令和のリーマンショック

令和のリーマンショック

シリコンバレー銀行 破綻
シグネチャー銀行 破綻
どうなる ・・・
 


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リーマン・ショック・・・  
 
 
 

 

●米銀29位・シグネチャー銀行も破綻 預金全額保護 3/13
ニューヨーク州金融監督当局は12日、同州地盤の米銀シグネチャー・バンクの事業を同日付で停止したと発表した。10日に経営破綻したシリコンバレーバンク(SVB)に続く破綻となる。資産規模で全米29位のシグネチャー・バンクは米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入り、預金は全額保護される。
シグネチャー・バンクは暗号資産(仮想通貨)関連企業との取引で知られ、資産規模は2022年末時点で約1103億6000万ドル、預金は約885億9000万ドルあった。仮想通貨関連の取引が多かったシルバーゲート銀行の自主清算発表やSVB破綻を受けて、シグネチャー・バンクの信用不安も高まり預金流出が加速していたようだ。
財務省や米連邦準備理事会(FRB)、FDICは12日、シグネチャー・バンクの無秩序な破綻は金融システムを揺るがすシステミックリスクに該当するとみて、預金全額を保護する例外措置をとると発表した。預金保険の対象外の預金についても預金者に返還される。
●シグネチャー・バンクも破綻、米銀史上3番目の規模 預金者保護へ 3/13
先週末にはカリフォルニア州当局がシリコンバレー銀行を閉鎖し、2008年の金融危機で破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ2番目の規模の米銀破綻となっていた。
米財務省と銀行規制当局は12日に共同声明を発表し、シグネチャー・バンクの全ての預金者が保護され「いかなる損失も納税者が負担することはない」とした。
ニューヨーク州当局によると、昨年末時点でシグネチャー・バンクの資産は約1103億6000万ドル、預金は885億9000万ドルだった。
同行は現時点でコメント要請に応じていない。
FDICは12日、シグネチャー・バンクの顧客が13日に資金にアクセスできるようブリッジバンク(継承銀行)を設置したと発表した。シグネチャー・バンクの預金者や借り手は自動的に継承銀行の顧客となる。継承銀行の最高経営責任者(CEO)には元フィフス・サード・バンコープCEOのグレッグ・カーマイケル氏を起用した。
シグネチャー・バンクはニューヨーク、コネチカット、カリフォルニア、ネバダ、ノースカロライナ各州にオフィスがあり、商業不動産や暗号資産(仮想通貨)バンキングなど9分野で国内事業を展開していた。
昨年9月時点で預金残高の4分の1近くを仮想通貨業界からの資金が占めていたが、同業界関連の預金を80億ドル減らす方針を12月に示していた。
ニューヨーク州のホークル知事は、米政府によるこの日の措置が「銀行システムの安定性に対する信頼を高める」ことを期待すると表明。
「これらの銀行の預金者の多くは中小企業であり、イノベーション経済をけん引する企業も含まれる。彼らの成功はニューヨーク州の堅固な経済にとって重要だ」と述べた。  

 

●相次ぐ銀行破綻 アメリカで何が起きている? 背景に何が… 3/16
アメリカで3月10日から12日にかけて2つの銀行が経営破綻しました。破綻の規模は史上2番目と3番目という驚くべきもの。どうしてこのような規模の大きな銀行が破綻に至ったのでしょうか。金融当局はどのような手段を取ったのでしょうか。分からないことを、ワシントン支局の小田島記者とアメリカ総局の江崎記者が一挙に解説します。
破綻した2つの銀行はどんな銀行だったのですか?
3月10日に経営破綻した「シリコンバレーバンク」は総資産が2022年末の時点で、およそ2090億ドル、日本円でおよそ28兆円(※円相場1ドル=135円で計算)。アメリカの銀行の破綻としては、金融危機のさなか、2008年に起きた貯蓄金融機関、「ワシントン・ミューチュアル」の破綻に次ぐ2番目の規模です。最先端のIT企業やスタートアップ企業が集まる西部カリフォルニア州のシリコンバレーに拠点を置き、17の店舗を展開していました。
名前がシリコンバレーだからやっぱりIT系が強かったのでしょうか?
そうですね。1983年の創業以来、主にテクノロジー関連のスタートアップ企業や、スタートアップ企業に出資するベンチャーキャピタル向けの融資で知られていました。この銀行の資料によりますと、去年1年間にベンチャーキャピタルが出資するテクノロジーやヘルスケア関連の企業がアメリカで行った株式の新規公開のうち、44%がこの銀行の取引先だったということです。
「シリコンバレーバンク」はなぜ破綻したのですか?
いくつかの要因がありますが、
   1 貸し出し先の資金繰り悪化
   2 金融政策の影響
   3 SNSによる情報拡散
などがあげられます。
まず、1 貸出先の業績悪化(資金繰り悪化)です。取引先の多くがスタートアップ企業でしたが、立ち上げた新規事業が軌道に乗るため資金調達が必要になりますよね。2020年3月から新型コロナウイルスの感染拡大による経済のダメージを抑えるため、FRB=連邦準備制度理事会による大規模な金融緩和策が実施されました。それによって資金を調達しやすくなり、余った資金がシリコンバレーバンクの預金として増加する形になりました。しかし、2022年3月からFRBが急ピッチで利上げを進めると、状況は一変。借り入れの金利が引き上げられたことで資金が調達しにくくなり、株価も下落傾向となる中でIPO=株式の新規公開もしにくくなりました。IT関連銘柄の多いナスダックの2022年1年間のIPOの件数は161件と、2021年の752件の4分の1以下になっています。顧客のスタートアップ企業の資金繰りが苦しくなり、シリコンバレーバンクから預金を引き出したことが、銀行の経営を悪化させたと見られています。
金融政策の影響は大きいのでしょうか?
大きいと思います。さきほども言いましたようにFRBがコロナ禍で続けた大規模な金融緩和策、そして一転して急ピッチで進めた利上げ、これがこの銀行の経営に大きな影響を及ぼしました。FRBが大規模な金融緩和策に踏み切った2020年3月以降。緩和マネーがふくらみ、スタートアップ企業などの取引先はお金に余裕ができて「シリコンバレーバンク」の預金が増加したのです。2022年3月末時点の預金はその2年前と比べて3.2倍にまで急増していました。
預金が増えたらダメなのですか?
この銀行の場合、大量に集めた預金を国債や住宅ローン債券などで運用していました。しかし、アメリカでは記録的なインフレに見舞われたことから、FRBは2022年3月に利上げに踏み切り、その後も急ピッチで政策金利を引き上げました。政策金利が引き上げられると、その影響で、債券市場で取り引きされている国債などの債券の金利も上昇します。債券の価格は金利が上がれば下落する関係にあるため、2022年から債券の価格は下落傾向が続いていました。1でお伝えしたとおり、貸し出し先の預金の引き出しがあり、銀行としてはお金の手当てをするためには価格の下落した債券を売らないといけない状況になり、経営が悪化していったとみられているんです。
経営破綻とSNSって関係あるのですか?
ありそうなんです。銀行は債券の売却による損失を明らかにし、それが引き金となり、SNSなども通じて経営悪化への懸念が預金者の間で急速に広がったと見られてます。この銀行を傘下に置く持ち株会社は3月8日、国債などの債券を売却した結果、18億ドル、日本円でおよそ2400億円の損失を出し、公募増資を計画しているとを発表しました。これを受けて株価が大幅に下落。ツイッターなどのSNSでも経営が危ないとの投稿が広がり、顧客による預金の引き出しも加速したものとみられているんです。やはりSNSの情報伝達のスピードは格段に速く、それが危機を増幅した形です。
シグネチャーバンクのほうはどうですか?
3月12日に経営破綻しました。総資産は2022年末の時点でおよそ1103億ドル、日本円でおよそ14兆7800億円。アメリカの銀行の破綻として過去3番目の規模。史上2番目と3番目の銀行破綻がわずか3日の間に起きたことなります。シグネチャーバンクは2001年の設立で、ニューヨークに拠点を置き、40の店舗を展開。暗号資産関連の企業向けの融資で知られていたということです。
なぜ経営破綻したのですか?
2つの要因が指摘されています。
   1 米銀への不安連鎖
   2 暗号資産業界への疑心暗鬼
1 はシリコンバレーバンクの経営破綻によって、アメリカの銀行は経営が悪化しているのではないかとの疑念が強まり、信用不安が広がったことです。アメリカのメディアは、シリコンバレーバンクが経営破綻した3月10日に、シグネチャーバンクから多額の預金が引き出されたと報じていて、シリコンバレーバンクの経営破綻が、直接の破綻の引き金になったと見られています。2 は暗号資産業界に対する疑心暗鬼も背景にあると指摘されています。暗号資産業界では2022年11月に、暗号資産交換業大手のFTXトレーディングが経営破綻したことをきっかけに、信用不安が広がっていました。アメリカのメディアは、シグネチャーバンクが暗号資産関連企業向けの融資に力を入れていたため、経営の先行きへの懸念から預金を引き出していたと伝えています。3月8日に、FTXトレーディングと取り引きがあったアメリカの銀行持ち株会社、シルバーゲート・キャピタルが傘下の銀行の預金が大幅に減少したため、銀行の事業を清算する方針を明らかにしたことも顧客による預金の引き出しを加速させたと見られています。
相次ぐ銀行破綻にアメリカの当局はどう対応したのですか?
政府・金融規制当局の幹部の脳裏に深く刻まれているのが、2008年の金融危機、いわゆるリーマンショックです。銀行破綻に端を発した金融危機が、アメリカのみならず世界経済に甚大かつ深刻な打撃を与えたからです。こうした金融危機をなんとしても避けるため、アメリカ財務省などは異例の措置を取ります。本来、25万ドルまでしか保護されない預金を全額保護すると発表しました。2008年の金融危機でも取られなかった異例の措置です。
全額保護ってすごいですね。
本当に異例だと思います。日本でも普通預金は元本1000万円までとその利息は保護されますが、それ以上は資産の状況次第で、全額は保護されません。アメリカは本来、民間のビジネスに国が介入することを極端に嫌う国民性があります。規模が大きければどんな銀行でも預金は全額保護されるという前例を作ることになり、モラルハザードを生みかねません。それでも、異例の措置に踏み切ったのは、やはり金融危機を回避しなくてはならないという強い思いです。こうした対応をめぐって13日緊急で演説を行ったバイデン大統領は、「国民の税金が投じられることはない。株主は損失を被り、経営陣は解任される。これが資本主義の仕組みだ」と強調しました。国民に理解してもらいたいという思いでしょうね。さらに、ほかの金融機関で預金の引き出しが起きる事態に備えて、FRBが最後の貸し手として金融機関に資金を供給する枠組みを設けました。銀行の資金繰りを支援し金融システムの安定化につなげるねらいでした。
今後、影響はどこまで広がりそうですか?
最も警戒されているが、銀行の経営に対する信用不安が広がり、取り付け騒ぎのような事態になって預金が流出し、さらに銀行が経営破綻することです。さらなる銀行の経営破綻に歯止めをかけることができるかどうかが、当面の焦点となっています。
相次ぐ経営破綻によってアメリカの金融政策に影響が及ぶのでしょうか?
影響が及ぶことは避けられない情勢です。ニューヨークの金融市場では、相次ぐ破綻でFRBが銀行の経営への影響を踏まえて利上げのペースを緩めるとの見方が急速に強まりました。銀行の破綻が相次ぐ前には、インフレの収束に時間がかかるとの懸念が根強く、FRBが3月21日から22日にかけて予定されている金融政策を決める会合で0.5%の大幅な利上げに踏み切るとの見方が強まっていました。しかし、銀行の相次ぐ経営破綻で状況は一変。この会合では、0.25%の利上げか、もしくは利上げを止めるのではないかとの見方も広がっています。しかしインフレを収束させることはアメリカ経済の最大の課題の1つであり、簡単ではありません。銀行の経営に配慮して利上げのペースを緩めすぎれば、インフレが再燃して、アメリカ経済は厳しい状況に追い込まれることになりかねません。FRBは、利上げが金融システムに及ぼす影響をできるだけ抑えながら、インフレを収束させるという、いちだんと難しいかじ取りを迫られています。( ※為替はそのときどきの円相場で計算 )  

 

●NY州の銀行 シグネチャーバンクの預金など一部買収で合意 FDIC  3/20
アメリカのFDIC=連邦預金保険公社はニューヨーク州の銀行が今月12日に破綻したシグネチャーバンクの預金と資産の一部を買収することで合意したと発表しました。資産を引き継いでいたFDICに最大で3億ドル、およそ400億円相当が支払われます。
ニューヨーク州に拠点を置くシグネチャーバンクは暗号資産関連の企業向けの融資で知られていましたが、去年11月に暗号資産の交換業大手のFTXトレーディングが破綻し、今月にはシリコンバレーバンクが破綻したことから預金の引き出しが相次いで経営が悪化し今月12日に経営破綻しました。
資産規模は去年末の時点でおよそ1103億ドルにのぼりアメリカの銀行として過去3番目の規模の破綻でした。
シグネチャーバンクの資産はFDICが引き継ぎ買収先を探していましたがFDICは19日、同じニューヨーク州に拠点を置くニューヨーク・コミュニティーバンコープ傘下のフラッグスター銀行が預金と資産の一部を買収することで合意したと発表しました。
FDICには最大で3億ドル、およそ400億円相当が支払われます。
ただ、シグネチャーバンクのデジタルバンキング部門の40億ドルの預金は買収の対象外で、FDICはシグネチャーバンクの破綻によって現時点でおよそ25億ドル、日本円で3300億円の費用が生じるとしています。
●シグネチャー銀行の預金など、NY州の銀行一部引き受け 3/20
米連邦預金保険公社(FDIC)は19日、経営破綻したシグネチャー・バンクの預金と資産の一部について、ニューヨーク州地盤の銀行持ち株会社ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)が引き受けると発表した。資産取得の対価として最大3億ドル(約400億円)相当がFDICに支払われる。
シグネチャーは2022年末時点で約1103億ドルの総資産を持ち、全米29位の商業銀行だった。3月10日に同16位のシリコンバレーバンクが取り付け騒ぎで破綻するとシグネチャーからも預金流出が加速。12日に経営破綻し、FDICの公的管理下にあった。FDICは早期に資産売却先を確定させて、金融システム不安がいっそう広がるのを防ごうとしている。
FDICが管理していたシグネチャーの40店舗は、20日からNYCBの傘下銀行フラッグスター・バンクが運営する。シグネチャーのデジタルバンキング部門が持っていた約40億ドルの預金は引き受けの対象外という。
フラッグスターは、シグネチャーが保有していた資産約384億ドル相当も取得した。このうち129億ドル相当の融資は、27億ドルで取得した。売却後もFDICはシグネチャーが実施した融資約600億ドル相当を保有し、別途換金する方針という。FDICは、今回の資産売却によって預金保険基金に約25億ドルの費用が生じると見積もっている。
●米シグネチャー銀行をNYBC傘下・フラッグスター銀行が買収で合意 3/20
経営破綻したアメリカのシグネチャー銀行をニューヨークを地盤とするフラッグスター銀行が買収することで合意しました。
アメリカの連邦預金保険公社は19日、12日に経営破綻したシグネチャー銀行の資産についてNYCB(ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ)傘下のフラッグスター銀行が買収することで合意したと発表しました。
シグネチャー銀行の預金と債権の一部と40ある支店を買収し、その対価として最大3億ドル=およそ400億円を支払います。
一方、10日に経営破綻したアメリカのシリコンバレー銀行について一部のアメリカメディアはノースカロライナ州の銀行持ち株会社が買収を検討していると報じています。 

 

●銀行預金はリスクに見合うか?シリコンバレー銀行破綻で気づいた真実 3/22
経営不安が広がっていたスイスのクレディ・スイス・グループが同国のUBSに買収されることが決まった。行き詰まりの要因は異なるものの、米シリコンバレーバンク(SVB)の破綻をきっかけに広がった金融機関に対する経営不安は拡大している。当局による迅速な対応で、金融危機を防いでいるとの見方もあるが、筆者にはまだみえていないところで火種がくすぶっているとしか思えない。
シリコンバレー銀行のバランスシートを読む
3月はSVBなど米国の銀行3行が経営破綻(3月20日時点)し、スイスではクレディ・スイスがUBSに吸収されるなど、波乱の展開となっています。
前回の当コラム「シリコンバレー銀行破綻は氷山の一角、世界金融危機に発展してもおかしくない」で筆者は、次のように書きました。
「問題の本質は、銀行が預金の引き出しをカバーするため、含み損を抱えた債券等を売却せざるを得なかったことにあります」「長期金利が急騰していない日本を除けば、世界中の銀行が同じ悩みを抱えているのです。つまり、いつ世界的な金融危機に発展してもおかしくないということです」
そこで今回は、SVBのバランスシートの推移をみることで、破綻の経緯を振り返ってみます。
まずSVBの総資産と預金をみてみましょう。
急増した総資産と預金
2020年3月から21年末にかけて総資産は2.9倍、預金は3.2倍に急増しています(図1)。そうした急成長に管理体制が追いつかなかったことが今回の悲劇を招きました。
米預金保険公社(FDIC)のデータによると、同じ期間、米銀全体の総資産は1.2倍、預金は1.3倍の増加に留まります。SVBの増加度合いが爆発的だったことがわかります。
SVBはスタートアップとの取引が多いことで知られていました。資金調達によるスタートアップの余剰資金を受け入れて預金を増やしてきたのです。その結果、総預金残高は約1754億ドルに膨れ上がりました(FDICによる2022年末時点の残高)。
こうして集まった預金を銀行は寝かせておくわけではありません。融資にまわすなり、運用するなりするわけです。
コロナ禍の拡大による経済収縮懸念で融資の需要は見込めない状況が続きました。銀行の本業ともいえる貸出は同じ期間に1.9倍に留まり、預金の伸び率を大幅に下回りました。貸出は審査などで手間がかかり預金の急増と比例して増やすわけにはいかないという面もあるでしょう。
そこで余剰資金は国債や政府機関債の投資に振り向けたのです。
株価は5倍になったが
預金が急増した20年8月末時点において、5年国債の利回りは過去最低の0.82%であり、3カ月CD(譲渡性預金)の金利0.09%をはるかに上回っていました(図2)。
FRBが資金を潤沢に供給する中、「預金金利が上がってもたかがしれている。貸倒れリスクなし(の国債投資)で0.7%ポイントの利ざやが入ってくるのは魅力的だ」と、同行の経営陣は考えたに違いありません。
預金の多くを債券投資に振り向けた結果、預証率(債券残高÷預金残高)は20年3月の44%から21年12月には68%に上昇しました(図3)。その結果、資産全体に占める債券の割合も37%から61%に急増しています(図4)。
株式市場もそんなSVBのビジネスモデルを評価し、株価は約5倍に急騰したのでした(前出の図1)。
つまり、SVBはコロナ禍以降の量的緩和とITブームの恩恵を最大限、享受した銀行だったのです。
だが宴はそこまででした。
22年3月をピークに預金が減少へ
21年11月、ハイテク株主体のナスダック総合指数のピークとほぼ同時に、SVBの株価も天井を打ちます。
決定打となったのは22年2月のウクライナ戦争の勃発です。その翌月、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに踏み切ったのです。
FRBは究極のインフレ要因である戦争という事態に対処したのですが、以来、長短金利の上昇に弾みがつき、リスクフリーだったはずの米国債は多額の含み損を抱えるようになりました。そして国債価格の下落に伴ってSVBの株価も急落し始めるのです(図5)。
本来、債券は償還期限まで保有し、途中売却をしなければ、損失が実現することはありません。市場金利が上昇したとはいえ、調達コストである預金の金利はなおも0.5%程度に過ぎないのです。
あのリーマン・ブラザーズ出身だったSVBのリスク管理責任者は、そんな風に楽観していたことでしょう。
ところが、22年3月をピークにSVBの預金が減少し始めました。
資金繰り穴埋めの増資発表で株価が急落
要因は2つ。1点目はSVBの顧客層であるハイテク業界が不振に陥り、売り上げの減少で預金を取り崩す企業が増えたことです。一方で多額の預金流入が期待される新規上場が少なくなりました。
2点目は、0.5%程度だった銀行預金から、4%を超えた短期国債に資金をシフトする動きが拡がったことです。
こうして預金の流出が加速しました。
22年3月末時点で資産は2200億ドル、預金は1980億ドルあったのですが、わずか9カ月後の22年12月末には資産が2120億ドル、預金は1730億ドルに縮小しています。資産が80億ドル減ったのに対し、預金はその3倍の250億ドルも減少したのです。
資金繰りが悪化した同行は、現金を用意するためにやむなく債券の売却に踏み切り、18億ドルの債券実現損が発生します。その穴埋めに増資を発表した途端、今度は株価が急落し、さらに預金が引き出されて万事休すとなったのです。
これがSVB破綻劇の経緯です。
破綻後、金融当局は、預金保険の対象となる上限(25万ドル)を超える分まで保護することを決定するなど、次々と異例の対応を繰り出して、火消しに動きました。それによって大混乱を招くような事態にはなっていません。現時点では。
全ての銀行と預金者を救済するとは限らない
ただ筆者は、SVBの失敗は他行より一足早く表面化しただけなのではないかと考えています。程度の差こそありますが、SVBと同様、債券の含み損を抱えた銀行はたくさんあるからです。
前回のコラムで指摘したように、米銀全体の債券含み損は6200億ドル(約84兆円)と、自己資本の28%相当もの規模となります。
今回の件では、民間企業で倒産リスクもある銀行の預金金利が0.5%程度なのに対し、世界一安全とされる米短期国債の利回りが4.8%もあることの不条理さに皆が気がついたのではないでしょうか。
そして、前述のように最終的には当局が保護するとのアナウンスを出しましたが、本来はSVBの預金の9割以上が預金保険の対象外であり、その部分は全て損失となる可能性もあったのです。
こうした現実を知ってしまった以上、今後は銀行預金から短期国債に資金をシフトする動きが加速する可能性があるのではないでしょうか。
なにしろ、期間3〜12カ月と銀行の定期預金と似たような期間が設定されている短期国債で運用すると、満期まで保有すれば元本が保証されるうえ、同じ期間の銀行預金に比べ10倍の利回りがあるのです。
今回は政府が国債を原資にSVBの預金者を救済しましたが、破綻する銀行が続けば、その限りではありません。そもそも米議会では債務上限の引き上げを巡って、与野党が対立しているくらいなのです。
日本の投資家も意識が変わる可能性
このことは「預金流出→資金繰り難→債券売却損の表面化→預金流出……」という形で金融危機が悪化する近未来を示している可能性があります。
巨額の債券含み損を抱えているのは欧州や日本の銀行も同じです。欧州や日本では長らくマイナス金利が続いていたので、その間に発行された債券はいずれも大幅に値下がりしているからです。
欧州はともかく、日本では短期国債の利回りはまだマイナスであり、預金の流出は簡単には起きそうにないようにみえます。
しかし筆者のもとには、公益財団や年金基金、そして個人投資家から、「(利回りが4%以上もある)米2年国債への投資をどう思うか」という相談が相次いでいることもまた事実なのです。 

 

●リーマン級「世界同時不況」が再び…アメリカ「銀行連鎖破綻」ではすまない 3/23
ついに始まった「金融危機」
米連邦準備理事会(FRB)など日米欧の6つの中央銀行は3月19日、銀行がドルの資金調達で支障をきたさないような安全網を拡充することを決定した。
市場が動揺する中、自力でドルを調達できなくなる銀行が増加することを懸念しての異例の措置だ。2008年のリーマンショック時にも同様の措置がとられた。
3月10日に米西海岸が地盤のシリコンバレーバンク(SVB)が破綻して以降、銀行不安が急激に広まった。12日に米東部ニューヨーク州のシグネチャー・バンクが破綻し、16日には米カリフォルニア州のファースト・リパブリック・バンクに対して米大手銀行が救済策(約4兆円規模の預金を拠出)を発表した。
震源地となったSVBの2022年末時点の総資産は約28兆円。リーマンショック時に破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ、米銀では過去2番目の規模だった。
この程度で破綻するのか…
その規模以上に驚かされたのはSVB破綻の顛末だ。
短期の預金を元手に長期の米国債等に投資していたSVBは金利上昇のせいで大量の含み損が発生してしまい、財務内容が急速に悪化した。市場関係者はこれを問題視したことで短期間に大量の預金が流出したため、業務停止に追い込まれてしまったという流れだ。
経緯だけ見ると「こんな原因で破綻する銀行が現在も存在するのか」と首をかしげたくなる。1980年に金利上昇が原因で銀行破綻が起きたことを教訓に銀行はALM(資産負債管理)を徹底するようになったことから、この種の事例は根絶されたとされてきたが、今回、先祖返りのような「金利リスクによる破綻」が起きてしまった。
市場関係者からは「長年続いた金融緩和の代償」との指摘が聞こえてくる……。
しかし、いま進行中の米金融危機は、余震にすぎない。リーマンショックの悪夢を呼び覚ます本当の震源は、欧州の不動産市場にあると筆者は見ている。
いったい、世界の金融で何が起きているのか。リーマンショック級の経済危機は、本当に起こるのだろうか。後編記事『米銀行破綻は大惨事の始まりに過ぎない…「不動産市場大暴落」で世界でリーマンショック再来のヤバすぎるシナリオ』でその懸念を詳しく見ていこう。
●銀行破綻相次ぐ中 アメリカが0.25%利上げ インフレ対策を優先  3/23
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は22日、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の誘導目標を0.25%引き上げることを決めた。米国内の中堅銀行の相次ぐ経営破綻で信用不安がくすぶる中、利上げの一時停止も検討したが、高止まりする物価の抑制を優先した。
利上げは昨年3月から9会合連続。政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は4.75〜5.00%と2007年9月以来の水準となった。同時に発表した利上げの最終到達地点の予想は、昨年12月に示した5.1%を維持。年内にあと1回の利上げが想定され、市場は次回5月を見込んでいる。
FRBのパウエル議長は会合後の記者会見で、信用不安の影響を見極めるため利上げの休止も検討したことを明かしつつ、現時点で「銀行システムは健全だ」と強調。インフレ対策を優先し「物価と(物価高騰の背景にある)雇用市場の指標が予想より高かった」と利上げに踏み切った理由を説明した。
米国の直近2月の消費者物価指数は前年同月比6%と高止まりが続き、パウエル氏は今月7日に利上げの再加速を示唆。しかし、シリコンバレー銀行の経営破綻を機に不安心理が広がり、中堅銀行を中心に預金が流出するなど信用不安が拡大した。これまでの利上げで銀行の保有債券の価値が下落したのも一因で、市場では利上げの一時停止の観測も浮上。FRBの対応が注目されていた。
世界的な金融大手クレディ・スイスの経営危機が表面化した欧州でも、欧州中央銀行(ECB)は16日に0.5%の大幅利上げに踏み切った。米欧ともに物価抑制を優先する形となった。
信用不安拡大の懸念はぬぐえず
物価高騰と金融不安の間で対応が注目されたFRBのFOMCは、ひとまず物価抑制を優先して0.25%の利上げを選択した。しかし、信用不安が再び拡大する懸念はぬぐえていない。FRBは物価高騰と景気後退に加え、新たに金融不安という課題も背負い、経済を急落させずに物価を抑制する道のりはさらに険しくなった。
米中堅銀の相次ぐ経営破綻を受け、FRBや財務省などは、破綻した2銀行の預金について、限度額を超えて全額保護すると表明。また、世界的な金融大手クレディ・スイスの経営危機を受けて、FRBや日本銀行など世界の主要6中銀は19日に、協調して米ドルの供給を増やす取り組みを発表するなど相次いで対策を打ち出した。
当局の取り組みを受けて株式市場は持ち直すなど信用不安は小康状態にあった。しかし、今後、健全な銀行や貸金業者が危険視されたり、財務悪化を恐れる銀行が融資を必要以上に制限する「信用収縮」が拡大する恐れも指摘されている。そうなれば、米国経済は想定以上に落ち込み、影響は世界に波及する。
実際、22日のニューヨーク株式市場は、FRBのパウエル議長が記者会見で「利下げは想定していない」と発言すると株価が急落するなど神経質な値動きが続き、動揺が収まっていないことを示した。パウエル氏は信用不安や信用収縮の行方に「警戒が必要だ」と語り、今後のかじ取りの難しさをにじませた。
●FRB、0.25%の利上げ決定 銀行の混乱でインフレ対応が複雑化 3/23
米連邦準備制度理事会(FRB)は22日、政策金利を0.25%引き上げることを決めた。FRBは金融の安定性に対するリスクに対処しつつ、根強い高インフレへの対応も試みている。
投資家やエコノミストの間では、銀行部門の混乱にもかかわらず0.25%の利上げを予想する声が広がっていた。
ただパウエル議長らは今回、金融システムを取り巻く環境が変化し続け、異例なほど不透明性が高まる中で連邦公開市場委員会(FOMC)に臨んだ。
FRBのインフレ対策はここ数週間で大幅に難しくなっている。複数の銀行が経営破綻(はたん)したことで、金融危機の可能性をにらみつつ高インフレや労働市場のひっ迫に対応せざるを得なくなったためだ。
FRBは会合の最後に発表した声明で、最近の金融市場の混乱が経済の重荷になっていることを認めた一方、システム全体については信頼感を表明した。
声明では「米国の銀行システムは健全で強じんだ」「最近の変化により家庭や企業の信用状態が悪化し、経済活動や雇用、物価に影響が及ぶ可能性が高い。どの程度影響が出るかは見通せない」としている。
このところの銀行業界の混乱は、中央銀行の過剰対応が経済のリセッション(景気後退)を招く可能性だけでなく、さらなる銀行破綻の引き金となる可能性についても懸念も引き起こした。
その一因は、利上げが米国債などの有価証券の価値を損なうことにある。米シリコンバレーバンクは短期間でこうした債権を売って多額の損失を計上せざるを得ず、資金繰りが行き詰まって破綻した。
ニューヨーク連銀前総裁のビル・ダドリー氏はCNNに対し、「FRBはやや難しい状況にある」「物価高や労働市場のひっ迫が続いていることから、一方では引き締めを続ける必要がある。その一方で、銀行システムへの負荷をこれ以上悪化させないようにしたい」と指摘。「正解がない状況だ」との見方を示した。
●米FRBが利上げ、銀行破綻による不安の中 3/23
アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は22日、0.25パーセントポイントの利上げを発表した。これにより、アメリカの政策金利の誘導目標は、2007年以降で最高水準の4.75〜5%となった。
銀行の破綻が相次ぐ中で金融不安が高まるとの懸念があったが、FRBは銀行システムは「健全で弾力性がある」と説明。一方で、向こう数カ月は銀行破綻の影響が経済成長にダメージを与えるだろうと警告した。
FRBは物価を安定させるため、借り入れコストを上げている。
しかし、昨年から続く急激な利上げにより、銀行システムに負担がかかっている。
アメリカでは今月初め、シリコンヴァレー・バンク(SVB)とシグネチャー・バンクが相次いで破綻。高金利による問題も、その一端だった。
各国当局は、一連の破綻が広範な金融の安定を脅かすとは考えておらず、インフレを抑制するための努力から目をそらす必要はないとしている。
欧州中央銀行(ECB)は先週、政策金利を0.5パーセントポイント上げると発表した。
英イングランド銀行(中銀)も23日に政策金利について決定を下す予定。イギリスでは2月のインフレ率が10.4%と、市場予想を大きく上回って上昇した。
FRBのジェローム・パウエル議長は、FRBは引き続きインフレとの闘いに集中すると説明。SVBについては、強力な金融システムにおける「異常値」だと表現した。
しかし、最近の混乱が成長の足かせとなる可能性は高く、全体の影響も不透明だと認めた。
FRBの経済見通しによると、アメリカの今年の経済成長率はわずか0.4%、来年は1.2%。通常よりも大きく下がっているほか、昨年12月の前回見通しからも下方修正された。
また、向こう数カ月は「継続的な」利上げが必要であるとしていたこれまでの意見もトーンダウンしており、今回は「いくつかの追加的な引き締め策が適切になるかもしれない」とした。
政策金利が高くなると、住宅購入や事業拡大に向けた融資、その他の債務でのコストが高くなる。
こうした活動を高値にすることで、FRBは需要を抑制し、物価を下げようとしている。
利上げの効果はアメリカの住宅市場で出始めており、昨年は住宅購入が大きく減り、今年2月には住宅価格の中央値が10年以上ぶりに、前年より低くなった。
しかし全体としては、経済は市場予想を上回って持ちこたえており、物価は健全とされる2%以上で上昇し続けている。
アメリカの2月のインフレ率は6%。食品や航空運賃などはさらに上昇率が高かった。
今後も利上げは続くのか
パウエル議長は銀行破綻が起きる以前、インフレをめぐる現状の収束には、予想以上に金利を引き上げる必要があるかもしれないと警告していた。
FRBは今年インフレ率が低下すると予想しているが、数カ月前の予想よりも下げ幅は低い。
それでも、FRBは2023年末の政策金利について、昨年12月の予想と変わらず5.1%になるとみている。つまり、近く利上げをやめる可能性が示されている。
パウエル議長は、このところの混乱は「利上げと同様のものだ」と説明した。
また、金融システムの混乱が銀行の貸し出し制限を促し、経済減速に拍車をかけるなら、FRBは主要金利の引き上げにあまり積極的でなくなるかもしれないと述べた。
しかしその上で、インフレとの闘いを躊躇(ちゅうちょ)するつもりはないと繰り返した。
「我々はインフレ率を2%まで下げなくてはならない(中略)それには実質的なコストが伴うものの、失敗した場合のコストの方がはるかに高い」
●FRB議長「銀行システム安定へあらゆる手段」会見 3/23
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は22日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で「インフレ率は依然として高い水準にある」と述べ、引き続き政策金利の引き上げ方針を示した。主な発言と質疑応答は以下の通り。
本日、FOMCは政策金利を0.25%引き上げることを決めた。直近の経済指標は予想以上に強かった。これらは経済活動とインフレの勢いを映す。一方、我々はここ2週間の銀行システム不安により企業や家計の与信条件が逼迫するとみており、経済にも波及する可能性がある。
経済全体への具体的な影響に関する予測や金融政策による対応をするのはまだ早いが、我々はインフレ抑制のために継続的な利上げが適切だという立場を変える。今後は経済指標を注視し、適切であれば追加の金融引き締めをする。
銀行システムは健全
ここ2週間、いくつかの銀行で深刻な問題が発生した。問題を放置すればいずれ健全な銀行にも信用不安が波及し、金融システム全体が家計や企業の預金管理や貸し出しなどといった重要な役割を果たせなくなることは歴史を見ればわかる。
そこで、FRBは米財務省と連邦預金保険公社(FDIC)と協力し、米経済と銀行システムの信用を守るため確固たる行動をした。こうした行動は銀行システムの預金が保護されていることを証明する。FRBは財務省のサポートを受け、流動性と安全性を持つ銀行に限り必要に応じて資金の借り入れを可能とする緊急融資枠を設立した。
このプログラムは連銀貸出制度(ディスカウント・ウインドー)とともに、銀行による非常時の資金調達ニーズに応え、システムの流動性を保証する。銀行システムは高い流動性と資本を有しており、健全で強靱(きょうじん)だ。引き続き銀行システムを注視し、安定性を保つためあらゆる手段を行使する用意ができている。我々は今回の事態から学び、この先同じような事態が発生しないよう尽力する。
物価の安定が最優先
インフレは依然として高水準で推移しており、労働市場もなお逼迫している。我々は高インフレが引きおこす苦難を理解している。インフレ率を目標の2%まで抑え込むという我々の約束を果たすつもりだ。
物価の安定はFRBの責任だ。物価が安定しない経済は誰の利益にもならない。物価が安定しなければ、すべての人に恩恵をもたらす強い労働市場の環境を継続的に維持できない。
2022年の米経済は著しく鈍化した。23年1〜3月期の個人消費は伸びたものの、年末年始の不安定な気象が要因となった可能性がある。
対照的に住宅市場はなお弱い。住宅ローン金利が高止まりしたことが大きい。高金利と生産の成長鈍化が企業による設備投資に重くのしかかっている。
(FOMCの)参加者はおおかた控えめな経済成長が続くと予想した。経済・政策見通し(SEP)の概要にも記載されているように、23年の実質国内総生産(GDP)成長率の予想の中央値は0.4%、24年は1.2%だ。いずれも長期的な成長率の中央値を下回る。ほとんどの参加者がGDP成長率が下振れするリスクがあると予想した。
労働市場は依然として非常に逼迫している。雇用者数は過去3カ月で月平均35万1000人増加した。失業率はなお低く、2月は3.6%だった。労働参加率はここ数カ月でじわり上昇した。賃上げ圧力は解消する兆候が見られる。半面、求人はいまだ高水準だ。労働需要が供給を大きく上回る状況が続いている。
参加者は労働需給がいずれ均衡を取り戻すと予想している。賃金成長率の中央値は23年末は4.5%、24年末には4.6%となると予想した。
インフレは我々の長期的な物価目標の2%を大きく上回る。1月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年同月比5.4%上昇した。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアPCEは4.7%上昇した。2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6%上昇、コア指数は5.5%上昇した。直近の指標はインフレ圧力がなお強いことを示す。
――今日の利上げが銀行システムにさらにストレスを与える懸念は。
「そうは思わない。我々はマクロ経済に焦点をあてて利上げを実施している。銀行の信用状況に対しては連銀貸出制度や新規に設立した融資ファシリティーなどの金融システムを安定させるツールで対応する」
――米経済がソフトランディング(軟着陸)する可能性はあるか。
「足元で起きている出来事が経済にどれだけの影響を与えたかを語るのはまだ早い。問題は、今のような状況がどれだけ長く続くかということだ。長引けば長引くほど、与信環境の引き締まりなどが進む可能性がある」
――地銀からの預金流出を止めるなど現在の金融市場のストレスを止める上でFRBはどれだけ自信があるのか。
「銀行システムは健全で強靱だ。資本も流動性も強力だ。財務省とFDICによる強固な対応は預金者のお金が守られ、銀行システムも安全であることを示したものだ。銀行預金の流出入は1週間ほどで安定した。我々は徹底的な内部調査を実行中で、それによってどこで銀行の監督と規制を強化すべきか把握する」
利上げ停止の可能性も議論
――商業用不動産融資が金融市場に与える懸念が深まっている。中小銀で大きくローンを抱えている銀行もある。シリコンバレーバンク(SVB)のように銀行破綻につながるリスクとなるだろうか。
「(一部の銀行の融資が)商業用不動産に集中していることは認識している。ただ、SVBとは比較できないと思う。銀行システムは健全で力強く、強靱だ。資本も充実している」
――銀行システムのストレスを踏まえて利上げの停止を議論したか。
「会合前の数日間に利上げ停止の可能性も議論した上で、今回の決定に至った。これは極めて強いコンセンサスに基づく決定だ。これは労働市場とインフレが予想以上に強い状況だからだ。実際のところ今回の(銀行危機という)出来事以前は、昨年12月のSEP時に予想した以上に大きな利上げを継続していく必要があるようにみえた」
「2%のインフレ率まで物価の安定を達成するために我々が利上げをしていることに一般の人々も自信を示していた。この自信を維持し、言葉通りに我々がそれを実行することが重要だと考える」
与信環境の引き締まり、利上げと同等以上の効果も
「過去2週間の出来事は家計や企業の与信環境に圧力を与えるものであり、それが労働市場の情勢やインフレを抑制する効果があり、この金融市場の逼迫は利上げと同じ効果、あるいはそれ以上の効果があることは確かだ。もちろんそれを現時点で正確に分析することはできないので、我々は0.25%の利上げと声明文を『利上げの継続』から『追加利上げもありうる』という文言に変えた」
「今後はデータ次第だが、とくに与信環境の引き締まりによる影響を精査することが重要だ」
UBSのクレディ・スイス買収、「現時点ではうまくいっている」
――スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループの買収が決まったとき、安堵したのではないか。
「我々は皆さんの期待通りにスイス当局と関わってきた。うまくいかないかもしれないという懸念はあったが、結果として前向きなものになった。市場も受け入れており、現時点ではうまくいったと言える」
銀行監督・規制強化の必要性は明らか
――SVBの破綻を受けて、銀行監督や規制の改正を通じて米国民の銀行システムに対する自信を回復する必要があるか。
「SVBの資産管理は失敗した。ものすごいスピードで拡大し、銀行顧客は一定のグループに集中しすぎ、銀行の流動性と金利変動に大きなリスクを抱えていた。その結果、前例のないスピードで預金取り付けが起きた。我々監督当局がやることは、何がどう起きたかを調査し、その上で同じことが二度と起こらないようにすることだ。現時点で、その対策を私が示すのは適切ではない。バー副議長が議会証言し、調査の中身について情報公開していく。銀行監督と規制を強化する必要があるのは間違いない」
――ほかの銀行に同じような問題がないか自信を持っていえるか。
「問題は預金保険の対象でなかった預金の比率が大きく、資産のデュレーション(平均残存年数)リスクが大きかったというSVBの固有の問題で、銀行システムの弱さから来るものではない。銀行監督当局はSVBの問題を認識していた。それでも問題が起きた。これについて調査をする必要がある」
――パウエル議長はすべての預金者の預金が安全だと言及したが、預金保険が全預金を保護するということを意味するのか。
「私が言いたいのは、経済や金融システムに深刻な害を及ぼす恐れがある場合、預金者を保護する手段があるということだ。我々はその手段を使う用意があり、預金者は自分の預金が安全だと考えるべきだ」
FRBのバランスシート拡大は一時的
――FRBによる金融機関への支援は、バランスシートを縮小させていることと矛盾しないか。
「人々はそれぞれの方法で量的緩和(QE)や量的引き締め(QT)を考えるので、私の考えを明確にしたい。最近の世界的な(中央銀行による)流動性の供給は我々のバランスシートを拡大させることになったが、その意図や効果は長期債の購入でバランスシートを拡大させる場合とは全く異なる。長期債の大規模購入は、国債価格を上げ、長期金利を押し下げる、政策スタンスの変更を意味する」
「(直近の)バランスシートの拡大は、最近の緊張によって生じた特別な流動性需要に対応するための、銀行への一時的な融資によるものだ。金融政策のスタンスを変えることを意図していない。銀行システムに対する信頼を強化し、金融情勢の急激な収縮を食い止めるという意図した効果を発揮していると思う」
――銀行危機対策について。ディスカウント・ウインドーなど既にある枠組みではなくなぜ新たな融資枠を設けたのか。破綻したSVBとシグネチャー・バンクに1430億ドルがわたったようだが、預金保護におけるFRBの役割は。
「ディスカウント・ウインドーの枠組みでもかなり多くのことを実施している。緊急融資枠は特別な事情がある場合のみ利用できるもので、一定の要件を満たす必要があるが、適切な枠組みだったと思う。我々はFDICと協力してブリッジバンク(承継銀行)に融資することにした。FDICが100%保証するローンなので、FRBには何のリスクもない」
独立した外部調査を歓迎
――FRBの内部調査において、あなたの役割は。
「銀行監督を担当するバーFRB副議長がこの調査を先導する。中身の報告を受けるだけで、調査に関わるわけではない。今回の銀行破綻がなぜ、どうやって起こったのかを明らかにする必要があると最初の週末にすぐに調査することで合意した」
――SVBの破綻を巡り、(議会が提案するような)FRBとは別の外部の調査が入ることに抵抗はないか。
「独立した外部の調査を100%歓迎する。銀行破綻に関する調査はもちろん歓迎だ」
銀行システムへのストレス、見極め必要
――「利上げの継続」と「追加の引き締め」の違いは何か。追加の引き締めとは利上げを意味するのか。
「追加の引き締めとは政策金利の引き上げを意味するものだ。ここで着目してほしいのは、『継続』から『引き締めもありうる』と変えた点だ。先行きが見通せない中で現在の銀行システムのストレスが経済にどれだけの影響を与えるかを見極める必要があるからだ。経済にあまり大きな影響を与えない可能性もある。一方でインフレ圧力が引き続き大きい場合、我々の対応は変わってくる。あるいは利上げが与信環境を大きく逼迫させる可能性もある。その場合は金融政策での対応は小さくて済むことになる。現時点で先行きはわからない」
――どのような状況になれば利下げは正当化されるか。
「金融情勢は従来の指標で見るよりも、より引き締まった状態にある。従来の指標は金利と株式に重点を置いており、必ずしも貸出金利を捉えているわけではないからだ。銀行の貸出状況などに焦点を当てれば、より引き締まっていることを示す指標がある。しかしどの程度深刻なものなのかが疑問だ。長引けばマクロ経済環境にも大きな影響を与える可能性がある。しっかり見極めて、政策決定に反映していく」
――今回の銀行危機を踏まえた上でのターミナル金利(政策金利のピーク)をどう予想するか。
「現在の銀行の状況が利上げと同等の効果を発揮する場合とそうではない場合で、対応が変わってくる。インフレ拡大と労働市場の逼迫が明らかな一方で、過去12日間に起こったことの信用市場への影響を分析するのは非常に難しい」
23年内の利下げ、考えていない
――市場は5月にもう一度利上げし、その後2023年中に利下げに転じていく見通しを織り込み済みだ。FOMCの参加者の見方との乖離(かいり)をどう考えるか。
「本日発表のSEPを見ての通り、参加者は比較的ゆるやかな経済成長や、労働市場の需給バランスの緩和を見込んでいる。インフレも徐々に鈍化すると考えられる。最も可能性の高いケースとして、そうなった場合、参加者は23年の利下げを考えていない。経済の軌道は不確実であり、実際に起こった事柄を政策に反映していく」
――インフレが高止まりすれば、必要に応じて利上げ再開を検討するのか。利上げが終わりに近づいていることで、手足を縛られているのだろうか。
「そんなことはない。現時点では、我々は与信環境の引き締まりが起こる可能性があると考えている。経済や需要、労働市場、インフレに影響を及ぼす。我々はこうしたすべての状況を注視している。我々は最終的にインフレ率を下げ2%に戻すために十分な引き締め政策をとるつもりだし、インフレは下がっていくだろう」
インフレ率2%の目標は据え置き
――インフレがしつこいが、より早く沈静化させるために財政面での支援は必要か。
「想定していない。FRBは物価安定に責任があるし、それを変えることはできない」
――FRBは正しいことをしていても、新型コロナウイルス下での財政支出によってインフレが長引いているのではないか。
「パンデミック(世界的大流行)対策が一段落するにつれ、支出は減少していった。当初はインフレの理由の1つだったかもしれないが、今はそうではない」
――2月の会合ではディスインフレーションという言葉を度々使ったが、現在もディスインフレーションは起こっているのか。
「モノのインフレは過去6カ月間に低下傾向になっているが、そのペースは望ましいほどではない。コアPCE指数の44%を占める住宅賃貸の価格は2月時点ではみられなかった低下傾向が出ている。一方で住宅以外の価格や労働市場はまだ軟化がみられない。与信環境の引き締まりと景気鈍化の関係についてはいろいろな議論があるが、問題は現在の与信逼迫がどれほど続くのかわからないことだ」
――23年末の政策金利が中央値で5.1%となったことは、23年の残りの期間を見通した際に、参加者は十分に金融引き締め環境にあるという認識で一致しているということか。引き締め終了の到達点からいまはどの程度離れているのか。
「我々は金融政策の効果をみている。銀行で起きている事象から与信環境の引き締めを目にしている。利上げと同じことを、利上げの代替方法で実施することも考えている。重要なのはインフレ率を2%まで低下させるのに十分な引き締め政策が必要ということだ。そのすべてが利上げである必要はなく、与信環境の引き締まりからくることもある。このような状況がどの程度続くかは非常に不透明で、当面は見守るしかない。我々は2%目標に向け十分努力をするし、誰もそれを疑うべきでない」
――経済見通しでは23年に失業率が4.5%に上昇するとのことだが、雪だるま式に高まる失業率をどう防ぐのか。
「(SEPは)労働市場が軟化し、需要が鈍化することで起きうるかもしれないという非常に不確実な見積もりだ。我々はインフレ率を2%まで下げなければならない。そのためにはコストがかかるが、インフレ抑制に失敗したときにかかるコストの方が大きい」
「歴史を振り返ると、中央銀行がインフレ率を元の水準まで戻し、インフレ期待が安定していることを確認しない限り、不安定な年が続くということが分かるだろう。そうすると資本を投じることも難しくなり、経済がうまく機能しなくなる。我々はそのような事態を避けるために、インフレ率を下げることに重点を置いている。長い目で見れば、それがサービスを提供する人々に最も利益をもたらすことだとわかっているからだ」
●PPT(下落防止チーム)がウォーレン・バフェットと銀行危機について協議 3/23
2023年の目標は生き残ること(サバイバル)
ウォーレン・バフェットがバイデン政権の高官らと銀行危機について協議したことが、3月18日に分かった。米国ではこの週末に、FRB(米連邦準備制度理事会)と財務省の関係者(米大手金融機関)などが出席する「金融市場に関する大統領作業部会」が開かれた。バフェットへの接触もその一環である。PPT(下落防止チーム)が動いたのは2020年3月以来のことである。
バフェットは金融危機時に金融機関に投資を行い成功した。2008年の世界金融危機の際、ゴールドマン・サックス・グループ(GS)に50億ドルを出資した。また、バンク・オブ・アメリカ(BAC)は2011年にサブプライム住宅ローン絡みの損失での株価が急落した後、バフェットから資本注入を受けた。
バフェットは金融マフィアでもある。リーマンショックに続いて、規格外の安値で金融株をまたもや手に入れることになるのだろうか? ただ、本格的な金融危機というか、<金融システムの崩壊>はまだ先である。そのトリガーは利下げが引く。
クレディ・スイスは下降スパイラルに巻き込まれて破綻した。UBSがCSを二束三文の20億ドルで買収、SNBは1,000億ドルの流動性を提供、当局は株主投票を迂回させることを強行したという。
また、スイス政府はUBSグループに対し、クレディ・スイス・グループ買収に関連して発生し得る損失をカバーするため90億スイス・フラン(約1兆2,900億円)の保証を付与するという。
「スイス国立銀行はUBSに対して1,000億フランの流動性援助を行い、政府はUBSが引き継ぐ資産の潜在的損失に対して90億フランの保証を与える」という。これは、明らかに税金による救済措置で、もう資本主義経済とは呼べない状況である。
「クレディ・スイスは下降スパイラルに巻き込まれた
ゼロに近い金利でお金を借りることができ、すぐに利益を得られる「機会」が増殖するとき、過剰な借り入れと投機が「賢いこと」となる。このような「アニマルスピリッツ」が旺盛なマインドセットでは、大金を借りて、皆のポケットを満たす簡単な利益を追いかけることをためらうのは愚か者である。
これらの限界的な資産や企業に資本や生計を賭けていた人は皆、損害を受けることになる。金利が4%に上昇したときに利回り1%の債券を買った人は皆、痛い目に遭う。ほぼ無料の資本が永遠に流れ続けることを期待していた人は皆、傷つくだろう。」
クレディ・スイス銀行は、散々バブルに踊ってもうけて、破綻すると損失は税金で国民が救済する。こんなおいしい商売はないだろう。米国の銀行もそうだ。FRBは実質的にその6,000億ドル以上の預金を全て保証したことになる。
商業銀行は一銭も損しない。彼らは今、金融リスクを連邦準備制度に転嫁することができる。今回の銀行救済措置は大きな批判を呼び、昨日イエレンは破綻銀行の投資家保護を否定した。
SVBの下落(およびその後の銀行部門の混乱)は、このFRBの引き締めサイクルを逆転させる触媒になるのだろうか? 今回のFOMC(米連邦公開市場委員会)では辛うじて25bpsの利上げが行われたが、市場はその後利上げ停止や大幅な利下げサイクルが続くとみている。
   現在の米政策金利の進路に関する市場の予想
歴史的に見ると、利下げは過去の弱気相場における最悪の下落の前に行われたものである。
FRBが利下げに追い込まれたとき、市場は今より疑心暗鬼となるだろう。債券王のジェフリー・ガンドラックは、「株式市場は現在弱気相場であり、上昇する場合は売りで臨む」という。
ガンドラック氏は、S&P500種指数が3,200まで取引されると予測し、「2023年の目標は生き残ること(サバイバル)、そしてできるだけお金を失わないこと」と投資家に注意を促している。
   ナスダックと米2年国債金利の推移
   過去の弱気相場では、歴史的に利下げが最悪のドローダウンに先行している
FRBによるCOVID時代の住宅ローン市場への介入は、21世紀に入ってから2度目の不動産バブルをあおった。バブルは、FRBがMBSの購入を中止し、インフレに対抗するために金利を引き上げたことで終焉(しゅうえん)を迎えた。バブルの終焉により、FRBはすでにMBS投資で4,000億ドル以上の損失を出している。シリコンバレー銀行と同じではないか?
いずれにせよ、エブリシングバブルの崩壊はまだ終わりの始まりにすぎない。景気後退を引き起こさずにインフレの発生を封じ込めるのは至難の業である。
   2000年から2002年にかけてのNASDAQ弱気相場の上昇を「強気相場」だと思っていた方へ
   連銀と金融危機
長期的なスタグフレーションかデフレ不況のどちらかになるだろう
イエレンは2017年6月に、「私の目の黒いうちは、金融危機は起こらない」と豪語した。筆者のメルマガでは、Jim Quinn(ジム・クイン)の『IS THE U.S. BANKING SYSTEM SAFE? – 15 YEARS LATER』というコラムを取り上げたが、彼は、「銀行のCEOや政府のトップが「大丈夫だ」と言うのを見たら、丘の上に逃げて欲しい。彼らは嘘をついている。彼らはこの事態を予見していなかったし、どのような結末を迎えるのか見当もついていない」と、述べている。
ジム・クインの言うように、私たちは、次の世界金融危機の始まりにいるのであって、終わりではない。フォース・ターニング(第四の節目・危機の時代)は消え去ることはない。混乱と戦争のクレッシェンドへと発展していくのだ。この金融危機は、昨年から手招きされている軍事衝突の到来を告げるものだ。今こそ、腰を据えて、来るべき嵐に備える時である。
レイ・ダリオは、シリコンバレー銀行の破綻は「炭鉱のカナリアだ」と述べ、「初期的な兆候を示しているこの動きはベンチャー界のみならず、より広い世界に波及効果を及ぼすだろう。この銀行の破綻に続いて、もっと多くの問題が顕在化する可能性が高い。縮小はサイクルが一巡するまで続く。今はターニングポイントに近づいている」と警鐘を鳴らしている。
ロバート・スタークは、『経済的死のスパイラル』というコラムの中で次のように述べている。
「これは、インフレ、スタグフレーション、景気後退、潜在的な債務危機、さらにエネルギーやサプライチェーンの問題など、完璧な嵐である。
すべてのバブルを終わらせるバブル、あるいは大きすぎて潰せないステロイドのようなバブルで、FRBには2つの選択肢がある。資金供給量を減らして流動性危機を引き起こすか、インフレを引き起こすかだ。
利上げはこの2つの選択肢の中で最も悪いように見えるが、QEが復活すれば、これ以上の利上げは無駄である。QEと金利のコンボは、ピーター・シフが警告した、インフレによる金融崩壊のシナリオにつながるものだ。
しかし、ほとんどの場合、長期的なスタグフレーションかデフレ不況のどちらかになるだろう。これは誇張でもクリックベイト(虚偽・誇大広告)でもなく、恐慌は非常に現実的な可能性である。」
1971年、ニクソンの金ドル兌換(だかん)停止のとき、世界の債務は4兆ドルだった。ゴールドの裏付けがないため、無制限にお金を刷ることができるようになったのである。大金融危機が始まった2006年には、世界の債務は120兆ドルに達していた。2021年には、1971年の75倍の300兆ドルにまで膨れ上がっている。
   2025年から2030年の間に世界の債務が3,000兆ドルに達する!?
年金制度は、銀行と同じ長期国債を大量に購入し、巨額の損失を抱えている。年金制度も問題を抱え、債務を履行できなくなったという話を聞くのも時間の問題かもしれない。
上のチャートでは、2025年から2030年の間に世界の債務がなんと3,000兆ドルに達するという予測となっている。これは、シャドウバンキング(影の銀行)システムと、現在おそらく約2,000兆ドルの未払いのデリバティブを、中央銀行が大量の紙幣印刷で対処する必要があることを前提としているという。
FRBがコントロールを失うことで、アメリカ帝国は金利を支払う余裕すらなく、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性がある。いずれにせよ、全ての帝国は財政破綻して終わりを迎える。
   帝国のビッグサイクル
●日経平均は反発 金やビットコインは堅調に推移 3/23
日本の銀行やテクノロジー関連企業の株式が、日経平均株価の反発を後押しした。一方で、銀行破綻に対するヘッジとして金とビットコインが注目を集めている。
侍ジャパンがワールド・ベースボール・クラシック決勝でアメリカ代表チームを倒して優勝を飾った3月22日、それを祝うように日経平均株価が反発した。
日本の銀行株は堅牢に推移し、メガバンクはこの日2%を超える上昇を見せた。さらに、欧米で相次いだ銀行危機以降、金とビットコインが好調に推移している。
3月21日、米国では銀行破綻への懸念が落ち着いてきたために株価が上昇した。ジャネット・イエレン米財務長官は、より小規模な銀行でも破綻が連鎖するおそれがある場合には、再び全額保護の措置を講じる用意があるという考えを示した。このため、ファースト・リパブリックはおよそ30%急騰し、S&P500は1.3%、NASDAQは1.6%の上昇を見せた。
今後は、3月21・22日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)に注目が集まる。銀行セクターが抱える諸問題により、連邦準備制度理事会(FRB)はこの会合で積極的な利上げを実施しないとの見方が強く、引き上げ幅は0.25%である可能性が高いとされている。
3月22日時点で、米ドル/円相場は132円前後で推移している。
銀行株がけん引し、日経平均株価が反発
相次ぐ米国銀行破綻によって厳しい展開を強いられた3月第3週を終えた後、21日には春分の日をはさんで、翌22日の日経平均株価は1.93%反発し、27,466円で引けた。ワールド・ベースボール・クラシックで侍ジャパンが優勝したこともあり、お祝いムードが高まった。
銀行株では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)が3.08%高の850円80銭、みずほフィナンシャルグループ(8411)が2.27%高の1,867円まで上昇した。テクノロジー産業を支えてきた金融機関であるシリコンバレー銀行(SVB)が、3月10日に破綻したことを受けて銀行株は低迷していたが、現在は回復の兆しが見られる。
投資ファンドを通じて多くの米国テクノロジー関連企業に出資するソフトバンクグループ(9984)は、2.8%高となる4,987円で取引を終えた。トレーダーは、心理的節目である5,000円の大台に乗るかに注目している。
銀行破綻の懸念に対するヘッジとして金とビットコインが注目される
米国・欧州の銀行危機以降、金とビットコインが好調な推移を見せている。
金は古くから貨幣性資産として考えられ、高インフレや不確実な経済状況下で好調に推移する傾向がある。SVBの破綻以降、金は1オンスあたり1,812ドル前後から2,000ドル超まで価格が上昇した。一晩で1,944ドル前後まで価格を修正したものの、FOMCの会合を受けて大幅な株価変動が起これば、再び2,000ドルの大台に乗ることが考えられる。純金上場信託ETF(1540)は、3月20日に8,019円で取引を終え、3月22日には7,856円までやや下落したものの、現在もトレーダーに注目されている。
ビットコインは当初、ピア・ツー・ピアの電子マネーシステムとして開発された。このようなデジタル資産は近年、一部の投資家から、インフレや中央銀行の金融政策に対するヘッジとみなされている。ビットコインは最近、長期的な下落トレンドから脱した模様で、その価格は2021年11月10日に68,000ドルを超え、ピークを迎えた。
2022年11月、暗号資産通貨取引所であるFTX社の経営破綻を受け、上記の過去最高価格から75%以上下落し、16,000ドルを下回って底を打った。相次いだ銀行破綻がきっかけとなり、ビットコイン価格は3月10日の20,187ドル付近から上昇し、3月22日には27,307ドル付近で取引を終えた。
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●22日の米国市場ダイジェスト:米国株式市場は反落、根強い金融不安くすぶる 3/23
22日の米国市場ダイジェスト / 米国株式市場は反落、根強い金融不安くすぶる
NY株式:米国株式市場は反落、根強い金融不安くすぶる
ダウ平均は530.49ドル安の32,030.11ドル、ナスダックは190.15ポイント安の11,669.96で取引を終了した。
連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表待ちで売り買い交錯し、寄り付き後はまちまち。連邦準備制度理事会(FRB)はFOMCで市場の予想通り0.25ポイントの利上げに踏み切った一方、最近の金融危機を受けた不透明感を考慮し、声明文を変更するなど柔軟な姿勢を見せたことが好感され、一時上昇に転換。しかし、パウエル議長が会見で必要となれば想定以上の利上げを示唆したため、過剰な利上げによる景気後退懸念が広がり再び下落。さらに、イエレン財務長官が政府は預金保護拡大を検討していないと言及すると、地銀を含め金融の下げが加速し、全体指数をさらに押し下げ。終盤にかけ下げ幅を拡大して終了した。セクター別では銀行や不動産の下げが目立った。
ゲーム販売のゲームストップ(GME)は在庫やコスト減少が奏功し、過去2年間で初めての黒字を計上し、上昇。航空機による人工衛星の打ち上げを手掛けるヴァージン・オービット・ホールディングス(VORB)は投資家からの資本調達を目指していると報じられ、上昇した。
地銀のパックウエスト(PACW)は年初から預金の20%が流出していて投資会社から資金を確保したとが報じられたほか、同業のファースト・リパビリック(FRC)もシリコンバレー銀行の破綻後の大量預金流出により身売りも含め様々な戦略選択肢に迫られているとの報道で、それぞれ下落。スポーツ用品ブランドのナイキ(NKE)は年末商戦を含む四半期決算の内容が予想を上回ったものの、過剰在庫や中国での売り上げが弱く、経済や消費に懸念を表明したため売られた。
住宅建設会社のKBホームズ(KBH)は取引終了後に決算を発表。1株利益が予想を上回ったほか、23年通期の見通しも強く、時間外取引で上昇している。
NY為替:ハト派的なFOMC声明でドル続落
22日のニューヨーク外為市場でドル・円は、133円00銭まで上昇後、131円01銭まで下落して、131円45銭で引けた。連邦準備制度理事会(FRB)は米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利(フェデラルファンドFF金利の誘導目標)を市場の予想通り0.25%引き上げ、4.75-5.00%に決定した。声明ではインフレが依然高く、雇用の伸びも加速したとしたものの、最近の金融混乱を受けて声明の文言を変更し利上げ停止の選択肢も残したため、利上げ停止に近づいたとの思わくにドル売りが加速。また、行き過ぎた利上げにより景気後退リスクが高まったとの見方を受けた長期金利の低下に伴うドル売りも強まった。
ユーロ・ドルは、1.0774ドルから1.0912ドルまで上昇し、1.0862ドルで引けた。ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁のインフレが高過ぎるとのタカ派発言を受けたユーロ買いが強まった。ユーロ・円は143円63銭まで上昇後、142円29銭まで反落した。ポンド・ドルは、1.2220ドルから1.2335ドルまで上昇。英インフレが予想外に加速したためポンド買いが優勢となった。ドル・スイスは、0.9246フランへ上昇後、0.9148フランまで下落した。
NY原油:続伸で70.90ドル、将来的な需給ひっ迫の可能性残る
NY原油先物5月限は続伸。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物5月限は、前営業日比+1.23ドルの70.90ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは68.89ドル-71.31ドル。アジア市場の終盤にかけて68.89ドルまで売られたが、ドル安を意識した買いが入ったことで一時71.31ドルまで上昇。米利上げ継続観測で米国株は下落したが、将来的な需給ひっ迫の可能性は消えていないことも買い材料となった。通常取引終了後の時間外取引では70ドルを挟んだ水準で推移した。
●「金融危機を繰り返さないように」米銀行破綻など金融不安に中国政府が苦言 3/23
アメリカの銀行が経営破綻するなどして金融不安が広がっていることについて、中国政府はリーマンショックを念頭に「2008年の金融危機を繰り返さないように」と苦言を呈しました。
アメリカのシリコンバレー銀行が破綻したことなどについて、中国外務省は23日の会見で「世界の金融市場に混乱をもたらした」と指摘しました。
そのうえで、アメリカに対して「透明性を高めてリスクや対応策など国際社会が関心を持つ一連の問題をはっきり説明してほしい」と求めました。
また、リーマンショックを念頭に「極端な政策調整による深刻な影響を避け、2008年の金融危機を繰り返さないよう促す」と述べました。
リーマンショックの際には中国政府が現在のレートで約80兆円の景気対策を行い、世界経済が回復したとされています。
●「連鎖倒産への懸念も払拭されていない」日経平均一時、200円超の値下がり 3/23
アメリカの利上げ発表を受け、午前の東京市場はどのような動きとなったのでしょうか。
世界の景気を左右する一大イベントを通過した直後の東京市場ですが、依然として重い空気が漂う中での取引となりました。
きょうの日経平均株価は一時200円以上値下がりするなど幅広い銘柄に売り注文が集まり、500ドル以上値を下げたアメリカ市場の流れを引き継ぐ形で午前の取引を終えました。
FRBの決定に加えて、アメリカのイエレン財務長官が「預金の全面的な保険に関しては議論や検討をしていない」と話したことで、新たな銀行の破綻など金融システム不安への警戒感は根強く、銀行や保険など金融関連の下落が目立ちました。
市場関係者も「利上げの長期化に加えて連鎖倒産への懸念も払拭されていない」と話していて、今後も、経済指標や要人の発言に大きく相場が反応する日々は続きそうです。 

 

●支援枠、導入10日で7兆円 銀行資金繰り、金融不安で  3/24
米連邦準備制度理事会(FRB)は23日、シリコンバレー銀行(SVB)などの破綻により新設した金融機関の資金繰り支援枠の利用が、導入から10日後の22日時点で536億ドル(約7兆円)になったと発表した。金融不安がくすぶる中、銀行が「最後の貸し手」の中央銀行に頼る姿が鮮明となった。
FRBはSVBが今月10日に破綻した2日後に、預金の全額保護と新たな資金繰り支援策の導入を発表。金融機関を対象に、米国債や住宅ローン担保証券を担保として最長1年の融資を提供する仕組みで、担保は含み損が出ていても額面で評価される。
●シリコンバレー銀行破綻による、ALM見直しへの期待 3/24
シリコンバレー銀行が3月10日に破綻し、2日後にはシグネチャー銀行も破綻した。その波は欧州にも波及し、老舗のクレディ・スイスが危機に陥り、UBSによる救済が検討されている。金融機関の危機がグローバルで続くのはリーマンショック以来の事態である。
シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻の詳細は、FRB(連邦準備制度理事会)のレポートなどから明らかにされるだろうが、現時点でも原因は、取り付け騒ぎによって資本不足を引き起こしたことにあったと言えるだろう。
背景には、真偽の定かではない特定の意見がSNSを通じて一瞬にして「事実」のように語られるようになったことや、オンラインバンキングの進展による資金移動のしやすさもあるだろう。だが根底にはALMの失敗がある。
ALMとは、銀行のように預金を預かる金融機関(保険会社の場合は保険払込金)に対するリスク管理の手法で、資産(Asset)と負債(Liability)を統合して管理することを指す。市場金利や為替、有価証券価格の変動に対しシミュレーションを行い、適切なリスク管理を図る銀行経営の基本とも言うべきものだ。
今回のケースでは、シリコンバレー銀行はFRBによる金利引き上げにより債券運用で評価損が発生していたことに加え、顧客は、預金引き出しの早い起業家や富裕層がメインだった。そのため個別状況を考慮したバランスシートになっているべきであったが、その管理が不十分もしくは出来ていなかったということだろう。これを見過ごした監督官庁にも問題の責任の一端はあると言える。
一方で、シリコンバレー銀行の破綻は、アメリカの金融機関全体の危機を招くようなシステミックリスクには陥っていない。これは、リーマン・ブラザーズに比べてシリコンバレー銀行の規模が大きくないこともあるが、リーマンショック以降適用された「バーゼルIII」規制に拠るところがある。
「バーゼルIII」規制では、1つの金融機関の破綻が連鎖しないよう、大手金融機関には一定程度の流動性を確保することを課している。具体的には、流動性の高い普通株式と過去の利益の積み重ねで構成される「CET1」と呼ばれる自己資本部分の保持水準を定めている。これによりシステミックリスクの発生確率は下がり、実際今回のケースで初めてその有効性が検証されたことになるだろう。
FRBがシリコンバレー銀行の預金全額保護の声明を出し、信用不安の払拭に努めてはいるが、ALMの管理が杜撰であれば今後も同様の破綻が続く可能性を否定できない。
「バーゼルIII」を規定するバーゼル委員会は欧州に本拠を置くが、システミックリスクを考慮して、新たに「預金引き出し」に対するリスク管理強化に動くことも想定される。これを機に、ALMが過去からのなあなあの踏襲となっていないか、最近のマーケット動向を適切に反映できているのか、といった観点で日本を含む金融機関において見直しが進むことを期待する。
●シリコンバレー銀行にクレディ・スイス…金融不安連鎖で急落「日本銀行株」 3/24
欧米で金融不安が広がっている。株式市場にどのような影響があるのか。楽天証券チーフ・ストラテジストの窪田真之さんは「米国で銀行株が軒並み急落、日本の銀行株も急落していますが、私は海外展開が進んでいるメガ銀行は買っていいと考えています」という――。
急落する日本の銀行株は買いか
米国でシリコンバレー銀行(総資産全米16位)、シグネチャー銀行(同29位)が破綻してから、欧米で金融不安が広がっています。米国で銀行株が軒並み急落、地方銀行の一部で預金の取り付けが起こっています。欧州ではかねてより経営不安が噂されていたクレディ・スイスの株価が急落し、UBSが救済合併に動きました。
欧米の金融当局は、信用不安の拡大を抑えるためにやれることは何でもやる姿勢ですが、金融不安はまだ収まっていません。
欧米の不安は、日本の銀行にとって「対岸の火事」でしょうか。日本の銀行株も急落していますが、買い場と考えていいのでしょうか。私は、三菱UFJフィナンシャル・グループなど海外展開が進んでいるメガ銀行は買っていいと考えています。その理由を解説します。
シリコンバレー銀行はなぜ破綻することになったか
シリコンバレー銀行(以下、SVBと表記)は、なぜ破綻に追い込まれたのでしょうか? クレディ・スイス(以下、CSと表記)は、なぜ救済合併が必要になるまで財務が悪化したのでしょうか、そこから解説します。
結論から申し上げると、SVBは米国の急激な金利上昇に備えができていなかったために破綻しました。CSは、投資銀行部門の暴走で財務が急激に悪化しました。どちらも特殊要因で信用不安に陥ったもので、日本の大手金融機関が現時点で同様の問題を抱えているとは考えていません。
日本の話をする前に、まずSVBの破綻原因を詳しく解説します。
   【図表1】SVB破綻の原因
SVBは、銀行ALM(資産・負債のリスク管理)の初歩ができていなかったために破綻しました。SVBは、テック系新興企業との取引で知られていました。テック系新興企業から預金を預かり、融資をする銀行でした。
ところが、テックバブルで、テック系企業にはベンチャーキャピタルなどから、巨額の資金が供給されていました。すぐに使う予定のない現金をたくさん持つ新興企業が、SVBに多額の預金をしていたため、SVBは預金過多で貸付金が不足していました。そこで、SVBは、期間の長いMBSや米国債など債券投資にのめり込んでいき、金利上昇(債券価格下落)で一気に財務が悪化しました。
通常、金利が上昇しただけで銀行は破綻しません。そうならないように、金利上昇リスクを管理しているからです。具体的に言うと、資産のデュレーション(平均運用期間)と負債のデュレーション(平均調達期間)の乖離かいりが大きくなり過ぎないように管理しています。それが銀行ALMの初歩です。
もう少しわかりやすく言うと、1年定期預金で集めたお金で30年の固定利付住宅ローンを出すようなことはしない、ということです。金利が上昇した時、調達(預金)金利だけ上昇して逆ザヤになるリスクがあるからです。このリスクを避けるため、日本の銀行は30年の固定利付住宅ローンを出したら、金利スワップを使って固定金利を変動金利に変換します。そうすることで、金利上昇リスクに備えます。SVBは、そんな銀行経営の初歩ができていなかったから破綻しました。
もう1つの破綻原因
SVB破綻のもう1つの原因は、負債サイド(預金)にあります。逃げ足の速い大口の法人預金中心に資金調達していたことも、破綻の原因です。信用が低下すると、すぐに預金の引き出しが集中しました。
銀行ALMにおいて、同じ流動性預金(普通預金や当座預金)でも、個人預金はデュレーションが長い(長い年月にわたって滞留する)ことがわかっています。出入りの激しい法人預金と違って、給与振り込みやクレジットカードの引き落としに指定された個人口座は、長期に滞留するので「コア預金」と呼ばれます。
預金保険制度の存在も、個人預金がコア預金となる要因です。銀行が破綻した場合、日本では1人1000万円まで、米国では1人25万ドル(約3300万円)まで、普通預金や当座預金の残高が保護されます(預金保険機構に加入している銀行)。個人預金は保証額を下回る金額が多いので、信用不安の噂が出てもすぐ引き出しに走ることはありません。ところが、SVBは大口の法人預金を中心に資金を調達していたため、信用不安の噂が出ると、預金の流出が増えて、資金が行き詰まりました。
急激な利上げが直接の原因
このように、SVBは、きわめてリスクの高い資産・負債構造を持っていたために、破綻することになりました。過去に例のないピッチで金利を急騰させたFRB(米連邦準備制度理事会)が、破綻の直接の原因を作りました。0.5%や0.75%など過去に例のない大幅な利上げを繰り返し、1年で一気に4.5%も利上げしたことが、SVBを追い詰めました。
年1%の利上げを4年連続で続けたとしても、SVBは破綻に至らなかったでしょう。年1%ずつの金利上昇ならば、それに対応する資産の入れ替えを少しずつ進めることができたからです。パウエルFRB議長は、2021年当時、米国のインフレは一時的と誤った判断をしていたために、金利引き上げの判断が遅れました。その分、過去に例のない急激な利上げが必要になりました。それが、SVB破綻を生じた直接の原因です。
クレディ・スイスはなぜ救済合併が必要になったか
SVBが破綻すると、信用不安が欧州に伝播しました。スイスで2番目の資産規模を持つ大手銀行クレディ・スイス(CS)の株価が急落、放置すれば預金流出が止まらなくなる危機に瀕しました。CSは破綻すると世界の金融システムに重大な影響を与える「国際的に重要な金融機関」に指定されています。破綻すればリーマンショックを超えるダメージが世界の金融システムに及ぶ可能性があります。
CSはなぜ急激に財務が悪化したのでしょうか? 巨大銀行の転落は、さまざまな複合要因が重なった結果です。近年、CSの不祥事が相次いで報道されていました。超富裕層のファミリーオフィスとの取引で巨額損失、不正預金の発覚、経営の混乱……。一連の不祥事の根幹にあるのが、投資銀行部門の暴走です。スイスの銀行が世界中の富裕層から秘密の預金を集めてビジネスをやってきた時代は終わりました。伝統的なスイス銀行のビジネスが衰退する中で、米国流の投資銀行業務を取り入れて収益を稼いでいこうとしたことが、巨大銀行の転落を早めました。
法令違反ぎりぎりのきわどい危険な取引
投資銀行部門の暴走で大手金融機関が破綻というと、2008年のリーマンショックを思い出します。リーマンショックの経験から、「国際的に重要な金融機関」には、厳しい自己資本規制が課せられ自己資本を危険にさらす取引は制限されることになりました。そのおかげで、リーマンショック以後、巨大金融機関の危機は起こらなくなっていました。
ところが、CSはその規制をかいくぐる形で危険な取引を繰り返し、財務を毀損きそんしました。CSは見かけ上、自己資本規制をクリアしていましたが、裏で法令違反ぎりぎりのきわどい危険な取引を繰り返し、財務を毀損しました。CSの転落を見ると、リーマンショックの亡霊がよみがえった感を覚えます。
危機拡大を防ぐためスイス金融当局は、すぐに動きました。CSに対し、スイス中銀は15日、最大500億スイスフラン(約7.2兆円)の資金供給を表明し、さらに19日にはスイスのトップ銀行UBSが、約4200億円(円換算額)で買収すると発表しました。通常これだけの大型買収を決める時、資産査定にかなりの時間をかけますが、急転直下で決まったのは、それだけCSの信用不安が深刻だったことになります。
「なんでもあり」の救済劇
UBSにCS買収を決断させるために、スイス政府は90億フラン(約1.3兆円)の損失補償をつけました。UBSがCS買収で損失を被った場合、最大90億フランまで政府が補塡ほてんするという内容です。さらに、もう1つ金融市場を驚愕きょうがくさせたのは、CSが資金調達のために発行していた劣後債の一種、AT1債160億スイスフラン(約2.3兆円)を無価値にすると発表したことです。株式に約4200億円の価値をつけておきながら、劣後債の価値をゼロにするというのは、きわめて異例の措置です。CSの預金者の不安を取り除き、預金流出を抑えるために、「なんでもあり」の救済劇が演じられました。
これで一件落着かと言うと、そうはいきません。CSの預金者を安心させるには効果があったと思いますが、代わりに世界中のAT1債保有者に強烈なダメージを与えました。世界中の金融機関がAT1債を使って自己資本を調達してきましたが、AT1債の信用が急低下したことで、今後は発行が難しくなり、銀行資本の調達に支障が生じる可能性が出ています。
また、CSのAT1債への投資家が、無価値化の決定にすんなり納得するとは思えません。これからCSを買収したUBSに対して訴訟が起こされる可能性もあります。CSをめぐる混乱は続きそうです。
「なんでもあり」の金融不安対策は、奏効するか
SVB・CSの危機を発端に、欧米の金融機関全般に危機が拡散しないよう、米政府は、なんでもありの対策を発動しています。
【1】SVB、シグネチャー銀行の預金を全額保護すると米政府が発表
預金保険機構による預金保護は1人当たり25万ドルまでだが、信用不安の連鎖を防ぐため全額保護としました。
【2】ファースト・リパブリック銀行にJPモルガンなど11行が資金支援
SVB破綻の連鎖で、カリフォルニア州のファースト・リパブリック銀行の株価が急落し、預金流出が深刻になりました。これに対し、JPモルガンなどが300億ドル(約4兆円)の資金支援を実施しました。米政府は、公的資金だけでなく、民間銀行の資金も使って信用不安を抑える姿勢です。
ただし、ファースト・リパブリック銀行の株価下落・預金流出は続いており、信用不安はまだ収まっていません。
それでもFOMCは利上げを実施
ただ、FRBは金融危機への対応よりも、まだインフレ抑制を重視する姿勢です。22日のFOMC(公開市場委員会)で0.25%の利上げを実施しました。金利上昇がSVB破綻のきっかけになり、信用不安を引き起こしていることに対して、配慮がありませんでした。パウエル議長は22日の記者会見で、「銀行の不安は、放置すると重大なシステム不安につながる」と認識を示したものの、「銀行システムは健全で回復力がある」と、危機が深刻化するリスクが低いとの認識を示しました。私も、このままリーマンショックのような危機に発展する可能性は低いと、現時点では判断しています。
過去の金融危機は、不良債権の拡大で起こりました。日本の1990年代の金融危機は、不動産バブルの崩壊で不良債権が拡大したことで起こりました。米国の2008年の金融危機(リーマンショック)は、米国の住宅価格が急落して、住宅ローン債権(サブプライムローン)が不良債権化したことで起こりました。
今まだ、米国の銀行で、不良債権が急拡大しているということはありません。金利上昇で、保有する米国債などに含み損が生じていますが、不良債権が拡大しない限り、金融全般の危機に広がる可能性は低いと考えています。
ただし、不良債権問題が今後、深刻になるリスクの芽はあります。米国の銀行の資金繰りが厳しくなり貸し渋りが発生していることから、オフィスビルなど不動産市況の下落が始まっていることです。貸し渋りの影響で、不動産市況の下落が加速すると、銀行全体に不良債権が拡大するリスクはあります。そのリスクへの目配りは必要ですが、現時点でそのリスクが高いとは考えていません。
日本のメガ銀行株は買い
欧米の金融不安をきっかけに日本の銀行株も急落しましたが、私は三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、三菱UFJと表記)などメガ銀行株について、買い判断を継続しています。
欧米の金融不安が、日本の銀行にとって対岸の火事と考えているわけではありません。リーマンショックの時と同様、直接的なマイナス影響は大きくありませんが、間接的には大きなマイナス影響を受けます。ただし、そのマイナス影響を勘案してもなお三菱UFJの株価は割安で、長期的な投資魅力は高いと判断しています。
メガバンク買いの理由【1】リーマンショックの影響レビュー
リーマンショックの時、欧米の金融機関が多数破綻しましたが、日本の金融機関への影響は大きくありませんでした。欧米の金融機関が破綻する原因となった北米住宅ローン債権に投資していた銀行は、日本にもあって損失は発生しましたが、日本の金融システム全体への影響は限定的でした。
日本の金融機関は、1990年代に深刻な金融危機を経験し、やっとそこから抜け出した後でしたから、財務的なリスクを拡大することに慎重でした。米国の住宅ローン債権に投資してしまった銀行があったのは、米国の格付機関がトリプルAなどの誤った格付をつけていたためです。信用リスクを取ることに慎重だったので、致命的なダメージを受けた金融機関はほとんどありませんでした。
ただし、リーマンショックを契機に、世界中の中央銀行が大規模な量的緩和を打ち出し、世界的に金利低下が進んだことで、日本の銀行も間接的に大きなマイナス影響を受けました。それに2014年に始まった黒田日銀の異次元緩和が追い打ちをかけました。日本の長期金利はゼロ近辺に沈み、国内商業銀行の預貸金利ザヤを圧迫しました。国内商業銀行業務の比率が高い、国内金融機関の多くが収益にダメージを受けました。
三菱UFJは、海外ビジネスや、投資銀行業務への多角化を進めることで、純利益8000億円から1兆円の高収益を維持してきました。ただし、リーマンショック以降、株価は長期にわたり低迷が続いてきました。低金利が収益にダメージを与える懸念が続いていたからです。
   【図表2】日経平均・三菱UFJフィナンシャル株の動き比較
メガバンク買いの理由【2】今起こっている欧米の金融危機の影響
今ある欧米の金融危機も、日本の銀行への直接的な影響は限定的と考えています。SVB破綻の原因となった米国の金利急騰は、日本の銀行にも影響しています。米金利急騰で、外債に含み損を抱える銀行が増えました。ただし、日本の大手銀行は今、全般的に不良債権比率が低く、保有する株式に含み益があるため、財務的な問題はほとんどありません。
日本には、SVBのように、ALMの初歩を踏み外した銀行も、CSのように投資銀行業務で過剰なリスクを負っている銀行も無いと判断していますので、今回の欧米の信用不安が日本の銀行に連鎖することはないと予想しています。
ただし、日本の銀行も、間接的に大きなマイナス影響を受ける可能性が出ています。今回の危機で、世界的に金利が低下しました。金利低下は、長期的に銀行の利ザヤを低下させる懸念があります。日本の銀行にとって影響が大きいのは、日本の長期金利が低下した影響です。
日本の銀行は、長期金利をゼロ近辺に固定する日銀の政策で、長らくダメージを受けてきました。昨年12月、日銀が長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた時、やっと国内商業銀行業務の収益性が改善する期待が出たことを好感して、日本の銀行株は急騰しました。
ところが、3月に入り、欧米の金融危機が伝播すると、日本の長期金利は一時0.25%に戻ってしまいました。0.5%への長期金利引き上げに喜んだのも束の間、また元の低金利に戻る懸念から、日本の銀行株は暴落しました。
   【図表3】日本の長期金利(10年国債利回り)と、東証・銀行株指数の推移
長期投資していく価値が高い
先行きのインフレがどうなるか不透明ですが、私は日本にもしぶとくインフレが定着すると予想しています。欧米の金融危機が収束すれば、また日本の長期金利にも上昇圧力が働くと予想しています。そうなると、三菱UFJの株価も見直されて反発していくと予想しています。
仮に長期金利が上昇しないとしても、三菱UFJは、海外ビジネスの拡大や、ユニバーサルバンク経営(投資銀行業務などへの多角化)で安定的に収益を稼いでいく力があると考えています。欧米の金融不安が収まるまで、不安定な値動きが続きそうですが、今の株価は割安で、長期投資していく価値が高いと判断しています。
●ECB、EU首脳会談で銀行の安全性強調へ 預金保険推進も要請 3/24
欧州中央銀行(ECB)は24日、スイスと米国の銀行が招いた市場の混乱を踏まえ、欧州連合(EU)首脳にユーロ圏の銀行の安全性を強調するとともに、域内共通の預金保険制度推進を呼びかける見通し。複数の関係者が明らかにした。
EUは23日から首脳会談を開いており、2日目の討議では財政・債務ルールの変更を含む経済問題が主な議題だが、クレディ・スイスと米シリコンバレー銀行の問題が域内銀行システムに与える影響を巡る懸念が焦点になるという。
関係者の1人は、ラガルドECB総裁がスイスの解決策を受け銀行問題について安心させる発言をし、「銀行同盟の完成と資本市場同盟の推進を首脳らに要請するだろう」と語った。
「彼女のメッセージはECBが金融政策にコミットしているものの、フォワードガイダンスはなくデータ次第というものになるとみられる」とも述べた。
ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のドナフー議長も銀行について同様のメッセージを送る見通しだ。
2人目の関係者によると、同氏は全般的に銀行は良好な状態で、資本流動性バッファーも十分だが、銀行セクターの混乱に見られたように安心している余地はないと述べる見通し。
また、銀行同盟の完成に向けた着実な進展を呼びかけるとともに、資本市場同盟については競争力にとって重要だとし、さらなる取り組みが必要と指摘するという。
「銀行同盟の完成」は域内共通の銀行預金保護制度である欧州預金保険スキーム(EDIS)の導入を意味する。
●イエレン米財務長官、預金保護について「必要あればさらなる措置講じる」  3/24
米国のイエレン財務長官は23日、米議会下院で証言し、経営破綻したシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行に対する預金の全額保護を巡り、「必要があればさらなる措置を講じる用意がある」と述べた。
イエレン氏は、2行への異例の措置について「銀行システムに対するリスクを軽減するためのものだった」と説明した。そのうえで、預金保護などの対応は「再び使用することができるツール(手法)だ」と述べ、預金流出などのリスクがあれば、追加的な対応をとる考えを示した。 
●一歩間違えば世界金融危機はすぐそこに!3月の米国0.25%利上げ? 3/24
米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)は、3月22日に0.25%の利上げを決定した。3月21、22日に開かれたFOMC(連邦公開市場委員会)において全会一致で決まった。既報したがシリコンバレー銀行(3月10日破綻)、シグニチャー銀行(3月12日破綻)があり、動向が注目されていたが結局「予定通り」インフレ抑制を優先させた小幅な利上げに踏み切った。アメリカの金融政策を決定するFOMCは年に8回行われて、その議論の中心は政策金利(上限)の設定である。2023年のその開催スケジュールは以下の通り。
第1回:1月31日・2月1日 / 第2回:3月21日・22日 / 第3回:5月2日・3日 / 第4回:6月13日・14日 / 第5回:7月25日・26日 / 第6回:9月19日・20日 / 第7回:10月31日・11月1日 / 第8回:12月12日・13日
2022年3月以降のアメリカの政策金利の推移は以下の通りだ。
3月+0.25→5月+0.5→6月+0.75→7月+0.75→9月+0.75→11月+0.75→12月+0.5→2月+0.25→3月+0.25
つまり2月24日のロシアのウクライナ侵攻の翌月の2022年3月から2023年3月まで実に政策金利がトータル4.75%アップしている。スタート時は0.25%だったから、現在の政策金利は5.0%だ。FRBのパウエル議長が目標に掲げているとされる5.0%には到達したのではないか、あるいは次の5月2、3日開催のFOMCで最後の0.25%利上げを行い、パウエル議長の考える利上げプロジェクト完了という見方が強いのだ。
金利が上がれば、マネーは株から債券にシフトするという定石通り、3月22日のNYダヴ平均株価の終値は3万2560ドル60セントから3万2030ドル11セントへ530ドル49セント、率にして−1.63%の下落。下落はしたが、まあ想定内の利下げだったと冷静な反応だったように思われる。むしろここで利上げをしなかったりしたら、逆にシリコンバレー銀行とシグニチャー銀行の破綻を重大視していると市場に思われるという動きなのではないかともとれる。パウエル議長は「シグニチャー銀行の破綻は経営の失敗が原因だ」と発言している。ちなみに翌日3月23日のNYダヴは+75ドル14セントで平静をとり戻している。
米国銀行2行の破綻以上に驚いたのは、スイスの第2位の投資銀行・金融サービスのクレディ・スイスが経営不安が強まり、同第1位のUBSに3月19日に約4500億円という安値で買収されるという「事件」が起こったことだ。クレディ・スイスの経営不安の表面化には、シリコンバレー銀行の破綻が大きく影響している。このクレディ・スイスの買収劇は、2008年リーマン・ショック(2008年9月15日)の時のBNPパリバの2007年の破綻を連想させる。リーマンブラザーズ破綻の原因にもなったサブプライムローンがBNPパリバの破綻の原因だった。今回のクレディ・スイスの経営不安も遠因はシリコンバレー銀行破綻ということでいずれもアメリカから災いはやって来ているのだ。
3月19日には、アマゾンが今年1月の1万8000人のリストラに続いて、9000人の追加削減の実施を発表した。わずか2カ月後に追加削減を発表するのだから、経営状況が急速に悪化しているとしか考えられない。どうも今後、リーマン・ショック並みの世界規模の金融危機があるとすれば、米国のIT産業の経営悪化がその震源になりそうな空気が漂い始めている。
こうしたアメリカ・ヨーロッパ経済の緊迫したムードをよそに、日本の株式市場は2万6500〜2万8700円のボックス相場がダラダラと続いている。
今後の動向としては、前述したように次のFOMCの会議のある5月2、3日までは日経平均株価、NYダヴ平均ともに基本的には一進一退の展開が予想される。しかし特に米国銀行に関しては、何か大きな動きがあることは警戒しておかねばならないだろう。一方日本では、4月9日付で植田和男日銀新総裁が誕生するが、その第一球がどんなものになるのかというのも焦点ではある。いずれにしても一歩間違えば、世界金融危機が勃発するという緊迫した状況が年内は続いていきそうだ。
●FRB議長「前門の虎、後門の狼」か、インフレ退治と金融危機の難題 3/24
歴代の米連邦準備制度理事会(FRB)議長のうち、故ポール・ボルカー氏はインフレ退治、ベン・バーナンキ氏は金融危機対応で記憶されている。現職のパウエル議長の場合、両方の役割を同時に果たさなければならなくなる恐れがあり、悪くするとどちらか一方を断念しなければならないかもしれない。
表面的に見れば、パウエル議長率いる米金融当局は今週、インフレ抑制のための政策金利引き上げという、過去1年間にわたり進めてきた政策を断行した。しかし、米地銀の連鎖的な破綻で世界の市場に動揺が広がって以降、実際にはあらゆる事態が変化した。
わずか数週間前の時点では、金融当局者の問題解決リストに金融安定への脅威が含まれることはほとんどなかったが、今や最上位に急浮上する勢いだ。パウエル議長ら当局者は1970年代のような狂乱物価の再燃防止が引き続き最優先事項だとしているものの、シグナルは変化しつつある。
今週の米利上げ幅は、シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻とUBSグループによるクレディ・スイス・グループ救済合併の前に予想されていた0.5ポイントではなく、その半分の0.25ポイントにとどまった。これに先立つ16日には欧州中央銀行(ECB)が計画通り0.5ポイント利上げに踏み切ったが、今後の動きについてはあまり多くを示さなかった。
先が読めないのは投資家も同じで、金融政策を巡る市場の見通しが過去数週間に大きく揺れ動いた状況に反映されている。それは、あと数回の米利上げを織り込んでいたものから、SVB破綻を受けて近いうちの利下げのシナリオに転じ、その後は極端な悲観論がやや弱まった状態にある。
「ゴルディロックス」と呼ばれる望ましいシナリオは、銀行が融資を抑制してバランスシートのてこ入れに動き、米金融当局のインフレ退治の仕事を一部肩代わりするのにちょうど十分な程度、金融状況が引き締まることだろう。
仮にそうなれば、パウエル議長が望むような形で過熱した景気を冷やすことになり、追加利上げの必要性もその分減ることになる。物価高の抑制と金融システム崩壊防止のための当局の手段が別々かつ効果的に機能することを意味する。
ただ、金融当局首脳にとっての基本的な問題は、極端な場合、インフレ抑制のための政策と銀行を支える政策が相反する方向に働くことだ。物価押し下げには追加利上げや銀行システムからの流動性吸収、銀行危機への対応には苦境に見舞われた銀行への資金供給や信用コストの引き下げが求められる。
そして危険なのはこれら両方が重なる最悪の結果となることだ。本格的な危機でリセッション(景気後退)となれば、金融当局はインフレとの闘いが完了しないままそれを途中で断念し、瀬戸際にある金融システムの支援を急ぐことになる。
状況悪化
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の米国担当チーフエコノミスト、アナ・ウォン氏は「インフレ退治と金融の安定性維持との間の緊張は連邦準備制度の歴史上、今や最も高まっている」と、過去140年間の米銀行危機についての分析を基にコメントした。
ウォン氏によれば、信用逼迫(ひっぱく)が十分なインフレ鈍化をもたらすには、「現在の危機が一段と大幅に悪化する必要」があるが、そのような事態に至らなければ、「市場は米金融当局の政策の軌道見通しを上方修正しなければならないだろう」という。
金融当局が現在直面している不愉快な選択肢は、当局自体にも一部責任がある。
事実上のゼロ金利の期間が長期化し、金融市場および経済全体で油断やリスクテークを助長することになった。当局がインフレ高進を認識するのが遅れたことで、その抑制のために急ピッチの利上げに動き、今になって問題が顕在化している形だ。
元FRB理事で、現在はスタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローのケビン・ウォーシュ氏は「超緩和的な金融政策が金融混乱の温床となった。政策の大掛かりな反転が引き金だ」との見方を示した。
2007−09年の危機後の金融制度改革に支えられ、金融システムは当面、イージーマネーの時代の終了に持ちこたえることができそうだ。暗号資産(仮想通貨)市場が暴落に見舞われても、大黒柱は頑強と見受けられる。
そうであっても、今では複数の銀行に緊張が広がり、金融混乱がその時々で以前とは異なる様相を呈する傾向が浮き彫りとなった。
極めて深刻
全米16番目の規模の銀行だったSVBは住宅購入者に高リスクの放漫融資を行っていたわけではなかった。SVBはその代わり、最も安全と想定される米国債を大量に買い込んだ。その後、米利上げで保有国債の価値下落と、顧客であるテクノロジー企業の預金ベースの悪化というダブルパンチを浴びた同行は連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれた。
次に崩れたドミノはクレディ・スイスだった。投資家は同行の脆弱(ぜいじゃく)性を何年も心配してきた。状況は突如悪化し、クレディ・スイスの株価は急落して、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドは大幅に上昇した。UBSが超安値での救済合併に乗り出し、クレディ・スイスのその他Tier1債(AT1債)は無価値化した。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)が世界のファンドマネジャーを対象に行った最新調査によると、投資家にとって、根強いインフレに代わりシステミックな信用イベントが市場に対する主要なリスクとして意識されていることが分かった。
BofAのグローバル経済調査責任者、イーサン・ハリス氏は「市場は極めて深刻な危機の真っただ中にあるような動きになっている。重大な金融イベントや深刻な景気悪化という悲観シナリオをとても重視している」と解説した。
一方で米当局は、状況を掌握していると主張している。それはまるで、15年前の金融危機に先立ち、当局が安心を呼び掛けていた様子に重なって見える。
銀行の自己資本や流動性を巡る状況が増強され、銀行システムは全体として当時よりも一段と強化されていると当局は指摘。これまでに目にした問題の多くは問題のあった金融機関特有のもので、より広範囲にわたる一層深刻な問題のサインではないと論じている。
かなり脆弱
この点に関して誰もがそれほど確信があるわけでない。FDICによれば、米国の銀行には昨年末時点で6200億ドル(約81兆円)相当の保有証券の含み損があった。経済学者のグループは13日に公表した論文で、大量の預金流出があった場合、さらに数百もの米銀が赤字になる可能性があるとの分析結果を示した。
それによると、最近の銀行資産の価値低下の結果、米銀行システムではSVB破綻につながったような保険対象外の預金取り付け騒ぎに対する脆弱性が著しく高まったという。
金融当局はまた、金融混乱とインフレ抑制のための別個の手段があり、いずれも同時に使用することが可能だという。これは1969年に最初のノーベル経済学賞を受賞したオランダの経済学者、故ヤン・ティンバーゲン氏の学説を想起させる。ティンバーゲン氏の理論では、政策担当者は別々の目的を達成するために異なる手段を活用する必要がある。バーナンキ元FRB議長がこのルールを2000年代に採用した。
現在に当てはめるとすれば、金融当局には苦境にある銀行を短期の流動性供給で支えることができる一方、インフレ抑制のために経済全体では借り入れコストを引き上げることになる。23日発表のデータでは、FRBが過去2週間に新設のものも含め各種ファシリティー経由で多額の資金供給を行ったことが示された。
金融当局のバランスシートはまさにこのような緊急事態に対処するためにあるが、量的緩和(QE)政策の下で膨らんだ保有債券の圧縮に取り組んでいることが問題だ。ここ2週間の流動性供給はこれまで進められてきた量的引き締め(QT)に実質的に逆行することになる。
パウエル議長は22日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の記者会見で、これを当局の政策スタンスの緩和と考えるべきでないとくぎを刺した。短期的な流動性供給と、長期金利の誘導を目指すQEやQTは別物という趣旨だ。ベテランのFRBウオッチャーの多くはこれに同意するものの、資産運用主体は先行きの金融緩和のシグナルだと受け止めている。
制御不能?
この結果、メッセージは曖昧となって市場を混乱させ、当局者がインフレを抑制していくのが一段と難しくなると、ウォーシュ元FRB理事は指摘する。年内利下げの計画はないとパウエル議長が繰り返しても投資家は無視し、利下げを織り込んだ形でトレーディングが行われているのがその好例と言える。
金融当局者は、現在の金融混乱の沈静化に成功したとしても、景気悪化を招く公算が大きい点は認めている。それがどの程度深刻なのかが重要だ。
パウエル議長は22日の利上げ決定後の会見で、金融状況の引き締まりが「1回ないしそれより多い利上げに相当する」可能性があるとしながらも、現時点での正確な評価は不可能だと付け加えた。
ウォール街をはじめとする各方面のエコノミストはその推計に努めており、BEのウォン氏がブルームバーグの米経済モデルSHOKを使って計算したところでは、これまでの銀行セクターのストレスは政策金利の0.5ポイント利上げに匹敵しそうだ。引き締め効果を1.5ポイントとする推計もある。
その答えがどのようなものであれ、米金融当局が微調整できるようなものではないという、根本的な問題は変わらない。パウエル議長ら当局者はインフレを克服し、米経済を安定的な成長に戻そうとしているが、その仕事ははるかに困難になった。
BofAのハリス氏は「米金融当局は理想としては、今のプロセスを注意深く管理できることを望むだろう。リセッションが一層深刻化し、制御が難しくなると不安になるのは当然だ」とした。

 

●米2銀行破綻 金融安定監視委“一部影響も銀行システムは健全” 3/25
アメリカで2つの銀行が相次いで破綻したことを受けて、財務省のイエレン長官が議長を務める「金融安定監視委員会」が開かれ、一部の銀行経営に影響が出ているものの、アメリカの銀行システムは健全だという認識で一致しました。
この委員会は2008年の金融危機を教訓に成立した法律に基づいて設置され、議長を務めるイエレン財務長官が、2つの銀行が相次いで破綻したことを受けて、24日開催を呼びかけ、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長などが出席しました。
委員会は非公開で行われましたが、財務省の発表によりますと、銀行業界の現状について意見が交わされ、一部の銀行が影響を受けているものの、銀行システムは安定し、健全だという認識で一致しました。
一方、FRBは今月9日から15日にかけて中小規模の銀行全体で1200億ドル、日本円で15兆6800億円※の預金が流出したと発表しました
また中小の銀行は、この期間におよそ2500億ドル、日本円で32兆6700億円※※借り入れを増やしていました。
2つの銀行の破綻によって預金者の間で大手銀行に預金を移す動きが広がったため、中小の銀行が資金繰りの強化に向けて“最後の貸し手”のFRBから借り入れを増やしたことが要因とみられます。
政府とFRBは金融不安を払拭(ふっしょく)するためあらゆる措置を講じる方針を強調していますが、市場の警戒感は続いています。
●米国株式市場=上昇、FRB当局者発言で銀行危機巡る懸念緩和 3/25
米国株式市場は上昇して取引を終えた。米連邦準備理事会(FRB)当局者の発言を受け、銀行セクターの流動性危機を巡る懸念が和らいだ。
欧州の銀行株が急落したことを受け、米主要3株価指数は序盤にいずれも大幅安となったが、切り返し、プラス圏で終了した。
FRBによる利上げや銀行システムの健全性を巡る懸念の高まりなどで今週は値動きの激しい展開が続いたが、週間では主要3指数とも上昇を記録した。
JPモルガン・プライベート・バンクのマネジングディレクター、デービッド・カーター氏は「米内外で銀行が再び炎上するのではないかという懸念がくすぶる中、株式市場は上昇に転じた」と指摘。「金利や銀行規制に関してウォール街は米国など各国当局から手がかりを得ている」と述べた。
米セントルイス地区連銀のブラード総裁は24日、規制当局の「強力かつ迅速」な対応によって銀行セクターを巡るストレスが和らぐ中、予想以上に強い経済とインフレ動向を踏まえ、連邦準備理事会(FRB)は金利を想定以上に引き上げる必要がある公算が大きいという見解を示した。
米リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は24日、FRBが今週の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%ポイント利上げに踏み切ったことについて、疑念はなかったという認識を示した。
米アトランタ地区連銀のボスティック総裁は、銀行セクターを巡る懸念がFRBによる今週の利上げ決定を困難なものにしたと認めた上で、FRBの最も重要役割はインフレ率の低下に焦点を当て続けることだと述べた。
カーター氏は、FRB当局者は年内の追加利上げの可能性を示唆したとし、これが経済システムに対する信頼につながったとの見解を示した。
欧州の銀行株の下げを受けて銀行を巡る懸念が高まったが、午後になると和らいだ。
S&P500銀行株指数は小幅安となったが、KBW地方銀行株は2.9%上昇した。
S&P主要11セクターのうち9セクターが上昇。S&P公益事業やS&P不動産などのディフェンシブセクターの上昇が目立った一方、S&P一般消費財とS&P金融が下げた。
ドイツ銀行株の米上場株は3.1%下げた。
JPモルガン、ウェルズ・ファーゴなど米主要銀行は下げ幅を縮小。バンク・オブ・アメリカはプラス圏に上昇した。
パックウェスト・バンコープ、ウェスタン・アライアンス・バンコープはそれぞれ3.2%、5.8%上昇。ファースト・リパブリック・バンクは1.4%安となった。
アクティビジョン・ブリザードは5.9%高。英競争規制当局がマイクロソフトとアクティビジョンの買収に関する競争上の懸念を一部取り下げたことを受けた。
ニューヨーク証券取引所では値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を1.47対1の比率で上回った。ナスダックでも1.26対1で値上がり銘柄数が多かった。
米取引所の合算出来高は110億8000万株。直近20営業日の平均は128億4000万株。
●FRB、銀行破綻でも一段の「利上げ」は欠かせない  3/25
SVBショックとインフレ退治の板挟みにあるアメリカ経済は、この先どこに向かうのか。シティグループの米国チーフエコノミストに聞いた。
──アメリカ連邦公開市場委員会(FOMC)は3月21〜22日に開催した定例会合で、政策金利を0.25ポイント引き上げることを決めました。シリコンバレー銀行(SVB)破綻による金融システムへの不安と高いインフレ圧力が交錯する中、この決定をどう受け止めていますか。
難しい状況ではあったが、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)はできる限りのことをやった。SVBが破綻する前の今から2週間前にFRBのパウエル議長は、議会証言でアメリカ経済は堅牢であり、50ベーシスポイントの利上げがあるかもしれないと語っていた。その後、SVB破綻を受けて市場関係者の間では、金融システムを安定化させるために利上げはないのではないかという見方もあったが、FRBはSVB破綻前後における予想範囲の真ん中の選択肢を取った。
FRBとしてはインフレ圧力に対応していることを示したと同時に、金融システムの不安についても無視しているわけではないというメッセージを送ることができた。25ベーシスポイントの利上げ幅は、市場にとって受け入れやすいものだった。
さらなる利上げが必要になる
――今回のFOMCを受けて政策金利の誘導目標は4.75〜5.0%となりました。政策金利のターミナルレート(最終到達点)はどうなると見ていますか。
銀行危機が起こる前からターミナルレートは5.5〜5.75%と予測しており、その見通しは変えていない。物価指標であるPCEデフレーターや労働需要の強さがこの先も続いていくと見ているからだ。FRBや連邦預金保険公社(FDIC)が規制として使える手段を用い、銀行セクターに対するリスクを抑え込むことに成功することが前提となる。
アメリカ拠点のエコノミストが予測するターミナルレートのコンセンサスは5〜6%であり、われわれの予測はコンセンサスの中では高い水準にある。一方でFRBのメンバーが2023年末にかけて予測する政策金利の見通し(ドットチャート=予想分布図)は50%超が5〜5.25%に集中していて、残りの大部分が5.25〜6%となっている。
マーケットでは年末にかけて利下げがあると見る向きもあるが、それは楽観的だ。
価格変動が激しい食品とエネルギーを除くPCEコアデフレーターは今年前半に前年比4.5%強で推移するだろう。雇用の伸びは月30万人を超え、失業率を歴史的に低い3.6%に抑え込んでいる。FRBの予測よりもインフレが進み、私たちは利下げどころかさらなる利上げが必要になるとみている。
――SVB破綻の原因となった長期資産への投資リスクは、昨年春にFRBが利上げを開始した時点で、銀行として予見できたことではなかったでしょうか。なぜ、このような事態を未然に防げなかったのでしょうか。
SVBの破綻は資産サイドの運用というより、負債サイドつまり預金の調達方法に原因がある。銀行は典型的な構造として、短期と長期の負債を持っているが、今回のように(預金の流出によって)短期負債の調達が逼迫したときにSVBはどうするべきかを考えられていなかった。
背景には、預金者のセンチメントが読みづらくなっていることもある。今回はバンクラン(取り付け)があまりにも早く、広範に渡った。
ソーシャルメディアの影響や「リクイディティ・ポータル」と呼ばれる、預金者がボタン一つで預金を他行に移せる仕組みが整っていたことも大きい。以前であれば書類の記入や銀行口座の新規開設などが必要で瞬時にキャッシュを動かすことはできなかったが、それができるようになっていることも関係している。
今後の預金保護の議論に注目
一方で、金融当局の対応は早く、正しかった。3月12日にFDIC、FRB、米財務省はSVBとシグネチャー・バンクにおける預金の全額保証や納税者の負担なしでの破綻処理、FRBによる追加の資金供給手段の創設を決定するとの共同声明を発表した。FRBの銀行向け融資は3月15日の週に3000億ドル急増した後、その翌週は170億ドルの増加にとどまった。
これはほぼ完全に破綻した銀行に貸し出されたもので、流動性が十分な銀行が新たにFRBから資金を調達することなく、預金の流出に対処できることを示唆している。FRBは最終的なレンダー(貸し手)として機能していることを証明した。
FDICも保険対象を一時的に、SVB以外のすべての預金に拡大する方法を検討しているとされる。米財務省は、現在の上限である1口座当たり25万ドルを超える預金を保護するのに十分な緊急権限を連邦規制当局が持つかどうかについて調査をしているところだ。
――仮にすべての預金が保護の対象となった場合、2008年のリーマンショック時に起きた「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動のような、金融業界に対する社会的な批判が高まることはないでしょうか。
規制当局としては何を保護の対象にすべきかについては、慎重にならなければならない。規制当局がすべての損失をカバーするとなったら、モラルハザードが起きてしまう。過去の金融危機と違う点は、FDICが機能しているということだ。銀行が保険料を払う代わりにFDICが預金者に対して一定の金額を支払うという仕組みは公平性が保たれている。
一方で破綻した銀行の株主や無担保の債券保有者を救済の対象にはできない。そこのバランスを取っていかないといけないと、銀行システムの健全性や信頼は保てない。
テクノロジー企業の行方は
――SVBと深いつながりのあったアメリカのテクノロジーセクターは、この先どうなっていくのでしょうか。
SVBがテクノロジー企業に対して集中的に貸し出しを行っていたのは事実だが、SVBの役割を代替しようとする銀行が現われてくるとみている。プライベート・エクイティ・ファンドなど、テクノロジー企業にとって新たな資本調達の出し手も生まれると考えている。
――GAFAMなどのビックテックは、レイオフ(一時解雇)を積極的に行っている最中です。テックセクターがさらに冷え込めば、タイトな労働需給は改善に向かい、利上げペースも落ち着くということもあるのでしょうか。
それはないだろう。アメリカ経済全般で見ると、非常に強い労働需要がある。ほぼ唯一レイオフの傾向がみられるのがテックセクターであり、失業保険申請や求人倍率が非常に高い数字となっていることもそれを物語っている。
テックセクターで解雇された人は、また違う業種で採用されている。それだけ労働市場は極端に逼迫した状況が続いており、失業率の低下圧力も持続している。これが金融システム不安とは別に、FRBが頭を悩ましている問題だ。
●「SVB破綻で生まれた〈ベンチャー破壊論者〉が事態を悪化させている」 3/25
この記事は、ベストセラーとなった『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者で、ニューヨーク大学スターン経営大学院の経営学者であるスコット・ギャロウェイによる連載「デジタル経済の先にあるもの」です。
1907年、金利が上昇し株式市場が下落するなか、ニューヨークの2人の銀行家が銅採掘会社の株を買い占めようと目論んだ。だがその計画は失敗に終わり、2人を支援した銀行の預金者たちは預金を引き上げてしまった。そのうちニッカーボッカー信託会社という銀行は、取り付け騒ぎで資金が底をつき、4日後に営業停止を余儀なくされた。そして混乱が始まった。
全米屈指の銀行家にしてビジネスリーダーでもあったJ.P.モルガンは、その状況に義務感と好機を見出した。彼はニューヨークの銀行の頭取たちをマディソン街の自宅に招集した。そして逸話によると、ドアに鍵をかけ、その鍵をポケットにしまったという。モルガンは「ここはトラブルを終結させるための場所だ」と宣言した。彼はまず、自らが富を築いた金融システムの救済という義務に取り組んだ※1。そして、ニッカーボッカーの破綻が飛び火したアメリカ信託会社に、800万ドル(現在のドル換算で2億5500万ドル)の融資を約束した。次に12の銀行と米国財務省を説得し、その他の脆弱な銀行に7000万ドルを預金させた。かくして「1907年の恐慌」は収束した。モルガンは金融システムを救ったのだ。さらにその14年前にも、モルガンは同様の行動に出ている※2。
信頼
J.P.モルガンが心得ていたのは、銀行業、ひいては経済は、金や労働力や機械、ましてや表計算ソフトの上ではなく、信頼の上に成り立っているということだった。それは「必要なときに預金を引き出せる」という信頼である。その信頼は、ニッカーボッカー信託会社が「我々にはできません」と言ったことで崩れ去り、J.P.モルガンが「我々が必ずできるようにします」と請け合ったことで回復した。人々が再び銀行を信頼するようになると、金融危機は解決した。さて、現代に話を進めると、シリコンバレーに住んでパートタイムで働くリバタリアンの億万長者が、来るべき銀行危機を解決するために、自分の資産の5%、ましてや50%を提供するなど想像できるだろうか? 
銀行が信用を必要とするのは、実際は顧客が預金したお金を保有していないからだ。銀行にお金を預けると、銀行はそれを他の誰かに貸し出してしまう。実をいえば、銀行は預かったお金よりも貸し出しているお金の方が多い。奇跡のようだが、これこそ私たちの経済の基盤を成す仕組み──短期的な預金を長期的な融資に変える──なのだ。これは当を得た仕組みである。眠っているお金は起業の資金にもならず、既存の企業を拡大するわけでもなく、消費者を消費に駆り立てることもない。ただの役立たずだ。
どんな銀行も、同じ日に一定数以上の預金者がお金を引き出そうとすれば、経営は危ぶまれる。もしバンク・オブ・アメリカの6700万人の顧客※3が、同じ日・週・月に同時に預金を引き出せば、確実に破綻するだろう。
ともに力を合わせて
とはいえ、バンク・オブ・アメリカは自力経営しているわけではなく、財務省や連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)といった政府機関のセーフティーネットで支えられている。規制当局やリスク管理部署、そして銀行の経営陣たちは、債務超過を防ぐために充分な流動性レベルを調整することが求められ、「ストレステスト」を実施せねばならない。FRBは破綻寸前の銀行に対して「最後の貸し手」としての役割を果たす。規制はリスクを緩和するが、完全に排除することはできないからだ。
こうした連邦政府のバックストップ(註・いざというときに銀行を財政資金で支える仕組み)が存在するのは、1907年にJ.P.モルガンが単なる「義務」だけでなく、「好機」を見い出していたためだ。
取り付け騒ぎが収束するや、モルガンは貸し出したローンの返済を要求し、業績が低迷する資産を買い集めた。そして、アメリカ信託会社を含む6つの銀行、蒸気船会社、全米で2番目に規模の大きい鉄鋼会社(最大の会社はすでに所有していた)を買収した。1913年までに、JPモルガン&カンパニーの役員は112社の上場企業の取締役に就任し、国内の株式時価総額の80%を占めるまでになった。
我々は1907年の恐慌から2つの教訓を学んだ。一つ目は、銀行システムには安全措置が必要であること。もう一つは、その役割を億万長者に託すべきではないということだ。1913年、議会は連邦準備法を可決し、今日の私たちが知る中央銀行を創設した(FDICは1933年創設)。1907年以降の世代が、社会保障制度、GI法(1944年復員兵援護法)、州間高速道路システムなど、アメリカの総合力に歴史的な投資をしたのは偶然ではない。自分たちには幅広い解決策の一端を担う義務があり、その解決を民主的な制度に託すべきだと理解していたのだ。
しかし、繁栄とは記憶力に乏しいものである。1980年代になるとモルガンの義務感は忘れ去られ、彼の日和見主義が我々のモデルとなった。レーガン※4とサッチャー※5は新たな(旧来の)時代をブランディングした。「社会というものは存在しません。存在するのは個々の男女、そして家族です」と鉄の女は言い、レーガンは加えて、「政府は我々の問題の解決策ではなく、政府こそが問題なのです」と語った。政治思想家のアイン・ランドを発見したばかりの19歳の若者が抱くような政治哲学である「リバタリアニズム」が、統治理念となった。もはや規制当局は後ろ盾ではなく、廃止するか無視すべき邪魔な存在と化した。
2010年代になると、信用自体が非効率として煙たがられるようになった。暗号資産は「トラストレスな取引」という核心的な約束で脚光を浴びた。信用要らずの取引など、どこにも存在しないというのに。
SVB
3月初旬、サンタクララはニッカーボッカー信託銀行と同様の騒動に見舞われた。シリコンバレー銀行(SVB)は、その名の通りベンチャーキャピタルとその投資先企業にとって御用達の銀行で、米国のベンチャー企業のおよそ半数の資金を保有していた※6。3月8日(水)、SVBは大量の有価証券を売却して損失を計上し、さらに現金を調達する方針を発表した。少数のベンチャー企業がパニックに陥り、投資先企業に資金の引き上げを呼びかけた。翌木曜日には420億ドルの預金が引き出され、SVBの流動性クッション(準備資産)が破られた。そして10日(金)には、FDICの管理下に置かれた。
いかなる複雑な出来事にも複数の原因がある。SVBの場合、直接的な原因は明らかで、あまりにも多くの顧客が、あまりにも大量の現金を一度に引き出そうとしたからだ。しかし、関連する要因は多岐にわたる。
・SVBは破綻した金融会社と同じ罪、すなわち、デュレーション(投資期間)のミスマッチと稚拙なリスクマネジメントという罪を犯した。住宅ローンや国債に長期的な投資をおこない、事業資金を必要とする新興企業から短期の借入をしていたのだ。
・SVBは規制強化のために資産上限を引き上げるよう、トランプ政権に働きかけていた(その試みは成功した)※7。
・金利が歴史的なペースで上昇し、長期投資の価値を下落させた。
・SVBは株式を売却してバランスシートの穴を埋めようとしたが、顧客とのコミュニケーションと戦略に失敗し、防ごうとしていた経営破綻を逆に誘発した。
・SVBの顧客層であるスタートアップ企業には、独特な過敏さがある。彼らはFDICの保険限度額である25万ドルをはるかに超える現金残高を保有し、一握りのVC企業を通じて相互に連携している。そのせいで、銀行が大混乱に陥るリスクが高くなる。
金曜の朝にはすべてが終わっていた。規制当局が到着し、照明をつけ、店じまいをした。金融危機の波及を防ぎ、預金者を救済するため、当局が週末返上で奔走しているあいだに※8、ツイッターではベンチャー・キャピタリストの新種「ベンチャー・カタストロフィスト(ベンチャー破滅論者)」が誕生していた。彼らは恐怖を煽り、自分たちの目的を、SVBの預金者に対する連邦政府の救済への支持を喚起することだと明言した。そしてその預金者の多くは、カタストロフィスト自身だった。
急ごしらえの塹壕に、本物のリバタリアンなどいない。
SVB破綻後
SVB破綻の直後、傍観者は複雑な大災害が起きた後と同じように、自分たちの政治的立場や先入観に合致した関連原因だけを選び出していた。ただし今回は、金利上昇でも、リスク管理の不備でも、預金者の殺到でも、SNS上のベンチャー・カタストロフィストでもなく、そのすべてが複合的に絡み合っていた。
もっと興味深い問いがある。今回、誰が金融システムの崩壊を防いだのだろうか? はっきりしているのは、伝染病を根絶できるリーダーシップ、社会性、自己犠牲の精神を備えたJ.P.モルガンのような人物がシリコンバレーにいるとは思えないことだ。しかし、舞台裏でリーダーたちと密やかに解決策を検討していた、ベンチャー投資家の一団が存在していた。自己顕示欲や注目を引くためのポーズではなく、ただ責任感のある人たちが、自らを解決策の一部と見なし、昼夜を問わず働いていたのだ。数百社のVC企業が、買収企業にとってSVBがより魅力的な資産となるよう、SVBとの取引継続を約束する書簡に署名した※9。
「誰が署名したか」より興味深いのは、「誰が署名しなかったのか」のほうだろう。一言でいうと、暗号資産への投資を通じて、銀行システムとドルを不安定にすることに既得権を持つベンチャー投資家は、アメリカ人から「カオスの代理人」へと変貌を遂げている。マーク・アンドリーセンやピーター・ティールなら、ツイート1つで騒動を止められたはずだ。しかし彼らは傍観することを選んだ。先日、国の反対側では、J.P.モルガンが設立した銀行を含む複数の大手銀行が、イエレン財務長官との緊密な調整の後、J.P.モルガンにならって、ファーストリパブリック銀行に300億ドルを預け入れた※10。
私はSVBに約2000万ドルの預金を持つ4社の創業者・取締役・投資家だが、4社ともSVBから1ドルも預金を引き出さなかった(ただし、1社は金曜日に試みたが失敗した)。SVBに預金を残したのは、私たちが道徳的だとか、銀行を救う義務感にかられたわけではなく、FDICのサイトへ行き、過去10年間に73の銀行が破綻したが、一つの例外なく預金が保証されていたことを確認したためだ。私は一瞬たりとも不眠に悩まされなかった。なぜか? 
1. 私の支援者および、私が投資している会社の支援者は、給与の支払い等に必要なことは何でもすると保証してくれたから。
2. 何事も見かけほど良くも悪くもないから。
「トラブルを終結させる場所」
ますます分断化が進む個人のコミュニティが、市民の権利よりも生存主義を選択したことは驚くに当たらない。今や多くのアメリカ人が、たとえそれが標準的な業務手順であろうと政府の安全措置を嫌悪し、ベイルアウト(註・国民負担となる政府の公的資金投入などを伴う救済)を警戒している。具体的には、リスクのメリットを享受しつつも、避けがたいデメリットを他のアメリカ人に負担させることを期待するテックコミュニティーに嫌気が差しているのだ。
至るところに偏在するアプリ──経営陣や投資家には数十億ドルもの利益をもたらす一方で、10代の若者を中毒やうつ病にし、人々の議論を低俗にするアプリ──のせいで、「シリコンバレー」ブランドは、「マスク」を除くどのブランドよりも急速に価値を落としている。もし破綻した銀行が、「アイオワ農業第一銀行」だったら、連邦政府や国民は預金者保護に躊躇しなかっただろう。幸いなことに、FDICを設立した先人の知恵と、米国政府の安定した手腕は健在だった。
煎じ詰めればこういうことだ。あなたはどんなタイプのリーダーやビジネスパーソン、(単刀直入に言えば)男でありたいか? 困難に直面したとき、冷静さを失わず、目的意識と技能を発揮し、他者と協力しながら問題解決を図ろうとする、統率力に富むリーダーでありたいのか? それとも、塹壕のなかで叫び声を上げて、自分の居場所を明かし、事態を悪化させたいだけなのか? 今回の件で、真の男、つまり真のアメリカ人はワシントンにいることが明らかになった。その名はジャネット・イエレン財務長官。それ以外はみな「ベンチャー・カタストロフィスト」である。
人生はかくも豊かだ。
●クレディ・スイス救済合併でも収まらない金融不安 3/25
まさに「臭いモノには蓋」でした。経営危機に瀕していたスイス金融大手のクレディ・スイスが、同じスイスの金融大手のUBSに「買収」されることになりました。「買収」という形ではありますが、実質的には、スイス当局が主導した「救済合併」です。
「買収」会見の主役はスイス大統領
UBSによるクレディ・スイス買収は、週明けのアジアの金融市場が開く直前、現地時間19日、日曜の夜に発表されました。月曜の朝までに処理を終えるというのが、銀行の破綻処理の鉄則です。
スイス当局はすでに前の週に500億スイスフラン、日本円で7兆円を超える流動性供給を行う支援を表明していましたが、報道によれば、その後も1日1兆円以上の預金が流出していたということで、そのまま週明けを迎えれば、突然死のリスクもあったと思われます。
「買収」会見には、UBSとクレディ・スイスの両銀行トップだけでなく、なんとスイスのベルセ大統領と、中央銀行のジョルダン総裁も揃って現われました。
ベルセ大統領は「この買収は信頼回復のための最良の解決策」と述べるなど、さしずめ会見の主役となり、「金融立国」であるスイスの信認維持に躍起でした。
手段を総動員、破格の買収条件
UBSによる買収の条件も破格です。買収額は30億スイスフラン(約4260億円)でクレディ・スイス株22.48株に対してUBS株1株を割り当てます。
発表直前の株価でみれば、クレディ・スイスの時価総額は1兆円以上あったので、その4割にまでディスカウントされました。
もっともUBSは買収価格を当初、10億スイスフランと主張したと伝えられています。足もとを見た面もあるでしょうが、クレディ・スイスの中身を最も知っているUBSが、クレディ・スイスの資産内容に大いに疑問を持っていることを表しています。
そうした懸念に対応するため、スイス政府は、今後発生し得る損失に対して90億スイスフラン(約1兆3800億円)もの政府保証を与えることにしました。今後の損失を政府が補填してくれる約束ですから、買収額に逆に「のし」がついてくる格好です。
さらにスイス中銀は1000億フランの流動性支援枠も設定しました。買収手続きを円滑に進めるために、スイス政府は通常必要な両銀行の株主による投票を省略できる緊急条例まで出すと言います。
スイス国民が納得しているかどうかはわかりませんが、文字通り、あらゆる手段を動員して、「破綻」という形だけは回避したのです。
「必要な救済合併」だが、くすぶる懸念
クレディ・スイスが破綻していれば、国際的な金融システム崩壊のリスクがあっただけに、フィナンシャル・タイムズは、この買収劇を、「厄介だが必要な合併だった」と評しています。
この救済合併によって金融不安はいったん少し落ち着きましたが、安心するに程遠い状況です。今後は、一連の買収手続きをめぐって、株主からの訴訟が相次ぐことも予想されます。
「AT1債」という特別な社債が全損に
何より最大の火種は、「AT1(エー・ティー・ワン)債」と呼ばれる社債を無価値にしたことです。AT1債は、弁済順位が低い代わりに、自己資本に組み入れることが認められている特別な社債です。
クレディ・スイスは、このAT1債を160億スイスフラン(約2兆3000億円)発行していました。今回の買収合意では、UBSが引き継ぐ負債を少しでも軽くするために、これを無価値としたのです。つまり、AT1債の保有者にとっては全損になりました。
企業破綻では、まず株式が無価値になり、次いで順位に従って、社債など負債の弁済が決まっていくのが普通です。今回は、減価したとはいえ株式は保護され、AT1債には投資家責任を求めたわけです。
AT1債は、欧州の銀行を中心に世界で33兆円程度発行されており、投資家に動揺が広がっています。AT1債を多く発行する金融機関への無用の不安を煽る結果にならなければ良いと思います。
なお続くアメリカの金融不安
今回の金融不安の震源地であるアメリカでも、一部の地方金融機関から預金の流出が続いています。
また、現在、シリコンバレーバンクなど破綻した2行に対してのみ適用されている「預金の全額保護」をどこまで広げるべきかをめぐって、イエレン財務長官が発言するごとに、市場が大きく反応する日々が続いています。不安が収まっていない証拠です。
銀行の破綻は、経済危機のいわば究極の事象です。一度に預金が引き出されれば、どんな銀行だって立っていられません。いったん不安になった心理を落ち着かせるのは、とても厄介なことです。
にもかかわらず、ECB(欧州中央銀行)は0.5%利上げを、アメリカFRBも22日に0.25%利上げを決めました。金融不安を鎮静化させるには、むしろ利下げが必要なところですが、インフレ退治を優先させた形です。
インフレと金融不安という、対処法が真逆のことに同時に対応しなくてはならないところに、今回のハンドリングの難しさがあるわけですが、優先順位が間違っていないことを祈るばかりです。
●アメリカ「金融不安」発生から2週間…ここまでの経緯とここからの焦点 3/25
米金融当局は迅速に対応、流動性供給と状況に応じた預金保護で金融不安払拭に努めている
米金融市場では、3月8日の米シルバーゲート銀行の自主清算発表や、3月10日の米シリコンバレーバンク(SVB)破綻などを受け、金融不安が一気に広がり、リスクオフ(回避)の流れが強まっています。そこで、今回のレポートでは、ここ2週間ほどで発生した金融機関を巡る主な動きと、それに対する当局の施策をまとめ(図表)、この先はどのような点に注意すべきかを考えます。
   【図表】金融機関を巡る主な動きと当局の対応
米国のケースで特筆すべきは、金融当局の対応の早さです。米財務省、米連邦準備制度理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)は3月12日、SVBなどの預金の全額保護を発表し、FRBは新たな流動性対策を公表しました。また、イエレン米財務長官は21日、中小規模の金融機関が経営難に陥った場合、預金者を保護する意向を示すなど、金融当局は「流動性供給」と、状況に応じた「預金保護」により、金融不安の払拭に努めています。
スイス金融当局も金融危機回避のため大型再編を主導、主要6中銀は協調し米ドル供給強化
スイスのケースでも、金融当局の迅速な対応がみられました。スイス国立銀行(中央銀行)とスイス金融市場監督機構(FINMA)は3月15日、連名で声明を出し、業績不振が続く金融大手クレディ・スイス・グループに対し、必要があれば資金供給で支援すると表明しました。その後、19日には、金融機関最大手UBSがクレディ・スイス・グループを買収すると発表、金融危機回避のため、スイスの金融当局が大型再編を主導した形となりました。
そして、FRBなど日米欧の6中銀は、19日の買収発表直後、協調して米ドル供給を強化することを明らかにしました。なお、クレディ・スイス・グループが発行した劣後債の一種である「AT1債」は、買収にあたり価値がゼロとなったことを受け、欧州中央銀行(ECB)など欧州の金融監督当局は20日、域内市場でのAT1債を巡る動揺を抑制すべく、「最初に株式で損失を吸収した後にのみ、AT1債の評価減が求められる」との声明を出しました。
金融不安は徐々に落ち着く可能性も、信用状況次第で景気減速懸念が残り株価などに影響か
米欧金融当局および日米欧6中銀による迅速かつ積極的な対応により、米国発の金融不安で信用収縮が発生し、世界的な金融危機に発展する恐れはかなり小さくなったと思われます。それでも、米国の大手行や主な地銀で構成されるKBWナスダック銀行株指数は、3月7日から23日まで25.5%下落し、依然下げ止まる様子がみられず、市場に金融不安は残っていると推測されます。
ただ、各国金融当局の施策が奏功し、この先、連鎖的に金融機関の問題が浮上しなければ、「金融不安」自体は数週間で徐々に落ち着くことが予想されます。しかしながら、家計や企業の信用状況が引き締まった状態が続けば、景気減速の懸念は残ります。実際の景気への影響は、今後の経済指標を待たざるを得ませんが、それが確認されるまで、総じて米国株の上値は重く、米国債利回りは低位で推移する展開も見込まれます。
●NYダウ ドイツ銀行経営への懸念や米金融政策めぐり 荒い値動き  3/25
24日のニューヨーク株式市場、ダウ平均株価は、ドイツの金融最大手、ドイツ銀行の経営への懸念や、アメリカの金融政策をめぐって、荒い値動きとなりました。終値は値上がりとなりました。
24日のニューヨーク株式市場は取り引き開始直後から売り注文が増え、ダウ平均株価は一時、300ドルを超える値下がりとなりました。
ヨーロッパの株式市場で株価が急落したドイツの金融最大手、ドイツ銀行をはじめ、ヨーロッパの銀行の経営が悪化して金融不安が広がることへの懸念が高まりました。
その後はアメリカの利上げが近く止まるとの観測などから買い戻しの動きが出て、ダウ平均株価は上昇に転じ、終値は前日に比べて132ドル28セント高い3万2237ドル53セントでした。
アメリカで銀行が相次いで経営破綻したあと、経営不安にさらされたスイスの大手金融グループ、クレディ・スイスが救済買収されたことで、世界の金融市場では動揺が続いています。
市場関係者は「FRB=連邦準備制度理事会はことし5月の金融政策を決める会合で利上げを止めるとの観測が強まったことが株価を支えた。ただ、利上げが止まっても銀行の経営が悪化すれば景気は冷え込むとの懸念が根強く、株価は当面、不安定な値動きが続きそうだ」と話しています。 

 

●米中小銀、預金流出が過去最大 シリコンバレー銀破綻で 3/26
米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻後を含む9─15日の1週間に米国の中小銀行から過去最大の預金が流出したことが、米連邦準備理事会(FRB)が24日公表した週次統計で分かった。
中小銀の預金残高は1190億ドル減の5兆4600億ドルとなった。金額ベースでこれまでの過去最大の2倍強の減少を記録した。また、減少率でみても2007年3月16日に終了した週以来の大きさだった。
中小銀行は、米国の商業銀行のうち最大手25行以外と定義されている。
大手銀の預金残高は670億ドル増加し、10兆7400億ドルとなった。
週次統計によると、中小銀の借入額は2530億ドル増加し、過去最高の6696億ドルだった。
キャピタル・エコノミクスのアナリスト、ポール・アシュワース氏は「借り入れの一部は、預金者からの資金引き出し要請があった場合に備えるため」だった可能性があると指摘した。
●「引き続いて個別銘柄対応の投資戦術を!」 3/26
各国中央銀行、政府の迅速な対応によって、金融危機は回避されたようにみえる。破綻したシリコンバレーバンク(同社の持ち株会社だったSVBファイナンシャルグループも経営破綻)、シグネチャー・バンクの預金は全額保護された。本来、預金保険(ドット・フランク法)による保障の上限は25万ドル(約3300万円)だが、特例措置を講じたのだ。パシフィック・ウェスタン・バンクなど取りつけ騒ぎの連鎖が起こっていただけに、やむを得ない面があろう。
同様の事態に見舞われていたファースト・リパブリック・バンクには米大手銀行11社が預金を預け入れ、急場をしのいだ。クレディ・スイス・グループはスイス中央銀行が7.1兆円を貸しつけるとともに、UBSグループが救済合併する。「できちゃった婚」と酷評されているが、「クレディ・スイスは救う」との意志の現れだろう。
ただ、ECB(欧州中央銀行)、スイス中央銀行は0.5%、FRB(米連邦準備制度理事会)は0.25%の利上げを行うなど、金融引き締めを継続している。金融システムを守るという視点では矛盾する。さらに、イエレン財務長官は「預金の全額保護の特例措置を続けるつもりはない」とけん制している。当然の発言だろう。
アメリカは自己責任の国だ。全額保護はモラルハザードにつながる。それに、イエレン財務長官、パウエルFRB議長は「公的資金を投入しない」と明言している。預金保険は銀行の拠出だ。これが中小銀行の経営を圧迫する(総資産1000億ドル以下の銀行はストレステストがない。その分、預金保険料率が高くなる)。全額保護は無理な話である。
なお、今回のアメリカの金融危機の背景には(1)コロナ対応のばらまき→過剰貯蓄の存在、(2)債券投資に傾斜、(3)ネットバンキングの隆盛、などの要因がある。アメリカの銀行は5.8兆ドル(約7600兆円)の債券を保有し、約85兆円の含み損(債券投資額の1割強)を抱えているという。利上げ(金利上昇)、債券価格下落のダメージだ。金融危機の“火種”はくすぶっている。
●欧州通貨に根強い下押し要因 3/26
欧州通貨に金融システム不安による売り圧力が続いています。ウクライナ戦争によるダメージを克服しつつあったものの、足元の上昇は限定的。ヨーロッパ大手行の経営問題に関する懸念が払しょくされるまで、ユーロやポンドは引き続き買いづらいでしょう。
米シリコンバレー銀行の破たんをきっかけに、米国ではシグネチャー銀行、ファースト・リパブリック銀行など中堅行の経営問題が浮上。今のところ、連邦準備制度理事会(FRB)や大手金融機関による支援策で、市場のパニック的な動揺は抑えられています。アメリカ発のリスク要因のため、ドルは当初売りが膨らみましたが、その後はリスクオフによる買いが入り主要通貨に対し下げ渋っています。
どちらかと言えば、欧州通貨の伸び悩みの方が目立ちます。3月15日にクレディ・スイスの筆頭株主であるサウジ国立銀行の幹部が追加投資に否定的な見解を示すと、クレディ・スイス株は急激に下落。それを受け、スイス当局は流動性供給による支援を決めました。さらにUBSによるクレディ・スイス買収で市場の危機感はいったん和らぎ、欧州通貨売りは和らいでいます。
米国が中堅行の破たんであるのに対し、ヨーロッパは大手の経営が問題視されており、預金者のほか投資家の不安を強めていると専門家は指摘します。米銀の問題で市場のリスク許容度が低下し、先行きが憂慮されていた欧州銀に飛び火したとの見立てです。ヨーロッパの大手金融機関のなかには、いまだにソブリンリスクなどから完全に持ち直したとは言い切れないところもあります。
3月16日の欧州中央銀行(ECB)理事会は金融システム不安が強まってから初の主要中銀による政策決定となったため、多くの注目を集めました。利上げ幅縮小や利上げ休止の見方も浮上していましたが、ECBは予定通り0.50ポイントの利上げを維持。会合後の記者会見で、デギンドス副総裁はヨーロッパの銀行業界は「強靭」と強調し、インフレ抑制に向け利上げの余地があることを示唆しました。
ECBの大幅利上げに続き、英イングランド銀行(BOE)は3月22−23日の金融政策委員会(MPC)で0.25ポイントの利上げにより引き締め継続を決定。一方、直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策内容からはFRBの意図がはっきりせず、ユーロとポンドは対ドルで小幅に値を上げました。ただ、欧州の大手行の経営問題は完全に払しょくされていないようです。さらに景気減速懸念も加われば、欧州通貨は目先も上値の重い展開となりそうです。
●米利上げ継続 金融不安の抑止にも目を配れ  3/26
インフレを抑えながら景気後退を防ぐという仕事に、新たに金融不安の沈静化という難題が加わった。米連邦準備制度理事会(FRB)の適切な 舵 かじ 取りが問われている。
FRBは、政策金利を0・25%引き上げて、年4・75〜5・00%とした。2022年3月にゼロ金利政策を解除して以降、利上げは9回連続となる。
米国では、全米16位の資産規模のシリコンバレー銀行(SVB)と29位のシグネチャー銀行が破綻し、信用不安が広がっている。
今回は、FRBが利上げを見送るとの見方も出ていた。パウエル議長も記者会見で、利上げの停止を検討したことを明らかにしたが、物価上昇と労働需給の 逼迫 ひっぱく が続いていることから、継続を決断したと説明した。
ただ、景気にマイナスの影響を及ぼす利上げは、金融不安に拍車をかける恐れもある。FRBは細心の注意を払い、政策を運営しなければならない。
FRBは、23年末の政策金利の見通しについては、昨年12月時点の5・1%を維持した。あと1回の引き上げで到達する水準だ。
声明文では、従来の「継続的な引き上げが適切」との文言を削除し、利上げを柔軟に行う姿勢を示した。信用不安の状況を精査し、慎重に判断してほしい。
金融不安が続くと、銀行の「貸し渋り」が起きる可能性がある。企業や家計の資金調達が厳しくなるなどし、経済全体に大きな打撃を与えることになる。
パウエル氏は「銀行システムを健全に保つため、あらゆる手段を行使する用意がある」と強調した。銀行への円滑な資金供給などに万全を期してもらいたい。
そもそも、SVBの破綻はFRBの急速な利上げが一因だ。
金利が上がると米国債など債券の価格は下落する関係にあり、銀行が保有する債券に多くの含み損が生じる。それが信用不安につながり、預金の流出が加速した。
FRBは銀行の監督も受け持っているが、今回の相次ぐ銀行破綻を回避できなかった。監督についても強化し、金融不安の抑止に努める必要がある。
金融不安は欧州にも波及している。経営不振に陥っていたスイス金融大手のクレディ・スイスの株価が急落し、スイス最大手のUBSによる救済合併に発展した。
FRBを始め各国の金融当局は緊密に情報交換し、金融不安が金融システムの危機に発展しないよう全力を挙げるべきだ。
●シリコンバレーの巨人が倒れた! SVB破綻の衝撃が仮想通貨市場への影響 3/26
シリコンバレーバンクはなぜ破綻に陥ったのか?
2023年3月10日に経営破綻した米銀行大手のシリコンバレーバンク(SVB)は、その名の通り、「シリコンバレー」を中心に活動している銀行で、IT企業、スタートアップ企業の資金調達に欠かせない存在でした。
しかし、市場の悪化により、収益の悪化、取り付け騒ぎが発生し破綻、現在は連邦預金保険公社の管理下にあります。リーマンショック以来の大規模破綻となり、各国の他の銀行にも大きな影響を及ぼしています。
では、なぜ破綻に陥ったのか――。
   1. リスクの高いベンチャー企業中心に融資
SVBはリスクの高いベンチャー企業を中心に融資を行っており、その残高は2022年には163億ドル、これは日本円して2兆円に達していました。
しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策により金利が上昇したことで、これらの企業の評価額が低下し、返済能力が低くなったり、信用が悪化したりする事態となりました。
また、SVBはベンチャー企業から預かった預金を米国債などの長期資産に投資していたため、金利上昇で債券価格は下落し、SVBの資金繰りが不安視されていました。
このように、SVB銀行はハイテク企業との密接な関係が破綻の一因となりました。
   2. 銀行のビジネスモデルに起因する資金不足
今回、破綻にまで追い込まれた原因としては、銀行そのもののビジネスモデルによるところがあります。
銀行は、顧客の預金を預かり、融資を行います。銀行は融資先から得る利息と預金をした顧客に対して支払う利息の差で収益を得ています。この差は、純金利収入と呼ばれます。
つまり、長期金利と短期金利の利ざやを取るという仕組みで、事業を行っています。ということは、短期貸付の金利が長期貸付よりも高い場合、SVBのような銀行にとっては、収益は悪化します。
図説すると、以下のようなイメージです。
また、銀行には「信用創造」という仕組みも備わっています。
こちらは今回のSVBだけでなく、銀行はどこでも行っている仕組みなのですが、信用創造を一言でいうと、銀行が預金を貸し出すことで、預金通貨(銀行に預けられたお金)を増やすことです。
例を挙げて説明しましょう。
たとえば、Aさんが銀行に100万円を預けたとします。銀行はそのうちの一部を残して、残りの90万円をBさんに貸します。Bさんはそのお金を使って、Cさんに支払います。Cさんはそのお金の一部(90万円の10%)を銀行に預けます。すると、最初の100万円が190万円になりました。
このサイクルを繰り返しているうちに、どんどん預金と貸出金が膨らんでいき、誰かが預金をいっせいに引き出そうとすると、引き出せなくなる前に、我先に引き出そうと、みんなが殺到します。
これがいわゆる「取り付け騒ぎ」です。「取り付け騒ぎ」が起きると、手元の資金が足らず破綻してしまいます。
これらの2つの事象が組み合わさったことで、今回、SVBは破綻へと追い込まれました。
シリコンバレーバンクの倒産...仮想通貨市場へ及ぼした影響は?
SVBの倒産は、仮想通貨市場にも大きな影響を及ぼしました。
SVB銀行は、USDCというドルと連動するように設計された「ステーブルコイン」を発行するCircle社のパートナーだったからです。
Circle社は、USDCを発行している会社です。彼らは発行するUSDCを裏付けるために、銀行口座に対価となるドルを保有しています。ドルとUSDCはいつでも変換可能で、実質的にUSDCの価値は1ドルで安定していました。
しかし、今回の倒産により、Circleのドルを保有する銀行のひとつであるSVBが倒産すると、USDCの対価となるドル預金が保護されずなくなってしまう可能性がありました。この不安から、USDCを売却する人も出てきて、大幅に価格が下落しました。
一時的にUSDC価格は0.9ドルを割った取引所もあり、それにつられETHを始めとする仮想通貨価格も下落しました。現在はすべての資金が保護されることが発表されたため、おおよそ1ドルへと戻りました。
0.9ドルとなった際にUSDCを購入できれば、大きな利益を得ることができたというところでは「惜しいことをした...」という気分です。
USDC崩壊が引き起こした不安も解消され、既存の金融機関への不信感も助け、現在では仮想通貨価格は大幅に上昇している状況ではあります。しかし、今後どのような影響があるのでしょうか。
今後の仮想通貨市場への影響は?
今後の影響として考えられるのは、大きく以下の2つが考えられます。
   ドルからの逃避
現在金融の不安から、金やビットコインに多額の資金が流入しています。上下動を繰り返しながらではありますが、この上昇はこのまま続く、と私は考えています。
利上げの停止による金融政策的な部分も大きな要因として存在するものの、リーマンショックを機に、既存金融のビジネスモデルへの不信感から生まれたビットコインがまたその本領を発揮するのではないでしょうか。
   規制の強化
こちらは、仮想通貨の今後についてかなりネガティブな影響をもたらすでしょう。今回、銀行の甘いリスク管理によって発生した事態とはいえ、ステーブルコインが一時的に不安定な状態になったのはこれまた事実。
ステーブルコインへの規制は今後厳しくなっていき、もしかしたら中央銀行の発行するCBDC(中央銀行発行のドル建て仮想通貨)だけが正当に扱うことのできるステーブルコインだという時代がくるかもしれません。
さらに昨年末、FTXの破綻などのニュースもあったように、既存金融ではありえないようなリスク管理を行っている企業も少なからず存在するため、規制は強化される方向に向かうでしょう。
もちろん一時的に価格には負の影響をもたらすでしょうが、長い目で見た際には仮想通貨の普及によい影響をもたらすのではないでしょうか。
まとめ
結論として、SVBの破綻は、金融システムのリスクを再認識させるものでした。今回の騒動で混乱に巻き込まれてお金を失う一方、収益を得た人が存在することもまた事実。自分の資産について、常にアンテナを張って情報を集め、警戒することが大切ですね。 
●IMF専務理事、金融安定リスク「高まった」=米銀2行破綻で 3/26
通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は26日、訪問先の北京で講演し、シリコンバレー銀行など米中堅銀行2行の経営破綻に端を発した世界的な信用不安に関し、「明らかに金融安定へのリスクが高まっている」と、警戒感をあらわにした。
ゲオルギエワ氏は低金利環境から、インフレを抑え込むために必要な高金利への「急速な移行」が「(金融部門への)圧迫と脆弱(ぜいじゃく)性をもたらしている」と分析。「一部先進国の銀行部門における最近の動向」に懸念を示した。米国発の信用不安は欧州に飛び火し、スイス金融大手UBSによるクレディ・スイスの救済買収など、動揺が広がっている。

 

●過去最大“リーマン超え”米・中小銀行預金15兆円流出… 3/27
今月10日のアメリカ、シリコンバレー銀行の経営破綻に端を発し、世界の金融市場に広がった信用不安。
アメリカで2つの銀行が破綻した15日までの1週間に、中小規模の銀行全体で1200億ドル、日本円でおよそ15兆7000億円もの預金が流出したことが、FRB(連邦準備制度理事会)の統計で明らかになりました。
これは過去最大の流出額で、リーマンショックにつながるサブプライムローン問題が浮上した2007年3月の2倍を超える額です。
相次ぐ破綻で預金者の不安が高まり、預金を引き出して大手銀行などに移す動きが広がったためとみられます。
バイデン大統領は、沈静化に躍起です。
バイデン大統領「事態が落ち着くまで少し時間がかかると思いますが、大混乱になるようなことは何もないでしょう。しかし、この件に関して不安を抱えていることは理解しています。中堅銀行は、生き残らなければなりません」
バイデン大統領は、銀行がさらに破綻するなど金融不安が続くと判断した場合、引き続き特例的な預金保護の措置を講じる考えを示しました。
●「100年に一度の金融危機」がまたやって来る…「世界経済危機」の正体 3/27
100年に一度といわれた金融危機だったリーマンショックから15年。ついに新たなる波乱の芽が見え始めた。
米国のシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行などの破綻に続いて、3月19日には経営不安が高まっていたクレディ・スイス・グループが、同じくスイスの金融最大手UBSに買収されることが決まった。これに伴いクレディ・スイスが発行していた「AT1債」と呼ばれる社債(日本円にして約2兆2000億円)が無価値になると発表された。経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏が解説する。
「金融危機はまだ序の口だと見ています。長期の金融緩和から一転して、米国は政策金利を1年で4%も上昇させました。この影響が出ないと考えるほうが不自然です。  
クレディ・スイスはもともと乱脈経営が知られていましたが、金利上昇で債券などの保有資産が下落し、財務状況の悪化が懸念されて経営危機に陥ったのです」  
金融コンサルティング会社インフィニティの田代秀敏氏も、リーマンショック時の既視感があるという。
「どこかから火が出て、政府が慌てて鎮めるが、最後は手に負えず破綻させてしまう状態になってリセッションに入るという流れです。しかも現在は、あの当時よりもマグマがはるかに大きい。リーマンショック以降、世界は金融緩和をずっとやってきた上に、パンデミックやウクライナ戦争でマネーは膨れ上がっていますからね」  
重要になるのは、今後の米国の金利動向だ。3月は0・25%の利上げが確定しているが、問題は次の5月。インフレが収まらず、さらなる利上げが必要となれば、銀行の破綻は連鎖するだろう。 「米国以上に不動産市場が活況を呈していたカナダ経済では、すでに住宅価格が大きく下落しています。もし米国でも不動産市況が悪化すれば、さらに多くの金融機関が破綻するでしょう」(藤氏)  
5月はただでさえ「セル・イン・メイ(「5月に株を売って夏のバカンスに出かけよう」の意)」といわれ、相場が弱い時期。春の嵐が近いようだ。
●金融不安の拡大どこまで?ドイツ銀株下落、米財務長官発言で乱調 3/27
先週の日経平均株価(225種)は、クレディ・スイス・グループ(CS)の経営危機を受けて、20日(月)に終値が前週末の17日(金)から388円下落したものの、祝日明けの22日(水)は欧米当局の金融危機阻止のための対策が評価され、祝日前の20日に比べ520円高と大幅上昇しました。
しかし、22日に米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げが決まると、あらためて高金利下での金融不安が台頭。
23日(木)、24日(金)はジリ安の展開となったものの、先週末24日の終値は前週末比51円高と多少、落ち着きを取り戻しました。
ただ、24日、今度はドイツ最大の銀行であるドイツ銀行(DB)のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の価格が急上昇し、ドイツ銀行に信用不安が波及。
CDSは、手数料を払うことで、対象企業が債務不履行に陥って破たんしたときの損失を肩代わりしてもらう保険のような金融派生商品です。
米国市場にも上場するドイツ銀行の株価(DB)は23日の前日比6.1%安に続き、24日も、一時8%以上急落。
終値は3%安まで戻しましたが、「クレディ・スイスの次はどこだ?」という警戒感は週明けの日本市場にも影響を与えそうです。
24日(金)の外国為替市場で一時1ドル=129円台まで円高が進んだことから(終値は130円台)、今週27日(月)から31日(金)の日本株市場は神経質な展開が続きそうです。
先週:米財務長官の預金保護巡る発言で乱高下!市場は年内の米利下げ織り込む
先週は19日(日)(日本時間20日(月)未明)にスイス第2位の銀行で信用危機にあったクレディ・スイス・グループがスイス最大の銀行・UBSに30億スイスフラン(約4,300億円)相当の株式交換で救済合併されることが決定。
株式交換の比率はクレディ・スイス株22.48株に対してUBS株1株と決まりました。クレディ・スイスの破綻が回避されたことは金融市場にとっては一安心となりました。
しかし、スイス連邦金融市場監督機構がほぼ同時に、クレディ・スイス・グループの「その他ティア1(AT1)債」という債券約160億スイスフラン(約2兆2,800億円)はゼロになる、と発表。
AT1債は普通の社債に比べて、返済の優先順位が低い債券で、多数の欧州機関が「ティア1」と呼ばれる中核的な自己資本を補完するために発行しています。
通常、株式より安全性が高いと思われていたAT1債が無価値になったことで、債券投資家の不満が高まり、今後も欧州の債券市場は混乱が続きそうです。
一方、米国ではイエレン財務長官が21日に米国銀行協会のイベントで、破綻した米銀2行の預金の全額保護の措置をとったことに関連して、ほかの銀行でも預金を全額保護する用意があるとの考えを示しました。この発言を好感して、ニューヨーク株式市場では全面高となりました。
それに冷や水を浴びせたのが、22日(水)の米国議会上院公聴会における、イエレン財務長官の「全面的な預金保護は検討していない」という発言でした。
前日とは180度異なる趣旨だったため、22日(水)、機関投資家が運用指針にしているS&P500種指数は1.65%安。
米国の主要な銀行株で構成されたKBW銀行株指数(BKX)も4.7%安と大幅に下落しました。
21〜22日に米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が開いたFOMCの会合は既定路線の0.25%の利上げをすることを決め、終了しました。
ただ、金融引き締めを続ける中で2023年末の金利水準は従来予想(5.1%)のまま据え置いた形となりました。
FRBのパウエル議長は、銀行にストレスがかかったことが金利見通し据え置きの理由であること、今後、金融不安が台頭すれば「全てのツールを活用する」と発言しました。
同時間に行われていたイエレン財務長官の銀行預金全面保護を否定する発言と相反する内容だったため、混乱に拍車がかかったようです。
同じ記者会見でパウエル議長は「年内の利下げはない」とあらためて明言しましたが、政策金利の影響を受けやすい米国2年国債の利回りは22日の高値4.2%台から、24日(金)には一時3.5%台まで急低下。
パウエル発言にもかかわらず、今回の金融不安やそれにともなう景気後退懸念で、株式市場はFRBが年内に利下げに転じることを完全に織り込んでいるようです。
先週末の24日のS&P500は前週末比1.4%高で終了。
ハイテク株やヘルスケア株をけん引役に、金融不安や利上げをものともせず上昇しました。
21日に米国で行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝で侍ジャパンが米国に勝って、世界一に輝き、日本は大興奮に包まれました。
しかし、ミズノ(8022)の24日の株価が前週末比1.1%安になるなど、日本で予選が行われたときに比べて株式市場は盛り上がりませんでした。
業種別では銀行、保険に加えて不動産セクターが下落率でトップとなり、住友不動産(8830)が前週末比5.2%安。
22日発表の公示地価(2023年1月1日時点の全国の商業地・住宅地の価格)は前年比1.6%上昇と15年ぶりの高い伸び率でした。
しかし、金融不安で不動産市場から資金が流出する懸念や不動産価格のピークアウトに対する警戒感が高まっているようです。
今週:金融不安の連鎖は続くか、次はドイツ銀、商業用不動産?
今週は、株価が24日に突如、急落したドイツ銀行に金融危機が果たして波及するのかどうかに市場の関心が集まりそうです。
ドイツ銀行は2019年に全社員の2割を削減する大リストラ策を断行し、2022年12月期の利益は50億2,500万ユーロ(約7,100億円)に達し、3年連続の黒字でした。
そのため、ドイツ銀行への信用不安は長続きしないという見方が市場の大勢を占めているようです。
ただ、ドイツ銀行のような業績好調な銀行にまで信用不安が一時的に波及したのは、欧州銀行の先行きに対する警戒感が依然根強い証拠でしょう。
やはり、19日に救済合併が発表されたクレディ・スイス・グループのAT1債が無価値、すなわち紙くずになったことが響いているようです。
今回の金融危機の発端になった米国シリコンバレー銀行破たんも、2022年にFRBが急速な利上げを行ったことで、保有債券の評価損が大幅に拡大したことが原因でした。
23日(木)の日本経済新聞の報道によると、米国ではCMBS(商業用不動産担保証券)が売られ、上乗せ金利が急速に拡大中とのことです。
金融不安の渦中にある米国地銀は、こうした商業用不動産に多額の資金供給を行っています。
信用不安が広がって預金引き出しなどが殺到すると、資金繰りに困った地銀が、商業用不動産からの融資や投資の引き上げに走る恐れも高くなります。
商業用不動産事業が債務不履行に陥るリスクが高まり、それらの不動産へのローンを束ねて債券化したCMBSの価格下落、それに反比例した金利の上昇が発生しているというわけです。
欧米の中央銀行がインフレ退治の高金利政策を継続し続ける限り、金利上昇で保有債券の価格が下落して、金融機関が巨額の含み損を抱え込むという構造的な問題は解決しません。
金融不安がすぐに収束することもないでしょう。
そんな中、今週は、米国では28日(火)に全米の住宅価格の動向を示す1月のケース・シラー米住宅価格指数、29日(水)に2月の住宅販売保留指数(売買契約は完了したものの、引き渡しが済んでいない中古住宅件数の伸びを指数化したもの)が発表になります。
商業用不動産だけでなく、個人向け住宅の価格や販売の落ち込みが続くと、より規模の大きなRMBS(住宅ローン担保証券)市場にも悪影響が出るでしょう。
2008年9月に発生したリーマン・ショックも、米国の住宅バブル崩壊で、格付けの低い住宅ローン担保証券が次々と無価値化したことが発端でした。
さらに、月末の31日(金)には、米国の2月個人消費支出とその価格指数(PCEデフレーター)も発表されます。
変動の激しい食品とエネルギーを除いたPCEコア・デフレーターはFRBが最重要視する物価指数ですが、前回1月は前年同月比4.7%、前月比0.6%の上昇と伸びが加速しました。
今回も物価高が再加速するようだと、高金利政策の継続によって生じるさまざまな副作用で、金融不安がさらに高まる恐れもあります。
またまだ春の嵐は収まりそうにありません。
ただ、米国株は金融不安による金利低下でハイテク株中心に、勢いを取り戻しつつあります。
4月を目前に株価底入れに対する期待感が台頭する可能性もありそうです。
●突然紙くずに…「AT1債ショック」 クレディ・スイス発行の「AT1債」が“無価値” 3/27
アメリカの銀行破たんからヨーロッパへ広がる金融不安。クレディ・スイスの救済合併で危機は脱したように見えますが、市場では引き続き不安の火種がくすぶっています。
きょうの東京株式市場では、銀行株などの下落が重しとなり、日経平均株価は85円の値上がりで午前の取引を終えました。
しかし、金融システムへの不安は根強い状況です。不安の背景にあるのは、スイスの巨大金融機関「クレディ・スイス」救済策の一環で一部の債券が突然、紙くずとなったことです。
先週、同じスイスの金融大手「UBS」が「クレディ・スイス」を救済合併しましたが、金融当局はクレディ・スイスが発行する「AT1債」2兆3000億円分を全て無価値、ゼロにするという異例の対応をとりました。
経営破たんの際には、先に株主に損失が発生するのが一般的ですが、今回は「AT1債」を保有する投資家が真っ先に損失を被ることになりました。この「AT1債」は他のヨーロッパの銀行をはじめ、33兆円も発行されていて、同じように紙くずにならないか心配が広がっているのです。
異例の対応は危機の大きさの裏返しとも受け止められていて、金融不安の収束にはまだまだ時間がかかりそうです。
●「植田日銀」が17年ぶりに取り組む金融引き締めの険しさ 3/27
「ドラスチックな変化はなさそうだ」という見方は表面的に過ぎると、筆者は指摘する。新総裁の言動からその本質に迫る。
対岸の火事でない米国銀行の破綻
3月10日、植田和男氏を日銀総裁に起用する人事案が国会の同意を得た。金融市場では当初、植田氏の下で「金融政策の正常化(正常化)」が早期に進むとの思惑が広がったが、衆参両院での所信聴取で、正常化プロセスは急ぐべきではないとの持論が認識された。しかし、これをもって「どうやらドラスチックな変化はなさそうだ」と見るのは表面的に過ぎるだろう。むしろ、正常化は進むと見るべきだ。
植田氏の本領は、1金融市場への理解、2データとロジックに基づく政策判断、3コミュニケーションを重視する姿勢──の3点にあり、市場はこれらを確認し、安堵したと見ている。
判断基準はリスクとコスト
植田氏の審議委員時代の発言を掘り起こすと、政策判断の根拠にリスクとコストという基準があることに気付く。2000年8月にゼロ金利解除を行った際、植田審議委員(当時)は解除に反対票を投じたが、その理由に「そのように待つこと(筆者注:ゼロ金利解除を行わないこと)のコストが足元のインフレ動向から判断して、それほど大きくないのではないかと思われること」を挙げた。これは、植田氏が金融市場(同:当時の議論は株式市場を意識)を理解し、解除に踏み切るリスクと待つコストをデータとロジックに基づいて比較し、判断したことを表している。
植田氏には、日銀の金融政策を正常化へ向け、何とか軟着陸させることが求められるが、その道のりは険しいと言わざるを得ない。
市場では、植田日銀がイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)、マイナス金利、政府・日本銀行の政策連携(アコード)などをいつ転換するかに関心が集まっている。しかし、正常化を模索する上では、1金融政策は何ができて何ができないかを整理し、2その上で日本の潜在成長率をいかに高めるかが重要だ。
その意味ではアコードのうち、成長戦略への取り組みが進まなかった点をどう総括するかに焦点を当てるべきだ。アコードには、1革新的研究開発への集中投入、2イノベーション基盤の強化、3大胆な規制・制度改革、4税制の活用など、潜在成長率を高めるための取り組みが言及されており、その価値は今も失われていない。
成長戦略への取り組みが進まなかった理由を浮き彫りにしつつ、YCCをはじめ複雑化した政策を解きほぐすことこそが、植田日銀が直面する困難さの本質である。
なお、植田氏が衆議院での所信聴取で「今後どのようにしていくかは大問題だ」と指摘した上場投資信託(ETF)の扱いは上記政策とはトーンが異なる。市場に影響を与えない移管などの出口策を示すなど、異なる時間軸で取り組む必要がある。
日本で最後に金融引き締めが行われたのは、17年も前の06年3月(量的緩和の解除)、その前が00年8月(ゼロ金利の解除)だ。私たちがこれから経験する正常化は、多くの人には「初めての大事件」だ。過去2回の金融引き締め局面に何が起きたかを振り返りつつ、1景気、2企業、3政治の三つの切り口からリスクと課題を考えたい。
第一の「景気」は、正常化に耐えられるほど国内景気の足腰は十分に強いかである。振り返れば、00年8月の引き締めはITバブル崩壊が予感されるタイミングで、日銀はその後の景気悪化と消費者物価の下落を受けて7カ月後の01年3月に量的緩和政策の採用に追い込まれた。06年3月の引き締め時も企業の資金需要は強くなく、銀行の貸し出しや利ざや改善ペースが鈍かったように、タイミングが適切だったとは言い難い(図)。国内景気は今回も必ずしも強いとはいえず、正常化に耐えられるかは十分な分析が必要である。
一方、米国の急速な金融引き締めで内外金利差が拡大して円安が進んだことを受け、日本も正常化を急ぐべきという議論が持ち上がった。しかし、米国では今年後半の物価下落が見え始めたとの見方があり、そうなれば逆に日本が正常化のタイミングを逸する可能性がある。米国消費者物価指数(CPI)は3割強のウエートを占める家賃などの住居費が強い伸びを示していることから、インフレの再燃が懸念されているが、CPIの家賃は継続契約分であり、新規契約の家賃が22年夏にピークアウトしている点はまだCPIには表れていない。FRB(米連邦準備制度理事会)もこれを認識しており、今年1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨で「新規契約分の家賃が小幅な増加、もしくは潜在的な下落傾向にある点を反映して、住居費のインフレは今年後半には落ち始める可能性」が指摘されている。
悲観主義を克服する
第二の「企業」は、慎重過ぎる投資行動、すなわち、元日本銀行理事の早川英男氏が説く「学習された悲観主義」からの脱却である。「学習された悲観主義」とは、エレクトロニクス業界の大規模投資の失敗や1997年の金融危機から08年のリーマン・ショックまでたびたび繰り返された金融不安を踏まえ、多くの企業が投資行動を萎縮させたことを指し、デフレマインドを長期化させた一因ともいえる。企業がアニマルスピリットを取り戻せるかは日本経済の重要な課題である。
他方、銀行は債券ポートフォリオの評価損拡大に加え、正常化に伴う資金調達コスト上昇でマイナス影響を受ける可能性がある。理由は、1調達サイドの金利更改期間(デュレーション)が運用サイドに比べて短いため、調達金利上昇の影響が運用金利上昇の影響よりも先に出ること、2プライムレート(最優遇貸出金利)ベースの貸出金利の引き上げが(マイナス金利導入時は引き下げられなかったため)見込めないことである。特に、調達方法が預金頼みで多様化していない銀行は、調達金利が運用金利より先に上昇すればALM(資産・負債の総合管理)の不安定化要因となる。
銀行はコア預金に留意
3月10日に経営破綻した米国のシリコンバレーバンク(SVB)は邦銀にとり対岸の火事とはいい切れない。破綻の引き金は急激な預金流出だが、その原因は同行ALM体制の不備にあった。邦銀、特に地域金融機関は、これまでは粘着性の高い調達手段とされていた流動性預金(コア預金)の在り方を再考する機会となるだろう。
第三の「政治」は、1政府が金融政策依存から脱却できるかに加え、2正常化で中小企業や地域経済の再生策も見直しを迫られる。今後、地域経済は正常化でデフレ影響を受ける地域と、製造業のサプライチェーン見直しの恩恵からインフレ影響を受ける地域に二分されるのは避けられず、従来とは異なる再生策が必要だ。なお政治日程との関係では、6月の通常国会閉会後に内閣改造や解散総選挙が俎上(そじょう)に載れば、正常化のスケジュールにも影響が及ぶ可能性も否めない。
●27日東京株式市場前場 金融不安への警戒感残る 85円92銭高で終了  3/27
週明けの東京株式市場は、先週末のアメリカ市場で株価が上昇したことを受け買い注文が先行したが、依然、金融不安への警戒感もあり、日経平均株価は値下がりする場面もあった。
日経平均株価の午前の終値は、先週末に比べ、85円92銭高い、2万7,471円17銭、TOPIX(東証株価指数)は1,963.26だった。
●急転直下の米銀破綻、規制当局はなぜ見逃したか  3/27
3月8日時点で、開示資料にはシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行のいずれも「十分な資本を保有」と記されている。連邦規制が定める健全性基準で適切なレベルを満たしているとのお墨付きだ。
ところが、そのわずか数日後、両行ともに経営破綻に追い込まれた。
「われわれが当初1週間に自問したのは『一体これがどのようにして起こったのか』という問いだった」。米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は22日の記者会見でこう述べている。
現在および当時の規制当局者や審査官、業界関係者、破綻した両行の事情を知る人物らへの取材からは、経済が変化するスピードと、変化に対する規制当局の軌道修正の遅れが重なり、今回の危機を招いた構図が浮かび上がってきた。監督当局は問題を把握していながら、迅速かつ断固とした行動を取らず、雪だるま式に危機へと発展するのを阻止できなかった。
長年の低金利環境から一転して金利が跳ね上がる中で、規制当局は銀行が保有する債券価値に打撃が及ぶことを完全には想定していなかった。FRBは2021年半ばまで、超低金利時代が続くと予想。規制当局が金利リスクの管理モデルが不十分だとSVBに伝えたのは、すでに金利が大きく上がっていた22年終盤のことだ。
二つ目の要因は、銀行が連邦保険の対象外である25万ドル(約3300万円)を超える預金に依存しているリスクを理解できていなかったことだ。規制当局はこうした懸念について強く警告してこなかった点を認めている。SVBもシグネチャー銀も、大口預金は中核顧客のもので、引き出されることはないとの見方が背景にあった。
だが預金はかつてないスピードで引き揚げられた。背景には、ソーシャルメディアで銀行の経営に対する懸念が瞬時に拡散し、スマートフォン経由で簡単に多額の資金が動かせる仕組みになっていたことがある。
三つめの要因は監督の性質自体が変化したことだ。ちょうど銀行業務のスピードが上がっているタイミングで、規制は煩雑さを増し、過程を重視するようになっていた。
ボストン地区連銀の前総裁、エリック・ローゼングレン氏は「監督プロセスは迅速な意志決定にあわせて進化していない」と話す。「これだけ目まぐるしく変わる環境で、(規制)制度は早急に(銀行に対して)是正を迫るようには設計されていない」
銀行規制当局が今回の危機の全容を把握する作業は、数年とまではいかなくても数カ月がかりになるかもしれない。FRB、米連邦預金保険公社(FDIC)、財務省はSVBとシグネチャー銀の預金全額保護やすべての銀行を対象とする緊急支援策を導入して、ひとまず危機の連鎖を抑えている。パウエル氏は問題の原因に関する内部調査の実施を発表し、5月までに結果を報告するとしている。議会でも公聴会が始まる予定だ。
FDICの管理下に入ったSVBと、同行の元最高経営責任者(CEO)はコメントを拒否した。傘下の子会社がシグネチャー銀の資産を取得したニューヨーク・コミュニティー・バンコープもコメントを控えた。
SVBはハイテク業界の顧客らと共に、過去数年に急激な成長を遂げた。主要規制当局はワシントンに本部があるFRBとサンフランシスコ地区連銀、カリフォルニア州金融保護イノベーション局だ。
審査官は過去にSVBの問題を把握していた。FRBは2019年、同行のリスク管理の問題について経営陣に指摘している。昨夏には、流動性やリスク管理、ガバナンス(企業統治)に関する落ち度についても警告していた。内情を知る関係者が明らかにした。SVBは最終的に、買収が禁止される「4M」という制限措置の対象に置かれたという。
SVBの問題に関する監督当局のメモは「注意が必要な案件」と「至急の注意が必要な案件」との警告レベルにとどまり、断固とした行動は伴わなかった。
より高い利回りを求めてSVBを含む一部の銀行が選好していた長期債の価格は、金利の上昇で特に大きな打撃を受けた。2022年末時点で、これらの銀行では多額の含み損が発生。この点に関してFDICが警告し始めたのは同年の下期頃からだ。
保有債券の価値下落は理論上、銀行の資産と負債の緩衝材として損失を吸収する資本を毀損(きそん)する。米議会は1991年、金利が資本に与える影響を測る仕組みを考案するよう、規制当局に指示した。
しかし、FRB、FDIC、米通貨監督庁(OCC)は1996年、潜在的な利点よりも負担やコストの方が大きいなどとして、「業界と連携してリスク管理技術改善に向けた取り組みを促していく」方針を示した。金利変更による影響は、審査官が検証するよう指示されている項目の一つだ。
FRBはここ何年も、大手金融機関を対象に実施するストレステスト(健全性審査)で、インフレ高進や金利の大幅上昇といったシナリオを盛り込んでおらず、規制関連で金利リスクを重視していなかったケースがあった。
あるFRBの元審査官によると、SVBは2022年の時点でFRBの監督チームの規制下に置かれるほどの規模に拡大していた。資産規模が厳しい金融規制の対象になる2500億ドルのラインに近づいていたことで、同行スタッフは対応を急いでいた、と関係者らは話す。リスク管理部門に勤務していた元SVB社員の一人は、FRBの審査官との会合では激しいやり取りが増えたと明かした。
SVB内では金利上昇で債券ポートフォリオのリスクが増すことを認識し、幹部らに変更を迫る社員もいた。内情に詳しい関係筋が明らかにした。
だが、経営陣は実質的に金利低下を見込んだ戦略を採っていた。結果的に経営破綻に追い込まれたことで、FRBが監督当局としてなぜ経営陣に早急な行動を迫らなかったのか、疑問を呈するSVB社員もいる。
関係筋によると、サンフランシスコ地区連銀は昨秋、SVBの経営陣との会合で、金利が上がっている環境で金利リスクの管理に問題があると指摘した。
SVBは金利リスクの管理モデルを使っていたが、モデルでは金利上昇が利益を押し上げる前提になっていたという。関係筋の一人は、金利モデルについても、FRBが「注意が必要な案件」との警告を発したと述べた。
銀行監督はここ数十年で、スピードよりも、一貫性や公平性、透明性を重視する方向で進化してきた。1990年代に州をまたぐ銀行業務に関する障害が消え、連邦当局は州の垣根を越えた規定の整備を進めるようになり、意志決定がワシントンへと集中していく。
ローゼングレン前ボストン連銀総裁によると、2007〜09年の金融危機や10年に成立した米金融規制改革法(ドッド・フランク法)により、さらに規制の中央集権化が進み、手続きの煩雑さも増えた。
審査官は注意が必要、至急の注意が必要といった警告を頻繁に出すものの、業務停止命令などで経営陣に変更を迫るには、さらに複数のステップを経る必要がある。
あるFDIC当局者は、長期的に法令順守を怠っている傾向がない限り、業務停止命令まで発展するのはまれだと明かす。一定の切迫性がない限り(SVBの場合、手遅れの段階になるまで顕在化しなかった)、銀行が資本および流動性の要件を満たしていれば、監督当局が経営陣の主張を退けるのは難しいという。
政治の影響も絡み始める。金融危機の記憶が薄れていた2018年には、SVBなど複数の銀行が規制緩和を求めるようになり、共和党のみならず、民主党の一部からも支持を得た。米議会は同年、ストレステストなどFRBの厳しい監督下に置く銀行の資産規模を500億ドルから2500億ドルに緩めた。
金融危機以降、銀行は資金調達先として、時に振れの激しく状況が変化しやすい金融市場ではなく、企業や個人からの預金集めに注力するようになった。その結果、保険対象外の預金が積み上がっていった。
昨年11月のFRBの金融安定報告書では、金融システムの資金調達に占める預金の割合が増加の一途をたどっており、早急な引き揚げの可能性があると指摘していた。だが、これをリスクとしては言及していなかった。むしろ、大手行が短期資金の調達で変動の激しい金融市場への依存度を低下させている点を歓迎しているかのようだった。
シグネチャー銀はSVBのような長期債のエクスポージャーに絡むリスクはなかったが、同じく保険対象外の預金に依存していた。ドッド・フランク法の生みの親の一人であるバーニー・フランク氏は、規制当局はこれを問題視していなかったと話す。同氏はシグネチャー銀の取締役を務めていた。
これまで預金流出のスピードは、どれだけ素早く銀行窓口担当者が現金を数えられるか、あるいはATM(現金自動預け払い機)が補充されるかに左右された。口座を閉じる、あるいは多額の現金引き出しには支店に足を運ぶ必要があった。そのため、規制当局や銀行幹部には、顧客の不安を払しょくするための戦略を練る時間があった。しかし、スマホで簡単に資金が動かせる時代になり、こうした猶予期間は消滅した。
協議の内容を知る関係者によると、ソーシャルメディアで人々が「デジタルパニック」に陥りやすくなっているとして、FDICは国民の信頼をどう管理していくかについて協議している。
●預金の全額保護、万能薬ではない  3/27
ジャネット・イエレン米財務長官は22日、「全面的な」預金保護の導入については検討していないと言明し、足元の銀行危機に対する即効薬の一つになるとの期待に冷や水を浴びせた。
とはいえ、この発言で預金の全額保護というアイデアが消えることはまずないだろう。イエレン氏は一方で、米議会が預金保護について検討することは「価値がある」とも述べている。シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の経営破綻を受けて実施したように、米財務省はすでに、連邦預金保険公社(FDIC)とともに「システミックリスクの例外措置」を使って、保険対象外である25万ドル(約3300万円)を超える預金についても全額保護の対象とすることが可能だ。メガバンクは異なる扱いを受けていると痛感している中小銀行やその支持者の間などでは、ここにきて全額保護の導入を求める声が高まっている。
その魅力は言わずもがなだ。人々は自らの預金について心配せずに済み、SVBを破綻させたような取り付け騒ぎが実質的に起きなくなる。そうなれば、銀行破綻の連鎖を回避できるだけではない。銀行が預金引き出しに備えて潤沢な流動性を確保し、短期的な運用をする必要性が低下すれば、与信の拡大も可能になるだろう。
とはいえ、コストも伴う。典型的な反対理由としてモラルハザード(倫理観の欠如)が挙げられる。これは緊急時の備えを提供することで、リスクテイクを助長するとの考えだ。しかし、2008年の金融危機時における金融機関への公的資金注入とは異なり、預金保護を拡大すれば銀行側に何ら処罰が下されないとは言い難い。預金が全額保護されても、破綻した銀行の幹部は持ち株や職を失う可能性があり、報酬返還の憂き目に遭うことすらあり得る。
預金者は取引銀行の選択に関するリスクを負わされるべきだろうか? 多くの場合はそうではないだろう。給与口座に40万ドルを預けている玉軸受けメーカーが、銀行のリスクについて考え続ける必要はないはずだ。一方で、ローン金利で優遇を期待する場合など、多額の資金を一つの銀行にあえて預けているケースもある。そのような場合、全財産を1カ所で管理することを意図的に選んだ富裕な預金者を保護すべきだろうか?
預金の全額保護を導入しても、資金を動かす動機をすべて取り去ることはない。米財務省から物価連動貯蓄国債(Iボンド)を直接購入するなどして、より高い預金金利を求める顧客もいるだろう。そのため、固定された資産利回りと預金の負債コスト増大による逆ざやで資金繰りに窮した銀行にとって、圧力が完全に和らぐことはない。
皮肉なことに、預金保険の対象上限があるからこそ、預金の分散を促している面もありそうだ。人々が多額の資金を25万ドル以下に分けて複数の銀行に預ける手助けをするツールは存在する。このうちの一部は小規模な銀行に向かい、預金金利が高い方へと流れることも多い。個人向けの手続き自動化サービスを手掛けるマックスマイインタレスト・ドット・コムの創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるゲリー・ジマーマン氏は、総資産規模20億〜600億ドルの銀行への預金が増えていると話す。
預金保護には財政の問題もある。FDICによると、2022年末時点の保険対象外の預金総額は推定8兆ドル近くで、米議会が追加でこれだけの返済義務を手当てする白紙小切手を簡単に手渡すとは思えない。つまり、銀行が支払うFDICへの保険料引き上げなどの形で、預金保険拡大のコストをまかなう何らかの仕組みが必要になるということだ。
銀行はこれまで、保険料負担をあからさまに顧客に転嫁しないよう、FDICから指導を受けてきた。だが、マネーは交換可能なため、FDICの預金保険料が上がれば、いずれは何らかの形で顧客に跳ね返ってくるだろう。例えば、預金残高が現行の保険限度額を超える顧客に対してのみ、新たな手数料が導入されるといったことが考えられる。
米金融規制改革法(ドッド・フランク法)で盛り込まれたようなことが、議会で支持を集めることもあり得る。同法では、2010年末〜12年末まで、預金金利ゼロの取引口座については限度額なしで保護するという時限措置が設けられた。このような口座は利息がつかないため、日々の資金使途向けで、顧客は単により高い金利を求めていなかった。このような預金を促進すれば、銀行の金利コスト抑制にも寄与するかもしれない。
全面的な預金保護は目の前の危機を解決するものの、将来的には別の問題を招く恐れのある措置と言えそうだ。しかも、われわれがまだ想像もできないような問題を引き起こすかもしれない。だからこそ、預金の全額保護は適切な慎重さを持って扱われるべきだ。
●安全通貨復活と言えない円、金融不安で起きているマネーフローの実態 3/27
過去2週間、米国ではシリコンバレー銀行、シグネチャーバンクの破綻、欧州ではUBSによるクレディスイスの買収などが続き、欧米の金融セクターに対して先行き不透明感が強まっている。こうした中、為替市場では円が買われ、主要通貨の中で円が最強通貨となっている。
投資家のリスク回避志向が強まった結果、円が安全通貨のような動きを取り戻しているようにも見えるが、もう少し全体を眺めると、やや違和感のある動きとなっている。為替相場の動きが、投資家によるリスク回避志向の強まった時の典型的なパターンとなっていないのである。
リーマン破綻時と異なるドルと円の動き
その顕著な例は、ドルが最も弱い通貨となっていることだ。通常、投資家のリスクテイク志向が後退する、いわゆるリスクオフの時には、円とドルの双方が買い戻される。
これは円とドルが「安全通貨」として選好されているのではなく、両通貨が資本調達通貨として元々売られているので、ポジションを閉じる過程で買い戻されるためと考えられる。
通常のリスクオフ時は円とドルの双方が買い戻され、どちらがより強いかでドル/円相場の動きが決まる。
例えば、米国のリーマンブラザーズが破綻した2008年9月から同年12月半ばまでの3カ月間強で、ドル/円相場は108円台から90円割れまで20%弱急落した。その際、ドルは主要通貨の中で2番目に強く、円がそれよりもさらに強かったのでドル/円は急落した。
今回、ドルは最弱で、かつ主要10通貨の強弱は各国の2年国債金利の変動幅の差でおおむね説明できる。
日米10年債金利と連動続けるドル/円
ドルが強くならないこと以外にも、今回の動きがリスクオフの動きを映じた円高なのか疑いたくなる事象がある。それはドル/円相場の動きが、1月半ば以降続く日米10年国債金利差との強い相関から離れずに推移しているということだ。
日米金利差とドル/円相場の相関が強くなる時は、実需のフローの影響が小さく、短期筋が金利差の動きを見ながら売買するフローの影響力が大きい時だと考えられる。先行きの不安感が増す中で投資家がポジションを手仕舞う場合、金利差の動きを見ながら動くとは考えにくい。
実際、リーマンブラザーズ破綻時のドル/円相場の急落時は、日米金利差から大きくかい離して下落している。
しかし、過去2週間のドル/円相場は、日米10年国債金利差との1月半ば以降の強い相関関係に沿って動いており、金利差が10bp動くとドル/円相場が1.4円動く関係が続いている。誰かが先行きに対して不安感を強め、あわてて円を買い戻しているような動きには見えないのである。
円高が過熱しにくい3つの要因
また、現象面だけでなく、ファンダメンタルズ面からみても、リスクオフの円高が過熱しにくいと考えられる点が3つある。
まず、第1にそもそも短期的な円ショート・ポジションがさほど積み上がっておらず、先行き不安からポジションを閉じるとしても、買い戻さなければならない円はそれほど多くないと考えられる。
世界の投資家は昨年末から日銀の金融政策正常化に対する期待を強めており、どちらかと言えば円に強気だった。円キャリートレードにとって重要な、日本と世界の短期金利差は非常に大きく拡大しているが、市場全体として元々ボラティリティが高かったので、まだ、円キャリートレードが活発化するような状況とはなっていなかった。
日本の投資家がリスクを嫌って対外証券投資を巻き戻す可能性も考えられなくはないが、まさに欧米の金融不安が強まった3月6日週と13日週の2週間で日本の投資家は合計4.2兆円もの外債を買い越している。
第2に日本と世界の短期金利差が大きいだけに、投機的な円ロング・ポジションを作りにくい。さらなる金融不安の広がりに対するリスクをヘッジするために円ロング・ポジションを造成する向きもあるかもしれないが、日本と世界の短期金利差が大きいため、このポジションを維持するのはコストがかかる。
例えば、ドル・ショート/円・ロングポジションを1週間保有し続け、ドル/円相場が動かなかったとすると、それだけで0.1%以上の損失を被ることとなる。
第3に、以前と異なり日本は大きな貿易赤字国となっている。貿易黒字だった時には円の買い戻しで短期的に円が上昇すると、輸出企業が不安になり円を買い始め、それが円高を加速させたが、今は短期的に円が上昇すると、輸入企業が喜んで円を売るため、円の上昇が加速しないことになる。
もちろん現在進行形の欧米金融不安が、一段と悪化するリスクは排除できない。しかし、今のところ、ドル/円相場の行く末にとっては、欧米金融不安によるリスクに対するセンチメントというよりは、米10年国債金利の方が重要なように見える。
マーケットは今後2年間で米連邦準備理事会(FRB)が2%ポイント程度利下げを行うことを織り込んでいる。かなり悲観的なように見え、金融セクターに対する不安が続いても、そこまで事態が悪化しないというだけで、米長期金利が全体的に水準を再び切り上げ、それがドル/円を押し上げる可能性は低くなさそうに見える。
●アマゾンもアマゾン・キラーもまとめて苦境に…米国の金利上昇 3/27
“カネ余り”に乗じて取引を強化してきたが…
足許、世界経済の環境は急速に変化している。米メタなど大手IT企業の追加リストラや、米欧金融機関の経営不安の高まりはそれを象徴する。リーマンショック以降、日米欧などの主要中央銀行は利下げなどの金融緩和を強化した。
世界全体で“超低金利”と“カネ余り(過剰に流動性が存在している状況)”は続いた。その状況が未来永劫(えいごう)続くと楽観する主要投資家は増えた。多くの投資・投機資金は成長期待の高まった米国の有力IT先端企業やスタートアップ企業の株式や暗号資産(仮想通貨)などに流入した。それに目を付けた米欧などの金融機関は、関連企業との取引を強化した。
しかし、2021年春ごろから世界的に物価は上昇し、その後はインフレの高進が鮮明化した。米欧などの主要中銀は金融政策を急速に引き締め、世界的に金利は上昇した。それによって世界経済の環境は大きく変化している。金利上昇は企業や家計の利払い負担を増やし、資産価格を下押しする。足許、そうした変化に対応するプロセスが起きている。それが、SNSやサブスクリプションのビジネスモデルの行き詰まりや一部金融機関の破綻につながった。世界経済の先行きは一段と不透明になっている。
コロナ禍で成長した“アマゾン・キラー”が急増
2008年9月にリーマンショックが発生してから2022年3月まで、事実上、世界全体は超低金利とカネ余りの環境に浸った。中央銀行は金融緩和を強化し、世界各国で短期から長期、超長期の金利は低下した。金融市場では資金のだぶつき感が高まった。より高い利得を求めて投資資金は、高い成長が期待される分野に流れ込む。
米国のIT先端企業の株や、暗号資産には多くの資金が流入した。世界の大手金融機関が発行した自己資本比率を引き上げるための特殊な債券にも、利回りが高い分、多くの資金が流入した。
コロナ禍の発生によって一時的に成長期待は低下した局面はあったが、感染の再拡大によって各国で都市封鎖や外出制限は長引いた。テレワークやネット通販、動画視聴、フードデリバリーなど世界経済のデジタル化は加速した。その結果、SNSやサブスクリプション型のビジネスモデルの優位性は一段と高まり、成長期待も押し上げられた。そうした環境変化に目を付ける企業家も増えた。一時、米国などで“アマゾン・キラー”などと呼ばれるIT系スタートアップ企業は急増した。
先端企業に積極投資していたクレディ・スイス
そうした企業は一時、超低金利環境を活用して資金調達を行い、高い成長を遂げた。成長期待の高まりに支えられ、米国のIT先端企業の組み入れが多いナスダック総合指数も大きく上昇した。カネ余りと高い成長への期待は連鎖反応的に高まり、“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理に拍車がかかった。
米国や欧州では、成長期待の高い先端分野の企業との取引を強化したり、関連する株式の取引業務などを強化する金融機関が急増したりした。その一つが、スイスのクレディ・スイスだ。
同行の出自は、富裕層向けを中心とする商業銀行ビジネスにある。しかし1980年代以降、同行はより高い成長を目指し投資銀行ビジネスに参入した。リーマンショック後は超低金利環境をよりどころに米欧などで投資銀行事業を強化し、IT関連株の発行、IT先端分野などに投資するファンド向けの与信ビジネスなどを強化した。
アルケゴス・ショックで巨額の損失を被った
しかし、2021年の春ごろから世界全体でインフレの進行が鮮明化した。2022年3月にはインフレを鎮静化するために米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始した。その後、米国、ユーロ圏、英国、カナダなどで金融は急速に引き締められ、世界的に金利は上昇した。
その結果、超低金利環境の継続期待を根底とするIT関連の株式や社債、暗号資産などの価格は下落した。企業、家計の利払い負担も増え、世界全体で需要の減少懸念も高まった。
そうした環境変化の裏返しとして、事業規模の小さい分、成長期待が余計に高まったITスタートアップ系企業や暗号資産関連企業の経営体力は急速に低下した。クレディ・スイスは、強気相場の変調にいち早く直撃された。2021年3月、同行は世界経済のデジタル化を背景に成長期待の高まった英フィンテック企業“グリーンシル・キャピタル”やIT関連銘柄などに投資を行った米アルケゴス・キャピタルとの取引から巨額の損失を被った。
かつての“サクセス・ストーリー”は雲散霧消した
2022年11月、暗号資産分野では世界的な交換業者であったFTXが破綻した。それをきっかけに暗号資産取引業者の顧客資産の保全などに対する疑義は高まった。政策金利の引き上げによって企業の信用力への不安も高まり、ファンド勢は未公開株投資に一段と慎重になった。ITなどスタートアップ企業から投資資金も引き揚げられはじめた。
結果的に、カネ余り環境を足掛かりにして特別目的会社(SPAC)に買収され、その上で株式の新規公開を実現するというITスタートアップ企業の“サクセス・ストーリー”は雲散霧消したといえる。GAFAをはじめとするIT有力企業の成長ペースの鈍化も鮮明化した。
さらに、2023年3月上旬の議会証言にてFRBのパウエル議長は、2月から一転し、インフレ圧力が想定以上に強いとの見解を示した。世界的に、金利上昇への警戒感は急上昇した。資金繰り確保のための企業の預金取り崩しの急増、金利上昇による保有債券の価値毀損(きそん)を背景に、暗号資産関連企業との取引を強化した米シルバーゲート銀行は事業清算に追い込まれ、シグネチャー銀行は破綻した。
「過度なリスクテイク」という共通点
3月10日、ITスタートアップ企業などとの取引を強化したシリコンバレー銀行は破綻し、ファースト・リパブリック銀行の経営不安も高まった。3月19日、クレディ・スイスはUBSに救済買収された。
共通するのは、過度なリスクテイクだ。特に、クレディ・スイスは商業銀行とカルチャーの異なる投資銀行分野で、無理をしてリスクテイクを続けた。ずさんなリスク管理体制も重なり、同行は自力で損失を吸収し、財務内容を健全化することが難しい状態に陥った。
一方、IT先端分野などでのリストラは一段と加速している。3月14日、メタは今後約2カ月で1万人程度の人員を追加で削減すると発表した。アマゾンも9000人を追加削減する。2023年、アップルのティム・クックCEOの報酬は前年の半分になる見通しだ。マイクロソフト、インテルなどもリストラを強化している。リーマンショック後の世界経済の緩やかな成長を支えたIT大手企業の成長鈍化は鮮明だ。
過剰人員を抱える企業のリストラはさらに進む
リスクを取りすぎた投資家や金融機関、事業法人が環境変化に耐えきれず破綻するなどするのは、過去にも繰り返された。1990年代以降の世界経済では、主要国の景気先行き不透明感が高まると中央銀行は利下げなど金融緩和を強化してきた。
しかし、足許の状況は大きく異なる。世界的にインフレ圧力は依然として強い。主要先進国の中央銀行にとって利下げは難しい。慎重に政策金利は追加的に引き上げられる、あるいは高い水準に据え置かれる公算は高い。それによって過剰人員、過剰設備を抱えるIT先端分野などの企業のリストラはさらに強化されるだろう。
今すぐではないにせよ、投資銀行業務を強化して成長期待が高いIT企業などとの取引を強化した欧州などの金融機関の経営不安は高まりやすい。3月に入って以降の欧米の金融機関の経営不安やIT先端大手企業の追加人員削減は、世界経済の先行き不透明感が一段と高まっていることの裏返しといえる。
●迫力失う「リスクオフの円買い」、根強い実需の円売り 3/27
3月10日、シリコンバレー銀行(SXB)の破綻で始まった国際金融不安は米地方銀行の経営不安問題を超えて、欧州の大手金融機関の再編にまで至った。
米連邦準備理事会(FRB)や欧州中銀(ECB)の利上げ幅や回数に注視していた従前のムードは一変し、「これで不安が収まったのかどうか」という目先の展開に目を奪われる雰囲気が充満している。
厳格な資本規制の下、「第2のリーマンショック」は起き得ないというのが市場の本心に近いはずだが、そこまで信じ切れていないというのが、本稿執筆時点の市場心理と見受けられる。
しかし、為替市場、とりわけドル/円相場の見通しに関しては目先の不安やこれにつれた金利動向で右往左往しないように努めたい。国際金融不安に伴う米金利急低下とこれに伴うドル安・円高で円安予想が難しくなったかのようなムードもあるが、筆者の基本認識はあまり変わっていない。
2023年も貿易赤字の重圧
年初2カ月の貿易赤字は約4兆円と過去に類例のない規模に達している。その上で2022年に記録した20兆円の貿易赤字は、ラグを伴いながら2023年以降の円相場にも影響を持つことを考慮する必要がある。
このような状況の下で、需給環境は依然として円売りに傾斜していると考えるべきである。例えば、主要通貨の名目実効為替相場(NEER)に関し、2022年と2023年初来(3月21日時点)の変化率を比較し、主要通貨の現状をみると、結局、昨年来の円安相場が変わっていないことが分かる。
2022年では12.4%、2023年初来では0.5%とそれぞれ下落し、反発が見られていない。昨年、NEERベースでトルコリラ(17.9%)をほうふつとさせる2ケタ下落率を記録しながら、円は未だにその弱さを引きずっている。
昨年10月下旬にドル/円相場が152円付近でピークアウトして以降、FRBの利上げ幅は3分の1になり、足元では利上げ停止観測(その先にある早期利下げ観測)まで浮上している。
その間、1月に127.22円の年初来安値をつけたものの、その後は130円台へ復帰し安定した。ちなみに、この際の円高には「日銀新体制における正常化観測」も効いており、FRBの政策運営だけが原因ではなかった。
過去の本コラムへの寄稿でも論じている点だが、そうした中央銀行の「次の一手」に絡んで金利動向が目先の変動を説明するのに有用なことは間違いないとしても、底流にある需給動向に関し「円を売りたい人の方が多い」という事実がある以上、今次の円安局面が始まる直前の水準(113円付近)まで戻るのは難しいように思える。
実効ベースでは円安修正進まず
為替市場では昨年10月から今年1月の約3カ月間で152円から127円まで進んだ鋭角的な円高のイメージが脳裏に焼き付いていると思われる。また、2月中に137円付近まで上昇した後に、130円割れまで引き戻されたことも記憶に新しいだろう。しかし、実効ベースで見れば大して円高が進んでいるとは言えない。
例えば、1973年以降のNEERおよび実質実効為替相場(REER)の動きを確認してみると、NEERは円安バブルと言われた2007年頃と同じ水準、REERは変動為替相場制が導入される以前(1971年頃)と同じ水準で推移していることが分かる。
超長期の視点に立った場合、2021年から2022年の円安は視認可能だが、昨年10月から今年1月の円高はそれほど大きな動きとは言えない。特に半世紀ぶりの安値水準でいまだに推移しているREERは日本が海外の財・サービスを求める際の購買力にほかならず、「安い日本」の状況が全くと言ってよいほど変わっていないことを示している。
金利だけで円相場の方向・水準決まらず
現状、筆者はグローバルな金融不安はこのまま沈静化し、再びインフレ抑制がテーマとなる局面に戻っていくことを前提に為替見通しを策定している。したがってFRBの早期利下げを受けた(米国の)金利面からの円高圧力は限定的と見る立場だ。
そもそも「75bPの利上げが常態だった局面」から「早期利下げ観測まで台頭する局面」へシフトしても、ドル/円相場の130円割れは定着していない。ということは、金利だけで方向や水準を考えるのは危ういということではないだろうか。こうした現状から理解されるべき事実は「需給面からの円安圧力も非常に強いこと」ではないか。
もちろん、グローバルな金融不安が本当に早期利下げに直結するのであれば、それは想定外の円高リスクになる。しかし、それでもドル/円相場で言えば125円割れがあるかどうかというのが筆者の相場観だ。さらに言えば、仮に125円までドル安・円高が進んだとしても、NEERやREERで示唆される歴史的な円安水準が大きく変わるとは限らない。
とりわけ諸外国との相対的な物価格差を織り込むREERはほぼ間違いなく、「半世紀ぶりの円安」が残存するはずだ。NEERやREERに映る円安は内外金利差の拡大・縮小よりも、過去10年間における日本の需給構造変化を反映したものであり、大局観としての「安い日本」はほとんど変わらないと考えられる。
「安全資産としての円」、確認できず
ちなみに年央以降の米利下げが織り込まれ、日米金利差が縮小する現状において、動きの速い投機筋はドル売り・円買いを増やしているのか──。
この点を確認するためIMM通貨先物取引の状況を見ると、3月21日時点までの数字が明らかになっている。SXB破綻が3月10日、シグネチャー・バンク破綻が3月12日、UBSによるクレディ・スイス救済が3月19日であるから、一連の金融不安勃発を受けた投機ポジションということになる。
昨年10月下旬、152円付近を付けた頃に最も膨らんだ円のネットショートポジションは今年1月末には概ね中立に近づいた。その際につけたドル/円相場の年初来安値が127.22円だった。今次の円安局面の起点が113円付近だったことを思えば、「投機ポジションが清算されても130円弱までしか戻らなかった」というようにも読める。その背景が2022年中に膨張した貿易赤字に象徴される需給環境の激変というのが筆者の基本認識だ。
今年2月以降は、インフレ再加速の懸念を背景に米金利が再び上昇するのに合わせて円のネットショートポジションも再拡大した。その結果、ドル/円も137円付近まで急上昇している。
その後、SXBやシグネチャーバンクの破綻を経てFRBの年内利下げ転換は大分織り込みが進んでいるわけだが、3月21日時点の投機ポジションを見る限り、円は対ドルで大きく買い戻されているわけではない。
むしろグロスで見れば、円ロングは2月中旬以降で顕著に減少傾向にあり、3月21日時点では6.84億ドルと2022年4月以来の低水準を記録している。
要するに、今回の混乱において「安全資産としての円」という需要はほとんど確認することができてない。「リスクオフムードが高まっても円が買い戻されない」という状況はちょうど1年前にロシアがウクライナに侵攻した際にも指摘されており、やはりかつての日本円とは性質が変わりつつあることを感じさせる。
こうした中、当面の円相場が顕著に上昇する展開があるとすれば、それは国際金融不安の増大とこれに伴う早期利下げ転換が現実味を帯びるよりほかないように思える。日米金利差に照らした場合、米10年金利がはっきり3.20%を割り込んでくれば安定的に130円を割り込む展開が期待できるように思っている。
裏を返せば、そこまで想定してようやく130円を割り込める地合いになるということであり、かつて日本経済・社会を揺るがせてきた「リスクオフの円買い」は着実にその迫力を失っていると言わざるを得ない。 

 

●アメリカの銀行破綻はG7世界体制崩壊につながる  3/28
2008年のリーマンショック以来となるアメリカの銀行の破綻が起きた。その後にアメリカの100以上の銀行の危機が伝えられ、なおかつそれがスイスのクレディ・スイスに波及し、破綻を引き起こし、今ではドイツ銀行も危機だと伝えられている。
人々は、これがリーマンショック以来の世界恐慌になるのではないかと、危惧している状況だ。もちろん、アメリカのバイデン大統領はすぐに信用不安を取り除く発言を行い、イエレン財務長官も不安の除去に躍起となっている。
さて、今回の出来事は次の点でリーマンショックとまったく違っている。それは、バブルの破綻といういわば自業自得の問題ではなく、その背景にアメリカのドルの価値低下と、アメリカの国債の信用低下が関連している点である。
ドル基軸体制の危機
信用不安の大きな理由は、アメリカという戦後経済を支えてきたドルを基軸とする世界システムが危機に瀕していることにある。
戦後経済体制は、1944年のブレトンウッズ体制で始まった。ドルを基軸通貨としたIMF(国際通貨基金)体制は、強い経済力をもつアメリカと圧倒的に多くの「金」を持つアメリカによる支配体制でもあった。
1国の通貨ではなく、どの国のものでもない客観的通貨を作ろうとするケインズ案は葬り去られ、アメリカという国家の通貨を基準とした国際通貨システムができあがったのだ。それは、当時のアメリカの圧倒的経済力からすれば当然のものであった。
人類の歴史は、獲得した富を貨幣によってどう維持し、発展させるかで悩んできた歴史といってよい。資本主義の根幹こそ、この貨幣の探求なのだが、その貨幣となるものの価値が安定していないのだ。結局、人類は歴史的に金や銀といった産出量が限られていて、世界中の誰もが認める金属を貨幣だと考えるしかなかった。
あるものが貨幣となるには、5つの貨幣の機能を充足しなければならない。1頭の中だけで存在し、現実的価値の実体を持たなくてもいい観念的貨幣、つまり計算の単位としての価値尺度機能、2流通を円滑にする流通手段としての機能、3現実に存在し価値を体現している実体的貨幣、すなわち価値を蓄蔵する蓄蔵貨幣としての機能、4国際決済において支払い手段として承認される機能、最後は5誰もが認める世界貨幣としての機能だ。これをすべて満たすものは、今の時代でもやはり金や銀しかないともいえる。
1971年、当時のアメリカのニクソン大統領がドルと金との兌換一時停止を宣言した「ニクソンショック」までは、ドルは金とのリンクをもっていたことで、間接的であるが、この5つの機能を持つことができた。世界中の誰もがドルを信頼し、いざというときにドルを金に変換すればいいので、安心してドルを使うことができた。
ドルは信用貨幣であり、一種の手形である。その意味でそれ自体に実体的価値を持っているのではない。国家による信用の裏付けが価値なのである。しかし、金にない利点もあった。それは金と違って経済成長に合わせてどんどん自由に発行できることで、貨幣不足を避けることができるという特徴だ。
ほころぶSWIFT体制
もちろん金に価値の実体があるといっても、それはその産出に必要な労働の費用にすぎず、金を価値として認める人々の信用がなければ意味がない。「猫に小判」という言葉にあるように、猫にとっては金であろうとドルであろうと無価値である。しかし、金はそれを生産する膨大なコストがかかることで、信用のみならず実際にも大きな価値を持っている点がドルのような通貨と異なっている。
だからこそ、絶大なる生産力を持つことで信用を獲得したアメリカのドルは、金に代替できる信用を勝ち得ることができたともいえる。価値尺度として、流通手段として、蓄蔵貨幣として、支払い手段として、世界貨幣として、アメリカという体制が世界経済の中心にある限り、あたかもドルは金のような役割を持つことができた。
しかし、国家というものは成長することもあれば、没落することもある。アメリカ経済はすでに世界経済を牛耳るレベルにはない。その実態を暴露したのが、2022年から始まった経済制裁のつまずきである。
アメリカはドルによる決済体制「SWIFT」を持つことで、すべての国の貿易にドルの使用を義務づけることができていた。だからこそ、この支払い体制からある国がはじかれると、その国は国際貿易決済が不可能となり、経済が立ちいかなくなる。アメリカはヘゲモニー(覇権)国家として、この方法を弱小国に多用してきた。
しかし、何度もその制裁の対象になったロシアや中国などが、このやり方にいつまでも我慢し続けるわけではなかったのだ。ウクライナ戦争に対するロシアへの制裁が功を奏さなかったのは、制裁慣れしたロシアがその抜け道をすでに見つけていたことにある。
もうずいぶん前から、ロシアや中国などは金の備蓄を始め、自国通貨の価値の安定を図り始めていた。そして、ドルによる多国間決済制度に代わるものとして2国間決済制度を導入し、国際貿易を維持することに成功する。
そしてBRICSという新興国の経済グループの制度を拡大し、中国の元を中心とした新しい多国間決済制度を模索し始めた。もちろん、その先には人民元でもない、新しいデジタル通貨というものも構想されている。
ロシア、中国が世界通貨をつくったら
かつて社会主義体制では「振替ルーブル」という決済制度があった。この制度は社会主義国で相互の互恵貿易を前提にしていて1国が豊かになることを避ける決済制度であり、帳簿上でお互いが黒字、赤字にならないように調節するメカニズムであった。ただ、この振替ルーブルは、IMF体制のドルより世界貨幣としての流通性がなかったことによって、最終的には崩壊してしまった。
ロシアや中国が元もしくはルーブルなどにより、新たな世界貨幣としての制度作りを始めたら、いったいどうなるだろうか。そうなるとドルの世界貨幣としての流通性は限定される。とりわけ、エネルギー資源や原料の多くがBRICSに賛同する諸国にあることで、ドルによる資源や原料の購入ができなくなるのだ。ペトロダラーという言葉は、アメリカが自国で刷った通貨で、石油資源を安く叩いて買うという制度であった。それが機能しなくなったらどうなるか。
もっといえば、すでに金融やサービスに特化している西側諸国は、農作物や工業製品をBRICSの諸国に大きく依存している。アメリカは財政赤字と貿易赤字を抱えながら、どんどんドルを乱発し、これらの諸国から製品を買っていたのだが、それができなくなるのだ。
こうして起こった現象が、世界貨幣であったドルの価値低下である。流通領域が狭まり、価値ある通貨として認められなくなれば、ドルは売られ、金に代わっていく。アメリカの国債を売っている中国などの国は、国債を売って得たドルを、金へ交換することで、ますますドルの価値は低下している。
では、なぜ金を求めるのかといえば、金にはとてつもない魅力があるためだ。それは、金の生産は容易ではなく大量に生産できないこと、また腐敗することもなく、また細かく分割することもできることで、これまでの産出した金が価値を失わず残っていることだ。
18世紀イタリアの経済学者フェルディナンド・ガリアーニは『貨幣論』の中で、金を「神の授けもの」といっているが、まさに人間が人工的に作れないという点でその名にふさわしいといえる。
もちろん今後も、金が通貨として流通することはもはやないだろう。すでに、1オンス(約28.35グラム)=2000ドル以上という時代を迎え、金は稀少であり、通貨として流通する可能性はない。しかし金が、ある通貨の準備金になる可能性は十分ある。だから、今多くの国が準備金としての金を追い求めているのだ。
「世界市場はただひとつの富である貨幣を求めて叫ぶ」
今回のアメリカの銀行システムの危機は、IMF体制の危機問題と関係している。マルクスは、恐慌が起こったときに多くの者が「金」を求めることをこう述べている。
「鹿が水辺を求めて鳴くように、世界市場はただひとつの富である貨幣を求めて叫ぶ」(拙著『超訳「資本論」』祥伝社新書、104ページ)。
確かに、今回の銀行破綻で求められているのはドルであり、金ではない。しかし、ドルが国際通貨として不安定であることがインフレを招き、そのインフレが利上げを呼び、その利上げが資金ショートと預金引き出しを導き出したのだとすれば、問題は簡単ではない。
インフレを避けるためにドルを強くすべく利上げをすれば、資金需要は高まり、銀行預金のショートは加速される。しかし利下げをすれば今度はインフレが加速し、早く通貨を使おうと銀行の預金ショートは進む。まさに王手飛車取り、トレードオフの関係だ。
今の危機を乗り越えるには、経済制裁を解除し、ドルから離れていった国々を元のドル決済の国に戻すしかない。とはいえ、アジアやアフリカ、ラテンアメリカ諸国にはこれまでの強いドルで何度も経済破綻をした国々が多く、ドルへの不信は大きい。復帰は簡単ではないだろう。もはやG7による世界経済支配の体制は終わりに近づきつつあることを理解したほうがいいのかもしれない。
●なぜアメリカで銀行の経営破綻が相次いだのか?  3/28
2023年3月に、アメリカで銀行の破綻が相次ぎました。ITスタートアップ企業を主要な取引先としてきたシリコンバレー銀行と、共に暗号資産(仮想通貨)関連企業を主な顧客とするシルバーゲート銀行(シルバーゲート・キャピタル傘下)、シグネチャー銀行の3行です。特にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行は、破綻規模が史上2番目、3番目という「超大型倒産」でした。この時期に破綻の連鎖が起きた原因はどこにあり、影響はどこまで広がる可能性があるのでしょうか。
破綻したのはどんな銀行だったのか
今回破綻した3つの銀行には、取引先を特定のセクターに特化していた、という特徴がありました。
   スタートアップ企業、ベンチャーキャピタルに特化
シリコンバレー銀行は、その名の通り、最先端のIT企業やスタートアップ企業が集まる西部カリフォルニア州のシリコンバレーに拠点を置いていました。創業は1983年で、主にテクノロジー関連のスタートアップ企業や、スタートアップ企業に出資するベンチャーキャピタル向けの融資に、アメリカでも有数の実績を持つ銀行だったそうです。
   暗号資産に特化
一方、シグネチャー銀行は2001年の設立で、ニューヨークに拠点を置き、40の店舗を展開していました。こちらの主要顧客は、暗号資産関連の企業でした。シルバーゲート銀行も同様で、1988年に設立され、仮想通貨ブームの初期にこの分野に参入したシルバーゲート・キャピタル傘下の銀行でした。
破綻の連鎖が起こった理由
   「投資バブル」の崩壊
3行が破綻した原因は、ある意味単純明快で、融資先や預金者となっていた企業の急速な業績悪化です。
こうした企業の業績悪化の前には、バブルといえる急成長がありました。その引き金になったのは、2020年に始まった新型コロナのパンデミックです。外出制限などにより景気が急速に冷え込む中、各国は経済対策として金融緩和(金利の引き下げ)政策を断行し、アメリカもその例外ではありませんでした。
その結果、世界的に「成長セクター」のリターンに対する過度な期待が膨らみました。最たるものが、ITをはじめとするスタートアップ企業であり、暗号資産関連の企業だったのです。これらの企業に対する投資熱は高まり、この3行には、調達された大量の資金が流れ込む形になりました。各銀行は、それを元手にした投融資を増加させ、自らの業績も拡大させました。
ところが、後で述べるように、アメリカの中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策を一転させ、2022年3月から段階的な政策金利(中央銀行が一般の銀行に貸し付ける際の金利)の引き上げを開始したことから、このバブルは崩壊に向かいます。さきほどとは反対に、金融引き締め(金利の引き上げ)によって、3行の顧客から投資マネーが撤退する結果となったわけです。
   「成長産業」を襲った環境変化
破綻した銀行の取引先である暗号資産、ITスタートアップ企業の置かれた状況について、もう少し詳しくみることにします。
まず、暗号資産について。FRBが利上げを実施すると、米国債の金利(利回り)も上昇します。「安全な資産」である国債の利回りが上昇すれば、暗号資産のような「リスク資産」の価値は、相対的に低下していきます。わざわざリスクの高い資産を持つ意味が薄れるからです。
実際、金利の上昇により暗号資産を売却する人が増え、価値も下落して、交換所を運営する企業の業績は大幅に悪化しました。2022年11月の大手暗号資産交換所、FTXトレーディングの破綻は、その代表例といえるでしょう。暗号資産関連企業の倒産は増加し、その業界に特化していたシルバーゲート銀行は清算、シグネチャー銀行も経営破綻に追い込まれたわけです。
ITスタートアップに関しても、同様の逆風が吹きました。金融引き締めで借り入れのハードルが上がり、株価も低迷するようになったためにIPO(株式新規上場)による市場からの資金調達もしにくい環境になりました。
この分野では、GAFA(Google、Apple、Facebook=現Meta、Amazon)の業績悪化、大幅人員削減というニュースもありました。ビジネス自体の成長性の鈍化、競争の激化が顕在化したこともあって、もともと経営基盤が盤石とはいえないスタートアップのへの投資を手控える動きは、一気に強まりました。そうした状況の下、シリコンバレー銀行は、貸し倒れや、資金繰りに窮した取り引き先企業の預金引き出しの急増などに耐え切れず、破綻を余儀なくされました。
引き金を引いたFRBの金利引き上げ
   8回の利上げを実行
このように、風向きを変えたのは、FRBによる政策金利の引き上げでした。2022年3月に0.25%(上限)の利上げが行われて以降、2023年2月まで計8回にわたり、0.25%〜0.75%の幅で金利の引き上げが行われたのです。
FRBが金融引き締めに政策転換した理由は、想定外のインフレの進行でした。アメリカでは、2021年12月以降、およそ1年間にわたって消費者物価指数が7%超という空前のインフレが続き、国民生活に大きな影響を与えました。ピークは過ぎたものとみられますが、2023年に入っても物価は高止まりの状態です。
この状況を打開するために、利上げを断行し、行き過ぎた投資や消費を抑えようというのがFRBの狙いです。
   国債の金利上昇が「致命傷」に
こうした政策が3つの銀行の顧客の業績に影響を与え、そのあおりで経営破綻にまで追い込まれた事情は説明しましたが、実は「致命傷」となったのは、これらの銀行が大量に保有していた米国債の存在でした。
これらの銀行は、投資バブルの余波で増大した預金の多くを、国債の購入に充てていました。購入時、その金利(利回り)は、1%程度(10年国債)の極めて低い水準でした。ところが、その後矢継ぎ早の利上げが行われ、それにつれて国債の金利も4%近くにまで上昇したのです。そうなると、銀行が持つ利回りの小さい国債の価値は下落します。
国債は、基本的に元本が保証された債券です。ただし、それには、「満期まで持ち続ければ」という条件が付きます。投資環境が悪化し、資金繰りに苦しむ顧客からの預金の引き出しが増えると、銀行は損失を覚悟で、保有する国債を現金化する必要に迫られました。そのことが、経営にとって大きなダメージになったのでした。
世界的な信用不安の連鎖は起こらない?
   「預金全額保護」を打ち出したアメリカ政府
銀行の経営破綻という事態を受けたアメリカ政府の対応は、素早いものでした。政府は、こうした場合に本来25万ドルまでしか保護されない預金を、全額保護するという異例の措置を発表したのです。金融不安を払しょくするための対応であることは、いうまでもありません。
ちなみに、日本で同じことが起こった場合には、1,000万円までの預金、利子が保護されることになっています(ペイオフ)。
   注目されたFRBの3月の利上げ
破綻後に注目されたのは、3月に予定されていたFRBによる9回目の利上げがどうなるかでした。利上げの一時停止の観測も流れたのですが、結局0.25%の金利引き上げが決まっています(3月22日)。
FRBのパウエル議長は、記者会見で、信用不安の影響を見極めるため利上げの休止も検討したことを明かしつつ、現時点で「銀行システムは健全だ」と述べ、引き続きインフレ対策を優先する姿勢を示しました。
   影響の拡大はあるのか
3月の半ばには、経営危機に陥ったクレディ・スイスを、スイス金融最大手のUBSが買収するというニュースがありました。気になるのは、「米国発」の銀行破綻が、2008年の「リーマンショック」のように、世界に飛び火することはないのか、ということです。
これについては、今のところその可能性は低い、という見方が強いようです。説明したように、破綻した3行はそもそも取引先が「偏って」いました。新型コロナという特殊な環境下でマネーゲームに翻弄された結果、事業の継続が不可能になったという点で、他の多くの金融機関とは事情が異なる、というわけです。あっけなく行き詰ったことに、リスク管理の甘さも指摘されています。
一方で、アメリカを中心に依然としてインフレの懸念を払拭できない現状には、リーマンショック後の調整局面とは異なる政策実行の難しさがある、という見方もあります。今回の銀行破綻が「特殊な事例」で終わるのかどうか、今後も注視する必要がありそうです。
まとめ
2023年3月に相次いで発生したアメリカの銀行破綻の背景には、インフレ抑制を目的としたFRBの段階的な金利引き上げがありました。現在のところ、世界的な信用不安に発展する可能性は低いものとみられていますが、インフレの持続など懸念材料も払しょくされてはいません。当面は、世界経済の動向に注目する必要があるでしょう。
●米ファースト・リパブリック、危機の種まいた富裕層戦略 3/28
米中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクは、同行の急成長を支えた富裕層客が預金を引き出し始めたことで経営が揺らぎ、米地銀危機の震源地となった。
シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の経営破綻を受け、JPモルガン・チェースを筆頭とする米大手行はファースト・リパブリックに計300億ドルの預金を預けて同行の資金繰りを支えるとともに、同行のための資本調達を探ってきた。
そうした努力も虚しくファースト・リパブリックの株価は月初から90%も暴落。専門家らは、同行の事業構造を考えると再建の門戸は狭いと指摘している。
ファースト・リパブリックは長年、住宅ローンや融資に優遇金利を提示して富裕層の客を呼び込んできた。米国の預金保険制度では1つの貯蓄口座につき25万ドルまでしか保護されないため、富裕層を客に持たない他の地銀に比べて同行は危うい状況にある。
モルガン・スタンレーのアナリストチームが20日に公表した推計では、ファースト・リパブリックの預金は約半分が流出している。預金保険で保護されない預金は、同行の資産の68%を占めていた。
金利の上昇に伴ってファースト・リパブリックの融資および投資ポートフォリオの価値も下がり、資本調達の妨げとなっている。アナリストや投資家は、同行の含み損を94億―135億ドル程度と見積もっている。
オートノマス・リサーチの銀行アナリスト、デービッド・スミス氏は「(含み損の分と)同程度の成長は実現できそうもない」と語った。
ファースト・リパブリックの広報担当者は、客や地域社会の支援を受けて、同行の銀行部門と富裕層向け資産運用部門は口座開設や融資などの事業を継続していると説明した。
同行は1月に開いた投資家向け説明会で、株主リターンが複利で年率19.5%と、他の地銀の2倍に達すると胸を張っていた。富裕層客に照準を定めた戦略を説明し、同行から一戸建て住宅向けローンを借りている客の現金保有額は中央値で68万5000ドルと、平均的な米国民よりはるかに多額だと指摘した。
ファースト・リパブリックはまた、富裕層客を呼び込むためにローンに優遇金利を適用していると公言していた。
同行幹部のロバート・リー・ソーントン氏は昨年11月9日に投資家に対し、「お得意様向けの最優遇金利を利用していただくため、完全なデポジット・リレーションシップ(融資実行の条件として、その銀行に主要な預金口座を開設すること)を当行は望んでいる」と説明。「これが最も力を入れている点であり、これほどの急スピードで預金残高を増やすことができた一因だ」と述べた。
ニューヨーク市の記録によると、同行は2月にマンハッタンのコンドミニアムを買った客に期間30年超、1000万ドルのローンを当初金利4.6%で実行している。これに対し、バンク・オブ・アメリカのウェブサイトを見ると、同行が同じ地区の大型住宅ローンに適用している金利は現在5.5%だ。
セントルイス地区連銀のデータによると、30年物大型住宅ローン金利の全米平均に比べても、ファースト・リパブリックの金利は1―2%ポイント低い。
客の中にはザッカーバーグ氏も
ジェームス・ハーバート氏が1985年に創業したファースト・リパブリックは当初、低金利の大型融資に注力していた。2007年にはメリル・リンチに買収されたが、メリルを買収したバンク・オブ・アメリカに売却されて10年に再上場した。
フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏はカリフォルニア州パロアルトの住宅を購入するためにファースト・リパブリックから期間30年、595万ドルのローンを借りたことが、2012年のブルームバーグの記事で分かっている。
ファースト・リパブリックの宣伝資料を見ると、食品宅配アプリ企業、インスタカートの創業者であるアプールバ・メータ氏など、他にもそうそうたる面々が客に名を連ねる。
プライベート・エクイティー(PE)企業、スメル・エクイティー・パートナーズの共同創業者、ランディー・ランドルマン氏はロイターの取材に答え、同社はファースト・リパブリックの優遇金利を利用して成長するハイテク企業に投資するなどしたと説明。「(同行は)われわれのような企業に非常に高いレベルのサービスを提供してくれる」とし、自身は今でも忠実な客だと述べた。
ファースト・リパブリックは富裕層以外を対象とした事業も行っており、同行の資料によると事業向け融資の22%を学校と非営利組織向けが占めている。
金利上昇
ファースト・リパブリックの含み損が膨らみ始めたのは、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ対応のために急速な利上げに着手した時だった。
年次報告書によると、政府系証券など、主に満期保有目的の資産で構成される投資ポートフォリオの含み損(グロス)は、2021年末に5300万ドルだったのが、昨年末には48億ドルに膨れあがっていた。
政府が介入するか金利が低下するかしない限り、この含み損はファースト・リパブリックを買収する企業によって、もしくは同行自身が流動性確保のために売却することによって実現化せざるを得ない。
年次報告書では、融資ポートフォリオの半分以上は巨額ローンを中心とする一戸建て住宅向けローンで構成されており、他の銀行に売却することは困難だ。
ボストン大学ロースクールのパトリシア・ア・マッコイ教授は「富裕層客は、非常に低い金利で多額の住宅ローンを借りられることが一因でファースト・リパブリックに引きつけられた」と指摘。金利が大幅に上昇した今、こうした低金利の住宅ローン債権は潜在的な買い手企業にとって価値が大幅に下がっており、「大きな負担になる」と語った。
●米金融不安、銀行業界の関心は中期的な成長鈍化に移行 3/28
地銀2行が経営破綻し、小規模行で記録的な預金流出が起きた後、米銀行業界の関心は目先の危機から経済成長の鈍化という中期的な懸念へと移りつつある。
米連邦準備理事会(FRB)が24日発表したデータによると、シリコンバレー銀行が経営破綻した10日以降、国内小規模行の預金は1190億ドル減と過去最大の落ち込みを記録した。
ゴールドマン・サックスのアナリストチームは国内総生産(GDP)に触れたメモで、「米銀行システムのストレスが信用の伸びを鈍らせ、GDPの実質的成長率を押し下げる」と予想。首席エコノミストのジャン・ハッチウス氏は、顧客の預金保護に対する政府の姿勢が明確でないため、金融市場は依然として不安定な状態だと指摘した。
アポロ・グローバル・マネジメントの首席エコノミストのトーステン・スロク氏はノートで、顧客が資金を当座預金口座から政府の預金保険の付いた口座であるマネーマーケット預金口座に移動させており、消費支出は減少するだろうとの見通しを示した。
米ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は26日のCBSの番組で、最近の銀行セクターへのストレスとそれによって起こり得る信用収縮が、米経済を景気後退(リセッション)に近づけると警告した。
一方、バークレイズのアナリストは先週のノートに、金融環境の引き締まりは経済活動にとって大きな圧力になるが、「本格的な信用危機」が起きない限り破滅的な状況にはならないと書いた。
バンク・オブ・アメリカのアナリストはノートで「銀行システムへのストレスは引き続き強いが、安定の兆しもいくらかうかがえる。銀行向け緊急流動性供給の伸びは鈍化しているようだ」と分析した。
●円相場 小幅に値下がり 米の長期金利上昇を背景に  3/28
28日の東京外国為替市場は、アメリカやヨーロッパでの金融不安への警戒感からドルを売って円を買う動きが出て、日中は円高が進みましたが、夕方になるとアメリカの長期金利の上昇を背景に円安が進み、円相場は小幅に値下がりしています。
午後5時時点の円相場は、27日と比べて23銭円安ドル高の1ドル=131円15銭から17銭でした。
ユーロに対しては、27日と比べて1円17銭円安ユーロ高の1ユーロ=141円91銭から95銭でした。
ユーロはドルに対して1ユーロ=1.0820から21ドルでした。
市場関係者は「夕方に入るとアメリカで長期金利が上昇し、日米の金利差の拡大が意識されて円を売りドルを買う動きが強まった。投資家の間では日本時間の28日夜からアメリカ議会で行われる公聴会で、銀行の破綻についてFRBの幹部がどのように発言するか注目されている」と話しています。
●ニューヨーク株式市場 3営業日続伸 金融不安やわらぎ買い注文  3/28
週明け27日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3営業日続伸した。
経営破綻したアメリカのシリコンバレー銀行を中堅銀行のファースト・シチズンズ銀行が買収すると発表したことを受け、金融システムに対する投資家の不安が和らぎ、買い注文が優勢となった。
ダウ平均は前週末比194ドル55セント高の3万2432ドル08セントで取引を終えたハイテク株主体のナスダック総合指数は反落し、55・12ポイント安の1万1768・84だった。
●“リーマンショック”の2倍超え 米・中小銀行で約15兆円の預金流出 3/28
3月10日のシリコンバレー銀行の経営破綻に端を発し、世界の金融市場に広がった信用不安。アメリカで2つの銀行が破綻した15日までの一週間に、中小規模の銀行全体で1200億ドル、日本円で約15兆7000億円もの預金が流出したことがFRB(=連邦準備制度理事会)の統計で明らかになった。
これは過去最大の流出額で、リーマンショックに繋がるサブプライムローン問題が浮上した2007年3月の2倍を超える額だ。相次ぐ破綻で預金者の不安が高まり、預金を引き出して大手銀行などに移す動きが広がったためとみられている。
バイデン大統領は、沈静化に躍起になっている。
「事態が落ち着くまで少し時間がかかると思いますが、大混乱になるようなことは何もないでしょう。しかし、この件に関して不安を抱えていることは理解しています。中堅銀行は生き残らなければなりません」
バイデン大統領は、金融不安が続くと判断した場合、引き続き特例的な預金保護の措置を講じる考えを示した。 

 

●アメリカ発「金融危機」でも関係なし!日本株「超・絶好調銘柄」の正体 3/29
世界の中央銀行の利上げによって金融危機が広がり、今後も波乱相場が予想される。
デフレに見舞われてきた日本では、急激なインフレが進行中。勤労世代には未知のインフレは、円安と相まって日本経済を窮地に追い込んだ。
ところが、最悪な環境の中でもそれをもろともせず、成長を続ける銘柄がある。現在の日本株を詳しく分析したストラテジストの大川智宏氏が厳選した「全18銘柄」を一挙公開する! 
インフレに勝ち続ける企業たち
具体的にどのような方法で銘柄を抽出していくべきだろうか。今回は、シンプルに「実質売上高成長率」と「マージン改善率」2つの要素を用い、その成長力の強さを判定基準としたい。
まず、実質売上高成長率についてだが、その名の通り、売上高成長率を実質化したものを指標として定義する。具体的には、売上高を消費者物価指数で除したものを実質売上高とし、その対前年比成長率を計算する。
   図:実質売上高成長率の考え方
この数字がプラスになっていれば、物価の上昇を上回る売上高の成長が達成されたことを意味する。つまり、消費者物価の騰落、インフレの影響を排除した売上高の成長率が可視化されるのだ。
では、実際に日本株市場の実質売上高成長率の推移を見てみよう。業種特性による違いを見るため、内需・ディフェンシブ業種と、外需・景気敏感業種のそれぞれを集計して別々に観察している。
   図:内需・外需業種の実質売上高成長率の推移
基本的には、外需・景気敏感業種の方が成長の加速・減速の振れ幅は大きく、内需・ディフェンシブにやや先行するかのような傾向がある。
そして、無視できない動きとしては、やはり物価が上昇したあとに成長率の鈍化が見られる点だ。足元では、コロナ禍からの回復を経て成長自体は達成されたものの、物価の急騰を経て外需・景気敏感業種はすでに成長の勢いの鈍化が見られ始めている。
過去の例に倣えば、内需・ディフェンシブ業種も早晩に成長は頭打ちとなる可能性が高いと考えた方がよさそうだ。
ダメージの大きな業態
続いては、利益率(マージン)の成長率についてだ。こちらは、基本的な事項なので詳しい説明は割愛するが、成長率の計測イメージは以下の図のようになる。
   図:マージン成長率の考え方
マージンについては、少なくとも理論(数式)的にはインフレの影響を受けない。なぜなら、分子の純利益、分母の売上高の双方にインフレの要素が加わって相殺されるため、インフレ発生前後の金銭の価値は等しくなるからだ。
しかし、当然ながら現実はそう単純ではない。
コストの増加を販売価格に素直に転嫁するのが困難な場合もあり、今までと同じようにビジネスをしていても、名目上の売上高の増加を上回る形で原材料や人件費などが高騰すれば、言うまでもなくマージンは悪化してしまう。
そのため、難しいことは抜きにして、マージンの対前年比の成長率(改善度合い)を見れば、インフレ環境下であっても企業努力によって収益性の改善を達成してきた素晴らしい企業であるということになる。
そして、同様に内需・ディフェンシブ業種と外需・景気敏感業種の双方の推移を見たものが、以下の図である。
   図:内需・外需業種のマージン成長率の推移
こちらも、振れ幅は外需・景気敏感業種の方が大きいが、内需・ディフェンシブ業種の推移を消費者物価指数と見比べると、明らかに真逆の動きをしていることが分かる。当然ではあるが、国内の物価が高騰すれば、直接的に内需の利益率の悪化に連動するようだ。また、売上高成長率と異なり、タイムラグなども見られないことも特徴的である。
何にしても、物価の高騰は内需系企業にとって深刻な悪影響をもたらしているのは間違いないだろう。
そして、最終的に、この2つの要素を用いて、インフレ耐性の高い銘柄を定量的に抽出していきたい。
2159銘柄から厳選した「お宝」は18銘柄
方法はいろいろあると思うが、今回は「インフレ、デフレに関係なく成長を達成できる銘柄」にフォーカスしていく。
というのも、足元はインフレの急伸による悪影響が懸念されるが、そういった状況が長期化すれば、結局のところ物価は頭打ちとなって景気の後退局面に移行する可能性が高いからだ。
中長期の投資の観点で見れば、インフレ期でもデフレ期でも、安定して実質的な売上高が成長し、マージンの改善が達成されるほうが望ましいといえる。景気が折れた瞬間にデフレとともに失速してしまう企業を保有するのは、現在の世界経済の状況を考えるとリスクが高いだろう。
具体的には、まず東証プライム指数構成銘柄について、過去10年間の月次の実質売上高成長率、および純利益マージン成長率を算出する。
数字は実績値だ。無論、実績の売上高および利益の数字は四半期決算時にしか更新されないが、消費者物価指数の値は毎月公表されるため、月次による計測としている。そして、それぞれの指標について、過去10年間のうちで成長率の値がプラスであった月の割合が高かった銘柄を抽出すればよい。
今回は、便宜上で両指標のプラス月の割合が80%以上という条件を満たす銘柄を抽出している。
これを満たした銘柄は、東証プライム市場に上場している2159銘柄のうちで、わずかに18銘柄のみであった。
いよいよ公開!「超絶優良銘柄」
   図:実質売上高成長率とマージン成長率 高勝率銘柄
顔ぶれとしては内需・ディフェンシブの業種が多く、特に情報・通信業に属する銘柄が目立っている。
システムの保守運用やサブスクリプション型のビジネスなどは景気に左右されにくく、インフレ環境下でも価格転嫁がしやすいことなどが起因しているかもしれない。
今後、国内のインフレの進行と世界景気の後退というリスクが手を取って日本株市場を襲う中で、我が道を進んで成長と利益率の向上を達成できる銘柄は、防御資産として有能である可能性が高いといえそうだ。
さらに連載記事『加速するインフレ、止まらない金利上昇…「植田和男・日銀総裁誕生」で株式市場におきた「重大変化」の見逃せない実態』では、日本を襲うインフレとそれに対応する銘柄について詳しく紹介している。
●28日の米国市場 米国株式市場は下落、金融危機への不安がくすぶる 3/29
NY株式:米国株式市場は下落、金融危機への不安がくすぶる
ダウ平均は37.83ドル安の32,394.25ドル、ナスダックは52.75 ポイント安の11,716.08で取引を終了した。
破綻した地銀を巡る上院銀行委員会での金融監督当局指導者による証言を控えた警戒感から売りが先行。その後発表された3月消費者信頼感指数が予想外に上昇したためダウ平均は一時プラス圏を回復。一方、長期金利の上昇を嫌気しハイテクは終日軟調に推移。また、終盤にかけて、金融危機不安がくすぶり、一時上昇していた地銀セクターが再び下落に転じて相場全体を押し下げ、主要株価指数は下落して終了した。セクター別ではエネルギー、消費者サービスが上昇した一方、ヘルスケア機器・サービスが下落。
調味料メーカーのマコーミック(MKC)は値上げが奏功し第1四半期決算で売上3%増を計上、さらに、第2四半期の伸びが加速するとの楽観的な見通しを示し、買われた。エネルギー資源会社のオキシデンタル・ペトロリアム(OXY)は著名投資家のバフェット氏運営の保険バークシャ・ハサウェィ(BRK)が同社株を追加で購入したことが当局への届け出で明らかになり上昇。ドラッグストアチェーン運営するウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(WBA)は四半期決算で新型コロナワクチンや検査キット売り上げが減少したものの、調剤などの強い伸びが相殺し調整後の1株利益が予想を上回ったほか、通期の見通しが好感され、上昇した。中国のテクノロジー、アリババ(BABA)は電子商取引、メディア、クラウドなど6つの主要部門に分割、独自の資金調達、新規株式公開(IPO)などの可能性も含めた事業改革を明らかにし、大幅高。
一方、後払い決済のプラットフォームを提供するアファーム(AFRM)は携帯端末のアップル(AAPL)が同サービスを開始することを発表したため競争激化懸念に売られた。地銀のファースト・リパブリック(FRC)は経営難への懸念が払しょくせずに下落。配車サービスのリフト(LYFT)は最高経営責任者(CEO)の交代を発表し一時買われたが、新CEOが「身売りはない」と発表すると売られた。
取引終了後に四半期決算を発表したヨガアパレルのルルレモン(LULU)は調整後の1株利益や見通しが予想を上回り、時間外取引で上昇している。また、半導体のマイクロンテクノロジー(MU)も在庫水準の回復が好感され上昇している。
NY為替:米CB3月消費者信頼感指数は予想外の改善、ドルは下げ渋る
28日のニューヨーク外為市場でドル・円は、130円41銭まで下落したのち、131円20銭まで上昇も、130円89銭へ再び反落して引けた。米金利の低下に伴うドル売りが優勢となったのち、米1月FHFA住宅価格指数が予想外のプラスに改善したほか、米3月消費者信頼感指数も2月から低下予想に反し上昇したため金利が上昇に転じ、ドル買いが再燃した。その後、経営難が懸念されている地銀のファースト・リパブリック銀など地銀株価が再び下落に転じると金融混乱への懸念が再燃しリスク回避の円買いが強まった。
ユーロ・ドルは、1.0816ドルまで下落後、1.0849ドルまで上昇して1.0846ドルで引けた。ユーロ・円は141円43銭へ下落後、142円10銭まで反発。ポンド・ドルは、1.2300ドルまで下落後、1.2349ドルまで上昇した。ドル・スイスは、0.9170フランから0.9223フランまで上昇した。
NY原油:続伸で73.20ドル、ドル安を意識した買いが入る
NY原油先物5月限は続伸(NYMEX原油5月限終値:73.20 ↑0.39)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物5月限は、前営業日比0.39ドルの73.20ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは72.19ドル-73.93ドル。米国市場の序盤にかけて72.19ドルまで下げたものの、ドル安を意識して73.93ドルまで反発。ただ、その後は上げ渋り、通常取引終了後の時間外取引では主に73ドル台で推移した。
●世界的な金融危機で中国の地銀にスポットライトが当たる 3/29
世界的な銀行危機により、経済の急減速を受け、苦境にある中国の地方銀行は新たな監視下に置かれている。しかし、北京の最近の動きは投資家に安心感を与えるだろう。
米国と同様、中国は100兆元(1,900兆円)以上の資産を抱える中小地方銀行に問題を抱えている。当局が何年もかけて地方銀行のリスクを抑えようと努力してきたが、シリコンバレーバンク(SVB)の破綻や、最近多くの中小銀行が発行した債券の償還オプションの使用を控えたことから、再び懸念が高まっている。
投資家に動揺を与えているのは、パンデミック(世界的大流行)の前に、北京が救済措置から目をそらし、地元金融機関の宝尚銀行を約20年ぶりに中国の銀行として倒産させたことを思い出す。
しかし、アナリストによれば、中国は長年にわたるコビド規制の打撃を受けた後、成長を復活させようとしているため、モラルハザードの懸念よりも安定性を優先し、銀行の破綻を防ぐために救済や合併を承認する傾向が強いという。
フィッチ・レーティングスのシニア・ディレクターで中国銀行格付けの責任者であるグレース・ウーは、「中国のシステムがEUや米国の銀行システムと大きく異なる点は、政府支援のレベルです」と述べている。「フィッチ・レーティングスのシニア・ディレクターで中国銀行格付けの責任者であるグレース・ウーは、次のように述べています。「世界の他の地域で見られるような、本土当局による規制介入の例や証拠は確かにあります」
習近平国家主席も最近、金融システムの監視を見直し、常識を覆す3期目を迎えるにあたり、金融システムを共産党の厳しい直接管理下に置くことになった。
北京が救済の準備を進めているもう一つの手がかりは、昨年、金融安定化基金を設立し、第1回目の資金調達ラウンドで646億元を調達したことである。北京はまた、2020年以降、地方政府に対し、中小銀行の資本増強に使用される5,500億元の債券を発行するよう促している。
これは、2010年代に中国東北部の小規模金融機関を救済した際のアプローチに戻ることになる。
Gavekal Dragonomicsのアナリスト、Wei Heは「規制システムの見直しは、金融規律の徹底とモラルハザードの回避という中央銀行の最近の目標からかなり変化している」と指摘した。
経済成長が回復すれば、地方銀行の収益も回復するはずです。北京はここ数年、地方の金融機関を一掃し、資本を増強させており、その成果は上がっているという。 中国人民銀行は、中国国内の約300の銀行がリスクを抱えていると推定しており、2018年の420から減少している。
それでも、中国人民銀行(PBOC)の金融安定局の孫天g局長は、1月の解説で、リスクを紛らわすための銀行による「偽」の増資や隠蔽の可能性を警告し、高リスクの評価に近い金融機関は、さらなる悪化を防ぐために厳しく監視されると述べている。
地方銀行の弱点は、資産面と負債面の両方にある。競争力のない地元企業や政府のペットプロジェクトに多額の融資を行い、不良債権化を招いた。負債面では、安定した預金資金を集めることができず、より飛ばしやすい資本市場からの借り入れに頼っている。
パンデミックはその状況をさらに悪化させた。中国の中小金融機関は、地方政府の債務や中小企業向け融資により多くのエクスポージャーを有しており、不動産市場の崩壊やゼロ・コロナ政策による経済の低迷で最も影響を受けている。また、金利の低下により純利鞘が圧迫され、財政的にも苦境に立たされている。
2012年から2016年にかけての景気後退期において、小規模な地方銀行は、不良債権を処理し生き残るためにそれ以前の時期を過ごした後、着実にリスクを高めていった。ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのアナリスト、シュウジン・チェンは、「コロナによる景気低迷の後、小規模銀行の健全性が悪化したため、同様のパターンが今、繰り広げられている」と述べた。
「かなり多くの企業の財務状況が悪化し、おそらく融資の支払いも滞ったため、中小の地方銀行はより脆弱になっている」とチェンは言う。
今月に入り、煙台農村商業銀行や安徽太和農村商業銀行など、いくつかの銀行がバーゼルV適格Tier2証券の償還オプションを行使しないことを選択したため、こうした脆弱性が表面化してきている。
その前には、九江銀行が市場の暴落を受けて償還を見送る決定を撤回した。資産の質に対する市場の懸念と重なる頻繁な償還停止は、地方銀行の資金調達コストを引き上げている。
国金証券のリサーチノートによると、2017年から2022年にかけて、農村部の金融業者を中心とする約44の小規模銀行が、Tier2債の償還を行わないことを選択したそうだ。この債券は、自己資本比率を維持するための重要な手段であり、通常、10年から15年という長い期間と早期償還が可能な期日を持つ債券だ。投資家は、発行体が最初のコール日に債券を償還することを期待している。
ポールソン研究所のシンクタンク「マクロポロ」によると、地域金融機関の平均的な資産自己資本比率は30を超え、世界金融危機前の米国の投資銀行とほぼ同じレバレッジになっていると推定している。これに対し、中国の大手国有金融機関は10〜12%程度である。
香港大学ビジネススクールのZhiwu Chen教授(金融)は、「もし経済が意味のあるミニブームにならなければ、より多くの地方銀行が大きなプレッシャーにさらされることになるだろう」と述べた。
北京のアプローチは、依然として金融の安定性に重点を置いており、ワシントンのSVBに対する処置と強い反響があった。預金者を保護するために預金保険の限度額が引き上げられ、一方で株式保有者はTier2債の保有者とともに一掃された。ただし、宝祥の大口預金者は10%の減額となったが、SVBの預金はすべて丸抱えされた。
経営難に陥った銀行に対する北京の新しいアプローチがどのようなものか、2月に財務リストラを発表した地域金融機関、金州銀行がその試金石となるかもしれない。錦州銀行は、中国で最も成長が遅れている地域の一つである遼寧省に拠点を置いている。
このような試みは、5年足らずで2回目だった。2019年には、中国工商銀行を含む中国の国有金融会社3社が、破綻しかけた錦州銀行の株式取得に乗り出した。
規制当局はこれまで、リスクの高い小規模銀行に対処するため、統合を奨励してきた。しかし、近年合併した地方銀行は限られており、合併した地方銀行は、一握りの弱い地方銀行の資産と負債の組み合わせを解きほぐすという追加の課題に対処している。
コンサルタント会社トリビウムの市場調査ディレクターであるディニー・マクマホンは、「銀行の合併は、非常に政治的であるため、常に難しい」と述べている。「どの地方自治体も、自分たちの管轄内に銀行を置きたいと考えています。そのため、1つの州内に多くの銀行を集めて新しい銀行を設立する場合、本社がどこにあるのか、税金はどこに納められるのかが問題になります。本当の意味での敗者と勝者が生まれることになるのです」
●銀行不安で 「華僑系富豪が香港・シンガポールに資産移転」情報も 3/29
銀行に対する信用不安はどこまで拡大するのか。FRB(連邦準備制度理事会)は3月24日、9〜15日までの1週間で米国銀行全体の預金額が984億ドル減少したと発表した。シリコンバレーバンク、シグネチャーバンクが破綻、ファーストパブリックバンクへの支援策が打ち出されるなど米国の一部の銀行に対する信用不安が高まったことで、経営基盤の弱い中小金融機関から1200億ドルの預金が引き出された。
欧州ではクレディ・スイスが経営不振に陥り19日、UBSによって救済されることになったが、国際的な自己資本比率規制(バーゼルIII)において自己資本(Tier1)に相当する同行発行のAT1債(Additional Tier 1債)が無価値となった。銀行の財務安全性に対する信頼が損なわれかねない事件であり、それが欧州大手行であるドイツ銀行の経営不安につながり、24日の株価は8.5%安と大きく売り込まれた。
昨年春先をピークに緩やかに減っていた米国商業銀行の預金額が、秋口から減少ペースを加速させている。昨年6月から量的引き締めが開始されたが、それに急ピッチの利上げが重なった。銀行の収益構造を考えると、金利上昇時は平均預金金利よりも平均貸出金利の上昇の方が早いため、一般に利上げは業績にプラスに寄与する。しかし、それも行き過ぎてしまうと景気悪化、不良債権発生リスクを高めてしまう。銀行経営は預金者の厚い信頼の上に成り立っている。短期で調達した資金を長期で運用するといった収益モデルである以上、預金引き出しが顕著になれば途端に経営は危機に陥る。
今回のグローバル金融機関の経営不安は米国が発信源であり、米国政府の適切な対応を期待したいところだ。
預金者の立場から考えると、銀行預金すらリスクを意識しなければならないのなら、資産をより分散させるしかない。最近の金価格や、米国債価格の上昇(金利の下落)にはこうした預金者のリスク回避行動が背景にあると考えられる。
これまで最も安全だと考えられていた米国や、スイスなどの銀行において信用不安が発生している以上、富裕層は水面下で預金を他国に移そうとしているはずだ。
米国、スイスは資産運用のうえで安全な国ではない?
この点について、中国本土の複数のマスコミが先週、「海外の華僑が大量の資金を香港、あるいはシンガポールなどに移している」と伝えている。
3月23日付の「経済観察報」によると、「この1か月の間に、華人の資産だけで、米国、スイスからそれぞれ760億ドル、1650億ドルの資金が流出している。スイスの銀行については、世界の富豪、特に中国の富豪が数百万ドル単位で預金を香港、シンガポールを中心に、カナダ、オーストラリアなどの銀行に移している」と伝えている。
米国は第二次世界大戦当時、米国在住の日本人を収容し、その資産を没収した。また、スイスは中立国でありながら昨年2月、ロシアに対する制裁パッケージを適用した。米国との覇権争いが激化している中国を祖国に持ったり、中国籍であったりする華僑系富豪にとって米国、スイスはもはや資産運用上、決して安全な国とは思えないのであろう。
もっとも、こうした預金流出に関する情報は現在のところ、本土筋からしか出てきておらず、それが事実かどうか断定はできない。正しいかどうか確かめるためには、各国の金融当局、香港であれば金融管理局が3月の統計を発表する2か月後まで待つほかない。とはいえ、誰もが正確な情報を知り得たときにはリスクを回避しようにも、高いリターンを狙うにも、既に手遅れになっている可能性が高い。
資産運用において、ハイリスクとハイリターンは表裏一体だ。しばらくの間は、リスク回避に重心を置きつつ、玉石混交のマスコミ情報を大まかにチェックし、各国の銀行セクターの株価、金先物価格、為替などの値動きを総合的に注意深く見守りながら最悪期の通過時期を淡々と探るしかなさそうだ。
●欧米金融不安、危機につながる4つの現象 首相の解散判断に影響も  3/29
米欧金融不安が世界的な金融危機に発展するのかどうか、新年度入りを前に不透明感が払しょくできていない。米連邦準備理事会(FRB)が5月に一段の利上げに踏み切る可能性があり、債券価格の下落が見込まれるだけでなく、主要国の金融セクターにどの程度の不良債権があるのかはっきりしないためだ。
もし、新たな金融不安がどこかで勃発した場合、連鎖するリスクが高まっており、最悪の場合は日本が議長国を務める主要7カ国首脳会議(広島サミット)でのメーンテーマが「金融危機回避」になる可能性すら否定できない。サミット後の衆院解散を狙っているとの観測が浮上している岸田文雄首相にとって、金融危機への発展が現実になれば、政治的に大きな逆風となりそうだ。
米中小金融機関、1190億ドルの預金流出
今回の米欧金融不安には、いくつかの特徴的な現象が発生している。
1つ目は、米中小金融機関から大規模な資金シフトが発生したことだ。FRBが24日に公表した週次統計によると、シリコンバレー銀行(SVB)の破綻後を含む9─15日の1週間に米国の中小銀行から過去最大となる1190億ドルの預金が流出した。
22日のCOLUMNで指摘したように、SNSを経由した情報拡散の速さとネットバンキングによる瞬時の預金引き出しは「デジタル・バンクラン」と呼ぶべき現象を生み出し、いったん引き出しが激化すると、それを止めることは政府・中銀にとって至難の業となる。
不明なままのクレディ・スイスの損失額
2つ目は、UBSが30億スイスフラン(約32億3000万ドル)で買収することになったクレディ・スイスの問題だ。CSの損失がどの金融取引によって発生したのか、損失の総額、債務超過だったのかどうかなどに「ふたをした」ままで、他の欧州大手銀への懸念を逆に呼び起こしたことが挙げられる。
20カ国・地域(G20)の金融当局でつくる金融安定理事会(FSB)が28日、米・スイスなどの当局が最近実施した経営不振の銀行に対する救済措置から得た教訓を検証すると発表。声明の中で「引き続き警戒を怠らず、世界の金融システムの耐性を維持する政策措置を講じる用意がある」などと表明したのも、CS問題が他に波及するリスクが高いことを世界の当局が強く意識した結果だと指摘したい。
米欧の急激な利上げ、大手銀も含み損発生
3つ目は、長期間に及んだ世界的な超低金利政策の後の急激な利上げによって、中小金融機関から米欧日の大手銀行に至るまで、マネーを安全な「場所」にシフトさせることが難しかったという構造的な問題があるということだ。
世界的なパンデミックの発生を挟んで長期化した世界的超緩和策の結果、グローバルに「債券バブル」が発生し、低格付け商品にもマネーが流入して少しでも高い利回りを享受しようという行動が常態化していた。
そこに急激な利上げが実施されると、無傷でいられる金融機関は事実上、皆無ということになったのではないか。FRBは合計で475bpの利上げを実施しており、米国債から低格付けの社債にいたるまで保有債券の含み損は急激に膨張していたはずだ。
米金融システムの周辺部に位置するSVBが、最初に含み損を実現損にすることを強いられ、過小資本となったことが知られて経営破綻に陥ったが、債券バブルが崩壊し、含み損が膨張している構図は、大手銀といえども大同小異のはずだ。
貸し渋りから不良債権急増、危機へのトリガーに
4つ目は、3つ目の項目で指摘した現象が、金融機関の貸し渋りにつながり、融資先の信用格付けが悪化し、金融機関の不良債権が急増するステップに入るリスクが増大することだ。
FRBのジェファーソン理事は27日、中小銀行から大手銀への預金流出は、地域金融機関や地銀への依存度が高い中小企業にとりわけ大きな影響を与える可能性があるとの見方を表明。4つ目の段階に入るリスクを公式に認めたかたちだ。
このフェーズに入ると、2つの現象が新たに発生すると予想される。1つは、実体経済の悪化であり、もう1つはローン担保証券(CLO)の劣化に飛び火するという事態だ。
日本にとっては、対米輸出の減少とCLOを保有する邦銀の財務悪化を招くという大きな懸念材料となって跳ね返ってくる。
4つ目の段階に入りそうだと分かった段階で、「リーマンショック」の再来ではないかとの観測が、グローバルマーケットを駆け巡ることになると予想される。
急速な円高なら、危機の予兆
東京市場では、米市場におけるCLOの劣化の兆しや、欧州におけるCSの次に「危ない銀行」探しの実態について、どうしても情報の伝ぱが遅れがちになるというのが、リーマンショックやその他の金融不安で経験してきたことだ。
筆者は今回、米欧での危機の進展を迅速にキャッチする方法があると考える。ドル/円の動向だ。足元では130─131円台での推移だが、原因がはっきりしないまま120円台半ばから120円割れを試す展開になった局面では、米欧金融不安が危機へと歩を進めそうな「何か」が一部の参加者に探知されたとみた方がよいと考える。
広島サミットと金融不安の行方
今のところ、その気配は感じられないが、もし、金融危機へとつながる新たな局面が4月以降のどこかで到来した場合、5月の広島サミットはウクライナ問題だけでなく、世界的金融不安が主要テーマになる可能性も浮上しそうだ。
このケースは、大幅な賃上げをバックに景気回復を図ろうとしている日本経済にとって大きな打撃となるが、政治的にも岸田首相の目算が外れることになると指摘したい。
岸田首相は28日、与党内で浮上する早期衆院解散論に関し「統一地方選と衆参補欠選挙、それと合わせて先送りできない課題に取り組む。今はそれしか考えていない」と述べた。ただ、国内報道各社は、与党内に広島サミット終了後の6月に衆院を解散し、総選挙を実施するシナリオの実現性が足元で高まっていると伝えている。
サミットでの実績をバックに衆院を解散すれば、選挙準備の遅れている野党の対応も手伝って与党が勝利できるとの思惑が早期解散論の裏にありそうだ。
だが、米欧金融不安がこれまで指摘したような要因によって顕在化し、金融危機に発展しそうになれば「政局よりも危機対応優先」の声が国民から巻き起こり、解散権が当面、封印される展開になるのではないか。
岸田首相の行く手を遮る存在があるとすれが、それは世界的な金融危機のリスクであると指摘したい。 

 

●クレディ・スイス「脱税容認してない」 米議会報告受け 3/30
米連邦議会上院の財政委員会が29日、スイス金融大手クレディ・スイスが米国の富裕層の脱税ほう助を継続していたと指摘したのを受け、同銀行は日本経済新聞に対し「脱税を容認していない。当局と積極的に協力している」と述べた。財政委はクレディ・スイスと米司法省の2014年の和解に同銀行が違反したと指摘しており、司法省の動向が焦点となる。
クレディ・スイスは14年、数千人の米国人の脱税をほう助したことを認め、米メディアによると26億ドルの和解金を司法省などに支払った。29日公表の財政委の調査では、和解以降も23件の富裕層の申告漏れ口座が見つかり、隠蔽された資産総額は7億ドル以上になる。財政委はクレディ・スイスが、今後は脱税ほう助をしないという合意に違反したと糾弾している。
クレディ・スイスの広報担当者は「報告書は10年前のレガシー(遺産)が記載されている」と述べた。和解以来「大規模な(脱税対策の)強化を実施した」と強調した。「残されたレガシーな行動や懸念に対処するため、司法省を含む当局と連携している」と述べた。詳細は明らかにしていないが、脱税ほう助の継続を許すような体制ではないとの主張だ。
スイス金融大手UBSは19日、経営不安に陥ったクレディ・スイスを救済買収することで合意した。UBSの広報担当者は「買収の審査の過程で、未解決の訴訟や調査案件の精査をした」と述べた。報告書では、23件の申告漏れ口座のうち、13件は報告書公表の数日前に財政委に開示されたとしている。UBSの指摘を受けて開示した可能性がある。
クレディ・スイスの元銀行員は21年に、同銀行の脱税ほう助行為が続いていることを米司法省や日本の国税庁にあたる米内国歳入庁(IRS)に内部告発した。財政委はこうした内部告発などを精査した。告発者の代理人を務める弁護士のジェフリー・ニーマン氏は29日、「財政委がクレディ・スイスの継続的な不正を明らかにしたことに感謝する」と述べた。
ニーマン氏によると、14年にクレディ・スイスは当初39億ドルの罰金を科されていたが、脱税ほう助を認めたことで26億ドルに減額となり和解した。「合意違反がわかり、少なくとも(減額された分の)13億ドルを追加で米当局に支払う必要がある」と強調した。
財政委は「司法省はクレディ・スイスに対する甘い監視を改め、同銀行が14年の合意を順守しているか厳しく精査し、違反に対して責任を負わせる必要がある」として、司法当局に調査を要求している。司法当局の捜査次第で、クレディ・スイスは巨額の罰金を科される可能性がある。
●銀行危機による米国の信用リスクは限定的=ムーディーズ  3/30
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは29日、米銀行業界における最近の混乱が長引かない限り、米国のソブリン信用プロファイルに対するリスクは限定的との見方を示した。
シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻は、米銀行業界の信用不安に火を付け、当局が信頼回復のための緊急対策を打ち出したにもかかわらず、多くの地銀で預金流出につながった。
ムーディーズは「過去2週間における米地銀の経営環境の急速な悪化は、米国のソブリン信用プロファイルにこれまで織り込んでいたよりも高い銀行業界リスクを示している」と指摘。
現在の銀行業界の混乱からソブリンに重大かつ直接的な財政コストがかかるとは予想していないとしながらも、混乱が長引けば、米国の経済力や財政力を弱める可能性があると強調した。
同社は米国の格付けを「Aaa」、見通しは「安定的」としている。
同社は今月、米銀行システムの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。
●ユーロ圏への波及否定 破綻米銀は「特有の問題」―欧州安定機構トップ 3/30
ユーロ圏の債務危機対策基金である欧州安定機構(ESM)のグラメーニャ専務理事は29日までに、東京都内で時事通信のインタビューに応じ、経営破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)の問題は「特有」だとして、ユーロ圏への波及リスクを否定した。信用不安の一因となった債券市場の混乱の中でも、日本はESMの債券を相当額購入したとして、欧州の金融安定に日本が果たす役割の重要性を強調した。
グラメーニャ氏はSVBについて、顧客が新興企業に偏っていた上、金融機関の規制は欧州と米国で異なるため、「欧州の銀行のような流動性がなかった」と指摘。欧州では経営危機に陥ったスイス金融大手クレディ・スイスが同業のUBSに買収されることが決まり、ドイツ最大手のドイツ銀行の株価も一時急落した。同氏は「ドイツ銀は過去10年、銀行の健全性改善に向けた規制の対象になってきた」ことから、危機的状況にはないと明言した。
SVBは、金利上昇に伴う債券価格の下落で、保有債券に多額の含み損を抱えたことが破綻の引き金となった。ESMも資金調達のため債券を発行しているが、グラメーニャ氏は今年2月の起債時に「日本が相当な額を買い入れた」と説明。欧州債務危機がピークだった2011年、日本政府がESM前身組織による初めての起債時に2割を引き受けたことにも触れ、「日本の投資家とはそれ以降、緊密な関係を保ってきた」と語った。
債務危機時には、国債利回りの急激な上昇で南欧諸国などの財政が悪化した。グラメーニャ氏は「国債の借換期間は平均で7〜8年。各国はまだ過去の低金利の恩恵を受けられている」とし、余裕があるうちに、危機再来を防ぐ努力をすべきだと訴えた。
●3兆ドルの日銀黒田レガシーが逆回転の恐れ、世界の金融市場に衝撃も 3/30
日本銀行の黒田東彦総裁は3兆4000億ドル(約451兆円)に上る日本の資金を投資の世界に放ち、世界市場の流れを変えた。植田和男次期総裁は今そのレガシーを壊し、世界経済に衝撃を与えかねないマネーの逆回転を引き起こす準備を整えるとみられている。
日銀の重要なリーダーシップ交代を約1週間後に控えて投資家は、10年にわたり預金者を困らせ、多額の資金を海外に流出させてきた超低金利の終わりに向けて準備を進めている。黒田総裁が2016年に債券利回りの抑制に動いた後、日本からの資金流出は加速し、日本の経済規模の3分の2を上回る海外投資の山が築かれた。
こうした投資は植田次期総裁の下で逆回転する恐れがある。金利上昇が銀行セクターを揺るがし金融の安定を脅かしている中、植田氏は世界で最も大胆な金融緩和の実験を終わらせる以外の選択肢をほとんど持たないかもしれないが、リスクは甚大だ。日本の投資家は米国債の最大の海外保有者で、ブラジルの債券からローン担保証券まであらゆるものに投資しているからだ。
日本の金利が上昇すれば、1年にわたる米国の積極利上げと新たな信用収縮の脅威から既に揺らいでいる世界の債券市場の変動が増幅されるリスクがある。昨今の欧米銀行セクターの危機を受け、日本の金融機関に向けられる目が日銀の金融引き締めにより厳しくなる可能性は高い。
ブラックロック・インベストメント・インスティテュートの責任者で元カナダ中央銀行副総裁のジャン・ボアバン氏は、日本の政策変更は「評価されていない追加的な力」であり、それが起こるとき「三大経済圏がそろって何らかの形でバランスシートを縮小し、金融引き締めを行っているだろう」と指摘。「価格をコントロールし、そのグリップを緩めるとき、それは挑戦的で厄介な可能性がある。われわれは次に何が起こるかが大きな問題と考えている」と話す。
逆回転は既に進行している。日銀が金融政策の正常化に動くとの思惑から円債利回りが上昇する中、日本の投資家は昨年、外国債券を過去最大規模で売り越した。12月には黒田総裁がイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)をわずかに緩めたことが火に油を注ぐ形となり、日本国債が急落。円は急騰し、米国債からオーストラリア・ドルまであらゆる資産を揺さぶった。
世界最大の上場ヘッジファンド運用会社マン・グループ傘下のマンGLGでポートフォリオマネジャーを務めるジェフリー・アサートン氏は「日本への資金回帰はすでに始まっている」とし、「彼らが自国に資金を戻し、為替リスクをとらないことは理にかなう」と語った。同氏が運用する日本コアアルファ・株式ファンドの過去1年間のパフォーマンスは、競合ファンドの94%を上回る。
国内回帰
銀行セクターの混乱により、政策当局が金融の安定を優先させる可能性が高まったことで、日銀の政策変更に対する思惑はこのところ後退しているが、緊張が和らげば、政策修正が再び話題になると市場参加者は予想している。
邦銀への影響は、SVBショックによる信用危機に耐えうる4つの理由
戦後初の学者出身の日銀トップとなる植田氏は、今年後半に金融政策の引き締めを加速させるとみられており、そこにはYCCのさらなる修正や巨額の国債買い入れプログラムの巻き戻しが含まれる可能性がある。
黒田総裁が10年前に量的・質的金融緩和に踏み切って以来、日銀は465兆円もの日本国債を買い上げ、利回りを押し下げるとともに国債市場に未曽有のゆがみをもたらした。その結果、国内投資家は同期間に206兆円相当の国債を売却し、より高いリターンを国外に求めた。
対外投資へのシフトは劇的で、日本の投資家は米国債の最大の海外保有者になったほか、オーストラリアやオランダの債券の約1割を保有することになった。ブルームバーグの試算によると、ニュージーランドの債券の8%、ブラジル債の7%も日本の投資家が保有する。
日本の投資家は13年4月以降、世界の株式にも54兆1000億円を投じた。保有比率は米国、オランダ、シンガポール、英国の株式市場の1〜2%に相当する。
日本の超低金利により、円は昨年、32年ぶり安値に下落し、金利収入を求めるキャリートレーダーがブラジル・レアルからインドネシア・ルピアまでさまざまな通貨で運用する際の資金調達通貨として最良の選択肢になってきた。
元ゴールドマン・サックス・グループのチーフエコノミスト、ジム・オニール氏は黒田緩和が「ほぼ間違いなく大幅な円安と日本の債券市場の著しい機能不全に寄与した」とし、次期総裁が正常化を進めれば、「黒田時代に起きたことの多くが、部分的にあるいは完全に反転するだろう」と指摘した。ただ、今回の銀行危機を受けて、日銀はより慎重に動くことになるかもしれないと付け加えた。
円相場はその後、日銀政策の正常化は避けられないとの見方が強まったこともあり、反転。昨年10月に付けた安値から値を戻してきた。
アセットマネジメントOneの竹井章ファンドマネジャーは、昨年の歴史的なグローバル債券市場の損失により、日本の投資家が国内に資金を戻す理由はさらに増えたとみている。
「過去1年間、金利が大きく上がったため、日本の投資家は海外で嫌な思いをしている」と同氏は指摘。「今まで海外に出ていたが、全部行く必要はなく、国内でいいのではないか」と考える国内投資家も出てきているようだと語る。
もちろん植田氏が総裁就任直後から市場を揺さぶると予想する向きは少ない。ブルームバーグが実施した日銀ウオッチャー調査では、6月の金融政策決定会合で金融引き締めが行われるとの予想が41%と最多となり、2月調査の26%から増加した。次回会合は植田新総裁の下で4月27、28日に開催される。
18年から22年まで米連邦準備制度理事会(FRB)の副議長を務めたリチャード・クラリダ氏は「ストレート・シューター(真面目で率直)」である黒田総裁の長年の知り合いで、日本が米国や世界の金融政策に与える影響を考察してきたことから、間違いなくほとんどの人より深い見識を持っている。
現在、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)でグローバル経済アドバイザーを務めるクラリダ氏は「市場は植田氏の下でかなり早期にYCCが撤廃されると予想している」とした上で、植田氏はバランスシートを縮小する方向にかじを切りたいと考えるかもしれないが、「就任初日にということではない」と指摘。日本の金融引き締めは「世界の債券のけん引役」ではないかもしれないが、市場にとって「歴史的な瞬間」になるだろうと続けた。
緩やかなシフト
一部のマーケットウオッチャーは、日銀が金融緩和の縮小に踏み切った場合に何が起こるかについて、より控えめな予想を立てている。
三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、インフレの高止まりが続けば、米金融当局が大幅利下げに動く可能性は低く、日銀も当面は利上げを行うとは考えられないため、日米金利差はある程度維持されると予想。「資金の流れを考えるとき、修正の見通し、金融政策全体として日銀がどうするのかを見極めていくことが大事だ」と語る。
三菱UFJ国際投信商品プロモーション部推進グループの大島良介グループマネジャーは、フローの変化の潜在的なトリガーとして利回り水準に注目する。「10年債利回りで1%など、金利が上昇するなら多少の投資意欲はあるかもしれない。ただ、データなどを見る限り、急に外へ投資していたお金が逆流するというのは考えにくい」と話す。
マーケット歴36年のベテラン、ラジーブ・デメロ氏などにとっては植田氏が行動を起こすのは時間の問題で、その結果は世界的な影響をもたらす可能性がある。
GAMAアセット・マネジメントのグローバルマクロポートフォリオマネジャーを務めるデメロ氏は「私は日銀が引き締めに動くとのコンセンサスに完全に同意する」とし、「それは中銀の信頼性に関わることであり、インフレの条件は今やますます満たされている」と指摘。「日本にも正常化がやってくる」と話した。
●中国、巨額融資した22カ国に大型の救済支援 3/30
過去10年間で、中国は莫大(ばくだい)な額の貸し付けをアジア、アフリカ、欧州の各国政府に行ってきた。各国のインフラの巨大プロジェクトに資金面で関わりながら世界的な影響力を高め、債権国としても世界最大の部類に名を連ねるようになった。
新たな調査が示すところによれば、今や中国政府は緊急時における主要な救出役をも担い、これらの同じ国々に融資している。そうした国々の多くは現在、債務の返済に苦慮している。
2008年から21年にかけ、中国は2400億ドルを拠出し、22カ国の救済に充てた。対象は「ほぼ例外なく」、習近平(シーチンピン)国家主席が提唱するインフラ構想「一帯一路」に絡んだ債務国。具体的にはアルゼンチン、パキスタン、ケニヤ、トルコなどだ。世界銀行や米ハーバード大学公共政策大学院などの研究者らが携わった28日発表の論文で明らかになった。
中国による緊急支援は、米国もしくは国際通貨基金(IMF)による拠出額に比べればまだ規模が小さい。米国とIMFは定期的に緊急融資を行い、危機に陥った国々を救済している。それでも中国はここへ来て、多くの発展途上国を救う主要なプレーヤーとなった。
国際的な危機管理者としての中国の台頭は、1980年代の債務危機の時期に中南米諸国をはじめとする高債務国に救済を申し出た米国を彷彿(ほうふつ)させると上記の論文は指摘。米国はこのほか、30年代と第2次大戦後にも融資大国として頭角を現していたという。
しかし、現在の中国との間には違いもある。
1つは、中国による融資の方が格段に目立たない形で行われるという点だ。そうした事業や商取引の大半は、公の目から隠される。これが反映するのは世界の金融システムが「一段と非制度化、非透明化する一方で、断片化には拍車がかかる」現状だと、論文は指摘する。
中国の中央銀行もまた、他国中銀との間の融資及び通貨スワップの合意に関するデータを公開しない。国有銀行も国有企業も、他国への貸し付けについての詳細な情報を発表することはない。
今回研究チームが依拠したのは、中国の銀行と合意した他国の年次報告書並びに財務諸表、ニュース報道、プレスリリース、当該国のデータセットをまとめたその他の文書だった。
論文の共著者を務めたブラッド・パークス氏は「中国による救済ローンの影響を見積もるには、格段に多くの調査が必要になる。とりわけ中国人民銀行が管轄する大規模なスワップ枠を調べなくてはならない」「中国政府は国境を越えた救済貸し付けのための世界的なシステムを新たに構築したが、その手法は不透明でまとまりがない」と指摘する。
論文は米ウィリアム・アンド・メアリー大学のグローバル・リサーチ・インスティテュートに所属する研究機関エイドデータが運営するブログに投稿された。
中国の融資
論文の報告によると2010年時点では、債務にあえぐ国々を支える国外からの融資のうち、中国が占める割合は5%に満たなかった。22年までにその比率は60%にまで跳ね上がっている。これは中国政府が救済事業を強化する一方、インフラ投資からは距離を置いている実態を反映するものだという。こうしたインフラ投資は、10年代初めの一帯一路を特徴付ける取り組みだった。
融資の大半は、16〜21年の期間に集中している。
救済融資の総額2400億ドルのうち、1700億ドルには人民銀が他国の中銀との間で合意した通貨スワップ枠を活用。残る700億ドルは中国国有銀行のほか、石油・ガス会社を含む中国国有企業が貸し付けた。
中国との通貨スワップ枠を活用した国のほとんどは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって財政難が悪化していたことも、報告から明らかになった。
しかし、中国による救済は高くつく。人民銀が求める救済融資の利子は5%で、IMFの2%を上回ると論文は指摘する。
しかも融資拡大の対象となったのは、中国の銀行セクターにとってより重要と見なされた中所得国だった。低所得国への新規の融資はあっても微々たるもので、債務の再編が条件として提示された。
論文の共著者のカーメン・ラインハート氏はエイドデータへの投稿で、「中国政府は最終的に自国の銀行を救済しようとした。そのために国際的な救済貸し付けというリスキーな事業に足を踏み入れた」と述べた。
一帯一路構想
13年に習主席が初めて発表した一帯一路構想は、世界的な大国として急速に台頭する中国の影響力を一段と伸展させるものと見なされてきた。
米シンクタンク、外交問題評議会(CFR)によると、21年3月の時点で同構想には139カ国が参加。国内総生産(GDP)の合計は世界全体の4割に上っていた。中国の投資額は1兆ドルに迫ると同国外務省は明らかにしている。
しかし資金不足と政治的な抵抗から特定のプロジェクトは頓挫(とんざ)。環境に絡む事案や汚職スキャンダル、労働に関する違反で損なわれたプロジェクトもある。
一部の国の世論では、債務超過や中国の影響力に対する懸念も噴出する。一帯一路は大がかりな「債務の罠(わな)」であり、現地のインフラを支配下に置くために策定されているとの非難は、構想の評判に傷をつけている。エコノミストらは概ねこうした非難に否定的な見解を示す。
CNNは中国人民銀にコメントを求めた。
今年1月、中国の秦剛(チンカン)外相は同国がアフリカで「債務の罠」を仕掛けているとの非難を一蹴。一帯一路の主要な投資先であるアフリカについては債務の軽減に尽力しているとし、そのための合意を多くの国々との間で結んでいると強調した。
秦氏は今月も一帯一路を擁護し、構想が「公共の利益」になると指摘。途上国での債務の悪化は米国による利上げに原因があると非難した。
●ニューヨーク株式市場 反発 金融不安薄らぎ ほぼ全面高  3/30
29日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は323ドル、反発した。
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が近く利上げを停止するとの見方が強まる中、シリコンバレー銀行などの経営破綻を受けた金融システムに対する不安も薄らいだことで買い注文が膨らみ、ほぼ全面高となった。
2月の中古住宅仮契約指数が、市場予想に反して上昇したことも好材料となった。
結局、ダウ平均は反発し、前日比323ドル35セント高の3万2717ドル60セントで取引を終えた。
また、ハイテク株主体のナスダック総合指数も反発し、前日比210・16ポイント高の1万1926・24だった。  
●大手企業の英国離れ進む―企業投資インセンチブ競争で米・EUに出遅れ 3/30
企業への投資インセンチブをめぐり、英国と米・EUとの格差が広がる中で、英国の証券市場に異変が起き始めている。アイルランドの建材大手CRHが3月2日、ロンドン証券取引所での上場を廃止、ニューヨーク証券取引所に移管することを検討中と発表。また、英国と米国で二元上場している英ブックメーカー大手フラッターもプライマリー上場をニューヨークに変更する可能性を示唆、企業の英国離れが相次いでいる。
英紙デイリー・テレグラフのオリバー・ギル経済部デスクは3月2日付コラムで、「これらは今週初め(2日)、英半導体設計大手アームホールディングスのオーナー(ソフトバンク)が英国での上場を断念、当面は米国だけで上場することを決定したことに続くショッキングな出来事だ」とした上で、「ロンドン市場の改革のうねりが横ばいとなっている一方で、バイデン米大統領のグリーン減税による財政支出の急増が英国企業にとってニューヨーク市場は抗しがたい魅力があることを証明した」と指摘する。
ロンドンの金融街(シティ)でも英投資大手シュローダーのファンドマネージャーのピーター・ハリソン氏は3月2日付のテレグラフ紙で、「英国をより魅力的にしようとする政府の取り組みが鈍いため、今後、多くの企業が英国を去るだろう」と懸念を示している。米国のインフレ削減法は、グリーンエネルギー企業に税制優遇措置を提供する一方で、半導体メーカーには別途400億ドル(約5.2兆円)が支援されるからだ。
テレグラフ紙のギル経済部デスク(前出)は同日付コラムで、「金融危機以降、英国に上場している企業数は約40%減少、ロンドン市場は2015-2020年に世界の上場企業のわずか5%しか占めていない。2007年のピーク時には、ロンドンの株式市場の時価総額は3.6兆ポンド(約580兆円)だったが、今では2.6兆ポンド(約420兆円)だ。一方、同期間で米国株式市場の規模は倍増した」と指摘する。その上で、「2022年末、パリがロンドンを抜いて欧州最大の株式市場となり、国家の誇りに打撃を与えた。金融街(シティ)では『英国で肥育され、米国に食べられる』と揶揄する言葉も聞かれる」と懸念を示す。
ロンドン市場の低迷の打開策として、ブレア元首相と保守党のウィリアム・ヘイグ元党首は最新のレポートで、英国の5300の年金基金を100程度のメガファンドに統合、それぞれのファンドのポートフォリオの25%を英国の資産に投資する権限を与えるべきとする提案を行っている。
ブレア元首相が率いる「トニー・ブレア・グローバル・チェンジ研究所」が2月22日に発表した最新レポートによると、「現在、英国の年金市場は世界2位という利点があるにもかかわらず、海外の年金が英国のベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ(PE)ファンドに対し、国内の公的年金や私的年金よりも16倍多く投資している」とし、その上で、「運用資産が200億ポンド(約3.2兆円)を超え、その資金の最低比率を英国の資産に投資している年金基金にはキャピタルゲイン課税の免除を適用することにより、年金の統合を奨励し、株式の成長を促進すべき」としている。その一環で、英国年金保護基金(PPF)と全国雇用貯蓄信託(NEST)を統合した単一の投資主体(1000億ポンド(約16兆円)の「英国年金制度投資基金」を設立すべきと提言している。

 

●金融危機は再来する?「リーマンショック」との相違点 3/31
世界市場の銀行不安はいったん和らいだか
3月上旬に発生した銀行不安と景気の先行き懸念を嫌気して軟調となった世界株式はいったん下げ止まりの兆しをみせています。
図表1は、機関投資家が注目しているMSCI指数の「世界銀行株指数」と「世界株指数」の年初来推移を示しています。世界銀行株指数は一時下値を模索しましたが、今週初の米国市場で銀行セクターの混乱が拡大するとの懸念が和らぎ金融株が反発。政府金融当局が信用不安の拡散防止に向け追加策を講じるとの見通しが買い材料となりました。
バーFRB(米連邦準備制度理事会)副議長(銀行監督担当)は28日に開催された議会上院公聴会で、「アメリカの銀行システムは健全で強固な資本と流動性がある」と述べ、「今後も銀行システムの安全性と健全性を維持するために必要に応じてどんな規模の金融機関に対してもあらゆる手段を講じる用意がある」と証言しました。
また、金融持ち株会社ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズが、経営破綻したSVB(シリコンバレー銀行)の大部分を買収することで合意したことも金融市場の安堵(あんど)感につながりました。
29日の米国市場ではリスクセンチメントが回復し、S&P500種指数は節目とされていた4,000ポイント台を回復し、ナスダック100指数は昨年12月の安値から20%上昇し「強気相場」入りを示唆しました。銀行不安の影響についていまだ予断を許しませんが、金融システムへの過度な不安がいったん和らいだことは、目先の世界市場にとって総じて下支え要因です。
   図表1 世界市場で銀行株が底打ちした可能性
今回の銀行不安は「金融危機」に至っていない
米欧の銀行不安を発端に、「リーマンショック級の金融危機が再来する」と恐れる悲観論が浮上しました。そこで、過去の金融危機の状況と今回の事象について「信用市場の悪化度合い」と「ドルの調達コストの上昇」の両面で比較したいと思います。
図表2は、ハイイールド債(高利回り社債)市場の平均信用スプレッドと、ドルの調達コストを示す「TEDスプレッド」の水準を、2008年(金融危機=リーマンショック)や2020年(コロナ・パンデミック)当時と比較したものです。
TEDスプレッドとは、LIBOR(ロンドン銀行間取引)3カ月物金利から3カ月物米国短期国債金利を差し引いた値で、信用不安や資金繰り不安が高まるとドル需要が強まりTEDスプレッドは上昇します。
ハイイールド債の発行企業には「非投資適格」に格付けされている企業が多く、2008年や2020年は事業継続の危機に直面しました。特にリーマンショック時(2008年)には、金融機関を中心に信用危機と流動性危機が同時的に発生し、株価の暴落につながりました。
   図表2 米国市場で警戒された信用リスクと流動性リスクの上昇
図表2でみるとおり、最近はハイイールド債の信用スプレッドもTEDスプレッドも上昇しましたが、2008年の金融危機時や2020年と比較するとその上昇水準(悪化度合い)は限定的にとどまっています。
2008年当時は、サブプライム関連の不良債権拡大で投資銀行を中心に金融機関が連鎖的な経営危機に直面しましたが、今回の銀行不安は「リーマンショック級」に至ってはいません。銀行不安の先行きにいまだ予断は許されませんが、今回の事案が世界的な「金融危機」に発展するとの悲観論には違和感があります。
金利の安定見通しを反映した業種物色に注目
今回の銀行不安が昨年春以降の利上げ累積効果とともに、米景気見通しに悪影響を与えることは否定できません。一方、そうした見通しによる債券市場金利の低下が株式市場におけるセクター(業種)別の強弱に影響を与えている可能性はあります。図表3は、S&P500業種別株価指数の「年初来騰落率」を高い順(降順)に示したものです。
総じて、「金融」や「エネルギー」が不調であるのに対し、「IT(情報技術)」や「通信サービス」が優勢であることがわかります。ITにはアップルやマイクロソフトにエヌビディアなどの半導体銘柄が含まれ、通信サービスにはアルファベットやメタ・プラットフォームズなどが含まれています。
これらのセクターは、米国市場で「テック株」と総称されます。テック株の優勢は、FRBによる金融引き締めと債券金利上昇の影響を被り昨年下落した反動(自律反発)とも考えられますが、債券金利のピークアウト感も支援要因とみられます。
民間エコノミストによる予想平均によると、実質GDP(国内総生産)成長率(米国の場合は前期比年率換算成長率が標準)について、第3Q(7-9月)にマイナス成長が見込まれています(Bloomberg集計)。ディスインフレ(物価上昇率の減速)傾向や銀行不安の影響も相まって、先物市場では政策金利見通しが切り下がっています。
こうした状況を反映した債券金利の低下や安定がテック株の持ち直しを下支えしている可能性があります。米国市場でグロース株の中心を担うテック株の復調が鮮明となれば、東京市場や世界市場のグロース株持ち直しに寄与するものと考えられます。
   図表3 米国市場の業種別・年初来騰落率に格差
●シリコンバレー神話の終焉…EVに大打撃、SVB破綻で「世界の脱炭素」遅れる 3/31
メタ(旧フェイスブック)をはじめ、多くのスタートアップ企業を世界に輩出した米カリフォルニア州のシリコンバレー。驚異的な企業成長スピードから「シリコンバレー神話」と称されることもあったが、今その神話が終わりを迎えようとしている。その発端が、スタートアップの成長を支えてきた米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻だ。これにより、最先端を走るスタートアップ企業の資金調達が困難になっているという。IT業界、ひいてはITの未来にどう影響が出るのか、考察する。
イノベーションは「10年超後退」する
SVBが3月10日に経営破綻した直後、スタートアップ支援を行う老舗のYコンビネーターのギャリー・タンCEO(最高経営責任者)は、「スタートアップやイノベーションが10年以上は後退する」と語り、中長期的なイノベーション創出への悪影響を示唆した。
その後、米当局がSVBの預金を全額保護したことで最悪の危機は避けられたものの、シリコンバレーに本拠を構える企業の資金調達は不透明さを増している。米Wedbush証券が顧客向け分析で指摘したように、SVBはテック企業への資金の流れの大動脈であったからだ。
直近のSVB決算報告には、ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けるテック企業(ライフサイエンスを含む)のおよそ半数が同行と取引があり、VCが資金注入するテック新規上場(IPO)の40%以上がSVBからの保証を受けていた。
しかしSVBの経営破綻によって、多くのスタートアップが中小の米銀行から、バンクオブアメリカ、シティ、JPモルガンチェースなどの大手行に預金を避難。その結果、3月9〜15日の1週間で、1,200億ドル(約15.7兆円)の預金が米中小行から流出した。
JPモルガンチェースの3月22日付の分析結果はさらに深刻で、2022年以降、預け入れにリスクがあると考えられる(SVBを含む)米国の銀行から、約1兆ドル(約130兆円)の預金が流出。その半分であるおよそ5,000億ドル(約65兆円)が、SVBの破綻後に流出した公算が大きいとしている。
手持ちのキャッシュすべてをSVBなどの脆弱な銀行に預けていた多くの顧客が、安全のため、預金を複数行に分散させているわけだが、それはローン金利などの有利な条件を引き出す上で障害になると専門家は指摘する。
なぜなら、顧客がすべての金融ニーズを委ねるほど、銀行は面倒見が良くなるからだ。預金分散の安全と引き換えに、多くのスタートアップは低利ローンを受けにくくなると予想される。
「近所の肉屋さん」的存在だったSVB
SVBはテック企業向け金融のパイオニアだ。IT業界で莫大な先行投資が必要となることや、審査時間を短くしてでも借り受けが必要なケースがあることをよく理解していた。
そのため、規制へのこだわりが小さく、SVBが貸し出しする際はリスクを負ってくれる存在であった。米ファストカンパニー誌が指摘するように、「近所の肉屋さんやパン屋さんのように、個人的な付き合いをしてくれた」SVBは、シード(創業前または創業直後)後の利益を生み出せない企業にも喜んで貸し付けを行った。
大手行のように予見可能で安定したビジネスばかりを扱うのではなく、時には返済条件や金利の再交渉に応じるなど、忍耐強く面倒を見た。その代わりとなる金融機関は見当たらず、スタートアップを育むエコシステムの重要な一部が消滅した影響は小さくない。
有力VCのSequoia Capitalにおけるパートナーであり、伝説的なベンチャーキャピタリストであるマイケル・モリッツ氏は、「過去40年間に最も重要なビジネスパートナーであったSVBを失った」と述べ、その消滅を惜しんだ。
では、具体的にどのようなスタートアップが打撃を被っているのだろうか。
EV普及に悪影響? 気候テックに大打撃
EV向けバッテリーを設計・製造するスタートアップの多くが、SVBの世話になっていた。こうした企業の一部が継続性を確保できるか危ぶまれている。それは、米国における環境対策の切り札とされる、EV普及のペースにも影響を及ぼすかもしれない。
また、他の低炭素テクノロジーも打撃を受けている。一例が、マサチューセッツ州に本拠を置く低炭素セメントメーカーのSublime Systemsだ。セメント製造工程で石灰石が焼成される際に排出されるCO2を低減させることに成功した、注目のサステナブルスタートアップである。
今年創業3周年を迎えるSublime Systemsは直近のシリーズA資金調達で4,000万ドル(約52億円)を確保し、そのすべてを破綻したSVBに預けていた。幸い、連邦預金保険公社(FDIC)の保証外である25万ドル(約3,250万円)以上の預金についても当局が全額を保護したために、同社は危機を免れた。
しかし、低炭素セメントを製造する工場の建設には少なくとも5億ドル(約650億円)が必要だ。そこでSublime Systemsは、SVBからの低利貸し付けを期待していたのである。ところが、SVBが破綻したことでプロジェクトに対して融資を受けられるかは不透明になってしまった。
太陽光発電の融資「900億円超が消失」か…
SVBは、全米の家庭用太陽光発電向け融資の60%に関与していた。その中で最大規模であるSunrunはSVBから18億ドル(約2,340億円)の融資枠を取得していたが、まだ7億1,000万ドル(約923億円)の枠が使い切れずに残っていた。SVBを買収する銀行が、この残りの融資枠の貸し付けを行ってくれるかは不明だ。
一方、コミュニティー向け太陽光発電グリッドを開発するArcadiaのキラン・バトラジュCEOは、「SVBは信用チェックを省いて、弊社が顧客に電力供給をすることに同意してくれた。だが、新しい銀行は変更を要求するだろう」と語る。環境スタートアップがリスクを取りにくくなるわけだ。
また2022年11月の中間選挙で米下院を制した共和党は、環境事業への補助金支出に消極的であり、銀行の代わりとしての政府からの助けも当てにできないだろう。インフレや人件費の高騰、サプライチェーンの混乱という既存の問題に加えて、環境スタートアップは資金問題に悩まされることになる。
サステナブル企業の資金調達を手掛けるGreat Circle Capital Advisorsのダン・ファーガー常務は、「創業初期の気候変動テクノロジー企業はSVB破綻以前から向かい風を受けていたが、あとどれだけ持ちこたえられるかわからない」と話す。
SVBの顧客に多かったのが、ある程度の事業規模となるまでに時間も金もリスクもかかるビジネスモデルの気候変動スタートアップであった。しかしそうした企業は良き理解者であったSVBを失った。先述のようなSVB破綻の影響に直面すれば、世界の脱炭素の流れを遅らせる事態も考えられる。
来たる「買収ラッシュ」でIT業界が大再編?
米国の銀行はSVBの経営破綻以前から、貸し出し基準を厳格化させ始めていた。そのため、金融機関全体によるさらなる貸し渋りを引き起こす可能性があるという。
また、JPモルガンチェースのエコノミストであるマイケル・フェローリ氏は、「中小規模の金融機関で預金の流出が続けば、貸し出しを縮小する銀行が増える。今回のSVB破綻で当局の規制が強化されれば、さらにローンは借りにくくなる」との見方を示している。
今年借り換えが必要なローンは、借り入れコストがはるかに高くなる。ところが、スタートアップは利益を生み出せるようになる前にかなりの勢いで現金を消費する。このため、当面の資金調達に行き詰まり、事業を継続すること自体が危ぶまれる可能性があるわけだ。
こうしてマネーの流れがタイトになる一方、インフレによる経済停滞など不景気の風が吹いている。そのため、米スタートアップ支援VCのForecast Labsのアルジュン・カプール共同創業者は「テック企業ではコスト削減がさらに進む」と予想する。中小企業向けの保険商品を販売するCounterpart Insuranceのタナー・ハケットCEOも、スタートアップにおけるレイオフや解雇の加速を予測している。
こうした中、Wedbush証券のアナリストであるダン・アイブス氏は「軒並み評価額が低下したスタートアップのIPOが困難になり、より規模の大きいライバル企業に買収されることが増えるだろう」との見方を示した。資金を調達できず事業も継続できないスタートアップ企業が増えれば、それらの企業を狙った買収ラッシュが起きるなど、IT業界が再編されることは想像に難くない。
終焉を迎える「シリコンバレーの成長神話」
シリコンバレーは過去20年ほど、人々が想像もできなかったような便利さや驚き、そしてライフスタイルの革命的なトランスフォーメーションをもたらすことで、世界中のマネーを集めてきた。フェイスブック(現メタ)など多くのスタートアップが驚異的な成長を遂げ、上場企業に化けていった。合言葉は、「一に成長、二に成長、三に成長」であった。
SVBはまさに、そうした成長を陰で支えた立役者であり、スタートアップとともに急成長をした。だが、シリコンバレーの成長神話には陰りが見え始めており、SVBの破綻で終焉を迎えたように見える。人々が長い夢から覚めた後、時代は従来のイノベーションとディスラプションから収益中心主義へと移るだろう。
とはいえ、米国の基幹産業としてのテクノロジーの重要性が減じたわけではない。米当局は、シリコンバレーの「大きすぎてつぶせない」重要性を認識しているからこそSVBを救済したのである。
米地銀のファースト・シチズンズ・バンクシェアーズがSVBの買収に合意したと報じられたが、スタートアップにとっての良き理解者であるSVBの役割を受け継ぐかはわからない。だが、IT業界も銀行も成熟が求められるようになり、破天荒な成長神話を生んだやんちゃさや個人主義は抑制されていくかも知れない。
米ニュースサイト「インサイダー」のリネット・ロペス記者はシリコンバレーの資金調達スキームの変調を評して、「スタートアップへの資金提供を通してVCは、教育から運輸、そして金融に至るまで、社会全体がどのようにあるべきかビジョンを示してきた。だが、SVBの破綻でVC自体がビジョンを持たないことが明らかになった」と総括した。
イノベーションの源泉であるマネーの流れが絞られる中、合併や業界再編が起こり、シリコンバレーはそのミッションや役割を変えてゆくと予想される。SVB破綻は、そのトリガーとして記憶されそうだ。
●国内地銀は十分な資本、米破綻銀と全く異なる=金融庁審議官  3/31
金融庁総合政策局の屋敷利紀審議官はロイターとのインタビューで、日本の地銀経営に関して、リスク管理体制や資産の運用方針などの面で米シリコンバレー銀行(SVB)など破綻した銀行とは全く異なると述べた。外債の含み損はあるものの、それを勘案しても十分な資本を有しているとした。
屋敷審議官は金融機関のモニタリングやマクロプルーデンス(金融システム全体のリスク把握)を担当している。
「日本の銀行セクターは引き続き非常に強いと断言できるし、日本の金融システムは十分に堅固なままだ。現在、日本の銀行の資本と流動性のポジションは、世界的な金融危機以前に比べてはるかに良くなっている」と強調した。
破綻したSVBには、1)資金調達を粘着性が低い少数の大口法人預金に依存していた、2)資金運用を主に満期保有債券で行っていた、3)リスク管理体制、内部統制がずさんだったーーという3つの大きな問題点があったと指摘。その比較で懸念が示される日本の地銀については「シリコンバレーバンク等とは全然違う」と話した。
預金に対する有価証券運用の比率は、SVBの約7割に対し、地銀は1―2割、せいぜい3割だという。また、地銀のリスク管理、内部統制については「金融庁が重層的に常時モニタリングしているし、流動性リスク管理については日本銀行とも連携してモニタリングしている」と述べた。
また、外国債券の含み損が多いとの懸念に対しては「確かに外債の含み損が大きいところはあるが、それを勘案してもなお、十分な資本を持っている」とした。SMBC日興証券によると、2022年12月末時点の上場地銀全行の外債は1.4兆円の含み損となっていた。
新体制下で日銀が金融緩和政策の変更に踏み切れば、金融機関の経営に大きく影響する。米国が1年間で金利をゼロから5%に引き上げたのに対し、日本では実施しても小幅な変更にとどまる可能性が高いものの、仮に日銀が政策を変更すれば「より注意深いモニタリングが必要になる」とした。SMBC日興証券は、単純計算で10年国債が今後1%になれば地銀の円債の含み損は、昨年12月末の1.4兆円から4兆円程度に増えると試算している。
規制強化の必要性については「今すぐに規制を見直すということは現時点では考えていない。そこは海外をみながら、対応していくことになる」とした。さらに、今回の事象を受けて、内部統制やリスク管理といったコーポレートガバナンスをしっかりとすることが非常に重要になると指摘した。
●FRB 新たな枠組みでの貸出額 1週間で1兆4000億円余増加  3/31
アメリカで2つの銀行が破綻したことを受けて、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が導入した、新たな枠組みによる銀行などへの貸出額が、1週間で107億ドル、日本円で1兆4000億円余り増えたことがわかりました。
この枠組みは銀行の破綻が相次いだことを受けて、金融不安を払拭(ふっしょく)するためFRBが12日に導入したもので、銀行などの預金を扱う金融機関は従来の制度より有利な条件で最長1年間の融資を受けられます。
FRBが発表したこの枠組みによる貸出額は、29日時点では644億ドル、日本円で8兆5000億円余りでした。
これは前の週、22日時点と比べ107億ドル、1兆4000億円余り増えています。
一方、FRBによる従来の融資の枠組みの残高は、29日時点で881億ドルで、前の週と比べて220億ドル、日本円で2兆9000億円余り減少しました。
アメリカ政府とFRBは、金融危機を防ぐためにはあらゆる手段を講じる考えを繰り返し強調していて、市場では金融不安がいくぶん和らいでいるという見方も出ています。
●ニューヨーク株式市場 続伸 金融不安やわらぎ買い優勢 3/31
30日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続伸した。
アメリカ当局の救済措置などにより、地方銀行の経営危機がこれ以上広がらないとの見方が強まり金融システムへの不安が和らいだことで、買いが優勢となった。
個別銘柄では、半導体のインテルや航空機大手ボーイングの上昇が目立った。
前日比141ドル43セント高の3万2859ドル03セントで取引を終えた。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も続伸し、87・23ポイント高の1万2013・47だった。
●TPP イギリス加盟で大筋合意 日本からのコメ「関税撤廃」  3/31
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の参加国は、イギリスの加盟を認めることで大筋合意した。
TPP経済圏は、ヨーロッパにまで広がる。
TPPは、関税撤廃や投資などでの共通ルールに基づき、自由貿易を推進する枠組みで、日本やオーストラリアなど11カ国が参加している。
イギリスは、2021年に加盟申請していて、日本時間の午前に開かれた閣僚会合で加盟が大筋合意された。
TPP内では、日本に次ぐ2番目の経済大国の参加となり、GDP(国内総生産)の合計額はおよそ12兆ドルから15兆ドルに増える。
後藤経済再生相「自由貿易、開かれた競争的市場、ルールに基づく貿易システム、経済統合をさらに促進して行くうえで非常に大きな意義を有するものである」
今回、新たに日本からイギリスに輸出する米の関税の撤廃が決まり、後藤大臣は、世界的和食ブームの中で、米の輸出に弾みがつくことに期待感を示した。 
●日本の銀行株はなぜ売られたのか? 3/31
3月10日にアメリカで起きた突然の銀行破綻をきっかけに世界に広がった金融不安。日本でも銀行株が軒並み下落し、1日で株価が10%以上急落した銀行もありました。金融システムが比較的健全だとされていた日本でなぜ銀行株がここまで売り込まれたのか。その背景を取材しました。
世界に広がった金融不安
3月10日、12日と相次いだアメリカの銀行破綻。これをきっかけに広がった金融不安は15日にはヨーロッパにも飛び火し、スイスの大手金融グループ、クレディ・スイスの経営問題が市場の不安を増幅させました。この間、世界の金融市場は大きく動揺し、東京株式市場では日経平均株価が3月13日に一時、500円以上下落。14日には700円以上、16日には500円以上、値下がりする場面もありました。
日米欧の銀行株の下落水準は
株価の下落を主導したのは銀行など金融関連の銘柄です。欧米では銀行株が急落し、日本でも規模の大小を問わず、銀行株が軒並み大きく値下がりしました。それでは銀行株の値下がりはどの程度だったのか。主な銀行銘柄で構成されるアメリカ(KBWナスダック銀行株指数)、ヨーロッパ(ストックス欧州600銀行株指数)、日本(トピックス銀行業指数)の株価指数を見てみます。アメリカの銀行破綻の前の3月9日の株価指数を100とすると、3月28日時点では、アメリカは15.9%、ヨーロッパは14.5%、そして日本は15.4%それぞれ下落したことになります。この間のグラフをみると、日本の銀行株の下落率は、震源地にある欧米の銀行の株価の下落率と同じような水準で推移していることがわかります。
日本の銀行株が大きく値を下げた理由は
欧米の金融不安が広がる中、政府・日銀の関係者は、日本の金融システムは安定しており、金融機関に及ぼす影響は限定的だという見方を示しています。それでは、金融不安の震源地である欧米から遠く離れ、影響も限定的だとされる日本でなぜ銀行株がここまで大きく売り込まれたのか。その理由について市場関係者が口をそろえたのが、金利が上昇から低下に転じたことです。去年12月、日銀は大規模な金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を0.5%程度に引き上げました。これを受けて長期金利が上昇。金利の上昇が銀行の収益を押し上げるという見方から銀行株は値上がりを続けます。海外の投資家や国内の機関投資家の中には、日銀がさらに金融緩和策を修正し、金利が上昇するとの思惑から、「日本国債売り、銀行株買い」のスタンスを強めていたところもありました。ところがアメリカの銀行が突然、経営破綻し、金融不安が広がったことで長期金利が急低下。投資家の姿勢は、「日本国債買い、銀行株売り」に転じることになりました。つまり株高が続いた反動の大きさが、急激な株価の低下につながったという見方です。もう1つは、世界の銀行株が同時並行的に下落するという今回の姿こそ、新しい金融不安の形ではないかという見方です。
丸紅経済研究所 今村卓 所長「今回の金融不安は、銀行の取り付け騒ぎがきっかけとなったが、これだけをみると過去の銀行破綻と比べて新しいことが起きたわけではない。ただ、SNSなどであっという間に情報が拡散し、スマホでの金融取引も当たり前になった今の時代、金融機関が経営破綻に陥るまでの速さ、金融不安が世界に広がるスピードはこれまでとはまったく異なっている。金融不安の増幅の度合い、世界に波及する”波”の大きさもこれまで以上に大きくなる可能性もある。今回は日本への直接的な影響は限られたが、金融不安の波がさらに大きくなれば、日本に影響が及ぶおそれもあることも想定しておくべきではないか」
銀行株の急落から何を読み解く
クレディ・スイスは、スイスの金融当局の関与のもと、同じスイスの金融最大手、UBSによる買収という形で救済されることが決まりました。これと歩調を合わせて日米欧の6つの中央銀行が協調して、市場へのドル資金の供給を拡充すると発表。こうした異例の対応によって市場の動揺はひとまず収まった形となっています。“景気敏感株”とも呼ばれる銀行株。その突然の急落から何を読み解けばよいのか。世界経済や金融機関の動向をにらみながら、引き続き銀行株の動きに注目していきたいと思います。
来週は3日に日銀の短観=企業短期経済観測調査が公表されます。民間の予測では、大企業・製造業の景気判断が5期連続で悪化するという見方が多くなっていますが、海外経済の減速や仕入れコストの増加などの懸念材料が企業の景況感にどう影響するのか注目されます。また来週はアメリカの雇用関連の経済指標の発表が相次ぎ、7日には雇用統計が発表されます。物価高の要因となっている人手不足の問題が統計ではどのような形であらわれるのか注目です。
 
 

 

●「リーマン2.0」で米ドル覇権は終わるのか? 4/1
世界に金融恐慌の影が忍び寄っている。恐慌(英語でパニック)は経済より、心理学上の現象だ。カネ余りで投機がはびこっても、皆が取引を続ければ経済は回っていく。ところがある日、どこかの銀行がつぶれると、「あの会社、あの銀行もひょっとして、ゾンビなのではないか。ここと取引をするとカネを失ってしまうのでないか」という疑心暗鬼が広がって取引は止まり、経済も止まる。いつそうなるかは、誰にも分からない。
今後の見通しは大きく言って、2つしかない。1つは、当面踏みとどまるというもの。しかしそれでも、利上げしなければインフレ高進、しかし利上げすれば銀行などがつぶれて金融恐慌、という恐怖のジレンマはなくならない。いつかは、綱渡りから落ちることになるだろう。
もう1つは、「リーマン2.0」が起きるということ。その場合、アメリカではFRB(米連邦準備理事会)がこの1年続けてきた利上げを緩和、あるいは金融緩和を再開することすらあるだろう。米政府は破綻した金融機関、あるいは大企業に公的資金を注入し、世界の中銀にドルを配布して(と言っても、帳簿上の話)世界の貿易・投資の決済が止まるのを防ぐことになる。
2008年秋のリーマン・ショックでは、米政府と連銀は財政支出拡大、金融大緩和で景気を刺激し、10年にはプラス成長を回復している。もっとも成長分の多くは当初、富裕層に流れてしまい、格差が増大して、16年の大統領選でトランプの当選を助けてしまったのだが。
アメリカをしのぐ投資対象はない
08年の場合、世界中でドルが不足したため、破綻国通貨のドルが急騰するという奇妙なことが起きた。だが1年もたつと実力を反映して、ドルの実効為替レートは急降下する。金利を下げなかった日本では円が高騰するが、アベノミクスの「異次元緩和」で逆に過度の円安になる。この中でユーロなども価値を下げたから、世界の通貨秩序は変わらなかった。
中国は、リーマン危機を受けての内需拡大措置で(GDPの10%超)成長を維持。10年には日本をGDPで抜きはしたものの、輸出依存、インフラ建設依存の経済体質は変わっていない。しかも人民元は金融取引では自由化されていないので、世界の基軸通貨になることはできていない。アメリカがつまずくと、中国、ロシアの経済はコケる。中国のドル箱である対米貿易黒字(21年には約4000億ドル)は激減するし、ロシア経済の命綱である原油価格も急落するからだ。
近世になって資本は地中海諸都市からオランダへ、そして18世紀にかけてオランダからイギリスへ、次に20世紀にかけてアメリカへと移動した。資本は常に「大きくて、かつ将来有望な」相手を探し、それに投資して一層盛り立てる。
今日、アメリカをしのぐ投資対象はない。中国は前記のとおりだし、インドも近代ビジネスの環境を欠いている。人民元をデジタル化しても、覇権は握れない。肝心の中国当局が、自分の統制が及ばない外国人に人民元を自由に使わせないだろうからだ。
このように、アメリカの力がドルの担保となるドル=米国本位制はまだまだ続く。WBCでは優勝できたが、日本に通貨覇権を握る力はない。今の枠の中で成長と格差是正を図っていくしかないのだ。
ただ、ブロックチェーンの技術で資金の流れが透明化されれば、余計なバブル、投機を防げるかもしれない。リーマン危機以後、日本は利下げ、利上げで欧米から一周も二周も遅れることで経済に負担をかけてきたが、それも終わらせてもらいたい。
●米 中小規模銀行の預金量 増加に 金融不安いくぶん和らいだか  4/1
アメリカでは、2つの銀行の破綻を受けて中小規模の銀行から預金が流出していましたが、先月16日から22日にかけては預金量がわずかに増加し、市場では金融不安がいくぶん和らいでいるという見方が出ています。
FRB=連邦準備制度理事会は、アメリカで2つの銀行が相次いで破綻したことを受けて、先月15日までの1週間で中小規模の銀行から1200億ドル、日本円にして15兆円余りの預金が流出したと発表していました。
しかし、その翌週の先月16日からの1週間では全体の預金量が59億ドル、日本円にして7800億円余り増加したということです。
また、中小の銀行は、この期間に243億ドル、日本円にして3兆2000億円余り、借り入れを減少させました。
前の週は、資金繰りの強化に向けて「最後の貸し手」のFRBなどから借り入れを大きく増やしていましたが減少に転じました。
政府とFRBは、金融危機を防ぐために、あらゆる措置を講じる方針を繰り返し強調していて、市場では金融不安がいくぶん和らいでいるという見方が出ています。
●NY市場 ダウ平均株価値上がり インフレ懸念緩和で買い注文増  4/1
3月31日のニューヨーク株式市場は、アメリカのPCE・個人消費支出の物価指数の発表を受けてインフレへの懸念が和らいで買い注文が増え、ダウ平均株価は400ドルを超える値上がりとなりました。
3月31日のニューヨーク株式市場は、この日に発表されたアメリカの2月のPCE・個人消費支出の物価指数の伸びが市場予測を下回ったことを受けてインフレへの懸念が和らいで買い注文が増えました。
このため、ダウ平均株価の終値は前日に比べて415ドル12セント高い3万3274ドル15セントでした。
ダウ平均株価の値上がりは3日連続です。
IT関連銘柄の多いナスダックの株価指数も1.7%の大幅な上昇でした。
市場関係者は「インフレが収束に向かえば、FRB=連邦準備制度理事会の金融引き締めによって景気が冷え込む期間が短くなると見て、買い注文を出す投資家が多かった。アメリカの金融当局が、銀行の経営破綻が相次いだあと広がった金融不安を抑え込むとの見方が出ていることも株価の上昇につながった」と話しています。 

 

●人工知能 「人間超え」の出発点 米国覇権の失墜、金融危機、大量辞職… 4/2
2023年を出発点にして、いま私たちは「シンギュラリティー」と呼ばれるテクノロジーの本質的な変化の過程に突入している。これは、国際秩序や政治・経済だけではなく、社会のあり方や人間の意識も含めた根源的な転換ともシンクロしている。金融危機もかならず起きるだろう。人工知能がもたらす社会の劇的な変化について解説したい。
2023年〜2025年に起こる劇的な変化
もしかしたら、2023年の今年は、既存の世界が本質的に転換する「シンギュラリティー」の過程の出発点になる年なのかもしれない。とすれば、これから約2年間、2025年くらいまでに我々は根本的に変化することを迫られることだろう。
すでに大きな変化は2020年から始まった新型コロナのパンデミック、さらにコロナが次第に落ち着きつつあった2022年2月から始まり、いま泥沼化しつつあるロシア軍のウクライナ進攻などの歴史的な出来事で、我々の世界は大きく変化しつつある。これに異論を唱える人はほとんどいないはずだ。
コロナのパンデミックでは、世界的なサプライチェーンの寸断、サービス業の打撃と格差の拡大、また自殺者の増加、そしてリモートワークの普及によるデジタルトランスフォーメーションなどを我々は経験した。
またいまも続くウクライナ戦争では、ロシアと欧米の政治的・経済的な対立と決定的な分断を背景に、エネルギーや食料を中心とした世界的なインフレが進行し、これに対応できない人々の激しい抗議運動が特にヨーロッパを中心に続いている。
2020年からの3年間に我々が経験した変化は、ことのほか大きかった。
この変化の大きさは、他の時期の3年間と比べて見ると歴然としている。東日本大震災のあった2011年は例外としても、例えば2012年から2015年、また2015年から2018年などの3年間を見ると、それなりの出来事は起こっていただろうが、ほとんど記憶に残っていないのではないだろうか?我々の日常の基本的な枠組みは維持され、日常の細々とした変化に忙しく対応していた。2020年から2023年までとは変化のインパクトがまるで異なる。
しかし、おそらく2023年から2025年くらいまでの2年間の変化は、このインパクトをはるかに凌ぐものになりかねないのだ。
2020年から2023年の変化にもなんとか持ちこたえた既存の社会の大きな枠組みが、今度は根本から新しい形態のものへと向かう本質的な転換になりかもしれない。この変化を形容するには、「シンギュラリティー」という言葉しかない。
2023年が「シンギュラリティー」の出発点
すでにやってきているこの本質的な変化の内容を語る前に、「シンギュラリティー」とは何かについて簡単に解説したい。すでに広く使われているので、知っている読者の方々も多いだろうが、一応この言葉の意味だけは明確にした方がよいだろう。
「シンギュラリティー」とは、人工知能や機械学習技術が急速に進歩し、人間の知能を超える機械やAIが登場するとされる未来の時点を指す概念だ。この「シンギュラリティー」が到来すると、AIや機械による自己改善が指数関数的に加速し、人間には予測や制御が困難な技術的進歩が続くとされている。要するに、「シンギュラリティー」のポイントを越えると、技術の進歩が飛躍的に加速し、その後どうなるのか予測できなくなるのだ。
どうも2023年に我々はこの「シンギュラリティー」の出発点にいるようだ。すでに多くの人が使っているので周知だろうが、昨年の11月に「OpenAI」というスタートアップが出した「ChatGPT」がある。現在はバージョンが4になり、一層速く回答することができるようになった。
「ChatGPT」は、ユーザーが入力するあらゆる質問に答える能力がある。これを使うと、司法試験の問題や大学院レベルの試験、科学論文の要約、本の執筆、作曲、プログラミング、そして占いまで、知的な作業の多くを実行する能力が「ChatGPT」にはある。
そして、「ChatGPT」の出現後、ほぼ毎日のように新たなAIの商用サービスが出現している。デザインや画像の自動生成、作曲、ビデオ自動編集、記事や本の執筆のアドバイス、法律相談、ホームページ自動作成、会社のロゴの自動作成、プレゼンの自動作成など考えられる限りのサービスが雨後のタケノコのように登場している。2年後の2025年頃になると、知的な仕事のほとんどがAIによって置き換えが可能になるだろう。これにより、我々の社会も予想のできない方向に激変することだろう。
「シンクロニシティー」が起こる
「Futurepedia」というサイトがある。ここではすでに提供されている1,500を越えるAIの商用サービスが検索できる。ぜひとも見ていただきたい。
しかし、こうしたAIの「シンギュラリティー」による変化は単独で起こるわけではない。記事が長くなるので具体例は出さないが、過去の歴史でも多くの事例があるように、ある分野の革命的な進化と発展は、まったく異なった領域の本質的な変化とシンクロしながら進む。
これらの領域は相互に直接的には関連しておらず、本質的な変化が、それこそ同時並行で起こるのだ。いま「シンギュラリティー」が始まる中、これとシンクロした変化は、世界秩序から経済や政治、そして我々の社会のあり方を根本的に変える変化が起こっている。
それらの変化には直接的な因果関係はないものの、それらは相互に刺激しあって変化をさらに加速させる。いわば、「シンギュラリティー」で起こった変化の振動が、他の領域にも同じ振動数で伝播しているかのような状態だ。
そうした根本的な変化を順次見ることにする。
アメリカの覇権の失墜から多極型世界秩序へ
まず同時並行的に起こっている変化の中で最大のものは、アメリカの覇権の本格的な失墜と中ロを主軸とした多極型秩序の台頭である。
この多極化の動きは、2003年のイラク侵略戦争からすでに徐々に始まっていたが、ウクライナ戦争の勃発が背景となり、一挙に加速した。いわば2003年から蓄積された小さな変化は2023年になって臨界点に達し、世界秩序の構造的な転換を促す変化になった。
この3月に行われたプーチンと習近平との首脳会談は、多極型秩序への転換を一挙に進めるタイミングで実施された。ロシア軍に優勢に戦いが進行しているものの、欧米の支援を得たウクライナ軍は激しく抵抗しており、戦線は泥沼化している。アメリカを中心とした西側諸国も政治的決着以外に停戦の方法はないと思っている。そうした時、習近平は中国の「12項目」の方針を明確にした和平案を提示し、中国が仲裁役を引き受ける用意があるとした。
ウクライナ戦争で中国とロシアの関係がこれまでになく強化されている。ウクライナ戦争が中国の仲裁によって終結するようなことにでもなれば、中国の国際的な威信は一挙に高まり、中ロによる多極型秩序を形成する動きはさらに具体化しながら加速することだろう。多極型秩序と言っても、それを安定した秩序として構成するためには「IMF」や「世界銀行」などのような国際機関が必要になる。必要なものを列挙すると次のようになる。
   ・新国際決済通貨
   ・一帯一路を基軸にした新国際経済秩序
   ・新しい国際機関による管理体制(新世界銀行、新IMFなど)
   ・国際紛争の調停機関としての新たな国際組織
   ・中ロを基軸にした新しい安全保障の体制
   ・中ロ基軸の新軍事同盟
   ・西側の民主主義とは異なる社会経済モデル
いま水面下でこうしたものの形成が進んでいるようだ。中国の仲裁によってウクライナ戦争が万が一終結するようなことでもあれば、多極型秩序の現実的な構成に必要な組織や機関、そして取り決めは一挙に具体化する可能性がある。ここまで来ると、アメリカの覇権失墜は決定的となり、不可逆的となる。世界は新しいルールで動くことになる。
金融危機は必ず起こる
そして、覇権の転換と同時平行に進行するのが金融危機だ。「シリコンバレー銀行」や「シグネチュアー銀行」の破綻は「FRB」による利上げが原因だとされているが、それだけが原因ではない。もっと構造的な原因がある。
15年前の「リーマンショック」以来、世界的な金融緩和政策が実施され、市場には過剰な資金があふれていた。過剰な流動性である。いつでも低金利で得られるいわゆる「イージーマネー」の拡大だ。その結果、特にアメリカでは、多くの企業は本業で利益を出すよりも、金融的な手段による手っ取り早い利益の獲得を優先した。「M&A」と自社株買いである。
「M&A」を実施すると企業規模は確実に大きくなるので、株価も上昇する。また自社株買いで自社の株価を吊り上げて業績をよく見せることで、さらに株価は上昇する。高い株価は将来自社が「M&A」の対象になったとき、企業価値を高めるので好条件で身売りすることができる。さらに、「CLO」を始めとしたローン担保証券の取得により、大きな収益が得られた。
このような、異常な低金利の「イージーマネー」に依存した状態は、コロナのパンデミックによる巨額の支援金の供与によってさらに拡大した。本業の利益が少ないにもかかわらず、金融機関から簡単に低金利のローンがを得られたので、本業の利益が減少している「ゾンビ企業」でも存続することが可能となった。そううした企業は得たローンで自社株買いをして、自社の株価を吊り上げで業績をよく見せたので、さらに大きなローンを得やすくなった。ローンと自社株価買いを組み合わせ操業形態である。
このような慣行は企業体質を脆弱にした。いざ「FRB」による利上げが継続すると、たちまちローンの利払い費の高騰に耐えられなくなり、銀行の預金を引き出すことになった。自社株買いをする余裕もなくなると同時に、利上げの影響で新たなローンが組めなくなった。
いまアメリカを中心に、こうした企業はかなりの数に上っている。そのため、「シリコンバレー銀行」で起こったような取り付け騒ぎは、どの銀行にも起こり得る。「シリコンバレー銀行」などは「FRB」によって預金の保護がいち早く宣言されたので、銀行破綻とそれによる企業破綻の連鎖は回避された。しかしながら、銀行不安はまったく払拭できていない。市場も神経質になっている。なので、なんらかの出来事がきっかけとなり、多くの銀行で一気に取り付け騒ぎが発生するかもしれない。「FRB」による救済も間に合わないこともある。
要するにいまの金融危機は、極端な金融緩和とマネーのばらまきという、過剰な流動性の状態に依存している現在の資本主義の終焉を表すものとなるだろう。それは、現在の資本主儀に本質的な転換を迫るはずだ。
止まらない大量辞任の波と人手不足
しかし、資本主義の変質は企業よりも、そこで働く人間の側ですでに進行している。以前の記事に書いたように、すでにアメリカでは全労働人口の39%が企業を辞めフリーランスとなっている。リモートワークや新しく提供されたさまざまなAIのツールを活用すると、膨大な仕事がすでにアウトソーシングされているので、企業に依存しなくても十分に生活ができることが分かった。フリーランス化の動きは加速しており、人手不足が慢性化する状態になっている。今後もこれは続くことは間違いない。アメリカだけではなく、すべての先進国にこの波はやってきている。
言ってみればこれは、労働者が企業を放棄する流れである。リモートワーク、デジタルトランスフォーメーション、そして高度なAIのツールの活用によって、これまで企業の従業員や労働者であった人々が企業から自立して労働者というアイデンティティーを捨て、個人として自由に生き始めたのである。すでに始まっているが、労働者の確保に失敗して破綻する企業もこれから増えるはずだ。
こうした、企業には依存しない自由な個人の出現という現象に、一カ所に集めた労働者を管理し、最大の生産性を上げるように強いる既存の資本主義の企業は、自由な個人となった人々から放棄される運命にある。そうした企業が生き残るためには、本質的な転換が迫られる。この転換の波が現存の資本主義を新たな形態へと変化させて行くに違いない。
多極型秩序で進む変化
これらの変化が、AIの爆発的な進化による「シンギュラリティー」とシンクロし、同時平行に起こっている。これを見ると、中ロが主導する多極型の世界秩序という大きなプラットフォームの上で、金融危機で矛盾が一掃された資本主義が、デジタル技術と高度なAIで武装した自由な個人に対峙する過程で、本質的な転換と進化を経過するはずだ。その過程では、既存のシステムがどの程度生き残るのかは分からない。まったく新たな形態になるかもしれない。
どうも2023年は、こうした根本的な変化が起こる出発点の年だ。この変化はすさまじく加速し、どうも2025年頃になると、激変した社会を見ることになるだろう。・・・
●テラ共同創業者逮捕、依然として残る4つの疑問 4/2
暗号資産(仮想通貨)について書く仕事で最も大変なことは、常にあらゆることが起き、重要さと興味深さと劇的さが入り混じっていることだ。その証拠にここ2週間は銀行危機や規制強化のニュースがもちきりで、テラ(Terra)ブロックチェーンの共同創業者ドー・クォン(Do Kwon)氏がモンテネグロで逮捕という大ニュースを味わう時間がなかった。
5月にテラが崩壊したことは、2022年の暗号資産低迷の直接的なきっかけとなった。特に暗号資産レンディングを手がけるセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)とヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)を破綻に追い込んだ。
米証券取引委員会(SEC)の訴状には、クォン氏の行為について驚きの新事実が含まれていた。今回の逮捕によって、さらに多くの事実が明らかになることが望まれる。
答えを必要とするクォン氏についての疑問は、まだいくつも残っている。
なぜセルビアにいたのか?
クォン氏の逮捕に関して、現在最も興味深いのはこの点だ。韓国の警察は12月、クォン氏がセルビアに逃亡したと報告。最終的に逮捕されたのは、隣国のモンテネグロだった。どちらも非常に美しい国で、私が個人的に訪れたい国のリストでも上位に位置しているが、クォン氏にはもっと深い動機があったと考えて良いだろう。
場所の選択は、1つには地理的な理由だったかもしれない。クォン氏とテラフォーム・ラボ(Terraform Labs)の最高財務責任者ハン・チャン-ジュン(Han Chang-Joon)氏は、ドバイに行こうとプライベートジェットに乗り込むところを逮捕されたと報じられた。ドバイは富裕な逃亡者には人気の隠れ家で、バルカン半島はシンガポールからドバイへの経路上にあると言っていいだろう。
しかしもう1つ、理由と推測できることがある。SECは2月の民事告訴の中で、クォン氏はスイスの銀行を利用して、自らのプロジェクトから盗んだとされる約1億ドル(約130億円)相当のビットコインを売却できたとしている。クォン氏はそのため、あるいは警察から逃れるために犯罪組織を頼った可能性もあり、バルカン半島はマフィアと関連した暗号資産詐欺の温床となっている。これもクォン氏がセルビアに逃亡した理由の1つかもしれない。
誰が告訴するのか?
クォン氏がモンテネグロで逮捕された数時間後に、アメリカの検察官は同氏対して刑事告訴を行った。これはつまり、その準備が行われていたことを示している。クォン氏のアメリカ送還を要求できるようにしたわけだ。
元SEC職員のリサ・ブランカガ(Lisa Brancaga)氏によれば、クォン氏はアメリカの投資家をターゲットとしていたため、アメリカは法的権限を主張することができる。一方、クォン氏は祖国である韓国でも詐欺容疑で告発されている。
つまりアメリカと韓国は、どちらが最初にクォン氏を追及できるかを巡って交渉、あるいは競い合わなければならない。しかしまずは、偽造パスポートを使った罪でモンテネグロで裁判にかけられることを待つ必要があるだろう。
道徳的な観点だけで言えば、韓国が先の方が正しいかもしれない。テラはアメリカ人をターゲットとしていたが、被害者は韓国人の方がはるかに多いようだ。
クォン氏がテラの共同創業者で同じ韓国人のダニエル・シン(Daniel Shin)氏を通じて韓国のエリートたちに人脈を有していたことを考えれば、韓国の方が徹底的な追求が行われる可能性がはるかに高い。しかしアメリカの検察はその点をアメリカで行うべき理由として利用するかもしれない。クォン氏が韓国のエリートたちとコネクションを持っていることは、そのような人たちが裁判に干渉する可能性があると主張できる。
投資家たちはなぜ簡単に騙されたのか?
この疑問は、クォン氏の裁判では答えは出ないかもしれないが、特にイライラさせられる疑問だ。クォン氏を称賛した投資家は本当に同氏の言い分を信じるほど愚かだったのだろうか? それとも、他に何かあったのだろうか?
テラのアルゴリズム型ステーブルコイン「terraUSD」は、その後に明らかとなった不正を脇に置いたとしても、理論的に意味をなさないものだった。そうなると、暗号資産を専門とし、金融に精通していた人たちも含めた投資家がテラに対してきわめて間違った投資をしたのか、それとも、他に隠れた動機があったのかと不思議に思わずにはいられない。
しかし、SECの告訴から見えてくるのは、単なる恥さらし以上のリスクにさらされたあるカウンターパーティーの存在だ。SECはアメリカを拠点としたある投資会社が、terraUSDがドルペッグを失った2021年5月に秘密裏に行われた救済に関与したと主張している。
この出来事は後に、terraUSDは安全だという偽りの主張を支えるために使われたとSECは指摘。つまり、単なる投資ではなく、詐欺を助長する行為と捉えられる可能性がある。
CoinDeskは、この企業がシカゴにあるジャンプ・クリプト(Jump Crypto)であることを確認した。検察が詐欺のほう助と簡単に見なすことのできる行為に対して、なぜジャンプが法的な報いを受けていないのかはわからない。ジャンプがそれによって、12億8000万ドルもの利益を上げたとされることを考えればなおさらだ。
テラはどうなる?テラ2.0は?
クォン氏が手を触れたものはすべて、根本的に無価値になっている。クォン氏が携わったプロジェクトとの金銭的、職業的関わりを断つことを私は強く勧める。
もし私の言うことをを信じられない、あるいは理解できないとしたら、残念だ。私はもう1年もかけて説得を試みてきている。
●超有名ハリウッド女優も被害 ツイッターがあおった金融不安 4/2
ハリウッド映画「氷の微笑」の主演女優シャロン・ストーンさんも影響を受けたという米国の金融不安。その不安を増幅したのがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。日本の金融は「総体として安定」(岸田文雄首相)しているが、「初のツイッターがあおった銀行取り付け騒ぎ」(マクヘンリー米下院金融サービス委員長)は、人ごとではない。
拡散された「恐怖」
「銀行の取り付け騒ぎだ」「あなたは今、絶対おびえているはず」「月曜日の午前にはもっと多くの取り付け騒ぎが始まる」―。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、米シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した翌日の3月11日の土曜日に人気ブロガーや有名投資家がこうしたメッセージをツイッターで相次いで発信し、拡散されていった。
全米16位(総資産2090億ドル=約27兆円)で、直近まで健全経営を保っていたはずのSVBは3月9日だけで全体の4分の1に相当する420億ドル(約5兆4600億円)もの預金が流出、翌10日に破綻した。米利上げが背景にあって、保有する債券の売却で18億ドル(約2340億円)の損失を出したことがきっかけだった。破綻は全米史上2番目の規模だが、それを上回る過去最大の破綻だった貯蓄貸付組合(S&L)最大手ワシントン・ミューチュアルの破綻時でも10日間の預金流出は160億ドル(2兆円余り)だった。たった1日でその2.6倍もの預金が逃げたことになる。
日曜日だった12日にはシグネチャー銀行も破綻。経営体力の弱い中小銀行がバタバタとつぶれる連鎖破綻を恐れた米政府と連邦準備制度理事会(FRB)は同日、通常は保護しない25万ドル(約3250万円)超の預金も含めて預金を全額保護すると発表した。2008年のリーマン・ショックのような金融危機が再来するのではないかと不安視されている。
取り付け騒ぎは、金融危機時などに銀行の経営を不安視した預金者が預金を引き出そうとして窓口に一気に押し寄せる現象だ。08年には米銀行で発生し、1990年代後半には不良債権問題で苦しんでいた日本でも起こった。95年8月の木津信用組合(大阪市=当時)の破綻直前にはニュースをきっかけに本・支店に預金者が殺到。怒号と悲鳴の中で預金払い戻しを求める光景はテレビで大きく報じられた。
銀行監督では防げず
リーマン・ショック時と今回との決定的な違いは「ソーシャル・メディアの役割」(WSJ)だ。
個人がメッセージを瞬時に大量発信できるツイッターやフェイスブックは既に存在したが、まだ社会に浸透してはいなかった。だが今回はSVBの危機が報じられた直後、写真や動画を伴う書き込みがネット上にあふれた。中には真偽が怪しいものもあった。銀行に並ぶ人の列なのか、タコス(メキシコ)料理の屋台に並ぶ人の列なのか論争を呼び、取り消された写真もあったという。
SNSによる取り付け騒ぎは米連邦議会でも問題視された。3月16日の米上院財政委員会公聴会でホワイトハウス議員は、「われわれは史上初のソーシャル・メディアによる『ネット取り付け騒ぎ』を目撃している」と指摘。同議員からコメントを求められたイエレン財務長官は「どんなに強力な資本や流動性の監督があったとしても、ソーシャル・メディア等にあおられた極度の取り付け騒ぎに見舞われたら、銀行は破綻の危険に置かれる可能性がある」と語った。さらに「(預金を全額保護する非常事態である)『システミック・リスク例外』を宣言したのは、連鎖破綻の恐れがあったと認識したためだ。他の銀行も同様の取り付け騒ぎにさらされる可能性がある」として、SNSが拍車をかける金融不安に強い懸念を示した。
SNSは欧州の銀行も揺るがしている。3月19日の日曜日、スイスの名門銀行クレディ・スイスは同業のUBSに救済買収されることが決まった。スイス政府は買収に伴うUBSの損失を一部補塡(ほてん)する予定で、官民一体での救済劇だ。クレディ・スイスは過去の巨額損失と経営スキャンダルで資産と預金の流出が止まらず、SVB破綻後は株価が急落した。全世界にオンライン中継された記者会見で、誰に責任があるのかと問われたレーマン会長は「われわれはソーシャル・メディアの嵐を受けた」と無念そうに語った。
取り付け騒ぎは銀行窓口に預金者が殺到するイメージだが、SNSとインターネットバンキングの普及した現代では指先だけで巨額の預金を引き出すことが可能だ。預金保険の限度額を超えるお金を口座に持つ富裕層の預金ほど逃げ足は速い。ある日銀OBは「静かなる取り付け騒ぎ」と表現する。
一方、SNSだけが悪いのではないとの見方もある。SVB破綻後の11日に「月曜日(13日)には10万人のアメリカ人が自らの取引銀行の窓口に並び、預金払い戻しを求めるだろうが、ほとんど手にできないだろう」とツイートしたベンチャー投資家はWSJの取材に、SVBの取り付け騒ぎは、SNSではなく、プライベートなグループチャットや電子メールで引き起こされたと反論した。
冷静なファクトチェックを
前出のマクヘンリー氏は「思惑にまどわされず、冷静さを保ってファクト(事実)を見ることが大事だ」と語っている。実際、SVBの取り付け騒ぎでは、不安をあおるような書き込みをいさめようとしたSNSユーザーもいた。
SNSがない昔でも、日本では根拠のない信用不安説が出回った。1973年には愛知県内で女子高生の会話をきっかけに信用金庫から預金が流出。2003年には佐賀県で携帯メールのデマによる信用不安説が広がったため地方銀行の頭取が緊急記者会見を開いて否定し、信用棄損罪で容疑者不詳のまま告訴する事態に発展している(ちなみに真山仁氏の小説「オペレーションZ」に登場する保険版取り付け騒ぎは、この佐賀の騒動に着想を得たと思われる)。いずれも破綻には至らなかったが、SNS時代の今ならどうなったかと考えたのは私だけではないだろう。
日本におけるツイッターの1日当たり利用者は米国と同じだという。月間のアクティブユーザーは数千万単位とされる。SNSが金融不安を増幅するリスクへの備えは日本でも欠かせないのではないか。
SNSユーザーは、不確かな書き込みに惑わされずに行動することが求められる。金融機関や企業は、タイムリーな情報開示とともに、風評によって信頼が揺らぐ「レピュテーション・リスク」へのSNS上の対応がますます重要になるだろう。金融庁・日銀も米欧で発生した一連の事態を注視している。そしてSNSが報道を引用する形で拡散することが多いことを踏まえれば、マスメディアが金融機関の経営不安をどう報じるべきかを平時から考えておくべきであることは言うまでもない。海の向こうの金融不安は、対岸の火事ではないはずだ。
●新しい金融不安の形?世界同時並行下落を分析 4/2
3月10日にアメリカで起きた突然の銀行破綻をきっかけに世界に広がった金融不安。日本でも銀行株が軒並み下落し、一日で株価が10%以上急落した銀行もありました。金融システムが比較的健全だとされていた日本でなぜ銀行株がここまで売り込まれたのか。その背景を取材しました。
世界に広がった金融不安
3月10日、12日と相次いだアメリカの銀行破綻。これをきっかけに広がった金融不安は15日にはヨーロッパにも飛び火し、スイスの大手金融グループ、クレディ・スイスの経営問題が市場の不安を増幅させました。この間、世界の金融市場は大きく動揺し、東京株式市場では日経平均株価が3月13日に一時、500円以上下落。14日には700円以上、16日には500円以上、値下がりする場面もありました。
日米欧の銀行株の下落水準は
株価の下落を主導したのは銀行など金融関連の銘柄です。欧米では銀行株が急落し、日本でも規模の大小を問わず、銀行株が軒並み大きく値下がりしました。それでは銀行株の値下がりはどの程度だったのか。主な銀行銘柄で構成されるアメリカ(KBWナスダック銀行株指数)、ヨーロッパ(ストックス欧州600銀行株指数)、日本(トピックス銀行業指数)の株価指数を見てみます。アメリカの銀行破綻の前の3月9日の株価指数を100とすると、3月28日時点では、アメリカは15.9%、ヨーロッパは14.5%、そして日本は15.4%それぞれ下落したことになります。この間のグラフをみると、日本の銀行株の下落率は、震源地にある欧米の銀行の株価の下落率と同じような水準で推移していることがわかります。
日本の銀行株が大きく値を下げた理由は
欧米の金融不安が広がる中、政府・日銀の関係者は、日本の金融システムは安定しており、金融機関に及ぼす影響は限定的だという見方を示しています。それでは、金融不安の震源地である欧米から遠く離れ、影響も限定的だとされる日本でなぜ銀行株がここまで大きく売り込まれたのか。その理由について市場関係者が口をそろえたのが、金利が上昇から低下に転じたことです。去年12月、日銀は大規模な金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を0.5%程度に引き上げました。これを受けて長期金利が上昇。金利の上昇が銀行の収益を押し上げるという見方から銀行株は値上がりを続けます。海外の投資家や国内の機関投資家の中には、日銀がさらに金融緩和策を修正し、金利が上昇するとの思惑から、「日本国債売り、銀行株買い」のスタンスを強めていたところもありました。ところがアメリカの銀行が突然、経営破綻し、金融不安が広がったことで長期金利が急低下。投資家の姿勢は、「日本国債買い、銀行株売り」に転じることになりました。つまり株高が続いた反動の大きさが、急激な株価の低下につながったという見方です。もう1つは、世界の銀行株が同時並行的に下落するという今回の姿こそ、新しい金融不安の形ではないかという見方です。
丸紅経済研究所 今村卓 所長「今回の金融不安は、銀行の取り付け騒ぎがきっかけとなったが、これだけをみると過去の銀行破綻と比べて新しいことが起きたわけではない。ただ、SNSなどであっという間に情報が拡散し、スマホでの金融取引も当たり前になった今の時代、金融機関が経営破綻に陥るまでの速さ、金融不安が世界に広がるスピードはこれまでとは全く異なっている。金融不安の増幅の度合い、世界に波及する”波”の大きさもこれまで以上に大きくなる可能性もある。今回は日本への直接的な影響は限られたが、金融不安の波がさらに大きくなれば、日本に影響が及ぶおそれもあることも想定しておくべきではないか」
銀行株の急落から何を読み解く
クレディ・スイスは、スイスの金融当局の関与のもと、同じスイスの金融最大手、UBSによる買収という形で救済されることが決まりました。これと歩調を合わせて日米欧の6つの中央銀行が協調して、市場へのドル資金の供給を拡充すると発表。こうした異例の対応によって市場の動揺はひとまず収まった形となっています。“景気敏感株”とも呼ばれる銀行株。その突然の急落から何を読み解けばよいのか。世界経済や金融機関の動向をにらみながら、引き続き銀行株の動きに注目していきたいと思います。 

 

●迫るTLTRO返済期限、欧州中銀は政策運営で工夫必要に 4/3
ユーロ圏の銀行はこれまでのところ、米地銀2行の経営破綻やクレディ・スイスの経営危機に起因する市場の混乱を乗り切ってきた。そのおかげで欧州中央銀行(ECB)はインフレ抑制を目的とする利上げを続けられる。ただECBのラガルド総裁にとって、間もなく政策運営の難易度は高まることになる。
欧州の銀行業界では、6月28日は重要な節目だ。この日に各銀行は、新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われていた3年前にECBの貸し出し条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)を通じて借り入れた5490億ユーロを返済しなければならない。
表面的には、これはECBには朗報となるはずだ。ECBは既に、満期を迎えた保有債券の再投資を見送ることでバランスシートの縮小を進めている。そうした引き締め的な政策において、TLTROのマイナス1%前後という極めて銀行に有利な金利設定での貸し出しは、「時代錯誤」となっている。ECBがかつて見積もったところでは、TLTROの資金によって押し下げられた銀行の貸出金利幅は最大60ベーシスポイント(bp)と、大幅利下げに匹敵する。
だが単純にTLTROの返済を促すだけでは、銀行は別の手段での資金調達を強いられ、借り入れコストは上昇する。しかも各銀行は調達面で既に苦境にある。投資家が金利上昇や不動産関連損失の影響を巡る懸念を強めているからだ。ICEバンク・オブ・アメリカ指数によると、政府証券に対する銀行債の利回りスプレッドは3月上旬以降で約35bpも拡大している。
ラガルド総裁は、ユーロ圏の銀行の自己資本は充実し、流動性も潤沢にあると力説してきた。問題は3月でなお前年比上昇率が6.9%となった根強いインフレで、そのあおりでラガルド氏は中銀預金金利を現在の3%からもっと高くせざるを得なくなるだろう。そうなると銀行にとって債券発行に伴う調達コストは一層増大する。
ECBがこの銀行の痛みを和らげつつ、インフレとの戦いにも支障をきたさないようにする方法を見つけることは可能だ。例えば5490億ユーロのTLTRO返済の資金として、当初の3年より期間を短く、金利を高くしたつなぎ融資を提供できる。適用金利は、ECBの主要リファイナンス金利に上乗せした水準とするのが一案。足元の主要リファイナンス金利は3.5%で、中銀預金金利より50bp高い。
このように金利を設定すれば、本当に資金が必要な銀行だけが借り入れを申請してくるだろう。さらにこれならば、大量の流動性が供給されて物価を押し上げるリスクを限定できる。ECBのシュナーベル専務理事が最近発言したように、銀行融資縮小は利上げの効果を補強してくれるので、TLTROの返済に関して何も手を打たないというのはECBにとって魅力ある対応かもしれない。それでも今の環境で、銀行の流動性を不足させることは、あえて背負い込む価値があるリスクだとは思われない。
●OPECプラス、予想外の追加減産表明 米「得策でない」 4/3
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」は2日、日量約116万バレルの追加減産を行うと発表した。5月から開始し、今年末まで継続する。予想外の動きで、アナリストは原油価格が押し上げられるとみている。
ロイターの算出に基づくと、これによりOPECプラスの減産量は日量366万バレルとなり、世界需要の3.7%相当する。
OPECプラスは3日に開くオンライン閣僚会合で、2023年末まで日量200万バレルを減産するという現行の方針を据え置くと予想されていた。
原油価格は先月、世界的な銀行危機が需要に打撃を与えるとの懸念から、1バレル=70ドルに向かって下落し、15カ月ぶりの安値を付けたが、現在は80ドルに向けて持ち直している。
投資会社ピッカリング・エナジー・パートナーズの代表は2日、今回の減産により原油価格が1バレル当たり10ドル上昇する可能性があると予想した。
米国は、経済成長を支え、ロシアによるウクライナ戦争の資金源を抑制するため、原油価格の押し下げが必要だとしている。
米国家安全保障会議の報道官は「市場の不透明感を踏まえると、現時点で減産は望ましくないと考えており、われわれはそのことを明確にしている」と述べた。
サウジアラビアは日量50万バレル減産する。サウジのエネルギー省は、自主的な減産は市場の安定性を支えるための予防的措置だと説明した。
●米ドル安を想定する理由とドルインデックスの見通し 4/3
サマリー
・インフレ圧力の緩和が確認され米金利は再び低下基調へ
・FRBのバランスシート拡大がひとまず一服 米国株は上昇トレンドを維持か
・外為市場は米ドル安を再び意識する局面にある
・米ドル相場(ドルインデックス)の見通しと注目のチャートポイントについて
インフレ圧力の緩和と米金利の低下
2月のアメリカ個人消費支出(PCE)デフレーターは前年同月比で5.0%と、前月の5.3%から低下した。食品とエネルギーを除くコア指数も同比4.6%と、前月の4.7%から低下した。前月比でもコア指数が0.3%と、前月の0.5%から鈍化した。
連邦準備制度理事会(FRB)が注視している物価指標でインフレ圧力の緩和が確認されたことで、先月31日の米債市場では利回りに低下の圧力が高まった。
   アメリカPCEデフレーターの推移
FRBのバランスシート拡大がひとまず一服
3月は金融システム不安を受けて金融機関による資金供給制度の利用額が急増した。この結果、連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシートが急拡大した。しかし、先月23日以降は利用額が減少し、バランスシートの拡大が一服した。
金融システム不安が完全に後退したわけではない。しかし、18ポイント台まで低下しているVIX指数(VIX)やFear & Greed Indexが 「Fear」から「Neutral」へ転じている状況を考えるならば、この問題(金融システム不安)に対する投資家の心理は改善の傾向にある。上で述べたインフレの鈍化とそれにともなう米金利の低下基調も考えるならば、今週の米国株は上昇トレンドを維持する公算が大きい。
   FRBのバランスシート
再び米ドル安の進行を意識する状況に
2月PCEデフレーターでインフレの鈍化傾向が確認されたこと、そして金融機関による資金供給制度の利用額が減少へ転じている状況を考えるならば、今週の米国市場は金利の低下と株高が同時に発生することが予想される。この状況が発生する場合、外為市場では米ドル安の圧力が最も高まりやすい。ゆえに外為市場では、米ドル安の進行を再び意識する状況にある。
米ドル相場のトレンドを示すドルインデックス(DXY)は現在、102ポイント(フィボナッチ・リトレースメント76.4%の水準)を意識する状況にある。反発の局面では、50日MA(103.50レベル)のはるか下で推移している10日MA(102.66レベル)での攻防が続いていること、MACDで地合いの弱さを示唆するトレンドが続いていることも考えるならば、テクニカルも米ドル安を意識する必要があることを示唆している。
ドルインデックスが102ポイント台を完全に下方ブレイクする場合は、今年2月の安値100.82レベルを視野に下落幅の拡大を警戒しておきたい。
   ドルインデックスのチャート
米ドルの買い戻し要因
   強い米経済指標
一方、米ドルの買い戻し要因として今週注目しておきたいのが、強い経済指標と原油先物価格の動向である。
前者では、ISM製造業/非製造業景気指数や雇用関連の指標で強い内容が確認される場合、米金利の反発とそれにともなう米ドルの買い戻しが予想される。なお、3月の雇用統計は海外市場が休場する7日に発表される。ゆえに今回の雇用統計の内容は、来週以降の相場に影響を与えるだろう。
   原油先物価格の動向
サウジアラビアは2日、5月から23年末にかけて日量50万バレルの原油を減産する発表した。OPECプラスとの協調により、合計で110万バレル超の減産となる。サウジアラビアの減産発表を受け、週明けのNY原油先物価格(WTI)は一時81ドル台へ急騰する局面が見られた。
株高のムードが高まっているタイミングで原油先物価格の上昇幅が拡大する場合、米債市場では短期的かつ単発的な利回りの上昇が予想される。米金利の上昇は米ドル買いの要因となろう。このケースでのドルインデックスは、103ポイントおよび50日MAのトライを想定しておきたい(上の日足チャートを参)。
   NY原油先物価格のチャート
●大企業製造業の景況感は5期連続悪化、海外経済減速で−日銀短観 4/3
日本銀行が3日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)は、景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業・製造業でプラス1と前回の昨年12月調査のプラス7から悪化した。欧米の急速な利上げに伴う海外経済の減速や原材料高などの影響が背景にあり、悪化は5期連続となる。
業種別に見ると、部材供給不足の影響が緩和している自動車や、造船・重機が改善した一方で、電気機械やはん用機械、石油・石炭製品などが悪化した。
大企業・非製造業の業況判断DIはプラス20と前回のプラス19から上昇した。改善は4期連続。新型コロナウイルス感染症による影響が落ち着いた中で、インバウンド(訪日外国人)需要の回復もあり、小売りや対個人サービスなどの改善が続いた。
先行きについては、大企業・製造業がプラス3に改善を予想している。同・非製造業はプラス15へ悪化を見込んでいる。
9日に就任する植田和男新総裁は、27、28日に開かれる金融政策決定会合に初めて臨む。欧米発の金融不安も相まって足元で世界的な景気後退のリスクが高まる中、金融政策運営は現在の大規模な金融緩和策の効果と副作用を入念に点検しつつ、慎重な判断を迫られる可能性が大きい。
キーポイント
SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、製造業DIの予想を上回る悪化について「グローバルな製造循環の影響が大きい。製造業サイクルはアメリカも欧州もアジアも全部下に向かっているので、日本でも悪化した」と指摘。非製造業は「シンプルにウィズコロナが効いている」とした上で、インバウンドも増えており、消費関連が基本的には全部良くなってきていると総括している。
三菱総合研究所の堂本健太研究員は、自動車は先行き景況感の改善が見込まれているほか、企業が中長期的に設備投資を行うことも確認できたとし、「先行きについて期待できる部分も大きい」と指摘。日銀の金融政策運営に関しては「拙速に政策修正を行うというより、政策修正ができるような経済状況が整っているかを引き続きデータを見て確認していく」とみている。
企業が想定する消費者物価(CPI)は平均で1年後が前年比2.8%上昇となり、前回調査の2.7%上昇から上振れした。3年後の2.3%上昇、5年後の2.1%上昇とともに、調査を開始した14年以降で最高。 
●全国銀行協会会長「リーマンショックのような金融危機には陥らない・・・」 4/3
全国銀行協会の会長に就任したみずほ銀行の加藤勝彦頭取は世界的な金融不安が広がる中、「リーマンショックのような金融危機には陥らないとみている」との見解を示しました。
全国銀行協会の会長に就任したみずほ銀行頭取の加藤勝彦会長は会見で、「将来不安を払拭して、明るい未来に繋げたい。銀行界の先頭に立ち、この責務を全うしてまいる」と会長としての抱負を述べました。
アメリカの銀行の相次ぐ経営破たんをはじめとする世界的な金融不安については、「海外金融当局による一連の市場安定化策は、金融環境の一段の悪化に歯止めをかけて、一定の成果を上げている」との認識を示しました。
また、今回の一連の破たんや信用懸念は、個別銀行の資産と負債の総合管理の失敗や業績不振などの特有の要因だとして、「リーマンショックのような金融危機には陥らないとみている」と述べました。
●銀行危機はストラテジストのレーダー外−2023年のリスクに挙がらず 4/3
昨年12月に2023年1−6月(上期)の株式相場の苦戦を予想したウォール街のトップストラテジストの多くは、金利上昇による経済および企業利益に対するリスクの高まりについて警告したが、銀行セクターの波乱を予想した者はいなかった。
シリコンバレー銀行(SVB)など複数の米地銀の突然の破綻とクレディ・スイス・グループ株急落は、リセッション(景気後退)リスクと金利上昇、インフレによる企業利益へのダメージからの影響を焦点としていた相場の予言者らの不意を突いた。
その中で、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のチーフ投資ストラテジスト、マイケル・ハートネット氏は昨年12月、次に起こるのは米金融引き締めに起因する「クレジットイベント」だろうとしていたが、米地銀が震源になるとは予測していなかった。
年初には弱気派も含めて多くの投資家とストラテジストが、金利上昇による利益拡大を見込み銀行株について確信的に強気だった。HSBCホールディングスのマックス・ケトナー氏などは1月前半に市場全体についても楽観に転じていた。ウォール街全般の悲観が逆張りの相場上昇をもたらす可能性が高いと論じた。
同氏は最近のリポートで「ごまかしは効かない。当社の前向きな見方は大きな誤りであったことがこのところの展開で判明した」と認めた。
米S&P500種株価指数は3月も上昇したが、銀行セクターの混乱で欧州の力強い相場上昇は頓挫し、ディフェンシブ株と成長株へのローテーションが起こった。一方、テクノロジー株中心のナスダック100指数は強気相場入りし、1−3月(第1四半期)は同四半期として2012年以来の好パフォーマンスとなった。これも、ほとんどのストラテジストが予想しなかった展開だ。
大方のストラテジストは株式市場の上期の厳しさを正しく予想したが、最近の変動を受けてJPモルガン・チェースやモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス・グループなど弱気派は23年を通じた慎重な見方に自信を深めている。
著名ストラテジストの予想のスコアカードは以下の通り。
ゴールドマンは驚き
ゴールドマンは利上げ見通しの中で23年の株式市場は困難な回復に直面すると予想していたが、シャロン・ベル氏によれば、同社ストラテジストらは銀行セクターに関連する「具体的なイベント」として弱さが展開したことに驚かされた。「急激な金利上昇で米市場は脆弱(ぜいじゃく)だと考えていたが、脆弱だと指摘することと起こり得る問題を特定するのは別物だ」と同氏はインタビューで語った。
弱気なウィルソン氏
不動の株式弱気派、モルガン・スタンレーのマイケル・ウィルソン氏は23年上期のS&P500種の「不安定な軌道」を警告していた。企業の利益予想は引き下げられ始めており、ウィルソン氏は先週、一段の引き下げで株価が急激に下落する可能性があるとの見方を示した。S&P500種が最大22%下落するとの同氏の予測はまだ実現してはいない。同氏は一段の下げを見込んでいるが、株価が長く低水準にとどまるとは予想していない。同氏はブルームバーグに対しコメントを控えた。
ミンスキーモーメント
JPモルガン・チェースではドゥブラフコ・ラコスブハス氏、マルコ・コラノビッチ氏らが上期の相場下落を予想していた。ストラテジストらは現在、第1四半期が株式の「クライマックス」になると予想している。コラノビッチ氏は最近のリポートで、銀行破綻と市場混乱、景気不透明で、過度のリスクテークを後押しする長期的ブームの最終局面である「ミンスキーモーメント」が訪れるリスクが高まったとの見方を示した。
一段の下落
バンク・オブ・アメリカ(BofA)ではマイケル・ハートネット氏が昨年12月に、クレジットイベントが23年の株式相場の底をもたらすだろうと予測。ただ、それを引き起こすのは銀行以外の貸し手、いわゆるシャドーバンクだろうと予想していた。同氏は今年の一段の株価下落予想を維持している。
コラノビッチ氏とハートネット氏はブルームバーグに対しコメントを控えた。
少数の強気派
ドイツ銀行の米株担当チーフストラテジスト、ビンキー・チャダ氏はポジショニングを理由に1−3月の米株上昇を予想していた。現在も年末のS&P500種予想4500を据え置いている。これは現水準から10%程度の上昇になる。
HSBCのケトナー氏は昨年10−12月(第4四半期)を通じて「最大限のアンダーウエート」を維持した後、今年1月に強気に転じた。銀行セクター波乱で足をすくわれたが、強気は維持。センチメントとポジショニングがまだ非常に低調なため、逆張りによる見通し改善の可能性はあるとインタビューで語った。
●米銀のジャンク債売却、SVB破綻で難儀に  4/3
米金融機関にとって最近の銀行業界の混乱は、数百億ドル規模に及ぶ高リスク債権を売却するという、ただでさえ困難な仕事をさらに難しくしている。
レバレッジド・ファイナンス分析会社9フィンによると、バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)、バークレイズ、モルガン・スタンレーなどは現在、総額で250億〜300億ドル(約3兆3000億〜4兆円)の「ハングデット」をバランスシート上に抱えている。この売れ残り債権はレバレッジド・バイアウト(LBO、買収先企業の資産などを担保とした資金調達による買収)に関連したものだ。昨年に信用状況が悪化した結果、銀行が合意していたLBO向け融資(債権)に対する投資家の需要が鈍った。
銀行関係者によると、銀行は最近、こうした債権を徐々に減らし始めていたが、シリコンバレー銀行(SVB)やレバレッジド・ファイナンス大手のクレディ・スイス・グループを巻き込んだ今回の危機によって、このプロセスは行き詰まった。さらに悪いことに、ハングデットの中で個別では最大のもの(米実業家イーロン・マスク氏によるツイッター買収を支える130億ドル超の融資債権)の魅力が一段と低下している。ツイッターの売上高と利益が急落したことを受けて、マスク氏が同社の評価額を買収価格の半分未満に設定したためだ。
投資家の熱意が薄れていることを示すように、銀行部門の安定性に対する懸念が浮上すると高リスクの債券・ローン市場は値下がりした。債券データ提供を手掛けるSOLVEが作成した北米ハイイールド債インデックスの平均利回りは3月に約9%となり、2月の約7.5%から急上昇(価格は急落)した。
昨年に金利が上昇し始めた時のように信用状況が急速に悪化すれば、銀行は、引き受けに合意した債権を売却(多くの場合、損失が出る)するか、市況の改善に期待して保有し続けるという難しい選択を迫られる。ツイッターのケースでは、銀行が同社の債権を売却した場合、5億ドル以上の損失が出る可能性があると、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は昨年10月に報じている。
シリコンバレー銀が損失覚悟での債券売却を余儀なくされ、結果的に経営破綻したことで、そうした損失に対する大手銀行の許容度は一段と低下した、と銀行関係者らは述べた(ただし、大手行がそのような売却を迫られればシリコンバレー銀と同じ運命をたどる恐れがある、と示唆している人はいない)。
銀行がLBO向けローン債権を売却すると多額の損失が出てしまうため、銀行の間で新たなLBO向けローンを組成する意欲が後退し、ウォール街の利益源に大きな打撃を与えている。
ディールロジックによれば、プライベートエクイティ(PE)投資会社が発表した米国でのLBO案件額は3月31日時点で約500億ドルと、前年同期の約860億ドルから大幅に減少した。
ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのグレッグ・ハートリッチ氏は「在庫が一巡するまで引受会社の多くは新規組成を減速させる、と考えるのが妥当だ」と述べた。「だが、これら金融機関の大半は資本と流動性に余裕があるため、銀行が投げ売りをする可能性は低そうだ」
今回の混乱の前に、銀行はハングデットを売却する運にいくらか恵まれ、ソフトウエア開発会社ローパー・テクノロジーズや調査会社ニールセン・ホールディングス向けなどの債権を売却できた。金融機関は、ソフトウエア開発会社クアルトリクス・インターナショナルの125億ドルの買収(もっとも、借り入れの割合は比較的小さかった)など、多くの新規大型案件を支えることを約束した。
JPモルガン・チェースを中心に9社で構成された金融機関グループは、PE投資会社アポロ・グローバル・マネジメントによる化学品販売会社ユニバー・ソリューションズの買収に40億ドル超の融資を提供した。銀行によるこの種のコミットメントとしては過去数カ月で最大となった。
だが、その勢いは止まった。資金調達が必要な借り手は、専用の資金プールを確保して支援するノンバンクに頼るようになっている。
法律事務所デビボイス&プリンプトンのファイナンスグループを率いるジェフリー・ロス氏は「銀行の状況は、当社が扱う案件の多くが頓挫(とんざ)したことを意味する」と述べた。
銀行は、さらなる混乱がなければ、こうした状況はすぐに変わると楽観視している。昨年のIT(情報技術)サービス大手シトリックス・システムズ買収案件の資金調達を支え、約6カ月にわたりハングデットとなっていた約40億ドルの債権は、間もなく売却される見通しで、大きな損失が出る可能性が高いと、この問題に詳しい関係者らは述べた。
●米国株、第1四半期は力強く上昇 景気後退リスクに警戒も  4/3
銀行危機の中、米国株式市場は第1・四半期に力強い上昇を見せた。ただ一部の投資家は、広く予想されている通りにリセッション(景気後退)が到来すれば米国株は圧力にさらされると警戒感を示している。
2022年には20%近く下落したS&P総合500種指数は、第1・四半期は7%上昇した。ナスダックは第1・四半期に16.8%上昇、四半期としては20年以来の大幅高となった。
投資家は、こうした底堅さを理由に株式のリセッションへの脆弱性が高まったと指摘する。バリュエーションが歴史的な水準に高止まりしているほか、リセッションとなれば企業収益も打撃を受けるからだ。
フィデューシャリー・トラストのハンス・オルセン最高投資責任者(CIO)は「市場はリセッションを全く織り込んでいない」とし、株式について「向こう数四半期に極めて不快なサプライズに見舞われるかもしれない」と話す。同社は通常よりキャッシュの持ち高を増やし、将来の市場動揺に備えているという。
株価がどの程度リセッションの可能性を織り込んでいるのか、リセッションが起こるのかどうかは市場で議論の的になっている。指標は今年に入って好調で、米連邦準備理事会(FRB)による一連の利上げにもかかわらず、米経済はごく穏やかなリセッションに陥るだけで済む、もしくはリセッションを回避できると期待感も広がった。
先の銀行セクターの混乱で懸念は再び高まった。一部のアナリストは、FRBの引き締めの影響が出始めているときに銀行へのストレスが強まったことで、経済に圧力がかかりかねないとしている。
その結果、投資家は企業収益などの主要指標に改めて注目するようになっている。向こう数四半期の利益見通しは既に低調だが、リセッションになれば一段と悪化する可能性があるとの指摘も一部で聞かれる。
モルガン・スタンレーのストラテジストはリポートで、最近の銀行危機の前ですら企業利益の予想値は15─20%過大だったと指摘。その上で「過去数週間のイベントを踏まえると、株式が今後はるかに低い利益予想を織り込むリスクが高まっている」との見方を示した。
リフィニティブのデータによると、S&P500採用企業の利益は第1・四半期、前年同期比5%減少したと予想されており、第2・四半期は同3.9%の減益が見込まれている。ネッド・デービス・リサーチによると、企業利益はリセッション時に平均で年24%減少している。
米企業の第1・四半期決算は、向こう数週間で発表が本格化する。

 

●アメリカの金融危機が日本の地銀に波及する恐れも… 4/4
3月15日に、米国に亡命していた中国の大富豪、郭文貴氏が逮捕されました。ニューヨーク州連邦検察によれば、詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いがあるとのこと。郭氏は、実業家ですが、中国共産党の指導部を厳しく批判していたことで知られます。
逮捕される数日前、郭氏はユーチューブで経営破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)について、「北京にとって特別な存在だった」と指摘しています。
海外の有力メディアが報じる情報をサイトで紹介しているクーリエ・ジャポンも、「『シリコンバレー銀行には中国共産党の金がある』中国人富豪の郭文貴が逮捕前に残したメッセージ」のタイトルで記事を掲載しました。そこには、<ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)の分野で業界をけん引していたSVBの経営陣は、中国で特別な「おもてなし」を受けていたという>との一文があります。
SVBは、米スタートアップ企業に対する資金提供の中心的な役割を担っていたといいます。中国系のスタートアップも数多かったはずです。米政府はSVBが中国やロシア、アラブなどの富裕層のマネロンに使われていた疑いを持っているともいわれます。
真偽は不明ながら、さまざまな臆測も金融市場で流れます。SVB経営陣は、中国共産党の幹部が表沙汰にできない海外資金を秘密裏に預かっていた、不動産開発大手の創業者など成功者の利用が多く、SVBの資産に占める中国関連は全体の15〜20%に達していた――といった具合です。郭氏の逮捕劇にしても、実は郭氏の安全確保のためなのではないかという見方も出てくるほどです。
金融危機の背後に米中対立?
SVBの破綻は“米中経済戦争”と深く関わっているかもしれません。
米銀に続き、スイス大手のクレディ・スイスが連鎖的に経営危機に陥り、同じスイスのUBSによる買収で合意しています。レコードチャイナは3月22日、中国メディアの報道として、華人資本が米国やスイスから大量に引き揚げられていると伝えました。その額は米国から760億ドル(約10兆円)、スイスから1600億ドル(約21兆円)です。資金の移転先は主に香港、シンガポール、カナダなど。
世界の株式市場を見渡すと、米銀破綻やクレディ・スイスの経営危機による金融危機は沈静化してきたとの見方が有力です。しかし、今回の金融危機の背後に米中対立が大きく横たわっているとしたら、そう簡単に決着するとは思えません。
金融危機の余波が日本に押し寄せないとも限らず、そうなればただでさえ経営難の地銀はピンチに陥りかねません。もうしばらく、SVB発の金融危機から目を離さないほうがよさそうです。
●米銀行危機がビットコインの一人勝ちに拍車:コインベース 4/4
暗号資産(仮想通貨)市場は、アメリカの銀行システムが混乱に直面した中でも回復力を示し、特にビットコイン(BTC)は他の仮想通貨をアウトパフォームしているとコインベースは3月31日の調査報告書で述べている。
ビットコインの上昇は2月中旬以降、他の仮想通貨を上回っており、暗号資産時価総額に占めるビットコインの割合は、3月中の43.9%から47.7%に達したとコインベースは指摘している。このアウトパフォームは月初めに加速し、アメリカの銀行システムの混乱の始まりと重なっていたと報告書は述べている。
「その理由の一つは、銀行システムのストレスがビットコインの価値の保存特性を強化したことだ」と報告書は述べ、BTCは主に従来の金融システムの外に存在するので、「現在の状況に対するヘッジを提供した」としている。
また、他の仮想通貨の規制に対する投資家の懸念からも恩恵を受けているとアナリストのデビッド・ドゥオン氏とブライアン・キュベリス氏は記している。
ビットコインのS&P500株価指数に対する相関は、昨年5月のピーク時の70%から、3月末には25%に低下したという。
ビットコインの相対的なアウトパフォームは、他の暗号資産の規制に対する投資家の懸念や、一部のBTC対ステーブルコインの取引ペアに特有の流動性の低下も反映していると、同レポートは付け加えている。
●アメリカの「金融不安」と「株式市場」の展望 4/4
過度な不安後退で3月7日以降、ダウ平均、S&P500、ナスダックは上昇も、銀行株指数は低迷
米シルバーゲート銀行が自主清算を発表した3月8日から、まもなく4週間が経過します。この間、米国ではシリコンバレーバンク(SVB)やシグネチャー・バンクが破綻し、スイスではクレディ・スイス・グループを巡る混乱が表面化するなど、金融不安が一気に高まりました。ただ、その後は連鎖的に銀行の問題が広がることはなく、過度な不安は幾分、後退したように見受けられます。
そこで、改めて米国株の動きを確認すると、米シルバーゲート銀行の自主清算発表前日の3月7日から31日までの期間、ダウ工業株30種平均は1.3%、S&P500種株価指数は3.1%、ナスダック総合株価指数は6.0%、それぞれ上昇しています。しかしながら、米国の大手行や主な地銀で構成されるKBWナスダック銀行株指数は、同期間21.7%下落しており、銀行セクターは依然、低迷が続いています。
情報技術、通信サービス、公益事業などは好調、市場はある程度信用条件の引き締まりを想定
次に、もう少し詳しく業種別の動きを検証します。同じく3月7日から31日までの騰落率をみると、「情報技術」や「通信サービス」、「公益事業」や「生活必需品」が好調で、ハイテク銘柄や景気変動の影響を受けにくいディフェンシブ銘柄が選好されている様子がうかがえます(図表1)。これに対し、やはり「金融」は最も低調で、景気敏感な「資本財」や「素材」なども下落しています。
   [図表1]S&P500種株価指数と業種別指数の動き
一般に、金融不安などで銀行の貸出姿勢が厳格化すると、信用条件が引き締まり、景気の下押し圧力となります。そのため、図表1の動きから、市場はこの先、ある程度の信用条件の引き締まりを前提とし、「利上げ終了」、「景気減速」、「長期金利低下」を見込んでいると推測されます。このシナリオの下では、銀行借入に頼らずとも潤沢な現金を保有し、長期金利の低下が追い風となるハイテク銘柄が、最も物色されやすいと考えられます。
業種別の動きは信用条件の引き締まり次第、今後も銀行に関する新たな悪材料の有無に注意
図表1のような傾向が続くか否かは、信用条件の引き締まりの度合いによるところが大きいと思われます。すなわち、米国で今後、信用条件が強く引き締まれば、情報技術、通信サービス、公益事業、生活必需品などのパフォーマンスが、金融、資本財、素材などのパフォーマンスを相対的に上回る可能性が高いと考えます。一方、金融不安が収束に向かい、信用条件の引き締まりが軽度となれば、これとは逆の動きも予想されます。
なお、米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融機関向けに積極的に流動性を供給しており(図表2)、中小銀行の預金残高は3月22日時点で前週比59億ドル増と、3月15日時点の同1,964億ドル減から預金流出が一服しています。金融不安はまだ完全に払しょくされた訳ではありませんが、銀行に関する新たな悪材料が浮上しない限り、信用条件の引き締まりが更に加速する恐れは小さいと思われます。
   [図表2]FRBの資産の部におけるローン残高の推移 

 

●次は商業用不動産がヤバい…米国“中小銀行の危機” 4/5
3月26日、米シリコンバレーバンク(SVB)の事業引受先が決まり、市場では金融システム不安が若干後退したが、中小規模の銀行の財務への警戒は続いたままだ。
発端となったSVBの2022年末時点の総資産は約28兆円、リーマンショック時に破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ、米銀では過去2番目の規模だった。
「SVBが保有している米国債等が目減りした」との情報がネット上で拡散し、預金が一気に流出したことが破綻の原因だったことを踏まえ、連邦準備理事会(FRB)を始め米金融当局は、規制強化に向けた取り組みを開始している。だが、事態は規制当局の動きを上回るスピードで深刻化している。
市場の懸念が預金などの問題から運用先にまで広がりつつある。
中でも注目を集めているのは米国の商業用不動産向けのローンだ。
SVBに次いで3月12日に破綻したシグネチャー・バンクの総資産(約1104億ドル)の3分の1に相当する360億ドルが米国の商業用不動産ローンの融資だったことが関係している。同行は新興テクノロジー企業などが集うオフィスタワーや集合住宅に積極的に融資していたことで知られていた。
賃貸マンションやオフィスビルなどの商業用不動産の米国の市場規模は5兆6000億ドルに達すると言われている(3月23日付フィナンシャル・タイムズ)が、戸建て住宅など住宅用不動産よりも貸付比率が高いため、金利引き上げの悪影響を受けやすい。
FRBが昨年3月からわずか1年で政策金利を4.75ポイント引き上げたことは、米国の商業用不動産市場にとって逆風以外のなにものでもなかった。
新型コロナのパンデミックで普及した在宅勤務も災いした。常勤勤務者が減少したため、企業はオフィスの規模を縮小し、賃貸料が高い都心から離れる動きを本格化させている。
商業用不動産ローンの借り換えがピークに
米格付け会社ムーディーズによれば、米国内主要25都市のオフィスの空室率は一気に上昇した。サンフランシスコの場合、オフィスの空室率は2019年第4四半期の約5%から昨年第4四半期には19%にまで跳ね上がっている。
商業用不動産ローンの分野の異変は今年2月から生じている。
コロンビア・プロパティ-・トラストは、ニューヨークやサンフランシスコなどの都市部のビルに関連する17億ドル相当の変動金利ローンで債務不履行(デフォルト)を生じさせてしまった。その後、ブルックフィールド・アセット・マネジメントもロサンゼルスのオフィスタワー関連債務(7.5億ドル相当)をデフォルトさせている。
モルガン・スタンレーは「市場はオフィス対象の上場不動産投資信託(REIT)の組み入れ資産が3〜4割下がることを織り込んでいる」と試算している。
米抵当銀行協会が3月15日に公表した報告書によれば、米国の銀行が保有する商業不動産ローンの融資残高(4兆4000億ドル)の8割近くを中小規模の銀行が占めている(3月29日付日本経済新聞)。そのうち16.5%に相当する7280億ドルが今年償還期限を迎え、来年も15%相当の6590億ドルが続く。今年から来年にかけて、商業用不動産ローンの借り換えがピークを迎えるのだ。
中小規模の銀行の商業用不動産ローンへの傾倒ぶりも気になるところだ。
今年2月時点の米国の上位25行の総資産に占める商業用不動産ローンの融資残高の割合が29%であるのに対し、米国の中小規模の銀行は67.3%と突出している(3月29日付現代ビジネスオンライン)。
「商業用不動産ローンの融資残高の5割が市場悪化が懸念される米国向けだった」ことが材料視されてドイツ銀行の株価も急落した。
今回の騒動で米国の中小規模の銀行の貸し出し姿勢は格段に厳しくなることは間違いなく、商業用不動産ローンの借り換えの失敗が頻発するような事態になれば、次の金融危機の震源地になってしまうことだろう。
「リーマンショック級」を断言するつもりはないが…
住宅用不動産市場にも暗い影が漂い始めている。
住宅用不動産ローンの分野でも中小規模の銀行が主役を演じているからだ。
融資残高のうち、中小規模の銀行は6割のシェアを誇り、米国全体の住宅ローンの7割を担う住宅ローン企業にも積極的に資金を提供している(3月28日付日本経済新聞)。
住宅用不動産の分野でも中小規模の銀行の貸し渋りが始まるのは時間の問題だと思う。
企業債務も心配だ。ジャンク債やレバレッジドローンなどの高リスクの借り入れは金利上昇に脆弱であるため、イングランド銀行は3月29日「次の金融危機は企業債務が引き金となる恐れがある」と警告を発している。
グローバル化した世界経済では一国の危機がたちまち他国に波及してしまうのが常だ。
「リーマンショックのような金融危機が起きる」と断言するつもりはないが、米国の中小規模の銀行の危機が発端となって、欧米各国で深刻な資産デフレが生じ、バブル崩壊後の日本のように長期不況に陥る可能性は排除できないのではないだろうか。
世界銀行も3月27日「2030年までの世界経済の成長率は約30年ぶりの低水準になる」との予測を発表している。
「欧米諸国で『アラブの春』のような政変が起きる」との憶測が既に流れている(3月22日付ZeroHedge)が、その上、スタグフレーションという悪夢が再来すれば、そのリスクは飛躍的に高まることだろう。残念ながら、日本も例外ではない。
経済危機が政情不安を招いた1930年代の悲劇が繰り返されないことを祈るばかりだ。
●米国株式市場=下落、景気後退懸念強まる 低調な指標受け 4/5
米国株式市場は下落して取引を終えた。低調な米経済指標を受け、米連邦準備理事会(FRB)が実施してきた積極的な利上げが深刻な景気後退を招く恐れがあるという懸念が強まった。
米労働省が4日発表した2月の雇用動態調査(JOLTS)は、求人件数が約2年ぶりの低水準となり、労働市場が冷え込みつつある可能性が示された。また、商務省が発表した2月の製造業新規受注は前月比0.7%減少し、2カ月連続のマイナスとなった。
インデックスIQのサル・ブルーノ最高投資責任者(CIO)は「求人数が減少し、採用活動がかなり減速しているとの懸念につながった。経済にマイナス材料だ」と語った。
JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)が株主に宛てた書簡で、米国の銀行危機はまだ終了しておらず、影響は何年にもわたり継続するとの見方を示したことを受け、銀行株が売られた。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)、ウェルズ・ファーゴは2%超下落。S&P銀行株指数は1.9%下落した。
S&P主要11セクターでは、7セクターが下落。工業が2.25%安、エネルギーが1.72%安と下げを主導した。一方、景気動向に左右されにくいヘルスケアや公益事業などは上昇した。
S&P総合500種は1週間ぶりの下落となった。半導体大手エヌビディアが1.8%下落し、指数を押し下げた。
重機械メーカーのキャタピラーは5.4%安。
金利先物市場は、FRBが5月に利上げを停止するとの見方に傾いている。CMEグループのFedウオッチによると、5月の25ベーシスポイント(bp)利上げ確率は42%で、データ発表前の60%近くから低下した。
英実業家リチャード・ブランソン氏の宇宙開発企業ヴァージン・オービットは23.2%の大幅安。長期資金が確保できず、米連邦破産法第11条の適用を申請した。
映画館チェーン大手AMCエンターテインメント・ホールディングスも23.5%下落。同社は訴訟で和解し、優先株の普通株への転換を進めると発表した。
トランプ前大統領に関連する特別買収目的会社(SPAC)のデジタル・ワールド・アクイジション・コープは8%安。年次財務報告書の提出を延期した。
米取引所の合算出来高は103億株。直近20営業日の平均は128億株。
米株市場全体では、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を2.2対1の比率で上回った。
●株下落、求人件数の減少で国債上昇−円は買われ131円台 4/5
4日の米株式相場は下落。銀行株などが売られ、S&P500種株価指数は5営業日ぶりに反落した。
ウェルズ・ファーゴやシティグループといった金融機関で構成するKBW銀行株指数は2%安。ザイオンズ・バンコーポーレーションやファースト・リパブリック・バンクを中心に地銀も下げた。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は株主宛て年次書簡で、先月市場を揺るがせた米銀行危機の影響は今後何年も残るだろうと警告した。
TDセキュリティーズのストラテジスト、ジェナディ・ゴールドバーグ氏は「投資家は銀行ストレスの兆候に対する警戒を緩めてはならない」と指摘。「市場参加者は悲観的な経済ニュースに過度に反応すると見込まれる」とも述べた。
米国債
米国債は上昇。米求人件数の統計を受けて、米金融引き締めサイクルの終了が近いとの見方が強まった。2年債利回りは一時14ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下。金利スワップ市場が織り込む5月の0.25ポイント利上げ確率は50%を割り込んだ。
2月の米求人件数は2021年5月以来の低水準に減少し、エコノミスト全員の予想を下回った。
ブック・リポートを執筆するピーター・ブックバー氏は「結論を言えば、このデータでは労働需要減少の兆候が見られるかどうかではなく、いつ見られるかが問題だった」と指摘。「企業が利益率の確保や景気減速への対応に努めるのに伴い、いずれ人員解雇のペースは加速する。この米引き締めサイクルにおいて5月、あるいはそれ以降に利上げがあるとは思えない」と話した。
7日に発表される3月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が24万人増、失業率は歴史的低水準の3.6%で変わらずのそれぞれ予想。
外為
外国為替市場ではポンドが10カ月ぶりの水準に上昇したほか、スイス・フランは2021年8月以来の高値となった。米求人件数が予想を下回ったことを受けて、ドルが下落した。
円も対ドルで上昇。朝方は円が下げて推移し、一時は133円17銭を付ける場面もあった。
BBVAの為替ストラテジスト、ロベルト・コボ・ガルシア氏は「トレーダーらは今週の米マクロ指標が悲観的な内容になるとの見方に基づいてポジションを建てているようだ」と指摘。「ISM非製造業指数や非農業部門雇用者数が短期的なドルの見通しを決定づけるだろうが、これらのデータ公表前に一段と下げても意外ではないだろう」と述べた。
ウェルズ・ファーゴの為替ストラテジスト、エリック・ネルソン氏は「大方が世界的な引き締めサイクルの終了に焦点を絞っている」と指摘。「それが現実になると仮定すると、当然ながらドルにマイナス、円にプラスとなる」と続けた。
原油
ニューヨーク原油先物相場は小幅な上昇にとどまった。米国の2月の求人件数が2021年5月以来の低水準に減少し、世界経済の減速を巡る懸念が再燃した。
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」によるサプライズ減産決定を受けて急伸した3日の流れを引き継ぎ、取引開始後には一時2%近く上昇した。ただ、低調な雇用関連データを受けて上昇幅を縮小した。
マレックス・ノースアメリカで原油オプション取引の世界責任者を務めるジョナサン・ワグナー氏は、在庫がさらに減少し、需要の高まりを確認するまで短期の上昇余地は限られていると指摘。「このマクロ環境では、7日の雇用統計の発表を前にして雇用主が労働者を求めていないというシグナルは助けにならない」と語った。
ニューヨーク商品取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)5月限は、前日比29セント(0.4%)高の1バレル=80.71ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント6月限は1セント上昇し84.94ドル。
●第二のリーマン ・ショック"危機は本当に去ったのか? 4/5
シグネチャーバンクなどの破綻を受けて、異例の「預金保護」に動いたアメリカ政府。イエレン財務長官は今後も同様の措置を講じるとしたが、その後、撤回するなど二転三転した。
アメリカの2銀行の経営破綻を皮切りに、ヨーロッパにも飛び火した金融不安。その後、各国の金融当局の素早い対応で、事態は収束したかに見えるが、アメリカの大幅利上げの「副作用」といえる金融不安の波はこれで収束に向かうのか?
かつて、2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する「リーマン・ショック」を予見した経済アナリストの中原圭介氏に聞いた。
「Twitter型銀行破綻」
米銀行のシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクの経営破綻に端を発した一連の金融不安。その余波は瞬く間に欧州にも飛び火し、世界有数の投資銀行であるスイスのクレディ・スイスが経営危機に追い込まれるなど、「リーマン・ショックの再来か」と世界経済に動揺が走った。
この動きに金融当局の対応は素早かった。米財務省は破綻したふたつの銀行の「預金保護」を打ち出し、クレディ・スイスは同じスイスの大手投資銀行UBSが買収することが決まり、いったんは危機不安が収束したように見えた。
だがその後も、イエレン米財務長官の預金保護に関しての一部撤回とも受け取れる発言が報じられると株価が大幅に下落するなど、金融システムへの不信感はくすぶり続けており、今後の見通しは依然として不透明だ。
今回の金融不安はなぜ起きたのか? そして"第二のリーマン・ショック"の危機は本当に去ったのか?
「金融不安の背景にあるのは、昨年以来、アメリカやヨーロッパで行なわれてきた『利上げ』による影響と、SNSの広がりが加速させた『不安の拡散』だと思います」
と語るのは、経済アナリストの中原圭介氏だ。
「長く続いた金融緩和の時代が終わり、アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、2021年の秋頃から金融引き締めに転じる姿勢を見せていました。そして昨年から、FRBは0.75%の利上げを4回連続で行なうなど、異例ともいえるスピードで利上げを進めていき、これに追随する形で欧州中央銀行も、利上げの方向へとかじを切りました。その影響をダイレクトに受けて、財務状況が急激に悪化したのが破綻したシリコンバレーバンクです。一般的に金利が上がると債券の価格が下がる傾向にあるため、すでにおととしに利上げの兆候があった時点で、そうなることは予想できたはずでした。ところが、シリコンバレーバンクは米国債の長期債などを中心に、極端に債券に偏った形の運用を続けていたことから、利上げによる債券価格の下落で巨額の含み損を抱えたのです」
また、預金者の大部分が、通常は預金保護の対象とならない企業や法人だったというシリコンバレーバンク特有の事情も、破綻の大きな要因になったという。
悪化していた財務状況がSNSで瞬く間に広がり、シリコンバレーバンクの預金引き出しに人々が殺到。経営破綻に至った。
「同銀行の顧客の中には、『コロナバブル』の恩恵を受けてきたIT情報系企業が多かったのですが、コロナが落ち着いて各企業の業績が悪化、その後リストラを強いられ預金の引き出しが増えたことで、銀行が抱える債券の含み損が表面化しました。その財務状況に関する不安がTwitterなどのSNSによって瞬時に拡散し、預金引き出しが殺到して経営破綻に追い込まれた。つまり、人々の疑心暗鬼が急激に広がったことで起きた『Twitter型銀行破綻』なのです。10年前であれば、こうした破綻は起こりませんでした。初めてのケースだと思います」(中原氏)
日本でも同様の破綻が起こる?
このように、いくつかの事情が重なって起きたシリコンバレーバンクの破綻だが、いったん金融システムへの不安が膨らむと、一種のパニックになって雪崩のような連鎖反応を引き起こすのが金融危機の恐ろしさだ。
その心理的な不安のターゲットになっているのが、経営内容や財務状態に何かしらのキズを抱えた金融機関だと中原氏は指摘する。
「不安材料は金融機関によってさまざまです。例えばシリコンバレーバンクに続いて経営破綻したシグネチャーバンクは、昨年11月に破綻した暗号資産交換業者大手のFTXなど、仮想通貨関連企業との取引が多いことが不安視されて、預金の引き出しが殺到したといわれています。またクレディ・スイスも、昨年破綻した米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントへの高リスクの投資に入れ込んで巨額の損失を計上したほか、マネーロンダリング(資金洗浄)などの不祥事や経営ガバナンス上の問題が次々と発覚。大きく信用を失っていたところに今回の金融不安が起きて、とどめを刺されてしまった形です」
さらにここ数年、ロシアを巡る資金洗浄対策の問題が指摘され、経営再建を進めていたドイツ最大手のドイツ銀行が大幅な株価下落に見舞われ、ドイツのショルツ首相が「ドイツ銀行の経営状況は健全で、第二のクレディ・スイスにはならない」と強調するなど火消しに追われている。中原氏が続ける。
「ただし、アメリカの大手銀行の財務状況は健全で、現時点でリーマン・ショックのような世界的な金融危機が起きるとは考えにくい。
破綻を回避したクレディ・スイス。同じスイスの大手投資銀行UBSが買収することが決まった。
先日、イエレン財務長官の発言で金融不安が再燃する動きも見られましたが、当初アメリカ政府は素早く預金保護を明言し、スイス当局もクレディ・スイスの買収交渉を短期間でまとめるなど、各国が『危機は小さいうちに鎮める』という姿勢を示した点はリーマン・ショックの教訓が生かされているのだと思います。
一方で、経営や財務状況に問題がある中小の銀行や、金融当局の規制が及ばないヘッジファンドなどで、低金利の時代に利益を出そうとリスクを度外視した運用をしていたところには、まだまだ火種が残っている可能性はある。
今回の金融不安は、ゼロ金利時代に蓄積された金融業界のゆがみが、利上げの時代に転じたことで一気に表面化したといえるかもしれません」
ちなみに、日本でも債券の運用に大きく依存している金融機関は少なくなく、その中には米国債の下落で多額の含み損を抱えている地方銀行もあるという。
アメリカやヨーロッパと異なり、日銀総裁の交代後も金融緩和を当面続けるという日本だが、景気が上向く兆しも見えない中、国際的な金融不安の火の粉が日本に飛び火する前に、何かしらの手を打っておく必要がありそうだ。
●米銀危機なお進行中、影響長期化=ダイモンJPモルガンCEO 4/5
米金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は4日、米国の銀行危機はまだ終了しておらず、影響は何年にもわたり継続するとの見方を示した。
ダイモンCEOは株主に宛てた年次メッセージで「危機はまだ終わっていない。危機が終わった後も影響は何年も続く」と指摘。「市場が見込む景気後退の確率は高まっている。2008年の(金融危機の)ようなものではないが、現在の危機がいつ終わるかは分からない。この危機で市場に多くの動揺が引き起こされ、銀行やその他の貸し手が一段と保守的になるにつれて、金融条件が引き締まるのは明らかだ」と述べた。
ただ、今回の混乱で米経済を牽引する個人消費が減速するかは不明としたほか、08年の世界的な金融危機との類似性も否定。08年の危機では銀行大手、住宅ローン業者、保険会社などが直撃を受けたが「今回の銀行危機では関連する金融機関の数も、解決しなければならない問題の数もはるかに少ない」とした。
今回の混乱に対応するために導入される可能性のある新たな規制については、破綻行の対応を巡る一段と明確なルールを含む「思慮深い」ものでなければならないと指摘。「ストレステストに基づく資本要件や将来の規制に関する絶え間ない不確実性で、銀行システムはより安全なものにはならず、むしろ損害を被る」とした。 
●アメリカの銀行破綻「実は日本の方が深刻だ」 4/5
アメリカでシリコンバレー銀行など中堅銀行が破綻し、クレディ・スイス、ドイツ銀行まで信用不安が急速に連鎖した。背景にはSNSで「次に危ない金融機関」の情報が広まったことがある。信ぴょう性とは別に、不安がネットで拡散され、取り付け騒ぎが起きる時代だ。
こうした欧米の金融不安は、わが国にとって対岸の火事なのか。そうは思わない。ニッポン放送の番組で経済評論家の森永卓郎さんと意見交換した。シリコンバレー銀行は大量の米国債を保有しており、FRBの利上げで、保有していた米国債の価値が下がり、含み損を抱えたことが最大の要因だと指摘。森永さんは、利上げを続ければ、アメリカ経済は失速し、ニューヨークダウは一年後ぐらいには大暴落すると予想していた。
しかし私は、日本の方が深刻だと感じる。先ごろ成立した今年度予算は、約114兆円の歳出に、8兆円以上の「利払費」が含まれている。現状が低金利だから8兆円程度にとどまっているが、利上げをすればこの「利払費」が一気に跳ね上がる。だから金利は実質上げられない。FRBと違い、日銀は金利の上げ下げで物価を調整する機能を失っている。さらに、日本の金融機関も国債を大量に保有しており、金利が上がれば、保有国債の価値が下落し、シリコンバレー銀行のように、含み損を抱え、経営が行き詰まることになる。
そうした危機直前なのに、今回の予算からは「何の工夫もない」という印象を受けた。歳出では防衛費を大きく増やし、社会保障関係費も年々増加。一方の歳入では赤字国債などの公債金が3割以上にのぼる。借金体質は顕著で「ダメな経営者が立てた予算」にしか見えない。
極めつけは予備費だ。バラマキ政策で予備費を使い切るのは、選挙前の人気取りにしか感じない。日本経済を支える99%は中小企業で、その約7割は赤字だ。赤字の会社が賃上げをできるわけがない。岸田文雄総理の「賃上げによる経済の好循環」はそう簡単ではない。
そうした中、ワタミの宅食では、全国約7000人のお弁当配達スタッフの配達手数料を約8%あげるベースアップを行った。燃料費などのコストが上がっているので当然のことだ。一方、お弁当の価格も少し値上げさせていただき、お客さまにもご理解を求めている。持続可能な経営モデルを確立し、現在の1日25万食を100万食に伸ばす「夢」は変わらない。物価高の中、民間はギリギリの経営努力を重ねている。
一方の政治は、財政赤字にも関わらず、統一地方選で、当選するためだけのバラマキ政策を掲げている。すべての政治家は、歳出を減らし、歳入を増やすギリギリの努力をし、耳の痛いことも国民にお願いすべきだ。少なくても、今の日本は持続可能な経営モデルではない。このままでは、ある日突然SNSで、日本の信用不安が拡散されてもおかしくない。
●クレディ・スイス問題は「スイス政治の危機」 4/5
スイス金融街の人事情報からゴシップ、大スクープまで、さまざまな業界情報を掲載し銀行からも一目置かれている金融ブログ「インサイド・パラーデプラッツ」。運営人のルーカス・ヘーシッグ氏は、クレディ・スイスの危機は銀行だけではなく、スイスの政治や報道、文化にも問題があると考える。
2022年12月、クレディ・スイス(CS)は「インサイド・パラーデプラッツ(IP)」を提訴。52本の記事の削除を要求し、同ブログ発行人のジャーナリスト、ルーカス・ヘーシッグ氏に30万フラン(約4300万円)の損害賠償を請求した。
だが2023年3月19日、CSはライバルのUBSに買収されることが決まった。責任は誰にあるのか?IPはスイスで2番目に大きい銀行の崩壊に、一役買ったのだろうか?
ゴッサム・シティ:CSは3カ月前、52本の記事に関してIPを相手取り訴訟を起こしました。削除を求めたのは、IPで同行の名前に言及した記事全てでした。また、読者のコメント200件と、経済学教授ハンス・ガイガー氏とのインタビュー記事の削除も求めました。1メディアに対するこのような大規模な法的攻撃は、スイスではあまり例がありません。なぜ、CSはこうした反応を取ったと考えますか?
ルーカス・ヘーシッグ:CSは従業員を守るためだと言いましたが、その裏には私のブログを止めさせたいという思いがありました。私には情報源があり、読者からも色々なことを聞きます。私を非難することで、CSはこうした情報源を黙らせたかったのです。
ゴッサム・シティ:CSは「インサイド・パラーデプラッツ」の読者コメントを良く思っていませんでした。コメントはどのようなものだったのですか?
ヘーシッグ:CSを「タイタニック」と表現した人たちがいましたが、それは全く正しかったと分かりました。トップマネジメントを馬鹿と表現した人たちもいましたが、それはもちろん、良い言い方ではありませんでした。
ゴッサム・シティ:それは現在、CSに対して皆が言っていることではありますが。
ヘーシッグ:これら全てのコメントをウェブサイト上に掲載するのは一仕事ですし、大きな責任を伴います。膨大な作業が必要とされます。今は1400件のコメントが掲載待ちで、私は全てに目を通さなければなりません。それでも、読者に自由な表現の可能性を提供するためには、価値ある努力だと考えています。
ヘーシッグ:もちろんです。表現の自由には限界があります。そのため、全てのコメントを読む必要があります。ベストを尽くしますが、間違いを犯すこともあるかもしれない。その時はぜひとも、私に電話やメールで「しかじかのコメントは削除されるべきだ」と言ってください。コメントが度を過ぎている場合は削除します。しかし、あれ(訟訴)は別次元です。CSは、重要な情報を提供するがゆえに金融業界で有名になったメディアを潰そうとしたのです。
ゴッサム・シティ:今考えてみれば、CSの法的攻撃はパニックから起きたものだったと思いますか?
ヘーシッグ:いいえ。単なる愚かさと傲慢さから生じたものです。私はこの11年間で時折、自分がブログに書いたことに対する訴訟に対応しなければなりませんでした。しかし、CSは民事訴訟だけでなく刑事告訴もした点で、さらに踏み込んだ。私の意見では、レッドラインを越えた行いです。
ゴッサム・シティ:つまり、個人運営の報道機関に対し30万フランの損害賠償を訴えたのは、正当だったということですか?
ヘーシッグ:彼らはそう考えたわけです。CSにはビジネスがあり、私にもビジネスがある。今回の件は大企業が小企業に対抗したものですが、裁判官も普通は愚かではないから、その構図に気づいている。通常、裁判官側も小さな報道機関を潰したくはないのです。一方で、名誉毀損による刑事告訴はとても危険かつ非常に敵対的な行為で、私が思うには、あまりスイス的なやり方ではありません。CSは、自分を批判したジャーナリストや同行に対する怒りを表明するコメントを書いた読者を、検察官が追求するように仕向けました。訴訟が起きて以来、検察官は批判した人物を全力で突き止めようとしている。そんな国は、我々がスイスに求めるものではありません。
ゴッサム・シティ:CSは本当に否定的な読者コメントを追求しているだけなのか、それとも、あなたの情報源からの情報の流れを絶とうとしているのか。どう考えますか?
ヘーシッグ:CS幹部は通常、年に1千万フラン稼いでいました。野心旺盛なビジネスパーソンで、1ブログのくだらないコメントを読む暇はない。そう、彼らが求めていたのは私の情報源を絶つことでした。そこで、検察官の助けを借りたのです。
ゴッサム・シティ: 今、CSは被害者の立場にあります。ソーシャルメディアに対する不服、そして同行を集団で攻撃する英語メディアへの不服が表明されています。
ヘーシッグ:その点については、まだ十分には分かっていません。我々が今見ているのは、私の意見ですが、ひどく無能な政府です。スイスは全く準備ができていなかった。これだけのことが起きた後なのに、実に不思議です。
ゴッサム・シティ:英経済紙フィナンシャル・タイムズと米ブルームバーグ通信の記者は、先週末にチューリヒで行われた秘密交渉の様子を報道していました。一方、スイスのメディアは完全に不意打ちを食らってしまった。この事態はどのように説明しますか?
ヘーシッグ:そのことは、スイスで多くの人が「こうしたメディアが(CSを)袋叩きにした」と言う理由の1つになっています。しかし真相としては、昨年10月の時点でも、CSが大きな問題を抱えているのは極めて明白だった。何かが起きようとしていることは公然の秘密だったが、いつ起こるのかが誰にも分からなかっただけです。大嵐が接近している時に(銀行業界の)病人でいるのは良いことではありません。
ゴッサム・シティ:もしかすると、スイスとその政府機関がただ様子見をしていた間に、こうした(海外)メディアが事態の深刻さにより早く気づいただけかもしれませんね?
ヘーシッグ:全くその通りです。報道機関は、自分たちが事態を把握したと示せば、見返りに情報を入手できます。それはさておき、これら海外メディアは指示を受けて報じたこともあったのでしょうか?そうかもしれません。そして、スイスのメディアは?こちらもそうかもしれません。日刊紙NZZを例にしてみましょう。私が大好きな新聞です。実際、毎日読んでいます。NZZが現在どんな厳しい書き方をしているかを見てください。しかし、以前は十分に批判的だったでしょうか?そうではなかった、だがそうでなければいけなかった。NZZ編集部は英語を理解できる。
フィナンシャル・タイムズは重要な報道機関です。スイスの金融市場にとって、常にそうであり続けてきた。なので、言い訳の余地はありません。しかし、それがスイスなのです。スイスには常に、全てが崩壊するまで権力者を守る傾向があります。
ゴッサム・シティ: 3月20日の朝に目覚めると、CSを買収したUBSという究極のメガバンクの誕生が決まっていました。どのようなことが結果として起きてくるのでしょう?
ヘーシッグ:スイスは以前、「大きすぎて潰せない」2銀行で、同様の事態に陥ったことがあります。リーマン・ブラザーズの破綻、そして破綻しかけたUBSのケースから何年も経ち、もしまた同じことが起きれば、解決策が提示されるだろうと思っていたのでしょう。しかし日曜日以降、我々は自分たちがひどい思い違いをしていたと知りました。銀行は清算できると考えていたのは、間違いだった。トゥールガウ州のライファイゼン銀行や似たような銀行なら可能だったかもしれません。または、それは全くもって不可能なのかもしれません。
CSを一時的に国有化するべきだったと言う人もいます。スイスでなければ、それも有効策だったかもしれない。イギリスやドイツは実際、過去に行っています。しかし、スイスは違います。スイスは分権化された、連邦制の国です。知的資源にしても商業資源にしても、資源の限られた小国です。政府もぜい弱です。有事立法などで強く見せようとしていますが、それは上辺だけのものだと、今の我々にははっきりと分かります。
スイスの金融規制機関である連邦金融市場監督機構(FINMA)は今回のケースでは役に立ちませんでしたが、驚きはありません。このような強力な利害関係者に対応できるのは、行政執行機関だけです。連邦政府はもっと強力になる必要があります。今回スイスが対峙しているのは、政治的な危機です。この数日間で見てきた状況は、我々に単に対応能力がないことを示しました。アメリカが我々に電話をかけ、何をすべきか指示できるというのは、何と悲惨な事態でしょう。我々は、政治的に強くなる必要があります。
ゴッサム・シティ:メディアはどうでしょう? このような絶対的な力を持った相手に渡り合うことができるのでしょうか?
ヘーシッグ:そうであってほしいですね。少なくとも、メディアは競争的な状態を保っています。大手報道機関にできなくても、小さな報道機関は常に幾つかありますから。問題は、小規模な報道機関は簡単に潰され得ることです。
ゴッサム・シティ:いつかUBSがスイスの小規模な報道機関を相手に訴訟を起こすこともあるでしょうか?
ヘーシッグ:そう考えたくはないですね。
ゴッサム・シティ:買収決定後、IP読者の反応はいかがでしたか?
ヘーシッグ:私には全く新しい状況です。と言うのも、多くの人が、私がCSの崩壊に一役買ったと思っているようです。その人たちは私を破壊者と考えています。そう考えている人がいることは知っていましたが、ここまでとは思いませんでした。私は、それを真剣に受け止めています。もちろん、自分自身がそういう見方に同意しているわけではありません。むしろ、今回のケースでは真逆だと主張します。私は繰り返し、人々に警告しようとしました。私の書いたもの全てが素晴らしいものではなかったかもしれません。しかし全体を見れば、私はただ、大きな問題が起きていることを伝えようとしていたのです。
CSの幹部が私やコメント投稿者を刑事告訴したのは、彼らがそうしなければならないと考えていたからだ。チューリヒの検察官も同様です。彼らは「このブログは自分たちを潰そうとしている。自分たちの職を奪われてしまう」と考えました。しかし、なぜそんなレベルの事態になってしまったのでしょうか?現実には、クレディ・スイスは自滅したのです。リーダーたちが、何が実際に起きているかを把握できなかったから、こうなったのです。
文化の問題もあったと私は考えています。何がスイスの問題なのでしょうか?なぜ私たちは批判を、たとえそれが少し無遠慮なものであったとしても、受け入れられないのでしょう?本当に、物事に対して1つの考え方だけ持っていればいいのでしょうか?常に親切で、全てが上手くいっていると言わなければいけないのでしょうか?それでは上手くいかないと分かるはずです。なぜなら、世界はそこにあり、物事が起きているのですから。
●SVB、クレディと続いた金融不安が「ひと段落」とならない訳...日本はこれから 4/5
米シリコンバレー銀行の破綻やクレディ・スイスの経営不振など、金融システムに対する不安が広がっている。一連の問題は個別の要因で起こったものであり、金融システム全体に欠陥があるわけではない。
だが、同じタイミングで金融機関の経営問題が複数発生した背景には、アメリカの中央銀行に相当するFRB(連邦準備理事会)の急激な利上げがある。
FRBが急ピッチで利上げを行っているのは、これまで行ってきた大規模緩和策の弊害が大きくなってきたからであり、一連の金融不安は緩和策バブルのツケと考えてよいだろう。
FRBは2023年3月22日に開催したFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げを決めた。銀行の相次ぐ破綻を受けて、政策金利の引き上げを据え置くとの見方もあったが、FRBはインフレ抑制を最優先し、金利引き上げを継続した。
金利が上昇すると債券価格が下落するため、金融機関によっては損失が発生する可能性がある。金融機関の多くは調達金利と貸出金利の差額(利ざや)を収益源としているので、利上げは本来、追い風となる政策だが、金利上昇ペースが速すぎた場合、資産価格の変動で損失を被るケースが出てくる。
不安の払拭に必要な手が打てない
一連の経営不安を払拭するには、利上げを停止する、あるいは利下げに踏み切るといった措置が必要だが、今の中央銀行にはそれができない深刻な事情がある。過去10年にわたる大規模緩和策によって全世界に大量のマネーがばらまかれており、これを回収しなければ、インフレが手が付けられなくなるリスクを負っているからである。
リーマン・ショックをきっかけにアメリカをはじめとする各国の中央銀行は、市場に大量のマネーを供給する大規模緩和策の実施に踏み切った。07年の段階で1兆ドル以下であったFRBのベースマネー(中央銀行が直接、供給する貨幣の量)は、ピーク時には6兆ドルを超える水準まで膨らみ、実体経済の規模を大きく上回った。
経済成長を超えたマネーの供給は潜在的なインフレ要因であり、この状態を放置した場合、インフレが制御不能になるリスクを抱え込んでしまう。
FRBやECB(欧州中央銀行)は金利の引き上げなど、マネーの回収に乗り出しており、膨らみすぎた緩和策バブルの手仕舞いを開始している。
利上げなら日本にも混乱が生じる可能性
しかしながら、ここまで肥大化したマネーを回収するのは容易ではなく、その過程においてはさまざまな混乱が発生する。今回の経営不安もまさにその1つであり、こうした問題は正常化が終了するまで続くことになるだろう。
不安の連鎖を恐れる市場からは利下げを求める声が上がっている。中央銀行がこの要求を受け入れた場合、インフレリスクが台頭する可能性があり、逆に利上げを継続した場合には、再び金融システム不安が起こる可能性がある。いずれにしても金融当局にとってはいばらの道にならざるを得ない。
主要国の中央銀行で日銀だけが唯一、大規模な緩和策を継続中でありマネーの大量供給が続く。日本経済は低金利にどっぷりとつかった状態にあり、日本でも本格的な利上げがスタートした場合、今回と同様の混乱が発生する可能性がある。日銀はいよいよ金融政策における正念場を迎えたと言ってよい。

 

●シリコンバレー銀行以降相次ぐ銀行経営破綻。米国での現地報道は? 4/6
アメリカでは2023年3月、3つの銀行の破綻が立て続けに報じられました。シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行、そしてシルバーゲート銀行です。たった5日間で中堅銀行の閉鎖が次々に伝えられ、国民に金融不安をもたらしました。本国アメリカではどのような報道がなされたのでしょうか。現地からレポートします。
「大銀行の1つ」シリコンバレー銀行
アメリカでは今年の3月に入り、中堅銀行の破綻が3件も発生しました。暗号資産(仮想通貨)取引を主軸としたシルバーゲート銀行が8日、地方銀行のシリコンバレー銀行が10日、そしてシグネチャー銀行が12日と、3つの銀行が1週間以内に立て続けに経営破綻したのです。当然、金融業界は危機感を募らせています。
中でもシリコンバレー銀行は、アメリカ国内でも規模の大きな銀行としてこれまで成長をしてきた銀行の1つでした。IT企業の多いカリフォルニア州サンフランシスコ市のシリコンバレーに拠点を置き、一時期はシリコンバレー最大の銀行と言われてきたほどです。
そんな中、銀行が相次いで倒産したアメリカ。3行のうちの1つ、シグネチャー銀行は、筆者が居住するニューヨーク市に拠点があります。状況が刻々と変化する中ですが、本稿では現段階の現地報道をピックアップして紹介します。
シグネチャー銀行「一時期、NYでもっとも成功」
ニューヨーク州では3月12日以降、地元のシグネチャー銀行の破綻が大きく報じられています。同行は中小企業や不動産融資を主軸に、暗号資産(仮想通貨)バンキングなどを含め国内事業を展開していた州公認の商業銀行で、本拠地であるニューヨーク市内をはじめ、ニューヨーク・トライステートエリア、カリフォルニア、ノースキャロライナなど全米各地にオフィスを広げていました。FDIC(連邦預金保険公社)の保険にも加入していました。
当地NYでは、メガバンクであるシティグループ、JPモルガンチェース、バンク・オブ・アメリカ銀行が一般的にポピュラーですから、一般市民にとってシグネチャー銀行はあまり馴染みのない銀行だったと言えます。ただ、不動産会社の銀行業務に注力して成功しており、2014年には 「ニューヨークでもっとも成功した銀行」と持て囃された時代もありました。
経営破綻後、米財務省などが同行の預金者の保護を迅速に発表したため、倒産のニュースが報じられた後も一般市民の間でパニックのようなものは起こりませんでした。ファイナンシャル危機を回避し、市民がパニックに陥らないためにも「同行は連邦政府の管理下に置かれている」と、さまざまなメディアによって強調されました。
ロイターやゴッサミストなどの報道では、同行の中小企業の預金者の中には、イノベーション経済を牽引するテック業界などニューヨーク経済を強固に支えているIT企業も多く含まれているということです。また、ニューヨーク市自体が2017年以降にシグネチャー銀行に口座を持っていると報じられています。その預金額は21年末の時点で5000万ドル(約65億円。1ドル130円計算。以下同)以上とされています。
ちなみに数ある金融機関の中から、行政がどのように取引先である銀行を選別しているかについては、ブルームバーグの調査によると、人種差別がないかなど企業を詳しく精査した結果だといいます。例えば、ウェルズ・ファーゴ証券はローン申請者のうち黒人の半数以上が拒否され、白人の70%以上が承認されていることが判明。この結果を受けNY市は同証券会社の新規口座の開設を停止したと伝えられました。このような視点でも、シグネチャー銀行が行政から選ばれ信頼に基づく銀行の1つであったのは間違いなかったようです。そのような堅実な銀行が、今回の倒産劇の主軸にあったということなのです。
「シグネチャー銀行の崩壊がNYにとって何を意味するか?」という記事を発表したザ・シティは、このように述べています。「州の規制当局によって突然閉鎖されたというニュースを知った。ニューヨーカーのほとんどがこれまで聞いたこともなかった銀行だが」。この記事でも、連邦政府により預金額は保証の対象になっていることが述べられています。
さらに「破綻後、シグネチャー銀行の経営幹部は職を失い、 株主は一掃された」ということです。今年暮れに引退予定だったCEOのジョセフ・デパオロ氏は約20万株を所有しており、株価のピーク時には約7300万ドル(約96億円)だったということです。
同行の破綻によって影響を受けるのはどちらかというと「賃貸アパートメント(日本でいう賃貸マンション)の所有者や管理会社、ディベロッパーだろう」といいます。その理由として、「同行の主要取引先が、賃貸や家賃が市によって規制されている建物、レント・スタビライズド・アパートメント*などの所有者だったから」です。( * レント・スタビライズド・アパートメント / アメリカの大都市では基本的に、契約更新ごとに家賃が上昇し続ける。よってNYなどいくつかの州では家賃コントロールの一種「レント・スタビリゼーション」つまり家賃の安定化が設定され、所有者や管理会社による法外な家賃の急上昇を防いでいる。レント・スタビライズド・アパートメントとは、そのような規制が敷かれたアパートを指す。)
同行の破綻による今後起こりうる長期的な問題としては、金利の上昇や融資基準の厳格化などが予想されています。「特に2019年の賃料規制改革によって賃料の値上げが制限されているビルの所有者にとって、借り入れがより困難になってくるだろう。貸し手はより多くのローンを請求できるようになる」というのが専門家の見方です。
またアメリカ全体では、個人のSNSの投稿でも銀行破綻の引き金になりうる危うさも囁かれています。今年2月、フィンテック系メルマガ『The Diff』の発信者、バーン・ホバート(Byrne Hobart)氏が金融不安を警告した自身のメルマガを引用しツイートしたのですが、それがバズり、取り付け騒ぎに発展し、シリコンバレー銀行の破綻の引き金になった可能性を、フォーチューン誌やヤフーなどが報じました。
そしてSNSに今ほどの影響力がなかった時代、リーマンショックの金融危機との違いや、今後さらに用途が広がっていくAIが主導するSNSが引き起こす未来の金融危機の恐ろしさも指摘されています。
「口座を移動する計画はない」(NY市)
経営破綻後、米財務省やニューヨーク州のホークル知事などが「同行のすべての預金者の預金は保護されている」と強調し、ニューヨーク市も「口座を移動する計画はない」と発表しました。また3月19日には、当地NYを地盤とするフラッグスター銀行が買収することで合意したことが、連邦預金保険公社によって発表されました。(ちなみにシリコンバレー銀行の方は26日、地銀のファースト・シチズンズ・バンクシェアーズによる買収が発表されています)。
別の報道によると、ニューヨーク市が取り引きしている銀行や金融機関は約30もあり、そのうち例えばJPモルガンチェース銀行には6億4500万ドル(約839億円)、バンク・オブ・アメリカには約5億ドル(約650億円)を保有しているといいます。それらに比べるとシグネチャー銀行への市の預金額は総資産のほんの一部と言えるかもしれません。
ホークル州知事も「米政府による預金者保護の取り決め措置が金融システムの安定性と信頼を高めることに繋がると期待する」と表明しました。同行の破綻によって影響を受ける当地のほかの銀行もないといいます。
しかし、それでも5000万ドルとされる市の預金額はかなりの大金です。これらは市民(納税者)から徴収した大切な資産なのですから、預金先や買収先の金融機関へのさらなる精査を求める声が市民から多く上がっているのは当然のことと言えます。
●脱ドル加速と中国仲介後の中東和解外交雪崩現象 4/6
中国がイラン・サウジの和睦を仲介して以来、中東における和解外交雪崩現象が起き、同時に中東やASEAN、BRICSなどが中国と提携しながら脱ドル現象を加速させている。背景にあるのは何か?
中国が仲介したイラン・サウジ和睦後、中東で和解外交雪崩現象
今年3月10日、習近平が国家主席に三選したその日に合わせて、中国の仲介により北京でイランとサウジアラビア(以下、サウジ)が和睦したことを発表した。この事に関しては3月12日のコラム<中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元>で詳述した通りだ。
それをきっかけに、中東では雪崩を打ったように和解外交が突然加速している。
その時系列を図表1として以下に示す。
   図表1
イランやイラクは言うまでもないが、中東諸国のほとんどはアメリカの内政干渉やアメリカが仕掛けた正義なき戦争により、多くの人命を失いながら混乱と戦争に明け暮れる日々に追い込まれてきた。
3月25日のコラム<中露首脳会談で頻出した「多極化」は「中露+グローバルサウス」新秩序形成のシグナル>にも書いたが、「他国の民主化を支援する」という名目で設立された全米民主主義基金会(National Endowment for Democracy=NED)はアフリカの一部をも含む中東全域の民を、「民主化させる」ことを名目に「アラブの春」(カラー革命)と言われる民主化運動に駆り立てた。民主化するのは良いことのように見えるが、実は中東の秩序を乱し、果てしない混乱と災禍の連鎖をもたらしただけだった。 NEDはアメリカの戦争ビジネスを操るネオコンの根城でもあるので、当然の結果かもしれない。
事実、中東の国々には、「アメリカは内政干渉して中東を混乱に陥れるが、中国は内政干渉せずに中東各国に安定と経済的メリットをもたらす」と映ったのだろう。
その結果が図表1に現れている。
各国・地域・組織の要人が訪中ラッシュ
図表2に示すのは、中国がウクライナ戦争に関する「和平案」を発表したあとに訪中した各国・地域・組織の要人の一覧表である。もっとも、3月28日から31日にかけて海南島でボアオ・アジアフォーラム(以下、ボアオ)が開催されたので、それに出席したケースもある。ボアオに出席したあと北京に呼ばれて北京で中国の指導者と会談した人もいれば、そうでない人もいるので、図表2では、ボアオで会談した場合にのみ、( )の中に「ボアオ」と書いた。また、3月13日前まではまだ李克強が首相だったので、李克強や栗戦書など、前期のチャイナ・セブンの名前もある。中国の指導者の肩書は省略してあるが、李強は首相、王毅は外交トップ、秦剛は外交部長(外相)だ。
   図表2
日本の「超親中系」の要人の名前も、ファクトなので入れてあるが、そこは無視して頂いて、やはり3月27日のASEAN事務総長、3月28日のマレーシア外相、あるいは3月31日のマレーシアのアンワル首相の訪中は、「脱ドル」の真相を解くカギとなる。
3月31日にシンガポールのリー・シェンロン首相が訪中して習近平と会談しただけでなく共同声明まで出したことは、バイデン大統領の神経に障(さわ)ったのだろうか。民主主義の代表であるようなアジアの国家の一つ、シンガポールが、3月29日にバイデンが主催した民主主義サミット・オンライン会議から排除されるという、怪奇現象が起きている。
IMFのゲオルギエバ専務理事や、フランスのマクロン首相およびEUのフォンデアライエン委員長の訪中も注目すべき点だ。(コラム執筆時では、マクロンは北京に着いたばかりなので、面会相手は空欄にした。)
加速する脱ドル
図表1で示した中東における和解外交雪崩現象を受けて、「脱ドル」現象が加速している。その脱ドルの動きを図表3に示した。
   図表3 
脱ドルの流れは大きく分けて3つある。
   【流れ1】 中東との関係において石油人民元で取引
   【流れ2】 ASEAN域内での自国通貨取引アジア通貨基金
   【流れ3】 BRICS諸国内での共通通貨構想
【流れ1】に関しては、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の【第二章 習近平が描く対露「軍冷経熱」の恐るべきシナリオ】のように、中東とは早くから「石油人民元」取引に関して検討してきた。特に今般の図表1で示した雪崩現象が起きて、その実現の広がりは一気に加速している。
問題は【流れ2】だ。
なぜ、ASEANが「脱ドル」方向に動き出したのか、不思議に思う方もおられるかもしれないので、少し詳細に見てみよう。
実は現在のマレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、1997年のアジア金融危機のときにマレーシアの副首相兼財政部長だった人だ。アジア金融危機の対応に際し、ドル依存のために苦労したため、当時もアジア通貨基金を提案したが、却下されたという経緯がある。そのため当時のマハティール・ビン・モハマド首相との関係が悪くなり、挙句の果てに汚職と同性愛の罪で逮捕されるに至った。
2022年11月24日に首相に当選した彼は、脱ドルに対して強い執念を抱いたようだ。中国の観察網は、4月4日、<マレーシアのアンワル首相:アジア通貨基金組織はすでに中国に対して提議した。米ドルに依存し続ける理由はもはやない>という記事の中で、アンワル首相の「脱米ドル」に対する強烈な思いを報道している。
【流れ3】に関しても、深い考察が必要とされる。
提案したのがロシアの国家院副議長だからだ。『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第七章 習近平外交とロシア・リスク】で【プーチンの「核使用」を束縛した習近平】のように、習近平はプーチンをBRICS共同声明の中で束縛し、核兵器や化学兵器あるいは生物兵器を使用しないよう約束させている。プーチンにとってBRICSは、上海協力機構とともに最後の砦なので、その約束は守るしかないだろう。その上でロシアがBRICS共通通貨構想を提案しているのだが、ここでもサウジが大きな役割を果たしている。
図表3にあるように、サウジが正式に上海協力機構への加盟を決議した。上海協力機構は中露が主導し、「反NATO」で意思統一されている。すなわち、サウジの絡みで、非米陣営が「脱ドル」を基軸として強化されつつあるということだ。そしてそのサウジを味方に付けたのが中国だという、複雑に絡み合った連鎖が爆発しつつある。そのマグマは実に長期間にわたって形成されてきたが、これが中国のイラン・サウジ和睦仲介によって噴き出し始めたのである。
OPECプラスが原油の生産量削減を決定
このような流れの中で、4月2日、OPEC(石油輸出国機構)加盟国(イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラ、リビア、アルジェリア、ナイジェリア、アラブ首長国連邦、ガボン、アンゴラ、赤道ギニア、コンゴ)とその他の産油国(アゼルバイジャン、バーレーン、ブルネイ、カザフスタン、マレーシア、メキシコ、オマーン、ロシア、スーダン、南スーダン)で構成される「OPECプラス」は、日量100万バレル以上の減産を実施すると発表した。
この中にイランやサウジだけでなく、「ロシア」が入っていることが注目点だ。
ロシアのウクライナ侵攻と、アメリカのロシアに対する制裁により、西側諸国はロシアから安価な石油や天然ガスを購入することができなくなったので、原油価格は高騰を続けている。特にアメリカでは金融政策のまずさも加わり、異常なまでにインフレ率が高くなっているため、今回のOPECプラスによる原油減産措置は、アメリカにとって手痛い。原油減産は原油価格のさらなる高騰を招くので、産油国であるロシアにとっては非常に有利になるため、バイデン政権は激しい反対の姿勢を示した。この塊は、脱ドルを加速させることも分かっているにちがいない。
しかし、それを含めて、この流れは変わらないだろう。
習近平が狙う「世界新秩序」構築
3月25日のコラム<中露首脳会談で頻出した「多極化」は「中露+グローバルサウス」新秩序形成のシグナル>で書き、また週刊エコノミストでも書いたように、習近平三期目以降の一連の動きは、アメリカによる世界一極支配から抜け出て、「多極化」による「新世界秩序」を構築することにあるからだ。
アメリカは台頭する中国を潰そうと、制裁や対中包囲網形成、あるいは日本に命じてNATOのアジア化を実現しようとしている。このまま行けば、「アジアはアメリカが仕掛けた戦争の災禍にまみれるだけでなく、中国はアメリカに潰される」と習近平は警戒している。
ここは、生きるか死ぬかの闘いなのである。
したがって習近平は一歩も退かないし、また今となっては中東を惹きつけ、グローバルサウスを惹きつけているので、このまま脱ドルを加速させ、多極化による世界新秩序を構築して、アメリカによる一極支配の抑え込みに入るだろう。
言論弾圧をする中国を肯定はしない。それは筆者の基本だ。その決意は『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』で明確にしている。
しかし、だからといって、「民主」の名のもとに「アメリカ脳」を染みこませては戦争を仕掛け続けるアメリカの手法に賛同するわけにはいかない。
戦争だけは、絶対に反対を主張し続ける。そして戦争の元凶を徹底して見極めるのが筆者の使命でもある。 

 

●米国雇用・製造業指標が悪化、今後は景気「下り坂恐怖」 4/7
米国の景気低迷が現実化するかもしれないという「Rの恐怖」が拡散している。銀行危機の余波が続く中で景気指標の悪化が相次いで発表されて沈滞(Recession)不安をあおっている。下半期景気反騰を狙う韓国経済に悪材料として作用する恐れがあるとの懸念が出ている。
フィナンシャル・タイムズ(FT)は6日(現地時間)、「国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ総裁が『世界経済が(5年前後の)中期見通し基準として1990年以降30余年ぶりに最悪の沈滞に陥っている』と明らかにした」と報じた。ゲオルギエバ総裁は「世界経済が今後5年間(過去20年間平均の3.8%より低い)年3%成長にとどまるだろう」と述べた。
民間雇用情報会社オートマティック・データ・プロセッシング(ADP)が5日(現地時間)に発表した全米雇用報告書によると、3月の民間企業雇用は前月比14万5000人増えた。2月の増加幅(26万1000件)に比べて10万人以上少ない。ダウ平均株価が集計した市場予想値(21万人)を大きく下回る。
これは前日労働統計局の求人・離職報告書(JOLTS)に続き出てきた米国雇用市場の冷却シグナルだ。JOTLSによると、2月の米国企業の求人件数は993万件で、21カ月ぶりに初めて1000万件を下回った。1年間持続した米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ余波に最近中小地域銀行の連鎖危機が労働市場に追加で打撃を加えたという分析が出ている。
ADPチーフエコノミストのネラ・リチャードソン氏は「3月の雇用データは経済が遅くなっていることを示す数多くのシグナルの一つ」とし「過去1年間の強力な雇用と給与引上げで雇用主が消極的になっている」と説明した。
強い雇用とインフレを後押しした製造業とサービス業の指標も予想より振るわなかった。供給管理協会(ISM)の3月の製造業購買担当者指数(PMI)は46.3で2020年5月以降、最も低かった。ISMの3月のサービス業PMIも51.2で3カ月内最低値を記録し、ブルームバーグ専門家による展望値である54.4を大きく下回った。PMIは基準線である50を上回れば景気拡張、下回れば萎縮と意味だ。
ここから米国の貿易収支も異常信号が感知されている。米商務省によると、2月の商品・サービスなど貿易収支赤字は705億ドル(約9兆2900億円)で前月比2.7%増となり、最近4カ月内で最大値を記録した。輸入は1.5%減少し、輸出は2512億ドルで2.7%減った。輸入と輸出が同時に減少したのは景気鈍化信号と解釈される。
事実、米国の雇用鈍化はこれまで市場が期待してきたイベントだ。だが、先月の銀行危機が発生して雰囲気は変わった。インフラキャップのジェイ・ハットフィールド最高経営責任者(CEO)は「『悪いニュースは良いニュース』という考え方から『悪いニュースは悪いニュース』へと移行したのかもしれない」とし「景気後退懸念が市場の主要なテーマとなっている」と評価した。
来月3日に予定された連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが政策金利を凍結するという展望が有力だ。
米国発景気低迷が本格化すれば対外依存度が高い韓国としては少なくない打撃が避けられない。西江(ソガン)大学経済大学院のキム・ヨンイク教授は「利上げに伴う消費減少の効果が時差を置いて現れ、米国経済は4−6月期からマイナス成長する可能性が高い」とし「韓国の輸出回復が遅れて、金融市場に不安が広がりかねない」と懸念した。
●米国は3月に236,000の雇用を追加し、失業率は3.5%に低下 4/7
3 月の雇用の伸びの鈍化と労働力の増加は、バイデン大統領に歓迎すべきニュースをもたらした。
氏雇用創出 236,000/月、昨年、経済と物価を安定させる必要があると述べた。 バイデンは言った。 より多くのアメリカ人が労働力に加わり、賃金上昇はわずかに減少しました。 こうした展開は、インフレをさらに抑えるのに役立つだろう。
しかし、この報告書は、今春に予定されている大統領の再選を求める発表を前に、経済的責任をアメリカ人に売り込もうとしている大統領の政治的および経済的緊張を浮き彫りにしている。
共和党は氏を非難した。 バイデンを批判。 アナリストの中には、予測者の予想を1年連続で上回った後、今後数か月で雇用の伸びが急激に低下するか、マイナスに転じる可能性があると警告するアナリストもいます。 これは、金融危機の可能性を回避するために規制当局と連邦準備制度理事会が先月介入した後、銀行が融資を控えていることが一因です。
調査によると、アメリカ人の経済に対する見方は改善しているが、人々は依然としてその業績に不満を持っており、その将来について悲観的である. 3月に実施されたCNNの世論調査 また、10 人中 7 人のアメリカ人が、今週の経済状況を「やや悪い」または「非常に悪い」と評価しました。 5 人に 3 人が、1 年以内に経済が悪化すると予想しています。
2024 年のキャンペーンの準備のために国をツアーする際、Mr. ホワイトハウスの立法議題の直接的な結果として、インフラストラクチャ、低排出エネルギー、半導体製造などへの新たな投資で数千億ドルを生み出した激戦州の工場や建設現場を定期的に訪れています。
金曜日、大統領は 3 月の雇用データに対して同様のアプローチを取りました。 「これは勤勉なアメリカ人にとって良い仕事の報告だ」と彼は言った。 書面による報告今週、企業が新たな事業拡大を発表した7つの州をリストアップする前に、Mr. バイデンはそれを彼の議題に結び付けました。
しかし、彼がよくするように、Mr. バイデン氏は、労働者と家族を圧迫している高価格を引き下げるために「やるべきことはまだある」と警告した.
アシスタントも同様に興奮していました。 氏バイデン氏の国家経済評議会を運営するラエル・ブレナード氏はMSNBCに対し、「非常に良い」報告だと語った。
ブレナード氏は、「概して、報告書は安定した持続可能な成長と一致している」と述べた。 「ある程度の緩和が見られます。確かにインフレ率の低下が見られます。これは非常に歓迎すべきことです。」
しかし、アナリストは、政府がシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の預金者を救済した後、銀行が融資を削減したため、今後数か月で雇用が急激に減少する可能性があると警告しました。
パンテオン マクロエコノミクスのチーフ エコノミスト、イアン シェパードソン氏は金曜日に、雇用の増加は 5 月にわずか 50,000 人にまで減速し、経済は夏に純ベースで雇用を失い始めると予想していると書いています。 しかし彼は、雇用市場が良い意味でアナリストを驚かせ、ますます多くの労働者を労働力に引き寄せていることを認めた。
「労働力の需要と供給は均衡を取り戻しつつある」と同氏は語った。 シェパードソンは書いた。
昨年5月のバイデン氏 毎月の雇用創出を書いた 平均して50万の雇用が15万未満に減少するはずであり、これは「低い失業率と健全な経済と一致する」と彼は述べた。
それ以来、大統領は労働市場と複雑な関係を築いてきた。 雇用創出は、多くの予測者よりもはるかに力強いものでした。 バイデン自身 — 期待。 その開発 Mr. これはバイデンの政治顧問を喜ばせ、経済が不況を回避するのに役立ちました。 しかし、これには歴史的水準を超えるインフレが伴い、消費者を圧迫し続けており、トランプ氏は. バイデンの支持率急落。
3 月の報告書は、これら 2 つの経済的現実を調整することの政治的な難しさを示しました。 アナリストらは、連邦準備制度理事会(FRB)が歓迎すべき雇用と賃金の伸びの鈍化を、金利を引き上げてインフレを引き下げるキャンペーンの一部であると呼んだ。
しかし、その冷え込みには製造業の1,000人の雇用の減少が含まれており、一部のグループは中央銀行を非難した. 「米国の工場は、金利上昇による破壊的な影響を受け続けている」と、業界団体である米国製造業連合のスコット・ポール社長は述べた。 「連邦準備制度理事会は、その政策が米国の国際競争力を弱体化させていることを理解しなければなりません。」
共和党 Mr. 彼らは、バイデンの賃金上昇率の低下を非難した。 「平均時給は上がり続けている トレンドは低い インフレが名目賃金上昇を 2 年以上払拭したとしても」と、共和党全国委員会の迅速対応担当ディレクター、トミー・ピゴット氏はニュースリリースで述べた。
ミズーリ州の共和党員で、歳入委員会の委員長であるジェイソン・スミス氏は、この報告書は、「中小企業と雇用創出者は、経済に迫る暗雲に反応している」ことを示していると述べた。
自身の出版物で、Mr. バイデン氏は、今年の夏に経済の嵐となる可能性がある雲の 1 つにうなずきました。国の債務上限の引き上げが行き詰まり、政府の債務不履行につながり、何百万人ものアメリカ人が追い出される可能性があります。 仕事。 不特定のコスト削減については、Mr. バイデンが同意するまで、共和党はそうするのを拒否した。
氏バイデン氏は上限引き上げについて直接交渉することを拒否した。 彼は金曜日に雇用報告書をまとめ、議会共和党の戦略を提示した. 「わが国の経済を危険にさらすような試みをやめます」と彼は言った。
●次なる金融不安はゆっくりと忍び寄る? 4/7
世界の金融市場が動揺するきっかけとなったアメリカの銀行破綻からまもなく1か月。株式市場などは落ち着きを取り戻しているかのように見えますが、どうなのでしょう。ひそかに進行しているのではとニューヨークの市場関係者の間でささやかれているのが住宅市場の冷え込みをともなう新たな銀行危機です。
不吉な感じ再びか
ニューヨークに駐在する記者にとって毎朝、経済チャンネルCNBCを見るのと、経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルを読むのは日課です。
ある日の朝、新聞の記事にふと目がいきました。
「住宅市場 西の価格下落、東の高騰」と題した記事。
東海岸の都市では不動産の価格が上昇を続けるものの、西海岸の都市では下落が目立つという記事でした。サンフランシスコ、サンノゼのことし1月の住宅価格は前の年の同じ月と比べて軒並み10%を超える価格下落。
ふと不吉な予感がしました。
2007年に突如、起きたサブプライムローン危機。右肩上がりだったアメリカの住宅価格が西海岸から崩れていき、複雑な証券化商品の価格が急落し金融不安、そしてリーマンショックへとつながっていきました。
リーマンショックのとき私は日本で証券業界の取材を担当し、関係者からその打撃の大きさをよく聞かされていたので、あの時と似ていないだろうかと嫌な感覚に襲われたのです。
11年ぶりの中古住宅価格下落
住宅市場の変調は中古住宅の統計にも現れています。
2023年3月21日に発表された2月の中古住宅価格の中央値は前の年の同じ月と比べて0.2%の下落と、11年ぶりの下落に転じたのです。
2012年3月から10年11か月もの間、価格上昇を続けてきたこと自体が驚きですが、住宅市場の潮目が変わったと感じたのは私だけではないように思います。
猛烈な勢いの取り付けで破綻
世界の金融市場が動揺するきっかけとなったシリコンバレーバンクの破綻。
3月9日のわずか一日で420億ドル、日本円でおよそ5兆5000億円もの預金が急速に流出しました。
財務省やFRB=連邦準備制度理事会など金融当局はすぐさま経営破綻した2つの銀行の預金の全額保護に乗り出すなど対応策をとり、今、金融市場は落ち着きを取り戻しているかのように見えます。
スローモーション型の危機
しかし、ウォール街の関係者に話を聞くと、一気に危機が広がることは避けられたとしても、ゆっくりと、真綿で首を絞められるような危機が忍び寄っているのではないかと懸念の声が聞かれます。
ウォール・ストリート・ジャーナルは「スローモーション型の銀行危機」と書いています。
何が「ゆっくりと、忍び寄る」危機なのか。
中堅、中小の銀行はこれまでの金融不安による預金流出に加えて、驚異的な速度の預金流出への恐怖から、企業や個人に「貸し渋り」を行う可能性が指摘されています。そうなれば企業や個人が資金を調達しにくくなって景気は悪化します。
ここに住宅価格下落という要素が加わると、住宅を保有する人たちの資産価格が下落し、消費が落ち込むという逆資産効果が起きて、景気をさらに冷え込ませることも起きえます。こうした経済の変化はえてしてじわじわと起きがちなため、「忍び寄る」危機なのです。
今回の金融不安の前は、アメリカが景気後退に陥ったとしても深刻なものにはならないとの見方が多くありましたが、ゆっくりとした危機は景気後退の底を深くするおそれがあるとの指摘も聞かれます。
“Bad news is bad news”へ
FRBが2022年3月に利上げに転じてからこの1年、ウォール街を取材していてよく耳にしたのが、“Bad news is good news”という言葉です。
景気の悪化を示すような経済指標が発表されても、それによって利上げのペースが鈍れば景気にはプラスになると市場が受け止め、株式の買い注文の材料になることが繰り返されてきました。
しかし最近は、市場の雰囲気は“Bad news is bad news”に変わりつつあることを感じています。
それでもゆっくりと景気が減速していくのであれば、インフレ抑制を目指すFRBにとっては想定どおりなのかもしれませんが、2007年のサブプライム危機のときのように、堰を切ったような急流にならないと誰が断言できるのか。
長期にわたる未曽有の金融緩和に記録的なインフレ、そして急速な利上げという異様な環境にいる今、素直に“Bad news is bad news”と自分に言い聞かせておいたほうがどうやらよさそうです。

 

●「貸し渋り」「貸し剥がし」がやってくる、米国でよみがえる日本の悪夢 4/8
米国でシリコンバレーバンクが破綻してからまもなく1カ月。株価が持ち直しの動きを見せるなど、一見すると落ち着きを取り戻した感もあるが、それはFRBの救済策などによって本質的な問題解決を先送りしているからに過ぎない。米国はさらに大きな金融危機に向かっていると筆者はみている。(JBpress)
バーナンキも「量的緩和は一時的」と言っていた
今年3月のシリコンバレーバンク(SVB)破綻は、預金の流出を原因とする流動性危機でした。破綻の連鎖を回避するために、米銀は一時、米連邦準備制度理事会(FRB)から1日平均1170億ドルの特別融資(discount window)を受けることになりました。
FRBの必死の対応で危機の広がりは避けられたように見えますが、この金額は2008年に発生したリーマン・ショック時を上回るものなのです。
さらにFRBは、BTFP(Bank Term Funding Program)という制度を新設し、銀行に626億ドルを貸出しました。これは銀行が持つ、評価損を抱えた債券を担保として受け入れ、額面相当額を融資するものです。
この融資についてFRBは、あくまで「一時的」なものであり、1年後には返済されるので金融緩和ではないとしています。
しかし思い出してください。リーマン・ショックの際も、当時のバーナンキFRB議長が「量的緩和は一時的」だと断言したのです。
12年後のいま、FRBのバランスシートはコロナ禍への対応などで急拡大し、当時の9倍に膨張しています。BTFPもこの先、さらに膨張し、最終的に民間銀行が保有する低利の国債・政府機関債の相当部分をFRBが肩代わりするのでないでしょうか。
市中のマネー総量が増加へ
そうなると結果的に市中に放出されるマネーの総量が増加します。最終的には猛烈なインフレが起きることになります。
そんなインフレになれば、有形資産を持つ伝統的な会社の株価は暴騰すると思われるかもしれませんが、株価に反映されるのはまだ先の話で、夏から秋にかけていったん大きく下がる局面があるとみています。
そもそも米銀はなぜ苦境に陥ったのでしょうか。あらためてそのいきさつを振り返ってみます。
2020年に発生したコロナ禍以降、米銀には量的緩和による預金が大量に流入しました。一方で景気悪化が確実視される中、貸出は増やせないので、利回りが1%に満たない中長期の国債や政府機関債に資金を振り向けることになりました。
ところが、ウクライナ戦争の勃発もあり、急ピッチなインフレ進行に直面したFRBは、2022年3月以降、矢継ぎ早に利上げを行います。その過程で3カ月もの短期国債の利回りは0%から直近は4.8%まで上昇し、10年国債の価格も20年7月のピークから2割以上も下落しました(図1)。
他方、国債より信用力が劣る銀行の預金金利(3カ月CD)は、0.4〜0.6%程度と低いままなので、低利の銀行預金を引き出して、より高利の短期国債や、(短期国債で運用する)マネーマーケットファンドに移す人が増えてきました。
銀行は貸出の圧縮を余儀なくされる
破綻したSVBなどは、預金の引き出しに応じるために、含み損を抱えた国債や政府機関債の損切りを余儀なくされて損失が表面化したのです。それがさらに預金が流出するという悪循環をもたらしました。
これがいま起きている金融危機のあらましです。
SVBのリスク管理が甘かったと言えばそれまでですが、FRBがあまりにも長い間、低金利を維持したことが全ての元凶なのです。
今回、FRBは先述したBTFPという制度を創設したので、預金流出に苦しむ銀行が多額の債券売却損を計上して破綻するケースは減るでしょう。
しかし、預金金利と短期国債の利回り差が4%超もあることが知れ渡ってしまいました。特に中小地方銀行からの預金流出はさらに加速すると考えるのが自然です。
そうなると銀行は、預金、つまりバランスシートの負債サイドの縮小に対応し、貸出を中心とする資産を圧縮するしかありません。
日本でも1990年代後半の金融危機時には、多くの銀行が貸し渋り、貸し剥がし、新規融資の先送りといった対応を行ったことはよく知られています。
7割安となったニューヨークの上場REIT
かつて日本で起きたことが米国でも起きるでしょう。同時に、こうした信用の収縮は、「借金の値段=貸出金利」を上昇させます。つまり近い将来、不況の深化と金利の上昇が同時に進行する公算が大きいと思われます。
いまのところ、米銀の貸出残高はまだ減少していませんが、預金残高の減少に伴って、前年比でみた貸出は下向きに転じ始めたことには注意が必要です(図2)。
この場合、最も影響を受けるのは商業不動産ローン市場でしょう。2兆8000億ドル規模を持つ市場で、中小地方銀行が全体の7割の資金を提供しています。
それでなくてもオフィス所有者は、金利の上昇と、リモートワークの増加による稼働率低下の両面で苦境に陥っています。
ニューヨーク最大のオフィス所有者である2つの上場REITの価格が、この1年で7割安となっていることはその表れです(図3)。
金利を下げても解決しない
このうえ銀行の貸し渋り、貸し剥がしが起きるなら、米国の不動産市況は大打撃を受けることは確実です。次の金融危機はもう間近に迫っているのかもしれません。
厄介なことに、この問題は金利を下げるだけでは解決しません。
なぜならば資金を供給する銀行のインフラが傷ついているからです。だから、FRBは利上げを断行し、一連の銀行破綻はあまり心配していないという姿勢を見せる一方で、その裏では事実上の量的緩和を復活させて流動性危機に対応しました。
その規模は決して小さなものではありません。昨年3月から1年かけて圧縮した資産減額分の6割相当額を、わずか2週間で戻してしまうほど慌ただしいものでした。それだけ事態は切迫していたわけです。
このところ株価が上昇していたのは、こうしたFRBの対応をみて、リーマン・ショック後やコロナ禍後のようなカネ余り相場の再来の期待があったからでしょう。実際、リーマン・ショック以降、日米欧の中央銀行(FRB、ECB、日銀)の資産総額と世界時価総額は連動してきました(図4)。また、昨年9月末以降の株高も日銀の国債買い支え、つまり事実上の量的緩和拡大が影響しているのです(図5)。
では、このまま事実上の量的緩和が続けばいいのでしょうか? もちろん、そんな甘い話はありません。
インフレ再燃のリスク
中銀の資産総額にやや遅れて物価が反応していることは見逃せません(図6)。
いったんは落ち着いたかに見えるインフレですが、FRBのスタンスが量的緩和に回帰したことで、数カ月も経たずに再燃する可能性があります。
もしそうなると、怖いのは不動産市況の下落を発火点とする、もっと大きな金融危機です。米政府はなりふり構わず国債を増発し、銀行に公的資金を注入するしかなくなります。景気や株価はボロボロになるでしょう。このところ株価は比較的、堅調に推移していますが、株を買うのはもう少し様子をみたほうがいいのかもしれません。
●アメリカでは「失業保険の申請」が増加…それでも米株価が下がらない理由 4/8
いま米国で「失業保険」の申請件数が増加している
冒頭で、先週公表された経済指標のポイントを拾っておきます。まず、新規失業保険申請件数に少し変化が見られます。
[図表1]に示すとおり、労働市場がタイトだった2018年、2019年および2022年と比べると、このところ、失業保険の新規申請件数が増加しています。今後の労働市場が、最近の銀行や金融市場の状況変化を受けて軟化していくかどうかに注意が必要です。
   [図表1]米国の新規失業保険申請件数(季節調整前)
続いて、2月分の米個人所得・消費支出のデータが公表されました。[図表2]に示すとおり、財のインフレ率は鈍化が続いているものの、サービスのインフレ率は上昇が続いています。
   [図表2]米国のインフレ率(前年同月比)
サービスのインフレ率は、米連邦準備制度理事会(FRB)が注目していることもあり、その伸びが止まらない現状は、「今後の利下げを阻む要素」です。
とはいえ、インフレ率にも増してFRBの利下げを阻む要素は、相変わらずの「金融市場の利下げ期待を背景にしたナスダック市場の上昇」です。筆者は引き続き、銀行部門の今後の与信縮小を踏まえると「FRBはまずは政策金利を据え置き、その後まもなく利下げに転じられる」と考えています。
しかしながら、あのナスダック市場の強さを見ていると、「利下げは遠そうだなぁ。大丈夫かなぁ」と感じてしまいます。
さて、今回は、最近のアナリストの煽りやメディアの大げさなヘッドラインに惑わされないよう、米国の銀行に関するデータを眺めたいと考えました。
景気に循環はつきものです。今後、景気は鈍化するとみられますし、銀行の収益は悪化するでしょう。しかし、米銀はいつものとおり、時間をかければ、資本基盤を回復させることが可能です。
米銀のこれまでの動き
   1.利益水準と収益性
まず、[図表3]で、米国の商業銀行と貯蓄機関(→直近時点で合計4,706行)の収益性を確認しておきます。
【青色】の最終利益をみると、米銀は、サブプライム危機の影響で、最大3四半期連続で最終赤字を計上します。しかし、直近では、危機直前の1.5倍超の規模に利益を増やしています。
【緑色】のROE(自己資本利益率)をみると、サブプライム危機で利益が低迷し、公的資本を受け入れたこともあり、ROEは(危機後しばらく)幾分低位で推移していました。しかし、利益蓄積と公的資本の返済後、直近ではトランプ減税などを足掛かりに株主還元を拡大したことで、収益性は危機前に近い水準まで回復しています。
   [図表3]米国の商業銀行および貯蓄機関の最終利益とROE
   2.資本水準
   [図表4]で、米銀の資本の水準を確認しておきます。
【青色】の株主資本の金額をみると、米銀は、サブプライム危機で資本を受け入れた公的資本を返済しつつ、資本基盤を拡充してきました。【緑色】の総信用(=投資有価証券と融資・リース)に対する株主資本の金額をみると、規制強化の影響もあり、リスク資産に対して、資本を厚めに積んできたことがわかります。
前項でみた利益増加の背景には、総信用の増加も当然に寄与していますが、そうした信用の増加に沿って、資本基盤も拡大させています。
   [図表4]総信用に対する株主資本の比率(右軸)
「含み損」は大規模だが“気にすることではない”
[図表5]に、米銀の株主資本に対する投資有価証券の含み損の割合を示します。今回の危機で幅広く報道された項目です。データは、2008年からのみ公表されていますが、現在の含み損は過去と比べ、大規模であることがわかります。
   [図表5]米国の商業銀行・貯蓄機関の株主資本に対する投資有価証券の含み損の割合
ただし、これらの投資有価証券の約8割は、米国債や連邦政府機関が発行する債券/MBS(住宅ローン担保証券)であり、
1.利下げが起きれば、価格・収益性ともに回復します。
2.満期まで持てば、満額で償還されます。
3.仮に、今後、預金の取り付けが生じる際は、米連邦準備制度理事会(FRB)による流動性供給(=市中銀行が持つ国債・MBSなどの優良資産を担保にした貸出)によって、「投げ売り」(=売却損の計上=含み損の実現)は回避されます。
ですから、これらの投資有価証券の含み損の多寡を強調してもあまり意味はありません。むしろ、いたずらに家計や投資家を怖がらせてしまいます。
   融資の延滞率上昇は避けられない
今後、問題は、通常の景気循環と同様に、「融資の収益性低迷」→「不良債権の拡大」というかたちで生じるとみられます。
[図表6]で、主要な融資項目の延滞率(=30日以上89日以内の返済遅延の割合)を確認しておきます。自動車ローンやクレジットカードの延滞率は上向いています。他方で、住宅ローンや事業融資、商業用不動産の延滞率は低いままです。おそらく今後はすべての項目で延滞率が上昇していくとみられます。
   [図表6]米国の商業銀行および貯蓄機関の融資延滞率
ただし、[図表7]に示すとおり、たとえば、米国家計の借入残高はGDP比で低下しており、家計のバランスシートは健全化しています。他方の企業については、パンデミックで増えた借り入れが増えたものの、最近の名目GDPの拡大がこれを一部相殺しています。
最近の金利上昇によって、企業の返済負担は増えているとみられます。デフォルト率の上昇は循環的に避けられませんが、景気鈍化によって利下げが生じれば、企業の返済負担は和らぎます。
   [図表7]米国の家計部門と企業部門に対する信用供与(いずれもGDP比)
米銀の今後…大幅な引き当てでも「資本で吸収可能」
[図表8]では、米銀が今後、融資の引き当てを増やした場合に、それが株主資本のどの程度に相当するのかを試算したものです。
【1番左の棒】が、米銀による直近の融資残高です。【左から2番目の棒】は1つ目の試算で、融資の引当率が、現状の水準(1.6%)からリーマン危機時のピーク水準(3.5%)にまで引き上げられると仮定した場合の追加の損失額の規模(試算)を示しています。
【右から2番目の棒】が2つ目の試算で、現状の引当率に加えて、商業用不動産融資の10%、それ以外の融資の2%を追加的に引き当てると仮定した場合の追加の損失額の規模(試算)です。
いずれも、【1番右の棒】に示す株主資本の金額に比べると、必ずしも過大ではなく、今後、時間をかけて資本基盤を回復させていけば、資本で吸収することは十分可能でしょう。
   [図表8]米国の商業銀行・貯蓄機関の直近の融資残高と株主資本金額
重要な確認として、これらの追加損失(試算)は(それが仮に実現する場合には)、11四半期で全額が費用認識されるわけではなく、数年にわたって認識されていきます。
また、2処理に数年の時間をかけるあいだに、正常な債権から得られる利息収入など(=利益)と相殺されます。合わせて、利下げや景気の回復とともに、不良債権の一部は「要注意先」や「正常先」へと好転していきます。
言い換えれば、これらの追加損失(試算)は文字どおり、「損失」の面だけを考えており(=(「利益」の面を無視しており)、これらの数値をそのまま株主資本から差し引いて「残った規模」だけを考えることは適切ではありません。)あくまで追加損失の規模感を測るために参考までに例示するものです。
株主資本はまもなく回復へ転じる
[図表9]は別の試算です。リーマン危機時のROA(総資産利益率)の推移と現在の総資産金額に基づいて、今後の最終利益の推移を計算し、それらによって、株主資本がどの程度、減少しうるのかを試算したものです。
リーマン危機時は、融資の引き当てのみならず、保有有価証券の減損やデリバティブでの損失計上もありましたから、それらを含め、すべて「リーマン危機と同じ」とし、なおかつ、当時と同様に、時間をかけた処理として考慮しています。
すると、時間をかければ、そのあいだに得られる利息収入や利下げよって回復する利ザヤ、景気回復に伴う与信先の収益性・返済能力の向上などによって、株主資本はまもなく回復に転じていくことがわかります。
   [図表9]米国の商業銀行および貯蓄機関の資本金額とROA(総資産利益率)
レイ・ダリオの著書から引用したように、今回も「誰もが順調であるというふりをしつつ、何年もかけて償却していく」ことができるはずです。
   そして、利下げで好転する
過去は、景気後退とともに利下げが生じていますが、利下げの主要な背景は、経済の「要」である金融部門を支えるためです。
[図表10]に示すとおり、過去、銀行の株価が低迷するときには、景気後退にもなり、利下げも起きていることがわかります。銀行の株価が低迷するときは、銀行の収益が低迷すると市場が見込んでいるときであり、中央銀行は、金融部門による与信を極力維持するために、利下げを行って、銀行や融資先の収益性回復に努めます。
   [図表10]米国の政策金利と銀行株の相対株価
それは、リーマン危機のときも同様です。
   [図表11]米国国債のイールドカーブ
銀行株は長期でアンダーパフォームしていますが、最近の株価低迷もまた、利下げを呼び込むと見られます。
インフレを心配する方も多くおられますが、今後の与信収縮による需要低迷によって、インフレはさしたる懸念材料ではなくなるはずです。 
●OPECプラスの減産でも下落が続く可能性が高い原油価格 4/8
米WTI原油先物価格は1バレル=80ドル台で推移している。今年(2023年)1月下旬以来、約2カ月ぶりの高値水準だ。
OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)の加盟国が4月2日に「5月から年末まで追加減産を行う」と発表したことが上昇の起爆剤となった。
不意打ちだった自主的減産
サウジアラビアが「日量50万バレルの原油を自主的に減産する」と発表すると、他のOPEC諸国も追随した。ロイターによれば、イラクは21万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)は14万バレル、クウエートは13万バレル減産する。トータルの減産量は116万バレルに達する見込みであり、規模は世界の原油供給量の1%分に相当する。
市場は「OPECプラスは昨年11月実施している日量200万バレルの減産を維持する」と当然視していたため、今回の決定はまさにサプライズだった。OPEC当局者の間からも「完全に不意打ちを食らった」との嘆き節が聞こえてくる(4月4日付ブルームバーグ)。減産の仕方も異例だ。OPECプラス全体で減産枠を決めたわけではなく、各加盟国の自主的減産という形をとっている。
不意を突かれたことが原油価格の急上昇につながったわけだが、OPECプラスはなぜこのような緊急避難的な減産に踏み切ったのだろうか。
JPモルガンは4月3日、「供給過剰の影響が下半期に及ばないようにするための先手を打った措置だった」と見方を示した。最近の欧米諸国の金融不安が今回の決定に関係しているとの分析だ。
金融不安と言えば、2008年9月に起きたリーマンショックが想起される。金融危機のせいで市場のセンチメントが急速に悪化したのにもかかわらず、OPECは減産などの緊急措置を講じなかったことから、原油価格はその後1バレル=30ドル台にまで急落したという苦い経験がある。
原油価格は3月中旬、1バレル=65ドルを割り込んでおり、サウジアラビアをはじめOPECの首脳たちは「2度と同じ失敗を繰り返してはならない」との思いがあったとしても不思議ではないだろう。
市場へのインパクトはほとんどない
今回の決定により第2四半期の世界の原油市場は供給不足に陥るとの憶測から、「原油価格は1バレル=100ドルを超える」の声が出ているが、足元の原油市場の状況はどうなっているのだろうか。
OPECの3月の原油生産量は前月比7万バレル減の日量2890万バレルだった。3月下旬にイラク北部のクルド自治区からのトルコへの原油輸出(日量45万バレル)が停止したことが主な要因だったが、イラク政府とクルド自治政府との対立が4月4日に解消し、輸出は今後再開される見通しだ。
注目すべきはOPECの生産量が目標に達しない状態が続いていることだ。OPEC加盟国10カ国の減産遵守率は、2月の169%から3月には173%に上昇している。今回の減産決定は実際の生産量に近づけたに過ぎず、市場へのインパクトはほとんどないと言っても過言ではない。
次に世界最大の原油生産国となった米国だが、このところ生産量は日量1200万バレル強の水準で推移している。シェール企業は10年前、OPECの減産に乗じて大幅に生産量を増加させたが、今回は増産に動かない見通しだ。増産を望んだとしても、機器や労働力不足などが制約要因になっている(4月4日付ブルームバーグ)。
生産量とは異なり勢いを増しているのが米国の輸出量だ。
米エネルギー省は3月30日「昨年の米国の原油輸出量は前年比22%増の日量360万バレルに達し、過去最高となった」と発表した。昨年の欧州連合(EU)への原油輸出で米国が首位に浮上し、ロシア産原油の穴を埋めた形になっている。
米中の製造業不振で需要に不透明感
このように、供給が比較的堅調なのに対し、不透明感が増しているのは需要だ。
ゼロコロナ政策を解除した中国の原油需要が拡大するとされているが、その期待が肩すかしに終わる可能性が高まっている。
財新伝媒が4月3日に発表した3月の中国製造業購買担当者指数(PMI)は50となり、2月の51.6から低下した。個人消費は回復の兆しを見せているものの、自動車販売は前年比2桁減が続いている。製造業と自動車販売が低迷したままでは中国の原油需要のV字回復は見込めないだろう。
世界最大の原油需要国である米国の製造業も苦境に陥っている。米サプライマネジメント協会(ISM)が4月3日に発表した3月の米製造業景況感指数は前月から1.4ポイント低い46.3だった。好不況の節目である50を5カ月連続で下回った。
米中2大大国の製造業の不振は原油需要にとって大きな脅威だ。3月に発生した金融不安が今後、欧米諸国の原油需要を減少させるとの懸念も生じている。
OPECはこれまで世界の原油需要に対して強気の姿勢をとってきたが、今回の減産決定は「OPECも世界の原油需要に弱気になった」とのメッセージを期せずして市場に送ってしまったことになる。
サプライズ効果で原油価格は上昇したが、市場の関心は需要にあることから、「今後原油価格は再び下落傾向を強めるのではないか」と筆者は考えている。
米国のプレゼンス低下が招く中東の地政学リスク上昇
最後に今回の決定の外交的な影響について述べてみたい。
米国政府は4月3日、サウジアラビア当局者から事前通告された際、「(今回の決定について)同意できない」と回答したことを明らかにした。インフレ抑制のために原油価格の下落に躍起になっているバイデン大統領にとって不快だったことは想像に難くないが、バイデン氏は事を荒立てない姿勢を示している。
だが、最近の米国とサウジアラビアの間にすきま風が吹いていることはたしかだ。中国の仲介で3月10日にサウジアラビアとイランの外交関係の正常化が実現したことは、中東地域における米国の影響力の低下を象徴する出来事だった。サウジアラビアは米国の反発をよそに、ロシアを後ろ盾にしてきたシリアのアサド政権との関係改善も進めている。
サウジアラビアは米国との良好な関係を維持したいようだが、今回の決定で再び米国の顰蹙(ひんしゅく)を買ったことは間違いない。
米国の中東地域でのプレゼンス低下は中東地域全体の地政学リスクの上昇に直結する。中東地域が混乱に陥れば原油価格が高騰するばかりか、新たな石油危機が勃発してしまうかもしれない。
ウクライナ戦争の影響で日本の原油輸入の中東依存度は98%と史上最高だ。ウクライナ情勢ももちろん大事だが、流動化する中東情勢に関する情報分析が最も重要ではないだろうか。

 

●戻り鈍いイスラエル通貨 4/9
金融不安を背景としたドル買いは根強く、イスラエル通貨シェケルの戻りは限定的です。首相に返り咲いたネタニヤフ氏の権限強化による国内の混乱がシェケル買いを抑制していることもその要因です。中東の新しい調停役になりつつある中国との関係が注目されます。
1カ月前に米シリコンバレー銀行(SVB)の破たんをきっかけとした金融不安が強まると、リスクオフのドル買いに振れ、新興国通貨はおおむね対ドルで売り込まれました。米連邦準備制度理事会(FRB)の流動性供給を中心とした支援策により銀行危機への過度な懸念は和らいだものの、新興国通貨はまだ買いづらい状況です。シェケルもコロナ後の最安値圏となる1ドル=3.62シェケル付近でもみ合っています。
イスラエルの場合、コロナ禍やウクライナ戦争による経済へのダメージは弱まりつつあり、昨年10−12月期の国内総生産(GDP)は6%近い伸びを記録。今年1−3月期にはそれを上回るか注目されます。一方、消費者物価指数(CPI)はピークアウトし、中央銀行は4月3日の定例会合で利上げ幅を0.25%に縮小しました。ただ、回復基調は鮮明でありながら、株安・金利安・通貨安と市場の反応はネガティブです。
その理由として考えられるのは、ネタニヤフ政権の司法制度改革に対する国内の混乱です。最高裁の判断を国会が覆せる内容で、ネタニヤフ氏自身への有罪判決をかわす狙いが指摘され、三権分立が脅かされるとの批判から抗議活動がエスカレート。ここ数年の議会選で政党間の調整が難航し、昨年12月の発足に際しネタニヤフ政権が連立を組む極右政党の方針を取り入れたことが問題視されています。
ネタニヤフ政権は外交政策でも決定的なミスを犯しました。アラブ諸国との関係改善に向けサウジアラビアと外交の正常化を目指していたものの、サウジはイスラエルと敵対関係にあるイランとの国交を回復させたのです。サウジとイランは2016年に国交を断絶しましたが、中国の仲介により正常化を実現。こうしてイスラエルが蚊帳の外に放り出されたことも、政権への反発を助長しているようです。
ネタニヤフ氏は改革を延期すると発表したものの、前週末には抗議デモに16万人超が参加するなど反政府活動は拡大中です。再び解散・総選挙なら次の政権を発足させるのに再度混迷が予想されます。こうした状況を受け、格付け会社は格下げを警告しました。アメリカに代わって中東の新たな調停役となった中国とイスラエルがどのように関係を構築するかが当面の焦点になりそうです。
●名門クレディ・スイスを葬った金融ビジネスの「毒」 4/9
経営危機に陥ったクレディ・スイスをUBSが買収し、救済することになった。スイスの名門金融グループがこのような憂き目に遭った理由は、金融ビジネスの「毒」に耐えられなかったからだと筆者は考えている。その「毒」の正体と、それがクレディ・スイスをどのようにむしばんでいったのかをお伝えしたい。
クレディ・スイスをUBSが救済苦肉の策の買収劇
スイスの名門金融グループであるクレディ・スイスが経営不安に陥り、同業大手のUBSに買収されることになった。買収額は円貨換算で約4200億円と、世界的な大銀行であり、広いビジネスと顧客層を持つ銀行としては極めて安い。
しかし、金融関係者はむしろ、UBSの方を心配したのではないか。「クレディ・スイスを丸ごと買って、本当に大丈夫なのか?」と。しかも、この買収は、いかにも急ごしらえの苦肉の策に見える。
クレディ・スイスが発行した自己資本に繰り入れることができる特定社債は、円貨で2兆円分が無価値になることとなった。額は小さくても株主に価値が残って、社債が無価値とは金融常識的には奇妙だが、短期間に株主の同意を得るための苦肉の策だったのだろうか。また、スイス国立銀行(スイスの中央銀行)からは既に受けている数兆円の流動性支援の他に、UBSが被るかもしれない潜在的損失に備えた保証が1兆円程度提供されるという。
スイスとしても、UBSを含む金融界としても、何としても先の週末の間に話をまとめる必要があったのだろう。確かに、仮にクレディ・スイスが単純に破綻した場合、その波及効果は米リーマン・ブラザーズの倒産以上であった可能性がある。リーマンは根本的に証券会社なのに対して、クレディ・スイスは世界的な大銀行だ。クレディ・スイスは、間違いなく「トゥービッグ、トゥーフェイル(=大きすぎてつぶせない)」に該当する金融機関だった。
米国では、ジャネット・イエレン財務長官と、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、UBSとスイス当局の決断を歓迎する旨のメッセージを発したが、当然のことだ。もちろん、他人が決めることなので「絶対に」とは言えないが、この状況下でFRBが次の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを決めることは考えにくい(注:とはいえ、投資家の皆さんはご自身の責任で判断してください)。
クレディ・スイスは1856年の創業だが、顧客の秘密保持で名高いスイスのプライベート・バンクの老舗であり、欧州型のユニバーサルバンクの代表格の一つでもあって、堅実経営の名門銀行のはずだった。同社は、どうしてこのような末路を迎えたのか。
以下で、筆者の仮説を述べてみたい。クレディ・スイスは、現代の金融ビジネスが抱える毒に耐えられなかったのだと考えられる。
クレディ・スイスは国内でも「ワル」だった
かのリーマン・ブラザーズがまだ健在だった2000年代の初頭に、金融マンに向かって「悪い外資系金融を3社挙げよ」と問うた場合、答える人によって順番が変わったかもしれないが、おそらく、シティバンク、リーマン・ブラザーズ、クレディ・スイスの3社の名前が挙がっただろう。次点やその次の名前も出てこなくはないのだが、現在も営業中なので名指しはやめておこう。
つぶれてしまったリーマンの名前を挙げるに当たって今や気を遣う必要はないが、日本で三度にわたって業務停止命令を受けたシティバンクに加えて、クレディ・スイスが同格のワルに並ぶのはなぜか。その理由は、例えば逮捕者まで出た決算粉飾幇助(ほうじょ)の仕組み債販売に血道を上げるがごとく、もうけのために手段を選ばなかったことや、日本株の取り扱いをいきなりやめて撤退してしまうようなビジネスの荒っぽさが際立っていたからだ。
実は、筆者はかつてグループ転職で同社の証券部門に入りかけたことがある。しかし、結果的には別の証券会社に入社した。クレディ・スイスの面接は、ひたすら見込み顧客のリストと目標収益を問うものだった。入ったのが別の会社で、つくづく良かったと今でも思っている。
クレディ・スイスは、社員の扱いも手荒だった。端的に言って、クビになるまでの期間が短い。経験者が中途入社して、証券ビジネスなら早ければ半年、資産運用系の仕事でも1年で、成果が上がらなければクビになる。ある年には、株式部の部長が3回替わったことがあったと記憶している。確かに、同社に転職した筆者の知人が1年でクビになった事例が通算3回ある。
また、日本株の取り扱いからいきなり撤退した年には、同社にその年の春に新卒で入社して、たまたま株式部門に所属していたために同年の秋にクビになった青年(慶應義塾大学卒だった)の就職の世話に関わったことがある。筆者の勤務先の証券会社では採れなかったが、他の会社を紹介した。外資とはいえ、新卒で採用した社員にここまでするものかと驚いた。
日本のビジネスは、クレディ・スイスにとって「末端」の一つにすぎないのかもしれない。たぶん、そうだろう。しかし、こうした所業を見ているので、近年の同社が、麻薬取引関係のマネーロンダリングへの関わり、顧客情報の漏洩、米国のファミリーオフィスとの取引での巨額損失などの不祥事続きであったことに関して何ら驚きはなかった。いずれについても「クレディ・スイスなら、いかにもあり得る」と思えた。
そして昨年後半から、ついに大規模な顧客資金の流出が始まった。いったん「信用」を失うと銀行という業態はもろい。
では、何が名門銀行の企業風土をここまで堕落させたのだろうか?
欧州系の銀行を席巻した「投資銀行」という悪夢
1990年代、ヨーロッパの銀行は軒並み「米銀化」した。米銀と書くと正確ではないかもしれない。より正確には、「米国の投資銀行ビジネス」にかぶれた。
投資銀行というと気取った響きがあるが、要は証券会社のビジネスだ。具体的には、自己資金を用いた、大規模なトレーディング、株式・債券の引き受け、M&A(企業や事業の合併・買収)の仲介ビジネスなどを指す。
これらのビジネスの「ディール」は、リスクも大きいが、うまくいった場合の収益も大きく、ディールをまとめたプレイヤーの報酬も大きい。
それまで、就職先としてのヨーロッパの金融機関は、大まかに言って「報酬はそこそこだが、クビにはなりにくい」という評判だった。他方、米国の投資銀行は「クビになりやすいけれども、報酬は大きい」職場であった。
スイス、ドイツ、フランスなどヨーロッパの銀行は、一つの金融機関で銀行業と証券業を両方行うユニバーサルバンクのスタイルだった。当時、銀行として大きな資金力を持つヨーロッパの銀行の投資銀行業務進出に対して、米国の投資銀行や日本の証券会社が、太刀打ちできなくなるのではないかという危機感が台頭した時期があったことが思い出される。
クレディ・スイスは、米国の投資銀行であったザ・ファースト・ボストンと1978年に提携して、88年には同社を買収しており、欧州銀行の米銀化の先頭ランナーの一つであった。
おそらく、このザ・ファースト・ボストンの買収が、クレディ・スイスに米国型の投資銀行の毒がしっかりと組み込まれた不可逆的な転機だったのだろう。徐々に米国流をまねするのではなく、毒は一気に全身に回った。毒と体質とが戦うのではなく、毒は体質の一部になって、体質自体を支配するようになった。
では、堅実な金融業の伝統は、投資銀行の毒に勝てないのか?
経済の世界では、残念ながら「悪化が良貨を駆逐する」場合が多いのだと言わざるを得ない。
クレディ・スイスを葬った投資銀行の「毒」とは何か
投資銀行の「毒」とは何か? 端的に言って、その中核は投資銀行の「プレーヤー個人のビジネスモデル」であり、それを許容する空気を組織内に醸成する相互作用のことを指す。
プレーヤーとは、トレーダー、M&Aなどのディールメーカー、営業の担当者など主に「P/L(損益)を持った個人」および、その周辺の人々を指す。例えば、調査部の証券アナリストは個人としてP/Lを持っていないかもしれないが、分析対象企業にビジネスに使える影響力を持っていたり、経営者とのコネクションを持っていたりして収益に貢献する。そのため、広義のプレーヤーと呼んでいい場合があり、大きな報酬をもって会社に抱えられる場合がある。
典型的な手口は以下の通りだ。
   1_プレーヤーとして投資銀行に入る
   2_成功報酬の約束の下に仕事に取りかかる
   3_会社にも顧客にもできるだけ大きなリスクを取らせる
   4_うまくいったらもうけに比例した成功報酬をもらう
   5_失敗したら転職して次のカモ(投資銀行)を探す
彼らの報酬が巨額なものになり得る仕掛けは、「成功報酬」と「リスクの拡大」の組み合わせにある。
ヘッジファンドのフィー(手数料)の一部によくある成功報酬もそうなのだが、この契約は金融論的には「獲得利益を原資産とするコールオプション」である。そして、コールオプションの価値は原資産のボラティリティー(変動性)と正の相関があり、リスクをできるだけ大きくして価値の増大を図るのが、プレーヤー側から見たこの仕組みを利用するコツだ。
プレーヤーは、いわば勝ったときに成功報酬をもらう約束でカジノのテーブルに着いたギャンブラーのような存在だが、クレディ・スイスのプレーヤーは銀行付きの潤沢な資金でプレイするのだから素晴らしい。
「能力のある者が、能力を使って稼いで、稼ぎに見合う報酬を取ることは全く正当だ」という米国型能力主義と、「高度なノウハウを持ったプロを雇わないと投資銀行はもうかりませんよ」というプレーヤー集団から投資銀行に対する脅しとを組み合わせて、プレーヤーは投資銀行の株主という「資本家の中の資本家」をカモにしている。
「労働者から搾取される資本家」という構図も現実には多い
最近になって今さらカール・マルクスにかぶれている人にぜひ聞いてほしいが、現実の経済では、資本家が常に労働者を搾取するわけではない。力関係やゲームの性質によっては、資本家が搾取される側に回るケースが頻繁にあるのだ。今回のクレディ・スイスの場合、筆頭株主であるサウジ・ナショナル銀行以下の株主は、不運にも損失を負担する巡り合わせになった「カモ」であった。
ちなみに、投資銀行の経営者は「代打ちギャンブラー組織の元締め」のような存在であって、彼(彼女)も主に子分を使ってだが、投資銀行の株主にリスクを取らせて、たっぷりと成功報酬を得ることを目指す大物プレーヤーなのだ。
2000年代に入ってからも、少なくともリーマンショックの前まで、クレディ・スイスは巨大な銀行付きのギャンブラーだった。証券ビジネスなどはそのための手足の一部にすぎなかった。絶えず地球上の開いている市場をめがけて、24時間体制で巨大なポジションを回していることを内部の関係者から自慢されたことがある。
ちなみに、投資銀行の同業他社は、米国でのように銀行に衣替えしてリスクテイクのレバレッジ比率を下げて規制に従って見せたり、富裕層向けの資産管理のような別のビジネスに注力したりで、今のところしぶとく生き延びている。
クレディ・スイスも資産管理ビジネスでは大手だが、投資銀行的な毒を持ったプレーヤーが関わってビジネスが進行すると、危ない資金源の顧客と取引をしたり、富裕層向け取引でもリスクを取る仕掛けを忍び込ませたり、顧客情報を不正に使ったりといった「反則行為」に対する大きなインセンティブがそこかしこで働いていたことが想像できる。
もちろん、元投資銀行も含めて、クレディ・スイス以外の会社にも同様のリスクが十分あり得ることを付記しておく。
クレディ・スイスの経営危機は「来るべくして、来た」
クレディ・スイスはリーマンショックを比較的軽い傷で乗り越えたが、行内のプレーヤーたちが自分自身の収益のために銀行にリスクを取らせる行為はやむことがなく、この状態を制御しない限り、経営危機は「来るべくして、来た」と言うべきものだろう。
UBSによる経営の下では、常識的にはクレディ・スイスの主要なプレーヤーたちが一掃されることになるはずだが、それで物事が片付くかどうかは不透明だ。個々のビジネスや顧客をいわば質にとって存在意義を主張するプレーヤーもいるだろうし、UBS自身の中にも同じカルチャーのプレーヤーがいないとは限らないからだ。
ノウハウなり、情報なり、立場なりを持った個人が、金融資本をカモってしまう構造に見られる金融ビジネスの制御の困難は、世界経済が抱える難題の一つだ。金融は、お金の流れを通じて、エネルギー開発からいわゆるITビジネスまで広い範囲のビジネスを商売の種にして生き残ることができて、ギャンブルのテーブルに例えると賭け金の大きなテーブルだ。
プレーヤーにとって都合のいいこの仕組みは、今日では、主に米国の企業経営者によって模倣されて、経営者の報酬を急上昇させることに利用されているように見える。プレーヤーたちに「運」や「リスク」の分まで報酬を巻き上げさせない知恵が、企業の株主をはじめ、投資家を含む大衆の側では必要だろう。
せめて、「成功報酬にインチキがあるかもしれない」というくらいのことが分かる人が増えるといいのだが、仕組みが分かった人間の多くは、これを批判するよりも利用する側に回ってしまうので、経済を適切に制御することはつくづく難しい。
クレディ・スイスという存在が地球上から消えて、少しホッとしたというのが正直なところだが、安心は束の間なのかもしれないことに注意しよう。金融ビジネスの毒は簡単には消えない。 

 

●ビットコインと金融危機 4/10
以前に「国が引き起こした景気後退の中では、暗号資産が金融インフラの代替として注目されることはないだろう」と書いた。しかし、2023年3月に入り、米国の銀行が相次いで破綻したことで状況が変わりつつある。欧州においても大手銀行クレディ・スイスの経営状況が悪化し、同じく大手銀行UBSによる買収によって救済される事態となった。日本の地銀も他人事ではない、そんな声が聞こえる。
このように金融システムへの信用不安が世界的に広がる中、ビットコインは強い値動きとなっている。暗号資産関連企業と取引のある銀行が揃って破綻し、業界全体への懸念から一時は大きく売り込まれたが、米国政府による預金者保護が発表されると他のアセットを凌ぐ早さで急回復した。上昇時には金との相関が強まり、一部ではビットコインがデジタルゴールドとして買われていることが示唆された。
暗号資産を知らない人は「一体なぜ?」と疑問に思うだろうが、ビットコインの歴史を振り返ればその理由がはっきりする。
ビットコインは世界的な金融危機を引き起こしたリーマン・ショック事件の直後となる2008年10月に誕生した。正確には2009年に入ってから発行がスタートしたが、いわゆる中央集権的な金融システムへの不安が広がった時にビットコインは世に出てきた。まさしく今のように銀行セクターの信用が低下する中で、個人同士が自由に取引できる電子通貨システムが作られたのである。
ビットコインはこれまでも金融危機のタイミングで注目されてきた。2013年に欧州の小国キプロスを巡る金融危機が起きた時も、金融システムが停止する中でビットコインが逃避資産として買われた。2020年に新型コロナウイルスが発生した時も、世界経済が不安定になる中でビットコインは金とともに買われた。そして2023年に米国の新興銀行が立て続けに破綻した時も、ビットコインは同様に買われている。
シリコンバレー銀行等の破綻劇はリーマン・ショックほどの影響は出ないとの見方が多い。しかし、今回の景気後退を起こしうる要素として銀行セクターの信用低下が加わったことはビットコインが再び注目を集めるチャンスかもしれない。
●米 銀行破綻から1か月 市場は落ち着き取り戻すも警戒感拭えず  4/10
世界に金融不安を引き起こしたアメリカの銀行「シリコンバレーバンク」の経営破綻から10日で1か月となります。当局が打ち出した異例の対策によって市場はひとまず落ち着きを取り戻していますが、アメリカのほとんどの銀行が債券の含み損を抱えるなど警戒感が拭えない状況が続いています。
アメリカでは先月10日から12日にかけて2つの銀行が相次いで破綻したことをうけて、政府が預金を全額保護する異例の措置を取るとともに、FRB=連邦準備制度理事会は銀行が有利な条件で資金を借りられる新たな枠組みを設けました。
こうした措置の影響もあってニューヨーク株式市場ではダウ平均株価が破綻前の水準を上回るなど市場はひとまず落ち着きを取り戻しています。
一方でほとんどの銀行ではFRBの急速な利上げによって保有する債券の価格が下落し、含み損を抱えていてその額は去年末の時点で6200億ドル、81兆円余りにのぼっています。
また、大規模な金融緩和で資金が流れ込んでいた商業用不動産の価格も下落し、融資している銀行への悪影響が懸念されています。
FRBの幹部は今後、銀行の間で損失が発生するリスクがあり、金融システムが元に戻るには時間がかかるという認識を示しているほか金融市場でも警戒感が拭えない状況が続いています。
FRB融資はピーク時から減少
アメリカで2つの銀行が破綻した直後はFRBによる銀行への資金供給額が急増しました。
“最後の貸し手”と言われるFRBが銀行の資金繰りを強化するために供給した融資の総額は破綻直後の先月15日時点で1647億ドル、日本円で21兆円余りと前の週に比べて35倍以上に急増しました。
その後も高い水準ではあるものの、3週連続で減少し、今月5日時点では1487億ドル、19兆円余りとピーク時に比べて160億ドル、2兆円余り減少しました。
アメリカ政府とFRBは金融危機を防ぐためにはあらゆる手段を講じる考えを繰り返し強調していて、市場では金融不安が和らいでいるという見方も出ています。  
●「物価高倒産」前年度比3.4倍、価格転嫁難で=帝国データ 4/10
帝国データバンクが10日に公表した調査によると、2022年度の「物価高倒産」は463件と、前年度の136件から3.4倍に増加したことが明らかになった。22年度の物価高に起因し、価格転嫁が難しい企業を中心に倒産が確認された。
法的整理企業のうち、原材料などの仕入れ価格上昇、価格転嫁ができない値上げ難などで収益が維持できずに倒産した企業を集計した。
業種別にみると、製造業(96件)、建設業(94件)、運輸・通信業(83件)など、価格転嫁率の低い業種が目立った。負債規模別にみると、「1億─5億円未満」が205件となり、中規模以上の倒産が目立った。要因別では、原材料が37.4%と最多で、エネルギーコスト(23.7%)、包装・資材(20.4%)と続いた。
また、物価高による23年3月単月の倒産件数は67件と前月より急増し、9カ月連続で最多を更新。今後も増加傾向で推移していくと予想している。
22年度の全国企業倒産は前年比14.9%増の6799件と、リーマン・ショック時の2008年度以来14年ぶりに前年度から800
件以上大幅増加した。負債総額は前年度比97.7%増の2兆3385億9100万円と、2017年度以来5年ぶりに2兆円台となった。
業種別では14年ぶりに全業種で前年度を上回り、サービス業が最多となったほか、小売業も続き、コロナ関連の倒産が目立った。主因別にみると、「不況型倒産」が5249件と全体の77.1%を占めた。「経営者の病気、死亡」は過去20年間で最も多かった2021年度を上回り過去最多を更新、0.7%増の277件だった。

 

●日銀 新体制始動 今月下旬に新総裁就任後初の金融政策決定会合  4/11
日銀の植田新総裁は10日夜、今の大規模な金融緩和を継続し、2%の物価安定目標の実現を目指す考えを示しました。今月下旬には、就任後初めてとなる金融政策決定会合に臨むことになっていて、今後の金融政策についてどのような方針を示すのかが焦点となります。
日銀の植田新総裁は10日夜、就任の記者会見を開き、長期金利と短期金利に操作目標を設けて金融緩和策を行う今の枠組みについて、「継続するということが適当であると考えている」と述べ、大規模な金融緩和を継続し、2%の物価安定目標の実現を目指す方針を示しました。
また、目標達成の時期について植田新総裁は、現時点では見通せないとしつつも、「賃金でも少しよい動きが出ている。目標の達成につながる可能性は十分ある」と述べ、任期中の目標達成に向け全力をあげる考えを示しました。
任期が始まったばかりの植田新総裁は、このあと今週12日と13日にアメリカ・ワシントンで開かれるG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議に出席し、海外の中央銀行のトップらと、欧米で広がった金融不安への対応などについて意見を交わすことにしています。
さらに今月27日と28日には、就任後初めてとなる金融政策決定会合に臨みます。
市場の一部には、日銀が総裁の交代を機に金融緩和策を修正するのではないかという観測も出ているだけに、植田新総裁が今後の金融政策について、さらに具体的な方針を示すかどうかが焦点となります。
●機能不全が続くG20財務相・中銀総裁会議 途上国債務問題は金融危機に 4/11
G20財務相・中央銀行総裁会議では銀行不安と世界経済減速がテーマに
4月12・13日にワシントンでG20(主要20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる。9日に就任したばかりの日本銀行の植田新総裁も出席予定であり、国際舞台のデビューとなる。
G20の枠組みにはロシアや中国が参加している。インドで行われた前回2月のG20財務相・中央銀行総裁会議では、ロシアのウクライナ侵攻を巡る表現で各国間の意見の隔たりが埋まらずに、共同声明の採択が見送られた。今回も共同声明の採択は難しいと見られている。G20の機能不全が改めて浮き彫りになるだろう。
ロシアのウクライナ侵攻以外に、経済面で大きな議題となるのが、3月に欧米で生じた銀行不安への対応だ。再発防止や新たな銀行規制が議論されるだろう。
また、銀行不安が一層高めた感がある世界経済の減速リスクも、重要な議題となる。10日からワシントンで開かれる国際通貨基金(IMF)・世銀年次総会で、IMFは最新の世界経済見通しを発表する。IMFのゲオルギエバ専務理事は6日の講演で、「2023年の世界経済の成長率は3%未満で、さらに今後5年間は3%前後で推移する。これは、1990年以降最も低い成長率見通しだ」と述べている。
世界銀行が3月に、向こう10年程世界の成長率は一段と低下するとの見通しを打ち出したが、IMFもこれに続き、中長期の成長率が下振れするとの見通しを示す見込みだ(コラム「銀行不安が高める世界経済の後退確率と世界銀行が指摘する『失われた10年』のリスク」、3月28日)。
中長期の成長率が下振れるきっかけとなったのは、コロナ問題とロシアによるウクライナ侵攻による物価高騰である。これに深刻な銀行不安、金融不安が重なれば、世界の成長率見通しはさらに厳しくなる。
深刻さを増す途上国債務問題
経済・金融の環境悪化に最も脆弱なのは、巨額の債務を抱える途上国だろう。コロナ問題を受けた医療関連、景気対策関連の支出拡大や、エネルギー・食料価格上昇への対応策が政府債務そして対外債務を急増させた。世界銀行によると、2021年末の低・中所得国の対外債務残高は約9兆3,000億ドルと、2010年末の約4兆2,900億ドルから倍増したのである。
さらに、物価高騰への対応として2022年3月に始まった米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げ(政策金利引き上げ)は、ドル建ての対外債務を多く抱える途上国に大きな打撃となった。金利上昇が利払い負担を増加させる一方、FRBの利上げによって進んだドル高は、自国通貨に換算したドル建て対外債務を大きく膨らませたのである。さらに、金利上昇によって資金は米国に引き揚げられ、これが途上の金融市場を不安定にさせている。
こうした点から、途上国債務問題は、G20財務相・中央銀行総裁会議で最大のテーマとなるのではないか。かつて途上国債務問題は先進国の問題であった。債権国と債務国が2国間の債務返済見直しなどを協議する場は、先進国の代表からなる国際会議「パリクラブ」だった。
ところが、途上国債務問題がG20財務相・中央銀行総裁会議で話し合われるきっかけとなったのは、債権国としての中国の台頭であった。国際開発協会(IDA)加盟の最貧国の2国間債務残高のうち、対中国の割合は2010年の18%から2021年には49%にまで拡大したという。ただし、中国による途上国への貸出の実態は、明らかになっていない部分も多い。
債務問題への対応で債務減免の必要性は高まっている
途上国の債務問題が深刻さを増す中、もはや債務返済の繰り延べではなく債務減免の必要性が高まっている段階に見える。米国のボストン大学は4月6日に公表した報告書で、既に債務危機に陥っているか陥るリスクが高い61か国の債務の減免が不可欠、としている。さらに、必要な債務減免の額は最大で5,200億ドルに上るとした。
他方で、中国は概して債務減免に否定的であり、返済期限の延長を認めつつも、つなぎ融資によって引き続き債務返済を途上国に求めている。
先進国と中国が、何とか連携して債務再編で合意できた例がスリランカだ。外貨不足や経済危機に直面していたスリランカでは、パリクラブに加え、中国やインドなども協力を表明した。
インド輸出入銀行がスリランカとの債務に関して、返済期限の延長や金利の引き下げなどの救済策を取り、中国輸出入銀行が2022年と2023年を返済期限とするスリランカの債務支払いを猶予することで合意した。これら主要債権国の対応を条件に、IMFは3月の理事会でスリランカ向けの30億ドル相当の支援策を承認したのである。
途上国債務問題はG20の機能回復の試金石。失敗すれば金融危機の引き金にも
しかしパキスタンの債務問題では、先進国を中心とするパリクラブが経済改革の実施と引き換えに債務軽減をパキスタンに求める姿勢であるのに対し、主要債権国の中国はつなぎ融資で返済の継続を促す姿勢であり、債務再編策の合意ができない状況が続いている。
IMFのゲオルギエバ専務理事は中国の李強首相に対して、中国はチャドやスリランカの債務再編については協力的で合意に貢献したと評価する一方、ザンビアやガーナ、エチオピアなどの債務再編合意に向けた前向きの取り組みを要請した。
途上国債務問題は、純粋な経済問題ではなく、中国にとっては安全保障分野も含む国家戦略と深く関わっていることから、情報開示などの点を含めて、先進国側と足並みを揃えた対応には慎重である。
こうした先進国と中国の利害が関わる途上国債務問題で、双方が問題解決に向けて強く連携することは簡単でない。しかしそれが可能となるかは、G20の機能を取り戻していけるかどうかの重要な試金石となるだろう。
他方、それに失敗すれば、途上国債務問題がより深刻化するだろう。それは世界の金融市場を大きく混乱させるきっかけとなり、金融危機の引き金ともなりかねないのではないか。
●4マスは新聞がプラス、ネット広告はプラス2.6% (広告売上動向 2023/2) 4/11
4マスは新聞のみプラスに
経済産業省が先日発表した「特定サービス産業動態統計調査」の結果によれば、2023年2月分の日本全体の広告業全体における売上高は前年同月比でマイナス1.1%となり、減少傾向にあることが分かった。主要業務種類5部門(4マスとも呼ばれる4大従来型メディアである新聞・雑誌・テレビ・ラジオと、新形態の広告媒体となるインターネット広告)では雑誌、テレビ、ラジオがマイナス、新聞とインターネット広告がプラスを示した。下げた部門では雑誌が一番下げ幅は大きく、マイナス13.3%。
   4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2023年1月〜2月)
今件グラフの各値は前年同月比を示したもので金額そのものではない。また前回月分からの動きが確認しやすいよう、2023年1月分のデータも併せてグラフに反映している。
しばらくは軟調が続いている4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)だが、今回月では新聞のみがプラスを示した。2015年以降4マスは概して軟調が続いており、特に紙媒体の新聞と雑誌は下げ基調が止まらず、2ケタ台の下げ率を見せたのは新聞が26回、雑誌は44回。
   4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2014年1月以降)
一方、インターネット広告はプラス2.6%と前回月から続きプラスを示す形となった。新型コロナウイルス流行による経済活動萎縮の影響はインターネット広告への出稿にも生じていたが、回復の動きも他部門と比べて早いものがある。
4マスとインターネット「以外」の一般広告(従来型広告)の動向は次の通り。
   一般広告の広告費(前年同月比)(2023年2月)
全部門で最大の下げ幅を示した海外広告だが、金額は約16億円。売上高合計へは大きな影響は与えていないようだ。
インターネット広告は新聞の約7.21倍
部門別の具体的売上高は次の通り(億円単位における小数点以下は四捨五入しての表記となる)。
   月次広告費(億円)(2023年2月)
現時点では2014年1月を最後に、毎月の新聞の広告費の金額はインターネット広告の金額を超えておらず、金額面で主要業務種類5部門の上位順位はインターネット広告・テレビ・新聞の順となっている。
今回月では両者の金額差は約1033億円。約7.21倍の差がついている。もちろんインターネット広告の方が上。「従来型メディアの紙媒体全体の広告費」は約192億円で、これはインターネット広告費よりも下。つまり今回月も前回月に続き「インターネット広告の売上高が、大手4マスのうち、紙媒体全体の広告費を上回った」ことになる。
次のグラフは主要5部門、そして売上高合計(主要5部門以外の広告も含むことに注意)について、公開されているデータを基にした中期的推移を示したもの。今調査でインターネット広告の金額が調査されはじめたのは2007年1月以降なので、それ以降に限定した流れを反映させている。
   4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)
雑誌と新聞の折れ線がグラフ中では「0%」よりも下側に位置する機会が多い。これは金額が継続的に減っていることを意味する。前年同月と比べてマイナスの値が続けば、金額が漸減していくのは道理ではある。そして効果が上がらない、広告力(世間一般に働きかけられる影響力。メディア力)の無いメディアに広告費を継続して大量投入することは、少なくとも広告の直接対価によるものとしては想定しがたいので、雑誌・新聞の広告力が漸減していると広告主からは判断されているようだ。
昨今の動向を見返すと、やや起伏は大きいもののインターネット広告が確実に上昇基調(プラス領域)の中にあり、他の業種とのかい離が生じていたこと、テレビがプラスマイナスゼロ付近でもみ合いをしていたことが分かる。ラジオも似たような動きだったが、2017年初頭あたりから失速したようだ。
2015年に入ってから4マスの軟調さが際立ち、現在に至るまで紙媒体では継続しているのも気になる。2014年同月からの反動でもなく、広告市場における何らかの動きが生じている可能性は否定できない。とりわけ新型コロナウイルスの流行による影響を大きく受けているように見える。
他方、インターネット広告も2017年以降伸び率がやや頭打ち、むしろ低下を示している。特に2019年10月以降は低迷感が否めなかった。消費税率引き上げ、そして新型コロナウイルスの流行によるものだろう。そして前年同月比でみる限りでは、新型コロナウイルス流行による広告費の減少ぶりは、リーマンショックのそれに等しい、むしろ下落期間が短い分だけ急降下な動きであることが確認できる。雑誌に限ればリーマンショック以上の下げ幅。そしてインターネット広告もともに大きく落ちていただけに、全体としてもより大きな下落といえる。
2020年夏ぐらいからの持ち直しで早期にプラス圏に転じ、さらに新型コロナウイルス流行前の基準に戻り、その上勢いよく成長しているようにすら見えるインターネット広告が救いではある。4マスも大きな上昇を見せていたが、これは前年同月の大幅減からの反動でしかないため、失速してしまっている。中でも昨今では再び雑誌が大きな下落を示しているのが確認できる。
昨今ではインターネット広告の伸び方も足踏み状態の気配を見せるが、これは単に前年同月の値が非常に大きかったことの反動でしかない。例えば今回月分となる2023年2月との比較となる2022年2月はプラス11.4%という高い値を示している。
何はともあれ新型コロナウイルスの流行、そして景気の足を引っ張っているもう一つの要素であるロシアによるウクライナへの侵略戦争が片付かないとお手上げ状態なのが実情には違いない。 
●植田日銀は早々から打つ手なし…金融緩和修正なら日本は3度目の大やけど 4/11
日銀の植田新体制が10日スタート。植田和男新総裁の初会見は、金融緩和の修正に関する質問が相次いだ。植田氏は「現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みを継続することが適切だ」と強調したが、市場では早期修正の見方が広がっている。
QUICKと日経ヴェリタスの調査(3月6〜8日実施)によると、市場関係者75人の約半数が4月か6月の金融政策決定会合で修正されるとみている。この観測に、金融ジャーナリストの森岡英樹氏は首をかしげる。
「世界各国の懸念はインフレから景気後退へとシフトしつつあります。米国の利上げは5月でいったん停止し、景気次第では年内の利下げもささやかれている。3月上旬の米SVB(シリコンバレー銀行)の経営破綻以降、世界的に金利が低下しています。日本の長期金利も日銀が設定する上限利回り0.5%以下で推移している。国債市場も安定しており、早期にYCCを修正する必要性はなくなっています」
YCC修正は事実上の利上げを意味する。再び金融緩和へと向かう世界の潮流に逆行し、植田氏は周回遅れの引き締めを決断するのか。想起されるのは、日銀の世界的な危機対応をめぐる2度の“前科”だ。
2000年8月。ITバブルへの懸念が指摘され始めていたのに、当時の日銀・速水総裁は楽観視し、ゼロ金利解除に踏み切った。その後、バブルがはじけ、景気は急降下。翌01年3月に慌てて金融緩和に転じざるを得なかった。
米国でサブプライムローン問題が広がっていた08年6月。白川総裁(当時)は「たぶん、危機、最悪期は去ったのだろう」として、政策金利を据え置いた。わずか3カ月後、リーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけに「リーマン・ショック」が発生。同年10月末には利下げに追い込まれた。
世界情勢を読み切れず、後手対応により2度も“大やけど”。3度目の過ちはまっぴらごめんだ。
「00年のゼロ金利解除に、日銀審議委員だった植田氏は反対しています。植田氏は足元の世界情勢を見て早期の緩和修正には踏み切らないでしょう。ただ、植田氏ができることは緩和の維持まで。速水氏や白川氏の時は金利を下げる余地があったのですが、今はゼロ金利。植田氏の場合は利下げしようにもできない。利上げを繰り返してきた各国は景気後退に対抗して、利下げに踏み切れます。ところが、植田氏には“打つ手”がないのです」(森岡英樹氏)
日本だけが取り残されるのか。

 

●下振れリスクへの警戒継続、ウクライナ戦争や銀行の緊張で=米財務長官 4/12
イエレン米財務長官は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う経済的悪影響や最近の米銀行システムなどへの圧力を踏まえ、世界経済が直面する下振れリスクを引き続き警戒するという見解を示した。一方で、全体的な見通しは「それなりに明るい」と述べた。
国際通貨基金(IMF)は11日改定した世界経済見通し(WEO)で2023年の世界経済の実質成長率を2.8%とし、1月の前回見通しから0.1%ポイント下方修正したほか、金融システムの混乱が深刻化すれば生産活動が景気後退に近い水準まで落ち込むおそれがあると警告した。
これに対し、イエレン長官はIMFと世銀の春季会合の冒頭記者会見で「世界経済について否定的な見解をしすぎることはない」とし、「もっと前向きになるべきだ」と語った。
先月の米銀2行の破綻後に信用収縮を示唆する証拠は見られていないが、その可能性はあるとした一方、米銀行システムは引き続き強固で健全な資本と流動性を維持しており、世界金融システムは2008年の金融危機後に実施された大幅な改革により弾力的と指摘。「それでもなお下振れリスクへの警戒は怠らない」と言明し、春季会合では銀行の動向を巡る討議を続けたいという考えを示した。
さらに「引き続き堅調な雇用創出、インフレ率の緩やかな低下、堅調な個人消費など米経済が非常に好調に推移しているのは明らかだ。もちろんリスクは依然としてあるが、景気が悪化するとは想定していない」とした。
また、世界経済は昨秋に見込まれていたよりも良好な状態にあり、エネルギー・食品価格は安定し、サプライチェーンを巡る圧力は引き続き緩和されていると述べた。
ロシア産原油製品に対する価格上限はロシアの主要な収入源に打撃を与えると同時に世界のエネルギー市場安定化の一助となっていると述べた。
このほか、米財務省が金融安定理事会(FSB)やバーゼル銀行監督委員会などの国際的な機関を通じて、ノンバンクの脆弱性に対処しながら取り組んでいくと確約。債務面に関しては、高水準の債務負担が「あまりにも多くの国々に大きな経済的逆風」をもたらし、低所得国の半数以上が債務危機に近いか、債務危機に陥っているとし、国際的な債務再編プロセスを改善するための措置を呼びかけた。
ウクライナ戦争に関しては、ロシアから自国を守り続けるウクライナを支援し続け、制裁などの措置を通じた戦争終結に向けロシアに圧力をかけ続けるよう国際的なパートナー国に呼びかけるとした。
●MMFとは何か 銀行危機が起こると、なぜMMFの人気が高まるのか 4/12
・シリコンバレー銀行の破綻で銀行への信頼が揺らいだ投資家は、マネー・マーケット・ファンド(MMF)に現金を注ぎ込んでいる。
・MMFによって運用される資金の総額は、3月29日に5兆2000億ドルと過去最高を記録した。
・ここでは、MMFとは何か、そしてなぜ人気が急上昇しているのかについて説明する。
2008年の金融危機以来となる大規模な銀行破綻が発生し、それに恐怖を感じた人々は資金をマネー・マーケット・ファンド(money-market funds:MMF)に移している。
Investment Company Institute(ICI)が発表したデータによると、2023年3月29日までのわずか3週間で、3040億ドル(約40兆円)がMMFに流入し、それらのファンドによって運用される資金の総額は5兆2000億ドル(約690兆円)と過去最高を更新した。
この資金移動は、2023年3月上旬のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行(Signature Bank)の破綻がきっかけとなって始まった。預金者は銀行の安全性に不安を覚え、小規模で脆弱な金融機関に預けていた資金を引き出し始めたのだ。
ウォール街の大企業はこの資金移動の恩恵を受け、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)に520億ドル(約6兆9000億円)、JPモルガン(JPMorgan)に460億ドル(約6兆1000億円)、そしてフィデリティ(Fidelity)に370億ドル(約4兆9000億円)が流れた。
突然人気の高まったMMFとは一体どのようなものなのか、なぜ預金者にとって銀行の代わりに資金を預ける魅力的な場所になったのか、その理由を説明する。
MMFとは何か?
MMFは、投資会社や金融サービス会社が運用する投資信託のことをいう。短期金融市場(money-market )において米国債やレポ取引などの債券から得られる利子によって、安定したリターンを得ることができる低リスクの投資商品だ。
MMFを選ぶ際には、プラスの利回りで経費率が低いものを探すことになる。経費率とは、運用コストとして投資家に課される固定費を言う。
金融サービス会社のBankrateによると、3月31日現在、最も高い利回りを提供しているのは、UFB Direct、CFG Community Bank、CIT Bankが運用するMMFだ。
なぜMMFに投資するのか
資金がMMFに向かったのは、小規模の銀行までSVBと同じような運命をたどるのではないかという懸念によるところが大きい。投資家たちは、より安全だと思われる場所に資金をすばやく移動させたのだ。
またアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、12カ月前にはほぼゼロだった基準金利を5%にまで引き上げ、借入コストは1980年代以降で最も上昇し、短期金融市場の利回りも上昇した。そのため預金金利がなかなか上がらなかった銀行に現金を預けるよりも、MMFに投資する方が高いリターンが得られるようになっている。
米国債1年債の利回りは2021年末から約12倍に急騰し、現在は4.66%程度となっている。
「預金者は、MMFで比較的高い利回りを得ることができ、かつリスクも低いことに気が付いたのだろう。銀行とは異なり、MMFの資産はFRBの引き締めサイクルにおける金利リスクを被る可能性ははるかに低い」とバークレイズ(Barclays)のストラテジスト、ジョセフ・アベイト(Joseph Abate)はブルームバーグに語っている。
MMFへの資金流入は、経済にとってどのような意味を持つのか
MMFが銀行預金よりも貯蓄者にとって魅力的な投資先であり続けるなら、小規模銀行の預金が引き出される可能性がある。
「銀行は大量に預金を失っている。しかし彼らは何も分かっていないようで、利回り0%を宣伝し続けている!そして今、我々は貸し渋りの兆候を見ている。クレジット・クランチ(信用収縮)が起きているのだろう」と業界の有力者、ジム・ビアンコ(Jim Bianco)は4月3日のツイートで警告した。
ブルームバーグによると、銀行預金からの流出額は3月15日までに17兆5000億ドル(約2310兆円)に増え、小規模銀行では5兆4000億ドル(約713兆円)に達している。
●IMF、金融市場の「危険な脆弱性」警告 金利上昇への備え不十分  4/12
国際通貨基金(IMF)は11日に公表した世界金融安定報告で、金融市場参加者が金利上昇に対し十分に備えていなかったことが、金融システムの健全性を巡る重大な不確実性につながっていると指摘し、金融市場の「危険な脆弱性」を警告した。
また、約1カ月前の米銀2行の破綻を受け、消費者と企業の信用に大きな影響を及ぼす銀行部門の弱点が明らかになったことから、特に米国の地方銀行に対する一段と厳しい監視が必要になるとの見解も示した。
IMFは世界金融安定報告で、世界的な金融安定リスクは半年前の前回報告時と比べ「急速に」増大したと指摘。3月に米国でシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行が突然破綻したほか、スイスで経営難に見舞われた金融大手クレディ・スイスがUBSによる買収を余儀なくされたことを受け「市場心理は依然として脆弱で、多くの機関や市場でなお顕著な緊張が見られている」とした。
その上で、金融引き締め政策に加え、約10年前の世界的な金融危機以降の脆弱性の蓄積によりもたらされた課題が今回の銀行破綻で「強力に思い起こされた」と指摘した。
IMFのトビアス・エイドリアン金融資本市場局長はインタビューに対し「銀行が多くの資本と流動性を確保していることを踏まえても、脆弱な(金融)機関が存在し、それが金融システム全体に波及するおそれがある」とし、IMFは中央銀行が金融システムに対する信頼を維持するための手段を備えているかどうか、注意深く見守っていくと述べた。
IMFはまた、潜在的なマクロ経済リスクとして、中国経済の力強い再開やウクライナでの戦闘激化など、物価上昇の加速につながる可能性のある数点の要因を列挙。エイドリアン局長は「金融政策の引き締めが続く中、リスクは明らかに存在している」と述べた。
●IMF、世界全体の経済成長率を下方修正  4/12
IMF(国際通貨基金)は11日、アメリカの銀行破綻などを発端とした金融不安を背景に、世界全体の経済成長率を下方修正した。
IMFが発表した最新の「世界経済見通し」では、2023年の世界の経済成長率は、2.8%と1月時点の予測から0.1ポイント引き下げられた。
IMFは世界的なインフレの高止まりを、「危険な時期に突入」と指摘したほか、アメリカのシリコンバレー銀行などの破綻を発端とした、金融不安により世界経済が「下振れ方向に大きく傾いている」と分析している。
また、日本については、2022年10月から12月期の設備投資の不振などを反映し、経済成長率は1.3%と、予測から0.5ポイント引き下げた。
一方、アメリカのイエレン財務長官は講演で、「半年前よりも世界経済は確実に強く明るくなっている」と述べた。
インフレや経済の状況は改善しているとして、金融不安の広がりに対し、楽観的な見方を示した。 

 

●米銀破綻「パニック必要なし」、08年危機と問題異なる=バフェット氏 4/13
米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は12日、米国のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の経営破綻を受け、銀行業界や米国の銀行預金の安全性についてパニックに陥る必要はないとの考えを示した。
バフェット氏はCNBCテレビに対し、銀行破綻は増えると予想されるものの、銀行業界が現在抱える問題は2008年の世界的な金融危機を引き起こした問題とは異なるとし、「パニックに陥る必要はない。米国の銀行に預けている預金について心配する必要はない」と述べた。
ただ、一部の銀行は資産と負債の管理を誤ったとし、経営トップが株主に損害を与えるような過ちを犯した場合は確実に責任を取らせなければならないと指摘。「銀行に対する信頼が失われれば(銀行)システムに影響が及ぶ」と語った。
投資会社バークシャー・ハザウェイを率いるバフェット氏は、バークシャーが保有する日本の商社株に関連して現在、日本を訪問中。東京でCNBCテレビにコメントした。
バークシャーは米銀大手バンク・オブ・アメリカ(BofA)を含む大手行に投資している。
●G7財務相・中央銀行総裁会議 金融不安などについて議論… 4/13
G7(=主要7か国)の財務相・中央銀行総裁会議が12日、アメリカの首都・ワシントンで開かれ、欧米の銀行破綻危機に伴う金融不安などについて意見を交わしました。
会議には鈴木財務相や、就任後初の国際会議となる日本銀行の植田新総裁らが出席しました。
採択された共同声明では、金融システムは強靱(きょうじん)であるとしながらも、「引き続き金融セクターの動向を注意深く監視し、グローバルな金融システムの安定と強靭性を維持するために適切な行動をとる用意がある」などと明記されました。
鈴木財務相「(金融不安の)波及が万が一、起きた場合には、各国当局で連携しながら、流動性確保などの対応がとられるんだろう」
また、植田日銀総裁は各国に対し、大規模な金融緩和を継続すると説明しました。
植田日銀総裁「日本銀行は物価安定目標の持続的・安定的な実現を目指し、金融緩和を継続すると申し上げた」
会議にはウクライナの財務相も出席し、ロシアへの制裁を継続する方針などを改めて確認しました。
●G20財務相・中央銀行総裁会議 金融不安への対応など意見交換か  4/13
G20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議が日本時間の13日午前7時半すぎからアメリカのワシントンで開幕しました。欧米でくすぶり続ける金融不安への対応のほか、インフレやそれを抑えるための金融引き締めが世界経済に及ぼす影響などについて意見が交わされる見通しです。
G20の会議は、2日間にわたって開かれ、日本からは鈴木財務大臣と今月9日に就任したばかりの日銀の植田総裁が出席しています。
初日の会議では、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に伴うエネルギーや食料の価格高騰の問題、それに途上国の債務問題などをテーマに議論します。
世界経済は、記録的なインフレやそれを抑えるために欧米の中央銀行が進めている金融引き締めによって減速への懸念が強まっています。
さらに先月、欧米で広がった金融不安は依然としてくすぶり続けていて、会議では、実体経済や金融市場に与える影響や、金融不安の拡大を防ぐための対応などについて意見が交わされるものとみられます。
ただ、G20の会合は、ウクライナ情勢を強く非難する欧米各国などとロシアとの対立が続いていて去年4月の会合以降、4回連続で共同声明をとりまとめることができていません。
今回も共同声明のとりまとめは困難な状況で、世界経済の先行きへの不透明感が強まる中で、各国がどこまで協調した姿勢を打ち出せるかが焦点となります。
●FRB 会合議事録公表 “見送り言及”も利上げ選択経緯 明らかに  4/13
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は銀行の破綻が相次いだあとに開いた先月の会合の議事録を公表しました。会合では金融不安の影響で複数の参加者が利上げの見送りに言及したものの最終的には小幅な利上げを選択した経緯が明らかになりました。
FRBは、先月開いた金融政策を決める会合で0.25%の利上げを決めました。
会合の10日ほど前に2つの銀行が相次いで破綻し、利上げを続けるかどうか政策判断が注目されていました。
12日に公表されたこの会合の議事録によりますと、複数の参加者が利上げの見送りが適切ではないかと考えたと言及し、それによって、銀行破綻が金融や経済にもたらす影響や、これまでの金融引き締めの効果を評価する時間を確保できると指摘していました。
一方、一部の参加者はインフレ率の高さや強い経済指標を考慮すれば0.5%の利上げが適切だと考えていたと言及していました。
しかし、破綻によって金融環境が引き締められインフレが抑えられる可能性もあるとして、小幅な利上げが適切だと判断したということです。
最終的には、参加者全員が0.25%の利上げに賛成しました。
また会合では、FRBのスタッフが、金融不安の影響を踏まえてアメリカではことし後半に緩やかな景気後退が始まるという見通しを示していました。 
●ウォール街ショック! FRBが「年内に景気後退に入る」と議事録で認めた 4/13
米国経済の先行きに不安をもたらす経済データが、またウォール街にショックを与えている。2023年4月12日、米労働省が発表した3月の米消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比5.0%とインフレ鈍化を示す内容となった。
しかし、米国株式市場は軒並み下落した。同じ日に発表された3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録要旨が大きな懸念材料となった。
米国が年内に景気後退に入ると予想されていたのだ。いったい米国経済はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。
FRB執行部「年内に穏やかなリセッションが始まる」
「CPIは鈍化しつつあり、それは確かに良いニュースだが...」
「(我々の予想を)大幅に下回ったわけではない」
「FRBが利上げを見送るには十分ではない」
「経済成長の減速を示唆するデータは、株下落のきっかけとなる可能性がある」
こんなアナリストたちの声から、米経済メディアのブルームバーグ(4月13日付)はウォール街の困惑した空気を伝えた。
4月12日、3月CPIでインフレ鈍化が示されたことを受けて、米株式市場は買い優勢で取引を開始した。だが、内容を詳細に検討すると、インフレのしぶとさを改めて示したかたちであることがわかり、失速。さらに数時間後、FOMC議事録要旨に「バッドニュース」が織り込まれていることが伝わり、マイナス圏に沈んだ。
3月CPIは、ほぼ市場予想通りだった。前年同月比の上昇率が5.0%となり、9か月連続で鈍化。5.1%の市場予想を下回ったのはむしろ好材料だ。上昇率は前月の6.0%を下回り、9か月連続で縮小。5%台となったのは2021年9月以来、1年半ぶりだ。
ただし、上昇率の縮小はガソリン価格が前年同月に比べて17.4%も下落、中古車価格が11.2%減少したことが主な要因だ。一方、変動の大きい食品やエネルギーを除いたコアCPIは、前年同月に比べて5.6%上昇。上昇率は前月を0.1ポイント上回り、6か月ぶりに拡大に転じた。
しかも、CPI下降に貢献したガソリン価格は、産油国でつくるOPECプラスが5月から原油をさらに減産すると表明したため、再び値上がりする可能性がある。
こうした不安材料に追い討ちをかけたのが、FOMC議事録要旨だ。3月に米地銀の相次ぐ破綻を受け、金融システム不安が高まったとして、複数の参加者が利上げの見送りを検討していた。また、信用収縮が経済を一段と減速させる可能性に警戒を続ける姿勢を強調した。
参加者は、金融システム不安が沈静化した点を評価したが、今後の展開には不透明性が高いとの理解も共有した。公的には「金融システムの安全は確保した」と言いながら、金融当局自身が、まだまだ安心できないと本心を明かしたわけだ。
さらに、FRB(米連邦準備制度理事会)のスタッフ(執行部)が、年内に穏やかなリセッション(景気後退)が始まると予想。数人の参加者が、経済活動へのリスクは下方向に傾いているとの認識を示した。
とまあ、こういった内容だったから、ウォール街にとってはCPI以上に不安をあおる結果となり、市場の注目は今週末に集中する銀行の決算に移っている。
金融不安がくすぶるなか、市場はインフレ鈍化にすがろうとしているが...
今回のCPI結果とFOMC議事録を、エコノミストはどう見ているのか。
日本経済新聞オンライン版(4月12日付)「米消費者物価5.0%上昇 3月、9か月連続で鈍化」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、慶應義塾大学総合政策学部の白井さゆり教授(国際経済学)は、
「エネルギー価格が前年比大きく下落したことに加え、いくぶん食料価格の上昇率も低下したことでインフレ率は6%から5%へ低下し、しかも予想を上回る低下となった。しかし、コアインフレ率はむしろ上昇しており、中でも住宅関連の伸び率はむしろ上昇している」
と指摘。今後のFRBの動きについて、
「金融政策判断としてはコアインフレ率を重視する必要があるため、5月は利上げをすると予想されます。ただ、地方銀行の問題がまだくすぶっており、企業への貸出条件が厳格化している兆しもあるため、これ以上の利上げは行われない可能性があると思います。市場は早々と比較的早く利下げが行われる見通しに傾いていますが、利下げについては、FRBは慎重に判断をするのではないでしょうか」
と予想した。
同欄で、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者は、
「米CPIはいつもサプライズ。3月のCPI上昇率は前年同月比で5.0%と、2月の6.0%に比べて1.0ポイントも低下しました。今回のCPI発表に誰よりも胸をなで下ろしているのは、イエレン財務長官とパウエルFRB議長でしょう。ただし3月のCPI鈍化はガソリン価格の低下のおかげが大ですから、先行きに『油断』は禁物です」
と注意を呼びかけた。そのうえで、
「CPI発表前に強含んでいたドルは、CPIの発表を受けストンと下落しました。それ以上に目立つのが米国株。ダウ先物が一時3万4000ドル台に乗せ、率直にCPIの鈍化を寿(ことほ)いでいます。米金融不安がくすぶるなか、市場参加者はインフレ圧力の鈍化にすがろうとしています。幾度となく見た光景です」
と、ウォール街の一喜一憂を皮肉った。
米銀行の貸し渋りが景気を悪化させ、インフレを鈍化させている
米地銀が相次いで破綻したことで、銀行の貸し渋りによる信用収縮が広がっているが、そのことがインフレの鈍化につながっている――そう指摘するのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。
石黒氏はリポート「米インフレ圧力残るも信用収縮が物価を抑制へ」(4月13日付)のなかで、米銀行の貸出態度とCPIの関係を表わすグラフを示した【図表1】。これを見ると、最近、米銀行の顧客に対する貸出態度が厳格化していることがわかる。
   (図表1)米銀行貸出態度と米CPI
石黒氏はこう説明する。
「米銀破綻前の昨秋頃から、すでに米商業銀行の貸出態度は厳格化しています。さらに、FRBが4月7日に公表したデータでは、米商業銀行の3月29日までの2週間の融資残高減少額は1047億米ドルと、2週間としては統計開始以来最大の減少となっています。3月に顕在化した米金融システムの混乱が米商業銀行の貸し渋りを加速させていることが確認できます」
「米商業銀行の貸出姿勢の厳格化は、米雇用環境の悪化や企業活動の縮小を通じて、米インフレを抑制する傾向があります【図表1】。こうした点を踏まえると、米インフレは今後一段と鈍化することが見込まれ、5月のFOMCでは同会合を最後に、利上げを停止するとの見方が示される可能性が高いといえそうです」
ノンバンクが金融不安を第2ステージにする「4つの理由」
さて今後、米国経済はどうなるのか。FOMCの議事録ではFRB執行部は「年内に緩やかな景気後退が始まる」との予想を示しているが...。
「銀行の貸し渋りを加速化によって、米国銀行不安の第2ラウンドが始まる」と警告するのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「投資ファンドなどノンバンク(非銀行金融仲介機関)の金融リスクに注目」(4月13日付)によると、銀行の貸し渋りは投資ファンドなどノンバンクに多大な悪影響を与えるという。【図表2】は、主なノンバンクの脆弱性と金融リスクをまとめた一覧表だ。
   (図表2)主要なノンバンクの脆弱性
木内氏はこう指摘する。
「貸出抑制は、リスク資産を圧縮することで銀行が財務環境の健全性を高め、顧客や金融市場からの信頼性を回復しようとする試みである。そうした信用収縮的な状況は、経済活動を悪化させ、結局は銀行の貸出資産を劣化させて、不良債権問題を生じさせてしまう。銀行不安への銀行の対応が、次の銀行不安のリスクを高めることになってしまう」
そして、次の4つのリスクを生むという。
(1)第1のリスクは「流動性のミスマッチ」だ。オープン型投資ファンドはいつでも解約できることから、金融環境が悪化し、ファンドのパフォーマンスが低下すると、顧客は解約を急ぐ。ハイイールド債や新興国債券を中心に、流動性が低いものが多く、ファンドがそうした商品を換金売りすると、価格が大きく下がるため、顧客は損を拡大させないように、我先へと解約に動く。
(2)第2のリスクは「流動性のスパイラル」だ。ヘッジファンドは、ストレス時に流動性が一気に低下しやすいデリバティブのような金融商品を用いて資金調達を行い、それで投資を行う。いわゆるレバレッジ(てこの作用)だ。現在、ヘッジファンドのレバレッジ比率が高まっている。
こうした状況では、金融資産価格が下落する際に、デリバティブを通じた資金調達も同時に困難となる。そのため、金融資産の換金売りが加速して、金融資産の価格がさらに下落する「流動性のスパイラル」が起きやすくなる。これは、昨年(2022年)英国の年金基金危機で見られた現象だ。
(3)第3のリスクが「投資対象の類似性」だ。ノンバンクの投資対象がそれぞれ大きく異なっていれば、金融市場が混乱しても、ノンバンクの運用パフォーマンスにばらつきが生じ、損失リスクが全体として分散される。
しかし実際には、ノンバンクは同じ金融資産に投資する傾向が強まっている。金融市場の混乱時には、多くのノンバンクが同時に損失を拡大させ、混乱を増幅させることになる。
(4)第4のリスクは「各国の金融政策対応の不確実性」だ。ノンバンクを通じた金融市場の混乱は、国境を越えて伝播する。特に、新興国債券ファンドのリスクが大きい。投資ファンドが、新興国市場のリスクを高め、先進国と新興国との間の資金の流れを大きくかく乱するからだ。
木内氏はこう結んでいる。
「かつてであれば、経済、金融に大きなショックが生じる際には、FRBなど中央銀行が大幅な利下げを実施して、経済、金融の安定回復に貢献してきた。しかし現在は、中央銀行は物価高騰という課題を抱えているため、積極的な金融緩和策の実施に慎重となる可能性がある」
「こうした金融政策対応の不確実性が、銀行不安やノンバンク危機などといった金融ショックが生じた際に、金融市場の混乱が深まるリスクを強く意識させ、結果として金融市場の安定性をより損ねることにもなるのである」

 

●日本も金融不安は起こる?カギを握る「粘着性」 4/14
アメリカで相次いだ銀行破綻やスイスの大手金融グループ「クレディ・スイス」の経営危機をきっかけに金融不安が広がってから1か月。そこで私たちが見たのはこれまでとは様相が異なる金融不安の形でした。SNSで瞬く間に情報が拡散し、急速に預金が流出する事態となったほか、「AT1債」と呼ばれる社債が突然に無価値となるなど、新たなリスクも意識されるようになっています。日本の金融機関の備えは万全なのか、検証しました。
「AT1債」の混乱 なぜ無価値に?
「日本円で2兆円以上の資産価値が一瞬にして失われた」
「AT1債」と呼ばれる社債をめぐる対応が、金融関係者に大きな衝撃を与えました。ライバルのUBSに買収される形で救済された「クレディ・スイス」が、これまで発行した「AT1債」と呼ばれる社債を突然、無価値としたのです。
日本でも三菱UFJモルガン・スタンレー証券が、クレディ・スイスの「AT1債」をおよそ950億円分、国内の富裕層を中心に販売し無価値となっていたことが14日に明らかになるなど影響が出ています。
なぜ社債が一瞬で無価値になるようなことが起きたのか。クレディ・スイスは、契約であらかじめ決まっていた条件に沿った対応だと説明します。
どういうことなのか?今回のケースでは、契約上、「AT1債」が無価値になるトリガーが2つありました。
1 株式など損失を吸収する資本が一定の水準を下回った場合。
2 スイス当局が銀行が破綻のおそれがあるとみなしたり、特別な政府支援を行ったりした場合。
今回は、クレディ・スイスを買収したUBSに対して政府保証を行ったことが2つ目のトリガー「特別な政府支援」に該当し、この結果、「AT1債」が無価値とされました。契約に沿った対応だとはいえ、スイス政府の対応は、投資家の間で大きな論議を呼びました。
その要因は2つあります。
1つは、「特別な政府支援」というトリガーがスイス特有のルールで、それが発動する条件が明確でなかったこと。
2つ目は、通常の破綻時であれば先に価値を失うはずの株式より先に「AT1債」が無価値となるという「弁済順位の逆転」が起きたことです。
日本で“トリガー”発動の可能性は?
それでは、日本でもスイスで起きたような「特別な政府支援」のトリガーが発動することはあるのか。
日本でもメガバンク3行が「永久劣後債」という名前でAT1債を発行し、およそ3兆円の残高があります。
鈴木金融担当大臣は、3月28日の参議院予算委員会の質疑の中で、日本では「特別な政府支援」のトリガーが発動して「AT1債」が無価値となるということはないという認識を示しました。
「クレディ・スイスのAT1債には、特別な公的支援がある場合に、元本が削減される旨の特約があって、今回のスイス当局による一連の措置は、この特約に基づき銀行の国家的顧客や金融システムの安定のために行われた。そうした特約は、日本の金融機関の発行するAT1債にはないと承知をしていて、一般に公的支援が行われることにより、元本が削減されることはない」
次に「弁済順位の逆転」は起こりうるのか。
金融やファイナンス論が専門の東京大学公共政策大学院 服部孝洋特任講師によりますとクレディ・スイスのケースにあった1のトリガー「資本が一定の水準を下回った場合」という条件は、日本の「AT1債」にも盛り込まれているということです。「AT1債」の性質上、破綻が起こらないよう株式より先に価値が減ることはあり得るということですが、「日本ではスイスのようにAT1債のみが無価値化して株式が無価値化しないということは起こりにくい」と指摘しています。
また、多くの市場関係者も日本のメガバンクの場合はいずれも自己資本が15%前後で、このトリガーが発動する条件の5.125%を下回ることは想定しにくいといいます。クレディ・スイスのケースでも自己資本は10%を超えていて、1でなく2のトリガーが発動しています。
日本のメガバンクが発行した「AT1債」には、仮にトリガーが発動して、その価値が減った場合でも、銀行の自己資本が回復すれば、「AT1債」の価値が復活するという仕組みを取り入れたものも発行されています。
預金の急速な流出 防ぐカギは「粘着性」
アメリカの銀行の経営破綻では、銀行の経営悪化に関する情報がSNSを通じて一気に拡散し、大口の顧客が急速に預金の引き出しに走ったことが突然破綻に陥った1つの要因とされています。また、顧客の多くが大口のスタートアップ企業で、預金保険で守られない資金が多かったことも預金の流出に拍車をかけたと指摘されています。
これについて、金融庁の幹部はこう発言していました。
「1日に5兆円以上の預金が流出するというのは聞いたことがないスピードだ。SNS時代の預金者は1日たりとも待ってはくれないということだろうが、これまでの『金月処理』(金曜日に破綻を公表し、月曜日に譲渡先での営業を開始する破綻処理の仕組み)で対応できるのか、時代に合った仕組みを考えねばならない」
こうした中で、日本の金融当局が今、注目するのは預金がいかに引き出されにくいかを示す「粘着性」という分析指標です。例えば、預金保険法のもとで保護される企業の「決済用預金」や「1000万円以内の個人の預金」などは、粘着性が高いとされています。
金融庁によりますと、日本では、破綻したアメリカの銀行のように、顧客の構成や預金の種類が極端に偏っている金融機関は確認されていないということで、一定の「粘着性」は確保されていると見ています。
金融機関側の認識も同様です。4月3日、みずほ銀行の加藤勝彦頭取は、全国銀行協会の会長の就任会見で、次のように指摘しました。
「邦銀は、(破綻したアメリカの)シリコンバレーバンクと異なり、日銀による長期の量的・質的緩和によって潤沢な資金も保有しており、その預金は企業や個人などに分散されている。すなわち、預金の『粘着性』が高く、同様の事象が起こる可能性は低い」
金融危機を防ぐには 規制より監督が重要
「AT1債」で資本にバッファーを持たせる仕組みや預金の「粘着性」に関する規制は、2008年のリーマンショックを教訓に設けられた国際規制「バーゼル3」で重視されたものでした。しかし、今回の金融不安で同様のリスクが再び顕在化しています。
おととしまで日銀に務め、通算15年余りバーゼル規制の業務に携わった秀島弘高さんは「今回の経験の教訓はこれからしっかり洗い出す必要があるが、すぐに規制強化に飛びつくのではなく、日常の金融当局の監督が重要ということを忘れるべきでない」と指摘します。
国際的な規制の枠組みをつくるバーゼル委員会は、規制づくりだけでなく、金融機関の監督を重視するため2021年に組織を改編しました。さらに、去年12月に公表した計画でも、金利上昇時に金融機関が保有する債券に含み損を抱えるリスクが指摘され、ストレステストや危機時のシナリオ作成を行って、リスクを点検するこれまでのやり方が十分か検証する必要があるとしていました。
今回そうしたリスクを踏まえた監督がなぜ行えなかったのか、アメリカの中央銀行にあたるFRBのバー副議長は、経緯を検証した報告書を5月1日までに公表するとしています。
また、4月10日には、元金融庁長官の氷見野良三日銀副総裁が、就任記者会見の中でリーマンショック後の規制改革が十分だったかと問われ「規制は監督の代わりにはならない。規制さえ厳しくしていけば問題は全部起こらなくなるということではない。そうした視点を大事に議論に参加したい」と述べ、世界の金融当局とともに監督のあり方を検証する考えを示しています。
金融危機を防ぐためにどのような備えが必要か、金融当局の今後の検証と議論に注目が集まります。
●経営トップの判断と戦略、行動で企業の命運が左右される 4/14
金融危機の中で…
コロナ禍が和らぎ、ウクライナ危機の解決の糸口をどう見つけていくかと世界中にまだ緊張感が残っているときに、今度は金融危機である。
3月10日、米シリコンバレーバンク(SVB・カリフォルニア州)が破綻。預金の引き下ろしが瞬く間に広がり、2日後には米ニューヨーク州のシグネチャー・バンク破綻へと飛び火した。
その数日後には、カリフォルニア州のファースト・リパブリック・バンクが危機に追い込まれ、大銀行が救済に回るといった具合に、米FRB(連邦準備制度理事会)と金融界も極度の緊張を強いられている。
世界的な金融危機のリーマン・ショックが起こったのは2008年9月。
有力投資銀行のリーマン・ブラザーズが約6000億ドル(約70兆円)もの負債を残して倒産。同じ投資銀行のメリルリンチはバンク・オブ・アメリカの完全子会社となって生き延びた。
それから15年近く経っての今回の米銀の相次ぐ破綻劇。今回、欧州の名門クレディ・スイスも危機に見舞われ、慌てたスイス政府は同国1位のUBSがクレディ・スイスを買収することで、当面の危機を回避。
今回、米政府にしろ、スイス政府にしろ、動きは機敏で早かった。米政府がSVBの預金を『全額保護』と即応したのも、下手すれば金融危機が一気に広がる─と読んだからであろう。
それでも、市場の不安心理はそう簡単には消えない。緊張感の中で、しっかり対応していかなくてはならない。
産業人の士気は高い
こうした状況下に、産業人も肝を据えて、経営に取り組まなければならない。
世界45カ国で拠点を構え、全売上の9割近くをグローバル市場であげる日本電産(今年4月、ニデック=NIDECに社名変更)は、今年1月、「2023年3月期の決算で垢を全部取ってしまう」として、連結純利益は前年比56%減の600億円になる見通しと公表。
創業者会長の永守重信さん(1944年=昭和19年生まれ)の一大決断だが、環境激変をいち早く察知し、垢を取る作戦に打って出たということ。時代が大きく変わり、環境も変化するとき、いかにそれに対応していくか。文字通り、ここは経営トップの判断と戦略、そして行動でその命運が左右される。
味の素・藤江さんの志
「ピンチはチャンスだと思っています。逆にチャンスはピンチだと思いますので、さまざまな変化をいい機会として捉えられるかどうかというのがポイントじゃないかなと思います」
味の素社長の藤江太郎さん(1961年10月生まれ)はこう語り、「これまでの経験もあまり順風満帆の仕事をしてきていなかったものですから、割とそういう変化の時にいろいろな成長の機会があるというのを体験しているところがあります」と前向きに対応していく考え。
原材料コストの高騰、それを製品価格にどう反映させていくか、はたまた、社員の賃上げをどう上げていくか─といった今日的課題にどう取り組むか?
まさに今、経営トップの『覚悟』が問われているが、筆者が取材しているトップの皆さんの士気はすこぶる高い。自分たちの存在意義は何か、自社の強さと課題を把握しながら、それを追求しておられる。
藤江さんは中国事業を手始めに、海外事業を担当。赤字だったフィリピン事業を軌道に乗せられた。
受け継ぐべきもの
経営は持続されるべきものという視点で、前任の社長・西井孝明さん(1959年12月生まれ)から、受け継ぐものは何か?
「それはASV、Ajinomoto Group Creating Shared Valueです。社会課題を解決しながら経済価値、儲けも出させていただいて、この儲けをさらに多くの社会課題を解決しようというASVです」
このASVをしっかり受け継ぎながら、藤江さんは、「志と志に向けた社員の熱意と、そして1人ひとりが実力を磨き込むこと。これを出した人たちは『志×熱×磨(く)』と読んでいます」と語る。
その製品の価値、引いては企業価値を見定めるのはやはり客。その客の心をどう掴んでいくか?
「そうですね。価格改定にしても、その製品の価値をお客様に認めていただけない製品はやはり値上げできないですよね。そういう面でも、自分たちが強くなり続ける。磨き続けるということが大事だと思います」
『志×熱×磨』をこの変化の時代に合い言葉として生き抜こうという藤江さんの経営を4月19日号でレポートした。
潜在力掘り起こしへ
日本の成長力が停まったとか、存在感が薄れてきた─と言われて久しい。
GDP(国内総生産)でも、このところの円安で、3位の座が脅かされ、4位ドイツどころか、その後に控えるインドあたりにも近々抜かれるのではという見方が強まる。
潜在成長力をどう掘り起こしていくか─。今、日本全体に突きつけられたテーマ。
これは産業界にとっては重要な課題だが、産業界だけで国力を高められるわけではない。人材育成という意味では、教育、さらには家庭との連携が不可欠だし、地域社会との連携も必要。
政治、経済、教育、文化と各領域が連携し、国全体で取り組んでいく時だと思う。
栗山監督、ありがとう!
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で侍ジャパン≠ェ見事に優勝を果たした。
3大会ぶりの栄冠。対メキシコ戦の準決勝、米国相手の決勝戦は、最後の最後まで諦めず、文字通り死力を尽くした戦いぶり。栗山英樹監督の選手を最後まで信じる采配が光った。
今回の結果に、日本中が勇気をもらったが、何より各選手が自分の持ち味をしっかり発揮したことと、監督と選手の間の信頼関係があったことが大きな勝因である。
MVP(最優秀選手)の大谷翔平選手やダルビッシュ投手らだけでなく、1人ひとりが力を発揮したと言える大会だった。
ラグビーで言う、One for All, All for One.(個人はチームのために、チームは1人ひとりの選手のために)≠ニいう精神が今回のWBCで発揮されたと言っていい。
日本全体が何かと活力を失ったという話が多い時だけに、今回のWBC優勝は日本に元気と活力を植え付けてくれた。
侍ジャパン≠ノ見習って、日本全体に活力を取り戻していきたいものだ。
●アメリカの金融不安は本当に過ぎ去ったのか?:銀行経営の脆弱性とリスク  4/14
アメリカの金融不安は本当に過ぎ去ったのか、というお題に対して私の現在の気持ちは「微妙です」としか返せません。何が不安なのか、ご説明します。
まず、アメリカに銀行がいくつあるかご存知でしょうか?2022年6月現在で商業銀行 4178行、貯蓄金融機関 593行、信用組合 4853行の合計9624行あります。いくら日本と人口が3倍弱違うとはいえ、日本の金融機関の数(含む生保、証券、農協)が23年3月末時点で1415であり、いわゆる銀行だけで見ると534行しかないのと比べればとてつもない差なのです。
うち、商業銀行(Commercial Banks)は貸付が出来ますが、貯蓄銀行の貸し出しは住宅ローン等制約があり、信用組合は個人の協働組織なのでここでは除外します。アメリカで大手と称する資産額1兆ドルを超える銀行はJPモーガンを筆頭に上位6行しかありません。日本では3メガプラスゆうちょ銀行です。つまり、意外にもアメリカの銀行は大手と言っても知れています。7位のUS Bankcorpの資産でりそな銀行と同等の600億ドル規模、20位の銀行で200億ドル、100位になれば19億ドルしか資産がありません。日本ではランクが分かる限り93位の島根銀行ですら40億ドルぐらいは資産があります。つまり、アメリカの銀行は規模に大きな偏りがあり、基本的にはビー玉のような小さな銀行が無数にあってその中のごく一部が番を張っているといってもよいのです。
この4000を超える商業銀行でもずいぶん数は減ったのです。1980年代前半までアメリカの商業銀行は14000行を超えていました。が、その後急減します。理由はあの有名なS&L危機(Saving & Loan Banks Crisis)です。日本の方にはあまりなじみがないと思います。
70年代から80年代前半に年率2桁のインフレを背景に証券会社がMMFという市場連動型の投資信託を開発、発売したところ爆発的にヒットし、中小金融機関から証券会社に個人預金が大移動をしたのです。特に貯蓄銀行(Saving and Loan banks)は壊滅的打撃を受け、1988年には205行の銀行が倒産しました。この衝撃的な貯蓄銀行の崩壊により商業銀行でもクレジットクランチ(貸し渋り)が起き、金融主導のリセッションが起きたのです。日本がバブル経済の最中です。
私はS&L問題が再発するとは言いたくありません。アメリカの金融当局も数々の修羅場を乗り越え、現在に至るので様々なチェック機能は働いています。が、現状は似ています。しかもシリコンバレー銀行の瞬時の破綻は監督当局のチェック漏れも指摘されています。その上、SNSによる想定を超える預金の流出スピードについて金融当局はなすすべもなかったというのが現状です。
今、アメリカでは預金移動が起きています。S&Lが起きた時と同じです。より安全そうな大手銀行に預金が動いているとされます。しかし、ブルームバーグによるとその大手すら預金流出に苦しんでいるというのです。第1四半期の大手3行(JPモーガン、ウェルスファーゴ、バンクオブアメリカ)では1年前に比べ約70兆円の預金流出が起きています。今回も結局、S&L問題が起きたときとまったく同様に証券会社に資金が動き、MMFが買われています。この資金移動がもたらす金融機関の歪みは解決できないのです。
シリコンバレー銀行がなぜ、潰れたか一言で説明せよ、と言われたら私はこう答えます。
「銀行業における預金と貸し出しのバランスを崩した」と。
かつての取り立ては銀行の前に人が並んだので予兆は分かりました。日本では女子高生が銀行を破綻の瀬戸際まで追い込んだ例もあります。それが1973年の愛知県の豊川信用金庫事件で女子高生3人が「信用金庫は銀行強盗に襲われるから危ないよ」と同行に就職が決まっていた同級生にジョークで言ったことがとんでもない流言となり、最終的に当時のお金で20億円が引き出され、大変な騒ぎになったのです。当時は銀行は3時にシャッターが閉まったのです。今はネットバンキングで24時間引き出せるのです。これは怖いのです。
問題は銀行の預金と貸し出しのバランスが崩れた際のリスク対応です。預金に対する資産は貸出先であり、それ以外の余資は運用しています。多くは国債でしょう。仮に引き出しが急増したとします。金利が急上昇している中、銀行が国債を売却すれば大損です。この部分はS&L問題があった時と同じ背景、つまり、高金利下における銀行経営の脆弱性であります。
今、私はREIT(不動産投資信託)に着目しています。特にオフィスビルにウェイトが大きいREITです。理由は銀行の借り換えが困難になる可能性が指摘されているからです。背景はオフィスの空室率です。アメリカの3月のオフィス空室率は16.5%。ヒューストン、アトランタ、オースティンは20%を超えています。カナダも同様の空室率です。理由はオフィスの作り過ぎもありますが、リモートワークが増えたことと業務の効率化で管理部門の従業員が減る方向にある点です。
REITにとってオフィスの空室率が高ければ賃料は入らないし、テナントの契約更改では賃料は下がります。事実アメリカのリスティングの平均賃料は過去1年で1.6%下落の38.28jになっています。その上、借り入れ部分は金利高で利払いが増えます。一番怖いのがローンの借り換えの際、中小金融機関が借り換えに難色を示した場合です。これは困ります。ただ、概ね、シンジケートローンで旗振り役の大手銀行が増えた預金ベースに貸し出し維持をして乗り切ると思いますが、そうすれば中小銀行の食い扶持が無くなるということです。
S&L問題は時間をかけてゆっくり進行した問題でした。今回取りざたされる信用収縮もシリコンバレー銀行のように突如起きるというより、予兆なり、兆候は見えると思います。が、FRBが利上げを止めない限り、この問題のリスクは払しょくできないということであります。
●アメリカ人労働観に異変が起きている 景気後退でも労働力不足が続いている 4/14
「銀行が与信を引き締めており、米国の景気後退(リセッション)の確率は高まった」
JPモルガン・チェースのダイモンCEOは4月6日、CNNのインタビューでこのように述べた。ダイモン氏は米銀大手でリーマンショックを経験した唯一のCEOだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)によれば、商業銀行の貸し出しは3月最終週に約450億ドル、その前の週は約600億ドル減少した。減少幅は史上最大の規模だ。
金融不安は既に不調になりつつあった製造業にとって「泣き面に蜂」だった。
米サプライチェーンマネジメント協会(ISM)が3日に発表した3月の米製造業景況感指数は前月より1.4ポイント低い46.3だった。好不況の節目である50を5ヶ月連続で下回った。現在の水準は過去4回のリセッションの初期(1990年、2001年、08年、20年)と一致している。
危うい市場が続々と
中でも最も打撃を受けているのはテクノロジー企業だ。
3月10日に破綻したシリコンバレー銀行(SVB)が、テクノロジー企業にとって主要な資金の出し手だったからだ。SVBはベンチャーキャピタルが投資する米国のテック、ヘルスケア企業の半数と取引があり、他の商業銀行が取引を断るようなリスクが高いスタートアップ企業の経営を支えてきた(3月15日付日本経済新聞)。
有力なテクノロジー企業を生み出すシステムの根幹が揺らいでおり、米国経済の今後に赤信号が点滅していると言っても過言ではない。
不況の波はサービス業の分野にも及びつつある。
ISMが5日に発表した米非製造業景況感指数は前月より3.9ポイント低い51.2だった。市場予想(54.3)を下回り、サービス需要にも陰りが出てきた形だ。
アマゾンやウォルマートなどが物流の拠点とする倉庫の集積地、カリフォルニア州南部に広がるインランド・エンパイア地域も1年前に比べ様変わりだ(4月5日付ブルームバーグ)。この地域はロサンゼルス近郊の北米最大規模の港湾施設を通じた記録的な輸入のおかげで倉庫はモノであふれかえっていたが、今は閑散としている状態だ。
不動産市場もますます危うくなっている。
オフィス物件がリモートワークの定着を受けて打撃を被っていることに加え、好調だった部門にも逆風が吹いている。
1棟に複数世帯が入居する住宅のマルチファミリー物件(アパート)は個人の不動産投資の対象として最も人気があるが、今年第1四半期の売上高が前年比74%減の140億ドル弱となった(4月6日付Forbes)。アパート市場は新型コロナのパンデミックで急拡大し、2021年第4四半期には過去最高の1160億ドルに達したが、金融不安などの影響で人気ががた落ちとなっている。
米国のGDPの7割を占める個人消費にも 金融不安の影が忍び寄っている。
ニューヨーク連銀が10日発表した3月の消費者調査によれば、「1年前と比べて融資を受けることが難しくなった」と回答した割合は58.2%と過去最多になった。
大口の買い物である自動車のローン活用が減少することが見込まれ、今後、自動車販売が大幅に減速するリスクが指摘されている。
なぜ労働力不足が続くのか
このように、米国経済が急速に活力を失いつつあるのにもかかわらず、景気の下押し効果をもたらすFRBのさらなる利上げが想定されている。
3月の失業率が2月の3.6%から3.5%に低下するなど、雇用市場の過熱状態が続いており、労働力不足に起因するインフレが続いているからだ。
米国経済は減速傾向が強まっているのになぜ労働力不足が続いているのだろうか。
米国の労働参加率(15歳から64歳の人口に占める労働力人口)の低下が指摘されることが多いが、それ以上に注目され始めているのは自発的に労働時間を減らす動きだ。
ワシントン大学の研究チームが1月中旬に「25〜39歳の男性が自発的に労働時間を年16時間減少させた」との調査結果を公表した。学歴が低い男性を中心に仕事への意欲が低く最低限の仕事しかこなさない、いわゆる「静かな退職」が話題となったが、高学歴で勤勉な高給取り(年収10万ドル以上)の男性も仕事との関係を見直すようになってきている(2月28日付BUSINESS INSIDER)。
労働時間の短縮は米国人全体に波及していることがわかってきている。
エイブラハム元労働統計局長がレンデル・メリーランド大学教授らとともに3月末に発表した論文で「米国人の就労時間はこの3年で1人当たり週30分以上減少した」ことを明らかにした。「ちりも積もれば山となる」ではないが、就労時間のトータルの減少量は240万人分の雇用に相当する。
減少分のうち新型コロナの後遺症などによるものは10%程度にとどまっていることから、エイブラハム氏らは「ワーク・ライフ・バランスを考え直した米国人が多いことが一因なのではないか」とみている。スタンフォード大学のホクスビー教授は「コロナ禍でショックを受けた米国人は仕事に対して欧州的なアプローチをとるようになったのかもしれない」と解釈している(4月6日付ブル-ムバーグ)。
労働力不足の原因は、これまで先進国の中でワーカホリック(仕事中毒)の部類に属していた米国人がワーク・ライフ・バランスに目覚めたことにあるというわけだ。
たしかにワーク・ライフ・バランスは大事だが、そのせいで米国経済が苦境に陥ってしまうのだとすれば、これほど皮肉な話はないのではないだろうか。
●IMF世界経済見通し「スローバリゼーション」の加速で「世界は貧しくなる」 4/14
国際通貨基金(IMF)が春季の「世界経済見通し」を公表した。
リスクシナリオとして、昨今の金融不安の影響で信用収縮と株安が重なった場合、「1970年以降で5回(1973・1981・1982・2009・2020年)しか経験していない世界経済の成長率2%割れ」が「20%の確率で起こり得る」との見方が示された。
ただし、金融不安については、シリコンバレーバンク(SVB)破綻直後の混乱が一段落し、残るは「個別の金融機関の問題」との認識が広がっていることもあり、2023年通年の成長率は2.8%と1月時点の見通しから0.1%ポイントの下方修正にとどまった。
インフレ沈静化のために利上げが必要とされる一方、金融の安定が懸念される中で利下げへの期待が高まるという矛盾と葛藤に世界経済が苛(さいな)まれる中、「特に先進国にとって」ハードランディングシナリオが「より大きなリスク」になっているとIMFは指摘する。
これは比較的踏み込んだ言いぶりで、秘めたるリスクの大きさを感じさせる。
サブタイトルには「不安定な回復(A Rocky Recovery)」とあり、見通し全体を通して伝わってくるIMFの本音を、簡潔ながらも的確に表現しているように思える。
直接投資の「分断化」で世界は貧しくなっていく
筆者には、第4章「地経学的な分断と直接投資」の議論がとりわけ興味深く感じられた。
2019年以前から、米中貿易摩擦に象徴される西側諸国と中国の対立構図を背景に、グローバル規模で構築・最適化されたサプライチェーンに懸念が生じていたが、2020年のパンデミック発生でそのサプライチェーンが物理的に寸断され、さらにその終息と回復のプロセスでロシアがウクライナに侵攻。経済制裁や輸出制限が実施されたことで、商品市況に著しい制約が生じた。
パンデミックについては、懸念された深刻な感染再拡大の動きもなく終息に向かっていると思われるが、地政学リスクにはいまだ緩和の兆しが見られない。この3年間でサプライチェーンが被った甚大なダメージも、回復に向かっているとはいえ正常化にはほど遠い状況が続く。
こうした流れの中で、国境をまたぐ企業の経営判断も変化を強いられている。特に、ここ数十年の世界経済のトレンドとも言える海外直接投資の拡大を巻き戻し、対内直接投資に回帰させようという動きが勢いづいている。
海外直接投資は基本的に企業行動の話だが、最近では政治においても大きな関心事となっている。例えば、製造業を中心に企業の国内回帰を促したトランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」政策はその象徴的な動きだった。
バイデン大統領も同じ路線を踏襲し、近年ではユーロ圏でも自国第一主義を掲げる国が出てきている。今回の世界経済見通しでも、フランスがアメリカに対抗して「メイド・イン・ヨーロッパ(Made in Europe)」戦略を提唱していることが紹介されている。
西側諸国対中国という大きな対立構図が存在しつつ、西側諸国の中にも政治・経済的な分断が見られる、そうした「直接投資の分断化現象」が世界経済全体にどのような影響を与えるのか分析したのが、本節の最初に挙げた(世界経済見通し最新版の)第4章だ。
近年、世界全体で海外直接投資が顕著に減速する一方、地政学的に見た友好国への直接投資の集中、さらには半導体など戦略分野への集中も進んでいる。
そのように企業が海外直接投資のリロケーション(再構築)の検討を進める中で、企業が本拠を置く国(多くは先進国)と政治的に距離がある国(多くは新興国)は、直接投資の流出に見舞われやすくなる。専門家でなくとも直感的に想像される展開ではないか。
結果として、海外直接投資が「流入」する国と「流出」する国の分断化が進み、世界全体として見た時にアウトプット(生産量)が減って貧しくなっていくというのが、第4章で展開されるIMFの問題意識だ。
加速する「スローバリゼーション(slowbalization)」
IMFが懸念する前節のような展開は、言ってみれば「グローバリゼーション(globalization)」の「スローダウン(Slowdown)」であり、今回の見通しでは「スローバリゼーション(slowbalization)」なる造語で形容されている。
実は、スローバリゼーションは今に始まったものではなく、リーマンショック以降、一部の国々で進んできた現象だ。
例えば、下の【図表1】に示すように、2000年代に世界の国内総生産(GDP)の3.3%を占めるまで増加していた海外直接投資は、2018〜2022年の間に1.3%まで落ち込んだ。
   【図表1】世界の貿易・サービス収支(青色)と直接投資(橙色)の推移(対GDP)。
10年ほどかけて徐々に進んできたスローバリゼーションが、昨今の地政学リスクの高まりを受けてさらに加速している、というのが実情だろう。
IMFは今回の世界経済見通しの中で、海外直接投資の分断化は世界経済に負の影響をもたらす「新たな要素」だと指摘する。
企業も為政者も、自国もしくは政治的利害が一致する友好国に生産拠点を移す戦略に軸足を移しつつ、地政学的な緊張に対して耐久性のあるサプライチェーンの構築に腐心しており、その影響を最も受けるのが、先進国からの直接投資を多く受け入れてきた新興国だ。
上の【図表1】で見たように、世界経済における貿易・サービス収支の比重はほとんど変化していないのに、直接投資の勢いだけが落ちている。
主に先進国からの直接投資は、「持たざる者」としての新興国に経済成長機会をもたらす役割を果たしてきた面がある。そのため、現状のような構図が続けば、国境を越えた商取引の恩恵を受ける国・地域がこれまでより狭く限られてくる可能性があり、それは新興国ひいては世界の経済成長にネガティブな影響をもたらすことになるかもしれない。
なお、今回の世界経済見通しでは、海外直接投資の分断化の影響を国・地域別に試算した結果が示されている。
アメリカが中国の拠点を引き揚げて世界各地に分散させる動きが顕著に見受けられ、程度の差こそあれ、欧州にも同様の動きが見られた。一方の中国は、世界各地から海外直接投資を引き揚げ、自国への集約を進めている様子が見て取れた。
とりわけ、このような動きは半導体のような戦略分野ほど顕著で、アメリカも欧州も自国域内での生産拠点構築に向けて動いている。
下の【図表2】に示すように、中国への直接投資は2018年以降、顕著な減少傾向にある。一方、欧米ならびに中国を除くアジアへの直接投資は2020年以降、明確に増加している。
   【図表2】国・地域別(アメリカ・欧州・中国・中国除くアジア)の直接投資(半導体)件数の推移。2015年第1四半期を100とした場合の相対値。
グローバリゼーションもスローバリゼーションも、端的に言えば、中国を軸とする企業の離合集散だったと結論できるのかもしれない。
「スローバリゼーション」は悪?
前節で詳説した第4章は、現在の潮流が続けば世界は貧しくなる、と警鐘を鳴らして終わる。
ただし、ここで注意したいのは、第4章の分析はあくまで海外直接投資の分断化に伴うスローバリゼーションのデメリットに注目したもので、メリットは見ていないということだ。IMF自身がそう認めている。
世界経済見通しにおける分析は、最適化されたグローバルサプライチェーンが破壊されたことで、世界の経済成長がどれほど失われるのか、そのコストに重きが置かれている。
同じ文脈で、世界経済のより大きな成長を目指す観点から見れば、スローバリゼーションは(国際取引が減速するわけなので)デメリットしかない。
しかし、政治的な観点から見れば、世界の経済成長率鈍化というコストを支払わねばならないとしても、海外直接投資の国内および友好国へのリロケーションによって、経済安全保障を強化したり、技術流出を防いで競争上の優位を確保したり、国益に対する「強固な守り」が実現されるのだから、それは「合理的な」コストとも言える。
実際、サプライチェーンが寸断されて戦略的な資材を確保するのが困難になれば、一国経済の成長に甚大な影響が及ぶにとどまらず、社会不安にまでつながりかねないことを、我々はパンデミック時に経験している。
そうした見方もあるため、スローバリゼーションは何もかも間違っているというのはあまりに乱暴な議論だ。
世界経済は当面このスローバリゼーションという大きな流れに支配され、従来よりコストのかかる状況が続くと思われる。
世界各国の政府・中央銀行は金融引き締めによるインフレ沈静化に躍起になっているが、実はこの「従来よりコストのかかる」新たな世界のあり方を踏まえると、インフレの根は(一時的な供給制約といった要因より)もっと奥深いところにあるのでは、という気がしてくる。

 

●米銀3行第1四半期、金利高が恩恵 景気悪化に備え引当金積み増し 4/15
米銀3行が14日に発表した第1・四半期決算は、金利上昇による恩恵で貸し出しから得る利息収入が増加し、銀行部門を巡る不安の影響が相殺された。同時に、3行は景気悪化で貸し倒れが増えた場合に備え引当金を積み増した。
JPモルガン・チェース、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ(Wファーゴ)の第1・四半期決算は、金利が上昇する中でも消費支出と企業投資が持ちこたえたことで市場予想を上回るけ結果となった。
こうした中でも、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制に向け積極的な利上げを行っていることに加え、3月の米中堅銀2行の破綻を受けた混乱から景気減速を巡る懸念が高まり、銀行は潜在的な貸付損失に備え引当金を積み増している。
JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、米経済は依然として堅調であるものの、3月のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー・バンクの破綻に端を発する銀行危機で金融機関が保守的になり、個人消費が影響を受ける可能性があると警告。「過去1年注視してきた嵐の雲はなお地平線上にとどまっていおり、銀行業界の混乱がこうしたリスクに拍車をかけている」と述べた。
シティグループは、貸し出しから得る利息収入が増加したことで、利益が予想を上回ったものの、米経済は穏やかな景気後退に入ると予想。ジェーン・フレーザーCEOは電話会見で「米国が下半期に緩やかな景気後退に入る可能性が高くなった」とし、信用収縮が悪化するおそれがあるとの見方を示した。
今年に入ってから大手行が利益を上げるのが難しくなっている分野の1つは投資銀行業務。JPモルガンでは同部門の収益が24%減少した。第1・四半期の世界のM&A(合併・買収)は金利上昇、高インフレ、景気後退への懸念から約10年ぶりの低水準に縮小。ディールロジックのデータによると、第1・四半期のM&A規模は5751億ドルと、前年同期から48%減少した。
米大手金融機関の四半期決算発表は来週も続き、18日にバンク・オブ・アメリカ(BofA)とゴールドマン・サックス、19日にモルガン・スタンレーが決算を発表する。
●米国株式市場=反落、指標受け追加利上げ観測 銀行株は上昇  4/15
米国株式市場は、一連の経済指標で米連邦準備理事会(FRB)の追加利上げが裏付けられ、反落して終了した。ただ、大手3行が発表した四半期決算が好調だったことで銀行株には買いが入った。
前日は経済指標でインフレ鈍化が示され、FRBの積極的な利上げサイクルは終了に近づいているとの見方から株価は急伸。インデックスIQ(ニューヨーク)のサル・ブルーノ最高投資責任者(CIO)は「昨日の動きはやや行き過ぎていた可能性がある」とし、「昨日の急伸を受け今日は一服商状となった」としている。
この日にJPモルガン・チェース、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ(Wファーゴ)が発表した第1・四半期決算は、金利が上昇する中でも消費支出と企業投資が持ちこたえたことで市場予想を上回る結果となった。
ベアード(ケンタッキー州ルイビル)の投資戦略アナリスト、ロス・メイフィールド氏は「地方銀行の危機がシステミックなものでないのは明らかだ」とし、「予想通りに大手行は地方銀行の混乱でそれほど大きな被害を受けなかった。むしろ恩恵を受けている可能性もある」との見方を示した。
決算発表を受けJPモルガンは7.6%高。1日の上昇率としては2020年11月9日以来の大きさとなった。シティグループは4.8%高。一方、Wファーゴは0.1%下落した。S&P銀行化株指数は3.5%高。
この日に発表された小売売上高、鉱工業生産、消費者信頼感などの米経済指標は強弱まちまち。総じて、FRBが5月の次回会合で0.25%ポイントの利上げを決定するとの見通しが裏付けられた。
インデックスIQのブルーノ氏は「工業生産と設備稼働率は予想以上に好調で、経済にまだ活気があることが示された」とし、5月だけでなく6月も利上げが継続される可能性があるとの見方を示した。
S&P主要11セクターでは7セクターが下落。不動産が最も大きく下げた。一方、金融は1.1%高と、上昇率は11セクターの中で最も大きかった。
資産運用世界最大手ブラックロックは3.1%高。四半期利益が予想を上回ったことで買いが入った。
航空機大手ボーイングは5.6%安。ボーイングは前日、主力機「737MAX」について、航空部品企業スピリット・アエロシステムズから品質に関する問題が報告されたため一部の納入を中止したと発表した。スピリット・アエロシステムズは20.7%安。
ニューヨーク証券取引所では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を2.01対1の比率で上回った。ナスダックでも2.07対1で値下がり銘柄数が多かった。
米取引所の合算出来高は99億8000万株。直近20営業日の平均は113億1000万株。 
●大阪統合リゾート、発進!:カジノについてはもはや時代遅れの産物  4/15
政府が花粉症対策にようやく本腰を入れ始めました。コロナより患者が多い花粉症を長年放置した政府の責任は問われそうです。もともと「安い、(成長が)早い、加工しやすい」の三拍子が揃ったスギが何故か輸入木材に押され伐採も進みませんでした。ならば政府は補助金を出して伐採を推し進め、木材を内外で使うのがベストでしょう。スギがある山林の半分は私有地だそうで「あの山、誰のものか、わかんねぇ」「境界線もそのあたりでねーか?」という感じ。よって伐採は苦労すると言いますが、政府が補助金付けたら皆さま目をキラキラさせて名乗り出るでしょう。土砂崩れの防止策だけはしっかりしてもらいたいと思います。
ゴールドにする?暗号資産にする?行き場を探すマネー達
昨日、アメリカの預金流出について書かせて頂きました。注目は本日から始まったアメリカ大手銀行の決算で、JPモルガンの預金残高は3月末で12月末比2%増となりました。ただ、中身が大きく動いているようで中小銀行からの預金の増分に対してMMFなどへの資金流出で相殺された模様です。MMFは高くなった国債の利回りを求めた資金で現金の足は非常に早いとみています。アメリカの金融不安はまだまだ続くのでしょう。
その中でこのところゴールドと暗号資産が快調に値を上げています。理由は金融不安と景気に方向性が見えにくくなり、金利引き上げのピークが近いとみたことが主因です。5月2-3日に開催のFOMCは利上げしても0.25%、引き上げ見送りの可能性も3割ぐらいあります。カナダが引き続き見送りましたのでアメリカも上げてもせいぜいあと1回ではないかと見られています。
とすれば米ドルが他通貨に比べて安くなり、米ドル建てで換算されるゴールドや原油は高くなりやすくなります。暗号資産はリスクマネーへの資金の流れで説明できます。FTXが倒産し、ビットコインが16000j程度まで売られた際、「時間がかかるけれど必ず値を戻す」と申し上げました。私が見る限り暗号資産は確実に市民権を得つつあります。手掛ける人が増えるということです。ウォーレンバフェット氏はお嫌いのようですが、彼はもう神様ではありません。
大阪統合リゾート、発進!
まず、一点、初めに申し上げたいのは「リゾート」という言葉遣いに違和感があるのです。リゾートの語源は古いフランス語のre(もう一度)とsortir(行く)という意味で、基本的には非日常の中でリラックスし、英気を養うところです。業界では議論になるのですがディズニーやUSJはリゾートかと言えばNOなのです。人造の装置の上で人間がもて遊ばれるところはリゾートではなく、大自然の中で人間が戯れ、想像し、時として無になれるところが本質的なリゾートと考えています。
それはさておき、大阪の人工島に1兆円超の投資をしてIR統合開発が決まりました。もともとは国内3か所を予定していたのですが、長崎は基準に満たず、横浜、札幌は地域の意見が集約されませんでした。経済効果だけで考えるなら沖縄がベストでしょう。理由は世界水準からみれば沖縄は天候不順でリゾート適格性が低い中、屋内施設が代替になり、外国からの集客が期待できるからです。なので北海道もアリだと思います。
カジノについてはもはや時代遅れの産物でもっと想像力のある日本ならではのアイディアを提供してもらいたかったと思いますが、許可条件はカジノが全体延床の3%以下ですのでおまけ的なものと考えてよいでしょう。私ならカジノとして日本のお家芸、パチンコを導入し、代わりに街中のパチンコ屋を撤廃すべきかと思います。カジノは個人が目の色を変えて賭け事をするところというイメージがあるのですが、アミューズメントセンターとしてカップルや友人、夫婦が楽しく遊ぶテーマパーク的に展開すべきでしょう。さもなければラスベガスのように高齢者の暇つぶし場所と化します。
力を注ぎたい工業デザイン
東京ビックサイトで開催される介護機器のイベントには確か4-5回連続でお邪魔しているのですが、前回お風呂の介助用機器のコーナーで日本を代表する大阪の某社の製品が大々的に展示されていたので説明を受けました。ただ私はショックだったのです。機能としては悪くないのですが、工業デザインとして最低で、凹凸が多く、ボルトの頭があちらこちらにあります。説明してくれた方に「申し訳ないけれど、これは頂けない商品ですね」とはっきり申し上げました。びっくりした顔をするその方に「濡れる場所での使用だし、ある程度拭き掃除も必要ですね。だけどこんなにボコボコしていたらどうやって日々の掃除をしますか?」と。
日本の工業デザインは機能性を重視したものが多いのですが、見た目に美しくないものが多々あります。サービスにお金をかけない日本と言いますが、動けばデザインなんて何でもいいだろうと言わんばかりのものも多いのです。今週号の日経ビジネスの「有訓無訓」に元日産自動車でデザイン部門のトップだった中村史郎氏が「デザインの役割は大きい。日本市場だけ見ていると気付かないですが、韓国勢は当然のこと、中国勢もその方向に戦略をシフトさせています。モノづくりへの情熱と新しいものに挑戦する力で我々は負けている」と断じています。
ところで私が当地で不動産開発を始める際、プロジェクトのロゴマークをカナダ人のプロの方に作って頂きました。何度も修正を重ねて出来た「葉っぱが水に落ちる日本的な美的センス」のロゴマーク製作費は今から28年前に驚愕の100万円でした。その後業務上、様々なロゴを作ったのですが、どれも陳腐。結局その100万円のロゴに勝るものはないのです。そのロゴのセンスはプロジェクトの品質も示すものとなり、高級コンドミニアムの先駆けとして当時、圧倒的な地位を築いたのです。工業デザインも同じです。価格競争の末の安物から脱皮し、所有者が自信を持てる商品に変えていくことが日本企業の使命です。

当地で流行らなかった居酒屋の後に有名居酒屋チェーンが入居し大盛況でした。違いはたくさんありますが、ポイントは2つ。1つは改善も工夫もないメニューは今や誰も見向きもしないこと、もう1つはSNSのチカラはすさまじい点です。事務所の近くにある韓国人が経営するとんかつ屋。味は普通ですが、プレゼンが上手で日本のデパートのとんかつ屋みたいな感じです。ごはん、みそ汁、キャベツお代わり自由は日本なら普通なのにこちらで誰もやらなかった「先鞭」です。工夫のしどころはいくらでもある、ということです。

 

●アメリカの株価が大幅下落を免れそうな理由  4/16
アメリカでは3月10日前後の突然の銀行破綻によって、市場心理が一時急速に悪化した。銀行破綻から1カ月が経過したが、同国の代表的な指標であるS&P500種指数はすでに破綻前を上回る水準まで上昇するいっぽう、長期金利は低下している。当局の連鎖破綻を封じ込める一連の対応で、2008年時と同様の大型金融危機には至らないとの認識が広がりつつある。
アメリカの株高の真因は何か
懸念された中小銀行の預金減少は3月末までにはいったん収まり、預金流出に備えたFRB(連邦準備制度理事会)からの借り入れも増えておらず、銀行システムは落ち着きつつある。破綻直後の預金保護の徹底などの対応で、金融危機の最初の火消しには成功したと言える。
筆者も銀行破綻が発生した直後のコラム「アメリカ株が再び大きく下落する可能性はあるか」(3月16日配信)で、銀行不安はインフレ抑制をもたらす点を指摘したが、実際に金利の大幅な低下となって現れている。一方で、株価の反発は、銀行問題を楽観しているというよりも、金利低下によるハイテク株などの株高で説明できる部分が大きい。金利が低下しても株高につながらない値動きもみられ、同国経済が大きく失速するリスクが懸念されるなど、依然として不安定な状況にある。
今後は、銀行の信用仲介機能が引き締め的に作用するので、企業や家計の支出行動を抑制し経済成長率を低下させることになりそうだ。
こうしたショックが急激に経済全体に波及したのが2008年の金融危機だった。一方で、現在起きている銀行問題について、筆者は金融危機を招くほど深刻になる可能性は高くないと想定している。FRBの利上げが、リスクを積極的にとっていた一部の銀行の経営を揺るがしているが、これは利上げの引き締め効果が顕在化した事象と位置付けられるのではないか。
今後はどうなるのか。FRBは次回5月2〜3日のFOMC(連邦公開市場委員会)における利上げを続けるかどうか、難しい判断を迫られるだろう。
ただ、現在起きている「逃げ足の早い預金」に依存する銀行破綻がもたらす金融不安は、2008年時などとは異なるとFRBは判断するのではないか。
このため、経済過熱やインフレリスクが変わっていない中で、FRBは利上げを継続すると現時点では考えている。実際、4月上旬に発表された同国の経済指標は事前予想を下回るものが多かったものの、7日に発表された3月雇用者数は前月比23.6万人と堅調な数字だった。
同調査は「銀行破綻が起きた週」に行われたので銀行問題の雇用市場への悪影響をはかる指標にはならない。ただし2023年の1〜2月は暖冬で大幅な雇用増となった直後ということもあり、その後に労働市場がどの程度底堅いかという意味で重要だったが、20万人以上の底堅い雇用拡大が示された形だ。
アメリカ経済は深刻な景気後退にはならない
同国では昨年末から大手ハイテク企業のリストラ報道が続いているものの、求人数は依然かなり多いため、企業全体として見れば雇用増加が続いている。
今後は労働市場も減速するとみられるが、高い求人数がある中で、雇用削減があっても労働市場での調整は深くならないと見る。筆者はこれが同国経済の深い景気後退が回避される1つの要因になると考えている。「労働市場は依然逼迫(ひっぱく)している」とするFRBの判断も変わらないだろう。
一方で同国の労働市場については、失業率が約3.5%前後と過去1年ほとんど変わっていない中で、昨年の平均時給が前年比5%台の上昇から2023年3月に同4.2%台まで低下していることをどう考えるかが、今後のFRBの政策判断に影響しそうだ。
失業率が極めて低い水準なら本来賃金は減速しないはずだ。だが、実際には過去1年賃金の伸びは鈍化している。この理由の1つは、失業率は低水準でも求人数自体は減少傾向にあるなど、労働需給逼迫が和らいでいることである。
もう1つ別の要因も考えられる。2022年前半までの高賃金は、コロナ後の政策対応などで強まった労働供給不足がもたらしていた側面が大きかったことである。昨年来のコロナ禍からの正常化とともに、移民流入も増えたことで、サービス業などで高賃金の抑制要因になっている可能性がありそうだ。
労働供給の要因が高賃金緩和の主因だと断定するのは難しい。だが、コロナ後の労働供給不足が賃金上昇を招いていたならば、2022年から続く労働供給の回復は、インフレと賃金のスパイラル的上昇への対応を迫られていたFRBにとっては、大きな安心材料になる。
今後、FRBは5月のFOMCで追加利上げを行ったとしても、同時に、銀行問題に配慮して引き締めの影響に慎重に対応する姿勢をみせる可能性がある。
先の「低失業率+高賃金の和らぎ」が併存してきた状況については評価が定まっていないとみられるが、高賃金が和らぐ兆しが前向きに取り上げられる可能性がある。
もし賃金インフレに対する懸念が和らげば、失業率が3%台の低水準のままであっても、「十分引き締め的な政策金利に達しつつある」と判断する可能性もありうる。これらが、6月以降のFOMCで利上げ見送りの判断材料になるのではないか。
FRB高官は、銀行破綻後も高インフレ抑制が最大の課題との見解を繰り返している。だが12日に発表された3月CPI(消費者物価指数)は事前予想どおりに落ち着き、インフレ警戒を強めるような数字とはならなかった。
現在の債券市場は、はやばやと「夏場からの早期利下げ」を織り込む展開にある。このハードルは高く、利下げの可能性は低いとしても、FRBによる「先を見据えた」政策姿勢の変化で、利上げ見送りは柔軟に判断されそうだ。
当面のアメリカ株式市場は、企業決算発表や銀行問題への懸念が残るため、依然として方向感が定まらないとみられる。だが今後想定されるFRBの政策姿勢の変化は、株価下落リスクを緩和する要因になるかもしれない。
●巨大IT企業で相次ぐ大量解雇、銀行破綻に動揺したシリコンバレー住民 4/16
アメリカの「テック・ジャイアンツ」といわれるグーグル、メタ(旧フェイスブック)、ツイッター、アマゾンなどで、昨年末から大規模な人員削減が次々と発表されています。そして、その影響は金融やコンサル業界にも波及しています。
定例会議に出て「なんだか、今日は人数が少ないなあ」と思っていたら、その場にいないチームメンバーは解雇されて、生き残ったのはその日の会議に出ていた従業員だけだった――。会議室に突然呼ばれて解雇を告げられ、映画によくあるシーンのように私物を詰めた段ボール箱を抱えて建物を出た――。カードキーが無効にされてオフィスにはもう入れなくなっており、荷物は送られてきた――。こういった話を耳にするようになりました。「去年の年末から職場の雰囲気が悪いんだよね」と話す人もいました。
コンピュータープログラマーの中には、「H-1B」ビザと呼ばれる、アメリカの特殊技能職のビザで働いている外国籍エンジニアたちも数多くいます。彼らが解雇の対象となった場合、60日以内に次の仕事を見つけなければいけません。家族連れの場合は、子供は学期の途中であっても、キリがいい学年末まで滞在させてくれるわけもなく、家族もろとも荷物をまとめてアメリカを去らなければなりません。
経費削減はホチキスにまで….
今年1月、1万2000人の人員削減方針を発表したグーグルではその後、経費削減を強化するあらゆる取り組みが報道されました。
ノートPCの交換頻度を削減したり、エンジニア以外の従業員はノートPCをMacBook ではなく、より低価格のChromeBookが標準となったり、古くなってもデバイスの交換頻度を一時停止したり。
また、1日3食がカフェテリアで無料提供されていましたが、そのカフェテリアも在宅で働く社員が多いことを理由に、月曜と金曜は閉鎖するかもしれない、と報道されました。
深刻度が伝わってくるのが「ホチキスとテープが社内で必要な場合、受付で借りる必要がある」という部分。グーグルといえば(他の巨大IT企業もそうですが)Wi-Fi完備のシャトルバス、ジムやヨガレッスンは当たり前、洗濯代行サービス、マッサージ、非常に高額な卵子凍結や体外受精、不妊治療までもが福利厚生の一つとして無料で社員に提供されていました。優秀な人材の引き抜き合戦を勝ち抜くために、これでもか、これでもか、というような手厚い福利厚生を導入していたグーグル。いよいよホチキスにまで言及されるようになったかと思うと、隔世の感があります。
自分が「インパクト」を受けたら、とにかく人に言ってまわる
筆者は実情はともかくとして、仕事柄、「いろいろな人を知っている」と思われているからでしょうか、突然「インパクト(影響)を受けた」(解雇された、と言うとストレートにネガティブな印象をもたれるので、多少聞こえのいい「影響を受けた」と表現する人が多い気がします)方たちから、「一度話をさせてください」と人づてに連絡をいただくことが増えました。
筆者と話しても彼らの時間の無駄になるのでは、と懸念しつつも、時間が許す限り、なるべくお話しさせていただくようにしています。自分がその立場だったら同じようにしていると思うからです。
ビジネス系SNS「リンクトイン」や事前に送って頂いた履歴書を拝見すると、それはそれは、うらやましいほどのキラキラした職歴の方々ばかり。エンジニア、マーケティングディレクター、プロジェクトマネージャー、UI/UXデザイナーなど、少し前であれば、引く手あまただったろう、と思う人たちばかりです。
他企業に移るとしても同時期にレイオフされた人たちと同じポジションを争うことになり、一つの求職案件に何人もが応募するので、必然的に競争率が上がり、再就職までには時間がかかります。
日本の場合、仕事を解雇されたら、恥ずかしくて他の人には内緒にして(ときには家族にも言えず)求人サイトやリクルーターを通してひっそり、せっせと職探しする場合もあるかと思いますが、アメリカでの就職活動では、「誰を知っているか」という人脈が一番の鍵。いざ仕事を失ったら、「とにかく周囲に言って回る、ネットワーキングにいそしむ」というのが近道となります。採用する側も、一応、公に募集をかけますが、まずは身近なところからの紹介で、人となりがある程度分かっている優秀な人材を採用したがります。企業の中には、従業員の紹介者が本採用となったら臨時ボーナスが出るシステムもあるくらいです。
そんな中で起こった「スタートアップ御用達の銀行」の破綻
バブルも、バブル崩壊も人生の中で何度か経験してきていますが、FDIC (連邦預金保険公社) がシリコンバレーバンク(SVB)の資産を差し押さえ、経営破綻が発表される激震が走った3月10日は、金融業界の人間でもなければ、シリコンバレーのテック業界のど真ん中に身を置く人間でもない筆者ですらも、さすがにざわざわした気持ちで過ごしました。シリコンバレーに住む多くの人がそうであったように思います。
破綻が他行にもどんどん連鎖するのではないかという不安。金融発の不況が本格化するのではないかという不安。経営者たちがいち早く預金を引き出し、取り付け騒ぎになったことで、SVBが職場のメインバンクの近所の人や友達のお給料が払われずに混乱が加速するのではないかという不安――。影響を受けているであろう知り合いや友達の顔が次々と浮かびました。
ちなみにアメリカでは、月1回ではなく2週間に1回、月に2回お給料が払われることが多く、3月10日がそのお給料日にあたる企業も多かったそうです。
そして2日後に破綻することになるシグネチャー銀行も、筆者の勤務先が口座を持っていたのと友達も働いていたので、連絡を取り合いました。不安がどんどん高まっていきました。
東日本大震災やアメリカ同時多発テロ事件の発生日がそうであるように、シリコンバレーの住民は「2023年3月10日、あの日、何してた?」という記憶が、後になっても鮮明に残る人が多い気がしています。
SVBは預金者の大半が法人で、90%以上が預金保護制度の上限の1口座当たり25万ドル(約3300万円)を超過していました。筆者は富裕層以外の一般の個人は口座は持てないのだろう、と思っていたくらい、「スタートアップ御用達の銀行」というイメージがありました。
日本のメガバンクから最近までシリコンバレーに駐在していた知人に聞くと、彼らの中でSVBは、「シリコンバレーといういわゆる『投資』が中心と言えるエコシステムの中で、預金と貸し出しがメインとなる“銀行“というビジネスモデルを大成功させている巨大な存在」というイメージだったそうです。
「世界中の英知と企業とお金が集まってくるイノベーションの中心地で、エコシステムの中のプレーヤーとして活躍することを目指さなければ、シリコンバレーに来た意味がない。自分の銀行の付加価値をどのように高めていくか、大成功している(ように見えた)SVBに一太刀浴びせたい」という理想を掲げていましたが、現実は「(SVBのような)銀行、投資家(VC)、起業家が密接なインナーサークルを構築してマネーを循環させていることで成り立つビジネスモデルであり、よく言われる『シリコンバレーの敷居の高さ』と同様、新参者が入り込む余地のない世界に見えた」と言っていたのが印象的でした。現実は「アリがゾウに立ち向かうようなレベルだった」と。
相当な数のベンチャーキャピタルがSVBに口座を持っていたので、必然的にスタートアップの方も資金調達の際はSVBに口座を開設して融資を受ける、というシステムができあがっていました。シリコンバレーの数多くのベンチャーキャピタルとスタートアップにとってはSVBはインフラそのもの。他が入り込めないような独占的なポジションでした。
金曜日の混乱を抑えるべく、日曜日にはアメリカ政府も全力でサポートする姿勢を即効で見せました。大統領が預金全額を保護すると発表しなければ、いったいいくつのスタートアップやベンチャーキャピタルが潰れ、どれだけの家族が路頭に迷っていただろう、と思います。
SVBとファーストリパブリック・バンクの手厚い顧客サポート
筆者の非常に個人的な体験に基づいてではありますが、破綻したシグネチャー銀行も、破綻は免れたものの経営不安が高まったファーストリパブリック・バンクも顧客サービスが手厚いという印象がありました。
新型コロナウイルス影響を受けて、アメリカ政府は雇用継続と再雇用の促進を目的とした給与保護プログラム(Paycheck Protection Program)を経済対策として打ち出されました。銀行経由で申し込みが開始されたのですが、申し込みが殺到し、すぐに予算を使い果たした結果、受け付け停止となってしまいました。
メインバンクも含めてどこも、筆者が勤める小さな非営利団体には対応してくれず(請求する金額によって銀行に手数料が入ります)、筆者の当時の上司やマネジメント部門の人たちも含めて誰も助けてくれず、一人で銀行に電話をかけまくってもらちがあかず途方に暮れていたときに、「ミホ、第2期で枠が少しあるから申し込む?」と唯一助けてくれたのがシグネチャー銀行の担当者でした。
知り合いの日本のスタートアップ企業も、アメリカの大手銀行では申し込みが複雑であったり、口座開設が不可能だったけれどもシグネチャー銀行ではストレスなしでさくっと口座開設ができ、担当者が丁寧にフォローしてくれたり、他にない顧客体験だったと言っていました。
リーマンショックの後、アメリカでは「これだから大きい金融機関はダメだよね。やっぱり中小銀行だよね」といった風潮だったのが、今回のことでお金の流れも人々の印象も真逆の反応になってしまいました。
シグネチャー銀行はその後、フラッグスター銀行に買収されましたが、現場の素晴らしいサービスがなんらかの形で継続されればと希望しています。
SVBやシグネチャー銀行の破綻から1カ月となり、預金も全額保護されることからひとまず落ち着きを取り戻した感があります。テック・ジャイアンツにしても、大量採用しすぎていたのでは、という報道も多々あります。
こんなときだからこそ、イノベーション聖地と言われる底力で、またみんながわっと驚く「世界を変える」が新しい価値が生まれたら、と思わずにはいられないのです。 

 

●2024年の金融大暴落「グレートリセット」が全世界に10倍のリーマン・ショック 4/17
「2024年末から史上最大規模の新たな金融危機が始まる」と警鐘を鳴らすのは、為替トレーダーとして30年以上、世界経済を見続けている岩永憲治氏だ。NYダウの大暴落が「すでに決まっている」と断言する理由とは。著書『金融暴落! グレートリセットに備えよ』から一部を抜粋、再構成してお届けする。
リーマン・ショックで終焉とはならなかった米国経済
2024年の秋以降、100年に一度の史上最大にして最後の、米国発バブル崩壊が訪れる。世界はリーマン・ショック時の10倍ものショックに襲われることだろう。
なぜ、2024年に発生するであろう米国発のバブル崩壊が2008年のリーマン・ショック時の10倍のショックを世界にもたらすのか?
答えから先に示すと、NYダウがピークから10分の1程度まで下がる可能性があると考えるからだ。株価が10分の1になるのに、10倍のショックが来ない、あるいは軽微で済むと考えるほうがおかしい。
ただし、仮にそうなる場合にはある程度事前に予測ができるはずだ。今後発生するかもしれないそうしたリスクの回避方法を紹介するのが、本書の目的でもある。
相場展開は様々なパターンがありうるが、パターンごとに対処方法は異なる。本書では最もインパクトが強く、最もリスクが高いシナリオを想定している。
これから2024年第3四半期近辺に合わせて、NYダウは4万ドル近辺まで上昇、臨界点でトップアウト。そこからは全世界的に100年に一度の怒濤のグレートリセット(社会や経済のシステムの大幅な 見通し・刷新)が始まる。金融界のみならず世界経済の常識が変わるだろう。
その後のNYダウのボトム(底)はバラク・オバマ政権時代のリーマン・ショック後に付けた6500ドルでは止まらず、そこを突き抜けてさらに下がっていくだろう。
次ページの「NYダウの経緯(月足)」を見ていただきたい(図表1-1)。白抜き、黒抜きの一つ一つの細長いラインは、ある期間の値動きのうち4つの価格(始値、高値、安値、終値)を1本の「足」として描いたものだ。その形状がろうそくに似ていることから、ろうそく足と命名されている。
ちなみに、このろうそく足を並べたチャートから相場の流れを分析する方法は日本の江戸時代、堂島の米取引に由来するとも言われている。90年代前半あたりまでは海外のチャート分析では3本足(高値、安値、終値)が主流だったが、いまやろうそく足の知名度は抜群だ。
株式チャートが示す「暴落のサイン」とは
終値が始値より高い、つまり上昇力の強い相場展開を表したものは白い「陽線」、逆に終値が始値より低い、つまり下向きの圧力がかかっているものは黒い「陰線」となる。白・黒の分は「実体(胴体)」と呼ばれ、「実体」部分以外の実体から高値までの細い線は「上ひげ」、安値までの細い線は「下ひげ」と呼ばれる。
   図表1-1 NYダウの経緯(月足)
図表は月足の動きを示したものだが、左上に2016年の2月から示現した「六陽連(月足で6カ月連続高)」の拡大図を入れた。この「六陽連」こそが上昇の相場の合図であり、この時は1万5000ドル台から上伸する合図であった。
少々細かい解説になるが、ろうそく足のなかには「実体」がほとんどなく「上ひげ」とよりひき「下ひげ」だけからなる「寄引同時線」がある。2016年2月は「寄引同時線」のなかでも「トンボ」の名称を持つ独特のろうそく足となっている。
これは月初から価格がどんどん下がっていったものの終わってみれば始値の水準まで終値が戻ってくるという、行って来いで相場が戻ってきた展開を示す。「トンボ」の場合は買い方が優勢、底値圏で出てくると底打ちを示唆するとされ、陽線と同等にカウントできる。
大きなトレンドでは、ここからバブルがスタートし、2022年1月に3万6900ドル台まで上昇後、同年10月に2万8600ドル台まで下落。そこから先は4万ドルを目指して上がっていく可能性があるが、結局はグレートリセットにより、リーマン・ショック後の底値6500ドルでは止まらず、最大 年から 年をかけてもう一段下の4000ドルあたりまで下がっていくというのが私のシナリオである。
よく日本の株式関係者はバブルが崩壊すると「株価は半値八掛け二割引」になると語るが、それよりも強烈な下落が待っているわけである。
NYダウは実はすでに「終わっていた」
なぜNYダウは、そこまで落ちなければいけないのか?
それは、2008年9月のリーマン・ショック発生のときに米国経済もEU経済圏もすでに破綻していたからである。本来であれば、現状のような経済構造を持つ資本主義下での 「最後のバブル」はそこで終了だったのにもかかわらず、各国政策当局は、淘汰されるべきゾンビ企業〞などを残したままマネーを投入することで延命を図ってきた。
FRB(米連邦準備制度理事会)は金融緩和と量的緩和とを駆使し、何とか、ごまかしごまかししつつ経済活動を持ちこたえさせてきた。ごまかしとおせると思っているところで、今度はコロナ禍に見舞われ、さらに米国政府はコロナ対策として国民に対して総額8500億ドル超(1ドル130円換算で110兆円規模)もの現金支給を実施した。
過剰な資金供給を背景に米国経済は活性化したかのように見える。それが本当なのかどうかを今回、マーケットが確認〞しにいくということだ。
●JPモルガン 金融不安前の株価を回復 シティなども好決算 景気には懸念 4/17
3月に金融不安が拡大した米国で大手銀行の経営状態の安定性が示された。米大手銀行のJPモルガン・チェースが14日に発表した2023年1-3月期決算は総収入、1株当たり利益ともに市場予想を大きく上回る好決算。JPモルガンの株価は前日比7.6%高となり、不安拡大前の水準を回復した。好調な業績は米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを進める中で、金利収益が大きく伸びたことが要因だ。同じ大手銀行のシティグループとウェルズ・ファーゴもそれぞれ好決算を発表している。ただし米国経済の今後の先行きは金融システムへの不安で不透明さを増しており、経営陣からは景気後退の可能性を懸念する声も出ている。
JPモルガン決算、市場予想を大きく上回る
JPモルガンの決算は総収入が前年同期比24.5%増の393億ドル、1株当たり利益は55.9%増の4.10ドルだった。金融情報会社リフィニティブによると、総収入は直前の市場予想を8.7%上回り、1株当たり利益も予想を20.9%上回った。JPモルガンの14日の株価(チャート)は前日終値から10ドル近く高い138.73ドルで取引を終え、金融不安拡大の3月7日の水準を回復した。
好決算の原動力となったのは金利収益だ。1-3月期の金利収益は前年同期の約1.5倍にあたる207億ドル。FRBの利上げが市場金利の上昇につながったことで、融資の際の金利を高く設定することができたうえ、預金に支払う利息などのコストは大きく上がらなかったことなどが理由だ。一方、投資銀行事業における手数料収入は債券引受業務が減ったことなどから減少。住宅ローン業務の手数料収入も減った。
また14日にはシティグループとウェルズ・ファーゴも2023年1-3月期決算を発表した。いずれも増収増益の好決算で、シティグループの株価(チャート)は4.8%値上がりした。ウェルズ・ファーゴの株価(チャート)は0.05%値下がりした。
ダイモンCEO、「嵐の予兆」は消えていない
米国では3月10日にシリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻した。市場金利の上昇で保有する債券の価値が下がったことで巨額の損失が発生し、経営が不安視され、預金の引き出しが殺到したことが原因だった。その後、シグネチャーバンクも経営破綻したことから、金融システム全体への不安が高まり、JPモルガンなどの大手銀行も含めて金融業界全体の株価が下落する事態となっていた。今回の決算は大手銀行の経営への不安を払拭する内容だったといえる。
ただし金融不安をきっかけに米国経済の先行き不透明感は強まった。FRBは物価上昇を抑え込むための利上げを進めながら、景気後退リスクも注視せざるを得ない状況だ。また、3月下旬には銀行融資の残高が減少するなど、金融機関が個人や企業への貸し出しに慎重になっている様子もうかがえる。今後、経済活動が落ち込んでいけば、資金需要が減るなどして、銀行の業績に逆風となる可能性もある。
JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは決算発表に際してのコメントで「嵐の予兆」は消えていないと指摘。金融システムは全体として健全であることに触れつつ、「貸し手がより慎重になる中で、貸し出しをめぐる状況は絞り込まれていくだろう。このことが消費に与える影響は見通せない」と言及し、景気の先行きに警戒感を示した。シティグループのジェーン・フレイザーCEOも決算説明会で「米国は今年中に緩やかな景気後退に入る可能性が高くなった」と話している。
●米国の銀行破綻はまだ続く その理由と日本への影響 4/17
3月に米シリコンバレーバンク(SVB)が破綻しました。米国政府の救済策により、金融危機はいったん落ち着いたようにも見えますが、このまま収束するとは思えません。むしろこれからゆっくりと時間をかけて、影響は広がっていくとみています。
今回の銀行破綻は何の前触れもなく唐突に起きたものではなく、米国の銀行株指数は2021年9月から下げ始めていました。21年11月に米連邦準備理事会(FRB)が「インフレは一時的ではない」という見解を初めて示し、今後はインフレ退治のための利上げが行われること、それにより銀行が保有する債券の含み損が大きくなることを市場は織り込み始めました。
利上げは銀行にとって別の問題も生みました。1年物国債の金利が5%、2年物国債でも4%なら、預金金利が0.25%程度の銀行に資金が集まる理由はありません。さらにSVB固有の事情ですが、顧客の多くを占めるテックベンチャーの資金調達環境が悪化すると、彼らの資金繰りのために預金が流出するのです。いずれも利上げに起因した、含み損と預金流出という2つの問題が重なったのが、SVB破綻のメカニズムです。
金融システムが「不公平」に
米国政府は破綻が金融システム全体に波及するのを防ぐため、SVBの預金を全額保護すると発表しました。しかしこの救済措置は、むしろ米国の金融システムにゆがみを残してしまったと思います。
米国の預金保険制度は本来、1口座当たり25万ドルを超えた分を保護しません。今回はそれを曲げて預金全額を保護したわけですが、米連邦預金保険公社(FDIC)の資金は米国の預金総額の1%未満。仮に今後も銀行の破綻が相次げば、その全てを保護する力はないのです。イエレン米財務長官も、全ての預金を保護するわけではないという趣旨の発言を行っています。
米国には小規模な地方銀行が多く、金利の高止まりが続く限り、含み損や預金流出というストレスを抱えた銀行は増えます。破綻予備軍は他にもあると思うべきで、今後何カ月もかけて表面化してくる可能性があるのです。
リーマン・ショックの時も、いくつもの銀行がルールを曲げて救済されたのに、米リーマン・ブラザーズは救われないという「不公平」がありました。その過程で、銀行救済への世論の不満が高まったことも背景にあります。今回も、後から破綻した銀行ほど救われない不公平が生じる可能性があり、それは信用力の低い銀行で取り付け騒ぎを誘発し得ます。既に「一番安全な銀行は、政府が全額保証を約束したSVB」という皮肉な状況が発生したのですから。
SVBの破綻は、FRBの金融政策も変えてしまいました。銀行に対して流動性を供給する目的で資産購入を増やしたため、FRBのバランスシート(BS)が久々に拡大したのです。パウエル議長は、この措置は量的緩和(QE)とは違う一時的なものと説明していますが、BSが拡大した以上は量的緩和と同じ効果があります。
3月下旬には再びBSが小幅に縮小する場面もあり、今後はまだ不透明ですが、FRBが金融引き締めを行いにくくなったことは間違いありません。「FRBはインフレ退治を諦めて金融システムの安定を選んだ」状況です。
金融政策が緩和的になるなら、株式市場にも追い風に見えますが、やがて再度のインフレの暴走というシナリオが訪れる可能性は高まりました。為替市場では円高・ドル安圧力が生じるでしょう。
米国株指数は一見すると上昇局面ですが、実はAI(人工知能)ブームで沸く米エヌビディア(NVIDIA)など一部の銘柄が指数を押し上げている状態。株式市場全体への楽観論はありません。歴史的にも、FRBが金融緩和に転じた直後は、まだ株価が下げ続ける例の方が多いのです。
日本への危機の波及はあるか
米国では銀行危機の火種が残る状況ですが、日本に波及する可能性はあるでしょうか。私はそれほど心配はいらないと思います。
そもそも一般論としては、金利が上昇すれば貸し出しの利ザヤが拡大するため、銀行の経営にはプラスなのです。米国でそれがマイナスに働いてしまった理由は、利上げが急過ぎたことに尽きます。
1年で5%近い金利上昇スピードでは、それを早期に融資金利に反映させるのは不可能。結果として預金金利を上げられず、預金流出リスクも高まりました。日銀が仮に利上げに向かうとしても、米国のような急激な利上げになるとは思えません。
もちろん、金利上昇で債券の含み損が生じるのは日本の銀行も同じです。とはいえ、預金流出さえ起きなければ、含み損がある債券でも満期まで持つことができます。
気軽に債券に資金を移す米国の預金者と異なり、日本人はそう簡単に預金を引き出しません。というよりも、預金をやめるメリットにまだ気付いていない。そう考えた方がいいかもしれません。
日本でも、破綻時の預金保護には1000万円と利息までという上限があります。ならば、証券口座に入れて公社債投資信託でも買った方が、預金より安全だと言うこともできるのです。すぐに日本人がそんな発想で動くことは考えにくいですが、遠い将来まで今の状況が続くかは分かりません。
足元では銀行危機の影響で日本の長期金利が低下し、日銀の金融政策見直しの必要性がいったん薄れていることもあり、銀行危機の日本への波及リスクは限定的と考えていいと思います。 
●イエレン財務長官「追加利上げ不要」発言が波紋…米国で貸し渋り加速 4/17
「リーマン級危機」の前夜なのか──。イエレン米財務長官が「追加利上げ不要」と発言し、波紋が広がっている。16日放映のCNNとのインタビューで、最近の米銀破綻を受けて、金融機関が融資を一段と引き締める可能性を指摘。金融機関の融資引き締めが「FRB(米連邦準備制度理事会)が行う必要がある追加利上げの代わりになる可能性がある」と語ったのだ。
FRB議長も務めたイエレン財務長官の発言は重たい。金融ジャーナリストの森岡英樹氏が言う。
「驚きの発言です。追加利上げの代わりになるほど、金融機関の“貸し渋り”が横行するとの見通しがあると認めたに等しい。米国ではシリコンバレー銀行の破綻をきっかけに、中小銀行への信用不安が急速に広がりました。銀行は信用不安を払拭するために健全経営を示す必要に迫られ、すでに貸し出し態度を厳格化させている。その結果、リスクの高い顧客に対する貸し渋りや貸しはがしが急増しています。銀行としては生き残るための自己防衛と言えます」
疑心暗鬼の悪循環
FRBの週次統計によると、米中小銀行の融資残高は急速に減少している。今のところ、貸し渋りは市況の悪化が激しい商業用不動産向けが中心だが、今後は、ベンチャー企業やクレジットカード向けにも広がるとみられている。
「金融は経済の血液ともいわれている。血液が足りなければ、経済は回らなくなります。銀行の貸し渋りにより、企業の資金繰り悪化は避けられず、倒産件数も増える。融資先が倒産すれば、銀行の経営も悪化し、かえって、銀行への信用不安は拡大する。すると、さらに貸し出し態度を硬化させるという“悪循環”に陥ってしまいます」(森岡英樹氏)
ニッチもサッチもいかなくなれば、悪循環から抜け出すのは容易でない。
「信用不安の場合、必要以上に疑心暗鬼に陥るケースも少なくない。米国の景気後退が長期化する可能性があり、世界経済は壊滅的な影響を受ける恐れがあります」(森岡英樹氏)
米国のサブプライムローン問題を契機に起きた「リーマン・ショック」により、日本経済はボロボロになった。警戒が必要だ。
●アメリカ経済のほころび…「夏には景気後退が明らかになる」 4/17
イギリスのシンクタンク、パンテオン・マクロエコノミクスの創業者でチーフエコノミストのイアン・シェファードソン氏によれば、アメリカ経済はすでに破綻し始めており、今年の夏にも景気後退が始まるだろうという。
先月の雇用者数の増加はエコノミストたちの予想をわずかに上回ったとはいえ、まもなく非農業部門雇用者数の報告はそれほど目を引くものではなくなり、2、3カ月のうちには大きく落ち込むだろうとシェファードソン氏は予測している。
2023年4月10日、顧客へ送ったメモの中で彼はこう述べている。
「23.6万人の増加という3月の雇用者数報告は、銀行危機以前の世界の残像で、まるで遠い昔のニュースのように思えます。あの頃はまだ、全国的な異例の暖冬が雇用の増加を下支えしており、連邦準備制度理事会(FRB)による合わせて4.75%におよぶ金利引き上げの影響が認識される前のことでした」
彼は2005年の時点で、住宅部門の破綻を皮切りにアメリカがいずれ不景気に突入することを予測していた。
「現状は向こう数カ月のうちに変化していくはずで、早ければ今月中にも変わり始める可能性があります。我々の現在の仮予測では、4月の雇用者増加数は15万人、5月に関しては5万人程度です」
さらに彼は続ける。
「今年の夏には雇用者数の減少が起こり、その結果、失業率が押し上げられるだろうと我々は予想しています」
シェファードソンは全米独立企業連盟(NFIB)の雇用意向調査を、労働市場の動向を占う主要な指標として挙げた。また、貸し渋りの原因となっている銀行システムの動揺によって、こうした雇用状況の悪化が加速しかねないとも述べている。

 

●「2024年末から史上最大規模の新たな金融危機が始まる」 4/18
インフレを引き起こした真犯人は誰だ?
――2020年からこれまでに起きた出来事を振り返ってみると、新型コロナの流行、ウクライナ戦争、歴史的なドル高円安、物価高などが挙げられます。このような流れのなか、米国は約40年ぶりの激しいインフレに見舞われました。ロシアのウクライナ侵攻など予測不可能な事象がインフレの犯人と捉えてよろしいのでしょうか?
岩永憲治(以下同)それまで米国経済は基本的には4〜4.5%の成長率を維持してきました。ところが、世界的にコロナパンデミックが流行し始めた2020年2月末から3月にかけて、米国株が大暴落した。
するとバイデン政権は国民が被った経済的な打撃を緩和するとして、国民に禁じ手≠ナあるマネーのばら撒きを行いました。総額で8500億ドル超(1ドル130円換算で110兆円規模)もの現金支給に踏み切った。しかも3度にわたって。
アメリカ経済は本来、そこまでしなくてもよいポテンシャルを十分持っていたのですが、おそらくアワを食ったのでしょう。では、それで何が起きたのか。
消費者物価指数、耐久財(自動車、家具、大型電化製品等)受注額など景気の良し悪しを判断するための経済指標が、ばら撒きを行うたびに、おのおの前年比30%も跳ね上がったのです。知ってのとおり、もともと米国人は、日本人とは真逆のキャラで、貯蓄の概念に乏しいと言われます。大仰でなく、政府からコロナ給付金をもらったら、その倍から10倍くらいを消費に回してしまう国民性なんです。
なおかつコロナ禍の最中ということで、工場が生産停止に追い込まれ、モノの供給がストップしていました。モノがないなかでマネーをばら撒いたら、当然ながら、モノを買おうとする猛烈なパワーが働いて、モノの値段は上がります。ただでさえ、コロナ禍で大好きな買い物を我慢していた米国民が現金支給を契機に爆買いに走ったことで、物価が一気に上昇していったのでした。
よくメディアはウクライナとロシアの紛争が米国の物価高を招いたのだともっともらしい説明をするのですが、実際はまったく違いました。ウクライナ紛争が起きたときには、すでに米国はインフレになっていたのですから。その証拠は当時の耐久財のチャートを見れば一目瞭然。つまり、インフレの真因はバイデン政権のばら撒き施策にあるのです。
「1929年世界大恐慌」直前の状況と酷似
――岩永さんは著書の中で、2025年に米国発の金融暴落を経て、“グレートリセット”が起きると予測しています。この推移について、過去に似通った例はありますか?
1929年から1932年にかけて起きたNY発の「世界大恐慌」です。おそらく、これに則した状況になるはずです。というのも1929年の世界大恐慌が発生する手前のNYダウのチャートと、2023年のNYダウのチャートが瓜二つなのです。
当時と今の状況とを比べて、当時はモノがない時代だったし、経済規模も桁違いなどとさまざまな差異はあるけれど、今回も金融恐慌→金融収縮→大恐慌に発展していくだろうと見ています。
どんなに時代が変わろうと、人間の欲望、熱望、渇望、スペキュレーションには限りがないのです。そしてマーケットにはもれなく”臨界点”が存在しているのです。
1980年から米国は40年間も利下げを続けてきました。その間、小さなデコボコがあったにせよ、基本的にNYダウは上昇し続けてきました。オバマ政権時にはいったんリーマン・ショックによりNYダウは6500ドルまで下落を見たものの、現在は3万3000ドルと、リーマン・ショック時のボトムから5倍に膨らんでいるのです。
1929年の世界大恐慌時はどうだったでしょうか。NYダウは40ドル台からスタートして1928年から急上昇をし始め、381ドルまで上がりました。
日本で暮らしていると、今のアメリカ経済がバブルなのかどうかはよくわからないかと思いますが、例えば今年に入ってから暗号資産交換業大手のFTXが破綻したり、ビットコインの価格が暴落したことなどは、世界規模でバブルが起きていて、その崩壊が近づいていることを教唆してくれています。
ただし、それでも米国のNYダウは下落せずにじりじりと上昇している。先にふれたように、私には今のNYダウの状況が1929年の状況に重なっているように見えるのです。2023年の我々の立ち位置は、世界大恐慌が発生する1年前の1928年の状況に酷似しているように思えてなりません。
世界中のCEOの70%が景気後退場面を懸念
――ということは、米国は今、バブルの真っ只中にいるわけですね。 2023年3月に起きたシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行の経営破綻、クレディスイスの実質破綻処理などの危機が騒がれた状況は、どのように考えれば良いのでしょうか? 
シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が経営破綻、クレディスイスが実質破綻し、UBSに買収される状況になっても、NYダウはまったく落ちる気配を見せません。
ここが肝要なところですが、大恐慌発生前の1920年代に米国で何が起きていたかというと、フロリダで不動産バブルが起きておおいに盛り上がった末に弾けたのです。当時は群がった投資家に融資した銀行が100行ほど潰れました。
ところが今と同じで、当時のNYダウはまったく下げなかったのです。それを見た米国の投資家たちは、いったんフロリダ不動産からマネーを引き揚げ、手っ取り早く儲けられるNYダウへの投資にさっさと方向転換≠オたのです。
昨今のFTXや仮想通貨の破綻、ビットコインの暴落、銀行の破綻などは、まるで当時との重ね絵を見るようです。これが何を示しているのか。マーケットからの警鐘に他なりません。
バイデン政権のマネーのばら撒きは、あらゆる消費財価格を急騰させてしまった。これを抑えるのに、FRBは金利を上げざるを得なくなりました。金利が急騰するにつれ、各金融機関が保有する債券の価格は逆に暴落の憂き目を見たのです。
2022年10月の段階で、米国債の発行高は31兆ドル(約4000兆円超)にも及びました。先般成立した2023年度の日本の国家予算が約114兆円ですから、ざっとその40倍です。その4000兆円のうちの数百兆円の米国債はその時点で、含み損を出していた。そうした状況下、経営破綻に至る銀行が出てきましたが、これは氷山の一角に過ぎません。
これまでFRBは40年間にわたって金利を下げてきて、景気を良くして、米国株は基本的に上がり続けてきました。ところが、FRBはバイデン政権の失政≠ゥら、40年間下げ続けてきた政策金利を上げ始めた。
すると長年FRBが行ってきた金融緩和政策のために市場が緩和中毒≠ノなってしまい、その症状が経済の歪みとなってどんどん目立ってきました。だから、世界中のCEOの70 〜80%がリセッション、すなわち景気後退場面が訪れると表明しているのです。実際、ブルームバーグもロイターもウォールストリート・ジャーナルもリセッション入りを予測しています。
実体経済が強いにも関わらず、マーケットが弱気という不思議
――2022年10月にNYダウは2万8000ドルに下落しましたが、その後盛り返して3万3000ドル台に復帰しています。実際に現在の米国の景気はよいのでしょうか。それとも米国の経済メディアが示すように、リセッションの手前にあるのでしょうか?
岩永憲治(以下同) 現在のアメリカは物価の上昇が止まらない。だから金利を上げなくてはいけない。しかし、金利が上がれば株価が暴落する。この3つを一度に解決できるのが戦時経済の到来なのですが、2022年には、おあつらえ向きにロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。
それ以前には、2020年から始まったコロナ禍の下、米国の医療業界は笑いが止まらぬほど潤いました。米国経済は大づかみに言うと2つの柱で成り立っています。1つは医療業界、もう1つは軍産複合体です。この2つを潤して、経済全体を持ち上げるのが米国の常套手段なのですが、2020年から始まったコロナ禍で米国の医療業界は笑いが止まらぬほど潤いました。
そして金利が上がり、物価も上がり、米国経済がリセッション(景気後退)の入り口に立たされたと経済メディアが騒ぎ出した段階で、タイムリーにウクライナを巡る戦端が開かれた。
戦時経済が米国に有利≠ノ働くのは、議会で予算がすんなりと通ることです。案の定、次々と新たな軍事予算案が通っています。ドルの輪転機が猛烈に回っているのに対して、マーケットのセンチメント(感情)はいたって弱気です。
しかし、現実にはヘッジファンドがいくら売りに回っても、裾野がきわめて広い軍産複合体関連が潤ってきていることから、実体経済は強いわけです。米国のGDPの底堅さがそれを表しています。
さらにそうした状況を補強する格好になったのが、S&Pが発表した3月のPMI(米総合購買担当者景気指数)でした。これは購買者から見た米国の景気を表す指数のことで、速報値で53.3と10ヵ月ぶりの高水準となりました。米国の実体経済が強いにも関わらず、マーケットが弱気。これが現状です。グローバル・マクロ・ファンドはドル、日本株、米国株を売りまくっています。
ところで、2023年の第2四半期が始まりました。懐疑的な相場の動きを、私はこう予測しています。これまでと同様に、NYダウは2万8000ドルから3万4000ドルまでスクイーズされる。つまり買い戻されるでしょう。3万ドル、3万1000ドルまで売りまくった連中は、3万3000ドル、3万4000ドルで買わされるということです。
第2四半期において、NYダウはじわりと上昇していくはずです。ただし、本格的に伸び始めるのは第3四半期だと、私は踏んでいます。理由を少しだけ明かしましょうか。キーワードは、3月21日の岸田文雄首相のウクライナ電撃訪問です。これはウクライナとロシアの手打ちがすでになされている可能性が限りなく高いことを示しています。
破綻した金融機関には共通項があった
――2023年にはグレートリセットの前ぶれのような事象が起きてくると予測されていますが、実際にそれはどんなことからスタートするのでしょうか?
今回のシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行の経営破綻がその前ぶれと考えていいと思います。2008年9月に起きたリーマン・ショックのときも、その前年にベアスターンズ証券などが破綻しており、そのパターンを踏襲しているように見えます。
加えて、クレディスイスが実質破綻し、UBSに買収されることになりました。ただ、クレディスイスはもともとリーマンブラザースの元社員の多くが転出、マフィアのマネーロンダリングの幇助などで金融当局からペナルティを食らっていたほどの体たらくで、株価は2ユーロほど。つまり、いつ潰れてもおかしくはなかったのです。
ちなみにFTX、仮想通貨、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行の破綻には、ある共通項が存在していました。それは、そのすべてが中国資本と密接に絡んでいたのです。つまり米国はそれを許さなかったということです。
クレディスイスのバックボーンは中東各国の中央銀行であり、中東のオイルマネーです。もうピンとこられた人もいるでしょうが、中東のオイルマネーは、大株主としてクレディスイスに莫大なマネーを入れていて、それが吹っ飛んでしまった。手持ち債券を無価値にされ、株価は暴落、UBSに半値で買収されたのですから、中東各国の中央銀行は大損を被ったわけです。
これに繋がるのが今年1月に開催されたダボス会議です。1973年の石油危機以降、中東の石油の取引はドルのみで行うペトロダラー制でした。同会議の席で中国側は「人民元を石油取引の基軸通貨にしたい」と発言しました。これに対して中東側の代表、サウジアラビアの財務相は「ペトロダラーだけではない」と返したのです。要は、中東はペトロダラー制を放棄して、人民元を石油取引の基軸通貨にすることに前向きであると示唆したのです。
この一件が、米国が中国資本と繋がる銀行、組織を破綻させ、クレディスイスを窮地に追いやり、中国と中東各国の資本を大きく棄損させた真因だと私は見ています。
米国が仕組んだ世界金融ガラガラポンの中身
――歴史を振り返ると、膨れ上がったバブル経済は必ず崩壊してきました。今後、どのような形でバブル崩壊、グレートリセットへと展開していくのでしょうか?
岩永憲治(以下同)米国が見据えているのは、2024年11月に行われる大統領選挙です。その前までに米国がすべきことは、経済の中心である銀行の膿を出すこと、加えて、ゼロ金利あるいは超低金利の環境でしか生き残れないゾンビ企業潰しでしょう。それらを行ってから、「さあ、米国株を買ってください」と世界に呼びかける。今はそのお膳立てを整えている真っ最中といえます。
3月22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)においてFRBは0.25%の政策金利引き上げを決めました。それでも依然としてマーケットやメディアの読みと実体経済には乖離が見られます。おそらくマーケットやメディアが米国経済の強さに気付くのは2024年になってからでしょう。
なぜならば、FRBがこれだけ政策金利を上げても、株が落ちずに上がっていくというシナリオを現状では誰も描けていないからです。株の推奨セクターは軍需産業。その理由は前述したように、戦時経済体制に入っていることで、議会で予算が通りやすくなっているからです。
――米国の物価高、インフレ状態はどこまで進むと予測されていますか?
今はインフレを抑えるためにFRBは政策金利を上げています。FRBがインフレに対する判断を何に求めているかというと、それは原油価格です。原油価格はいったん120ドルでピークを打ち、現在は70ドル台まで下がってきています。ピークから50ドルも下げたところで落ち着いていることから、おいおいインフレは収まっていくでしょう。
結局、米国政権がこれ以上国民にマネーをばら撒かず、金利を粛々と上げて、マーケットから資金を吸収していくならば、おのずとインフレは収束するはずです。ただし、インフレターゲット2%などと目標を掲げているとはいえ、そこまではなりません。
なぜなら、いまの米国は労働市場がかなり強いからです。先刻も示したとおり、軍産複合体を中心とした裾野の広い産業がドルの輪転機を回し続けているからで、世界中の軍需産業が活発化しています。
2024年に入れば、今度はマーケットやメディアは一転して強気一辺倒になって、「今回は違う。バブルではない。米国株式市場は盤石だ!」と大声を張り上げるでしょう。2024年の第3四半期、あるいは大統領選挙の直前まで、米国は史上最大のバブルをつくっていきます。
バブル崩壊後、何が起こるのか?
――だが、実際には米国経済は盤石ではないと。
そのとおりです。リーマン・ショックのときにすでに米国経済は実質的に終わっていたからです。それをFRBが誤魔化し誤魔化しして、ここまで来てしまった。
紙幅の関係で詳細は拙著に譲りますが、実は米国は逃げられないところまで輪転機を回していて、すでににっちもさっちもいかない状態に追い込まれているのです。ですから、どこかでガラガラポンをしなければ、米国経済は持ち堪えられないのです。そこで仕組まれたのが、最大にして最後の米国株バブルの生成と崩壊、そして自らが主導する国際金融の大再編と新通貨体制の立ち上げなのです。
米国株がバブルのピークを付けるのは、2024年11月の米国大統領選挙の前後となるでしょう。そこまでは最後のバブルを必死になってつくっていき、最後は自国通貨であるドルに価値を見出せなくなって梯子を外す。これしか、米国に残された道はありません。
そして、バブル崩壊を教えてくれているのがゴールド相場の動きです。2023年3月末時点で、安全資産としてのゴールド(NY先物)は1トロイオンス=2000ドルまで上昇しています。2000ドル超えはウクライナ危機勃発後の2022年4月以来約11カ月ぶりのことでした。
ゴールドのウイークポイントは金利が付かないことです。ですから、昨年来の利上げはゴールドには大変なアゲンストでしたが、ここにきて再び2000ドル超えを達成してきたのは、投資マネーがゴールドに逃避する姿勢を強めていることを如実に示しています。
――米国のバブルが崩壊した後、具体的には何が起こるのでしょうか?
2025年に始まるであろう米国のバブル崩壊により、とんでもない数の企業が潰れて、銀行も次々と倒れていくでしょう。米国のバブル崩壊に伴って進むのが金融大再編です。たとえば今回、クレディスイスがUBSに吸収されたのは、その前哨戦のようなものとご理解していただければよいでしょう。大手、中堅、地方でさまざまな形で潰し合い、合従連衡が昂進していくのです。
私の見立てでは、金融大再編により、FTX、暗号資産なども破綻の憂き目を免れないと思います。それをテコにして、FRBはデジタル通貨体制を立ち上げたいからです。ただ、FRB単独では難しいでしょう。FRBはずっと「暗号資産は危険だ」と警告を発し続けていました。中央銀行の信用力と経済規模というバックグランドがなければ、デジタル通貨の発行など絵に描いた餅に過ぎない。FRBとしてはそんな心持ちだったに違いありません。
そして、さらに大きな視点で金融大再編を論じるならば、世界の中央銀行がタッグを組んで、デジタル通貨を創設するのでしょう。おそらく今夏あたりにその構想が出来上がってきます。最速で進めば、今年10月に開催されるIMF年次総会で、国際通貨体制を「金本位制」に戻す話が取り沙汰されるかもしれません。
強い相場は懐疑のなかで育つ
――1929年に始まった大恐慌の際、米国では約1万の銀行が破綻したという記録が残っています。今回もそのくらいの被害が出る可能性はあるのでしょうか?
岩永憲治(以下同)あります。というのも、本来ならばオバマ政権下で起きたリーマン・ショックのときに潰さなければならなかった銀行が生き残っているからです。おそらく1000行程度はあるはずです。それをゾンビ銀行にしたまま、結局、FRBはマネーをばら撒き、利下げを行って、今日まで生きながらえさせてきた。
2025年の恐慌時には、NYダウはピークの4万ドル近辺から4000ドルまで暴落すると見ています。そのときに初めて、潰れるべき銀行が軒並み潰れる。クレディスイスにしたって、これまではあまりにも図体が大きすぎて潰せなかった。だからスイス中央銀行が慌てて処置を講じて、UBSに引き取らせたわけです。
各国の中央銀行は過剰な銀行数を淘汰し、再編したかったのですが、なかなかきっかけが掴めなかった。2025年から本格化する米国発の大恐慌はその絶好の機会であるとも言えます。
――米国経済の現状と、今年から来年に向けて経済指標はどのように変化していくと思われますか?
「強い相場は懐疑のなかで育つ」。これは著名投資家ジョン・テンプルトン卿(1912〜2008年)の言葉で、全文は「強気相場は悲観のなかで生まれ、懐疑のなかで育ち、楽観のなかで成熟し、陶酔のなかで消えていく」というものです。現状はリセッション(景気後退)がいつやってくるのか、そしてどの銀行が次に潰れるかもわからない。でも、NYダウは堅調で、じわじわと上昇中。まさしくいまの時点が「懐疑」の段階なのです。
それが今年の第3四半期にはNYダウはぐっと上昇速度を上げにかかってきます。24年を迎えると、高金利下でゾンビ企業が次々と潰れていくなか、FRBの狙い通り、重厚長大銘柄がほぼ全面高という状態を迎えます。残った銘柄についてはどれを買っても上がるようになっているはずです。そのときには米国株が落ちるなどとは誰も考えない環境になっており、マーケットは「今回だけは違う。今回はバブルではない」と大声で主張するのでしょう。
ただし、NYダウのバブルが破裂する目安は3万5000ドル以上、S&P500は4500以上、一蓮托生となる日経平均は3万円以上。これを超えたら、いわゆる“毒饅頭ゾーン”なのですが、皆、たらふく食べてしまうのが”相場”の恐ろしいところでしょう。
バブル後は最悪、相場が10分の1に
2023年の後半から24年11月の大統領選挙に向けての時期、米国株式市場は世界中を巻き込んでの史上最大のバブルをつくり上げることになります。これから強烈なバブルの波に乗る米国株に対する投資チャンスの掴み方、さらに逃げのタイミングについては、拙著(『金融暴落! グレートリセットに備えよ』)第5章に詳細に記してあるので、是非、お読みいただきたい。
ただし、2025年のどこかの時点で米国株式市場は確実にクラッシュします。天文学的負債を抱え込み、自国通貨ドルに価値を見出せなくなった米国のガラガラポンが始まるのです。クラッシュするときには、もう何もかもが衝撃的な速度で下がります。最悪、ピーク時から10分の1まで暴落すると私は見ています。
――岸田政権は2024年から新NISA制度をスタートさせ、ますます貯蓄から投資への動きを促そうとしています。グレートリセットが起こるとしたら、個人投資家はどのような対策を講じるべきでしょうか?
多くの個人投資家が投資信託で資産運用を行っているようですが、私自身はあまり勧めたくはないですね。なぜなら、投信は「お金に働いてもらう」という安易な考え方に立脚しているからです。
投資信託の考え方は、高いところも買ったけれど、下落して安いところも買えば、平均したらそこそこ、また高くなっていけば、いいところで売れるよね、というものです。このようにお金に働いてもらうとする考え方が日本国内で浸透してきているから、いまは投資信託に莫大なお金が投入されています。
ですから、そういう考え方の人たちは2024年の最後のバブルのときに、持ち株を全部売るか、アセット・アロケーション(資産配分)で少なくとも3分の1はゴールドに換えるとか、そういうアクションに出ないと、金融資産を根こそぎ奪われてしまうでしょう。例えば日経平均連動の投信ならば、バブルが破裂すると、ピークの3万2000円くらいから、4000〜5000円まで瞬く間に急落するでしょう。
従来ならば、株バブルが崩壊して安くなったらまた買えばいいとする仕切り直しもありでした。けれども、今回の株バブルの崩壊後はおそらく20〜30年間、株は上昇しないと思いますので、復活は不可能です。
そのときに価値が急上昇するもの、それがゴールドです。ですから、極論を言えば、最後のバブル崩壊時にゴールドでヘッジできた投資家のみが助かるでしょう。
時代は株(バーチャル)から現物(リアル)へ
本来ならば、これだけNYダウが強くて株バブルになって、金利が高くなっている状況下ならば、どう考えてもゴールドは1000ドル割れしていなければおかしい。それが現実には2000ドルです。
この現実から、もはや株(バーチャル)の時代は終焉し、今後はゴールドを含めた貴金属、農作物などのコモディティ、資源エネルギー…つまり現物(リアル)の時代が到来するという答えを導き出すことができます。これを知ってか知らずかわかりませんが、著名投資家のウォーレン・バフェットは現在、原油および天然ガスの採鉱、開発に携わる会社の株を積極的に買っています。
――金融暴落に備えてゴールドの保有が有効なのはわかるのですが、多くの人がそれに気付いて、品薄になって買えなくなる可能性はあるのでしょうか?
ないと思います。理由は、米国が金利を上げてくるからです。同時にこれからNYダウが上昇速度を増していく。ゴールドが急騰するのは24年の年末あたりからでしょう。そのタイミングとは、NYダウが急落≠オ始めたときです。それを合図にFRBがどんどん政策金利を下げてきます。そのときにはゴールドの価格は一気に4000ドル近辺まで上昇するのではないかと思います。
それまでは金利の付かないゴールドは落ち切らず、かといって上がりもせずといったジリジリした動きを見せるので、買えなくなるようなことはないと思います。
1929年に始まった世界大恐慌のとき、国際金融資本の連中は「公共株」を買い漁りました。大恐慌が続いている間は生活に不可欠なことから、配当が出やすく、株価の変動しにくい電力やガス、水道、燃料などの公共関係株に触手を伸ばしたのです。
そして1932年に景気がボトムを打ったのを確認すると、今度はパフォーマンスが期待できるベンチャー、一般産業株の投資に方向転換を遂げていて、そのしたたかさには脱帽です。
おわり
●日銀 黒田前総裁 NYで講演 “物価上がらない考え強かった” 4/18
日銀の黒田前総裁はアメリカ ニューヨークで講演し、任期中に2%の物価目標を持続的に達成できなかった理由について、人々のあいだで物価は上がらないという考えが強かったためだと説明しました。
10年の任期を終えた日銀の黒田前総裁は17日、ニューヨークのコロンビア大学で講演し、アメリカのFRB=連邦準備制度理事会の元副議長、ブラインダー氏とも対談しました。
この中で、黒田前総裁は任期中に2%の物価目標を持続的に達成できなかった理由について、1990年代に日本で起きた金融危機などにも言及しつつ「15年間の長いデフレのせいで物価や賃金が上昇しないとの人々の考え方が強かったためだ」と説明しました。
一方で、最近の日本経済については「状況は変わってきている」とし、任期中に雇用が400万人増えた結果、労働市場の需給は引き締まり、労働力はこれ以上、供給されにくい状況にあるとして「賃金は上昇していくだろう」と述べました。
そのうえで黒田前総裁は「物価や賃金が上昇しないとの人々の考え方は急速に変化している」と指摘し、2%の物価目標は近い将来に持続的、安定的に達成できるとの考えを示しました。
聴衆から円安の副作用について質問が出ましたが、黒田前総裁は「残念ながら何も答えられない」と述べるにとどめました。
●インフレは金融安定リスク、ドイツの銀行資本は強固=独財務相 4/18
ドイツのリントナー財務相は17日、 インフレは金融安定に対するリスクであるということを中央銀行は念頭に置いておく必要があるとの考えを示した。
リントナー財務相はドイツの銀行協会のイベントで、インフレは「猛々しい獣」のようなものだとし、金融システムだけでなく経済にとってもリスクだと述べた。
その上で「財政政策が金融政策と矛盾することがあってはならない」とし、財政の健全化を呼びかけた。
また、米国の銀行部門とスイス金融大手クレディ・スイスを巡る問題受けても、ドイツ国内の金融安定について懸念する必要はないと指摘。「銀行危機は発生していない。ドイツの銀行には強固な資本基盤がある」と語った。
●韓国経済が危機的状況で「中国離れ」鮮明に、元駐韓大使が詳しく解説 4/18
韓国経済が 危機的な状況に
韓国経済が危機的な状況になりつつある。これは支持率低迷に苦しむ尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権にとって致命傷となりかねず、早急に立て直す必要があるが、その際の経済・外交政策は、前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏の政策とは対極をなすものになるだろう。
半導体輸出の不振を反映し、経常収支は2カ月連続で赤字となった。輸出の減少は対中輸出の減少が大きく響いている。
国際通貨基金(IMF)は韓国経済に関する警鐘を鳴らし続けている。IMFは、韓国の今年の経済成長率見通しを1年間継続して下方修正している。IMFが「家計債務脆弱国」と指摘した4カ国のうちには韓国も含まれている(残る3カ国はスウェーデン、ベルギー、フランス)。
危機感を反映し、韓国銀行(韓銀)は物価が上昇していても、2月に続き4月も基準金利の引き上げを見送った。
韓国経済は、どこを見ても危機的な状況を示唆している。これを打ち破るためには、文在寅政策を根本的に改める必要がある。
景気回復には 時間がかかる
IMFは、韓国の今年の経済成長の見通しを昨年4月の2.9%から4回連続で引き下げ、さらに今年4月には1.5%にまで下げた。今年に成長率見通しを引き下げた国は他に日本やドイツもあるが、主要20カ国(G20)のうち経済成長率が連続して下落したのは韓国だけである。
輸出依存度が高い韓国は、世界景気の影響を大きく受ける。景気鈍化で韓国の主要輸出品目である半導体などの製造業関連需要が急減した。韓国の生産の10%、輸出の20%を占める半導体の景気が酷寒期を迎える中、サムスン電子の1〜3月期の営業利益は前年同期比96%減の6000億ウォン(約600億円)となった。
中国が新型コロナに伴い経済封鎖したことの影響もあった。中国は防疫を緩和し、「リオープニング」したというが、これによる輸出回復は期待ほどではない。
韓国国内では「今年上半期の景気は厳しいが、下半期には回復する」との期待が高かった。しかし、足元では下半期の回復は難しいという懸念が出ている。また、IMFが景気見通しを引き下げたのは、韓国の景気回復が予想より遅れるという見通しのためとの分析も出ている。
いずれにせよ、物価上昇と高金利は、家計支出も含め、内需を制約する要因となっている。
金利上昇による可処分所得減少で 景気がさらに縮小する可能性
IMFによる韓国経済に関する懸念の一つは、前述の通り、家計債務脆弱国であることであり、家計の負債が多いために消費が抑制され、その悪影響が経済全体に波及することである。
その根拠となっているのが家計部門の総負債償還比率(DSR)の高さだ。DSRとは家計が一定期間に返さなければならない貸付元利金の所得に占める割合である。韓国のDSRは昨年4〜6月期に13.4%を記録した。つまり、韓国の家計は稼ぎの13%以上を負債と利子の返済に使ったという意味である。ちなみに日本や米国は6〜7%にすぎない。
2007年に665兆ウォン(約67兆9300億円)だった家計負債は昨年末には1867兆ウォン(約190兆7200億円)にまで膨れ上がった。金利上昇による可処分所得の減少で、景気がさらに後退するリスクがあるとの指摘も出ている。
急激な金利引き上げは 韓国経済に大打撃となる
韓銀は、「高い物価上昇率が相当期間継続した場合、経済主体のインフレ期待が高まり、さらなる物価上昇を誘発する可能性もある」として、2021年8月に0.5%だった政策金利を1年5カ月で計3%引き上げ、3.5%とした。
昨年の消費者物価上昇率は5.1%で、1998年の通貨危機以降で最高値を記録し、今年も年間で3.5%を予想している。こうした中、韓銀は最近2回の政策決定会合で金利の引き上げを見送ってきたが、これは苦渋の決断である。
今年1〜3月期の名目国内総生産(GDP)に対する民間債務(家計負債+企業負債)規模は216.3%と過去最大水準であり、今後金利が上がれば滞納が0.3ポイント増えると推定している。株式市場にもマイナスの影響が予想される。
急激な金利引き上げは経済に大打撃を与えかねない。上半期の景気低迷が、果たして高金利の余波に伴う一時的な状況なのか、長期低成長の始まりなのか、注視する必要がある。
韓国経済の再生に 動き出した尹錫悦政権
韓国経済の再生のための動きは、既に始まっている。
例えば以下の4つである。
(1)韓国の最大の輸出国が中国から米国に代わった。
(2)尹錫悦大統領の訪日に合わせ、4大財閥のトップが大統領に同行し日本の経団連をはじめ個別企業との話し合いを行った。
(3)尹錫悦大統領は、今月下旬に国賓として訪米し、26日首脳会談と夕食会、27日に米上下両院合同会議での演説と昼食会に臨むことになっている。訪米には与野党の国会議員や財界関係者も同行する。
(4)現代自動車が29年ぶりに韓国国内に新工場を設置することになった。それは尹錫悦政権が過激労組・民主労総の政治的な動きと経済を麻痺させるストを封じる行動に出ている点が大きい。
尹錫悦政権は、今後こうした流れを本格化させていくだろう。
韓国の主要輸出先が 中国から米国に回帰
韓国経済の成長エンジンであった中国との関係が転機を迎えている。その象徴的なものが、前述の通り、韓国の輸出の割合が1位の中国から米国にシフトしていることである。
政府と韓国貿易協会の統計によると、今年1〜3月の韓国の総輸出のうち中国の割合は19.5%と、昨年の22.8%から大幅に減少した。一方、米国の割合は20年前の水準である17.7%にまで回復した(2011年には10.1%まで下がっていた)。対中輸出の空白を対米輸出が埋めた格好である。米国市場で自動車輸出が好調を続ければ、米国の割合が20年ぶりに中国を逆転する可能性もあるという。
尹錫悦政権はこれまで日米韓との同盟強化に乗り出してきたが、中国との関係では、中国の反発を意識して、米国の期待に十分応えてこなかった。韓国は高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)の配備に対する中国の報復を目の当たりにしてきたからである。
韓国国内には、最大の輸出相手国が中国であり、中国を怒らせることによる経済的打撃を懸念する声が高い。また、北朝鮮の挑発を抑制する上での中国への期待も高かった。しかし、こうした中国との構造的問題に変化が起きている。
最近の中国への輸出減少と貿易赤字の増加は、韓国の景気悪化や特定品目の不振という要因のみならず、グローバルな貿易環境の変化が本格的に反映された結果だという分析が出ている。
長期化する米中貿易戦争や、世界経済のブロック化現象など、韓国の輸出動向に大きな変化が起きている。また、北朝鮮のミサイル発射に対する国連制裁強化を妨害しているのも中国である。
中国の圧力を低減させ、韓国が名実ともに西側の連携に加わるためには、日米韓がより強い結び付きを示し、中国が圧力をかけにくくすることが重要である。中国へ輸出比率が下がってきた現在は、そうした取り組みを強化するための良い機会である。
韓国経済の再生には 日米との関係強化が重要
韓国経済の再生のためには、日米との協力関係の強化が重要である。
日本との間では、尹錫悦大統領の訪日、首脳会談でその足掛かりを作った。
日韓の経済関係で象徴的なものは、半導体素材に関する韓国のホワイト国への復活であり、そのための条件を整備させるべく、日本も協力する必要がある。
尹錫悦大統領の訪日時には経団連と全経連がビジネスラウンドテーブルを開催し、韓国からは4大財閥の会長らが参加した。
日本商工会議所と大韓商工会議所の間でも、「首脳会議」の6年ぶりの開催に向けて実務接触が行われている。2025年の大阪・関西万博と、韓国が釜山への誘致を目指す2030年万博のプラットフォームなどでの連携も提案した。
朴振(パク・チン)外相の国会での答弁によれば、尹錫悦大統領の米国訪問では、「北朝鮮の高度化する核・ミサイル脅威に対抗し、拡大抑止の実行力を質的に強化する案を議論する」という。併せて、供給網(サプライチェーン)の安定化などの経済安全保障や人工知能(AI)、原子力、宇宙など、最先端分野での協力強化の方針を表明する予定である。
米韓首脳会談で韓国が期待するのは、北朝鮮への拡大抑止に合意することであるが、米国の期待は中ロと関連した韓国の「前向き」な対応である。中ロに対する米韓の連携強化によって米国の信頼を得ることは、経済面において米国の協力を得るために不可欠である。
尹錫悦大統領は米国訪問において「先端産業協力や未来の核心分野の交流に重点を置き、訪問都市を検討している」という。
現代自動車の国内工場設置は 労使関係の変化への期待を反映
現代自動車は11日、尹錫悦大統領も出席して、京畿道華城市に建設する韓国初の電気自動車(EV)専用工場の起工式を行った。同社が韓国国内に新工場を設置するのは1994年以来29年ぶりである。
現代自動車は華城(ファソン)市のEV専用工場を皮切りに、国内外で本格的にEV企業としての体制を整えていく構えだ。韓国国内でEV分野だけで24兆ウォン(約2兆4500億円)を投資する。これによってEV生産台数を昨年の33万台から2030年には364万台に増やす。
現代自動車が韓国にEV生産の工場を設置するのは、グローバル競争力を備えた電池メーカーが韓国国内にあり、また、長年にわたり、ハイブリッド車などの車載電子部品を下請け企業と共同で開発・生産してきたノウハウと生態系があるからである。
現代自動車は民主労総系の強硬な労組に支配され、生産性の低さ、高い人件費、飽和した内需市場などのため、29年間国内での工場設置を見送ってきた。それにもかかわらず新工場設置を決めたのは、尹錫悦政権の民主労総を取り締まる姿勢が鮮明になったからであろう。
尹錫悦政権は、2023年の韓国経済の重点課題として、年金・労働・教育の3大改革を挙げた。文在寅政権の下では労働組合は甘やかされ、その代表格である民主労総の主張は一層過激になっていた。
しかし、尹錫悦政権は、輸送労働者の組合である貨物連帯が無期限ストに入った際には職務復帰命令を出すなど、強硬に対応し、スト中止に追い込んだ。また民主労総が北朝鮮のスパイの温床になっているとして捜査を強めている。
もともと現代自動車の労組は民主労総が主流であり、ストを頻発させ、賃上げや労働条件の改善を求めてきた。しかし、尹錫悦政権になって様相が変わってきたことが、新工場設置の決断を促したのであろう。実際、尹錫悦大統領は起工式に参加し、民主労総と対峙(たいじ)する姿勢も示した。
尹錫悦大統領にとって、経済の再生が支持率回復の鍵である。そのためには韓国企業の国内投資を活発化させるのが第一歩である。
支持率が回復すれば、日韓関係にもさらに前向きに取り組めるようになる。それは文在寅政権からの決別を意味することになるだろう。 
●投資家の株式配分、債券との比較で09年来の低水準−BofA調査 4/18
リセッション(景気後退)懸念が広がる中で、投資家の株式への資産配分が債券との比較で世界金融危機以来の低水準になった。バンク・オブ・アメリカ(BofA)の世界ファンドマネジャー調査で分かった。
先月の銀行セクター波乱以降で初めてとなった調査の結果は今年に入って最大の弱気を示した。投資家は信用逼迫(ひっぱく)への懸念から債券への配分を差し引き10%オーバーウエートとした。これは2009年3月以来の高い水準。差し引き63%の回答者が景気減速を予想し、22年12月以来の悲観度を示した。
ただ、BofAのストラテジスト、マイケル・ハートネット氏はリポートで、弱気のセンチメントはリスクアセットにとって強気のシグナルだと指摘。「リセッションを求めるコンセンサス」が4−6月(第2四半期)中に的中しなければ、債券利回りと銀行株の上昇が痛みをたらすだろうと予想した。
米国株は複数の米地銀破綻を受けた先月の安値からは反発したものの、労働市場の軟化を示すデータが年内の経済縮小を示唆する中で今月は勢いが弱まっている。
BofAの調査によれば、市場にとって最大のテールリスクは信用逼迫と世界的リセッション、次いで高インフレとそれに伴う中央銀行のタカ派姿勢だった。システミックな信用イベントと地政学的状況悪化もリスクに挙がった。
調査は4月6−13日に合計運用資産6410億ドル(約86兆円)の249ファンドマネジャーを対象に実施した。
●米国企業決算は好スタート、厳しい市場予測に反し上振れ続出 4/18
米銀バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストらによれば、米企業の1−3月(第1四半期)利益はここ数年で最も厳しい状況を見込むアナリストの警告に反して好スタートを切っている。
サビタ・スブラマニアン氏率いるストラテジストは17日付の調査リポートで、S&P500種株価指数構成企業で決算を発表済みの30社のうち、1株利益が予想を上回ったのは90%、売上高が予想を上回ったのは73%に上ったと指摘した。JPモルガン・チェースやシティグループ、ウェルズ・ファーゴ・アンド・カンパニーの好業績などにより、少なくとも2012年以降の決算発表シーズン第1週としては最高の上振れとなった。
スブラマニアン氏は「3月の銀行不安にもかかわらず大手銀行が堅調な業績を発表したことが貢献した」と分析。「銀行は信用基準を厳しくしているかもしれないが、大手行は以前の危機と比べ、余剰資本を備えて経営している」と付け加えた。
先月のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻後に発表された金融大手の堅調な決算は、銀行業界が危機に陥るとの懸念の緩和に寄与している。BofAは懸念されたよりも良い内容の決算発表を受け、3月の銀行不安が一時的なものであるという証拠がさらに示されればS&P500種の2023年1株利益(EPS)を200ドルとしている同社予測は低過ぎる可能性があるとの見方を示した。市場予想コンセンサスは220ドル。
その一方でBofAは業績修正が全般に下振れしているとして、企業による業績見通しの下方修正を予想している。先週、同行ストラテジストは、業績下方修正の動きが今後加速する可能性があると警告した。
「金融システムの信頼性を巡る大規模でシステミックな衝撃は回避されたようだが、信用収縮が実体経済で顕在化している」とし、信用収縮が産業や消費に与える影響が一段と広がっていることに言及した。
今週は、金融機関だけでなく、S&P500種を構成する公益事業以外の企業の26%が決算を発表する予定。需要の見通しや利益率などにBofAは注目している。同行も18日に1−3月期決算を公表する。
●FRBは利上げ継続を、米景気後退陥らず=セントルイス連銀総裁 4/18
米セントルイス地区連銀のブラード総裁は、インフレ持続を示す最近のデータを踏まえ米連邦準備理事会(FRB)は利上げを続けるべきと述べた。また広範な経済はゆっくりだが成長を続ける態勢が整っているようだと語った。
ロイターとのインタビューで、米国が近い将来、銀行危機、リセッション(景気後退)、あるいはその両方に向かっているとの見方に反論。市場はFRBが近い将来利下げに踏み切るかもしれないとみているが、「労働市場は非常に堅調のようだ。社会通念では堅調な労働市場は経済の大部分を占める消費の堅調さにつながる。2023年後半にリセッションに陥ると予測する時期ではない」とした。
また先月発生した米銀2行の破綻が危機に発展するとすれば、セントルイス連銀の金融ストレス指標などに表れるはずと指摘。「本当に重大な金融危機が起こるとすれば、この指数が4か5に跳ね上がるだろうが、現在ではゼロだ。そのため現時点ではあまり大きなことが起きているようには見えない」とした。
3月のFOMCでは大半のFRB当局者があと1回の利上げを実施し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.00─5.25%に引き上げることが必要と想定。ただ、ブラード総裁は引き締めサイクルが終わりに近づいていることに同意しながらも、同水準を0.50%ポイント上回る5.50─5.75%への利上げが必要との見方を示した。
さらにインフレと経済の動向を考えると確約は少ない方が良いと言及。フォワードガイダンスなどに縛られインフレが過熱したり過度に粘着性を持ったりするよりも、夏から秋にかけて入手されるデータに対応するほうが望ましいとした。
インフレ抑制に向け金利が「十分に制約的」とみなされる水準になれば、インフレが完全に抑制されることを確認するために金利の「方向性はより長期かつ高水準になる」とした。

 

●米 ゴールドマン・サックス 3か月間決算 最終利益18%減少  4/19
アメリカで銀行破綻が相次いだ影響が、金融機関の決算にも一部出始めています。アメリカの金融大手ゴールドマン・サックスの先月までの3か月間の決算は、金融不安を背景に債券や株式の取り引き収入が落ち込んだことなどから、最終利益は18%減少しました。
ゴールドマン・サックスが18日発表した、ことし1月から3月までの3か月間の決算によりますと、最終利益は前の年の同じ時期と比べて18%減って32億3400万ドル、日本円でおよそ4300億円でした。
減益となった要因としては、3月、銀行の相次ぐ経営破綻によって市場が不安定となった影響で債券や株式などの取り引き収入が落ち込んだことがあげられます。
また、企業の合併や買収に助言する投資銀行部門の収入も低迷したということです。
決算の説明会でソロモンCEOは「市場の変動の大きさが最悪な状況は過ぎ去ったようだ」と述べた一方、銀行が融資に慎重になっていることに触れて「信用収縮のリスクが高まっている」として警戒感を示しました。
このほか、JPモルガン・チェースなど大手銀行4行の3月までの3か月の決算では、収益は好調だったものの、企業の貸し倒れに備えた費用の合計が前の年の同じ時期と比べて4.3倍に増えるなど、金融不安の余波や景気減速に身構える様子が表れています。
●シリコンバレー銀行の経営破綻に伴うスタートアップへの今後の影響と対策 4/19
現地から特別解説!世界各国のメディアが報じていないシリコンバレー銀行の経営破綻の真相とは
現地時間3月10日、世界中のスタートアップとベンチャーキャピタルを中心に衝撃が走った、アメリカ・カリフォルニア州に本拠を構えるシリコンバレー銀行の経営破綻。
各国のメディアが驚きをもって報じるなど、その後も喧騒が続いていますが、「今回の同銀行の経営破綻に至るまでの経緯や、スタートアップとVCが取るべき対策などについて詳しく伝えられていない」と語るのはペガサス・テック・ベンチャーズ代表パートナー兼CEOのアニス・ウッザマンさんです。
同社は米シリコンバレーを拠点にグローバルな投資活動を展開。世界中の優れたスタートアップ企業に知識ノウハウや金融面での支援を提供しています。従来の投資アプローチに加え、最先端のテクノロジーベンチャー企業との提携を希望する大規模なグローバル企業向けに独自のVCaaSモデルでサポートしていることも特長です。
今回はアニス・ウッザマンさんに、シリコンバレー銀行の経営破綻の真相とともに、スタートアップへの今後の影響と取るべき対策について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
シリコンバレー発展への貢献とエコシステムの活性化を担ったシリコンバレー銀行
大久保:シリコンバレー銀行の経営破綻に関するお話をお伺いする前に、まずはシリコンバレー銀行とはどういう銀行なのか?についてお聞かせ願えますか。
アニス:シリコンバレー銀行(以下SVB)とは、主にスタートアップ企業向けに融資を行ってきた銀行です。およそ40年前に開行され、弊社のオフィスから約4キロの位置にあるカリフォルニア州サンタクララに本社を構えていました。アメリカ合衆国で最も規模の大きい銀行のひとつで、2016年6月時点でシリコンバレーにおける預金量の25.9%のシェアを保持していたため、シリコンバレー最大の銀行でもありました。
大久保:「シリコンバレーの発展に大きな貢献を果たした銀行」とも称されているそうですね。
アニス:加えて、エコシステムを活性化させたこともSVBの大きな特長です。この「シリコンバレーの発展への多大なる貢献」と「エコシステムの活性化」という2つの要素を兼ね備えた存在は非常にめずらしいんですね。企業・投資家・エコシステムのすべてにおいて重要な役割を担っていました。
大久保:SVBと起業家との関係性について詳しくお教えください。
アニス:シリコンバレーで事業を起こす起業家の多くが、まずはじめにSVBで口座開設を行います。同地で一番最初に関わるケースが圧倒的に多い理由は、エコシステムで起業家が必要としているあらゆる機能をSVBが有していたからです。たとえば会計士や弁護士の紹介、優秀な人材を確保するためのサポート、投資家とのマッチングやコンタクトなど、すべてスタートアップにとって欠かせない要素ですよね。こうしたサービスを独自の仕組みにより提供してきたのがSVBです。主要各機関がSVBと連携しネットワークを構築していたため、スタートアップと各機関をつなげるハブとしての活動も行ってきました。
大久保:アメリカ全土でこれまで誕生したスタートアップのうち、約半数がなんらかの形でSVBと関わっていたそうですね。
アニス:はい。それからスタートアップのおよそ7割がシリコンバレーを拠点としていますので、グローバルな視点で考えるとグローバルスタートアップの約4割と密接な関係だったことになります。また投資家の間でも非常に人気が高く、約2,500社がSVBに口座を持っていました。いくつか理由があるのですが、なかでも最も大きなポイントは先ほど申し上げた通り、投資先のスタートアップを紹介してもらえるからです。つまりイノベーションを創出・支援する主な業界にとってSVBはインパクト抜群で、常に大きな存在感を放っていました。
アメリカ国内で過去2番目となる大型破綻。発端は2021年の経済成長と米国債買入
大久保:SVBの経営破綻の経緯についてお教えください。
アニス:米連邦預金保険公社(以下FDIC)がSVBの経営破綻を宣言し、すべての預金を管理下に置いたと発表したのは現地時間の3月10日です。アメリカの銀行としては、2008年の金融危機の煽りを受けたワシントン・ミューチュアルの破綻に次ぐ過去2番目の大型破綻でした。世界中のメディアが報じた今回の経営破綻ですが、その主な原因としてアメリカで高騰するインフレを抑えるために連邦準備制度理事会(以下FRB)が積極的に金利を引き上げた引き締め政策の影響による株価暴落などをあげています。ところが、それまでの経緯や根本要因について詳しく伝えているニュースがほとんどありません。SVBの株価暴落に至るまでの発端は、2021年に遡ります。新型コロナウイルスのパンデミックにより、2020年のアメリカ経済の実質GDP成長率は前年比マイナス3.4%の成長でしたが、2021年は5.7%と急回復しました。世界経済全体でも2021年は6.1%の高成長だったんです。
大久保:アメリカではスタートアップが続々と上場した年でもありますよね。
アニス:はい。いずれの企業も資金が潤沢でしたので、ものすごい活気で盛り上がっていました。こうした盛況ぶりはSVBも同様で、約210億ドルがあり余っている状態だったんです。本来であれば積極的な融資を行うのが銀行の取るべき策ですよね。ところがこの年は融資先がありませんでした。なぜならみんな資金が潤沢で、借りる必要がなかったからです。そこでSVBは米国債の購入を行いました。この米国債買入が、のちに経営破綻の要因としてつながっていきます。
2022年の物価高から景気後退ののち、18億ドルの損失計上で経営破綻に至る
大久保:2022年に入り、大きく状況が変わったと伺っています。詳しくお聞かせください。
アニス:2021年は経済回復とともに世界的に物価高が台頭し始めたのですが、2022年になるとロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーや食料価格の高騰がさらなる物価高に拍車をかけました。特にアメリカでは40年ぶりの物価高となっただけでなく、そこから派生する金融引き締めや、消費・生産の抑制などが目立ちだし景気が後退し始めました。投資環境にも多大な影響を及ぼし、グローバルにおいて全体のアマウントが大きく下落したんです。このときに多くのスタートアップが講じた対策が、ダウンラウンドを避けるために資金調達や上場を控え、保有していた資金を使い崩すことでした。どの企業でもSVBに口座を持っていましたので、そのお金を取り崩す、つまり同銀行預金は大幅な減少を招くことになったんですね。
大久保:その結果として、流動性を失ってしまったということでしょうか?
アニス:その通りです。困り果てたSVBが次に打った策が、2021年に購入した米国債の売却でした。ただしFRBによるインフレ抑制を目的とした政策が影響し、購入時と比較して金利が高くなっていたため、18億ドルの損失を計上することになりました。この損失計上が起こったのが3月8日です。その翌9日、複数の著名なベンチャーキャピタルが、投資先企業に対してSVBから資金を引き上げるよう助言しました。その結果、想定を超える預金の引き出しにつながり、大騒動に発展。午後5時頃には同銀行に大きなマイナスが発生しました。
大久保:その翌日の10日、FDICからSVBの経営破綻が宣言されたわけですね。
アニス:はい。こうした一連の経緯からおわかりいただけたかと思いますが、この経営破綻の一番最初のフェーズは2021年のアメリカ経済の成長だったんです。
スタートアップとVCが日頃から意識したい、複数口座を使い分ける分散管理
大久保:今回のSVBの経営破綻を受けて、スタートアップとベンチャーキャピタルが日頃から取るべき対策についてお教えください。
アニス:最も有効なリスクヘッジはダイバーシティ、つまり複数の口座を使い分ける分散管理が適しています。弊社は規模が大きくなっていて、現在の運用総資産額は約3,000億円です。そのため、SVBに口座を設けていませんでした。ナショナル・バンクを基本として、どの口座にも預金保険で保護される範囲の金額しか預けていない企業が多いと思います。弊社でも同様に、常にリスクヘッジをシビアに捉え、万全な対策を取りながら運営してきたことでSVB破綻の影響も受けずに済みました。
大久保:御社のご経験も含めて、分散管理がリスクヘッジに最も有効な手段だと実感されていらっしゃるわけですね。
アニス:はい。そこまで慎重にリスク対策をしてきた弊社でも、今回の問題からあらゆる分析を行いましたが、やはり重要なのは分散だなと。ひとつの銀行に口座を作ってすべての資金を預けてしまっているスタートアップも少なくありませんが、これは非常に危険ですので早期の対策をおすすめします。ナショナル・バンクと地方銀行を上手に交えながら、少なくとも2行から4行ほどに分けて口座を開設してください。うまく分散させながら管理しないといけない時代ですので、ぜひ心がけていただきたいです。
日本への影響は避けられないが、それ以上に追い風の革新的イノベーション
大久保:今回のSVBの経営破綻により、日本への影響を心配している起業家が少なくありません。日本のスタートアップに及ぼす可能性についてお聞かせください。
アニス:日本への影響はどうやっても避けられませんし、現在資金調達に奔走しているスタートアップは数ヶ月ほど苦しい状況が続く可能性があると思います。多くの投資家がしばらく様子見で慎重になっているんですね。ただし、これはあくまでも短期的な影響に過ぎません。2022年以降、久しぶりに革新的なイノベーションの波が起こっているからです。
大久保:コロナ禍や不安定な世界情勢のなかで創出されたイノベーションですよね。具体的にお教えください。
アニス:コロナ禍で最もインパクトを与えてくれたのはmRNA(メッセンジャーRNA)です。通常であれば開発に10年はかかるワクチンをわずか1年半で誕生させることができたのは、イノベーションの大きな兆しだと驚きました。ワクチンに関しては、アメリカが世界をリードしましたね。mRNAは世界で初めてがんの治療にも有効という報告もあがっていて、私も東京で開催したセミナーで紹介させていただきました。今後もさらに期待したいと思います。また世界情勢の不安の要因となったロシアによるウクライナ侵攻で、ウクライナにとって大きな希望となったのが衛星インターネットサービスです。イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業SpaceX(スペースエックス)が提供するStarlink(スターリンク)は、従来のマリンケーブルではなく衛星を活用しています。すでに約4,000台の人工衛星を打ち上げており、40カ国でサービスが利用できるようになりました。ロシアがウクライナから占領地のインターネットを分断し、デジタル鉄のカーテン内に囲い込もうと目論んだ計画を阻止した偉大な功績とともに、Starlinkは科学技術の進化を証明しています。
大久保:昨年末に登場したチャットGPTも素晴らしいイノベーションですよね。
アニス:おっしゃる通りです。AIやテクノロジーの分野において、ものすごく大きな風を起こしてくれました。チャットGPTの最も優れた特異性は、リサーチ領域を次の段階へと大幅に推進できることです。これまで世界で味わったことがないレベルのパワーをもっています。これだけ大きなイノベーションの波が連続して起こったのは、実に久しぶりのことです。これからも続々と登場すると予測しています。確かにSVBの経営破綻で世界中が混乱に陥りましたが、イノベーション創出の勢いは止まりませんし、スタートアップが活躍する土壌が失われることはありません。ぜひ起業家の皆さんには、いち早く元気を取り戻してがんばっていただきたいです。
SUエコシステムの構築と起業家精神育成を目指す「スタートアップワールドカップ」
大久保:世界中のスタートアップと企業の提携を支援している御社ですが、主催されている「スタートアップワールドカップ」もその取り組みのひとつですよね。詳しくお教えください。
アニス:「スタートアップワールドカップ」は、世界のスタートアップエコシステムの構築と起業家精神の育成を目的とするスタートアップピッチコンテストです。世界50地域・国以上で予選が行われ、サンフランシスコで開催される決勝大会には世界トップクラスのスタートアップ・起業家・ベンチャーキャピタル・大手企業が集結し、優勝企業には約1億円の投資賞金が贈られます。今年の「スタートアップワールドカップ2023」の日本予選は京都・東京の2ヶ所での開催が決まっており、日程は京都が7月6日(京都大学)、東京が9月8日(グランドハイアット東京)です。
大久保:決勝戦は12月1日、サンフランシスコで行われると伺っています。
アニス:今年の会場はヒルトン・サンフランシスコ・ユニオンスクエアとなっています。Netflixの共同創設者であるマーク・ランドルフ氏やAmazonのCTOを務めるワーナー・ヴォゲルス氏らによる特別講演など、今年も業界著名人のスピーチを予定している注目度の高いイベントです。
大久保:スタートアップが大手企業と組んで事業に取り組み、次のステージへと大きく成長を遂げることを願って開催されてきたそうですね。
アニス:はい。さらに今年の日本予選ではスタートアップと大手企業のミートアップの場を設けようと考えています。初めての試みですが、ポジティブなネットワークを提供するために準備しているところです。そしてもうひとつ、ウクライナ情勢の影響による燃料高騰について多くが注視しているため、今年は「持続可能な世の中」をテーマにゲストを迎えたいと計画しています。
昨今のイノベーションに注目を。日本からも次のイノベーション創出を願う
大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。
アニス:今回のSVB経営破綻を不安視し、事業運営や資金調達などあらゆる面で危機感を抱いた起業家が多いかと思います。ただ、米連邦政府のパーシャルベイルアウトなどの救済策により、ひとまず状況は落ち着きました。それ以上に、昨今のイノベーションは素晴らしいということに注目していただきたいです。mRNAや衛星インターネットサービス、チャットGPTなど、短期的に連続してこれだけ大きなイノベーションが起きたのはここ10年で初めてなんですね。イノベーションの力が衰えることはありません。ぜひ自信をもってがんばっていただきたいですし、日本からも次のイノベーションの創出を願っています。
●コンサル・監査あまり時代到来 マッキンゼー、アクセンチュア大規模リストラ 4/19
マッキンゼーは1400人、アクセンチュアは1万9000人
2月下旬以降、米国の大手コンサルティング企業が相次いで人員の削減を進めている。まず、マッキンゼー・アンド・カンパニーは約2000人の削減計画が報じられた。削減規模は同社にとって過去最大規模とみられる。3月23日、アクセンチュアも大規模なリストラ計画を発表した。今のところ削減規模は1万9000人に達する見込みであり、コンサル業界で過去最大級のリストラが進もうとしている。
リーマンショック後、世界の有力コンサルティング企業は、新しい事業の育成、その運営体制の企画、設計などに関する業務をIT先端企業などから受託してきた。そうすることで企業は迅速に、必要な業務運営の体制を整備できた。コロナ禍の発生によって、世界経済のデジタル化は一時的に急加速した。その結果、IT先端分野などで新しい業務運営の確立に必要なコンサルティング・サービスへの需要も押し上げられた。
しかし、競争の激化、世界的なインフレ進行、ウィズコロナへの移行、さらには世界的な金利上昇などを背景に、IT関連企業の成長期待は急速にしぼんでいる。すでに、米メタ(旧フェイスブック)などで、コンサル出身の経営幹部が要職を退いた。IT業界でのリストラは加速している。その成長を取り込んだコンサル業界などにもより強いリストラ圧力がのしかかろうとしている。
過剰投資、過剰採用を抱えたIT企業の退潮
足許、米国を中心に急速にコンサル業界でリストラが進んでいる。それだけ、多くの企業は、高い成長が続くと先行きの展開を楽観し、採用を強化した。しかし、世界経済の減速、特にIT先端分野での業績悪化懸念が急速に高まった。IT有力企業では過剰な投資や採用が顕在化している。それに伴い、IT先端分野での需要を取り込んできたコンサル業界でも、過剰人員などの問題が浮上し、コストカットが急がれている。
リーマンショック後、米国ではアップルの"iPhone"などのヒットをきっかけに、経済のデジタル化が加速した。"21世紀はデータの世紀"と呼ばれるように、ビッグデータの重要性は急速に高まった。データを活用することによって、新しいビジネスが次から次へと生み出された。
メタやツイッターなどはSNSという新しい業態を生み出した。それにデータを用いた広告ビジネスが結合され、収益はおおきく伸びた。物流分野では、アマゾンがネット通販で購入された品物の配達スピードを引き上げるために、物流施設の建設を増やすなどした。
業務効率化でコンサルティング依頼は急増したが...
そうした新しい業務運営の在り方を確立し、実際のマネジメント手法を組織に浸透させるために、マッキンゼーやアクセンチュアへのコンサルティング依頼は急増した。
コンサルティング各社は、顧客企業が新しい分野に進出し、いち早く安定した業務の運営体制を確立するために必要な方法論を提供して対価を得る。具体的にマッキンゼーなどは、経営戦略や財務、管理会計の理論を結合することによって、効率的に業務運営を行う標準的な手法を確立した。
そうしたサービスを利用することによって、IT関連分野の企業は、データの利用など自社の強みがより発揮できる分野に集中しやすくなった。コンサル業界でのリストラ増加は、IT先端分野での企業の成長性が低下していることを意味する。そうした変化を機敏に感じとり、早い段階でIT先端企業を去った人もいる。
コンサル出身のサンドバーグ氏はいち早くメタを去った
その一人として、2022年6月、シェリル・サンドバーグ女史はメタの最高執行責任者(COO)を辞すと表明した。それは、メタなどの成長の勢いが弱まり、新たな成長分野を探さなければならないという認識に基づいた意思決定だったように見える。ハーバード・ビジネス・スクールを修了した後、サンドバーグ女史はマッキンゼーでコンサルタントとして働いた。グーグルなどを経て、2008年、COOとしてサンドバーグ女史はフェイスブックに参画した。
メタ創業者のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)にとって、経営コンサルタントとしてのスキル、グーグルでの広告ビジネスの高い成長を支えたサンドバーグ女史の実力は、SNS分野でのビジネスモデルを確立し、高い成長を実現するために喉から手が出るほど欲しかった要素だったはずだ。
このようにして、多くのIT先端企業は、コンサル業界出身の人材採用を強化した。また、アクセンチュアやソフトウエア分野への選択と集中を進めたIBMなどに、ビジネスモデルの確立や、新規事業の業務運営体制の企画、マネジメント手法などのコンサルティングを委託する企業も増えた。
その結果、世界的にコンサルタント人材の求人は急増した。一部では、組織運営などに関する理論に加え、人工知能(AI)やネットワーク・テクノロジーに精通した人材の争奪戦に拍車がかかった。
ビジネスモデルの行き詰まりを鮮明に理解している
しかし、高い成長がいつまでも続くことは考えづらい。2021年の秋ごろから、徐々にメタをはじめとするIT有力企業の成長鈍化懸念は高まった。株価も下落し始めた。
2022年3月に連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを開始し、その後は急激に金融が引き締められた。世界全体で企業の資金調達などのコストも増加した。スタートアップ企業とGAFAなどの競争も激化した。SNSやサブスク型のビジネスモデルの優位性は行き詰まり、業績懸念は追加的に高まっている。
2023年2月には、ユーチューブのスーザン・ウォジスキーCEOの退任も発表された。ウォジスキー女史もベイン・アンド・カンパニーで経営コンサルタントとしてキャリアを積み、その上でグーグルに参画した。コンサルタントとして多くの企業を見てきた経験があるだけに、彼女らはビジネスモデルの行き詰まりをより鮮明に理解しているはずだ。
コンサル、会計監査需要は急速にしぼんでいる
コンサル業界だけでなく、米国では大手会計事務所のKPMGも2%程度の従業員(約700人)を削減すると報じられた。3月23日、リクルートホールディングスは2012年に買収した米インディードの従業員の15%を削減すると発表した。
リーマンショック後から2022年3月まで、世界全体で、超低金利環境の長期化観測は高まった。投資(投機)資金は成長期待の高いIT先端分野の株式などに流入した。高い成長は間違いないという過度な期待は一段と膨張した。そうした環境変化を追い風に、IT先端分野での起業は増えた。
コロナ禍の発生後は、カネ余りとデジタル化の加速期待に拍車がかかった。特別買収目的会社(SPAC)による買収を通した株式の公開によって資金を調達し、事業規模の拡大に取り組む企業は急増した。こうして、採用、コンサルティングや会計監査といったサービス需要も押し上げられた。
そうした強気な環境は急速にしぼんでいる。メタなどは追加リストラ策を発表した。IT先端企業などとの取引を強化した米欧金融機関のいくつかは破綻した。IT先端企業の成長を取り込んできたコンサル業界などでも、リストラの強化は避けられないだろう。
相次ぐリストラの背景にある「新たな成長機会」
しかし、すべての分野でコンサルティングの需要が減少しているわけではない。米国では、マイクロソフトなどが"チャットGPT"をはじめとする生成型のAIを用いた新しい広告サービスなどのビジネス創出に取り組んでいる。IBMは既存分野でリストラを進めつつAI関連の事業運営体制を強化している。
加えて、台湾問題の緊迫感は高まっている。世界の工場としての中国経済の成長鈍化懸念も上昇している。それらを背景に、世界全体でインドやASEAN地域の新興国、さらには企業の本国に近い場所に生産拠点などを移す動きも激化している。
世界規模で供給網の再編に取り組みつつ貿易管理体制を強化するためにも、企業はコンサルティング企業の助言を必要とする。コンサル業界でのリストラは、世界経済を支えたIT先端企業の成長性が鈍化し、新しい成長の機会が模索されていることの裏返しといえる。

 

●銀行危機の抑止に日本が堅持する公的資金の手段  4/20
リーマンショック時に巨大金融機関を公的に救済したことが国民の非難を浴び、先進諸国の金融規制改革で公的資金は封印された。
しかし今回、銀行破綻が金融危機に発展するのを防ぐため、アメリカでは金融機関に流動性を供給する緊急措置が講じられた。スイスはクレディ・スイスの救済合併に際し、流動性に政府保証を与えた。どちらも国民負担に直結するものではないが、公的資金の封印は揺らいだ。
金融規制改革において、とくに巨大金融機関の破綻処理については、株主および債権者による損失吸収が主軸とされた。それを大まかに整理したのが下図だ。
アメリカは公的資金の使用を禁じる。EU(欧州連合)は公的資金投入を例外として認めるが、株主・債権者の損失負担を条件とする。
一方、日本は国際機関からクギを刺されながらも、公的資金による資本増強と流動性供給の手段を堅持する。2008年のリーマンショックに先んじて、日本は1990年代後半に平成金融危機の辛酸をなめた。これらの制度は危機対応の迷走を経て手にした貴重なツールという位置づけなのだ。
日本でも当初、住宅金融専門会社の破綻処理への公的資金投入が国民の批判を浴び、公的資金はタブーとなった。しかし1997年秋に三洋証券破綻による短期資金のデフォルトが市場流動性を枯渇させ、金融機関が毎週破綻する事態に陥り、景気後退を招いた。翌年の日本長期信用銀行の破綻を機に大手行に公的資金が資本注入され、金融不安は十数年を経て収束した。
再建すれば返済できる
バブル崩壊以降の不良債権問題に端を発する平成金融危機を丹念に検証した著書『金融危機と倒産法制』を昨年出版した辻廣雅文・帝京大学教授は、「金融危機を抑え込むために公的資金は必要」との見解に行き着いた。
「問題のある個々の銀行の倒産が連鎖するのではなく、問題のある銀行も健全な銀行も乗っている金融システムというテーブルが揺れているときには、健全な銀行も倒れかねない。テーブルを安定させるために資本性資金を入れて銀行の健全性を裏打ちしなければ危機は収まらない」。
辻廣教授は、公的資金投入と株主・債権者負担の間に明確な線引きはできないとも指摘する。
1つには、公的資金を投入したとしても、結果として金融機関の経営が持ち直し、返済に至れば、国民負担は生じずに済むからだ。例として、2003年のりそな銀行への公的資本注入を挙げる。
2000年の預金保険法改正で危機対応手段は、対象銀行が資産超過の場合の資本増強、債務超過の場合の全額預金保護、さらに一時国有化の3つに整理された。りそな銀行はこれに沿って約3兆円の資本増強が施され、12年後に返済した。
さらに、国際的な金融規制改革の枠組みに沿って、大手を中心に広く金融業を対象とする2つの危機対応スキームが2013年に加わった。
危機に瀕した金融機関が資産超過であれば、預金保険機構が監視下に置き、流動性を供給しながら自力または第三者支援による再建を図る。債務超過の場合は、清算されると影響の大きい取引を事業譲渡などで保護する一方、金融機関は倒産法に基づいて清算される。
今回、経営危機に陥ったクレディ・スイスについて、野村資本市場研究所の小立敬・主任研究員はこんな視点を持つ。
「日本の制度によって対応したのなら、資産超過と思われるクレディ・スイスは、預金保険機構の監視下で、流動性供給を行いつつ事業の再構築を図ることができたのではないか」。うまくいけば、りそな銀行と同様、経営を立て直せるというわけだ。
逆に、公的資金を封印したとしても、結果的に税金が費やされる事態は起こりうる。
例えば今回、FRB(米連邦準備制度理事会)は金融機関に流動性を供給するため、貸し出しで担保に取る国債などを額面で評価する緊急措置を講じた。「もし担保価値が下がれば、実質的に国民負担が生じることになる」(辻廣教授)。金融機関が返済できなければ、元本と担保の差額がFRBの損失となり、国庫納付金が減るからだ。
早期介入は同じ
金融危機の教訓は、金融機関の経営悪化の内実をリアルタイムではつかめず、時間が経つほど悪化するため、早い段階で介入したほうが危機を防げることだ。
欧米当局は、金融機関が債務超過に陥るはるか手前で株主・債権者に対する債務カットに踏み切って財務を改善するスタンスだが、日本も資産超過の段階で公的資金を投じ、再建を図る手段を持っており、早期介入という点では相通ずる。
ただし、公的資金という“切り札”は「いざとなったら国が救ってくれる」とモラルハザードを招く面がある。市場規律を損ない、過剰なリスクテイクを促しかねない。だからこそ、平時には引っ込めておき、有事の際に素早く持ち出すほうがいいのかもしれないが、「切り札をすぐ使えるかどうか」は各国事情による。
瞬く間に預金が引き出されるデジタル取り付けが銀行破綻を引き起こしたように、新たな危機がどんな姿で到来するのかは読み切れない。日本は公的資金も駆使しつつ、事態に即して対応できるかどうかが問われる。
●迫る金融倒産連鎖、ついに日本へ飛び火の可能性… 4/20
シリコンバレー銀行にクレディ・スイス。これらの大手銀行が経営難に陥ったことにより、世界的な金融危機への不安が高まっている。この負の連鎖はいかにして発生し、私たちは現状をどう見るべきなのか。日本人が深く目を向けていない世界経済のいまを、経営コンサルタントの小宮一慶氏が解説する――。
世界中のどんな銀行もつぶれるおそれがある
いまの世界の金融界の関心事は「世界金融危機が起こるかどうか」です。このところ、少しその懸念が後退したので、株価も底堅い展開をしていますが、まだまだ油断は禁物です。この発端となったのは、3月10日の米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻。SVBが破綻した大きな原因は、米国の金利が急激に上昇したことで、運用している債券に多額の含み損が発生し、そのことに不安を感じた預金者が、一斉に預金を引き出す取り付け騒ぎを起こしたことにあります。
銀行は通常、ALM(Asset Liability Management)を行っています。これは、市場金利や為替の価格変動、流動性といったリスクとリターンを勘案しながら資産と負債を管理していくやり方です。ALMさえしっかりやっておけば、金利が上下したとしても、そこまで大きな影響を受けずに済むはずで、銀行経営の基本とも言えるマネジメント手法です。
しかし今回、SVBでは、このALMが不十分でした。景気の低迷により預金を債券運用に回す割合が増え、金利リスクを増大させてしまった上、金融当局からリスクを指摘されても迅速に対処できなかった。そんな中で金利が上昇し、保有債券の価格が下落したわけです。米連邦準備制度理事会(FRB)のマイケル・バー副議長は「明らかにひどいリスク管理だった」と批判しています。
ところで、銀行というのは、基本的にあまりお金を持っていません。これはどういうことかというと、銀行は主に貸出金利と調達金利の差から得られる「利ざや」で利益を得ていますが、この利ざやは1%あるかどうかです。優良企業への貸し出しなら0.25%やそれ以下ということもよくあります。つまり、かなり利益率が薄いんですね。そのため、少しでも多くの資金を運用に回そうとしているのです。
一方で、預金者の立場に立つと、当たり前の話ですが、預金者はいつでも自分の預金を引き出すことができます。たとえ定期預金であったとしても、預け入れ時点の利率より低い金利になることさえ我慢すれば、即日引き出しが可能です。逆に、貸し出しには期日があり、借り手はそれまでは返済義務はありません。ですから、もし預金者が一斉に預金を引き出そうとすれば、その引き出しに応じられるだけの十分な資金は銀行にはないので銀行はつぶれます。それは大手銀行であっても同じです。
金融界の名門、クレディ・スイスの買収額がたったの4300億円
怖いのは、どこかでこのような破綻が起これば、連鎖的に他の金融機関の倒産が起こるおそれがあるということです。この連鎖を止めるため、米財務省や米連邦預金保険公社(FDIC)、FRBはそれまで25万ドルを上限としていた預金保護について、今回のSVBなどの預金者に対しては、全額保護する措置を承認する声明を発出しました。これは預金者のためでもありますが、銀行の連鎖倒産を恐れている証拠でもあります。
前述のように、大手銀行も一気に預金を引き出されると、ひとたまりもありません。もし「あの銀行は危ないらしい」という噂が流れてしまい、一気に預金が引き出されてしまえば、たとえ、その噂が真実ではなかったとしても、銀行はつぶれます。そこで全額保護を表明して、国民に安心感を持ってもらうことで、他の銀行や金融システム全体を守っているのです。
米国は国を挙げて対策を打ちましたが、シリコンバレー銀行、続くシグネチャー銀行の経営破綻は、国を超えてスイスに飛び火しました。同国有数の大手銀行であるクレディ・スイスに経営破綻の懸念が生じ、同国のUBSに買収されることが決まりました。
クレディ・スイスは、世界有数の大手行としても存在感を示してきた銀行です。そんな銀行が潰れてしまうと、多方面に大きな影響を及ぼすことから、スイス当局は迅速にUBSに買収させました。その買収額は、日本円で約4300億円ほどと報じられており、クレディ・スイスほどの金融機関がそのような値段で売りに出されるのは異例中の異例です。それでもUBSは、当初1300億円程度での買収を提案したといい、よっぽど資産内容等が劣化していたものと思われます。
クレディ・スイスの行きづまりにより、同行が発行していた劣後債の一種である「AT1債」は無価値化されることが発表されました。AT1債の総発行高は約170億ドル、日本円にして2兆円を超えています。
この発表を受け、同じような劣後債を発行している銀行を不安視する向きが加速。そのため、ドイツ銀行などの株が大幅下落しました。預金者が重視するのは、銀行の名前ではなく安全性と利便性です。特に、もともと財務内容がよくない銀行においては、一たび経営不安の声がささやかれ出すと、一気に預金引き出しが起こる「取り付け騒ぎ」に発展するおそれがあります。
いつか見た風景…リーマン・ショックの1年前、人々にはほとんど危機感が無かった
もしこれ以上、危機が拡大していけば、目も当てられない状態になります。私自身は、リーマン・ショックよりも、今回の金融危機の方が危ない可能性もあると思っています。というのも、リーマン・ショックで経営危機に陥ったのは投資銀行が中心でしたが、今回はさらに国民生活に身近で、企業への貸し出しも多く行っている銀行が舞台になっているわけですから。
ですが一般の人には、危機感はありませんよね。クレディ・スイスが経営破綻しても、日本人はやれWBCだ、やれ春が来ただのと浮かれていました。これはリーマン・ショック前にも見た光景です。2008年9月にリーマン・ショックが起こる前の2007年8月、フランスの大手銀行であるBNPパリバの投資子会社が破綻するということがありました。米国で比較的所得が低い人向けの住宅ローンであるサブプライムローンが開発され、それを束ねた証券化商品をパリバの子会社が大量に保有しており、その価格が急落したのです。いわゆる「パリバ・ショック」です。
パリバ・ショックを受け、その直後から社債を発行できない企業が増えたり、米大手証券会社のベアー・スターンズが経営危機に陥ったりと、金融市場は大混乱に陥りました。ですが一般の人たちには、それほどの危機感がありませんでした。一般の人たちだけではなく、日本企業の経営者にも危機感は薄かった。それがリーマン・ブラザーズが破綻して、ようやく事の重大さに気づいたんです。
今後、金融機関の破綻ドミノが続けば、各国の銀行が自分たちを守るため、急激に融資を削る可能性もあります。そこまでいけば、実体経済にもとても大きな影響が出てきますが、そうならなければ多くの日本人は危機に気づかないのだろうと思います。
もちろんいま、各国の中央銀行は世界金融危機を引き起こさないよう、さまざまな手を打っています。たとえば現状でも多額のドル資金を市場に流していますが、これもリーマン・ショック前と全く同じ図式です。
金融危機は「対岸の火事」ではない…ネット時代には一瞬で銀行からお金が消える
このような流れの中で、いま日本の銀行については「欧米の銀行よりも安全」だとみなされています。日本も、金利を上げると金融機関の持つ国債などの債券の含み損が増える構造は変わりませんが、金利の上昇幅も小さく、かつ日本の国債はその9割が日本国内で消化されていることもあり、そこまで不安視はされていません。
そのため、いまは円が買われている状況ですが、これは一時的なものだと言えるでしょう。たとえば、普段立派な鉄筋の家に住んでいる人でも、家で火災が起こってしまったら、一時的に安普請の木造の家に住むことだってありますよね。鉄筋の家は欧米経済で、木造の家は日本経済です。円が買われているのも、それと同じ論理で、あくまで短期的な円高だと思います。
振り返ってみれば、2009年に発生したギリシャ危機の際には、日本円は80円台になるまで買われました。それが、いまは円が買われたと言っても、130円程度です。この50円の差が、日本の国力低下を端的に表しています。 GDPがほとんど伸びず、財政赤字が膨らみ、これから人口減少が進むことが確実な日本の、10年以上前とは異なる現実なのです。
金融危機についても「日本の銀行には関係ない」と楽観視するのではなく、世界中の経済はつながっているという認識と危機感は、持っておいた方がいいでしょう。
10年前と比べて、ネットバンキングは発達しています。かつては預金を引き出すには、銀行まで出向いてATMなり窓口なりに並ぶ必要がありましたし、夜は支店を閉めてしまえばよかった。銀行はその間に時間を稼げました。ところがいまは「危ない」と思ったら、一瞬の間にお金を引き出すことができます。「絶対に安全な銀行」なんてないんです。
金融危機を回避できれば、日本経済にも明るい見通しが
しかし、この金融危機を回避できれば、米国や欧州も落ちついていくはずです。米連邦公開市場委員会(FOMC)は3月21・22日に開催した定例会合で、0.25%の利上げを決定しました。これは日本経済新聞も報じていた通り、苦渋の決断だったと言えます。金融不安から利上げをやめる選択肢も検討したでしょうが、インフレ率は2月の段階で6%と、目標としている2%から見ればまだ高い状態。利上げをせざるを得ないと判断したとみられます。
ただアメリカのインフレも、もうピークはすぎました。あと1回ほど0.25%の利上げはあるかもしれませんが、金融危機さえ起こらなければ、アメリカ経済が軟着陸できる可能性は十分あります。
加えて、中国も不動産バブルが崩壊しなければ、新型コロナウイルスの感染拡大の混乱から復活して底堅い動きを見せるはずです。中国経済の復活は日本経済にとっても明るい材料です。さらに、早ければ間もなく、日本へのインバウンド観光客も戻ってくると思います。
そのような状況なので、日本経済の行方は「金融危機が起こるかどうかに大きく左右される」と言えます。世界的な金融危機の懸念から米長期金利も弱含みで、日銀が金利を引き上げることは当面難しくなりました。長期的には金利を上げて金融を正常化させる必要はありますが、少なくともそれは、いまではありません。その前に、金融危機が起こらないことを心より祈るばかりです。
●BofAとモルガン・スタンレーも追随、SVB破綻後の起債で 4/20
バンク・オブ・アメリカ(BofA)とモルガン・スタンレーは19日、両行合わせて160億ドル(約2兆1500億円)相当の投資適格級債を売り出した。シリコンバレー銀行(SVB)の破綻後に起債した米大手金融機関としてはウェルズ・ファーゴに続く。
ウェルズ・ファーゴ、大手米銀でSVB破綻後初の起債−5000億円相当
事情に詳しい関係者によれば、BofAは2本建てで85億ドルを起債。このうち償還期限11年物の利回りは米国債を168ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上回るという。詳細が部外秘だとして同関係者が匿名で明らかにした。
またモルガン・スタンレーは75億ドル相当を3本建てで売り出しており、償還期限が最も長いのは11年物だと、別の関係者が語った。
シュローダーズの米債券商品管理責任者、デービッド・ナットソン氏は大手銀の債券は景気減速へのエクスポージャーが恐らく低いとして、起債では「健全な需要」を集める可能性が高いと指摘。ブルームバーグがまとめたデータによれば、18日の金融機関の社債スプレッドは平均154bpと、より広範な高利回り債のスプレッドを約22bp上回った。
ナットソン氏は「最近の金融システムを巡る問題は金融危機時とは正反対のものだったと市場は気づきつつある」と述べ、「当時は大手銀行が問題だったが、今の問題は小規模な銀行だ」と続けた。
●原油、需要減退で価格急落の兆候…金融危機が本格化 4/20
米WTI原油先物価格はこのところ1バレル=80ドル前後で推移している。OPEC主要加盟国の4月2日の発表(5月から年末まで自主的に追加減産を行う)が原油価格を下支えしている。個別にみると、サウジアラビアが日量50万バレル、イラクが21万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)が14万バレル、クウエートが13万バレルそれぞれ減産する。トータルの減産量は116万バレルに達する見込みだ(世界の原油供給量の1%分に相当)。
市場関係者は「OPECプラスは昨年11月から実施している日量200万バレルの減産を維持する」と当然視していたため、この決定はサプライズだった。不意を突かれたことが原油価格の急上昇につながったわけだが、足元の原油市場の状況はどうなっているのだろうか。OPECの3月の原油生産量は前月比7万バレル減の日量2890万バレルだった。OPECの生産量が目標に達しない状態が続いており、3月の遵守率は2月の169%から173%に上昇した。今回の減産決定は実際の生産量に近づけたにすぎず、市場へのインパクトはほとんどないといっても過言ではない。OPECの自主減産の発表後にロシア産原油の価格も1バレル=60ドルを超える水準に上昇し、輸出量もウクライナ侵攻前の水準に戻っている。
世界最大の産油国となった米国の生産量は日量1200万バレル強の水準を維持しているが、注目すべきは輸出量の増加だ。米エネルギー省は3月30日、「昨年の米国の原油輸出量は前年比22%増の日量360万バレルに達し、過去最高となった」と発表した。昨年の欧州連合(EU)への原油輸出で米国が首位に浮上し、ロシア産原油の穴を埋めている。
米中の製造業が苦境
供給サイドが比較的堅調なのに対し、需要サイドはどうだろうか。ゼロコロナ政策を解除した中国の原油需要が拡大することが期待されている。中国の3月の原油輸入量は前年比22.5%増の日量1230万バレルとなった。2020年6月以来の高水準だが、石油製品の輸出需要に牽引された形となっており、国内の需要がそれほど伸びているわけではない。製造業と自動車販売が低迷しており、「中国の原油需要のV字回復は見込めない」との見方が有力となりつつある。
世界最大の原油需要国である米国の製造業も苦境に陥っている。米サプライマネジメント協会(ISM)が4月3日に発表した3月の米製造業景況感指数は前月から1.4ポイント低い46.3だった。好不況の節目である50を5カ月連続で下回った。米中両大国の製造業の不振は世界の原油需要にとってマイナスだといわざるを得ない。OPECはこれまで世界の原油需要に対して強気の姿勢をとってきたが、4月13日に公表した月報のトーンは下がり気味だ。「米国では毎年夏のドライブシーズンに輸送燃料の需要が伸びるが、金融引き締めのせいで経済が弱含めば、季節的な力を一部相殺される恐れがある。世界経済についても高インフレや金融引き締め、金融市場の安定、債務水準といった潜在的課題がある」といった内容だ。最近の米国発の金融不安などの影響に触れた形だが、緊急避難的な減産に踏み切ったOPECの苦しい胸の内が垣間見える。
金融不安といえば、2008年9月に起きたリーマンショックが想起される。金融危機で市場のセンチメントが急速に悪化したのにもかかわらず、OPECは減産などの緊急措置を講じなかったことから、原油価格は半年後に1バレル=30ドル台にまで急落したという苦い経験がある。原油価格は3月中旬、1バレル=65ドルを割り込んでおり、サウジアラビアをはじめOPECの首脳たちは「2度と同じ失敗を繰り返してはならない」との思いがあったとしても不思議ではないだろう。
OPECプラスは大規模な減産か
「今回の決定で第2四半期の世界の原油市場は供給不足となり、原油価格は1バレル=100ドルを超える」の声が出ているが、はたしてそうだろうか。筆者は「金融不安はこれから本格化し、原油価格は急落する」と考えている。市場関係者の注目は銀行の融資先に向かいつつあるからだ。
足元で槍玉に上がっているのは商業用不動産だ。引き締めの影響に加え、新型コロナのパンデミックで普及した在宅勤務のせいで空室率が急上昇していることが悪材料となっている。住宅用不動産市場も「バブル崩壊は時間の問題だ」との声が聞こえてくる。中国でも人口減少が激しい地方都市で不動産価格の下落圧力が強まっており、中小銀行の連鎖破綻が懸念されている(4月4日付日本経済新聞)。
「今回の危機の震源地は中小銀行とノンバンクだ」と筆者はみている。中小銀行やノンバンクが破綻しても、リーマンショックのような金融危機は起きないが、マネーが急激に収縮し、世界経済全体が深刻な資産デフレに陥るリスクがある。バブル崩壊後の日本のようにデフレは原油需要を急減させる効果をもたらすことから、OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)は再び大規模な減産を実施せざるを得なくなるのではないだろうか。 

 

●米銀行業界混乱、危機との表現は「強過ぎ」−BofAのモイニハン氏 4/21
金融機関が負担する預金保険は「かなりうまく機能した」
BofA、ファースト・リパブリックを支援した大手行の一つ
米銀バンク・オブ・アメリカ(BofA)のブライアン・モイニハン最高経営責任者(CEO)は20日、米地銀が最近見舞われた混乱は危機的なレベルではなかったと述べるとともに、金融機関が負担する預金保険は顧客保護に役立ったとの認識を示した。
ニューヨークで開催されたブルームバーグのイベント「セルサイド・リーダーズ・フォーラム」でモイニハン氏は「ここ数週間に相当な混乱があった」としつつも、「危機という表現は強過ぎる」と語った。
預金保険については「かなりうまく機能した。業界が保険料を負担しており、われわれは自分たちに保険をかけている。政府は、預金保険があることを人々に理解させる仲介役で、人々はわれわれから資金を取り返せる」と述べた。
BofAは、シリコンバレー銀行(SVB)破綻をきっかけにパニックに直面したファースト・リパブリック・バンクを計300億ドル(約4兆円)の預金預け入れで支援した米銀11行の一つ。BofAは、各行がファースト・リパブリックに資金を少なくとも120日間預けるこの取り組みに50億ドルを提供した。
モイニハン氏はこの措置を巡り「流動性の提供が目的だった。流動性が問題だったためだ」と説明した。
政府の預金保険手続きの変更については、1930年代から実施され、かなりうまく機能してきた制度だけに「慎重に対処する必要がある」との考えを示した。
●米銀行業界混乱、危機との表現は「強過ぎ」−BofAのモイニハン氏 4/21
米銀バンク・オブ・アメリカ(BofA)のブライアン・モイニハン最高経営責任者(CEO)は20日、米地銀が最近見舞われた混乱は危機的なレベルではなかったと述べるとともに、金融機関が負担する預金保険は顧客保護に役立ったとの認識を示した。
ニューヨークで開催されたブルームバーグのイベント「セルサイド・リーダーズ・フォーラム」でモイニハン氏は「ここ数週間に相当な混乱があった」としつつも、「危機という表現は強過ぎる」と語った。
預金保険については「かなりうまく機能した。業界が保険料を負担しており、われわれは自分たちに保険をかけている。政府は、預金保険があることを人々に理解させる仲介役で、人々はわれわれから資金を取り返せる」と述べた。
BofAは、シリコンバレー銀行(SVB)破綻をきっかけにパニックに直面したファースト・リパブリック・バンクを計300億ドル(約4兆円)の預金預け入れで支援した米銀11行の一つ。BofAは、各行がファースト・リパブリックに資金を少なくとも120日間預けるこの取り組みに50億ドルを提供した。
モイニハン氏はこの措置を巡り「流動性の提供が目的だった。流動性が問題だったためだ」と説明した。
政府の預金保険手続きの変更については、1930年代から実施され、かなりうまく機能してきた制度だけに「慎重に対処する必要がある」との考えを示した。
●中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定 4/21
中国のGDPが米国を超える日は来るのだろうか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離する。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度しかないという研究結果もある。中国経済は10年後には弱体化しているのではないか」という――。
香港株は2018年の高値から56%も下落
近年、中国の経済成長のほとんどは不動産投資、インフラ投資によるものであった。しかし昨今、投下された資本効率が低くなっていた。アウトプットを出すためには、さらにインプットをしなければ成長は望めない。それが叶わなくなっていた。
不動産バブルが崩壊し、中国の景気が悪くなるということは、世界のマーケット関係者には周知の事実である。だから、香港株は2018年の高値から56%も下落しているのだ。
金融危機の定義を数字で表すならば、指数が高値の半値になるレベルということができる。すでに香港株は半値以下になっているので、金融危機に突入していると言っても過言ではないのである。
ライトの使用量と経済発展レベルに齟齬
もう一つ、経済の実態について紹介したい。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度に留まるということを、皆さんはご存じだろうか。
その見方を示したのは、シカゴ大学の研究だ。
最近IMF(国際通貨基金)や世界銀行も似たようなアプローチをとり始めているが、各国の経済成長を人工衛星から入手した夜のライト(明かり)量で比べて抽出したもので、過去の映像と当時の各国の経済力を比較した研究結果が2022年11月、『TIME』誌に掲載された。
中国のような独裁国家は、ライトの使用量のレベルと経済発展のレベルに大きな齟齬そごが見られることが判明した。
研究結果として得られた結論は、中国のGDPについては政府当局発表の6割でしかないとする衝撃的なものだった。
独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離
この研究結果を見ると、きわめて興味深い事実が浮かび上がってくる。
欧米日などいわゆる先進国、あるいは自由主義国家の数字を見ると、「夜のライト量で割り出したGDP」と「当局から報告されたGDP」はほとんど乖離かいりしていない。
これが、部分的にしか自由がない国々、民主主義を敷いてはいるがさまざまな問題を孕はらむ国々になるとどうなるか。
レバノン、メキシコ、コロンビア、ナイジェリア、フィリピン等々は、「夜のライト量で割り出したGDP」よりも「当局から報告されたGDP」のほうが高い数値になっている。
さらに完璧なる独裁専制国家を見てみると、その乖離がひどくなっており、中国、エチオピアなどはその最たるものであることがわかった。
「中国がGDPで米国を抜く」は空論
この事実を鑑かんがみると、中国がGDPで米国を抜く、凌駕りょうがするという説は空論であると考えるほかない。
中国経済はあと10年、15年後には弱体化することを、中国自身もわかっているのだろう。
バブル崩壊後の日本のように、活力を失い、国力も沈んでいくと意識しているのかもしれない。
次に社会問題である。深刻なのは食料に関わることである。
一般的な中国人の食生活に不可欠な食材は、大豆とトウモロコシと豚肉と言われている。
大豆とトウモロコシは豚の飼料になるので、大げさに言えば、中国人とは三位一体の関係を成す。
こうした食料はコモディティ相場と切っても切れないものなのだけれど、大変興味深い現象が見られる。トウモロコシ価格が上がった年には、肉の価格が下がることが多いのである。
特に牛肉の場合は顕著なのだ。
2023年の牛肉価格は上昇
なぜか。本当は来年まで育てて大きくしてから売るつもりであった牛まで、と殺さつして売ってしまう傾向が強くなるからである。
だから、トウモロコシ価格の高かった年には牛肉価格は下落し、その翌年は市場に出回る牛肉自体が減るため、価格は急騰することになる。
2022年夏のトウモロコシ価格はかなり高かったことから、おそらく2023年の牛肉価格は上昇するものと私は予測している。
牛肉市場をウォッチするには、米国シカゴ市場の素牛(フィーダーキャトル)先物市場が適していると思う。
「もっと自由を!」「飯を食わせろ!」
これらは牛肉市場の話だが、流れ的には豚肉も大差がない。
こういうサイクルは、農作物についてもよくあることで、その年の価格が上がっていたら、翌年はまったく振るわない。
と思ったら、その翌年は急騰したりする。
要は、農業従事者が相場を見ながら“生産調整”するわけである。
その意味で、中国は豚肉、大豆、その他もろもろの作物が不作となり、食料危機に発展する火種を常時秘めている。
すでに一部の作物については価格が急騰しているので、その不満が各地で発生するデモの要因になっている可能性もある。
2022年12月に起きた「白紙デモ」のとき、掲げられたのは白紙だけではなかった。
白紙に紛れて「もっと自由を!」、そして「飯を食わせろ!」と書かれたものもあったのだ。
中国・ロシア・イランを苦しめる食料インフレ
余談になるが、他国に目を転じると、ここのところスリランカ、イランなどでも大型デモが起きている。その要因は当然ながら、食料インフレがあまりにも厳しいからだろう。
権威主義陣営である中国、ロシア、イランなどでは早くも食料危機が訪れているのではないか。そんな印象を私は抱いている。
ここをどう乗り越えるのか。いまのところ、中国を初めとした権威主義国家は、国民の怒りをガス抜きする政策によって乗り越えようとしているように映る。
だが、これは本来の権威主義陣営の“流儀”ではない。逆だ。
イランなどは拒否しているけれど、権威主義陣営ではモラル警察を廃止することをチラつかせたりしており、行き詰まり感を垣間見せている。
それらの原因をつくったメインは、やはり食料インフレだと思う。
国民にとって、食えなくなること以上の苦しみはない。
他の自由や人権については我慢できるけれど、飢えだけはどうもならない。
今後、中国などでは社会不安が高まっていく可能性がある。
中国は米国に弱みを握られている
そしてこの食料問題に関し、中国は米国に弱みを握られている。
中国は農産物を毎年、米国から相当量輸入している。
中国は経済安保上、相手陣営に強く依存したくないはずで、本音では米国からはあまり買いたくないだろう。しかし、背に腹は代えられない状況になっている。
米中関税合戦は中国国民を苦しめる
米国は中国からアパレル、家電、雑貨、家具、アセンブリー部品などを輸入している。
その逆の、中国が米国から輸入する品目のほとんどは、食料(農作物、肉類、酒類)なのである。
そして、トランプ政権時代から米国は中国製品や品目に対して高関税をかけるようになった。そこで、中国も米国の高関税に対抗して、同程度の関税を輸入品にかけると宣言し、実行した。
しかし、両国の事情は大きく異なっていた。
先に述べたように、中国が米国から輸入する品目のほとんどは食料である。これに高関税をかけてしまい、最終的には消費者である中国国民を苦しめることになったのである。
ただ、米国民も高関税分のコストを引き受けなければならないので、お互い様と言えないこともない。
そこで米国は輸入物価を下げるため、意図的に“ドル高”に持っていった。中国が20%の追加関税分を20%のドル高で“相殺”したわけである。
だが、中国は米国と同様の手は使えない。
知ってのとおり、このところどんどん人民元レートが下落している。輸入はできるものの、輸入価格はドルベースで高くなったし、さらに米国への報復措置としてかけた追加関税分が上乗せされている。
中国国民からすれば、報復関税が痛みとなって刺さってきたのだ。
こうした措置を、バイデン政権が撤廃するかもしれないと、中国側は期待を抱いていた。だが、それは見事に裏切られ、今日に至っている。 
●金利が魅力的なMMFに、銀行の預金が流れ込み、地銀・大手銀行にダメージ 4/21
中長期で大手銀行にダメージを与える、地銀から大手銀行ではない、預金の大きな流れとは? 
前回、銀行株投資は大儲けできる場合もあるけれど、個人投資家にはハードルが高めで、長期投資には向かないことを教えてくれたポールさん。そして、長期投資に向いているセクターや銘柄を、リスクをあまり取らない場合と、ある程度リスクを取る場合に分けて、オススメしてくれた。
今回は、米大手銀行の決算に注目。SVB(シリコンバレー銀行)破綻をきっかけに、地銀から大手銀行に預金が流れたこともあり、大手銀行の決算はそこまで悪くなかったものの、中長期で、地銀だけでなく大手銀行にダメージを与える、別の預金の大きな流れがあるとのことなので、さっそくチェックしていこう。
アメリカ人にとって、日本のものは信じられないほど安いうえに、質も高い
番組冒頭、アシスタントの木村カレンさんに、シアトルから日本を経由して、台湾に最近帰った話を振られたポールさん。
わざわざ日本を経由した理由は、JALに乗りたかったからだそうだが、羽田空港でポールさんが驚いたのは、入国審査の列に1時間かかるくらい、空港が混んでいたこと。
コロナが落ち着き、入国規制が緩和されたことで、インバウンド(訪日外国人旅行)が復活。ポールさんの感覚では、今回のインバウンドは前回と違って、アメリカ人が多いようだ。
今回のインバウンドで、アメリカ人が多いのはなぜか。それは日本とアメリカの強烈な物価の違いにあると、ポールさんは考えている。
日本はずっと円安、デフレだった一方、米国はずっと米ドル高、インフレだったことで、日本とアメリカの物価の差がかなり激しくなっているというのだ。
例えば、アメリカでランチを食べると、ウェイターがいて座って食べられるところなら、高級店でなくても18ドル、チップ入れると20ドルを超えてきて、日本円に換算すると2500円から3000円ほどかかる計算になる。
けれど、日本では1000円以下のランチや、500円弁当もあるうえに、クオリティもかなりいいとのこと。
つまり、アメリカ人にとって、日本のものは信じられないほど安いうえに、質も高いと感じられるようだ。
台湾は、中国の脅威を感じながら生活しているわけではなく、普通に生活している
そんな日本を経由して、3年ぶりに台湾に帰ったポールさん。
お墓参りをしたり、親戚や友人と再会したり、実家のリフォームの様子を見に行ったりしたそうだが、ここで、スタジオMCの渡部一実さんから、台湾有事に関連する質問が飛ぶ。
台湾有事に備えて日本は軍備を増強しているが、台湾の現地で中国の脅威を感じたか、との問いに、台湾有事はそこまで話題になっていなかったとポールさんは答えた。
韓国は、北朝鮮とわずかな距離しかないけれど、普通に生活しているように、台湾も、中国の脅威を感じながら生活しているわけではなく、中国は実際には攻めてこないのではないかという見方も結構あるとのことだった。
5月のFOMCで利上げが終わると考えられる背景には、金融システム不安とインフレ緩和がある
続いては、相場の話題に。
米雇用統計、米CPI(消費者物価指数)、米PPI(卸売物価指数)の結果が出て、インフレは落ち着いているものの、雇用はそれなりに強いという状況のなか、5月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%利上げして、利上げは終わり、年内に利下げ、という見方について聞かれたポールさん。
5月のFOMCで利上げが終わると考えらえるのは、SVB破綻などで金融システムが不安になったから、とポールさんは指摘する。
さらに利上げしてしまうと、金融システムがさらに問題になり、それをFRB(米連邦準備制度理事会)が望んでいないため、利上げは終わると市場は考えているそうだ。
そして、インフレを見てみると、米CPIは12カ月で年率5%の上昇だったが、去年(2022年)7月から今年(2023年)2月の8カ月だと、2.2%の上昇、年率は3.3%で、インフレが緩和してきていることがわかるという。FRBのインフレ目標である2%と、8カ月の数字がそんなに遠くないことも、FRBがさらに利上げしないと考えられる理由だと、ポールさんは解説した。
「HOPE」で景気を見ると、Employmentで問題が出始めた
また、ポールさんは景気を「HOPE(※)」で見るのだが、Housing、Order、Profitは緩やかな鈍化で、大きな下落はなかったものの、Employmentで問題が出始めたという。
(※「HOPE」の「H」は住宅の「Housing」、「O」は受注の「Order」、「P」は利益の「Profit」、「E」は雇用の「Employment」で、それぞれの頭文字をとったもの)
アメリカで最近、マッキンゼーやベインという有名な戦略コンサルティング会社が、新卒採用者の入社を1年間先送りする代わりに、語学などの勉学を援助する提案をした、というニュースがあったそう。
コンサル会社はいろんな業界にかかわっていることから、景気弱体化の影響を受けやすく、その雇用に問題が出始めたということも、FOMCの利上げが終わると考えられる理由につながっているのかもしれない。
今回の大手銀行の決算で確認できたのは、SVB問題によるパニックの状態から、少し回復してきたことだけ。銀行セクターが上に向くわけではない
そうした景気認識を踏まえて、今回注目されているのは銀行の決算だと、渡部さんはコメント。
大手銀行であるJPモルガン、バンカメ(バンク・オブ・アメリカ)、ゴールドマン・サックスの決算は、そんなに悪いわけではなく、SVB問題は大手銀行にとって短期的にはよかったのか、とポールさんに質問した。
SVB問題で、地銀から大手銀行に預金が流れたため、大手銀行にとってはプラスで、地銀は弱くなったことが決算で確認できたとポールさん。そして、それはアメリカ経済全体にとって悪いことだという。
地銀には、地元の地域に貸し出しすることで、地域を活性化させる役割があるのだが、アメリカで地域といっても場所は大きく、カリフォルニアやワシントンなど州全体の貸し出しが鈍化するため、経済全体に影響が出るという。
そして、そのしわ寄せはいつか大手銀行にも来るとのこと。
つまり、今回の決算で確認できたのは、SVB問題によるパニックの状態から、少し回復してきたことだけであり、ポールさんが言いたいのは、SVB問題の影響すべてが見えてきたわけではなく、銀行セクターが上に向くわけでもない、ということなのだ。
銀行の預金がMMFへ流れ込み、地銀だけでなく大手銀行にもダメージを与えている
SVB問題で、地銀から大手銀行に預金が流れたのは確かなのだが、その流れとは別の、預金の大きな流れがあるとポールさんは指摘する。
その流れの行先というのが、MMF(マネーマーケットファンド、市場金利連動型投資信託)だ。
MMFへの投資リスクはゼロに近く、利回りが4.5%を超えるのが魅力的で、MMF全体の総資産は過去最高水準にある。
記者のイメージでは、5月のFOMCで0.25%利上げされれば、FFレートの上限は5.25%にもなるのだから、アメリカの銀行口座で預金すれば、5.25%までいかないにしても、利息はそれなりにありそうなもの。
けれど、ポールさんいわく、アメリカの銀行が預金に対して払っている利息はかなり低く、銀行全体では2%台とのことだった。
これには渡部さんも、銀行に預金を置いても1%とかしかつかないんだったら、銀行から預金が流出して、MMFに流れ込んでしまうと納得の様子。
つまり、銀行の預金がMMFに流れるということには、地銀だけでなく大手銀行も無関係ではいられず、金融大手でも預金が流出した例として、ポールさんが挙げたのがチャールズ・シュワブだ。預金流出を嫌気して下落した株価は、流出前の水準に戻っていない。
チャールズ・シュワブをはじめ、預金流出の第一波目を耐えることができたところはあるが、小さい波は引き続き来ているとポールさん。
預金の流出は、利息を引き上げないと止まらず、利息を引き上げると、銀行の利益が圧縮されるため、中長期的にダメージが続くということのようだ。
ただ、FRBの利上げが止まり、利下げに転じれば、この問題は解消されるため、銀行株投資をするなら、タイミングを見極めなければならないとのこと。
FRBも、インフレと銀行セクターの健全性のバランスを見ながら、かじ取りをしているのだとポールさんは語った。
商業用不動産の株は安くなっているが、避けたほうがよい
最後は、商業用不動産の話題に。
銀行の決算を見ると、住宅ローンが売れなくなっていて、商業用不動産や不動産業界は、金利や銀行と密接なことから、先行きがどうなっていくのか、渡部さんは気になるようだ。
ポールさんによると、商業用不動産は、大手銀行より地銀のほうが4.4倍持っていて、商業用不動産ローンの80%は、資産が2500億ドル以下の銀行が持っているとのこと。不動産は地域に密接するものなので、地銀のほうがたくさん持っているということのようだ。
そんな商業用不動産は、コロナで人がオフィスに戻らないため、あまりよくないそう。借り換えの時期も来ていて、金利が上昇して6%台になったため、返済が少し苦しく、不良債権がたくさん出ると問題にもなるとのこと。商業用不動産の株は安くなっているが、これらの理由から避けたほうがよいかもしれないと教えてくれた。 

 

●金融不安が収まったとは、とてもまだ言えない 4/22
表面上、風景は随分変わりました。欧州の巨大銀行クレディ・スイスが、UBSに救済買収される形で実質的に破綻してから、1か月が経ちました。この1か月間、アメリカの地方銀行にも、欧州の大銀行にも、新たな破綻は生じませんでした。アメリカの当局が、破綻の連鎖を断ち切るために大量の流動性供給を行ったことが功を奏しました。世界の株価も比較的堅調で、金融市場は落ち着きを取り戻したようにも見えます。しかし、これで金融不安が収まったと見るのは、早計です。
米地銀とクレディ・スイスに共通項なし
目の前にある事実は2つです。破綻したのが、アメリカの2つの地方銀行(シリコンバレー銀行とシグニチャー銀行)と、地理的に遥かに離れたクレディ・スイスだったこと。
そして、いずれの銀行破綻も急激な預金の流出が引き金になったことです。逆に言えば、米地銀とクレディ・スイスの間には、それ以外の共通点が見つからないことに、むしろ不気味さを感じてしまうのです。
確かに、今回の金融不安の扉を開いた、アメリカの2つの地方銀行には、米当局が強調するように「固有の事情」がありました。
預金保険対象外の預金の比率が異常なほど高かったこと、国債投資のリスク管理に問題があったことは事実です。
また、クレディ・スイスには相次ぐ不祥事や経営の不透明性など、市場につけ込まれる素地がありました。
しかし、こうした「固有の事情」だけで、破綻したわけではありません。破綻につながる「環境」があったからこそ、現実化したのです。
今後も高まることが予想される信用リスク
例えば、各国の利上げによって金利が急上昇し、これまで安全とされてきた国債に膨大な評価損が生じていることは、程度の差こそあれ、どの銀行にも当てはまります。
そしてインフレがなかなか収まらないために、利上げはまだ続きそうです。金利高は債券の評価損だけでなく、信用リスクをさらに高める方向に作用するでしょう。
また、利上げの影響で景気そのものが減速、悪化しているのですから、銀行にとって、貸出先のリスクは高まっているのです。すでにアメリカの大手銀行も貸倒引当金を厚めに積み始めています。
さらに、今回の金融不安を機に、銀行は貸し出しを、急速に厳格化させています。アメリカの4大商業銀行の1-3月期の決算によれば、融資残高の合計は2年ぶりに前期末を下回ったということです。
すでに「貸し剥がし」が始まったとも伝えられており、「カネ回り」は確実に悪くなっています。
一方、欧州に目を転じれば、クレディ・スイスの他にも、大手銀行の経営の健全性に疑問が投げかけられるという構図そのものは、依然として変わっていません。
クレディ・スイスの実質破綻では、発行していたAT1債は無価値になりましたが、多くの欧州の銀行は大量のAT1債を発行しています。こうした銀行は、引き続き市場で注目されることでしょう。
本格的SNS時代初の銀行破綻
今回の破綻劇は、本格的なSNS時代になって初めてと言える金融破綻でした。その預金流出の速さと量の凄まじさは、想像を絶するものでした。
アメリカの金融当局がシリコンバレー銀行の異変に気づいた時には、営業停止を言い渡す以外、成す術がありませんでした。
大手のクレディ・スイスに至っては、1日1兆円以上の預金が流出したとされています。
「危ないらしいという情報」が、瞬く間に「拡散」し、直ちにデジタルで「預金が流出する」という、いわば「サイバー取り付け」が起きていたのです。
かつての金融危機では、「あの銀行が危ない」といった噂が特定の地域で広まることから始まるというケースがほとんどでした。
特定の支店に預金引き出しを求める行列ができ、それが徐々に広がって、危機が本物になるというパターンです。
だからこそ、90年代の日本の金融危機の際にも、そうした行列の取材に際しては、最大限の神経を使ったものです。
また、危機を抑えようとする当局や銀行の側も、大量の現金を運び込み、敢えて札束の山をカウンター越しの見える場所に置いて、顧客の不安心理を鎮静化させようとしたものです。
しかし、今の時代の「サイバー取り付け」には、もはや、そんな時間的余裕はありません。
危ない銀行があるらしいという心理は、カリフォルニアから一気にスイスまで飛び火する時代なのです。
利上げ局面では必ず「危機」発生
歴史的には、アメリカの金利引き上げ局面では必ずと言っていいほど危機が発生しています。
今回も、危機が起きるとしたら、シャドーバンク(影の銀行)だろうか、新興国だろうかと、専門家たちは様々な推論をしていました。
しかし、実際に危機に見舞われたのは、本家本元であるアメリカの銀行であり、欧州の名門銀行でした。これはとても重い事実です。
利上げの終着点に未だ至らず、インフレや需給の調整も終わっていないのに、わずか1か月の表面上の静けさで、「これで終わった」と思って良い訳がありません。

 

●アメリカの商業用不動産への懸念。景気後退か? 4/23
次に訪れる金融市場の不安は商業用不動産だと言われています。市場は今、不動産に対して厳しい目を向けていて、不動産会社の株価はかなり下がっています。単に不動産だけの問題というわけではなく、そこには銀行の問題も深く関わっています。銀行と不動産、そして金融市場全体がどうなっていくのか考えてみたいと思います。
商業用不動産が不安視されるワケ
不動産は基本的にはお金を借りて投資をするもので、その返済期限が来ると新たに融資を受けることになります。しかし、銀行が次の融資を行わないのではないかという不安が高まっているのです。そこにはSVB(シリコンバレー銀行)の破綻が大きく影響しています。
   SVB破綻
SVBの破綻の原因は、長期金利の上昇によって米国債が下がり含み損が増え、危機感を持った預金者が大量に預金を引き出して取り付け騒ぎが起こったことです。財務に問題は無かったとしても、手元に現金が無ければ簡単に倒産してしまうということを如実に示してしまいました。逆に、多少財務に問題があっても現金さえあれば倒産はしないということであり、今、銀行はとにかく現金の流出を防ぎたいという状況です。
   空室率上昇
商業用不動産向けの融資を行うのは中小銀行が中心です。これまでは、不動産という担保があれば比較的簡単に融資していたものと思われます。しかし、この不動産に問題が発生しています。マンハッタンの空室率が22%にもなっているのです。特に空室率が上昇しているのがコロナショック後で、リモートワークが進展したことによるものです。ニューヨークのオフィスの賃料は当然高く、社員はリモートワークなのに高い賃料を払う必要はないということでオフィスを返上してしまっているのです。供給量は増えているのに需要が追い付いていない状況です。また、インフレに合わせて賃料も上がっていて、空室率の上昇に拍車がかかっています。空室率が上がっている不動産事業者に対して、銀行が貸し倒れのリスク回避のために融資を行わないのではないかという懸念が広がっています。
   借り換えができない場合
不動産事業者が借り換えができない場合、まずは他の銀行から借りることになりますが、多くの銀行が同じ状況なのでなかなか難しいと思われます。融資を受けられないとなると、不動産を売却するという選択肢があります。今、不動産価格は上がっているので、多くの不動産事業者が早く売ってしまおうと動き、結果的に不動産価格の下落を招きます。借り換えもできず、不動産価格の下落で担保価値が下がるといよいよ債務不履行となり、銀行は損失を被ってしまいます。そうなると銀行はさらに融資を厳格化するようになり、不動産のみならず他の企業融資にも影響が出て、景気後退へと繋がります。このように、銀行と不動産は表裏一体の関係にあり、それが景気のバロメーターになっている側面があります。
景気後退の予兆
   CMBS信用スプレッド
多くの投資家が景気の後退を懸念していて、それがCMBS(商業用不動産を証券化したもの)の信用スプレッドに表れています。信用スプレッドが上がれば上がるほどデフォルトの可能性も上がると言えますが、最近になってグッと上がっています。ロックダウンの時ほどではないですが、投資家が商業用不動産に対してリスクを感じていることを示しています。
   信用収縮
「貸し手や金融機関が貸し出しを減らすことにより、資金調達や借り入れが困難になることを指します。通常、経済や金融市場の不安定性、不況、金利上昇、債務返済能力の低下、信用リスクの高まりなどが原因で発生することが多いです。信用収縮が起こると、企業や個人が資金調達をしにくくなり、投資や消費が減少するため、経済活動全体に悪影響を及ぼすことがあります。また、金融機関や債権者が貸し出しを減らすために借り手からの要求を厳格化することで、借り手が債務不履行や破産に陥るリスクも高まります。」
今回の商業用不動産の問題は金利上昇を発端とするものですが、一方でインフレの問題もあり、金融の引き締めも行わなければならない状況です。景気は循環するものですが、景気後退の予兆として商業用不動産に表れると私は考えます。
   逆イールド
2年金利と10年金利を比べると、通常なら10年金利の方が高くなりますが、逆に2年金利の方が高くなっている状態を「逆イールド」と呼びます。グラフがマイナスになっている時が逆イールドの状態で、グレーの帯が景気後退が起こった時期です。ITバブル崩壊やリーマンショックの時にも、逆イールドが起こったのちに景気後退が訪れています。今回の逆イールドは既に長い期間に及んでいて程度も大きいです。近いうちに景気後退が起こることはもはや必然とも思われます。
本質的に伝えたいこと
株価を見ると、昨年10月に底を打って今は回復基調にあるように見えますが、商業用不動産をはじめとするリスクが顕在化した時には大きく下落してもおかしくありません。しかし、私が言いたいことはこの商業用不動産の問題が現実化するかどうかということではありません。景気後退や「○○ショック」による株価の下落は必ず起こります。そんな時に、良い企業・良い銘柄を買っておいて、やがての上昇に備えるという投資法を提唱しています。
   素晴らしい銘柄を探そう
・本当に素晴らしい銘柄は、長期間にわたって成長を続ける
・見極めるポイントは、実績、ビジネスモデル、経営者の考え方
・理想の投資法は「素晴らしい企業を見つけ、それを良いタイミングで買い、素晴らしい企業である限り持ち続けること」
●商業不動産物件の連鎖破綻でアメリカ中の大都市が廃墟に?  4/23
今週月曜日に開示されたバンク・オブ・アメリカの2023年第1四半期決算が予想外の好収益を示したために、早くも「もうアメリカの銀行業界は危機を脱した」といった声も聞かれるようになりました。
たしかに、営業収益、純利益、1株利益すべてにわたって、前年同期比2ケタの増収増益ですから、一見文句のつけようがない決算です。
公表数値は威勢が良かったのですが、その陰で先日来何度か指摘させていただいた含み損が肥大化していることを感じさせる数字も散見される、表を見るか裏を見るかでずいぶん印象の違う決算でした。
含み損は拡大している?
まず、そのへんから検証していきましょう。
実際に計上した貸し倒れ損失は、じわじわ確実に増加しているというだけのことです。まだ融資総額の0.5%にも達していません。ただ、貸し倒れ引当金は去年第4四半期よりやや減少させているのに、前年同期比で見るとじつに31倍になっています。
これはやはり、平穏無事な時代の銀行が開示する決算ではありません。臨戦態勢に入った企業の決算です。しかも、どうやら去年の第2四半期(4〜6月)には、臨戦態勢に入っていたようです。
さらに貸し倒れ損失を消費者向けと企業向けに分けてみると、いっそう気がかりな点が出てきます。
消費者向けローンでは常にある程度の貸し倒れが生ずることは織り込み済みです。また、企業向けの中でも、中小企業向けは貸し倒れの発生頻度はやや高めになります。
ところが、2022年第4四半期、そして今年の第1四半期と2四半期続けて本業中の本業であるはずの商工ローンで急激に貸し倒れが増えています。まだ金額は消費者向けに比べれば5分の1程度ですが、この増え方は気になります。
これは3月24日投稿の「銀行連鎖破綻で確認できた米ドル覇権の終わり」でも指摘させていただいたことですが、アメリカの銀行業界は副業というべき証券投資で古今未曾有と言ってもいいほどの巨額の含み損を抱えています。
約2600億ドルにのぼる銀行業界全体の純営業利益をもってしても、この含み損を全部消却するには2年以上かかるという金額です。
つまり、現在のアメリカ銀行業界は本業では石橋を叩いて「絶対大丈夫」と思っても、それでも渡ることを躊躇するほど、慎重な経営を迫られているはずなのです。
サービス業主導経済では投資の役割が軽くなる
それなのになぜ、本業の融資でもボロボロと貸し倒れが出てきているかと言えば、結局のところ、企業があまりカネを借りてくれなくなってしまったからなのです。
バンク・オブ・アメリカの場合も、預金総額のうち融資で運用できているのはかろうじて50%強で、残りは融資以外で運用せざるを得ない状況です。
したがって、2022年のアメリカの金融市場のように株価はだらだら下げ基調の上に、金利は急騰を続けて保有債券の価格が急落したりすると、莫大な含み損を抱えてしまうわけです。
企業があまり投資を重視せず、したがって銀行から借金をしてまで大型投資をすることはめったになくなった事情は次の2枚組グラフによく出ています。
上段が、企業が自社の営業活動で得たキャッシュフローと銀行などからの借入金をどんな用途に遣っているかを示しています。
ご覧のとおり、設備投資やR&D投資といった将来の収益を拡大するための投資は少なくなりつづけ、配当や自社株買いといった株主還元の比重が高まっています。
下段は、企業全体としての借入金プラス社債発行残高がGDPに占めるシェアですが、1980年代までは長期間を通じた中央値である5%弱を上回る年が大部分でした。
逆に1990年代以降は、中央値を下回る年のほうが多くなっています。時には新たな借入金と過去の借入の返済がほぼゼロになったり、新規借入より過去の借入を返済する額のほうが多くなったりもしています。それが、マイナスのシェアが意味することです。
私はアメリカだけではなく、先進諸国の銀行はすべて徐々にダウンサイジングをして、あまり巨額の投資を必要としないサービス業主導経済にふさわしいスリムな業界に変身すべきだと考えています。
日本の銀行業界などは、1980年代末のバブル期に比べれば、融資総額にしても営業収益にしてもずいぶんGDPに占めるシェアを減らしてきて、世界中の銀行業界のお手本だと思うのですが、経営陣の方々はどうやらそれがご不満の様子です。
Fedのミルク補給で安全に稼げていた米大手銀行
アメリカの銀行業界が順調に業績を伸ばしてきたように見えるのは、銀行が連邦準備制度(Fed)に開いた口座に法律で定められた以上の準備を置いたり、Fedに1晩だけアメリカ国債を貸したりすると、低金利のご時世では破格の高金利を受け取れていたからです。
保有している米国債を連邦準備銀行に1泊させるだけで金利が稼げる仕組みのことをリバースレポといいます。Fedがフェデラルファンド金利を急上昇させていたうちは、リスクゼロで、しかも高金利が稼げるということで銀行にも迷う余地がありませんでした。
ところが、直近ではリスクを取る気さえあれば、もう少し大きな利ざやが稼げる状況に少しずつ変わりつつあります。
ご覧のとおり、リスクを取って一般企業の発行した社債を買うより、ノーリスクの超過準備やリバースレポのほうが高い金利を稼げるという異常事態がようやく終わろうとしているのです。
銀行業界には、ここで積極的にリスクを取る運用をする準備ができているでしょうか。残念ながら、私は無理だと思います。
先ほどご紹介したとおり、すでに証券投資で出した莫大な含み損があります。それに加えて、企業向け融資の中でもかなりリスクを伴う商業不動産向け融資が、今後本格的に焦げ付く可能性が非常に高いのです。
リスクが急拡大しつつある商業用不動産融資
まずバンク・オブ・アメリカを例にとってアメリカの大手銀行の融資ポートフォリオに商業用不動産融資が占める位置を確認しておきましょう。
右側のグラフでおわかりのように、商業不動産融資が企業向け融資に占めるシェアは2019年の21.2%から今年第1四半期の12.3%へとかなり大きく減少しています。ですが、融資全体に占めるシェアはほぼ不変です。
つまり、危険回避のために消費者向け融資から企業向け融資への転換は進んだけれども、その企業向け融資の中ではかなりリスクの高い商業不動産向け融資が融資全体に占めるシェアは下がっていないのです。
多くの銀行で商業用不動産投資中最大のウエイトがかかっているのはオフィスビル開発です。バンク・オブ・アメリカでも商業用不動産向け融資総額730億ドルのうち187億ドル、26%がオフィスビル開発向けでした。
2020年春の第1次コロナ騒動で多くの都市がロックダウンを実施したアメリカでは、その後丸3年になるというのに、オフィスビルの多くが抜け殻状態のまま放置されています。
大企業テナントなどの場合、賃借中の面積を圧縮することは経営不振を疑われたりするので、契約期間中に賃借面積を削ったり、別の小さなスペースに転居することはあまりしません。
ですが、借りている面積の中でどの程度が実際に従業員が出社して使っているかとなると、恐るべき数字が出ています。
私が仮に入居床占有率と訳したのは、きちんと契約を取り交わしたテナントが賃借中の面積を指す入居率のことではありません。
入居テナントの従業員がどの程度実際にオフィスに来て仕事をしているかを示す数字で、これはオフィス警備・安全保障などの大手企業、キャッスル社が自社の管理物件の入館証の利用状況から推計しています。
もう第1次コロナ騒動が始まってから3年、ほぼ平常どおりの生活に戻ってからも約1年経つというのに、アメリカの大都市オフィスビルの入居床占有率は、まだコロナ騒動勃発直前の水準に比べて半分にも達していないのです。
これはあまりにも深刻な数字なので、民間企業1社だけの推計で判断するのは危険と思って、いろいろほかの推計を探してみました。都市学部を持つほど積極的に大都市圏問題に関わっているトロント大学が、まさにそうしたセカンド・オピニオンを出してくれています。
なかなかユニークな発想で、大都市圏の経済・社会活動が盛んか不振かを調べています。携帯電話の使用頻度を、どの程度経済・社会活動がおこなわれているかの代理変数にするというのです。
ちょっと考えると、会う必要を無しで済ませるためにも使う道具なので、実際に特定の都市圏で人間がどのくらい活発に動き回っているかを測定するには向かないような気がします。
でも、私は昔から電話などによる通信は実際になま身の人間が会うことの代替財ではなく、補完財だと思っていました。
携帯でひんぱんに連絡を取り合うことがらを考えれば、だれかと会う日時や場所の連絡、行ったことのない場所に行くための案内を受けるためということが多いような気がします。
この携帯電話の使用頻度によって推計したアメリカ・カナダ合わせて62都市圏の活動ぶりは、コロナ前に比べて中央値で61%となりました。入居床占有率よりはマシですが、それでもやはりまだ4割近く都市活動が低下したままだという結果が出ています。
そのうちから特徴的な8都市圏を選んで活動状況を図示したのが、次のグラフです。
古くからの大都市がけっこう善戦している反面、サンフランシスコやシアトルなどの「シリコンバレー」系の人々が多い都市は惨憺たる状態です。
なお、サンフランシスコと同じカリフォルニア州の大都市でも、ロサンゼルスはシリコンバレー人脈とは縁が薄く、反面ロサンゼルス・ロングビーチ港がアメリカ最大の輸出入の窓口となっていて、しっかりした実物経済の基盤を持った都市です。
その結果、ロックダウンなどの被害も小さく済んで、比較的順調に回復しているのではないかと思います。
なお、この8都市にも入っているアトランタ、シカゴ、サンフランシスコに別の3都市を加えて、コロナショックのどん底からの回復を経緯を見たのが、次のグラフです。
人口でも経済活動でも北米大陸の中で突出して大きな都市であるニューヨークが、ロサンゼルス以上に健闘していることにはホッとしますが、それにしても完全に本格回復の軌道に乗ったかと思った2022年の6月末頃から、また経済活動が萎縮し始めたようです。
去年後半の反落はおそらく在宅勤務後遺症
この点については、私はひとつの仮説を持っています。
ちょうどこのころから、ハイテク大手の人員削減が目立ち始めたのは、華やかなイメージで在宅勤務をはやし立てていたハイテク大手各社のあいだで、在宅勤務の普及が余剰人員の多さを認識するきっかけになったのではないでしょうか。
当人は在宅勤務のほうが生産性が上がると思っているけれども、経営陣から見るとなんの成果も出せていない。きちんと出社するようにと業務命令を出しても従わない。いてもどうせ戦力にならないのだからと、大量解雇という事態にいたる。
こんな光景が、アメリカ中の大都市オフィスで見られたのではないでしょうか。中小都市では、ハイテク大手が大量に冗員を抱えていたということがほとんどなかったので、コロナ被害からの回復も比較的順調に進んでいるのだと思います。
それとともに、アメリカでは治安の良し悪しなどもかなり影響して、大都市になるほどいったん低下した都市活動を再稼動させるのに苦労が多いようです。
100万人をほんのちょっと上回るだけの人口しかいない都市なのに、華麗な大都会のイメージばかりが先行していたサンフランシスコと、しっかり地域に根付いた実物経済が生き残っている大都市、ニューヨークとロサンゼルスを3つの例外として、アメリカは都市規模が大きくなるほど、あらゆる自然災害や人災への対応がむずかしくなる国だと実感します。
事情はどうあれ、今後ハイテク大手の大量解雇をきっかけに、大都市圏中心にオフィス床需要の大収縮が起きることは間違いないでしょう。
大収縮するオフィス市場のツケはだれに回る?
間の悪いことに、2023年から2027年まで商業用不動産開発ローンの返済期限が集中していて、この5年間で合計2兆5000億ドルの償還が見こまれています。
当然のことながら、約定どおりの返済ができない開発業者も多くなるでしょう。貸し手の中で最大のシェアを占めているのは銀行ですが、不動産のビッグプロジェクトといえば、ほとんど大手銀行が融資の主力となる日本と違って、アメリカでは主役は中小銀行なのです。
このグラフを見ると、アメリカの大手銀行はもう2017年頃から商業用不動産向け融資は5000億ドル前後で横ばいに維持し、2020年からは若干とは言え減少させてきたことがわかります。
やはり、ほかにいろいろ儲け口があるアメリカの大手銀行にとって商業用不動産融資は取る必要のないリスクだったのでしょう。
一方、異常な低金利の中で大手ほどはFedからのミルク補給も期待できない中小銀行は、リスクは承知の上でこの分野を積極的に増やさざるを得なかったのだろうと思います。
銀行からの商業用不動産向け融資に占める中小銀行のシェアも、たった8年で57%から72%まで伸びました。
この状況でバンク・オブ・アメリカの好決算に便乗して中小銀行株のETFであるKREまで反発したと聞いてびっくりしたのですが、わずか2日間と3ヵ月弱のチャートを見比べれば、コップの中の嵐とさえ言えないほど小さな反発にとどまっていたことがわかります。
全米各地で、大手不動産投資信託(REIT)が借入金の返済に困って、融資団に開発中あるいは稼働中の不動産物件を渡して解散するという事態が始まりつつあります。
残念なことですが、この期に及んで中小銀行の連鎖破綻を回避することは、ほぼ不可能に近いのではないかと思います。
中小銀行に次ぐ被害者は都市の多様性
それとともに残念なのが、かつてはそれぞれに個性のある繁栄を謳歌していたサンフランシスコやサンノゼやシアトルといった西海岸の都市が、シリコンバレーブームの退潮とともに、一緒くたに衰退の中に放りこまれそうなことです。
平日はほぼ毎日必ず出勤してくるオフィス人口を目当てに多種多様なモノやサービスを提供していた企業群が、オフィス人口の減少とともにさびれていきます。
かつては大勢の人々が毎日出入りしていた超高層オフィスビルも、大きすぎる墓標のように立ち腐れていくのでしょうか。
ケーブルカーで急坂を登り詰めると、なんとそこには海辺がある、地理自体が魔法にかけられたような町、サンフランシスコがシリコンバレーのスタートアップ成り金と同じように没落していくのは、私にはなんとも納得がいきません。
クルマ社会化とはどうにも折り合いが付かない都市文明の滅びを、サンフランシスコが象徴しているということなのかもしれません。
●米アップルの普通預金「年4.15%」が話題に なぜそんなに高い? 4/23
4月17日(米国時間)、米アップルが米国で提供している「Apple Card」の利用者向けに、普通預金口座のサービスを始めることを発表しました。
その金利は「年4.15%」となっており、日本から見れば高く感じますが、米国ではそれほど珍しいものではないようです。
普通預金「年4.15%」は珍しくない?
Apple Cardはアップルが2019年3月に米国で発表したクレジットカードで、金融大手のゴールドマン・サックスと組んで提供しています。
特徴としてはiPhoneとApple Payに最適化されており、申し込みや発行、利用明細の確認がiPhone内で完結。Apple Payで使うと2%の現金キャッシュバックを受けられます。
そのApple Cardの利用者に向けて、新たに始めるのが普通預金口座(Savings account)サービスです。
実体としてはゴールドマン・サックス銀行の支店に口座が作られるとのことから、電子マネーなどではなく、預金保険の対象になる正規の銀行口座といえます。
この普通預金の金利は、4月14日時点で年4.15%とのこと。アップルはこれが全米平均の10倍以上であることを強調しています。
日本から見ればかなりの高金利に感じるところですが、現在の米国ではそれほど珍しいものではないようです。これはインフレ対策として政策金利を引き上げているためで、現在は4.75〜5.00%に達しています。
とはいえ、こうした状況下においても、JPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカといったメガバンクの金利は「0.01%」です。
最近の金融危機ではこれらのメガバンクに多くのお金がなだれ込んだように、預金は十分にあるので金利を上げる必要はない、という空気が感じられます。
一方、地方銀行やネット銀行など小規模な金融機関を中心に、4%台の高い金利をうたう普通預金(high-yield savings account)があります。
その間で微妙な立ち位置にいるのがゴールドマン・サックスです。投資銀行としては名高いものの、16年に鳴り物入りで始めた個人向けサービス「Marcus by Goldman Sachs」は苦戦が続いています。
そこで、高金利のサービスで顧客を惹き付けようというわけですが、Marcusの普通預金金利は3.9%であることから、アップルが提供する4.15%はそこに何らかの上乗せをしているのではないか、との指摘があります。
また、米国で高い金利を得るには最低口座残高などの条件が課せられるものがありますが、アップルの普通預金ではMarcusと同様にそうした条件がないことも魅力です。口座の上限は25万ドルで、これは米国の預金保険でカバーされる上限と同じ金額です。
23年1月には、ゴールドマン・サックスの個人向け事業などが3年間で30億ドルの損失を出していることが明らかになりました。今後の選択肢が注目される中、アップルとの事業は逆に強化するという点も、このニュースの見どころといえそうです。
●ロンドン証券市場改革「ビッグバン2」計画巡り、英政府とBOEが対立 4/23
昨年11月、パリがロンドンを抜き、時価総額で欧州最大の株式市場となったことは記憶に新しいが、最近も大英帝国の「王冠の宝石」と称された半導体設計大手アームホールディングスが米国上場を決定、さらにアイルランド建材大手CRHもロンドンからニューヨークに移ると発表した。ギャンブル世界最大手フラッター・エンターテインメントも米国での二次上場計画を示した。
相次ぐ主要企業の米国詣でにロンドン金融街(シティ)の投資会社シュローダーのピーター・ハリソン投資運用部長は、「英国がリスクテイカー(リスクを取る投資家)を支援しないということは、ロンドンがニューヨークと競争できないことを意味する」(英紙デイリー・テレグラフの3月2日付コラム)と嘆いた。
テレグラフ紙のオリバー・ギル経済部キャップは3月2日付コラムで、「こうした英国離れの動きは、ロンドン市場改革の波が止まったという非難を引き起こした一方で、バイデン米大統領のグリーンエネルギー投資減税計画が英国企業にとって抗しがたい魅力であることを証明した」と指摘する。グリーン減税計画ではインフレ削減法(IRA)に基づき、クリーンエネルギーに取り組む企業に7380億ドル(約100兆円)の税制優遇措置、半導体メーカーにはさらに400億ドル(約5.4兆円)を支援する。
これにはハント英財務相も公然とバイデン米大統領を批判している。ハント氏は4月16日の英テレビ局スカイニュースのインタビューで、「バイデン大統領のグリーン減税は企業への補助金による利益誘導だ。世界景気を悪化させる」と噛みついた。インフレ削減法は、英紙フィナンシャル・タイムズの推定によると、昨年の同法成立以降、2000億ドル(約27兆円)の投資を米国に呼び込んでおり、EU(欧州連合)と英国は対抗策をとらざるを得なくされている。テレグラフ紙のエア・ノルソエ経済部デスクは4月17日付コラムで、「それは経済が関税と補助金によって緊密に管理される保護主義の新時代への恐怖を引き起こした」と断じた。
ロンドン金融街(シティ)の投資会社シュローダーのピーター・ハリソン投資運用部長は市場改革を加速するためには特に、ブレグジット(英EU離脱)後の待望の「ソルベンシー(支払い余力)II」ルールの早期緩和の必要性を挙げる。ソルベンシーは保険会社の自己資本ルールで経営の健全性を示すものだが、このルール緩和は年金ファンドの株式などリスク資産への投資拡大に道をつける。同氏は「現在、英国の年金資産の10−13%が英国株に投資されているが、非常に低い数値だ」という。
テレグラフ紙のノルソエ経済部デスクは2月20日付テレグラフ紙で、「現在のソルベンシーIIルールでは風力発電などの新規プロジェクトへの投資を思いとどまらせ、代わりに利回りの低い国債や社債への投資を強いている」と指摘。ハント財務相も市場改革「ビッグバン2」の目玉としてソルベンシールールの緩和にこだわるのは、「このルールにより保険会社はバランスシートに巨額の現金を保有する必要があり、保険会社がどこに投資できるかが決まる。(ルール緩和で)企業は英国経済に数十億ポンド(数千億円)を投資できるようになる」(昨年11月17日付テレグラフ紙)と、持論を展開している。
ソルベンシー(支払い余力)IIルールは2016年にEU(欧州連合)によって導入され、英国の保険会社はバランスシートに多額の現金を保有する必要がある。このため、保険会社と年金基金は現在の制限により、インフラのような流動性の低い資産に必要なだけ資本を投じることができない。
英国の保険会社は確定給付型年金(DB)の資産と債務の全部または一部を保険会社などの第三者に移転する年金バイアウトを積極的に行っており、年金が第1の事業となっているため、ソルベンシーは年金基金にも影響が及ぶ。
英紙デイリー・テレグラフのオリバー・ギル経済部キャップは、「金融行為監督機構(FCA)が関連当事者取引(親会社や子会社、兄弟会社間の取引)に関する制限を緩和することで株式市場での新規上場ルールを緩和すれば、半導体設計大手アームホールディングスは英国での二次上場への扉を開くことができる」と主張。この要件は、アームの親会社である日本のソフトバンクグループが所有する企業と多くの関係を築いているため、アームが英国で上場する際の障壁と見なされているからだ。
世界第2位の規模を誇る年金部門ではリスク回避的な投資アプローチが一般的で、他国に比べ、退職金を株式投資することははるかに少なく、代わりに債券を好む傾向がある。コンサルティング大手LCPのパートナーであるスティーブ・ウェッブ元年金相は、「(ソルベンシー)規則によって資金が過度に慎重になった」と指摘する。
しかし、ハント財務相のソルベンシー改革にイングランド銀行(英中銀、BOE)が立ちはだかっている。BOEのサム・ウッズ副総裁は2月20日、英国保険協会の夕食会での講演で、ソルベンシーIIルールの変更時期について財務省との協議を進めているとしたが、「規制緩和は2024年まで起こらないかもしれない」とくぎを刺した。テレグラフ紙のエア・ノルソエ経済部デスクは同日付のコラムで、「ウッズ副総裁の発言はスナク首相とハント財務相のビッグバン2計画に対する率直な反応だ。BOEはビッグバン2の波が金融街(シティ)の成長を加速させるという期待を軽視している」と指摘する。
ウッズ氏は英国の金融機関の健全性を監督するBOE傘下の健全性規制機構(PRA)のトップでもあるが、同氏は「ブレグジット(英EU離脱)後に待望されていたソルベンシールールの見直しは複雑すぎて、一度に導入することはできない」と、否定的。ベイリーBOE総裁も「金融街のブレグジット後の自由(規制緩和)がエクイタブル生命保険(2000年12月に経営破たん)と同様な破綻を引き起こし、100万人近くが貯蓄を失う危険性がある」と警告しており、テレグラフ紙のエア・ノルソエ経済部デスクは「政府与党の保守党との緊張をさらに高める可能性が高い。BOEは規制が緩くなるとリスクが高まり、破綻が増える可能性があると懸念している。BOEはブレグジット後の機会を利用するには遅すぎで、ルール変更に抵抗しているとの批判が強い」とした上で、「保険会社がバランスシートに多額の現金を保有し、どこに投資できるかを指示することを保険会社に要求するこれらの規則を緩和する努力は、政府が英国への投資を開始するために重要だった」と指摘する。
ハント財務相は昨年末、BOEの反対を却下した上で、「ソルベンシー改革は我々の成長促進産業への数百億ポンドの投資を解き放つ」と指摘、ジェイコブ・リース・モッグ元ビジネス相も昨年11月、「BOEは一貫して改革の障害であり、足を引きずり続けている」と非難している。英財務省のアンドリュー・グリフィス・シティ大臣(中堅大臣)に至っては、「英国の銀行がEUの同業大手に比べ、多くの現金を保有することを義務付けられるリスクを冒す厳しい金融規則について、BOEを訴えることができる」と、金融界に語るほど、両者の関係は冷え切っている。
昨年9月のトラス前首相の大規模減税を柱としたミニ予算の発表後、英国債が暴落、経営破綻の危機に直面した年金基金に対し、イングランド銀行(英中銀、BOE)はさらなる市場危機を防ぐため、年金基金はもっと厳しい規制を受ける必要があると主張している。特に資産運用手法として、LDI(債務主導投資:年金債務をベンチマークとして、それに対する超過リターンを追求する資産運用)戦略を使用している年金基金に新しいストレステストを実施すべきだとしている。この方針に従って、BOE傘下の金融安定委員会(FPC)は3月下旬、年金規制当局に対し、LDIファンドが国債利回りの2.5ポイントの急上昇に耐えうるか確認するためのストレステスト(健全性審査)を緊急に導入するよう指示した。LDIファンドは国債利回りが1.6ポイント上昇した後、危機に陥っている。
もう一つ、ハント財務相のビッグバン2計画に立ちはだかるのはIMF(国際通貨基金)だ。IMFは最新の「国際金融安定性報告書」(4月11日正式発表、4日に事前公表)で、「トラス前首相の下で短期間に起きた年金基金の崩壊危機は世界的な金利上昇が今後数カ月でさらなる金融危機を引き起こすリスクを浮き彫りにした」と指摘。また、「最近では米国の中堅行シリコンバレー銀行とスイスの金融大手クレディ・スイスの破綻救済は単独の事件ではない可能性があり、問題が従来の銀行部門を超えて年金基金や保険会社、ヘッジファンドにまで及ぶ可能性がある」と指摘した。
英紙ガーディアンのラリー・エリオット経済部デスクは4月4日付コラムで、「IMFはノンバンク規制を強化する必要性を強調している」という。IMFは、ノンバンク金融仲介機関(NBFI)の成長が2008年の世界金融危機後に加速し、今や世界の金融資産のほぼ50%を占めているとした上で、「このように、ノンバンク部門の円滑な機能は、金融の安定にとって不可欠だ」と結論付けている。
IMFの3人の専門家(ファビオ・ナタルッチ氏とアントニオ・ガルシア氏、パスクアル・トーマス・ピオンテック氏)は共同で発表したIMFブログで、「金利が低く、安価なお金が容易に利用可能だった10年以上の期間後に弱点が現れた」と指摘。
「NBFIの成長が2008年の世界的な金融危機後に加速し、今や世界の金融資産のほぼ50%を占めている」とし、また、「米国と欧州の一部の銀行で起きた最近の金融不安は、何年にもわたる低金利や抑制されたボラティリティ、十分な流動性によって構築された金融脆弱性の高まりを強く思い出させる」、「このようなリスクは、世界的な金融政策の引き締めが続く中、今後数カ月で激化する可能性があり、銀行の範囲を超え、さまざまな機関で構成される広大な金融セクターを理解し、保護することが特に重要になる」という。 

 

●円安が再び140 円台に向かって進む 4/24
3月上旬の米銀不安は、ドル安を強く意識させたが、4月に入るといくらか落ち着きを取り戻し、円安がじわじわと進んでいる。このまま米長期金利が4%に近づくと、1ドル140円台の円安に進むだろう。植田総裁の姿勢如何では、2022年10月の150円という円安水準に向かうこともあり得る。
米銀不安の一服
ドル円レートがじわじわと円安方向に向かっている(図表1)。3月上旬の米銀不安が一段落しつつあるからだ。3月上旬は、米長期金利が一時4%を越えていた。ちょうど米国の物価上昇率が高止まりしそうなタイミングで、突如、米銀2行が経営破綻した。まだその余波は残っていて、米長期金利は、4%から3.3%まで低下した後、まだ 3.5〜3.6%までしか戻っていない。しかし、それが再び4%を越えてくれば、ドル円レートも1ドル140円台に移行する展開になるだろう。そして、5月のドル円レートは、円安基調がさらに1ドル150円へと接近していく可能性がある。
   図表1
どうする植田総裁
目先の注目は、4月末の日銀会合である。植田総裁がよりハト派的な姿勢を強調すると、その分、10年金利の上限見直しが遠のく。筆者は、いずれは金利上限の変動幅を動かすとみているが、すぐではなさそうだ。就任会見をみる限りは多くの人が思っているよりも、さらにハト派に感じる。今後、しばらくは長期金利の変動幅さえ当分は動かさないという見方はより強まるだろう。それに反応するかたちで、円安は現在よりも進行することが予感させる。
今後の展開で重要なのは、米長期金利が4%に接近したときだ。現在、日本の10年金利はすでに0.50%近くまで接近している(図表2)。目先、米長期金利が上昇すれば、日本の10年金利に上昇圧力がかかることは間違いない。従来のように、10年金利を8・9年金利が上回っていけば、そこが植田総裁の決断のしどころだ。ここで副作用を強調して、上限引き上げをする構えを採れば、円安には歯止めがかかるだろう。
   図表2
反対に、10年金利を0.5%に抑えるために、連続指値オペを打てば、円安が1ドル150円に向かって進むだろう。どちらの選択を採るかで、ドル円の行方は大きく道が分かれる。
今後のシナリオは、(1)指値オペを打つ、(2)上限を引き上げる、の2つの選択の可能性がある。筆者は、黒田路線の急激な修正を印象づけないために(1)を選択する公算が高いと考える。
一方、複雑なのは、指値オペを打たなかった場合だ。10年金利が0.5%を上回って上昇していくことになるだだろう。そうなると、変動幅の上限0.5%は有名無実化する。YCCの長期金利コントロールは骨抜きになっていく。当然、植田総裁はそれに対する説明責任を求められる。そこで、近い将来の会合では変動幅の上限を引き上げるということを示唆すれば、円安は止まる。
逆に、金利上昇を容認しつつ、長期金利の変動幅上限の引き上げに慎重な姿勢をみせるとどうなるか。その場合は円安だろう。日米長期金利差は縮小するから、円高になってもおかしくはない。しかし、敢えて変動幅の上限見直しに動かないことで、投資家たちは、植田総裁が「タカ派方向の選択ができない」と評価する。金利正常化に旗色を鮮明にしないから、ドル円は円安方向になるだろう。
4月末の決定会合は、その分岐点になるだろう。筆者は、いくつかの選択肢の中で、メインシナリオは、ひとまずは指値オペを打って0.50%の上限を守るとみている。これは円安がもっと進むシナリオだ。いずれにしろ、今後の注目点は、米長期金利が4%まで動いたとき、植田総裁がどう反応するかである。
米国の問題
次回のFOMCは、5月2・3日に開催される。さて、FRBはそこで+0.25%の利上げを決めて、利上げの最終到達点(ターミナル・レート)に行き着いたとアナウンスするのだろうか。政策金利は5.00〜5.25%にまで引き上げられる。仮に、3月以降の最終到達点の目途を変えていなければ、そこが一応のゴールになるはずだ。
この最終到達点は、もうこれ以上は利上げをしないという意味だが、もう一つは「次は利下げ」という意味にもなる。従来、年内利下げを否定してきたパウエル議長が、年内利下げに含みを持たせた発言をするのならば、それはドル高・円安を促すだろう。
そうなるケースを考えると、米銀不安が個人消費を抑制させる変化が色濃くなったときだ。3月の小売売上高は前月比1.0%のマイナスになった。クレジット・カードの利用が抑制されて、個人消費が減っているという見方もある。消費者心理は、金融面での不安に敏感に反応して、消費拡大を手控える可能性もある。
そうしたデータは、現時点ではまだ確認ができないが、5月のFOMCはより見方がはっきりと出てくるので、それを受けてメンバーたちが何らかの判断をするだろう。筆者は、5月で利上げの打ち止めを強調する可能性はあるとみる。これまでは、利上げの長期化によって米経済は大きく悪化してドル安に向かうとみられてきた。それが、利上げの打ち止めによって、「次は利下げ」という連想が強まると、米経済が支えられることによって、為替レートをドル高・円安に向かわせる公算が高いと予想する。
貿易赤字体質
マネタリーな側面だけではなく、日本は実体面から円安になりやすくなってしまった。貿易赤字構造である。2011年の東日本大震災以降、原発を止めて化石燃料への依存度が高い。G7など国際会議がある度に、欧州からは脱炭素化の加速を迫られるが、日本はそれどころではないという印象すら受ける。電気代の上昇を抑制することはある程度は仕方がないが、それでは化石燃料の消費量が間接的に増えてしまう。岸田政権は、4月までは統一地方選挙を重視するだろうが、5月以降は電気代抑制を強化するのだろうか。原発再稼働が進まないと、やはり貿易赤字が巨大化して、円安に向きやすくなる。電気代上昇を抑制する政策は、貿易赤字を促して円安を進める。すると、輸入物価が上昇して、政権が物価対策のために電気代抑制に動くという悪循環構造に陥っているとみることができる。
筆者は、原発稼働によって電気代を抑制し、貿易赤字も最小限に抑えることが、現時点では最善とみる。そうした働きかけができないから、岸田政権は悪循環構造を断ち切ることができずに苦しんでいる。実体面での円安進行は、そうした矛盾の上に成り立っているという見方もできる。
●米生活雑貨「ベッド・バス」が経営破綻…  4/24
米生活雑貨小売り大手のベッド・バス・アンド・ビヨンドは23日、米連邦破産法第11章(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したと発表した。同業他社やネット通販大手などとの競争激化による業績低迷に加え、米中堅銀行の破綻に伴う金融不安で資金繰りに行き詰まった。
裁判所への提出資料によると、負債総額は10億ドル(約1300億円)以上に上る。同社は1971年創業で、北米を中心に台所用品や寝具などを販売している。約360ある店舗やウェブサイトは当面営業を続け、事業の売却先を探す。
ネット通販への対応の遅れなどにより、同社の2022年9〜11月期決算は、売上高が前年同期比33%減の約12億5900万ドル、最終損益が約3億9000万ドルの赤字だった。米国の金融不安によって資金調達も難航した。

 

●3月の金融不安でアメリカの地方銀行の一つ 約10兆円の預金流出  4/25
先月、アメリカで銀行破綻が相次ぎ金融不安が広がっていたさなか、経営への懸念が高まっていた地方銀行「ファースト・リパブリック・バンク」は、およそ10兆円もの預金が流出していたことを明らかにしました。
これは、西部カリフォルニア州に拠点を置く「ファースト・リパブリック・バンク」が24日の決算発表で明らかにしたものです。
それによりますと、3月末時点の預金残高は、去年の年末時点と比べて719億ドル、日本円でおよそ9兆6000億円減少しました。
銀行の預金全体のおよそ4割が流出したとしています。
先月は、「シリコンバレーバンク」など、銀行の相次ぐ経営破綻で金融不安が広がっていました。
マイケル・ロフラーCEOは決算説明会で「前例のない預金の流出を経験した」と述べています。
当時、経営への懸念が高まった「ファースト・リパブリック・バンク」は、11の大手金融機関から経営への支援策として、合わせて300億ドルの預金を受け取りました。
アメリカのメディアは、これを除けば1000億ドル、13兆円を超える預金が流出していたと報じていて、金融不安に伴う預金流出の速さが改めて示された形です。
銀行ではコスト削減策として、ことし6月までの3か月間に従業員をおよそ20%から25%減らす見込みだとしています。
●ビットコイン、米ドルの流動性低下と債務上限問題の再来で5カ月ぶり大幅下落 4/25
債券利回りが上昇し、米ドルの流動性が低下したため、4月17日から23日の1週間で、ビットコイン(BTC)は大きな売り圧力に直面した。
TradingViewと米CoinDeskのデータによると、時価総額でトップの暗号資産(仮想通貨)は9%下落して2万7600ドルになり、11月初旬以来、単週で最大の下落率を記録した。米国債10年物の利回りは0.6%上昇して3.58%となり、2週連続で上昇し、暗号資産などのリスク資産の魅力に水を差した。
TradingViewのデータによると、通貨システムにおける米ドルの供給量を追跡する指標である米ドル流動性条件指数は6兆1300億ドルに低下し、1カ月以上ぶりの低水準になったという。また、トレーダーはアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が5月に0.25%の利上げを行い、引き締めサイクルを継続する可能性が高いと見ている。
2021年以降、ビットコインとその他の暗号資産市場は、ドル流動性指数の局所的なピークと底を密接に追跡してきた。ビットコインは、FRBが銀行危機を抑えるために流動性の蛇口を開き、ドル流動性指数を5兆8200億ドルから6兆3500億ドルへと押し上げたため、3月前半に当時の高値である2万8000ドルまで上昇した。
「金融流動性の面で心強い兆候がない中、BTCは月曜日に急落した後、他の主な暗号資産を引きずりながら下降し続けた」と人気のニュースレター「Crypto Is Macro Now」の著者、ノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏はニュースレターの週末版で書いている。
「BTCは、他の資産グループが苦しんでいるときにアウトパフォームするはずの『保険』資産である一方、金融流動性期待に大きく左右される全体的なマクロムードに強く影響される」とアチェソン氏は付け加えた。
パリに拠点を置く暗号資産データ企業カイコ(Kaiko)のリサーチアナリスト、デシスラバ・ラネバ(Dessislava Laneva)氏によると、アメリカの債務上限問題の影響で、ビットコインや金融市場全般で短期的に価格のボラティリティが増加する可能性がある。
アメリカ政府は1月に債務が法定債務限度額(自ら課した借入限度額)の31兆4000億ドルに達し、財務省は少なくとも5カ月間は政府が義務を果たすための特別措置を実施することを余儀なくされた。これらの措置は、ドルの流動性を高め、リスク資産の買いを維持した。
それ以来、債務上限交渉は行き詰まりを見せている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、先週、今後12カ月間の政府の債務不履行に対する保険のコストを測定するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が過去最高値に上昇した。
CDS市場における現在の価格は、デフォルトの確率が2%であることを示している。ニューヨークを拠点とするMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)のポートフォリオ・マネジメント・リサーチ責任者であるアンディ・スパークス(Andy Sparks)氏はWSJに、「金融危機になり得るものにしては、不快なほど高い」と述べた。
観測筋は、財務省が6月に資金を使い果たすかもしれないと心配している。
「債務上限のドラマは短期的な変動要因であり、市場に不確実性をもたらしている」とラネバ氏は米CoinDeskに語っている。
ビットコインは依然としてリスク資産と見なされており、ある時点で株式が投げ売りされれば、売り圧力に直面する可能性がある。2011年の債務上限問題では、ワシントンの行き詰まりから、トリプルAソブリン格付けを失うことになり、リスク資産が打撃を受けた。
「今年後半に予想される取引が成立すれば、財務省は準備金を補充する必要があり、それによって流動性が低下し、量的引き締め(利上げ)の影響が悪化する…この状況はFRBの利下げを促すかもしれず、最終的にリスク資産に利益をもたらすだろう」とラネバ氏は述べている。
暗号資産データ企業メッサーリ(Messari)のアナリスト、トム・ダンリービー(Tom Dunleavy)氏によると、デフォルトの可能性がある場合、3月の銀行危機の時のように、ビットコインがヘイブン買いを集めるかもしれないという。
●「第2次南北戦争」は起こるのか 追い込まれたバイデン政権 4/25
中国やロシア、中東など世界の安全保障環境が厳しさを増している。国際投資アナリストの大原浩氏は、米民主党のジョー・バイデン政権こそ、一連の混乱を招いた元凶だと指摘する。大原氏は寄稿で、24年の米大統領選に向けて「米国有事≠ェ勃発してもおかしくない」と警鐘を鳴らしている。
バイデン大統領は2021年1月の就任以来、アフガン撤退の大失敗だけではなく、米国抜きのイラン・サウジアラビア国交正常化まで許してしまった。バイデン政権が外交で無策であることは明白だ。ウクライナ戦争においても、対ロシア経済制裁やウクライナ支援の手法が稚拙で、結果として中国とロシアを接近させた。習近平国家主席はロシアを訪問してプーチン大統領と会談し、両国の協力をアピールした。
それどころか、バイデン政権の強権的な外交手法を嫌った多くの国々が米国離れを起こした。
例えば、4月13日に中国・上海訪問中のブラジルのルラ大統領が「人民元やその他の通貨が国際決済通貨になってはならないのか。なぜ、自国の通貨で決済できないのか」と発言した。
米国が、ドルが基軸通貨であることを利用して、ロシアの中央銀行の資産を凍結し、国際的な決済システム「SWIFT」から排除したことが影響しているとみられる。この制裁はロシアに大した打撃を与えなかったどころか、世界中の国々に「米ドルで資産を持っていると何をされるかわからない」という恐怖を与え、ドル離れの加速という大ブーメランとなって返ってきた。
ウクライナ戦争でも、米国はバイデン政権自らの覇権を重視しているように見える。最悪なのが天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム爆破疑惑」である。バイデン政権は限りなく黒に近い灰色だといえよう。
疑惑をスクープしたジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏は新たに「ゼレンスキー大統領がロシアから安くディーゼル燃料を購入する一方、米国が燃料購入代として送った数億ドルの支援を側近とともに着服している」と報じた。ウクライナをめぐっては、2014年にバイデン大統領の息子、ハンター氏が、国営天然ガス会社ブリスマに高額報酬のコンサルタントとして就任したことも知られる。
米国の内政においても、シリコンバレー銀行などの破綻による「連鎖的金融危機」はまだ序章だといえる。イエレン財務長官は「預金を全額保護する」との発言で沈静化を図っているが、そのための資金の裏付けが必要であり、債務問題がのしかかる。
このように追い込まれたにもかかわらず、バイデン氏は延命を図り、24年大統領選挙への出馬を画策している。
ニューヨーク州の大陪審ではトランプ前大統領が起訴された。民主党支持者が多い同州だが、民主党系のメディアにも起訴は「暴挙」との見方が散見され、中間層だけではなく、党内の良識派にまで見放されつつある。
20年の大統領選以来、多くの人々が民主党の横暴に口をつぐんできたが、バイデン氏が大統領に居座るのであれば、「第2次南北戦争」という「米国有事」の可能性が絵空事では無くなってきたと米国在住の知人も口にしている。
もちろんそれは中国による「台湾有事」にさらされている日本国民に大きな影響を与えるだけではなく、世界情勢にとって重要な問題になる。

 

●FRB、SVB監督に関する見直しを28日公表へ 4/26
米連邦準備理事会(FRB)は25日、シリコンバレー銀行(SVB)の監督に関する見直しを28日午前11時(日本時間29日午前0時)に公表すると発表した。
連邦預金保険公社(FDIC)も5月1日までに、SVBに対する監督の詳細と預金保険制度の概要を記した報告書を発表する予定。
●バイデン氏、労組集会で選挙戦開始 「中間層が米国つくった」 米大統領選 4/26
2024年米大統領選への再選出馬を正式に表明したバイデン大統領は25日、ワシントン市内で開かれた建設労組の集会で演説した。
「ウォール街が米国をつくったのではない。中産階級が米国をつくったのだ」と述べ、中・低所得層の底上げを重視する姿勢を強調。事実上の選挙活動をスタートさせた。
バイデン氏が同日朝に動画で立候補を宣言した後、公の場で発言するのは初めて。強固な支持基盤である労働組合員を前に、国内での製造業復活の実績に触れると、会場からは「あと4年!」と歓声が上がった。 
●インフレ対策と金融危機対応の併用で待ち受けるインフレよりも憂鬱な世界 4/26
3月に米国でシルバーゲート・バンクが自己清算し、中堅の2つの銀行、シリコンバレー・バンクとシグネチャー・バンクが破綻に追い込まれた。スイスでも、大手のクレディ・スイスがUBSの傘下に入った。
この3月危機以降、さまざまなリスクへの警戒感が広がっている。毎年4月にIMF(国際通貨基金)が発表する「世界経済見通し」(WEO)と「国際金融安定性報告書」(GSFR)にはそれらが網羅されている。
長引くインフレと逆イールド
金融危機が懸念される理由は、FRB(連邦準備制度理事会)がインフレ対応の大幅な利上げを短期間で実施し、短期金利が急テンポで上昇する一方、先行きの景気悪化予測から長期金利は低いままとなる逆イールドが起きているからだ。これが幅も大きく、かつ長期化している。運用市場では逆ザヤが生じ、資金借り換えのコストが急上昇している。
   【図表・逆イールド】
今、巷で懸念されている市場を列挙すれば、商業用不動産(CRE)、それを証券化したCMBS市場、住宅ローン市場、金融監督当局のグリップの弱いノンバンク金融仲介(NBIF)、すなわち年金、保険、投信、ヘッジファンド、証券化商品などである。
また、コロナ危機対策として2020〜21年に各国で政府から家計部門への大規模な資金移転が行われたため、政府債務は膨らんでいる。そこへドル金利が上昇したため、海外からの資金調達に頼る脆弱な新興国のソブリンリスクも取り沙汰されている。
そればかりか、米国も決められている債務上限に6月にも引っかかる恐れが出てきた。デフォルトはなくても、格付け機関からの格下げリスクが話題になりそうだ。
長引くインフレのみならず、こうしたリスクへの警戒感からくる流動性の悪化(資金繰り難)に加えて、米中対立やロシア・ウクライナ戦争に伴うブロック経済化、各国企業の生産の国内回帰もコストを高めるため経済成長を阻害する。
IMFは2023年について世界の成長率を2.8%に下方修正している。3%割れはかなり厳しい数字だ。24年は3.0%とわずかに回復方向で見ているがこれは不透明だ。
問題を難しくしているのは、インフレ対策と金融危機対応がトレードオフの関係にあることだ。インフレを退治するには財政も金融も引き締めが必要だが、金融危機を抑え込むには、預金が流出して資金繰り難に見舞われている銀行への中央銀行による資金供給、公的資金による預金の保護など金融や財政の拡張が必要になってしまう。
金融危機対応は優先され過剰になる
いったん危機が表面化すると、各国政府はリーマンショックのような危機の連鎖を避けることを優先するので、インフレ対策は一時的に棚上げされたり、効果を弱められたりする。また、預金の取り付け騒ぎや資産の投げ売りといった市場のパニックを封じ込め、恐怖心を和らげるための対策は過剰になりがちだ。
現に、2022年11月の英国の年金危機ではイングランド銀行(中央銀行)はそれまでの国債の売却による資金吸収を一時的に停止し、時限的に国債を買い上げた。
今年3月の米国での金融危機ではシリコンバレー・バンク、シグネチャー・バンクとも預金を全額保護した。
クレディ・スイスも当局の指導でUBSに買収された。AT1債は全損になったものの、契約どおりであり危機の波及にまでは至らないとの判断だろう。
現在、個人の資金は0%台の金利しかつかない預金から4%台で回るガバメントMMF(TB<財務省短期証券>などで運用)に逃避している。FRBがリーマンショック時をしのぐ流動性供給を行っているため、いったん株式市場も安心しているのが現状だ。
しかし、こうした政策を打つとインフレ退治はさらに遅れてしまう。
コロナ後に激増した米国の個人金融資産
米国のインフレはそもそも需給両面で起きたものだ。
コロナで早期退職した人々が労働市場に戻らないことによる人手不足、米中対立やロシア・ウクライナ戦争による国際的な物流網の寸断による供給力の低下もあるが、コロナ禍対策としてトランプ、バイデン時代に多額の給付金がばらまかれ、それが資産価格を押し上げたことで、脱コロナのペントアップ需要が爆発した。
米国の個人金融資産はコロナ危機前の87兆ドルから2022年12月末には23兆ドル余り増えて110兆ドルに、不動産も含めると個人資産は127兆ドルから約40兆ドルも増えて167兆ドルになっている。
みずほ証券の大橋英敏シニアエグゼクティブは「足元でリスク資産の価格が軟化しているが、問題にならない。さらにフローの収入が支出を上回って、貯蓄が再び増加基調になっている」と指摘する。
金融危機が起きたといっても、預金者は資金を移しただけ。カネ余り状態は続き、資産効果の下で、物価高でもサービス消費は堅調で、インフレ率はなかなか下がらないわけだ。
そのため、FRBもあと1〜2回は0.25%ポイントの利上げを行うとみられ、その後は、すぐに利下げに転じず、政策金利は年内まで高止まりすることが予想される。
こうした中、今回はリーマンショックのような特定のセクター(当時は住宅バブル)が大規模な金融危機を引き起こすというよりは、個別ファンドの凍結や破綻、中堅中小金融機関の破綻や自主廃業が散発的に起きるのではないか。
低金利の下では、過度なリスクをとったNBIF、2021年3月に問題化したアルケゴス・キャピタルのような、コンプライアンス上の問題のある運用会社は必ず出てくる。その波及を避けんがための当局のその都度の対策が成長力を削いでいくという展開になるのではないか。
危機の防止は資金の流れを非効率化する
例えば、注目が高まっている商業用不動産市場。商業用不動産は長期の運用なので、長短の逆ザヤの影響が大きいことが予想されるし、中堅中小銀行の貸出に占める不動産の割合が高いので、資金供給が細る恐れがある。
昨年11月にブラックストーンのファンドの凍結が話題になったが、同社は今年に入って、新たなファンドを立ち上げたりもしている。これがサブプライムのように大きな問題を引き起こすという見方がある一方、それに懐疑的な意見もある。
   【図表:米銀貸出】
ピクテ・ジャパンの大槻奈那シニア・フェローは以下のように指摘する。
「商業用不動産の価格指数は昨年から下げているが、あくまでも評価額の問題。空室率の上昇は懸念材料だが、今のところパニック的な売りにはつながっていない。借り換え時のリスクは確かにあるが、一部では逆イールドは昨年から続いている。キャッシュフローの面で空室率の上昇についてはある程度バッファーがあるのではないか」「フローの収益悪化がまだ破綻の連鎖には至らず、むしろ住宅価格の下落に波及して、個人金融資産を目減りさせ、逆資産効果をもたらすほうが先ではないか」
3月危機を契機に、金融監督当局はトランプ大統領の時代に緩和された中堅銀行への監督強化に着手している。銀行自体も、健全行さえ取り付け騒ぎでつぶれたことを教訓に、金利リスクの削減のため資産の圧縮を進める。
利上げの進んだ昨年からすでに金融機関の貸出態度は引き締まっているが、監督・規制強化を先取りし、今後、貸し渋りや貸し剥しは増えていくだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズの小野亮プリンシパルは「それが玉突きのような形で、結局、ノンバンクセクターの流動性も悪化させる」と話す。さらにNBIFの規制も強化されれば、資金効率はますます低下する。
リーマンショックでは過度な信用リスクの積み上がりが問題となった。だが、今回、あまり信用リスクは積み上がっていない。オイルショック後の利上げと主にALM(資産負債管理)上の長短期間のミスマッチが重なって、中堅中小の金融機関が破綻していったS&L(貯蓄貸付組合)危機の頃に似ているという見立てが合うように思う。
政府債務は現下ではインフレで減少する効果もあり、一息つく状態にあるが、GDP対比の債務水準はコロナ危機以前の数値を上回っており、これから景気悪化や金融危機への対応も迫られれば、債務水準は高止まりする。これは政策の余地が狭まる意味でも厄介だ。
再び日本化がテーマになる
景気が悪化すれば、FRBも利下げに転じるだろう。市場の期待ほど早くはないと考えるが、早くて今年の年末、遅くとも来年には利下げが視野に入る。ただし、それを株式市場は好感しても、世界経済は強さを取り戻せないだろう。
1990年代からリーマンショックまでは冷戦終結後の新自由主義とグローバリゼーション、IT化がけん引して、世界経済の効率化が進んだ。新興国の成長とそこへの投資の果実を先進国は享受した。今は逆の方向にあり、経済のブロック化と自国回帰、効率よりもあらゆる面で安全や安心を重視する規制が広がる中、コストは高止まりする。
そうすると、中期で見て潜在成長率が下がっていき、対前年で見たインフレ率も次第に低下していくだろう。もともと先進国の経済は人口動態から低成長になってきたし、コロナ禍前には「低成長、低インフレ、低金利」にはまる、いわゆる「日本化」が問題視されていた。
さらに、中国も人口動態の変化や不良債権の処理に直面し、低成長への移行期にある。非効率によるコスト高を甘受する来年以降の世界経済は、中長期で経済の停滞が長引くという憂鬱な状態になるのではないか。
●ゴールドマンのルーブナー氏が米国株に警鐘−クオンツは「弾切れ」 4/26
米銀行不安が再燃する中、動揺した株式市場は、重要な買い手の源を失ったまま進まざるを得ないかもしれない。
こう警鐘を鳴らすのはゴールドマン・サックス・グループのスコット・ルーブナー氏だ。同氏のデータによると、システマティック・マネーマネジャーは過去1カ月間に世界の株式1700億ドル(約23兆円)強相当を購入し、ファンドのエクスポージャーを2022年初頭以来の最高水準に押し上げた。
20年にわたり資金フローを調査してきたルーブナー氏によれば、ポジションが今ピークに近づいているだけに、彼らは今後数週間は売り手に回る傾向を強めるという。
ルーブナー氏のモデルでは、資産価格の勢いをみながら先物市場でのロング・ショートベットを通じて運用する商品投資顧問業者(CTA)にとってのトリガーシグナルは、S&P500種株価指数で4130などのレベルにあることが表示されているが、同指数は25日に65ポイント下落し4071.63で終了した。
ルーブナー氏は25日午後の顧客向けリポートで「私は戦術的に弱気だ」と述べ、「買い手は弾切れだ」と指摘した。
ゴールドマンのモデルによれば、トレンド追随者からボラティリティーのシグナルに基づき資産配分するトレーダーまでクオンツファンドは、今後1カ月間に相場が急落した場合、最大2760億ドル相当の株式ポジションの解消を余儀なくされる。一方で、エクスポージャーが高いため、同じ期間に株価が大幅上昇した場合は、最大250億ドルの購入だけで済むという。
これは株式強気派には悪いニュースになる可能性がある。米銀ファースト・リパブリック・バンクの暗いニュースで、銀行危機が収束していないという懸念が再燃し、S&P500種は25日に1カ月強ぶりの大幅安を記録した。こうした状況が続けば、リセッション(景気後退)懸念や米連邦政府の債務上限問題で警戒感が広がる市場に、クオンツのポジション解消がさらなるプレッシャーを与える恐れがある。
●金融不安は収束したのか?〜利上げ継続の先に待ち受けるリスクとは〜 4/26
アメリカの大手銀行4行が2年ぶりに融資を抑制していることが4月18日、明らかになった。市場では楽観論も聞かれるが、金融不安は収まるのだろうか。
「信用収縮」のリスク高まる?米大手銀行の融資抑制などで「カネ回り」悪化
3月10日にアメリカのシリコンバレーバンクが、その2日後にはシグネチャーバンクが経営破綻し、アメリカの銀行発で広がった金融不安。19日に起きたスイス金融大手UBSによるクレディ・スイスの買収劇で一気に緊張が広がった。しかし、その後、アメリカ政府による預金全額保護の異例の措置やスイス当局によるクレディ・スイスの事実上の救済合併などを経て市場は落ち着きを取り戻し、金融不安の懸念は和らいだかのように見える。
18日、バンク・オブ・アメリカなどアメリカの大手銀行4行の3月末の融資残高が2年ぶりに前期を下回り、銀行が融資を抑制していることが明らかになった。すでに貸しはがしが始まったとも伝えられ、「カネ回り」は確実に悪くなっている。こうした中、2年ぶりとなるアメリカ大手銀行の融資の抑制についてゴールドマン・サックスのソロモンCEOの発言に注目が集まった。
「最近の銀行部門での出来事で成長期待が低下し、信用収縮のリスクが高まっている」。信用収縮とは金融危機や不良債権処理などを背景に金融機関が融資を抑制することで資金が不足し、市場の流動性が失われることをいう。2008年のリーマンショックでは連鎖倒産への懸念や金融機関の救済をめぐる政府対応の遅れが市場の不信感をあおり、世界的な信用収縮に陥った。
――アメリカの2つの地方銀行とヨーロッパの名門銀行と言われたクレディ・スイスが破綻して驚いたが、金融当局は固有の銀行の事情だから心配しなくていいと言う。一体何が問題だったのか。
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部副会長 中空麻奈氏「アメリカの金融機関のデフォルトが始まった時に私も含めてですが、これは金融システム不安にはならないと。なぜなら、シリコンバレーバンクなどは、M&AやIPO、ベンチャーなどにお金を貸しているという新しいビジネスだったし、今回ダメだったのはALMと言って自分の資産と負債の調節ができなかったという初歩的なミスでデフォルトしているので、このようなことは多くの銀行には移らないことだと言っていたのです。ところが、数日経つとクレディ・スイスに問題が来た。結局SNSが問題だったわけです。自分が預金を持っている銀行がSNSで「この銀行は問題だぞ」と言われると、デジタライゼーションでデジタル化されているので携帯で預金を出せるわけです。昔のように並ばないで済むわけですから、知らないうちに1兆円という金額が毎日出たわけです。」
――サイバー取り付けという言葉もある。今はデジタルの世界で瞬時に取り付けが起きているということか。
中空麻奈氏「起きてしまった。これからどうすればいいのかという新しいポイントを提供したということだと思います。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、銀行が出している債券等が焦げ付いた時の保証料を示すもので、高いほどリスクが大きいということになる。」
クレディ・スイスのAT1債無価値化で世界に衝撃 欧州銀行のCDSは落ち着く
――クレディ・スイスは2022年からずっと上がってきて、一気に跳ねたということか。
中空麻奈氏「かなり過去のグリーンシルやアルケゴスというファンドへの投資で出した損失が大きかった。それがずっと尾を引いていたのです。損失処理はやり方がだいたい決まっていて、まず過去の損失を処理して、問題になっていた部門を縮小したりして手当てをします。そこに対して不足してきた資本はサウジアラビアの株主が入れてくれたのです。必要な措置は十分取ったのに(クレディ・スイスのCDSは)ずっと一人旅でした。要はみんながどの銀行が危ういかと思ったらクレディ・スイスだということだったのだと思います。そういう疑いの目線があった中で、それを抑えることができなかったのはクレディ・スイスの問題ですが、一方、シグネチャーバンクだ、シリコンバレーバンクだということでSNSで急に広がってしまったのは、残念ながら不幸な話だとしか言いようがないと思っています。」
――クレディ・スイスの実質破綻の後は、ヨーロッパの銀行のCDSは落ち着いてきているのか。
中空麻奈氏「パッと見に判断するのであればだいぶ落ち着いてきたと見るべきだと思います。クレディ・スイスも割と下の方に来たなというのが見られると思います。ただし、割とばらけているのです。マーケットは次は誰なのかということを多少見ているので、他の安定的なものに比べると今スプレッドが現状で要求されている銀行は多少リスクだと見られていると見てもいいと思っています。」
銀行の資本は中核的資本の「Tier1」が最も重要で、発行している株式とアディショナルTier1(AT1債)という2つがあり、普通はまず株式が無価値になってから上位のものが無価値になっていくという弁済の仕方をする。
しかし、今回スイスの規定によって、クレディ・スイスのAT1債がいきなり無価値になってしまったことで世界の市場に衝撃が走っている。金融庁によると、日本国内の証券会社10社余りが1400億円程度販売し、口座は約2000口座ということだ。
AT1債は発行残高が2540億ドル(約33兆円)で、発行している金融機関の8割が欧州の銀行だ。日本は3大メガバンクで約3.6兆円を発行している。そうした中、三井住友フィナンシャルグループは19日、1400億円規模のAT1債を新規に発行すると発表した。
――国際的にも自己資本を充実させるためにAT1債などを発行した方がいいという流れでやってきたが、それが突然無価値になった。
中空麻奈氏「なぜ返済順位を構成するかというと、銀行がデフォルトしたら困るので、救済順位が高い預金者を守るために低いところで吸収してほしいわけです。株を買う人はリスクは取るけれどもリターンもほしいという人で、上に行けば行くほどリターンは少なくていいのでリスクは少ない方がいいという人が構成されていく。AT1債は微妙で、普通株よりはリターンは少なくていいけれども、普通社債などを買う人よりはリスクを取りますよと。その代わり真ん中のリターンはほしいという人が入ってくる。このように投資家層にグラデーションをつけることによって、預金者や普通社債の持ち主は守られるということを目的として出したのです。今回、普通株式についてはクレディ・スイスの22株がUBSの1株になるのですが、普通株式の人たちがまだ価値が残ったのに、なぜ上にいるはずのAT1債がゼロなってしまうのかという話になるわけです。AT1債保有者はこの先どうしたらいいかとなってしまうし、銀行がAT1債を新しく出すときにそれを買っていいかという問題が来るわけです。このかたちが保てなくなる可能性が出てくる。」
――銀行の資本に対する疑問が出てきかねない。
中空麻奈氏「出てくると思っています。例えばAT1債を持っていていいのかどうか。自分のAT1債の正しいリスクリターンはどれぐらいか、ティア2や普通社債の価格もわからなくなってくる。金融当局による差はないのか、そういうものも全部考えなければいけなくなってくるし、大変不透明なことだと思います。」
信用リスクのポイントは「金利高」「景気減速」「貸出厳格化」 住宅ローンや商業不動産は要注視
今一見、株式市場も落ち着いたかのように見え、金融不安は収まったのではないかと思う人もいるかもしれない。しかし、そのようなことはないのではないか。信用リスクの今後のポイントをまとめた。
――今どんどん金利が上がっている。これが人々の不安の根底にあるということか。
中空麻奈氏「そもそもですが、2022年1年間で0.75%を4回という驚きの金利の上げ方だったわけです。0近傍だった金利がもう今や5%近いわけです。これだけ金利が上がったら負債を保有している人から見れば大変なことです。にもかかわらずこの数か月は金利上昇してもあまり影響がないという話でした。でも、まずは銀行で出てきてしまったわけです。負債を持っている人はみんな共通の悩みを持っているはずです。ここからまだ出るのではないかと考えるのが普通だと思います。」
――もう一つが、金利が高くなって意識的に景気を今落としているわけで、減速あるいは場合によってはマイナス成長、後退ということが起きてくると信用不安が高まる。
中空麻奈氏「銀行決算で見るとアメリカの下期はもうマイルドリセッションだと言っています。そうすると後半は景気が悪くなるはずです。景気が悪くなると不良債権という問題が増えていくはずです。なぜなら、貸し倒れていくからです。金利が上がって誰が大変かということがはっきりわからないうちに景気減速によって不良債権が増えていくということもあるので、ダブルで問題は大きくなるのではないでしょうか。」
――そして、もう一つが今回の金融不安で融資の姿勢が厳格化してくるのではないかと。これは実は一番大きく効いてくるかもしれない。
中空麻奈氏「もうすでに起きてきています。例えば預金を外してMMFに移したり、預金の間でも中小銀行から大銀行に移し替えるということがもう起きているし、貸し出しの方も大銀行も中小銀行もみんな貸し出しの態度を厳しくしていて、お金が出なくなっています。これから本当に出るのか出ないのか、誰だったら出せるのか、その線引きが出てくると思います。結構厳しいことが起きてくると見るべきだと思っています。」
――金融不安が峠を越えたと思うのは早計で、むしろこれから環境としては厳しくなってくると見た方がいいのか。
中空麻奈氏「例えば当局に「もう大丈夫、預金は保護します。安心してください」と言われると、それを疑う理由はあまりありません。だから、瞬間的に安定するのは間違いないことですが、申し上げたようにさまざまなリスクが残っているので、この火種をどこが受け止めるのか。それは十分見極めないとこれで終わりだと考えるのはいけないかなと思います。」
――アメリカの金利引き上げ局面は、世界的に危機が起きることが多い。新興国やシャドウバンクなどいろいろ推測していたが、いきなり銀行にきてしまったというところが不気味だ。
中空麻奈氏「シャドウバンク、ヘッジファンドなのではないかと言われていたのですが、銀行に来た。銀行のリスクはどこに行っているのか。これから貸し出しが終わっていくと企業の資金繰りが止まったりすることがあると思います。数日前にベッド・バスというところが破綻申請をするという話が出ましたけれども、この会社もずっとまずいと言われていたのですが、ついにお金が止まってしまうわけです。このようなことはこれからまだ出るし、住宅ローンや商業不動産などがどうなるのか見ておく必要があると思います。」 

 

●FRBは市場が知らぬ何かを把握しているのか 4/27
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長にとっては、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)直前という、なんとも間が悪いタイミングで、米地銀ファースト・リパブリック・バンクの危機が表面化した。事前想定通りに利上げを決定すれば、市場の安定よりインフレ重視かとの正解の無い難問を投げかけられよう。
かといって市場の危機感を鎮めるために、今回利上げを見送れば、FRBは我々が知らない何かを把握しているのではないかと、市場が疑心暗鬼を募らせる可能性がある。
さらに、ウォール街が危惧するのは、金融不安が地銀に限定されるか、という問題だ。たたけばほこりが出るリスクを欧州市場で予告編のごとく見せつけられてきたからだ。
まず昨年、財政不安に端を発する英国債の投げ売りが生じたとき、英国年金基金がデリバティブ(金融派生商品)にレバレッジをかけて投資していたことが発覚。
さらに、クレディ・スイス・グループが英金融会社グリーンシル・キャピタル経由で「サプライチェーンファイナンス」という新商法に出資して巨額の損失を計上したことが、結局、同銀行の命取りの一つとなった件。
一般的に、未公開企業への直接投資を手掛け「プライベートキャピタル」と呼ばれる金融会社は、銀行ライセンスを持たず、金融規制も相対的に緩い。シャドーバンク(影の銀行)ともいわれる。
プライベートキャピタルに資金を投じる顧客投資家は数年単位で出資するので「取り付け騒動」は起きない。ただし最終的な投資先はサプライチェーン・ファイナンスのごとき、高リスクな分野に及びがちだ。ゼロ金利時代には、画期的な新ビジネスともてはやされたが、金利上昇とともに化けの皮がはがれる事例がいまだ市場のどこかに埋もれているやもしれぬ。疑心暗鬼になりやすい地合いといえる。
今回の米国銀行不安は、破綻という第1波から、その後遺症ともいえるクレジット・クランチ(信用収縮)という第2波に移行しつつある。市場の流動性が縮小すると、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の名言のとおり「誰が裸で泳いでいたかあらわになる」ことになる。
現時点では、FRBも含め金融監督部門が、その「誰か」を正確には特定出来ていない。リスクが見えない状況は市場が最も嫌うところだ。
このような市場環境で、FOMCでは利上げが議論される。恒例の記者会見では、金融不安と利上げの関連について、質問が集中しそうだ。
最近は「即興の達人」とやゆされるパウエル氏の受け答えが、思わぬ市場の反応を誘発するリスクには要注意だ。 
●救済のクレディ・スイス、紙切れになった債券に泣いた投資家多数… 4/27
箱根駅伝で2015年以降の4連覇などの実績で知られる青山学院大学駅伝部の原晋監督が、インターネット番組などでスイスの金融大手クレディ・スイスのAT1債への怒りをあらわにしました。リスク商品に損失は付き物ですが、クレディ・スイスの株式は一定の価値が維持されたのに対し、AT1債が債券であるにもかかわらず無価値となった事実は大きな衝撃でした。ハイリスク金融商品を見極める方法を考えました。
報道によると、原監督は少しずつ貯めたお金を投資していましたが、損失額はサラリーマンの年収の数年分といいます。出演したテレビ番組で「(自分の資産が)紙切れになりました」「日本の投資会社は説明責任を果たしているのか」と疑問を投げかけました。証券会社の営業マンに勧められるがまま、ローリスク商品だと思い購入したが、その際、リスクに関する説明はなかったといいます。
クレディ・スイスのAT1債の悲劇
アメリカのシリコンバレーバンクの経営破綻に端を発した市場の混乱を受け、2023年3月19日にクレディ・スイスが長年のライバルであるUBSに救済される形で買収されました。この出来事は金融業界のみならず全世界でトップニュースとして報じられ、「2008年の金融危機のようなことが起こるのではないか?」と取り沙汰されたことは記憶に新しいと思います。この救済策の一環として、スイスの規制当局は「AT1債」と呼ばれる債券を無価値化することを決めました。
債券とは借用証書のようなもので、企業が投資家から資金を借り入れる際に発行する有価証券です。発行した企業が経営破綻しない限りは元本と利息が取り決めた条件通りに投資家に対して支払われます。そして、一般的には経営破綻した際にも、残っている資産から優先的に弁済を受ける権利があるとされています。
そのなかでもAT1債は、銀行の資本を補強するために発行される特別な債券で、発行した銀行の経営状況が悪くなった場合、利払いが停止されたり、株式に転換される可能性があるとされています。すなわち、経営破綻した際には一般的な債券ほどの優先権はない、債券の中ではリスクが高い金融商品なのです。
一方でAT1債であったとしても、そもそも弁済を受ける優先順位が低い株式よりは優位とされていて、比較的利回りが高く、かつリスクも抑えられた商品として多くの投資家が好んで購入していました。
ところが、スイスの金融当局はAT1債を無価値化する一方で、株式については一定の価格でUBSが買い取ることとしたのです。投資家の間で常識とされていた優先順位が逆転する決定がなされたことで、市場に衝撃を与えました。
2022年6月に発行されたクレディ・スイスのAT1債は年率9.75%の利回りを確約するなど、非常に高い利回りが魅力でした。これを受けて日本を含むアジアの富裕層が多く保有していたとされていて、日本でも一部の富裕層が巨額の損失を出したことが報じられました。
ただ、販売時に「全額を失うリスク」についての説明がなかったケースもあるようで、スイスの金融当局に対して法的措置を検討する動きも出てきています。
なぜ投資家はリスクの高い商品を好むのか
日本では事実上のゼロ金利が長年続いている一方、NISAやiDeCoなどの投資家を優遇する政策が相次いで導入されたことで、より高い利回りを求める投資家が増えています。その結果、投資家の間では比較的リスクの高い金融商品の購入がトレンドになっているようです。
しかし、リスクを十分に理解せずに投資を行うことで、大きな損失を被る可能性もあります。投資家がリスクの高い商品に興味を持つ理由はその高い利回りにあります。クレディ・スイスのAT1債も10%に迫る水準のリターンが確約されていました。スイスの大手金融機関という安心感と相まって、投資家は「経営破綻するリスクはないに等しい」と考えて購入していたのでしょう。
ただ、リスクとリターンは表裏一体であり、リターンが高いということは必ずその分リスクも高いのだということを理解しなければなりません。有名な企業の名前がついている債券であったり、リスクに対してリターンが高いかのような説明がされたりと、本来のリスクを見えにくくする要素が多い商品がたくさん出回っており、投資家が知らないうちにハイリスク商品に手を出す原因となることもあります。
金融商品の仕組みをすべて理解することは一般の人にとってハードルが高いですが、リスクを少しでも下げるためには、信用格付けなどをチェックし、バランスの取れた資産配分を行うことが重要です。
年率3%を利回りの目安に
金融商品のリスクを見極める基準の一つが利回りの高さであることはここまででご理解いただけたと思います。では、何%くらいを目安に投資商品を選べばよいのでしょうか。
様々な考え方がありますが、私は「年率3%」を一つの目安とすべきだと考えています。その根拠は近年の世界経済の平均成長率です。これは、様々な国や企業に分散して投資をした場合に期待できる収益がこの水準であるということを示しています。
この水準を大きく超える利回りを謳う金融商品をすすめられた場合は、中身はなんなのか、誰がどのように運用しているのかを確かめ、説明が理解できない場合は投資を見送る勇気を持つことが重要です。
ハイリスクな金融商品を見極めるためには、商品の特性やリスクを理解し、自分の投資目的に合っているかを確かめることが重要です。投資資産全体で年利3%程度を目指す事で、バランスの取れた成長が期待できます。
また、ハイリスクな金融商品への投資を選択する場合は、投資の基本原則を念頭に置くことも大切です。投資の基本原則とは、
   1) 資産配分を適切に行うこと
   2) 分散投資を心掛けること
   3) 長期的な視点を持つこと
   4) 定期的にポートフォリオを見直すこと
などが挙げられます。印象や先入観に左右されず、金融商品自体のリスクや中身をしっかりと見極める事でより安全な投資を行っていただければと思います。
●いまなぜ「金」が値上がりしているのか? 金投資のポイントと注意点 4/27
金(ゴールド)の価格が歴史的高値圏で推移している。なぜ、いま金が注目されているのか。また、金投資のメリットとは。『世界一楽しい!会社四季報の読み方』などの著書がある個人投資家で株式投資講師・藤川里絵さんが解説するシリーズ「さあ、投資を始めよう!」。第40回は、「金の投資」について。
金の価格がぐんぐん上昇しています。じつは円建ての金価格は、1970年代に、ドルが変動相場になってからの価格推移をみると史上最高値となっています。いったいどうして金が買われているのか、今からでも金を買ったほうがいいのか、買うための方法などを解説します。
今、金が買われている理由
最近、「金、買い取ります!」といったチラシをよく見かけませんか? 家にある金のアクセサリーを買い取ってもらっている様子などが、テレビなどでもよく特集されています。金価格がかつてないほど上昇しているため、なんだか世間がざわついているのです。
金価格が上昇している理由はいくつかあります。
【1】金融不安、地政学不安に対する備え
シリコンバレーバンクの破綻を発端として、世界中で金融機関に対する信用不安が起こっています。こういった不安に対して、「有事の金」とも言われる安全資産として、金の需要が伸びています。実際、中国やシンガポール、インドなど、今年に入って各国の中央銀行が、金を大量に購入しており、それらも金価格上昇にひと役買っています。
【2】インフレに対するリスクヘッジ
日本でもじわりじわりと物価が上がっています。金は、お金の価値が下がるインフレ時にも比較的影響を受けづらく、インフレに強いと言われています。
【3】金利上昇の一服
2022年は、アメリカをはじめ日本以外の国で急激な金利の引き上げが行われました。金は金利がつかない商品なので、金利上昇局面では不利になります。ところが、金利引き上げに一服感が出たことで、金が買われやすい状況になりました。
金投資の魅力は?
史上最高値となっている金を今から買うのはどうなの?と思うかもしれませんが、「2030年には金価格は現在の倍になる」というレポートを出している資産運用会社もあり、まだまだこの先、上昇の余地はありそうです。
そもそも金はいくらでも刷れる紙幣とちがい、供給量に限界があります。その点においても価格が暴落するリスクは小さいと考えられます。
また、金は株式が下落するときに、比較的安定した値動きをするので、株式と合わせて持つことでポートフォリオ全体のリスクを分散することができます。そういった意味でも、資産の一部に金を組み入れることは、悪くない選択でしょう。
金投資の方法
金に投資する方法はいくつかあります。投資初心者でも取り入れやすいのは以下の4つ。
   ・金貨・金地金の購入
   ・純金積立
   ・投資信託
   ・金ETF(上場投資信託)
当然、安いときにまとめて買うのが理想ですが、そのタイミングを計るのは難しいものです。時間分散しながら、少しずつ買いためていく積立投資をおすすめします。SBI証券、楽天証券、マネックス証券など王道のネット証券では、純金の積立、投資信託での積立、どちらも可能です。最近、楽天証券では、純金積立をクレジットカードで積み立てられるサービスをスタートしました。ポイントを貯めながら投資できるのがうれしいところです。
金投資の注意点
前述した通り、金には金利がつきません。そのため金利上昇局面では不利になります。複利による資産運用ができないので、長期保有で爆発的に増えることはありません。
また、純金積立の場合は、その都度、買付手数料がかかります。証券会社によって手数料は異なるので、その点は確認が必要です。投資信託の積立の場合は、信託報酬もチェックしましょう。通常のインデックス投信よりはお高めになります。
まとめ
・金投資はインフレや地政学リスクのヘッジの意味合いも
・投資するなら時間分散で積立投資
●米GDP1.1%増、1〜3月期 FRBの引き締めで大幅鈍化 4/27
米商務省が27日発表した1〜3月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、年率換算で前期比プラス1・1%だった。米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めの影響で前期(プラス2・6%)から大幅に鈍化した。市場予想(プラス2・0%)も下回った。
米GDPの3分の2を占める個人消費はプラス3・7%で前期(プラス1・0%)から大きく改善した。外食、娯楽などのサービス価格や家賃が高止まりしているものの、昨夏に高騰したガソリン価格が従来通りの水準に下落し、消費意欲が改善した。
一方、企業の設備投資はプラス0・7%で、前期(プラス4・0%)から大幅に鈍化した。米シリコンバレー銀行の破綻に伴う金融不安などで投資意欲が冷え込んだとみられる。
住宅投資もマイナス4・2%で、前期(マイナス25・1%)に続き低調だった。FRBの利上げに伴う住宅ローン金利の高止まりが響いた。
ロシアのウクライナ侵攻で米経済は2022年1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続でマイナス成長となった。その後はプラス成長に転じたが、FRBが利上げを続けているため、成長が減速している。

 

●ファンド危機に備え始めた米金融当局 ノンバンク規制緩和を修正へ 4/28
ノンバンクが将来の金融危機の火種に
3月の米銀破綻を受けて、米国での金融規制のあり方を見直す動きが出ている。それは、銀行に対する規制の強化に加えて、将来の金融危機の火種となり得る銀行以外の金融機関、MMF、ミューチュアル・ファンド、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ、保険会社、年金基金などを含むいわゆるノンバンクへの規制強化である(コラム「米国を襲うファンド危機:金融危機はいつも違った顔で現れる」、2023年4月5日、「投資ファンドなどノンバンク(非銀行金融仲介機関)の金融リスクに注目」、2023年4月13日)。
トランプ政権下でノンバンクの規制は緩和された
トランプ前政権時代の規制緩和措置によって、金融当局がノンバンクを監視する権限は弱められた。リーマンショック(グローバル金融危機)を受けて2010年に導入された金融規制改革法、いわゆるドッド・フランク法や、「システム上重要な金融機関(SIFI)」に指定することで米連邦準備制度理事会(FRB)が厳しく監視できる対象には、ノンバンクも含まれていた。
しかし、2019年のガイダンスの見直しによって、ノンバンクはこのSIFIの対象から外れた。個別のノンバンクを対象に加える場合には最大で6年かかることになり、FRBが機動的に問題のあるノンバンクを監視することが難しくなったのである。
そこで、イエレン財務長官が議長を務める、米金融規制当局からなる金融安定監視評議会(FSOC)は4月21日に、このガイダンスの修正案を示した。特定のノンバンクが経営悪化などで市場が不安定化するリスクがある場合には、米金融当局が経営情報を求め、必要であれば監督の対象としてその金融機関に関与できるようにする。今後60日間、この提案に対する意見を公募する。
特定のノンバンクを監視対象とするための2つのステージ
特定のノンバンクを当局が監視できるようになるには、2つのステージを経ることになる。第1ステージでは、対象となる金融機関について、FSOCが公開情報や規制当局から得られた量的、質的情報に基づいて、予備的な分析を行う。この際、対象となる金融機関にその事実を伝え、金融当局に関連する情報を提供し、また協議することを認める。
第2ステージでは、第1ステージで追加の審査が必要と判断された金融機関に対して、FRBの監視下に置くこと、経営の改善策を求めることが検討されている事実が伝えられる。また、その金融機関から直接提出された情報に基づいて、追加的な分析がなされる。
第2ステージの最後では、FSOCは金融機関に対して監視対象に指定する提案を行うかどうかを検討する。監視対象に指定する提案が決定されれば、対象となる金融機関は聴聞(ヒアリング)を要求できる。その後に、FSOCはその金融機関を監視対象とするための採決を行う。
中小銀行とノンバンクの複合的な金融危機の可能性
リーマンショック後に金融規制強化が進められてきた中で、ハイイールド債、証券化商品の一部など高リスク資産の保有を減らしてきた銀行に代わって、こうしたノンバンク、つまり非銀行金融仲介機関(NBFI:Nonbank Financial Intermediaries)がリスク性資産を多く保有するようになった。超低金利環境の下で、投資リターンをできるだけ高めるために、投資ファンドなどノンバンクは、期待リターンの高い高リスク資産に積極的に投資を行ったのである。
しかしこの先、利上げと信用収縮の影響で経済情勢が悪化していけば、不動産市場の悪化や企業の経営悪化などを映して、ハイイールド債、証券化商品の価格下落が顕著になるだろう。それは投資ファンドを中心に、ノンバンクの投資リターンを低下させる。そのことが投資家の解約を促し、換金のためのノンバンクの金融資産の投げ売りが、金融市場を大きく混乱させる可能性が考えられる。
その結果、米国では再び金融不安が生じる可能性があるだろう。それは、中小銀行の破綻懸念とノンバンク危機が複合された新しいタイプの金融危機となるのではないか。
●世界三大投資家ジム・ロジャーズ「歴史が証明! ロシア株の急騰に備えよ」 4/28
ウクライナ侵攻と新型コロナ
ロシア、ウクライナ、中国、日本が狙い目
戦争に勝者はおらず、ロシアもウクライナも苦しんでいます。私はウクライナやロシアに投資がしたいのですが、アメリカ人なので、現在はどちらにも投資をすることができません。ですが、長年の経験から、戦争中の地域に投資をすれば、大儲けできると学びました。忍耐力をもって戦争が終わりかけの国に投資すれば、非常にうまくいくはずです。
今のロシアには多くの経済制裁が科されています。制裁は一時的な効果をもたらしますが、このような歪んだ状況では長期的な効果はありません。もしあなたに持続力と忍耐力があるのなら、この2カ国に投資するのは非常に賢いやり方でしょう。
そう遠くないうちに、何らかの合意が行われるのではないかと思います。2023年4月中旬時点では、日本国内からもロシアへの投資には規制がありますが、規制が解除されれば、どちらか、あるいは両方が投資先として適しているかもしれません。
そして、新型コロナウイルス感染症に関しては、最も被害を受けたのは中国でしょう。日本も大きな打撃を受けましたが、日本よりも厳しく規制されていたのは中国です。しかし、最近は中国も日本も、世界中のあらゆる場所が国境を開きつつあります。この傾向が続くことを望んでいます。
もし私が投資先を探しているのなら、投資家が今注目すべきなのは、日本か中国のどちらかでしょう。株式市場は最高値から大きく下落しているからです。
株以外にも、インフレのときに、農作物のコメや銀などに投資をすれば、大儲けできるかもしれません。しかし、モノを生産する企業は、インフレ時に資源や農作物、貴金属を生産しているサプライヤーを見つけなければなりません。価格が上がるモノを生産している企業は、利益を得ることができるわけです。
とはいえ、インフレは一方的に上がり続けるものではありません。経済には浮き沈みのサイクルがあり、いったん下がってから再び上昇するのが一般的です。インフレだからといって、綿花の値段が毎日上がると思わないでください。市場の仕組みはそうなっていません。
ウクライナ産の穀物輸出の再開をめぐって、ロシアとウクライナの協議が行われていますが、合意が延長されたため、23年の生産量は予想よりも大幅に減少するようです。通常、コモディティ(商品)の資産価格が下がっているときに買うことができれば、儲かる確率が高いものです。私は今のところ買っていませんが、農作物、特に穀物はとても良い投資先になると思いますね。
銀行連続破綻とアメリカ株
GAFAMは再び高騰する
通常、強気相場でもっともパフォーマンスの高い株は、次の弱気相場では非常に苦しむことになります。アップルやマイクロソフトをはじめGAFAMなどのビッグ・テックの株を買うには素晴らしい機会となるでしょう。
なぜなら、ビッグ・テックの株価は一番下がるからです。今はまだ最終的な弱気相場には入っていないと思いますが、次の強気相場で、これらの株は「ベストバイ」とも言える買い時となるでしょう。
米国のアップルや中国のアリババ、テンセントなどのテック銘柄は、崩れたときに一斉に売られ、調子が良さそうなときに一斉に買われるものなのです。
テクノロジー・バブルは今後も続くでしょう。今、世界のテクノロジー業界では非常に面白くてリアルな変化が起こっています。アメリカやアジアだけでなく、世界中の技術が変化しています。スマートフォンやコンピュータの分野でも、さらなる発明がなされるでしょう。
しかし問題は、こうした変化がやがて投資市場で過度に利用されるようになることです。市場の誰もが「今回は特別だ」と言うようになるでしょう。その意味するところは、「今回は非常に高価になる」ということです。その言葉を聞いたならば、バブルを心配し始めなければなりません。どのようなバブル市場でも、人々はいつも身の丈以上のものを手に入れ、高値で取引していますし、今回も同じようになるでしょう。
私はテクノロジーそのもののことはよくわかりませんが、15歳の娘はテクノロジーで何が起きているのかについて、多くのことを知っています。こういうことは若い人のほうが敏感です。家族にティーンエイジャーがいるならば、ぜひ聞いてみてください。
シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻
さて、23年の3月に、米国のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻しました。
SVBは、米国のテクノロジー企業へ融資することで知られていました。今回の破綻は、米国の銀行では、2008年のリーマンショックで破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ規模の破綻となりました。
しかし、代わりとなるような競合の銀行はたくさんあります。米国には十分な資金を持つ銀行が多くあるのです。
通常、このような事態が発生して誰かが被害を受けると、私たちがしばらく呻(うめ)き声を上げているうちに、事態が好転するのですが、たいていはそれだけでは終わりません。また誰かが次のトラブルに見舞われることになるでしょう。
次にどの業界が被害を受けるかはわかりません。歴史上、世界最大の債務保有国である米国は、これからさらに多くの問題を抱えることになるでしょう。テクノロジー業界だけでなく、銀行やあらゆるところに問題が見られます。今回の問題がまだ終わったとは思わないでください。
24年までには、必ず株式市場の大調整期が来ると思います。今すぐに株を売ろうとは思いませんが、23年の後半から24年の初めにかけては、空売りするタイミングになると予想しています。
そして、米SVBの破綻により、以前から慢性的な赤字が続いていたスイスのクレディ・スイス銀行にも信用不安が拡大しました。スイスの金融最大手UBSが同2位のクレディ・スイスを、30億スイスフラン(約4260億円)相当で買収することになりました。
株主はともかく、銀行を救済するというのは、世界の常識ではありえないことです。債券保有者であれば、劣後債のような信用度が低い債券を保有していても、株主より権利が優先され、弁済順位が高くなるはずでした。
しかし、スイス政府は、株主などを優先して救済しています。クレディ・スイスの劣後債の一種である「AT1債」の保有者は返金されないのに対して、弁済順位がより低くなるはずの株主は、UBS株が割り当てられることになったのです。
この状況は良いことではありません。非常に悪い先例になると思います。債券保有者が安心できない状況に陥れば、問題が悪化したときに、世界の金融市場でさらに似たような事態が繰り返されることになるでしょう。
私はこれらの企業の証券をどれも持っていなくてよかったと思います。もし、愚かにも債券は安全だと信じていたならば、今ごろ大損をしていたでしょうね。実際に大損したファンドや富裕層はたくさんいると聞きます。
もちろん、このような事態は良いことではありませんし、スイス政府が通常機能する方法ではないことは確かです。「ショック」というより、「暴虐」と言ってもいいくらいです。
米利上げとインフレ
2024年からインフレが再開する
ウクライナ危機や新型コロナウイルスの感染拡大による中国の都市封鎖の影響で、世界中でインフレーションが加速しました。止まらない物価高を食い止めるため、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、過去12カ月間で最大の利上げに踏み切りました。
しかし、FRBによる繰り返しの利上げが、SVBの破綻に影響を与えたと言われています。
今後、FRBが利上げを緩めるのか、それとも23年中に利下げを開始するかが注目されているのです。
中央銀行は、愚かにも楽な政策を取りたがります。つまり利下げをしたがるということです。「今の状況は大丈夫だ」と言って、できるだけ早く、利上げにブレーキを踏もうとしているのです。
残念ながら、中央銀行家のほとんどは、市場の仕組みについて実際のところ無知であるのです。米財務長官のジャネット・イエレン氏が言うように、本当にインフレ問題が過去のものだとするならば、私の考えでは、しばらくの間はインフレ率が低い状態が続くはずです。
しかし最終的に、24年には、再びインフレに見舞われるでしょう。金利も再上昇し、そのときに起こる弱気市場は、すべての人にとって非常に悪い影響をもたらすでしょう。アメリカだけでなく、日本でさえも打撃を受けることになります。
約40年前、当時のFRB議長のポール・ボルカーという人物はインフレを抑制したと言われています。ボルカー氏は、当時のジミー・カーター大統領に対して「インフレ問題は非常に深刻で、大胆な施策が必要だ」と訴えました。カーター大統領は、ボルカー氏を守る代わりに、この問題を終わらせるよう返事をしたそうです。
ボルカー氏は、FRB議長就任後、すぐに金融引き締め策を始めました。当時のアメリカの短期国債の金利は、約20%まで上昇したのです。カーター大統領は再任されませんでしたが、インフレ問題は解決されました。
当時の金利に比べると、今の金利は非常に低いですが、インフレは当時と比べると非常に深刻で、悪い状況にあります。懸念すべきであることは間違いないでしょう。米国のインフレ率は、23年後半は鈍化する可能性があります。少なくとも、報告されている数字は、すでに少し下がっています。
この数字を見て、中央銀行はしばらく満足するでしょう。今の中央銀行家は、この問題を理解していると思い込んでいます。物価がそれほど早く上がっていないことも一因です。しかし、いずれインフレは戻ってきます。
24年以降はインフレ率がまた上昇し、弱気相場が来ると予想されています。ですから、FRBが再びインフレに関心を示すのは、24年になると思います。人々は再び心配になり、金利はさらに上がるでしょう。そのときに、本当の弱気相場がやってくるはずです。
インフレが再び戻ると、もっと多くの企業が倒産すると思います。そのとき、日本もきっと痛い目に遭いますよ。
今回はSVBやクレディ・スイスが打撃を受けましたが、次の倒産に関してはみんな怖がっています。ドイツ銀行も株価が急落しましたね。新聞やテレビに目を通せば、怖いと思うのは当然です。
しかし、財務長官は心配する必要はないと言っているのです。みんなしばらくはそれを信じて、事態は好転していくように思われるでしょう。しかし、そのうちに、次の大きな危機がやってくるのです。
中国経済のバブル
中国のワイン会社に私が投資をする理由
中国は新型コロナウイルスのパンデミックから立ち直り、人々は旅行を始めています。今後数年間は、中国経済は非常に好調となるでしょう。しかしそれは、封鎖していた大きな経済圏を開放したからです。今の経済が良いのは、これまでが酷い状況だったからでしょう。もちろん今が良いからと言って、これから起こりうることも同じだとは限りません。
楽観的な状況はしばらく続くでしょうが、アメリカや欧州、日本、そして他の国々の景気が減速し始めると、中国は大きな打撃を受けることになるでしょう。中国は世界でも有数の貿易国です。貿易国である以上、顧客となる国の経済が減速すれば、中国の経済も減速します。
私は中国のワイン会社に投資をしていて、今でも保有しています。その理由は、中国にいるほとんどの人が、ブドウ酒が何なのかをまだよく知らないからです。
私が若いころは、ワインを飲むアメリカ人はほとんどいなかったのを覚えていますが、今ではアメリカ人の多くがワインに詳しくなっています。中国でも同じようにワインが広まるだろうと思っています。
さて、中国の不動産は、国内総生産(GDP)の大部分を占めています。不動産市場の低迷は、中国経済に打撃を与えました。不動産開発大手の恒大集団は、巨額の負債を抱えたために債務不履行に陥り、今もこの問題は続いています。
中国の不動産バブルは、終焉を迎えています。とてつもなく大きなバブルでしたから、すぐに弾けるとは思っていません。中国政府は不動産バブルに対して、何かしらの対策をすると述べるにとどまっていました。
為替市場においては、通貨・人民元の取引が規制されていたため、中国人はかつて、投資できる選択肢をあまり持っていませんでした。そのため、皆急いで不動産に投資し始めたのです。国家全体がこれほど巨大なバブルに見舞われたのは、史上初めてのことでしょう。
不動産バブルは必ず弾けます。しかし今の段階では、多少の亀裂があっても、崩壊の兆しはまだ見えてはいません。
このバブルは1、2カ月で弾けるものではなく、もっと長い間続くと思われます。バブルの崩壊はもっと先の話です。そうなれば、より多くの倒産を引き起こし、崩壊が進むでしょう。
私は日本の不動産バブルを覚えているくらいの年齢ですが、現在の中国の状況は当時の日本を超えています。バブル崩壊後しばらくは、代償を払うことになるでしょう。
金・銀
最高値更新の金より割安の銀を注視せよ
金や銀の価格が高騰しています。ウクライナ危機やSVBの破綻が影響して、金融不安が広がっています。社会的な不安が広がれば、資産として信用の高い金や銀が買われることになります。
特に、安全資産として代表的な「金」が多く買われているため、価格が高騰しているのです。23年4月には、金の価格が1オンスあたり2000ドル超にまで上昇し、過去最高値の水準です。
銀価格への上昇圧力も高まっていると言えるでしょう。エネルギー価格が高騰しているため、銀の需給もひっ迫しているからです。銀は、工業用途や投資向けに需要が高まっています。
また、利上げがいったん落ち着く見通しであるため、ドルの価値が上がりにくくなっていることも、金や銀の価格が上がっている背景となっています。通常であれば、米国の経済が強ければドル建ての需要もそのぶん増します。しかし、今はドルが相対的に弱くなっていると言えるでしょう。
もし私が買うとしたら、金よりも銀を買うでしょう。歴史的に見ると、銀のほうが安くなっているからです、銀は史上最高値から50%以上下落しています。対して、金は最高値を更新しそうな状況にありますから割高です。
しかし、私はまだどちらも買っていません。なぜなら、本格的な弱気相場が到来したら、銀や金ですら売られることになるからです。人々は現金が必要になるため、金や銀を売らなければなりません。そのような状況になったら、もっと銀を買うか、あるいは金と銀の両方を買おうと考えています。
また、金が米ドルの代替資産になると考える人がいるようです。金の価格は、米ドルが値上がりすれば値下がりし、値下がりすると値上がりする傾向があります。すなわち、金は米ドルに対して逆相関の値動きをしているとされています。歴史的に米ドルが弱くなったとき、金や銀に流れる人がよくいました。同じことはまた起こるでしょう。ただ、金と銀が米ドルに取って代わるとは思えません。金や銀は通貨として、様々な問題があったからです。
しかし、物事がうまくいかなくなったとき、クローゼットの中に金や銀を入れておくのは良いことでしょう。ベッドの下に銀をいくつか持っている人もいることでしょう。私もベッドの下に、銀を置いておきたいと思います。
日本円・日本株
円安は続くし日銀の買い入れも続く
日本では、10年ぶりに日本銀行の総裁が交代しました。新しく就任したのは、植田和男総裁です。日本銀行のトップが代わっても、現在の金融緩和は継続されると思います。
私は長い間、金融業界にいますが、日本の通貨が1ドル=300円を超えていた時代のことを覚えています。それから、日本は膨大な量のお金を印刷し、莫大な借金を抱えるようになりました。為替レートは、お金を印刷する量に委ねられています。
1998年に日本円が暴落したときのこともよく覚えています。当時はスイス・フランを除けば、日本円より高い通貨はありませんでした。今となっては、以前のような状態にはありません。22年、円は米ドルに対して150円を記録しました。残念ながら、円安は今後も続くでしょう。一方で米ドルも、他の通貨に対して大幅に下がるでしょう。今は経済環境が良くないため、日本円や米ドルに投資するには、適した時期ではありません。
経済が深刻に悪くなるまで、日本銀行はたくさんのお金を刷り続けるのではないでしょうか。そして、通貨が本当に崩壊したとき、日本で何かが変わるかもしれません。しかし、そうなれば、日本だけでなく、世界的に非常に悪い時代になります。
米ドルにも問題があるため、私は、米ドルの対抗馬になるものを探しています。しかし、まだ見つかっていません。なぜなら、米ドルに対してより競争力を持つものが現れるだろうと考えているからです。
100年以上続いている国際通貨はありません。すべての通貨は、何かしらに置き換えられています。だからと言って、ビットコインなどの仮想通貨が良い投資先だとは思いません。ビットコインが好きな人はいいですが、ビットコインが国際的にメジャーな通貨になるとは思えないからです。中国の通貨である人民元についても、国際的な取引ができるようになるまでには、まだ長い道のりがあると思います。
日本の観光業は、コロナ禍の最中よりも、ずっと良い未来が待っています。通貨が弱くなれば、日本の物価が安くなり、競争力が増すと期待されています。多くの人が観光のため、日本を訪れるようになるでしょう。
窓の外を眺めてみてください。日本の観光業は良くなり続けるでしょう。観光業が発展し、素晴らしい国の一端を担うことができるのですから、大丈夫だと思います。旅行ツアー以外にも、日本には素晴らしいものがたくさんあり、訪れるべき場所として推進されています。
しかし、日本の個別株を買おうとは思いません。なぜなら、日本銀行が中心となり、大きな資金がインデックスに連動したETFに集まっているからです。この状況が続く限り、日本への投資はインデックス投資とすることを継続したいです。
●米地銀 ファースト・リパブリック・バンク株価急落 警戒強まる  4/28
巨額の預金流出が明らかになったアメリカの地方銀行、「ファースト・リパブリック・バンク」の株価が急落し、市場では金融不安への警戒が強まっています。欧米のメディアは金融当局の関与やほかの銀行による追加支援策も協議されていると報じています。
アメリカ西部カリフォルニア州に拠点を置く地方銀行、ファースト・リパブリック・バンクは3月、銀行破綻が相次いだ際に連鎖的に預金が流出し、金融大手のJPモルガン・チェースなど11の大手金融機関から支援策としてあわせて300億ドル、日本円でおよそ4兆円の預金を受け取っていました。
この地方銀行は預金が先月末時点で719億ドル、日本円でおよそ9兆6000億円、流出していたことを今月24日、明らかにしました。
この発表を受けて銀行の経営への懸念が再び高まり、銀行の株価は翌日の25日に49%、26日も29%下落し、金融不安が起きる前と比べると株価が20分の1になりました。
欧米のメディアはこの銀行が財務の改善のために資産売却を検討していると伝えたほか、金融当局の関与やほかの銀行による支援策も協議されているなどと報じています。
市場では再び金融不安を引き起こしかねない事態に警戒が強まっています。
●27日の米国株式市場は上昇、金融不安後退や一部ハイテク決算を好感 4/28
NY株式 / 米国株式市場は上昇、金融不安後退や一部ハイテク決算を好感
ダウ平均は524.29ドル高の33,826.16ドル、ナスダックは287.89ポイント高の12,142.24で取引を終了した。
経営難に陥っている地銀のファースト・リパブリック(FRC)株が下げ止まったため、金融システム不安が後退し、上昇して始まった。また、ハイテクのメタ・プラットフォームズ(META)の良好な決算を好感した買いが相場を押し上げ、終日堅調に推移した。終盤にかけ、上げ幅を拡大し高値圏で終了。セクター別ではメディア・娯楽、小売りが上昇した。
テクノロジー会社のハネウェルインターナショナル(HON)は第1四半期決算で調整後の1株利益が予想を上回ったほか、通期の目標を引き上げたことで上昇。ソーシャルメディアのフェイスブック(FB)を運営するメタ・プラットフォームズ(META)は四半期決算で1株利益と売上高が予想を上回り、アナリストは投資判断を引き上げ、さらに、ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が人工知能にさらなる投資を計画していると言及したため期待観が広がり大幅高。配車サービスのリフト(LYFT)はコスト削減の一環で全従業員の26%を削減すると発表し上昇。航空会社のアメリカン(AAL)は四半期決算が予想に一致、夏の国際線需要が強く、第2四半期の1株利益見通しが予想を上回り、買われた。
一方で、サウスウエスト(LUV)は昨年12月の悪天候やコンピューター不具合などによる全国的な運航停止が年初の売り上げに響き1-3月期決算で2四半期連続の赤字を計上し下落。重機メーカーのキャタピラー(CAT)は第1四半期決算で調整後の1株利益が予想を上回ったものの、在庫状況から需要がピークに達したとの思惑が強まったほか、正式な見通しが示されず警戒感から売られた。
取引終了後にオンライン小売のアマゾン(AMZN)は第1四半期決算を発表。売上高が市場予想を上回ったほか、第2四半期見通しが好感され、時間外取り引きで上昇している。
NY為替 / 米1-3月期GDP価格指数の伸び加速で追加利上げ観測再燃
27日のニューヨーク外為市場でドル・円は、133円24銭まで下落後、134円20銭まで上昇し、133円95銭で引けた。1-3月期国内総生産(GDP)速報値が10-12月期から予想以上に減速したため利上げ停止観測受け一時金利が低下しドル売り優勢となった。しかし、同期GDP価格指数やコアPCE速報値が予想以上に伸びが加速し高インフレが根強い証拠となったほか、週次新規失業保険申請件数も予想外に減少し労働市場の強さも示され追加利上げ観測に伴うドル買いが再燃した。日銀の金融緩和維持を織り込む円売りも加速。
ユーロ・ドルは、1.1056ドルから1.0992ドルまで下落し、1.1028ドルで引けた。ユーロ・円は147円15銭まで下落後、147円79銭まで反発。金融不安を受けたリスク回避の円買いが強まったのち、日銀の金融政策決定会合で緩和策据え置きを織り込む円売りが優勢となった。ポンド・ドルは、1.2498ドルまで上昇後、1.2437ドルまで反落し再び1.2499ドルへ上昇。ドル・スイスは、0.8921フランまで下落後、0.8976フランまで上昇した。
NY原油 / もみ合いで74.76ドル、75ドルを挟んだ水準で推移
NY原油先物6月限はもみ合い(NYMEX原油6月限終値:74.76 ↑0.46)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は、前営業日比+0.46ドルの74.76ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは74.03ドル-75.28ドル。米国市場の前半にかけて自律反発狙いの買いが入ったことで75.28ドルまで戻したが、一時74.03ドルまで反落。その後は下げ渋り、通常取引終了後の時間外取引では主に74ドル台で取引された。
●FRBの緊急融資が1552億ドルと2週連続で増加 4/28
4月26日に終了した週のFRBの緊急銀行融資が前週の1439億ドルから1552億ドルと2週連続で増加した。窓口貸出は前週の699億ドルから739億ドルに増加。銀行ターム・ファンディングローンも前週の740億ドルから813億ドルに増加した。
また、SVBとシグネチャー銀を解決するために米連邦預金保険公社(FDIC)が設立したブリッジバンクに対する融資は前週の1726億ドルから1704億ドルに減少。
●FRBからの銀行緊急借入残高、2週連続増加−金融システム緊張続く 4/28
米連邦準備制度理事会(FRB)の2つの緊急貸出制度で、銀行の借入残高が2週連続で増加した。先月にあった一連の米地銀経営破綻を受け、金融システムの緊張が続いていることを裏付けた。
FRBが27日に発表したデータによれば、4月26日までの1週間の借入残高は両制度合計で1552億ドル(約20兆7900億円)と、前週の1439億ドルから増えた。
このうち連銀窓口貸出制度を通じた借り入れが739億ドルと、前週の699億ドルから増加した。3月には過去最大の1529億ドルを記録していた。
一方、シリコンバレー銀行(SVB)やシグネチャー・バンクの経営破綻を受けて3月12日に新設された「バンク・ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)」での借入残高は813億ドルと、前週の740億ドルを上回った。
銀行株は今週、新たな圧力にさらされている。ファースト・リパブリック・バンクの1−3月(第1四半期)決算で、予想を上回る預金流出が示され、同行株価が上場来安値を付けたことなどが背景。
●米FRBの銀行向け融資が小幅増、高水準続く 4/28
米連邦準備理事会(FRB)の銀行向け融資が26日までの週に小幅に増加し、非常に高い水準にとどまっていることが分かった。
FRBが公表したデータによると、銀行の流動性支援を目的とする3つの制度を通じた融資総額は26日時点で3256億ドルと、19日時点の3165億ドルから増加した。地銀破綻を受けて3月22日に記録したピークの3437億ドルは下回っている。
米連邦預金保険公社(FDIC)による破綻銀行対応に関連した融資が1704億ドルと引き続き大部分を占めた。前週の1726億ドルからは減少した。
一方、連銀窓口貸出(ディスカウント・ウインドウ)利用額は739億ドルで、19日時点の699億ドルから小幅に増加。FRBが新設した銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)の利用額も前週の740億ドルから813億ドルに増加した。
FRBによる海外の中央銀行や金融当局への貸し出しはゼロ。前週は200億ドルだった。
FRBのバランスシート全体の規模は8兆6130億ドル。前週は8兆6430億ドルだった。 
●OPECプラス石油減産の背後にある「サウジ第一主義」 4/28
英フィナンシャル・タイムズ紙は、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟国で構成する「OPECプラス」の、サウジアラビア主導による突然の減産についての解説記事を4月3日付で掲載している。要旨は次の通り。
4月2日、突然、サウジ他のOPECプラス加盟国が日量100万バレル以上の生産削減を発表すると原油価格は急騰し、3日にはアジア市場で8%上昇したが、この事は、サウジが米国との衝突を選んだことを意味する。
サウジは、OPEC加盟国と非加盟国の減産と協調して日量50万バレル(自国の生産量の5%以下)の自発的な減産を行うと発表したが、原油需要の低下の恐れがある中で原油価格の引き上げを狙っている。
このサウジが主導する値上げはOPECプラスの公式会合の外で公表された点で例外的であり、この生産削減に参加した諸国の焦りを示唆している。今回の生産削減は、3月、米国のシリコンバレー銀行の破綻とスイスのクレディ・スイス銀行のUBS銀行との強制合併により世界的な金融危機に陥り、原油需要が大幅に減るのではないかと懸念された後に決定された。
昨年10月、ロシアがウクライナを全面的に侵攻し、ロシアの欧州向けの天然ガスの供給をカットしてエネルギー危機を起こそうとしているにも関わらず、OPECプラスが公式に日量200万バレルの生産削減を公表すると、米国政府はサウジがロシアに味方していると非難した。
バイデン政権は昨年、インフレと戦うために放出した原油の戦略備蓄の再備蓄を、原油価格が安くなるまで行わないと発表した。サウジはこれに怒っていると見られる。
サウジは、バイデン政権下で米国との関係が悪化した後、米国から自立した経済戦略の道を探っているが、要するに「サウジアラビア第一主義」である。最近の中国が仲介してサウジとイランが関係回復したことが示す通り、サウジは、中国などの新しい友人を作っており、米国に対して「世界は米国一極の時代ではない」というメッセージを送っている。
サウジのムハンマド皇太子の異母兄弟でサウジのエネルギー相であるアブドルアジズ王子は、原油供給に対して世界的に投資が足りていないと主張しているが、ムハンマド皇太子の野心的な経済改革プログラムの予算は、原油収入に依存している。
今回のOPECプラスの一部のメンバーによる日量116万バレルの減産決定は、寝耳に水であり、油価は一時的に8%上昇した。なお、OPECプラスは、昨年10月にも日量200万バレルの減産を決定しており、OPECプラスの減産プラスは、日量300万バレル強となる。
減産の事前通報に対して米側は同意しなかった由だが、米国では依然として6%の高いインフレが続いており、特にガソリン価格の上昇は米国民の生活を直撃する。バイデン政権が、今回の値上げを主導したサウジに対して怒ったであろうことは想像に難くない。
OPECプラスは、今回の減産決定は世界的な原油需要の減退に対応するためと説明している。確かに米国経済を初めとして世界的な景気後退の観測が高まっており、原油需要の減退の可能性がある。他方、米ゴールドマン・サックスなどは、今回の減産決定前に、中国経済が新型コロナに対する規制解除により回復することから原油価格は100ドルになるとの見通しを立てており、やはり、サウジを初めとするOPECプラス加盟国の懐具合の事情と考えるのが妥当であろう。
また、今回の減産決定は、最近の米国・サウジ関係の困難さをさらに一層浮き彫りにした。これまで米国の安全保障の傘に依存していたサウジを初めとするペルシャ湾岸のアラブ産油国(湾岸協力会議<GCC>加盟国)は、自国の懐具合よりも米国との関係を重視してきた。
しかし、米国は対中国シフトのためにこの地域から軍事力を再配置し続けており、2021年には4万人の米軍が中東に展開していたが、最近では3万人に減っている。否応なくGCC側も中国などとの関係強化に乗り出しており、サウジは、「サウジアラビア第一主義」を選び、米国に対して「世界は米国一極の時代ではない」というメッセージを送っている由である。
中国によるサウジ・イラン仲介の影響も
しかし、今回の減産決定をサウジが主導することを直接的に可能にしたのは、中国の仲介によるサウジとイランの関係修復が大きいと考えられる。これまでサウジはイエメン内戦に介入した結果、イエメンの反政府勢力であるイスラム教シーア派武装勢力フーシからのサウジ本土に対するミサイルとドローンの攻撃に手を焼いていたが、フーシの後ろ盾であるイランと和解したため、サウジに対する安全保障上の直接的な脅威が大幅に減じた。
また、フーシの攻撃が続く中、これまで米国に地対空ミサイルなどの武器弾薬の供給を依存していたが、ユダヤ・ロビーの反対などでなかなか思うとおりに進まなかったところ、誇り高いサウジ人にとり、米国に頭を下げなくて済むということは重要であろう。
さらに現在、サウジの全権を掌握しているムハンマド皇太子にとり、「サウジ・ビジョン2030」と呼ばれる経済改革は、彼が国民の支持をつなぎ止めるために失敗は許されず、必要な財源確保のためには米国を怒らせてでも減産して油価を引き上げざるを得ないのだろう。
シェール革命で世界最大の産油国となった米国は、OPECプラスの減産に対抗して自国の原油生産を増産する事が可能だと思われるが、バイデン政権の脱炭素化重視政策が障害となっている。今回の出来事は、米軍の撤退が米・サウジ関係の緊張のきっかけとなり、他方、バイデン政権の脱炭素化重視政策が自国の増産で油価の上昇を抑えられないということだから、米国は自ら苦境を作り出しているとも言えよう。
●「ムチとムチ」──摘発と粛清でテック産業を育てようとする中国 4/28
2012年秋に習近平体制が誕生して以来、中国政府は反汚職キャンペーンに力を注いできたが、ここ数年はそれが新たな重要性を帯び始めている。
米中対立の激化を背景に、中国政府はテクノロジー分野での外国依存を弱めるため、規律と統制という過去に例のない手法を採用し始めた。その一環として汚職の摘発を強化しているのだ。
中国共産党で汚職取り締まりを担う中央規律検査委員会は21年秋以降、政府の金融当局の高官たちを立て続けに調査対象にしてきた。銀行保険監督管理委員会や中国証券監督管理委員会、さらには中国人民銀行(中央銀行)の幹部が共産党から除名されたり、死刑判決を受けたりしている。
政府高官だけではない。招商銀行、中国銀行、中国光大集団などの金融機関の元トップたちも相次いで調査の標的になっている。
汚職の根絶や資本の非効率の解消そのものは、これまでも習政権が目指してきたことだ。しかし、アメリカによる対中制裁や輸出管理を受けて、この政権はテクノロジーの自給強化を国の重要目標と位置付けるようになった。
それに伴い、テクノロジー産業の有力投資家を反汚職キャンペーンの標的にするケースが増えている。この分野における腐敗が中国のテクノロジー産業の成長を妨げていると考えているためだ。
テクノロジー分野に注力している投資銀行の華興資本では、創業者で会長の包凡(パオ・ファン)が2月以降身柄を拘束されている。これに先立って、同社の社長を務めた叢林(ツォン・リン)も取り調べの対象になっている。
産業界を萎縮させる?
これとは別に、半導体産業を標的にした摘発も目立つ。半導体産業の育成を目的に設立された政府系投資基金「国家集成電路産業投資基金(CICF)」(通称・ビッグファンド)の多くの幹部たちが調査対象になっているのだ。
摘発や粛清と並行して、中国政府はテクノロジー産業への投資に対する監督の在り方も大きく改めた。3月には、共産党中央委員会が直轄する中央科学技術委員会を新設して、科学技術分野を監督させることが発表された。
この新体制の下で、重要性の乏しい業務を他省庁に移管する一方で、重要なテクノロジーの開発を促進する科学技術省の役割が強化された。これにより、適切な投資を後押ししようというのだ。
金融分野では、国家金融監督管理総局を新設し、株式市場を除く金融監督機能を集中させることにした。株式市場は引き続き中国証券監督管理委員会が監督するが、同委員会も組織変更を行い、監督権限を大幅に強化する。
一連の動きから見えてくるのは、中国指導部が現状に満足していないということだ。しかし、これらの措置によって中国政府の懸念が緩和されるかどうかは定かでない。
最大の問題は、テクノロジー産業に活力をもたらすためのインセンティブ設計が導入されていないことだ。
中国共産党のDNAに深く刻み込まれたレーニン主義的な規律と統制の手法により、重要なテクノロジーの発展が実現する保証はない。むしろ、中国のテクノロジー産業と金融産業を萎縮させる結果を招いても不思議でない。

 

●米シリコンバレーバンク破綻「FRBはぜい弱さ認識せず」報告書  4/29
アメリカでシリコンバレーバンクが破綻したことを受けてFRB=連邦準備制度理事会は破綻の経緯や金融当局の対応を検証した報告書を公表しました。FRBが銀行のぜい弱さを認識していなかったとして監督・規制の強化が必要だとしています。
FRBが28日に公表した報告書によりますと史上2番目の規模で破綻したシリコンバレーバンクについて、リスク管理を怠った経営の失敗の教科書のような事例だと銀行の経営を批判しました。
一方で銀行を監督するFRBが銀行のぜい弱さを認識しておらず、問題を把握したあとも十分な措置を講じなかったと指摘しています。
要因としてトランプ前政権の下で行われた規制緩和をうけて銀行経営の健全性を審査する「ストレステスト」の基準が弱められたことで経営悪化を見抜けなかったとしています。その上で現在、審査基準が緩やかになっている総資産が1000億ドルから2500億ドルの銀行についてもより厳しい基準で対応すべきだとしています。
具体的な項目として金利上昇のリスクや、インターネットを通じて預金が急速に引き出された場合に十分な資産を保有しているかなどを挙げています。
報告書の中でFRBのバー副議長は「銀行監督や規制が機能せず破綻の連鎖を生んでしまった。FRBによる監督や規制を強化しなければならない」とコメントしています。
●SVB破綻巡るFRB報告、規制・監督改革の必要性補強=ホワイトハウス 4/29
ホワイトハウスのマイケル・キクカワ報道官は28日、米中堅銀シリコンバレー銀行(SVB)の破綻に関する連邦準備理事会(FRB)の検証結果は、バイデン大統領が提唱してきた「常識的な規制・監督改革」の必要性を補強すると述べた。
「前政権下で大手地銀に対するセーフガードや監督が緩められたが、銀行システムを強化し米国の雇用と中小企業を守るためにこれらは撤回されるべき」とした。
FRBは28日に公表した報告書で、銀行の規模が拡大し複雑化する中でSVBの脆弱性の程度を十分に理解していなかったとし、SVBに対するFRBの判断は「必ずしも適切ではなかった」と結論付けた。
●日銀会合を受けてドル円は136円台に急伸 株高でリスク選好の円売りも 4/29
きょうの為替市場は円売りが強まる中、ドル円は136円台に急伸している。植田総裁就任後初となる日銀決定会合の結果が発表されたが、現状の金融緩和策を据え置いた。マイナス金利も温存している。また、金融緩和策について最大1年半程度の多角的なレビュー期間を設けることも発表。一方で先行きの政策指針となるフォワードガイダンスの撤廃を発表した。植田総裁は会見で、粘り強く緩和措置を続けて行く方針を強調した。
なお、本日は展望レポートも発表になっていたが、2023年度のコアCPIの見通しを1月の1.6%から1.8%に上方修正した。日銀が年度後半にかけてインフレは鈍化して行くと見ている。
大方想定通りだったとは思われるが、為替市場は急速に円安に反応した。オプション市場ではサプライズに備えた円高警戒が3月以上に高まるなど、海外勢中心に警戒感が高まっていた分、切り返しも強く出ている模様。来週のFOMCやECB理事会に向けてのポジション調整が活発に出ている印象もあるほか、下落して始まった米株式市場が切り返していることもフォローとなっている模様。
市場からは、135円台を固められるようであれば、138円台が視野に入るとの見方も出ている。きょうの上げで140円までの上昇の可能性も指摘されているようだ。
ユーロドルは一時1.09ドル台に下落する場面が見られたものの、NY時間に入って米株式市場が堅調に推移していることもあり、1.10ドル台に戻している。ロンドン時間には米アマゾンが決算を受けて下落していたことで、リスク回避の雰囲気が広がり、為替市場ではドル買い・ユーロ売りが出ていた。また、本日の日銀決定会合を受けてユーロ円が150円台に急伸していることもユーロドルの下値をサポートしているようだ。ユーロ円が150円台は2008年のリーマンショック以来。
ユーロに関しては、来週のECB理事会とその前々日に発表になるユーロ圏消費者物価指数(HICP)の結果に注目が集まっている。利上げは確実視されているものの、利上げ幅が0.25%か0.50%ポイントかで見方が分かれている。ただ、いまのところは0.25%が有力視されている状況。HICPの結果が決めてくれそうだ。
市場では、ECBのターミナルレート(最終到達点)について、織り込みを概ね完了させている。現在の中銀預金金利は3.00%だが、それを夏までに3.75%まで引き上げて利上げを一旦停止というのが基本シナリオのようだ。3月中旬には3.25%で設定されていた。ただ、一部からは、今後発表になるユーロ圏の経済指標を受けて、設定を4.00%まで上昇させる可能性は十分にあるとの指摘も出ている。
ポンドドルは1.25ドル台後半まで上げ幅を拡大している。昨年6月以来の水準に上昇し、上昇トレンドを継続している。ポンドは短期的に上昇の可能性もあり、ポンドドルは1.30ドルまでの上昇も想定されるが、次第に上値が重くなる可能性があるとの指摘も出ている。
英経済の見通しが改善するにつれて、今後数カ月はポンド高は続くと期待されるが、良いニュースが夏以降も続くとは限らないという初期の警告サインがいくつか示されているという。インフレ鈍化と、これまでの金融引き締めの影響により、年後半の英経済は下振れリスクが高まる可能性があり、それは信用の伸びと信用需要の低下において、すでにその兆候が表れているとしている。 
●米ファーストリパブリック銀、再び崖っぷちに 4/29
米中堅銀行ファーストリパブリック・バンクの先行きは厳しそうだ。
ファーストリパブリック銀の株価は今週、約75%下落。24日発表の1〜3月期の決算が期待外れだったことから銀行危機への市場の不安が再燃し、同行株からの資金流出を招いた。
27日には株価が小幅反発し、苦境の同行を救済する「ホワイトナイト」の出現に市場が期待を寄せていることが示唆されたものの、その後事態は悪い方向に転んだ。
政権情報筋は28日、CNNの取材に、ファーストリパブリック銀を救済する新たな計画はないと述べ、政府介入への期待を打ち消した。米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入る可能性が高いとの報道が相次ぎ、民間セクターの支援がまとまる可能性への楽観的な見方も崩壊。株価は約37%下落した。
ファーストリパブリック銀が経営破綻(はたん)するかどうかは依然として不透明だ。近く破たんする可能性もあるし、存続できる可能性もある。
ただ、資金注入なしでは存続は難しいとみられる。ファーストリパブリック銀はすでに先月、大手銀行団から多額の支援を受けた。当時はシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクの相次ぐ破綻で投資家や預金者が地銀から流出し、金融セクターの健全性が疑問視される状況だった。
ファーストリパブリック銀の株価は今年に入り約97%下落している。
雲行きが怪しくなり始めたのは今週。1〜3月期に預金残高が41%減り、1045億ドルに減少したと同行が報告したのがきっかけだ。アナリストが予想していた預金残高は1367億ドルだった。
マイケル・ロフラー最高経営責任者(CEO)は記者会見で預金の動きは3月末から安定していると述べ、動揺する株主を安心させようと努めた。大手銀行団から受け取った300億ドルを除き、4月4日時点で保険対象外の預金の倍の手元資金があるとも明らかにした。
だが、それでも投資家の懸念は収まらず、激しい売りが発生。ファーストリパブリック銀の株価は25日に50%下落し、その後も下落が続いた。
他の銀行の決算発表で追加の悪材料がなかったことから投資家の懸念が和らぎ、株価は27日に9%持ち直したものの、その後再び急落した。
●米ファースト・リパブリック銀行に「第3の破綻」の可能性 株価暴落 4/29
全米14位のファースト・リパブリック銀行(本店・カリフォルニア州)の破綻懸念が強まっている。28日の米ニューヨーク株式市場で同行の株価は一時、前日終値に比べ5割安の2ドル台に暴落、終値は同43・3%安の3・51ドルだった。3月上旬に米国で金融不安が始まる前、同行の株価は100ドルを超えており、当時に比べ95%以上価値が下がった計算になる。
ロイター通信によると、米財務省や連邦準備制度理事会(FRB)など金融当局は28日、同行を支援するための緊急協議を始めたが、銀行救済には世論の反発が予想され、米中堅行の「第3の破綻」となる可能性がある。
ファースト銀の経営不安が再燃したのは、24日に発表した1〜3月期決算で巨額の預金流出が明らかになったためだ。3月末時点の預金残高は1044億ドル(約14・1兆円)で昨年末から4割減少。バンク・オブ・アメリカなど米大手11行が3月中旬に経営支援のため計300億ドルの無保険の預金をしたにもかかわらず大きく減っていた事態に市場が動揺し、株価は10ドルを割り込む水準に暴落した。
米国では3月上旬に全米16位のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した。急ピッチの利上げで保有国債の価値が下落する一方、預金保険制度で保護される上限(25万ドル)超えの預金が9割を占め、ツイッターなどのソーシャルメディアで信用不安の情報が流れた途端、一気に預金が逃げ出し、破綻に追い込まれた。全米29位のシグネチャー銀行も連鎖破綻し、信用不安は全米に拡大した。
ファースト銀も預金保険制度の上限を超える預金が全体の7割近くを占め、預金が逃げ出しやすい構造。顧客の預金引き出しに応じるため値下がりした保有国債を売却すれば、SVBと同様に大きな損失が発生する恐れがある。市場では「第3の破綻先」との懸念が浮上し、SVBの破綻直後から株価が急落していた。
米財務省やFRBは破綻行の預金全額保護や銀行への資金供給などの緊急措置をとり「米国の金融システムは健全で強じん」との認識を示してきた。しかし、第3の破綻が発生すれば全米で信用不安が再燃するのは避けられない。

 

●リセッションの予兆か、米国でフードバンクの需要急増 4/30
米国はリセッションへ向かっているのか。エコノミストや投資家は、インフレ率や雇用、住宅、銀行その他の先行指標をかき集めて判断しようとしているが、生活困窮者や福祉施設に食料を提供する国内最大のフードバンクの倉庫には不吉な兆候がある。
非営利団体(NPO)「アトランタ・コミュニティー・フードバンク」の棚の半分以上は空っぽだ。幹部によれば、サプライチェーンの問題もあるが、食料支援の需要が新型コロナウイルスによるパンデミックの最中と同じくらい高いのが主な原因だという。今年、ジョージア州アトランタ地域で食料配給に頼る人の40%は、これまで配給を受けた経験がなかったという。
民間慈善団体であるこのフードバンクで最高財務責任者(CFO)を務めるデブラ・ショーフ氏は「誰も予想していなかった事態だ」と語る。同NPOは企業・個人からの寄付、さらには政府からの補助を受け、ジョージア州内の29郡で食料を配布。ショーフCFOは全米規模の慈善団体「フィーディング・アメリカ」でも財務運営委員会に参加しているが、米国中から同じような報告が上がっていると言う。「コロナ禍の頃の状況まで戻ってしまった」と同氏は話す。
新型コロナの影響が最も厳しかった時期より配給の需要が多い地域もある。オハイオ州中部の地元のフードバンクでは、支援を求める世帯数が昨年以降50%近く増大しているという。
米国勢調査局のデータによれば、4月前半に無料の食料配給を受けた世帯数は1140万戸以上で、前年同期に比べ15%増えている。
「フードバンクという活動が始まってから約50年がたつが、失業率が過去最低にもかかわらず、食料配給の需要は前例がないほど大きいという状況は、これが初めてだ」と語るのは、フィーディング・アメリカで最高政府交渉責任者を務めるビンス・ホール氏。同団体は、6万カ所の食料配給所を支援している。
配給への需要が続く一方で、コロナ禍に伴う政府の緊急支援の大半はすでに終了。特に、補助的栄養支援プログラム(SNAP)のコロナ対応緊急拡大措置が終わってしまったのは大きい。以前は低所得者向け食料購入補助制度(フードスタンプ)と呼ばれ、店舗での食料購入にそのまま使えるデビットカードが配布されていた。
インフレも大きな要因だ。米労働統計局によれば、パンデミックが始まった2020年3月以来、食品価格は23%上昇した。
ノースイースタン大学でフードバンク経営と公衆衛生を中心に研究しているジョン・ロウリー教授(経営学)は、感染の急拡大が終了した後も食料の無料配布に対する需要がこれだけ大きいことは「(経済にとって)良い兆候ではなく、恐らくリセッションが間近であることを示している」と語る。
「配給に頼るのは恥ずかしいなどと気にしていられない多くの初回利用者は、もはや店舗で食料を買う余裕すらなく、配給所のありがたさを実感している。この現実は、経済と消費者が健全かどうかを的確に示している」とロウリー教授は言う。
フィーディング・アメリカに関する研究で有名なベイラー大学のクレイグ・グンダーセン教授(経済学)は、パンデミック時以上の需要急増を経験しているフードバンクは珍しくないと語る。今年需要が増加するのが意外ではない理由として、コロナ禍の緊急事態において政府が非常に多くの支援を提供していたことを挙げる。またSNAPの給付についても、2021年の定期見直しにより上方修正されており、4年前よりも今の方が多い状態が続いていると指摘する。
「コロナ禍では景気対策としての給付金があったし、長期にわたって家賃の支払いが免除され、賃金以上の失業給付があった」とグンダーセン教授は言う。
バージニア州のアパラチア山道沿いに広がる25の郡で活動する「ブルーリッジエリア・フードバンク」のマイケル・マッキー最高経営責任者(CEO)は、コロナ禍の下での緊急支援によって、基本的な経済の実態が隠されてしまったと語る。労働統計局による最新のデータでは、2020年3月以来、インフレ率が賃金上昇率を上回っていた。
「いま起きている状況は、この国における食料不安の範囲や規模、広がり、そして格差の影響をさらけ出している。最近のインフレだけに留まらず、賃金が生活費の上昇に追いついていない」とマッキーCEOは言う。
「未知の領域」へ
問題を複雑にしている要因が1つある。政府による食料支援の問題が、国債発行残高の上限を引き上げるべきか否かという政界での議論に巻き込まれてしまっているのだ。
連邦議会の共和党議員らは、ケビン・マッカーシー下院議長の言葉によれば「(バイデン大統領による)無分別な支出」に歯止めをかける対策パッケージの1つとして、食料支援の制限を提案している。
バイデン大統領は「低所得の米国民に悪影響をもたらす」として共和党の提案を一蹴した。飢餓対策の啓発活動家はロイターの取材に対し、SNAPの利用をさらに困難にする政策が導入されれば、フードバンクその他の緊急食料支援団体にはさらに負担がかかると話している。
米国における困窮者向け食料支援として圧倒的に規模が大きいのは、連邦政府の制度であるSNAPだ。配給される食事の回数で見れば、フードバンクや食料配給所は約10分の1を占めるにすぎないが、それでもSNAPに続いて2番目に大きい存在であり、社会的なセーフティーネットの重要な柱となっている。
コロナ禍への一時的対応としてのSNAP拡大が終了した今、ジョージア州やコロラド州、バージニア州など各地のフードバンクから、支援への需要が増大しているとの声が上がっている。
オハイオ州中部の20郡で活動する「フード・コレクティブ」は今年1―3月、食料配給所を訪れる世帯数が前年同期の約27万戸から39万戸程度へ45%近く増えたと報告している。
「未知の領域に入っている」と語るのは同慈善団体の広報を担当するマイク・ホクロン氏。「家計が苦しくなり、飢えをしのぐために緊急支援に頼る人がかつてないほど増えている」
ヒューストン・フードバンクのブライアン・グリーンCEOは1988年からこの仕事に就いているが、これまでも需要は供給を上回っており、経年比較は難しいと話す。支援食料の量では全米最大という同フードバンクで配布する食料は、昨年より今年の方が少ないが、その原因は現金や食料の寄付が減少しているからだという。
「コロナ禍の頃と同じくらいの食料が入ってくれば、配布できるのだが」とグリーンCEOは言う。
バージニア州のブルーリッジ・エリア・フードバンクが供給元となっている食料配給所も、最近の利用者急増を報告している。「ダレス・サウス・フードパントリー」では、2021年4月には週109世帯に食料を配布していた。2022年4月は147世帯、今月は183世帯に増えている。
バージニア州ウィンチェスターの「ハイランド・フードパントリー」では、コロナ禍の最中、週90世帯程度に食料を配布していた。今月は約135世帯だった。新たな利用者の1人、ヘイウッド・ニューマンさん(47)は便利屋として働いているが、コロナ禍の間は支援に頼らずに切り抜けたものの、今は生活が苦しいと話す。
「水道代やゴミ処理代、電気代、車関係の出費や家賃もある。こういう業者は状況を考慮してくれない」とニューマンさんは言う。
綱渡りの食料確保
アトランタには、全米最大規模のフードバンク「アトランタ・コミュニティー・フードバンク」の倉庫が4エーカー(約1万6200平方メートル)の敷地に広がっている。供給担当ディレクターを務めるミシェル・グリア氏によれば、約500万ポンド(2300トン)の食料を保管できる設計だという。その大半が食品メーカーや食料品店から輸送用パレット単位で寄付される。だが、先月の在庫水準は平均180万ポンドにすぎなかったとグリア氏は言う。
到着した食料はあっというまに棚から消えていく。多くの場合は数時間以内に、末端の食料配給所から要請がある。グリア氏によれば、この倉庫が3月に受け取った食料は980万ポンド、配送したのは960万ポンドで、余裕はごくわずかだった。
シャローン・ホワイトさん(31)は不動産会社で時給約18ドルを稼ぐシングルマザーだ。今月、アトランタ地域の食料配給所を初めて訪れた。ホワイトさんによれば、託児所の料金や家賃、光熱費を払えば、食品やガソリン、不慮の支出に充てられるのは毎月約300ドルしかないという。
4月初め、ホワイトさんは古着を寄付するために地域住民センターを訪れ、食料配給所の案内に気づいた。「結果的に、非常に助かった」とホワイトさんは言う。
大半の地域フードバンクと同様、このアトランタのフードバンクも、政府予算によるプログラムや企業や生産者からの現物寄付に支えられて食料を確保。危機的な状況を除き、自己資金で食料を調達しないようにしている。アトランタでは企業や農家からの現物寄付はおおむね安定しており、フードバンクの記録によれば、配布した食料の半分以上を占めている。だが政府支出が占める比率は大きく変動している。
コロナ禍以前、このフードバンクが配布する食料の約27%は政府に支えられていた。コロナ禍の最中だった2021年度は、政府が44%近くを提供した。今年はわずか13%を占めるにすぎない。
アトランタ・コミュニティー・フードバンクのカイル・ウェイドCEOは、こうした変動分を補うため、今年度は手元資金のうち1800万ドルを使う予定だと話す。5年前、この慈善団体は地域で配布した食料のうち約5%を自己資金で購入していた。今年はその比率が25%になる。
「しばらくは何とかなる」とウェイドCEOは言う。「だが、いつまでも続けられるわけではない」
●日本政府は破産しない。なぜなら、投資家には「日本国債を買う理由」がある 4/30
膨張を続ける日本の財政赤字。このままでは日本政府が破綻する――。このような危機感を抱いている人は少なくありません。しかし、心配は無用だといえます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
破産するか否かは「資金繰りの問題」
日本政府は財政赤字を続けていて、借金が膨れ上がっています。そこで、日本政府がいつかは破産する、と心配している人も多いようです。しかし、筆者は心配していません。理由は多数ありますが、最大の理由は「資金繰りがなんとかなれば、破産することはないから」です。
企業は債務超過になると倒産する場合が多いですが、それは債権者たちが「他の債権者が資金を回収する前に急いで回収しよう」と頑張ることで債務者の資金繰りが破綻するからです。
企業が黒字続きで債務超過に陥らなくても「資金繰り倒産」ということはあり得ますし、反対に、債務超過でも銀行が支えれば危機を乗り越えるまで倒産せずに持ち堪える場合もあるのです。
日本政府の場合は、資金繰りが破綻することはあり得ません。すぐに思いつくのは日銀が紙幣を印刷して借金を返せばいい、ということです。実際にそんなことをしたら超インフレになりかねませんから、これは禁じ手でしょうが。
政府には徴税権がありますから、破産しそうになったら大増税をすればいい、ということも言えますが、これも暴動が起きそうですから、禁じ手ということにしておきましょう。
しかし、禁じ手とはいえ「最後の手段があるから政府は破産しない」ということだけでも、貸し手に安心感を与えることはできるでしょう。貸し手が安心感を持てば、気軽に貸してくれるでしょうから、政府が資金繰りに困る可能性はそれだけでも低下するわけです。
そして、実際には投資家たちが日本国債を買う理由があるから日本政府は破産しないのです。投資家にとって日本国債が最も安全な資産だからです。
日本国債は「最も安全な資産」である
投資家にとって、日本政府が破産する可能性はリスクですが、メガバンクに貯金するよりは安心でしょう。現金で保有していると強盗に襲われるリスクがありますし、大きな金庫を買う費用もかかるでしょう。
米国政府が倒産する可能性は低いかも知れませんが、米国債を買うとドル資産を持つことになり、為替リスクを負ってしまいます。ドル安で損をする可能性が出てくるわけです。
したがって、日本人投資家たちは喜んで(消去法的に仕方なく?)日本国債を買うのです。それを見た他の投資家たちは「他の投資家たちが日本国債を買っているから、日本政府は資金繰りに困ることはなく、破産もしないだろう」と考えて更に安心して国債を買うのです。投資家たちが意図せずお互いを励まし合っているわけですね(笑)。
将来、日本政府が外国から借金をする必要が出てくると、外国人投資家にとっては、日本国債は為替リスクと信用リスク(借り手破産のリスク)がありますから、借金が難しくなるのでしょうが、日本の経常収支は黒字ですし、対外純資産も巨額なので、そうした事態に陥ることは考えにくいでしょう。
「心配ない。数千年たてば、すべては解決する(笑)」
少子化が続くと、日本人が最後の1人になるでしょう。その人は、家計金融資産2,000兆円を相続するはずです。その人が亡くなると、その金は国庫に入ります。日本政府の借金は1,000兆円しかありませんから、なんの問題もなく借金が返せるわけです。
もちろん、本当に最後の1人になることは考えにくいですが、上記のような可能性を考えると、「日本政府の借金は巨額だからいつか破産するに違いない」と考える根拠が乏しいことがわかります。
じつはもう1つ、「政府の借金は将来世代に増税を強いる世代間不公平だ」という考え方に説得力が乏しい、ということもわかるのですが、この話は別の機会に。
少子高齢化による労働力不足で、増税も容易に
少子高齢化により、労働力不足が今後一層深刻化していくでしょう。しかし、それは悪いことではなく、失業のない時代を迎えるということなのです。いまは、「増税して景気が悪化したら失業者が増えてしまう」という増税反対論者も多いわけですが、10年もするとそういう論者はいなくなるでしょう。増税して景気が悪くなっても失業者が増えない時代になるからです。
もしかすると、労働力不足による賃金上昇でインフレの時代が来るかもしれません。そうなった時に日銀がインフレ抑制のために金利を上げると政府の金利負担が増えますから、政府は「日銀さん、政府が増税で景気を抑えてインフレを止めますから、金利は上げないで下さい」と頼むかもしれません。
そうなれば、増税はインフレ予防策であると同時に財政再建策ということにもなるわけで、一石二鳥の政策となり、頻繁に採用されることになるでしょう。
こうして考えると、日本政府が破産する可能性は小さいように思えます。そうは言っても、ある時突然投資家たちが一斉に日本政府の破産を信じるようになり、日本国債を買わなくなる可能性はあります。そうなれば、国債暴落となり、政府は新しい国債が発行できず、資金繰りに困るかもしれません。 
 
 

 

●「リーマンショック」の2008年以来、米銀で“最大の経営破綻”の可能性 5/1
経営不安が高まっているアメリカの地方銀行について、FDIC=連邦預金保険公社が管理下に置き、現地時間先月30日中に他の金融機関への売却を発表する可能性があると現地メディアが報じました。
カリフォルニア州を地盤とするファースト・リパブリック・バンクは、3月にシリコンバレー・バンクなどが経営破綻し金融不安が広がった影響などで、1月から3月にかけて日本円で13兆円あまりの預金が流出するなど、経営不安が高まっています。
こうした中、現地メディアは、FDICがファースト・リパブリック・バンクを管理下に置いたのちに、売却を発表する可能性があると報じました。
ファースト・リパブリック・バンクの資産規模は去年末時点で全米14位で、売却が行われた場合、リーマンショックが起きた2008年以来、アメリカの銀行で最大の経営破綻となります。
●「38%がゾンビ企業」アメリカ経済がまもなく大恐慌に陥るかもしれない 5/1
体力を失いつつある「アメリカ経済」
連邦準備理事会(FRB)が4月21日に公表したデータによれば、米国の銀行預金は12日終了週に前週に比べ762億ドル減少した。
「中堅・中小銀行の預金流出は一服しつつある」と言われているが、アメリカの金融システムは依然として脆弱であることに変わりはない。
アメリカでは「経済は信用危機に見舞われていないものの、与信環境がタイト化している(信用収縮)の局面にある」との見方が広がっている(4月21日付ブルームバーグ)。
JPモルガン・チェースなど米銀大手4行の今年3月末の融資残高は3兆752億ドルと前年末から191億ドル減少した。FRBが昨年3月から急ピッチで進めた利上げのせいで不動産分野の資金需要が減少したことが主な要因だ。
JBモルガン・チェースの悲観シナリオによれば、米国の商業用不動産住宅ローン関連の損失は、2008年のリーマンショック時に3500億〜4000億ドル規模だったサブプライムローンの損失に迫る恐れがあるという。
大量増殖をはじめた「ゾンビ企業」
米地銀シリコンバレー銀行(SVB)などの破綻で強まった金融情勢の悪化も、銀行の融資姿勢の厳格化を促している。流出を防止するため預金の金利を上昇させる銀行が相次いでおり、資金調達コストの上昇が与信を縮小させている。
「米国経済が景気後退に陥る」との見方が広まっていることも悪材料だ。
米CNBCが4月18日に公表した調査結果によれば、「経済を否定的に捉えている」と回答した割合が過去17年間の調査で最も高い69%となった。不景気になれば、不良債権の増加を警戒した融資先の選別が進み、「貸し渋り」「貸し剥がし」が始まるのが世の常だ。
米フィラデルフィア連銀が4月20日に公表した4月の製造業景況指数はマイナス31.3となり、SVB破綻前後の期間に集計した3月に比べて8.1ポイント悪化した。その水準も、企業活動に急ブレーキがかかったコロナ禍を除くと、金融危機後の2009年3月以来の低さだ。
製造業の不振は資金調達環境の悪化が大きく影響していると考えられる。
全米自営者連盟(NFIB)が4月11日に公表した調査結果によれば、高い頻度で資金を借り入れている経営者が「融資を受けにくくなった」と回答した割合が、2012年12月以来の高水準となった。
「次の3ヶ月に信用状況が一段と厳しくなる」とみている割合も過去10年で最も高い水準となっている。
そして今、アメリカで最も懸念されているのが、ゾンビ企業の大量増殖だ。
米上場の上位「38%」がゾンビって…
日本でいうところのゾンビ企業は、すでに経営に持続性がないにもかかわらず、金融機関や政府機関の補助金などで生きながらえている企業をさす。
アメリカで言う「ゾンビ企業」とは、利払い・税引き前利益(EBIT)で金利負担分すらも稼げない企業のことだ。
これはリーマンショック以降、長年続いてきた金融緩和のツケであり、ある種、モルヒネのような働きをした低金利に甘んじ、体力が減退したゾンビ企業が「大繁殖」したわけだ。
なんと、アメリカ上場の時価総額上位3000社のうち、38%がゾンビ企業だと言われている(4月23日付日本経済新聞)。
金利上昇局面で資金調達が悪化した米国で、このゾンビ企業はいかにも不吉な存在だ。
アメリカに出現した「ゾンビ」
アメリカで「ゾンビ企業」が大量増殖していることをご存じだろうか。
日本ではあまり注目されていないが、こうしたゾンビ企業は、金利が上昇し資金調達が困難な今、アメリカ経済の負のスパイラルを巻き起こす危険が現実味を帯びている。
米FRBの金融引き締めという厳しい局面で、どこにリスクが内包されているのか、その一端でも知っておきたい。
危機に陥る米「スタートアップ」
全米自営者連盟(NFIB)は「経営者はこの先には大きな不確実性があり、『銀行危機がさらに進む恐れがある』と懸念している」と指摘している。
特に深刻な環境に置かれているのはスタートアップ企業だ。世界の約半分を占める米国のスタートアップ投資が急速に縮小している。
米調査会社ピッチブックと全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)は4月12日、米国でのベンチャーキャピタル(VC)などの投資額を発表した。それによれば、今年第1四半期は前年比55%減の370億ドルで、四半期ベースの投資額としては2019年第4四半期以来、約3年ぶりの低水準となった
金利上昇などの影響に加え、スタートアップの上場が遠のき、投資家が資金を回収しづらくなっていることも災いしている。
投資先の新規株式公開(IPO)やM&A(合併・買収)でVCが得た金額は今年第1四半期に前年比82%減の58億ドルと5四半期連続で落ち込み、四半期としては2013年以降で最低だ。
スタートアップをはじめ、財務基準の弱い企業の市場での資金調達も困難になっている。
調査会社ディールロジックによれば、米欧市場の今年第1四半期の低格付け債(ジャンク債)の発行総額は前年比17%減の448億ドルにとどまった。
直近のピーク時(2021年第1四半期)の4分の1の水準で、米国ではSVB破綻前後の週から3週連続で発行ゼロとなった。
ゾンビ企業にとどめを刺す「貸し渋り」
新株発行による資金調達も不調だ。米欧市場の今年第1四半期のIPO調達額は前年比7割減の47億ドルと直近のピーク時(2021年第1四半期)より97%も少ない水準だ。
「泣き面に蜂」ではないが、このような状況で銀行の「貸し渋り」や「貸し剥がし」が進むようなことになれば、いわゆるゾンビ企業の大量倒産は一気に現実味を帯びることになるだろう。
銀行不安は10兆ドル規模の米国の社債市場にも悪影響を及ぼしつつある。銀行の資金調達コストの上昇で社債市場への投資意欲が抑制され、「リスクプレミアムの急上昇は避けられない」との不安が高まっている(4月20日付ブルームバーグ)。
中でも心配なのはジャンク債市場だ(4月24日付ブルームバーグ)。
「負のスパイラル」に陥るアメリカ
資金繰りに窮したゾンビ企業が大量に破綻すれば、彼らが発行しているジャンク債が前例のない規模でデフォルトすることになるからだ。ジャンク債市場の不調が世界の社債市場に悪影響をもたらす可能性も排除できない。
「リーマンショックのような金融危機が起きる」と言うつもりはないが、銀行不安がもたらす負のインパクトはますます大きくなっていくのではないだろうか。
●2カ月で米銀3行破綻はリーマン級危機の前夜なのか…破綻予備軍186行! 5/1
欧米メディアは4月29日、経営不安が高まっている米中堅銀行ファースト・リパブリック銀行(FRC)が30日にも経営破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれると報じた。リーマン・ショック後で最大規模の破綻となる。シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行に続き、わずか2カ月足らずで米銀3行が破綻。何が起きているのか。
サンフランシスコに拠点を置くファースト銀行は資産規模全米14位(2126億ドル=約29兆円)。昨年来の金利上昇によって債権の含み損が膨らみ、市場では警戒が広がっていた。3月にシリコンバレー銀行が破綻すると、ファースト銀行でも取り付け騒ぎが発生し、3月末時点の預金残高は昨年末より4割も減少していた。ファースト銀行は公的管理を経て金融大手に売却される方向だ。
「含み損を抱える米国の中小銀行は少なくなく、信用不安はまだまだくすぶっている。大口預金が引き出され、破綻に追い込まれる銀行は今後も続く恐れがあります」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
3月に発表された学術調査によると、米国内にはシリコンバレー銀行と同様のリスクを抱えた銀行が186行に上るという。
預金者がナーバスになっているだけでなく、金融当局も銀行に対するチェックを厳しくしている。経営の健全性を示したい銀行は、信用の低い企業や個人に対して融資態度を硬化。貸し渋りや貸しはがしが横行し、米国の中小銀行の融資残高は激減している。
景気後退と物価高が同時に起こる
イエレン米財務長官は銀行が融資をさらに引き締める可能性を指摘し、「追加利上げの代わりになる可能性がある」と発言。信用のない低所得者やベンチャー企業は融資を受けにくくなっているのだ。
「FRB(連邦準備制度理事会)は2023年後半から緩やかな景気後退に入るとの見方を示していますが、すでにリセッションの“入り口”に差し掛かっていると言う人もいる。厄介なのがインフレです。米国の3月のCPI(消費者物価指数)は上昇率5.0%と依然高い水準です。景気後退でありながら物価が高止まりする可能性があります。08年のリーマン・ショックも当初、局地的とみられていましたが、あれよあれよと大きな世界的危機に発展してしまった。今はリーマン級危機の前夜なのかもしれません」(森岡英樹氏)
2日から2日間、FOMC(連邦公開市場委員会)が開かれる。こんな状況でもパウエルFRB議長は追加利上げに踏み切るのか。 
●円続落、金融政策格差でドル137円付近−ユーロは08年来の150円後半 5/1
東京外国為替市場では円が続落。日本銀行による早期緩和修正観測の後退を背景に円売りの流れが続いた。今週は米国やユーロ圏で追加利上げが見込まれており、内外金利差が拡大するとの見方からドル・円は1ドル=137円ちょうど付近まで上昇、ユーロ・円は2008年以来となる1ドル=150円台後半までユーロ高・円安が進んだ。
大和証券金融市場調査部の多田出健太チーフ為替ストラテジストは、日銀は「想定よりハト的だったという印象」で、日銀会合後の円安が続いていると説明。「米金利も大きなレンジの中でまだ上がる余地が残っている」とし、ドル・円は137円を抜けて3月に付けた「年初来高値(137円91銭)ぐらいまでいけば、少し走る可能性がある」と話した。
米国では2、3日に連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれる。先週末発表された3月の個人消費支出(PCE)統計や1−3月の雇用コストでは根強いインフレ圧力が確認され、スワップ市場は0.25ポイントの利上げを9割近く織り込んでいる。
今週は供給管理協会(ISM)指数や雇用統計など米国の主要経済指標の発表も相次ぐ。りそなホールディングス市場企画部の石田武為替ストラテジストは、日銀が1−1年半かけて金融政策のレビューを行うということで「基本的に期間中の大幅な政策変更の可能性は低下した」とし、今後は日銀政策に対するマーケットの関心が薄れると予想。ドル・円は「米経済、米金利動向への連動性が強くなっていく」とみている。  
3、4日開催の欧州中央銀行(ECB)の政策委員会については、少なくとも0.25ポイントの追加利上げが見込まれている。
大和証の多田出氏は、2日公表の銀行貸し出し調査やユーロ圏消費者物価指数の結果次第では「0.5ポイント利上げを織り込む動きも出る可能性はある」とし、ユーロ・円は「節目がなく、走りやすい」だけに上昇が加速するリスクがあると指摘した。
一方、経営危機に陥った米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)を巡っては、米連邦預金保険公社(FDIC)が同行買収に向けJPモルガン・チェースなど銀行各行に要請していた最終案の提出期限(現地時間4月30日正午)が過ぎた。
ソニーフィナンシャルグループの石川久美子シニアアナリストは、FRCの問題でリスク許容度が低下すれば、いったんはドル売り・円買いになりやすいが、「それほど基調に影響するとは今のところ考えていない」と指摘。その上で、きょうはメーデーのため「ほとんどの国が祝日で、相場が非常に薄く、値の飛び方には警戒が必要」と話した。
●米MMFに大量の資金流入、過去4週間で最大 地銀や景気後退を懸念 5/1
リフィニティブ・リッパーのデータによると、4月26日までの1週間は米国のマネー・マーケット・ファンド(MMF)に大量の資金が流入した。
地銀への不安や景気後退(リセッション)が近いとの懸念で安全な逃避先を求める資金が流入した。
MMFへの純流入額は477億2000万ドルと、週間ベースで3月29日以来の高水準。
米中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクでは第1・四半期に1000億ドル以上の預金が流出。米地銀の危機はまだ終わっていないとの懸念が浮上している。
一方、米国の株式ファンドは5週連続で資金が流出。純流出額は37億5000万ドルだった。
セクター別では、ハイテクが8億4200万ドルの純流出、一般消費財が3億3500万ドルの純流出。金融は4億6700万ドルの純流入と、3週連続で流入超となった。
米国の債券ファンドは16億2000万ドルの純流出。2週連続の流出超となった。
米国の一般国内課税債券ファンド、物価連動債ファンド、ローン・パーティシペーション・ファンドは、それぞれ21億8000万ドル、8億9200万ドル、7億9700万ドルの純流出。
国債ファンドは22億2000万ドルの純流入。前週は21億4000万ドルの純流出だった。
●米欧金融機関の経営破綻がもたらすもの 5/1
シリコンバレーバンク(SVB)など米国で相次いで発生した銀行の経営破綻は、欧州に飛び火してUBSによるクレディ・スイス・グループの買収劇にまで発展した。それ以上の金融不安の連鎖を引き起こさぬよう、米国やスイスにおいて必要な事後対応が取られたことで、金融システムを揺るがすような危機的な状況にまでは至ることなく事態は一応、収束に向かっているようにみえる。しかし、今回の事態を、長年に亘る金融緩和の中で生じてきた歪みが、金融引締めに転じたことで表面化したものとして捉えるとすれば、金融市場にはまだ多くのリスク要因が存在していると考えておくことが適切だろう。
今回起きた一連の事案、とりわけSVBの事案については、今一つ腑に落ちないところがある。SVBのビジネスモデルに特殊性があったことはその通りなのだろう。スタートアップやベンチャーキャピタル関連の事業に特化していたこと、大口法人預金が預金の大宗を占め、急速に流出したこと、多くの資金を長期の債券の満期保有に回して利鞘を稼いでいたため、預金の流出に伴ってその換金が必要となると、多額の金利リスクが顕在化したこと。しかし、金融当局からすれば、これらは、はじめから分かっていたことではないか。金融政策の転換に伴い、金利が相当程度、上昇することも当然予想されていただろう。もし、これが日本での事案だとすれば、金融庁や日本銀行による日常のモニタリングにおいて問題は把握され、改善に向けた取組みが強く促されていたはずだ。
SVBが経営破綻に至った過程についても、よく検証されていく必要がある。報じられている事実を見る限りにおいて、SVBが経営破綻に陥った直接の要因は、資本の不足ではなく、預金引き出しが相次いだことによる流動性の不足であったと考えられる。そうだとすれば、債券を担保に、最後の貸し手としての中央銀行が必要な流動性の供給を迅速に行っていれば、経営破綻、あるいは少なくとも突然の経営破綻は免れたのではないかという疑問が生じてくる。しかし実際には、そうした対応が取られる前にSVBは経営破綻に至り、FDIC(連邦預金保険公社)の管理下に置かれた後に異例の預金全額保護が行われることとなった。預金の流出が速かったという事情はあるにせよ、こうした経過を辿ったことが結果として金融市場に不安を呼び起こしたことは否定できないだろう。
以上で見た通り、今回の事態の引き金となったSVBの事案をめぐっては、その監督上の対応についてなお多くの論点が残されていると考えるが、今後の議論はこれに留まらないかもしれない。リーマン・ショック後に導入された金融機関の資本および流動性にかかる国際ルールの強化など金融規制の見直しが取り沙汰されている。だが、冒頭にも述べた通り、金融市場にはまだ多くのリスク要因が存在している。規制強化の内容やタイミングを誤ると、金融政策の転換等を受けて既に発生し始めている信用の収縮を更に加速し、大幅な景気の後退につながりかねない。十分な注意が必要だ。
●米地銀ファースト・リパブリック銀が経営破綻の恐れ…JPモルガンなど買収入札 5/1
欧米メディアは4月30日、米地銀ファースト・リパブリック銀行(カリフォルニア州)が同日にも経営破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれると報じた。同行は3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB、カリフォルニア州)を資産規模で上回っており、2008年のリーマン・ショック以降で最大の米銀破綻になる可能性がある。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、米銀大手JPモルガン・チェースなどがファースト・リパブリック銀の事業買収に向けた入札に参加したと報じた。
ファースト・リパブリック銀の資産規模は昨年末時点で約2100億ドル(約28兆円)と全米14位で、16位のSVBを上回る。4月24日には、3月中旬以降に約1000億ドル(約14兆円)の預金が流出したと発表していた。市場予想を上回る流出規模で、急速に経営不安が高まっていた。
米国では銀行が破綻した場合、1人あたり原則25万ドル(約3400万円)までの預金が保護される。大口顧客が多いファースト・リパブリック銀は保護対象外の預金を多く抱える。3月には米銀大手11行から300億ドルの預金を受けたと発表したが、破綻懸念は解消しなかった。
一部の米銀では、米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げによって保有する有価証券の価格が下落し、巨額の含み損が生じている。3月にはSVBに続いてシグネチャー銀行(ニューヨーク州)も破綻に追い込まれた。金融不安は欧州にも波及し、クレディ・スイスは、スイス金融最大手UBSに買収されることが決まった。
FRBは5月2〜3日、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)を開く。前回3月の会合では、SVBやシグネチャー銀の破綻による影響が懸念される中、0・25%の利上げを決めた。ファースト・リパブリック銀が破綻すれば一段と金融不安が強まり、FRBの判断にも影響を与える可能性がある。 
●米地銀ファースト・リパブリック銀が破綻、リーマン以降で最大… 5/1
米連邦預金保険公社(FDIC)は1日、米地銀ファースト・リパブリック銀行(カリフォルニア州)が経営破綻したと発表した。
3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB、カリフォルニア州)を上回り、2008年のリーマン・ショック以降で最大の米銀破綻になる。
発表によれば、米銀大手JPモルガン・チェースがファースト・リパブリック銀の事業を買収し、預金や支店業務を引き継ぐとしている。
ファースト・リパブリック銀の資産規模は昨年末時点で約2100億ドル(約28兆円)で全米14位。SVBの16位を上回る。4月24日の決算発表で、3月中旬以降、約1000億ドル(約14兆円)の預金が流出したと発表した。市場予想を上回る預金流出だったことで信用不安が高まり、発表後、ファースト・リパブリック銀の株価は約80%下落していた。
米国では銀行が破綻した場合、1人当たり原則25万ドル(約3400万円)までの預金が保護される。大口顧客が多いファースト・リパブリック銀は保護対象外の預金を多く抱えており、破綻を懸念した利用者が預金を引き出したことで資金繰りに行き詰まった。
米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)が進めてきた急速な利上げによって保有する有価証券の価格が下落し、巨額の含み損が生じたことで破綻に追い込まれる金融機関が相次いでいる。3月にはSVBに続いてシグネチャー銀行(ニューヨーク州)も破綻に追い込まれた。経営不安が高まったスイス金融大手クレディ・スイスは、スイスの金融最大手UBSに買収されることが決まった。

 

●米ファースト銀が経営破綻 リーマンショック以降、最大規模の銀行破綻… 5/2
経営悪化が懸念されていたアメリカの地方銀行の一つファースト・リパブリック・バンクが経営破綻しました。アメリカの銀行の破綻はこの2か月で3行目で、リーマンショック以降、最大規模の銀行の破綻となります。
記者「経営破綻したファーストリパブリック銀行ですが、きょうも通常通り営業をしています」
アメリカのFDIC=連邦預金保険公社は、1日、経営悪化が懸念されていたファースト・リパブリック・バンクが経営破綻し、銀行大手のJPモルガン・チェースが全ての預金と資産を買収すると発表しました。
銀行の顧客「喪に服しているような気分です。本当にがっかりです」「他にも破綻する銀行が出てくると思います」
ファースト・リパブリック・バンクの資産規模は4月13日時点でおよそ2291億ドル=日本円でおよそ31兆円で、経営への不安が高まる中、預金の流出が続いていました。
破綻を受け、バイデン大統領は、「すべての預金者を確実に保護するための措置を講じた」と強調しました。
●「2008年ほどの危機感はまだない」史上2番目の銀行破たん 混乱は見られず 5/2
破たんしたアメリカのファースト・リパブリック・バンク。世界的金融危機につながったリーマンショック以降、最大規模の銀行破たんですが、金融大手のJPモルガン・チェースに買収されたことで混乱は見られません。
記者「ニューヨーク・マンハッタンにあるこちらの店舗では、破たんの発表後も特に大きな混乱は見られず、営業を続けています」
利用者「口座を閉鎖するつもりです」「私は資金を預けていますが、この銀行は今はJPモルガンです。預金者としてリスクについて不安はありません」
今後、金融不安は拡大するのでしょうか。専門家は…
大和総研ニューヨークリサーチセンター 主任研究員 矢作大祐氏「ある程度コントロールしているというところはあって、(リーマンショックが起きた)2008年ほどの危機感はまだない」
ただ、3月に破たんに追い込まれた別の銀行のケースとは異なる点があるとしています。
矢作大祐氏「元々シリコンバレーバンクは問題があって破たんした。今回(ファースト・リパブリック・バンク)はシリコンバレーバンクの懸念を受けて連鎖的に破たんした。余波になる。リスクが広がったというふうに見ることができる」
また、破たんの連鎖の背景には、歴史的インフレを抑えるため、アメリカの中央銀行が進めてきた急速な利上げの副作用があると指摘しました。
アメリカ史上2番目の規模の銀行破たんについて、バイデン大統領は…
アメリカ バイデン大統領「(規制当局の)措置は金融システムが安全で健全であることを保証します」「すべての預金者は保護されている」と強調しています。
●ファースト・リパブリック破綻で米地銀株が急落 危機の「伝染」不安収まらず 5/2
米株式市場で1日、米地方銀行のファースト・リパブリック・バンクの経営破綻とJPモルガン・チェースによる買収が発表されてから数時間後、シチズンズ・ファイナンシャル・グループやPNCファイナンシャル・サービシズなど主な地銀の株価が軒並み急落した。相次ぐ地銀破綻は米国の銀行システム全体に「伝染」するのではないかという懸念がくすぶっている。
ファースト・リパブリックをめぐっては何度か救済策が試みられたものの実を結ばず、本社を構えるカリフォルニア州の金融当局が1日に同行を閉鎖した。管財人に指名された米連邦預金保険公社(FDIC)によると、米銀最大手のJPモルガンがファースト・リパブリックのすべての預金と大半の資産を引き継ぐことになった。
米国の地方銀行の破綻は3月のシリコンバレー銀行(SVB、本社カリフォルニア州サンタクララ)とシグネチャー・バンク(同ニューヨーク州ニューヨーク市)クに続いて3件目。米国の銀行破綻としてはSVBを上回り史上2番目の規模になった。
一連の発表を受けて、1日の米地銀株は総崩れとなった。シチズンズ銀行の親会社でロードアイランド州プロビデンスに本社を置くシチズンズ・ファイナンシャル・グループの株価は1日午前、6%強急落。ペンシルベニア州ピッツバーグを地盤とするPNCファイナンシャルの株価も6%近く下げた。
USバンコープ(本社ミネソタ州ミネアポリス)とトゥルイスト・ファイナンシャル(同ノースカロライナ州シャーロット)の株価もそれぞれ2.5%強下げたほか、UMBファイナンシャル(同ミズーリ州カンザス市)も4%あまり下落した。
一方、JPモルガンの株価は3%近く上昇し、年初来2番目の高値をつけた。
JPモルガンの発表によると、同行が引き取るファースト・リパブリックの預金は920億ドル(約12兆6000億円)にのぼる。うち300億ドルは3月半ばにJPモルガンなど米大手銀行が預け入れていたもの。ファースト・リパブリックの預金は、FDICの預金保険の上限25万ドル(約3400万円)を超える分も含めすべて保護されることになった。8州に計84店あったファースト・リパブリックの支店は1日にJPモルガンの支店として営業を再開する。
2カ月足らず前のSVBの破綻については、経営陣の判断ミスと米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの影響が原因と指摘されている。その数日後にはシグネチャー・バンクで取り付け騒ぎが起き、同行はニューヨーク州当局によって閉鎖された。そのころから、ほかの地銀にも銀行システム全体の問題として危機が伝染する懸念が出ていた。
●NY株式市場反落 ダウ3万4051ドル70セント ファースト・リパブリック破綻 5/2
週明け1日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は反落した。
経営危機に陥っていたアメリカのファースト・リパブリック銀行が経営破綻したことを受け、地方銀行株が売られた。
金融大手のJPモルガン・チェースが経営破綻したファースト・リパブリック銀行を買収したことが好感されダウは上昇して取引が始まったが、マイクロソフトなどハイテク株が売られたことが相場を押し下げた。
アメリカサプライ協会(ISM)の製造業総合景況指数が市場予想を上回り、FRB=連邦準備制度理事会による利上げが長期化するとの警戒感が強まったこともハイテク売りに繋がったとみられる。
結局、ダウ平均は46ドル46セント安の3万4051ドル70セントで取引を終えた。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も反落し、13.98ポイント安の1万2212.60だった。
●NY株反落、46ドル安 FRBによる利上げ長期化に警戒感強まる 5/2
週明け1日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は反落し、前週末比46・46ドル安の3万4051・70ドルで取引を終えた。米長期金利が上昇し、相対的に割高感が意識されたIT銘柄などが売られたのが相場を押し下げた。
朝方発表された米サプライ管理協会(ISM)の製造業総合景況指数が市場予想を上回った。米景気の底堅さが示されたことから、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げが長期化するとの警戒感が強まった。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も反落し、13・98ポイント安の1万2212・60。
●株価 小幅な値動き 米銀行経営破綻めぐる金融不安の懸念 後退  5/2
2日の東京株式市場、アメリカの銀行、ファースト・リパブリック・バンクの経営破綻をめぐる金融不安への懸念は後退していて、日経平均株価は小幅な値動きとなっています。
1日にアメリカのファースト・リパブリック・バンクが経営破綻したことに対して、ニューヨーク市場では資産と業務が大手銀行に引き継がれたことから金融不安への懸念が後退し、影響は限定的でした。
東京市場では値上がりして取り引きが始まり、日経平均株価は一時取り引き時間中としてのことしの最高値を更新しました。
円安を背景に輸出関連の銘柄を中心に買い注文が集まりましたが、その後は値上がりした銘柄に売り注文も広がり、売り買いが交錯して小幅な値動きとなっています。
   ・日経平均株価、午前の終値は前日の終値より18円35銭安い2万9104円83銭
   ・東証株価指数=トピックスは7.64下がって2070.42
   ・午前の出来高は5億922万株でした。
一方、東京外国為替市場では、アメリカの長期金利の上昇を背景に円を売ってドルを買う動きが強まり、円相場は値下がりしています。
市場関係者は「ファースト・リパブリック・バンクの資産と業務が大手銀行に引き継がれたことで先行きの不透明感が和らいだと受け止めた投資家もいた。ただ、アメリカの金融市場に与える影響は今後も慎重にみていく必要がある」と話しています。
●米大統領、銀行の規制強化 5/2
バイデン米大統領は1日の演説で、中堅銀行ファースト・リパブリック銀行の破綻を踏まえ、銀行への規制強化を改めて進める意向を示した。3月のシリコンバレー銀行(SVB)などの破綻で検討してきたが「再びこのような状況に陥らないようにしなければならず、そのための道を順調に進んでいる」と述べた。ファースト銀の経営陣の責任を追及する考えも示した。
米銀の破綻は今年3行目。ファースト銀の総資産は4月13日時点で2291億ドル(約31兆円)に上り、2008年の金融危機リーマン・ショック後最大で、米史上2番目の銀行破綻となった。
金融大手JPモルガン・チェースが買収し、ファースト銀の預金と大半の資産を引き継ぐことになった。バイデン氏は「全ての預金者は保護される」と強調。相次ぐ銀行破綻を受けた市場の動揺を沈静化する狙いがあるとみられる。
一方、投資家は今回の買収を好意的に受けとめたもようだ。1日の米株式市場でJPモルガンの株価は上昇し、前週末と比べ2%超値を上げた。
●NY外為市場=ドル約2週間ぶり高値、FRB利上げ見通し変わらず 5/2
終盤のニューヨーク外為市場では、ドル指数が約2週間ぶりの高値に上昇した。米連邦準備理事会(FRB)が今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25ベーシスポイント(bp)の追加利上げを実施するとの見通しは変わっていない。
投資家は、FRBが5月以降の利上げ一時停止を示唆するか、あるいは6月以降の追加利上げの可能性を維持するかに注目することになる。
バノックバーン・グローバルフォレックスのチーフマーケットストラテジスト、マーク・チャンドラー氏は「利上げ一時停止を示唆するとの見方も多いが、そんな余裕はないとみている。FRBはある程度の選択肢と柔軟性を維持したいと考えている」と述べた。
ドル指数は一時、4月19日以来の高値となる102.19を付けた。終盤は0.41%高の102.13となった。
ユーロ/ドルは0.43%安の1.0970ドルとなった。
欧州中央銀行(ECB)は4日の理事会で7回連続の利上げを行うことが広く予想されており、利上げ幅は50bpになるとみられている。ベーシスポイントの引き上げが視野に入っている。
一方、ドル/円は0.84%高となり、3月8日以来の高値となる137.46円まで上昇した。日銀は27―28日に開いた金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を全員一致で決めた。
オーストラリア準備銀行(中央銀行)も2日の理事会で政策金利を3.6%に据え置く可能性が高いと見られている。豪ドルは0.20%上昇し0.6630ドルとなった。
この日は、多くの市場がメーデーの祝日で休場となったため、取引量は少なかった。
●米国、90年ぶりのドル供給急減…インフレより信用収縮心配する時 5/2
オフィスビル価格の急落に注目すべき
互いに異なる見解を持つ2人の専門家に同じ日に電話インタビューをした。FRBが3月のM2増加率を発表した直後の先月27日だった。ハンキー教授は持論通りにM2急減が物価と成長率に影響を与えると話した。ところがサイナイ代表は普段と違う話をした。「最近銀行破綻とドルの大移動のためM2は再び注目すべき指標になった」とした。M2増加率が90年ぶりに急減した異例の事件のため「忘れられた指標」が復活した格好だ。
一般的に米国のM2増減とニューヨークの株価の間には1〜9カ月ほどの時差が発生する。実体経済との間には6〜18カ月、物価との間には12〜24カ月程度の時差がある。ハンキー教授は「M2は2022年7月に21兆7000億ドルに達した後減り始めた。M2が減少し始めて9カ月ほど過ぎたので実体経済に沈滞の兆しが現れるからと驚くことではない」と話した。
サイナイ代表とハンキー教授は景気低迷と物価上昇率下落を懸念する線にとどまらなかった。慎重に「信用収縮と金融危機につながる可能性を警告したい」とした。2人が指摘した発火地点は業務用不動産(CRE)市場だ。
すでに米業務用不動産価格は1−3月期に金利上昇と貸付減少のため明確に落ち込んだ。そのため世界的ファンドであるブラックストーンの実績が急減した。このように疲労症状を見せた業務用不動産市場は銀行貸付などがさらに減ればM2の追加減少となり、さらに深いどん底に陥りかねないという話だ。
FRBの一進一退の政策が禍根
米業務用不動産市場は2020年以降に中小都市銀行が競争的に資金を貸し付けたところだ。最近中小銀行は破綻の崖っぷちで貸付を抑制している。これに先立ち莫大な資金を供給した業務用不動産価格がさらに下がり自分たちを危険に陥れる悪循環を起こしている形だ。
中小銀行の危機を沈静化するためFRBと米預金保険公社(FDIC)などは必死に動いている。預金離脱と株価急落で窮地に追い込まれた中小銀行ファーストリパブリックを大型銀行に吸収させる作業にも積極的だ。2008年春に危機に陥った投資銀行ベアー・スターンズを他の投資銀行に半強制で吸収させた事例を思い起こさせる。
FRBの希望通りに危機の中小銀行を吸収合併させるからとドルがまともに回るかは疑問だ。ハンキー教授は「パウエル議長らFRB内部者がインフレを一時的な現象と言いながら突然インフレファイティングに急変したため都市銀行が受ける衝撃を考えられなかった。そのため信用創出エンジンが以前の利上げよりさらに萎縮しM2が90年ぶりに急減する事態が発生した」と指摘した。 
●米国で相次ぐ銀行破綻、金融システムの信用を回復させるには 5/2
高く評価されていた米国の金融機関がまたも破綻した。預金者は保証を求めており、銀行は今後銀行システムに対する信頼を回復するための方法を模索している。
銀行は経済における金融システムを機能させるための「配管」を提供している。そうした目で見ると、この配管システムこそ保険をかけられるべきものであることが判然とする。
そうすれば、あらゆる規模や形態の法人に安定と信用をもたらし、米国のうらやましがられる大規模な金融システムでより公平な競争を促進することができる。
米国には現在、個人または団体の1口座あたり25万ドル(約3440万円)を上限とする預金保護制度があり、さまざまな方法で追加の保険がかけられているが、その中には合成的に作られたものもある。その他の預金はすべて保護されていない。
多くの銀行が最近注目してきたのは、主に法人口座が保有する保護されていない預金の比率だ。直近の銀行破綻を受けて、消費者や企業は資金を複数の金融機関に分散させるべき、あるいは資金を最大手の金融機関に預けた方が安全だと考える風潮が見受けられる。大手行に預けるというのは結局、大きすぎて潰せないという構造を補強する。中小銀行や地方銀行は預金の保険を広げるために実質的に仲介業者を利用する相互預金商品の使用で対応してきた。
最も残念なことは、こうした事態が業界の信用喪失につながったことだ。リアルタイムで情報を発信できるようになり、金の動きも速くなったことで、銀行の取り付け騒ぎが短時間に凝縮して起こった。他の銀行でも同様の影響が見られ、いくつかの地方銀行では大規模な預金流出が発生した。
信用を回復するために、業界の一部は連邦預金保険公社(FDIC)による預金の完全保護を求めている。この対応は極端から極端に振れる振り子だ。短期的には落ち着くことになるかもしれないが、一連の長期的な課題に直面することになり、無謀な競争者が出てくる可能性がある。
中小企業の経営者は雇用する従業員から、金を払って利用している業者、提供するサービスに至るまで、毎日、地域経済を活性化させている。中小企業が成長すればするほど、経済への影響も大きくなる。請求書の支払いや給与支払いなど日々の業務に銀行サービスを利用している企業は、金融システムが危機に瀕していることを疑うべきではない。
こうした企業の多くは平均残高が25万ドルを超えている。筆者は分割されたシステムが必要だと考えている。その1つが当座預金と呼ばれるもので、事業の日々の機能を支える資金が全額保護される。コアバンキングサービスを日常的に利用する事業主は当座預金に心配不要の資金を持つべきだ。
もし、余剰資金があってそれを利息が払われる口座に移せば、他の投資と同じようにリターンを得るために負うリスクがある。
現在、破綻騒ぎをきっかけに金融システムの信用についてさまざまな意見が飛び交っている。銀行業界の核となる要素を念頭に置き、銀行をサポートする解決策に取り組むことが重要だ。米経済の強さはその自由市場システムの多様性からきており、それはさまざまな規模の銀行によって支えられてきた。銀行の破綻がシステム全体でのパニックを引き起こしてはならない。究極的には、私たちの配管を支え、力を与える解決策が必要だ。
●「銀行システムの健全性を確保」バイデン大統領 金融不安払拭へ 5/2
アメリカのバイデン大統領はファースト・リパブリック銀行の経営破綻を巡り、金融当局の対処によって銀行システムの健全性が確保されると強調しました。
アメリカ、バイデン大統領:「はっきりさせておきたいのは、預金者は保護されるが、銀行の株主は投資分を失うということだ。決定的なことは納税者は責任を負わないということだ」
ファースト・リパブリック銀行はアメリカで史上2番目の規模の銀行破綻となり、大手銀行のJPモルガン・チェースが資産や預金を引き継いで買収することになりました。
アメリカで銀行の経営破綻が続くなか、バイデン大統領は金融当局の措置によって預金者が保護され納税者の負担も回避でき、銀行システムの安全性と健全性が確保されると強調しました。
また、銀行の規制強化の重要性を訴えています。
●日本の銀行株は軒並み下落 東京市場でも警戒感広がる 5/2
2か月足らずでアメリカの3つの銀行が破たんする異例の事態に、東京市場でも警戒感が広がっています。
きょうの東京株式市場では、円安が130円台半ばまで進んだことで自動車など輸出関連株が買われましたが、午前は18円の値下がりとなりました。
相場の重しとなったのが銀行株です。アメリカの金融機関への信用不安がくすぶっていることから、三菱UFJフィナンシャル・グループなど日本の銀行株も軒並み下落しています。
また、市場に不安を与えているのが、アメリカの中央銀行にあたるFRBの追加利上げです。FRBのあまりに急速な利上げが、中小の銀行の資金繰りを悪化させ、相次ぐ破たんを招いたにもかかわらず、市場では今週、FRBが再び0.25%の利上げに踏み切るのではという見方が強まっています。
史上2番目の銀行破たんが起きる中で、また利上げするのか。追加の利上げが銀行の経営を圧迫し、預金の流出が続くと、さらなる銀行の破たんも現実味を帯びることになるため、当面は日本だけでなく、世界の市場で緊張が続くことになります。

 

●NY証取、ファースト銀を上場廃止へ 5/3
ニューヨーク証券取引所は2日、経営破綻し米銀最大手JPモルガン・チェースに買収されることが決まった地銀ファースト・リパブリック銀行の株式を上場廃止にすると発表した。普通株に加え、7種類の優先株も上場廃止となる。
ファースト銀は2007年にメリルリンチが買収。その後メリルを傘下に収めたバンク・オブ・アメリカ(BofA)が08年の金融危機を受け売却し、10年に再上場した。
時価総額は21年11月に400億ドルを超え、ピークを付けていた。
●金融不安が燻る米国に追い打ち、債務上限危機とデフォルトリスクの正念場 5/3
金融不安が燻る米国。破綻したファースト・リパブリック・バンクについてはJPモルガン・チェースが引き受ける形で救済したが、同じ状況に追い込まれている中堅銀行は少なくないとみられている。その中で、追い打ちをかけるような事態が進行中だ。米国政府の債務上限問題である。
米国のイエレン財務長官は5月1日、「議会が債務上限の引き上げ、ないしは停止を決めなければ、米政府は債務不履行に陥るリスクがある」として、「米国の完全な信頼と信用を守るように」と議会に迅速な対応を求めた。
米政府の現在の法定債務上限は31.4兆ドル。規定がある以上、これに抵触すると新たな国債発行はできないうえ、利払いや償還もできなくなる可能性がある。長期的にそうした状態が続く可能性は低いが、短期的には市場が混乱しうる。
これを受けて、バイデン大統領は、5月9日に話し合いを行うため、共和党のケビン・マッカーシー下院議長と民主党・下院院内総務のハキーム・ジェフリーズ議員、上院で多数を握る民主党のチャック・シューマー院内総務、共和党のミッチ・マコネル上院議員に連絡を取ったという。
米国の政府債務問題は出口が見えない状態に陥っている。
予想よりも早まったXデー
1月にすでに法定上限に到達したが、そこでは特別措置(公務員退職・障害基金への投資の一時停止などのやりくり)によって、なんとかクリアした。だが、議会予算局(CBO)は7〜9月には上限にぶち当たるという見通しを出していた。
4月15日が2022年分の確定申告の期限で、4月にはキャピタルゲイン課税の納付の状況をめぐって危機が6月にも早まるのではないか、いや、6月はクリアできそうだ、と一喜一憂する有様だった。
4月25日にはイエレン財務長官が、「債務上限の引き上げに失敗して、デフォルトを引き起こすような事態になれば、今後何年も金利が上昇する経済的惨事の引き金になる」と警告を発した。
26日には共和党が僅差で過半数を握る下院で1兆5000億ドルの債務上限引き上げと引き替えに、経費削減を行う法案を通過させた。再生エネルギー奨励策の廃止や低所得者支援の受給条件を厳しくするなど、国防費以外の経費の削減を盛り込んだものだ。
マッカーシー下院議長は就任に際して共和党内強硬派のフリーダム・コーカスの執拗な抵抗に会い、「債務上限の引き上げには経費の削減を要求する」という約束をした経緯がある。
しかし、民主党はこの法案を、いつもの共和党の瀬戸際作戦だとして、反発し話し合いにも応じなかった。
バイデン大統領の態度に対して噴出する不満
バイデン大統領は、気候変動問題や国民経済を人質に取った強迫だと非難して、共和党の要求を一蹴。民主党が過半数を握る上院では通らないため、膠着状態になっていた。
ただ、バイデン大統領の態度に対しては、エコノミストや超党派のシンクタンク「責任ある連邦予算委員会」のマヤ・マクギネス委員長からも無責任との批判が出ていた。
バイデン大統領は今月後半に東京で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席する予定もあり、引き上げ交渉の時間はない。また、もともと債務上限の引き上げはハードルが高い。小さな政府を標榜する共和党が債務上限の引き上げは認めたくないのは言うまでもない。
だが、民主党も「借金を増やした財政健全化に反した政権だ」という汚名は避けたい。みずほリサーチ&テクノロジーズの小野亮プリンシパルは「ここ10年ほどは「適用停止」という手段が頻繁に使われてきた」と話す。今回も、そうなるかもしれない。
金融不安も収まらず、米政府の正念場
今回、イエレン財務長官は6月1日というデッドラインを示して、早期の解決を迫ったわけだが、これは金融不安が燻る中で危機感の足りないバイデン政権に解決を促したと言えるだろう。
破綻したファースト・リパブリック・バンクについてはJPモルガン・チェースが引き受ける形で、なんとか危機の波及を抑え込んだ。だが、金利の上昇による債券の含み損を抱え、預金流出リスクにさらされている中堅銀行はまだある。
銀行不安のみならず、5月はファンドの財務状況が明らかになってくる月でもある。再び、金融危機の火種が噴出したときに、政府自らが国債の利払いをめぐって危機の火種になるような事態はなんとしても避けなければならない。
5月3日のFOMC(連邦公開市場委員会)にはインフレを抑え込むために、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が今一度0.25%ポイントの利上げを行うとみられている。潜在的な金融危機リスクに配慮して、6月以降は利上げを停止する可能性が高まったが、物価や賃金の上昇はようやく減速が見えてきた程度であり、金利の高止まりは続く。
米中堅銀行の預金金利は0%台で、ガバメントMMFの金利は4%台なので、不安が高まれば余剰資金はガバメントMMFに逃げ込み、決済資金は大手銀行にシフトする構図だ。
みずほリサーチ&テクノロジーズの小野亮プリンシパルは「インフレが収まってFRBが利下げに転じない限り、中堅銀行における預金流出のリスクには去らない。そればかりか、ノンバンクのファンドでも同様のことが起きるだろう」と指摘する。米国政府・金融当局とFRBの正念場が続く。
●米政府が銀行救済を秘密裏に進めていた日、ビットコイン取引数は過去最高 5/3
4月30日、米政府が水面下で2つの銀行と救済案を練っていた頃、ビットコインネットワークは1日あたりの取引数が過去最高を記録した。2017年の強気相場の中で達成したこれまでの記録を超え、14年の歴史の中で確定された取引数が最多となった。翌5月1日には、ファースト・リパブリック銀行が公的管理下に置かれ、その後、JPモルガン・チェースが預金と資産を買収。アメリカ史上、2番目の規模の銀行破綻となった。
偶然の一致
ビットコインの利用増加と、アメリカ金融業界の最新の惨事という2つの出来事は、正確には関連性はない。だが、このタイミングの一致は、暗号資産業界の未来とますます機能不全に陥る経済におけるビットコイン(BTC)の可能性について何かを示唆している。規制当局や政治家が広範な経済への暗号資産の浸透を妨げようと取り組むなか、民間銀行セクターは自力でやっていけないという事実を露呈している。
数週間にわたる不透明感と株価低迷後、ファースト・リパブリック銀行は連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に移行。取り付け騒ぎとその影響の拡大、FDICの準備資産の枯渇というリスクの可能性を防ぐための措置だった。
FDICは即座に「(ファースト・リパブリック銀行の)預金のすべてと実質的にその資産のすべて」を米銀最大手のJPモルガン・チェースに売却。JPモルガンは取引を完了させるために、500億ドル(約6兆8500億円、1ドル137円換算)の融資も受けた。1日に市場が開く前に急いでまとめられたと報じられる今回の取引に、民主党議員たちはおそらく異議を唱えるだろう。
「政府が私たちや他の銀行に協力を呼びかけた。だから、そうした」とJPモルガンのジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)CEOは語った。同氏は最も有名なブロックチェーン支持者として知られ、また長年ビットコインを批判してきた人物として知られている。
大きな動きの一部
ファースト・リパブリック銀行の破綻は、ビットコイン誕生のきっかけにもなった2008年の世界金融危機で破綻したワシントン・ミューチュアル(Washington Mutual)に次ぐ史上2番目の規模。ファースト・リパブリック銀行の経営陣にもある程度の責任はあるが、同行の破綻は少なくとも部分的には、シルバーゲート銀行やシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行を破綻に追い込んだ利上げと米連邦制度理事会(FRB)によるタカ派的金融政策が原因だという点でエコノミストの意見はおおむね一致している。
この状況とビットコインが特に関連しているのは、暗号資産業界がポピュリズムに向かう広範な政治再編の一部である点だ。中央銀行の権威や既得権益に挑むムーブメントは暗号資産だけではない。多くの人はファースト・リパブリック銀行の救済を、利益は一部の民間企業に移され、損失が社会に転嫁される新たな事例と見るだろう。
FDICの準備資産が大幅に減少することを避けるために、政治家たちはすべてのアメリカの銀行は大き過ぎて潰せないと言ってしまったも同然だ。これは、一部の階級の人たちを、自らの決断から生じた結果から守るというある種の道徳的なジレンマだ。
ビットコインはオルタナティブな通貨システムとして台頭し、多くの人はビットコインは最終的には現在の米ドルのような世界の基軸通貨になり得ると考えている。(米ドルをコントロールする政治的利益や金銭的利害とは異なり)ビットコインは社会的コンセンサスで決定した固定された発行スケジュールをはじめ、事前に決定されたルールに従っているため、一部の人には魅力的に映る。
オープンソースという自由さ
ビットコイン価格は前回の一連の銀行破綻の間に着実に上昇した。今回も上昇するかもしれない。だからと言って、ビットコインは金融界の混乱に対する「ヘッジ」だというわけでも、人々がますます信頼を失っている銀行よりも「トラストレス」な金融システムを選んでいるというわけでもない。
ビットコインブロックチェーンが今回マイルストーンを達成したタイミングは、純粋に偶然。ビットコインの取引数は、ビットコインがNFTに対応できるようになったBitcoin Ordinalsのスタート以降、増加していた。
デジタル資産メディアBlockworksが引用したグラスノード(Glassnode)のデータによれば、これまでに239万のOrdinals(=ビットコインNFT)が作成された。しかし、ビットコインNFTは現在、ビットコインネットワーク上の取引の約半分を占めているが、すべてのビットコイナーがNFTへの対応は価値ある機能だと思っているわけではない。
通貨としての用途だけを守り、NFTなど取るに足りない考えているビットコイン純粋主義者は多い。だが申し訳ないが、ビットコインはオープンソースネットワーク。つまり、人々は好きなようにこのテクノロジーを使う自由がある。ビットコインが将来のグローバル経済で役割を果たせるとすれば、それは人々が好きなように使うことができる自由があればこそだ。 
●アメリカ中堅行の株価急落 危機終息の楽観論一転、信用不安再燃も 5/3
ニューヨーク株式市場で2日、米国の中堅行の株価が大幅に下落した。前日に全米14位のファースト・リパブリック銀行の破綻処理が円滑に進んだことで、市場では「3月上旬に始まった銀行危機は終わった」(アナリスト)との楽観論が広がっていたが、一転して信用不安がくすぶる展開となっている。
株価が急落したのはカリフォルニア州に拠点を置く全米53位のパシフィック・ウェスタン銀行。一時、前日終値比42・0%安の5・26ドルまで下落し6・55ドルで取引を終えた。銀行危機が始まる前の3月1日の終値(27・99ドル)に比べ7割以上、価値が下がっている。
パシフィック銀の2022年末の総資産額は411億ドル(約5・6兆円)で破綻したファースト銀の3分の1程度の規模。一連の銀行危機の引き金となったシリコンバレー銀行と同じく新興企業向け取引が多く、一時、大量の預金流出に見舞われた。米メディアによると、4月以降、流出していた預金が戻ってきていたがファースト銀の破綻を受け、不安が再燃した格好だ。
アリゾナ州に拠点を置く全米40位のウェスタン・アライアンス銀行の株価も2日、一時前日終値に比べ3割近く下落した。終値は30・93ドルで、危機前に比べると約6割価値が下がっている。
不安の背景には、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げがある。FRBは22年3月以降、金融引き締めを続けてきたが、金利が上がれば中堅行の保有する国債の価値が下がり財務基盤が弱くなる。シリコンバレー銀などは、預金引き出しに対応するため値下がりした国債を売却して多額の損失を計上し、破綻に追い込まれた。

 

●FRB議長「インフレ圧力は依然高い水準」金利0.25%引き上げ 5/4
アメリカの中央銀行にあたるFRB(=連邦準備制度理事会)は3日、金融政策を決定する会合を開き、0.25パーセントの利上げを決めました。
FRBは3日、政策金利を0.25パーセント引き上げることを決めました。利上げは10会合連続で、リーマンショック前の2007年以来の水準に並びました。
ファースト・リパブリック・バンクなど銀行の経営破綻が相次ぎ、金融不安がくすぶる中、インフレを抑え込むことを優先した形です。
FRBパウエル議長「インフレ率は、去年の半ば以降いくぶん緩やかになっている。しかし、インフレ圧力は依然として高い水準で、2%の目標まで道のりは遠い」
パウエル議長はこのように述べた上で、今後の引き締め策を判断する際は、データを考慮するとしていて、利上げ打ち止めの可能性を示唆しました。
●米FRB 0.25%の利上げ決める 金融不安も物価高の抑制優先 5/4
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は3日、0.25%の利上げを決めました。金融不安が広がっていますが、物価高の抑制を優先した形です。
FRBは3日、政策金利の誘導目標を0.25%引き上げ、年5.25%を上限とすることを決めました。
去年3月から10回連続での利上げです。
1日に「ファースト・リパブリック・バンク」の経営破たんがあり、金融不安が広がっていましたが、物価高の抑制を優先しました。
FRB パウエル議長「3月に発表した声明には『追加の政策措置が適切だ』という表現があったが、今回の声明ではその表現がなくなっている」
パウエル議長はこのように述べ、次回、6月の会合では金利の引き上げを見送る可能性を示唆しています。
●地銀不安、商業不動産が火種に 融資減で資金繰り懸念―米 5/4
米国では、中堅銀行の相次ぐ破綻で、商業用不動産市況の悪化に拍車が掛かるとの懸念が強まっている。オフィスビルやショッピングモールなど商業用不動産への貸し付けが多い中堅・中小の地方銀行が、金融不安を背景に融資を絞れば、関連企業の資金繰りが悪化する恐れがある。関連する金融商品も多く、金融不安増大の火種と警戒されている。
商業用不動産価格は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを始めた昨年、下落に転じた。調査会社グリーン・ストリート・アドバイザーズが算出する商業用不動産価格指数は今年3月にはピークだった1年前から15%下落。特にオフィスの下落率は25%と落ち込みが顕著で、「在宅勤務の普及など働き方の変化も逆風」(邦銀関係者)という。
苦境を助長しかねないのが、シリコンバレー銀行やファースト・リパブリック銀行などの破綻による金融不安だ。
調査会社トレップによると、商業用不動産向けローン残高のうち、中堅・中小銀行を中心とした銀行融資は半分を占める。「地元の事情に詳しい地銀が力を発揮しやすい」(米エコノミスト)とされ、金融緩和期に大きく残高を伸ばした。
しかし、3月以降の銀行破綻を踏まえ、中堅・中小銀行の間では、財務基盤強化のため融資を厳しくする動きが広がっている。不動産開発会社の資金繰りが悪化すれば、銀行にとっても不良債権の増大につながり、経営危機を招く悪循環に陥る恐れがある。
商業用不動産担保ローン証券や不動産投資信託(REIT)でも、価格下落圧力は強まっている。米銀幹部は、商業用不動産関連の貸倒損失はまだ大幅増加が見られないが、「時間とともに厳しさは増していく」と話している。
●米国株式市場=続落、FRB利上げの行方に不透明感残る 5/4
米国株式市場は続落して取引を終えた。当初は上昇していたが、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見で、FRBの次の一手に不透明感が残ったことで、下落に転じた。
米連邦公開市場委員会(FOMC)声明を受けて、指数は指数は当初、上昇を維持した。
しかし、パウエル議長の会見後に株価は急落し始めた。パウエル氏は、FRBは依然としてインフレ率が高すぎるとみているとし、利上げサイクルが終わったと考えるのは早すぎると述べた。
FRBは5月2─3日に開いたFOMCで、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ5.00─5.25%とした。
S&P500の主要業種は全て下落。エネルギーと金融が最も大きく下落した。KBW地域銀行指数は0.9%下落し、週初からの下落幅を拡大した。
投資家は、金利の上昇で最終的に景気後退に陥る可能性を懸念している。
個別銘柄では、米半導体大手アドバンスト・マイクロ ・デバイセズ(AMD)が9.3%下落。パソコン(PC)市場の低迷を背景に四半期の売上高が予想を下回った。
米取引所の合算出来高は120億3000万株。直近20営業日の平均は105億1000万株。
ニューヨーク証券取引所では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を1.44対1の比率で上回った。ナスダックでは1.00対1となった。
●NY市場 ダウ平均株価 200ドル超の値下がり FRB利上げ発表受け  5/4
FRB=連邦準備制度理事会の利上げの発表を受けた3日のニューヨーク株式市場でダウ平均株価は200ドルを超える値下がりとなりました。
3日のニューヨーク株式市場、ダウ平均株価はFRBが発表した声明とパウエル議長の記者会見の内容をめぐって売り買いが交錯しました。
0.25%の利上げは市場の予想通りだった一方、FRBの声明文が変更され利上げの停止を示唆しているとの受け止めが出て、ダウ平均株価は値上がりする場面もありました。
しかし、その後、パウエル議長が記者会見でインフレの収束には時間がかかるとして早期の利下げを否定したことなどから景気減速への懸念が高まり、株価は値下がりに転じました。
ダウ平均株価の終値は、前日に比べて270ドル29セント安い、3万3414ドル24セントでした。
市場関係者は「相次ぐ銀行破綻を受けて投資家の間でリスクを避ける動きが出ていることも株価下落につながった」と話しています。
また、3日のニューヨーク外国為替市場ではFRBが利上げの一時停止を示唆したとの受け止めから日米の金利差縮小が意識されドル売り円買いにつながり、円相場は一時、1ドル=134円台後半まで値上がりしました。
●NY外為市場=ドル下落、FRBが利上げ停止の可能性示唆 5/4
ニューヨーク外為市場では、米連邦準備理事会(FRB)が利上げ停止の可能性を示唆したことを受け、ドルが下落した。
FRBはこの日までの2日間の日程で開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、全会一致で0.25%ポイントの利上げを決定。前回のFOMC声明で「幾分の追加的な金融政策引き締めが適切になるかもしれないと予想する」としていた部分を「追加的な金融政策の引き締めがどの程度適切かを決めるに当たり、委員会は金融政策の度重なる引き締め、金融政策が経済活動とインフレ率に及ぼす影響の遅れ、および経済と金融の動向を考慮する」に変更した。
ただ、利上げサイクルの終了を明確に確約しなかったため、ドルはFOMC声明発表直後に付けたこの日の安値からは上向いた。
主要6通貨に対するドル指数は0.42%安の101.24。一時は101.05と、4月26日以来の安値を付けた。
ユーロ/ドルは0.46%高の1.1047ドル。先週付けた13カ月ぶり高値(1.1093ドル)近辺にとどまっている。
欧州中央銀行(ECB)は4日の理事会で0.25%ポイントの利上げを決定するとの見方が大勢となっている。
ドル/円は1.02%安の135.15円。
FOMCがこなされ、市場は5日発表の4月の雇用統計のほか、来週発表される消費者物価統計に注目。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(ボストン)のチーフ投資ストラテジスト、マイケル・アローン氏は「FRBは、インフレに対応しながら経済のソフトランディング(軟着陸)を目指すという綱渡りを強いられている」と述べた。
ドル/円 NY終値 134.68/134.70
●原油先物4%下落、FRB利上げ後に下げ幅を拡大 5/4
米国時間の原油先物は4%下落。米連邦準備理事会(FRB)による利上げ後、前営業日からの下げ幅を拡大した。
清算値は北海ブレント先物が2.99ドル(4%)安の1バレル=72.33ドル、米WTI先物が3.06ドル(4.3%)安の68.60ドル。 
●FRB議長が抱える難題 インフレ抑制と金融安定の両立 5/4
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は「米国の銀行システムは良好で強固だ」と強調し、インフレ抑制を優先して主要政策金利を0・25%引き上げた。ただ、相次ぐ銀行破綻の影響で銀行が融資を縮小する動きも出始めており、FRBのパウエル議長は慎重な判断と状況の変化に応じた迅速な対応が求められることになる。
パウエル氏は記者会見の冒頭、3月にシリコンバレー銀行(SVB)やシグネチャー銀行が相次いで破綻したことに関し、「銀行部門の状況はおおむね改善している。状況を引き続き監視し、そのような出来事が再び起こらないよう取り組む」と語った。
FRBは昨年、記録的なインフレ対応で通常の3倍となる0・75%の利上げを4会合連続で行うなど異例の措置を実施。急ピッチな利上げを受けた金利上昇で、銀行が保有する債権価格が下落し含み損が発生するという副作用を抱える。
SVB破綻はその副作用が一因とされ、経営危機の可能性を見通せなかった金融当局の対応が問題視された。ファースト・リパブリック銀行が1日に破綻した直後の利上げ決定だけに、銀行システムの安定を強調する姿勢が目立った。
ただ、先行きを警戒する銀行で融資条件を厳格化する動きが出る中、景気を冷やす利上げを継続したことで、景気悪化を懸念する声が高まる可能性もある。
パウエル氏は会見で、同日発表した声明に関して前回からの変更点を指摘し、「もはや追加的な金融引き締めを見込むとは言っていない」と述べ、利上げ停止の可能性も示唆した。
景気悪化の懸念を強める追加利上げの必要性が弱まっていることをにじませつつ、インフレ対応を着実に実施する姿勢も示す複雑なメッセージとなっている。
ロイター通信によると、バイデン政権高官からは利上げによる銀行への悪影響を懸念する声も出始めている。パウエル氏は、経済・金融の安定とインフレ抑制を同時に達成するという難しい政策のかじ取りを迫られている。
●FRB、金利0・25%引き上げ 金融不安もインフレ抑制重視 5/4
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は3日、金融政策を協議する連邦公開市場委員会(FOMC)で、主要政策金利を0・25%引き上げることを決めた。1日に米中堅銀行のファースト・リパブリック銀行が経営破綻し金融システムへの不安が高まる中、インフレ抑制を重視し金利を引き上げた。同日に発表した声明では、従来の「追加的な引き締めが適切と予想している」との文言を削除し、利上げ打ち止めの可能性も示唆した。
FRBは声明で、利上げの理由に関し「雇用は堅調で失業率は低水準で推移している」と指摘し、インフレは「高い状態にある」と述べた。利上げは2022年3月から10会合連続。誘導目標は5・0〜5・25%とし、2007年以来の高水準となる。
またFRBは声明に「引き続きインフレリスクを注視する」と明記。インフレ率を長期的に2%に戻す目標に向け、状況によって対応を「適切に調整する用意がある」と述べ、慎重に対応していく姿勢を示した。
パウエルFRB議長は会合後の記者会見で、物価上昇率に関して「それほど早くは下がらない」との見通しも示し、早期の利下げに否定的な考えを述べた。
FRBがインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)物価指数は、今年3月の数値が前年同月比4・2%上昇と、FRBの目標2%を大きく上回っている。
パウエル氏は、不安がくすぶる米国の銀行システムについて「良好で強固だ」と強調した。
●NY市場サマリー 5/4
為替
ドルが対ユーロで上昇した。欧州中央銀行(ECB)が利上げ幅を縮小したことを受けた。
欧州中央銀行(ECB)は4日の理事会で、予想通り0.25%ポイントの利上げを決定した。利上げ幅はこれまでの0.5%ポイントから縮小。ただ、ラガルド総裁は理事会後の会見で、インフレ抑制に向け利上げを「停止しない」と強調した。
前日には米連邦準備理事会(FRB)がフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ5.00─5.25%とした一方、利上げ停止の可能性を示唆した。
スコシアバンク(トロント)のチーフFXストラテジスト、ショーン・オズボーン氏は「金融政策のダイナミクスは、引き締めサイクルという点で、現時点では多かれ少なかれ完全に織り込み済みだ。今後はFRBがいつ緩和し始めるのか、どの程度緩和するのか、他の中銀の動きとどのように関与するのか、などに焦点が当てられる」と述べた。
ドル指数は0.15%高の101.36。ユーロ/ドルは0.41%安の1.1018ドルとなった。ドル/円も0.34%下げ134.17円。
CMEグループのフェドウオッチによると、フェデラル・ファンド(FF)金利先物市場ではFRBがが7月までに利下げに着手する確率を約62%としている。
モルガン・スタンレーのアナリストは「FRBの利上げは終了したと考えているが、米ドルは上昇するだろう」と指摘。「米債利回りの低下はリスクオフの取引環境の到来を告げている可能性があり、ドル高を暗示している」とした。
23年第1・四半期の生産単位当たりの報酬を示す単位労働コストは前期比6.3%上昇。22年第4・四半期の3.3%上昇から加速したこともドルを一時的に押し上げた。
ポンド/ドルは0.10%高の1.2580ドル。序盤には一時1.2593ドルと2022年6月以来の高値を付けた。
ノルウェークローネは0.87%安の10.76クローネ。ルウェー中央銀行は4日、主要政策金利を予想通り25ベーシスポイント(bp)引き上げ3.25%とした。6月に追加利上げする公算が大きく、通貨安が続けば一段の引き締めもあり得ると表明した。
債券
パックウエスト・バンコープなど複数の地銀株が急落したことを受けて銀行危機深刻化の懸念が高まり、長期債利回りが低下した。
10年債利回りは3.373%、2年債の利回りは3.763%。一時4月6日以来の低水準を付ける場面があった。30年債利回りは3.731%だった。
この日は終日、長期債の利回りは低下した。米連邦準備理事会(FRB)が年内に利下げを行うとの期待が高まった。
市場では7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ確率が60%以上織り込まれている。3日には9月の利下げを織り込んでいた。
バンガード・フィクストインカムグループでの国債担当幹部ジョン・マジイヤー氏は「現在の市場を動かしているのは、経済指標の内容よりも金融安定性への懸念だ」と指摘した。
朝方に発表された経済指標を受けて、利回りは当初急上昇した。
米労働省が4日発表した2023年第1・四半期の非農業部門の労働生産性(速報値)は年率換算で前期比2.7%低下した。一方、生産単位当たりの報酬を示す単位労働コストは前期比6.3%上昇した。
一方、投資家は、米の連邦債務上限問題を懸念し、償還期間の短い債券の投げ売りを続けている。
3カ月物国債の利回りは、夜間に5.55%に上昇し、2001年1月以来の高水準を付けた。終盤は5.24%。
3カ月物国債と3カ月のOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)のスプレッドは47ベーシスポイント(bp)まで拡大。12年2月中旬に付けた76bp以来最も大きくなった。
株式
続落して取引を終えた。米カリフォルニア州を地盤とする銀行持ち株会社パックウエスト・バンコープが戦略的選択肢を模索していると明らかにしたことで、金融機関の健全性への懸念が深まった。
パックウエストは51%安。複数のパートナー・投資家候補とあらゆる選択肢の検討を続けており、協議は進行中だとした。
このほかの地域金融機関の株価も売り込まれた。
米地銀ウエスタン・アライアンス・バンコープは一時60%超急落し、何度も取引停止となった。終値は39%安だった。ウエスタン・アライアンスは身売りを検討しているとの報道を否定した。
コメリカ、ザイオンズ・バンコープはともに約12%下落した。KBW地域銀行指数は3.5%下落。一時は約7%下落する場面があった。
カナダのトロント・ドミニオン銀行(TD)は4日、米地銀ファースト・ホライズン銀行の買収を中止すると発表。ファースト・ホライズンは33%下落した。
TIFFインベストメント・マネジメントのマネジングディレクター、ゼー・シェン氏は「地銀問題や信用の引き締めが市場の重しになっている。信用サイクルや銀行の融資基準について、投資家が現在の状況を把握し、いつ不況に陥る可能性があるのかを再確認しようとしているためだ」と述べた。
投資家の不安心理の度合いを示すボラティリティー・インデックス(VIX)は21ポイントまで上昇し、3月下旬以来の高水準となった。
S&P500の主要11セクターでは、9指数が下落した。金融は1.29%下落し、通信サービスは1.26%下落し、全体の下げをけん引した。
米取引所の合算出来高は120億株。直近20営業日の平均は105億株。
米大手銀行では、JPモルガンが1.4%安、ウェルズ・ファーゴは4.25%安などとなった。
アップルは1%下落した。
米半導体大手クアルコムは5.5%下落。第3・四半期(4─6月)の業績についてさえない見通しを発表した。
金先物
景気先行き不安が強まる中で資金の逃避先として選好され、3日続伸した。6月物の清算 値(終値に相当)は、前日比18.70ドル(0.92%)高の1オンス=2055.7 0ドル。中心限月の清算値としては、2020年8月上旬以来2年9カ月ぶりの高水準 となった。
米原油先物
エネルギー需要先行きに対する不透明感が強まる中、売り買いが交錯し、ほぼ横ばいとなった。米国産標準油種WTIの中心限月6月物の清算値(終値に相当)は前日比0.04ドル(0.06%)安の1バレル=68.56ドルと、3月下旬以来約1カ月半ぶりの安値水準だった。7月物は0.04ドル安の68.51ドル。
●ニューヨーク株式市場 4日続落 米地銀の売却報道で売り注文  5/4
4日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は4日続落し、前日比286ドル50セント安の3万3127ドル74セントで取引を終えた。
アメリカの地方銀行の売却報道を受けて金融不安が拡大し、景気の先行きへの懸念から売り注文が膨らみ、下げ幅は一時400ドルを超えた。
またFRB=連邦準備制度理事会が3日、利上げを決めたことも相場の重荷となった。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も4日続落し、58・93ポイント安の1万1966・40だった。
●上海外為市場=人民元上昇、FRB利上げ停止示唆や国内旅行好調で 5/4
上海外国為替市場の人民元相場は対ドルで上昇。米連邦準備理事会(FRB)が3日まで開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で引き締め停止を示唆し、ドルが幅広い通貨に対して売られている。
労働節の連休(4月29日─5月3日)中の国内旅行データが堅調だったことも元相場を支援している。
連休明けの国内スポット市場の元は1週間ぶり高値の6.8888元を付けた。
中国人民銀行(中央銀行)は市場の取引開始前に元の対ドル基準値(中間値)を6.9054元に設定。前営業日基準値よりも元高だった。
みずほ銀行のアジア通貨担当チーフストラテジスト、ケン・チャン氏はFRBの利上げ停止示唆を受けて資本流出圧力が弱まり、元を含むアジア通貨が上昇したと指摘。
「連休中の旅行・支出データも、リベンジ型消費を示す心強い内容だった」と語った。
労働節の連休中の国内旅行者数は新型コロナウイルス感染拡大前の水準を回復した。
●米株投資家、FRB利上げ休止示唆でも波乱を警戒 5/4
米連邦準備理事会(FRB)は3日、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ5.00─5.25%としたが、利上げ停止の可能性を示唆した。昨年来、市場を苦しめてきた利上げサイクルの終わりが見えてきたかもしれないが、株価水準や経済の先行きに対する不透明感から投資家はさらなる波乱を警戒している。
パウエルFRB議長は連邦公開市場委員会(FOMC)終了後の会見で、物価圧力の高さがFRBの懸念事項で必要なら追加利上げの用意があると述べる一方で、政策金利を十分に引き上げた可能性があるとの見方も示した。
理論上、これは歓迎すべきニュースだ。しかし一部投資家は、S&P総合500種指数が年初から6.5%上昇したことで株価が割高になっていると懸念する。FRBの利上げで年内に景気後退(リセッション)入りするのではないかと見る向きも多い。
エドワード・ジョーンズの投資ストラテジスト、アンジェロ・クルカファス氏は「FRBが据え置きの準備を始めたことは一つのステップだが、全て解決するわけでない」と述べた。
3日の米株市場は続落。S&P500指数は0.7%下落して終了した。
それでも、ここ数週間、米地銀の破綻や政府債務上限問題という不安要因が出たにもかかわらず米株は上昇してきた。S&P500指数は3月中旬から6%上昇。リフィニティブ・データストリームによると、S&P500指数の予想株価収益率(PER)は18.2倍となった。歴史的な平均は15.6倍で、この水準は割高と指摘する投資家もいる。
ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのリサーチ・ディレクター、マット・ペロン氏は、市場が上昇し、バリュエーションは目いっぱい高まっているとも言えるとし「市場はショックに対しやや脆弱になっていると思う」と述べた。
ペロン氏は、株式をアンダーウエートにし、混乱への耐性があるとされるヘルスケア銘柄の配分を増やしている。
多くの投資家は、利上げが成長を圧迫し始め、いずれ景気後退に至ると考える。しかしパウエル議長は会見で、景気後退を回避する可能性が高いとの見方を示し、雇用や小売売上など各種指標は、経済が比較的堅調なことを示すと指摘した。
数カ月前から、株式投資を控え債券にシフトしているノースウェスタン・ミューチュアル・ウェルス・マネジメントのブレント・シュッテ最高投資責任者(CIO)は「たとえ今、利上げを停止してもリセッションは免れない」と述べた。
3日は地銀を巡り新たな懸念が台頭。カリフォルニア州を地盤とする銀行持ち株会社パックウエスト・バンコープが60%近く急落し、ウエスタン・アライアンス・バンクなどの地銀株も売られた。
それでも、多くの投資家の心配をよそに株式市場は今年回復しており、その傾向が続く可能性はある。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの米州資産配分責任者ジェイソン・ドラホ氏は、株式のリスクは「下向き」と考えている。ただ、投資家は景気後退に備えてすでに株の持ち高を減らしており、株式市場に戻る可能性のある待機資金が蓄積されていると指摘した。

 

●米国株式市場=続落、銀行危機の深刻化懸念で 地銀株が急落 5/5
米国株式市場は続落して取引を終えた。米カリフォルニア州を地盤とする銀行持ち株会社パックウエスト・バンコープが戦略的選択肢を模索していると明らかにしたことで、金融機関の健全性への懸念が深まった。
パックウエストは51%安。複数のパートナー・投資家候補とあらゆる選択肢の検討を続けており、協議は進行中だとした。
このほかの地域金融機関の株価も売り込まれた。
米地銀ウエスタン・アライアンス・バンコープは一時60%超急落し、何度も取引停止となった。終値は39%安だった。ウエスタン・アライアンスは身売りを検討しているとの報道を否定した。
コメリカ、ザイオンズ・バンコープはともに約12%下落した。KBW地域銀行指数は3.5%下落。一時は約7%下落する場面があった。
カナダのトロント・ドミニオン銀行(TD)は4日、米地銀ファースト・ホライズン銀行の買収を中止すると発表。ファースト・ホライズンは33%下落した。
TIFFインベストメント・マネジメントのマネジングディレクター、ゼー・シェン氏は「地銀問題や信用の引き締めが市場の重しになっている。信用サイクルや銀行の融資基準について、投資家が現在の状況を把握し、いつ不況に陥る可能性があるのかを再確認しようとしているためだ」と述べた。
投資家の不安心理の度合いを示すボラティリティー・インデックス(VIX)は21ポイントまで上昇し、3月下旬以来の高水準となった。
S&P500の主要11セクターでは、9指数が下落した。金融は1.29%下落し、通信サービスは1.26%下落し、全体の下げをけん引した。
米取引所の合算出来高は120億株。直近20営業日の平均は105億株。
米大手銀行では、JPモルガンが1.4%安、ウェルズ・ファーゴは4.25%安などとなった。
アップルは1%下落した。
米半導体大手クアルコムは5.5%下落。第3・四半期(4─6月)の業績についてさえない見通しを発表した。 
●目覚めよ岸田首相、植田総裁…グローバル経済は複雑数奇「ハイブリッド危機」 5/5
グローバル経済のヤバさが次々と顕在化してきた。「OPECプラス」が突如として原油の減産に向かい、インフレの火に油を注ぐ形になり、各国の金融政策の運用がますます難しくなっています。グローバルサウスと呼ばれる国々の債務問題が相当に深刻になるだろうともいわれています。
各国の中央銀行は、金融を引き締めなければいけないと考えているものの、引き締めれば引き締めるほど金融機関や巨額の債務を抱えた国々を危機に陥らせることになる。デフォルトラッシュになったらどうするのかということで、あちらを立てればこちらが立たずの状況に当面しています。
そんな中で日銀の体制が変わり、植田総裁が就任した。しかし、YCC(イールドカーブ・コントロール)とマイナス金利政策、量的緩和政策は変えるつもりがないという。それで本当に乗り切れるのかどうか。グローバル経済の諸問題について、どういう分析をしているのか。その分析に基づいて考えた時に異次元緩和の継続で大丈夫なのか。植田氏はどうも「それはそれ、これはこれ」と「仕切り線」を設けているように見える。
岸田首相にしても花粉症対策だとか言ってる場合なのか。グローバル経済の危機的状況下においても人気取り主眼では、次元が違いすぎる。状況をしっかり整理し、分析し、危機の真相を見極めるという政策態度が、ことのほか日本において見られないのは、とても恐ろしい。
「目覚めよ、岸田首相。目覚めよ、植田総裁」と言いたい。
舵取りは本当に難しいと思います。金利を上げていかなければ、インフレに歯止めがかからない。それで生活苦が増せば、大不況に陥るかもしれない。物価賃金スパイラル的な現象が米国では見えてきた。インフレだからと便乗して収益マージンを広げる企業行動も出ており、それに後れを取ってはならずと賃金引き上げ要求も高い。そうした歯止めのない舞い上がりも加わり、複合危機、ハイブリッド危機がグローバル経済に襲いかかろうとしているのです。
そこに今回は地政学的な思惑も絡む。ロシアや中国は政略的な利益を確保するためには何でもやるという感じになっていて、彼らの態度が中東産油国の姿勢をも変えている。皆でなんとかグローバル経済の均衡を保持しようという発想がなくなり、それぞれが自国の利益のために独り善がりになるので、完全につじつまが合わなくなる。行き着く先は一体なんだとなって、この先、あちこちでミサイルが飛ぶようなこともあるんかい、という感じで、日本の安全保障政策の大転換などというものも出てきてしまった。
まさに今のグローバルな風景は、そういう複雑怪奇で高度なハイブリッド危機だという認識を、あらためて整理しておく必要がある。ところが、日本においては非常に低次元の日和見性が前面に出ているので本当に危うい。かたや安保政策の大転換で、抜本的に防衛力を強化すると平気で言い、それと花粉症対策が並行して動いているというおかしな状況です。
もっとレベルの高い政策判断、現状分析、それに基づいたきめ細かな政策運営を、声を大にして求めていかないといけない。
●アメリカ雇用統計、市場予想を大きく上回る…インフレ根強く利上げ判断に影響 5/5
米労働省が5日発表した4月の雇用統計(季節調整済み)で、景気動向を反映する非農業部門の就業者数は前月比25・3万人増と、3か月ぶりに伸びが加速した。市場予想(18万人程度増)を大きく上回った。
失業率は3・4%で3月から改善し、引き続き歴史的な低水準となっている。インフレ(物価上昇)に影響を与える平均時給は前年同月比4・4%増で、前月(改定後、4・3%増)から伸びが加速した。人手不足に伴う賃金上昇が続いており、インフレ圧力は根強さを維持している。
米連邦準備制度理事会(FRB)は3日、政策金利を0・25%引き上げ、次回6月以降の利上げ停止を示唆した。金融不安の再燃で景気後退への懸念が強まる中、堅調な雇用情勢が改めて示され、今後の利上げ判断に影響を与える可能性がある。
●アメリカの地銀問題は対岸の火事に留まるのか?  5/5
先週の金曜日、トロントの証券マン氏から「アメリカの地銀問題はいつまで続くと思うか?」と聞かれたので「ファーストリパブリック銀行はつぶしてはいけない。仮にそれをしたら本当にSaving and Loan事件の二の舞になる」と。残念ながら当局はお得意の週末作業でファーストリパブリックの処理を決め、アメリカの最大の銀行、JPモルガンに超好条件で譲ってしまいました。
月曜日、JPモルガンのダイモンCEOは得意満面で「これで嵐は去った」とし、JPモルガンがいかにも金融当局の業務の代行をしたかのような大御所のスタンスを見せました。ダイモン氏は現役の大物バンカーとしては唯一リーマンショックを経験した重鎮であり、誰も彼にモノが言えないというのが実情ではなかったかと思います。
が、市場はダイモンCEOの誇らしげな発言をあざ笑うかのように「次の破綻予備軍」のサーチを始めます。一部の地銀の株価は日中よりもアフターアワーの取引で崩落するケースが増えているのは市場参加者が少ないため、株価のボラティリティが高まるからです。3割4割安が当たり前になったアフターアワーの取引を受けた翌朝のNY市場は当然、一般投資家と機関投資家による売りが売りを呼ぶ展開となります。そしてアフターアワー取引の安値にすり合わせるように株価は目も当てられない状態になるのです。
FRBもダイモンCEOも伝統的で常識的な市場形成と金融事業の健全な運営がなされているという性善説に基づく発想が変わりつつあることを認めないのです。間違っているわけではないけれど違うフレーバーが生まれつつあることを見ようとしないのです。
その兆候を私はミーム株(はやり株)の取引にみています。コロナの最中、箸にも棒にもかからないような企業の株が突然何倍にも暴騰します。リテール投資家(個人投資家)がよってたかってボロ株祭りをしたのです。ヘッジファンドはあり得ない株価に当然、ショート(売り)で立ち向かいます。が、リテール投資家の買いの勢いは増す一方で一部のヘッジファンドは白旗を上げたのです。
その銘柄の一つ、Bed Bath and Beyondは今年初めから倒産が確実視されていたのにリテール投資家の根強い支持があり、株価が今年に入っても乱高下を続けます。が、同社のカナダ部門が破産し、本体も4月にようやく息絶えるのです。余談ですが、カナダにあった60か所の同店舗のスペースを虎視眈々と狙っていた大手の小売り会社が一気に群がり、大型ディールが次々と決まっています。21店舗分と10店舗分を奪い取った企業をはじめ、亡骸を貪るあくなき弱肉強食の世界にこの私ですらおののいてしまうのです。
ミーム株のチカラが何であったか、と言えば市場の常識であったプロと素人の境目が無くなった点です。「次の危ない銀行を探せ」と言うのは銀行を潰すテレビゲームの乗りに近い状態になっているのです。当然、個人投資家はショートを仕掛けるわけで、莫大な儲けを得ているのでしょう。
これを見た銀行の本当の顧客は恐れをなし、預金を引き揚げ、口座を解約するでしょう。ネットバンキングが進んだ時代の声なきパニックです。おまけに当局のやり方は猶予なく、金曜日に重篤な状況ならば月曜日の朝には葬式が終わっているのです。銀行版安楽死です。株主の保護も一切ありません。無茶苦茶です。この週末も葬式があるかもしれません。
カナダ最大手の一角、TDバンクがアメリカの南部の地銀、ファーストホライズン銀行と合併工作をしていましたが、昨日TDは破談を通告、違約金以外に270億円のお土産まで付けました。同行の株価はこれを嫌気し、今朝から崩落しこれを書いている現在で35%安です。大手銀行ですら、見放さざるを得ない状況になっているわけでJPモルガンがファーストリパブリックを救い「それで嵐は収まる」と思ったダイモンCEOは楽観視に過ぎなかったと思います。
ではお前はどうしたらよいと思うのか、と聞かれれば「銀行を潰さない。投資家を保護する」そのために必要資金を当局が保証し、注ぎ込み続けるしかないのです。公的注入です。もちろん税金を使うこのやり方はほぼ無理なのはわかっていますが、リーマンショックを切り抜けたのは公的資金だったことも事実なのです。今地銀で起きていることは一種の群集心理なのです。これに対峙できなければ地銀が崩壊するのです。
では我々は何処にお金を預ければよいのか、といえばそんなのはいくらでも代替できるのです。MMFがもっともポピュラーですが、ビットコインでも金(ゴールド)でも更には不動産でもあります。アップルの銀行化についても私が懸念したとおりになりました。同社が提示した4.15%の利息に個人は飛びつき、開始4日間だけで1360億円も集めたのです。マネーの腰は軽いのです。義理も人情も律儀もないのです。昨日までは「愛は永遠よ」と言っていたのに今朝になれば「お別れね!」なのです。理由はネットという無機質なやり取りだからです。
パウエル議長が昨日の記者会見の際、「Regrets, I’ve had a few」と述べました。そう、フランクシナトラのマイウェイの一節です。「後悔も多少はあった」と言う意味です。つまり、FRBも間違いを犯したことを認めたとも言えます。昨日のパウエル氏の記者会見の前半の質疑は防戦一方でした。この記者会見、質問は最前列に座るいつもの大手メディアのメンバーによる一番聞きたいおいしい質問から始まるのですが、確か2列目にいたウォールストリートジャーナルの若手記者の質問にパウエル議長が詰まる一幕もありました。
不幸にもイエレン財務長官は債務上限問題で手いっぱいなのです。ここはパウエル議長が踏ん張らないと対岸の火事では済まされない大延焼を引き起こす可能性がないとは言えなくなります。

 

●米国民の48%「預金に不安」 08年上回る 民間調査 5/6
米地銀の相次ぐ経営破綻を受け、預金の安全性を心配する米国民が増えている。米調査会社ギャラップがこのほど公表した調査によると、米国民の48%が懸念していると回答した。不安を感じる人の割合は2008年の金融危機時を上回った。
調査は4月3日〜25日にかけて、全国の18歳以上の成人1013人を対象に実施した。3月には米地銀のシリコンバレーバンク(SVB)やシグネチャー・バンクが相次ぎ破綻し、他の地銀からも預金を引き出す動きが広がった。ギャラップが同様の調査をしたのは、08年のリーマン・ショック時以来15年ぶり。
今回の調査では、銀行などに預けているお金の安全性について19%が「非常に心配」と回答、29%が「やや心配」と答えた。08年9月の調査では合わせて45%だった。
支持政党や学歴などによる違いも浮き彫りになった。共和党支持者のうち「心配」と回答した割合は55%と、民主党支持者(36%)を上回った。大卒では同36%だったのに対し、大学の学位を持たない人では54%となった。所得階層別では世帯年収が10万ドル(約1300万円)未満の人は10万ドル以上の層と比べて、預金を心配する割合が相対的に高かった。
ギャラップは調査結果について「現政権や経済環境への不満と結びついているとみられる」と分析。1口座あたり25万ドルまでの預金保護措置に関する認知度の違いが階層ごとの調査結果に反映している可能性もあるという。
SVBなどが破綻した直後の3月13〜15日に米調査会社モーニング・コンサルトが実施した別の調査によると、米国の成人の5人に1人が預金を銀行口座から自宅や金庫など別の場所に移したと回答した。一方、預金全額保護が決まった直後だったため、「銀行を信じている」という人の割合は70%と、2月時点の調査(66%)を上回った。
●FRB年内利下げ着手との市場の見方変わらず、雇用統計好調でも 5/6
米労働省が5日発表した4月の雇用統計で労働市場の好調さが示され、米連邦準備理事会(FRB)による利上げが裏付けられた格好だが、市場では年内利下げとの見方が引き続き織り込まれている。
4月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は25万3000人増加で、エコノミストの予想(18万人増)を大幅に上回った。失業率は3.5%から3.4%に低下した。労働市場が強さを維持していることが示され、FRBが当面、利上げを継続する可能性がある。
アメリプライズ・ファイナンシャルのチーフ市場ストラテジスト、アンソニー・サグリンビーン氏は「労働市場は熱く、FRBにはまだやるべきことがある。FRBが年内に利下げに動くような環境には見えない」と述べた。
ただCMEのフェドウオッチによると、雇用統計発表後も6月利上げの可能性は小さく、金利を据え置くとの見方が大勢。9月には利下げに踏み切るとなお見込まれている。
また金利先物市場ではFRBが12月までに政策金利を4.2%程度まで引き下げるとの見方が織り込まれている。
●過熱薄まる米労働市場、FRBには一息つく余裕 5/6
米労働市場は確かに冷えてきている。いや、むしろ以前ほど熱くはないと言った方がいい。  米労働省が5日発表した4月の雇用統計によると、就業者数は前月比25万3000人増え、失業率は3.5%から3.4%に低下した。就業者数の伸びはウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がまとめたエコノミスト予想の18万人を上回った。失業率は1月に並び、数十年ぶりの低水準に改善した。平均時給の伸びは予想を上回り、前年同月比4.4%となった。  とはいえ、就業者数の伸びは鈍化している。労働省は2月と3月の数字を下方修正し、過去3カ月の月平均は22万2000人増となった。 
●原油価格は上昇するも、需要不安で3週連続の損失見通し 5/6
ヒューストン:ロイター通信によると、原油価格は金曜日のアジア取引で上昇したが、米国経済の弱体化と中国需要の鈍化に対する懸念から市場が劇的な下落を見せたため、3週連続の損失となる構え。
ブレント原油は、午前5時45分(GMT)に0.60ドル(0.8%)上昇の1バレル73.10ドル、米国のWTI は、4日連続の損失後、0.52ドル(0.8%)上昇の1バレル69.08ドルとなった。
今週は、ブレントが8.1%安、WTIが10.0%安で取引を終えることとなった。
シンガポールIGのマーケット・ストラテジスト、ジュン・ロン・ヤップ氏は、「原油価格にとって二重の痛手となっている」と述べた。
「米国の銀行破綻の再燃がより広い範囲で懸念を生じさせ、景気後退の話を広めた。その上、中国の製造業が予想外に縮小したことで、石油需要の見通しに対する楽観的な見方を押し戻した」と指摘した。
パックウェスト・バンコープが戦略的選択肢を検討する予定であると発表したことから、米国の地方銀行危機の不安が続いた。
中国では、受注が減少したことから4月の工場活動が予想外に縮小し、内需不振が広大な製造業の足を引っ張った。
中国のサービス業は4月まで増大したが、拡大率は鈍化していることが、金曜日のデータで示された。
「しかし、6月に開催される石油輸出国機構とその同盟国(OPEC+)の次回会合での供給削減の可能性に対する期待が価格の支えになっている」と、シンガポールOANDAのシニア・マーケット・アナリストであるケルビン・ウォン氏は述べた。
「昨日のWTI原油先物の日中の急落は、61.85ドルの主要なサポートで何とか足踏みしている。市場参加者は、OPEC+が作った潜在的な『底値』だと暗示しているようだ」とウォン氏は話した。
トレーダーは、この後発表される4月の米雇用統計に注目しており、これが経済の健全性を測るのに役立つことを期待している。また、ミネソタ経済クラブでのセントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁とミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁による金融政策についてのコメントにも注目が集まっている。
米中央銀行が政策声明から追加利上げを「予想する」との文言を削除したことから、投資家は現在、Fed が6月の会合で利上げを一時停止すると広く予想している。

 

●商工中金改革 政府は将来像の明示を 5/7
政府系金融機関の商工中金について、約46%の政府保有株式をすべて2年以内に売却することなどを盛り込んだ商工中金法の改正案が、国会で審議されている。
株主構成上は民営となり、代表取締役選定や新株発行の政府認可制も4年以内に廃止する。
一方、災害時などに低利で融資する危機対応業務は維持する。
政府出資金を振り替えた特別準備金制度、代表取締役の解任命令権といった政府の関与も残り、半官半民の実態は実質的に続く。
現行の法律にある「完全民営化の実現」の時期は先送りした。
コロナ禍に苦しんだ中小企業の支援は急務であり、民間金融機関が敬遠しがちな高リスクの低利融資を担う存在は必要だろう。
だが民業圧迫の懸念は根強い。2016年には危機対応融資を巡って組織的な不正が発覚した。
中小企業金融は今も過当競争が指摘される。政府は商工中金の立ち位置を明確に示し、役割や将来像を国会で議論すべきである。
完全民営化の方針は06年に小泉純一郎政権が決めたが、リーマン・ショックや東日本大震災などを理由に延期を繰り返していた。
2年以内の政府保有株売却は、経済産業省の有識者会議が2月の報告書で求めていた。売却先は中小企業組合などに限定する。
法案で売却時期を示したのは前進と言えるが、完全民営化の実施を曖昧にしたのは気がかりだ。
現行の商工中金法は、政府保有株式をすべて売却した時に同法を廃止するよう規定している。中小企業には危機対応業務も廃止になるのではと心配する声がある。
政府は民間金融機関による補完などを十分に検討し、完全民営化への道筋を示す必要がある。
商工中金の貸出金残高は、22年3月期で9兆6千億円と地銀上位並みの規模だ。政府の関与が続くことで信用力も担保される。
今後は企業再生事業に力を入れていくという。長引いたコロナ禍で財務状況が悪化した中小企業は多く、ニーズは高いだろう。
ただ地銀や信用金庫も重視している分野だ。民間と連携して取り組んでいく姿勢が求められる。
低利での貸し出しばかりではなく、企業の経営改善策などについてお互いにノウハウを持ち寄って効果を高めてもらいたい。
法案にはさらなる政府関与の縮小に向けて、4年以内に事業を見直す規定も設けられた。経産省などから役員への天下り禁止などを含め、前倒しで進めるべきだ。
●インフレと金融不安を退治できないFRBの苦悩  5/7
アメリカのインフレは落ち着かず、景気も底堅い中、5月2〜3日のFOMC(連邦公開市場委員会)において、FRB(米連邦準備制度理事会)は0.25%の利上げを決め、今後の利上げ打ち止めも明確にしなかった。市場は年内利下げを期待するなど意思疎通がうまく行かない中、5月1日の中堅銀行ファースト・リパブリック・バンク(FRC)破綻など金融不安も続き、景気後退のリスクは高まりつつある。
株式市場は言質が欲しかった
――FRBは0.25%の利上げを決め、政策金利は5〜5.25%と16年ぶりの水準に達しました。今回のFOMCの内容をどうみますか。
バランスをとるのに苦心した印象だ。市場は「今回で利上げ打ち止め」を期待した一方で、インフレはまだ収まっていない。声明文では前回盛り込まれた「追加の政策措置が適切」という表現が削除され、「追加策がどの程度必要か決定する際には、これまでの金融引き締めの累積効果や経済、物価に時間差で与える影響を考慮する」と金融政策のタイムラグについての内容が入った。タイムラグは利上げに慎重を期する際に使用されやすい表現で、市場はFRBが再利上げに消極的になったと当初理解した。
一方で、パウエル議長は記者会見で追加利上げをめぐる決定はデータに基づいて行うとした。国債金利は下がっているので、債券市場は金融引き締めが終わりつつあると冷静に受け止めたようだ。しかし、株式市場はパウエル氏が再利上げに含みを持たせたことにがっかりし、中堅銀行株を中心に売りが広がった。
――アメリカの株式市場がFRBの利上げ停止や利下げへの転換に過度に期待しているのでしょうか。
FRBが早期にハト派的姿勢へと変化することを株式市場が期待しすぎていることは確かだ。ただ、株式市場が現在の状況に不安を感じていることも理解する必要がある。
中堅銀行の相次ぐ破綻や株価の下落で株式投資家は損失を被っている。悲観的なムードが市場に漂い、次に破綻する可能性がある弱い投資先を探し、損失を回避しようと株式を売却する。金融機関の株価が下がるのをみた預金者は、破綻を恐れて預金を引き出そうとする。すると株式市場で、また株式が売られる。不安心理による負のスパイラルが起きている。
市場心理が大きく悪化している中で、株式投資家は藁をもすがる思いでFRBに再利上げの可能性を否定してほしかった。パウエル議長がそこまでリップサービスする必要はないが、もっと丁寧に伝えるべきだっただろう。たとえば、利上げもありうるが、どのような場合には利下げすると両論併記することもできたはずだ。
金融危機になると経済は大混乱に陥り、インフレ抑制どころではなくなってしまう。将来の不確実性が高いので、明言しづらいのはわかるが、インフレ退治のためにも経済・金融の安定性が必要だ。FRBは市場への伝え方に苦労しており、経済・金融に関する不確実性を自ら高めている面もある。コミュニケーションの工夫が求められている。
不安心理スパイラルを払拭できない
――FRBが金融システムのリスク把握と安定化を目指すマクロプルーデンス政策を失敗しているといえますか。
パウエル議長も2019年に中堅銀行の規制を緩めたことは失敗で、後悔していると話しており、規制監督の点で改善の余地はある。3月にシリコンバレー銀行(SVB)が破綻した原因としてSNSによる不安の拡散やオンライン送金などで預金流出が想定以上のスピードだったことから、それらに対応した規制や制度にアップデートする必要もある。
とはいえ、今回のFOMC前日に破綻したFRCについては、規制・監督の問題がすべてではない。SVBはずさんな経営があったことが判明した。FRCは大口預金が多かったというSVBとの類似点があることで手元流動性の枯渇が懸念される「標的」になった点では同じだが、FRCの経営自体に必ずしも大きな問題があったわけではない。SVB破綻の余波であり、その意味で規制監督の網があっても連鎖破綻する可能性を示唆している。
不安心理に対応できなかった責任をすべてFRBに帰すのは難しいが、その一挙手一投足が注目されているのは確かであり、うまくコミュニケーションをとる必要はあった。
――異様な経済環境でFRBにとってもコミュニケーションが難しい面があるのでは?
実際に舵取り自体が難しい。市場による今回のFOMCに対する評価も後付けであり、事前にわかっていればパウエル氏もうまくやっているはずだ。しかし、パウエル氏が率いるFRBが将来の金融政策の先行きを示すフォワードガイダンスで、ミスを重ね続けているのも事実だ。例えば、2021年にインフレは一時的と発言し、2023年1月にはインフレは減速したと示し、SVB破綻直前には利上げ加速に言及している。
コミュニケーションの取り方について反省し、市場の不安心理を理解して金融当局が発するニュアンスの修正を図ることも一考に値する。これまでなら、利上げに慎重だったブレイナード前副議長がその役割を担っていたが、同氏の退任により現在はFRB中枢部にハト派が少ない。どこまでハト派にすべきかは議論の余地があるが、ニュアンスを微調整し、銀行不安の拡大を抑制できるかどうかが注目だ。
またアメリカの投資家と話していると、情報の伝え方をめぐり、FRBにSNSの専門家がいないことを指摘する声も聞く。豊富な流動性を供給するなど金融システムの安定性を強化するのはFRBの本分だが、デジタライゼーションやSNS時代に合わせるため、情報の拡散や群集心理にどう対応するかなど中央銀行のコミュニケーション自体もSNS時代に対応させなければいけない。今後の課題であり、研究が必要になるだろう。
景気自体は底堅いがリスクも高まる
――金融不安が再燃して、信用収縮が起きる可能性はあるのでしょうか。
貸し剥がしなど信用収縮は一部で起きている。商業不動産や商工業ローンは減少し、企業の資金調達環境は悪化している。一方で、消費者ローンや住宅ローンは増えており、アメリカの屋台骨である個人消費では信用収縮はまだみられない。経済が今にも崩れるとまではいえない。
4月の雇用統計でも非農業部門雇用者数は25.3万人と底堅い結果となり、失業率は3.4%と低下した。雇用環境は悪くなく、個人消費を下支えするだろう。
――金融不安がある一方で、景気が底堅い状況をどう考えるべきでしょうか。
ベースシナリオとしては大幅な景気後退を避けることができるというソフトランディングだ。しかし、銀行のさらなる破綻や信用収縮が発生し、景気後退に陥るリスクシナリオの可能性は高まりつつある。ただ、リスクはあくまでリスクであり、現在の経済状況を理解するうえではいったん切り離してみるべきだ。個人消費や雇用は堅調だ。リスクシナリオをベースシナリオのように思い込み、消費者心理が悪化してしまわないか注意する必要もある。
――個人消費ではFRBが政策決定で重視するPCE(個人消費支出)価格指数の動向をどう予測していますか。
FRBは3月のFOMCで、2023年末のPCE価格指数の予想(中央値)について前年比3.3%、食品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数では同3.6%としている。4月末に公表された3月のPCE価格指数は前年同月比4.2%、コアPCE価格指数は同4.6%だった。食品とエネルギー価格は下落しているのでPCE価格指数は目標値に達する可能性はあるが、労働市場の需給がなおタイトなことから、コアPCE価格指数は今後も下がりにくいだろう。
株式市場や債券市場の一部では年内の利下げが期待されている。PCE価格指数が早い段階、たとえば7〜9月期までに目標値に落ち着けば、年内利下げはありうるが、そのハードルはものすごく高いと言わざるをえない。
利下げが本格的に意識されるであろう秋口までにPCEが落ち着かず、年内の利下げがないことがはっきりした段階で、株式市場の期待がはがれる「PCEショック」が生じる可能性もある。8月に行われるジャクソンホール会議が年内利下げの可能性をどう見るかの節目になりそうだ。
――利下げ開始は来年からとみたほうがいいのでしょうか。
現時点においては、2023年内は金利が据え置かれると想定したほうがいい。利下げは景気とインフレの動向による。物価面で利下げに転じる条件のハードルは高いが、仮に景気が大幅に悪化すれば利下げの可能性は高まる。現在、FOMC参加者や市場コンセンサスは、今年10〜12月期のGDPについて前年同期比でプラス成長を予想しているが、仮に個人消費の落ち込みなどでマイナス成長に陥る可能性が出てくると利下げに転じる可能性はある。
また個人消費と雇用が強いものの、インフレが落ち着く可能性もある。例えば低賃金の雇用は堅調だが、高賃金の雇用が悪化することだ。これは従来の景気減速時にも起きており、雇用者数は伸びるものの賃金上昇自体は落ち着くことで、インフレ圧力が抑制される。足元でも金融機関やIT産業といった高賃金業種でのレイオフが起きており、賃金上昇が減速することでインフレが落ち着き、利下げが可能となる道は残っている。
債務上限問題で不安心理加速も
――イエレン財務長官は、6月にもアメリカ政府の債務上限問題が限界に達すると指摘しています。
イエレン氏はリスク管理上の観点から期限を早めに提示している点もあり、多くの人は債務上限問題は大きな問題にならないとみている。一方、現在の銀行不安は急速な利上げで満期保有を目的とした債券を売却した際に損失が出たことが、銀行の経営懸念につながっている。国債などの債券価格は銀行にとって生命線であり、債務上限問題で米国債が格下げとなれば、国債価格が急落し、市場の不安心理に拍車がかかるリスクはある。
最後に非常にテクニカルな話になるが、流動性を確保するためにFRBは資金供給を行っているものの、銀行に資金はとどまらず、短期国債やレポで運用するMMF(マネー・マネージメント・ファンド)に流入している。MMFは安全神話が強く、現在資金が集中しているが、債務上限問題が顕在化すれば、MMFも債券価格急落のあおりを受ける可能性がある。
このほか、流動性の確保による資金供給で、FRBのバランスシートは拡大しており、株式市場では疑似QE(量的緩和)と捉え、株価のバリュエーションが高い状態にある。景気悪化懸念がEPS(一株あたり純利益)を押し下げれば、投資家もオーバーバリューにいずれ耐えられなくなり、売却の連鎖が起きる可能性もある。現状、売買高が低い状態にあるが、それはオーバーバリューによって手を出せない一方で、景気もまだ底堅いので市場が動くに動けないからだ。流れが変われば、一気にオーバーバリューが是正される動きが出るだろう。その点では相場格言の「Sell in May」(5月に株は売り)を気にする必要はあるだろう。
●FOMC後にパウエルFRB議長が示唆した「後悔の正体」…「多過ぎて救えない」 5/7
パウエル議長が口にした「複数の後悔」
3日に25bpの利上げを決めたFOMC後の記者会見の席上、パウエルFRB議長は銀行の経営破綻が相次いだことに対して後悔はないかという質問に対して、フランク・シナトラの名曲「My way」の歌詞になぞらえて「我々が間違いを犯したことは十分に認識している」と政策ミスがあったことをあっさりと認めた。
拍子抜けするほどのその潔さは、就任時に「2%の物価安定目標」を「2年以内に達成する」と豪語しながらも2期10年の任期中に目標を達成できなかったにもかかわらず「これまでの政策運営は適切なものである」と「後悔」を一切口にしなかった黒田前日銀総裁とは好対照だった。
パウエルFRB議長が口にした「後悔」に関しては、3月以降1カ月余りの間に4行もの銀行が相次いで破綻したことに対してFRBの金融監督機能が十分に機能しなかったことを指しているという文脈で報じられている。
会見の質疑の中で、2月の理事会向けブリーフィングの中でシリコンバレー銀行(以下SVB)が資産ポートフォリオに含み損を多く抱えているとの報告を受けていたにもかかわらず、預金取り付けのリスクに考えが及ばず対応しなかったことを明らかにしており、対応が遅れたことに対する後悔を持っていることは確かなはずである。
しかし、先月末にFRBが公表したSVBについて経営や金融監督の実態を検証する報告書では、破綻の第1の理由として「経営陣による典型的な失敗」だとしたうえ、FRBがその失敗の把握が遅れた理由として資産規模が1000億ドル以上の中堅銀行を対象にしたトランプ前政権時の規制緩和などが「効果的な金融監督を阻害した」と不可抗力が存在したことも示唆している。
確かに、銀行を監督する立場にいるFRBとしては、短期間に4行もの銀行が破綻するという現実は受け入れ難いものであるはずだ。重要な点は、パウエルFRB議長が「I've had a few.」という表現で「複数の後悔」が存在していることを示唆したところである。つまり、SVBの抱える問題に対するFRBの監督機能が不十分だったことは、「複数ある後悔」の1つに過ぎないと捉えるのが賢明だと言える。
甘かった「インフレは一時的」という見通し
では、パウエルFRB議長の脳裏に浮かんだ「複数の後悔」とは何だっただろうか。
おそらくそれは、2021年11月30日の議会証言で撤回するまで「インフレは一時的」という見解を示し続けてきたことだと思われる。
米国のインフレ率は2020年3月から6月にかけてのコロナウイルスによるロックダウンの影響を受けて4月に原油価格(WTI)が一時マイナスになるなど、2020年5月にはCPI総合は前年同月比プラス0.1%まで大きく落ち込んだが、ロックダウン解除後に回復し2021年3月にはFRBが目標としている2.0%を上回る2.6%(前年同月比)まで戻していた。
しかし、パウエルFRB議長は「インフレは一時的」という見解を示し続け、発言撤回に追い込まれた2021年11月時点では6.8%(前年同月比)まで上昇する事態となってしまった。
WTIがマイナスを記録する等経済統計が歪められた4-6月期を過ぎてもインフレ率は下がらず、CPI総合が前年同月比で6%を上回る水準まで上昇する事態を目の当たりにしたことでFRBは「インフレは一時的」であるとしてきた認識に過ちであったことを認識して発言を撤回し、急速に金融引締め路線に転じることになった。
しかし、そこでも想定外の事態が起きてしまう。それは2022年2月末に起きたロシアによるウクライナ侵攻である。ウクライナ侵攻によって資源価格は急騰し株価が急落する等、金融市場の緊張が急速に高まることになった。
金融市場の緊張が高まる事態を受けて、金融引締め路線に転じていたFRBは同年3月のFOMCでの利上げ幅を25bpに止めることを余儀なくされ、結果的にCPI総合が2022年6月に9.1%(前年同月比)と約40年ぶりの高水準まで上昇してしまうことを許すことになってしまった。
「インフレは一時的」と誤った見通しの下で金融引締めが遅れたうえに、ウクライナ侵攻という不測の事態の発生によって、FRBは40年ぶりの高インフレを追いかける形での大幅かつ急速な利上げを迫られ、2022年末のFFレートは4.5%まで一気に引き上げることになった。
コロナ禍で預金規模が3倍に膨れ上がったSVB
FRBのバー金融監督担当副議長が3月末の議会証言で「SVBが破綻したのは経営陣が金利と流動性のリスクを効果的に管理しなかった」ことによる「ずさんな経営の教科書的な事例だ」と指摘したこともあり、SVBの破綻は銀行のリスク管理の怠慢が招いたものだという認識が定着している。
しかし、目を向けなければならない点は、SVBに「金利と流動性のリスクを効果的に管理」することが現実的に可能だったかどうかという点である。
コロナ禍前の2019年末時点でのSVBの預金量は利息の付かない決済用の当座預金を中心に644億ドルであった。しかし、コロナ禍の2020年末には1071億ドル、2021年末には1947億ドルと、僅か2年間に預金規模は3倍に膨れ上がってしまった。
僅か2年間で預金量が3倍以上に増えることをSVBの経営陣に予期することが出来ただろうか。当然のことだが、銀行のリスク管理は銀行の規模によって全く異なってくる。経営上預金量が600億ドル規模の銀行にはその規模に応じたシステムや人材を配置するのが当然のことである。日本でいえば地銀や信用金庫がメガバンク並みのリスク管理システムや人材を持っていないのと同様である。
600億規模の銀行に突如3倍もの預金が集まったらリスク管理が追い付かないのはある意味当然である。
問題は、何故SVBに短期間にこれだけ大量の預金が集まったかである。その背景にあるのがコロナによる経済活動停滞に対応するために2020年に打ち出された総額約2兆ドル、米国GDPの約10%にも及ぶ過去最大規模の経済対策である。さらにこの経済対策と同時にFRBの資金供給能力も4兆ドル増額された結果、経済対策の規模は総額6兆ドルにまで膨らんでいた。
コロナ禍を乗り切るために必要なのは生き延びるための資金であるから、経済対策によってばら撒かれた大量の資金は使われずに銀行預金に流れ込むのは当然の流れだといえる。
こうして破綻に追い込まれた
史上最大規模の経済対策によって大量の預金が流れ込んだことはSVBにとっても想定外のことだったに違いない。とはいえ「リスク管理が追い付かない」という理由で預金を断る選択肢はあり得ない。さらに、大量に預金が集まった要因がコロナ禍による経済活動停滞であるから、大量に集まった預金の貸出し先を確保することは当然不可能なことである。
こうした預貸ギャップ(総預金と貸出金の差額)を埋めるのが国債を中心とした有価証券投資である。預金が大量に集まった2020年の3月にはコロナ対応によってFRBが再びゼロ金利政策をとり始めたこともあり、年末時点の短期金利はほぼ0%であったのに対して米10年国債の利回りは0.9%程度であった。さらにFRBが「インフレは一時的」という見解を持ち続けたこともあり、翌2021年末時点でも短期金利はほぼ0%だったのに対して米10年国債利回りは1.5%台だった。
要するに、ほぼ0%に近い預金で集めた資金を10年国債で運用すれば1.5%程度の利鞘を確保することが出来る状況だったのである。
銀行のビジネスモデルは預金(短期金利)で集めた資金を中長期で運用して利鞘を稼ぐというものであるから、大量に集まった預金を長期国債など利鞘が取れる有価証券に投資するのは至極当然のことでしかない。しかも、銀行の自己資本比率上国債のリスクウエイトは0であるうえ、最も流動性の高い投資資産でもある。当時のSVBにとって余剰資金を国債に投資するという選択に何のためらいもなかったはずである。
しかし、事態は2021年11月30日の議会証言でパウエルFRB議長が「インフレは一時的」という見解を撤回し、急速かつ大幅な利上げに舵を切ったことによって大きく変化していく。
FRBの方針転換によって2021年末時点で0.25%であったFFレートは2022年末には4.5%まで一気に引き上げられ、それに伴って10年国債利回りも大幅に上昇し10月には4%を超えるところまで上昇(価格は下落)してしまった。SVBがゼロ金利政策下の1.5%程度という低い利回り(高い価格)で投資した10年国債の価格は大幅に下落し、SVBは国債投資によって大きな含み損を抱えてしまったのである。
とはいえ、国債投資によって多額の含み損が発生したからといって、銀行がすぐに破綻に追い込まれるわけではない。国債がちゃんと償還されれば国債の額面分は戻ってくるのだから、償還まで保有し続けることさえできれば保有期間中の含み損は致命傷になり難いからだ。これは日本人が大好きな「長期投資」と同じ理屈である。
問題なのは、償還前に保有国債の売却を迫られる場合である。SVBに限らず銀行の国債購入原資は預金である。この預金が一度に引き揚げられるような、所謂取り付け騒ぎのような事態が起きれば、預金払出しに必要な現金を確保するために保有する国債を売却して現金を確保しなければならない。こうした国債の売却を迫られる局面では、含み損は実現損に変わり、預金払戻しに必要な量の現金を確保できなくなったり、自己資本が棄損したりすることで経営危機に陥ることになる。
SVBは流出した預金の埋め合わせをするため、増資によって必要な資金を確保しようとしたが、一部のベンチャーファンドが投資先企業に対してSVBから預金を引き揚げることを推奨したことなどもあり、この増資計画は失敗し破綻以外の選択肢を失うことになった。
SVBは国債投資によって大きな含み損を抱えるなかで大規模な預金流出に見舞われ、経営破綻に追い込まれていった。こうしたSVBの経営危機に対して米国金融当局が預金の全額保護という超法規的な措置をとったのは、他行で同様の事態が起きることを回避しようとしたからである。預金の一部が失われるリスクが高まれば、預金者が預金の引出しに動くのは必至だったからである。 
●FRBは利上げ休止可能か、4月の米CPIが手掛かり提供へ 5/7
10日に発表される4月の米消費者物価指数(CPI)は、米金融当局が来月の会合で一連の利上げを休止できるかどうかに関する手掛かりを提供するとみられる。
食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年同月比で5.5%上昇の予想。3月は5.6%上昇だった。こうした数字は基調的な物価上昇圧力のペース鈍化が小幅にとどまっており、インフレが根強いことを示唆する。
コアCPIは過去4カ月にわたって5.5−5.7%のレンジで推移しており、インフレの根強さを浮き彫りにしている。今回のCPIは米連邦公開市場委員会(FOMC)が6月の政策決定前に入手する2回のCPI統計のうちの1つ目となる。
FOMCは5月2、3日に開催した定例会合で、主要政策金利を0.25ポイント引き上げることを決定。一方、経済面でのリスクが強まる中、利上げが今回で打ち止めになる可能性も示唆した。
インフレ抑え込みでの進展は緩やかながらも、米金融当局は地銀セクターでの最近の緊張や過去1年余りに及ぶ利上げによる景気への影響を考慮する必要がある。利上げは遅れを伴って作用する。
11日には4月の米生産者物価指数(PPI)も公表される。前月比では物価圧力の強まりが予想されている。財価格は下向きトレンドだが、その過程は不安定となる可能性を示唆する見通しだ。
ブルームバーグ・エコノミクスのエコノミスト、アナ・ウォン氏やスチュアート・ポール氏らは、「パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は5月のFOMC会合で、金利は既に『十分に抑制的』な水準に達した可能性があるとの見方を示したが、その判断で確信を得るにはもっと時間をかけて展開を見極める必要がある。4月のCPIとPPIはいずれも安心感をもたらすものとはならないだろう」と指摘した。
●中国が「日本化」の波に飲まれていく…バブル経済の崩壊前と酷似した状況 5/7
世界第2位の経済大国に成長した中国の現状が、90年代前半のバブル期の日本と酷似しているという。急速な経済成長から一転、長期の景気低迷に陥った日本と中国が同じ道をたどる可能性を、英経済紙が検証した。
バブル経済の崩壊は、日本人にとっては思い出したくもない悪夢だろう。だが、中国は隣国の負の記憶を教訓にしようとするかもしれない。
不動産バブルがはじけるとともに爆発する“時限爆弾”が、中国でも時を刻んでいるからだ。
バブル崩壊前の日本経済と、現在の中国経済には多くの類似性があると指摘されている。最新の研究によれば、中国に「日本化」の波が押し寄せる可能性もあるという。
かつての日本経済は米国のそれを追い抜くと見られていたが、90年代にその可能性は消えた。2003年になると、日本はもはや「すべて順調だ」とうぬぼれていられない状況に陥った。その後も、虚栄に満ちた80年代の不良債権の処理を誤り、「日本はすぐに立ち直る」という見通しも消えた。
2000〜03年にかけて、日本政府の支援のもとに大規模な銀行合併がおこなわれたが、連動する危機の数々が解決されるには至らなかった。
2003年3月、三井住友フィナンシャルグループは巨額の損失を出し、慌ただしく子会社を逆さ合併した。同年4月には、国内大手のりそな銀行が破綻の兆しを見せ、5月には、170億ドル(当時約2兆円)の税金を投入する救済措置がとられた。
同年末、追い打ちをかけるように大手地銀の足利銀行が破綻した。こうした出来事はすべて、先延ばしされた「爆発」だった。もっと早くにはじけていれば、被害はもっと少なくすんだかもしれない。
いまの中国と「バブル期の日本」の類似点
2023年2月、米金融大手シティグループのアナリストチームが中国に関する報告書を発表。同国の現状が、バブル崩壊前の日本ときわめて多くの点で類似していると指摘している。
当時の日本と同様に、中国では人口減少が始まっている。90年以降、日本で35〜54歳の年齢層が減少し、住宅価格指数が下落したことが想起されるという。
さらに日本も中国も、インフラ投資と輸入の促進によって、GDPが長期的に急成長した。日本は戦後から、中国は2001年にWTOに加盟してからだ。
世界銀行によれば、2010〜20年にかけて、中国のGDP成長率における資本形成の占める割合は43%と非常に高い水準にあった。一方、バブル崩壊時の日本の資本形成の割合もおよそ36%だった。
日中両国は、経済成長を促すための融資の仕方も似ている。日本のバブル経済は、政府に後押しされた商業銀行が景気のよい産業に長期低利で貸し付ける間接金融によって成長した。中国も同様に、間接金融に依存した金融システムを構築してきた。中国政府は、中央銀行である中国人民銀行のみならず、商業銀行の融資活動も操作できるのだ。
80年代に日本政府が内需を促進するため、金融緩和政策を導入すると、日本の不動産バブルは急速に拡大した。
借入金が飛躍的に増大し、株式と不動産が流動化した結果、企業はビジネスよりも、金融投機からのほうが高い収益を得られるようになった。
それから数十年を経て、中国も実体経済と金融システムを切り離した。シティグループによると、中国の不動産市場は2020年までに65兆ドル(約8900兆円)に達した。これは米国、EU、日本の市場の合計を超えており、明らかなバブルと言える。
2021年には、中国の銀行の総資産の41%を不動産関係の融資と貸し付けが占めた。日中どちらの場合も、不動産バブルを加速させたのは、正規の方法では銀行融資を受けられない人に融資をする「影の銀行」だ。この融資の市場は、国が課す融資制限をくぐり抜けるために生まれ、肥大していった。
投資家は「中国のリスク」に注意を払うべき
シティグループは、日中と米国の関係にまで類似点を見出している。バブル期に日本経済が成長すると、技術、知財、安全保障の問題を巡って日米貿易戦争が激化した。一方、近年の米国は中国を意識してか、国外からの先進技術へのアクセスを制限する法整備を講じる。
こうした類似点があるからといって、当時の日本と現在の中国が完全に同じだとは言えないかもしれない。だが、こうした状況から受ける影響には、共通するものがあるだろう。20年前、日本はまさにバブル崩壊のどん底を経験していた。
ゾンビ企業の負債が、金融機関のバランスシートを圧迫した。さらに、企業も家計も長期的なデレバレッジに突入し、低金利が続いた。
シティグループはこう結論づける――「日本化」は中国にも起こりうることであり、投資家は同国のリスクに注意を払うべきだ。

 

●雇調金特例、失業抑制に貢献 支出6兆円、財政悪化 新型コロナ 5/8
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は2020年から雇用調整助成金(雇調金)に特例措置を導入した。
企業の雇用維持に対する手厚い支援で、失業の抑制に一定程度貢献したが、約3年間で支出は6兆円規模に膨らみ、雇用保険財政の大幅な悪化を招いた。
雇調金は、企業が従業員に支払った休業手当の一部を助成する制度。1人1日当たりの上限額は現在8355円だが、特例では最大1万5000円に引き上げ、助成率も最大100%に拡充した。経過措置を経て、特例は今年3月末に終了した。
特例について、連合の芳野友子会長は「コロナ禍で雇用を守っていくのが大変な産業がたくさんあった。雇調金があったからこそ、雇用を維持できたところもある」と評価する。実際、コロナ流行下での完全失業率(季節調整値)は20年10月の3.1%が最高で、リーマン・ショック後の09年7月の5.5%と比べ低水準にとどまった。
一方、この間の雇調金支給決定額は累計6兆円規模に上り、雇用保険財政は悪化した。雇調金を含む雇用保険二事業で、貯金に当たる雇用安定資金の残高は19年度の約1.5兆円から20年度以降はゼロとなり、本来は失業手当などの原資となる積立金から累計3兆円以上を借り入れるなどして急場をしのいだ。
手厚い支援は労働力の移動を妨げ、人手不足に拍車を掛けた面もある。加藤勝信厚生労働相は特例に関し、「雇用と暮らしの安定に貢献したと考えているが、有効な人材活用が進まなかったとの指摘もある」と総括。「今後の政策の在り方について検討したい」と述べ、効果の検証などを進める方針を示した。 
●日本の政策立案者はいかにして深い穴に落ちたか 5/8
日銀による金融引き締めに賭ける投資家は、過去30年あまりの超低金利の中で、ほとんど勝利の経験をしたことがない。日銀の植田和男新総裁による最初の決定は、その例外ではないことを証明した。中央銀行の主要政策であるイールドカーブ・コントロール(10年物国債の利回りを0.5%に抑え、積極的な国債購入を行う)は、4月28日、据え置かれた。その代わりに、日銀の政策立案者は金融政策の見直しを発表した。この見直しは1年、場合によってはそれ以上続くと予想されている。
投機筋が再び火傷を負った指を治療する姿は、殺伐とした喜びに満ちている。しかし、この政策レビューは、一見すると官僚的な運動よりも有意義であることが判明するかもしれない。日本経済が1990年代にデフレに突入して以来、日銀が下した決断を評価する報告書である。
その出発点は、中央銀行が置かれている厳しい現実であろう。2016年に始まったイールドカーブ・コントロールは、日銀の膨大な資産購入が債券市場の機能に問題を引き起こし、追加的な刺激策がほとんど不可能であるという事実に対する譲歩であった。しかし、今、日銀が抱えている問題は大きく変わっている。日本のインフレ率は1980年代初頭以来の高水準にあるが、金利がわずかに上昇するだけでも、経済には大きな打撃を与えかねない。停滞した経済を刺激するために何十年も試行錯誤してきた日本の中央銀行は、どの方向にも大きく動くことができず、厄介な窮地に陥っている。
その理由を理解するためには、問題の根源に立ち返ることが必要だ。1980年代後半、日本は株価と不動産価格を中心とした巨大な資産バブルに見舞われた。世界で最も価値のある企業10社のうち6社が日本を本拠地とした。しかし、1989年の利上げでバブルは意図的に弾け、株価は直ちに下落し、地価は1990年代を通じて下落の一途をたどった。それ以来、日本は野村総合研究所のリチャード・クーが言うところの「バランスシート不況」に陥っている。企業や家計は投資や消費よりも借金の返済に集中し、経済成長を阻害している。
数十年にわたる倹約の結果、日本の住民は負債よりも金融資産をはるかに多く持っており、金利の上昇に対して非常に脆弱であるようには見えない。家計は株に貯蓄するのではなく、銀行預金を好んで保有し、その残高は1,100兆円(約8兆ドル)と、日本のGDPのほぼ200%に相当する。非金融機関はさらに561兆円を保有している。
世界では、家計は金利の上昇で圧迫されるのが普通だ。少なくとも短期的には、日本の家計は恩恵を受けることになるかもしれない。調査会社キャピタル・エコノミクスのマルセル・ティエリアントは、日本の金利が1ポイント上昇するごとに、家計の純金利収入は4.7兆円、つまり年間可処分所得の1.5%が増加すると指摘している。通貨高で輸入品が安くなることもあり、家計はむしろ金利上昇を喜ぶと思われる。
しかし、その痛みは他の場所にも及ぶだろう。最初に被害を受けるのは、民間企業の節約で負債が大きくなった政府機関である。昨年の予算では、国債の平均金利が0.8%でも、昨年の予算では歳出の約8%が利払いに充てられていた。
その影響は、かつてほどではないにせよ、何年もかけて滴り落ちてくる。日銀が日本の債券市場の半分以上を所有し、さらに長期の債券を所有していることが、金利上昇が財政に影響を与えるペースを速めている。日銀が債券を購入すると、基準金利を生む資産を作ることになる。金利が上昇すれば、日銀は直ちにこの資産を増やすことになる。政府はこの増加分を負担することになる。
金利上昇の痛みを直ちに感じるのは、経済の第二の部分である銀行システムである。金利が上がれば、中小の金融機関の資産に大きな含み損が発生する。コンサルタント会社の日本経済研究センターは、長期金利が1%ポイント上昇すると、地方銀行の経済価値(資産と負債の予想キャッシュフローに応じた価値)は、資本金の60%に相当するほど低下すると指摘している。
日本の最も脆弱な金融機関の一部を劇的に弱体化させることによって需要を潰すことは、理想的な方法ではないにせよ、最近のインフレを抑制する方法として、いずれは機能することになるだろう。しかし、長期的な需要不足の問題を解決することも、今や困難になっている。過去30年間に政府債務が大幅に増加したにもかかわらず、財政刺激策は、経済全体の崩壊を防ぐには十分だが、より強い成長に火をつけるには不十分であった。長年にわたり、より積極的な政府支出によって個人消費を増加させるという協調的な努力が、日本に対するケインズ派の明確な処方箋であった。しかし、国債の利回りが上昇したことが、事態を複雑にしている。
ベルリンの壁が崩壊したのと同じ時期に始まった危機から、日本がまだ立ち直っていないというのは少し奇妙に聞こえるが、日本経済は資産バブルの崩壊から協調して回復した経験がないのである。1990年の日本の一人当たりGDPは、アメリカの水準を約18%下回っていた。2021年には、同じ指標で、日本の一人当たりGDPはアメリカの39%以下となった。
このように、世界第3位の経済大国である日本が、政策担当者たちの手によって、厄介な状況に置かれ続けている。植田は、アカデミックな立場から日銀の門外漢であり、それを端的に伝えるチャンスである。レビューは、助けを求める叫びであるべきだ。問題を認めることは、解決への第一歩であり、その解決策が不快なものである場合はなおさらである。
●「のほほん」と上がっている日本株の先行きがかなり心配だ 5/8
アメリカの景気や企業収益が、筆者の予想どおり、着実に悪化している。同国の企業収益については、5月5日までに1〜3月期の決算発表がほぼ一巡した。同期におけるS&P500種指数採用企業の1株当たり利益は、IT大手企業の想定以上の奮闘によって、前年同期比2.0%の減益で着地するもようだ。これは、昨年10〜12月期の同3.7%減益からは傷が浅くなりそうだ。
4〜6月期の米企業収益予想は下方修正、消費も変調気味
ただし、7日時点でのアナリスト予想の集計値(ファクトセット調べ)では、続く4〜6月期は同4.4%減と減益率が拡大しそうだ。しかも、同期の予想値は足元で下方修正が続いている。
もし予想どおりとなれば、同国の企業収益は3四半期連続の減益となる。直近ではコロナ禍(2020年1〜3月期、4〜6月期、7〜9月期)以来のことで、企業収益の不振を示すものとなりそうだ。
同国の経済全体の規模をGDP(国内総生産)で測ると、その7割弱は個人消費だ。その動向がわかる小売売上高は3月(4月14日発表)が前月比で1.0%減少し、2月の同0.2%減に続いて2カ月連続の前月比マイナスと、明らかに変調気味だ。
消費を支えるのは雇用だが、先週発表されたいくつかの指標を見ても明らかに減速している。2日発表の雇用動態調査における求人件数は、2月の997.4万件から3月は959.0万件に減少し、市場の事前予想の977.5万件を大きく下回った。まだ求人数の水準自体は高いものの、企業が採用意欲を減退させていることがうかがえる。
また、4日に公表された新規失業保険申請件数(週次統計)も、直近(4月最終週)は24.2万件と、その前週の22.9万件から増加し、市場の事前予想の24.0万件をわずかながら上回っており、ごく最近の失業者の増加がうかがえる。
こう書いていくと、読者の方の中には、「馬渕さんはとんでもない誤りを語っている。5日発表の4月分の雇用統計では、非農業部門の雇用者数が前月比で25.3万人も増えた。これは市場の事前予想(18.0万人増)を7.3万人も上回ったではないか。だから『景気は堅調だ』との見解が市場に広がり、アメリカの主要な株価指数は週末に大きく持ち直したのだ」などと、憤る方がおられるかもしれない。
しかし、筆者はまったくそうは思わない。実は、その雇用者数の統計からこそ「雇用情勢は弱い」と判断すべきだ。
4月分の雇用統計の発表の一方で、すでに発表されていた3月分の雇用者数は前月比23.6万人増から同16.5万人増へと、7.1万人分も下方修正された。それだけで4月分の「事前予想より上回った分(7.3万人)」を、ほぼ完全に打ち消している。
それだけではない。さらにさかのぼって、2月分の前月比も32.6万人増から24.8万人増に、7.8万人分も下方修正された。つまり、4月分の雇用者数の水準は、想定よりもかなり弱かったといえる。
なぜ前週末のアメリカ株は上昇したのか
では、なぜ5日の金曜日にアメリカの主要な株価指数は前日比で上昇したのだろうか。
このところの同国の株式市場は、銀行の経営不安に振り回されている。経営危機が取り沙汰されていたファースト・リパブリック・バンクについては、5月1日にFDIC(連邦預金保険公社)が正式に同行の破綻を表明すると同時に、JPモルガン・チェースによる同行の買収が決定された。
「破綻したが、どう処理するかはこれから決めます」といったことではなく、水面下でFDICとJPモルガンが協議し、迅速に収拾策を打ち出したという点は評価できる。
ところが3日には、複数のメディアが中堅銀行であるパックウエスト・バンコープについて「身売りなどを検討している」と報じ、銀行全般の経営不安が再燃した(同行は経営不安を否定)。一連の銀行の経営不安については「リーマンショックの再来だ」などと騒ぐ向きもいるようだ。
しかし、当時は根強い「住宅神話」があった。「信用リスクが高い(返済できない可能性が高い)借り手に住宅ローンを貸し付けても、値上がりし続ける住宅を担保にとっていれば大丈夫」だとして、幅広い銀行が深入りした。
その結果、住宅価格の反落(担保価値の下落)で不良債権を抱えたという展開だった。また、そうした住宅ローンは証券化されて、幅広い投資家が保有し、損失を被った。今回は、金融界全体に厳しい事態が再来するような情勢にはない。
しかし、銀行危機がくすぶり続けている背景には、景気悪化で融資が伸びない状況の中で、昨年来の金利上昇(債券価格の下落)で銀行収益が傷んでいることが挙げられる。また、景気も冴えないことから、預金者が手元に現金が必要になって預金を引き出し気味だという要因もある。そのため、手放しで銀行の収益環境を楽観することも妥当ではない。
こうした根強い不安から、銀行の株価下落に歯止めがかかりにくい情勢が続き、投資家の警戒心が緩みにくかった。この「心理悪」が銀行以外の業種も含めて、アメリカの株価全般を抑制する方向で働いていた。
そこへ4日、大手通信社のロイターが、銀行株が売り込まれていることについて「連邦政府・州政府の関係者が『銀行株に関する市場操作の可能性について一段と注意を払っている』と語った」と報じた。
同日には、こうした報道の背景として、アメリカの銀行協会が、SEC(証券取引委員会)に書簡で「財務が良好にもかかわらず、大規模な空売りを受けている銀行がある」、あるいは「銀行株の空売りが市場を歪める」などと訴えていたことが明らかになった。
「SECへの警戒感」で銀行株が買い戻された?
確かに、銀行経営に対する漠然とした不安が強い中で、市場では、それに乗じて空売りで儲けようとする投機筋が増えて、それが銀行の株価を不当に押し下げてしまうという現象が起きていたのだろう。
もし、株価下落に歯止めがかからなければどうなるか。「市場はつねに正しいのだから、これだけ銀行の株価が下がるということは、何かその銀行について経営が危ういという確かな情報があるに違いない」と預金者が誤った判断を行いかねない。その結果、預金の取り付け騒ぎが広がって、実際に銀行を破綻させてしまうという事態も起こりかねない。そうした状況の中で、前述のような報道がなされたと推察される。
この4日の報道が、「SECが何らかの空売りの規制を行うのではないか」との憶測を翌5日に広げ、そのため、とくに銀行株について空売り筋が買い戻しを行ったようだ。これで銀行株が反発、市場全体にはいったん楽観的なムードが広がったことで、先週末のアメリカの株価指数が上昇した。筆者はそう判断している。
ただ、当局が空売り規制を実際に行うかどうかについては、疑念を抱く向きも多いようだ。たいがい、投機売りを規制すれば、かえって「そんな規制を行わなければいけないほど、事態が悪いのだ」という観測が膨らんで、逆効果になることもあるからだ。
仮にこれから、実際に当局による空売り規制が打ち出されたとしても、それによる株価上昇効果は、目先の買い戻しが終わってしまえば消えてなくなる。あとに残るのは、着実に悪化している景気と企業収益に沿った、アメリカ株の下落基調だろう。
今一度、世界のさまざま市場を広く眺めると、世界的な景気悪化に沿った動きを示しているものが多い。
例えばアメリカの10年国債利回りは、先週の1日の引けあたりでは3.59%に強含んでいた。だが、4日には3.30%近辺に低下した。週末はやや戻し、3.45%前後と金利上昇はしているものの、頭が重い。長期債券市場では、景気動向に対する疑念が色濃いと解釈する。
また為替市場では、4月28日に日本銀行の金融政策決定会合の結果発表があったが、そこで金融政策の変更がなかったことを「ネタ」に、そこから円安の動きが進んだ。先週の5月2日には、ドル円相場は一時1ドル=137円70銭超え、ユーロ円相場は1ユーロ=151円60銭超えと、大きく振れた。
こうした円安で日本の輸出関連株については楽観論が広がったが、ユーロ円はいったん天井をつけた形になったし、ドル円は完全に「行って来い状態」だ。やはり、アメリカの景気に対する疑念がドルを下に押し戻したといえる。
また、国際商品市況においても、例えば原油の国際指標であるWTI先物価格は、一時は1バレル=63.50ドル手前までと、70ドルを大きく割れた。前週末現在では71ドル台を何とか回復しているものの、世界的に景気が悪化し、エネルギー需要が減退するという展望を反映していると考える。
日本市場だけ「のほほん」としていないか
世界の諸市場が経済環境などの悪化を正しくとらえている中、日本の株式市況だけは「のほほん」としているように見える。いまだに「ウォーレン・バフェット氏が日本株を買うから大丈夫だ」などと安心しているのだろうか。
こうした中、具体的な記事名は述べないが、ある報道で気になるものがあった。今、大きな問題になっている銀行の「AT1債」(銀行が発行する劣後債の一種。クレディ・スイスのAT1債が無価値になったことで話題になった)についてだ。
要約すると、以下のようになる。「日本以外の投資家はAT1債が高リスクだと正しく評価しており、もはや手を出さない。だが、日本の投資家は別だ。日本株への『のほほんさ』に表れているように、リスクに対して鈍感だから、海外金融機関などがAT1債をパッケージにして日本でさばいている」ということだ。
「日本勢が世界中のババをつかんだ」という結末にならなければよいのだが、筆者は心配している。
●5日の米国市場ダイジェスト:米国株式市場は反発、4月雇用統計を好感 5/8
NY株式:米国株式市場は反発、4月雇用統計を好感
ダウ平均は546.64ドル高の33,674.38ドル、ナスダックは269.02ポイント高の12,235.41で取引を終了した。
健全性が警戒され前日に大きく売られた地銀の株価が大幅反発したことで警戒感が緩和、さらに携帯端末アップル(AAPL)の好決算も好感され、寄り付き後、上昇。4月雇用統計が総じて予想を上回ると経済のソフトランディング期待から買戻しが強まり、相場全体を一段と押し上げた。また、セントルイス連銀のブラード総裁が銀行のストレスを巡り「制御可能」との見解を示し、金融不安がさらに緩和したことも買い材料となり、終盤にかけて、上げ幅を拡大した。セクター別では自動車・自動車部品やテクノロジー・ハード機器の上昇が目立った。
携帯端末のアップル(AAPL)は「iPhone(アイフォーン)」の強い売り上げが奏功し決算内容が予想を上回ったほか、新興国市場の強さや供給の回復に言及したため一段の業績改善期待から大幅高。中古車販売プラットフォーム運営のカーバナ(CVNA)は第1四半期決算で損失が予想ほどには拡大せず、さらに、第2四半期の調整後収益の改善見通しが好感されて上昇。地銀パックウェスト(PACW)は売られ過ぎとの見方から買戻しが強まり、上昇。同業のウェスタン・アライアンス・バンコープ(WAL)、ザイオンズ・バンコーポレーション(ZION)、コメリカ(CMA)はアナリストの投資判断引き上げで買われた。
電気自動車メーカーのテスラ(TSLA)は中国での上級モデルの値上げを発表、収益回復期待から上昇。半導体のエヌビディア(NVDA)はソフトウェア会社のマイクロソフト(MSFT)が人工知能を巡る競合アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)との協業報道を否定したため、買われた。配車サービスを供給するリフト(LYFT)は競合ウーバー(UBER)との競争激化などが影響し、見通しが予想を下回り下落。
セントルイス連銀のブラード総裁はインフレに進展があまり見られず、連邦準備制度理事会(FRB)が結果的に追加利上げを強いられるとの考えを示した。
NY為替:良好な米雇用統計を受けて金利先高観強まる
5日のニューヨーク外為市場でドル・円は、134円16銭から135円12銭まで上昇し、134円81銭で引けた。米労働省が発表した4月雇用統計で失業率が予想外に54年ぶり低水準に低下、非農業部門雇用者数の伸びも予想外に拡大する強い結果を受けて、追加利上げ観測やソフトランディング期待にドル買いが加速。昨日下げた地銀株の反発で、金融不安が緩和したためリスク選好の円売りが優勢となった。
ユーロ・ドルは、1.0967ドルまで下落後、1.1037ドルまで上昇し1.1019ドルで、引けた。強い米雇用統計を受けたドル買いが強まったのち、欧州中央銀行(ECB)の追加利上げ観測を受けたユーロ買いが優勢となった。ユーロ・円は147円77銭から148円71銭まで上昇。金融不安後退でリスク選好の円売りが強まった。ポンド・ドルは、1.2561ドルまで下落後、1.2652ドルまで上昇した。70年ぶり英国王戴冠式の経済的効果を期待したポンド買いが強まった。ドル・スイスは、0.8973フランへ上昇後、0.8904フランまで反落した。
NY原油:上昇、良好な米雇用統計や株高を好感した買いが入る
NYMEX原油6月限終値:71.34 ↑2.78
5日のNY原油先物6月限は上昇。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は、前営業日比+2.78ドルの71.33ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは68.48ドル-71.72ドル。良好な4月米雇用統計を受けて株高となり、6月以降も利上げを継続する可能性は残されていることから、原油先物は強い動きを見せた。
●潮目が変わるネット広告業界  5/8
今年2月に電通が「2022年 日本の広告費」を公開した。総広告費は7兆1021億円と過去最高額を記録。7兆円を突破したのは2007年以来15年ぶりである。
これだけ長期間過去最高額を更新しなかったケースは珍しい。総広告費が伸び悩んだ理由は、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2020年のコロナ拡大と、広告業界にとって逆風の出来事が相次いだからだろう。それらを乗り越えての市場規模回復だ。広告業界の方々にとってポジティブな話題だと想像する。
さて主題は総広告費ではなくネット広告費。2022年は前年比14.3%増の3兆912億円と3兆円台に乗った。総広告費の市場規模は15年ぶりに過去最高となったが、この間ネット広告費の市場規模は一度も前年割れすることなく一貫して拡大を続けてきた。
2019年にはテレビメディア広告費を逆転し2021年にはついにテレビ、ラジオ、新聞、雑誌の4媒体広告費をも抜き去った。なるほどネット広告の勢いは全く衰えていないようだ。別角度からもう少し掘り下げてみよう。
個人消費額全体に占めるネット広告費の比率を算出してみた。分かりやすくいえば個人消費に対し、ネット広告費がどれくらい投入されたかというマクロレベルでの計算である。
2022年の個人消費額を分母、ネット広告費を分子とし計算すると1.08%となった。つまり10万円の個人消費に対し、1080円のネット広告費が投入された計算になる。この値が高いのか低いのかを理解するために、同様の計算を米国のデータでも行い時系列で日米を比較してみた。
結果はグラフの通り。両国とも年々、比率が上昇しており、かつ米国の方が日本よりも値が高い。両国とも個人消費においてネット広告の重要性が日に日に増している証左だろう。
米国の広告費に関するデータは複数あり、出所によって結果に多少の差異が出るのだが、いずれのデータでもこの傾向は変わらない。なお電通のリリース「2022年 日本の広告費 インターネット広告媒体費詳細分析」によると、2023年もさらに国内のネット広告費は拡大するとしている。
企業心理は後ろ向き
他方、CARTACOMMUNICATIONS(カルタコミュニケーションズ)による「2022年下期インターネット広告市場動向」では、2022年下期のネット広告費は横ばいか減少とアンケートで回答した率が過半数に達している。
同調査では、広告千回表示ごとの費用を意味するCPM(Cost Per Mille)が記載されているが、2022年は前年比9.48%増となっている。まさに費用対効果が問われている状況と見る。CPMの上昇がネット広告の投下マインドを押し下げていると推測される。
話を整理すると市場規模が拡大する一方、個々の企業レベルではネガティブな傾向が見られるということだ。この事象はネット広告を新たに行った企業数の増加が、広告単価上昇につながった結果と想像する。
サードパーティクッキー規制などネット広告には気になる要素もある。今まさに潮目が変わろうとしている状況かもしれない。
ネット広告の手法などのテクニカルな変化もさることながら、思い切ってビジネスモデルの改革が必要かもしれないと個人的には予見している。
●円相場 2円以上値上がり FRBが利上げの打ち止め示唆で  5/8
連休明けの8日の東京外国為替市場、アメリカの中央銀行にあたるFRBが利上げの打ち止めを示唆したという受け止めなどからドル売り円買いが進み、円相場は2円以上値上がりしています。
先週開かれたFRBの会合の結果を受けて、外国為替市場では一時、1ドル=134円台まで円高ドル安が進みました。
市場関係者は「FRBの会合を受けて、日米の金利差の縮小が意識され、円高が進んでいる」と話しています。
また、連休明けの東京株式市場では、円高の進行を受けて、輸出関連の銘柄などに売り注文が出て、日経平均株価は今月2日と比べて、小幅に値下がりしています。 
●銀行危機と預金保護 5/8
3月10日(金)にカリフォルニアのシリコンバレーバンク(SVB)が破綻した。連邦預金保険公社(FDIC)が管理下に置き、預金を全額保護する、とした。その2日後にはニューヨークのシグネチャーバンクが破綻した。これをきっかけに、アメリカの地方銀行のいくつかから大きな預金流出が起きた。
銀行不安は、欧州にも飛び火して、3月19日に、スイスの2大銀行のうちのひとつクレディ・スイスが、スイスの銀行当局の仲介で、ライバルのUBSに買収されることとなった。
SVBの破綻は、根本的には教科書的な破綻だが、破綻を急速なものにした特殊要因もある。
教科書的というのは、金利の急上昇によって保有する長期国債の市場価値が下落して危機に陥ったという点である。長期国債の未実現評価損を計上すると、大幅に資本が棄損する。ただし、市場価値の下がった長期国債を満期まで保有すれば、満額の償還を受けるわけなので、満期までの保有を宣言して未実現評価損を計上しない、ということができる。
しかし、満期保有による価値回復がうまくいくためには、条件がある。
急激かつ大規模な預金引き出しが起きると、支払いのために、未実現評価損が出ている国債を売却せざるをえなくなる。そうすると、未実現評価損が実現損となり、(満期まで保有することによる)取り戻しが不可能になる。まさに、これがSVBで起きて、そのことをSVBが公表したことで、その後預金流出が急加速した。
また、ひとつの銀行に取り付け騒ぎが起きて経営破綻が起きると、次に危ない銀行がどこだと預金者が不安になり、次から次へと預金引き出しと銀行破綻が続くことになる。いわゆるドミノ倒しの銀行危機である。
銀行取り付け騒ぎが起きないようにする、そしてドミノ倒しのような危機の伝播が起きないようにするのが、銀行監督と預金保険制度の役割だが、今回のSVB危機では失敗して、結局預金を全額保護することになった。ドミノ倒しを防ぐための最後の手段と言える。
SVBのケースで特異なのは、SVBの預金のうち90%が、預金保護の対象外の大口預金だったことで、それが急速な引き出しにつながった。大口預金者が、銀行が破綻すると預金の一部が返還されなくなる(ヘアカット)のではないか、という心配になり破綻前に引き出した。預金保険制度による預金引き出し抑止が機能しなかった、ということになる。
FDICがSVBを管理下に置いたあと、預金保険限度額を超えて預金全額保護すると発表した。全額保護には、賛否両論ありうる。
賛成の立場の人は2つの理由を挙げるだろう。第一に、SVBは直面しているのは、流動性の危機であり、債務超過ではない、という見方である。税金を投入するまでもなく、預金は全額保護できるという論理である。第二に、ドミノ倒し銀行破綻を防ぐには、最初に破綻した銀行で全額保護を打ち出すことが正しい選択だ。
一方、全額保護には反対論もありうる。第一に、そもそも預金保険による保護に上限があるのは、預金保険は少額預金者だけを保護すればよいという、消費者保護的考え方である。大口預金者は資産家で金融リテラシーもあるので自己責任だと考える。
第二に、流動性の危機を危惧する銀行は預金を集めようとして、多少高い金利の預金商品を提供する。預金ではあるが、破綻リスクを考えるとハイリスク・ハイリターンの商品である。これを承知で預金する大口の預金者は実は投機者であり、このような行動を保護する必要ない。全額保護を実施すると、モラルハザードを引き起こすというものだ。
このような銀行危機の余波は日本には来ていない。
主な理由は、日本のインフレ率が欧米に比べて低いので、金利上昇が微々たるもので、長期国債の評価損が発生していないからである。しかし、日本の賃金上昇が大幅となり、インフレ率が継続的に目標の2%を超えるようであれば、10年継続した異次元緩和の金融政策も転換されるかもしれない。
●FRB利上げ、それでも米国経済を襲う「3つの危機」 5/8
金融危機再燃の不安が高まるなか、FRB(米連邦準備制度理事会)は2023年5月2、3日に開催したFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利を0.25%引き上げた。
銀行破綻の連鎖を防ぐことより、歴史的なインフレ退治を優先させたかたちだ。しかし、「追加利上げ停止の示唆」と受けとめられる声明を出したため、一気に「年内に利下げが行われる」との観測が株式市場で織り込まれた。
揺れ動くFRBの判断。米国経済はどうなるのか? エコノミストの分析を読み解くと――。
「債務上限」で浮上した新たな危機、米政府のデフォルト
FRBが政策金利を0.25%引き上げた一方で、5月5日に発表された4月米雇用統計は米雇用関係の強さを改めて示す内容となった。
失業率は1969年以来という3.4%にまで低下。これはほぼ「完全雇用」状態に匹敵する。賃金インフレを読むうえで重要な平均時給も、前月比プラス0.5%、前年比プラス4.5%と、賃金上昇圧力のしぶとさを印象付けた。
こうした賃金上昇は、物価上昇に直結する。そのため、「インフレ退治」を最優先するFRBとしては、利上げを進めて経済活動を停滞させ、物価と賃金上昇を抑え込まなくてはならないが、さらなる金融引き締めは、リスク管理に問題のある銀行をあぶり出す危険性をはらんでいる。
今回のFRBの追加利上げ決定と米国雇用統計の結果について、エコノミストはどう見ているのだろうか。
ヤフーニュースコメント欄では、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミスト渡辺浩志氏が、
「インフレ退治の金融引き締めが金融不安を招くなか、FRBは金融の安定と物価の抑制の両立を迫られています。とはいえ、利上げ開始から1年あまりが経過してもなお力強い雇用と低い失業率が続いており、インフレの粘着が強く警戒されるところ。今般の金融不安が金融危機に発展しない限り、FRBはインフレ退治を優先し、引き締め的な金融政策を継続する公算です」と指摘。そのうえで、「もっとも、政策金利(5.1%)は米国経済が耐え得る水準(名目潜在成長率、4%)を超えており、オーバーキルも警戒されます。今般の金融不安も銀行の貸出態度の厳格化や信用収縮を通じて景気の谷を深くする恐れがあります。インフレと景気後退が同時に進むスタグフレーションに陥る恐れも。その場合、FRBは容易には金融緩和に転じられず、金利の下げ渋りと業績悪化で株式市場には逆風が吹きます。早期利下げによる株高(金融相場)のシナリオは修正が必要でしょう」と、早期の利下げを期待する金融市場の甘さを批判した。
同欄では、上智大学総合グローバル学部学部長の前嶋和弘教授(現代アメリカ政治外交)が、もう1つの危機に警鐘を鳴らした。米政治を揺るがしている「債務上限問題」だ。
「3.4%という低失業率は1969年ぶりという記録的な数字。コロナによるサプライチェーンの崩壊が直るとともに失業率も改善してきました。ただ、本格的な景気後退期に入ってくるという見方も根強く、不安感から先日の中堅銀行の相次ぐ破綻も実際の影響よりも大きく報じられる傾向にあります。また、何といっても今年のアメリカ政治の最大の争点である債務上限引き上げをめぐる駆け引きの展開次第では、世界経済を巻き込むような大きな事態も懸念されます」
「債務上限」とは、米連邦政府が国債などで借金できる債務残高の枠のこと。債務が上限に到達すると、議会の承認を得て、上限を引き上げなければ新たな国債を発行できずに債務不履行(デフォルト)に陥る。すると、金融市場に大混乱が起こる可能性がある。
しかし、議会ではバイデン政権と野党共和党との対立が続いており、主張の隔たりが大きい。財務省が資金繰りに行き詰まる「Xデー」が6月1日に迫っている。
5月9日にバイデン大統領は共和党幹部と話し合いを持つが、共和党内には民主党との妥協に断固反対する保守強硬派「フリーダム・コーカス」(約30人)がおり、先行きは不透明だ。
金融市場の甘い期待「年内利下げ」がない理由とは?
このように混沌とした情勢もあって、「FRBは6月FOMC以降、政策金利を年内いっぱいは据え置く」と予想するのは、三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。
市川氏はリポート「2023年5月FOMCレビュー 〜今後の政策判断について示されたこと」(5月8日付)のなかで、現在、金融市場が織り込んでいるFRBの金融政策に関する予想一覧表を紹介した【図表】。
   (図表)FRBの金融政策に関する市場予想
これを見ると、6月と7月のFOMCで政策金利は5.00%〜5.25%のまま据え置かれる。そして、9月FOMCで0.25%、12月FOMCで0.50%、それぞれ利下げされ、年末には4.25%〜4.50%になる見通しだ【再び図表】。
これは、今回のFOMC声明から、「追加利上げが適切になるかもしれない」という文言が削除されたため、利上げが打ち止めになる可能性を示唆したと受け止められたためだ。
しかし、市川氏は、「これは利上げ停止の趣旨ではなく、会見のパウエル発言を踏まえると、利上げはデータ次第の趣旨とみる」として、こう指摘する。
「(パウエル議長は)『FOMCごとに入手されるデータで政策判断を行う』と述べました。つまり、今後発表される経済指標の内容次第で、追加利上げも、利上げ停止もあり得る、という見解を示したと推測されます」
「また、パウエル議長は、信用条件の引き締まりによる利上げ効果について、『正確に見積もることは全く不可能』とした一方、『信用条件や貸出に何が起きているのかは確認でき、それについては多くのデータがある』とし、『それを意思決定に反映させる』と発言しました。そして、利下げに関し、インフレ率の低下は『ある程度の時間がかかる』ため、そのような状況で『利下げは適切ではない』と述べました」
以上の理由で、今後のFRBの政策判断は経済データ次第とみられ、6月のFOMCでは追加利上げの可能性も残るが、基本的には年内いっぱいの据え置きを予想するとしている。
パウエル議長自身が、銀行不安の火に油を注いでいる
一方、市場が期待する利下げの可能性は、銀行不安がさらに拡大し、マイナス成長にまで景気後退した場合しかないだろうと警鐘を鳴らすのは、大和総研ニューヨークリサーチセンター主任研究員の矢作大祐氏だ。
矢作氏はリポート「FOMC 今回の利上げをもって一旦打ち止め 更なる利上げはデータ次第。早期の利下げ転換はハードルが高いか」(5月8日付)のなかで、こう述べる。
「市場の期待が高い2023年内の利下げの可能性に関しては、景気やインフレ見合いとなる。パウエル議長は、インフレが想定以上に迅速に減速していかない限り、可能性は低いと考えているようだ。利下げ可能性を高めるとすれば、銀行不安の更なる広がりに伴うマイナス成長といった、景気の想定以上の下振れだろう。ただし、利下げが可能になるとはいえ、市場も銀行不安のさらなる広がりは本望ではないだろう」
また、矢作氏は「FOMC自体が銀行不安のさらなる広がりのきっかけとなり得ることに注意を要する」と指摘する。いったい、どういうことか。
「記者会見でパウエル議長が、前述のとおりインフレ減速なき利下げに対して慎重な姿勢を示したことで、銀行セクターの直面するストレスが継続するとの市場の認識が強まり、中堅銀行の株価が落ち込んだ」
「こうした株価の下落が進めば、預金者は銀行の経営に対して不安を抱き、預金の引き出しを進め得る。預金の引き出しが進めば、銀行の手元流動性不足に対する市場の疑念は強まり、株安がさらに進むことも考えられ得る。こうした不安心理のスパイラルに陥ることが最終的には、さらなる銀行の経営破綻へとつながるだろう」
そして、矢作氏はこう結ぶのだった。
「インフレの高止まりリスクがある中で、FOMCとしても拙速な利下げの示唆は難しい。しかし、銀行不安の行く末はこうした市場と預金者の不安心理次第でもあることから、事態の沈静化を図るうえでもFOMCは慎重なコミュニケーションが不可欠となっている」
米国の金融危機は始まったばかり、かなり長期化する?
その「米国の銀行不安」はまだ始まったばかりだと警告するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「米地銀の次の破綻・買収候補を探す金融市場:経営リスクの指標は預金流出から株価下落に」(5月8日付)のなかで、5月1日に米地銀ファースト・リパブリックバンクが破綻した後、次の破綻や買収候補として3つの銀行が挙がっていると指摘した。
それは、カリフォルニア州のパックウエスト・バンコープ、アリゾナ州のウエスタン・アライアンス、テネシー州のファースト・ホライゾンの3行だ。
いずれも経営営不安が強まり、株価が下落した。さらに地方銀行株全体の下落に歯止めがかからないなか、共通するリスクが浮き彫りになっているという。
「各行が低金利環境下で過剰な預金獲得も含めてビジネスを急拡大させたものの十分な金利リスクの管理を怠り、そうした中、金利急騰でそのリスクが一気に表面化したことである。それは、債券投資や固定金利での住宅ローンなどの貸出で生じた巨額な含み損の問題だ。大量の預金流出が生じると、こうした含み損を抱えた証券、貸出債権を売却せざるを得なくなり、損失が拡大して自己資本不足に陥る」
「他方、預金流出が生じなくても、投資家が銀行の破綻や身売りを意識すると、含み損分だけ株式の価値が切り下げられることを警戒し、株価が大きく下落することになる」
つまり、経営不安を示す指標が、預金流出から株価下落に移ってきているわけだ。そして、木内氏はこう結んでいる。
「注目したいのは、現時点での銀行の資産の劣化は金利急騰によってもたらされたものであり、デフォルト(債務不履行)など信用リスクを反映したものではないということだ」
「この先、金利引き上げや銀行の貸出抑制によって米国経済の悪化が明確になれば、貸出資産の焦げ付き、不良債権問題が銀行経営の追加的な逆風となるだろう。このような点から、米国での銀行不安問題はかなり長期化することが予想されるところだ。銀行不安はまだ始まったばかりと言えるのではないか」
●円相場 2円以上値上がり FRBが利上げの打ち止め示唆で  5/8
連休明けの8日の東京外国為替市場、アメリカの中央銀行にあたるFRBが利上げの打ち止めを示唆したという受け止めから、ドルを売って円を買う動きが強まり、円相場は2円以上値上がりしました。
外国為替市場では、先週開かれたFRBの会合の結果、利上げの打ち止めが示唆されたという受け止めから、円高ドル安が進みました。
8日午後5時時点の円相場は、連休前と比べて2円57銭円高ドル安の1ドル=135円2銭〜4銭でした。
ユーロに対しては、連休前と比べて1円96銭円高ユーロ安の1ユーロ=149円19銭〜23銭でした。
ユーロはドルに対して、1ユーロ=1.1049〜50ドルでした。
市場関係者は「投資家の間では、FRBの利上げの打ち止めが意識されているが、先週発表されたアメリカの先月の雇用統計の伸びが市場の予想を上回ったことで、ドルを買い戻す動きも出て、東京市場では、狭い範囲での取り引きになった」と話しています。
●米FRB、前回と同じく政策金利0.25引き上げ、年内の金利引き下げは否定 5/8
米国連邦準備制度理事会(FRB)は5月2〜3日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.25ポイント引き上げ、5.0〜5.25%にすることを決定した(添付資料図参照)。米国では3月10日にシリコンバレー銀行(SVB、2023年3月13日記事参照)、3月12日にシグネチャー銀行(2023年3月14日記事参照)、5月1日にファースト・リパブリック銀行(FRC)(2023年5月2日記事参照)が経営破綻するなど、銀行セクターの信用不安が続いているものの、市場の事前予想どおり、前回(2023年3月23日記事参照)と同じ引き上げ幅となった。なお、決定は参加者11人による全会一致だった。
声明文外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、主な変更・追加点として、4月27日に発表された第1四半期(1〜3月)のGDP成長率速報値(2023年4月28日記事参照)を踏まえ、「第1四半期の経済活動は緩やかなペースで拡大した」との評価が明記された。また、前回の声明文に盛り込まれた「(インフレ率を長期的に2%に戻すために)いくらか追加の政策決定が適切になるかもしれない」とした表現を削除し、「どの程度の追加の金融政策引き締めが適切かを判断する際、FOMCはこれまでの引き締めの累積と、それが経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する」として、引き締めが前提だったこれまでの表現を軟化させた。
ジェローム・パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見の冒頭、前回と同様に銀行セクターの信用不安に触れ、3月初旬以降の状況は改善していると述べた上で、銀行システムは健全で強靭(きょうじん)だと強調した。また、政策金利は前回会合での経済見通しで示した2023年末時点の金利水準(5.1%)に達したが、今後の利上げ停止の決定は今回行っておらず、現状では2023年内の利下げは適切ではないとの考えを示した。また、今後景気後退入りの可能性はあるが、後退回避の可能性の方が高いと述べた。
一方で、債務上限問題については(2023年5月2日記事参照)、議会で対応すべき問題としつつ、上限が引き上げられなかった場合、米国経済を守れる可能性は低いと述べた。なお、資産規模全米1位のJPモルガン・チェースがFRCを買収したことに関して、大手銀行は買収を行わないことが望ましく、今回は例外措置とした。現在、資産規模全米53位のパックウェスト・バンコープが身売りを検討と報道されており(ブルームバーグ5月4日)、同銀も戦略的選択肢を検討していると公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますするなど、銀行セクターの信用不安は今もくすぶっている。また、FRBは2022年6月から米国債などの保有資産を圧縮する量的引き締めを進めているが(2022年5月6日記事参照)、財務省は2023年5月3日に国債を買い戻す措置を2024年度から始めると発表した。金融市場にはすでに負荷がかかっており、債務上限問題の行方によっては、パウエル議長も懸念する深刻な景気後退の引き金になりかねない。与野党間で速やかに決着をつけられるか、注目される。

 

●米FRB、「適切な政策」決定へ 融資条件厳格化踏まえ―財務長官 5/9
イエレン米財務長官は8日、CNBCテレビのインタビューで、連邦準備制度理事会(FRB)は銀行による融資条件の厳格化を踏まえつつ、「適切な政策」を決定するとの見方を示した。FRBは先週の金融政策会合で0.25%の追加利上げを決める一方、次回会合では政策金利の引き上げを停止する可能性を示唆している。
FRBがこの日発表した4月時点の銀行融資担当者調査では、46%が過去3カ月で融資基準を厳格化したと回答。前回1月時点から小幅な上昇となった。イエレン氏は「金融引き締めが効いている」とした上で、「FRBは融資条件の厳格化が景気を鈍化させると認識している」と語った。
●8日の米国市場 米国株式市場はまちまち、債務不履行リスクが重し 5/9
NY株式:米国株式市場はまちまち、債務不履行リスクが重し
ダウ平均は55.69ドル安の33,618.69ドル、ナスダックは21.50ポイント高の12,256.92で取引を終了した。
地銀セクターの回復で金融不安が緩和したため、寄り付き後、上昇。その後、連邦政府の債務不履行リスクを警戒した売りに押され下落に転じた。さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)銀行融資担当者調査で融資基準が一段と厳格化されたことやビジネス融資需要の弱さが証明されると、売り圧力がさらに強まり下落幅を拡大。一方、今週予定されている消費者物価指数(CPI)などの重要インフレ指標発表を控え下値も限定的となり、終盤にかけて下げ幅を縮小した。ナスダック総合指数はプラス圏を回復し、まちまちで終了。セクター別ではメディア・娯楽や保険が上昇した一方で、不動産、医薬品バイオテクが下落した。
地銀のパックウエスト(PACW)は金融混乱を受けて四半期減配を発表したものの、資本増強に向けた理に適う措置との見方が広がると同時に、ビジネスは堅調であることを強調したことが好感され、上昇。同業のウエスタン・アライアンス・バンコープ(WAL)やザイオンズ・バンコーポレーション(ZION)も株価が著しく過小評価されているとしアナリストの投資判断引上げを受けた買いが継続した。著名投資家バフェット氏が運営する保険のバークシャー・ハサウエイ(BRK)は保険業の回復がけん引し第1四半期決算で営業利益12.6%増を発表し上昇。テーマパーク運営会社のシックス・フラッグス・エンターテインメント(SIX)は四半期決算で値上げが奏功し1株損失が予想程には拡大しなかったほか、入園者数が予想を上回ったことで上昇。一方、肉食品メーカーのタイソンフーズ(TSN)は四半期決算で予想外に損失を計上、さらに通期の売り上げ見通しを引き下げ、大幅安となった。
イエレン財務長官は、もし、債務不履行に陥った場合、金融市場は混乱に陥ると警告した。
NY為替:米長期金利上昇を意識してドル買い強まる
8日のニューヨーク外為市場でドル・円は、135円22銭から134円66銭まで下落し、135円09銭で引けた。イエレン米財務長官が週末のインタビューにおいて、「もし、米国が債務不履行となった場合、金融市場は災難に見舞われる」と警告したため警戒感からリスク回避の円買いが優勢となった。同時に、債務不履行リスクに米国債相場が売られ金利上昇に伴うドル買いが下支えとなった。連邦準備制度理事会(FRB)銀行融資担当者調査結果で引き続き貸付基準の厳格化が明らかになったがドル買いが続いた。
ユーロ・ドルは、1.1044ドルから1.1000ドルまで下落し、1.1003ドルで引けた。ドイツの製造業や鉱工業生産の指標が冴えず域内の景気後退懸念が再燃しユーロ売りが優勢となった。ユーロ・円は149円20銭から148円46銭まで下落。ポンド・ドルは、1.2655ドルから1.2613ドルまで下落した。ドル・スイスは0.8903フランから0.8880フランまで反落。
NY原油:上昇で73.16ドル、米国経済の大幅な悪化に対する警戒感は低下
NY原油先物6月限は上昇(NYMEX原油6月限終値:73.16 ↑1.82)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は、前営業日比+1.82ドルの73.16ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは71.04ドル-73.69ドル。米国経済の大幅な悪化に対する警戒感は低下し、米国市場の前半にかけて73.69ドルまで買われた。ただ、ドル高や米長期金利の上昇を意識した売りも観測されており、通常取引終了後の原油先物は上げ渋った。
●クレディ・スイスまでなぜ?SNS時代における取り付け騒ぎの舞台裏 5/9
シリコンバレーバンク破綻の原因は?
シリコンバレーバンクが10日に破綻した。破綻が伝わり、ダウ平均は345.22ドル安、日経平均は479円安となった。
シリコンバレーバンクは(SVBFG傘下)は、スタートアップ企業やスタートアップ企業に出資するベンチャーキャピタル向けの融資を行う銀行だ。スタートアップ企業とは、起業してまもない起業やITに関連する技術革新、成長が高い企業等を指す。また、ベンチャーキャピタルとは、そのスタートアップ企業の株を買い(出資)、その株式価値が上がったり、またはその株式が上場したりしたときに売却して大きな利益を上げる企業をいう。
シリコンバレーバンクが破綻したのは、以下の理由があると考えられる。
1預金を債券で運用したためその価格が下落、SNSで情報が拡散し預金引出し始まる
28日に資本増強のために株式を発行して資金調達すると発表、債券を売却し18億ドル(約2,376億円)の損失を計上
39日シリコンバレーの持株会社SVBFGの株が前日比60%安になる
49日の時間外でさらに20%まで下がる。行動が早いスタートアップ企業がさらに預金引き出し
債券価格の下落は、下記のようにこのところ続いているFRBの利上げにより、運用で保有していた債券価格が下落したためである。
債券は満期まで保有すれば、その発行企業が倒産しない限り元本が戻ってくるものであるが、途中での売却または時価評価は変動する。その価格は、金利によって変動する。通常の債券は100で発行され、満期に100で返ってくるが、途中で95になったり、105になったりと変動する。例えば、A債券が金利3%であった場合に、市場に出回る債券の金利が5%であればそのA債券は魅力が低く、債券価格が下がる。逆に市中の金利が1%になればそのA債券の魅力は高まり債券価格が高くなり、100%を超えることもある。
既に発行されている債券価格と市場金利はシーソーのような関係にあり、市場金利が上がれば保有している市場金利より低い金利の債券は価格が下がってしまい、途中で売却または、時価評価すれば評価損が大きくなる。
このところのFRBの利上げにより保有債券価格が下がるということは、シリコンバレーバンクに限らないが、預金者がスタートアップであったこと、SNSで情報が拡散されたことから、預金が大量に引き出されてしまい、破綻に陥ってしまった。
このときと同時にシルバーゲート・キャピタルの傘下銀行のシグネチャー・バンクが、暗号資産の交換業大手FTXトレーディングの破綻で預金が急減したために有価証券を売却して対応したが、その売却時に売却損が発生し資本が毀損し、自主清算に追い込まれた。
このことから、3月9日(木曜日)は前日比終値から一時607ドル安まで、10日(金曜日)は一時471円まで下げ、週明けはまた一層下がる可能性もあった。
しかしながら、週明け株式市場が開く前の12日(日曜日)にシリコンバレーバンク、シグネチャー・バンクに預けられている預金がもともとの保護対象外の預金についても全額保護されることが発表され、その後の株式市場は落ち着きを取り戻した。
シリコンバレーバンクは市中金利が上がったことにより保有債券の価値が下がった。そもそも債券は満期まで保有すればその発行会社が倒産しない限り元本が返ってくるものである。このことから、シリコンバレーバンクの保有する債券を担保にFRBが預金者の預金引出しに対応する資金を貸し出す。債券が満期で元本が返ってくればFRBの資金も返ってくるため、米国の納税者の税金は使わなくても大丈夫だ。このように、今回の破綻は納税者の税金を使わなくても預金を保護することができた。
クレディ・スイスまでが破綻危機に
クレディ・スイスは、スイスを拠点とする世界的投資銀行で、ゴールドマン・サックスやバンク・オブ・アメリカのような世界9大投資銀行に入る。
クレディ・スイスが破綻したのは、以下の理由があると考えられる。
12021年に米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントで44億スイスフラン(約6,000億円)の損失計上
22022年2月内部告発により犯罪や汚職などの不正資金を数十年に渡って預かっていたことが発覚、その他不祥事多発
3最大40億スイスフラン(約6,000億円)の増資、証券化事業の売却をして再建目指す
4クレディ・スイスが過去の財務報告に弱点があることを発表し、さらに筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクが追加出資しないと述べたことのよりクレディ・スイスの株価が過去最安値に
5シリコンバレーバンク、シグネチャー・バンクが3月9日に破綻した金融不安から、クレディ・スイスの株価急落、さらに預金が1日1兆円以上引出される
3月19日(日曜日)に政府主導によりスイスの第1位の銀行UBSが株式交換によりクレディ・スイスを買収することが公表され、週明け20日の株式市場で混乱することはなかった。
ただし、急な買収であり、株式は交換で無価値にはならないのに、社債(AT1)は無価値としてしまうこと(破綻時は通常株式より社債等が優先して弁済される)等、株主、債権者が訴訟を起こす可能性がある。
新たな火種『シャドーバンク』
シリコンバレーバンクとクレディ・スイスに共通しているのは、以下の通りだ。
・SNSにより経営不安しされ、預金流出、株価下落し破綻
・国際的銀行規制の自己資本比率(CET1)は最低ライン7%を両者とも大幅に超えていた
 シリコンバレーバンク15.3%、クレディ・スイス2022年14.1%
・政府主導により救われた
今回は、シリコンバレーバンクは預金保護、クレディ・スイスは買収により破綻を免れたが、必ず救済されるとは限らない。また、両銀行とも不祥事や損失などの問題はあったものの、資本は破綻するほどではなかったが、SNSなどの影響で株価下落、預金引出しと破綻への追い打ちをかえられてしまったところが怖い。
今後もこのような銀行破綻があってもおかしくない。
さらに、シャドーバンクについての懸念もある。リーマンショック後銀行は大きな危機が起きても耐えられるような厳しい規制が設けられている。一方、その規制対象外となるのが、機関投資家が直接企業に貸し出す「シャドーバンク(影の銀行)」だ。
最近の低金利下で高利回りの運用ができるシャドーバンクへの運用が増えている。利回りは高いがその貸出先の信用力は低く、金利が上昇して借入コストが高まれば破綻してしまう貸出先が出てくるかもしれない。その規模は過去4年間で2倍の1.1兆ドル(約120兆円)で危機が高まっており、もし破綻しても上記のような銀行のようには救えないため、破綻すれば大きな危機に発展する可能性がある。 
●利上げの効果 アメリカとヨーロッパで表れ始める スタグフレーションに懸念  5/9
5月9日の「おはよう寺ちゃん」(文化放送)では、火曜コメンテーターで上武大学教授の田中秀臣氏と番組パーソナリティーの寺島尚正アナウンサーが、アメリカとヨーロッパでの利上げの効果について意見を交わした。
注目すべきは都市部と地方の格差!
ECB=ヨーロッパ中央銀行の理事会メンバーであるオランダ中央銀行の総裁は、「ECBの利上げの効果が出始めているものの、インフレ抑制に向けてさらなる利上げが必要になる」という見解をしめした。
ECB=ヨーロッパ中央銀行は、5月4日の理事会で政策金利0.25%引き上げを決定。
「アメリカに続いて、ヨーロッパでも利上げの効果が出始めているということですが、これは田中さん、どうご覧になりますか?」(寺島アナ)
「“利上げの効果”をどう考えるかですよね。あんまり利上げの効果が出過ぎると、景気後退につながることもありますし。さらにヨーロッパもアメリカもそうですが金融機関への重しになってきます。ご存じのようにアメリカの場合はいくつかの中央銀行が破綻して、それによって金融不安的な状況が生まれました。それにヨーロッパの金融システムを懸念するような見方もありますから、欧米共にお金の量が安全資産に流れ込んでいるところも見ていかないといけないと思います」(田中氏)
アメリカの中央銀行にあたるFRBは今月の会合で、0.25%の利上げを決める一方で、利上げを一旦停止する可能性を示唆した。
そんななか、景気停滞とインフレが同時に起こる“スタグフレーション”がじわじわと広がりつつあると言われている。
「このスタグフレーション=景気停滞とインフレが同時に起こる現象、田中さんはどうご覧になりますか?」(寺島アナ)
「このスタグフレーションっていうのは、経済全体を見た話ですよね? いま注目しなければならないのは、アメリカの都市部と地方の格差ですよ。地方銀行の破綻というのは、地方の企業に金融機関がお金を貸している状況が難しくなっていって、地方経済に落ち込みにつながります。一方で都市部の方は、コロナ禍明けで消費も強くなっています。それが全体的な物価と経済停滞の共存につながるかどうかは、それだけ地方経済を中心にアメリカの今後を見ないといけないと思います」(田中氏)

 

●米FRB、信用状況悪化で利上げの必要性が低減=NY連銀総裁 5/10
米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は9日、最近の銀行部門のストレスに伴う信用状況の悪化を受け、連邦準備理事会(FRB)は経済のバランスを取り戻すためにそれほど高い水準まで金利を引き上げる必要がない可能性があると述べた。
ウィリアムズ総裁は、信用力の低下で経済が減速すれば、FRBが利上げを行う必要性は低減すると述べた。
●米FRB、必要なら再び利上げ実施=NY連銀総裁 5/10
米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は9日、連邦準備理事会(FRB)にとって再び利上げが必要になる場合には行動を起こすと述べた。
ニューヨーク経済クラブが開催したイベントで「利上げが終わったとは言っていない」と指摘。「追加的な政策引き締めが適切であれば、そうする」としたほか、FRBが年内に利下げを決定する可能性は極めて低いとした。
●見通せぬ米国の未来。分断が加速する大国を覆う「モヤモヤ感」の正体 5/10
中国の台頭はあるものの、未だ国際社会に大きな影響力を誇るアメリカ。しかしそんな大国は現在、進むべき方向を見出だせず苦境に立たされているとの見方もあるようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、より一層の分断が進むアメリカを包んでいる多数の「モヤモヤ感」を列挙し、それぞれについて詳しく解説。その上で、同国が活力を取り戻すために何が必要となるかを考察しています。
モヤモヤ感が支配。分断進むアメリカの定まらぬ方向性
アメリカの社会というものは、ある時は大きく右に振れ、次はその反動で左に振れというような「左右の振り子」の振幅を繰り返すことで、時代を先へと刻んできました。近年でも、レーガン・ブッシュ(父)の保守の後には、クリントン時代が、そしてブッシュ(子)の戦争と経済破綻の後にはオバマ、その反動としてはトランプという具合です。
そう考えると、一体、現在そのアメリカの振り子はどこへ向かおうとしているのか、これは難しい問いだと思います。とにかく、方向性が定まらないのです。勿論、トランプが、いやオバマへのアンチが湧いてきた茶会の時代からそうですが、アメリカでは「分断」が進んでおり、その結果として健全な左右の振り子が機能しなくなっているということはあるかもしれません。
ですが、それでも中道無党派層というのは大きな塊としてあります。熱狂的な現状否定のトランプ派というのは、それほど巨大でもないという説もあります。そんな中で、社会には解決すべき問題は山のようにあり、それを考えると方向性というのは出てきそうですが、どうにもその「大きな流れ」というのが見えないのです。
非常に一般化してみると、一期目の大統領の3年目には、そんな感じがあるのかもしれません。例えば、ジョージ・W・ブッシュの場合は2001年の911テロに対して、アフガン戦争を仕掛け、更に2003年にはイラク戦争を仕掛けましたが、戦況が有利だったのは序盤だけで、すぐに泥沼化しました。ですから、2004年の選挙は非常な接戦になったわけですが、その前後の状況には一種の停滞感があったのを記憶しています。
「大人の理屈」を理解できなかった若者と保守
オバマの場合もそうで、2008年の選挙では大勝したのですが、2010年の中間選挙に負けるとやはり社会の方向性は見えなくなりました。今から考えると、リーマン・ショックからの景気回復について、オバマは可能なことは全てやり、着実に成果は出ていました。特に2009年の最悪期を脱した後は、多くの経済指標はプラスに転じていましたし、特に株価は堅調でした。
ですが、まずアンチとしての茶会が選挙では猛威を振るい、その一方で、党内左派の源流とも言える「占拠デモ」の動きがありました。人権の星、リベラルの希望と思われていたオバマに対して、当時は「どうして左派の若者が反抗するのか」というのは疑問に思われていました。特にオバマは、リーマン・ショック後の金融危機にあたって、TARPという名前で、400ビリオン(4兆ドル=520兆円)規模の巨額な救済資金を投入しました。
若者たちは、「自分たちが苦しんでいるのに、どうしてそんな大金をウォール街救済に投入するんだ」と激しく抗議したのです。ですが、実際はこのTARPは、「株式の購入」であり、結果的に救済された後に政府はその金融機関の株を売って、全額を取り返したどころか4%弱の利益まで計上しているのです。
ですが、そうした「大人の理屈」を若者たちは理解しませんでした。また茶会支持の保守州の世論も理解しませんでした。何故ならば、こうした危機克服の対策で、金融システムは維持され、株も堅調だったにもかかわらず、多くの企業は、不況克服のために、まず「自動化などで雇用をカット」し、更に「主として中国などに生産を移転することで空洞化」を進めていきました。
ブッシュ・オバマ両時代の停滞の背景にあるもの
オバマは、骨の髄まで自由経済の信者ですから、そこに合理性がある限り、不況脱却を優先し、あえてリストラも、空洞化も止めなかったのでした。ですから、猛烈な反発を左右から買っていたのですが、オバマも、そして多くの「大人や都市の世論」はそこに危機感は持っていなかったのです。そんな中で、漠然とした「方向性の喪失」のようなことが起きていました。
今から考えてみると、ブッシュ時代の「停滞」の背景には、「どうして巨額なカネと米兵の生命を、意味不明な中東や中央アジアのために犠牲にする必要があるのか」という今に続く「孤立主義からの厭戦論」が相当なマグマとして溜まっていたのです。
また、オバマの時代の停滞には「経済合理性の名の下に、多国籍企業とエリートだけが利益を得るのはおかしい」というマグマが溜まって行ったわけです。これは、現在のトランプ的な孤立主義と、AOCやサンダース流の左派に連なるエネルギーとなっていたのでした。
そう考えてみると、現在のアメリカが直面している停滞感の奥には、何らかの予兆というものがありそうにも思われます。では、それは何なのでしょうか?
色々と考えてみたのですが、1つには絞れそうにありません。今回は、現在のアメリカを包んでいる「モヤモヤ」の正体について、とりあえず列挙して考えてみようと思います。
80歳のバイデン、78歳のトランプの居座りに貯まる不満
1番目は「世代」です。次回の大統領選に出馬を宣言したバイデンは既に80歳。対抗意識を燃やしているとされるトランプは78歳と、とにかく高齢者が居座っているという風潮には、若い世代(ミレニアルからZまで)には相当に不満が溜まっているようです。
先週、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)が報じたところでは、全有権者の70%、そして民主党支持者の中でも51%が、バイデンの再選出馬に反対しており、その理由は「高齢」だとしています。この種の世論調査は、昨年から色々なメディアや団体が実施していますが、コンスタントに同じような結果が出ています。これは深刻です。
これに対して民主党の側では、バイデン陣営としては「万が一の代替はハリス」と決めているようで、例えばバイデンの立候補表明動画には、ハリスがサブリミナル映像のように何度も登場しており、まるで他の選択は受け付けないかのようです。ですが、ハリスは移民問題の担当として与野党から「ダメ」を出されていますし、表面は人権派で本音は市場経済論者(現実的でいいセットだと思うのですが)という信念の部分が単純な左派からは憎まれてもいます。
とにかく、民主党内は、バイデンの健康問題などが露呈して、改めて党内で一から候補を決め直すというプロセスが必要で、そうしないと党の勢いも今ひとつとなりそうなのですが、その気配はありません。
そんなわけで、高齢批判というトレンドがある中では、共和党の場合、ロン・デサンティス・フロリダ州知事が44歳と、この問題では非常に有利な位置につけています。ですが、2月に自伝を出し、4月には訪日して出馬の機運を見極めているようではあるのですが、未だに動きがありません。これは、予備選において序盤に走ってしまうと失速するというジンクスを気にしているのと、やはりトランプの各種裁判の行方を睨んでいるのだと思われます。
そのジンクスということでは、87年に民主党で勢いのあったゲーリー・ハート議員が失速した例、同じく2004氏の民主党のハワード・ディーンが先行しながら「絶叫動画(内容は全く悪くないのですが)」だけで失速した例が典型です。また、共和党の場合も、2016年に本命と思われたジェブ・ブッシュがトランプの攻勢の前に崩れ去った例など、とにかくデサンティスは慎重になっているようです。
そんな中で、現時点では若い有権者の間には「自分たちの代表がいない」という不満が蓄積しているようです。
左右対決で対策進まず全ての事態が深刻化
アメリカの「モヤモヤ感」の中には、環境問題というのはかなりを占めているように思われます。特にこの春は、異常気象が非常に極端になっており、冬の豪雪が溶けて大河ミシシッピの流域で広域的な洪水被害が起きているとか、豪雨や竜巻の被害も増えています。雨のない季節、西海岸では毎年のように山火事被害が拡大しています。その背景には、明らかに温暖化の問題があるわけです。
ですが、「そもそも異常気象の被害が激しい、中西部や西海岸の山岳地帯」というのは、アメリカ保守の牙城です。彼らは「大自然の猛威と戦うのが開拓者の使命であり、そのために神に選ばれた人間は技術を手にしているし、神は最大の恩恵として大地から石油の恵みを与えた」と信じています。そして「こんなに激しい自然の猛威は絶対に人為ではない」というのです。つまり、被害の激しい地域に限って「温暖化理論を信じない」ということになり、全国的な議論が発展しないのです。
同じことは銃規制の問題にも通じています。現在のアメリカは、毎週のように銃の乱射が起きており、先週末にはテキサス州のダラス近郊のショッピング・モールで銃撃があり、8名が死亡するという惨事となりました。犠牲者の中には、少なくとも2名の幼児、3名の韓国系アメリカ人が含まれているようです。乱射犯は射殺されていますが、精神疾患で陸軍を除隊になっていた人物のようです。
こうした事件が起こると、民主党と都市部の世論は「精神疾患を患っている人間がどうして強力な銃を購入できるのか」と激しく抗議しますが、テキサスなど中西部の風土の中では「病気の人間には強盗に襲われたら死ねというのか」という論理で、全くテコでも動きません。そんな中で、保守の側は「リベラルな政権が成立して、上下両院を取られたら銃が買えなくなり家族が守れない」という不安を抱く一方で、都市とリベラルは「銃が野放しで何の対策もできない」と不安を募らせるということになっています。
同じように、移民問題も左右対立の中で抜本的な対策ができないまま、事態だけが深刻化しています。
従来では考えられなかった停滞感に覆われるIT業界
経済に目を向けますと、この30年、アメリカ経済を大きく牽引してきたコンピュータ技術の発展が、ここへ来て踊り場に差し掛かっているようです。特に、フェイスブック(メタ)の経営の低迷、ツイッターの買収による迷走、ティクトックの問題など、従来では考えられなかった停滞感が業界を覆っています。
そんな中で、もしかすると、テックの世界を新たなレベルに引き上げるかもしれないと期待のかかる「メタバース」に関しては、メタにはこれ以上の大規模投資を行う余力はないようで、次の実用化ステップに進むかどうかについては、アップル社の決断に懸かっているようです。アップルがどう判断するのか、そしてゴーとなった場合に果たして成功できるのか、この業界にも不透明感は強くなっています。
経済ということでは、インフレが深刻な問題となっていました。ですが、ここへ来てやや鎮静化の傾向が見られます。例えば、鳥インフルの猛威のために、日本より先行して価格高騰していた「鶏卵」の場合は、一時期は1ダース12個入りが「6ドル(780円)」まで行っていました。ですが、最近ではディスカウントストアで「2ドル10セント(290円)」、牧場が経営している牛乳店では「1ドル94セント」と、ほぼインフレ前の水準まで戻りました。野菜や肉類も、一時の狂乱物価ではありません。
ただ、その他のジャンルに関しては、高止まりという感じになっていて、輸送費が重くのしかかっているジャンルの場合は、原油高が終わらないと無理でしょうし、外食やサービスなどの人件費は、恐らくもう戻らない可能性があります。
そんな中で、パウエル総裁率いる連銀(FRB)は、今回も0.25%の利上げをしたわけですが、この先はどうするのか、やはり不透明感が強くなっています。一部銀行の信用不安、そして不動産ローンの金利高騰による不動産価格の下落も始まる中、今後の米国経済については、一定の警戒感をもって見てゆく必要があると思います。
アメリカが活力を取り戻すために必要なこと
アメリカの若者の労働市場についても、現時点ではまだ需給が拮抗していますが、仮に景気が大きく減速すると、雇用が更に冷え込むことが予想されます。そうすると、現在ニューヨークの場合は労使間で成立している「週にテレワーク3日、出勤2日」という条件が、より出勤を促すようになるかもしれず、そうなると子育て世代などの不満が政治に向かうかもしれません。
景気と金融ということでは、現在、連邦議会では債務上限の問題が大きな課題になっています。共和党は下手をすると、このまま米国債を「債務不履行」に追い込むと脅して、バイデン政権に歳出カットを迫る構えです。一方で、バイデン政権の方は「合衆国憲法修正14条」前半の解釈改憲をして「憲法上は債務があっても構わない」という理解で突破しようとしています。
これは困ったことで、仮にそんな解釈改憲が通ってしまうと、下手をすると米国債の大きな下落を招き、日本は植田日銀総裁が何もしないうちから、一時的な円高に追い詰められる危険があるようにも思われます。この問題に関しては、そうした乱暴な話になる前に、民主党がある程度の譲歩をして、一部ではあっても多少の財政規律を見せ、共和党も多少の債務上限引き上げに合意してくれて、結果的にドルが安定するのが良いと思いますが、まだまだ予断を許さない状況です。
いずれにしても、政府の債務、物価、景気、雇用、更には銃規制に温暖化、移民問題など多くの課題において、国の方向性が不透明になっています。その背景には左右対立があるのですが、これに加えてリーダーと現役世代の「年齢・世代の乖離」という問題もある中で、不透明感が更に濃くなっているのだと思われます。そんな中で、軍事外交にはなかなか目が向かない、依然としてアメリカは内向き志向だとも言えます。
いずれにしても、共和党、そして恐らくは(たぶん)民主党でも、2024年を目指した大統領予備選がスタートします。その論戦を通じて、こうした課題に関する議論が深まり、最終的に選挙戦が活性化すること、それがアメリカが活力を取り戻すためには必要です。
●史上2番目に大きい米国銀行破綻から考える資産形成とは 5/10
2008年リーマン・ショック以降、銀行では米国最大の破綻
2023年5月、カリフォルニア州に拠点を置く銀行であるファースト・リパブリック・バンクが経営破綻しました。3月にはスタートアップやテクノロジー企業への融資で広く知られ、シリコンバレーのエコシステムの中核を担ってきたシリコンバレーバンクも経営破綻、米連邦預金保険公社の管理下に入りました。5月のファースト・リパブリック・バンクの経営破綻は、3月のシリコンバレーバンクを超えて、史上2番目の規模。このように連続したアメリカ金融機関破綻のニュースは、世界中に激震を走らせました。
シリコンバレーバンクの例を見てみましょう。この銀行は土地柄もあってスタートアップへの融資が多いため、シリコンバレーバンクの預金は他の金融機関と比べて個人預金が少なく、法人顧客で構成されていました。起業したら当然のように口座を持つ銀行として、シリコンバレーでも人気の銀行です。ただ2023年3月、シリコンバレーバンクは巨額損失を出しての債券売却と増資を発表しました。すると一気に不安が広がり、そこに有名な投資家からの声も拍車をかけて、ファンドから資金調達を受けているスタートアップが一斉にシリコンバレーバンクから預金を引き出しはじめました。
スタートアップでは定期預金ではなく普通預金でいつでも引き出せるように対策している企業も多いため、預金が一気に引き出されてしまい、シリコンバレーバンクは預金残高が急激になくなり、数日で破綻まで追い込まれたのでした。それは発表からたった3日間の出来事でした。
デジタル時代の預金の取り付けとは
それではお金のトレーニング。
このような金融機関の破綻の原因となった、信用不安によって金融機関でおきる取り付け騒ぎ。現在では、SNSやインターネットを通じた金融サービスが普及したデジタル時代の預金の取り付けという意味で、なんと呼ばれるでしょうか?
答えは「デジタル・バンク・ラン」。以前は窓口に殺到する「バンク・ラン」でしたが、金融サービスのデジタル化によってそのスピードが一気に加速しているのです。
次にファースト・リパブリック・バンクについてです。1985年に創業しており、サンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨーク、ボストンなどに84店舗を展開している地方銀行です。3月10日のシリコンバレーバンク破綻、3月12日にはニューヨークに拠点を置き資産規模が14兆円もあったシグネチャーバンクの破綻。その連鎖破綻で金融不安が増していき、ファースト・リパブリック・バンクはアメリカ当局によって保護されない預金の割合がおよそ70%と大きかったことなどから、顧客が預金を引き出す動きが強まり、株価が急落して経営懸念が高まりました。金融不安が起きる前と比べると株価が20分の1まで下がり、救済としてJPモルガンが買収することになったのです。
現金を銀行に預けている人がほとんどだと思いますが、それだけだと資産が現金に集中していて非常にリスクの高い状態と言えます。
資産を最も守れることを表した投資の格言とは
それではお金のトレーニング。
資産を分散することがリスク分散になり、資産を最も守れることを表した投資の格言があります。それはなんでしょう?
答えは、卵をひとつのカゴにもるな、です。複数の卵をひとつのカゴに入れておくとそのカゴが壊れた時にすべての卵が割れてしまいますが、複数のカゴに分けて入れておけば被害を最低限にできるという考え方です。分散投資は基本中の基本と言えるでしょう。
現金だけ持っていることは現金への集中投資状態である、ということ。さらに現金を預かる銀行も破綻することはあります。デジタル・バンク・ランにより、金融の変化のスピードも早くなって予測・対策が難しくなってきています。
だからどんな事態にも対処できるように、分散投資で備えることが必要なのです。資産を現金・株・不動産・債権・金などの種類に分散したり、例えば株も国内株や海外株など、地域で分散させることでよりリスク分散できることになります。
投資は分散投資が基本ですが、そもそも投資するにも元手が必要です。ですので、20代のうちは仕事で稼ぐことに比重をおいても良いと思います。私もそうでした。
若いうちに給与を上げやすい方法
最後に若いうちに給与を上げやすい方法をいくつか紹介しようと思います。
まず大前提として「成果」を出すこと、出し続けることです。それがないと給与はどうやっても上がりません。
その前提のうえで給与を上げやすい方法として、ひとつはポジショニングがあります。人や需要の集まるところに身を置くことです。人のほとんどいない砂漠の村に身を置くのではなく、大都会に身を置く方が給与が高いのは人と需要が多く集まるからです。企業で言うと、成長産業に身を置くこと。今はまだ小さくてもこれから成長する領域にはチャンスが溢れています。これはニュースになっている注目領域だったり、政府の発表をよく見ておくことです。
さらに成長産業の中でもNo.1の企業に身を置くこと(入社試験は頑張りましょう)。人はランキング5位や6位ではなく、ランキング1位のものを買いたくなるものなので、そこに需要が集まり続けます。だから出来ることならそこにポジショニングするのです。世の中みんなが成長産業だと気付いてからは入社試験のハードルがぐんぐん上がりますので、先にその情報に気づけた人はそれだけで先行者メリットがあります。
またチャンスの量を増やすことも成果の可能性=給与アップの可能性を高めます。それには、社流を読み、発信を怠らず、上司と徹底的に仲良くなっておくことです。感情的に上司と対立してうまくいくのはドラマの世界だけで、残念ながら、現実はチャンスが回ってきにくくなります。でも成果の可能性を上げるには、上司からいい仕事をいくつももらっていくことが重要です。
サッカーで言うと、自分のチームの戦略(攻めるパスサッカーなのか、1-0で守り抜くサッカーなのか)を理解し、自分は何が得意かを監督に発信し、試合中もスペースが空いてたらパスをくれと発信。その下準備として常に監督やチームメイトと仲良くなっておくことです。そうするとスタメン出場のチャンスが増えたり、パスをもらえるチャンスも増えて、ゴールを決められるチャンスが増えるというわけです。
ただ最後は仕事もサッカーも自分の技術次第なので、努力して日々技術を磨き、仕事を頑張るしかありません。でも技術がせっかく高まっても、試合にでないと話は始まらないし、そこでいいポジションだったりパスが来ないとゴールは決められない、つまり給与も上がらないわけなので、そこを忘れずに頑張っていれば、同じ努力でも同僚よりもきっと稼げるようになっていくことでしょう。
そうして効率的に稼げるようになっていきながら、徐々に資産を分散させて、投資の世界へと足を踏み入れていく。このステップが資産を形成するうえで、最も確率が高い手法だと思っています。
●「SVB破綻の影響」と「次の成長領域」は 投資家が明かす“2023年” 5/10
資金調達のハードルが上がっている――。
STARTUP DB MAGAZINEの取材に応じた経営者らの多くが口を揃える。
発端はアメリカを中心とする世界の中央銀行の利上げだ。その副作用として、2023年3月10日には現地のスタートアップを支え続けてきたシリコンバレー銀行(SVB)が破綻。動揺が広がった。
こうした環境を投資家はどう見ているか。日本に現存するVC(ベンチャーキャピタル)のうち最も長い歴史を持つジャフコ グループの坂祐太郎・パートナーは、環境の変化を実感しつつも「悲観的に捉えているわけではない。地力が試されている」と指摘する。経済価値を測る指標の変化に伴ってこれまでにないビジネスの種が生まれるなど、明るい予兆もあると話す。スタートアップを取り巻く環境の今と、求められる視点について聞いた。
シリコンバレーバンク(SVB) 破綻の原因と影響は
資金調達環境に変調が起きたきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大だ。景気対策として実施された大規模な金融緩和の恩恵を受け、スタートアップにも潤沢な投資マネーが流れ込んだ。だがアフターコロナに突入し、インフレ退治などを名目に引き締めが始まると状況は一変。アメリカでは上場テック株が大きく株価を下げ、日本にも波及した。
「アメリカのテック株のマルチプルが下がったことで、日本のマーケットも引きずられました」と坂さん。マルチプルとは、企業価値を算出するために売上高などにかける倍率を指す。
「例えばSaaS(クラウド上で提供されるソフトウェアサービス)のマルチプルは、PSR(売上高倍率)でいえば10倍から15倍だったのが、今は5倍前後です。すると、上場企業を目安にしている未上場のスタートアップの評価額(バリュエーション)にも調整が入ります」
上場に近いスタートアップが資金調達をしようとする場合、評価額算定の基準の一つとして、上場済みの類似企業の株価が参照される。そのマルチプルが下がっているため、未上場企業の評価額もつられて低めになる。
利上げの副作用が日本でも大きく報じられたのは3月。アメリカ・シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻に陥った。現地のスタートアップの多くが口座を持ち、融資を受けるなどしていただけに衝撃が広がった。
破綻の構造はこうだ。利上げの影響で、SVBに口座を構えるスタートアップの資金調達が困難になり、預金を切り崩す動きが加速。そこに経営戦略の失策も重なった。SVBは集めた預金を国債などの債権として運用していたが、金利が上がれば価格は下がる。足元の資金確保のために含み損を抱えた債権を売却することになり、経営の不安定性が露呈された。これを受け、SNSを中心に不安を煽る言説が拡大。ネットを起点とした「バンクラン(取り付け騒ぎ)」となり、預金の大部分が流出してしまった。
SVBについては、アメリカの金融当局が預金の全額を保護する方針を打ち出したことで、騒動はひと段落したとされる。坂さんも日本では「顕在化している影響は今のところ出ていない」と見る。一方で「アメリカのスタートアップにとって中枢的な機能を担っていた金融機関。現地の資金調達環境が影響を受ければ日本にも連鎖しかねない」と注視している。
アメリカの銀行破綻はその後、シグネチャーバンク、ファースト・リパブリック・バンクの2行にも波及している。
投資先とは「予実管理」徹底 成長投資の機会狙う
アメリカの景況感が改善する見通しは立てづらい。その影響を一定程度受ける日本のスタートアップにとっても楽観視できない市況は続きそうだ。活況だった21年までと比較して、国内の調達環境を「冬の時代」とする向きもある。
これに対し坂さんは「きちんと業績を出せば投資家も確実に評価してくれる環境です」と指摘する。
「全部の銘柄が評価されていないのかと言えば、そうではありません。売上や利益を伸ばしている企業は引き続き相応の評価を受けています。(今の環境は)続きますが、悲観的に捉えるわけではなく、本質的なファンダメンタル(業績や財務状況)を積み上げることが大事。地力が試されていると思っています」
環境の変化に適応するために、坂さんは投資先のスタートアップとの間で「生産性」をめぐる会話を増やしているという。
「ゲームが変わったんだ、という話はしています。(これまでは)投資して売上を伸ばすのが最優先ということもありました。もちろん売上は伸ばさなければいけませんが、同時に生産性も見なくてはなりません。売上高成長に見合った投資ができているかちゃんと検証しよう、と経営者とはよく話しています」
投資先と実践しているのが、予算上の数字と実績を比較して事業の進捗を評価する「予実管理シート」の作成だ。
「いかにリアルタイムに経営指標を把握するかが重要です。全員が同じ数字を見て議論を始めることにも意味があります。今のコストはいくらで、キャッシュはどれだけ残っているのかなど、最初は必ずそこから始めています」
地道な取り組みは効果を発揮しつつある。次の資金調達を実現するために達成すべき業績など、数字をベースにした議論が進む。「かなり喧々諤々と話しています。この1年間で、自分の投資先はかなり精緻になってきました」と坂さんは感じている。
とはいえ、一般的にスタートアップは加速度的な成長を志向するもの。時には赤字を厭わない先行投資も求められる。坂さんは限られた成長資金の配分が重要だと話す。
「コストを絞ったスタートアップも多いと思いますが、逆張りの発想で言えば投資のチャンスでもあります。他の会社が投資しない局面はチャレンジするのに良いタイミングです。ファイナンスが少し厳しい環境下で、いかに本質的な投資をしていくのか。議論のフェーズはそこに移っていると思います」
課題そのもの≠ェ変わる時代 「極めて面白い」
資金調達環境が冷え込むなかでも、前向きな予兆はある。坂さんは、ビジネスの価値を測る「新しいモノサシ」が生まれ、新たな成長領域になっていくと見ている。
「経済価値の新しい指標が出てきました。例えば投資先のゼロボードは二酸化炭素の排出量を可視化するSaaSです。数年前までは二酸化炭素の量を計測することに価値を見出す人は少なかったと思いますが、今は変わりました。次は何か。サプライチェーンにおける人権や生物多様性の観点を計測する価値指標が出るのではないでしょうか」
かつてはCSR(企業の社会的責任)活動の一環と捉えられることもあった脱炭素も、今や多くの企業が経営課題と位置付ける。これと同じように、強制労働や搾取、児童労働などを排除する人権保障も無視できない存在になっていくという。
実際、企業が対応に追われるケースも出てきている。
例えば、安全保障の世界で名前が知られるオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は2020年に発表した報告書で、日本を含むグローバル企業80社以上の社名を挙げ、サプライチェーン上でウイグル族ら中国の少数民族が強制労働などに従事させられていたと告発している。これを受け、国際人権団体が企業に対するアンケート調査を実施し、その結果を記者会見で公表するなどした。
日本でも、国際社会の潮流に適応しようとする動きがある。政府は2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表。サプライチェーン上の人権侵害などの特定や予防、それに対処などを含めた「人権デューデリジェンス」を促進する姿勢を示した。
加えて、内閣官房は4月3日に示した方針で、公共事業などの政府調達の入札に参加する企業に対して、人権尊重の取り組みを求める方針を打ち出した。
「サプライチェーンの正常化は、何も二酸化炭素に限ったことではありません。働く人の人権が守られているのかなども問われてくる。大企業を中心に(対応の)準備を始めているのをひしひしと感じています。(人権保障は)今はコンサルティングが中心だと思いますが、国際社会を中心に基準が固まってくると、プロダクトやスタートアップの出番になってくるのではないでしょうか」
「何の課題を解決するか、がビジネスならば、課題そのものが目まぐるしく変わっている」と坂さん。これまでは「より早く、より安く」などが付加価値と捉えられてきたが、別の評価軸が生まれているとみる。課題を解決する方法もまた、高性能AIの普及などで変わっていく。「極めて面白い時代に入っていると思います」。
こうしたビジネスの種を育てる起業家や投資家、それに政策の支援などは厚みを増している。坂さんはこの10年でスタートアップは「強固な文化になってきた」と指摘する。
「転職先としても選択肢に入ってきたし、創業融資の仕組みも整うなど起業のコストも下がってきています。政府は支援策を打ち出し、オープンイノベーションに取り組む大企業も増えました。大企業も、起業家も、VCも、政府も、目線は(以前と)全然違います。『冬の時代』と言われるようになって全員が退場したかといえば、そんなことはありません」
資金調達をめぐる環境は冷え込んだ。しかし高い評価を受けるスタートアップは引き続き出現し、これまでになかったビジネスの種も生まれてくる。環境の変化と向き合いつつも、悲観的には捉えない。スタートアップを取り巻く環境は、一概に冬の時代とも言い切れない。「成熟期と言えるのではないでしょうか」と締めくくった。
●新紙幣発行で「預金封鎖が起こるのでは」というウワサが蔓延…「タンス預金」 5/10
2024年。世界では1月の台湾総統選に始まり、3月はロシアとウクライナ、11月にはアメリカで大統領選挙が予定されている重要な年です。そんな中、日本では20年ぶりに新紙幣が発行されます。世界情勢が混沌とする中で行われる新紙幣への切り替えに、「預金封鎖が起こるのではないか」などの不安の声も耳にします。
キャッシュレス推進下での新紙幣発行の意味
新紙幣発行が発表されたのは2019年4月5日のことで、2024年度の上半期を目処に千円札、5千円札、1万円札の新紙幣の流通がスタートします。
一方、経済産業省は消費税引き上げに伴い、「キャッシュレス・消費税還元事業」を2019年10月から2020年6月末まで実施しました。この事業を皮切りに国のキャッスレス推進が本格化し、経済産業省では2025年6月までにキャッシュレス決済比率40%を目指すとしています。この目標に対し、2019年には26.8%だったキャッシュレス決済の比率が2022年には36.0%と順調に推移しています。おそらく目標達成は前倒しとなるでしょう。
キャッシュレス化推進とは、裏を返せば「現金決済をなくそうとする動き」にほかなりません。順調にキャッシュレス化が進行する中で、現物の紙幣のニーズは希薄化していくものと考えられます。
その流れに逆行するかのような新紙幣発行には、いささか違和感を覚える人もいるのではないでしょうか。
キャッシュレス化推進は、生産性向上、インバウンド消費への対応などが表向きの目的とされています。しかし、キャッシュレスを推進する最大のメリットは、取引データが記録され、活用可能である点です。
キャッシュレス決済によって記録されたデータは活用方法によって、さまざまな価値を生むと期待されます。また、キャッシュレス決済とマイナンバーが紐付けられると、個人の財産状況は国に把握されることになるのです。
タンス預金をする人の本音と政府の思惑
キャッシュレス化が順調に進むなか、実はタンス預金も増加しています。タンス預金の残高は、日銀の「資金循環統計」の家計の資産・負債データの「現金」の金額です。2022年末のデータによると109兆7227億円と前年末の107兆2394億円からさらに増加しています。
タンス預金が増加している理由には、以下のようなものがあります。
・銀行に預けても利息がほとんど付かない
・銀行でお金を下ろすと手数料がかかる
・キャッシュレス決済は緊急時に使えないかもしれない
・手元にお金があると安心
しかし、これらはあくまで建前で、タンス預金に走る人の心理には「税務署や国に資産を把握されたくない」という本音が隠れていると考えられます。
キャッシュレスを推進していくためには、タンス預金は大きな妨げとなります。そこに紙幣の切り替えが行われたらどうなるでしょうか。もちろん、紙幣が新しくなっても旧紙幣の使用は可能です。
しかし、新紙幣の流通が進むにつれ、タンス預金の旧紙幣は使いづらくなっていきます。どこかのタイミングで旧紙幣をまとめて新紙幣と交換ということになるでしょう。そこで、金融機関に身元と金額が記録され、個人の財産として紐付けられる可能性があるのです。
政府による紙幣切り替えは「偽造防止」が主な目的とされていますが、実際にはこのような隠れた資産を捕捉する狙いもあると考えられます。つまり、キャッシュレス推進と新紙幣切り替えは根本的な目的は同じというわけです。
1946年の預金封鎖と新円切り換え
2024年の新紙幣発行を、1946年に起きた預金封鎖と新円切り換えに結びつける声が聞かれます。預金封鎖とはハイパーインフレや財政悪化の際に、政府によって銀行預金の引き出しに制限をかけられることです。
1946年2月16日に幣原喜重郎内閣は予告なしに新円への切り替えを発表し、17日から預金封鎖が実施されました。当時、戦争にかかる費用をまかなうために大量の戦時国債を発行していた政府の債務は、GDPの約2倍ありました。
また、戦後間もない日本では国内の人口が急激に増え、食糧や物資が供給不足に陥りました。それらのためにハイパーインフレが起こり、インフレ沈静化のために市中のお金の流通を抑制する、預金封鎖を実行したといわれています。
この預金封鎖について、以前NHKで特集が放送されました。当時の様子を林直道大阪市立大学名誉教授がお話しくださっています。
預金封鎖当時、林名誉教授は22歳の学生で、大阪でお母様とお姉様の3人暮らしでした。すでに物資不足は深刻でしたが、預金が少額しか引き出せなくなり、食糧の確保がさらに困難になったそうです。
川の堤防の草を茹でて、わずかの米しかないお粥に混ぜて食べたとの言葉から、過酷な国民の生活がうかがえます。突然の預金封鎖に恐怖を感じ、お金が自由に使えなくなったときの物心両面の辛い思いも口にされていました。
この番組ではさらに、当時の大蔵大臣・渋沢敬三の預金封鎖に込めた真の目的も明らかにしています。預金封鎖には本当は「国民に財産税を課して、国の借金を返済する」という狙いがあったことを、本人が証言しているところが記録されているのです。
預金封鎖と併せて課された財産税は、資産額に応じて25%から90%の税率がかかりました。課税対象は預金だけでなく、株式、不動産、金なども含まれていました。
なかでも財産税を課しやすい資産は預金であり、税金を課す時点で対象となる預金を減らさないために、預金封鎖をする必要があったわけです。また、政府はタンス預金も見越して預金封鎖と新円切り換えを同時に行い、旧紙幣を使えなくしたのです。
預金封鎖の仕掛人ともいえる渋沢敬三は、新1万円札の渋沢栄一の孫です。偶然とはいえ、できすぎていると考える人がいても不思議ではないでしょう。
1946年の日本と2023年の日本
日本で預金封鎖が起こるのではと危惧される原因は、1946年の日本と現在の日本の状況に共通点があるからです。1946年当時の政府債務はGDPの2倍でした。現在はどうでしょう。
普通国債残高は2022年末現在で1,029兆円、対GDP比で262.5%です。主要先進国の中でもダントツに高い水準にあります。また、2022年はそれまでのデフレから一転、ハイパーインフレとはいかないまでもかつてない勢いで物価が上昇しています。
政府債務残高がGDP比で262.5%とは、1946年よりひどい状況です。そして、1946年の預金封鎖は財産税を課すことで財政を再建するのが狙いでした。預金封鎖が起こる可能性は低いとしても、ゼロではないと考えたほうがよいのではないでしょうか。
タンス預金のリスク
それでは、現在タンス預金をしている人のリスクについて考えていきましょう。
――― 一般的なタンス預金のリスク―――
タンス預金の主なリスクは以下のとおりです。
・盗難のリスク
・災害で滅失するリスク
・誤って処分してしまうリスク
・資産隠しと見なされるリスク
・相続時にトラブルになるリスク
・インフレに弱い
タンス預金には、盗難や災害のリスクがつきまといます。また、家族に黙って保管していて、誤って捨てられてしまうおそれもあるでしょう。金額が100万円単位になると、相続時にトラブルになったり、税務署から資産隠しと見なされたりするリスクもあります。
資産を隠すつもりで自宅に長期間保管すると、いつの間にかインフレで価値が目減りする、というリスクも見逃せません。
使えなくなることはない。けど…
2024年に新紙幣が発行されても、旧紙幣のタンス預金が使えなくなることはありません。あまりまとまった金額でなければ、少しずつ使って新紙幣と入れ替えることもできるでしょう。
しかし、旧紙幣がほとんど流通しなくなってくると、旧紙幣のタンス預金を新紙幣に交換せざるを得なくなります。その際に、金融機関でまとまった金額を交換すると記録が残り、財産を把握されると考えられます。つまり、紙幣切り替えによってタンス預金があぶり出されるというわけです。
最悪、預金封鎖が行われることになるとします。預金封鎖が行われるだけなら、タンス預金のある人は使えるお金があって有利です。しかし、預金封鎖とともに旧紙幣が使えなくなる場合は、タンス預金も使えなくなってしまいます。
また、財産税が課される場合に、タンス預金は把握されないから安全でしょうか。タンス預金を隠していると、必要なときに使えなくなってしまいます。たとえば、自動車をタンス預金で購入しようとすれば、販売会社にお金を支払います。その記録からタンス預金が発覚してしまうでしょう。
タンス預金の取扱い
いざというときの当座のお金として、数十万円程度ならタンス預金で持っていてもいいかもしれません。しかし、ここまでの内容を踏まえるとタンス預金にはリスクが多く、別の管理方法を考えたほうが安心安全です。
当面必要なお金以外は銀行に預けておくのが無難です。多額のタンス預金がある人は、一度に銀行に預けることに不安を感じるかもしれません。タンス預金が完全に自分のお金であれば、特に問題はありません。心配であれば、何回かに分ける、または複数の銀行に分けて預けるのも選択肢となるでしょう。
しかし、相続や贈与で得たお金は適正な申告が必要です。申告をせずに後で税務署から指摘を受ける場合、追徴課税されるおそれもあるので注意しましょう。
子どもや孫に贈与するなら適正な方法で
子どもや孫への贈与は、タンス預金の移動先として有効です。暦年贈与では、毎年110万円までは非課税で贈与できます。この非課税枠は受贈者(贈与を受ける側)1人につき110万円なので、子どもや孫が何人もいる人は、それぞれに贈与してもよいでしょう。110万円以内の贈与では、確定申告は不要です。
ただし、後で名義預金(真の所有者と名義人が異なる預金)と見なされないために、贈与契約書を作成しておきましょう。贈与契約書は面倒でも贈与の度に作成し、保管しておきます。
余裕資金は投資に回す
タンス預金は銀行に預けていないため、そのままでは利息も付きません。また、銀行に預けたとしてもお金はほとんど増えず、インフレリスクにも対応できません。そのため、当面使う予定のないお金は、投資に回すほうが資産防衛につながります。
投資には短期的には値下がりのリスクがありますが、長期・分散などでリスクを軽減すれば資産を増やすことも期待できます。
インフレに強い投資対象としては株式や投資信託などの金融資産の他、不動産や金などの現物もよいでしょう。世界経済が複雑になっているため、金融商品の価格変動の要因もさまざまです。一点集中を避け、複数の資産に分散して投資するのが賢明です。
預金封鎖の可能性は低くても対策は立てておくべき
新紙幣発行が直接預金封鎖につながるとは考えにくいですが、日本の財政は深刻な状況といえます。通常の方法で正常化を目指すことは、ほぼ不可能です。
私たち国民は日本の置かれている状況を理解し、ハイパーインフレや預金封鎖に備えてリスクヘッジを行っていかなくてはなりません。財産はなるべく複数の資産に分散して持つようにしましょう。これが、唯一にして最高の資産防衛術なのです。
●「円高はやってこない」 FRBが利上げをやめても  5/10
植田日銀の初会合を経て、円金利の低位安定が確認された後、ドル円相場は137.50円付近と年初来高値を断続的に更新した。
その後、5月2〜3日のFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)で利上げ停止が示唆され、5月4日のECB(欧州中央銀行)政策理事会でも利上げ幅の縮小が決定されるなど、欧米中銀のハト派傾斜が顕著になったものの、ドル円相場の下落は限定的で、134〜135円付近で推移している。
こうした相場展開は多くの為替市場参加者にとって意外なものだったのではないか。
年末年始時点では「年央にかけてFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が利上げを停止する。これに伴って日米金利差も縮小し、ドル円相場も反転する」という金利動向を主軸とする円高予想が支配的だった。各種の関連記事をさかのぼれば「3月、遅くとも5月の米利上げ停止を受けて円安相場は反転する」というストーリーラインは非常に多かったと記憶する。
日米金利差が縮まっても円安
確かに、そうした市場の読み通り、3月以降の日米金利差は2年・10年ともに顕著な縮小傾向が認められる。しかし、ドル円相場は逆に上昇基調にあるように見える。これをどう解釈すべきか。
そもそも金利差は縮小したがまだ十分ある、という考え方もある。2022年9月、筆者は「『春になれば円安は止まる』という見立ての死角」と題し、利上げ停止は日米金利差の顕著な縮小を約束するものではなく、顕著な円高を予想すべきではないと論じた。
5月FOMCを振り返ってみても、パウエルFRB議長は性急な利上げが金融システム不安につながった可能性を認めつつも、年内利下げの可能性については一蹴している。当面、予想すべきは「タカ派的な現状維持」であり、利下げを念頭に日米金利差縮小を期待し、円高を当然視するような風潮はやはり危ういと考えるのが筆者の基本認識である。
しかし、金利以前に注目しなければならないのは、日本における為替の需給環境の激変である。この点も過去のコラムで論じてきた。需給環境の激変を例示する数字はいくつかあるものの、象徴的なものはやはり日本の貿易赤字である。
既報の通り、貿易赤字は2022年通年で約マイナス20兆円を記録、2023年に入ってからは年初3カ月間では約マイナス5兆円を記録している。それでも多くの市場参加者は経験則を重視しながら「米金利が相対的に下がってくれば円高になる」という説を支持してきたし、今もその考えを抱く向きは多い。
しかし、少なくとも今のところそうなっていない。
もはや米金利低下だけで円高を期待する(円安を止める)のは難しいというのが筆者の認識だが、FRBが利下げに転換すれば、これほどの貿易赤字を抱えていても、やはり円高が始まるのだろうか。
歴史的にも「巨大な貿易赤字の下での米金利低下」は円相場が直面したことのない状況であり、経験則に頼り過ぎるのは危ういように思う。
ちなみに実質の世界では、年初から途切れなく円安が続いている。内外物価格差を加味した実質実効為替相場(REER)ベースで円を見た場合、3月は75.15と年初来安値である(1月は77.26、2月は75.28)。
名目実効為替相場(NEER)ベースでは1月が83.95、2月が82.84、3月が82.86と2月から3月で横ばいであるかのように見えるが、実質実効為替相場では続落している。
円の購買力は浮揚の兆しがない
日本社会に暮らす市井の人々にとって為替といえば、名目ベースのドル円相場が真っ先に思い浮かぶところだが、国際社会に暮らす日本という国にとって、それは物価格差を勘案した実質為替レートである。
島国だからこそ海外からさまざまな資源を購入し、国内の経済活動に充てていかねばならない。資源はできれば安価で購入できることが望ましい。
しかし、海外から購入する財には当然、相手国の賃金・物価水準が反映される。極端な話、名目の世界で「1ドル=100円」という固定相場が続いても、アメリカの物価が上がり、日本の物価が横ばいという状況が続けば100円で買えるアメリカの財は少なくなる。
理論的にはそうした物価格差を埋めるために円高・ドル安が進むはずであり、それを購買力平価と呼ぶのだが、その話は今回控えるとする。いずれにせよ一国の購買力は名目為替レートからでは測れず、実質為替レートから測るのが正しい。
重要なことは、ドル円相場は年初、いったん127円台まで円高になり、4月には137円台で推移するなど相応に乱高下しているように見えるかもしれないが、「円の購買力である実質為替レートは下がり続けている」という事実である。円の購買力は浮揚の兆しがない。
主要通貨全体の中での円の立ち位置はどうなっているのか。
主要通貨の名目実効為替相場(NEER)の2022年初から足元(4月下旬)までの推移を見ると、過去1年4カ月で初めて、はっきりとスイスフランが最強通貨に浮上している。
シリコンバレー・バンク(SVB)の破綻やクレディ・スイスの救済・合併から市場不安がピークに達していた時、「金融不安への警戒からドル、スイスフラン、ユーロは買えず、消去法的に円が買われる。安全資産としての円が復活する」という言説が一時的に流行った。結局、完全に読み違いだったと言えるだろう。
ロシアのウクライナ侵攻でも、3月以降の国際金融不安勃発でも、「安全資産としての円」はその存在感をアピールできているとは全くいえない。
遠ざかるスイスフランの背中
この点、金融不安の震源地だったスイスフランが買われていることについて違和感を覚える向きもあるかもしれない。しかし、スイスフランは貿易黒字国である。また、スイスフランを追いかけるように上昇しているユーロも同様に貿易黒字国である(しかもその水準は世界最大級だ)。
もっと言えば、スイスもユーロも連続的に利上げをしている通貨だ。
スイスは2022年9月までは、日本と共にマイナス金利採用国としてまれな存在であったし、長い歴史において「安全資産としての逃避通貨」ともいわれていた。
しかし、スイスの政策金利はすでに1.50%に到達している。円から見ればスイスフランはもはや需給で見ても、金利で見ても仲間とはいえない。
今後、FRBやECBが利上げの手を止め、現状維持を基本路線とした時、金融市場全体のボラティリティは低下するだろう。その時に何が起きるか。
流動性が高く、金利の低位安定が約束されている通貨を原資(調達通貨)として高金利通貨を買い、そのポジションを維持することで金利差を得るキャリー取引が奏功しやすくなるのではないか。ちょうど2006〜2007年、円安バブルと言われた時代に流行った円キャリー取引の再来である。
円キャリー取引は再来するか
今回も調達通貨として最も選ばれやすいのは、言うまでもなく円だろう(もっとも、バブルと形容されるほど日本経済の過熱感が強まるとは思えないが)。
そうした相場こそ昨年来、筆者が強調してきたシナリオであるし、2022年12月の「2023年の『ドル円相場シナリオ』はどうなるのか」でもはっきり議論した通りである。今のところ、その想定に沿って、実勢相場は動いているように思える。
仮に、FRBが早期利下げに転じた場合、そうした円キャリー取引主導の円安という相場現象は期待できないだろうが、FRBが利下げしたからといって、上述したような日本の膨大な貿易赤字がなくなるわけではない。
金利と需給の双方から見て、円高が確信できるような状況が年内に実現するのは難しいのではないかと引き続き考えている。
●FRB「軟着陸シナリオ」の成算、インフレ収束遅れても銀行不安の沈静化優先 5/10
FRC破綻と予想超える雇用増 難題抱えるFRBのかじ取り
5月5日に発表された米雇用統計は、非農業部門の雇用者数が市場の予想を大幅に上回る増加となり、失業率も過去最低水準。
米連邦準備制度理事会(FRB)の昨年3月からの連続利上げにかかわらず、米経済の堅調、インフレ圧力の根強さを示すことになった。
その一方で1日には、全米14位の地方銀行、ファースト・リパブリック銀行(FRC)が経営破綻し、その後も地銀など銀行株の下落が続く。
FRBが0.25%の利上げを決めた3日の連邦市場公開委員会(FOMC)をはさむように起きた2つの動きは、「物価(インフレ)と銀行不安」の間でのFRBの難しいかじ取りを象徴する。
だがここに来てFRBは戦略を変えつつあるようにみえる。
銀行不安が長引く様相になってきた中で、FRBはインフレ収束が多少、遅れることになっても銀行システムに過剰なストレスがかからないことを優先しながら景気の軟着陸を目指すシナリオを描き始めたようだ。
4月の非農業部門雇用者数25万人増。失業率は最低水準
米国経済は実に粘り腰だ。
昨年はオイルショック以来の高いインフレを経験し、賃金の伸びを上回った物価の伸びの定着で消費は失速せざるを得ないだろうとの見方や、FRBの急ピッチな利上げでさすがに経済は急ブレーキがかかるとの見方が市場では強まった。
そして、昨年夏から、好況をけん引してきた大手IT企業などが大型のレイオフ(一時帰休)が発表し始めると、失業率はいつ、どのようなペースで上がり、それを根拠にFRBはいつ利下げをするのか、という議論が沸いた。
だが逆風の下で米国経済は総じて堅調だ。
今年1〜3月の実質GDP成長率は前期比年率で1.1%とやや低めの伸びにとどまったが、企業が在庫圧縮を進めていることが背景であり、最終需要が落ちているわけではない。むしろ、個人消費は財・サービス支出ともに堅調だった。
経済の堅調を改めて印象付けることになったのが、5日に発表された4月の雇用統計だ。
自営業や農業従事者を除いた製造業やサービスなどの非農業部門の雇用者数が前月と比べ25万3000人も増えた。
市場が予想していた18.5万人を大幅に上回り、過去の景気拡大局面で1月当たりの雇用者数の増加が平均20万人だったことと比較すると、企業の求人意欲は依然として強い。
失業率も3.4%と過去最低水準だ。
昨年夏から報道されているレイオフの影響も雇用統計には表れていない。
細かく見れば、テクノロジーに関連する業種や金融業では雇用の増加ペースは緩んでいるのだが、目立って減ってもいない。
レイオフはされても短期間で次の職が見つかっているため、失業者にカウントされる間もなかったという例が多いようだ。
レイオフは確かに高水準だが、それを吸収するに近い規模での新規の募集も多い、ということだ。労働市場の回転率は高く、だからこそ、名目賃金も全産業で前月比0.5%と高いままなのだ。
焦点は銀行不安の行方 システミック・リスクにつながるか
だが、FRBの10会合連続の利上げで、政策金利は5.00〜5.25%まで引き上げられた中、米国経済の先行きをより慎重に見る人の間では、雇用指標は遅行指標であり、ここまで大幅に利上げが行われた以上、景気の後退は避けられないという見方は根強い。
3月のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の破綻を引き金にした銀行不安が長引きそうな状況がこうした見方に影を落とすことになっている。
銀行破綻は、昨年来の金利引き上げの影響であり、債券などの急落で損失を抱えた銀行に対する不安が続けば、経済の資金の巡りが悪くなり、それが深刻な景気後退に陥るというものだ。
今後の鍵を握るのは、米銀3行の破綻を受けた銀行経営への不安から、預金流出が続き、一方で銀行が融資に慎重になったり株や債券が売られたりすることで、資金が回らず決済不履行などが金融市場全体波及する「システミック・リスク」につながるかどうかだ。
預金流出が破綻の引き金に「非付保預金」多い特異な顧客構造
米国ではリーマンショックを機に金融規制が強化され、特に大手の銀行は金利や流動性、融資などでのリスク管理が徹底されている。
通常ならFRBによる積極的な利上げで市場金利が上昇しても、それだけでは銀行は簡単にはつぶれないはずだった。
ところが、今回の破綻した地銀の場合は、金利リスクの管理が必ずしも万全ではなかった上、顧客が新興テック企業や富裕層が中心で、預金保護の上限を超える「非付保預金」の割合が極めて高いなど、特異な顧客構造があだになった。
発端となったSVBは、顧客であるテクノロジーなどスタートアップ企業が、事業が滞り始め、資金確保のための預金引き出しを急いだことが事態を急変させた。
SVBが預金支払の要求に応えるため米国債などの保有証券を売却し、それが含み損を大きく吐き出し収益が大幅に落ちこんだのだ。
同行の預金の大半は預金保険の対象外だったため、経営不安などの情報がSNSなどで拡散すると、預金の流出がさらに加速した。
破綻が連鎖したシグネチャー銀行も、取引先企業が暗号資産取引事業に偏っていた。顧客預金の流出は暗号資産の価格下落にもつながった。
2行はそれぞれ特化する事業は異なるが、預金流出が結果として短期間に破綻に追い込まれたことは共通だ。
SVBが3月10日に破綻すると、当局は同行を連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置くとともに、この2銀行に対して預金保険額の1口座当たりの上限(25万ドル)を超えて全額保護することを13日に決定。
ほぼ同時に、FRBは、不安が広がる過程で資金繰りが難しくなった銀行に対して、資金供給に当たっては担保を時価ではなく額面で評価し資金を供給する策を公表した。
2行の預金を全額保護することを打ち出せば、預金流出の流れを止め、銀行不安の拡大を抑えることは可能と判断したと思われる。
だがFDICがこれら2行の売却先を見つけるのに長い時間がかかってしまったことなどでもあって、市場の不安が強まった。
もともとこの2行の破綻は、過剰な融資などで不良債権を抱えたり、過剰なレバレッジによる金融資産バブルが崩壊したりしたことが原因ではなかった。
ざっくり言えば、預金の流出を短期で止めた上で、2行に対し厳しい監督や指導をすることで問題を大きくするのを防げたかもしれない。
金利上昇のリスクに脆弱な銀行に不安広がる
ところが、地銀不安の波は収まらず、市場の目は、預金保険で保護されない「非付保預金」への依存度の高い銀行だけでなく、金利リスクが脆弱な銀行にまで範囲が広がってしまっている。
そして預金流出の「次の標的」となったのが今月1日に破綻したファースト・リパブリック銀行(FRC)だった。
FRCは富裕層ビジネスに強みがあり、近年は低利で住宅ローンを拡大してきた。しかし市場金利の上昇によってローン債権に含み損が出る一方、市場からの資金調達コストは高くなっている。こうした脆弱性が標的となり、預金の流出が加速し破綻に追い込まれた。
FRCの場合は、FDICの管理下に置かれた上で、大手銀行JPモルガンが富裕層向けの預金業務を買収すると同時に、JPモルガンにとっては魅力的ではない不動産ビジネスについては、FDICが今後5〜7年にわたり損失の8割を請け負うという条件でJPモルガンに引き継がれることになった。
これにより、FDICが延々と預金の全額保護で止血処置を続ける必要性はいったんはなくなった。
しかし大手行による問題銀行の買収という形で、預金流出や銀行不安を抑えるやり方には、銀行市場の寡占を進めることになり、当局が許容できるはずもなく、限界はある。
預金流出を中心とする一連の銀行セクターの動揺は、これまでのところは一部の地方銀行に対する「不安」が支配しており、FRBが最も懸念する市場全体の流動性の枯渇にまでは至っていない。
とはいえ、もし預金流出が止まらず、より広範囲に銀行株が下落したり、銀行の破綻の連鎖が起きたりすることになれば、今の流動性供給策も効かなくなり問題はより深刻になる。
沈静化はFRBのかじ取りに依拠 物価より銀行不安の抑制を優先
何が銀行セクターを巡る動揺を抑えることができるのかを考えてみると、最も効果があるのは、銀行預金を全額保護する法律を議会で成立させることだろう。
だが上院と下院で多数派政党が異なる「ねじれ議会」の下ではコンセンサスを形成することは極めて難しい。
結局は、FRBの金融政策のかじ取りに依拠する要素が大きいだろう。
5月FOMCの利上げですでに政策金利はFRBが見込む今年末到達水準(中央値は5.1%)に達している。
利上げが急ピッチで進んできた過程で、事業が立ちいかなくなった企業が銀行から預金を引き出したことが事の発端だったことから言えば、利下げをすればそうした緊張はいくらか和らぐかもしれない。
しかし、問題はそこまで単純ではない。
3月以降の緊張で、銀行セクターから抜けた資金はマネーマーケットファンドに多く流入した。そうした資金は一般には、利息が付くFRBの口座に預けられることが多いのだが、今回の局面では他の証券の口座にも預けられており、利下げに転換したからといって即座に元の銀行に預金が戻るわけではない。
そして、インフレの圧力が根強いことだ。
3月の消費者物価指数は食品・エネルギーを除くコア指標で前年比+5.6%と高いままだ。2%物価目標への距離は遠いままで、利下げを正当化するのは難しい。
資金市場でのドルの流動性の枯渇という事態になれば、たとえ物価が高止まっていても緩和方向へとかじを切る可能性はあるが、状況はそこまでには至っていない。
今後、金利リスク管理に不備のある脆弱な体質な銀行で預金流出が起きることになっても、FDICによる預金保護の拡充や破綻銀行の売却などで対応できる範囲であれば、FRBは容易に利下げのカードを切ることはないだろう。
ただしここに来てのFRCの破綻は銀行不安が依然、根強く、長引く様相を感じさせるものだ。
3月の銀行問題が発生する前は、インフレ圧力の鎮まりが遅れていることで、需要の収縮を狙うFRBは大幅な景気後退も辞さず、といったシナリオが現実的とみえるときもあった。
だが今、FRBは、インフレの収束がいくらか遅れても、金融システムに過剰なストレスがかからないように配慮することで景気を軟着陸させる戦略に変わったと考えられる。 
●「日本病」の憂鬱  5/10
ある言葉がふと頭に浮かんでは気が重くなる。それは「日本病」である。 憂鬱ゆううつ な気分になったきっかけは、空き家になっている実家の整理だった。
押し入れの奥から、「イギリス病」(A・グリン/J・ハリスン著、平井規之訳)という本が出てきた。大学生の時に買った覚えがある。産業革命を起こした経済大国が1970年代、深刻な経済停滞に陥り「英国病」と呼ばれた。その原因と対策を分析した経済書である。片付けの手を止めてページをめくるうちに、日本経済の状況が英国病ならぬ日本病だと確信したのだ。第2章の冒頭にこうある。
「七〇年代を通してイギリスにおける経済発展の特徴をなしてきたのは、イギリス資本が国際市場における競争力を驚くほど急速に低下させたという事実である」
まるでバブル崩壊後の日本経済ではないか。さらに読み進めると第二の特徴も挙げられていた。
世界市場に占める英国のシェア(占有率)は縮小したが、世界全体が成長したため輸出などの絶対量は減らなかった。このため競争力の低下を実感できず対処が遅れたという。長期停滞への危機感が乏しく、「ゆでがえる」と 揶揄やゆ された日本に似ている。
国際競争力は、メイド・イン・ジャパンが世界市場を席巻し、日米貿易摩擦を引き起こした1980年代とは比べるべくもない。バブルに沸いた日本経済は「泡」の破裂ともに失速した。金融危機、デフレ不況、リーマン・ショックと試練に見舞われ、「失われた30年」と言われる冬の時代が続いている。
この間の経済停滞はどのようなものか。国内総生産(GDP)の数字で確認したい。
1992年の名目GDPは約500兆円で、30年後の2022年は556兆円だ。30年もかけてわずか1・1倍である。ほぼゼロ成長と言っていい。同じ期間に米国の名目GDPは4倍、中国はなんと45倍になった。日本は米中に次ぐ経済大国とはいえ、成長がほぼ足踏みしているうちに、トップ2の背中は猛スピードで遠ざかった。
ジャパニフィケーション(日本化)という言葉がある。日本のように低成長、低インフレ、低金利が常態化することを指す。この言葉が生まれたのは、日本経済の停滞が「当たり前」とされるほど長期化したためだろう。停滞が当然視されるのは情けないし、日本病を克服しないと日本の未来が危うい。
GDPの多寡だけが豊かさの指標ではないが、経済を一定の成長軌道に乗せないと、国民生活の安定は望めない。ゼロ成長では、税収が増えず少子化や経済格差、安全保障など重大な政策課題に対処する安定財源の確保は難しい。インフレに対抗する賃上げも、企業は「ない袖は振れぬ」ことになろう。
成長の実現に向けて政府が実施した経済対策は、内閣府のホームページに掲載されたものだけで1998年4月から今年1月までの25年間に30を超える。手数は多いが、効果は期待外れだった。
そもそも、政府の借金を増やしてお金をばらまいて、潜在成長率が1%を下回って久しい日本経済が力強い成長力を取り戻せるのか。甚だ怪しい。発想を転換して方策を練り直すべきだろう。
経済学では経済成長と経済発展を区別して使うことがある。成長が規模拡大を示すのに対し、発展は質的向上を含むことが多い。どなたの説かは覚えていないが、成長は死ぬまで大きくなり続ける恐竜、発展は幼虫からサナギを経て華麗に変身するチョウのようなもの、という解説を読んだことがある。
成長に行き詰まった感のある日本経済が発展のステップを踏んで、高く舞い上がる。そんな夢を可能にするイノベーション(革新)の促進に、官民を挙げて全力を傾注してほしい。
●米消費者物価指数4.9%増、10カ月連続伸び鈍化 市場予想下回る 5/10
米労働省が10日発表した4月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で4・9%上昇した。伸びは昨年6月(9・1%上昇)をピークに10カ月連続で鈍化した。事前の市場予想(5・0%)も下回った。今回の結果も踏まえ、物価高(インフレ)の抑制をめざす米連邦準備制度理事会(FRB)が6月の次回会合で利上げを休止するかどうかが注目される。
CPIへの寄与が大きい住宅費は前年同月比で8・1%増、食費は同7・7%増だった。価格動向に米国民が敏感なガソリン代は12・2%減だった。変動の大きいエネルギー価格などを除いたCPIのコア指数は5・5%増で、3月(5・6%増)を下回った。コア指数はFRBがインフレ動向をみるうえで重視している。
FRBのパウエル議長は今月2〜3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げの休止の議論があったことを認めた。市場では次回6月会合で、FRBが利上げの休止に踏み切るとの見方が出ている。

 

●米国発の金融危機は起こるのか…「安心」とは言い切れないもやもや 5/11
米シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行の破綻に続いて、中堅サイズの銀行としては3行目のファースト・リパブリック銀行がJPモルガンチェース銀行に吸収される形で救済された。実質的には経営破綻だ。米国の地方銀行には「次」と目される銀行が複数控えていて、預金の流出や株価の下落に悩まされている。
リーマン・ショックの後のような米国発の金融危機は起こらないのだろうか。あの時と現在では何が同じで、何が違っているのだろうか。
リーマン・ショックの際はもともと不良な借り手への不動産融資をやり過ぎて、不良債権化した「サブプライム問題」があった。大手銀行も含めて巨額の損失を抱え、しかも、これが複雑な証券化の仕組みを通して行われていたために、どの金融機関がいくら損を抱えているのかが、お互いに把握できない「疑心暗鬼」の状態に陥っていた。
今回は、銀行の損失の仕組みが分かりやすいことに加えて、特に大手銀行はリーマン・ショック後の規制強化でかつてよりも自己資本を手厚く積んでいるので、「全面的な危機は起こりにくい」とは言える。
損失の仕組みは以下のようなものだ。米連邦準備制度理事会(FRB)による急激な金融引き締めが行われる前の長短金利が共に低い状態にあって、多くの米銀は「それでも相対的に利回りが高い」長期の債券を買い込んだ。ところがインフレ対策で金融引き締めが始まり、まず長期債の利回りの急上昇(価格は大幅下落)が起こった。米銀にも「満期まで保有する分類の債券は時価評価を損益に反映させなくてもいい」という極めていい加減なルールがあり、多くの銀行は大きな含み損を抱えたまま「満期まで我慢してやり過ごす」つもりだ。
ところが、預金が流出するとこれに対応するためには、債券を売らなければならなくなるが、この際に含み損が現実の損として表面化して、銀行の評判悪化を招く。
また、含み損のある債券ポートフォリオの資金のコストは主にFRBの政策金利に連動する短期金利のコストだが、現在、10年程度の長期債の利回りが3%台半ばである一方、金融引き締めによって短期金利は5%台に上昇しており、銀行の「我慢のコスト」が引き上げられている。
先週行われたFRBの0・25%の利上げは、インフレ対策の建前は分からなくもないが、米銀の台所事情を考えると「中央銀行マンとは、ずいぶん強情なものだなあ」との印象を禁じ得ない。
確かに、大手銀行は破綻しにくいはずだし広範な金融危機が起こる可能性は小さい。ただし、預金者が逃げ出すときの銀行ビジネスのもろさと、強情な中央銀行の組み合わせを考えると、「すっかり安心」とまでは言い切れないもやもやが残る。
●怖すぎる…アメリカの「金融破たん連鎖」が、ついにカナダや欧州にも「飛び火」 5/11
「過去2番目の規模」の破綻
5月1日、資産規模で全米第14位(2022年末)の銀行であった、ファースト・リパブリック銀行(FRC)が経営破綻した。
FRCの預金のすべてと殆どの資産はJPモルガンが引き継ぐ。
破たんした銀行の規模としては、2008年のワシントン・ミューチュアル(JPモルガンに買収された)に次いで過去2番目だ。
3月にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破たんしたとき、米国の財務省や連邦預金保険公社(FDIC)は預金の全額保護を表明した。
それでも、FRCは預金の流出を止められなかった。
特に、SNSによって、人々の不安心理が急速に伝播したことは見逃せない。
FRCなどから預金を引き出し、利回りの高いMMFなどにうつす人も増えた。
今後、経営不安の懸念が高まる、米国の中堅銀行は増えることが懸念される。
今年2月末から4月末の間、米銀株で構成されるKBWナスダック銀行株指数は約26%下落した。
投資家が銀行株から逃避していることが浮き彫りになる。
特に、経営が行き詰まりそうな銀行からは、投資家のみならず預金者も逃げ出すことも考えられる。
高リスクのローンビジネスを強化したFRC
FRCの破たんは、ある意味では古典的な金融機関の経営の失敗といえる。
重要なポイントは、銀行自身の調達と運用のミスマッチがあったことだ。
FRCは預金を集め、流動性の低い資産への貸し出しなどで利ザヤを獲得してきた。
先に破たんしたシリコンバレー銀行などと同様、FRCもITスタートアップの企業への投融資などを行った。
また、FRCは富裕層向けに“インタレスト・オンリー”と呼ばれる特殊な住宅ローンビジネスを注力した。
通常の住宅ローンでは、返済開始と同時に金利部分と元本部分の支払いが発生する。
ところが、インタレスト・オンリー型の契約では、借り手は10年などの一定期間は金利の支払いのみを行う。
10年後から元本の返済も始まる。
元本の回収が先延ばしになるという点でリスクは高い。
FRCは商業用不動産などへの投融資ビジネスにも注力した。
FRCは、低金利環境は続き資産価値の上昇も継続すると過度に楽観したといえる。
FRCは積極的なリスクテイクを続け、不動産やIT関連企業への投融資を積み増した。その結果、FRCの融資債権の価額は増加した。
3月末時点のFRCのバランスシートを確認すると、資産総額(2329億ドル、1ドル=135円で約31兆円)のうち融資債権は1725億ドルを占めた。
しかし、良好な条件がいつまでも続くとは限らない。
2022年3月にFRBは急速に金融を引き締め始めた。
急激な金利上昇によって投融資を行った資産の価値は下落した。
さらに、3月にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破たんした。
預金が引き出せなくなるという群集心理はSNSを介して急増した。
1〜3月期、FRCの預金は約4割減少した。
預金の流出、流動性の低い不動産などへの融資債権の価値下落などが重なった結果、FRCの資金繰りは行き詰まり破たんした。
中堅銀行の破たんと商業用不動産ファンド
今後、米国の中堅銀行の分野では、“破たん予備行”探しが活発化するかもしれない。
FRBとFDICは金融機関の監督を行う人材の不足によって対応が遅れたと報告している。
結果的に、FRCなどの過度なリスクテイクは野放しにされた。
今後、米金融当局は規制を強化し、金融システムの健全化を図るとみられる。
それに伴い、流動性の低い資産を売却してキャッシュ保有を増やそうとする銀行は増えるだろう。
問題は、金利上昇や米国経済のさらなる減速、および後退リスクの上昇などを背景に、流動性の低い資産の売却が追加的に難しくなる懸念だ。
金融政策の引き締めや景気後退の懸念で、資産売却は難航することが予想される。
2月末から4月末の間、2022年末時点で全米20位のキーコープ、同37位のコメリカの株価はともに38%程度下落した。
また、米国の銀行だけではなく、欧州やカナダの銀行も資産価格の下落の影響を受ける可能性がある。
今すぐではないにせよ、米国の中堅銀行の資金繰りの懸念が追加的に高まり、それが欧州などの金融セクターに飛び火するリスクは軽視できない。
米中堅行の資産売却増加によって、商業用不動産市況にもより強い下押し圧力がかかるだろう。
それに伴い、規制が相対的に緩い投資ファンド業界からの資金流出も増加しそうだ。
そうなると、連鎖反応のように、銀行の融資債権の焦げ付きや不良債権の増加懸念は高まり中堅銀行の経営体力の低下懸念も高まる。
FRBやECBがインフレ鎮静化のために金融引き締めを継続する可能性が高い。
世界経済の先行き不透明感は一段と高まっていると考えるべきだ。
●バイデン大統領が「G7広島サミット」に来ない アメリカに“デフォルト”の恐れ… 5/11
アメリカのバイデン大統領が「G7(=主要7か国首脳会議)広島サミット」に来ない可能性が出てきました。原因は、アメリカが抱える「国の借金の問題」です。このままでは、来月1日にも借金の一部が返せなくなる“デフォルト”状態となる恐れがあるといいます。バイデン大統領が来ない場合、サミットはどうなるのでしょうか?
G7広島サミット“来ない”可能性…背景に「国の借金の問題」
有働由美子キャスター「『問題が解決しなければ、G7に行かない』…アメリカ・バイデン大統領の発言ですが、来週に迫った『G7広島サミット』にバイデン大統領が来ない可能性があるということですか?」
小栗泉・日本テレビ解説委員「本当に驚きました。政府関係者に聞いたところ、一報が入った時には『え、本当に?』『もし来なかったら、どうなっちゃうんだ』という反応でした。外務省で広島サミットの準備を担当する関係者は『それはないと信じているけど、保証はない』と、それぞれ不安そうでした」
有働キャスター「G7に行けなくなるほどの問題とは、一体どういうものなのでしょうか?」
小栗解説委員「これは『国の借金の問題』です。実は、アメリカでは政府が借金をしてもいい上限が法律で決められていて、その額は日本円で約4200兆円です。この上限を、今年1月に超えてしまったのです。バイデン政権は『じゃあ、上限を引き上げよう』としていますが、野党・共和党は『政府の歳出の削減が条件だ』と主張しています。9日も協議が行われましたが議論は平行線ということで、議会の同意が得られる見通しが立っていません。このままだと、来月1日にも借金の一部が返せなくなる“デフォルト”状態となる恐れがあります。“デフォルト”状態になるとアメリカの金融システムが機能しなくなり、日本を含めた世界経済全体に大打撃を与えることになってしまいます。このため優先順位としては『債務上限の引き上げ』の方が『G7広島サミット』よりも高いということです」
「アメリカ政治に詳しい明海大学の小谷哲男教授によると、『バイデン大統領がG7に“1日〜2日遅れて参加”、または“完全にキャンセル”、つまり日本に来ない可能性も十分ある』と指摘しています。一方、バイデン政権の中枢の人にも聞いてみました。すると、現状はですが、『バイデン大統領が日本を訪れることになんら疑いの余地はない』と答えています」
オンラインで参加? 副大統領か国務長官が代わりに来日の可能性も…
有働キャスター「まだ今のところ、どちらか分からないと…。仮にバイデン大統領が来ないとなると、サミットはどうなるのでしょうか?」
小栗解説委員「『バイデン大統領がオンラインで参加する可能性はあり得る』と日米の外交筋は話しています。ただ、オンラインだと、今まさに岸田首相が調整中の“首脳らによる『広島平和記念資料館』の訪問”ができません。『代わりに、ハリス副大統領かブリンケン国務長官を行かせるのでは』ということも言われています」
有働キャスター「あと9日に迫っての事態ですが、辻さんはどう思いますか?」
辻愛沙子・クリエイティブディレクター「ウクライナの危機、そして東アジアの緊張感も高まっている今、広島で行うというサミットの国際的意義は本当にかなり大きいです。経済も含めて、国際社会の中でのアメリカの役割は本当に大きいので、難しい葛藤だとは思います。ただ、金融危機に関しては今年の頭には大々的に報じられていたわけですし、せめてもう少し早めに経済対策が進められなかったのかとは思ってしまいます」
有働キャスター「いずれにしても、議長国としては『アメリカが来ないと日本って何もできないよね』とならないように、来ない場合も想定したシナリオを、今から大変だと思いますけれども、作っておいてほしいと思います」
●きょうからG7財務相・中央銀行総裁会議 新潟県の魅力発信へ 5/11
G7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議が11日から新潟市で始まります。
新潟市や県は、各国代表の歓迎レセプションで県内産の食材を使った料理や地酒をふるまうなど、この機会に県の魅力を世界に発信することにしています。
G7の財務相・中央銀行総裁会議は11日から3日間の日程で新潟市中央区の朱鷺メッセで開かれます。
会議には、日本の鈴木財務大臣や日銀の植田総裁、それにアメリカのイエレン財務長官などが出席し、欧米でくすぶる金融不安への対応やウクライナ支援などについて意見を交わします。
会議の期間中、各国代表や多くの報道関係者が会場を訪れる見込みで、新潟市や県は、この機会に県内の食や文化をアピールする予定です。
具体的には、各国代表を歓迎するレセプションで、のどぐろの握りずしなど県内産の食材を使った料理や地酒をふるまいます。
また、式典では、古町芸妓の踊りや新潟市出身の三味線奏者の演奏が披露されるほか海外の報道関係者に地域の歴史や文化に触れてもらうプログラムも用意し、この機会に県の魅力を世界に発信することにしています。
●ガソリン価格 3週ぶり値下がりも全国で2番目に高い水準 5/11
今週の長野県内のレギュラーガソリンの平均小売価格は1リットルあたり177.3円で3週ぶりの値下がりとなりましたが、全国で2番目に高い水準となっています。
国の委託を受けてガソリン価格を調査している石油情報センターによりますと、今月8日時点の県内のレギュラーガソリンの平均小売価格は、先週よりも1.2円値下がって1リットルあたり177.3円でした。
3週ぶりの値下がりとなりましたが、長崎県に次いで全国で2番目に高い水準となっています。
このほか、ハイオクガソリンは1リットルあたり188.6円で、先週よりも1.1円値下がりました。
軽油は1リットルあたり158.4円で、先週よりも1円値下がりました。
灯油の店頭価格は18リットルあたり1976円で、先週よりも15円値下がりました。
値下がりについて、石油情報センターは、今月1日にアメリカの銀行「ファースト・リパブリック・バンク」が経営破綻したことによる金融不安や中国の経済指標が悪化したことなどが影響し、原油の買い控えの動きが強まったことが影響していると分析しています。
また、来週以降の価格の見通しについては、「政府の補助金による価格の調整で、横ばいか小幅な値動きが予想される」としています。
●2022年度の国の経常黒字は約9兆円 過去2番目の下げ幅 5/11
2022年度の日本の経常収支は、資源価格の高騰や円安などの影響で黒字額が前の年度より54・2パーセント減のおよそ9兆円にとどまり過去2番目の下げ幅となりました。
財務省が発表した2022年度の国際収支速報によりますと、海外との総合的な取引を示す経常収支は、9兆2256億円の黒字でした。
前の年度よりも54・2パーセント10兆9千億円余り減少し、リーマン・ショックの影響で輸出が極端に減少した2008年度以来の下げ幅です。
原油や石炭などの高騰に加え円安による輸入価格の上昇で、貿易赤字が18兆円と過去最大に膨らんだことが要因です。
一方、海外からの利子や配当による黒字額は35兆円を超え、こちらも過去最大となっています。
●2023年は「日本株の年」になる 「日経平均4万円」 3つの強気ポイント 5/11
3年余り続いたコロナ禍が一段落し、経済活動も本格的に再開する目処が立ってきた。円安の動きも落ち着き、5月初頭には日経平均株価が年初来高値の2万9000円台を記録するなど、足元の日本経済は上向きの気配が漂う。
一方で、米国では3月に相次いだ銀行の経営破綻の影響が続き、5月1日には総資産31兆円のファースト・リパブリック・バンクが経営破綻した。リーマン・ショック以来、史上2番目の規模の銀行破綻となった。
米国で金融不安・物価高の終わりが見えないことから、日本経済の先行きは、また不透明さを増したようにも見える。そうしたなか、兜町ではあるレポートが改めて注目されている。
〈2023年は日本株の年に 脱デフレで見えてくる日経平均4万円という「新しい景色」〉
そう題されたのは、昨年12月14日、SMBCグループの三井住友DSアセットマネジメントが発表した投資家向けのレポートだ。
2022年末時点の市況について、急激な利上げや景気減速などで低調な米国などの外国株に比べ、日本株が堅調に推移していると評価。諸外国と比べた日本の堅調さは、2022年よりも2023年に〈鮮明に〉なるとし、〈日本株への内外からの注目〉が高まり、〈2年後には日経平均4万円〉があり得ると締めくくられている。
同レポートは株価・為替相場の双方の乱高下に投資家が苦しんでいた昨年末の段階から今年の株高を予想したもので、足元では、まさに今このレポートの“予言”通り、株高基調が出現している。
ただ、そうは言っても、これまで日経平均の最高値(終値)はバブル期の1989年12月29日につけた3万8915円である。それを上回る4万円という強気な予想を、メガバンクのグループ会社が公式に表明するのはなぜか。
同レポートを執筆した三井住友DSアセットマネジメントのチーフグローバルストラテジスト・白木久史氏が言う。
「レポートを書いた時と若干足元の環境は変わっていますが、基本的に見解は変えていません。今年は『日本株の年』だと思っています。強気のポイントは3つあると考えています」
まだ見ぬ4万円台という“新しい景色”を見られるのだとすれば、その要因はどこにあるのか──。
白木氏が指摘する第1のポイントは、「日本株が非常に割安な状態にある」ということだ。
「現在、2023年度の日本株(TOPIX)の予想PER(株価収益率=株価/1株あたり当期純利益の予想値)は約12倍で、これは歴史的な低水準なのです。割安になっているのは、今後、日本企業の成長が鈍化するのではないかと警戒されているからだと考えられます。つまり、日本企業がコロナ禍による経済停滞を完全に脱し、順調に業績を拡大させていくところを見せられれば、株価の大きな上昇を期待できるということです」
白木氏が、日本株が“過小評価”されている現状から抜け出せる可能性があると見る理由が、第2のポイントとなる「マイルドなインフレによる好循環の予兆」だ。
「エネルギーや食品の価格が上昇し、ユーロ圏で一時10%台、米国でも同9%台のインフレを記録しました。それに対して長くデフレに苦しんできた日本では、今年3月分の消費者物価指数(CPI)が前年同月比プラス3.2%と、適度でマイルドなインフレと評価できます」
もちろん、値上がりによる生活苦の声も少なくないが、“マイルドなインフレ”からの好循環を生み出すきっかけとなり得るのが、「賃上げ」だという。
「4月に連合が公表した賃上げ率は3.69%と、30年ぶりの高水準です。デフレ下では給料を上げなかった企業がマイルドなインフレ下で賃上げに転じていけば、消費が活性化する好循環が生まれやすい。1980年代後半のバブル期以来となるインフレと賃上げの両立によって、日本経済は様変わりするかもしれません。当社では、日本の名目GDPは今年度も来年度も2%前後、成長すると見ています」
バフェット来日の影響力
そして第3のポイントは、日本に生じたこうした変化を「外国人投資家」が評価し始めていることだ。かつて日本株を買っている人の大半は日本人だという時代もあったが、半数以上は「外国人投資家」が取引している。
「日本のマーケットは1日3兆円程度の売買がありますが、その6割にあたる1.8兆円は外国人投資家によるものです。IMFが予測する今年の日本の経済成長率はプラス1.3%で、G7のなかでもカナダ、米国並みに高い水準。外国人投資家の日本株に対する“期待感”はすでに出始めています」
そうした空気をさらに盛り上げたのが、今年4月に来日した“投資の神様”と呼ばれるウォーレン・バフェット氏だ。
「個人資産だけで15兆円、しかも投資した株を長期保有するスタイルで知られるバフェット氏が来日し、世界に向けて『日本株が買いだ』とのメッセージを発した事実は大きい。世界中の投資家が『日本株を持たないとまずい』となるわけで、この変化はとても大きいと言えます」
それらの点を鑑みて、白木氏は今年度中(2024年3月まで)に日経平均が過去最高に近い「3万8000円」に到達する可能性があると見る。
「先ほど述べた日本株(TOPIX)の予想PERは、市場の評価が高まることで、現在の約12倍から過去10年の平均である14倍近くまで回復すると考えられます。そうなると計算上、日経平均は3万8000円という上値が見えてくる。
その前提のひとつとなるのが、早ければ今年9月にも始まると予想されている米国の利下げです。国際分散投資をする海外投資家は、米国の金融緩和をきっかけに、日本株を含めた世界中の株式を買い始めると予想されるからです」
そしてそこからさらに日本株は上昇を続けると見ている。
「2024年の米国の景気は今年後半より良くなると予想されます。日本の輸出産業などもその恩恵に与って評価が高まり、再来年(2025年)の1月から3月にかけて、TOPIXの予想PERが15倍まで拡大すると、計算上は日経平均4万円を突破することになるのです」
日本経済の置かれた状況は、数十年ぶりに大きく変わろうとしているのかもしれない。
●FRBの利上げ停止では円安は止まらない、巨額の貿易赤字が示す真実 5/11
FOMCの後、思ったほど円高にならない現実
日銀・植田総裁の初会合を経て、円金利の低位安定が確認された後、ドル/円相場は年初来高値となる138円付近まで急騰した。
その後、5月2〜3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ停止が示唆され、5月4日の欧州中央銀行(ECB)政策理事会でも利上げ幅の縮小が決定されるなど、欧米中銀のハト派傾斜が顕著になったが、本稿執筆時点のドル/円相場は134〜135円付近で推移している。
多くの為替市場参加者は「思ったほど円高にならない」と感じているのではないだろうか。
年末年始時点では、「年央にかけて米連邦準備理事会(FRB)が利上げを停止する。これに伴って日米金利差も縮小し、ドル/円相場も反転する」という金利動向を主軸とする円高予想が支配的だった。各種調査を遡れば、「3月、遅くとも5月の米利上げ停止を受けて円安相場は反転する」というシナリオが非常に多かったと記憶する。
実際、その読み通り、3月以降の日米金利差は2年、10年ともに顕著な縮小傾向が続いてきた。しかし、ドル/円相場は読み通りとはならず、逆に上昇基調にある(図表1)。
   【図表1】
これをどう解釈すべきか。そもそも金利差は、縮小しているといっても十分にある。昨年来、筆者は日米金利差を頼りとして円高シナリオを描く危険性を断続的に論じてきた。
今年の最初のコラムでも、『春にも終わる米FRBの利上げ、その後の為替市場で何が起きるか?「2023年は円高の年」という市場のコンセンサスに死角はないか』と題し、FRBの利上げ停止を契機として円高が進むという見通しに懸念を示してきた。
まだ1年の4分の1しか終わっていないものの、その懸念は今のところ適切だったように思える。
「日米の金利差」以前に注目すべきこと
そもそも利上げ停止は利下げ開始と同じではないため、巷説で支持されてきた「日米金利差の顕著な縮小が円高を促す」という主張は弱さを孕んでいる。
5月のFOMCを振り返ってみても、パウエルFRB議長は性急な利上げが金融システム不安につながった可能性を認めつつ、年内利下げの可能性は一蹴している。当面、予想すべきは「タカ派的な現状維持」であり、利下げを念頭に日米金利差の縮小を期待し、円高を当然視するような風潮はやはり危ういというのが筆者の基本認識である。
金利以前に注目しなければならないのは日本における需給環境の激変である。
この点も過去のコラムで論じているように、需給環境の激変を例示する数字はいくつかあるものの、象徴的なものはやはり日本の貿易赤字である。
既報の通り、貿易赤字は2022年通年で約20兆円を記録した。2023年に入ってからの3カ月間では約5兆円の赤字である。それでも多くの市場参加者は経験則を重視し、「米金利が相対的に下がってくれば円高になる」という説を支持してきたし、今もその考えを抱く向きは多い。しかし、少なくとも今のところそうなっていない。
もはや米金利低下だけで円高を期待する(円安を止める)のは難しいというのが筆者の認識だが、FRBが利下げに転換すれば、これほどの貿易赤字を抱えていてもやはり円高が始まるのだろうか。歴史的にも「巨大な貿易赤字の下での米金利低下」は円相場が直面したことのない状況であり、経験則に頼り過ぎるのは危ういように思う。
ちなみに、「実質」の世界では年初から途切れなく円安が続いている。
表面上は乱高下しているが実質的に続いている円安
内外物価格差を加味した実質実効為替相場(REER)ベースで円を見た場合、3月は75.15と年初来安値である(1月:77.26、2月:75.28、図表2)。名目実効為替相場(NEER)ベースでは1月で83.95、2月で82.84、3月で82.86と2月から3月で横ばいであるかのように見えるが、REERでは続落している。
   【図表2】
日本社会に暮らす市井の人々にとって、為替といえば、名目ベースのドル/円相場が真っ先に思い浮かぶところだが、国際社会に暮らす日本という国にとってそれはREERである。島国だからこそ海外から様々な資源を購入し、国内の経済活動に充てていかねばならない。その購入する資源はできれば安価で購入できることが望ましい。
しかし、海外から購入する財には当然、相手国の賃金・物価水準が反映される。極端な話、名目の世界で「1ドル=100円」という固定相場が続いても、米国の物価が上がり、日本の物価が横ばいという状況が続けば100円で買える米国の財は少なくなる。
理論的にはそうした物価格差を埋めるために円高・ドル安が進むはずであり、それを購買力平価と呼ぶのだが、その話は今回控えるとする。
いずれにせよ、一国の購買力とは名目為替レートからでは測れず、物価格差を勘案した実質為替レートから測るのが正しい。
重要なことは、年初に127円台まで円高になり、4月には137円台で推移するなど、ドル/円相場は相応に乱高下しているように見えるかもしれないが、「円の購買力であるREERは下がり続けている」という事実である。円の購買力は浮揚の兆しがない。
いつの間にか最強通貨に浮上したスイスフラン
主要通貨全体の中での円の立ち位置はどうなっているのか。
図表3は折に触れて本欄で参考にしているG7の名目実効為替相場(NEER)だ。昨年初から足元(4月下旬)までの推移を見ると、過去1年4カ月で初めて、スイスフランが最強通貨に浮上しているのが分かる。
   【図表3】
シリコンバレー銀行(SVB)の破綻やクレディスイスの救済・合併から市場不安がピークに達していた時、「金融不安への警戒からドル、スイスフラン、ユーロは買えず、消去法的に円が買われる。安全資産としての円が復活する」という言説が一時的に流行ったが、完全に読み違いだったと言える。
ロシアのウクライナ侵攻でも、3月以降の国際金融不安勃発でも、「安全資産としての円」はその存在感をアピールできているとは全く言えない。
この点、金融不安の震源地だったスイスフランが買われていることについて違和感を覚える向きもあるかもしれない。しかし、スイスフランは貿易黒字国である。スイスフランを追いかけるように上昇しているユーロも、同様に貿易黒字国だ(しかも、その水準は世界最大級)。
もっと言えば、スイスもユーロも連続的に利上げをしている通貨だ。スイスは2022年9月まで、日本とともにマイナス金利採用国として稀な存在だった。長い歴史において、「安全資産としての逃避通貨」とも言われていた国だ。
しかし、スイスの政策金利は既に1.50%に到達している(図表4)。円からすれば、スイスフランは需給で見ても、金利で見ても、仲間とは言えない。
   【図表4】
想定されるのは円キャリー取引の再来か
今後、FRBが利上げの手を止め、現状維持を基本路線とした時、金融市場全体のボラティリティは低下するだろう。その時に何が起きるだろうか。
流動性が高く、金利の低位安定が約束されている通貨を原資(調達通貨)として高金利通貨を買い、そのポジションを維持することで金利差を得るキャリー取引が奏功しやすくなるのではないか。
ちょうど2006〜2007年、円安バブルと言われた時代に流行った円キャリー取引の再来である。
今回も調達通貨として最も選ばれやすいのは言うまでもなく円だろう(もっとも、バブルと形容されるほど日本経済の過熱感が強まるとは思えないが)。そうした相場こそ、昨年来、筆者が強調してきたシナリオであるし、本コラムでの寄稿で論じてきたものである。今のところ、その想定に沿って実勢相場は動いている。
仮に、FRBが早期利下げに転じた場合、そうした円キャリー取引主導の円安という相場現象は期待できないだろうが、FRBが利下げしたからと言って上述したような日本の膨大な貿易赤字がなくなるわけではない。
金利と需給の双方から見て、円高が確信できるような状況が年内に実現するのは難しいのではないかと引き続き考えている。
●FRBに6月金利据え置きの余地、CPIが物価圧力緩和の兆候示す 5/11
4月の米消費者物価指数(CPI)で物価圧力緩和の兆候が示され、連邦公開市場委員会(FOMC)としては6月の会合で利上げを停止する余地が生まれそうだ。ただ政策当局者らが利下げを検討するには、インフレはなお高過ぎる状況にある。
4月の米総合CPIは前年同月比で4.9%上昇と、伸び率は2年ぶりに5%を下回った。また食品とエネルギーを除くコアCPIも伸びが若干鈍化。だがFOMCにとってより重要なのは、一部の重要なサービスコストの伸び鈍化だろう。航空運賃とホテル宿泊費は低下した。
アーンスト・アンド・ヤング(EY)のチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は「ざっと目を通したところでは、金融政策がさらにやや引き締められる可能性に傾いていることを示唆している」としつつ、「だが細部を見ると、大半の内容が利上げ停止の可能性が高まっていることを示している」と述べた。
市場は年内の利下げをなお予想している。複数の銀行破綻を受けた与信の引き締まりが影響し、景気が顕著に減速するとの懸念が背景にある。ただ4月のCPIデータからは、当局がインフレとの闘いで勝利宣言するにはなお時期尚早であることが示唆される。
ブルームバーグ・エコノミクスのチーフ米国エコノミスト、アナ・ウォン氏は「必ずしも安心できる内容ではないが、米金融当局者に6月の追加利上げを示唆させるほどの衝撃を与えるものでもない」と指摘。「しかしながら、コアインフレ低下のペースが遅いことは、年内利下げの可能性がいかに低いかを浮き彫りにする」と語った。
●年内利下げ期待はFRBの歴史と一致 市場の期待は決して的外れではない 5/11
市場は先週のFOMCを受けて、利上げ停止と年内利下げ期待を高めているが、本日の米消費者物価指数(CPI)の結果はその期待を正当化する内容との声も多い。CMEが公表しているフェドウォッチでは、6月の据え置きの確率が90%超になっているほか、7月の利下げ期待が35%程度に上昇。9月までであれば70%超に高まっている状況。
FRBはもちろんのこと、エコノミストの間でも年内の利下げに否定的な見解が多いが、市場の期待は根強い。一部からは、現状のインフレや米労働市場の状態を考慮すると、7月の利下げ開始は現実的ではないものの、市場が織り込んでいる9月の利下げ開始は十分に有り得るシナリオだという。
過去13回のFRBのサイクルで、最後の利上げから最初の利下げまでの期間の中央値もしくは平均値は4カ月か5カ月間だという。つまり、5月が最後の利上げと仮定した場合、9月か10月になる計算だ。ただ、10月はFOMCがないので、実質的に11月ということになる。
過去の経験則からすれば、市場の期待は決して的外れではないと指摘している。 
●爆発に向けたカウントダウン──米銀行の連続破綻は必然だった 5/11
週末に考え抜いた末の決定だった。
米金融当局は5月1日の月曜日の早朝、経営不振に陥っていたファースト・リパブリック銀行(FRC)を公的管理下に置き、事業の大部分をJPモルガン・チェースに売却すると発表した。FRCの破綻は、アメリカの銀行破綻としては史上2番目の規模だ。
これがFRCだけの問題なのか、それとも米金融界全体の危機を意味しているのかは、これから熱い議論の的になるだろう。いま確かなのは今回の破綻が、米金融界でいくつもの火種が爆発して起きていたカオスの延長線上にあるということだ。
3月上旬、カリフォルニア州に拠点を置くシルバーゲート銀行が暗号資産(仮想通貨)の下落などで経営状態が悪化し事業を閉鎖。
続いてシリコンバレー銀行(SVB)が高金利に加え、スタートアップ企業やワイン産業への融資に偏った事業内容が原因で破綻した。米金融機関としては2008年の金融危機以降、最大の規模だった。
さらにその後、ニューヨークを拠点とするシグネチャー銀行が取り付け騒ぎにより破綻。米政府は3つの銀行全てを管理下に置く決定を下した。
FRB(米連邦準備理事会)や米連邦預金保険公社(FDIC)などが迅速に動き、これら全ての銀行の預金を全額保護すると発表したが、一連の騒動の余波はヨーロッパにまで到達。メガバンクのクレディ・スイスが経営不安に陥り、ライバル銀行に救済される羽目になった。
この余波の中で何とか持ちこたえていた中堅銀行のうち、最も打撃を受けていたのがFRCだ。SVBが破綻した翌週、FRCの株価は1日で62%下落し、過去10年で最低の水準を記録。その後、FRBや大手銀行が資金注入を行ったが、事態は悪化の一途をたどった。
預金1000億ドル流出
FRCの健全性がさらに不安視されるなかで、S&Pグローバルが3月15日、FRCの格付けをジャンク(投資不適格)級に引き下げた。同22日にはFRBが金利引き上げの継続を決め、FRCの立て直しは絶望的になった。
FRCの顧客は懸念を募らせ、次々と預金を引き出した。第1四半期にFRCから流出した預金は、約1000億ドルに上った。
FRCは4月上旬に配当の支払いを一時停止すると発表。年初から4月末までに、FRCの株価は実に97%下落した。買収に前向きな企業はいなくなり、ついにFRCは公的管理下に置かれることになった。
FRCのビジネスモデルは、公的預金保険の限度額25万ドルをはるかに超える口座預金を持つ富裕層の顧客と、金利が上昇すると価値が下がる低利の住宅ローンによって成り立っていた。
一連の破綻についてFRBは、大手金融機関への監視が強まる一方で、より小規模な銀行が監視を免れたことなどが原因と分析し、規制改革を求める材料にするだろう。
今回の一件で、SVBの破綻から6週間以上が過ぎても、米金融システムがその打撃から立ち直っていないことがはっきりした。相次いだ破綻は「伝染」ではない。FRCという火種の爆発に向けたカウントダウンは、はるか前から始まっていたのだ。
●米、初のデフォルト現実味 債務上限の協議難航 ドル信認低下も 5/11
米政府の債務上限引き上げを巡ってバイデン大統領と野党・共和党の協議が難航し、米ドルの信認が揺らぐことへの懸念が強まっている。政府の運営資金が来月1日にも払底するのを前に協議がまとまらなければ、米国史上初のデフォルト(債務不履行)が現実味を増す。米主導の世界秩序を支えてきた「ドル一極体制」はさらに揺らぐことになる。
7日、イエレン財務長官は米テレビで、債務上限を引き上げられなければ、経済と金融の両面で「破滅的な結果」になると強い警告を発した。
どのような影響が予想されるのか。米メディアによると、政府職員の給与や高齢者向け健康保険、年金、退役軍人の恩給、州への補助金といった各種支払いが停滞するほか、国債の利回り上昇に連動してローン金利が高くなることが予想される。金融市場への打撃は避けられず、急速な景気後退や社会不安の引き金となる可能性もある。
政府が額面1兆ドル(約134兆円)のプラチナ硬貨を発行して当面の資金を調達するといったデフォルト回避案も浮上しているが、実現性は不透明だ。
さらに懸念されるのは、米国の威信に対する長期的な打撃だ。トランプ前政権で大統領副補佐官を務めたマット・ポッティンジャー氏らは米外交専門誌フォーリン・アフェアーズへの寄稿で、デフォルトの可能性が取り沙汰されること自体が米国の信用低下や各国のドル離れを招き、ドルを基軸通貨とする金融システムの弱体化につながると指摘。「中国やロシアが米国の弱みを突こうと狙っているときに米国の力を損なうことになる」と警鐘を鳴らした。
米国がデフォルトの危機に直面するのはこれが初めてではない。
バイデン氏が副大統領だったオバマ政権期の2011年にも、与野党対立の激化で債務上限を引き上げる立法措置が難航し、デフォルトまで数日の崖っぷちに追い込まれた。米格付け大手S&Pは米国債の長期信用格付けを最高水準の「トリプルA」から「ダブルAプラス」に1段階引き下げ。世界の外貨準備に占める米ドルのシェア低下に拍車がかかったと指摘される。
当時、下院の過半数を握る共和党で債務上限の引き上げに抵抗したのは、草の根保守運動「ティー・パーティー(茶会)」系の議員グループだった。現在の共和党で、デフォルトのリスクを盾にして影響力を振るう保守強硬派は、その流れをくむ。
バイデン氏とマッカーシー下院議長ら与野党幹部は12日に再協議に臨む予定だが、互いに歩み寄る姿勢はみえていない。
米国では、連邦政府が国債の発行などで借り入れられる金額の上限が法律で定められている。債務が上限に達した場合、新たに国債を発行するには議会での立法措置による上限の引き上げが必要となる。直近では2021年末、債務上限が2兆5千億ドル引き上げられて約31兆4千億ドルとなった。
今年1月にこの上限に達したことから、現在は財務省の特別措置などによる資金繰りが続いているが、同省は6月1日には資金が枯渇すると予測。新たに債務上限を設定して国債を発行できなければ、発行済み国債の利払いが不可能となり、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高いとみられている。
●米議会は債務上限引き上げを、G7は中国の威圧に対抗=財務長官 5/11
イエレン米財務長官は11日、31兆4000億ドルの連邦債務上限を引き上げ、前例のないデフォルト(債務不履行)を回避するよう米議会に呼びかけた。米国がデフォルトに陥れば、世界的な景気低迷につながり、世界経済における米国のリーダーシップを損なうことになると警告した。
新潟市で開催される主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議を控えた記者会見の準備原稿で述べた。
「デフォルトは、過去数年間われわれが懸命に取り組んできたパンデミック(世界的大流行)からの回復の成果を脅かすことになる。そして世界的な景気低迷を招き、われわれはさらに後退するだろう」と指摘。
また「世界経済における米国のリーダーシップを損なう恐れがあるほか、国家安全保障上の利益を守る能力にも疑問が生じる」とした。
この問題に対する共和党の瀬戸際戦略は「われわれ自身が作り出した危機」であり、デフォルトの脅威があるだけで米国の信用格付けの引き下げにつながる恐れがあるとの認識を示した。
住宅ローンや自動車ローン、クレジットカードの金利が上昇する可能性があり、6月1日頃に期限を迎える債務は既に金利が急上昇していると述べた。
財務省が国債を発行できなくなれば金融市場や企業、消費者信頼感は言うに及ばず米経済に「多大な」打撃を与えるとし、そのような事態は「考えられない」とした。
「そういう事態が有意の期間続けば非常に深刻な低迷に陥ると、あらゆる分析で示されている」と述べた。
G7は世界経済やウクライナ支援などが焦点に
G7会合について、世界経済を強化しインフレを抑えるための行動、ロシアの侵攻からウクライナを守るための支援の再確認、経済の回復力を高めるための長期的な取り組みなどが優先事項になるとした。
G7の大半で総合インフレ率が前年比で低下し成長見通しが改善したことに言及し、世界経済は下振れリスクがあるものの、6カ月前の大方の予想よりも良い状態を保っていると評価した。
米地銀3行の経営破綻を受けて米当局は銀行システムの信頼性を強化するための措置を講じたほか、インフラ、代替エネルギー、半導体への投資に関する法案を制定したと述べた。
同時に途上国を支援することも重要だとし、債務危機にある国に対して「タイムリーで包括的な」債務処理を進める取り組みをG7が調整するとした。
他のG7メンバーと協力して長期的に経済の回復力を高めると表明。そのために重要な商品の国内生産を促進し、途上国が国際供給網における地位を拡大するのを支援していくと説明した。
これは「(途上国が)単なる採掘産業から、国内経済と雇用により寄与する活動」に移行するのを支援することを意味すると述べた。この取り組みはG7の「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」を通じた6000億ドルの投資が基礎になるという。
中国の「経済的威圧」に対抗
またG7は地政学リスクの軽減や経済的威圧に対抗するための活動も継続するとし、外国の競争相手を支配しようとする中国の行為に対して米国は立ち向かうと述べた先月の講演に言及した。
イエレン氏は会見で、中国が他国に対して経済的威圧を用いることへの米国の懸念をG7の多くの国が共有しており、対抗手段を検討していると明らかにした。
米政府は対中投資に対して的を絞った制限を課す可能性を検討しており、G7でもこれまでに議論したと語った。米国は手段を最終的に決定しておらず、この問題に関してパートナー国と協調して取り組みたいと述べた。
米国が措置を講じるとすれば「国家安全保障に明らかに影響がある技術に(対象を)絞ったものになる」とした。期日の見通しは示していない。
米国政府はすでに、対米投資の審査や輸出管理などを通じて国家安全保障上の防護に取り組んでおり、対外投資に一定の規制を掛けるのは補完的措置だと説明。
「国家の安全保障に焦点を絞るべきというのが私の考えだ。たとえば中国の経済競争力や経済的進歩能力を削ぐことは想定していない」とした。
イエレン氏は、中国による海外の競争相手を支配する行為に米政府が対抗するとした先月の講演に言及し、G7と欧州連合(EU)が戦略地政学リスクや経済的威圧の緩和に取り組んでいくとした。
その上で、中国がオーストラリアやリトアニアに明らかに経済的威圧を行使しており、「それはわれわれ全ての懸念事項とすべき問題」だとした。
中国が最近、国内で活動するコンサルティング会社を調査していることは承知しているが、それが経済的威圧に当たるかどうかは分からないとした。
中国国営メディアは、技術や防衛など国家機密の窃取を防ぐために当局がコンサルティング会社に対する大々的な取り締まりに乗り出したと報じている。

 

●政策は制約的、物価抑制に十分かは不透明=ボウマンFRB理事 5/12
米連邦準備理事会(FRB)のボウマン理事は12日、インフレが高止まりすれば追加利上げが必要になるとの見方を示した。今月発表された重要指標は物価圧力の緩和を確認できる内容ではないと指摘した。
ボウマン理事は欧州中央銀行(ECB)で行う講演の原稿で「インフレが高止まりし労働市場がタイトなままであれば、インフレ低下に向け金融政策スタンスを十分制約的にするために追加的な政策引き締めが適切となる公算だ」とし「インフレを押し下げ労働市場の持続的強さを支える環境を作るうえで政策金利が十分制約的な水準にとどまる必要があると予想する」と述べた。
先週末発表の4月の雇用統計では雇用者数が予想を上回る伸びとなり失業率は53年ぶりの低水準となる3.4%に改善した。
今週発表の4月の消費者物価指数(CPI)は前年比の伸び率が2年ぶりに5%を下回り2021年4月以来の低水準となった。
CPI統計を受け、利上げ停止観測が台頭しているが、ボウマン理事は、雇用統計もCPIもインフレ低下を示唆する「整合的証拠」ではないと指摘した。
FRBの政策は既定の軌道上にはないとした。需要減退、求人減少、成長鈍化など、金利上昇の影響が出ている兆しがある程度見られると述べた。与信は引き続き厳格化するとみられ、最近の相次ぐ銀行破綻で経済見通しの不透明感が増したと指摘した。
「私の考えでは、われわれの政策スタンスは今や制約的だが、インフレを押し下げるのに十分制約的かは依然として不確かだ」とし「6月会合に向けて適切な金融政策スタンスを検討する上で引き続き今後出てくるデータを注視していく」と述べた。
●ボウマンFRB理事、追加利上げ必要−物価高と労働力逼迫根強ければ 5/12
米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は米物価圧力が弱まらず、労働市場に鈍化の兆候が見られない場合は金融当局として追加利上げを行い、しばらくの間高水準に据え置くことが必要になる可能性が高いとの見解を示した。
ボウマン氏はフランクフルトの欧州中央銀行(ECB)本部で12日に開かれるシンポジウムでの講演テキストで、「インフレが高止まりし、労働市場の需給が引き続きタイトな場合、十分景気抑制的な金融政策のスタンスを取るため、追加の金融引き締めが適切になる可能性が高いだろう」と述べた。
さらに、「インフレを鈍化させ、持続的に力強い労働市場を下支えする状況を生み出すために、政策金利をしばらくの間、十分景気抑制的な水準に維持する必要があると予想する」と指摘した。
その上で、経済の見通しが不透明で政策措置は事前に設定されたコースにはないため、6月13、14両日の次回連邦公開市場委員会(FOMC)会合前に公表されるデータを検討してから政策スタンスに関する立場を決めるつもりだと語った。
また、「今後の利上げや、どの時点で十分景気抑制的な政策金利スタンスを達成したことになるかを検討する際に、インフレが減速傾向にあることを示す一貫性のある証拠」の兆候を探ると説明した。
「失業率が低下し、賃金の伸びが続く中、インフレは引き続き非常に高過ぎる水準にあり、コアインフレの指標も高止まりし続けている」とし、直近の消費者物価指数と雇用統計では「インフレの減速傾向を裏付ける一貫性のある証拠は得られなかった」とも話した。
現在の政策スタンスについては「景気抑制的だが、インフレを減速させるのに十分な程度かどうかは依然はっきりしない」とコメントした。
FRBは4月28日、経営破綻したシリコンバレー銀行(SVB)の監督を検証する報告書を公表。同行破綻により監督の不備が露呈したと規制当局は指摘し、バーFRB副議長(銀行監督担当)は米金融機関に対する要件の抜本的な見直しを求めた。
ボウマン氏はこの問題について、第三者機関によるさらなる検証が必要だと指摘した。
●ウォラーFRB理事、気候変動がもたらす深刻な金融リスクはない 5/12
米連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事は11日、気候変動が金融の安定にもたらす明白な危険はなく、気候変動に伴う金融システムへのリスクに中央銀行が特別な注意を払う必要はないとの見方を示した。
同理事はマドリードの会議で、「気候変動は現実のものだが、それが大手銀行の安全性や健全性、あるいは米国の金融安定に深刻なリスクをもたらすとは思わない」と述べた。
「私の仕事は金融システムがさまざまなリスクに対し強靱(きょうじん)であるよう確実にすることだ」と説明した上で、「気候変動がもたらすリスクは、他のリスクと比べ特別な扱いを受けるに値するほど特殊でも重大でもないと考えている」と語った。
ウォラー理事は事前に用意した発言テキストの中で、米経済や金融政策の見通しには触れなかった。
●数字を見れば不吉な予感…アメリカ経済はリーマンショック時よりも悪化するかも 5/12
破綻3行の債務合計はリーマンショック時以上
米国の金融システムの動揺が一向に収まらない。
5月1日、米地銀ファースト・リパブリック・バンクが経営破綻した。破綻した米銀行の資産規模としては過去2番目だったが、米銀最大手JPモルガン・チェースによる買収が決まり、市場では「大きな混乱は回避された」との安堵感が広がった。
だが、翌2日の米株式市場で地銀株が軒並み下落した。特にカリフォルニア州を地盤とするパックウエスト・バンコープは一時42%安となった。
シリコンバレーバンク、シグネチャーバンクに続き、2カ月足らずで3つの銀行が破綻したことへの警戒感が強まっていることのあらわれだ。
最近破綻した地銀は「『スーパープライム』と呼ばれる信用力が高い富裕層を専門にしていた」という共通点があった(5月2日付日本経済新聞)。このことは経営上の利点とされてきたが、急速に利上げが進んだことで、富裕層がより高い金利が得られる別の銀行や投資先に逃げ出してしまったことが災いしてしまった。なんとも皮肉な話だ。
2008年のリーマンショックの際には信用力の低い個人向け住宅融資「サブプライム・ローン」の焦げ付きが問題となったが、今回の危機は全く違う様相を呈している。「金融危機は常に違う顔で現れる」という警句の正しさを痛感する今日この頃だ。
日本でも「再び金融危機が起きるのではないか」との懸念が生じているが、足元の状況で既に「リーマン超え」の数字が散見されるようになっている。
2008年のリーマンショック時は25行が破綻し、債務の合計は3736億ドルだったが、今年破綻した3行の債務の合計はそれを上回る5485億ドルに達している。
FRBに対する怨嗟の声は高まるばかり
預金の安全性を心配する米国民の比率もリーマンショック時を超えている。
米ギャラップが5月5日に公表した世論調査(4月3日から25日にかけて実施)によれば、48%が「(銀行などに預けているお金の安全性について)心配だ」と回答したが、この数字はリーマンショック直後の2008年9月時点の45%を上回った。
支持政党による違いも浮き彫りになっている。共和党支持者が「心配」と回答した割合は55%と民主党支持者(36%)に比べて高く、ギャラップは「現政権への不満と結びついている結果だ」と分析している。
米サプライマネジメント協会(ISM)が5月1日に発表した4月の米製造業景況感指数も47.1となり、好不況の節目である50を6カ月連続で下回った。リーマンショック後の記録に並んだが、この記録を更新されるのは確実な情勢だ。
相次ぐ銀行破綻が引き金となって米国で信用収縮(与信環境のタイト化)が起きており、製造業の資金調達環境が近年になく悪化しているからだ。
金融システムの脆弱性が意識される中にあって、頭が痛いのは米連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制を優先する政策を維持していることだ。
FRBは5月3日、0.25%の利上げを決定した。利上げのペースは1980年代以降で最速であり、政策金利は16年ぶりの水準に達した(5.0〜5.25%)。
FRBは利上げの停止を示唆したものの、長期にわたって高水準の政策金利を維持する事態となりつつある。4月の雇用統計で、非農業部門の就業者数が前月から25万3000人増加し、失業率が半世紀ぶりの水準(3.4%)となったことが明らかになっており、FRBが6月の会合で11回連続となる利上げをする可能性も排除できなくなっている。
5月3日の記者会見で銀行破綻が相次ぐ現状について聞かれたFRBのパウエル議長は「我々は間違いを犯したことは十分に認識している」と述べたが、市場からは「多くの地銀が破綻に追い込まれる水準にまで利上げをしてしまった」とFRBに対する怨嗟の声が高まるばかりだ。米国の金融システムの専門家も「4800に上る米銀の半数が破綻する.可能性がある」と警告を発している(5月7日付ZeroHedge)。
M2の減少が米国経済全体に悪影響を及ぼす可能性
にわかに想定しづらい事態だが、米国で大量の銀行が破綻した前例があるのは事実だ。1929年9月の米株式市場の暴落に端を発した世界恐慌のせいで、1933年の米国の国内総生産(GDP)は1929年の4分の3の規模にまで縮小した。
米国では多数の銀行が破綻に追い込まれており、預金引き出しを求める国民が「長蛇の列」を作るのは当たり前の光景となっていた。
この事態を重く見たルーズベルト大統領は就任直後の3月6日、4日間の全国銀行休業日(バンク・ホリデー)を宣言し、すべての銀行を閉鎖させて取り付け騒ぎを沈静化させた。米国人にとっては忌まわしい記憶だが、悪夢の再来を予感させる兆しがここにきて出ているのは気がかりだ。
FRBの利上げがもとで米国全体のカネの流れが不振となっており、3月のマネーサプライ(M2)が前年に比べて4.05%減少した。M2減少は第2次世界大戦後初めてのことであり、世界恐慌真っ只中の1933年12月以来、約90年ぶりのことだ。
マネーサプライとは世の中に出回っているお金の量全体を指し、現金や普通預金に加え、解約が容易で決済手段として使える金融資産(定期預金など)が含まれるM2が代表的指標とされている。
米国のM2は毎年増加するのが当たり前だとみなされており、2008年の金融危機や2020年のコロナ禍でも増えていた。このことからわかるのは、足元のM2減少は今後、米国経済全体に悪影響を及ぼす可能性が高いということだ。
「1930年代の悪夢が再来する」と断言するつもりはないが、米国経済がリーマンショック時以上の深刻な打撃を被るのは確実なのではないだろうか。
●世界経済の無法者・中国に、とうとうアメリカが「本気の怒り」を見せ始めた… 5/12
米経済政策の大転換点
米国のジェイク・サリバン大統領補佐官が4月20日、講演で自由貿易や規制緩和による市場重視の経済政策から、補助金を使った産業政策への大転換を宣言した。これは「新しいワシントン・コンセンサス」と呼ばれている。いったい、何を目指しているのか。
ジョー・バイデン政権の産業重視姿勢は、昨年8月9日に成立した半導体製造を支援するCHIPS法と、同じく16日に成立したインフレ抑制法が象徴的に示している。
前者は米国内で半導体を製造、研究開発する企業に、政府が5年間で総額527億ドル(約7兆円)の補助金を支給する。後者は電気自動車や再生エネルギーの普及など気候変動対策を中心に、10年間で3910億ドル(約52兆円)を投入する。
CHIPS法の効果はめざましく、米国や台湾、韓国、日本、英国などの半導体関連企業が補助金目当てで、続々と米国への投資計画を発表している。日本貿易振興機構によれば、昨年末時点で、その額は2000億ドル(約27兆円)に上る見通しだ。
米財務省は3月31日、電気自動車やPHV(プラグイン・ハイブリッド車)について、補助金の対象になる車種の条件を示した。CNNや米業界紙は税額控除の対象になる車種を具体的に報じている。車種によっては、最大7500ドル(約100万円)の控除を受けられるのだから、新車購入を考えている消費者には、朗報に違いない。
問題は、これらの政策が「米国への投資」と「米国企業」を優遇している点だ。半導体企業への補助金は米国での工場建設や研究所設立が対象になっている。電気自動車に対する税額控除も、基本的に米国内で部品を調達し、生産された車にしか適用されない。
日産やBMW、ボルボ、現代などの車は税額控除の対象から外され、実際に適用されるのはフォルクスワーゲンを除いて、テスラやフォードなど米国製の車ばかりだった。
新しい産業政策の理念
米国優遇の産業政策を支える理念を、サリバン氏はブルッキングス研究所での講演で「新しいコンセンサス」という言葉を使って、初めて包括的に説明した。以下のようだ。
〈第2次世界大戦後、米国は崩壊した世界に新たな国際経済秩序を導入した。それは数億人の人々を貧困から救い、技術革新を促し、多くの国を新たな繁栄に導いた。だが、過去数十年間にひび割れが入ってしまった。金融危機は中流階級に打撃を与え、疫病はサプライチェーンの脆弱性を暴露した。ロシアのウクライナ侵攻は、過度の依存が危険をもたらす事態を裏書きしている〉
〈いまや、我々は「新しいコンセンサス」を構築しなければならない。それこそが、バイデン政権が米国と世界で、現代の産業政策と技術革新戦略を追求している理由なのだ〉
彼は、なぜ「新しいコンセンサス」と呼んだのか。
過去30年以上にわたって「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる政策体系が、世界を支配していたからだ。それは、米シンクタンク、国際経済研究所(IIE、現PIIE)のエコノミスト、ジョン・ウイリアムソン氏が1989年に書いた論文で提唱した政策パッケージである。
パッケージは「財政規律の維持」「公共支出の優先順位付け」「税制改革」「市場で決まる金利」「競争力のある為替レート」「貿易自由化」「海外直接投資」「政府事業の民営化」「規制緩和」「財産権の尊重」の10項目からなっている。
ワシントン・コンセンサスは当時、債務に苦しんでいた南米各国が採用すべき政策の指針として提唱された。だが、やがて先進国の「世界標準」になって、世界の左翼勢力からは「市場原理主義」や「新自由主義」といったレッテルとともに「強者の論理」として攻撃の的になった。
「新しいコンセンサス」の内実
そんな経緯を念頭に置いて、サリバン氏は「かつてのワシントン・コンセンサスに対する決別」を宣言すると同時に「新しいコンセンサス」を唱えたのである。中身は次のようだ。
〈バイデン大統領は2年前、4つの挑戦に直面していた。まず、米国の産業基盤が空洞化していた。米国を活性化させた公共投資の将来像は消滅し、減税と規制緩和、民営化、貿易の自由化にとって代わられていた〉
〈2つ目は地政学的な安全保障上の競争である。過去数十年の国際経済政策は「経済統合が各国をより開かれ、責任あるものにして、世界秩序はもっと平和で協力的になる」という前提に立っていた。だが、そうはならなかった〉
〈中国は鉄鋼のような伝統的部門とクリーンエネルギー、デジタル基盤、最先端生物科学のような未来産業に巨額の補助金を与え続けた。経済統合は中国の軍事的野心を止められなかった。ロシアの侵攻も止められなかった。両国は責任ある協力的な国にはならなかった〉
〈3つ目は気候変動危機と公正で効率的なエネルギー改革への対応だ。最後が不平等とそれが民主主義にもたらす打撃に対する挑戦である。我々は働く人々に手を差し伸べるのに失敗した。豊かな人々が一層豊かになっている間に、米国の中流階級は失速した。オバマ政権の努力は共和党の反対で窒息させられた〉
過去をこう総括したうえで、本題に入っていく。
〈我々の経済政策の核心は「構築」だ。「国内でも海外の友好国でも、能力を作り、回復力を作り、包括力を作る」。それを我々は「中流階級のための外交政策」と呼ぶ。目標は米国と同志国が、強く回復力がある最先端技術の基盤を構築することだ〉
〈市場自由化を放棄するとは言っていない。貿易合意を求めていく。だが、問題は「関税引き下げをどうするか」ではなく「貿易が、どう我々の国際経済政策に沿うのか、そしてどんな問題を解決したいのか」が重要だ〉
〈強靭で多様なサプライチェーンを構築し、エネルギー改革と持続的な成長のために、公共と民間の投資を動員する。雇用を作り、デジタル基盤への信頼を回復し、法人税の引き下げ競争を止める。雇用と環境に対する保護を強化する。汚職と戦う。これらが根本的な優先事項だ。単なる関税引き下げではない〉
〈我々はWTOにコミットしているが、非市場経済国の慣行や政策がWTOの価値に挑戦している。労働者の利益を守り、正統な国家安全保障に対応するように、WTO改革に取り組む〉
〈最先端半導体技術の対中輸出を制限したのは、完全に国家安全保障上の理由からだ。中国が言うような「技術封鎖」ではなく、我々への軍事的挑戦を意図している少数の国を対象に、ごく限られた技術に焦点を当てたものだ〉
〈産業基盤と技術革新、クリーン・エネルギーへの投資に賭ける。国家の安全保障と経済的活力がかかっている。米国のすべてを費やし、同志国の政府、世界の人々と一緒に仕事をしたい〉
以上で明らかなように、サリバン氏が新しいワシントン・コンセンサスを提唱した最大の理由は、中国に対抗するためだ。
中国は軍事的脅威であるだけでなく、経済面でも米