロシア市場に参入するための入り口だ」と述べた。
またロシアのパビリオンでは起業家のマクシム・アニスモフ氏が、ロシアで設計・製造された3D印刷技術を披露した。アニスモフ氏はAFPに対し、「発展中のこの地域には多くのビジネスチャンスが存在する」と語った。
UAEのエンジニア、アドナン・ニムル・ザルーニ氏は、パビリオンでの展示を見た後、ロシア企業への投資を検討する考えを示し、「多くの素晴らしいチャンスがある。鉱業や畜産、エネルギー、農業、技術力に富み、高度な技能を持ったプログラマーも存在する」と評価した。
コンサルティング会社ハリージエコノミクスの幹部ジャスティン・アレクサンダー氏によると、湾岸地域の政府系ファンドは過去10年間、ロシアへの投資を拡大してきた。ただ、「これらの投資は西側に比べて小規模にとどまっている」という。
侵攻のコスト
国際通貨基金(IMF)は4月、ロシア経済の見通しについて、昨年と今年上半期のエネルギー高が「大きな財源」になったとして、2023年の成長予測を引き上げた。ただし、ウクライナ侵攻は中期的には大きく影響してくるとし、ロシア経済は侵攻開始前の予測よりも約7%縮小するとみている。
サンクトペテルブルク国際経済フォーラムを主催するロスコングレス財団の取締役会長であるアレクサンダー・ストゥグレフ氏は、「ロシア経済は困難な状況下でも強靭さと成長力があることを示している」と語った。
さらにウクライナ侵攻の影響で、西側の制裁や大手外国企業のロシア事業撤退が相次いでいるが、「ロシアは(ビジネスに対して)大きく開かれている」と強調した。
しかし、湾岸地域の専門家であるロバート・メイソン氏は、アラブの投資家はロシアの特定の部門については支援するかもしれないが、その影響は限定的との見方を示した。「構造的には、現時点において(湾岸諸国の投資が)形勢を一変させるものにはならないだろう」と話した。 
●サミット非難、新興国注視=戦闘機供与の影響見極め―ロシア 5/21
ロシア外務省は21日、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)について「非西側諸国を取り込み、中ロの発展を阻止する」ことを狙ったと非難した。プーチン政権は、招待国として参加した「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の動きを注視。西側諸国によるウクライナへの戦闘機供与計画についても、影響を見極めていく構えだ。
政権にとって西側諸国によるウクライナ支援は既定路線で、侵攻の長期化を見据えて「戦時体制」を固めている。戦況で優位に立つことが、将来の停戦交渉でカギを握るという立場は不変だ。
政権がむしろ注視したのはグローバルサウスの動向。サミットにはロシアの友好国であるブラジルとインドも招待された。ペスコフ大統領報道官は「心配していない」と強がり、ラブロフ外相は西側諸国とグローバルサウスの間に「断層が生じている」と主張した。
一方、ロシア国営テレビは「西側諸国は対ロ制裁の強化で合意したが、ロシアへの全面禁輸に踏み切れなかった」と報じた。政権は、G7による対ロ全面禁輸が現実となれば「(ウクライナ産)穀物輸出合意を打ち切る」(メドベージェフ前大統領)と警告。G7首脳声明に全面禁輸が盛り込まれず、ロシア経済へのさらなる打撃は回避されたことには安堵(あんど)しているようだ。
被爆地でのサミット開催は対米批判に利用され、ザハロワ外務省情報局長は、米国が核兵器を使った広島で「ロシアの核の脅威」をテーマとするのは「皮肉極まりない」と論評。プーチン大統領の最側近パトルシェフ安全保障会議書記は「(米国は)原爆を落としたのはソ連だと日本人に吹聴している」と根拠なしに発言した。
国営テレビは、広島でのサミット反対デモを「国民の総意」と歪曲(わいきょく)。「バイデン米大統領の訪問に日本人は激怒した」と報じ、G7の権威低下の宣伝を試みた。
ただ、ロシアも米国の影響力を必要としているようだ。メドベージェフ氏はSNSで、ゼレンスキー政権との停戦交渉は無理だとしつつ「戦後の世界秩序は米国としか話せない」と指摘。局面打開のための対米交渉に含みを残した。
●ローマ教皇、ウクライナ和平の仲介目指す使節任命 5/21
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は20日、ボローニャ大司教で
イタリア司教協議会の会長も務めるマッテオ・ズッピ枢機卿を、ウクライナ戦争の和平達成を仲介する使節に任命した。
ローマ教皇庁(バチカン)の報道担当部門の責任者であるマッテオ・ブルーニ氏が声明で述べた。「使節の目的はウクライナ紛争の緊張緩和への寄与」とし、「和平への道のりを開く希望を抱きながら努めることになる」と記者団に話した。
声明は、ズッピ枢機卿による使節としての役目の内容や取りかかる時期についてはバチカンが検討している段階にあるとした。
●ウクライナに自衛隊車両100台 岸田首相、ゼレンスキー氏へ伝達 5/21
岸田文雄首相は21日、広島市内でウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、「ロシアの核の威嚇、使用はあってはならない」と表明、ウクライナとの連携に決意を示した。自衛隊のトラックなど車両約100台や非常用糧食約3万食分を新たに提供する方針を伝え、「多面的な支援を積極的に進めたい」と語った。
会談は約50分行われた。大統領は今回の広島訪問について「核兵器のもたらす被害の甚大さや、戦争は許されないことを再認識した」と語った。
首相は先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で「法の支配に基づく国際秩序の重要性」を確認したことを紹介。大統領は「ウクライナの領土の一体性と国民への支持を表明してもらい、一生忘れることはない」と謝意を伝えた。
互いに「ウォロディミル」「フミオ」とファーストネームで呼び合う場面もあった。
●グテーレス国連事務総長「ウクライナ情勢の早期解決は困難」 5/21
サミットに参加するため広島を訪れた国連のグテーレス事務総長が、「ウクライナ情勢の早期解決は困難」との認識を示しました。広島テレビの単独インタビューでの発言です。
グテーレス事務総長が最初に語ったのは、自身と被爆地・広島とのかかわりでした。
国連・グテーレス事務総長「私が初めて広島に来たのは1980年代のこと。その時に見た悲劇や核兵器の愚かさは、強く印象に残っています。それは、その後の私の政治的選択に極めて大きな影響を及ぼしました。おそらく、国連の事務総長を目指したのもその影響です」
ロシアの侵攻から1年以上がたったウクライナ情勢の今後については、厳しい見方を示します。
国連・グテーレス事務総長「両国が和平に向けて真剣な議論のテーブルに着く可能性はありますが、それがいつかについて語るのは時期尚早。両国が和平交渉に早急に応じるとは思えませんが、いつかその日は来るでしょう」
国連の安全保障理事会は去年2月、ウクライナ侵攻を非難し、ロシア軍の即時撤退を求める決議案を採決。しかし、ロシアが拒否権を行使し否決されました。国連安保理は機能不全に陥っているとの指摘もあります。
国連・グテーレス事務総長「私も強く思っていることですが、安全保障理事会は現在の状況に対応しきれていません。常任理事国に新たなメンバーを迎えるなど、世界の安全保障に効果的に対処するため、方法論を一新することが重要だと考えます」
●バイデン大統領 ゼレンスキー大統領に新たな軍事支援を伝達  5/21
アメリカのバイデン大統領は21日午後、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナ兵へのF16戦闘機の訓練を開始することや、追加の砲弾の供与などを含む新たな軍事支援を行うことを伝えました。
会談でアメリカのバイデン大統領は「大規模な攻撃を行うプーチン大統領の残虐性を誰も予想していなかったと思う。だからこそアメリカはウクライナの自衛のための能力を強化するため、できるかぎりのことを続けている」と述べました。
その上で、ウクライナが求めていたF16戦闘機について同盟国などとともにウクライナ兵に対する訓練を開始すると伝えました。
またウクライナの戦力を強化するため追加の砲弾や軍用車の供与など、3億7500万ドル、日本円にしておよそ513億円相当の新たな軍事支援を行うことも伝えました。
これに対してゼレンスキー大統領は「あなたのリーダーシップ、そして新たな軍事支援に感謝する。われわれは決して忘れない」と述べてアメリカの支援への謝意を伝えました。
両氏が対面で会談するのは、ことし2月にバイデン大統領が首都キーウを事前の予告なしに訪問した時以来で、戦闘が長期化する中でもアメリカの支援は揺るぎないものだという姿勢を強調した形です。

 

●見えてきたプーチンが戦争する理由£キ期化で焦る中国 5/22
これだけの負け戦、大ロシア軍はどこへ行ったのか? 民間軍事部隊ワグネルのプリゴジン隊長は弾薬不足を理由に激戦地バフムートから撤退すると宣言し、口汚い表現でロシア国防大臣と軍総司令官を罵倒した。ビデオは世界中に拡散し、大ロシア帝国が誇る軍事組織が弾薬に事欠く事態を世界中が目撃した。弾薬は後日供給されたようだ。
しかしロシア軍兵士の練度は低く、装備や武器は旧式の年代物だという。ロシア兵は60年代のウクライナの古地図を手渡されて戦場をうろついている。もとより士気など高いはずがない。
抑々弱体の軍隊で戦争を始めたのだ。このこと自体ロシアで今起きている混乱と錯乱の証拠だ。
「政治的に従順でいれば楽に暮らせる」というプーチン氏と国民の約束のもとでここまで来た。しかし2023年4月の時点で、ロシアは一人当たり国内総生産(GDP)で世界の63位。ハンガリー、ポーランド、クロアチア、ルーマニアなど、かつてのロシアの配下にあった衛星国に後れを取っている。
屈辱的だ。ウクライナとの開戦後、20万人以上の兵士が死んだ。ウイキペディアによれば90万人以上の生産能力のある国民が国を去った。ロシア経済は国際的な制裁を受け、国家の負債は膨大化し、国は実際上破綻している。
プーチン大統領のロシア大国意識、歴史的な被害者意識、それに起因する無数の判断の過誤。その上、失敗から学習できないシステムで、組織的に総合力を発揮できず、長期的な戦略思考が無く、新しい発想を全く生み出せない。
ロシアがこうなってしまったのは「ロシア政府の中枢が常に恐怖にさらされ、恐怖を通り越して半宗教的な集団エクスタシーに動かされているからだ」とロンドン大学パストーフ博士が解説している。わが愛するロシアの純朴な友人たちの能力不足のせいではないと理解したい。 
ロシアは崩壊するのか?
ロシア在住の識者によると、ロシアでは今や誰もがプーチン政権が終ると理解しているという。人々は、プーチン体制がもう存在しないかのように、国の将来について議論しているようだ。
問題は、どのように体制が崩壊し、その後何が起きるかだ。今のままではプーチン政権が勝利する道筋は無さそうだ。
国の将来へ共有されたビジョンもない。政治的資源は枯渇している。有為な人材は国外に出た。ロシアは変わらざるを得ない。だがどう変わるのか?
抑々ロシアでは大衆が街頭に出て大規模なデモをした程度で政権が転覆することは無いとされている。弾圧機関がガッチリ機能しているからだ。しかし、エリートの分裂が起きれば何らかの展開が始まるとされている。
政府はすでに衰退している。明らかにコントロールを失い、命令が守られていない。あらゆる問題が雪だるま式に増大し、すべての安定が失われている。ソビエト連邦末期、ミハイル・ゴルバチョフが、誰も従う気のない、強制力のない法令を次々と発布した時に似てきた。
政権が崩壊すれば、さまざまな軍事組織が衝突し、ラムザン・カディロフやワグネルグのプリゴジンが戦闘員とともに戦いに加わり、野心家の将軍や知事、その他の組織が入り乱れて戦闘に参加することになるだろう。こうなると暴力と流血のレベルは想像を絶するものになり、事態は黙示録的なものとなると論ずる者もいる。
もちろん、政権交代の可能性も民主化の可能性も低いと見る専門家もいる。プーチン氏はまさにその為にあらゆる防御と弾圧の仕組みを綿密に構築してきた。弾圧機関が異変をすぐに察知し、公開、非公開で処刑する。
米国安保プロジェクト(ASP)のバネサ・スミス・ボイル研究員は、こういう環境の中でロシアの次期大統領に親欧米の民主主義者が就任する可能性はほとんどないと指摘する。しかし別の論者はクレムリンの縦割りの権力機構の外側から来た指導者なら、戦争を終わらせ、欧米とのより良い関係を模索するだろうと論じている。
ハーバード大学のレミントン教授はむしろ戦死した兵士らの母親などが行動を起こすと国を動かすかもしれないと考える。同教授は既に中銀の債務は巨大化し、大量のロシア兵が戦死し、軍事組織は機能不全に陥っているため、ロシアの政変は1年以内に50%以上の確率で発生すると見ている。
統治の正統性の議論が始まった
ここへ来て、米有力紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の論説委員がこの戦争はとどのつまり正統性の戦争だと言い始めた。プーチン大統領は自分の強権統治の正統性を国民が問題視しているのを知っている。彼はそれを巻き返すために戦争に打って出て、強い勝利者たる地位、つまりプーチン流の正統性を確保しようとしているのだとする議論だ。
プーチン大統領は北大西洋条約機構(NATO)拡大をウクライナ侵攻の口実にしているが、NATOが攻めてくる組織でないことは大統領自身十分に知っているはずだと論じている。その証拠に、NATOに包囲されているカリーニングラードやNATOに新規加盟したフィンランドとの830マイルの国境警備にもロシア軍を新規に配備していない。要するに「NATOの拡張を喰いとめる」などと世界に向かって主張するプーチン大統領自身がNATOは拡張主義だとは思っていないのだ。
彼にとっての最大の問題はロシア国民が自分の統治を信任していないという危機感だ。それがこの戦争を始めた動機だ。戦場での勝利が正統性を与えてくれる、つまり今日のロシアの問題の核心は「統治の正当性」なのだ。WSJ紙はそう論じた。
更にこの記事は同じ問題が中国や台湾との関係にもあると論じている。要するに台湾は中国の安全保障を全く脅かしてはいないが、台湾の存在自体が中国共産党の権力独占の正統性を無言で問うているというのだ。ロシアがウクライナを侵攻した途端、中国は「専制体制の統治の正統性」という深刻な問題に繋がる危険を察知し、ロシアの今後を強く案じてきたと論じている。
要するにWSJ紙は現代的な情報革命の時代では、一党独裁の政府がいくら言論統制をしても、国営TV放送で一方的な情報を日夜流しても、統治の正統性を確保することは難しくなってきたと議論をしているのだ。
政権の正統性が民意に由来していない時、専制政権側は言論統制をする。しかしそれは現代の情報革命に挑戦することになり、闘いは熾烈になる。そこをWSJ紙は論じ始めた。要するに専制政治側の最も脆弱な側面に切り込んできたのだ。
筆者はこの欄で「ロシアの民主化」の必要性を再三にわたり論じて来たが、WSJ紙は同じことを別の形で論じ始めた。だが「ロシア民主化論」の先行きは不明瞭である。上記の通りロシア問題の専門家たちは簡単ではないと論じている。筆者も同感だ。
ただ、ロシアの民主化を可能にする一つの重要なシナリオは欧米側の働きかけである。周知の通り、スウェーデンの経済学者で世界論壇の指導層の一人であるアンダース・アスランド氏らがロシア支援の新マーシャル・プランの実行をフォーリンアフェアーズ誌で提案している。
これは単なる一例だが、ロシアに民主的政権が出来れば現に大規模な経済支援が実行されるだろう。何故ならロシアの民主化自体、世界の安定化に貢献し、西側世界にとって歴史的な前進だからだ。
その上、ロシア人は自国の民主化を狂信と迷妄と血の弾圧から解放される歴史的機会だと捉えるだろう。苦難に次ぐ苦難の歴史を辿ってきたロシア人が今度こそ、運命的な決断をする。西側は賢明な作戦を立ててそれを促して行くべきだ。それに自由民主主義には十分な国際競争力がある。
ユーラシアの盟主を目指す中国
ロシアの民主化に立ちはだかるもう一つの問題は中国だ。中国は5月18〜19日、中央アジア5カ国との首脳会議を開催する。明らかにユーラシアの将来に重大な関心を持っていることを示している。
中国はユーラシアの盟主になろうとしているのだ。その為にポスト・プーチンのロシアでも引き続き専制体制が生まれるように工作するだろう。ぐずぐずして下手をするとユーラシア全体が民主化する危険があるからだ。
また、中国は当然上記WSJ紙が指摘した「統治の正統性」の問題が中国にとっては面倒な展開になりかねないことを既に知っているはずだ。WSJ紙に指摘されるずっと前から熟知している問題だ。
中国は駐ロシア大使などを歴任してきた李輝氏をユーラシア問題担当の特別代表に任命し、ウクライナ問題の解決を手始めに動き始めている。要するに北京の外交マシーンはユーラシア全域でトップギアで走り始めているのだ。
中国主導でウクライナ問題を解決し、ロシアの民主化を阻止し、「統治の正統性等のくだらない問題」が国際的な議論の俎上にのぼらないように工作を始めているに違いない。「世界の大国のように行動し始めた中国」という記事が既に出ている。
日本はもちろん、西側自由同盟は賢明な作戦を練って対応するべき時だ。ユーラシア地政学の将来、日本とアジア太平洋の安寧と発展等に直結する問題だからだ。
●G7広島サミットがプーチン大統領にとって痛手となった理由とは? 5/22
ウクライナのゼレンスキー大統領やインドなどグローバルサウス諸国の首脳も参加した先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)はロシアによる核の恫喝どうかつを非難し、ロシア包囲網を強化した。プーチン大統領は、米国の非人道性を強調するプロパガンダ(政治宣伝)に広島の原爆被害を利用してきただけに、被爆地広島でのサミットを苦々しく受け止めているだろう。(編集委員・常盤伸)
プーチン氏は昨年9月、ウクライナ南東部4州を併合したと主張した演説で「米国は世界で唯一、核兵器を2度使用し、広島と長崎の都市を破壊した。米国が(核使用の)前例をつくったのだ」と言及した。プーチン氏はこれまでも繰り返し広島を引き合いに出し、反米プロパガンダを展開してきた。プーチン政権は約10年前から、広島、長崎への原爆投下を、ロシアが内外で拡散する反米プロパガンダ活動の象徴として、フル活用してきた。日本を真の主権のない米国の従属国とみなすプーチン氏は同演説でも、「米国はドイツ、日本、韓国などを占領している」と侮辱的な表現を用いている。
ところが広島サミットでは、岸田首相の主導で、原爆投下国のバイデン米大統領や核保有国の英仏首脳などG7首脳が平和記念資料館を訪れ、核軍縮文書「広島ビジョン」を発表。ロシアを名指しで非難した。プーチン氏にとっては国際世論を巡る宣伝戦でも痛打となった。
ウクライナで苦戦のロシア、核使用の可能性はあるのか
一方、開始間近とされるウクライナの反転攻勢を前に、苦戦するロシアが核を使用する可能性はあるのだろうか。ロシアは約2000発の小型戦術核弾頭を保有。短距離弾道ミサイル「イスカンデル」や、巡航ミサイル「カリブル」や極超音速ミサイル「キンジャール」などに搭載しての使用が想定されている。
プーチン氏は昨年2月の侵攻直後から、核兵器使用の構えを繰り返し示し、米欧の介入やウクライナ支援を強くけん制してきた。ロシアの情報戦に精通する英王立国際問題研究所のロシア専門家キア・ジャイルズ氏は最近発表した「ロシアの核恫喝」という長文の報告書で、ロシアによる核兵器使用の威嚇は、米欧のウクライナ支援を抑制するための「驚くほど成功した情報キャンペーン」だと分析する。
しかし米欧が侵攻当初の、歩兵携行用多目的ミサイル「ジャベリン」などから、高機動ロケット砲システム「ハイマース」、さらには防空用の地対空ミサイルシステム「パトリオット」など徐々に強力な兵器を供与し、ウクライナが反撃に成功する中でも、軍事的な対立がエスカレートし、核を使用せざるを得ないほど状況が制御不能になるのを回避してきた。
侵攻から1年以上経過し、「恫喝の効果」は低下しつつある。広島サミットに合わせて、ロシアからの最も強い反発が予想された、ウクライナへの欧州諸国のF16戦闘機供与を米国が容認したが、ロシア側は外務省が型どおりの批判をするだけで、強い反応を控えている。
軍事的にも戦術核使用効果は疑問符がつく。ウクライナ軍とロシア軍が対峙たいじする前線は約1000キロもあり、広大な領域で、多くの部隊が分散して機動的な攻撃を続けるウクライナ軍に1発の核攻撃で重大な打撃を与えるのは不可能だ。
逆に、バイデン政権などが警告するように、ロシアを圧倒的に凌駕する米欧の通常戦力による攻撃で、ウクライナ領内に展開するロシア軍を短時間で壊滅させる可能性が高い。ウクライナでの戦術核の使用は、即座に米国と対峙する戦略的な性格を帯びるのだ。
最も強調すべきなのは、1発でも核を使用すれば国際社会から今度こそ完全に孤立し、文字通り「亡国」と化すということだ。プーチン政権は、G7を中心とするリベラルな国際秩序を、「悪魔的」な「西側エリートの独裁」とまで断罪するようになった。米国と対立する中国との戦略的パートナーシップや、旧ソ連時代から関係の深いアフリカ諸国や、アジア諸国との関係強化に、ロシアの活路を見出す。しかし、中国は核の先制使用に明確に反対しており、3月にモスクワを訪問し、関係強化でプーチン氏と一致した習近平国家主席も、さすがにロシア批判に回らざるを得なくなるだろう。また、ロシアと良好な関係を維持し、対ロ包囲網に加わらないインドやブラジル、インドネシアなどのグローバルサウス諸国も、ロシア離れが加速するのは間違いない。そうなれば、ロシアの経済状況は急激に悪化し、腐敗した権威主義体制が崩壊する可能性が高まるだろう。
それでも閉ざされた情報空間で生きる独裁者プーチン氏が、クリミア半島がウクライナ軍に奪還される可能性が高まるなど、ウクライナ戦争の帰趨次第では、昨年2月の全面侵攻決定と同様、非合理的な決定を、「合理的」な判断と思い込み、核使用という破滅的な道を選ぶ恐れは残っている。侵攻を正確に予測した米軍事専門家、マイケル・コフマン氏ら多くの専門家が、今後の核使用の可能性を排除していない。
●ロシア、中国と安全保障協議 22日に開催=RIA 5/22
ロシアのプーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記が22日、中国共産党の政治局員である陳文清氏と会談すると、ロシア通信(RIA)が伝えた。
陳氏は昨年10月の党大会後に政治局員に昇格し、公安・司法・情報機関を束ねる中央政法委員会の党書記に任命された。
RIAによると、パトルシェフ氏が陳氏と会談するのは初めて。
二国間の安全保障協議は年次行事だが、ロシアは昨年2月のウクライナ侵攻開始以降、中国と経済、政治、軍事面で一段の関係強化に動いている。
●対抗手段に出る習近平。G7の真裏で中国が開催する「もう一つのサミット」 5/22
透けて見える習近平の意図。なぜ中国は和平外交を展開するのか。
「李輝大使が中国政府ユーラシア事務特別代表になったのか…」5月16日と17日に李元駐ロシア中国大使がキエフでクレバ外相との会談に臨んだ映像を見て思わずつぶやいた言葉です。
李輝氏は10年以上にわたり、中国政府外交部では、駐米大使・駐英大使、そして駐日大使と並ぶエース級が就任する駐ロシア大使を務め、2019年の退任時には、李輝大使のロシアへの献身と敬愛に対してプーチン大統領本人から友誼勲章を直接授与されるほど、ロシア政治のトップにも食い込んでいた人物です。
李輝大使は確か旧ソ連時代も含めると17年ほどロシアに滞在し、ロシア語に堪能であるだけでなく、ロシア文化にも造詣が深く、ゆえにプーチン大統領からも「ロシアの真の友人」との評価を得たと言われています。
今ではもう70歳を超え、確か外交官は退官されていますが、現役を退かれた後も私が属する調停グループにもアドバイスをいただく非常にシャープな人物です。ただ退官後は「ロシア文化・文学についての本でも書くかな」と仰っていたので、悠々自適な生活を送っておられるのかと思っていたら、習近平体制下での“和平外交”の先頭に立つ一人として表舞台に戻ってきました。
この特使の派遣については、習近平国家主席とゼレンスキー大統領が行った4月26日の電話会談の中で中国側がオファーし、ウクライナ側が受け入れることを決めたものですが、私自身、中国政府は一体誰をこの特使に充てるのかなと非常に関心を持っていました。
その理由は【誰が特使になるかによって、習近平国家主席と中国政府がどこまでロシア・ウクライナ戦争の停戦仲介と平和的な解決に本気なのかを探る指標になる】と考えていたからです。
聞くところによると、4月26日の習近平国家主席とゼレンスキー大統領との電話会談後、プーチン大統領はこの“特使派遣”合意に対して不快感を示し、不安を抱いていたそうですが、この李輝氏がその特使に就任することを知ってかなり喜び安心したそうです。
その理由はすでにお話ししましたが、ロシアに対する深い敬愛と憧憬を抱く李氏の特使任命は、中国の平和外交・和平外交の立ち位置が明らかにロシア寄りの調停になるものと期待できるからです。
そのことは、キーウで会談したクレバ外相も重々承知で、李輝特使に対して「ウクライナは領土の分割や喪失、そして戦争の凍結には応じない」と釘を刺し、「領土の一体性の保持がマストであり、黒海を通じた穀物輸出の再開と安全の保障、そして核兵器の安全保障について、中国の協力をお願いしたい」と要請し、中国が中立的な観点から調停を行うことを要請したようです。
このクレバ外相の言葉を少しだけ深読みすれば「ウクライナ政府は、中国政府が行う和平外交の中立性を信頼していない」というメッセージを、李氏を通じて、中国政府に伝えたのではないかと思います。
ただ李氏もクレバ外相も時折通訳を介することなく、ロシア語で直接に対話を行い、かなり込み入った内容の話までしたようで、その際に、李輝特使はウクライナ側の“政治的解決に向けた条件”を事細やかに聴取したようです。
●バフムトでロシアとウクライナの主張に食い違い 引き続き焦点  5/22
ウクライナ東部の激戦地バフムトをめぐりロシア側が完全に掌握したと発表したのに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアに占領されていない」とこれを否定しました。
双方の主張が食い違い、バフムトの戦況の行方が引き続き焦点となっています。
激戦が続いてきたウクライナ東部ドネツク州のバフムトについてロシア大統領府は21日、「プーチン大統領がバフムト解放作戦の完了を祝福した」と発表し、戦果をアピールしました。
この発表に先立ちロシア国防省も、民間軍事会社ワグネルとともにバフムトを完全に掌握したと主張しました。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領はG7広島サミットのあとの記者会見で「バフムトでは、正確な位置は教えられないが、重要な任務が続いている。21日の時点でバフムトはロシアに占領されていない」と述べ、ロシア側の発表を改めて否定しました。
ウクライナ陸軍のシルスキー司令官は21日、みずからのSNSにバフムト近郊の前線を訪れ兵士を激励した動画を投稿し、「ウクライナ軍の反撃は続いている」としてバフムト近郊で攻勢をかけていることを強調しました。
バフムトをめぐっては、ロシア側に多くの戦闘員を送り込んでいるワグネルの代表、プリゴジン氏が今月25日以降に部隊を撤退させる意向を示しています。
双方の主張が食い違う中、戦況の行方が引き続き焦点となっています。
ゼレンスキー大統領「勝利を近づけるための外交の1日」
ウクライナのゼレンスキー大統領は日本時間の21日夜遅くSNSに「ウクライナに勝利を近づけるための外交の忙しい1日」とコメントを投稿し、G7広島サミットに対面で参加したことの成果を強調しました。
また21日はカナダのトルドー首相、インドネシアのジョコ大統領、韓国のユン・ソンニョル大統領、アメリカのバイデン大統領、それに岸田総理大臣と個別に会談したとして、各国の首脳と抱き合ったり、固く握手したりする様子をうつした動画も投稿しました。
ウクライナ情勢をテーマにしたセッションに参加したことや広島の原爆資料館を訪れたことにも触れ、サミットに招待してくれた岸田総理大臣への感謝のことばを述べています。 
●ウクライナ戦争の「肉挽き器」 ロシア軍の消耗を強いる戦い 5/22
約9カ月におよぶウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムートを巡る戦いは、400年の歴史を持つこの町を完全に破壊し、ロシア軍に消耗を強いるウクライナ軍の戦術の前に、数万人の犠牲者を出してきた。
ウクライナ戦争最長となった「バフムートの戦い」で、現地の状況を独自に確認することは困難だが、ロシア国防省は、ロシア軍に支援された民間軍事会社「ワグネル」が、バフムートを制圧したと報告した。
しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領は、バフムートはロシアに占領されていないと反発している。
いずれにせよ、ウクライナとロシア双方にとって、この小さな町が持つ価値は、戦略的というより、象徴的な意味合いが大きい。
ウクライナ軍にとっては、ロシア軍をここで足止めし、兵力を消耗させることがより重要であった。
約15カ月に及ぶ戦争でウクライナ軍が大規模な反攻に備える中、全長1500キロにおよぶ戦線の一部でしかないバフムートで、ロシア軍の資源と士気を枯渇させることが、ウクライナ軍に課せられた目的なのだ。
ここ数カ月、ロシア軍とウクライナ軍が争っていたのはバフムートの市街地そのものであり、今週までウクライナ軍の指揮官は、ロシア軍が90%以上を支配していると認めていた。
しかし、ウクライナ軍は現在、市外の田園地帯を通る戦略的道路付近で大きく前進し、民間軍事会社の戦闘員を包囲する目的で、ロシア軍の北と南の側面を数メートル単位で削り取っている。
ウクライナ軍も、バフムートを防衛するために高い犠牲を払ってきた。しかし、軍事専門家は、ロシア軍が戦線の他の場所に兵力を展開できないでいる間に、ウクライナ軍の前進を可能にしたバフムートでの数カ月にわたる気骨ある抵抗は、十分価値があったと指摘している。
ロシア軍は、失われた北と南の側面を補い、ウクライナ軍のさらなる前進を防ぐために、バフムートに増援部隊を配備したと伝えられているが、これはロシア軍がいかに疲弊し、これ以上どこへも進めないということの表れだと、西側の軍事専門家は指摘する。
●ウクライナ戦争で「中立」であること  5/22
アイスランド共和国首都レイキャビクで16日から第4回欧州評議会(CoE)サミットが開催されたが、人権保護を目的とした国際機関の同会議にオーストリアから参加したファン・デア・ベレン大統領はウクライナ戦争に言及し、その悲惨な現状を説明、「わが国も地雷除去など人道的支援をする用意がある」と表明した。大統領のレイキャビク発言はウィーンの夜のニュース番組でも大きく報道された。
ここまでは良かったが、その翌日、オーストリアのクラウディア・タナー国防相は、「わが国の連邦軍は地雷除去には参加しない」と発言し、大統領の発言をあっさりと切り捨てた。その直後、ネハンマー首相は、「中立国のわが国は紛争地での地雷除去活動はできない」と説明し、オーストリアは中立国であると強調した。
地雷除去作業中、ロシア軍と衝突し、戦闘になった場合、オーストリア連邦軍は中立主義だからといって戦いを放棄し、逃げ去ることはできない。だから、人道的な地雷除去活動といっても戦闘が行われているウクライナでの活動は中立主義と一致しないというわけだ。
大統領が国際会議の場で「やります」といったことをその直後、同じ国の閣僚が「それは出来ません」と一蹴すれば、国の威信とメンツは丸つぶれだが、状況はそのようになった。ファン・デア・ベレン大統領は、「地雷除去作業は中立には反しない」と主張し、大統領の出身政党「緑の党」も大統領の発言を支持したが、保守派政党「国民党」出身の国防相、そして首相まで「できません」と宣言したことで、残念ながら、オーストリア連邦軍のウクライナでの地雷除去活動は白紙に戻った感じだ。
欧州の代表的中立国はウクライナ戦争勃発前までは4カ国、フィンランド、スウェーデン、オーストリア、スイスだ。フィンランドとスウェーデンの北欧2カ国の中立国はロシアの脅威から安全を守るために北大西洋条約機構(NATO)加盟を決意したが、スイスとオーストリアは依然、中立主義を堅持している。ただ、スイスでは国内で中立主義の見直しを求める声が高まってきているが、オーストリアでは“中立主義の堅持”で政府も国民もコンセンサスが出来ていて、それを変えようとする声はほとんどない。
ところで、ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、広島で開催された先進諸国首脳会談(G7サミット)に参加する前、サウジアラビア西部ジッダで開催されたアラブ連盟(21カ国・1機構)首脳会談に顔を出し、ロシア寄りが多いアラブ諸国首脳にウクライナの現状を訴え、ウクライナ支持を呼び掛けた。その後、同大統領は広島のG7に参加、7カ国の首脳たちばかりか、新興・途上国「グローバルサウス」の代表国首脳たちと精力的に会談を重ねた。
インドのモディ首相との会談では、インドがウクライナ戦争では中立の立場を堅持する一方、ロシアとも深い経済関係を維持していることに対し、ゼレンスキー氏はウクライナでのロシア軍の戦争犯罪を説明し、ウクライナ戦争での中立を放棄すべきだと要請した。それに対し、モディ首相はウクライナ国民の被害に同情を示す一方、ロシアとの経済関係を放棄することは国民経済の観点からも難しいと説明したという。
ゼレンスキー大統領にとって、ウクライナ戦争はロシアの侵略から始まったもので、ウクライナは明らかに被害国だ。それを他国の首脳たちが「中立」という言葉を盾に自国の国益だけを重視し、ロシアの戦争犯罪に沈黙していることに、「ウクライナ戦争では『中立』はあり得ない」と叫びたい心情かもしれない。同大統領にとって、冷たいか熱いかのどちらかであり、「中立」はなまぬるい立場というわけだ。
中国共産党政権はここにきて世界の紛争で仲介役を演じることに腐心してきた。サウジ(スンニ派の盟主)とイラン(シーア派代表国)の対立に仲介し、両国の和解に貢献していることに自信を持ってきた。そしてウクライナ戦争ではロシアとウクライナ間の調停を申し出、12項目の和平案を発表した。ただし、その12項目の内容をみると、中国が明らかにロシア支持であることは一目瞭然だ。中国の和平案第1項目には「国家の主権を尊重:一般に認められている国際法と国連憲章は厳密に遵守されなければならない」と堂々と明記されている。ロシアがウクライナの主権を侵略していることは誰の目にも明らかだ。ただ、中国共産党政権はその事実を見ないのか、恣意的に無視しているのだ。
世界最大のキリスト教会、ローマ・カトリック教会の最高指導者フランシスコ教皇はキーウとモスクワに派遣団を送り、両国の和平交渉を進めたい意向だが、ゼレンスキー大統領は今月13日、フランシスコ教皇との対面会見で、「バチカンはロシアの戦争犯罪をはっきりと批判してほしい」と要請、キーウだけではなく、モスクワからも歓迎されることを期待するローマ教皇の調停工作に拒否姿勢を見せている。誰でも嫌われることを願わないが、ウクライナ戦争では誰が侵略者かをまず明らかにしてからでなくては、和平交渉は始まらないのだ。
ウクライナ戦争で「中立」を主張する国の多くは、その国益を重視し、紛争両国から可能な限り等しい距離を取る姿勢だ。例えば、インドはウクライナ戦争がロシアの侵略から始まったことを理解しているが、ロシアから安価な天然ガス,原油などの資源を輸入できるメリットを失いたくないため、ロシアを正面から批判できない。同じことが、中立国オーストリアのウクライナでの地雷撤去活動の拒否でもいえる。ロシアとのこれまでの経済的、人的繋がりをウクライナ戦争のために全て放棄できないのだ。「中立」という言葉は、その快い響きも手伝って、打算、国益をカムフラージュできるからだ。
繰り返しになるが、ウクライナ戦争では「中立」はあり得ない。ロシアの侵略から始まった戦争だ、ただ、ロシアを「悪」、ウクライナを「善」といった「善悪2分」論は危険性も内包している。「善悪論」を強調しすぎると、ロシアのプーチン大統領のパラレル世界を間接的に認めることになるのだ。プーチン大統領は、「ウクライナに対するロシアの戦争は西洋の悪に対する善の形而上学的闘争」(ロシア正教会最高指導者キリル1世)というナラティブ(物語)を信じている。善悪の立場が逆だけで、その構図は同じだ。ちょうど、ヘーゲルの弁証法の観念の優位性と物質の優位性を逆転して共産主義思想が構築されたようにだ。
●ワグネルは今週、酷い目に遭う――米軍元司令官 5/22
ロシアの民間軍事組織ワグネルは来週、ウクライナで「悲惨な状況」に直面するだろう――アメリカ欧州・アフリカ陸軍のマーク・ハートリング元司令官が21日、そんな見方を示した。東部の激戦地、バフムトがウクライナ側に包囲されているからだという。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は昨年2月、「特別軍事作戦」の名の下にウクライナ侵攻を開始。短期間で勝利を収めるはずが兵士たちの士気の低さなどさまざまな問題に見舞われ、開戦後1年以上経っても戦いは続いている。中でも激しい戦闘が続いているのはウクライナ東部のドネツク州バフムトだ。
ワグネルは実業家のエフゲニー・プリゴジンが創設した。戦闘員の多くは元受刑者だ。バフムトでロシア軍とともに戦ってきたワグネルは、かつてはロシアの勝利の鍵を握ると見られていた。
バフムトを巡る戦況は数カ月間、膠着状態が続いていたが、ここを落とせばプーチンにとっては象徴的な勝利となるはずだった。だが激しい戦いの結果、どちらの勝利とも言いにくい状況になっている。
バフムート攻防戦はまだ終わらない
プリゴジンは20日、メッセージアプリのテレグラムに、ワグネルがバフムトを完全制圧したと投稿し、ロシア側の勝利を主張した。だがウクライナはこれを否定。激しい戦闘はまだ続いており、今後の形勢のカギを握っているのは自分たちだと主張した。
ウクライナ陸軍のオレクサンドル・シルスキー司令官は21日、ウクライナ軍は近くバフムトの「戦術的包囲」を行うと述べた。本誌はウクライナとワグネルのどちらの主張についても真偽を確認できていない。
ハートリングはウクライナの発表を受け、21日にプリゴジンに警告するこんなツイートを投稿した。
「われわれが何度も言ってきたように、プリゴジンもワグネル戦闘員もプロの兵士ではない」「エフゲニー、おめでとう。バフムトの中心に旗を立てたんだね。だが、その君たちは包囲されている」
また、ワグネルはここまで5カ月も酷い目に遭わされてきたが、また来週も酷い目に遭うだろうと述べた。
米シンクタンクの軍事研究所は21日、バフムトの一部地点がワグネルに制圧されたものの、いずれも「戦術的もしくは作戦上、重要な場所ではない」との見方を明らかにした。また、同研究所ではワグネルが勝利したという主張を裏付ける位置情報データは得られていないという。
一方でウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は20日夜、メディアに対し、ロシア軍とワグネルの部隊はバフムトの「すべてを破壊した」と述べたが、21日の記者会見で制圧を否定した。

 

●モスクワ大学の上に反体制旗か、自由ロシア軍団が映像を投稿 5/23
ロシア南西部ベルゴロド州で起きた攻撃事案で実行を主張する集団「自由ロシア軍団」は22日夜、SNS「テレグラム」に、モスクワ大学の上空に反体制旗が掲げられている様子を映したものとみられる映像を投稿した。
映像では、風船に持ち上げられる形で、自由ロシアの旗とよばれる青色と白色のストライプからなる旗が大学の主要建物の上に掲げられているように見える。自由ロシア軍団はこれを実行したと直接認めてはいない。
テレグラムへの投稿には「我々を支持し、待っていた人々のおかげだ!」「ロシア、自由のための軍団!」との記述があった。
同集団が投稿した他の映像には、モスクワのさまざまな場所で反体制旗が掲げられているように見える様子も収められている。
CNNはこうした事案の真偽を独自に検証できていない。
この旗は反プーチンのロシア反体制グループの一部で使用され、ウクライナ侵攻以降は使用が広がっている。
●「ウクライナとの国境付近侵入の工作員39人殺害」ロシア側報道  5/23
ウクライナへの侵攻を続けるロシアは、ウクライナと国境を接する州に工作員が侵入したと発表し、ロシアのメディアは、当局が工作員39人を殺害したと伝えています。一方、ウクライナ側は、侵入はプーチン政権に反対するロシア人の地下組織によるものだとしていて、現地で緊張が高まっています。
ロシアが侵攻するウクライナでは東部ドネツク州の激戦地バフムトをめぐり、ロシア側は21日、完全掌握を発表していますが、ウクライナのマリャル国防次官は22日、SNSで「バフムト郊外の北と南で敵と支配権を争っている」として、ロシア側が街の大半を掌握する一方、郊外では反撃を続けていると強調しました。
一方、ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州の州知事は22日、ウクライナの工作員が州内に侵入したとして、テロ対策を行うための態勢を敷くと発表しました。また、砲撃を受けて州内の8人がけがをしたとしています。
これについてロシア大統領府のペスコフ報道官は22日に「国防省やFSB=連邦保安庁などがウクライナからの侵入を撃退し、排除しようとしている」と述べ、プーチン大統領に報告したと明らかにしました。
ロシアのメディアは、ロシア側の当局がウクライナ側の工作員39人を殺害したと伝えています。
これについて、ウクライナ大統領府のポドリャク顧問はSNSで「関心を持って注視しているがウクライナは関係がない」と関与を否定し、侵入はプーチン政権に反対するロシア人の地下組織によるものだとしています。
こうした中、ウクライナ側に立って戦うロシア人などの義勇兵を名乗る組織がSNS上でロシア領内に入ると主張し、軍用車両などの映像を公開していて、現地で緊張が高まっています。
●ロシア軍、ウクライナから越境した部隊と交戦−クレムリンが主張 5/23
ロシア軍はウクライナとの国境を越えて侵入した部隊と交戦していると、ロシア大統領府(クレムリン)が明らかにした。ロシアへのこうした侵入があったと当局が報告するのは、過去2カ月で2回目になる。
ウクライナと国境を接するロシアのベルゴロド州で「ウクライナ工作員」による攻撃があったとの報告を、プーチン大統領は国防省と安全保障担当当局者から受け取ったという。ペスコフ大統領府報道官が22日語ったとして、ロシアのメディアが報じた。ロシアは攻撃を撃退し、壊滅させるだけの十分な兵力を同州内に有していると、ペスコフ氏は述べた。
一方、ウクライナ国防省情報総局のアンドリー・ユソフ報道官は同国公共放送ススピーリネとのインタビューで、ロシア人志願兵らが作戦を行っていると説明。「自由ロシア軍団」と「ロシア志願兵団」がウクライナ民間人を守るための「安全回廊」を設置する目的でベルゴロド州に入ったと語った。
これより先、ベルゴロド州のグラトコフ知事はテレグラムで、ウクライナ軍の「破壊工作と偵察を行う集団」が州内に侵入し、ロシア軍と国境警備兵が共同して「敵の殲滅(せんめつ)に必要な措置」を講じていると主張した。
ロシアの国営メディアRTは、国境に近いベルゴロド州のグライボロンで銃声が聞こえ、煙が上がっている様子を報じた。
●露ベルゴロド州知事「ウクライナ軍が侵入し、露軍などが応戦」ウクライナ否定 5/23
ウクライナと国境を接するロシア・ベルゴロド州の知事は22日、ウクライナ軍が州内に侵入し、ロシア軍などが応戦したと主張しました。ウクライナ側は否定しています。
ベルゴロド州のグラドコフ知事はSNSで、グロトボ村が砲撃を受け、幼稚園で火災が発生したほか、8人がケガをしたとしています。また、ウクライナ軍の破壊工作グループが国境を越えて侵入し、ロシア軍などが応戦したと主張しました。
ロシアのペスコフ大統領報道官は、「ウクライナの破壊工作員がベルゴロド州を突破しようとした」とプーチン大統領に報告したとしています。
一方、ウクライナで活動するロシア人の反政府武装組織「ロシア自由軍団」が声明を出し、「我々は襲撃を開始した。ロシアは自由になる」などと主張しました。
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、「出来事を興味深く見守る。地下ゲリラ集団はロシア人で構成されている」として関与を否定しています。
●ロシア、G7サミットに合わせ「バフムト制圧」発表…戦果を内外にアピールか 5/23
今回のサミットについてロシアはどのように受け止めているのでしょうか。
ロシアの大衆紙、日曜日が休刊日のためいずれもバフムトの制圧を一面で取り上げていて、サミットについては淡々と報じるにとどまっています。
ロシア側がバフムトの完全制圧を発表したのは、ちょうどゼレンスキー大統領が来日した20日で、真夜中になってプーチン大統領はワグネルとロシア軍に祝意を示しました。ロシアではワグネルのような傭兵は違法な存在ですが、プーチン氏の祝意について独立系メディアは初めてお墨付きを与えた形だとしていて、プーチン氏としては、それだけこのタイミングで戦果を内外にアピールし、侵攻を続ける姿勢を示す狙いがあったものとみられます。
そうした中、ロシア外務省は今回のサミットに強く反発する声明を出しました。ゼレンスキー氏を参加させたことで「プロパガンダのショーになり果てた」とし、サミットの声明は「反ロシア、反中国の悪意で満ちている」と批判。中国にも言及することで対欧米で連携を図りたいものとみられます。
もう一つ強調したのがグローバルサウスとの関係です。「G7は彼らを取り込み、中ロとの関係発展を阻もうとしている」とし、ロシアとして欧米と一線を画すグローバルサウスとの関係強化を図る中、欧米とグローバルサウスとの接近に強い警戒心を示した形です。
●戦車も弾薬も軍服も全部足りない…次々明らかになるロシア軍の惨状 5/23
CNN.co.jpは5月16日、「ロシア軍、もはや大規模な攻撃行動は不可能か ウクライナ当局者が主張」との記事を配信、YAHOO! ニュースのトピックスに転載された。ウクライナ国防省の報道官が15日に国内向けテレビ番組に出演し、ロシア軍の弱体化を明らかにしたと伝えたのだ。
CNNによると、テレビ出演したのは国防省情報総局のアンドリー・ユーソフ報道官。ロシア軍は大規模な攻撃行動が不可能となり、前線の全体で守勢に回っているとの分析結果を発表した。
ロシア軍はウクライナの都市部やインフラ施設に対して何度もミサイル攻撃を行ってきた。ユーソフ報道官によると、巡航ミサイルの一部は在庫が不足しつつあるが、S300型地対空ミサイルは今も大量の備蓄があるという。
さらに報道官は、ロシア軍は守りを固めていると言及。ウクライナ軍はロシア軍の堅い防御を《重大な要素として確実に考慮に入れながら》領土奪還を目指すとした。
ここで注意が必要なのは、CNNは報道官の発言を、そのまま報じたということだ。同社の取材結果や分析といった客観的な視点は反映されておらず、ウクライナ国防省による“大本営発表”だった可能性はある。
ならば実際のところはどうなのか。軍事ジャーナリストは「5月9日に行われたロシアの戦勝記念パレードは非常に示唆的です」と言う。
「モスクワの赤の広場で行われたパレードで、たった1両の戦車しか登場しなかったと世界各国のメディアが注目しました。この戦車は1939年に開発されたT-34-85です。独ソ戦の緒戦で劣勢に立たされていたソ連軍が投入すると、その高い性能で戦況を一変させてしまいました。ロシア人にとってはまさに救国の戦車であり、毎年のパレードで主役級の位置を占めてきたのです」
戦車の被害は3000両!?
軍事ジャーナリストがロシア軍の弱体化を確信したのは、1両のT-34-85を見た時ではなく、その後のパレードだったという。
「例年ならT-34-85の後、最新鋭の戦車T-14アルマータなど多数の戦車と軍事用車両が続きます。陸軍大国を自認するロシア軍の威信をかけたパレードが展開されるはずなのですが、今年はたった1両のT-34-85が象徴したように、戦闘用車両が少なく、規模の縮小は明らかでした。加えて、昨年は実施された戦闘機のデモンストレーション飛行も見送られました」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア空軍については、昨年から様々なメディアや専門家が「存在感が全くない」、「空から攻撃する姿が確認されていない」と疑問視してきた。パレードでデモンストレーション飛行が見送られたことで、さらに謎が深まったと言える。
「オランダに拠点を置く軍事専門のサイト『オリックス(ORYX)』は、ロシア軍戦車の被害状況を調査、発表しています。それによると、少なく見積もっても1900両、多ければ3000両の戦車が破壊されたか鹵獲(ろかく)されたそうです。ロシア軍は開戦当初、実戦で使用可能なT-72やT-90といった戦車を約2500両、保有していました。となると、3000両では保有数を超えてしまい、計算が合わないことになります」(同・軍事ジャーナリスト)
戦車バイアスロン大会
オリックスはSNSに公開された最前線の画像や動画などを丁寧に分析し、ロシア軍戦車の被害状況を推計している。しかもT-72やT-90といった戦車の型式別に損害数を集計しているため、3000両という数字は決してデタラメなものではないという。
「ウクライナ軍の激しい反撃で大きな被害を受け、ロシア軍は骨董品とも言うべき古いタイプの戦車を前線に送っています。1962年に量産が決まったT-62を倉庫から引っ張り出し、1958年に登場したT-55も極東の戦車保管庫から鉄道でウクライナ方面に輸送しました。旧式戦車が戦力になるはずもなく、それだけ前線では戦車が不足しているのでしょう。オリックスの分析から、ロシア軍は2500両の主力戦車の大半を失い、旧式戦車も500両が損害を受けたと考えられるのです」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア軍の現状を指し示すものとして、ロシアが2013年から開催してきた「戦車バイアスロン」大会が挙げられるという。冬季オリンピックの正式種目「バイアスロン」と同じように、戦車の射撃精度と障害物ルートの走破タイムで順位が決まる。
「日本では知られていませんが、毎年20カ国を超える参加国があり、オブザーバー参加も含めると40カ国を超えるという非常に大きなイベントです。東欧圏だけでなく、ロシア製の戦車を使っているインドやミャンマー、ベネズエラやアルジェリアといった国も参加し、かつてはアメリカも招待されていました。重要なのは毎年のようにロシアのチームが優勝してきたことです。これは不正が行われたという意味ではなく、本当に無敵を誇ってきたのです」(同・軍事ジャーナリスト)
補給の差
新型コロナが世界中で猛威を振るった2020年以降も、戦車バイアスロンは実施されてきた。ところが、今年は初めて中止になっただけでなく、「今後は2年に1回とする」と隔年開催が発表されたのだ。
「その背景として、戦車も戦車兵も枯渇している可能性があります。無敵を誇ったロシアチームのT-72ですが、ウクライナ軍によって3両のうち2両は破壊され、1両は鹵獲されたほか、戦車兵の戦死も確認されています。一方のNATO(北大西洋条約機構)軍は5月1日から戦車バイアスロンに似た『アイアンスピア演習』を実施、こちらも射撃の技能などを競い、イギリスのチャレンジャー2が優勝しました」(同・軍事ジャーナリスト)
ちなみに今年のアイアンスペア演習は、ロシアやベラルーシと国境を接するラトビア共和国で実施された。戦車バイアスロンが中止に追い込まれたロシアに見せつける意図があったのは間違いないだろう。
「ロシア軍の苦境は、SNSなどにアップされた兵士の服装や装備品の写真を見ても分かります。服装は汚く、破損も目立つ。特に調達兵は軍服や武器が自弁で、ゴム長靴を履いた兵士がいるほか、手にする小銃も非常に古いものばかりです。一方のウクライナ軍は苦境を伝えられた緒戦時からNATO仕様の清潔な軍服に身を包み、ベルトやチャックといった部分も壊れていませんでした。対照的な軍服の様子から、ロシア軍は補給に苦しみ、ウクライナ軍の兵站は充分に機能していることが分かります」(同・軍事ジャーナリスト)
臥薪嘗胆
ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏(61)はSNSなどで何度も弾薬不足を訴えてきた。軍や政府を恫喝するような動画もあり、日本でも大きく報じられている。
「もちろん情報操作の疑いもありますが、ワグネルの兵士が着ている軍服は、ロシア軍の兵士よりはマシです。とはいえ、昨年の段階で北朝鮮の砲弾と銃弾がウクライナの最前線に送られたという報道もありました。ロシア軍が深刻な弾薬不足に陥っている可能性は充分にあり、いくらプリゴジン氏が補給を求めて軍や政府に迫ったとしても、そもそも送れる弾がないのかもしれません」(同・軍事ジャーナリスト)
2014年のクリミア危機でロシア軍がクリミア半島を実質的に占領したため、ウクライナ軍は弱いという評価が定まってしまった。しかしその後は、まさに臥薪嘗胆の思いで軍の増強を続けてきた。
「ロシア軍の侵攻時、ウクライナ軍の兵力は約19万人でした。さらに、国家親衛隊が約6万人、国境警備隊が約4万人で、合計30万人に近い戦力だったのです。一方のロシア軍の兵力は開戦当初、約15万人だったことが最新の調査で分かりました。要するに、最初からロシア軍は戦力不足だったのです。確かに、一部のウクライナ軍は緒戦で混乱に陥って敗走しました。それでも何とか持ちこたえて反撃に転じたのは、戦力差から考えても当然の結果だったのです」(同・軍事ジャーナリスト)
鍵を握るバフムト
ウクライナ軍は充分な戦力を維持しており、ロシア軍は弱体化し、疲弊している。となれば、ウクライナ軍が一気に反転攻勢に出るのではないかと思ってしまうが、そう簡単にはいかないという。
「ウクライナ軍は絶対に失敗が許されず、これだけでも相当なプレッシャーです。NATOから供与された戦車の運用は始まりましたが、ロシアの核リスクが存在することもあり、欧米諸国は航空支援には消極的な姿勢を示してきました。広島サミットでアメリカのバイデン大統領はF−16の供与を容認する考えを明らかにしましたが、パイロットの養成には時間がかかります。戦闘機や攻撃機の援護がなければ、いくら高性能のレオパルト2とはいえ、ロシア軍の反撃に手を焼くはずです。虎の子の戦車を失ってしまえば、反攻どころの騒ぎではありません」(同・軍事ジャーナリスト)
やはり鍵を握るのは東部戦線の戦況だという。
「ロシアはバフムト陥落を宣伝しました。ウクライナ側は認めたのか認めていないのか、やや混乱気味ですが、今後もウクライナ軍が東部戦線で猛攻を仕掛ける可能性は高いでしょう。ロシア軍を追い出すという目的は変わっていないはずです。攻撃をかけながら、敵軍の戦力を見定めるに違いありません。何しろロシア軍は、動員兵の場合は新兵教育すら放棄し、残った精鋭部隊の弾よけとして使っています。ワグネルやロシア正規軍がどれほど弱体化しているのか、戦況から分析するのです」(同・軍事ジャーナリスト)
もう一つのプレッシャー
ウクライナの長い冬は終わり、首都キーウの気温は東京とそれほど変わらない。大地の泥濘(でいねい)も固まり、軍事車両は自由自在に移動できる。
「ウクライナ軍の倉庫は、NATOから供与された様々な兵器で埋め尽くされているでしょう。“敗北は許されない”というプレッシャーだけでなく、“必ず反攻に転じ、勝利を収めなければならない”という圧力も厳しいものがあるはずです。ウクライナ軍の上層部はいつか反攻作戦の決断を下すのでしょうが、その前に東部戦線で相当の戦果を収めないと、反攻開始の決断を下すのは難しいのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)
●ウクライナ軍、バフムトを南北から挟み撃ちか ロシア軍の包囲を目指す 5/23
ウクライナ軍は22日、東部の激戦地バフムトの北部と南部で前進を続けていると発表した。ロシア軍の包囲を試みているという。バフムトの状況について専門家は、仮にロシア軍が同市を制圧したとしてもインフラは残っておらず、ロシア軍が同市を維持しながら西進するのは極めて困難だとの見方を示した。
バフムトを巡っては、ロシア側が先日、同市全域の掌握を宣言したばかり。同市を巡って、双方とも自らに優位な展開になっていると主張している。だが激しい戦闘で街は荒廃し、G7広島サミットに参加したウクライナのゼレンスキー大統領は、バフムトを原爆投下直後の広島になぞらえた。
これはロシアの民間軍事会社ワグネルが公開した映像。戦闘員ががれきの中で部隊の旗を掲げる様子だとしている。ロイターはドローンが撮影した映像を確認したものの、撮影日は不明だ。
バフムトの状況について専門家はこう語る。
英王立防衛安全保障研究所 エド・アーノルドさん「バフムトの掌握はまだのようだ。(中略)究極的には、より広い視野で戦闘を見る必要がある。ロシア軍は8月以来、持てる力をすべて注ぎ込み、言わばようやく町を占領したに過ぎない。しかし画像で見ると、町には何も残っていない。広い地図上では、取るに足らない点でしかない。実際にここで行われていることとは、ウクライナのほかの場所で戦えないようにするため双方の軍を固定化しようとしているのだ。ロシア軍は、自分たちが現在いる場所は、長期的に滞在することができないかもしれないと気づくだろう。インフラが存在しないからだ。したがってバフムトを維持したままロシア軍が西に進軍することは、非常に非常に難しいだろう」
一方ワグネルのトップ、プリゴジン氏は、今月25日から部隊の撤退を開始し、バフムトの支配権をロシア正規軍に引き渡すとしている。プリゴジン氏は、正規軍は持ち場の一部から離れたと非難。ロシア国防省はこれを否定している。
バフムトの戦いにおける損失が、今後ウクライナ戦争全般にどのような影響を与えるのか、明らかになることだろう。
●ロシアがバフムート90%以上支配、ウクライナ「消耗戦の後に反撃」 5/23
ロシアが完全に支配したと明らかにしたウクライナ東部の激戦地バフムートの一部地域でウクライナが抵抗を続けている。一部では、ウクライナが大反撃のためにロシアのバフムート消耗戦を誘導したという分析も出ている。
21日、ロイター通信やAP通信などによると、ウクライナ軍の指揮官のほとんどは、ロシアがバフムートを90%以上占領したと判断しながらも、奪還の可能性が消えたわけではないと強調している。ウクライナのシルスキー陸軍司令官は同日、ウクライナ軍が陣取っているバフムート郊外の一部地域が「意味がない」としながらも、「状況が変われば(バフムート)都心に進入する機会が必ず生まれるだろう」と話した。これに先立ち、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏は前日、バフムート市内で「バフムートは完全に占領された」と宣言した。
ウクライナがバフムート奪還の可能性を口にする背景には、現在、ウクライナ軍が進駐している地域と情勢がある。ウクライナ軍はそれほど広くはないが、バフムート郊外の一部高台を中心にロシア軍を半円形に囲む陣形を維持している。ロシア軍をある程度市内を中心に囲い込む効果があるのだ。
バフムート郊外でウクライナ軍の特殊部隊を指揮したイェウヘン・メゼビキン大佐は、このような陣形について「相手を疲れさせた後に攻撃することが狙い」と話した。米国のシンクタンクである戦争研究所(ISW)は、ウクライナのバフムートでの側面抵抗と関連して、「ロシア軍が不足している兵力をバフムートに追加配置するよう追い込んだ」とし、「これこそウクライナ軍指揮部が意図したものだ」と分析した。ロシア軍をバフムートに追い込んで大反撃を行った場合、他の戦線でのロシア軍兵力を減らす効果があるということだ。
しかし、ウクライナ軍がこのような作戦を意図したとしても、甚大な被害を受けたことは否定できないというのが一般的な見方だ。民間の義勇隊指揮官のタラス・デイアク氏は、「バフムートで敵軍(ロシア)の注意をそらすことが私たちの重要な任務だった」とし、「私たちは高い代償を払った」と話した。
●ウクライナ情報機関トップ “大規模反転攻勢 まもなく始まる” 5/23
ウクライナ国防省の情報部門のトップがNHKの単独インタビューに応じ大規模な反転攻勢について、最小限の兵器などで近く始めることができるという認識を示しました。ただ、反転攻勢では激しい戦闘が長期にわたる可能性を示唆し「作戦の継続にはかなりの備蓄が必要だ」としてゼレンスキー大統領が参加したG7広島サミットをきっかけに欧米側による兵器の供与がどこまで進むのか注視する考えを示しました。
ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長が今月19日、日本のメディアとしては初めてNHKの単独インタビューに応じました。
このなかでブダノフ局長は、準備を進めているロシア側に対する大規模な反転攻勢について「多くの市民がいまもロシアの占領下にあり、もう時間を無駄にすることはできない。最小限の兵器などはすでにそろっている。まもなく始まるということだけは言える」と述べ、反転攻勢を近く始めることができるという認識を示しました。
ただ、ブダノフ局長は「私たちの領土からロシアを追い出さなければならない。この目標のためにあらゆる力と手段を使うのだ。作戦をうまく継続していくためには兵器も弾薬もかなりの備蓄が必要だ」と述べ反転攻勢ではロシア側の防御などを受けて激しい戦闘が長期にわたる可能性を示唆しました。
そのうえで、ゼレンスキー大統領がG7広島サミットに対面で参加したことに関連して「もっと兵器が必要だ。戦闘機がいる。国際社会がウクライナを本当に支援する準備ができていることを望む」と述べ、反転攻勢をどう進めていくかを検討する上でもサミットをきっかけに欧米側による兵器の供与がどこまで進むのか注視する考えを示しました。
「ロシアの攻撃の90%を阻止」
さらに、ブダノフ局長はウクライナに対するロシア側の攻撃について「編成中の部隊や、兵站などを攻撃することで、われわれの反転攻勢に向けた準備を妨げようとしている」と分析しましたが「いまや軍事目標に対する攻撃の90%が阻止されている」と述べ防空システムなどで迎撃できていると強調しました。
また「ロシア軍では、たとえば潜水艦などの技師として働いていた人が機関銃を渡されて『襲撃してこい』と言われるというのが現実だ。非常に多くのロシア軍兵士が複合的な要素から士気を欠いている。ウクライナで何をしているのか。誰も理解していない」と述べました。
「ワグネルは影響力が失われること恐れた」
ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏とロシア国防省などとの確執が表面化していると指摘されることについてブダノフ局長は「ワグネルは、権力と影響力が失われつつあることを恐れた。プリゴジン氏にとっては自身の権力や命、会社の生き残りをかけた戦いだ」と述べロシア側の政治的な混乱は続くという見通しを示しました。
一方、ロシアと経済だけでなく軍事的な連携も深める中国について、ブダノフ局長は「中国はロシアに兵器などを供給していない」と述べ、軍事支援については否定しました。ただ「多くの電子機器は供給している」と述べ中国からロシアに輸出された電子部品などがミサイルの開発に使われているという見方を示しました。  
●西側のウクライナ兵器供与、「核大惨事」リスク高まる=ロシア前大統領 5/23
ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は23日、西側諸国がウクライナに供与する兵器の破壊力が強くなるほど「核によるアポカリプス」のリスクが高くなると警告した。
メドベージェフ氏は訪問先のベトナムでロシア通信(RIA)とタス通信に対し「(ウクライナに)兵器が供与されればされるほど、世界は一段と危険な場所になる」とし、「これらの兵器の破壊力が増すほど、『核によるアポカリプス(黙示録)』と一般的に呼ばれる事態が発生する恐れが大きくなる」と述べた。
その上で、北大西洋条約機構(NATO)は核戦争の可能性を真剣に受け止めていないように見えるとし、「NATOは間違えている。ある時点で情勢が完全に予測不可能な方向に動く可能性がある。そうなった場合、責任は全てNATOにある」と語った。
また、ロシア西部ベルゴロド州にウクライナの「破壊工作集団」が侵入したとされることについて、攻撃者は「卑劣な人間」で、「ネズミ」のように駆除されるべきだとした上で、「責任はウクライナ政府にある。最終的には外国のスポンサー、つまり米国、欧州連合(EU)加盟国、英国などに直接的、かつ直接的な責任がある」と述べた。
●ロシア“ウクライナ工作員侵入し戦闘” 反体制組織との見方も  5/23
ロシアのプーチン政権はウクライナと国境を接する西部の州にウクライナ側から工作員が侵入して戦闘が起きたと発表し、ロシアで重大事件を扱う連邦捜査委員会はテロ事件として捜査を開始しました。イギリス国防省は攻撃はロシアの反体制組織によるものだという見方を示しています。
ウクライナと国境を接するロシア西部、ベルゴロド州の州知事は22日、ウクライナの工作員が州内に侵入し、銃撃や無人機による攻撃を受け、戦闘が起きていると発表しました。
州知事は女性1人が死亡したほか、複数のけが人がいるとしていて、ロシアで重大事件を扱う連邦捜査委員会は23日、テロ事件として捜査を開始しました。
またロシア国防省は23日、「ベルゴロド州にウクライナの民族主義の部隊が侵入したが対テロ作戦によって阻止し、これを打ち負かした。ウクライナの70人以上のテロリストを殺害し、装甲車やトラックを破壊した」と発表しました。
これに対しウクライナ大統領府のポドリャク顧問は22日「ウクライナは関係がない」と関与を否定しています。
一方、ウクライナ側に立って戦うロシア人などの義勇兵を名乗る2つの組織はSNSで、ロシア領内に入りベルゴロド州で戦闘を行っていると主張し、軍用車両などの映像を公開しています。
イギリス国防省は23日「ベルゴロド州の国境近くの少なくとも3か所でロシア治安部隊とパルチザン組織が衝突した可能性が高い。ロシア側はいくつかの村で住民を避難させ、追加の部隊を配備した」と指摘し、攻撃はプーチン政権に反発するロシアの反体制組織によるものだという見方を示しました。
そのうえで「ロシアは国境地域で直接攻撃を受け、深刻な安全上の脅威にさらされている」と指摘するとともに、プーチン政権は「戦争の犠牲者」として今回の事案を軍事侵攻の正当化に利用するとみられると分析しています。
ウクライナ軍幹部“義勇兵組織と協力もロシアでの戦闘不参加”
ウクライナ側に立って戦うロシア人などの義勇兵だとする組織がロシア領内に入り、戦闘を行っていると主張していることについて、ウクライナ軍の幹部はNHKの取材に対し、この組織と協力関係にあるとしながらも「ウクライナはロシアの土地を求めてはいない」と述べ、ウクライナ軍は、今回の戦闘には加わっていないと強調しました。
このウクライナ軍の幹部は去年10月、日本に支援を呼びかけるウクライナ議会の議員団の一員としても来日したロマン・コステンコ氏で23日、NHKのオンラインインタビューに応じました。
コステンコ氏は、ロシア人などの義勇兵を名乗る2つの組織が、ロシアのベルゴロド州で戦闘を行っていると主張していることについて、「彼らには彼らの目標がある。ウクライナ軍は彼らと協力関係にあるが、ウクライナはロシアの土地を求めてはいない」と述べ、ウクライナ軍は、今回の戦闘には加わっていないと強調しました。
一方、コステンコ氏は、ウクライナ軍が重視しているのはロシア側への大規模な反転攻勢だとしたうえで、「私はいわゆる反転攻勢を『春から夏にかけての作戦』と呼びたい。私たちはそれなりの量の兵器を蓄えてきた。ただ、ロシア軍の兵器の備蓄はウクライナの何倍もある」と述べ、作戦は短期間では終わらず、継続的な軍事支援が必要になると訴えました。
そのうえで、G7広島サミットにゼレンスキー大統領が対面で参加したことについて、「決定的に重要な出来事だった。インドを含め各国のリーダーが、ウクライナへの支援の必要性を理解していた」と述べ、G7だけでなくインドなど各国に対してウクライナの現状を訴え、理解を得る機会になったと評価しました。
●ウクライナ反攻時に不在か ワグネル部隊、2カ月撤退 5/23
ウクライナ侵攻に加わるロシア民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏は21日、ワグネル部隊を6月1日までに前線から完全撤退させ、2カ月間にわたって再編と再武装、再訓練を行うと表明。米シンクタンクの戦争研究所は22日、ウクライナ軍が準備する大規模反攻の際、ワグネルがほぼ不在になる可能性があると指摘した。
プリゴジン氏は20日、ワグネル部隊がウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトを制圧したと表明。制圧地を軍に引き渡し、25日に部隊を撤退させるとしていた。
戦争研究所は、ワグネル部隊の代わりに、訓練が不十分なロシア軍部隊が戦線に配置される可能性が高いと分析した。
●ゼレンスキー大統領はなぜ訪日前にアラブ連盟首脳会議に参加したのか 5/23
ゼレンスキー大統領は訪日前にロシア制裁を行っていないアラブ連盟首脳会議で講演した。日本ではアラブ諸国をまで説得したと絶賛しているが、そうだろうか?その背後で周到に動いていた習近平の狙いを考察する。
「見て見ぬふりをするな」とゼレンスキーがアラブ連盟に
訪日する前の5月19日、ウクライナのゼレンスキー大統領はサウジアラビア(以後、サウジ)で開催されていたアラブ連盟首脳会談に招待され、首脳たちを前に演説した。要点は以下の通り。
・ウクライナの苦しみを「見て見ぬふりをしている」者がいる。事態を率直な目で見てほしい。
・長期の戦争がリビアやシリア、イエメンにどれだけの苦しみをもたらしたかを見てほしい。
・スーダンやソマリア、イラク、アフガニスタンでの長年の戦闘でどれだけの命が失われたかを直視てほしい。
・たとえウクライナでの戦争について異なる見解を持つ人がこの会議にいても、ロシアの収容所から人々を救うために団結できると確信している。
・クリミアはロシアによる占領の苦しみを味わっている。しかし、クリミアの被占領地域で抑圧を受けている人の大半は(あなたたちアラブ諸国の人々と同じ)イスラム教徒だ。(要点は以上)
これに対して同調する首脳はいなかった。それどころか、そこには完璧にプーチン側に付いているシリアやイランがいたのだから。
しかもアラブ諸国が習近平やプーチンの周りに集まり始めたのは、正にゼレンスキーが列挙したようなスーダン、アフガニスタン、イラク、シリアなど、どの国をとっても、すべてアメリカのCIAか「第二のCIA」と呼ばれるNED(全米民主主義基金)が仕掛けた戦争だということをアラブ諸国が知っているからである。アメリカの軍事ビジネスや、アメリカが既存の当該諸国の政府を転覆させるために民主化運動(カラー革命)を起こしてアラブに混乱と災禍をもたらしたことに嫌気がさして、アラブ諸国は中露のまわりに集まり始めたのだ。
それこそが習近平が仕掛けた「中東和解外交雪崩現象」で、同時にシリアのアサド大統領はモスクワに行きプーチンに会ったあと、アラブ連盟への復帰を果たしたばかりだ。
ならばなぜ、ゼレンスキーはアラブ連盟首脳会議に招待されたりなどしたのだろうか?
それを順追って、一つ一つ紐解いていきたい。
習近平のウクライナ「和平案」発表と同時にサウジ外相がウクライナを訪問
今年2月24日に、中国は「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」(和平案)を発表した。その2日後の2月26日、サウジのファイサル・サウド外相がウクライナを訪問した。これは両国が1993年に国交を樹立して以来、初めての訪問だった。サウド外相一行は、ゼレンスキーやクレバ外相とも会い、4億米ドルの人道資金援助を約束し、署名した。
国交樹立後初めて訪問したということは、国交は樹立しながら、30年間も訪問したことがないということだ。したがって、よほどの事情がない限り、一般には訪問などあり得ないということにもなる。
そこで何があるのかを考えてみると、まず、習近平が2022年12月7日にサウジを訪問し、熱烈歓迎を受けている。イランのライシ大統領は今年2月14日に訪中して習近平と会い、3月10日には中国の仲介でイランとサウジの和解を成し遂げた。それというのも、習近平が2月24日に発布した「和平案」があるからだ。
「アメリカは他国の政治に干渉して、他国の既存政権を転覆させ、アメリカの言いなりになる政権を作っては、当該国に混乱と災禍を招いてきた。しかし、中国は相手国の政権がどのような形態であろうと、相手国政府を転覆させるようなことをせず、長年にわたって断絶していた外交関係をつぎつぎに和解させた」という共通認識がアラブ諸国の間にはある。
したがって、ウクライナ戦争をこれ以上加速させるのではなく、どのような形であれ、ともかく「停戦」に持って行くという習近平の「和平案」を実現すべく、アラブ関係国が動いたという側面を見落とすことはできないだろう。
その証拠に、実は今年3月28日にも、習近平はサウジのムハンマド・サルマン皇太子兼首相と電話会談をし、サウジ側は習近平に「中国は地域および国際情勢においてますます重要かつ建設的な役割を果たしている」ことを強調しているからだ。
「和平案」実現のためのロードマップ
「和平案」を発布したあとの習近平は、3月20日から22日にかけてモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談した。本来なら、その後すぐにゼレンスキーとオンライン会談をするはずだったが、岸田首相が同じ日に合わせて3月21日にウクライナを電撃訪問し、日ウ共同声明において、対中批判を盛り込ませた。
本来、ウクライナと中国はものすごく仲が良く、ウクライナが中国を非難したことなど、今までに一度もない。しかし日ウ共同声明における対中批判は、まさにアメリカが言わせたい内容そのものだったので、習近平・ゼレンスキー対談は頓挫してしまった。
しかし、4月5日から7日にかけて訪中したフランスのマクロン大統領が、習近平の「和平案」を絶賛した上で、「ぜひともゼレンスキーとの対談を」と表明したこともあり、習近平は4月26日にゼレンスキーと電話会談を行っている。マクロンが帰国の機内取材で「アメリカに追従すべきでない」と答えるなどしたことも功を奏しているだろう。
中国は習近平・ゼレンスキーの会談後、「和平案」を具体化させていくためのユーラシア事務特別代表に李輝氏を選び、ウクライナをはじめ、ロシア、ポーランド、フランス、ドイツを歴訪すると発表。5月16日から17日にかけて、李輝はウクライナを訪問しクレバ外相などと会談している。
その上、5月19日には習近平がアラブ連盟首脳会議に祝電を送っているので、おそらく、中国とサウジの間では、事前に了解が取れていて、習近平の「和平案」を実現させるためのステップとして、アラブ連盟首脳会議にゼレンスキーを招待したものと解釈することができる。
サウジがゼレンスキーの参加を誘ったのか
5月19日付けのニューヨークタイムズ は、このたびのゼレンスキーのアラブ連盟首脳会議参加は、サウジが誘ってものだと書いている。さらにムハンマド皇太子が「サウジは平和に焦点を当て、ウクライナの人道危機の緩和に尽力しており、ロシアとウクライナの間での仲介努力を継続する用意がある」と述べたと報道している。
一方、中国の観察者網は、ウォールストリート・ジャーナルなどの記事を紹介する形で、以下のような報道をしている。
・ゼレンスキーはアラブ連盟首脳会議に参加するため、フランス政府が手配した飛行機でサウジのジェッダに到着した。
・主要なアラブ諸国はロシアとウクライナの紛争に関してバランスのとれた中立的な態度を維持しており、自分たちを調停者として位置付けようとし、いかなる側も支持していない。
・サウジがゼレンスキーを招待することに関して事前に他のアラブ諸国に相談していなかったため、一部のアラブ指導者たちを怒らせた。これらの指導者たちはロシアを苛立たせることを恐れた。
・しかし、アラブ連盟首脳会議でのゼレンスキーの演説は、アラブ諸国とロシアとの強い関係の変化をもたらさない。(観察者網からの引用はここまで)
以上から結論されるのは、訪日前にゼレンスキーがアラブ連盟首脳会議に参加したのは、けっして日本で発せられている絶賛コメント「何と言ってもアラブ諸国まで説得に行ったのですから、凄いものですよねぇ!」というようなものではなく、あくまでも非米陣営が、いかにして習近平の「和平案」を着地させるかに関する相当に計算されたロードマップの一コマに過ぎない側面が見えてくる。
ゼレンスキー訪日に関しても、中国で特別に大きな反発がなかったところを見ると、中国はすでに織り込み済みであったにちがいない。
●ウクライナを広島になぞらえたゼレンスキー...戦争と核の悪夢を未来に残さない 5/23
広島での主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席したウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は21日、「私は戦争で歴史の石に影だけを残して消し去られる運命にあった国からここに来ました。しかし英雄的な国民は戦争そのものを影にするよう歴史を転換しています」と演説した。
ゼレンスキー氏は広島平和記念資料館(原爆資料館)で見た「人影の石」のメタファー(隠喩)を演説に取り入れた。爆心地から260メートルの銀行支店の開店前に入口階段に腰掛けていた人はその場で死亡したと考えられている。原爆の強烈な熱線により階段は白く変色し、腰掛けていた部分は影のように黒くなった。
「敵が通常兵器を使用しているとはいえ、ロシアの爆弾や大砲で焼け野原になった私たちの街はここ(原爆資料館)で見たものと似ています。ヒロシマは見事に再建され、現在に至っています。ロシアの攻撃で廃墟となったすべての都市を、一軒の家も残っていないすべての村を再建することを私たちは夢見ています」
ゼレンスキー氏は「ロシアはわが国最大かつ欧州最大のザポリージャ原発を1年以上にわたって占拠しています。ロシアは世界で唯一、戦車で原発に発砲したテロ国家です。原発を武器や砲弾の貯蔵所として利用した国は他にはありません。ロシアは原発の陰に隠れて、私たちの都市にロケット砲を撃ち込んでいるのです」と非難した。
「ロシア軍は放射能汚染物質が埋まる森に塹壕を掘っていた」
ウクライナは1986年のチョルノービリ原発事故を生き抜かなければならなかった。今も国土の一部は立ち入り禁止になっている。「この地帯でロシア軍は攻勢をかけてきました。旧ソ連時代に放射能汚染物質が埋められた森の中に塹壕を掘っていたのです。ロシアの悪と愚かさをそのままにしておくと、世界がボロボロにされるのは必至です」
ゼレンスキー氏は「戦争が歴史の石に影を残すだけとなり、それが資料館の中でしか見ることができないよう世界中のみんなができる限りのことをしなければなりません」と力を込めた。核兵器による威嚇はウラジーミル・プーチン露大統領の常套手段だが、万が一にでも使用される事態になれば、その被害と影響は計り知れない。
オールジャパンでウクライナに車いす1000台を届けるプロジェクト「Japan Wheelchair Project for Ukraine」第1便のうち100台が寄贈されたキーウ近郊のイバンキフ村の社会サービス地域センターのナタリア・ネステレンコ所長(62)は「チョルノービリ原発事故の影響で多くの人が筋骨格系の障害に悩まされています」と語る。
「成人人口は2万2000人で、半数が年金受給者。その年金受給者の3分の1が障害を抱えています。チョルノービリ原発事故で骨にストロンチウムやセシウムが蓄積され、多くの人が筋骨格系の病気に苦しんでいます。さらに昨年2月の侵攻で私たちは36日間、ロシア軍の占領下に置かれました。家屋が破壊され、多くの犠牲を出しました」
「ロシアとの戦争が起きるとは思いもしなかった」
「まったくウクライナとロシアの間で戦争という悪夢のような展開になるとは思ってもみませんでした。プーチンの『V(ウラジーミルの頭文字)』がペイントされたロシア軍の武装車両が村にやってきて、目を疑うような光景が繰り広げられました。近所の通りで戦闘が始まり、父子が射殺されたと聞きました。本当の戦争なんだと痛感しました」(ネステレンコ所長)
36日間のうち28日間は電気、水、暖房が使えなかった。薪ではなく、ガスが使えた人はマシだった。3月6日以降、多くの破壊が行われ、電話もかけられなくなった。郊外では激しい戦闘が繰り広げられ、完全に破壊された村もあった。81の集落のうち46の集落が被害を受け、占領中に銃撃や爆撃、空襲で49人が殺され、46人が負傷した。
機能していたのはパン屋と病院だけだった。病院では負傷者や住民を治療し、24人の赤ん坊が誕生した。ロシア兵に銃を突きつけられて手術を行った医師は「俺たちが手術台で死んだら、お前たちは皆殺しだ」と脅された。住民たちは日常生活を送るため白旗の代わりに白いシートを車に巻きつけて検問所を通り抜け、食料品や飲料水を調達した。
午後8時になると、ロシア軍は空に向けて大砲を撃ちまくった。ロシア兵は「怖いだろ。大砲を撃っているんだ」と住民を脅した。死体を積んだトラックが走り、首や腕や足が見えたと住民たちは震え上がった。チェチェン共和国の「狂犬」ラムザン・カディロフ首長が村の小学校の地下で指揮をとっていることもカディロフ自身のSNSの投稿で分かった。
悲劇や戦争は社会を結晶化させる
2500軒以上の住宅が損壊し、480軒は完全に破壊された。161軒は支持構造が損傷したため、大規模な修理が必要だ。11基の橋が破壊され、25の文化施設、15の教育機関、5の医療機関が被害を受けた。3つの学校も深刻な被害を受けた。イバンキフ村から避難したのは600人程度で、それ以外はみんな残った。ロシア軍がすぐに来たので逃げられなかったのだ。
オクサナ・カドゥン副村長は「戦争初日、住民は絶望の淵に立たされ、何をすべきか分かりませんでした。良心、道徳、人間性が浸透していれば、その社会は人間的なのです。チョルノービリの悲劇や戦争のような出来事は社会を結晶化させます。『腐っている人間』と『良心のある人間』が明らかになります。そこから逃れることはできません」と振り返る。
ある女性はチョルノービリがロシア軍に占領された時、働いていたが、すぐに着替えてロシア軍の車に乗り込んだ。イバンキフ村には運動器系に障害を抱える住民が4000人近くいる。成人100人以上、子ども12人以上が車いすを利用している。占領により自由に外を出歩けなくなった住民の健康に悪影響が出た。
「住民は経済的、財産的に多くのものを失い、高額な車いすを購入するのは難しくなりました。車いすがないと住民は自分の家に閉じこもってしまい、あらゆるコミュニケーションが途絶えてしまいます。だから日本からの車いすの寄贈は心強い助けになり、私たちにとっても大きな安心材料になります」とネステレンコ所長は言う。
「すべての人が新鮮な空気を吸えるよう、車いすが必要」
介護施設の責任者ミハイル・ベレノク氏(67)は「入居者の中には移動が困難な人や寝たきりの人もいます。骨にストロンチウムやセシウムが蓄積することで、筋骨格系に問題が生じています。すべての人が新鮮な空気を吸えるようにしたいので車いすが必要です。日本から車いすが届き、助かります」と語る。
ウクライナの慈善団体「フューチャー・フォー・ウクライナ(FFU)」のオレナ・ニコライエンコ戦略・開発責任者は「敵の侵攻と絶え間ない砲撃により、自立して動くことができない被災者の数は日に日に増えています。医療が追いつかず健康を損ない、車いすの助けを必要とする高齢者の数も急増しています」と語る。
5月末には第3便215台が東京港を出港。ウクライナ北東部ハルキウの児童養護施設に届けられる。FFU医療支援担当カリーナ・カピタニウクさんは「ハルキウ州、オデーサ州、ジトーミル州、ザカルパッチャ州、リウネ州、キーウ州の6州から車いす提供の依頼が来ています。第3便までの500台に加えてさらに500台、計1000台が必要です」と訴えている。
●ロシアへの反転攻勢 アメリカ政府高官はどう見る? 5/23
「今後、数週間から数か月が極めて重要です」ウクライナの反転攻勢についてこう述べたのは、アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のジョン・カービー連絡広報調整官です。
アメリカの軍事安全保障政策全般に精通するカービー調整官。バイデン大統領に同行し訪れていた広島で、ウクライナ情勢の見通し、中国や北朝鮮への対応、日米韓3か国の関係強化など、アメリカ政府の戦略を聞きました。
ウクライナの反転攻勢 ポイントは?
今後、数週間から数か月が極めて重要です。
私たちはウクライナで続く戦争において重要な転換点を迎えています。
ウクライナは春を迎え、天候が改善しています。土地が乾いてきて、作戦が行いやすくなってきました。
ロシア軍はいま、特にウクライナ東部の激戦地バフムトに多くのエネルギーと兵力を投入しています。ロシア軍はこのあとそれ以外の地域、すなわち南部から東部のドンバス地方にいたるまでの広い範囲で攻勢を強めることになると私たちは予想しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、自分たちも攻撃を仕掛けるための能力を手にしたいと話してきました。そしていま、彼は反転攻勢をどこで、いつ、どれだけの兵力を投入して実行に移すか、決めることができる立場にあります。
彼はウクライナ軍の最高司令官なのです。これから行う攻撃をどうするかを決めることができるのは彼だけです。
われわれアメリカがやるべきことはウクライナへの支援を継続し、ゼレンスキー大統領が、この先何週間、何か月も続くであろう戦闘を成功させるために必要な手段、訓練、兵器システムを確実に手にできるようにすることです。
F16戦闘機を提供すべきタイミングか?
戦争の変化に応じて求められる兵器も変化します。
この戦争が始まった直後、実際には始まる前から、アメリカはウクライナに殺傷能力や防衛能力を提供してきました。
だからこそウクライナはロシアの攻撃から自国を防衛できているのです。戦争が引き起こされたからこそ、われわれはウクライナに能力を授けてきたわけです。
戦争が始まって最初の数週間は対戦車ミサイル「ジャベリン」、地対空ミサイル「スティンガー」などを提供してきました。
そして現在は、地対空ミサイルシステム「パトリオット」や主力戦車「エイブラムス」について協議しています。
ウクライナがF16戦闘機を求めてきたこと、そしてヨーロッパの同盟国や友好国のうちの何か国かがそのことを検討していることを知っています。
われわれは明確に、そうした決断を尊重します。
一方で、われわれアメリカが注目しているのは、この先数週間から数か月という期間にウクライナが必要としているのは何なのか、ということです。そして、長期的に必要になるのは何なのかということについてもウクライナと協議しています。
極めて重要なのは、ウクライナを支援するすべての関係国が、戦後のこと、そしてこの先の長い期間について考えることです。
なぜなら、この戦争がいつ、どのような形で終わろうとも、ウクライナは引き続き国土を守っていく必要があります。彼らはロシアと接する長い国境線を自分たちで守っていかなければならないのです。
われわれは、このことについて喜んで議論しますし、行方を見守っていきます。
東アジア情勢 台湾有事のリスクどう見る?
われわれが最終的に目にしたいのは紛争の必要のない状態であり、あらゆる機会を捉えて緊張を和らげることが大切です。
アメリカの台湾政策に何の変更もありません。われわれは台湾の独立を支持しません。「1つの中国政策」を変えたことはありません。そして、台湾海峡をとりまく現状を一方的に変更することや、武力によって変更することを望みません。
「1つの中国政策」/ 中国政府が主張する「世界に中国は1つしかなく、台湾は中国の領土の不可分の一部で中華人民共和国が中国の唯一の合法的な政府だ」という「1つの中国」原則を、“認識する”というアメリカ歴代政権の政策 ・・・
アメリカには、台湾が自らを防衛する能力を獲得できるよう支援する責務があります。それは法律に記されています。
そしてそのことには、何十年にもわたる超党派の支持があります。われわれは、「台湾関係法」やほかの関係文書に沿って台湾の自己防衛能力を支援し続けます。
一方で、台湾海峡をめぐり緊張を高めて紛争へと突入する理由はどこにもありません。このことは、公式にも非公式にも中国に対して送ってきたメッセージです。
アメリカの政策に何の変更もないのです。ですから、紛争を起こす理由は何もありません。われわれはこの問題をこれからも注意深く見ていきます。われわれは、地域の同盟国や友好国の多くが高まりつつある緊張への懸念を抱いていることを理解しています。
だからこそ、アメリカにとって、そしてバイデン大統領にとって、政策に一貫性を持たせることが重要なのです。
米中の軍どうしのホットラインは機能している?
ホットラインはまったく機能していません。
軍と軍を結ぶ連絡チャンネルは、去年8月にペロシ前下院議長が台湾を訪問したことに中国側が反発し、遮断されたままです。
バイデン大統領がいま取り組みたいことの1つは、この意思伝達のチャンネルを開通させることです。
最近、ヨーロッパのウィーンで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官が中国側のカウンターパート(王毅政治局委員)と会う機会がありました。
これは、去年秋にインドネシアのバリ島で開かれたG20サミットの際にバイデン大統領と習近平国家主席が会談を行ったときの精神に立ち返り、対話を維持するために行ったものでした。そしてわれわれはこうした取り組みを今後も継続します。
ブリンケン国務長官が以前、計画していた通りに北京を訪れる日が来ることを期待します。われわれはイエレン財務長官とレモンド商務長官が経済問題を話し合うため中国を訪問することについて中国側と協議しています。
対話のチャンネルは開かれています。対話を維持していきたいのです。対話を広げ、深めていきたいのです。
なぜ軍どうしのホットライン必要?
軍と軍の連絡チャンネルは、安全にまつわる情報を提供する手段として開通させるべきです。
緊張が高い状態においては、見込み違いが起きる可能性も高いのです。軍と軍のコミュニケーションは階級の低いレベルどうしであっても、衝突の引き金となりかねない見込み違いの可能性を取り除く上で、大切です。
われわれは中国との衝突を追求しません。追求するのは競争であり、衝突は望みません。
連絡チャンネルを再び開通させることはいかなる衝突であっても回避する上で役に立ちます。
日韓関係改善の動き どう評価?
まずはじめに、岸田総理大臣と韓国のユン大統領が日韓関係を改善させるために大変な勇気と指導力を発揮されたことを称賛させてください。
われわれは、歴史は消し去ることができないことを理解しています。歴史にまつわる問題に取り組むことには時に困難が伴います。
しかし、両首脳はそれに取り組み、両国関係の改善という大変な仕事を成し遂げました。われわれはこれをとても嬉しく思っています。
バイデン大統領も日米韓の3か国関係の改善にずっと力を注いできました。
日米韓3か国の関係は?
広島でも日米韓の首脳が会する機会があり、この3か国の関係を改善させることによって得られる利点はたくさんあります。いま、その多くは安全保障の領域において語られています。
日本と韓国の両国は近代的で高い能力を持った部隊を保有しています。
そして岸田総理大臣と日本政府が打ち出した新しい国家安全保障戦略は作戦機能を向上させるもので、地域の平和と安定に貢献するのだという日本の決意のほどを反映しています。特筆すべきものであり、アメリカの国家安全保障戦略にうまく適合しています。
ユン大統領も韓国で新しいインド太平洋戦略を発表しましたが、これも適合性の高いものです。
ですので、3か国のあいだでは相互運用性や軍の作戦、演習、訓練などすべてにおいて能力を改善する計り知れない機会が存在し、このことは地域の平和と安定、繁栄に貢献することになるのです。
われわれはそのあらゆる利点を生かし、前進させていきます。
北朝鮮の脅威にどう対処?
キム・ジョンウン総書記は、アメリカが示している前提条件無しでの対話を受け入れ、朝鮮半島の非核化に向けた交渉に取り組むべきです。そのことこそが求められています。
アメリカの提案はいまも取り下げられておらず、キム総書記の選択にかかっています。
ところがそれにも関わらず、キム総書記は弾道ミサイル実験を継続し、兵器の備蓄と核兵器の能力向上を進めています。
キム総書記が対話のテーブルにつくことを望まない以上、われわれは、自国および地域の同盟国や友好国を守ることができるよう、やるべきことをやる必要があります。その結果、われわれはインド太平洋地域において、軍事的観点から能力の増強をはかりました。
北朝鮮国内やその周辺におけるインテリジェンスを収集する能力を向上させました。そしてこれまでよりももっと目に見える形で、より規模の大きい軍事演習を韓国とともに実施しています。
そしてわれわれは、日米のあいだだけでなく、日米韓3か国のあいだで協力関係を発展させています。
前提条件無しの対話が実現しないいま、われわれは、北朝鮮の脅威に対処できるよう、同盟国や友好国とともに、たくさんの対策を打ちつつあるのです。
●ロシア、ウクライナ侵入の集団を撃退と 米は「ロシア領への攻撃奨励せず」 5/23
ロシア政府は23日、同国西部ベルゴロド州にウクライナから侵入した武装集団を打ち負かしたと発表した。ウクライナに兵器を供与するアメリカは、ロシア領内に侵入する動きからは距離を置いている。
国境地帯にあるベルゴロド州の一部地域では22日、ウクライナから侵入した武装集団による攻撃があり、死傷者が出たとされる。国境を越えた襲撃としては、昨年2月にロシアがウクライナの侵攻を開始して以来最大規模の襲撃の一つ。
ロシアはその後、損傷し、放棄された西側の軍用車両の画像を公開した。その中には米国製のハンヴィー(高機動多用途装輪車)も確認できる。
アメリカは「ロシア国内での攻撃を奨励または可能にしていない」と主張している。
米国務省のマシュー・ミラー報道官は、アメリカが提供した兵器が使用されたとする報告が「ソーシャルメディアやそのほかの場所で広まっている」ことは認めつつ、アメリカは「これらの報告の信ぴょう性については、現時点では懐疑的」だとしている。
ミラー報道官は23日のブリーフィングで、「この戦争をどのように行うかはウクライナ次第だ」と付け加えた。
砲撃を受け、ベルゴロド州の複数の村から人々が避難した。ロシアは攻撃してきた側の70人が死亡したと発表。こうした戦闘員はウクライナ人だと主張した。
一方、ウクライナ政府は関与を否定。攻撃の背後にいるのは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と敵対する二つのロシア準軍事組織だとした。
ロシア、対テロ作戦を発動
22日の襲撃を受け、ロシア政府は対テロ作戦を発動し、当局に対し、通信や人々の動きを取り締まる特別な権限を与えた。
この措置は翌23日の午後にようやく解除されたが、準軍事組織の一つは、「小規模だが、われわれ自身の祖国の一部」をまだ支配しているとの主張を続けた。
ベルゴロド州のヴャチェスラフ・グラドコフ知事は、この襲撃で民間人1人が死亡し、複数の人が負傷したと述べた。
その後、無人機から爆発物が投下され、車1台が損傷する攻撃があったと、同知事は23日夜に述べた。無人機は撃墜され、新たな死傷者は出ていないようだとした。
交戦中の両国の主張については、独立した検証は行われていない。しかしBBCは、今回の襲撃で被害を受けたものの中に、ロシアの主要治安当局である連邦保安局(FSB)が使用する建物が含まれていることを確認した。被害の原因は分かっていない。
ベルゴロド州での敵対行為について、ロシア国防省は、「ウクライナ人の民族主義者の部隊」が攻撃を行うためにロシア領土に侵入したとした。
ロシアが公開した画像の一つには、車体側面に「バフムートのために」と書かれた、大破した車両が写っている。ロシアが最近、制圧したと主張するウクライナ東部の街バフムートを指しているとみられる。ウクライナ政府は、バフムート陥落を否定している。
砲撃と空爆で「ウクライナ人テロリスト」数十人を殺害し、残りの戦闘員をウクライナ国境まで押し戻したと、ロシア国防省は主張した。
ウクライナ当局は、攻撃を行ったのは二つの準軍事集団「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団(RVC)」に属するロシア人だとしている。
この二つの準軍事集団のソーシャルメディアでは、関与を裏付けるようにみえる投稿が確認できる。両グループはまた、ウクライナの公共放送局Suspilneに対し、自分たちは「ロシア連邦との国境に非武装地帯を作っており、そこからウクライナを砲撃することはできない」と述べた。
ロシア領土への攻撃、西側諸国に不安
ロシア領土への攻撃は、西側諸国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の指導者たちを不安にさせている。つまり、今回の動きはウクライナ政府にとって、ありがたいようなありがたくないような結果をもたらす可能性がある。
国境を越えてロシア領内に侵入されたことは、ロシア政府にとってはきまりが悪い出来事かもしれない。そしてウクライナにとっては、数カ月にわたる激しい、血なまぐさい戦闘の末にバフムートの支配権を失ったとするネガティブな世論を相殺するのに、いくらか助けになるだろう。
ウクライナは反撃の準備を進めており、南部を攻撃すると予想されている。今回のロシア領侵入は、こうした反攻に先立ち、南部からロシア軍を引き離すことを目的とした作戦の一環である可能性も高い。
ただ、西側諸国が歓迎するような展開ではなさそうだ。
ウクライナに供与された長距離兵器は、今回の攻撃では使用されていないが、ロシア国内の標的を攻撃するためには使用しないという条件付きで供与されている。
ウクライナは公式には否定しているが、ベルゴロド州への襲撃がウクライナ軍の情報部の支援なしに行われたとは考えにくい。
ロシアは、自国の主権的安全が、西側諸国の支援を受けた悪意ある勢力から攻撃を受けているとの主張を展開している。今回の出来事は、そうしたロシア政府のシナリオに都合よく合致するものといえる。
襲撃に関与した人の中には、極右の過激派つながりのある人物も含まれるとの報告があり、ウクライナからネオナチを排除しようとしているとするロシア政府の主張が、さらに勢いづく可能性が高い。

 

●国境付近の戦闘 “関わったのはロシア人などの組織”ウ軍幹部  5/24
ロシア西部のウクライナとの国境付近で起きた戦闘について、プーチン政権はウクライナ側から侵入した工作員によるテロ事件だとして、70人以上を殺害したと主張しました。
一方、ウクライナ軍の幹部はNHKの取材に対して、戦闘に関わったのはロシア人などの義勇兵を名乗る組織と見られ、ウクライナ軍ではないと強調しました。
ロシア西部のウクライナと国境を接するベルゴロド州の州知事は22日、州内に侵入したウクライナの工作員との間で戦闘が起き、男女2人が死亡したと発表しました。
この戦闘をめぐっては、ロシアによる軍事侵攻に反対しウクライナ側に立つロシア人などの義勇兵を名乗る2つの組織が、関与を主張しています。
ロシアの捜査当局はテロ事件と断定し、ロシア国防省が「70人以上のテロリストを殺害した」と主張しているほか、国営のタス通信は、今週開かれる安全保障会議でも議題とされる可能性を伝え、プーチン政権が事態を深刻に受け止めているものとみられます。
一方、ウクライナ軍の幹部ロマン・コステンコ氏は23日、NHKの取材に対し、戦闘に関わったのがウクライナ側と連携するロシア人などの義勇兵を名乗る組織である可能性を示唆したうえで、「プーチン政権に反対する彼らには彼らの目標がある。ウクライナはロシアの土地を求めてはいない」と述べ、今回のロシア国内での戦闘にウクライナ軍は加わっていないと強調しました。
●ロシア反政権組織、ベルゴロド州への攻撃は「ロシア解放のため」 5/24
ロシア南西部ベルゴロド州への攻撃を実行したと主張している反プーチン政権派のロシア人組織「自由ロシア軍団」は23日、「ロシアの完全な解放」が目的だったと強調した。
自由ロシア軍団はSNS「テレグラム」への投稿で、同州への攻撃は「平和維持作戦」だったと主張。
作戦の目的は、ロシアとウクライナの間に非武装地帯を設けること、プーチン政権の治安部隊を打倒すること、抵抗の拠点を作り出すのは可能だとロシア国民に示すことだったと述べた。
そのうえで、目的達成に成功したと宣言した。
●打倒プーチン<鴻Vア人義勇兵が反乱! 祖国と戦う4000人 5/24
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、ロシア人義勇兵による「反乱」が起きている。プーチン政権の打倒を掲げ、ウクライナ側でロシア軍と戦うロシア人義勇兵団体が22日、通信アプリに、ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州の一部を「解放した」と投稿したのだ。報道によると、ロシア人義勇兵は約4000人で、3つの部隊が存在している。ロシア人のプーチンへの抵抗はついに、「戦闘」という形にまで発展した。
ロシア主要メディアは、ベルゴロド州に22日、ウクライナの破壊工作グループが侵入し、国境付近の町で住宅や工場など数カ所を銃撃したと伝えた。これに対し、ロシア軍や連邦保安局(FSB)が合同で掃討作戦を実施したとされている。
英国防省の分析によると、19日から22日にかけて、ベルゴロド州内の少なくとも3カ所でロシアの治安部隊と破壊工作グループが衝突した可能性が非常に高いという。グループについては「正体は確認されていないが、ロシアの反体制派が実行を主張している」と説明した。
ベルゴロド州での交戦について、ウクライナ政府は「状況を注視しているが、ウクライナは関係ない」と関与を否定している。ただ、「解放した」と宣言したのは、ウクライナサイドに立ってロシア軍と戦うロシア人義勇兵団体「自由ロシア軍」と「ロシア義勇軍」だった。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナが今後、ロシアへの大規模反攻に出る見込みのなか、祖国との戦闘という形で「反プーチン」の姿勢を示す義勇兵団体はどんな存在なのか。
24日付の産経新聞は、義勇兵らの取りまとめ役とされるロシアの元下院議員、イリヤ・ポノマリョフ氏への取材をもとにロシア人義勇兵団体の詳細を伝えている。
ポノマリョフ氏によると、義勇兵は約4000人おり、「自由ロシア軍」「ロシア義勇軍」「国民共和国軍」の3団体が存在する。3団体は昨年8月末、キーウ近郊のイルピンで、ウクライナ軍と共闘するとの宣言に署名。宣言では「ウクライナは勝たなければならない。プーチン政権を崩壊させる」とうたった。
ロシア軍兵士が自軍の略奪や性犯罪といった戦争犯罪に嫌気がさしたり、もともとウクライナにいたロシア人が義憤にかられたりして、義勇兵になるケースが多いという。ポノマリョフ氏は「ウクライナの勝利とロシアの自由のため、ロシア人部隊は全力で戦う」と語っており、今後さらに義勇兵団体の動向が注目されそうだ。
●ロシア国境のパルチザン攻撃は反転攻勢の前哨戦? 5/24
ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州で、ロシアのパルチザンを自称する武装集団が、ロシア治安部隊と衝突したことを受け、英国の国防当局は、ロシアのウクライナ国境地帯が複数の脅威に直面していると分析した。ベルゴロド州の中心都市は、夜通しドローンによる攻撃を受けたと報じられている。
ソーシャルメディアで共有された動画では、ベルゴロド州にある、ロシア連邦保安局(FSB)や内務省が入る建物を狙ったとされる爆発がとらえられている。別の映像では、ウラジーミル・プーチン政権打倒をめざす「自由ロシア軍団」が、自分たちがベルゴロド州のコジンカを制圧し、グライボロンの町へ部隊を送ったと主張している。
ウクライナ当局は、今回の衝突への直接の関与を否定し、武装集団はロシア国民で構成されていると述べている。だが、ある専門家が本誌に語ったところによれば、この侵攻はウクライナの反転攻勢計画と「連携している」という。
英国防省(MOD)によれば、5月19日から22日にかけて、ベルゴロド州内の少なくとも3か所で、ロシア治安部隊とパルチザンとの衝突があったという。
ウクライナの側に立って戦っていると主張するロシアの反政府勢力----「ロシア義勇軍団」と自由ロシア軍団----が、犯行声明を出している。
グライボロンの町の国境検問所で撮影されたとされる急襲場面では、血だまりのなかに横たわるロシア軍の将校を含む戦死者と、検問所を通過しているらしい装甲車両が見てとれる。小型の武器による銃撃戦や、ドローンや火器による間接的な攻撃の増加も報告されている。
ベルゴロド州のビャチェスラフ・グラトコフ知事がテレグラム上で述べたところによれば、ベルゴロド市や州内各所の上空で、ドローンが対空システムによって撃墜されたという。グラトコフは、対テロ作戦の発動を明らかにしたほか、複数の村で避難が進んでおり、民間人に死者はいないとつけ加えた。ロシア政府もこの地域に、追加の治安部隊を派遣した。
英国防省は、5月23日のアップデートのなかでこう述べている。「ロシアは国境地帯において、さまざまな分野における深刻な安全保障上の脅威の拡大に直面している。戦闘機の喪失や、即席爆発装置(IED)による鉄道線路への攻撃、そして、今回の直接的なパルチザンの攻撃などだ」
「ロシア側は、ほぼ間違いなくこの攻撃を、自国こそが戦争の被害者だというロシア政府のプロパガンダに利用するだろう」と英国防省のリポートは付け加える。ロシア政府は、この攻撃をウクライナの工作員によるものと非難している。
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問は、ウクライナはこの攻撃への直接的な関与は否定した上で、ロシアのパルチザン活動は、戦争を背景にして必然的に起きているものだと述べた。
だが、欧州政策分析センター(CEPA)で、大西洋横断防衛・安全保障分野の非常勤シニアフェローを務めるスティーブン・ホレルは、武装組織に対するウクライナ治安当局の支援が最小限であったとしても、「(この攻撃は、)ウクライナの反転攻勢に向けた準備段階に相当する「形成作戦(shaping operation)」と連携している」と述べた。
ホレルによれば、ベルゴロドには複数の兵站拠点があり、ロシアによる攻撃の起点になっているという。「今回の攻撃と並んで、敵陣深い場所への攻撃も見られ始めている」と、ホレルは本誌に語った。「また今回は複数の村を占領していることや戦闘用車両の比重の大きさから見ても、これまでの越境攻撃や奇襲より本格的に見える」
「ロシアが不安で兵を割かなければならない場所が増えるほど、ウクライナ軍が1カ所または複数カ所でロシアの守りを突破できる可能性が高くなる」
●「トランプがプーチンにすり寄るのはとうてい支持できない」 5/24
ジョージ・ストーニチジさんは、2回の大統領選挙でトランプ前大統領に投票した。今も国内政策ではトランプ氏が最高だと評価している。だが、2024年の大統領選挙でトランプ氏が共和党候補としての指名を獲得し、バイデン現大統領と争うのであれば、ストーニチジさんは票を投じないつもりだ。
ストーニチジさんは、緑豊かなペンシルベニア州カーボン郡で共和党職員を務めている。だが、ウクライナ系米国人であるストーニチジさんとしては、戦火で荒廃したウクライナを支援するための支出をトランプ氏が批判することも、以前からプーチン露大統領を高く評価している点も許しがたい。
元トラック運転手のストーニチジさんは、アパラチア山脈にある自宅でロイターの取材に応じ、「トランプ氏の最近の発言や、プーチン氏にすり寄る態度は、自分としてはとうてい支持できない」と語った。
ウクライナ系米国人の間では伝統的に共和党支持が強いが、連邦議員やストラテジスト、啓発活動家、そして米国の国勢調査統計に関するロイターの分析によれば、2024年の国政選挙に大きな影響を与える可能性がある。
ウクライナ系を出自とする米国人の数は約100万人と相対的には少ないものの、その分布は全国有数の激戦区に集中しており、彼らの票の行方が勝敗を左右する可能性がある。
ペンシルベニア州とミシガン州では、ウクライナ系米国人のコミュニティーの規模が、2016年にトランプ氏が勝利したときの得票差を上回っていることが分析により判明した。下院議員選挙区のうち、全米で少なくとも13選挙区では、2022年の中間選挙における共和・民主両党の得票差よりもウクライナ系米国人の数が多いか、ほぼ同数だ。
ロイターは、ウクライナ系米国人の活動家や、選挙を経て就任した公職者、地域のリーダーなど22人、さらにウクライナ系米国人のコミュニティーと交流のある当局者やストラテジスト10人以上に取材を行った。多くは、ストーニチジさんのように2024年の選挙では棄権するか、あるいは生まれて初めて民主党に投票しようと考えている。
共和党の中心的議員や2024年大統領選をめざす同党の有力候補の一部は、昨年ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、ウクライナ系米国人の祖先の土地を防衛することに関心を示していない。バイデン現大統領がウクライナとその指導者ゼレンスキー大統領に全面的な支持を表明しているのとはきわめて対照的だ。
インタビューに応じたウクライナ系米国人は全員、怒りを感じると話した。共和党に裏切られたという人もいた。大半の人は、ウクライナを支持しない候補者に投票する可能性を排除し、予備選でも大統領選本番でも、共和党の有力候補であるトランプ氏、フロリダ州のロン・デサンティス知事のいずれにも投票するつもりはないと述べた。
トランプ氏は先週、タウンホール形式によるCNNの番組に出演し、ウクライナ侵攻に関する質問に対して、ウクライナがロシアに勝利することを望むかどうか明言を避けた。過去にはプーチン氏への称賛を繰り返しており、昨年ウクライナ侵攻を始めたときには、プーチン氏を「天才」と呼んだ。
近日中に大統領選への出馬を表明するとみられるデサンティス氏は、バイデン政権がウクライナ政府支援のために「白紙小切手」を切っていると過去に批判。「ウクライナとロシアの領土紛争にこれ以上巻き込まれる」ことは米国にとって重要な国益ではないと述べている。
ウクライナ侵攻についてトランプ、デサンティス両氏にコメントを求めたが回答はなく、共和党全国委員会も回答しなかった。
ウクライナ政府への支援を公約している共和党大統領候補としては、ニッキー・ヘイリー前国連大使などがいるが、世論調査では支持率が伸び悩んでいる。
決定打となりうる層
ペンシルベニア州では、約9万2000人が自らをウクライナ系米国人であるとしている。ロイターの分析によれば、2016年にトランプ氏が同州で勝利を収めたときの得票差4万4000票の2倍以上、また2020年にバイデン氏が勝利したときの得票差8万1000票も上回っている。ミシガン州には約3万1000人のウクライナ系住民がいるが、これも2016年にトランプ氏が勝利したときの得票差約1万1000票より多い。
ウクライナ系住民コミュニティーの規模が、中間選挙で勝敗を分けた得票差を上回ることが確認された選挙区は、ニューヨーク、ペンシルベニア、ミシガン、ワシントン、コネティカット、カリフォルニア、コロラド州にある。これら13選挙区での共和・民主両党の勝敗はほぼ互角だった。
国勢調査局は毎年実施する全国規模の調査に基づいて、ウクライナ系米国人の人口を推測している。このデータからは、ほとんどの州及び選挙区において、ウクライナ系だとする住民についての年齢情報が得られないものの、同局では、ウクライナ系米国人全体の約5分の4が選挙権を有する年齢だとしている。
ストーニチジさんが暮らすペンシルベニア州東部の炭鉱地帯では、共和・民主両党がつばぜり合いの激戦を展開してきた。ウクライナ系の人口が10%を超える街もある。
民主党のスーザン・ワイルド下院議員は2022年、ストーニチジさんの選挙区を500票に満たない得票差で制しており、ウクライナ系住民の票を獲得することは非常に重要だと話している。
ワイルド下院議員は定期的に地元のウクライナ系住民コミュニティーと連絡を取っており、昨年の選挙では、同議員の陣営に献金し、電話ボランティアに参加した住民もいた。
「私が経験したように僅差で勝ち抜いた選挙戦を考えると、有権者のごく一部であっても大きな違いが生まれる」
「ペンシルベニアでは確実にそこで差がつくだろう」
「争点は1つ」
選挙に向けたサイクルは始まったばかりだ。だがウクライナ系米国人の活動家の多くは、議員らに対してウクライナ支援を求める働きかけを前例がないほど進めている、と語る。また民主党の中には、ウクライナ情勢に対する共和党の態度につけ込んで票を獲得しようとする動きもある。
先月末には、62のウクライナ支援団体が大人数で議事堂に詰めかけ、ウクライナによる抵抗を支援するさまざまな法案に賛成するよう議員に陳情を行った。
民主党候補者を支援する主要な政治資金団体「アメリカン・ブリッジ」内の議論に詳しい人物によれば、同団体では、一部の選挙区のウクライナ系米国人をターゲットとして、ウクライナ侵攻に対する共和党大統領候補の姿勢を強調する意見広告を打つことを検討しているという。
複数の団体・個人の連携組織として侵攻開始後にウクライナ支援のため結成されたミシガン州の「ウクライナ・米国危機対応委員会」で共同代表を務めるエミリー・ルトコウスキー氏は、デトロイト都市圏の会員向けに投票ガイドを作成している。
このガイドは、ウクライナに関する候補者の見解に基づいて投票先を提案するものになる。
ルトコウスキー氏はウクライナ侵攻について、「多くのウクライナ系の人にとって、今回の選挙の争点はこれ1つに絞られる」と話す。
ウクライナ系米国人の投票パターンについてはほとんどデータがないが、ロイターが取材したコミュニティー有力者や有権者、ストラテジストらによれば、このグループはソ連共産主義をめぐるネガティブな体験ゆえに、伝統的に共和党を支持してきたという。20世紀の大半を通じて、共和党はソ連に関して対決色の強い姿勢を採用していたし、同党の多くは引き続き自由市場経済の恩恵を強調している。
世論調査によれば、ロシア系米国人の圧倒的多数はプーチン大統領によるウクライナ侵攻に反対している。ロシア系米国人コミュニティーからの支援を受けてきたウクライナ系米国人の啓発活動家は、ロシア系米国人がこうした姿勢を取るのは、1つには米国では独立したメディアに触れることができるからだとしている。
デサンティス氏の「愚かな発言」
ペンシルベニア州選出のワイルド下院議員がウクライナ系米国人の中でも特に親しく接しているのは、アレンタウンにあるウクライナ正教セントメリー教会のリチャード・ジェンドラス司祭だ。
ジェンドラス司祭は礼拝の中で政治を語ることには慎重だが、教区民との会話から判断すれば、過去の選挙でトランプ氏を支持した人の多くが、現在では同氏を見限ることを考慮しているようだと話している。
ジェンドラス司祭によれば、3月、ウクライナ侵攻についてデサンティス氏が「領土紛争」と表現した直後、地元のウクライナ系聖職者らとの会合があったという。
「彼らは『何と愚かな発言だろう』『どうしてあんなことが言えたのか』と言っていた」とジェンドラス司祭。「ウクライナ系米国人の間では、あの発言は紛れもない侮辱だと感じられた」
インタビューに応じた人の中には、予備選では、ウクライナ支援に積極的な共和党の弱小候補に投票するつもりだ、という声もある。
カーボン郡のストーニチジさんは、元ニュージャージー州知事のクリス・クリスティー氏が気に入っていると言う。友人のマイケル・サチウさんは、マイク・ペンス前副大統領がいいと言う。2人ともまだ大統領選への出馬を宣言していないが、考慮中であることは公言している。
クリスティー氏もペンス氏も、一貫してウクライナ支援を口にしている。
「(予備選で)トランプ氏が勝っても、私が投票することはない」とウクライナ生まれのサチウさんは言う。「この地域の多くの人は同じように感じている」
●ロシアで革命起きる恐れ、エリートは戦争に本腰を=プリゴジン氏 5/24
ロシア民間軍事会社ワグネルの創始者、エフゲニー・プリゴジン氏は、ロシアのエリートがウクライナ戦争に本気で取り組まなければ、1917年と同様の革命が起き戦争に敗れる可能性があると警告した。
メッセージアプリ「テレグラム」のチャンネルに投稿したインタビューで述べた。
ウクライナは2014年のクリミア半島併合前の国境までロシア軍を押し戻すための反攻を準備していると指摘。南部バフムトを包囲しクリミアを攻撃しようとするだろうと述べた。
「最も可能性の高いこのシナリオはロシアにとって良いものではない。われわれは困難な戦争に備える必要がある」と語った。
「ロシアを失いかねない状態にある。これが最大の問題だ。戒厳令を敷く必要がある」と訴えた。
ロシアのエリートたちは自分たちの子どもを戦争から守る一方で、一般のロシア人の子どもたちは戦地で命を落としていると主張した。その上で、こうした状況が続けば内戦につながった1917年の革命のような混乱に直面する恐れがあると語った。
●ウクライナは戦争に勝てないとハンガリー首相、追加支援反対崩さず 5/24
ハンガリーのオルバン首相は、隣国であるウクライナに同情を示しつつも、ロシア撃退でこれ以上支援できることはないと述べ、欧州連合(EU)のウクライナ向け支援を巡る自身の考えを崩さなかった。
カタール経済フォーラムに際して23日行われたブルームバーグ・ニュースのジョン・ミクルスウェイト編集主幹とのとのインタビューで、ウクライナの軍事的な抵抗は失敗する運命にあるとオルバン氏は主張。さらなる支援の実施は犠牲者を増やすだけだと論じた。
「感情的には悲劇だ。われわれ全員の心はウクライナ人とともにある。だが、人命を救うことが責務である政治家として、自分は発言している」とオルバン氏は説明。「この戦争に勝利できる見込みはない」と続けた。
ハンガリーはEU加盟国の中でロシアのプーチン大統領と最も緊密な関係を持ち、EUのウクライナ向け金融支援のうちの5億ユーロ(約750億円)分の実施を阻止。ロシアへの追加制裁にも反対している。
オルバン氏の見解は、春に開始が見込まれていた反転攻勢を前にウクライナに兵器供給を続けた支援国の分析と食い違う。この反攻が劇的な急展開をもたらす可能性には慎重な見方をしているが、ロシア軍を撃退し、領土を回復するゼレンスキー大統領の計画を支援国は後押ししている。
オルバン氏の発言に対して北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長はブリュッセルで、「ウクライナは既に、領土を解放しロシアを撃退する能力があることを証明した。NATO諸国からの支援が重要であることは明らかだ」と指摘。プーチン大統領がこの戦争に勝利しないようウクライナが確実に阻むことに確信があるとも語った。
オルバン氏はあらためて、即時停戦を呼び掛けた。ただ、現時点での停戦呼び掛けはウクライナに対する降伏の要求に等しいとの批判もある。
オルバン氏はまた、ロシアのウクライナ侵攻を米ロの代理戦争と位置づけるロシア政府の公式見解と一致する主張も繰り返し、米ロ間で合意が成立する場合のみ戦闘は終わると語った。米政府は、和平の形態や時期を決定するのはウクライナだとの姿勢を維持している。
オルバン氏の発言について、ウクライナ外務省は「ロシアの侵攻責任」を見逃しているとして非難。「ウクライナはロシアの占領から領土を完全に解放するまで戦いを継続する。ウクライナの平和回復だけでなく、欧州全体の安全保障を確保するにはそれが唯一の方法だ」と、同省のニコレンコ報道官がフェイスブックに投稿した。
来年の米大統領選にもオルバン氏は触れ、トランプ前大統領の再選を望んでいると表明。バイデン大統領とはそりが合わないが、米国を批判するのはビジネスにとって良くないと述べた。
●EU、ウクライナに砲弾22万個供与 目標達成可能=ボレル上級代表 5/24
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は23日、EUはウクライナへの弾薬供給を強化するために2カ月前に開始した計画の下で、これまでに合計22万個の砲弾を供与したと述べた。
ボレル氏はブリュッセルで開かれたEU国防相会議で、EUは同計画の下で1300発のミサイルも供与したと発表。1年以内に100万発の弾薬を供給する目標について、一部加盟国が実現不能として支持していないものの、達成は可能との見方を示した。
記者団に対し「ウクライナ戦争において、向こう数日、数週間、数カ月は戦略的に決定的な意味を持つことになる」と語った。
●国境付近の戦闘 プーチン大統領 友好国と結束し欧米側に対抗  5/24
ロシア西部のウクライナとの国境付近で起きた戦闘について、プーチン政権は、ウクライナの工作員によるテロ事件だと主張し、事態を深刻に受け止めているとみられます。その一方でプーチン大統領は友好国と結束して、欧米側に対抗する姿勢を一段と強めています。
ロシア西部のウクライナと国境を接するベルゴロド州の知事は22日、州内に侵入したウクライナの工作員との間で戦闘が起きたと発表したのに続き、24日も「無人機による攻撃が夜、何度も起きた」とSNSに投稿し、避難中の女性など2人が死亡したとしています。
ロシア国防省は「70人以上のテロリストを殺害した」と発表するなど、プーチン政権はウクライナの工作員が侵入したテロ事件だと主張し、事態を深刻に受け止めているとみられます。
ウクライナ側が関与を否定する一方で、ロシアによる軍事侵攻に反対しウクライナ側に立つロシア人などの義勇兵を名乗る「自由ロシア軍」と「ロシア義勇軍」の2つの組織が関与を主張しています。
プーチン大統領は24日、モスクワで開催している安全保障関係の国際会議で行ったビデオ演説で「多くの国が、外部によって組織されたクーデターを経験している。他国の主権や国益を無視し、自国の優位性を維持しようとする国々の願望と直接関係している」と述べ、欧米などを念頭に批判しました。
そのうえで「われわれはアジア、アフリカ、ラテンアメリカとの友好的で信頼できる関係を大切にしていく」と述べ、途上国や新興国と連携強化を図る姿勢を強調しました。
プーチン大統領は、この後、同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領とも会談する予定で、ウクライナへの侵攻から24日で1年3か月となる中、友好国と結束し、欧米側に対抗する姿勢を一段と強めています。 
●現代自動車、中・ロでの販売量急減…20年間注力した「BRICS戦略」危機 5/24
米中の覇権争いやロシア・ウクライナ戦争など国際情勢の変化により、現代自動車が20年近く注力してきたBRICS戦略が崩れている。現代自動車は、2000年代に入りブラジル・ロシア・インド・中国などいわゆるBRICS地域に現地生産施設を構築したことに支えられ、世界5位圏の完成車グループとして浮上している。
22日、ハンギョレが現代自動車の事業報告書と企業説明会資料などを基に、現代自動車の国外工場での生産・販売規模を分析したところ、BRICSの割合が最近10年間で急激に減少したことが分かった。現代自動車の2012年の国外生産販売台数は249万9098台で、このうちブラジル27万167台(10.8%)、ロシア22万4598台(9.0%)、インド64万1281台(25.7%)、中国85万5995台(34.3%)など、BRICSの割合が79.7%を占めていた。南アフリカ共和国には現代自動車の工場がない。
この割合は10年後に20%以上減少した。現代自動車の昨年の国外生産販売台数は224万5830台だったが、BRICSの割合は53.4%(119万9979台)だった。これはロシアと中国の割合がそれぞれ2%(4万4976台)と11.2%(25万423台)と大幅に下がったためだ。ブラジル(9%、20万3769台)とインド(31.2%、70万811台)の割合は2012年とほぼ同じか上がった。
中国市場での販売実績を見ると、2020年46万727台、2021年36万8290台、2022年25万2714台など、毎年10万台ずつ販売実績が減っている。中国の自動車市場が急激に電気自動車(EV)市場に変わり、中国メーカー各社が成長するにつれ、現代自動車のシェアが急激に縮小しているためだ。ロシア工場は昨年2月ロシアがウクライナに侵攻した後、生産を停止した。ロシア工場は2020年に約21万台を生産し販売するなど、現代自動車の主力生産基地の一つだった。ロシア工場は他社への売却説が提起されるなど、現代自動車はこの工場の運営をめぐって多角的に検討している。
   現代自動車のBRICS地域での生産・販売量推移
現代自動車の成功戦略の一つとして、2000年代に入りBRICSなどを中心とする新興市場での現地生産化が挙げられる。1998年インド、2002年中国、2011年ロシア、2012年ブラジルに相次いで工場を建てるなど、BRICSは現代自動車の「工場ポートフォリオ」の核心だった。中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加入するなど市場が全世界的に開かれる「グローバル化」にいち早く乗ったわけだ。現代自動車のチョン・モング名誉会長は、インドやブラジルの工場を直接訪問するなど、BRICS市場攻略を督励した。一時、ロシアで市場シェア1位になるなど、現代自動車は新興市場でブランド価値を高め、競争力ある完成車メーカーに成長したとの評価を受けた。
しかし国際経済環境が急変し、現代自動車の戦略は変わりつつあるとみられる。現代自動車は米国のインフレ抑制法(IRA)などに対応するため、米国にEV生産ラインを作るなど投資を集中している。現代自動車の競争力も高まったが、「グローバル化」時代が終わり、米国などの先進国が製造業を誘致する「自国優先主義」産業政策を強要する状況が繰り広げられているからだ。韓国産業研究院のチョ・チョル先任研究委員は「BRICS市場は不安だったが、成長性が高く価値があった。約10年前、現代自動車も活発な現地化を展開したが、結果的にみて「リスク」ある市場であったことが確認され、米国と欧州連合(EU)への依存度が再び高まった」と述べた。
現代自動車はベトナムを筆頭とする東南アジア市場に注目している。依然として新興市場から目を離していないという意味だ。昨年、ベトナムで最も多く販売された自動車ブランドはトヨタ(9万1115台)、現代自動車(8万1582台)、起亜(6万729台)の順だった。日本車の販売台数が圧倒的だったインドネシアでも、現代自動車は立地を広げている。ハイ投資証券のコ・テボン リサーチ本部長は「インド、ASEAN、アフリカ、南米、東欧市場では、依然として内燃機関車・小型車(Bセグメント)の販売が多いが、現代自動車はこの車種で競争力がある」と述べた。チョ・チョル先任研究委員は「市場の状況変化が大きいため、企業の弾力的な対応力が一層重要になった」と話した。

 

●プーチンを「クソバカなじいさん」と罵ったブリコジン、ついに切り捨てられたか… 5/25
自分の判断が全体を危うくしているにもかかわらず、失敗の責任はすべて下の者になすりつけ、平然としている―そんな権力者はいつの時代でも存在する。彼らの「歪んだ」頭の中を解き明かす。
クソ馬鹿なジイさんめ!
「『ジイさん』が最終的に"クソ馬鹿"であることが明確になったら、国はどうすればいい? 戦争にどうやって勝てばいいのか?」
ロシアのSNS「テレグラム」の動画内でこう怒りをぶつけたのは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者でオリガルヒ(新興財閥)のエフゲニー・プリゴジンだ。
動画が公開されたのは、戦勝記念日にあたる5月9日のこと。そんな国の祝日に水を差すかのように、彼が口汚く「クソ馬鹿なジイさん」と罵る相手こそ、ウラジーミル・プーチン大統領その人だ。
プリゴジンが激昂するのは無理もない。ウクライナとの戦争が長期化する中、要衝バフムトの前線を維持してきたワグネル。しかし激戦の中、弾薬が底をつき始めていた。
「弾薬が70%足りない。ショイグ(国防相)、ゲラシモフ(参謀総長)! 弾薬はどこにあるんだ」
5月5日、プリゴジンが必死に訴えると、後日、弾薬が届いた。ところが、肝心の量は要求のたった10%。それどころか、「バフムトの陣地を離れたら、祖国に対する国家反逆罪になる」という脅し付きだったのだ。
「この戦争のみならず、シリア内戦の時も、プリゴジン率いるワグネルはロシアの正規軍よりも最前線に立って戦ってきました。それもすべては、『盟友』プーチンのために他なりません。しかし、ここ最近のやり取りから、プーチン側はプリゴジンを切り捨てたように見えます」(筑波大学名誉教授の中村逸郎氏)
プーチンとプリゴジンの出会い
そもそも、プーチンとプリゴジンが長きにわたり蜜月関係にあったことは周知の事実だ。共にサンクトペテルブルク出身である2人が接近したのは1996年に遡る。
ホットドッグチェーンの立ち上げで財を成したプリゴジンは、サンクトペテルブルクに高級レストラン「スターラヤ・タモージニヤ」を開店する。ここに頻繁に通っていたのが、当時同市副市長のプーチンだった。カムチャツカ産のカニサラダ、カスピ海の最高級キャビア……プーチンの注文に対し、プリゴジンは自ら給仕を買って出たという。
拓殖大学海外事情研究所特任教授の名越健郎氏はこう語る。
「表向きはレストランなどの経営をしていたプリゴジンですが、裏では闇カジノに携わっていました。当時、プーチンはサンクトペテルブルクの闇カジノ撲滅委員長でもありました。そこでプリゴジンが『ウチのカジノだけはお目こぼしを』と取り入ったことで、親密になったと推測されます」
以降、プーチンはうまみのある学校給食の委託などでプリゴジンを重用する。その見返りとして、プリゴジンも自らの手を汚した。ワグネル以外にも、サイバー戦組織を指揮し、プーチンに有利に働くよう、ネット上の言論操作を行っている。
●ロシア義勇兵が「打倒プーチン政権」…国内で戦闘 攻撃に“2つの目標”? 5/25
ウクライナと国境を接するロシアのベルゴロド州に武装組織が侵入し、攻撃を行いました。ロシア側は「ウクライナのテロリスト」としていますが、武装組織側は“ロシア人で構成されたプーチン政権の打倒を目指す組織”と主張しています。ロシア政治に詳しい専門家によると、今回の攻撃には“2つの目標”があるということです。
ロシア国防省が23日に公開した映像では、上空から建物などを狙った攻撃が行われていました。使われているのは、ミサイルなのか、対象が次々と破壊されていきました。
攻撃を受けていたのはウクライナではなく、ロシアのベルゴロド州。ウクライナと国境を接する地域です。
ロシア国防省は、「ウクライナがロシア国内に侵入し、こうしたテロ攻撃を行っている」と主張しています。その上で「武装勢力を撃退した」と発表しました。
ロシア国防省 報道官(23日)「70人以上のウクライナのテロリスト、4台の装甲車、5台の自動車を全滅させた」
攻撃を受けた町で響いたのは、今までロシアでは耳にすることがなかった砲撃音です。町にいた人は「あたりが血まみれで…」と話していました。
危機感を訴えたのは、ベルゴロド州のグラドコフ知事です。自身のTelegramに投稿した動画では、「市民がパニック状態です。落ち着いて行動することが大切です」と話していました。
いよいよウクライナの反転攻勢が始まったようにも見える展開になっています。
ロシアのペスコフ大統領府報道官は「ウクライナがベルゴロド州を突破しようとした」とプーチン大統領に報告しました。しかし、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は「出来事を興味深く見守る」とした上で、ウクライナの関与を否定しました。
こうした中、「攻撃を行った」と名乗り出たのが、ロシア人で構成された「ロシア自由軍団」を名乗る武装組織です。
「ロシア自由軍団」(ベルゴロド州・22日公開)
「私たちは皆さんと同じロシア人です」
「ロシアの子どもは平和なロシアで育てられ、自由になってほしいのです。しかし、現在のプーチン政権のロシアでは不可能です。クレムリンの独裁を終わらせる時だ!」
こうした組織は他にもあります。
「ロシア義勇軍団」を名乗る組織も「ロシアを攻撃した」と主張。「ロシア自由軍団」と同じく、ロシア人で構成されたプーチン政権の打倒を目指す組織だといいます。
SNSに投稿された動画では、ベルゴロド州内でメンバーが「プーチンじいさんは完全に終わりさ」と話していました。また、装甲車両に乗って走る動画では、メンバーの腕に、ウクライナの国旗のようなものが巻かれていました。
ウクライナとの国境にあるロシアの検問所から煙が上がる中、攻撃の成功を祝うような記念写真も撮っていました。
ロシア人の反政府組織のメンバーは、「4000人にも及ぶ」と専門家は話します。
ロシア政治に詳しい慶應義塾大学・廣瀬陽子教授
「目標が2つあって、まずプーチンの治安部隊を打倒・せん滅したいというのが1つ目」
「もう1つが『抵抗の拠点を作り出すことは可能だということを、ロシア人に教えたい』っていう目的もあるようです」
「プーチンに抵抗しても無駄だから我慢しようと皆思っているんだろうけど、こういう風に戦えばちゃんと抵抗できるんだよっていうことを見せたい」
ロシア自由軍団は、「ベルゴロド地方の解放を続けている」と主張しています。
●プーチン大統領 旧ソビエトの首脳を集めた国際会議を開催  5/25
ロシアのプーチン政権は、旧ソビエトの首脳たちを集めた国際会議をモスクワで開催し、結束を強調したほか、首相が中国を訪問して習近平国家主席と会談するなど友好国との連携強化で欧米側に対抗する姿勢を一段と強めています。
ロシアが主導する旧ソビエトの5か国が加盟するユーラシア経済同盟の会合が24日、首都モスクワで始まり、プーチン大統領が演説しました。
このなかで、プーチン大統領は「一部の専門家はロシアの経済が崩壊することを予想したが、それは起きず、今後も明らかに起こらない」と述べ、欧米側がロシアに対して経済制裁を強化する中、強気の姿勢を示しました。
会合には同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領のほか、中央アジアのカザフスタンやキルギスの首脳らが出席し、プーチン大統領としては旧ソビエト諸国の結束を強調した形です。
また、24日は中国の北京を訪れていたロシアのミシュスチン首相が中国の習近平国家主席と会談し、ミシュスチン首相は、「世界的な支配を維持し、その考えを各国に押しつけるために違法な制裁を利用する西側諸国の企てに私たちはともに立ち向かっている」と述べました。
欧米側はG7広島サミットなどでウクライナに対する軍事支援などで結束を示していて、これに対してロシアは友好国と連携を強化することで、欧米側に対抗する姿勢を一段と強めています。
●習近平主席 ロシア首相と会談 プーチン氏「制裁で経済崩壊しない」 5/25
中国の習近平国家主席は、24日、ロシアのミシュスチン首相と北京で会談し、G7(主要7カ国)広島サミットで中ロに対し厳しい姿勢を示した欧米などに対抗する姿勢を示した。
中国国営メディアによると、習主席は会談で、「両国が引き続き各分野での協力をより高いレベルに押し上げることを期待する」と述べ、経済や貿易、エネルギー分野などで協力を強化していく考えを示した。
一方、ミシュスチン首相は「今後も首脳間の定期的な会談を強化することで合意した」と、結束を強調した。
こうした中、同じ日にロシア・モスクワで行われた、ロシアを中心とするユーラシア経済同盟の会合で演説したプーチン大統領は、「西側の制裁で経済は崩壊しない」とあらためて主張し、中国などとの経済協力の重要性を強調した。
●ロシア政治弾圧 厳冬の後には必ず春が 5/25
ロシアの人権団体によると、ウクライナ侵攻に反対して当局に拘束された人は二万人近くに上る。プーチン政権の反対派への弾圧は目に余る。罪なき人々の釈放を要求する。
反体制活動家ウラジーミル・カラムルザ氏(41)は昨年三月、米アリゾナ州議会で演説し「クレムリンの独裁体制による侵略戦争」において「ロシアは戦争犯罪を重ねている」とプーチン政権を糾弾した。翌四月にロシア当局に逮捕され、今年四月に国家反逆罪などで懲役二十五年の判決を受けた。
プーチン政権の言論封殺と人権弾圧に異を唱え続けたカラムルザ氏は、拘束中の昨秋、欧州評議会が人権活動を顕彰するハベル人権賞を受賞した。ノーベル平和賞候補にも名が挙がっている。
二度にわたって原因不明の臓器不全を起こして死線をさまよったことがあり、カラムルザ氏は二件とも当局による毒殺未遂事件だと主張している。
プーチン政権は侵攻以来、社会の締め付けを強め、軍を侮辱したとか、虚偽情報を広めたという理由をつけて、反戦を唱える市民を相次ぎ拘束している。
科学者が国家反逆罪で逮捕される事例も目立ち、末期がん患者の科学者は逮捕後間もなく拘置所で死亡した。米紙ウォールストリート・ジャーナルの記者はスパイ容疑で拘束中だ。
政権が異論を躍起になって抑え込むのは「権威主義体制にとって最も危険な存在は、真実を語る人々だ」(カラムルザ氏)からだろう。長引く戦争に国民は先行きの不安を抱きながらも、恐怖が沈黙を強いる。
それでも時代は変わっていく。
最終陳述に立ったカラムルザ氏は「厳冬であっても、その後には必ず春がやって来るように、この国を覆う闇が晴れる日はいつか必ず訪れる」と語り、こう続けた。
「その時われわれの社会は目を開き、残酷な犯罪を重ねたことを知っておののく。ロシアが文明国家へ再生するために、そこから長くてつらい道のりが始まるのだ」
そう、希望を捨ててはならない。
●エネルギー価格、「経済的に正当な」水準に近づく=ロシア大統領 5/25
ロシアのプーチン大統領は24日、エネルギー価格が「経済的に正当な」水準に近づいており、ロシアはエネルギー供給に関する義務を引き続き果たしていると述べた。
モスクワで開催されたユーラシア経済連合(EEU)の会議で、欧州のエネルギー不足に関する問題も提起。ベラルーシ、カザフスタン、キルギスの首脳陣に対し「今、エネルギー価格が経済的に正当な水準に近づいていることはありがたいが、いったい誰のせいなのか。西側諸国がロシアからドイツに天然ガスを送る海底パイプライン『ノルドストリーム1』を破壊し、『ノルドストリーム2』(の操業)を開始しなかった」とした。
サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が23日、来月4日の石油輸出国機構(OPEC)プラスの会合を控え、今後も空売り筋を「痛めつける」と発言し、空売り筋に注意を促したことで、市場では追加減産観測が高まったが、今回のプーチン大統領による価格に関する発言はOPECプラスの政策方針に直ちに変更がないことを示唆している可能性がある。
●「ウクライナ、戦争中はNATO加盟はできない」=ストルテンベルグ事務総長 5/25
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は24日、戦争が続いている限り、ウクライナはNATOに加盟することができないと述べた。
ブリュッセルで開催された米ジャーマン・マーシャル・ファンド主催のイベントで「戦争中の加盟は議題にならないことは誰もが理解した」と指摘。「問題は戦争終了時にどうなるかだ」とした。
また、ウクライナのNATO加盟を巡る取り組みにおいて、加盟国間に相違があるとした上で「もちろん、NATOで意思決定を行う唯一の方法はコンセンサスを得ることだ。現在、協議が行われている」と言及。この件を巡りリトアニア首都ビリニュスで開催されるNATO首脳会議での最終的な判断がどうなるかについては「誰も正確に伝えることはできない」とした。
●グローバルサウスの時代の到来 5/25
ウクライナでの戦争の歴史が書かれる時、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領が先日発表したアフリカ諸国による和平調停団が脚注にも入らないと考えてまず間違いないように思える。
最近では調停を名乗り出る国が多々あり、南アはいずれにせよ、ウクライナとの仲介役として信用されるにはロシアと親しすぎると見られている。
米国一極時代が終わった後に存在感
だが、ポスト一極世界の台頭の歴史が書かれる時には、難題に挑もうとしたアフリカの首脳たちは言及に値するだろう。
アフリカ6カ国の国家元首が欧州の戦争の前線を行き来するという考えは、西側諸国がアフリカで重ねた介入との見事な対比になるだけでなく、「グローバルサウス」の国々が強める自己主張、そして自分たちの時代が本当にようやく訪れたという意識を浮き彫りにするからだ。
この現象は2008年の金融危機を受けて古い世界秩序がほころび始めて以来、多くの場所ではっきり見て取れた。
だが、ウクライナでの戦争が流れを一気に加速させた。
西側以外の多くの国がウクライナに対する西側の全面支援をながめ、偽善的な大国がまたしても医療や気候変動といった大きな世界的問題を差し置いて自国の利益と懸念ばかりを優先していると受け止めた。
これらの国は2つの大きな機会も感じ取っている。
一つは米国と中国を互いに競わせること、もう一つはとうの昔に行われるべきだった1945年以降の世界秩序の書き換えだ。
BRICSが「中国クラブ」と化す?
革命的な勢力になることを目指すあらゆる連合と同じように、この刷新された「非同盟運動」は、互いに著しく異なり、往々にして対立する利益を持ったグループだ。
一部の国は中立だと主張することも難しい。
今年8月に南アのダーバンで開催されるBRICSサミット(首脳会議)は、こうした矛盾の騒々しいショーケースになる。
BRICSは独裁的な国家であるロシアと中国、大きな民主主義国であるブラジルとインド(後者は中国の台頭をひどく警戒している)、そしてホスト国で格下の加盟国に当たる南アで構成される。
今では、イランを含む10カ国以上の国がグループへの参加に関心を示している。
これらの国が加われば、世界一退屈な頭文字を生む恐れがあるだけではない。
特にインドとブラジルにとってのリスクは、BRICSが発展途上国の非同盟フォーラムではなく、「中国クラブ」になる方向へますます傾くことだ。
だが、それでも各国に共通する明らかな利益と目標がある。
今の姿の世界を代表するように国連安全保障理事会を再編すること、ブレトンウッズ機関を見直すこと、世界の準備通貨としての米ドルに挑むこと、米国主導の経済制裁システムに対抗することなどがそれに当たる。
こうした目標はすべてが達成可能ではないかもしれないが、元祖「非同盟運動」が1955年にインドネシア・バンドンでの初会合で掲げた雑多な狙いよりは、かなり明瞭だ。
また当時、運動の参加国が世界経済に占める割合は微々たるものだったが、今は違う。
「当時はただ話し合うだけの場だった」
30年にわたってグローバルサウスの台頭を研究し、直近では資産運用会社ナインティーワンのケープタウン在勤ストラテジストを務めたマイケル・パワー氏はこう語る。
「だが、今では互いの貿易を現地通貨で行い始めるべきかどうかについて語っている」
西側諸国が取るべき道
では、西側はどうすべきなのか。
手本を示すことで先導し、世界秩序の改革についにコミットし、言葉をもっと慎重に選ぶべきだ。
主要7カ国(G7)サミットの共同声明を書いていた人に助言を与えられたとすれば、現在ワシントンで飛び交っている「fence-sitter(どっちつかずの国)」や「geopolitical swing states(地政学的なスイングステート)」といった流行語を避けろ、というのが簡単なアドバイスだった。
スイングステートの比喩――米国の大統領選のように「我々は4年に1回だけ、あなた方に注目する」と言うかのようなたとえ――は、視野が狭いとまで行かなくても、相手を見下す帝国の自意識をうかがわせる。
「我々はルールに基づく体制ではなく、ルールに基づく国際体制について語るべきだ」と西側の外交官は言う。
「そして戦争について語る時には、欧州の平和だけでなく、我々がどんな世界に暮らしたいかという話にするべきだ」
具体的に言えば、バイデン政権は「I2U2」(ロック歌手ボノにひらめきを得たグループなら面白いが、これはインド、イスラエル、アラブ首長国連邦=UAE、米国を指す)から日本、米国、オーストラリア、インドによるアジア太平洋地域の安全保障の枠組み「Quad(クアッド)」まで、それぞれの地域に合わせた連携関係を構築してきた。
しかし、中国も忙しく会合を招集してきた。
習近平国家主席は5月、ロシアの裏庭である中央アジア諸国のサミットを主催し、ウクライナでの戦争はロシアの世界的な影響力を拡大するどころか、潜在的な中国従属を加速させたとする歴史家のセルヒー・プロヒー氏の説を裏付けた。
非同盟ゲームを制する
新しい世界秩序はもちろん、実現するより宣言する方が容易だ。
1991年にはジョージ・H・W・ブッシュ米大統領が新秩序について語った。1年後、その言葉は空しく響いた。
ボスニアが戦火に包まれたからだ。
また、新たな針路を進むのが難しいと感じる国もあるだろう。ロシアと戯れた南アの不器用なダンスは、非同盟ゲームの悪い見本となる実例だ。
バイデン政権がこの不規則行為について南アを罰する気がないように見えるのは幸運だった。
だが、インドやインドネシアといった国々は、このゲームを上手にプレーしている。
ウクライナでの戦争が終わる時、その背景にあるのは2022年2月のそれよりも微妙な世界秩序だ。
これは当時より複雑で、恐らくより危険な世界になる。
だが、一部の非同盟国にとっては機会の多い場所でもある。そして、この秩序は根を下ろす。
●ロシアの石油収入急減=西側、ようやく戦闘機供与へ―反転攻勢は秋以降か  5/25
ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の経済制裁の主要な柱の一つである、ロシア産原油の上限価格設定の効果が出始め、同国の石油収入が半減。軍事予算の執行にも影響が出そうだ。
こうした中で、主要7カ国(G7)は5月の広島サミットで一歩踏み込み、ロシアの”侵略に不可欠なすべての品目”の輸出制限措置を強化することになった。また、米国はこれまで拒んできた、欧州諸国による米製のF16戦闘機のウクライナへの提供をようやく認めた。戦闘に投入されるのはパイロットの訓練に時間がかかることもあり、秋以降になるとみられるが、その規模によっては戦局に少なからず影響を及ぼしそうだ。
中印が“漁夫の利”
ロシアのウクライナ侵攻が始まった直後、西側諸国はロシア産原油の禁輸に踏み切ったが、これは裏目に出て世界の原油価格は高騰し、ロシアの石油収入は急増した。 
こうした中でG7諸国は昨年6月、ドイツで開いたサミット以降、石油に関する新たな制裁を検討。12月に欧州連合(EU)は米国の意向も汲んで、西側の海上インフラへのアクセス権と絡めて、ロシア産原油の上限価格を設定するメカニズムを発表し、実行に移した。
このメカニズムが有効に機能するかどうかについての懸念もあったが、ロシアは急激な減産に動くなどの対抗措置に出ることはなかった。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、ロシア産原油の取引価格は最近では1バレル当たり25−35ドルで、これは世界市場の価格を大幅に下回る。こうした中で、“漁夫の利”を得ているのが、西側諸国に代わってロシア産原油の主要輸出先となった中国とインドだ。
国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアの今年4月の石油収入は前年同月と比べて48%減少したという。
石油と天然ガスの輸出はロシアの国家歳入の約4割を占めている。
ロシアは石油収入の急減で大幅な財政赤字となり、これが軍事予算を圧迫し、ウクライナでの戦争遂行に影響する可能性もあるとニューヨーク・タイムズは指摘している。中印両国はロシア産原油価格の上限設定をてこに値引きを迫っているようだ。
世界の原油価格はロシアのウクライナ侵攻を受けて急騰したが、世界景気の減速などもあり、その後2021年末の水準まで戻した。ロシア産原油の下落は世界市場価格の下落幅のおよそ2倍にも達しているとされる。
西側諸国はロシア産原油の中印両国への大幅な輸出増加を対ロ制裁の「抜け穴」と見なしている。インドのロシア産原油の輸入はウクライナ戦争勃発後、それまでの10倍のペースに増えたとされる。
”戦闘機連合“結成へ
米国はウクライナへの戦闘機の提供はロシアとの緊張を高めるとしてためらっていたが、ウクライナ戦争が長期化する中で、欧州諸国の要望もあり、政策を転換した。米国は戦闘機の直接供与には消極的だが、F16の運用のためにウクライナ人パイロットの操縦訓練を担当する。
欧州諸国の中では具体的に英国、オランダ、デンマークがこれまでウクライナにF16の提供を申し出ている。今後、提供国が増えれば、欧州で”戦闘機連合”が結成されよう。
ウクライナ軍はロシア軍に対する、領土奪還のための本格的な”反転攻勢”を近々、開始するとみられているが(本稿執筆時点ではまだ始まっていない)、F16が使えるようになるのは早くても秋以降とみられる。それでもウクライナ軍はドイツから「レオパルト2」、英国から「チャレンジャー」など欧州諸国から合計数十台の高性能戦車を供与されており、対ロシアでの戦力バランスがどのように変わるか注目される。
反転攻勢が予想より後れているのは、ウクライナで4月、例年以上の降雨があり、地面のぬかるみがひどいせいだとされる。ウクライナは欧米諸国の一部で同国への”支援疲れ”が見られ始める中で、反転攻勢を成功させ、同国への支持を強固にしたい意向だ。
そうした中で、ウクライナのゼレンスキー大統領が広島のG7サミットに直接乗り込んで、同国への支援を直接訴えたことで、G7はウクライナ支援で結束を再確認する機会を得たといえよう。
●ウクライナからの越境攻撃に米製高機動多用途装輪車「ハンヴィー」 5/25
ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は24日、ウクライナと国境を接する地域にウクライナ側から侵入してきた戦闘員らが米国製の軍用装備を使用していたことを明らかにした。これはウクライナ紛争への西側の関与が拡大していることを示すものだと述べた。
ロシア軍は23日、西部ベルゴロド州にウクライナ側から侵入してきたとする戦闘員の集団を、2日間にわたる戦闘の末に撃退したと発表した。
ロシア国防省が公開した、破壊された車両とされる映像には、米国製の軍用高機動多用途装輪車「ハンヴィー」などが写っていた。
ロイターは、映像にある損傷車両の位置を、ウクライナ北東部との国境に近いロシア国境の検問所、グライヴォロンであると確認した。ただ、撮影された日付は確認できなかった。
ロシアのショイグ国防相は24日、ウクライナの武装勢力による越境襲撃に迅速かつ「極めて厳しく」対応すると約束した。
ペスコフ報道官は、ウクライナ軍にますます多くの装備が届けられていることは明白で、そうした装備がロシア軍に対する攻撃に使用されていることも明らかだ。この紛争への西側諸国の直接・間接的関与が日に日に高まっていることは、われわれにとって周知の事実だ。われわれは適切な結論を出す」と述べた。
一方、米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、米国製の軍用装備が襲撃に使用されたとの報告について、現在調査中だと述べた。また、米国はロシア国内で米国製軍備を使用しないようウクライナ側に明確に伝えているとした。
国務省のマシュー・ミラー報道官は23日、「これらの報告の信ぴょう性は現時点では低い」と述べていた。
●プリゴジン氏 ウクライナ侵攻批判「目的ない」 5/25
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏はウクライナ軍を「世界最強の軍隊になった」と称賛する一方で、ウクライナ侵攻については「同族の戦いで目的がない」と批判しました。
プリゴジン氏は23日に公開されたインタビューで、敵対するウクライナについて、「ロシアが非武装化しようとした結果、世界最強の軍隊の一つになった」と称賛しました。
一方でウクライナへの侵攻については、「同族同士の戦いで具体的な目的がない」と侵攻自体を批判しました。
ただ、プーチン大統領の責任には言及せず、国防省やエリート層の責任だとしています。
また、プリゴジン氏は、ウクライナが準備を進める大規模な反転攻勢を念頭に戒厳令の導入と新たな動員が必要だと主張しました。
●ウクライナ軍「世界最強の軍の一つ」 ワグネル創設者「非武装化」失敗と主張 5/25
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏は23日に公開されたインタビューで、ウクライナ侵攻をめぐり目標とした「非武装化」に失敗し、ウクライナ軍は「いまや世界最強の軍隊の一つになった」と述べました。
そのうえで、ショイグ国防相らエリート層に責任があるとし、ウクライナ側の反転攻勢に備え、戒厳令の導入と新たな動員が必要だと主張しています。
こうした中、国営ロシア通信社は24日、ウクライナ軍の消息筋の情報として、ザルジニー総司令官が今月初めに前線で負傷し、手術を受けたと報じました。
命は取り留めたものの任務の継続は困難との見方を伝えていますが、ウクライナ側はザルジニー氏の動静を伝えていて真偽は不明です。
●ウ軍反転前に防衛線かく乱か、ロシアへの越境攻撃 5/25
ウクライナ領からロシア西部ベルゴロド州に武装集団が侵入する事態が起きたことで、ロシアはウクライナが大規模な反転攻勢準備を進めている最中に前線から部隊を移動させざるを得なくなったと、軍事アナリストらは解説する。
ウクライナ側は武装集団による攻撃への関与を一切否定している。しかしロシアのウクライナ侵攻以来で最大の越境攻撃が、ウクライナ軍と連携しているのはほぼ間違いないと専門家らはみている。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアナリスト、ニール・メルビン氏は「ウクライナ側はロシアを別方向におびき寄せてすき間を作ろうとしている。ロシア側は増援部隊を送らざるを得なくなっている」と指摘する。
今回侵入した場所は、ウクライナ東部ドンバスの戦闘中心地から遠く離れており、北部ハルキウの前線から約160キロに位置する。
「(ロシア軍は)これに対応して部隊をその場所に送るとともに、国境地帯全域に多くの部隊を張り巡らせる必要が生じる。ウクライナ側がそこから侵入しないかもしれないにもかかわらずだ」とメルビン氏は語る。
ロシア軍は23日、ベルゴロド州を攻撃した武装集団を22日に装甲車で撃退したと主張。「ウクライナ人の国家主義者」70人以上を殺害し、残りの集団をウクライナ側に押し戻したと説明した。
ウクライナ政府は、攻撃はロシア国民が行ったもので、内部闘争だとしている。ウクライナで活動している「ロシア義勇軍団(RVC)」と「自由ロシア軍」は攻撃を認める声明を出した。
こうした集団は、ロシアによるウクライナ侵攻に伴って生まれた。ウクライナ側と共闘して自国軍と戦い、プーチン大統領の打倒を目指すロシアの志願兵を募っている。
ロンドンのコンサルティング会社、マヤク・インテリジェンスのマーク・ガレオッティ代表によると、この2つの集団は、リベラル派から無政府主義者、ネオナチに至るまで、プーチン政権に反対するロシア人で構成されている。
「彼らは微力ながらプーチン体制の打倒に貢献したいと願っている。だが同時に理解しておくべきなのは、彼らが独立部隊ではないことだ。(中略)ウクライナ軍の諜報機関に管理されている」とガレオッティ氏は指摘する。
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は、同国はこの攻撃と無関係であるとの立場を再確認した。
米国は、ウクライナによるロシア領土への攻撃を「可能にしたり奨励したり」していないと説明。ただ、どのように軍事行動を展開するかはウクライナ政府が決めることだとしている。
ロシア領土への侵入はここ数カ月で何度か起きているが、今回は最大規模だった。とはいえ前線の戦闘に比べると微々たる規模だ。
2014年の意趣返し
自由ロシア軍の政治組織の報道官、アレクセイ・バラノフスキー氏はキーウ(キエフ)でロイターに対し、攻撃に加わった部隊の数は開示できないとした上で、4つの大隊を抱えていると明かした。大勢の死者が出たとするロシア側の報告は偽情報だと切り捨てた。
バラノフスキー氏は、自由ロシア軍はウクライナの外国人部隊の一部であり、従って同国軍の一部だと述べた。ただ、今回の侵入についてウクライナ当局との調整があったことは否定した。
「武力を通じてプーチン体制を打倒するという主要目的に向けた第一歩だ。他に方法はない」と語った。
マヤク・インテリジェンスのガレオッティ氏は侵入について、ウクライナが計画する反転攻勢を前に、同国が戦場を「形成する」作戦のように見えると指摘する。
「2つのことを行う良いチャンスだ。1つはロシア側を揺さぶり、自国民による蜂起の可能性を恐れさせること。第2に、ロシア部隊を散り散りばらばらにすることだ」と同氏は言う。
RUSIのアナリストのメルビン氏は、越境攻撃はウクライナ側の士気を高めることにも寄与したと解説する。
ウクライナ当局の説明は、2014年にクリミア半島を併合したときのロシアの説明とよく似ている。ロシアは当初、侵攻したのがロシア人の部隊であることを否定していた。
ポドリャク大統領府長官顧問はベルゴロド州への侵入について、ロシア国民から成る「地下のゲリラ集団」によるものだと主張。「知っての通り、戦車などロシアのどこの武器店でも売っている」と続けた。
これは2014年、クリミア半島に記章のないロシア軍のユニフォームを着た男性らがいることについて問われたプーチン大統領が、「店に行けばどんなユニフォームでも手に入る」と答えたのをなぞった発言のようだ。
ソーシャルメディアでは、ウクライナ人が「ベルゴロド人民共和国」を語る投稿が出回っている。これは2014年、ウクライナ東部のドネツク、ルハンスク両州でロシアの支援を受けた民兵らが「人民共和国」を宣言したことへの意趣返しだ。
ウクライナではまた、昨年2月のロシア侵攻直後にゼレンスキー大統領がキーウから「私はここにいる」と語った有名な演説動画も拡散されている。ただし動画の背景にあるのは大統領府ではなく、ベルゴロド州へ「ようこそ」というサインだ。
●貧相なロシア戦勝記念日に悲惨な軍の実態……追いつめられるプーチン 5/25
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻。両国共に真っ向から対立する状況が続いてきたが、ここにきてロシアの“弱体化”があらわになってきた。国家の一大行事である軍事パレードや内部から漏れ出る実態から見えるロシアの行く末は、想像以上に厳しいものになりそうだ。
劣勢を物語るロシア内部の状況
ロシアがウクライナに侵攻してから1年3カ月が経過した。戦争の行く末は、依然として明るい兆しが見えないものの、ロシアのプーチン大統領は日に日に追いつめられている。
5月9日、モスクワでは旧ソ連がナチスドイツに勝利してから78年を祝う軍事パレードが行われたが、参列した兵士は8000人と過去15年で最も小規模となり、例年見られる戦闘機の姿もそこにはなかった。プーチン大統領は、演説で相変わらずウクライナ侵攻の意義を強調。西側がロシアを破壊しようとしていると欧米に強い不満を示し、「われわれの祖国に対して再び“本当の戦争”が行われている」とこれまでの“特別軍事作戦”という言葉を撤回し、“本当の戦争”と強調して訴えた。しかし、その根気強い発言と軍事パレードの様子には大きな温度差があった。
ロシアの劣勢は、5月3日の出来事からもわかる。ロシア政府は同日、プーチン大統領の暗殺を狙ったドローン2機をクレムリン上空で撃墜したと発表。ドローンとみられる小型の物体がクレムリン上空を飛行する映像を公開した。ロシア政府は、ウクライナが実行したと非難したが、今日のウクライナにロシア中枢を狙うメリットや生じるコストを考慮すれば、その可能性は極めて低く、ロシアによる自作自演の可能性が高い。これについては、アメリカのシンクタンクである戦争研究所も同様の指摘をしている。
また、戦争の最前線で活動を続けるロシア民間軍事会社ワグネルの苦戦も、ロシアの劣勢を物語っている。5月5日、ワグネルの指導者プリゴジン氏はSNS上で、「ゲラシモフ、ジョイグ、弾薬が70%足りない、弾薬はどこだ」とロシア軍幹部たちを呼び捨てにし、ロシア中枢に強い不満を示した。その後、プリゴジン氏は要求した弾薬の1割しか届いていないとし、われわれはだまされた、と強い怒りをあらわにしている。
こういった最近のロシアの状況は、その劣勢を顕著に示すものだ。ワグネルの声は戦争の最前線でロシア側が置かれる状況を赤裸々に示し、クレムリン上空でのドローン撃墜でも、ロシア側にはそれによってウクライナ攻撃を正当化しようという狙いだけでなく、国民に対してもその正当性をアピールする思惑があったと感じられる。
大きな誤算を生んだプーチン大統領によるNATOへのけん制
一方、プーチン大統領が追いつめられるのは物理的な側面だけではない。プーチン大統領は長年、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に強い不満を抱いてきたが、今日のウクライナ侵攻はそのNATOを強くけん制する狙いもあったはずだ。
冷戦以降、NATOは東欧の民主化ドミノも相まって徐々に東へ拡大し、今日ではロシアに近接するバルト3国にまで活動範囲が及んでいる。そして、ウクライナ侵攻により、ヨーロッパではロシアへの警戒感が一気に強まり、フィンランドやスウェーデンが短期間のうちにNATO加盟申請を行った。
特に、フィンランドはロシアと1000キロ以上に渡って国境を接しているが、侵攻以降は国内でNATO加盟を支持する声が国民の間で広がっていた。現在は200キロに渡って国境地帯にフェンスを建設中で、今後2、3年で完成するという。そして、2023年4月、フィンランドのNATO加盟が正式に決定し、これでNATOは31カ国体制となった。
東方拡大を続けるNATOをけん制する狙いもあったウクライナ侵攻は、逆にNATOの拡大を誘発し、プーチン大統領は自らの首を自分で絞めている状況にある。集団防衛体制であるNATOの条約第5条には「加盟国1国に対する攻撃は全加盟国への攻撃と見なす」と明記されている。ロシアとしては、NATO加盟国に迂闊に手を出せる状況にはない。
ウクライナが侵攻された背景には、ウクライナがNATO加盟国でなかったからだとの意見も多く聞かれるが、隣国フィンランドがNATOに加盟したことはプーチン大統領にとっても大きな誤算となった。自らが嫌うNATOが1000キロ以上にわたって隣接することになったのだから、プーチン大統領は政治的にも極めて追いつめられるようになったと言えよう。
勢いづくウクライナに対するロシアの反応は
ウクライナのゼレンスキー大統領は、5月21日、広島で開催された主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)にサプライズで対面参加。それに応えてG7首脳は、さらなるウクライナ支援の拡充とロシアに対する追加制裁で一致した。中でもアメリカが、慎重な姿勢を見せていたF16戦闘機の供与を認めたことは大きい。
ウクライナは今後、ロシア側に大規模攻勢を仕掛けると発表しているが、この攻勢によって今後の情勢が大きく変わるとみられる。仮にこれが“とどめの一発”になるようであれば、プーチン大統領はどんな手段に出てくるのだろうか。以前に核使用をちらつかせたことがあったが、今後のロシア側の反応が懸念される。  
●“反プーチン”ロシア人部隊「今こそクレムリンの独裁を止める時だ!」 5/25
ウクライナ情勢が新たな局面に突入。ウクライナと国境を接するロシア側の領土で、工場や町に攻撃が仕掛けられた。
ウクライナ情勢のホットポイントは、国境を越えてロシア側の領土へ…。事態は猛スピードで動いている。
車が進んでいく先に、巨大な煙が黒々と上っている。
火災があったのは、ウクライナと国境を接するロシア南西部、ブリャンスク州の工場だ。
火災の原因はわかっていないが、この工場では、軍事用の部品などを作っていた。
さらに、その隣の州。ロシア・ベルゴロド州では、緑に囲まれた町で白い煙が上がっている。
この町で、2日間にわたって攻撃があり、ロシア側は「1人が死亡、13人がけがをした」と発表している。
ウクライナ政府は関与を否定している。
反プーチン派のロシア人部隊が侵入か
一方、ロシア側の領土に、ある集団が複数侵入していると主張している。
正体は、反プーチン派のロシア人部隊だ。
公開された画像には、「パスポートコントロール=出入国審査」と書かれた板があった。
さらに、別のグループは、ロシア国民に向けてこう訴えた。
反プーチン”ロシア人部隊: 我々はあなたたちと同じロシア人だ。プーチンのロシアは腐りきっている!人々の命よりも、役人の財布のほうが大事なのだ!今こそ、クレムリンの独裁を止める時だ!
ロシア国防省は、「侵入したウクライナのテロリスト70人以上を殺害した」と発表している。
一方、ゼレンスキー大統領は、広島からウクライナへ戻った。
ゼレンスキー大統領は早速、前線の兵士たちを激励した。
国境の両側で加速する動き。ウクライナが準備しているという、“大規模な反攻”と関連してるのだろうか。
●ロシア・ベラルーシ国防相会談 “戦術核配備 合意文書に署名” 5/25
ロシアは、同盟関係にあるベラルーシへの戦術核兵器の配備に関する合意文書をベラルーシ側と交わしたと発表しました。ロシアのショイグ国防相は、国境で高まる脅威に対抗する措置だと主張し、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米を強くけん制した形です。
ロシア国防省は25日、ショイグ国防相が、同盟関係にある隣国ベラルーシの首都ミンスクでフレニン国防相と会談し、ロシアが戦術核兵器をベラルーシ領内に配備する合意文書に署名したと発表しました。
ショイグ国防相は「両国の国境における脅威が急激に高まっている中で、対抗措置を取らざるをえない。最高司令官の決定に従って配備に向けた作業を進める」と述べました。
一方、ショイグ国防相は「ロシアがベラルーシに核兵器を引き渡すことはない。核兵器の管理や使用については今後もロシアが決定する」と述べ、特別な保管施設で管理するとして「国際法を順守したものだ」と主張しました。
ロシアのプーチン大統領はことし3月、戦術核兵器をベラルーシに配備すると表明し、ことし7月1日までに保管施設を建設すると発表していました。
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナへの軍事支援を強化する欧米を強くけん制した形で、今後、欧米からの非難も予想されます。

 

●プーチンと「尻尾切り大国ロシア」で起きている疑心暗鬼合戦 5/26
ついにプリゴジンを「切り捨て」たかに見えるプーチン。
『プーチンを「クソバカなじいさん」と罵ったブリコジン、ついに切り捨てられたか…止まらない「トカゲの尻尾切り大国」ロシアの末路』に引き続き、あわれな権力者とそれに支配される国の末路について紹介する。
なぜ「尻尾」を切ったのか
なぜプーチンは、そんなプリゴジンを容赦なく切り捨ててしまったのか。一説には、プリゴジンの政治的野心と反乱を抑えるためと考える向きがある。前出の中村氏が語る。
「プリゴジンに弾薬を渡すと、ウクライナとの戦争のために使わず、ロシアに攻め上がってくるのではないか、といった報道が出ています。それによれば、プリゴジンの目的は、自分がロシアの大統領になること。ここへきて、ウクライナと手を組み、軍事クーデターに動く可能性が出てきています」
実際、5月14日には、プリゴジンがウクライナ政府に対してロシアの侵攻部隊の位置情報提供を提案した、と米ワシントン・ポストが報じている。
だが一方で、プリゴジンの粛清はあまりにも合理性に欠ける、という意見もある。前出の名越氏もそう考える一人だ。
「このままワグネルが前線地帯から撤退すれば、ロシアはより敗色濃厚になります。それにプリゴジンは今や愛国勢力の英雄的存在で、彼を支持する軍事ブロガーたちにもフォロワーが100万人ほどいる。それらを敵に回すと考えれば、プリゴジンを粛清することなど正気の沙汰と思えません」
はたして「皇帝」は何を考えているのか―おそらくは、この戦争泥沼化の失態の責任を誰に押しつけ、自らの身をいかにして守るかということだ。前出の中村氏はこう指摘する。
プーチンとそっくり
「現在の戦況は、完全にロシアがウクライナに負けている状態です。そこで、プーチンはプリゴジンに失敗の責任を取らせようとしているのではないでしょうか。まさに『トカゲの尻尾切り』です」
権力を掌握し、恒久的に維持しようとする独裁者は、けっして自分の非を認めようとはしない。それどころか、「どうせ代わりの者などいくらでもいる」と、下の者に責任を被せて追放し、追及から逃れるのが常だ。
プーチンがプリゴジンにそうするように、独裁者が、かつて盟友だった者に罪を被せ、粛清した事例は過去にも存在する。
ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーが、親友エルンスト・レームを粛清した「長いナイフの夜事件」がそうだ。
レームは、ヒトラーが党首になる前からの数少ない友人であり、互いに「俺」「お前」で呼び合う間柄だったという。そんな彼が率いる軍事組織「突撃隊」は、ナチ党の集会の警備や護衛に加え、反対党の襲撃などの実行部隊を担う、いわばヒトラー子飼いのテロ組織でもあった。
だが、ヒトラーが国のトップに立ち、権力を得ると、徐々に突撃隊が邪魔な存在になっていく。
「突撃隊による過激な暴力活動は、ナチスの暗黒面として批判されている。このままでは自分も糾弾され、権力の座を追われかねない。ならば幕僚長のレームに責任をなすりつけ、一掃すれば、大義名分にもなる。そうとなれば粛清するしかない」
こう考えたであろうヒトラーは、1934年、レーム率いる突撃隊関係者ら1000人以上を処刑。親友をも殺して、トカゲの尻尾切りを完遂したのである。
肥大するナルシシズム
普通の人間であれば、人格を疑われるような責任逃れはそうできない。だが、独裁者は良心の呵責なく尻尾を切り取り、「すぐにまた生えてくる」とばかりに平然としている。そこには、どんな心理が働いているのか。
軍事心理学が専門である同志社大学教授の余語真夫氏が解説する。
「多くの独裁者に共通するのは、サイコパシー(精神病質)、マキャヴェリズム(権謀術数主義)、そしてナルシシズム(自己陶酔症)の3つの特性で構成される『ダーク・トライアド』というパーソナリティ特徴を持つということです。この3つの特性はすべて、他者への無関心や冷淡さに向かう傾向があり、自分の行動で他人に不利益が生じようとも、罪悪感を持つことは一切ないのです」
心理学の世界では、「悪の3大気質」とも呼ばれるダーク・トライアド。中でも、ナルシシズムという特性だけは、時代を問わず、ほぼすべての独裁者が有している。そう指摘するのは、早稲田メンタルクリニックの精神科医・益田裕介氏だ。
「独裁者は自分の目的を達成するため、部下を捨て駒のように扱うのが常です。その結果、次第に周囲は本音を言わなくなっていき、孤独感が募ります。すると、その寂しさを紛らわす心理作用として、自己暗示的に『ナルシシズムの強化』が行われるのです」
こんなプレッシャーに耐えられるのは自分しかいない。周囲は無能な人間ばかり。自分は運命に選ばれている。こうしたナルシシズムは、重度の人間不信と背中合わせだ。
「こうなると、もはや猜疑心の塊となり、誰も信じられなくなってしまう。だからトカゲの尻尾切りも平気で行えるわけです。この精神状態に一度なってしまうと、元に戻ることはほぼありません。プーチンも今、そういった状態にあるのでしょう」(益田氏)
すでにプーチンは、プリゴジンに次ぐ新たな「トカゲの尻尾」を探しているかもしれない。
●ウクライナ情報当局幹部、プーチン氏暗殺に言及=独ウェルト紙 5/26
ウクライナ情報当局幹部がドイツ紙ウェルトのインタビューで、ロシアのプーチン大統領暗殺に言及した。これに対しロシア大統領府は25日、治安当局は職務を心得ていると述べた。
ウクライナ国防省情報総局のスキビツキー副局長はインタビューで、戦争で何が起きるか「調整し決定」するのはプーチン氏だとし、同氏の暗殺を望んでいることを明かした。
また、ウクライナの最重要ターゲットがプーチン氏であることを本人も分かっているとした。
「プーチン氏はわれわれが接近していることに気づいているが、自国民に殺害されることも恐れている」と述べた。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏、ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長、軍司令官のセルゲイ・スロビキン氏らもターゲットに挙げた。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は国営テレビで、スキビツキー氏のインタビューを受けてプーチン大統領の警備を強化したか問われ「治安当局は職務を理解し、万事心得ている」と述べた。
また、インタビューはウクライナに対する「特別軍事作戦」開始が正しかったことを裏付けるものだとし「テロリスト政権がテロの願望を語っている。特別軍事作戦は極めて正当かつ必要であり、目標を達成して完結せねばならない」と述べた。
●プーチン大統領 旧ソビエト諸国の経済協力拡大へ 結束アピール  5/26
ロシアのプーチン大統領は旧ソビエト諸国の首脳を集めた国際会議で演説し、結束をアピールしました。また、同盟関係にある隣国ベラルーシとの間で、戦術核兵器を配備する合意文書を取り交わし、欧米へのけん制を強めています。
ロシアのプーチン大統領は25日、ロシアが主導し、旧ソビエトの5か国が加盟するユーラシア経済同盟の首脳会議で演説し「多極化する世界でわれわれの枠組みが中心の1つとなっている」と述べ、経済協力を拡大させたい意向を示して、結束をアピールしました。
またロシアのショイグ国防相は25日、同盟関係にある隣国ベラルーシでフレニン国防相と会談し、ロシアが戦術核兵器をベラルーシ領内に配備する合意文書に署名しました。
ショイグ国防相は「核兵器の管理や使用については今後もロシアが決定する」と述べ、特別な保管施設で管理するとして「国際法を順守している」と主張しました。
プーチン大統領は7月1日までに戦術核兵器の保管施設を建設するとしていて、欧米側を改めてけん制した形です。
一方、ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は、24日に行われたイタリアメディアとのインタビューで「反転攻勢は数日前から始まっている。1500キロにおよぶ戦線での激しい戦いだ」と述べ、大規模な反撃が始まっているという認識を示しました。
ポドリャク顧問はその後、ツイッターで反転攻勢について、「特定の日時に始まるようなイベントではない。ロシアの占領軍を破壊するため、様々な方面で行われる数十の行動だ。きのうもきょうも行われ、あすも継続される」と投稿し、領土奪還に向けたウクライナ軍の動きに関心が高まっています。
米国務省報道官「ロシアの無責任な行動」
アメリカ国務省のミラー報道官は25日、記者会見で「ロシアが大規模な軍事侵攻を開始して以降、われわれが目の当たりにしたロシアの無責任な行動の最新の例のひとつだ」と述べ、非難しました。
その上で「ロシアが核兵器の使用に向けた準備をしている兆候は見られない」としながらも、「われわれは、化学兵器や核兵器の使用は、厳しい結果を招くと明確にしてきた」と述べ、ロシアをけん制しました。
●旧ソ連首脳、プーチン氏面前で口論 ナゴルノ・カラバフ紛争で前進も 5/26
アゼルバイジャン領の係争地ナゴルノ・カラバフ地域をめぐって衝突してきた旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンの両首脳が25日、ロシアのプーチン大統領を交えてモスクワで会談した。プーチン氏は「事態は解決に向けて前進している」と述べ、近く再び協議することで合意したが、両首脳がプーチン氏の面前で公然と批判し合う一幕もあった。
アルメニアのパシニャン首相は22日、現地のアルメニア系住民の安全が保証されることを条件に、アゼルバイジャンの主権を認めると発言し、アゼルバイジャン側に大きく譲歩する姿勢を示していた。
これに対しアゼルバイジャンのアリエフ大統領は、3者会談の直前にあったプーチン氏との個別会談で、「格段に和平合意に至りやすくなった」と述べ、問題の解決に向けて期待を示した。3カ国はモスクワで「1週間後」に、副首相級で再度会談することになった。
一方、会談に先立って開かれた、ロシアが主導する経済圏構想「ユーラシア経済連合」の首脳会議では、パシニャン氏がアルメニアとナゴルノ・カラバフを結ぶ唯一の幹線道路をアゼルバイジャンが閉鎖したことについて、招待国として出席したアリエフ氏を批判。口論を続ける両氏をプーチン氏がなだめる場面もみられた。
パシニャン氏とアリエフ氏は6月1日にモルドバで、マクロン仏大統領とショルツ独首相を交えて会談する予定。
●反プーチン武装組織「ロシア義勇軍団」 ロシア領内への再攻撃に意欲 5/26
ロシアのプーチン政権の打倒を掲げてウクライナ軍と共闘する武装組織「ロシア義勇軍団」が24日、ロシアと隣接するウクライナ東部スムイ州でAP通信などの取材に応じ、ロシア領内でのさらなる攻撃への意欲を語った。ウクライナに拠点を置く武装組織「ロシア義勇軍団」と「自由ロシア軍団」が越境し、ロシア西部ベルゴロド州で22、23日に軍事活動をしたとされる。ロシア義勇軍団指揮官は「我々はロシア領内に入った」と認めたうえで、「彼ら(ロシア軍)は、多数の戦車を道に配置するまで、我々に対抗できなかった。我々が多くのものを持っていないにもかかわらず、だ」などと、ロシア軍の対応の遅さを指摘。「軍事的、政治的な目標を追求し、そして達成する」と、再攻撃への意欲を示した。AP通信によると、映像の冒頭は両武装組織の兵士が車に乗っている光景で、続いて自由ロシア軍団の旗が写っている。最後は、ロシア製の軍用車に乗っている光景でしめくくられている。なお、ロシア軍はベルゴロド州に侵入した武装勢力の70人以上が死亡したと発表したが、ロシア義勇軍団は24日、死者はなかったとした。
●「ロシア国防省で煙」映像 ロシア「火災はなかった」 5/26
ロシアの首都モスクワの国防省の建物で火災が発生したという報道をロシア当局が即座に否定した。米ワシントンの国防総省の近くで爆発が起きたとする偽の画像のように、人工知能(AI)を活用した捏造論議も起きている。
24日、米CNNによると、ロシア国営タス通信は同日、ロシア国防省の建物のバルコニーで火災が発生し、消防などが現場で対応に当たっていると報じた。アゼルバイジャンのAPA通信のホームページに掲載された映像には、深夜にロシア国防省の建物の片側から煙が立ち上っていた。
しかし、その後、タス通信はロシア非常事態省を引用して、「現場に到着した消防隊は火災を検知しなかった」とし、「火災が発生したのか、死傷者がいるのか確認されていない」と報じた。一部のソーシャルメディアでは、「AI捏造映像(写真)」という疑惑が提起された。
CNNは同日、米情報当局がモスクワのクレムリン宮に対する無人機(ドローン)2機の攻撃がウクライナの仕業である可能性があると明らかにしたと伝えた。2日に発生したクレムリン宮のドローン爆発について、ロシア当局は「プーチン大統領に対する暗殺未遂」と主張した。
ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は、(ウクライナ)戦争が続けば「兵士たちが蜂起し、1917年の(ロシア)革命のような混乱に直面する恐れがある」と主張したと、米紙ニューヨーク・タイムズが同日、伝えた。
●ウクライナ大統領顧問「反転攻勢はすでに始まっている」 5/26
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、ロシアへの反転攻勢について「すでに始まっている」と述べた。
これは、24日に放送されたイタリアメディアのインタビューで語ったもので、ポドリャク氏は「反転攻勢は何日も続いている。1,500kmの国境をめぐる激しい戦いだが、行動はすでに始まっている」と語った。
また、25日には自身のSNSに「反転攻勢はある特定の時点から開始される単体のできごとではない」と投稿したうえで、「さまざまな地域での行動で、昨日も今日も行われ、明日も続けられるだろう」との認識を示した。
●「ロシアが勝つことはない」 ウクライナ侵攻、長期化懸念―米軍トップ 5/26
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は25日の記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻に関して「ロシアが軍事的に勝つことはない」と明言した。同時に、ウクライナ軍がロシア軍の占領地域を解放することも「軍事的に達成可能かもしれないが、短期的には無理だろう」とも述べ、戦闘の長期化に懸念を示した。
●米バイデン大統領 軍制服組新トップにブラウン参謀総長を指名  5/26
アメリカのバイデン大統領はアメリカ軍の制服組の新たなトップに、太平洋空軍の司令官などを歴任した空軍のブラウン参謀総長を指名すると発表しました。
アメリカのバイデン大統領は25日、ホワイトハウスで、アメリカ軍の新たな統合参謀本部議長に空軍のブラウン参謀総長を指名する人事を発表しました。
ブラウン氏は中東地域を管轄するアメリカ中央軍の副司令官や太平洋空軍の司令官などを歴任したあと、3年前から空軍の制服組トップの参謀総長を務めています。
統合参謀本部議長はアメリカ軍のいわゆる制服組のトップとして大統領に軍事的な助言を行う立場で、バイデン大統領は「世界はいま転換点にあり、きょうの決断が世界の将来の方向性を決定づける。われわれは中国との競争を管理していくとともに、ヨーロッパにおける侵攻と対じしなければならない」と述べ、インド太平洋などで指揮をとってきたブラウン氏に期待を示しました。
アメリカメディアは、バイデン大統領がブラウン氏について軍事的な動きを活発化させる中国に精通し、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの軍事支援に関わったことなどを評価したと伝えています。
今後、議会上院が承認しブラウン氏が正式に就任すれば、アメリカの歴史上初めて国防長官と統合参謀本部議長の2つのポストを黒人が務めることになります。 
●「プーチン独裁に終止符を」...自由ロシア軍団による「ベルゴロド反乱」 5/26
ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州で、ロシア政府機関の現地本部などが襲撃され、ロシア治安部隊と戦闘になったという情報がもたらされたのは5月22日のこと。これについて「反プーチン」を掲げるロシア人組織「自由ロシア軍団」の政治代表者を名乗るイリヤ・ポノマリョフが本誌の取材に応じ、自分たちの襲撃によってロシア軍から「戦利品」を奪取したと語った。同氏は、ウクライナに亡命したロシアの元国会議員だ。
「自由ロシア軍団は、多数の戦利品を手にした」。そう話すポノマリョフは、2014年に、ロシア政府によるクリミア併合に反対した唯一の国会議員だ。現在の拠点であるキーウで、本誌の取材に応じた。
自由ロシア軍団は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから数週間後の2022年3月に結成された。所属するのは、ロシア軍からの離反者のほか、ロシア人やベラルーシ人の志願兵だ。
自由ロシア軍団は5月22日、同じく反プーチン派の「ロシア義勇軍団」とともに、ベルゴロド州への越境攻撃を実行。コジンカを制圧したほか、小さな町グライボロンにも部隊が入ったと主張している。
ロシア主力の装甲兵員輸送車4台を奪取
ポノマリョフによると、自由ロシア軍団はこれまでに、ロシア主力の装甲兵員輸送車「BTR-82A」を4台奪取した。BTR-82Aは、ロシア軍事産業会社(Military Industrial Company of Russia)が製造した輸送車で、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、ベラルーシの各国軍で使用されている。
ポノマリョフは、自由ロシア軍団の兵士は現在、ベルゴロド州で「塹壕を掘っている」と述べ、同州で布陣を固めていることを示唆した。さらに自由ロシア軍団は、「ロシアをプーチン主義から解放する」ことを目指していると述べた。同軍団は2023年3月、ロシア最高裁によって「テロ組織」に指定されている。
今後もロシア国内のほかの都市や州に侵入するつもりなのかと尋ねると、ポノマリョフは「状況を見守っていく。現時点では、ロシア全体を解放できるほどの兵力はない」と答えた。現時点で自由ロシア軍団に所属する兵士数は明らかになっていない。
ベルゴロド州への越境が報じられる直前、自由ロシア軍団は、ソーシャルメディアのチャンネルに動画を投稿している。その中で彼らは、ウラジーミル・プーチン大統領による「ロシアの独裁」に終止符を打とうと呼びかけた。
同志である兵士たちの前に立ち、画面に向かって話しかける人物は、「われわれは、あなたたちと同じロシア人だ」と語っている。「われわれの願いは、子どもたちが安心して成長し、自由な人間になって、旅をし、学び、自由な国でただ幸せになることだ」
「独裁に終止符を打つ時がやってきた」
そして、プーチンが支配するロシアは「汚職、偽り、検閲、制限された自由、抑圧で腐り切っている」と述べ、こう続けた。「クレムリンによる独裁に終止符を打つ時がやってきた」
一方、ベルゴロド州のヴャチェスラフ・グラドコフ知事は、「ウクライナ軍の破壊工作・偵察グループ」が同州に侵入したが、ロシア当局が「敵を打ち倒すために必要な措置を講じている」と述べた。
ロシア政府によれば、ベルゴロド州に「ウクライナの破壊工作グループ」が侵入を試みたことを、プーチンは認識している。一方、ウクライナ国防省情報総局は、ロシア義勇軍団と自由ロシア軍団は、「ウクライナ民間人を守るための警戒地域」を打ち立てるために、同州に侵入して作戦を実行したと述べている。
ベルゴロド州への攻撃に参加したもうひとつの組織であるロシア義勇軍団は、2022年8月に結成された組織だ。極右論者として知られるデニス・ニキティンが率いており、3月にはSNSで、ロシア西部ブリャンスク州に侵入したことを公言している。
ロシア義勇軍団は5月25日付けで、テレグラムのチャンネルに短い動画を投稿。そこに映る兵士たちは背後の標識を指で示しながら、同軍団の兵士がベルゴロド州にいることを示している。
●欧米、ウクライナ巡る核リスクを過小評価 プーチン氏側近が警告 5/26
ロシアのプーチン大統領の最側近とされるメドベージェフ安全保障会議副議長は26日、ウクライナが核兵器を入手すればロシアは先制攻撃を仕掛けると表明し、欧米はウクライナを巡る核戦争のリスクを著しく過小評価していると警告した。ロシアの通信各社が伝えた。
ロシアは、欧米がウクライナを巡りロシアと代理戦争を行っていると主張、さらに大きな紛争に発展しかねないと繰り返している。
メドベージェフ氏は「戦争には不可逆的な法則がある。核兵器の場合、先制攻撃が必要ということだ」と指摘。
ウクライナの核保有を認めるということは「核ミサイルが(ウクライナに向けて)飛んでくることを意味する」と述べた。
「アングロサクソンはこのことを十分理解しておらず、こうした事態にはならないと考えているが、ある条件下では起こり得る」とした。
●ウクライナ「反攻作戦」開始 ワグネル撤退で露軍が弱体化 焦るプーチン 5/26
ウクライナがロシア軍への「反攻作戦」を開始した。東部ドンバス地域や南部クリミア半島の奪還を狙う。一方、東部ドネツク州の激戦地バフムトでは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が撤退を始めた。窮地のロシアはベラルーシへの戦術核移転で対抗するが、プーチン大統領の焦りがうかがえる。
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は24日放映のイタリアのテレビ番組で、反転攻勢について「約1500キロの戦線を巡る激しい戦いだが、既に行動を始めた」と述べ、数日前から作戦行動に入っていると指摘した。
英国が供与した巡航ミサイル「ストームシャドー」やドイツ製戦車「レオパルト2」などの兵器について、ロシアが併合したクリミア半島や実効支配するドンバス地域に使用すると明言した。
ロシアが制圧を表明したバフムトでは異変が生じている。ワグネルの創設者プリゴジン氏は25日、同地から撤退を始めたと表明した。全陣地をロシア軍に引き継いで6月1日までに完全撤退し、休養し再編した上で新たな任務に就くという。米シンクタンクの戦争研究所は「ワグネルの代わりに訓練が不十分なロシア軍部隊が戦線に配置される可能性が高い」と分析しており、軍が弱体化する可能性が高い。
こうしたなか、ロシアの戦術核兵器配備受け入れで正式合意したベラルーシのルカシェンコ大統領は25日、自国の準備を整え、「移転が始まった」と明らかにした。戦術核が既に領内にあるのかとの質問には「可能性はある」と答え、明言を避けた。
戦術核配備の狙いについて、元陸上自衛隊中部方面総監の山下裕貴氏は「ベラルーシがウクライナやNATO(北大西洋条約機構)から攻撃を受けないよう抑止力を強める意味合いがあるだろう。ロシア側がルカシェンコ体制を支えようとする思惑もみえ、政治的メッセージの意味合いが強い」と指摘する。
プーチン大統領は3月、国家統合を進めるベラルーシへの戦術核配備を決めたと表明。7月1日までに保管施設が完成すると述べていた。核兵器使用可能な弾道ミサイルシステム「イスカンデルM」をベラルーシに供与し、空軍機の改造も支援した。
今後の展開について山下氏は「ロシア軍はウクライナの前線で窮しており、プーチン氏はNATOの正面に核を配備し、脅すしか選択肢がなく、焦りもうかがえる。核を拡散することで両国に対する欧米の経済制裁がより強まることも予想される」と語った。
●“クレムリンに無人機攻撃 ウクライナ側関与の可能性” 米報道  5/26
アメリカのニューヨーク・タイムズやCNNテレビは24日、今月3日にロシア大統領府がクレムリンに対して2機の無人機による攻撃が仕掛けられたと発表したことについて、ウクライナ側が関与していた可能性があるとする見方を伝えました。
このうちニューヨーク・タイムズは、複数のアメリカ政府当局者の分析として、「ウクライナの特殊機関または諜報機関のいずれかによって計画された可能性が高い」と報じています。
今回の攻撃をめぐっては、ロシア側による自作自演という見方も指摘されていますが、ニューヨーク・タイムズは、ロシア側を傍受した通信内容などから「ロシア当局者は無人機の侵入に驚いたようだ」とする一方で、ウクライナ側からは「ウクライナに攻撃の責任があると信じている」とする通信を傍受したとしています。
一方で、ゼレンスキー大統領や幹部が計画を承認していたかは不明だとし、一部のアメリカ側の当局者は「ゼレンスキー大統領は知らなかったと考えている」とする見方を伝えています。
そのうえで、ニューヨーク・タイムズは「計画はウクライナの最大の軍事支援国であるアメリカの当局者を不快にさせるものだ。バイデン政権はロシアがアメリカを非難し、戦争を拡大させる形で報復に出る危険性を懸念している」と指摘しています。
これに対し、ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は25日ロイター通信に対し「奇妙で無意味な攻撃だ」などとしてウクライナ側の関与を改めて否定しました。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は25日「ウクライナの政権が背後にいることは分かっていたことだ」と述べ、ウクライナ側による攻撃だという主張を強調しました。

 

●《ブラジル》ルーラ、プーチンにロシア行き断る=引き続き和平を求める 5/27
ルーラ大統領は26日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、プーチン氏からの誘いであるロシア行きを断った。同日付G1サイトが報じている。
これはルーラ氏がこの日にSNSで明らかにしたものだ。それによると、ルーラ氏は「6月14日から17日にサンクトペテルブルクで行われる予定の国際経済フォーラムには出席できないと伝えた」という。
ルーラ大統領はロシアのラヴロフ外相を通じて、このイベントに参加するよう依頼されていた。
また、ルーラ氏はこの電話でプーチン氏に対し、ウクライナとロシアの問題に関して、「これまでと同じ立場を貫いており、中国やインド、インドネシアと同様に、ウクライナとロシアが和平に向けて話し合いを行うことを求めている」と伝えたという。
ルーラ大統領はこれまで米国やEUからのウクライナ支援の誘いを断り続けていることから、一部では親ロシア派と見なす向きも存在している。
●経済再生の「5カ年計画」提唱 プーチン氏、またソ連回帰 5/27
ロシアのプーチン大統領は26日、モスクワのクレムリンで開かれた経済団体代表らとの会合で、ウクライナ侵攻後の制裁や欧米企業のロシア撤退で打撃を受けた経済を立て直す「5カ年計画」を提案するよう求めた。
5カ年計画は社会主義のソ連で用いられた国家主導の計画経済の手法。欧米がロシアの国際的孤立を図る中、プーチン氏は冷戦下の経済封鎖に対抗したソ連時代の経験を基に生き残りを模索する意向とみられるが、実効性は未知数だ。
プーチン氏は、経済の効率性向上と現代化のため「創造的企業活動の5カ年計画」を打ち出すことを提唱。職業教育強化など「官民の新しい協力の形」を模索すべきだと述べた。
●プーチン政権批判のロシア高官が機中で突然死… 5/27
G7(主要7カ国)の首脳たちがサミットのために広島に向かっていた頃、キューバの首都ハバナでは、ロシアとキューバの経済協力について話し合う2国間協議が行われていた。ロシアの派遣団は官民合わせて200人を超えるだろうという大規模な協議となったが、その帰路、協議に出席した1人のロシア高官が機中で急死した。この高官は生前、ロシアによるウクライナ侵攻を批判していたといわれ、謎の死として西側メディアの注目を集めている。
死亡したのはロシア科学アカデミーを管轄するロシア科学・高等教育省のピョートル・クチェレンコ次官(46)。5月17日からハバナで開かれたロシアとキューバの経済フォーラムに、ドミトリー・チェルニシェンコ副首相らと出席した。協議を終えて19日午後8時36分、モスクワに帰るためロシアの情報機関の連邦保安庁が運航する政府専用機RSD392便でハバナを出発した。
同機は途中、モロッコのカサブランカに立ち寄り、再びモスクワを目指したが、クチェレンコ次官が突然、体調を崩し重体となった。このため同機は、ジョージアとの国境に近いロシア南部の都市ミネラリヌイエ・ボードゥイの空港に緊急着陸した。医師が駆け付け、機内で蘇生治療を行ったが、クチェレンコ次官は死亡した。クチェレンコ次官の家族には、死因は心臓疾患だと伝えられたというが、公に対しての明確な説明はない。
死亡が伝わった後、クチェレンコ次官がジャーナリストとの個人的な会話の中で、ロシアによるウクライナ侵攻を非難していたことが明らかになった。
クチェレンコ次官と旧知の仲だったという独立系のロシア人ジャーナリスト、ローマン・スーパー氏(38)は、ロシアのウクライナ侵攻以降、身の危険を感じてロシアから出国しているが、出国の直前にクチェレンコ次官と、次官の執務室で面会したという。その際、クチェレンコ次官は「私がロシアを離れることは不可能だ。彼らは私のパスポートを没収している。このファシストによる侵攻後、そのロシアの次官に会うことを喜ぶ世界など、どこにもない」と話していたという。また、スーパー氏が暮らし向きについて尋ねると「抗うつ薬と精神安定剤を同時に服用している」と答えていたという。
スーパー氏はモスクワ大学でジャーナリズムを専攻した後、ロシア国内でジャーナリストとして、またドキュメンタリー映画の監督として活動した。ロシア国内のほか西側の映画祭でも受賞経験がある。クチェレンコ次官とのやり取りは自身のメッセージアプリで明らかにしたが、会った具体的な日時については記していない。
スーパー氏の話が真実だとすれば、クチェレンコ次官はプーチン政権にかなり批判的だったということになり、その死はミステリー性を持つ。さらにミステリー性を増幅させるのは政府専用機の飛行経路だ。
航空機の追跡データによると、カサブランカからモスクワに向かって飛んだRSD392便は、緊急着陸したミネラリヌイエ・ボードゥイ付近の上空を一度通過し、北に約520キロ飛んでいた。そこからUターンするようにミネラリヌイエ・ボードゥイに向かった。
緊急着陸を決めて進路を変えたのは、100万人都市であるボルゴグラードから南に120キロほどの上空だ。人口7万人ほどのミネラリヌイエ・ボードゥイと比べて、どちらの医療体制が充実しているかは一目瞭然だが、RSD392便はボルゴグラードではなく、遠くて、小さな都市を選んだ。
ミネラリヌイエ・ボードゥイに緊急着陸したのは現地時間の20日午後10時40分。その頃ボルゴグラード周辺は曇りで、天候が荒れているということはなかった。
死亡したクチェレンコ次官の妻は、ロシアで有名な目の不自由なシンガー・ソングライター、ディアナ・グルツカヤさん(44)だ。2人の間には15歳の長男がいる。グルツカヤさんは、ロシアが親ロシア系住民を守る目的で軍を送り込み、その後、一方的に独立を承認したジョージアのアブハジア出身。ソ連崩壊に伴う地域紛争に巻き込まれ、家族と共に難民キャンプ暮らしを余儀なくされ、その後、ロシアに移住した。
歌手として成功し、ロシアの数々の音楽賞を獲得。2014年のソチ冬季五輪では、五輪大使として大会のPRに一役買った。そのソチ五輪の直後、ロシアはウクライナ領クリミア半島の併合を決めている。
プーチン大統領のお気に入りのタレントであり、グルツカヤさんもたびたび、プーチン大統領を支持する発言をしている。プーチン政権の障害者政策の「広告塔」的な存在だとの指摘もある。
緊急着陸し、クチェレンコ次官の死亡が確認されたミネラリヌイエ・ボードゥイはアブハジアの近くでもある。「謎の死」は政治的な広がりを見せるのか。
●プーチンの目の前で口論 係争地めぐりアルメニア・アゼルバイジャン首脳 5/27
旧ソ連諸国の首脳が集まった会議で、アルメニアとアゼルバイジャンの両首脳が係争地をめぐり、ロシアのプーチン大統領の目の前で口論しました。
ロシアのモスクワで25日に行われた「ユーラシア経済同盟」首脳会議の席上で、アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領が係争地ナゴルノカラバフをめぐり口論となる一幕がありました。
プーチン大統領が間に入り、その後、ナゴルノカラバフ問題を協議するため、プーチン氏を交えた3者会談が行われましたが、副首相レベルで協議を続けることで合意するにとどまっています。
プーチン氏は旧ソ連圏を勢力圏とみなし、ナゴルノカラバフ問題でも仲介役として存在感を示したいものとみられますが、現地で散発的な衝突が続くなど情勢が安定しない中、欧米も両国を仲介する姿勢を示しています。
一方、カザフスタンのトカエフ大統領は24日のユーラシア経済同盟の会合で、ロシアと連合国家を形成するベラルーシに戦術核兵器を配備する動きをめぐり「いまや核兵器まで共有しようとしている」と述べ、カザフスタンとしては一定の距離を置く姿勢を示しています。
●中国、「ロシアの占領」容認か 特別代表、欧州歴訪終える 5/27
欧州歴訪中の中国政府の李輝ユーラシア事務特別代表は26日、最後の訪問地モスクワでロシアのラブロフ外相と会談し、各国政府とのこれまでの協議内容を報告した。
これに関し、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は西側当局者の話として、ロシアがウクライナ東・南部を占領した状態での即時停戦を呼び掛ける「和平案」を、李氏が仏独などに提示したと伝えた。
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は報道を受けてツイッターに投稿し、「ウクライナ全土の解放を想定しない妥協のシナリオ」だと指摘。「民主主義の敗北、ロシアの勝利、プーチン政権の存続、国際政治での衝突急増を容認するのに等しい」と批判した。
●ウクライナの病院にミサイル攻撃 32人以上死傷「戦争犯罪だ」 5/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日夜のビデオ演説で、中部ドニプロペトロウスク州の州都ドニプロの病院などがロシア軍による激しいミサイル攻撃を受け、民間人2人が死亡、子ども2人を含む30人以上が負傷したと明らかにした。ウクライナ側は「戦争犯罪だ」と強く非難している。
インタファクス・ウクライナ通信によると、ロシア軍の攻撃は26日朝に始まり、病院や動物病院にミサイルが命中し、アパート9棟や民家が破壊されて火災が発生した。
地元市長によると、この攻撃で男性2人が死亡し、負傷者30人以上のうち2人が重体。がれきで埋まった現場では現在も救助作業が続いているという。
ウクライナ大統領府の高官は、病院への攻撃について「ロシア軍が意図的に民間人を標的としている明白な証拠だ」と非難した。地元司法当局は、戦争犯罪として調査を始めたことを明らかにした。
一方、ウクライナ空軍は26日、ドニプロのほか首都キーウや東部地域でも前夜からロシアによる攻撃が続き、ミサイル17発と攻撃用ドローン(無人航空機)31機が使用されたのを確認したと発表した。また、ウクライナ側が、ロシア軍の巡航ミサイル10発、イラン製ドローン「シャヘド」23機、無人偵察機「オルラン10」など2機を撃墜したとしている。
●ロシアが病院施設を攻撃、中国特別代表がロ外相と会談 5/27
ウクライナ東部の都市ドニプロの病院と動物病院にロシアのミサイルが着弾し、少なくとも1人が死亡、23人が負傷した。25日深夜から未明にかけてロシアが発射したとされるミサイル17発、イラン製ドローン(無人機)「シャヘド」31機のうち大半はウクライナ側に撃墜された。
ロシアのプーチン大統領はブラジルのルラ大統領と電話で会談。米共和党のグラム上院議員はキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談した。
ロシア南部の都市クラスノダールの中心部で爆発があり、複数の建物が損傷した。隣接するロストフ州の上空では、防空システムがミサイル1発を撃墜した。現地当局者が明らかにした。ソーシャルメディアのテレグラムでは、爆発直前にクラスノダール上空をドローンのようなものが飛行している映像が共有されている。
ブラジル大統領、ロシア訪問の招待を断る
ロシアのプーチン大統領は26日、ブラジルのルラ大統領と電話会談した際、6月にサンクトペテルブルクで開かれる国際フォーラムに合わせたロシア訪問を招待した。だがルラ氏は、「現時点でロシアには行けないと返答した。それでもインド、インドネシア、中国とともに、平和を模索するため紛争当事国の両者と対話する意欲がブラジルにあることを強調した」とツイッターで明らかにした。
ルラ氏は主要7カ国(G7)首脳会議が開かれた広島でゼレンスキー氏と会談する機会があったが、実現しなかった。
中国政府の特別代表、ロシア外相とモスクワで会談
中国政府の李輝・欧州アジア事務特別代表は26日、モスクワでロシアのラブロフ外相と会談した。
ロシア外務省の声明によれば、ウクライナでの戦争を巡る中国の「均衡の取れた姿勢」に対し、ラブロフ氏は李氏に謝意を伝えた。ロシアは声明の中で、戦争の「政治的かつ外交的な解決」を図る決意を示した。中国側はこれまでのところ、会談に関して何もコメントしていない。
オランダ、戦闘機F16をウクライナに供給の可能性
オランダは、操縦士の訓練後に米国製戦闘機F16をウクライナに供給する可能性が高い。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。
匿名を条件に語った同関係者によれば、オランダ政府はF16機の供給で承認を得るべく、ここ数週間に米当局者との話し合いを進めている。オランダはF16を42機保有するが、このうち24機は同国軍が現在使用中で、2024年半ばまでウクライナには提供できない。残り18機のうち12機は米民間軍事航空会社ドラケン・インターナショナルに売却されることになっていたが、オランダ政府は昨年12月、商業上の機密だとして理由を明らかにしないまま引き渡しを遅らせていた。
国防省報道官は25日、ウクライナにF16を供給する可能性について後日検討するとし、操縦士の訓練が現在の最優先事項だと述べていた。
●ウクライナ復興事業、先行するチェコとポーランドの思惑 5/27
チェコとポーランドの企業が、ウクライナの復興事業獲得を見据え、いち早く行動を起こしている。まだ、戦争が続く中でも、事業拠点の選定を進めたり、具体的な契約締結に乗り出したり、プロジェクトを立ち上げたりする動きまで見える。
これらの企業の幹部やチェコ、ポーランドの政府当局者によると、現時点で進められているプロジェクトの大半は、ロシアの侵攻でダメージを受けた基本的なインフラの復旧が焦点になっている。だが、いったん戦闘が終結すれば、新たな種類の投資案件の出現が期待できるという。
始まった第1段階
チェコ政府のウクライナ復興問題特使、トマス・コペクニー氏は、復興が本格的に始まった時に、受注レースの先頭にいられるのは、今恐れずにウクライナに向かう諸国になると指摘した。
チェコ政府は、2025年までにウクライナで事業を展開しようとする企業を支え、地域の貿易ミッション経由でウクライナ政府と契約を結ぶのを手助けするため、毎年5億コルナ(2350万ドル)を拠出すると約束している。
「各企業や政府は、ウクライナの市場が将来的に大きな商機になると認識している」とコペクニー氏は語り、チェコ企業がウクライナで得る収入は向こう何年間かで数倍に膨れ上がると予想。「ウクライナ復興の少なくとも第1段階は、既に進行している」と言い切った。
ロイターは、合計で十数人の企業幹部や政府関係者から、なお戦場となっているウクライナにおける事業内容や計画に関し、詳しく話を聞くことができた。
確かに復興需要は非常に大きい。ウクライナ政府と世界銀行が共同で試算したところでは、復興にかかる総費用は4110億ドルと、ウクライナの昨年の国内総生産(GDP)見込み額の2.6倍に上る。
ポーランドの銀行ペカオは、こうした復興需要によるポーランド経済の押し上げ効果は最大1890億ズロチ(456億ドル)で、ポーランドGDPの約3.8%に相当すると見積もった。
同国の建設会社ユニベプの副最高経営責任者(CEO)は「戦争が終わった段階で、ウクライナに資金が流入し、とても大きな建設市場が生まれる。多分、欧州最大規模になるだろう」と想定した。
有利な条件
チェコとポーランドの企業にとって、両国政府がウクライナに軍事・政治的な支援を続けていることが、ウクライナで事業を行う上でメリットとなっている。いずれも旧ソ連の支配下で辛酸をなめた「仲間意識」も強い。
1991年に旧ソ連軍が撤退した後の地域の汚染除去作業を行った実績を持つチェコの環境サービス企業デコンタは今、ウクライナ国内で水質浄化プラント建設用地を探している。同社監査役会メンバーの1人が明らかにした。
最近、ウクライナ東部の最前線に近いドニプロペトロウシク州を訪れたこのメンバーは「われわれは11カ所の水質浄化ステーションを運営したい。戦争の終結に向けて、汚染除去プロジェクトの準備もしている」と話す。
「各村を回れば、どこでも需要がある」という。
ポーランドでは投資貿易庁が用意したプログラムの一環として、2300社を超える国内企業が、ウクライナの復興事業に参加しようとしている。ほとんどは建設や建設資材関連の企業だ。
キーウにある同庁事務所の責任者は、ポーランドは韓国、日本、英国など、ウクライナの事情により精通しているポーランド企業との提携を望んでいる国の代表者とも話し合いをしていると述べた。
この責任者は「われわれはウクライナの地方政府との関係を構築しつつある。なぜなら、草の根レベルから復興を開始したいからだ。今もこれからも課題になるのは、どうやって作業する従業員を安全に送り込むかになる」と説明する。
実際、ウクライナで活動している外国企業は日々の空襲に対応しなければならず、一部では軍事コンサルタントを雇う向きもある。
チェコのヘルスケア企業ブロックCRSの幹部ヤロウラフ・カムフラ氏は「われわれは従業員のスマートフォンに空襲警報アプリをインストールしている」と明かした。ブロックCRSは無菌手術病棟や移動病院ユニットを手がけており、カムフラ氏は需要を探るためウクライナを訪問していた。
一方、ポーランドはウクライナと530キロにわたって国境を接しており、物流ハブとして機能することができる。
同国の防火システムメーカー、メルコルの社長は「(ウクライナに)ポーランドの製品が真っ先に選ばれると見込んでいるし、われわれはウクライナと距離的に近いので輸送コストの面でも有利だ」と強調。ウクライナ西部のリビウにある工場の拡張を検討している。
課題はウクライナの透明性
ただ、ポーランドの建設企業ZUEのビエスラウ・ノバク最高経営責任者(CEO)は、中東欧企業がウクライナで復興ビジネスを円滑に展開できるかどうかは、ウクライナの行政組織がどの程度、透明性を示す能力があるのか次第になるとの見方を示した。
非政府組織(NGO)のトランスペアレンシー・インターナショナルが公表している腐敗認識度指数によると、ウクライナの透明度は世界で116位と、近隣の欧州連合(EU)加盟国よりもはるかに低い。
ノバク氏は「経済上の手続きにおける透明性や公正な入札制度、透明な歳出とこれらの資金の決済がなければ、誰もウクライナに投資しない。ウクライナにとってはこれが一番の課題だ」と指摘した。
●ロシア、NATO国境のベラルーシに戦術核の配備開始 5/27
ロシアが友好国のベラルーシに戦術核の配備を開始したと明らかにした。ソ連崩壊後、ロシアの核兵器の海外配備は32年ぶりであり、今年3月にプーチン大統領がベラルーシへの戦術核配備を予告して約2ヵ月が経った。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の目と鼻の先に核兵器が入ってくることで、核の脅威はさらに高まった。
25日(現地時間)、ロイター通信によると、ベラルーシのルカシェンコ大統領は同日、「(ベラルーシへの)核兵器移転が始まった」と述べ、プーチン氏が関連法令に署名したと明らかにした。ベラルーシは、ウクライナだけでなくNATO加盟国のポーランド、リトアニア、ラトビアとも国境を接している。
米国務省のミラー報道官は同日、記者会見で、「無責任な行動」とし、「(両国の核兵器配備の)合意を強く非難する」と述べた。そして、「私たちはウクライナ戦争で生物化学や核兵器を使用すれば深刻な結果が伴うことを明確にした」と警告した。ただし、「戦略態勢を変えるだけの理由やロシアが核兵器の使用を準備する動きは見られなかった」と述べた。
●「中国、領土放棄型の停戦を提案」ウクライナ情勢で米紙報道 5/27
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は26日、ウクライナ情勢の和平の仲介に向けてウクライナや欧州を歴訪している中国の李輝ユーラシア事務特別代表が、これまでに面会した欧州各国の当局者に「欧州は米国から離れ、ウクライナ国内の占領地域の保有権をロシアに残す条件で即時停戦を呼び掛けるべきだ」とする立場を示したと報じた。欧米側の関係者の話としている。
中国は2月に発表した「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」と題した文書の冒頭で「各国の主権や独立、領土保全は適切に保障されるべきだ」と指摘していた。報道が事実であれば、ウクライナの領土保全を軽視し、ロシア寄りの立場をとる中国の姿勢が改めて示された形だ。
WSJによると、欧州側は「露軍の撤退なしでの停戦は国際的利益にかなわない」「欧州を米国から引き離すのは不可能だ」と李氏の提案を拒否したという。
李氏は26日、ロシアの首都モスクワを訪れ、ラブロフ外相と会談した。露外務省によると、両氏はウクライナ情勢や紛争解決の見通しについて協議。ラブロフ氏はウクライナ情勢を巡る中国の「思慮深い立場」に謝意を示し、「中国が紛争解決に積極的な役割を果たしている」と評価した。
中国外務省は26日、李氏が欧州連合(EU)当局者と25日にブリュッセルで会談したと発表した文書内で「中国はウクライナ問題に関して常に客観的かつ公正な立場を堅持し、和平交渉を推進してきた」とした。
中国はこれまでもロシアとウクライナに対して中立だと主張してきた。ただ、3月には習近平国家主席が訪露してプーチン露大統領と会談したほか、最近も中露両政府高官の往来が続いており、欧米側は中国の中立性を疑問視している。 
●クリミア半島年内奪還に自信 ウクライナ南部の先住民指導者 5/27
ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島の先住民クリミア・タタール人の指導者で、ゼレンスキー大統領による今月のサウジアラビア訪問に同行したムスタファ・ジェミレフ氏(79)が26日、共同通信と単独会見した。ウクライナ軍が目指す反転攻勢について「第1目標の一つは(ロシア本土と結ぶ)クリミア橋の破壊だと思う」と分析、「年内にクリミアを完全に解放する」と自信を見せた。
ジェミレフ氏は「近い将来、軍の攻撃が始まる」と予想。橋の破壊後、南東部マリウポリと南部メリトポリの間の陸路を遮断すれば「クリミアのロシア軍は降伏するか破滅する」と主張した。
和平交渉は、ロシアがクリミアを自国領と主張し「議論の余地がない」と突っぱねたため頓挫したと非難。プーチン大統領との交渉を拒否し徹底抗戦するゼレンスキー氏を支持した。
ジェミレフ氏は19年にゼレンスキー氏が当選した際、「喜劇役者が大統領になってどうなるんだ」と落胆したが、ロシアの侵攻後は行動力に感嘆し「今では誇りに思う」と訴えた。
●ワグネル、第三国経由でウクライナ用の兵器調達 偽装工作も 5/27
ロシアの民間軍事企業「ワグネル」がウクライナで使う軍装備品を確保するためアフリカ北西部マリを含む第三国で、輸出関連書類の偽装工作なども交えて調達を進めていることが27日までにわかった。
CNNの取材に応じた米政府当局者が明らかにした。機密指定が最近解除された諜報(ちょうほう)の内容に基づく。ワグネルによる不正工作を通じたマリでの兵器入手の実態はバイデン政権にも伝えられたという。
ワグネルはマリで大きな地歩を固めているとされる。ただ、ワグネルがこれら装備品を思惑通り確保したことを示す兆候はまだ把握していないとした。ワグネルがマリの接触先に求めていたのは地雷、ドローン(無人機)、レーダーや対砲兵レーダーなどとした。
当局者は「我々は注意深く監視を続けている」とも述べた。
ワグネルは近年、アフリカ大陸への進出を拡大し、マリでは1年以上にわたって地元の軍と協力し反政府勢力のイスラム過激派の掃討に加担している。ロシアのラブロフ外相は2021年9月、マリ政府は治安対策でロシアの民間軍事企業を雇う方針を示していた。
米政府当局者によると、ウクライナ戦争に戦闘員を送り込むワグネルが兵器調達などで頼みにする外国はマリだけではない。ウクライナ東部の激戦地バフムートの攻防戦で前面に立つともされるワグネル部隊は武器弾薬の大幅な欠乏に直面しているともされる。
SNS上に最近流出し、CNNも入手した一連の米機密情報によると、ワグネル関係者は今年2月初旬、「トルコの接触先」を通じウクライナ戦争用の兵器や弾薬の入手を図った。ワグネルはこのルートで得た兵器をマリでの作戦につぎ込むことも考えている可能性があったともした。
米ホワイトハウスは以前、ウクライナ戦争に関連しワグネルは北朝鮮からミサイルやロケット弾の提供を受けていると非難したこともあった。
●米元国務長官、「ウクライナのNATO加盟支持は大きな間違い」 5/27
アメリカのキッシンジャー元国務長官が、ウクライナのNATO北大西洋条約機構への加盟支持は大きな間違いであり、同国での戦争開始につながったとしました。
キッシンジャー氏は、米誌ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、「(ロシアに併合された)セヴァストポリを含むクリミア半島を自国に取り戻そうとするウクライナの試みは、全世界に負の結果をもたらす可能性がある」と述べました。
続けて、セヴァストポリが歴史上、常にウクライナの一部であったわけではないことを指摘し、「ロシアにとっては、この都市を失うことは自国の統一を危うくしうる。それは世界の望むところではないと、私は考えている」としました。
そして、「ウクライナのNATO加盟に米国が興味を示したことは大きな間違いであり、現在の戦争を招くことになった」と強調しました。
キッシンジャー氏は、今月24日付のドイツの週刊新聞「ディー・ツァイト」に掲載されたインタビューでも、ウクライナのNATO加盟支持がロシアによる対ウクライナ軍事行動の大元になったと述べていました。
●ウクライナ長官 G7サミットの舞台裏語る「未来に希望与える」 5/27
ウクライナ大統領府のイエルマク長官がNHKの単独インタビューに応じ、ゼレンスキー大統領が参加したG7広島サミットについて、「未来に希望を与えるものだった」と述べ、G7だけでなくインドとの首脳会談が実現したことなど成果を強調するとともに、参加に至るまでの舞台裏について語りました。
ウクライナのゼレンスキー大統領に同行してG7広島サミットに参加した大統領府のイエルマク長官が、今月24日、NHKの単独インタビューに応じ、サミットについて「疑いようのない絶対的な支持を得ることができて、未来に希望を与えるものだった」と述べ成果を強調しました。
そのうえで、G7以外にインドのモディ首相との首脳会談が実現したことに触れ「大統領は正確な戦況や私たちの和平の提案も伝え、非常に建設的な会談となった。次は、モディ首相のウクライナへの訪問を実現しなければならない」と述べました。
そして、対面での参加を決めた背景については「信頼関係を作るうえでは、大統領が直接会談することが大切だ。いまウクライナは反転攻勢に向けて準備もしている」と述べた一方で、「直前まで実現できるかわからなかった。アメリカやサウジアラビアなど多くの国から支援の申し出があったが、広島までの時間やロジを考え、フランスの飛行機を選んだ」と述べ、関係国とギリギリまで調整を進めていたことなど、参加に至るまでの舞台裏について語りました。
また、イエルマク長官は、広島では原爆資料館で被爆者の女性から話を聞いたことが強く印象に残ったとして、「大統領は打ちのめされていた。歴史の知識は持っていたが、実際に悲劇を体験した女性から話を聞いたことは強い印象を与えた。私たちは帰りの飛行機の機内でも『同じ悲劇が二度と起きないように全力を尽くさなくてはならない』と話し合った」と述べました。
そして、「このサミットのことを一生忘れない」と述べて日本側の努力に敬意を表した上で、「ウクライナの国旗を掲げてくれている多くの人を見た。大統領がホテルを後にする時、すべての従業員がロビーに集まって拍手で送り出してくれた。親友や家族のようだった」と述べ、日本の国民が温かく迎えてくれたとして謝意を示しました。
●中国特別代表 ロシア外相とウクライナ情勢協議 懐疑的な見方も 5/27
ヨーロッパ各国を訪問した中国政府の特別代表はロシアでラブロフ外相らと会談し、ウクライナ情勢の政治的な解決に向けて着実に努力すると強調しました。
アメリカの有力紙は、特別代表が、他の訪問国ではロシアがウクライナの領土を占領した状態での即時停戦を提案したと指摘し、中国の仲介外交への懐疑的な見方が出ていると伝えています。
ウクライナ情勢をめぐって、ヨーロッパ各国を訪問した中国政府の李輝特別代表は26日、最後の訪問国ロシアでラブロフ外相らと会談しました。
中国外務省によりますと、李特別代表はウクライナ情勢をめぐって「中国はロシアを含むすべての当事者との交流と対話を強化し、政治的な解決に向けた着実な努力を行う」と強調したということです。
またロシア外務省も声明を発表し、一連の会談でロシアとウクライナなどに対話と停戦を呼びかけた文書に沿った中国側の取り組みを高く評価したとしています。
一方、アメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は26日、欧米の当局者らの話として、ロシアの前に訪れた国々で李特別代表は、ロシアがウクライナの領土を占領した状態での即時停戦を提案したと伝えました。
これについて欧米の当局者らは「ロシア軍がウクライナから撤退しないかぎり平和は実現しないだろう」と述べたなどとして、中国の仲介外交への懐疑的な見方が出ていると伝えています。
ウクライナ大統領府「領土解放されない想定は民主主義の敗北」
ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は26日、ツイッターに「ウクライナのすべての領土が解放されないことを想定した『妥協のシナリオ』は民主主義の敗北であり、ロシアの勝利を認めることと同じことだ」と投稿しました。
ポドリャク氏は27日にもツイッターに、ウクライナの領土からのロシア軍の即時撤退などを挙げ「ウクライナ側の条件のみが現実的だ」と訴えました。
中国政府の特別代表がロシアがウクライナの領土を占領した状態での即時停戦を提案したと指摘されるなか、ロシアや中国などの動きをけん制するねらいがあるとみられます。

 

●ロシア・プーチン大統領がすがる「ワグネル」の残虐実態 5/28
(1)刑務所を出て「料理人」に
侵攻開始から1年3カ月がたとうとしている。ロシア軍の死傷者は20万人以上に上ると言われ、国内では兵役逃れの機運が高まっている。兵力不足に悩むロシアにとって、頼みの綱が傭兵部隊「ワグネル」だ。国境と法の垣根を越えて暗躍する“ならず者集団”の比類なき残虐実態をリポートする。
「ショイグ(国防相)! ゲラシモフ(総司令官)! 弾薬はどこだ! どこに隠している!」
眉間にシワを寄せて、カメラの前でまくしたてるのは、エフゲニー・プリゴジン氏。ロシアのウクライナ侵攻に参戦中の民間軍事会社「ワグネル」の創設者だ。
外信部記者が解説する。
「動画がアップされたのは5月5日。ウクライナ東部の要衝バフムトではウクライナ軍とワグネルの部隊が激戦を繰り広げていますが、軍からの補給が乏しく劣勢に立たされているようで、ロシア政府幹部への不満をブチまけた形です」
プーチン大統領の側近と言われ、みずから戦地に立つプリゴジン氏だが、5月14日には衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。なんとプリゴジン氏がウクライナ軍の幹部と内通し、ロシア軍の情報と引き換えに裏取引を持ちかけていたというのだ。事実ならプーチン氏への「裏切り」とも言えるが‥‥。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が分析する。
「報じたのはワシントン・ポスト。アメリカの国防総省から流出した機密情報の中に、プリゴジンがウクライナ側に接触したとの情報があったようなのですが、真偽は不明。ワシントン・ポストによる“フェイクニュース作戦”とも揶揄されています」
この報道について、プリゴジン氏は「ばかげたデマだ」と切り捨て、ロシアの大統領報道官も全面否定。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏もこう話す。
「プリゴジンが寝返るといった主旨の報道は全部ガセですよ。確かに弾薬が不足し、物資の補給が正規軍よりも後回しにもなっているのでしょう。少なくともドンバス地方の戦線ではロシア側でワグネルがいちばん戦果を挙げている。自分たちは前線で戦い、多くの戦死者も出しているのに、正規軍から軽く扱われる。だから『非正規軍だからとナメやがって』との思いが強いはず。ただ、プリゴジンが批判するのはあくまで軍。親分のプーチンは絶対に批判しません」
そもそもプリゴジン氏はいかなる人物なのか。黒井氏が出自を解説する。
「もともとはサンクトペテルブルクの不良少年。10代から強盗などで刑務所に出入りして、ソ連が崩壊すると、地元で商売を始めるようになった。ホットドッグ店、食料品店、カジノと事業を広げましたが、特にカジノ事業で政治家や高級官僚、ビジネスマン、ロシア・マフィアなどに人脈を築いたようです。おそらくその中に当時サンクトペテルブルク副市長だったプーチンもいます。その後、ロシアでも有数の高級レストランをオープンすると、プーチンもその常連に。大統領に就任後は、外国要人との会談でこのレストランをたびたび利用してきました」
プリゴジン氏が「プーチンの料理人」と言われるゆえんである。
(2)刑法359条の枠を越えて
プーチン氏とのコネクションを武器に、ケータリング事業などで財を築いたプリゴジン氏は、民間軍事会社の設立に動く。
「13年に内戦下のシリアに、『スラブ軍団』という民間軍事会社が送り込まれました。実質的にはGRU(ロシア軍参謀本部情報総局)の別働組織で、翌14年にワグネルに改編されましたが、そのオーナーとなったのがプリゴジンでした。ワグネルはロシア軍が表立っては動きづらい地域に裏部隊として投入されました。ウクライナ東部、リビア、中央アフリカ、マリ、モザンビークなどの内戦に介入してロシアの影響力を拡大させるとともに、それぞれの地域で取れる金やダイヤモンドなどの鉱物資源利権を手にしました。ワグネルは他国への軍事介入で莫大な利益をあげていったのです」(黒井氏)
そもそもロシアで「傭兵活動」は認められておらず、刑法359条で懲役刑などが定められている。にもかかわらず、プーチン政権下で法の枠を越えて暗躍してきた。
「設立当初は数百人規模だったのが、22年には4万人規模にまで膨れ上がりました。その残虐性を象徴するのがスレッジハンマー。拷問や処刑に用いられ、これまでにも脱走兵や敵方の兵士をハンマーで殺害する動画が公開されてきました。ただ、ロシア軍部の上層部は彼らの存在を快く思っていない。プリゴジンについても“成り上がり”と毛嫌いしていたフシがあります」(外信部記者)
こうした事情もあってか、ウクライナ侵攻に関しては初めから戦力として見なされていなかったが、
「22年2月にロシアがウクライナに侵攻した当初、ロシアがワグネルに派遣要請することはありませんでした。ところが3月に入ると、キーウ付近まで攻め込んでいたロシア正規軍が撤退を余儀なくされたこともあって、兵力をウクライナ東部に移す作戦に変えたのです。この時、兵士不足を補うためにワグネルに声がかかった。ロシア軍は多数の死傷者を出していて、とにかくウクライナ軍の進撃を食い止める兵隊が欲しい。戦車や榴弾砲などは扱えなくていいから、とにかく歩兵の頭数が必要になったのです」(黒井氏)
ワグネルの投入はプーチン氏にとって、あえて“火中の栗”を拾うようなものだったのかもしれない。
●ロシア 日本の対ロシア追加制裁に反発 対抗措置とる構え 5/28
日本政府が、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに追加制裁を決めたことに対し、ロシア外務省は「このような不法行為を許すわけにはいかない」と反発し、対抗措置をとる構えを示しました。
さきのG7広島サミットでウクライナへの侵攻を続けるロシアへの制裁強化で一致したことを受けて、日本政府は26日の閣議で、資産凍結の対象に102の個人や団体を加えるなど追加の制裁を決めました。
これに対し、ロシア外務省は27日声明を発表し「日本政府は、反ロシアのリーダーになろうとしているようだ。このような不法行為を許すわけにはいかない」と反発し、対抗措置をとる構えを示しました。
また、松野官房長官が26日の記者会見で、ロシアが隣国ベラルーシに戦術核兵器を配備すると表明したことを「情勢を緊迫化するものだ」と非難したことに対し「日本はわが国が『核の脅迫を行っている』と非難しているが、不謹慎な臆測にすぎない」と日本側を批判しました。
ロシアはウクライナへの軍事侵攻以降、日本が欧米と足並みをそろえてロシアへの制裁を強化していることに反発していますが、ことし日本がG7の議長国をつとめるなか、けん制を一段と強めています。
●ウクライナの反撃、「準備はできている」 安保担当高官 5/28
ウクライナの安全保障担当の高官は、同国によるロシア軍に対する反転攻勢について、準備が整っているとBBCとのインタビューで話した。
ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は、ロシアの占領軍から領土を奪還する攻撃が「明日、明後日、あるいは1週間以内に」始まる可能性があると述べた。日付は示さなかった。
また、ウクライナにとっては「失うことのできない歴史的な機会」であるため、政府は開始時期の決定をめぐって「間違いは許されない」と述べた。
ダニロフ氏は、ウクライナの事実上の戦争内閣の中心的人物。今回の収録中には、反攻に関する会議に出席するよう、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領から電話で伝言が入った。
インタビューでダニロフ氏は、ロシアの雇い兵会社「ワグネル」の一部部隊が激戦地の東部バフムート市からの撤退を進めていると説明した。ただ、「別の3カ所に再集結」しており、「私たちとの戦闘をやめるわけではない」と付け加えた。
ダニロフ氏はまた、ロシアがベラルーシに核兵器を配備し始めたことについて、「まったく冷静に受け止めている」、「私たちにとって新しい話ではない」と述べた。
ウクライナは数カ月前から反撃を計画している。これまで、部隊の訓練と西側同盟国からの兵器の受け取りに多くの時間をかけてきた。
その間、ロシア軍は守備の準備を進めてきた。
「間違いは許されない」
ウクライナの反転攻勢には多くがかかっている。ウクライナ政府は、ロシア軍の戦線を突破して行き詰まり状態を解消し、主権領土の一部を奪還できることを、国民と西側同盟国に示す必要がある。
ダニロフ氏は、司令部が「最良の結果を得られる」と判断したタイミングで、軍は攻撃を開始すると述べた。
攻撃の準備は整っているかとの問いには、「常に準備はできている。これまでも常に、自分たちの国を守る用意はできていた。『いつか』という話ではない」と返答。
「神が私たちの国に与えた、失うことのできない歴史的な機会なのだと、理解しなくてならない。私たちはこれでいよいよ真に独立し、ヨーロッパの大国になることができる」と述べた。
そして、「明日、あさって、あるいは1週間以内に(反撃は)起こりうる」と説明。
「私が開始日を口にするなど、おかしなことだ。そんなことはできない。(中略)私たちは国に対して大きな責任をもっている。そして、間違いは許されないことを理解している」と話した。
ダニロフ氏は、反撃がすでに始まっているとの見方を否定。ロシアによる侵攻が始まった昨年2月24日以降、「ロシアの司令部と軍事設備の破壊」がウクライナ軍の任務となってきたとし、「この戦争に休みはない」と述べた。
バフムートをめぐって何カ月も戦いを続け、多くの兵士が犠牲になってきたことことについては、「バフムートは私たちの土地、私たちの領土で、守る必要がある」、「もしすべての集落から離れ始めたら、プーチンが戦争初日から望んでいたように、私たちは国の西の国境へと追いやられるかもしれない」と話した。
ダニロフ氏はさらに、「私たちはバフムートのほんの一部しか掌握していない。それは認める。しかし、バフムートがこの戦争で大きな役割を果たしてきたことを、私たちは念頭に置く必要がある」と強調した。
ワグネルの部隊は撤退しているのかと質問には、「そうだ、そういう事態になっている。しかし、私たちとの戦闘をやめるわけではない。他の戦線に結集するつもりだ。(中略)他の3カ所に再集結している」と答えた。
●ウクライナ軍総司令官「取り戻す時が来た」、近くロシアへ反転攻勢か  5/28
ウクライナ軍の総司令官が、SNSに「取り戻す時が来た」と投稿しました。ロシアへの反転攻勢を近く始めることを明らかにした可能性があります。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は27日、SNSに、兵士の動画とともに「我々のものを取り戻す時が来た」と投稿しました。反転攻勢を近く始めることを明らかにした可能性があります。
また、ウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、27日報じられたイギリスBBCのインタビューで、反転攻勢が「あす、あさって、あるいは1週間以内に始まる可能性がある」と述べました。
反転攻勢をめぐっては、ウクライナの大統領府長官顧問が、24日放送のイタリア公共放送のインタビューで「すでに始まっている」とし、SNSには「特定の日時に始まる『ひとつの出来事』ではない」と投稿していました。
●ゼレンスキー夫人の勝利。なぜ韓国はウクライナに武器供与するか 5/28
ロシアの軍事侵攻を受けながら、アメリカ本土や欧州各国、そしてつい先日はサウジアラビアのアラブ連盟首脳会議を経由して日本訪問と、世界各地でウクライナの現状を語り支援を訴えるゼレンスキー大統領。しかしその影で「大活躍」しているオレナ大統領夫人については、あまり報じられることはありません。そんな彼女の動きを紹介しているのは、国際政治経済学者の浜田和幸さん。浜田さんは自身のメルマガ『浜田かずゆきの『ぶっちゃけ話はここだけで』』で今回、韓国にウクライナへの武器供与を決意させたオレナ夫人の「ファーストレディ外交」を紹介しています。
ウクライナも韓国も大統領よりファーストレディが上!
ぶっちゃけ、世界を駆け回り、武器や資金を無心して回っているゼレンスキー大統領です。
広島のG7サミットに姿を見せる前も、ヨーロッパや中東諸国を弾丸ツアーで飛び回っていました。
しかし、あまり目立っていませんが、その陰でじっくりと大事な国々を訪れ、夫に代わって支援の中身を具体的に詰める作業を担っているのがオレナ夫人なのです。
ゼレンスキー大統領は広島サミットに駆け付けたのはいいですが、ブラジルのルラ大統領との約束をすっぽかしてしまうという大失態を演じていました。
また、イタリアでは、自分の携帯電話を車の中に忘れてしまい、あわや飛行機に乗り遅れるという不注意の連続で、周りは尻ぬぐいにてんやわんやです。
実は、ゼレンスキー大統領が広島で「武器くれ!金くれ!ノーベル平和賞も欲しい!」とおねだり三昧に励んでいる最中、オレナ夫人は韓国のソウルを訪問していました。
狙いはユン大統領を説得し、韓国から防空ミサイルシステムはもとより地雷除去装置や医療器具などを大量に供給してもらうこと。
しかも、そのためには、ユン大統領が頭の上がらないキム・ゴンヒ夫人を絡め取るという作戦でした。
このファーストレディ外交は大成功。
キム夫人の口添えもあり、ユン大統領はウクライナに対して、それまで慎重だった攻撃的武器の供与にも踏み込んだ支援を約束したわけです。
オレナ夫人はユン大統領夫妻のウクライナ訪問にも道筋をつけました。
まさに夫を思うように操る「ディープレディ」同士の連携プレーに他なりません。
もともと芸人だったゼレンスキー大統領とオレナ夫人は大学時代の同級生。
夫がテレビ番組に出演するようになると、その仕事を差配するタレント会社を立ち上げ、経営者として夫を盛り立ててきました。
また、キム夫人の方も、はるか年上で政治経験ゼロの検事総長だったユン氏を自らの財力と人脈で大統領の座に押し上げた「縁の下の力持ち」です。
政界に入ることに自信のなかったユン氏を「私が神の力を呼び込むから、大丈夫よ」と説得。
韓国では「本当の大統領はキム・ゴンヒ夫人で、ユン氏は大統領の夫に過ぎない」というのが専らの評価となっています。
本ブログで既に紹介しましたが、キム夫人は「韓国のシャーマン(巫堂)」とまで呼ばれるほど。
そのため、野党からは「キム夫人は選挙で選ばれてもいないのに大統領府を我が物顔で使っている」といった類の批判が後を絶ちません。
確かに、ユン大統領の支持率は低迷していますが、大統領は一向に気にしていないようです。
ぶっちゃけ、キム夫人の暗示が抜群の効果を発揮していることは間違いありません。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 28日の動き 5/28
キーウ近郊 住宅の再建進まず ボランティアが解体作業
キーウ近郊の地域では、去年2月から3月にかけて首都に迫るロシア軍とウクライナ軍との間で激しい戦闘となり、多くの住宅が破壊されました。1年以上たった今も壊れた住宅の解体や撤去は進んでおらず、家を失った人々の生活の再建が大きな課題となっています。このうちキーウ近郊の村ホレンカでは27日、ウクライナの市民団体の呼びかけで、ボランティアおよそ50人が住宅の解体作業を行いました。参加者の中にはアメリカやオーストラリアなどから来た人もいて、散乱したレンガを拾ったり一部だけ残った壁をハンマーで崩したりして、次々とがれきを運び出していました。作業が行われた住宅で暮らしていたハンナ・コストワさんは、砲撃を受けた前日に避難していて無事でしたが、いまもキーウ市内の友人の家に身を寄せているということで「夫の子どものころの写真など全部焼けてしまいました。一刻も早く家族でここに戻りたいです」と話していました。また、アメリカから来たボランティアの男性は「前線での攻撃などの映像はたくさん見ましたが、この活動でこうした住宅街でも大きな被害が出ていることがわかりました。少しでも役に立ちたいです」と話していました。
ザポリージャ原発「ロシア側がみずから攻撃準備」とウクライナ
ウクライナ国防省の情報総局は26日、ロシア軍が占拠を続けている南部のザポリージャ原子力発電所をめぐり「ロシア側が敷地をみずから攻撃した上で放射性物質が漏れたとしてウクライナ側に責任を負わせようと準備している」と発表しました。具体的な根拠は示していませんが「国際社会が詳細な調査を行うよう挑発し、その間に部隊を再編成してウクライナの反転攻勢を阻止することをねらっている」としてロシア側の挑発行為を警戒しています。領土の奪還を目指したウクライナの反転攻勢をめぐっては、ウクライナ軍のザルジニー総司令官が27日、SNSで「奪還するときがきた」とするメッセージを投稿したほか、ザポリージャ州ではウクライナ軍がすでに軍事作戦を進めているともみられています。
ロシアFSB「ウクライナ側の破壊工作で脅威強まる」
ウクライナと国境を接するロシア西部などで攻撃が相次いでいることについて、ロシアの治安機関FSB=連邦保安庁で国境警備を担う高官は27日に国営のタス通信が伝えたインタビューで「ウクライナ側の破壊工作などで脅威が強まっている」と主張しました。そして去年2月以降、輸送や電力インフラなどに対する攻撃が2000件以上、記録されているとした上で、大統領の指示で対策の強化を講じていると強調し、プーチン政権が国境で相次ぐ攻撃に神経をとがらせていることをうかがわせています。
ドイツ国防省“ウクライナから巡航ミサイル供与求められる”
ドイツ国防省の報道担当者は27日、ロシアによる軍事侵攻を受けるウクライナから、射程およそ500キロの巡航ミサイルの供与を求められていることを明らかにしました。供与を求められているのはドイツ軍が保有する「タウルス」と呼ばれる空中から発射する巡航ミサイルです。報道担当者は要求に応じるかは明らかにしていません。ウクライナに対しては、イギリスが射程が250キロ以上と長い高精度の巡航ミサイル「ストームシャドー」を供与しています。ドイツは、ウクライナに主力戦車「レオパルト2」を供与するなど軍事支援を強化していますが、ショルツ首相は今月の記者会見で、巡航ミサイルを供与する用意があるか問われた際に明言を避けるなどしていて、ウクライナからの求めを慎重に検討するものとみられます。
ウクライナ情勢で仲介役 トルコで大統領選挙
ウクライナ情勢で仲介役を買って出るなど存在感を増す中東のトルコで、大統領選挙の決選投票が28日に行われます。1回目の投票で過半数に迫る49.5%余りの得票だったエルドアン氏はロシアの軍事侵攻が続くウクライナからの農産物の輸出の合意をはじめ仲介外交の成果を誇るなど、首相時代も含めて20年にわたる政権運営の実績を訴えています。これに対し、44.8%余りの得票だったクルチダルオール氏は通貨安や物価の高騰に伴うエルドアン政権の経済政策や強権的な政治手法などを批判し、政権交代を訴えています。投票は現地時間の28日午前8時、日本時間の28日午後2時から行われ、即日開票されることになっていて、国際情勢にも影響を与えうる選挙の行方が注目されます。 
●ルカシェンコ大統領、重篤状態で病院搬送か プーチン大統領と会談後 5/28
ウクライナメディア「ウクライナ・プラウダ」は、27日、健康状態への不安が取りざたされてきたベラルーシのルカシェンコ大統領について、ロシアのプーチン大統領との会合のあと、重篤な状態でモスクワの病院に運ばれたと報じた。
ベラルーシの反政権派指導者の1人、ワレリー・ツェプカロ氏がSNSに投稿したという。投稿では「さらに確認が必要だが、我々が持つ情報では、プーチン大統領と密室で会談したあと、病院に運ばれた」としている。
ルカシェンコ氏は今月9日にモスクワで開かれた対独戦勝記念パレードに出席した。その後のプーチン大統領らとの昼食会に欠席したことなどから、体調不良が指摘されている。
●プーチン大統領、国境地帯の警備強化指示 相次いで攻撃されたと主張 5/28
ウクライナへの「特別軍事作戦」を続けるロシアのプーチン大統領は28日、ビデオ声明を出し、国境地帯の警備強化に当たるように治安機関に指示した。ロシアはウクライナとの国境地帯が相次いで攻撃されたと主張しており、対応策を急がせているとみられる。
28日は国境警備隊の記念日に当たり、プーチン氏が祝辞を贈った。その中で「戦闘地帯に隣接する地域を守ることが特別かつ意味のある課題だ」と強調。ロシアが2022年9月に一方的な併合宣言をしたウクライナ東・南部4州を含め、自国領と見なす地域の警備を強化し、交通の安全を確保するように指示した。
ロシア西部一帯では27日、ウクライナ側から攻撃されたとの発表や報道が相次いだ。
ベルゴロド州の知事はウクライナ領内から砲撃を受け、住民1人が死亡、3人が負傷したと明かした。クルスク州の国境地帯も砲撃を受け、住民1人の死亡が伝えられている。複数のロシアメディアによると、トベリ州でもウクライナまで延びる石油パイプラインの施設が無人機による攻撃を受けたが、迎撃したという。
ベルゴロド州では22日、武装集団が住宅や工場などを攻撃し、避難時の死者も含めて2人が死亡し、13人が負傷するという戦闘が起きていた。実態は不明だが、プーチン政権に敵対する二つのロシアの組織が犯行声明を出している。
ウクライナの前線に部隊を送っているロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏がこの件を巡ってロシア軍の対応を批判。ロシア国内では国境地帯の警備体制への不安が強まっている格好だ。
●露領内で破壊や越境攻撃“ロシア義勇兵”キーマン直撃 5/28
大規模な反撃と共に注目を集めるのが、ウクライナ側で戦うロシアの義勇兵たち。なぜ自国に攻め入るのか、ウクライナ軍の関与はあるのか。キーマンを取材し、背景を探りました。
ウクライナ総司令官「取り戻す時が来た」
「ウクライナ 母なる土地 神は我々の父だ 断固たる反撃にご加護を…」
27日、ロシア軍との戦闘に臨む兵士の動画と共に「我々のものを取り戻す時が来た」とメッセージを出したのはウクライナ軍のザルジニー総司令官。“反転攻勢の開始宣言”ともとれる軍のトップのこの発信。反転攻勢は始まったのでしょうか…
「ベルジャンシクで爆発がありました。SNSで煙の映像が公開されました。ベルジャンシク市議会の副会長によると、ロシア軍の兵士がいた保養所に着弾があったということです」
ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ南部のザポリージャ州ベルジャンシクで27日、複数回起きた爆発。ウクライナ軍は、21日にもベルジャンシクにあるロシア軍の拠点を攻撃したと表明しており、今回もウクライナ軍による攻撃の可能性があります。
これもウクライナの反転攻勢に関係あるのでしょうか…22日に明らかになったロシア領土内への越境攻撃。ロシアのショイグ国防相は…
ロシア ショイグ国防相「5月22日、ウクライナの民族主義者の部隊がベルゴロドの国境検問所付近でロシア領土に侵入した。(対テロ作戦で)70人以上のウクライナのテロリストを殲滅した」
場所はウクライナと国境を接するロシアのベルゴロド州。悠々と国境を越え、ロシア領内に入る武装組織。
「ロシア義勇軍団 進め!」
この攻撃を行ったと主張しているのが、反プーチン政権を掲げるロシア人のパルチザン、「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団」です。犯行声明では…
自由ロシア軍団 司令官「クレムリンの独裁を終わらせる時が来た」
24日には、戦利品とされる装甲車の前で幹部らが合同の会見を行いました。
ロシア義勇軍団 司令官「これはロシアのカラシニコフ銃。戦利品の一つだ。ロシア義勇軍団には2人の軽傷者を除いて死傷者はいない。我々の活動は継続中で、第一段階は成功した」
「自由ロシア軍団」祖国への“越境攻撃”なぜ?
今なぜ、越境攻撃を行うのか…その理由について、「自由ロシア軍団」政治部門の代表バラノフスキー氏は…
自由ロシア軍団 政治部門代表 アレクセイ・バラノフスキー氏「一部の地域では、ウクライナの反転攻勢はすでに始まっています。地面も乾いてタイミングが良かった。我々の目的は、ロシア軍の一部を撤退させ、防衛体制を弱体化させることです」
ロシア領土内で攻撃するのは、今回が初めてだという自由ロシア軍団。ウクライナ軍の関与については…
バラノフスキー氏「ウクライナ領土にいるときは、ウクライナ軍の管理下にあるので、私たちはウクライナ軍の指示に従って動いています。ロシア領土に戻ったときは、自由ロシア軍団の司令官の指示に従うので、ウクライナ軍は全く関与していません」
Q. ベルゴロド州の攻撃にウクライナ軍は関与していないのですか?
バラノフスキー氏「関与していません。今回の攻撃は、私たちの部隊が独断で行いました」
「ウクライナの英雄」が解説“ロシアのパルチザン“
現在、ウクライナ政府と共に、占領下のパルチザン活動を支援するジェムチュゴフ氏はこう説明します。
元パルチザン指導者 ジェムチュゴフ氏「自由ロシア軍団は今、ウクライナ国内で独立した軍事組織です。ウクライナ軍はロシア軍の大規模な進軍を止めることができた現時点でロシアの義勇兵は前線にいる必要がなくなりました」
ウクライナ軍との連携については…
ジェムチュゴフ氏「彼らは戦地から撤退し、本来の目標達成に向けた活動を始めました。ウクライナの諜報機関と連携し、私たちは偵察情報を提供しています。ロシア国内で本格的な内戦を起こすのに必要なIT系の支援をしています」
「自由ロシア軍団」では、2日間に渡る戦闘がSNSなどを通じ急速に広まったことで、変化があるといいます。
バラノフスキー氏「ロシア国内から自由ロシア軍団やロシア義勇軍団への志願者が非常に多く集まっています。あまりにも志願者が多すぎて、選定作業が間に合っていません。中には組織に侵入しようとするロシアのスパイがまぎれているかもしれないので、全員きちんと調べないといけません」
ロシア義勇兵の本懐“プーチン政権の転覆”
26日、タス通信は、ロシア南部の都市クラスノダールで爆発があり、住宅の屋根や窓ガラスが破壊されたと伝えています。3日のクレムリンへのドローン爆破など、ロシア国内では、国境付近のみならず、各地で“破壊工作”が頻発。ロシアメディアが報じたものだけで、今月に入って29件に及びます。
ジェムチュゴフ氏「ロシア国内で起きているすべての出来事はロシア国民によるものです。ウクライナ諜報機関はロシアのパルチザンと連絡を取り合い可能な範囲で支援している。」
ロシアのパルチザンによる破壊工作や越境攻撃、ウクライナの反転攻勢にどう影響するのでしょか。
ジェムチュゴフ氏「ロシアは自国内で行われる戦闘に準備しておらず、今前線にいる部隊をロシア領内に慌てて移動しています。ウクライナ国内の体制が弱体化し、ロシア軍の攻勢が弱まることが、ウクライナ軍にとって一番大きなメリットです。プーチン政権を弱体化させ、政権転覆につながると期待しています」
今、自由ロシア軍団は、第二・第三の攻撃を水面下で進めているといいます。
バラノフスキー氏「ベルゴロド州以外にも、今はブリャンスク州、クルスク州でも作戦の準備を進めています。ただ、これが最後ではありません。最終目標はモスクワです。ウクライナがクリミアを取り戻したら、プーチン政権は崩壊し始めると確信しています。その時、ロシアに戻ってプーチンを完全に潰さなければいけない。」
●食料安保の危機、ウクライナ戦争で悪化 広島サミットでも議論 5/28
食料安全保障は先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)でも主要なテーマの一つとして取り上げられた。気候変動問題が深刻化してきたところに、新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアによるウクライナ侵略など想定外の事態が次々と起きたことで、食料事情は世界的に厳しさを増してきている。
「ウクライナにおける戦争が世界中で進行中の食料安全保障の危機をさらに悪化させた」。G7広島サミットの拡大会合で取りまとめられた「強靭(きょうじん)なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」では最初に、喫緊の課題としてウクライナ危機を取り上げ、ウクライナからの円滑な穀物の輸出などを支持した。
ロシアは今月17日、ウクライナ産穀物の輸出合意の2カ月延長に同意した。ひとまず猶予はできたが、綱渡りの状況が続いていることに変わりはない。
ウクライナは小麦やトウモロコシの一大産地だ。ところがロシアが黒海を封鎖すると、主要港湾の南部オデッサなどから船で輸送することが難しくなり、世界の食料価格は高騰した。
トルコと国連の仲介で、ロシアは黒海を航行する船舶の安全を担保し、昨年8月からはウクライナ産穀物の海上輸出が再開された。だが、ロシアは見返りだったはずの自国産の食料や肥料の輸出促進が欧米の経済制裁の影響で滞っていると主張している。
7月18日には早くも次の合意の期限が訪れる。合意が破綻すれば、世界の食料事情は再び不安定になりかねない。国連食糧農業機関(FAO)などは昨年、国連の持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる2030年までの「飢餓ゼロ」達成は困難だとする報告書を発表しており、食料安保の確立は待ったなしの課題となっている。
●ウクライナのNATO加盟、戦争中は議題にならず 事務総長 5/28
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は28日までに、ウクライナが求めるNATOへの加盟問題について、ロシアとの戦争が続く間は「(機構内の)議題にはならない」との見通しを示した。
ベルギー・ブリュッセルでの会合で述べた。ウクライナ戦争を受け同国の加入がより容易になっているのかとの質問には「どちらとも言えない」と説明。その上で、「誰もが戦争の最中に機構の一員になることは議題にならないことを認識していると考える」とした。
いずれにしてもこの問題は戦争が終結した時、より多くの関心を集めるだろうと指摘。戦争の発生でウクライナがNATO側へさらに近づく状況が出来たのは確かでもあるとも語った。
ストルテンベルグ事務総長はさらに、ウクライナの加入問題をめぐっては機構内にいくつかの異論があることは認めながらも、「全加盟国はウクライナが加わるだろうことでは(基本的に)意見が一致している」ともつけ加えた。
●米共和党上院議員が、米によるウクライナ戦争への関与を認める 5/28
米共和党のリンジー・グラハム上院議員が、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談の席で、ロシア軍兵士が死亡していることを喜ぶ様子を記録した動画がSNS上に投稿され、ユーザーから強い反発を引き起こしています。
グラハム上院議員は26日金曜、ゼレンスキー大統領と会談するため、代表団とともにウクライナの首都キエフを訪問しました。グラハム氏はかねてから米政府に対し、ウクライナへの支援を強化するよう求めています。
ウクライナ大統領府のイェルマク長官が公開した動画の一部には、グラハム氏が「ロシア兵が殺されている。これは、我々がこれまでに資金を費やした最良の地点である」などと語る様子が映っています。
SNSユーザーの多くが、グラハム氏の発言に対して「不快で忌み嫌うべきことだ」としています。
NATO・北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は今年2月、ウクライナ戦争開始から1年の日に、「NATOはウクライナでの開戦以来、同国に対し1500億ユーロ以上の軍事・財政支援を行ってきている」と語りました。この支援におけるアメリカの負担額は350億ドル以上となっています。
●ウクライナ総司令官 「我々のものを取り戻す時が来た」反転攻勢は 5/28
ロシア国内を標的に“攻撃急増”反転攻勢の一環?
ウクライナ軍のザルジニー総司令官が通信アプリで「我々のものを取り戻す時が来た」と発信した。領土奪還を目指す、大規模な反転攻勢開始の宣言なのか。ウクライナによる反転攻勢の機運が高まる中、今月に入り、ロシア国内を標的にした攻撃の頻度が急増する。ウクライナと国境を接するロシア西部で、ロシア国内を狙った攻撃が多発した。
ロシア人武装組織は22日、ウクライナ側からロシア・ベルゴルド州に進入し攻撃を加えた。25日夜から26日朝にかけて、同州コジンカ村が130回以上の砲撃を受けたことを、知事が明らかにした。25日、同州の防空システムが作動、ウクライナ軍と見られる無人機をロシアが迎撃した。26日、同州国営エネルギー企業の敷地内に、ドローン攻撃により爆発物が落下した。3月2日、ウクライナと国境を接する西部ブリャンスク州で、武装集団などが相次いで攻撃を仕掛け、住民2人が死亡した。13日には、同州上空を飛行中のロシア戦闘機とヘリ4機が撃墜された。また、23日には、同州にある防衛関連企業の工場倉庫で、大規模な火災が発生した。
越境攻撃「ロシア義勇軍」ウクライナ軍との関係
ウクライナ英字メディア「キーウ・インディペンデント」は26日、ロシア・ベルゴルド州への越境攻撃を実施したのは、親ウクライナの「ロシア義勇軍」と報じた。リーダーのデニス・カプースチン氏は「『ロシア義勇軍』はウクライナ軍と相談のうえ、負傷兵への医療支援などを行っている」と、双方が協力関係にあることを明らかにした。米国製の高機動多用途装輪車両「ハンビー」を、「ロシア義勇軍」が使用していることについて、カプスーチン氏は、西側の供与を否定した。
昨年9月から活動を開始した「ロシア義勇軍」は、戦闘員は19歳から40歳半ばのロシア系移民で構成される。一方、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、「ウクライナには供与した兵器でロシア領内を攻撃しないように要請してある。これはロシアと米・NATOの戦争ではない」述べたうえで、SNS上に投稿された車両や軍用機器の画像を調査中であることを明らかにした。
ゼレンスキー氏「ロシア領攻撃を内部検討」米紙報道
米・NATO(北大西洋条約機構)の戦争ではない」と述べた。米紙ワシントン・ポストは13日、ゼレンスキー大統領が今年1月、ロシア領内の都市占領や攻撃などを側近と協議していたことを報じた。同紙が入手した機密文書には、「モスクワとの交渉において、首都キーウに影響を与えることが目的である」と記されていた。
一方、ロシアのクレムリンが3日に、ドローン2機による攻撃を受けた事件で、米CNNは25日、ウクライナの特殊軍事部隊が攻撃を実行した可能性が高いと報じた。米国当局が傍受した会話のやり取りの中で、ウクライナ当局者が攻撃に関連して、双方が非難する内容が含まれていることを確認した。
ワグネル「バフムト完全制圧」ウクライナは戦闘継続
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏は20日、東部ドネツク州の激戦地バフムトを完全に制圧したと主張した。米シンクタンク・戦争研究所は26日、ロシアの軍事ブロガーの情報として、オリホボ・ワシリフカ付近に駐留するウクライナ軍の反撃により、ロシア軍は最大1キロ後退したことを明らかにした。
同戦争研究所は、「ウクライナ軍はバフムト南部のクリシキフカに向かって進軍し、ベルスキー・ドネツ運河を渡り、ロシア軍を東へ後退させる可能性がある」と分析した。ウクライナ陸軍のシルキー司令官は21日、「状況が変われば、我々にバフムト市に入る機会が得られる」としたうえで、バフムト周辺を包囲しながら、市街地に向けて進軍する状況にあることを明らかにした。
ワグネル部隊が“バフムト撤退開始”親ロシア派が継承
ワグネルの創設者プリゴジン氏は21日、6月1日までに部隊を前線から完全撤退させ、2カ月間にわたって再編と再武装、また、再訓練を行うことを表明した。ワグネルは6月から7月にかけて不在になる。戦争研究所は26日、東部ドネツク州で親ロシア派勢力を名乗る「ドネツク人民共和国」首長・プシリン氏がワグネル部隊に代わり、バフムトでの戦闘を引き継ぐ可能性があることを指摘した。侵攻開始以降、ドネツク人民共和国軍は、兵力55%を喪失しており、戦闘の遂行能力に懐疑的な見方が持たれている。
ロシア首相訪中“結束強化へ”西側対抗で接近加速
習近平国家主席は24日、訪中したロシアのミシュスチン首相と北京で会談、両国は多国間の枠組みにおいて関係を強化するべきだとの考えを示した。中国とロシアは関係強化を図り、西側に対抗する姿勢を見せた。習氏は、「経済・貿易・投資、また、エネルギー分野での協力を拡大すべき」と提言。一方、ミシュスチン首相は「西側諸国が違法な制裁を利用し、自分たちの意思を押し付けようとする試みに対抗する」と述べた。
中ロ両国間の貿易総額は、昨年は1890億ドルに対して、今年は2000億ドルを超え、2019年に設定した目標を想定より1年早く達成する見通し。ロシアから中国へのエネルギー輸出も今年は40%増が見込まれている。

 

●ワグネル創設者「革命起きかねない」、戒厳令と総動員求める… 5/29
ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ侵略を巡って、厳しい戦況をSNSで暴露して戦時態勢への即時移行を主張する強硬派勢力に手を焼いている。強硬派勢力は、露軍がウクライナ軍に敗北し、露国内が大混乱に陥るシナリオに踏み込んでおり、世論の反発や動揺は避けたいプーチン氏の基本方針と異なるためだ。強硬派の主張が浸透すれば、将来的に政権の土台を揺るがす恐れもある。
強硬派勢力の代表格は、侵略作戦に部隊を派遣している露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏だ。23日、SNSに投稿されたインタビューで「ロシアがウクライナで損失を積み重ねれば革命が起きかねない」と述べ、プーチン氏に戒厳令の全土発令と総動員を求めた。
プリゴジン氏は「ウクライナは世界最強の軍隊の一つになった」とも評した。プーチン氏が侵略を「特殊軍事作戦」と称して戦争と一線を画したままでは、侵略目的の一つに掲げているウクライナの「非軍事化」は達成できないとの認識を示したものだ。
強硬派勢力には、SNSでの支持を背景に政界進出を模索する動きも出始めている。2014年に勃発したウクライナ東部紛争に参戦経験のあるイーゴリ・ギルキン(ストレルコフ)氏らは政治団体「怒れる愛国者クラブ」を設立し、今月12日にモスクワで記者会見を開いた。国内第2の都市、西部サンクトペテルブルクに支部も作った。
ギルキン氏はプーチン氏が構築した体制護持を強調しながら「指導層は取るべき行動がわかっていない」と批判する。SNSにはウクライナ軍の大規模な反転攻勢で想定される露軍の敗北シナリオも投稿している。
強硬派勢力に共通するのは、露軍の敗色が濃厚になれば米欧の支援を受けたリベラル勢力が政権転覆を画策する事態への危機感だ。プーチン氏の主張と重なっており、反戦運動のように封じ込められない面がある。
政権内部の有力者や情報機関が、強硬派勢力を各自の思惑に基づき後押ししているとの分析もある。
このため、プーチン氏は強硬派勢力の言動を表向き静観している。世論の刺激を避けてウクライナ軍の反攻をしのげば、米欧の「支援疲れ」で戦況が露軍有利に傾くと踏んでいるようだ。露国営テレビはプリゴジン氏を露出させない方針を維持している。
プーチン政権内部の動向に詳しいカーネギー財団ロシア・ユーラシアセンターのタチアナ・スタノバヤ上級研究員は24日に発表した論文で「(強硬派勢力は)緩やかに政治的な資本を蓄えており、プーチン氏に対する我慢が限界に達すれば、政権に挑む可能性がある」と指摘した。
●ウクライナ軍 バフムトでロシア軍の攻撃 著しく減少の見方示す 5/29
ウクライナ軍は28日、東部の激戦地バフムトで、ロシア軍の攻撃が著しく減少しているとの見方を示しました。
これについてウクライナ政府の高官は、ロシア側が次の戦闘に備えて部隊の再編成や配置転換を進めていると指摘していて、緊張が続いています。
ウクライナのメディアは28日、東部での戦闘にあたっているウクライナ軍部隊の報道官の話として、東部ドネツク州の激戦地バフムトで、ロシア軍の攻撃が著しく減少していると伝えました。
ロシア軍による砲撃などが相次いでいるものの、部隊どうしの衝突は27日以降、1回しか起きていないということです。
バフムトをめぐっては、多くの戦闘員を投入してきたロシアの民間軍事会社ワグネルが、25日に部隊の撤退を表明し、支配地域を正規軍に引き渡すとしています。
これについてウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、イギリスの公共放送BBCとのインタビューで「ワグネルは戦いをやめたわけではなく、ほかの戦線に集中すべく部隊の再編成を行っている」と指摘しました。
ロシア側は、ウクライナ軍の大規模な反転攻勢に対抗するため、部隊の再編成や配置転換といった次の戦闘への備えを進めているもようで、緊張が続いています。
一方、ウクライナの北部に位置する首都キーウなどでは、ロシア軍の無人機やミサイルによる集中的な攻撃が繰り返され、28日未明にも無人機による大規模な攻撃がありました。
ウクライナ空軍は、飛来した54機のうち52機を迎撃したと、成果を強調しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、首都の防衛にあたった防空部隊に対して「敵の無人機やミサイルを撃墜するたびに人々の命が救われる。まさにわれわれの英雄だ」と功績をたたえました。
●ロシア、キーウに最大規模のドローン攻撃 ゼレンスキー氏「大半を撃墜」 5/29
ウクライナの首都キーウで28日、ロシア軍による軍事侵攻開始以来最大規模のドローン攻撃があった。この日は、キーウの建都記念日にあたる。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は攻撃後、ドローンの大半を撃墜したとして自国の防空部隊を称賛した。
ウクライナ軍司令部は、ロシアが発射した自爆攻撃型ドローンの大半を撃墜したと発表。ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍に対し「みなさんは英雄だ」と述べた。
ただ、この攻撃により2人が死亡し、数人が破片で負傷した。
ロシアはここ数週間、キーウへの攻撃を強化し、同市の防衛を突破しようとしている。
今月14回目の首都空爆は、キーウ市民が、1500年以上の歴史を持つキーウの建都記念日「キーウの日」を祝う準備を進める中、27日深夜から28日未明に行われた。
市民は28日、公園やバー、レストランに集まり、街の驚くべき回復力を示した。
キーウのヴィタリー・クリチコ市長は先に、夜間の大規模攻撃は「大規模」なものだったとし、ドローンが「複数の方向から一度にやって来た」と述べた。
ウクライナ軍、ドローンの大半撃墜と
落下したドローンの破片がタバコ工場などいくつかの建物を直撃し、火災が発生した。
ウクライナ北西部の街ジトーミルでは、少なくとも26軒の住宅や、複数の学校や医療機関が被害を受けたと、オンラインニュースサイト 「ウクラインスカ・プラウダ」は伝えている。
一方でウクライナ軍の司令官は、ウクライナ空軍が、ロシアが発射したイラン製ドローン59機のうち58機を撃墜したとしている。
ゼレンスキー氏は、「あなた方が敵のドローンやミサイルを撃墜するたびに、人命が救われる(中略)あなた方は英雄だ」と、空軍を称賛した。
同氏はその後、夜の演説で、「破壊行為のほとんどは回避され、(イラン製ドローン)シャヘドよって奪われる可能性があった命のほとんどが救われた。それを可能にした1人ひとりに感謝している」と語った。
キーウ市民のアナスタシアさんは、自宅で就寝中、窓の「すぐ近く」を飛行するドローンの音で目が覚めたという。
「すると、アパートの中でまぶしい閃光(せんこう)を見ました(中略)あまりに明るくて何も見えませんでした」と、BBCに語った。「雷のような、とても大きな」爆発音が、「閃光の2、3秒後」に聞こえたという。
「明るい光から真っ暗闇に変わりました。被害を受けていないか確認したいと思いました。何が起きたのか理解できませんでした。ショックだったので、恐怖は感じませんでした。自分と、自分のアパートが無事なのか理解できませんでした」
ウクライナの反攻前に、消耗作戦か
ウクライナは近く、ロシア軍に反撃することが予想されている。アナリストたちは、ロシアにはウクライナの反攻に先立ち、ウクライナの防空体制を消耗させ、損害を与える狙いがあるとみている。
ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は27日、ロシアの占領軍から領土を奪還する攻撃が「明日、明後日、あるいは1週間以内に」始まる可能性があると、BBCに語った。
ウクライナは数カ月前から反撃を計画している。これまで、部隊の訓練と西側同盟国からの兵器の受け取りに多くの時間をかけてきた。
その間、ロシア軍は掌握したウクライナ南東部の地域で守備の準備を進めてきた。
●ロシアがキーウ空爆、今月15回目 ウクライナ当局「死傷者なし」 5/29
ロシアは29日未明、ドローン(無人機)や巡航ミサイルでウクライナ首都キーウ(キエフ)を空爆した。ウクライナ当局によると、防衛部隊が40以上の標的を撃墜し、大きな被害はなく、死傷者もいなかった。
今月に入ってからキーウへの空爆は15回目。前日にも同規模の夜間攻撃があった。
キーウの軍当局トップは通信アプリ「テレグラム」に「このような絶え間ない攻撃により、敵は市民を極度の心理的緊張に引き続き陥れようとしている」と投稿した。
今回の攻撃について、ロシア側からは今のところコメントは出ていない。ロイターは攻撃の規模に関する情報を独自に確認できていない。
ロイター記者は、29日未明にキーウとウクライナ全土に空襲警報が出ていた際、数回の大きな爆発音を耳にした。
●「ロシアによる『キーウの日』の祝い」 過去最大規模のドローン攻撃 1人死亡 5/29
ウクライナの首都キーウで、ロシア軍による大規模なドローン攻撃があり、少なくとも1人が死亡しました。
ウクライナ軍は28日、ロシア軍によるドローン攻撃があり、未明までに飛来した54機のうち52機を撃墜したと発表しました。
少なくとも40機はキーウ上空で撃墜され、破片が落下するなどし、1人が死亡したということです。キーウへのドローン攻撃としては最大規模だとしています。
28日は「キーウの日」と呼ばれる首都建設の記念日で、ゼレンスキー大統領は、「これがロシアによる『キーウの日』の祝い方だ」と批判しました。
キーウのクリチコ市長は、「29日未明にもロシア軍によるミサイル攻撃があった」と明らかにしました。
●ロシアのジョーク「アネクドート」から読み解く本当の民意 5/29
ウクライナ戦争が始まって約460日。対独戦勝記念日に勇ましい演説をぶったプーチンだが、国内では終わりなき戦いに不満が鬱積(うっせき)している。高止まりする支持率の陰でロシアン・ジョークに表れる「本当の民意」とは。拓殖大学の名越健郎・特任教授がレポートする。
プーチン大統領が軍需工場を視察した。工場長が説明した。
「前線の兵士に必要な物資を届けるため、毎日休みなしにフル稼働しています」「それで何を作っているのか」「棺桶です」
ゼレンスキー大統領はウクライナ侵攻前、コメディアンだった。プーチン大統領はウクライナ侵攻後、ピエロになった。
ウクライナ戦争が始まって1年と3カ月。国際社会からの非難にもかかわらず、ロシアでのプーチンの支持率は高いままだ。国民はプーチン支持、戦争支持一色かに見える。しかし、そこに表れる数字は庶民の本心を反映しているのだろうか。
ロシアにはアネクドートと呼ばれる、政治小話の伝統がある。権力を嘲笑し、生活の不満を皮肉るアネクドートは、旧ソ連時代に異常な発展を遂げた。厳しい社会主義統制下、庶民はアネクドートで憂さを晴らし、欲求不満を解消したものだ。ソ連時代のすぐれた作品を紹介すると――。
ソ連の軍需工場で、3人の労働者が秘密警察に逮捕された。
一人は時間より30分早く出勤したために、スパイの疑いで。
一人は時間より30分遅く出勤したために、サボタージュの疑いで。
一人は時間通りに出勤したために、外国製腕時計を不正に入手した疑いで。
台所はアネクドートのオンパレード
アネクドートの語源はギリシャ語の「アネクドトス」(地下出版)から来ている。ソ連時代の反体制作家、アンドレイ・シニャフスキーは「ロシアが世界に誇る民間口承文学」と呼んだ。
口コミ社会のロシアでは「台所会話」という表現があり、家族や親しい友人と狭い台所で本音のトークをする。筆者も通信社記者としてモスクワに駐在していた時、何度もロシア人の家庭に招かれ、台所会話に参加したが、興が乗ると、大抵アネクドートのオンパレードとなった。
長期化するウクライナ戦争で、活況を呈しているのが、そのアネクドートの世界だ。ロシアの台所では今も、国営テレビの勇ましい戦況報道とは裏腹に、かんかんがくがくの議論が展開され、アネクドートも飛び交っているはずである。
インターネット全盛の現代では、それは口承だけでなく、ネット上やSNSでも拡散される。
そこには、80%以上がプーチン大統領を支持する世論調査とは一風異なる世界が広がっている。
プーチン大統領が突然発作に襲われ、10年間意識を失った。病院で目が覚めた大統領は一人でモスクワのバーに出掛け、バーテンダーに尋ねた。
「クリミアは今もわれわれのものなのか」「その通りです」「ドンバスもそうか」「もちろんです。キエフもです」「それは良かった。……ところで、勘定はいくらだ?」「100フリブナ(ウクライナ通貨)です」
自虐ジョークも
アネクドートの投稿サイトで目に付くのは、プーチンやロシア軍へのあざけりだ。戦争は短期決戦で終わるという楽観論はすぐに消え、1年以上たった今も、ロシア軍は苦戦を強いられ、泥沼の戦いが続く。想定外への自虐ジョークも溢れている。
ロシア政府が遂にNATO加盟を申請した。
ウクライナから自国の安全を守るためだ。
ロシアの将軍が戦場で意識不明に陥り、1年後に回復した。側近の将校が話しかけた。
「将軍、大統領がウクライナ侵攻を命令し、実質的にNATOとの闘いになり、これまでに10万人が戦死し、戦闘車両5千両、軍艦や戦闘機多数を失いました」
「それは恐ろしい。それでNATOの損害は?」
「NATO軍はまだ介入していません」
プーチンは昨年秋ごろから、この戦争はウクライナとの戦争ではなく、背後に控えるNATOとの戦いだと主張するようになった。2月の年次教書演説では、「この戦争は西側が始めた」と支離滅裂な発言をした。格下のウクライナより、NATOとの戦争と位置付けることで、国民の危機感を高める狙いのようだ。
兵力不足も国民にはお見通し
しかし、大義名分のない戦争に駆り出されるロシア兵の士気は低く、兵器や銃弾も不足。欧米メディアでは、死傷者は20万人近いと報じられた。
兵力不足に陥ったプーチン政権は30万人の部分動員を発動したり、イランや北朝鮮に武器援助を要請したり、なりふり構わぬ対応に出ている。
その辺りの現実も、国民はとうにお見通しだ。
プーチン大統領の国民とのテレビ対話で、シングルマザーが質問に立った。
「私には2人の息子がいます。子育てで国に何を期待すればいいでしょう」
「2通の召集令状だ」
父親が、軍に動員された息子に電話した。
「キエフは確保したのか」
「まだです」
「ハリコフは?」
「まだです」
「では、ウクライナで何を確保したのだ」
「テレビ、冷蔵庫、高級ワイン、パソコン、靴下、下着……」
問=ロシア軍のウクライナ侵攻を内心、喜んでいる国はどこか? 
答=ドイツだ。ナチスの記憶が薄れるからだ。
プーチンの女性関係に引っ掛けたアネクドートもある。
物騒なジョーク
プーチンは2013年、当時のリュドミラ夫人と離婚した。現在は、新体操の五輪金メダリスト、アリーナ・カバエワが愛人ともいわれているが……。
プーチン大統領とリュドミラ夫人の離婚が公表された。
報道官は、「リュドミラ夫人には、住宅とクルマが与えられる」と発表した。
プーチン大統領には、クリミアとドンバス地方が与えられる。
ロシアによるクリミア併合後、カバエワが友人にこぼした。
「私は3月8日の国際婦人デーのプレゼントにクレム(クリーム)を頼んだだけなのに、彼はクルィム(クリミア)と勘違いしたようだわ。これではもう、カリャスカ(乳母車)は頼めない」
カリャスカはアリャスカ(アラスカ)のかけ言葉で、ロシアがクリミアに続いて米アラスカ州の奪還に動くのでは、という物騒なジョークだ。そんな事態になれば、第3次世界大戦は確実だろう。
クリミアとアラスカは微妙にリンクしている。帝政ロシアは19世紀半ば、英仏両国とクリミア戦争を戦い、敗れたものの、クリミアを死守した。しかし、戦費の急増で財政赤字に陥り、1867年、当時領土だったアラスカを720万ドルでアメリカに売却した。
資源の宝庫、アラスカの売却は「世紀の愚行」と教科書にも書かれ、ロシア人のトラウマとなっている。
プーチン自身もアネクドートを
実は、プーチンも記者会見やテレビ対話で好んでアネクドートを口にする。昨年10月、内外の専門家を集めて行う「バルダイ会議」でこんなアネクドートを披露した。
ドイツ人一家の会話――。
息子「パパ、なんでこんなに寒いの」
父「ロシアがウクライナを攻撃したので、ロシアに制裁を科したからだ」
息子「なぜ制裁したの」
父「ロシアを苦しめるためだ」
息子「僕たちはロシア人なの?」
このバルダイ会議では、もう一つサプライズがあった。司会者が「核戦争が起これば、われわれは殉教者として天国に行く。西側は死ぬだけだ」というプーチンの過去の恫喝発言をただすと、会場は沈黙に包まれた。プーチンは「この沈黙は、発言が効果的だったことを示した」と述べて会場の笑いを取ったが、笑えないジョークだ。
プーチン大統領が「核戦争が起これば、われわれは殉教者として天国に行く」と述べた。
これを聞いた天国の神は、NATO加盟を申請した。
ロシア人1億4千万人が一斉に亡くなり、天国に送られた。
天国の管理人が「これほど人が多いと、群衆をまとめる指導者が必要だ。誰がいいか」と尋ねると、群衆から「プーチン、プーチン」のシュプレヒコールが沸き上がった。
管理人が言った。
「プーチンはここにはいない。彼は地獄に送られたはずだ」
歴代指導者を非難し皇帝を称賛
KGB(ソ連国家保安委員会)の将校だったプーチンは、ソ連に思い入れがあると見られがちだが、実際にはソ連指導者を酷評し、18世紀の帝政ロシア皇帝、ピョートル大帝やエカテリーナ女帝を称賛する。
プーチンは、「レーニンはロシア人の住む地にウクライナ共和国という人工国家を作った」「スターリンはドイツから奪った領土をウクライナに与えた」「フルシチョフはロシア固有のクリミアをウクライナに帰属させた」などと歴代ソ連指導者を非難。返す刀でツァーリ(皇帝)を称賛する。
特にトルコとの戦争でウクライナ南東部やクリミアを奪ったエカテリーナ女帝を称え、「ピョートル大帝より効果的な君主だった。女帝の時代にロシアは領土を拡大した」と評価した。国民対話で、「今読んでいる本は、エカテリーナ女帝時代の歴史書だ」と明かしたこともある。
新型コロナ禍の隔離生活で帝政時代についての歴史書を読みあさって形成されたゆがんだ歴史観が、ウクライナ侵攻につながったとの見方もある。それを皮肉ったのがこんなジョークだ。
問=ピョートル大帝とプーチン大統領の共通点は何か? 
答=ともにロシアを19世紀に導こうとしている。
アネクドート・サイトを規制
西側諸国の厳しい対露経済制裁の苦境を笑い飛ばそうとするアネクドートも生まれた。
米国の対露経済制裁に伴い、マクドナルドなどのファストフード、コカ・コーラ、ペプシコーラ、アップルやフェイスブック、ツイッターがロシアから撤退した。医師がコメントした。
「ロシア人はこれで、心身ともに健康になれる」
プーチン政権は国民を西側の情報から遮断するため、インターネットやNetflixを統制した。
新しいサービスは、「インターニエット」、「Nyetflix」と呼ばれる。
ロシア語で「ニエット」は「ノー」を意味する。
戦争が長期化する中、プーチン政権は指導者がジョークで揶揄されることを恐れ、アネクドート・サイトを次第に規制し始めたようだ。昨年秋以降、ネットやSNSへの政治ジョークの投稿も減ってきた。
罰金3万ルーブル
今年3月、リャザン州の男性が大統領とショイグ国防相を皮肉るこんなアネクドートをSNSに投稿した。
昨年11月、ロシア軍がウクライナ南部のヘルソン市から撤退すると、プーチン大統領がショイグ国防相を叱責した。
「なぜヘルソンから撤退するのだ」
「ネオナチからウクライナを解放せよとのあなたの命令に従ったのですが……」
ロシア軍をナチス・ドイツになぞらえたユニークな作品ながら、この男性は後に地元の裁判所から3万ルーブル(約5万円)の罰金刑を言い渡された。軍の名誉を失墜させる行為には最高15年の刑を科すとする、侵攻後に採択された改正刑法に抵触したとされた。
スターリン時代には、スターリンを揶揄するジョークを口にして収容所送りになったケースがあった。
ペスコフ報道官は記者団の問い合わせに、「ジョークの編集権には介入しない」と弾圧を否定したものの、アネクドートの規制は、「プーチンのスターリン化」を思わせる。
“あなたの命日が…”
一方で隆盛が目立つのが、ウクライナのジョークサイトだ。同じスラブ系のウクライナにも、政治ジョークの伝統がある。首都キーウのお笑い劇場ではロシアを揶揄するアネクドートがあふれ、笑いが絶えない。
以下は、ウクライナのSNSやジョークサイトから拾ったが、プーチンを揶揄する作品が圧倒的に多い。
プーチン大統領が占星術師に占ってもらった。
「1年後の今、私はどこにいるか?」
「あなたはキエフにいます。戦争は終わり、あなたの乗る車の周辺は歓声を上げる市民であふれています」
「私も彼らに手を振っているのか」
「それはできません。棺(ひつぎ)は密閉されています」
プーチン大統領が占星術師に占ってもらった。
「私はいつ死ぬのか?」
「あなたはウクライナの祝日に死ぬことになります」
「祝日はいつだ」
「あなたの命日がウクライナの祝日です」
夜中の3時、ロシア大統領公邸で執事がプーチン大統領を起こした。
「夜分に失礼します。ウクライナ側が降伏について大統領と交渉したいそうです」
「遂にきたか。電話を回してくれ」
「それには及びません。武装したウクライナ兵がドアの外で待っています」
中国もアネクドートに登場
戦争が長期化するにつれ、ロシアの国力は弱体化しそうで、漁夫の利を狙っているのが中国だ。西側からの経済制裁にあえぐロシアの資源を買い支え、着実に影響力を増している。いずれロシアは中国に飲み込まれる。そんな不安は国民にも根強いようで、ウクライナ戦争の起こる前から、こんなアネクドートがあった。
100年前のロシア指導者はラスプーチン。
現在のロシア指導者はプーチン。
100年後の指導者は陳(チン)。
戦争が始まった後も、同様の小話が生まれている。
22世紀、強力な新型コロナウイルスがまた世界を襲った。
アメリカでは、米大統領が国民に自宅待機を訴えた。
フランスでは、EU大統領が国民に自宅待機を訴えた。
旧ロシアでは、中国共産党総書記が国民に自宅待機を訴えた。
長引く戦争で、今後もアネクドートの傑作は生まれ続けるだろう。それらはインターネットに乗って世界中に広がっていく。
アネクドートはスラブの民の心の叫びであり、ささやかな抵抗の手段なのだ。 
●反プーチンロシア人武装集団が、ベルゴロドで逃げ惑うロシア兵の動画を拡散 5/29
ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻に反対し、ウクライナ側で戦うロシア人組織「自由ロシア軍団」は、ロシア領内で攻撃を受けたロシア軍兵士が逃げ隠れする様子を映した動画を公開した。
テレグラム・チャンネルに投稿されたこの動画は、ウクライナ領からロシア領のベルゴロド州を攻撃する作戦の最初の映像で、「プーチンの軍隊の臆病さとプロとしての資格の欠如を証明する」という説明がつけられている。
自由ロシア軍団は22日にウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州の村を占拠したと発表した。ロシア側は、この攻撃はウクライナ側の「破壊工作グループ」によって行われたと主張している。
別の反ロシア民兵組織「ロシア義勇軍」も犯行声明を出したが、ウクライナはこの攻撃への関与を否定している。
投稿された動画は、長さ1分52秒。空から地上を俯瞰する映像から始まり、「ベルゴロド地方」とキャプションが付けられている。その後、軍団のメンバーらしき人物が乗った軍用車の車内に切り替わる。車がどこを走っているかは明らかではない。
ドローンによる空からの映像は、歩兵戦闘車を映し出し、「敵のBMP-2(歩兵戦闘車)」という説明が入る。その後、現れる住宅の映像には、ロシア軍機動中隊の兵士が「廃屋が並ぶ住宅地で隠れる場所を探している」というキャプションがつけられている。
軍装備品と捕虜を獲得
「数の上で優位に立ち、自国の慣れた土地で行動しているにもかかわらず、ロシア軍の兵士たちは、パニックに陥って階段やフェンスの陰に隠れた」と、テレグラムの投稿は述べている。
この動画は、ロシア軍兵士が隠れた場所への砲撃と、ロシア軍の装備への攻撃を示すとされる。
「連中はかくれんぼをしようとしていたが、こちら側の砲手はずっと上手だ」と、投稿の文章は続く。この映像に映っている「破壊され、損傷したロシア軍の装備は、もはやウクライナの都市を破壊するために走り回ることはなくなるだろう」
この動画は第三者によって検証されたものではない。本誌はロシア国防省に連絡してコメントを求めている。
ロシア当局は24日までに事態を収拾したと主張しているが、自由ロシア軍団は作戦の成功と、大量の軍装備品と捕虜を獲得したことを発表した。
「われわれは戻ってくる。ブリャンスク、クルスク、ボロネジ、ロストフ、モスクワ、待っているがいい」と、軍団は25日にテレグラムに投稿した。
この事件の前に、ベルゴロド州にあるロシア内務省の建物がドローン攻撃を受けたと報じられている。オンラインニュースメディア「バザ」は、26日にドローンがメイスキー村の移民局ビルに爆発物を投下したと報じた。
一方、同日未明、ベルゴロド州のビャチェスラフ・グラトコフ知事は、無人機から投下された爆発物が国営エネルギー大手バスプロムの建物を損傷させたと発表した。
●プーチン大統領の面前で“口論” 旧ソ連首脳…話を遮ってまで批判した理由 5/29
旧ソ連諸国の首脳が集まった会議で、アルメニアとアゼルバイジャンの両首脳が、議長を務めるプーチン大統領の目の前で口論を繰り広げた。ロシア側の面目をつぶすようなことが起きた背景とは。
プーチン大統領…両国に“自制”呼び掛け
プーチン大統領の目の前で論争が繰り広げられたのは25日、ロシアのモスクワで開かれた旧ソ連諸国の首脳が集まって行われた「ユーラシア経済同盟」首脳会議での出来事だった。
プーチン大統領「『ユーラシア経済同盟』首脳会議の開催にあたり…」
アルメニア パシニャン首相「お話し中、失礼します。一言言わせて下さい。ロシアの平和維持部隊が道路を管理すべきだが、アゼルバイジャン側が違反して封鎖しました」
アルメニアのパシニャン首相が、プーチン大統領の話をさえぎったのだ。
突然のことに、プーチン大統領はこの表情。パシニャン首相が話し始めたのは、アゼルバイジャン領内にあるアルメニア系住民が多く住む地域「ナゴルノカラバフ」についてだった。
アルメニアとアゼルバイジャンが30年以上、帰属を争ってきた「ナゴルノカラバフ」。現在は、アゼルバイジャン領となっているが、アルメニアのパシニャン首相は、その「ナゴルノカラバフ」とアルメニアを結ぶ唯一の幹線道路をアゼルバイジャンが封鎖したと批判したのだ。
これに対し、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は反論。
アリエフ大統領「いかなる道路も封鎖していない。この場で、根拠のない言いがかりをつける必要はない」
両国の応酬にプーチン大統領は困惑した表情で、こう切り出した。
プーチン大統領「ロシアも例の方面(ウクライナ)で紛争が起きています。我々全員が紛争の解決に利害関係を有しているに違いありません」
ロシアがウクライナに侵攻した件を持ち出して、両国に自制を呼び掛けた。
話遮ってまで…批判した理由
アゼルバイジャンとアルメニアが領有権を争っているナゴルノカラバフ地域について見ていく。
ナゴルノカラバフ地域は、アゼルバイジャン内の西部の山岳地帯にあり、面積は山梨県ほどで人口の9割をアルメニア系住民が占めている。ソ連時代末期の1988年には、アルメニアへの編入を求める運動が起こった。
その運動をきっかけに、アルメニアとアゼルバイジャンの間での対立となり、紛争にまで発展。1991年には、アルメニア系住民が「ナゴルノカラバフ共和国」独立を宣言して、アゼルバイジャンの軍も警察も入れない地域となっていた。
そして2020年に大規模な戦闘が発生。アゼルバイジャン側が実質的な勝利をおさめ、アルメニア系住民の支配地域が大幅に減少した。
その後、ロシアなどの介入により停戦に合意したが、その後もアルメニアとアゼルバイジャンとの衝突が続いている。
そんな30年以上紛争が続いているなか、ここにきてアルメニアが譲歩の姿勢を見せている。
アルメニアのパシニャン首相は22日、ナゴルノカラバフについて、アゼルバイジャン領と認める可能性について言及。現地のアルメニア系住民の「安全の確保」を条件として、ナゴルノカラバフをアゼルバイジャンの一部と認める用意があると述べている。
なぜ、パシニャン首相は、プーチン大統領の話をさえぎってまで、アゼルバイジャンの批判をしたのか?
旧ソ連の紛争に詳しい慶應義塾大学の廣瀬陽子教授は、「ナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の道路が、アゼルバイジャン側に封鎖された問題に加え、プーチン大統領自らが出席していたことが大きい」と指摘し、「去年も度々、ナゴルノカラバフを巡って衝突があったが、ロシアは解決に動かず仲介役を放棄していて、今回、プーチン大統領の話をさえぎるという形で抗議の姿勢を見せたのでは」と分析している。
またここにきて、アルメニアが譲歩の動きを加速させるような動きを見せていることについて、廣瀬教授は「アルメニアはロシアの支援のもと、活動してきたが、ウクライナ侵攻の影響でロシアの支援は期待できなくなった」とし、「ロシアを見限り、平和活動を進めるヨーロッパから支援を受けることなどを視野に入れて、ナゴルノカラバフの譲歩を進め、平和をアピールしているのでは」と推察している。
●ロシアによる「毒殺説」浮上 ベラルーシの大統領・ルカシェンコ氏危篤か 5/29
たびたび「健康不安説」が浮上していた、ロシアの隣国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領がモスクワで、救急搬送されたとの情報が駆け巡っている。ベラルーシの野党指導者、ヴァレリー・ツェプカロ氏が27日、SNSに投稿したと、ウクライナのメディアが伝えた。ルカシェンコ氏は、ウラジーミル・プーチン大統領と密室で会談後に急変したため、海外メディアでは、ロシアにとってより従順な指導者にすげかえるための「毒殺説」も浮上している。
「危機的と判断され、対応するため専門医が派遣された」
ツェプカロ氏は、ルカシェンコ氏の状況をこう伝えた。ただ、「さらに確認が必要」と説明し、信憑(しんぴょう)性は不明だ。
ルカシェンコ氏は30年近く権力を握り、「欧州最後の独裁者」と呼ばれる。欧米とロシアの中間に位置する地理的特性を生かし、米欧とロシアを競わせて双方から利益を引き出してきた。
しかし、2020年の大統領選では、ルカシェンコ氏「圧勝」との政権側の発表に対して起きた開票不正を訴える大規模デモを鎮圧するため、ルカシェンコ氏はプーチン氏の支援を受けた。このため、米欧との関係が極度に悪化。その後ロシアとの関係を強化し、今月にはロシアの戦術核兵器のベラルーシへの配備受け入れで正式合意した。
国際社会で孤立を深めるプーチン氏にとって、「盟友」ともいえるルカシェンコ氏だが、今年に入ってからはたびたび体調の不調が指摘されてきた。
ルカシェンコ氏は、今月9日にモスクワで行われたロシアの「戦勝記念日」の式典に右手に包帯が巻かれた状態で出席した。パレードではわずか約300メートルの距離を小型車で移動し、夕食会を欠席した。ベラルーシに帰国した後も主要行事を欠席しており、心臓に疾患があるのではとの憶測が飛び出していた。
一方で、ロシアによる「暗殺説」も消えない。
ベラルーシは、昨年2月に始まったウクライナ侵略で、ロシア軍の進撃拠点の一つとなったものの、ルカシェンコ氏は「挑発」を受けない限り参戦しないと主張した。ロシアとの関係についても「ベラルーシの主権は維持する」としており、プーチン氏にとってルカシェンコ氏は決して、都合のいいリーダーではなかった。
英紙デイリー・メール(電子版)は28日、「より従順な指導者を求めているロシアの特務機関によって毒殺されたとの憶測がある」と伝えた。
●プーチン氏、エルドアン氏続投に安堵 ロシア・ウクライナ仲介期待 5/29
トルコ大統領選の決選投票で現職のエルドアン氏が勝利したことに、ロシアのプーチン大統領は安堵(あんど)したとみられる。
ウクライナ侵攻の出口が見えない中、穀物輸出合意の取りまとめに当たったトルコは貴重な仲介国。政権が交代していれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でありながらロシアとも協力を深めるトルコの外交方針が、変化しかねなかったためだ。
「2国間、地域、世界の課題について、建設的な対話を続ける用意がある」。エルドアン氏が28日に勝利を宣言するや否や、ロシア大統領府は祝電を発表。決選投票にもつれ込んだ激戦をプーチン政権が注視していたことをうかがわせた。
ロシアとトルコは「地域大国」として中東でたびたび衝突。シリアやリビアの内戦では、互いに対立陣営の後ろ盾となる形でにらみ合った。その一方、対立が沈静化すると自分たちの国益を優先して憎しみを「水に流す」傾向があり、今月10日にはトルコとシリアの外相会談をロシアが仲介している。
2015年にはトルコがシリア駐留ロシア軍機を撃墜したが、決定的な対立は回避した。ウクライナ侵攻が続く中、北欧へのNATO拡大に慎重だったエルドアン政権の姿勢も、ロシアには好都合だ。
トルコはウクライナに攻撃ドローン「バイラクタルTB2」を供与。軍事・外交面で一定の支援を受けるゼレンスキー大統領も28日、エルドアン氏に祝意を示した。
西側諸国とロシアの間で独自外交を展開するトルコに期待するのは、プーチン政権も同じで、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状を発付されたプーチン氏が、4月にICC非加盟のトルコを訪問する可能性が取り沙汰されたほど。祝電は「ロシアとトルコの友好関係と互恵的協力の強化に当たった貢献を高く評価する」とエルドアン氏を持ち上げた。
●プーチン大統領 トルコ・エルドアン大統領の再選に祝意 5/29
ロシアのプーチン大統領は、トルコの大統領選挙で再選したエルドアン氏に祝意を伝えました。
ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は「トルコ大統領としての献身的な活動の当然の結果であり、国家主権を強化し、独立した外交政策を追求するあなたの努力への国民の支持の表れだ」と祝意を表しました。
そのうえで、「ロシアとトルコの関係強化と様々な分野での互恵的な協力へのあなたの貢献を高く評価している」として、ロシアが支援したトルコ初の原発などにも言及し、協力拡大に意欲を示しました。
プーチン氏としては、ウクライナ侵攻をめぐり欧米との対立が深まる中、関係の深いエルドアン氏の再選を歓迎し、今後の関係維持を期待しているものとみられます。
●ロシアはアラスカをミサイル攻撃せよ──やられっぱなしにはもう飽きた 5/29
ロシアの下院議員が、アメリカのアラスカ州にミサイル攻撃をすべきだと主張した。
アンドレイ・グルリョフ議員は数日前、ロシア国営テレビの番組に出演してこう語った。「アメリカの領土はロシアの戦略核兵器の射程内だ。それに(ベーリング)海峡のすぐ向こうにアラスカがあるではないか」。ちなみにこのやりとりに字幕を付けてSNSで拡散したのはウクライナ内務省顧問のアントン・ゲラシチェンコだ。
「ロシアにはイスカンデル戦術ミサイルも、弾道ミサイルも巡航ミサイルもある。アラスカを完膚なきまで叩きつぶす力がある」とグルリョフは述べた。「たいした兵力は必要ない。旅団が2つくらいあれば十分だろう」
コメンテーターがなぜアラスカを攻撃するのかと聞くと、スカベーエワは「アメリカ人を恐怖に陥れるため」だと答えた。
グルリョフはこの数日前には、プーチン寄りの人気司会者ウラジーミル・ソロビヨフのインタビューに答えて、ウクライナに核攻撃をすればいいと言っていた。
「戦術核兵器でウクライナ軍の司令部や空港などの重要施設を破壊すればウクライナは麻痺状態になる。そうなれば、これまでとはまったく異なる対話が始められる」
グリュロフは、アメリカが対戦車ミサイルのジャベリンや高機動ロケット砲システムのハイマースといった強力な兵器をウクライナに供与するたび、慌てて対応を迫られてきたこれまでの戦争の経緯に飽き飽きとしたと言い、ロシア側から敵を慌てふためさせる方法について語っているのだ。
ロシアは昨年2月にウクライナへの侵攻を開始。ウクライナ各地では1年以上にわたって激しい戦闘が続いている。
「核の黙示録シナリオ」の可能性が高まる?
侵攻開始以降、アメリカはロシアとロシアのウラジーミル・プーチン大統領を繰り返し非難してきた。そしてウクライナに対し、ミサイルや戦車、ドローンや防空システムなどの軍事支援を行ってきた。
プーチンとロシアも、このアメリカのウクライナ支援を非難。ロシアの安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフ前大統領は、もしウクライナへの兵器供与が続くなら、世界はさらに「危険の」度を増すと警告した。
「こうした(供与される)武器の破壊力が上がれば上がるほど、いわゆる『核の黙示録』のシナリオの可能性が高まる」と、メドベージェフは述べたと、ロシア国営タス通信は伝えている。
ウクライナ侵攻が始まって以降、ロシアのコメンテーターたちは何度もアラスカ攻撃を話題にしてきた。ちなみにアラスカは1867年にアメリカに720万ドルで売却される前はロシア領だった。
「(ナポレオン戦争後にヨーロッパの領土確定を目指して行われた)ウィーン会議(1814〜1815)は、ワルシャワをロシア帝国の一部だと認めた。フィンランドもロシア帝国の一部だと認められた。この時の国境線まで戻すことに賛成だ」と、ロシア中東研究所のエフゲニー・サタノフスキー所長は2月、国営テレビで述べた。「そうすれば、アラスカは再びロシアのものになる」
制裁の報復としてアラスカを取り返す
同様に7月、ロシア下院のビャチェスラフ・ボロージン議長はアメリカの対ロシア制裁を受けてこう述べた。「連中(米連邦議会議員たち)がロシアの海外資産を横取りしようとするなら、ロシアにも取り返すものがあるということを認識すべきだ」
グリロフは3月、ロシアはイギリスを「地球上から消し去る」べきだと示唆している。ウクライナにとって主要な同盟国であるイギリスは、ロシアとウクライナの戦争における「悪玉」であり「扇動者」だとも彼は述べた。
●ロシア併合の4州で選挙可能に 法改正、戒厳令下で 5/29
ロシアのプーチン大統領は29日、ウクライナ侵攻で制圧し併合を宣言した東部・南部4州での地方選実施を可能にする改正法に署名、発効させた。タス通信が伝えた。
4州には昨年10月から戒厳令が導入されている。従来の法律では戒厳令下の選挙や政党活動は制限されていた。法改正により、中央選管が国防省や連邦保安局(FSB)と事前協議し選挙実施を決めることが可能になった。
プーチン政権は戒厳令を続けながら今年9月の統一地方選に合わせて4州でも選挙を行い、地方議会立ち上げや知事の選出などを計画。そのための法改正案が今月、上下両院を通過していた。
●ロシアが「欧州通常戦力条約」を脱退 フィンランドのNATO加盟に対抗措置 5/29
ロシアのプーチン大統領は29日、北大西洋条約機構(NATO)と、旧ソ連や社会主義諸国で構成したワルシャワ条約機構加盟国の間で欧州に配備できる通常兵器の上限を定めた欧州通常戦力(CFE)条約を破棄する法律に署名した。これによりロシアは同条約を脱退した。
プーチン政権はウクライナ侵攻を受けたフィンランドのNATO加盟への対抗措置として同条約破棄を決定。今月提出した条約破棄の法案が上下両院で可決、成立していた。
●ロシアとの「連合国家」参加なら核兵器を供与、ベラルーシ大統領が発言 5/29
ベラルーシのルカシェンコ大統領は28日に放送されたテレビインタビューで、「ロシア・ベラルーシ連合国家」に参加を希望する国には核兵器が与えられると主張した。その数日前には一部の戦術核兵器のロシアからベラルーシへの移転が始まったと明らかにしていた。
ルカシェンコ氏はロシア国営テレビ「第1チャンネル」のインタビューで、「我々がロシア連邦と結ぶのと同じ緊密な関係をカザフスタンや他の国が結ぶことを気にする者はいない」と述べ、「非常にシンプルだ。ベラルーシとロシアの連合国家に参加する。それだけで誰でも核兵器が手に入る」と続けた。
ベラルーシ政府のホームページによると、1999年に署名されたロシア・ベラルーシ連合国家創設条約は、両国間の経済、情報、技術、農業、国境警備など広範囲に及ぶ提携の法的基盤を提供している。
ルカシェンコ氏の今回の呼びかけがどれほどの範囲に及ぶものなのかは不明。同氏は具体的な内容も示していない。
だが、世界的な核拡散の情勢や、ロシアがウクライナへの侵攻でつまずき保有する核兵器で世界を脅す状況にある中、ルカシェンコ氏が同じ考え方をする同盟国への核供与を示す発言を行ったことは懸念を高める可能性が高い。
ルカシェンコ氏は25日に、ロシア・ベラルーシ両国が署名した合意に従い、一部の戦術核兵器の移転が始まったと発言。国営ベルタ通信によると「貯蔵場所の準備などが必要だったが、我々は完了した。従って、核兵器の移動が始まった」と述べた。
ロシアのプーチン大統領は、ベラルーシに配備する戦術核兵器の管理権はロシアが維持すると説明。この動きは米政府による欧州への核兵器配備と同じで、それによりドイツなどの配備先の国々が非核国家としての約束を破らずにいられると指摘した。

 

●見捨てられたプーチン。ロシア政府が「クーデター蜂起」を託す人物の名前 5/30
国際社会からの孤立を深めるプーチン大統領ですが、ロシア国内での地歩も危ういものになりつつあるようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ戦争の最新の戦況を解説。さらに民間軍事会社ワグナーのトップが発した「不気味な予言」を取り上げ、ロシアにおけるクーデター勃発の可能性を指摘しています。
第2のロシア革命勃発か。止まらぬワグナー軍トップのプーチン批判
ウ軍は反転攻勢に出ていたが、バフムトでの反撃も、ロ軍のザポリージャからの援軍で、膠着した事態になっている。このため、ウ軍ではなく、自由ロ軍を使い、ロ軍の手薄な国境沿いに、ロシア国内への攻撃を仕掛けた。
また、全体的にウ軍の地上攻撃は下火になっている。ウ軍の反転攻勢はどうなったのであろうか、という事態である。
バフムト郊外で本格的な反転攻勢に打って出たウクライナ軍
ウ軍はバフムト郊外で本格的な反転攻勢に出ているが、ロ軍の守備が整い、そう簡単には撃破できなくなっている。
ベルヒウカ貯水池で、ロ軍は強固な陣地を構築して、ウ軍の攻撃を防いでいるので、膠着状態である。逆に、ロ軍が市内から、クロモベ方向に向かった攻撃を、ウ軍は撃退している。
バフムト市内のワグナー軍は、5月25日から撤退を開始して、6月1日まで完全撤退するとプリゴジンは言う。今、ウ軍はワグナー軍の撤退を待っているようにも見える。
しかし、25日を過ぎても、ISWによる映像確認ではワグナーはバフムト市街を出た様子がない。単に、DNR旅団などが入ってきて、配備兵力が増大しているだけである。
イワニフスク方向にロ軍は攻撃したが、ウ軍は撃退している。
ウ軍第3突撃旅団はクリシチウカやアンドリウカ方向に攻撃しているが、こちらの前進も、ロ軍陣地を1つ1つづつ潰していくので、時間がかかっている。
クリシチウカに向けて、第24と第3突撃旅団が攻撃しているが、前進速度は遅くなっている。このクリシチウカの後方のイワノハラドの弾薬庫が大爆発した。地域の中核的弾薬庫であったようだ。
一方、市内ではロ軍とワグナー軍が、ほぼ全地域を占領した状態であり、ウ軍は、南の一角を残して撤退した。ウ軍は市内でゲリラ戦を行っている。
このバフムトの戦いでは、ザポリージャ州のロ軍を増援でバフムトに投入したことで、ザポリージャ州の兵員が若干少なくなったようだ。バフムトの反撃が、本格的な反転攻勢の前哨戦の位置づけなのであろう。
もう1つが、バフムトのワグナー軍交代要員として、ロ軍部隊が入るが、その部隊もドネツクからの移動であり、アウディーイウカ方面の部隊のようである。
しかし、ウ軍の反撃がなくなったことで、この地域の戦闘は少なくなり、ロ軍の戦死者数も500名以下程度と今までと比べると、非常に少なくなっている。
ロシア領内への攻撃を開始した自由ロシア軍とロシア義勇軍
5月22日、自由ロシア軍とロシア義勇軍が、ロシア西部ベルゴロド州で、ロシア政府機関の現地本部などを襲撃し、ロシア治安部隊と戦闘になった。
4台の装甲車、70人以上の兵員と5台のトラックで攻撃したが、ロシア国境には20名程度の訓練されていない兵員しかいないことで、簡単に国境を突破したようであり、龍の歯などの障害物も難なく越えている。
コジンカを制圧、国境から9km先のグライボロンまで侵攻したが、ロ軍4,000人が投入されて、24日夜までに国境線付近まで撤退したが、現時点でも、ベルゴロド州内で爆発音や銃声がしているようである。マイスキイ村でもドローンによる攻撃で爆発が起きているので、ドローンの撃墜を試みて、ロ軍が銃撃している可能性もある。
ベルゴロド州には、他に2ケ所で侵攻し、クルスク州でも奇襲攻撃をしている。こちら側は撤退したようである。
自由ロシア軍団は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから数週間後の2022年3月に結成された。所属するのは、ロシア軍からの離反者のほか、ロシア人やベラルーシ人の志願兵で攻勢されている。
もう1つのロシア義勇軍団は、2022年8月に結成された組織だ。極右論者として知られるデニス・ニキティンが率いている。
この攻撃は、ロ軍の手薄な国境線を複数箇所で侵攻して、ロ軍の国境防備を固めさせて、その分、ザポリージャ州の兵員を分散させようとする試みである。
ロ軍が国境地帯に配備されたことで、所定の目的を達成したようである。
そして、ロシア人のロシア義勇軍団のトップが24日、今後も同様の襲撃を繰り返すと表明した。
しかし、この侵攻で米国製装甲車を使ったことで、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、「ウクライナはロシア国内で米製兵器を使うべきでない」と、ウクライナにくぎを刺した。
ウクライナの無人艇攻撃で安全地帯を失った黒海艦隊
クピャンスク方面で、ロ軍はマシュティフカを攻撃したが、失敗している。
アウディーイウカ方面で、要塞やイボクリノベ、プレボマイスクにロ軍は攻撃したが、失敗している。ロ軍は25日にアウディーイウカ西のS300ミサイルでカルリブスキー貯水池ダムを破壊して、アウディーイウカへの補給路を封鎖しようとしたようである。
ウ軍は、ドネツク市の科学研究所、補給拠点、ロ軍基地など複数個所に砲撃を行っている。今までとは違う動きであり、後方地域を叩き、反撃の準備をしているようにも見える。
それと、ドネツク市にあるツインタワーをGMARSで破壊に成功している。このタワーにある計測装置で砲撃の位置を測っていたので、ロ軍の砲撃精度が落ちることになる。
マリンカに、ロ軍は強い攻撃に出て、市内中央通りを占領した。ウ軍は市内で抵抗している。クラスノホリフカへのロ軍は攻撃したが、ウ軍に撃退されている。
ロ軍偵察艦「イワン・フルス」に3隻の無人艇で攻撃して、少なくとも1隻は衝突したようであり、大きな損傷を受け、曳航されているようである。ロ軍黒海艦隊は、無人艇の攻撃を受ける可能性があり、相当な距離をおいても、危ないことになる。
港湾都市ベルジャンシクで25日夜、「アゾフカベル」ケーブル製造工場で大規模な爆発が複数回、発生したが、この工場は露の軍事基地として使用されているという。この攻撃は、ストーム・シャドーであろう。
26日朝、クリミア大橋から東へ約200kmの位置にあるロシア連邦クラスノダールの中心部で大きな爆発が発生した。この攻撃は、ドローンUJ-22による可能性がある。ロシア領には、ストームシャドーを使えないことで、ウクライナ製ドローンで攻撃するしかない。
ロシア連邦ロストフ州のロストフ市でも倉庫が大火災にしている。
ウクライナ南部マリウポリでも、ウ軍は26日、ストームシャドー2発で攻撃した。
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、ウ軍の大規模な反転攻勢に関し、「敵の補給拠点の集中的な破壊が含まれる」と説明していた。
逆に、ロ軍は、ヘルソン州ベリスラフ付近でKAB(FAB-500の派生型)爆撃を2回実施した。もう1つが、ドニプロにもロ軍の攻撃があり、病院が爆撃されて、1名が死亡、16名が負傷したという。前線のウ軍兵の治療にあたっている病院だとロ軍は言う。
それと、ロ軍は25日と26日、ウクライナ全土で大規模なミサイルとドローンによる攻撃を実施した。ウ軍は、ロ軍巡航ミサイル10発とS-300ミサイル8発、シャヘド131/136ドローン31機の飛来を確認。うち、巡航ミサイルすべてとドローン23機を撃墜したと発表。
着々と進むウクライナへのF-16供与開始の準備
すでに、12個旅団中、欧米で訓練された9個旅団がドニプロ市郊外に集結していて、戦闘開始に向けて、最終調整をしているという。このため、ロ軍もドニプロ市への砲撃を強化している。
当初、ヘルソン市とドニプロ市近郊の2方面に展開していたが、ドニプロ川の渡河作戦が、ロ軍の砲撃で無理となり、全面的にドニプロ市郊外に集結したようである。
ということで、メルトポリ攻撃をメインで、マリウポリへの攻撃がサブということのようである。この攻撃は数か月続くことになるが、攻撃開始から数か月後には、F-16の参戦もあり得ることになる。
この集結地にロ軍は空爆をして、事前に叩く必要があるが、それができないようである。
SU-24がザポリージャ州のウ軍陣地を空爆しようとしたが、対空ミサイルで撃墜されている。ウ軍のS300防空システムのミサイルが枯渇して、ロ軍の航空機を撃ち落せない状態であるが、集結地付近の防空体制は欧米防空システムで盤石なのであろう。
ゼレンスキー大統領のG7参加で、F-16の供与が確実になり、F-16の訓練も開始したので、4ケ月後の9月にはF-16の供与が始まることになる。12機を1つの塊として提供されるという。事実、オランダはパイロット訓練終了直後にF-16戦闘機をウクライナに移送するという。
スウェーデンは、グリペン戦闘機へのパイロット訓練を行うとして、ウ軍への供与を行うようである。このグリペンは、多目的戦闘機であり、使い勝手が良い。
そして、F16の兵装として、AMMRAM中距離対空ミサイルやマーベリック対地ミサイルの供与とカナダはAIM-9サイドワインダー43発を供与するという。これで、防空能力と、攻撃力は大きくなる。
ロ軍では、F-16以上の性能を持つ戦闘機はSU-35などの最新鋭戦闘機になるが、ウ軍の防空システムとの組み合わせで、勝つ可能性が高まるようだ。
もう1つ、ロシア占領地へのウ軍攻撃時には、ロ軍攻撃機の攻撃を受けるので、そのロ軍攻撃機基地への無人機による攻撃を強化している。
ロストフ州のタガンログ空軍基地やモストフ空軍基地がドローンUJ-22により攻撃を受けている。これらの基地からウ軍部隊へ空爆をするロ軍攻撃機が飛び立っているので叩く必要がある。
しかし、6月には、レオパルト1A5が110両がウ軍に供給されるし、9月にはF-6が供給されることになる。ウ軍のいつ、本格攻勢に出るのかは、まだわからない。
EUは、ロシア凍結資産1,966億ユーロの内、ロシア中央銀行資産の1,800億ユーロをウクライナに移動させるという。日本円で約27兆円であり、ウクライナの年間予算が11兆円であるので、2年分の予算に匹敵することになる。
プリゴジンの蜂起を期待するFSB内の若手シロビキ
エフゲニー・プリゴジンは、「エリートは自分たちの子供を戦争から守り、庶民の子供が死んでいく状態が続けば、ロシア革命(1917年)がまた起こる。まず兵士たちが立ち上がり、その家族たちが立ち上がる」と言い、「我々はウクライナを非武装化しようとした。結果は逆だ、ヤツらを武装集団に変えてしまった。今のウ軍は最強だ!」とし、これまでに「ワグナー軍の兵士2万人以上が死亡した」と明かしている。
そして、「激戦地バフムトから撤退を始めた」と発表した。プリゴジンは、ロシアの国境守備が脆弱であると不安感を煽って、その対応ができるのはワグナー軍だと強調した。
それと、ロシアのベルゴロドでプリゴジンの選挙キャンペーンのポスターが貼られ始めているようだ。塹壕に籠ってばかりの臆病なリーダー、プーチンとは違い、リーダーとして戦争の前面に立つ姿があるからだ。もう1つが、ロシアの現状を正確に見通していることである。
これに対して、プーチンは26日、クレムリンで開かれた経済団体代表らとの会合で、欧米制裁や欧米企業撤退で打撃を受けた経済を立直す「5カ年計画」作成を提案した。5カ年計画は、国家主導の計画経済の手法で、冷戦下の経済封鎖に対抗したソ連時代の経験を基に生き残りを模索する。
長期の戦争に備えるためには、ロシア経済の立直しは不可欠であるし、中国などの友好国を1つでも多く獲得する必要がある。
経済面でのプリゴジン氏は、無力であるから、そこをプーチンは、大統領選挙戦で強調するのであろう。
しかし、クレムリンの安保会議構成員である、パトルシェフ安保会議書記、ボルトニコフFSB長官、ナルシキンSVR長官などは、戦争に負け始めて、国内が混乱したら、プーチンに退任を進める可能性がある。この時、ロ軍のゲラシモフ参謀総長も一緒に退任を求めることになる。
また、FSB内の若手などのシロビキは、プリゴジンにクーデターの口火を取ってもらい、その後、FSBを中心に事態を変革することも考えているようだ。
このような中、プーチンは、ワグナー軍がバフムトを完全占領したことに祝辞を述べている。現実を見ると、ウ軍との戦闘に勝てているのは、ワグナー軍しかない。このため、ワグナー軍のトップのプリゴジンを切れないでいる。
もう1つが、ロシアとベラルーシ両国は、ロの戦術核兵器のベラルーシ配備する協定に署名した。
ロシア寄りの姿勢を鮮明化させた中国
欧州歴訪中の中国政府の李輝ユーラシア事務特別代表は26日、最後の訪問地モスクワでロシアのラブロフ外相と会談したが、西側当局者の話として、ロシアがウクライナ東・南部を占領した状態での即時停戦を呼び掛ける「和平案」を、李氏が仏独などに提示したと言う。
ロシアのミシュウスチン首相が訪中した際も、習近平主席も、中ロ相互の「核心的利益」を重大とみて支持するという。中ロが、欧米を中心とする国際的包囲網に対して、対応していくことが確認されたようである。ロシアと中国の関係は、かつてないほど高レベルにあるという。
これに対して、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、「ウクライナ全土の解放を想定しない妥協のシナリオ」だと指摘し、「民主主義の敗北、ロシアの勝利、プーチン政権の存続、国際政治での衝突急増を容認するのに等しい」と批判した。
とうとう、中国のロシア寄りが鮮明化したことになる。これにより、欧米と中国の対立が明確化して、欧米対中ロの構図になることが、より鮮明になったようだ。
一方、ミリー統合参謀本部議長は25日、「ロシアが軍事的に勝つことはない」が、同時に、ウ軍がロ軍の占領地域を解放することも「軍事的に達成可能かもしれないが、短期的には無理だろう」とも述べ、戦闘の長期化に懸念を示した。
このため、停戦後、どうウクライナの安全を保証するかの議論が出ている。今回のウ軍攻勢で、ウクライナ全土の解放は無理であり、どこかで停戦となる。その時、ウクライナとNATO加盟の「西ドイツ」型にするか、自衛力増強の「イスラエル」型かの議論になる。
もう1つが、欧州議会、ハンガリーのEU議長国としての不適格性に関する決議案を作成し、その決議案は、「ハンガリーがEU法および欧州連合設立条約第2条に明記された価値観、さらには誠実な協力の原則と相容れないことから、2024年にこの任務を確実に遂行できるかを問う」ものだそうだ。
これによりハンガリーのEUにおける投票権が剥奪される可能性がある。もう少し行くと、欧州議会で、ハンガリー追放の議題が出る可能性が高まっている。
●ロシア戦術核配備のベラルーシ「プーチン側に立てば核兵器提供される」 5/30
ベラルーシのルカシェンコ大統領(68)が「ロシアが同盟国に核兵器を提供する」と宣伝し、ロシアが主導する「連合国家協定」への参加を促した。ベラルーシはウクライナと隣接するロシアの軍事的同盟国で、最近ロシアが戦術核兵器の移転を決定した。
ロシアを訪問中のルカシェンコ大統領は28日(現地時間)、ロシア国営放送第1チャンネルのインタビューで「ロシアとベラルーシの間の『連合国家』協定に参加するすべての国に核兵器が提供される」とし「この協定は団結できる唯一の機会」と述べた。
ロシアとベラルーシは1999年の連合国家設立に関する協定に基づき、経済・情報・技術・農業・国境安保など広範囲な分野で緊密な同盟関係を結んでいる血盟国だ。
ルカシェンコ大統領は今回の発言で、どの国に連合国家協定を促したのかは特定してはいない。ただ、「カザフスタンなどの複数の国は心配が多いようだが、どこの誰も我々がロシアと緊密に協力することを気にかけない」とし、カザフスタンなどに言及した。
特にルカシェンコ大統領がベラルーシにロシアの戦術核が配備され始めたと発表してから3日後に出てきた発言であり、世間の注目を集めた。両国はベラルーシの領土にロシアの戦術核を配備することで合意したと25日、発表した。これはプーチン露大統領が3月にベラルーシに戦術核を配備すると発表してから2カ月ぶり。
当時ロシアは「ウクライナ特別軍事作戦で西側は代理戦をしてロシアを敗北させようとしている」とし「これに対応してベラルーシの領土に戦術核を配備するのは戦略的抑止段階の一環」と主張した。
核兵器配備が完了すれば、ベラルーシは1996年に核兵器をロシアに返還して以来27年ぶりに核兵器を保有することになる。ベラルーシは7月1日までにベラルーシに核兵器貯蔵庫を完工する計画だ。
戦術核とは都市全体を破壊できる戦略核よりも相対的に威力が小さく局地戦向けに設計された核兵器。ロイター通信によると、米国は欧州に配備された戦術核弾頭100個を含めて200個を保有する半面、ロシアは2000個を保有中と推定される。
CNNは「最近ロシアが核の脅威を強めている中、ルカシェンコ大統領のこうした発言は世界的な核拡散に対する強い懸念をもたらす」と伝えた。1994年から長期執権中のルカシェンコ大統領は旧ソ連国家のうちプーチン大統領の最も緊密な軍事同盟パートナーだ。昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻初期、自国の領土にロシア軍の駐留を認めた。
米シンクタンク戦争研究所(ISW)は「プーチン大統領がウクライナ戦争で核兵器を使用する可能性は依然として低い」と分析している。北大西洋条約機構(NATO)で生物・化学および核防御軍隊を指揮したブリトン・ゴードン大佐も「緊張は高まったが、(ロシア側の)重大な戦略的エラー」とし「ロシアの威嚇はむなしい状態で残っている」と低く評価をした。
一方、ルカシェンコ大統領はロシア訪問期間中、これまで繰り返されてきた「健康異常説」が浮上した。プーチン大統領との非公開密室会談の後、モスクワの病院で緊急搬送されたという主張があった。ベラルーシの野党指導者ツェプカロ氏は27日、テレグラムで「ルカシェンコは状態が深刻と判断され、専門医が派遣された」とし「追加の確認が必要だ」と伝えた。
9日のロシア戦勝節(第2次世界大戦の戦勝日)記念式の後にもルカシェンコ大統領は外出せず「健康悪化」という声が出ていた。
●ウクライナ大統領、戦争で戦った米国人に敬意 戦没兵追悼記念日 5/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は、米国のメモリアルデー(戦没将兵追悼記念日)に当たる29日にビデオメッセージを寄せ、15カ月に及ぶロシアとの戦争で戦った米国人に敬意を表した。
ゼレンスキー大統領は「われわれウクライナ国民は常に米国と全ての米国人による異例の支援に感謝している」とし、ウクライナでの任務に志願した数千人の外国人兵士に含まれる米国人について、自由という価値を守ることに専念していると称賛した。
メディアなどの報道によると、ウクライナの戦争で死傷した米国人は約20人とみられる。
●自国の和平案が戦争終結の唯一の方法=ウクライナ高官 5/30
ウクライナ大統領の外交顧問を務めるイーゴリ・ゾフクバ氏は29日、ウクライナが考える和平計画が戦争を終わらせる唯一の方法だと述べ、調停努力の時期は過ぎたとの認識を示した。
同氏はロシアが獲得した領土を固定化する停戦は受け入れられないとした上で、ロシア軍の完全撤退を想定した和平計画の実施を望んでいると述べた。
また、ここ数カ月の間に中国、ブラジル、バチカン、南アフリカから相次いで提案された和平構想についても否定的な見解を示した。
●ロシア、ウクライナ軍事施設など攻撃 自国領内への砲撃も主張 5/30
ロシアは29日、ウクライナの空軍施設を夜間に攻撃したと発表する一方、ロシア国内の産業施設がウクライナ側の砲撃を受けたと明らかにした。ウクライナによる大規模な反転攻勢を前に双方が優位に立とうとしている。
ウクライナ当局は、西部フメリニツキー州の軍事「標的」がロシアの攻撃を受け、滑走路の修復を進めているほか、航空機5機が使用不能になったと明らかにした。具体的な場所は示さなかったが、この地域にはロシア侵攻前から大規模な軍の飛行場がある。
ロシア国営通信社RIAは国防省の情報として、攻撃した空軍施設は複数と報じた。ウクライナは他の空軍施設での被害について明らかにしていない。
首都キーウ(キエフ)は今月16回目となる攻撃を受けたが、当局者によると、夜間に飛来したドローン(無人機)やミサイルは大部分を迎撃し、午前の攻撃でミサイルなどが着弾した標的はないという。
東部ドネツク州のキリレンコ知事は、同州トレツクに対する攻撃で2人が死亡し8人が負傷したと明らかにした。
黒海に面した南部オデーサ(オデッサ)も夜間に無人機攻撃を受けた。ウクライナ軍は、この攻撃で火災が発生し港湾インフラに被害が出たとしたが、穀物輸出への影響については明らかにしていない。
一方、ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州のグラトコフ知事は国境付近の一部集落がウクライナ軍の砲撃を同時に受けたと述べた。国境の町の2つの産業施設が砲撃を受け、従業員4人が負傷したという。
ウクライナ東部軍の報道官は現地テレビに対し、管轄地域で過去24時間に軍の衝突が3件あったと述べた。また、バフムトでロシアの空挺部隊などが民間軍事会社ワグネルの部隊と交代しつつあると指摘した。
「非武装地帯設置を」
こうした中、ウクライナ大統領の外交顧問を務めるイーゴリ・ゾフクバ氏はロイターのインタビューで、ウクライナが考える和平計画が戦争を終わらせる唯一の方法だと述べ、調停努力の時期は過ぎたとの認識を示した。
ここ数カ月の間に中国、ブラジル、バチカン、南アフリカから相次いで提案された和平構想についても否定的な見解を示した。
また、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、戦後処理の一環としてウクライナ国境沿いのロシア国内に100─120キロの非武装地帯を設置すべきと述べた。
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は、ロシアがウクライナでの戦争で勝利を目指す間は交渉に応じないとの見方を示した。
●ロシア 首都キーウを日中ミサイル攻撃 ゼレンスキー大統領非難 5/30
ロシア軍は、ウクライナの首都キーウへの攻撃を繰り返しています。29日には、日中にもミサイル攻撃があり、ゼレンスキー大統領は、子どもたちが叫びながら走って逃げる映像とともに、「これが子どもたちの日常だ」として、ロシアを強く非難しました。
ウクライナ空軍は29日、未明から早朝にかけて、ロシア軍が合わせて75に上る巡航ミサイルと無人機による攻撃を仕掛け、このうち67のミサイルと無人機を迎撃したと発表しました。
さらに現地時間の昼前、日本時間の29日夕方、ロシア軍が再びミサイル合わせて11発を撃ち、すべて迎撃したと発表しました。
キーウの市当局によりますと、撃墜された破片が市内の建物や道路に複数落下し、これまでに1人がけがをしたということです。
このうち、商業施設が建ち並ぶ地区では、交通量の多い交差点で落下した破片が炎上し、近くで働く男性はNHKの取材に、「すぐ近くで爆発が起きたと思った。道路にも火が燃え移っていた」と話していました。
市当局はSNSに、「夜間の攻撃からわずか6時間後だ。市民が街頭にいる日中に平和な都市を攻撃した。ロシアは民間人を殺そうとしていることを、はっきり示した」と書き込みました。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領は、通りを歩いていた子どもたちが大きな爆発音のあと、悲鳴をあげながら走って逃げる様子を写した映像とともに、「これがウクライナの子どもたちの日常だ」とSNSに投稿し、ロシアの攻撃を強く非難しました。
ロシア軍は、28日もキーウなどに対して無人機による攻撃を行うなど、首都をねらった攻撃を繰り返しています。
ウクライナのマリャル国防次官は29日、SNSで、「ウクライナの人々にとって、キーウは単なる首都ではなく不屈の心や抵抗の象徴だ。われわれは恐れない」と強調しました。 
●不支持約60%、かつての「衛星国」でもプーチン支持率が急降下 5/30
ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアのイメージを著しく傷つけているようだ。それも、ロシア政府が裏庭と見なしている旧ソ連諸国で。
世論調査会社ギャラップによると、2021年から22年にかけて、複数の旧ソ連諸国でロシアの指導力に対する支持が急降下した。
歴史的にロシアに共感的な4カ国(アルメニア、モルドバ、カザフスタン、アゼルバイジャン)でもこの傾向は顕著。
アルメニアでは支持は13ポイント低下して32%に(不支持58%)、アゼルバイジャンでは23%と低迷している。世界137カ国でのロシア支持の中央値は21%で、不支持は57%だった。
   32% / アルメニアでの2022年のロシア支持
   23% / アゼルバイジャンでのロシア支持
   21% / 世界137カ国でのロシア支持の中央値
●モスクワ無人機攻撃、「テロ活動の兆候」 プーチン氏が非難 5/30
ロシアのプーチン大統領は30日、同日に首都モスクワを狙ったドローン(無人機)攻撃は「民間人を標的にした」ものと非難し、モスクワの防空網を強化すると述べた。
プーチン大統領はさらに、ロシアを脅かし、挑発しようとした行為と批判した。
ロシアはこの日、ウクライナがモスクワにこれまでで最大級のドローン攻撃を仕掛けたと表明。首都に向かっていた8機全てを破壊したとした。
プーチン大統領は今回のドローン攻撃について、ロシアが数日前にウクライナの軍事情報本部を攻撃したことに対する「テロリスト」反応との見方を示し、ウクライナは「ロシアとロシア国民を威嚇し、民間住宅を攻撃する道を選んだ。これは明らかにテロ活動の兆候だ」と述べた。
その上で、モスクワはすでに大規模な早期警戒システムで守られているが、モスクワ周辺の防空体制を強化すると表明した。
ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は、モスクワに対するドローン攻撃への直接的関与を否定。ただ、ウクライナは今回の攻撃を楽しんで見ており、今後もこうした攻撃は増えると予想した。
●キーウで3夜連続、ロシアによる攻撃 死傷者も 5/30
ウクライナの首都キーウで29日夜から30日未明にかけ、3夜連続となるロシアによる攻撃があった。爆音が響き、建物が炎上し、死傷者が出た。
ウクライナ当局によると、市南部のホロシウスキー地区で、攻撃によって複数階建ての建物で火災が発生するなどし、少なくとも1人が死亡、3人が負傷した。
当局は声明で、「上層の二つの階が破壊され、がれきの下に人がいる可能性がある」とした。
ドニプロ川を挟んだ反対のダルニツキイ地区では、民間の建物2棟が炎上し、数台の車が損壊した。
キーウのヴィタリー・クリチコ市長は、今回の攻撃を「大規模」と説明。住民に対し「避難所から出ない」よう呼びかけた。
ウクライナ当局は、防空システムで無人航空機(ドローン)を20機以上撃墜したとしている。
空襲警報は3時間で解除された。
キーウへの攻撃は、今月に入って17回目。
●中国は「停戦仲介」で、ウクライナに領土放棄を迫っていた──米紙報道 5/30
ロシアとウクライナの仲介を買って出た中国は、西側諸国に対し、ウクライナ国内の占領地域をロシアに残す形で「即時停戦」を受け入れるよう迫っていたと、5月26日付の米ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えた。中国は5月29日、この報道を否定した。
ウクライナのニュースサイト「ウクラインスカ・プラウダ」によれば、同国のドミトロ・クレバ外相は週末に、中国側の提案は受け入れられないと拒絶。ソーシャルメディアへの投稿で国民に対し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領もウクライナ政府も領土問題での譲歩は一切受け入れないと確約した。
中国政府の李輝ユーラシア事務特別代表は、5月16日から26日にかけてヨーロッパを歴訪。ウクライナを皮切りに、ポーランド、フランス、ドイツ、欧州連合(EU)、そしてロシアを訪れた。4月には習近平国家主席が、ウクライナ侵攻が始まって以来初めてゼレンスキー大統領と電話会談を行い、ウクライナで続く戦争について、中国として停戦に貢献していく立場を表明していた。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、李がポーランド、フランス、ドイツとEUの当局者に対して、すぐに戦闘を終わらせるよう呼びかけたと報道。ウクライナにとって受け入れ難い「紛争凍結」(現状で領土を固定する)という結末を示唆したとしていた。
クレバ外相は国民に報道への「冷静な対応」を促す
李と西側当局者の会談に同席していたある外交官は同紙に対し、「我々はロシア軍が撤退しない限り、紛争凍結は国際社会の利益にかなわないと説明した」と語った。また別の外交官は同紙に対して、中国は「おそらく西側諸国の団結を試していたのだろう」と述べた。
中国外務省の毛寧報道官は、この報道を否定。李はウクライナでの紛争に関する中国政府の立場を伝え、意見の一致点を探るために「さまざまな当事者の意見や助言」に耳を傾けたのだと主張し、「中国が引き続き建設的な影響力を発揮していくことに、全ての当事者が期待を示した」と説明した。
ウクライナのクレバ外相はウクライナ国民に向けたメッセージの中で、報道内容について確認するために、李が訪問したヨーロッパ諸国の当局者らに連絡を取ったと明かした。
その結果、「ロシアが占領しているウクライナの領土をロシアのものと認めるという発表や、それに関する話し合いがあったことを認めた者は一人もいなかった」と述べた。
クレバ外相は国民に対して「冷静さと理性を保ち、報道に感情的な反応をしないように。我々はこのプロセスを管理している。ウクライナの知らないところで、何者かが我々の不利になるようなことをする事態は起きない」と述べ、中国が関与する話し合いは、ウクライナ政府が設定した条件に基づいて続けられるとつけ加えた。
ロシアは「中国の積極的な関与」を称賛
2009年から2019年まで駐ロシア中国大使を務めていた李は、ロシア政府の当局者の手厚い歓迎を受けた。ロシア外務省によれば、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は「ウクライナ危機について、中国が偏りのない立場を取っていることに感謝し、仲裁への積極的な関与を称賛した」ということだ。
中国指導部はロシアによるウクライナ侵攻が始まってから1年以上にわたって、この「紛争」について、明確な立場を表明してこなかった。ただし中立の立場を強調する一方で、ロシア政府が西側諸国、とりわけアメリカに対して表明した不満の多くに同調してきた。
こうしたなか中国政府は2月、ロシアによるウクライナ侵攻から1年に合わせて、中国政府の立場を示す12項目の文書を発表。ロシア軍の撤退には触れずに停戦を呼びかけた。
中国政府は同文書の中で、「すべての当事者が対立を激化させず、ロシアとウクライナが同じ方向を目指して協力することを支持し、できる限り早い時期に直接的な対話を再開して全面的な停戦を達成するべきだ」と呼びかけたが、ウクライナは拒絶した。

 

●プーチン氏公邸もドローン標的か 「モスクワ初の大規模攻撃」―ロシア 5/31
ロシアの首都モスクワを標的にしたドローン攻撃で、大統領公邸がある西郊を中心に多数が飛来したことが31日、分かった。独立系メディアは「ウクライナ侵攻下でモスクワが初めて大規模な攻撃を受けた」と報道。プーチン政権が受けた衝撃は大きいとみられ、国営メディアを通じて事件の矮小(わいしょう)化を図ろうとしている。
国防省によると、30日の攻撃では8機が飛来した。自国領への攻撃にこれまで反応してこなかったプーチン大統領は珍しく発言。「ロシアは前日、ウクライナの中枢に攻撃を加えた」「報復として(敵は)ロシア国民を脅し、住宅を攻撃することを選んだ」と非難した。
ロシア軍の「戦果」に対する当然の反撃として受け流したい様子で、政権関係者はメディアに「予期された攻撃」だと述べた。政府系テレビも「防空態勢は信頼でき、救急活動は迅速で挑発は失敗した」と伝えた。背景には、国民の動揺を抑えたい意図が透けて見える。
複数の米メディアは、ゼレンスキー政権が予告している大規模な反転攻勢を前に、ロシアを動揺させる狙いがあると報じた。
●プーチン「ウクライナは露国民を脅す道を選んだ」…無人機8機がモスクワ攻撃 5/31
ロシア国防省によると、首都モスクワで30日朝、無人機8機による攻撃があった。プーチン大統領は同日に国営テレビで「ウクライナはロシア国民を脅す道を選んだ。テロ行為だ」などと非難し、報復措置を示唆した。ウクライナは関与を認めていない。
露国防省は8機のうち5機を地対空ミサイルで撃墜し、3機を電子戦装置で無力化したと主張した。3機は市南西部にある3か所の高層住宅の上層階に接触したが、重傷者はいないという。撃墜された機体は、プーチン氏の公邸や政府高官の邸宅が集中するモスクワ郊外などに点在したという。
ウクライナ大統領府顧問は30日、地元テレビで「我々と直接の関係はない」と述べる一方、「同種の攻撃は増えるだろう」と予測した。
今回の攻撃は、モスクワへの無人機攻撃として過去最大規模で、露独立系メディアは攻撃に30機前後が関わったとの見方を伝えた。
●「ウクライナがロシア国民を脅迫」 プーチン氏、モスクワ攻撃を非難 5/31
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は30日、ウクライナへの侵攻開始後初めてモスクワが本格的な無人機攻撃を受けたことについて、ウクライナ政府はロシア国民を「脅そう」としていると非難した。
プーチン氏は、モスクワの防空システムが機能したと述べる一方、今回の攻撃は、ロシアがウクライナ軍情報本部を攻撃したことへの「報復」との見方を示し、「ウクライナ政府はロシア国民を脅す道を選んだ」と語った。
ロシア国防省は、今回の攻撃には無人機8機が使用され、うち5機を撃墜、3機を無力化したとしている。
外務省は、ウクライナ向けの西側諸国の支援について「同国指導者をテロなどの無謀な行為に走らせることにつながっている」と批判した。
ロシア国内ではこの日、ウクライナと国境を接する西部ベルゴロド州がウクライナ軍の攻撃対象となった。州知事によれば、避難所が砲撃を受け、1人が死亡した。
●ロシア、BRICS首脳会議に適切なレベルで参加=クレムリン 5/31
ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は30日、南アフリカで8月に開催される新興5カ国(BRICS)首脳会議(サミット)にプーチン大統領が参加するかとの質問に対し、ロシアは「適切なレベル」で参加すると述べた。
BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国で構成。国際刑事裁判所(ICC)はウクライナでの戦争犯罪容疑でプーチン大統領に逮捕状を出しており、南アで開催されるBRICS首脳会議にプーチン氏が出席した場合、ICCに加盟している南アは理論上、プーチン氏を逮捕する必要がある。
ペスコフ報道官は定例会見で、ロシアはBRICSの発展を重視しており、「適切なレベルでこの首脳会議に参加する」と指摘。南アによる逮捕が行われる可能性については、「重要な」BRICS構成国が「このような違法な決定に導かれないことを必要最低限と見なしている」とした。
また、この問題に関する追加情報が今後発表されるとしたが、詳細は示さなかった。
●ロシア・ウクライナ双方の首都にドローン攻撃、モスクワ市民戦慄 5/31
ロシアの首都モスクワで30日、これまでで最大級のドローン(無人機)攻撃があった。標的となったのはプーチン大統領や富裕層が住むモスクワ随一の高級住宅街とされ、政治家の中には「第2次世界大戦以来、最も危険な攻撃」と表現する向きもあった。
ロシア外務省は今回の攻撃を受け、最大限に「厳しい措置」を取る権利を留保していると言明。ウクライナがロシア領土内への攻撃を仕掛けないという北大西洋条約機構(NATO)当局者の保証は完全に偽善であることが証明された」と述べた。
ロシアが2022年2月にウクライナ侵攻を開始して以来、戦争の大部分はウクライナ国内で繰り広げられてきたが、地上戦がこう着状態にある中、前線から遠く離れた標的への空爆もこのところ激化している。
ロシア国防省は、ウクライナがモスクワにこれまでで最大級のドローン攻撃を仕掛けてきたが、8機全てを破壊したとしている。一方、25機以上が関与したとの情報もある。
ソビャーニン・モスクワ市長によると、2人が負傷し、複数の集合住宅の住民が一時避難した。大きな音が聞こえ、ガソリンの臭いがしたという。ドローンが撃墜され、煙が立ち込める様子を撮影した人もいた。
一方、ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は30日、モスクワのドローン攻撃への直接的関与を否定した。ただ、ウクライナは今回の攻撃を楽しんで見ており、今後もこうした攻撃は増えると予想した。
その後、プーチン大統領は、今回のドローン攻撃は「民間人を標的にした」ものと非難。ウクライナは「ロシアとロシア国民を威嚇し、民間住宅を攻撃する道を選んだ。これは明らかにテロ活動の兆候だ」と述べた。
モスクワが直接攻撃を受けたのは、5月初めにクレムリンに対するドローン攻撃があって以来、今回で2回目。
米ホワイトハウスは30日、モスクワを狙ったドローン攻撃について、情報を収集中とした上で、米政府はロシア国内における攻撃を支持しないと表明した。
ロシアのマキシム・イワノフ議員は、第二次世界大戦中のナチス・ドイツの侵攻以来、モスクワに対する最も深刻な攻撃と指摘。ロシア国民は誰も「新しい現実」を避けることができないと述べた。
ロシア国営テレビはこの事件を冷静に報道した。
一方、ウクライナではこの日、ロシアによる攻撃で4人が死亡し、子供を含む34人が負傷した。
ウクライナ側は首都キーウ(キエフ)でイラン製ドローン20機以上を撃墜したと発表した。負傷者は11人だった。
ロシアは5月に17回、キーウを無人機やミサイルで攻撃。そのほとんどが夜間で、士気の低下が目的とみられる。
●ロシア・ウクライナとも原発保護の原則尊重せず、IAEAが指摘 5/31
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は30日、ロシアの占領下にあるウクライナ南部のザポロジエ原子力発電所を保護するための5つの基本原則について、ロシアとウクライナのどちらも尊重する立場を取っていないと指摘した。
IAEAが策定した基本原則は、同原発が起点あるいは標的となる攻撃の禁止、多重ロケットランチャーや大砲システムなどの拠点としての原発の利用禁止、外部電源の維持と安全確保が含まれている。
グロッシ氏は国連安全保障理事会の会合で、ザポロジエを巡る状況は「極めて不安定で危険」だと述べ、周辺地域で軍事活動が継続しており、近い将来に大幅に活発化する可能性があると予想した。
一方、ロシアのネベンジャ国連大使は会合で、IAEAが提示した原則が「ロシアが既に長く実施してきた措置と一致している」との見解を示した。
ウクライナのキスリツァ国連大使は、5つの原則が原発の軍事拠点化・占領の完全解除への要求で補完されるべきと訴えた。
グロッシ氏はこの日の会合が「正しい方向への一歩」だったと評価し、ザポロジエ原発に常駐するIAEA職員を増やし、5つの原則の順守状況を監視すると述べた。
米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は「核の大惨事を回避し、ウクライナへの侵略戦争を終わらせる判断は完全にロシアに委ねられている」と強調した。
●ザポリージャ原発 “攻撃対象としない” IAEA原則示し呼びかけ  5/31
ロシア軍が占拠を続けるウクライナのザポリージャ原子力発電所をめぐり、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、国連安全保障理事会の会合で、原発を攻撃の対象としないなど事故を防ぐための5つの原則を新たに示し、ロシアとウクライナ双方に守るよう呼びかけました。
IAEAのグロッシ事務局長は30日、ニューヨークで開かれた国連安保理の会合に出席し、ザポリージャ原発について「非常に危険な状態が続いている。周辺での軍事行動は近く、かなり増える可能性もある」と述べ、危機感を示しました。
その上で、原発事故を防ぐために守られるべき原則が必要だとして、原発を攻撃の対象としない、施設内に重火器を保管しない、原子炉の冷却に必要な外部からの電力供給をいかなる時も確保するよう努めるなど5つの点を挙げ、ロシアとウクライナ双方にこれを守るよう呼びかけました。
ただ、ロシアに対して原発の占拠をやめることは求めませんでした。
ザポリージャ原発では、砲撃などによって外部からの電力供給が途絶える事態がたびたび起き、安全性への懸念が広がっています。
グロッシ事務局長はこれまでロシアとウクライナ双方と協議を重ねてきましたが、事態の改善のめどは立っておらず、今回、新たに原則を示したことで原発の安全が確保されるかは不透明な情勢です。
●ウクライナ原発保護で「5原則」=安保理会合で順守呼び掛け―IAEAトップ 5/31
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は30日、ロシア軍が占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発について、原子力災害を防ぐための「五つの原則」を発表し、ロシアとウクライナに順守するよう求めた。ロシアのウクライナ侵攻を協議する国連安保理の会合で呼び掛けた。
グロッシ氏は(1)原発から、または原発に向けた攻撃の禁止(2)軍事基地化の禁止(3)外部電源の常時確保(4)破壊工作からの保護(5)原則を損なう行為の禁止―を提案。その上で「核災害は回避可能だ」と強調した。今後、同原発に派遣している職員を通じて履行状況を「監視する」という。
ただ、ウクライナ軍による大規模な反転攻勢が予想される中、原則が守られるかは不透明だ。両国の国連大使は会合で互いを非難。原則を順守するとの明確な表明はなかった。
●中国がウクライナに提示した仲裁案 国際情勢を破壊する恐れも 5/31
アメリカ国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は最近、中国がウクライナ侵攻の仲裁役となることに深い懸念を表明。その理由とは…。
ウクライナ情勢で激しい戦闘が続くなか、アメリカ国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は最近、中国がウクライナに示した仲裁案に懸念を示した。
中国が示す仲裁案にある危険性
カービー氏は、中国が示したロシアウクライナ双方に停戦を求める独自の仲裁案はロシアの利益を反映したものだとし、中国がロシアを利する形で仲裁役として動くことを強く懸念していると述べた。また、中国による仲裁案はロシアによるウクライナ領土占領を常態化させるだけでなく、停戦を利用してロシアがさらに軍備拡張し、さらなる攻撃を誘発する恐れがあるとした。
覇権主義国家の暴走を招く
カービー氏が言及したように、仮にウクライナが中国の仲裁案を受け止め、その時点で停戦に合意すれば、ウクライナ東部で未だに占領を続けるロシア軍を事実上認めることになる。また、それによってロシア軍が再び攻勢を仕掛け、占領地域を拡大すれば停戦、拡大すれば停戦という繰り返しにより、究極的にはウクライナがロシアに占領される恐れもある。
武力侵攻勃発の恐れも
そして、そういった事情をロシア以外の覇権主義国家がどうみるかだ。
中国は覇権主義国家の典型例だが、ウクライナが中国の仲裁案に同意すれば、中国などの権威主義国家は、“武力侵攻しても民主主義国家や国際社会は何も動かない”と判断し、なら自分たちもできると確信し、さらなる武力侵攻が他の地域からも勃発するかも知れない。
中国による仲裁案は絶対にのめないものである。
●ウクライナ、国際仲裁を拒否…ゼレンスキー大統領「大反撃の時期決めた」 5/31
ロシア軍がウクライナ軍の春の大反撃を阻止するため、軍事施設への空襲に集中する中、ウクライナの大統領の側近は「国際社会の仲裁は遅すぎた」とし、ロシア軍の完全撤退を実現させるため戦争を続ける意志を示した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領も、これまでいろいろな推測が続いてきた春の大反撃と関連し「時期を決めた」と述べ、緊張を高めた。
ウクライナ大統領府のイホル・ジョウクワ副長官は、29日に公開されたロイター通信とインタビューで、ロシアがウクライナ領土を占領した状況で戦争を終わらせることには関心がないと述べた。ゼレンスキー大統領の外交分野補佐陣の中心人物であるジョウクワ副長官は「ウクライナ戦争を語る時、ブラジルの平和案、中国の平和案、南アフリカ共和国の平和案は(実現)不可能だ」としたうえで、「今のように転機を迎えた我々にとって仲裁者は必要ない。仲裁が遅すぎた」と述べた。
中国はロシアのウクライナ侵攻1年を迎え、2月23日に12の案で構成された平和仲裁案を発表したのに続き、4月26日には習近平国家主席が直接ゼレンスキー大統領と電話会談を行った。この電話会談後の16日、中国は李輝ユーラシア事務特別代表をウクライナ問題担当の特使としてウクライナに派遣した。
西欧と米国・中国間でバランス外交を展開する代表的な「グローバルサウス」の一員、ブラジルのルーラ・ダジルバ大統領も、4月22日にポルトガルを訪問した際、ロシアとウクライナの双方を交渉テーブルに導く案をまとめたいと述べており、16日には南アフリカなど6カ国が仲裁のため両国に平和使節団を送ることにしたと発表した。ジョウクワ副長官はこのような仲裁に向けた取り組みに対し、「遅すぎた」として拒否の意思を明らかにしたわけだ。
ジョウクワ副長官は仲裁案の代わりに、ロシアの完全な撤退と敵対行為の中止など10項目で構成されたウクライナの平和案を目指すと述べた。ゼレンスキー大統領は昨年11月、主要20カ国・地域首脳会合(G20サミット)の際、この「10項目の平和公式」を公開した。ジョウクワ副長官は、19〜21日に広島で開かれたG7サミットで、この平和案に対して非常に肯定的な反応を得たとし、「G7は(10項目のうち)いかなる懸念も示さなかった」と述べた。
このような中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍に対する大反撃の時期を確定したと述べた。ゼレンスキー大統領は同日、テレグラムを通じて公開した動画で「最高司令部会議で弾薬の補給、新しい旅団の訓練、ウクライナ軍の戦術などについてだけでなく(大反撃の)時期に関する報告も行われた」とし、「決定は下された」と述べた。ウクライナ国家安保防衛委員会のオレクシー・ダニロウ書記は、27日のBBCとのインタビューで、反撃準備を全て整えたとし、「明日や明後日、または1週間後に(反撃が)始まる可能性がある」と述べた。
一方、ロシア軍は同日、ウクライナ西部フメリニツキーの軍飛行場など軍事施設と、黒海沿岸最大の港オデッサなど、ウクライナ全域に対する空襲を続けた。ロシア軍はこれまで主に夜間に空襲を続けたが、この日は異例にも午前11時頃、首都キーウへの空襲を断行した。
翌日の30日には逆にロシアのモスクワが無人機空襲を受けた。ロシア国防省は同日の空襲がウクライナ軍による「テロリスト攻撃」であり、無人機を撃墜し、重傷を負った人はいないが、一部住民を避難させたと明らかにした。ウクライナ大統領府のミハイロ・ポドリャク顧問は「我々は全く関係がない」と否定した。これに先立ち、5月3日にもモスクワのクレムリン上空で無人機2機が撃墜された事件が起きたが、ウクライナは当時も関与を否定した。
●まるで「ゼレンスキー劇場」の広島サミット“失敗”に気づかぬ岸田政権の大罪 5/31
ゼレンスキー大統領の電撃出席で全世界の耳目を集め、成功裏に閉幕したとの報道も少なくないG7広島サミット。しかし日本政府は大きな過ちを犯したという見方もあるようです。今回、政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは、サミットへのゼレンスキー大統領出席は大きな間違いを招いたとして、そう判断せざるを得ない理由を解説。さらにウクライナ戦争を巡り、この先日本が孤立しかねない可能性を指摘しています。
広島サミット「ゼレンスキー大統領の電撃出席」は大間違いだったと断言できる理由
主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)が開催された。G7と欧州連合(EU)に加え、いわゆるアウトリーチ国としてブラジル、インド、インドネシア、韓国など8か国が参加し、合計16の国・地域・国際機関の首脳が一堂に会した。
G7の首脳は、核軍縮に特に焦点を当てた初のG7共同文書「広島ビジョン」をまとめた。核のない世界を「究極の目標」と位置付けて、「安全が損なわれない形で、現実的で実践的な責任あるアプローチ」に関与すると確認した。
ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアに対して「核兵器の使用の威嚇、いかなる使用も許されない」と訴えた。核拡散防止条約(NPT)体制の堅持も提唱した。
被爆地・広島で開催されたことで、核を保有する米英仏を含むG7首脳やグローバルサウスのリーダーたちが揃っての原爆資料館訪問が実現した。ジョー・バイデン米大統領は、「核戦争の破壊的な現実と、平和構築のための努力を決して止めないという共同の責任を思い起こされた」と述べた。
また、リシ・スナク英首相は、子どもたちの遺品の三輪車や血だらけでボロボロの学生服を見たことを明かし、「深く心を揺さぶられた」「ここで起こったことを忘れてはならない」と語った。
要するに、G7広島サミットでは、G7首脳やグローバルサウスの指導者が一堂に会して、被爆の悲惨さを知った。彼らの生々しい発言が世界中に報道された初めての機会となった。これは、核廃絶の取り組みを劇的に変えるものになるはずだった。
その空気を一変させたのが、ウォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領の電撃的な来日だ。G7広島サミット後半は、ウクライナ一色となったのだ。
ゼレンスキー大統領も、原爆資料館を見学した。世界が、ロシアによる核のどう喝にさらされている現状を念頭に、芳名録に「現代の世界に核による脅しの居場所はない」と記した。大統領は、被爆者とも対面し、被爆地の思いに寄り添った。
ゼレンスキー大統領は、G7首脳会議に参加し、各国に支援を訴えた。これを受けて、G7首脳はゼレンスキー氏との会合で軍事、財政などで「必要とされる限りの支援」を続けると約束した。
G7首脳会議では「ウクライナに関する共同文書」がまとめられた。ロシアへの輸出制限を「侵略に重要な全ての品目」に広げた。中国を念頭にした、ロシアへの武器供給の阻止も強調した。
さらに、ゼレンスキー大統領は、ロシアへの制裁に加わらない「グローバルサウス」を代表するナレンドラ・モディ・インド首相、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ・ブラジル大統領も出席していたG7拡大会合でも、「力による一方的な現状変更」を許さないという認識を共有した。
「ゼレンスキー劇場」と化したG7広島サミット
岸田文雄首相は、サミット閉幕の記者会見で、「広島に迎え、核兵器による威嚇、ましてや使用はあってはならないとのメッセージを、緊迫感をもって発信した」と、ゼレンスキー大統領がG7広島サミットに参加した意義を強調した。
G7広島サミットは、まさに「ゼレンスキー劇場」と化した。
ゼレンスキー大統領来日の実現で、「G7広島サミット」は成功という印象を国内外に植え付けた。各種の世論調査では、岸田内閣の支持率が上昇した。首相は、これを絶好の機会ととらえ、衆院の解散総選挙に打って出るのではないかという噂が、永田町界隈でささやかれるようになった。しかし、現在の状況に、私は違和感がぬぐえないのである。
G7広島サミットの前、ゼレンスキー大統領は欧州各国を訪問し、さらなる軍事支援を調整してきた。戦況を変える切り札として、米国が開発している「F16戦闘機」の供与について、欧米諸国と話し合ってきた。そして、大統領は「フランスの政府専用機」で日本にやってきた。
日本は、これまで防弾チョッキ、ヘルメット、小型ドローンなどを提供してきた。G7広島サミットの岸田首相とゼレンスキー大統領の会談では、さらに1/2tトラック、高機動車、資材運搬車の自衛隊車両を、合計100台規模で提供することで合意した。自衛隊の軍用車両が現に紛争をしている当事国に提供されるのは史上初めてとなる。
だが、このようなウクライナに対する追加の軍事支援が、ロシア軍をウクライナ領から追い出し、戦争を終結させる切り札になるかは、甚だ疑問に思う。
既に、米英など北大西洋条約機構(NATO)は、「三大戦車」など、さまざまな兵器・弾薬類をウクライナに供与し続けてきた。しかし、戦局を抜本的に変えるのはできず、戦争はさらなる膠着(こうちゃく)状態に陥った。さらなる軍事支援でも、その状況は変わらないのではないか。
なぜなら、ウクライナの正規軍はすでに壊滅状態にあるとみられるからだ。ウクライナは今、NATO諸国などから志願して集まってきた「義勇兵」や「個人契約の兵隊」によって人員不足を賄っている。要するに、外国の武器を使って、外国の兵士が戦っているのがウクライナ陣営の現実のようなのだ。
つまり、米英などNATOは、ウクライナが失った領土を奪還することよりも、戦争を延々と継続させることを目的に、中途半端に関与しているようにみえる。
なぜ、戦争を長引かせようとするのか。その理由は、米英などNATOがこの戦争で被る損失が非常に少なく、得るものが大きいからだろう。
ウクライナ戦争開戦前から、この連載で繰り返し主張してきたが、東西冷戦終結後、約30年間にわたってNATOの勢力は東方に拡大してきた。その反面、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退した。
ウクライナ紛争開戦後、それまで中立を保ってきたスウェーデン、フィンランドがNATOへ加盟申請し、すぐに承認された。ウクライナ紛争中に、NATOはさらに勢力を伸ばしたのだ。
万が一、これからロシアが攻勢を強めてウクライナ全土を占領したとしても、「NATOの東方拡大」「ロシアの勢力縮小」という大きな構図は変わらない。世界的に見れば、ロシアの後退は続いており、すでに敗北しているとしても過言ではない。
その上、欧州のロシア産石油・天然ガス離れは確実に進んでいる。パイプライン停止を受けて欧州向けが急増したからである。米英の石油大手にとって、欧州の石油・天然ガス市場を取り戻す野望は現実になりつつあるのだ。
さらにいえば、米英などNATOにとってウクライナ戦争とは、20年以上にわたって強大な権力を保持し、難攻不落の権力者と思われたプーチン大統領を弱体化させ、あわよくば打倒できるかもしれない好機でもある。戦争が続くなら、それでもいいと考えても不思議ではない。
ウクライナの徹底抗戦を支持し続ける国が「日本だけ」になる可能性
一方、すでに戦える状態にないにもかかわらず、米英などNATOの思惑で膠着状態が続けられているならば、ウクライナ国民の命はあまりにも軽く扱われているということにならないか。
要するに、G7広島サミットとは、欧米の利益のために続けられてきた戦争を、さらに継続するための話し合いの舞台だったということだ。
看過できないのは、この話し合いが、唯一の戦争被爆国であり、戦争の恐ろしさについて身をもって知り、平和国家としての道を歩んできた日本の、それも被爆地である広島で行われたということだ。
岸田首相は、「今、衆院解散総選挙を勝てる」と考えるほど、サミットの成功に酔っているという噂がある。だが、平和国家・日本、被爆地・広島の人々の平和への祈りは、踏みにじられてしまったというのが、サミットの現実であり、国際政治の冷酷さなのではないだろうか。
ウクライナ戦争を巡っては、米英などNATOや日本など「自由民主主義陣営」がウクライナの「徹底抗戦」を支持し、中国など「権威主義陣営」が「和平」を提案している。
自由民主主義の本質から外れた「逆転現象」が起こっているのだ。
それは、「力による一方的な現状変更」に対する考え方の違いから生じている。自由民主主義陣営はこれを到底容認できない。侵略された領土を取り返すためには「徹底抗戦」となる。
一方、権威主義陣営は、民主主義的な価値よりも、ウラジーミル・プーチン露大統領の「権威」を尊重する。だから、侵略について「ウクライナが一方的に正しいのではなく、ロシアにも言い分がある」という立場だ。だから、ロシアが軍事的に制圧している地域の併合など、ロシア側の意向に柔軟に沿った「和平」の提案ができることになる。
この「逆転現象」の中で、唯一の被爆国であり、平和国家の道を歩んできた日本が、ウクライナ戦争の「徹底抗戦」を支持し、G7のホスト国として、広島サミットを主導した。
だが、解散総選挙に打って出るのではとささやかれるほど高揚した岸田首相の気持ちとは裏腹に、今後日本が世界で孤立する懸念がある。ウクライナの徹底抗戦を支持し続けるのが、日本だけになってしまうかもしれないからだ。
欧米諸国の中でも、米英と仏独伊は、微妙に立場が異なっている。仏独伊は、できれば早期の停戦を何とか進めたいという「本音」がある。仏独伊をはじめとするEU諸国は、ロシアからの天然ガスパイプラインにエネルギー供給を深く依存してきたからだ。
前述のように、エネルギーの「脱ロシア」は進んでいるものの、米国からのLNG(液化天然ガス)は、ロシアからのパイプライン経由のガス輸入より割高だ。それがEU諸国の経済に打撃を与え続ける状況は続く。その影響をできる限り軽微にするため、早期停戦できるなら、その方がいいのが本音なのだ。
一方、前述したNATO・EUによる東方拡大の事実上の成功は、仏独伊に対しても有利な状況を生み出している。内心に余裕があるからこそ、早期に停戦してもいいとも考えるようになる。
さらに、仏独伊以上に“勝ち組”であることが確定している米国・英国は、それを裏返せば、実は戦争をいつやめてもいい状況だ。どこまでロシアを苦しめられるか状況を睨んでいる。中国の「和平案」が新興国などの支持を集める状況になれば、米英は主導権を握るために、一挙に和平に動くかもしれない。
ウクライナ問題で「最強硬派」でなければならない日本
これに対して、「現状のままでの停戦」「領土割譲の妥協案」など断固として認められない、欧米よりも切羽詰まった立場に追いやられているのが、実は日本だ。
日本は今、中国の軍事力の急激な拡大、そして台湾侵攻・尖閣諸島侵攻の懸念、北朝鮮の核ミサイル開発という安全保障上の重大なリスクを抱えている。
そうした状況下では、たとえウクライナ問題の解決に向けた手段とはいえ、「力による一方的な現状変更」に屈する形での停戦や妥協案は絶対に容認しないという、揺るぎないスタンスを取らねばならない。
もし日本が中途半端な姿勢を示し、これらの譲歩案を少しでも認めたら、中国が理屈をつけて台湾・尖閣に侵攻してくる可能性はゼロではない。侵略を試みる国が、屁理屈を弄(ろう)して侵略を正当化する余地を、絶対に与えてはならないのだ。
つまり、ロシアによる「力による一方的な現状変更」に屈した譲歩案を認めないことは、単にウクライナ紛争に対する日本の立場を示すこと以上の意義がある。他国に日本の領土を侵され、国民の命を奪うことを防ぐ「安全保障政策」そのものだからである。
日本は国際社会において“穏健そうな国”とのイメージを持たれがちかもしれない。だがウクライナ問題においては、ウクライナの徹底抗戦と領土の回復を、どの国よりも強く支持する「最強硬派」でなければならない。
だが、日本の苦しい立場に、欧米は関心が薄いだろう。端的に言えば、欧米は中国から遠いのだ。
ウクライナ戦争が、ロシアの「力による一方的な現状変更」を容認する形で終結しても、それが台湾有事に波及する懸念に関心を持つことはない。米国とて、台湾有事にどこまで関与する気があるのかは不透明だ。その時、日本は孤立する。
欧米も中国も新興国も、ウクライナ戦争の「和平」に一挙に動く時が来るのかもしれない。その時、唯一の被爆国であり、平和国家であるはずの日本だけが「徹底抗戦」を叫び続ける。そのような厳しい状況に置かれかねない日本の現実がある。岸田首相はどこまでそのことを理解しているのだろうか。 
●プーチン氏、ウクライナは「ロシア国民を脅かそうとしている」 5/31
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は30日、同日早朝に首都モスクワであったドローン攻撃について、ウクライナがロシア国民を脅かそうとしていると非難した。
プーチン氏は、民間人が標的にされたが、自国の防空システムは脅威に対して申し分なく対処したと述べた。
ロシア国防省によると、少なくとも8機の無人航空機(ドローン)を使った攻撃により、いくつかの建物に軽い被害があった。
ウクライナ政府はドローン攻撃への関与を否定している。
ロシアがウクライナ侵攻を開始して以降、モスクワが複数のドローン攻撃の標的になったのは今回が初めて。
モスクワのセルゲイ・ソビャーニン市長は、重傷者はいないとしている。
ドローン数機は政府高官らが暮らす西部の高級住宅地に落下した。
プーチン氏はロシアのテレビ放送で、今回の攻撃は、ロシア軍がここ数日の間に行った、ウクライナの軍事情報本部への攻撃に対するウクライナ側の対抗措置だと指摘した。BBCは、ロシア軍がウクライナの軍事情報本部を実際に攻撃したのか独自に検証できていない。
「これ(軍事情報本部への攻撃)への対抗措置として、ウクライナ政府は別の道を選んだ。ロシアを脅迫し、ロシア市民を脅迫しようとする試みと、住居ビルを空爆するという道を」と、プーチン氏は述べた。
「これは明らかなテロ活動の証拠だ」
「ウクライナは我々を挑発し、同じ対抗措置を取らせようとしている」
ロシア外務省は、西側諸国のウクライナ支援は「ウクライナ指導部を、テロ行為などこれまで以上に無謀な犯罪行為に向かわせている」とした。
しかし米国務省は、ロシア領内への攻撃を支持しないという従来の立場を繰り返し、現在ドローン攻撃に関する情報を収集中だと付け加えた。
ウクライナのキーウでは29日夜からドローン攻撃が行われ、少なくとも1人が亡くなったと報じられている。
ウクライナ当局は、防空システムによって20機以上のドローンが撃墜されたものの、落下した破片によって建物に火が付いたと説明している。
●モスクワ無人機攻撃、要人邸宅エリア狙ったか… 5/31
ウクライナに侵略するロシアの首都モスクワへの無人機攻撃を巡り、ロシア語の独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」などは、無人機の多くがプーチン大統領ら要人の邸宅が集中するモスクワ西郊の高級住宅街一帯を標的にしていたと報じた。ウクライナ軍が近く着手する大規模な反転攻勢を前に、プーチン政権は露国内の防空網の強化も迫られている。
報道によると、少なくとも無人機2機は30日、プーチン氏の公邸から数キロ・メートルの地点を飛行中に撃墜された。プーチン氏は5月3日に露大統領府が無人機で攻撃された際、この公邸に滞在していたとされる。一帯にはプーチン氏のほか、首相や国防相、富豪の家がある。
プーチン氏は30日、国営テレビで、「ウクライナはロシア国民を脅す道を選んだ。テロ行為だ」などと非難し、防空網に関しては「なすべきことがある」と強化する意向を示した。
露政府は30日の無人機攻撃をウクライナによるものと断定し、露外務省は声明で「ロシアはウクライナに対し最も厳しい措置を講じる権利がある」と警告した。露メディアは30日、露内務省がウクライナ軍の総司令官や陸軍司令官ら3人を指名手配のリストに載せたと一斉に報じた。
これに対してウクライナは「直接の関係はない」(大統領府顧問)との立場で関与を認めていない。
無人機攻撃の背後関係や実態には不明な点が多い。ウクライナ製の無人機が使用されたとの見方が出ているが、ロシア国内の抵抗勢力による攻撃の可能性も排除できない。米国のカリーヌ・ジャンピエール大統領報道官は30日の記者会見で、攻撃に使用された無人機に関し、「情報収集中だ」と述べるにとどめた。
一方、露南部クラスノダール地方当局は31日、石油精製施設が2度、無人機で攻撃されて爆発が起きたと発表した。プーチン氏が頻繁に訪れるソチの公邸もクラスノダール地方にある。ウクライナ国防省情報総局の報道官は30日、英字紙「キーウ・ポスト」に「我々はプーチンの居場所を常時監視している」と述べた。
●プーチンは「仲間割れ」を楽しんでいる…ロシア軍と傭兵部隊が"殺し合い" 5/31
ロシア軍と傭兵部隊が味方同士で殺し合う
ロシア傭兵集団「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジン代表が、ウクライナ当局に対し、ロシア正規軍の配備位置を教えると持ちかけていた。米ワシントン・ポスト紙が5月、流出した米国防総省の機密文書をもとに報じた。
同紙によるとプリゴジン氏は、ロシア軍の位置を開示する見返りとして、東部ドネツク州バフムートからウクライナの部隊を撤収させるよう求めたという。
ワグネルは激戦地となったバフムートにおいて、激しい損耗を受けている。ロシア兵の命を差し出すことで、部隊の被害を軽減するねらいがあったとみられる。異例の申し出について同紙は、プーチン大統領が「反逆的な裏切り行為」とみなすおそれがあると指摘する。
プリゴジン氏は以前からロシア軍への不満を公然と並べ立ててきたが、苛立ちがついにピークに達したようだ。別の事例として複数の米メディアが、ワグネルの一部の傭兵部隊とロシア軍部隊とが4月、交戦状態になったと報じている。友軍同士で死者を出し合ったという。
米軍事メディアからは、プリゴジン氏とロシア軍司令官らのあいだに漂う不和は、そもそもプーチン氏が意図的に招いたものだとする分析も飛び出した。国内の2つの勢力を競わせることはプーチン氏お得意の手法だが、それによって友軍を非難し攻撃し合うという理に適わない事態が生じているようだ。
傭兵集団トップがウクライナに機密情報を流そうとしたワケ
ワシントン・ポスト紙は5月、プリゴジン氏が友軍部隊の位置の開示という「異常な申し出」を行っていたと報じている。申し出は1月下旬に行われており、同紙は「彼の傭兵部隊が数千人単位で死んでゆくなか」の出来事であったとも指摘する。
記事は流出した機密文書をもとに、プリゴジン氏がウクライナ防衛省の情報局(HUR)に対し、ロシア軍の展開地点の情報を提供すると持ちかけたと報じている。氏は、布陣に関するこの情報をもとに、ウクライナはロシア軍を攻撃できるとまで明言していたという。
2人のウクライナ当局者は同紙に対し、プリゴジン氏がHURと繰り返し接触し、このような提案を複数回持ちかけていたと証言している。ウクライナ側は、プリゴジン氏が信頼に足る情報を提供しないおそれがあると判断し、交渉を拒んだという。
ワシントン・ポスト紙はまた、流出した別の機密文書をもとに、プリゴジン氏がウクライナ軍に対してロシア軍への攻撃をけしかけたとも伝えている。ロシア軍が弾薬の補給に手間取っている事実をウクライナ側に明かしたうえ、ロシア兵らの士気が低いうちにクリミア国境付近での攻撃を加速するようウクライナ軍に助言したという。
ロシア軍よりも高い戦闘意欲を維持しているとされるワグネルだが、流出文書は別の側面を物語る。激戦地・バフムートへの出陣を躊躇する戦闘員も多く、部隊の士気は顕著に落ちていた模様だ。疲弊する自社の傭兵部隊を護るべく、プリゴジン氏はロシア兵の情報を突き出したという経緯のようだ。
傭兵集団が抱える「ロシア正規軍」への不満
ロシア軍に対するプリゴジン氏の不満は、これまでにも鬱積していた。ロサンゼルス・タイムズ紙は、「プリゴジンと軍上層部の険悪な関係は、2014年のワグネル創設にさかのぼる」と指摘する。ウクライナ戦争においても折に触れ、プリゴジン氏がロシア軍の無能さを揶揄してきたと同紙は述べる。
今年5月には、進軍するワグネルの側方を固めるべきロシア軍に対し、その役目を果たしていないと非難していた。ワグネル本隊を護衛するはずが、「数十人か、ごくまれに数百人」ほどの兵士しか現れず、「かろうじて形成を維持している」状態だったという。こうしたロシア軍の弱体ぶりに、プリゴジン氏は常々苛立ちを募らせているようだ。
英タイムズ紙は、バフムートの前線で活動するウクライナ軍の将校の証言をもとに、ワグネルとロシア正規軍には明確な能力の違いがあると指摘している。
ウクライナ軍の大隊で諜報(ちょうほう)活動を取り仕切るジュトコフ氏は同誌に対し、猛襲を重ねたワグネルの部隊からロシア軍に入れ替わった途端、ウクライナ軍としては戦闘が相当にやりやすくなったと述べている。
「ワグネルが去ってロシア正規軍に交代した途端、彼らは陣地を放棄したのです。これがもしワグネルの戦闘員であれば、最後の最後まで陣を護ります」
ジュトコフ氏はその理由について、次のように分析している。「(ワグネルの)多くは囚人ですね?  だから、戦闘を行うか牢屋に戻るかの2択だと分かっているんです。けれどロシア兵たちには、動機がない。なぜここで戦っているのか、理由が見つからない。だから恐怖を感じると、ひたすら逃げるんです」
「ロシア軍が自軍の戦闘機を撃墜させた」とほのめかす
プリゴジン氏の立場からすれば、激戦の末に勝ち取った陣を、いともたやすくロシア軍に放棄される。氏の不満は、このような不甲斐なさから蓄積しているようだ。腹に据えかねた氏は、繰り返しロシア軍の混乱ぶりをあげつらっている。5月上旬には、ロシア軍が自軍の軍用機を撃墜したと示唆する発言をネット上で行った。
氏が揶揄するのは、空軍が1日で4機を失った一件だ。軍事・防衛情報サイトの米タスク&パーパスは、5月13日がロシア軍にとって「最悪の一日」になったと振り返る。ウクライナ国境付近にて同日、Su-34戦闘爆撃機1機、Su-35戦闘機1機、そしてMi-8輸送ヘリコプター2機が墜落し、1日で4機を失う惨事となった。うちSu-34は、落下中に炎上する様子が動画に撮影されている。
ロサンゼルス・タイムズ紙によると、ロシアが自軍機を誤って撃墜したとの見方が出ているようだ。ウクライナ空軍のユリイ・イナト報道官は、ウクライナの関与を否定し、ロシアが自軍を攻撃したとの見方を一時示した。
報道官は冗談のつもりだったとして、のちに発言を撤回している。だが、これに同調したのがプリゴジン氏だ。同紙によると、メッセージアプリのTelegram上でプリゴジン氏は、「4機の航空機……その墜落現場の上に円を描けば、直径40km以内に正確に収まる。その円の中心にどんな防衛兵器が位置するのか、みなさん自身でインターネットで調べてみてください」と発言。ロシア自身が配備する防空システムに撃墜されたと示唆した。
ロシア人がロシア人を撃ち殺す異常事態
プリゴジン氏とロシア軍は、もはや対立を隠し立てすらしていないかのようだ。こうした亀裂が高じ、ついに両陣営に死者を生じた可能性も出てきた。
軍事情報を報じるタスク&パーパスは5月上旬、ウクライナ政府発表の情報として、ワグネルの一部傭兵たちがロシア軍と交戦していると報じた。ウクライナ東部のルハンスク州でワグネルとロシア軍のあいだに諍いが発生し、本格的な銃撃戦に発展したという。ウクライナ政府は、複数の死者が発生したとしている。
ウクライナ軍参謀本部が4月23日に発表した内容によると、両陣営は互いに敗退の責任を転嫁し合い、戦術的誤算と人的損失の原因を相手になすりつけ合っていたという。これが銃撃戦に発展したとしている。
米インサイダーも本件を取り上げた。ウクライナ側の情報をもとに、「ロシア軍とワグネルの傭兵らが、戦争の失敗を互いに責めた末に銃撃戦で殺し合った」と記事は報じている。
本情報はウクライナ側からの発表内容であり、ロシア側が公式に認めていない点に注意が必要である。だが、ワグネルトップのプリゴジン氏とロシア軍を率いるショイグ氏との度重なる不仲を考慮すれば、一概に不実とも断言できない現状がある。
インサイダーは「しかしながら複数の報告書が、ロシア軍がウクライナで友軍による銃撃に苛まれていることを示している」とも指摘する。
同記事は、英シンクタンクの王立防衛安全保障研究所(RUSI)による分析を踏まえ、紛争初期には敵味方の識別が困難であることを原因とした誤射が多かったとしている。しかし、その後も「意図的と思われる事例」を含め、ロシア勢同士が銃火を向け合う例が絶えないという。
ワグネルに限らず、ロシア正規軍の内部でも、自軍の兵士を撃つことを辞さないようだ。英国国防省は昨年11月、ロシア軍が部隊の最後尾に「ブロッキング・ユニット」と呼ばれる兵士らを配置していると発表した。逃走を防ぐため、退却する兵士を銃で撃つと脅しているのだという。
プーチン、国防相、傭兵トップの「こじれた三角関係」
プリゴジン氏とロシア軍司令官らのあいだには、これまでにも度々亀裂が指摘されてきた。
プリゴジン氏は4月、長期化するウクライナ侵攻に疑問を呈している。タスク&パーパスが報じたところによると、氏は3000字以上の長文をオンラインで発表。「理想的な選択肢は、掲げられた目標のすべてを達成したとロシアが宣言し、特別軍事作戦を終了することである」と主張した。侵攻の旗を振るプーチン氏や軍司令官らに反発したとも取れる、異例の発言だ。
軋轢は続く。AFP通信は5月上旬、ロシア軍からの弾薬供給が受けられないとして、プリゴジン氏がバフムートからの撤退をちらつかせる脅しに出たと報じている。脅迫が功を奏し、ワグネルに弾薬の供給が再開された。プリゴジン氏とロシア軍が必ずしも強固に団結しているわけではないことを物語る、象徴的な諍いとなった。
同記事は本件について、「前例のない公の脅し」であったと報じている。プリゴジン氏は「弾薬がなければ無意味な死を生じるため、ワグネルの部隊をバフムートから撤退させる」と公言していた。
タスク&パーパスによると、弾薬の供給を絶たれたプリゴジン氏は激高。プーチン氏やショイグ国防相の名指しこそ避けたものの、ロシアの「意志決定者たち」はワグネルに弾薬を与えないことで、国家への「反逆行為」を行っていると強く非難した。
一方で、冒頭で触れたロシア軍の位置を明かすという取引は、それこそが国家への反逆となりかねない。ワシントン・ポスト紙は、プーチン氏がプリゴジン氏のウクライナへの提案を「反逆的な裏切り行為」とみなすことは十分に考えられると指摘している。紛争の重責を担うロシアのトップたちが、互いを国家への反逆者だと糾弾し合っている状態だ。
米シンクタンク「内部分裂の黒幕はプーチン」
このような足の引っ張り合いは、そもそもプーチン氏が招いた事態だとの指摘がある。インサイダーは「プーチンは、派閥同士が争うよう仕向けることがある」と指摘する。
米シンクタンクの戦争研究所でロシア軍を研究するカテリーナ・ステパネンコ氏は、同記事の中で、「プーチンは、一度に1つの派閥にしか関心を向けないという、極めて有害な環境を設けている」と述べている。「チームを入れ替えることで、2つの派閥を互いに競争させる」のだという。
ワグネルとロシア軍に関しても「間違いなくこの2つの派閥を互いに対立させている」とステパネンコ氏は指摘する。氏は、バフムートで国防省がワグネルへの弾薬供給を停止したのも、プーチン氏の指示であったとの見方を示した。プーチンが「間違いなく、2人を操る黒幕である」のだという。
ロイターはバフムートの戦いについて、ロシアがドンバス地方の他都市に侵攻する足がかりになると考える要衝であり、数カ月におよぶ激しい戦いの末に両軍計数千人の命が奪われたと報じている。このような重要な戦闘にもかかわらずプーチン氏は、ワグネルとロシア軍が共闘して要衝をいち早く攻略することよりも、配下の派閥のバランス取りに心血を注いでいるようだ。
プーチンが「連敗続きのロシア軍」に肩入れする事情
米シンクタンクが「黒幕」と指摘するプーチン氏の下で、本来目的を共有しているはずの2つの派閥が互いに争い合い、ことによっては互いの陣営に銃口を向け合っている。ロシア軍内部の連携の悪さはずいぶんと以前から指摘されてきたが、軍とワグネルの傭兵部隊とのあいだでも泥沼の妨害工作が起きているようだ。
敗退続きのロシア軍に非難が集中するなか、プーチン氏は同軍の大部分を統括するショイグ氏に肩入れするという不思議な動きをしている。そのねらいは、実力をもとに増長するプリゴジン氏の勢いを抑制することにあるのかもしれない。
しかし、そもそも友軍同士を戦わせる構図は、戦場でロシア全体にとって不利を生んでいる。加えてショイグ氏の重用により、ロシア軍を強力に補佐するはずだったワグネルのトップを怒らせる展開を招いた。
こうして不満を抱えたプリゴジン氏は、侵攻中止論をぶち上げ、ロシアトップへの不満を公然と口にする傍若無人な振る舞いを重ねている。あまつさえ、ロシア兵の居場所を明かし、自らの傭兵部隊が助かろうとする始末だ。
対立を煽り、権力を守りたいプーチンの狙いが透けて見える
ところがプーチン氏としては、やりたい放題のプリゴジン氏を冷遇できないジレンマがある。プリゴジン氏は、ロシア国内に根強く残る国家主義者からの信望が厚い。プーチン氏はかねて、ウクライナ侵攻の口実として国家としての正義を謳ってきた。プリゴジン氏をお払い箱にすれば、こうした熱烈な国家主義者らの反感がプーチン氏に向かうが、これは避けたい事態だ。
また、前回の動員令で国民から不信を買ったことからも、否が応でもワグネルへの依存は当面続くとみられる。
意図的に2つの勢力を対立させることで権力を誇示するプーチン氏だが、現実的にはワグネルの戦闘能力にしがみつかざるを得ない。プリゴジン氏がロシア軍の配備位置を漏らそうとも、軍部を公然と批判しようとも、その暴走を止められない――。そんな苦しい立場に置かれているようだ。
●「戦況の主導権は一層 ロシアからウクライナに」英国防省 5/31
ウクライナでの戦況についてウクライナ軍は本格的な反転攻勢に乗り出す構えも示していて、イギリス国防省は戦況の主導権が一層ロシアからウクライナに移っていると指摘しています。
ロシアの首都モスクワや近郊では30日、複数の無人機が飛来し、国防省は8機が攻撃を仕掛けてきたと発表しました。
プーチン大統領はウクライナによる攻撃だと主張したうえで、「鏡のような行動をとるようわれわれを挑発しているようだ。どう対処するかはこれからだ」と述べました。
一方で今回の攻撃は、数日前にロシア軍がウクライナ軍情報本部を攻撃したことに対して行われたものだったとも主張しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は30日、ロシア軍にはさらに報復するうえでの余力がないという見方も示しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は領土奪還に向けた反転攻勢を近く開始する考えを示しています。
イギリス国防省は31日「5月以降、戦況の主導権が一層ロシアからウクライナに移っている」と指摘しました。
そのうえで「ロシアは今月だけで20日間も無人機やミサイル攻撃を行い、ウクライナの防空網を無力化し、反転攻勢の部隊を破壊しようとしたが、ほとんど成功していない」と分析しています。
●オスロでNATO外相会合、ロシア製油所に無人機攻撃 5/31
北大西洋条約機構(NATO)加盟国の外相は31日から2日間、オスロで会合を開く。ウクライナが求めているNATO加盟や、防衛費拡大の方策を協議する。
ロシア国営のタス通信によると、ラブロフ外相はケニアとブルンジを訪問した後、モザンビークの政治指導者と会談する予定だ。
ロシア南部のアフィプスキー製油所がドローン(無人機)の攻撃を受け、火災が発生したとインタファクス通信が31日報じた。
モスクワに侵攻後最大のドローン攻撃、プーチン氏が防空強化指示 (1)
ウクライナ支援の欧米諸国、ロシア内への攻撃には慎重さ求める
ロシア領内を攻撃する権利をウクライナが有する是非について、ウクライナを支援する欧米諸国は慎重な姿勢を求めた。事態がエスカレートすれば、戦争の範囲が広がる恐れがあると懸念されている。
クレバリー英外相は今週エストニアで記者団に対し、「ロシアがウクライナ国内に攻撃力を及ぼす能力を損ねるために」、ウクライナには「自国の国境を越えて力を及ぼす権利がある」と述べた。
しかし英国以外はより慎重だ。フランスの当局者はウクライナが自国を防衛する権利は支持するが、フランスの軍事支援はロシアへの攻撃に使用されるべきではないと述べた。しかしウクライナが自国軍に今以上の行動を求めるのであれば、この戦争で指示を出すのはフランスではないとも話した。
 
 

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 1日の動き 6/1
ゼレンスキー大統領 反転攻勢向けオデーサ州視察 作戦協議か
ウクライナ大統領府は5月31日、ゼレンスキー大統領が南部のオデーサ州を視察して地元の当局や軍の司令部の代表と会議を行ったと発表しました。この中でゼレンスキー大統領は現地の司令官から作戦や任務遂行の準備状況について報告を受けたとしていて、領土の奪還に向けた反転攻勢を近く開始する考えを示す中、南部での今後の作戦について協議したものとみられます。
ロシア南部の燃料貯蔵施設で火災 無人機攻撃か
ロシアでは南部のクラスノダール地方にある燃料貯蔵施設で31日火災が発生し、地元の知事は無人機による攻撃を受けたとみられるとSNSで明らかにしました。またウクライナと国境を接する西部のベルゴロド州の知事は、ウクライナ軍の攻撃が相次ぎ死傷者が出るなど被害が広がっているとして、隣接する州に子どもたちを避難させるとSNSに投稿しました。ロシア大統領府のペスコフ報道官は記者団に「現地の状況は極めて憂慮すべき事態だが、対策は講じられている」としています。
“無人機攻撃” プーチン大統領の公邸がある地域も狙われたか
ロシア国防省が30日に8機の無人機が首都モスクワなどに攻撃を仕掛けてきたと発表したことに関連して、一部の独立系メディアは、エリート層が住みプーチン大統領の公邸もあるモスクワ郊外の地域も狙われたとして「大統領や側近たちに対する心理的な攻撃だった」とする見方を伝えています。プーチン大統領は30日「防空システムは改善の余地はあるが機能した」と主張しましたが、プーチン政権が事態のわい小化に努めているといった見方も出ていて、神経をとがらせているものとみられます。
ドイツ 国内にある4つのロシア総領事館の閉鎖要求
ドイツ政府は、ロシアが現地に駐在できる外交官などドイツ人公務員の数を制限したため総領事館の閉鎖を余儀なくされ、その対抗措置としてドイツ国内にある4つのロシアの総領事館の閉鎖を求めたことを明らかにしました。ドイツはロシアから天然ガスを大量に輸入しロシアとの協力関係を重視してきましたが、ウクライナへの軍事侵攻以降は両国の間で外交官の追放が繰り返されていて、今回の応酬を受けて関係は一段と悪化するとみられます。
ロシア外務省 「新たな非友好的な措置だ」
ドイツ政府が国内にある4つのロシアの総領事館の閉鎖を求めたことに対してロシア外務省は31日声明を発表し、「数十年にわたる多面的で豊かな、相互利益のある両国関係をさらに破壊しようとする新たな非友好的な措置だ」と反発しました。その上で「思慮に欠ける挑発的な行動だ」と主張し、対抗措置をとることを示唆しました。
●英国防省「戦争の主導権、5月以降ロシアから徐々にウクライナへ」 6/1
「ロシアに対するウクライナ軍の反転攻勢はすでに始まった」との見方が浮上する中、「ロシア軍は、ウクライナのより強化された防空システムの無力化と反転攻勢阻止について、成功を収められなかった」と英国防省が指摘した。アルジャジーラが31日に報じた。
英国防省はこの日ツイッターで「5月以降、ウクライナ戦争の主導権はロシアからウクライナへと徐々に移っており、ロシアは戦争目標の実現に突き進むことよりも、ウクライナ軍の行動に対応するレベルにとどまっている」との見方を示した。
英国防省は「ロシアは今月だけで20回にわたりウクライナに無人機やミサイルで攻撃を行ったが、ウクライナの防空システム無力化や、反転攻勢を準備するウクライナ軍部隊の破壊を成功させることはできなかった」と分析した。
一方のロシアは31日「ウクライナ東部ルハンシク州のロシア軍占領地域の村にウクライナ軍が4発のロケット砲による攻撃を行い、少なくとも5人が死亡した」「米国がウクライナに供与した高機動ロケット砲システム(HIMARS)が攻撃に使用された」と主張した。
30日にはモスクワにウクライナ軍の無人機8機が飛来し、西部ベルゴロド州にも砲撃が加えられた。さらにロシア南部クラスノダール地方の燃料タンクもドローンによるとみられる攻撃を受け火災が発生した。
しかしウクライナ政府は「ロシア領土に対する攻撃は行っていない」として関与を否定している。
米シンクタンク「戦争研究所」は30日「ロシア軍はもはやウクライナ軍の攻撃に報復する余力がない」との見方を示したという。
●ドローン攻撃を受けたモスクワ…米メディア「ロシア市民に心理的打撃」 6/1
昨年2月末にウクライナ戦争が始まって以来、モスクワが初めてドローン攻撃による被害を受け、戦争被害から一歩離れて暮らしてきたロシア市民に少なからぬ「心理的打撃」を与えた。
米紙ニューヨーク・タイムズは30日付で、今回の攻撃が「戦争がロシアの心臓部に広がっていることを示す強力なシグナル」だとし、この攻撃が起こした物理的被害は大きくないが、一般大衆に及ぼす「心理的余波」は小さくないと指摘した。同日午前、ドローン8機がモスクワ都心を攻撃し、民間用住居建物3カ所の窓の一部が割れ、市民2人が負傷した。ロシア国防部はドローン5機を防空システムで撃墜し、残りの3機は電子戦システムによる撹乱に成功したと発表した。
しかし、この攻撃でロシアが受けた衝撃は小さくないものとみられる。ロシア極右勢力として2014年3月のクリミア半島の強制合併にも関与した元情報要員のイーゴリ・ギルキン氏は30日、テレグラムに「モスクワへのドローン攻撃による心理的打撃の強さは破壊の規模にとどまらない」とし、「国家指導部は戦争ではなく特別軍事作戦になると約束した」と指摘した。ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナを全面侵攻する際、この軍事行動を自国の民間人にも被害を及ぼしかねない「戦争」ではなく、「特別軍事作戦」だと主張した。ロシア政府を支持する軍事ブロガーのミハイル・ズビンチュク氏も、100万人以上フォロワーのいるテレグラムのチャットルームで、「モスクワの空に登場したドローンの目的が大衆にストレスを与えることならば、その目的を果たした」と書いた。
これまでロシア市民の多くはウクライナ戦争を「遠い異国の話」と思ってきた。戦争が15カ月目に入り、経済事情は悪化したが、モスクワやサンクトペテルブルクなどの主要都市では戦争被害を実感できるようなことが起きなかったからだ。ロシア政府も「強いロシア」という民族主義を掲げ、今回の「特別軍事作戦」の正当性を強調してきた。
これを意識したかのように、クレムリン(ロシア大統領府)と政府側の関係者らは、今回のドローン攻撃への言及を最小限に抑え、議論の拡散を食い止めようとしている。プーチン大統領は同日、国営メディアを通じて公開した短い動画で、ロシアの防空網はきちんと作動しているとし、「我々にはやるべきことがある。我々は何をすべきかを知っている」と述べた。国営メディア記者でありモスクワ地域議員のアンドレイ・メドベージェフ氏もテレグラムを通じて「ドローン150機が一気に来ても戦争や都市での暮らし、交通、水の供給などに影響を及ぼすことはない」として市民の不安をなだめた。与党議員のアンドレイ・グルリョフ氏は、モスクワ市民がドローンより電動スクーターに轢かれる可能性の方が高いと語った。
この日モスクワを狙ったドローン攻撃は、ロシアが27日夜からイラン製ドローンを動員してウクライナの首都キーウに向かって開戦以来最大の空襲を敢行した後に発生した。ロシアはウクライナの「春の大反撃」をけん制するため、5月に入ってキーウに17回も空襲を行った。ウクライナは今回の攻撃が自分たちの仕業ではないという立場を明らかにした。
●反転攻勢を目前に控えるウクライナ、一部では終戦を見据えた動きも 6/1
昨年2月にロシアがウクライナへの侵攻を開始して以来、ロシアが首都キーウ周辺にドローンを使った最大規模の攻撃を行うなど、今なお極度の緊張状態が続いているが、そのような中でウクライナ国内では終戦を見据えた動きも出始めている。米ウォールストリート・ジャーナルは30日(現地時間)、ウクライナ政府関係者と欧州各国外交官の話として「今年7月にリトアニアで開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会談に先立ち、各国の首脳が参加する『ウクライナ平和サミット』を開催し、終戦案を発表する方向で検討が行われている」と報じた。ウォールストリート・ジャーナルは「サミットを主催するゼレンスキー大統領はロシア軍の撤収を前提に、ウクライナ領土の回復と戦争犯罪の処罰、ロシアにより不安定化している食糧安全保障の回復などを含む終戦案を提示する計画」と伝えた。
サミットには米国のバイデン大統領を含むNATO加盟各国の首脳らが招待される予定だ。ロシアは招待されていないが、インド、サウジアラビア、ブラジル、中国などウクライナ戦争開始後もロシアと友好的あるいは中立的な国々も招待されるとみられ、すでに打診も行われているという。ただしウクライナは2014年にロシアが武力で併合したクリミア半島を含む全ての占領地からの撤収を終戦の前提条件としているため、交渉を通じて終戦が実現する可能性は今なお小さいとみられている。
ウクライナ政府関係者は軍事的な勝利による終戦への自信を示している。ゼレンスキー大統領の最側近とされるウクライナ大統領府のポドリャク長官顧問はCNNテレビの取材に「砲弾、ドローン、ミサイルなど必要な物資の支援が大量に、また必要な時に行われれば、今年中に戦争を終わらせることができる」「時間もかかるし複雑だが、(反転攻勢は)成功するだろう」と述べた。ウクライナは戦後処理として6・25戦争後に設定された非武装地帯(DMZ)にも言及した。ポドリャク顧問は「戦後体制の重要なテーマは(ロシアによる)将来の攻撃再発を防ぐ仕組みを整えることにすべきだ」「(幅)100−200キロのDMZ設置を必ず実現させねばならない」と訴えた。
一方でロシアによるキーウへのドローン攻撃後、モスクワもドローン攻撃を受けたことと関連してロシアのプーチン大統領はウクライナを強く非難した。プーチン大統領は「今回のモスクワへのドローン攻撃はウクライナによるロシアへの脅迫であり挑発だ」「ロシア市民に脅威を与え、住居などの建物を攻撃することは明らかにテロ行為だ」と指摘した。モスクワへのドローン攻撃に対してロシア政府とロシア軍は「ウクライナの仕業」と主張しているが、ウクライナはこれを一蹴し「直接関与していない」と反論した。ただし積極的には否定しなかった。
●米、ウクライナに追加軍事支援 ロシア国内への攻撃には警告 6/1
米政府は5月31日、ウクライナに対し、3億ドル(約420億円)の追加軍事支援を行うと発表した。ただし、ロシア国内への攻撃には使用しないよう警告した。
支援の中身は、地対空迎撃ミサイルシステム「パトリオット」や中距離空対空ミサイル「AIM7」、移動式防空システム「アベンジャー」、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」などの弾薬。高機動ロケット砲システム「ハイマース」用のロケット弾、小火器用の弾薬3000万発以上なども含まれる。
国防総省によると、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始以降、米国のウクライナ向け軍事支援は総額376億ドル(約5兆2300億円)に上る。
ただ国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は記者団に対し、「ロシア国内への攻撃を可能にするつもりはないし、奨励もしない」と語った。その旨をウクライナ側にも明確に伝えてきたとしている。
カービー氏はまた、米政府はウクライナを全力で支援しているが、「西側諸国や北大西洋条約機構(NATO)、米国が巻き込まれる」事態や「第3次世界大戦」は回避したいと述べた。 
●プーチン大統領の意向に反対した大司祭が心臓発作で入院 6/1
ロシアのプーチン大統領の意向に反したロシア正教会の大司祭が入院したと報じられています。
ロシア正教会の美術品や修復の専門家会議の代表を務めていたカリーニン大司祭が心臓発作で入院したと国営ロシア通信が先月30日に報じました。
カリーニン大司祭はその3日前、礼拝に用いられる聖像「イコン」を美術館から持ち出すプーチン大統領の決定に反対し、職責を解かれていました。
プーチン大統領は5月15日、ロシアでもっとも有名なイコンの一つ、アンドレイ・ルブリョフの「聖三位一体」を現在、保管されているトレチャコフ美術館から救世主キリスト大聖堂に移す決定をしました。
これに対し、美術品の専門家らはトレチャコフ美術館では温度や湿度などが厳重に管理された状態で保管されていて、移動すべきではないなどと反対しました。
美術品の管理などを担当する立場にあるカリーニン氏もイコンが劣化するため、反対の立場を表明しましたが、直後の5月27日、ロシア正教会はカリーニン氏の解任を発表しました。
カリーニン氏は当時タス通信の取材に対して、「私は間違いを犯したようだ」とコメントしていました。

 

●ロシア西部の州知事“ウクライナ軍による砲撃で8人負傷”と発表 6/2
ウクライナと国境を接するロシア西部で1日、「ウクライナ軍の砲撃があった」と州知事が発表しました。
ロシア・ベルゴロド州の知事は1日、ウクライナ軍による砲撃で8人が負傷したと発表しました。
これについては、ウクライナ側で戦うロシア人部隊の2つのグループが関与を表明しています。このグループは先月22日、この地域へ侵入し、ロシアと大規模な戦闘を行ったとみられています。
ロシア国防省は撃退したとし、「国境侵犯はなかった」と発表。ペスコフ大統領報道官は、攻撃についてプーチン大統領も報告を受けていると述べています。
NATO ストルテンベルグ事務総長「戦争終結時に、将来のウクライナの安全を保障する確実な取り決めを作ることが必要です」
一方、NATO=北大西洋条約機構の外相会合ではウクライナへの支援策などについて議論されました。
さらに、旧ソ連構成国のモルドバでは「ヨーロッパ政治共同体」の会合が開かれ、ウクライナのゼレンスキー大統領が出席。「防空システムや戦闘機の供与が早期の平和をもたらす」として、軍事支援の強化を求めたほか、NATOやEU=ヨーロッパ連合への加盟に向けた動きを前進させたい考えを強調しました。
●ロシアで砲撃 14人負傷 “反プーチン”部隊が攻撃声明 6/2
ウクライナと国境を接する、ロシア西部のベルゴロド州で砲撃があり、反プーチン政権の武装集団が攻撃の声明を出した。
ベルゴロド州知事は1日、行政の庁舎や寮などが砲撃されたと発表した。
ロシアメディアによると、14人が負傷、そのうち4人が重体だという。
ロシア国防省は、ウクライナ軍による砲撃だと主張しているが、ウクライナは関与を否定し、一方で、反プーチン派のロシア人部隊が攻撃を宣言する声明を出した。
ロシア人部隊「ロシア義勇軍」は1日、「再びロシアの領土で戦っている」とする声明を出し、別のロシア人部隊「ロシアの自由」は攻撃の様子をとらえた動画を公開した。
ベルゴロド州では、5月22日もドローン攻撃で1人が死亡しており、この2つの武装集団が関与を表明している。
●ロシア反体制派の軍事組織、ベルゴロド州で弾薬破壊と主張 6/2
反プーチン政権のロシア人の軍事組織とされる「自由ロシア軍団」は1日、ウクライナと国境を接するロシア南部ベルゴロド州での爆発の様子をとらえた動画2本を公開し、軍事目標を攻撃したと主張した。
CNNは映像の場所が同州内であることを確認した。
自由ロシア軍団は、動画の1本には「敵の弾薬と迫撃砲を正確に砲撃して爆発した様子」が映っていると主張した。
CNNは爆発場所が同州シェべキンスキー地区だと特定したが、攻撃が成功したという主張の裏付けはできていない。
2本目の動画では「運搬中だったグラート多連装ロケットシステム(MLRS)の列が破壊された」などと主張している。
さらには「ロシア義勇軍団(RVC)の兄弟たちと共に、我々はプーチンの軍隊の非武装化を続ける」としている。ロシア政府がウクライナ侵攻の目的の一つとして用いた「非武装化」という言葉を使っている。
動画では明らかな着弾点から煙が上がっているのが見えるが、ロシア軍の兵器が攻撃されたかどうかは不明。
動画の公開に先駆けて自由ロシア軍団は1日、ロシアとの国境近くにいると明らかにし、ロシア義勇軍団は「ロシアの領土で戦っている」と主張した。
一方、ロシア国防省は同日、「ウクライナのテロリスト集団」による3つの攻撃を撃退したと発表した。
ウクライナ政府はこれまでロシア人の戦闘員らはロシアで独立した行動をとっていると述べ、これらの軍事組織とは距離を置いている。
●「残忍さで悪名高い」…ロシア、「傭兵枯渇」でチェチェン部隊を投入 6/2
ロシアがウクライナの最激戦地バフムトを占領するために、戦力が枯渇した私設傭兵団「ワグネルグループ」に代わって、残忍さで悪名高いチェチェン部隊を戦線に投じることにした。
31日(現地時間)、米国CNN放送によると、ロシアのプーチン大統領の最側近に挙げられるチェチェン共和国の首長ラムザン・カディロフ氏は前日テレグラムを通じて「チェチェン部隊が兵力再配備命令を受けた」とし「責任地域はドネツィク(ドネツク)共和国」と明らかにした。
ロシア国防省もこの日、正規軍とチェチェン部隊が共にマリンカ方向で進撃したと発表した。
カディロフ氏は「チェチェンの兵士は積極的に戦闘作戦を始めて定着村を解放させなければならない」とし「我々の部隊はロシア総参謀部の支援を受けて対備態勢を整えている」と強調した。
同氏は自身が指揮するアフマト大隊の中の他の兵力の場合、ザポリージャとヘルソンの間のウクライナ軍と対立している接触ライン地域に対しても同じような任務を与えられたと伝えた。
カディロフ氏は先月26日基準でウクライナに約7000人のチェチェン人兵士が駐留中だと明らかにしたことがある。
同氏は2004年に殺害された父親アフマト・カディロフ前大統領の後に続いて2007年からチェチェン自治共和国を統治してきた。プーチン大統領に忠誠を尽くす代わりに絶対的な権力を行使し、ロシアのウクライナ侵攻直後に部隊を派遣して支援してきた。
米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」はこの日、報告書を通じて「ロシア軍司令部がワグネル部隊撤退後、カディロフのチェチェン軍部隊にウクライナ攻撃作戦を始めるように命令した可能性が高い」と分析した。
これに先立ち、プリゴジン氏はバフムト掌握を主張する数日前である先月6日、ロシアのショイグ国防長官に送った書簡で「10日0時以前にワグネルが守っているバフムトおよびその周辺位置をアフマト大隊に移転することを要請する」と書いた。
弾薬補給が正しく行われない劣悪な状況で数多くの部隊員が犠牲になったという主張だった。
ISWは、約1年間ロシア軍の高強度戦闘作戦に参加しなかったチェチェン軍が改めて本格的に戦闘に加わる場合、戦況に変化があるかもしれないと指摘した。
ISWは「カディロフはこれまで戦線に制限的に関与し、消耗的な戦闘への参加をためらってきたものとみられる」とし「ロシア首脳部はワグネルが最前線から後方に撤収する時点に合わせてチェチェン部隊を主要兵力として投入しようと試みる可能性がある」と指摘した。
こうした中、バフムトの戦いの終盤にプーチン大統領をはじめとするロシア首脳部に公開的に不満を噴出させていたプリゴジン氏は相次いで指揮部を直撃した。
ロイター通信によると、プリゴジン氏はこの日声明を出して「国防省の高官が特別軍事作戦(ウクライナ戦争)を準備して遂行する過程で、犯罪を犯した事実を確認するように要請する書簡を調査委員会と検察庁に送った」と明らかにした。
これは軍最高責任者であるショイグ国防長官とゲラシモフ参謀総長を狙ったものだとロイターは説明した。
ロシア国防省はこの日、プリゴジン氏の言及に即座に反応しなかった。
●ブラジル大統領、ウクライナ問題で中立維持 「和平仲介のため」 6/2
ブラジルのルラ大統領は1日、ロシアのウクライナ侵攻を批判する姿勢を改めて示す一方、可能性のある和平交渉を仲介できるよう中立維持を心がけていると述べた。
ルラ氏はフィンランドのニーニスト大統領とブラジリアで会談した後、準備が整い次第、ロシアとウクライナ双方が和平交渉に参加できる条件の設定を模索していると記者団に説明。「ブラジルは平和実現を目指して他国と協力しているが、ウクライナとロシアが望まなければ何も起こらない」と述べた。
また、この問題について、中国の習近平国家主席を含む複数の指導者と最近協議したと明らかにした。
ニーニスト氏は、平和に向けたあらゆる努力に価値があるとの考えを示しつつ、「現時点でその見通しはない」と指摘した。
ブラジルは侵攻を受けて和平仲介を申し出ているが、西側はウクライナへの武器提供により戦争をあおっていると発言し、反発を招いた。
●モルドバで欧州の結束示す国際会議 ゼレンスキー大統領も参加 6/2
ロシアによる侵攻が続くウクライナの隣国モルドバにヨーロッパ各国の首脳が集まり、結束を示す国際会議が開かれ、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加しました。ゼレンスキー大統領は各国に供与を求めた戦闘機について「多くの国から力強い支援の話があった」と述べました。
ロシアによる軍事侵攻が始まったあと、EU=ヨーロッパ連合の枠組みを超えて設立された「ヨーロッパ政治共同体」は1日、ウクライナの隣国モルドバで首脳会議を開き、EU加盟国のほか加盟していないバルカン半島の国々などからおよそ50人の首脳らが参加しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領も事前の予告なしに参加し、会議の冒頭で「防空システムや戦闘機の供与が早期の平和をもたらす」と述べ、各国に軍事支援の強化を求めました。
会議のあとの記者会見で、ゼレンスキー大統領は戦闘機の供与をめぐって具体的な国名などには触れなかったものの「多くの国から力強い支援の話があった。数多くの戦闘機について話があった」と述べました。
モルドバのサンドゥ大統領は「必要なかぎりウクライナに寄り添うとゼレンスキー大統領に伝えた。ヨーロッパの安定が脅威にさらされているこのときにわれわれは強さと結束を示した」と述べて、会議の意義を強調しました。
プーチン大統領の側近「モルドバの参戦促している」
ロシアのプーチン大統領の側近のひとりで、治安機関FSB=連邦保安庁のボルトニコフ長官は1日、同盟関係にあるベラルーシの治安機関などとの会合に参加しました。
そして「西側諸国は、モルドバにウクライナ紛争への参戦を積極的に促し、沿ドニエストル地方を掃討しようとしている」と述べ、欧米各国やモルドバをけん制しました。
モルドバ東部の沿ドニエストル地方は、モルドバからの一方的な分離独立を宣言し、ロシア軍が駐留するなどロシアの強い影響下にある地域で、欧米寄りのモルドバのサンドゥ政権は、ウクライナに侵攻したロシア軍が将来、沿ドニエストル地方にも侵攻してこないか、警戒を強めています。
●欧州とウクライナ結束、モルドバも支援…欧州共同体会議にゼレンスキー出席 6/2
欧州連合(EU)と周辺国が安全保障を協議する「欧州政治共同体」(EPC)の首脳会議が1日、モルドバのブルボアカで開かれた。ロシアの侵略を受けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が予告なしで出席し、欧州各国はウクライナとモルドバへの全面支援を改めて確認した。
「第二のウクライナ」化に危機感
「ウクライナ国境沿いの場所で開催したということが、ロシアに対する欧州からのメッセージだ」。EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(EU外相)は1日、記者団にこう強調した。
EPCは、フランスのマクロン大統領が創設を提案したEU加盟国と非加盟国による枠組みで、昨年10月に初の首脳会議がチェコで開かれた。2回目の今回は、EU27か国と加盟候補8か国、離脱した英国など計47か国の首脳らが出席。会場は、モルドバの首都キシナウの近郊でウクライナ国境から約20キロに位置する。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の軍用機が飛び交う厳戒態勢の下で開かれた。
旧ソ連構成国であるモルドバの現政権は親欧州の立場で、EUへの接近に反発するロシアは政権崩壊を狙い、サイバー攻撃や世論工作を強めている。欧州では、モルドバが「第二のウクライナ」になりかねないとの危機感が強い。
首脳会議では、モルドバへの危機対策の専門家40人からなるEUの文民ミッションの派遣が報告され、各国がさらなる支援を行うことで一致した。EUは5月末、ウクライナとモルドバの両国の主権を脅かす工作を行ったとして、ロシア・モルドバ国籍の7人をEUの制裁リストに加えた。
「我々の未来はEU内に」
1日、モルドバのブルボアカで握手するサンドゥ大統領(右)とウクライナのゼレンスキー大統領=AP1日、モルドバのブルボアカで握手するサンドゥ大統領(右)とウクライナのゼレンスキー大統領=AP
ゼレンスキー氏は、5月31日にウクライナ南部オデーサで軍との会議に出席した後、モルドバ入りした。首脳会議に先立ち、記者団に「我々の未来はEU内にある。NATO加盟の用意もできている」と述べた。
昨年6月にEU加盟候補国となった両国は首脳会議で、年内の加盟交渉開始を求めたとみられる。ゼレンスキー氏は「ウクライナは、EUに統合されようとしているモルドバを支援している」とも述べ、両国の連携を強調した。
一方、ゼレンスキー氏は1日、首脳会議に合わせて、英仏独など各国首脳ともそれぞれ会談し、7月開催を提唱している「平和サミット」への協力も呼びかける見通しだ。
ウクライナ加盟、NATOで協議…外相理事会
北大西洋条約機構(NATO)は5月31日と6月1日、ノルウェーの首都オスロで非公式の外相理事会を開き、ウクライナの加盟問題などを協議した。イェンス・ストルテンベルグ事務総長は会合前、「NATOの扉は開かれており、全ての同盟国はウクライナがメンバーになることに同意している」と記者団に述べ、早期実現を目指す考えを示した。
ストルテンベルグ氏は「NATO拡大を決めるのはモスクワではない。正しい加盟の時期を決めるのは加盟国とウクライナだ」と強調した。ただ、NATOはロシアの侵略が続いている限りウクライナは加盟できないとの立場で、加盟がロシアを過度に刺激する恐れから、一部に慎重論もある。加盟実現には時間がかかるとの見方が根強い。
●ウクライナで「子どもの日」 軍事侵攻以降484人死亡 現地当局 6/2
ウクライナで「子どもの日」とされる1日、首都キーウでロシア軍のミサイル攻撃があり、9歳の女の子を含む3人が死亡しました。一方、ロシアのプーチン政権は国境を接する西部でウクライナ側からの越境攻撃が相次いでいるとして、一段と警戒を強めているものとみられます。
ウクライナの首都キーウでは1日にも、ロシア軍によるミサイル攻撃があり、現地の警察などによりますと、迎撃には成功したものの、ミサイルの破片が住宅街に落下して9歳の女の子とその母親を含む、あわせて3人が死亡、少なくとも14人がケガをしました。
6月1日はウクライナで「子どもの日」とされ、現地の検察当局はロシアが軍事侵攻を始めた去年2月以降の子どもの犠牲について「占領地域や激戦地では情報の収集が困難だ」とした上で、判明しているだけで484人が死亡、992人がケガをしたと発表しました。
一方、ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州の知事は1日、国境近くのシェベキノなどで砲撃を受け、あわせて10人がケガをしたとSNSで明らかにしました。
これについてロシア国防省は「ウクライナによる3度にわたる攻撃を撃退した」として、ロシアへの侵入を阻止したと主張しました。
これに対して、プーチン政権に反対するロシア人などの義勇兵を名乗る「自由ロシア軍」と「ロシア義勇軍」の2つの組織が1日、SNSで攻撃の関与を主張する動画を投稿し「第2段階の始まりだ」とか「ロシア全土を解放する」などと表明しています。
2つの組織は先月22日もベルゴロド州で戦闘を行ったと主張していて、プーチン政権は、ウクライナ側からの越境攻撃が相次いでいるとして、一段と警戒を強めているものとみられます。
キーウ「子どもの日」関連行事すべて中止
ウクライナでは6月1日は「子どもの日」で、この日やその前後には子ども向けに各地でさまざまなイベントが開かれます。
5月30日にも首都キーウでは、ウクライナ東部ルハンシク州から避難してきた子どもたちなどが参加して絵を描いたりダンスを楽しんだりするイベントが開かれました。
しかし、キーウでは1日もミサイル攻撃があり、撃墜されたミサイルの破片が住宅街に落下して9歳の女の子を含む3人が死亡しました。
キーウ市当局はロシア軍による相次ぐ攻撃で子どもにも犠牲が出ているとして、1日に予定されていた「子どもの日」の関連行事をすべて中止すると発表しました。
ミサイルの破片が落下した現場近くに住む女性は「子どもが亡くなるなんてとても悲しいです。私も13歳の子どもをもつ母親なので、そのつらさがとてもわかります」と話していました。
また、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、亡くなった女の子の遺体のそばにうなだれて座る祖父の写真をSNSに投稿し「この写真を見るのはとてもつらい。彼は孫のそばを離れられず、現実を受け止められない。攻撃を続けるロシアが、死と破壊しかもたらさないことをまたも思い知らされた」としてロシアを強く非難しました。 
●ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止できず...6/2
ロシア軍は、ウクライナ国内の占領地域に戦車などの進軍を食い止めるための防御用障害物「竜の歯」を設置している。だが近いうちにウクライナが反転攻勢に打って出ると言われる今、その障害物も実際にはほとんど効果がないかもしれない。ツイッターには、ウクライナ軍の戦車が「竜の歯」をやすやすと突破する様子を捉えた動画が投稿されている。
ウクライナが保有するチャレンジャー2は、イギリス軍が「チャレンジャー1」の後継として1994年から導入した主力戦車。その主な目的は、敵の戦車を破壊することだ。
ウクライナ国防省は5月23日にツイッター上で、ウクライナ国内の非公開の場所でチャレンジャー2が「竜の歯」を押しのけながら前進する様子を捉えた動画を共有した。コメントには、「これがチャレンジャー2戦車だ。『竜の歯』なるものがあるならば、『竜の歯医者』だっているはずだ」と書き添えている。
動画の中でチャレンジャー2は、AC/DCの曲「地獄のハイウェイ」のリズムに乗りながら幾つかの「竜の歯」を取り除き、それを数メートル先まで引きずっていっている。
「竜の歯」とは、鉄筋コンクリート製でピラミッドのような形をした防御用障害物。第二次大戦以降、戦車や機械化歩兵旅団の進軍を阻止するために使われてきた。地面から巨大な歯が突き出しているように見えるため、「竜の歯」と名付けられた。
反転攻勢に備えて「竜の歯」を設置か
ウクライナの戦闘地帯で最近撮影された衛星写真によれば、ロシア軍はウクライナへの侵攻開始以降、占領した複数の地域にこの「竜の歯」を設置してきた。間近に迫っていると噂される、ウクライナ軍による反転攻勢に備えた動きだ。
アメリカの衛星企業「カペラスペース」が撮影し、4月末にロイターによって共有された航空画像には、ロシア軍がロシア西部からウクライナ東部、さらにはクリミアに至るまでの各所に、対戦車壕など防御設備に加えて「竜の歯」を設置した様子が示されている。
だがウクライナ側は、ツイッターにこの「竜の歯」をあざ笑う動画を投稿するなど、防御を強化するロシア軍を前にしても挑戦的な姿勢を崩していない。
イギリスのリシ・スナク首相は1月に、14両のチャレンジャー2をウクライナに供与すると約束。戦車供与に伴い、イギリス国内でウクライナ軍への訓練も行った。3月後半にウクライナに到着したとされているチャレンジャー2は、ウクライナが準備を進めているとされる反転攻勢に使われる見通しだ。
ウクライナ国防省情報総局のキリーロ・ブダノフ局長は、先日NHKとのインタビューの中で、反転攻勢は「まもなく始まる」と述べ、さらにこう続けていた。「最小限の兵器やその他の設備は揃っている。まもなく始まるということだけは言える」
●ロシアは勝てなくとも負けない 6/2
5月9日、対独戦勝記念式典の冒頭。リムジン車上に立つショイグ国防相が十字を切ると、車はゆっくりと赤の広場へ進み出た。
式典のはじめに国防相が十字を切る。そんな光景を見るのは、はじめてだ。
ロシアは「本当の戦争」のさなかにある。しかも、どうやら苦戦を強いられている。米国と北大西洋条約機構(NATO)は膨大な規模の兵器を与えてウクライナを援護する。
西側の結束は固く、制裁も効いている。ロシア財政は原油輸出収入の減少と戦費の増加で苦境を呈している。
2022年10月のモスクワ訪問時、この戦争について語りながら、友人は声を詰まらせた。
プーチン大統領が、多くのロシア国民の望まない戦争を始めてしまったことは明らかだ。しかし同時に、その友人は力を込めてこうも語った。
「クリミアは歴史的にも、現実にもロシアのものです」
また、別の友人は、ウクライナのマリウポリで暮らす妻の弟家族がウクライナ民兵団から受けた仕打ちについて語った後、言葉の意味を確かめるようにこう付け加えた。
「彼らがやっていることはファシストと変わらない。ファシストそのものです」
他方、侵攻以来、西側企業の撤退で解雇されたロシアの現地人の多くが転職先として選んだのは、他でもない、政府系のロシア企業(要するに軍需産業だ)なのだという。中国企業も多いという。
この戦争がどういうふうに終わるか、そこはまだわからない。
だが、反戦論者の多くはいまでは国外へ去り、ロシア社会は戦争支持でいっそう結束していくように見える。経済が行き詰まっているようでもないし、プーチン体制が揺らいでいるとも思えない。
G7広島サミットでは、ウクライナのゼレンスキー大統領が支援を訴え、西側はそれに応えて武器の追加供与と制裁強化で一致したが、見方を変えれば、それはロシアが依然として崩れないことの裏返しでもあるだろう。
ロシアは勝てないかもしれないが、敗けるわけにはいかない。
結果的に西側は、焦土と化したウクライナの東部と南部の一部を残し(そこではパルチザンによる散発的な戦闘がつづくかもしれない)、かつ事実上NATOの保護下におく形で(防空体制の強化や兵士の訓練などで、それは事実上、すでに始まっている)、EU加盟へ向かわせるのではないか。
そして、停戦後のウクライナは、旧ポーランド領のヨーロッパ化された人々や、主として中西部に多く住む生粋の独立派に属する人々が中心の社会になり、ロシア人に対して不寛容になっていくだろう。
ロシア系の住民(言語、ルーツからロシアへの帰属意識の強い人々や、ロシアと経済的なつながりの深い人々)には住みづらい土地になって、やがて彼らは故国であるロシアへ移っていくのではないか。
かくして、「クマ」はタイガの森へ帰っていく。雪原に血を滴らせながら。
●ウクライナ大統領、NATO加盟疑問視に警告 「ロシア増長させる」 6/2
ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟への疑念を口にすることはロシアを増長させ、ウクライナ以外の国々への攻撃につながると欧州各国首脳に警告した。
モルドバの首都キシナウ近郊で開かれた「欧州政治共同体」の会合で演説した。
ゼレンスキー氏は「ここ欧州においてわれわれが疑念を示せば、その亀裂に向かってロシアが占領を企てる」と強調。「必要なのは平和だけだ。ロシアと国境を接し、ロシアに侵略されたくないあらゆる欧州の国家が欧州連合(EU)やNATOの完全な一員となるべき理由はそこなのだ」と訴えた。
●ウクライナ大統領、戦争終結までNATO加盟「不可能」と承知 6/2
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、ロシアがウクライナに対する戦争を仕掛けている間は、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟は「不可能」であることは承知していると述べた。
ゼレンスキー氏は首都キーウ(キエフ)でエストニアのカリス大統領と行った共同記者会見で、NATO加盟がウクライナにとって最善の安全保障になるとしながらも、ウクライナはいかなるNATO加盟国も戦争に巻き込むことはしないとし、「この戦争が続いている間は、NATOに加盟できないと理解している」と語った。
●真の平和には「強いウクライナ」が不可欠 米国務長官 6/2
米国のアントニー・ブリンケン国務長官は2日、訪問先のフィンランドで演説し、ウクライナ侵攻はロシアにとって戦略的失敗となったと指摘するとともに、真の平和に向けて不可欠となるのは強いウクライナだと強調した。
フィンランドはロシアのウクライナ侵攻を受けて歴史的な政策転換を図り、北大西洋条約機構(NATO)に加盟した。
首都ヘルシンキで演説したブリンケン氏は、ウラジーミル・プーチン大統領が起こした戦争は「失敗例」だと指摘。「プーチン大統領の長期的戦略目標と方針を考えれば、疑問の余地はない。侵攻以前と比べ現在のロシアははるかに悪い状況に置かれている」と述べた。
「ロシア大統領府は常々、ロシア軍は世界で2番目に強いと主張し、多くの人がそれを信じていた。今日では、ロシア軍はウクライナ国内では2番目に強いと多くの人が認識している」と話すと、聴衆からは含み笑いが漏れた。
さらにブリンケン氏は、「われわれはプーチンの野望に幻想を抱いてはいない。だからこそ、意義ある外交と真の平和に向けて不可欠となるのは、将来の侵略行為に対する抑止と防衛が可能なより強いウクライナだと信じている」と述べ、「ウクライナの国力強化を支援することは、外交の軽視には当たらない。その道を開くものだ」との考えを示した。
●チャットGPTには分析不能なウクライナ戦争 6/2
ウクライナ戦争を見ていると、チャットGPTで分析するのはちょっと無理だと思う。チャットGPTは書かれた情報を処理するもの。その「情報」にウソが多ければ、どうしようもないからだ。
例えばバフムートの攻防。それほどの戦略要衝でもないこの街が、連日メディアをにぎわした。それなのにテレビを見ると、いつも同じアパートが白煙を上げている。そして、そこには人影がない。西側などの報道を見ると、ウクライナの将軍たちはここで兵力を消耗するのに反対したが、ゼレンスキー大統領は、西側の支援を確保するにはどこかで戦っている格好を維持しないと駄目だとして、バフムートの戦いを堅持させた、とある。
ロシア軍も動きにくい冬季には、プリゴジン率いるワグネル社の傭兵を前面に立てて戦いを続ける。こうしてウクライナは戦っている格好、西側は助けている格好(あんなに多種多様な兵器を供与しても、部品や弾薬の確保、そして訓練を管理できまい)、ロシアは戦う格好を維持して西側が崩れるのを待つ(自分の足元も崩れてきているが)──これはどこか芝居に似ている。
芝居と言えば、劇作家サミュエル・ベケットによる『ゴドーを待ちながら』を思い出す。ゴドーというまだ見たことのない人物が来ると思い込み、彼のことをあれこれ論じながら延々と待ち続ける人たちを描いた不条理演劇。これは、ウクライナが予告した「5月攻勢」でも言える。どこでどう攻勢が始まるかと待っていたが、5月はもう終わってしまう。
次に待つのは「7月攻勢」か? 要するに「やるやる」「戦っている」と言っていないと西側がすぐ和平交渉を迫ってくる。だからといって、西側の兵器をもらって戦いを続けても、戦況を決定的には変えられない。不条理戦争とでも言うべきか。
双方とも一筋縄ではいかない
不条理と言えば、戦争は自由とか愛国などの奇麗事ばかりでは片付かない。裏で犯罪や汚い利権も野放しになる。例えば、ウクライナを通る石油パイプラインでは、ロシアの原油が今でも欧州へと流れる。ウクライナはその通過料金をせしめるだけでなく、ハンガリーへ原油を送らせ、そこで精製したガソリン、ディーゼルを輸入してロシアとの戦争で使っている。
ところが、ゼレンスキー大統領がこのパイプラインの爆破を下僚に諮問したことがリークされ、怒ったハンガリーは5月中旬、EUの対ウクライナ兵器支援支出(第8回)を止めている。
さらにこれは犯罪の領域だが、4月29日付の英エコノミスト誌は、アフガニスタン産のヘロインがウクライナ領を通ってオデーサ(オデッサ)港などから西欧に流出していると報じた。戦争でロシアとウクライナのマフィアの協力が途切れ、ルートに変更が起きている。ウクライナは、欧州に大量のタバコも密輸している。
そして「傭兵隊長」プリゴジン。17世紀に起きた三十年戦争の花形ワレンシュタイン傭兵隊長は、増長した挙げ句、雇い主の神聖ローマ皇帝に暗殺された。プーチン大統領を罵ったプリゴジンも、そろそろ粛清される頃だ。
ウクライナ、ロシアは一筋縄では理解できない。ロシア国民の大多数は戦争を嫌がりながらも、負けたくはない。生活の安定を何よりも重視し、プーチン、そしてそれに続く指導者への支持をやめないだろう。
ウクライナ戦争、ロシアについてはAI(人工知能)に手を加え、「Aは、実はBを意味する」などとねじ曲げておかないと機能しない。不条理AIとでも言おうか。

 

●「悪意ある者」がロシアの不安定化を画策=プーチン大統領 6/3
ロシアのプーチン大統領は2日、特定の「悪意ある者」がロシアの不安定化工作を強めているとし、閣僚に対し「いかなる状況下でも」これを許さないよう呼びかけた。
プーチン氏は、連邦安全保障会議が190の民族間の関係に関する「極めて重要な」問題の文脈の中で安全保障の確保について議論すると述べた。
プーチン氏は西側からの脅威に対しロシアが団結するよう繰り返し呼びかけているが、恣意的に軍の部分動員の対象にされていると感じる民族からは反発の声が上がっていた。
●ロシア西部 攻撃続く プーチン大統領“あらゆる手段で阻止を” 6/3
ウクライナと国境を接するロシア西部で攻撃が相次ぐなか、プーチン大統領は、こうした事態をあらゆる手段を講じて阻止するよう治安機関のトップらに指示し、危機感を募らせていることをうかがわせています。
ウクライナ空軍は2日、首都キーウなどでロシア側から飛来したイラン製の無人機21機と巡航ミサイル15発を迎撃したとして「ウクライナの防空は再び成功した」と強調しました。
一方、ロシア各地の当局によりますと、2日、ウクライナと国境を接する西部のクルスク州でビルなどが複数の無人機の攻撃を受けたほか、ブリャンスク州では2つの村がウクライナ軍の砲撃を受けたとしています。
また西部ベルゴロド州の知事は、1日から2日にかけてウクライナ側から激しい砲撃が繰り返され、2人が死亡したほか複数のけが人が出ていると発表し、プーチン政権に反対するロシア人などの義勇兵を名乗る2つの組織が関与を主張しています。
●米・ブリンケン国務長官 ロシアによる侵攻「戦略的に失敗」 6/3
アメリカのブリンケン国務長官は2日、ウクライナ情勢について演説し、ロシアによる侵攻を「戦略的に失敗だ」と断言し、改めて撤退を強く求めました。
アメリカ・ブリンケン国務長官「あらゆる面から見てプーチン大統領のウクライナ侵攻は戦略的に失敗だ」
ブリンケン長官は、また、停戦交渉をめぐる動きにも言及し、「ブラジルでも中国でも、国連憲章の原則に合致する公正で永続的な平和の実現に向けた努力をするならば、アメリカは歓迎する」と述べました。ただ、ロシアが占領した地域を残す形での停戦は認めない姿勢も強調しています。
一方、安全保障を担当するサリバン大統領補佐官は2日、核による威嚇を続けるロシアや核戦力の増強を進める中国を抑止するために、アメリカも核戦力を増強する必要があるとは考えていないと述べました。軍備管理について「中国・ロシア両国と前提条件なしに協議する用意がある」とも強調しています。
●プーチン氏の“金と愛人の管理”をする男 その名は“コワルチュク” 6/3
“ユーリー・コワルチュク”というロシア人の名を聞いてピンとくる日本人はまずいないだろう。政治家でも軍関係者でも、元KGBでもない。しかし、プーチン氏と最も親しい人物とされている。そして、彼こそがプーチン氏にウクライナ侵攻を進言した男といわれている。
決して表舞台に立たない“プーチン氏の親友”の正体に迫った。
「“お金の管理と愛人の面倒” 〜プーチン大統領のプライベートを仕切ってきた人」
番組のインタビューに応じてくれたジャーナリストは、ロシア国内でもあまり知られていないユーリー・コワルチュク氏を取材してきた数少ない人物だ。彼曰く“コワルチュクは殆ど表舞台に出ない”が、“プーチン氏にとって特別な存在”だと話す。
ジャーナリスト ジェグリョフ・イリヤ氏「プーチン氏は信頼関係に悩んでいて、コワルチュク氏と一緒にいる時だけリラックスできる。(コロナ禍でプーチン氏が人と会うことを極力控えていた時)コワルチュク氏は2年近く大統領公邸でプーチン氏と一緒に過ごした。つまり大統領にとって家族のような存在だった。(中略)あるパーティーでコワルチュク氏がふざけてプーチン氏の皿にあった食べ物をつまみ食いする場面があった。彼はプーチン氏の皿にあるハンバーグを取って食べることができる存在なんだ。これは最高に親しい関係を表すエピソードだ。想像してくれ、王様が自分の食べ物を取り上げられるんだよ。ハハハ…」
親しいだけでなくプーチン氏に強い影響力を持つコワルチュク氏は、極端な反欧米派だった。そのコワルチュク氏がプーチン氏にウクライナ侵攻を促したという。コワルチュク氏はこんな言葉でプーチン氏をその気にさせたと、イリヤ氏は言う。
ジャーナリスト ジェグリョフ・イリヤ氏「欧州は今弱っていて、戦争することで新たな領土を獲得できて、欧州をさらに不安定化でき、ロシアを強くできる、って進言したんだ。(中略)コワルチュク氏はプーチン氏にとって一緒に楽しく時を過ごせ、ジョークを言い合い、笑って相談もできる人物。“親友”だ。彼以外のプーチン氏の親友を私は知らない。プーチン氏は大統領になって以来、過去に仲が良かった人に対し信頼を失った。親友であり続けた人、それがユーリー・コワルチュク氏なんだ」
プロフィールを見ておこう。
ユーリー・コワルチュク氏(71歳)
“プーチン氏の個人銀行”ともいわれるロシア銀行のオーナーの一人で“銀行王”と呼ばれる。
“メディア王”でもあり『チャンネル1』など23社のメディアを有する。ロシア最大規模のメディアグループのオーナーであり、そのグループの会長職にはプーチン氏の愛人とされるカバエワ氏の名もあった。個人資産は日本円で約3700億円とされる。
駒木明義氏によれば“お金の管理と愛人の面倒”をさせている、よほどの信頼関係という。
朝日新聞 駒木明義 論説委員「プーチン大統領のプライベートを仕切ってきた人。カバエワさんとは別にもう一人愛人がいると言われていて、クリヴォノギクさんというんですけれど、2003年にプーチンの娘を産んだのではないかとされる。その女性はプーチンの個人銀行といわれるロシア銀行の大株主です。つまりロシア銀行とメディアグループとで2人の愛人の面倒を見て来たんじゃないかと…。さらにプーチン氏の娘の結婚式もコワルチュク氏が仕切ったと言われます」
コワルチュク氏は90年代、プーチン氏がまだ無名の存在だった時からの仲だというが、拓殖大学の名越教授によれば、90年代にオリガルヒになったセーチン、ローテンベルク、ティムチェンコらとコワルチュク氏も同等だったが、コロナ禍がプーチン氏とコワルチュク氏を密接にさせたと話す。
拓殖大学 名越健郎 特任教授「コロナの時、コワルチュクとだけ頻繁に会っていた。コワルチュクはもともと物理学者なんですが、両親が歴史学者なんです。で昔から大ロシア主義が強い人なんです。90年代に物理学の世界からビジネスに入ってきた。それでプーチンの汚れ仕事をやって、裏を全部知っている人なんだと思う」
「(プーチン氏に)陰謀論的な世界観が刷り込まれていった」
コロナ禍の蜜月…。2020年春から夏までプーチン氏はコワルチュク氏を伴ってヴァルダイの別荘で隔離生活を送ったとニューヨークタイムズも報じている。
この時期に、陰謀論者でもあるといわれるコワルチュク氏はプーチン氏に色々なことを吹き込んだのだろうか?少なくともコロナの時期を経てプーチン氏が見た目も言うことも変わったと多くが語る。フランス・マクロン大統領は“別人のようだった”と言った。
朝日新聞 駒木明義 論説委員「プーチン氏が変わった事は間違いない。2000年、大統領になる前は、『我々は西欧社会の一員になった』とまで言っていた。それが今は…。西側は衰退しつつあるとか、ロシアには100年の歴史を継承する特別な使命があるとか、神がかったことをしばしば口にするようになった。欧米の、あるいはアングロサクソンの退廃した文明から我々を守るのが我々の使命だとか…。陰謀論的な世界観が刷り込まれていったような気がする。これはコワルチュクの影響がかなりあると思える…」
国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏「物理学や数学の博士号を持っているような人物が陰謀論にのめり込んだ。これはプーチンに対しては説得力があり、プーチンを陰謀論に引きずり込んだんだと思う。ただ結果としてコワルチュクが勧めた今回の戦争がうまく行っていない。これがどう影響するのか…?」
プーチン氏がシベリアの祈禱を呼んで戦勝祈願?
コワルチュク氏の進言がプーチン氏の背中を押したとされる、ウクライナ侵攻。これがうまく行っていないことでどんな影響が出るのか。かつてプーチン氏のスピーチライターを務めた人物に話を聞いた。
政治評論家 アッバス・ガリャモフ氏「コワルチュク氏は役職は何もないが政治に影響を与える“プーチンの非公式な政治局”の唯一のメンバーだ。“影響を与える”と言うのは控えめな表現で、実際はかなり統括している。FSBのトップや内務大臣のように直接シロビキを指揮したわけではないが、実務を担う将校クラスに忠実な人がいたし、それらにポストを与える権限があった。将校たちはコワルチュク氏に呼ばれればすぐに駆け付け報告していた。それが普通だった。(中略)電撃戦が失敗に終わり、敗戦の可能性も見えてきてコワルチュク氏は困惑している。戦争と自分との間に距離を置こうとしている。将来的に財産を没収され刑務所行きになることをわかっている」
周囲のコワルチュク氏を見る目も変わってきたという。これまですぐに駆け付けていた将校たちも、戦況の悪化とともに駆けつけることはなくなった。将校たちはパトルシェフ氏や“石油王”セーチン氏の方を見るようになったという。しかし、名越教授の見方は違うようだ。
拓殖大学 名越健郎 特任教授「クレムリン奥の院の暗闘はわからない。が、別の情報もあって…。コワルチュクさんの力がさらに増して、最近は神秘主義。シベリアの祈禱師を呼んできて戦争の勝利を拝んでる。僕が気になるのはプーチンさんが最近演説で新約聖書に触れる。神がかってきた。去年秋には戦死者の母親たちに対し『人は誰でも死ぬ。ロシアでは3万人交通事故で死ぬ。あなたの息子はいい死に方をした』と言った…。死生観に触れるようになった。その辺が気になる。核のボタンを握る最高司令官として神秘主義やキリスト教原理主義を信奉していいのか?それを焚きつけてるのがコワルチュクだという情報もある…」
神がかった人間に、普通の理屈は通用しない。確かにこれは、かなり怖い。
●西側メディアの取材拒否 プーチン氏故郷でのフォーラム 6/3
ロシアの独立系メディアは2日、プーチン大統領の出身地サンクトペテルブルクで毎年開かれている国際経済フォーラムから「非友好国」のメディアが排除されると伝えた。プーチン政権は西側メディアの取材を拒否する立場を明確にしており、フォーラムからの排除もその一環とみられる。
フォーラムは今月14〜17日に開かれ、プーチン氏が演説する予定。独立系メディアによると、取材を申し込んだ西側の主要メディア2社に1日、いったん許可が出たが、翌2日に「取り消す」というメールが届いた。非友好国は、ウクライナに侵攻するロシアに制裁を科している日米欧などを指す。
●ウクライナ侵攻で「ロシアの同盟国ではない」アルメニア首相 6/3
ロシア主導の軍事同盟に加盟する、旧ソ連・アルメニアのパシニャン首相は「ウクライナとの戦争ではわれわれは同盟国ではない」とロシアと距離を置く姿勢を明らかにしました。
アルメニアのパシニャン首相は2日までにチェコのテレビのインタビューで「ウクライナとの戦争においてわれわれはロシアの同盟国ではない」と発言。ウクライナ侵攻をめぐり、ロシアと距離を置く姿勢を明らかにしました。
そのうえで「この戦争はわれわれのすべての関係に直接影響を与えるため不安を感じている」と語りました。
アルメニアはロシアが主導する軍事同盟「CSTO=集団安全保障条約機構」の加盟国ですが、隣国アゼルバイジャンとの係争地をめぐる紛争でロシアがCSTOによる派兵を行わなかったことに不満を示してきました。
ロシアのペスコフ大統領報道官は2日、「アルメニアの立場を考慮する」と述べるにとどめています。
こうした中、同じくCSTOに加盟するキルギスのジャパロフ大統領は2日、ウクライナ侵攻について「どんな紛争であれ交渉の場で解決すべきだと確信する」と述べました。
これでCSTO加盟国6か国のうち、カザフスタン、アルメニア、キルギスの3か国がウクライナ侵攻をめぐりロシアから距離を置く姿勢を示したことになり、ロシアの求心力低下を一層うかがわせる形となっています。
●ワグネルに代わるロシアの新たな主力――チェチェン人‘TikTok兵’とは 6/3
・これまでロシアの主力だったワグネルがバフムトから撤退したことをきっかけに、チェチェン人部隊の存在感が急浮上している。
・チェチェン人部隊はこれまでもウクライナに展開していたが、戦闘よりむしろ映像発信に力を入れていたとみられる。
・そのチェチェン人部隊が主力となることは、ウクライナ軍への攻撃よりむしろ民間人への残虐行為がこれまで以上に増える懸念を招く。
人権侵害や戦争犯罪などの悪評でチェチェン人部隊はワグネルに勝るとも劣らないが、その一方で戦闘任務を担う能力には疑問の余地もある。
ワグネルに代わるロシアの主力
米シンクタンク、戦争研究所は6月1日、最新報告書を発表し、チェチェン人部隊がウクライナでの戦闘任務の中心になる可能性を示唆した。ウクライナ戦争でこれまでロシア軍の主力だった民間軍事企業ワグネルは5月末、東部ドネツク州の要衝バフムトから撤退した。そこにはロシアからの補給不足、ウクライナ側の攻勢などいくつかの理由があるが、ワグネル兵の士気や練度の低下も見逃せない。侵攻後、ワグネルは受刑者や移民など戦闘経験のほとんどない者をかき集めて肥大化したが、これがかえってアダになったともいえる。ともあれ、戦争研究所の最新報告はバフムト撤退がロシアの派閥抗争を加速させたと指摘する。それによると、もともとワグネルのエフゲニー・プリゴジン司令官はプーチン大統領との個人的な関係を背景に、資金、装備、権限などあらゆる面で優遇され、これが国防省や他の部署の不満を招いていた。その急先鋒が、チェチェン勢力だった。この背景のもと、ワグネルが「弾薬や装備の不足」を訴えてバフムトから撤退したことは、反ブリゴジン派の中心にいたチェチェン人の存在感を急浮上させたというのだ。その結果、プーチン政権はワグネルに代わってチェチェン人部隊に戦闘任務を命じたとみられている。
プーチン支持のチェチェン人民兵
戦争研究所の報告で言及されるチェチェン人とはそもそも何者か。その多くはムスリムで、ロシア南部のチェチェン共和国を原住地とする。この地は冷戦終結後の1990年代、ロシア連邦からの分離独立を求めて全面的な内戦に陥った歴史がある。独立を求めた戦いに、アフガニスタンなどから流入したイスラーム過激派が参入したことで内戦は熾烈を極め、最終的に8万人以上の死者を出すに至った。このなかで台頭したのが現在のプーチン大統領だった。プーチンは殺傷力の高い燃料気化爆弾まで投入してチェチェン分離派を鎮圧し、ロシア国内で「強いリーダー」として認知を得たのである。その一方でプーチンはチェチェン人協力者を支援した。その頭目アフマド・カディロフが率いる勢力は、プーチン体制に忠誠を誓い、分離派やイスラーム過激派だけでなく、これらと繋がりがあるとみられた民間人も容赦なく超法規的に殺害するといった苛烈な手法をとり、その見返りにチェチェンの実権を掌握したのだ。そのもとに置かれたチェチェン人部隊は公式にはロシア国家親衛隊(政府の直属機関でロシア軍とは別系統)の一部に組み込まれたが、実態としてはカディロフの私兵に近く、別名カディロフツィ(カディロフの部下)とも呼ばれる。
「プーチンの歩兵」
アフマド・カディロフは2004年に暗殺されたが、息子ラマザンがチェチェン共和国首長として実権を引き継いだ。その後もカディロフツィは分離派だけでなくISISなど国際テロ組織の掃討作戦を行う傍ら、シリア内戦など国外でもロシア軍と行動をともにして、プーチン体制を支えてきた。カディロフ自身は「プーチンの歩兵」を自認している。その一方で、カディロフツィには反対派を取り締まる政治警察としての顔もあり、カディロフ一族の支配に抗議する民主派などに対する誘拐、暗殺、暴行、レイプなども横行している。ドイツの人権団体の調査によると、チェチェンの人権侵害の75%はカディロフツィによるものといわれる。こうした経緯から、プーチンやカディロフと敵対するチェチェン人のなかにはウクライナ軍に参加してロシア軍と戦う者もある。
ウクライナ戦争にも当初から参加
ウクライナ戦争ではこれまでワグネルが目立ってきたが、カディロフツィも当初から活動が確認されていた。ロシア軍による侵攻開始の翌日、1万2000人のカディロフツィがチェチェンを出立し、その一部は直後にキエフ北西のホストメリでウクライナ軍と衝突した。この戦闘でロシア側は56台の戦車を破壊されるなど大きな損失を出した。これについてカディロフはSNSで「戦術にスピード感がない」と作戦への不満を述べ、「あらゆる手段を用いた、もっと徹底的な作戦の実施」をプーチンに求めた。その後もチェチェン人部隊は激戦地マリウポリ、民間人殺戮で注目されたブチャなどでも確認された。
なぜ目立ちにくかったか
それでもワグネルに比べて目立ちにくかった最大の要因は、戦闘にかかわることが少なかったことにある。ジョージア国際戦略研究財団の研究員アレクサンドル・クヴァハーゼ博士は昨年、映像やメタデータの分析結果として「ほとんどのチェチェン人部隊は最前線から少なくとも20km後方にいるとみられる」と明らかにした。なぜこれまでは最前線から離れた位置にいることが多かったのか。理由の一つとしてあげられるのが、督戦を任務にしていたという指摘だ。督戦とは前線に立つ将兵の後方に立ち、降伏や敵前逃亡などをさせないように見張る役目で、スターリン時代のソ連軍をはじめ、自軍兵士を信用しない軍隊にはこうしたポストが珍しくない。一部のウクライナメディアによると、キーウ近郊での戦闘でロシア軍将兵の後方にチェチェン人部隊があったという。こうした報告が正しければ、これまで最前線に立っていたワグネルは、背後からチェチェン人に見張られていたことになる。
‘TikTok兵’の仕事とは
しかし、別の見方もある。最前線から離れた位置にいることが多かったのは、宣伝を主な仕事にしていたからというのだ。先述のクヴァハーゼ博士も、最前線から20kmも後方でできることは「動画を撮ることだけ」と指摘している。ウクライナ戦争ではウクライナ、ロシア双方の兵士が動画を発信し、‘TikTok war'という言葉も生まれた。なかには砲声の響く雪中でピカチュウダンスを踊る、若いウクライナ兵の日常を切り取った動画もある。カディロフツィもこれまでSNSに兵士が躍動する動画を数多くあげてきたが、そこに「戦争をしているふりだけのフェイク」が目立つという指摘は多い。例えば侵攻開始直後の昨年3月14日、カディロフはホストメリの戦場にいる自分の動画をTelegramに投稿したが、後日ウクライナメディアがロシア国営メディアと偽ってカディロフのIPアドレスを入手し、当日の位置情報を確認した結果として、カディロフはホストメリではなくチェチェンの中心都市グロズヌイにいたと発表した。こうしたこともあって、カディロフツィはウクライナメディアでしばしば‘TikTok兵’ と揶揄される。
残虐行為の加速か
ロシアの退役軍人で、その後ワグネル兵としてシリアなどで活動した経験を書籍にまとめて世界的に関心を集めたマラー・ガビドゥリン氏も、アルジャズィーラの取材に対して、カディロフツィの動画のほとんどが実戦ではないと断定している。さらにガビドゥリン氏は「チェチェン人には優秀な兵士も多い」と断ったうえで「しかしカディロフの周辺にいるのはゴマスリが上手な連中ばかり」とも指摘している。だとすると、カディロフツィが戦闘任務を担っても、戦術的には大きな意味がないかもしれない。しかし、それでもロシア側にとっては宣伝や心理戦という観点からの意味がある。カナダ人ジャーナリスト、ジャスティン・リン氏は、カディロフツィがSNSで宣伝を強化するほど、「チェチェンと同じように、ウクライナでもカディロフツィが都市の破壊、レイプ、略奪、殺戮をエスカレートさせる」というイメージをロシア国内だけでなくウクライナでも拡散させると指摘する。それはロシアのプーチン支持者には満足感を、ウクライナの市民には恐怖を、それぞれ拡散させるものだ。そのイメージに説得力を持たせるため、ウクライナ軍に対する攻撃より民間人を標的にした残虐行為がこれまで以上に増える懸念もある。その意味で、カディロフツィがイメージ優先の‘TikTok兵’だったとしても、戦火が収まることは期待できないのである。
●10カ月続いた激戦地ウクライナ・バフムト、占領すなわち勝利ではない 6/3
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が西側の主要7カ国首脳会議(G7サミット)に参加した2023年5月22日、ウクライナ戦争最大の激戦地であるバフムトがロシアによって最終的に陥落したという知らせが飛び込んできた。ゼレンスキー大統領はこの日、ウクライナが今もバフムトを統制しているのかを問う記者団の質問に「違うと考えている」としたうえで、「いまやバフムトは私たちの胸中にしかない。悲劇だ。そこには何もない」と述べた。だが、バフムトが10カ月間の激烈な戦いの最後にロシアによる占領という新しい局面に入ったという状況は変わらなかった。
象徴的な重要性に執着した消耗戦
米国防総省も5月24日、ロシアがこの都市を統制しているのかについて言及することを拒否した。西側メディアにウクライナ戦争の戦況を提供する米国の「戦争研究所」(ISW)も同日、ウクライナ軍参謀本部が2022年12月以来初めて出した状況報告書で、バフムトの戦闘報告をしなかったことを伝えた。研究所は、これはバフムトの戦いを主導したロシアの傭兵部隊ワグネル・グループが、都市内をさらに前進していることを示唆するものだと評した。
2022年8月初めから本格化したバフムトの戦いは、その後、ウクライナ戦争における戦闘の大部分を占める激戦地として浮上した。ロシアは最終的には占領したが、双方の損益は現在も進行形だ。双方が、バフムト自体の戦略的価値より、兵力と資源を投じる被害を甘受してまで消耗戦を行い、象徴的な重要性に執着したためだ。
まずロシアは、都市の占領そのものによって象徴的な勝利をおさめた。2022年夏に北部のハルキウと南部のヘルソンを奪還されて以来、初めてのことだ。G7サミットに合わせてバフムトを占領し、ウクライナ支援をこの会議の焦点としようとしていた西側の雰囲気に冷や水を浴びせた。
何より、ロシアがバフムトの戦いに執着した理由は、ウクライナの戦力と資源を消耗させようとする戦略であったとする評価が多い。ワグネル・グループのトップであるエフゲニー・プリゴジン氏は、バフムトでのロシアの真の目的は、バフムトではなくウクライナの戦力を消耗させる「肉挽き器」の状況を作りだすことだと述べた。2022年末から西側の軍事当局は、ウクライナは戦略的価値がないバフムトの死守に執着せずに放棄すべきという不満を表出していたという報道が出ていた。ウクライナがロシアの消耗戦戦略に巻き込まれたという懸念だ。
ウクライナの立場からすると、バフムトは自国の抗戦能力を誇示し、西側の支援を促す戦場だった。2022年12月、ゼレンスキー大統領は米国を電撃訪問する直前、バフムトを訪れた。米国議会を訪れた際には、バフムトで戦う兵士たちのサインが書かれた国旗を誇示した。ウクライナはバフムトでの抗戦によって、西側から中距離精密兵器や装甲車、戦車を引きだし、ついに今回のG7サミットではF-16戦闘機の支援まで引きだした。
誰がより大きな犠牲と代価を払ったのか
何よりウクライナも同様に、バフムトの戦いの目的は、ロシアの戦力を縛りつけ消耗させ、2023年に予告した自国の反撃を準備することだと主張してきた。特殊作戦軍司令官のイェウヘン・メゼビキン大佐は「彼らを消耗させ攻撃する」と5月21日にAP通信に述べた。英国セント・アンドルーズ大学戦略研究所のフィリップス・オブライエン教授は「ロシア軍はバフムト周辺で甚大な犠牲を被り消耗し、これ以上は前進できない」と評した。
このような主張と評価から、バフムトの戦いにおける双方の損益は、誰がより大きな犠牲と代価を払ったのかにかかっている。
プリゴジン氏は、5月24日に公開された政治専門家コンスタンチン・ドルゴフとのインタビューで、契約制の傭兵1万人と刑務所から抽出した受刑者1万人を含む2万人が死亡し、約3万人が負傷したことを明らかにした。プリゴジン氏は、ワグネル・グループでは5万人程度が最大の動員だったとしたうえで、ウクライナ軍8万2000人を相手にしたと述べた。同氏はさらに、ウクライナ兵士は約5万人が死亡し、5万〜7万人が負傷したと主張した。彼の主張通り、ワグネル・グループが5万人以上の兵力を動員するのは難しいとみられる。この戦争で動員された双方の兵力が20万〜30万人であることを考慮すると、バフムトの戦いに投入可能な双方の戦力は最大10万人前後であり、数万人の死亡者は誇張されている。双方が2万人の犠牲者を出したことも、きわめて高い死亡者比率と評価される。
戦傷者数よりも、その過程で誰がより戦力を消耗し、コストを払ったのかという点が重要だ。この戦いでは、ロシア正規軍はほとんど被害を受けなかった。ワグネル・グループの損失が大きかったとすれば、ロシア側も被害を受けたとはいえる。だが、傭兵の特性上、特定のエリアでの戦いにだけ投入され、広範囲な正規戦の戦線を引き受けはしない。これは、今後広がるウクライナの反撃攻勢に臨むロシア正規軍の戦力が比較的保全されていることを意味する。その反面、ウクライナは正規軍を動員して激戦を行い、予告した反撃攻勢に用いる戦力を消耗したことは明らかだ。
ウクライナ側は、すでにバフムトの陥落直前に、周辺の郊外で有利な高地を確保する成果をあげ、バフムトを包囲し反撃の機会をつかんでいる立場だ。ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は「敵はバフムトを包囲することに失敗した。都市周辺の高地を喪失した。わが軍は前進を続け、都市の半分を包囲した」と評価した。戦力が補充されれば攻勢に打って出ることができるという主張だ。プリゴジン氏も5月24日、SNSのテレグラムを通じて「ウクライナはバフムトを包囲し、クリミアを攻撃するだろう」としたうえで、「危険な戦争に備える必要がある」と述べた。
ウクライナが抗戦の成果を得る可能性も
第2次世界大戦以降で欧州で最も激烈な戦闘となったバフムトの戦いの勝敗は、今後の戦況によって決まるだろう。ウォール・ストリート・ジャーナルなどの西側メディアによると、軍事専門家らはバフムトの戦いの真の勝者は、都市の占領の有無よりも次の局面によって決まるとみているという。現時点では予告状態にあるウクライナの反撃が無為に終わるか反撃されるのであれば、バフムトでロシアが所期の目的を達成することになる。一方、ウクライナがロシアの占領地に食い込み、占領状態を変えるのであれば、ウクライナはバフムトでの抗戦で効果を得ることになる。
●プーチン氏、反転攻勢に危機感か「悪者がかき乱そうとしている」 6/3
ロシア西部で攻撃があり2人が死亡しました。プーチン大統領はウクライナからの反転攻勢に危機感を募らせました。
ロシアのプーチン大統領は2日、安全保障会議で「悪者たちがロシア国内の状況をかき乱そうとしている」と述べ、ウクライナ側からの攻撃をあらゆる手段で阻止するよう連邦保安庁の長官らに指示しました。
モスクワや西部ベルゴロド州への攻撃が多発していることを受けて、プーチン大統領が危機感を募らせているとみられています。
イギリスでは、ウクライナ軍に志願して入隊したばかりの兵士らが銃の扱い方や塹壕に入る方法など、戦場で必要な動きを学んでいます。
イギリスは今年、およそ2万人のウクライナ兵を訓練する予定です。
●「最も信頼できる政治家」5位にワグネル創設者、1位はプーチン氏…世論調査 6/3
ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が5月末に発表した最も信頼できる政治家を尋ねた世論調査で、露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏が5位に急浮上した。SNSで露軍指導部を痛烈に批判しているプリゴジン氏が一定の支持を得ていることをうかがわせる結果となった。
前回調査から3ポイント増の4%となり、メドベージェフ前大統領と並んだ。上位4人は、42%のプーチン大統領、18%のミハイル・ミシュスチン首相、セルゲイ・ラブロフ外相、セルゲイ・ショイグ国防相の順。
●「ウクライナを支援する必要ない」と主張する「共に民主党」重鎮 6/3
韓国の進歩(革新)系最大野党「共に民主党」のイ・ヘチャン常任顧問が5月26日、民主党員向けの講演で「ウクライナは、韓国が面倒見ることは何もない国」だとし「なぜ韓国がウクライナ戦争に巻き込まれないといけないのか」と語った。彼はこの日、韓国がウクライナに砲弾を支援するという外信の報道を根拠に現政権を批判し「その砲弾がウクライナに入った瞬間、ロシアが報復するのではないか。怖いもの知らずに、こんなまねをしている」と述べた。
イ・ヘチャン顧問は民主党政権で、大統領職を除いてあらゆることをやってみた人物だ。そんな彼が、ロシアの報復は恐ろしく、ウクライナ参戦で得るものはない−というような発言をするのを聞いて耳を疑った。イ・ヘチャン顧問は「ウクライナは主に農業をよくやっていて、むしろ韓国の物を買っていくべき国」と語った。ロシアが力の論理を掲げて弱小国へ侵攻し、国際秩序を揺るがしていることについては「見ないふり」をする主張というふうに読める。
1950年に6・25戦争が起きると、22カ国の国連加盟国が北朝鮮の南侵を座視しなかった。これらの国々は、イ・ヘチャン氏の表現通りなら、「怖いもの知らずに」参戦した。石油の一滴も出ず、希土類もなく、国民1人当たりのGDP(国内総生産)は1953年の時点で67ドル(現在のレートで約9400円)という水準の韓国を守るために、代わりに血を流した。延べ約200万人が参戦し、およそ14万人の死傷者を出した。
今年は6・25停戦70年に当たる年だ。7月の「停戦協定70周年記念式典」は、22カ国の国連参戦国が参加する中で挙行される。記念式典を訪れるであろう6・25参戦勇士や参戦国首脳がイ・ヘチャン顧問の発言に接するかと思うと顔から火が出そうだ。彼らに「恐れも知らず韓国の赤化統一を防いでくれてありがとう」と言うべきか。彼らが「面倒見ることはない」国へ軍隊を送らなかったら、韓国は今、世界地図から消えていただろう。
ロシアのウクライナ侵攻は、国際秩序が「力が全て」という野蛮な秩序に戻っていくことを容認するのかという問いを世界に投げかけている。大国に囲まれる韓国の立場からすると、これは韓国の安全保障とも直結する問題だ。外相を務めた経験のある尹永寛(ユン・ヨングァン)ソウル大学名誉教授は最近、「(ウクライナ侵攻に関する)プーチンの論理に首肯したら、韓国を取り巻く諸大国が将来、韓国に武力侵攻することを合理化してやることになる」と語った。

 

●さらなる中露の経済連携に警戒を 6/4
「これからは微博(ウェイボ)で連絡を取らないか」
モスクワに住むロシア人の知人からの連絡に一瞬息をのんだ。微博は中国の代表的な短文投稿サイトでメッセージの送受信もできる。ロシアではフェイスブックやツイッターなど米系のサービスが当局によりブロックされている。知人はアジアのサービスなら使いやすいと思ったのかもしれないが、微博を利用していない記者は断った。
ただ痛感したのは経済分野でのロシアの対中依存の深まりだ。ウクライナ侵略で先進国の経済制裁を受けるなか、ロシアの企業経営者らは対中ビジネスを拡大させようと「中国詣で≠ノ繰り出している」(日露貿易関係者)という。知人もビジネスを行っており、自然と中国のサービスを使い始めたのだろうか。
2023年に入りロシア経済に異変が起きている。財政収支の大幅な赤字だ。ロシア産原油の輸出価格に上限を設定した制裁の影響などにより、年初以降、石油・ガス収入(石油・ガス企業への課税収入)が大幅に減少している。欧米諸国がロシア産原油の禁輸を打ち出す一方、中国、インドが原油を大量購入したことが収入をもたらしていたが、価格上限を理由にロシアは中印に大幅な割引を余儀なくされているもようだ。
先進国による制裁に対し、ロシアは輸出企業に外貨の売却を強制するなどの奇策≠繰り出して通貨の暴落を防いでいた。対露制裁が効果を発揮し始めたのならば、好ましいことだ。
ただ、このような状況はロシアに対する中国の影響力を一層高めかねない。財政赤字の悪化を押しとどめるため、ロシア政府は保有する人民元を大量に売却している事実も報じられている。市民も人民元をため込み、ルーブルに換金して収益を得ている。ロシアは複合的に中国の経済圏に取り込まれつつある。
膨大な資源を安価に供給せざるを得ないロシアは中国にとり都合の良い存在だ。終わりの見えないウクライナ侵略で自国経済を悪化させるプーチン政権の維持を中国が望んだとしても不思議ではない。
しかし、その先にあるのは中露のさらなる連携強化だ。両国の隣国である日本は、その動向を入念に注視する必要がある。
●「戦争あるところにワグネルあり」民間軍事会社が台頭する3つの理由 6/4
ウクライナ戦争でロシアの民間軍事会社ワグネルが注目されてきた。民間軍事会社とは、ワグネルとは、いったいどんな存在なのか。戦争と傭兵の歴史を振り返りつつ、民間軍事会社の知られざる実態とその脅威について、世界96カ国で学んだ元外交官が解説する。
戦争あるところに民間軍事会社ワグネルあり
ある国で起きた政権側と反政権側の武力紛争。その紛争を勝利に導いたのは、カネで雇われた傭兵によって構成される民間軍事会社だった――。
こんなうそのような話が、世界で本当に起きている。民間企業が兵士を雇い、軍事力を持って他国の武力紛争に介入しているのだ。
ロシアの民間軍事会社ワグネルは、シリア、中央アフリカ、マリ、ソマリアなど多数の国々の内戦に関与してきた。そして、ロシアのウクライナ侵攻においても重要な役割を担っている。
「戦争あるところにワグネルあり」――。世界の戦争や武力紛争を、「裏で動かす存在」になっている。
ワグネルが注目されるようになったのは、2014年のロシアによるクリミア半島併合時だ。ロシア軍から支援を受けて、その意向で動いているとみられるが、詳細は分かっていないことも多い。
今回は、世界の傭兵の歴史と民間軍事会社の最新事情について考える。実は、日本でも傭兵の歴史があり、傭兵の存在が有名な「戦」を左右していた例もある。また、民間軍事会社ワグネルの、日本人にはあまり知られていない「ビジネス集団」としての側面も深掘りしよう。
戦争の歴史と等しい傭兵の歴史
傭兵は、職業軍人や兵役・徴兵による兵士による正規軍隊とは異なる存在だ。自国のためではなく、「カネで雇われた」兵士である。単にカネのために雇われた場合は、自国民であっても傭兵だ。
今、この傭兵がロシアのウクライナ侵攻との関係で、注目を浴びている。
といっても、傭兵の歴史は戦争の歴史と同じくらい古い。古代ローマの時代のポエニ戦争でも傭兵が活躍したといわれる。
日本では、大坂冬の陣で豊臣側が浪人を多数集めた。これらの浪人はカネ目的で集まった兵士がとても多く、その意味では傭兵といえる。
傭兵は基本的に、用が済むと解雇される。そのため雇い主側が、傭兵たちの反発に遭って苦慮することは多い。
例えば、大坂冬の陣で徳川側と和平が成立したにもかかわらず、豊臣側は再び大阪夏の陣に突き進んでしまう。これは、傭兵として集まった浪人たちが解雇を受け入れなかったからといわれている。
だからもし、豊臣側が正規の家臣のみで構成されていれば夏の陣はなく、豊臣氏は滅んでいなかったかもしれない。傭兵の存在は、時として歴史を大きく変えるのだ。
傭兵の存在は、フランス革命以降、近代国民国家が成立して国家が自国民を職業軍人として正規軍を編成する時代に入ると、いったん縮小する。そうして国家が主導する正規軍による熾烈(しれつ)な戦いは、2回の世界大戦で頂点に達した。
しかし、その正規軍の戦いが、21世紀に入り大きな曲がり角を迎えた。代わりに民間軍事会社の役割が増大している。
政権批判の隠れみのとしての民間軍事会社
民間軍事会社の役割が増大している要因は、主に次の三つであると考えられる。
第一に、戦争参加による兵士の精神的ダメージが大きくなり、職業軍人にしても徴兵にしてもかつての正規軍では対応ができなくなったからだ。
戦争による精神的ダメージは、いつの時代にも存在した。しかし、報道の自由が広がり、インターネットによる情報の取得が容易になった現代では、(自国のためとはいえ)“人殺し”に対する批判的な意見は容易に耳目に入ってくる。
民主主義が進展し、独裁者が強制的に徴兵することも以前よりは難しくなった。ロシアでは、いまだに独裁者による徴兵が存在するものの、さまざまな情報に接する中で他国に逃亡する男性も多くなっている。
正規軍の兵士たちのPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、大きな社会問題だ。時の政権批判につながることもある。
一方、傭兵であれば、戦争が終われば解雇すればよい。傭兵がPTSDで苦しんでも、カネのために自ら雇用された兵士であるため、世論として時の政権批判につながることは少ない。
そもそも戦争の敗北自体も、「民間軍事会社の敗北にすぎない」といって責任を回避することすらあるだろう。民間軍事会社はまさに、政権批判の隠れみのなのだ。
貧困層の“就職先”とビジネス集団の側面
第二に、傭兵に応じざるを得ない貧困層の存在がある。貧困層も、いつの時代にも存在した。しかし、情報の入手や移動が容易になった現代では、戦争を「生活の糧」とする人も増えているのだ。
ワグネルでは、多数の服役囚が、服役を免除される代わりに従軍しているといわれる。服役囚は、出所後も貧困にあえぐことが多い。「早く出所できて、カネももらえるのであれば一石二鳥」と言わんばかりに、ワグネルへの入隊が増えても不思議ではない。
また、シリアやイラクで勢力をもった「イスラミック・ステート」も、多数の傭兵を抱えていた。傭兵は、貧困にあえぐ人たちが多かった。なお、イスラミック・ステートは明らかなテロ集団である。テロ集団とは、貧困で苦しむ人々の“就職先”でもあるのだ。
第三に、国家の正規軍では対応できない鉱山採掘やインフラ事業などにも対応できる点がある。
ワグネルは、中央アフリカで鉱山事業をはじめ多くのビジネスに関与し、収益を上げている。経済的に他国を支配する手段としても、民間軍事会社は柔軟な対応ができるため、効果的なのだ。
そのためアフリカの一部の国では、武力と現地ビジネスを仕切る巨大組織となったワグネルの影響力が大きく、その力は今後ますます拡大する可能性が高い。
ロシアのウクライナ侵攻に関する国連決議でも、棄権や反対を投じたアフリカ諸国は多い。背景にはワグネルの影響力があるのだ。
アフリカの一部の国では、ワグネルから「こんなに支援してきたのにロシアに批判的な投票をしたら許さないぞ。すぐにクーデターを起こして、政権を崩壊させる」などと脅されている可能性すらある。こうなると、たとえ国のトップが強権的な独裁者といえども、ワグネルには勝てないだろう。
国際社会の“抜け穴”として戦争をより悲惨にする
さて、民間軍事会社が台頭する三つの要因を分析したが、そうした現状に対して国際社会は非常に問題視している。
まず、国家に属さないため国際法などの制約を受けずに勝手な軍事行動を行うことだ。例えば、国際法で禁止されている生物兵器の使用を行う可能性がある。現実にそれが起きた場合、国家は「我が国の関知しないところで、民間軍事会社が勝手にやったこと」と言い逃れるだろう。
そして、先の点と関連するが、透明性に欠けるため戦争がより悲惨になることだ。
ワグネルは、「ウクライナ人は全員殺し、捕虜は取らない」と主張している。この点だけでも分かるように、戦争の悲惨さを助長し、事態を深刻化させている。
改めて、民間軍事会社は国際社会の“抜け穴”として存在し、多大な問題を引き起こしている。
ロシアや中国と、いわゆる西側の対立が深まる中、ワグネルなどの民間軍事会社の存在は大きな攪乱(かくらん)要因だ。その活動を厳しく監視できるように、国際社会の協力が早急に求められている。
●「侵攻の結末、アジア太平洋に重要」 ウクライナ国防相がロシア非難 6/4
「この戦争の問題は、世界が法の支配により統治されるのか、暴力により統治されるのかだ」
ウクライナのレズニコウ国防相は3日、シンガポールで各国の国防関係者らを前に、静かに訴えた。
米中を含む安全保障の担当閣僚らが参加するアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)の2日目。「欧州大西洋とアジア太平洋の安全保障の管理」と題したセッションで演説したレズニコウ氏は、「エネルギー、食料、移民、メディアなどすべてを武器化し、核で脅している」とロシアを強く非難した。
演説では、ロシアによる侵攻がアジア太平洋地域に与える影響の深刻さを、繰り返し訴えかけた。
「この戦争と結末はウクライナだけでなく、アジア太平洋を含む世界全体にとって重要だ」と強調。
侵略が成功すれば、紛争に対して武力を行使しようと考える政権に力を与えることになると述べ、「(ロシアのたくらみが)成功する見込みもないと証明することが、歴史が繰り返されないようにする唯一の方法だ」と協調を求めた。
同時に、「自国のためだけでなく、国家の成功や独立、繁栄を望む全ての人の権利のために戦う」と、ロシアに抵抗していく姿勢をあらためて示した。
●ウクライナ国防相 シンガポールで講演 ロシアへの制裁強化訴え 6/4
ウクライナのレズニコフ国防相はシンガポールで開かれている「アジア安全保障会議」で講演し、軍事侵攻を続けるロシアにアジア各国と結束して対抗する考えを強調しました。
そのうえで「戦争を終わらせるためには、より包括的な支援が必要だ」と述べ、追加の支援や制裁の強化を訴えました。
シンガポールで3日に講演したウクライナのレズニコフ国防相は、ロシアによる軍事侵攻について「われわれはこれまでにロシアが占領した地域の半分を解放した。これはウクライナの友人たちのこの上ない支援のおかげだ」と述べ、日本を含めたアジア各国からの支援に感謝の意を示しました。
その上で「ロシアによる侵攻がうまく行けば、力による支配にとりつかれている国を勢いづかせることになる。アジア太平洋を含む世界各地で今起きている紛争はさらに激しさを増すだろう」と述べ、欧米だけでなく、アジア各国とも結束してロシアに対抗していく考えを強調しました。
そして「国際社会によるロシアへの制裁には抜け穴がある。それゆえ、ロシアは人々を殺し続けている。戦争を終わらせるためには、武器や人道支援、政治的な行動などのより包括的な支援が必要だ」と述べ、アジアを中心とした各国に対し追加の支援や制裁の強化を訴えました。
●国境接するロシアの州への攻撃続く ウクライナは反転攻勢示唆 6/4
ロシアではウクライナと国境を接する西部の州で砲撃などの攻撃が続いているほか、各地の燃料施設などに対し無人機による攻撃も相次いでいるとみられています。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は今後の反転攻勢が多方面で行われることを示唆し、ウクライナ軍の動向が焦点となっています。
ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州では今月1日以降、砲撃などの攻撃が続き、地元の州知事は3日、新たに2人が犠牲となり、これまでに7人が死亡したなどとSNSで発表しました。
プーチン政権に反対するロシア人などの義勇兵を名乗る2つの組織が関与を表明していますが、ウクライナ政府は直接の関与を否定しています。
また、ロシアではウクライナとの国境にも近い各地の燃料施設などに対し無人機による攻撃が相次いでいるとみられ、ウクライナ軍が大規模な反転攻勢に向けて、ロシア側の後方支援の拠点などを攻撃する「形成作戦」と呼ばれる準備段階の作戦を進めているという見方もでています。
イギリス国防省は、ロシア軍が自国の国境地域とウクライナの占領地域のどちらの防衛を強化するかジレンマに直面していると指摘していて、3日に発表した分析では東部の激戦地バフムトで撤退を表明した民間軍事会社ワグネルに代わりロシア軍が正規部隊をバフムトの前線に配備せざるを得ず、軍全体の作戦に影響が出る可能性があるとしています。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」のインタビューで、領土奪還に向けた反転攻勢について「それらは完全に異なる、さまざまな方向に進む可能性がある。ただ、われわれは実行するつもりであり、準備はできている」と述べ、反転攻勢が多方面で行われることを示唆し、ウクライナ軍の動向が焦点となっています。
●トルコ エルドアン大統領が就任宣誓 経済回復に取り組む姿勢 6/4
先月のトルコ大統領選挙の決選投票で当選したエルドアン大統領が3日、議会で就任の宣誓をしました。長期政権となる中、ウクライナ情勢をめぐる仲介外交の行方や、スウェーデンのNATO=北大西洋条約機構への加盟をめぐり、今後どのように対応するのか注目されます。
中東のトルコでは先月28日、大統領選挙の決選投票が行われ、現職のエルドアン氏が52%余りの得票で野党6党の統一候補を退けて当選し、20年にわたる長期政権が継続することになりました。
エルドアン大統領は、3日、首都アンカラの議会で就任の宣誓をしたあと、大統領府で就任式にのぞみました。
この中でエルドアン大統領は「ことしはトルコ建国100年を迎える。今こそお互いを受け入れ合う必要がある」と述べ、世論が二分された選挙の結果を乗り越え、団結するよう呼びかけました。
このあと新政権の閣僚が発表され、かつて副首相をつとめたシムシェク氏が財務相に起用されるなど、通貨リラの下落と物価高が続く中、経済の回復に取り組む姿勢を打ち出しました。
一方、外交面でエルドアン大統領はロシアの軍事侵攻が続くウクライナからの農産物の輸出の合意をはじめとした仲介外交を進めているほか、スウェーデンのNATO加盟をめぐって、トルコからの分離独立を掲げるクルド人武装組織への支援をやめるべきだと訴え、テロ対策を承認の条件としていて、今後どのように対応するのか注目されます。
●ウクライナ東部ドニプロの住宅にミサイル攻撃 子ども5人含む20人以上が負傷 6/4
ウクライナ東部のドニプロ近郊で3日、住宅にミサイルが着弾し、これまでに20人が負傷した。
ミサイル攻撃を受けたのは東部ドニプロの北にある街で、2階建ての住宅2棟が崩れ落ちた。
この攻撃により、子ども5人を含む20人が負傷、さらにがれきに閉じ込められている住人がいるとみられる。
ゼレンスキー大統領は、自らのSNSで「ロシア軍が攻撃した。ロシアはテロ国家であることを証明した」と強く非難している。
●「まずロ軍が撤退すべき」ウクライナ国防相 中国が動く“停戦仲介”めぐり 6/4
ウクライナのレズ二コフ国防相は、ロシアとの和平の仲介に中国が乗り出していることについて、「まずはロシアが軍を撤退させなければならない」と述べ、ただちに交渉を必要としない考えを示しました。
レズ二コフ国防相は3日、アジア安全保障会議が開かれたシンガポールで、中国の李尚福国防相と会談しました。
ブルームバーグ通信が、ウクライナの国防副大臣の話として報じたもので、中国側は停戦のために「あらゆる手段」を行使し、ウクライナとの軍事的なコミュニケーションを増やすことなどを伝えたということです。
一方、レズ二コフ氏は会議のセッションで、中国を停戦の仲介役として受け入れるのか問われると「まずはロシアがわが国から軍を撤退させなければならない」として、ただちに交渉を必要としない考えを示しています。
●ロシア軍、戦略の幅狭まる ワグネル撤退で、英分析 6/4
英国防省は3日、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトの前線からロシア民間軍事会社ワグネルの部隊が撤退したことを受け、ロシア軍が前線に正規部隊を配備していると指摘し、結果としてロシア軍が取り得る戦略の幅が狭まっているとの分析を明らかにした。
英国防省は、ロシア軍がバフムト方面に正規部隊の配備を続けており、空挺部隊も加わっていると説明した。空挺部隊は侵攻前まで「精鋭」と見なされていたが、ウクライナでの戦闘で深刻な失敗に関わったとされる。
ウクライナ軍の報道官は3月、バフムトで攻勢をかけていたワグネルが多くの人員を失ったため、ロシア軍の空挺部隊が戦闘で果たす役割が増大しているとの認識を示していた。
●ゼレンスキー大統領「征服に舌なめずりする獣どもに大反撃する準備できた」 6/4
ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアに対する大反撃作戦を始める準備ができたと明らかにした。
ゼレンスキー大統領は3日、南部の港湾都市オデーサで行った米ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、「われわれが成功するものと強く信じる」としてこのように話した。
彼はただ、「どれだけ長くかかるかはわからない。正直に言えば完全に違った多様な方式に進む可能性がある」と言及した。
ウクライナは昨年2月のロシアによる侵攻後、戦争が激化した中で大反撃により戦況をひっくり返そうとしている。この数週間はロシアの弾薬庫や物資輸送路に対する攻勢を強化してきた。
ゼレンスキー大統領はこの日前線でロシアの空軍力がさらに強いという事実を認めながら、これは大反撃作戦を通じて「多くの兵士が死亡すること」を意味すると述べた。
その上で、西側が供給する武器をさらに多く確保することを望んだが、依然としてウクライナは動く準備ができていると強調した。彼は「われわれは確実なものを持ちたいが数カ月も待つことはできない」としてウクライナが大反撃に出る準備ができていると話した。
ゼレンスキー大統領は「われわれがロシアに対抗できないならば、あの獣どもはより一層征服に舌なめずりしさらに一歩踏み出すだろう」としながら反撃の意思を確かめた。
続けて西側諸国の軍事支援に謝意を示しながらも人道支援が遅れていることから人命被害が大きくなっているとし、速やかに大規模な提供が必要だと声を高めた。
特に「パトリオット防空砲台はロシアから発射された先端ミサイルを迎撃できる唯一のシステム」としながら自国の都市と最前方都市の防衛に向け発射台とレーダーなどの装備で構成されたパトリオット砲台が最大50基まで必要だと主張した。現在ウクライナはパトリオット砲台を最小2基運用しているものと推定される。
ゼレンスキー大統領はまた、米国がウクライナ支援に超党派的支持を送っていることに勇気を得ているとし、「どんな政権が発足しようが支援の流れを維持できるように圧迫するよう望む」と話した。
その上で「中国はロシアよりはるかに大きくて強大な国」として、平和を定着させる上で重要な役割を受け持ってほしいと訴えた。彼は「中国のような国が人々が死んでいくのをただ傍観ばかりしていることを望まない。これは本当に血なまぐさいにおいがする戦争」と話した。 
●プーチン氏肝いり国際フォーラム 「非友好国」メディアを異例の排除 6/4
ウクライナ侵攻を続けるロシアで今月開かれるプーチン大統領肝いりの国際経済フォーラムから、日米欧など「非友好国」のメディアが締め出されることとなった。タス通信が3日、ペスコフ大統領報道官に確認したと伝えた。国際的なイベントで外国メディアの取材を拒否するのは異例だ。
国際経済フォーラムは14〜17日、プーチン氏の故郷のサンクトペテルブルクで開かれる。主催者側によると、侵攻前は日米欧を含む140カ国以上から参加者が訪れ、多くの外国メディアが取材していた。
ペスコフ氏はタス通信の取材に、「今回は非友好国のメディアは経済フォーラムへの登録を認めないと決定された」と明言。「フォーラムにはいつも大きな関心が寄せられており、他の全てのジャーナリストは活動できる」とも述べ、中国やインドなどの友好国などのメディアには取材を認める方針という。
●イコン移送反対の聖職者入院 プーチン氏決定で大聖堂に―ロシア 6/4
ロシアのプーチン大統領が「国宝級」のイコン(聖像画)をロシア正教会に引き渡すと決めた問題で、美術館からの移送に反対したイコン担当の聖職者が緊急入院した。イコンは決定通り4日から2週間、モスクワの大聖堂で披露。ただ、正教会が付けた傷の修復が必要で、文化財を巡り議論を呼んでいる。
英BBC放送によると、緊急入院したのは長司祭のレオニード・カリーニン氏。心臓疾患とされるが、詳しい病状は不明だ。カリーニン氏はイコンの移送に懸念を示し、5月下旬に担当から「更迭」された。
問題のイコンは15世紀に伝説的な画家アンドレイ・ルブリョフが描いたとされる「至聖三者」。保存していたモスクワの国立トレチャコフ美術館によると、既に4月に展示から外していた。
●「サンクトペテルブルク経済フォーラム」 西側メディアの取材を認めないと発表 6/4
ロシア大統領府はプーチン大統領が演説するサンクトペテルブルク・経済フォーラムについて西側メディアの取材を認めないと発表しました。
ロシア国営タス通信によりますと、大統領府のペスコフ報道官は3日、サンクトペテルブルク経済フォーラムに関して西側メディアの取材は認めないとのべました。
それ以外の国は取材を認めるとしていることからウクライナ侵攻をめぐりロシアに制裁を科すアメリカや日本など非友好国を排除したとみられます。
サンクトペテルブルク経済フォーラムはプーチン大統領“肝いり”で行われていてかつて日本の首相も演説するなど各国要人が出席することから“ロシア版ダボス会議”とも呼ばれています。ことしもプーチン大統領が演説する予定です。
先月の戦勝記念日もアメリカや日本の主要メディアは式典会場での取材が認められずプーチン大統領が出席するイベントから西側メディアを締め出す動きが続いています。
●ウクライナ戦争の最中になぜ? NATO軍がコソボでデモ隊と衝突した背景 6/4
コソボの北部で5月29日、セルビア系住民のデモ隊が、北大西洋条約機構(NATO)の主導する平和維持部隊と激しく衝突した。多数の怪我人が出る事態となっている。
これはここ数年で最悪の事態であり、「1万人以上の命を奪い、100万人以上の市民が家を失った1998〜99年のコソボ紛争の再来を懸念させるものだった」と、米誌「クリスチャン・サイエンス・モニター」は報じている。
コソボってどんな国?
ヨーロッパ南東部のバルカン半島に位置するコソボはかつて、旧ユーゴスラビア連邦を構成するセルビア共和国の自治州だった。同国は2008年2月17日に独立を宣言している。
だが一方でセルビアは、コソボの独立を認めていない。正式な支配権はないものの、コソボは現在もセルビアの一部だとみなしている。
米国を含む約100ヵ国によってコソボの独立は承認されているが、ロシア、中国、そしてEUの5ヵ国は認めていないのが現状だ。
なお、コソボをめぐる紛争は何世紀にもわたって続いてきた。中世のセルビア正教の修道院が数多くあるコソボを、セルビアは自国の国家と宗教の中心地と考えている。クリスチャン・サイエンス・モニターいわく「セルビア人の民族主義者は、1389年にオスマントルコと戦ったこの地を、民族闘争の象徴とみなしている」という。
だがコソボの多数派であるアルバニア系民族は「コソボを自分たちの国として捉え、セルビアによる占領と弾圧を非難している」。
今回の騒動の発端は?
コソボではアルバニア系住民が180万人と多数を占めるが、10万人以上のセルビア系住民も暮らしている。そんななか、コソボ当局は2022年8月、自動車プレートや個人文書をセルビアではなくコソボが発行するものに切り替えるよう、セルビア系住民に強制しようとした。
多くのセルビア系住民がこの行政命令に反発し、またコソボで働くセルビア人の行政職員、裁判官、警察官などが抗議し、大勢が辞職する事態に発展した。これを受け、コソボ当局は政策を推し進めないことに同意する。だが抗議した警察官3人がテロの疑いで逮捕されると、地域住民はデモを起こした。
そして今年5月、セルビア系住民の多い北部の町で、多くのセルビア系住民が地方選挙をボイコットした。結果として新たに選出されたアルバニア人市長の登庁を、セルビア系住民のデモ隊が阻止しようとし、衝突に発展。NATO平和維持軍30名と、地元のセルビア人50名以上が負傷した。
そもそもNATOはコソボで何をしているの?
約3800人のNATO軍がコソボに駐留し、コソボ治安維持部隊(KFOR)として平和維持活動に従事してきた。
米メディア「ブルームバーグ」によると、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は今回の「暴力的な抗議行動を鎮圧するべくコソボに700人以上の部隊を派遣した。暴動が拡大した場合に備え、さらに大隊を待機させている」と語っている。
ロシアのウクライナ侵攻による影響は?
「コソボをめぐる地政学的な対立は、セルビアを支持するプーチン大統領率いるロシアがウクライナに侵攻して以来、より深刻になっている」とブルームバーグは報じている。
セルビアとコソボの指導者は、自国の主張を展開するにあたって「ウクライナで起きている戦争を利用している」という。このまま事態がエスカレートすれば、その影響は「ボスニア・ヘルツェゴビナなどの他地域にも波及する危険性がある」。
●ロシア兵40人、ルハンスク州で部隊から脱走か ウクライナ軍報告 6/4
ウクライナ軍参謀本部は4日朝の戦況報告で、ウクライナ東部ルハンスク州でロシア軍兵士約40人が戦闘位置を無断で離れたとした。同州のロシア軍部隊にヘリコプター2機と警備隊が、脱走兵捜索のために配備されたと伝えた。
また、参謀本部はロシア軍がルハンスク州や東部ドネツク州の完全な占領をめざして戦闘を続けているとし、過去24時間に23回の衝突があったと報告。巡航ミサイル「イスカンデルK」が使われた攻撃で、中部ドニプロペトロウスク州ドニプロ近郊の2階建て住宅が損傷し、20人以上が負傷したという。
一方ウクライナ軍は、ロシア軍の倉庫が集中する地域に11回の攻撃をしたほか、ロシア軍の対空ミサイル施設への6回の攻撃に加え、ドローン(無人機)計8機を破壊するなどしたという。

 

●“ロシアで最も有名な宗教画”移設を強行のプーチン氏 「神頼み」との指摘も 6/5
ロシアで最も有名な宗教画が、専門家らの強い反対にもかかわらず、プーチン大統領の指示で美術館から総本山へと強制的に移されました。プーチン氏の「神頼み」との指摘も上がっています。
プーチン氏は先月、ロシアで最も有名な宗教画の1つ「聖三位一体」について、モスクワの美術館から救世主キリスト大聖堂に移す決定をしました。
絵は状態が非常に悪く専門家らが反対するなか、移設は強行され、4日に公開されました。
このタイミングでプーチン氏が移設を強行した理由について独立系メディアは、「ウクライナへの侵攻がうまくいかないなか、プーチン氏が奇跡頼みになっているためだ」と分析しています。
ナスタヤーシー・ブレーミヤは、「プーチン氏は絵をロシア正教会に戻すことで負けつつある国全体を好転できると信じている」とする専門家の見解を報じています。
絵を見に訪れたモスクワ市民の男性は4日、ANNの取材に対し、「現在の状況下では、魂への訴えが国民にとって必要なのです」と語りました。
この絵を巡っては、美術品などに関する専門家会議の代表を務めていたカリーニン長司祭が、移設に反対した直後にロシア正教会の役職を解かれ、さらにその後突然の心臓発作で入院したことが報じられていました。
●「プーチン政権から解放を」ロシア人組織がロシア攻撃、指導者が語る 6/5
5月22日にロシア南部ベルゴロド州であった攻撃への関与を主張する、ロシア人の軍事組織「自由ロシア軍団」の幹部イリヤ・ポノマリョフ氏(47)が朝日新聞のオンライン取材に応じた。ポノマリョフ氏は、5月22日のロシア領内への攻撃を「ロシアの領土を(プーチン政権から)解放するためだった」などと主張した。
ポノマリョフ氏はロシアの元下院議員。2014年3月にロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合した際、下院で関連法案に唯一の反対票を投じた。その後事実上の亡命を迫られ、16年からウクライナで事実上の亡命生活を送っている。プーチン政権の打倒をめざし、ウクライナを拠点とする自由ロシア軍団の政治的指導者ともされる。
ポノマリョフ氏によると、軍団のメンバーにウクライナ人はいないという。多くは降伏したロシア兵や反プーチン政権の政治活動家らで、ほかにも数人のベラルーシ人やジョージア人がいるという。
ロシア国内では、ウクライナとの国境付近で爆発や砲撃が相次いでいる。5月22日のベルゴロド州への攻撃は自由ロシア軍団が関与を主張。その後、ロシア国防省は「破壊工作員」を壊滅させたとした。ポノマリョフ氏は攻撃を実施したことは認めたうえで、作戦内容の詳細は明かさなかったが、いまもロシア領内で軍団のメンバーが活動していることを示唆した。
ポノマリョフ氏は、活動を続ける理由を「ロシアの政権を変えるための道筋をつくるためだ」と強調。「この戦争はモスクワでしか終わらせることができない」と語った。
●露越境作戦で兵士ら捕虜に 反プーチン武装集団が声明 6/5
ロシアのプーチン政権を敵視する武装集団「自由ロシア軍」と「ロシア義勇軍団」は4日、ウクライナ側からロシア西部ベルゴロド州に入った越境作戦の結果、複数のロシア兵を捕虜に取ったとするビデオ声明を出した。グラトコフ州知事に捕虜交換を呼びかけたが、指定場所に現れなかったため、ウクライナ側に引き渡すとした。
通信アプリに投稿されたビデオには捕まったロシア兵とみられる10人余を収録。うち2人は病床に横たわっている。
グラトコフ氏は4日、ウクライナ国境に近いベルゴロド州ノーバヤタボルジャンカでウクライナ側とロシア軍の戦闘が起きたことを認め、指定場所と違う同州シェベキノで捕虜と面会する用意があるとビデオ声明で表明していた。
ロシア国防省は4日、軍と国境警備隊がノーバヤタボルジャンカでウクライナ破壊工作部隊の越境侵入を砲撃で阻み、撃退したと主張した。
●反プーチン政権軍事組織、ロシア兵2人を捕虜に ウクライナに引き渡しへ 6/5
ウクライナ軍に協力するロシアの反プーチン政権軍事組織が4日、国境付近でロシア兵2人を捕虜にしたと発表し、地元知事との会談を求めた。その後、知事が会談に現れなかったとして、捕虜をウクライナ側へ引き渡す構えを示している。
ウクライナ側から越境攻撃を仕掛けている「ロシア義勇軍団」と「自由ロシア軍団」は、ロシア南部ベルゴロド州でロシア兵2人を捕虜にしたと主張し、同州のグラトコフ知事に会談を要求した。
グラトコフ氏はSNS「テレグラム」に投稿した動画で、「兵士は殺された可能性が高いが、もし生きているのなら」として、午後5〜6時の時刻と国境の検問所を指定。「安全を保証する」と述べた。
しかし、グラトコフ氏は会談の場所に現れなかったという。ロシア義勇軍団は動画を通して、ロシア兵を捕虜交換に向けた手続きのため、ウクライナ側に引き渡すことを決めたと発表。さらに、ほかにも兵士を捕らえたと主張したが、人数には言及しなかった。
CNNは話の真偽を独自に確認できていない。
ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジン氏は4日にテレグラムを通し、ロシア兵2人をだれも助けに来なければ、自ら高位の副官を送り込む用意があると表明していた。
●プーチンの威光、弱まれり<鴻Vア各地でデモ、100人超拘束 6/5
プーチンの威光、弱まれり―。ロシア各地の都市で4日、ウクライナ侵攻を続ける政権に抗議するデモが発生、当局に100人以上が拘束されたという。同日にはウクライナ東部のルハンスク州で数十人単位でロシア兵が脱走したという情報も流れる。「ウ軍大反攻」が秒読みとされるなか、ロシアの焦燥ぶりが際立っている。
プーチン政権と対立して刑務所で服役中の反政府活動家ナワリヌイ氏の呼びかけに応じて4日、ロシア各地で同氏解放を求め、ウクライナ侵攻を続ける政権に抗議するデモが行われた。
ロシアの人権団体「OVDインフォ」によると、厳重な警備が敷かれた首都モスクワ中心部の赤の広場やプーシキン広場で「ナワリヌイに自由を」と書いた紙を掲げるなどした人が次々と拘束され、極東やシベリアなど各都市を含め、同団体は最低でも109人が拘束されたと指摘している。
4日に47歳の誕生日を迎えたナワリヌイ氏は声明で「社会の進歩とより良い未来のため、代償を払う人が増えれば各人の負担は減る。真実を語り、正義を守ることが危険でなくなる日が必ず来る」と賛同を訴えた。
OVDインフォによると、昨年2月の侵攻後に反戦姿勢を理由に拘束された人は2万人弱に達する。昨年9月にプーチン大統領が部分動員令を発表した直後も各地で抗議運動が起き、多数が拘束されて抑え込まれたという。
ナワリヌイ氏は2020年に国内で毒殺未遂に遭い、療養先のドイツから21年に帰国し逮捕され、過去の経済事件に関連し実刑判決を受けて収監。22年には自身の「反汚職闘争基金」の寄付金詐取などを理由に新たに懲役9年を言い渡された。独立系メディアによると「過激主義」を理由とする新たな裁判も予定されている。
ウクライナ東部のルハンスク州の戦場では4日までに、ロシア兵が数十人単位で戦場を脱走したなどとも伝えられる。露軍に入るヒビが日に日に広がり、風雲急を告げている。
●反体制派指導者・ナワリヌイ氏の釈放求める抗議デモ ロシア各地で 6/5
ロシア各地で4日、服役中の反体制派指導者・ナワリヌイ氏の釈放を求めるデモが行われました。
参加者らは「ナワリヌイ氏に自由を」などと書かれた紙を掲げ、政権に抗議。人権団体によりますと、これまでに100人以上が拘束されました。
ナワリヌイ氏の47歳の誕生日にあわせて呼びかけられたもので、ウクライナ侵攻後、反体制派への締め付けが強まる中、異例の抗議活動となっています。 
●前週のロシア株、ウクライナ戦争激化や原油安、ルクオイルの減配に反落 6/5
前週(5月29日−6月2日)のロシア株式市場は、RTS指数(ドル建て)の2日終値が前日比0.98%安の1051.53、前週比では5月26日終値比0.40%安と、反落した。
週明け29日は指数が続伸。翌30日は反落した。31日は反発。6月相場入りした1日も続伸した。
週前半は、米債務上限引き上げ合意を受け、バイデン政権のデフォルト(債務不履行)懸念が払しょくされ、海外株高となる中、ロシア市場でも買いが優勢となった。ロシア国内でも配当や決算関連の企業ニュースも追い風となった。配当を決めた鉄鋼大手マグニトゴルスク・アイロン&スチール・ワークス(MMK)と、自社株買いを決めた不動産大手サモレットグループが急騰、上げをけん引。その後は、ロシア国内のドローン攻撃により、ロシア・ウクライナ戦争の激化リスクが高まったことや、ブレント原油先物が1バレル当たり74ドルを割り込んだことが嫌気され、売りが優勢となった。
週後半は、海外株安となったものの、通貨ルーブル高の進行や企業ニュースを手掛かり材料に買いが優勢となった。個別銘柄では1−3月期決算で大幅増益となった国営石油・天然ガス開発大手ロスネフチや、配当を決めた国営トラック・バス大手カマズが買われ、相場をけん引。その後は、海外株高や原油価格の75ドルへの回復が好感され、買いが一段と強まった。
週末2日は反落。これまでの相場上昇を受け、高値警戒感から利食い売りが強まった。また、石油大手ルクオイルの配当金支払い総額が発行済み株式数の減少により、当初の見込み額を大幅に下回る見通しとなったことが嫌気され、売りが優勢となった。
今週(5−9日)のロシア市場は、引き続き、ロシア・ウクライナ戦争(22年2月24日勃発)や西側の対ロ制裁などの地政学的リスク、原油・ガス相場、ルーブル相場、主要企業の配当政策、ロシア中銀の金融政策決定会合(9日)などが焦点。このほか、原油価格に影響を与える4日のOPEC(石油輸出国機構)プラス会合や6日の米API(石油協会)週間石油在庫統計、7日の米EIA週間石油在庫統計も注目される。主な経済発表の予定は5日の5月ロシア非製造業PMI(購買担当者景気指数)や9日の5月CPI(消費者物価指数)など。RTS指数は1000−1100の値動きが予想される。
●大統領選出馬の共和ヘイリー氏、ウクライナ巡りトランプ氏批判 6/5
2024年米大統領選への出馬を表明している共和党のニッキー・ヘイリー氏は4日、ロシアとの戦争でウクライナの勝利を望んでいるか明言しなかったとして、トランプ前大統領とデサンティス・フロリダ州知事を批判した。
ヘイリー氏はトランプ前政権下で国連大使を務めた。トランプ氏とデサンティス氏も出馬を発表しており、ヘイリー氏にとって指名争いのライバルだ。
トランプ氏は最近のタウンホールイベントで、戦争終結を望んでいるが、ウクライナとロシアが和平交渉をするのを支援すると発言。
デサンティス氏も最近、和平を支持するとしたほか、25年1月に次期大統領が就任宣誓を行うまでに戦争が終結していることを期待しているなどと述べた。また、ウクライナは「領土問題」だとするコメントが批判を浴び、その後撤回に追い込まれている。
ヘイリー氏はアイオワ州で行われたCNNのタウンホールで、「これは領土問題で、中立を保つべきと言うのは正しくない」と主張。「ウクライナが勝利することが、われわれの国家安全保障にとって最善の利益だ」と語った。
5月に実施されたロイター/イプソス世論調査によると、大統領選の共和党候補者を選ぶ予備選挙の有権者による支持率は、トランプ氏が49%で他を圧倒。第2位はデサンティス氏の19%。3位以下との差は大きく、ヘイリー氏はわずか4%にとどまっている。
●ロシア、ウクライナの大規模攻撃を阻止 兵士250人殺害=国防省 6/5
ロシア国防省は5日未明、ウクライナのドネツク州で同国による大規模な攻撃を阻止し、数百人の親ウクライナ部隊を殺害したと発表した。
同省はウクライナが4日に6つの機械化部隊と2つの戦車部隊で攻勢を開始したと指摘。「敵は4日朝、南ドネツク方面の前線5カ所で大規模な攻撃を開始した」と述べた。
ロイターは発表の真偽を確認できていない。現時点でウクライナ側はコメントしていない。
この攻撃がウクライナによる領土奪還に向けた大規模な反転攻勢の開始を意味するかどうかは不明。
ロシア国防省は「敵は前線で最も脆弱と判断した区域でわれわれの防衛突破を目指したが、任務を果たせず成功しなかった」と述べた。
ウクライナ軍250人を殺害したほか、16両の戦車や歩兵戦闘車、21両の装甲戦闘車を破壊したとしている。
攻撃を受けた地域にウクライナ侵攻の総司令官を務めるゲラシモフ参謀総長がいたことも明らかにした。
ロシア軍が通信アプリ「テレグラム」に投稿した動画では、複数の軍事車両が空から攻撃を受ける様子が確認できる。
ウクライナのレズニコフ国防相は4日のツイッターへの投稿で英国のロックバンド「デペッシュ・モード」の1990年の曲「エンジョイ・ザ・サイレンス」の歌詞を引用して「言葉は極めて不必要。害を及ぼすだけ」と投稿したが、真意は明らかではない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで反転攻勢を開始する準備が整ったと述べていた。
ウクライナの反攻計画は詳細が謎に包まれている。ロシアの首都モスクワでは先月、大規模なドローン(無人機)攻撃があり、ロシア側はウクライナによるテロ攻撃と主張。ウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州でも親ウクライナの戦闘員による越境攻撃が繰り返し行われている。
ロシア軍は一方、5月初旬以降、首都キーウ(キエフ)をはじめとするウクライナ国内の標的に対するドローンやミサイルの攻撃を激化させている。
●反ロシア派戦闘員、ロシア兵を「捕らえた」と発表 ベルゴロド州で 6/5
ロシア政府と敵対する2つのロシア準軍事組織の戦闘員は4日、ウクライナと国境を接するロシア・ベルゴロド州で数人のロシア兵を捕らえたと発表した。
ベルゴロド州のヴィヤチェスラフ・グラドコフ知事は、ロシア兵が生きているなら、準軍事組織の戦闘員と面会することに同意したとした。
しかしその後、反ロシア派の戦闘員たちは、自分たちと会う「勇気」がグラドコフ知事には「なかった」ため、捕虜をウクライナ側に引き渡すと述べた。
ベルゴロド州では、ウクライナから国境を越えて侵入した戦闘員による攻撃が相次いでいる。
ロシアはこれらの攻撃にウクライナが関与していると非難しているが、ウクライナ政府は否定している。
反ロシア派戦闘員の声明
ロシア軍は4日、自軍の砲兵がノヴァヤ・タボルジャンカ村付近の「テロリスト」グループを攻撃し、「敵は散り散りになって退却した」と発表した。
これに先立ち、準軍事組織グループはメッセージアプリ「テレグラム」で、男性2人を捕らえたと発表したが、ベルゴロド州知事が協議に応じるのなら2人を引き渡すとした。
動画には捕虜の2人だとする人物が映っているが、BBCは2人の身元を独自に検証できていない。
このメッセージは、自由ロシア軍団(FRL)が投稿したもの。ロシア義勇軍団(RDK)との共同声明だと説明している。
これに対し、ベルゴロド州のグラドコフ知事は自身のテレグラムに動画を投稿し、兵士の生存が確認されれば協議に応じると答えた。ただ、2人はおそらく、すでに殺害されていると思うと付け加えた。
RDKはその後、さらに多くの捕虜が映っているとする動画を投稿。グラドコフ知事が協議の場に現れなかったとした。
「(ロシア)軍も民間も、捕虜の運命に関心がない」と、RDKは述べた。
こうした中、FRLはロシア当局を「腐敗した卑怯者」と呼んだ。FRLは捕虜をウクライナ側に引き渡し、今後、ロシアとのウクライナ捕虜との交換交渉の対象にするつもりだとした。
両組織は、ウラジーミル・プーチン大統領の打倒を目指しており、昨年2月にプーチン氏が開始したウクライナへの全面侵攻にも反対している。
ウクライナ当局によると、FRLとRDKは、ウクライナ人のための「安全地帯」の設置を目指すロシア人で構成されているという。
今年3月、ウクライナから国境を越えてロシア・ブリャンスク州に侵入した武装集団によって、襲撃事件が起きた。45人が関与したとされるこの襲撃に加わっていたRDKは、これを機に注目されるようになった。リーダーはロシアのナショナリストでネオナチと関係があるとされる。
FRLはウクライナ軍とともにロシア軍と戦う、RDKとは種類の異なる組織と考えられている。
ベルゴロド州のグラドコフ知事は動画の中で、戦闘員たちに「悪党、殺人者、ファシスト」というレッテルを貼りつつ、協議が実現すれば「安全を保証する」と約束した。
戦闘員はグラドコフ氏に対し、ノヴァヤ・タボルジャンカまで会いに来るよう求めたが、グラドコフ氏は危険すぎるためシェベキノの町の検問所で待つことにすると述べた。
グラドコフ氏は動画投降後の出来事についてはコメントしていないが、地元政府および連邦政府関係者との会合の写真を投稿している。
●プリゴジン氏「ワグネルがベルゴロド州守る」発言で波紋 6/5
敵対勢力による攻撃が続くウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州を巡り、プリゴジン氏が「ワグネルが守る」と発言し波紋が広がっています。
民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジン氏は3日、SNSで「我々は招待も許可も待たずにベルゴロドに行き、ロシア国民を守るつもりだ」と述べました。
これに対してプリゴジン氏と対立関係にあるロシア軍の元大佐イーゴリ・ストレルコフ氏は5日、ワグネルがロシア軍の許可も得ずにベルゴルドに部隊を進めれば、さらに「ドローンから守るため」と称して、モスクワまでやってくる可能性があると警戒感をあらわにしました。
また、チェチェン共和国のカディロフ首長は4日、SNSにベルゴロド州の状況を懸念していると投稿し、「国民を守るために最高司令官のいかなる命令に対しても準備ができている」とプーチン大統領に訴えました。
●ロシア国防省「大規模攻撃を撃退した」ウクライナ軍の動向焦点 6/5
ロシア国防省は、ウクライナ軍が東部ドネツク州で大規模な攻撃を仕掛けたもののこれを撃退したと主張しました。
ウクライナ側はロシアが情報戦を強化していると主張する一方、今後の反転攻勢について具体的な時期などは明言せず、ウクライナ軍の動向が焦点となっています。
ロシア国防省は5日未明、「敵は4日の朝、南ドネツク方面の5か所の戦線で大規模な攻撃を開始した」と発表し、東部ドネツク州のロシア側の支配地域で、ウクライナ軍が反転攻勢を仕掛けたものの、これを撃退したと主張しました。
これに対してウクライナ国防省は、「ロシア軍は信頼性の低い情報を拡散し、情報戦を強化している」としています。ウクライナ側は近く始めるとしている大規模な反転攻勢について具体的な時期などは明言せず、ウクライナ軍の動向が焦点となっています。
こうした中、ウクライナ陸軍のシルスキー司令官はドネツク州の拠点バフムトについて3日、SNSに「敵はバフムト方面で重大な損失を被り続けている」と投稿したほか、5日には「われわれはバフムト近郊で前進を続けている」と書き込みました。
バフムトを巡っては先月、ロシア側が激しい戦闘の末に掌握を主張しましたが、ウクライナ軍が反撃を続けている可能性があります。
また、ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州では今月に入り戦闘が続いていて、地元の州知事は5日、電力施設で火災が起き、無人機による攻撃を受けたとみられるとSNSで発表しました。
ウクライナとの国境に近い各地のロシア側の燃料施設などに対しても、無人機による攻撃が相次いでいるとされ、ウクライナ軍が反転攻勢に向けた準備段階の作戦を進めているという見方も出る中、ロシア側は警戒を強めています。
反転攻勢 明言避けるウクライナ軍
ウクライナ軍による大規模な反転攻勢について、これまでのところ、具体的な時期や規模などは明らかになっていません。
ウクライナ国防省のマリャル次官は4日、SNSに「計画は沈黙を愛する。開始の宣言はない」と投稿しました。
また、レズニコフ国防相も4日、NHKのインタビューで、反転攻勢に向けた準備段階の作戦を進めているのかを問われたのに対し「国防相である私が話すのは適切ではないと思う。将校たちが議論すべきものだ」と述べ、明言を避けました。
そのうえで「真の反転攻勢は去年2月24日、ロシアが軍事侵攻を開始したときから始まっている」と述べ、反撃はすでに行っていると強調し、新しい作戦については言及しませんでした。
反転攻勢について、ゼレンスキー大統領をはじめウクライナの政府高官などは「準備はできている」とか「あす、あさって、あるいは1週間以内に始まる可能性がある」と述べて、いつでも始められると強調するものの、現時点で具体的なことを明らかにしていません。
作戦に関わる情報の管理を徹底するとともに、ロシア側に対する心理戦や情報戦の一環ともみられます。
●ウクライナ軍、ドネツク州南部で攻勢か…国防省は「反攻の開始宣言しない」 6/5
ロシア国防省は5日未明、ウクライナ軍が4日に東部ドネツク州の南部戦線で露軍の防衛線の突破を狙う攻勢を開始したと発表した。露軍が防衛し、攻勢は失敗したと主張している。ロシアの侵略を受けるウクライナ側は今回の攻勢に言及しておらず、本格的な反転攻勢に向けた偵察攻撃の可能性もある。
同省の発表では、ウクライナ軍は南部戦線の5区域に6機械化大隊と2戦車大隊を投入する「大規模攻勢」を仕掛け、露軍防衛線を突破しようとした。露軍はウクライナ側の兵士約250人を殺害、戦車16両や歩兵戦闘車3台、装甲戦闘車21台を破壊し、ウクライナの攻勢は失敗に終わったと主張している。
南部ザポリージャ州でも4日、ウクライナ軍が戦闘車両10台以上を投入して防衛線の突破を試みたと、同州の露側「幹部」が発表した。
露軍が撃退したとする主張に対し、軍事関係のSNSではウクライナ軍がドネツク州南部の集落を奪還したとの見方も出ている。
ウクライナによる領土奪還のための大規模な反転攻勢について、ウクライナ国防省は4日、「開始を宣言しない」と表明した。ウクライナのレズニコフ国防相もツイッターに「言葉は必要ない」と投稿し、今回の攻勢に言及していない。
一方、ロシア西部のベルゴロド州では、ウクライナを拠点にプーチン政権の打倒を目指すロシア人武装組織が進入攻撃を仕掛け、露軍と戦闘が続いている。同州知事によると、ウクライナ国境から約3キロ・メートルの露側集落で戦闘になり、露軍は国境警備にも戦力をそがれている。ウクライナは、ロシア人武装組織による攻撃への関与を否定している。
●「バフムト近郊、奪回された」 ワグネル創設者、ロシア軍批判 6/5
ウクライナ侵攻に参加しているロシア民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏は5日、ロシア国防省が完全制圧を宣言したウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトに近いベルホフカの一部がウクライナ軍に奪回されたと述べ、ロシア軍の対応を批判した。
プリゴジン氏は通信アプリへの投稿で、軍がベルホフカの住民保護を名目に部隊の再配置を行い、戦略上の重要地点を放棄した結果、軍は「敗走している。恥だ」と非難。前線に来て敗走を食い止めるようショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長に要求した。
ロシア国防省は5月21日にバフムトを完全制圧したと発表したがウクライナ側は認めていない。
●アメリカとインド 国防相会談 防衛分野の協力強化で一致 6/5
アメリカのオースティン国防長官は訪問先のインドでシン国防相と会談し、防衛分野での協力を強化していくことで一致しました。
2日間の日程でインドを訪れているアメリカのオースティン国防長官は5日、首都ニューデリーで、シン国防相と会談しました。
会談後、インド国防省は両国が新技術の共同開発や共同生産など防衛産業での協力の推進を目指すとしたうえで「今後数年間の政策の方向性の指針となる、防衛産業の協力に関するロードマップを策定した」と発表しました。
シン国防相は会談後、みずからのツイッターに「会談は戦略的利益の一致や安全保障協力の強化など、さまざまな分野における防衛協力の強化を中心に行われた」と投稿しました。
インドとしてはウクライナ侵攻以降、ロシアからの兵器の供給に遅れが出る中、調達先を多角化させると同時に、アメリカとの関係を強化することで国境をめぐり緊張状態が続く中国をけん制する思惑もあるとみられます。
一方、アメリカは軍事侵攻を続けるロシアや覇権主義的な行動を強める中国に対抗するうえで「グローバル・サウス」とも呼ばれる新興国や途上国の代表格のインドとの関係を強化したい考えです。
バイデン政権は6月下旬にはインドのモディ首相を国賓としてワシントンに招き首脳会談を行う予定で、アメリカとしてはインドとの関係をさらに深めたいねらいもあるとみられます。

 

●プーチン氏の偽演説がラジオ放送、「ハッキングされた」 ロシア大統領府 6/6
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、プーチン大統領のものとされる「緊急演説」が一部のラジオ局で放送されたが、それは偽物だったとし、放送局がハッキングされたと述べた。ロシア国営タス通信が伝えた。
ペスコフ氏によれば、プーチン氏による演説はなく、一部のラジオ局がハッキングされた。こうした問題はすでに全て解決されたという。
ベルゴロド州政府によれば、今回の偽のメッセージは、ウクライナ軍がクルスク州、ベルゴロド州、ブリャンスク州に侵入し、これらの地域に戒厳令が発令されたというもの。全国的な動員令に関する署名が同日行われるとしたほか、3州の住民に避難を求めていた。
ベルゴロド州政府は、メッセージの目的はベルゴロドの住民に混乱を引き起こすことだとし、落ち着いて、信頼できる情報源だけを信じるよう要請した。
ウクライナと国境を接するベルゴロド州では、5月下旬にウクライナ軍と連携する反プーチン政権のロシア人らによる越境攻撃があったほか、ここ数日は砲撃が増加している。
●ウクライナ “東部戦線で攻撃的な作戦展開” と主張 6/6
反転攻勢に向けたウクライナ軍の動向が焦点となる中、ウクライナ側はロシア側が反転攻勢について偽情報を広めてくるとする一方で東部の戦線では攻撃に転じていると主張しています。
ロシア国防省は5日、ウクライナ軍が東部のロシア側の支配地域で大規模な攻撃を仕掛けたものの撃退したと発表しました。
これに対してウクライナ国防省はSNSで「ロシア軍は情報戦や心理戦を強化している。人々の士気をくじき、惑わせるために、反撃作戦やウクライナ軍の損失についての偽情報を広めてくる」と指摘しました。
さらに、マリャル国防次官は5日、SNSで「ロシアが積極的に反転攻勢の情報を流すのは、バフムト方面での敗北から注意をそらすためだ」という見方を示し、ウクライナ軍が東部ドネツク州の拠点バフムトの周辺で攻撃に転じていると主張しました。
その上で「敵は守勢にまわっている」と書き込み、ウクライナ軍が東部の戦線で攻撃的な作戦を展開し、いくつかの地域では前進もあったとしています。
一方、ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州で続いている戦闘をめぐってはプーチン政権に反対するロシア人などの義勇兵を名乗る2つの組織が関与を主張し、4日にはSNSに複数のロシア兵を捕虜にしたとする動画を投稿しました。
こうした中、ロシアの国営通信社は5日、国境地域でラジオ放送がハッキングされ、プーチン大統領の緊急演説だとする放送が流れたと伝えました。
ベルゴロド州の当局は、ウクライナ軍が越境して地域に戒厳令が導入されたといった情報が拡散したとSNSで明らかにした上で、偽情報だとして平静を保つよう住民に求めています。
ロシア大統領府の報道官までもがロシア通信に「完全なフェイクだ」と否定する事態になり、地域の住民の間で動揺が広がっていることもうかがえます。
●ウクライナ戦争の重大な分かれ目…ホワイトハウス「大反撃の成功を確信」 6/6
4日、ウクライナの春の大反撃が始まったものとみられ、これまで15カ月間続いてきた今回の戦争がもう一つの「巨大な分水嶺」を迎えることになった。ウクライナがこの勝負で昨年秋の攻勢の時のように多くの領土をとり戻すなど軍事的成功を収めれば、今後ロシアとの平和交渉で比較的に優位に立つものとみられる。しかし、攻撃が失敗したり、ロシアを過度に刺激して激しい衝突につながった場合は、今後の国際情勢は一寸先も見えない泥沼に陥る可能性もある。
これまでウクライナに350億ドル以上の莫大な軍事支援を行ってきた米国は、ウクライナの大攻勢が成功するという楽観的見通しを示した。ホワイトハウスのジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は同日、CNNとのインタビューで「私たちはこの反撃作戦が成功すると信じている」とし、「反撃作戦でウクライナがロシアから戦略的な要衝を奪還できるだろう」と述べた。さらに「ウクライナが戦場でできる限り最大の進展を成し遂げ、交渉テーブルで強力な立地を確保するよう後押ししたいと思っている」と付け加えた。
サリバン補佐官の発言から、米国が今回の大反撃を通じて望むのはウクライナがロシアを戦場で完全に敗退させる「最終的な勝利」ではなく、領土のかなりの部分を取り戻し、今後の平和交渉で交渉力を高める「限定的な勝利」であることが分かる。サリバン補佐官は「(ウクライナの)ウォロディミル・ゼレンスキー大統領も戦争は究極的に外交を通じて終結すると述べた」としたうえで、「戦争は予測不可能であるため、(交渉の)日程表を示すことはできない」と述べた。マイク・ターナー米下院情報委員長も同日、ABCとのインタビューで、反撃作戦の見通しは「非常に楽観的だ」と語った。さらに「ウクライナ軍はまもなく始まる攻撃について準備を整えており、訓練されており、装備を備えているが、ロシア軍はそうではない」と主張した。
同日、ウクライナの大規模攻撃が集中した地域はドネツク州南部地域と確認された。同地域はロシア本土とロシアが2014年3月、自国に一方的に併合したクリミア半島を陸地でつなぐ戦略上の要衝だ。2014年から「ドネツク人民共和国」が一部地域を統制してきており、昨年2月末に戦争が始まってから同年5月まで続いた凄絶なマリウポリ攻防戦を経て、ほぼ全域がロシア軍の統制下に入った。ゼレンスキー大統領など主要当局者が何度も明らかにしたように、ウクライナが最終的にクリミア半島まで奪還するためには、同地域を必ず手に入れなければならない。
今回の攻撃を主導しているのは、米国と欧州が提供した地上戦兵器で武装した部隊とみられる。ワシントン・ポスト紙は同日、ウクライナの大反撃を予測する分析記事で、この作戦ではドイツの北大西洋条約機構(NATO)軍基地で訓練を受けたウクライナ軍の第47独立機械化旅団が先鋒に立つと報じた。同紙は、同旅団兵力はここ数カ月間訓練を受け、NATO側の最新戦法を身につけたうえ、ブラッドレー装甲車などNATOが提供した兵器で武装していると報道した。同旅団をはじめとする攻撃部隊は最近、戦線付近の未公開地域に配置された。ウクライナのオレキシー・レズニコフ国防相も4日、NHKとの単独インタビューで、大規模な反撃攻勢と関連して「この夏は、残念ながらF16戦闘機なしで続けなければならない。地上のすべての装備品を使う」と述べた。
ウクライナ軍はさらに同日、ドネツク州南部と隣接していないクリミア半島とロシアのベルゴロド州に対するドローン攻撃も行った。ドネツク州南部に戦力を集めることによってロシア軍の兵力が集中するのを防ぐために、他地域への攻撃を並行する作戦が続く可能性が高い。
ロシア国防省は同日、ウクライナ軍の鋭鋒をくじいたと発表した。今後の戦況がどのように展開されるかを予測するのは容易ではないが、ロシアが簡単には退かないことは明らかだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、昨年8〜9月にロシア軍が東部ハルキウ州と南部ヘルソン州でウクライナの反撃を許した後、「核兵器使用」をちらつかせ、予備役30万人を動員する部分的動員令を下した。ウクライナが軍事的に成功すればするほど、戦争拡大の可能性が大きくなり、人類が第3次世界大戦の脅威に直面する「苦しいジレンマ」に陥りかねない。
●永世中立国スイスが揺らぐ、ウクライナへの武器供与で議論本格化… 6/6
ロシアの侵略を受けるウクライナにスイス製武器を供与する許可を求める声がスイス内外で高まっている。ロシアの侵略行為を糾弾しつつ、永世中立国の原則をどこまで貫くべきか連邦議会で議論が本格化している。
伝統
スイスはウクライナ侵略が始まった直後の2022年2月、欧州連合(EU)に追随する形でロシアへの経済制裁に踏み切った。「長年の伝統を破った」(英紙フィナンシャル・タイムズ)と評された。武器の再輸出を巡る議論は、これに続くものだ。スイスの中立はナポレオン戦争後の1815年に欧州列強が承認したことで始まり、1907年に国際条約で戦争不参加の義務などが明文化された。紛争当事国に直接武器を供与するだけでなく第三国から再輸出することも禁じている。
不満
再輸出に向けた議論は、「外圧」が契機となった。スイス政府は昨年6月、ドイツとデンマークからスイス製武器をウクライナに供与するための要請を受けたとし、「厳格な軍事的中立に基づき」許可しなかったと発表した。ドイツは自走式対空砲「ゲパルト」の砲弾、デンマークは装甲車の再輸出をそれぞれ求めていた。スペインは今年1月に大砲の再輸出を申請したが、却下された。ロベルト・ハベック独副首相は2月、地元紙のインタビューで「なぜスイスが砲弾を提供しないのか理解できない」と不満をあらわにした。米紙ニューヨーク・タイムズは3月、「スイスは北大西洋条約機構(NATO)加盟国に囲まれ、何十年も守られてきたのに、これらの国を助けようとする意志を示さないとの不満が欧州で募っている」と報じた。
二つの顔
議会では、国内法を改正し、再輸出を容認するかどうかや、認める際の条件について議論が交わされている。容認派は「スイスがこの紛争に貢献していることを示すものだ」と訴える。55%が再輸出に賛成するとの世論調査がある。顧客を失いたくない軍需産業界も賛成論を後押ししている。
厳密な中立を求める声も根強い。議会最大勢力で保守派の国民党の議員は「武力紛争が起きている国に再輸出を認めることは、スイスの平和と繁栄の基盤を破壊する」と批判する。議会では1日、期限付きで再輸出を解除する法案が否決されたが、今後も一定の条件下で解禁を認める別の案が議論される見通しだ。
チューリヒ大のオリバー・ディッゲルマン教授(国際法)は「中立国でありながら武器を輸出していることがこうした状況に追い込んだ」と米紙で指摘し、「ビジネス」と「善人」であることを同時に追求する国のあり方を批判した。
●“イランがロシアに弾薬も供与か” イギリスのテレビ局 伝える 6/6
ウクライナで軍事侵攻を続けるロシアに対し、イランがこれまで指摘されてきた無人機だけでなく、弾薬も供与していることが疑われると、イギリスのメディアが伝えました。イラン政府は弾薬の供与を否定しています。
イギリスのテレビ局、スカイニュースは5日、イラン国防軍需省が去年9月にロシアの兵器関連企業との間で弾薬の売買について交わした契約書とみられる文書を入手したと伝えました。
公開された文書ではイランがロシアに売却するりゅう弾砲や戦車に使われるさまざまな弾薬など、およそ175万ドル、日本円で2億4000万円余りに相当する兵器が、それぞれの量や値段とともにリスト化されています。
また、輸送には両国の間に位置するカスピ海に面したイラン側のアンザリ港とアミラバド港や、首都テヘランの空港を利用することが想定されています。
スカイニュースはこの文書が弾薬のさらなる供与に向けたサンプルの売買に関する契約書で「100%本物だ」と話す治安当局者の見方も伝えています。
これまでイランをめぐっては、ロシアに無人機を供与しているとウクライナなどが非難してきましたが、ことしに入り、複数の欧米メディアが、弾薬もロシアに供与している疑いがあると報じていました。
これに対し、イラン政府は弾薬を含めウクライナで使われる兵器の供与を一貫して否定しています。 
●ウクライナの二正面作戦でロシアは股裂き状態 6/6
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が窮地に追い込まれているようだ。
ロシア軍はウクライナ軍による2つの攻勢に直面している。一つはウクライナ軍に協力するロシア人武装勢力がロシアの国境付近で破壊行為を行いながら展開している件。もう一つは、ロシアが占領したウクライナ一部地域の奪還を目指し、ウクライナ軍が準備を進めてきた大規模反転攻勢だ。
国境地帯で続いている無人機攻撃や砲撃は、ロシアの国境防衛が甘く、国境地帯に暮らすロシア市民の安全が確保できていないことを示しており、プーチンとロシア軍にとって恥辱だ。一方の反転攻勢は戦略上の脅威を意味し、ウクライナ側が目的を達成すれば、ウクライナ南部と東部の広い地域をロシアに統合するというプーチンの野望は砕け散る。
有力シンクタンク「国際危機グループ」のロシア担当上級アナリスト、オレグ・イグナトフは本誌に対し、ロシア政府は同時発生したこの2つの問題により、身動きが取れない状態にあると語った。
イグナトフはロシアの戦略立案者について、「彼らには今、選択肢がない」と指摘する。「ウクライナがロシア軍の兵力を分散させようとしていることは彼らもわかっている。ウクライナ側は、ロシアが国境地帯の脅威に攻撃に反応して、ウクライナ国内にいるロシア軍部隊を国境付近に向かわせることを狙っている」と述べた。
せっかくの要塞が空っぽに?
「だが国境のロシア側に兵力を差し向ければ、ウクライナ南部や東部の拠点が手薄になる。ロシア軍は各所で反攻に備えた要塞化を進めてきたが、兵士がいなければ要塞も意味がない」
海外の有識者や超国家主義のロシア人ブロガーは、越境攻撃が行われたことに驚きを表明している。この数週間、ウクライナ軍に協力するロシア人武装組織「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団」がウクライナ側からロシア側へ越境攻撃を仕掛けているのだ。
ウクライナと国境を接するベルゴロドに暮らすロシア人住民はすでに慌てて避難を始めている。反ロシアの武装組織は、ロシア軍の複数の兵士を捕虜にしたとも主張しており、ロシア側に捕えられているウクライナの捕虜との交換交渉を持ちかけている。
米シンクタンク「戦争研究所」は4日に発表した報告書の中で、「ベルゴロド州への攻撃について、ロシア側の反応や報道が少ないことは、ロシア指導部がいまだに対応を決めかねている証拠かもしれない」と指摘した。
1300キロメートルにも及ぶ前線
イグナトフは、ロシア軍の反応が鈍いのは、彼らがウクライナ国内の占領地域の防衛を優先しているためかもしれないと分析。
「ロシア政府とロシア軍は、国境地帯で起きていることの影響を抑え込もうとしている」と、イグナトフは言う。「何も特別なことは起きていないふりをしたいのだ。彼らの言動からは、武装組織はともかく、ウクライナ軍本体がベルゴロドやクルスク地方に侵攻してくることはないだろうとたかをくくっている様子がうかがえる」
だがもしその通りだとしても、一連の攻撃はロシア政府に難しい問題を突きつける。
「両国の国境線、つまり前線は非常に長く、およそ1300キロメートルにも及ぶ」「ロシア軍は、この前線すべてをカバーすることはできない。ウクライナの東部と南部にほぼ全ての部隊を配備しているからだ。彼らはおそらく、ウクライナ軍の反転攻勢が東部のドンバスか南部のザポリージャから行われると予想しているのだろう」
ロシア軍指導部に対する批判が強まる
イグナトフは言う。国境の事態に対する「ロシア当局の反応はとても鈍く、国境付近の住民を避難させ始めるのも遅かった。本来なら、国境地帯の住民すべてを避難させるのが妥当だろう。ウクライナ側に協力するロシア人戦闘員たちがロシア領内に侵入できるなら、国境地帯の村落を攻撃するもできるからだ。住民にとって危険は大きい」
一連の越境攻撃に、以前からウクライナへの攻撃が手ぬるいと主張してきたロシアの超国家主義者やブロガーらは憤っている。ロシア国内で親ウクライナの工作員がドローンによる攻撃や破壊工作を行っている疑いも浮上している上、一連の越境攻撃が起きたことで、ロシア軍の信頼はさらに揺らいでいる。
米戦争研究所は報告書の中で、ベルゴロド州に無人機攻撃や砲撃を許していることが、「ロシア軍指導部に対する批判の中心になりつつある」と指摘した。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者で、ロシア正規軍の悩みの種でもあるエフゲニー・プリゴジンは、必要とあればワグネルの傭兵を国境地帯に介入させる用意がある」と述べた。
「政府の対応が遅すぎる」と著名ブロガー
プリゴジンはツイッターに「我々が求めるのは弾薬だけだ」と書き込んだ。「ロシア国防省がベルゴロドで起きていることを阻止しないならば、もちろん我々がベルゴロドに向かい、ロシア国民とそこに暮らしている全ての人を守るつもりだ」
元ロシア連邦保安局(FSB)将校で現在はブロガーとしてロシア政府を頻繁に批判しているイーゴリ・ギルキンは、ロシア政府はベルゴロドへの襲撃に対する反応が遅すぎると言う。
ギルキンはメッセージアプリ「テレグラム」上で、ウクライナ軍について「彼らはロシア連邦を内側から弱体化させるという一番の目的を達成しようとしている」と指摘。ウクライナはロシアに有利な冬の攻勢を耐え忍ぶ間も、何カ月もかけて部隊の強化と訓練を行ってきた、という。
「政府が長年にもわたってあらゆる方法で侮辱してきた敵が、ロシア市民を殺害し建物を破壊しても罰することもしないとは、市民のロシア当局への怒りを掻き立てるのにこれ以上の方法があるだろうか」とギルキンは書き込んだ。
●ウクライナ侵攻 旧ソビエトで低下するロシアの影響力 6/6
ウクライナに軍事侵攻するロシアに対し、旧ソビエト諸国では、これまで結びつきの強かった国々の間でも、ロシアの影響力の低下が顕在化する事例が相次いでいます。
こうした変化は、この地域の地政学な情勢を揺るがし、プーチン政権やウクライナ情勢にも影響を及ぼしかねません。その動きについて見ていきたいと思います。
旧ソビエトの国々
まずソビエトを構成していた国々を見ていきます。プーチン大統領は、旧ソビエトを自国の勢力圏と位置づけてきました。しかしバルト3国はEUやNATOに加盟し、ロシアの軍事侵攻を受けているウクライナ、武力衝突のあったジョージア、親欧米路線を強めるモルドバはEU加盟を申請し、旧ソビエトからの脱却を目指しています。
こうしたなかでロシアが関係を重視してきたのは、ベラルーシ、コーカサスのアルメニア、そして中央アジアの国々です。プーチン大統領が先月、ロシアの最も重要な祝日である、ナチスドイツに対する戦勝記念日の式典に招いたのもこれらの国々の首脳でした。しかしなかでも、このところアルメニアや中央アジアの姿勢に変化が見られ、それぞれの地域情勢を大きく変える可能性をはらんでいるのです。
アルメニアの姿勢の変化
まずロシア離れを進めるアルメニアについて見ていきます。
アルメニアはコーカサスにある人口300万の国で、ロシアとは安全保障と経済で同盟関係にあります。最大の外交課題は、隣国アゼルバイジャンとの間の30年以上にわたる紛争です。両国は、アルメニア系住民が多く住むアゼルバイジャン領のナゴルノカラバフの帰属をめぐって対立し、1990年代、直近では2020年に大規模な戦闘となりました。
注目されたのは、パシニャン首相の先月の発言です。ナゴルノカラバフについて、地元住民の安全が保証されることを条件に「アゼルバイジャン領と認める用意がある」と表明しました。領土問題でアゼルバイジャン側に大きく譲歩する方針を鮮明にしたものでした。
なぜアルメニアは譲歩
なぜパシニャン首相は譲歩することにしたのでしょうか。
そこには、後ろ盾と考えてきたロシアから十分な支援を得られていないという不満があります。アルメニアは2020年の戦闘で、トルコから支援を受けたアゼルバイジャンに事実上敗北しました。一方ロシアのプーチン政権は、アゼルバイジャンやトルコと対立を避けたいという思惑を強めました。ウクライナに侵攻後、アルメニアに肩入れする余裕はいっそうなくなり、後ろ盾から交渉の仲介役へと立場を変化させています。このためパシニャン首相は、アゼルバイジャンとの対立を抜本的に解決しなければ、自国の安全を守ることはできないと危機感を強めたと考えられます。パシニャン首相は、EUやアメリカの仲介も積極的に受け入れ、ロシアに頼らない外交を模索しようとしています。アルメニアとアゼルバイジャンの対立が解決に向かえば、欧米やロシア、トルコを巻き込んだコーカサスをめぐる地政学的な情勢も大きな変化を迫られることになるでしょう。
中国と関係強化をはかる中央アジア
ここからは中央アジアの国々と中国の関係強化の動きについてです。
先月、G7広島サミットと並行して中国と中央アジアのサミットが開かれました。
習近平国家主席は、シルクロードの起点、西安で中央アジア5か国の首脳を手厚くもてなし、内外に関係強化をアピールしました。
2日間にわたるサミットの結果、発表された共同声明では、習主席肝いりの表現である「運命共同体」の構築を宣言。新たな協力の枠組みを発足させました。北京に常設の事務局を置いて2年ごとの首脳会議の開催で合意するとともに、中国から日本円で5000億円を超える融資、支援が表明されました。中国がロシアの伝統的な影響圏にさらに一歩踏み込み、中央アジアの国々にとってもロシアに依存しすぎない、いわば保険を新たに手にしたと言えるでしょう。このサミットは中国がG7サミットに対抗して開いたものと受け止められましたが、ロシアのほうが、ここまでの本格的な関係強化に驚いたのではないでしょうか。中央アジアをめぐるロシアと中国の力関係が変わる契機となるかもしれません。
一線画すカザフスタンの立場
中央アジアのなかでもカザフスタンは、ロシアと一線を画す姿勢を示しています。
トカエフ大統領は去年、ウクライナ東部の州の独立を認めることはないと表明しました。さらに先月も、ロシアがベラルーシに戦術核の配備を決定したことを踏まえ、「核兵器まで共有する2国1制度」と指摘し、カザフスタンはロシアとの間で核兵器を共有する意思はないと明言しました。ウクライナと同じようにロシア系住民を多く抱え、ロシアと長い国境を接するカザフスタンは、ウクライナ侵攻を懐疑的に見てきました。またソビエト時代、核実験の被害を受けてきたことから、ソビエト崩壊後、核を放棄して非核地帯を宣言し、核兵器禁止条約にも参加しています。トカエフ大統領の発言は、国の主権や核兵器をめぐって、ロシアとの間には一線を引くべきだという立場を明確にしたものと言えるでしょう。
各国国民の立場の変化は
では、ここからは各国国民のプーチン政権に対する姿勢の変化を見ていきます。
アメリカの世論調査会社ギャラップが先月発表した調査では、去年ロシアによるウクライナ侵攻後、旧ソビエトの国々のほとんどでロシア指導部、つまりプーチン政権に対する支持が低下したことが見て取れます。このうちウクライナでは、2014年のクリミア併合で支持と不支持が逆転し、去年のウクライナ侵攻でプーチン政権に対する不支持が100%ちかくにまで上昇しました。アルメニアではウクライナ侵攻で去年、支持と不支持が逆転。支持が13ポイント低下したのに対し、不支持は20ポイント上昇しました。カザフスタンも同様で、不支持が支持を上回りました。不支持の割合はおよそ50%に達しています。各国の国民レベルでもロシア指導部に対する支持が低下し、ウクライナ侵攻が決定的なインパクトを与えたことを示しています。
面従腹背の傾向
プーチン大統領は、ウクライナ侵攻後も折に触れて旧ソビエトの結束を訴えています。しかし現状を見ていますと、ロシアが従わせることができるのはベラルーシだけで、これまで結びつきの強かった国々との間でも、広がった溝を隠すことはできず、面従腹背の傾向が現れているように思うのです。ウクライナに侵攻したロシアの姿勢に、おなじ旧ソビエトだった国々は警戒心を拭い去ることはできないのだと思います。特徴的なのは、各国がロシアとの関係を断ち切ることはできないことを理解し、プーチン大統領に反ロシアと受け止められないよう慎重に行動していることです。プーチン大統領もこうした現状に不満を強めていると見られますが、各国の信用を回復していくのは容易ではありません。
終わりに
こうしたロシアを取り巻く国々、ユーラシア中心部の地政学的な変化は、ロシアと対立する欧米、さらにロシアの隣国である日本にも影響してくるでしょう。欧米や日本にとっても、ロシアや中国の動向を見ながら、旧ソビエトの国々にどう関わっていくのか、時宜をとらえた対応をとることが重要性を増していくように思います。
●ウクライナ、ダム爆発を戦争犯罪として捜査 6/6
ウクライナ検事総長事務所は6日、南部ヘルソン州カホフカ水力発電所のダムが爆発したことを受けて、戦争犯罪として捜査していることを明らかにした。「エコサイド」(環境の大量破壊行為)の疑いでも捜査を進める。
同事務所はロイターに対し「緊急捜査」を開始したと述べた。
ウクライナは、ロシアなどとともに国内法でエコサイドを犯罪としている数少ない国の一つ。刑法441条でエコサイドを「動植物の大量破壊、大気や水資源の汚染、その他環境災害を引き起こす可能性のある行為」と定義している。
●ウクライナ大統領、教皇庁特使と会談 和平巡り協議 6/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、首都キーウ(キエフ)で教皇庁の特使と面会し、ウクライナ戦争を巡って協議した。ウクライナ平和計画の実施への貢献を教皇に要請したという。
ゼレンスキー氏は特使との会談後、メッセージアプリ「テレグラム」に、「団結した取り組みとロシアの外交的孤立、ロシアへの圧力だけが、侵略者に作用しウクライナの地に公正な平和をもたらすことができる」と投稿した。
●原発の取水ダム爆破、決壊 ウクライナの反転攻勢「妨害」か―ロシアは否定 6/6
ウクライナからの報道によると、ロシアが一方的に「併合」を宣言した南部ヘルソン州で6日、ドニエプル川に設置されたカホフカ水力発電所のダムが爆破され、決壊した。ロシアが占拠するザポロジエ原発はダムの貯水池から取水しているが、原発への影響は現時点で伝えられていない。
これより先、米紙ニューヨーク・タイムズは、ウクライナ軍がロシアからの占領地奪還に向けた反転攻勢に着手した可能性が極めて高いとする米当局者の見解を報道。ウクライナのポドリャク大統領府顧問はダム攻撃についてCNNテレビに、ウクライナ軍の攻勢を妨害する目的でロシア軍が実行したと非難した。
ウクライナ政府は国家安全保障・国防会議の緊急会合を開催し、ダムが紛争時の保護対象になると定めたジュネーブ条約に違反するとして、国連安全保障理事会に提起する方針などを確認した。ゼレンスキー大統領は動画で、既に住民の避難は始まっているものの、80の町や村が水に漬かったと述べた。AFP通信が当局者の話として報じたところでは、避難対象者は1万7000人に上るという。
これに対しロシア側の地元当局者は国営タス通信に、ウクライナ軍による攻撃が原因だと主張し、関与を否定した。ロシア連邦捜査委員会は、決壊を受けて捜査開始を発表した。被害状況などについても明らかにする方針だという。
ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムは通信アプリで、原発は「制御下にある」と説明。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は定例理事会で、「原発の安全に差し迫った危険はない」との見方を示した。ダムの水位は低下しているものの、水のくみ上げは可能で、他にも多くの代替水源があるという。ダムは1956年に建設され、高さは30メートルに上るとされる。

 

●ダム破壊、ロシアが攻撃とウクライナや西側非難−戦争は新段階に 6/7
ウクライナ当局は6日、南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムをロシア軍が爆破したと発表した。ウクライナが領土回復の戦闘を強める中で、双方の陣地を激流が襲った。
ウクライナ内務省は通信アプリのテレグラムに投稿し、ドニプロ川西岸に位置する10の村落とヘルソン市の一部に洪水のリスクがあるとして、住民に避難準備を呼び掛けた。
穀物に直接の影響はないが、6日の取引では供給懸念から小麦価格が3%上昇。先週付けた2年半ぶり安値からの反発が続いている。農作物市場分析会社ソフエコンのマネジングディレクター、アンドレイ・シゾフ氏はダムの破壊で、事態は「大きくエスカレートしたとみられ、市場に甚大な影響を持つ悪いニュースや恐ろしい結果が生じるリスクが伴う」とツイートした。
ウクライナのゼレンスキー大統領はスロバキアで開かれた東欧諸国首脳との会合で、ダムの破壊を「欧州での人為的な環境破壊としてはこの数十年で最悪の事態だ」と糾弾。ロシア軍は1年以上にわたりこの水力発電所を支配した上で、「爆破した」と語った。
インタファクス通信によると、ロシアはダム破壊に「一切関与していない」とペスコフ大統領府報道官が記者団に発言。ダム決壊はウクライナ側の破壊工作が原因だと述べたという。
ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は、ロシア大統領府の主張は「ナンセンス」だと反論した。
北大西洋条約機構(NATO)の高官は、最近の軍事作戦の激化でウクライナの反転攻勢は始まった可能性があるとの認識を示した。洪水について責任の所在を判断するのは時期尚早だとしつつ、ウクライナ軍の攻撃を恐れたロシアにはその動機があったと考えられると付け加えた。
ドイツのショルツ首相はRTLのインタビューで、「ダムへの攻撃は長らく恐れていた事態だ。ウクライナが自国を守るための攻勢を妨害しようと、ロシア側が仕掛けた攻撃だ」と述べた。インタビューは6日に放送される。
NATOのストルテンベルグ事務総長は「ロシアの残虐性が再びあらわになった」と発言。NATOは来月にリトアニアで開く首脳会議でウクライナ支援を強化する「重大な」決定を下すとし、それにより「ウクライナはNATOに近づく」と述べた。
ここ数日で戦線はウクライナ東部と南部の複数に拡大。洪水でドニプロ川対岸のロシア軍は後退を強いられ、ウクライナ支配地域への砲撃は弱まる可能性があると、ウクライナ軍南部作戦司令部のフメニュク報道官がラジオ・リバティーのウェブサイト上で述べた。
ウクライナは1年前から繰り返し、同国軍の進軍を食い止めようとロシアがダムを爆破する可能性を警告していた。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は6日、ロシアが洪水でウクライナ軍にとって「乗り越えられない障害」をつくり出そうとしたとし、「甚大な環境被害」が生じるだろうとツイートした。
ウクライナ軍参謀本部がフェイスブックで報告したところによると、5日深夜から6日未明にかけて同国に対しロシアが巡航ミサイル35発を発射したが、全て迎撃した。ウクライナ側はロシア軍に19回の空爆を実施したという。
洪水が懸念される地域にはヘルソン市のほか80余りの集落があり、「被災者は数十万人に上る可能性がある」と、ウクライナのナイエム・インフラ担当副大臣がツイッターで指摘。カホフカ水力発電所はロシアがウクライナの送電網から切り離していたが、300万人余りに電力を供給しており、「ウクライナのエネルギーインフラにとって欠くことのできない一部」だとナイエム氏は述べた。
6日朝の時点では8つの村落とヘルソン市の一部が部分的または完全に水没し、約1万6000人が「危機的な地帯」にいると、ヘルソン州トップがテレグラムに投稿した動画で伝えた。これまでに州内のウクライナ側支配地域では約750人が避難したと、クリメンコ内相が明らかにした。
ウクライナ南部にあるザポリージャ原子力発電所は、カホフカの貯水池から冷却水を取水している。同原発はこの1年余り、ロシア軍に占拠されている。
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は発表文で、「原発の安全性に差し迫ったリスクはない」としつつ、冷却池が損なわれず維持されることが引き続き「極めて重要だ」と述べた。
●「人々が巻き込まれた」ウクライナの巨大ダムが破壊で大規模洪水 6/7
ゼレンスキー大統領が公開したダムが破壊されたとする映像には、大規模な洪水が発生。住民が避難する事態となっています。また、ロシアでは“偽のプーチン大統領演説”が流されるなど、情報戦が激化しています。
大量に流れた水が町をのみ込もうとしています。ウクライナ南部ヘルソン州にあるカホフカ水力発電所のダムの決壊。大規模な洪水が起こり水位が急上昇しました。地元の知事は“近く水位が危険的なレベルに達する”とし、市民に避難を呼びかけました。
住民「洪水が起きている。すべてが水に浸かった。次は何が起きるのか誰にもわからない」「鳥も死に、すべての生き物が死んでしまう。人々も洪水に巻き込まれた」
ゼレンスキー大統領はロシア側がダムを破壊したと主張。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ウクライナ全土からロシアのテロリストを追い払わなければならない」
一方、ロシアの大統領報道官は…
ロシア ペスコフ大統領報道官「ウクライナによる意図的な破壊工作であり、ゼレンスキー政権の命令で計画・実行された」
ロシア・ウクライナ双方は相手側の攻撃によるものだと非難しました。
また、ダムの水は南部のザポリージャ原発の冷却水としても使われています。IAEA=国際原子力機関は、冷却水を供給する貯水池の水位が1時間に5cm低下していることを明らかにしたうえで、いまのところ「安全性に差し迫った危険はない」としています。
ウクライナ軍の反転攻勢への注目が高まる中、情報戦は激化。ウクライナと国境を接するロシアの一部地域では、ラジオやテレビでこんな放送が流れたといいます。
ラジオで流れた偽のプーチン大統領演説とされる音声
「私の命令で戒厳令が導入された。きょう私は総動員令にも署名する。危険で裏切り者の敵を倒すにはロシアの全軍を結集する必要があるからだ」
“プーチン大統領の緊急演説”だとする偽の放送。ウクライナ軍がロシアとの国境を越えたとし、周辺住民に避難するよう呼びかけました。また、ロシアで全国的に兵士の動員が開始されたとしています。
大統領報道官は「ハッキングされたものだ」とすぐさま否定。政権として住民の動揺の広がりに神経を尖らせているとみられます。
●破壊されたダムの下流、数千人が避難 ウクライナは4万人超が避難必要と 6/7
ウクライナ南部ヘルソン州のロシア支配地域にある水力発電所のダムが決壊したことで、ドニプロ川の下流では数千人が避難している。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ノヴァ・カホフカにあるカホフカ・ダムが6日未明に決壊した後、80町村が浸水する可能性があると述べると共に、ロシアがダムを決壊させたとした。
ドニプロ川に大量の水が流出しており、下流のヘルソン市は壊滅的な洪水の危険に直面しているとされる。
カホフカ・ダムを管理しているロシアは破壊行為を否定。ウクライナの砲撃によるものだとしている。
双方の主張ともBBCは検証できていない。
巨大なカホフカ貯水池の下流にあるカホフカ・ダムは、地域の農家や住民らに水を供給すると共に、欧州最大のザポリッジャ原発にも冷却水を供給している。また、ロシアが占拠しているクリミア半島への重要な水路の一部にもなっている。
ウクライナの原子力事業者エネルゴアトムは、下流への水の流出のピークは7日朝との見通しを示し、注意を呼びかけた。その後、「安定化」の期間となり、水は4〜5日間で急速に引くだろうとした。
「原発に直ちにリスクない」
国際原子力機関(IAEA)は、ザポリッジャ原発の状況について、管理ができており、「直ちに原子力安全上のリスクはない」としている。
複数の映像によると、ダムの決壊部分から大量の水が噴き出ている。いくつかの町はすでに浸水しており、より下流の地域で暮らす人々はバスや電車での避難を余儀なくされている。
ウクライナのテレビでは、同国のヴィクトリヤ・リトヴィノヴァ副検事総長が、ドニプロ川の西側のウクライナ領で1万7000人、東側のロシア支配地域で2万5000人が避難の必要があると説明。イホル・クリメンコ内相は、これまでに約1000人が避難し、24の集落で浸水被害が出ていると述べた。
内相はまた、住民が非難しているヘルソン南部をロシアが砲撃したと非難。住民らに対しては、水位上昇で地雷がむき出しになっており危険だと注意を呼びかけた。
カホフカ・ダムの近くに住むアンドリイさんは、ロシアが街を「溺れ」させようとしていると語った。同ダムはロシアが昨年2月にウクライナに本格侵攻を始めた直後からロシア軍が押さえている。
ウクライナ管理下のヘルソン市では、リュドミラさんという女性が、洗濯機などを古い車に連結したトレーラーに積んでいた。「洪水が怖い。少し高いところに家の物を運んでいる」と言い、ロシア軍については「ここから追放してほしい。(中略)私たちに向けて銃撃している。私たちを水浸しにするなどしている」と話した。
同じくヘルソン市で暮らすセルヒイさんは、「ここですべてが死ぬ」のを恐れていると心境を説明。近くの家や庭を手で示しながら、「すべての生き物や人が流される」と言った。
ロシアが制圧しているノヴァ・カホフカの川岸では、ロシアが任命したウラジミール・レオンティエフ市長が、街が水没して900人が避難していると説明した。
市長によると、同市と近隣の2集落から住民を安全な場所に移動させるため、避難用のバス53台を当局が手配したという。水位は11メートルを超え、住民の中には病院に運ばれた人もいるという。
小さな町オレシキーでも大規模な浸水が発生したと、ロシアが任命した町当局者らが明らかにした。
ロシア支配地域の川岸にあるカズコヴァ・ディブロワ動物園はフェイスブックに、同園が完全に浸水し、約300匹いたすべての動物が死んだと投稿した。
カホフカ・ダム決壊の原因について、ウクライナ軍の情報機関はロシアが意図的に爆破したとしている。
ロシア側は、ウクライナ軍が反転攻勢でダムの道路を通ってロシア支配地域に進入することを恐れていた節がある。そのことからすると、ウクライナ側の見方は理にかなっていると思われる。
ウクライナ南部の支配地域を死守したいロシアにとっては、カホフカ・ダムは明らかに問題だった。
ウクライナ軍は昨秋、ドニプロ川下流の道路や鉄道橋を攻撃し、ロシア軍をヘルソン周辺で孤立させるのに成功した。ロシアはウクライナによる多方面からの反撃を恐れており、ダムの破壊に踏み切ったのかもしれない。
   カホフカ・ダムとその周辺の地図
一方、ロシア政府関係者は、ウクライナが反転攻勢と、クリミア半島に真水が届かないようにするのに「失敗」したことを目立たなくするため、ダムを攻撃したと主張している。
ウクライナの大規模な反撃はしばらく前から予想されている。ウクライナは予告はしないとしているが、ここ数日の軍事活動の増加は反撃の開始を示しているとみられている。
ゼレンスキー大統領は6日夜のビデオ演説で、ダムの破壊がウクライナを止めることはないと強調。「私たちはすべての領土を解放する」と述べた。
ウクライナ国防相顧問のユーリ・サク氏は、BBCラジオ4の番組で、ロシアが別のダムも狙っていることが、傍受された電話の内容からうかがえると説明。「(ロシア側は)ドニプロ川のダムをもっと爆破するよう指示している」と述べた。
ウクライナは、今回のダム攻撃を「エコサイド」(環境の大規模破壊)と呼び、エンジンオイル150トンがドニプロ川に流出したと明らかにした。
ウクライナの水力発電関連の事業者は、カホフカ・ダムとつながる発電所について、「完全に破壊された。(中略)水力発電の構造物が流されている」とした。
各国の指導者らは、今回のダム決壊はロシアの責任だと主張。戦争犯罪だとする人もいる。
イギリスのリシ・スーナク首相は、ロシアのせいだと判明すれば、「ロシアの侵略が新たなレベルへと悪化したのを示すことになる」と述べた。
北大西洋条約機構(NATO)イェンス・ストルテンベルグ事務総長は、ダム破壊はウクライナでのロシアの戦争における残虐性を改めて示したと発言。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は「前例のない攻撃に衝撃を受けている」と述べた。
戦争でダムを標的にすることは、民間人に危険が及ぶことから、ジュネーヴ条約で明確に禁止されている。
●ロシア国防相「ウクライナが各地で反転攻勢を開始した」と主張 6/7
ロシアのショイグ国防相は、ウクライナ軍が各地の戦線で反転攻勢を開始したと主張しました。イギリス国防省は「戦線での戦闘が大幅に増えた」と指摘するなど、領土奪還に向けたウクライナ軍の動きが新たな局面に入っている可能性が出ています。
ロシアのショイグ国防相は6日、声明を発表し「ウクライナは3日間にわたり、各地の戦線で反転攻勢を開始した」と主張しました。
声明では、ロシア軍の兵士71人が死亡し、210人がけがをしたものの、攻撃は阻止され、ウクライナ側は3700人余りの兵士と、およそ400の戦闘車両などに被害が出たとしています。
一方、ウクライナ国防省は5日「ロシア軍は情報戦や心理戦を強化し、偽の情報を広めてくる」と指摘しながら、大規模な反転攻勢については「開始の宣言はない」とするにとどまっています。
イギリス国防省は6日「この48時間、戦線での戦闘は、比較的静かだった場所も含めて大幅に増加した」と指摘しています。
また、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは5日、砲撃やミサイル発射を追跡できる機能を持つアメリカ軍の人工衛星が、ウクライナ軍の動きが活発になっていることを捉えたとして、反転攻勢が始まった可能性があると伝えるなど、領土奪還に向けたウクライナ軍の動きが新たな局面に入っている可能性が出ています。
こうした中、ウクライナ南部の水力発電所のダムが決壊して洪水が起き、ゼレンスキー大統領は6日「ロシアのテロリストが発電所の内部を爆破した」として、ロシアを強く非難しました。
ダムは、ロシアが占拠しているザポリージャ原子力発電所にも冷却水を供給しているということで、IAEA=国際原子力機関は現時点で原発の安全への影響はないとしていますが、ウクライナの水力発電公社は、ダムの貯水池の水位が急激に下がっていて原発をさらに危険な状態に追いやっているとして懸念を強めています。
●国連事務総長、ウクライナのダム破壊は「戦争が与える恐ろしい代償」 6/7
国連のグテーレス事務総長は6日、ウクライナ南部ヘルソン州ノバカホウカのダムが破壊されたことを受け、米ニューヨークの国連本部で緊急会見をした。ダムの破壊を「大惨事」と表現し、「民間人や重要な民間インフラに対する攻撃は止めなければならない」と訴えた。
破壊の原因について、ウクライナ軍は「ロシア側による爆発」、ロシア軍は「ウクライナ側の攻撃」と非難し合っており、詳細は明らかでない。グテーレス氏は、国連が独自に調査する方法を持っていないと説明しつつ、「はっきりしているのは、これもロシアのウクライナ侵攻による壊滅的な結果だ」と述べた。
これまでに、国連が確認しているだけで、ヘルソン市やドニプロ川沿いにある80ほどの街や村で影響が出ているという。グテーレス氏は「少なくとも1万6千人が家を失い、さらに何千人もの人々が安全で清潔な飲み水の供給を脅かされている」とした。また、ダムの水が欧州最大規模のザポリージャ原発の冷却にも使われていることから、同原発への影響も懸念した。
国連は今後、人道支援団体やウクライナ政府と連携しながら、現地の支援を行う。グテーレス氏は「今日の悲劇は戦争が人々に与える恐ろしい代償を示す新たな例となった。苦しみの水門は、1年以上にわたってあふれ続けている。それを止めなければならない」と主張した。
●プーチンの“影武者伝説” 西側記者に肝いりイベント出禁通告の不可解 6/7
コロナ禍以降、ひきこもり傾向を強めてきたロシアのプーチン大統領がまた怪しい動きだ。クレムリンを通じて3日(現地時間)、14日から故郷で開くサンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)について、「非友好国」のジャーナリストによる取材を認めないと発表。要するに、ウクライナを支援する西側の記者に「出入り禁止」を通告したわけだ。
1997年に始まったSPIEFはダボス会議のロシア版と位置付けられ、郷土愛の強いプーチンの肝いりイベントとしても知られている。世界の投資を呼び込む舞台装置で、これまでは洋の東西を問わずオープンだった。折しも、ウクライナが大規模な反転攻勢を仕掛けている。欧米メディアからの関連質問を回避する狙いなのか。あるいは、公然の秘密とされてきた影武者を立てるからなのか。
元時事通信モスクワ支局長の名越健郎氏(拓殖大特任教授)は「影武者説が流れ始めたのは、昨年12月にプーチン氏がクリミア大橋を視察したあたりから。普段は閣僚を遠ざけて座るのに、助手席に副首相を乗せ、ハンドルを握る姿は不自然だと指摘が上がりました」と、こう続ける。
「クレムリンの内部情報に詳しい謎のブロガー『SVR(対外情報庁)将軍』は、〈プーチンの健康悪化を受けて、大統領の参加が必要なイベントでは、必要に応じて替え玉を使い、画像・映像修正技術を駆使することが2022年7月に決まった〉とSNSに投稿していて、クリミア大橋の大統領も影武者だと断じている。首脳会談や重要演説はさすがに本人がこなすものの、地方視察や儀礼的イベントは替え玉に回しているとみられています。SPIEFの目玉として招待したブラジルのルラ大統領に断られ、これといった大物ゲストもいないことから、本人出席が怪しくなっているのかもしれません」
昨年後半以降のプーチンは神出鬼没だという。クリミア半島とウクライナ南東部マリウポリなどを2日かけて視察した翌日から3日間、モスクワで中国の習近平国家主席と会談。健康不安をよそに、アグレッシブにあちこち動き回っている。BS-TBS「報道1930」(5月22日放送)によると、AIを利用した顔認証システムの分析では、クリミア大橋視察の本人との一致率は53%だったという。
本人があの世に行ったら、侵略戦争はどうなるのか。まさか影武者が引き継ぐのか……。
●「第三次大祖国戦争」論を多くのロシア国民は支持している 侵略背景の世界観 6/7
ロシア側の荒唐無稽な世界観
2022年2月の開戦から1年を経たが、ウクライナ侵略戦争は終結のきざしさえ見せず、それどころか、宇露両軍の新編・再編部隊の戦力化を得て、今夏にはよりいっそうの戦闘の激化が予想される形勢である。
そのなかにあって、侵攻開始当初、「特別軍事作戦」の目的は、安全保障とウクライナの「ナチス」を打倒することだとしていたロシアは、そうした主張をさらに進めて、自分たちは防衛戦争を遂行していると呼号(こごう)するに至った。外敵、すなわちアメリカをはじめとするNATO諸国の攻撃を受け、「第三次大祖国戦争」(この言葉の含意〔がんい〕については後述する)を強いられたというのだ。
なんとも荒唐無稽(こうとうむけい)な言説というほかないが、かかる理解はおそらく彼らの集合的・歴史的経験にもとづくもので、それゆえ、ロシア国民に対しては少なからぬ影響をおよぼしていると思われる。
本稿では、まず、このような世界観がどこから生じてきたのかを概観し、しかるのちに、そうしたロシア人の認識にいかに対応すべきかについて、少考を述べることとしたい。ただし、筆者は、現代史と用兵思想を専門としているので、以下の行論はおのずから、地域研究や現状分析ではなく、それらの視座にもとづくものとなることをお断りしておく。
継承されたソ連の公式史観
1991年、ソヴィエト連邦は崩壊した。当時のゴルバチョフ政権に対する保守派のクーデター失敗に前後して、バルト三国、グルジア(現ジョージア)、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンなどが陸続としてソ連邦を離脱、独立を宣言する。
超大国は消え去り、あとに残されたソ連の後継国家、ロシア連邦の国民は、歴史的アイデンティティの問題に苦しむことになった。ある側面からみれば、ソ連の歴史は、圧政と侵略、軍国主義の連続であり、許されざる非道の末に滅びを迎えたとも解釈できるからだ。それゆえ、ロシア国民の過去に根ざした矜持(きょうじ)は大きく揺らいだのである。
2000年に大統領選に勝利して、ロシアの指導者となったプーチンは、かくのごとき「危機」に、ソ連の歴史的偉大さを訴え、その後裔(こうえい)たるロシア国民の誇りを説く政策でのぞんだ。当然のことながら、そうしたアプローチを取る際に、とりわけ強調されたのは、厖大(ぼうだい)な犠牲を払って得られた第二次世界大戦の勝利であった。
もっとも、2000年代の、ソ連史を模範とする愛国心醸成(じょうせい)政策においては、負の遺産もなお抹消されてはいなかった。プーチンといえども、スターリンが、国民に抑圧のくびき(、、、)をかけ、塗炭(とたん)の苦しみを嘗めさせた独裁者であることは否定できなかったのだ(西山美久『ロシアの愛国主義』、法政大学出版局、2018年)。
しかしながら、プーチン政権が大国への復帰をめざす政策を取り、その前提条件である国民統合を強化する必要が高まるにつれ、こうしたソ連史の「漂白(ひょうはく)」と規範化にも拍車がかかった。とくに第二次世界大戦史については、かつてのソ連公式史観への回帰がはなはだしくなり、学問的研究にも圧力がかかるようになったのである。極端な場合には、それが外国人研究者にまでおよんだ例もみられる。
1982年生まれのドイツの軍事史家ゼバスティアン・シュトッパーは、2011年にフンボルト大学(ベルリン大学)に提出した学位論文ほかで、ドイツ軍の攻勢を正面から受け止め、これを撃退したということにされてきた、1943年のクルスク会戦のある側面に重大な疑問を投げかけた。ソ連軍の勝利には、祖国解放を切望するパルチザンの活躍が大きく貢献していたとの「神話」を否定したのだ。
彼は、ドイツや東欧諸国の文書館に所蔵されている史料を精査し、「ソ連の歴史プロパガンダによって喧伝(けんでん)されてきたパルチザン戦争の軍事的な有効性は、実際には最小限のものでしかなかった」、「ドイツ軍のクルスク攻撃は、ブリャンスクの森〔当時のドイツ軍戦線の後背地〕にいたパルチザンがあらゆる犠牲を払ったにもかかわらず、いうに足るような妨害は受けなかった」との結論をみちびきだしたのである。
シュトッパーの学説に対するロシア政府の反応は、ヒステリックと形容してもさしつかえないであろうものだった。2014年6月、ドイツのウェブマガジン『シュピーゲル・オンライン』が報じたところによると、シュトッパーの著作は「過激派文書」のリストに入れられ、しかも、イタリアの独裁者ムッソリーニの著書のすぐあとに置かれたという。以後、シュトッパーは、「入国拒否対象(ペルソナ・ノン・グラータ)」とされ、ロシアでは「ネオナチ」として誹謗中傷されることになった(ローマン・テッペル『クルスクの戦い 1943』、大木毅訳、中央公論新社、2020年。〔 〕内は筆者の補註)。
このシュトッパー事件が端的に証明しているごとく、ソ連の公式史観、とくに第二次世界大戦に関するそれは、ロシアにおいては、疑うことを許されぬ正史となり、国民の教育と歴史認識の土台とされていったのである。
ソ連にも第二次世界大戦勃発の責任がある
2010年代に、クリミア侵攻などにより、ロシアが武力による現状変更も辞さぬことがあきらかとなり、自由主義諸国との関係が悪化するにつれ、ソ連公式史観への回帰と歴史認識の統制はいよいよ進行した。
その重要な一里程となったのは、2019年の欧州議会の声明をめぐる応酬(おうしゅう)であったろう。この年の9月、欧州議会は、2度目の欧州大戦開始(1939年)80周年を契機として、「ヨーロッパの将来に対する記憶の重要性」という声明文を採択した。そこに示された認識は、ドイツのみならず、ソ連にも第二次世界大戦を引き起こした責任があると非難するものであった。
当時のソ連はナチス・ドイツと不可侵条約を結んだばかりか、付属の秘密議定書で中・東欧をそれぞれの勢力圏に分割することを定めた。その合意にしたがい、ソ連軍は、西から攻め入ったドイツ軍に呼応して、自らもポーランド東部に侵入した。スターリンのソ連は、ヒトラーのドイツとともに第二次世界大戦を引き起こしたのである。かくてヨーロッパにもたらされた未曾有(みぞう)の惨禍をしかと記憶し、スターリニズムやナチズムの再生を拒否すべしというのが、この声明の趣旨だった。
イデオロギー的戦争準備
プーチンが、これに激しく反発したことはいうまでもない。だが、彼が反論の根拠として持ち出したのは、やはりソ連時代の公式史観をなぞった歴史認識でしかなかった。
ソ連がナチスと不可侵条約を結んだのは、必ずや生起するであろうドイツとの対決に備えて、時間をかせぎ、防備を固めるための苦渋の選択であった。北欧や東欧における領土拡張も、対独戦に向けて防御態勢を固めるためにやむなく行ったことである。何よりも、ドイツ軍の主力を一手に引き受け、戦闘員のみならず、一般国民までもがすさまじい犠牲を払って、ファシストに対する勝利を決定的とした国家こそ、ソ連なのだ……。
むろん、史実に即してみるならば、このプーチンの解釈、ひいてはソ連の公式史観は、後知恵によって、醜行(しゅうこう)の糊塗(こと)・隠蔽(いんぺい)をはかる議論だというほかない。かかる歪曲(わいきょく)によって、捕虜となったポーランド軍将校の大量殺害、「カティンの森」事件に象徴されるような、ソ連に占領されたポーランド東部やバルト三国の国民に加えられた、人間の尊厳を踏みにじる犯罪を弁護することは不可能なのである。
にもかかわらず、プーチンは、ロシアの公的歴史認識をソ連のそれに同質化させ、あまつさえ、2021年には第二次世界大戦におけるソ連とドイツの役割を同一視することを禁じる法律を制定した。およそ言論の自由を踏みにじる行為ではあった。けれども、よくいわれるように「歴史は過去に対する政治」であるとの一面を持つ。その意味では、こうした処置は当然だったといえる。
プーチンが、ソ連の最盛期の領土を取り戻し、また、かつての東側ブロックに相当する領域を再びロシアの勢力圏に収めることを、自らの政治目的としているとの主張は、定説とはいわぬまでも、少なからぬ説得力を有する議論であろう(彼が2005年の年次教書演説で、ソ連崩壊は「20世紀最大の地政学的悲劇」だったと公言したことを想起されたい)。
もし、プーチンがそうした政策を追求していると仮定するなら、その正統性を支えるのは、当該地域は、ソ連が第二次世界大戦でなみなみならぬ犠牲を払い、血であがなったものであり、必然的に後継国家のロシアが相続すべきだとする歴史観、あるいはフィクションなのだ。つまり、現在の拡張政策を理論武装するためには、かつてのソ連の侵略行為をそれと認めることは許されないのである。
事実、今次のウクライナ侵略戦争でも、同様の認識が示され、かつ、その重要な動機づけの一つとなっていると推測される。いわば、2019年以後にプーチンが強化した歴史政策は、イデオロギー的戦争準備だったと捉えることができよう。
「大祖国戦争」という言葉の由来
われわれ、ロシア以外の国民にとっては、このような歴史認識は史実の裏付けを欠いた、政治のための道具(インストルメント)であるとしか思われない。しかし、ロシア人に対しては、彼らの国民的記憶ゆえに、大きな訴求力を持っている。その理由を、プーチン、そしてロシア政府の歴史政策のキーワードである「大祖国戦争」に注目しつつ、考察してみよう。
この概念が生まれた端緒は、1812年の対仏戦争であった。全盛期にあったナポレオンのフランス帝国は、その総力を結集し、およそ50万ないし70万(諸説あり)の大軍を以て、ロシアに侵攻した。存亡の危機に直面したロシアは、これは侵略者に対する祖国防衛戦争だとの意味をこめて、「祖国戦争」と呼称したのである。
また、「祖国戦争」の名は、1914年に勃発した第一次世界大戦に際しても、ロシアのドイツならびにオーストリア゠ハンガリー帝国に対する戦争を指す用語として用いられた。
さらに、1941年にナチス・ドイツの侵略を受けると、本概念はいよいよ拡大されて使われることになる。同年の6月23日、独ソ開戦の翌日に、ソ連共産党の機関紙『真実(プラウダ)』に、「ソ連人民の大祖国戦争」というタイトルの論説が掲載され、この戦争は、1812年のそれよりもはるかに深刻な危機であり、国民はナポレオンに抗したとき以上に奮起・力戦しなければならぬと説いた。「祖国戦争」をうわまわる難戦、「大祖国戦争」を遂行せよというのだ。以後、「大祖国戦争」は、ソ連、ひいては現在のロシア国民における、第二次世界大戦の公式呼称となっていく。
こうして、「大祖国戦争」の名称と概念が生まれた経緯を確認してみると、現在のプーチン政権がウクライナ侵略戦争を、ナポレオンのロシア遠征とヒトラーのソ連侵攻を撃退した戦争に続く「第三次大祖国戦争」と称するのは数えちがいだろうと揶揄(やゆ)したくもなる。「第三次祖国戦争」なら、ナポレオンの侵攻から数えて3度目の危急存亡の秋(とき)を示しているといえるので、敢えてロシアの主張に従うとしても、今回の侵略戦争は、独ソ戦(いわば、「第一次大祖国戦争」になるか)につぐ「第二次大祖国戦争」のはずだ。
もっとも、これは字面の問題であり、プロパガンダ上の効果を期待してのことと推測されるから、ひとまず措(お)く。より重要なのは、「大祖国戦争」なる概念が、ロシア国民に対して大きな訴求力を持っているという事実とその歴史的背景であろう。
現在、プーチン政権は、この戦争は、ウクライナのみならず、その背後にいるNATO諸国の「侵略」を受けての防衛戦、危機にあるロシアを守るための「第三次大祖国戦争」なのだとの言説を発しはじめている。はなはだしい場合には、ウクライナに派遣されたNATO軍部隊とロシア軍が交戦したとのフェイクニュースさえ流される始末だ。
一方的にウクライナに侵攻し、虐殺や強制連行、収奪を繰り返している国家のいうことかと、その厚顔無恥(こうがんむち)に呆れるばかりだが、しばしば報じられているように、多くのロシア国民は、「第三次大祖国戦争」論を肯定し、支持しているのである。
しかも、国民のみならず、プーチン以下の指導者たちも、戦争遂行のためのフィクション、政治のための方便とわかっていて、敢えてそれを利用するに留まらず、自らも、そうした歴史認識を信じ込んでいるとさえ思われるのだ。
●ウ軍が反攻開始、プーチンはノルマンディー上陸作戦のヒトラーと同じ轍を踏む 6/7
ウクライナ軍「バフムート方面で支配的な高台を占領」
[ウクライナ中部クリヴィー・リフ発]ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は5日、メッセンジャーアプリのテレグラムチャンネルで「いくつかの地域で攻撃的な行動に移行している。(東部ドネツク州の激戦地)バフムート方面は依然として敵対行為の震源地だ。そこでかなり広範囲に行動し、前進している。支配的な高台を占領している」と述べた。
マリャル国防次官はさらにこう明らかにした。
「敵は防御に徹し、陣地を保持しようとしている。南部で敵は守勢に回っている。局地戦が続いている。ロシアが積極的に反攻の情報を流している理由はバフムート方面での敗北から注意をそらす必要があるからだ。ホルティツィア作戦戦略グループは東部戦線で攻撃行動を展開している」
「敵の激しい抵抗と陣地防御の試みにもかかわらず、わが部隊はいくつかの地域で前進している。バフムート方面の2カ所でそれぞれ200〜1600メートル、100〜700メートル進んだ。戦闘は続いている」
ウクライナ軍は、バフムートを制圧したロシア軍を逆に包囲しようとしていると一部のアナリストは解説する。
ウクライナ地上軍のオレクサンドル・シルスキー司令官のテレグラムチャンネルによると、突撃旅団の戦車が敵陣を破壊し、部隊が小さな森林地帯を前進している。戦闘の規模については言及を避けているものの、バフムートに向かって「われわれは前進を続けている」という。ここ数日、ウクライナ軍はバフムート周辺で前進するため限定的な努力を続けていた。
口論の末、ワグネルがロシア軍旅団司令官を拘束
これに先立ち、ロシア国防省はテレグラムチャンネルで「4日朝、敵は戦略予備軍から第23、31機械化旅団を投入し、他の部隊の支援を受けてドネツク方面の5つの前線で大規模な攻勢を開始した。わが軍は敵の機械化大隊6個と戦車大隊2個と交戦し、撃退した。ウクライナ軍の損失は250人以上の兵員、戦車16両、歩兵戦闘車3両、装甲戦闘車21両」と発表した。
ロシア国防省によると、ドネツク州と南部ザポリージャ州でロシア軍は積極的な行動、空爆、砲撃を行い、ウクライナ軍に損失を与えた。合計して最大300人のウクライナ兵と戦車16両、装甲戦闘車両26両、車両14両を破壊したという。
ウクライナの反プーチン準軍事組織も引き続きウクライナと国境を接するベルゴロド州への越境攻撃を試みたが、撃退したと発表した。
ウクライナ南部のロシア軍占領地域にある巨大ダム、カホフカダムが破壊され、洪水のような水が放出された。数千人が避難した。ウクライナ軍と北大西洋条約機構(NATO)はロシア軍が破壊したと非難している。
一方、英国防情報部は6日のツイートで「この48時間、数カ月間にわたって比較的静かだった場所も含め戦線の多くの区間で戦闘が大幅に増加している。同時にロシアの民間軍事会社ワグネル・グループとロシア国防総省の間の確執は前例のないレベルに達している」と指摘している。
「ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンは初めてロシア軍がワグネルに対し意図的な殺傷力を行使したと主張した。口論になり、ワグネルはロシア軍旅団司令官を拘束したとみられる。ワグネルの大半はバフムートから撤退。ロシア軍は予備部隊が不足している。ワグネルが国防省にどの程度対応し続けるかが、今後数週間の紛争における重要な要素となる」
反攻を控え、沈黙を呼びかけていたウクライナ軍
反攻準備が整ったウクライナ軍は4日、沈黙を呼びかけた。いくつかの前線で戦闘が激化しているのは確実だ。米政府関係者も米紙ニューヨーク・タイムズに、攻撃の急増はウクライナ軍が長い間計画していたロシア軍に対する反攻が始まったことを示す可能性があると述べている。
反攻はついに始まったのか。ウクライナ軍関係者は筆者にこんな見方を示す。
「露ベルゴロド州への作戦とザポリージャ州への小規模な陽動作戦の組み合わせは反攻を前に敵の居場所と出方を探る行動の一部だ。ウクライナ陸軍はロシアの空軍と地上軍が軽部隊や即応部隊、本格的な戦闘集団を使ってどのように反応するかを確認したいのだ」
ロシア軍は塹壕に身を潜めているため、偵察衛星やドローンだけではどこにいるかはっきりしない。
「ロシア軍はウクライナ軍の全面的な反攻に備えて、防御部隊を分散させないようベルゴロド州の防御を放棄したいようだ。ナチスドイツのアドルフ・ヒトラーがD-デイ(ノルマンディー上陸作戦)でパンツァー戦車部隊の配置を間違えたことがドイツの防衛戦略を台無しにした。ウラジーミル・プーチン露大統領も同じ間違いを犯すかもしれない」
「ロシア軍はウクライナ軍の反攻を防ぐため、塹壕、対戦車溝、竜の歯の3層の防御帯を頼りにしている。ウクライナ軍が防御帯で立ち往生したり失速したりすると、ロシアの多連装ロケット砲や榴弾砲の攻撃を受ける恐れがある。ロシア軍の大砲はウクライナ軍を8-10対1で圧倒している。一方、ロシア軍の戦車部隊は現在、ほとんどなきに等しい」
攻防のカギを握る戦車部隊
「ロシア軍は大砲と戦術航空(ヘリコプターや戦闘爆撃機)で戦うことになる。このためウクライナ軍は機甲師団による電撃戦と突破が必要だ。ウクライナ軍はロシア軍の防御が強固なポイントを迂回し、クリミア半島とロシア本土を結ぶ“陸の回廊”を分断するためアゾフ海とクリミア半島との境に到達する必要がある」とこのウクライナ軍関係者は言う。
「ウクライナ軍の予備兵力は3〜5旅団(1旅団の兵員4000人)で、これらは装甲兵と機械化歩兵の予備兵力である。昨年秋、北東部ハルキウで起きたことを思い出す必要がある。ロシア軍が再集結して動員された時にはウクライナ軍はすでに防御帯を突き破っていた。6週間だ。時間が経てばすべてが分かるだろう」
2月の英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」の報告では、ロシア軍はウクライナに侵攻して以来、T-72B3やT-72B3Mを含む近代戦車部隊の少なくとも半分を失った。損失は1700両以上とされる。
戦場の空白を埋めるため古い戦車を倉庫から引っ張り出している。今年、モスクワでの軍事パレードに参加した戦車は第二次大戦時のソ連製T-34型1両のみだった。
IISSのヘンリー・ボイド研究員は「実際の数字はそれよりも20〜40%高いのではないか。2000〜2300両が失われた可能性がある」と指摘している。ウクライナ軍も戦車を失ったが、ロシア軍が戦場に放置した戦車を奪取、ドイツや英国などからレオパルト2やチャレンジャー2など約300両の主力戦車を受け取り、補強してきた。
ヒトラーがD-デイで犯した間違い
米軍関係者や家族のためのサイト「ミリタリー・ドット・コム」で戦史家ジョセフ・V・ミカレフ氏が、ヒトラーがD-デイで犯した間違いについて解説している。
「問題はパンツァー戦車部隊の配置が違っていたら、ドイツ軍はノルマンディーへの連合軍の上陸をうまく撃退し、D-デイの結果に影響を与えたかどうかだ」という。ミカレフ氏によると――。
パンツァー戦車部隊の作戦展開にはヒトラーの確認が必要であった。名将エルヴィン・ロンメルは、上陸はカレーとブローニュ・シュル・メールの間で行われる可能性が最も高いと考えていた。セーヌ川を挟んでノルマンディーの北側である。セーヌ川は河口のデルタが大きく、湿地帯が広がる。セーヌ川にかかる橋のいくつかはパンツァーの重量に耐えられない。
北アフリカで連合軍と戦った経験から、ロンメルは連合軍の航空機が後方地域から前線へのパンツァー戦車部隊の移動を妨げると考えた。フランス沿岸部は湿地帯と丘陵地、森林地帯が組み合わさり、臨機応変に機甲部隊を集結させるのは容易ではない。ロンメルはコンクリート製のトーチカと圧倒的な火力で海岸線での撃破を唱えた。
勝負の分かれ目は戦場にある9個師団のパンツァー戦車部隊と1個師団の機械化部隊にかかっていた。ロンメルは、歩兵を支援するパンツァー戦車部隊を、連合軍の弱点を突き、ドイツ軍の戦線の穴を塞ぐために展開する局所戦術部隊として海岸沿いに配置したいとヒトラーに直訴した。
ヒトラーはロンメルの言い分を半分だけ取り入れ、パンツァー戦車部隊を二分した。ロンメルに与えられた3個師団のうちノルマンディーに配置されたのは1個だけだった。2個師団はセーヌ川以北に配置された。
電撃戦の成否は先行する欺瞞作戦にかかっている
ドイツは約1400両の戦車を保有していたが、連合軍の侵攻から48時間以内に行動を起こしたのは400両未満であった。ロンメルは上陸地点が判明する前にパンツァー戦車部隊を展開したことで、重要な時間帯に事実上、戦力外としてしまったとミカレフ氏は結論付けている。
しかし、その裏には名将ロンメルをして上陸地点の判断を誤らせた連合軍の巧みな欺瞞作戦「フォーティテュード作戦」があった。
ウクライナ軍はモスクワへのドローン攻撃や露ベルゴロド州への越境攻撃を仕掛け、バフムート包囲戦の開始でプーチンの面子を傷つけ、混乱に陥れている。機甲師団による電撃戦の成否は、先行する欺瞞作戦の出来にかかっている。
●南アがロシアに武器供与か? 失墜する「アフリカの雄」 6/7
5月16日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、‘The scandal of South Africa’s alleged arms to Russia’(南アフリカの対露武器供与疑惑)と題する社説を掲げ、ウクライナ戦争で中立を標榜している南アの実際の行動はロシア寄りで、今回の疑惑は南アにとって重大な結果を招き得る、と指摘している。要旨は以下の通り。
駐南ア米国大使が、南アに停泊するロシア向け輸送船に武器が積み込まれている疑いを提起したことを受け、南アと米国の間で外交的嵐が吹いている。3つの可能性があるが、内2つは南アと与党アフリカ民族会議(ANC)に相当悪影響を及ぼす。
第一は、ラマポーザ政権は昨年12月に起きた、同国南西部サイモンズタウンの海軍基地でのロシア貨物船「レディー R」への武器積み込みを全く知らなかった可能性だ。そうだとすると、同地は安全な軍事基地のはずであることから考えれば、驚くべきことだ。しかし、ANCの機能不全と、国家組織中核への汚職と犯罪の浸透から考えると、可能性がない訳ではない。
第二は、政府は対ロシア武器輸出を十分に知っていた可能性だ。この場合、30年以上前のソ連によるANC解放闘争への支持に呼応した忠誠心からか、新興5カ国(BRICS)所属国支援の義務感からだろう。これは、南ア政府が西側制裁に反し意図的に対露武器供与をしていたことを意味する。
第三は、米国の情報が間違っている可能性だが、米国が「レディーR」を監視していた衛星の数から見れば可能性は低い。
南アは、ロシア・ウクライナ戦争につき中立を宣言していたが、実際の行動はロシアに近い。2月には自国沖で露中と海軍共同演習を実施した。ラマポーザは公の場でプーチンにへつらってきた。
南アの歪んだ道筋は、より大きな問題を提起する。開発途上国が多極世界の中で、自らの利益をより反映する新世界秩序を模索するのは正当なことだ。第二次世界大戦後作られた国際通貨基金(IMF)、国連などの組織は世界の現状を反映していないという彼らの指摘は正しい。
しかし、南アの行動は、その実現の正しいやり方ではない。ロシア・ウクライナ戦争への南アの対応のぶれは、米国主導のルールに基づく秩序を何らかの一貫した信頼性のあるものに置き換えるのは簡単ではないという現実を反映している。
南アは独自外交ができる主権国家だとの擁護もあるが、それは、南アがロシア寄りの立ち位置を中立と誤魔化せることを意味しない。南アは、アパルトヘイト政権転覆で生じた国際的善意から多くを裨益し、米欧市場への優先的アクセスを享受している。これは自動車他の産業にとり大きな恩恵だ。もし南アがプーチンと運命を共にしたいなら、それは南ア次第だが、その選択は結果を伴うことを知るべきだ。

5月11日、南アの対露武器輸出疑惑を在南ア米国大使が指摘した。深刻なのは、米側が、昨年12月のロシア向け船舶への武器の積み込みは、南アの海軍基地内で行われたと指摘していることだ。
上記の社説が指摘するように、米国のインテリジェンスが間違っていない限り、これは、南ア政府が軍事基地内の活動さえ十分コントロールできていないか、または、対外的な中立維持表明に反して、現実には武器の供給を支援すると言う最も重大な協力をロシアにしていたかのどちらかで、どちらでも、南アの信頼性への大打撃であることは間違いない。
これに対する南ア政府の対応はいかにも腰が引けており、疑惑を一層強めている。本来、統治が安定していれば、このような深刻な疑惑に対しては相当早い段階で当否につきある程度はっきりした発言が出来るはずだし、場所が海軍基地内なら尚更だ。本件が対外的に明らかになる前に米側が内々南ア側に連絡したことは、南ア政府も認めている。
ということは、米国大使が本件を敢えて公表したのは、南ア側の対応が十分迅速でなかったことからである可能性が高い。そして、結局大統領が調査を命じるという非常に不名誉な結果になってしまった。
南アの「裏切り」が武器供給支援という最もネガティブな形で行われ、かつ、南アに対する各種優遇措置を取ってきた西側の「善意」への真っ向からの挑戦であることから、今後の厳しい「結果」は避けがたいだろう。
BRICSに縋る以外に道はなし
南アは、地域組織のアフリカ連合(AU)のメンバーであることに加え、地域横断的で「国力」で選ばれる20カ国・地域(G20)やBRICSのメンバーでもある。
一方、個別の国力の指標を見ると、名目国内総生産(GDP)ではG20の中で最も低く、世界の38位。BRICSの中でも、GDPは他のメンバーが軒並み一桁台の順位の中で群を抜いて低いし、人口でも唯一1億人以下の6000万人強に過ぎない。一人当たりのGDPでは、何とかインドの倍以上は有るが、7000ドルにも満たない。
アフリカの中でさえ、最早南アを「アフリカの雄」と呼ぶには躊躇する。GDPこそ、ナイジェリア、エジプトに次ぐアフリカ中3位で他に頭一つ先んじているが、人口も一人当たりGDPもアフリカ中6位に過ぎず、上位国を抜く勢いは見られない。
要するに、アフリカから欧州が引き揚げ、代わりに中国、ロシアの進出が増す中で、これだけの国力しかない南アフリカにとって、中露に近い立ち位置を取り、BRICSという枠組みを最大限活用する以外に、あまり選択肢はないように思われる。
最後に、BRICSという面倒な「塊」にわれわれがどう直面していくべきかについて付言しておきたい。インドはBRICSと日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の双方に関与し、一定程度BRICS活動のスローダウンを実現している。
われわれが次にBRICSに手を突っ込むとすれば、ある程度の地力を持ち、中露と対立する気はないが言われる通りにもならず、自らの影響力伸長を最優先するブラジルだろう。その意味で、若干の不確定要素がある中、反米・反主要7カ国(G7)だが親日のルーラ大統領を広島に招待したのは適切であったと言えよう。
●「4倍劣勢」の戦車が対等に…「大反撃」ウクライナのまた別の期待 6/7
大量の戦車と装甲車、ロシア本土を狙うミサイル、熟練した戦闘兵力…
1年以上にわたり防衛に注力してきたウクライナが事実上の「大反撃」に突入した中で、今回の進撃の基盤に西側が支援した最新式兵器と西側で高度な訓練を受けた兵士がいるという分析が出ている。
ウクライナの戦車、ロシアに匹敵
ウクライナメディアのユーロマイダンが1日に明らかにしたところによると、ウクライナの地上軍戦力は昨年2月末の開戦初期だけでもロシアに超劣勢だったが、16カ月後の現在は同水準にアップグレードされた。現在戦争に投入される戦車の場合、ウクライナは1400台余り、ロシアは1500台余りと大差ない。開戦初期に860台のウクライナと3330台のロシアと4倍の差があったことからも注目すべき変化だ。
ウクライナの戦車は西側からの引き渡し分が600台余りで半分近くを占める。英国、ドイツ、ポーランド、ノルウェー、スペインなどがチャレンジャー2、レオパルト2、レオパルト1などを支援した。戦争拡大の可能性を理由に重兵器である戦車支援を敬遠してきた西側は戦争が長引くほどロシアが有利になるという分析が出てきた今年初めから立場を変えた。また、ロシア軍の戦車540台余りを鹵獲(ろかく)して新たに整備したのも助けになった。
装甲車も米国のブラッドレー、ストライカー、ドイツのマルダーなどの引き渡しを受け6500台余りに増えた。開戦初期に2500台余りにすぎずロシアの1万2000台余りの6分の1水準から半分まで追いついた。砲兵武器も西側からハイマース(高速機動砲兵ロケットシステム)と曲射砲、自走砲などを供与され、開戦当時の3倍差から現在は1.5倍差程度に縮んだ。
西側が供与した先端兵器のおかげで火力と防衛力もさらに向上した。英国が支援した長距離空対地巡航ミサイル「ストームシャドウ」は1機当たり254万ポンド(約4億4138万円)で射程距離が250〜400キロメートルに達する。ロシアが占領中であるクリミア半島だけでなくロシア本土南部まで届く。また、米国が供与した誘導弾である空対地統合直接攻撃弾(JDAM)で長距離精密爆撃も可能になった。
米国とドイツが供給した地対空防空システムのパトリオット(PAC3)で防空網も強くなった。パトリオットはロシアの極超音速ミサイル「キンジャル」から防衛できる唯一の手段に挙げられる。選ばれる。パトリオットミサイルの費用は最大11億ドル(約1400億円)、ミサイル1基当たり価格は400万ドルと推定される。このほか、米国とノルウェーから先端地対空防空システムである「NASAMS」も支援された。
西側式の訓練で高度化された兵力
戦闘兵力もほぼ同水準になってきた。ウクライナは開戦初期に兵力が25万人程度だったが、総動員令宣布と訓練を通じ昨年夏からは50万人を維持している。ロシアは約50万人で侵攻した後、昨年9月の部分的動員令で30万人を追加した。しかし死傷者が最小20万人以上続出し現在は約50万人と推定される。
ウクライナには西側の支援で最新兵器と近代化した戦闘作戦に熟練した兵士も増えた。昨年創設された第47機械化旅団はドイツの北大西洋条約機構(NATO)基地で数カ月間訓練を受けている。彼らはブラッドレー装甲車など西側同盟国が提供した兵器で武装した状態で突撃命令を待っているところだとワシントン・ポストが伝えた。このほか英国、スペイン、ポーランドなどでも訓練を受けている。
ただし空中戦力ではまだ劣勢だ。短時間ではこれを補強しにくい状況だ。米国など西側にウクライナが要求する第4世代戦闘機F16が支援されるとしても操縦士の訓練期間が必要で、最短でもこの秋にでも投入が可能になる見通しだ。
「仁川上陸作戦のような勝利必要」
大慶(テギョン)大学付設韓国軍事研究所のキム・ギウォン教授は「ウクライナの軍事力がこの1年間で途轍もない成長をしながらロシアと同水準に上がった」としながらも、「防衛から攻撃に転換する時は相手の戦力より最小3倍以上の水準になってこそ勝算があり、現在の戦力では不足しかねない」と分析した。
それでもウクライナの今回の大反撃の結果を悲観的にみる必要はないとした。キム教授は「韓国戦争(朝鮮戦争)でも韓国軍が洛東江(ナクトンガン)防衛ラインまで押され攻勢転換が厳しかったが、仁川(インチョン)上陸作戦の成功で戦況がひっくり返った。初期攻勢でロシアの弱点をしっかり探して主要戦闘で成功を収めれば士気が急激に上がり大反撃成功の可能性が高くなるかもしれない」と話した。
一方、ウクライナは大反撃の開始については口を閉ざしているが、米国は軍事衛星でウクライナ軍の活動が増加したことを感知し大反撃が始まったとみているとニューヨーク・タイムズが5日に伝えた。これに先立ちロシアは4日から南東部戦線でウクライナ側の大攻勢が繰り広げられていると明らかにした。
ただ昨年2月24日にロシアがウクライナを侵攻する時に北東南3面から数万人が押してきたように劇的な大攻勢ではないと観測される。米国当局はウクライナが一部兵力だけ投じてロシア軍の兵力と防衛態勢を把握する偵察方式の初期攻勢がなされているとみていると同紙は伝えた。
●ウクライナ軍「バフムト北部の2つの村で進撃に成功…一部高地も掌握」 6/7
ウクライナが予告してきた「大反撃」が始まったかどうかをめぐり様々な分析が飛び交う中、ウクライナ国防省高官が「東部ドネツク州で本格的な攻勢に転換した」と述べた。ウクライナ軍はドネツク州中部バフムト周辺で一定の戦果をあげたと主張している一方、ロシア軍は南西部地域で、2日連続でウクライナ軍に撃退したと発表した。
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は5日(現地時間)、ソーシャルメディアのテレグラムに掲載した文で、自国軍が東部戦線から攻勢に転じたと明らかにした。また「(攻勢の)焦点はバフムト地区」とし、「バフムトの北側に位置する二つの村での戦闘で進撃に成功し、いくつかの高地も掌握した」と主張した。ただし、大規模な反撃に出たというロシアの主張と一部海外メディアの推測については否定的な立場を示した。バフムト占領のための先鋒隊の役割を果たしてきたロシア傭兵集団のワグネル・グループの設立者エフゲニー・プリゴジン氏も、ウクライナ軍がバフムト北西部のベルキフカの一部を奪還したと認めた。
バフムトはウクライナ軍が統制しているハルキウ州とロシア軍が掌握したドネツク州の南部およびルハンスク州を繋ぐ橋頭堡の役割を果たす地域。ロシア軍とワグネル・グループは約10カ月にわたる封鎖攻撃の末、先月20日、同地域を完全に占領したと宣言した。
ロシア国防省は前日に続き、5日にもドネツク州南部で大規模な攻撃に乗り出したウクライナ軍を撃退したと主張した。同省はドイツ製のレオパルト戦車8台を含む戦車28台と装甲車109台を破壊し、2日間でウクライナ軍の戦死者が1500人に達したと発表した。同省は前日もウクライナ軍が同地域で大規模な軍事作戦に乗り出したが、自国軍が撃退したと明らかにした。しかし、ウクライナ側はこの主張を「フェイクニュース」だと一蹴した。
ロイター通信は、ロシア国防部が前日公開した映像を検討した結果、2本の映像に現れた地形がザポリージャ州と隣接したドネツク州南西部のベリカノボシルカ地域と一致することを確認したと報じた。英紙フィナンシャル・タイムズもベリカノボシルカ、ノボドネツケなど南西部の4地域を主要交戦地域に挙げた。同地域はこれまで比較的戦闘が少なかった。
ウクライナが攻勢を強化していると分析される地域は、ドネツク州南部最大の都市であるマリウポリから100キロメートルほど離れている。マリウポリは、ロシア軍がウクライナに侵攻した昨年2月末から5月まで莫大な被害にもかかわらず包囲攻撃を続け占領した都市。
AP通信の報道によると、ロシア側ではウクライナ軍が同地域で軍事作戦に入ったのは、黒海の内海に当たるアゾフ海まで進出し、ザポリージャ、ヘルソン、クリミア半島とドネツク州をつなぐルートを遮断するためだという分析もあるという。ザポリージャ州のロシア地方政府関係者のウラジーミル・ロゴフ氏は、「ザポリージャ州とドネツク州の境界付近地域で、同日戦闘がまた起きた」とし、「敵軍の攻撃規模が昨日(4日)より大きかった」と述べた。氏はウクライナ軍がアゾフ海沿岸まで進出し、黒海沿岸南部地域と東部ドンバス(ドネツク州とルハンスク州)間の補給通路を遮断しようとしていると分析した。
ロシア国防総省がドネツク州南部で2日連続でウクライナ軍を撃退したと発表したことに対し、ロシアの軍事専門ブロガーたちは疑問を示していると、英紙ガーディアンが報じた。ロシア情報機関出身の予備役軍人イゴール・ギルキン氏は、テレグラムに掲載した文で「(国防総省の発表とは異なり)一部地域で敵軍の進撃が続いているという報告がある」としながらも、戦線は突破されていないと主張した。また、ウクライナ軍がこの地域にまだ主力軍を投入していないという見解を示した。ジャーナリストで軍事専門ブロガーのセミョン・ペゴフ氏は、ノボドネツケ地域でウクライナ軍がロシア軍の防衛を突破して2キロメートルほど進出したとし、ウクライナ軍が西側の供与した装甲車を活用し攻撃を続けていると主張した。
ワシントン・ポスト紙は、米政府当局者の話として、ウクライナの反撃はすでに始まっているが、大規模兵力を動員して敵軍の防御戦線を突破するのではなく、集中砲撃、破壊工作、後方のゲリラ攻撃などの形で展開されるだろうと見通した。 
●プーチン氏、23年のロシアGDP「1〜2%増の可能性」 6/7
ロシアのプーチン大統領は7日、2023年の国内総生産(GDP)が前年比1〜2%増加する可能性があるという見方を示した。プラス成長なら21年以来2年ぶり。欧米の対ロ制裁が拡大しても、ロシア経済は堅調に推移すると主張した。
ロシア大統領府が同日、14〜17日にサンクトペテルブルクで開く国際経済フォーラムの来賓や参加者に向けたプーチン氏の挨拶文を発表した。プーチン氏は「専門家はロシアのGDPが(23年に)1〜2%成長する可能性があるとみている」と述べ、専門家による予想を引用してロシア経済のプラス成長見通しを示した。
22年のGDP(速報値)は前の年に比べ2.1%減少していた。対ロ制裁に伴う個人消費の低迷と製造業の不振が響いた。プーチン氏が公表した23年の予想は国際通貨基金(IMF)の予想(0.7%増)を上回る水準。プーチン氏は企業が制裁克服に取り組んでいると述べ、近代化や労働市場の活性化にも期待をかけた。
23年の国際経済フォーラムを巡っては、ペスコフ大統領報道官が対ロ制裁を科している米欧や日本など「非友好国」のメディアに取材を許可しない方針を示している。
●プーチン大統領演説フェイクニュースでロシア放送局が混乱… 6/7
ロシア大統領府が5日(以下、現地時間)、公営放送でハッキング攻撃が発生したと伝え、一部の地域で放送されたプーチン露大統領の演説はフェイクだと明らかにした。
ロシア・タス通信などによると、現地公営放送ミールはこの日の声明で「午後1時18分までの約40分間、身元未詳の人物がミールTVとミールラジオのニュース番組をハッキングし、放送コンテンツを入れ替えた」と伝えた。続いて「この時間に放送されたすべての情報はミールとは関係がなく、明白な虚偽であり挑発だ」と主張した。
大統領府のペスコフ報道官も大統領はこの日、いかなる声明も出していないと伝え、一部で放送された非常演説はすべてフェイクだと説明した。問題のコンテンツはすべて削除され、放送局がハッキング被害を受けたと明らかにした。
この日、ロシアの一部の地域のテレビでは「大統領の非常演説」という字幕と共に、プーチン大統領の演説映像が流れた。映像のプーチン大統領はウクライナ軍が午前4時に北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けてロシアを侵攻したとし、ベルゴロド、プリャンスク、クルスク地域に戒厳令を宣言すると述べた。
続いて「ロシア領土の深くまで避難してほしい」と呼びかけ、近く「総動員令」を出すと明らかにした。この演説は映像だけでなくラジオの音声メッセージでも放送された。
●ダム決壊で遠のいた?ウクライナの反転攻勢と復興への希望 6/7
ウクライナ南部ヘルソン州のロシア占領地域で、ドニプロ川に設置されたカホフカ水力発電所のダムが破壊された。これは周囲の環境だけでなく、ウクライナ戦争の行方にも影響を与えるだろう。
また、約160キロ上流にあるヨーロッパ最大の原子力発電所への影響も懸念されているが、原子力の専門家は本誌に、直ちに原発に危険が及ぶことはないと語った。
ノバ・カホフカの町のそばにあるダムの破壊された部分から水が流れ出す様子を映した映像が出回るなか、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領府は、ロシアの行為は「環境と生態系の破壊」だと非難した。
一方、ロシアが任命したノバ・カホフカのウラジミール・レオンチェフ市長は、ダムを破壊したのはウクライナだと非難している。
ウクライナ当局によれば、ウクライナの支配下にあるドニプロ川右岸では住民が危険にさらされている。数時間のうちに水位が9メートルも上昇した場所もあり、ヘルソン州からの避難者は数万人に上るという。
ダムの決壊でヘルソン州のドニエプル川周辺地域が洪水に見舞われたことで、同地域で予定されているウクライナの反攻計画が困難になる恐れがある。まさにこのために、ロシアは2022年にダムに爆薬を仕掛けたとウクライナは非難している。
反攻を妨げる軍事行動
6日に起きたダム破壊で、ロシアに占領された領土の奪還を目指すウクライナの計画がくるう可能性もある。
「カホフカ・ダムの破壊は、ウクライナの反攻に対する軍事行動だ」と、リトアニアに本拠を置く東欧研究センターのリスクアナリスト、ディオニス・セヌサは言う。
「ロシアは新たな危機を誘発し、ウクライナ政府を危機への対応で忙しくさせて、反転攻勢に集中できないようにしようとしている」
ソーシャルメディアでは、今回のダム破壊を、1941年にソ連軍がナチス・ドイツのウクライナ侵攻を遅らせるためにドニエプル水力発電所ダムを爆破した動きと比較する声があがっている。ウクライナのアントン・ゲラシチェンコ内務省顧問もその説をツイッターで唱えた。
「2023年、カホフカ発電所は、来るべきウクライナの反攻を妨げるためにロシアによって爆破された」と彼はツイートした。「この数十年で最大の技術的大惨事だ」
ウクライナの国営電力会社ウクルドエネルゴは、この発電所は修復不能だと述べた。
ウクライナ大統領府は、ダムの破壊とその余波で、クリミアとザポリージャ原子力発電所(NPP)の両方が脅かされていると述べた。
ウクライナのアンドリー・イェルマク大統領補佐官は、へルソン南部とクリミアの人々にとって「飲料水が失われる可能性」と「一部の集落や生物圏の破壊の可能性」について警告した。
ウクライナの国営原子力発電会社エネルゴアトムは、カホフカ貯水池の水位低下が、池の水を冷却水に使用しているザポリージャ原子力発電所に影響を与える可能性があることを認めた。だが同社は、水位は今のところ発電所の安全性を確保するのに十分だと発表している。
放射エネルギーファンドの創設者で、原子力に関するアドバイザーを務めるマーク・ネルソンは、冷却池の水位低下は極めてゆっくりと起きるため、状況を安定させるための時間は十分にある、と本誌に語った。
「これは、数カ月単位で測るべき問題であり、原子炉への影響はさまざまだ。ゼロかもしれないし、原子炉容器の損傷やプラント自体の消失に至るかもしれないが、直ちに起こるわけではない」と、ネルソンは語った。
ただし、原子炉容器が損傷すれば、戦争終結後、タイムリーに再稼働することは難しくなるだろうと彼は言う。
「一番いいのは、発電所への水の供給を手配することだ。そうすれば、カホフカ貯水池の水位が極端に低下して、送電網が機能しなくなった場合でも、現場でポンプを使わなくてすむ」
ただし、現在この原子力発電所を管理しているのはロシア側で、どうするかは「ロシアの出方次第になる」とネルソンは付け加えた。
●ウクライナのダム決壊 “数日間で被害拡大のおそれ”英国防省 6/7
ウクライナ南部で水力発電所のダムが決壊し、大規模な洪水が発生したことについて、イギリス国防省は、今後数日間で被害が拡大するおそれがあると警告しました。一方、ウクライナ軍が反転攻勢の動きを活発化させる中、今回の洪水がウクライナ側の軍事作戦に与える影響は、限定的という見方もあります。
ウクライナ軍は6日、南部ヘルソン州にあるカホウカ水力発電所のダムがロシア側によって破壊されたと発表し、地元の州知事はおよそ1万6000人の住民が避難を進めているとしました。
またウクライナのゼレンスキー大統領は「この地域には侵攻後も数万人以上が暮らしている。すでに数十万人が飲料水を得られなくなった」と7日、SNSに投稿しました。
一方、ロシア側の地元当局者は国営のタス通信に対し、ロシア側の支配地域で7人が行方不明だとしています。
ダムの決壊をめぐって、ウクライナ側は、ダムはロシア軍によって内部から爆破されたとしているのに対し、ロシア側はウクライナ軍の妨害行為によるものだと主張し、非難の応酬が続いています。
イギリス国防省は7日の分析で「決壊する前、ダムの水位が記録的な高さだったため、大量の水が下流地域に押し寄せた」と指摘しました。
そして、このダムから冷却水の供給を受けるザポリージャ原子力発電所が直ちに安全上の問題に直面する可能性は低いとしたものの「ダム施設の構造物が今後数日間でさらに劣化し、さらなる洪水を引き起こすおそれがある」と被害の拡大を警告しています。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は6日、ダム決壊の責任の所在は、現時点では分からないと指摘しました。
そのうえで、今後の戦況への影響について「ウクライナ側は、ダムの損傷による洪水が反転攻勢の準備を妨げることはないとしている。洪水の影響を受けた地域は、戦闘の最前線から地理的に遠く、影響を及ぼさない可能性が高い」と分析し、ウクライナ側の軍事作戦に与える影響は、限定的だという見方を示しました。
ウクライナ軍の動きをめぐっては、ロシア国防省がすでに各地の戦線でウクライナ軍が反転攻勢を開始したと主張しているほか、イギリス国防省も「戦闘が大幅に増えた」と指摘し、領土奪還に向けたウクライナ軍の動きが新たな局面に入っている可能性が出ています。
専門家「“ロシア側が実行”見方は成り立つ」
ウクライナ南部で大規模な洪水を引き起こしたダムの決壊の原因について、防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は、現時点では事故の可能性も排除できず、断定的な評価はできないとしています。
そしてウクライナとロシアがそれぞれ相手側の破壊工作だと主張していることについては「どちらにとってメリットがあったのかということや、決壊のタイミングを考えると、ロシア側が実行したという見方は成り立つ」と述べました。
具体的には、ドニプロ川下流のウクライナ領の住民に被害が出るほか、ダムから冷却水の供給を受けるザポリージャ原子力発電所でも事故の懸念が高まることから、ウクライナ側にとってメリットは少ないと分析しました。
一方、ロシア側にとってはメリットがあると述べ、その理由として、ドニプロ川に架かる唯一の橋がダムに併設されていたが、破壊されたうえ、下流域が水没して地面がぬかるみ、ウクライナ側が戦車部隊などを進めることが難しくなったと指摘しました。
今後の戦況に与える影響については「ウクライナには複数のシナリオがあったと思うが、ヘルソン州の奪還作戦はやや難しくなった可能性がある。ゼレンスキー大統領が洪水対策にも注力しないといけなくなり、戦闘に集中できなくなる状況も懸念される」としています。
ウクライナと国境を接するロシア西部の州では、ロシア人などの義勇兵を名乗る「自由ロシア軍」や「ロシア義勇軍」が攻撃を繰り返しています。
2つの組織の役割について兵頭研究幹事は「ロシア側からするとこれまでの1200キロの戦線に加えて、ロシア領内の800キロを新たに守らなくてはならない状況になり、戦線が大きく拡大することになる。このため、特に南部と東部からロシア軍を引き離し、分散させるねらいがあるとみられる。ウクライナ軍の反転攻勢の動きにも何らかの形で連動していると思う」とする見方を示しました。
そのうえで、ゼレンスキー大統領が義勇兵組織によるロシア領内への攻撃を把握していたかどうかは確認できていないとして「ゼレンスキー大統領がこれらの組織を100%コントロールできておらず、ロシア領内への攻撃が激化し、戦争がエスカレートする可能性もある」と指摘しました。

 

●「ウクライナの破壊工作だ」 プーチン大統領 ダム決壊問題で主張 6/8
ロシアのプーチン大統領は7日、トルコのエルドアン大統領と電話で協議した。ロシア軍の占領下にあるウクライナ南部ヘルソン州のカホウカ・ダム決壊について、プーチン氏は、ウクライナ側の破壊工作によるものだとして、「環境と人道の惨劇を引き起こした」と批判した。ロシア大統領府が発表した。
この問題でプーチン氏が発言するのは初めて。プーチン氏は「ウクライナ政府が西側に扇動され、ロシア領内で戦闘行為を激化させ、公然とテロ手法を用い、ロシア領内で破壊工作を組織している。その明確な例であり、残忍な行為だ」と主張したという。
トルコ大統領府によると、エルドアン氏は同日、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話協議。両者に対し、国連やトルコを含めた国際的な調査委員会の設置を提案したという。
●ロシア・プーチン大統領「ダム破壊は野蛮な行為」と主張 ウクライナを非難 6/8
ロシアのプーチン大統領は7日、トルコのエルドアン大統領と電話会談し、ウクライナ南部のダムはウクライナ側が破壊したと主張、「野蛮な行為」だと非難しました。
ロシア大統領府によりますと、トルコのエルドアン大統領との電話会談でプーチン氏は、ウクライナ情勢をめぐり「ゼレンスキー政権は西側の支援のもと情勢をさらに緊張させようと、公然とテロの手段を用いてロシア領内で破壊工作を行っている」と主張。
そして「その明らかな例がカホフカ水力発電所のダムを破壊する野蛮な行為であり、環境的・人道的な大惨事を引き起こした」とウクライナ側を非難しました。
こうした中、ロシア国防省は7日、ウクライナ東部ハルキウ州で、ロシアからウクライナを経由し黒海にアンモニアを運ぶパイプラインが“ウクライナ側によって爆破され、住民に被害が出た”と発表しました。
ただロイター通信によると、前日6日、ウクライナのハルキウ州知事は、ロシア軍がパイプラインに繰り返し砲撃を加えたと明らかにしていたということです。
黒海を通じたウクライナ産の穀物輸出をめぐる合意を延長する条件として、ロシア側がこのパイプラインの再開を強く求めていたことから、今回の「爆破」を理由に今後の合意延長に応じない可能性も指摘されています。
●ダム破壊は「野蛮な」戦争犯罪、プーチン氏がウクライナを非難 6/8
ロシアのプーチン大統領は7日、トルコのエルドアン大統領と電話会談を行い、ウクライナ南部ヘルソン州で6日に起きた大型ダムの決壊を巡り協議した。
ウクライナのカホフカ水力発電所に設置された巨大ダムの決壊について、ウクライナとロシアは互いに決壊の責任が相手側にあると非難している。
ロシア大統領府によると、プーチン大統領はエルドアン氏との電話会談で、ウクライナが西側諸国の提案に基づきダムを破壊したとし、ロシアとの対立を激化させる「野蛮な」戦争犯罪を犯したと非難。
「ウクライナ当局が西側諸国の提案に基づき、敵対行為の激化をもくろみ、戦争犯罪を犯し、テロ手段を公然と用い、ロシアの領内で妨害行為を組織している」とし、「その明確な例が、大規模な環境的、人道的大惨事を引き起こしたカホフカ水力発電所のダムを破壊する野蛮な行動だ」と述べた。
ロシア大統領府はプーチン氏の主張を裏付ける証拠は示していない。
エルドアン氏はプーチン氏に対し、この問題は包括的な調査が必要であり、国連とトルコを含む国際的調査委員会を設立する可能性があると述べた。エルドアン氏は先に、ウクライナのゼレンスキー大統領とも会談している。
●ロシアでも広がるプーチン「影武者」説、AI鑑定では「別人」の可能性も 6/8
前線視察など戦意高揚に「顔」を出す必要性が高まる中で、かねて囁かれるプーチンの影武者説が改めてクローズアップされている。昨年7月に画像・映像修正技術も駆使して替え玉使用が決定したと、謎のブロガー「SVR将軍」は指摘。同年12月のクリミア大橋復旧を視察したプーチンの映像には多くの違和感が伝えられ、ロシア国内でも疑惑が膨らむきっかけとなった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自らの安全を確保するため、「影武者」を使っているとの憶測がロシア内外で広がっている。健康不安がささやかれる大統領が、あちこち出没するのは不自然で、表情や動作も微妙に異なるという疑惑だ。
ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は4月24日、「大統領が塹壕に閉じこもっているという噂は嘘であり、替え玉の噂も嘘だ。大統領の健康とエネルギーはうらやましいほどだ」と影武者説を全面否定した。
とはいえ、影武者説はロシアの独立系メディアやSNSでも広範に報じられている。その実態を探った。
昨年7月に影武者利用を決定か
影武者説は、プーチン氏が昨年12月5日、ロシア本土とクリミアを結ぶクリミア大橋を訪れた頃から流れ始めた。プーチン氏は10月に爆破された橋の復旧工事完了を視察。マラト・フスヌリン副首相を隣に乗せ、メルセデス・ベンツを自ら運転し、後部座席で撮影した動画が大統領府HPで公開された。
反プーチンの女性ジャーナリスト、ユリア・ラティニナ氏は反政府系メディア「ノバヤ・ガゼータ」(4月23日)で、「替え玉が出張に登場した最初の本格的ケースだ。臆病なプーチンは閣僚を遠ざけて座らせるが、勇敢なプーチンは市民と無作為に握手する。われわれは二人の異なるプーチンを見ている」と指摘した。
クレムリンの内部情報に詳しい謎のブロガー、「SVR(対外情報庁)将軍」は、SNS「テレグラム」で、「プーチンの健康悪化を受けて、大統領の参加が必要なイベントでは、必要に応じて替え玉を使い、画像・映像修正技術を駆使することが2022年7月に決まった」「クリミア橋を運転したのは、大統領の影武者だ。プーチンはこのようなイベントに参加できないほど臆病なのだ」と指摘した。
有力紙「コメルサント」のクレムリン担当記者、アンドレイ・コレスニコフ氏も新興メディア「フェデラル・プレス」(5月25日)で、「昨年12月のクリミア橋視察と同じ日、モスクワのマネジ広場で開かれた式典にも大統領が参列していた。あんなに早く往来はできない」と皮肉った。ただし、同記者はコメルサント紙には影武者説を書いていない。
ロシア国営テレビや主要紙は決して報道しないが、ロシア語のネット空間には関連情報があふれている。
両腕を自在に動かすプーチン
今年3月14日、大統領が東シベリア・ブリヤート共和国の首都ウランウデにある軍用ヘリコプター工場を視察した時の映像も奇妙だった。
プーチン氏は工場内で労働者らと約30分間立ち話したが、やや高揚した様子で早口で会話し、両腕を自在に動かした。プーチン氏はふだん右腕をあまり動かさないことが知られているが、この時は頻繁に動かし、両腕を後ろに組む珍しいポーズも見せた。
「SVR将軍」は、「この時、大統領に似た男は、プーチンらしからぬ表情をあらわにした。30分近くも感情のこもった手の振り方で替え玉であることを見破られた」と指摘した。
ウランウデ訪問にはモスクワから往復10時間以上かかるが、プーチン氏は工場でヘリのシミュレーション操縦室にも1時間近く入った。ウクライナ侵攻を指揮する最高司令官としては余裕がある。
習近平の訪露前日までウクライナ視察
神出鬼没のプーチン氏は3月18、19日、クリミアとウクライナ南東部のマリウポリ、南部軍管区司令部のあるロストフナドヌーを視察した。ロシア軍が昨年制圧したドネツク州の港町マリウポリでは夜間、飛行場から自らクルマを運転して市内に入り、住民と話す約30分の動画が大統領府HPで公開された。
この時はトヨタのランドクルーザーを運転。やはりフスヌリン副首相を隣に乗せ、話しながら夜道を運転している。プーチン氏がモスクワで移動する際、道路は封鎖され、車列が猛スピードで飛ばすが、この時は対向車も行き交った。警備の車列も少なく、信号待ちでブレーキを踏んだ。
ウクライナのパルチザンを警戒し、あえて通常の移動を装った可能性もある。プーチン氏は市内で住民と近距離で会話し、狭いアパートの一室に入るなど、コロナ禍の隔離が嘘のような密の交流だった。遠方から、「パカズーハ」(見せかけだ)という女性の高い声が聞こえたが、HPの動画からは後に削除された。
ラティニナ記者は「2日間の旅で、プーチンは誰もいない大学や幼稚園を訪れ、無人の街を夜ドライブし、エキストラの一団と会話した。ゼレンスキー(ウクライナ大統領)の前線視察も唐突に行われるが、民衆は驚嘆し、多くの人がスマホで写真を撮り、握手攻めにする。プーチンが写真を撮られることはない」とし、プーチン氏を「泥棒のように夜な夜な忍び寄る男」と皮肉った。
「SVR将軍」は、「ビデオ撮影のためだけの訪問だった。影武者は実質的な会話をすることを禁じられている。滞在時間も短く、前線に足を踏み入れた実績だけがほしかった」と指摘した。
マリウポリなどの訪問終了の翌20日、中国の習近平国家主席が3日間の公式訪問のため、モスクワに到着した。孤立するロシアにとって、中国は最大の後ろ盾であり、中露首脳会談はプーチン氏にとって最も重要なイベントのはずである。前線を視察したプーチン氏が“本物”だったとすれば、前日まで2日間も旅を続けて、首脳会談の準備は大丈夫だったのだろうか。
KGB元同僚も影武者説を支持
「SVR将軍」はこれ以外にも、昨年7月31日のサンクトペテルブルクでの海上軍事パレード、10月20日の西部軍管区軍事演習場視察、今年2月22日のモスクワでの軍支援コンサート、4月17日のウクライナ南部ヘルソン、東部ルハンシク州視察などでも影武者が利用されたとしている。
プーチン氏の影武者説は、ウクライナや英国のメディアが好んで報道し、識者の間でも広がっている。KGB(ソ連国家保安委員会)でのプーチン氏の同僚で、フランスに亡命したセルゲイ・ジルノフ氏はウクライナのテレビで、「私は以前、影武者説を陰謀論と退けたが、考えを変えた。全く違うプーチンが現れ、偽物は本物より顔が広くなっている。整形を施したようだが、頭の形も、皺も声も違う」「2月21日に議会で演説したプーチンは痩せていて何度も咳込んだが、翌日コンサートに現れたプーチンは太って健康そうだった」と話した。
米国に亡命した政治学者のアンドレイ・ピオントコフスキー氏は、「プーチンは小規模な会合や式典では替え玉を使っているが、各国首脳との会談や重要演説では本人が現れる。習近平との会談に影武者を送り込んで、習に恥をかかせることはしない」と述べた。
ロシアの政治評論家、イリヤ・グラシチェンコフ地域政策開発センター所長は、「フェデラル・プレス」に対し、「影武者がイベントに参加し、何かに署名した場合、署名行為の権限はどうなるのか。これは重大な法的問題を惹起する」と語った。
AI鑑定で低い一致率
プーチン氏の影武者説については、BS-TBSの「報道1930」が5月22日に独自検証して反響を呼んだ。
番組がAIによる顔認証システムを開発する民間企業「トリプルアイズ」に委託し、目、鼻、口の形や輪郭など500以上の特徴をAIで解析した結果、本人との一致率は低いことが分かった。
それによると、5月9日の対独戦勝記念日で演説したプーチン氏を本物とみなしてAIが比較したところ、昨年12月のクリミア大橋視察時の一致率は53%、今年4月のヘルソン州視察時は40%だった。一致率が高いほど本人で、ヘルソンに現れたプーチン氏は「そっくりさんレベル」だったとされる。
今後、AIを使った顔認証や声紋鑑定が進むとみられる。米英両国や、顔認証技術の先進国、中国の情報機関は、独自に実施しているはずだ。
ロシアの政治文化?
ロシアでは、政敵のテロを極度に恐れた独裁者ヨシフ・スターリンも複数の影武者を使っていたことが知られる。ゴルバチョフ時代末期にソ連紙が調査報道をしており、最初の影武者は1930年代、爆弾テロに遭遇して負傷。二人目は大戦前後に活動し、簡単な演説もこなし、赤の広場のパレード視察にも動員されたという。
二人ともイスラム圏の北カフカス地方出身で、スターリンの死後、ひっそり暮らし、長生きしたという。
長期政権を維持したレオニード・ブレジネフ共産党書記長にも影武者がいたとの説がある。帝政ロシアの一部皇帝も影武者を利用していたとされ、流血の歴史が長いロシアでは、独裁者の影武者使用は政治文化のようだ。
プーチン氏は2020年2月、タス通信とのインタビューで影武者説について、「政権発足当初、安全のため、ダブルを使うよう提案を受けたが、断った」と述べていた。第二次チェチェン戦争の最中で、テロとの戦いが最も厳しい時期だったという。
コロナ禍が始まるタイミングでのインタビューも思わせぶりだが、会見したタスのアンドレイ・バンデンコ記者は他のメディアで、「会見では、いきなり『あなたは本物なのか』と尋ね、大統領は『ダー』(イエス)と答えた。“Putin's double” は今や、プーチン関係で最も検索されるキーワードの一つだ」と自慢している。
FSOが運営、最高機密
スターリンの影武者を操ったのは、KGBの前身、内務人民委員部(NKVD)の要人警護部門だった。要人警護部門はKGBの分裂時に連邦警護庁(FSO)として独立。推定2万人の要員を抱え、米国のシークレットサービス(約6000人)より多いという。
「SVR将軍」によれば、プーチン氏の影武者を操るのもFSOで、影武者は元海軍海兵隊員だった可能性があるという。しかし、最高機密事項であり、真相は不明だ。昨年秋に亡命したFSOの通信将校も西側メディアで、影武者説には触れていなかった。
一方で、これほど影武者説が広がると、政権として使いにくいことも事実だ。プーチン氏は5月25日、クレムリンで旧ソ連圏経済ブロックの「ユーラシア経済同盟」首脳会議を主催。26日には、クレムリンに企業トップらを集めて約3時間対面で会見し、健在を誇示した。
これらのイベントに出席したのは本人のはずで、発言や動作に特に異常はみられなかった。
プーチン氏の退陣が終戦の突破口となり得るだけに、「健康」と「影武者」に世界の関心が引き続き集まるだろう。
●プーチン氏がサウジ皇太子と電話会談、OPECプラス協力を称賛 6/8
ロシアのプーチン大統領とサウジアラビアのムハンマド皇太子は電話会談を行い、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」の協力関係を称賛した。ロシア大統領府が7日、明らかにした。
ロシア大統領府によると「世界のエネルギー市場の安定確保」を巡り詳細に協議し、石油の需給バランス確保に向けタイムリーで効果的な措置を可能にするOPECプラスの枠組みでの協力を賞賛したという。
●中国・中央アジアサミットが示すロシアの影響力後退 6/8
5月18日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙アジア担当編集者のJoe Leahyが「習近平はロシアの影響力が弱まる中、中央アジアに言い寄る。中国主席は安全保障、貿易、エネルギーで重要な地域の指導者と2日間の首脳会議を開く」との解説記事を書いている。
習近平は伝統的にロシアが支配してきた中央アジアとの絆を強化するため、初めて対面の首脳会議を主催し、中国の影響力を強化している。ロシアが弱体化し、ウクライナ戦争で気を逸らされる中、5月18日から2日間のサミットは北京が5つの戦略的に重要な旧ソ連構成国である、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンとのより強い経済的、政治的関係を推進する機会であった。
日本が広島で主要7カ国首脳会議(G7サミット)を主催している最中、習は中央アジア諸国との首脳会談を強調している。中国はこの会合を西安で開催したが、そこからシルクロードが中央アジアを通って欧州に通じている。今年は広域経済圏構想「一帯一路」構想の立ち上げの10周年にも当たる。
中国は中央アジアを政治的に微妙な新疆ウイグルの西部地域の安全保障にとり重要であると見ている。そこで中国はイスラム教徒のウイグル人を弾圧している。
ロシアはウクライナ戦争を巡り、旧ソ連圏での影響力を失い始めた。ロシアは昨年、キルギスとタジキスタンの国境衝突の際にも存在感を示せなかった。カザフスタンはウクライナ侵攻を支持せず、ロシアのウクライナ領土の併合を認めることも拒否した。
中国は中央アジアの天然ガスの最大の買い手である。特にカザフスタンはレアアース(希土類)の埋蔵地である。また中国はグリーンエネルギー、5Gネットワーク建設、道路鉄道拡張で地域を支援するかもしれない。もう一つの計画は鉄道だけで欧州に行ける41億ドルの鉄道を中国、キルギス、ウズベキスタンに建設する提案である。
中国は、ロシアの軍事的プレゼンスをまねなくても、より大きな安全保障協力を発表するかもしれない。中国は既にタジキスタンと武装組織、武器、麻薬が新疆に入ることを阻止する協力をしている。習はこれを地域安全保障計画の提案にまで持っていこうとし得る。
ただ、多くの中央アジア人は中国の意図に懐疑的で、中国への債務増大への懸念も持っている。ロシアは中央アジアにおいてまだ支配的で、多分より好まれている役者である。

習近平は、G7広島サミットと時期を合わせて、西安で中央アジア諸国5カ国(C5)の首脳会議を開催した。これについて、G7サミットに対抗する意図があるのではないかとの報道もあった。が、もしそういうことを中国が狙っていたとしても、G7首脳会議とC5首脳会議は参加者の重要性からしても比較の対象にもならないものである。特にG7拡大会合への参加者も勘案すれば、より明確にそうである。
西安首脳会議については、この解説記事が言うように、中国が、ロシアが影響圏と考えている国々との関係を強化しようとしているものであって、ロシアと中国との中央アジアでの影響力構築競争における一つの局面ととらえるのが正解であろう。
今後は中国の存在感が増大
この解説記事は、結論としては、ロシアはまだ支配的で多分より好まれている役者であるとしている。その評価に現段階では異論はないが、国際情勢は一つの方向に動き出すと、かなり早くその方向に動いていくものであり、中央アジアにおいては中国の存在感が今後大きく伸びてくるのではないかと考えられる。
ロシアは中央アジアからエネルギーを買うことはないが、中国と中央アジア諸国間ではエネルギー貿易を増やす余地が大いにあり、レアアースの開発精錬でも協力し得る。出稼ぎ労働については、中央アジアの人はロシア語に堪能な人が多く、ロシアで働くことを希望する人が多いだろうが、中国の賃金がロシアよりずっと高い状況がすぐに出てくるだろう。これらすべてが中国のプレゼンス増大につながるだろう。
C5サミット後、習近平は内政不干渉などとともに、各国の領土の一体性の尊重を強調している。これは、特にカザフスタン北部はロシア人の居住地域であり、プーチンが東部ウクライナ併合で振りかざしている論理によれば、ロシアに併合されるべき地域である。カザフスタンのトカエフ大統領がロシアのウクライナ侵攻、ウクライナ領土の併合に反対する理由がここにある。
中国もトカエフ大統領を支持する以上、ウクライナでのロシアの侵攻を非難すべき立場にある。ただ中国は矛盾したテーゼを平気で両方とも支持することがある。
プーチンは今回のG5首脳会談には不満を持っていると思うが、いま中国に異を唱えることはとてもできないだろう。
ロシアはウクライナ戦争のせいで、旧ソ連諸国地域での地歩を中央アジアでもコーカサスでも失ってきていると言ってよいと思われる。
●ウクライナの反転攻勢は「初期段階」「専門家間で異論ない」… 6/8
ロシアのウクライナ侵略を巡り、米政治専門紙ポリティコは6日、ウクライナ軍が大規模な反転攻勢の「初期段階」に入ったと報じた。ウクライナ軍が4日以降、ドネツク州南西部とザポリージャ州に延びる「南ドネツク戦線」で攻勢に転じたことを踏まえたものだ。ウクライナ軍が領土奪還作戦に移行するかどうかが焦点となる。ポリティコは、ウクライナ軍の行動が「新たな局面に入ったことに専門家の間で異論はない」と指摘した。
ウクライナ軍は、大規模反攻でロシアが2014年に一方的に併合した南部クリミアと露本土との分断を目指している。4日以降、攻勢を強化している地域は、奪還対象の有力候補と取り沙汰される港湾都市のマリウポリやベルジャンシクまで100キロ・メートル程度の距離だ。
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は6日、AP通信に「戦闘は長期化する」と述べた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6日、南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダム決壊は「反転攻勢に影響しない」と明言した。ドニプロ川の東岸地域に上陸して、クリミア半島を脅かすシナリオが当面、消えたことを示唆した可能性がある。
●ウクライナとロシアの外相が相次いでアフリカ訪問 6/8
ウクライナとロシアの外相によるアフリカ歴訪が続いている。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は5月22〜29日にモロッコ、エチオピア、ルワンダ、モザンビーク、ナイジェリアの5カ国を訪問し、ナイジェリアではボラ・ティヌブ新大統領の就任式(2023年5月31日記事参照)に出席したほか、アンゴラのテテ・アントニオ外相と会談した。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相も29〜31日、南アフリカ共和国のケープタウンで6月1〜2日に開催されたBRICS外相会議を前に、ケニア、ブルンジ、モザンビークを訪問した。
クレバ外相のアフリカ訪問は2022年10月にセネガル、コートジボワール、ガーナ、ケニアを訪問して以来2回目。25日にエチオピアの首都アディスアベバで行われたアフリカ連合(AU)の前身のアフリカ統一機構(OAU)創設60年記念演説で、「ロシアのウクライナ侵攻に中立ということは、近くで起こり得る国境の侵害や犯罪にも中立であることを示すことになる」として、アフリカ諸国の中立的な姿勢に警鐘を鳴らした上で、これまでウクライナがアフリカ諸国にインフラや食糧安全保障面で支援を行ってきたことを強調した。また、同外相は2023年中にアフリカ10カ国に大使館を設立予定だと明らかにしたほか、「ウクライナ・アフリカ・サミット」の初開催を計画していることを公表し、今後も「相互尊重、相互利益、相互恩恵という3つの相互原則に基づく新しい質のパートナーシップを発展させたい」とした。
ラブロフ外相は2023年に入って2回目のアフリカ訪問となり、ケニアと新たな通商協定を締結するなど、貿易・投資など経済面での協力を強化させることで各国と一致したほか、モザンビークと軍事技術協定に関する会合を再開させるとするなど、安全保障についても引き続き連携していくとした。ウクライナ情勢については、欧米諸国による対ロシア制裁やウクライナへの武器供給を批判し、アフリカ諸国に対して同様の立場を強いることは主権的平等に反するとした。
ラブロフ外相のアフリカ歴訪中の31日には、エリトリアのイサイアス・アフェウェルキ大統領がロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン大統領と会談。エリトリアは国連のロシア非難決議に反対しているアフリカ2カ国のうちの1つで(2023年2月27日記事参照)、1月にはラブロフ外相が同国を訪問していた。なお、ロシアは7月26〜29日に2回目の「ロシア・アフリカ首脳会議」を予定している。
●ウクライナ、バフムト近郊で1.1キロ前進 大規模反攻は否定 6/8
ウクライナは7日、過去24時間で東部ドネツク州の要衝バフムト近郊で最大1100メートル前進したと発表した。
ハンナ・マリャル国防次官はメッセージングアプリ「テレグラム」に「われわれはこの1日で、バフムト方面の各前線で200─1100メートル前進した」と投稿した。同地域で「守勢から攻勢に転じた」としたが、それ以上の詳細は明らかにしていない。
ロシアは今週、ウクライナがドネツク州のロシア支配地域の一部で反撃を開始したが阻止したと述べていた。ウクライナ当局はロシア側の主張に対し直接的な発言はほとんど行っていないが、この日は治安当局の高官が大規模な反攻開始を否定した。 
●狂気のプーチン<鴻Vア、別の巨大ダムも標的か!? 6/9
ウクライナ南部ヘルソン州で6日に発生したカホフカ水力発電所の巨大ダム決壊をめぐっては、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナと、ウラジーミル・プーチン大統領のロシアが、相手の破壊工作だと非難し合っている。こうしたなか、ロシアが別のダムを狙っているという衝撃情報が報じられた。ICC(国際刑事裁判所)による捜査打診の動きや、国際調査委員会設置を提案する動きも出ている。
「(ロシア側は)ドニプロ川のダムをもっと爆破するよう指示している」
ウクライナ国防相顧問のユーリ・サク氏は、英BBCラジオ4の番組で、傍受した電話の内容をこう明かした。決壊したダム以外も、標的になっている可能性があるようだ。
ダムが決壊した原因はいまだに判然としていないが、西側諸国ではロシアの責任を追及する声が高まっている。
6日に開かれた国連安全保障理事会の会合では、日本や欧米が、ロシアのウクライナ侵攻がダム決壊につながったと批判し、ロシア軍の撤退を改めて要求した。英国のカリウキ国連次席大使はロシアが民間施設への攻撃を繰り返してきたと前置きし「ダム決壊の責任が証明されれば、品位の低さを新たに示すことになる」と強く非難した。
これに対し、ロシア大統領府によると、プーチン氏は、ウクライナが西側の支援を受け、ロシア領内で破壊工作を行っていると強調。ダム破壊は「野蛮な行為の明白な例だ」と非難したという。
決壊原因の調査をめぐり、国際社会の関与を求める動きも出ている。
ロイター通信によると、ゼレンスキー氏は定例のビデオ演説で、同国の検察当局がダム破壊の捜査に国際司法を関与させるようICCの検察官に打診していると明らかにした。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は7日、ゼレンスキー氏、プーチン氏とそれぞれ電話会談し、ダム決壊に関する国際調査委員会の設置を提案した。
一方、ダム決壊に伴う被害は甚大なものになるとの見方が出ている。
ウクライナの検察庁幹部は6日、ダム下流域の約80カ所の都市や集落が洪水被害に遭う恐れがあり、4万人超の避難が必要とする推計を明らかにした。州都ヘルソンでは残された人がいるもようだが、被害の全容は不明。米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は6日、「死者が多数に上る可能性がある」と述べた。
●ロシアのエリート層、ウクライナ侵攻の見通し悲観−停戦も見えず 6/8
プーチン大統領が始めたウクライナ侵攻を巡り、重苦しい空気がロシアのエリート層を支配している。ロシアにとっていまやあり得る結果は、最善でも紛争の「凍結」でしかないとの見方が広がっている。
事情に詳しい7人の関係者によると、政治や実業界のエリート層の多くは戦争にうんざりし、戦争を止めたいと考えているが、プーチン大統領が戦争を停止するとは思っていない。関係者は繊細な内容を話しているとして匿名を要請した。侵攻について大統領に立ち向かおうとする者は誰もいないが、政権に対する絶対的な信念は揺らいでいると、関係者4人が述べた。
最も望ましい展開は年内に交渉が行われて紛争が「凍結」され、占領地域の一部の支配を維持してプーチン氏が一応の勝利を宣言できるようになることだと、関係者の2人は話した。
元ロシア政府顧問で侵攻後に国を離れ、現在はウィーンを拠点とするシンクタンク、Re:Russiaの責任者を務めるキリル・ロゴフ氏は「エリートは袋小路にはまっている。無意味な戦争のスケープゴートにされることを恐れている」と指摘。「ロシアのエリート層の間で、プーチン氏が今回の戦争に勝利できない可能性がこれほど広く考えられるようになったというのは、実に驚くべきだ」と続けた。
失望感の深まりで、先行きが怪しくなってきた侵攻の責任を巡る非難合戦が強まりそうだ。すでに国粋主義的な強硬派とロシア国防省の間の亀裂は表面化している。欧米の巨額の支援を受けたウクライナが反転攻勢に乗り出す中で、ロシア当局者による戦況好転への期待は低い。ロシア軍は冬季に攻勢をかけたもののほとんど進軍できず、多大な犠牲ばかりを生んだ。
ウクライナに対する侵攻を支持し、攻撃強化を望んでいた向きですら、戦争の見通しに対する期待はしぼんだ様子だ。侵攻は当初、数日で終わると考えられていたが、いまや16カ月目に入った。ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループ創設者のエフゲニー・プリゴジン氏ら国粋主義者はショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長に軍事的失敗の責任があると非難し、破滅的な敗北を避けるため総動員と戒厳令の導入を呼び掛けている。
ロシア大統領府と緊密な関係を持つ政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフ氏は「あまりに多くの大きな誤りがあった」と述べ、「ずっと前には、ロシアがウクライナの大部分を占領できるとの期待があった。しかしその期待は実現しなかった」と説明した。
ロシア軍は戦争の初期段階でキーウ占領を果たせず、ロシアにとって何が勝利になるのか、もはやあまり明らかでない。それでもプーチン大統領と政権幹部はロシアが勝利するとの主張を続けている。政権内部からプーチン氏に挑戦するような兆しは見られていない。
事情に詳しい関係者4人によると、エリートの大半は大勢に影響を及ぼすことはできないと信じ、目立たないようおとなしく仕事に専念しているという。プーチン氏は終戦を望んでいる兆候を一切見せていないと、関係者5人が述べた。
●「ウクライナは既にロシアの防衛戦を突破した」──プリゴジン 6/8
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者であるエフゲニー・プリジンは、ウクライナ軍が反転攻勢を始め、ロシア軍の防衛戦を破って東部ドネツク州のバフムトに拠点を作ったと伝えられると、20万人の兵をワグネルに送れとロシア軍に要求した。
ロシア軍の幹部をたびたび批判してきたプリゴジンは、6月6日にメッセージアプリ「テレグラム」の自身の公式チャンネルに動画を投稿。この中で、ウクライナ軍の反転攻勢を阻止できるのは、ワグネルの部隊だけだと主張した。
モスクワ・タイムズ紙が引用して報じたところによれば、プリゴジンは動画の中で「20万人の人員が必要だ」と述べてこう続けた。「ルハンスク(ルガンスク)とドネツクの前線に対応するには20万人超の人員が必要だ。我々の準備は整っている」
プリゴジンは、ロシア軍がワグネルに弾薬を供給しない、という批判を繰り返し、5月末にはロシア正規軍と交代するためバフムトから部隊の撤収を始めていた。ロシアの刑務所から大勢の受刑者を動員して戦地に投入してきたワグネルだが、バフムトでの激戦でかなりの戦闘員を失ったとみられている。
プーチンに総動員令の発出を要請
さらにプリゴジンは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して、総動員令を発して兵力を増やすよう促した。ただし3カ月をかけて適切な訓練を行わなければ、新たな部隊は「大砲の餌食」になるだけだろうとつけ加えた。ワグネル自身がバフムトで、こうした「使い捨て兵士」に頼る戦術を取ってきたと報じられている。
ウクライナ軍は複数の地域で「既に(ロシア軍の)防衛線を突破している」と彼は指摘し、さらにこう続けた。
「バフムト近郊の3つの地点が問題だ。トレツクには大勢のウクライナ兵が押し寄せており、近いうちにクルディユムフカとオザリアナフカにも進軍を始めるだろう。(ロシア西部でウクライナと国境を接する)ベルゴロド州はぎりぎり持ちこたえている状態だ。ザポリージャでは最も重要な拠点を失った。今後はドネツク地方の北部と南部への攻撃が予想され、時間的な余裕はない。軍用機では事態を収拾することはできないだろう」
こう述べたプリゴジンは、改めてロシア国防省を批判した。「ロシア軍はきちんとした運営が行われておらず、計画も準備も、互いに対する敬意もない」「上層部がかんしゃくを起こしているだけだ。我々は今後、重大な損失に直面することになると確信している。確実に、領土の一部を失うことになるだろう」
ウクライナ軍は「止められなくなる」
南部の前線は、ウクライナ軍による反転攻勢の標的になる可能性が最も高いとされていた地点だ。ここでロシア軍の防衛線を突破すれば、ウクライナ軍はその後さらに南下してメリトポリを解放し、アゾフ海沿岸に進軍して、クリミア半島とロシア本土を結ぶルートを遮断することができる可能性がある。
この地域は現在「破壊的な状況」だとプリゴジンは述べ、さらにこう付け加えた。「ノボドネツコエは既に(ウクライナ側に)奪取された。今後もし(ロシア軍)部隊がさらに5〜8キロメートル後退すれば、敵の進軍は制御できなくなるだろう」
「ウクライナ軍がくれば、ここに暮らす住民の二人に一人は最低でもウクライナ軍の味方をするだろう。つまり彼らがベルジャンシクやマリウポリに到達すれば、もう止めることはできないということだ」
本誌はこの件について、ロシア国防省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。
強気の発言は「知名度アップ」が目的か
ウクライナの元国防相で現在は同省の顧問を務めるアンドリー・ザゴドロニュクは本誌に対し、プリゴジンがロシア政府の戦争プランについて公の場で批判を繰り返すのは自分のためだと述べた。
「彼の発言は誇張だと思う」とザゴドロニュクは述べた。「プリゴジンは一時期は(ロシア政府の)役に立つ存在で、その後ロシア軍の指導部に見捨てられて作戦上の役割を失ったので、注目を集めるために大げさな批判をしているだけだ」
●占領下のダム決壊、ロシア旅券ない住民の移動妨害か…洪水は30自治体に 6/8
ロシアが占領しているウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダム決壊をめぐり、トルコのタイップ・エルドアン大統領は7日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、プーチン露大統領とそれぞれ電話会談し、原因究明に向けた国際的な調査委員会の設置を提案した。
トルコ大統領府の発表によると、エルドアン氏は電話会談でプーチン氏に「疑いの余地が残らない包括的な調査」の重要性を強調した。委員会はロシアとウクライナの専門家、国連やトルコなどで構成する。トルコが仲介した黒海経由でのウクライナ産穀物輸出の協議枠組みが念頭にあるとみられる。
電話会談でゼレンスキー氏は、ウクライナからの露軍撤退に向けたトルコの働きかけを求めた。プーチン氏はダム決壊の原因はウクライナにあると主張した。
一方、ウクライナ内務相は7日夜、洪水の発生地域が露軍占領下の10自治体を含む30自治体に拡大したと発表した。露軍占領下にあるドニプロ川東岸のオレシキ市長は7日、SNSで3人が死亡したと明らかにした。露軍占領地域で避難の遅れが指摘されており、ウクライナのデニス・シュミハリ首相は7日、国連などに支援を要請した。
ロシア語の独立系ニュースサイト「メディアゾーナ」は7日、オレシキの占領当局がロシア旅券を取得していない地元住民やボランティアの移動を妨害し、多くの住民が屋根で救助を待っていると伝えた。
●英、IAEAに追加の資金援助 ウクライナでの作業を支援 6/8
英国が国際原子力機関(IAEA)に対し、ウクライナでの作業を支援するために75万ポンド(約1億3000万円)の追加の資金援助を行うことがわかった。英国の外務・英連邦・開発省(FCDO)が7日、明らかにした。
FCDOによれば、今回の追加支援によって、ウクライナの原発の安全に対する英国の支援の総額はウクライナでの戦争の開始以降で500万ポンドとなった。
IAEAに常駐する英国の代表は7日、オーストリア・ウィーンで開催されたIAEA理事会に出席し、「ロシアによるウクライナの民間インフラに対する野蛮な攻撃とザポリージャ原発の違法な管理は、全ての国際的な核の安全と治安の規範に反している。ロシアは核の安全基準を守ると主張しているものの、その行動はそうではないことを物語っている」と述べた。
IAEAのグロッシ事務局長は理事会で、ウクライナの核の安全に関する最新の報告書を発表した。FCDOによれば、報告書はウクライナの原発施設の安全状況について概説しており、特に冷却水をカホウカ・ダムに頼っているザポリージャ原発の状況に深い懸念を示した。
FCDOによれば、英国は、ザポリージャ原発に対する途切れることのない電力供給を求めるウクライナの呼び掛けに同調し、ロシアの同施設からの完全撤退とウクライナに対する違法な侵略戦争の終結を引き続き求めていくという。
ザポリージャ原発は6基の原子炉を備える欧州で最大規模の原発施設。大部分は旧ソ連時代に建設されたが、1991年にウクライナが独立を宣言して以降はウクライナの所有物となっている。
●ウクライナ ダム決壊 ゼレンスキー大統領「状況は壊滅的」 6/8
ウクライナ南部でダムが決壊して大規模な洪水が発生し、被害の状況が少しずつ明らかになっています。
浸水は、東京23区に匹敵する広さにまで拡大しているとみられ、影響を受ける市民は4万人近くにまで増える可能性が指摘されています。
ゼレンスキー大統領は、浸水の被害を受けた地域を訪れ、当局の責任者などと今後の対応を協議しました。
一方、ウクライナ軍による反転攻勢の動きが南部などで活発になっているとみられ、その動向も焦点となっています。
ダム決壊の原因についての専門家の見方も含めて、詳しくお伝えします。
ゼレンスキー大統領 ヘルソン州を訪問
ウクライナ南部ヘルソン州にあるカホウカ水力発電所のダムが6日、決壊して大規模な洪水が発生したことを受けて、ゼレンスキー大統領は8日、ヘルソン州を訪問したとSNSで発表しました。
当局の責任者などと会議を開き、洪水による被害状況や住民の避難や生活の支援、さらに今後の軍事作戦などについても意見を交わしたということです。
また、ゼレンスキー大統領は浸水した地域を訪問したとする映像をSNSで公開しました。
地雷などが流された可能性
ダムの決壊によってこの地域に設置されていた地雷などが下流に流された可能性があり、ウクライナ当局や国際機関から非難や懸念の声が上がっています。
ウクライナのマリャル国防次官は6日、SNSで「ロシアが設置した地雷が流された。予測できない爆発につながるだろう」と書き込みロシア側を強く非難しました。
また、ウクライナの非常事態庁も6日、SNSを更新し、「地雷に気をつけて!」と書かれた画像とともに地雷などが流された可能性があるとして警戒を呼びかけました。
非常事態庁は8日にもSNSを更新し、地雷などには近づいたり触ったりしないよう求めた上で「地雷の危険性を必ず子どもたちに伝えてください。子どもたちの命を救うことになります」と呼びかけています。
さらに、国際機関からも懸念の声が上がっています。
フランスのAFP通信は、ICRC=赤十字国際委員会の担当者が7日、これまで把握していた地雷の位置がダムの決壊で分からなくなったと指摘したと伝えています。
担当者は「いまとなっては、地雷が下流のどこかにあるということしか分からない」と述べ、住民だけでなく、現地で救助活動にあたっている人たちにも危険が及ぶ可能性があると懸念を示したということです。
動画で公開「大規模な洪水で2000人以上が救助」
ゼレンスキー大統領は、7日に公開した動画では、これまでに2000人以上が救助されたと明らかにしました。
ただ、ヘルソン州のロシア側の支配地域について「状況はまさに壊滅的だ。救助もなく、飲料水も食料もない。医療活動も行われておらず、どれだけの人々が死ぬかも分からない」と述べ、ロシア側は民間人を救助していないなどとして、強く非難しました。
そのうえで「大規模な支援が必要だ。ICRC=赤十字国際委員会のような国際機関が、すぐに救助活動に参加し、ロシア側の支配地域にいる人々を助けることが必要だ」と訴えました。
ロシア側の当局者「1万4000棟以上の住宅が浸水 4280人が避難」
ヘルソン州でロシア側が支配する地域の当局者は8日、国営のタス通信に対し、15の集落で1万4000棟以上の住宅が浸水し、墓地や病院、幼稚園などが水没したとしています。そして、170人以上の子どもを含む4280人が避難しているとしています。また、ダムに隣接し、ロシア側が占拠しているノバ・カホウカ市の市長は行方不明になっていた7人のうち、5人が死亡したと明らかにしました。
【ダム決壊 被害の状況は】
OCHA=国連人道問題調整事務所 4万人近くに影響が増えるか
OCHA=国連人道問題調整事務所はウクライナ政府の情報として、およそ80の町や村で浸水の被害が報告され、影響を受ける市民は4万人近くにまで増える可能性があるとしています。
また、ヘルソン州の知事は8日SNSで「ヘルソン州では600平方キロメートルが水につかった」と明らかにし、浸水は、東京23区に匹敵する広さにまで拡大しているとみられます。
ストリレツ環境保護相も7日SNSで「少なくとも150トンの石油が、破壊された水力発電所から流出した」としてロシア軍を非難しています。
このほかにもOCHAは、ダムの周辺にあって、70万人以上に水を供給していた貯水池の水位も急速に下がっていて、安全な飲料水の確保が懸念されると指摘していて、影響は、広範囲に及ぶと見られています。
国連報道官「住民に深刻な健康被害が及ぶおそれ」
国連のデュジャリック報道官は7日、定例の記者会見で、国連機関が分析した現地での影響について明らかにしました。それによりますと、水位の上昇が続き、浸水の範囲も広がっているとして安全な飲料水を入手できないなど、住民に深刻な健康被害が及ぶおそれがあるとしています。
FAO=国連食糧農業機関「食料安全保障に影響の可能性」
また、FAO=国連食糧農業機関は被害状況について「数千ヘクタールの農地が浸水し最近植えられた農作物にも大きな被害が出ている」としたうえで「食料安全保障に影響を与える可能性が高い」と警告しています。
【原発への影響は】
IAEA事務局長 声明「安全確保の活動を強化」
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は7日、声明を発表し、ウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所を来週、視察し、水力発電所のダムが決壊したことによる影響など状況を確認することを明らかにしました。また、原発に常駐するIAEAの職員の数を増やし、安全を確保するための活動を強化するということです。
ザポリージャ原発では原子炉が停止状態にありますが、燃料の溶融や放射性物質の放出を防ぐために冷却が必要です。
声明によりますと、ダムの決壊後、原発に冷却水を供給する貯水池の水位が下がっていて、2日以内に水をくみ上げられなくなることも予想されるということです。
このため貯水池から水がなくならないうちに原発の隣にある別の池などに冷却水を移す作業が急ピッチで進められているということです。
声明では、この池などに十分貯水されていれば数か月間は冷却水の供給は可能だとしています。
原発の周辺ではこれまでも砲撃などが起きていることからグロッシ事務局長は「こうした水源を維持することが不可欠だ」として破壊しないよう訴えました。
【支援の動き】
仏マクロン大統領 ダム決壊による被災者支援表明
フランスのマクロン大統領は、ゼレンスキー大統領と電話会談を行い、ウクライナ国民への連帯の意向を伝えた上で被災者に支援を行う考えを明らかにしました。
フランス政府によりますと、浄水器や衛生用品、貯水タンクなどを緊急支援物資として現地に届けるということです。
また、ウクライナ大統領府によりますと会談で、ゼレンスキー大統領は、ダムの決壊は、ロシア軍の爆破による結果だと主張し、両首脳は、状況の調査に向けて、国際的な枠組みを活用する可能性を検討したということです。
NATO事務総長「8日に緊急会合を開く」
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は7日、ツイッターへの投稿で、ウクライナ南部でダムが決壊し、大規模な洪水が発生したことをめぐり、8日に緊急会合を開くことを明らかにしました。
また、ウクライナのクレバ外相も7日、ストルテンベルグ事務総長と電話会談したことを明らかにし「ストルテンベルグ氏はNATOの枠組みで人道支援を行うことを約束した」としています。
【ダム決壊の原因については】
ダムの決壊をめぐってウクライナ側は、ロシア軍によって内部から爆破されたとしているのに対して、ロシア側はウクライナ軍の妨害行為によるものだと主張し非難の応酬が続いています。
専門家「“ロシア側が実行”見方は成り立つ」
ダムの決壊の原因について、防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は、現時点では事故の可能性も排除できず、断定的な評価はできないとしています。
そしてウクライナとロシアがそれぞれ相手側の破壊工作だと主張していることについては「どちらにとってメリットがあったのかということや、決壊のタイミングを考えると、ロシア側が実行したという見方は成り立つ」と述べました。
具体的にはドニプロ川下流のウクライナ領の住民に被害が出るほか、ダムから冷却水の供給を受けるザポリージャ原子力発電所でも事故の懸念が高まることから、ウクライナ側にとってメリットは少ないと分析しました。
一方、ロシア側にとってはメリットがあると述べ、その理由としてドニプロ川に架かる唯一の橋がダムに併設されていたが、破壊された上、下流域が水没して地面がぬかるみ、ウクライナ側が戦車部隊などを進めることが難しくなったと指摘しました。
戦況に与える影響と今後については
今後の戦況に与える影響については「ウクライナには複数のシナリオがあったと思うが、ヘルソン州の奪還作戦はやや難しくなった可能性がある。ゼレンスキー大統領が洪水対策にも注力しないといけなくなり、戦闘に集中できなくなる状況も懸念される」としています。
ウクライナと国境を接するロシア西部の州では、ロシア人などの義勇兵を名乗る「自由ロシア軍」や「ロシア義勇軍」が攻撃を繰り返しています。
2つの組織の役割について兵頭研究幹事は「ロシア側からするとこれまでの1200キロの戦線に加えて、ロシア領内の800キロを新たに守らなくてはならない状況になり、戦線が大きく拡大することになる。このため、特に南部と東部からロシア軍を引き離し、分散させるねらいがあるとみられる。ウクライナ軍の反転攻勢の動きにも何らかの形で連動していると思う」とする見方を示しました。
その上で、ゼレンスキー大統領が義勇兵組織によるロシア領内への攻撃を把握していたかどうかは確認できていないとして「ゼレンスキー大統領がこれらの組織を100%コントロールできておらず、ロシア領内への攻撃が激化し、戦争がエスカレートする可能性もある」と指摘しました。
米シンクタンク「戦争研究所」ロシア軍の多くの防衛施設が破壊
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は7日「ダムの破壊はドニプロ川の東岸地域のロシア軍の陣地に影響を与えている」として、ウクライナ軍の反転攻勢に備えたロシア軍の多くの防衛施設や地雷原が破壊されたと指摘しました。
そのうえで「現地のロシア側は非常に混乱し、占領地域での市民への被害がさらに悪化している」としてロシア側にも大きな被害がでているという見方を示しています。
英国防省「複数の前線で激しい戦闘が続く」
また、イギリス国防省は8日「非常に複雑な作戦のなか、複数の前線で激しい戦闘が続いている」としてウクライナ軍による反転攻勢の動きが活発になっているとみられます。
親ロシア派の幹部「ウクライナ側が夜間攻撃を行った」
親ロシア派の幹部は8日、南部ザポリージャ州の主要都市メリトポリからおよそ60キロ離れたトクマクなどでの戦況に触れ「ウクライナ側がかつてない規模で、夜間、攻撃を行った」と発表し、ウクライナ軍の動向も引き続き焦点となっています。
【仲介の動き】
トルコ エルドアン大統領が調査委設置提案
トルコのエルドアン大統領が7日、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領と、それぞれ個別に電話会談を行いました。
トルコ大統領府によりますと、エルドアン大統領はゼレンスキー大統領に対して「詳しい調査を行うために、ロシアとウクライナの専門家、それに国連とトルコなどが加わった委員会を設置できる」として、原因究明に向けた調査委員会の設置を提案したということです。
一方、プーチン大統領に対しても「包括的な捜査が行われることが重要だ」として調査委員会の設置に向けてみずからが調整役を担う考えを伝えたということです。
ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は「ウクライナは西側の意向をくんで緊張を高める危険な賭けをしている」と主張したということです。
ゼレンスキー大統領は「ロシアのテロ行為による人道面や環境への影響などについて伝えた」とSNSで明らかにしていて、エルドアン大統領としては、みずから仲介に乗り出すことで事態の打開につなげたい考えとみられます。

 

●ウクライナのダム決壊 被害広がる 今後犠牲者が増える懸念も 6/9
ウクライナ南部でダムが決壊し大規模な洪水が発生したことによる被害が広がっています。ロシアが支配する地域ではあわせて14人が死亡したと伝えられ、今後、犠牲者が増えることも懸念されています。
ウクライナ南部、ヘルソン州にあるカホウカ水力発電所のダムが6日、決壊して大規模な洪水が発生し、OCHA=国連人道問題調整事務所は、ウクライナ政府の情報としておよそ80の町や村で浸水の被害が報告され、影響を受ける住民はおよそ4万人にのぼる可能性があるとしています。
ヘルソン州の知事は8日、東京23区の面積に匹敵する、600平方キロメートルで浸水被害が出ていると明らかにし、そのおよそ7割はロシア側が支配するドニプロ川の南東側の地域だとしています。
このうちダムに隣接するノバ・カホウカの市長はロシアメディアに対して、行方不明になっていた7人のうち5人が死亡したと明らかにしました。
また、同じ南東側にあるオレシキの状況について、ウクライナのメディアは、避難している地元市長の話として、一帯が浸水し、9人の死亡が確認されたと伝えていて、今後、犠牲者が増えることも懸念されています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、現地の避難所を訪れ、住民や医療従事者と面会したほか、地元当局の責任者と会議を開き、被害状況や生活支援、それに今後の軍事作戦などについて意見を交わしたということです。
一方、ロシア大統領府は8日、プーチン大統領がロシア側が支配する地域の当局者と電話で協議し、必要な支援を行うよう指示したと発表しました。
こうした中、ロシアのショイグ国防相は声明を発表し、ウクライナ南部ザポリージャ州で8日未明、ウクライナ軍がロシア軍の防衛線の突破を試みたと発表しました。
イギリス国防省は8日「複数の前線で激しい戦闘が続いている。ほとんどの地域でウクライナが主導権を握っている」という見方を示し、ウクライナ軍による反転攻勢の動きが活発になっているとみられます。
●ウクライナ軍が大規模反攻に着手と米報道…メリトポリ奪還も視野か 6/9
米紙ワシントン・ポストとNBCニュースは8日、ウクライナ軍がロシア軍に対する大規模な反転攻勢に本格着手したと報じた。いずれもウクライナ軍高官からの情報として伝えている。昨年2月にウクライナ侵略を始めたロシアは、2014年に一方的に併合した南部クリミアも含め、ウクライナ領土の約17%を占領している。ウクライナが反転攻勢でどこまで領土を奪還できるかが焦点となる。
ウクライナ軍はドイツ製主力戦車「レオパルト2」など米欧諸国から兵器の供与を受け、12旅団を編成するなど大規模な反転攻勢の準備を進めていた。
ウクライナの攻勢に関連して、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、ウクライナ軍が8日未明、南部ザポリージャ州で露軍防衛線の突破を図ったと発表した。州西部オリヒウ南方の露軍陣地で激しい戦闘があったという情報もある。オリヒウは露軍の補給拠点メリトポリの北方約80キロ・メートルにある。ウクライナ軍が大規模反攻でメリトポリ奪還も視野に入れているとの見方が広がっている。
ウクライナ軍は4日以降、東部ドネツク州南西部からザポリージャ州東部までの「南ドネツク戦線」で攻勢を強化している。アゾフ海沿いの港湾都市マリウポリ、ベルジャンシクの奪還に向けた動きとみられる。成功すれば、南部クリミアと露本土を分断させることになる。
●「ウクライナ軍が反転攻勢開始」と米報道 ウクライナ側は否定 6/9
米紙ワシントン・ポストと米NBCニュースは8日、ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍が大規模な反転攻勢を開始したと報じた。いずれもウクライナ軍から情報を得たとしている。事実だとすれば、ロシア軍の占領地をどこまで奪還できるかが焦点となる。
一方、ウクライナのダニロフ国家安全保障国防会議書記は8日、反転攻勢開始との見方を否定し、「我々が反転攻勢を始めた時は、全員がそのことを知ることになるだろう」と述べた。
反転攻勢を巡っては、ウクライナのマリャル国防次官が4日、「開始の宣言はしない」としており、実際に開始したかは不明。ウクライナ南部ヘルソン州で6日に起きたダム決壊と洪水により、住民の避難が始まったことで、ウクライナ軍の攻勢計画が「複雑になる可能性がある」(米CNNテレビ)との指摘もある。開始の有無や進展の度合いを含め、情報戦の様相も呈している。
ウクライナはこれまで米欧に武器支援の強化を求め、反攻の機会をうかがってきた。今年1月には米国やドイツが従来の慎重な立場を変え、ドイツ製「レオパルト2」など主力戦車の提供を決定。その後、供与も進んでいる。英紙フィナンシャル・タイムズは8日、ウクライナ軍が前線にドイツ製戦車を投入し、「反転攻勢の最初の重武装攻撃」を始めたと伝えた。
一方、ロシアのショイグ国防相は8日、露軍が同日未明に南部ザポロジエ州の前線を突破しようとしたウクライナ軍を撃退したと述べた。事実だとすれば、ウクライナ軍が同州を中心に攻撃を始めた可能性がある。ワシントン・ポストは、ロシアの軍事ブロガーの見方として、ウクライナ軍が同州の要衝メリトポリなどの奪還によって、クリミア半島を含むロシア占領地域の分断を狙っているとの可能性を報じている。
●ダム爆破でウクライナの反転攻勢本格化 中国・習近平の「仲介案」は宙に 6/9
ロシア軍の占領下にあるウクライナ南部ヘルソン州のダム爆破は和平機運をまたもブチ壊し、事態の泥沼化を加速させることになりそうだ。侵攻開始以降の民間インフラ被害としては最悪で、深刻な環境汚染も懸念される。
ダム破壊で4万人超避難
ゼレンスキー大統領は「ロシアの占領軍はウクライナの土地で、ここ数十年で最大の生態系破壊の罪を犯した」と激怒。機能不全の国連安保理でも非難の応酬となった。
爆破により決壊したのは、ドニプロ川に設置されたカホフカ水力発電所の巨大ダム。下流域では家屋が流され、街は冠水。4万人超の住人が避難を余儀なくされている。川沿いのロシア占領地域にある動物園は水没し、300匹の動物がすべて死んだという。
疑惑の目を向けられているロシアのペスコフ大統領報道官は「意図的な妨害行為で、ウクライナ政府の命令で計画、実行されたものだ。その目的のひとつはクリミアから水を奪うことだ」と主張したが、分が悪い。ロシア軍がドニプロ川西岸から昨秋撤退した際、ウクライナ軍の進軍を阻止するため、ダム爆破を試みたとされるからだ。反転攻勢を始めたウクライナ軍は南進してアゾフ海を奪還し、ロシア軍占領下の東部と南部の分断を狙っている。大規模な洪水発生によって、作戦停滞は避けられなくなった。
「ウクライナが反転攻勢の時期に言及せず、沈黙を守ってきた要因のひとつが、中国の習近平国家主席が主導する仲介です。先月下旬に侵攻をめぐる代表団を初めて関係国に派遣して着地点を探っており、ウクライナは進展に期待を寄せていた」(中ロ外交事情通)
特使歴訪で手ごたえ
特使の任を預かる李輝ユーラシア事務特別代表は先月15日から26日にかけてウクライナ、ポーランド、フランス、ドイツ、EU、ロシアを歴訪。ゼレンスキー氏やロシアのラブロフ外相らと会談を重ねた。帰国後の講演で李輝は、「ロシア側は和平交渉には反対しておらず、政治ルートによる問題解決を一貫して支持している。ウクライナ側も平和を望んでいる。双方とも和平交渉の扉を閉じてはいないと感じた」などと、手応えを報告した。
「中国案の軸は侵攻前の状態に戻すというもの。ゼレンスキー氏は併合されたクリミア半島も取り戻すとしていますが、国内の疲弊や欧米の支援疲れを考えれば、一時休戦はあり得ない展開ではない。一方のロシアは侵攻の対価を得られませんが、反転攻勢を先延ばしにする意味では悪い話ではなかったのですが、情勢はまた一変した」(外交事情通=前出)
ダム破壊でウクライナは引くに引けなくなった。
●南部ザポリージャ州で「ウクライナ軍の突破の試みを撃退」ロシア国防相が発表 6/9
ウクライナ南部へルソン州のダム決壊による被害をめぐり、ロシアのプーチン大統領は被災者を支援するよう指示しました。一方、ザポリージャ州では、ウクライナ軍の突破の試みをロシア軍が撃退したとしています。
ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は8日、ウクライナ南部へルソン州のダム決壊をめぐり、へルソン州の親ロシア派トップと電話で協議を行い、非常事態省に対し被災者を支援するよう指示したとしています。
こうした中、ショイグ国防相は南部ザポリージャ州で現地時間の8日未明に「ウクライナ軍の兵士ら1500人と軍用車150両がロシア軍の防衛ラインを突破しようと試みたが、撃退した」と発表しました。「2時間の戦闘で敵は戦車30両、兵士350人を失った」と主張しています。
ロシアは、ウクライナ軍が今月4日から大規模な反転攻勢を開始したとの見方を示していますが、ショイグ氏は8日、ロシア軍の兵器を保管している施設を視察し、反転攻勢を念頭に兵器を前線に速やかに送るよう指示しました。
公開された映像には軍用車やミサイルなどが映っていて、ロシア側の兵器不足を指摘する声がある中、これを払拭する狙いもあるとみられます。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 9日の動き 6/9
ロシア国防省 「ウクライナ軍が防衛線の突破を試みた」
ロシアのショイグ国防相は声明を発表し、ウクライナ南部ザポリージャ州で8日未明、ウクライナ軍がロシア軍の防衛線の突破を試みたと発表しました。イギリス国防省は8日「複数の前線で激しい戦闘が続いている。ほとんどの地域でウクライナが主導権を握っている」という見方を示し、ウクライナ軍による反転攻勢の動きが活発になっているとみられます。
ヘルソン州の水位 最も高いところで5.6mに
ウクライナ南部ヘルソン州にあるカホウカ水力発電所のダムの決壊が引き起こした大規模な洪水について、OCHA=国連人道問題調整事務所は8日、ヘルソン州の水位が最も高いところで5.6メートルに達したと指摘しました。そして、水位は下がり始めているものの、少なくとも1週間、浸水は続くという見通しを示しました。また、ダムの決壊はウクライナ南部で暮らす70万人以上への飲料水の供給に影響を与えるほか、農業生産に深刻な被害が予想されるとしたうえで、被害を受けた住民は水や食料、それに衛生用品といった緊急支援物資を必要としていると訴えています。
WHO ダム決壊で現地の衛生状況悪化に懸念
ダムの決壊によって洪水が発生したことを受け、WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は8日「地域の公衆衛生に与える影響を侮ってはならない」と述べ、現地の衛生状況の悪化に懸念を示しました。WHOは感染症の検査や予防の分野で現地の保健当局への支援を始め、数日以内に追加の支援物資を届けるとしています。また、ロシアの支配地域についてもロシア側と連絡を取り合い、住民の衛生状況を確認しているということです。ロシア側の支配地域で支援活動を行うことについて担当者は「ウクライナとロシア、双方の合意が必要だ」と述べ、現時点での支援は限定的なものにとどまっているとしています。
ウクライナ エネルギー相 欧州に電力供給量の増加を要請
ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は、南部の水力発電所のダムが決壊したことに関連し、8日、フランスのAFP通信のインタビューに応じました。この中で、洪水が環境に与える影響について、旧ソビエト時代の1986年に起きた原子力発電所の事故による環境破壊を引きあいに「チョルノービリ原発事故以降では最も危険な状況をもたらすだろう」と述べました。そして「最大で80ほどの村や町が完全に破壊されるだろう。2万戸の家屋が停電している」と指摘しました。そのうえで、電力事情の悪化も懸念されるとして「ヨーロッパに供給量を増やすよう求めた」と述べました。またダムの決壊により、ザポリージャ原子力発電所に冷却水を供給する貯水池の水位が下がり、原発への影響が懸念されていることについては「何が起きるのか、状況を監視している。差し迫ってはいないが危険は存在する」と述べました。
ダム決壊 現場の状況を調査した議員「大惨事になっている」
ウクライナ議会の議員で、ダムが決壊した直後に南部の都市ヘルソンに入り、現場の状況を調査したオレクシー・ゴンチャレンコ氏が8日、NHKのインタビューに応じ「大惨事になっている」と述べました。ゴンチャレンコ氏は今月6日、ダムが決壊したというニュースを聞き、その日のうちに人道支援物資を持って南部の都市ヘルソンに向かったということです。ゴンチャレンコ氏は「ヘルソンに着くと、川の水位が急速に上がり、家のがれきなどが流れているのが見え、オイルの臭いもした。こうした中でも砲撃は続いていて、煙が上がるのが見えた」と現場の様子を語りました。洪水による死者が出ているかについては「はっきりとしたことは分からないが、最初から犠牲者は出るだろうと考えていた。すでに死者が出ているという情報があるが水が引いた後になってより多くの犠牲者が出ていることがわかるだろう」と述べました。そのうえで「現地では避難用のボートや飲み水、医薬品などが求められている。動物の死体なども流れていることから感染症の広がりも懸念されていると」述べ、早急に支援態勢を整える必要があると訴えました。また、ヘルソンの対岸のロシア軍が支配する地域の住民から直接聞いた話として「ロシア軍は明らかに住民の救助活動を行っていない。家の屋根に取り残された住民を救おうとしていた人たちに向かって、夜間外出禁止に違反したとして銃撃した例もあると聞いている」と述べました。ゴンチャレンコ氏は洪水の被害は今後、広い範囲に及ぶと懸念していて「数千ヘクタールもの農地が水につかり、世界の食糧安全保障にも影響を与える。また水力発電所のエンジン用のオイルが大量に黒海に向かって流れているという情報もあり、環境面でも大惨事となっている」と危機感を示しました。
ダム決壊 「ロシアに大きな利益がある」との見方も
イギリスの経済紙、フィナンシャル・タイムズは6日、ダムの決壊について複数の専門家の見方を伝えています。このなかで、ウクライナとロシアがお互いに非難しているとしながらも、ダムの決壊と洪水はウクライナ軍の南部での反転攻勢の可能性を制限するとともに、ロシアは、ウクライナ側による東部での反撃に注力しやすくなるとして「ロシアに大きな利益がある」としています。ウクライナ軍の当局者は、フィナンシャル・タイムズの取材に対して「ドニプロ川を渡る上陸作戦を行うとしても水につかった土地は沼地になるため、すぐには実行しないだろう」と答え影響がある可能性に言及しています。一方、ロシア軍の側にも影響があると伝えています。このうち、ウクライナ情勢について発信を続けているアメリカの軍事専門家で海軍分析センターのマイケル・コフマン氏は「ウクライナ側が川を渡る作戦を行う可能性は低かったが、ダムの破壊によりロシア側の第1の防衛線も水につかってしまった。ダムの決壊は、誰の得にもならないが、最も影響を受けるのはロシア側の支配地域だ」と指摘しています。
ゼレンスキー大統領 避難所を訪問 SNSに投稿
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、洪水で大きな被害を受けたヘルソン州にある医療機関に設置された避難所を訪れ、被災者などと面会したとする様子をSNSに投稿しました。映像では、ゼレンスキー大統領が複数の女性から歓迎を受けたあと「お大事に」などと声をかけています。また、ゼレンスキー大統領は医療関係者とも面会しました。多くの医師が戦地に向かい医師不足が続く中、治療にあたっているとして謝意を示した上で「あなたたちは英雄だ」などとねぎらっていました。 
●「ロシアの破壊工作グループがダム爆破」示す電話傍受…ウクライナ当局 6/9
ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所で起きたダム決壊で、同国の保安局(SBU)は9日、ロシアの破壊工作グループが爆破したことを示す電話を傍受したと明らかにした。ロイター通信が報じた。
SBUがSNSで公開した音声では、男2人が「あれは我々のグループだ。ダムで人々を恐怖に陥れたかった」「計画通りにいかなかったが、計画以上のことをやった」などとロシア語で会話している。SBUは「発電所が占領者の破壊工作グループによって爆破されたことを裏付ける」と訴えた。
一方、核実験などの監視をしている北欧の研究機関「ノルウェー地震計アレイ観測」(NORSAR)は7日、ダム決壊直前に爆発が発生したことを示す振動を検出したと発表した。振動はマグニチュード1から2程度で、現地時間で6日午前2時54分に検出された。ウクライナ大統領府は、午前2時50分頃に爆発があったと発表していた。

 

●ウクライナ、反転攻勢開始か 南・東部戦線でロシア軍攻撃― 6/10
複数の米メディアは8日、ウクライナ軍がロシア軍に対する反転攻勢を開始したと報じた。ウクライナ軍は同日までに、南・東部の戦線で大規模攻撃を開始。昨年2月に始まったロシアによる侵攻は、ウクライナ側が占領地域の奪還を目指す新たな局面を迎えた。
米シンクタンクの戦争研究所は8日、ウクライナ軍が東部バフムト方面で「防御から攻撃に転じた」と指摘した。7〜8日には南部ザポロジエ州オリヒウ周辺で反攻を開始。欧米諸国の訓練を受けた部隊と欧米が供与した装甲車を投入して第1防衛線を突破したが、その後押し戻されたという。ドイツ製主力戦車「レオパルト2」なども投入されたもようだ。
ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は、米政府高官の話として、8日の攻撃がウクライナ軍による反転攻勢の本格化を告げる作戦だった可能性を指摘した。ABCニュースによると、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジン氏も8日、「前線で現在起きていることは反攻開始を示しており、ウクライナ軍はこれを激化させるだろう」と語った。AFP通信によれば、ロシアのプーチン大統領は9日、ウクライナ軍の反攻が「始まった」と言及した。
ロシアはいまだ、ウクライナ東・南部で全土のほぼ2割を占領中とされる。ウクライナ軍はザポロジエ州からアゾフ海まで南進してロシア軍を分断し、南部クリミア半島につながる陸路を断つことを目指しているとみられる。
ただ、ロシア軍は占領地域に強固な防衛陣地を構築しており、反攻作戦の成功にはかなりの時間と犠牲を要すると見る向きが多い。ウクライナのゼレンスキー大統領は8日のビデオ演説で、反転攻勢には言及しなかったものの、バフムト周辺で「結果が出ている」と兵士らをねぎらった。
●「現代的な兵器が足りない」プーチン氏、異例の発言 現地報道 6/10
ロシアのプーチン大統領は9日、ウクライナの反転攻勢に関連し、「確かに現代的な兵器が足りない」と報道陣に述べ、ロシア軍に高精度のミサイルや新しい戦車などが不足していることを認めた。タス通信が伝えた。プーチン氏が軍事面に関し、厳しい状況にあるのを認めるのは異例だ。
一方で、「防衛産業は急速に発展しており、もちろん直面している課題は解決されると確信している」と述べ、生産体制の増強など改善を進めるよう促した。
●プーチン氏、ウクライナ軍の「反攻撃退」指摘 兵器増産急ぐ 6/10
ロシアのプーチン大統領は9日、ウクライナ軍の大規模な反転攻勢が「間違いなく始まった」と指摘した。ロシア側の応戦によりウクライナ側は「どの戦線でも目標を達成できていない」と強調し、撃退に自信を見せた。ウクライナが予備兵力を投入しているとの見方を示し、反攻が続くとみて兵器増産を急ぐと表明した。訪問先の南部ソチで国営テレビに語った。
プーチン氏は、激しい戦闘が既に5日間続き、特に最近2日間は一層激化していると指摘。攻勢をかけるウクライナ側に、ロシア側の3倍を上回る「著しい損失」を与えたと主張した。こうした「悲劇」を招いた原因はゼレンスキー政権にあると批判。ウクライナ軍が攻撃能力を依然保持していると警戒感も示した。
ロシアでは「軍産複合体が急速に発展している。防衛部門の全ての課題達成に向け、最新兵器の集中的な増産が進んでいる」と強調した。
●プーチン大統領 ウクライナ軍の大規模な反転攻勢開始 認識示す 6/10
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ軍による大規模な反転攻勢が始まったという認識を初めて示しました。
また、ロシアの戦術核兵器のベラルーシへの配備について、7月上旬に保管施設を完成させたあと、直ちに開始すると表明し、欧米側へのけん制を一段と強めるねらいがあるとみられます。
ウクライナ軍による大規模な反転攻勢をめぐってロシアのプーチン大統領は9日、ロシア南部のソチで記者団に対して「始まったと確実に言える」と述べ、反転攻勢が始まったという認識を初めて示しました。
そして、「この5日間、激しい戦闘が行われている。しかし敵はどの地域でも成功しなかった」と述べ、これまでのところ、ロシア軍が反撃を阻止していると主張しました。
また、プーチン大統領は、同盟関係にある隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領とソチで会談し、戦術核兵器のベラルーシへの配備について来月7日か8日に保管施設を完成させたあと、直ちに開始すると表明しました。
ウクライナが反転攻勢の動きを本格化させる中、軍事支援を続ける欧米側へのけん制を一段と強めるねらいがあるとみられます。
ダム決壊による洪水被害 これまでに5人死亡13人不明
一方、ウクライナ南部のヘルソン州で発生したダムの決壊による洪水の被害が広がっています。
ウクライナのクリメンコ内相は9日、ヘルソン州と、隣接するミコライウ州で、これまでに合わせて5人が死亡したほか、13人の行方が分からなくなっていると明らかにしました。
合わせておよそ70の集落で浸水の被害が出ているとしています。
また、ヘルソン州でロシア側が支配する地域の当局者はSNSで、これまでに8人が死亡したと明らかにしたうえで、場所によっては1週間以上、水が引かない可能性を指摘しました。
被害が出ているのは、多くがロシア側が支配するドニプロ川の南東側とみられていて、ロシア側の当局者は、2万2000棟余りが浸水しているとしていますが、被害の全容は依然として明らかになっていません。
●ウクライナが反転攻勢開始、「どの戦闘も成功せず」=プーチン氏 6/10
ロシアのプーチン大統領は9日、ウクライナはロシアに対する反転攻勢を開始したが、成功していないと述べた。
プーチン氏はロシア南部ソチで記者団に対し「ウクライナ軍の攻勢が始まった。これは戦略的予備軍を投入したことで証明されている」と語った。
その上で「ロシア軍兵士の勇気とロシア軍部隊の適切な編成により、ウクライナ軍はどの部門でも目標を達成できなかった」と指摘。過去3日間にわたり極めて激しい戦闘が行われたが、どの戦闘でも「敵は成功を収めなかった」と述べた。
このほかタス通信によると、プーチン大統領はロシアには近代兵器が不足しているが、産業は急速に発展しているとも語った。
●プーチン氏「ウクライナの反攻始まった」…迎撃態勢は万全と強調 6/10
ロシアによるウクライナ侵略をめぐり、プーチン露大統領は9日、露南部ソチで、ウクライナ軍による大規模な反転攻勢が始まったとの見解を示した。タス通信などが報じた。
プーチン氏はウクライナ軍を迎撃する露軍の態勢は万全と強調し、「ウクライナ軍は目標を達成していない」と語った。ただ、「潜在能力は残っている」と警戒感も示した。ウクライナ軍の大規模な反攻を前に露軍は防衛態勢を強化しており、各地で激戦となる可能性が高い。
プーチン氏は9日、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領とソチで会談し、ロシア軍によるベラルーシへの戦術核配備が7月8日以降の早い時期になると述べた。核兵器の使用をちらつかせる「核の威嚇」で、反攻を妨げる意図があるとみられる。
ワシントン・ポストなどの米メディアは8日、ウクライナ軍がロシア軍への大規模な反攻に本格的に着手したとの見方を相次いで示した。
ウクライナ軍が攻勢をかけている地点の南100キロ・メートル前後の距離には、ロシアが2014年に併合した南部クリミアと露本土を結ぶ「陸の回廊」の拠点都市がある。ウクライナ軍はクリミアと露本土の分断を優先し、奪還地域を拡大する構えとみられる。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8日、SNSで陸軍司令官らと「重要な会合」を開いたと明らかにし、前線司令部とみられる場所で司令官らと協議する写真を投稿した。英紙フィナンシャル・タイムズによると、独製戦車「レオパルト2」が前線に投入された。
一方、露軍は数か月前から占領地域一帯に幾重もの防衛線を構築し、死守する姿勢を鮮明にしている。
●ロシア、7月にベラルーシに戦術核兵器配備=プーチン大統領 6/10
ロシアのプーチン大統領は9日、隣国ベラルーシで戦術核兵器の貯蔵施設の準備が7月7─8日に整った後、直ちに配備を始めると明らかにした。国外に戦術核兵器を配備するのはソ連崩壊後で初めて。
プーチン氏は3月、ベラルーシに戦術核兵器を配備することに合意したと発表。米国は何十年にもわたって欧州の多くの国々に戦術核兵器を配備してきたと指摘していた。
プーチン氏はベラルーシのルカシェンコ大統領と黒海沿いの保養地ソチで食事をしながら核配備計画について話し、「全ては計画通りに進んでいる」と伝えた。
ロシア大統領府(クレムリン)の記録によると、プーチン氏は「関連施設の準備は7月7日─8日に終了し、われわれは直ちにあなたの領土に適切な種類の兵器を配備する活動を始める」と言及した。
プーチン氏は、米国と西側同盟国がロシアを屈服させることを目的とした代理戦争の拡大の一環で、ウクライナに武器を投入していると主張している。
プーチン氏の核兵器を巡る動きは、米国と欧州の北大西洋条約機構(NATO)同盟国、中国から注視されている。
米国はプーチン氏による核兵器配備の動きを批判しているが、戦略核兵器に関する立場を変えるつもりはなく、またロシアが核兵器を使う準備をしている兆候は見られないと説明している。
●ジョンソン元英首相が議員辞職へ パーティー問題でうその答弁か 6/10
新型コロナ対策下でパーティーを行っていた問題をめぐり、調査を受けていたイギリスのジョンソン元首相が、議員を辞職すると表明した。
イギリスメディアによると、ジョンソン元首相は9日、新型コロナ対策下でのパーティー問題をめぐり、調査を進めていたイギリス議会の委員会が、ジョンソン氏が意図的にうその答弁をしていたとする報告書をまとめたことを受け、辞職を決めたという。
ジョンソン元首相は、「わたしに対する訴訟手続きを利用して、わたしを議会から追い出すことを決めている。退場を余儀なくされていることに当惑し、がくぜんとしている」との声明を出している。
●ウクライナ南部で激戦、反撃開始を示唆か 西側の装甲車を目撃 6/10
ロシアとウクライナの双方が9日、ウクライナ南部の戦線で激しい戦闘があったと発表した。前線からの独立した報道がほとんどなく、ウクライナ側からの発言も乏しいため、ウクライナがロシアの防衛網を破って侵入しているか確認はできていない。
ただ、複数の軍事ブロガーが、ドイツや米国の装甲車が初めて目撃され、ウクライナが予告していた反撃の開始を示唆したと指摘した。
ロシアのプーチン大統領は9日、南部ソチで記者団に対し、ウクライナはロシアに対する反転攻勢を開始したが、成功していないと述べた。
一方ウクライナのゼレンスキー大統領は、軍の指導者と戦術や「成果」について話し合ったと述べたが、詳細は明かさなかった。
反攻作戦には、最終的に西側諸国が訓練・装備した数千人のウクライナ兵士が参加すると予想される。米国防総省は9日、米国製地対空ミサイルシステム「パトリオット」向けの追加砲弾など21億ドルのウクライナ向け追加支援策を発表した。
戦争賛成派のロシア人ブロガーは、ロシアとクリミア半島を結ぶ「陸橋」の中間地点にある、ウクライナ南部ザポロジエ州オリヒウ付近で激しい戦闘があったと記述。この地域はウクライナ側にとっての最も有力な目標の一つとみられている。
ロシア国防省は、オリヒウの南でウクライナの攻撃を2回、さらに東部ドネツク州ヴェリカ・ノボシルカ付近で4回撃退したと述べた。
南部戦線は、ウクライナ軍が進攻を試みることが広く予想されている。
ハンナ・マリャル国防次官はヴェリカ・ノボシルカで戦闘が続いており、ロシア軍はオリヒウで「積極的な防衛」を展開しているとだけ述べた。
洪水被害で戦闘は影潜める
南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムが決壊し、大規模な洪水被害が起きたことで、初期段階では反攻は影を潜めている。
洪水により、何千人もの人々が避難を強いられ、農地も壊滅的被害を受けている。
ウクライナ保安局は9日、同ダムをロシアの「破壊工作グループ」が爆破したことを証明する通話を傍受したと発表した。
ウクライナの参謀本部によると、過去24時間に東部で27件の武力衝突があった。また、ロシアによる空爆が58件、ロシアによる砲撃が31件あった。民間人の死傷者が出ているほか、民家や病院、その他のインフラにも被害が出たとしたが、詳細は明らかにしなかった。
ウクライナは16回の空爆を行った。前線が移動したかどうかについては明らかにしていない。
ロシア当局によると、ウクライナ東部国境に近いロシア西部のボロネジで9日、集合住宅がドローン(小型無人機)による攻撃を受けた。この攻撃では3人が負傷した。また、ベルゴロドのオフィスビルやクルスクの石油基地付近にもドローンが落下したという。
ウクライナはこの件に関して公式に反応していない。
●米国防総省、ウクライナの長期防衛に21億ドル増額を表明 6/10
米国防総省はウクライナ向けの長期的な武器供与パッケージとして21億ドル(約2927億円)を追加することを表明した。防空システムや砲弾、ドローン、レーザー誘導ロケットを提供する。
ウクライナにとって防空は、ロシアの空と地上から発射される巡航ミサイルや弾道ミサイルのほか、ロシアの航空機から身を守るための最重要課題となっている。
しかし、9日に発表された装備品の多くは契約して生産しなければならないため、数カ月あるいは数年間は納入されない。
9日の発表前では、議会が安全保障イニシアチブとして承認した190億ドルのうち、国防総省は146億ドルを表明していた。バイデン大統領は8日、その190億ドルが尽きた後もマッカーシー下院議長と協力して、ウクライナへの援助を継続できると確信していると述べた。マッカーシー下院議長は今週、国防総省の通常予算に加え、ウクライナ戦争への新たな追加支援パッケージを支持しない可能性を示唆した。
●米英首脳会談で突如「日本のウクライナ支援」を称賛したバイデン大統領 6/10
「ウクライナ支援で欧州だけでなく日本人も立ち上がった」
[ウクライナ中部クリヴィー・リフ発]「欧州が対応しているだけでなく、日本人も立ち上がったことを指摘したい。日本人は予算面でも積極的だ。関与の面でも力を発揮してくれた。日本はウクライナ支援を強化した。そして21世紀において土地の征服以外に何の口実もない明白な侵略が起こることは欧州だけでなく世界のあらゆる場所で危険であることを認識している」
ジョー・バイデン米大統領は8日、第二次大戦以来「特別な関係」を維持する英国のリシ・スナク首相と新たな経済パートナーシップ「大西洋宣言」を発表したホワイトハウスでの共同記者会見で唐突に、ウクライナへの日本の貢献について言及した。
米国が敢えて日本に言及したのはウクライナ支援への感謝というより台湾有事を念頭に置いているのは明らかだ。
1991年、湾岸戦争でクウェートが解放された後、同国政府が米紙ワシントン・ポストなどに掲載した感謝広告に30カ国の国名が並んだが、日本はなかった。日本は湾岸当事国を除けば最大規模の130億ドル(約1兆8100億円)を多国籍軍に援助したものの、完全に無視された。今回のウクライナ支援でも憲法9条の縛りがある日本の貢献は決して大きくない。
米欧はロシアとの戦争に巻き込まれ、核戦争に発展するのを警戒してウクライナ戦争に直接関与するのを避けてきた。武器供与も当初はウクライナが負けるのを回避することを最優先にしていたが、現在はロシア軍をウクライナ領土からできる限り駆逐してウクライナを勝利させることにシフトしている。
カホフカ水力発電所ダム爆破で500万ドルの緊急人道支援
このため米欧は戦闘機、戦車、長距離ミサイルなど大量の武器弾薬をウクライナに供与している。独キール世界経済研究所によると、軍事支援は昨年1月24日から今年2月24日までの間で米国432億ユーロ(約6兆4900億円)、英国65億ユーロ(約9800億円)、ドイツ42億ユーロ(約6300億円)、ポーランド、オランダ各24億ユーロ(約3600億円)。
人道・財政支援では米国281億ユーロ(約4兆2200億円)、日本62億ユーロ(約9300億円)、英国32億ユーロ(約4800億円)、ドイツ30億ユーロ(約4500億円)。岸田文雄首相は昨年来進めてきた16億ドル(約2200億円)の人道・財政支援に加え、今年2月に55億ドル(約7700億円)の追加財政支援を行うことを決定し、米欧と足並みをそろえた。
3月にウクライナを訪問した岸田首相はキーウでウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、追加支援策として殺傷性のない装備品支援に3000万ドル(約42億円)を拠出、エネルギー分野などで4億7000万ドル(約656億円)の無償支援を行うと伝えた。日本は電力、地雷処理、農業などの分野を中心にウクライナを支えていく方針だ。
カホフカ水力発電所ダム爆破で南部ヘルソン州のドニプロ川流域で洪水が起きた。地雷が流出してどこにあるか分からなくなった。耕作地も水浸しになり、農作業への影響は甚大だ。それだけに日本の支援に期待がかかる。
岸田首相はゼレンスキー氏に電話で、国際機関を通じて被災住民に対し500万ドル規模(約7億円)の緊急人道支援を行うと表明した。
戦争当時国に非殺傷装備の防弾チョッキを送ることさえ前例がなかった
主要7カ国(G7)では英国のボリス・ジョンソン首相(当時)が昨年4月、キーウを電撃訪問。翌5月にはカナダのジャスティン・トルドー首相、6月にエマニュエル・マクロン仏大統領、オラフ・ショルツ独首相、マリオ・ドラギ伊首相(当時)、今年2月にはジョー・バイデン米大統領も訪問した。岸田首相の訪問がG7首脳の中で一番遅かった。
日本は福島原発事故で原発再稼働が遅れ、エネルギー自給率が一時は6.3%(2021年は13.4%まで回復)まで落ち込んだ。このためロシアでの資源開発事業を「エネルギー安全保障上、重要」と位置づけている。北方領土問題も抱えている。地政学上、中国とロシアを同時に敵に回すのは得策ではないという計算が日本に働くのは仕方がない。
しかしロシアのエネルギーに頼ってきたドイツでさえ市民を無差別殺傷するウラジーミル・プーチン露大統領と決別し、ドイツの主力戦車レオパルト2をウクライナに供与した。憲法9条に縛られた日本は防弾チョッキとヘルメットに加え、自衛隊の10人乗り高機動車や瓦礫を処理する資材運搬車、1/2トントラック計100台と非常食3万食を提供するのがやっとだ。
NHKによると、日本では戦争当時国に非殺傷装備の防弾チョッキを送ることさえ前例がなかった。日本を取り巻く環境は湾岸戦争時とあまり変わらない。
しかし岸田首相は昨年12月、国家安全保障に関する基本方針である国家安全保障戦略と、国家防衛戦略、防衛力整備計画を決定した。27年度に安保関連費を現在の国内総生産(GDP)比2%に引き上げる。
台湾有事が起きないよう盤石の抑止力を構築する
日本としては防衛力の抜本的強化を図り、台湾有事が起きないよう盤石の抑止力を構築する狙いがある。
ウクライナ侵攻では、ゼレンスキー氏とウクライナ国民の国を守る意志を見誤ったプーチンの計算違いで抑止力が働かなかった。ウクライナ軍の反攻が始まった今、南部ヘルソン州やザポリージャ州に近いクリヴィー・リフでは「クリミア半島も奪還できる」との楽観論さえ囁かれている。
ウクライナ国境に接する露ベルゴロド州への侵攻、モスクワへのドローン攻撃、石油施設とエネルギーインフラ、航空機を狙ったロシア国内やウクライナのロシア軍占領地域への攻撃、ロシア国内の暗殺でプーチンの威信はすでに地に落ちた。孤独な独裁者の手に残されたカードはもはや核兵器しかないが、ウクライナ軍の防空力は米欧の協力で格段にアップした。
それ以前にプーチンのプロパガンダを信じ込まされてきたロシア国民にとって、この戦争は多大な犠牲を伴いながらも基本的には上手く行っているのに、NATO同盟国と戦争になるかもしれない核兵器を使用するというのは理屈に合わない。これは「戦争」ではない「特別軍事作戦」なのだから。核兵器はプーチンにとって事実上「切れないカード」になっている。
それが、米欧が戦車だけでなく長距離ミサイルや戦闘機の供与を決断した強気の背景にある。
米欧の結束は綻ぶどころか、一段と強固になり、プーチンは完全に裸の王様になった。ウクライナ戦争の道筋がある程度見えてきた今、バイデン氏の頭にあるのはプーチンではない。プーチンの後ろから高みの見物を決め込んでいる中国の習近平国家主席だ。
「世界経済は最も大きな変革期を迎えている。AIが大きな役割を果たす」
米英首脳会談でバイデン氏は国家元首ではないスナク氏に「大統領閣下。あなたを昇格させてしまった」と呼びかけ、「チャーチル英首相とルーズベルト米大統領は70年余り前にここで会談し、米英のパートナーシップの強さが自由世界の強さだと主張した。私は今でも、その主張には真実があると思う」と、米英の「特別な関係」を改めて強調した。
「私たちはロシアの残忍な侵略に対抗するウクライナに経済・人道支援と安全保障支援を提供している。インド洋とその周辺地域をより安全で安心なものにするためにオーストラリアと協定を結んだ。そして世界経済は産業革命以来、最も大きな変革期を迎えている。その中で人工知能(AI)が大きな役割を果たすことになる」(バイデン氏)
バイデン氏とスナク氏が経済関係強化のため「大西洋宣言」をぶち上げたのは、防衛、核物質、電気自動車(EV)のバッテリーに使用される重要な鉱物などの分野で米英貿易の拡大を目指し、「西側で経済安全保障を築くためサプライチェーンから中国を切り離そうとする(デカップリングの)姿勢をさらに示すものである」(英紙フィナンシャル・タイムズ)。
英保守党内の欧州連合(EU)強硬離脱派が主張した米英自由貿易協定(FTA)には遠く及ばないものの、「大西洋宣言」には「半導体、量子コンピューティング、AIなど、未来を形作る技術に関して英国と米国が協力し、安全かつ責任を持って共同で開発できるようにする」(バイデン氏)意志が明確にうたわれている。
独首相「中国側のライバル意識と競争は高まっている」
ウクライナ支援では見事に一致団結した米欧だが、中国への対応は「デカップリング」を主導する米国と「デリスキング(リスク低減)」を唱えるドイツの間でまだ開きがある。オラフ・ショルツ独首相は「欧州の日」の5月9日、欧州議会で「中国はパートナーであり、競争相手であり、システム上のライバルであるという3つの側面がある」と演説した。
「中国側のライバル意識と競争は高まっている。EUはそれを察知し、対応している。前進する方法はデカップリングではなく、スマートなデリスキングだ」。ショルツ氏によると、公正な協定とは、原材料の初期加工を中国などではなく、原材料が採取された場所で行うことを意味している。
ドイツのケルン経済研究所(IW)がロイター通信に提供した予備データでは、ドイツの中国への直接投資フローは昨年、前年同様11%増加したと推定されている。16〜20年の年増加率よりはるかに強くなっている。中国に進出しているドイツ企業は「政経分離」を図るため現地のサプライヤーや研究に依存する傾向が強まっているという。
欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長も今年3月、「中国が軍事部門と商業部門を明確に融合させている」ことを認めながらも「中国を切り離すことは実行不可能であり、欧州の利益にもならない。だからこそデカップルではなく、デリスクに焦点を当てる必要がある」と力説した。しかしウクライナ戦争では欧州の「デリスク」政策が命取りになった。
欧州はクリーンテクノロジー分野でレアアースの98%、マグネシウムの93%、リチウムの97%を中国という単一のサプライヤーに依存している。ドイツの自動車産業は中国依存を強めている。日本は米英の「デカップリング」か、それとも欧州の「デリスキング」を選択するのか。バイデン氏の岸田首相への称賛は「デカップリング」の踏み絵でもある。 
●ウクライナ ダム決壊 約90キロ離れた地域まで浸水被害か 6/10
ウクライナ南部で起きたダムの決壊による洪水の被害や影響について、東京大学の研究者が衛星画像で分析したところ、浸水被害はおよそ90キロ離れた地域まで広がっていることが分かりました。
ウクライナ南部のヘルソン州では6日、ドニプロ川にあるカホウカ水力発電所のダムが決壊して大規模な洪水が発生しました。
衛星画像などを使ってウクライナの情勢を分析している東京大学大学院の渡邉英徳教授が、8日までに撮影された衛星画像を確認したところ、浸水被害はダムからおよそ90キロ離れたドニプロ川の河口付近にまで広がっていることが分かりました。
ダムの下流の沿岸部では、集落や集合住宅が建ち並ぶ地域などが広い範囲で水没し、時間の経過とともに水の色が濃くなっていて、深さが増していることが確認できます。
また、ダムの貯水池は水が干上がって底の一部が見える状況となり、水位が急激に低下していることが分かります。
さらにダムの上流に位置し、ザポリージャ原子力発電所に冷却水を供給する貯水池の衛星画像を見ると、決壊する前と比べて貯水池の内側や周辺で陸地の部分が増えており、水位が下がっていることがうかがえます。
渡邉教授は「ダムの下流側ではたくさんの集落や市街が水没し、救助や町の復興が非常に難しい状況にある。ザポリージャ原発では、冷却するための水が枯渇する危険性が高まっている。国家や地球規模でリスクが高まっている状態になっているので、一刻も早く戦争の終結が求められる」と指摘しています。
●ロシア外務省が日本大使を呼び出し、ウクライナへの自衛隊車両の供与受け 6/10
ロシア外務省は同国モスクワ駐在の日本大使を呼び出し、ウクライナへの自衛隊車両の供与について警告しました。
ロシア・スプートニク通信によりますと、ロシア外務省は9日金曜、上月豊久・駐ロシア日本大使を召喚し、「日本によるウクライナへの自衛隊車両の供与は日露関係に深刻な影響を与えるものだ」として警告しました。
同省の発表によりますと、ロシア外務省のルデンコ外務次官は同日、上月大使に対し、日本政府がウクライナに自衛隊の装甲車両や全地形対応車両などの軍事装備の供与を決定したことに抗議したということです。
ルデンコ次官はまた、「日本政府のこの決定は露日関係を危険な袋小路へ深く追いやる。このような行動は重大な結果なしには済まされない」と警告しました。またロシア外務省は声明において、「こうした措置は戦闘のエスカレートにつながり、ウクライナ政権による更なる人的犠牲の増大を招くと日本側に伝えられた。
また、岸田文雄政権は供与された軍事装備を使ったウクライナのテロリストらによる、国境を接するロシアの各州を含む地域の民間人の死に対する責任を共有しなくてはならない」と表明しています。
一方で、在露日本大使館によりますと、上月氏はルデンコ氏に対し「今回の事態は全てロシアによるウクライナ侵略に起因している。日本側に責任を転嫁しようとする露側の主張は極めて不当で、断じて受け入れられない」と反論したということです。
なお、日本の岸田首相は去る5月のG7広島サミットで、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した際、100台規模のトラックなどの自衛隊車両を供与すると伝達していました。
昨年2月にウクライナ戦争が始まって以降、西側諸国による対ウクライナに武器供与は戦争激化および、世界規模での物価高やエネルギー価格の高騰という皮肉な結果を招いています。
●ゼレンスキー氏、反転攻勢認める 自信示し「指揮官みな楽観的」 6/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、「ウクライナで反攻と防御の軍事行動が取られている」と述べ、ロシアに対する反転攻勢を開始したことを初めて認めた。作戦に自信を示し「私は毎日、ザルジニー軍総司令官や、さまざまな前線の司令官らと連絡を取っているが、みな楽観的だ。プーチン(ロシア大統領)にそう伝えてほしい」と語った。
首都キーウで行われたカナダのトルドー首相との共同記者会見で明らかにした。ウクライナメディアが報じた。
ゼレンスキー氏は一方で「どの段階にあるかは明言しない」とも述べ、作戦の詳細には言及しなかった。
プーチン氏は9日、反攻が「間違いなく始まった」と述べ、撃退に自信を見せたが、これに反論した形。
ゼレンスキー氏は5月29日のビデオ声明で、反攻の時期に関して「決定が下された」と表明。ロシアのショイグ国防相は反攻が6月4日から既に始まっているとし、投入されたドイツ製戦車レオパルトの破壊など撃退の成功を連日発表している。
●ウクライナ軍の反転攻勢 東部と南部で作戦展開か 6/10
ウクライナ軍による大規模な反転攻勢について、ロシアのプーチン大統領は、すでに始まっているという認識を示しました。
ウクライナ軍は東部と南部で作戦を展開し、一部では前進しているという見方も出ていて、双方の攻防が激しくなることが予想されます。
ロシアのプーチン大統領は9日、記者団に対し、ウクライナ軍による領土奪還に向けた大規模な反転攻勢がすでに始まっているという認識を初めて示し、これまでのところロシア軍が反撃を阻止していると主張しました。
また「確かに最新鋭の兵器は十分ではないが、生産はハイペースで進んでいる」とした上で、「ウクライナ軍の反撃の可能性は残っている」と述べて警戒感も示しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は9日に公開した動画で、国防省や軍の司令官などから前線の戦況について報告を受けたとした上で、「敵が確実に敗北を喫する可能性のあるあらゆる方向に集中する」と述べましたが、反転攻勢が始まったのかは明言していません。
ウクライナのマリャル国防次官は9日、SNSに「各地で緊迫した状況が続いている」と投稿し、東部で激戦が続いているほか、南部ザポリージャ州でロシア軍が防衛作戦を展開していると明らかにしました。
また「避けられない最悪の犠牲は人命だ。そして破壊されない兵器はまだ作られていない」と書き込み、ウクライナ側にも被害が出ていることを示唆しました。
戦況を分析しているイギリス国防省は10日「この48時間、東部と南部の複数の地域でウクライナ側の重要な作戦が展開されている。一部ではウクライナ軍が順調に前進し、ロシアの最初の防衛線を突破したようだ」と指摘しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も9日、「ウクライナ軍は少なくとも4つの地域で反撃作戦を継続している」と分析していて、双方の攻防が激しくなることが予想されます。

 

●ウクライナのダム決壊、70万人が飲料水確保できず…衛星が爆発検知 6/11
ロシアが侵略するウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムの決壊による洪水に関し、国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)は9日の記者会見で、約70万人が安全な飲料水を確保するのが困難になっていると明らかにした。露軍が占領するドニプロ川東岸での国連の支援活動は、露側の許可が出ないため実施できずにいるとも指摘した。
ウクライナ国営水力発電企業は10日、ダム上流の貯水池の水量は6日の決壊前から3分の1以上減ったと発表した。地元州知事によると、露軍による10日のヘルソンへの砲撃で支援活動中の2人が負傷した。
ウクライナ、ロシア双方の発表を総合すると、ヘルソン州全体で52自治体が浸水している。ウクライナ政府が管理する西岸では35自治体の約3700戸が、露軍占領地域では17自治体2万2000戸以上がそれぞれ浸水している。隣接する南部ミコライウ州でも約1万7000人が洪水の影響を受けているという。
米紙ニューヨーク・タイムズは9日、米バイデン政権高官の話として、米国の赤外線探知衛星が決壊直前に爆発を検知していたと報じた。爆発が原因でダムが決壊したとの見方が強まっている。
●ウクライナの反転攻勢 作戦開始が明らかに 戦況 新たな局面か 6/11
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、ロシアの軍事侵攻に対するウクライナ軍による反転攻勢の作戦がすでに始まっていると明らかにし、戦況は新たな局面を迎えることになりそうです。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、首都キーウでカナダのトルドー首相と会談したあと共同で記者会見しました。
この中でゼレンスキー大統領は「ウクライナでは、反転攻勢と防御の軍事行動が行われている」と述べ、ウクライナ軍による反転攻勢の作戦がすでに始まっていると明らかにし、初めて作戦の開始を認めました。
その上で「作戦がどの段階にあるかは明らかにしない」として詳細については明言を避けました。
また、ゼレンスキー大統領は「前線の司令官らと連絡を取り合っているが、みな楽観的な雰囲気の中にある」と述べ、反転攻勢の成功に自信を示しました。
ウクライナ軍による反転攻勢をめぐっては、ロシアのプーチン大統領が9日「始まったと確実に言える」と述べていて、戦況は新たな局面を迎えることになりそうです。
戦況を分析しているイギリス国防省は10日「この48時間、東部と南部の複数の地域でウクライナ側の重要な作戦が展開されている。一部ではウクライナ軍が順調に前進し、ロシアの最初の防衛線を突破したようだ」と指摘しました。
一方、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は10日「過去24時間、ウクライナ軍は、ドネツク州の南部やザポリージャ州、それに、バフムト近郊で攻撃作戦を実施しようとしたが、失敗が続いている」と述べ、ウクライナ軍の攻撃を撃退していると強調していて、双方の攻防が激しくなっているとみられます。
カナダ首相 ダム決壊 日本円で10億4000万円余の支援発表
カナダのトルドー首相は10日、事前の予告なくウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。
この中で、トルドー首相はウクライナ南部のダムの決壊について「これはロシアの戦争の直接的な結果であり、何千、何万人もの人々に壊滅的な打撃を与えている」とした上で、被害の対応として1000万カナダドル、日本円で10億4000万円余りの支援を発表しました。
また、トルドー首相は「カナダはウクライナが必要とする限り、どんなことがあっても寄り添い続ける」と述べ、軍事支援のために新たに5億カナダドル、日本円で520億円余りの資金を提供するほか、誘導ミサイルの供与なども発表しました。
●ロシア防衛線を一部で突破か ウクライナ軍、戦況が新局面に 6/11
英国防省は10日、ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍が過去48時間に、同国の東部と南部で大規模な作戦を実施したとの分析を公表した。「いくつかの地域では前進し、ロシアの第1防衛線を突破した可能性が高い」とした。
戦地ウクライナの最大外国人部隊に元ヤクザ その背景にあるものは
ゼレンスキー大統領はロシアに対する反転攻勢が始まっていることを認めており、戦況は新たな局面を迎えている。
ウクライナメディアによると、ウクライナ軍東部方面部隊の報道官は10日、東部ドネツク州の激戦地バフムト周辺で「1日に最大1400メートル前進できた」と述べた。
英国防省の分析によると、ロシア側は自軍が設置した地雷原を通って撤退し、犠牲者を出している部隊もある。 
●ウクライナ 領土奪還へ反転攻勢開始も厳しい戦いに直面か 6/11
ウクライナのゼレンスキー大統領は領土の奪還を目指した反転攻勢が始まっていると初めて明らかにしました。ウクライナ側は一部で前進する一方で、厳しい戦いに直面しているという見方も出ていて、ロシア側との激しい攻防も予想されます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、記者会見で、ウクライナ軍による反転攻勢の作戦がすでに始まっていると明らかにし、作戦の詳細については明言を避けながらも「前線の司令官らは、みな楽観的な雰囲気の中にある」と述べ、自信を示しました。
ウクライナ軍の東部方面部隊の報道官は10日、地元メディアに対して、東部のバフムトで、1日に1.4キロメートル前進したと主張しました。
また、親ロシア派の幹部はSNSで、南部ザポリージャ州ではウクライナ軍が欧米から供与された装備を使って夜間の攻撃を繰り返していると明らかにしました。
一方、ザポリージャ州の拠点の1つ、トクマクの戦況について、アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルは10日、複数の地点からトクマクに向かったウクライナ軍の部隊がロシア軍の激しい攻撃を受けて前進を阻まれ、ドイツが供与した主力戦車「レオパルト2」も被弾したと現地の兵士の話をもとに伝えています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は10日、「ウクライナ軍はロシアが準備してきた防御陣地に対する正面からの攻撃という非常に難しい戦術を試みている」として、ウクライナ軍は厳しい戦いに直面していると指摘しました。
一方で、「ウクライナは、まだ軍の大部分を投入しておらず、ロシアの防衛力がすべての前線で一様に強力なわけではない」という見方を示し、ロシア側との激しい攻防も予想されます。
●総動員令要請に革命言及 プリゴジン氏が“政権批判” 6/11
プリゴジン氏が政権批判“総動員令”発出要請の背景
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者・プリゴジン氏は6日、SNSの投稿動画で、「ウクライナ軍は複数の地域で既にロシア軍の防衛線を突破している」と述べ、「ウクライナの反転攻勢を阻止できるのはワグネルだけだ」と主張した。プリゴジン氏は、ワグネルに20万人の増援を求めており、プーチン大統領に総動員令の発出を要請した。さらに、プリゴジン氏は、「ただし、3カ月をかけて適切な訓練を行わなければ、新たな部隊は“大砲の餌食”になるだろう」と警告した。
プーチン氏「現代的な兵器が足りない」焦燥と危機感
プーチン大統領は9日、ウクライナ軍に反転攻勢の動きが見られるとする認識を初めて示した。報道陣に対し、プーチン大統領は「ウクライナ軍はどの方面への攻勢でも成功を収めていない」とウクライナ軍の攻撃を阻止していることをアピールしたが、「ウクライナ政権には攻勢の潜在能力がまだ残っている」と語った。
米戦争研究所は、「プーチン大統領は、ウクライナ軍にはまだ攻撃的な潜在力があると指摘したが、これはウクライナの反撃を軽視しようとするクレムリンの取り組みとは異なるものだ」と分析した。また、プーチン大統領は、自軍の装備に関連して、「ロシアには現代的な兵器が足りない」と述べ、軍事面に厳しい状況にあることを認めた。同時に、プーチン大統領は、「防衛産業は急速に発展しており、直面している課題は解決されると確信している」とも語り、生産体制の増強など改善を促した。
ロシア政府“刑務所で新兵募集”露呈した脆弱性
英国防省は5月14日、ロシア軍部隊について、「大半が訓練不足の動員された予備役兵で、時代遅れの旧式装備への依存度が高まっている。多くの部隊は、著しく戦力不足である」との分析を公表した。ロシア政府は受刑者の採用を強化しており、4月の1カ月で最大1万人が契約したと見られる。
プーチン氏に“軍惨状は知らせない”側近は戦況報告せず
ウクライナへの軍事侵攻に関する作戦遂行の状況が上手く推移していない戦況報告について、プーチン大統領に知らされていないと指摘されている。今回、この告発を行ったテレグラムチャンネル「ロシアの犯罪」は5日の投稿で、情報筋の話として「プーチン大統領が極度にイライラする反応を示したために、戦争に関する悪いニュースを報告するのをやめた」と伝えた。今年3月、ロイターは米国情報機関の関係者の話として、「プーチン大統領はロシア軍の惨状に関して、周囲から誤った情報を伝えられている」と報じた。
プリゴジン氏“革命に言及”国内で一定の支持
ワグネル創設者・プリゴジン氏は5月23日、「ロシアは特別軍事作戦でウクライナの武装解除を試みたが、結果的にウクライナ軍が世界最強の軍隊の一つになった」と指摘したうえで、「ロシアの現状が変わらなければ革命が起こりかねない」と、1917年のロシア革命になぞらえて、敗戦の可能性にあることを警告した。
5月31日に公表されたロシアの独立系調査機関「レバダセンター」の世論調査では、「最も信頼できる政治家」という項目で、プリゴジン氏が初めて10位内に入り、メドベージェフ前大統領と並んで5番目となった。4月の調査では、プリゴジン氏は1%から5月には4%となり、支持を伸ばしている。
元ロシア軍将校「ワグネル撤収は偽装」クーデターに警戒
元ロシア軍情報部門将校のイーゴリ・ギルキン氏は4日、プリゴジン氏が政府へのクーデターを計画していると非難、プリゴジン氏がワグネルのバフムトからの帰国にあわせて、ロシア政府に対して、反乱を起こす計画を立てていると警告した。また、ギルキン氏は、ウクライナの反撃前夜にバフムトからワグネル軍を撤退させたという決定は、怪しさを含めた懐疑的な見解を示した。
●カナダ首相、キーウ訪問 追加軍事支援を表明 6/11
カナダのトルドー首相は10日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を電撃訪問し、同国に新たに5億ドルの軍事支援を行うと表明した。
トルドー氏は2014年のロシアによるクリミア併合以降に戦死した兵士らの遺影が並ぶ慰霊碑を訪問、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談した。
また、議会で演説し、ロシアの侵攻を非難するとともに、ウクライナの民主的発展を称賛。ウクライナの抵抗は「われわれ全ての未来」に関わるものだと強調した。
ゼレンスキー氏はカナダの支援に謝意を示した。

 

●金正恩氏「ロシア人民を全面支持」プーチン大統領に祝電 6/12
北朝鮮の朝鮮中央通信は12日、金正恩(キム・ジョンウン)総書記がロシアの祝日「ロシアの日」にあわせて同国のプーチン大統領に祝電を送ったと報じた。「貴国の人民に全面的な支持を送る」などとする祝電の内容を伝えた。ロシアとの戦略的協力をさらに緊密にすると表明した。
祝電で金正恩氏は「敵対勢力の脅威と挑戦を打ち砕くためのロシア人民の闘争が、新しい転換的局面を迎えている」と指摘し「正義は必ず勝利する」と強調した。ロシアの侵攻を受けるウクライナが領土奪還に向けた反攻を始めたことを念頭にプーチン氏を鼓舞した。
「両国の親善は大切な戦略的資産であり、新たな時代の要求にあわせて協力関係を絶えず発展させるというのが政府の確固たる立場だ」と記述し、ロシアとの関係強化への意欲をにじませた。
●金正恩氏、プーチン大統領に祝電 戦略的協力の強化表明 6/12
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、ロシアの祝日「ロシアの日」にあわせて同国のプーチン大統領に祝電を送り、強大な国家を作るという共通の目標に向け戦略的協力を強化し、共に手を取り合うと表明した。国営の朝鮮中央通信(KCNA)が12日に報じた。
プーチン氏によるウクライナ侵攻の決定を擁護し、「全面的な支持と連帯」を示した。
「正義は必ず勝利し、ロシア国民は勝利の歴史に栄光を加え続ける」とし、ロシアとの「より緊密な戦略的協力」を呼びかけ、「強国建設という壮大な目標を達成するという両国民の共通の願いでロシア大統領としっかりと手を取り合う」と強調した。
●ウクライナ侵攻による国際的孤立が続けば成長鈍化 6/12
足元のロシア経済は「しぶとい」成長を見せるが、人材流出、技術面の立ち遅れで、中長期的には厳しさが増しそうだ。
LNG開発で苦境は打開できるか
昨年のウクライナ侵攻で西側諸国からの制裁を受けるロシア経済だが、思いのほか「しぶとい」という驚きが広がっている。ロシア統計局が発表した速報値によれば、2022年の国内総生産(GDP)は前年比実質2.1%減だった。マイナス成長には違いないが、経済制裁開始直後の昨年春には8〜10%程度の落ち込みが取り沙汰されていたことを考えれば、存外に傷は浅かったという評価となろう。
国際通貨基金(IMF)によれば、22年にロシア経済が予想ほどは落ち込まなかった原因は、1石油・ガス価格高騰で外貨の記録的流入が生じたこと、2軍事目的の国家歳出が大幅に拡大したこと、3ロシア中央銀行の荒療治で金融危機がリアルセクターに伝播(でんぱ)するのを防止したこと──という。
筆者なりに追加すれば、そもそも22年のロシア経済はコロナ禍からの回復過程にあり、「成長して当然」の状態だったはずだ。さらにいえば、22年にロシアは輸出収入を拡大したにもかかわらず、欧米や日韓などの西側諸国による制裁のために商品・サービスの輸入がままならなくなり、結果として過去最高の2274億ドルもの経常黒字を記録した。意図せざるこの大幅黒字も、GDPの押し上げ要因になったことは疑いない。
危機は中長期的に深化
IMFは4月18日に発表した世界経済見通し改定版で、23年のロシアの成長率を1月時点から0.4ポイント引き上げ、プラス0.7%と予測した。一方、ロシア政府の同7日時点の公式見通しによれば、ロシア経済は23年に1.2%上向き、24年にはプラス2%となることになっている。ただし、昨秋は24年をプラス2.6%と予想していた。
さまざまな機関やシンクタンクが、今後のロシア経済に関する見通しを発表しているが、かなりのばらつきがある。そんな時、便利なのが、ロシアのシンクタンク「発展センター」発表のロシア経済に関するコンセンサス予測だ。多くの機関の予測を平均したもので、いわば最大公約数的な見立てと位置付けられるので、その意味で参照する価値があると思われる。
コンセンサス予測は、2月14〜20日に実施されたアンケート調査に基づくもので、それを表にまとめた。23年の成長率がマイナス1.8%、24年がプラス1.4%ということになっている。不振ではあるが、破局的ではない、といったところか。
ロシア政府をはじめ、多くの機関の予測は、「向こう1年ほどは厳しいが、それを乗り切れば、ロシア経済は再びプラス成長に転じる」というストーリーを描く。筆者の見方は逆で、短期的な数字は最悪ではないかもしれないが、このまま国際的孤立が続けば、ロシア経済の危機はむしろ中長期的に深まると考える。制裁で必要な商品・サービスを輸入できない痛手は計り知れず、ロシアがそれを自力で賄うのは不可能だからだ。
実は、23年のロシア経済をプラス予測して物議を醸したIMFも、同様の認識に立つ。ゲオルギエワ専務理事は、人材流出、技術的な立ち遅れ、エネルギー産業への制裁によって、ロシア経済は時とともに苦しさを増し、中期的に少なくとも7%ほどの縮小に見舞われるとの見解を示している。
果たして、ロシアは経済的苦境を打開できるのか? 一つの重要な試金石になると思われるのが、液化天然ガス(LNG)の分野だ。
ロシアはすでに欧米から石油の禁輸を受けており、天然ガスの欧州向け輸出も、パイプライン「ノルドストリーム」の破損などで壊滅状態である。対して、ロシア産LNGに関しては、まだ欧州連合(EU)諸国も買い続けている。気体の天然ガスと違い、タンカーで運べるLNGは、輸送の自由度が高く、仮に今後、EUや日本が制裁対象に加えても、他市場への転換が可能だ。
ロシアの主たるLNGプラントは、極東のサハリン2と、北極圏のヤマルLNGの2カ所。目下フル稼働状態で、22年の生産量は前年比8.1%増の3250万トンだった。最近ロシア政府が発表したところによると、近く立ち上がるはずのアルクチクLNG2およびバルトLNGが加われば、年産6600万トン規模となり、さらに35年までには1.2億〜1.4億トンを達成し、世界シェア20%を目指すという。
LNGプラントの国産化に壁
問題は、ロシアが難易度の高いLNGプラントを独自に整備していけるとはとても思えないことだ。全般的に、機器の輸入依存度が高いエネルギー産業の中でも、LNGプラントはそれが特に顕著だ(図)。政府は現在、LNG生産設備・技術の国産化プロジェクトの工程表を作成中で、国産比率80%との目標が盛り込まれる予定だが、現実的とは思えない。
プーチン大統領は2月21日、年次教書演説を行った。この中で大統領は、22年で経済がマイナスだったのは、実は第2四半期だけで、下半期にはもうプラスに転じていたと強調。しかも、質的に新しい成長モデルに移行しつつあり、これまでのように主として西側向けに資源を輸出するのではなく、アジア太平洋をはじめとする新市場や国内市場にシフトし、付加価値の高い製品を生産するようになっているとして、大統領は現状をポジティブに評価した。
プーチン大統領は、3月17日にロシア産業家・企業家同盟の総会で行った演説でも、ロシアの新たな成長モデルについて語り、実業界の積極的・創造的な姿勢がかつてなく求められているとして、企業に貢献を求めた。
確かに、ロシア経済が深甚な変容を遂げつつあるのは事実であろう。だがそれは、政権が勝手な野心から始めた「戦争」という既成事実を押し付けられ、企業が必死に生き残りを図っている結果でもある。それをポジティブな構造変革のように語るのは、無理がありすぎる。実際、筆者が中継を見たところによると、産業家・企業家同盟の総会で、経営者たちがプーチン演説を真剣に聞き入る様子はなく、白けた雰囲気が漂っていた。
●ウクライナ軍「東部で集落奪還」と成果強調 激しい攻防継続か 6/12
領土奪還を目指して反転攻勢を進めるウクライナ軍は11日、東部ドネツク州にある集落を奪還したと発表し成果を強調したのに対し、ロシア側もウクライナ軍に供与されたドイツ製の戦車などを破壊したと主張し、激しい攻防が続いているとみられます。
ウクライナ軍の部隊は11日、SNSで東部ドネツク州にある集落を奪還したと発表し、砲撃などで大きく壊れた建物に兵士たちが国旗を掲げる動画を公開しました。
これについてウクライナメディアは軍の報道官が「局地的ではあるが、反転攻勢の最初の結果と見ている」と述べたと伝えていて成果を強調しました。
これに対してロシア国防省は11日、ウクライナ東部ドネツク州や南部ザポリージャ州などへ攻撃し「ドイツ製の『レオパルト』3両を含む戦車11両や装甲車などを破壊した」などと主張しました。
ウクライナ軍が領土奪還を目指して反転攻勢を進める中、双方の激しい攻防が続いているとみられます。
一方、ウクライナ南部ヘルソン州のカホウカ水力発電所のダムが決壊したことによる大規模な洪水についてウクライナ内務省は11日、これまでに6人が死亡したほか35人の行方が分かっていないと発表しました。
ウクライナのマリャル国防次官は11日、SNSでダムの破壊はロシア側によるものだと強調したうえで「ウクライナ軍による反転攻勢を阻止し、必要な戦力を確保する目的だ」と非難しました。
●去年9月「ハルキウの大攻勢」の前線を突破したのは「米・英の特殊部隊」… 6/12
数十年後に2023年を振り返ったとき、今回の「戦争」は歴史家からどのように評価されるだろうか。そしてこれから21世紀の世界史はどうなっていくのか。ロシアの ”プロ” 佐藤優氏が解説する―。
「なぜ戦争が起きたのか」本当の理由
2022年2月24日にロシアがウクライナを侵攻してから、1年3ヵ月が経過しました。ロシアは「特別軍事作戦」と称していますが、実態は戦争にほかなりません。
未だ停戦交渉は進まず、両国は交戦を続行しています。ウクライナ侵攻について簡単におさらいしておきましょう。
初動の段階では、争いはまだ地域紛争の様相を呈していました。ロシアに言わせると、ウクライナ東部で暮らすロシア系少数民族(すなわちロシアの在外国民)が蜂起した、と。ドンバス地域(ルハンスク州とドネツク州)に住むロシア系住民の処遇をめぐる問題が、ロシアとウクライナの二国間係争の争点でした。
軍事侵攻から1ヵ月余りが経過した昨年3月29日、トルコのイスタンブールで両国の和平交渉が開かれます。ロシアとウクライナの代表団が対面で停戦協議のテーブルにつき、対立はいったん解決しかけました。
ところが、ロシア軍がウクライナの首都キーウ周辺から軍隊を引き揚げると、キーウ近郊のブチャで民間人を含む大量虐殺を行っていた事件が報じられました。この「ブチャ事件」が停戦の可能性を御破算にしてしまいます。
ウクライナ側は「こんな蛮行に手を染めるような連中とは交渉できない」と激怒して交渉のテーブルから離れ、以後一度も和平交渉ができなくなってしまいます。
変局する戦争の大義名分
さらにアメリカをはじめとするNATO(北大西洋条約機構)諸国、西側諸国がウクライナに送る兵器の物量が一気に10倍以上に増えました。ブチャ事件をトリガーとして、西側諸国がこの戦争を ”価値観戦争” に変えたのです。
「民主主義VS.独裁」の争いに変わった価値観戦争を、どうすれば終わらせることができるのでしょう。相手の政権を殲滅するか、あるいは屈服させるか。相手が自分の価値観を放棄しない限り、戦争は終わらなくなってしまいました。
西側諸国が兵器をどんどん送りこむ中、昨年4月以降のウクライナとロシアは「地域紛争」という枠組みで戦闘を継続します。この枠組みが9月に変化しました。
9月上旬(主に6〜10日頃)、「ここが手薄だ」と見込んだウクライナ軍はハルキウ州で猛烈な攻勢をかけました。ハルキウ州が手薄だったことには理由があります。ここの住民はロシア語をしゃべる正教徒が多く、ロシアへの共感が強いのです。ロシア軍が入ってきても人道物資の受け取りを拒否せず、ロシア軍から仕事をもらって学校も機能している。統治が比較的うまくいっていたため、ロシア軍は兵力を南に移動させました。
実質的な西側諸国の参戦
一方で、ハルキウ州が手薄だという情報をつかんだのは、アメリカの軍事衛星です。ペンタゴン(国防総省)はウクライナにその事実を伝え、ウクライナ軍はロシア軍の8倍もの兵力を投入して一気に攻勢をかけました。
戦争の教科書では、兵力の差が1対3以上になったときには、全滅か捕虜になるかいずれかの選択しかありません。全滅を避けるためにロシア軍は、オスキル川を渡って川の向こうに逃げました。
その際、ハルキウ州の攻防戦で前線を突破したのは、ウクライナ正規軍ではなくアメリカとイギリスの特殊部隊員です。「休暇中」という名目で、米英の特殊部隊員によって構成された事実上の傭兵部隊が前線に送りこまれてきた。西側諸国が兵器を送りこむのはまだロシアも我慢できるものの、もはやこれは容認の限度を超えています。
「事実上西側諸国が参戦しているに等しいではないか」とプーチンは激怒しました。
その頃、黒海沿岸に位置するザポリージャ州とヘルソン州の住民は「ウクライナがハルキウ州と同じように攻勢をかけてきたら大変なことになる」と危機感を抱きます。
●前週のロシア株、ウクライナ戦争の激化やルーブル安、原油安を受け続落 6/12
前週(5−9日)のロシア株式市場は、RTS指数(ドル建て)の9日終値が前日比0.05%安の1032.29、前週比では2日終値比1.8%安と、続落した。
週明け5日は指数が下落。8日まで5営業日続落した。
週前半は、ウクライナ戦争の激化で地政学的リスクが高まり、利食い売りが広がった。ただ、ブレント原油先物がOPEC(石油輸出国機構)プラスの減産決定を受け、1バレル当たり77ドルに上昇したため、下値は限られた。その後はウクライナ軍とロシア軍の攻防激化やルーブル安が嫌気され、売りが一段と強まった。個別銘柄では電力大手ユニプロ(旧エーオン・ロシア)が配当見送りを受け、急落、下げを主導した。
週後半は、ルーブル安が嫌気され、売りが優勢となった。ただ、これまでの相場下落を受け、安値拾いや値ごろ感による買い戻しが強まったことや、原油価格が77ドル超に回復、海外市場も堅調となったため、下げは限定的となった。その後は、ウクライナ戦争の鎮静化で地政学的リスクが緩和したものの、引き続き、ルーブル安が重石となった。個別銘柄ではインターネットサービス最大手ヤンデックスがロシア事業と国際事業に分割することにより、米ナスダック市場での上場廃止を回避することに成功したことを受け、急騰、相場を下支えした。
週末9日は6営業日続落。積極的な買いを仕掛ける材料が乏しい中で、売りが優勢となった。
今週(13−16日)のロシア市場は、引き続き、ロシア・ウクライナ戦争(22年2月24日勃発)や西側の対ロ制裁などの地政学的リスク、原油・ガス相場、ルーブル相場、主要企業の配当政策などが焦点。このほか、原油価格に影響を与える13日の米API(石油協会)週間石油在庫統計や14日の米EIA週間石油在庫統計、FRB(米連邦準備制度理事会)とECB(欧州中央銀行)の金融政策決定会合(それぞれ14日と15日)も注目される。主な経済発表の予定は15日の1−3月期GDP伸び率など。RTS指数は1000−1070の値動きが予想される。12日は「ロシアの日」の祝日で休場。
●ワグネルグループ、ウクライナ戦から手を引くか…「ロシア国防省と契約しない」 6/12
ロシアの民間軍事企業ワグネルグループ創設者のプリゴジン氏がロシア国防省と契約を結ばないと電撃宣言した。
ロイター通信が11日に伝えたところによると、プリゴジン氏は「ワグネルグループはロシアのショイグ国防相といかなる契約も締結しないだろう」と話した。西欧ではワグネルの部隊がウクライナに駐留するロシア軍の約10%を占めているとみている。
プリゴジン氏はロシア軍首脳部の無能さを公開批判してきた。ワグネルグループがロシア正規軍の兵士を拉致、拷問して武器を恐喝したという疑惑が提起されたりもした。
ショイグ国防相は前日、自発的にウクライナ戦争に参加した非正規軍に対し今月末までに国防省と契約を締結するよう指示したという。この指示をめぐりロシアの一部ではワグネルグループを統制しようとする意図が込められたとの分析が出たりもしていると外信は伝えた。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領はこの日、「ロシア軍に対する反撃と防衛作戦が同時に進行している」として初めて大攻勢の事実を認めた。ロシア側は4日にウクライナの大攻勢が始まったとみている。
ロイター通信などによると、ゼレンスキー大統領はこの日ウクライナの首都キーウを訪問したカナダのトルドー首相との会談後の共同記者会見でこのように話した。彼は「(作戦が)どの段階にあるかは詳しく話さない。みんなが肯定的な雰囲気だ。プーチンにそのように伝えてほしい」とした。
ウクライナ東部軍司令部報道官はこの日地域放送で「24時間にわたりバフムト周辺で6回にわたり交戦を繰り広げた。ロシア軍に死傷者が相当数発生し、前線のさまざまな方向で最大1.4キロメートルまで進撃した」と主張した。これに対しロシア国防省は9日、「南部ザポリージャと東部ドネツク地域でウクライナ軍を撃退した」とした。
●ウクライナ軍、東部ドネツク州の集落解放を報告 反攻開始後初か 6/12
ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍は11日、ロシア軍に占領されたウクライナ南東部の集落を解放したと発表した。ウクライナが大規模な反転攻勢を開始してから初の奪還とみられる。AFP通信などが報じた。
報道によると、ウクライナ軍の地上部隊が声明で、東部ドネツク州南部にあるブラホダトネ集落を解放したと発表した。同部隊は、破壊された建物にウクライナ国旗を掲げる兵士を映したビデオを公開したという。
ロイター通信によると、ウクライナ軍の報道官は、この集落は同州と南部ザポロジエ州の境界に位置すると説明。集落の解放を「反転攻勢の最初の成果と見ている」と述べたという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、反転攻勢が進行中であることを明らかにした。ウクライナ軍は、ロシアに一方的に併合されたクリミア半島とロシア本土を結ぶウクライナ南東部のロシア軍占領地域への攻撃を強めているとみられる。
●経済危機のパキスタン、ロシア産原油を格安で初輸入 欧米は買い控え 6/12
経済危機が続いているパキスタンのシャリフ首相は11日、ロシアから初めて購入した割引価格の原油が、南部にあるカラチの港に到着したと発表した。ウクライナ情勢でロシアからの原油を欧米諸国が買い控える中、ロシアにとっては新たな販路を確保した形だ。
シャリフ氏は自身のツイッターで、「ロシア産原油の貨物がパキスタンに来たのは初めてだ。両国にとって新たな関係の始まりとなる」などと投稿した。
地元メディアによると、パキスタンはこれまで、サウジアラビアなどの湾岸諸国から原油の大半を購入してきたが、その一方で、石油相らがロシアを訪問するなどして原油購入に向けて協議を進めていた。パキスタンに多額の支援をしている中国の通貨で代金を支払い、長期的に購入を続ける可能性もあるという。
パキスタンはこの数年、物価の上昇や自国通貨の下落に襲われ、輸入品を買う外貨が極端に不足している。国内各地で停電も相次ぐ。異常気象による洪水被害や政情不安も深刻で、他国から借りたお金が返済できなくなる債務不履行(デフォルト)に陥る恐れも指摘されている。
●「バフムト1.4キロ進撃、死傷者発生」…ゼレンスキー大統領「大反撃」公式化 6/12
ウクライナのゼレンスキー大統領が「ロシア軍に対する反撃と防衛作戦が同時に進行している」と10日に明らかにした。これまで大反撃開始について口を閉ざしてきたウクライナが初めて関連事実を正式に認めたもので、ロシア軍の占領地の一部でウクライナの奪還作戦が成功しているという分析が出ている。
ロイター通信などによると、ゼレンスキー大統領はこの日ウクライナの首都キーウを訪問したカナダのトルドー首相との会談後の共同記者会見でこのように話した。ロシアのプーチン大統領が前日ウクライナの大反撃が始まったと言及したことと関連した論評を求められ、肩をすくめながらこれを認める発言をした。
ただゼレンスキー大統領は具体的な進行状況については言葉を控えた。彼は「(作戦が)どの段階にあるかは詳しく話さない。私は毎日さまざまな地域の指揮官らと連絡している」と説明した。続けてウクライナ軍最高首脳部を1人ずつ名指しし「(作戦の成果に対して)みんなが肯定的な雰囲気だ。プーチンにそのように伝えてほしい」と付け加えた。
プーチン大統領は9日にロシア国営メディアとのインタビューで「ウクライナが反撃を始めたと確実に話せる。(ウクライナ軍の)戦略物資備蓄量使用分を通じて立証される」と話した。ロシアは4日からウクライナの大攻勢が始まったとみている。
この数カ月間にウクライナは大反撃を準備していると公言してきたが、作戦保安などを理由に開始したかどうかに対しては明確にしてこなかった。しかし今月に入り、ザポリージャ州、ドネツク州、ルハンシク州など南東部地域のロシア占領地でウクライナ軍の攻撃が相次いでおり大規模反撃が始まったという分析が相次いでいる。
特にウクライナ軍は昨年2月のロシア侵攻から最長期間の戦闘の末に先月ロシア軍に奪われた東部バフムトで集中交戦を繰り広げていると伝えられた。ウクライナ東部軍司令部報道官は10日に地域放送で「24時間にわたりバフムト周辺で6回にわたり交戦を繰り広げた。ロシア軍に死傷者が相当数発生し、前線のさまざまな方向で最大1.4キロメートルまで進撃した」と主張した。ウクライナ軍はまた、南東部地域一帯で「この24時間でロシア軍指揮本部4カ所、武器・軍事装備密集地域6カ所、弾薬庫3カ所、砲兵部隊5カ所などを打撃した」と主張した。
これに対しロシアはウクライナの大反撃が成功できなくなっていると反論している。ロシア国防省は9日、「南部ザポリージャと東部ドネツク地域でウクライナ軍を撃退した。1000人以上を射殺し数十台の戦車と装甲車を破壊した」と明らかにした。
現在どちらが優位なのかは明確でないが、英国防省傘下の国防情報局は10日、「ウクライナが最近48時間に南東部の複数の地域で重要な作戦を遂行した。一部地域でロシア軍の第1防衛線を突破した可能性が大きい」と分析した。ただし同局は「他の地域ではウクライナの進展がさらに遅い所もあった」と付け加えた。
一方、ロシアの民間軍事会社ワグネルグループとロシア国防省間の対立が激化する中で、ワグネルグループがロシア正規軍の兵士を拉致、拷問し武器を恐喝したという疑惑が提起された。ガーディアンが11日に伝えたところによると、ロシア第72機動小銃旅団元司令官と名乗る人物が最近オンラインに投稿した動画を通じてこのように主張した。
彼は「私と私の旅団はワグネルによって組織的に拉致、虐待され、時には性暴力にさらされた」と明らかにした。続けて「ワグネルがT80戦車2台と機関銃4丁、トラック1台と機甲戦闘車両1台を盗んだ」と付け加えた。
これに対してワグネルグループ創設者のプリゴジン氏は「完全にでたらめ」と否認した。これに先立ち元司令官と名乗る人物は先週、個人的敵対感を理由にワーグナーの車両に銃を撃ってワグネルグループに捕まり尋問を受けたりもした。 
●プーチン大統領「ロシアの日」に演説で“愛国心と祖国への貢献” 6/12
プーチン大統領は12日、ロシアが旧ソ連から事実上の独立を宣言した「ロシアの日」にあわせて演説し、愛国心と祖国への貢献に触れ、ウクライナ侵攻への理解と団結を呼びかけました。
「ロシアの日」では毎年、建国に貢献した人たちを表彰し、プーチン大統領が演説しています。
今年の演説で大統領は、現在が「困難な時期」との認識を示した上で、「先人たちは壮大な労働と軍事的勝利を達成した」と述べました。その上で、「愛国心と祖国の運命に対する責任は、ロシア人が祖先から受け継いだもの」だとして、国民に間接的にウクライナ侵攻への理解と団結を呼びかけました。
ウクライナでは大規模な反転攻勢が始まっていますが、そのことについては言及しませんでした。

 

●プーチン大統領「今は困難な時」 ロシアの日に演説 6/13
ロシアのプーチン大統領は「ロシアの日」の祝日に、「今は困難な時だ」と演説を行いました。
プーチン大統領「今はロシアにとって困難な時だが愛国心は社会を強く団結させ、特別軍事作戦に参加している英雄の確かな支えになっている」
プーチン大統領はウクライナ軍が反転攻勢を強めている現状を「困難」だと表現し、「祖国への献身」が大切だとも強調して、ロシア国民に団結を呼び掛けました。
ロシアの国営メディアは、ウクライナ東部のドネツクなどロシアが昨年、一方的に併合した地域でも、「ロシアの日」を初めて祝ったと報じています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は南部と東部で領土奪還に向けた反転攻勢を宣言していて、ウクライナ軍は11日、ドネツク州の一部の集落をロシア軍から解放したと発表しています。
●ロシアが「困難な時期」 プーチン氏 6/13
ロシアのプーチン大統領は12日、「ロシアの日」に合わせた式典で演説し、ロシアが困難な時期を迎えていると述べた。
プーチン氏は、愛国心と「愛する祖国」に対する献身について語った。プーチン氏は最近、公の場で、こうしたテーマについて繰り返し言及している。
プーチン氏は「今はロシアにとって困難な時期だが(こうした感情は)我々の社会をより強く団結させ、特別軍事作戦に参加している英雄への確かな支えとなっている」と述べた。
プーチン氏はこれまでの世代のロシア人が達成した「労働と軍事的勝利」を強調し、「彼らの功績が意味するもの、変わらぬ団結、祖国を守るために立ち上がり、祖国の共通の利益と繁栄のために働くという断固とした決意を強く感じている」と述べた。
プーチン氏の発言は、ロシア軍がウクライナ南東部でウクライナ軍の進軍を撃退しようとするなかで出た。ロシア軍とウクライナ軍の衝突はここ数日、ウクライナ南東部で激化している。
●いよいよ、プーチン大統領の「後任探し」が始まったロシア 6/13
ロシアの下院議員らが2024年の大統領選の機会にクレムリンの指導者を変えるべきだと言い出した。5月27日、ロシア国営テレビの政治番組での議論だ。
ようやくロシアでプーチン大統領の交代が公共のメディアで議論され始めた。しかもこの議員らはその動機を「ロシアがヨーロッパとの関係を回復する」ためだとしている。
この議論を受けて、ロシア政治を綿密にフォローしている米国のジェームズタウン研究所は6月5日、ロシア政治が専門のパベル・ルージン博士(タフツ大学フレッチャー外交大学院の客員研究員)の解説記事「Succession in Russia? Publication: Eurasia Daily Monitor Volume: 20 Issue: 90」(Pavel Luzin,June 5, 2023)を掲載した。
どうやらロシアはリーダーシップの転換は不可避であると感じる現状に直面して、当事者も動き出したのではないか? そうかもしれない。
とにかく、ロシアを政治的に正常化し、政府がより穏健な政治グループのために働き、さらにロシア社会と西側諸国にとっても受け入れ可能な指導者を探しだそうという触れ込みだ。要するに指導者を交代させて、政治を正常化しようとする動きが始まったようだ。
次はミシュスチン首相で決まりなのか
ルージン博士はここで要旨次のように論じている。
「次期大統領候補者は危機を管理し、西側との関係を改善する必要があり、まずこの条件を満たす必要がある。危機管理能力とはロシア連邦保安庁(FSB)やロシア連邦警護庁(FSO)の指導部から信頼を得ている人間かどうかだ。また当然、モスクワの官僚的ゲームを乗り切るための経験も必要だ。
そして、ロシアを政治的に正常化し、ロシア政府が国内のより穏健な政治グループの為に働き、ロシア社会と西側諸国にとっても受け入れ可能な後任者を探し出すことが必要だ。これが政府の文民部門、ロシアの中心的なエリート層、国有企業のトップの管理者等、現在のロシア支配階級内の多くが抱いている考え方だという」。
ルージン博士は引き続き次のように論じている。「今日、ロシアの政治エリートたちはミハイル・ミシュスチン首相が次の大統領になるという理解で一致している。同氏は1966 年生まれで、豊富な経験を持ち、納税システムの近代化およびデジタル化を成し遂げ、有能な財務官僚として実績を評価されている)。 
更にルージン博士はミシュスチン氏以外にも、後継者候補のリストはかなり長いとし、下記表1の人物を候補者としてリストアップしている。
表1のロシア国営原子力企業ロスアトムのアレクセイ・リハチョフ社長は、暫定的な政府首脳と危機管理責任者の役割を果たす興味深い候補者である。リハチョフ氏は年齢的に適格で、ロシアの原子力部門に通じていることから、ロシアのエリート層や欧米諸国にとって妥協できる人物だとされている。
戦略的投資プロジェクトとロシアの輸出を担当する国有企業VEBのトップで、元副首相のイーゴリ・シュワロフ氏も、知名度が高く、豊富な経験を持つもう一人の候補者である。
若手の台頭にも期待
潜在的かつ有能な後継者は、ロシア支配階級の第二ライン(現政府のメンバー)、さらには第三ライン(国有企業のトップ経営者)から選ばれるだろうとされている。また、ロシアの支配層の若い世代からは、有力な人材が出てきている(表2)。
ルージン博士は更に財務省出身の若手職員もその優秀さと指導性により大統領候補になり得ると論じて表3の人々をあげている。
同博士は、これらの大統領候補者はいずれもロシアの政治システムの内部から頭角を現し、全員が非常に若い人材であり、ロシアが本当に再生するのだというメッセージになる。有害な過去を持っていないし、タカ派を含め現役のロシアのエリート層が受け入れることが出来る人々であるとしている。
ロシアの民主化は無いのか?
本稿の筆者はこのサイトで度々、ロシアの民主化はあり得て、その場合、欧州からユーラシア全体が民主化し、それが専制中国を孤立化させると云う議論をしてきた。しかし今回の「ジェームズタウン研究所」の分析は「ロシアが公平な選挙等の民主主義的な制度を伴って民主化する」というケースではない。
現在のロシアのシステムを前提にして、事態の改善を志向する姿勢だ。従って、例えばナワリヌイ氏やカラムルザ氏ら民主化運動の闘士たちが欧米的な議会制民主制度を目指して行動を開始することはもちろんあり得るが、ここでは議論の対象になっていない。
しかし、このルージン博士の議論はロシアの民主化は可能であることを示唆している。いずれの候補者も高度の知的な蓄積を持ち、それぞれの分野で十分な国際経験を積み、実務能力が高い新しいロシアの指導者のイメージを具体的に描いている。多くが欧米の高等学術機関に留学している。 
それに同博士がヨーロッパとの関係修復を展望しながら次の大統領候補を議論している点も重要だ。西側民主体制にとってはやっと遂に胸襟を開いて共同作業が可能なロシア人指導者が出てくる可能性がある。
そこが非常に重要だ。透明性のある選挙制度などが構築され、システムとして民主化するのはその後に来る課題だろう。
現代ロシアの政治風景は、プーチン大統領の西側民主体制への強い敵意、ほとんど米欧社会に復讐し、それを打倒したいといわんばかりの情念に埋没していると言える。ロシアの指導者がこういう執着から脱却したら、ロシアは全く新しい波に乗れる。
その上、国家の管理能力が十分にあり、西側社会との関係改善に理解と熱意があり、ロシアの混乱は中国を利するという機微を理解しているなら、ロシアは歴史的な新しい一歩を踏み出すことになる。最も重要なことは若い有能な人材が列の向こうに多数いるということだ。
もとより万事想定通り事は進まないだろう。プーチン支持派は簡単に引き下がらないだろう。だが、ロシアの議員たちが新体制を目指して声を挙げ始めた。
おそらくはロシア人は長い苦難の後、新しい有能な指導者と共に前進するであろう。今度こそそう期待したい。
●プリゴジン氏と亀裂拡大<鴻Vア国防省との契約断固拒否 6/13
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア政府と、同国の民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏の「亀裂」が広がっている。ロシア国防省がワグネルと契約を結ぼうとしたところ、プリゴジン氏が拒否したのだ。同省は、ウクライナ侵略で存在感を示すワグネルを傘下に組み入れる狙いがあったとみられるが、かえって関係は悪化した。ウクライナ軍の反攻も進み、プーチン政権の「内憂外患」は深刻度を増している。
ロシア国防省とワグネルのトラブルは、複数の海外メディアで12日に報じられた。
国防省が10日、志願兵組織に対して7月1日までに契約を結ぶよう要請したのに対し、プリゴジン氏が反発。同省のトップであるセルゲイ・ショイグ国防相を名指しして、「いかなる契約も結ばない」と表明したという。
プリゴジン氏はこれまでも、たびたび国防省を批判して波紋を呼んできた。5月には国防省からの弾薬供給が不十分で、人的損害が拡大していることを理由に、激戦が続くウクライナ東部ドネツク州バフムトからワグネルの部隊を撤退させると通告した。
国防省は契約締結を通じ、ワグネルを政府のコントロール下に置こうとしたとみられるが、対立はさらにエスカレートした感がある。英BBCは「ワグネルとロシア軍との緊張関係はここ数週間でさらに高まっている」と報じた。
ロシアは国外でも、ウクライナ軍の進撃を許している。
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は12日、通信アプリで、反転攻勢を本格化させた同国軍が東部ドネツク州と南部ザポロジエ州の計7集落を奪還したことを明らかにした。それぞれの戦線で前進した距離は計6・5キロに上り、計90平方キロの領土をウクライナの管理下に取り戻したという。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は12日に出した声明で、ここ数日の雨天により任務は困難になっているとしたうえで、「兵士たちの力が、結果をもたらしている」とたたえた。
南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダム決壊についても、新たな動きが出た。
ゼレンスキー氏は11日、国際刑事裁判所(ICC)の代表者らがヘルソン州を訪れ、調査を開始したと表明した。ウクライナ側は、ダムについて「ロシアが破壊した」という主張を続けている。決壊はダムの周辺地域に深刻な影響を与えており、国際社会が支援の手を差し伸べている。ICCの調査結果次第では、ロシアはさらなる国際的非難にさらされることになる。
●ベルルスコーニ元伊首相は「真の友人」 プーチン氏が追悼 6/13
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12日、イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ元首相の死去を受け、「取り返しのつかない損失」「真の友人だった」と哀悼の意を表した。
ロシア大統領府によれば、プーチン氏はイタリア大統領宛ての弔電で「私にとってシルビオは大切な存在で、真の友人だった」「彼の死は取り返しのつかない損失であり、悲しみに堪えない」と述べた。
また、「最も困難な状況にあっても先見の明のある決断」を下せる能力があったと指摘。「並外れたバイタリティーと楽観主義、ユーモアのセンス」をたたえた。
ロシアでは、両国間の関係強化を支持する「信念」の持ち主として記憶されるだろうとし、「真の愛国者シルビオ・ベルルスコーニ氏は常に祖国の利益を最優先していた」と振り返った。
プーチン氏はテレビ演説でも、ベルルスコーニ氏がロシアと欧州諸国および北大西洋条約機構(NATO)との関係発展に多大な貢献を果たしたと称賛。「イタリアだけでなく、国際政治にとっても大きな損失だ」と惜しんだ。
両氏は長年、親密な関係を誇示してきた。互いの別荘に滞在して一緒にスキーを楽しみ、毛皮の帽子をかぶって談笑しているところを写真に撮られたこともある。
暴露本によると、ベルルスコーニ氏は2008年、プーチン氏に贈られた四柱式ベッドで売春婦と性行為をした。ベルルスコーニ氏はベッドの返礼として、両氏の等身大の写真が印刷された布団カバーを贈った。
●ウクライナの反転攻勢、どうなれば成功なのか 6/13
ウクライナ軍が反転攻勢に出ている。だがウクライナ側は「反転攻勢と呼ぶな」、「これは攻撃であり、私たちの土地からようやくロシア軍を追い出すチャンスだ」と訴えている。
その主張は理解できる。しかし、実際に成功するには何が必要なのか?
まず、ウクライナが最近、激戦の末に領土をわずかに奪還していることに気を取られるべきではない。ウクライナが東部ドネツク州と南東部ザポリッジャ州で、半ば放棄されていた集落を取り戻しているのは確かだ。
数カ月にわたって膠着(こうちゃく)状態が続いた後、戦闘の汚れを身につけたウクライナ兵が、弾痕だらけの建物の前で青と黄色の自国旗を勝ち誇ったように掲げる姿は、ウクライナ国民の士気を高めるのにうってつけだ。
だが、戦況を大局的に見れば、これは本筋のことではない。
反攻で最も重要なのはロシア支配地域の南部、ザポリッジャ市とアゾフ海の間にある地域だ。
ここは「陸上回廊」と呼ばれ、ロシアと、同国が不法に併合したクリミア半島を結ぶ役割を果たしている。下の地図でわずかに紫色の地帯は、昨年の侵攻初期から状況がほとんど変わっていない。
もしウクライナがこれを二分割し、奪還した地点を維持できたなら、反攻はほぼ成功と言えるだろう。
西側にいるロシア軍を孤立させ、クリミアに駐留するロシア軍への補給を困難にすることになる。
ただ、それは必ずしも戦争の終結を意味するものではない。この戦いは何年も続くと予測する人もいる。それでも、いずれ必ずや行われる和平交渉に、ウクライナは有利な立場で臨むことができる。
一方、ロシアもかなり前にこうした地図を眺め、同じ結論に達している。
ウクライナが兵士らを北大西洋条約機構(NATO)加盟各国に送って訓練を受けさせ、この夏の反攻作戦に向けて12個の機甲旅団を準備していた間に、ロシアは「世界で最も手ごわい防衛線の要塞」を築いた。
アゾフ海を目指して進んで来るウクライナ軍を、ロシアは地雷やコンクリート製の対戦車障害物(「竜の歯」)、砲撃拠点、広くて深い塹壕で待ち構えている。この塹壕は、ウクライナに供与された戦車「レオパルト2」や「M1エイブラムス」を足止めさせるものだ。
これらすべては、ウクライナの装甲車とその乗組員が突破口を見つけようとして止まっている間に、砲弾の雨を浴びせるようあらかじめ調整されている。
まだかなり初期段階ではあるが、これまでのところ、ロシアの防衛はしっかりもっている様子だ。
ウクライナはまだ戦力の大半を投入していない。現在の動きは、ロシアの砲撃拠点を明らかにし、防衛線の弱点を探るための偵察攻撃だ。
ウクライナは士気の点で勝っている。兵士らのモチベーションは高く、侵略者から自分たちの国を解放しようと戦っている。
ロシア兵の大半はそうしたモチベーションをもっていない。さらに、多くの場合において、ロシア兵の訓練、装備、リーダーシップはウクライナ兵のものより劣っている。
ウクライナの軍参謀本部は、同国軍が一定の突破を果たせば、ロシアの士気は低下し、それが戦線に広がってロシア兵らは戦意を失うと考えるだろう。
ウクライナにとって有利な点は、ほかにもある。NATO諸国から提供された兵器の質の高さだ。ソヴィエト連邦時代に設計された装甲車と異なり、NATOの戦車や歩兵戦闘車は直撃弾に耐えることも珍しくない。少なくとも中にいる乗員を守るので、その乗員は戦い続けることができる。
しかし、ロシアの砲撃やドローン(無人機)攻撃に、それで十分に対抗できるのか?
ロシアはウクライナよりはるかに大きな国で、より多くの資源がある。この戦争を始めたウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナを消耗させて来年までこの行き詰まりを引き延ばせれば、アメリカをはじめとする同盟国が高コストの支援に疲れてしまい、停戦のため妥協するようウクライナに圧力をかけ始める可能性があると承知している。
空からの援護
検討すべき最後の点として、空からの援護(あるいはその欠如)の問題がある。低空からの十分な支援なしに、よく掘られた塹壕の敵を攻撃するのはかなりリスクが高い。
ウクライナはそれを知っている。だから、F16戦闘機を西側に強く求めてきたのだ。
しかし、F16を製造するアメリカが同機の供与を認めたのは、5月下旬になってのことだった。その時点で、ウクライナの反攻はすでに準備段階に入っていた。
ウクライナにとっては、戦況を大きく変えられるF16の投入のタイミングが遅すぎたため、同機が反攻の初期で重要な役割を果たせなかったのは致命的だった。
だが、だからといって、ウクライナが負けるというわけではない。
ウクライナは繰り返し、機敏に動き、戦略に優れ、独創性に富んでいることを証明してきた。南部の都市ヘルソンでは、ロシア軍の後方拠点をたたいて補給を不可能にし、同軍を見事に追い出した。
イギリス製の巡航ミサイル「ストームシャドウ」など、射程距離の長い兵器を手に入れたウクライナは今、同じことを狙っているだろう。
プロパガンダ戦で相反する情報が飛び交うなか、この戦争の最終的な勝者がはっきり見えてくるには、まだ数週間、あるいは数カ月さえ、かかるかもしれない。
●ロシア、北朝鮮への精製油輸出を再開…ウクライナ戦争武器支援の見返りか 6/13
ロシアが2年3カ月ぶりに北朝鮮に精製油を公式輸出したことが分かった。米国の専門家らはロシアが北朝鮮からウクライナ戦争で使用する武器を受けた見返りに精製油を支援した可能性があると分析した。
13日の米ラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、国連安全保障理事会(安保理)傘下の北朝鮮制裁委員会は9日、ロシアが昨年12月から今年4月の間に北朝鮮に供給した精製油量を公開した。
これによると、ロシアは昨年12月に北朝鮮への精製油輸出を再開したことが分かった。月別には昨年12月に3225バレル(404.28トン)を輸出し、1月に4万4655バレル(5595.891トン)、2月に1万666バレル(1336.65トン)、3月に5140バレル(644.153トン)、4月に3612バレル(452.70トン)を輸出したと集計された。
それまでロシアが北朝鮮に精製油を公式輸出したのは2020年8月の255バレル(32トン)が最後だった。国連安保理では北朝鮮への精製油供給量に関連して「単位」統一問題をめぐる論争があったが、安保理はバレルでなくトンで対北朝鮮精製油供給量を報告してきた中国・ロシアと合意の末、5種類の精製油別に単位換算方法を公開した2020年2月から関連報告に「トン」と「バレル」を併記している。
ロシアは昨年9月、北朝鮮が要求する場合、原油と石油製品の供給を再開する用意ができていると明らかにした。当時、ロシア外務省第1アジア局のジノビエフ局長は自国メディアのインタビューで「北朝鮮がコロナ対応措置の一環として2020年からロシアのエネルギー資源と他の商品の輸入を中断した」とし「北朝鮮のパートナーらが商品取引を再開する準備ができれば相応量の原油と石油製品供給を再開する」と述べた。
国連安保理は2017年の北朝鮮制裁決議案2397号を通じて、北朝鮮に1年間に供給できる原油と精製油をそれぞれ400万バレルと50万バレルに制限している。ロシアが北朝鮮に対する精製油輸出を再開し、北朝鮮は今年、精製油供給許容値の約19%に相当する約9万9473バレルを輸入したことが分かった。
RFAは米専門家らの分析を引用し、北朝鮮がウクライナ戦争で使用する武器を支援した見返りにロシアが精製油の輸出を再開したという分析を出した。
米国中央情報局(CIA)分析官を務めたコンサルティング会社LMIのスー・キム政策実務責任者はRFAに「北朝鮮がロシアにウクライナとの戦争で使う武器と支援した見返りだと考える」と述べた。また「ロシアはウクライナとの戦争で不足する点を相殺するため軍事的な支援が必要だ」とし「金正恩(キム・ジョンウン)は代わりにエネルギーと食糧支援を受けられるため、北朝鮮は喜んで必要な支援を提供するだろう」と説明した。
ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン研究員もRFAに「北朝鮮が支援した武器に対する代価としてロシアが精製油を送った可能性がある」と話した。
北朝鮮の金正恩国務委員長は12日、ロシアの祝日「ロシアの日」(6月12日)を迎えてプーチン大統領に祝電を送り、ロシアのウクライナ侵攻を「国際的正義を実現するための神聖な偉業の遂行」と主張した。伝統的な友邦国ロシアとの密着関係を誇示しながら必要な食料と支援を受けるための戦略の一環と解釈される。
統一研究院のオ・ギョンソプ研究委員は「核・ミサイル高度化で国際社会で孤立した北が支援を受けることができるルートは友好国が唯一」とし「自分たちが設定した経済目標を達成するのに必要な資源の支援を引き出すために露骨な動きを見せている」と話した。
●ロシア軍部と傭兵ワグネルの対立が最高潮に…「契約は結ばない」 6/13
ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループの設立者エフゲニー・プリゴジン氏が、ロシア国防省の統制に従うという契約を拒否し、軍部とワグネル・グループの対立が最高潮に至っている。
プリゴジン氏は11日(現地時間)、「ワグネル・グループはセルゲイ・ショイグ国防相といかなる契約も結ばない」と明言した。ロイター通信が報じた。プリゴジン氏の発言は、前日にショイグ国防相が来月1日までにすべての「自発的な派遣部隊」と契約を結ぶよう命令したことに対する反応として出たもの。
ロシア国防省は、ショイグ国防相が軍の効率を上げるためにこのような命令を下したと明らかにした。国防省は「この措置は、自発的に参戦した編隊に法律的な地位を付与し、包括的な対応態勢と任務遂行を組織化することで一貫性を与えるためのもの」だと説明した。国防省は具体的にはワグネル・グループに言及しなかったが、ロシアメディアは、この措置はワグネル・グループを屈服させようとする試みだと解釈して報じた。
プリゴジン氏は、国防省が契約の不履行を盾にしてワグネル・グループに武器を供与しないだろうと予想している。プリゴジン氏は「この命令の後に繰り広げられるのは、彼らが私たちに武器と弾薬を与えないということになるだろう」と述べた。プリゴジン氏は、ショイグ国防相の命令はワグネル・グループには該当しないとして、「ショイグは軍の編成を適切に管理できない」と攻撃した。さらに、現在のワグネル・グループは、ウクライナ戦争を率いる総司令官であるセルゲイ・スロビキン将軍と作戦を調整していると付け加えた。スロビキン将軍は昨年10月に「(ウクライナ)特別軍事作戦」の合同軍総司令官に任命されており、ロシアやチェチェン共和国、シリアなどで人権を蹂躪したという疑惑を持たれている人物だ。
ワグネル・グループは、ウクライナ東部のドンパス地域でロシア軍の先鋒隊の役割を果たし、戦略的に重要なバフムトの占領に成功するなど、ウクライナ侵攻戦争で成果を上げた。プリゴジン氏はその過程で、ショイグ国防相とワレリー・ゲラシモフ総参謀長は無能だと公の場で攻撃するなど、軍首脳部と対立していた。特に、先月23日には、ロシア支配階層が戦争に安易に対応すれば、内部分裂で革命が発生する可能性があるとまで主張した。プリゴジン氏の軍首脳部への攻撃は、ロシア内部の軍批判勢力を代弁し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領体制後の権力闘争を意識したものではないかという指摘が出ている。
●ウクライナ、「南ドネツク戦線」で露軍占拠の7集落を奪還… 6/13
ウクライナ国防次官は12日、ロシア軍からの領土奪還に向けた大規模反転攻勢の開始から約1週間で、東部ドネツク州と南部ザポリージャ州の七つの集落を奪還したとSNSで明らかにした。制圧したのは、ドネツク州南西部ベリカノボシルカ南方の約90平方キロ・メートルに及ぶという。
ウクライナ軍は4日以降、ドネツク州南西部とザポリージャ州東部に延びる「南ドネツク戦線」で攻勢に転じている。国防次官は発表済みの4集落に続き、州境界に位置するザポリージャ州ノボダリフカなど3集落も奪還し、軍部隊が6・5キロ・メートル進軍したと説明した。
ウクライナ側は、ロシア本土と南部クリミアを結ぶ「陸の回廊」の遮断を狙っており、アゾフ海に面した港湾都市マリウポリやベルジャンシク進軍に向けた進展を強調した。攻防は、露軍が強固な防衛陣地を築く地域に移りつつある模様だ。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は12日夜のビデオ演説で「悪天候が任務を一層困難にしているが、兵士の 強靱きょうじん さが結果をもたらしている。解放された集落にウクライナの国旗が戻っていることに感謝する」と語った。
国防次官は、ウクライナ軍の進軍を防ぐため、露軍が南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムを爆破したと訴えた。ダム決壊後、露軍がドニプロ川東岸に駐留していた「最も戦闘準備が整った部隊」をザポリージャ、ドネツク両州に移動させているとも指摘した。
●ウクライナ軍、ロシア占領下から計7集落取り返す 反転攻勢で 6/13
ウクライナ軍が開始したロシア軍への反転攻勢で、ウクライナ側は12日、4集落を奪還したと発表した。これまでに取り返したのは、東部ドネツク州と南部ザポロジエ州の計7集落となる。ウクライナのマリャル国防次官は12日、通信アプリ「テレグラム」で、自軍の各前線での前進距離は合計6・5キロとなり、90平方キロの領土を管理下に戻したと説明した。ただ、ロシア占領地域は国土の約2割と広大で、現状の奪還エリアはごく一部だ。
ロイター通信のまとめによると、ウクライナ軍はドネツク州でストロジェベ、ザポロジエ州ではノボダリフカ、レバドネ、ロブコベを新たに奪還したという。同軍は11日には、ドネツク州の3集落を解放したと発表している。これらの集落の多くはドネツク、ザポロジエ両州の境界付近に位置する。一帯では激戦が続いている模様だ。
ウクライナ軍には、ロシアが2014年から実効支配するウクライナ南部のクリミア半島とロシアを結ぶ補給路を断ち、半島を「孤立化」させるなどの狙いがあるとみられる。
一方、ロイター通信によると、ザポロジエ州知事は12日、ロシア軍の爆弾による攻撃を受けた同州の集落で男性が死亡し、1人が負傷したと明らかにした。集落は前線から8キロの位置にある。インフラ設備などの多くが破壊されているが、今も数百人の住民が暮らしているという。
●ウクライナ軍、南東部で4つめの集落ストロジェベを奪還 6/13
ウクライナは12日、南東部で新たに集落一つをロシア軍から奪還したと発表した。
ドネツク州のストロジェベではウクライナ国旗を掲げる兵士のビデオが映され、国防相は部隊を称えた。この集落はウクライナが前日奪還を発表した集落ブラホダトネとネスクチネの間に位置する。
ロイターは戦況を確認できていない。
ウクライナ軍は11日、ブラホダトネとネスクチネに加えてマカリフカを解放したと明らかにした。
マカリフカは前線だった場所から5キロメートルほどの地点で、ウクライナの前進は小幅なものとみられる。
複数のロシアの著名軍事ブロガーは、マカリフカでの戦闘はまだ続いているが、ブラホダトネとネスクフネはウクライナ軍による占領が確認されたと指摘した。
ウクライナ軍参謀本部は12日、東部や南部の前線で激しい戦闘を繰り広げていると発表した。
東部のバフムト、ドネツク州のアブデーフカとマリンカ、ルガンスク州ビロホリフカの周辺で過去24時間に約25回の戦闘が行われたという。
ウクライナ軍東部方面部隊のチェレバティ報道官はウクライナ軍がバフムトの側面で反撃を続け、ロシア軍を最大700メートル後退させたと述べた。
●ウクライナで70万人が水不足 流出した油は黒海に ダム決壊1週間 6/13
ウクライナ南部ヘルソン州にあるカホフカ水力発電所のダムが決壊してから13日で1週間がたった。決壊の影響は農業、漁業、工業など多方面にわたり、約70万人の住民が飲料水不足にさらされている。環境汚染も拡大している。
ウクライナ農業食料省によると、決壊によりウクライナ側が保持するドニエプル川西岸だけで農地約1億平方メートル超が浸水し、ロシアが占拠する東岸では、被害はその数倍に及ぶと推定されている。洪水の影響でヘルソン州や周辺のザポロジエ州、東部ドニエプロペトロフスク州のかんがい用水が枯渇し、50億平方メートルの農地が干上がる可能性もあるという。
ウクライナ政府はこれまでにドニエプル川西岸に住む1万7000人以上を避難させたが、ロシアが占拠する東岸では一時2万5000人が現地にとどまったとみられる。AP通信によると、国連のグリフィス事務次長(人道問題担当)は9日、洪水の影響で「70万人が飲料水を必要としている」と述べた。またグリフィス氏は「世界有数の穀倉地帯での洪水は、ほぼ必然的に穀物輸出の減少につながる」として世界的な穀物価格の高騰への懸念を表明した。
漁業にも影響が出ている。ウクライナ当局によると、洪水の影響で約9万5000トン分の魚類が死んだ。損失額は約40億フリブナ(約151億2000万円)に達すると推定される。このほか製造工程で水を使う鉄鋼業など他の産業にも被害が及んでいる。
環境への被害も拡大している。ウクライナ環境保護・天然資源省によると、ダムに貯蔵されていた油150トンがドニエプル川に流出。破壊された建物などの残骸の一部とともに黒海に流れ込んでいる。ロシア軍がドニエプル川東岸に設置していた地雷や爆発物も流され、南部オデッサ州に漂着したものもあった。
同省によると、周辺の動物園では約300匹の動物が溺れ死に、16万羽の鳥や2万匹の野生動物が生息地を失うなど、危機にさらされているという。
ダムの決壊は6日未明に起きた。ルーマニアの地震観測所が午前2時54分ごろ、ダム周辺での爆発を示す振動を検知した。米メディアによると、米国の偵察衛星がダム周辺で爆発によるとみられる赤外線を探知したとの米政府関係者の証言もあり、事故ではなく人為的な爆破による決壊との見方が強まっている。
情報機関のウクライナ保安局(SBU)は9日、ロシア兵2人の通話を傍受したとする音声を公開し、ロシア側の関与を示す証拠だと主張した。ロシア側はウクライナによる破壊工作だと非難している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、国際刑事裁判所(ICC)が決壊の調査に乗り出したと明らかにした。一方、ストリレツ環境保護・天然資源相は12日、ロシアが占拠し、稼働を停止しているザポロジエ原発へ冷却水を供給する貯水池の水位は安定していると述べた。ウクライナ原子力当局によると、貯水池には十分な量の水が確保されており、地下水源からの取水も可能という。
●諦めか「古典的防御策」か? ロシアの意図不明な「巨大ダム破壊」の謎 6/13
ウクライナ南部にあるカホフカ水力発電所の巨大ダムが、6月6日に爆破された。アナリストからは、なぜロシアが(これがロシアの仕業だとすればだが)クリミア半島に破壊的な打撃をもたらしかねない行動を取るのかと、疑問の声が上がっている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「ロシア帝国」を築くという野望達成の礎だったクリミアに見切りをつけたのか。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領をはじめとする面々はこの可能性を指摘しているが、それとは異なる見方もある。
米ジョージタウン大学の経済学者アンダース・オスルントは今回のダム爆破を、イラク大統領だったサダム・フセインによる油井破壊になぞらえる。
フセインは湾岸戦争中の1991年、クウェートからの撤退を余儀なくされたイラク軍にクウェートの油井への放火を指示したといわれる。
今回のダム破壊は「失ってしまうことが明らかな領土を破壊しようという考え方」だと、ロシアとウクライナの両政府で経済顧問を務めた経験を持つオスルントは解説する。「諦めがもとになっている行動だと思う。攻撃というよりは負け惜しみだ」
さらにオスルントは、カホフカ・ダムは重要な運河に水を供給しており、クリミア半島を維持する上で大きな役割を果たしていると指摘する。
「クリミア半島に必要な水の85%を供給する北クリミア運河は、カホフカ・ダムから取水している。このダムがなくなったら、クリミアはいずれもたなくなる」
水の供給に重大な影響
オスルントは、このダムの爆破はクリミアの農業を破壊しかねないとも語る。北クリミア運河の水の大半は農業や工業に使われ、飲料水に回るのは約2割だ。
クリミア半島は2014年、プーチンによって一方的にロシアに併合された。昨年2月から続くロシアの侵攻に対して、ウクライナが反撃の勢いを得るようになると、ゼレンスキーは停戦条件の一部として「クリミア半島はウクライナの領土と認識されるべきだ」と口にするようになった。
一方のロシア政府は、クリミア半島はいかなる和平協定でもロシアの一部にとどまると主張。プーチンが昨年9月以降に違法に併合したウクライナの4つの地域も、ロシアの一部にとどまると言い張っている。
ウクライナ側は、カホフカ・ダムの爆破はロシアの仕業だと主張する。ゼレンスキーはオンラインで発した声明でこう語った。
「ロシアが意図的にカホフカ・ダムを破壊したという事実は、ロシア軍が既にクリミア半島から逃げ出す必要性を認識していることを示している」
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ダムの破壊はウクライナ側の仕業だと主張。クリミアへの水の供給に影響を及ぼす可能性があると認め、ウクライナの狙いはクリミアから水を奪うことだと語った。
「クリミアでは今後長いこと、水の供給が遮断されるかもしれない。ウクライナの一部当局者がそう言っている」と、欧州政策分析センター(ワシントン)のエリナ・ベケトワ研究員は本誌に語った。
「ロシアが任命したクリミア自治共和国のセルゲイ・アクショーノフ首長は、北クリミア運河の水位がさらに低下する危険を認めている。ほかにも水源があるとはいえ、クリミアが飲料水不足に直面する可能性はある」
多くのアナリストは、ダム爆破は単純に軍事的な理由で行われたものではないかと考えている。ロシアが水力発電所とダムを破壊した可能性がある理由について、ベケトワは「ウクライナ軍が(ダムのある)ドニプロ川の東岸に到達できないようにして、反転攻勢を阻止しようとした可能性がある」と指摘する。
米陸軍のスティーブン・トゥイッティ退役中将も、プーチンがウクライナ軍の動きを鈍化させるための攻撃を命じた可能性があると言う。
「戦争では得てして、こういうことが起こるものだ。ダムを爆破した結果、水が農地や内陸に流れ込み、地域一帯がぬかるんでいる。装甲車両が泥にはまり、一帯を横断できなくなる」
そのため軍は「整備された道路を使うしかなくなる」と、トゥイッティは言う。「農地での攻撃もできない。(ダムを決壊させることで)ウクライナ側の進軍ルートを制限することになる」
クリミアは重要な戦利品
防衛問題情報サイト「SOFREP」のガイ・マッカードル副編集長は、カホフカ・ダム爆破はロシアとウクライナの「双方にとって打撃になる」と分析する。
「(ダムの破壊で)クリミアをはじめ、ウクライナ南部にあるロシア占領地域への水の供給が断たれることになる可能性が高い。洪水によってロシアの防衛拠点とクリミアへの補給ルートが損なわれる可能性も高い」と、マッカードルは言う。
「しかもこのダムは、ドニプロ川の横断を可能にする最後のルートの1つでもあった」
米海兵隊の元大佐で、現在は米戦略国際問題研究所(CSIS)の上級顧問を務めるマーク・キャンシアンは、ロシアがクリミア半島を断念したとは考えていない。
「ダム爆破は、プーチンがウクライナを諦めた兆候ではあり得ない。クリミアはとてつもなく大きな『戦利品』だから、どんな代償を払っても手放さないだろう」と、キャンシアンは本誌に語った。
「ロシアがダムを爆破したのは、ウクライナ軍がドニプロ川を越えて攻撃してくる可能性に備えて、『水の防壁』を拡大するためだろう。これまでも頻繁に用いられてきた古典的な防御策だ」
かつてアナリストらは、こう語っていた。クリミアを失えば、ロシアにおけるプーチンの正統性は大きく損なわれる。そしてプーチンが失脚する可能性さえ生じる、と。
●ウクライナ軍、米国製装甲車両16両失う 諜報分析 6/13
ウクライナ軍はここ数日で、米国から供与された装甲車両16両を失った。オープンソースの諜報(ちょうほう)分析が明らかにした。一方ウクライナ軍は、自軍の部隊が東部ドネツク州で3つの村落をロシアから奪取したと発表している。
米国製の歩兵戦闘車「ブラッドレー」16両が、直近の数日間で破壊、損傷、放棄されたという。これは米国政府がウクライナ政府に供与した109両の15%近くに相当する。オープンソースのインテリジェンスサイト「オリックス」のヤクブ・ヤノフスキ氏が述べた。同サイトはロシアによる侵攻が始まった昨年2月24日以降、ウクライナでの軍装備損失の視覚的証拠を収集している。
車輪ではなく無限軌道で走行するブラッドレーは、乗員数が10人程度。兵員の戦地への輸送や支援射撃に使用される。
供与の第1弾として、60両以上のブラッドレーが1月下旬にウクライナへ引き渡されていた。米陸軍第841輸送大隊の司令官を務めるレベッカ・ダンジェロ中佐は、同車両がウクライナ軍の攻勢にとって重要になるとの見方を示した。
しかし退役将校でCNNの軍事アナリストのジェームズ・スパイダー・マークス氏は当時、ブラッドレーについて、他の戦力との適切な組み合わせが必要になるだろうと指摘。具体的には航空支援、長距離砲撃、鋭敏な諜報に言及した。
航空支援はウクライナ軍に欠如している領域だが、今後はF16戦闘機が西側の同盟国から供与されることが見込まれる。
ブラッドレーの損失については、必ずしもウクライナにとっての問題の前兆になるとは限らないと専門家らはみている。防衛産業アナリストのニコラス・ドラモンド氏は、「前線の大きさ、戦闘の激しさを考慮すれば、そのような損失は想定できた」と分析。ウクライナ軍は主要な戦線の4カ所で攻勢をかけ、ロシア軍に予備戦力を投じさせようとしていると述べた。これは必要な手法だが、犠牲も大きいという。ドラモンド氏は元英陸軍将校で、地上戦の専門家。
ドラモンド氏によれば、当該のブラッドレーは壊滅的な損傷を被っておらず、乗員も脱出したとみられる。オリックスのヤノフスキ氏は、これらの車両は単に損傷して放棄されただけであり、ウクライナが戦域を奪えば回収・修理する可能性はあると述べた。
オリックスによると、ウクライナ軍が今回の戦争で失った装備は約3600なのに対し、ロシア側の損失は1万600を超えている。
ブラッドレーは失ったものの、ウクライナは週末にかけての戦闘で少なくとも3つの村落をロシア軍から奪還したと報告した。
●ウクライナ反攻、「必要な限り支援」 独仏ポーランド首脳会談 6/13
フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相、ポーランドのドゥダ大統領は12日、パリで会談を行い、ロシアによる侵攻への反転攻勢に出たウクライナへの軍事支援を協議した。
マクロン氏は記者会見で、反攻が今後数カ月に及ぶという見通しを示し、「ウクライナの勝利は欧州の平和と安全につながる。必要な限り支援を続ける」と強調した。
3者会談はドイツで2月に開かれたミュンヘン安全保障会議の際に行って以来。ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、ドゥダ氏との電話会談で最新の戦況を説明した。
会見でマクロン氏は、兵器や装甲車、弾薬などの供与をウクライナに約束した計画の通りに実行していくと表明。ショルツ氏は軍事支援での「緊密な連携」を改めて確認した。
一方、ドゥダ氏は北大西洋条約機構(NATO)が7月の首脳会議で、ウクライナの将来的な加盟に向けて「明確な展望」を示すべきだと主張した。欧州メディアによると、ウクライナはNATOとの対話の枠組みを現在の「委員会」から「理事会」に格上げするよう求めている。 
●プーチン氏を翻弄する「もう一つのロシア軍」とは?反転攻勢に参加? 6/13
「我々が国境地帯で活動すれば、ロシア軍は部隊を割かねばならず、それはウクライナ軍を助けることになる」「プーチンは弱く、無能で、ロシアが戦争に負けつつあることを思い知らせる」 こう語るのは、ロシアの反体制組織でウクライナ側にたつ「自由ロシア軍」の幹部です。ウクライナの反転攻勢が始まるなか、ロシアと戦う“もう一つのロシア軍”の幹部にインタビューしました。
話を聞いたのは「自由ロシア軍」の幹部
今回、NHKの単独取材に応じたのは、「自由ロシア軍」の政治部門の幹部、イリヤ・ポノマリョフ氏です。ポノマリョフ氏はもともとロシア議会の議員でしたが、プーチン政権に反対し、ウクライナで亡命生活を送っていました。ポノマリョフ氏が参加する「自由ロシア軍」に注目が集まったのが先月でした。ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州で戦闘が起き、「自由ロシア軍」と「ロシア義勇軍」という2つの組織が戦闘への関与を主張したのです。ウクライナからの反転攻勢に備えるロシアにとって自国の領内で発生した異常事態でした。(以下、イリヤ・ポノマリョフ氏の話)
あなたの「自由ロシア軍」での役割は?
私は「自由ロシア軍」の政治的調整を行う役割を担っています。ウクライナの首都キーウには、「自由ロシア軍」と「国民共和軍(National Republican Army)」という、2つのロシアの反体制組織が作った政治センターがあります。私はそこでコーディネーター・調整官をしています。
「自由ロシア軍」の目的は?
第一は、ロシアの解放です。我々の土地、ロシアの領土を解放し、そこに真に自由なロシアを作り上げることです。多くの反体制派が思い描く単なる理想像(ファンタジー)ではなく、実際の領土に我々の旗、新しいロシアの旗を打ち立てることです。そして新しい国が誕生したことを世界に示すことです。第二に、最終的にモスクワを解放するために、我々は成長しなければならないということです。『軍事的な成功』という実績を示すことで、ロシアの人々に政権打倒が本当にできる、実現可能なことなんだという感覚を持ってもらう必要があります。そのために当面の目標となるのは、「領土の獲得」です。ウクライナ軍はいま大規模な反転攻勢を始めようとしています。そのため、ロシア軍は多くの兵力をウクライナ領内に配置しています。だから我々の部隊はとても簡単にロシア領内に入ることができます。そして、我々がウクライナとの国境地帯で活動すれば、ウクライナに侵攻しているロシア軍は自らの国境の防御のために、大きな部隊を割かねばなりません。結果として、それはウクライナ軍を助けることにもなります。
ウクライナ軍との連携は?
それはややトリッキーな質問ですが、理解してほしいのは、我々も「ロシア義勇軍」もともにウクライナ軍に正式に加わっているということです。ウクライナ軍には外国人部隊というセクションがあり、我々はそこに組み込まれています。その意味で我々はウクライナ軍の指揮系統に何か月も前から組み込まれ、ウクライナ軍の一部としてウクライナ国内の前線で戦ってきました。東部の激戦地・バフムトにも派遣され、ロシアの傭兵部隊ワグネルとも戦っています。「ロシア義勇軍」も我々の部隊より規模が小さいですが、非常に強力な部隊として、ハルキウやヘルソンなどあちこちで活動しています。
ウクライナ軍の反転攻勢に事実上参加?
いいえ、(ロシア領内での攻撃は)あくまで我々の自主的な作戦です。その意味で、我々は独自に行動しているということです。ウクライナ政府は欧米各国にロシアの領土を直接攻撃しないと約束しています。だから「自由ロシア軍」の指揮官たちは外国人部隊の上官に、「ロシアを解放してきます」と言って、「休暇届」を出してロシアに向かっているのです。なので、ウクライナ軍はロシア領内での活動に参加していませんし、ウクライナ兵はロシア領内にはいません。ウクライナ軍は我々の作戦になんらの支援をしてはいないのです。しかし、もちろんウクライナ軍からのある種の賛同は得ていますし、我々の部隊は当初からウクライナ軍内で訓練を受けてきたというのは事実です。これは実は以前、プーチン政権の部隊が2014年にウクライナに侵入してきたときと同じやり方です。2014年にロシア兵がドンバス地域で活動した際も、プーチンは「私は何もしていない。彼らは休暇で行っているだけだ。それは彼らの自由だ」と言っていました。それと同じことをウクライナもやっているのです。もちろん我々の活動はウクライナ軍にとって好都合であり、大きな助けになっています。ウクライナ軍の指揮官たちはロシア人部隊がウクライナの反転攻勢を助ける最も効果的な方法は何かと考えているでしょう。しかし、強調しておきたいのは、作戦は我々が決定し、実行し、管理しているということです。そこにウクライナ軍は加わっていません。
「自由ロシア軍」や「ロシア義勇軍」の兵力は?
それについては機密として公表はしていません。軍事的にセンシティブな情報なのです。我々の部隊に何人いるかは外部に公表することが禁止されています。ただ、大まかな規模については言うことができます。「自由ロシア軍」には4個大隊、「ロシア義勇軍」には1個大隊規模の兵力があります。これで大まかな規模は理解できるでしょう。
部隊にはロシア以外の国籍の人もいる?
いいえ、我々の部隊への入隊資格はロシアのパスポート、ロシアの市民権を持っていることです。なので、部隊のメンバーは全員ロシアの市民権を持っています。それが条件なのです。また、「ロシア義勇軍」には右翼団体のメンバーが多く、彼らは民族的な意味でロシア人主体です。一方で、ロシア国内には多様な民族がいます。タタール人やロシアに住むウクライナ人、北カフカスの人々、ブリヤート人もいます。それらの多様な人々が、プーチン政権に抵抗しようとしています。また、例えば、ポーランド人の部隊は、我々とは協力しながら活動しています。
志願する義勇兵は増えている?
とても大勢います。「ロシア義勇軍」については言えませんが、我々の「自由ロシア軍」については、一時1万人が参加を希望していると言われていました。直近の数字を知らないのですが、間違いなく数千人単位です。ただ我々の方の選考過程がボトルネックになっています。我々の受け入れ能力に限界があるんです。訓練施設も限られていますし、なにより厳重な身元の確認をしなければなりませんが、それがとても大変なのです。ロシアの工作員が参加希望者を装って内部から部隊をかき乱そうとする試みはこれまでも多々ありました。本心からの志願者かどうか、確認するのにとても時間がかかるのです。多くの志願者が来ているのですから、このプロセスを早め、部隊を拡大したいところではあります。その努力をしているところです。
ウクライナや欧米から装備の提供は?
欧米諸国からは支援を受けていません。彼らは全体として極めて慎重です。正直に私の考えを言えば、慎重すぎると言えるでしょう。ただ、これまでも幾度となく欧米諸国が言うレッドラインは変更されてきました。ウクライナの努力もあって、かつては躊躇していた戦闘機の提供も行われるようになりました。それと同じだと思っています。ロシア人部隊も、ある意味でウクライナ軍の“一部”なのですから。そうした西側からの支援の議論はすでに始まっています。現在のところ、我々は戦場でロシア軍から奪った武器を主に使っています。バフムトに派遣されていた部隊などは、ロシア軍から戦利品を獲得しています。ウクライナ軍のルールで、そうした戦利品はその部隊が使うということになっています。最近、我々がアメリカ製のMRAP装甲車を使っているという報道がありましたが、あれもロシア軍が奪ったMRAPを、我々が奪い返して使っていたものでした。そういうことは往々にしてあります。ただ、我々が使っている装備の90%はロシアのものです。ロシア製の戦車、ロシア製の装甲車などです。
前線のロシア兵の士気は?
彼らは逃げてばかりです。この戦争全体で言えることですが、プーチン政権の軍隊の士気は極めて低いです。彼らが劣勢にあるのはこのためです。彼らは何のために戦っているか分からない状態なのです。ロシアの兵士たちは我々よりも良い装備を持っていたり、数が多かったりしますが、結局のところ何のために戦っているか分かっていないのです。特に彼らは今、同じロシア人に対峙しているわけです。外国人ではなく同胞です。そして、彼らも分かっています。我々が、正しい目的を持った解放軍だということを。
「自由ロシア軍」に寝返るロシア兵も出ているか?
我々の仲間の3分の1はもともとロシアの軍人で、そうした元ロシア軍兵士が中心となって立ち上げたのです。軍を去り、2022年2月にプーチン政権と戦うことを決めた兵士たちなのです。ただ、さきほども言いましたが、兵士たちが寝返って新たに参加を希望してきても、やはり我々はそれに対して慎重です。身元確認の問題があるからです。半年ほど前にもワグネルの部隊から、ウクライナ側に寝返り、自由ロシア軍に入りたいと言ってきた男がいました。その男は、メディアにも取り上げられヒーロー扱いされましたが、嘘発見器で調べたところ、結局はロシアの情報機関の工作員だったことが分かったのです。これは教訓でした。厳重な身元チェックがやはり重要なのです。
今後の目標は?
目標は、間違いなく「モスクワ」です。しかし、いまはまだ兵力が足りません。ですから、私たちの現在の現実的な目標は「勢力拡大」です。それが第一の目標で、そのために最善を尽くしています。ベルゴロド州の一部を切り取るのか、そのほかの国境沿いの町を攻め落とすのか、そこは状況次第です。いずれにせよ我々はモスクワのエリートたちに、我々が進軍してきていること、プーチン氏は弱く、最高司令官として無能であり、戦争に負けつつあるということを思い知らせる必要があります。その上で最終的に我々がモスクワに至る、それが私たちの目標です。
●ウクライナ “7集落奪還 バフムト周辺で前進” 反転攻勢本格化 6/13
ウクライナ国防省は、東部や南部で合わせて7つの集落を奪還したと発表したほか、東部のバフムト周辺でも前進していると主張し、反転攻勢を本格化させています。一方、ロシア軍の巡航ミサイル1発がウクライナ東部の集合住宅に着弾し、6人が死亡したということです。
ウクライナ国防省のマリャル次官は12日、これまでにドネツク州西部のマカリウカやザポリージャ州東部のノボダリウカなど7つの集落を奪還し、解放した領土は90平方キロメートルに上るとSNSで明らかにしました。
また、ドネツク州の拠点で先月、ロシア側が掌握を主張したバフムトの周辺でもウクライナ軍の部隊が前進を続け、一部で領土を奪還したとしていて、ゼレンスキー大統領は12日、「われわれの兵士は成果をあげている」と自信を示しました。
一方で、ロシア国防省は各地でウクライナ軍を撃退したと主張しています。
マカリウカでは攻防が続いているとロシア側では伝えられています。
また、ロシア軍は14発の巡航ミサイルなどで攻撃を仕掛け、このうち1発が、ゼレンスキー大統領の出身地でもあるウクライナ東部のクリビーリフにある集合住宅に着弾したとウクライナ空軍が13日、発表しました。
ウクライナの検察当局によりますと、これまでに6人が死亡、25人がけがをしたということです。
ウクライナ東部 集合住宅にミサイル攻撃 3人死亡
ウクライナ東部ドニプロペトロウシク州の知事は、クリビーリフにある5階建ての集合住宅がロシア軍によるミサイル攻撃を受け、少なくとも住民3人が死亡し、多数のけが人が出ていると13日、SNSで明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は13日、自身のSNSで「救助活動は続いている。テロリストは決して許されることはなく、発射するすべてのミサイルに対する責任を負うことになるだろう」と厳しく非難しました。
ゼレンスキー大統領がSNSに投稿した動画では、集合住宅の表面が黒く焦げて焼け落ち、複数の部屋で炎が上がっているほか、周辺の車両も大きく壊れているのが確認できます。
専門家「ウクライナ軍 狙いは主に南部か」
防衛省防衛研究所の山添博史 米欧ロシア研究室長は、反転攻勢を本格化させるウクライナ軍の動きについて、「ウクライナは、東部と南部の合わせて4方面での作戦があると見られるが、ねらいは主に南部にあると考えられる。アゾフ海の海岸沿いまで部隊を進めることができれば、ロシア軍の補給を断つことができ、ロシア軍がその西側を維持することが難しくなる」と分析しています。
このうち、南部ザポリージャ州のロシアが占拠する交通の要衝、トクマクの方面では、ロシア軍が複数の防衛線を準備しているため、今後戦闘が激しくなり、双方に大きな損失が出るおそれもあると、指摘しています。
一方、ウクライナ軍の東部での作戦について、ロシア軍に東部にも一定の部隊を配備させることで、戦力を分散させるねらいがあるとしています。
そのうえで、「東部での焦点はドネツク州西部のマカリウカで集落の奪還が伝えられているのもこのあたりだ。そこからさらに南下すると主要都市マリウポリに至るが、そこではロシアの防衛線は手薄で、そこまで部隊を進められればザポリージャ州の主要都市メリトポリを挟み撃ちできる」と述べました。
今回の反転攻勢でウクライナが目標とする成果は、雨で地面がぬかるみ、部隊を進めるのが難しくなる前、10月ごろまでに主要な都市を奪還することで、軍事支援の成果を示し、国際社会から継続して支援を受けるねらいがあると分析しています。
●ウクライナで70万人が水不足 流出した油は黒海に ダム決壊1週間 6/13
ウクライナ南部ヘルソン州にあるカホフカ水力発電所のダムが決壊してから13日で1週間がたった。決壊の影響は農業、漁業、工業など多方面にわたり、約70万人の住民が飲料水不足にさらされている。環境汚染も拡大している。
ウクライナ農業食料省によると、決壊によりウクライナ側が保持するドニエプル川西岸だけで農地約1億平方メートル超が浸水し、ロシアが占拠する東岸では、被害はその数倍に及ぶと推定されている。洪水の影響でヘルソン州や周辺のザポロジエ州、東部ドニエプロペトロフスク州のかんがい用水が枯渇し、50億平方メートルの農地が干上がる可能性もあるという。
ウクライナ政府はこれまでにドニエプル川西岸に住む1万7000人以上を避難させたが、ロシアが占拠する東岸では一時2万5000人が現地にとどまったとみられる。AP通信によると、国連のグリフィス事務次長(人道問題担当)は9日、洪水の影響で「70万人が飲料水を必要としている」と述べた。またグリフィス氏は「世界有数の穀倉地帯での洪水は、ほぼ必然的に穀物輸出の減少につながる」として世界的な穀物価格の高騰への懸念を表明した。
漁業にも影響が出ている。ウクライナ当局によると、洪水の影響で約9万5000トン分の魚類が死んだ。損失額は約40億フリブナ(約151億2000万円)に達すると推定される。このほか製造工程で水を使う鉄鋼業など他の産業にも被害が及んでいる。
環境への被害も拡大している。ウクライナ環境保護・天然資源省によると、ダムに貯蔵されていた油150トンがドニエプル川に流出。破壊された建物などの残骸の一部とともに黒海に流れ込んでいる。ロシア軍がドニエプル川東岸に設置していた地雷や爆発物も流され、南部オデッサ州に漂着したものもあった。
同省によると、周辺の動物園では300匹以上の動物が溺れ死に、16万羽の鳥や2万匹の野生動物が生息地を失うなど、危機にさらされているという。
ダムの決壊は6日未明に起きた。ルーマニアの地震観測所が午前2時54分ごろ、ダム周辺での爆発を示す振動を検知した。米メディアによると、米国の偵察衛星がダム周辺で爆発によるとみられる赤外線を探知したとの米政府関係者の証言もあり、事故ではなく人為的な爆破による決壊との見方が強まっている。
情報機関のウクライナ保安局(SBU)は9日、ロシア兵2人の通話を傍受したとする音声を公開し、ロシア側の関与を示す証拠だと主張した。ロシア側はウクライナによる破壊工作だと非難している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、国際刑事裁判所(ICC)が決壊の調査に乗り出したと明らかにした。一方、ストリレツ環境保護・天然資源相は12日、ロシアが占拠し、稼働を停止しているザポロジエ原発へ冷却水を供給する貯水池の水位は安定していると述べた。ウクライナ原子力当局によると、貯水池には十分な量の水が確保されており、地下水源からの取水も可能という。
●ロシア、キーウなど複数の都市攻撃 死傷者も 7村奪還発表後 6/13
ウクライナ中部のクリビーリフ(Kryvyi Rih)で13日早朝、ロシア軍による攻撃で6人が死亡、25人が負傷した。現地当局が明かした。同日、首都キーウなど複数の都市でもドローン(無人機)やミサイルを使った攻撃があった。
クリビーリフの攻撃で、複数の建物が被害を受けた。軍当局は「救急隊が現場に駆け付けた。重傷を負った人がおり、がれきの下にもまだ人がいるとみられる」とメッセージアプリのテレグラムに書いた。ドニプロペトロウシク州の知事もクリビーリフへの攻撃で3人が死亡したと投稿した。当初は「死者と負傷者がいる」としていた。
同日、首都キーウと北東部ハルキウにもミサイルとドローンによる攻撃があった。キーウの軍当局は「最初の報告によると、敵は巡航ミサイル 『Kh101』か『Kh555』を使用した」と明かした。
また、キーウ周辺を狙った敵のミサイルなどは全て検知し、防空システムによって破壊したとしている。現時点で死傷者や損害の情報はない。
ロシア軍による同日の攻撃は、ウクライナが反転攻勢で七つの集落を奪還し、前進していると発表した翌日に行われた。

 

●ゼレンスキー大統領「ウクライナ国旗が戻ったことに感謝」…7集落奪還 6/14
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は12日夜のビデオ演説で、ウクライナ軍のロシア軍への大規模な反転攻勢に関し「戦闘は厳しいが、我々は前進している」と強調した。ウクライナの国防次官は12日、反攻開始から約1週間で東・南部で7集落、面積にして約90平方キロ・メートルを解放したとSNSで発表した。
ゼレンスキー氏は「兵士の 強靱きょうじん さが結果をもたらしている。解放された集落にウクライナの国旗が戻ったことに感謝する」と述べた。
ウクライナが奪還した7集落は東部ドネツク州が四つ、南部ザポリージャ州が三つだった。露軍が 塹壕ざんごう や地雷原などで守りを固める防御陣地までは10キロ・メートル程度離れているとされる。
国防次官は13日、露軍が攻撃無人機や砲撃などで反撃していると明らかにした。ゼレンスキー氏は12日のビデオ演説で戦場の悪天候に触れたが、天候が回復すれば、露軍も攻撃ヘリの大量投入が可能になる。
ウクライナ軍は、反攻用に編成した旅団を本格投入せずに温存しており、投入時期を見極めているとみられる。フランスのマクロン大統領は12日、反攻は「数週間から数か月かかる」との見通しを示した。
米政策研究機関「戦争研究所」は、ウクライナ軍が今月4日以降、段階的に開始した反攻で少なくとも三つの戦線で領土奪還を目指していると分析している。
ドネツク州南西部ベリカノボシルカを起点にザポリージャ州にまたがる地域を南下し、港湾都市マリウポリやベルジャンシクを目指す「南ドネツク戦線」と、同州西部オリヒウから露軍補給の拠点都市メリトポリに南進する「ザポリージャ戦線」は、露本土とロシアが一方的に併合した南部クリミアの分断が目的だ。
露軍が「全域制圧」を宣言したドネツク州の要衝バフムトに反撃する「バフムト戦線」は、露軍の戦力分散が狙いとみられている。
一方、ウクライナ空軍は、露軍が13日未明に巡航ミサイル14発と無人機4機を発射したのに対し、ミサイル11発と無人機1機を迎撃したと発表した。ゼレンスキー氏の出身地南部クリビー・リフでは5階建ての集合住宅が破壊され、11人が死亡し、20人以上が負傷した。
●プーチン大統領「ウクライナ軍の損失、壊滅的…ロシア軍の死傷者は10分の1」 6/14
ウクライナがロシアに奪われた領土を奪還するための「大反撃」で成果を上げていると主張するなか、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、実際には「ウクライナ軍の死傷者はロシア軍の10倍にのぼる」と明らかにした。
プーチン大統領は13日(現地時間)、クレムリン(ロシア大統領宮)でロシアの戦争担当記者らと面会し「彼ら(ウクライナ軍)の損失は壊滅的とも言える水準に近づいている」とし、「我々の損失はウクライナ軍の10分の1」だと述べた。プーチン大統領の主張が正しいかどうかは確認されていない。
プーチン大統領のこの発言は、西側がウクライナに支援した兵器を鹵獲(ろかく)したとロシア国防省が主張した数時間後に出たもの。同省はこの日、声明で「(ドイツ製の)レオパルト戦車と(米国製の)ブラッドレー歩兵車両、これらは我々のトロフィーだ」とし、ロシア軍がウクライナの保有していた西側の兵器を奪い取った事実を映像と共に公開した。
しかしウクライナは、自国軍が反撃で「一定の成果」を上げたのはもちろん「計画を実行し、進撃している」と直ちに反論した。ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は、ソーシャルメディアを通じて「我が国の東部、南部地域で防御と攻勢の激しい戦闘が続いている」と述べた。ウクライナは最近、東部のドネツク地域で数カ所の村を奪還したと主張している。
プーチン大統領は同日、ウクライナ産の穀物を世界市場に供給するためにロシアとウクライナが国連およびトルコの仲裁のもとで結んだ「穀物協定」から脱退する可能性も示唆した。プーチン大統領は「我々は今この穀物協定から脱退することを考えている」とし、「不幸にも我々はまただまされた。外国市場に向けた我々の穀物の供給を自由化する部分で何一つ履行されていない」と述べた。ロイター通信は、モスクワおよび主な穀物・肥料輸出のロシア企業の話として、ロシア産の食糧、肥料の輸出は制裁を受けていないが、決済や物流、保険に対する西側の制限が運送の障害物になっていると伝えた。
●「ロシアの損失、ウクライナの10分の1」 プーチン氏、優勢を強調 6/14
ロシアのプーチン大統領は13日、従軍取材している記者との会合でウクライナ軍の反転攻勢に触れ、「我々の損失はウクライナ軍の10分の1」とウクライナ側の兵力に大きな打撃を与えていると強調した。国民に戦況が優勢だと訴える狙いとみられるが、具体的な根拠は示さなかった。
会合の模様はロシア国営テレビで中継された。
プーチン氏は「敵はどこの地域でも成功を収めていない」などと、大きな打撃を与えていると指摘。ウクライナ軍は米欧に提供された兵器の25〜30%を失ったとの見方を示した。
ロシアがウクライナに侵攻したのは、米欧が安全保障のレッドライン(越えてはならない一線)を越えたからだとし、「侵略者はロシアでなく西側だ」と指摘。解決には、ウクライナへの武器供給の停止が必要だと主張した。
一方、ロシアには高精度の武器など多くの兵器が「不足している」と認めながらも、「過去1年で主要兵器の生産量は2・7倍、最も需要がある分野では10倍になった」と述べた。
今年に入って職業軍人を15万人以上、志願兵を含めれば15万6千人を採用したとし、追加動員の可能性については「いまはその必要はない」と否定した。
ウクライナのロシア軍占領地への反転攻勢については、ゼレンスキー大統領が10日、「始まっている」と認めていた。
プーチン氏は9日にも、「始まったと絶対的に確信できる」と反転攻勢に言及し、「(ウクライナの)すべての試みが失敗した」とロシア軍による撃退に自信を示していた。
●プーチン大統領、キーウ占領是非を自問 「追加動員は不要」 6/14
ロシアのプーチン大統領は13日、ウクライナ戦争における追加動員について「現時点でそのような必要はない」と述べた。また、ロシアは再びウクライナの首都キーウ(キエフ)占領を試みるべきかという自分だけが答えられる問題に直面していると述べた。
プーチン氏は「戦争」という言葉を何度も用いて西側諸国に警告を発し、ウクライナがロシアを攻撃するのを防ぐため「緩衝地帯」を設ける必要があるかも知れないとした。黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)からの離脱を検討していることも明らかにした。
また、米側も多くは第三次世界大戦を望んでいないとしながらも、米政府は事態の悪化を恐れていないという印象を与えていると指摘した。
プーチン氏が行った発言の中で最も不可解だったものは、キーウを巡るものだった。昨年2月24日の侵攻開始後すぐにロシア軍はキーウ占領を試みたものの、失敗した経緯がある。
プーチン氏はロシア大統領府で、18人の戦場記者やブロガーを前に「キーウに戻るべきか、戻らざるべきか。なぜ私はそうした修辞的質問をしているのだろうか」と問いかけ、「これに答えられるのは私自身だけだ」とした。
キーウに関するプーチン氏のコメントはロシア国営テレビで放映された。
テレビ会議では、国防省は新たな追加動員の必要はないとみていると指摘。一部では100万─200万人の動員が必要との声も上がっているが、「それはわれわれが何を望むかによる」とし、ウクライナの首都キーウに対する攻撃に「戻るべきなのか」と疑問を投げかけた。
また、ロシアは敵軍の工作員に対応し、自国領土奥深くへの攻撃に対する防衛手段を改善する必要はあるが、ウクライナに倣って戒厳令を発令する必要はないと述べた。
テレビ会議で、ロシアに「ある種の特別体制や戒厳令を導入する理由はない。現時点でそのようなものは必要ない」とした。
さらに、ウクライナの反攻は6月4日に始まったが、どの地域でも成功しておらず、ウクライナの人的被害はロシアの10倍と指摘。ウクライナは160両以上の戦車と海外から供給された軍事車両の25─30%を失った一方、ロシアが失った戦車は54両とした。
ロイターはプーチン氏の主張を独自に確認できていない。
プーチン氏はこのほか、ウクライナは米国から供給された高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使用して意図的にカホフカダムを攻撃し、これがウクライナの反攻の妨げにもなっているとした。
ウクライナにおける「特別軍事作戦」の目標は状況に応じて変化するかもしれないが、その基本的な性質は変わらないとした。
●戒厳令や追加動員、「必要なし」 プーチン氏 6/14
ロシアのプーチン大統領は13日、ロシアには戒厳令の実施や兵士の追加動員は必要ないと述べた。
プーチン氏は大統領府で行われた軍事ブロガーや従軍記者との会合で、「それは目的による。我々の軍隊はキーウにいた。そこに戻る必要があるのか、ないのか。このような修辞疑問文を尋ねているのは、答えがないことが明らかだからだ。私自身が答えるしかない。しかし、どのような目標を立てるかによって、動員の問題を決めなければならない。今日はその必要はない」と述べた。
プーチン氏によれば、約15万6000人の兵士が1月以降に追加された。この中には、募集した契約軍人と志願兵が含まれている。
プーチン氏はまた、法執行機関や特殊部隊の仕事には改善が必要であるものの、ロシア全土に戒厳令を導入する必要はないと述べた。
●プーチン氏、高精度弾薬や無人機の不足認める 6/14
ロシアのプーチン大統領は13日、ロシアの兵器の質は向上しているものの、高精度弾薬やドローン(無人機)が不足していると述べた。
プーチン氏は軍事ジャーナリストとの会合で、「特別軍事作戦の過程で、多くのものが見当たらないことが明らかになった。精密誘導兵器や通信機器、航空機、ドローンなどだ。我々もそれらを保有しているが、残念ながら量的には十分ではない」と述べた。
プーチン氏は、ウクライナ侵攻を特別軍事作戦と表現している。
プーチン氏は「近代的な対戦車戦が必要であり、近代的な戦車が必要だ」と語った。
プーチン氏はロシアの防衛産業が成長していると指摘。「もし特別軍事作戦がなかったら、ロシア軍を世界一とするため、防衛産業をどのように微調整すればいいのか、恐らく理解できなかっただろう。しかし、我々はそれを実行する」と述べた。
プーチン氏はウクライナでの紛争を止める方法は、西側諸国がウクライナに武器を供与するのをやめることだと述べた。
●プーチン大統領「虚勢」もむしろ泥沼化=u失った戦車は54両だ」… 4/14
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、「虚勢」を張っている。モスクワのクレムリン(大統領府)で、同国の軍事専門記者らに、ウクライナ軍に「破滅的損害」を与えたと強調したのだ。だが、昨年2月のウクライナ侵略以降の兵器損害については、ロシアが大幅に上回っているという分析がある。国際社会のウクライナ支援が強まる一方で、ロシア国防省と民間軍事会社「ワグネル」の対立が先鋭化。プーチン氏を取り巻く環境はむしろ泥沼化しているのが実情だ。
「(ウクライナの反攻が)続いているが、どの戦線でも目的を達成できていない」「(ウクライナは)戦車160両、装甲車360両以上を失ったが、ロシアが失った戦車は54両だ」
国営テレビによると、プーチン氏は13日、ウクライナの反攻についてこう説明した。
しかし、公開情報から両国軍の兵器の損害を集計しているオランダの軍事情報サイト「Oryx」によると、2022年2月のウクライナ侵略開始からこれまでにロシアの戦車損害は2042両に上り、ウクライナの528両の4倍近い。
ウクライナの反攻がまだ本格的ではないとの見方もある。英BBCは13日、「ウクライナはまだ戦力の大半を投入していない。現在の動きは、ロシアの砲撃拠点を明らかにし、防衛線の弱点を探るための偵察攻撃だ」と指摘。ウクライナとロシアを比較して「多くの場合において、ロシア兵の訓練、装備、リーダーシップはウクライナ兵のものより劣っている」と解説している。
さらに欧米からの支援がウクライナを支えている。
米国防総省は13日、ウクライナに対する最大3億2500万ドル(約455億円)規模の追加軍事支援を発表した。ブラッドレー歩兵戦闘車15両、装甲車ストライカー10両、高性能地対空ミサイルシステム「NASAMS」用の追加弾薬などを提供するとしており、アントニー・ブリンケン国務長官は声明で「ロシアが戦争をやめるまで、米国と同盟国はウクライナを支え続ける」と強調した。
ロシアでは国防省とワグネルの対立が激しさを増している。ワグネルを傘下に組み入れようとする国防省が契約を求め、ワグネルの創設者であるエフゲニー・プリゴジン氏が拒否しているのだ。
ロイター通信によると、プリゴジン氏は13日、デンマークメディアの問い合わせへの回答で、ワグネルの部隊が今後もウクライナでの戦闘を続けるかどうかは「わからない」と語った。
●ロシア、黒海穀物合意から離脱を検討 プーチン氏「だまされた」 6/14
ロシアのプーチン大統領は13日、黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)からの離脱を検討していると明らかにした。西側諸国はロシアの農産物を世界市場に供給するという約束を何一つ履行していないとし、「だまされた」と非難した。
黒海イニシアティブはロシアのウクライナ侵攻で悪化した世界的な食料危機に対処する措置で、国連とトルコが仲介して昨年7月にまとまった。ウクライナ産穀物の海上輸送再開を可能にするものだが、ロシアの農産物や肥料の輸出を支援する期間3年の協定も同時に締結された。
しかし、プーチン氏は西側諸国が不誠実で約束が守られていないと指摘。ロシアの戦場記者や軍事ブロガーとの会合で「残念ながら、まただまされた」と述べ、合意離脱を検討していることを明らかにした。
ロシアの食料・肥料輸出は制裁の対象になっていないものの、ロシア政府や主要な穀物・肥料輸出企業は支払いや物流、保険に関する西側の制限措置が出荷の障害になっているとしている。
国連のステファン・ドゥジャリク報道官は13日、ロシアの輸出円滑化に向けた国連の取り組みに幾分の進展があったとした上で、複数の障害が残っていると述べた。
米国は世界の食料供給を脅かすとしてロシアに合意から離脱しないよう求めた。
プーチン氏は世界の最貧国に無償で穀物を供給する用意があるとし、近々ロシアを訪問するアフリカの指導者らと協議する方針を示した。
穀物合意の現状について「アフリカ諸国にはほとんど何も供給されていない。ロシアは何度も延長に合意しているが、その見返りは何もない」と不満をあらわにした。
穀物輸出合意はロシアが延長に同意しなければ、7月17日で期限切れとなる。
●ウクライナ反攻、成功ならロシアが交渉の席に 米国務長官 6/14
米国のブリンケン国務長官は14日までに、ウクライナがロシアに対する反転攻勢を成功させれば、ロシアのプーチン大統領に戦争終結を交渉させることができるかもしれないとの見通しを示した。
ブリンケン氏はワシントンで、イタリアのタイヤーニ外相とともに記者会見に臨み、ウクライナの反攻の成功には二つの効果があると述べた。
ブリンケン氏は、反攻の成功によって、交渉の場での自国の立場を強めて、プーチン氏に対して自ら始めた戦争を終結させるための交渉に集中するよう仕向ける効果があるかもしれないと述べた。
ブリンケン氏は「その意味では、平和を遠ざけるのではなく、実際に近づけることができる」と述べた。
ウクライナは、ロシアとの和平交渉の前提条件として、ロシア軍のウクライナ領からの撤退を繰り返し求めており、西側諸国もこの要求を支持している。
●受刑者がウクライナで戦えば恩赦、正規軍も募集 ロシア下院に法案 6/14
ウクライナ侵攻に派遣される兵士としてロシア軍と契約すれば、恩赦や犯罪歴の抹消が認められるとする法案がロシア下院に提出された。インタファクス通信が13日伝えた。ロシアでは民間軍事会社ワグネルが刑務所で戦闘員を募集していたが、正規軍でも受刑者からの採用が増える可能性がある。
報道によると、戦時中、徴兵されたり、ロシア軍と職業軍人の契約を結んだりした場合、刑が免除される可能性が得られる。入隊後は、指揮官が対象者の行動を監視。勲章を受けたり、除隊したりした時に恩赦や犯罪歴の抹消を受けられるという。
対象は「中軽度の犯罪」で、提案した下院議員は「犯罪を誘発しないよう、この法律の施行前の犯罪に限られる」と話した。
ロシアではワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が、恩赦を条件に刑務所で戦闘員を募集していた。だが、今年に入って募集中止を発表。ロシアの独立系メディアは、代わりにロシア軍が採用していると伝えていた。
今回の措置の背景にあるとみられるのが「大規模な動員の回避」だ。米欧の専門家は、ロシア軍がウクライナで兵力に多大な損失を受けたとみている。
だが、昨年の部分的な動員で、多くの若者が国外に脱出するなど大きな混乱が起きたことから、プーチン政権は追加動員には消極的とみられている。
志願して戦闘に参加すれば、死亡したり大けがを負ったりしても大きな問題になる可能性が低いとみて、政権は自治体に職業軍人獲得のノルマを課し、給与も増やすなどして「隠れ動員」を進めている。
●「世界2位」ロシア軍を撃退…「禁欲主義者」ウクライナ軍ナンバー2の知略 6/14
「キーウを防衛してハルキウを奪還しバフムトで最後まで耐え忍んだウクライナの英雄が今回の戦争の命運をかけた大攻勢に出た」。
ウクライナ軍がロシアにより占領された村7カ所を奪還したと主張するなど「大攻勢」の成果を本格的に掲げて、英エコノミストと米ワシントン・ポストなど主要外信は12日、「ウクライナの大攻勢」を率いる地上軍司令官であるオレクサンドル・シルスキー氏(57)に注目した。
シルスキー司令官は現在ウクライナ軍を率いるナンバー2で、ワレリー・ザルジニー総司令官(49)のすぐ下だ。だが外信は「昨年2月のロシアの侵攻後、ウクライナが収めた多くの勝利は事実シルスキー将軍の知略から出た」としながらウクライナ善戦の功績をシルスキー司令官に回した。
ダム爆破してロシア軍の速度遅らせキーウ守り抜く
実際にシルスキー司令官は昨年2月の開戦初期、ロシア軍が戦争を速戦即決で終えるという覚悟で首都キーウに集まった時、近隣のイルピンダムを爆破してロシア軍の陣地を浸水させ彼らの進撃速度を遅らせた。また、いくつかの道路と吊り橋を破壊しロシア地上軍のキーウ接近を防いだ。
シルスキー司令官のこうした知略によりロシア軍は予定より遅くキーウに進入し、その間に時間を稼いだウクライナ軍は西欧から支援されたジャベリン、スティンガー、NLAWミサイルなどで武装できた。続けてウクライナ軍はロシア軍の機甲部隊が来る通りを予想して先回りし、機動性を前面に出しゲリラ・奇襲作戦を繰り広げ「世界2位」を誇るロシア軍を撃退した。
特にシルスキー司令官はキーウ死守に向け現場指揮官に本部と相談せずに直接戦術を組んで適用する決定を下せるように権限を付与し対応の敏捷性を高めた。キーウと周辺の村に対する防衛は現場指揮官に全権を任せ、自身が率いる機甲部隊はキーウ中心部を守りながら激戦地に出動して支援する戦略を使った。
これに対しロシア軍はキーウに進入した部隊が包囲・逆攻勢に遭い、イルピン、ブチャ、ホストメリ近隣では補給路が遮断されるなど進退両難に陥った。結局2022年4月にキーウ占領を断念して後退した。世界は「火力ではロシア軍がウクライナ軍の12倍上回っていた。72時間あれば陥落できたキーウが戦術により奇跡のような勝利を収めた」として驚いた。
これに対してキーウのクリチコ市長は「シルスキー司令官は緊迫した状況に毎回決定的な判断を下し、彼が下した措置によりキーウを死守できた」と話した。
声東撃西でハルキウ奪還…「21世紀の名将」
同年7月、シルスキー司令官はロシアが占領していたウクライナ第2の都市ハルキウでロシア軍を押し出し始め、2カ月後にハルキウを完全に奪還するのに成功した。当時おびえたロシア軍が軍服を捨てて民間人の服装で逃げ、シルスキー司令官はハルキウ州バラクリアの建物にウクライナ国旗を掲揚してハルキウ奪還を知らせた。
独紙シュピーゲルなどはシルスキー司令官がハルキウ奪還の際に使った戦術を「疑う余地なくすごい作戦」と評価した。当時シルスキー司令官は南部ヘルソンで大規模攻勢を広げ、ハルキウがある北部戦線でロシア軍の注意力を分散させる「声東撃西」作戦を繰り広げた。
ロシア軍が北部戦線に対する警戒を緩めるとシルスキー司令官はすぐに最小限の人員だけ選び出し最小規模の部隊を率いて短期間でハルキウからロシア軍を追い出すのに成功した。外信は彼に対し「21世紀最高の名将」と評価した。エコノミストは「もしシルスキー司令官が支援軍を要請することさえできたならロシア戦線はさらに深刻に崩壊しただろう」と話した。
●「世界の警察国家」だった米国はどこへ バイデン大統領 6/14
トランプ政権の誕生や、米連邦議会議事堂襲撃事件などに揺れる米国。長期化するウクライナでの戦争の和平調停は期待できそうにない。AERA 2023年6月19日号の記事を紹介する。
「(ロシアの侵略戦争開始から)1年後もキーウはここに立ちそびえている」「ウクライナも生き残っている。民主主義もだ」
バイデン米大統領はことし2月20日、ウクライナ電撃訪問の際、こう述べた。これにグッときた米国市民はかなりいたはずだ。
短いセンテンスながら、ウクライナ国民の強靱さを称えた。米国と西側諸国の支援の成果も盛り込んでいる。ポーランドからキーウまで10時間も電車に乗るというリスクの高い訪問だった。しかも2月24日というロシアによる侵攻から1年を直前に決行した。
「ウクライナは立ち向かっている。民主主義は立ち向かっている。米国ではアメリカ人があなたたちとともに立ち上がっている」と、バイデン氏は連帯を表明した。
一方で、この日は米国では「大統領の日」という祝日。ジョージ・ワシントン初代大統領らの誕生日に想いをはせる祝日に、バイデン氏は、世界で最もホットな戦地ウクライナを訪問した。これを「プレジデンシャル(大統領にふさわしい)」な行動だと思う米国民が多くいたのは間違いない。
沸くトランプ陣営
ロシアという大国に立ち向かうため世界で最大の支援をしている米大統領の侵攻後初のウクライナ訪問。これは大ニュースだ。同時に、ホワイトハウスは、バイデン氏と民主党の支持者を意識することも忘れなかった。
さらに、広島で行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、ウクライナのゼレンスキー大統領に米戦闘機F16の他国による提供の容認と訓練を確約した。5月31日には、推計3億ドル(約420億円)相当の武器などをウクライナに向けて新たに提供すると発表した。首都キーウを含むウクライナ全土でロシアによる空襲に対抗するため、防空システムに関する最新の軍事支援を約束している。
こうして、バイデン政権は「見せ場」は作ってきた。しかし、その裏ではのっぴきならぬ事情もある。
「自分が大統領なら、そもそもウクライナで戦争は起きなかった」
「バイデンは、ウクライナでの戦争から第3次世界大戦に国民を巻き込もうとしている」
2024年大統領選に出馬表明をしたドナルド・トランプ前大統領は、ソーシャルメディアなどでこう主張している。
トランプ氏はことし3月、ニューヨークの検察当局に30件以上もの罪で起訴された。2016年の大統領選挙期間中、元ポルノ女優に口止め料を渡し、その会計処理が不適切だったというのが主な罪状だ。ところが、「被告」となったトランプ氏の支持者は、起訴を疑問視。彼の選挙陣営への寄付金が殺到し、選挙集会も盛り上がっている状況だ。
巨額支出に否定的
ワシントンの議会でも、ウクライナは微妙な亀裂を呼んでいる。バイデン政権を揺さぶろうとしている共和党内では、ウクライナ戦争への関与に否定的な「孤立主義派」が存在感を増している。「タカ派」として、ウクライナ支援に積極的な伝統的な共和党中道派と対立し、党を二分しているともいえる。トランプ氏や、彼に対抗する有力大統領候補とされるロン・デサンティス・フロリダ州知事は、孤立主義派。巨額の支出を避け、外交には関心を持たない有権者にアピールしている。
バイデン政権は、孤立主義派の急速な台頭にも対応せざるを得ない状況だ。つまり、ウクライナ戦争をどう終わらせるかという本筋とは異なる国内事情で困難に直面している。
バイデン氏は、2024年大統領選に正式に出馬表明をした。「民主主義を守るため」と単純だが悲壮な訴えでもある。対する共和党の最有力候補が、世論調査の支持率ではトップのトランプ前大統領である。民主党としては、すでにニューヨークの検察から起訴されて「被告」となったトランプ氏の再選を阻止しなければならない。その頼みの綱が80歳を超えたバイデン氏となる。
失敗は許されない
5月以降、前出のデサンティス氏(共和党)、マイク・ペンス前副大統領(同)など、大統領選予備選候補者の出馬表明が相次いでいる。政界やメディアの目が大統領選に集まり、来年11月の投開票日まで1年半もの長きにわたり、注目度が高まっていく。
トランプ氏が深めた保守とリベラル、そして共和党内でのトランプ派と穏健派の間の「分断」は深まるばかりだ。それだけに、大統領候補は、多様な有権者にアピールするための時間と資金を注ぎ込むことになる。その中で、ウクライナで起きている悲惨な戦争は、ますますバイデン政権内での政策における優先順位が低くなるのは間違いない。しかし一方で、世界的にはウクライナ政策で失敗が許されないのも確かだ。国内外からの厳しい手かせ足かせがバイデン政権にはかけられている。
また、ウクライナ南部では巨大ダムが決壊し、住民数万人が影響を受け、死者も出ている。今後数十万人の飲料水供給にも影響する。このような悲惨な事態も「レッドライン」ではないのか。警察国家・米国の行動が後手に回っている印象を与えている。
●「8月革命でプーチン暗殺」の緊迫情報 ワグネル創設者・プリゴジン 6/14
またひとつ、ウクライナの「黄色の大地」が失われた。
6月6日、ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカダムで、決壊が発生した。多くの住民が避難を強いられ、水害によって死者・行方不明者が多数、出ている。9日には、ロシアの破壊工作グループがダムを爆破した証拠とする通話音声をウクライナが公開し、ロシア側の攻撃だったと非難した。
「ウクライナ農業食料相は、決壊で『地域の潅漑(かんがい)用水が長年にわたり途絶える』との見通しを明らかにし、小麦に代表される穀物生産の大打撃を示唆しています。影響を受けて、市場の穀物価格も上昇しました」(大手紙国際部記者)
ついに、反転攻勢を開始したウクライナ軍。南部ザポリージャ州では防衛線の突破を試みるなど、ロシア軍にとっては劣勢状況が続いている。
拓殖大学海外事情研究所の名越健郎教授はこう話す。
「今回のダム破壊は、ロシア軍がヘルソン州のウクライナ軍の進攻を防ぐという目的から実行したと考えられるでしょう。水没で足止めができ、ザポリージャ州の防衛に戦力を集中させることができます」
やはり、あせりが見え隠れするロシアのプーチン大統領。
6月9日にはベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、いよいよ7月からのベラルーシ国内の戦術核配備に合意したと伝えられている。背景にはウクライナ軍の猛攻だけでなく、ロシア国内の不穏な空気も関係していそうだ。
「政権与党・統一ロシアの幹部議員から『今回の戦争の目的はよくわからない。いまだに戦果がない』との発言がありました。ついに、公然とプーチンにNOを突きつける有力議員が出てきたんです」
こう話すのは、筑波大学の中村逸郎名誉教授。
ロシア国内では、6月5日に公営放送のテレビ、ラジオが一時ハッキングされ、プーチン氏が「総動員令を出す」と演説する内容のフェイク映像が流れる、内乱騒動が起きたばかりだ。
「政権内はすでに混乱していて、先月のクレムリンへのドローン攻撃について、プーチンは『上空を通過していっただけだった』と記者に言ったんです。つまり、誰も本当の攻撃内容を彼に伝えていない。都合の悪いことは口にすらできない状況なんです。クレムリン内部からは、プーチンの“対立候補”を探そうという動きが出ていると聞こえてきています。では、実際に誰がプーチンに弓を引けるかというと、民間軍事会社・ワグネル創設者のプリゴジンしかいないでしょう」(中村氏)
青年期を刑務所で過ごした後、プリゴジン氏は飲食店経営に乗りだすと、プーチン氏と親密に。ロシア軍の “右腕” としてワグネルを創設した。
そんなプリゴジン氏だが、激戦地のバフムトで戦闘していた自身のワグネル部隊の撤退ルートに、ロシア軍が地雷を設置したとして激怒。そのほかにも、プーチン政権の戦況の見通しの甘さを批判し、ここにきて「ロシア革命が起きる」といった過激な発言を繰り返している。
「ロシア国内の西部ベルゴロド州で戦闘が起きましたが、これは反体制派のロシア人組織『自由ロシア軍』『ロシア義勇軍団』による攻撃とみられています。そしていま、『戦争に勝てない』と踏んだプリゴジンが、ワグネルとウクライナ側に立つ勢力を束ねて、ロシア西部からクレムリンに向けて進攻をおこなうという事態を、プーチン政権はもっとも恐れているんです」(中村氏)
新たなロシア革命に向けて、“反プーチン勢力”に残された時間は少ないと考えられる。前出の名越氏が話す。
「ロシアでは9月から“政治の季節”に入ります。9月には統一地方選挙があって、2024年3月には大統領選挙がおこなわれます。そこに向けて、国内では珍しく『次の大統領』の話題が出始めている。プーチン体制の潮目が変わるとしたら、選挙前に社会が動揺するこのタイミングだと思われます」
ウクライナもまた、情報当局幹部が“プーチン暗殺”に言及するなど、戦況に自信を深めているようだ。そこにプリゴジン氏の“寝返り”があれば、状況は断然、ウクライナ有利で進むだろう。
「プーチンにとって、側近だったプリゴジンに暗殺されかねない状況。まるで、織田信長と明智光秀の関係性といったところでしょうか」(中村氏)
2度めの“8月革命”が起こりうる。
●米、ウクライナに劣化ウラン弾供与か…主力戦車「M1エイブラムス」に装備 6/14
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは13日、米国がウクライナに提供する米軍主力戦車「M1エイブラムス」の装備として、劣化ウラン弾を供与する見通しだと報じた。
同紙によると、国防総省は、エイブラムスの砲弾として米軍が使用する劣化ウラン弾について、装甲を貫通する能力が高いとして有効と判断している。米政府内の一部には、放射性物質の健康被害のリスクを伴うとして批判を受けることに懸念も残っているという。
天然ウランを濃縮した後の放射性廃棄物を使用した劣化ウラン弾を、国連軍縮研究所は核兵器として分類していない。英国は、すでに供与を表明している。
●原発の冷却対応確認へ IAEAトップ現地入り―ウクライナ 6/14
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は13日、ウクライナの首都キーウでゼレンスキー大統領と会談した。冷却水の確保が課題となっているザポロジエ原発の情勢を巡り意見を交わしたとみられる。グロッシ氏は会談後、記者団に「差し迫った危機はないが、水には限りがあり深刻だ」と警告した。現場の対応状況を確認するため、同日中に現地に向かう考えを示した。
冷却水をくみ上げていたウクライナ南部のダムが決壊し、取水が停止する可能性が高まっている。グロッシ氏は「現場の管理者と協議し、どのような危険にさらされているか、自分自身で評価したい」と強調した。
ロシア軍が占拠するザポロジエ原発は、ウクライナ軍が反転攻勢を仕掛けているザポロジエ州にあり、戦闘の激化は核事故につながるとの懸念もある。グロッシ氏は、両軍に原発への攻撃禁止などを求めた「5原則」の順守状況について「現時点で(違反に関する)特段の兆候はない」としつつ、現地で状況把握に努めると述べた。
●プーチン大統領 反転攻勢でウクライナに「深刻な損失」と主張 6/14
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ軍による反転攻勢について、ロシア軍が撃退し、ウクライナ側に「深刻な損失が出ている」と主張した上で、軍事侵攻を推し進める姿勢を改めて強調しました。ロシア軍が反撃を阻止しているという主張を国内外に誇示したいねらいとみられます。
ロシアからの領土奪還を目指すウクライナの国防省は12日、東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で7つの集落を奪還したと発表し、反転攻勢を本格化させています。
一方、ロシアのプーチン大統領は13日、首都モスクワのクレムリンでロシア軍に従軍する記者を集めた会合を開きました。
このなかで、プーチン大統領は、ウクライナの反転攻勢が今月4日から始まったとしたうえで「敵は成功せず、多大な死傷者を出している。われわれの損失は、ウクライナ軍の10分の1ほどだ」と述べ、ロシア軍が撃退していると強調しました。
また「ウクライナ軍は160両以上の戦車や、360台以上の装甲車を失った。これは外国から供与された軍装備品の25%、おそらく30%に相当する」と述べ、ウクライナ軍や欧米から供与された兵器に「深刻な損失」が出ていると主張しました。
そのうえで、ウクライナへの軍事侵攻について「状況に応じて変えているが、基本的には何も変わらない」と述べ、推し進める姿勢を改めて強調しました。
さらに、ウクライナ南部でダムが決壊し発生した大規模な洪水について、ウクライナ側の攻撃によるものだとして、ロシアが破壊したとのウクライナ側の非難に反論しました。
ウクライナが反転攻勢を本格的に進める中、プーチン大統領としては、ロシア軍が反撃を阻止しているという主張を国内外に誇示したいねらいとみられます。
新たな動員「いまは必要ない」も今後に含み
記者から新たな動員の可能性について質問を受けたプーチン大統領は、軍事侵攻の当初、ロシア軍が首都キーウ周辺まで進軍したことに言及し「われわれは、そこに戻るべきか、戻らざるべきか。それに答えられるのは私だけだ」と述べたうえで「われわれが、どのような目標を設定するかしだいで、動員の問題にも対処しなければならないが、いまはその必要はない」と述べ現時点では追加の動員の必要はないとする考えを示した一方で、今後の対応には含みを持たせました。
プーチン大統領は、ことし2月以来、およそ15万6000人が契約軍人としてロシア軍に加わったと主張し「国防省は今のところ動員の必要性はないとしている」とも述べました。
また、プーチン大統領は、ロシア全土で戒厳令を出す必要性はないという考えを示し、国民の間でくすぶる不安の払拭(ふっしょく)を図るねらいもあるとみられます。
農産物の輸出合意 破棄する考えも
ウクライナからの農産物の輸出をめぐるロシアとウクライナの合意については「この合意からの離脱を検討している」と述べ、合意を破棄する構えを示しました。
プーチン大統領は「残念ながら、彼らは再びわれわれをだました。ロシアの穀物の外国市場への供給について何もしなかった」と主張し、欧米などの制裁によってロシア産の農産物の輸出が滞っていることが理由だとして、ウクライナや欧米側をけん制しました。
そのうえで「第1に合意への参加を中止し、第2に貧しい国々に穀物を無償で提供することを検討している」と主張し、農産物の輸出をめぐり、近くアフリカ各国の首脳をロシアに招き、協議する考えを示しました。
国境強化示す一方で兵器不足認める
また、ロシア西部ベルゴロド州などウクライナと国境を接する地域で砲撃や無人機による攻撃が続いていることについて「国境を強化する必要がある。この作業は急速に進められ、目標は達成されるだろう」と述べました。
そのうえで「ウクライナの領土内にロシアに到達できないように、ある種の『衛生地帯』を作ることを検討する必要もあるだろう。きょう、あすの話ではなく、状況を見守る必要がある」と述べ、ウクライナからの砲撃を防ぐためとして、国境地域に何らかの緩衝地帯をつくる考えを示唆した可能性があります。
一方、プーチン大統領は「特別軍事作戦の過程で、多くのものが不足していることが明らかになった。精密誘導兵器、通信システム、航空機、無人機などだ。最新の対戦車システムや、戦車も必要だ」と述べ、ロシア軍は兵器が不足していると認めました。
そのうえで「この1年間で主要な兵器の製造量は2.7倍に、最も需要の高い分野では10倍に増加した」と述べ、兵器の増産に一層取り組む必要があると強調しました。
また、欧米が戦車の装甲を貫通する能力が高い劣化ウラン弾をウクライナに供与しているとして「ウクライナが使用するのであれば、われわれもそれを使用する権利をもっている」と述べました。
そのうえで、プーチン大統領は「アメリカは、ほぼ直接、この紛争に没頭し、国際安全保障の深刻な危機を引き起こしている」と主張し、ウクライナへの軍事支援を強める欧米側を批判しました。
●世界の難民や避難民 推定で最多の約1億1000万人に 国連 6/14
世界各地の紛争や迫害などによって住まいを追われた人は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などの影響もあり、先月までの推定でこれまでで最も多いおよそ1億1000万人に上ると、国連が明らかにしました。
これはUNHCR=国連難民高等弁務官事務所が、今月20日の「世界難民の日」を前に、最新の報告書の中で明らかにしたものです。
報告書によりますと、去年末の時点で世界各地の紛争や迫害などによって国外に逃れた難民や国内避難民は、前の年より1910万人増え、1億840万人に上りました。
具体的には、10年以上内戦が続く中東シリアから654万人、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナからは567万人、おととしイスラム主義勢力タリバンが政権を掌握したアフガニスタンなどからも、多くの人が国外に逃れています。
さらに、ことし4月以降、軍と準軍事組織との武力衝突が続くアフリカのスーダンからも多くの人が逃れているとして、UNHCRは世界全体の難民や避難民が先月までにこれまでで最も多い1億1000万人に上ると推定しています。
一方で報告書は、難民などを受け入れる負担が近隣の途上国など一部の国に偏っているとして、より公平な負担が必要だとしています。
グランディ難民高等弁務官は「難民が自発的かつ安全に、尊厳を持って帰還できるためには、紛争を終わらせ障害を取り除くよう、さらに多くのことに取り組まなければならない」と述べ、国際社会に協力を呼びかけました。
●ロシアがオデーサにミサイル、倉庫被弾で3人死亡=ウクライナ軍 6/14
ウクライナ軍は14日、黒海に面した南部オデーサ(オデッサ)港で夜間にロシアによるミサイル攻撃があり、民間の建物が破壊され少なくとも3人が死亡、13人が負傷したと明らかにした。
ロシアは市内に巡航ミサイル4発を発射したという。当局は先に、ミサイル2発を撃墜したとしていた。
メッセージアプリ「テレグラム」への投稿によると、攻撃により中心部のビジネスセンター、教育機関、集合住宅、食品店などが被害を受けた。
死亡した3人は小売りチェーンの倉庫で働いていた。ミサイルが倉庫に命中して火災が発生、負傷者も7人に上ったという。
ロシアからのコメントは現時点で得られていない。 
●ベラルーシ「ロシアの核兵器すでに一部配備…必要ならためらわず使用」 6/14
ベラルーシのルカシェンコ大統領(68)が自国に配備されたロシアの戦術核兵器を必要ならためらわず使用すると13日(現地時間)、明らかにした。ベラルーシはウクライナと隣接するロシアの軍事的同盟国。
AP通信などによると、ルカシェンコ大統領はこの日、現地メディアのインタビューで、自国内のロシア核兵器配備関連の質問に「すべてのことが準備されている。すでに核兵器の一部は配備された状態」とし、このように答えた。ただ、具体的に戦術核兵器がどこにどれほどの規模で配備されるのかには言及しなかった。
これに先立ちロシアのプーチン大統領はベラルーシ内の核兵器施設建設作業が完了する日を来月7−8日と明らかにしたが、実際の核兵器配備作業時点はこれより早いということだ。プーチン大統領は9日、ベラルーシに核兵器施設が整えば直ちに戦術核兵器を配備すると述べた。
ルカシェンコ大統領はこの日、核兵器配備を通じて「潜在的な侵略者(ウクライナ)に対する抑止力を発揮することになるだろう」と説明した。これまでルカシェンコ大統領は「核兵器配備は私の要請であり、ロシアが要求したのではない」と強調してきた。ウクライナがロシアと戦争中にベラルーシの安全保障まで脅かす可能性があるとしながらだ。
ルカシェンコ大統領は「私が先にプーチン大統領に核兵器を再び受けなければならない『緊急な必要性』があり、それで十分だと話した」と繰り返し強調した。
今回の核兵器配備が完了すれば、ベラルーシは1991年の旧ソ連解体後の1996年にロシアに返還して以来27年ぶりに核兵器を保有する。この場合、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の大半がベラルーシの核兵器射程圏に入る可能性がある。ベラルーシはウクライナのほか、NATO加盟国のポーランド・リトアニア・ラトビアとも隣接している。
ロシアがベラルーシとの合意に基づき戦術核を配備すると発表したのは3月25日だった。当時ロシアは「ウクライナ特別軍事作戦で西側は代理戦をし、ロシアを敗北させようとしている」とし「これに対応してベラルーシの領土に戦術核を配備するのは戦略的抑止段階の一環」と主張した。ロシアはすでに核弾頭搭載が可能なイスカンデル弾道ミサイルシステムをベラルーシに引き渡したと明らかにしている。
戦術核は都市全体を破壊できる戦略核より相対的に威力が小さく、局地戦で使用するよう設計された核兵器。ロイター通信によると、米国は欧州に配備された戦術核弾頭100個を含む200個を保有する半面、ロシアは2000個を保有中と推定される。
ウクライナ戦争が激化する状況でロシアの戦術核兵器の海外配備が迫り、国際社会の安保危機感はさらに高まる様相だ。これに対しウクライナなど44カ国の代表は13日、国連ジュネーブ事務所に集まって「核戦争防止」を議題に国連軍縮会議続行会議を開き、ロシアの海外核兵器配備決定を糾弾する声明を発表した。声明には米国、英国、欧州連合(EU)など西側国家と韓国、日本なども名も連ねた。NATO加盟国でありながら親露性向のハンガリーは今回の声名に参加しなかった。
これら44カ国はロシアに向け「ウクライナ戦争で核脅迫発言と共に危険で無責任な決定を下した」とし「ロシアが新戦略兵器削減条約(新スタート)参加中断を宣言した状況でなおさらそうだ」と批判した。
また、昨年1月、米国・ロシア・中国・英国・フランスの核兵器保有5カ国の首脳が核戦争と軍備競争をしないという共同宣言を言及した。44カ国は「ロシアの行動は共同宣言に反する」とし「この共同宣言に込められた原則を再確認することを促す」と強調した。
ベラルーシに対しては「ロシアによるウクライナ侵攻の初期から共犯だった」とし「緊張を高めるリスクを伴う今回の決定を取り消すべきだ」と促した。
ベラルーシ側は自国内の戦術核配備計画は正当だと反論した。ベラルーシは「我々は周辺国と国際社会に対して一貫して透明な方式で自国防衛力量開発のための措置を続けていて、こうした措置はベラルーシが直面した国際状況への対応であり、防御的で国際法に合う」と話した。
また「我々は最も近い同盟国からの支援を模索する主権的権利があり、ベラルーシ領土内のロシア戦術核配備は国家安保に対する挑戦と危険に対応するためのやむを得ない選択であり、我々の権利行使」と述べた。
●激しい反撃も一定の進軍 ウクライナ、アゾフ海目標 6/14
米シンクタンクの戦争研究所は13日、ウクライナ軍が同日も3方面で反転攻勢を続け、東部ドネツク州南西部などで一定の陣地を獲得したと分析した。ウクライナのマリャル国防次官は13日、進軍目標の一つはアゾフ海の港湾都市ベルジャンスクだと明かし、ロシア軍の激しい反撃に遭遇していると指摘した。
ウクライナ軍が戦線を正面突破してアゾフ海に抜け、ロシア陣地の分断を狙っていることが明確になった。
マリャル氏はベルジャンスクの方向に「1日で0.5〜1キロ前進した」とし、約3平方キロの領土を取り戻したと主張した。
東部ドネツク州の激戦地バフムト付近でも前進したと述べたほか、ロシア軍が戦車を阻む溝や地雷原でウクライナ軍の進軍を妨げ、航空戦力を駆使して激しい砲撃を浴びせていると指摘。対戦車ミサイルや自爆型無人機も大量投入していると説明した。
ゼレンスキー大統領は13日、航空戦力や砲撃力でロシア側が優勢だと認め、困難な進軍を続ける自軍将兵を称賛した。
●ウクライナ原発訪問を延期 治安見極め IAEAトップ 6/14
ウクライナ政府高官は14日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長による同国南部ザポロジエ原発への視察が延期されたと明らかにした。
当初は同日に現地に入る予定だったが、「(グロッシ氏は)安全に行くことができるまで待っている」という。
一方、ロシアのインタファクス通信は親ロ派当局者の話として、グロッシ氏の訪問は15日になると伝えた。
ザポロジエ原発を巡っては、カホフカ水力発電所のダム決壊で、貯水池の水量が大幅に減少し、IAEAは水位を点検する必要性を訴えていた。グロッシ氏は13日、首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談後、「深刻な状況だ」と懸念を示し、自ら原発を視察すればより正確なリスク評価につながると指摘していた。 

 

●大人気!モスクワに立つ“プーチン大統領と習主席” 6/15
ロシア・モスクワ中心部の歩行者天国「アルバート通り」に今、“プーチン大統領と中国・習近平国家主席”が並んで立っている。もちろん本物ではなく、土産物店が5月に店先に設置した「等身大のパネル」だが、通りすがりの市民や観光客に大人気だ。2人のビッグネームの間に立って記念写真を撮るのが定番のフォトスポットになっている。
土産店の責任者に話を聞けば「パネルは1か月前から置いていて、仲の良い露中関係を表している。記念写真は無料ですよ」と、くったくなく笑う。店内に入れば、ロシア特産のハチミツなどに「中国語の値札」も付けられていた。
ロシアへの中国人観光客は新型コロナウイルス感染拡大で激減していたが、少しずつ戻り始めていて、旅行業界では「早ければ8月には緩やかな増加が期待できる」とみている。“両首脳”のフォトスポットは「中国人旅行者を呼びこむためのものですよ」と店主は明かした。
モスクワは今、初夏の観光シーズンを迎えつつある。夏休み前とあって海外からの観光客はまだそれほど多くはないが、それでも「赤の広場」を訪ねてみると、中国からの数組の団体旅行客に出くわした。
中国人男性に話を聞くと、「ロシアは広大で、他の街は知らないがモスクワは魅力的ですね」と目を輝かせた。中国とロシアが関係を強化している背景については、「西側の制裁によってロシアは多くのものを必要としていると思うが、中国はそれらを供給することができる」と、きっぱりと述べた。
ロシアでは3月中旬に習主席がモスクワを訪問して以降、“中国色”が少しずつ強まっている。2日間にわたったプーチン大統領との会談では、両国の協力強化を確認した。
その具体化は、徐々に始まっている。“ロシアの日銀”にあたるロシア中央銀行は3月、「従業員を対象に、2年間でグループごとに288時間のビジネス中国語(基礎レベル)教育を行う」ことを決めた。
ロシアを代表する航空会社「アエロフロート・ロシア航空」は、6月2日から北京、上海、広州行きを週4便に増やすと発表している。
モスクワ東北部には去年10月、“中国”が出現した。「モスクワ中国貿易センター」は、東京ドーム10個分の6.7ヘクタールに及ぶ広さで、敷地には孔子像が立つ。オフィスビルとホテル、中国式庭園を備え、習主席のロシア訪問時に代表団の宿舎として使用された。
ここでは5月に中国の企業「華明投資有限公司」が3回目となる企業採用説明会を開いた。取材は許されなかったが、公開された情報によると語学試験も行われ、中国語ができるロシア人の採用が目的だったとみられる。
日本を含め西側が徐々に「脱ロシア」を進める中、孤立を深めるロシアは巨大化する中国を警戒しつつも、官民ともますます関係を深めつつある。
●ロシア経済フォーラム開幕 16日にプーチン氏演説―外国首脳わずか 6/15
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで14日、毎年恒例の国際経済フォーラムが開幕した。ウクライナ侵攻開始後2回目。プーチン大統領は同種の会議で「西側諸国の対ロシア制裁は成功しなかった」「ロシア経済は崩壊しない」と強調し、孤立していないと内外にアピールしてきたが、今回も参加する外国首脳は少なく、思惑通りにはいかなさそうだ。
タス通信によると、アルジェリアのテブン大統領が13日、モスクワの空港に到着。17日まで続くフォーラムに参加するとみられる。プーチン氏が演説する全体会合は16日に開かれる。
ただ、昨年のフォーラムに出席した旧ソ連構成国カザフスタンのトカエフ大統領は今回不参加。トカエフ氏は前回の全体会合で、ロシアの占領下にあるウクライナ東部ドンバス地方の独立を「認めない」と批判するなど、プーチン政権と距離を置いている。
中立的な新興・途上国「グローバルサウス」の一角で、ロシアが重視する新興5カ国(BRICS)のブラジルのルラ大統領も全体会合に招待されたが、5月下旬の電話会談でプーチン氏に欠席を伝えていた。
一方、フォーラムと並行し、ウクライナ和平に向けた仲介外交も展開される。ロシアのメディアによると、南アフリカなどアフリカ6カ国首脳は17日、サンクトペテルブルクでプーチン氏と会談。これに先立ち16日には、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と面会する。穀物輸出合意も議題になるという。
もっとも、ウクライナは懐疑的に見ており、ポドリャク大統領府顧問は11日、アフリカが仲介する形でプーチン政権と対話する可能性はないと否定。ロシア軍撤退を前提とせず、戦闘を凍結して占領地を固定化するための交渉は「ウクライナと欧州にとって、無意味かつ危険で致命的だ」と警戒感を示した。
●プーチンは学級崩壊止められず クレムリン“メンツ丸つぶれ”事件の顛末 6/15
ユーラシア経済連合の首脳会議で、プーチン氏のメンツを丸つぶれにする光景が繰り広げられた。これまでなら考えられないことだ。ロシアと関係が深い旧ソ連圏で、プーチン氏の権威が失墜している。
プーチン大統領は偉大なロシアの復興を自らに課せられた歴史的使命だと信じて、ウクライナで泥沼の侵略戦争を続けている。しかし皮肉なことに、かつてソ連を構成していた国々の間では、プーチン氏の威光は、急速に衰えつつある。
かつてのプーチン氏だったら考えられないような光景が繰り広げられた。
5月25日にモスクワのクレムリンで開かれた、ユーラシア経済連合の首脳会議のことだった。
ユーラシア経済連合は、プーチン氏が欧州連合(EU)を模して旧ソ連の国々に広げようとしている経済協力の枠組みだ。今のところロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、アルメニアの5カ国が加盟している。
25日の首脳会議には、5首脳に加えて、アゼルバイジャンのアリエフ大統領がプーチン氏に招かれて出席していた。
各国首脳がひととおり発言を終えて、議長を務めるプーチン氏が会議を締めくくろうとしたときのことだった。
「すみませんが、ちょっとよろしいですか」
口をはさんだのは、アルメニアのパシニャン首相だ。
メンツが丸つぶれに
パシニャン氏が持ち出したのは、隣国のアゼルバイジャンとの間で抱える領土問題だった。
アゼルバイジャン領内には、アルメニア系住民が多数を占めるナゴルノカラバフと呼ばれる地域があり、両国間の長年の紛争の火種となっている。この地域とアルメニアを結ぶ唯一の陸路「ラチン回廊」をアゼルバイジャンが封鎖して、アルメニア系住民が人道上の危機にさらされているというのが、パシニャン氏の主張だった。
実はこの発言は、二重の意味でプーチン氏のメンツを丸つぶれにするものだった。
第1の理由は、元々この首脳会議の終了後に、プーチン氏、パシニャン氏、アリエフ氏の3者会談が予定されていたということだ。テーマはもちろん、ナゴルノカラバフ。パシニャン氏の問題提起は、本来ならその場で持ち出すべき内容だった。プーチン氏の仲介を信用していないという不満を公衆の面前でぶちまける意図が、パシニャン氏にはあったのだろう。
第2の理由は、ラチン回廊の通行管理はロシアの平和維持部隊が担当することが、関係国による合意で決まっているということだ。つまり、アゼルバイジャンが回廊を封鎖しているという批判は、とりもなおさずロシアが責任を果たしていないことへの苦情を意味するのだ。
プーチン氏を遮ったパシニャン氏が批判したかったのは、アゼルバイジャンよりもむしろロシアだったのだろう。
パシニャン氏の不規則発言に対して、アリエフ氏も反論。プーチン氏が不快そうに顔をゆがめたり苦笑いしたりする中、2人は約13分も口論を続けた。
最後にアリエフ氏が笑顔でプーチン氏に「このぐらいにしておきましょうか」と語りかけ、プーチン氏が「そうですね。できるなら、この辺でやめましょう」と応じて、長いやり取りはようやく終わりを告げた。
予想外の見ものに笑顔
浮き彫りになったのは、旧ソ連の国々の中でのプーチン氏の権威の失墜だった。
アリエフ氏も「この話はこの後3人で続けましょう」というプーチン氏の再三の呼びかけを無視した点では、パシニャン氏と同様だった。
さらに私の印象に強く残ったのは、同席していた中央アジアの大国カザフスタンのトカエフ大統領の表情だ。
予想外のなりゆきにハラハラするどころか、「めったにない見ものだ」とでも言いたそうな、実に愉快そうな笑顔を浮かべていたのだ。
壮麗なクレムリンの大広間に集まった6首脳の中央に陣取ったプーチン氏は、まるで学級崩壊になすすべもない、おじいちゃん先生のようだった。
アルメニアのロシア離れは、プーチン氏にとって極めて深刻な意味を持つ。
アルメニアはユーラシア経済連合だけでなく、ロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)にも加わっている。
かつてソ連を構成していた国の中でも、ベラルーシと共にロシアと最も緊密な関係を結んできたのは、ひとえにナゴルノカラバフ問題でロシアの支援が必要だからだった。
ロシアからみれば、アルメニアは何をしなくてもついてくる安パイのような存在だった。
様相が一変するのは、2020年のアゼルバイジャンとの軍事衝突だった。ロシアは1994年に合意された停戦ラインを破って攻撃するアゼルバイジャンを止めようとしなかった。
結果としてアルメニアは、26年間維持してきたアゼルバイジャン領内の占領地を大幅に失うことになった。ラチン回廊がナゴルノカラバフとアルメニアをつなぐたった一本の「へその緒」となってしまったのも、このときのことだ。
プーチン氏がアルメニアを助けなかった背景には、パシニャン氏への個人的反感があったとみられる。
欧米の仲介拒否せず
パシニャン氏は、ジャーナリスト出身で、政治犯の撲滅を訴えて政治の世界に飛び込んだ。街頭で反政権デモを繰り返す市民の後押しで、18年に政権の座についた。市民の力による政権打倒を嫌悪するプーチン氏とは、水と油の存在だ。
20年の敗戦で、パシニャン政権は弱体化するかと思われたが、翌年に繰り上げ実施した議会選挙で大勝した。ロシアへの失望が国民世論に影響した可能性がある。
国内の足場を固めたパシニャン氏は、今年5月22日、大胆な一歩を踏み出す。アルメニア系住民の安全が保証されるなら、ナゴルノカラバフをアゼルバイジャン領として認める用意があると表明したのだ。
いつまでもナゴルノカラバフにとらわれてロシア依存を続ければ、アルメニアに将来はないと考えたのかもしれない。ロシアによる大義も展望もないウクライナ侵攻が、こうした考えを後押ししたことに疑いはない。
欧米も、こうした状況を利用して、アルメニアをロシアから引き離そうとしている。米国やEUが、ナゴルノカラバフ問題の仲介役に名乗りを上げているのだ。アゼルバイジャンも欧米の仲介を拒否していない。
ロシア抜きでナゴルノカラバフ問題にけりが付けば、アルメニアがより大胆に欧州に接近するシナリオが現実味を帯びる。プーチン氏にとっては悪夢の事態だろう。
●ウクライナの損害は「壊滅的」、プーチン氏が主張 キーウ占領是非を自問 6/15
ロシアのプーチン大統領は13日、ウクライナの反攻は今のところ失敗していると主張した。証拠は示さずに、ウクライナ軍に「壊滅的な」規模の死傷者が出ていると述べた。
ロシア国営テレビは、プーチン氏が大統領府で戦場記者やブロガーに対し発言する様子を放送した。これらの発言はウクライナ侵攻開始以降、最も広範囲にわたる内容となった。
プーチン氏は、ウクライナが西側諸国から供給された軍事車両の25─30%を失ったとし、ウクライナの人的被害はロシアの10倍と指摘した。ロイターはプーチン氏の主張を現時点で確認できていない。
プーチン氏は、ロシアが自国領土への攻撃に対する防衛を強化する必要があると認めた。こうした攻撃を防ぐため、ウクライナに緩衝地帯を設ける必要があるかもしれないと警告した。「もしこの状況が続くなら、ウクライナ領内に、そこからロシア領に到達できなくするように緩衝地帯を設ける可能性を検討しなければならない。私はこれに関して非常に慎重に発言している」
プーチン氏が昨年2月にロシア軍をウクライナに投入した際、最初の行動の1つは首都キーウの占領を試みることだったが、成功はしなかった。プーチン氏は再びキーウ占領を試みる可能性は否定せず、試みるべきかという質問に答えられるのは自分だけだと語った。
一方で、ウクライナ戦争における追加動員について、現時点で必要はないと述べた。
ロシア軍は現在、首都からかなり離れた600マイル(約965キロ)におよぶ前線でウクライナ軍と戦っている。ウクライナ側は、全てのロシア兵を自国の土地から追い出すまで休むことはないと表明している。
●ブラジルはなぜ「ロシア寄り」なのか、4つのその理由 6/15
サンパウロの政治学者スチュンケルが、米国外交専門メディア「フォーリン・ポリシー」ウェブサイトに5月18日付で掲載された論説‘How to Understand Brazil’s Ukraine Policy’において、ブラジルのルーラ大統領のウクライナ問題についての立場を理解する上で、4つの要素が重要であると論じている。要旨は次の通り。
ルーラが昨年10月の選挙に僅差で勝利し、1月に大統領に就任したことは世界の多数の国を安心させたが、ウクライナ戦争に対するルーラの一連の発言は、西側諸国の政府を苛立たせている。
ルーラは4月上旬、ウクライナは和平交渉のためにクリミア半島の割譲を検討すべきで、「ゼレンスキーはすべてを望むことはできない」と述べ、中国訪問時には米国が戦争を長引かせたと発言した。ルーラは、キーウとモスクワがこの紛争に等しく責任を負っているとも主張した。
欧米諸国はルーラのレトリックを強く批判してきた。ルーラのウクライナで仲介役を果たそうという野心は、欧米が歓迎しウクライナがブラジルを公平だと認めない限り成功しそうにない。それでも、欧米指導者たちは、ブラジルの考え方の根源にあるものを理解したほうが良い。ウクライナ問題で南半球を中心とする新興・途上国「グローバルサウス」が欧米との協調に消極的なのは、南北関係におけるより広範な力学を示すもので、世界の将来を左右する可能性がある。
ウクライナに対するブラジル政府の姿勢と、交渉により戦争終結を目指すルーラの熱意には、4つの重要な要因がある。
第1点:ロシアは常にブラジル外交政策において、伝統的に重視されてきた。その背景には、ラテンアメリカを自らの勢力圏と扱う米国に対する対抗するという面もあった。
第2点:欧米主導の国際秩序に対する不信感。特に、イラク戦争やリビアへの北大西洋条約機構(NATO)の介入が欧米の論理により正当化され、世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの重要国際機関が欧米によって牛耳られていることに対する不満がある。ウクライナ支援のための欧米主導の同盟についても同様の不信感や不満がある。
第3点:ブラジルは、多極化した世界秩序の構築に積極的に参加することで戦略的な自律を維持できると考えている。その観点から、ロシアを1つの極と位置付け、欧米のウクライナ支援にはあえて参加しない。
第4点:経済的および政治的混乱で終止符を打たれた2012年以前のブラジルの活発な外交政策に復帰し、グローバルな貢献を行うとのルーラの信念がある。
イランの核開発に関するブラジルの野心的な構想が欧米の賛同を得られず失敗したように、ルーラのウクライナの和平交渉も同じ運命をたどるかもしれない。ブラジルは、ラテンアメリカにおける民主主義の後退や国際犯罪の増加から、気候変動に至るまで、世界的・地域的な課題において重要な役割を担っている。ルーラのエネルギーは、そちらに費やした方がよいかもしれない。

ルーラのウクライナ問題解決に貢献したいとの熱意と、繰り返されるロシア寄りの発言について、このスチュンケルの論説は、ブラジル外交全体の枠組みとその背景から論じている点で興味深い。
スチュンケルは4つの重要な要素を上げているが、留意すべきは、これらの要素の中には、いわゆるグローバルサウス諸国が共有する点があることである。
これまでの国際秩序は、結局は、欧米諸国の主導によるもので、その利益に資するものであり、世銀、IMFの意思決定過程からブラジルなどの新興国が事実上排除されることに強い不満がある。ウクライナ戦争についても、ロシア非難や経済制裁などが欧米の論理で行われていることにグローバルサウスは疑念を抱き、武器支援や制裁には参加しないわけである。
そこで、ウクライナ戦争について、交渉による停戦を目指すために仲介的な役割を果たそうとするルーラの和平イニシアチブは、ウクライナへの武器支援と経済制裁でロシアを撤退させる欧米主導のウクライナ支援同盟とは一線を画すものとして、グローバルサウスの支持を得る余地がある。
ルーラは仲介者にはなり得ない
しかし、ブラジルが、昨年3月2日のロシア批判決議に賛成し、今年2月23日のロシア撤退決議にも賛成しながら、無条件で交渉による停戦を仲介することには違和感があり、また、ブラジル経済を支える農業に不可欠な肥料をロシアからの輸入に依存していることや、スチュンケルが理解すべきとする第1の要素として掲げたロシアとの長年の友好関係が、公正な仲介者としてウクライナに受け入れられるとは思えない。
主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の「平和で安定し、繁栄した世界に向けて」と題するアウトリーチセッションにルーラは招待国首脳として、また、ゼレンスキーもゲストとして急遽対面出席した。ブラジル紙の報道によると、ルーラは同セッションで、ウクライナの領土保全の侵害を非難し、紛争解決手段としての武力行使を強く否定しつつも、人命の損失を止めるために戦闘を停止し平和について話し合うべきと主張してきたと述べ、国連の場で紛争当事者が説明し議論すべきと発言した由である。
予想された、ルーラとゼレンスキーの1対1の首脳会談は実現しなかった。日程上の行き違いがあったものと思われるが、ゼレンスキー側のプライオリティが高くなかったのではないかとも推察される。
調停者となるためには双方紛争当事者の合意が必要であり、この点で、上記の論説が指摘している通り、ルーラの和平イニシアチブが成功する可能性は低く、ルーラは地域問題や気候温暖化問題にそのエネルギーを集中した方が良いということかもしれない。
●「最も聡明で有能」軍歴30年のロシア軍参謀長が死亡… 6/15
ウクライナ南部ザポリージャでロシア軍のベテラン将校が死亡したことが分かった。ウクライナが英国から供与され、最近実戦配備して使用中の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」によるものとみられている。
英ガーディアン紙やロイター通信などは13日、ザポリージャ州の親ロシア派当局者の話として「ロシア軍第35軍参謀長のセルゲイ・ゴリャチェフ少将(52)が前日に死亡した」「ロシア軍は最も聡明(そうめい)で有能な、最高のプロフェッショナリズムと勇気を兼ね備えた優秀な指揮官を失った」と明らかにした。
一部の専門家は「ゴリャチェフはストームシャドーによって死亡した可能性が高い」と分析している。ストームシャドーは英国が先月11日からウクライナに提供している長距離ミサイルで、最近は戦場でウクライナ軍の主力兵器として使用されており、新たな「ゲームチェンジャー」とも呼ばれている。
輸出用で射程距離が250キロに達することから、ウクライナ軍はロシア本土にまで届く長距離の攻撃能力を確保するようになった。地下数十メートルのバンカーをも攻撃できるという。ただしウクライナ軍はこの兵器をロシア軍が占領している東部地域とクリミア半島のロシア軍に対する攻撃のみに使用することを約束した。
ロシア軍で30年の経歴を持つ経験豊富なゴリャチェフ少将は生前多くの勲章を得た優秀な将校として知られている。過去には第2次チェチェン紛争で戦車旅団を指揮し、タジキスタンのロシア軍基地では総司令官も務めた。また親露分離勢力が掌握しているモルドバ東部のトランスニストリアでロシア軍を率いたこともある。
外信はゴリャチェフの死について「先週から始まったウクライナ軍の反転攻勢で死亡したロシア軍の最も有名な将校」「ウクライナ戦争でロシア軍将官が死亡するのは昨年6月以来1年ぶりだ」と伝えている。ガーディアンは「ロシア軍は侵攻開始からこれまで12人以上の将官を失った」と伝えている。ただしロシア国防省は今もゴリャチェフの死亡についてコメントを出していない。
●ウクライナが狙う「空の戦い」、F-16以外の戦闘機供与も噂される各国の思惑 6/15
ゼレンスキー氏が垣間見た米国の「リスク」
ウクライナのゼレンスキー大統領は6月10日、ついに「反転攻勢が進行中だ」と話し、大規模反攻作戦の火ぶたが切られたことを正式に認めた。
ウクライナ戦争は新たな局面に突入したが、軍事専門家の間では「反攻作戦を行う地上部隊をガードしつつ、ロシア侵略軍を空爆で叩きのめすため、西側諸国によるウクライナへの戦闘機供与スケジュールを早めるのではないか」との観測も出ている。
5月に開催されたG7広島サミットでは、急きょ出席を決め訪日したゼレンスキー氏が、米製のF-16戦闘機の供与にOKを出さないアメリカのバイデン大統領に直談判。「アメリカは直接提供しない」としながらも、他国が持つ機体の供与に関して、ついにバイデン氏は首を縦に振った。
兵器を他国に譲る際は製造国の許可が必須だ。無視すれば信頼を失い、今後の武器調達の道は絶たれる。同機を第三国に移転する際はアメリカの承諾がどうしても必要だった。
F-16は第2次大戦後の西側戦闘機の中でも屈指の生産数を誇る傑作機で、約30カ国・地域で採用され5000機近く製造されている。開発国のアメリカ(約900機)を筆頭に、ギリシャ、ベルギー、オランダ、デンマークなどNATO(北大西洋条約機構)加盟9カ国で約1600機も保有し、提供できる余力、つまり「在庫」は西側戦闘機の中でもトップだ。
エンジンは1基(単発)で、全長約15m、最大離陸重量(燃料や爆弾・ミサイルを限界まで積んだ状態)約19トン、爆弾搭載量約7.7トン、最大速度マッハ2という性能を持つ。
F-16の初飛行は1970年代半ばだが、小型軽量、低価格を追求し、使い勝手がよく低速・低高度の飛行性能も優れているため、地上攻撃力を大幅強化し、対空、対地、対艦、偵察などをこなすマルチロール(多用途)戦闘機に“肉体改造”された。頻繁に改良がなされ、最新バージョンでは最大重量30トンを超え、もはや小型軽量機ではない。
また、実戦経験が豊富で部品調達や保守、訓練などロジスティクス(兵站)/サプライチェーンも充実するなど、いいことずくめでパフォーマンスが高い。
F-16の供与は、ロシアによる侵略戦争の勃発以来「1日でも早く」と叫び続けたゼレンスキー氏の“粘り腰”で実現しそうな情勢だ。だが一方で「ロシアのプーチン大統領が過剰反応し、核のボタンを押すのでは」と、戦争のエスカレートを心配し、決心までに1年以上もかかったバイデン政権の優柔不断が、実は大きなリスクを孕んでいることも痛感したに違いない。
現に専門家の間では「F-16だけの一本やりはかえって危険」との声が出ている。仮にアメリカの政権交代で外交方針が突然変わり、ウクライナへの戦闘機支援が大幅に絞られれば、わずかに残る旧ソ連製の“老朽機”しか稼働できる戦闘機がないウクライナ空軍は、まさにお手上げの状態だ。
また、今後米ロがこの戦争の「落としどころ」について密談し、ウクライナ不在のまま「手打ち」をし、F-16支援を手控える可能性も捨てきれない。大国同士の密約で中小国が犠牲になる事例は歴史上数多い。
かつてはイスラエルや台湾も「ハシゴ外し」に
武器供給側の「ご都合主義」は歴史をひもとけばいくらでも転がっている。
たとえば1967年の第3次中東戦争では、イスラエルは敵対するエジプトやシリアなどに対し、空軍と戦車部隊で奇襲をかけて圧勝。数日で広大な占領地を得て停戦に持ち込んだ。「6日間戦争」と言われ、主力の仏製ミラージュ戦闘機が大活躍し、その後イスラエルはフランスにさらなる供与を求めた。
ところがアラブ諸国に接近するなど方針転換したフランスは、対イスラエル武器禁輸を断行。逆に反イスラエル陣営側のリビアに同機を売り込んでいる。そこで仕方なくイスラエルは「クフィル」戦闘機を自国で開発し、アメリカからも戦闘機の大量供与を受けて難局を乗り切った。
台湾も同様だ。大陸の中国と対峙し、“後見人”のアメリカに全幅の信頼を寄せ、武器もおんぶに抱っこの状態だった。だが冷戦真っ盛りの1970年代、「反ソ連」で利害を一致させた米中は急速に接近し、ソ連包囲網を強めていく。
この頃、台湾は保有する米製戦闘機の老朽化に伴い、当時最新型のF-16の供与をアメリカに求めるが、中国との関係悪化を案じ要求を拒否した。
アメリカ一辺倒の“副作用”を実感した台湾は、防衛の要である戦闘機の多系統化を進め、フランスのミラージュ2000の導入や国産戦闘機「経国(F-KC-1)」の開発に注力する。そこで「有力な戦闘機市場をフランスに奪われかねない」と慌てたアメリカは、その後台湾へのF-16売却を許可。結果的に米仏を両天秤にかけた台湾の作戦勝ちとなった。
現在でも台湾空軍は、米製F-16、米製F-5小型戦闘機、仏製ミラージュ2000、国産の経国の「3系統・4機種体制」を保つ。
製造国が同じ機体で揃えたほうが訓練や部品、メンテナンスなどで何かと好都合で経済的だが、自動車のリコールのように、万が一墜落事故に直結する深刻な欠陥が見つかれば、原因究明と改修が終わるまで全機地上待機を余儀なくされる。不都合が起きても代替が効かないため、複系統化は「保険」ともいえる。
国籍の違う戦闘機を意識的に配備する国は意外に多く、グローバル・サウスにその傾向が強い。インドはその典型でロ・仏・国産の3系統を維持しているほか、中東・北アフリカ諸国にも“多国籍化”の国は多い。
ウクライナの“戦闘機市場”に橋頭堡を築きたいフランス
こうした事情を考えると、ウクライナが戦争の長期化や将来の国防戦略、空軍の打たれ強さ(レジリエンス)も視野に置いて、F-16以外の機体、特に製造国の違う戦闘機の導入を模索しているとしても不思議ではない。
そこで、具体的に有力な候補となりそうなのが、以下の4機種である。いずれも装備を変更することで空対空戦闘、対地攻撃、偵察など1機で複数の用途に対応できるマルチロール戦闘機だ。
・F/A-18(米)
・ミラージュ2000(仏)
・ユーロファイター・タイフーン(英独伊西)
・サーブ39グリペン(スウェーデン)
【F/A-18】
空母に載せる艦上/マルチロール戦闘機として1970年代後半に米ボーイング社が開発。エンジンは2基(双発)で、全長約18m、最大離陸重量約23トン、最大速度マッハ1.8、爆弾搭載量約6.2トンだが、最新バージョンの「スーパー・ホーネット」は同約30トン超、爆弾搭載量は8トンに達する大型機である。
本家アメリカ(海軍・海兵隊計約900機)や豪州、カナダ、フィンランド、スペインの“ウクライナ支援連合軍”参加の5カ国だけでも優に1000機を超え、在庫の余力もある。世界8カ国で約1500機が使われている。
ボーイングの戦闘機部門は、米空軍の戦闘機受注競争で米ロッキード・マーチンのF-35ステルス戦闘機に敗れてから萎みがち。一部では撤退とも噂されているため、今回の戦争でアピールし、起死回生を図りたい思惑があるのかもしれない。
米海軍・海兵隊は、現在最新のF-35への更新を進め、既存のF/A-18は続々と「お蔵入り」の運命だ。近い将来「我々も直接戦闘機をウクライナに送る」とアメリカが宣言した際、この余剰分を回す可能性も低くない。
似た理由で同機が余剰の豪州やカナダは、ひと足先にウクライナへの譲渡を検討し始めていると報じられた。
一方、「この戦争では陸・空軍の活躍が目立ち海軍の出番が少ない。世間の注目を集めるF-16もいわば米空軍の戦闘機で、米海軍としてはF/A-18で存在感をアピールしたい。ワシントンやペンタゴン(米国防総省)に働きかけを行っている」との見方もある。
【ミラージュ2000】
仏製ミラージュ2000の初飛行は1970年代後半で、フランス伝統の三角形の主翼(デルタ翼)がトレードマークの単発機。全長約14m、最大離陸重量約17トンの小型軽量機で、爆弾搭載量は約6.6トン。当初は防空任務を受け持つ迎撃機を目指すが、大幅な改造で爆撃なども得意とするマルチロール機に変貌を遂げた。
フランスのマクロン大統領は2023年5月半ば「パイロットの訓練の扉を開いており、すぐにでも始められる」と公言。躊躇するバイデン氏の背中を押す格好になった。
同国はミラージュなど国産戦闘機にこだわるお国柄で輸出も盛んに行っている。F-16は保有していないので、パイロットの訓練と言っても基礎的な部分だけに徹して、F-16の実機やシミュレーターが必須な専門的な教育はほかのF-16保有国に任せる、という計画なのだろうか。
このため一部では「F-16向けパイロットの基礎訓練の支援を“呼び水”に、ミラージュ2000の訓練も並行して行い、最終的には同機のウクライナ供与へとつなげたいのでは」との憶測もある。
米英主導の「アングロ・サクソン同盟」にライバル意識を抱き、ことあるごとに独自路線を主張するのがフランスだ。だがウクライナへの武器支援では、米英独に比べて存在感が薄く、戦闘機でも米製のF-16にスポットライトが当たるのを見てきっと悔しいはず。
仏製戦闘機の存在感を強めて、さらなる受注増につなげたい。少なくともウクライナの“戦闘機市場”に橋頭保を築けば、将来仏製戦闘機を多数売り込める、と算盤をはじいてもおかしくはないだろう。
ミラージュ2000は約600機生産され2000年代後半に製造は終了。本国のほか中東各国、インドなど計9カ国・地域で採用されている。ウクライナ支援となればフランスの約100機とギリシャの約40機が想定されるが、フランスはこのほかに約200機の予備機を有するとも言われ、この余剰分を切り崩す可能性もある。
「F-16戦闘機連合」にいち早く名乗りをあげたイギリスの思惑
【ユーロファイター・タイフーン】
英独伊西のNATO4カ国が1990年代に共同開発した比較的新しい双発機で、全長約16m、最大離陸重量約23トン、最大速度マッハ2.3、爆弾搭載量約9トンの比較的大きな機体。デルタ翼と操縦席付近に小さな前翼(カナード翼)をつけた特徴的なフォルムで、4カ国で500機以上装備するほか、オーストリアや中東各国など5カ国に200機ほど輸出している。
注目は「F-16戦闘機連合」にいち早く名乗りをあげたイギリスの動きで、実はこの国もF-16を持っていない。フランスと同様、「訓練」を入り口にして、タイフーンのパイロット養成と機体の提供、そして将来は大型受注といった具合にビジネス拡大につなげようという抜け目ない戦略を忍ばせているのではないかと勘繰る向きもある。
【サーブ39グリペン】
NATO入りを目指し、ウクライナ支援にも積極的なスウェーデンの独自開発で、本国が約100機備えるほか、NATO加盟国のチェコとハンガリーがそれぞれ十数機採用、現在7カ国で300機ほどが活躍する。初飛行は1980年代後半で全長15m、最大速度マッハ2.0、最大離陸重量約17トン、爆弾搭載量約6.5トンの小型軽量機で、デルタ翼とカナード翼を合わせた姿が印象的。
今年5月にスウェーデン国防大臣が供与を否定したが、「要請があれば訓練を検討する用意はある」と含みのある回答を行ったため、一部では「本音は供与したいのでは」と指摘する専門家も少なくない。
このように、F-16供与の事実上の解禁を引き金に、早くも「二番手」「三番手」の候補機も下馬評に上り出したが、戦闘機の「二本立て」「三本立て」にはパイロットの確保や訓練、ロジスティクスや整備部隊の新編など、クリアすべき難題が立ちはだかる。
ちなみに、「F-16供与が解禁されても、ウクライナ人パイロットの訓練には最低数カ月は必要で、出撃は秋以降になるのでは」と一部メディアは推測するが、将来の出番を予測し、すでに1年以上前から極秘に訓練は行なわれているはず、と見るのが軍事の常識だ。
いざとなれば、欧米の退役パイロットや、いったん軍籍を離れ、あくまでも個人的に志願したという立て付けで百戦錬磨の人材が義勇軍を結成し、ウクライナに送られたF-16に乗り込む可能性も非常に高い。朝鮮戦争(1950〜1953年)では北朝鮮空軍のミグ戦闘機にソ連人パイロットが義勇兵として乗り込んで米軍機を悩ませたという例もある。
F-16の供与を皮切りに「空の戦い」に突入しそうなウクライナ情勢。商魂すら見え隠れする各国の思惑が、早くもウクライナ上空で渦巻いているようだ。
●「ウクライナの未来はNATOにある」、7月に明示へ=事務総長 6/15
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は14日、7月にリトアニアの首都ビリニュスで開催されるNATO首脳会議で、ウクライナの未来はNATOにあると明確に示すと述べた。
ストルテンベルグ事務総長は記者会見で、ウクライナによるロシアに対する反転攻勢はまだ始まったばかりで、戦争の転換点になるかはまだ分からないとしながらも、「ウクライナがより多くの進展を得られれば、ウクライナの交渉力は強くなる」と述べた。
その上で、歴史が繰り返されないよう、戦争終結後にウクライナの安全確保に向けた取り決めを策定しなければならないとの考えを示した。
●ウクライナ軍の反転攻勢、バフムト方面では1日に500m前進「一部成功」 6/15
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は14日、ロシアから領土を奪回するための大規模な反転攻勢に関し、東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で「ロシア軍と激しい戦闘が続いているが、一部成功した」と明らかにした。露軍は兵士と武器が不足しているとの見方も示した。
マリャル氏によると、過去24時間で東部ドネツク州バフムト方面では複数の地点で200〜500メートル、南部ザポリージャ州方面でも300〜350メートル前進した。
ウクライナは反攻開始から1週間で東・南部の7集落を奪還した。ウクライナ軍は14日、奪還したドネツク州の集落で保護した住民は31人で、ほとんどが高齢者だったと発表した。民家の7割が全壊していた集落もあるという。
ロイター通信によると、ウクライナが奪還したベリカノボシルカ近郊ストロジェネではほとんどの民家が砲撃で破壊され、住民の姿は見られなかったという。米CNNは、ベリカノボシルカで現在も戦闘が続いている様子を報じた。
一方、ロイター通信によると、ウクライナ各地では13日夜から14日未明にかけてロシア軍によるミサイル攻撃が相次ぎ、ドネツク州クラマトルスクや南部オデーサなどで計6人が死亡した。
●ウクライナ“反転攻勢は順調” ロシアは空爆で地上部隊支援か 6/15
ロシアからの領土奪還を目指すウクライナは東部や南部で部分的な成功を収めているとして反転攻勢が順調に進んでいると強調する一方、ロシア軍は空爆で地上部隊への支援を強化しているとの指摘もあり、戦闘が激しくなっているとみられます。
ウクライナ国防省のマリャル次官は14日に、SNSで、軍の部隊がウクライナ東部ドネツク州のバフムト方面で200メートルから500メートル、南部ザポリージャ州方面で300メートルから500メートル前進したとして「部分的な成功を収めている」と強調しました。
これに対してロシア国防省は14日、ドネツク州やザポリージャ州などでウクライナ軍を撃退し、兵士1000人以上を殺害したと主張しました。
イギリス国防省は14日、過去2週間、ロシア軍の戦闘機の出撃回数がウクライナ南部で増えているとしたうえで、反転攻勢を撃退するために空爆で地上部隊を支援するのが目的だと指摘し、戦闘が激しくなっているものとみられます。
また、ロシアのプーチン大統領は13日に行われたロシア軍に従軍する記者を集めた会合で、ウクライナの反転攻勢は失敗していると主張したうえで「われわれは状況に応じて措置をとる。あらゆる計画を立てている」と述べ、ウクライナ軍を撃退し侵攻を継続していく姿勢を示しました。
また、ロシア国内で無人機による攻撃が相次いでいることについて「伝統的に防空システムはミサイルや大型の戦闘機を対象に設定されている。無人機を探知するのは非常に難しい」と述べ、防空システムが無人機に対応しきれていないと認めたうえで対策を強化する考えを示しました。
ウクライナ 前線で戦うアゾフ旅団の兵士「大きな転換点だ」
ウクライナの前線で戦っている「アゾフ旅団」の下士官の1人で兵士の訓練などを行っているアナトリー・イエホロフさん(31歳)は、ウクライナ軍による大規模な反転攻勢が始まったことについて「われわれはこのために準備してきたし、この戦いが大きな転換点になると考えている。ウクライナにとってこの100年で最も重要な戦いだ」と述べ、兵士の士気は高いと強調しました。
また、旅団がいる前線の戦況について具体的な場所は明らかにしなかったものの「いまはまだ主に偵察部隊による前哨戦という段階だが、これからより大きな戦いが始まることになる」との見方を示しました。そのうえで「攻撃側は防御側の3倍の戦力が必要になる」と述べ、欧米諸国などに対し、より多くの戦車や装甲車を供与してほしいと訴えました。
イエホロフさんは去年5月にマリウポリが陥落した際にロシア軍の捕虜となり4か月後に捕虜交換で解放されましたが、ロシアに捕らえられている仲間はいまもおよそ600人いるということで「1年以上も厳しい状況に置かれている仲間がいる。すべてのウクライナ人の自由のためにわれわれは戦い続ける」と話していました。
「アゾフ旅団」はロシアによる軍事侵攻当初、東部の要衝マリウポリなどの防衛に関わった準軍事組織「アゾフ大隊」が元になっていて、兵力は7000人規模で、内務省傘下の部隊として前線で戦っています。
●ロシア軍が相次いで小型ダム爆破、洪水起こし反攻を妨害か… 6/15
ウクライナ国防省の幹部は13日、ロシア軍がウクライナ軍の大規模な反転攻勢を妨害するため、南部ザポリージャ州などの複数の集落で小型ダムを爆破して局地的な洪水を起こし、ウクライナ軍地上部隊の進軍阻止を図っていると地元テレビで非難した。
ウクライナ軍が攻勢をかけている東部ドネツク州と南部ザポリージャ州で最近、相次いで小型ダムの爆破が伝えられた。洪水が起きると、路面がぬかるんで戦車などの移動が困難になる。
露軍は上空からの攻撃も強化し、ウクライナ軍の進軍を阻もうとしている。英国防省は14日、露軍機の出撃回数が特に南部で増加しているとの分析を明らかにした。衛星写真を分析している専門家は13日、ウクライナ軍が奪還を目指す港湾都市ベルジャンシクに露軍が攻撃ヘリ20機を移動させたと指摘した。
ウクライナの国防次官は14日、前線付近での露軍の航空戦力と火力が優勢で厳しい戦いになっているとSNSで認めた。自国軍部隊はベルジャンシクを目指す戦線で最大約350メートル進軍し、東部ドネツク州の要衝バフムト方面で約500メートル前進したという。
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は13日、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長と電話で会談した。ウクライナ軍は防空や砲兵、対砲兵能力の強化が欠かせないと訴え、支援を求めた。
ウクライナ軍によると、露軍は14日、南部オデーサに向け高精度巡航ミサイル「カリブル」4発を発射した。うち1発が民間施設に着弾し、3人が死亡、7人が負傷した。
●ドイツが初の安全保障戦略を決定 国防費、GDP比2%方針を明記 6/15
ドイツ政府は14日、外交・安全保障の包括的な指針となる初の「国家安全保障戦略」を閣議決定した。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアを「地域の平和と安全に対する最大の脅威」と位置づけ、国防費を国内総生産(GDP)比で2%に引き上げる方針を明記した。中国については「既存のルールに基づく国際秩序の再構築を試みている」と警戒感を示した。
戦略は、防衛▽レジリエンス(回復力)▽持続可能性――の三つの柱で構成。サプライチェーン(供給網)の見直しからサイバー・宇宙分野での防衛力強化に至るまで安全保障上の優先事項を取り上げた。
ウクライナ侵攻により「時代の転換点(ツァイテンウェンデ)」を迎えたことから、特に重要なのは防衛力に対する投資だと指摘。北大西洋条約機構(NATO)同盟国や自国を防衛する連邦軍を強化するため、GDP比1・5%程度だった国防費を「複数年の平均で2%」にするとした。
ドイツは第二次大戦への反省もあり、軍備増強には慎重だったが、昨年2月のウクライナ侵攻を受けて国防予算を大幅に増額する方針を表明。「紛争地に武器を送らない」という原則も転換してウクライナへの武器供与を決めていた。
中国については「パートナーであり、競争相手」と定義した。中国の覇権主義的な行動を「我々の利益や価値観と矛盾する」と批判する一方、気候変動対策などを念頭に「中国なしには多くのグローバルな課題を解決できない」と重要性にも触れた。独政府は、中国に特化した詳細な外交戦略を近くまとめる見通しだ。
●1─4月のウクライナ貿易収支、70億ドルの赤字 6/15
ウクライナ統計局が14日発表した1─4月の貿易収支は、70億3900万ドルの赤字となった。
1─4月のモノの輸出額は前年同期比19.6%減の133億3400万ドル。輸入額は21.5%増の203億7400万ドル。
昨年2月に始まったロシアによる侵攻を受け、ウクライナの貿易は混乱。鉄鋼や穀物の主要輸出ルートである黒海の港湾も封鎖された。
穀物輸送船に関しては昨年7月、国連とトルコの仲介で3港湾への航路に安全なルートを設けることで合意が成立したが、鉄鋼は対象に含まれていない。 
●ロシアでプリゴジン「人気」が急上昇、プーチンの倍に─「命が危ないレベル」 6/15
ウラジーミル・プーチン大統領はもはや、ロシアで最も人気のある人物ではないようだ。ロシア人が5月にインターネット上で検索した人物を調べたところ、プーチンよりも民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンの検索回数が、プーチンの検索回数の2倍にのぼったことが分かった。
ロシアの独立系メディア「Verstka」によると、プリゴジンとロシア国防省の確執がエスカレートした5月は、ロシアの指導者であるプーチンよりも、傭兵を率いるプリゴジンに関する検索のほうがはるかに多かった。
クレムリン御用達のケータリング会社を経営することから「プーチンのシェフ」とも呼ばれるプリゴジンは、何カ月も前から、激しい戦闘が続くウクライナ東部の要衝バフムトにワグネルの戦闘員を投入し、多くの犠牲を出しながら戦果を上げてきた。
一方でセルゲイ・ショイグ国防相やロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長を声高に批判し、ロシア政府との関係が悪化した。
・ロシア政府と軍を批判
プリゴジンは5月5日、バフムトで戦死したとする戦闘員らの遺体の前に立ち、ロシア国防省を猛烈に批判する動画をインターネットに投稿した。さらにその数時間後には、プーチンに直接、弾薬の供給を呼びかけた。プリゴジンはそれまでにも弾薬の供給不足や戦闘員の死について不満を表明していたが、批判の対象はショイグやゲラシモフで、プーチンを直接批判したのはこれが初めてだった。
さらにプリゴジンは、ロシアが第2次世界大戦でドイツに勝利したことを祝う5月9日の戦勝記念日にも弾薬不足について不満を表明。新たな動画の中でプリゴジンは、弾薬は依然として供給されないのに、ロシア政府からは、ワグネルがバフムトから撤退したら国家に対する反逆と見なすと脅されたと述べた。
そしてプリゴジンは5月25日に公開した動画の中で、ワグネルが掌握したバフムト市街地から撤収を開始したと明らかにした。
これに対してロシア政府は、これまで直接の管轄下にはなかったワグネルなどの志願兵部隊に国防省と契約を交わすよう命じ、ロシア軍の指揮下に入れようとしている。だがプリゴジンは契約を拒否している。
「人気の出過ぎ」は危ない
Verstkaがグーグル・トレンドで調べたところによれば、ロシアでは5月に入ってから、プリゴジンについて検索する人が増加。月末までにはプーチンを追い抜き、5月28日から6月3日にかけては、プリゴジンの人気度(検索頻度)が最高の100ポイントに達したのに対し、プーチンの人気度はわずか28ポイントだった。
またロシアの検索エンジン「Yandex」の統計データによれば、ロシア国民が5月に「プーチンのシェフ」を検索した回数は74万4000回(前回の最多記録は1月の49万8100回)。「ウラジーミル・プーチン」の検索回数は30万5000回でだった。
この調査結果について、ウクライナ内務省のアントン・ゲラシチェンコ顧問は、「ロシア国防省と対立したことでプリゴジンの人気が高まり、今やその人気はプーチンをしのいでいる」とツイート。「ロシア国民が5月にプリゴジンに関する情報を検索した回数は、プーチンに関するニュースの検索回数の2倍にのぼった」「これほど人気が出ると、プリゴジンに何か事故が起こるのではないかと思う」
・目立ちすぎたプリゴジン
英オックスフォード大学で冷戦後の旧ソ連と東欧諸国の専門家であるブラド・ミフネンコは本誌に対して、プリゴジンは5月に「自分を大きく見せすぎた」と語った。彼の「命は近いうちに、何者かの手によって突然終わりを迎えさせられることになるだろう」との見方を示した。
ミフネンコは「プリゴジンがロシア国家の偽装により、手に拳銃を持ち馬鹿げた遺書を遺して『自殺』遺体で発見される方に賭ける」と言う。「ロシア政府がウクライナ側にプリゴジンの正確な居場所に関する情報を提供する可能性もある。ウクライナに彼を殺させ、骨抜きになったワグネルを『英雄』と称えるプロパガンダを出し、さらなる新兵を集めようとするかもしれない」
●「親愛なる友人」 プーチン氏、習氏の70歳の誕生日に祝電 6/15
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は15日、中国の習近平(Xi Jinping)国家主席の誕生日に電報を送り、70歳を迎えた習氏を「親愛なる友人」と呼んで祝った。
ウクライナ侵攻開始後孤立しているロシアは、中国との関係強化に力を入れており、両首脳は親密さを増している。
プーチン氏は習氏に対し、両国間の「包括的なパートナーシップ促進に向けたあなたの努力は、どれだけ高く評価しても、過大評価には決してならない」とたたえた。
その上で、「ロシアと中国の国民のために建設的な対話が続く」ことに期待を示した。
アナリストは、両国関係で優位に立つのは中国側であり、ロシアが国際社会からの孤立を深めるにつれて、その傾向はさらに強まっているとみている。
●9月に「ロシア地方選」 ウクライナの占領4州で 6/15
ロシア中央選管は15日、侵攻・占領後に一方的に「併合」したウクライナ東・南部4州で9月10日に「地方選」を実施すると正式に決めた。
4州は昨年10月に戒厳令が敷かれたが、プーチン政権は来年の大統領選を含め、選挙の足かせにならないという立場を既に示している。
ウクライナ軍が今月に入って大規模な反転攻勢を開始する中、「ロシアの地方」として選挙を強行し、支配の方針が揺るがないことを強調する狙いとみられる。9月10日は、ロシア全土の統一地方選の投票日。 
●日本、米への砲弾提供を協議 ウクライナ支援で 6/15
日本は、ウクライナの対ロシア反転攻勢の支援に向け、米国に砲弾を提供する方向で協議している。殺傷能力のある武器の輸出を長年抑制してきた日本にとって、大きな方針転換だ。
ウクライナが南東部の領土をロシア軍から奪還する作戦を推進する中、世界各地でウクラナ向けの砲弾を調達する取り組みが勢いを増している。ロシアが2022年2月に侵攻を開始して以来、米国は200万発以上の155ミリ砲弾をウクライナに送っており、米政府は同盟国にも物資の供与を迫っている。
米国は13日、155ミリ砲弾を含む、ウクライナ向けの新たな軍事支援の提供を発表した。米国は自国の在庫から相当な量を引き出しており、自国の軍事態勢を損なうことなくウクライナを支援する方法を模索している。
協議に詳しい複数の関係者によると、日本は、長年の安全保障同盟の一環として日米が弾薬の共有を可能にする2016年の協定に基づき、155ミリ砲弾を米国に供給することを検討している。これらの砲弾は、ウクライナの戦力を支援する米国の在庫に充てられるという。
ロイド・オースティン米国防長官は今月、日本の浜田靖一防衛相と都内で会談を行った。オースティン氏は会談後、日本がウクライナに提供している殺傷能力のない軍事支援を称賛し、追加の援助を歓迎すると述べた。
韓国とは既に、米国経由でウクライナに数十万発の155ミリ砲弾を提供することで合意しているとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先日報じた。
日本がいつ、どのくらいの量の砲弾を供給するかは分かっていない。米国防総省当局者によると、ウクライナ軍は155ミリ砲弾を月に9万発以上使用している。
日本の防衛省は声明で、米国あるいはウクライナに提供することを決定したとの事実はないと述べた。また、日米間では平素からさまざまなやり取り行っているとしたが、その内容については言及しなかった。
米国防総省の報道官は「ウクライナを支援するために日本をはじめ世界50カ国以上と協力を続けている」とし、どのような装備を提供するかは各国の判断に任せていると述べた。
ラーム・エマニュエル駐日米国大使は、「米国の軍事産業基盤および備蓄はここ18カ月でかなり逼迫(ひっぱく)しているため」米政府はウクライナの支援に向けて同盟国と協力していると述べた。
侵攻が始まって以来、日本はウクライナに防弾チョッキやヘルメットなどの殺傷能力のない軍事支援を提供してきた。しかし、自ら課した規制を理由に武器の提供は控えている。
日本は第2次世界大戦に敗戦後、国際紛争解決のための武力行使を放棄した。1960年代には、武器の輸出規制を閣議決定し、殺傷能力のある武器の海外移転を禁じた。これとは別に、自衛隊の装備品の輸出も法律で規制している。
砲弾供給計画は直接戦場に殺傷能力のある武器を送るものではないが、それでも日本では政治的に敏感な問題だ。日本の多くの有権者は、海外の紛争に巻き込まれることに不安を感じている。
一方で、日本の保守派議員の中には、日本も欧米に倣ってウクライナに直接武器を提供すべきだと言う人たちもいる。
自衛隊は多連装ロケットシステム「M270」の廃棄を決めているが、これに似たウクライナが米国から供与された高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」は対ロシア戦で戦果をあげている。
自民党の佐藤正久参議院議員は「M270」がウクライナの助けになる可能性があるとし、「もったいない」と述べた。
自民党と公明党は今年に入り、武器輸出規制の緩和に向けて議論を開始したが、どのような措置を取るにしても数カ月先になりそうだ。
世論調査によると、日本の有権者は、地域的な脅威から防衛するための自衛隊強化やウクライナ支援を概ね支持しているが、武器を送ることには慎重だ。日本経済新聞が5月に公表した世論調査では、殺傷能力のある武器の輸出規制を撤廃することを支持すると回答した人は26%にとどまった。
岸田文雄首相は武器輸出規制の見直しを支持しており、6月9日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。
ゼレンスキー氏は、日本に公然と圧力をかけることは控えている。5月に広島で開催された先進7カ国(G7)首脳会議に出席するために来日した際、記者会見で日本に武器輸出規制の見直しを求めるかと聞かれ、「わが国に支援が可能な全ての国にそうしてもらいたいが、特定の法律上・憲法上の複雑な問題があることは理解している」と答えた。
軍事アナリストは、日本が砲弾を補給する措置は、戦争でウクライナを最も効果的に支援する方法の一つであり、榴弾砲の提供も役立つと話す。
英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)の軍事アナリスト、フランツ・ステファン・ガディ氏は「これは主に砲撃戦であり、十分な弾薬を備えた砲撃プラットフォームはウクライナに常に歓迎されるのは間違いない、ということだ」と述べた。

 

●プーチンの“裏切り者”を受け入れた意外な人物 旧ソ連圏でロシア離れ 6/16
ウクライナでの侵略戦争が続く中、旧ソ連圏でプーチン氏の孤立が進んでいる。関係の深い諸国は、なぜロシアからの距離をとり始めたのか。AERA 2023年6月19日号の記事を紹介する。
カザフスタンのトカエフ氏も、昨年来、プーチン氏と距離を置く発言が目立つ。
昨年6月、当時ロシアが独立国として認めていたウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州について、カザフスタンは独立を承認する考えがないことをプーチン氏の面前で明言した。
10月には、やはりプーチン氏がいる場で、地域の国境問題について「友情、信頼、善隣の精神に基づき、国際法と国連憲章の原則を厳格に順守し、平和的手段によって解決すべきだ」と主張した。名指ししたわけではないが、ウクライナの領土を武力で切り取るプーチン氏への批判とも受け取れる発言だ。
プーチン氏は昨年9月、不足する兵力を補充しようと、強制的な部分動員に踏み切った。戦場に送られることを恐れた多くの男性が、国外に逃れようと、国境や空港に列を作った。
トカエフ氏はこのとき「彼らの多くは絶望的な状況でロシアを離れざるを得なかった。我々は彼らの面倒をみなくてはならない」と述べた。プーチン氏から見れば裏切り者であり臆病者の脱出者を、温かく受け入れる姿勢を示したのだ。
加速するロシア離れ
中央アジアでは、タジキスタンのラフモン大統領もプーチン氏に苦言を呈した。昨年10月の国際会議の機会に「我々は(人口が)1億人も2億人もいるわけではないが、敬意は払ってもらいたい」「旧ソ連のように中央アジア諸国を扱わないでほしい」と、プーチン氏に直接訴えた。
かつてソ連の一部だった国々を自らの勢力圏とみなして「ロシアに従って当然だ」と言わんばかりのプーチン氏に対する、強烈な異議申し立てだった。
とはいえ、中央アジアの国々は、今もロシアとの経済的、人的なつながりが深い。欧州からは地理的に遠く、欧州連合(EU)加入を目指すのも非現実的だ。彼らにロシアとの関係を断ち切るという選択肢はない。
だが、逆にだからこそ、ロシアによるウクライナ侵攻に誰よりも迷惑を被(こうむ)っていると言える。ロシア経済の落ち込みは自国経済を直撃する。欧米の対ロ制裁に巻き込まれることへの恐れも大きい。
また、こうした国々の多くは、伝統的にウクライナとも友好関係を維持してきた。事前に何の説明もなくウクライナ侵攻に踏み切ったプーチン氏への不信感は根強い。
急速に経済力を強めている中国が地域での存在感を増していることが、ロシアの言いなりになる必要性を減じているという事情も見逃せない。
ここで少々乱暴かもしれないが、かつてソ連を構成していた国々を、ロシアからの距離が遠い順にまとめてみよう。
・戦争中:ウクライナ
・EUと北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、西側のメンバーとなった国:エストニア、ラトビア、リトアニア
・EU加盟を申請している国:モルドバ、ジョージア
・EU入りは申請していないが、ユーラシア経済連合にも集団安全保障条約機構(CSTO)にも加盟していない国:アゼルバイジャン、ウズベキスタン、トルクメニスタン
・ユーラシア経済連合やCSTOに加盟しているが、首脳がプーチン氏への不満を示した国:アルメニア、カザフスタン、タジキスタン
・表だったロシア批判は控えている国:キルギス
・ロシアとの「連合国家」を構成する国:ベラルーシ
・ウクライナ侵攻を批判する国連総会の決議で、ロシアと足並みをそろえて反対票を投じたのは、ベラルーシだけだ。
プーチン氏はかつてソ連の崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼んだ。
歴史の歯車を逆転させようと、ウクライナ侵略を始めたが、近隣国のロシア離れを加速するという皮肉な結果を招いているのが現状だ。
旧ソ連圏で進む孤立は、欧米との対立よりもむしろ、プーチン氏に大きな心理的痛手を与えているのではないだろうか。
●プーチン大統領、アルジェリア大統領と会談 アフリカ諸国との関係強化へ 6/16
ロシアのプーチン大統領は15日、アルジェリアのテブン大統領と会談しました。ロシア主催で開かれている経済フォーラムには2人で登壇する予定で、アフリカ諸国との関係強化を目指す方針です。
ロシアでは14日から恒例の「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」が始まりましたが、今年はロシアへの制裁を続ける西側各国のメディアは取材できず、中東やBRICS諸国などロシアの友好国を中心とする色彩がいっそう強まっています。
こうした中、プーチン大統領は15日、モスクワでアルジェリアのテブン大統領と会談し、両国の関係強化を確認しました。16日には2人そろって経済フォーラムに登壇・演説します。
また17日には、プーチン大統領が南アフリカなどの首脳と会談するほか、来月には「ロシア・アフリカ会議」も開かれる予定で、ロシアとしては、一連の会議を通じ、アフリカ諸国を取り込みたい狙いです。
●ゼレンスキー大統領の参加で注目を集めた第32回アラブ連盟首脳会議 6/16
2023年5月19日、サウジアラビアのジェッダで、第32回アラブ連盟首脳会議が開催された。この首脳会議は、3つの点で国際社会の注目を集めた。第1は、ロシア・ウクライナ戦争で中立的立場をとる国が多いアラブ諸国の会議に、議長国のサウジがウクライナのゼレンスキー大統領を招待したことである。第2は、反政府デモを強硬に弾圧し、2011年11月、人道問題を理由にアラブ連盟への参加資格を停止されたシリアのアサド大統領が会議に参加したことである。第3は、加盟国の一部がイスラエルとの関係を深化させる中、パレスチナ問題について統一的立場が示せるか否かという点であった。
今回の首脳会議を前に開かれた外相会議で、サウジのファイサル外相は「アラブの団結」の必要性を強調した[1]。そして、首脳会議ではアラブ諸国が共通の基盤、価値観、利益にもとづいて共同行動をとることを確認し、「ジェッダ宣言」が採択された。
アラブ首脳会議は、1945年に設立されたアラブ連盟の最高意思決定機関として1964年に初めて開催された。紛争解決や重要な決定を下し、「アラブの連帯性」を支える機能を発揮した歴史もある。しかし、2011年の「アラブの春」と呼ばれる政変や2020年の「アブラハム合意」でイスラエルと国交正常化に動く国が出てきたことなどで、近年、その機能は著しく低下している[2]。以下では、今回の首脳会議における上記3つの注目点を分析することで、アラブ諸国の協調行動がとりにくくなっている本質的問題とは何かについて考察する。
ゼレンスキー大統領の首脳会議参加の意義
ゼレンスキー大統領は、5月19日にアラブ連盟首脳会議に出席した後、広島での主要7カ国首脳会議(G7)に出席し、国際社会に幅広い支持を訴えた。同大統領のアラブ首脳を前にした演説では、10項目からなる和平案への支持を求めている。その和平案には、食料安全保障上の利益や[3]、全ロシア軍のウクライナ領からの撤退、ウクライナ人捕虜全員の解放などが含まれている[4]。アラブ連盟首脳会議への参加は、ゼレンスキー大統領にとって、国際社会の注目を集め続けるという意味があった。
一方、アラブ諸国にとっては、どのような意義があったのだろうか。アラブ諸国は紛争の外交的解決を求めており、対ロシア制裁にも参加していない[5]。ゼレンスキー大統領の演説で、そのアラブ諸国が2022年の首脳会議で表明された中立的立場を変えるとは考えにくい[6]。ただ、ゼレンスキー大統領を会議に招待したサウジのムハンマド皇太子は、ウクライナの人道危機を緩和することを約束し、ロシア・ウクライナ間の調停について努力を継続する準備ができているとの踏み込んだ発言をした[7]。ムハンマド皇太子にとって、ゼレンスキー大統領を受け入れたことは、自身が国際的に重要な役割を担える人物であるとのアピールになっていると考えられる[8]。しかし、「ジェッダ宣言」には、ゼレンスキー大統領の和平案に関する言及はない。それは、アラブ諸国にとってはアラブ世界内の紛争や対立の解決が優先事項であり、ウクライナ戦争は「アラブの団結」という会議が目指すところとは関連性が薄いことを示している。
特別扱いシリアのアラブ連盟復帰の背景
「ジェッダ宣言」の中で重要政治問題として取り上げられた項目の中で、際立った取り扱いをされたのはシリア問題である[9]。議長国サウジは、5月7日にアラブ連盟臨時外相会議を開催しシリアの連盟復帰を決定した上で、5月19日の首脳会議にアサド大統領を出席させた。シリアのアラブ連盟への復帰については、アメリカの国務省のパテル報道官の不支持発言[10]や、シリア北部地域やヨーロッパの都市などでの抗議活動[11]もあった。さらに、加盟国であるカタル、クウェート、モロッコなどは、アサド政権は非合法であり、関係正常化には反対する姿勢を示したが、サウジにより説得されたと報じられている[12]。
今回、議長国のサウジが、アラブの「共通利益」とはいえないかたちでシリアの復帰を進めた理由としては、1シリアにおけるイランの影響力の低下、2麻薬(違法薬物カプタゴン)の取り締まり強化、3難民問題の解決、4シリアとレバノンの広域経済の復興などがあると指摘されている[13]。麻薬密売対策はヨルダンの利益となり、広域の経済復興については投資力のあるサウジ、UAEなどが利益を得ると考えられる。イランのシリアへの影響力については、両国が多元的なレベルで結びついていることを踏まえれば、シリアのアラブ連盟への復帰が与える影響は低いといえる。つまり、「アラブの団結」の名のもとで行われたアサド大統領のアラブ首脳会議への出席は、主催国を含むアラブの一部の国の利益にとどまっているとみることができる。
アラブの団結の中核であるパレスチナ問題の取り上げ方
今回の「ジェッダ宣言」では、1パレスチナ問題、2スーダン危機、3シリアの安定・領土統一、4イエメン共和国の安全と安定の保障、5レバノン危機からの脱却などの政治問題が大きく取り上げられている。そのほか、他国への内政不干渉、犯罪・汚職との共闘、産業発展の連帯、世代間を超えた文化・価値の共有、食料安全保障に関する項目が列挙されている[14]。
アラブ連盟創設時からの中核であるパレスチナ問題に関する現在のアラブ諸国の基本姿勢は、2002年に、サウジのアブドッラー前国王が皇太子時代に提案し、首脳会議で採択された「アラブ和平イニシアチブ」である[15]。2022年の首脳会議では、この問題に取り組むために必要な、分裂したパレスチナの抵抗運動の統一を目指す「アルジェ宣言」が採択された。
今回の「ジェッダ宣言」では、「アラブ和平イニシアチブ」に言及しているが、その内容の確認にとどまっている。つまり、極右政党の影響力が強まり、パレスチナへの強硬政策を推進しているイスラエルのネタニヤフ政権への対策や、「アルジェ宣言」で確認されたパレスチナの抵抗勢力の対立解消に向けた具体的内容は示されていない。
問題解決の共通行動は実現するか――「共通利益」と「部分利益」の狭間で
アラブ連盟は、アラブ民族のアイデンティティを連盟の団結要素としている。しかし、政権益、自国益を優先する加盟国によってアラブの団結が揺らぐこともしばしばあった。例えば、アメリカのトランプ前政権の仲介で2020年にアラブ首長国連邦(UAE)をはじめ一部の加盟国がイスラエルと国交正常化をしたことで、アラブ諸国内に亀裂が生じた。この状況の改善に向けて、2022年11月、アルジェリアは「アラブの再団結」をスローガンに掲げ、3年ぶりに対面でのアラブ連盟首脳会議を開催した。しかし、サウジ、UAE、カタル、モロッコは元首の代理参加にとどまった。それでも、約3分の2の首脳が出席し、パレスチナへの全面的支援の宣言、ロシア・ウクライナ紛争に関するアラブ連盟の中立性の表明がなされた。
今回の首脳会議も、「アラブの団結」を打ち出していたが、前議長国のアルジェリア、UAE、オマーン、クウェート、モロッコ、コモロは元首の代理参加となった。また、カタルのタミム首長は途中退席をしている。しかし、これらの国も会議では反対を鮮明にせず、アラブの団結を保つことによる「共通利益」の維持をはかったといえる。
一方、アサド政権のアラブ連盟への復帰とゼレンスキー大統領の参加は、地域大国としてのサウジを国際社会に印象付けた。それは、王位継承を確実にしたいムハンマド皇太子のリーダーシップを国内外に示すものにもなった。しかし、アラブ連盟の機能回復は、サウジをはじめ一部の国が利益を得ただけでは難しい。
国際社会では政治や経済のブロック化が進みつつあり、アラブ諸国の中にも他のブロックへの加盟により利益を得ようとする動きが見られている。アラブ連盟が求心力を取り戻せるかは、加盟国すべてが利益を得られるかたちで「ジェッダ宣言」の内容を具体化し、フォローアップする共同行動がとれるかにかかっている。しかし、国益という「部分利益」が優先され、アラブ連盟の中核であったパレスチナ問題の包括的かつ公正な解決に向けての外交すら形骸化している。このため「共通利益」である地域の安定化は遠のいているのが現状である。
●IAEA事務局長、ザポリージャ原発と近隣の貯水池視察「冷却水は当面確保」 6/16
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は15日、ロシア軍が占拠するウクライナ南部ザポリージャ原子力発電所と近隣の冷却池を視察した。IAEAの発表によると、グロッシ氏は、原発の安全維持に欠かせない原子炉の冷却水は当面確保できるとの認識を示した上で、「水位を保つことが不可欠だ」と述べた。
原発が取水していたヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムの貯水池は決壊で水位低下が進んでおり、IAEAは代替水源の確認を急ぐとしていた。
ロイター通信によると、視察を終えたグロッシ氏の車列がロシアの占領地域を出る際、銃撃音があったため、走行を一時中断した。危険はなく、車列はウクライナ側が管理する地域に戻った。
●IAEAトップ、原発の安全「当面は維持」 周辺の治安情勢に懸念も― 6/16
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は15日、ロシア軍が占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発を訪れた。カホフカ水力発電所のダム決壊に伴い冷却水の確保が課題となっているが、グロッシ氏は原発に近接する貯水池など現地の対応状況を確認し「当面は安全を維持できる」と述べた。
IAEAによると、ダムからの取水が停止した場合でも、貯水池には数カ月分の水がある。グロッシ氏は「水は十分にある」と説明しつつ、「重要なことは貯水池を現状のまま保つことだ」と述べ、冷却水確保へ警戒を続ける考えを強調した。
原発はウクライナ軍が反転攻勢を強めるザポロジエ州にあり、今回の現地入りは治安状況を確認するため、予定より1日遅れた。グロッシ氏は「戦闘行為が周辺で行われている。数時間前まで、確実に訪問できるか分からなかった」と述べ、危険と隣り合わせの実情も再確認された。
●ウクライナ軍 前進強調も “ロシア軍の激しい攻撃に直面” 6/16
反転攻勢を進めるウクライナ軍は前進を強調する一方、それを阻止しようとするロシア軍による激しい攻撃に直面していると明らかにし、双方の攻防がいっそう激しくなっているものとみられます。
ウクライナ国防省のマリャル次官は15日、首都キーウで行った記者会見でウクライナ軍は東部方面では3キロ以上前進し、南部方面でも徐々に前進していると強調しました。
一方「敵は激しく抵抗し、無人機の攻撃や砲撃などに直面している」とも述べ、ウクライナ軍の前進を阻止しようとするロシア側による激しい攻撃に直面していると明らかにしました。
また、会見に同席した、ウクライナ軍の参謀本部の幹部は、今月に入ってからロシア軍は、140発以上のさまざまな種類のミサイルや250機以上の無人機を使って攻撃していると指摘した上で、ウクライナは、欧米側から供与された兵器も使い抗戦していく姿勢を強調しました。
一方、ロシア国防省は15日、ウクライナの無人機の生産拠点を攻撃したと発表したほか、東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で砲撃などを行い、ウクライナ軍を撃退したと主張していて、双方の攻防がいっそう激しくなっているものとみられます。
英研究機関 “戦闘はより厳しくなる”
ウクライナ軍の反転攻勢についてイギリス王立防衛安全保障研究所は今月14日、ジャック・ワトリング上級研究員の分析を公開し、ウクライナの部隊がロシアが築いた防衛線の奥まで進めば、ロシア側の砲撃や空からの攻撃を受けやすくなるとして、「戦闘はより厳しくなるだろう」という見通しを示しました。
ワトリング氏は、これまでウクライナ側はなるべく広い範囲で前進する動きを見せることにより、どこからの突破を狙っているかロシア側に悟られないようにしてきたと分析しています。
ただ、いずれ主力部隊を投入して前線の突破を図る決断を迫られると指摘した上で、「成功するかどうかの二つに一つで、段階的なものではない」として、今後、決定的な局面を迎えることになるとしています。
その上で「損失は膨らみ、成功には時間がかかるだろう」と分析し、ウクライナ兵の訓練や武器を供与する態勢を維持し、ロシアにいずれは敗北すると思わせることが重要だと訴えています。
ゼレンスキー大統領 スイスの連邦議会でビデオ演説
永世中立国のスイスでウクライナへの武器の再輸出をめぐって法律を修正する動きが出るなか、ゼレンスキー大統領がスイスの連邦議会でビデオ演説を行い、武器の再輸出を認めてほしいと訴えました。
永世中立国のスイスは、他国に輸出した自国製の武器が、紛争当事国に再輸出されることを法律で禁じてきました。
ただ、ロシアによる軍事侵攻が長期化する中、ドイツやデンマークが、自国が保有するスイス製の弾薬などをウクライナに送りたいと要求していることを受けてスイスの連邦議会は、武器の再輸出に関する法律の修正案を検討しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、スイスの議会でビデオ演説を行い「戦争の原因はロシアによる侵略であり、命を守るために戦っている」と述べ、自衛の立場を強調しました。
そのうえで「私たちは平和を取り戻すために武器を求めていることを理解してほしい」と述べ、ウクライナへの武器の再輸出を認めてほしいと訴えました。
地元のメディアによりますと、スイスの議会で外国の首脳がビデオ演説を行うのは異例で、演説が終わると、多くの議員が立ち上がり、大きな拍手をおくっていました。
再輸出を可能にする法律の修正案は、今月上院で可決され、下院での審議がことし秋に予定されていますが、世論調査でも賛否がきっ抗しているほか、連立を組む4つの党のなかでも立場は割れていて、長年、中立を掲げてきたスイスでの議論の行方が注目されています。
●ウクライナは戦闘能力維持 米長官、軍事支援加速訴え 6/16
オースティン米国防長官は訪問先のブリュッセルで15日、侵攻したロシアへの反転攻勢を続けるウクライナ軍は激戦に直面しながらも、依然として十分な戦闘能力を維持しているとの認識を示した。ウクライナ防衛を巡る関係国会合で、参加する約50カ国に軍事支援の加速を訴えた。
ブリュッセルでは15日、北大西洋条約機構(NATO)の国防相会合が開幕。16日までの日程で支援強化を確認し、リトアニアで7月に開かれるNATO首脳会議に向けた準備を進める。
国防相会合に先立ち、関係国会合を開いたオースティン氏は冒頭のあいさつで「ウクライナの戦いはマラソンであり、短距離走ではない」と指摘。武器や弾薬などの提供を長期的に続ける必要があると強調した。
終了後の記者会見で「ウクライナ軍は依然として多くの戦闘能力を持っている。厳しい戦いが続くと思われるが、持続力に優れるウクライナ軍が最終的に優位に立てると考えている」と述べた。
●キッシンジャー氏、ウクライナ勝利ならプーチン政権存続「あり得ず」 6/16
ウクライナでの戦争でロシアが軍事侵攻を断念し欧州との和平合意を受け入れるならば、プーチン大統領は政権維持が困難になるかもしれない。キッシンジャー元米国務長官はブルームバーグ・ニュースのジョン・ミクルスウェイト編集主幹とのインタビューでこうした見解を示した。
キッシンジャー氏は「欧州との関係は合意と一種のコンセンサスに基づいていなければならないとロシアが認識することを望む。この戦争が適切に終結すれば、それが実現可能になるかもしれない」と述べた。戦争がそのような条件で終わった場合、プーチン大統領が政権を維持できるかとの質問には「ありそうにない」と答えた。
キッシンジャー氏は、ウクライナが戦争状態から脱して強い民主主義国家として立ち上がることが重要だと述べるとともに、「ロシアの解体や、ロシアを怒りに満ちた無力状態におとしめる」ことは避けるのが望ましいと語った。また、プーチン大統領について「両面性と満たされない願望に悩まされるドストエフスキー型の人物」だと述べ、指導者として権力を行使する能力が非常に高く、ウクライナとの関係で「過度に」それを行使したと論じた。
インタビューは6月7日にニューヨークで行われ、先日100歳を迎えたキッシンジャー氏の人生とキャリアを回顧した。
プーチン氏は、四半世紀近くクレムリンで君臨する間にキッシンジャー氏を頻繁にロシアに迎えており、2012年の会談では、両氏の関係は、自身がサンクトペテルブルク市の副市長だった1990年代半ばまでさかのぼると述べていた。
キッシンジャー氏はブルームバーグのインタビューで、プーチン氏はロシアの伝統的な考え方を受け継ぐと同時に、第2次世界大戦中に人口の半分余りが飢え死にし常に脅威に直面していたレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)の街で育った人物だとも述べた。
プーチン氏はこうした生い立ちから欧州の軍事力がサンクトペテルブルクやモスクワのような大都市に簡単に届くようになることを決して望まず、その拡大に対し「極めて不合理に」反応したとキッシンジャー氏は指摘した。 
●「最初の戦術核兵器をベラルーシに搬入」プーチン大統領 欧米を強くけん制 6/16
ロシアのプーチン大統領は同盟関係にある隣国ベラルーシへのロシアの戦術核兵器の配備について、最初の核兵器がすでにベラルーシ領内に運ばれたと表明しました。
ロシア プーチン大統領「最初の核兵器がベラルーシに搬入された。これはあくまで第一弾だ」
プーチン大統領は16日、サンクトペテルブルクで開かれている国際経済フォーラムで、司会者の質問に答える形で最初の戦術核兵器がすでにベラルーシ領内に運ばれたと明らかにしました。配備作業は「年内に完了する」としています。
そして、配備について「戦略的にわれわれを敗北させようとする者たちは、このことを忘れない方が良い」とし、ウクライナへの軍事支援を続ける欧米を強くけん制しました。
ただ、ウクライナ侵攻をめぐっては核兵器使用の「必要性はない」とも発言。反転攻勢をかけるウクライナ軍に対し、多大な損失を与えているとして、ウクライナ側が成功する「チャンスはない」と主張しました。
また、ウクライナへの戦闘機供与の動きをめぐり、NATO=北大西洋条約機構による「危険な関与だ」と指摘し、ロシアとの戦闘に使用される機体を「どこでどのように攻撃するか検討する必要がある」と話し、警告しました。
プーチン氏は演説の中で、今年のGDP=国内総生産の成長率が1.5%から2%のプラスになるとの見通しを示し、制裁を受ける中でも経済が好調だとアピールしました。
撤退した外国企業の復帰については「門戸を閉ざさない」としましたが、フォーラムに参加した外国首脳はアルジェリアとアラブ首長国連邦のみで、ロシアが「非友好国」とする日本や欧米などのメディアは取材から排除されています。
ベラルーシへのロシアの戦術核兵器搬入についてのプーチン大統領の発言を受け、アメリカのブリンケン国務長官は。
アメリカ ブリンケン国務長官「アメリカが核態勢を調整すべき状況にはなっていないし、ロシアが核兵器を使用する準備をしているという兆候も見ていない」
このように話すとともに、引き続き状況を注視していく考えを示しました。
また、ブリンケン長官はベラルーシやウクライナがソ連崩壊に際して核兵器を保有しない道を選んだことを指摘し、「ルカシェンコ大統領がベラルーシ国民の意思に反して国の主権をロシアに無責任に譲り渡している」と批判しました。
●プーチン氏「外国企業に復帰の道」 経済会議で演説 6/16
ロシアのプーチン大統領は16日、北西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムの全体会合で演説した。
ウクライナ侵攻開始後にロシアから撤退した日本を含む外国企業について、復帰の道を「閉ざさない」と表明。一方、自国企業による代替が進んでいるとも述べ、外国企業との競争は恐れないと強気の姿勢を示した。
サンクトペテルブルクは18世紀に「西欧に開かれた窓」として建設され、プーチン氏の故郷でもあるロシア第2の都市。フォーラムは毎年開催されているが、侵攻下で2回目となった今年も昨年と同様、参加する外国首脳は少なく、ロシアの孤立が浮き彫りとなった。
全体会合のパネリストは、プーチン氏のほかはアルジェリアのテブン大統領のみ。プーチン政権としては、中立的な新興・途上国「グローバルサウス」の一角の首脳を取り込むことで、西側諸国に対抗する構えとみられる。
昨年の全体会合も、出席した首脳はプーチン氏とカザフスタンのトカエフ大統領の2人だけ。トカエフ氏はロシア占領下のウクライナ東部ドンバス地方の分離独立を「認めない」と異を唱え、プーチン氏に冷や水を浴びせた。中国の習近平国家主席はビデオメッセージを寄せた。
フォーラムは「ロシア版ダボス会議」と呼ばれたが、今回は対ロ制裁を理由に「非友好国」の記者を排除。5月の対ドイツ戦勝記念日に、外国メディアの取材を制限したのと同様の対応を取った。ペスコフ大統領報道官は「西側に真実を伝えようとする姿勢が見られない間は、彼らと話さない」と明言している。
●UAE大統領、ロシアとの関係発展を目指していると発言 6/16
UAEのシェイク・ムハンマド・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーン大統領は16日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談で、世界の平和と安定を実現するために対話を通じて政治的解決策を見出すという同国のコミットメントを再確認した。
両首脳はサンクトペテルブルクで会談し、二国間関係や地域・国際問題について話し合った。
UAE大統領は、ロシアと自国の協力は強力であり、関係発展を目指していると述べた。
同大統領は、地域および国際的に平和と安定を実現するというUAEの決意を強調した。
UAE大統領は会談直後に自身のツイッターを更新し、「UAEは世界の平和と安定に向けて、対話と外交を通じて政治的解決策を見出すことを目的としたあらゆる努力を引き続き支援する。」と述べた。
一方、プーチン大統領は、ロシアとウクライナの間の捕虜交換を仲介するシェイク・ムハンマド・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーン大統領の努力に感謝の意を表した。
プーチン大統領は「(交換は)特定の人に関係しており、常に最重要事項なので、感謝する。」と述べた。
ロシア大統領府の記録によると、プーチン大統領を「友人」と呼んだシェイク・ムハンマド・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーン大統領は、プーチン大統領はウクライナ問題でさらなる支援を行う用意があると述べた。
同大統領がプーチン大統領に語った内容から、「UAEが現地の状況の安定化や人道問題において役割を果たすことができると考えるのであれば、あらゆる方法で支援する用意がある。」と述べたことが報告されている。
●ウクライナ首都にミサイル攻撃 使節団到着に合わせ 6/16
ウクライナ軍は16日、首都キーウ(キエフ)上空でロシアのミサイル12発を撃墜したと発表した。
キーウにはこの日、アフリカ諸国首脳らの使節団が到着、和平について会談が行われるのを前にした攻撃だった。
撃墜されたのは、極超音速ミサイル「キンジャール」6発と巡航ミサイル「カリブル」6発。さらに偵察用ドローン2機も破壊したという。 
●プーチン大統領が演説 経済政策表明 ウクライナ批判も 6/16
ロシアのプーチン大統領は最低賃金の大幅な引き上げなど、ロシア国内向けの経済政策を表明しました。
プーチン大統領は16日、サンクトペテルブルクの国際経済フォーラムで演説しました。
演説は1時間20分に及びましたが、ウクライナ情勢については触れませんでした。
プーチン大統領は演説で、来年1月から最低賃金を18.5%上げることや世帯の収入に関係なく1歳半まで児童手当を支給することなどを表明。
来年3月の大統領選を意識したものとみられます。
演説後の質疑応答では、司会者からの質問に応える形で「ウクライナの反撃は長くは続かない」などと主張しました。
また、プーチン大統領は「ウクライナのナチズム」と題するビデオを自ら上映し、ウクライナの非ナチ化が必要だなどと自論を展開しました。
ゼレンスキー大統領について「私のユダヤ人の友人たちは、ゼレンスキー氏はユダヤ人の恥だと言っている」などと、感情的に批判しました。
フォーラムには例年、多くの外国首脳が出席しますが、今年出席した首脳はアルジェリアとアラブ首長国連邦のみでした。
ロシアメディアによりますと、この日、会場内はインターネットのアクセスが制限されました。
ペスコフ報道官は「敵が損害を与えようとする試みを見逃さない」と述べ、安全対策だと説明しました。
また、今年のフォーラムは日本や欧米など「非友好国」のメディアの取材が一律に拒否されました。

 

●プーチン氏、ベラルーシへの戦術核移転を認める ロシア初の国外配備 6/17
ロシアのプーチン大統領は16日、サンクトペテルブルクで開催中の国際経済フォーラムで、ベラルーシへの戦術核兵器の配備について、「最初の部分は移転した」と述べ、すでに一部が搬入されたことを明らかにした。配備は、年末までに完了するとした。ソ連崩壊後、ロシアが核兵器を国外に配備するのは初めて。ウクライナ侵攻をめぐり、米欧との対立が一段と激しくなる恐れがある。
プーチン氏は司会者から核抑止力について問われ、「領土保全や主権、国家の存立が危うい場合、核兵器を使用できる」と主張。「いまは使う必要がない」と述べ、圧力を強める欧米を牽制(けんせい)した。「我々は北大西洋条約機構(NATO)より(核兵器を)多く持っているので、彼らは我々に削減交渉を始めるよう求めている」とも述べ、「くそったれ」と批判した。
戦術核兵器の配備については、プーチン氏は3月、ロシア国営テレビの番組で、ベラルーシのルカシェンコ大統領と合意したと明らかにした。ルカシェンコ氏が先月、核弾頭の移転が始まったと述べたが、プーチン氏は今月、保管施設の建設が完了する7月以降の開始としていた。すでに核兵器の搭載が可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデル」は配備されている。
●プーチン大統領「最初の戦術核兵器 ベラルーシ領内に搬入」 6/17
ロシアのプーチン大統領は、ロシアの戦術核兵器の隣国ベラルーシへの配備について、搬入がすでに始まっていると初めて明らかにしました。年内には配備が完了するという見通しを示し、核による威嚇を強めた形です。
ロシアのプーチン大統領は16日、みずからの出身地でもある第2の都市、サンクトペテルブルクで開かれた国際会議の中で、ロシアの戦術核兵器の隣国ベラルーシへの配備について「最初の戦術核兵器がベラルーシ領内に搬入された」と述べ、戦術核兵器の搬入がすでに始まっていると初めて明らかにしました。
そして、年内には配備が完了するという見通しを示した上で「これは抑止力であり、戦略的にわれわれを打ち負かそうと考える国々がこの事実を忘れないようにするためだ」と述べ、ウクライナが反転攻勢を進める中、軍事支援を続ける欧米に対して核による威嚇を強めた形です。
これに先だってプーチン大統領は6月9日に行った、同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領との会談で、7月7日か8日に保管施設を完成させたあと、直ちに戦術核兵器の配備を開始するとしていました。
一方でプーチン大統領は、核兵器の使用について「国家の存続に対する脅威があれば理論的には可能だが、われわれにはその必要性がない」と述べ、現時点で核兵器を使う考えはないとする立場を改めて強調しました。
ウクライナ軍の反転攻勢にも強気の姿勢
ウクライナ軍は、東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で反転攻勢を進め、着実に前進しているとする一方で、ロシア側による激しい攻撃に直面していることも認めていて、双方の攻防が激しくなっているとみられます。
プーチン大統領は16日、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開かれた「国際経済フォーラム」の全体会合で、反転攻勢をめぐる司会者の質問に対し「ウクライナ軍はその目的を達成できていない」と述べ、ロシアが撃退していると重ねて主張しました。
そして、ウクライナは長期戦で自国の軍備を使い果たすとした上で「彼らの兵器はすべて外から持ち込まれたもので、それでは長く戦えない。ウクライナ軍に勝ち目はない」と主張して、強気の姿勢を示しました。
国防費増額の方針示す
一方、プーチン大統領は演説で「防衛と安全保障を強化し、兵器を購入するためには追加の資金が必要であり、ロシアの主権を守るためにはこれを行う義務がある」と述べ、ウクライナへの侵攻を続ける中、国防費を増額する方針を示しました。
また、ロシアのことしのGDP=国内総生産は最大で2%まで成長する見通しだと主張したうえで「これによって、ロシア経済は世界の主要国の中での地位を維持できる」と述べ、欧米の経済制裁が強化される中でも、ロシアは経済面でも存在感を示していくと強調しました。
また、中国やインドなどとの関係強化をアピールした上で、17日にアフリカ諸国の首脳との会談を控える中「アフリカにも大きなチャンスがある」と述べ、新興国や途上国との連携を強めていく考えを強調しました。
米国務長官「ロシア 核兵器使用の兆候ない」
プーチン大統領が隣国ベラルーシへのロシアの戦術核兵器の搬入がすでに始まっていると明らかにしたことについて、アメリカのブリンケン国務長官は16日の記者会見で「引き続き状況を注意深く監視していく」と述べました。
その上で「ロシアが核兵器を使用する準備を進めているという兆候は見られない」と述べ、アメリカの核の態勢を変更する理由は見当たらないとする見解を示しました。
また、ホワイトハウスの報道担当者は記者団に対し「プーチン大統領による、核に関するこのような発言は非常に無責任だ」と述べて非難するとともに、アメリカとしてNATO=北大西洋条約機構加盟国の防衛への関与は揺るぎないと改めて強調しました。
専門家「新興国・途上国との関係強化を加速」
ロシアのプーチン政権がウクライナ侵攻を続ける中で、開催している大規模な国際経済会議について、国立の研究機関の専門家はNHKのインタビューに対し、ロシアは中国や「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国との関係強化の動きを加速させていると指摘しました。
侵攻を続けるロシアに対し、欧米など各国は経済制裁を強め、ロシア市場から国際的な企業の撤退が相次いでいます。
こうした状況についてロシア科学アカデミーの中国・現代アジア研究所、キリル・ババエフ所長は「ロシアビジネスを東方に方向転換させ、新たなパートナーとしてアジア、アフリカ、ラテンアメリカを模索している。去年からこの動きが加速している」と指摘しました。
そのうえでロシアが期待する中国について「中ロ関係は発展の最高潮にある。中国のロシアへの姿勢は、リスクに対する懸念から可能性への期待に移行している。中国の政権側からロシアとビジネスしてもよいというシグナルがみられる」と述べ、欧米の制裁が強まる中でも中国側からも経済協力の動きが進んでいるという認識を示しました。
また「グローバル・サウス」との関係について「かつてソビエトはアフリカ市場に非常に積極的だったが、ロシアは現在、この流れに復帰しようとしている」と指摘しています。
さらに、欧米による制裁でロシアがドル決済から締め出される動きを踏まえて「国際間の決済でBRICS=新興5か国はドルをやめた決済に移行しようと積極的に協議している。近いうちに何らかの決定が生まれる可能性もある」と述べ、アメリカに対抗してロシアや中国などが加わるBRICSの通貨で決済するシステム作りが進むという見方を示しました。
●ロシア経済は健全、安全保障強化で軍事費増大が必要=プーチン氏 6/17
ロシアのプーチン大統領は16日、ロシアの経済的健全性を巡る肯定的なデータを示し、国家安全保障の強化に向けて国防費の急増が必要だと述べた。
プーチン氏はサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで演説し、ロシアの財政はおおむね均衡していると述べ、年初来の420億ドルの財政赤字は計画された支出の一部を前倒ししたことが主因だとした。
ただアナリストは、エネルギー収入の低迷と軍事費の高騰が大きな要因とみている。
ウクライナについては特に言及することなく、「防衛と安全保障を強化するため、軍備増強に向けた追加財源が必要だった。自国の主権を守るために、そうせざるを得なかった。全体として、これは経済的な観点から正当化されると言うべきだろう」と述べた。
●「ゼレンスキー氏は非ユダヤ系」 プーチン氏、根拠は友人の話 6/17
ロシアのプーチン大統領は16日、ウクライナのゼレンスキー大統領について「私にはユダヤ系の幼なじみが多いが、彼らが言うに、ゼレンスキー氏はユダヤ系ではなく、ユダヤ人に恥辱を与えている」と主張した。サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラムで発言した。
プーチン氏は「友人の話」以外に根拠を示していない。ゼレンスキー氏は、自身がユダヤ系だと公表している。
●ウクライナ、軍備が完全欧米依存になりつつある=プーチン大統領 6/17
ロシアのプーチン大統領は16日、ウクライナは間もなく自国の軍備を使い果たし、西側から供給される軍備に完全に依存することになるとし、長期間にわたる戦闘能力を失うと述べた。
サンクトペテルブルグで開催された経済フォーラムでの発言。プーチン氏はウクライナの反攻は進まず、ロシア軍に対して「勝ち目がない」と述べた。
ロシア国防省は16日、過去24時間にウクライナ軍が複数の前線で試みた反撃の数々を撃退し、大きな損失を与えたと発表した。
●ベルルスコーニ氏に黙とう プーチン氏、国際会議で 6/17
ロシアのプーチン大統領は16日、北西部サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラムで、今月12日に死去したイタリアのベルルスコーニ元首相について「明るくエネルギッシュで、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の正常な長期的関係づくりに大きく貢献した人だった」とたたえた。会場に1分間の黙とうを提案し祈りをささげた。
ベルルスコーニ氏は、ロシアがNATOとテロ対策などで協力する「NATOロシア理事会」創設で合意した2002年5月の特別首脳会議をイタリア首相としてローマ近郊で開催。14年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合後もプーチン氏と親密な関係を保った。
プーチン氏は16日、19年に死去したシラク元フランス大統領にも言及。「本当に博識だった」とし「なぜ米国の指導者たちはあんなに攻撃的で長期的視野がないのかと聞いたら、ロシア語で『教養がないからだ』と答えてくれた」と述べ、会場を沸かせた。
●ゼレンスキー氏「露軍の激しい抵抗に直面」、米欧に防空支援求める… 6/17
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は15日、米NBCニュースのインタビューで、南・東部での大規模な反転攻勢に関し、「最前線の兵士たちは露軍の極めて激しい抵抗に直面している」と述べた。
戦況は「おおむね前向きにとらえているが非常に厳しい」と述べ、米欧諸国に防空能力強化を中心にした追加支援を呼びかけた。露軍の激しい抵抗については「この戦いでの敗北はロシアにとって敗戦を意味するからだ」と指摘した。
ウクライナ軍は抵抗を受けながらも進軍を続け、ウクライナの国防次官は15日、反転攻勢を展開する三つの戦線で各約1Km前進したと明らかにした。
●ロシア軍が多重の防衛線、通信妨害や無人機投入… 6/17
ウクライナ軍によるロシアへの大規模な反転攻勢に対し、露軍は攻撃ヘリの大量投入や通信妨害といった新しい手法で抵抗している。南部では重層的な防衛線を敷き、ウクライナ軍を阻む狙いだ。米欧はウクライナに防空システムの供与などの支援を表明したが、反転攻勢は長期化する可能性も指摘されている。
士気低下も
戦況を分析する米政策研究機関「戦争研究所」は15日、東部ドネツク州南西部から南部ザポリージャ州西部に延びる二つの戦線の情勢に関し、「露軍はドクトリンに沿った秩序だった防衛を維持している」との見方を示した。
露軍の防衛で注目されるのが、敵の通信を妨害する「電子戦装置」の積極運用だ。ウクライナの大規模反攻は、工兵なども参加する「諸兵科連合」作戦で、通信が遮断されると部隊間の連携が困難になる。
露軍は通信を妨害しながら、これまで温存してきた対戦車ヘリや自国製の自爆型無人機「ランセット」を使って、ドイツ製戦車レオパルト2や米国のブラッドレー歩兵戦闘車を狙い撃ちした。4月に流出した米政府の機密文書で、ウクライナ軍は前線で使う主要防空システムの弾薬が不足していることが暴露されており、空からの攻撃は弱点を突かれた格好だ。
露軍はウクライナが反攻を仕掛ける地域で、 塹壕ざんごう を掘り、地雷原を敷くなど防衛線を築いている。南部には精鋭部隊を配置しているとされ、目的地の奪還に100Km程度の進軍が必要なウクライナ軍の行く手を阻む形になっている。
米戦略国際問題研究所(CSIS)は、露軍の防衛線に関する分析で、露軍の約1000Kmに及ぶ防衛線のうち、南部ザポリージャ州が最も重層的で強固だと指摘した。中間地点にあるトクマクには環状に防衛線が張り巡らされているという。
一方、英国防省は露軍の防御に関し、統率が乱れている部隊があると指摘する。露軍はこれまでの戦闘で消耗し、士気が下がっているとの見方もあり、ウクライナ軍が付け入る隙になる可能性がある。
米欧長期支援
露軍の激しい抵抗に遭うウクライナに対し、欧米諸国の国防相は15〜16日、ブリュッセルで軍事支援会合と北大西洋条約機構(NATO)国防相理事会を開催し、長期的にウクライナ軍を支援することを確認した。15日の支援会合には約50か国が参加し、米国、英国、デンマーク、オランダの4か国が共同で、数百発のミサイルを含む防空システムをウクライナに供与することを表明した。
国防相理事会では、ウクライナに供与する弾薬の増産や、反転攻勢で損傷したウクライナ軍の兵器や装備を迅速に修理する具体策が協議され、ウクライナの兵たんを支えていく方針を確認した。16日には、米国の核運用を情報共有する「核計画グループ(NPG)」が開催され、ベラルーシでロシア戦術核の運搬が始まったことへの対応を協議したとみられる。
米国のオースティン国防長官は「戦いは短距離走でなくマラソンだ」と述べ、ウクライナの反転攻勢が長期化するとの見通しを示した。
●NATO ウクライナとの協議体を格上げ 7月の首脳会議で初会合 6/17
NATO=北大西洋条約機構は、ロシアによる軍事侵攻を受けているウクライナとの間の協議体を格上げし、7月の首脳会議に合わせて最初の会合を開くことを目指していると明らかにしました。
NATOのストルテンベルグ事務総長は、16日の記者会見で、ウクライナとの間で関係の強化や安全保障上の課題などについて話し合うために設けている協議体を、現在の「委員会」から「理事会」に格上げする方針を明らかにしました。
「理事会」でのウクライナの立場は、NATO加盟国と同等になるということで、7月、リトアニアで予定されているNATOの首脳会議に合わせて最初の会合を開くことを目指しているとしています。
背景には、ロシアによる軍事侵攻を受けているウクライナが、NATOに対し、軍事面だけでなく政治面の支援も求めていることがあります。
ゼレンスキー大統領は先に、7月のNATOの首脳会議で、ウクライナの加盟に向けて正式に手続きを始めることを決めるよう求めていましたが、加盟国からは慎重な意見も出ていて、ストルテンベルグ事務総長は記者会見で、今回の議題にはならないという見通しを示しました。
NATOとしては、ウクライナの加盟に向けた具体的な進展が難しい中、協議体を格上げすることで、関係を強化する姿勢を強調した形です。 
●「国民に怯えすぎ!」 演説するプーチン大統領、聴衆との間の「異常な距離」 6/17
ウクライナで苦戦を強いられ、国内で支持と求心力を失いつつあるとも言われるロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、いよいよ他人を信用できず「怯える」ようになったのか──。6月12日にプーチンが行った演説の様子を見た人々の間では、誰も自分のそばには近寄らせたくないという大統領の心理が表れたような、「聴衆との異常な距離感」が大きな話題となった。
ウクライナ内務省のアントン・ゲラシチェンコ顧問は、「ロシアの日」であるこの日の演説に臨むプーチンの動画をTwitterに投稿し、「小さな男が、国民を恐れながら(彼と聴衆との距離に注目)、途方もない犯罪を実行している」と述べた。
クレムリンで行われた式典でプーチンは、聴衆から不自然なほど離れた場所で演説を行った。この演説でプーチンは、最近のウクライナの反転攻勢には言及しなかったものの、自らが「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナとの戦いに参加している兵士を支援するため、ロシアへの思いによって「社会を一層強く結束させる」よう国民に呼びかけた。
スウェーデンのニュースサイト「へーラ・ヒッシンゲン」の発行人であるマルクス・ハンキンスは、「プーチンが聴衆に対して取っているディスタンスを見てほしい」とTwitterに投稿。「パラノイア(不安や恐怖によって抱く被害妄想など)がすぎるのでは?」と指摘した。
プーチンの厳格なコロナ感染対策
聴衆がプーチンの演壇からこれほど遠く離された実際の理由は分からない。可能性の1つは、大統領が新型コロナウイルスへの感染を恐れているということだろう。たしかにプーチンは近年、クレムリンでの各国指導者との会談の際、長いテーブルの両端に座ることが多いようだ。
また最近、クレムリンの元警護官が、プーチンは「自己隔離」の状態だと明かしている。ロンドンに拠点を置き、調査報道を手がける「ドシエセンター」が4月に公開したインタビューで、ロシア連邦警護庁(FSO)の元警護官のゲレブ・カラクーロフは、次のように語っている。
「(クレムリンの職員は)行事の前にはいつも2週間の隔離生活を送らなくてはならない。たとえその行事がたった15分か20分であってもだ。2週間の隔離を済ませ、条件を満たした要員が常にプールされている。彼らは『クリーン』だとして、プーチンと同じ部屋で職務を行うことが許された」
影武者であることを隠すため?
また、別の可能性も考えられる。あるTwitterのユーザーはゲラシチェンコが投稿した動画に対し、「この距離はおそらく、(演説するプーチンが)影武者であることを隠すためでもあるだろう。本物のプーチンは、ここしばらく公の場に出ていないのではないか」とコメントした。
プーチンの「影武者説」をめぐっては、ウクライナ軍情報総局のアンドリー・ユーソフ報道官が先週、ニュースサイト「ウクラインスカ・プラウダ」に対し、プーチンは公式行事では影武者を使うと述べていた。
「プーチンは影武者を使っている」とユーソフは語り、「これは、工作員による情報と、人相学者など多くの専門家の評価に基づく事実である」と明言した。
英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)の上級コンサルティング研究員キーア・ジャイルズは3月に本誌に対し、ロシア占領下にあるウクライナの港湾都市マリウポリに訪問したのはプーチン本人ではなく影武者だった可能性があると指摘した。影武者まで使ってマリウポリ訪問を「演出」したのは、「戦争での成功物語を自国民に伝える必要があったから」だと説明した。
なお、クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官はこれまで、プーチンの影武者の存在を否定しており、4月にはそうした報道は「うそ」だと述べた。
●プーチン大統領が孤立°激\連カザフスタンなど離脱 6/17
ロシアのウクライナ侵略をきっかけに、旧ソ連諸国の「プーチン離れ」が加速している。ウクライナやモルドバが欧州連合(EU)加盟を目指すほか、他の旧構成国の間でもロシア指導部への支持率が軒並み急落するなど、求心力に陰りが目立つ。時代錯誤の「ソ連復活」をもくろむプーチン大統領だが、待ち受けるのは「反ロシア・反プーチン連合」か。
14日から開かれた「ロシア版ダボス会議」と称されるサンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)で注目を集めたのが、旧ソ連カザフスタンのトカエフ大統領が欠席したことだった。トカエフ氏はこれまでもロシアのウクライナ侵略に苦言を呈したり、ウクライナの親露派地域を「国家承認」しないなど、ロシアと一線を画す態度を示していた。
一方、旧ソ連のモルドバで今月1日に開かれたEU加盟国と近隣諸国の新たな連合体「欧州政治共同体(EPC)」の首脳会合にはウクライナのゼレンスキー大統領も出席し、連帯を確認した。モルドバはロシアと決別し、欧州に接近する姿勢を鮮明にしており、EUは昨年6月、ウクライナとともにモルドバも加盟候補国に認定した。旧ソ連ではエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国はすでにEUと北大西洋条約機構(NATO)にそれぞれ加盟している。
米世論調査会社ギャラップは5月26日、「帝国の黄昏? 自らの裏庭で支持を失う」と題する調査を公表した。ロシアのウクライナ侵略を受け、旧ソ連諸国の大半でロシア指導部に対する支持が急落したとする内容だ。前出のモルドバに加え、アルメニア、カザフスタン、アゼルバイジャンの4カ国では不支持の割合が支持の割合を上回った。
アルメニアは支持が2021年の45%から22年には32%に低下、不支持は38%から58%に上昇した。
旧ソ連諸国のロシア離れが進むにもかかわらず、プーチン氏は「ソ連回帰」にまっしぐらだ。経済を立て直す「創造的企業活動の5カ年計画」や、多産の女性に勲章を授ける「母親英雄制度」、青少年に国への奉仕を教える「ピオネール運動」など、ソ連時代を模倣した制度を次々と復活させている。
筑波大の中村逸郎名誉教授は「プーチン氏は帝国としてのソ連復活に傾いている。EUと中国の間でロシアが埋没していることを嫌い、『ロシアの栄光』の復活を望んでいるようだ。ソ連回帰を望まない旧構成国の間で『反露・反プーチン連合』が作られる可能性もある」と指摘した。
●プーチン大統領、ロシア軍はキーウ中心部を破壊可能 そうしないだけ 6/17
プーチン大統領は16日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムの全体会合で演説し、ロシア軍はウクライナの首都キーウ中心部を破壊することができるが「様々な理由から」そうしないだけだと述べた。ただ、その理由については言及しなかった。
また同大統領は、ウクライナと国境を接する西部ベルゴロド州などで攻撃が相次いでいることについて、ロシア軍の目をほかの前線からそらすための試みだと述べた。
●プーチン氏、「醜悪な新植民地主義」の終焉宣言 6/17
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は16日、国際政治における「新植民地主義」の終焉を宣言した。
プーチン氏はサンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)で、「国際関係における醜悪な新植民地主義は消滅し、多極的な世界秩序が強化されている」「これは必然だ」と述べた。
プーチン氏は、国際政治における米国の一極支配を繰り返し批判し、ウクライナ侵攻はモラルが崩壊している西側諸国との戦いという位置付けを図っている。
AFPを含め、ロシアに「非友好国」と見なされた国の報道機関は、SPIEFの取材を認められなかった。
●プーチン大統領 ウクライナが求めるF16戦闘機巡りNATOをけん制 6/17
領土の奪還を目指してウクライナ軍が反転攻勢を進める中、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナに供与された戦車を相次ぎ破壊していると主張したうえで、ウクライナが求めているF16戦闘機を巡ってNATO=北大西洋条約機構をけん制しました。
ウクライナ軍は東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で反転攻勢を進めています。
マリャル国防次官は16日、SNSで「南部では戦術的な成功を収め徐々に前進している」とアピールした一方、ロシア軍の航空戦力が優勢な中、攻防が激しくなっていると明らかにしました。
戦況を分析しているイギリス国防省は17日、ウクライナ南部でロシア軍は攻撃用ヘリコプターの部隊を強化し、前線から100キロほど離れた、アゾフ海に面したベルジャンシクの空港に20機以上のヘリコプターが追加配備されたという見方を示しました。
そのうえで「南部ではロシア軍が一時的に優位に立っているとみられる」と分析しています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は16日、サンクトペテルブルクで開かれた国際会議の中で、ウクライナの反転攻勢を撃退し、ドイツ製の戦車を相次ぎ破壊していると主張しました。
そして、ウクライナが欧米に求めているF16戦闘機も同様に破壊するとしたうえで「仮にウクライナ国外の基地に配備され戦闘に使われた場合、これをどこでどのように破壊するか検討せざるをえない。NATOを紛争にさらに引きずり込む深刻な危険性をはらんでいる」と述べ、NATOをけん制しました。
プーチン大統領は17日、日本時間の17日夜、前の日にウクライナを訪問した南アフリカなどアフリカの7か国の首脳らとサンクトペテルブルクで会談する予定で、ウクライナ情勢をめぐって意見を交わすものとみられます。
●ドニプロ川の渡河作戦、東岸で銃撃戦…ウクライナが反撃拠点の橋頭堡 6/17
ロシアの有力紙イズベスチヤは16日、ウクライナ軍が南部ヘルソン州のドニプロ川東岸のノバカホフカに上陸を試み、東岸を占領する露軍と銃撃戦になったと報じた。
ウクライナ軍関係者は16日、自国部隊がノバカホフカに反撃拠点となる 橋頭堡きょうとうほ を確保する作戦を開始したとSNSで明らかにした。
イズベスチヤの現地からの報道によると、銃撃戦は15日夜、ノバカホフカで起きた。カホフカ水力発電所ダムの決壊で洪水被害を受けた地域だが、当時、水は引いていたという。
ウクライナ軍は大規模反攻でドニプロ川を渡河して東岸に上陸し、南部クリミア方面に進軍するシナリオが取りざたされていたが、ダム決壊で先送りを余儀なくされていた。
ウクライナ軍は南・東部で続ける大規模な反転攻勢で目的地の奪還に向け露軍の戦力分散を図っている。東岸への攻撃もその一環とみられる。ウクライナ軍南部方面部隊の報道官は16日、露軍が東岸に部隊を戻し始めたと指摘した。
ウクライナの陸軍司令官は16日、東部ドネツク州の要衝バフムトを巡る攻防に関し、ウクライナ軍が進軍を続けており、露軍が部隊をバフムトに増強し続けているとSNSで強調した。
ウクライナ軍が反攻で奪還を目指す拠点都市が集中する南部ザポリージャ州一帯の二つの戦線に関し、ウクライナの国防次官は16日、露軍の航空戦力と火力の優勢を認めつつ、「それぞれ約2キロ・メートル前進し、戦術的な成功を収めている」とSNSで強調した。
●G20農相会合、共同声明見送り ロシアの侵攻、多くの国が非難 6/17
日米欧の先進国に新興国を加えた20カ国・地域(G20)農相会合が16〜17日の日程で、インド南部ハイデラバードで開かれた。多くの国がロシアによるウクライナ侵攻を非難し、日本から参加した野村哲郎農相は世界の食料安全保障に悪影響を及ぼすと強調した。ロシアを含む参加国の意見の隔たりから、共同声明の採択は見送られた。
インド政府は17日、協議の概要をまとめた議長総括を発表。ウクライナ侵攻に伴う世界的な食料不安の軽減に向け、黒海を通じたウクライナ産穀物輸出のためのロシアとウクライナ、トルコ、国連の4者合意を継続的に実施する必要があるとした。一方で、ロシアと中国は反対したとも注記した。

 

●プーチン大統領 アフリカ代表団とウクライナ和平めぐり協議 6/18
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ情勢をめぐり和平仲介に意欲を示すアフリカ7か国の代表団と会談し、和平交渉を拒否しているのはウクライナ側だと主張しました。
ロシア プーチン大統領「ウクライナ代表団の責任者は文書に署名した。ここにあります。文書は存在します」
17日行われたアフリカの代表団との会談で、プーチン氏は“ウクライナが去年3月にロシアに提示したとする停戦合意の草案となる文書”を示して、「彼らはそれを歴史のごみ箱に捨てた」と述べ、“ウクライナ側が態度を翻し、交渉を拒否した”と一方的に主張しました。
交渉をめぐっては、当時、キーウ近郊ブチャでの多数の民間人殺害が明らかになり、その後の進展はみられませんでした。
会談で、南アフリカのラマポーザ大統領は、「交渉と外交を通じて解決すべきだ」と主張。“侵攻が食糧危機などを引き起こしている”として、“戦争を終わらせなければならない”と訴えました。
●ロシア・プーチン大統領 「ウクライナ側が対話を拒否」と主張 6/18
ロシアのプーチン大統領がアフリカ7カ国の首脳らと会談し、ウクライナ側が対話を拒否していると主張しました。
プーチン大統領は17日、和平仲介のためにロシアを訪れた南アフリカのラマポーザ大統領などアフリカ7か国の首脳らとサンクトペテルブルクで会談しました。
プーチン氏は「ロシアは対話にオープンだ」と主張し、「我々ではなく、ウクライナがいかなる交渉もしないと発表した。さらにウクライナ大統領は交渉を禁止する法令に署名した」と述べました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は去年10月、ウクライナ東部4州について、ロシアが一方的に併合を宣言したことを受け「ロシアと交渉する用意はあるが、プーチン氏とは無理だ」と明言し、プーチン氏との停戦交渉は「不可能」だとする法令に署名しています。
また、ゼレンスキー氏は「停戦交渉はロシア軍が占領地域から撤退した後に可能になる」との立場を繰り返し強調しています。
●プーチン氏、ウクライナ非難に終始 アフリカ「仲介」成果得られず―ロシア 6/18
ロシアのプーチン大統領は17日、ウクライナ侵攻で和平を仲介するアフリカ7カ国の首脳らとサンクトペテルブルクで会談した。「和平案」を説明する南アフリカのラマポーザ大統領らに対し、プーチン氏は「交渉しないと宣言したのはウクライナの方だ」と述べ、ゼレンスキー政権への非難に終始した。
ラマポーザ氏らが16日にウクライナを訪れた際、ゼレンスキー大統領はロシア軍撤退が交渉入りの条件だと主張。双方の立場の相違が改めて浮き彫りになった形で、アフリカ7カ国の「仲介外交」は目立った成果を得られなかった。
●「核の恫喝」 米欧との埋めがたい溝 プーチン氏、過激化する発言 6/18
ウクライナ侵攻を進めるロシアのプーチン大統領が16日、隣国ベラルーシへの戦術核兵器の配備が始まったとし、年末までに完了すると明らかにした。ウクライナや同国に支援を続ける米欧に「核の脅し」で威嚇したもので、国際社会が強く反発するのは必至だ。
プーチン氏はサンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで、「最初の核弾頭がベラルーシ領に搬入された」と述べた。ソ連崩壊後、ロシアが国外に核兵器を配備するのは初めて。
ロシアの核戦力には「競争の優位性がある」とも誇り、今回の配備はロシアにとっての抑止力だと強調。「我々を戦略的に攻撃しようとする者が、状況を忘れないようにするためだ」と主張した。核を使う条件として、領土保全や主権、国家の存立が危うい場合としたが、「いまは使う必要がない」とも述べた。
核兵器をちらつかせた恫喝(どうかつ)により、ロシアへの圧力を強めるウクライナや米欧を牽制(けんせい)し、ウクライナへの軍事支援の一層の拡大を防ぐ意図もあるとみられる。
ベラルーシへの戦術核兵器の配備は、プーチン氏が3月、ベラルーシ側の求めに応じて「合意した」と発表した。ベラルーシは、ロシアと「連合国家」を名乗る同盟国。プーチン氏と近いルカシェンコ大統領も、戦術核の配備は自国の防衛に役立つとしている。
ただ、ルカシェンコ大統領が先月、核弾頭の搬送が始まったと述べた一方、プーチン氏は今月、戦略核の保管施設が完成する7月以降に配備すると話したばかり。発言への信頼性が揺らぐ形となった。
一方、フォーラムでは、プーチン氏による根拠が明らかでないウクライナ批判がさらに過激さを増した。
●プーチン大統領 アフリカ7か国首脳ら代表団と会談 6/18
ロシアのプーチン大統領は、南アフリカなどアフリカの7か国の首脳らでつくる代表団と会談を行い、ウクライナへの軍事侵攻を正当化するみずからの立場を主張するとともにアフリカ各国との連携を強化する考えを示しました。
ロシアのプーチン大統領は17日、南アフリカのラマポーザ大統領やセネガルのサル大統領などアフリカの7か国の首脳らとロシア第2の都市サンクトペテルブルクで会談しました。
会談の冒頭でプーチン大統領は「ウクライナ危機に対するアフリカの友人たちのバランスのとれた関与を歓迎する」と述べた上で、ウクライナへの軍事侵攻を正当化するみずからの立場を主張しました。
一方、ラマポーザ大統領は「戦争の影響で私たちの大陸ではエネルギーや肥料の価格が高騰している。戦争を終わらせて欲しいという明確なメッセージを伝えるため本日ここにいる」と述べ、和平の実現に向けて仲介役を務める意欲を示しました。
プーチン大統領はこれまでに、欧米などの制裁によってロシア産の農産物の輸出が滞っているとして、ウクライナからの農産物の輸出をめぐる合意から離脱する構えを示す一方で、アフリカ各国にロシアの農産物や肥料を無償で提供する用意があると表明しています。
この日の会談でも「何があろうとアフリカ諸国が苦しむことがあってはならない」などと寄り添う姿勢を示し、ウクライナ情勢をめぐって欧米側との関係が断絶する中、アフリカ各国との連携を強化し、欧米に対抗するねらいがあるとみられます。
アフリカの首脳らは、これに先立つ16日、ウクライナでゼレンスキー大統領とも会談し、農産物や燃料などの価格高騰に苦しむ中、直接双方に停戦を訴えた形です。
●アフリカ首脳、ウクライナ停戦促す プーチン氏「仕掛けたのは西側」 6/18
南アフリカのラマポーザ大統領をはじめアフリカ7カ国の首脳らが17日、ロシアのサンクトペテルブルクでプーチン大統領と面会し、交渉によるウクライナとの停戦を呼びかけた。一方、ロイター通信によると、プーチン氏はウクライナと西側諸国が戦争を先に仕掛けたなどと持論を展開。交渉を妨げているのはウクライナ側だと非難した。
南アの国営放送によると、ラマポーザ氏は戦争による穀物や燃料価格の世界的な高騰を指摘し、「この戦争は世界中の様々な国に多くの不安定さと損害を及ぼしており、今こそ双方が交渉で戦争を終わらせる時だ」と主張。アフリカ諸国も経済的な打撃を受けていると強調し、早期の停戦とともに、黒海の穀物輸送を開放することも提案した。
ロイター通信によると、プーチン氏は、食糧価格の高騰はロシアではなく西側に責任があると反論。黒海経由のウクライナの穀物は裕福な国に輸出されているため、アフリカの困難を緩和することにはつながらないなどと訴えたという。
アフリカ首脳らの使節団は16日にウクライナでゼレンスキー氏と面会して停戦交渉を促したが、ロシア軍がウクライナ領にいる状況では交渉に応じないと拒否されていた。
●日本では報道されないウクライナの大苦戦と損失 6/18
ウクライナの戦況の実態についてお伝えする。日本ではまったく報道されていないが、今週ある重要なニュースがあった。NATOの前事務総長のアンデルス・ラスムセンがNATO軍の有志連合の派兵を主張したのだ。
伝えられていないウクライナの戦況
日本を含めた西側の主要メディアでは、ウクライナ軍の反転攻勢が成功し、ロシアに占領されていた領土が次々と奪還されているいう印象を与える報道が多い。
ウクライナ国防省のマリャル次官は12日、これまでにドネツク州西部のマカリウカやザポリージャ州東部のノボダリウカなど7つの集落を奪還し、解放した領土は90平方キロメートルに上るとSNSで明らかにした。
また、ドネツク州の拠点で先月、ロシア側が掌握を主張したバフムトの周辺でもウクライナ軍の部隊が前進を続け、一部で領土を奪還したとしていて、ゼレンスキー大統領は12日、「われわれの兵士は成果をあげている」と自信を示した。
一方、ロシアは、ウクライナ軍の反転攻勢の成功を否定している。13日、プーチン大統領は、モスクワのクレムリンでロシア軍に従軍する記者を集めた会合を開き、このなかで、プーチンは、ウクライナの反転攻勢が今月4日から始まったとしたうえで「敵は成功せず、多大な死傷者を出している。われわれの損失は、ウクライナ軍の10分の1ほどだ」と述べ、ロシア軍が撃退していると強調した。
また「ウクライナ軍は160両以上の戦車や、360台以上の装甲車を失った。これは外国から供与された軍装備品の25%、おそらく30%に相当する」と述べ、ウクライナ軍や欧米から供与された兵器に「深刻な損失」が出ていると主張した。
このように、西側とウクライナ、そしてロシアではまったく異なる情報が報道されているので、本当のところ実際はなにが起こっているのかかなり分かりにくい状況になっている。
しかし、現場にいるパトリック・ランカスターのような独立系のジャーナリストの情報を含め、日本では報道されていない情報を丹念に調べると実際の状況がはっきりと見えてくる。
ウクライナはロシアの防衛線を突破できていない
まず、ウクライナ軍は南部サボリージャ州東部の7つの集落を奪還したのは事実である。これは現地にいるジャーナリストや、ウクライナ軍の戦闘部隊が撮影してテレグラムのチャンネルにアップロードした画像やビデオ、またロシア軍の兵士による同様のビデオなどでも確認できる。
日本を含め欧米の報道では、今回奪還した集落そのものは戦略的な拠点ではないものの、ウクライナ軍はこれを足掛かりにサボリージャ州のロシアが占領している交通の要衝、「トクマク」を奪還し、その後、ドネツク州の「マウリポリ」まで進撃して、アゾフ海に至る広大な地域を奪還することが狙いではないかとしている。
主要メディアは、今回の7つの集落の奪還は、計画実現の第一歩になるという楽観的な印象を流している。
しかし、ウクライナ軍が奪還した7つの集落は、ロシア軍が「セキュリティゾーン」と呼ぶエリアにあり、ロシア軍の防衛線の内側にある地域ではないことは分かる。「セキュリティゾーン」とは、ロシア軍の防衛線の外側にあり、ウクライナ、ロシアのどちらの側の支配にも明確にはないグレーゾーンである。その時々の戦況によって、ウクライナが支配したりロシアが支配している。ロシア軍はこの「セキュリティゾーン」を、防衛線の手前にある緩衝地帯として認識しているようだ。
ウクライナ軍が占領したと主張する7つの集落は、すべてこの「セキュリティゾーン」にある。以下のBBCの記事に掲載されていた地図を拡大した。確認してほしい。
この地図では、赤がロシア軍の占領地、赤の斜線がロシア軍が部分的に占領している地域、そしてグレーがウクライナ軍が奪還した地域に分かれている。赤の斜線とグレーの地域をロシア軍は「セキュリティゾーン」と呼び、強固な防衛線で守られた赤い地域の占領地域とは分けて考えているようだ。
ちなみにロシア軍の占領地域は、数百キロもある防衛線で頑強に防御されている。昨年の12月にニューヨークタイムス紙は、この防衛線を詳しく示した図を掲載した。
この記事にある防衛線の図を拡大して掲載した。確認してほしい。
このようにロシア軍の支配地域は、非常に強固な防衛線で守られている。先に示したウクライナ軍が奪還したと主張する7つの集落は、明らかにロシア軍の防衛線の外側に位置している。ということは、いまのとことウクライナ軍は、ロシア軍の防衛線を突破できていないことははっきりしているようだ。
このような現状を見ると、これからウクライナ軍が防衛線を突破してロシア軍の占領地域の奥深くまで進攻し、内陸の「トクマク」を奪還するというのは大変に困難なように見える。これを実現するためにはロシア軍の防衛線を突破しなければならないが、それはあまりに大きな損失をウクライナ軍に与える。
すでにウクライナ軍は防衛線への攻撃を激化しているだろうが、かなりの損失が出ていると思われる。その意味ではプーチンの述べたことのほうが、現実を反映していると思う。
「敵は成功せず、多大な死傷者を出している。われわれの損失は、ウクライナ軍の10分の1ほどだ」
続々と報道されるウクライナ軍の損失
前回の記事 でも紹介しているが、ウクライナ軍、ロシア軍双方の情報を詳しく報告しているテレグラムのロシア語チャンネル、「ライバー」などを見ると損害の大きさが分かる。ちなみに「ライバー」はツイッターで英語チャンネルも持っている。
例えば、ウクライナの反攻作戦の主力部隊である第33機械化旅団と第47突撃旅団の工兵大隊は、マラ・トクマチカの南の攻撃で大きな損失を被った。それらには、レオパルト2戦車、M-2ブラッドレー、レオパルト2R、IMR-2、ベルゲパンツァーなどの戦闘車両だ。ちみにレオパルド2Rは、69トンのディーゼルエンジンを搭載したレオパルド2A4戦車で、フィンランドのパトリア社が砲撃戦専用の車両に改造したものだ。フィンランドがウクライナに供与した6両のうち半数の3両を失った。
オープンソースの情報分析によると、ウクライナ軍が南部サボリージャ州や東部ドネツク州の攻勢でロシアから7つの村を奪取したものの、過去数日間に米国から供給された装甲車16台を失っている。
ウクライナにおける軍事装備の損失に関する視覚的証拠を収集してきたオランダのオープンソース情報サイト、「Oryx」によれば、ここ数日で破壊されたか損傷して放棄された16台の米国製ブラッドレー歩兵戦闘車は、アメリカがウクライナに与えた109両のほぼ15%に相当する。ブラッドレーは、ウクライナが戦争で失った3,600両近い軍用車両のうちの1つだという。
次の段階はNATOの有志連合軍の介入か?
おそらく日本では、ウクライナに不利な報道は極力抑制されるだろう。だから、ウクライナ軍がロシア軍の防衛線を突破できていないとか、ウクライナ軍の損失の大きさはまったく報道されないか、または報道されたとしても小さな扱いになるだろう。
ウクライナ、そして欧米にはウクライナの敗北というシナリオは存在しない。ウクライナの勝利以外のシナリオは考えられないのだ。先のテレグラムチャンネルの「ライバー」は、ドイツからポーランドに2つの鉄道路線で、膨大な兵器が輸送されている地図を公開している。こうした状況から見て、ウクライナ軍の反転攻勢はこれから本格化することは間違いない。
しかし、反転攻勢が成功すればよいが、失敗するとどういうことになるのだろうか?
CIAの元長官で米中央軍の司令官だったデビッド・ペトレイヤス将軍はウクライナ軍が負けそうになったら、ポーランド軍とルーマニア軍を主軸にしたNATOの有志連合軍の地上軍の派兵を昨年提案していた。
日本ではまったく報道されていないが、今週ある重要なニュースがあった。NATOの前事務総長のアンデルス・ラスムセンがNATO軍の有志連合の派兵を主張したのだ。
ラスムセンは、7月にリトアニアの首都、ビリニュスで開催されるNATO首脳会議で、ウクライナのNATO加盟の道筋がつかない場合、ウクライナに軍隊を派遣する可能性があると語った。以下はガーディアン紙のインタビューからだ。
「NATOがウクライナのために進むべき明確な道について合意できない場合、いくつかの国が個別に行動を起こす可能性は明らかだ。ポーランドがウクライナへの具体的な支援に非常に熱心に取り組んでいることは知っている。そして、ポーランドがこの文脈で国家単位でさらに強く関与し、それにバルト諸国が続き、もしかしたら地上部隊の可能性を含むかもしれないという可能性も排除しない」
さらに、駄目押しするかのように次のようにも言っている。
「ウクライナがビリニュスで何も得られなかったら、ポーランドは本気で乗り込んで有志連合を組むことを検討すると思うんです。ポーランド人は、あまりにも長い間、西ヨーロッパがロシアの真のメンタリティに対する警告に耳を傾けなかったと感じているのです。
NATOの同盟国の中には、ウクライナの加盟に関する真の議論を避けるために、安全保障に賛成しているところもあるかもしれません。安全保障を提供することで、この問題を避けられると期待しているのだ。そんなことはあり得ないと思う。NATOの問題は、ビリニュスでのサミットで提起されると思う。私は何人かの東欧の指導者と話をしたが、少なくともウクライナがNATO加盟に向けた明確な道を歩むことを望む、筋金入りの中欧東部の同盟国がいる」
これは極めて重要な発言だ。ポーランド以外の中欧東部の国々とはどこだろうか?ルーマニアとチェコだろう。おそらくバルト海三国もこれに含まれる。
第三次大戦の引き金が引かれるやばさ
もちろん日本では、ウクライナの勝利しているかのような報道がされるだろうが、筆者の見るところ、ウクライナ軍の反転攻勢が成功するとは思えない。
だが、もしそうした状況になった場合、なのが起こるだろうか?
ラムンセン前NATO事務総長が語ったように、ポーランド軍、ルーマニア軍、チェコ軍そしてバルト海三国などが有志連合を結成して、地上軍をウクライナに派兵する可能性が出てくる。これは本当に怖いことだ。本当に注目していなければならない。 
●「ウクライナでの戦争は終わらせなくては」 南アフリカ大統領がプーチン氏に 6/18
南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は17日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、ウクライナでの戦争は終わらせるべきだと述べた。
ラマポーザ大統領はこの日、アフリカ7カ国によるロシアとウクライナに提示する平和イニシアチブの一環として、ロシア西部サンクトペテルブルクでプーチン氏と会談した。
この代表団は16日には、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とキーウで会談。ゼレンスキー氏は、ロシアがウクライナの領土を占領している間はロシアと協議しないと話していた。
17日の会談でプーチン氏は、ウクライナが常に話し合いを拒否してきたのだと述べた。
ラマポーザ大統領は両国に対し、戦争捕虜の帰還を要請。また、ロシアがウクライナから移送した子供たちを家に帰すべきだと述べた。
国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、子供の不法な移送が戦争犯罪に当たるとして、プーチン大統領らに逮捕状を出している。
アフリカ諸国の代表団がこの件に触れようとすると、プーチン氏は発言を遮り、「子どもは神聖な存在だ。私たちは彼らを紛争地域から移動させ、命と健康を守ったのだ」と述べた。これについて国連は、数百人のウクライナの子供が違法にロシアへ移送された証拠を入手したとしている。
ラマポーザ氏はさらに、戦争がアフリカに与える影響についてプーチン氏に警告し、外交で解決すべきだと述べた。
「戦争を永遠に続けることはできない。すべての戦争は、どこかの段階で決着をつけ、終わりを迎えなければならない」
「我々は、この戦争を終わらせてほしいという明確なメッセージを伝えるためにここにいる」
この戦争では、ウクライナからの穀物やロシアからの肥料の輸出が著しく制限され、特にアフリカ諸国が影響を受け、世界の食糧難が激化している。
しかしプーチン氏は、穀物危機はウクライナでの戦争ではなく西側諸国が起こしているものだと批判。昨年に国連があっせんした、ウクライナ産の穀物を黒海経由で輸出するための国際合意では、最貧国に届く穀物は輸出量のわずか3%だと述べた。
ロシアはこれまでも、西側の制裁によって農産物輸出が制限されていると繰り返し非難している。クレムリン(ロシア大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官は、「現時点で約束が実行されていない」ため、穀物輸出の合意を「延長する根拠がない」と述べている。
アフリカ諸国のさまざまな立場
プーチン氏は一方で、「特別軍事作戦」をめぐるアフリカの姿勢について、バランスが取れていると評価した。
代表団は、南アフリカ、エジプト、セネガル、コンゴ共和国、コモロ諸島、ザンビア、ウガンダの7カ国からなる。それぞれアフリカの異なる地域を代表し、戦争に対しても異なる姿勢を取っている。
南アフリカとウガンダはロシア寄りとみられているが、ザンビアやコモロ諸島は西側寄り。エジプトとセネガル、コンゴ共和国は中立を保っている。
アフリカ諸国はこの戦争を、主にロシアと西側諸国の対立と見なしてきた。
代表団は16日にゼレンスキー氏とも会談。この際にラマポーザ大統領は、欧州での戦争がアフリカの12億〜13億の人々に影響を与えていると警告した。
代表団が首都キーウに到着すると、空襲警報が鳴り響いた。ウクライナのドミトロ・クレバ外相はこれを受けて、プーチン氏が「戦争をもっと」欲しているのだと説明した。
会談の中でゼレンスキー氏は、ロシアが拘束している政治犯の解放仲介が「皆さんの代表団の重要な成果」になるだろうと伝えた。
ウクライナは現在、バフムート地区の近くなどで反転攻勢を開始しており、両国の緊張は高まっている。
ロシアは、ウクライナの攻勢は失敗していると主張。対するウクライナ側は、南部の前線で100平方キロメートルを奪還したと述べている。
●プーチン氏、アフリカ諸国の和平案に異議 ウクライナも既に拒絶 6/18
ロシアのプーチン大統領は17日、ウクライナ和平交渉仲介を目指すアフリカ諸国代表団の提案の主要部分に否定的な見解を示した。ウクライナ側も既に提案の大部分を拒絶している。
アフリカの首脳らは一連の「信頼醸成措置」での合意を目指していた。
プーチン氏はサンクトペテルブルク近郊の宮殿で、セネガル、エジプト、ザンビア、ウガンダ、コンゴ共和国、コモロ、南アフリカの代表団と会談。国際的に認められた国境の受け入れを前提とした提案の想定に異議を唱えた。
また、ロシアが昨年2月にウクライナ側に軍部隊を投入するよりはるか前に、ウクライナとその西側同盟国が紛争を始めたとする見解を改めて示し、ロシアはウクライナ側との協議を拒否したことはなく、協議を拒否しているのはウクライナ側だと述べた。
ロシア側はこれまで、和平は「新しい現実」を受け入れなければならないと繰り返し表明している。
プーチン氏は、公正さと各当事者の正当な利益を認めるという原則に基づく和平構築を望む勢力となら建設的な対話をする可能性があるとした。
ロシアの通信社によると、大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は、アフリカ諸国との対話を継続すると述べた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、アフリカ諸国の代表団と会談し、ロシアとの和平交渉はロシア軍がウクライナから撤退して初めて可能になるとの見解を示した。
●反転攻勢のウクライナ軍 小さな前進も 双方に多数の死傷者か 6/18
領土の奪還を目指すウクライナ軍は、東部や南部の州で反転攻勢を続けています。イギリス国防省は、ウクライナ側に小さな前進がみられるとする一方、ロシア側も撃退しようと攻撃し、双方に多くの死傷者がでていると分析しています。
反転攻勢を進めているウクライナ軍について、戦況を分析するイギリス国防省は18日「最も激しい戦闘は南部ザポリージャ州、東部ドネツク州の西部、ドネツク州のバフムト周辺に集中している。これらすべての地域でウクライナ側に小さな前進がみられる」と指摘しました。
一方、ウクライナ南部ではロシア側が効果的な防衛作戦をたびたび実施し、双方に多くの死傷者が出ていて、特にロシア側の損失は3月のバフムトの戦闘以来、最大となる可能性が高いと分析しています。
こうした中、イギリスの公共放送BBCとロシアの独立系メディア「メディアゾナ」は16日共同の分析を発表し、ロシア軍の兵士の墓地などを現地の協力者と調査し、確認できただけでロシア軍の兵士の死者は2万5000人以上、このうち将校の死者は2100人以上になると明らかにしました。
そして、ここ3か月の戦闘では、刑務所にいた受刑者や、民間軍事会社の戦闘員、動員による兵士の死者が増加し、兵士の高齢化が進み、訓練が不十分だったと分析しています。
一方、アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは、ウクライナ南部ヘルソン州でカホウカ水力発電所のダムが決壊し、洪水の被害が拡大したことについて、外部からの攻撃ではなく、ダムを占拠していたロシア側が、内部から爆破した可能性が高いという分析を伝えました。
映像や画像の解析、専門家の分析などを基にした報道で、ダムの決壊は、これまでの戦闘などによる施設への損傷が積み重なったことで起きた事故だった可能性は低く、内部に爆発物が仕掛けられたものだったとしています。
ダムの決壊をめぐっては、ロシア側は、ウクライナ軍の攻撃によるものだとして、非難を続けています。
●伊で抗議デモ、「ウクライナ戦争終結を」 6/18
イタリアで、市民らがウクライナへの武器供与の継続とメローニ伊首相の経済・社会政策に抗議し、デモを実施しました。
国際通信イランプレスによりますと、イタリア首都ローマ中心部の街路において17日土曜夜、様々な階層の市民ら約2万人が、雇用の死守とウクライナ戦争への反対を訴えてモを行いました。
これらのデモ参加者はまたインフレの上昇、雇用安定の欠如、低賃金、医療問題にも抗議しました。
イタリア国会議員の1人、ミケーレ・グビトーサ氏は、反政府デモの傍ら、イランプレス記者に対し、「このデモは、政府が社会の弱者に損をもたらし、富裕層の利益のみを目的としている政府の誤った決定に反対する形で開催された」と語りました。
デモ参加者らはまた、反政府スローガンを叫び、ウクライナへの武器送付の停止を要求しました。
ある高齢の抗議者女性はイランプレス記者に対し、「私たちはこの好戦主義的な政府に反対すべくデモに参加した。政府はウクライナ戦争に国の予算を使うのではなく、特に教育や医療の分野での国民生活の改善に予算を使うべきだ」とコメントしています。
デモ参加者らは平和の旗と反ウクライナ戦争、反NATO北大西洋条約機構のプラカードを掲げ、「戦争を止めよ、戦争は狂気だ」とのスローガンを連呼しました。
さらに、元イタリア下院議長のロベルト・フィコ氏は、今回の反政府デモの傍らでイランプレス記者に対し「我々はウクライナ和平のための解決策を見いだすべきだ。紛争当事者らは交渉のテーブルに着くべきだ。それは、和平しか方法はないからである」と述べました。
ウクライナ戦争勃発から1年以上が経過した現在、この戦争の継続が社会・政治的分裂の増大、特にイタリアや他のヨーロッパ諸国における経済問題の増大を引き起こしていることが浮き彫りになっています。

 

●ロシア国民もロシアを見捨てつつある…ルーブル安が止まらない 6/19
資金流出で“ルーブル安”が止まらない
このところ、ロシア・ルーブルが米ドルに対して下落している。2023年の年初から6月12日までの下落率は、約13%に達した。その背景には、ロシアから流出(逃避)する資金が増えていることがありそうだ。ある意味では、ロシア国民もロシアに見切りをつけ始めているということかもしれない。
ウクライナ紛争の発生後、米欧などが一部のロシアの銀行を国際資金決済システムから排除した。ロシアから撤退する海外企業も増加し、資金は流出した。財政の悪化懸念も高まった。主要な輸出品である原油価格下落などによって、歳入は減少した。一方、ロシアの戦費は増加し、2022年の財政収支は赤字に転落した。
5月以降は、ルーブル下落などによって、ロシアのインフレ懸念も高まり始めた。5月、消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比2.5%(前月は2.3%)だ。現時点で物価上昇率はまだ低いが、ロシア中銀は今後のインフレ進行に警戒を強めている。
足許、世界的に景気の後退懸念は高まっている。原油需要は減少し、エネルギー資源の価格には下押し圧力がかかりやすくなっている。ロシアの原油関連収入は減少し、財政悪化懸念も高まるだろう。財政面からの景気下支えは難しくなりそうだ。
4四半期連続でマイナス成長に陥っている
今後の展開次第でロシアは、物価高騰と景気後退が同時に進む“スタグフレーション”と呼ばれるような、厳しい状況に陥る恐れもある。それが現実となれば、経済の厳しさが増し、国民の反戦感情も高まるだろう。ルーブル下落、インフレ上昇によって、ロシアが紛争を長期間続けることは難しくなるかもしれない。
現在、ロシア経済は後退している。先行きの状況は楽観できないだろう。2022年1〜3月期の実質GDP成長率は前年比プラス3.0%だった。その後はマイナス成長が続いている。2022年暦年の実質GDP成長率はマイナス2.1%だった。なお、2022年のマイナス成長率は、ロシア政府などの予想を上回った。要因の一つとして、輸入の伸びが抑えられた。
GDPは、個人消費、政府の支出、投資(設備投資など)、純輸出(輸出から輸入を控除)を合計することで求められる。2022年、ロシアの輸入は前年から減少した。一方、中国やインドなどによるロシア産原油の購入が、輸出の減少を食い止めた。そのため、想定ほど経済成長率は低下しなかった。
2023年1〜3月期、ロシアの実質GDPは同1.9%減少した(速報値)。4四半期連続でロシア経済はマイナス成長に陥り、景気後退は深刻だ。主たる要因として、個人消費の減少は大きい。
戦争長期化で縮小均衡に向かうロシア
冷戦終結後、ロシア経済は海外企業の直接投資を受け入れ、飲食などのサービス、アパレルなど、民間の需要を満たした。しかし、ウクライナ紛争が始まって以降、ロシアから撤退する海外企業は増えた。
ロシアの企業が撤退した企業の店舗を利用して飲食などのサービス業に進出するケースはある。それでも、消費者にとってマクドナルドなど主要先進国のブランドに匹敵する満足感を得ることは難しい。戦闘継続による先行き不透明感の上昇もあり、個人消費の減少傾向は強まった。
また、財政も悪化した。昨冬、欧州が暖冬だったこともあり、天然ガス価格も下落した。原油価格下落に加え、主要先進国はロシア産ウラル原油に上限価格を設定した。そうした影響から、ロシア政府の歳入は減少した。一方、ウクライナでの戦闘が続いているため、戦費支出は増加した。2023年1〜4月の累計でも、財政は赤字だった。
民間と政府の支出、投資、輸出のいずれにおいても、ロシア経済が短期間で持ち直しに向かうことは想定しづらい。ロシア経済は縮小均衡に向かっていると考えられる。
頼みの人民元決済も、対ドルで低下傾向
経済の先行き懸念の高まりを背景に、年初来でロシア・ルーブルがドルなどに対して下落した。ルーブル安は、自国に見切りをつけて海外に資金を持ち出し、命の次に大切なお金(資産)を守ろうとする国民の増加を示唆する。
ウクライナ紛争の発生後、米国などはロシアを国際的な資金決済システムである“国際銀行間通信協会(SWIFT)”から排除した。なお、ズベルバンクと、ガスプロムバンクは排除の対象外とされた。現在、ロシア経済は、米ドルを基軸通貨とする国際金融市場から、事実上、隔絶されている。
ロシアは経済運営のために中国との関係強化に動き、人民元建ての決済を増やした。2023年6月にはパキスタンがロシア産の原油を、人民元建てで輸入した。ただ、中国経済の成長率の低下懸念などを背景に人民元も対ドルで下落傾向にある。
2023年末のインフレ率予想は最大6.5%にも
その影響を回避するために、ロシアではさまざまな方策を用いて制裁をかいくぐり、海外に資金を持ち出そうとする人が増えた。ウクライナ紛争の発生直後、一部の富裕層はビットコインなどの“暗号資産(仮想通貨)”を用いて海外に資産を移したようだ。アラブ首長国連邦(UAE)などで仮想通貨を用いて不動産を購入し、ルーブル安から逃れようとする人は増えたと報じられた。
また、2023年6月、ロシアでは闇市場でルーブルを売って米ドルなどに変え、海外の銀行に送金する人が増えているとも報じられた。財政の悪化懸念を背景に、ルーブル建てのロシア国債が債務不履行に陥るとの懸念を持つ国民も増えているだろう。こうして外国為替市場でルーブルはドルなどに対して下落した。
ルーブル安の影響から、徐々にロシアの消費者物価指数は上昇し始めた。6月9日、ロシア中銀は事前予想通り、政策金利を7.50%に据え置いた。今後の経済の展開予想として、2023年末時点のインフレ率は4.5〜6.5%に上昇するとの予想を中銀は示し、年内の利上げの可能性が高まっているとの見解を示した。
国外脱出がルーブル安に拍車をかける
今後もルーブルは、米ドルなどに対して下落する可能性が高い。足許では、原油価格の下落リスクは高まっている。欧米では、物価が高止まりしている。連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は金融引き締めを継続する公算が大きい。それによって、世界全体で需要は減殺される。原油価格には追加的な押し下げ圧力がかかりやすくなるだろう。
今後、ロシアの財政悪化懸念は高まり、経済運営の厳しさも増しそうだ。そうした懸念から、ロシアからの脱出を考える人も増えている。ウィズコロナによって多くの国で経済活動が正常化する中、タイを訪問するロシア人観光客は急増した。一部には、そのままタイで生活したいと考えるロシア人観光客もいると報じられた。
ロシアから海外に移住しようとする人が増えれば、ルーブルの下落圧力も高まる。ロシアの経済環境や、ウクライナ紛争の先行き不透明感の高まりによって、社会心理も不安定化するだろう。それに伴い、海外に資金を持ち出し、ドルに替えて資産を守らなければならないと考える市民も増える可能性は高まる。
景気後退でウクライナでの戦争継続に問題も
そうした展開が現実となれば、ルーブルの下落は鮮明となるだろう。自国通貨の下落によって、ロシアの輸入品の価格は押し上げられる。食品、日用品、家電などの価格は上昇し、ロシア国民の生活の苦しさは増す。個人消費は減少し、雇用、所得環境の悪化懸念も高まると予想される。
ルーブル安の食い止めと、インフレ沈静化のために、ロシア中銀が大幅な利上げ実行に追い込まれる恐れも増す。その結果、ロシア経済の縮小均衡は深刻化するだろう。ロシア経済が、物価の高騰と景気後退が同時に進行する“スタグフレーション”に向かう恐れも排除できない。
今後、ロシア経済はかなり厳しい状況に向かいそうだ。市民生活の苦しさは高まり、厭戦(えんせん)感情が広まる展開も考えられる。財政悪化によって、戦費負担も難しくなるのではないか。ルーブル下落と物価高騰、景気後退の深刻化などを背景に、ロシアがウクライナでの戦闘継続が難しくなる展開も想定される。
●プーチン氏、近くトルコ訪問─大統領補佐官=インタファクス 6/19
ロシアのプーチン大統領は、トルコのエルドアン大統領の招請を受け、近くトルコを訪問することで合意した。インタファクス通信がロシアのウシャコフ大統領補佐官(対外政策担当)の発言として伝えた。
訪問が実現すれば、ロシアが昨年2月24日にウクライナ侵攻を開始して以降、プーチン氏による初の北大西洋条約機構(NATO)加盟国訪問となる。
ウシャコフ氏は、プーチン氏が先月再選を決めたばかりのエルドアン氏と近い将来の訪問で合意したが、まだ具体的な日程については話し合っていないと述べた。
トルコは欧米の対ロシア制裁に加わることを拒む一方で、ウクライナに対して兵器供給も行い、その主権を尊重するよう呼びかけてきた。ロシアとウクライナ両国の捕虜交換や、黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出で仲介役も果たしてきた。
ロシアのペスコフ大統領報道官はプーチン大統領のトルコ訪問に関する発表後、ロシア、トルコ間の「前例のない協力」を歓迎し、ウクライナでの戦争を巡るエルドアン氏の「バランスの取れた立場」を称賛した。
「トルコがロシアにとって良い隣国であるよう図るため、われわれは手を尽くす必要がある」と強調した。
●プーチンが密かに企む“大ロシア帝国復興” 6/19
ロシア軍に対する本格的な反転攻勢を開始したウクライナ。その戦況についてはさまざまな情報が乱れ飛んでいるのが現状ですが、戦争の長期化が避けられないのは確実のようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、ウクライナから漏れ伝わってきた「3年かけて領土を奪還する」という戦略のタイムラインを紹介。さらに国際社会の耳目がウクライナ戦争に集まっている裏で、着実に進行している懸念すべき状況を解説するとともに、日本に「身近な危機」が忍び寄りつつある可能性を指摘しています。
日本に忍び寄る身近な危機。長期化必至のウクライナ戦争の裏で進んでいること
「ドイツのレオパルト2戦車を破壊した」
「アメリカのブラッドリー歩兵戦闘車を破壊した」
「ロシアに占拠された東南部の集落を奪還した」
ウクライナによる反転攻勢が本格化してきたことを受け、ロシア・ウクライナともに、ぞれぞれの戦果を誇示し、それぞれの側が優勢であることをアピールしています。
実際の戦況は分かりませんが、確かにウクライナがいくつかの前線では善戦しているようです。とはいえ、ロシア軍側もウクライナ攻撃の手を休めることなく、新たにチェチェン共和国の義勇軍をロシア軍に編入すべく契約を締結し、その戦力の立て直しを図っているとされます。
またレオパルト2戦車やブラッドリー歩兵戦闘車をピンポイント誘導弾で破壊できるキャパシティーがまだ残っていることも証明されているのは、この戦争が長引き、さらなる犠牲が生じることを意味しています。
ウクライナから漏れてきた戦略のタイムラインは、どうもこれから3年間かけて領土を奪還するというものであるようで、ウクライナ側も戦闘の長期化をすでに覚悟して行動し始めています。
それはロシア側も同じことだと思われますが、「長期化し、消耗戦になれば、ロシアが有利」と言われているため、これからロシア軍の戦略はより消耗戦対応になるのかもしれません。核兵器使用には、現時点では至らないものとみていますが、今後、NATOのコミットメントがロシア領内に明らかに及ぶと判断された場合、言い換えると欧州軍の陸上部隊がロシア領内に進軍してくる事態になれば、この戦争の拡大の歯止めが一気に外れ、偶発的な事態をきっかけに核の応酬になりかねないとの懸念は消し去ることができません。
そして長期戦になる場合、問題は【ウクライナの戦力と反転攻勢を背後から支えているNATO加盟国が対ウクライナ支援(軍事支援含む)をどこまで継続できるか】という点と【対ウクライナ支援のレベル(供与する装備・武器のレベル)をどこまで引き上げるか・またはどこにシーリングを設定するか】でしょう。
これについては、各国の国内世論が絡むことと、対ウクライナ支援筆頭のアメリカが来年には大統領選挙と議会選挙を控えているため、どこまで大盤振る舞いな支援を継続できるかは不透明ですし、仮に選挙の結果、共和党が再度優勢になり、共和党の政権(大統領)が誕生した際には、方針が覆される可能性も否定できません。
つまり、現時点ではアメリカの継続的な支援は予見不可能と言えます。
そのような中、欧州各国やその仲間たちがその穴を埋めることが出来るかどうかは、さらに未知数でしょう。
あまりロシアのプーチン大統領を刺激しすぎず、一刻も早く停戦の可能性を探りたいドイツとフランス、そしてイタリアの方針と、ロシアととことん対峙し、ロシアの弱体化を進めたい英国、ポーランド、バルト三国などの姿勢が一致せず、欧州各国がEUという枠組みを通じて(注:英国はすでに離脱しているが)共通外交安全保障政策の枠組みで迅速に対応することは限りなく非現実的ではないかと判断します。
「大ロシア帝国復興」というプーチンの目論見
下手をすると2024年に入ったら、ウクライナの背後には頼りになる“壁”は存在しないかもしれません。特にウクライナがこのまま領土を奪還できないまま戦闘が膠着するような事態になると、それはまさにウクライナにとっては悪夢のシナリオが待っていることを意味します。
欧米諸国からの軍事支援が途切れ、ロシアによる侵攻に対抗する術を失うと、ウクライナ国内では【ロシアとの戦争を継続すべきと主張する勢力】と、【ロシアとの即時停戦を訴える勢力】とがぶつかり合い、政治的な混乱と対立が深まることになります。
そしてその混乱の波は、ウクライナ周辺国、特にロシアからすると裏切り者と呼びたい国々(バルト三国やポーランドなど)に波及し、各国の国内政情不安が勃発します。
実はそれこそがプーチン大統領とロシア政府が目論んでいる目的だと思われます。
そのような不透明な見通しと恐怖があるがゆえに、ウクライナも戦果を強調して(誇張して)支援を繋ぎとめる願いが透けて見えますし、バルト三国などは独仏伊および米英に対して、ウクライナへの支援を止めないように訴えかける外交を行っています。
ロシアがこれまでになく航空戦力を拡大し、ウクライナ地上軍と物理的な距離を保ちながら攻撃を激化させている背景には、ロシアの軍事戦略の転換とウクライナを生殺しにでもしようかと考えている戦術が見えてきます。
今週たまたま話すことがあったロシア専門家の分析によると、ロシアの戦略上の目的は、軍事的な勝利というよりは、ウクライナを筆頭にロシアに楯突く元ソビエト連邦の共和国政府の反ロシア勢力への制裁であり、政治的な分断と親ロシア政権の樹立、そしてプーチン大統領とロシア政府が目指す“大ロシア帝国復興”だとのことですが、それが実現するか否かは、“国際社会”がどれだけ本気でウクライナという壁を死守することにコミットし続けるかにかかっていると思われます。
この戦争、本当に長引きそうですね…。
止まらない中国・北朝鮮の核戦力増強
ところで国際社会の目がロシア・ウクライナ戦争の一進一退の状況に向けられている間に、世界の他の部分ではいろいろなことが進んでいます。
一つ目は【中国・北朝鮮の核戦力の軍拡】です。
最近スウェーデンのSIPRI(ストックホルム国際平和研究所)が発表した分析によると、中国の核弾頭数は昨年に比して60発以上増加しており(総数は410発)、ICBMやSLBMの性能と搭載能力向上と合わせると、単純に数値換算できないほどの著しい軍拡が進んでいるとのことです。これは中国がかねてより主張している“国家安全保障上の必要数”を大幅に上回る量と思われますが、中国当局は特段コメントしていません。
そして北朝鮮に至っては、少なくとも5発増加し(合計30発)、それに加えて50から70発分の核分裂性物質を保有しているという分析がなされています。
ウクライナ紛争を機に、一気に2分化されている国際社会と安全保障環境の隙間を狙い、両国が核戦力を一気に高めているということを意味しますが、問題は「誰が(どの国が)この急速な核戦力の拡大をサポートしているか」「核不拡散を監視するはずのNPTはもう作用していないのか?作用していないなら、代替のシステムはないのか?」といった内容になります。
特に国際社会の目が欧州・ユーラシア大陸に向いている間に、ただでさえ緊張が高まっている北東アジア地域の核戦力の拡大が急速に進んでいることは、新たなnuclear arsenal(核戦争)の危機が、日本にとって非常に身近な地域で高まっていることを意味します。
G7広島サミットでは「核なき世界」に向けた決意が再確認されましたが、SIPRIが発表した分析結果は、世界の安全保障、特に核兵器の危機の増加という観点では、どなたかの表現を借りると、「G7ごときでは十分な影響力を与えられない」ほど、G7の影響力は地に落ち、新しい力の原理が、また核兵器により形作られようとしていることが言えます。
先述の通り、ロシアとウクライナの戦争が長期化・膠着化の様相を呈する中、北東アジア地域における核戦力のバランスの大きな変化がさらに進められることが非常に懸念されます。
中東やアフリカで増す中国の存在感
2つ目は【中東・アフリカ地域の再編が中ロを軸に進められていること】です。
サウジアラビア王国とイランの関係修復や、スーダン内戦の仲裁、Horn of Africaの不安定要素の除去へのコミットメントなど、今年に入ってからの中国による仲介が非常に目立ち、中東各国もアフリカ諸国(主に東アフリカと北アフリカ諸国)における中国のプレゼンスが非常に高まっています。
25年単位の戦略的パートナシップ締結を各国と行いつつ、外交的なサポートを各国から得るというスタイルは、欧米型民主主義の押し付けに反感を抱く国々には都合がよいようで、緩やかな協力というコンセプトの下、中国とロシアが主導する国家資本主義陣営の勢力圏が広がっています。
そして今週に入って明らかになってきた驚きのニュースが、中国によるイスラエル・パレスチナ問題へのコミットメントです。
これまで中国政府は意図的にイスラエル・パレスチナ問題に関与することを避けてきましたが、アッバス議長の訪中を受け、習近平国家主席自らが仲裁に乗り出す旨、公言しました。
この際「将来的に2つの独立国家が併存する形式での和平をサポートする」と習近平国家主席が述べたことは、中国政府のアラブ諸国への気遣いと受け取ることが出来ます。
イスラエル政府と中国政府の関係は決して悪くはないようですが、イスラエルにあからさまに肩入れしてきた米国政府の方針に真っ向から対立する意向を鮮明にすることで、中国の中東地域・地中海地域における立ち位置を明らかにしたと思われます。
同時に決してイスラエルの存在を否定することはしない点では、アラブ諸国の立場とは一線を画し、域外の超大国(でも中国はアラブ諸国を西アジアと位置付けて、アジアの仲間と定義している)としてtoo muchなコミットメントは避けるという意図も見え隠れします。
イスラエルともアラブ諸国とも経済的な結びつきを強めつつ、国際的にこれまで解決不可能とされてきた諸問題に中国が関与し、不可能を可能にしていくことで、じわじわと外交的な影響力も伸長させようとしている意図が見えてきます。
グローバルサウスの取り込みに失敗したG7
そしてこの姿勢は3つ目の動きである【グローバルサウスとの同調】のための動きにもつながってきます。
インド、インドネシア、南アフリカ、ブラジルなどに代表されるグローバルサウスの国々は、欧米型の支配形式からも、伸長する中国の脅威と影響力からも距離を置き、それぞれの利害に基づいて2大勢力圏との間でバランスを取るという方針を取ってきました。
ただ、勢力の維持または拡大を狙うG7は、広島サミットの一つの重要議題として「グローバルサウスとの協働」を掲げて、インド、インドネシア、ブラジルなどを招待して取り込みを画策しましたが、各国の反応を見ると、その試みは失敗に終わったようです。
もちろん、G7諸国とのつながりは、それぞれの国の利害に絡むことですので、真っ向から反対することはしないでしょうが、取り込まれることもなかったようです。
中国については、当初、グローバルサウスの国々、特にインドからの強い警戒心の対象となってきましたが、先に挙げた国際的な紛争へのコミットメントと仲介の姿を通じて、次第に警戒度を下げ、中国との協働を模索する方針に変わってきています。
あからさまに中国とロシアの側につくことはないでしょうが、拡大する経済的な結びつきからの利益や、欧米からの押し付けへの対抗策として、グローバルサウスの国々と中国との距離感は狭まってきているように見えています。
実際に台湾情勢については、中国と台湾による武力衝突が起こらないという大前提があるものの、グローバルサウスの国々は「域外の国があれこれ口出しをするべきではない(インド)」や「各国の事情や利害などを尊重すべき(インドネシア)」といった、半ば中国寄りともとれる発言が目立つようになってきています(あまり報じられていませんが)。
「中国有事」で台湾・韓国とともに最前線に立たされる日本
このような日米欧が重視するインド太平洋地域においても、次第にパワーバランスおよび感情のバランスが変化してきていることに注意しなくてはならないでしょう。
今週、参加を依頼されたある会合で中国やインド、インドネシアの方たちに「日本はアジアに位置するが、心はどこにあるのか。それをはっきりとするときがもう来ている」と指摘されました。
これまでの外交方針では「日米同盟を基軸に」を柱に行動していますが、このところ、特にG7べったりの姿勢が鮮明になってきており、それがアジア諸国の懸念を生んでいることに気づいているでしょうか?
防衛装備品の輸出にかかる法律も改正され、NATOとの急速な接近も鮮明になる中、刻一刻と変わる国際情勢のパワーバランス、特に日本が位置する北東アジアとインド太平洋地域における中国の影響力の拡大に際し、立ち位置を明確にするか、それとも、あえてどっちつかずの姿勢を取るか。
早急に立ち位置を決める必要が出てきているように感じています。
ロシアとウクライナの戦争はしばらく続き、残念ながら国際社会も国際経済もその膠着化に引きずられることになります。その間に広域アジアと日本がまだ影響力を持つアフリカなどで刻一刻と勢力図が変わっていくことになります。
個人的には中国による台湾侵攻はないと見ていますが、仮に“中国有事”が勃発した際、今回のウクライナ戦争を見ても明らかなように、唯一の同盟国アメリカが戦ってくれるかは分かりません。
もしかしたら、今回のように、武器弾薬を供給し、戦争と紛争から利潤を拡大する戦争ビジネスのターゲットになるだけで、実際の有事への対応、特に最前線での対応は日本や台湾、韓国をはじめとする最前線の国々に委ねられてしまうような事態に陥るかもしれません。
アメリカの来ないアジアでの戦争が勃発してしまった場合、恐らく日本や韓国、台湾は最前線に置かれ、場合によっては中国と“ウクライナ戦争を生き残った”ロシアによる草刈り場になってしまう恐れもあります。
私の思い過ごしであってほしいと願いますが、私たちの目がロシアとウクライナの戦争に向いている“その”間に、身近な危機がじわりじわりと近寄ってきているかもしれません。
●ウクライナは「進撃」、ロシアは「撃退」…戦況は霧の中 6/19
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、長い間準備してきた「大反撃」が始まったことを10日に宣言してから1週間が過ぎたが、ロシアの「防衛線突破」などの軍事的成果はまだ確認されていない。防衛線に精鋭の兵力を投入しているロシアが、ウクライナ軍の攻勢を効果的に食い止めているものとみられる。
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は16日、英国の「ガーディアン」に「わが軍が南に攻撃するすべての区域で実質的に戦術的勝利を収めている」とし、「彼らは徐々に現在各方面で2キロメートルまで前進した」と述べた。さらに、激しい戦闘の中心地が、アゾフ海に面したドネツク州の主要都市であるマリウポリに向かう道路側に先週変わったとし、ウクライナがロシア軍を徐々に押し出していると主張した。マリャル次官は2日前の14日にテレグラムに載せた文では、ウクライナ軍がバフムト周辺で200〜500メートル、ザポリージャ南東方面で300〜350メートル前進したとし「わが軍は激しい戦闘に直面し、敵の優越な制空権および砲撃の中でも前進している」と明らかにした。この主張がすべて事実だとしても、ウクライナが最前線で部分的な前進を成し遂げただけで、ロシア軍の防衛線を突破するなどの成果は上げられていないことが分かる。
一方、ロシアの声は自信に満ちている。ウラジーミル・プーチン大統領は13日、ロシアの戦争担当記者団に対し「彼ら(ウクライナ軍)の損失は壊滅的といえる水準に近づいている」とし、「我々の損失はウクライナ軍の損失の10分の1」だと述べた。ニューヨーク・タイムズもプーチン大統領のこの発言を引用し、ロシア空軍と砲兵が前進するウクライナ軍を攻撃し、反転攻勢初期に奪還した南部のいくつかの村が焦土化したと報じた。この過程でウクライナ軍は、西側がこれまで供給したドイツの主力戦車レオパルト2や、米国のブラッドレー装甲車を多数失ったことが確認された。
同紙はまた17日付の報道で、ロシアが「バフムト攻防戦」で示した人命損失を伴う戦闘を避け、十分な訓練を受け装備を備えた精鋭正規兵力を投入し、戦略・戦術に適した戦闘を繰り広げていると評した。この過程で、ロシアが今回の大反撃に備えて設置した防衛線が大きな威力を発揮しているという。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)は、9日に公開した報告書で、ロシアが今回の大反撃に対して非常にきめ細かな塹壕、地雷地帯、竜の歯(対戦車障害物)を設置したとし、これは「第2次世界大戦以後、欧州の地で行われた最も広範囲な防衛作業」だと評した。同紙は米国当局者の話として「ロシアの塹壕は堅固に構築されており、ウクライナがこのようなとてつもない挑戦を克服できるかを判断するのはまだ早い」とし、「ロシアの防空網も(ウクライナの)ドローン送信を妨害し撃墜できるほどの威力を依然として保っており、前進に伴い、ロシアの空中作戦にさらに直面することになるだろう」と懸念を示した。読売新聞も17日、「ウクライナ軍によるロシアへの大規模な反転攻勢に対し、ロシア軍は攻撃用ヘリの大量投入や通信妨害といった新しい手法で抵抗している。南部では重層的な防衛線を敷き、ウクライナ軍を阻む狙いだ」と指摘した。
これまで支援してきた主力戦車などの重火器が大反撃初期に消耗される様相が明らかになったことを受け、西側諸国ではウクライナに今後も続けて兵器供与が可能なのかを懸念する声もあがっていると「ポリティコ」が16日付で報じた。BBCの報道によると、西側諸国のある軍高官は「ロシア軍は全般的にきちんと準備された防衛基地で効果的に防衛している」とし、「このような『防衛中心作戦』はウクライナ軍に高い代償を払わせている」と認めた。しかし、このような結果を「全く予想できなかったわけではない」とし、「ウクライナ軍は被害を受けながらも前進しており、全般的には正しい方向に向かっている」と主張した。
●ロシア、主要フォーラムへの西側メディア参加「通常通りにいかず」 6/19
ロシア大統領府のぺスコフ報道官は17日、国内で開催される主要なフォーラムに西側のジャーナリストの参加を認めるかどうかを決定する際、これらの国々のメディアの動向や、ロシアのジャーナリストが外国でどう扱われているかを考慮すると述べた。国営タス通信が伝えた。
ロシアは今月14─17日開催のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで「非友好国」のジャーナリストによる取材を認めなかった。
今後、ロシアで開催されるフォーラムに西側のジャーナリスト参加を認めるかとの質問に対し、海外メディアがどう振る舞うか様子を見ようと指摘。ロシアのジャーナリストが非友好国でどのような扱いを受けるかにも左右されるだろうと語った。
ロシアは、ウクライナ侵攻を巡る制裁を導入した国々を非友好国と呼んでいる。
ぺスコフ氏は「もはや通常通りとはいかない。ロシアは西側のジャーナリストを受け入れる準備ができているが、海外でのロシアジャーナリストに対するそのような扱いを容認することはない」と述べた。
●ウクライナ戦争で中国への不信感を強める欧州 6/19
5月26日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)に、Pancevskiドイツ特派員とMackrael記者が「ヨーロッパはウクライナ停戦を進めて西側を分断しようとする中国の試みをはねつける。欧州の高官は北京が正直な仲介者である能力を疑問視している」との解説記事を書いている。
ウクライナ戦争の停戦のために、キーウ、ワルシャワ、ベルリン、パリに派遣された中国の李特使は、欧州の米国の同盟国は自立すべきで、ロシアにその占領地域を保持させたまま即時の停戦を行うよう提案した。
欧州高官はモスクワと緊密な関係をもつ中国が正直な仲介者となりうる能力を疑問視し、ロシア軍がウクライナから撤退するまで平和は不可能であると述べた。李と会った高官は「紛争の凍結はロシアが撤退しない限り国際社会の利益にならない。米欧を分断するのは不可能で、欧州はウクライナ支援を続ける」と李に述べたと言う。
ウクライナ戦争は民主的西側と権威主義の中ロの対立の中心的前線になってきている。北京はロシアが西側の経済制裁の対象となる中、ロシアにとっての経済的生命線になっている。北京は大量のロシアのエネルギーを買い、軍民両用の半導体その他の電子部品の輸出をウクライナ戦争開始後、増やしている。
習近平は3月にモスクワでプーチンと会い、両国は多くの「同じような目標」を持っており、協力と相互作用でこれらの目標を必ず達成すると述べた。欧州諸国は中国の和平計画とロシア支持は、北京は中立ではなく、ロシア寄りであることを示すと言っている。
欧州は、以前は中国により柔らかい対応をしていたが、最近は経済安全保障と貿易で米国の立場に近くなり、中国への警戒心をもっている。
米国は、中国の停戦の呼びかけを「ロシアの征服の承認になる」と言っている。欧州もロシア軍の撤退なしではウクライナの平和はないという事で米国とほぼ同調している。
仏外務省は、フランスはウクライナの公正で永続する平和に中国は建設的な役割を果たしうると信じるとすると共に、ウクライナの主権と領土一体性の尊重の必要性を強調し、フランスと欧州連合(EU)は長期にわたりウクライナを支援する決意であるとの声明を出した。
ポーランド外務省は「ポーランドは侵略国家ロシアとの2国間関係の強化に努めるとの北京の声明に懸念を持つ」と李に伝えたと発表した。

このウォールストリート・ジャーナルの記事は、ウクライナ戦争について和平をもたらすための中国のウクライナ、ロシア、欧州諸国への働きかけを報じたものである。
李中国特使の提案は、ロシアがウクライナ領土の20%近くを占領している現状をそのままにしたままで、まず停戦をしてはどうかというものであったようであるが、ウクライナにもウクライナ支援をしている欧州諸国にも到底受け入れられる提案ではなく、ウクライナと欧州諸国は明確に拒絶した。
中国はこういう提案をすることで、ロシアの侵略とその成果を認める姿勢を示したが、これで仲介できると考えるのは中国の情勢判断能力に疑問を抱かせるものであると言わざるを得ない。さらに、今はウクライナが反転攻勢を加えようとしている時期であり、ピントの外れた仲介であると言わざるを得ない。
主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の頃に、習近平は中央アジア5か国の首脳を招いて中国陝西省西安市で首脳会議を開催したが、そこではこれら5か国の主権と領土の一体性の尊重をうたいあげている。この姿勢とも大きく矛盾する提案である。
行き当たりばったりの国になった中国
最近、中国は状況対応型で原理原則のない国になり、信用できない国であると思わざるを得ないことが多くなった。北方領土問題についても、1964年、毛沢東が日本の立場への支持を打ち出したが、最近それを取り下げ、日本の立場を支持することはやめると言った。立場を平気でころころと変えるような国、首尾一貫しない国を信用するのは大きな間違いにつながる。中国を不信の目で見ることが必要と思われる。 
欧州側が李特使の考え方に強く反発したのは当然であり納得できるが、ウクライナ戦争とそれへの対応を見て、欧州の対中不信や姿勢はより厳しくなると思われる。そのこと自体は歓迎できることであろう。
フランスは、今なお中国のウクライナでの永続する平和への役割がありうるとしているが、何を念頭においているのか、理解しがたい。マクロン大統領の訪中の際の共同声明、その後のマクロンの対露、対米姿勢、特に北大西洋条約機構(NATO)や台湾問題に関する発言等には、要注意である。
●ウクライナ戦争は変わらないが…ロシアとCIS向けの輸出急増=韓国 6/19
韓国の輸出が8カ月連続でマイナス成長に縮む中、ロシアと独立国家共同体(CIS)への輸出だけが急増している。ロシアとウクライナの戦争長期化にも消費財を中心にした迂回・並行輸出などが進んでいるためと分析された。
韓国関税庁と韓国貿易協会が18日に明らかにしたところによると、先月のロシア向けと輸出額は前年同期比103.9%、CIS向け輸出額は78.8%急増した。今年初めまで減少したこれら地域への輸出は3月から数十〜数百%の成長に転じた。ここにはロシアとウクライナの戦争にともなうベース効果が大きく作用したと分析される。昨年3月から戦争の影響が本格化して輸出が揺らぎ、今年に入って徐々に回復しておりその反動を見せている。
ただCISへの輸出急増の背景は単純にベース効果だけとみるのは難しい。戦争が1年以上出口も見えずに続いているところに西側の対ロシア制裁などが相変わらずのためだ。1〜5月のCISへの輸出額は57億7000万ドルで、昨年だけでなく戦争前の2021年1〜5月の50億9000万ドルまで上回った。
専門家らは昨年以降に市場撤退や取引中断などで対ロシア貿易のルートが狭まった状況でロシア近隣国などを通じた迂回・並行輸出が定着したものと評価する。特に今年に入りCIS諸国のうちカザフスタンが76.4%、キルギスタンが509.2%と輸出増加傾向が目立つが、この2カ国は2015年にロシアを中心として発足した経済共同体であるユーラシア経済連合(EEU)参加国という共通点がある。
対外経済政策研究院ロシアユーラシアチーム長のチョン・ミンヒョン氏は「今年に入りロシアと国境を接するカザフスタンなどを通じた迂回・並行輸出が安定化されたとみられる」と話した。主要輸出品は対ロシア制裁と直結した先端製品の代わりに機械や自動車、化粧品をはじめとする消費財の割合が高い。キルギスタンへの自動車輸出額は1年前より1514.4%増え、カザフスタンに輸出された石けんや歯磨き粉などの化粧品は同じ期間に82.7%増えた。
ロシアは内部需要が多い運搬荷役機械、建設重装備、化粧品を中心に輸出が拡大している。制裁から比較的自由な中古車も人気だ。1〜5月の対ロシア中古乗用車輸出額は3億7000万ドルで前年同期比1085%急増した。
チョン氏は「ロシア地域は人的ネットワークなどが重要だが、一度断たれると復元しにくい。消費財などの輸出を着実に継続する一方、中央アジアのCIS諸国をテコに協力基盤も築いておかなければならない」と話した。
●ロシア労働力不足、経済の大問題に 6/19
ロシアが過去数十年で最悪の労働力不足に陥っている。ウクライナでの戦争を受けて、何十万人ものロシアの労働者が国外に移住したり前線に派遣されたりしたためだ。西側諸国による制裁と国際的な孤立によって圧迫される経済の基盤が弱体化している。
ロシアでは昨年、国外移住の波が2度にわたって起きた。ソ連崩壊後では最大規模だ。その上、約30万人が戦争に動員されたため、長期的な人口減少の影響で既に逼迫(ひっぱく)していた労働市場がさらに悪化した。その結果、ロシア企業では、プログラマーやエンジニアから溶接工、石油採掘業者に至るまで、経済活性化やウクライナでの戦争支援に必要なあらゆる職業で人材が不足している。
この流れを食い止めるため、ウラジーミル・プーチン大統領は先月、財政的・社会的インセンティブを含む人口流出反転策の策定を政府担当者らに命じた。ロシア政府はこれまで、ハイテク業界の労働者を国内にとどめておくために、税制優遇措置や低金利の融資、有利な条件での住宅ローンを提供してきた。
   図_ロシア人口の自然増減
ロシア財務省は、ウクライナでの戦争が始まった際にロシアを離れ、トルコやアルメニア、中央アジアなどからリモート方式でロシア国内の仕事を続けていた何十万人もの労働者に課税する案を発表した。ロシア議会の一部議員は、外国に移住したロシア人の財産を差し押さえる構えを見せているが、それを可能とする法律は可決されていない。
ロシア中央銀行の調査によると、今年第1四半期にロシア企業が報告した人員不足は、1998年のデータ収集開始以降で最大となった。コンサルティング会社フィン・エクスペルチザの分析によると、昨年末時点でロシアの35歳未満の労働者数は130万人減り、1990年代初め以降で最低水準に落ち込んだ。5月の失業率はソ連崩壊後の最低を記録した。
ウィーン国際経済研究所のエコノミスト、バシリ・アストロフ氏は「人的資本の喪失は経済にとって災難だ。しかも制裁も受けている」と述べた。「高学歴および高技能の労働力の喪失は、今後何年にもわたって潜在的経済力の重荷になるだろう」
労働力不足の影響は経済全体に広がっている。少ない労働者をめぐって採用を競い合う企業は賃上げを余儀なくされており、企業利益は打撃を受け、投資計画が危うくなっている。中銀は、賃金の上昇がインフレ率を押し上げていると警告している。
労働力不足は新型コロナウイルスの大流行以降、世界経済の大半を悩ませている問題であり、賃金の上昇を加速させ、インフレ抑制を一層困難にしている。ロシアの問題は他国と比べて際立っており、それは主に国内要因によってもたらされている。
今週開かれたロシアの代表的な経済会議「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」では、10以上のセッションで労働市場の問題が中心議題になった。ロシア中銀によると、労働年齢の男性が不足する中で、製造業の企業は女性や高齢者の雇用を増やしている。
   図_ロシアの求人倍率
建設資材・仕上げ材を供給する企業トレード・システムズ・テクノニコルで人事担当ディレクターを務めるユリア・コロチキナ氏は、若手と熟練労働者の双方が不足していると語る。このため同社は、一部職種の採用条件を緩和し、リモートワークと自動化設備を増やし、就労意欲を向上させるプログラムを増やした。
「われわれは最小限の資源で最大の仕事量をこなす方法を学びつつある」と同氏は話す。
ロシア経済はこれまで、西側諸国の制裁によって深刻な不振に陥るとの予想を裏切ってきた。石油・ガス輸出による「棚ぼた」的な収入に加え、政府による大規模な景気刺激策や巧みな制裁回避策などが経済の支えになってきた。しかし、今年に入ってからエネルギー輸出収入が急減しているほか、ハイテク分野の制裁の影響が積み上がり、経済的孤立が深まる中、問題が今後表面化することが予想される。
ロシア政府当局者によると、労働力の減少が経済成長をさらに阻害しているという。
ロシア中銀のエルビラ・ナビウリナ総裁は9日、「労働市場のこうした状況は、将来の生産拡大を制約する大きな要因になっている」と語った。同総裁によれば、機械製造、金属工業、鉱業・採石業など、ウクライナとの戦争で極めて重要な産業分野で労働力が不足している。
3月に東シベリア・ウランウデ市の航空機工場を視察したプーチン氏は、高度な能力を持つ専門人材の不足が軍事生産を妨げていると指摘した。
   図_ロシアの失業率
同氏は「多くの企業が現在、実質的に3交代制で作業しており、専門職、特に高度な専門人材が不足していることは理解している」と述べた。
エコノミストらによれば、昨年のウクライナ侵攻以来、これまでに100万人以上がロシアを出国した(うち一部は帰国)。今回の人口流出は、1917年のロシア革命後および1991年のソ連崩壊後の時期と並んで、ロシア史上最大規模の流出の波となっている。2012年にプーチン政権が3期目に入った後も、出国者は増加した。
低水準の出生率や高齢化、死亡率の高さなど、ロシアを長年悩ませてきた負の人口動態トレンドは、コロナ禍で一段と悪化した。そこに出国者の増加が追い打ちをかけている。国連の予測では、ロシアの人口(約1億4500万人)は、今世紀末までに20%以上減少する可能性があると見られている。
人口減を一部埋めているのは、ロシアへの出稼ぎ移民、特に中央アジアの近隣諸国からやってくる人々だ。ロシア中銀によると、昨年のロシアへの出稼ぎ移民の数は増加したものの、高度な専門能力を持つ外国人の数は29%減少したという。
フィン・エクスペルチザによると、昨年第4四半期の求人倍率は2.5倍と、2005年以来最高となった。ロシアのガイダル経済政策研究所による月次調査では、4月は製造業者の35%が労働力不足を報告しており、1996年以来最も高い割合となった。
電気機器メーカーEFKの人事担当ディレクター、マリナ・ペトゥホーバ氏によると、同社はエンジニア、デザイナー、プロダクトマネジャーの確保に苦労しているという。同社は、労働者の教育訓練やインセンティブ制度を拡充し、引退した高齢者を含むあらゆる年齢層の人材を雇用している。
ペトゥホーバ氏は「労働力不足は、わが社の新製品開発力や生産性、製品の品質に影響し、ひいては売り上げやブランド力にも影響する」と述べる。
コンサルティング会社ヤコフ&パートナーズ(本社モスクワ)とロシア最大の求人サイトhh.ruが行った4月の調査によると、半数以上の企業がIT分野で人材不足となっており、適切な候補者を探すのにかかる時間はほぼ倍になっている。
「熟練労働者を見つけるのがより難しくなった」とhh.ruの分析責任者であるナタリア・ダニナ氏は話す。「こうした状況は、必然的に企業全体の生産性低下につながる」
●ウクライナ軍反転攻勢 ゼレンスキー大統領“一歩ずつ前進” 6/19
領土奪還に向けたウクライナ軍の反転攻勢が続く中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、18日「われわれの軍は前進している。一歩ずつ前に進んでいる」と述べ、成果を強調しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、動画を公開し「今週はわれわれの防衛、前進、攻勢に向けた非常に重要な1週間だった」と述べました。
その上で、東部や南部での反転攻勢に参加している部隊の名前を一つ一つ挙げ、兵士たちをねぎらいました。
また、南部を中心に激しい攻防が続いているものの、東部ドネツク州のアウディーイウカ方面ではロシア側を撃退していると主張しました。
そして「われわれの軍は前進している。一歩ずつ前に進んでいる」と各地で反転攻勢が着実に成果を上げていると強調し、ウクライナ軍が徐々に前進しているとの見方を示しました。
一方、ロシア国防省は18日、ウクライナ軍がドネツク州やザポリージャ州で攻勢をかけたものの、空爆と砲撃などで撃退したと主張しています。
戦況を分析するイギリス国防省は18日、最も激しい戦闘はザポリージャ州、ドネツク州の西部やバフムト周辺で起きているとした上で「これらすべての地域でウクライナ側に小さな前進がみられる。南部では、ロシアが効果的な防衛を行っていてどちら側も多くの犠牲者が出ている」と指摘しています。
●ウクライナの崩壊したカホフカダム、ロシアが爆発物仕掛けた証拠見つかる 6/19
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、ウクライナのロシア支配地域にあるカホフカダムが今月破壊されたことを巡り、ロシアが仕掛けた爆発物によるものであることを示す証拠があると伝えた。
同紙は16日、複数のエンジニアと爆発物の専門家の話として、調査の結果、ダムのコンクリート基盤を通る通路の爆発物が爆発したことを示唆する証拠が見つかったと報道。「この証拠はダムが、これを管理する側であるロシアが仕掛けた爆発物によって損傷したことを明確に示している」とした。
これとは別に、ウクライナの検察当局を支援する国際的な法律専門家チームは16日、初期段階の調査で、ダム決壊はロシア側が仕掛けた爆発物によって引き起こされた可能性が「非常に高い」と表明した。
●プーチン、アフリカ諸国の和平案に異議「危機を招いたのはウクライナと西側」 6/19
ロシアのプーチン大統領は17日、ウクライナ和平交渉仲介を目指すアフリカ諸国代表団の提案の主要部分に否定的な見解を示した。ウクライナ側も既に提案の大部分を拒絶している。
ウクライナ和平交渉仲介を目指すアフリカ諸国の代表団が17日、ロシアのプーチン大統領と会談するためサンクトペテルブルクに到着した。南アフリカのラマポーザ大統領は次のように述べた。
南アフリカ ラマポーザ大統領「私たちは、この戦争を終わってほしいという非常に明確なメッセージを伝えるためにここに来た」
プーチン氏は発言を遮り、アフリカ側の提案が見当違いだと考える理由を列挙し始めた。プーチン氏は、昨年2月の侵攻開始以前にウクライナと西側が紛争を始めたという立場を繰り返した。またロシアはウクライナ側との協議を拒否したことはなく、ウクライナ側が妨害していると述べた。
アフリカ側が穀物輸送を可能にするため黒海の開放を求めた際には、次のように述べて西側を非難した。「世界の食料市場における危機を招いたのは、ロシアの特別軍事作戦ではない。ウクライナ情勢が進展するずっと以前から、この危機は具体化し始めていた。欧米などの西側諸国が、新型コロナに関連する自国の問題を解決するために、根拠のない経済的に不当な放出を開始したからだ。」
ウクライナが先週、ロシア軍をウクライナ領内から押し戻すための大規模な反転攻勢を開始したにもかかわらず、アフリカ諸国は紛争の調停に向けた「信頼醸成措置」への同意を求めている。だが、すでにアフリカ代表団と16日にキーウで会談したウクライナのゼレンスキー大統領は、和平交渉はロシア軍がウクライナから撤退して初めて可能になるとして提案に否定的な見解を示している。
プーチン氏は、ロシアは建設的な対話に引き続き前向きだと主張した。
●英国防省「ウクライナ軍が南部・東部でわずかに前進」 6/19
ロシアへの反転攻勢を続けるウクライナ軍が南部や東部でわずかに前進したとの分析をイギリス国防省が発表しました。双方に多くの死傷者が出ているとも指摘しています。
イギリス国防省は18日、最新の戦況分析で南部ザポリージャ州、東部ドネツク州の西側、ドネツク州のバフムト周辺で特に激戦となっていると明らかにしました。これらすべての地域でウクライナ軍がわずかに前進したとしています。
一方、南部では、ロシア軍の防衛作戦が効果をあげていることが多いと指摘。双方に多くの死傷者が出ているとしたうえで、ロシア軍に関しては、3月のバフムトでの戦闘以来、最も多くなっているとみられるとしています。
ロシア兵の戦死者をめぐっては、イギリスBBCとロシアの独立系メディア「メディアゾナ」が16日、名前が確認できただけで2万5000人以上にのぼるとする調査結果を発表。
ボランティアとともに各地の墓地を確認するなどして裏付けたとしていて、今年に入り受刑者や民間軍事会社の戦闘員の死者が増加しているとしています。
また、高齢の兵士の死亡も確認されていて、なかには71歳の志願兵もいたということです。
●ウクライナ軍、クリミア半島に隣接するロシア軍の大型武器庫をミサイルで破壊 6/19
大規模な反転攻勢に乗り出したウクライナ軍がロシア軍占領地域ヘルソン州南部の港湾都市ヘニチェスク近郊の村で大規模武器庫を破壊した。ウォールストリート・ジャーナルやデーリーメールなどが18日(現地時間)に報じた。
報道によると、昨年2月のロシア軍による侵攻直後からロシアが占領してきたヘニチェスクから20キロほど離れた村の武器庫をウクライナ軍が攻撃し、爆破したという。
SNS(交流サイト)などに掲載された関連映像には、この日朝に村全体を揺るがす爆発音と共に、巨大な閃光(せんこう)と煙が上がる様子が見られる。
また映像には火を噴く発射体が上空を飛来する様子も映し出されていた。
ウクライナ空軍のミコラ・オレシチュク司令官は「クリミア半島の北側に隣接する村のロシア軍武器庫を空襲で破壊した」と明らかにした。
オデッサ軍行政区のセルヒイ・ブラチュク報道官もウクライナ軍による空中攻撃を認めた。
ウクライナ軍は英国から長距離ミサイル「ストームシャドー」の提供を受けて以降、ロシア軍占領地域の奥深い場所にある武器庫など軍事施設への攻撃を強めている。
空中発射型巡航ミサイルのストームシャドーは射程圏内にあるロシア軍兵たん基地や駐屯地への攻撃が可能だ。 
●プーチン氏を恐れる部下から誤った情報提供か、ウクライナ反攻巡る戦況報告 6/19
ロシアのプーチン大統領がウクライナ軍の大規模な反転攻勢について積極的に発言し、自ら情報戦を主導している。不正確な情報もあり、軍の最高司令官であるプーチン氏への戦況報告が的確かどうかという疑念が再燃している。
プーチン氏は16日、露西部サンクトペテルブルクの国際会議の全体会合で、ウクライナ軍が運用している米国製の地対空ミサイルシステム「パトリオット」に関し、「露軍はキーウ付近で5セットを破壊した」という趣旨の発言をした。
実際にはウクライナに配備されているパトリオットは2セットで、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は18日のビデオ演説で、「一つも破壊されていない」と全面否定した。
露国営テレビは18日の放送で、プーチン氏がウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官について「国外にいるかもしれない」と述べた様子を報じた。露国営メディアはザルジニー氏の重傷説を流したが、ウクライナ国防省は全面否定した。
ロシアのウクライナ侵略をめぐっては、プーチン氏の機嫌が悪くなることを恐れる部下が誤った情報を提供していると指摘される。
●民間軍事会社「ワグネル」創設者プリゴジン氏がロシア正規軍と絶縁宣言 6/19
膠着するウクライナ情勢に新展開だ。東部でウクライナ軍が反転攻勢をかけ、2つの州を取り戻すなか、ロシア国内では“飼い犬”が反旗を翻した。プーチンの命運が尽きかけている。
「ショイグ国防相とはいかなる契約も結ばない」。ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者、エフゲニー・プリゴジン氏は6月11日、SNSでこう発言した。最前線でウクライナ軍との戦闘を続けているワグネルによる、ロシア正規軍への絶縁宣言だった。大和大学社会学部教授の佐々木正明氏が語る。
「プリゴジン氏は2011年頃からプーチン大統領の汚れ役を担い始め、ロシア軍の“別動隊”として信頼を得てきました。
これまで政権に表立って反目する人間がいなかっただけに、この発言は目立つ。プリゴジン氏の存在感が強まることで、クレムリン内の勢力図が変容していると思われます」
プリゴジン氏はこれまでもワグネルに弾薬が供給されないことに激怒し、セルゲイ・ショイグ国防相とワレリー・ゲラシモフ総司令官を名指しして「ショイグ! ゲラシモフ! 弾薬はどこだ!」と怒号を飛ばして正規軍への不満を露わにした。
「彼らの“気まぐれ”のせいで想定される水準の5倍もの戦闘員を失った」と主張し、5月20日にはSNSで戦死した兵士の遺体を撮影した動画を公開。「ロシア軍はきちんとした運営が行なわれていない」「確実に領土の一部を失うことになる」など苛烈な批判を繰り返してきた。国際アナリストの北野幸伯氏が解説する。
「プリゴジン氏はプーチン氏が創ったシステムのなかで力を蓄えてきた。一方でプーチン氏もワグネルが戦場で最も勇敢に戦う部隊であるからこそ自由を与えている。そのことがショイグ氏やゲラシモフ氏の反感を買い、正規軍がワグネルに弾薬を回さないなどの嫌がらせを招いた。プリゴジン氏がウクライナ東部のバフムトの完全制圧宣言をした後、撤退すると言い出したのも正規軍への反発ゆえです」
プリゴジン氏が軍部を痛烈に批判するさなか、チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長も同調し、「弱腰の国防省幹部を最前線に叩き込め」と批判。元ロシア兵がインタビューで軍への不信感を口にするなど、ロシア正規軍への風当たりは強まるばかりだ。
これまでプリゴジン氏は、軍には反発するものの、プーチン氏への批判は避けてきた。だが、筑波大学名誉教授の中村逸郎氏はその関係にも変化が起きていると指摘する。
「“ショイグと契約しない”という発言は、これから自分たちは独自に動くという宣言に他ならず、プーチン政権との決別にも取れます。このところプリゴジン氏はプーチン政権の戦況の見通しの甘さを指摘し、『ロシア革命が起きかねない』とも発言していた。両者の溝が深まっていることは間違いないでしょう。
ワグネルがバフムトから撤退する際に、ロシア正規軍と撃ち合いになったとの報道もありました。プリゴジン氏が反政権派と手を組み、“打倒プーチン”に動く可能性は十分にありえる。実際、プリゴジン氏が5月25日に撤退を表明したタイミングで、ゼレンスキー大統領が反転攻勢を仕掛けています。タイミングの良さから、両者が裏でつながっていると見る向きさえある」
ウクライナ国防省情報総局のヴァディム・スキビツキー副局長は「プーチンは自国民に殺害されることを最も恐れている」と語ったが、その実行役をワグネルが担う可能性が出てきたのだ。
「ロシアは今年9月に統一地方選挙が行なわれ、来年3月には大統領選挙を控えています。統一地方選挙は大統領選挙に大きな影響を与えるため、9月を前にプーチン氏が弾圧・統制を強めることは想像に難くない。プーチン氏暗殺を実行するならその前。8月の可能性が高い」(中村氏)
ロシアの明智光秀
プリゴジン氏がプーチン氏のタマを取り得る背景に、“援軍”の存在がある。現在、政権中枢にワグネルと接近する勢力が複数あると言われている。
プリゴジン陣営に近しい人物として挙げられるのが、ウクライナ戦線の副司令官であるセルゲイ・スロヴィキン氏だ。2015年のシリア空爆でプリゴジン氏と共闘、同氏に「最も有能な司令官」だと評価された。
スロヴィキン氏は昨年10月、総司令官に任命されたが、「ウクライナ戦線における司令官としては権力を持ちすぎた」と睨まれ、たった3か月で副司令官に降格となった。代わりに就任したゲラシモフ総司令官とショイグ国防相に対しては“複雑な感情”を抱いているとされる。
プリゴジン氏の野心は過熱しており、野党の公正ロシアの党首、セルゲイ・ミロノフ氏に接近しているとも報じられた。
ロシア国内でのプリゴジン氏に対する評価はすこぶる高く、元ロシア大統領顧問のセルゲイ・マルコフ氏はプリゴジン氏を「新しい英雄」とし、「ロシアの国家的な宝」と讃えた。
さらに、ロシアの独立系世論調査期間「レバダ・センター」が発表した「最も信頼できる政治家」の調査ではプリゴジン氏が5位に入っている。中村氏の話。
「プリゴジン氏の最終目標はプーチン氏から権力を奪い取ることでしょう。暗殺、それができなければクーデターの形で、ワグネルを率いてクレムリンに乗り込むことになる。
プーチンの他の仲間たちが銀行や天然ガス会社、石油会社のオーナーになって“我が世の春”を謳歌する陰で、プリゴジン氏は汚れ役ばかりを任されてきた。自分だけが冷や飯を食わされてきたという忸怩たる思いがあるはずで、プリゴジン氏の立ち位置は、織田信長に謀反を起こした明智光秀と似ています」
プーチン氏にとって憂いはプリゴジン氏だけではない。政権打倒を掲げる自由ロシア軍やロシア義勇軍がプリゴジン氏と手を結ぶという話も飛び出ている。
中村氏によれば、「ワグネルがこれらの反プーチン組織から武器を調達、ロシア正規軍の位置情報を提供しているとの情報もある」という。
「もちろんプーチン氏もプリゴジン氏の動きを察している。しかし、今の彼にはワグネルを潰す力がない。戦争を続けるにはワグネルに頼らざるを得ず、手を出すことができないのです。プリゴジン氏と他の勢力が完全に結びついてしまえばチェックメイトです」(中村氏)
手懐けていた飼い犬に噛み殺される日は、刻一刻と迫っている。
●ロシアとの戦争に備えて戦時体制に入ったNATO 6/19
ウラジーミル・プーチンがウクライナに全面侵攻したおかげで、NATO諸国は、冷戦終結以降は想像もつかなかった計画に着手し始めている----ロシアとの軍事衝突だ。
だが、7月11日からリトアニアのビリニュスで開かれるNATO首脳会議を前に、かつてヨーロッパ連合軍最高指揮副官を務めたリチャード・シレフは、NATOはとてもロシアと戦争できる態勢ではないと語った。
「本気で尻を叩く必要がある」とシレフはニューズウィークに語った。ロシアが侵略してきたときは自力でも跳ね返す覚悟で軍備増強をしているポーランドのような例外はあるものの、他の同盟国は縮小傾向にある軍事予算にを見直すべきだと言う。
最大の脅威は中国ではなかった
「東欧で大規模な戦争が進行している。これは地上戦であり、空中戦でもある。したがって、空と陸に投資する必要があるが、まだ実行されていない」とシレフは述べる。「(NATO事務総長の)イェンス・ストルテンベルグは、2022年にマドリードで開いた首脳会議で、NATOは即応部隊を30万人に増強すると発表したが、それもまだできていない」
イギリスの退役将軍でもあるシレフによれば、NATO全体で見られるそうした予算削減の一例がイギリス軍であり、予算が切りつめられ「ばかげた規模」にまで小さくなっているという。その背景には、防衛幹部が、長期的な最大の脅威はロシアではなく中国だと信じていたことがあるとシレフは考えている。
「重要なのは地理であり、われわれに最も近いオオカミはロシアだ」とシレフは述べた。これまでのNATOによる「抑止は失敗」であり、そのせいで2014年にプーチンが一方的にクリミアを併合した後も、戦力を増強する機会を逸したという。
「NATOが、ロシアとの通常戦争に堪える戦力を捻出できるとは思えない」
ロシア政府と国営メディアは、この戦争は、すでにロシアとNATOの代理戦争であると主張しているものの、NATOは戦闘において直接的な役割を避けようと苦心し、そのかわり、ロシアの侵略に対抗するための装備をウクライナに提供してきた。
だが、ロイターの報道によれば、NATO高官のひとりであるロブ・バウアー大将は5月、NATOは、ロシアとの直接的な衝突は「いつなんどき起きるかわからない」という事実に備えなければならないと話したという。
NATOはすぐさま対応する
そうしたことからNATOは、戦力および兵站を増強するために加盟各国がまとめた数千ページにおよぶ機密文書を検証する予定だ。冷戦終結以降では最も詳細かつ大規模な検証だ。
また、NATO事務総長ストルテンベルグが5月に話した内容としてロイターが伝えたところによれば、こうした計画には、さまざまな地域を防衛するための軍隊の支援も含まれており、「どこに、何を、どのように配備するか」に関する詳細が提示されているという。これは、クリミア併合をきっかけに始まったプロセスを強化するものだ。クリミア併合後、西側の同盟国は、東欧に戦闘部隊を配備した。
ストルテンベルグは今年3月、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアに各1500人規模の4つの戦闘群を新たに配備すると発表した。
最初の一撃を受ける東部前線
狙いは、「NATOの東部における陸、空、海の戦力を増強し、あらゆる領域におけるNATOの態勢を強化する」ことにあるという。NATOはエストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドには既に戦闘群を配備している。
「東部の戦闘群は前線であり、ロシアが攻撃してきた場合には、最初の一撃を受けることになる」とゴットモーラーは話した。「どこか一カ所、たとえばバルト海沿岸国をロシアが攻撃すれば、NATO全体を攻撃したことになり、NATO全体が即座に反撃するということを、ロシアにはっきり知らしめる」
ゴットモーラーによれば、NATOとロシアの戦争に関する計画は、ほぼ10年にわたる取り組みの一環だという。冷戦終結後、および911同時多発テロ後、対テロ戦争に重点を置いた体制を、再び対ロシアで強固なものに組み直す取り組みだ。
「2014年にクリミアが併合され、NATOとの境界付近におけるロシアの振る舞いが不穏になって以降、NATOはずっと、ロシアの攻撃に対して迅速に応戦し、自衛するための備えが必要になることを認識してきた」と、ゴットモーラーは言う。
●戦術核配備に「期限なし」 ロシア外務省、米欧をけん制 6/19
ロシア外務省のポリシチュク独立国家共同体(CIS)第2局長はタス通信が19日に報じたインタビューで、戦術核兵器のベラルーシ配備について、両国間の合意に「時間的制限はない」と述べ、恒久的な配備になると示唆した。
ベラルーシへの配備決定は「北大西洋条約機構(NATO)諸国による長年にわたる核共有の破壊的実践を考慮した」と強調。戦術核をロシアに戻すには「欧州にある米国の核兵器を米国領内に完全撤収させることが先決だ」とし、米欧をけん制した。
プーチン大統領は今年3月、ベラルーシへの戦術核配備を決めたと表明。今月16日に第1弾が同国に搬入されたとし、年内に全配備が完了すると表明した。
●ウクライナの崩壊したカホフカダム、ロシアが爆発物仕掛けた証拠見つかる 6/19
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、ウクライナのロシア支配地域にあるカホフカダムが今月破壊されたことを巡り、ロシアが仕掛けた爆発物によるものであることを示す証拠があると伝えた。
同紙は16日、複数のエンジニアと爆発物の専門家の話として、調査の結果、ダムのコンクリート基盤を通る通路の爆発物が爆発したことを示唆する証拠が見つかったと報道。「この証拠はダムが、これを管理する側であるロシアが仕掛けた爆発物によって損傷したことを明確に示している」とした。
これとは別に、ウクライナの検察当局を支援する国際的な法律専門家チームは16日、初期段階の調査で、ダム決壊はロシア側が仕掛けた爆発物によって引き起こされた可能性が「非常に高い」と表明した。
●EU、ウクライナへの武器供与加速へ 反攻支援=欧州委委員 6/19
欧州連合(EU)欧州委員会のブルトン委員(域内市場・産業・デジタル単一市場担当)は18日、EUがウクライナの対ロシア反転攻勢を支援するために武器供与を加速させると述べた。仏紙パリジャンとのインタビューで明らかにした。
同委員は、今後1年間に大口径兵器100万丁を供与する約束に言及し、「兵器と弾薬の供給を加速する。われわれは今後数カ月またはそれ以上の戦争長期化に備えている」と述べた。
領土奪還に向けたウクライナの反転攻勢は今月開始。オースティン米国防長官は15日、ウクライナの同盟国に武器と弾薬供与に向け「力を振り絞る」よう要請した。
●ウクライナ軍“2週間で8集落奪還” ロシアも精鋭部隊転戦か 6/19
ウクライナ軍は、反転攻勢が本格化したこの2週間で、南部ザポリージャ州などで8つの集落を奪還したと成果を強調しました。一方、ロシア国防省もザポリージャ州で最も戦闘が激しくなっていることを認め、ロシア側が精鋭の部隊を転戦させているという見方が出ています。
ウクライナ国防省のマリャル次官は、南部ザポリージャ州のピャチハトキなど8つの集落をこの2週間で奪還したと、19日、SNSに投稿し、成果を強調しました。
また、現地の親ロシア派の幹部は、ピャチハトキがウクライナ側に奪還されたとしているほか、ロシア国防省も「最も激しい戦闘が続いているのはザポリージャ州だ」と認め、激しい攻防が行われているもようです。
イギリス国防省は、19日の分析で「過去10日間、ロシアはザポリージャ州と東部ドネツク州のバフムトを強化するため、ドニプロ川の東岸地域から部隊の移転を開始した可能性が高い」として、ロシア側が南部ヘルソン州に展開していた精鋭の空てい部隊など、数千人規模の兵士を転戦させている可能性があると指摘しました。
ヘルソン州では、今月ダムが決壊し洪水の被害が拡大したことから、ロシア側は、この地域でウクライナ軍が大規模な反転攻勢にのりだす可能性は低いと判断し、反転攻勢の激戦地となったザポリージャ州などに部隊を移しているという見方を、イギリス国防省は示しています。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ウクライナ軍がドネツク州やザポリージャ州の少なくとも4つの地域で反撃を続け、限定的な領土奪還を果たしたという分析を、18日に示しました。
一方で、「ウクライナ軍は今後の作戦に向けた戦術を見直すため、反撃作戦を一時的に停止している可能性がある」として、ウクライナ側が、今後の主要な作戦の展開をにらみ、一時的に部隊の進軍を抑制している可能性を指摘しています。
●ウクライナ軍、反攻で「ザポリージャ戦線」の一角を解放…2週で113Km2奪還 6/19
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は19日、ウクライナ軍のロシア軍に対する大規模な反転攻勢に関し、ウクライナ軍が南部ザポリージャ州ピャティハトキを解放したとSNSで発表した。過去2週間の反攻で8集落、計約113平方キロ・メートルを露軍から奪還したことも明らかにした。
ピャティハトキは露軍補給の拠点都市メリトポリに南進する「ザポリージャ戦線」の一角にある。露軍の防御が特に強固なトクマクを避け、ウクライナ軍がメリトポリに接近するためのルートの入り口にあたる。
ウクライナ軍は港湾都市ベルジャンシク、マリウポリを目指す「南ドネツク戦線」でも突破を模索している。マリャル氏はザポリージャ州一帯の2戦線での戦況に関し、地上部隊が「最大7キロ・メートル進軍した」と述べ、露軍に大きな損失を与えていると強調した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は18日のビデオ演説で「我が軍は一歩ずつ前進している」と述べ、戦果を焦らない姿勢を強調した。
一方、北大西洋条約機構(NATO)加盟国エストニアの情報機関トップは16日、露軍の抵抗が激しいことから、ウクライナ軍が反攻ペースを落とすとの見通しを示した。
ウクライナ空軍は18日、露軍の攻撃ヘリ「Ka52」計3機を16日以降、相次いで撃墜したと発表した。Ka52による攻撃は、ウクライナの地上部隊の進軍を阻む大きな要因となっている。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 19日の動き 6/19
ウクライナ国防次官「8つの集落 奪還」SNSで発表
ウクライナ国防省のマリャル次官は「この2週間、南部ザポリージャ州のベルジャンシク方面やメリトポリ方面で攻撃が行われ、8つの集落を奪還した」と19日、SNSで発表しました。これまでに奪還を公表していた7つの集落に加え、ザポリージャ州のピャチハトキを新たに奪還したということです。また「この1週間で、ウクライナ軍は敵の兵士80人以上を捕虜にした」と反転攻勢の成果を強調しました。マリャル国防次官は東部ドネツク州のアウディーイウカ方面などでもロシア側との戦闘が続いているとした上で「ウクライナの兵士のプロ意識と勇気のおかげで、われわれは1メートルも領土を失わなかった」と述べています。また現地の親ロシア派の幹部はピャチハトキがウクライナ側に奪還されたとしているほか、ロシア国防省も「最も激しい戦闘が続いているのはザポリージャ州だ」と認め、激しい攻防が行われている模様です。
イギリス国防省“ロシア側 数千人規模の兵士を転戦か”
イギリス国防省は19日の分析で「過去10日間、ロシアはザポリージャ州と東部ドネツク州のバフムトを強化するため、ドニプロ川の東岸地域から部隊の移転を開始した可能性が高い」としてロシア側が、南部ヘルソン州に展開していた精鋭の空てい部隊など、数千人規模の兵士を転戦させている可能性があると指摘しました。ヘルソン州では今月、ダムが決壊し洪水の被害が拡大したことから、ロシア側は、この地域でウクライナ軍が大規模な反転攻勢にのりだす可能性は低いと判断し、反転攻勢の激戦地となったザポリージャ州などに部隊を移しているという見方をイギリス国防省は示しています。
米シンクタンク分析“ウクライナ軍 限定的な領土奪還果たした”
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ウクライナ軍がドネツク州やザポリージャ州の少なくとも4つの地域で反撃を続け、限定的な領土奪還を果たしたという分析を、18日示しました。一方で「ウクライナ軍は今後の作戦に向けた戦術を見直すため、反撃作戦を一時的に停止している可能性がある」として、ウクライナ側が、今後の主要な作戦の展開をにらみ、一時的に部隊の進軍を抑制している可能性を指摘しています。
渡辺復興相 ウクライナ副首相と復興の覚書締結
渡辺復興大臣は19日午前、日本を訪れているウクライナのクブラコフ副首相兼インフラ相と復興庁で会談し、ウクライナの復興に向けた計画の策定や両国間の連絡窓口の設置などを盛り込んだ覚書を交わしました。覚書では、東日本大震災の経験を生かしながら持続可能な復興に向けた政策や知見を共有し、官民双方の協力を拡大することを目的に掲げています。具体的には▽復興計画の策定に向けた情報交換を行いセミナーやシンポジウムなどを共同で開催することや▽進行状況を確認するための両国間の連絡窓口を設置することなどが盛り込まれました。クブラコフ副首相は「戦争はいつまでも続くわけでなく、破壊されたすべてのインフラや住宅、経済を復旧・復興していかなければならない。日本が持っているノウハウは非常に重要で、世界でもユニークな知識だ」と述べました。渡辺大臣は「復興にあたっては、インフラの整備はもとより住民の帰還やコミュニティの再建が欠かせない。覚書の締結を契機に両国の対話が実り多きものになるよう期待する」と述べました。
ゼレンスキー大統領「一歩ずつ前に進んでいる」成果を強調
ウクライナのゼレンスキー大統領は18日に公開した動画の中で「今週はわれわれの防衛、前進、攻勢に向けた非常に重要な1週間だった」と述べ、東部や南部での反転攻勢に参加している部隊の名前を一つ一つ挙げ、兵士たちをねぎらいました。また、南部を中心に激しい攻防が続いているとする一方、東部ドネツク州のアウディーイウカ方面ではロシア側を撃退しているとしています。そのうえで「われわれの軍は前進している。一歩ずつ前に進んでいる」と述べ、各地で反転攻勢が着実に成果を上げていると強調しました。
イギリス国防省「ウクライナ側に小さな前進」
戦況を分析するイギリス国防省は18日、戦闘が激化し双方に多くの死傷者が出ているとして「最も激しい戦闘はザポリージャ州、ドネツク州の西部、ドネツク州のバフムト周辺に集中している。これらすべての地域でウクライナ側に小さな前進がみられる」と指摘し、厳しい状況の中でもウクライナ軍が徐々に前進しているとの見方を示しています。
ウクライナ軍 “バフムト ザポリージャ州 へルソン州で戦闘”
ウクライナ軍の参謀本部は18日、東部ドネツク州のバフムトや南部のザポリージャ州、ヘルソン州で激しい戦闘が続いているとともに、ドネツク州の一部ではロシア側の攻撃は失敗したと発表しました。また複数のウクライナのメディアは18日、ウクライナ空軍がヘルソン州のロシア側の弾薬庫を破壊したと伝え、現地の様子とされる動画には、複数の爆発音とともに煙が上がっている様子が写っています。
ロシア “ザポリージャで激しい戦闘 空爆や砲撃で敵を撃退”
ロシア国防省は18日、ウクライナ軍がドネツク州やザポリージャ州の方面で攻勢をかけ、最も激しい戦闘が続いているのはザポリージャ州側で、空爆と砲撃などで敵を撃退したと主張しています。

 

●プーチン政権と対立のナワリヌイ氏 裁判行われるも非公開に 6/20
ロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏に対する新たな裁判が行われましたが、途中から完全に非公開となりました。
ロシアの裁判所は19日、プーチン大統領の汚職を追求してきた、反体制派指導者のナワリヌイ氏が過激主義を扇動しているとして新たな裁判を行いました。
ナワリヌイ氏はすでに9年の禁錮刑が確定していますが、最長で30年にまで伸びる可能性があります。
現地メディアなどによりますと、審理は途中から非公開となりました。
裁判はナワリヌイ氏が服役している刑務所があるウラジーミル州で行われました。
厳戒態勢のなかで行われ、記者団だけではなくナワリヌイ氏の両親も法廷への入室を拒否されました。
また、当初、待機室では法廷内の様子が中継されていたものの、音声がほとんど聞こえなかったということです。
さらに、審理の途中で「関係者による暴動の恐れがある」として待機室は閉鎖されたということです。
ナワリヌイ氏の父・アナトリー氏は、裁判所の対応について「恥も良心も名誉もない」と記者団にコメントしました。
ナワリヌイ氏はこの日SNSを通じて「戦争とプーチンに反対する選挙キャンペーン」を開始すると発表しました。
SNSなどを通じて多くの市民に反戦の意思を示してもらうとしています。
●中国がロシアの港を奪還? 極東権益を侵食中 6/20
中国は2023年6月1日から、ロシア極東の最大都市ウラジオストクの港の使用権を165年ぶりに回復した。さらに西部国境では、中国とキルギス、ウズベクの横断鉄道計画にゴーサインを出し、ロシアの権益を次々と侵食している。
ウクライナ侵攻で衰退が加速するロシアの弱みを突いて「兄弟関係」を逆転しただけではない。ウクライナ危機の最大の受益者は中国かもしれない。
中国「祖国の懐に」と興奮
「ロシアによって165年間使用された後、港はついに祖国の懐に戻った」
中国東北部の吉林省と黒竜江省が、省産品を浙江省など沿海地域に出荷する際、ウラジオストク港を使用する特例措置が6月1日から認められたニュースを伝える報道だ。
かつて中国領だったウラジオストクが、帝政ロシアとの不平等条約によって奪われた「屈辱の歴史」をそそいだかのような興奮ぶりだ。ロシアはもちろん太平洋艦隊の基地がある極東最大の軍事拠点の同港を中国に「返還」するわけではない。順序を追って説明しよう。
中国税関総署は2023年5月4日、中国東北部の老朽化した工業基地を活性化するため、同年6月1日から国内貿易品を国境越えの通過港としてウラジオストク港を使用できるようになると公告した。
ロシア政府がこれを認めたのは、習近平が2023年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で3期目の国家主席入りを果たした後、3月20〜22日に初の外遊先としてロシア訪問した時だ。プーチン大統領との10時間以上におよぶ首脳会談での、最大のテーマはウクライナ問題だった。
首脳会談後に2人は、「2030年までの経済協力の大枠に関する共同声明」に署名した。この中で、「両国の鉄道、道路、河川、海運など輸送迅速化を含む物流面での協力」をうたい、ウラジオストク港使用でプーチンの「ダー(イエス)」を勝ち取ったのだった。
沿海州は清朝時代には「外満州」(Outer Manchuria)と呼ばれる中国領だった。しかしアヘン戦争で清朝が弱体化、帝政ロシアは1858年のアイグン(璦琿)条約と、1860年の北京条約でアムール川左岸を獲得、ウスリー川以東の外満洲を両国の共同管理地として「割譲」した。
その面積は約500万平方キロメートルと、現在の中国領土960万平方キロメートルの半分強に相当、中国にとって屈辱的割譲だった。
ウラジオストク港使用権の付与に合意した背景は何か。まず経済面。中国が吉林省や黒竜江省から貨物を輸送する場合、今は大連港まで運んで、江蘇省、浙江省向けの貨物船に積み替えている。大連までの距離は短くても300キロメートル、長ければ600キロメートルである。
ウラジオストク港開放によって最短100キロメートル、最長でも300キロメートルと輸送距離は半減され、コストパフォーマンスもいい。吉林、黒竜江省から中国南部への輸送は「国内貿易」扱いだから関税の問題も発生しない。
一方、ロシアのメリットは何か。これまでロシアはウラジオストク港を、原油、天然ガス、海産物、木材などを日本、韓国、アメリカ、台湾に輸出する窓口にしてきた。しかしウクライナ侵攻に伴う経済制裁で、西側諸国への輸出量は激減。ウラジオストク港には「閑古鳥が鳴く」状況だ。
プーチン政権を支え、要求をのませた中国
中国が対西側貿易減少の穴を埋めてくれれば、ロシアも「ニエット(ノー)」とは言えない。それがウラジオ使用権を求める中国の要求を受け入れた経済的理由だ。双方にとり「ウィンウィン」のケースだ。
では、政治的にはどうか。西側は中国がロシアのウクライナ侵攻を非難せず、ロシア軍の即時撤退を求めていないとして、「ロシア寄り姿勢」を批判。広島サミットの首脳声明でも中国にロシア軍撤退を要求するよう求めている。
2023年3月の中ロ首脳会談の共同声明は、「(中ロ)双方は、国際連合憲章の目的と原則が尊重されなければならず、国際法が尊重されなければならないと信じる」とした。ウクライナ侵攻が国連憲章に違反していること念頭にした、事実上のロシア批判だ。中国は決してロシア寄りの立場をとっているわけではない。2014年のクリミア併合を中国が認めていないのもその証左だ。
共同声明はさらに、ウクライナ危機の解決に積極的な中国の意思を歓迎し、「『ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場』(2月の声明)に示された建設的な命題を歓迎する」と、中国の仲介工作を支持した。
共同声明を読む限り、ロシアは中国の主張をそのまま受け入れたことがわかる。ウクライナ侵攻後、中ロ2国間貿易は前年比30%増となった。大半が経済制裁で西側に輸出できなくなった原油、天然ガスを中国が輸入しているからだ。ロシア経済を支えるうえで、原油を大量に輸入してくれる中国とインドの存在は死活的に重要だ。
中国は経済的利益を与えてプーチン政権を支えているだけに、ロシアは中国の要求をむげに断れない。米中対立の激化で、中ロは安全保障協力を強化することに「共通利益」を見出している。中国からすればロシアにさまざまな要求をのませる絶好のチャンスでもある。こうしてみると、中国こそウクライナ危機最大の受益者ではないか。
中国とロシア(旧ソ連)は1989年5月、当時のゴルバチョフ共産党書記長の訪中で関係を正常化。最大の懸案だった国境問題は2004年、東部のウスリー川など3河川の係争地を2分割することで合意し国境線を最終画定した。
しかし、不平等条約によって奪われたウラジオストクの存在は、中国にとっては屈辱の歴史の象徴でもあった。一方、ロシアにとっては極東最大の軍事的意味という重要性がある。にもかかわらずウラジオを開放したのは、中国との協力によって、加速する衰退と孤立を回避したいからだ。
中国が獲得したのはウラジオストク港使用権だけではない。習近平は5月18、19日、シルクロードの古都西安で中央アジアのカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン5カ国首脳との首脳会議を開いた、
中国と5カ国の2022年の貿易総額の合計は703億ドル(約9兆6300億円)と前年比4割増で過去最高だった。首脳会合は5月19日に「中国・中央アジアサミット西安宣言」を採択、1「一帯一路」推進の確認、2中央アジアの治安維持やテロ対策の支援、3貿易・エネルギー開発の加速と総額260億元(約5100億円)の資金援助をうたった。
中国・キルギス・ウズベク鉄道が前進
日本の全国メディアは報じていないが、宣言は中国・新疆ウイグル自治区からキルギスタンとウズベキスタンに延びる「新鉄道建設」(総延長523キロ)の着工加速も盛り込んだ。鉄道が完成すると、中国貨物を鉄道で中央アジアから中東各国に輸送できるだけではない。中国から欧州への鉄道の最短ルートにもなるのだ。
計画は1997年に浮上したが、山岳地帯を貫く工法や環境問題、軌道幅など技術問題に加え、ロシアと中国のどちらが出資するかなど政治的理由もあり一向に進展しなかった。
変化は2022年5月16日、モスクワで開かれたロシアと旧ソ連構成6カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)首脳会合で起きた。プーチンがキルギス大統領の進言を受け、計画を中国資金で建設することに「反対しない」と初表明した。これにより着工への展望が一気に開け、王毅外相(当時)は翌6月に「2023年着工」を発表した。
中国のロシア権益侵食について、ロシアはどう受け止めているのか。フランスのマクロン大統領は2023年5月14日付のフランス紙とのインタビューで、ロシアは国際的に孤立し、「中国の属国に成り下がった」と酷評した。
これに対しクレムリンのペスコフ報道官は「両国は戦略的パートナーであり、従属かどうかの問題などない」と反論した。プーチン自身も6月16日、サンクトペテルブルク「国際経済フォーラム」で、欧米制裁にもかかわらず、「世界経済のリーダーの地位を維持する」と強気の姿勢をみせた。
しかしプーチンの強気に説得力はない。中国共産党は1921年の創設以来「共産主義の祖国」ソ連から、革命理論をはじめ党組織論を学んできた。新国家建設もソ連をモデルにし、ソ連を「兄」、中国が「弟」の兄弟関係にあった。
その関係がいまは完全に逆転したのは、差が開く一方の経済力にある。ウクライナ戦争発動の遠因は、1991年のソ連崩壊。長期にわたり世界の半分を支配した「帝国の喪失感」はプーチンだけでなくロシア国民に広く共有されている。
しかし戦時経済の長期化でロシア経済は深刻な打撃を受け、中国の協力抜きの生存は危うい。ウラジオストク港の使用権回復と中央アジア権益拡大は、中国がロシアの弱さを突いて獲得したものだ。同時に権益侵食が過剰になれば「傷ついた熊」の誇りを傷つけかねない。
それが高じれば、中ロ関係にひびが生じ西側の利益になることを中国は自己の歴史経験から知っている。今後中国がどこまでロシア権益に手を出すか、アクセルとブレーキを交互に踏みながら微妙なハンドリングを迫られる。
●ロシアの資産3000億ドル凍結した西側「ウクライナに使う」…ロシアも対抗 6/20
ウクライナ戦争後に西側とロシアがそれぞれ凍結した資産をめぐり場外戦が加熱している。米国と欧州は凍結したロシアの資金をウクライナ再建に使うとして最近になり関連議論と立法を急いでおり、ロシアは安値で西側企業の資産を国有化する措置で対抗する姿だ。ウクライナ戦争長期化により関連国の財政難が深まり出てきた苦肉の策という見方も出ている。
日本経済新聞などによると、最近欧州連合(EU)内では対ロシア制裁で凍結した資金で得た利子収益などをウクライナ再建事業に使う案が検討されている。これに先立ち15日の米国議会では凍結したロシアの資金をウクライナに譲渡する案が出てきた。
現在、米国とEU、日本など西側陣営が凍結したロシア中央銀行の外国為替は3000億ドル(約42兆5559億円)に達する。このほかオリガルヒと呼ばれるロシアの新興財閥の資産580億ドルも西側金融機関に足止めされている。
世界銀行とウクライナ政府が3月に試算したウクライナ国内のインフラなどの再建と復旧費用は4110億ドルに迫る。ウクライナとロシアが攻防戦を持続しており、こうした再建費用はさらに増えると予想される。実際に今月初めにウクライナ南部ヘルソン州のカホフカダムが崩壊するなど状況は悪化の一途だ。
ウクライナに対する武器提供など各種支援を継続してきたEU主要国の立場としては財源調達が負担になるほかない状況ということだ。こうした中、ロシアに軍撤収を圧迫し同時にこうした財政難を解決するためのカードとしてロシアの凍結資金活用案が浮上した。
日経によると、ロシア中央銀行の資産1800億ユーロ(約28兆円)を保管する世界最大の国際預託決済機関であるユーロクリア(ベルギー)が1−3月期に凍結資金を再投資して稼いだ収益だけで7億3400万ユーロ水準だ。これに先立ちベルギー政府は先月こうした利子で発生した追加税収9200万ユーロをウクライナ支援に使うことに決めた。
オリガルヒの財産も没収
米国ではより強い措置が検討されている。米上院の与野党議員は15日、米国当局が凍結したロシア中央銀行などの資産をウクライナに譲渡する法案を提出した。法案によると、バイデン米大統領がこうした資産を没収してウクライナに譲渡する権限を持つ。
戦争犯罪などにかかわった一部オリガルヒの財産も没収対象に上がった。一例としてロシアのメディア財閥であるコンスタンチン・マロフェーエフ氏は2014年にロシアがクリミアを併合する際に現地の親ロシア反乱軍に資金を出したことが明らかになり540万ドルの財産が凍結されている。
カナダ政府もイングランドのサッカープレミアリーグのチェルシーFCの元球団オーナーでありロシア財閥であるロマン・アブラモビッチ氏所有の会社資産2600万ドルに対し没収手続きを進めている。カナダは昨年関連法を制定するなどウクライナ再建事業にこうした凍結資産を使う根拠をすでに用意している状態だ。
だがこうした方式は国際法違反の恐れが大きく議論が予想される。ある国が行政執行で他国の資産を強制没収するのは国際法上の「主権免除」の原則に反するためだ。これはEUが凍結資金に手を付けず利子収益だけ活用する迂回案を議論している理由でもある。
これと関連し、国際法学者であるオックスフォード大学のツァナコプロス教授は「一国の資産を凍結するのは一時的で可逆的なもの。(国際法上)損害を及ぼしたことに対して凍結はできても没収してはならない」と話した。
プーチン、資産接収法案に署名
ロシアも真っ向から対抗している。フィナンシャル・タイムズによるとロシアのプーチン大統領は今月初めに西側企業のロシア国内残留資産を接収する法案に署名した。
まだ公開されていない今回の法案には、ロシア政府が西側企業の資産を極めて安価で接収して売却する権限を持つ内容が含まれた。事実上の国有化を意味するものだ。
また、これを買い取る業者から外国人投資家を完全に排除するなど西側企業の出口をふさぐ方向で法案はまとめられた。ロシア当局は売却過程で稼いだ莫大な収益を国庫に還収して戦争資金などに使うという計画だ。今年に入りロシアの財政赤字が420億ドルに増えた状況で、財政を拡充し西側の制裁に対抗できる一石二鳥の方策ということだ。
これに先立ちロシアは4月にドイツのガス会社であるユニパーとフィンランドの国営電力会社フォータムなど西側エネルギー企業のロシア国内合弁法人の株式を国有化した。これと関連しある西側企業役員はフィナンシャル・タイムズとのインタビューで「西側の原材料企業が主要ターゲットになるものとみられる。(関連ノウハウが必要な)IT企業の場合はロシアが直接運営しにくいため相対的に影響は少ないだろう」と予想した。
●初外遊で独大統領と会談 ウクライナ問題など協議―中国首相 6/20
中国の李強首相は19日、就任後初の外遊先となるベルリンで、ドイツのシュタインマイヤー大統領と会談し、2国間関係やウクライナ情勢について意見を交わした。李氏は20日に独中首相と閣僚が出席する協議を行った後、フランスを訪問する。独仏との関係を強め、覇権を争う米国と欧州の結束にくさびを打つ狙いがありそうだ。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 20日の動き 6/20
ウクライナ反転攻勢「8集落奪還」の一方で東部は「状況困難」
ウクライナ国防省のマリャル次官は、19日にこの2週間で東部ドネツク州のマカリウカや南部ザポリージャ州のピャチハトキなど8つの集落を奪還したと発表し、成果を強調しました。ウクライナ軍の部隊が公開したピャチハトキだとする映像には、ウクライナの国旗を掲げる兵士たちの姿がうつされています。一方で、マリャル次官はロシア軍が精鋭の空てい部隊などかなりの兵力を東部ドネツク州などに集中させ激しい戦闘が続いていると指摘し「東部の状況は困難だ」として危機感を示しました。これに対し、ロシア国防省は19日にドネツク州で最も多くの攻撃があったとした上で、空爆や砲撃でウクライナ軍を撃退したと主張していて、東部で激しい攻防が続いているとみられます。
ゼレンスキー大統領 英スナク首相と電話会談
ゼレンスキー大統領とイギリスのスナク首相が19日に電話会談をしました。ウクライナ大統領府は、電話会談で両首脳が射程の長い兵器を通じたウクライナ軍のさらなる戦闘能力の拡大に向けて協議したとしています。ゼレンスキー大統領はイギリスから供与された、射程が250キロ以上の高精度の巡航ミサイルが前線で成果をあげているという認識を示していて、今後、追加の供与があるかが焦点となります。
ゼレンスキー大統領 成果強調「私たちに失われた陣地はない」
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、新たに動画を公開し「私たちの兵士は、一部の地域では前進し、一部の地域では陣地を守り激化する占領者からの攻撃に抵抗している」と述べ、激しい攻防が続いていることを示唆しました。その上で「私たちに失われた陣地はない。あるのは解放したところのみだ。ロシアは失っているだけだ」と述べ、反転攻勢の成果を強調しました。
ダム決壊「ロシア支配地域で国連の活動が拒否」
ウクライナ南部でダムが決壊し洪水の被害が拡大していることについて、国連は18日の声明で「これまでのところロシア政府が支配する地域では国連の活動が拒否されている」と明らかにしました。声明では「必要な支援は拒絶されてはならない」として、ロシア側に対し、国際人道法に基づき国連の支援を受け入れるよう求めました。国連のハク副報道官も19日の定例会見で「誰が支配しているかに関係なく、私たちはウクライナのすべての地域に行く用意がある」と強調し、支援を行うためロシア側と協議を続けているとしています。これについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は19日に「砲撃や挑発が続いていて、安全を確保するのが非常に難しい」と述べ、ウクライナ軍による攻撃が原因だと主張しました。ダムが決壊したことによる被害について南部ヘルソン州の親ロシア派の幹部は18日、ロシア側の支配地域で35人が死亡したとしています。また、ウクライナ内務省は19日、これまでに18人の市民が死亡し、さらに31人の行方が依然としてわかっていないとした上で、ロシア側が砲撃を続ける中でも支援活動を行っていると強調しました。
林外相 ウクライナ復興に関する会議出席 きょうイギリスへ出発
イギリスで開かれるウクライナの復興に関する会議に出席するため、林外務大臣は20日、日本を出発します。民間企業の投資の促進を含め、日本の得意分野を生かしながら、官民が連携して貢献する姿勢を示すことにしています。林外務大臣は20日から5日間の日程で、イギリスのロンドンとフランスのパリを訪問します。イギリスでは、ウクライナの復興に関する会議に出席し、民間企業の投資の促進を含め、インフラの再建や地雷除去といった日本の得意分野を生かしながら、官民が連携して復興に貢献する姿勢を示すことにしています。また、アメリカのブリンケン国務長官の中国訪問を踏まえ、会議にあわせて、G7=主要7か国の外相が、中国の最新情勢を共有し、今後の対応を協議する方向で調整が進められています。続いて訪れるフランスでは、途上国への開発資金協力を検討する会議に出席することにしています。会議には、マクロン大統領やブラジルのルーラ大統領らも参加する予定だということで、国際社会全体で、持続可能な開発目標=SDGsを達成する方策について意見が交わされる見通しです。林大臣としては、気候変動やエネルギー問題などをめぐる日本の取り組みなどを説明し、グローバル・サウスと呼ばれる新興国や途上国との関係強化を図りたい考えです。 
●プーチン大統領 「ロシアの中国依存論」に「あなたたちは依存しないのか」反論 6/20
ロシア大統領の公式サイトによると、プーチン大統領は現地時間16日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムで、西側の言う「ロシアの中国依存論」を笑い飛ばし、「あなたたち(西側)は依存しないのか」と問い返したうえで、「今の状況下ではすがすがしい気分だ」と述べました。
プーチン大統領は、「現在の世界では深刻な転換が起きている。ウクライナ危機の発生前から、ロシアはアジア、アフリカ、ラテンアメリカの市場へのシフトが始まっていた」と述べました。
そのうえで、「世界経済のトレンドは変わりつつあり、リーダーは変わりつつあり、新たなリーダーが登場している」と指摘しました。さらに、対中貿易でいうと、ユーロ圏諸国の伸び率のほうがロシアよりも急速であることに言及し、「『ロシアは中国から離れられない』という声は聞こえているが、あなた方(ユーロ圏諸国)はそうではないのだろうか。あなた方こそとっくに『依存』し始めていたうえに……実にそれを楽しんできているようだ」と問いただしました。
プーチン大統領はまた、「ロシアは中国、インド、そしてその他の国のいずれとも良好な関係にある。他の国も速いスピードで発展している。インドネシアは巨大な市場があり、速やかに成長している。ラテンアメリカは現在発展し続けており、将来の伸び代も大きい。アフリカにも大きな発展のチャンスがある」と指摘しました。
さらに、「規制をかけようとする人々は、その行為によってより大きな苦痛を味わうだろう。現代の世界では、よその国に特定の国の利益に追随させるよう迫るのは困難なことで、場合によっては不可能に近い」との考えを示しました。
●「プリゴジンはロシアのシステムが崩れているのを感じている」 6/20
現在はイスラエルに亡命中のロシア人政治学者アッバス・ガリャモフは、かつてプーチンのスピーチライターだった。現在はプーチン大統領にきわめて批判的な見方をしている。
「かつてのプーチンは話が明快でした」
──2001年と2008年の計2回、あなたはプーチンのスピーチライターを務められていたわけですが、具体的に言うと、それはどんな仕事でしたか。
私が大統領府で働きはじめたのは29歳のときでした。2000年代のはじめは、職場の雰囲気は、創造力にあふれ、活発で、明るかったです。パーティーもよくしていました。上司たちが目をつぶってくれていたんです。内務省などの省庁は、規律が非常に厳しかったのですけれどもね。
職階上で言うと、私の地位は全然高くなかったです。プーチンの演説を書いていても薄給でした。給料はエリツィン時代と変わっていなかったのです。給料が突然上がったのが2002年でした。職員へのボーナスがどかんと支給されました。一部の省庁は現金入りの封筒をもらっていました。プーチンは、自分に忠実な人には気前がいいのです。そのことは誰もが知ることになりました。
しかし、いまは雰囲気が昔とはガラッと変わりました。仕事を辞められなくなりましたし、外国に旅行に行くこともできません。重要な議決がある日は休めません。健康上の理由で休んだら(大統領府傘下の)「中央臨床病院」でチェックを受けなくてはなりません。抗うつ剤やアルコールに頼る人が続出しています。
誰も未来のことは考えません。未来を見るのがこわいからです。みんなうつむいて、後回しにできるプロジェクトは、どんどん後回しにしています。大局を見据えた戦略が完全になくなっています。みんな運用に関わる瑣末な問題ばかりに目を向けています。暗澹たる状況です。
──プーチンの演説は、初期の頃と比べるとどう変わりましたか。
プーチンがボリス・エリツィンと異なっていたのは、権力の座に就いた当初から、自分の考えを自分の言葉で言えたところです。プーチンにとって演説の原稿は参考資料のようなものでした。原稿に縛られずに、演説することができたのです。演説の前に原稿に目を通すこともほとんどありませんでした。そこがドミトリー・メドベージェフとの決定的な違いです。
メドベージェフは大統領だったとき、演説を非常に重視し、何度も手を入れました。それは彼がそういう性格だったからではなく、立場上、そうせざるをえなかったからでした。
つまり、メドベージェフは名目上の指導者に過ぎなかったので、演説することはできたけれど、その内容はプーチンと協調していなければならなかったのです。だから演説の原稿に熱心に手を入れました。演説の原稿をそのまま読み上げるので、原稿自体に説得力を持たせなければならなかったのです。
プーチンの場合、入念に用意する演説は1年に3、4回でした。とくに力を入れていたのが、連邦議会での演説と、ミュンヘン安全保障会議での演説です。2001年のドイツ議会での演説も入念に準備していたことが私の記憶に強く残っています。あれはプーチンにとって大統領になってから初の訪独でした。演説の原稿に大量の修正を加えたのですが、いまでもよく覚えているのが、原稿の余白に書かれていた言葉です。
「19世紀のドイツのロマン派の文学から何か一つ引用句を見つけてここに加えてほしい」
その演説の原稿を執筆していた5人全員が「なんという大統領だ」と驚いたことを覚えています。
しかし、ウクライナ侵攻後のプーチンは、何も言うことがなくなったのか、演説の中身も空っぽです。ロシアがウクライナの4州の併合に正式に調印したときの長い演説も、5月9日の戦勝記念日のパレードの際の演説も、プーチンは「西側の植民地主義」に反対しているだけです。
──演説の中身が空っぽになった理由は何ですか。
演説は言葉に過ぎません。大事なのは政策であり、演説はその政策を進めるための単なる道具でしかないのです。政策がもたらすものが敗戦なら、どんな演説もそれを隠せません。言うなれば、がんを化粧品で治そうとするような話ですからね。プーチンが善悪に関する抽象的な考察を述べる演説をしているのは、ロシア政府内で誰も負けを認めることができていない表れです。
ただ、大統領は哲学者ではありません。大統領の演説に求められるものは具体的な話です。かつてのプーチンは話が明快でした。いまはそうではありません。人々は目くらましを食らわされ、鼻づらを引きずり回されている気分になっています。
●米大統領、プーチン氏による核使用の脅威は「現実的」 6/20
バイデン米大統領は19日、ロシアのプーチン大統領による戦術核兵器使用の脅威は「現実的」だと述べた。カリフォルニア州の献金者との会合で語った。
バイデン氏は17日、ロシアによるベラルーシへの戦術核配備について「完全に無責任」だと批判していた。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は先週、ロシアから戦術核兵器の搬入が始まったと明らかにした。その一部は、1945年に米国が広島と長崎に投下した原子爆弾の3倍の威力があると述べた。
米政府は、ロシアが核兵器使用の準備をしている兆候は見られないとの認識を示してきた。
●いつものキレがない!記者会見で言葉に詰まり、吃るプーチンの動画が話題 6/20
いつもは巧みな弁舌でウクライナ政府を悪者と決めつけるロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、この動画では2度に渡って吃っている。
6月18日の記者会見で、ウクライナ軍の総司令官を務めるワレリー・ザルジニーについて質問されたときだ。ロシアの戦争特派員アレクサンドル・スラドコフが、ウクライナの反転攻勢の指揮官の一人であるザルジニーの居場所を知っているかと尋ねた。プーチンはぎこちなく「彼、ザルジニーはどこにいる?」と、隣に座っているスタッフに答えを求めた。吃ったのはこのときだ。
ウクライナ内務省の顧問アントン・ゲラシュチェンコがこの動画をツイッターに投稿すると、19日午前の時点で視聴回数は52万回を超えた。「ザルジニーの話になると、プーチンは言葉に詰まる」と、ゲラシチェンコはコメントした。敵将に苦手意識でもあるのだろうか。
●プーチン大統領大誤算¢O線から3万2000人撤退 6/20
ワグネル契約の受刑者兵 国防省への不満爆発 前線手薄でウクライナ奪還加速か
プリゴジン氏宣言
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者、エフゲニー・プリゴジン氏が18日、ウクライナでの戦闘に参加した受刑者兵3万2000人の「帰還」を宣言した。ウクライナ侵略を続けるウラジーミル・プーチン政権は、ワグネルへの依存を強めていたが、プリゴジン氏はロシア国防省への不満から、撤退を表明していた。18日の宣言が事実であれば、前線が手薄となっている可能性があり、ウクライナの反攻に直面しているロシアにとって痛手となる。
国防省への不満爆発
プリゴジン氏は5月、動員した受刑者約5万人のうち、2割に当たる約1万人が戦死したと述べていた。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は昨年12月、ワグネルが約4万人の受刑者を含む約5万人をウクライナに派遣したとの概算を示した。
動員した受刑者の数に隔たりはあるものの、ワグネルは5万人程度の兵力をウクライナ戦線に投入。東部ドネツク州の激戦地バフムトでの戦闘に従事するなど、ロシアのウクライナ侵攻で主要な役割を果たしていた。
だが、プリゴジン氏は、十分な弾薬が供与されていないとして、セルゲイ・ショイグ国防相やロシア国防省をたびたび非難していた。先月21日には、ワグネル部隊を前線から完全撤退させることを表明した。米シンクタンク「戦争研究所」は翌日、ウクライナの大規模反攻の際にワグネルがほぼ不在になる可能性があると指摘し、代わりに訓練が不十分なロシア軍部隊が配置される可能性が高いと分析していた。
ウ軍集落「8つ目」発表
ワグネルの不在≠フ影響は不明だが、ウクライナの大規模反攻は着々と成果を上げているようだ。
ハンナ・マリャル国防次官は19日、ウクライナ軍が反転攻勢を本格化させた過去2週間で、8つの集落を奪還したと明らかにした。すでに発表していた東部や南部の7集落に加え、南部ザポロジエ州ピャチハトキを新たに奪還。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は18日の声明で「一歩ずつ前進している」と述べ、自国軍をたたえた。
これに対し、ロシア国防省は18日、ピャチハトキでウクライナ軍を撃退したと主張した。現地で攻防が続いている可能性がある。
●世論調査、政府の刷新「必要」73%…ゼレンスキー氏退任望む人は23% 6/20
ウクライナの調査研究機関「キーウ国際社会学研究所」が19日に公表した世論調査によると、ロシアの侵略が終結した際、ウクライナ政府の閣僚など中央権力の構成に何らかの変更が必要だと答えた人が73%に達した。政府高官の汚職やオリガルヒ(新興財閥)と政界の癒着に対する国民の不満が改めて浮き彫りになった。
調査は5月26日〜6月5日に電話で行われ、1029人が回答した。「勝利後、国を立て直すために中央政府を変える必要があるか」として議会、政府、大統領のそれぞれについて回答を求めた。議会は69%、閣僚は47%が交代を希望した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の退任を望む人は23%だった。
同研究所は「(ロシアの)全面侵攻後、国民は『優先順位』を設け、勝利を達成するために当局に対して概して高い支持が見られる」とする一方、「権力の刷新を求める国民の願望を取り除くことはできない」と指摘した。
●ウクライナ復興へ国際会議 61カ国参加、支援拡大促す―ロンドン 6/20
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナの復興支援について話し合う国際会議が21、22両日、ロンドンで開かれる。英ウクライナ両政府の共催で、日米欧など61カ国の政府や民間セクター代表らが参加。侵攻開始から1年半近くがたつ中、戦闘終結の兆しは見えないものの、復興への道筋を具体的に示し、支援拡大へ国際社会のさらなる結束を促す狙いだ。
スナク英首相をはじめ、ブリンケン米国務長官や林芳正外相ら首脳・外相級を含む1000人以上が出席。欧州連合(EU)や世界銀行など国際機関の代表や、復興計画に携わる企業関係者も参加する。
初日には、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで開幕演説を行う。シュミハリ同国首相による基調講演後、「復興への課題」「持続的回復の枠組み」などのテーマについて協議し、各国がそれぞれ支援内容を表明。2日目は経済開発やデジタル改革などについて専門家を交えて討議する。
スナク首相は会合で「経済復興は軍事戦略と同様に重要」との考えを強調する見通し。「ウクライナが強い財政と高度な技術を持てば、ロシアを撃退する力が一層強まる」とし、官民が連携して支援に取り組む必要性を訴える。
ウクライナ復興を巡る国際会議は昨年7月にもスイス南部ルガノで開かれ、約40カ国が参加。復興に向けた行動の原則を盛り込んだ「ルガノ宣言」が採択された。
●スウェーデン、武力攻撃受ける可能性「排除できず」 報告書 6/20
スウェーデン軍は19日、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、自国が武力攻撃を受ける可能性は排除できないとする報告書を公表し、北大西洋条約機構(NATO)への一刻も早い加盟が重要だと訴えた。
超党派の議員・専門家による委員会が作成した同報告書は、想定される攻撃主体としてロシアを名指しこそしなかったが、ロシアのウクライナ侵攻およびアジアと世界における中国の影響力拡大を挙げ、「スウェーデンに対する武力攻撃の可能性は排除できない」としている。
同委員会は、スウェーデンの安全保障を確保する最上策はNATO加盟だと指摘。「ロシアがウクライナに侵攻し、中国が領有権主張を強める今、領土紛争での軍事力行使が再び現実味を帯びてきた」とし、スウェーデンの安全保障政策は歴史的な転換期を迎えていると主張した。
委員会の一員であるペーテル・フルトクビスト(Peter Hultqvist)前国防相は会見で、スウェーデンは軍備を大幅に増強してきたが、まだ不十分だと指摘。2025年から2030年までに「軍備拡張」を図り、徴収兵の数を現在の年間5000〜6000人から、少なくとも1万人に増やす必要があると述べた。
スウェーデンは2022年5月、NATOに加盟申請し、200年に及ぶ軍事的非同盟の方針を転換。翌6月からはNATOの「招請国」となっている。しかし、ハンガリーとトルコの反対により、加盟は実現していない。
●プーチン大統領 「汝、殺すなかれ」と説いた司祭を即座に処罰 6/20
昨年2月より続くロシアによるウクライナへの軍事侵攻。当初は早々に終わるのではないかと考えられていたが、戦況は一進一退しながら交戦状態が続いている。「ミステリー・ニュース・ステーション」によって紹介する。
事実、ロシア正教会のイオアン・ブルディン司祭が教区の人々に聖書の有名な言葉「汝、殺すなかれ」と言ったことを問題視され、神父としての地位を失い、戦時中の検閲法の下で罰金を科されることになるという事態が発生した。
現在、ロシアではウクライナへの軍事侵攻に対して大っぴらに反対する発言をすることはタブーとされている。ウクライナへの侵攻は領土を取り戻すための当然の行為となっており、「戦争」と呼ぶことすら犯罪行為となりうる。ブルディン司祭の聖書を引用し平和主義を強調した説教は、正教会の指導者たちに報告された。そして検閲法によって即座に有罪判決を受け、3万5000ルーブルの罰金を科され、教区司祭の地位から退くことを余儀なくされたのだ。
その後、6月16日に行われた教会裁判所の審問で、ブルディン司祭の説教が改めて検討されることになった。訴状ではブルディン司祭の言葉が「総主教と主教に対する信者の信頼を損ない」、教会とその統一に損害を与えたと書かれている。ロシア正教会は、過去に「祖国を守る戦士を祝福」しており、教会当局もブルディン氏の平和主義的な態度は明らかに反ロシア的であり、したがって「受け入れられない」と明らかにしている。

 

●ロシア、「軍国主義日本に対する勝利の日」制定へ… 6/21
ロシア下院は20日の本会議で、9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第2次大戦終結の日」にする法案を可決した。上院の審議を経て、プーチン大統領の署名で成立する見通しだ。プーチン政権はロシアのウクライナ侵略を巡り、日本のウクライナ支援強化に反発しており、報復措置の一環とみられる。
9月3日は、前身のソ連時代の第2次世界大戦の「対日戦勝記念日」とされている。法案はロシアのウクライナ侵略後の昨年6月、上下両院の与野党議員が提出したが、審議は進んでいなかった。
ロシアは2020年、9月3日を「第2次大戦終結の日」としたが、当時は「軍国主義日本に対する勝利」の文言には言及しなかった。
露外務省は今月9日、日本の上月豊久駐露大使をモスクワの外務省に呼び、日本のウクライナ支援に懸念を表明したほか、対抗措置を警告していた。
●ウクライナ復興は安全保障、ロシアの侵略繰り返させず=ゼレンスキー氏 6/21
ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、ウクライナ軍は東部と南部でロシア軍を撃退していると述べた。
ゼレンスキー氏は恒例のビデオメッセージで「ウクライナ軍の兵士は現在、南部と東部で敵を撃退している」と述べた。
また、21─22日にロンドンでウクライナ復興会議が開かれることに関連し、ウクライナの復興は安全保障の「保証」となるほか、ロシアの侵略が繰り返されないようする「手段」になるとの考えを示した。
●EU首脳、中国にウクライナ戦争終結への取り組み呼びかけへ=当局者 6/21
欧州連合(EU)は来週の首脳会合で、中国に対しウクライナ戦争の終結のほか、気候変動などの地球規模の課題への取り組み、EUとの経済関係の再均衡を呼びかける予定であることが20日、EU当局者の話で分かった。
EUは29─30日にブリュッセルで首脳会合を開催。中国が主要議題の1つになると見られている。
EU当局者によると、中国に対する呼びかけは5月に発表された主要7カ国(G7)宣言の内容に沿った内容。ただ、経済関係の再均衡や相互関係の必要性など、EUと中国間のより具体的な課題を盛り込んでいるという。
中国への経済的依存度を引き下げるというEUの政策について、当局者は「脱リスクという概念を明確にし、多様化を図ることが重要だ」と述べた。
ロシアのウクライナ侵攻における中国の役割や経済的な結びつきが議論で焦点になるとし、欧米首脳らは中国に対して、ロシアへの影響力を使って紛争を解決するよう求めているという。
●ロシア、精鋭の空挺部隊を東部戦線に増派…ウクライナの南部反攻を妨害か 6/21
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は19日、ロシア軍が東部ハルキウ州東端クピャンスクからドネツク州の要衝リマン方面に延びる戦線に精鋭の 空挺くうてい 部隊などを増派して攻撃を強化しているとSNSで指摘した。大規模な反転攻勢を展開するウクライナ軍が南部に戦力を集中するのを妨害する狙いとみられる。
英国防省は19日、露軍がこの10日間で、南部ヘルソン州のドニプロ川東岸に配置していた数千人規模の部隊を南部ザポリージャ州やドネツク州の要衝バフムトに転戦させ始めた可能性が高いとの分析を明らかにした。露軍部隊の移動が激しくなっている模様だ。
ウクライナ軍の総司令官は19日、「最大の激戦地」を視察し、司令官らと反攻について協議したとする動画をSNSに投稿した。露軍は、地雷で構築した防衛線と予備兵力の投入によってウクライナ軍の進軍阻止を図っていると総司令官は説明した。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日、軍司令官らと、反攻用に用意した旅団の投入などについて協議したと明らかにした。ウクライナ軍の主力部隊は依然、戦闘に参加していないとみられている。ウクライナ空軍などによると露軍は20日、無人機35機を首都キーウや西部リビウなどに発射し、ウクライナ軍は32機を撃墜した。リビウでは重要施設が被害を受けた。露軍は20日未明、ザポリージャも地対空ミサイルS300などで攻撃した。
●ロシア、ウクライナが米英のミサイルでクリミア攻撃なら報復=国防相 6/21
ロシアのショイグ国防相は20日、ロシアが2014年に一方的に「併合」したクリミアについて、ウクライナが米英が供与した長距離ミサイルで攻撃するとの情報を得ていると述べ、実際に攻撃が行われれば、ロシアは報復すると警告した。
ショイグ国防相は軍当局者の会合で、ウクライナが米国の高機動ロケット砲システム「ハイマース」と、英国の長射程の巡航ミサイル「ストームシャドー」を使い、クリミアを攻撃するとの情報を得たとし、「『特別軍事作戦』の範囲外でこれらのミサイルを使用することは、米国と英国が紛争に完全に巻き込まれることを意味し、ウクライナの意思決定中枢部への即時攻撃を伴う」と述べた。
ロシアはクリミアについて、ウクライナに対する「特別軍事作戦」と呼ぶものの範囲外と見なしている。 
●プーチン大統領は無視<鴻Vアでショイグ国防相の「粛清」準備か 6/21
1年4カ月に及ぶウクライナ侵略で行き詰まるロシア軍について、ショイグ国防相の責任を問う声が高まっている。政権内の苦しい立場を象徴するかのようにプーチン大統領に「無視」される動画も公開された。欧米を牽制(けんせい)するなど情報戦に活路を見いだそうとするショイグ氏だが、自身は「粛清」の危機に直面してい
モスクワの病院で19日、ウクライナで負傷した兵士にプーチン大統領が勲章を与える映像が公開された。ショイグ氏は隣に来たプーチン氏に声をかけようとしたところ、プーチン氏はくるりと背を向け、目を合わそうともしなかった。
ウクライナ侵略を短期で決着させるという当初の計画は大きく崩れ、国防省トップのショイグ氏は民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏に無能ぶりをののしられた。プーチン氏への高い忠誠心で更迭を免れてきたとされるショイグ氏だが、プーチン氏の態度は現在の政権内の立場を示している。
このままでは詰め腹を切らされることになりかねないショイグ氏は20日、欧米を牽制する発言を行った。
ウクライナ軍が、米国供与の高機動ロケット砲システム「ハイマース」や、英国供与の空中発射型巡航ミサイル「ストームシャドー」をクリミア半島を含むロシア領内に対して使用した場合、「米英が完全に紛争に巻き込まれることを意味する」と述べた。「ウクライナ国内にある意思決定中枢への即時の攻撃を招くだろう」と報復攻撃も警告した。
南部ヘルソン州カホフカ水力発電所のダム決壊についてもショイグ氏率いるロシア軍関与の疑いが強まっている。ウクライナ軍情報機関トップのブダノフ国防省情報総局長は20日、決壊の30分前にロシア側が無線を通じ「現地の部隊に荷物をまとめて撤退するよう命じていた」と指摘し、ロシアの関与を強調した。
ショイグ氏はウクライナがダムを決壊させたと主張しているが、ブダノフ氏はロシア側が秘密裏にダムを決壊させる作戦を実施したとの見方を示し「周辺のロシア軍部隊の中には、知らされていない部隊も存在した」と述べた。
国際法違反のダム破壊にロシアの関与が証明された場合、ショイグ氏も重い責任を問われることになりそうだ。
●「プーチンを支える金正恩」 北朝鮮の対露軍事支援が本格的に始まる!? 6/21
日曜日(6月18日)に閉幕した朝鮮労働党中央委員会第8期8次全員会議(総会)では金正恩(キム・ジョンウン)総書記が5月31日の軍事偵察衛星発射の失敗や経済計画の不振による自信喪失が原因で演説しなかったと韓国の統一部が分析し、それを韓国のメディアが一斉に報じていたが、本当に金総書記の演説はなかったのだろうか?
金総書記がこの種の重要な党会議に出席して、演説しなかったのは過去に一度もない。自ら司会を担い、開幕日の冒頭で報告を行い、最終日に総括を行うのが慣行となっていた。
朝鮮中央通信の報道を吟味すると、確かに前回の総会(今年2月に開催)と違って、「金総書記が総会を司会した」との言及はなかった。しかし、司会をしなかったからといって、報告までしなかったのだろうか?自己顕示欲の強い、多弁な正恩総書記が一言もしゃべらずに、部下の長ったらしい報告をじっと座ったまま傍聴していたとは俄かに信じ難い。
仮に、演壇に立たなかったとしたら主要の第一議題の「今年の主要政策執行に向けての戦いを一層果敢に展開することについて」を一体、どこの誰が報告したのだろうか?
妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長ら参加者全員が報告の内容をメモっていたところをみると、第一議題の報告者は金総書記以外には考えられないが、実際演壇に立たなかったならば、巷間言われるように本当に健康状態がすぐれないのかもしれない。
金総書記が公式の場に姿を現したのは元国防省後方総局長の玄哲海(ヒョン・チョルヘ)元帥の死去1周忌に際して5月19日に平壌の新美里愛国烈士陵を訪れて以来、28日ぶりであった。
金総書記の動静を調べてみると、5月の公式活動はたった2度だけで、娘の「ジュエ」を連れて偵察衛星発射準備委員会を視察(16日)した時もそれまで27日間も消息を絶っていた。今年に限って言えば、1月も2日から2月6日まで36日間、公式活動を控えていた。1か月前後の長期不在は年に1度はあるが、上半期だけで3回となると、やはり健康不安を抱えているのかもしれない。
それはそうと、第一議題の報告の中で気になった点がある。
党中央委員会政治局が「激突する国際軍事・政治情勢に対処して米国の強盗さながらの世界覇権戦略に反旗を翻した国家との連帯をより一層強化するのをはじめ、対外活動を徹底的に国権守護、国益死守の原則に基づいて自主的に、より積極的に繰り広げるための重大課題を提起した」ことだ。
「米国の強盗さながらの世界覇権戦略に反旗を翻した国家」とは言うまでもなくロシアを指している。
ロシアとの連帯を一層強化し、対外活動を国権守護と国益死守の原則に基づき、自主的により積極的に繰り広げるため提起された「重大な課題」とは一体、何なのか?
確か、党総会開幕4日前に金総書記はロシアの国慶節に際してプーチン大統領に祝電を送っていたが、その中で以下のように記していた。
「国の主権と安全、平和な生を侵奪しようとする敵対勢力の増大する威嚇と挑戦を粉砕するためのロシア人民の闘争はプーチン大統領の正確な決心と指導の下で新しい転換的局面を迎えている。正義は必ず勝利し、ロシア人民は自己固有の伝統である勝利の歴史を引き続き輝かしていくだろう」
「我が人民は帝国主義者の強権と専横に立ち向かってロシアの主権的権利と発展・利益を守り、国際的正義を実現するための聖なる偉業の遂行に総邁進しているロシア人民に全面的な支持と連帯を送っている。歴史のあらゆる試練を克服し、世代と世紀を継いできた朝露友好はわが両国の大事な戦略的資産であり、新しい時代の要求に即して善隣・協力関係を絶えず昇華、発展させていくのは共和国政府の確固たる立場である」
「強国建設の雄大な目標を実現し、世界の平和と安全を頼もしく守っていこうとする両国人民の共通の念願に応じて、プーチン大統領と固く手を取り合っての朝露間の戦略的協力を一層緊密にしていく用意を確言している」
北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻を「正義なる戦い」と位置付けているようだ。だからこそ「ロシアが勝って当然」というわけかもしれないが、裏を返せば、「絶対に負けてはならない」ということになる。
仮にロシアが敗北し、プーチン大統領が失脚という事態になれば、プーチン大統領と固く手を取り合ったロシアとの戦略的協力が台無しになるどころか、欧米諸国から「ロシアの次は同じ専制国家の北朝鮮」と標的にされかねない。ブッシュ政権の時に「イラクの次は北朝鮮」と標的にされた悪夢が蘇るのではないだろうか。
このような観点からみると、ロシアの苦戦、即ち弾薬、兵器、兵力不足を傍観することはなさそうだ。そのことを匂わせたのが、5月19日に朝鮮中央通信が配信した国際問題評論家と称する金明哲(キム・ミョンチョル)なる人物の「米国はウクライナの『最後の滅亡の日』を促している」と題する文である。そこには以下のようなことが書かれてあった。
「米国の対ロシア圧迫戦略の直接的所産であるウクライナ危機が発生した時から450日が経った現時点で、我々は米国と西側集団が理性を失って越えてはならない最後の限界線を越えているのを目撃している。米国とその同盟国がウクライナに精密打撃手段を引き渡すのはロシアに対する最も明白な宣戦布告であり、ロシアの主権と領土安全を脅かす直接的な軍事行動である」
「米国とその追随勢力はロシアの傍にはいつも平和と真理を志向する正義で強力な友好国が共に立っているという事実を瞬間も忘却してはならない。今や、正義の国際社会がロシアの勝利のために勇躍奮い立つ時になった」
北朝鮮は否定しているが、欧米の眼を気にして対露軍事支援ができない中国に代わってロシアが望む弾薬や兵器だけでなく、労働者の派遣と称し、派兵もするだろう。欧米諸国のウクライナへの武器支援や義勇兵派遣を「『平和守護』とか『正当防衛』と美化粉飾し、ロシアに対する(その種の)支援を『侵略者への共謀』と言うのは不公正であり、絶対容認すべきではない」(金明哲氏)と言っていることからも窺い知ることができる。
米紙「ニューヨークポスト」の昨年8月5日付の記事によると、ロシアの国防専門家イーゴリ・コロチェンコ氏はロシアの国営テレビ「One TV」に出演し、「10万人の北朝鮮義勇兵が(ウクライナに)来て紛争に参加する準備ができているとの幾つかの報告がある」と発言していた。
事実だとすると、北朝鮮は昨年7月に国家として承認した親露派の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」に復旧、復興作業に携わる労働者の派遣を約束しているが、おそらくこのことを指しているのかもしれない。
仮に北朝鮮が退役軍人の「労働者」だけでも4〜5万人派遣しただけでも師団の数を1万1千人ぐらいだとすると、4個師団以上となる。
「コロナ」の収束に伴い、露朝国境が開放され、鉄道や陸路を通じた物流が活発になれは、陰に陽に北朝鮮の軍事支援が本格化するのではないだろうか。
●ウクライナ、約70億ドルの支援確保へ 英は戦争保険提案 復興会議 6/21
ロシアの侵攻を受けているウクライナの復興支援を協議するウクライナ復興会議が21日にロンドンで始まった。会議には官民から1000人以上が参加。ウクライナが60億ドルを超える復興支援金を求めたのに対し、英国が企業の投資を促進するための戦争保険の枠組みを公表したほか、米国は13億ドルの追加支援を表明。ウクライナのシュミハリ首相は約70億ドルの支援を確保する見込みと明かした。
シュミハリ首相は、向こう1年間で60億ドル以上の資金が必要になるとし、「この会議でこの額の確約を確保するという野心的な目標を設定した」と述べた。
その後、対話アプリ「テレグラム」で70億ドル近い支援を確保することが見込まれると指摘。「主な目的は、迅速な復興に必要な資金を調達するためのリソースを動員することだ」とした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は支援を歓迎する一方で、ウクライナが復興するだけでなく、西側の強力な一員として発展するためのプロジェクトへの具体的な取り組みが必要だと訴え、経済成長を促進する「実体のあるプロジェクト」への的を絞った援助を必要としているとビデオ会議を通じて発言した。
戦争保険
スナク英首相は企業の投資を促進するための戦争保険の枠組みを公表。ウクライナへの投資を希望する多くの企業にとって戦争による損害が重要な課題と指摘し、戦争のリスクに対する保険が投資リスクの軽減につながる可能性があるとの認識を示した。
詳細には触れず「保険会社がウクライナへの投資を引き受け、最大の障害のひとつを取り除き、投資家が行動するために必要な自信を与える上で大きく前進する」と表明。「同盟国と共にウクライナの防衛と反転攻勢に対する支援を維持し、ウクライナがこの戦争に勝ち続けるために必要な限りウクライナと共にある」と述べた。
欧米などの支援
スナク首相はこのほか、世界銀行による融資実施に向けた30億ドルの追加保証を含む措置を発表。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、欧州連合(EU)は2024─27年にウクライナに500億ユーロを提供すると表明した。
米国のブリンケン国務長官は13億ドルの追加支援を表明。エネルギー網の整備や、港湾や鉄道などのインフラ近代化に充てる。
ドイツのベーアボック外相は、23年にウクライナに対し3億8100万ユーロの人道支援を追加的に提供すると表明した。
スナク首相によると、ウクライナの復興支援を巡る声明「ウクライナ・ビジネス・コンパクト」に38カ国から400社を超える企業が署名した。
●ウクライナ 復興会議始まる 大統領 “具体的な事業 推進を” 6/21
ロシアの軍事侵攻で甚大な被害を受けているウクライナの復興支援について各国政府や企業などが話し合う会議が21日、イギリスで始まり、オンラインで参加したゼレンスキー大統領は、ロシアに対抗するためにも復興事業を推し進める重要性を強調しました。
会議では、林外務大臣が演説し、日本が戦後の荒廃から発展を遂げ、東日本大震災などの自然災害を乗り越えてきた経験や知見をいかし、官民をあげて復旧・復興を後押ししていく考えを強調しました。
【復興会議始まる】
「ウクライナ復興会議」は、ウクライナとイギリスの両政府の主催でロンドンで2日間にわたって開かれ、日本を含む60か国余りの政府関係者や世界銀行などの国際機関、それに民間企業も参加します。
ゼレンスキー大統領「概念から合意へ、そして具体的な事業へ」
会議の冒頭、オンラインで参加したゼレンスキー大統領は「この会議で、われわれは復興を、概念から合意へ、そして具体的な事業へと移行させなければならない」と述べ、侵攻を続けるロシアに対抗するためにも、復興事業を推し進める重要性を強調しました。
会議では、復興の枠組みや進め方などについて話し合われるほか、支援を受けるウクライナ側の透明性の確保、クリーンエネルギーや情報技術の活用、さらに教育や医療体制の再建などソフト面の復興支援についても議論が交わされる見通しです。
世界銀行はことし3月、ウクライナの復興にかかる費用は4110億ドル、日本円でおよそ58兆円に上るという試算を発表していて、民間企業の直接投資を促すことが今回の会議の大きな課題となっています。
イギリスのスナク首相は、38か国の400を超える企業がウクライナの復興に向けた投資に関心を示しているとした上で、さらなる投資を促すため、今回の会議で新たな戦争保険の枠組みを立ち上げる考えを示しました。
林外務大臣「知見をいかし『日本ならでは』の支援」
林外務大臣は、ウクライナ南部のダムの決壊による甚大な影響に強い懸念を示し、追加の支援として国際機関などを通じて浄水装置およそ160台と発電機およそ530台、建設用の機材30台などを供与することを表明しました。
その上で、日本が戦後の荒廃から発展を遂げ、東日本大震災などの自然災害も乗り越えてきたことに触れ「これまでに培ってきた復旧・復興の経験や知見をいかし、ウクライナの人々に寄り添った『日本ならでは』の支援を力強く実施していく」と述べました。
そして◇地雷やがれきの除去や、◇電力などのインフラ整備を含めた生活再建、それに◇農業生産の回復や産業振興などの分野を中心に支援を進めていくと説明しました。
さらに、ことしの年末から来年はじめにかけてウクライナ政府の関係者も交えて「経済復興推進会議」を開催する方針を明らかにし、日本として官民をあげて復旧・復興を後押ししていく考えを強調しました。
最後に林大臣は「ウクライナにおける公正かつ永続的な平和を1日も早く実現すべく、引き続き国際社会と緊密に連携して取り組んでいく。日本はウクライナとともにある」と結びました。
【復興に向けた動き】
ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナの首都キーウ近郊など一部の地域では復興に向けた動きが始まっています。
キーウ近郊 イルピンでアパート取り壊し作業や新しい橋の工事
このうちキーウ近郊のイルピンでは、去年2月から3月にかけてロシア軍がキーウの制圧を目指して進軍してきた際に激しい戦闘が行われ、砲撃などによっておよそ3000棟の建物が破壊されたり損傷したりしました。
1年あまりがたったいまも多くの建物が当時のままの状態ですが、公営アパートなどの取り壊し作業が一部で始まり、復興に向けて少しずつ動きだしています。
また、ロシア軍のキーウへの侵攻を止めるためにウクライナ軍が破壊した橋の隣では、トルコ企業も参加して新しい橋を架ける工事が進められていて、ことし11月の完成を目指しています。
イルピンに住む40歳の男性は「ゆっくりではあるが、復旧・復興が進んでいると実感している。平和で活気あふれる街になってほしい」と話していました。
イルピンの市当局は市街地の復興に向けてアメリカ企業の協力を受けて大規模な産業団地を建設する事業を進めていて、IT企業などを誘致して最大2万人の雇用を生み出す計画です。
イルピン市のマルクシン市長は「イルピンは復興によってもっと魅力的な街になる。多くの国や企業がこの街の復興に直接関わってもらいより具体的に取り組みが進んでいくだろう」と話していました。
鉄道 ポーランドと同じ規格に敷設し直す計画が進む
またロシアとの関係を断絶し、ヨーロッパとの経済的なつながりを深めようという事業も始まっています。
ウクライナの鉄道の線路はロシアと同じ規格で、ヨーロッパの多くの国とは線路の幅が異なっていますが、キーウとポーランドの首都ワルシャワの間の線路についてはポーランドと同じ規格に敷設し直す計画が進められています。
ウクライナ国営の鉄道会社によりますと、ワルシャワとウクライナ西部の都市リビウの区間については早ければ来年の着工を目指したいとしています。
鉄道会社で復興事業の責任者を務めるオレグ・ヤコベンコさんは「この事業によってヨーロッパとの交流がより深まり、地域経済の活性化につながる。鉄道は今後のウクライナの復興で非常に重要な役割を果たすことになる」と話していました。
ウクライナ政府は去年7月に発表した復興計画で被害を受けたインフラなどの復旧だけでなく、医療や教育など社会基盤全体を強化してヨーロッパへの統合を進めることを打ち出していて、ヨーロッパなど各国の支援や投資を求めています。
ウクライナのクブラコフ副首相兼インフラ相は「経済の再建が前線での戦いを後押しすることにつながる。戦争の終結を待たず、いますぐ復興に着手することが重要だ」と話していました。
【ウクライナの被害状況と復興計画】
ウクライナの首都キーウにある経済大学は、ロシアの軍事侵攻が始まった去年2月以降のウクライナ国内のインフラなどへの被害状況をまとめています。それによりますと、ことし4月までの被害総額は1475億ドル、日本円にして20兆円以上にのぼるとしています。
住宅への被害最大 15万8000棟に
このうち最も大きいのが住宅への被害で、破壊されたり損壊したりした住宅やアパートは15万8000棟におよんでいて、被害額は544億ドル、日本円で7兆7000億円あまりに達しているということです。
教育施設への被害も甚大で、小学校や幼稚園の建物などおよそ3200の施設が破壊されたり損壊したりするなどの被害を受けているということです。
また、経済大学がウクライナの主要産業である農業への影響について調査した結果、農業用の機械や設備が破壊されたり農産物が略奪されたりするなどの被害が相次いでいて、被害総額は87億ドル、日本円でおよそ1兆2000億円にのぼるとしています。
復旧や復興には総額4110億ドル、58兆円が必要
ウクライナ政府は、去年7月に開かれたウクライナの復興をめぐる国際会議で、長期的な復興計画を提示しています。
この中でロシア軍の攻撃によって大きな被害を受けた交通のインフラについては、主要産業である農産物の輸出を支える港や道路などの復旧を進めるとしています。
そして、現在はロシアと同じ規格となっている鉄道の線路をヨーロッパの規格に変える計画も実行するとしていて、農産物などを陸路で輸送しやすくすることで、ヨーロッパとの経済的な結びつきを強めるねらいもあります。
また、ロシア軍によって攻撃されたエネルギー関連施設の復旧にあたっては、将来的には、再生可能エネルギーなどの普及も同時に進め、気候変動対策でもヨーロッパの基準に適合していきたいとしています。
さらに、復興計画では、大きな被害を受けている住宅や医療施設などの再建に取り組むほか、復興の妨げになる、道路や農地などに埋められた地雷の除去も進めていくとしています。
ウクライナ政府が世界銀行や国連などとことし3月にまとめた報告書では、ウクライナ国内の復旧や復興には総額およそ4110億ドル、日本円にしておよそ58兆円が必要になると試算しています。
ただ、この試算には、南部ヘルソン州のダムが決壊したことによる洪水の被害などは含まれていません。
ウクライナでは、ことし4月以降もロシア軍のミサイルや無人機による攻撃が相次ぎ、住宅などに被害が出ています。
ウクライナ軍は、ロシアに占領された地域の奪還に向けて大規模な反転攻勢に乗り出していて、戦闘が激しさを増す中で住宅や道路などへの被害はさらに拡大することが予想されます。
復旧や復興に必要な額はさらに増えると見られ、ばく大な費用をどう確保するかが課題となっています。
各国のこれまでの支援状況
ロシアによる軍事侵攻が始まった去年2月以降、国際機関やG7=主要7か国を中心とする各国は、ウクライナの経済再生や復興に向けてさまざまな支援を行っています。
世界銀行は今月13日までにおよそ342億ドル、日本円にしておよそ4兆8500億円をウクライナ政府が行政サービスを維持する資金などのために供給しています。
IMF=国際通貨基金は去年、およそ27億ドルの(およそ3800億円)支援を行ったほか、ことし3月には4年間でおよそ156億ドルの(およそ2兆2000億円)資金支援プログラムを承認し、長期的な財政支援の枠組みを作りました。
さらに、ソビエト崩壊後に旧共産圏を支援する目的で設立されたヨーロッパ復興開発銀行は、最大30億ユーロ(4650億円)を支援すると発表しています。
ヨーロッパ復興開発銀行はウクライナで最大の機関投資家であり、民間投資を促す役割も期待されています。
またドイツのキール世界経済研究所が去年1月24日からことし2月24日までの期間でまとめた国・地域別の支援状況によりますと、軍事支援では、アメリカがおよそ432億ユーロ(およそ6兆6900億円)と全体の6割を占め、イギリス、ドイツ、EU=ヨーロッパ連合と続いています。
一方、財政支援では、EUがおよそ303億ユーロと(およそ4兆6900億円)最も多く、次いでアメリカがおよそ245億ユーロ、(およそ3兆7900億円)日本がおよそ57億ユーロ(およそ8800億円)イギリスがおよそ29億ユーロ(およそ4400億円)カナダがおよそ17億ユーロなどと(およそ2600億円)なっています。
【日本からの支援】
ウクライナの復興に向けた事業に対して日本企業の間でも関心が高まっています。
JETRO=日本貿易振興機構に問い合わせ急増
ウクライナを担当するJETRO=日本貿易振興機構のワルシャワ事務所には、復興に関わりたいという日本企業からの問い合わせが急増しているということです。
このためJETROは今月22日付けでワルシャワ事務所にウクライナ担当の職員1人を新たに赴任させ、体制を強化することを決めました。
ウクライナの復興や復旧に関わりたいと考える日本企業への情報提供のほか、日本への進出を希望するウクライナ企業の支援にも力を入れることにしています。
また日本企業のなかにはインフラの復旧や復興のニーズを詳しく把握するために動き出す企業もあります。
JICA=国際協力機構の事業を受注し、ウクライナの被害調査やインフラの復旧・復興の計画づくりなどを進めている建設コンサルタントの「日本工営」は来月、ワルシャワに営業事務所を設置します。
ポーランドは、ウクライナの復興に関わる各国の援助機関や支援団体などが拠点を設け最新の情報が集まるハブになっているということです。
このため会社としては、ウクライナに近いワルシャワの新たな拠点を通じて現地のニーズを把握し、日本の強みであるインフラの復旧や復興の技術をいかした事業を提案していきたいとしています。
JICA=国際協力機構「中長期的な復旧・復興の計画へ」
JICA=国際協力機構のウクライナにある現地事務所の杉本聡首席駐在員は、NHKのインタビューに対しウクライナへの支援について「緊急的措置は、ある程度終わって今は、ロシアの攻撃による突発的なニーズに対応しながらも、中長期的な復旧・復興の計画に手をつけ始めようという段階だ」と述べました。
これまで日本としては、発電所などへの攻撃が相次いでいることを受けて、200台以上の発電機のほか、国土の広い範囲に埋められた地雷を除去するための探知機などを供与したと説明した上で「日本の技術や工業製品に対するウクライナ側からの信頼は非常に高いと感じている。日本がこれまで培ってきた災害からの復旧・復興の知見の共有も非常に期待されている」と述べました。
また、南部ヘルソン州のカホウカ水力発電所のダムが決壊して大規模な洪水が発生し、被害が拡大していることについて杉本首席駐在員は「すでに各国や国連機関などが支援に入っているが、日本も浄水関係の支援について取り急ぎ検討を行っている」と述べ、飲料水や生活用水の確保に向けた支援を想定して準備を進めているとしています。
さらに、夏が終わると再び厳しい冬を乗り越える必要性が出てくるとして「ウクライナ側も電源の分散化や再生可能エネルギーの導入計画を打ち出し始めているが、インフラの復旧に加えて改善にどう着手していくのかが次のフェーズとして必要になってくる。ウクライナ側と話をしながら復旧の進め方を明確にしていきたい」と述べロシアによるインフラ攻撃の影響を抑えるための支援をどう進めるかウクライナ側と詰めていく考えを示しました。
【ヨーロッパなど各国企業の動き】
英コンサルティング会社「経済的なリスクは常にある」
ウクライナの復興事業に加わるためヨーロッパなど各国の企業も動きだしていますが、どのように民間の参入を活発化させるかには課題もあります。
イギリス・ロンドンに本社を置くコンサルティング会社はおよそ20年にわたってウクライナに拠点を構え、事業主と建設会社を仲介してオフィスビルやショッピングセンターなどの建設の見積もりや作業スケジュールを管理しています。
軍事侵攻以降、ウクライナで8件の復興事業に携わり、ロシアによる攻撃で被害を受けた建物の改修や新たな建設プロジェクトを進めています。
コンサルティング会社のグレイアム・ハールグローバルCEOは「侵攻で爆撃を受けた小売店の再建を進めているほか、住宅や学校、病院などすぐに必要となる施設の建設にも携わりたい」と話していました。
ウクライナは将来的にEU=ヨーロッパ連合への加盟が期待されているほか安価な労働力と豊富な資源があることなどから、多くの企業が製造や輸送の拠点整備に関心を寄せているということです。
その一方で、戦闘終結の見通しが立たないことが民間企業の参入を阻んでいて、会社のウクライナ地域の責任者を務めるコリン・ロス ゼネラルディレクターは「経済的なリスクは常にあり、プロジェクトに何かあれば投資した資金を失ってしまう。戦闘が続くなかで企業は行動を起こすことを懸念している」と話していました。
アイルランドの建材会社「ルールや規制がボトルネックに」
一方、アイルランドの建材会社は、先行きが不透明ではあるものの戦闘の終結後を見据えておよそ2億ユーロ、日本円にして300億円余りを投資しウクライナ西部に建築資材の製造拠点を設ける計画を去年6月に発表しました。
拠点では低炭素を意識した断熱材や暖房システムに使うパイプなどウクライナ政府が提唱する「よりよい復興」に合った資材の製造を行う計画で、ウクライナ政府の支援も受けながら来年夏ごろの着工を目指しています。
プロジェクト責任者のマイク・ステンソンさんは「ウクライナでは省エネや低炭素化に焦点を当てた建築資材を多く供給できるようになる。また東欧への輸出も可能になる」と意義を強調しました。
一方で、さらに多くの企業が復興事業に関わるためには企業が参入しやすい環境を整える必要があると指摘し「ウクライナでのルールや規制がボトルネックになっている。われわれも大規模な拠点のための適切な土地を見つけるためにかなりの時間を要したし、稼働に必要なエネルギーの確保も大きな問題で、ウクライナ政府は経済特区のようなものを作る必要がある」と述べ企業の投資を促す環境整備が不可欠だと話しています。
英経済学者「経済が機能 復興に向けた大きなプラス材料」
イギリスのシンクタンク、チャタムハウス=王立国際問題研究所の経済学者ティモシー・アッシュ氏はウクライナの現状について「インフラや農業などの分野で甚大な被害が出ている」と指摘しつつも、「軍事侵攻によってGDP=国内総生産の大幅な落ち込みや銀行システムの崩壊など経済機能のまひが生じると予想していたと思うがそんなことは起きていない」と述べ、経済が機能していることが復興に向けた大きなプラス材料だと分析しています。
一方、復興への課題については、1991年のソビエト崩壊後旧共産圏を支援するためにヨーロッパ復興開発銀行が設立されたことを例に挙げ「多くの国が個別に資金支援をしているが、連携がとれているようには見えない。ウクライナの復興という使命に完全に焦点を当てた機関が必要だ」と述べて復興に向けて主導的な役割を担う新たな国際機関の必要性を指摘しました。
また復興のための資金として国際機関や各国からの支援に加え民間企業の投資が期待されていることについては「民間企業が膨大な資金を供給すると考えるのは信ぴょう性に欠けるのではないか」と述べ、現実的ではないと強調しました。
そして資金を賄う方法として各国による経済制裁で凍結したロシアの資産をあげ「破壊を引き起こした国が相手国の再建費用を賄うべきだという主張は可能だ」と述べ、凍結されたロシアの資産を各国が復興資金にあてるかどうか法改正の議論も含めて検討を進めるべきだと提案しました。
●機能麻痺≠オた国連に代わるG7の役割 ロシアによるウクライナ侵略 6/21
欧米が世界を主導する時代は、転機を迎えつつある。
《今日国際社会は、コロナ禍に見舞われ、また、国際秩序の根幹を揺るがすロシアによるウクライナ侵略に直面し、歴史的な転換点にある》
広島G7(先進7カ国)サミット(5月19〜21日)は、こうした時代認識を示した。
「歴史的な転換点」とは陳腐な言い回しだが、実際に歴史的な転換点なのだ。
第二次世界大戦終結後、曲がりなりにも国連が国際問題の協議の場であり続けてきた。しかし、こともあろうに「世界の警察官」たるべき国連常任理事国のロシアがウクライナに侵略を仕掛け、国連でこの問題を扱うことができなくなってしまったのだ。
仮に、国連でこの問題を扱おうとしたら、ロシアおよび中国に大幅に譲歩せざるを得なくない。よって、「核兵器の威圧」を伴うウクライナ戦争と、その悪影響としての世界的な食糧不足、エネルギー供給の混乱という世界的な課題について話し合う場をどうするのか。その場として改めて注目されたのがサミットだ。
日本のマスコミ報道だけ見ていると気づかないが、実は欧米と日本以外の国は、ロシアによるウクライナ戦争に関してウクライナを支持していない。中立、場合によってはロシアに同情的な態度を示している国の方が数としては多い。
このままだと、「力による現状変更」を容認することになってしまい、「自由で開かれた国際秩序」を維持できなくなるかもしれない。
そうした危機感から、今回の広島G7サミットでは「法の支配に基づく国際秩序の堅持」と、「グローバル・サウスへの関与の強化」の二大テーマで開催された。
機能麻痺(まひ)した国連に代わって、《法の支配に基づく国際秩序の堅持》を国際的に示そうとしたわけだ。
だが、すべての国が加盟している国連とは異なり、G7が国際世論を代弁するということにはならない。経済規模から考えても、欧米と日本といった自由主義陣営だけで国際社会を動かせる時代は終わりつつある。よって、グローバル・サウスと呼ばれるアジア、アフリカの代表を招いたのだが、これらの国々は国際秩序について関心は薄く、むしろ資金援助やエネルギーなどの実利から、ロシアや中国に同調する傾向を強めている。
そこで、広島G7サミットでは、《グローバル・サウス》と呼ばれる国々に対して《エネルギー・食料安全保障を含む世界経済や、気候変動、保健、開発といった地球規模の課題》で、《グローバル・サウス》に対して「実利」を提供するので、《法の支配に基づく国際秩序の堅持》に賛成してほしいと懇願したのだ。
国家の数だけで見れば、欧米が中国を追い詰めているのではなく、自由主義陣営が追い込まれていることになる。情勢は多角的に分析したいものだ。
●ロシア、クリミア死守へ防衛線 ウクライナ攻勢に対抗―英分析 6/21
ウクライナによるロシア侵攻への反転攻勢で、ロシアは一方的に併合した南部クリミア半島とヘルソン州を結ぶ狭い陸地に大規模な防衛線を築き始めた。英国防省が21日の戦況分析で明らかにした。クリミア奪還に向けたウクライナの攻撃能力をロシアが認めた証拠と述べた上で、クリミアの死守はロシアにとって「政治的な最優先事項だ」と指摘した。
ウクライナの反攻は、クリミア半島からロシア本土までの補給路を分断するのが最大の狙いの一つとみられている。米CNNテレビは、クリミアが孤立化し、ロシア軍が撤退に追い込まれれば「象徴的な敗北」だと伝えている。
●G7外相会合 6/21
現地時間6月21日午後12時15分(日本時間同日午後8時15分)から約55分間、英国を訪問中の林芳正外務大臣は、本年の日本議長国下で3回目となるG7外相会合を開催したところ、概要は以下のとおりです(G7外相が出席。ただし、カナダは国際開発大臣、EUは駐英EU大使が代理出席)。
1 冒頭、林大臣から、ウクライナ復興会議の開催に係る英国政府の取組を高く評価した上で、ウクライナに平和と繁栄を取り戻すべく、引き続き緊密に連携したい旨発言しました。また、他の出席者からも、ウクライナ情勢に関する発言がありました。
2 ブリンケン米国務長官から、同長官の直近の訪中の結果について説明があり、林大臣から、中国に対して率直に関与し、我々の懸念を直接表明するとともに、対話を通じて建設的かつ安定的な関係を築くことが重要であり、ブリンケン国務長官の訪中の結果に注目している旨発言し、他の出席者からも、中国情勢等につき発言がありました。また、G7長野県軽井沢外相会合及びG7広島サミットのフォローアップを含め、引き続 きG7で連携していくことを確認しました。
3 なお、北朝鮮に関して、林大臣から、北朝鮮は先週(15日)、少なくとも2発の弾道ミサイルを発射し、いずれも日本のEEZ内に落下した、これは5月31日の衛星発射に続く安保理決議違反であり、断じて容認できない、引き続きG7で緊密に連携したい旨述べるとともに、今後もインド太平洋地域に関する議論を深めていきたい旨述べました。
●ウクライナ復興へ推進会議 林外相表明、年末にも 6/21
林芳正外相は21日午前(日本時間同日午後)、英国で開かれたウクライナ復興に関する国際会議に出席し、年末から年明けの間に「日ウクライナ経済復興推進会議」を開催すると表明した。
第2次世界大戦や阪神大震災、東日本大震災から再生した経験を踏まえ、「ウクライナの人々に寄り添った『日本ならでは』の復興支援を力強く実施していく」と強調した。
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナの再建に向け、政府は関係省庁による準備会議を設置し、インフラ復旧や産業振興の支援策について議論を重ねている。膨大な資金需要が見込まれ、推進会議を通して民間企業の参画を促進したい考えだ。

 

●ロシア、国軍の増強続ける プーチン大統領 6/22
ロシアのプーチン大統領は21日、今後も国軍の増強を継続するとの見通しを示した。増強はウクライナでの「特別軍事作戦」で得た「極めて貴重な」経験に基づいて進めるという。
モスクワの軍大学校の卒業生に向けた演説で述べた。ロシアの当局者や首脳は、ウクライナへの侵攻に言及する際、「特別軍事作戦」という語を用いている。
プーチン氏は国軍増強に当たっての最も重要な任務として「核の3本柱」の構築を挙げ、ロシアの軍事上の安全と世界の安定を保証する重大な要素だと指摘した。既に戦略ミサイル部隊の約半数で、最新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤルス」が配備されているとも明かした。
その上で近い将来、多数の核弾頭を搭載できる新型ICBM「サルマト」も実戦配備される見通しだと付け加えた。
この他、ドローン(無人機)の大量生産に力を入れ、戦場での配備を拡大していく方針を表明。ドローンで戦況が有利になることが示されているとし、あらゆる部隊での配備が必要だと強調した。
記者団に対しては、戦闘中に「確かな小康状態」が存在するともプーチン氏は指摘。その間ウクライナ軍は攻撃に向けた作戦を一切行わないと述べた。同軍は戦場で極めて大きな損失を被っているとも主張した。
ウクライナ軍の損失や戦場での作戦状況について、CNNはプーチン氏の主張が正しいのかどうか独自に確認できていない。
ただ現在のところウクライナ軍の攻撃能力はまだ枯渇しておらず、予備の兵力も存在するとプーチン氏は分析し、それらの兵力を投入する戦域や方法を見計らっている最中だとの認識を示した。
●「核の3本柱」強化を表明 プーチン大統領 新型ICBM「近く実戦配備」 6/22
ロシアのプーチン大統領はICBM=大陸間弾道ミサイルなど「核の3本柱」を強化していく考えを示しました。
ロシア プーチン大統領「最重要課題はロシアの安全と世界の安定を保証する、核の3本柱の発展である」
プーチン大統領は21日、モスクワのクレムリンで軍大学校の卒業生らを前に演説し、ICBM、核ミサイル搭載潜水艦、長距離爆撃機で構成される核の3本柱を強化していく考えを示しました。
そのうえで、“10個以上の核弾頭を搭載可能とされる新型のICBM「サルマト」が近く実戦配備される”としています。
また、プーチン氏はロシアメディアの取材に対し、ウクライナの反転攻勢について「現在はある程度の落ち着きがみられる」として「小康状態」にあるとの見方を示し、ウクライナ側が深刻な損失を被ったことが影響していると主張しました。
●プーチン氏、ウクライナに「勝ち目はない」 反転攻勢は「小康状態」 6/22
ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナの反攻は「小康状態」となっており、ウクライナ軍は南部での反攻で大きな損害を受けていると述べた。その上でウクライナ軍に「勝ち目はない」と語った。
これに先立ち、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍のロシア軍に対する反転攻勢について、進展が「期待したより遅い」と述べた。英国放送協会(BBC)が21日に報じた。
プーチン氏はこのところ戦況について頻繁に発言するようになった。ウクライナが反転攻勢を開始したことで、16カ月に及ぶ紛争が重大な局面を迎えていることを反映しているものと思われる。
プーチン氏が、ウクライナに「勝ち目はない」と述べたのは1週間足らずの間に2度目。
プーチン氏の主な発言は以下の通り。
「ご承知のようにウクライナ軍は6月4日、戦略的予備役を使って(反攻を)開始した。だが奇妙なことに、現在私たちはある種の小康状態を目にしている。それは敵が深刻な損害を被っていることと関係がある。」
「我々の部隊は敵の戦車245両と様々な種類の装甲車678両を撃破した。敵は現在、戦闘能力を回復させるため、深刻な損害を被った旅団を新しい部隊に統合する作業に追われているようだ。」
「今日時点で、我々は敵の攻撃の可能性はまだ尽きていないとみている。しかし、もう一度申し上げたい――わが軍兵士の勇敢さと英雄的精神、そしてロシアに対するいかなる攻撃的行動も撃退するわが軍の指揮官たちのおかげで、敵に勝ち目はないと思う。彼らはそれを理解している。」
●なぜプーチンはプリゴジンを粛清しないのか…傭兵集団トップの「闇の力」とは 6/22
SNSで政権幹部を酷評する「ウクライナ戦争の英雄」
ウクライナ軍の反転攻勢で戦況が重大局面を迎える中、ロシア国内の「台風の目」が、民間軍事会社「ワグネル」の指導者、エブゲニー・プリゴジン氏だ。
ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を「無能」と酷評したり、ウクライナ戦争の「即時終戦」を訴えたり、「もし幸せなジェドゥーシカ(爺さん)が間抜けだったらどうなる」と暗にプーチン大統領を揶揄する発言まで行った。ジェドゥーシカは、クレムリン高官らがプーチン氏を指す隠語だ。
ロシアでは開戦後、軍を侮辱する言動に最長15年の懲役刑を科す刑法改正が導入されたが、プリゴジン氏には適用されない。
ウクライナ戦争で英雄になったプリゴジン氏をめぐっては、「いずれ粛清される」「国防相ポストが目標」「政権内に後ろ盾がいる」といった見方から、「プーチン後継を虎視眈々と狙っている」との説もある。プリゴジン氏の次の一手を探った。
「プリゴジン」の検索回数が「プーチン」の倍以上に
常軌を逸した衝撃発言を連発するプリゴジン氏の注目度は、ロシアで急増している。
独立系メディア「Verstka」によると、ロシアの主要検索サイト、Yandexの5月の検索回数は、「プリゴジン」が49万8000件で、「プーチン」(30万件)の2.4倍に上った。
同メディアがGoogle Trendsで調査したところ、プリゴジン氏の検索頻度は5月28日から1週間に最高の100ポイントに達したのに対し、プーチン大統領は28ポイントだった。
Verstkaは、「国防省との対立激化や感情に訴える動画の発信、頻繁な前線視察で圧倒的な注目を集めた」と分析した。ロシアの要人が危険な前線を訪れることはない。
独立系世論調査機関、レバダ・センターが5月末に公表した「政治家の信頼度調査」では、1プーチン大統領(42%)2ミシュスティン首相(18%)3ラブロフ外相(14%)4ショイグ国防相(11%)に次いで、プリゴジン氏は4%で5位だった。昨年12月の調査では、プリゴジン氏の名前は登場しなかった。
政権に近い政治評論家のセルゲイ・マルコフ氏は「プリゴジンとワグネルは国家の宝だ。欠点もあるが、彼らは勝利の象徴であり、政府はワグネルにもっと資源を回すべきだ」とブログで訴えた。
「ロシア革命が起きる」と不吉な警告
プリゴジン氏の当面最大の標的はショイグ国防相だ。5月の動画では、ワグネル戦士の多くの死体のそばで、「ショイグ、ゲラシモフ」と呼び捨てにし、「お前らは高級クラブに座り、お前らの子どもはユーチューブ動画を撮って人生を楽しんでいる」と批判。「弾薬はどこだ。弾薬の割り当て分を渡せば、死者は5分の1で済んだ」と激しい口調で激高した。
「お前らの子供」とは、ショイグ国防相の次女が婚約者とアラブ首長国連邦の保養地で遊び、動画をユーチューブで発信したことを念頭に置いているとみられる。
6月のインタビューでは、「貧しい家庭の息子たちが前線で次々に死んでいく中、エリートの子弟は戦争を避けようと海外で優雅に過ごしている」「戦死した兵士の何万もの親族の悲しみが沸点に達した時、民衆はすべてが不公平だと言うだろう」と述べた。
5月の投稿では、「エリートが本気でウクライナ戦争に取り組まなければ、1917年と同様の革命が起き、戦争に敗れる可能性がある」と警告した。
富裕層と一般庶民の所得格差が天文学的に広がる中、「階級闘争」に言及した発言の衝撃度は大きい。
ショイグ国防相は一族でビジネスを行っており、その不法取引疑惑や国防予算の流用疑惑がSNSで取りざたされ始めた。
「頭の悪いやつ」とプーチン氏も不快感
プリゴジン氏の暴走はプーチン政権にとって危険で、政権は統制に乗り出した。
ショイグ国防相はワグネルを含むすべての義勇軍部隊に国防省との契約を義務付ける命令書に署名。プリゴジン氏が「国防省とはいかなる契約も結ばない」と反発すると、プーチン大統領は、「契約が志願兵の社会的な保障を確保する手段だ。できるだけ早く結ぶべきだ」と国防省を擁護した。
クレムリンの内部情報に詳しい謎のブロガー「SVR(対外情報庁)将軍」のSNS発信によれば、実力者のパトルシェフ安全保障会議書記が安保会議で、「プリゴジンの行動がエリート層の混乱を招いている」と提起すると、プーチン大統領は、「あいつは頭の悪い奴だ。いつになったら黙るのだ」と同調したという。
政権傘下の国営テレビは、プリゴジン氏の動静を報道しなくなった。6月に同氏をインタビューしたブロガーは、所属するメディア企業を解雇された。
ロシア人実業家は米紙に対し、「彼は危険なゲームをしている。軍への抵抗をやめなければ、(投獄された反政府活動家)ナワリヌイと同じ運命になる」と予測した。
過激な活動を支えるプリゴジン氏の「後ろ盾」
一方で、プリゴジン氏がこれほど奔放に活動できるのは、政権内部に強力な支持者がいるためといわれる。
女性政治評論家、タチアナ・スタノバヤ氏は米カーネギー財団のサイトで、「プリゴジンが大統領府との関係を築いたのは、コワルチュク兄弟という後ろ盾がいたからだ」と書いた。
弟のユーリー・コワルチュク氏はロシア銀行会長で、金融を牛耳り、メディア王と呼ばれる。コロナ禍でも大統領と頻繁に会い、独特の愛国史観でウクライナ侵攻をけしかけた黒幕とされる。
スタノバヤ氏はまた、プリゴジン氏が軍の情報機関、参謀本部情報総局(GRU)と密接な関係を持つと指摘した。ワグネル自体、2015年のシリア内戦参加を前に、軍の別動隊としてGRUが組織。資金力のあるプリゴジン氏に指揮を依頼したとされる。国防省の反ショイグ勢力が、プリゴジン氏を裏で支えているとの説もある。
プリゴジン氏は1990年代、サンクトペテルブルクで食料品チェーンやレストランを経営する傍ら、闇カジノを運営していた。当時、闇カジノ撲滅を担当したのがプーチン第一副市長で、プリゴジン氏の闇カジノが営業を続けられたのは、両者間に闇の癒着があったためと独立系メディアが報じていた。プリゴジン氏は大統領の弱みを握っている可能性がある。
来年3月の大統領選に出馬か
東部バフムトで激戦を演じたワグネルは5月に撤退し、現時点で戦闘に参加していない。プリゴジン氏は今後、政界進出を目指すとの憶測も強まっている。
プリゴジン氏は野党第2党、公正党のミロノフ党首と関係を強化しており、いずれ公正党を乗っ取るとの見方がある。政治評論家のエカテリーナ・シュルマン氏は、昨年死去した極右扇動家、ジリノフスキー自民党党首の役回りを担うだろうと述べた。
ロシアのネットメディア「ストラナ」(5月11日)は、プリゴジン氏が2024年3月の次回大統領選に出馬する可能性があると報じた。最近の動画やSNS発信は、選挙キャンペーンを思わせるという。下院に議席を持つ政党は無条件で大統領候補を擁立でき、出馬の場合は公正党推薦になりそうだ。
ロシアのネット報道によれば、次の大統領選で誰に投票するかを問う5月10日の電話調査では、プーチン大統領が42.5%、プリゴジン氏は39.7%で僅差の2位に付けた。3位のミシュスティン首相(1%)以下は泡沫候補だったという。調査を実施した機関は不透明で、必ずしも信用できないが、プリゴジン人気の高揚をうかがわせる。
仰天シナリオは、軍の撤退を条件に欧米と連携? 
一方、ドンバス地方の親露派勢力司令官を務めたイーゴリ・ギルキン元大佐は、プーチン大統領がワグネルの「軍事的反乱」に遭う可能性があると警告した。
プリゴジン氏と敵対するギルキン氏はSNSで、「恥知らずで偽りだらけの彼の自己顕示欲」を批判しながら、返す刀で与党・統一ロシアを「詐欺師と盗人の党」と酷評した。「詐欺師と盗人の党」とは、反政府活動家、ナワリヌイ氏が2011年の下院選で使ったフレーズで、愛国勢力とリベラル派の接近を思わせる。
ギルキン氏は5月に新団体「怒れる愛国者クラブ」を創設。大統領選出馬も検討しており、右派勢力の政権離れが進む。
プリゴジン氏の仰天の政権シナリオは、欧米との連携とする見方が、ウクライナ紙「キーウ・ポスト」(3月5日)で報じられた。
欧州の政治活動家、ジェイソン・スマート氏は同紙で、「プリゴジンが権力を握る戦略的道筋の一つは、欧米の後ろ盾を得ることだ。彼が政権を握れば、ウクライナからのロシア軍完全撤退を条件に、ホワイトハウスの支持を得られるかもしれない」と述べた。
4月に流出した米機密文書は、プリゴジン氏が複数回、バフムトをめぐる取引をウクライナ側に持ちかけたとし、両者の接触を示唆していた。
米連邦捜査局(FBI)が逮捕状を出したプリゴジン氏と米国の接近はあり得ないものの、侵略戦争停止の一つのシナリオと言えるかもしれない。
●「20万Km2 に地雷が…」ゼレンスキー大統領、大反撃遅い理由明かす 6/22
ウクライナのゼレンスキー大統領が今月初めから始めたロシアを狙った大反撃が予想より進行が遅れていると認めた。ウクライナは約半月間に南東部戦線であるザポロジエとドネツク地域で8つの村を取り戻した状態だ。
ゼレンスキー大統領は21日、BBCとのインタビューで「戦場での進展が望んでいるより遅い。人々はハリウッド映画のようにすぐに結果が出ることを期待するが、そうではない」とした。続けて「ロシア軍がウクライナの領土20万平方キロメートル(韓半島の面積は約22万平方キロメートル)にわたり地雷を仕掛けたため進撃が簡単にできずにいる。いま危険なのは人々の命」と強調した。
米国など西側からの大幅な軍事支援を受けて行われた大反撃でこれといった成果を出すことができなければ、ロシアに南東部の一部が占領されたまま紛争の凍結になりかねない。紛争の凍結とは軍事的対峙状況が続くが交戦は中断された状態をいう。これに対しゼレンスキー大統領は「反撃がどれだけ進展しようがわれわれは紛争の凍結に同意しないだろう。それは結局戦争でウクライナに見込みがないため」と述べた。
最近ロシアのプーチン大統領がウクライナの北側に位置したベラルーシに核兵器を配備しして核脅威を加えていることに対しては大きく恐れなかった。ゼレンスキー大統領は「彼(プーチン)は核兵器活用に言及するが、(実際に)使う準備はできていないと考える。命を失わないか恐れ、また自分の命を惜しむため」といった。ただ「彼は21世紀に隣国と全面戦争を行った人物として確実に話せるものはないだろう」と付け加えた。
プーチン大統領はこの日、ロシア国営放送ロシア1とのインタビューで、ウクライナの反撃が大きな損失により成功の可能性がないと繰り返し主張した。彼は「ウクライナの反撃が静かになっている。ウクライナが深刻な損失を出しており結果的に戦闘力を喪失しないか懸念している」と話した。続けて「まだウクライナの攻勢能力が消耗したものではないが、ウクライナも反撃に見込みがないことを知っている」と主張した。
合わせてプーチン大統領はこの日、士官学校卒業生との会合で、次世代大陸間弾道ミサイル(ICBM)サルマトの配備を予告した。彼は「最も重要な任務はロシアの軍事安全保障と世界の安定を保障する3大核戦力を増強すること。最初のサルマト発射台が近く任務配備されるだろう」と話した。サルマトは10個余りのメガトン級核弾頭を装着して米国のミサイル防衛網(MD)を無力化できる射程距離9656キロメートルの超大型次世代ICBMだ。
●ゼレンスキー氏、反転攻勢の進展「望んだより遅い」 BBCインタビュー 6/22
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は21日、ロシアに占領されたウクライナの地域を奪還するための反転攻勢について、戦場での進展が「望んでいたよりも遅い」と、BBCのインタビューで認めた。
「これをハリウッド映画のように思い、すぐに結果を期待する人もいるが、そういうものではない」と、ゼレンスキー氏はBBCに語った。
「危機にひんしているのは、人々の命だ」
ウクライナによると、数週間にわたる反転攻勢で、これまでに南部ザポリッジャ州と東部ドネツク州で8つの村を取り戻した。
ロシア軍が20万平方キロメートルのウクライナ領土に地雷を仕掛けているため、進軍は容易ではないと、ゼレンスキー氏は述べた。
そして、「我々に圧力をかけようとする者がいようとも、我々は戦場で最善と思われる方法で前進する」と付け加えた。
NATO加盟を目指す
ゼレンスキー氏はまた、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナに対し安全保障を提供する必要性を強調。ただ、最終的な目標はウクライナのNATO加盟だと述べた。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は19日、7月にリトアニアで開催されるNATO首脳会議にウクライナを招待する計画はないと明言した。
「ストルテンベルグ氏は私の立場をわかっている」と、ゼレンスキー氏は述べた。「我々は彼らに何度も言ってきた。『我々の足元の地面をたたき落とさないでくれ』と」
軍事支援については、アメリカ製のF-16戦闘機がウクライナに提供されると改めて主張。早ければ8月から戦闘機のパイロットが訓練を開始し、戦闘機の第一陣が6〜7カ月後に到着する可能性があるとの考えを示した。
復興支援
ゼレンスキー氏は英ロンドンで開催された、ウクライナの復興支援について議論する国際会議「ウクライナ復興会議」に合わせて、BBCの取材に応じた。同会議では、ウクライナの再建で民間セクターが果たせる役割に焦点が当てられた。ゼレンスキー氏はビデオ演説を行った。
ウクライナ経済は2022年に29.2%縮小。世界銀行は今年3月、同国の復興と再建には4110億ドル(約58兆円)の費用がかかるとの試算を発表した。
ゼレンスキー氏はBBCに対し、必要としている支援は復興のためだけでなく、変革のためでもあると主張。
すぐに実行すべき「迅速なステップ」として、市民が暮らす場所の確保や、破壊されたカホフカ・ダムの再建、エネルギー網の分散化などを挙げた。
「しかし、より大きなスケールで言えば、これはウクライナの変革についての話だ」と、ゼレンスキー氏は説明。「これはウクライナのエネルギーや農業、工業団地だけでなく、改革の話でもある」とした。
同氏は「ウクライナのデジタル化」と、司法と腐敗防止の改革についても言及した。
戦況、核の脅威
BBCのヤルダ・ハキム記者が、戦争がどのように終局に向かうのか、現段階での考えを尋ねると、ゼレンスキー氏は「戦場での勝利が必要だ」と明言。ロシア軍がウクライナ領土にとどまるのであれば、ロシアの大統領が誰であろうと決して話し合いのテーブルに着くことはないだろうと述べた。
「この反転攻勢で我々がどれだけ進軍しようとも、『凍結した紛争』に同意するつもりはない。なぜならこれは戦争であり、展望のない展開だからだ」
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は16日、ロシアの戦術核兵器の第一陣がすでに、隣国ベラルーシ領内に配備されていると述べた。アメリカのジョー・バイデン大統領は、プーチン氏による核兵器使用の脅威が現実のものとなったと警告している。
それをふまえてハキム記者は、ゼレンスキー氏にその脅威を不安視しているか尋ねた。
「プーチン氏は、2014年に我々の領土を占領して以降、我々にとって危険な存在だ」と、ゼレンスキー氏は答えた。
「彼(プーチン氏)は核兵器の使用について言及するだろうが、核兵器を使う準備ができているとは思えない。彼は自分が命を失うことを恐れているし、自分の人生が大好きだからだ。ただ、とりわけ非現実的な考えを持ち、21世紀に隣国に対して全面戦争を仕掛けた人物について、私は確信をもって何か言うことはできない」
「ユダヤ人の恥」発言については
ハキム記者はさらに、プーチン氏が16日、サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラムで、ゼレンスキー氏についてユダヤ人の恥だと語ったことについても尋ねた。ゼレンスキー氏は第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人などの大虐殺(ホロコースト)で、祖父など多くの親族を亡くしている。ゼレンスキー氏はこの質問に明らかに驚いていた。
ゼレンスキー氏は深呼吸をしてうつむいた。数秒後、質問にどう答えていいかよくわからないと述べた。
「彼(プーチン氏)は自分の言葉を完全に理解していないようだ。申し訳ないが、彼はヒトラーに次ぐ反ユダヤ主義の王様という感じだ」
「こうしたことを大統領である人物が発言している。文明世界では、そのような言い方はできないというのに。しかし、私にとっては世界の反応を聞くことが重要だったし、支持に感謝している」
●ゼレンスキー大統領 反転攻勢の作戦が難航している認識を示す 6/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は、反転攻勢について「すべてが容易というわけではない」と述べ、作戦が難航しているという認識を示しました。一方、ロシアのプーチン大統領は、新型の大陸間弾道ミサイルを近い将来、実戦配備すると表明するなど再び核戦力を誇示し、欧米をけん制しました。
ウクライナ軍が領土の奪還を目指して東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で反転攻勢を続ける中、ゼレンスキー大統領は、イギリスの公共放送BBCが21日放送したインタビューで「すべてが容易というわけではない。現状では、望んでいるより小さい前進にとどまっている」と述べ、作戦が難航しているという認識を示しました。
そして、ロシア軍が広い範囲に仕掛けた大量の地雷によって、部隊の前進が阻まれているという見方を示した上で「西側諸国の意欲を引き出すためにも、前進することが非常に重要だ」と述べ、反転攻勢を成功させる決意を強調しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は21日、首都モスクワで士官学校などの卒業生を前に演説し、複数の核弾頭を搭載できる新型のICBM=大陸間弾道ミサイル「サルマト」を近い将来、実戦配備すると表明するなど、再び核戦力を誇示して、欧米をけん制しました。
またプーチン大統領は式典後、国営テレビのインタビューに対し「敵に勝ち目はない」などと強硬姿勢を繰り返しました。
BBCが放送したインタビューの詳細
ウクライナのゼレンスキー大統領は、イギリスの公共放送BBCが21日放送したインタビューで反転攻勢について「すべてが容易というわけではない。われわれはもっと大きく前進しようとしているが、現状では、望んでいるより小さい前進にとどまっている」と述べ、作戦が難航しているという認識を示しました。
ゼレンスキー大統領はその理由のひとつとして、ロシア軍が広い範囲に仕掛けた大量の地雷を挙げたということです。
そして「結果を急ぐ人、結果に期待しすぎる人がいる。あるいはハリウッド映画のような結果を求める人もいるが、ものごとは必ずしも映画のようにはならない」と述べました。
一方で「何としてでも反転攻勢は成功させる。われわれは確信している」と述べ、作戦の先行きに自信を示しています。
その上で、ウクライナを支援する欧米やアジアの国々に向けて「われわれの軍だけでなく、西側諸国の意欲を引き出すためにも、前進することが非常に重要だ」と述べ、反転攻勢を成功させる決意を強調しました。
また軍事侵攻で被害を受けた社会インフラの再建に向けた支援について「支援は、復興だけでなく、ウクライナの変革にもつながる」と述べ、各国に長期的な関与を呼びかけました。
●相手の弱みを握り、最後は武力で押さえる… 「ロシア人らしい手口」の共通点 6/22
ロシアとはどんな国なのか。元外交官の亀山陽司さんは「外交交渉で出会ったロシア人は、理論武装し、礼儀正しく、忍耐強い。交渉という名の『ケンカ』上手だ。安倍元首相と蜜月な関係を演じたプーチンの外交にも現れている」という――。
ロシアを相手にした交渉は難しい
外交交渉の場で出会う典型的なロシア人の姿を描写してみよう。
まず、彼は部屋に入ってきた我々を立って出迎え握手を求める。席についた彼らは椅子の背板にもたれるようなことはしない。両手は軽く組んで机の上にそっと置いている。これが礼儀正しい話の聞き方とされているのだろう。
こちらが話すことはちゃんと聞き、話に割り込むようなことはしない。表情はにこやかであるか、または無表情である。概して日本側代表の方がだらしなく座っていることが多いくらいだ(私もそうだった)。
逆に不自然に親しく歓待してくれるような場合には、何か魂胆があると考えた方がいいだろう。
これだけを見ても、ロシア人は交渉者として決して油断してはいけない相手であることがわかるのではないだろうか。つまり、相手に隙を見せないことを信条にしているのだ。
しっかりと理論武装し、礼儀正しく、そして忍耐強い。こういう相手を前に、自分の主張を通すのは簡単ではない。だからロシアを相手にした交渉は難しいのである。
自分のものを決して手放さない
ちなみに、ロシア人の忍耐強さは教育によって培われたものというよりは、社会生活の中で自然に身についたものと思われる。今はそれほどでもないかもしれないが、私がロシアに行った2000年代にはまだ至るところに行列があった。
まず、長距離列車の切符を買うのに長い列に並ぶという洗礼を受けた。役所の窓口にも行列がある。郵便局で荷物を受け取るにも行列。そして私が一番よく並んだのがマクドナルドのレジの行列だ。並んだ行列の先にレジがなかったこともある。そうなると並びなおしである。とにかく忍耐だ。
忍耐しなければ何にもありつけない。そして、黙ってずっと並んで、自分の番が来れば、これは私の権利だと言わんばかりに居座って用を済ますのである。自分のものになったものは決して手放さない、という強い意志のようなものを感じる。
家主に渡した敷金は返ってこなかった…
こうした彼らの気質には苦い思い出がある。ロシアに赴任したてのころ、モスクワ大学の近くのマンションの一室を借りていたのだが、別の部屋に引っ越すことを告げたら、家主の女性から最後の月の家賃を払えと言われた。
最後の月の家賃は入居時に払っていた敷金を当てるという約束だったと言うと、敷金は部屋を出るときに返却するということだった。
しかし、案の定というべきか、部屋を出る日になって、返さないと言い出したのである。約束が違うではないかと食い下がったが、一度渡したお金は絶対に返さない。いくら約束を思い出させようとしてもあれこれ言い立てて全く取り合ってくれない。
相手の手に握らせてしまえば、それを取り返すには力ずくで取るしかない状況になった。もちろんそんなことはできない。私はただ、決して物理的に相手に現物を握られるような状況に陥ってはならないのだという教訓のみをかろうじて得た。
ロシア人が「ケンカ上手」と言える理由
ロシア人は「交渉」という名の「ケンカ」が上手である。
交渉もケンカも、いざこざを解決するためか、何かを分け合う状況にあるときに使われる手段である。平和的(非暴力的)であるか、暴力的であるかの違いである。交渉は非暴力的な手段であるが、勝つためのやり方はよく似ている。
交渉に勝つには、まず相手のことをよく調べなければならない。これは相手の弱点や急所を知るためである。相手の主張、その根拠、背景事情など、情報は多ければ多いほどよい。そこには交渉のスタイル、そして意思決定のスタイルも含まれる。
交渉は基本的にチーム戦なので、誰が決定権を持っているのか、誰に発言力があるのか、誰が誰の側近なのか、誰とつながれば相手の中枢に近づけるのか、そういうことを知ることができれば、有利な立場に立てるだろう。もちろんそれを知るには時間がかかるし、手間もかかる。そのために、外交官や外交官のふりをした諜報員がいるのである。
私がモスクワ大学アジア・アフリカ諸国研究所で研修していたとき、長く国連で勤務していたという先生の授業を受けたことがある。周りは全員ロシア人学生である。その先生は、自分が専攻している国における組織の特徴と意思決定のスタイルについて調べてくるように、という宿題を出した。正直なところ、私はこの課題の意味がよく掴かめなかった。
安倍元首相はプーチンの術中にはまったのか
私は自分がどんなことを答えたか覚えていないが、先生はそういうことを聞きたいのではないという顔をして、次に日本専攻のロシアの女学生を指した。
彼女は、日本の組織は責任の所在があいまいであり、迅速な意思決定ができない。何かを決めたいと思えば、少しずつ関係者に理解を求めていき、雰囲気を醸成していくことが必要だ。このプロセスを日本語で「根回し」というのである、と述べた。先生はなるほどとうなずいた。私もなるほどとうなずいた。
ロシア、というよりプーチン大統領との関係を異常なまでに大切にした安倍晋三元首相は、ロシアに籠絡されているのではないかという噂が冗談交じりにささやかれていたことがあった。我が国の外務省よりもロシア大使館の言うことを重視しているようにすら思えたからである。
なぜそのような印象を与えたのだろうか。
それはひとえに、駐日ロシア大使が官邸の要路に太いパイプを築いたからである。
ご存じのように安倍元首相は側近を大切にしていた。ロシア側はそのことを把握したうえでどのようにかして接近したのであろう。大使が駐在国の政府にパイプを持つのは不思議ではないが、安倍官邸の周りには正体のよくわからないロシア人ビジネスマンもうろうろしていた。
官邸主導は大変結構だが、保守的な外務官僚の眼から見ればロシア相手に危なっかしく見えたのも事実だ。
ロシアの手法は「北方領土問題」に詰まっている
ロシアはこうして相手のことを知ったうえで、いろいろな角度から攻撃してくる。
しかし、最も重要なのは相手よりも優位に立つことだ。交渉の術はいろいろとあるが、どんな術もより有利な立場に立つこと以上に有効ではあり得ない。具体的には、欲しいものを物理的に押さえておくことだ。先に押さえてしまってから交渉する。単純なことだが、これが交渉で勝つための最も確実な方法である。
そもそもなぜ交渉が必要なのかと言えば、強制的な執行ができないからである。法があり、裁判権があり、強制執行力があれば、交渉は必要ない。必要なのは決定か判決である。あとは強制するだけだ。しかし、国際政治の世界では法の支配が確立されていない。何かしたければ交渉するしかない。だが交渉はたいがい行き詰まる。
だから始めから押さえてしまえ、というわけだ。後で返すと嘘の約束をして先にお金を押さえる(モスクワで私が最初に借りた部屋の大家)、国内法を根拠に外国企業の活動を停止させる、武力で押さえる(北方領土)。
こういう状況をつくれば、相手がこちらにお願いしてくる立場に置かれる。お金を返してくれ、島を返してくれ、魚を獲らせてくれ。あとは相手の要求に対してあれこれと条件を付ければよいのだ。
なぜ外交は必要なのか
しかし、元外交官としてひとこと言わせてもらえるならば、初めから優位に立って行う交渉ではなく、要求者の立場に立って何かを勝ち取ることの方が、外交の醍醐味を味わえるというものだ。
例えば、日本政府が支援するある団体(ロシア法人)に対してロシアの税務当局が税の追加徴収を通告してくるとしよう。日本政府が全面的に支援している団体とはいえ、ロシア法人である以上はロシア国内法の管轄下にある。日本側は圧倒的に不利であり、この決定をひっくり返すのは不可能に近い。法的手続きは当然ながらロシア側に有利に進んでいくからである。
仮に不服申立てを行って裁判に訴えても事情は同じである。こういう場合にどうするかと言えば、政治的な解決を目指す他ない。政治的解決とは、決定権限を有する機関あるいは発言力のある機関のしかるべき人物に働きかけることで、「超法規的」な解決策を探るということだ。
問題はどこまで求めるかである。もちろん、何もせずに素直に追加徴税に応じる選択肢もあり得る。政治的(外交的)に働きかけるのは相手の恩を受ける可能性もあるため、それなりの政治的(外交的)コストがかかるからである。それでもあえて働きかけるとすれば、どこまで求めるか。
したたかなロシアに向き合う現実的な方法
最も有利な解決はもちろん、追加徴税を撤回させることだ。しかしこれは現実的でないし、ロシアの税務当局のメンツをつぶすことになりかねない。そんなことをすれば、将来的にもっと大きなコストを支払うことになる可能性がある。
外交的に妥当なラインがどこにあるのかを見極めることが極めて重要となる。この場合であれば、追加徴税を半額にするというのが妥当な線だろう。もちろん、そもそも追加徴税の決定が妥当なのかといった様々な論点があるだろう。様々吟味したうえで、お互いが折れることができないのであれば、痛み分けが最も受け入れやすい解決となる。
難しいのは、相手がどこまでなら受け入れるのかを的確に推測することである。このケースで言えば、ロシア側は圧倒的に有利であり、放っておけばロシア側の主張の通りに追加徴税に応じるしかなくなる。したがってロシアは日本側の働きかけをのらりくらりとかわすこともできるのである。
それにもかかわらず、それなりのハイレベルでの話し合いに応じてくれるとするならば、その時点でロシア側としてはすでに配慮を示していることがわかる。つまり、場合によっては日本側に譲歩する用意があるということだ。
諦めてしまえばそれまで
ここまで読めば、もう答えは見えてくる。あらためて追加徴税撤回を頑なに主張するのは相手側の心を完全に閉ざすであろうし、反対に、もう無理だからと諦めてしまえばそれまでだ。
そういう心理的駆け引きこそが外交交渉の醍醐味だ。ただし、世論に晒され政治的に争点化されてしまえば、もはや駆け引きは不可能である。だから外交の世界で「政治化」というのは、問題を本当に解決したいと考える人からすれば最も忌避すべきものとなる。
反対に、問題を解決したくないのであれば(そういうこともしばしばある! )、政治化することが有効となる。世論が好き勝手に議論して収拾がつかない状態にしてくれるからである。
●「戦争終了後、政治変える必要ある」73% ウクライナ 6/22
ウクライナの調査機関は19日に世論調査の結果を発表し、戦争終了後に政治改革を望むと回答した人が73%、ゼレンスキー大統領の交代を求める人が23%だったことが分かりました。
世論調査は5月26日から6月5日にかけて、ロシアの占領地域をのぞく地域で1029人に対して電話で行われました。戦争終了後、政治を変える必要があると考える人が73%、そのうち69%が議会を変えるべきだと回答し、47%が政府を変えるべきだとしています。また、ゼレンスキー大統領の交代を求める人は23%だったということです。
調査を行った研究所は、「国民は勝利のために政府を支持しているが、政治家の悪行に目をつぶることを意味しない」として、政府高官らの汚職体質に国民が不満をもっていることが背景にあると分析しています。 
●ロシア兵士死者数、公式発表の4倍超 暴かれるプーチン政権の嘘=@6/22
ロシアのウラジーミル・プーチン政権の「噓」が次々に暴かれている。ウクライナ侵略でのロシア兵の死者数が、公式に認めている4倍の2万5000人以上に上っているというのだ。ロシアの独立系サイト「メディアゾナ」と共同調査している英BBCが報じている。ロシア治安当局者を情報源として、「重傷」と報じられたウクライナ国防省幹部が健在であることも判明した。
共同調査は、BBCロシア語とメディアゾナなどによって行われている。21日に報じたBBC(日本語)の記事によると、死亡したロシア兵2万5000人の名前が判明し、これはロシアが公式に認めている4倍の数に上るという。BBCは、公表されている死者数だけを集計しているため、実際の死者数は2倍以上の可能性があるとする。
さらにロシア国営メディアで同国治安当局者の話として、ミサイル攻撃で重傷を負ったと報道されたウクライナ国防省情報総局のキリーロ・ブダノフ局長が20日、地元テレビに出演。ロシアメディアの報道を「フェイク」とし、自分は健在だと述べた。
ブダノフ氏は、5月末にキーウ(キエフ)中心部に近い情報総局本部で会議中にミサイル攻撃を受けて負傷したと伝えられていた。同氏はロシアメディアの報道について「視聴者の間で何らかの反響を呼ぼうとしたのだろう。質の悪いフェイクだ」などと話した。ウクライナのエミネ・ジャパロワ第1外務次官も20日、自身とブダノフ氏、松田邦紀・駐ウクライナ大使が並んだ写真を交流サイト(SNS)に投稿し、「これは加工画像ではない。みな健在だ」と書き込んだ。
一方、ウクライナ側の反攻も順調には進んでいない。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、21日に報じられたBBCのインタビューで反攻について、「これがハリウッド映画だと信じている人や、すぐに結果が出ることを期待している人もいるがそうではない」と訴え、反攻が期待通りに進んでいない様子を明かした。ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は20日、東部ドネツク州北部のリマンやハリコフ州クピャンスク方面など複数の地域で、ロシア軍が攻勢に出ていると説明した。
●ワグネル創設者、傘下入り迫る露国防相に猛反発…プーチン氏に公然と異議 6/22
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が、ロシアのウクライナ侵略に戦闘員を派遣している露民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏に対し、7月1日までに国防省の傘下に入るよう迫っている。プリゴジン氏は猛反発し、プーチン大統領にも公然と異議を唱え始めた。
対立は、ショイグ氏が今月10日、侵略作戦に参加する民間軍事会社や志願兵部隊など非正規軍事組織に対し、露国防省との契約を求める命令を出したことが発端だ。プーチン氏も13日の会合で「契約すべきだ」と呼びかけた。
ロシアのウクライナ侵略には、ワグネルを含め民間軍事会社25社が参加しているとされ、志願兵部隊も多い。この命令は、指揮命令系統の一元化を図るのが目的だが、真の狙いは、プリゴジン氏の首に鈴を付けることにあるとみられている。
プリゴジン氏は、東部ドネツク州の要衝バフムトで、ワグネルが主力となって露軍による「全域制圧」の戦果をもたらしたことを背景に過激な言動に拍車がかかった。その後、ワグネルの部隊はバフムトから撤退させ、独自行動をとっている。
プリゴジン氏がショイグ氏の命令に素直に応じる気配はなく、17日には独自の契約書案をモスクワの国防省に持ち込み、受理を拒否される様子を収めた動画をSNSに公開した。契約書案には国防省がワグネルの活動を全面支援し、次官ポストを用意することなどを盛り込んでいたという。
21日にはSNSで戦況に関し、露国防省は「国民を欺いている」と批判。ウクライナ軍が大規模反転攻勢を展開する南部で、露軍は苦戦を強いられていると明らかにした。プーチン氏は同日、モスクワの露大統領府で記者団に対し、露軍兵士の「英雄的な行動」によって、「ウクライナ軍は深刻な損失を受け、反攻は小康状態にある」と主張しており、真っ向から異議を唱えた形だ。
SNSを駆使するプリゴジン氏は露国内でじわじわと影響力を拡大しており、これまでプリゴジン氏の言動を容認してきたプーチン氏の対応が注目されている。
●ウクライナ、クリミアとヘルソン結ぶ橋攻撃 ロシア当局 6/22
ロシア当局は22日、同国が一方的に併合したクリミア半島とウクライナ南部ヘルソン州のロシア支配地域を結ぶ橋がウクライナによる攻撃で損傷したと発表した。
ロシア政府が任命したクリミアの首長、セルゲイ・アクショノフ氏はテレグラムに「夜間にチョンガル橋に対する攻撃があった。犠牲者はいない」と投稿した。
また、ロシア政府がヘルソン州知事に任命したウラジーミル・サリド氏も、同州チョンガル近郊の橋がウクライナによる攻撃を受けたと主張し、橋に大きく空いた穴とみられる写真を公開した。
ウクライナ軍は、ロシア側に占領されている領土奪還に向けた反転攻勢を強めている。クリミア半島に対してはここ数か月間、無人機などを使った攻撃が相次いでいる。
●ウクライナの反転攻勢遅れ「ロシア軍の消耗狙いか」 米シンクタンク 6/22
米シンクタンク戦争研究所(ISW)は21日、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアへの反転攻勢の遅れを認めたことに関連し、「ウクライナ軍は当初の苦戦にかかわらず、将来の主要な作戦に向けた条件を整えている可能性が高い」との分析を発表した。
ゼレンスキー氏は21日に公開された英BBCのインタビューで、反転攻勢の進展が「望んでいるよりも遅い」と認めていた。ウクライナのマリャル国防次官は、19日時点で東部ドネツク州や中南部ザポリージャ州の8集落、計約113平方キロを解放したとSNSで発表している。
ISWは反攻の遅れについて、ウクライナ軍は各地で攻勢を仕掛けることで、ロシア軍の兵力を徐々に消耗させようとしている可能性があると指摘。「反攻の成否は日々の支配地域の変動のみで判断されるべきでない」としている。
●欧州へのウクライナ経由ロシア産ガス供給、来年停止か 6/22
ロシアは来年、ウクライナ経由の欧州への天然ガス供給を停止する可能性があると、ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相が英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)に語った。
戦争が続いていることを踏まえれば、ウクライナ経由でのガス供給契約更新でウクライナとロシアが合意する公算は小さく、契約が切れる2024年末までにロシア産ガスの供給が止まるかもしれないと同相は指摘。ウクライナは供給停止に備えていると明らかにした。
ブルームバーグはウクライナのエネルギー省ヘの取材を一般的な業務時間外に試みたが、連絡は取れなかった。
ロシア大統領府によれば、クリミアとヘルソンのロシアが占拠した地域を結ぶ複数の橋がミサイルで攻撃されたという。
米国はロシアの侵攻によって壊滅的な被害を受けたウクライナの復興を図るため、追加で13億ドル(約1840億円)を供与すると発表した。
●ロシアが原発で放射能テロを計画とゼレンスキー氏、ロシアは否定 6/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は22日、同国南部のザポロジエ原子力発電所で放射能の放出を伴うテロ攻撃をロシアが計画しているとの情報を入手したと明らかにした。
ロシア大統領府は「新たなうそだ」とし、国連の核査察団が同原発を視察し全てを高く評価したと主張した。
ゼレンスキー氏はメッセージアプリ「テレグラム」に投稿した動画で、ロシア軍が占領している同原発の情報を欧州、米国、中国、インドを含む全てのパートナーと共有していると述べた。
「ロシアがザポロジエ原発でのテロのシナリオを検討しているという情報を情報機関が入手した。放射能の放出を伴うテロ行為だ。(ロシア軍は)このためにあらゆる準備をしている」と語った。
ゼレンスキー氏は情報機関がどのような証拠を得ているか明らかにしなかった。
●クリミアにつながる橋破壊 「南部で前進」も作戦に遅れ―ウクライナ 6/22
ウクライナ軍は22日、ロシアが一方的に「併合」した南部クリミア半島と本土を結ぶチョンガル橋をミサイルで攻撃した。橋の一部が壊れ、交通が遮断された。ロシアが任命した南部ヘルソン州のサリド「知事代行」らが通信アプリ「テレグラム」で明らかにした。
ロイター通信によると、チョンガル橋はヘルソン州とクリミア半島を結ぶ橋の一つで、「クリミアの入り口」として知られる。ロシアから南・東部の奪還を目指すウクライナ側は、クリミア半島から前線への補給ルートの混乱を狙ったとみられる。
サリド氏は橋の路面に開いた穴の写真を投稿し、英国製の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたようだと指摘。死傷者はいなかったといい、「すぐに復旧し、通行を再開できる」と強弁した。ロイターによれば、ロシア通信は、ウクライナ軍がミサイル4発で橋を狙ったとのロシア当局の見方を伝えた。
昨年10月にはクリミア半島とロシア本土を結ぶ全長約19キロのクリミア橋で爆発が起き、一部が崩落した。ロシア側はウクライナによる「テロ」と断定。報復として、ウクライナ全土にミサイル攻撃を行った。
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日夜のビデオ演説で、占領地奪還に向けた反転攻勢について「南部では前進し、敵を破壊している」と語った。ただ、21日放映の英BBC放送のインタビューでは、ロシアが広範囲に埋設した地雷に阻まれ、進軍ペースが「望んでいたよりも遅い」と作戦の難航を認めていた。
米シンクタンクの戦争研究所も21日付の戦況報告で、過去数日に比べてウクライナ軍の作戦進行が遅れていると指摘。ただ、複数の戦線で攻勢を仕掛けているウクライナ側の意図について「ロシア軍を徐々に消耗させ、今後の主要作戦に向けた環境整備を狙っている可能性もある」と分析した。
ロシアのタス通信によると、プーチン大統領は21日、ウクライナ側が「人員と車両で深刻な損害を被っており、(反転攻勢が)現時点で和らいでいる」と主張。一方で「敵の潜在攻撃力はまだ衰えていない」と対決姿勢を示した。

 

●プーチン大統領、「ウクライナは攻撃力を使い果たしていない」 6/23
ロシアのプーチン大統領は22日、首都モスクワで開かれた安全保障会議で、ウクライナは「潜在的な攻撃力」を使い果たしていないと繰り返し述べ、「まだ投入していない多くの戦略的予備兵がいる」と警戒感を示した。
ウクライナ軍の劣勢を主張してきたにもかかわらず、ロシア軍は「戦闘作戦を練る」際に「現実を受け入れて進める」必要があるとプーチン氏は述べた。
さらに、ウクライナを支援する西側諸国は「ウクライナ兵が最後の1人になるまでロシアと戦うことを決めた」ことが明らかになった、とも主張した。
プーチン氏は記者団に、ウクライナ軍による積極的な攻撃はまだ行われておらず、戦闘は「一種の小康状態」だと語った。
CNNは、ウクライナ軍の損失や作戦の展開についてのプーチン氏の主張を独自に検証することはできない。
プーチン氏はまた「敵にはどこから、どのように投入しようかと考えている予備兵がいる」とも述べた。
一方、ウクライナは同日、ロシア軍が南部のザポリージャ州とヘルソン州の方面で守勢に回っており、ウクライナ軍は前進していると主張した。
●ロシア国民も見捨てつつある…ルーブル安が止まらなくなったプーチン政権 6/23
ロシアによるウクライナ侵攻から1年半が経とうとしている。欧米や日本は制裁強化に乗り出しているが、深刻な打撃にはいたっていないとの見方がもっぱらだ。2022年の実質GDP成長率はマイナス2.1%にとどまった。中国やインドへの輸出拡大と、同盟国の輸入拡大でロシア生活は改善。抜け穴が影響を緩和している。「継戦能力」は高い。経済アナリストの佐藤健太氏は「中国だった場合は」と見る。
今年初めからの下落率は10%を越えた
「世界経済のリーダーの座は保つ」。ロシアのプーチン大統領は6月16日、サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで演説し、経済政策の効果を誇示するとともに、ロシアから撤退した外国企業が復帰する道は閉ざさないと表明した。もちろん、ウクライナ侵略を続けるプーチン大統領の言葉を鵜呑みにすることはできない。ただ、侵攻開始から1年以上経過した事実を踏まえれば、欧米を中心とする経済制裁が当初描かれていた通りに効いていないことは間違いないだろう。
たしかに2022年2月24日のウクライナ侵攻直後は、ロシア経済に激しい動揺が見られた。ロシアの通貨ルーブルは対ドルで急落し、外国為替市場で史上最安値をつけた。一時1ドル=150ルーブル前後まで下落したことを受けて、ロシア中央銀行は利下げに踏み切り、資本の流出規制なども導入。その結果、ルーブル相場はウクライナ侵攻前の水準に回復した。
最近の動きを見れば、欧米企業の撤退などが相次ぎ、ロシアから資金が流出している可能性はある。今年初めからの下落率は10%を越え、2023年4月にルーブルは昨年4月以来の水準にまで値下がりしている。だが、ロシアが発表した2023年1〜3月の国内総生産(GDP、速報値)は前年同期比1.9%減で、4期連続のマイナス成長であるものの、2022年10〜12月のマイナス2.7%と比べれば減少幅が縮小している。これは、欧米の経済制裁が思ったよりも効いていないことの表れと見ることができるだろう。
ゲームチェンジャーにならなかった経済制裁
米戦略国際問題研究所(CSIS)は報告書で、制裁がロシア経済に打撃を与えているものの、流れを変えるには十分ではないと指摘。「ロシアの不安定化という束の間の期待は、同国の金融機関と為替相場が回復したことで打ち砕かれた」と結論づけている。
孤立するロシアを助けているのは、中国やインドといった「友好国」だ。欧米主導の制裁に加わらない国々によるロシア産原油の輸入拡大や並行輸入は、経済制裁の効果を減少させている。5月に開催されたG7広島サミット(主要7カ国首脳会議)でも、こうした“抜け穴”は問題視されたものの1つだ。
G7首脳声明には「ロシアに対するコストを増大させ、戦争の負の影響に対抗し続ける」と明記され、岸田文雄首相も記者会見で「対ロシア制裁を維持・強化し、その効果を確かなものとするために制裁の回避・迂回防止に向け取り組みを強化していくことで一致した」と表明した。
ロシアに曖昧な立場をとる岸田ジャパン
ただ、会見で「EUは禁止されている物品や技術をロシアに供給する企業を厳格に取り締まっており、最近、厳格な貿易規制を複数の中国企業に拡大することを初めて提案した。日本もまた、このようにロシアを援助していると思われる中国企業への制裁を検討しているのか」と問われた岸田首相は、このような曖昧な回答に終わっている。
「中国との関係ではウクライナ情勢を含め、国際社会が直面する諸課題について責任ある行動を取るよう求めていく。こういったことについては、G7首脳間で確認している。こうした考え方に基づいて、日本としても対応を引き続き考えていきたい」。G7議長国がこうした姿勢では、中国と結びつきを強めるロシアに本気で速やかなウクライナ撤退を要求することにならないのではないか。
IMF(国際通貨基金)が2023年4月に発表した世界経済見通し改定版によれば、ロシアの実質GDP成長率は202#年に0.7%、2024年は1.3%と予測されている。今年は公的支出が経済を下支えするものの、原油価格が下落する見通しであることやロシア産原油価格が他と比べて低いことなどが背景にある。
スタグフレーションまったなしのロシア
2023年以降はロシア財政が悪化するとの見方が広がっており、これからのロシアは物価高騰と景気後退が進むスタグフレーションに陥る可能性も否定できない。ウクライナでの軍事費増大に加え、財政悪化や労働力不足によるインフレ圧力が生じれば、ロシア国民の不満がプーチン大統領らに向かうだろう。
民心が離れたリーダーに「世界経済のリーダーの座」を保つことができないのは言うまでもない。ただ、欧米の経済制裁とロシアの関係から見えることは「これがロシアではなく、中国だった」場合の恐ろしさだ。いざ台湾有事の際、米国や欧州はいかに中国に対抗することになるのか。
先のCSIS報告書は「中国に対して同様の制裁と輸出規制をすることは困難であり、世界経済に混乱をもたらすことになるだろう」と指摘する。言うまでもなく、日本はロシア、中国、北朝鮮という脅威にさらされている。脅威といった時には軍事上の観点から語られることが多いが、それはあくまでも経済面とセットになる。東アジアで同じような問題が起きれば、日本は深刻な問題に襲われるだろう。
岸田政権が曖昧な立場を取り続けるとどうなるのか
その時に岸田首相が見せたような曖昧な姿勢を欧米が見せたらどうなるのか。ウクライナ侵略を「対岸の火事」と思っていては、“まさかの時の友”が助けてくれないかもしれない。
●プリゴジンが軍を非難「国防省はウクライナでの損失をプーチンから隠蔽」 6/23
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は22日、ウクライナでの戦闘におけるロシア側の損失や失敗について国防省がプーチン大統領と国民にうそをついていると非難した。
ロシア国防省は軍事作戦の効率を高めるためとして、ワグネルのような「志願兵分遣隊」に対し、月末までに同省と契約するよう求めているが、プリゴジン氏は拒否している。
プリゴジン氏は音声メッセージで、ショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長が「戦線での非常に深刻な損失」をプーチン大統領に隠していると非難。
「全てのことが全ての人に隠されている。ロシアはある日目覚めて、(併合した)クリミアがウクライナの手に渡ったことを知るだろう」などと述べた。
「ロシア国民を欺いており、このままではロシアという最も重要なものを失ってしまう」とも語った。
国防省は現時点でプリゴジン氏の非難に反応していない。
同省はこれまでにロシア軍がウクライナのあらゆる反転攻勢を撃退し、ウクライナ側の装備と人的資源に大きな損害を与える一方、ロシア側の損失はわずかにとどまっていると発表している。
●ウクライナ、クリミアむすぶ橋にミサイル攻撃 6/23
反転攻勢を進めるウクライナは22日、ロシアが占領するクリミアと南部ヘルソン州をむすぶ橋をミサイルで攻撃しました。
攻撃されたのはクリミアとヘルソン州をむすぶチョンハル橋で、ロシア側は、イギリスが供与した巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたと指摘しています。
ロシアのショイグ国防相は、21日、ウクライナ軍について「動きは鈍ったものの部隊の再編成が進んでいる」とプーチン大統領に報告しました。
プーチン大統領「敵の攻撃力は尽きておらず、多くの予備戦力がまだ残っているという事実を踏まえてほしい」
一方、ゼレンスキー大統領は、ロシアが南部ザポリージャ原発へのテロ攻撃を計画していると主張しました。
ゼレンスキー大統領「ロシアがザポリージャ原発にテロ攻撃を仕掛けるシナリオを検討しているという情報を得た。ロシアは準備を完了している」
ゼレンスキー大統領はこう述べ、「世界が行動すべきだ」と訴えました。ロシア側はゼレンスキー大統領の主張はうそだと反論しています。
●クリミア結ぶ橋を爆破 “ウクライナ軍の攻撃” 6/23
ウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合した、南部クリミア半島と本土を結ぶ橋を爆破した。
ロシア側の当局者によると、クリミア北部とヘルソン州を結ぶチョンガル橋が、22日未明、ウクライナ軍の攻撃を受けた。
死傷者は出ていないが、交通が中断し、修復には数週間かかるという。
ヘルソン州のロシア側トップは、攻撃にはイギリスが供与した巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたと指摘している。
ウクライナ軍が反転攻勢を本格化させている中、ロシアの軍事専門家はクリミアと本土の分断を狙った攻撃だと分析している。
●プーチン大統領 ウクライナの反転攻勢めぐり安全保障会議を開催 6/23
ロシアのプーチン大統領は22日、安全保障会議を開催し、ウクライナの反転攻勢をめぐり協議を行いました。
22日開かれた安全保障会議でプーチン氏の側近・パトルシェフ安全保障会議書記は、ウクライナが反転攻勢を開始してからウクライナ側の死者は1万3000人以上にのぼると強調しました。また、ショイグ国防相は国内で募集している契約軍人について、1日あたりおよそ1300人の応募があるとして、新たな部隊を近く立ち上げると述べました。
報告を受けプーチン氏は、「敵の攻撃力はまだ消耗しておらず、多くの予備兵力が残っていることを念頭に置くべきだ」と強調。引き続き反転攻勢に対応するよう指示するとともに、今後のウクライナ側の動きに警戒心を示しています。
●ロシア軍がザポリージャ原発で「放射能漏れ伴うテロ攻撃」検討 6/23
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日、ロシア軍がウクライナ南部ザポリージャ原子力発電所でテロ攻撃を検討していると主張した。情報機関が入手した情報に基づき、関係国に計画内容を説明したと明らかにした上で、「原子力発電所への攻撃はあってはならない」と訴え、ザポリージャ原発を占拠するロシアを非難した。
ゼレンスキー氏はSNSで、ロシアが検討しているのは「放射能漏れを伴うテロ攻撃」だと主張。「ロシアのテロ行為は、南部ヘルソン州カホフカ水力発電所ダムの例がある」と述べ、各国がロシアに圧力をかける必要性を強調した。
ウクライナ保健省は同日、事故発生時の対応として、シェルターなど建物の内部に避難し、ドアや窓を密閉して空調を停止することなど、国民に注意を呼びかけた。
ウクライナの原発規制当局は今月中旬、ロシアが2週間前にザポリージャ原発の放射線観測装置の自動データ送信を停止したと指摘。現在、国際原子力機関(IAEA)職員は手動でデータを収集している。原子炉は全6基とも運転停止中だが、原子炉の安定維持に必要な外部電源の送電網が砲撃などで損傷し、1系統しか機能していないという。
●日本とウクライナ 官民が復興に向けた連携協議 軍事侵攻後初 6/23
ロシアによる軍事侵攻以降で初めてとなる日本とウクライナの官民による意見交換会がイギリスで開かれ、ウクライナの復興に向けた連携を協議しました。
これは22日、ロンドンで開かれたウクライナ復興会議にあわせて経済産業省や外務省などが開催し両国の政府関係者のほか民間企業70社余りが参加しました。
はじめにウクライナのスビリデンコ第1副首相兼経済相が「戦時下であってもウクライナの経済的な可能性に深く目を向ける時期だ。日本の技術や知識、復興に関わる人たちが必要だ」と呼びかけました。
このあと両国の企業などによるプレゼンテーションが行われ、ウクライナの企業は多くの建物が被害を受けて建築資材が不足していることや、エネルギー関連施設の復旧やクリーンエネルギーへの新たな投資が必要なことなどを報告しました。
また日本側は遠隔医療を手がける会社が医療施設や医師が不足している地域に貢献できるとしたほか、アンモニアの製造装置を開発している会社は、ウクライナで新たな暖房システムの構築に携わっていることを紹介していました。
JETRO=日本貿易振興機構の中石斉孝ロンドン事務所長は「ウクライナはITやDX=デジタルトランスフォーメーションが進んでいるので、現地に行かずともできるビジネスもあるかもしれない。さまざまなネットワークを使って日本企業を支援したい」と話していました。
●ウクライナ復興会議閉幕 支援総額約8兆5000億円に 6/23
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナへの復興支援について話し合う国際会議が閉幕し、共同声明で参加国からの支援が総額でおよそ8兆5000億円に達したと発表されました。
ウクライナ復興会議は22日、イギリス・ロンドンで2日間の日程を終えて閉幕し、イギリスのクレバリー首相とウクライナのシュミハリ首相が共同議長声明を発表しました。「我々はウクライナとその国民の可能性を解き放ち、ロシアの侵略を打ち負かす」と宣言。
参加国などが表明したウクライナへの支援総額が600億ドル、日本円でおよそ8兆5000億円に達したと明らかにしました。
また、イギリス政府によりますと、アメリカ「グーグル」やイギリス「ボーダフォン」「日立製作所」など、世界42か国から500社近くの企業がウクライナの復興への支援を表明したということです。
ウクライナ シュミハリ首相「ウクライナの復興は、第2次世界大戦後最大のプロジェクトとなる。ウクライナだけでなく、パートナー国や同盟国にも利益をもたらすだろう」
次回の復興会議は来年、ドイツ・ベルリンで開かれます。 
●側近からニセ情報だらけ裸の王様<vーチン大統領 6/23
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「裸の王様」ぶりが目立ってきている。ウクライナの反転攻勢に対し防戦一方のロシア軍だが、大統領が強調する「戦果」は実態と大きく異なると指摘され、周囲から実態を誇張した情報が上申されているとの観測も根強い。情報操作にたけているロシアだが、プーチン氏自身もニセ情報に踊らされているのか。
プーチン氏は21日、モスクワにある軍大学校の卒業生を前に演説した。そこで国営テレビの質問に、ウクライナの反攻は「小康状態」だと答え、「われわれの兵士は245両の敵戦車と約678両の多様なタイプの装甲車両を撃破した」と語った。
これに対し、露独立系メディア「メドゥーザ」は、「ウクライナ軍の旅団には、245両もの戦車はない」といぶかしんだのだ。
プーチン氏は16日には、サンクトペテルブルクで開かれた会合での講演で、ウクライナの首都キーウ近郊にある米軍供与の地対空ミサイルシステム「パトリオット」を「5基破壊した」と述べたと複数のメディアが報じた。
ただ、ウクライナに配備されているのは2基とされており、「何を意味しているのか明らかではない」(17日付メドゥーザ)という。ウクライナのゼレンスキー大統領に至っては、18日に「パトリオットは1つも破壊されていない」と発信した。
筑波大学の中村逸郎名誉教授は「プーチン氏はロシア軍の現状にいらだっており、側近たちは真実を伝えて攻撃されることを恐れているのではないか」と指摘する。
フェイク情報に踊らされているのは、プーチン氏自身の情報管理にも問題がありそうだ。中村氏は「ハッキングや情報漏洩(ろうえい)を恐れ、ネットにもアクセスせず携帯電話も持っていないといわれる。情報は国営第1チャンネルか側近の報告から得るしかないようだ」という。
プーチン氏に正確な情報が届いていないという疑念は以前からあり、官僚や新興財閥(オリガルヒ)、治安当局などの秘密を暴く「VChK―OGPU」というテレグラムチャンネルでも告発された。
4日の投稿では、プーチン氏は戦争の実情を伝えられるといらつき、「西側のプロパガンダ」とみなすという関係者の話を伝えた。「悪いニュースを聞きたがらない」ため、「成功」を報告した人だけが大統領に常にアクセスできるとも暴露した。
プーチン氏の「裸の王様」ぶりは西側諸国でも分析されてきた。
AP通信は3月、米情報当局の話として、プーチン氏はウクライナでのロシア軍の不振について顧問から誤った情報を得ていると報じた。経済制裁でどれほど疲弊しているかについても惑わされているという。
電波の届かないところにいる<vーチン氏。今後も情報環境が改善される見通しは薄いという。前出の中村氏は「秋の統一地方選や来年の大統領選を控え、ロシア国内は『政治の季節』に入る。政権内部でも偽情報でプーチン氏の指導力を低下させて後継を狙う人も現れかねない」との見方を示した。
●プリゴジン氏「プーチン大統領は騙されて軍事作戦始めた」 6/23
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏がウクライナ侵攻について「ロシア国防省がプーチン大統領をだまして始めたもの」と主張する新たな動画を公開しました。
プリゴジン氏:「国防省は今、国民をだまし、大統領をだましている。2月24日のいわゆる特別軍事作戦は全く異なる理由で開始された」
ロシアのプーチン大統領は昨年2月24日、ウクライナ東部ドンバス地方のロシア系住民を保護するとして「特別軍事作戦」を開始し、また、ウクライナがNATO=北大西洋条約機構に加盟し、ロシアを攻撃する恐れがあるとも主張してきました。
プリゴジン氏は今月23日、SNSを更新し、ウクライナはこれまでもドンバス地域を爆撃しておらず、また、ロシアを攻撃するつもりもなかったと述べ、ロシアが主張する特別軍事作戦の目的を完全に否定しました。
そのうえで、「ショイグ国防相や大富豪が自身の利益のために戦争を始めた」などと強調しました。
プリゴジン氏は国防省を度々批判していて、国防省が望んでいた契約も拒否しています。
プリゴジン氏の発言には、ショイグ国防相や「オリガルヒ」と呼ばれるロシア新興財閥らにウクライナ侵攻の責任をなすりつけようとする意図があるともみられています。
一方で、「プーチン大統領がだまされた」とも発言していて、今後、波紋を呼びそうです。
●ロシアは本当にウクライナで核兵器を使用するのか?国内議論から見えること 6/23
ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの全面侵攻を命令して以来、問われ続けている問題がある。この戦争でロシアは核兵器を使うのか? 
アメリカのジョー・バイデン大統領は、可能性を否定していない。
バイデン氏は今週、「プーチン氏が戦術核を使うことを懸念している」と述べ、危険性は「現実のものだ」と語った。
バイデン氏がロシアの雑誌「プロフィリ」を読んでいるかは分からない。もし読んでいるなら、彼が懸念を募らせているのはもっともだ。
「プロフィリ」は先週、ロシア外交・防衛政策の著名な専門家であるセルゲイ・カラガノフ氏による寄稿を掲載した。タカ派のカラガノフ氏は外交防衛政策会議の議長を務めている。つまり、ロシア政府の中枢と強いつながりがある人物だ。
カラガノフ氏はこう主張する。「西側の意志を破る」には、ロシアは「核兵器使用の敷居を下げ、核抑止力を再び説得力のある議論にしなければならないだろう」。
「世界規模の熱核兵器戦争への転落を防ぐため、我々が現在および過去の侵略行為のすべてに報復する先制攻撃の用意があることを、敵は知るべきだ」
「だが、もし向こうが引き下がらなかったら?  この場合、正気を失った人々の理性を取り戻すためには、多くの国の多くの標的を攻撃しなければならないだろう」
我々は昨年以来、ロシア政府のこうした核による威嚇(いかく)に慣れてきている。
またプーチン氏は、ロシアの戦術核兵器の第一陣がすでに、隣国ベラルーシ領内に配備されていると認めている。プーチン氏はこれを、「我々に戦略的敗北を与えようと考えている」すべての者への念押しだと説明した。
しかし、西側諸国への核を使った先制攻撃となれば、それは全く別次元の話だ。
ロシアの全員がこのアイデアに賛成ではないことは明らかだ。
たとえばロシアのビジネス紙コメルサントは今週、「核戦争での問題解決は悪手だ」という見出しの記事を掲載している。
「悪手」とはあまりにも控えめな表現かもしれない。しかしこの記事の注目すべき点は、ウクライナでの戦争で核兵器をいつ使うか、あるいは使うかどうかという国内の議論が、公の領域に飛び出たことだ。そして、事態はタカ派の思い通りにはなっていない。
「核兵器を使用すれば、エスカレーションを食い止め、通常の軍事手段では解決できなかった戦略的問題を解決できるという考えは、極めて疑わしい」と、この記事は指摘している。執筆者は、ロシア科学アカデミー内のシンクタンク「国際安全保障センター」に所属するアレクセイ・アルバトフ氏、コンスタンティン・ボグダノフ氏、ドミトリー・ステファノヴィッチ氏の3人。いずれも外交防衛政策の専門家だ。
「近代史において、軍事作戦が不測の事態を招いた例は数多くある。しかしそれらは、核兵器が使用されることなく起こった。核攻撃は、紛争を予測不可能なまったく新しい次元に引き上げ、対立の緊張を何倍にも増すだろう」
「『核ルーレット』がもたらす放射能に汚染された崩壊は、明るい未来への最悪の基盤になる可能性が高い。センセーショナルなアイデアや危険な賭博の支持者は、そのことを覚えておいた方がいいだろう」
ここで我々は、ロシアのウクライナ侵攻当初から問われ続けている別の問題に立ち返る。いったい何が起きているのか? 
カラガノフ氏の核による先制攻撃という提案があまりに衝撃的で、他のロシアの専門家らが黙っていられなくなった可能性はある。
もしそうなら、ロシアメディアが政府によって厳しく統制されている中でも、一部のプラットフォームではその制限の範囲内で、特定の話題について限定的な議論や討論を行う余地が残っているということだ。特に、核戦争のような重要な話題は。
あるいはこの議論全体が、欧米の注目を集めるためのものかもしれない。カラガノフ氏という「悪い警官」を登場させることで、プーチン氏を「良い警官」に見せようというものだ。
いずれにせよ、プーチン氏本人は西側への核兵器による先制攻撃を呼びかけてはいない。そのためこの議論は、カラガノフ氏を支持する強硬派が勝って核ボタンを押す前に、プーチン氏と折り合いをつけるべきだと言っていることになる。
ひとつはっきりしているのは、ロシア国内での反欧米的な暴言が高まり、ウクライナ軍の反転攻勢が進行している今、核問題はなくならないということだ。
●ロシア軍、ウクライナ軍の反攻受け「後退」 ワグネル創設者 6/23
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は23日、ウクライナ東部・南部での同国軍による反転攻勢を受けてロシア軍は「後退」していると述べた。
プリゴジン氏はソーシャルメディアに、「ロシア軍はザポリージャとヘルソンの前線で後退している。ウクライナ軍はロシア軍を押し返している」と投稿した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は最近、ウクライナ軍は「壊滅的な損失」を受け、戦闘は小康状態になっているとの見方を示しており、プリゴジン氏の発言はこれとは相反するものとなった。
プリゴジン氏はさらに、ロシア政府に対する批判を強め、ウクライナへの侵攻を開始するというプーチン大統領の決断の前提そのものに矛先を向けた。「なぜ特別軍事作戦が始まったのか…この戦争は、無能どもの自己宣伝のために必要だったのだ」と主張した。
●グローバルサウスの声を聞け 米中露の対立激化に途上国が不満と警戒 6/23
ウクライナ戦争や米中関係悪化など、北半球では大国による紛争や対立が後を絶たない。それにしびれを切らしたのか、南半球を中心とする途上国、いわゆるグローバルサウスも声を上げ始めた。大国たちも国際的世論形成の影響を高めつつある彼らの声を無視できない状況だ。
大国同士の対立、アメリカと中国の場合
2023年6月初め、シンガポールではアジア安全保障会議が開催された。アメリカのオースティン国防長官はその際、中国の国防幹部との対面会談を打診したが、中国側はそれを拒否した。アジア安全保障会議の前後には、南シナ海や台湾海峡で、中国軍が米軍に異常接近するなど強く威嚇し、アメリカは最近中国軍の攻撃性が増大していると強い警戒感を滲ませた。
その後、ブリンケン国務長官が中国を訪問することが発表され、同月19日に中国外交トップの王毅政治局委員との会見を実現させたが、その目的は“米中関係を改善、発展させる”ものではなく、“偶発的な軍事衝突など高まる危機を如何に抑えるか”というものだった。王毅政治局委員もブリンケン国務長官に対して、米中関係を「アメリカの誤った対中政策」による「どん底」と表現し、「対話か対抗か、協力か衝突かのどちらかを選択する必要がある」と迫った。
今日、米中間では安全保障や経済、人権や先端技術など多方面で競争が続いているが、その中でも台湾問題は最重要イシューになっており、中国が台湾を“核心的利益の中の核心”と位置付けるように、今後は台湾情勢の行方が米中関係を大きく変えそうだ。
ブラジルはウクライナ戦争についてG7へ不満の声
北半球では大国間の争いごとが展開され、世界情勢の焦点もそれらに集まる一方、南半球の途上国を中心とするグローバルサウスからは、北半球の大国への不満や警戒感が聞かれる。例えば、5月にG7サミットが広島で開催された際、G7サミットに招待されたブラジルのルラ大統領は、「グローバルサウスはウクライナ戦争で和平を主導したいが、欧米など北半球はそうしようとしない」、「ウクライナへの支援を続けるアメリカは、ロシアへの攻撃に加担している」、「そもそもロシアとウクライナの問題は、G7ではなく国連で議論するべきだ」と持論を展開した。
G7とは正に北半球の先進国で構成される枠組みであり、広島サミットで重点的に扱われた問題も大国間絡みであり、ルラ大統領の発言はグローバルサウスとG7との間に大きな乖離があることを露呈させた。
ASEAN諸国、アフリカも大国に警戒感を増大
そして、同様の声はASEANやアフリカなどからも聞こえる。冒頭で言及したアジア安全保障会議では、参加諸国の関心は米中双方が何を発言するかだったが、会議に出席したインドネシアのプラボウォ国防相は、米中対立を皮肉交じりに「新冷戦」と呼び、大国間対立の激化に強い警戒感を示した。
また、フィリピンのガルベス国防相も、米中の経済デカップリングやロシアの孤立など、大国間をめぐる諸問題に同様の懸念を示し、ASEANの大国間対立への警戒度は高まるばかりだ(カンボジアやラオス、ミャンマーなど中国との関係が深い国は、また別の思惑があろうが)。
2022年9月の国連総会のときにも、インドネシアのルトノ外相は、「東南アジアを新冷戦の駒にするべきではない」と釘を刺し、争う大国たちに警戒感と不満を示した。ウクライナ戦争後、欧米や日本、韓国などはロシアへの制裁を一斉に強化したが、それに加わっているのは世界で40カ国あまりしかない。ASEANでもシンガポールのみであり、ここからもASEANと大国との間には大きな乖離があることが想像できる。
また、最近エチオピアで講演したアフリカ連合のファキ委員長は、「大国たちがアフリカを地政学的な戦場にしようと脅かしている」と米中やロシアを念頭に強い警戒感を示した。また、アフリカ連合で議長を務めるセネガルのサル大統領も以前、「アフリカは新たな冷戦の温床になりたくない。ウクライナ戦争についてロシアとアメリカの間では、アフリカ諸国を味方につけるための綱引き合戦が行われている」と同じような不満を示した。
無視できないグローバルサウスの影響力
中南米や東南アジア、アフリカから聞こえるこういった声を、北半球の大国たちはどう理解しようとしているのか。今後の人口増加や世界経済を考えると、世界の中でのグローバルサウスの影響力はいっそう高まっていくだろう。欧米や中国、ロシアもそれを理解してか、インドなどグローバルサウスとの関係強化を目指している。
冒頭で言及したアジア安全保障会議でも、中国軍の李尚福国務委員兼国防相は、「米中の問題は両国だけでなく世界に影響を及ぼす」とも言及したが、これは同会議に参加したASEAN諸国を意識した発言と思われる。中国もアメリカもグローバルサウスを必要としており、大国たちは今後さらにグローバルサウスの声を注意深く聞かなければならなくなるだろう。

 

●ウクライナ戦争、軍上層部の「うそ」が根拠に ワグネル創設者が非難 6/24
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は23日、ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った根拠について、軍上層部が「でっち上げたうそ」によるものと主張した。
ウクライナでの戦争を巡り、プリゴジン氏は軍や国防省を繰り返し批判してきているが、ロシアの「特別軍事作戦」をウクライナの「非武装化、非ナチ化」が目標という政権の説明を今回初めて否定。テレグラムに投稿した動画で、ロシアがウクライナ侵攻を始めた「2月24日に起きたことは日常茶飯事にすぎない。国防省は国民と大統領を欺こうとし、ウクライナからとんでもない侵攻があり、北大西洋条約機構(NATO)全体でロシアを攻撃することを計画していると説明していた」と述べた。
さらに「戦争はショイグ国防相が元帥に昇格するために必要だった。ウクライナを非武装化し、非ナチ化するためには必要ではなかった」と強調。エリート層の利益のためにも戦争は必要だったという見方も示した。
また、ロシアは侵攻に踏み切る前にウクライナのゼレンスキー大統領と協定を締結できたはずだったほか、戦争ではロシアで最も有能とされる部隊を含む何万人もの若い命が不必要に犠牲になったとし、「われわれは自らの血を浴びている。時間は過ぎ去っていくばかりだ」と述べた。
具体的な説明はなかったものの、ロシア軍が自軍の戦闘機を破壊したとも非難。ロシア軍指導部の「悪」を「止めなければならない」とし、「数万人ものロシア軍兵士の命を奪った者たちには罰が課される」とした。
プリゴジン氏はロシア軍に対する行動の呼びかけは「軍事クーデターではなく、正義のための行進だ。われわれの行動は決して軍隊の邪魔をするものではない」と主張。ショイグ国防相がワグネルの兵士の遺体2000体をロシア南部の死体安置所に隠すよう命じたとも非難した。
ロシア国防省はすぐに声明を発表し、プリゴジン氏の発言は「現実に即しておらず、情報を提供することに挑発」とした。
ロシア連邦保安局(FSB)は、プリゴジン氏が武装蜂起を呼びかけているとして、刑事事件として捜査に着手した。
●「ロシア国防省がプーチン大統領をだまして侵攻始めた」ワグネル創設者 6/24
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者は、ウクライナ侵攻について「ロシア国防省がプーチン大統領をだまして始めた」と主張する新たな動画を公開しました。
「ワグネル」創設者 プリゴジン氏「国防省は国民と大統領をだましている。特別軍事作戦は全く異なる理由で開始された」
プリゴジン氏は23日に公開した動画で、プーチン大統領が侵攻開始にあたり、ウクライナがNATO=北大西洋条約機構の支援を受け、ロシアを攻撃する脅威が高まっているなどと主張したことについて、「そのような異変はなかった」と否定しました。
そのうえで、ショイグ国防相や「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥が「自分たちの利益のために戦争を始めた」と強調しました。
これまでもショイグ国防相らを厳しく批判してきましたが、今回は侵攻そのものをめぐる政権の主張を否定した形で波紋を呼びそうです。
●「国防省がプーチン氏だました」プリゴジン氏、政権主張を真っ向否定 6/24
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリゴジン氏は23日にSNSに投稿した動画で、「ウクライナとNATO(北大西洋条約機構)はロシアを攻撃しようとしていなかった」「ロシア国防省がプーチン大統領をだました」などと持論を展開した。ウクライナ侵攻を特別軍事作戦と位置づけ、西側とウクライナが仕掛けた戦争に対する防衛行動とするプーチン政権の主張を真っ向から否定した形だ。
プーチン氏は侵攻の根拠の一つとして、2014年から紛争が起こっていたウクライナ東部ドンバス地方で、ウクライナがロシア系住民を抑圧したほか、米欧の支援を得てロシア国内への攻撃を準備していたと、一方的に主張している。
これに対し、プリゴジン氏は、ドンバス地方ではウクライナから「非常識な侵略」はなかったとの認識を示した。さらに、ロシア国防省が偽の情報でプーチン氏と国民を欺き、侵攻に踏み切らせたと主張した。侵攻はロシアのオリガルヒ(新興財閥)の利益のためだったとも批判した。
また、ウクライナが同国南部などで始めた反転攻勢をめぐり、「ウクライナ軍はロシア軍を押しており、我々は血まみれになっている」と述べた。反転攻勢をめぐってはプーチン氏が21日、インタビューでウクライナ軍が劣勢にあると強調したばかり。プーチン氏のメンツをつぶした格好だ。
●軍事会社ワグネルの代表“ロシア国防省が戦況を偽っている” 6/24
ロシアのプーチン政権がウクライナ軍の反転攻勢を撃退していると主張する中、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表は、ロシア国防省が戦況を偽っていると非難したうえで、NATO=北大西洋条約機構からの脅威など軍事侵攻を正当化するプーチン政権の主張まで否定しました。
ウクライナの戦況について、反転攻勢を続けるウクライナのマリャル国防次官は23日、地元テレビに出演し、東部では激戦の中でロシア側の進軍を食い止め、南部では着実に前進しているとアピールし、「本格的な作戦はこれからだ」と強調しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は撃退に成功していると強調し、ショイグ国防相もウクライナ軍の勢いは当初より衰えているなどと主張しています。
こうした中、軍事侵攻で多くの戦闘員を投入するロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏は、23日に公開した動画で、ロシア国防省の指導部に対して「われわれが聞かされているのは深刻な欺まんだ」と述べ、ショイグ国防相らが戦況を偽っていると非難しました。
そのうえで「ウクライナ軍はロシア軍を押し出し、われわれは血まみれになっている」と述べ、ロシア軍は南部で後退していると指摘しました。
さらに「国防省は社会や大統領を欺こうとしている」と述べ、プーチン政権が軍事侵攻を正当化するために主張している、ウクライナ東部のロシア系住民への弾圧やNATOからの軍事的な脅威などとは「全く違う理由で、いわゆる特別軍事作戦が開始された」と持論を展開しました。
プリゴジン氏は、プーチン政権が求めている、国防省との契約の締結を拒否するなど反発を強めていますが、プーチン大統領が軍事侵攻を正当化する主張まで否定した形で、ロシア側で統制がとれていない状況がうかがえます。
●ワグネル創設者「ロシア軍に攻撃された」 当局は「反乱」と捜査開始 6/24
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリゴジン氏は23日、通信アプリ「テレグラム」で、ワグネルの拠点がロシア軍の攻撃を受け、多数の兵士が死亡したと主張した。ロイター通信などが報じた。ロシア国防省は同日、「事実ではない」と否定する声明を発表。プリゴジン氏は報復宣言ともとれる発言をしており、タス通信によると、連邦保安庁(FSB)はプリゴジン氏が「反乱を呼びかけた」として捜査を開始したと発表した。
報道によると、プリゴジン氏は23日の投稿で「この残虐行為にどう対応するか決める。次は我々の番だ」と強調。「我々の若者を破壊した者たちは罰せられなければならない」と訴えた。さらに「我々には2万5000人(の兵士)がいる。なぜ混沌(こんとん)が生じているのかを明らかにする。これは軍事クーデターではない」などと語った。
テレグラムでは攻撃を受けたとされる森を映した動画も投稿し、「目撃者によると、後方からの攻撃だった。つまりロシア国防省によるものだ」と説明した。
プリゴジン氏はこれまでも国防省をたびたび批判している。今月11日には国防省が全ての志願兵に対し月内に同省と契約を結ぶよう命じたことを受け、「ショイグ(露国防相)は軍を適切に管理できていない」と語り、ワグネルは命令を拒否すると表明。23日の投稿では、ロシアがウクライナに対し「特別軍事作戦」を始めた理由について「ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)とともに攻めてくるというストーリーを国防省がでっち上げ、国民や大統領をあざむいた」と主張した。
タス通信によると、ペスコフ大統領報道官は23日、プーチン大統領もプリゴジン氏の発言などについて説明を受けていると明らかにし、「必要な措置が取られる」と語ったという。
●ロシア当局 ワグネル代表の捜査に着手 “武装蜂起呼びかけた” 6/24
ウクライナへの軍事侵攻をめぐりロシア国防省との確執が深まっている、民間軍事会社ワグネルの代表について、ロシアの治安当局は、武装蜂起を呼びかけた疑いで捜査に着手しました。
ロシア最高検察庁は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏について、治安機関のFSB=連邦保安庁が23日、武装蜂起を呼びかけた疑いで捜査に着手したと発表しました。
プリゴジン氏は23日、SNSへの投稿で、ワグネルの部隊がロシア軍から攻撃されたと主張し、「軍指導部の悪事を止める」などと報復を示唆していました。
これに対して、ロシア国防省は即座にSNSで「挑発行為だ」と攻撃を否定する声明を出し、国営のロシアテレビも番組の途中で臨時ニュースに切り替え、国防省の声明とともに捜査着手について伝えました。
プリゴジン氏はウクライナへの軍事侵攻で多くの戦闘員を投入するロシアの民間軍事会社の代表で、軍事侵攻をめぐってロシアのショイグ国防相を名指しで批判するなど国防省との確執を深め、23日には軍事侵攻を正当化するプーチン政権の主張まで否定していました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は23日、記者団に「プーチン大統領はプリゴジン氏をめぐるすべての状況について報告を受けている。必要な措置はとられている」と述べました。
●ワグネルのプリゴジン氏「武装蜂起」を宣言 ロシア当局による逮捕も 6/24
ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は23日、SNSに投稿した動画などで「軍幹部の悪事を止めなければならない。抵抗する者はすぐに壊滅させる」と述べ、武装蜂起を宣言した。これに対し、ロシア国防省は「情報による挑発だ」と反発。ロシアメディアによると、ロシア連邦保安局(FSB)はプリゴジン氏の行動をめぐって、刑事事件として捜査を始めたという。
プリゴジン氏は動画で、「ウクライナとNATO(北大西洋条約機構)はロシアを攻撃しようとしていなかった」「ロシア国防省がプーチン大統領をだました」などと持論を展開。ロシア軍がワグネルを攻撃し、多くの戦闘員が死亡したとも訴えた。
●G7やグローバル・サウスなどの高官ら ウクライナ情勢で協議へ 6/24
G7=主要7か国とグローバル・サウスと呼ばれる新興国などの政府高官らが、24日から北欧のデンマークに集まり、ウクライナ情勢をめぐって協議を行います。ウクライナ大統領府の長官も出席する見通しで、軍事侵攻の終結後も見据えたウクライナの安全保障をめぐって意見を交わすとみられます。
複数の外交筋によりますと、協議は、ウクライナ政府などの呼びかけで、24日からデンマークの首都コペンハーゲンで2日間の日程で行われ、アメリカのサリバン大統領補佐官や秋葉国家安全保障局長など、G7各国の安全保障担当の政府高官が出席するということです。
協議には、ウクライナからはイエルマク大統領府長官が出席する見通しで、インド、ブラジル、トルコなど、グローバル・サウスと呼ばれる新興国の出席も調整されているということです。
協議では、ロシア軍の撤退など、ウクライナが提唱している和平に向けた10項目について、グローバル・サウスの国々に理解や支持を求めるほか、軍事侵攻の終結後も見据えたウクライナの安全保障をめぐって意見を交わすとみられます。
ウクライナは、今月から始めたとされる反転攻勢について、現時点で難航しているという認識を示しています。
今回の協議でG7各国などは、戦況や今後の見通しを分析し、ウクライナへの軍事支援だけでなく侵攻が終結した場合を想定した議論も行うねらいがあるとみられます。 
●情報公開停止は赤信号、破綻に向け一直線のロシア財政 6/24
プロローグ 情報非開示が進むロシア
都合の悪い情報は隠蔽する。
これは情報操作の鉄則ですから、発表されている数字より発表されていない数字・発表されなくなった数字の方が重要になります。
ロシア(露)のV.プーチン大統領(70歳)は「ロシア経済は順調である」と豪語しましたが、事実は正反対です。
今まで水面下で起こっていたことが、今年は徐々に顕在化・表面化してくるでしょう。
典型例を2つ挙げます。
1つ目はロシア国家歳出の月次支出項目です。
露財務省は2021年12月までは歳出欄の個別支出項目に数字が記載されていましたが、2022年1月以降は白紙になりました(歳出総額のみ記載)。
従来は支出項目の戦費を数字で検証できたのですが、今では支出明細がすべてブラックボックスになりました。
2つ目は原油・ガス生産量です。
生産量減少が表面化したため、ロシア連邦統計庁は今年3月度から露原油生産量発表を停止。露ガスプロムは今年4月度からの自社天然ガス生産量を発表しておりません。
欧米の対露経済制裁措置強化を受けロシア産原油(ウラル原油)はバナナの叩き売り状態ですから、インドや中国の民間石油企業が超安値ロシア産原油の輸入を拡大しています。
従来輸入していなかったパキスタンもロシア産ウラル原油の輸入を始めました。
「安値で原油を買って、国際価格で石油製品を売る」のですから、文字通り濡れ手に粟。
しかしこのこと自体は当然の商行為であり、何ら非難されるべきことではありません。
一方、これはロシアにとり機会損失となり、その責任は戦争を開始したプーチン大統領その人が負うべきと筆者は考えます。
82年前の6月22日、バルバロッサ(赤髭)作戦が発動されました。
ソ連のスターリンにとっては、文字通り≪青天の霹靂≫でした。
ドイツ枢軸軍は3方向(北方・中央・南方)でソ連領内に深く侵攻、同年11月にはドイツ軍威力偵察部隊はクレムリンに30キロほどの地点まで進出。
クレムリンを指呼の間に捉え、ドイツ軍はクレムリンを砲撃する長距離砲の設置準備作業開始したまさにそのとき、突如現れたのが旧満州との国境線で日本軍と対峙していた、冬季戦に備えた赤軍精鋭部隊でした。
この年の冬将軍はソ連に味方しました。
その後、スターリングラード攻防戦でドイツ軍は敗北。クルスク戦車戦でドイツ軍は後退を余儀なくされました。
ドイツでは、「ドイツの進軍はスターリングラードで終わり、ドイツの敗北はクルスクに始まる」と言われています。
この戦争はソ連にとり祖国防衛戦争ですから、ソ連国民は困窮生活に耐えました。
一方、昨年2月24日のウクライナ侵攻作戦は、ロシアのとり祖国防衛戦争ではなく、他国侵略戦争です。
よくテレビ番組などで「ロシア人は戦争の際、困窮生活に慣れている」と解説している評論家がいます。しかしこの歴史認識は正しいとは言えず、率直に言えば間違っています。
また、「第2次大戦では、ロシアは2700万人の犠牲を出した」と解説している人もいましたが、これも違います。
犠牲となったソ連国民にはロシア人以外、ウクライナ人、ベラルーシ人、ほか多くの他民族が入っており、ウクライナ人も700万人ほど犠牲になったとも言われております。
本稿では、ロシア財政の現状と間違いだらけの日系マスコミ報道に言及したいと思います。
第1部 北海ブレント・露ウラル原油 週次油価動静(2021年1月〜23年6月)
最初に2021年1月から23年6月までの2油種(北海ブレント・露ウラル原油)週次油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より2022年2月末まで上昇基調でしたが、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル原油は下落開始。
ウラル原油以外は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。
ちなみに、日本が輸入していたロシア産原油は3種類(S−1ソーコル原油/S−2サハリン・ブレンド/ESPO原油)のみで、すべて軽質・スウィート原油です。
露ウラル原油の6月12〜16日週次平均油価はバレル$51.58(前週比▲$1.19/黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)、北海ブレント$74.39(同▲$1.67/スポット価格)でした。
ブレントとウラル原油の大幅値差が続いていますが、一時期はバレル$40以上あった値差も現在では$23程度に縮小しています。
この超安値のウラル原油を輸入し、自国で精製して石油製品(主に軽油)を欧州に国際価格で輸出して“濡れ手に粟”の状態がインドです。
中国も輸入拡大していますが、主にESPO原油です。
ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油FOB)はバレル$45.3、実績$69.0。2022年の予算案想定油価は$62.2、実績$76.1。今年23年の想定油価は$70.1です。
上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線はロシア軍がウクライナに侵攻した昨年(2022)2月24日です。
この日を境として北海ブレントは急騰。6月に$130近くまで上昇し、最高値更新後に下落。
今年4月2日のOPEC+原油協調減産サプライズ発表後に油価上昇しましたが、その後再度下落傾向に入りました。
一方、露ウラル原油はウクライナ侵攻後に下落開始。今年4月に入り油価上昇後、同じく下落。現在は$50前後で推移しています。
今年の露予算案想定油価は$70.1ゆえ、国家予算赤字幅はさらに拡大必至です。
第2部 北海ブレント・米WTI・露ウラル原油 月次油価動静(2021年1月〜23年5月)
次に、3油種の月次油価推移も確認しておきます。
油価を確認すればすぐ分かることですが、ウクライナ侵攻後、露ウラル原油は下落しています。
日系マスコミでは「ウクライナ侵攻後油価上昇したので、ロシアの石油収入は拡大した」との報道も流れていましたが、この種の報道は間違いです(後述)。
下記の月次油価推移グラフをご覧ください。
昨年2月度の露ウラル原油(FOB)はバレル$92.2。以後毎月ウラル原油の油価は下落しており、今年5月度は$53.3。実にバレル約$40の油価下落になりました。
ご参考までに、露連邦統計庁発表の露原油・天然ガス輸出価格推移を概観します。
下記グラフより、油価とガス輸出価格が連動していることは一目瞭然です。ただし、最近は統計資料が発表されなくなりました。
第3部 ロシア経済は油上の楼閣経済 国庫税収はウラル原油の油価次第
ロシア経済は油上の楼閣経済であり、ウラル原油の油価依存型経済構造です。
下記グラフをご覧ください。露経済と国庫税収は油価(ウラル原油)と強い正の相関関係にあることが一目瞭然です。
ウラル原油の油価が国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価に依存しています。
ちなみに、石油・ガス税収の8割以上が地下資源採取税で、非石油・ガス税収の大半は付加価値税(消費税)と利潤税(利益税)です。
昨年と今年1〜5月度の露石油・ガス税収をグラフで表示すると以下のようになります。露石油・ガス税収は油価に依存していることがお分かりいただけると思います。
第4部 拡大するロシア財政赤字 戦費財源減少に直結
ロシアの原油・天然ガス生産量が減少し油価が下落すると、それはロシア財政にどのような影響を与えるのでしょうか?
答は簡単です。ロシア財政は破綻の道を歩むことになり、既に歩んでいます。
露財務省は6月6日に今年1〜5月度の国家予算案遂行状況を発表したので、本稿では要旨のみご報告します。
ロシアの2022年国家予算は期首予算案1.33兆ルーブルの黒字案でしたが、実績は3.31兆ルーブルの赤字になりました。
期首想定油価(ウラル原油)バレル$62.2に対し実績$76.1ですから、本来ならば1.33兆ルーブル以上の大幅黒字になるはずが大幅赤字です。
これが何を意味するかは説明不要と思います。
今年5月度の石油・ガス関連税収は5,707億ルーブルとなり、前月4月度と比較して▲12%、前年同期比▲36%。
一方、今年1〜5月度の国家財政赤字は3.4兆ルーブルを超えました(予算案▲2.9兆ルーブル)。
露国家歳入の骨格たる石油・ガス関連税収は前年同期比半減、企業の利潤税(日本の法人税相当)は▲15%です。
不利な情報も発表するところに、露財務省の矜持が透けて見えてきます(露連邦統計庁は一番重要な露原油関連生産量を発表停止。露ガスプロムは自社天然ガス生産量未発表)。
注目すべきは、石油・ガス税収が前年同期比半減した点です。
非石油・ガス税収は増えていますが、増えているのは付加価値税(消費税)であり、企業に賦課する利潤税(利益税)は15%減少しています。
これは企業収益、特に石油・ガス関連企業の財政状況が急激に悪化していることを示唆しています。
ご参考までに、露財務省発表の2023年1〜5月度国家予算案遂行状況は以下の通りです。
ロシアの2022年井戸元原油生産コストはバレル約$50ゆえ、現行油価は石油企業にとり利益の出ない油価水準になっています。
欧米による海上輸送原油FOB上限$60設定は、ロシア石油企業を生かさず・殺さず原油生産を継続させる、よく練られた上値上限設定です。
油価(ウラル原油)と原油生産量が下落すれば、露経済・財政を直撃。油価・生産量下落→露経済弱体化→戦費枯渇となります。
これが、ウラル原油の油価動静と原油・ガス生産量が注目されるゆえんです。
ちなみに、石油・ガス関連税収とは2018年までは地下資源採取税(石油・ガス鉱区にかかる税金)と輸出関税(天然ガスはPLガスのみ)のみでしたが、2019年からは(補填含む)追加税が算入されました。
露ガスプロムの経営悪化は既に始まっており、早晩顕在化・表面化するでしょう。
筆者はこの傾向が続けば、ガスプロム経営破綻も視野に入ってくるものと考えております。
第5部 減少するロシア原油・天然ガス生産量ロシア経済破綻の兆候
ロシアでは今後情報統制が進み、原油・ガス生産量が発表されなくなるのではないかと筆者は懸念していました。その懸念は的中。
露政府は今年4月26日付け政令「1074−r」にて、2023年3月度分から原油・随伴ガス生産量が発表停止となり、来年4月1日まで11か月間、原油・ガスコンデンセート・随伴ガス生産量発表を全面禁止することになりました。
露ガスプロムは今年4月から自社天然ガス生産量を発表しなくなりました。
昨年2月24日のロシア軍ウクライナ侵攻後、欧米は対露経済制裁措置を強化。主要欧米メジャーと石油サービス企業はロシア市場から撤退開始。
筆者はその時点で、「今後、ロシアの原油・天然ガス生産量低下は不可避」と孤高の論陣を張ってきましたが、今年に入り当方主張が数字で検証可能になりました。
生産量減少が数字で検証可能になるや否や、その数字が発表停止となったのです。
今年3月度のガスコンデンセート・天然ガス・随伴ガス生産量はかろうじて発表されていましたが、今後は来年4月1日まで、我々はロシアの原油・ガス生産量を知ることはできないことになります。
生産量が順調に伸びていれば、統計数字を非公開とする理由はありません。
都合の悪い情報は隠す。欧米による対露経済制裁措置強化がロシアの石油・ガス産業に悪影響を与えていることが分かってしまうので、原油・ガス生産量発表禁止措置が導入・発動されたものと筆者は理解します。
ご参考までに、昨年2022年と今年4月度までの露連邦統計庁発表公開情報は以下の通りにて、4月度以降、露原油・ガスコンデンセート・随伴ガス生産量は発表停止となりました。
露ガスプロムの欧州市場向け天然ガス輸出量は激減しており、欧州ガス大手需要家側は露ガスプロムとの長期契約解除の動きが表面化してきました。
欧州天然ガス市場を喪失したガスプロムは、今後経営危機も視野に入ってくることでしょう。
原油の叩き売りと欧州ガス市場喪失により、ロシア経済自体の破綻も透けて見えてきたと筆者は考えます。
第6部 ロシア国民福祉基金資産残高推移
ロシアには「国民福祉基金」が存在します。これは一種の石油基金であり、もともとは「ロシア連邦安定化基金」として2004年1月の法令に基づき、同年設立されました。
露原油(ウラル原油)の油価が国家予算案で設定された基準を上回ると「安定化基金」に組み入れられ、国家予算が赤字になると、「安定化基金」から補填される仕組みでした。
この仕組みを考案したのが、当時のA.クードリン財務相です。
この基金は発足時の2004年5月の時点では約60億ドルでしたが、油価上昇に伴い2008年1月には1568億ドルまで積み上がりました。
この安定化基金は2008年2月、「予備基金」(準備基金)と「国民福祉基金」(次世代基金)に分割され、「予備基金」は赤字予算補填用、「国民福祉基金」は年金補填用や優良プロジェクト等への融資・投資用目的として発足。
分割時、「予備基金」は約1200億ドル強を継承、残りを「国民福祉基金」が継承。
この石油基金のおかげでロシアはリーマンショックを乗り越えられたと言われています。
その後「予備基金」の資金は枯渇してしまい、2018年1月に「予備基金」は「国民福祉基金」に吸収合併されました。
露財務省は2023年6月1日現在の資産残高は1531億ドル(GDP比8.2%)と発表しました。ただし、この資産残高は預貯金残高ではなく、あくまでも資産残高です。
過去に投融資した資産が含まれており、その中には不良資産も入っています。
このことは流動性のある真水部分は少ないことを意味します。
露財務省は毎月、国民福祉基金残高を発表しています。参考までに、発足時の2008年2月1日から2023年6月1日現在までの資産残高は以下の通りです。
2021年国家予算案想定油価(ウラル原油)はバレル$45.3に対し実績は$69.0、2022年予算案想定油価$62.2に対し実績$76.1。
ゆえに本来ならば2021年と22年の国民福祉基金資産残高は右肩上がりで上昇するはずが、22年には右肩下がりになりました。
国民福祉基金は本来、戦費には転用できません。
ゆえに露政府は昨年、「緊急目的のため支出可能」とする修正法案を成立させ、戦費に転用しています。
第7部 間違いだらけの日系マスコミ報道
昨年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻後、筆者はロシア財政問題と戦費に言及してきました。
欧米メジャーや欧米石油サービス企業がロシア市場から撤退したことに鑑み、今後ロシアの原油・天然ガス生産量は減少必至と筆者は予測し、今年に入り生産量低下が数字で検証可能になりました。
すると、日系マスコミでも付焼刃のように露財政問題を取り扱うようになりました。
しかし、内実を知らずして間違いだらけの報道になっています。枚挙にいとまはありませんが、本稿ではいくつかの実例を挙げてみます。
まず、「ロシア国民福祉基金」。
上述の通りこれは「資産残高」であり「預貯金」ではありません。
ところが、テレビ生番組に登場したある評論家は「ロシアには国民福祉基金があるので、1〜2年は戦費の問題はない」と解説していました。
この人は国民福祉基金を預貯金と誤解しているのです。
筆者の推測にすぎませんが、恐らく今年末までには国民福祉基金資産残高の流動性資産は枯渇することでしょう。
次に「朝日新聞」の記事に言及します。
昨年9月3日付け朝日朝刊は、「ウクライナ侵攻後の石油価格の上昇で、石油輸出によるロシアの収入は大きく伸びた」(第7面)と報じました。
しかし第1部と第2部で詳述した通り、露ウラル原油はウクライナ侵攻後に下落しており、この記事は間違いです。
油価が上昇したのは、ウラル原油以外の油種です。
また、ロシアの石油収入が伸びたのは事実ですが、それはウクライナ侵攻後に油価が上昇したからではなく、昨年同期比でウラル原油の油価水準が上がっていたから収入が伸びたにすぎません。
朝日新聞の石油・ガス関連記事は間違いが多いので、この機会にさらに言及してみます。
今年4月23日付け朝日朝刊の1・2面特ダネ記事として、アフリカの天然ガスプロジェクトが言及されています。
以前からある構想でなぜ1面トップ記事なのか筆者は理解できませんが、この記事の中に「ナイジェリアからモロッコまで洋上を5600キロにわたりつなげるパイプライン」が地図入りで掲載されています。
筆者はこの「洋上パイプライン」に笑ってしまいました。
なぜなら、「洋上パイプライン」はこの世に存在しないからです。
しかし、書いた記者も校閲した本社デスクもこの間違いに気づかなかったようです。
署名記事なので記者名が明記されています。この記者は今年6月11日付け朝日朝刊に「もう一つの計画は海上。ギニア湾の沖合から時計周りにモロッコまでつなぎ、その先の欧州と結ぶという世界最長の洋上パイプライン構想だ」(第4面)と書いています。
すなわち、この記者は本当に「海上に浮かぶ洋上パイプラインを建設する」と思っているのです。
しかし海上に浮かぶ洋上パイプライン(PL)を建設すれば、船舶通過が不可能になり、大陸封鎖になってしまいます。
ジブラルタル海峡が封鎖されれば、地中海と黒海が孤立します。
では、本当にそのような「海上に浮かぶ洋上PL建設構想」は存在するのでしょうか?
存在しません。このPL建設構想は海底に敷設する海底PL(offshore pipeline)のことです。
次に、ロシア産原油の油価に言及したいと思います。
上述の通り、ロシアの代表的油種ウラル原油はバナナの叩き売り状態ですが、ロシアが長期契約に基づき原油PLで中国に輸出しているESPO原油にも影響が出ています。
ESPO原油は軽質・スウィート原油なので油価水準は北海ブレントと同じですが、中国向けはブレントより約10ドル安くなっています。
ところがあるネット雑誌は「中国は露ウラル原油より約20ドルも高い価格でロシア産原油を輸入し、財政支援している」と報じていました。
ESPO原油は本来ならばウラル原油よりも30ドル以上高い油価ですから、20ドル高いということは実態として買い叩いていることになります。
中国が市場価格より高い原油を対露財政支援のために輸入することはあり得ません。
今年5月25日付け「Record China」は、「石油と天然ガスの輸出はロシアの国家歳入の約4割を占めている」と報じています。
しかし、国家歳入の約4割を占めていたのは「石油・ガス関連税収」であり、石油・ガス輸出関税ではありません。
石油・ガス関連税収の8割以上は地下資源採掘税です。
エピローグ ロシアの国益は?
最後に、ロシア軍によるウクライナ全面侵攻によるロシアの近未来を総括したいと思います。
ただし、現在進行形の国際問題なので、あくまでも6月22日現在の暫定総括である点を明記しておきます。
ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」です。
この戦争は露プーチン大統領が主張するような祖国防衛戦争ではなく、1956年のハンガリー動乱や1968年のプラハの春の延長線上にあると筆者は理解しております。
すなわち、自国の生存圏(Lebensraum)を脅かす存在は、戦車で蹂躙する思考回路です。
繰り返します。ロシア経済は油価依存型経済構造です。
ウクライナ戦争長期化を予測する人は多いのですが、油価低迷により露経済は破綻の道を歩み、財政悪化により戦費が減少・枯渇する結果、年内に戦争の帰趨は見えてくるものと筆者は予測します。
強硬姿勢を崩さない露プーチン大統領ですが、今年中に停戦・終戦交渉を余儀なくされることでしょう。
繰り返します。日系マスコミではよく「ロシア国民は戦争による耐乏生活に慣れている」と話している人がいますが、そのように主張している人は重要な事実を見逃しています。
それは、ナポレオン戦争もドイツのソ連侵攻もロシア側にとり祖国防衛戦争であり、ロシアの祖国防衛戦争で負けたのは侵略軍です。
しかし、今回の戦争はロシアの他国侵略戦争です。
侵略戦争はウラル原油の油価を低下させ、欧米の対露経済制裁措置強化を誘発。欧米メジャーがロシア市場から撤退した結果、ロシアの原油・天然ガス生産量は減少しました。
油価(ウラル原油)下落と原油生産量減少によりロシア経済は弱体化し、財政は破綻寸前です。このまま戦争を継続すればロシア国内は流動化して、中央アジア諸国のロシア離れはますます加速化され、ロシアの対中属国化が進むことになります。
ロシアの対中依存度が上昇しており、対中資源属国化が水面下で進行しています。
中国の習近平国家主席にとっては内心笑いが止まらないことでしょう、熟柿が落ちるのを待っていればよいのですから。
現在の局面におけるロシアの国益、それはロシア軍の即時撤退・停戦以外あり得ないと筆者は確信している次第です。
●プーチン大統領「われわれが直面しているのは裏切りだ」 6/24
ロシアの治安当局は、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が反乱を呼びかけた疑いがあるとして捜査に着手しました。
これについてロシアのプーチン大統領は24日、緊急にテレビ演説を行い「われわれが直面しているのは裏切りだ」と述べ、ロシア軍に断固たる措置をとるよう指示したことを明らかにしました。
ロシアの国営テレビは日本時間の24日午後4時ごろからプーチン大統領の演説を放送しました。
「団結を分裂させる行動 戦友への背信だ」
この中でプーチン大統領は、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が反乱を呼びかけた疑いをめぐり「われわれの団結を分裂させる行動は前線で戦っている戦友への背信であり、わが国と国民に対する裏切りだ」と述べ、強く非難しました。
「内部の裏切りも含め あらゆる脅威から国民と国家を守る」
そして第1次世界大戦のさなか、国内の陰謀や政治的な駆け引きによって当時のロシアが内戦に直面したと指摘した上で「われわれはこのようなことが再び起きることを許さない。内部の裏切りも含め、あらゆる脅威から国民と国家を守る」と強調しました。
「われわれが直面しているのは裏切りだ 処罰避けられない」
その上で「われわれが直面しているのは裏切りだ。行き過ぎた野心と利己主義が反逆を招いた。いかなる内乱も国家に対する致命的な脅威だ。そのような脅威から祖国を守るための行動は厳しいものになるだろう。裏切りの道を歩んだ者や反乱を準備した者、どう喝やテロの手法をとった者にはすべて処罰が避けられない」と述べ、ロシア軍に断固たる措置をとるよう指示したことを明らかにしました。
「犯罪行為に加担しないことを強く求める」
その一方で、ワグネルの戦闘員を念頭に「この犯罪に巻き込まれようとしている人々が致命的で悲劇的な過ちを犯さぬよう、唯一の正しい選択を、つまり犯罪行為に加担しないことを強く求める」と述べ、反乱に加わらないよう呼びかけました。
ロストフめぐり「断固とした措置 しかし依然として困難な状況」
プリゴジン氏が支配下に置いたと主張するロシア軍の軍事施設がある南部ロストフ州の中心都市について「ロストフ・ナ・ドヌーの状況を安定させるために断固とした措置が取られるだろう。しかし、依然として困難な状況が続いている」と述べ、厳しい状況にあるという認識を示しました。
ワグネルの代表プリゴジン氏はSNSに映像を公開し、ロシア南部ロストフ州のロシア軍の南部軍管区司令部に入ったとして現地時間の24日午前7時半、日本時間の24日午後1時半「飛行場を含む軍事施設はわれわれの支配下にある」と主張するなど緊張が高まっています。
プリゴジン氏はウクライナへの軍事侵攻をめぐってロシア国防省との確執を深め、23日にはワグネルの部隊がロシア軍に攻撃されたとSNSで主張し、報復を示唆していました。
これに対し、ロシア治安機関のFSB=連邦保安庁はプリゴジン氏が武装して反乱を呼びかけた疑いがあるとして捜査に着手しています。
プーチン大統領の演説が放送されたあと、ロシア西部のボロネジ州の知事は日本時間の24日午後6時前、SNSで「ボロネジ州の領土での対テロ作戦の一環として、ロシア軍は必要な軍事作戦を行っている」と明らかにしました。
ボロネジ州はプリゴジン氏が支配下に置いたと主張するロシア軍の軍事施設がある南部ロストフ州に隣接していて、ロシア軍と、ボロネジ州に移動したワグネルの部隊との間で何らかの戦闘が始まっているとみられます。
●ロシアでワグネル反乱  南部で交戦、モスクワへ北上か 6/24
ロシアの民間軍事会社ワグネルが同国内での武装蜂起を宣言した。創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は24日、ワグネルの部隊が南西部ロストフ州に入ったと明らかにした。すでにロシア軍と交戦しているもようだ。プーチン大統領は同日の緊急のテレビ演説で「この反乱に参加したものは全員処罰する」と述べた。
ウクライナへの侵攻以降、ロシアでは正規軍とワグネルとの対立が表面化していた。ワグネルによる武装蜂起で、ウクライナでの戦況に影響が出る可能性が出てきた。
ロシア連邦保安局(FSB)は23日に「武装蜂起を呼びかけた」として刑事訴追に向けた捜査を始めたと発表していた。タス通信によると、訴追されれば最大20年の懲役刑を受ける可能性があるという。
プリゴジン氏は24日朝、ワグネルの部隊がロストフ州の州都ロストフナドヌーに入ったと表明。州都にあるロシア軍施設などを制圧したとし、ロストフの市街地に武装したワグネルの戦闘員が展開する動画なども投稿した。プリゴジン氏はロシアのショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長への面会を要求している。
ワグネルはロストフから北上し、南西部のリペツク州に到達した。同州の知事は24日、ワグネルの部隊が州内を移動していると明らかにした。同州とモスクワの距離は約400キロメートルある。
リペツク州に隣接するボロネジ州では、ロシア軍との衝突が起きたようだ。ロイター通信は同州の高速道路で、ロシア軍のヘリコプターがワグネルの部隊を攻撃したと報じた。米紙ニューヨーク・タイムズは同州でワグネルとロシア軍が戦闘している映像を確認したと伝えた。英BBCの報道によると、ロシア軍事筋の話として、ワグネルがボロネジの全ての軍事施設を制圧したとしている。
英国防省はロストフから北上し「ほぼ間違いなくモスクワに向けて進軍している」と分析した。
プリゴジン氏はロシア軍にミサイルなどで攻撃され、ワグネルの多数の戦闘員が死亡したと主張していた。抗議の意思を示す「正義の行進」を始めることで「この悪行に対抗する」と話していた。
これに対し、プーチン氏はテレビ演説で「我々は反逆と裏切りに直面している」とワグネルの対応を批判した。ロシア国防省はワグネルの戦闘員に武装蜂起に参加しないよう呼びかけた。
モスクワの緊張感は高まりつつある。ソビャーニン市長は24日に対テロ作戦態勢を宣言し、26日を休日にすると表明した。今後はモスクワを含め、ロシア各地での本格的な交戦に発展するとの懸念が広がる。
主要7カ国(G7)の外相は24日、ワグネルが武装蜂起を宣言したことを受けて緊急の電話協議をし、情勢認識で意見交換した。
ワグネルはウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトでの戦闘で前線に立って戦い、ロシアの進軍につなげてきた。今後、ワグネルが戦線から完全に離脱すれば、ロシアの一定程度の戦力低下は避けられない。
笹川平和財団主任研究員の畔蒜泰助氏
ロシアの民間軍事会社ワグネル創始者のプリゴジン氏とロシア軍との対立は以前から表面化していた。ワグネルを傘下に収めようとするロシア軍に対し、プリゴジン氏は反発した。今回の行動はプリゴジン氏の軍に対する抵抗といえる。
対立が大きくなった一番の原因はプーチン大統領にある。ロシア軍がワグネルへの圧力を強めることを事実上認める一方で、プリゴジン氏がショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を激しい言葉で非難しても何も行動をとってこなかった。プリゴジン氏が自身の発言がプーチン氏に容認されていると受け取っても不思議ではない。
プリゴジン氏の行動が軍への示威行動なのか、プーチン政権そのものに向けたものなのかは不明だ。ただ少なくともプーチン氏は国家や国民への反逆行為だと捉えた。
ウクライナの軍事作戦を指揮する副司令官で、プリゴジン氏と関係が近いとされるスロビキン氏は「元の場所に戻れ」と呼びかけ、プリゴジン氏から距離を置いた。ロシア軍の幹部の間で対立が起きている雰囲気はない。一方で、末端の兵士の反応は読めない。
プーチン政権は今回の事態をどう収拾するのかは見通せないが、最悪のシナリオはロシア各地に今回のような蜂起が波及することだ。
英国際戦略研究所のナイジェル・ゴールド・デービス上級研究員
ショイグ国防相がワグネルに国防省との契約を命じ、プーチン大統領がこれを支持した。プリゴジン氏は国防省の傘下に入れば権力を失うため、反乱せざるを得なくなった。彼は大きなリスクを負った。政治勢力として壊滅するか、クレムリン(大統領府)に根本的な変化をもたらすか、オール・オア・ナッシングのような状態だ。
もしプーチン氏が権力の座に居続けるならプリゴジン氏は逮捕され、何年も刑務所に入ることになるだろう。プーチン氏を排除する以外、生き残る道はない。
クレムリンの望みは、ワグネルのメンバーがプリゴジン氏を拒否し、正規のロシア軍への従属を受け入れる側に立つよう説得することだ。それでもプリゴジン氏が求心力を保てばロシア軍と衝突し、暴力が行使される可能性が高い。
ロシア軍はワグネルより圧倒的に強く、圧倒的に大きい。治安部隊もいる。ただ、結果は人々の忠誠心がどこにあるか、どちらが団結を維持できるかにかかる。プリゴジン氏はソーシャルメディアの発信に非常に積極的で、支持基盤をつくるために懸命に取り組んできた。
ウクライナの戦況にまだ実質的な影響はないと思うが、ロシア国内の危機がウクライナに有利に働くのは間違いない。ワグネルの兵がロシア軍から離脱したことで、ウクライナ国内のロシア側の兵力は減っている。ロシア人がロシア人と戦っている状況を目の当たりにすると、ロシア軍に疑念と分裂が生まれ、士気が下がる。
●ワグネル、モスクワに進軍せず撤収−プリゴジン氏亡命へ 6/24
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏はモスクワ方面への進軍を停止し、流血の事態を避けたいとして戦闘員らに各拠点に戻るよう命じた。ロシアのプーチン体制にとって過去最大の脅威となった事態はひとまず収束した。
プリゴジン氏は24日遅く、「24時間でモスクワから200キロ圏内まで来た」との音声メッセージをテレグラムに投稿。「今や血が流れかねない時を迎えている。ロシア人の血が流れる可能性があるという事実を自覚し、われわれは部隊を方向転換させている」とした。
どこまで部隊を撤退させるかは示さず、その他の詳細についても語らなかった。プリゴジン氏の部隊が、占拠していたロシア軍南部軍管区司令部のある南西部ロストフ州の州都、ロストフナドヌーから撤退を開始したとタス通信は伝えた。
ロシア大統領府によれば、事態収拾に向けた取引の一環として、プリゴジン氏の隣国ベラルーシへの出国を認め、同氏とワグネル戦闘員に対する反乱罪での刑事訴追手続きを取り下げるとプーチン大統領が自ら保証したという。
ロシアのペスコフ大統領報道官は「これ以上の犠牲を伴わず、緊張のレベルをさらに高めることなく、事態を収拾することができた」とコメントした。
ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介したとロシア政府が主張する合意について、プリゴジン氏側はこれまでのところ確認していない。
同氏のテレグラムへの投稿の少し前、ルカシェンコ氏は、プーチン氏からの要請でプリゴジン氏と交渉を行い、進軍を止めることで合意したと述べていた。
バイデン米大統領は24日、刻々と変化するロシア情勢について、スナク英首相とフランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相と協議し、「ウクライナへの揺るぎない支援」を確認した。ホワイトハウスが声明で明らかにした。
罪に問わないままプリゴジン氏の出国を許すことは、「プーチン大統領のシェフ」の異名を取る男が先導した反乱に同大統領が屈せざるを得なかった印象を与える危険がある。
大統領が24日のテレビ演説で、ワグネルの進軍を「裏切り」と非難した後も、プリゴジン氏の部隊は実質的に制止を受けることなく、モスクワから数時間という距離まで進んだ。
プーチン氏はテレビ演説で「われわれが直面しているのはまさに裏切りだ。過度な野心と個人的な利害が反逆につながった」と指摘。反乱を組織し、準備し、仲間に対して武器を取った者たちは、ロシアを裏切ったのであり、その罪を償うことになると述べ、「このような脅威から祖国を守るためのわれわれの行動は厳しいものになる」と訴えていた。
この演説後にプリゴジン氏は、ワグネルが降伏することはないと断言。ワグネルに対する攻撃はプーチン氏の「深刻な誤り」で、「大統領の要求に応じて投降する者は誰もいない」と主張。ワグネルは政府の求めに応じてウクライナでの戦争に加わった「愛国者」であり、ロシアが「汚職と欺瞞(ぎまん)、官僚主義にまみれた」国であり続けてほしくないと語っていた。
プーチン氏がこの問題で国民向けに演説をしなければならなかったという事実は、ワグネルのモスクワ進軍が政権内部で予想されていなかったほど速かったことの表れだ。プーチン氏はモスクワで身を潜め、状況の展開を逐一報告されていたとみられる。
プリゴジン氏はモスクワへの「正義の行進」を率いると表明し、24日朝にはロシア南部の都市ロストフナドヌーの軍事基地にいるとする動画を投稿していた。
モスクワは厳戒態勢
モスクワの南方約350キロの距離にあるリペツク州では、ワグネルの部隊が移動していることが確認されたとアルタモノフ同州知事がテレグラムで報告し、住民に対して屋内にとどまるよう呼び掛けていた。モスクワから約160キロのカルーガ州では、州内への移動制限を同州知事が発表した。
ロストフとリペツク州の間に位置するボロネジ州では燃料貯蔵施設が爆発し、上空を軍用ヘリコプターが旋回している動画がソーシャルメディアに出回った。同州のグセフ知事は施設が火災に見舞われたことを明らかにしたが、詳細は説明していない。
モスクワ市内とその周辺部、ボロネジ州では、対テロ体制が導入されたと当局者が発表。国営タス通信によると、モスクワでは政府庁舎の周辺などで警備が強化された。同市のソビャニン市長は26日を休日にすると発表し、「複雑な」状況により道路が閉鎖されている可能性があるとして市内周辺の移動を控えるよう市民に呼び掛けた。屋外や教育関連施設の市民参加行事も7月1日まで全て中止された。
「死ぬ覚悟ある」−プリゴジン氏
政治コンサルタント会社Rポリティクの創業者タチアナ・スタノワヤ氏は、プーチン氏にはロシア軍指導部の支持があるものの、下級兵士らの反応は判断しがたいと指摘。「発砲するよう命令を受けた個人の兵士はどう反応するだろうか」と述べた。
プリゴジン氏は同日早くに投稿した動画で、軍の作戦は「通常通り」続けられていると説明。ウクライナでの戦争におけるロシアの「膨大な」犠牲者数を国防トップらがごまかしていると批判し、当局が認めているより「3倍から4倍多い」と述べた。
同氏は別の音声メッセージで、「われわれは皆、死ぬ覚悟ができている」と発言。ワグネルには2万5000人の兵士がおり、さらに2万5000人が加わる準備ができているとし、「われわれは祖国のため、解放されるべきロシア国民のために死ぬ」とも述べていた。
ロシア国防省は、国営テレビを通じた声明で、ワグネルの戦闘員らに対し「プリゴジン氏の犯罪的冒険にだまされている」として「武装反乱」を断念するよう呼び掛けた。
ウクライナのゼレンスキー大統領はツイッターへの投稿で、ロシアは「弱さと政府の愚かさを隠すためにプロパガンダを利用した」と指摘。前日からの出来事はロシアの「全面的な弱さ」の表れだと述べ、「ウクライナはロシアの悪と大混乱の広がりから欧州を守ることができる」と付け加えた。  
G7外相は電話協議
プリゴジン氏とロシア国防省の確執は長年にわたるが、この劇的なエスカレートを米国と欧州は注意深く見守っている。ドイツ政府は予想外の事態であることを認めたと、当局者が明らかにした。23日にも政府高官が、プリゴジン氏はプーチン氏のために行動しているとの見方を示していたと、同当局者が述べた。
主要7カ国(G7)外相はロシアで急展開する事態について電話で協議。米当局者はロシア軍にとってプリゴジン氏が邪魔になっていたことは明らかだとしつつ、同氏に並ぶ効果的な戦いができる者はロシア側にいないと指摘。プリゴジン氏をその地位から引きずり下ろすことができるとしても、犯罪者を含む完全に異質な軍事集団を管理するという難しい仕事にロシア軍は直面するだろうと語った。
プーチン大統領はベラルーシのルカシェンコ大統領に電話し、状況を伝えた。ベラルーシの国営通信社ベルタが報じた。
プーチン大統領はまた、カザフスタンのトカエフ大統領とも電話会談を行い、ロシアの状況について説明した。カザフスタン大統領府が発表したもので、トカエフ氏は「現在の出来事はロシアの内政問題だ」と指摘した。
ロシア大統領府によると、プーチン大統領は24日、トルコのエルドアン大統領とも電話会談。エルドアン氏はワグネルの反乱に対してロシア当局がとる措置を「全面的に支持」すると伝えたという。トルコのアナドル通信は、ロシアが速やかかつ平和的な解決策を見いだせるようトルコは役割を果たす用意があると、エルドアン氏がプーチン氏に述べたと報じた。
イラン外務省報道官はロシアの法の支配をイランは支持するとしつつ、ロシアで進行中の出来事は「内政問題」だとの認識を示した。
ブリンケン米国務長官はロシア情勢を同盟国と協議。米国はロシアについて同盟国やパートナー国と協調する意向だと国務省が発表した。
欧州連合(EU)のミシェル大統領は「明らかにロシア国内の問題」だとした上で、欧州首脳や主要7カ国(G7)のパートナーと連絡を取り合っていると述べた。
英国防省はロシア情勢について、ロシアの治安部隊、特に国家親衛隊の忠誠心が「危機の行方の鍵になる」と分析。「この状態は、最近のロシア国家にとって最も重大な試練だ」とツイッター上で指摘した。
●プーチン、ワグネルを「裏切り」と緊急演説で非難 プリゴジン氏は「死ぬ覚悟」 6/24
ウクライナへの軍事侵攻をめぐり、ロシア国防省を非難する雇い兵組織ワグネルが24日朝にロシア南西部のロシア軍拠点に入り、ロシア軍幹部を倒すと表明したのを受け、ウラジーミル・プーチン大統領は同日午前、緊急テレビ演説を行い、ワグネルの行動は「わが国民を後ろから刺す」「裏切り」だと非難した。これに対し、かねてロシア軍幹部を公然と非難していたワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は、自分たちの行動は「ロシア国民」のためで、自分たちに「死ぬ覚悟」はできているのだと述べた。 その後ワグネルは、モスクワ方面へ北上を続けている様子。
ワグネルの部隊は24日未明、ウクライナから国境を越えてロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌに入った。プリゴジン氏が同市内のロシア軍南部軍管区司令部に入る映像が拡散している。動画の中でプリゴジン氏は、ワグネル部隊がロストフを封鎖し「すべての軍事施設を掌握」したと宣言。セルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ総司令官が会いに来ない限り、このまま首都モスクワへ進軍すると述べている。
BBCは、武装兵がロストフ・ナ・ドヌでロシア軍南部軍管区司令部の庁舎を取り囲む映像や、プリゴジン氏が同司令部に入った映像は、本物だと確認した。
イギリス国防省は、一部のワグネル部隊が「ヴォロネジ州から北へ移動しており、首都モスクワを目指しているのはほぼ確実」との見方を示している。同州の州都ヴォロネジは、ロストフ・ナ・ドヌとモスクワの中間地点にあたる。BBCロシア語の取材に対して消息筋は、ワグネルの部隊がヴォロネジでも軍事施設を制圧したと話した。
ヴォロネジ州の北にあるリペツク州のイーゴリ・アルタモノフ州知事は24日午後、ワグネルが州内で「装備」を移動させていると認めた。
すでにBBCが本物と確認したソーシャルメディア上の動画には、ワグネルの装甲車列がリペツク州内を移動している様子が映っていた。
リペツクからモスクワは約400キロ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日午後、「テレグラム」で初めてロシアでの出来事に反応。プーチン大統領を名指しはしないものの、「悪の道を選ぶ者はだれでも自滅する」として、「ロシアの弱さは歴然としている」と書いた。 さらに、「数十万人を戦争に投げ込んだ」として、間接的にプーチン氏を非難し、ロシアの軍や民兵組織がウクライナに残る限り、「混乱と苦しみと問題が後から自分たちを襲うだけ」だとした。
ウクライナ国防省は23日深夜のツイートで、「We are watching(注視している)」とだけ英語で書いていた。
「国民への裏切り」=プーチン大統領
こうした中でプーチン大統領は「ロシア市民への呼びかけ」と題された緊急演説を行い、全軍に勢力を結集するよう呼びかけた。大統領は、ワグネルによる行動は国民への裏切りだとして、ロストフ・ナ・ドヌで「情勢安定化のため断固たる対応」をとると強調。「内部からの反乱はこの国を脅かす恐ろしい脅威だ。この国と国民を攻撃するものだ。そのような脅威から祖国を守るため、我々は厳しい行動をとる」と述べた。
同時にプーチン氏は、正規のロシア軍と共にウクライナで戦ってきたワグネルの雇い兵たちを「英雄」としてたたえた。
大統領は、プリゴジン氏は名指ししなかったものの、その演説は同氏への直接的な警告と受け止められている。
プーチン氏は演説で、「国が第1次世界大戦のさなかにあった1917年」に言及し、当時は流血の内戦で「ロシア人がロシア人を殺した」ためにロシアの勝利が奪われ、外国が利益を得たのだと主張。
「武装蜂起を計画し、戦場での同胞に武器を向けた者は、ロシアを裏切った。その代償を払うことになる」とした。さらに「この犯罪に引きずり込まれた者」は、「犯罪行為への参加をやめる」よう呼びかけた。
プリゴジン氏の反論とされる音声
プーチン大統領の演説にプリゴジン氏が直接反応したものと思われる音声が、その後「テレグラム」に投稿された。
プリゴジン氏の声に酷似した声は、「母国への裏切りについて、大統領は非常に間違っている」、「我々は母国の愛国者だ。我々は戦ってきたし、今も戦っている」と主張。
「そして誰も、FSB(ロシア連邦保安庁)も、ほかの誰も、大統領が要求したように、我々に罪があると認めたりはしない」、「なぜなら我々は自分たちの国がこれ以上、汚職とうそと官僚主義の中で生きてほしくないからだ」と続けた。
この後、プリゴジン氏は「テレグラム」に、ロシア軍が進軍するワグネルの車列を攻撃していると書いた。「まず砲撃、そしてヘリから空爆された」と、プリゴジン氏は具体的な場所や証拠を示さずに書いている。
「2万5000人全員が死ぬ覚悟」=プリゴジン氏
プリゴジン氏はこれに先立ち、メッセージアプリ「テレグラム」に、「自分たちは全員、死ぬ覚悟だ。2万5000人が全員。そしてその後にはさらに2万5000人が」と述べる音声を投稿した。同氏はさらに、プーチン大統領の演説とは裏腹に、自分たちの行動は「ロシア国民のため」なのだと述べた。
ロシア第二の都市でプーチン氏の地元でもある西部のサンクトペテルブルクでは、市内のワグネル事務所を警察や国家親衛隊が強襲したという地元情報もある。プリゴジン氏が関係するホテルやレストランの近くでは、「覆面をかぶり自動小銃を持った」人物たちが配備されたと、現地メディアは伝えている。
イギリス国防省は同日、「ロストフ・ナ・ドヌで、ワグネルはほぼ確実に、主要な防衛拠点を占拠した。その中には、ウクライナにおけるロシアの軍事作戦を統括する司令本部も含まれる」と状況分析を公表した。
イギリス国防省はさらに、一部のワグネル部隊が「ヴォロネジ州から北へ移動しており、首都モスクワを目指しているのはほぼ確実」との見方を示し、「ワグネルとロシア治安部隊の戦闘はきわめて限定的で、おそらくその一部はワグネルを受け入れる格好で受け身のままだと思われる」と書いた。
その上で、「これからの数時間において、ロシアの治安部隊、とりわけ国家親衛隊の忠誠が、この危機の展開を決定するカギとなる。この事態は、最近のロシア国家に対する最も重大な挑戦」だとの見方を示した。
ワグネル、ロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌへ
ロストフ州の北にあるリペツク州のイーゴリ・アルタモノフ州知事は24日朝、リペツク州とヴォロネジ州の境でロシア連邦道路M4を封鎖したと明らかにした。M4は、ロストフ・ナ・ドヌとモスクワを結ぶ高速道路。アルタモノフ知事はこれに先立ち、ロシア軍の車列が高速道路上にいると話していた。
プリゴジン氏は24日未明、ワグネルの部隊がそれまで戦っていたウクライナ東部から国境を越えてロシアに入ったと主張。同氏はさらに、ワグネルが「民間車列」を攻撃したロシア軍ヘリを撃墜したと述べた。
その数時間後に、ワグネルと思われる部隊がロストフ・ナ・ドヌに入り、政府庁舎を包囲する映像がオンラインで拡散された。
これに先立ちロシア軍はロストフ・ナ・ドヌに、軍用車両を配備した。またモスクワの市内の警備も強化されている。ロシアメディアによると、「要塞(ようさい)作戦」と呼ばれる即応警備態勢がロストフ・ナ・ドンとモスクワで開始された。
ウラジーミル・プーチン大統領の報道官によると、大統領は情勢について報告を受け、必要な対応をとっているという。
「パニックはなく平常通り」と市民
ウクライナ東部に隣接するロストフ州のヴァシリー・ゴルベフ州知事は「テレグラム」で、住民に外出を控えるよう呼びかけた。
「現状では全当局が秩序維持に集中しなくてはならない」として、「地域住民の安全確保のため、捜査当局は全力を尽くしている。みな落ち着いて、不要不急の外出を控えるようお願いする」と、州知事は書いた。知事はさらにその後、ロストフの中心部を避けるよう求めた。
ロストフ・ナ・ドヌの住民はBBCロシア語に対して、街の中心部が兵士に包囲されて立ち入り禁止になっていると話した。
「(兵士に)何者なのかと尋ねると、『自分たちは善人だ』という答えだけが返ってきた」という。
「市内の状況は落ち着いていて、パニックなどなく、何もかも平常通りだ」とこの住民は話した。
ロシアの国営テレビは、通常の番組を中断。「緊急ニュース速報」として、それまでの政府の公式見解を繰り返し、プリゴジン氏が明らかにしたロシアによるミサイル攻撃の映像は偽物、ロシア軍はワグネルを攻撃などしていないと主張した。
「緊急速報」はさらに、プリゴジン氏が「武装蜂起」を呼びかけ、ロシア国内で内戦を開始しようとしたとして、ロシア連邦保安庁(FSB)が刑事捜査に着手したと報道。FSBはワグネル兵に、プリゴジン氏の命令に従わず、拘束に協力するよう呼び掛けているという。
ロシアのインタファクス通信によると、クレムリン(ロシア大統領府)は「必要な措置を講じている」と述べていた。
AFP通信によると、プーチン大統領の政敵で亡命中のミハイル・ホドルコフスキー氏は、プリゴジン氏を支持するようロシア国民に呼びかけた。
ホドルコフスキー氏は、「私たちは今こそ助ける必要がある。必要とあれば、この戦いにも参加する」と述べた。また、プリゴジン氏がロシア政府を打倒すると決めたなら、彼がたとえ「悪魔でも」支持することが重要だと発言。「そして、それは始まったばかりだ」と語った。
ホドルコフスキー氏はかつて、ロシアでも最も裕福な富豪(オリガルヒ)だったが、プーチン氏と断絶後、10年にわたり服役。現在は亡命し、プーチン氏への厳しい制裁を呼びかけている。
「軍事クーデターではない」とプリゴジン氏
プリゴジン氏は23日夜、ロシア軍がワグネル宿営地を攻撃し、「大人数」のワグネル兵が死亡したと、音声を「テレグラム」に投稿していた。
プリゴジン氏は証拠を提示しないまま、「我々の仲間と、(ウクライナでの戦争で)何万人ものロシア兵の命を奪った連中に、罰を与える」と主張。
「抵抗しないようお願いする。抵抗する者は誰だろうと脅威とみなし、破壊する。我々の前に立ちはだかるすべての検問所や航空も同様だ」
「大統領権限、政府、警察、ロシア国家親衛隊も、通常通りに機能する」
「これは軍事クーデターではなく、正義の行進だ。我々の行動は(ロシア軍の)部隊をいっさい妨げない」とも、プリゴジン氏は主張した。
ウクライナ侵攻におけるロシア軍の副司令官、セルゲイ・スロヴィキン将軍は、プリゴジン氏に対して「車列を止めて基地に戻る」よう呼びかけた。プリゴジン氏は過去にスロヴィキン将軍を称賛していた。
「我々には同じ血が流れる。我々は戦士だ」とスロヴィキン将軍はビデオで述べ、「我が国が大変な思いをしているこの時に、敵の有利になるようなまねをしてはならない」と呼びかけた。
ロシア国防省は声明で、ロシアがワグネルを攻撃したと「プリゴジンがソーシャルメディアで広めている」話はいずれも「事実ではなく、情報による挑発だ」と述べた。
プリゴジン氏は今年5月に、ワグネル兵の遺体が多数横たわる中を歩く自らの動画をソーシャルメディアに投稿し、ロシア国防省を激しく非難。「数万人」がバフムートで死傷したとして、「ショイグ! ゲラシモフ! 弾薬はどこだ! この連中は志願兵として来てお前たちのために死んでいった。お前らが豪華なマホガニーのオフィスでぶくぶく太っていけるように」など、激しい表現を交えながらショイグ国防相とゲラシモフ総司令官を罵倒していた。
23日には、ウクライナでの戦争は「ショイグが元帥になれるよう」開始されたのだと非難。「国防省は国民をだまし、大統領をだまし、いかれたウクライナが我々を攻撃しようとして、NATO(北大西洋条約機構)と一緒になって我々を攻撃しようとしているだとか、そんなでたらめをまきちらしていた」のだと攻撃していた。
「たとえクーデターが失敗しても」=米専門家
かつて米国防次官補代理で中央情報局(CIA)捜査員だったミック・マルロイ氏はBBCに対して、プリゴジン氏はプーチン大統領にとって深刻な課題を突き付けていると指摘した。
「ロシアのウクライナ侵攻は戦略的に壊滅的で、それをなんとかしようとするのにロシアが私兵組織に頼らなくてはならなかったということ自体、相当なこと。しかし今やプリゴジン氏は、そもそもロシアへの挑発など何もなく、ロシア国民は最初からうそをつかれていたのだと公然と認めている。これはかなりのことだ」と、マルロイ氏は話した。
ワグネルが今後仮にプーチン政権を脅かすようなことになれば、「ロシアは自己保存に向けて軍事力を再編成し、ウクライナの反転攻勢に対する防戦から手を引かなくてはならなくなるかもしれない」とも、マルロイ氏は述べた。
「たとえこのクーデター未遂が失敗したとしても、(ウクライナでの)戦争に最も近い人たちが、戦争はとんでもない間違いだったと承知していることを、強烈に強調している」
●「ワグネル」プリゴジン氏「大統領は深く間違っている」とプーチン氏に反論 6/24
ロシアのプーチン大統領が、民間軍事会社ワグネルが「裏切った」と述べたことに対し、ワグネルの創設者プリゴジン氏は、「大統領は間違っている」、「投降するつもりはない」と反論しました。
プーチン大統領は24日、国営テレビを通じて演説し、「反乱を起こしたものはロシアを裏切った。その責任を負う」「われわれの行動は厳しいものになる」と述べて、プリゴジン氏を非難しました。
これに対し、プリゴジン氏はさきほどSNSに新たな音声メッセージを投稿し、「祖国への裏切りとする大統領は深く間違っている。われわれは愛国者だ」「これまでも戦い、これからも戦い続ける」「大統領の呼びかけに応じて、投降するつもりはない」とプーチン氏に反論しました。そのうえで、「腐敗や欺瞞、官僚主義のもとで、国が存在し続けるべきではない」と主張しています。
首都モスクワから南におよそ500キロに位置する、ボロネジ州の知事は24日、「ロシア軍が州内で対テロ作戦の一環として、緊急の戦闘措置を取ってる」とSNSで発表しました。民間軍事会社「ワグネル」の部隊との間で戦闘が行われているものとみられます。
インターネット上には、現地で火災などが起きているとする複数の動画が投稿されていて、ネットメディアは“石油貯蔵施設が燃えている”と報じています。
●ワグネル反乱巡りトルコ、「常識ある行動」を イランなどはプーチン政権支持 6/24
トルコのエルドアン大統領は24日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、同国で起きた民間軍事会社ワグネルによる反乱を巡り「常識ある行動」が必要だと述べた。
トルコ大統領府が声明で明らかにした。
声明は、誰に「常識ある行動」を求めたかについては触れていない。プーチン氏に自制的な対応を求めた可能性もあるが、同氏との友好関係を背景に、国際社会に対して過剰反応しないようけん制したとも考えられる。
クレムリン(ロシア大統領府)は、両首脳の電話会談で「ロシア指導部に対するトルコの全面的な支持表明があった」と発表した。
一方、イラン国営メディアによると、ロシアにドローンなどの武器を供給してきたイラン政府は、反乱が「内政問題」だと指摘。ロシアの「法の支配」を支持すると述べた。
ロシアの同盟国ベラルーシの国家安全保障会議も、同盟関係継続を強調。声明で、ロシア内部の対立は西側諸国を利するだけだと主張した。 
●プーチンに反旗を掲げたプリゴジン、ロシア南部の軍司令部占拠か 6/24
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は24日、ソーシャルメディアに投稿した動画で、ワグネル部隊がロシア南部ロストフナドヌーを占拠したと表明した。ロシアのショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長に面会に来るよう要求した。
動画はプリゴジン氏の広報担当者が投稿したもので、同氏は自らの現在地についてロストフにあるロシア軍南部軍管区司令部だと説明した。また、市内の軍関連施設は全てワグネルの支配下にあると述べた。
プリゴジン氏は通話アプリ「テレグラム」に投稿した別の動画で、「われわれはここにやって来た。軍参総長とショイグをここに迎えたい。来なければ、われわれはここに居座り、ロストフを封鎖してモスクワに向かう」と述べた。
この動画では、プリゴジン氏に行動を思いとどまるよう呼びかけるビデオを公表していたロシア軍のウラジーミル・アレクセーエフ中将がプリゴジン氏と一緒に映っていた。
一方、ロシアの治安当局筋は24日、ロイターに対し、ワグネル部隊がロシア南西部ボロネジの全てのロ関連施設を支配下に置いたと述べた。ボロネジはモスクワの南約500キロの位置にある。
ロイター記者は、ボロネジを北上していた兵員輸送車と少なくとも1両の戦車を載せたトラックに向け軍用ヘリコプターが攻撃するのを目撃した。
一方、モスクワ市内では警備が強化され、赤の広場には金属製のバリケードが張られた。
プリゴジン氏は23日、ロシア軍上層部がワグネルの戦闘員を爆撃で大量に殺害したと根拠を明らかにせずに主張し、報復すると表明。24日には、ワグネル部隊がウクライナから国境を越え、ロストフに入ったと明らかにしていた。また、自らの行動は軍事クーデターではないと主張しつつ、モスクワにある国防省の指導部を追放するため、2万5000人強の部隊が移動していることを示唆していた。
プーチン大統領は24日、緊急のテレビ演説を行い、ワグネル部隊の「武装蜂起」を鎮圧する方針を説明。これに対し、プリゴジン氏は投降する考えはないと表明した。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアの弱さは明白だ」などとソーシャルメディアに投稿した。
●プーチン大統領【演説全文】「裏切りだ」プリゴジン氏が反乱か 6/24
ロシアの治安当局は、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が反乱を呼びかけた疑いがあるとして捜査に着手しました。
これについてロシアのプーチン大統領は24日、緊急にテレビ演説を行いました。全文を掲載します。
ロシアは今、未来のために厳しい戦いを進めている
ロシアの市民、軍・法執行機関・特務機関の職員、そしてみずからの陣地で戦い、敵の攻撃を撃退している兵士や指揮官に呼びかける。
私は昨夜再び、各方面の指揮官たちと話し、諸君の英雄的な行為を知った。
そして、欺まんや脅迫によって犯罪的な冒険に誘い込まれ、武装した反乱という重大な犯罪の道へと突き進んでいる人々にも呼びかけたい。
ロシアは今、未来のために厳しい戦いを進めている。
ネオナチとその主たちの侵略を退けている。
西側諸国の軍事・経済・情報機関は、事実上すべてわれわれに敵対している。
われわれは、国民の生命と安全のため、主権と独立のために戦っている。
ロシアが1000年の歴史を有する国家であり続ける権利のために戦っているのだ。
国民の運命が決定されるこの戦いには、あらゆる勢力の団結、統合、結集そして責任が要求される。
われわれが直面しているのは裏切りだ
このようなときに、われわれを弱体化させるあらゆるもの、外敵がわれわれを内部から弱体化させるために利用するあらゆる種類の不和は、脇に置かれなければならない。
われわれの団結を分裂させる行動は、前線で戦っている戦友への背信であり、わが国と国民に対する裏切りだ。
まさにこれと同じ裏切りを、ロシアは1917年、第1次世界大戦のさなかに受けた。
勝利は奪われた。
軍と人民の背後での陰謀、もめ事、政治的な駆け引きは、極めて大きな混乱を引き起こし、軍の破壊、国家の崩壊、甚大な領土の喪失をもたらした。
その結果が、内戦という悲劇だ。
ロシア人どうし、兄弟どうしで殺し合い、あらゆる政治的野心家や外国の勢力が便乗し、国を引き裂き、バラバラにした。
われわれはこのようなことが再び起きることを許さない。
内部の裏切りも含め、あらゆる脅威から国民と国家を守る。
われわれが直面しているのは裏切りだ。
行き過ぎた野心と利己主義が反逆を招いた。
国家や国民への裏切り、そしてほかの部隊とともに「ワグネル」の戦士や指揮官が戦い、死んでいった大義への裏切りにほかならない。
ソレダールやバフムト、それにドンバスの都市や町を解放した英雄たちは「ノボロシア(新しいロシア)」のため、「ロシア世界」の統一のために戦い、命をささげた。
反乱を企てる者たちは、英雄たちの名声と栄光を裏切り、国家を無政府状態と兄弟殺しに向かわせる。
そして最終的には、敗北と降伏に向かわせようとしている。
繰り返すが、いかなる内乱も国家に対する致命的な脅威だ。
それはロシアへの、またわが国民への攻撃である。
そのような脅威から祖国を守るための行動は厳しいものになるだろう。
意図的に裏切りの道を選んだ者、武装反乱を準備した者、恐喝やテロリズムといった手段の道を歩み始めた者は、必ず処罰され、法と国民の両方に責任を問われる。
軍やその他の政府機関は必要な命令を受け、モスクワ市、モスクワ州をはじめ、多くの地域で、追加のテロ対策が導入されている。
ロストフ・ナ・ドヌーの状況を安定させるために、断固とした措置が取られるだろう。
唯一の正しい選択を強く求める
しかし依然として困難な状況が続き、事実上、行政当局・軍事当局の活動は妨げられている。
私はロシアの大統領として、最高司令官として、いちロシア国民として、国を防衛するため、そして立憲体制、国民の生命、安全、自由を守るため、あらゆる手段を尽くすつもりだ。
武装した反乱を組織した者、戦友に対して武器を向けた者は、まさにロシアを裏切った。
その責任を問われるだろう。
この犯罪に巻き込まれようとしている人々が、致命的で悲劇的な過ちを犯さぬよう、唯一の正しい選択を強く求める。
つまり犯罪行為に加担することをやめるということだ。
私は信じている。
われわれが、尊く神聖なものを大切にし、守り抜くことを。
そして祖国とともに、どんな試練も乗り越え、より強くなることを信じている。
●日本は「アメリカの属国」に過ぎない…プーチンのロシアが日本を見下す理由 6/24
ロシアは日本をどのように見ているのか。元外交官の亀山陽司さんは「日本はアメリカを中心的パワーとした秩序に取り込まれている。それゆえに、ロシアから見れば日本は自らの秩序には属さない異質の国家であり、可能であればいずれロシアの衛星国にしたいと考えている」という――。
プーチンのロシアは世界をどのように見ているのか
権力的秩序は一元的ではない。つまり、アメリカだけが秩序を構成できるパワーを有しているわけではない。アメリカは巨大なパワーを有するが、それでもそのパワーは全世界に自らを中心とする一つのシステムを構築するには十分ではない。
プーチンのロシアは影響力を増しているし、中国もアメリカに対抗するほどの国力を蓄えつつある。ロシアや中国もそれぞれが秩序構成的パワーであると言ってよいだろう。欧州でもドイツやイギリスの力と影響力を無視できない。中東におけるアメリカの影響力は限定的である。
それゆえに、アメリカはEU諸国や日本と価値観を共有することで、共通の権力的秩序を構築しようとしている。スピノザが自然権を与えるものと考えた多数者の「共同の意志」という概念を用いれば、アメリカやEUが考えているのは、共通の価値観を「共同の意志」として一つの国際秩序を構築することである。これは欧米型の権力的秩序ということができる。
しかし、共通の価値観を「共同の意志」とするこの欧米型の権力的秩序は、実際にはアメリカの圧倒的パワーに依拠したものだ。
日本は「自立した主権国家」なのか
そして、日本もアメリカのパワーの影響下に置かれている。
つまり、権力的秩序のイメージとは、中心的パワーの重力圏に捕らわれた衛星国から構成される「系」である。このアナロジーでいけば、アメリカはさながら、70以上の衛星を従える太陽系最大の惑星である“木星”と言えるだろう。しかし、世界には唯一の権力の根源となり得る至高の支配者としての“太陽”は存在しない。
このような権力的秩序において、衛星国は完全な主権国家とは呼べない。スピノザは言う。他人の力の下にある間は他人の権利の下にあり、反対に自己への加害を自己の考えに従って復讐し得る限りにおいて、また、自己の意向に従って生活し得る限りにおいて、自己の権利の下にある。
また国家についても同様で、国家は他の国家からの圧迫に対して自己を守り得る限りにおいて自己の権利の下にあり、他国の力を恐れ、他国の援助なしに自国を維持できないのであれば、それは他国の権利の下にある。
アメリカの軍事力に守られる日本
アメリカの権力(そして軍事力)の下に置かれた日本は、スピノザに従えば、アメリカの権利(権限)の下にある。一方で、欧米諸国からの経済制裁を受けながら自己の考えに従って行動しているように見えるロシアは、自己の権利の下にある。
このように、自国の権利の下にあることを“自立した主権国家”だと言えるとすれば、他国の権利の下にあることは“衛星国家”だと言える。
「主権国家」とそれを取り巻くいくつかの「衛星国家」によって構成される権力的秩序は、一種の疑似的な社会契約によって成り立っている。社会契約とは、本来は個人と国家との関係を理解するための議論である。各人が有する自然権を唯一の主権者(国家)に委任することで、その代わりに主権者である国家は国民を保護する義務を負うというものである。
これを国家間の関係に応用するとどうなるだろうか。主権国家と衛星国の間の社会契約は、本来は衛星国も有しているとみなされる主権(特に敵を特定する権利)を、秩序構成的パワーである真の主権国家(通常は地域大国)に委ねる(通常は秩序構成的パワーである大国と同盟関係を結ぶ)という形をとる。
つまり国家間の社会契約とは、主として軍事的な同盟条約なのである。
プーチンが重視する「大国政治」という視点
本質的にアナーキーな国際政治の世界では、法的秩序よりも権力的秩序の方が根源的である。先に、全般的な相互不信に基づく同盟体制と相互の信頼に基づく信頼体制という二つの国際秩序のタイプについて考察したが、三つ目のタイプとして、いくつかの大国が国際政治を主導するというタイプの国際秩序がある。このタイプの国際秩序は「大国政治」といわれる。
法的秩序が通用する世界は、唯一の世界秩序が存在しない以上は相互の信頼に基づく国際体制だが、信頼体制は権力的秩序の内側でしか通用しないことが多い。
例えば、パクス・ロマーナ、すなわち「ローマの平和」と言われるように、ローマの圧倒的パワーを中心に構成された秩序は、ローマとその属州からなる帝国的な秩序であり、まさに権力的秩序である。そしてこの秩序の中では、一つの帝国として法に基づいて統治されていた。
しかしローマの衰亡に伴い、その秩序は崩壊していく。これは法的秩序が権力的秩序によって維持されていたことの、一つの証しである。ローマ帝国のような「帝国」とは、国家の形態としては、権力的秩序に基づく複数の国家の集団としての超国家である。つまり帝国とは、秩序構成的パワーとその属国により構成された小世界と言える。
参加資格があるのは真の主権国家だけ
国家としての帝国でなくとも、現実の国際政治の場における国際秩序は権力的秩序が基礎にあり、多くの場合、大国とその衛星国からなる国家の集団(複数)から構成される。これが大国政治という国際秩序の形態である。この秩序の下では、大国と呼ばれる国家だけが真の主権国家であり、これら大国同士が国際政治を行う。
その他の小国は、名目的な主権国家ではあるかもしれないが、実質的にはいずれかの大国の庇護のもとにある衛星国であり、国際政治の場での発言力は持たないか、持っていても大国と比べて非常に小さい。こうした世界では、いくつかの緩やかな「帝国」による秩序が競合している状態と言ってよいだろう。
自由民主主義の眼鏡を通して見た世界は、国連総会に代表されるような一国一票の民主的世界かもしれない。しかし、その眼鏡を外してみれば、世界は大国とその衛星国、及びその他の小国からなる大国政治の世界なのだ。
実際には、その国連にしてからが、安全保障理事会常任理事国である五大国に特権的立場を与えた大国政治の支配する場である。アメリカの国際政治学者ハンス・モーゲンソーは、「国連は大国の国際統治である」と断じている。
敗戦国の日本を「対等な相手」と見なしていない
アメリカを中心的パワーとした秩序、ロシアを中心的パワーとした秩序、そして中国を中心的パワーとした秩序(現時点ではあまり範囲が明確でないが)があり、イギリスとフランスが十分大きなパワーとしてアメリカとともに欧米的秩序を構成している。
国連はこれらの秩序に支えられた国際組織であり、その他多くの中小国をどの秩序に取り込むかを争う政治の場なのである。
日本はもちろん、アメリカを中心的パワーとした秩序に取り込まれている。それゆえに、ロシアから見れば日本は自らの秩序には属さない異質の国家であり、可能であればいずれロシアの衛星国にしたいと考えている。
ここで注意してもらいたいのは、ロシアは日本と対等な友好関係を結びたいと考えているのではないということだ。日本は、真の主権国家ではない以上、ロシアと対等ではあり得ない。これがロシアの見る現在の(戦後の)日本の姿である。
プーチン大統領は、2020年に発表した論文「第二次世界大戦75周年の本当の教訓」により、世界に対して自らの構想する世界秩序についての考えを示している。
それによれば、国連安保理常任理事国である五大国が互いの立場を調整するメカニズムが国連であり、こうした国連を中心とする国際秩序を維持することこそが戦勝国の責務だというのである。
日本はもちろん国連安保理常任理事国ではない。ロシアからすれば、日本には五大国による国際統治に対等な主権国家として参画する資格はないのだ。
ロシアは「ソ連帝国の復活」を目指しているのか
では、ロシアは自らが中心的パワーとなる「帝国」となることを志向しているのか。
プーチン大統領は、ソ連の崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼んだことがあり、それをもって、ロシアはソ連帝国の復活を目指しているのだと言われることがある。ウクライナ侵攻も帝国の復活を求めるロシアの野望の現れだ、と言われた。
しかし、権力的秩序がすべて帝国的秩序となるとは限らない。権力的秩序はすでに述べたように、主権国家としての大国とその衛星国との間の社会契約的な関係からなる秩序である。
つまり、大国と衛星国の間にはれっきとした国境線が引かれており、その秩序は軍事・外交面での依存関係を基礎としている。つまり、国内法への干渉は不可欠の要素ではない。
ただし、政治思想が一致していなければ権力的秩序自体が機能しないため、実際には国内の政治体制も類似することが求められることがある。
冷戦時代における東側陣営は基本的に社会主義体制であることが、時に強制的に求められた。現代世界における欧米の権力的秩序においては、自由民主主義が共通の政治思想、基本的な価値として求められる。
アフガニスタンやイラクのような国でも戦後は自由民主主義の政治体制が立てられた。ただし自由・民主主義体制は、アフガニスタンでは失敗し、2021年にはタリバンが復活し、イラクでも成功しているとは言いがたい状況である。
プーチンが作ろうとしている「ロシア」の姿
帝国とは、権力的秩序に参加している国々を一つの国家として包摂したものである。したがって、帝国は必然的に多民族国家となり、民族の違いを超越した普遍的な価値観や思想が不可欠である。ソ連はまさに民族的対立は解消されたという建前の下で打ち立てられた国家である。
しかし、現代ロシアはむしろロシア性を中心に置いた国家観を打ち出している。ロシア語やロシア文化を重視し、他国に居住するロシア語話者を「我々の人々」と呼んで保護する義務を引き受けているのだ。ドンバスのロシア語話者を中心とした分離派勢力を支援したことは、そうした思想の顕著な現れである。
つまり、ロシアは多民族国家であるが、ロシアの中心的民族はロシア民族、中心的文化はロシア文化であると考えている。そして、ロシア性をこそ国家の統合原理としている。
それは普遍を追求したソ連的な国家原理が失敗したことを反面教師に、プーチン政権が自覚的に作り上げた新たな国家原理に他ならない。それは、ロシア民族を中心的民族とした国民国家(national state, nation-state)としてのロシアの建国である。プーチンのロシアは、普遍性の上に建てられた帝国よりも、伝統的アイデンティティの上に建てられた国民国家の方が望ましいと考えている。
そしてこれまでのところ、その政策は成功しているように思われる。プーチンのロシアは、20年あまりの間に安定と繁栄を確立し、軍事的にも復活したからである。
●ロシア軍とワグネルが交戦 南部ボロネジ州で NYタイムズ報道 6/24
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏は23日から24日にかけ、ウクライナ侵攻に参加するワグネル部隊をロシア軍が攻撃したと訴え、戦闘員と共に南部ロストフナドヌーにあるロシア軍の南部軍管区司令部に入った。ワグネルは隣接するボロネジ州に移動したとみられ、米紙ニューヨーク・タイムズは軍と衝突したと報じた。英BBC放送は、ワグネルが同州州都ボロネジの全ての軍施設を制圧したと伝えた。
ロシアのプーチン大統領は24日、緊急にテレビ演説し「武装反乱だ」と非難し「裏切りと反逆に直面した」と強調。軍に対して武器を取った者は罰せられると警告した。一方、プリゴジン氏は通信アプリで投降を否定した。
ボロネジ州のグセフ知事は24日、ロシア軍が州内で対テロ作戦を実施していると明らかにした。
ワグネルはウクライナ東部で戦果を出す一方、プリゴジン氏は国防省最高幹部を激しく非難し、対立していた。7月1日までに全ての戦闘員に対して軍との契約を求める命令も拒否した。

 

●プーチン大統領、軍事蜂起のプリゴジン氏を反乱罪に問わず 6/25
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が武装蜂起した問題を巡り、プーチン大統領は24日、ワグネル創設者のプリゴジン氏を反乱罪に問わない決定を下した。ペスコフ大統領報道官が国営メディアで明らかにした。プリゴジン氏がモスクワへの進軍停止と事態の沈静化に同意したため。
プーチン氏は24日午前のテレビ演説で、南部ロストフ州の軍施設などを占拠したワグネルの行動について「裏切りだ」と糾弾し、プリゴジン氏ら指導部を処罰する考えを示していた。
この方針をわずか半日で転換したことに関し、ペスコフ氏は「流血と内紛、先の見通せない衝突を避けることがより重要な目的だった」と指摘。そのためにベラルーシのルカシェンコ大統領がワグネルとの交渉に乗り出し、プーチン氏も「適切な決断を下した」と意義を強調した。一度は「反乱」だと非難したプリゴジン氏について、ベラルーシに出国できるようにプーチン氏が身の安全を保証したとも説明している。一連の交渉を巡っては、プーチン氏とルカシェンコ氏も電話で協議したという。
ペスコフ氏によると、モスクワを目指して進軍していたワグネルの部隊を拠点に戻すことで合意した。更に蜂起に参加しなかったワグネルの雇い兵に関しては、ロシア軍と契約を交わせることを約束したという。政府がワグネルの懐柔策にも乗り出した格好だ。
●米政権、ワグネル制裁延期か 背景に「プーチン氏利する」 6/25
米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は24日、バイデン米政権がロシアで武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルに対して予定していた制裁を延期する方向だと報じた。制裁でワグネルの弱体化を図ればプーチン政権を利することになるとの懸念が背景にある。
ワグネルの資金源となっているアフリカでの金ビジネス関連の制裁を27日に発表する予定だったという。バイデン政権は1月、ロシアのウクライナ侵攻に加担したワグネルを「国際犯罪組織」に指定。5月には西アフリカ・マリを足場に武器調達を企てたとして幹部を制裁対象とした。
●プーチン氏、ルカシェンコ氏に電話で謝意 ワグネル進軍停止の仲介で 6/25
ロシアのプーチン大統領は24日夜、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏が首都モスクワへの進軍を停止したことを受け、仲介に当たった同盟国ベラルーシのルカシェンコ大統領との電話協議で謝意を伝えた。タス通信がベラルーシ大統領報道官の話として報じた。
プリゴジン氏は当初、モスクワに進軍すると表明していた。だが、ルカシェンコ氏との協議で、進軍の停止に同意した。今後はベラルーシに滞在する見通し。ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ルカシェンコ氏が仲介に当たった理由について、プリゴジン氏と「20年来の知人だから」と述べた。
ルカシェンコ氏はプリゴジン氏との協議後、詳細をプーチン氏に電話で報告した。その際にプーチン氏は「(ルカシェンコ氏が)成し遂げた仕事に感謝する」と伝えた。プーチン政権は、プリゴジン氏を刑事訴追しない方針。
●ベラルーシ “ルカシェンコ大統領が仲介し事態の打開図った” 6/25
ロシアと同盟関係にあるベラルーシの大統領府は、ルカシェンコ大統領がロシアの民間軍事会社の代表プリゴジン氏と協議を行ったと日本時間の25日午前2時頃、SNSで明らかにしました。
この中でルカシェンコ大統領は、さきに行ったプーチン大統領との電話会談をうけて、プリゴジン氏と1日中協議したとして「ロシアの領土で流血の事態になることは許されないということで合意した」としています。
その上で「プリゴジン氏は、ロシア領内でのワグネルの戦闘員の移動を止め、緊張緩和のためのさらなる措置を講じるというルカシェンコ大統領の申し出を受け入れた」としています。
また、ベラルーシの大統領府は「ワグネルの戦闘員の安全が保証され、状況を解決するための有益で、受け入れ可能な選択肢が検討されている」としていて、ルカシェンコ大統領がプリゴジン氏に対してさまざまな条件を提示するなど仲介し事態の打開を図ったと強調しています。
ベラルーシ大統領府“プーチン大統領から謝意”
ベラルーシの大統領府は、24日の午後9時、日本時間の25日午前3時にルカシェンコ大統領とプーチン大統領が再び電話で会談したと明らかにしました。
このなかでルカシェンコ大統領は民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏との協議の結果について話したということでプーチン大統領からはこれを支持し、謝意が伝えられたとしています。
●プリゴジン氏がベラルーシに出国へ、「反乱」収拾か…衝突回避 6/25
タス通信によると、ロシアの大統領報道官は24日、露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏に対する武装反乱を扇動した容疑での捜査が中止される見通しを明らかにした。プリゴジン氏はベラルーシに出国するとも述べた。ロシアの同盟国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が仲介役を務めたという。
報道官の発言に先立ちプリゴジン氏は自身のSNSで、ワグネルの戦闘員に対し、モスクワへの進軍を停止するよう命じたと明らかにしていた。
ワグネルの部隊は24日、南部ロストフ州の州都ロストフ・ナ・ドヌーの軍事施設を掌握し、モスクワに向け前進していた。プリゴジン氏による反乱は収拾する見通しになった。
プーチン大統領は24日、国民向けのテレビ演説で、武装蜂起の開始を宣言したプリゴジン氏を「裏切り」と非難し、厳しく処罰すると宣言していた。プーチン氏がモスクワでの本格的な武力衝突を避けるためプリゴジン氏に譲歩した可能性がある。
露軍側はワグネルとの戦闘でヘリコプターなどを撃墜され死者も出ているとみられており、プーチン氏の対応に一部で不満が噴出している。ロストフ州のメディアによるとワグネルの部隊はロストフ・ナ・ドヌーから撤退準備を進めているという。
●「ワグネル」プリゴジンはなぜロシア国内で武装蜂起を決意したのか? 背景 6/25
6月23日、SNSで武装蜂起を宣言したロシアの民間軍事会社「ワグネル」創始者のエフゲニー・プリゴジン氏(62)。「軍幹部の悪事を止めなければならない」とプーチン大統領の方針などを激しく批判し、首都モスクワの直前まで進軍していた。ところが24日になり事態は一転。ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁もあり、プリゴジン氏はワグネルの部隊を拠点に戻すことに合意した。プーチン大統領もプリゴジン氏を反乱罪に問わない決定を下した。
“盟友”関係にあったプリゴジン氏とプーチン大統領の間になぜ亀裂が走ったのか。
4月14日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創始者、エフゲニー・プリゴジンが、「プーチン政権はウクライナへの特別軍事作戦の終結を宣言すべきだ」との声明を出した。開戦1年の2月24日時点の境界線を停戦ラインにすべきという条件を示した上で、「長期化は敗北の可能性がある」とまで踏み込んだ主張を展開。
大統領の“盟友”から、停戦を求める意見が出たのは初めてのことで、ロシア内で波紋を呼んでいる。
プーチンはこの提言には一切反応せず、同日、動員逃れを防ぐ召集令状の電子化法案(令状を送付した時点で効力を持つ)に署名し、戦争継続の構えを崩してはいない。
なぜプリゴジンは、停戦案を提示したのか
なぜプリゴジンは、停戦案を提示したのか。背景には、発言力を担保してきた兵力の激減がある。5万人とされたワグネル軍団は、激戦で1万人程度になったとされる。さらなる兵力の消耗を避けたいのがプリゴジンの本音だろう。ただ、そこに留まらない政治的野心も見え隠れする。
プリゴジンは昨年秋から、政権への反逆行為を繰り返してきた。ショイグ国防相やロシア軍を「弱虫」呼ばわりし、ラブロフ外相ら外務省を「無能」と批判。そのため政権内では、反プリゴジンの動きが加速した。
批判の一方で、プリゴジンは野党・公正ロシア(下院450議席中27議席の第三党)のミロノフ党首に接近している。ミロノフはもともと政権に近く上院議長を務めたこともある人物。同党を乗っ取るか、一部の議員を離党させての新党立ち上げを画策中のようだ。下院に議席を持つ政党は無条件で大統領候補を擁立できる。成功すれば来年3月の選挙で立候補し、プーチンと直接対決することも可能となる。
プリゴジンがここまで強気になれる理由
プリゴジンがここまで強気になるのは、一部の国民から熱狂的な支持があるからに他ならない。彼は危険を顧みず最前線を訪れ、SNSで情報発信をしてきた。そのためロシアの新しい愛国的英雄となったのだ。一部の情報機関幹部やオリガルヒもそこに価値を見いだし、陰から支援している。
このような動きを政権側が放っておくはずがない。プーチンからプリゴジンへの「警告」だったとする見方が根強いのが、4月2日に起きた軍事ブロガーの爆殺事件だ。現場はプリゴジンと関係の深いサンクトペテルブルクのカフェ。死亡したブロガーはプリゴジン支持者で痛烈な軍部批判を行っていた(露政府はウクライナの犯行と断定)。
戦争の泥沼化が、ついにロシアエリート層の分裂を生むことになったといえる。
●「ワグネル」モスクワへの前進中止を発表 ベラルーシ大統領が仲介 6/25
ウクライナへの軍事侵攻をめぐり、ロシア国防省を非難する雇い兵組織ワグネルが24日朝にロシア南西部のロシア軍拠点に入り、首都モスクワへ向かって北上していた事態で、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は同日夜、「流血を避けるため」に前進を「中止」したと明らかにした。ロシア国営メディアによると、隣国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が仲介した。プリゴジン氏はベラルーシへ移動するという。
プリゴジン氏はメッセージアプリ「テレグラム」で、「ロシア人の血が流れる(可能性の)責任を理解し、我々は隊列を方向転換させ、予定通り野営地に戻る」と書いた。
24日夜には、ロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌにあるロシア軍の南部軍管区司令本部を、ワグネル戦闘員と共に出るプリゴジン氏の姿が確認された。
これに先立ち、プーチン大統領の報道官、ドミトリー・ペスコフ氏は午後9時(日本時間25日午前3時)ごろ、プリゴジン氏とワグネルへの刑事訴追は中止し、プリゴジン氏はベラルーシへ移動すると明らかにした。ロシア国防省と雇用契約を交わしたいワグネルの雇い兵は、引き続きそれは可能だとも述べた。
さらにペスコフ報道官は、ワグネルのこの日の行動がウクライナでのロシアの軍事行動に影響するなど「ありえない」と強調した。
ロシア政府は24日未明には、プリゴジン氏が「武装蜂起」を呼びかけ内戦を開始しようとしたとして、刑事捜査に着手したと明らかにしていた。
ロシア国営テレビ「ロシア24」によると、事態が一気に収束へ向かったのは、ベラルーシのルカシェンコ大統領がプリゴジン氏と電話で協議した後のことだという。
ロシア24は、ルカシェンコ大統領の広報を引用する形で、「ロシア領内でワグネルの移動を中止するというルカシェンコの提案を、プリゴジンは受け入れた」と伝えた。さらに、「ワグネル戦闘員の安全保証と共に、受け入れ可能な事態沈静化の形を見つけることは可能だ」と判明したとも報道した。
「モスクワの200キロ手前まで」=プリゴジン氏
プリゴジン氏とワグネルの部隊が24日午前にロストフ・ナ・ドヌへ入り、ロシア軍の南部軍管区司令部を占拠した事態を受け、ウラジーミル・プーチン大統領は同日午前、緊急テレビ演説を行い、ワグネルの行動は「わが国民を後ろから刺す」「裏切り」だと非難していた。
その後もワグネルの部隊は幹線道路をモスクワ方面へ北上し、ロストフ・ナ・ドヌとモスクワの中間地点にあたるヴォロネジの軍事施設を制圧したとされるなど、首都まで数百キロの地点まで至った。
しかし同日午後6時半ごろ、プリゴジン氏は「テレグラム」で「(ロシア政府は)ワグネル軍事会社を解散させようとした。我々は6月23日に正義の行進を開始した。24時間のうちに、モスクワの200キロ手前まで到達した。この間、我々は自分たちの戦闘員の血を一滴たりとも無駄にしなかった。今や、流血が起こり得る時点に達した。片方でロシア人の血が流れる(可能性の)責任を理解し、我々は隊列を方向転換させ、予定通り、野営地に戻る」と書いた。
プリゴジン氏のこのメッセージは、300万回以上、閲覧されている。
この間、モスクワ周辺を含め複数の自治体で、当局は警備を強化し、住民には外出を控えるよう呼びかけていた。
「完全なカオス」=ゼレンスキー氏
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日夜、この日の事態について動画で声明を発表。「今日は絶対に沈黙してはならない日だ。そして絶対にリーダーシップが必要だ」と述べ、「世界は今日、ロシアのボスたちが何もコントロールできていないことを目の当たりにした。全く何も。完全なカオスだ。予見可能性がまったく欠けている。そして、武器だらけのロシア領内で起きている」と指摘した。
「世界は恐れるべきではない。何が自分たちを守るか、私たちは知っている。私たちの団結だけが、私たちを守る。ウクライナは確実に、欧州をあらゆるロシア軍から守ることができるし、誰が(ロシア軍を)指揮しているかは関係ない。我々は守る。欧州の東側の安全保障は、ひたすら私たちの防衛にかかっている」と強調し、「だからこそ私たちの防衛を支援する、その具体的な形のすべては、あなたたちの防衛の支援で、自由世界の全員の防衛を支援することになる」のだと述べた。
続けてゼレンスキー氏は、「ロシア語で言おう。クレムリン(ロシア大統領府)の男は明らかに、とてもおびえているし、おそらくどこかに隠れているのだろう。姿を見せずに。もはやモスクワにいないはずだと、私は確信している。彼はどこかに電話をして、何かを依頼する。自分自身がこの脅威を作り出したので、自分が何を恐れているか、彼は知っている。あらゆる悪、あらゆる損失、あらゆる憎しみ――彼自身がそれを広めている」とプーチン氏を批判した。
さらにゼレンスキー氏は、自分たちウクライナ人は「国を守り、自由を守る」とした上で、「そして、あなたがたはどうするのか」とロシア人に問いかけた。「あなたがたの兵がウクライナの国土にとどまればとどまるほど、ロシアにより大きな破壊をもたらす。この人物がクレムリンにとどまればとどまるほど、より多くの惨事が続く」とした。
これに先立ちゼレンスキー大統領は24日午後の時点で、「テレグラム」やツイッターで初めてロシアでの出来事に反応。プーチン大統領を名指しはしないものの、「悪の道を選ぶ者はだれでも自滅する」として、「ロシアの弱さは歴然としている」と書いた。 さらに、「数十万人を戦争に投げ込んだ」として、間接的にプーチン氏を非難し、ロシアの軍や民兵組織がウクライナに残る限り、「混乱と苦しみと問題が後から自分たちを襲うだけ」だとした。
ウクライナ国防省は23日深夜のツイートでは、「We are watching(注視している)」とだけ英語で書いていた。
一時は「死ぬ覚悟」とプリゴジン氏
プリゴジン氏は23日夜、ロシア軍がワグネル宿営地を攻撃し、「大人数」のワグネル兵が死亡したと、音声を「テレグラム」に投稿していた。
プリゴジン氏は証拠を提示しないまま、「我々の仲間と、(ウクライナでの戦争で)何万人ものロシア兵の命を奪った連中に、罰を与える」と主張。 さらに、ワグネルがロストフ・ナ・ドヌに入った後には、メッセージアプリ「テレグラム」に、「自分たちは全員、死ぬ覚悟だ。2万5000人が全員。そしてその後にはさらに2万5000人が」と述べる音声を投稿。自分たちの行動は「ロシア国民のため」なのだと述べた。
ワグネルの部隊は24日未明、ロストフ・ナ・ドヌに入った。プリゴジン氏は同市内のロシア軍南部軍管区司令部に入り、ワグネル部隊がロストフを封鎖し「すべての軍事施設を掌握」したと宣言。セルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ総司令官が会いに来ない限り、このまま首都モスクワへ進軍すると述べていた。
こうした中でプーチン大統領は24日朝、「ロシア市民への呼びかけ」と題された緊急演説を行い、全軍に勢力を結集するよう呼びかけた。大統領は、ワグネルによる行動は国民への裏切りだとして、ロストフ・ナ・ドヌで「情勢安定化のため断固たる対応」をとると強調。「内部からの反乱はこの国を脅かす恐ろしい脅威だ。この国と国民を攻撃するものだ。そのような脅威から祖国を守るため、我々は厳しい行動をとる」と述べた。
プーチン大統領の演説にプリゴジン氏が直接反応したものと思われる音声が、その後「テレグラム」に投稿された。プリゴジン氏の声に酷似した声は、「母国への裏切りについて、大統領は非常に間違っている」、「我々は母国の愛国者だ。我々は戦ってきたし、今も戦っている」と主張。
「そして誰も、FSB(ロシア連邦保安庁)も、ほかの誰も、大統領が要求したように、我々に罪があると認めたりはしない」、「なぜなら我々は自分たちの国がこれ以上、汚職とうそと官僚主義の中で生きてほしくないからだ」と続けていた。
一方、ウクライナ侵攻におけるロシア軍の副司令官、セルゲイ・スロヴィキン将軍は、プリゴジン氏に対して「車列を止めて基地に戻る」よう呼びかけた。プリゴジン氏は過去にスロヴィキン将軍を称賛していた。
「我々には同じ血が流れる。我々は戦士だ」とスロヴィキン将軍はビデオで述べ、「我が国が大変な思いをしているこの時に、敵の有利になるようなまねをしてはならない」と呼びかけた。
プリゴジン氏は今年5月に、ワグネル兵の遺体が多数横たわる中を歩く自らの動画をソーシャルメディアに投稿し、ロシア国防省を激しく非難。「数万人」がバフムートで死傷したとして、「ショイグ!  ゲラシモフ!  弾薬はどこだ!  この連中は志願兵として来てお前たちのために死んでいった。お前らが豪華なマホガニーのオフィスでぶくぶく太っていけるように」など、激しい表現を交えながらショイグ国防相とゲラシモフ総司令官を罵倒していた。
23日には、ウクライナでの戦争は「ショイグが元帥になれるよう」開始されたのだと非難。「国防省は国民をだまし、大統領をだまし、いかれたウクライナが我々を攻撃しようとして、NATO(北大西洋条約機構)と一緒になって我々を攻撃しようとしているだとか、そんなでたらめをまきちらしていた」のだと攻撃していた。
●ロシアの混乱、ウクライナには「吉報」−早期戦争終結に期待感 6/25
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジン氏の反乱がどう展開しようとも、ウクライナの政府当局者が確信していることが1つある。ウクライナを利する結果になるということだ。
ウクライナの反転攻勢開始から3週間が経った重大な局面で、ロシアは混乱に陥ったことになる。状況がどうなるかは今後24−48時間が鍵を握るだろうが、ウクライナが急いで軍事的な対応をとることはないと、ゼレンスキー大統領の顧問を務めるミハイロ・ポドリャク氏は語った。
それでも、この混乱はロシアの政治システム内に分裂があるという明らかな証拠で、プーチン大統領の戦争遂行の妨げになることは確実だと、ポドリャク氏は指摘した。
自身の執務室でインタビューに応じたポドリャク氏は、「ウクライナにとって間違いなく吉報だ」と述べ、「戦争終結を早めるのは確実だろう」と続けた。
同氏によると、プリゴジン氏の反乱の結末は複数のシナリオが考えられるが、既に明らかなことは3つある。ロシアのエリート層が分裂していること、プーチン氏が絶対的存在としてのオーラを失ったこと、軍事的な内紛がロシアで進行中だということだという。
ゼレンスキー大統領は24日、ロシア情勢について安全保障担当幹部らと協議した。プーチン氏はテレビ放送された国民向けの演説で、プリゴジン氏の行動を裏切りと呼んだ。
今のところロシア正規軍が国内の反乱に対応するためウクライナから移動している形跡はない。ウクライナでの戦場に大きな影響を及ぼしている兆しも見られない。ウクライナは24日、米国に対して反転攻勢は「計画通り」進めていると説明したと、ザルジニー軍総司令官は述べた。
元米軍司令官のマーク・ハートリング氏は、ロシアの混乱がウクライナにとって戦場での好機をもたらすとの見方にツイッターで警告した。
それでも、ウクライナの軍情報当局は発表文で、ロシア側がモスクワ包囲攻撃に備えた準備を進めており、ウクライナとの国境に蓄えられていた軍装備がモスクワに送り返されつつあると主張した。この主張は第三者によって証明されてはいない。
ゼレンスキー大統領は「ロシアの弱さが鮮明になった。全面的な弱さだ。ロシアが軍や民間戦闘員をウクライナに長くとどめておけばおくほど、後でロシアにとって大きな混乱と痛み、問題が生まれる」とツイートした。
●ワグネル「反乱」で米英仏独首脳が電話協議 ロシア情勢を注視 6/25
バイデン米大統領は24日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の「反乱」を巡るロシア情勢について、英仏独の3首脳と電話で協議した。首脳らは情勢について意見交換し、引き続きロシアの侵攻を受けるウクライナへの「揺るぎない支援」を確認。緊密に連携してロシアの混乱を注視する構えだ。
米ホワイトハウスが発表した。電話協議には、英国のスナク首相とフランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相が参加した。
これに先だって、バイデン大統領とハリス副大統領はホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)からロシア情勢の説明を受けた。サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)▽ブリンケン国務長官▽オースティン国防長官▽米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長▽中央情報局(CIA)のバーンズ長官――らも加わった。  
●「このクズ野郎」ロシア国民も見捨てつつあるプーチン政権… 6/25
ワグネルの乱…ロシアではどう伝えているのか
ワグネルグループ創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は6月23日、ロシア国防省トップの交代を強行するために武装反乱を引き起こした。同日、プリゴジン氏はワグネルの後方地域キャンプに対するミサイル攻撃の余波を映すとされるビデオを、ワグネル系のテレグラム・チャンネルで公開、ロシア国防省がその攻撃の実行者であると非難した。戦争研究所(ISW)を含む複数の関連ニュースを分析すると、下記のような実態が現在進行系で進んでいることになる。
プリゴジン氏は、テレグラムを介して、数万人のロシア軍兵士の命を危険にさらし、破壊する「軍指導部の悪」を止めるために、ワグネルの指導層が決断を下したと述べ、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が個別にワグネルを破壊する計画を立てていると非難し、2万5000人のワグネルの人員が行動を準備しているとした。自分たちの行動は、「クーデター」ではなく「正義のための行進」としている。
対するロシア。日本の報道では、西側の動きが中心に報じられていることから、ロシア側のコメントを中心に紹介する。出典は、特に断りがないかぎり、ロシアメディア「Argumenty i Fakty」(AiF)6月4日だ。
ロシア側広報センター「プリゴージンの犯罪的で売国的な命令を実行しないように」
ロシア国防省は「プリゴジンが公表したすべての情報は挑発(扇動)である」「ソーシャル・ネットワークに拡散された『ロシア国防省がワグネルの後方キャンプを攻撃した』というメッセージやビデオ映像はすべて真実ではなく、『情報による挑発(扇動)』である」として、ロシア軍は特別作戦地域のウクライナ軍との戦闘任務を継続していると強調している。
同様に、ロシアのペスコフ大統領報道官も「プーチン大統領はプリゴジン周辺のすべての状況を知らされており、必要な措置がとられている」と述べた。
ロシア連邦保安庁の広報センター(CPR)は、プリゴジン氏の言葉は内紛の呼びかけであり、軍の背中を刺すものであるとしている。「我々は、ワグネルの戦闘員に対し、取り返しのつかない過ちを犯さないように、ロシア国民に対するいかなる強引な行動も停止するように、プリゴージンの犯罪的で売国的な命令を実行しないように、彼を拘束する措置を取るように呼びかける」としている。
特別軍事作戦の指揮官「国にとって困難な時期に、敵の術中にはまるな」
ウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦の指揮官の一人であるセルゲイ・スロヴィキン陸軍大将は、ワグネルの戦闘員に対し、国家の指導者に止まり従うよう訴えた。兵士やボランティアたちが 「死ぬまで敵と戦う」という依然として士気の高い最前線から来たと語った。そして、ワグネルの指導者、幹部、戦闘員たちに次のように訴えた。
「私たちはあなた方とともに戦い、危険を冒し、損失を被り、そしてともに勝利してきた。我々は同じ血を引いている。我々は戦士だ。私は我々に立ち止まることを強く勧める。敵は内政問題がエスカレートするのを待っている。この国にとって困難な時期に、敵の術中にはまってはならない。ロシア連邦・大統領の意志と命令に服従し、隊列を止め、恒久的な基地と集中地域に戻し、総司令官の指導の下、平和的な方法でのみすべての問題を解決するのだ」
ロシア軍参謀本部第一副参謀長「正気に戻ってほしい」
ロシア軍参謀本部第一副参謀長、ウラジーミル・アレクセーエフ中将は、「ワグネルの諸君。2014年、2015年、2016年と、この組織が設立された初日から、私はあなた方と一緒に戦闘任務を遂行してきました。今は積極的に協力している。私はこの民間軍事会社の多くの兵士や指揮官を尊敬しており、彼らは国家の利益のために重大な任務を遂行している。しかし、今起きていることは狂気以外の言葉で説明することはできない。わが国は今、非常に不安定な立場にある。西側諸国全体が反旗を翻し、世界中から軍需品や武器が集まってきている。まずは政治的な問題だ。あなたが今やろうとしていることに対して、西側諸国がどれほど熱狂的になるかを想像してみてほしい」「これはクーデターだ。どうか正気に戻ってほしい!ロシアとその軍隊のイメージにこれ以上の打撃を与えることは考えられないからだ。このような挑発は、ロシア連邦の敵によってのみ行われうる。今すぐやめていただきたい。これまでも、そしてこれからも、あなた方の部隊に対して軍隊が武器を使用することはない。我々はまだ国内で内戦を起こしたことはない。正気に戻ってくほしい」としている。
ワグネルとはそもそもどのような組織なのであろうか。
ワグネル創設者は「トロールファーム」も運営
プリゴジン氏は2014年のロシアによるクリミア併合時に設立され、ロシア軍の民間請負業者として発展してきた。プリゴジン氏は、プーチン大統領のために手の込んだ国賓宴会を演出するケータリングビジネスを手がけたことから、「プーチンのシェフ」と呼ばれている「ワグネル(WAGNER)」の由来は、ヒトラーのお気に入りだった作曲家に敬意を表して「ワグネル」を選んだと言われている。プリゴジン氏は、ワグネルの創設者であることに加え、彼は「トロール・ファーム」(情報工作組織)の悪名高い運営者であるインターネット・リサーチ・エージェンシーを所有し、アメリカの選挙に介入したことを自慢しており、そのために彼はアメリカ財務省によって制裁下に置かれている。
ロシアは傭兵の使用を否定しており、ロシアの法律では、他国で民間軍事請負業者として働くことは違法である。「存在しないことになっている」ことでワグネル戦闘員による残虐行為からロシア政府が目を背けることができるようになっているという指摘もある。ワグネルには、戦闘経験の豊富な傭兵を多く抱えていて、ロシアが本格的に侵攻する何年も前からウクライナ東部のドンバス地方で戦闘を経験している。とはいえ、プリゴージンは今回のウクライナ侵攻の際にはロシアの刑務所にいた大量に囚人を戦闘員として利用し、戦闘経験のほとんどない囚人たちは死体の山を築いた。
プリゴジン「このクズ野郎は卑怯に逃げた!」
プリゴジン氏は、ワグネル戦闘員が十分な弾薬を拒否されたという不満を含め、ショイグ国防相や他の軍司令官と数か月にわたって確執を続けてきた。さらに、「存在しない脅威を主張することで、軍指導部がプーチンを騙してウクライナで戦争に突入させた」と主張する声明も発表している。
プリゴジン氏はいう。「ショイグ国防相がロストフ(プリゴジン氏が反乱を起こした地域)から逃げ出した。午後9時、彼は卑怯に逃げた。なぜヘリコプターを飛ばして我々の仲間を壊滅させたのか、なぜミサイル攻撃を仕掛けたのか、説明できないようにしたのだ!このクズ野郎は必ず阻止する!」「我々は子供たちと戦うつもりはない。私たちはプロフェッショナルと戦うだけだ。我々は手を差し伸べているのだ。唾を吐きかけてはいけない。我々は最後まで前進する」。
プーチン大統領に絶対的な忠誠心を示してきたプリゴージン氏の反乱は、苦戦が伝えられるウクライナ軍の戦況をひっくり返すのだろうか。
ルーブル安、インフル悪化の恐れに、どうするプーチン
それでなくても、プーチン大統領の足元は、盤石とは決していえないような状況だ。2022年の実質GDP成長率はマイナス2.1%、2023年1〜3月期、ロシアの実質GDPは同1.9%減少した(速報値)。4四半期連続でロシア経済はマイナス成長に陥っている。昨冬、欧州が暖冬だったこともあり、天然ガス価格も下落したのが大きな要因だ。その半面、ウクライナ戦争への支出は膨らんでおり、財政赤字も悪化の一途だ。こうした懸念を背景に、年初来でロシア・ルーブルがドルなどに対して下落した。昨年6月には1ドル60ルーブル台であったが、足元では80ルーブル台で推移している。今後も、下がることが予想されている。当然、ルーブル安になればインフレの悪化も懸念されており、ロシア国民の不満は高まりを見せることになるだろう。
プーチン大統領は、ワグネル、ルーブル安という直面する超難課題にどう手を打つのだろうか。
●「プリゴジン氏の乱」急転停止?プーチン氏が“ルカシェンコ氏使って説得”か 6/25
民間軍事会社ワグネルを率いるプリゴジン氏。武装蜂起から一転、進軍停止を表明した背景には一体何があったのか。専門家と見ていきます。
「プリゴジンの反乱」急転1日で終了
「ワグネル!ワグネル!」
反乱を起こし、首都モスクワに進軍するとしていた民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が一転して進軍の停止を発表。
民間軍事会社「ワグネル」創設者プリゴジン氏「たった1日で我々はモスクワまで約200kmまで来た。しかし血が流れてしまう瞬間が迫っていた。我々は隊列を方向転換させ、予定通り野営地に戻る」
「私たちはあなたを応援しています」
24日夜、制圧していたロシア軍施設を退去する際には、市民から歓声が上がっていました。
CNN「全く奇妙なことです。この24時間、プーチンのロシアへの統制力は揺らいでいました。何が本当の理由なのかはじきに分かるとは思いますが」
ベラルーシの国営メディアは、ルカシェンコ大統領がプーチン大統領の合意の下でプリゴジン氏と電話で協議し、ワグネルの進軍停止を提案したとしています。
ロシア大統領府ペスコフ報道官「どうしてルカシェンコ氏が登場したのか?ルカシェンコ氏はプリゴジン氏と約20年間にわたって知り合いでもあり、プーチン大統領とも合意の上での提案だった」
「ワグネル武装蜂起」事前に把握か米有力紙
武装蜂起を呼びかけた容疑での捜査は取り下げられ、プリゴジン氏はベラルーシに向かうといいます。
ワシントンポストは、アメリカの情報当局が今月中旬、プリゴジン氏が軍事行動を計画していることを把握し、他の国とも情報を共有していたと伝えています。プリゴジン氏はなぜ反乱を起こし、一転してモスクワ進軍を停止したのでしょうか?
発端となったのは23日に投稿したこの音声…
プリゴジン氏の音声「彼ら(ロシア国防省)は我々を背後からロケット弾で攻撃し、膨大な数の戦闘員が殺された」
ワグネルのSNSに投稿された映像にはロケット攻撃を受けたとされる現場の様子が映っていましたが…
ロシアの独立系メディアは「爆発が起きた周囲の草木に被害がない」「ほぼ間違いなく演出だ」と指摘しています。
プリゴジン氏「これは軍事クーデターではない。正義の行進です。軍の大多数は私たちを熱烈に支持している」
プリゴジン氏は24日早朝、ウクライナ東部と隣接するロシア南部ロストフ州の南部軍管区司令部に入りました。
プリゴジン氏「軍幹区司令部にいます。朝7時半です。飛行場を含むロストフすべての軍事施設が私たちの管理下にある」
一方、ワグネルに制圧された街では…その場の状況を楽しむかのような市民の姿が。兵士が銃を構えても逃げるそぶりもみせません。ロシア軍のヘリを撃墜したと主張するプリゴジン氏は、国防省幹部とこんな会話をしていました。
プリゴジン氏「(ロシア軍に)撃ち返したんだ」
国防省幹部「撃ち落とした?」
プリゴジン氏「そう。すでに3機を。続けるなら全部撃ち落とす。もう一度言う。ゲラシモフ参謀総長とショイグ国防相に会うために来た。彼らと会うまではここにいる。ロストフを封鎖してモスクワに行く。君たち全員と話ができていたら、ここに戦車で来ない。わかる?」
国防省幹部「いまやってることは全部正しいと信じていると?」
プリゴジン氏「全くもって正しい。ロシアを救っているのだ」
モスクワの南およそ500kmのボロネジ州では激しい銃撃戦も…
ロシアの独立系メディアによれば24日、ロストフ州から北上を開始したワグネルの部隊はその日のうちにモスクワまでおよそ200kmの地点にまで迫っていました。
プーチン大統領「我々が直面する内部の裏切りから国家・国民を守る。膨れ上がった野心と個人的利益が反逆を引き起こしたのだ」
“プーチン氏の私兵”とも呼ばれたワグネル。なぜ、反乱を起こしたのでしょうか?
「ワグネル」創設者プリゴジン氏とは
2002年、ブッシュ大統領との会食会場としてプーチン大統領が選んだのは…プリコジン氏のレストランでした。同じサンクトペテルブルク出身で親密さを深め、いつしかプリゴジン氏は「プーチン氏の料理人」と呼ばれるようになります。その後、政権との密なパイプを生かし、学校やロシア軍への配給などビジネスを広げていったプリゴジン氏は、ロシアがクリミア半島を併合した2014年に民間軍事会社ワグネルを創設。中東のシリアなどで戦闘に参加するなど正規軍にはできない「汚れ仕事」を担ってきたとされます。
去年2月のウクライナ侵攻以降、ワグネルはロシア軍の兵員不足を補う貴重な戦力として重用され、バフムトなど前線の激戦地で主力を担ってきました。
ロシア軍の苦戦が明らかになるにつれ、その存在感は日に日に増していきます。
プリゴジン氏「弾薬が70%不足している。ショイグ(国防相)、ゲラシモフ(参謀総長)弾薬はいったいどこにあるんだ」
ワシントンポストはプリゴジン氏の反乱の主な引き金について、今月10日、すべての志願兵部隊にロシア国防省傘下に入ることを求める命令だった、と報じています。プリゴジン氏には、自らのワグネル部隊が「乗っ取られる」との焦りがあったのでしょうか?
アメリカのシンクタンク戦争研究所はプリゴジン氏の狙いについて「ワグネルを独立した勢力として存続させる唯一の道として今回の行動に賭けたとみられる」と分析しています。
では、なぜ一転して進軍の停止を決めたのか?元ANNモスクワ支局長の武隈氏は…
元ANNモスクワ支局長 武隈喜一氏「プリゴジン氏はモスクワに進軍する途中でプーチン大統領も自分の要求、つまり軍のトップを代えるということを何らかの形で応えてくれる期待があったと思う。プーチン大統領にとってプリゴジン氏は昔からの非常に近い人だけど、さすがに兵を挙げたとなると認めるわけにはいかない。ルカシェンコ大統領を使って自分の言葉をプリゴジン氏に伝えてもらって、何とか説得するということでルカシェンコ大統領を使ったと思う」
●ロシアが緊急制限の解除開始−プーチン氏、プリゴジン氏の沈黙続く 6/25
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が主導した武装蜂起が劇的な形で収拾した後、同国当局は平常を回復しようと緊急制限の解除を開始した。ほぼ四半世紀に及ぶプーチン政権下で、今回の反乱ほど体制が脅かされたことはなかった。
ワグネル撤収、プリゴジン氏亡命へ−米も事前に情報把握か
プーチン大統領は24日午前に行った短いテレビ演説で、プリゴジン氏の反乱を「裏切り」と非難したが、それ以来公の場に姿を見せていない。ワグネルは一時、モスクワまで200キロの圏内まで進軍したが、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介した合意が成立し、プリゴジン氏は部隊を引き返させた。
ロシア大統領府の説明によると、プーチン大統領はこの合意でプリゴジン氏の隣国ベラルーシへの出国を認め、同氏と反乱に関与したワグネル戦闘員に対する刑事訴追手続きを取り下げると自ら保証した。プーチン氏はこの数時間前の国民向け演説で、反乱に加わった者は「ロシアを裏切ったのであり、その罪を償うことになる」と述べたばかりだった。
プリゴジン氏は24日遅く、流血の事態を避けるため部隊を撤退させるとの音声メッセージをテレグラムに投稿して以来、コメントを発していない。ソーシャルメディアではワグネルが一時占拠していたロシア南部の都市ロストフナドヌーの軍施設から撤収するに当たり、市民が同氏をたたえ、握手する様子を映した動画が共有されている。
ワグネルはロストフナドヌーから引き揚げ、野営地に向かったとロストフ州のゴルベフ知事が25日早くに報告した。ロストフからモスクワに向かう途上にあるボロネジ、リペツク両州の当局者も、ワグネルが州内から移動したと明らかにした。
モスクワに向かう幹線道路に急きょ設置された障害物は、25日に撤去された。モスクワ市は対テロ体制を導入し、さらに26日を休日にするとソビャニン市長が発表したが、この休日は維持される。
急展開した今回の事態について、米国や欧州は政治的な影響の把握に努めている。かつては絶対的だったプーチン氏の権威は、いまや損なわれた様子だ。ウクライナが領内からロシア軍を駆逐しようと反転攻勢を続ける中で、侵攻を巡りロシア国内に深刻な分裂があることも浮き彫りにした。
ロシアには皇帝ニコライ2世やソ連時代のゴルバチョフ書記長など、軍事的な混乱の後に最高指導者が失脚した歴史がある。プーチン氏自身も24日のテレビ演説で今回の反乱について述べた際、1917年のボリシェビキ革命と内戦に至った第1次大戦中の国内の分裂を引き合いに出した。
ワグネル反乱、プーチン氏に対する「直接的な挑戦」−ブリンケン氏
ブリンケン米国務長官は、ワグネルの反乱はプーチン氏の権威に対する「直接的な挑戦」だと指摘し、米国はロシア軍の駆逐を目指すウクライナの支援に集中していると語った。
ブリンケン氏は25日にCBSの番組で、「この反乱は数々の深刻な問題を提起している。現実的な亀裂を露呈した」と発言。「今後どうなるのか、臆測や正確な把握は不可能だ。明らかなのは、今後数週間や数カ月にずっと多くの対応をプーチン氏が強いられるということだ」と続けた。
さらに、「この話はまだ続いている。終わりではない」との認識も示した。この危機の間、核兵器に対するロシアの姿勢に変化は見られていないとも付け加えた。
●ワグネル反乱でプーチン政権に動揺か、ウクライナ情勢への影響 6/25
欧米各国は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」をめぐる露国内の一連の動きについて、ウクライナ情勢への影響もあると見て注視している。
「ワグネル」の反乱を受け、米国のバイデン大統領は24日、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、英国のスナク首相と電話会談した。ウクライナに対する「揺るぎない支援」を続ける方針を確認した。
バイデン氏は同日、ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官らから情勢の報告を受けた。米軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長は予定していた中東訪問を中止した。
各国は、ワグネルの今回の反乱がプーチン政権に動揺を与えたとみている。
英国防省は「ロシアの治安部隊、特に国家親衛隊の忠誠が試される。最近のロシアにおいて、最大の試練となる」と分析。イタリアのアントニオ・タイヤーニ外相は伊紙のインタビューで、「反乱はプーチンへの結束神話を終わらせた。ロシアの前線が昨日より弱体化したのは確かだ」と述べた。
英紙フィナンシャル・タイムズは「露内外の反プーチン勢力に希望を与え、ウクライナ軍にとって歴史的な好機となる」と指摘。独公共放送ARDは、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏らの処罰をしなかったことがプーチン氏への深刻な打撃になるとの見方を示した。
●“13時間で撤退”ワグネルの反乱 ロシア正規軍と交戦か… 6/25
ロシアの民間軍事会社ワグネルのトップ、プリゴジン氏による武装反乱は「撤退」で終わった。南部の軍事施設占拠を明らかにしてから、わずか13時間での撤退表明だった。
ワグネルが進軍…ロシア正規軍と交戦か
「ワグネル!ワグネル!」
市民から“ワグネルコール”があがるなか、日本時間25日朝、ワグネルの兵士たちがロシア南部の拠点から撤退した。なかには、戦車と一緒に写真を撮る市民の姿も見られた。
そして、プリゴジン氏が乗った車には、市民数人が駆け寄り握手を求めていた。
ロシア軍に部隊が攻撃された報復として、プリゴジン氏が南部ロストフ州の軍の司令部を占拠したと明らかにしたのは、現地時間24日午前7時半頃だった。その後、プリゴジン氏は、部隊を「首都モスクワに進軍させる」と述べた。
ワグネルの部隊は、ロシア正規軍と交戦したとみられ、アメリカのシンクタンク、戦争研究所は、ワグネルがヘリコプターなど8機を撃墜した可能性があるとした。
一方、プーチン大統領は緊急会見で「我々が直面しているのは裏切りだ」と述べ、プリゴジン氏の行動を武装反乱だと非難、鎮圧すると表明した。
ロシア国防省はモスクワ市内に軍事車両を出動させた。さらには、大統領専用機がモスクワからサンクトペテルブルク方面に飛び立ち、プーチン大統領が逃亡した可能性が報じられたが、ロシア大統領府はこれを否定した。
首都まで200キロ地点で「撤退」
世界が固唾を飲んで反乱の行方を見守るなか、事態が大きく動いたのは、プリゴジン氏が南部の軍事施設占拠を明らかにしてから約13時間後の午後8時半頃だった。
プリゴジン氏は音声メッセージで「我々はモスクワまで200キロの所に迫った。だが、ロシアの人の血が流れる責任を自覚し、部隊を方向転換させる」と、部隊を駐屯地に引き上げると表明した。
進軍後、宗教界や政界の大物が相次いでプーチン大統領の支持を表明していた。事態の打開には、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介したとされている。ロシア大統領府のペスコフ報道官は、「プリゴジン氏への操作は終結し、プリゴジン氏はベラルーシへ行くことになる。反乱した兵士は不問に付す」などと表明した。
アメリカの戦争研究所は今回の武装反乱について、「ロシア軍が多くの後方地域で予備兵力を欠いていることを示し、ほぼ間違いなくウクライナにいるロシア軍兵士の士気を低下させるだろう」との見方を示した。
●ウクライナ“ここ数か月で最大のミサイル攻撃か”市民に死傷者 6/25
ウクライナ軍の参謀本部は、ロシア軍のミサイルや無人機による攻撃で、子どもを含む市民に死傷者が出ていると25日、発表しました。
ウクライナ東部ドネツク州の知事が24日の攻撃で1人が死亡、2人がけがをしたと発表したほか、ウクライナ南部ヘルソン州の当局は25日、5階建ての集合住宅が砲撃を受け、40代の男性1人が死亡したとしています。
アメリカのシンクタンク戦争研究所は24日、ロシア軍は、ロシア国内で反乱の動きがあるなかでも「ここ数か月で最大のミサイル攻撃を行った」という分析を示しました。
一方、東部や南部では、ウクライナ軍が反転攻勢を進め、マリャル国防次官は24日、東部で進展があったと強調しました。
イギリス国防省は25日の分析で、ウクライナ軍がこれまでの反転攻勢の経験を生かして戦術に磨きをかけていると指摘しました。
そして「ここ数日、ウクライナ軍は南部と東部の3つの戦線で再び大規模な反撃を展開している」として、各地で戦闘が激しくなっているという見方を示しました。
●ロシア市民、撤退決断を称賛 ワグネルに「よくやった」 6/25
ロシアの民間軍事会社ワグネルが一時占拠した南部ロストフナドヌーでは24日夜、市民が部隊の撤退決断を称賛した。
SNSなどで伝えられた現地の映像によると、ワグネル創設者プリゴジン氏はスポーツ用多目的車(SUV)の後部座席に乗車。警備は厳重ではなく、窓を開けて市民からの握手の求めに応じ、市内を後にした。
24日昼は、ウクライナ侵攻の後方の軍事拠点で、プリゴジン氏が滞在した市内の南部軍管区司令部の周辺に銃声や爆発音が響き、市民が逃げ惑う様子が見られた。鎮圧のためチェチェン部隊が投入されるとの情報がもたらされ、内戦間際の雰囲気となった。
しかし、ロシア大統領府とワグネルの間で事態打開の合意に至ったと伝えられると、戦車や装甲車はエンジン音をとどろかせ、次々と移動を開始した。市民は「よくやった」と戦闘員らに声を掛け、撤退を歓迎。拍手で見送ったり、スマホで撮影したりした。 
●G7とグローバル・サウス 政府高官らウクライナ情勢で連携確認 6/25
G7=主要7か国とグローバル・サウスと呼ばれる新興国などの政府高官らが、北欧のデンマークでウクライナ情勢をめぐって協議し、現状での停戦は困難だという認識で一致した一方、原発の安全確保などの課題に連携して取り組んでいくことを確認しました。
協議は、デンマークのコペンハーゲンで24日から2日間の日程で行われ、外交筋によりますと、秋葉国家安全保障局長などG7各国の安全保障担当の政府高官のほか、インド、ブラジル、トルコなど、グローバル・サウスと呼ばれる新興国も出席したということです。
アメリカのサリバン大統領補佐官は、ロシア情勢の緊迫化にともないオンラインで参加しました。
協議では、議長をつとめたウクライナのイエルマク大統領府長官が「先のG7広島サミットでグローバル・サウスが関与することの重要性が認識されたことが、今回の協議につながった」と述べたということです。
ウクライナ情勢をめぐって各国は、現状での停戦は困難だという認識で一致した一方、▽原発の安全確保、▽捕虜の交換、▽食料安全保障などの課題に連携して取り組んでいくことを確認しました。
刻々と変化するロシア情勢についても取り上げられ、民間軍事会社代表のプリゴジン氏の今後の動向も含めて事態を注視していくことで一致したということです。
この枠組みでの協議は今回が初めてですが、軍事侵攻の終結後も見据えながら今後も協議を継続していくことを確認しました。

 

●プーチン大統領、統治能力低下で大打撃 プリゴジン氏の反乱…  6/26
ロシアの民間軍事会社ワグネルを創設したエフゲニー・プリゴジン氏は25日、戦闘員の進軍停止を表明し、武装反乱は失敗に終わった。だが、強大な軍事・治安組織は一時的にせよ「私兵」による進撃を阻止できず、プーチン政権の統治能力低下を露呈させた。20年以上の強権支配で「強いロシア」を築いてきたはずのプーチン大統領にとっては大打撃。ウクライナの反転攻勢で、政権が危機を迎える可能性もある。(編集委員・常盤伸)
「わが国と国民の背中を刺す人々による裏切り行為だ」。プーチン氏は24日の国民向け演説で、プリゴジン氏の反乱を険しい顔つきで非難し、徹底鎮圧することを宣言していた。
それが一転、ベラルーシのルカシェンコ大統領による仲介を受け入れた。プーチン氏は、プリゴジン氏の反乱容疑の捜査を打ち切り出国を許すという屈辱的な「妥協案」をのまされた。
屈辱的「妥協案」の裏にはロシア軍の弱体化
背景にはウクライナ戦争に伴うロシア軍の著しい弱体化がある。プーチン氏の妄想による破滅的侵攻で2万を超える将兵を失い戦車約2000両など膨大な装甲車両が破壊されたとされる。
ロシア独立系メディアは24日、政府筋の話として、モスクワ防衛を担うタマン師団など精鋭部隊の多くがウクライナ侵攻に動員され、首都防衛が手薄になっているという情報を伝えていた。プリゴジン氏は内情を熟知していたはずだ。
防空兵器も持つワグネルは、反乱を鎮圧しようとしたロシア軍の武装ヘリコプター3機を含む計8機の軍用機を撃墜、ロシア兵13人を殺害したとみられる。
市民から歓迎されるワグネル戦闘員
一方、南部最大の都市ロストフナドヌーでは驚くべき光景が見られた。ワグネル部隊は南部軍管区司令部を一気に制圧。市中心部に展開したワグネル戦闘員らは大勢の市民から支持され、食料品を手渡されるなど歓迎された。ウクライナ戦争の現状に対し、市民の不満が噴き出した格好だ。
ワグネル部隊が進撃を続ければ、モスクワに迫ることも可能だった。さらにワグネル支持の市民の動きはプーチン体制を揺るがしたかもしれない。プリゴジン氏は正規軍の一部の合流を期待していたとの情報もあるが、治安組織の厳しい監視で不発に終わった。
盤石だったはずの体制、崩壊の序曲か
ロシアの政治学者、キリル・ロゴフ氏は「プーチンの戦争には大きな痛手だ。(プリゴジン氏は)反戦のリベラル派ではなく、戦争支持の人々の言葉でプーチンを攻撃していたからだ」と指摘する。
ロシアでは1917年に民主的な臨時政府を転覆させた「ボリシェビキ革命」の転機となったコルニロフ将軍の反乱や、ソ連崩壊の序曲となった1991年の左翼強硬派の軍事クーデターなど、軍事反乱が体制崩壊の引き金になってきた。
反転攻勢を続けるウクライナ軍はじりじりと前進し、ロシア国内の混乱を好機ととらえて勢いづく。ロシアが一方的に併合宣言したウクライナ東南部4州の一部でも奪還を許せば、盤石とみられていたプーチン体制崩壊の序曲になる可能性が高まっている。
●ロシアで反乱 プーチン氏の弱さが露呈した 6/26
政権に公然と挑戦する反乱が起き、その首謀者を厳罰に処すと公言していたのに、事態収拾を優先して不問に付した。ロシアのプーチン体制の弱さと 脆さが露呈したと言える。
プーチン大統領に反旗を翻したのは、ロシアのウクライナ侵略に加担している露民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏だ。武装蜂起を宣言し、一部の露軍施設を制圧した上で、部隊を首都モスクワに向かわせた。
ワグネルは、数万人の受刑者らを戦闘員に仕立ててウクライナの前線に送り、一定の戦果を上げていた。プリゴジン氏と軍の間では以前から主導権争いがあった。
露国防省がワグネルを傘下に入れようとしたことへの反発が、蜂起の動機とみられている。
異論を一切許さず、反政権デモを即座に鎮圧するプーチン政権下で、大規模な反乱が起きたのは初めてだ。プーチン氏は、緊急演説で武装蜂起を「裏切り」だとし、鎮圧を宣言した。政権が揺らぎかねない危機感からだろう。
露軍とワグネルの本格的な武力衝突も想定され、緊張が高まる中、プリゴジン氏は一転してモスクワへの進軍停止を命じた。
一方、政権側はプリゴジン氏の反乱扇動に対する捜査を中止し、蜂起に加わった戦闘員の罪も問わないと発表した。プリゴジン氏はベラルーシに出国するという。
プーチン氏は、モスクワでの交戦を避けるために、プリゴジン氏を免罪するという妥協に追い込まれたのだろう。反乱に対し、鎮圧も、処罰もできなかったプーチン氏の威信低下は避けられない。
指導者に都合の良い情報しか入ってこない強権体制ならではの失態ではないか。
今回の事態は、ウクライナ情勢にも大きな影響を及ぼす。
プリゴジン氏は蜂起を前に、ロシアが侵略の根拠としていた「ウクライナでのロシア系住民への迫害」や「北大西洋条約機構(NATO)がロシアを攻撃してくる」といった主張について、自らのSNSで虚偽だと公言した。
プーチン政権が、侵略の正当性に対する国民の疑問を抑え込むのはさらに難しくなるだろう。ワグネルが多大な人的犠牲を出しながら、これまでのように前線で戦い続けることも期待できまい。
ロシアの混乱と政権の弱体化は、プーチン氏自らが侵略という暴挙によって招いた事態である。国内の安定を望むのなら、即座にウクライナから軍を撤収させ、法の支配の原則に従うべきだ。
●プリゴジン氏は「ロシア軍からの造反狙った」 米シンクタンク分析 6/26
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏による反乱について、米シンクタンク戦争研究所(ISW)は米東部時間24日夜、「迅速な対応に苦慮し、国内における治安維持の弱点が強調されることになった」と分析した。
プリゴジン氏はロシア軍に対して武装蜂起を宣言し、ワグネルはモスクワまで数百キロの場所まで迫った。だが、プリゴジン氏がベラルーシのルカシェンコ大統領と電話協議し、ワグネルは元の拠点へと撤退することになった。
ISWはプリゴジン氏の企てについて「ロシア軍からの造反者を得ようとしたようだが、見込みが甘かった」と指摘。「ワグネルは既存組織や新たな組織のもとで存続するかもしれないが、プリゴジン氏が率いる独立したアクターとしては、おそらく消滅するだろう」との見立てを記した。
一方、ルカシェンコ氏が仲介役を果たしたことについては「プーチン氏にとっては屈辱的だ」と総括。「(ロシア大統領府のある)クレムリンは現在、非常に不安定な状態にある。ルカシェンコ氏による交渉は長期的な解決策ではなく短期的な修正策であり、プリゴジン氏の反乱によってクレムリンとロシア国防省の深刻な弱点が露呈した」としている。
●「政権内のきしみ」背景か プーチン氏の強権化予想も―ロシア反乱 6/26
ロシアのプーチン大統領は、反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏に亡命を認めた。ウクライナ侵攻が続く中、「戦時」の政権に弓引こうとした者への措置としては異例の寛大さだ。侵攻長期化に伴うプーチン政権内のきしみが背景にあると欧州メディアが伝える一方、これを機に強権政治が一段と進むとの見方も出ている。
「結末がどうであれ、プーチン氏がこれほど弱々しく見えたことはない」。英紙ガーディアン(電子版)は、反乱劇が及ぼした影響の大きさを強調した。BBC放送は、蜂起で政権中枢に激震が走り、モスクワを飛び立つ数十機のプライベートジェットがレーダーに捉えられたと伝えた。
一方、ポーランドのシコルスキ元外相は、プーチン氏が今回の一件で国内の引き締めに動くと指摘。「政権はこれまで以上に独裁色を強め、残忍になる」と分析した。
プリゴジン氏や反乱に加わったワグネル戦闘員らについて、プーチン氏が無罪放免するとは思えないという意見も多い。ウクライナ取材を続けるジャーナリストのジャック・ロッシュ氏は、プーチン氏が敵対者を「許さないし、忘れることもない」と指摘。プリゴジン氏が今後、刺客の影におびえながら「背後を振り返る」生活を送ることになると予想した。
●「プーチン神話」終わった ロシア政権・軍は弱体化―伊外相 6/26
イタリアのタヤーニ外相は、ロシアの民間軍事会社ワグネルが一時起こした反乱により、プーチン大統領の下のロシアが一枚岩だという「神話は終わった」との認識を示し、揺るぎないと思われた政権の弱体化を強調した。イタリア紙メッサジェロ(電子版)が25日伝えた。
タヤーニ氏は、ロシアが昨年2月にウクライナ侵攻を開始した際の「電撃戦に失敗した」ため、「侵攻はプーチン氏にとってブーメランになった」と主張。軍部内に蓄積した「問題や矛盾点」の噴出が反乱につながったと分析した上で、「確実なのは、きょうのロシア前線部隊がきのうより弱いということだ。(ウクライナ)和平が近づいていると願いたい」と述べた。
●ワグネルトップに“暗殺指令” 兵士は不問 プーチン大統領 6/26
ロシアのプーチン大統領が武装反乱を起こした、ワグネルのトップ・プリゴジン氏の暗殺指令を出したと、複数のメディアが報じている。
ロシアの独立系オンラインメディアは、ロシア軍の将校クラスから聞いた話だとして、プーチン大統領は、ワグネルの兵士に対しては反乱を不問に付すが、プリゴジン氏に対しては暗殺指令を出したと報じている。
プリゴジン氏はベラルーシに行くとされているが、現在の居場所はわかっていない。
●ロシア傭兵36時間の武装蜂起、プーチン氏20年の「権力の座」を揺るがす 6/26
ロシアのプーチン大統領に対して武装蜂起を起こしたロシアの民間軍事会社「ワグネル」が、首都モスクワに突入する前に劇的に武装を解除した。ロシアは、ベラルーシ大統領の仲介により、ワグネルの創始者プリゴジン氏がベラルーシに撤退することを条件に、プリゴジン氏と兵士たちを処罰しないことに合意し、事態は36時間で一段落した。しかし、「ストロングマン」プーチン大統領は、ウクライナ戦争の長期化に加え、統制力の弱体化まで露呈し、23年間の長期政権以来、内外で最も深刻な挑戦に直面することとなった。
ロイター通信などによると、プリゴジン氏は24日(現地時間)、音声メッセージを通じて、流血事態を避けるため、モスクワに向かっていた軍隊に基地に撤退するよう指示した。プリゴジン氏はそうしながらも、武装蜂起の理由について「彼ら(ロシア軍)がワグネルを解体しようとし、私たちは23日に(ウクライナ国境を越えてモスクワに)正義の行進を始めた」とし、「一日でモスクワの200キロ手前まで来た」と述べ、戦力を強調した。
仲介に出たベラルーシの大統領府は、「プーチン大統領との合意のもと、ルカシェンコ大統領がプリゴジン氏と交渉した」と明らかにした。合意成立直後、ワグネルは武装蜂起で占領したロシア南部ロストフナドヌーから同日午後遅く撤退を開始した。プーチン氏は午前、緊急テレビ演説を通じて、「背中にナイフを突き立てる状況を目撃している」と「厳しい対応」を予告したが、合意成立後、クレムリン宮はプリゴジン氏に対する刑事立件を取り下げた。
武装蜂起は36時間で武装解除されたが、2000年の政権発足後、強力な統率力で「ストロングマン」と呼ばれたプーチン氏のリーダーシップにかなりの打撃を与えた。英紙ガーディアンは、「武装蜂起はすぐに失敗したが、その衝撃波は数ヵ月間続き、政治的な不安を煽り、プーチン氏が指導者として適しているかどうか疑問を提起するだろう」と予想した。米紙ワシントン・ポストは、「プーチン氏はこれまで自国内のライバル集団を互いに反目させ、最終的な調停者の役割をしながら統治してきた」と分析した。その上で、今回の武装蜂起がこのような統治方法を崩し、「プーチン氏の執権に最も重大な脅威となった」と指摘した。
16ヵ月間続いているウクライナ戦争の戦況にも少なからず影響があるとみられる。ロシア内部に亀裂が生じ、ウクライナが今月初めから始まった大反撃で有利になるという見方もある。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「悪の道を選ぶ者は自ら破滅する」とロシア軍の撤退を迫り、今回の事態を反撃のための絶好の機会としている。ブルームバーグ通信は、「ウクライナの反撃でこれといった成果がない中、決定的な機会が来た」とし、大統領顧問のミハイロ・ポドリヤク氏の言葉を引用して、「今後24〜48時間が状況展開に決定的な時間になるだろう」と伝えた。
●プーチン氏、ウクライナ巡り「自信」 ワグネル反乱前インタビュー 6/26
ロシアのプーチン大統領は25日にロシア国営テレビが放映したインタビューで、ウクライナでの「特別軍事作戦」に「自信がある」と表明した。インタビューはロシアの民間軍事会社ワグネル部隊による武装反乱の前に行われたとみられる。
プーチン氏は「われわれには自信があり、全ての計画と任務を遂行する立ち位置にある」と述べた。「これは国防、特別軍事作戦、経済全体、個別分野に当てはまる」と語った。
インタビューを行った国営テレビのパベル・ザルビン記者は、プーチン氏が軍事関連の卒業生と面会後に実施したとしており、21日のイベントを指しているとみられる。
インタビューは短く放映され、ワグネルの武装反乱には触れなかった。プーチン氏は24日に緊急のテレビ演説を行い、ワグネルの「武装蜂起」はロシアの存続そのものを脅かしていると述べていた。ワグネルはその後、首都モスクワへの進軍を停止した。
ロシア国防省は25日の定例会見でワグネルやその創設者エフゲニー・プリゴジン氏の行動に全く言及しなかった。
●ワグネル、存続か分断か「プーチン大統領はプリゴジンを許さないだろう」 6/26
ロシアで武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの存続に不透明感が増している。隣国ベラルーシへの事実上の亡命が決まった創設者プリゴジン氏の消息は丸1日不明で、指揮系統が揺らぐ可能性がある。戦闘員の処遇についても反乱に加わったかどうかで差をつけられ、組織が分断するリスクもはらむ。
プリゴジン氏はこれまで、定期的に戦況や自身の動向を通信アプリに投稿してきたが、24日午後8時半ごろの進軍停止を表明した音声メッセージを最後に止まっている。
一時制圧した南部ロストフナドヌーの軍司令部を車で出発する様子の動画も報じられたが、以降の行方が分かっていない。プリゴジン氏の報道担当者は25日、ロシアメディアに同氏と連絡が取れていないことを認めた。
ロシアのペスコフ大統領報道官は、プリゴジン氏のベラルーシへの安全な移動をプーチン大統領が保証したと述べたが、米CNN放送の元モスクワ支局長は「裏切り者であることに変わりはなく、プーチン大統領は決して許さないと思う」と指摘。ベラルーシで生命を脅かされる可能性があるとの見方を示した。
残されたワグネル戦闘員の処遇も焦点だ。ペスコフ氏は国防省との契約を結ぶことが可能だとした上で、今回の反乱に加わらなかったことが条件だと説明した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、一部の戦闘員はプリゴジン氏に忠誠を誓い組織に残ると分析。一方で、もしワグネルが消滅すれば「ウクライナで最も効果的な軍事力を失うことになる」と言い切った。
●「一日天下」のワグネルの反乱、プーチン体制終末の信号弾なるか 6/26
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の側近だったエフゲニー・プリゴジン氏率いるロシア傭兵集団「ワグネル」による「武装反乱」は一日で終わったが、1年半になるウクライナ戦争と長期化したプーチン独裁体制にかなりの打撃を与えるものとみられる。
「プリゴジンの乱」のニュースが流れた直後の24日(現地時間)、英国の「エコノミスト」は、プリゴジン氏が今回の反乱を通じて戦争の名分とクレムリン(ロシア大統領府)の権威に「風穴を開けた」と評した。さらに「短い内戦が戦争に爪痕を残すだろう。ロシア軍指導部内部の摩擦はすでに深刻だったが、いつにも増して悪化した」と指摘した。
実際、プリゴジン氏は23日、テレグラムで公開した映像で、プーチン大統領が今回の戦争の名目に掲げた「ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)がロシアを攻撃しようとしている」という主張に対し、「ロシア国防省が社会と大統領をだまそうとしている」と述べた。また、ロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶこの戦争が「他の理由から始まった」とし、「セルゲイ・ショイグ国防相が元帥になり(ロシアの)2番目の英雄勲章を得るために必要だった。ウクライナの非武装化や非ナチ化のために戦争が必要だったわけではなかった」と指摘した。今回の戦争の最大激戦地だったバフムトの戦闘を主導したプリゴジン氏が、ロシアが提示してきた戦争の目的を自ら否定したわけだ。生死をかけた戦闘に乗り出さなければならないロシア軍の士気に否定的な影響が予想される。一部の海外メディアは、さらに一歩進んでプーチン大統領のリーダーシップが大きく損なわれており、今回の事態が1999年末に始まった23年に及ぶプーチン体制の終末の序幕になる可能性があるという見通しまで示した。
さらに、ワグネルがしばらく戦線離脱を余儀なくされたことで、今月始まったウクライナの「大反撃」作戦の成否にも大きな影響を及ぼすものと予想される。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同日夜、国民に向けた演説で「今日世界はロシアのボス(プーチン大統領)が何も統制できないことを目撃した」とし、「1日で彼らは100万人単位の都市をいくつか失い、ロシアの都市を掌握し武器庫を奪取するのがどれほど容易なのかを皆に示した」と指摘した。ミハイロ・ポドリャク大統領府顧問も英国の「ガーディアン」とのインタビューで、「ウクライナの反撃で結局ロシアは分裂し、今私たちは内戦を見ている」とし、「プーチンが事実上権力を失ったことを意味する」という期待混じりの見通しを示した。ゼレンスキー大統領は同日、F16戦闘機の早期支援とウクライナ本土でクリミア半島を直接打撃できるATACMSミサイルの供与を再び求めた。
米国など西側では表面的にはこの事態が「ロシアの国内問題」という立場を示しながらも、戦争への影響に神経を尖らせている。米英仏の首脳は24日の緊急電話会談で、「ウクライナに対する変わらぬ支援意志」を確認しており、主要7カ国(G7)外相も電話会談で「ロシア情勢を含め国際社会が直面している緊急課題について議論」した。米国の政治専門メディア「ポリティコ」は、ジョー・バイデン大統領をはじめとする米国政府のリーダーたちはウクライナが「これまでにない進撃のチャンス」を掴んだという方向で考えが一致したと報じた。NATOは7月11日、リトアニアのビルニュスで開かれる首脳会議でウクライナへの支援に関する新たな合意を出す予定だ。
●ウクライナ、東部などで大規模攻勢か「全てで前進」主張 6/26
ワグネルの反乱による混乱でロシア軍の士気が低下するとの見方もでるなかウクライナは、東部などで大規模な攻勢をかけ前進したと主張しています。
東部バフムト近郊で撮影されたとされる最新映像には、ウクライナ兵がロシア軍の塹壕に入り激しい戦闘が行われている様子が映っています。
ウクライナのマリャル国防次官は24日、バフムトを含む東部の複数の方面で攻勢をかけ、「全てで前進している」と主張しました。イギリス国防省も25日「ウクライナ軍が東部と南部でここ数日、大規模攻勢をかけている」「過去2週間の経験から学び戦術を洗練させ、重要地域で徐々にではあるが確実に前進をしている」と分析しています。
またアメリカの戦争研究所は今回のワグネルの反乱について「ウクライナにいるロシア軍兵士の士気をほぼ確実に低下させるだろう」としています。
●ワグネル反乱でロシア軍に大きな被害か ウクライナ反転攻勢へ 6/26
ロシアで武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルは、首都モスクワへの進軍を中止して部隊を撤収させましたが、ワグネルとロシア軍との戦闘でロシア軍に大きな被害が出たともみられています。一方、領土奪還を目指すウクライナ軍は軍事侵攻をめぐるプーチン政権の混乱を、反転攻勢への追い風にしたいものとみられ、今後の動きが注目されます。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏は、国防省との確執を深めて武装反乱を起こし、首都モスクワに向けて部隊を進めましたが、その後、一転して「部隊を引き返させている」と表明し、占拠していたロシア軍の司令部からも部隊を撤収させました。
これに先立ち、ロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領はプリゴジン氏と協議を行ったと強調していて、ロシア大統領府の報道官も、プリゴジン氏は今後、ベラルーシに向かうという見通しを示しています。
プーチン政権にとっては、ワグネルとの本格的な武力衝突は回避されたかたちとなりましたが、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は24日、ワグネルの部隊がロシア軍のヘリコプターなどを複数撃墜したという情報について「ロシア空軍のパイロットなど13人以上の兵士が死亡した可能性がある」と分析しています。
その上で「ウクライナでの戦争が始まって以降、ロシア空軍にとって、最も多くの死者が出た日のひとつになった」と指摘しました。
一方、プリゴジン氏の武装反乱についてウクライナのゼレンスキー大統領は24日夜、「世界はロシアの指導者たちが何もコントロールできていないことを知った。完全な混とん状態であり、何も予測ができない事態だ」と述べ、プーチン政権が統制を失っていると強調しました。
こうした中、イギリス国防省は25日、領土奪還を目指して反転攻勢を進めるウクライナ軍について、戦術に磨きをかけていると指摘し、「ここ数日、ウクライナ軍は南部と東部の3つの戦線で再び大規模な反撃を展開している」と分析しています。
ウクライナ軍としては、軍事侵攻をめぐるプーチン政権の混乱を、反転攻勢への追い風にしたいものとみられ、今後の動きが注目されます。
米国務長官「深刻な亀裂を目の当たりに」
ロシアで武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルをめぐる一連の情勢について、アメリカのブリンケン国務長官は25日ABCテレビのインタビューで、ロシア国内で「非常に深刻な亀裂が生じていることを目の当たりにした」と述べました。
またブリンケン長官は「プリゴジン氏は、ロシアがウクライナに侵攻した前提そのものに疑問を呈し、プーチン大統領のリーダーシップに対して極めて公然と挑戦している」と指摘したうえで、プリゴジン氏が、これまでにも公然と批判し緊張が高まっていたため、今回の事態は驚きではないという認識を示しました。
そして「ロシアはウクライナ侵攻によって経済的、軍事的に弱体化し、世界における地位も大きく低下した。今回、内部での対立も生まれており、この先どうなっていくのかは推測することはできない」と述べたうえで、ウクライナ支援に集中していく方針を強調しました。またブリンケン長官はCBSテレビのインタビューで「ロシアの核兵器の態勢に変化は見られない」と述べる一方で、引き続き状況を注視していく考えを示しました。
●プリゴジン氏、露軍司令部を撤収後は沈黙保つ…「暗殺の可能性」 6/26
ロシアのプーチン政権に対する反乱を巡り、部隊を撤収させた民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏の動向が焦点となっている。露大統領府は隣国ベラルーシへ出国すると発表したが、ワグネル部隊が占拠した露南部ロストフ・ナ・ドヌーの露軍司令部を車で撤収した24日夜以降、プリゴジン氏は沈黙を保っている。
24日夜、プリゴジン氏はベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介に応じ、モスクワまで約200キロ・メートルに迫っていたワグネル部隊に撤収を命じた。露大統領府もこれに合わせ、プリゴジン氏の訴追取り下げやベラルーシ出国などで合意したと発表した。事実上の亡命になるとの見方がある。
合意には、反乱に参加しなかった戦闘員が露国防省と契約することも盛り込まれた。しかし、反乱は国防省への傘下入りを迫られたことが発端となったため、合意が履行されるかどうかは見通せない。ワグネルにはプリゴジン氏に忠誠を誓う戦闘員が多く、同氏は一定の影響力を保持するとみられる。米CNNは25日、「プーチン大統領は裏切り者を許さない」として、プリゴジン氏暗殺の可能性を排除できないとする専門家の見方を伝えた。
ベラルーシ国営通信ベルタによると、プーチン氏は25日、ルカシェンコ氏と電話会談した。プリゴジン氏への対応について協議した可能性がある。
●バイデン氏、ゼレンスキー氏とロシア情勢協議 揺るぎない支援表明 6/26
バイデン米大統領は25日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話協議し、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の反乱を巡るロシア情勢について話し合った。両首脳は、ロシアの侵攻を受けるウクライナの反転攻勢についても協議。バイデン氏は安全保障や経済、人道分野などでの米国の揺るぎない支援を改めて表明した。
米ホワイトハウスが発表した。ゼレンスキー氏は、反転攻勢のための支援強化を求めたとみられる。ゼレンスキー氏は電話協議後、ネット交流サービス(SNS)で「国際秩序が回復するまで、世界はロシアに圧力をかけ続けなければいけない」と述べた。
ブリンケン米国務長官は25日、複数の米テレビ番組に出演し、ウクライナの反転攻勢について「まだ初期段階だ。今後数カ月にわたって戦況を見守る必要がある」と強調。ロシア情勢に関わらず国際社会がウクライナ支援で結束する必要性を訴えていた。
●秩序回復へ「ロシアに圧力を」 バイデン氏と電話会談―ウクライナ大統領 6/26
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、バイデン米大統領と電話で会談し、民間軍事会社ワグネルが反乱を起こしたロシア情勢などを巡り協議した。通信アプリ『テレグラム』で明らかにした。その上で「国際秩序が回復するまで、世界はロシアに圧力をかけなければならない」と訴えた。
ゼレンスキー氏は電話会談で、米国製の地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」供与などの防空能力向上や、「戦闘機連合」構築への協力に謝意を表明。長射程兵器の支援など防衛協力の拡大についても話し合ったと表明した。
ホワイトハウスによると、バイデン氏は米国として「揺るぎない支援」を続けると伝達。「ロシアで最近起きた出来事」に関しても意見を交わしたという。
●中国外相とロシア外務次官が会談 6/26
中国の秦剛(チンカン)外相とロシアのルデンコ外務次官が25日、北京で会談した。中国の外務省が明らかにした。
外務省は声明で、両者は中ロ関係や共通の関心事である国際問題や地域問題について意見を交換したと説明したが、これ以上の詳細は明らかにしなかった。
声明では、ロシアで起きた民間軍事会社ワグネルの反乱やウクライナ情勢については触れていない。
中国政府は5月、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談のために特使を派遣した。中国は自身を和平の仲介者の立ち位置に置こうとしている。中国に対しては、緊密な関係にあるロシアが始めた戦争を終結させるための行動を起こしていないとして非難の声が出ている。
ロシアはウクライナに侵攻して以降、西側諸国による制裁を受けているが、中国当局によれば、中ロ間の貿易は今年1〜5月に938億ドル(約13兆4000億円)余りとなり前年同期比で40.7%増加した。
●プーチンはなぜウクライナ侵攻をやめないのか…ロシアのこだわる「謎の信念」 6/26
なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか? 
「そもそも」「なぜ」から根本的に問いなおす地政学の入門書『戦争の地政学』が話題になっている。
地政学の視点から「戦争の構造」を深く読み解いてわかることとは? 
地政学は役に立つのか?
ここ数年、「地政学」という言葉がタイトルに入った本が増えている。
そもそも、地政学は役に立つのだろうか。
〈地政学の視点を持つことは、構造的な要因で発生してくる傾向を知ることである。その有用性は、傾向を知ったうえで情勢分析を行うことにある。構造的な要因による傾向をふまえて分析を行うほうが、それをふまえずに分析を行うよりも、重要な要素を取りこぼすことなく適切な分析を行える蓋然性が高まる。その範囲において、地政学の視点は、有用である。〉(『戦争の地政学』より)
「構造」が生み出す「傾向」を知ることができるということだ。
ロシア・ウクライナ戦争と地政学の世界観の衝突
では、地政学の視点でロシアによるウクライナ侵攻を見てみると……。
〈有名になったプーチンの2021年の「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」論文によれば、そもそもロシア人とウクライナ人は民族的一体性を持っており、つまりウクライナはロシアの一部であるべきだとされた。翌年の軍事侵攻へとつながる2021年の重要論文は、汎スラブ主義と呼んでもいいし、ユーラシア主義と呼んでもいい、ロシア人を中核にした広域民族・文化集団がユーラシア大陸の中央部に存在する、という信念が、プーチンをはじめとするロシア人の思想の中に根深く存在していることを、あらためて示した〉(『戦争の地政学』より)
〈プーチンは、戦争の原因は欧米諸国側にある、と繰り返し述べている。確立された国際秩序に反した世界観を振り回し、その世界観を認めない諸国はロシアに罪深いことをしていると主張するのである。それは、確立された国際秩序を維持する側から見れば、身勝手なわがままでしかなく、認めるわけにはいかないものだ。〉(『戦争の地政学』より)
ロシア・ウクライナ戦争は、英米系地政学と大陸系地政学の世界観の衝突という性格を持っている――地政学の視点はそのことを教えてくれるのだ。 
●ワグネル、プリゴジン氏、プーチン氏、ショイグ氏……激しい対抗意識 6/26
結局、ロシアの民間雇い兵組織ワグネルのロシア政府に対する反乱は、24時間足らずで終わった。それを引き起こしたのは、嫉妬や対立関係や野心といったもののだった。こうした負の感情の危険な組み合わせは、数カ月前から、下手をすると数年前から醸成されていたのだろう。
今回の劇的な顛末(てんまつ)の主要人物は、ワグネルの創設者兼リーダーのエフゲニー・プリゴジン氏。そして、巨大なロシア軍のトップ、セルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長だった。
プリゴジン氏は、1980年代に組織犯罪に関与した罪で数年間服役した元犯罪者だ。ウラジーミル・プーチン大統領のおかげで莫大な富を得た、クレムリン(ロシア大統領府)の創造物といえる。
2014年に民間雇い兵組織ワグネルを創設して以来、プリゴジン氏は、ロシアの影響力を再び世界中に押し付けたいというプーチン氏の願望を実現するため、重要な手段を担ってきた。鍛え抜かれたロシアの元特殊部隊兵からなるワグネル部隊は、プーチン氏と同盟関係にあるシリアのバシャール・アル・アサド大統領を陰から支え、アフリカのマリではフランスの影響力を後退させるなどしてきた。
プリゴジン氏をめぐっては、ワグネルの指導者だと裏付ける証拠が山積していたものの、同氏は昨年まで一貫して、関与を否定していた。プリゴジン氏こそワグネルの運営者だと告発した英調査報道サイト「べリングキャット」のジャーナリスト、エリオット・ヒギンズ氏について、イギリスの裁判所に提訴したこともある。
ワグネルは何を言われても、いくらでも否定できる。そうした組織の性質がプーチン氏に気に入られ、プリゴジン氏は自らの権力基盤を構築できるようになった。そしてこの1年間で、ロシア軍や、ロシアを支配する安全保障分野のエリートたちに匹敵する存在になった。
暴力も汚職も野心も恐れない。そうした男が台頭したことはまさに、プーチン氏が過去24年間に築き上げた近代国家を象徴するものだ。
その力は増し続けたが、プリゴジン氏はプーチン氏のごく少人数の側近の間では、アウトサイダーであり続けている。腐敗し、怠けている、あるいはその両方だとみなすモスクワの政府幹部を、臆面もなく批判してきた。
特に、ロシア軍トップのゲラシモフ参謀総長と、プリゴジン氏と同様にアウトサイダーのショイグ国防相を、長年毛嫌いしている。
プーチン氏の主要顧問の大半は、同氏と同じサンクトペテルブルク出身者だ。一方でショイグ氏は、モンゴル国境近くの小さな村で生まれた。
ロシア軍を10年以上率いてきたが、軍人だったことはない。旧ソ連共産党内で昇進し、1990年代にロシア非常事態省のトップに就任した。
ライバル関係にある3人の間で、対照的に究極の陸軍インサイダーなのが、ウクライナ戦線の総司令官でもあるゲラシモフ参謀総長だ。1990年代にチェチェンで起きた血なまぐさい反乱を鎮圧するなどの経験を積み、ソ連崩壊後のロシア軍で最も長くトップを務めてきた。
ロシアの威力を世界に誇示する上でプリゴジン氏は重要性を増し、ワグネルは軍より高給でロシア軍から特殊部隊の精鋭を引き抜いていた。このことが、数年前から3人の間に緊張を生んでいたと考えられている。
しかし、軍のエリートに対するプリゴジン氏の憎悪が表面化したのは、ウクライナ侵攻開始後、とりわけ数千人のワグネル部隊が犠牲になったとされる、ウクライナ東部バフムートでの戦闘がきっかけだった。
侵攻前は約7万人が住んでいたバフムートを、なぜロシア軍が占領しようとしたのは不可解だ。軍事的重要性は限定的だと、大半の観測者はみている。正規のロシア軍が苦戦するのをしり目に、プリゴジンが勝利の手柄を主張するために企図した作戦だったのではないかという見方もある。
(その多くは刑務所から集められた)ワグネルの戦闘員数千人は、ウクライナ東部ソレダルをめぐる攻防で死亡した。その「ワグネル勝利」の「手柄」を、ショイグ国防相やゲラシモフ総司令官が「常に横取り」しようとすると、プリゴジン氏は非難し続けた。
自分より官僚的なライバル2人とは対照的に、プリゴジン氏はしばしば口汚く暴言を吐き、世界のメディアの注目を集める人物となった。複数の流出文書からは、ロシア国防省が同氏の発言や高まる人気にどう対抗すべきか迷っていたのがうかがえる。
しかし、プーチン氏は放置していた。
側近の対立をそのままくすぶらせておくのは、非常にプーチン氏らしいやり方だ。権力者同士の権勢争いをプーチン氏が長年容認してきたのは、そうすれば、どれかひとつの派閥がプーチン氏に直接対抗できるほど台頭するのを阻止できると、そう考えているからだ。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のダニエル・トリーストマン政治学教授は昨年、プーチン氏が作り上げたシステムにはクーデターを防ぐ「仕掛け」があるのだと書いた。「武装した部下を持つ政府幹部は、手を組んで陰謀を練り上げることができない。お互いをそこまで信頼していないからだ」という。
この体制では、ショイグ氏はワグネルにけん制され、ワグネルは軍に服従する。ピラミッドの頂点に君臨するプーチン氏は、盤上の駒を動かしてシステムのバランスを保つチェスの名手というわけだ。
他方でプリゴジン氏は常に、プーチン氏を直接批判することを避けてきた。その代わりに、2022年2月の侵攻開始以来ロシアが失敗を重ねているのは、プーチン氏が司令官たちにミスリードされたためだとほのめかしてきた。
軍事作戦の失敗は、自分の部下たちの責任だ――。雇い兵組織のボスにそう言わせられるのは、プーチン氏にとって便利な仕組みだった。侵攻が遅々として進まないことで、大統領は内々にショイグ氏とゲラシモフ氏を批判したのだろうとされている。
ところがこの数カ月、プーチン氏の長年の戦略にほころびが生じ始めたようだ。
プリゴジン氏は、バフムート攻略目前のワグネル部隊にロシア軍が弾薬提供を控えているのではないかと疑い、腹を立て、メッセージアプリ「テレグラム」にかなり常軌を逸した暴言を投稿するようになった。
ある動画では、数十人のワグネル戦闘員の遺体が横たわる場所で、「俺たちに弾薬を渡さないクズども、地獄で奴らの腹わたを食え!」などと激高した。
「ショイグ! ゲラシモフ! 弾薬はどこだ! この連中は志願兵として来てお前たちのために死んでいった。お前らが豪華なマホガニーのオフィスでぶくぶく太っていけるように」と、別の動画でも叫んだ。ワグネルを前線から撤収させてバフムートの戦いを放棄するぞと、ロシア政府を脅そうとしたのだとされている。
米空軍州兵ジャック・テシェイラ被告が流出させた米国防総省の機密文書によると、プリゴジン氏は今年2月22日にプーチン氏とショイグ氏との会議に呼び出されている。プリゴジン氏がワグネル戦闘員の遺体と共に映った映像を投稿したのと同じ日のことだ。
流出文書には、「プリゴジンが表立って(ショイグ氏を)非難したことと、それによってショイグとの間に緊張が生じたこと。この日の会談は、少なくとも部分的には、それに関係していたことはほぼ間違いない」と書かれている。
しかし、この会議は期待された結果を生まなかったようだ。
そのころモスクワではショイグ氏が、ライバルの影響力を決定的に失墜させるべく、計画の仕上げに入っていた。
ショイグ氏は時に軍事経験不足を批判されることもあるが、ロシアの政治システムをどうすれば自分の思い通りできるかという知識にかけては、右に出る者がいない。
ショイグ氏は1991年からロシア政府の要職に就き続けている。彼以上に長くプーチン氏の側近を務めている人物は少ない。
ショイグ氏は6月10日に計画を発表した。「志願部隊」に国防省と直接契約を結ぶよう要請し、国軍に統合して新たな法的地位を与えるという内容だ。
この法案では、志願部隊は7月1日までに契約する義務があるとしている。
発表ではワグネルは名指しされていなかったが、プリゴジン氏の影響力を低減させるためのものと広くとらえられた。そしてすぐに、プリゴジン氏の怒りを買った。
この時プリゴジン氏は、「ワグネルはショイグとはどんな契約も結ばない」、「ショイグは軍の編成を正しく統制できない」と述べた。
それでも、プリゴジンの頭の中には警鐘が鳴り響いたはずだ。政治駆け引きに熟練したショイグ国防相が、プーチン大統領の承認なしにワグネルの掌握に動くはずがないからだ。
プリゴジン氏はここで、理解したのかもしれない。自分は注目を得ようと何カ月も暴言を繰り返し「特別軍事作戦」を批判し続けてきたが、プーチン氏はついに、国防幹部の側につくことにして、長年の盟友を追い払おうと決めたのだと。
ショイグ国防相の発表から数日後、プーチン大統領はこの計画を承認した。モスクワの記者団に対し、国防省の動きは「理にかなった」もので、「可能な限り迅速に実行」しなければならないと話した。
プリゴジン氏が反乱を計画し始めたのは、おそらくこの時だと指摘する声もある。米シンクタンク戦争研究所(ISW)は、プリゴジン氏は「ワグネルを独立した部隊として存続させるには、ロシア国防省へ進軍するしかないと賭けに出た可能性がある」としている。
ワグネルはその後、ロシア軍に対する敵対行動を加速。ワグネル車両に向かって発砲したとして、ロシア軍の将校を拘束した。
複数の米メディアは、ワグネルの行動を数日間分析したアメリカの情報機関が、プリゴジン氏が何らかの行動を計画しているとバイデン政権に報告したと伝えている。
そして23日、プリゴジン氏はショイグ氏に対する最も過激な批判を繰り広げた。
テレグラムに投稿した動画でプリゴジン氏は、プーチン氏がこれまで展開してきた、北大西洋条約機構(NATO)やナチス勢力を排除するためにウクライナに侵攻したという偽りの主張を捨てた。ウクライナでの戦争はショイグ氏が勲章をもっと手に入れ、軍人として最高の名誉である「元帥になれるよう」開始されたのだと非難。「国防省は国民をだまし、大統領をだました」と怒りをあらわにした。
この日の夜、国防省がワグネルを制御下に置く計画を発表してから2週間もたたないうちに、プリゴジン氏とその部隊はウクライナを離れ、ロシア南西部のロストフ・ナ・ドヌを占領した。
プリゴジン氏が反乱を中止したのは、国防省トップの変更を含む譲歩をプーチン氏から取り付けたからだという憶測もある。だが、その真偽は不透明だ。
誰がショイグ氏とゲラシモフ氏の後任になるのかも、同様に不明確だ。
「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を持つセルゲイ・スロヴィキン将軍には昇進の可能性がある。スロヴィキン将軍はプリゴジン氏の盟友だが、今回の反乱には異を唱えた。ウクライナ侵攻では昨年に一時期だけ司令官を務めたが、民間人を標的としたその爆撃作戦はほとんど効果がなかった。
プリゴジン氏本人がどうなるのかは、また別の問題だ。
モスクワへの進軍を止めるというプリゴジン氏の決断はおそらく、ロシア国内の多くの強硬な戦争推進派を怒らせるはずだ。ISWは、ワグネル戦闘員の多くは、国防省と契約を結ぶ羽目になることを「不快に思うだろう」と指摘する。
プリゴジン氏が、その莫大な財産を保持できるのかも不明確だ。ロシアのメディアによると、サンクトペテルブルクのワグネル本部の家宅捜索では、4800万ドル(約68億円)相当の現金が見つかった。プリゴジン氏は、戦死する戦闘員の遺族への補償に使う資金なのだと説明していた。
プリゴジン氏の反乱は初期段階で阻止され、ショイグ氏とゲラシモフ氏は権力に対する大きな脅威を取り除いた。しかし、反乱を引き起こした状況は依然として残っている。
ロシアでは約10の民間軍事企業が活動しており、その忠誠の対象はさまざまな治安当局者や石油大手、富豪(オリガルヒ)などだ。
アメリカ国務省によると、ショイグ氏も「パトリオットPMC」という会社を経営している。この企業はウクライナで活動しており、ワグネルと直接競合しているという。
今となってはこうした民間軍事組織の忠誠心は疑われても当然だ。また、「ウクライナでの長期的な紛争に耐えられるのは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の政権よりも、プーチン政権の方だ」という前提も、今後は弱まるかもしれない。
モスクワに拠点を置く戦術・技術分析センターのアナリスト、ルスラン・プコフ氏は、「大統領自身を含むロシアのエリート層の一部は、長期戦はロシアに有利だと期待している(中略)しかしそれは、危険な幻想だ」と指摘した。
「戦争の長期化は、ロシア連邦にとって巨大な内政リスクをはらんでいる」と、プコフ氏は話した。
●プーチン氏の下で結束を、ロシア首相呼びかけ 反乱後初の要人発言 6/26
ロシアのミシュスチン首相は26日、エフゲニー・プリゴジン氏率いる民間軍事会社ワグネルの週末の武装蜂起を受け、国家が「安定への試練」に直面しているとし、プーチン大統領の下で結束を維持するよう呼びかけた。武装蜂起後、初の政府要人の公式発言となる。
ミシュスチン首相は政府の会議で「このような状況で重要なことは、わが国の主権と独立、国民の安全と幸福を確保することだ」とし、 「そのためには、社会全体の結束が特に重要である。われわれが一丸となって行動し、大統領を中心にあらゆる勢力の団結を維持する必要がある」と述べた。
また西側諸国がロシアを弱体化しようとしていると非難した。
●「脳死」状態から革新者へ、ウクライナの戦争で変化したNATO 6/26
ロシアのプーチン大統領がロシア軍にウクライナ侵攻を命じて以来、当然ながら国際社会の反応はいかに地上戦を最善の形で終わらせるかに集中している。すなわち戦車やミサイルシステム、大砲といった従来型の兵器の供与とウクライナ兵の訓練だ。
2019年にフランスのマクロン大統領から「脳死状態」と警告された組織としては申し分ない。
ロシアのウクライナ侵攻は戦場だけにとどまらない。北大西洋条約機構(NATO)当局者は侵攻以前から、ウクライナや西側諸国を標的とした、従来とは異なる非正規戦争が増加していることに気づいていた。戦争が勃発して以降、ロシア政府は偽情報やエネルギー規制、インフラへのサイバー攻撃を全て武器化して、戦争を正当化し、侵攻を進めてきた。
NATOで緊急安全保障問題を担当するデビッド・ファンウィール事務総長補はCNNに、「最も広義の兵器とは、強制的に相手に言うことを聞かせるための手段のことだ。頭に銃を突きつけたり、脅迫したり、偽情報を流して寝返るよう仕向けたり、あるいは各家庭へのエネルギー供給を止めるという手もある」と語った。
こうした兵器の標的は敵側、今回の件でいえばウクライナに限定されない。「ロシア側は、ソ連が崩壊した後NATOが東方拡大はしないと約束したと主張している。我々は長年にわたって誤りを指摘してきたが、ご存じのようにこうした主張は絶えることがない。この手の誤情報になびいてしまう人々が一定数いる」とファンウィール氏は言う。
この手の攻撃で実社会に大きな支障が及ぶ場合もあるとファンウィール氏は言い、昨年ドイツの風力発電所を襲ったサイバー攻撃に言及した。周知のとおり、エネルギー安全保障はウクライナの戦争でも重要な点で、ロシアはエネルギーを武器にして西側諸国に対抗している。
戦争が勃発して以来、西側諸国の主な焦点は防衛費だ。NATO加盟国の大多数で長い間、拠出額が国内総生産(GDP)比2%という目標値をはるかに下回っているのは周知の事実で、長いことブリュッセルのNATO本部を悩ませている。
こうした状況の理由としてよく聞かれるのが、ソ連崩壊後の西側諸国は冷戦に勝利したと感じ、現状に甘んじてしまったという意見だ。
「侵攻から遠く離れた国々は、離れていれば安全だと感じ、高まる安全保障への投資の必要性をこのまま無視し続けられると思っていた」と言うのは、ロンドンを拠点とする英シンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」のシニアフェロー、キア・ジャイルス氏だ。
「GDP比2%の防衛費拠出は、防衛費として信用できる最低基準だと考えられていた。自分たちが危機にあると感じていない斜に構えた国々は、ずいぶん前から拠出率2%で防衛費は十分だと主張していた。だが実際は、仮にすべての国が2%の水準を満たしたとしても、具体的な用途が明文化されていなかった。そのため、備えや効果のほどを知る由がなかった」とジャイルス氏は付け加えた。
こうした惰性もあって、西側諸国はロシアや中国をはじめとする敵国のサイバー攻撃や非通常型の脅威への対処が遅れた。この分野の専門家は、ロシアが他国の選挙への介入に成功したり、中国が新型コロナウイルスの流行時に西側諸国で偽情報を拡散するのに成功したりしても全く驚きはしなかった。
NATOの元公式の歴史家ピーター・キャディックアダムス氏は、現在戦火にない国が戦時中のようにふるまうのは極めて困難だと語る。実際に兵士を戦場に送り込んではいないが、攻撃的で見えにくいところに潜んでいる脅威に対応する場合、こうした戦争時の意識が重要だ。
「加盟国がすんなり拠出してくれれば、NATOもその分速やかに進められるのだが。平時の民主主義国が思考を切り替えて、敵国の非正規攻撃に反撃するのは非常に難しい。戦時中でなければ、国や国民が見えない部分に喜んで金を出すには限界があるだろう」と、キャディックアダムス氏はCNNに語った。
来月のNATO首脳会議で、スウェーデンが32番目の加盟国になるかどうかが注目される中、NATOもこの機会に、将来への備えを進めていることをアピールする予定だ。
公表が予定されているのは、23の加盟国とIT企業による共同プロジェクト「NATOイノベーション基金」だ。賛同する加盟国は有限責任パートナーとされ、企業の筆頭株主になることはない。そのため企業側は、非NATO加盟国も含む外部投資家との提携が可能になる。
近い将来、国家や国際社会の安全保障に必要不可欠となる技術の開発に、NATOほどの組織がなぜこれほど規制の緩いやり方をするのだろうか。
「GPSにせよインターネットにせよ、かつてイノベーションは防衛分野から発信されていた。だが今では、そうした世界も完全に様変わりした。もはやイノベーションは大企業や政府発信ではなく、スタートアップ企業や学術界から生まれている」(ファンウィール氏)
先のイノベーション基金は、差し迫る非正規攻撃への対策としてNATOが年内に発動する2番目の施策だ。今月19日には、「防衛イノベーションアクセラレータ(DIANA)」の1次試験運用がスタートしている。
今後10年の様相がどうなるにせよ、西側の備えを整えておこうという今回の措置は、果たして成功するだろうか。いずれにしても中国は敵意をさらにあらわにしているし、ウクライナ戦争がどのような形で終結するのか、国境を越えて飛び火するのかもまるで見えない。仮に終結したとしても、NATO加盟国がふたたび現状に甘んじる危険もあるかもしれない。
過去数十年、加盟国は「防衛および安全保障の問題について消え去ったふりをする余裕があった」が、現在NATOはその代償を払っているのだとジャイルス氏は主張する。ロシアのウクライナ侵攻で、「正規・非正規を問わず安全保障に関して、欧州は脅威にさらされていること、防衛に予算を投じる必要があることに疑問の余地がないことは証明されたはずだ」と同氏は言う。
今のところは政治家も防衛費の増額と防衛強化を約束しているが、ウクライナの戦争をもってしても、重要性を国民に納得させるには「発想の転換が必要だ。ほとんどの西側の政治家の手には負えないようだ」(ジャイルス氏)
キャディックアダムス氏は、NATOがウクライナをきっかけに、実際に参戦しなくとも同盟が効果的に機能することを証明できたと指摘した。おかげで加盟国も、今後は以前より快く防衛費を拠出できるだろう。
「基本的に、ウクライナによってNATOの非正規攻撃対策の実験に弾みがついた。ロシアと一戦交えずとも、NATOがやりたくても政治的にできなかったことがウクライナを通じて実践できた。戦争の挑発やドイツの消極性についても、軍事面でいえば戦闘能力という点でも、多くの疑問に答えを出している」(キャディックアダムス氏)
過去のマクロン大統領の「脳死」発言が出てきた背景は忘れられがちだ。プーチン氏の行き過ぎた行動にNATOが不意を突かれたことからも、マクロン大統領の見方にはいくらか信憑性(しんぴょうせい)があると言えるだろう。
だがウクライナの戦争に対する西側の反応で最も予想外かつ歓迎されたことのひとつに、NATOの結束がある。加盟国の国内政情が比較的安定しているため、NATOは新しいことに挑戦し、それに予算を投じることができる。
とはいえ、当局者らはこうした合議制のアプローチが永遠に続かない可能性も認識している。一部の当局者が最も恐れているのは、戦争の長期化で国際社会の関心が失われかもしれないという不確定要素ではない。NATOの加盟国全てでウクライナ情勢が争点となる選挙が行われる可能性があり、小さいかもしれないが米国の24年大統領選挙でも争点となっている。
●「訓練不足にも程がある」ロシアが失った「戦車の数」はウクライナの7倍以上 6/26
昨年2月24日の侵攻開始以来、ロシアとウクライナの双方で膨大な数の兵器と人命が失われてきた。
被害の全貌を正確に把握するのは困難だが、ウクライナ軍の6月21日の発表によれば、ロシア軍が開戦以降に失った戦車の数は4006台。
多くの軍事専門家も、ロシア軍の指揮系統の混乱や訓練不足を考慮すれば、この数字はおおむね実態を反映していると指摘する。
オランダの軍事情報サイト、オリックスはロシア軍の戦車の損失を2054台と推定。ただし、これは目視で確認されたもののみの数字であり、最低ラインとみられる。
一方、オリックスによれば、ウクライナ軍が失った戦車は550台にとどまっているという。
   4006台 ウクライナ軍当局が推定するロシア軍の戦車の損失
   2054台 軍事情報サイトが推定するロシア軍の戦車の損失
   550台 軍事情報サイトが推定するウクライナ軍の戦車の損失
●ウクライナ軍、バフムトで前進…ワグネル反乱「プーチン体制解体の第1段階」 6/26
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は26日、東部ドネツク州の要衝バフムト周辺で週末に攻勢を仕掛け、ウクライナ軍が1〜2キロ・メートル前進したと発表した。マリャル氏はSNSで「戦術的成功を収めた」と述べた。南部で17平方キロ・メートルを解放し、大規模な反転攻勢開始以来、計130平方キロ・メートルを奪還したという。
英国防省は25日、ウクライナ軍は戦術の練度を上げているとの分析を示し、ここ数日で「重要な地域で徐々に前進している」と指摘した。26日の分析でも、バフムト周辺で攻撃に勢いがあるとして、バフムトの「北と南の両側面で前進した」との見方を示した。
ウクライナ軍は24日、多方面で反攻を実施したことを明らかにしている。ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が、プーチン政権に反旗を翻した露国内の混乱に乗じた反転攻勢とみられている。
ワグネルによる反乱の影響について米CNNは26日、「ウクライナに駐留する露軍兵士の士気はすでにもろく、多くは何のために戦っているのか自問することになるだろう」と指摘。「ウクライナにとっては追い風でしかない」と分析した。
ウクライナのオレクシー・ダニロフ国家安全保障国防会議書記は25日、「プーチン体制解体の第1段階だ」との認識を示した。ロシアではプーチン露大統領に不満を持つグループが形成されているとの見解を示し、プリゴジン氏の反乱は「氷山の一角にすぎない」と述べた。

 

●プーチン大統領 ワグネル戦闘員に国防省と契約結ぶ選択肢示す 6/27
ロシアのプーチン大統領は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏による武装反乱を激しく非難する一方、ワグネルの戦闘員たちに対しては兵士として国防省との契約を結ぶ選択肢を示すとともに、同盟関係にある隣国ベラルーシに行けば、安全を保証すると主張しました。
ロシア国営テレビは、26日夜、日本時間の27日4時すぎから、プーチン大統領の演説を放送しました。
この中でプーチン大統領は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏による武装反乱を念頭に、「武装反乱はいかなる場合でも鎮圧される。反乱を組織した者たちは、国や国民を裏切り、犯罪に引きずり込んだ者も裏切った」と激しく非難しました。
一方で、ワグネルの部隊が一転して撤退したことに対し、「唯一、正しい決断を下したワグネルの兵士たちに感謝する。流血には至らず、最後の一線で立ち止まった」と述べました。
そのうえで、ワグネルの戦闘員たちに対し、「国防省やほかの機関と契約を結ぶことでロシアに奉仕し続ける機会や、家族のもとに戻る機会もある。望む人は、ベラルーシに行くことができる。私との約束は果たされる」と述べ、兵士として国防省との契約を結ぶ選択肢を示すとともに、同盟関係にある隣国ベラルーシに行けば、ワグネルの戦闘員の安全を保証すると主張しました。
そして、今回の武装反乱をめぐって、プーチン政権とプリゴジン氏との仲介役を担ったとされるベラルーシのルカシェンコ大統領に対し、「平和的な解決への努力と貢献に感謝する」と述べ、謝意を示しました。
また、プーチン大統領は、「ロシアの敵であるウクライナのネオナチや、これを支援する西側諸国などが望んでいたのは、ロシア兵が互いに殺し合い、最終的にはロシアが負け、われわれの社会が分裂することだった」などと主張し、ウクライナや欧米側を強くけん制しました。
また、ロシア大統領府はプーチン大統領が26日夜、日本時間の27日朝、ショイグ国防相のほか、検事総長や内相、FSB=連邦保安庁の長官など治安機関のトップを集めた緊急の会議を開いたと発表しました。
会議の冒頭、プーチン大統領は、「ここ数日のあなたたちの業務の遂行に感謝するとともに、われわれが直面している現状と課題について話しあうために集まってもらった」と述べ、プリゴジン氏による武装反乱をめぐって協議を行ったものとみられます。
●プーチン氏が演説、「武装反乱はいずれにせよ鎮圧」 6/27
ロシアのプーチン大統領は26日夜、国民向けに演説を行い、「武装反乱はいずれにせよ鎮圧されていただろう」と強調した。民間軍事会社ワグネルによる反乱に触れて述べた。
「市民の連帯が明らかにしたように、内部の反抗を組織するいかなる脅迫や試みも最後には敗北する」(プーチン氏)
ロシア国営メディア、タス通信によると、プーチン氏はモスクワのクレムリン(大統領府)の中で演説した。
演説は事前に録画したものとみられる。
プーチン氏が直近で国民向けの演説を行ったのは24日午前、ワグネルの部隊とそれを率いるエフゲニー・プリゴジン氏がモスクワに向けて進軍を開始した時だった。
演説の中でプーチン氏は、ワグネルの戦闘員らが「正しい判断」を下し、前進を停止したことに感謝を表明した。それにより同胞が相争う流血の事態が最終的に回避されたとした。
その上でワグネルの戦闘員らに対し、国防省や他の法執行機関と契約を結んで引き続きロシアに奉仕するか、家族と友人の下に帰る機会があると説明。希望すれば隣国のベラルーシにも行けると述べた。
演説の間、プーチン氏がプリゴジン氏に直接言及することはなかった。プリゴジン氏は反乱を停止する取り決めの中で、ロシアを出てベラルーシに向かうことで合意したとされる。
プーチン氏による26日の演説の長さは5分間だった。
一方、ロシア大統領府のぺスコフ報道官は同日夜、プーチン氏が検事総長や内務相、国防相、ロシア連邦保安局(FSB)のトップらと会合を開いたと明らかにした。国営メディアのRIAノーボスチ通信が報じた。
●反乱は「失敗する運命に」 プーチン氏、国民向けに演説 6/27
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は26日、先週末に起きた民間軍事会社ワグネル(Wagner)の反乱を受け国民向けにテレビ演説を行い、ロシアを脅迫したり、騒乱をあおったりする試みは必ず失敗すると警告した。
プーチン氏は「市民の団結により、脅迫や内乱の試みはいかなるものであれ失敗する運命にあることが示された」と指摘。国民の「忍耐と団結、愛国心」に謝意を表明した。
また、ワグネルの蜂起を受け、「事態が発生した時点から私の命令に基づき、大規模な流血を回避するための措置が取られた」と強調した。
プーチン氏は、「同胞殺しは、ロシアの敵であるキエフ(ウクライナの首都キーウ)のネオナチと西側の支援者たち、さらにあらゆる類いの国家反逆者がまさに望んでいるものだ。彼らはロシア兵に殺し合いをさせたがっている」と主張した。
反乱に参加した者に関しては、正規軍に入隊するか、「ベラルーシに行く」ことを選べると述べた。
●UAE大統領、ロシア指導部を全面支持 プーチン氏と電話会談 6/27
ロシアのプーチン大統領はアラブ首長国連邦(UAE)大統領と電話会談を行い、民間軍事会社ワグネルによる武装蜂起について協議した。ロシア大統領府が26日、明らかにした。
ロシア大統領府は、UAE大統領を務めるアブダビ首長国のムハンマド皇太子はワグネルの武装蜂起に関連したロシア情勢に関心があったとしており、「ムハンマド皇太子は包括的な情報を得た上で、ロシア指導部の行動を全面的に支持すると表明した」とした。
●ワグネル反乱でロシア人パイロット死亡、プーチン氏が認める 6/27
ロシアのプーチン大統領は26日、民間軍事会社ワグネルによる先週末の反乱で死亡したパイロットに哀悼の意を表明した。ワグネル部隊によって複数の航空機が撃墜されたという軍事ブロガーの情報を確認する形となった。
プーチン氏は反乱収束後初めて行った国民向けの演説で「死亡した英雄のパイロットらの勇気と自己犠牲がロシアを破滅的な結果から守った」と述べた。
死亡したパイロットや撃墜された航空機の数について公式の情報は明らかにされていない。
通信アプリ「テレグラム」でロシアの軍事活動を伝える複数のチャンネルは24日、反乱でロシア人パイロット13人が死亡したとの情報を投稿した。
ロイターはこの情報を独自に確認できていない。どのような状況で航空機が撃墜されパイロットが死亡したのかも不明だ。
プーチン氏は演説で、流血を避けるために反乱を意図的に長引かせたと述べたが、死者が出たことについてはワグネルを非難した。
有力議員のレオニード・スルツキー氏は「パイロットを殺害した反逆者を許すべきでない」とし、「最も厳しい罰を受けるべきだ」と述べた。
●「流血避けるよう直接指示していた」「政権転覆が目的ではない」 6/27
ロシアのプーチン大統領は26日、国民向けにテレビ演説を行い、民間軍事会社ワグネルによる武装反乱への対応について、国民向けにテレビ演説を行い「多大な流血を避けるよう私が直接指示したが、間違いを犯した者に理解させるのに時間がかかった」「反乱はいずれにしても鎮圧されていただろう」などと強調した。
プーチン氏は「市民の団結によって、脅迫や内乱の試みはいかなるものも失敗に終わる運命にあることが示された」とし、国民の「忍耐、団結、愛国心」に感謝した。ワグネルの戦闘員についても、ほとんどは愛国者だとし、流血を回避したことに感謝。希望すればロシア軍と契約することも、同盟国ベラルーシに行くこともできるなどと続けた。武装反乱を指揮した創設者プリゴジン氏の名前は一切出さなかった。プリゴジン氏を説得したとされるベラルーシのルカシェンコ大統領に対しては、平和的解決への貢献に感謝した。
プーチン氏の演説の前には、所在不明になっているプリゴジン氏が、約2日ぶりにSNSに音声メッセージを投稿し、反乱について「政権を転覆させるために行進したわけではない」などと主張した。首都モスクワへの進軍を停止したのは、流血を避けるためだったと説明。反乱の目的については、国防省によるワグネル解体を避けるためと、多くの過ちを犯した人々の責任を追及することだったとした。ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長を指しているとみられる。自分の現在の所在については、明らかにしていない。
プリゴジン氏は進軍停止を表明した後に、発信が途絶えていた。制圧した南部軍管区司令部からの撤収映像が確認された後は、所在が分からなくなっている。ペスコフ大統領報道官は、プリゴジン氏は罪に問われず、同盟国ベラルーシに向かうと説明していた。
●プーチン大統領演説「首謀者らは国と国民裏切った」 6/27
ロシアのプーチン大統領は民間軍事会社「ワグネル」による反乱収束後初めて演説し、「首謀者らは国と国民を裏切った」と糾弾しました。
プーチン大統領は26日、テレビ演説で「武装反乱はいかなる場合も鎮圧される。首謀者らは国と国民を裏切った」と厳しく非難しました。
「首謀者」が誰かは明言せず、「ワグネル」の創設者プリゴジン氏の名指しもしませんでした。
一方、モスクワへの進軍を前に撤退したことについては「唯一正しい決断を下した兵士たちに感謝する。流血の事態には至らず、最後の一線で立ち止まった」と語りました。
ワグネルの戦闘員に対しては、「ロシア国防省と契約して任務を続けるか、ベラルーシに行くかを選択できる」と述べ、身の安全が保証されることを示唆しました。
●ロシア大統領、プリゴジン氏の「裏切り」非難 ワグネル活動禁止も 6/27
ロシアのプーチン大統領は26日夜(日本時間27日未明)、民間軍事会社ワグネルによる23〜24日の武装反乱後初めて国民向けに演説した。この中で、創設者プリゴジン氏の名指しは避けつつも「反乱の首謀者は国を裏切った」と非難し、ワグネルの活動禁止に言及。一方で、国民の「忍耐、団結、愛国心」が混乱を収束させたと評価した。
その上で「自分の命令により、さらなる流血を回避する措置が講じられた」と強調した。プーチン政権下で初の「軍事クーデター」の試みと受け止められる中、求心力の低下に歯止めをかける思惑がありそうだ。
ワグネルが南部ロストフナドヌーを占拠したり、首都モスクワに向けて進軍したりする中、プーチン政権はプリゴジン氏らの「身の安全」と「免責」を保証する代わりに、反乱部隊を撤退させることで妥結した。プーチン氏は演説で、仲裁したベラルーシのルカシェンコ大統領に謝意を示した。
反乱は大規模な衝突には至らなかったものの、ワグネルが交戦でロシア空軍機を撃墜したと伝えられた。プーチン氏は、パイロット死亡の事実を確認した上で「勇気と自己犠牲が、ロシアを悲惨な壊滅的結末から救った」とたたえた。
ウクライナ侵攻に協力したワグネル戦闘員についても、大半は「愛国者」であり、反乱に利用されただけだと指摘。▽ロシア国防省と契約して傘下に入る▽退役する▽ベラルーシに渡る―という三つの選択肢を提示し、国内でワグネルの活動を認めない考えを表明した。
これに先立ち、プリゴジン氏も26日、撤退後初の音声メッセージを発表。反乱は「抗議のためであり、政権転覆のためではない」と自らの行動を正当化した。ルカシェンコ氏がワグネルの活動継続に手を差し伸べたと明かし、ベラルーシに拠点を移す可能性を示唆した。ただ、自身の所在は明らかにしなかった。
●「流血回避の決断下したワグネルに謝意」プーチン大統領 反乱後初めて演説 6/27
ロシアのプーチン大統領は、民間軍事会社ワグネルを率いるプリゴジン氏の反乱後、初めてとなる演説を行い、全面的な衝突が回避されたことを受け、「正しい決断をしたワグネルに感謝する」と述べました。
プーチン大統領は26日夜、国営テレビを通じて演説を行い、プリゴジン氏を念頭に「反乱の首謀者たちは祖国と国民を裏切った」と改めて非難しました。
一方で…。
ロシア プーチン大統領「唯一の正しい決断を下したワグネル部隊の兵士たち、指揮官たちに感謝する。彼らは兄弟殺しによる流血に走らず、最後の一線で止まった」
ワグネルについては「圧倒的多数が愛国者だ」とし、モスクワへの進軍をとめたことで全面的な衝突が回避されたことを受け、「正しい決断を下した」と述べました。
そして、ワグネルの戦闘員に対し、「国防省と契約を結んでロシアに残ることもできるし、希望者はベラルーシに行くこともできる」としています。
また、「私の直接の指示により、多くの流血を避けるための措置が講じられた」と強調。今回の対応における自らのリーダシップをアピールしています。
プーチン氏は演説後、ショイグ国防相のほか治安関係の政権幹部らを集めた会議を開き、今回の対応に関して協議を行いました。
●追いつめられたプーチンが「欧州最大規模のザポリージャ原発を攻撃か」 6/27
欧州最大級のザポリージャ原発は、昨年3月以降ロシア軍による実質的支配が続いている。ウクライナの反転攻勢を恐れるプーチンは、チョルノービリ、福島を超える最悪の放射能事故を起こすのか。
なぜダムを破壊したか
「ダム周辺は肥沃な農業地帯で、ブドウやメロンの産地として知られていました。毎年、9月の収穫期には緑色のブドウがそこかしこで実っている本当に美しい土地だったのです。そんな果物畑が今回のダム決壊による洪水で、使い物にならなくなってしまった……。復興には10年以上かかるともいわれています。このような重大な環境破壊は、決して許されるものではありません」
6月6日、ウクライナ南部ヘルソン州の「カホフカダム」が爆破によって決壊。当日、ダム付近に滞在していたセルゲイ・コレスニチェンコ氏(41歳)は、そう怒りを露にした。
決壊によって発生した洪水は600平方kmに及び、約1万4000戸が浸水。ウクライナ当局によると、約8000人が避難し、70万人が飲料水を必要としている状況が続いているという。
ウクライナ、ロシア双方が「ダム破壊は相手の攻撃によるものである」と主張している。が、ロシア研究が専門の拓殖大学教授・名越健郎氏は「ウクライナ側がダム破壊を実行するとは思えない」と語る。
「6月4日からウクライナが反転攻勢を始め、その2日後にダム破壊が起きています。ウクライナは4つの戦線で進撃を続けていると分析されていますが、最終的には、現在ロシア軍に占領されている交通の要所・メリトポリを奪還し、補給線を寸断することが目的と見られています」
ウクライナ軍がメリトポリに到達するためには、カホフカダムがあるヘルソン州を進行せざるを得ない。そこで、ロシア軍はダムを爆破したと見られているのだ。
「ロシア側も、ウクライナの狙いは十分に理解している。ウクライナ軍をヘルソン州側から進撃させないためにダムを決壊させ、周辺部を浸水させることでメリトポリ方面の防御を固めようと考えたのでしょう」(同前)
カホフカダム爆破は今後の戦局を大きく左右するだけでなく、欧州、さらには世界全体を脅かす重大なリスクもはらんでいる。
ウクライナ南部にある「ザポリージャ原発」は、6基の原子炉を備える欧州最大級の原発で、総電気出力量は600万キロワット、ピーク時にはウクライナの全電力の5分の1を供給していた。そのザポリージャ原発が冷却水を取水していたのが、爆破されたカホフカダムだったのだ。
冷却水喪失の現実味
NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長が言う。
「ザポリージャ原発は昨年3月からロシア軍が実質的に支配しており、現在は稼働を停止しています。正確に言うと、6基のうち5基が冷温停止で、1基が高温停止の状態です。高温停止というのは、原子炉が200〜350℃の熱を保っている状態。1基だけ高温停止にしているのは、原発内や原発近くにあるエネルゴダールという街に熱を供給するためです。日本と違い、原発からの排熱を所内や地域の熱供給に使っているのです」
稼働が止まっていても、当然、原発には冷却水が必要不可欠だ。松久保氏が続ける。
「冷温停止状態であっても燃料から熱が出ていることは間違いなく、常に冷却を続ける必要があります。ロシアもウクライナも『貯水池に十分な冷却水があるため当面は問題ない』と発表していますが、貯水池に水がなくなったときはどうなるのか。早急に代替水源を確保する必要があります」
'11年の東日本大震災の際に発生した福島第一原発事故の際も、冷却水問題は起きている。4号機の使用済み燃料プールに冷却水喪失の恐れがあり、放射性物質大量放出の危機が顕在化したのだ。
「冷却ができなくなれば、メルトダウン(炉心溶融)が起き、放射性物質が大気に放出されてしまう危険性がある。高温停止の5号機は冷却までに時間がかかるため、メルトダウンの可能性はさらに高まります。ウクライナの原子力規制当局はダム爆破後の6月8日、一刻も早く5号機を冷温停止にするよう指示しましたが、ロシア側に停止する動きは見られません」(同前)
ザポリージャ原発を巡っては、さらに最悪のケースも考えられる。プーチン大統領の指示のもと、ロシア軍が自ら原発を攻撃することもありうるのだ。
実際、ウクライナ国防省情報総局は5月26日、
「ロシア軍が制圧下にあるザポリージャ原発を自ら攻撃し、放射性物質が漏れたと国際社会に訴えてウクライナの反攻を阻止する計画を立てている」
との声明を出している。
防衛省防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏が「最悪のシナリオ」をこう予想する。
「ロシア軍はザポリージャ原発周辺にロケット砲部隊を配備し、原発を盾にウクライナ軍へ一方的な攻撃を続けています。これはウクライナ軍としては悩ましい問題。ロシア軍からザポリージャ原発を取り戻すために、隣接するドニプロ川から特殊部隊を潜入させる可能性はあります。その銃撃戦のなかで流れ弾が原発の建物に当たるリスクがあります。考えたくはないですが、撤退を余儀なくされたロシア軍が、重要拠点を敵に渡さぬため、原発を攻撃して破壊するという事態も起こりかねません」
●ワグネルの反乱、プーチン氏に対する「前例のない挑戦」 英外相 6/27
英国のクレバリー外相は26日、議会で、ロシアの民間軍事会社ワグネルによる反乱について、ロシアのプーチン大統領に対する「前例のない挑戦だ」と述べた。
クレバリー氏は「ロシア政府のうそはプーチン大統領自身の部下のひとりによって暴かれた」と述べた。ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏による反乱は、プーチン大統領の権威に対する前例のない挑戦であり、ロシアの戦争支持に亀裂が生じつつあるのは明らかだとした。
クレバリー氏は、英政府がワグネルの反乱について、「ロシアの内政問題」ととらえていると語った。
クレバリー氏は、ロシアの指導層についてはロシア国民だけの問題だとした上で、プーチン大統領の部下がウクライナでの戦争に関するプーチン氏の主張を公の場で否定したことに注目すべきだと述べた。
●「政権転覆が目的ではない」プリゴジン氏が音声メッセージ 6/27
ロシアでの反乱後、動静が途絶えていた民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が、新たな音声メッセージで「政権転覆が目的ではない」と主張しました。
プリゴジン氏「われわれは抗議の意思を示すために行進したのだ。政権の転覆が目的ではなかった」
プリゴジン氏は26日、およそ2日ぶりにSNSに音声メッセージを投稿。反乱の目的について「ワグネルの解体を止めさせ、ウクライナでの軍事作戦において素人のやり方で多くの過ちをおかした人物の責任を問うことだった」と主張しました。
ロシア プーチン大統領「唯一の正しい決断を下したワグネル部隊の兵士たち、指揮官たちに感謝する。彼らは兄弟殺しによる流血に走らず、最後の一線で止まった」
プーチン大統領は先ほど行った演説で、今回の反乱後、全面的な衝突が回避されたことを受け、「正しい決断をしたワグネルに感謝する」と述べました。
一方、アメリカのバイデン大統領は、プリゴジン氏の反乱への西側諸国の関与を否定。「結末がどうなるかはまだわからない」と指摘し、「どんな状況が次に起きても同盟国などと緊密に連携して対応する」との考えを示しています。
●ワグネル反乱、ロシアの戦略ミスや脆弱性明示=NATO事務総長 6/27
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は26日、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏が週末に起こした武装蜂起について、ロシア指導部の弱さとウクライナに戦争を仕掛けたクレムリン(ロシア大統領府)の戦略ミスの規模を浮き彫りにしたという認識を示した。
ストルテンベルグ事務総長は記者団に対し「週末に起きたことはロシア内部の問題だが、プーチン大統領が違法なクリミア併合とウクライナとの戦争で犯した大きな戦略的ミスを改めて明示した」と語った。
その上で「無論これは弱さの証しだ」とし、「ロシアの体制が脆弱であることを示している。しかしロシアの問題であり、NATOが介入することはない」とも述べた。
プリゴジン氏率いるワグネルの部隊はウクライナから国境を越え、ロシア南部ロストフナドヌーに入り、その後首都モスクワに向け進軍した。プリゴジン氏は、ロシア軍に「徹底的に」対峙する用意があるとしていた。その後「流血の事態になろうとしていることの責任を理解し、部隊を野営地に戻す」とし、モスクワへの進軍を停止。プリゴジン氏はベラルーシに移動することになった。
ストルテンベルグ氏はまた、ロシアがベラルーシに戦術核兵器を配備したことを改めて非難。「ロシアが核兵器の使用を準備しているという兆候は見られないが、NATOは警戒を続ける」とし、ベラルーシの状況を監視していると明らかにした。
さらに「ウクライナ支援を巡りロシアがわれわれを威嚇できると考えるなら、それは失敗するだろう」とし、「ウクライナが必要とする限り、われわれはウクライナとともに立ち向かう」とし、NATOによるウクライナへの支援継続を確約した。
●ワグネル蜂起、プーチン氏の指導力問う「新たな動き」=米国務省報道官 6/27
米国務省のミラー報道官は26日、ロシアの民間軍事会社ワグネルによる週末の武装蜂起について、ロシアのプーチン大統領のリーダーシップが直接問われたのはこれまでにない動きだったとの見解を示した。
ミラー報道官は記者団に対し、エフゲニー・プリゴジン氏が率いるワグネルによる週末の武装蜂起が頓挫した後も、ロシア情勢はダイナミックな状態が続いており、プリゴジン氏の所在は現時点でもわかっていないと指摘。「プーチン大統領の指導力が直接問われるのは、確かに新たな動きだった」とし、プリゴジン氏が直接的に(ウクライナでの)戦争の根拠を問い、戦争が本質的に嘘に基づいて遂行されていると訴えたのは新しいことだった」と述べた。
その上で、今回の武装蜂起を受け、ワグネルが進出した国は不安定になるとの米政府の懸念が強まったと指摘。進出先のウクライナやアフリカ諸国でワグネルが今後どうなるかは把握していないとしながらも、ワグネル、もしくはワグネルの後継組織がウクライナやアフリカ諸国で活動を続ける限り、米政府は責任を追及するための行動を取り続けると語った。
●ロシアのルーブル、ワグネルの反乱で一時急落…約1年3か月ぶりの安値 6/27
26日の外国為替市場で、ロシアの通貨ルーブルが一時、対ドルで約1年3か月ぶりの安値をつけた。ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がプーチン政権に対する反乱を起こしたことで、政治情勢が不安定化するとの見方が強まり、ルーブル売りが拡大した。
ロシア中央銀行(ロイター)ロシア中央銀行(ロイター)
金融情報サービス、リフィニティブによると、26日のルーブル相場は一時、2022年3月下旬以来となる1ドル=87ルーブルまで急落した。前週末の終値は1ドル=83ルーブル台だった。
ルーブルはロシアのウクライナ侵略開始直後の22年3月7日に、一時1ドル=150ルーブルをつけた。足元では、侵略開始直前の1ドル=80ルーブル前後の水準まで戻っていた。
●米、情勢判断は時期尚早 バイデン大統領 6/27
バイデン米大統領は26日、ロシアの民間軍事会社ワグネルによる武装反乱について「事態の行方について最終判断を下すのは時期尚早だ」と強調した。「さまざまなシナリオに備えるよう国家安全保障会議(NSC)に指示した」と明らかにした。反乱を巡りバイデン氏が公式に見解を示すのは初めて。ホワイトハウスで記者団に語った。
バイデン氏は反乱について「ロシアの体制内の闘争だ」と指摘し、米国や北大西洋条約機構(NATO)は関与していないと強調した。「プーチン大統領に欧米やNATOに責任を転嫁させてはならない」と訴えた。
NSCのカービー戦略広報調整官も記者会見で「米国は体制転換を政策に掲げていない」とし、米国はワグネルの反乱と無関係だとロシア側に直接伝えたと明らかにした。反乱がウクライナ情勢に与える影響は現時点で不透明だと繰り返した。
バイデン氏は、反乱後のウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で「ロシアで何が起きようとも、米国はウクライナを支援し続けると伝えた」と説明した。英仏独など同盟国の首脳らともオンラインで会談し、連携して対処することで一致したと表明した。
●「全方面で前進」 ウクライナ大統領、東・南部の前線を訪問 6/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、国民向けのビデオ演説で、ロシア軍の侵攻に対する反転攻勢について「全ての方面で前進した。幸せな日だ」と述べ、戦果を誇示した。26日には戦闘が続く東・南部の前線を訪問。兵士らを慰問する様子を映した動画をSNSに投稿した。
ゼレンスキー氏は具体的な戦果を明らかにしなかった。ただ、マリャル国防次官はこれに先立ち、通信アプリ「テレグラム」で、ウクライナ軍が新たに東部ドネツク州の集落を奪還したと表明していた。
ゼレンスキー氏は26日、ドネツク州の前線を訪れて激戦地バフムトで戦った部隊と面会し、司令官から報告を受けたほか、兵士らに勲章を授与。「われわれの国、主権、家族や子供たちを守ってくれて感謝する」と述べた。ガソリンスタンドに立ち寄り、兵士らと記念撮影する様子も公開された。
南部の前線付近で撮られたとされる動画でも兵士らを表彰し、一人一人と握手。SNSへの投稿には「君たちが自分の命を守ったら、ウクライナを守ることになる。体に気を付けて」と書き添えた。
●ウクライナ支援へ基金増額 EU、5480億円  6/27
欧州連合(EU)は26日のルクセンブルクでの外相理事会で、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの軍事支援に使える基金「欧州平和ファシリティ」の規模を35億ユーロ(約5480億円)増額し、120億ユーロに拡大することで合意した。
支援継続のため増額が急務となっていた。EUの外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は「軍事支援を提供し続けるための資金が再び確保された」と述べた。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 27日の動き 6/27
林外務大臣「日本人の安全確保に万全期す」
林外務大臣は記者会見で「ロシアに滞在する日本人に対し、従来からウクライナとの国境周辺には退避勧告を、そのほかの全土には渡航中止勧告を出していて、商用便による出国の検討を呼びかけている。政府としては、引き続き日本人の安全確保に万全を期す考えだ」と述べました。
岸田首相「G7議長国として高い緊張感を持って対処」
岸田総理大臣は、自民党の役員会で「今回の事案が与える影響は、中長期的に大きいとする見方もあり、G7=主要7か国の議長国として各国と連携しつつ、高い緊張感を持って対処していきたい」と述べました。また松野官房長官も閣議のあとの記者会見で「プリゴジン氏やロシアの民間軍事会社、ワグネルの動向をめぐるロシア国内情勢については、引き続き、重大な関心を持って注視していく考えであり、G7=主要7か国をはじめとする同志国と緊密に連携しつつ、適切に対応していく」と述べました。
プーチン大統領 プリゴジン氏による武装反乱 激しく非難
ロシア国営テレビは26日夜、日本時間の27日の午前4時すぎからプーチン大統領の演説を放送しました。この中でプーチン大統領は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏による武装反乱を念頭に、「武装反乱はいかなる場合でも鎮圧される。反乱を組織した者たちは、国や国民を裏切り、犯罪に引きずり込んだ者も裏切った」と激しく非難しました。一方で、ワグネルの部隊が一転して撤退したことに対し、「唯一正しい決断を下したワグネルの兵士たちに感謝する。流血には至らず、最後の一線で立ち止まった」と述べました。そのうえで、ワグネルの戦闘員たちに対し、「国防省やほかの機関と契約を結ぶことでロシアに奉仕し続ける機会や、家族のもとに戻る機会もある。望む人は、ベラルーシに行くことができる。私との約束は果たされる」と述べ、兵士として国防省との契約を結ぶ選択肢を示すとともに、同盟関係にある隣国ベラルーシに行けば、ワグネルの戦闘員の安全を保証すると主張しました。
バイデン大統領「われわれは今回の件に関与していない」
アメリカのバイデン大統領は26日、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏が武装反乱を起こして以降、初めて公の場で演説しました。この中で、バイデン大統領は武装反乱をめぐる事態を注視し、同盟国と緊密に協議を続けてきたとしたうえで、「われわれは今回の件に関与していない。ロシア国内での争いだ」と述べてロシア側が西側諸国の関与があったと主張することは許さないと訴えました。また、今後どのような影響が出るのか評価を続けている最中だとする一方「ロシア国内で何が起きようとも、アメリカは引き続き、ウクライナの防衛や主権と領土の一体性を支持する」と強調しました。
ホワイトハウス「ロシアの体制転換目指していない」
ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は記者会見で、武装反乱が発生して以降、ロシアに対し、さまざまな外交ルートを通じてアメリカが関与していないことを直接、伝えたと明らかにしました。そのうえで、「アメリカは、ロシアの体制転換を目指しているわけではない」と強調しました。また、アメリカはプリゴジン氏の所在について把握していないとしています。
EUボレル上級代表「ロシアは今や “リスク”」
EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表は26日、ルクセンブルクで開かれたEUの外相会議のあと記者会見しました。この中で、ボレル上級代表は、ロシアの情勢について「この先どうなるか、今も予測は不可能だ。ロシアは隣国に侵攻する力をもつ『脅威』だったが、今や『リスク』となった。核兵器をもつ大国の国内が政治的に不安定でもろくなっているからだ」と述べ引き続き状況を注視していると強調しました。その上で、「会議での結論ははっきりしている。ウクライナへのあらゆる支援、とくに軍事支援を続け、強化するということだ」と述べました。会議ではウクライナへの軍事支援にあてる基金を35億ユーロ、日本円で5400億円余り積み増すことで合意しました。
ゼレンスキー大統領 東部ドネツク州で部隊を激励
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、東部ドネツク州を訪問し、激戦地バフムト方面で戦闘にあたる部隊を激励しました。ウクライナ大統領府によりますと、この中でゼレンスキー大統領は、現地の戦況について報告を受けた上で、「私たちの国家や主権、家族や子どもたちを守ってくれて感謝する。東部での戦闘は困難だが、ウクライナの勝利に大きく貢献するのはあなたたちだと確信している」と述べ、部隊の兵士らに勲章を授与したということです。ウクライナ東部をめぐっては、ウクライナのマリャル国防次官が26日、バフムトを含めた複数の方面でこの1週間の間に進展があったと戦果を強調していて、プリゴジン氏をめぐってロシア側が混乱するなか、ゼレンスキー大統領の今回の訪問で、反転攻勢に弾みをつけたいねらいもあるとみられます。
ロシア外相 “欧米など西側の関与の可能性を調査”
ロシア外務省は26日、公式サイトで、ラブロフ外相がロシアメディアの質問に答えた内容について公表しました。それによりますと、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏が起こした武装反乱にウクライナや西側の当局が関与したのかという質問に対しラブロフ外相は、「ロシアの機関がすでにこれを調べている」と述べ、ロシア当局がウクライナや欧米などが関与した可能性もあるとして調べているとしています。
ロシア プリゴジン氏 新たなメッセージをSNSで発表
消息がわかっていなかったロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏は、日本時間の26日夜11時40分すぎ新たなメッセージをSNSで発表しました。この中で、武装反乱を起こしたものの部隊を撤退させた理由について、「ロシアで血は流したくなかった。政権を打倒するという目的はなかった」と述べました。ただ、どこから発信したかわかっておらず、依然としてどこにいるかは不明です。
ウクライナ軍事専門家「ロシア軍の士気は低下」
ウクライナの退役軍人で軍事専門家のアンドリー・リジェンコ氏は26日、NHKのインタビューに応じ、「プリゴジン氏は、ロシア国内でも知名度が高く、ロシア軍の兵士にとっても英雄のような存在だった」と述べ、プリゴジン氏が民間軍事会社ワグネルの代表でありながら、軍の兵士にも高い支持を得ていたと指摘しました。そのうえで、ロシア軍の兵士は反乱を受けて、ロシアでワグネルの広告が排除されるといった動きが出ていることに良くは思っていないとして、「ロシア軍の士気は低下し、ウクライナ軍の前進を助けるだろう」と述べ、今回の事態が、ウクライナ軍の反転攻勢に有利に働く可能性があるとしています。一方で、「ロシア軍は前線に大量に地雷を埋め、無人機も活用して準備してきた。ウクライナ軍は対策を練る必要がある」とも指摘し、前線を突破するのは簡単ではないという見方も示しています。
●ウクライナ産農産物輸出の合意 ロシアは延長に応じない構え 6/27
ウクライナ産の農産物の輸出をめぐるウクライナとロシアの合意について、7月中旬に期限を迎えますが、ロシア側は延長に応じない構えを示していて、再び世界の食料の安定供給に影響を及ぼすおそれがあるとして懸念が高まっています。
世界有数の穀物の輸出国のウクライナの農産物をめぐって、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、輸出の拠点となっている黒海に面した南部の港からの輸出が滞り、世界的な食料価格の高騰につながりました。
去年7月、トルコと国連の仲介でウクライナとロシアは輸出再開に合意し、トルコのイスタンブールに設置された「共同調整センター」によりますと、合意後、6月26日までに延べ993隻が、合わせて3200万トン以上の農産物を輸出してきたということです。
ただ5月はピーク時の3割ほどの130万トンにとどまり、輸出再開以降、最も少なくなり、6月も26日の時点で、およそ186万トンと輸出のペースは鈍ったままです。
ウクライナ側は、ロシア側が意図的にイスタンブールでの積み荷の検査を遅らせ、多くの船が沖合にとどまっているとして非難しています。
これに対しロシア側は、ウクライナの農産物の輸出が保証される一方、ロシア産の農産物や肥料の輸出が滞っているなどと主張し、7月17日に合意の期限を迎えますが、延長しない構えを示しています。
ロシアのプーチン大統領は、6月13日にも「残念ながら、彼らは再びわれわれをだました。ロシアの穀物の外国市場への供給について何もしなかった」と述べ、合意から離脱する考えも示し、ロシアに制裁を科す欧米側をけん制しています。
一方、国連のグテーレス事務総長は20日、声明で合意に沿って輸出の拠点となっているウクライナ南部の3つの港のうちの1つが除外され、出航する船が減少していると明らかにしたうえで「失望している」と表明しました。
国連は、関係国に対し合意の維持に向けて最善を尽くすよう呼びかけていますが、合意が延長できなければ再び世界の食料の安定供給に影響を及ぼすおそれがあるとして懸念が高まっています。
ウクライナの小麦農家も強い懸念
合意の延長が危ぶまれていることについて、まもなく小麦の収穫を迎えるウクライナの農家は強い懸念を示しています。
ウクライナの中部ウマニの農家、セルヒイ・シェフチュクさんは、20年以上、小麦などを栽培してきました。
例年、前の年に収穫した小麦の出荷は3月ごろまでには終わるといいますが、ことしは6月になってもシェフチュクさんの倉庫には収穫量の半分近くにあたるおよそ500トンが残っていました。
一方で、200ヘクタールほどの広大な畑では、すでに今シーズンの小麦が実り、来月には収穫期を迎えます。
今シーズンは作付け範囲を1割減らし、例年より200トン余り少ない、およそ1000トンの収穫量を見込んでいるということです。
それでもシェフチュクさんは、すべての小麦を無事に出荷できるか心配しています。
シェフチュクさんは「去年と変わらず、いまも穀物を売ることはとても難しくなっています。輸出経路が閉鎖され、穀物が人々に行き届かない深刻な状況です」と話していました。
ウクライナの物流会社 “産業が衰退していく一方”
南部オデーサ州の物流会社は、ロシア側が合意を順守する仕組みを作らなければ、ウクライナの産業が衰退していく一方だと危機感を示しました。
オデーサ州の港で物流会社を経営しているアンドレイ・スタブニツァーさんは、ロシアによる軍事侵攻の前までは、毎年4500万トンの穀物などの輸出を取り扱ってきました。
しかし、侵攻後の去年は取扱量が半減し、ことし5月以降は一切輸出できない状況が続いているということです。
また会社ではかつて5000人の従業員が働いていましたが、侵攻後およそ2000人の解雇を余儀なくされたということです。
去年の合意で輸出再開後、一部の従業員を呼び戻していましたが、先月以降、輸出が再び滞ると、それも難しくなったということです。
スタブニツァーさんは「この問題を解決する唯一の選択肢はトルコや国連の立場をより強固なものにし、形だけの調停者ではなく真の調停者として事態を打開する役割を果たすことだ」と述べ、ロシア側が合意を順守する仕組みを作らなければ、ウクライナの産業が衰退していく一方だと危機感を示していました。
●武装反乱で「ロシア軍士気低下」…ウクライナ軍、戦況ひっくり返すか 6/27
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いて反乱を起こしたエフゲニー・プリゴジン氏がベラルーシに亡命した後、ウクライナ軍が確実に反撃の機会をつかめるかどうか注目されている。
ロシア軍の士気低下、社会全体的な戦争支持の傾向の弱まり、他の非正規軍の統制問題などの問題が膨らみ、当面はウクライナ軍に有利な状況となる見込みだ。
ウクライナ軍の関係者らは、すぐには戦線に大きな変化は表れないが、ロシア軍の士気が低下し、戦闘集中力が乱れた隙間を狙う環境が造成されたと明らかにしている。
英国「フィナンシャル・タイムズ」は25日(現地時間)、ウクライナ軍当局者の話を引用し、プリゴジン氏の反乱でロシアが混乱に陥った24日、東部と南部戦線で同時多発的に反転攻勢に出て、一定の成果を得たことを明らかにしたと報じた。ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は「同時に様々な方面から攻撃作戦を展開し、すべての方面で進展があった」と述べた。
ウクライナ軍が南部ヘルソン州の州都ヘルソン市の近くにあるアントニウスキー橋を渡り、ドニプロ川の南側のロシア占領地に進出したとする「未確認の主張」もあると報じた。最前線で作戦に参加しているウクライナ防衛軍所属の将校ビタリー・マルキウ氏は、同紙に「ウクライナ軍の士気はきわめて高い状態にあり、ロシアの状況を長い目ではあるが注意深く見ている」と述べた。ウクライナ軍情報総局所属の将校アンドリー・チェルニアク氏も「私たちはこの状況を最大限活用し、政治や情報分野、軍事領域で私たちの利点を生かすだろう」と述べた。
ただし、戦闘兵力の点では、ワグネルの排除はロシア軍にすぐには大きな影響を及ぼすことはないだろうとする指摘が出ている。
米国外交政策研究所(FPRI)のロブ・リー上級研究員は、ワグネルは東部ドネツク州の最大の激戦地であったバフムトの占領以降、後方に移っていた状態だったと指摘した。ワグネルは攻撃部隊であるため、現在は防衛態勢に入ったロシア軍の戦力には特に影響を及ぼさないとする見解だ。
リー研究員はさらに「ウクライナ軍が予備部隊を攻撃に投入し始めるのか、今週どのような状況が展開されるのかにかかっている」として、「ロシア軍が占領地の一部を奪われる場合、責任をワグネルに転嫁する宣伝活動に集中することは明白だ」と述べた。
武装反乱を起こしたワグネルの今後の処遇問題もカギだ。ロシア軍は反乱に参加しなかったワグネルの傭兵と正式な契約を結び、正規軍に編成させる計画だ。これにどれほど多くの者が呼応するのかについては、現時点では未知数だ。英国軍のリチャード・ダナット元参謀総長は、プリゴジン氏に忠誠を尽くす傭兵が、どの程度プリゴジン氏に続いてベラルーシに移動するのかについても、注目される大きな問題だと指摘した。
ワグネルの処遇問題は、チェチェン共和国の兵力など他の非正規の戦闘参加集団の統制にも関係してくる。キングス・カレッジ・ロンドンのトレシー・ジャーマン教授(紛争・安保学)は、オンラインメディア「ザ・カンバセーション」への寄稿で、ロシアのウクライナ侵攻作戦には、ワグネル以外の様々な非正規戦闘兵力が参加していると指摘した。ロシアのチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長が率いる兵力、ワグネルと競争していた民間軍事会社「パトリオット」、別の民間軍事会社「レドゥト」、国営エネルギー企業ガスプロムが編成した私兵集団「ポトック」などがそうした兵力だ。
これらはワグネルとは違い、ロシア軍の公式の統制を受けているが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の指導力が大きく損なわれただけに、これらに対する統制の問題が今後、また別の悩みの種になる可能性がある。
●露ワグネルの反乱劇 侵攻のほころび露見した 6/27
反乱の遠因を作ったのは、民間軍事会社「ワグネル」をご都合主義で利用してきたプーチン露大統領である。
ウクライナ侵攻に参戦したワグネルの指導者プリゴジン氏が武装蜂起した。南部ロストフ州で軍施設を制圧しモスクワへ進軍した。
約20年間にわたりロシアを統治してきたプーチン氏がこれほど大規模な造反に直面したのは初めてだ。威信の低下は避けられない。
大統領は緊急テレビ演説で「国を分裂させるような行動は国民に対する裏切りだ」と非難し、連邦保安庁は反乱罪で一旦は捜査に乗り出した。
ところがプリゴジン氏は突如、進軍をやめて兵を撤収し、プーチン政権は罪に問わない決定を下した。隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領が事態収拾を仲介したという。
ワグネルを創設したプリゴジン氏はプーチン氏と近い関係にあった。中東やアフリカの紛争地に部隊を送り、天然資源などロシアの権益確保に取り組んできた。
ウクライナ侵攻では多大な犠牲を払いながら、軍から十分な武器弾薬の補給がなされていないと主張し、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長と対立した。
「ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)はロシアを攻撃しようとしていなかった」とも語り、プーチン政権による侵攻の「口実」を否定した。
ロシアは侵攻を当初、「特別軍事作戦」と位置づけた。自衛戦争ではないため予備役を招集しにくく、ワグネルに頼らざるを得なかった。こうしたまやかしがプリゴジン氏を増長させた。
軍部の権力が強大化するのを警戒したプーチン氏が、けん制のため利用したとの見方もある。
国際人道法では、正規軍兵士が市民を殺害した場合、命じた上官や国家指導者の責任が問われる。一方、民間軍事会社の場合、政府や軍は無関係だと主張できる。
ロシアでは民間軍事会社の活動は認められていないが、ワグネルは国防省から兵器を供給されてきた。政府の関与は明らかだ。
混乱はプーチン氏による強引な侵攻が招いた結果だ。国内の安定を望むのであれば、ウクライナから早期に軍を撤退させるべきだ。
●反乱収束後も攻撃継続 影響限定、「好機」と期待感も ウクライナ 6/27
ロシアのウクライナに対する攻撃は、ロシア民間軍事会社ワグネル創設者プリゴジン氏の武装反乱が収束して2日後の26日も続いた。
反乱の戦況への直接的な影響は今のところ見られない。ただ、プーチン政権の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈されたことをウクライナ側は「好機」と捉え、反転攻勢加速へ追い風としたい構えだ。
報道によれば、25日夜から26日朝にかけ、東部ドネツク州クラマトルスク南方の町にミサイル4発が発射され、家屋倒壊や断水の被害が出た。東部の都市ドニプロも砲撃にさらされた。反乱でロシア国内に大きな動揺が生じたにもかかわらず、戦闘はやむことなく続いている。
プリゴジン氏の反乱を巡っては、あと数日騒動が続けばプーチン大統領がウクライナ侵攻より内乱への対応を優先せざるを得ず、戦況を左右したとも言われるが、結果的に1日で幕を閉じた。しかしウクライナ側は、政権崩壊が現実にあり得ると示されたことが、ロシア軍と対峙(たいじ)する部隊の士気を向上させると期待。さらに、事態がウクライナと西側の結束強化を導くとの見方も出ている。
ウクライナ国会議員のオレクシー・ゴンチャレンコ氏は英スカイニューズに対し、「(反乱で)われわれの勝利がさらに近づいた。これをどう成功裏に利用するかは今後数週間の展開に懸かってくる」と指摘。英王立国際問題研究所(チャタムハウス)ロシア・ユーラシア部のキア・ジャイルズ上級顧問研究員も、ロシアを負かす可能性が示されたことで、ウクライナが必要とするものを与えるべきだとの考えが西側で広まり、武器支援を後押しすると分析した。
●ワグネルの反乱未遂、プーチン氏の「大きな戦略的失敗」示す 6/27
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は26日、訪問先のリトアニア首都ビリニュスで、先週末にロシアでおきた民間軍事会社ワグネルによる反乱未遂について、ロシアのプーチン大統領がウクライナに対する全面侵攻を開始したことで「大きな戦略的失敗」を犯したことを示していると述べた。
ストルテンベルグ氏は「週末の出来事はロシア内部の問題であり、プーチン大統領がクリミア半島の違法な併合とウクライナに対する戦争によって犯した大きな戦略的失敗をまたも示した」と述べた。
ストルテンベルグ氏は、ロシアが攻撃を継続するなか、ウクライナに対する支援を続けることがさらに重要だと述べた。
ストルテンベルグ氏は、ウクライナが占領地を奪還するための反攻を開始したと述べ、より多くの領土を奪還することができれば、公正で永続的な和平を実現するための交渉の場で、ウクライナ側の交渉力がより強まるだろうとの見方を示した。
ストルテンベルグ氏は、戦争が終結した暁には、歴史が繰り返されることがないように、ウクライナの安全保障の取り決めを導入しなければならないと言い添えた。
ストルテンベルグ氏によれば、NATOはベラルーシの状況を注視している。
ストルテンベルグ氏は、ロシアによるベラルーシへの核配備の発表について、無謀かつ無責任だとして非難した。ロシアが核兵器の使用を準備している兆候はみられないものの、警戒を続けているという。
ベラルーシは、ロシアによるウクライナ侵攻で、ますます重要な役割を果たすようになっており、ベラルーシのルカシェンコ大統領はプーチン氏を支援している。プーチン氏は今月に入り、ベラルーシに戦術核を配備したと明らかにし、西側諸国の多くが警戒を示した。 
●プリゴジン氏のプライベートジェットがベラルーシに到着 6/27
ロシアの民間軍事会社ワグネルのトップ、プリゴジン氏が所有するプライベートジェット機が6月27日、ベラルーシの首都ミンスク郊外の空軍基地に着陸したことが、航空機追跡サイトの情報などから分かった。本人が乗っているどうかは不明だ。ロシア側は、プリゴジン氏がベラルーシに行くとしているが、本人からは発表がない。
「国を転覆させるためではなかった」
ロシア国内は“プリゴジンの乱”に揺れている。
ロシアで武装反乱を起こし、その後消息不明になっていた民間軍事会社ワグネルのトップ、プリゴジン氏が、日本時間の26日夜、2日ぶりにSNSで音声を公開した。
その中でプリゴジン氏は、「抗議のデモであって、国を転覆させるためではなかった」と述べ、反乱はクーデターではないと強調した。その上で、「陰謀や思いつきでワグネルは来月1日に消滅せざるを得なくなっていた。我々はロシアの血を流さないように引き返した」と、自らが率いる部隊ワグネルの消滅を阻止する狙いがあったことも明かした。
プリゴジン氏の音声公開から約4時間後の日本時間27日朝、プーチン大統領は、反乱を改めて強く非難した。
プーチン大統領は、「反乱の首謀者は祖国と国民を裏切った」とワグネルを非難した一方で、「彼らは流血を選ばず、最後の一線で立ち止まった」と撤退したことに感謝も述べた。そして、「事件の当初から多くの流血を避けるために、私の指示による措置で鎮圧した」と主張し、“強い大統領”を国民にアピールした。
”政権批判したら粛清”
プリゴジン氏をめぐっては、「プーチン大統領が暗殺指令を出した」とロシアの複数の反体制派メディアが報じている。
ロシアではこれまで、プーチン政権を批判した人がたびたび粛清されてきた。2006年には女性ジャーナリストが射殺され、ロシアの元スパイが毒殺されたほか、2015年には野党の指導者が銃で撃たれ死亡する事件もあった。
また3年前には、反体制派のナワリヌイ氏が移動中の飛行機で意識不明になり、「毒殺未遂」とも指摘された。
武力による反乱を起こした張本人、プリゴジン氏は粛清の対象となるのか――。世界が注目している。
●プリゴジン氏がベラルーシ到着、プーチン氏「内戦」防いだと軍を称賛 6/27
ロシアの民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジン氏はベラルーシに到着したと、同国のルカシェンコ大統領が述べた。国営ベルタ通信が27日伝えた。プリゴジン氏の安全は保証されているとも、ルカシェンコ氏は語ったという。
ロシアのプーチン大統領はこれより先、大統領府のあるクレムリンで2500人の軍人を集めて行われた式典で「ロシア軍は実際、内戦を防いだ」と軍を称賛。「難しい状況ながら、軍の行動は明確で一貫していた」と述べた。
ワグネルの部隊はロシア領内でたいした抵抗に遭わないまま24時間で780キロも容易に進むことができたため、この称賛は奇異にも映るが、プーチン氏は軍指導部への支持を公に示した格好だ。
さらにプーチン氏はテレビ放送された軍当局者との会議で、ワグネルの事業には国家予算から十分な資金が拠出されていたと主張。この資金について「誰も横領などしていない、あったとしても少額だけだと思っているが、当然この全てを調査する」と述べた。
ワグネルとプリゴジン氏について、当局は27日、プーチン体制下で最大の脅威に発展した武装蜂起に関する刑事捜査を打ち切った。国防省はワグネルからロシア軍に重火器を引き渡す準備が始まったと、通信アプリ「テレグラム」で明らかにした。
インタファクス通信によると、ロシア連邦保安局(FSB)は「ワグネルの武装蜂起について着手された刑事捜査は終了した」と発表。ワグネルは「犯罪を目的とした」行為を停止したと説明した。
プーチン氏はプリゴジン氏に反乱を収拾するためベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介で行った提案を守ると公約していた。この提案ではプリゴジン氏のベラルーシ出国を認め、同氏およびワグネルに対する刑事訴追手続きを取り下げることが約束されていた。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は27日、テレビ放送されたミンスクでの会議で、「ロシア南部で発生した事態を目にするのは極めて痛ましいことだった」と発言。「最悪なのは、混乱が西側にすぐさま利用されることだ」と述べた。
ルカシェンコ氏はワグネル戦闘員のベラルーシ入国を支援し、廃棄された軍事施設を提供すると約束したが、同国内に人材採用拠点を構えることは容認しないと語った。
プリゴジン氏はロシア国防省がワグネル戦闘員に対して7月1日までに同省の傘下に入るよう義務付ける命令を発し、ワグネルの破壊を図ったとして非難を続けていた。プリゴジン氏は26日、ルカシェンコ氏がベラルーシでのワグネルの活動継続を提案したと述べた。
この反乱では、重武装したワグネルの部隊がロシア南部の都市ロストフナドヌーをまず支配し、さらにモスクワに向けて進軍。大きな抵抗に遭うこともなくモスクワまで200キロの圏内に迫ったが、ルカシェンコ氏の仲介でロシア側とプリゴジン氏との間で合意が成立し、部隊は引き返した。
●反乱収束させ「内戦阻止」 軍・治安機関の掌握アピール プーチン氏 6/27
ロシアのプーチン大統領は27日、モスクワのクレムリン(大統領府)に軍・治安機関の2500人以上を集めて演説し、民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏による武装反乱が短期間で収束したことについて「(軍・治安機関は)祖国を動乱から救い、実際に内戦を阻止した」と強調した。
「軍事クーデター」とも受け止められる事態の発生を許した中、軍・治安機関を掌握していることを誇示し、国内の動揺を抑える狙いがあるとみられる。 
●プーチン大統領が演説 武装反乱で対応にあたった部隊たたえる 6/27
ロシアのプーチン大統領は、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏による武装反乱で対応にあたった軍や治安機関の部隊を前に演説し、「祖国を混乱から救い、事実上、内戦を止めた」と述べ、部隊をたたえました。
ロシアのプーチン大統領は日本時間の27日午後7時すぎから、首都モスクワのクレムリンで、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏による武装反乱で対応にあたった軍や治安機関の部隊を前に演説しました。
このなかでプーチン大統領は「あなたがたは憲法上の秩序、国民の命や安全、自由を守り、祖国を混乱から救い、事実上、内戦を止めた。市民の犠牲を防ぐことができた」と述べ、部隊をたたえました。
そして「反乱した者との対決で、われわれの仲間であるパイロットが亡くなった。ひるむことなく、名誉ある命令と軍の義務を果たした」と述べ、武装反乱の対応にあたったロシア軍のパイロットに犠牲がでたと認めたうえで黙とうをささげました。
またプーチン大統領は、武装反乱に加わった戦闘員などについて「軍も国民も自分たちの側にいないことに気づいた」と述べ、軍や国民はみずからが率いる政権のもとで結束していると強調しました。
モスクワ市民からは支持する声
プーチン大統領が26日演説した内容について、首都モスクワの市民からは支持する声が聞かれました。
60代の男性は「プーチン大統領のことばは正しかった。結束が最も重要だということばが気に入った。ワグネルがとった行動は、この国がいま置かれている状況では背中を刺すものだと思う」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻が続く中、国民の結束が必要だという考えを示しました。
また、49歳の会社員の女性も「プーチン大統領に賛成だ。私は愛国者で大統領を支持している。私たちは内部紛争などしている場合ではない」と話し、ロシアはウクライナとの戦いに専念すべきだと強調しました。
●プーチン氏が指導力アピール ベラルーシはプリゴジン氏の入国を確認 6/27
ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏による反乱をめぐり、プーチン大統領は27日、モスクワのクレムリンで軍などから2500人以上を集めて演説し、「祖国を動乱から守り、事実上、内戦を阻止した」と兵士らを称賛した。「反乱軍と対峙(たいじ)し、戦友のパイロットが死亡した。彼らは軍務を全うした」と述べ、1分間の黙禱(もくとう)をした。26日夜の国民向けのテレビ演説では「武装反乱は何が起きても鎮圧される」と強調。弱腰との指摘もある中、面目を保つために指導力のアピールに躍起になっている。
プーチン氏は26日の演説で、「事態発生の初めから、脅威を取り除き、市民の命と安全を守るために必要な全ての決定は即座になされていた」と強調。「私の指示で流血を避ける措置がとられた」とし、「間違いを犯した者に考え直す機会を与え、その行為は社会に強く拒絶されるものであること、ロシアに悲劇的で破滅的な結果になることを理解させるための時間が必要だった」と主張した。繰り返し「結束」という言葉も使い、「市民の結束は、いかなる脅しや国内騒動を引き起こそうとする試みは失敗する運命にあることを示した」と述べた。
また、プーチン氏はプリゴジン氏の名前には触れずに「首謀者たちは、国民の対立、国の弱体化を狙った」と強く批判。「(ワグネルの戦闘員たちに)うそをつき、国民に銃を向けるのを強制した」として、戦闘員が事情を知らずに反乱に利用されたと語った。
「ワグネルの大半の兵士や指揮官はロシアの愛国者であり、国民や国家に忠実である」と述べ、これまでの戦場での活躍を称賛。また、国防省との雇用契約やベラルーシへの渡航などの選択肢をあげ、「選択は自由だ」「私は約束を守る」ともした。
さらに矛先をウクライナと米欧に向け、「キーウのネオナチと西側諸国が、まさにこういった兄弟殺しを見たかったのだ」と持論を展開。「ロシア兵同士の殺し合い、軍人や市民が死に、ロシアが敗北し、我々の社会が分裂して、血で血を洗う戦いで滅びることを望んでいるのだ」と述べ、「(ウクライナの)前線での『反転攻勢』なるものが失敗し、手をこすり合わせて雪辱を夢見ている」と主張した。
タス通信は27日、プリゴジン氏がベラルーシにいることを、同国のルカシェンコ大統領が確認したと伝えた。
プーチン氏の演説の前には、プリゴジン氏が反乱中止後初めて、音声メッセージをSNSに投稿。「政権転覆の意図はなかった」「多くの市民に支持されている」などと述べていた。
●プーチン、さらに執念深くウクライナの原発を狙う可能性 6/27
ロシアの民間軍事会社ワグネルの脅しは失敗に終わったが、プーチン大統領の権力の掌握を緩めることには成功した。武装蜂起によってプーチンの弱点が露呈したことは明らかで、予測できない行動につながる可能性もある。例えばどんなことが考えられるだろうか。
この問題を抱えた独裁者は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所を標的にして極めて有害な放射能を放出するなど、制御不能な暴挙に出る可能性がある。ロシアの核技術が世界的に重要な位置を占めているだけに、これは異様だ。
これまでのプーチンの誤算は伝説めいており、大規模な兵力の損失を引き起こしている。だがプーチンは罪のない人々に苦痛を与えることを厭わない姿勢を示しており、直近ではカホフカダムを破壊し、工業用潤滑油や化学薬品、肥料を流出させるというエコサイドに相当することを行った。
イラクのサダム・フセイン元大統領が1991年にクウェートから自軍が逃れる間、何百もの油井に火をつけるよう命じたように、プーチンも同様のことができることを示してきた。人命は問題ではない。そのような考え方の自然な延長線上にあるのが、ザポリージャ原発を標的にすることだ。あるいは、同原発は単に戦争の犠牲になるだけかもしれない。
ウクライナのエネルギー・環境元副大臣、オレクシー・リャブチンは「プーチンに影響を及ぼす力を持つ国連や中国、トルコなどは原発からのロシア軍撤退を交渉する必要がある」と筆者に語った。「プーチンはヒトラーの焦土戦術を選ぶかもしれない」とも指摘した。
ザポリージャ原発には6基の原子炉があり、うち5基は停止中。残る1基は原発を稼働させるのに十分な発電をしている。
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、同原発の冷却水の主要供給源であるカホフカダムをロシアが破壊した後にウクライナを視察。だがグロッシは、原子炉の炉心溶融(メルトダウン)を防ぎ、少なくとも数カ月は使用済み燃料を安全に保管するのに十分な冷却水があるとの声明を出した。
ウクライナには、チェルノブイリ原発を除き、稼働中の4原発に計15基の原子炉がある。ロシアがウクライナに侵攻する前、これらの原発はウクライナの電力の半分を供給していた。潜在的には、これら原発のすべてが標的だ。原発への砲撃は、国際エネルギー分野におけるロシアの将来の役割について疑問を提起している。また、1人の狂った人間が復讐を行うことができる世界において、原子力が安全かどうかというジレンマもある。
「ウクライナはロシアの原子力部門に制裁を科すよう各国に働きかけているが、多くの国がロシアの技術に依存している」とリャブチンはいう。「ロシアが原子力を武器として使うのは非常に危険だ。ロシア国営原子力企業のロスアトムは現在、ザポリージャ原発を占拠・管理しているが、同時にその技術とウランを世界中に販売している。理不尽だ」とも指摘する。
各国は何ができるか
ウクライナでの戦争は、ロシアが原発の燃料となるウランを世界中に供給すべきなのかという深刻な疑問を提起している。そしてバイデン米政権は、ロシアへの制裁を検討しており、その制裁は世界のエネルギーに大きな影響を及ぼすかもしれない。
米エネルギー情報局によると、ロシアは米国が使用するウランの約14%を供給しており、2022年の取引価格は10億ドル(約1435億円)だった。その約4分の3は長期契約で購入されている。また、ロシアは欧州のウランの20%を供給してもいる。世界のウランの3分の2はオーストラリア、カナダ、カザフスタンが生産しており、ロシアのシェアは10%にとどまる。
一方、ロシアは世界のウラン濃縮能力の半分近くを担っている。ウラン濃縮とは採掘されたウランを原発燃料として使えるようにする過程を指す。
ロシアは高度な原発に必要な高濃縮ウランを供給しているため、経済的な影響力を持っている。原発事業者や業界は第4世代の高温ガス炉を使用している。摂氏800度で稼働するため、化学物質を処理し、海水を淡水化し、電気や輸送用のクリーンな水素を製造することができる。
2050年までに温室効果ガスの排出と吸収量を均衡させることが目標だとしよう。その場合、米国では原子力発電を倍増させなければならないと米エネルギー省は指摘する。そのためにはより多くのウランが必要で、米国は自国で賄えるようになるべきかという問いに行き着く。
各国はウランと技術の供給ラインを多様化できるだろうか。ロシアが市場を支配している現状を考えると、短期的には無理だろう。だが各国は無力ではない。原発事業に参入したフィンランドのFennovoimaは昨年、ロスアトムとの契約を取り消した。また、英国はロシアと関係のある86の個人・団体に制裁を科し、ウクライナでの戦争に資金を提供できないようにした。
米国では、原子力規制委員会がオハイオ州パイクトンにある米国遠心分離機プラントとニューメキシコ州ユーニスの国立濃縮施設での高濃縮ウラン製造を認めている。GHS(Global health strategy)の気候白書には「重要なことに、米国におけるウラン濃縮能力の拡大は、米国と世界の脱炭素化目標を達成するためにも必要だ」とある。
ワグネルとロシア政府の対立により、プーチンは今後鉄拳で対応し、ウクライナ人をさらに脅し、ザポリージャ原発に危害を加える可能性がある。ロシアがこの分野で突出した存在であることを考えると皮肉だが、西側諸国の政府がロシアのウランや原子力技術をボイコットする理由は十分にある。
●東部で親ロシア派地域に進軍か ウクライナ軍、英国防省分析 6/27
英国防省は27日の戦況分析で、ウクライナ軍がウクライナ東部ドネツク州の州都ドネツク西郊クラスノホリフカに進軍したと指摘した。2014年以降から親ロシア派が実効支配する地域をウクライナ軍が奪還する初めてのケースとなり得るとした。
英国防省は、ウクライナ軍による東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)での一連の攻勢が、親ロ派支配地域やロシア南部チェチェン共和国の部隊が駐留する地域に達している可能性があると分析した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、ドネツク州の前線を訪れ、激戦地バフムト方面で戦う部隊を激励した。南部ザポロジエ州も訪問した。

 

●「プーチン氏擁護や団結なし」 ナワリヌイ氏、反乱巡り酷評―ロシア 6/28
ロシアで収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は27日、民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏による武装反乱を巡り「プーチン(大統領)を擁護するために立ち上がる者は誰もおらず、周囲に国民の団結はなかった」と酷評した。インスタグラムに投稿した。
プーチン氏は反乱の終結後初となる26日夜の演説で、国民の「団結」が混乱を収束させたと述べた上で、さらなる流血回避に向けた自身の決断を自画自賛していた。ナワリヌイ氏はこれに疑義を呈した形だ。
●プーチン大統領 演説 “反乱首謀者 正気失っていた” 6/28
ロシアのプーチン大統領は26日の演説で、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏による武装反乱を激しく非難。一方、ワグネルの戦闘員たちに対しては、隣国ベラルーシに行けば安全を保証すると主張しました。以下、演説の全文です。

友人の皆さま。
今日、改めてすべてのロシア国民に呼びかける。
皆さんの自制、結束、愛国心に感謝する。
この国民の連帯によって、いかなる脅しや内紛を起こそうとする試みも、失敗に終わるということが示された。
繰り返すが、社会も行政府や立法府も、あらゆるレベルにおいて、最大の結束を見せてくれた。
社会団体、宗教団体、主要政党など、実質ロシア社会全体が、憲法の秩序を支持するという明確な立場をとった。
皆を結束し団結させた重要なもの、それは祖国の運命に対する責任だった。
強調しておくが、事の初めから、脅威を無力化するため、憲法の秩序を守るため、また国民の生命と安全を守るために、必要なあらゆる決断が迅速に下された。
武装反乱はいずれにせよ鎮圧されていただろう。
反乱の首謀者は、正気を失ってはいたものの、それに気づかないはずはなかった。
彼らは、外からの巨大な脅威、前例のない圧力に直面しているこの国を、分裂させ弱体化させるという犯罪行為を犯したということをはじめ、すべてを理解していた。
我々の同志が戦場で「一歩も後退するな」と言われながら死んでいる時にだ。
しかし、反乱の首謀者は、自国や自国民を裏切ると同時に、犯罪行為に巻き込んだ者たちのことも裏切った。
彼らにうそをつき、銃撃戦の中で死に追いやり、自分たちの仲間を銃撃させた。
ロシアの敵はまさにこのような結果――兄弟殺しを望んでいた。
キエフ(キーウ)のネオナチや彼らの西側のひご者、そしてさまざまな国家反逆者たち。
彼らは、ロシアの兵士たちが互いに殺し合い、軍人や民間人が死ぬことを望んでいた。
その結果、ロシアが敗北し、われわれの社会が分裂して、血生臭い内紛の中で窒息してしまうことを。
彼らはもみ手をしつつ、前線やいわゆる反転攻勢での失敗のリベンジを夢見ていたが、それは誤算だった。
反乱者の前に立ちはだかり、自らの義務、宣誓、そして国民に対して忠実であり続けたすべての軍人、法執行機関の職員、特殊部隊の隊員に感謝する。
殉職した英雄であるパイロットたちの勇気と自己犠牲の精神のおかげで、ロシアは悲劇的かつ破滅的な事態に陥るのを免れた。
それと同時に、私たちは、ワグネル・グループの戦闘員や指揮官の大多数もまた、自国民と自国に献身的なロシアの愛国者であるということを知っていたし、今も知っている。
彼らはそれを、ドンバスとノヴォロシアを解放した戦場で見せた勇敢さによって証明した。
そんな彼らを、国とその未来のために共に戦った戦友たちに対して、やみくもに利用しようとする試みがなされた。
そのため、事件が起きた当初から、私からの直接の指示により、多くの流血を避けるための措置が取られた。
過ちを犯した者に考え直すチャンスを与え、彼らの行動が社会から断固として拒否されていること、そして彼らが引きずり込まれた冒険が、ロシアにとってどれだけ悲劇的かつ破滅的な結果をもたらすかを理解する機会を与えるために、時間が必要だった。
兄弟殺しの流血の事態に加担しないという唯一の正しい決断をし、最後の一線で止まったワグネル・グループの兵士や指揮官たちに感謝する。
今、あなたがたは、国防省や警察などと契約を結んだ上でロシアで働き続けることもできるし、家族の元に戻ることもできる。
希望する者はベラルーシに行くこともできる。
私がした約束は守られる。
繰り返すが、その選択はあなたがた一人一人に委ねられている。
ただ、それは、みずからの悲劇的な過ちを認めたロシアの戦士たちの選択であると確信している。
平和的な事態解決に尽力・貢献してくださった、ベラルーシのアレクサンドル・グリゴーリエヴィッチ・ルカシェンコ大統領に感謝する。
しかし、繰り返すが、この数日で決定的な役割を果たしたのは、国民の愛国心とロシア社会全体の結束だった。
こうした支えがあったからこそ、祖国にとって最も困難な試練を一緒に乗り越えることができた。
あなたたちに感謝する。ありがとう。
●「国がワグネルに資金拠出」 プーチン大統領 6/28
ロシアのプーチン大統領は27日、民間軍事会社ワグネルによる先週末の反乱の対応にあたった軍当局者への演説で、国防省がワグネルに「資金を全額拠出した」と明らかにした。
プーチン氏によると、政府は2022年5月から今年5月にかけての期間だけで「維持費とインセンティブ」としてワグネルに約860億ルーブル(約1450億円)支払った。
プーチン氏はまた、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が経営する別会社コンコルドが政府から800億ルーブル受け取ったとも主張した。
ワグネルに巨額が使われていたことに言及した際、プーチン氏は「我々はそれに対処する」と明言し、「だが、誰も何もとっていないことを望む」と述べた。プーチン氏が資金の使途の調査を暗示したのかどうかは直ちにはわからなかった。
「ワグネルに関しては、我々は常に大きな尊敬の念を持って戦闘員らと指揮官を扱ってきた。彼らは本当に勇気と勇敢さを示したからだ。ロシア軍の兵士や将校、そして志願兵らもワグネルに劣らず献身的に戦闘に従事し、勇敢さと自己犠牲を示した。ワグネルの戦闘員らは国内で尊敬されていた」と述べた。
プーチン氏はまた、軍当局者に「感謝」を表したいと語りかけ、反乱では「残念ながら、あなた方はかなり難しい状況に対応しなければならなかった」などと労(ねぎら)った。
●米誌「米国はプーチン大統領没落や内戦などロシアの混乱に備えよ」 6/28
米国をはじめ西側諸国に対し「ロシアのプーチン大統領没落やロシア国内の内戦などに備えるべきだ」との指摘が報じられた。
米外交問題評議会が発行する国際政治経済ジャーナル「フォーリン・ポリシー(FP)」は26日(現地時間)、ロシアの民間軍事会社ワグネルによる武装反乱に関する分析記事で「モスクワに進軍した軍閥は今後起こるであろう動きの前兆に過ぎない」とした上で上記のように呼びかけた。
ロシアではワグネルがプーチン大統領に反旗を翻し、モスクワ近くにまで進軍した。この状況の中心にあったワグネルの創設者プリゴジン氏は現在ベラルーシに向かっているという。
FPは「プーチン大統領とプリゴジン氏は現時点では武装反乱を鎮め、ロシアの内戦を防いで秩序の回復に成功したようだが、一つ明確なことがある。それはドラマはまだ終わっていないということだ」と指摘した。
今回の武装反乱については「プーチン大統領が始めたウクライナ侵攻に対するブーメランのようなもの」というのがFPの見方だ。FPは「戦争の影響でロシア国内の権力構造が不安定化した」とも指摘している。
FPは「プリゴジン氏が主張するように二つのロシア主要都市を占領し、そして彼の雇い兵たちがほぼ抵抗なくモスクワ近くに進撃したことは、プーチン政権の没落と内戦を含むあらゆる事態が起こり得るという現実を示した」との見方を提示した。
FPは「そのためロシアについてはいかなる事態も排除できない」「戦争開始直後から多くのアナリストが『プーチン後、戦争後のロシアにおけるシナリオ』を準備すべきと警告した」とも伝えた。
FPは「このような状況で米国をはじめとする西側はウクライナで焦点を失わず、支援を継続すべきだ」と指摘し「より東方の無秩序や暴力、崩壊などさまざまなシナリオに備える最善の対策は、強いウクライナだ」と主張した。
FPは「ロシアで内戦が起こった場合、米国は軽々しくどちらかに肩入れしてはならない」「ロシア国内のさまざまな権力の中心が戦って問題を解決するようにせよ」などとも警告した。
さらにFPは「プーチン大統領が権力の座から引きずり下ろされた場合でも、彼に代わる権力は民族主義や権威主義的な性格を持つだろう」と予想した。つまり西側はロシアの次の指導者に軽々しい希望を持つべきでないということだ。
これと同時にFPは「ロシア国内の闘争が国境を越えて広がらないようにすることが米国の利益につながる」と主張した。それには米国がユーラシア大陸のさまざまな国と軍事的な備えの強化、国境の安全、情報分野などで協力の強化を進めるべきという助言だ。
FPは「ワグネルの武装反乱が最終的にプーチン大統領にどのような影響を及ぼすかは見守るしかないが、先週末の事件はクレムリンによる統治の脆弱(ぜいじゃく)さを露呈した」「今はロシアの未来に対する困難な質問から顔を背けられる時ではない」との見方を示した。
●プーチン大統領はワグネルへの資金提供認める 6/28
ロシアで反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏がベラルーシに入ったことがわかりました。一方、プーチン大統領は国がワグネルに資金提供していたと明らかにしました。
プーチン大統領は27日、モスクワのクレムリンで軍や治安機関の関係者を集め演説しました。
ロシア プーチン大統領「あなたたちは祖国を動乱から救い、事実上、内戦となるのを阻止した」
プーチン大統領は、プリゴジン氏の反乱について“内戦”という言葉を使い、「ロシア社会全体の団結は状況の安定化に決定的な役割を果たした」と強調。国民の動揺の広がりを抑え、軍や治安当局の引き締めを図る狙いがあるとみられます。
その後行われた軍人らとの会合で、プーチン氏は国がワグネルに資金提供していたことを明らかにしました。ウクライナ侵攻が続く去年5月から今年5月までの間に、国から860億ルーブル=日本円で1400億円あまりが支払われたとしています。さらにプリゴジン氏が関係する会社にもロシア軍への給食サービスの契約で、年間800億ルーブルが支払われたということです。プーチン政権がワグネルを資金面で支えていたことを公に認めた形です。
一方、ベラルーシの国営通信社によりますと、ルカシェンコ大統領は、プリゴジン氏が「ベラルーシにいる」と明かしました。ベラルーシに来るワグネルの戦闘員に向けては、希望があれば廃止された基地など、滞在先を提供する考えを示したということです。
また、反乱当時プリゴジン氏と電話で協議した際、「このままいけば虫のように潰される、よく考えた方が良い」と伝えたことも明らかにしたということです。
●「プーチン氏会わない、電話もしない」 反乱プリゴジン氏に翻意促す 6/28
ベラルーシのルカシェンコ大統領は27日、ロシアで反乱を企てた民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏がベラルーシに到着したことを認めた。ベラルーシ国営ベルタ通信が伝えた。ルカシェンコ氏は、混乱収束に向けてプリゴジン氏やロシアのプーチン大統領と交わした生々しい交渉の内幕についても明らかにした。
ルカシェンコ氏は24日朝、プーチン氏と電話で協議、その後、プリゴジン氏と数時間かけて電話で交渉を続けた。要求の一つが、ショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長の解任だったとみられる。
ルカシェンコ氏は「誰もあなたにショイグ氏やゲラシモフ氏(の処遇に関する権限)は与えない。プーチン氏はこの状況で、あなたに会わないし、電話もしない」と翻意を促した。
●ウクライナ戦争、ロシア国内の分裂深める=NATO事務総長 6/28
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は27日、週末のロシアでの出来事はウクライナでの戦争がロシア国内の分裂を深めていることを示していると述べた。
その上で、ウクライナの同盟国は依然としてロシアを過小評価することはできず、ウクライナを支援し続けなければならないと語った。
●ウクライナ住民、1700万人が「限界状況」…国連機関の報告書 6/28
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジン氏の24日の反乱によって、ウラジーミル・プーチン大統領の指導力が大きく損なわれ、ウクライナ戦争の状況にも変化が予想される。
ロシア内部の混乱を機会を利用し、ウクライナが強力な反撃の機会を得ることもありうるが、プーチン大統領が政治生命をかけてさらに好戦的になるかもしれない。戦争がよりいっそう激しい対決局面に陥り、ウクライナ国民の生活は、ふたたび大きな危機に直面することになった。
国連が把握しているウクライナ国民の状況は凄惨だ。現在受けている苦痛と同じくらい未来も暗い。国連開発計画(UNDP)、ユニセフ、国際移住機関(IOM)など12の国連機関が12日に出したウクライナ戦争に関する報告書「ヒューマン・インパクト・アセスメント(Human Impact Assessment)」では、多くの住民が限界状況に追い込まれていると警告した。
報告書は「住民たちは、貯蓄していた資金や人道支援金、借金などで持ちこたえ、生活必需品の購入のために医療費の支出まで最小化しているが、もはやこれ以上は持ちこたえることは難しい」と伝えた。
この報告では、昨年末から今年初めまで全国24州で3239世帯を対象に調査を行い、10回のフォーカスグループインタビューと23回の専門家による深層インタビューを行った後、過去の資料と比較した。
危機に陥った未来世代
ロシアが昨年2月24日に侵攻する前から、ウクライナ国内に存在した都市と農村の貧富の格差は、1年あまりの間にさらに広がった。特に、主な戦闘地域である北部と南部の農村は、廃虚に変わっている。戦争前の2021年末には、人道支援が必要な人口は、東部の紛争地域の住民など合計290万人だったが、昨年末には1760万人と5倍以上増加した。
さらに懸念されるのは、支援が必要な住民に占める児童の割合が10%から23%に急増したという点だ。人口の高齢化と若年層の国外移住などによって、今後30年間で人口が3分の1に減少する可能性もあるという予想が出ている状況を考慮すると、子どもたちが直面している現在の危機は、ウクライナの未来をよりいっそう暗鬱にさせる。
教育危機も暗い未来を予告している。報告書は「ウクライナ西部の一部地域でのみ対面授業が完全に行われ、残りの地域ではオンライン授業に大きく依存している」としたうえで、「ザポリージャ州、ヘルソン州、ドネツク州ではインターネット接続が難しく、オンライン授業の大きな障害となっている」と指摘した。特にヘルソンとドネツクは、教師の77%が他の地域に避難して離れており、「教育不毛地」に転落した。
未来世代の健康も深刻な状況だ。報告書は、支援団体ワールド・ビジョンの資料を引用し、「中南部のドニプロペトロウシク、北東部のハルキウ、南部のヘルソンで子どものケアを行う状況を評価した結果、子どもたちが低年齢から喫煙、中毒、物理的暴力にさらされるリスクが高いと指摘された」と明らかにした。
ワールド・ビジョンの資料によると、青少年が感じる不安とストレスが強まり、9〜13歳の少年と少女のそれぞれ39%と44%が、タバコのような中毒性物質に手を付けていることが明らかになった。14〜17歳の少年と少女は、この割合がそれぞれ78%と55%に達した。学校の授業に出ない青少年の割合も36〜50%だという調査結果が出ている。
低下する生活の質
1年以上続く戦争によって、調査対象の世帯の13%が、爆撃や戦闘によって家が壊される経験をした。過去1年間に全国で損傷した家屋は140万軒程度と推算される。こうして生活基盤を失った住民の多数が、避難の道に進み、1月時点で故郷を離れて生活する人は、全体の15%の水準である540万人に達した。
昨年秋にロシアがウクライナの発電所などの社会インフラを集中攻撃した後、飲料水や暖房など基本的な公共サービスまで十分に享受できない人たちも同様に急増した。特に、北部と南東部の住民の77%が、飲料水の中断などによって苛酷な冬を経験した。相対的に安全な西部も、戦争前には体験しなかった飲料水不足で苦しむなど、インフラ不足は全国的な現象だと報告書は指摘した。
調査対象の世帯の22%は、所得の25%以上を保健・医療費に使っていると答えたが、家族が病気になっても医療機関に行かないと答えた世帯も38%に達した。全般的な保健危機のなか、階層別の医療格差も広がっていると推定される。
自立不可能な人口が雪だるま式に増加
ウクライナ経済は、戦争のために昨年は-29.2%のマイナス成長を記録した。これにより、自ら生計を立てる余力を失った世帯が急増した。報告書は、主な収入源が「有給労働」である世帯は全体の67%から53%に大幅に減少したと明らかにした。仕事がある世帯構成員が1人もいない世帯も26%に達した。
これにともない、人道支援金が主な所得源である世帯が、戦争前の1%から1年ほどで21%にまで大きく膨らんだ。さらに、全世帯の13%は、親戚や友人から経済的支援を受けていることが明らかになった。この割合は、戦争前より8ポイントも増えたものだ。生活が苦しく政府から一定の所得支援を受けている世帯の割合も、1年間で53%から60%に高まった。国際通貨基金(IMF)は、今年のウクライナの経済成長率を-3〜1%程度と予想している。世帯所得がすぐに増加するよう期待することも難しい状況だ。
6日にヘルソン州のカホウカダムが崩壊して浸水騒動となり、主要産業である農業生産が大きな打撃を受けると予想されている点も、今後の経済見通しを暗くする。報告書は「ウクライナは農産物の輸出大国であるため、これまで食糧安全保障問題はほとんどなかったが、戦争によって、食糧を十分に消費できない世帯が全体の10分の1の水準から3分の1にまで増えた」と明らかにした。戦争がさらに長引けば、食糧問題が住民たちの新たな心配事に浮上する可能性も排除できない。
対策なしで追い出される脆弱階層
一人親家庭、高齢者、障害者、性的マイノリティ、ロマ民族のような少数民族の状況は、よりいっそう深刻だ。
故郷を離れて慣れない土地に定着しようと努める「国内避難民」の境遇も、これらの人たちと大きな違いはない。報告書は「脆弱階層に属する人口は、1年間で全国民の34%から45%に増えた」としたうえで、「これらのなかでも、国内避難民が最も大きな困難に直面している」と指摘した。540万人程の国内避難民は、高齢者や障害者とともに最も所得が低い階層を形成しており、新たに定着しようとしている地域社会から排斥されることも多いと、報告書は付け加えた。
ドニプロ地域に留まっているある避難民は、国連調査官に「私の履歴書には、国内避難民という表示がある。(そのため仕事を探すことができない)」としたうえで、「金銭関連の責任が伴う業務は、最初から(地域の)永住許可証を必須として要求する」と伝えた。黒海西部沿岸のオデーサ地域のある社会活動家も「地域社会には職はあるが、国内避難民が職に就くことは非常に難しいのが現実」だと述べた。
女性や少数民族出身者なども、不利益を受けていることは同じだ。西南部地域のヴィーンヌィツャのジェンダー平等活動家は「女性たちは、男性より仕事をさらに必死になって探し、賃金が安い仕事も喜んで受けいれる」と伝えた。ハルキウの女性人権活動家は「子どもと老人の面倒をみなければならない負担のため、外での活動がまったくできない女性も多い」とし、「そのため、人道支援さえ受けられないことも起きている」と述べた。
ウクライナ南部に主に集まって住んでいるロマ民族に対する差別は、はるかに深刻だった。オデーサ地域に住むあるロマ民族の住民は「戦争前も子どもたちを幼稚園や学校に行かせにくかったが、今はさらに難しくなった」とし、「結局、賄賂を渡して子どもを学校に登録させた」と打ち明けた。また別のロマ民族の女性は「仕事を見つけることが戦争後ははるかに難しくなった」と述べた。ウクライナには5万〜26万人のロマ民族が暮らしていると推定される。
報告書は、戦争の衝撃に苦しめられるすべての階層が権利を保護されるよう、国際社会の支援を求めた。特に、教育への投資と農業生産力の回復のための介入、女性と国内避難民の労働機会の拡大のための条件を設けなければならないと強調した。だが、戦争を終わらせる道を見つけることができない限り、ウクライナ住民たちの困難を画期的に改善させるのは難しいという点が、最も根本的な悩みだ。
●ウクライナ東部にミサイル攻撃…4人死亡47人けが 民間人77人を処刑 6/28
ウクライナの東部ドネツク州でロシア軍のミサイル攻撃があり子どもを含む4人が死亡し、47人が負傷しました。
ウクライナの国家非常事態省によりますと東部ドネツク州の主要都市クラマトルスクで27日、ロシア軍のミサイル2発が飲食店などを直撃しました。
これまでに15歳の子どもを含む4人が死亡し、47人が負傷しました。
一方、国連人権高等弁務官事務所は27日、ウクライナ侵攻以降、ロシアがウクライナの民間人を恣意的に拘束したケースが864件あったと報告しました。
このうち77人が裁判などの司法手続きを踏まずに処刑されたということです。
また拘束された人の多くが拷問などを受けたと指摘しています。
●アメリカ、ワグネルを不正金取引で制裁 軍事活動の資金源に 6/28
米財務省は27日、ロシアで反乱を起こした民間軍事会社「ワグネル」と創設者プリゴジン氏に関連する4企業とワグネル幹部1人を制裁対象に指定した。ウクライナやアフリカでワグネルが軍事活動を維持・拡大するための資金源として不正な金取引などに関与したとしている。
今回の制裁措置と反乱は無関係だ。対象となった企業は▽中央アフリカの鉱山会社と金・ダイヤモンド購入会社▽アラブ首長国連邦(UAE)の工業製品販売会社▽ロシアの1社――計4社。
中央アフリカの鉱山会社は10億ドル(約1440億円)以上の価値があると試算される金鉱山の優先的採掘権を保有し、ワグネルの重要な資金源となっていた。他の3社は中央アフリカからの金を米ドルに換金してワグネル側に手渡しすることを計画。ウクライナ侵攻を巡る米国の対露金融制裁の網をかいくぐろうとした。
制裁対象のワグネル幹部は今春、プリゴジン氏の率いる企業や、西アフリカ・マリの政府高官らと協力して武器や鉱物の取引を行った。制裁で米国内の資産が凍結され、米国人との取引が禁止される。バイデン政権は1月にワグネルを国際犯罪組織に指定している。
ブリンケン米国務長官は声明で「ワグネルが活動するあらゆる場所で死と破壊がもたらされている。米国はワグネルの責任を追及し続ける」と強調した。 
●ロシア混迷はプーチン政権の「カウントダウン」とウクライナ幹部 6/28
ロシアの雇い兵組織ワグネルとその代表エフゲニー・プリゴジン氏による反乱の推移、そしてそれがウラジーミル・プーチン大統領やウクライナでの戦争遂行にどう影響するのか。ここ数日、ウクライナ政府幹部の関心はそこに集まっていた。
国境を越えたロシアでの劇的な動きを見て、プーチン氏の大統領としての時間は終わりつつある――。ウクライナ政府内ではその見方が強まっている。
「カウントダウンが始まったのだと思う」。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領に最も近い側近、アンドリイ・イェルマーク大統領顧問はこう話す。
キーウで開いた記者ブリーフィングで、イェルマーク氏は9年前を振り返った。ロシアが最初にウクライナに侵攻し、クリミア半島を併合した時のことだ。
「ウクライナが2014年から見続けてきたことが、今では世界中にあらわになった」とイェルマーク氏は述べた。
「(ロシアは)テロリスト国家だ。その指導者は、現実を見失った、能力不足の人物だ。あの国とまじめな関係を維持するなど不可能だと、世界は結論しなくてはならない」
キーウでBBCの取材に応じたウクライナ政府幹部は誰もが、今回の反乱未遂でプーチン氏は壊滅的に権威を失墜させたし、そこから立ち直るのは無理だろうという意見だった。
ことの発端は昨年2月のことだと、ウクライナ政府幹部は言う。ウクライナに全面侵攻を仕掛けるというプーチン氏の決断が、そもそも壊滅的だったのだと。そこへきて今回のワグネルによる反乱だと。
クレムリン(ロシア大統領府)が公にしている開戦の理由はうそだと、プリゴジン氏は公然と非難した。そのことが、プーチン氏の失脚を決定的にした――と、ウクライナ幹部は言う。もはやプーチン氏がこのまま大統領を続ける可能性は残されていないと。
「プーチン政権はもはや救いようがない」。ウクライナ政府幹部の1人はそう強調した。
ロシア国内の不満勢力に注目
ウクライナ人が、とりわけウクライナの政府を動かしている人たちが、敵国ロシアについて口にすることはすべて、今の戦争のあおりを受けての発言だということは、しっかり念頭に置かなくてはならない。ウクライナの人たちは、自分たちの国の存亡をかけて戦っているのだと思っているし、それは正しい認識だ。
ウクライナはメディアを駆使した情報戦を巧みに戦ってきた。そして、自国民と西側の同盟諸国、さらにはロシアの敵に向けて発信する内容も、見事なほど一貫している。
ウクライナ人がジャーナリストに示す状況判断には、希望的観測も含まれているはずだ。
しかしそれでも、大敵ウラジーミル・プーチンとその政権を巻き込んだ今回の危機について、ウクライナ政府幹部の見方を知るために時間を費やすのは、有用なことだ。
プーチン氏は2000年に最初に大統領になって以来、自分の権威に対する最大の危機に直面している。それは疑いようもない。
ロシア国内で政府に不満を持つインサイダーたちが作る非公式のネットワークが、プーチン氏に対立しているのだと確信するウクライナの政権幹部もいる。
ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は、執務室でBBCの取材に応じ、プーチン氏に対抗する勢力の中で「プリゴジンが一番上というわけではない」と話した。そして、ロシア国内でプーチン氏に対抗している勢力から「次の政治エリートが生まれるのかもしれない」とも述べた。
反プーチン勢力には、治安当局、政府関係者、そしてロシアのオリガルヒ(富豪)の代表たちがいるのだとダニロフ氏は話した。いずれも、昨年2月のウクライナ侵攻開始はロシアにとって脅威だというだけでなく、自分たち個人にとっても大惨事だと考えている顔ぶれなのだという。
60歳過ぎのダニロフ氏は黒い軍服風の服を着て、胸には名字を記したバッジをつけていた。あなたのその分析を裏付ける証拠はあるのかと私が質問すると、一瞬いらっとしたのが見て取れた。
「憶測ではない。どういう顔ぶれなのか我々は承知している。どういう経歴なのかも知っている」と、ダニロフ氏は強調した。
ゼレンスキー大統領に近いもう一人の側近、ミハイル・ポドリャク大統領顧問も、「権力を手にしたいグループがロシア国内に複数ある」と同意した。
プーチン氏が作り上げたトップダウンの権威主義的な体制は、今では権力の中枢がほとんどからっぽになりつつあるとポドリャク氏は言う。
匿名を条件に取材に応じた別のウクライナ政府幹部は、さらに踏み込んでこう述べた。次に何か軍事的な失態があれば、それを受けてプーチン氏はセルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長を更迭せざるを得ないだろうと。
2人の更迭が、プリゴジン氏とワグネルの反乱兵側の主要な要求だった。
「プリゴジン氏は望みをかなえるはずだ」と、このウクライナ政府幹部はみている。「彼の政治生命は終わっていない。いつまでもベラルーシに亡命したままで終わるはずがない」。
ポドリャク氏はワグネルの反乱について、ウクライナの反転攻勢に影響を与えるほど長くは続かなかったと述べた。ウクライナとロシアの戦線は、1945年以降に起きた戦争では最長の1800キロメートルに及んでいるという。
ウクライナが非常に厳しい戦いを強いられていることは、この戦争をきわめて冷静に観察していれば、明らかだ。ウクライナの兵士も、北大西洋条約機構(NATO)が供与した装甲車両などの装備も、被害を受けている。
私は、匿名を条件に取材に応じた当局者に、ウクライナ東部での最近の戦術的な勝利について尋ねた。ウクライナ軍はいくつかの小さな村を掌握している。
すると、彼は手を挙げて、指で空気を挟むようなしぐさを見せた。指と指の間を1センチほど開けて。
ウクライナ軍の前進は遅く、痛みを伴い、そして限定的なものだというメッセージだった。それでも、彼は状況は変わるかもしれないという希望もみせた。
ウクライナ政府幹部は今夏の反転攻勢に対する期待に応えようと、変わらず全力を尽くしている。幹部たちは、西側の一部の同盟国や、支持してくれているメディア関係者が、ウクライナ軍とNATOの装備に過剰に興奮しているとみている。
ウクライナ政府関係者の中には、西側諸国の指導者たちがとあることを恐れて、恐怖に眠れぬ夜を過ごしていることを認める者もいる。とあることとはつまり、プーチン政権が公然と崩壊すれば、世界最大の核兵器保有国でプーチン氏の後継候補たちが権力争いを繰り広げ、本当に危険な事態に陥るかもしれないという恐怖だ。
7月にリトアニアで開催予定のNATO首脳会談(サミット)では、この点が重要議題になることは確実だ。
ゼレンスキー氏とその顧問たちは、このサミットを通じて、NATO加盟へ向けた確かで明確な道筋が示されることを期待している。ロシア国内の不安定に対する最善手は、ロシア政府に鉄の壁を見せることだと、ウクライナ政府幹部は考えている。
しかし、悲惨な戦争が始まってから間もなく1年半となり、ワグネルの反乱に見舞われたプーチン氏とその政権を取り巻く不確実性は、戦場ではなく交渉のテーブルで戦争を終結させることを望むNATO加盟国の不安をあおることになるかもしれない。
●「プリゴジンの乱」で、プーチン早期退陣の可能性が出てきた 6/28
傭兵は、カネの切れ目が縁の切れ目。犬は捨てられると、飼い主にかみついてくる。1979年のソ連のアフガニスタン侵入後、アメリカが支援した反ソ連・ムジャヒディンの勢力は、ソ連軍撤退後はアメリカに見捨てられて、反米テロリスト集団「アルカイダ」に衣替えしている。
今回のプリゴジンの乱については、プリゴジン特有の大げさな物言いが横行していて判断を鈍らせるが、昨日までのロシア・西側の報道を総合すると、実情は次のようなものだろう。
プリゴジンが囚人から身を起こし、ケータリング・サービスで軍に取り入り、プーチンに取り入り、「プーチンの料理長」と呼ばれるようになったのは周知の事実。その後、彼は「軍隊ケータリング」、すなわち傭兵業に手を伸ばす。2014年、ロシア軍が東ウクライナに侵入した時、米国の傭兵会社が活動していたが、ロシア軍諜報部GRUは同じような企業をロシアにも作っておくと便利だと思い、プリゴジンをくわえこんだのだろう。
しかしプリゴジンのワグネル社は、ロシア軍には敵視される。国のカネで活動しているのに(プーチンは27日、2022年5月からの1年間で、政府がワグネル社に兵員給料・賞与用に約10億ドル分の資金を払ったと言っている)、軍の命令を受けず、「いいとこ取り」ばかりするからだ。2015年秋にはロシア軍とともにシリアに駐留したが、この時も夜間勝手に油田の接収に向かい、守っていた(とは知らなかった)米軍から壊滅的な攻撃を受けている。ロシア政府は「ワグネルは民間会社」ということでしらを切ったが、本当は米ロの軍事衝突すれすれだった。
これでワグネルはさすがに中央から冷や飯を食わされ、リビアとか中央アフリカ共和国でのドサ周りをさせられる。ここで地元の鉱産資源利権などに食い込もうとしたが、多分うまくいかなかったのだろう。2022年2月、ウクライナ戦争が始まると、欧州に舞い戻る。
そして戦線が膠着すると、ワグネルは中央から便利に使われ始めた。ロシア軍が兵員確保に苦労する中で、ワグネルは月2000ドルを超える給与を提示。戦死保険まで備えて、兵員を募集した。そして100万人に上る囚人という人材プールに目を付け、当局とのコネで囚人を戦線に叩き込む。死刑の代わりに。
この半年、ワグネルは「バフムトの戦い」の主役だった。冬季に軍は大きく動けないが、戦略拠点(と言うほどでもない)のバフムトを決戦の場に仕立て上げて、ウクライナ軍を消耗させた。ロシア軍本体は温存され、二重・三重の塹壕・堡塁線と地雷原を構築した。
この防御線のせいで今、ウクライナ軍の逆攻勢は止められていて、ロシア軍の間では「ドネツクでのサファリ」という言葉が流行している。つまりドイツがウクライナに供与した戦車レオパルト(豹)を鹵獲(ろかく)、あるいは破壊しに行こうと言うのだ。ウクライナ軍が消耗した時を見計らって、ロシア軍が逆逆攻勢に出れば、占領地域を拡大することができるだろう。
これで、ワグネルは不要になった。カネがかかるし、弾薬をやらないとすぐ国防相や総参謀長の悪口をSNSに書き立てる。これはもう、軍の中に吸収してしまおうということで、6月末にはその契約への署名受付を始めることになった。
モスクワへの「進軍」
ここでワグネルは立ち上がる。ウクライナに接するロストフ州の首都ロストフ・ナ・ダヌーにあるロシア軍南方軍管区の建物などを「占拠」、23日にはトラックなどを連ねてモスクワへの「進軍」を始める。その模様をSNSなどで流すから、ロシアの国営テレビもニュースで詳しく流さざるを得ない。というわけで、外部からは1917年のロシア革命後、地方から「反乱軍」が攻めあがった時と同じに見えてしまった。
しかし一連の騒ぎは、白昼夢のごとく、音も色もついていない感じ。と言うのは、「反乱軍」がロシア軍(国内軍)の抵抗を何も受けていないのだ。抵抗しても、ワグネル軍の戦力にはかなわなかっただろうという見方もあるが、ハイウェーを高速で走るワグネル軍がミサイルとか大砲を落ち着いて撃てるはずもない。
要するに、「ワグネル軍を止めろ」という指令がクレムリンから下りてこなかったから、軍、国家親衛隊(国内軍)、警察等々、ロシア専制国家を支える装置の数々はばらばらのまま、動き始めなかった、というのが実情なのだろう。日本でもよくある、「上からの調整が不十分で、諸省庁の谷間に落ちて」しまったのだ。
それに、「プリゴジンはプーチンのお抱え」という意識が浸透しているから、現場では自分の判断で何かをしようという気が起きない。
加えて、今回の「進軍」は当初、「反乱軍の進軍」ではなかった。「プーチンお抱え傭兵隊の陳情のためのクレムリン詣で」だったのだ。日本の戦前の二・二六事件で、天皇の意を受けた「兵に告ぐ」声明が出るまでは、反乱軍はまだ反乱軍ではなかったのと同じ。
だから24日10時、意を決した――自分の責任であることを認めるのと同じだったので――プーチンが声明を発して、ワグネルを反乱軍扱いしたところで、プリゴジンも反転を即座に決めた。プーチンはプリゴジンと直接取引はできないので、ルカシェンコにプリゴジンとの交渉を委ねた。ルカシェンコにとっては、プーチンに恩を売る絶好の機会。
プーチン早期退陣の可能性
プーチン早期退陣の可能性が出てきたと思う。「プリゴジンの乱」のごたごたはプーチンの責任だ、彼がウクライナ戦争を始め、プリゴジンなどを引き込んだせいで、ロシアは破滅に向かっているではないか――という声が、ロシアの要人たちの喉から出かかっている。ロシアは、プーチン独裁の国ではない。公安=FSBを核とする保守エリート層の神輿として、プーチンは存在している。神輿が古くなると、次の神輿が担ぎ出される。
プーチンは1999年12月、エリツィンに禅譲を受け、首相から大統領代行に昇格。翌年3月の選挙で正式に大統領になった人物。当時のエリツィンは1998年8月のデフォルトで経済をめちゃめちゃにした上、病気で執務もできず、周囲から圧力を受けていた。禅譲の4カ月前の99年8月、プーチンは国家保安庁長官から首相に横滑り、9月にはチェチェン独立運動鎮圧戦争を開始。首相が司令官役を務めるというのは異例なことなのだが、首都グロズヌイを灰燼に帰すという決然たる指揮ぶりで大人気を得ると、その勢いで2000年3月の大統領選挙で勝利する。
当時の情勢を、ウクライナ戦争の今に当てはめるとどうなるか? 「ロシアはこれからウクライナで逆逆攻勢に出て、キーウをミサイルで大規模攻撃。ドネツク州、ザポリッジャ州、ヘルソン州全域を占領。それを成果にして停戦合意を結ぶ。この逆逆攻勢はプーチンに差配させるのではなく、後任の大統領代行にさせる。その代行は逆逆攻勢での「功績」を支えに、来年3月の大統領選挙で国民のお墨付きを得る。もともと有力な対抗馬はいない。しかし後任者の人気を盛り上げるには、禅譲は早い方がいい」ということになる。
「ミシュスチン大統領代行」の可能性
となると、ミシュスチン首相が最も自然な禅譲相手。大統領が執務不能の場合の代行は首相、と憲法で定められているからだ。また、彼は元国税庁長官で、経済のマネジメントに優れているし、2020年1月首相就任以来、権力の黒幕FSBとも信頼関係を築いているだろう。
西側のマスコミでは、プーチンの後任として、シロビキの親玉であるニコライ・パトルシェフの息子、ドミトリー・パトルシェフ農業大臣が云々されることが増えている。まだ経験不足だと思うが、6月14日には国賓として来訪したテブン・アルジェリア大統領を空港に出迎えている。
7月11日にはリトアニアでNATO首脳会議がある。今のところ、ここではNATOのウクライナ支援の限界が明らかになる情勢だ。ここまでロシアは静かにしているのが得策。そして夏、西側諸国の関係者が皆休暇に出て、緊急対応がしにくい時を狙ってプーチンは退陣。「大統領代行」が「逆逆攻勢」を開始する、という寸法だ。
ロシア軍のメルト・ダウン? 「動乱時代」へ?
話しは続く。で、逆逆攻勢を開始すると、消耗しているウクライナ軍は抵抗できないかもしれない。しかしこの時、天祐が働く。と言うのは、ロシア軍、国防省の上層部ががたがたになって、派閥闘争も生じている可能性があるので、そういう時ロシア軍の兵士は「自主性」を発揮することがあるからだ。第1次大戦の時、本国首都の情勢が流動化する中、上官を射殺したり(これは自衛隊でも同じ)、勝手に故郷に帰ってしまう兵まで続出している。
26日付のBBCロシア語ニュースは、「何が何だかわからない混乱期が到来するかもしれない。17世紀初頭の『動乱時代』のような時期が10年以上続き、予測不能で核兵器も持つロシアは、世界にとって危険な存在になるだろう」と書いている。
不幸な生い立ちプーチンの『砂の器』
6月10日付の英エコノミスト誌は面白い記事を掲載している。プーチンの実の母親はベラ・プチーナと言って、5月31日ジョージアの寒村で97歳で亡くなったとしている。彼女はロシアにいた頃、大学のパーティーで知り合った男と一夜を過ごしてプーチンを懐妊。その後ジョージアの兵士と結婚して、ジョージアに移住。プーチンは一緒にいたが、9歳の時、ベラの両親のもとに厄介払いされた。ところがこの両親(祖父母)は病身で、プーチンを軍の寮に送り、その後ベラとの音信は途絶えた、というのだ。
これはまるで松本清張の小説、映画『砂の器』のような可哀そうなロマン。暗い思い出を抱えた男が名声を博すも、追いつめられて殺人を冒すという物語。プーチンは戦争犯罪を犯して、国際刑事裁判所のお尋ね者となり、うっかり海外に出られない。これではロシアの外交は麻痺してしまう。これもまた、ロシアの保守エリートたちが「彼を更迭する」理由の一つになるだろう。
●ロシアにとって「最大の脅威」はプーチン政権 反体制派指導者 6/28
ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)氏は27日、ロシアにとっての最大の脅威はウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)政権だと述べた。民間軍事会社ワグネル(Wagner)による反乱後初のコメント。
ソーシャルメディアへの投稿で同氏は、「ロシアにとって、プーチン政権ほど大きな脅威はない」「プーチン政権は国にとってあまりにも危険だ。いつか来る(政権)崩壊ですら、内戦を引き起こす危険をはらんでいる」と書いた。
「プーチン(大統領)が始めた戦争がロシアを破壊し引き裂くかもしれないという指摘は、もはや大げさとは言えない」
ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン(Yevgeny Prigozhin)氏が軍指導部打倒を目指して起こした今回の反乱は、ロシアにとって過去数十年で最大の政治危機だった。
「ロシア上空でロシアのヘリコプターを撃ち落とし、ロシアを内戦の瀬戸際に追いやったのは西側諸国や反体制派ではない。プーチン自身がしたことだ」
ナワリヌイ氏はさらに、「権威を低下させ、混乱を招くのは民主主義や人権、議会によってではない。無秩序と弱い政府、混沌(こんとん)をつくるのはいつだって独裁者と権力の乱用だ」と皮肉交じりに書いた。
●プリゴジン氏は亡命$謔フベラルーシで「粛清」か  6/28
ロシアで武装反乱を起こした民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が26日、2日ぶりに通信アプリに音声を投稿し、首都モスクワへの進軍を取りやめ、撤収したと述べた。果たして、今後の動向はどうなるのか。ジャーナリストの深月ユリア氏がウクライナ出身で日本在住の識者に見解を聞いた。
エフゲニー・プリゴジン氏が23日に起こした反乱は、西側諸国の「内乱が長期化し、ウクライナ戦争どころでなくなるのではないか」という推測とは裏腹に、わずか24時間足らずで終結した。24日、首都モスクワを目指していたワグネルの部隊は撤退した。
複数の西側諸国メディアによると、ロシアのペスコフ大統領報道官は「プーチン大統領がプリゴジン氏のウクライナ戦争でのこれまでの功績を考慮し、刑罰を科せずにベラルーシへの安全な移動を保証した」と表明したという。事実上の亡命である。
しかし、インターネット上では「プリゴジンは暗殺されるのではないか」という憶測もある。ウクライナ出身の国際政治学者で、『ロシアのウクライナ侵略で問われる日本の覚悟』などの著者、アンドリー・グレンコ氏によると、「今回の反乱により、ロシア国内の防衛体勢は脆弱(ぜいじゃく)で、スカスカである」ことが露呈したという。
同氏は「ブリゴジンの反乱部隊はほぼ攻撃される事なく、堂々と幹線道路を数百キロ移動できたということは、ロシア国内の防衛体勢は脆弱でスカスカだということです。しかし、プリゴジンの目的は政権転覆ではなく、『ワグネル戦闘員が全員、ロシア防衛省と契約しなければならない』という新たなルールへの反発です。そうなれば、ワグネルは民間組織ではなくなりますからね。そして、ショイグ国防相と総司令官を更迭させること。また、プリゴジンには具体的なプランはなく、その場の勢いでモスクワに進軍しました。だから、勢いあるのは最初だけ。途中までうまくいっていたが、最後までやり切ることができなかったのもあります。だから、プリゴジンはプーチンに目的を伝え、プーチンが妥協した際に軍を撤退させました。もし、具体的な計画があれば政権を転覆できたかもしれません」と指摘した。
では、プーチン大統領は自分に脅威を与えたプリゴジン氏を暗殺するか?
グレンコ氏は「独裁者は一瞬でも自分に恐怖を与えた人を絶対に許せず、必ず復讐を考えます。プーチンは明らかに一瞬動揺しましたから、絶対に許せないでしょう。今ではなく、時間がたって、ワグネルの話題が報じられなくなってから、プリゴジンと反乱に加わった部隊を粛清すると思います。ベラルーシはロシアの支配下にあるから、処刑できますから」と推測した。
今後、プーチン政権を転覆させるような新たな反乱が起きる可能性あるか?
グレンコ氏は「今後、プーチンはロシアをさらなる全体主義化するでしょうね。反乱分子を監視し、粛清します。内乱は起きにくくなるでしょう」と予見した。
ロシア国営テレビは26日に「武装反乱はいかなる場合でも鎮圧される」というプーチン大統領の演説を放送した。グレンコ氏は「ただし、 もしウクライナ軍がロシア軍を叩きのめした時に、偶然にもタイミングを合わせて反乱が起きれば。その時は政権転覆できるかもしれません。本格的で計画的な反乱が起きたら、ロシアはウクライナ戦争どころではなくなるでしょう」と指摘した。
今後、ウクライナが日本に期待することは?
グレンコ氏は「日本政府は防衛装備品の輸出ルール『防衛装備移転三原則』について、『非戦闘の目的なら殺傷能力ある武器を搭載しても輸出可能』だと解釈を変え、ウクライナに武器支援できる事になりました。ようやく日本が普通の民主主義諸国のスタンダードに近付いたということでしょう。次のステップとして武器輸出三原則と自衛隊法の見直しを期待します」という。
日本を含めた西側諸国が支援するウクライナ軍の反転攻勢のタイミングで、2回目のロシア革命が起きて、プーチン政権が転覆する…という奇跡は起きるのか。
●ロシア軍や武装勢力がウクライナで子供136人殺害、「人間の盾」にも… 6/28
国連のアントニオ・グテレス事務総長は27日、安全保障理事会に提出した「子供と武力紛争」に関する年次報告書を公表し、ウクライナ侵略を続けるロシアを子供の人権を侵害した国に指定した。安保理の常任理事国が侵害国に指定されるのは初めて。
報告書では、露軍や武装勢力が昨年、ウクライナで子供136人を殺害し、518人を負傷させたほか、捕虜の子供約90人を「人間の盾」に使ったと指摘した。4〜17歳の複数の少女に対するレイプなどの暴行もあったという。広範囲に被害を及ぼす爆発性兵器が学校などで使われており、「国際法に基づき子供たちを早急に保護するよう求める」と強調した。
報告書は昨年1年間に武力紛争下に置かれた世界24か国・地域の子供の人権侵害状況をまとめた。ロシアのほか、シリアやイエメン、南スーダンなどが侵害国に指定された。

 

●盤石演出するプーチン氏、「滑稽」とロシアエリート層−不安強まる 6/29
ロシアのプーチン大統領は今週、民間軍事会社ワグネルによる劇的な反乱の収束後も国内支配に揺るぎがないことを示そうとしている。
だが、政府内や実業界幹部の有力者の多くはそう考えていない。
ワグネルの部隊が車列を組んでモスクワまで一時200キロに迫り、首謀者のエフゲニー・プリゴジン氏らに罪を問うことなくベラルーシへの出国を許したロシアは「バナナ共和国」だと、1人は述べた。プーチン大統領の反乱への対応の誤りは、昨年のウクライナ侵攻の判断以上に衝撃的だったと話す者もいた。
政権内部の関係者にとって、今回の反乱はプーチン氏がこれまで慎重に築いてきた「安定」を保証する存在だというイメージを跡形もなく打ち砕いた。70歳のプーチン氏はますます現実に疎くなり、かつてならできたような方法で事態を管理することが不可能になっていることを浮き彫りにしたと、複数の関係者は語った。関係者は注意を要する問題を話しているとして匿名を要請した。
この関係者らによると、プーチン氏は支配体制を再び引き締めようとしているが、経済界や実業界の多くが2022年2月のウクライナ侵攻以来感じていた不安や警戒感を今回の混乱はいっそう強めたという。ロシア国内の弾圧強化につながる恐れもあると、一部は指摘した。
「プリゴジン氏を制御できなくなりつつあることは明らかだったが、公に武装蜂起するまでには至らないと多くが考えていた。それが起きた」と、モスクワを拠点とする政治コンサルタントのエフゲニー・ミンチェンコ氏は説明。「エリート層は全員、自らの安全手段を構築しようとしている。力が物を言うことは、いまや明らかだからだ」と述べた。
一部の関係者は、プーチン氏が事態を掌握しているように公の場で振る舞うのは滑稽に映るとし、政権がいかに非効率で弱いかという明らかな現実を上塗りしているだけだと語った。
こうした不安な声にもかかわらず、エリート層はプーチン氏に代わる存在はいないとみていると、関係者は述べた。今回の衝撃を経てもプーチン氏を安定した指導者と見なす向きは多いという。戦争と制裁でエリート層は海外との間で残る多くのつながりが断ち切られ、安全と経済的な利益でプーチン氏の保護になお依存している。
プーチン氏はサウジアラビアのムハンマド皇太子ら友好国の指導者との電話会談を続け、事態の説明に努めている。
だが、最も関係が緊密なベラルーシのルカシェンコ大統領ですら、プーチン氏の自信過剰を公の場で珍しくあげつらった。
ルカシェンコ氏は27日、ロシアの反乱を収束させるため自身が合意を仲介した際の役割について、「状況が間違った方向に進んだ」と国内メディアに説明。「プーチン氏と私は事態が自然と解決するだろうと考えた。いや、正直に言うと自分はそうは思わなかったが、それは問題ではない。だが、自然には解決しなかった」と語った。
●政敵のナワリヌイ氏、「プーチンはロシアを内戦の入り口に追い込んだ」 6/29
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政敵である元ロシア進歩党代表のアレクセイ・ナワリヌイ氏(写真)が「プーチン大統領がロシアを内戦の瀬戸際に追い込んでいる」と批判した。27日(現地時間)AFP通信によると、収監中のナワリヌイ氏は同日、自身の弁護人を通じて「プーチン政権ほどロシアにとって大きな脅威はない」とし、このようなコメントをソーシャルメディア(SNS)に投稿した。
ナワリヌイ氏は、今回の武装反乱の過程でワグネルグループがロシア軍ヘリコプターを撃墜し、将兵らが死亡したことについて、「ロシア上空でロシア軍のヘリコプターを撃墜したのは西側でも(プーチン)反対派でもない。プーチン大統領自身だ」とし、「(セルゲイ)ショイグ(国防長官)を殺そうと(モスクワに)向かった被疑者ら全員を、私的に恩赦したのがプーチン大統領だ」と批判した。
その上で、「プーチンが開始したウクライナ戦争のためにロシアが分裂し破壊されるということはもはや誇張ではない」と主張した。
プーチン大統領の権威主義統治を批判してきたナワリヌイ氏は、2020年に空港で茶を★飲んだ後航空機に搭乗したが昏睡状態に陥った後、ドイツに運ばれ治療を受けた。ドイツ政府は、「冷戦時代、ソ連が使用した化学兵器ノビチョクに露出された」と明らかにした。ナワリヌイ氏は翌年ロシアに戻り、詐欺や法廷冒涜などの罪で11年6ヵ月の刑を言い渡され、現在服役中だ。
一方、英紙ザ・タイムズは、「クレムリン宮殿が26日、放送局に『クーデター』『暴動』の代わりに『反乱の試み』という用語を使うよう指示した」と伝えた。
●バイデン大統領、プーチン氏は「負けている」と指摘 言い間違えも 6/29
バイデン大統領は28日、ウクライナに侵攻するロシアのプーチン大統領について、「世界中でのけ者になった」と指摘した。ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジン氏による反乱の影響については、慎重に判断する姿勢を改めて示した。
バイデン氏はホワイトハウスで記者団に、プリゴジン氏の反乱を受けてプーチン氏が弱体化したかと問われると、「判断するのは難しいが、彼は(ウクライナでの)戦争に負けており、国内の戦いに負けている」と指摘した。バイデン氏はこの際、ウクライナと誤って「イラクでの戦争」と発言した。
またプーチン氏について「世界中でのけ者になった」と述べ、「北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)だけでなく、日本からもだ」と語った。
プリゴジン氏の反乱をめぐっては、バイデン政権はこれまで「ロシアの国内問題」だと強調。影響についての具体的な評価を避けてきた。
●プーチン氏はプリゴジン氏を「抹殺」しようとしていた、ベラルーシ大統領明かす 6/29
ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ロシアのプーチン大統領が武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏の「抹殺」を一時企てたが、説得して思いとどまらせた、と明らかにした。ベラルーシの国営メディアが28日、軍高官や記者団にルカシェンコ氏が語ったプーチン氏との切迫したやり取りの詳しい内容を伝えた。
プーチン氏は当初、ワグネルの反乱を武力鎮圧すると表明したが、結局はルカシェンコ氏が間に入る形で態度を軟化させ、プリゴジン氏やワグネルの戦闘員がベラルーシに出国することに同意した。プリゴジン氏も矛を収め、モスクワへの進軍を停止してワグネルの部隊に宿営地への撤退を命じた。
ただルカシェンコ氏によると、24日に自身が交わしたプーチン氏との会話では、プーチン氏は抹殺を意味するロシアの犯罪者が使う俗語を口にした。
ルカシェンコ氏は、ワグネルに対する暴力的な決定がなされたと理解したと説明した上で「プーチン氏に性急に動かないよう促し、プリゴジン氏や部下の指揮官らと話をしてみようではないかと提案した」と述べた。
これに対してプーチン氏はルカシェンコ氏に「聞いてくれ。それは無駄だ。プリゴジン氏は電話にさえ出ない。誰とも話したくないのだ」と応じたという。
それでもルカシェンコ氏は、プーチン氏に「広い視野」で考えるよう助言し、プリゴジン氏を「消して」しまえばワグネルの戦闘員たちの反乱が広がりかねないと指摘した、と強調した。
●プーチン大統領、ワグネル反乱で弱体化 独裁に亀裂=独首相 6/29
ドイツのショルツ首相は28日、週末にロシアで起きた民間軍事会社ワグネルによる武装蜂起でプーチン大統領は弱体化したとの見方を示した。ただ、これによりロシアがウクライナから軍を撤退させ、和平交渉が実現する可能性が高まるかは分からないと述べた。
ショルツ首相はARD放送のインタビューに対し「独裁的な権力構造に亀裂が入っていることが示されたため、プーチン氏は弱体化したと考えている」と述べた。
ウクライナ戦争への影響については、和平交渉を成功させる前提条件は、ロシアがウクライナから軍を撤退させる必要があることを受け入れることだとし、「ワグネルの武装蜂起でそれが容易になったのか、難しくなったのかは分からない」と語った。
また、西側諸国がウクライナを支援することの目的はウクライナの自衛を支援することであり、ロシアに政権交代をもたらすことではないと述べ、プーチン氏がいつまで大統領の座に留まるかについては何も憶測したくないと述べた。
●クラマトルスクのレストラン攻撃、「ロシアのスパイ」を訴追へ 11人が死亡 6/29
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は28日、東部ドネツク州クラマトルスク中心部への攻撃に関わったとして、ロシアのスパイとみられる地元の男性を反逆罪で起訴すると明らかにした。
ゼレンスキー大統領は、ロシアの殺人を手助けした者は「最大級の刑罰」に値すると述べた。
ウクライナの情報当局によると、攻撃が行われる数時間前に、この男性がレストランの映像をロシア軍に送っていたという。
ロシア軍は27日、クラマトルスクにミサイル攻撃を行った。人気レストランなどが被害に遭い、11人が亡くなった。
死者には、双子のユリア・アクセンチェンコさんとアンナさん姉妹(共に14)と、17歳の少女も含まれている。
クラマトルスク氏の教育委員会は声明で、「ロシアのミサイルが2人の天使の心臓を止めた」と述べた。
けが人は少なくとも60人に上っている。著名なウクライナ人作家や、コロンビア国籍の人物も含まれる。
ウクライナの情報当局は27日、ロシアのスパイだとする地元出身の男性を拘束した際の写真を公開した。
ゼレンスキー大統領はその夜のテレビ演説で、治安当局が警察の特殊部隊と協力して容疑者を拘束したと発表。容疑者は裁判で終身刑となる可能性がある。
救助活動は現在も続いている。
クラマトルスクは、ウクライナの管理下にあるが、ロシアの占領地域に近い。
昨年4月には、クラマトルスクの鉄道駅にロケット弾が撃ち込まれ、50人以上が死亡した。
今回攻撃されたレストラン「リア・ラウンジ」は、国際的なジャーナリストやボランティア、ウクライナ兵士などが、最前線の近くで休憩をとる場所として人気があった。
コロンビアの元和平交渉担当者セルジオ・ハラミリョ・カロさんはBBCの取材で、攻撃があった際にレストランにいたと話した。ハラミリョ・カロさんは軽傷を負った。
爆発の後に「破片がゆっくりと動く」のを見て、何が起きたのかを察知したという。
ハラミリョ・カロさんは当時、ウクライナの著名な作家と同席していた。この作家は現在重体で、「命のために闘っている」という。
「彼女のために祈ってください」と、ハラミリョ・カロさんは話した。
コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は、ロシアが「無防備な」コロンビア国民を攻撃したと非難。抗議の外交文書を送るよう外務省に指示したと述べた。
ロシア政府は、軍事的な標的を攻撃したと述べている。ロシア国防省は、クラマトルスクにおける「(ウクライナ)司令官の一時的な展開」を破壊したと主張したが、詳細は述べなかった。
ウクライナ国防省のユーリ・サク顧問はBBCに対し、ウクライナ空軍は現在「ウクライナの領土全体をカバーするには不十分な状態」だと説明した。
ウクライナはロシアの攻撃から自国を守るため、同盟国に最新の戦闘機を提供するよう求め続けている。
アメリカは5月、西側諸国がアメリカ製の戦闘機「F16」をウクライナに供給することを許可し、ウクライナのパイロットを訓練すると発表した。
●ウクライナ、戦争終結後のNATO加盟示唆望む=ゼレンスキー氏 6/29
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、ウクライナはロシアとの戦争が継続している間は北大西洋条約機構(NATO)に加盟できないと理解しているが、戦争終結後にNATOに加盟できることを示すシグナルを受け取りたいと述べた。
ゼレンスキー大統領はウクライナを訪問しているポーランドのドゥダ大統領とリトアニアのナウセーダ大統領と首都キーウ(キエフ)で行った共同記者会見で「戦争継続中はNATOに加盟できないことは理解している。ただ、戦争終結後に加盟できると確認したい」と述べた。
また、NATO加盟が実現するまでの安全保障も望むとし、来月にリトアニアで開かれるNATO首脳会議でウクライナが安全保障を得られるというシグナルが示されることを望むと述べた。
ドゥダ大統領は、ウクライナができるだけ早く目標を達成できるよう、ポーランドとリトアニアは最大限の支援を行っているとし、「(NATO)首脳会議で(ウクライナの)加盟の見通しが明確に示されるよう取り組んでいる」と述べた。
ナウセーダ大統領は、ロシアで武装蜂起を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏がベラルーシに移動したことに関連し「ワグネルのような部隊がなぜベラルーシに配置されるのか、疑問が残る。経験豊富な傭兵集団は常に潜在的な危険をもたらす」とし、NATOはベラルーシにおけるワグネルの存在に注意を払わなくてはならないとの考えを示した。
ゼレンスキー大統領は、プリゴジン氏がベラルーシに移動した後もウクライナ北部の治安情勢に変化はなく、制御されていると指摘。
ただ、ドゥダ大統領は必要に応じてベラルーシとの国境の警備を強化すると述べた。
●ウクライナ戦争で結束するNATO諸国と変化しつつあるインド 6/29
5月のG7サミットが終わった直後、ベテラン外交官で時事解説で売っている人間が、「これでロシア・ウクライナの戦争は秋までない。そのあと戦争をやればロシアが勝つ」と明言した。サミットが終わった後、私が感じたのは「これで開戦だな」という実感である。
両軍共に約30万人。ウクライナの懸念は軍需品の供給だった。この懸念は5月のG7サミットで解消された。有力国は渋々だったという解説もあったが、公式の場で「供給する」と言い、兵器の名も挙げた。それまで団結を言うにはほど遠い関係を続けてきたNATO諸国は、初めて目覚めたのである。ウクライナ国民も団結し、やる気に満ちている。
一方のロシアは内紛を抱え、公然と動員令もかけられず、言論統制を強化して、プーチン露大統領の私的戦争の如くである。
両軍がこうした出発点に立てば、勢いのある方が先制攻撃するチャンスだ。この攻撃に驚いてロシア軍はダム破壊という“禁じ手”を使った。そもそもロシアが言っている「放射線を使う」ということ自体、武士道ではあってはならないことである。この線上で考えれば、第2、第3のダム破壊、放射線の使用もあるかもしれない。戦後、国連は断固としてプーチン氏を逮捕して責任を追及すべきだ。
世界は東西冷戦時の様相を呈してきた。経済活動や技術交流はすっかり西側が損をしたが、中国の技術の泥棒方式は絞られつつある。先日も日本に潜り込んでいた千人計画の1人が摘発された。
中国が発展したのは、何十ヵ所にも張り巡らされた千人計画のお陰で、これがなくなれば技術力は西側より劣ることになるのは必定だ。30年前を振り返ってもらいたい。
グローバル・サウスという“中立的”地域が誕生してきたが、ベトナム、インドネシア、フィリピンという周辺国は軍事的には反中国であり、今後も中国に寄ることはないだろう。一帯一路計画などを通じて、ひたすら経済的に中国に利用された被害意識があるからだ。
中国はロシアの悪評が中国に被らぬよう用心しつつある。軍事支援は続けるだろうが、表向きロシアを助けるのは憚られる状況となっている。その象徴はインドのモディ首相の動きだろう。
安倍晋三元首相が「二つの海」構想によって、日米豪印によるインド太平洋構想を提唱して以来、インドの姿勢は変化しつつあるように見える。5月のG7サミットに出席したのは予想外だった。ヒマラヤの高地では米軍とインド軍が共同訓練をしている。
米軍頼みに足らずと独自立国を目指した欧州各国は、米軍に協力する姿勢を明らかにしている。その筆頭はドイツだろう。同国は液化ガスの50%をロシアに頼っていたが、これがゼロになった。原発の開発を決定し、炭素燃料の開発を始めるという。軍事費も2倍以上にするという。ドイツの変身は自由主義と資本主義の強さを示している。
●バイデン氏、ワグネル反乱で政権弱体化と認識 6/29
米国のバイデン大統領は28日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の反乱によりプーチン露政権が弱体化したとの認識を示した。プーチン氏が国際社会の「のけ者」になったとも指摘した。
バイデン氏はホワイトハウスで記者団に、弱体化したかどうかを問われ、「もちろんだ。彼は明らかに(ウクライナでの)戦争で負け、国内での戦いにも負けている」と語った。
プーチン大統領(28日)(AP)プーチン大統領(28日)(AP)
その上で、プーチン氏について「世界中でちょっとしたのけ者になっている。NATO(北大西洋条約機構)や欧州連合(EU)だけでなく日本からもだ。40か国からだ」と述べた。
●ウクライナ東部ドネツク州ミサイル攻撃の死者11人に ロシア軍、西進か 6/29
ウクライナ東部ハリコフ州で28日、ロシアの砲撃があり民間人3人が死亡した。
州知事は、砲撃で男性3人が自宅近くで死亡したとメッセージアプリ「テレグラム」に投稿した。
一方、27日に東部ドネツク州クラマトルスクで、飲食店を直撃したミサイル攻撃による死者は、14歳の双子姉妹ら子どもを含む11人となった。負傷者は少なくとも61人。
ロシア側は、意図的に民間人を標的にすることはないとしている。ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は、ロシアが攻撃するのは軍事目標のみで民間施設は攻撃しないと言明。「攻撃は軍事インフラと何らかの形でつながっている対象に対して行われる」と述べた。
その後、国防省は、クラマトルスクで攻撃された標的はウクライナ軍の「臨時司令部」だったと述べたが、詳細は明らかにしなかった。
クラマトルスクはドネツク州の前線の西に位置し、ロシアが西進する際の標的となる可能性が高い。
●プリゴジン氏到着のベラルーシに危機感、NATO中小7か国「深刻な事態だ」 6/29
北大西洋条約機構(NATO)加盟国のオランダやポーランドなど7か国は27日、オランダ・ハーグで首脳会議を開き、ベラルーシへの対応の必要性を確認した。ベラルーシはロシアの民間軍事会社「ワグネル」へ基地を提供する用意があると表明したほか、ロシアの戦術核配備も進めており、近隣国を中心に警戒が強まっている。
会議は、ウクライナへの兵器支援で存在感を高めているオランダが、NATO中小国の意思統一を図るため主催した。対露強硬派でベラルーシ近隣国のポーランドやリトアニア、ルーマニアなどが参加し、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長も加わった。ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏がベラルーシに到着したことを受け、各国首脳はベラルーシ周辺の安全保障への危機感を示した。
ベラルーシと国境を接するリトアニアのギタナス・ナウセーダ大統領は会議後、「ベラルーシにワグネルの 傭兵ようへい が展開すれば、近隣諸国の治安が悪化する」と記者団に述べた。ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は共同記者会見で「深刻な事態だ。NATOとして、強い対応が必要だ」と強調した。各国首脳は7月にリトアニアで開かれるNATO首脳会議で、有事に備えた対応策の強化を求めることで一致した。ストルテンベルグ氏は会見で、ベラルーシの潜在的な脅威を認めつつ、「ワグネルの軍隊がどこに行き着くのか、結論を出すのは時期尚早だ」と述べ、影響を慎重に見きわめる姿勢を示した。
●ロシアの戦術核兵器、すでに大半がベラルーシへ 6/29
ベラルーシのルカシェンコ大統領が、ロシアの戦術核兵器の大半が国内に持ち込まれたと発表したことを受け、松野官房長官は「断じて受け入れることはできない」「ウクライナ情勢を更に緊迫化させるものだ」と強く非難しました。
松野官房長官「27日、ルカシェンコ大統領が核兵器のかなりの部分がすでにベラルーシに持ち込まれていると述べたことについては、承知をしています」
ロシアのプーチン大統領は今年3月、隣国・ベラルーシへの戦術核兵器の配備を表明していました。
松野官房長官は、「核兵器による威嚇も使用も断じて受け入れることができない」と述べ、こうした動きは「ロシアがウクライナ侵略を続けている中で、情勢をさらに緊迫化させるものだ」と強く非難しました。
その上で、ロシアとベラルーシ両国に対し「緊張を高めるような行為をやめるよう求める」と述べ、事態の推移を注視していく考えを示しました。
●ワグネル武装反乱 “ロシア軍副司令官が事前把握” 米メディア 6/29
ロシアで起きた民間軍事会社ワグネルによる武装反乱について、アメリカの複数のメディアは、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍の副司令官が事前に計画を把握していたと報じました。
27日付けのアメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、複数のアメリカ政府高官の話として、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍のスロビキン副司令官が、民間軍事会社ワグネルによる武装反乱について、事前に計画を把握していたと伝えました。
その上で、ロシア軍の複数の幹部が、ロシア国防省の指導部を力によって交代させようという、ワグネル代表のプリゴジン氏の試みを支持していた可能性を示す形跡があるとしています。
また、ウォール・ストリート・ジャーナルは28日、欧米の複数の政府高官の話として、プリゴジン氏がロシア軍の複数の幹部に武装反乱の意志を伝え、その中にスロビキン氏が含まれていた可能性があると報じました。
これについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は28日、記者団に対し「こうした問題は、多くの臆測やうわさが飛び交うが、これもその一例だろう」と述べ、否定しました。
スロビキン氏は、ワグネルが南部ロストフ州にある軍管区司令部の施設を掌握し首都モスクワへ進軍する中で、ワグネルの戦闘員に対し、反乱に加わらないよう呼びかけていました。
ただ、スロビキン氏は、プリゴジン氏に近いことで知られており、武装反乱の背景に軍内部の対立があった可能性をめぐって関心を集めています。
●ロシア軍前総司令官 拘束か 「ワグネル」プリゴジン氏を“支持” 6/29
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の武装反乱の余波が広がっている。
プリゴジン氏に近いことで知られ、ウクライナ侵攻の総司令官だった将軍が、捜査当局に拘束されたとの情報が浮上している。
国家反逆の容疑で拘束されたとの情報が浮上しているのは、ウクライナ侵攻のロシア軍前総司令官、セルゲイ・スロビキン氏。
スロビキン氏は、ワグネルのトップ・プリゴジン氏に近いことで知られ、ロシアメディアは27日、ロシア国防省筋の話として、「どうやら彼は、反乱の際にプリゴジン側を選び、捕まったようだ」と、拘束された背景を伝えている。
ロシアのペスコフ大統領報道官は27日、「今後、さまざまな臆測やゴシップなどが飛び交うだろう。これはそのような例の1つだ」と否定している。
●ロシア軍首脳、反乱知っていた プリゴジン氏を支持か―米報道 6/29
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は27日、ロシア軍首脳が民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏による武装反乱の計画を事前に知っていたと報じた。米情報機関の説明を受けた米政府高官が同紙に明らかにした。米政府は、このロシア軍首脳がプリゴジン氏の計画を支援したかどうか見極めようとしている。
報道によると、この軍首脳は昨年10月から今年1月までウクライナ侵攻を統括したスロビキン前総司令官。現在も侵攻に大きく関与する立場だが、反乱計画に関わっていたことが判明すれば、解任される可能性がある。ウクライナの戦況に与える影響は大きい。
米政府高官はまた、他のロシア軍関係者もプリゴジン氏の反乱を知っていた可能性があると指摘した。プリゴジン氏が軍上層部に反乱を起こした背景として、軍内の一部からの賛同を当て込んでいたからだと指摘する見方は少なくない。
スロビキン氏は1月に総司令官を軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長に譲り、現在はナンバー2に甘んじている。かねてプリゴジン氏と近い関係にあるとささやかれてきた。反乱直後には通信アプリで「もうやめるんだ」とワグネルの戦闘員に呼び掛けていた。
もっとも同紙は、米政府がスロビキン氏を「有能で冷酷」と見ており、地位をおとしめる情報を広めようとしていると分析した。もしスロビキン氏が解任されれば「間違いなくウクライナに有益だ」とも指摘している。
スロビキン氏は2015年からのシリアへの軍事介入で民間人の犠牲と市街の破壊をいとわない激しい作戦で知られた。その残忍さから「ハルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を取った。
米専門家は同紙に、スロビキン氏がロシアのプーチン大統領の失脚は支持しなかったが、プリゴジン氏が要求してきたショイグ国防相らの解任の必要性には同意していたようだと語った。事実なら、ロシア軍内の深い亀裂が反乱の背景にあったことになる。
●リトアニア、地対空ミサイルシステム購入 ウクライナに供与へ 6/29
リトアニア政府は28日、ウクライナに供与するためにノルウェー製の地対空ミサイルシステム「NASAMS」2基を購入したと発表した。ウクライナに3か月以内に到着する予定。
この発表は、リトアニアのギタナス・ナウセーダ大統領がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談するためキーウ入りしたタイミングで行われた。
リトアニアのアルビーダス・アヌシャウスカス国防相は、ノルウェー企業コングスベルグ・ディフェンス&エアロスペースからのミサイルシステム購入費用について、980万ユーロ(約15億5000万円)相当だと説明した。
ゼレンスキー氏は同日ツイッター(Twitter)でナウセーダ氏に謝意を表明し、「ウクライナの防空と国民の命を守るため、重要かつ時宜を得た支援だ。共に勝利へ!」と記した。
リトアニアはさらに装甲兵員輸送車「M113」10台も供与する方針。国防省によると、年内に供与予定の軍需品も含めると、対ウクライナ軍事援助は5億ユーロ(約790億円)を上回る。
リトアニア、エストニア、ラトビアのバルト3国は、昨年ロシアがウクライナに侵攻して以来、同国に対する強い連帯を表明している。
数十年にわたってソ連に併合されていた3か国は、1991年の独立宣言後、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)に加盟している。 
●深刻な内部亀裂<vーチン大統領に衝撃!「プリゴジンの乱」 6/29
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者、エフゲニー・プリゴジン氏の反乱に、ロシア軍の「大物」が関わっていた疑いが浮上した。「ハルマゲドン(最終戦争)将軍」と呼ばれ、ウクライナ侵攻の副司令官を務めるセルゲイ・スロビキン航空宇宙軍総司令官で、ロシアメディアでは「拘束」情報が報じられた。ウラジーミル・プーチン大統領は、隣国ベラルーシに入ったプリゴジン氏に対する「包囲網」を強めているが、プリゴジン氏に同調していた軍幹部がほかにいた可能性も指摘されている。プーチン政権の「内部亀裂」は日々、深刻度を増している。
ワグネルの反乱で、ロシア軍将軍拘束
ロシアの独立系英字紙「モスクワ・タイムズ」(電子版)は28日、こんな見出しで「スロビキン氏拘束」のニュースを報じた。
同紙は、ニュースソースをロシア国防省に近い消息筋2人としており、そのうちの一人は「拘束はプリゴジン氏の文脈で行われた」「彼(スロビキン氏)はプリゴジン氏側を選んだ」と話しているという。ただ、国防省はコメントしておらず、真偽は不明だ。
だが、スロビキン氏をめぐっては、米紙ニューヨーク・タイムズが27日、ワグネルによる武装反乱の動きを事前に把握していたと伝えていた。 ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は28日、「多くの臆測や噂が飛び交うが、これもその一例だ」と報道を否定していたが、そのわずか後に、スロビキン氏の「拘束情報」が駆け巡った。
軍人としてのスロビキン氏の経歴は華々しい。
旧ソ連崩壊後に独立運動が起きた南部チェチェン共和国への軍事介入に参加したほか、シリアでのロシアの軍事作戦でも指揮を執った。「ハルマゲドン将軍」という異名は、スロビキン氏の残忍さから付けられた。
スロビキン氏は昨年10月、ウクライナの軍事作戦の総司令官に任命されると、南部ヘルソン州ヘルソンで孤立した露軍部隊を撤退させるなど、現実的な部隊運用にロシアの軍事評論家からは評価する声があった。
ところが、総司令官任命からわずか3カ月後の今年1月、副司令官に降格させられた。この人事を行ったのが、セルゲイ・ショイグ国防相で、スロビキン氏の後任の総司令官に就いたのが、ワレリー・ゲラシモフ参謀総長だった。
ショイグ氏、ゲラシモフ氏の2人はたびたび、プリゴジン氏の批判対象となっていた。対照的に、プリゴジン氏はスロビキン氏を高く評価し、同氏が総司令官だった時代にはワグネルに対する「弾薬供給に問題はなかった」と述べていた。
プリゴジン氏の反乱が、ショイグ、ゲラシモフの両氏を狙ったものだったとの見方も出ている。
28日の米紙「ウォールストリート・ジャーナル」(電子版)によると、欧米当局者の情報で、プリゴジン氏は、2人の拘束を一時計画していたが、ロシア連邦保安局(FSB)が計画実行予定日の2日前に把握。この動きを察知したプリゴジン氏は当初の計画よりも作戦を早めようとし、南部ロストフナドヌーの軍管区司令部を一時制圧したという。
わずか1日で収束したプリゴジン氏の反乱は背景が判明するにつれ、プーチン政権に発生した亀裂の深刻さが増している。スロビキン氏の「内通」を伝えたニューヨーク・タイムズの記事では、同氏のほか複数の軍高官も、プリゴジン氏に同調していた形跡があるとしていた。欧米の情報機関は、プリゴジン氏がロシア軍の一部も反乱に加わると信じ、弾薬や燃料、兵器を蓄えていたと分析している。
ジョー・バイデン米大統領は28日、ホワイトハウスで記者団に「プーチン氏の力が弱まったのか」と問われ、「その通りだ。彼は国内での戦争に負けている。そして、彼は世界中で『のけ者』になっている」と語った。
●プーチン氏「弱体化させられた」 ロシア反乱後の情勢注視 独首相 6/29
ドイツのショルツ首相は28日、ロシアで起きた民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏による武装反乱により、「彼(プーチン大統領)は弱体化させられたと強く信じている」と強調した。
公共放送ARDの取材に応じた。さらに、一件が「ロシアに長期的な影響を与えるのは間違いない」と主張した。
ショルツ氏は、反乱が「独裁体制、権力構造に亀裂を生じさせ、安泰にくらにまたがっているわけにはいかなくなった」と指摘した。ただ、「彼(プーチン氏)がどのくらい権力の座に居続けるのかは推測したくない。長いかもしれないし、短いかもしれない。われわれには分からない」とも述べた。
●一般人とセルフィ―も…プーチン大統領“異例”の触れ合い 6/29
ロシアのプーチン大統領は、モスクワから2000キロ離れたロシア連邦を構成する一つダゲスタン共和国へ足を運び、市民と触れ合う様子が、28日、公開されました。
ここは貧しい地域でもあり、多くの若者がウクライナに出兵していて、動員令が出されたときは強い反対運動が起きた場所です。
本来は、いつも以上に警護されそうなものですが、この日は、サービス精神旺盛。一般人との記念撮影に応じていました。
元NSCアドバイザー「(Q.ロシア大統領府が動画を公開しましたが)プリコジンをロストフ市民が指示していたような映像。間違いなくあれを意識しています。プーチンも“演出”しているのです。自らの地位が、再び、安定するまで、“権力を握り続けている”と周囲に見せかけたいのです」
クレムリンは、ワグネルの乱を事前に察知していたといわれています。それでも、モスクワの近くまで進軍させてしまったことによるイメージダウンはかなりのものだったのかもしれません。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(28日付)「プリゴジン氏は当初、ロシア南部に視察に来るショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長を拘束する計画を立てていた」
米ニューヨーク・タイムズ(27日付)「プリゴジン氏は、スロビキン副司令官に協力を要請していた。プーチンの失脚は支持しなかったが、ショイグとゲラシモフの解任には同意していたようだ」
しかし、実行の2日前にFSB=ロシア連邦保安庁や、国家親衛隊に情報が漏れたことから計画を前倒すことにしました。スロビキン副司令官が協力することもなく、反乱は失敗に終わりました。
スロビキン副司令官はこの数日、公の場に現れておらず、一部のメディアは「拘束された」と報じています。
内部紛争でごたつく一方、存在感が出てきている人たちもいます。例えば、チェチェン部隊を率いるカディロフ首長。
戦争研究所「チェチェン人部隊がウクライナでの戦闘任務の中心になる可能性がある」
そしてもう一人は、プーチン大統領とプリゴジン氏を仲裁したとしているルカシェンコ大統領です。ロイター通信は「ロシアから政治的な信用を得たことで、経済面などで支援を引き出せるようになった」と伝えています。
ヨーロッパの流動化は続きます。そして、ウクライナを中心に安全保障は大きく変化していくことになります。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領:「戦争が終われば、NATOの一員になれると確信しているし、そうなる必要があります」
●教皇特使、ロシア高官と会談 プーチン氏とは実現せず 6/29
タス通信によると、フランシスコ・ローマ教皇の特使として、ズッピ枢機卿が28日、モスクワを訪れ、ウクライナ侵攻を巡ってロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)と会談した。プーチン大統領との直接会談は実現しなかったとみられる。
ロシア・カトリック司教協議会トップによれば、「会談は良好かつ前向きに行われた。子供を含む避難民を巡る人道問題が主なテーマとなった」という。
ペスコフ大統領報道官は会談に先立ち、記者団に「ウクライナの危機の平和的解決を見いだそうとするバチカン(教皇庁)の努力とイニシアチブを高く評価し、軍事衝突の停止に向けて貢献しようとするフランシスコ教皇の熱意を歓迎する」と述べた。
ズッピ枢機卿は今月上旬、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談した。「現下の悲劇的状況の解決を促し、平和に向けた道を見いだす」(教皇庁)として仲介に乗り出し、昨年2月の侵攻開始後初めて今回、モスクワを訪問した。
●プーチン氏が粛清開始か、ワグネル反乱を事前把握?の副司令官を拘束… 6/29
英紙フィナンシャル・タイムズは29日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏による反乱に絡み、ロシアのウクライナ侵略で副司令官を務めるセルゲイ・スロビキン上級大将が拘束されたと報じた。スロビキン氏はプリゴジン氏と近い関係で、反乱計画を事前に知っていたとされる。プーチン露大統領がプリゴジン氏に近い勢力の粛清を始めた可能性がある。
スロビキン氏はプリゴジン氏が武装蜂起を宣言した直後、動画でワグネル戦闘員に自制を呼びかけたが、その後消息が途絶えた。同紙は、反乱を支持した疑いでの逮捕か監視下に置くための拘束かは不明としている。露独立系紙「モスクワ・タイムズ」は逮捕だと報じた。
スロビキン氏は航空宇宙軍のトップを兼ね、今年1月まで侵略作戦の総司令官を務めた。プリゴジン氏らウクライナ侵略で強硬路線を主張する一派に支持され、セルゲイ・ショイグ国防相とは緊張関係にあった。
ロシアの有力な軍事SNS「Rybar」は28日、露軍部で「大規模粛清が行われている」と指摘した。露軍内部の混乱はウクライナの戦況にも影響を与えるとみられる。
一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは28日、プーチン政権がワグネルの事業吸収に乗り出したと報じた。今後、汚職摘発などでプリゴジン氏の影響力をそぐ可能性がある。
●スイス、ウクライナへの戦車移転を拒否 レオパルト96両 6/29
スイスの連邦会議(内閣)は28日、国有軍需企業ルアグ(RUAG)が保有する戦車96両について、ウクライナへの移転を行わないと発表した。
スイスはウクライナや友好国から圧力を受けても、他国が保有する自国製兵器をウクライナへ移転する許可についても拒否し続けている。
連邦会議は戦車「レオパルト(Leopard)1A5)」96両の国外移転は「現在の法律の下では不可能」だと表明。移転は「戦争物資法に違反し、スイスの中立方針を転換させるものだ」と説明した。
同国の戦争物資法は、国際紛争当事国への武器移転を全面的に禁じている。
今回の連邦会議による拒否表明は予想されていたものだが、スイス議会は軍事的中立方針の緩和を検討しており、一定の条件下で紛争当事国への兵器移転を認める法改正を提案している。
●ダム決壊の死者100人超か 反乱、ロシア軍にダメージ―米CNN 6/29
米CNNテレビは28日、ロシアが侵攻を続けるウクライナ南部ヘルソン州で起きたダム決壊に伴う死者が100人を超えたと報じた。ウクライナ軍が新たに60人余りの遺体が見つかったと発表した。それ以前に45人の死亡が確認されていたという。
ヘルソン州カホフカ水力発電所のダムは6日に決壊。広大な地域が浸水し、多くの住民が避難を強いられたほか、環境・農業への深刻な被害が懸念されている。
決壊の原因は不明で、ウクライナとロシアが非難の応酬を繰り広げているが、米メディアは先に、内部の保守管理用通路に仕掛けられた爆発物が爆発した可能性が大きく、多くの証拠がダムを管理していたロシアによる破壊工作だったことを示していると報じた。
一方、英国防省は29日の戦況分析で、民間軍事会社ワグネルの反乱により、「空中司令部」や無線中継の機能を持つロシア軍機1機が撃墜されたと指摘した。
同機は侵攻で「重要な役割を果たしてきた」といい、英国防省はダメージの大きさを強調。心理的ショックからロシア軍の士気低下を招く公算が大きく、中長期的にも指揮調整能力に悪影響を及ぼすと予測した。

 

●バイデン大統領「プーチン大統領の目的は西側諸国の分断」 6/30
アメリカのバイデン大統領は29日、テレビ番組に出演し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアについて「プーチン大統領の目的は西側諸国を分断させることだ」と述べるとともに「日本をヨーロッパの課題に関与させることも含めて、結束を拡大させてきた」として、同盟国や友好国との結束を強調しました。
バイデン大統領は29日、MSNBCテレビの番組に生出演してインタビューに応じ、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア側の意図について「プーチン大統領の目的は1つで、それは西側諸国を分断させることだ」と述べました。
その上で「もしそうなれば大変なことになる。ただ、私たちは結束し、第2次世界大戦以降、最も重大な侵略が成功しないように対処することができている。それがウクライナに多大な支援を続けている理由だ」と述べ、支援を続けていく重要性を強調しました。
そして「就任以来、NATO=北大西洋条約機構をまとめることに注力してきた。日本をヨーロッパの課題に関与させることも含めて、結束を40の国々に拡大させてきた」と述べ、ロシアに対じするために、同盟国や友好国と結束してきたと強調しました。
●トランプ氏、プーチン氏は「やや弱体化」 台湾有事の対応明言せず 6/30
トランプ前米大統領は29日、ロシアのプーチン大統領は民間軍事会社ワグネルの反乱で「やや弱体化した」との見方を示し、今こそ米国がロシアとウクライナの交渉による和平を仲介する時だと述べた。ロイターのインタビューに応じた。
「このばかげた戦争で人々がこれ以上命を落とすべきではない」と語った。
停戦にはウクライナの領土譲歩が必要になる可能性も排除しなかった。自身が大統領なら全て交渉次第だが、自国を守るため断固戦ってきたウクライナ国民は「多くの称賛を得ている」と指摘。
「ウクライナは獲得した大部分を維持する権利があり、ロシアも同意するだろう。適切な仲介者、交渉人が必要だが、今のわれわれにはそれがいない」と述べた。
「米国が今やるべき最大の作業はロシアとウクライナを和解させることだ。それは可能だ」とし、「今がその時だ」と訴えた。
また、プーチン氏はワグネルの反乱で打撃を受けたとし、「彼はまだとどまっており、まだ強いと言えるかもしれないが、少なくとも多くの人々の心の中ではやや弱体化しただろう」と指摘。
プーチン氏が退いた場合については「代わりがどうなるのかは分からない。良くなるかもしれないが、はるかに悪くなる可能性もある」と語った。
中国がキューバを拠点にスパイ活動をしているとの情報については、48時間以内の拠点閉鎖を要求すべきだと主張。自身が大統領なら、中国が拒否すれば同国からの全ての輸入品に100%の関税を課すとした。
中国が台湾に侵攻した場合、米国は台湾を軍事的に支援するかとの問いには回答を避けた。「それについては話さない。交渉の立場が損なわれるからだ」とし、「ただ言えるのは、4年間は脅威がなかったということだ。私が大統領ならそうした事態は起きない」と述べた。
●トランプ前米大統領「プーチン氏弱くなった」 ウクライナ侵攻は「ばかげた戦争」 6/30
2024年米大統領選の共和党候補指名争いでリードするトランプ前大統領は29日、ロイター通信のインタビューに応じ、ロシアのプーチン大統領が民間軍事会社ワグネルの反乱を受け「若干弱くなった」と述べた。ウクライナ侵攻は「ばかげた戦争」だとして、停戦すべきだと訴えた。
トランプ氏はプーチン氏を「賢い」と称賛することも多く、手厳しい評価は珍しい。「米国が今すべきことは平和をもたらすことだ」と語った。
一方、共和党候補指名争いに出馬したペンス前副大統領は29日、訪問先のウクライナの首都キーウ(キエフ)で米CNNテレビの取材に応じ、プーチン氏がロシア軍を掌握できているかどうかについて「疑問だ」と述べた。
●ワグネルの乱:早くも米国で取り沙汰され始めたプーチンの後継者 6/30
「ロシアの核兵器がどうなるのか。それが最大の関心事でした」
ロシアの民間軍事会社ワグネルが武装蜂起した時、米ワシントンの政府関係者は、ロシア政府が保有する核兵器の行方が何よりも気がかりだったという。
国防総省の元高官だったエブリン・フォーカス氏は米メディアの取材に、「今回、ロシアで内乱があった時、すべての核施設を責任者がしっかり管理し続けられるかが最も心配だった」と述べている。
というのも、核兵器が反乱軍の手に渡った場合、地球のかなりの地域を「消し去る力」が敵方に渡ることを意味するので、米政府関係者は神経を尖らせていた。
ただ、ワグネルのエフゲニー・プリゴジン氏の反乱は最後の一線で立ち止まったため、安堵したという。ロシアの核体制に変化はなかった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「プリゴジンを潰す」とまで発言したが、実際は発言の数時間後にプリゴジン氏と取引をして事態の収拾にあたった。
今回のワグネルによる反乱劇で見えてきたものがある。
それはプーチン氏の政治力が低下してきたのではないかということだ。
すでに米政府内で語られ始めているが、ワグネルの台頭を短期間だけだが許してしまったことに、将来への憂慮が増した。
かつてのプーチン氏であれば、短期間でさえこうした反乱は許さなかったはずだ。
ニューヨーク・タイムズ紙も6月27日、「プリゴジン氏による短期間の反乱は、プーチン氏の権力基盤が就任以来、かつてないほど脆弱であることを証明した」と書いた。
アンソニー・ブリンケン米国務長官はNBCテレビの番組「ミート・ザ・プレス」に出演して、次のように語った。
「ロシアのファサード(外観)に亀裂が入ったと思う。ワグネルがウクライナから出てきて、モスクワに向かったということ自体が異常だ」
「(中略)プーチン氏がこれから数週間、また数か月のうちに対処しなくてはいけない問題がいろいろと浮上してきた」
知人の米外交専門家も次のように述べる。
「プーチン政権というのはこれまで、無敵という認識のうえに築かれた独裁政権だった」
「それが短期的であったにせよ、武装集団によって脅かされた。これはプーチン氏にとっては極度の屈辱にほかならない」
今回の反乱は、ロシア国家のゆっくりとした衰退を世界に示すことになったのではないか。
プーチン氏は民主主義や市民主義に反する軍事拡張主義を追求してきた。これは強さの表れではなく、絶望の表れと解釈してもいい。
米専門家に取材を進めると、見えてきたことがある。それは「プーチン後の世界」がすでに語られていたことである。
外交専門家の間では、プーチン氏から次のトップに代替わりをした後、「深く危険で予測不可能なロシアになる」という事案が取り沙汰されているという。
もちろん現段階では予測の域を出ないのだが、欧米諸国だけでなく、日本でも「プーチン後の世界」に備えておく必要があると告げられた。
米首都ワシントンに本部を置く欧州政策分析センター(CEPA)の安全保障問題を担当するエドワード・ルーカス氏も言う。
「この点(プーチン後)については多くの国で準備ができていないし、考えてもいない。我々が直面するジレンマもあるが、いますぐにでも考える必要があるだろう」
ロシアとウクライナが1年以上も戦闘状態にある点も考慮する必要がある。戦争が長引けば長引くほどプーチン政権は弱体化するはずで、何が起きても不思議ではない。
ましてやウクライナに侵攻してから1年以上を経ているにもかかわらず、プーチン氏はいまだにウクライナを掌握できていない。
両国の軍事力を総合的に比較した時、両国には比較にならないほどの開きがあり、ロシアがすでに圧勝していてもおかしくない戦力であることが分かる。
例えば、常備兵役と予備役を含めた兵士数は、ロシアが約290万であるのに対し、ウクライナは約110万。
戦車等の戦闘車両はロシアの約1万6000両に対し、ウクライナは約3300両。戦闘機もロシアの約1400機に対しウクライナは約130機といった具合で、ロシアが圧勝していても不思議ではない。
いまは欧米諸国がウクライナの後ろ盾になっていることもあるが、ロシアの圧勝というシナリオは遠のいた。
取材をしていくと、米軍関係者の中から「(中国の)習近平国家主席がプーチン氏にウクライナ戦争を終わらせるように働きかけるべきだ」との声もあった。
戦争を継続させるということ自体、経済的にも政治的にも大きな負担になるので、ロシアという国家の成長を真に憂慮するのであれば、戦争はすぐにでも終了させた方が得策のはずである。
だがプーチン氏にはすぐに戦争を終わらせる意図はなさそうだ。
ただ、もしプーチン氏が政権の座から引きずり降ろされたらどうなるのか。
いまよりも国際関係はさらに危険が伴った混沌とした状態になることが予想される。
「プーチン政権よりも残忍で、抑制の利かない強硬派にとって代わられる可能性もある」との見方もあり、ウクライナ戦争がさらに長期化する可能性もある。
プーチン氏が政権の座に居座り続けたとしても、欧米諸国を味方につけたウクライナが今後、優勢な立場を堅持していくことも十分に予想される。
そうなると、プーチン氏はコーナーに追い詰められることになり、プーチン氏はウクライナ市民にいままで以上に無慈悲な攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
ウクライナ戦争がいますぐプーチン政権の崩壊につながる可能性は低そうだが、「プーチン後の世界」の駆け引きは、想像以上に混沌としていることは間違いなさそうだ。
「プーチン後の世界」としては、プーチン氏に代わる人物の名前がすでに何人か挙がっている。
筆頭がミハイル・ミシュスチン首相で、さらに国営原子力企業ロスアトムのアレクセイ・リハチョフ社長やイーゴリ・シュワロフ元副首相などの名前も出ている。
いずれにしも、プーチン氏がロシアのトップに鎮座しているかぎり、すでに「終わりの始まり」がスタートを切っていると考えた方がいいかもしれない。
●ルカシェンコが明かすプリゴジン説得緊迫の舞台裏、嘘がバレたプーチン 6/30
「ご存知のように私は完全に関与していた」
「プーチンの料理番」ことエフゲニー・プリゴジン率いるロシア民間軍事会社ワグネルグループ部隊の「プリゴジンの反乱」を24時間も経たないうちに収束させた仲介役、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が27日、国営メディア「ベルタ(BELTA)」で舞台裏の一部始終を雄弁に語った。
ベラルーシはロシアと国家連合を組んでおり、ウクライナ戦争ではロシア軍がキーウを攻撃する通り道として使われた。ルカシェンコはロシアの戦術核兵器のベラルーシへの搬入が最近、始まったことを明らかにしている。ルカシェンコには、ウラジーミル・プーチン露大統領より自分を大きく見せるとともに、プリゴジンとワグネルに与えたベラルーシ国内での安全を確実にする狙いがある。
ルカシェンコは「ロシア国内ではいつものように行き過ぎた愛国者たちがプーチン大統領について嘆き、非難し始めた。反逆者の訴追を止めないよう関係者を捕まえたり、殺したり、投獄したりすることをプーチン大統領に要求している。これこそロシアやベラルーシの人々が注意しなければならないことだ」と沈黙を破る理由について語った。
「ご存知のように私はこれらの出来事に完全に関与していた。金曜日(23日)だった。ロシア、露ロストフ州などの情勢について断片的な情報を入手し始めた時、最初は気にも留めていなかった。戦争が継続しているのだから、そんなことは驚くに値しない。しかし土曜日(24日)午前8時すぎから、ロシア情勢に関する憂慮すべきニュースが届き始めた」
「プリゴジンは電話にも出ないし、誰とも話したがらない」
ルカシェンコによると、ロシア連邦保安庁(FSB)、ベラルーシ国家保安委員会(KGB)とイワン・テルテリ議長を通じて、プーチンが電話会談を求めてきた。プーチンは午前10時に国民向けに演説し、その10分後にルカシェンコに電話をかけてきて、ロシアで展開している状況を説明したという。
「私が見たところ最も危険だったのは状況そのものではなく、それがもたらす深刻な結果だった」。ルカシェンコはプーチンに処罰を急ぐより、プリゴジンやワグネルの指揮官と話すことを提案した。
プーチンはお手上げだと言わんばかりにこう答えた。「聞いてくれ、無駄なことだ。プリゴジンは電話にも出ないし、誰とも話したがらない」
ルカシェンコが「彼はどこにいる?」と尋ねると、プーチンは「ロストフだよ」と答えた。「悪い平和はどんな戦争よりもましだ。プリゴジンに連絡してみる」というルカシェンコに、プーチンは「無駄だよ」と首を振った。ルカシェンコとプーチンは30分ほど状況について話し合った。
プーチンはウクライナ軍の反攻について「奇妙に聞こえるかもしれないが、前線の状況は以前より良くなっている」と言った。「悪いことばかりではないんだ」とルカシェンコは応じた。時計の針は午前11時を指していた。「どうやってプリゴジンと連絡を取ればいい? 電話番号を教えてくれ」。プーチンは「FSBが電話番号を知っているだろう」と答えた。
「プリゴジンは高揚していた。完全に高揚していた」
ルカシェンコはその日の午後までにロストフにいるプリゴジンと話すのに使える3つのチャンネルを手に入れた。「このチャンネルを使って3回目、4回目の交渉を行った。仲介者が私とプリゴジンがコミュニケーションを行うのを助けてくれた」。連絡すると、プリゴジンはすぐに電話口に出た。
「プリゴジンは高揚していた。完全に高揚していた。最初の30分は汚い言葉だけを吐いた。汚い言葉は普通の言葉の10倍はあった。“汚い言葉を使って悪かった”と彼はわびた。交渉を始めるため何を言おうか考えた。ワグネルは前線から戻ってきたばかりだった。何千人もの戦死者を見てきた。彼らは大きな不満を抱いている。特にロシア軍の指揮官たちにね」
ルカシェンコは次のように理解した。ワグネルの戦闘員たちはプリゴジン自身に強烈な影響を与えている。プリゴジンはあたかも英雄のように振る舞っているが、戦闘員の死を見てきたワグネル突撃部隊の指揮官たちの圧力と影響下にある。プリゴジンはロストフを掌握した時、興奮し、異様な精神状態にあった。
ルカシェンコはベラルーシのKGBや軍を通じて、プリゴジンとワグネルがロストフにあるロシア軍南部軍管区司令部を占拠したという情報を入手した。ロシアメディアはワグネルによる拘束や略奪を報じていたが、ルカシェンコが「無抵抗の民間人や軍人を殺したか」と確認すると、プリゴジンは「誓って言うが、誰も傷つけていない」と強調した。
「欲しいものはショイグとゲラシモフだけだ」
「ロストフに入った時、誰も傷つけていないことが非常に重要だった」とルカシェンコは振り返る。しかし実際にはワグネルはロシア軍と交戦してヘリコプター6機と空中指揮所機1機を撃墜し、少なくとも13人を殺害したと報じられている。
「何が望みだ?」という質問に、プリゴジンは「何も欲しくない。欲しいものはセルゲイ・ショイグ国防相とワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長だけだ。そしてプーチン大統領に会いたい」と言った。「この状況では誰もショイグやゲラシモフを引き渡さないだろう」とルカシェンコは答えた。
ルカシェンコ「あなたは私と同じぐらいプーチン大統領を知っている。彼はあなたとは会わないし、この状況下では電話で話すことさえしない」
プリゴジン「私たちは正義を望んでいる。ショイグとゲラシモフは私たちを滅ぼしたいのだ。だから、われわれはモスクワに進軍するんだ」
ルカシェンコ「ロシア軍部隊はウクライナ軍との最前線にいるものの、あなたは途中で虫けらのように踏み潰されるだけだ。よーく考えてみろ」
興奮しているプリゴジンを説得するのに時間がかかった。ルカシェンコは最後に「誤解しないでほしい。われわれはベラルーシ軍の旅団をモスクワに送る準備はできている。1941年と同じようにわれわれはモスクワを守る。なぜなら、この状況はロシアだけで収まるものではない。反乱がロシア全土に広がれば、次はわれわれの番だ」と通告した。
「ワグネルは蜂起する術を知っている」
一方、ルカシェンコはプーチンに対して「プリゴジン殺害は可能だ。一度目は失敗しても二度目は必ずできる。しかし殺害はするな。交渉が成り立たなくなる。ワグネルはアフリカ、アジア、ラテンアメリカで戦ってきた強者だ。彼らは蜂起する術を知っている。彼らも排除可能だが、ワグネルと戦う者たちとともに何千人もの民間人が死ぬことになる」と警告した。
「ワグネルは訓練された精鋭部隊だ。誰がこのことに疑問を持つだろうか。ベラルーシの軍人はこのことを理解している。ベラルーシにはさまざまな場所で複数の戦争を経験している人間はいない。したがって決定を下す前に、次に何が起こるかを考えなければならない。鼻の先まで見なければならない」とルカシェンコは慎重に考えた。
プリゴジンは「われわれはモスクワに進軍する。忠実に戦ってきたわれわれには正義が必要だ」と言い張った。「ロシア軍の正規軍と部隊ワグネルの間で、ある種の競争が始まった。不健全な競争だった。よく知られた人間同士の対立が、このような戦いに発展した」とルカシェンコは判断した。
「私もプーチン大統領も状況は収まると思っていた。しかし収まらなかった。最前線で戦ったショイグとプリゴジンが互いに敵対することになった。私はショイグの仕事ぶりも知っている。彼は時に不当に批判される。プリゴジンはショイグに似ていて、性格は非常に衝動的だ。それが発火点だった」
「ワグネルの進軍を止める必要がある」
「プリゴジン、血を流すな。流血はするな。故意であろうとなかろうと民間人を殺したら、それで終わりだ。あなたとは交渉しない」とルカシェンコはプリゴジンを説得し続けた。交渉は6〜7回に及び、一日中続いた。
プリゴジンは最後に折れた。「私はプーチン大統領にショイグとゲラシモフを寄こせとは要求しない」
プリゴジンは「次はどうする?」と尋ねてきた。ルカシェンコは「ワグネルの進軍を止める必要がある」と答えた。ルカシェンコはロシアの指導者たちと連絡を取り、ワグネルを攻撃しないよう約束させた。プリゴジンには「あなたをベラルーシに連れて行き、ワグネル戦闘員の絶対的な安全を保証する」という条件を提示した。
「夕方には交渉は終わりに近づいていた。モスクワから200キロメートル離れた地点に防御線がすでに構築されていたため、時間に追われていた。クレムリンとその近郊に警察官や軍人が集められていた。約1500人の警察官と1万人ほどの兵士がいた。ワグネル戦闘員がこのラインで彼らと衝突すれば、流血が起こるのではないかと恐れた」とルカシェンコは言う。
「私はプーチン大統領と話をした。プリゴジンとの約束を守るようもう一度求めた。彼は言った。“約束したことはすべて実行する”。こうしてカオスは防がれた。起こるかもしれなかった危険な事態は巻き戻された」。ルカシェンコの仲介で、1日に780キロを走破したプリゴジンの「正義の進軍」は止まった。
クレムリンは非合法の民間軍事会社ワグネルに「全額出資」してきた
26日の国民向け演説で自分が「プリゴジンの反乱」を抑え込んだと胸を張ってみせたプーチンの虚勢はルカシェンコの証言で覆された。FSBは27日、プリゴジンに対する武装反乱罪での告訴を取り下げた。
それでもプーチンはプリゴジンを貶めるため、クレムリンが非合法の民間軍事会社ワグネルに約1951億ルーブル(約3270億円)を「全額出資」してきたと初めて公に主張した。
2014年以来、プリゴジンはクレムリンの外交政策とワグネルの利権獲得をリンクさせてきた。シリア、スーダン、中央アフリカ共和国、リビア、マリ、ベネズエラ、モザンビークなど数多くの紛争や不安定地域で、ワグネルは(1)天然資源のアクセス確保、(2)米欧の影響力が弱い地域で存在感発揮、(3)訓練活動に従事してきた。
ワグネルが関与したマリでは数百人の虐殺が報告されているのだ。満天下に大恥をさらしたプーチンは逆上し、血塗られた傭兵部隊ワグネルと最後の一線を画す冷静ささえも失ってしまった。プリゴジンとワグネルはルカシェンコの手に渡り、無能で年老いたプーチンはいよいよ「裸の王様」になった。
「ハルマゲドン将軍」ことセルゲイ・スロビキン副司令官が事前にプリゴジンの計画を知っていたと米紙ニューヨーク・タイムズは報じた。スロビキンは24日から行方が知れず、ロシア当局に拘束されたとの報道もある。事態は急展開している。
●南ア、BRICSサミット予定通り開催 プーチン氏来訪巡り憶測 6/30
南アフリカは29日、新興5カ国(BRICS)首脳会談(サミット)を8月に予定通り開催すると発表した。ロシアのプーチン大統領が出席するために開催地を中国に移すのではないかとの憶測も出ていた。
ロシアがウクライナで子どもらをロシア支配地域に強制的に移動させたとして国際刑事裁判所(ICC)はプーチン氏に逮捕状を出した。南アフリカはICC加盟国のため、プーチン氏がサミット出席のために来訪した場合は逮捕しなくてはならない。
サミットは南アフリカとロシア、ブラジル、インド、中国で構成している。
南アフリカのラマポーザ大統領は今月17日、訪問先のロシアでプーチン氏と会談した。アフリカ民族会議(ANC)は少数派の白人による支配と戦う解放運動をしていた数十年前以来、ロシアと強い同盟関係を築いている。
南アフリカ国際関係・協力省は「南アフリカは第15回BRICSサミットを8月22日から24日までヨハネスブルグ・サントンのサントン・コンベンション・センターで開催する」との声明を発表した。
マグウェンヤ大統領報道官はロイターに対するテキストメッセージで、これはBRICS首脳が出席する主要な部分を含めたサミット全体が南アフリカで開催されることを意味すると説明した。
マグウェンヤ氏と国際関係局の報道官は、ともにプーチン氏が出席するかどうかについてのコメントを避けた。
●ロシア当局、ワグネル反乱巡り軍最高幹部を尋問−拘束中と関係者 6/30
四半世紀近くに及ぶプーチン体制にとって最大の脅威となった民間軍事会社ワグネルの反乱を巡り、ロシア当局は軍最高幹部の1人を尋問した。
事情に詳しい関係者によると、セルゲイ・スロビキン副司令官がワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏との関係について数日にわたり軍検察官の聴取を受けた。副司令官はある場所に拘束されているが、拘置所ではないという。関係者は注意を要する情報を話しているとして匿名を要請した。
スロビキン氏(56)はワグネルによる24日の反乱が収拾して以来、公の場に姿を現していない。プーチン大統領はこの反乱について、ロシアを「内戦」の瀬戸際に追いやったと述べていた。
プーチン氏は昨年10月、スロビキン氏をウクライナ戦争のロシア軍総司令官に指名。同氏はこの翌月にヘルソン市からのロシア軍撤退を指揮し、今年1月には総司令官がゲラシモフ軍参謀総長に交代されていた。
プリゴジン氏はスロビキン氏の軍事手腕を繰り返し高く評価する一方で、ゲラシモフ氏やショイグ国防相ら他の軍幹部を厳しく批判していた。
ワグネルの反乱を受けてスロビキン氏は24日、プリゴジン氏とワグネルに蜂起をやめ、プーチン氏の「意思と命令に従う」よう呼び掛ける動画を国防省のテレグラムに投稿した。これ以来、消息を絶っている。
インタファクス通信によると、ロシアのペスコフ大統領府報道官は29日の記者会見で、スロビキン氏が解任または拘束されたのかと問われたが、コメントを控え、国防省に照会するよう促したという。
●米、ロシアに濃縮ウラン代10億ドル―対ロ制裁に逆行、戦争資金に? 6/30
米国は原発の稼働に必要な濃縮ウランの調達でロシアに部分的に依存している。米紙ニューヨーク・タイムズによると、米国は必要量の3分の1をロシアに頼り、これに対して年間約10億ドルを支払っているという。米欧など西側諸国がウクライナ侵攻に対する制裁で石油・天然ガスの禁輸をはじめとする厳しい経済制裁を実施している中で、これらの制裁措置と明らかに矛盾している。
核の平和利用
代金の支払いはロシア国有の原子力企業ロスアトム(ROSATOM)の子会社に対して行われており、子会社はロシア軍部と密接な関係があるので、同国のウクライナ戦争遂行資金の一部に使われている可能性がある。このお金の流れは、ウクライナ戦争をめぐる対ロ制裁にもかかわらず、米国からロシアに依然として流れている資金のうち最も目立つものだとされる。
こうした状況の背景には歴史的な経緯がある。ロスアトムは原発で燃やす低濃縮ウランだけでなく、核兵器用の高濃縮ウランも手掛けている。さらにロシア軍によるウクライナのザポリージャ原発の占拠にもかかわっているとされる。
1991年末にソ連が崩壊した後、米国など西側諸国はソ連を継承したロシアによる原子力の平和利用を後押しするようになり、そのうちロシアは世界の濃縮ウラン生産の半分を占めるようになった。こうした中で、米国はウラン濃縮から全面的に撤退。今ではウラン濃縮を手掛けている米企業は存在しない。米国はロシアのほかにフランスなど欧州諸国から濃縮ウランを輸入している。ただ、米国では英独蘭合弁企業が小規模なウラン濃縮を行っている。
濃縮ウランで対ロ依存が目立つのは米国ばかりではない。世界では10カ国以上がロシアに濃縮ウランの調達で半分以上頼っている。
米国で濃縮ウランのサプライチェーン(供給網)を再構築するには何年もかかるとみられている。このため米政府は現在の水準を上回る資金を拠出する必要がある。
地球温暖化対策
米国は地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの削減に向けて、太陽光や風力などの再生可能エネルギーだけでなく、原子力エネルギーの利用を拡大する構えも示している。ただ、後者については民主党の一部を中心に安全性の観点などから反対論がくすぶっている。
米エネルギ—省が世界に公約した温室効果ガス削減目標を達成するには現存の原発の総発電能力を倍増する必要があると見積もっている。
米国内の原発がロシアによる濃縮ウランの供給に依存している状況には危ういものがある。ロシアのプーチン大統領は昨年、ウクライナ戦争に絡んで、欧州への天然ガスの供給を全面的にストップさせ、エネルギー取引を”政治的武器”として利用したことは記憶に新しい。同大統領は濃縮ウランの調達における米国のロシア依存を十分認識しているはずだ。
こうした中で、米エネルギー省は最近、米国は濃縮ウランの調達でロシアへの依存に終止符を打つために新型原子炉の開発・稼働などを通じたウラン濃縮の規模拡大の必要性を強調する提案書の草案をまとめた。
米連邦議会ではマンチン上院議員(民主、イリノイ州)が1990年代に民営化された米ウラン濃縮産業を再構築するために連邦補助金の拡充を求める法案を提出した。
ウラン濃縮は高濃度になれば核兵器生産への転用が可能となるので国際政治の場ではセンシティブな問題だが、第二次世界大戦後、核の軍事・平和利用の両面で世界をリードしてきた米国に、ロシアへの濃縮ウラン依存という”アキレス腱“があることに注目したい。
●ペンス前米副大統領がウクライナ電撃訪問、ゼレンスキー氏と会談 6/30
2024年米大統領選の共和党候補指名争いへの出馬を表明したペンス前副大統領が29日、ウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。
ペンス氏はゼレンスキー氏との会談後、「自由はウクライナで勝利しつつある。そして今、われわれはこれまで以上に、自由のために立ち上がりロシアの侵略を押し返すウクライナの勇敢な戦士たちを信じ続ける必要がある」と述べた。
ペンス氏は戦没者追悼の壁に献花したほか、ロシアの人権侵害についてウクライナ当局者から説明を受けた。
ペンス氏はこれまでもロシアのプーチン大統領を強く批判すると同時に、ウクライナに対する全面的な支持を表明。大統領選の指名争いに出馬を表明した共和党候補の中で、ゼレンスキー氏と会談するのはペンス氏が初めてとなる。
ウクライナ戦争は共和党の大統領候補指名争いを二分している。
党内の支持でトランプ前大統領の後を追うデサンティス・フロリダ州知事は、ウクライナに提供する支援の金額に疑問を呈している。一方、トランプ政権下で国連大使を務めたニッキー・ヘイリー氏、ティム・スコット上院議員(サウスカロライナ州選出)は支援継続を支持している。
ゼレンスキー氏は「ウクライナに対する米国の支援は不可欠だ」とし謝意を表明。ペンス氏とは「武器や兵士の能力、共通の価値観について語った」とした。
●プリゴジンが暴露した「多極体制」の実状 6/30
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の23年間にわたる鉄拳支配の秘訣は、特権層の権力と金、安全を守る「強い指導者」であることを証明してきたことにある。情報機関と軍部出身の側近である「シロビキ」がエネルギーや軍需産業などを掌握し、莫大な利権を独占したまま国民の上に君臨できるよう、プーチンは暗殺や戦争、核脅威、フェイクニュースなど手段と方法を選ばない残酷な統治を行ってきた。利権から排除された大多数の国民には「ロシア帝国の偉大な復活」を約束し支持を引き出した。「帝国の復活」の証拠を示すため、旧ソ連諸国を「属国化」する試みを繰り返してきた。
先週末、傭兵部隊「ワグネル」の首長、プリゴジンによる「36時間反乱」は、一週間で簡単に親ロ操り人形の政権を樹立できるという誤った判断から始まったウクライナ侵攻が、今やプーチンを脅かし始めたことを示した。プーチンの権力が直ちに崩れることはないだろうが、ロシア人たちは窮地に追い込まれたプーチンの脆弱な姿を目撃しており、「無敵の指導者」神話は崩れた。
プーチン大統領は北大西洋条約機構(NATO)が東進し、ロシアの安保を脅かしたため、ウクライナで「特殊軍事作戦」に乗り出したと宣伝してきた。プリゴジンは「それは偽りの名目であり、ロシア軍内の特権層の利害関係のために侵攻した」と暴露した。国連安保理常任理事国ロシアが主権国家であるウクライナを侵略して属国化しようとした帝国主義的本質、そしてプーチンが「ツァーリ」のふりをしたことで、ロシアが軍閥化した傭兵集団が拠する中世国家に退行した現実は今や明白になった。
プリゴジンの反乱はプーチン大統領と「無制限の協力」で「米国の覇権に対抗する多極体制」を作ると約束してきた中国の習近平国家主席を困惑させた。
プリゴジンとワグネルがモスクワに向かって破竹の勢いで進撃する間、中国政府と官営メディアは静かだったが、中国人の関心は高かった。「プーチン万歳」を叫ぶ愛国主義者の間で、プリゴジンを8世紀の唐朝廷に反乱を起こし、結局唐を滅亡の道に追い込んだ安 禄山に例える文が掲載され、「中国人民解放軍が今のように党の軍隊であるべきか」という論争があちこちで巻き起こった。プライベートなチャットルームでは検閲を避けて「台湾を武力で統一しようとすれば、中国が危険に陥りかねない。台湾政策を変えなければならない」というひそひそ話が続いた。
最近まで中国は、米国など西側の経済制裁にもロシアが大きな打撃を受けず、世界秩序がもはや米国の思い通りにはならないという自信を得ており、ウクライナ戦況を綿密に見極めながら台湾戦争状況に備えた様々なシナリオを研究してきたと、中国専門家たちは言う。ウクライナ戦争の長期化が中国に有利だと判断したのだ。
だが、今回の事件で中国は「プーチンの戦略的価値」を再評価せざるを得なくなり、反乱軍がモスクワに向かって行く間にほとんど何の抵抗も受けなかったことがプーチンの統制力の弱体化を意味するのかを注視している。習近平主席はプーチン体制が崩壊しないよう支援しながらも、中国の利益を極大化する対策を講じているだろう。
ロシアのウクライナ侵攻について多くの論争を繰り広げてきた韓国の「革新陣営」も、今回の事件を重要な省察の契機にする必要がある。これまでロシアの主張に同調し、中国とロシアが米国の覇権に挑戦する「多極体制」を作っていると期待する人も少なくなく、これは野党「共に民主党」の外交にも影響を及ぼした。
昨年2月の大統領選挙討論会で、当時民主党のイ・ジェミョン候補が「初心者政治家(ウクライナ大統領)」が「ロシアを刺激して結果的に戦争が勃発した」と述べた。今月初め、民主党革新委員長に任命され辞任したイ・レギョン異なる百年名誉理事長は「プーチンに対する国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状発行は無効」だとし、「戦争責任は西側とウクライナのエリートにある」、「中国の新疆ウイグル弾圧は米国の捏造」などと主張をしてきた。チベットを訪問してきた民主党議員による「人権弾圧は70年前のことだ」という発言は大きな反発を呼んだ。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「韓日米一辺倒」外交で中国との緊張を高め、反中感情を刺激し、国内政治に利用する危険な外交をしてきたことは明らかだ。検察を前面に出して暴走しながら民主と自由の「価値観外交」を主張することも説得力に欠ける。
ところが、尹大統領の「価値観外交」に対する批判が「無価値観外交」に流れてはならない。革新が「バランスの取れた価値観外交」でより良い代案を示し、世論の同意を得てこそ変化の希望が生まれる。世界の混乱と不平等を収拾する新たな国際秩序を作る上で重要な役割を果たすためには、国際情勢の変化をより正確に把握し、「進歩外交」の全体像を再確立しなければならない。
「米国の覇権」に対する批判がすなわち中国とロシアに対する無条件の支持を意味するわけではない。中国やロシアと関係を管理し対話することも重要だが、同時に両国の問題にも背を向けてはならない。黒人差別、難民問題、警察暴力を直視してこそ米国の現実をきちんと把握できるように、侵略、少数民族弾圧、人権問題をきちんと認識してこそロシアと中国の現在を正しく理解し、それに合う外交原則を立てることができる。この問題に背を向けることで、韓国の革新が独裁と立ち向かって戦った歴史さえ消えてしまうのではないか心配だ。
●ウクライナ ロシア側が混乱の中で領土奪還進める姿勢アピール 6/30
ロシアでの武装反乱をめぐって民間軍事会社、ワグネルの代表プリゴジン氏の動向に加え、近い関係にあったとされるロシア軍の最高幹部の消息にも関心が高まっています。こうした中、ウクライナ側は東部ドネツク州で主導権を握っていると強調し、ロシア側が混乱を見せる中で領土の奪還を着実に進めていく姿勢をアピールしました。
ワグネルの代表プリゴジン氏による武装反乱をめぐって一部の欧米メディアは、プリゴジン氏と近かったとされ、ウクライナへの軍事侵攻でロシア軍の副司令官も務めるスロビキン氏が事前に計画を把握していたと伝えたほか、拘束されているとする見方まで伝えられるなど、その消息に関心が高まっています。
一方、ロシア議会下院のカルタポロフ国防委員長は29日、国防省がプリゴジン氏に対し、反乱の数日前に契約の締結を拒否された際「ワグネルには資金も物資も割り当てられないことが通達された」と述べ、国からの支援が打ち切られると警告していたことを明らかにしました。
カルタポロフ氏は「プリゴジン氏にとって大事なことだった」と述べ、ワグネルが国防省の傘下に入らなければ支援を受けられなくなる可能性があることから追い詰められていったという見方を示しました。
こうした中、ウクライナ軍の参謀本部は29日、ワグネルなどロシア側が5月、完全に掌握したと主張した東部ドネツク州の拠点バフムトの方面で主導権を握り、前線で攻撃作戦を展開しているとした上で、近郊では「占領地から敵を追い出し、陣地を固めている」とSNSに投稿しました。
ウクライナ国防省の情報部門のトップ、ブダノフ情報総局長は29日、地元メディアに対してワグネルの部隊は今後、ウクライナで戦闘に加わることはないとする見方を示した上で、ロシア側の損失は大きいと主張し、ロシア側が混乱を見せる中で領土の奪還を着実に進めていく姿勢をアピールしました。
●ワグネル、ロシア軍機撃墜か 英分析、侵攻に影響 6/30
英国防省は29日、ロシアで武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの部隊が、空中での司令部機能や無線中継を担うロシア軍機イリューシン22Mを24日に撃墜していた可能性を指摘した。同機がウクライナ侵攻を続けるロシア軍の指揮で「重要な役割を果たしてきた」とし「空と陸の作戦に悪影響を及ぼす」と分析した。
英国防省は、多くの乗組員が失われ、ロシア軍の「士気を下げることは間違いない」とした。長期的な影響として、ほかの軍用機などの安全を確保するために侵攻での作戦遂行に十分に注力できなくなる可能性も指摘した。
●ワグネルの秘密メンバーか 拘束情報のロシア空軍司令官 6/30
米CNNテレビは29日、ウクライナ侵攻でロシア軍の副司令官を務めるスロビキン航空宇宙軍総司令官が、武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの秘密のVIPメンバーだったと報じた。英シンクタンク、ドシエセンターが入手した文書で、スロビキン氏を含む30人以上の軍や情報当局の高官が、VIPとして登録されていたことが判明したという。
スロビキン氏は、ワグネルとの関係を巡って拘束情報が出ている。米ブルームバーグ通信は、スロビキン氏がロシア軍の捜査部門に数日にわたり事情聴取されたと報道。米紙はワグネルの反乱の動きを事前に把握していたと報じている。
CNNはVIPメンバーについて、利益供与の有無や特別な権限を持つかどうかは不明としている。
一方、英国防省は29日、ワグネルの部隊が、空中での司令部機能や無線中継を担うロシア軍機イリューシン22Mを24日に撃墜していた可能性を指摘した。侵攻を続けるロシア軍で同機が「重要な役割を果たしてきた」とし「空と陸の作戦に悪影響を及ぼす」と分析した。 
●ロシア ワグネル反乱「プーチン氏の弱さをさらけ出した」 9/30
「1週間前に比べれば、プーチン大統領が失脚する可能性は高まっている」 ロシアで起きた民間軍事会社ワグネルによる武装反乱について、こう指摘するのは去年9月までアメリカの駐ロシア大使を務めたジョン・サリバン氏です。プーチン政権の動向やプリゴジン氏のロシア国内外での活動を注視してきたサリバン氏は今回の事態をどう見ているのか。今後、ロシアはどうなるのか。詳しく聞きました。
前駐ロシア大使 ジョン・サリバン氏とは
アメリカ外交のナンバー2の国務副長官などを歴任し、2019年12月から2022年9月まで3年近くにわたって駐ロシア大使を務めました。モスクワでプーチン政権の動向を見続け、ウクライナ侵攻後もアメリカの対ロシア外交を最前線で担ったサリバン氏にインタビューしました。以下、ジョン・サリバン氏の話。インタビューは現地6月28日に行いました。
ワグネル そもそもどんな存在?
われわれアメリカの政府関係者は、プリゴジン氏とその関係団体を注意深く追跡してきました。そして、彼らの活動の大半はロシア政府の代わりに行っているものだということが分かりました。プリゴジン氏は明らかにロシア政府の代理として活動していましたが、それを認めることはありませんでした。ロシア政府もそれを認めてきませんでした。プリゴジン氏とワグネルは、シリア、リビア、スーダン、中央アフリカ、マリで軍事や治安活動に従事していましたが、ロシア政府は「ワグネルは民間の団体であり、そのことについて話すのは時間の無駄だ」と言っていたのです。状況が変わったのは、ワグネルがウクライナの戦場で活動を始めてからです。プリゴジン氏は自身の活動について公に語るようになり、ロシア政府もワグネルがウクライナでロシア政府のために活動していると認めたのです。
武装反乱の背景 どう見た?
数か月前から、プリゴジン氏とショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長との間の対立があらわになりました。プリゴジン氏はショイグ国防相らのことを「裏切り者」、「臆病者」と呼び、ロシア政府からの支援が十分でないとして部隊を撤退させると脅しました。先週末、目の当たりにしたのは、ワグネルやプリゴジン氏と、最高指導者であるプーチン大統領を含むロシア政府との間の異常としか言いようのない対立でした。
プリゴジン氏はなぜ反乱をおこした?
ウクライナでロシア軍による作戦がうまくいっていないことが理由の1つです。そもそも、そのためにプリゴジン氏、そしてワグネルがウクライナに入り、ロシア軍を支援することになりました。そしてロシア政府はプリゴジン氏への依存を強めていきました。一方、プリゴジン氏はロシア国防省やショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長がウクライナでの軍事作戦で計画性や実行力に欠いていると不満を抱いていました。プリゴジン氏は「組織的でなく実行力がない」と批判しました。それに対して、ワグネルとその戦闘員はプリゴジン氏が主張するところの、“並外れた貢献”をロシアのために行ったというわけです。ところが、プリゴジン氏によると、ワグネルの戦闘員たちは国防省の支援が得られなかった。そのことから、軍の指導部との間で対立が始まったのです。
ロシア南部の軍管区司令部 なぜ掌握できた?
軍の幹部らが事前に知らなければ、ワグネルが抵抗を受けずに軍の施設を掌握したことは説明しづらいでしょう。ウクライナ侵攻でロシア軍の副司令官を務めるスロビキン氏をはじめとする軍の幹部が反乱の計画を事前に知っていたという情報があります。プリゴジン氏とワグネルは何の抵抗もなく、ウクライナからロシアに戻り、ロシア軍の拠点を掌握しました。ロシア軍、国境警備局、治安機関の抵抗を受けることなくです。こんなことは、プリゴジン氏がロシアの軍や治安機関から支持を受けていなければ起こりえません。ワグネルの部隊がモスクワに向けて北上している途中、ロシア軍のヘリコプター6機がワグネルによって撃墜され、さらに航空機も撃墜されました。ロシア軍のパイロットなどは死亡しましたが、極めて小規模な衝突にとどまったと言えます。また、ロストフ州でワグネルやプリゴジン氏は住民たちから歓迎されていました。プリゴジン氏は自由に移動し、住民から支持されていたのです。これは明らかに異常な事態です。これらは、ロシア政府内の亀裂、さらにはロシア社会の亀裂の表れだと言えるでしょう。
プーチン大統領への影響は?
プーチン大統領には、悪い影響をもたらすでしょう。プーチン大統領はこれまで、事態を制御できる、力強い権威主義的な指導者というイメージを注意深く作り上げてきましたが、うそだったことが明らかになりました。プーチン大統領はプリゴジン氏について「ロシアを背後から刺した裏切りだ」とまで評しながら、取り引きをせざるを得ず、その“裏切り者”を出国させました。なぜなら、プーチン大統領は反乱を鎮圧してプリゴジン氏を拘束したり、排除したりするだけの強さを持ち合わせていなかったからです。これは、強い立場から物事を進める人間の行動ではなく、プーチン大統領にとっては非常に不愉快だったことは間違いありません。
プーチン大統領は失脚する?
今すぐに起きるとは思いません。ただ、1週間前に比べれば、その可能性は明らかに高まっています。なぜなら、プリゴジン氏による反乱がプーチン大統領の弱さをさらけ出したからです。ロシア政府やプーチン大統領は、大統領としてのイメージを回復しようと躍起になっています。プーチン氏は武装反乱の直後、軍や治安機関のトップを集め、緊急の会議を開きましたが、イメージ回復のための一環でしょう。
ウクライナの戦況への影響は?
ワグネルはウクライナの反撃からロシア軍を守る重要な役割を担っていました。ウクライナ軍の進軍を止め、バフムトを包囲し、攻勢をかけていました。もし、ワグネルがウクライナの軍事作戦から排除されれば、ロシア軍の作戦の実行力に悪影響を及ぼすでしょう。また、プリゴジン氏は、プーチン大統領が特別軍事作戦を開始する理由として「ウクライナのネオナチによる攻撃からロシアを守るためだった」としたことについて、「すべてうそだ」とし、ロシア軍の死者数についても「ロシア政府は正確に報告していない」と主張しました。このことは、ウクライナで戦っているロシア軍の兵士の士気を低下させると思います。
中国をはじめとする各国への影響は?
ロシアと軍事面で連携している国やロシアを支持をしている国を含め、世界的にプーチン大統領のイメージに悪い影響を与えるでしょう。中国やイランの指導者は、ロシアで何が起きているのか、ロシアやロシア政府は自分たちが考えているくらい本当に安定し、信頼できるのか、疑問を抱いているはずです。もし、わたしが習近平国家主席なら、ロシア政府の安定性やプーチン大統領の強さ、または、弱さについて、考え直さざるを得ないと思います。中国政府は、習主席の親愛なる友人であり、無制限のパートナーシップの関係にある人物が実際にはかなり弱いパートナーで、中国の課題を解決するのではなく、むしろ、中国にとって問題を引き起こすのではないかと、注視しているはずです。
●女学生にキス! ロックスターみたいな「普段と全然ちがう」プーチンの姿 6/30
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領といえば強面で知られ、特に最近では民間軍事会社「ワグネル」のエフゲニー・プリゴジンによる「反乱」発生もあって、周辺の緊張感は高まっている──はずだったのだが、意外なほどフレンドリーに市民と交流する姿が動画で公開された。プーチンは熱狂する市民と握手を交わすどころか、女子学生にキスをするほどのサービスぶりで、普段の様子とは大きく異なるその姿に、「これは影武者だ」という憶測まで飛び交う事態となった。
プーチンは「プリゴジンの反乱」の収束後で初となる地方視察としてロシア南部のダゲスタン共和国を訪れ、集まった群衆を前にロックスターばりの振る舞いを見せた。プーチンが市民と握手を交わすと、ロシア大統領に会えて興奮した様子の市民からは歓声が上がり、さらに若い女性との写真撮影に応じた際には、プーチンが彼女の頭にキスする姿も見られた。
この「プーチンらしからぬ」姿を見た人々からは、プーチンが公の場に出る際には影武者を利用しているという「陰謀説」が再浮上している。ロシア政府は影武者説を否定しており、4月には「(影武者説はプーチンにまつわる)さらにもう一つの嘘」だと述べていた。
ダゲスタン共和国を訪れたのが影武者だという主張を裏づける証拠はないが、それでもインターネット上ではこの陰謀説が広まっており、あるツイッターユーザーは、問題の動画には「恐れを知らない影武者が群集の中に入っていってみんなとハグする様子」が映っているとコメント。別のユーザーも、「プーチンの影武者が昨日、ダゲスタン共和国で群集と触れ合っていた」と投稿した。
市民と進んで触れ合う「らしくない」プーチン
ウクライナの英字紙「キーウ・ポスト」の寄稿者であるジェイソン・ジェイ・スマートは、「プーチンの影武者が野放しになっている」とソーシャルメディア上に書き込み、さらにこう続けた。「本物のプーチンは、1週間前から隔離生活を送っていた者としか会わない」
あるロシア安全保障担当官は今年に入ってから、プーチンは「自分の周りに『隔離』という頑強な壁を張り巡らせている」と述べていた。
英BBCのロシア担当編集員であるスティーブ・ローゼンバーグは6月29日、ツイッターに「ダゲスタン共和国でのプーチンは、群集のすぐ近くまで寄っていき、私的な交流をしていた。なぜ彼はあんなにプーチンらしくなかったのだろう」と投稿した。
ロシア軍の元司令官で、ナショナリストの軍事ブロガーに転身したイーゴリ・ギルキンは29日にテレグラムに、「なんとなく大統領に似ている人物(そして2週間の自主隔離を経た後でなくても面会できる)人物が(ダゲスタン共和国の都市)デルベントを歩き回っていた」と書き込んだ。
プーチンが影武者を使っていることを裏づける証拠はないが、ウクライナの当局者らも以前、プーチンが替え玉を使っていると主張していた。
ウクライナ国防省情報総局のアンドレイ・ユソフ報道官は6月、同国メディア「ウクラインスカ・プラウダ」に対して、「プーチンは影武者を使っている」と述べ、さらにこうつけ足していた。「これは我々が入手した諜報と、人相学者をはじめとする多くの専門家の評価に基づく事実だ」
ロシア専門家で英シンクタンク「王立国際問題研究所」の上級研究員であるキア・ジャイルズは3月、本誌に対して、プーチンがロシア支配下にあるウクライナ南部の都市マリウポリを訪れた際、影武者を使った可能性があると示唆していた。
●プリゴジン氏の「率直な言動」評価、反乱後も29%支持… 6/30
ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターは29日、露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏について、反乱後も29%が支持すると回答したとの世論調査結果を発表した。プリゴジン氏の根強い人気に対し、プーチン露大統領は積極的に触れ合う姿をアピールし、イメージ刷新に乗り出している。
世論調査はプリゴジン氏が反乱を起こした6月24日を挟んだ22〜28日に実施した。プリゴジン氏については反乱前(22〜23日)の58%から低下したものの、反乱後も29%が支持を続けている。プリゴジン氏の「率直な言動」を評価する声が多かったという。来年の大統領選にプリゴジン氏が出馬した場合、投票の用意があるとの回答は反乱前は19%、反乱後は10%だった。
一方、露国営メディアは、プーチン氏が28日に南部ダゲスタン共和国を訪問し、広場に集まった市民に歩み寄って握手やハグを繰り返す様子を放映した。プーチン氏との面会には事前隔離が必要とされており、極めて異例の対応だ。露国内では「酷似した別人ではないか」との見方も出ている。
ロシア語の独立系メディア「メドゥーザ」は30日、プーチン政権が独自に実施した世論調査で、プーチン氏の支持率が「9〜14%」下がったと報じた。プリゴジン氏は反乱で一時制圧した南部ロストフ・ナ・ドヌーの住民に歓迎される様子が報じられており、プーチン政権がこうした人気を意識してイメージ戦略を始めた可能性がある。
●ロシア・インド首脳 ワグネル反乱やウクライナ巡り協議 6/30
ロシアのプーチン大統領は30日、インドのモディ首相と電話で協議した。ロシアの民間軍事会社ワグネルが起こした武装蜂起や長期化するウクライナ侵攻について議論した。
ロシア大統領府が同日発表した。ワグネル創設者のプリゴジン氏が起こした武装蜂起への対応について、モディ首相はプーチン政権が内政の安定と国民の安全確保に努めたと支持を表明したという。
プーチン氏はウクライナ侵攻についてモディ氏に戦況評価を説明した。プーチン氏はウクライナ側が紛争の解決に向けた外交交渉を拒否しているとも述べた。
両者は上海協力機構(SCO)や20カ国・地域(G20)などの枠組みを通じた連携の強化を確認した。
ワグネルのプリゴジン氏は23日夜に武装蜂起を宣言し、ロシア南部ロストフナドヌーの軍施設を制圧した。部隊の一部は首都モスクワに向けて進軍し、ロシア正規軍との大規模な戦闘が懸念されたが、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介もあり反乱は24日夜に収束した。
ルカシェンコ氏はワグネルの戦闘員らを受け入れる考えを示しており、27日にはプリゴジン氏がベラルーシに到着したと表明した。入国が予定されるワグネルの戦闘員らが駐留する場所について、放棄された基地を提供する用意があるとも述べた。ベラルーシとして可能な限りの援助をする考えを示した。
●ロシア軍三重苦≠ナ機能不全 司令機撃墜、内部分裂、ワグネル解体 6/30
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の反乱は、ロシア軍に大きな爪痕を残した。ウクライナ侵略で重要な司令機が撃墜され、軍内部の分裂状態も発覚、ワグネルの部隊も解体状態の三重苦だ。ロシア軍の機能不全は、ウクライナ軍の領土奪還作戦に大きな追い風となりそうだ。
ワグネルが24日、ロシア領内を進軍した際、空中での司令部機能や無線中継を担うロシア軍機「イリューシン22M」を撃墜していた可能性を英国防省が指摘した。同機はウクライナ攻撃の指揮で重要な役割を果たしており、「空と陸の作戦に悪影響を及ぼす」と分析する。輸送機や複数のヘリも撃墜され、10人以上の乗組員が死亡したとの情報もあり、「士気を下げることは間違いない」とする。
ロシア軍の分裂状態も露呈した。米CNNは29日、拘束情報があるスロビキン航空宇宙軍総司令官ら少なくとも30人の高官がワグネルの「秘密のVIPメンバー」だと報じた。米ブルームバーグは、スロビキン氏が軍の捜査部門に数日、事情聴取されたと伝えた。米シンクタンクの戦争研究所は、軍の指揮系統に影響が広がっていると分析した。
ウクライナの激戦地で戦闘を担ってきたワグネルをめぐっては、プーチン政権が国費の支給を打ち切るなど解体の方針で、大型兵器の引き渡しも迫っている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、ワグネルが今もウクライナ東部ルガンスク州にいると述べた一方、べラルーシが戦闘員受け入れを表明したことについては「脅威にならない」と述べた。
ウクライナのマリャル国防次官は29日、東部・南部の3方面で作戦を継続し「成功を収めている」と述べた。南部ザポロジエ州ベルジャンスク方面に向けて1・3キロ前進したと通信アプリに投稿した。
元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏はワグネルの反乱について、「中途半端に終わり、ほとんど影響はない。ウクライナ軍は粛々と戦略を進めるだろう」と話す。
南部クリミア半島と本土のヘルソン州を結ぶチョンガル橋であった22日の攻撃には、英国が供与した空中発射型巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたとみられる。
渡部氏は「クリミアとへルソン州の分断作戦だ。ザポロジエ州のメリトポリやベルジャンスク、ドネツク州マリウポリ方面の攻撃もみられたが、ロシア本土からの補給の動脈である陸上の兵站(へいたん)線を分断し、へルソン州やザポロジエ州のロシア軍部隊を弱体化していく狙いだろう」と分析する。
欧米の軍事支援も重要さを増している。米国製の「F16」戦闘機については欧州で夏にもパイロットの訓練が始まり、終了までに半年かかる見込みだ。ウクライナは、ドイツに空中発射型長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与も要請している。
前出の渡部氏は「ロシア軍の補給路が絶たれるなど条件がそろえば、ウクライナ軍は後方の主力を投入して11月末をリミットにザポロジエ州とへルソン州の奪還、その後クリミア奪還を目指すだろう。F16は年内に間に合わないので、代替の航空戦力としてストームシャドーや長距離無人機を用いる可能性もある。ミサイルはタウルスのほか、地対地ミサイル『ATACMS』の米国からの供与も待たれるところだ」と指摘した。
●ウクライナ軍、ほぼ全戦線で主導権を握ったか 米シンクタンク分析 6/30
米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)は29日、ロシア軍の侵攻を受けるウクライナ軍が、ほぼ全戦線で主導権を握ったとの見方を示した。
ウクライナ軍参謀本部は29日、激戦地となったウクライナ東部バフムート方面で「戦略的主導権」を握ったと発表したほか、ウクライナ軍のザルジニー総司令官やマリャル国防次官も同様の発言をしていた。ISWは、ウクライナ軍がこうした発信をすることで、戦況での優位性をさらに強めようとしている可能性を指摘した。ウクライナ軍は同日、ウクライナ中南部ザポリージャ州西部など2地域でも前進したという。
また、ISWは、衛星画像の解析から、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の基地がベラルーシ国内に建設されている可能性があると指摘した。ベラルーシ中部アシポビチ北西約15キロにあるベラルーシ軍基地跡地で、同軍の大規模訓練場からも15キロ範囲内にあるという。
ロシアの独立系メディア「ビョルストカ」は26日、この地域にワグネル戦闘員約8千人の基地を建設中だと報じていた。ISWは、ベラルーシ国内にはロシア軍が使っていた野営地などがあり、「ワグネルはこうした施設を基地として、またはうわさされているアシポビチの基地の代わりとして使用する可能性がある」と分析した。
●ウクライナ、北部国境強化 ベラルーシ情勢に対応 6/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、軍幹部との会議で、ベラルーシ情勢を考慮し、国境を接する北部方面の強化を決めた。ベラルーシが、ロシア民間軍事会社ワグネルの部隊受け入れを表明したことに対応した措置とみられる。
米シンクタンクの戦争研究所は29日、ベラルーシ東部モギリョフ州オシポビチの北西15キロにある軍事基地跡で新たな建設活動が行われているのが衛星画像で確認され、ワグネルの拠点になる可能性があると指摘した。
ロシアの独立系メディアはオシポビチで8千人が収容可能な宿営地が建設中と報じていた。 
 
 

 



2023/4