令和のリーマンショック

令和のリーマンショック

シリコンバレー銀行 破綻
シグネチャー銀行 破綻
どうなる ・・・
 


3/13・・・3/16・・・3/20・・3/223/233/243/253/263/273/283/293/303/31・・・
4/14/24/34/44/54/64/74/84/94/10・・・4/114/124/134/144/154/164/174/184/194/20・・・4/214/224/234/244/254/264/274/284/294/30・・・
5/15/25/35/45/55/65/75/85/95/10・・・5/115/125/135/145/155/165/175/185/195/20・・・5/215/225/235/245/255/265/275/285/295/305/31・・・
6/16/26/36/46/56/66/76/86/96/10・・・6/116/126/136/146/156/166/176/186/196/20・・・6/216/226/236/246/256/266/276/286/296/30・・・
7/17/27/37/47/57/67/77/87/97/10・・・
リーマン・ショック・・・  
 
 
 

 

●米銀29位・シグネチャー銀行も破綻 預金全額保護 3/13
ニューヨーク州金融監督当局は12日、同州地盤の米銀シグネチャー・バンクの事業を同日付で停止したと発表した。10日に経営破綻したシリコンバレーバンク(SVB)に続く破綻となる。資産規模で全米29位のシグネチャー・バンクは米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入り、預金は全額保護される。
シグネチャー・バンクは暗号資産(仮想通貨)関連企業との取引で知られ、資産規模は2022年末時点で約1103億6000万ドル、預金は約885億9000万ドルあった。仮想通貨関連の取引が多かったシルバーゲート銀行の自主清算発表やSVB破綻を受けて、シグネチャー・バンクの信用不安も高まり預金流出が加速していたようだ。
財務省や米連邦準備理事会(FRB)、FDICは12日、シグネチャー・バンクの無秩序な破綻は金融システムを揺るがすシステミックリスクに該当するとみて、預金全額を保護する例外措置をとると発表した。預金保険の対象外の預金についても預金者に返還される。
●シグネチャー・バンクも破綻、米銀史上3番目の規模 預金者保護へ 3/13
先週末にはカリフォルニア州当局がシリコンバレー銀行を閉鎖し、2008年の金融危機で破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ2番目の規模の米銀破綻となっていた。
米財務省と銀行規制当局は12日に共同声明を発表し、シグネチャー・バンクの全ての預金者が保護され「いかなる損失も納税者が負担することはない」とした。
ニューヨーク州当局によると、昨年末時点でシグネチャー・バンクの資産は約1103億6000万ドル、預金は885億9000万ドルだった。
同行は現時点でコメント要請に応じていない。
FDICは12日、シグネチャー・バンクの顧客が13日に資金にアクセスできるようブリッジバンク(継承銀行)を設置したと発表した。シグネチャー・バンクの預金者や借り手は自動的に継承銀行の顧客となる。継承銀行の最高経営責任者(CEO)には元フィフス・サード・バンコープCEOのグレッグ・カーマイケル氏を起用した。
シグネチャー・バンクはニューヨーク、コネチカット、カリフォルニア、ネバダ、ノースカロライナ各州にオフィスがあり、商業不動産や暗号資産(仮想通貨)バンキングなど9分野で国内事業を展開していた。
昨年9月時点で預金残高の4分の1近くを仮想通貨業界からの資金が占めていたが、同業界関連の預金を80億ドル減らす方針を12月に示していた。
ニューヨーク州のホークル知事は、米政府によるこの日の措置が「銀行システムの安定性に対する信頼を高める」ことを期待すると表明。
「これらの銀行の預金者の多くは中小企業であり、イノベーション経済をけん引する企業も含まれる。彼らの成功はニューヨーク州の堅固な経済にとって重要だ」と述べた。  

 

●相次ぐ銀行破綻 アメリカで何が起きている? 背景に何が… 3/16
アメリカで3月10日から12日にかけて2つの銀行が経営破綻しました。破綻の規模は史上2番目と3番目という驚くべきもの。どうしてこのような規模の大きな銀行が破綻に至ったのでしょうか。金融当局はどのような手段を取ったのでしょうか。分からないことを、ワシントン支局の小田島記者とアメリカ総局の江崎記者が一挙に解説します。
破綻した2つの銀行はどんな銀行だったのですか?
3月10日に経営破綻した「シリコンバレーバンク」は総資産が2022年末の時点で、およそ2090億ドル、日本円でおよそ28兆円(※円相場1ドル=135円で計算)。アメリカの銀行の破綻としては、金融危機のさなか、2008年に起きた貯蓄金融機関、「ワシントン・ミューチュアル」の破綻に次ぐ2番目の規模です。最先端のIT企業やスタートアップ企業が集まる西部カリフォルニア州のシリコンバレーに拠点を置き、17の店舗を展開していました。
名前がシリコンバレーだからやっぱりIT系が強かったのでしょうか?
そうですね。1983年の創業以来、主にテクノロジー関連のスタートアップ企業や、スタートアップ企業に出資するベンチャーキャピタル向けの融資で知られていました。この銀行の資料によりますと、去年1年間にベンチャーキャピタルが出資するテクノロジーやヘルスケア関連の企業がアメリカで行った株式の新規公開のうち、44%がこの銀行の取引先だったということです。
「シリコンバレーバンク」はなぜ破綻したのですか?
いくつかの要因がありますが、
   1 貸し出し先の資金繰り悪化
   2 金融政策の影響
   3 SNSによる情報拡散
などがあげられます。
まず、1 貸出先の業績悪化(資金繰り悪化)です。取引先の多くがスタートアップ企業でしたが、立ち上げた新規事業が軌道に乗るため資金調達が必要になりますよね。2020年3月から新型コロナウイルスの感染拡大による経済のダメージを抑えるため、FRB=連邦準備制度理事会による大規模な金融緩和策が実施されました。それによって資金を調達しやすくなり、余った資金がシリコンバレーバンクの預金として増加する形になりました。しかし、2022年3月からFRBが急ピッチで利上げを進めると、状況は一変。借り入れの金利が引き上げられたことで資金が調達しにくくなり、株価も下落傾向となる中でIPO=株式の新規公開もしにくくなりました。IT関連銘柄の多いナスダックの2022年1年間のIPOの件数は161件と、2021年の752件の4分の1以下になっています。顧客のスタートアップ企業の資金繰りが苦しくなり、シリコンバレーバンクから預金を引き出したことが、銀行の経営を悪化させたと見られています。
金融政策の影響は大きいのでしょうか?
大きいと思います。さきほども言いましたようにFRBがコロナ禍で続けた大規模な金融緩和策、そして一転して急ピッチで進めた利上げ、これがこの銀行の経営に大きな影響を及ぼしました。FRBが大規模な金融緩和策に踏み切った2020年3月以降。緩和マネーがふくらみ、スタートアップ企業などの取引先はお金に余裕ができて「シリコンバレーバンク」の預金が増加したのです。2022年3月末時点の預金はその2年前と比べて3.2倍にまで急増していました。
預金が増えたらダメなのですか?
この銀行の場合、大量に集めた預金を国債や住宅ローン債券などで運用していました。しかし、アメリカでは記録的なインフレに見舞われたことから、FRBは2022年3月に利上げに踏み切り、その後も急ピッチで政策金利を引き上げました。政策金利が引き上げられると、その影響で、債券市場で取り引きされている国債などの債券の金利も上昇します。債券の価格は金利が上がれば下落する関係にあるため、2022年から債券の価格は下落傾向が続いていました。1でお伝えしたとおり、貸し出し先の預金の引き出しがあり、銀行としてはお金の手当てをするためには価格の下落した債券を売らないといけない状況になり、経営が悪化していったとみられているんです。
経営破綻とSNSって関係あるのですか?
ありそうなんです。銀行は債券の売却による損失を明らかにし、それが引き金となり、SNSなども通じて経営悪化への懸念が預金者の間で急速に広がったと見られてます。この銀行を傘下に置く持ち株会社は3月8日、国債などの債券を売却した結果、18億ドル、日本円でおよそ2400億円の損失を出し、公募増資を計画しているとを発表しました。これを受けて株価が大幅に下落。ツイッターなどのSNSでも経営が危ないとの投稿が広がり、顧客による預金の引き出しも加速したものとみられているんです。やはりSNSの情報伝達のスピードは格段に速く、それが危機を増幅した形です。
シグネチャーバンクのほうはどうですか?
3月12日に経営破綻しました。総資産は2022年末の時点でおよそ1103億ドル、日本円でおよそ14兆7800億円。アメリカの銀行の破綻として過去3番目の規模。史上2番目と3番目の銀行破綻がわずか3日の間に起きたことなります。シグネチャーバンクは2001年の設立で、ニューヨークに拠点を置き、40の店舗を展開。暗号資産関連の企業向けの融資で知られていたということです。
なぜ経営破綻したのですか?
2つの要因が指摘されています。
   1 米銀への不安連鎖
   2 暗号資産業界への疑心暗鬼
1 はシリコンバレーバンクの経営破綻によって、アメリカの銀行は経営が悪化しているのではないかとの疑念が強まり、信用不安が広がったことです。アメリカのメディアは、シリコンバレーバンクが経営破綻した3月10日に、シグネチャーバンクから多額の預金が引き出されたと報じていて、シリコンバレーバンクの経営破綻が、直接の破綻の引き金になったと見られています。2 は暗号資産業界に対する疑心暗鬼も背景にあると指摘されています。暗号資産業界では2022年11月に、暗号資産交換業大手のFTXトレーディングが経営破綻したことをきっかけに、信用不安が広がっていました。アメリカのメディアは、シグネチャーバンクが暗号資産関連企業向けの融資に力を入れていたため、経営の先行きへの懸念から預金を引き出していたと伝えています。3月8日に、FTXトレーディングと取り引きがあったアメリカの銀行持ち株会社、シルバーゲート・キャピタルが傘下の銀行の預金が大幅に減少したため、銀行の事業を清算する方針を明らかにしたことも顧客による預金の引き出しを加速させたと見られています。
相次ぐ銀行破綻にアメリカの当局はどう対応したのですか?
政府・金融規制当局の幹部の脳裏に深く刻まれているのが、2008年の金融危機、いわゆるリーマンショックです。銀行破綻に端を発した金融危機が、アメリカのみならず世界経済に甚大かつ深刻な打撃を与えたからです。こうした金融危機をなんとしても避けるため、アメリカ財務省などは異例の措置を取ります。本来、25万ドルまでしか保護されない預金を全額保護すると発表しました。2008年の金融危機でも取られなかった異例の措置です。
全額保護ってすごいですね。
本当に異例だと思います。日本でも普通預金は元本1000万円までとその利息は保護されますが、それ以上は資産の状況次第で、全額は保護されません。アメリカは本来、民間のビジネスに国が介入することを極端に嫌う国民性があります。規模が大きければどんな銀行でも預金は全額保護されるという前例を作ることになり、モラルハザードを生みかねません。それでも、異例の措置に踏み切ったのは、やはり金融危機を回避しなくてはならないという強い思いです。こうした対応をめぐって13日緊急で演説を行ったバイデン大統領は、「国民の税金が投じられることはない。株主は損失を被り、経営陣は解任される。これが資本主義の仕組みだ」と強調しました。国民に理解してもらいたいという思いでしょうね。さらに、ほかの金融機関で預金の引き出しが起きる事態に備えて、FRBが最後の貸し手として金融機関に資金を供給する枠組みを設けました。銀行の資金繰りを支援し金融システムの安定化につなげるねらいでした。
今後、影響はどこまで広がりそうですか?
最も警戒されているが、銀行の経営に対する信用不安が広がり、取り付け騒ぎのような事態になって預金が流出し、さらに銀行が経営破綻することです。さらなる銀行の経営破綻に歯止めをかけることができるかどうかが、当面の焦点となっています。
相次ぐ経営破綻によってアメリカの金融政策に影響が及ぶのでしょうか?
影響が及ぶことは避けられない情勢です。ニューヨークの金融市場では、相次ぐ破綻でFRBが銀行の経営への影響を踏まえて利上げのペースを緩めるとの見方が急速に強まりました。銀行の破綻が相次ぐ前には、インフレの収束に時間がかかるとの懸念が根強く、FRBが3月21日から22日にかけて予定されている金融政策を決める会合で0.5%の大幅な利上げに踏み切るとの見方が強まっていました。しかし、銀行の相次ぐ経営破綻で状況は一変。この会合では、0.25%の利上げか、もしくは利上げを止めるのではないかとの見方も広がっています。しかしインフレを収束させることはアメリカ経済の最大の課題の1つであり、簡単ではありません。銀行の経営に配慮して利上げのペースを緩めすぎれば、インフレが再燃して、アメリカ経済は厳しい状況に追い込まれることになりかねません。FRBは、利上げが金融システムに及ぼす影響をできるだけ抑えながら、インフレを収束させるという、いちだんと難しいかじ取りを迫られています。( ※為替はそのときどきの円相場で計算 )  

 

●NY州の銀行 シグネチャーバンクの預金など一部買収で合意 FDIC  3/20
アメリカのFDIC=連邦預金保険公社はニューヨーク州の銀行が今月12日に破綻したシグネチャーバンクの預金と資産の一部を買収することで合意したと発表しました。資産を引き継いでいたFDICに最大で3億ドル、およそ400億円相当が支払われます。
ニューヨーク州に拠点を置くシグネチャーバンクは暗号資産関連の企業向けの融資で知られていましたが、去年11月に暗号資産の交換業大手のFTXトレーディングが破綻し、今月にはシリコンバレーバンクが破綻したことから預金の引き出しが相次いで経営が悪化し今月12日に経営破綻しました。
資産規模は去年末の時点でおよそ1103億ドルにのぼりアメリカの銀行として過去3番目の規模の破綻でした。
シグネチャーバンクの資産はFDICが引き継ぎ買収先を探していましたがFDICは19日、同じニューヨーク州に拠点を置くニューヨーク・コミュニティーバンコープ傘下のフラッグスター銀行が預金と資産の一部を買収することで合意したと発表しました。
FDICには最大で3億ドル、およそ400億円相当が支払われます。
ただ、シグネチャーバンクのデジタルバンキング部門の40億ドルの預金は買収の対象外で、FDICはシグネチャーバンクの破綻によって現時点でおよそ25億ドル、日本円で3300億円の費用が生じるとしています。
●シグネチャー銀行の預金など、NY州の銀行一部引き受け 3/20
米連邦預金保険公社(FDIC)は19日、経営破綻したシグネチャー・バンクの預金と資産の一部について、ニューヨーク州地盤の銀行持ち株会社ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)が引き受けると発表した。資産取得の対価として最大3億ドル(約400億円)相当がFDICに支払われる。
シグネチャーは2022年末時点で約1103億ドルの総資産を持ち、全米29位の商業銀行だった。3月10日に同16位のシリコンバレーバンクが取り付け騒ぎで破綻するとシグネチャーからも預金流出が加速。12日に経営破綻し、FDICの公的管理下にあった。FDICは早期に資産売却先を確定させて、金融システム不安がいっそう広がるのを防ごうとしている。
FDICが管理していたシグネチャーの40店舗は、20日からNYCBの傘下銀行フラッグスター・バンクが運営する。シグネチャーのデジタルバンキング部門が持っていた約40億ドルの預金は引き受けの対象外という。
フラッグスターは、シグネチャーが保有していた資産約384億ドル相当も取得した。このうち129億ドル相当の融資は、27億ドルで取得した。売却後もFDICはシグネチャーが実施した融資約600億ドル相当を保有し、別途換金する方針という。FDICは、今回の資産売却によって預金保険基金に約25億ドルの費用が生じると見積もっている。
●米シグネチャー銀行をNYBC傘下・フラッグスター銀行が買収で合意 3/20
経営破綻したアメリカのシグネチャー銀行をニューヨークを地盤とするフラッグスター銀行が買収することで合意しました。
アメリカの連邦預金保険公社は19日、12日に経営破綻したシグネチャー銀行の資産についてNYCB(ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ)傘下のフラッグスター銀行が買収することで合意したと発表しました。
シグネチャー銀行の預金と債権の一部と40ある支店を買収し、その対価として最大3億ドル=およそ400億円を支払います。
一方、10日に経営破綻したアメリカのシリコンバレー銀行について一部のアメリカメディアはノースカロライナ州の銀行持ち株会社が買収を検討していると報じています。 

 

●銀行預金はリスクに見合うか?シリコンバレー銀行破綻で気づいた真実 3/22
経営不安が広がっていたスイスのクレディ・スイス・グループが同国のUBSに買収されることが決まった。行き詰まりの要因は異なるものの、米シリコンバレーバンク(SVB)の破綻をきっかけに広がった金融機関に対する経営不安は拡大している。当局による迅速な対応で、金融危機を防いでいるとの見方もあるが、筆者にはまだみえていないところで火種がくすぶっているとしか思えない。
シリコンバレー銀行のバランスシートを読む
3月はSVBなど米国の銀行3行が経営破綻(3月20日時点)し、スイスではクレディ・スイスがUBSに吸収されるなど、波乱の展開となっています。
前回の当コラム「シリコンバレー銀行破綻は氷山の一角、世界金融危機に発展してもおかしくない」で筆者は、次のように書きました。
「問題の本質は、銀行が預金の引き出しをカバーするため、含み損を抱えた債券等を売却せざるを得なかったことにあります」「長期金利が急騰していない日本を除けば、世界中の銀行が同じ悩みを抱えているのです。つまり、いつ世界的な金融危機に発展してもおかしくないということです」
そこで今回は、SVBのバランスシートの推移をみることで、破綻の経緯を振り返ってみます。
まずSVBの総資産と預金をみてみましょう。
急増した総資産と預金
2020年3月から21年末にかけて総資産は2.9倍、預金は3.2倍に急増しています(図1)。そうした急成長に管理体制が追いつかなかったことが今回の悲劇を招きました。
米預金保険公社(FDIC)のデータによると、同じ期間、米銀全体の総資産は1.2倍、預金は1.3倍の増加に留まります。SVBの増加度合いが爆発的だったことがわかります。
SVBはスタートアップとの取引が多いことで知られていました。資金調達によるスタートアップの余剰資金を受け入れて預金を増やしてきたのです。その結果、総預金残高は約1754億ドルに膨れ上がりました(FDICによる2022年末時点の残高)。
こうして集まった預金を銀行は寝かせておくわけではありません。融資にまわすなり、運用するなりするわけです。
コロナ禍の拡大による経済収縮懸念で融資の需要は見込めない状況が続きました。銀行の本業ともいえる貸出は同じ期間に1.9倍に留まり、預金の伸び率を大幅に下回りました。貸出は審査などで手間がかかり預金の急増と比例して増やすわけにはいかないという面もあるでしょう。
そこで余剰資金は国債や政府機関債の投資に振り向けたのです。
株価は5倍になったが
預金が急増した20年8月末時点において、5年国債の利回りは過去最低の0.82%であり、3カ月CD(譲渡性預金)の金利0.09%をはるかに上回っていました(図2)。
FRBが資金を潤沢に供給する中、「預金金利が上がってもたかがしれている。貸倒れリスクなし(の国債投資)で0.7%ポイントの利ざやが入ってくるのは魅力的だ」と、同行の経営陣は考えたに違いありません。
預金の多くを債券投資に振り向けた結果、預証率(債券残高÷預金残高)は20年3月の44%から21年12月には68%に上昇しました(図3)。その結果、資産全体に占める債券の割合も37%から61%に急増しています(図4)。
株式市場もそんなSVBのビジネスモデルを評価し、株価は約5倍に急騰したのでした(前出の図1)。
つまり、SVBはコロナ禍以降の量的緩和とITブームの恩恵を最大限、享受した銀行だったのです。
だが宴はそこまででした。
22年3月をピークに預金が減少へ
21年11月、ハイテク株主体のナスダック総合指数のピークとほぼ同時に、SVBの株価も天井を打ちます。
決定打となったのは22年2月のウクライナ戦争の勃発です。その翌月、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに踏み切ったのです。
FRBは究極のインフレ要因である戦争という事態に対処したのですが、以来、長短金利の上昇に弾みがつき、リスクフリーだったはずの米国債は多額の含み損を抱えるようになりました。そして国債価格の下落に伴ってSVBの株価も急落し始めるのです(図5)。
本来、債券は償還期限まで保有し、途中売却をしなければ、損失が実現することはありません。市場金利が上昇したとはいえ、調達コストである預金の金利はなおも0.5%程度に過ぎないのです。
あのリーマン・ブラザーズ出身だったSVBのリスク管理責任者は、そんな風に楽観していたことでしょう。
ところが、22年3月をピークにSVBの預金が減少し始めました。
資金繰り穴埋めの増資発表で株価が急落
要因は2つ。1点目はSVBの顧客層であるハイテク業界が不振に陥り、売り上げの減少で預金を取り崩す企業が増えたことです。一方で多額の預金流入が期待される新規上場が少なくなりました。
2点目は、0.5%程度だった銀行預金から、4%を超えた短期国債に資金をシフトする動きが拡がったことです。
こうして預金の流出が加速しました。
22年3月末時点で資産は2200億ドル、預金は1980億ドルあったのですが、わずか9カ月後の22年12月末には資産が2120億ドル、預金は1730億ドルに縮小しています。資産が80億ドル減ったのに対し、預金はその3倍の250億ドルも減少したのです。
資金繰りが悪化した同行は、現金を用意するためにやむなく債券の売却に踏み切り、18億ドルの債券実現損が発生します。その穴埋めに増資を発表した途端、今度は株価が急落し、さらに預金が引き出されて万事休すとなったのです。
これがSVB破綻劇の経緯です。
破綻後、金融当局は、預金保険の対象となる上限(25万ドル)を超える分まで保護することを決定するなど、次々と異例の対応を繰り出して、火消しに動きました。それによって大混乱を招くような事態にはなっていません。現時点では。
全ての銀行と預金者を救済するとは限らない
ただ筆者は、SVBの失敗は他行より一足早く表面化しただけなのではないかと考えています。程度の差こそありますが、SVBと同様、債券の含み損を抱えた銀行はたくさんあるからです。
前回のコラムで指摘したように、米銀全体の債券含み損は6200億ドル(約84兆円)と、自己資本の28%相当もの規模となります。
今回の件では、民間企業で倒産リスクもある銀行の預金金利が0.5%程度なのに対し、世界一安全とされる米短期国債の利回りが4.8%もあることの不条理さに皆が気がついたのではないでしょうか。
そして、前述のように最終的には当局が保護するとのアナウンスを出しましたが、本来はSVBの預金の9割以上が預金保険の対象外であり、その部分は全て損失となる可能性もあったのです。
こうした現実を知ってしまった以上、今後は銀行預金から短期国債に資金をシフトする動きが加速する可能性があるのではないでしょうか。
なにしろ、期間3〜12カ月と銀行の定期預金と似たような期間が設定されている短期国債で運用すると、満期まで保有すれば元本が保証されるうえ、同じ期間の銀行預金に比べ10倍の利回りがあるのです。
今回は政府が国債を原資にSVBの預金者を救済しましたが、破綻する銀行が続けば、その限りではありません。そもそも米議会では債務上限の引き上げを巡って、与野党が対立しているくらいなのです。
日本の投資家も意識が変わる可能性
このことは「預金流出→資金繰り難→債券売却損の表面化→預金流出……」という形で金融危機が悪化する近未来を示している可能性があります。
巨額の債券含み損を抱えているのは欧州や日本の銀行も同じです。欧州や日本では長らくマイナス金利が続いていたので、その間に発行された債券はいずれも大幅に値下がりしているからです。
欧州はともかく、日本では短期国債の利回りはまだマイナスであり、預金の流出は簡単には起きそうにないようにみえます。
しかし筆者のもとには、公益財団や年金基金、そして個人投資家から、「(利回りが4%以上もある)米2年国債への投資をどう思うか」という相談が相次いでいることもまた事実なのです。 

 

●リーマン級「世界同時不況」が再び…アメリカ「銀行連鎖破綻」ではすまない 3/23
ついに始まった「金融危機」
米連邦準備理事会(FRB)など日米欧の6つの中央銀行は3月19日、銀行がドルの資金調達で支障をきたさないような安全網を拡充することを決定した。
市場が動揺する中、自力でドルを調達できなくなる銀行が増加することを懸念しての異例の措置だ。2008年のリーマンショック時にも同様の措置がとられた。
3月10日に米西海岸が地盤のシリコンバレーバンク(SVB)が破綻して以降、銀行不安が急激に広まった。12日に米東部ニューヨーク州のシグネチャー・バンクが破綻し、16日には米カリフォルニア州のファースト・リパブリック・バンクに対して米大手銀行が救済策(約4兆円規模の預金を拠出)を発表した。
震源地となったSVBの2022年末時点の総資産は約28兆円。リーマンショック時に破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ、米銀では過去2番目の規模だった。
この程度で破綻するのか…
その規模以上に驚かされたのはSVB破綻の顛末だ。
短期の預金を元手に長期の米国債等に投資していたSVBは金利上昇のせいで大量の含み損が発生してしまい、財務内容が急速に悪化した。市場関係者はこれを問題視したことで短期間に大量の預金が流出したため、業務停止に追い込まれてしまったという流れだ。
経緯だけ見ると「こんな原因で破綻する銀行が現在も存在するのか」と首をかしげたくなる。1980年に金利上昇が原因で銀行破綻が起きたことを教訓に銀行はALM(資産負債管理)を徹底するようになったことから、この種の事例は根絶されたとされてきたが、今回、先祖返りのような「金利リスクによる破綻」が起きてしまった。
市場関係者からは「長年続いた金融緩和の代償」との指摘が聞こえてくる……。
しかし、いま進行中の米金融危機は、余震にすぎない。リーマンショックの悪夢を呼び覚ます本当の震源は、欧州の不動産市場にあると筆者は見ている。
いったい、世界の金融で何が起きているのか。リーマンショック級の経済危機は、本当に起こるのだろうか。後編記事『米銀行破綻は大惨事の始まりに過ぎない…「不動産市場大暴落」で世界でリーマンショック再来のヤバすぎるシナリオ』でその懸念を詳しく見ていこう。
●銀行破綻相次ぐ中 アメリカが0.25%利上げ インフレ対策を優先  3/23
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は22日、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の誘導目標を0.25%引き上げることを決めた。米国内の中堅銀行の相次ぐ経営破綻で信用不安がくすぶる中、利上げの一時停止も検討したが、高止まりする物価の抑制を優先した。
利上げは昨年3月から9会合連続。政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は4.75〜5.00%と2007年9月以来の水準となった。同時に発表した利上げの最終到達地点の予想は、昨年12月に示した5.1%を維持。年内にあと1回の利上げが想定され、市場は次回5月を見込んでいる。
FRBのパウエル議長は会合後の記者会見で、信用不安の影響を見極めるため利上げの休止も検討したことを明かしつつ、現時点で「銀行システムは健全だ」と強調。インフレ対策を優先し「物価と(物価高騰の背景にある)雇用市場の指標が予想より高かった」と利上げに踏み切った理由を説明した。
米国の直近2月の消費者物価指数は前年同月比6%と高止まりが続き、パウエル氏は今月7日に利上げの再加速を示唆。しかし、シリコンバレー銀行の経営破綻を機に不安心理が広がり、中堅銀行を中心に預金が流出するなど信用不安が拡大した。これまでの利上げで銀行の保有債券の価値が下落したのも一因で、市場では利上げの一時停止の観測も浮上。FRBの対応が注目されていた。
世界的な金融大手クレディ・スイスの経営危機が表面化した欧州でも、欧州中央銀行(ECB)は16日に0.5%の大幅利上げに踏み切った。米欧ともに物価抑制を優先する形となった。
信用不安拡大の懸念はぬぐえず
物価高騰と金融不安の間で対応が注目されたFRBのFOMCは、ひとまず物価抑制を優先して0.25%の利上げを選択した。しかし、信用不安が再び拡大する懸念はぬぐえていない。FRBは物価高騰と景気後退に加え、新たに金融不安という課題も背負い、経済を急落させずに物価を抑制する道のりはさらに険しくなった。
米中堅銀の相次ぐ経営破綻を受け、FRBや財務省などは、破綻した2銀行の預金について、限度額を超えて全額保護すると表明。また、世界的な金融大手クレディ・スイスの経営危機を受けて、FRBや日本銀行など世界の主要6中銀は19日に、協調して米ドルの供給を増やす取り組みを発表するなど相次いで対策を打ち出した。
当局の取り組みを受けて株式市場は持ち直すなど信用不安は小康状態にあった。しかし、今後、健全な銀行や貸金業者が危険視されたり、財務悪化を恐れる銀行が融資を必要以上に制限する「信用収縮」が拡大する恐れも指摘されている。そうなれば、米国経済は想定以上に落ち込み、影響は世界に波及する。
実際、22日のニューヨーク株式市場は、FRBのパウエル議長が記者会見で「利下げは想定していない」と発言すると株価が急落するなど神経質な値動きが続き、動揺が収まっていないことを示した。パウエル氏は信用不安や信用収縮の行方に「警戒が必要だ」と語り、今後のかじ取りの難しさをにじませた。
●FRB、0.25%の利上げ決定 銀行の混乱でインフレ対応が複雑化 3/23
米連邦準備制度理事会(FRB)は22日、政策金利を0.25%引き上げることを決めた。FRBは金融の安定性に対するリスクに対処しつつ、根強い高インフレへの対応も試みている。
投資家やエコノミストの間では、銀行部門の混乱にもかかわらず0.25%の利上げを予想する声が広がっていた。
ただパウエル議長らは今回、金融システムを取り巻く環境が変化し続け、異例なほど不透明性が高まる中で連邦公開市場委員会(FOMC)に臨んだ。
FRBのインフレ対策はここ数週間で大幅に難しくなっている。複数の銀行が経営破綻(はたん)したことで、金融危機の可能性をにらみつつ高インフレや労働市場のひっ迫に対応せざるを得なくなったためだ。
FRBは会合の最後に発表した声明で、最近の金融市場の混乱が経済の重荷になっていることを認めた一方、システム全体については信頼感を表明した。
声明では「米国の銀行システムは健全で強じんだ」「最近の変化により家庭や企業の信用状態が悪化し、経済活動や雇用、物価に影響が及ぶ可能性が高い。どの程度影響が出るかは見通せない」としている。
このところの銀行業界の混乱は、中央銀行の過剰対応が経済のリセッション(景気後退)を招く可能性だけでなく、さらなる銀行破綻の引き金となる可能性についても懸念も引き起こした。
その一因は、利上げが米国債などの有価証券の価値を損なうことにある。米シリコンバレーバンクは短期間でこうした債権を売って多額の損失を計上せざるを得ず、資金繰りが行き詰まって破綻した。
ニューヨーク連銀前総裁のビル・ダドリー氏はCNNに対し、「FRBはやや難しい状況にある」「物価高や労働市場のひっ迫が続いていることから、一方では引き締めを続ける必要がある。その一方で、銀行システムへの負荷をこれ以上悪化させないようにしたい」と指摘。「正解がない状況だ」との見方を示した。
●米FRBが利上げ、銀行破綻による不安の中 3/23
アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は22日、0.25パーセントポイントの利上げを発表した。これにより、アメリカの政策金利の誘導目標は、2007年以降で最高水準の4.75〜5%となった。
銀行の破綻が相次ぐ中で金融不安が高まるとの懸念があったが、FRBは銀行システムは「健全で弾力性がある」と説明。一方で、向こう数カ月は銀行破綻の影響が経済成長にダメージを与えるだろうと警告した。
FRBは物価を安定させるため、借り入れコストを上げている。
しかし、昨年から続く急激な利上げにより、銀行システムに負担がかかっている。
アメリカでは今月初め、シリコンヴァレー・バンク(SVB)とシグネチャー・バンクが相次いで破綻。高金利による問題も、その一端だった。
各国当局は、一連の破綻が広範な金融の安定を脅かすとは考えておらず、インフレを抑制するための努力から目をそらす必要はないとしている。
欧州中央銀行(ECB)は先週、政策金利を0.5パーセントポイント上げると発表した。
英イングランド銀行(中銀)も23日に政策金利について決定を下す予定。イギリスでは2月のインフレ率が10.4%と、市場予想を大きく上回って上昇した。
FRBのジェローム・パウエル議長は、FRBは引き続きインフレとの闘いに集中すると説明。SVBについては、強力な金融システムにおける「異常値」だと表現した。
しかし、最近の混乱が成長の足かせとなる可能性は高く、全体の影響も不透明だと認めた。
FRBの経済見通しによると、アメリカの今年の経済成長率はわずか0.4%、来年は1.2%。通常よりも大きく下がっているほか、昨年12月の前回見通しからも下方修正された。
また、向こう数カ月は「継続的な」利上げが必要であるとしていたこれまでの意見もトーンダウンしており、今回は「いくつかの追加的な引き締め策が適切になるかもしれない」とした。
政策金利が高くなると、住宅購入や事業拡大に向けた融資、その他の債務でのコストが高くなる。
こうした活動を高値にすることで、FRBは需要を抑制し、物価を下げようとしている。
利上げの効果はアメリカの住宅市場で出始めており、昨年は住宅購入が大きく減り、今年2月には住宅価格の中央値が10年以上ぶりに、前年より低くなった。
しかし全体としては、経済は市場予想を上回って持ちこたえており、物価は健全とされる2%以上で上昇し続けている。
アメリカの2月のインフレ率は6%。食品や航空運賃などはさらに上昇率が高かった。
今後も利上げは続くのか
パウエル議長は銀行破綻が起きる以前、インフレをめぐる現状の収束には、予想以上に金利を引き上げる必要があるかもしれないと警告していた。
FRBは今年インフレ率が低下すると予想しているが、数カ月前の予想よりも下げ幅は低い。
それでも、FRBは2023年末の政策金利について、昨年12月の予想と変わらず5.1%になるとみている。つまり、近く利上げをやめる可能性が示されている。
パウエル議長は、このところの混乱は「利上げと同様のものだ」と説明した。
また、金融システムの混乱が銀行の貸し出し制限を促し、経済減速に拍車をかけるなら、FRBは主要金利の引き上げにあまり積極的でなくなるかもしれないと述べた。
しかしその上で、インフレとの闘いを躊躇(ちゅうちょ)するつもりはないと繰り返した。
「我々はインフレ率を2%まで下げなくてはならない(中略)それには実質的なコストが伴うものの、失敗した場合のコストの方がはるかに高い」
●FRB議長「銀行システム安定へあらゆる手段」会見 3/23
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は22日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で「インフレ率は依然として高い水準にある」と述べ、引き続き政策金利の引き上げ方針を示した。主な発言と質疑応答は以下の通り。
本日、FOMCは政策金利を0.25%引き上げることを決めた。直近の経済指標は予想以上に強かった。これらは経済活動とインフレの勢いを映す。一方、我々はここ2週間の銀行システム不安により企業や家計の与信条件が逼迫するとみており、経済にも波及する可能性がある。
経済全体への具体的な影響に関する予測や金融政策による対応をするのはまだ早いが、我々はインフレ抑制のために継続的な利上げが適切だという立場を変える。今後は経済指標を注視し、適切であれば追加の金融引き締めをする。
銀行システムは健全
ここ2週間、いくつかの銀行で深刻な問題が発生した。問題を放置すればいずれ健全な銀行にも信用不安が波及し、金融システム全体が家計や企業の預金管理や貸し出しなどといった重要な役割を果たせなくなることは歴史を見ればわかる。
そこで、FRBは米財務省と連邦預金保険公社(FDIC)と協力し、米経済と銀行システムの信用を守るため確固たる行動をした。こうした行動は銀行システムの預金が保護されていることを証明する。FRBは財務省のサポートを受け、流動性と安全性を持つ銀行に限り必要に応じて資金の借り入れを可能とする緊急融資枠を設立した。
このプログラムは連銀貸出制度(ディスカウント・ウインドー)とともに、銀行による非常時の資金調達ニーズに応え、システムの流動性を保証する。銀行システムは高い流動性と資本を有しており、健全で強靱(きょうじん)だ。引き続き銀行システムを注視し、安定性を保つためあらゆる手段を行使する用意ができている。我々は今回の事態から学び、この先同じような事態が発生しないよう尽力する。
物価の安定が最優先
インフレは依然として高水準で推移しており、労働市場もなお逼迫している。我々は高インフレが引きおこす苦難を理解している。インフレ率を目標の2%まで抑え込むという我々の約束を果たすつもりだ。
物価の安定はFRBの責任だ。物価が安定しない経済は誰の利益にもならない。物価が安定しなければ、すべての人に恩恵をもたらす強い労働市場の環境を継続的に維持できない。
2022年の米経済は著しく鈍化した。23年1〜3月期の個人消費は伸びたものの、年末年始の不安定な気象が要因となった可能性がある。
対照的に住宅市場はなお弱い。住宅ローン金利が高止まりしたことが大きい。高金利と生産の成長鈍化が企業による設備投資に重くのしかかっている。
(FOMCの)参加者はおおかた控えめな経済成長が続くと予想した。経済・政策見通し(SEP)の概要にも記載されているように、23年の実質国内総生産(GDP)成長率の予想の中央値は0.4%、24年は1.2%だ。いずれも長期的な成長率の中央値を下回る。ほとんどの参加者がGDP成長率が下振れするリスクがあると予想した。
労働市場は依然として非常に逼迫している。雇用者数は過去3カ月で月平均35万1000人増加した。失業率はなお低く、2月は3.6%だった。労働参加率はここ数カ月でじわり上昇した。賃上げ圧力は解消する兆候が見られる。半面、求人はいまだ高水準だ。労働需要が供給を大きく上回る状況が続いている。
参加者は労働需給がいずれ均衡を取り戻すと予想している。賃金成長率の中央値は23年末は4.5%、24年末には4.6%となると予想した。
インフレは我々の長期的な物価目標の2%を大きく上回る。1月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年同月比5.4%上昇した。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアPCEは4.7%上昇した。2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6%上昇、コア指数は5.5%上昇した。直近の指標はインフレ圧力がなお強いことを示す。
――今日の利上げが銀行システムにさらにストレスを与える懸念は。
「そうは思わない。我々はマクロ経済に焦点をあてて利上げを実施している。銀行の信用状況に対しては連銀貸出制度や新規に設立した融資ファシリティーなどの金融システムを安定させるツールで対応する」
――米経済がソフトランディング(軟着陸)する可能性はあるか。
「足元で起きている出来事が経済にどれだけの影響を与えたかを語るのはまだ早い。問題は、今のような状況がどれだけ長く続くかということだ。長引けば長引くほど、与信環境の引き締まりなどが進む可能性がある」
――地銀からの預金流出を止めるなど現在の金融市場のストレスを止める上でFRBはどれだけ自信があるのか。
「銀行システムは健全で強靱だ。資本も流動性も強力だ。財務省とFDICによる強固な対応は預金者のお金が守られ、銀行システムも安全であることを示したものだ。銀行預金の流出入は1週間ほどで安定した。我々は徹底的な内部調査を実行中で、それによってどこで銀行の監督と規制を強化すべきか把握する」
利上げ停止の可能性も議論
――商業用不動産融資が金融市場に与える懸念が深まっている。中小銀で大きくローンを抱えている銀行もある。シリコンバレーバンク(SVB)のように銀行破綻につながるリスクとなるだろうか。
「(一部の銀行の融資が)商業用不動産に集中していることは認識している。ただ、SVBとは比較できないと思う。銀行システムは健全で力強く、強靱だ。資本も充実している」
――銀行システムのストレスを踏まえて利上げの停止を議論したか。
「会合前の数日間に利上げ停止の可能性も議論した上で、今回の決定に至った。これは極めて強いコンセンサスに基づく決定だ。これは労働市場とインフレが予想以上に強い状況だからだ。実際のところ今回の(銀行危機という)出来事以前は、昨年12月のSEP時に予想した以上に大きな利上げを継続していく必要があるようにみえた」
「2%のインフレ率まで物価の安定を達成するために我々が利上げをしていることに一般の人々も自信を示していた。この自信を維持し、言葉通りに我々がそれを実行することが重要だと考える」
与信環境の引き締まり、利上げと同等以上の効果も
「過去2週間の出来事は家計や企業の与信環境に圧力を与えるものであり、それが労働市場の情勢やインフレを抑制する効果があり、この金融市場の逼迫は利上げと同じ効果、あるいはそれ以上の効果があることは確かだ。もちろんそれを現時点で正確に分析することはできないので、我々は0.25%の利上げと声明文を『利上げの継続』から『追加利上げもありうる』という文言に変えた」
「今後はデータ次第だが、とくに与信環境の引き締まりによる影響を精査することが重要だ」
UBSのクレディ・スイス買収、「現時点ではうまくいっている」
――スイスの金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループの買収が決まったとき、安堵したのではないか。
「我々は皆さんの期待通りにスイス当局と関わってきた。うまくいかないかもしれないという懸念はあったが、結果として前向きなものになった。市場も受け入れており、現時点ではうまくいったと言える」
銀行監督・規制強化の必要性は明らか
――SVBの破綻を受けて、銀行監督や規制の改正を通じて米国民の銀行システムに対する自信を回復する必要があるか。
「SVBの資産管理は失敗した。ものすごいスピードで拡大し、銀行顧客は一定のグループに集中しすぎ、銀行の流動性と金利変動に大きなリスクを抱えていた。その結果、前例のないスピードで預金取り付けが起きた。我々監督当局がやることは、何がどう起きたかを調査し、その上で同じことが二度と起こらないようにすることだ。現時点で、その対策を私が示すのは適切ではない。バー副議長が議会証言し、調査の中身について情報公開していく。銀行監督と規制を強化する必要があるのは間違いない」
――ほかの銀行に同じような問題がないか自信を持っていえるか。
「問題は預金保険の対象でなかった預金の比率が大きく、資産のデュレーション(平均残存年数)リスクが大きかったというSVBの固有の問題で、銀行システムの弱さから来るものではない。銀行監督当局はSVBの問題を認識していた。それでも問題が起きた。これについて調査をする必要がある」
――パウエル議長はすべての預金者の預金が安全だと言及したが、預金保険が全預金を保護するということを意味するのか。
「私が言いたいのは、経済や金融システムに深刻な害を及ぼす恐れがある場合、預金者を保護する手段があるということだ。我々はその手段を使う用意があり、預金者は自分の預金が安全だと考えるべきだ」
FRBのバランスシート拡大は一時的
――FRBによる金融機関への支援は、バランスシートを縮小させていることと矛盾しないか。
「人々はそれぞれの方法で量的緩和(QE)や量的引き締め(QT)を考えるので、私の考えを明確にしたい。最近の世界的な(中央銀行による)流動性の供給は我々のバランスシートを拡大させることになったが、その意図や効果は長期債の購入でバランスシートを拡大させる場合とは全く異なる。長期債の大規模購入は、国債価格を上げ、長期金利を押し下げる、政策スタンスの変更を意味する」
「(直近の)バランスシートの拡大は、最近の緊張によって生じた特別な流動性需要に対応するための、銀行への一時的な融資によるものだ。金融政策のスタンスを変えることを意図していない。銀行システムに対する信頼を強化し、金融情勢の急激な収縮を食い止めるという意図した効果を発揮していると思う」
――銀行危機対策について。ディスカウント・ウインドーなど既にある枠組みではなくなぜ新たな融資枠を設けたのか。破綻したSVBとシグネチャー・バンクに1430億ドルがわたったようだが、預金保護におけるFRBの役割は。
「ディスカウント・ウインドーの枠組みでもかなり多くのことを実施している。緊急融資枠は特別な事情がある場合のみ利用できるもので、一定の要件を満たす必要があるが、適切な枠組みだったと思う。我々はFDICと協力してブリッジバンク(承継銀行)に融資することにした。FDICが100%保証するローンなので、FRBには何のリスクもない」
独立した外部調査を歓迎
――FRBの内部調査において、あなたの役割は。
「銀行監督を担当するバーFRB副議長がこの調査を先導する。中身の報告を受けるだけで、調査に関わるわけではない。今回の銀行破綻がなぜ、どうやって起こったのかを明らかにする必要があると最初の週末にすぐに調査することで合意した」
――SVBの破綻を巡り、(議会が提案するような)FRBとは別の外部の調査が入ることに抵抗はないか。
「独立した外部の調査を100%歓迎する。銀行破綻に関する調査はもちろん歓迎だ」
銀行システムへのストレス、見極め必要
――「利上げの継続」と「追加の引き締め」の違いは何か。追加の引き締めとは利上げを意味するのか。
「追加の引き締めとは政策金利の引き上げを意味するものだ。ここで着目してほしいのは、『継続』から『引き締めもありうる』と変えた点だ。先行きが見通せない中で現在の銀行システムのストレスが経済にどれだけの影響を与えるかを見極める必要があるからだ。経済にあまり大きな影響を与えない可能性もある。一方でインフレ圧力が引き続き大きい場合、我々の対応は変わってくる。あるいは利上げが与信環境を大きく逼迫させる可能性もある。その場合は金融政策での対応は小さくて済むことになる。現時点で先行きはわからない」
――どのような状況になれば利下げは正当化されるか。
「金融情勢は従来の指標で見るよりも、より引き締まった状態にある。従来の指標は金利と株式に重点を置いており、必ずしも貸出金利を捉えているわけではないからだ。銀行の貸出状況などに焦点を当てれば、より引き締まっていることを示す指標がある。しかしどの程度深刻なものなのかが疑問だ。長引けばマクロ経済環境にも大きな影響を与える可能性がある。しっかり見極めて、政策決定に反映していく」
――今回の銀行危機を踏まえた上でのターミナル金利(政策金利のピーク)をどう予想するか。
「現在の銀行の状況が利上げと同等の効果を発揮する場合とそうではない場合で、対応が変わってくる。インフレ拡大と労働市場の逼迫が明らかな一方で、過去12日間に起こったことの信用市場への影響を分析するのは非常に難しい」
23年内の利下げ、考えていない
――市場は5月にもう一度利上げし、その後2023年中に利下げに転じていく見通しを織り込み済みだ。FOMCの参加者の見方との乖離(かいり)をどう考えるか。
「本日発表のSEPを見ての通り、参加者は比較的ゆるやかな経済成長や、労働市場の需給バランスの緩和を見込んでいる。インフレも徐々に鈍化すると考えられる。最も可能性の高いケースとして、そうなった場合、参加者は23年の利下げを考えていない。経済の軌道は不確実であり、実際に起こった事柄を政策に反映していく」
――インフレが高止まりすれば、必要に応じて利上げ再開を検討するのか。利上げが終わりに近づいていることで、手足を縛られているのだろうか。
「そんなことはない。現時点では、我々は与信環境の引き締まりが起こる可能性があると考えている。経済や需要、労働市場、インフレに影響を及ぼす。我々はこうしたすべての状況を注視している。我々は最終的にインフレ率を下げ2%に戻すために十分な引き締め政策をとるつもりだし、インフレは下がっていくだろう」
インフレ率2%の目標は据え置き
――インフレがしつこいが、より早く沈静化させるために財政面での支援は必要か。
「想定していない。FRBは物価安定に責任があるし、それを変えることはできない」
――FRBは正しいことをしていても、新型コロナウイルス下での財政支出によってインフレが長引いているのではないか。
「パンデミック(世界的大流行)対策が一段落するにつれ、支出は減少していった。当初はインフレの理由の1つだったかもしれないが、今はそうではない」
――2月の会合ではディスインフレーションという言葉を度々使ったが、現在もディスインフレーションは起こっているのか。
「モノのインフレは過去6カ月間に低下傾向になっているが、そのペースは望ましいほどではない。コアPCE指数の44%を占める住宅賃貸の価格は2月時点ではみられなかった低下傾向が出ている。一方で住宅以外の価格や労働市場はまだ軟化がみられない。与信環境の引き締まりと景気鈍化の関係についてはいろいろな議論があるが、問題は現在の与信逼迫がどれほど続くのかわからないことだ」
――23年末の政策金利が中央値で5.1%となったことは、23年の残りの期間を見通した際に、参加者は十分に金融引き締め環境にあるという認識で一致しているということか。引き締め終了の到達点からいまはどの程度離れているのか。
「我々は金融政策の効果をみている。銀行で起きている事象から与信環境の引き締めを目にしている。利上げと同じことを、利上げの代替方法で実施することも考えている。重要なのはインフレ率を2%まで低下させるのに十分な引き締め政策が必要ということだ。そのすべてが利上げである必要はなく、与信環境の引き締まりからくることもある。このような状況がどの程度続くかは非常に不透明で、当面は見守るしかない。我々は2%目標に向け十分努力をするし、誰もそれを疑うべきでない」
――経済見通しでは23年に失業率が4.5%に上昇するとのことだが、雪だるま式に高まる失業率をどう防ぐのか。
「(SEPは)労働市場が軟化し、需要が鈍化することで起きうるかもしれないという非常に不確実な見積もりだ。我々はインフレ率を2%まで下げなければならない。そのためにはコストがかかるが、インフレ抑制に失敗したときにかかるコストの方が大きい」
「歴史を振り返ると、中央銀行がインフレ率を元の水準まで戻し、インフレ期待が安定していることを確認しない限り、不安定な年が続くということが分かるだろう。そうすると資本を投じることも難しくなり、経済がうまく機能しなくなる。我々はそのような事態を避けるために、インフレ率を下げることに重点を置いている。長い目で見れば、それがサービスを提供する人々に最も利益をもたらすことだとわかっているからだ」
●PPT(下落防止チーム)がウォーレン・バフェットと銀行危機について協議 3/23
2023年の目標は生き残ること(サバイバル)
ウォーレン・バフェットがバイデン政権の高官らと銀行危機について協議したことが、3月18日に分かった。米国ではこの週末に、FRB(米連邦準備制度理事会)と財務省の関係者(米大手金融機関)などが出席する「金融市場に関する大統領作業部会」が開かれた。バフェットへの接触もその一環である。PPT(下落防止チーム)が動いたのは2020年3月以来のことである。
バフェットは金融危機時に金融機関に投資を行い成功した。2008年の世界金融危機の際、ゴールドマン・サックス・グループ(GS)に50億ドルを出資した。また、バンク・オブ・アメリカ(BAC)は2011年にサブプライム住宅ローン絡みの損失での株価が急落した後、バフェットから資本注入を受けた。
バフェットは金融マフィアでもある。リーマンショックに続いて、規格外の安値で金融株をまたもや手に入れることになるのだろうか? ただ、本格的な金融危機というか、<金融システムの崩壊>はまだ先である。そのトリガーは利下げが引く。
クレディ・スイスは下降スパイラルに巻き込まれて破綻した。UBSがCSを二束三文の20億ドルで買収、SNBは1,000億ドルの流動性を提供、当局は株主投票を迂回させることを強行したという。
また、スイス政府はUBSグループに対し、クレディ・スイス・グループ買収に関連して発生し得る損失をカバーするため90億スイス・フラン(約1兆2,900億円)の保証を付与するという。
「スイス国立銀行はUBSに対して1,000億フランの流動性援助を行い、政府はUBSが引き継ぐ資産の潜在的損失に対して90億フランの保証を与える」という。これは、明らかに税金による救済措置で、もう資本主義経済とは呼べない状況である。
「クレディ・スイスは下降スパイラルに巻き込まれた
ゼロに近い金利でお金を借りることができ、すぐに利益を得られる「機会」が増殖するとき、過剰な借り入れと投機が「賢いこと」となる。このような「アニマルスピリッツ」が旺盛なマインドセットでは、大金を借りて、皆のポケットを満たす簡単な利益を追いかけることをためらうのは愚か者である。
これらの限界的な資産や企業に資本や生計を賭けていた人は皆、損害を受けることになる。金利が4%に上昇したときに利回り1%の債券を買った人は皆、痛い目に遭う。ほぼ無料の資本が永遠に流れ続けることを期待していた人は皆、傷つくだろう。」
クレディ・スイス銀行は、散々バブルに踊ってもうけて、破綻すると損失は税金で国民が救済する。こんなおいしい商売はないだろう。米国の銀行もそうだ。FRBは実質的にその6,000億ドル以上の預金を全て保証したことになる。
商業銀行は一銭も損しない。彼らは今、金融リスクを連邦準備制度に転嫁することができる。今回の銀行救済措置は大きな批判を呼び、昨日イエレンは破綻銀行の投資家保護を否定した。
SVBの下落(およびその後の銀行部門の混乱)は、このFRBの引き締めサイクルを逆転させる触媒になるのだろうか? 今回のFOMC(米連邦公開市場委員会)では辛うじて25bpsの利上げが行われたが、市場はその後利上げ停止や大幅な利下げサイクルが続くとみている。
   現在の米政策金利の進路に関する市場の予想
歴史的に見ると、利下げは過去の弱気相場における最悪の下落の前に行われたものである。
FRBが利下げに追い込まれたとき、市場は今より疑心暗鬼となるだろう。債券王のジェフリー・ガンドラックは、「株式市場は現在弱気相場であり、上昇する場合は売りで臨む」という。
ガンドラック氏は、S&P500種指数が3,200まで取引されると予測し、「2023年の目標は生き残ること(サバイバル)、そしてできるだけお金を失わないこと」と投資家に注意を促している。
   ナスダックと米2年国債金利の推移
   過去の弱気相場では、歴史的に利下げが最悪のドローダウンに先行している
FRBによるCOVID時代の住宅ローン市場への介入は、21世紀に入ってから2度目の不動産バブルをあおった。バブルは、FRBがMBSの購入を中止し、インフレに対抗するために金利を引き上げたことで終焉(しゅうえん)を迎えた。バブルの終焉により、FRBはすでにMBS投資で4,000億ドル以上の損失を出している。シリコンバレー銀行と同じではないか?
いずれにせよ、エブリシングバブルの崩壊はまだ終わりの始まりにすぎない。景気後退を引き起こさずにインフレの発生を封じ込めるのは至難の業である。
   2000年から2002年にかけてのNASDAQ弱気相場の上昇を「強気相場」だと思っていた方へ
   連銀と金融危機
長期的なスタグフレーションかデフレ不況のどちらかになるだろう
イエレンは2017年6月に、「私の目の黒いうちは、金融危機は起こらない」と豪語した。筆者のメルマガでは、Jim Quinn(ジム・クイン)の『IS THE U.S. BANKING SYSTEM SAFE? – 15 YEARS LATER』というコラムを取り上げたが、彼は、「銀行のCEOや政府のトップが「大丈夫だ」と言うのを見たら、丘の上に逃げて欲しい。彼らは嘘をついている。彼らはこの事態を予見していなかったし、どのような結末を迎えるのか見当もついていない」と、述べている。
ジム・クインの言うように、私たちは、次の世界金融危機の始まりにいるのであって、終わりではない。フォース・ターニング(第四の節目・危機の時代)は消え去ることはない。混乱と戦争のクレッシェンドへと発展していくのだ。この金融危機は、昨年から手招きされている軍事衝突の到来を告げるものだ。今こそ、腰を据えて、来るべき嵐に備える時である。
レイ・ダリオは、シリコンバレー銀行の破綻は「炭鉱のカナリアだ」と述べ、「初期的な兆候を示しているこの動きはベンチャー界のみならず、より広い世界に波及効果を及ぼすだろう。この銀行の破綻に続いて、もっと多くの問題が顕在化する可能性が高い。縮小はサイクルが一巡するまで続く。今はターニングポイントに近づいている」と警鐘を鳴らしている。
ロバート・スタークは、『経済的死のスパイラル』というコラムの中で次のように述べている。
「これは、インフレ、スタグフレーション、景気後退、潜在的な債務危機、さらにエネルギーやサプライチェーンの問題など、完璧な嵐である。
すべてのバブルを終わらせるバブル、あるいは大きすぎて潰せないステロイドのようなバブルで、FRBには2つの選択肢がある。資金供給量を減らして流動性危機を引き起こすか、インフレを引き起こすかだ。
利上げはこの2つの選択肢の中で最も悪いように見えるが、QEが復活すれば、これ以上の利上げは無駄である。QEと金利のコンボは、ピーター・シフが警告した、インフレによる金融崩壊のシナリオにつながるものだ。
しかし、ほとんどの場合、長期的なスタグフレーションかデフレ不況のどちらかになるだろう。これは誇張でもクリックベイト(虚偽・誇大広告)でもなく、恐慌は非常に現実的な可能性である。」
1971年、ニクソンの金ドル兌換(だかん)停止のとき、世界の債務は4兆ドルだった。ゴールドの裏付けがないため、無制限にお金を刷ることができるようになったのである。大金融危機が始まった2006年には、世界の債務は120兆ドルに達していた。2021年には、1971年の75倍の300兆ドルにまで膨れ上がっている。
   2025年から2030年の間に世界の債務が3,000兆ドルに達する!?
年金制度は、銀行と同じ長期国債を大量に購入し、巨額の損失を抱えている。年金制度も問題を抱え、債務を履行できなくなったという話を聞くのも時間の問題かもしれない。
上のチャートでは、2025年から2030年の間に世界の債務がなんと3,000兆ドルに達するという予測となっている。これは、シャドウバンキング(影の銀行)システムと、現在おそらく約2,000兆ドルの未払いのデリバティブを、中央銀行が大量の紙幣印刷で対処する必要があることを前提としているという。
FRBがコントロールを失うことで、アメリカ帝国は金利を支払う余裕すらなく、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性がある。いずれにせよ、全ての帝国は財政破綻して終わりを迎える。
   帝国のビッグサイクル
●日経平均は反発 金やビットコインは堅調に推移 3/23
日本の銀行やテクノロジー関連企業の株式が、日経平均株価の反発を後押しした。一方で、銀行破綻に対するヘッジとして金とビットコインが注目を集めている。
侍ジャパンがワールド・ベースボール・クラシック決勝でアメリカ代表チームを倒して優勝を飾った3月22日、それを祝うように日経平均株価が反発した。
日本の銀行株は堅牢に推移し、メガバンクはこの日2%を超える上昇を見せた。さらに、欧米で相次いだ銀行危機以降、金とビットコインが好調に推移している。
3月21日、米国では銀行破綻への懸念が落ち着いてきたために株価が上昇した。ジャネット・イエレン米財務長官は、より小規模な銀行でも破綻が連鎖するおそれがある場合には、再び全額保護の措置を講じる用意があるという考えを示した。このため、ファースト・リパブリックはおよそ30%急騰し、S&P500は1.3%、NASDAQは1.6%の上昇を見せた。
今後は、3月21・22日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)に注目が集まる。銀行セクターが抱える諸問題により、連邦準備制度理事会(FRB)はこの会合で積極的な利上げを実施しないとの見方が強く、引き上げ幅は0.25%である可能性が高いとされている。
3月22日時点で、米ドル/円相場は132円前後で推移している。
銀行株がけん引し、日経平均株価が反発
相次ぐ米国銀行破綻によって厳しい展開を強いられた3月第3週を終えた後、21日には春分の日をはさんで、翌22日の日経平均株価は1.93%反発し、27,466円で引けた。ワールド・ベースボール・クラシックで侍ジャパンが優勝したこともあり、お祝いムードが高まった。
銀行株では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)が3.08%高の850円80銭、みずほフィナンシャルグループ(8411)が2.27%高の1,867円まで上昇した。テクノロジー産業を支えてきた金融機関であるシリコンバレー銀行(SVB)が、3月10日に破綻したことを受けて銀行株は低迷していたが、現在は回復の兆しが見られる。
投資ファンドを通じて多くの米国テクノロジー関連企業に出資するソフトバンクグループ(9984)は、2.8%高となる4,987円で取引を終えた。トレーダーは、心理的節目である5,000円の大台に乗るかに注目している。
銀行破綻の懸念に対するヘッジとして金とビットコインが注目される
米国・欧州の銀行危機以降、金とビットコインが好調な推移を見せている。
金は古くから貨幣性資産として考えられ、高インフレや不確実な経済状況下で好調に推移する傾向がある。SVBの破綻以降、金は1オンスあたり1,812ドル前後から2,000ドル超まで価格が上昇した。一晩で1,944ドル前後まで価格を修正したものの、FOMCの会合を受けて大幅な株価変動が起これば、再び2,000ドルの大台に乗ることが考えられる。純金上場信託ETF(1540)は、3月20日に8,019円で取引を終え、3月22日には7,856円までやや下落したものの、現在もトレーダーに注目されている。
ビットコインは当初、ピア・ツー・ピアの電子マネーシステムとして開発された。このようなデジタル資産は近年、一部の投資家から、インフレや中央銀行の金融政策に対するヘッジとみなされている。ビットコインは最近、長期的な下落トレンドから脱した模様で、その価格は2021年11月10日に68,000ドルを超え、ピークを迎えた。
2022年11月、暗号資産通貨取引所であるFTX社の経営破綻を受け、上記の過去最高価格から75%以上下落し、16,000ドルを下回って底を打った。相次いだ銀行破綻がきっかけとなり、ビットコイン価格は3月10日の20,187ドル付近から上昇し、3月22日には27,307ドル付近で取引を終えた。
IG証券では、日本株・米国株など世界12,000以上の株式CFD銘柄を提供しております。日本株CFDだけでなく、IT、金融、自動車、ファッション、製薬、食品など、各業種を代表する世界の優良企業にも投資できます。
●22日の米国市場ダイジェスト:米国株式市場は反落、根強い金融不安くすぶる 3/23
22日の米国市場ダイジェスト / 米国株式市場は反落、根強い金融不安くすぶる
NY株式:米国株式市場は反落、根強い金融不安くすぶる
ダウ平均は530.49ドル安の32,030.11ドル、ナスダックは190.15ポイント安の11,669.96で取引を終了した。
連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表待ちで売り買い交錯し、寄り付き後はまちまち。連邦準備制度理事会(FRB)はFOMCで市場の予想通り0.25ポイントの利上げに踏み切った一方、最近の金融危機を受けた不透明感を考慮し、声明文を変更するなど柔軟な姿勢を見せたことが好感され、一時上昇に転換。しかし、パウエル議長が会見で必要となれば想定以上の利上げを示唆したため、過剰な利上げによる景気後退懸念が広がり再び下落。さらに、イエレン財務長官が政府は預金保護拡大を検討していないと言及すると、地銀を含め金融の下げが加速し、全体指数をさらに押し下げ。終盤にかけ下げ幅を拡大して終了した。セクター別では銀行や不動産の下げが目立った。
ゲーム販売のゲームストップ(GME)は在庫やコスト減少が奏功し、過去2年間で初めての黒字を計上し、上昇。航空機による人工衛星の打ち上げを手掛けるヴァージン・オービット・ホールディングス(VORB)は投資家からの資本調達を目指していると報じられ、上昇した。
地銀のパックウエスト(PACW)は年初から預金の20%が流出していて投資会社から資金を確保したとが報じられたほか、同業のファースト・リパビリック(FRC)もシリコンバレー銀行の破綻後の大量預金流出により身売りも含め様々な戦略選択肢に迫られているとの報道で、それぞれ下落。スポーツ用品ブランドのナイキ(NKE)は年末商戦を含む四半期決算の内容が予想を上回ったものの、過剰在庫や中国での売り上げが弱く、経済や消費に懸念を表明したため売られた。
住宅建設会社のKBホームズ(KBH)は取引終了後に決算を発表。1株利益が予想を上回ったほか、23年通期の見通しも強く、時間外取引で上昇している。
NY為替:ハト派的なFOMC声明でドル続落
22日のニューヨーク外為市場でドル・円は、133円00銭まで上昇後、131円01銭まで下落して、131円45銭で引けた。連邦準備制度理事会(FRB)は米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利(フェデラルファンドFF金利の誘導目標)を市場の予想通り0.25%引き上げ、4.75-5.00%に決定した。声明ではインフレが依然高く、雇用の伸びも加速したとしたものの、最近の金融混乱を受けて声明の文言を変更し利上げ停止の選択肢も残したため、利上げ停止に近づいたとの思わくにドル売りが加速。また、行き過ぎた利上げにより景気後退リスクが高まったとの見方を受けた長期金利の低下に伴うドル売りも強まった。
ユーロ・ドルは、1.0774ドルから1.0912ドルまで上昇し、1.0862ドルで引けた。ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁のインフレが高過ぎるとのタカ派発言を受けたユーロ買いが強まった。ユーロ・円は143円63銭まで上昇後、142円29銭まで反落した。ポンド・ドルは、1.2220ドルから1.2335ドルまで上昇。英インフレが予想外に加速したためポンド買いが優勢となった。ドル・スイスは、0.9246フランへ上昇後、0.9148フランまで下落した。
NY原油:続伸で70.90ドル、将来的な需給ひっ迫の可能性残る
NY原油先物5月限は続伸。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物5月限は、前営業日比+1.23ドルの70.90ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは68.89ドル-71.31ドル。アジア市場の終盤にかけて68.89ドルまで売られたが、ドル安を意識した買いが入ったことで一時71.31ドルまで上昇。米利上げ継続観測で米国株は下落したが、将来的な需給ひっ迫の可能性は消えていないことも買い材料となった。通常取引終了後の時間外取引では70ドルを挟んだ水準で推移した。
●「金融危機を繰り返さないように」米銀行破綻など金融不安に中国政府が苦言 3/23
アメリカの銀行が経営破綻するなどして金融不安が広がっていることについて、中国政府はリーマンショックを念頭に「2008年の金融危機を繰り返さないように」と苦言を呈しました。
アメリカのシリコンバレー銀行が破綻したことなどについて、中国外務省は23日の会見で「世界の金融市場に混乱をもたらした」と指摘しました。
そのうえで、アメリカに対して「透明性を高めてリスクや対応策など国際社会が関心を持つ一連の問題をはっきり説明してほしい」と求めました。
また、リーマンショックを念頭に「極端な政策調整による深刻な影響を避け、2008年の金融危機を繰り返さないよう促す」と述べました。
リーマンショックの際には中国政府が現在のレートで約80兆円の景気対策を行い、世界経済が回復したとされています。
●「連鎖倒産への懸念も払拭されていない」日経平均一時、200円超の値下がり 3/23
アメリカの利上げ発表を受け、午前の東京市場はどのような動きとなったのでしょうか。
世界の景気を左右する一大イベントを通過した直後の東京市場ですが、依然として重い空気が漂う中での取引となりました。
きょうの日経平均株価は一時200円以上値下がりするなど幅広い銘柄に売り注文が集まり、500ドル以上値を下げたアメリカ市場の流れを引き継ぐ形で午前の取引を終えました。
FRBの決定に加えて、アメリカのイエレン財務長官が「預金の全面的な保険に関しては議論や検討をしていない」と話したことで、新たな銀行の破綻など金融システム不安への警戒感は根強く、銀行や保険など金融関連の下落が目立ちました。
市場関係者も「利上げの長期化に加えて連鎖倒産への懸念も払拭されていない」と話していて、今後も、経済指標や要人の発言に大きく相場が反応する日々は続きそうです。 

 

●支援枠、導入10日で7兆円 銀行資金繰り、金融不安で  3/24
米連邦準備制度理事会(FRB)は23日、シリコンバレー銀行(SVB)などの破綻により新設した金融機関の資金繰り支援枠の利用が、導入から10日後の22日時点で536億ドル(約7兆円)になったと発表した。金融不安がくすぶる中、銀行が「最後の貸し手」の中央銀行に頼る姿が鮮明となった。
FRBはSVBが今月10日に破綻した2日後に、預金の全額保護と新たな資金繰り支援策の導入を発表。金融機関を対象に、米国債や住宅ローン担保証券を担保として最長1年の融資を提供する仕組みで、担保は含み損が出ていても額面で評価される。
●シリコンバレー銀行破綻による、ALM見直しへの期待 3/24
シリコンバレー銀行が3月10日に破綻し、2日後にはシグネチャー銀行も破綻した。その波は欧州にも波及し、老舗のクレディ・スイスが危機に陥り、UBSによる救済が検討されている。金融機関の危機がグローバルで続くのはリーマンショック以来の事態である。
シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻の詳細は、FRB(連邦準備制度理事会)のレポートなどから明らかにされるだろうが、現時点でも原因は、取り付け騒ぎによって資本不足を引き起こしたことにあったと言えるだろう。
背景には、真偽の定かではない特定の意見がSNSを通じて一瞬にして「事実」のように語られるようになったことや、オンラインバンキングの進展による資金移動のしやすさもあるだろう。だが根底にはALMの失敗がある。
ALMとは、銀行のように預金を預かる金融機関(保険会社の場合は保険払込金)に対するリスク管理の手法で、資産(Asset)と負債(Liability)を統合して管理することを指す。市場金利や為替、有価証券価格の変動に対しシミュレーションを行い、適切なリスク管理を図る銀行経営の基本とも言うべきものだ。
今回のケースでは、シリコンバレー銀行はFRBによる金利引き上げにより債券運用で評価損が発生していたことに加え、顧客は、預金引き出しの早い起業家や富裕層がメインだった。そのため個別状況を考慮したバランスシートになっているべきであったが、その管理が不十分もしくは出来ていなかったということだろう。これを見過ごした監督官庁にも問題の責任の一端はあると言える。
一方で、シリコンバレー銀行の破綻は、アメリカの金融機関全体の危機を招くようなシステミックリスクには陥っていない。これは、リーマン・ブラザーズに比べてシリコンバレー銀行の規模が大きくないこともあるが、リーマンショック以降適用された「バーゼルIII」規制に拠るところがある。
「バーゼルIII」規制では、1つの金融機関の破綻が連鎖しないよう、大手金融機関には一定程度の流動性を確保することを課している。具体的には、流動性の高い普通株式と過去の利益の積み重ねで構成される「CET1」と呼ばれる自己資本部分の保持水準を定めている。これによりシステミックリスクの発生確率は下がり、実際今回のケースで初めてその有効性が検証されたことになるだろう。
FRBがシリコンバレー銀行の預金全額保護の声明を出し、信用不安の払拭に努めてはいるが、ALMの管理が杜撰であれば今後も同様の破綻が続く可能性を否定できない。
「バーゼルIII」を規定するバーゼル委員会は欧州に本拠を置くが、システミックリスクを考慮して、新たに「預金引き出し」に対するリスク管理強化に動くことも想定される。これを機に、ALMが過去からのなあなあの踏襲となっていないか、最近のマーケット動向を適切に反映できているのか、といった観点で日本を含む金融機関において見直しが進むことを期待する。
●シリコンバレー銀行にクレディ・スイス…金融不安連鎖で急落「日本銀行株」 3/24
欧米で金融不安が広がっている。株式市場にどのような影響があるのか。楽天証券チーフ・ストラテジストの窪田真之さんは「米国で銀行株が軒並み急落、日本の銀行株も急落していますが、私は海外展開が進んでいるメガ銀行は買っていいと考えています」という――。
急落する日本の銀行株は買いか
米国でシリコンバレー銀行(総資産全米16位)、シグネチャー銀行(同29位)が破綻してから、欧米で金融不安が広がっています。米国で銀行株が軒並み急落、地方銀行の一部で預金の取り付けが起こっています。欧州ではかねてより経営不安が噂されていたクレディ・スイスの株価が急落し、UBSが救済合併に動きました。
欧米の金融当局は、信用不安の拡大を抑えるためにやれることは何でもやる姿勢ですが、金融不安はまだ収まっていません。
欧米の不安は、日本の銀行にとって「対岸の火事」でしょうか。日本の銀行株も急落していますが、買い場と考えていいのでしょうか。私は、三菱UFJフィナンシャル・グループなど海外展開が進んでいるメガ銀行は買っていいと考えています。その理由を解説します。
シリコンバレー銀行はなぜ破綻することになったか
シリコンバレー銀行(以下、SVBと表記)は、なぜ破綻に追い込まれたのでしょうか? クレディ・スイス(以下、CSと表記)は、なぜ救済合併が必要になるまで財務が悪化したのでしょうか、そこから解説します。
結論から申し上げると、SVBは米国の急激な金利上昇に備えができていなかったために破綻しました。CSは、投資銀行部門の暴走で財務が急激に悪化しました。どちらも特殊要因で信用不安に陥ったもので、日本の大手金融機関が現時点で同様の問題を抱えているとは考えていません。
日本の話をする前に、まずSVBの破綻原因を詳しく解説します。
   【図表1】SVB破綻の原因
SVBは、銀行ALM(資産・負債のリスク管理)の初歩ができていなかったために破綻しました。SVBは、テック系新興企業との取引で知られていました。テック系新興企業から預金を預かり、融資をする銀行でした。
ところが、テックバブルで、テック系企業にはベンチャーキャピタルなどから、巨額の資金が供給されていました。すぐに使う予定のない現金をたくさん持つ新興企業が、SVBに多額の預金をしていたため、SVBは預金過多で貸付金が不足していました。そこで、SVBは、期間の長いMBSや米国債など債券投資にのめり込んでいき、金利上昇(債券価格下落)で一気に財務が悪化しました。
通常、金利が上昇しただけで銀行は破綻しません。そうならないように、金利上昇リスクを管理しているからです。具体的に言うと、資産のデュレーション(平均運用期間)と負債のデュレーション(平均調達期間)の乖離かいりが大きくなり過ぎないように管理しています。それが銀行ALMの初歩です。
もう少しわかりやすく言うと、1年定期預金で集めたお金で30年の固定利付住宅ローンを出すようなことはしない、ということです。金利が上昇した時、調達(預金)金利だけ上昇して逆ザヤになるリスクがあるからです。このリスクを避けるため、日本の銀行は30年の固定利付住宅ローンを出したら、金利スワップを使って固定金利を変動金利に変換します。そうすることで、金利上昇リスクに備えます。SVBは、そんな銀行経営の初歩ができていなかったから破綻しました。
もう1つの破綻原因
SVB破綻のもう1つの原因は、負債サイド(預金)にあります。逃げ足の速い大口の法人預金中心に資金調達していたことも、破綻の原因です。信用が低下すると、すぐに預金の引き出しが集中しました。
銀行ALMにおいて、同じ流動性預金(普通預金や当座預金)でも、個人預金はデュレーションが長い(長い年月にわたって滞留する)ことがわかっています。出入りの激しい法人預金と違って、給与振り込みやクレジットカードの引き落としに指定された個人口座は、長期に滞留するので「コア預金」と呼ばれます。
預金保険制度の存在も、個人預金がコア預金となる要因です。銀行が破綻した場合、日本では1人1000万円まで、米国では1人25万ドル(約3300万円)まで、普通預金や当座預金の残高が保護されます(預金保険機構に加入している銀行)。個人預金は保証額を下回る金額が多いので、信用不安の噂が出てもすぐ引き出しに走ることはありません。ところが、SVBは大口の法人預金を中心に資金を調達していたため、信用不安の噂が出ると、預金の流出が増えて、資金が行き詰まりました。
急激な利上げが直接の原因
このように、SVBは、きわめてリスクの高い資産・負債構造を持っていたために、破綻することになりました。過去に例のないピッチで金利を急騰させたFRB(米連邦準備制度理事会)が、破綻の直接の原因を作りました。0.5%や0.75%など過去に例のない大幅な利上げを繰り返し、1年で一気に4.5%も利上げしたことが、SVBを追い詰めました。
年1%の利上げを4年連続で続けたとしても、SVBは破綻に至らなかったでしょう。年1%ずつの金利上昇ならば、それに対応する資産の入れ替えを少しずつ進めることができたからです。パウエルFRB議長は、2021年当時、米国のインフレは一時的と誤った判断をしていたために、金利引き上げの判断が遅れました。その分、過去に例のない急激な利上げが必要になりました。それが、SVB破綻を生じた直接の原因です。
クレディ・スイスはなぜ救済合併が必要になったか
SVBが破綻すると、信用不安が欧州に伝播しました。スイスで2番目の資産規模を持つ大手銀行クレディ・スイス(CS)の株価が急落、放置すれば預金流出が止まらなくなる危機に瀕しました。CSは破綻すると世界の金融システムに重大な影響を与える「国際的に重要な金融機関」に指定されています。破綻すればリーマンショックを超えるダメージが世界の金融システムに及ぶ可能性があります。
CSはなぜ急激に財務が悪化したのでしょうか? 巨大銀行の転落は、さまざまな複合要因が重なった結果です。近年、CSの不祥事が相次いで報道されていました。超富裕層のファミリーオフィスとの取引で巨額損失、不正預金の発覚、経営の混乱……。一連の不祥事の根幹にあるのが、投資銀行部門の暴走です。スイスの銀行が世界中の富裕層から秘密の預金を集めてビジネスをやってきた時代は終わりました。伝統的なスイス銀行のビジネスが衰退する中で、米国流の投資銀行業務を取り入れて収益を稼いでいこうとしたことが、巨大銀行の転落を早めました。
法令違反ぎりぎりのきわどい危険な取引
投資銀行部門の暴走で大手金融機関が破綻というと、2008年のリーマンショックを思い出します。リーマンショックの経験から、「国際的に重要な金融機関」には、厳しい自己資本規制が課せられ自己資本を危険にさらす取引は制限されることになりました。そのおかげで、リーマンショック以後、巨大金融機関の危機は起こらなくなっていました。
ところが、CSはその規制をかいくぐる形で危険な取引を繰り返し、財務を毀損きそんしました。CSは見かけ上、自己資本規制をクリアしていましたが、裏で法令違反ぎりぎりのきわどい危険な取引を繰り返し、財務を毀損しました。CSの転落を見ると、リーマンショックの亡霊がよみがえった感を覚えます。
危機拡大を防ぐためスイス金融当局は、すぐに動きました。CSに対し、スイス中銀は15日、最大500億スイスフラン(約7.2兆円)の資金供給を表明し、さらに19日にはスイスのトップ銀行UBSが、約4200億円(円換算額)で買収すると発表しました。通常これだけの大型買収を決める時、資産査定にかなりの時間をかけますが、急転直下で決まったのは、それだけCSの信用不安が深刻だったことになります。
「なんでもあり」の救済劇
UBSにCS買収を決断させるために、スイス政府は90億フラン(約1.3兆円)の損失補償をつけました。UBSがCS買収で損失を被った場合、最大90億フランまで政府が補塡ほてんするという内容です。さらに、もう1つ金融市場を驚愕きょうがくさせたのは、CSが資金調達のために発行していた劣後債の一種、AT1債160億スイスフラン(約2.3兆円)を無価値にすると発表したことです。株式に約4200億円の価値をつけておきながら、劣後債の価値をゼロにするというのは、きわめて異例の措置です。CSの預金者の不安を取り除き、預金流出を抑えるために、「なんでもあり」の救済劇が演じられました。
これで一件落着かと言うと、そうはいきません。CSの預金者を安心させるには効果があったと思いますが、代わりに世界中のAT1債保有者に強烈なダメージを与えました。世界中の金融機関がAT1債を使って自己資本を調達してきましたが、AT1債の信用が急低下したことで、今後は発行が難しくなり、銀行資本の調達に支障が生じる可能性が出ています。
また、CSのAT1債への投資家が、無価値化の決定にすんなり納得するとは思えません。これからCSを買収したUBSに対して訴訟が起こされる可能性もあります。CSをめぐる混乱は続きそうです。
「なんでもあり」の金融不安対策は、奏効するか
SVB・CSの危機を発端に、欧米の金融機関全般に危機が拡散しないよう、米政府は、なんでもありの対策を発動しています。
【1】SVB、シグネチャー銀行の預金を全額保護すると米政府が発表
預金保険機構による預金保護は1人当たり25万ドルまでだが、信用不安の連鎖を防ぐため全額保護としました。
【2】ファースト・リパブリック銀行にJPモルガンなど11行が資金支援
SVB破綻の連鎖で、カリフォルニア州のファースト・リパブリック銀行の株価が急落し、預金流出が深刻になりました。これに対し、JPモルガンなどが300億ドル(約4兆円)の資金支援を実施しました。米政府は、公的資金だけでなく、民間銀行の資金も使って信用不安を抑える姿勢です。
ただし、ファースト・リパブリック銀行の株価下落・預金流出は続いており、信用不安はまだ収まっていません。
それでもFOMCは利上げを実施
ただ、FRBは金融危機への対応よりも、まだインフレ抑制を重視する姿勢です。22日のFOMC(公開市場委員会)で0.25%の利上げを実施しました。金利上昇がSVB破綻のきっかけになり、信用不安を引き起こしていることに対して、配慮がありませんでした。パウエル議長は22日の記者会見で、「銀行の不安は、放置すると重大なシステム不安につながる」と認識を示したものの、「銀行システムは健全で回復力がある」と、危機が深刻化するリスクが低いとの認識を示しました。私も、このままリーマンショックのような危機に発展する可能性は低いと、現時点では判断しています。
過去の金融危機は、不良債権の拡大で起こりました。日本の1990年代の金融危機は、不動産バブルの崩壊で不良債権が拡大したことで起こりました。米国の2008年の金融危機(リーマンショック)は、米国の住宅価格が急落して、住宅ローン債権(サブプライムローン)が不良債権化したことで起こりました。
今まだ、米国の銀行で、不良債権が急拡大しているということはありません。金利上昇で、保有する米国債などに含み損が生じていますが、不良債権が拡大しない限り、金融全般の危機に広がる可能性は低いと考えています。
ただし、不良債権問題が今後、深刻になるリスクの芽はあります。米国の銀行の資金繰りが厳しくなり貸し渋りが発生していることから、オフィスビルなど不動産市況の下落が始まっていることです。貸し渋りの影響で、不動産市況の下落が加速すると、銀行全体に不良債権が拡大するリスクはあります。そのリスクへの目配りは必要ですが、現時点でそのリスクが高いとは考えていません。
日本のメガ銀行株は買い
欧米の金融不安をきっかけに日本の銀行株も急落しましたが、私は三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、三菱UFJと表記)などメガ銀行株について、買い判断を継続しています。
欧米の金融不安が、日本の銀行にとって対岸の火事と考えているわけではありません。リーマンショックの時と同様、直接的なマイナス影響は大きくありませんが、間接的には大きなマイナス影響を受けます。ただし、そのマイナス影響を勘案してもなお三菱UFJの株価は割安で、長期的な投資魅力は高いと判断しています。
メガバンク買いの理由【1】リーマンショックの影響レビュー
リーマンショックの時、欧米の金融機関が多数破綻しましたが、日本の金融機関への影響は大きくありませんでした。欧米の金融機関が破綻する原因となった北米住宅ローン債権に投資していた銀行は、日本にもあって損失は発生しましたが、日本の金融システム全体への影響は限定的でした。
日本の金融機関は、1990年代に深刻な金融危機を経験し、やっとそこから抜け出した後でしたから、財務的なリスクを拡大することに慎重でした。米国の住宅ローン債権に投資してしまった銀行があったのは、米国の格付機関がトリプルAなどの誤った格付をつけていたためです。信用リスクを取ることに慎重だったので、致命的なダメージを受けた金融機関はほとんどありませんでした。
ただし、リーマンショックを契機に、世界中の中央銀行が大規模な量的緩和を打ち出し、世界的に金利低下が進んだことで、日本の銀行も間接的に大きなマイナス影響を受けました。それに2014年に始まった黒田日銀の異次元緩和が追い打ちをかけました。日本の長期金利はゼロ近辺に沈み、国内商業銀行の預貸金利ザヤを圧迫しました。国内商業銀行業務の比率が高い、国内金融機関の多くが収益にダメージを受けました。
三菱UFJは、海外ビジネスや、投資銀行業務への多角化を進めることで、純利益8000億円から1兆円の高収益を維持してきました。ただし、リーマンショック以降、株価は長期にわたり低迷が続いてきました。低金利が収益にダメージを与える懸念が続いていたからです。
   【図表2】日経平均・三菱UFJフィナンシャル株の動き比較
メガバンク買いの理由【2】今起こっている欧米の金融危機の影響
今ある欧米の金融危機も、日本の銀行への直接的な影響は限定的と考えています。SVB破綻の原因となった米国の金利急騰は、日本の銀行にも影響しています。米金利急騰で、外債に含み損を抱える銀行が増えました。ただし、日本の大手銀行は今、全般的に不良債権比率が低く、保有する株式に含み益があるため、財務的な問題はほとんどありません。
日本には、SVBのように、ALMの初歩を踏み外した銀行も、CSのように投資銀行業務で過剰なリスクを負っている銀行も無いと判断していますので、今回の欧米の信用不安が日本の銀行に連鎖することはないと予想しています。
ただし、日本の銀行も、間接的に大きなマイナス影響を受ける可能性が出ています。今回の危機で、世界的に金利が低下しました。金利低下は、長期的に銀行の利ザヤを低下させる懸念があります。日本の銀行にとって影響が大きいのは、日本の長期金利が低下した影響です。
日本の銀行は、長期金利をゼロ近辺に固定する日銀の政策で、長らくダメージを受けてきました。昨年12月、日銀が長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた時、やっと国内商業銀行業務の収益性が改善する期待が出たことを好感して、日本の銀行株は急騰しました。
ところが、3月に入り、欧米の金融危機が伝播すると、日本の長期金利は一時0.25%に戻ってしまいました。0.5%への長期金利引き上げに喜んだのも束の間、また元の低金利に戻る懸念から、日本の銀行株は暴落しました。
   【図表3】日本の長期金利(10年国債利回り)と、東証・銀行株指数の推移
長期投資していく価値が高い
先行きのインフレがどうなるか不透明ですが、私は日本にもしぶとくインフレが定着すると予想しています。欧米の金融危機が収束すれば、また日本の長期金利にも上昇圧力が働くと予想しています。そうなると、三菱UFJの株価も見直されて反発していくと予想しています。
仮に長期金利が上昇しないとしても、三菱UFJは、海外ビジネスの拡大や、ユニバーサルバンク経営(投資銀行業務などへの多角化)で安定的に収益を稼いでいく力があると考えています。欧米の金融不安が収まるまで、不安定な値動きが続きそうですが、今の株価は割安で、長期投資していく価値が高いと判断しています。
●ECB、EU首脳会談で銀行の安全性強調へ 預金保険推進も要請 3/24
欧州中央銀行(ECB)は24日、スイスと米国の銀行が招いた市場の混乱を踏まえ、欧州連合(EU)首脳にユーロ圏の銀行の安全性を強調するとともに、域内共通の預金保険制度推進を呼びかける見通し。複数の関係者が明らかにした。
EUは23日から首脳会談を開いており、2日目の討議では財政・債務ルールの変更を含む経済問題が主な議題だが、クレディ・スイスと米シリコンバレー銀行の問題が域内銀行システムに与える影響を巡る懸念が焦点になるという。
関係者の1人は、ラガルドECB総裁がスイスの解決策を受け銀行問題について安心させる発言をし、「銀行同盟の完成と資本市場同盟の推進を首脳らに要請するだろう」と語った。
「彼女のメッセージはECBが金融政策にコミットしているものの、フォワードガイダンスはなくデータ次第というものになるとみられる」とも述べた。
ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のドナフー議長も銀行について同様のメッセージを送る見通しだ。
2人目の関係者によると、同氏は全般的に銀行は良好な状態で、資本流動性バッファーも十分だが、銀行セクターの混乱に見られたように安心している余地はないと述べる見通し。
また、銀行同盟の完成に向けた着実な進展を呼びかけるとともに、資本市場同盟については競争力にとって重要だとし、さらなる取り組みが必要と指摘するという。
「銀行同盟の完成」は域内共通の銀行預金保護制度である欧州預金保険スキーム(EDIS)の導入を意味する。
●イエレン米財務長官、預金保護について「必要あればさらなる措置講じる」  3/24
米国のイエレン財務長官は23日、米議会下院で証言し、経営破綻したシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行に対する預金の全額保護を巡り、「必要があればさらなる措置を講じる用意がある」と述べた。
イエレン氏は、2行への異例の措置について「銀行システムに対するリスクを軽減するためのものだった」と説明した。そのうえで、預金保護などの対応は「再び使用することができるツール(手法)だ」と述べ、預金流出などのリスクがあれば、追加的な対応をとる考えを示した。 
●一歩間違えば世界金融危機はすぐそこに!3月の米国0.25%利上げ? 3/24
米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)は、3月22日に0.25%の利上げを決定した。3月21、22日に開かれたFOMC(連邦公開市場委員会)において全会一致で決まった。既報したがシリコンバレー銀行(3月10日破綻)、シグニチャー銀行(3月12日破綻)があり、動向が注目されていたが結局「予定通り」インフレ抑制を優先させた小幅な利上げに踏み切った。アメリカの金融政策を決定するFOMCは年に8回行われて、その議論の中心は政策金利(上限)の設定である。2023年のその開催スケジュールは以下の通り。
第1回:1月31日・2月1日 / 第2回:3月21日・22日 / 第3回:5月2日・3日 / 第4回:6月13日・14日 / 第5回:7月25日・26日 / 第6回:9月19日・20日 / 第7回:10月31日・11月1日 / 第8回:12月12日・13日
2022年3月以降のアメリカの政策金利の推移は以下の通りだ。
3月+0.25→5月+0.5→6月+0.75→7月+0.75→9月+0.75→11月+0.75→12月+0.5→2月+0.25→3月+0.25
つまり2月24日のロシアのウクライナ侵攻の翌月の2022年3月から2023年3月まで実に政策金利がトータル4.75%アップしている。スタート時は0.25%だったから、現在の政策金利は5.0%だ。FRBのパウエル議長が目標に掲げているとされる5.0%には到達したのではないか、あるいは次の5月2、3日開催のFOMCで最後の0.25%利上げを行い、パウエル議長の考える利上げプロジェクト完了という見方が強いのだ。
金利が上がれば、マネーは株から債券にシフトするという定石通り、3月22日のNYダヴ平均株価の終値は3万2560ドル60セントから3万2030ドル11セントへ530ドル49セント、率にして−1.63%の下落。下落はしたが、まあ想定内の利下げだったと冷静な反応だったように思われる。むしろここで利上げをしなかったりしたら、逆にシリコンバレー銀行とシグニチャー銀行の破綻を重大視していると市場に思われるという動きなのではないかともとれる。パウエル議長は「シグニチャー銀行の破綻は経営の失敗が原因だ」と発言している。ちなみに翌日3月23日のNYダヴは+75ドル14セントで平静をとり戻している。
米国銀行2行の破綻以上に驚いたのは、スイスの第2位の投資銀行・金融サービスのクレディ・スイスが経営不安が強まり、同第1位のUBSに3月19日に約4500億円という安値で買収されるという「事件」が起こったことだ。クレディ・スイスの経営不安の表面化には、シリコンバレー銀行の破綻が大きく影響している。このクレディ・スイスの買収劇は、2008年リーマン・ショック(2008年9月15日)の時のBNPパリバの2007年の破綻を連想させる。リーマンブラザーズ破綻の原因にもなったサブプライムローンがBNPパリバの破綻の原因だった。今回のクレディ・スイスの経営不安も遠因はシリコンバレー銀行破綻ということでいずれもアメリカから災いはやって来ているのだ。
3月19日には、アマゾンが今年1月の1万8000人のリストラに続いて、9000人の追加削減の実施を発表した。わずか2カ月後に追加削減を発表するのだから、経営状況が急速に悪化しているとしか考えられない。どうも今後、リーマン・ショック並みの世界規模の金融危機があるとすれば、米国のIT産業の経営悪化がその震源になりそうな空気が漂い始めている。
こうしたアメリカ・ヨーロッパ経済の緊迫したムードをよそに、日本の株式市場は2万6500〜2万8700円のボックス相場がダラダラと続いている。
今後の動向としては、前述したように次のFOMCの会議のある5月2、3日までは日経平均株価、NYダヴ平均ともに基本的には一進一退の展開が予想される。しかし特に米国銀行に関しては、何か大きな動きがあることは警戒しておかねばならないだろう。一方日本では、4月9日付で植田和男日銀新総裁が誕生するが、その第一球がどんなものになるのかというのも焦点ではある。いずれにしても一歩間違えば、世界金融危機が勃発するという緊迫した状況が年内は続いていきそうだ。
●FRB議長「前門の虎、後門の狼」か、インフレ退治と金融危機の難題 3/24
歴代の米連邦準備制度理事会(FRB)議長のうち、故ポール・ボルカー氏はインフレ退治、ベン・バーナンキ氏は金融危機対応で記憶されている。現職のパウエル議長の場合、両方の役割を同時に果たさなければならなくなる恐れがあり、悪くするとどちらか一方を断念しなければならないかもしれない。
表面的に見れば、パウエル議長率いる米金融当局は今週、インフレ抑制のための政策金利引き上げという、過去1年間にわたり進めてきた政策を断行した。しかし、米地銀の連鎖的な破綻で世界の市場に動揺が広がって以降、実際にはあらゆる事態が変化した。
わずか数週間前の時点では、金融当局者の問題解決リストに金融安定への脅威が含まれることはほとんどなかったが、今や最上位に急浮上する勢いだ。パウエル議長ら当局者は1970年代のような狂乱物価の再燃防止が引き続き最優先事項だとしているものの、シグナルは変化しつつある。
今週の米利上げ幅は、シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻とUBSグループによるクレディ・スイス・グループ救済合併の前に予想されていた0.5ポイントではなく、その半分の0.25ポイントにとどまった。これに先立つ16日には欧州中央銀行(ECB)が計画通り0.5ポイント利上げに踏み切ったが、今後の動きについてはあまり多くを示さなかった。
先が読めないのは投資家も同じで、金融政策を巡る市場の見通しが過去数週間に大きく揺れ動いた状況に反映されている。それは、あと数回の米利上げを織り込んでいたものから、SVB破綻を受けて近いうちの利下げのシナリオに転じ、その後は極端な悲観論がやや弱まった状態にある。
「ゴルディロックス」と呼ばれる望ましいシナリオは、銀行が融資を抑制してバランスシートのてこ入れに動き、米金融当局のインフレ退治の仕事を一部肩代わりするのにちょうど十分な程度、金融状況が引き締まることだろう。
仮にそうなれば、パウエル議長が望むような形で過熱した景気を冷やすことになり、追加利上げの必要性もその分減ることになる。物価高の抑制と金融システム崩壊防止のための当局の手段が別々かつ効果的に機能することを意味する。
ただ、金融当局首脳にとっての基本的な問題は、極端な場合、インフレ抑制のための政策と銀行を支える政策が相反する方向に働くことだ。物価押し下げには追加利上げや銀行システムからの流動性吸収、銀行危機への対応には苦境に見舞われた銀行への資金供給や信用コストの引き下げが求められる。
そして危険なのはこれら両方が重なる最悪の結果となることだ。本格的な危機でリセッション(景気後退)となれば、金融当局はインフレとの闘いが完了しないままそれを途中で断念し、瀬戸際にある金融システムの支援を急ぐことになる。
状況悪化
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の米国担当チーフエコノミスト、アナ・ウォン氏は「インフレ退治と金融の安定性維持との間の緊張は連邦準備制度の歴史上、今や最も高まっている」と、過去140年間の米銀行危機についての分析を基にコメントした。
ウォン氏によれば、信用逼迫(ひっぱく)が十分なインフレ鈍化をもたらすには、「現在の危機が一段と大幅に悪化する必要」があるが、そのような事態に至らなければ、「市場は米金融当局の政策の軌道見通しを上方修正しなければならないだろう」という。
金融当局が現在直面している不愉快な選択肢は、当局自体にも一部責任がある。
事実上のゼロ金利の期間が長期化し、金融市場および経済全体で油断やリスクテークを助長することになった。当局がインフレ高進を認識するのが遅れたことで、その抑制のために急ピッチの利上げに動き、今になって問題が顕在化している形だ。
元FRB理事で、現在はスタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローのケビン・ウォーシュ氏は「超緩和的な金融政策が金融混乱の温床となった。政策の大掛かりな反転が引き金だ」との見方を示した。
2007−09年の危機後の金融制度改革に支えられ、金融システムは当面、イージーマネーの時代の終了に持ちこたえることができそうだ。暗号資産(仮想通貨)市場が暴落に見舞われても、大黒柱は頑強と見受けられる。
そうであっても、今では複数の銀行に緊張が広がり、金融混乱がその時々で以前とは異なる様相を呈する傾向が浮き彫りとなった。
極めて深刻
全米16番目の規模の銀行だったSVBは住宅購入者に高リスクの放漫融資を行っていたわけではなかった。SVBはその代わり、最も安全と想定される米国債を大量に買い込んだ。その後、米利上げで保有国債の価値下落と、顧客であるテクノロジー企業の預金ベースの悪化というダブルパンチを浴びた同行は連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれた。
次に崩れたドミノはクレディ・スイスだった。投資家は同行の脆弱(ぜいじゃく)性を何年も心配してきた。状況は突如悪化し、クレディ・スイスの株価は急落して、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドは大幅に上昇した。UBSが超安値での救済合併に乗り出し、クレディ・スイスのその他Tier1債(AT1債)は無価値化した。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)が世界のファンドマネジャーを対象に行った最新調査によると、投資家にとって、根強いインフレに代わりシステミックな信用イベントが市場に対する主要なリスクとして意識されていることが分かった。
BofAのグローバル経済調査責任者、イーサン・ハリス氏は「市場は極めて深刻な危機の真っただ中にあるような動きになっている。重大な金融イベントや深刻な景気悪化という悲観シナリオをとても重視している」と解説した。
一方で米当局は、状況を掌握していると主張している。それはまるで、15年前の金融危機に先立ち、当局が安心を呼び掛けていた様子に重なって見える。
銀行の自己資本や流動性を巡る状況が増強され、銀行システムは全体として当時よりも一段と強化されていると当局は指摘。これまでに目にした問題の多くは問題のあった金融機関特有のもので、より広範囲にわたる一層深刻な問題のサインではないと論じている。
かなり脆弱
この点に関して誰もがそれほど確信があるわけでない。FDICによれば、米国の銀行には昨年末時点で6200億ドル(約81兆円)相当の保有証券の含み損があった。経済学者のグループは13日に公表した論文で、大量の預金流出があった場合、さらに数百もの米銀が赤字になる可能性があるとの分析結果を示した。
それによると、最近の銀行資産の価値低下の結果、米銀行システムではSVB破綻につながったような保険対象外の預金取り付け騒ぎに対する脆弱性が著しく高まったという。
金融当局はまた、金融混乱とインフレ抑制のための別個の手段があり、いずれも同時に使用することが可能だという。これは1969年に最初のノーベル経済学賞を受賞したオランダの経済学者、故ヤン・ティンバーゲン氏の学説を想起させる。ティンバーゲン氏の理論では、政策担当者は別々の目的を達成するために異なる手段を活用する必要がある。バーナンキ元FRB議長がこのルールを2000年代に採用した。
現在に当てはめるとすれば、金融当局には苦境にある銀行を短期の流動性供給で支えることができる一方、インフレ抑制のために経済全体では借り入れコストを引き上げることになる。23日発表のデータでは、FRBが過去2週間に新設のものも含め各種ファシリティー経由で多額の資金供給を行ったことが示された。
金融当局のバランスシートはまさにこのような緊急事態に対処するためにあるが、量的緩和(QE)政策の下で膨らんだ保有債券の圧縮に取り組んでいることが問題だ。ここ2週間の流動性供給はこれまで進められてきた量的引き締め(QT)に実質的に逆行することになる。
パウエル議長は22日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の記者会見で、これを当局の政策スタンスの緩和と考えるべきでないとくぎを刺した。短期的な流動性供給と、長期金利の誘導を目指すQEやQTは別物という趣旨だ。ベテランのFRBウオッチャーの多くはこれに同意するものの、資産運用主体は先行きの金融緩和のシグナルだと受け止めている。
制御不能?
この結果、メッセージは曖昧となって市場を混乱させ、当局者がインフレを抑制していくのが一段と難しくなると、ウォーシュ元FRB理事は指摘する。年内利下げの計画はないとパウエル議長が繰り返しても投資家は無視し、利下げを織り込んだ形でトレーディングが行われているのがその好例と言える。
金融当局者は、現在の金融混乱の沈静化に成功したとしても、景気悪化を招く公算が大きい点は認めている。それがどの程度深刻なのかが重要だ。
パウエル議長は22日の利上げ決定後の会見で、金融状況の引き締まりが「1回ないしそれより多い利上げに相当する」可能性があるとしながらも、現時点での正確な評価は不可能だと付け加えた。
ウォール街をはじめとする各方面のエコノミストはその推計に努めており、BEのウォン氏がブルームバーグの米経済モデルSHOKを使って計算したところでは、これまでの銀行セクターのストレスは政策金利の0.5ポイント利上げに匹敵しそうだ。引き締め効果を1.5ポイントとする推計もある。
その答えがどのようなものであれ、米金融当局が微調整できるようなものではないという、根本的な問題は変わらない。パウエル議長ら当局者はインフレを克服し、米経済を安定的な成長に戻そうとしているが、その仕事ははるかに困難になった。
BofAのハリス氏は「米金融当局は理想としては、今のプロセスを注意深く管理できることを望むだろう。リセッションが一層深刻化し、制御が難しくなると不安になるのは当然だ」とした。

 

●米2銀行破綻 金融安定監視委“一部影響も銀行システムは健全” 3/25
アメリカで2つの銀行が相次いで破綻したことを受けて、財務省のイエレン長官が議長を務める「金融安定監視委員会」が開かれ、一部の銀行経営に影響が出ているものの、アメリカの銀行システムは健全だという認識で一致しました。
この委員会は2008年の金融危機を教訓に成立した法律に基づいて設置され、議長を務めるイエレン財務長官が、2つの銀行が相次いで破綻したことを受けて、24日開催を呼びかけ、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長などが出席しました。
委員会は非公開で行われましたが、財務省の発表によりますと、銀行業界の現状について意見が交わされ、一部の銀行が影響を受けているものの、銀行システムは安定し、健全だという認識で一致しました。
一方、FRBは今月9日から15日にかけて中小規模の銀行全体で1200億ドル、日本円で15兆6800億円※の預金が流出したと発表しました
また中小の銀行は、この期間におよそ2500億ドル、日本円で32兆6700億円※※借り入れを増やしていました。
2つの銀行の破綻によって預金者の間で大手銀行に預金を移す動きが広がったため、中小の銀行が資金繰りの強化に向けて“最後の貸し手”のFRBから借り入れを増やしたことが要因とみられます。
政府とFRBは金融不安を払拭(ふっしょく)するためあらゆる措置を講じる方針を強調していますが、市場の警戒感は続いています。
●米国株式市場=上昇、FRB当局者発言で銀行危機巡る懸念緩和 3/25
米国株式市場は上昇して取引を終えた。米連邦準備理事会(FRB)当局者の発言を受け、銀行セクターの流動性危機を巡る懸念が和らいだ。
欧州の銀行株が急落したことを受け、米主要3株価指数は序盤にいずれも大幅安となったが、切り返し、プラス圏で終了した。
FRBによる利上げや銀行システムの健全性を巡る懸念の高まりなどで今週は値動きの激しい展開が続いたが、週間では主要3指数とも上昇を記録した。
JPモルガン・プライベート・バンクのマネジングディレクター、デービッド・カーター氏は「米内外で銀行が再び炎上するのではないかという懸念がくすぶる中、株式市場は上昇に転じた」と指摘。「金利や銀行規制に関してウォール街は米国など各国当局から手がかりを得ている」と述べた。
米セントルイス地区連銀のブラード総裁は24日、規制当局の「強力かつ迅速」な対応によって銀行セクターを巡るストレスが和らぐ中、予想以上に強い経済とインフレ動向を踏まえ、連邦準備理事会(FRB)は金利を想定以上に引き上げる必要がある公算が大きいという見解を示した。
米リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は24日、FRBが今週の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%ポイント利上げに踏み切ったことについて、疑念はなかったという認識を示した。
米アトランタ地区連銀のボスティック総裁は、銀行セクターを巡る懸念がFRBによる今週の利上げ決定を困難なものにしたと認めた上で、FRBの最も重要役割はインフレ率の低下に焦点を当て続けることだと述べた。
カーター氏は、FRB当局者は年内の追加利上げの可能性を示唆したとし、これが経済システムに対する信頼につながったとの見解を示した。
欧州の銀行株の下げを受けて銀行を巡る懸念が高まったが、午後になると和らいだ。
S&P500銀行株指数は小幅安となったが、KBW地方銀行株は2.9%上昇した。
S&P主要11セクターのうち9セクターが上昇。S&P公益事業やS&P不動産などのディフェンシブセクターの上昇が目立った一方、S&P一般消費財とS&P金融が下げた。
ドイツ銀行株の米上場株は3.1%下げた。
JPモルガン、ウェルズ・ファーゴなど米主要銀行は下げ幅を縮小。バンク・オブ・アメリカはプラス圏に上昇した。
パックウェスト・バンコープ、ウェスタン・アライアンス・バンコープはそれぞれ3.2%、5.8%上昇。ファースト・リパブリック・バンクは1.4%安となった。
アクティビジョン・ブリザードは5.9%高。英競争規制当局がマイクロソフトとアクティビジョンの買収に関する競争上の懸念を一部取り下げたことを受けた。
ニューヨーク証券取引所では値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を1.47対1の比率で上回った。ナスダックでも1.26対1で値上がり銘柄数が多かった。
米取引所の合算出来高は110億8000万株。直近20営業日の平均は128億4000万株。
●FRB、銀行破綻でも一段の「利上げ」は欠かせない  3/25
SVBショックとインフレ退治の板挟みにあるアメリカ経済は、この先どこに向かうのか。シティグループの米国チーフエコノミストに聞いた。
──アメリカ連邦公開市場委員会(FOMC)は3月21〜22日に開催した定例会合で、政策金利を0.25ポイント引き上げることを決めました。シリコンバレー銀行(SVB)破綻による金融システムへの不安と高いインフレ圧力が交錯する中、この決定をどう受け止めていますか。
難しい状況ではあったが、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)はできる限りのことをやった。SVBが破綻する前の今から2週間前にFRBのパウエル議長は、議会証言でアメリカ経済は堅牢であり、50ベーシスポイントの利上げがあるかもしれないと語っていた。その後、SVB破綻を受けて市場関係者の間では、金融システムを安定化させるために利上げはないのではないかという見方もあったが、FRBはSVB破綻前後における予想範囲の真ん中の選択肢を取った。
FRBとしてはインフレ圧力に対応していることを示したと同時に、金融システムの不安についても無視しているわけではないというメッセージを送ることができた。25ベーシスポイントの利上げ幅は、市場にとって受け入れやすいものだった。
さらなる利上げが必要になる
――今回のFOMCを受けて政策金利の誘導目標は4.75〜5.0%となりました。政策金利のターミナルレート(最終到達点)はどうなると見ていますか。
銀行危機が起こる前からターミナルレートは5.5〜5.75%と予測しており、その見通しは変えていない。物価指標であるPCEデフレーターや労働需要の強さがこの先も続いていくと見ているからだ。FRBや連邦預金保険公社(FDIC)が規制として使える手段を用い、銀行セクターに対するリスクを抑え込むことに成功することが前提となる。
アメリカ拠点のエコノミストが予測するターミナルレートのコンセンサスは5〜6%であり、われわれの予測はコンセンサスの中では高い水準にある。一方でFRBのメンバーが2023年末にかけて予測する政策金利の見通し(ドットチャート=予想分布図)は50%超が5〜5.25%に集中していて、残りの大部分が5.25〜6%となっている。
マーケットでは年末にかけて利下げがあると見る向きもあるが、それは楽観的だ。
価格変動が激しい食品とエネルギーを除くPCEコアデフレーターは今年前半に前年比4.5%強で推移するだろう。雇用の伸びは月30万人を超え、失業率を歴史的に低い3.6%に抑え込んでいる。FRBの予測よりもインフレが進み、私たちは利下げどころかさらなる利上げが必要になるとみている。
――SVB破綻の原因となった長期資産への投資リスクは、昨年春にFRBが利上げを開始した時点で、銀行として予見できたことではなかったでしょうか。なぜ、このような事態を未然に防げなかったのでしょうか。
SVBの破綻は資産サイドの運用というより、負債サイドつまり預金の調達方法に原因がある。銀行は典型的な構造として、短期と長期の負債を持っているが、今回のように(預金の流出によって)短期負債の調達が逼迫したときにSVBはどうするべきかを考えられていなかった。
背景には、預金者のセンチメントが読みづらくなっていることもある。今回はバンクラン(取り付け)があまりにも早く、広範に渡った。
ソーシャルメディアの影響や「リクイディティ・ポータル」と呼ばれる、預金者がボタン一つで預金を他行に移せる仕組みが整っていたことも大きい。以前であれば書類の記入や銀行口座の新規開設などが必要で瞬時にキャッシュを動かすことはできなかったが、それができるようになっていることも関係している。
今後の預金保護の議論に注目
一方で、金融当局の対応は早く、正しかった。3月12日にFDIC、FRB、米財務省はSVBとシグネチャー・バンクにおける預金の全額保証や納税者の負担なしでの破綻処理、FRBによる追加の資金供給手段の創設を決定するとの共同声明を発表した。FRBの銀行向け融資は3月15日の週に3000億ドル急増した後、その翌週は170億ドルの増加にとどまった。
これはほぼ完全に破綻した銀行に貸し出されたもので、流動性が十分な銀行が新たにFRBから資金を調達することなく、預金の流出に対処できることを示唆している。FRBは最終的なレンダー(貸し手)として機能していることを証明した。
FDICも保険対象を一時的に、SVB以外のすべての預金に拡大する方法を検討しているとされる。米財務省は、現在の上限である1口座当たり25万ドルを超える預金を保護するのに十分な緊急権限を連邦規制当局が持つかどうかについて調査をしているところだ。
――仮にすべての預金が保護の対象となった場合、2008年のリーマンショック時に起きた「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動のような、金融業界に対する社会的な批判が高まることはないでしょうか。
規制当局としては何を保護の対象にすべきかについては、慎重にならなければならない。規制当局がすべての損失をカバーするとなったら、モラルハザードが起きてしまう。過去の金融危機と違う点は、FDICが機能しているということだ。銀行が保険料を払う代わりにFDICが預金者に対して一定の金額を支払うという仕組みは公平性が保たれている。
一方で破綻した銀行の株主や無担保の債券保有者を救済の対象にはできない。そこのバランスを取っていかないといけないと、銀行システムの健全性や信頼は保てない。
テクノロジー企業の行方は
――SVBと深いつながりのあったアメリカのテクノロジーセクターは、この先どうなっていくのでしょうか。
SVBがテクノロジー企業に対して集中的に貸し出しを行っていたのは事実だが、SVBの役割を代替しようとする銀行が現われてくるとみている。プライベート・エクイティ・ファンドなど、テクノロジー企業にとって新たな資本調達の出し手も生まれると考えている。
――GAFAMなどのビックテックは、レイオフ(一時解雇)を積極的に行っている最中です。テックセクターがさらに冷え込めば、タイトな労働需給は改善に向かい、利上げペースも落ち着くということもあるのでしょうか。
それはないだろう。アメリカ経済全般で見ると、非常に強い労働需要がある。ほぼ唯一レイオフの傾向がみられるのがテックセクターであり、失業保険申請や求人倍率が非常に高い数字となっていることもそれを物語っている。
テックセクターで解雇された人は、また違う業種で採用されている。それだけ労働市場は極端に逼迫した状況が続いており、失業率の低下圧力も持続している。これが金融システム不安とは別に、FRBが頭を悩ましている問題だ。
●「SVB破綻で生まれた〈ベンチャー破壊論者〉が事態を悪化させている」 3/25
この記事は、ベストセラーとなった『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者で、ニューヨーク大学スターン経営大学院の経営学者であるスコット・ギャロウェイによる連載「デジタル経済の先にあるもの」です。
1907年、金利が上昇し株式市場が下落するなか、ニューヨークの2人の銀行家が銅採掘会社の株を買い占めようと目論んだ。だがその計画は失敗に終わり、2人を支援した銀行の預金者たちは預金を引き上げてしまった。そのうちニッカーボッカー信託会社という銀行は、取り付け騒ぎで資金が底をつき、4日後に営業停止を余儀なくされた。そして混乱が始まった。
全米屈指の銀行家にしてビジネスリーダーでもあったJ.P.モルガンは、その状況に義務感と好機を見出した。彼はニューヨークの銀行の頭取たちをマディソン街の自宅に招集した。そして逸話によると、ドアに鍵をかけ、その鍵をポケットにしまったという。モルガンは「ここはトラブルを終結させるための場所だ」と宣言した。彼はまず、自らが富を築いた金融システムの救済という義務に取り組んだ※1。そして、ニッカーボッカーの破綻が飛び火したアメリカ信託会社に、800万ドル(現在のドル換算で2億5500万ドル)の融資を約束した。次に12の銀行と米国財務省を説得し、その他の脆弱な銀行に7000万ドルを預金させた。かくして「1907年の恐慌」は収束した。モルガンは金融システムを救ったのだ。さらにその14年前にも、モルガンは同様の行動に出ている※2。
信頼
J.P.モルガンが心得ていたのは、銀行業、ひいては経済は、金や労働力や機械、ましてや表計算ソフトの上ではなく、信頼の上に成り立っているということだった。それは「必要なときに預金を引き出せる」という信頼である。その信頼は、ニッカーボッカー信託会社が「我々にはできません」と言ったことで崩れ去り、J.P.モルガンが「我々が必ずできるようにします」と請け合ったことで回復した。人々が再び銀行を信頼するようになると、金融危機は解決した。さて、現代に話を進めると、シリコンバレーに住んでパートタイムで働くリバタリアンの億万長者が、来るべき銀行危機を解決するために、自分の資産の5%、ましてや50%を提供するなど想像できるだろうか? 
銀行が信用を必要とするのは、実際は顧客が預金したお金を保有していないからだ。銀行にお金を預けると、銀行はそれを他の誰かに貸し出してしまう。実をいえば、銀行は預かったお金よりも貸し出しているお金の方が多い。奇跡のようだが、これこそ私たちの経済の基盤を成す仕組み──短期的な預金を長期的な融資に変える──なのだ。これは当を得た仕組みである。眠っているお金は起業の資金にもならず、既存の企業を拡大するわけでもなく、消費者を消費に駆り立てることもない。ただの役立たずだ。
どんな銀行も、同じ日に一定数以上の預金者がお金を引き出そうとすれば、経営は危ぶまれる。もしバンク・オブ・アメリカの6700万人の顧客※3が、同じ日・週・月に同時に預金を引き出せば、確実に破綻するだろう。
ともに力を合わせて
とはいえ、バンク・オブ・アメリカは自力経営しているわけではなく、財務省や連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)といった政府機関のセーフティーネットで支えられている。規制当局やリスク管理部署、そして銀行の経営陣たちは、債務超過を防ぐために充分な流動性レベルを調整することが求められ、「ストレステスト」を実施せねばならない。FRBは破綻寸前の銀行に対して「最後の貸し手」としての役割を果たす。規制はリスクを緩和するが、完全に排除することはできないからだ。
こうした連邦政府のバックストップ(註・いざというときに銀行を財政資金で支える仕組み)が存在するのは、1907年にJ.P.モルガンが単なる「義務」だけでなく、「好機」を見い出していたためだ。
取り付け騒ぎが収束するや、モルガンは貸し出したローンの返済を要求し、業績が低迷する資産を買い集めた。そして、アメリカ信託会社を含む6つの銀行、蒸気船会社、全米で2番目に規模の大きい鉄鋼会社(最大の会社はすでに所有していた)を買収した。1913年までに、JPモルガン&カンパニーの役員は112社の上場企業の取締役に就任し、国内の株式時価総額の80%を占めるまでになった。
我々は1907年の恐慌から2つの教訓を学んだ。一つ目は、銀行システムには安全措置が必要であること。もう一つは、その役割を億万長者に託すべきではないということだ。1913年、議会は連邦準備法を可決し、今日の私たちが知る中央銀行を創設した(FDICは1933年創設)。1907年以降の世代が、社会保障制度、GI法(1944年復員兵援護法)、州間高速道路システムなど、アメリカの総合力に歴史的な投資をしたのは偶然ではない。自分たちには幅広い解決策の一端を担う義務があり、その解決を民主的な制度に託すべきだと理解していたのだ。
しかし、繁栄とは記憶力に乏しいものである。1980年代になるとモルガンの義務感は忘れ去られ、彼の日和見主義が我々のモデルとなった。レーガン※4とサッチャー※5は新たな(旧来の)時代をブランディングした。「社会というものは存在しません。存在するのは個々の男女、そして家族です」と鉄の女は言い、レーガンは加えて、「政府は我々の問題の解決策ではなく、政府こそが問題なのです」と語った。政治思想家のアイン・ランドを発見したばかりの19歳の若者が抱くような政治哲学である「リバタリアニズム」が、統治理念となった。もはや規制当局は後ろ盾ではなく、廃止するか無視すべき邪魔な存在と化した。
2010年代になると、信用自体が非効率として煙たがられるようになった。暗号資産は「トラストレスな取引」という核心的な約束で脚光を浴びた。信用要らずの取引など、どこにも存在しないというのに。
SVB
3月初旬、サンタクララはニッカーボッカー信託銀行と同様の騒動に見舞われた。シリコンバレー銀行(SVB)は、その名の通りベンチャーキャピタルとその投資先企業にとって御用達の銀行で、米国のベンチャー企業のおよそ半数の資金を保有していた※6。3月8日(水)、SVBは大量の有価証券を売却して損失を計上し、さらに現金を調達する方針を発表した。少数のベンチャー企業がパニックに陥り、投資先企業に資金の引き上げを呼びかけた。翌木曜日には420億ドルの預金が引き出され、SVBの流動性クッション(準備資産)が破られた。そして10日(金)には、FDICの管理下に置かれた。
いかなる複雑な出来事にも複数の原因がある。SVBの場合、直接的な原因は明らかで、あまりにも多くの顧客が、あまりにも大量の現金を一度に引き出そうとしたからだ。しかし、関連する要因は多岐にわたる。
・SVBは破綻した金融会社と同じ罪、すなわち、デュレーション(投資期間)のミスマッチと稚拙なリスクマネジメントという罪を犯した。住宅ローンや国債に長期的な投資をおこない、事業資金を必要とする新興企業から短期の借入をしていたのだ。
・SVBは規制強化のために資産上限を引き上げるよう、トランプ政権に働きかけていた(その試みは成功した)※7。
・金利が歴史的なペースで上昇し、長期投資の価値を下落させた。
・SVBは株式を売却してバランスシートの穴を埋めようとしたが、顧客とのコミュニケーションと戦略に失敗し、防ごうとしていた経営破綻を逆に誘発した。
・SVBの顧客層であるスタートアップ企業には、独特な過敏さがある。彼らはFDICの保険限度額である25万ドルをはるかに超える現金残高を保有し、一握りのVC企業を通じて相互に連携している。そのせいで、銀行が大混乱に陥るリスクが高くなる。
金曜の朝にはすべてが終わっていた。規制当局が到着し、照明をつけ、店じまいをした。金融危機の波及を防ぎ、預金者を救済するため、当局が週末返上で奔走しているあいだに※8、ツイッターではベンチャー・キャピタリストの新種「ベンチャー・カタストロフィスト(ベンチャー破滅論者)」が誕生していた。彼らは恐怖を煽り、自分たちの目的を、SVBの預金者に対する連邦政府の救済への支持を喚起することだと明言した。そしてその預金者の多くは、カタストロフィスト自身だった。
急ごしらえの塹壕に、本物のリバタリアンなどいない。
SVB破綻後
SVB破綻の直後、傍観者は複雑な大災害が起きた後と同じように、自分たちの政治的立場や先入観に合致した関連原因だけを選び出していた。ただし今回は、金利上昇でも、リスク管理の不備でも、預金者の殺到でも、SNS上のベンチャー・カタストロフィストでもなく、そのすべてが複合的に絡み合っていた。
もっと興味深い問いがある。今回、誰が金融システムの崩壊を防いだのだろうか? はっきりしているのは、伝染病を根絶できるリーダーシップ、社会性、自己犠牲の精神を備えたJ.P.モルガンのような人物がシリコンバレーにいるとは思えないことだ。しかし、舞台裏でリーダーたちと密やかに解決策を検討していた、ベンチャー投資家の一団が存在していた。自己顕示欲や注目を引くためのポーズではなく、ただ責任感のある人たちが、自らを解決策の一部と見なし、昼夜を問わず働いていたのだ。数百社のVC企業が、買収企業にとってSVBがより魅力的な資産となるよう、SVBとの取引継続を約束する書簡に署名した※9。
「誰が署名したか」より興味深いのは、「誰が署名しなかったのか」のほうだろう。一言でいうと、暗号資産への投資を通じて、銀行システムとドルを不安定にすることに既得権を持つベンチャー投資家は、アメリカ人から「カオスの代理人」へと変貌を遂げている。マーク・アンドリーセンやピーター・ティールなら、ツイート1つで騒動を止められたはずだ。しかし彼らは傍観することを選んだ。先日、国の反対側では、J.P.モルガンが設立した銀行を含む複数の大手銀行が、イエレン財務長官との緊密な調整の後、J.P.モルガンにならって、ファーストリパブリック銀行に300億ドルを預け入れた※10。
私はSVBに約2000万ドルの預金を持つ4社の創業者・取締役・投資家だが、4社ともSVBから1ドルも預金を引き出さなかった(ただし、1社は金曜日に試みたが失敗した)。SVBに預金を残したのは、私たちが道徳的だとか、銀行を救う義務感にかられたわけではなく、FDICのサイトへ行き、過去10年間に73の銀行が破綻したが、一つの例外なく預金が保証されていたことを確認したためだ。私は一瞬たりとも不眠に悩まされなかった。なぜか? 
1. 私の支援者および、私が投資している会社の支援者は、給与の支払い等に必要なことは何でもすると保証してくれたから。
2. 何事も見かけほど良くも悪くもないから。
「トラブルを終結させる場所」
ますます分断化が進む個人のコミュニティが、市民の権利よりも生存主義を選択したことは驚くに当たらない。今や多くのアメリカ人が、たとえそれが標準的な業務手順であろうと政府の安全措置を嫌悪し、ベイルアウト(註・国民負担となる政府の公的資金投入などを伴う救済)を警戒している。具体的には、リスクのメリットを享受しつつも、避けがたいデメリットを他のアメリカ人に負担させることを期待するテックコミュニティーに嫌気が差しているのだ。
至るところに偏在するアプリ──経営陣や投資家には数十億ドルもの利益をもたらす一方で、10代の若者を中毒やうつ病にし、人々の議論を低俗にするアプリ──のせいで、「シリコンバレー」ブランドは、「マスク」を除くどのブランドよりも急速に価値を落としている。もし破綻した銀行が、「アイオワ農業第一銀行」だったら、連邦政府や国民は預金者保護に躊躇しなかっただろう。幸いなことに、FDICを設立した先人の知恵と、米国政府の安定した手腕は健在だった。
煎じ詰めればこういうことだ。あなたはどんなタイプのリーダーやビジネスパーソン、(単刀直入に言えば)男でありたいか? 困難に直面したとき、冷静さを失わず、目的意識と技能を発揮し、他者と協力しながら問題解決を図ろうとする、統率力に富むリーダーでありたいのか? それとも、塹壕のなかで叫び声を上げて、自分の居場所を明かし、事態を悪化させたいだけなのか? 今回の件で、真の男、つまり真のアメリカ人はワシントンにいることが明らかになった。その名はジャネット・イエレン財務長官。それ以外はみな「ベンチャー・カタストロフィスト」である。
人生はかくも豊かだ。
●クレディ・スイス救済合併でも収まらない金融不安 3/25
まさに「臭いモノには蓋」でした。経営危機に瀕していたスイス金融大手のクレディ・スイスが、同じスイスの金融大手のUBSに「買収」されることになりました。「買収」という形ではありますが、実質的には、スイス当局が主導した「救済合併」です。
「買収」会見の主役はスイス大統領
UBSによるクレディ・スイス買収は、週明けのアジアの金融市場が開く直前、現地時間19日、日曜の夜に発表されました。月曜の朝までに処理を終えるというのが、銀行の破綻処理の鉄則です。
スイス当局はすでに前の週に500億スイスフラン、日本円で7兆円を超える流動性供給を行う支援を表明していましたが、報道によれば、その後も1日1兆円以上の預金が流出していたということで、そのまま週明けを迎えれば、突然死のリスクもあったと思われます。
「買収」会見には、UBSとクレディ・スイスの両銀行トップだけでなく、なんとスイスのベルセ大統領と、中央銀行のジョルダン総裁も揃って現われました。
ベルセ大統領は「この買収は信頼回復のための最良の解決策」と述べるなど、さしずめ会見の主役となり、「金融立国」であるスイスの信認維持に躍起でした。
手段を総動員、破格の買収条件
UBSによる買収の条件も破格です。買収額は30億スイスフラン(約4260億円)でクレディ・スイス株22.48株に対してUBS株1株を割り当てます。
発表直前の株価でみれば、クレディ・スイスの時価総額は1兆円以上あったので、その4割にまでディスカウントされました。
もっともUBSは買収価格を当初、10億スイスフランと主張したと伝えられています。足もとを見た面もあるでしょうが、クレディ・スイスの中身を最も知っているUBSが、クレディ・スイスの資産内容に大いに疑問を持っていることを表しています。
そうした懸念に対応するため、スイス政府は、今後発生し得る損失に対して90億スイスフラン(約1兆3800億円)もの政府保証を与えることにしました。今後の損失を政府が補填してくれる約束ですから、買収額に逆に「のし」がついてくる格好です。
さらにスイス中銀は1000億フランの流動性支援枠も設定しました。買収手続きを円滑に進めるために、スイス政府は通常必要な両銀行の株主による投票を省略できる緊急条例まで出すと言います。
スイス国民が納得しているかどうかはわかりませんが、文字通り、あらゆる手段を動員して、「破綻」という形だけは回避したのです。
「必要な救済合併」だが、くすぶる懸念
クレディ・スイスが破綻していれば、国際的な金融システム崩壊のリスクがあっただけに、フィナンシャル・タイムズは、この買収劇を、「厄介だが必要な合併だった」と評しています。
この救済合併によって金融不安はいったん少し落ち着きましたが、安心するに程遠い状況です。今後は、一連の買収手続きをめぐって、株主からの訴訟が相次ぐことも予想されます。
「AT1債」という特別な社債が全損に
何より最大の火種は、「AT1(エー・ティー・ワン)債」と呼ばれる社債を無価値にしたことです。AT1債は、弁済順位が低い代わりに、自己資本に組み入れることが認められている特別な社債です。
クレディ・スイスは、このAT1債を160億スイスフラン(約2兆3000億円)発行していました。今回の買収合意では、UBSが引き継ぐ負債を少しでも軽くするために、これを無価値としたのです。つまり、AT1債の保有者にとっては全損になりました。
企業破綻では、まず株式が無価値になり、次いで順位に従って、社債など負債の弁済が決まっていくのが普通です。今回は、減価したとはいえ株式は保護され、AT1債には投資家責任を求めたわけです。
AT1債は、欧州の銀行を中心に世界で33兆円程度発行されており、投資家に動揺が広がっています。AT1債を多く発行する金融機関への無用の不安を煽る結果にならなければ良いと思います。
なお続くアメリカの金融不安
今回の金融不安の震源地であるアメリカでも、一部の地方金融機関から預金の流出が続いています。
また、現在、シリコンバレーバンクなど破綻した2行に対してのみ適用されている「預金の全額保護」をどこまで広げるべきかをめぐって、イエレン財務長官が発言するごとに、市場が大きく反応する日々が続いています。不安が収まっていない証拠です。
銀行の破綻は、経済危機のいわば究極の事象です。一度に預金が引き出されれば、どんな銀行だって立っていられません。いったん不安になった心理を落ち着かせるのは、とても厄介なことです。
にもかかわらず、ECB(欧州中央銀行)は0.5%利上げを、アメリカFRBも22日に0.25%利上げを決めました。金融不安を鎮静化させるには、むしろ利下げが必要なところですが、インフレ退治を優先させた形です。
インフレと金融不安という、対処法が真逆のことに同時に対応しなくてはならないところに、今回のハンドリングの難しさがあるわけですが、優先順位が間違っていないことを祈るばかりです。
●アメリカ「金融不安」発生から2週間…ここまでの経緯とここからの焦点 3/25
米金融当局は迅速に対応、流動性供給と状況に応じた預金保護で金融不安払拭に努めている
米金融市場では、3月8日の米シルバーゲート銀行の自主清算発表や、3月10日の米シリコンバレーバンク(SVB)破綻などを受け、金融不安が一気に広がり、リスクオフ(回避)の流れが強まっています。そこで、今回のレポートでは、ここ2週間ほどで発生した金融機関を巡る主な動きと、それに対する当局の施策をまとめ(図表)、この先はどのような点に注意すべきかを考えます。
   【図表】金融機関を巡る主な動きと当局の対応
米国のケースで特筆すべきは、金融当局の対応の早さです。米財務省、米連邦準備制度理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)は3月12日、SVBなどの預金の全額保護を発表し、FRBは新たな流動性対策を公表しました。また、イエレン米財務長官は21日、中小規模の金融機関が経営難に陥った場合、預金者を保護する意向を示すなど、金融当局は「流動性供給」と、状況に応じた「預金保護」により、金融不安の払拭に努めています。
スイス金融当局も金融危機回避のため大型再編を主導、主要6中銀は協調し米ドル供給強化
スイスのケースでも、金融当局の迅速な対応がみられました。スイス国立銀行(中央銀行)とスイス金融市場監督機構(FINMA)は3月15日、連名で声明を出し、業績不振が続く金融大手クレディ・スイス・グループに対し、必要があれば資金供給で支援すると表明しました。その後、19日には、金融機関最大手UBSがクレディ・スイス・グループを買収すると発表、金融危機回避のため、スイスの金融当局が大型再編を主導した形となりました。
そして、FRBなど日米欧の6中銀は、19日の買収発表直後、協調して米ドル供給を強化することを明らかにしました。なお、クレディ・スイス・グループが発行した劣後債の一種である「AT1債」は、買収にあたり価値がゼロとなったことを受け、欧州中央銀行(ECB)など欧州の金融監督当局は20日、域内市場でのAT1債を巡る動揺を抑制すべく、「最初に株式で損失を吸収した後にのみ、AT1債の評価減が求められる」との声明を出しました。
金融不安は徐々に落ち着く可能性も、信用状況次第で景気減速懸念が残り株価などに影響か
米欧金融当局および日米欧6中銀による迅速かつ積極的な対応により、米国発の金融不安で信用収縮が発生し、世界的な金融危機に発展する恐れはかなり小さくなったと思われます。それでも、米国の大手行や主な地銀で構成されるKBWナスダック銀行株指数は、3月7日から23日まで25.5%下落し、依然下げ止まる様子がみられず、市場に金融不安は残っていると推測されます。
ただ、各国金融当局の施策が奏功し、この先、連鎖的に金融機関の問題が浮上しなければ、「金融不安」自体は数週間で徐々に落ち着くことが予想されます。しかしながら、家計や企業の信用状況が引き締まった状態が続けば、景気減速の懸念は残ります。実際の景気への影響は、今後の経済指標を待たざるを得ませんが、それが確認されるまで、総じて米国株の上値は重く、米国債利回りは低位で推移する展開も見込まれます。
●NYダウ ドイツ銀行経営への懸念や米金融政策めぐり 荒い値動き  3/25
24日のニューヨーク株式市場、ダウ平均株価は、ドイツの金融最大手、ドイツ銀行の経営への懸念や、アメリカの金融政策をめぐって、荒い値動きとなりました。終値は値上がりとなりました。
24日のニューヨーク株式市場は取り引き開始直後から売り注文が増え、ダウ平均株価は一時、300ドルを超える値下がりとなりました。
ヨーロッパの株式市場で株価が急落したドイツの金融最大手、ドイツ銀行をはじめ、ヨーロッパの銀行の経営が悪化して金融不安が広がることへの懸念が高まりました。
その後はアメリカの利上げが近く止まるとの観測などから買い戻しの動きが出て、ダウ平均株価は上昇に転じ、終値は前日に比べて132ドル28セント高い3万2237ドル53セントでした。
アメリカで銀行が相次いで経営破綻したあと、経営不安にさらされたスイスの大手金融グループ、クレディ・スイスが救済買収されたことで、世界の金融市場では動揺が続いています。
市場関係者は「FRB=連邦準備制度理事会はことし5月の金融政策を決める会合で利上げを止めるとの観測が強まったことが株価を支えた。ただ、利上げが止まっても銀行の経営が悪化すれば景気は冷え込むとの懸念が根強く、株価は当面、不安定な値動きが続きそうだ」と話しています。 

 

●米中小銀、預金流出が過去最大 シリコンバレー銀破綻で 3/26
米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻後を含む9─15日の1週間に米国の中小銀行から過去最大の預金が流出したことが、米連邦準備理事会(FRB)が24日公表した週次統計で分かった。
中小銀の預金残高は1190億ドル減の5兆4600億ドルとなった。金額ベースでこれまでの過去最大の2倍強の減少を記録した。また、減少率でみても2007年3月16日に終了した週以来の大きさだった。
中小銀行は、米国の商業銀行のうち最大手25行以外と定義されている。
大手銀の預金残高は670億ドル増加し、10兆7400億ドルとなった。
週次統計によると、中小銀の借入額は2530億ドル増加し、過去最高の6696億ドルだった。
キャピタル・エコノミクスのアナリスト、ポール・アシュワース氏は「借り入れの一部は、預金者からの資金引き出し要請があった場合に備えるため」だった可能性があると指摘した。
●「引き続いて個別銘柄対応の投資戦術を!」 3/26
各国中央銀行、政府の迅速な対応によって、金融危機は回避されたようにみえる。破綻したシリコンバレーバンク(同社の持ち株会社だったSVBファイナンシャルグループも経営破綻)、シグネチャー・バンクの預金は全額保護された。本来、預金保険(ドット・フランク法)による保障の上限は25万ドル(約3300万円)だが、特例措置を講じたのだ。パシフィック・ウェスタン・バンクなど取りつけ騒ぎの連鎖が起こっていただけに、やむを得ない面があろう。
同様の事態に見舞われていたファースト・リパブリック・バンクには米大手銀行11社が預金を預け入れ、急場をしのいだ。クレディ・スイス・グループはスイス中央銀行が7.1兆円を貸しつけるとともに、UBSグループが救済合併する。「できちゃった婚」と酷評されているが、「クレディ・スイスは救う」との意志の現れだろう。
ただ、ECB(欧州中央銀行)、スイス中央銀行は0.5%、FRB(米連邦準備制度理事会)は0.25%の利上げを行うなど、金融引き締めを継続している。金融システムを守るという視点では矛盾する。さらに、イエレン財務長官は「預金の全額保護の特例措置を続けるつもりはない」とけん制している。当然の発言だろう。
アメリカは自己責任の国だ。全額保護はモラルハザードにつながる。それに、イエレン財務長官、パウエルFRB議長は「公的資金を投入しない」と明言している。預金保険は銀行の拠出だ。これが中小銀行の経営を圧迫する(総資産1000億ドル以下の銀行はストレステストがない。その分、預金保険料率が高くなる)。全額保護は無理な話である。
なお、今回のアメリカの金融危機の背景には(1)コロナ対応のばらまき→過剰貯蓄の存在、(2)債券投資に傾斜、(3)ネットバンキングの隆盛、などの要因がある。アメリカの銀行は5.8兆ドル(約7600兆円)の債券を保有し、約85兆円の含み損(債券投資額の1割強)を抱えているという。利上げ(金利上昇)、債券価格下落のダメージだ。金融危機の“火種”はくすぶっている。
●欧州通貨に根強い下押し要因 3/26
欧州通貨に金融システム不安による売り圧力が続いています。ウクライナ戦争によるダメージを克服しつつあったものの、足元の上昇は限定的。ヨーロッパ大手行の経営問題に関する懸念が払しょくされるまで、ユーロやポンドは引き続き買いづらいでしょう。
米シリコンバレー銀行の破たんをきっかけに、米国ではシグネチャー銀行、ファースト・リパブリック銀行など中堅行の経営問題が浮上。今のところ、連邦準備制度理事会(FRB)や大手金融機関による支援策で、市場のパニック的な動揺は抑えられています。アメリカ発のリスク要因のため、ドルは当初売りが膨らみましたが、その後はリスクオフによる買いが入り主要通貨に対し下げ渋っています。
どちらかと言えば、欧州通貨の伸び悩みの方が目立ちます。3月15日にクレディ・スイスの筆頭株主であるサウジ国立銀行の幹部が追加投資に否定的な見解を示すと、クレディ・スイス株は急激に下落。それを受け、スイス当局は流動性供給による支援を決めました。さらにUBSによるクレディ・スイス買収で市場の危機感はいったん和らぎ、欧州通貨売りは和らいでいます。
米国が中堅行の破たんであるのに対し、ヨーロッパは大手の経営が問題視されており、預金者のほか投資家の不安を強めていると専門家は指摘します。米銀の問題で市場のリスク許容度が低下し、先行きが憂慮されていた欧州銀に飛び火したとの見立てです。ヨーロッパの大手金融機関のなかには、いまだにソブリンリスクなどから完全に持ち直したとは言い切れないところもあります。
3月16日の欧州中央銀行(ECB)理事会は金融システム不安が強まってから初の主要中銀による政策決定となったため、多くの注目を集めました。利上げ幅縮小や利上げ休止の見方も浮上していましたが、ECBは予定通り0.50ポイントの利上げを維持。会合後の記者会見で、デギンドス副総裁はヨーロッパの銀行業界は「強靭」と強調し、インフレ抑制に向け利上げの余地があることを示唆しました。
ECBの大幅利上げに続き、英イングランド銀行(BOE)は3月22−23日の金融政策委員会(MPC)で0.25ポイントの利上げにより引き締め継続を決定。一方、直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策内容からはFRBの意図がはっきりせず、ユーロとポンドは対ドルで小幅に値を上げました。ただ、欧州の大手行の経営問題は完全に払しょくされていないようです。さらに景気減速懸念も加われば、欧州通貨は目先も上値の重い展開となりそうです。
●米利上げ継続 金融不安の抑止にも目を配れ  3/26
インフレを抑えながら景気後退を防ぐという仕事に、新たに金融不安の沈静化という難題が加わった。米連邦準備制度理事会(FRB)の適切な 舵 かじ 取りが問われている。
FRBは、政策金利を0・25%引き上げて、年4・75〜5・00%とした。2022年3月にゼロ金利政策を解除して以降、利上げは9回連続となる。
米国では、全米16位の資産規模のシリコンバレー銀行(SVB)と29位のシグネチャー銀行が破綻し、信用不安が広がっている。
今回は、FRBが利上げを見送るとの見方も出ていた。パウエル議長も記者会見で、利上げの停止を検討したことを明らかにしたが、物価上昇と労働需給の 逼迫 ひっぱく が続いていることから、継続を決断したと説明した。
ただ、景気にマイナスの影響を及ぼす利上げは、金融不安に拍車をかける恐れもある。FRBは細心の注意を払い、政策を運営しなければならない。
FRBは、23年末の政策金利の見通しについては、昨年12月時点の5・1%を維持した。あと1回の引き上げで到達する水準だ。
声明文では、従来の「継続的な引き上げが適切」との文言を削除し、利上げを柔軟に行う姿勢を示した。信用不安の状況を精査し、慎重に判断してほしい。
金融不安が続くと、銀行の「貸し渋り」が起きる可能性がある。企業や家計の資金調達が厳しくなるなどし、経済全体に大きな打撃を与えることになる。
パウエル氏は「銀行システムを健全に保つため、あらゆる手段を行使する用意がある」と強調した。銀行への円滑な資金供給などに万全を期してもらいたい。
そもそも、SVBの破綻はFRBの急速な利上げが一因だ。
金利が上がると米国債など債券の価格は下落する関係にあり、銀行が保有する債券に多くの含み損が生じる。それが信用不安につながり、預金の流出が加速した。
FRBは銀行の監督も受け持っているが、今回の相次ぐ銀行破綻を回避できなかった。監督についても強化し、金融不安の抑止に努める必要がある。
金融不安は欧州にも波及している。経営不振に陥っていたスイス金融大手のクレディ・スイスの株価が急落し、スイス最大手のUBSによる救済合併に発展した。
FRBを始め各国の金融当局は緊密に情報交換し、金融不安が金融システムの危機に発展しないよう全力を挙げるべきだ。
●シリコンバレーの巨人が倒れた! SVB破綻の衝撃が仮想通貨市場への影響 3/26
シリコンバレーバンクはなぜ破綻に陥ったのか?
2023年3月10日に経営破綻した米銀行大手のシリコンバレーバンク(SVB)は、その名の通り、「シリコンバレー」を中心に活動している銀行で、IT企業、スタートアップ企業の資金調達に欠かせない存在でした。
しかし、市場の悪化により、収益の悪化、取り付け騒ぎが発生し破綻、現在は連邦預金保険公社の管理下にあります。リーマンショック以来の大規模破綻となり、各国の他の銀行にも大きな影響を及ぼしています。
では、なぜ破綻に陥ったのか――。
   1. リスクの高いベンチャー企業中心に融資
SVBはリスクの高いベンチャー企業を中心に融資を行っており、その残高は2022年には163億ドル、これは日本円して2兆円に達していました。
しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策により金利が上昇したことで、これらの企業の評価額が低下し、返済能力が低くなったり、信用が悪化したりする事態となりました。
また、SVBはベンチャー企業から預かった預金を米国債などの長期資産に投資していたため、金利上昇で債券価格は下落し、SVBの資金繰りが不安視されていました。
このように、SVB銀行はハイテク企業との密接な関係が破綻の一因となりました。
   2. 銀行のビジネスモデルに起因する資金不足
今回、破綻にまで追い込まれた原因としては、銀行そのもののビジネスモデルによるところがあります。
銀行は、顧客の預金を預かり、融資を行います。銀行は融資先から得る利息と預金をした顧客に対して支払う利息の差で収益を得ています。この差は、純金利収入と呼ばれます。
つまり、長期金利と短期金利の利ざやを取るという仕組みで、事業を行っています。ということは、短期貸付の金利が長期貸付よりも高い場合、SVBのような銀行にとっては、収益は悪化します。
図説すると、以下のようなイメージです。
また、銀行には「信用創造」という仕組みも備わっています。
こちらは今回のSVBだけでなく、銀行はどこでも行っている仕組みなのですが、信用創造を一言でいうと、銀行が預金を貸し出すことで、預金通貨(銀行に預けられたお金)を増やすことです。
例を挙げて説明しましょう。
たとえば、Aさんが銀行に100万円を預けたとします。銀行はそのうちの一部を残して、残りの90万円をBさんに貸します。Bさんはそのお金を使って、Cさんに支払います。Cさんはそのお金の一部(90万円の10%)を銀行に預けます。すると、最初の100万円が190万円になりました。
このサイクルを繰り返しているうちに、どんどん預金と貸出金が膨らんでいき、誰かが預金をいっせいに引き出そうとすると、引き出せなくなる前に、我先に引き出そうと、みんなが殺到します。
これがいわゆる「取り付け騒ぎ」です。「取り付け騒ぎ」が起きると、手元の資金が足らず破綻してしまいます。
これらの2つの事象が組み合わさったことで、今回、SVBは破綻へと追い込まれました。
シリコンバレーバンクの倒産...仮想通貨市場へ及ぼした影響は?
SVBの倒産は、仮想通貨市場にも大きな影響を及ぼしました。
SVB銀行は、USDCというドルと連動するように設計された「ステーブルコイン」を発行するCircle社のパートナーだったからです。
Circle社は、USDCを発行している会社です。彼らは発行するUSDCを裏付けるために、銀行口座に対価となるドルを保有しています。ドルとUSDCはいつでも変換可能で、実質的にUSDCの価値は1ドルで安定していました。
しかし、今回の倒産により、Circleのドルを保有する銀行のひとつであるSVBが倒産すると、USDCの対価となるドル預金が保護されずなくなってしまう可能性がありました。この不安から、USDCを売却する人も出てきて、大幅に価格が下落しました。
一時的にUSDC価格は0.9ドルを割った取引所もあり、それにつられETHを始めとする仮想通貨価格も下落しました。現在はすべての資金が保護されることが発表されたため、おおよそ1ドルへと戻りました。
0.9ドルとなった際にUSDCを購入できれば、大きな利益を得ることができたというところでは「惜しいことをした...」という気分です。
USDC崩壊が引き起こした不安も解消され、既存の金融機関への不信感も助け、現在では仮想通貨価格は大幅に上昇している状況ではあります。しかし、今後どのような影響があるのでしょうか。
今後の仮想通貨市場への影響は?
今後の影響として考えられるのは、大きく以下の2つが考えられます。
   ドルからの逃避
現在金融の不安から、金やビットコインに多額の資金が流入しています。上下動を繰り返しながらではありますが、この上昇はこのまま続く、と私は考えています。
利上げの停止による金融政策的な部分も大きな要因として存在するものの、リーマンショックを機に、既存金融のビジネスモデルへの不信感から生まれたビットコインがまたその本領を発揮するのではないでしょうか。
   規制の強化
こちらは、仮想通貨の今後についてかなりネガティブな影響をもたらすでしょう。今回、銀行の甘いリスク管理によって発生した事態とはいえ、ステーブルコインが一時的に不安定な状態になったのはこれまた事実。
ステーブルコインへの規制は今後厳しくなっていき、もしかしたら中央銀行の発行するCBDC(中央銀行発行のドル建て仮想通貨)だけが正当に扱うことのできるステーブルコインだという時代がくるかもしれません。
さらに昨年末、FTXの破綻などのニュースもあったように、既存金融ではありえないようなリスク管理を行っている企業も少なからず存在するため、規制は強化される方向に向かうでしょう。
もちろん一時的に価格には負の影響をもたらすでしょうが、長い目で見た際には仮想通貨の普及によい影響をもたらすのではないでしょうか。
まとめ
結論として、SVBの破綻は、金融システムのリスクを再認識させるものでした。今回の騒動で混乱に巻き込まれてお金を失う一方、収益を得た人が存在することもまた事実。自分の資産について、常にアンテナを張って情報を集め、警戒することが大切ですね。 
●IMF専務理事、金融安定リスク「高まった」=米銀2行破綻で 3/26
通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は26日、訪問先の北京で講演し、シリコンバレー銀行など米中堅銀行2行の経営破綻に端を発した世界的な信用不安に関し、「明らかに金融安定へのリスクが高まっている」と、警戒感をあらわにした。
ゲオルギエワ氏は低金利環境から、インフレを抑え込むために必要な高金利への「急速な移行」が「(金融部門への)圧迫と脆弱(ぜいじゃく)性をもたらしている」と分析。「一部先進国の銀行部門における最近の動向」に懸念を示した。米国発の信用不安は欧州に飛び火し、スイス金融大手UBSによるクレディ・スイスの救済買収など、動揺が広がっている。

 

●過去最大“リーマン超え”米・中小銀行預金15兆円流出… 3/27
今月10日のアメリカ、シリコンバレー銀行の経営破綻に端を発し、世界の金融市場に広がった信用不安。
アメリカで2つの銀行が破綻した15日までの1週間に、中小規模の銀行全体で1200億ドル、日本円でおよそ15兆7000億円もの預金が流出したことが、FRB(連邦準備制度理事会)の統計で明らかになりました。
これは過去最大の流出額で、リーマンショックにつながるサブプライムローン問題が浮上した2007年3月の2倍を超える額です。
相次ぐ破綻で預金者の不安が高まり、預金を引き出して大手銀行などに移す動きが広がったためとみられます。
バイデン大統領は、沈静化に躍起です。
バイデン大統領「事態が落ち着くまで少し時間がかかると思いますが、大混乱になるようなことは何もないでしょう。しかし、この件に関して不安を抱えていることは理解しています。中堅銀行は、生き残らなければなりません」
バイデン大統領は、銀行がさらに破綻するなど金融不安が続くと判断した場合、引き続き特例的な預金保護の措置を講じる考えを示しました。
●「100年に一度の金融危機」がまたやって来る…「世界経済危機」の正体 3/27
100年に一度といわれた金融危機だったリーマンショックから15年。ついに新たなる波乱の芽が見え始めた。
米国のシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行などの破綻に続いて、3月19日には経営不安が高まっていたクレディ・スイス・グループが、同じくスイスの金融最大手UBSに買収されることが決まった。これに伴いクレディ・スイスが発行していた「AT1債」と呼ばれる社債(日本円にして約2兆2000億円)が無価値になると発表された。経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏が解説する。
「金融危機はまだ序の口だと見ています。長期の金融緩和から一転して、米国は政策金利を1年で4%も上昇させました。この影響が出ないと考えるほうが不自然です。  
クレディ・スイスはもともと乱脈経営が知られていましたが、金利上昇で債券などの保有資産が下落し、財務状況の悪化が懸念されて経営危機に陥ったのです」  
金融コンサルティング会社インフィニティの田代秀敏氏も、リーマンショック時の既視感があるという。
「どこかから火が出て、政府が慌てて鎮めるが、最後は手に負えず破綻させてしまう状態になってリセッションに入るという流れです。しかも現在は、あの当時よりもマグマがはるかに大きい。リーマンショック以降、世界は金融緩和をずっとやってきた上に、パンデミックやウクライナ戦争でマネーは膨れ上がっていますからね」  
重要になるのは、今後の米国の金利動向だ。3月は0・25%の利上げが確定しているが、問題は次の5月。インフレが収まらず、さらなる利上げが必要となれば、銀行の破綻は連鎖するだろう。 「米国以上に不動産市場が活況を呈していたカナダ経済では、すでに住宅価格が大きく下落しています。もし米国でも不動産市況が悪化すれば、さらに多くの金融機関が破綻するでしょう」(藤氏)  
5月はただでさえ「セル・イン・メイ(「5月に株を売って夏のバカンスに出かけよう」の意)」といわれ、相場が弱い時期。春の嵐が近いようだ。
●金融不安の拡大どこまで?ドイツ銀株下落、米財務長官発言で乱調 3/27
先週の日経平均株価(225種)は、クレディ・スイス・グループ(CS)の経営危機を受けて、20日(月)に終値が前週末の17日(金)から388円下落したものの、祝日明けの22日(水)は欧米当局の金融危機阻止のための対策が評価され、祝日前の20日に比べ520円高と大幅上昇しました。
しかし、22日に米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げが決まると、あらためて高金利下での金融不安が台頭。
23日(木)、24日(金)はジリ安の展開となったものの、先週末24日の終値は前週末比51円高と多少、落ち着きを取り戻しました。
ただ、24日、今度はドイツ最大の銀行であるドイツ銀行(DB)のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の価格が急上昇し、ドイツ銀行に信用不安が波及。
CDSは、手数料を払うことで、対象企業が債務不履行に陥って破たんしたときの損失を肩代わりしてもらう保険のような金融派生商品です。
米国市場にも上場するドイツ銀行の株価(DB)は23日の前日比6.1%安に続き、24日も、一時8%以上急落。
終値は3%安まで戻しましたが、「クレディ・スイスの次はどこだ?」という警戒感は週明けの日本市場にも影響を与えそうです。
24日(金)の外国為替市場で一時1ドル=129円台まで円高が進んだことから(終値は130円台)、今週27日(月)から31日(金)の日本株市場は神経質な展開が続きそうです。
先週:米財務長官の預金保護巡る発言で乱高下!市場は年内の米利下げ織り込む
先週は19日(日)(日本時間20日(月)未明)にスイス第2位の銀行で信用危機にあったクレディ・スイス・グループがスイス最大の銀行・UBSに30億スイスフラン(約4,300億円)相当の株式交換で救済合併されることが決定。
株式交換の比率はクレディ・スイス株22.48株に対してUBS株1株と決まりました。クレディ・スイスの破綻が回避されたことは金融市場にとっては一安心となりました。
しかし、スイス連邦金融市場監督機構がほぼ同時に、クレディ・スイス・グループの「その他ティア1(AT1)債」という債券約160億スイスフラン(約2兆2,800億円)はゼロになる、と発表。
AT1債は普通の社債に比べて、返済の優先順位が低い債券で、多数の欧州機関が「ティア1」と呼ばれる中核的な自己資本を補完するために発行しています。
通常、株式より安全性が高いと思われていたAT1債が無価値になったことで、債券投資家の不満が高まり、今後も欧州の債券市場は混乱が続きそうです。
一方、米国ではイエレン財務長官が21日に米国銀行協会のイベントで、破綻した米銀2行の預金の全額保護の措置をとったことに関連して、ほかの銀行でも預金を全額保護する用意があるとの考えを示しました。この発言を好感して、ニューヨーク株式市場では全面高となりました。
それに冷や水を浴びせたのが、22日(水)の米国議会上院公聴会における、イエレン財務長官の「全面的な預金保護は検討していない」という発言でした。
前日とは180度異なる趣旨だったため、22日(水)、機関投資家が運用指針にしているS&P500種指数は1.65%安。
米国の主要な銀行株で構成されたKBW銀行株指数(BKX)も4.7%安と大幅に下落しました。
21〜22日に米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が開いたFOMCの会合は既定路線の0.25%の利上げをすることを決め、終了しました。
ただ、金融引き締めを続ける中で2023年末の金利水準は従来予想(5.1%)のまま据え置いた形となりました。
FRBのパウエル議長は、銀行にストレスがかかったことが金利見通し据え置きの理由であること、今後、金融不安が台頭すれば「全てのツールを活用する」と発言しました。
同時間に行われていたイエレン財務長官の銀行預金全面保護を否定する発言と相反する内容だったため、混乱に拍車がかかったようです。
同じ記者会見でパウエル議長は「年内の利下げはない」とあらためて明言しましたが、政策金利の影響を受けやすい米国2年国債の利回りは22日の高値4.2%台から、24日(金)には一時3.5%台まで急低下。
パウエル発言にもかかわらず、今回の金融不安やそれにともなう景気後退懸念で、株式市場はFRBが年内に利下げに転じることを完全に織り込んでいるようです。
先週末の24日のS&P500は前週末比1.4%高で終了。
ハイテク株やヘルスケア株をけん引役に、金融不安や利上げをものともせず上昇しました。
21日に米国で行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝で侍ジャパンが米国に勝って、世界一に輝き、日本は大興奮に包まれました。
しかし、ミズノ(8022)の24日の株価が前週末比1.1%安になるなど、日本で予選が行われたときに比べて株式市場は盛り上がりませんでした。
業種別では銀行、保険に加えて不動産セクターが下落率でトップとなり、住友不動産(8830)が前週末比5.2%安。
22日発表の公示地価(2023年1月1日時点の全国の商業地・住宅地の価格)は前年比1.6%上昇と15年ぶりの高い伸び率でした。
しかし、金融不安で不動産市場から資金が流出する懸念や不動産価格のピークアウトに対する警戒感が高まっているようです。
今週:金融不安の連鎖は続くか、次はドイツ銀、商業用不動産?
今週は、株価が24日に突如、急落したドイツ銀行に金融危機が果たして波及するのかどうかに市場の関心が集まりそうです。
ドイツ銀行は2019年に全社員の2割を削減する大リストラ策を断行し、2022年12月期の利益は50億2,500万ユーロ(約7,100億円)に達し、3年連続の黒字でした。
そのため、ドイツ銀行への信用不安は長続きしないという見方が市場の大勢を占めているようです。
ただ、ドイツ銀行のような業績好調な銀行にまで信用不安が一時的に波及したのは、欧州銀行の先行きに対する警戒感が依然根強い証拠でしょう。
やはり、19日に救済合併が発表されたクレディ・スイス・グループのAT1債が無価値、すなわち紙くずになったことが響いているようです。
今回の金融危機の発端になった米国シリコンバレー銀行破たんも、2022年にFRBが急速な利上げを行ったことで、保有債券の評価損が大幅に拡大したことが原因でした。
23日(木)の日本経済新聞の報道によると、米国ではCMBS(商業用不動産担保証券)が売られ、上乗せ金利が急速に拡大中とのことです。
金融不安の渦中にある米国地銀は、こうした商業用不動産に多額の資金供給を行っています。
信用不安が広がって預金引き出しなどが殺到すると、資金繰りに困った地銀が、商業用不動産からの融資や投資の引き上げに走る恐れも高くなります。
商業用不動産事業が債務不履行に陥るリスクが高まり、それらの不動産へのローンを束ねて債券化したCMBSの価格下落、それに反比例した金利の上昇が発生しているというわけです。
欧米の中央銀行がインフレ退治の高金利政策を継続し続ける限り、金利上昇で保有債券の価格が下落して、金融機関が巨額の含み損を抱え込むという構造的な問題は解決しません。
金融不安がすぐに収束することもないでしょう。
そんな中、今週は、米国では28日(火)に全米の住宅価格の動向を示す1月のケース・シラー米住宅価格指数、29日(水)に2月の住宅販売保留指数(売買契約は完了したものの、引き渡しが済んでいない中古住宅件数の伸びを指数化したもの)が発表になります。
商業用不動産だけでなく、個人向け住宅の価格や販売の落ち込みが続くと、より規模の大きなRMBS(住宅ローン担保証券)市場にも悪影響が出るでしょう。
2008年9月に発生したリーマン・ショックも、米国の住宅バブル崩壊で、格付けの低い住宅ローン担保証券が次々と無価値化したことが発端でした。
さらに、月末の31日(金)には、米国の2月個人消費支出とその価格指数(PCEデフレーター)も発表されます。
変動の激しい食品とエネルギーを除いたPCEコア・デフレーターはFRBが最重要視する物価指数ですが、前回1月は前年同月比4.7%、前月比0.6%の上昇と伸びが加速しました。
今回も物価高が再加速するようだと、高金利政策の継続によって生じるさまざまな副作用で、金融不安がさらに高まる恐れもあります。
またまだ春の嵐は収まりそうにありません。
ただ、米国株は金融不安による金利低下でハイテク株中心に、勢いを取り戻しつつあります。
4月を目前に株価底入れに対する期待感が台頭する可能性もありそうです。
●突然紙くずに…「AT1債ショック」 クレディ・スイス発行の「AT1債」が“無価値” 3/27
アメリカの銀行破たんからヨーロッパへ広がる金融不安。クレディ・スイスの救済合併で危機は脱したように見えますが、市場では引き続き不安の火種がくすぶっています。
きょうの東京株式市場では、銀行株などの下落が重しとなり、日経平均株価は85円の値上がりで午前の取引を終えました。
しかし、金融システムへの不安は根強い状況です。不安の背景にあるのは、スイスの巨大金融機関「クレディ・スイス」救済策の一環で一部の債券が突然、紙くずとなったことです。
先週、同じスイスの金融大手「UBS」が「クレディ・スイス」を救済合併しましたが、金融当局はクレディ・スイスが発行する「AT1債」2兆3000億円分を全て無価値、ゼロにするという異例の対応をとりました。
経営破たんの際には、先に株主に損失が発生するのが一般的ですが、今回は「AT1債」を保有する投資家が真っ先に損失を被ることになりました。この「AT1債」は他のヨーロッパの銀行をはじめ、33兆円も発行されていて、同じように紙くずにならないか心配が広がっているのです。
異例の対応は危機の大きさの裏返しとも受け止められていて、金融不安の収束にはまだまだ時間がかかりそうです。
●「植田日銀」が17年ぶりに取り組む金融引き締めの険しさ 3/27
「ドラスチックな変化はなさそうだ」という見方は表面的に過ぎると、筆者は指摘する。新総裁の言動からその本質に迫る。
対岸の火事でない米国銀行の破綻
3月10日、植田和男氏を日銀総裁に起用する人事案が国会の同意を得た。金融市場では当初、植田氏の下で「金融政策の正常化(正常化)」が早期に進むとの思惑が広がったが、衆参両院での所信聴取で、正常化プロセスは急ぐべきではないとの持論が認識された。しかし、これをもって「どうやらドラスチックな変化はなさそうだ」と見るのは表面的に過ぎるだろう。むしろ、正常化は進むと見るべきだ。
植田氏の本領は、1金融市場への理解、2データとロジックに基づく政策判断、3コミュニケーションを重視する姿勢──の3点にあり、市場はこれらを確認し、安堵したと見ている。
判断基準はリスクとコスト
植田氏の審議委員時代の発言を掘り起こすと、政策判断の根拠にリスクとコストという基準があることに気付く。2000年8月にゼロ金利解除を行った際、植田審議委員(当時)は解除に反対票を投じたが、その理由に「そのように待つこと(筆者注:ゼロ金利解除を行わないこと)のコストが足元のインフレ動向から判断して、それほど大きくないのではないかと思われること」を挙げた。これは、植田氏が金融市場(同:当時の議論は株式市場を意識)を理解し、解除に踏み切るリスクと待つコストをデータとロジックに基づいて比較し、判断したことを表している。
植田氏には、日銀の金融政策を正常化へ向け、何とか軟着陸させることが求められるが、その道のりは険しいと言わざるを得ない。
市場では、植田日銀がイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)、マイナス金利、政府・日本銀行の政策連携(アコード)などをいつ転換するかに関心が集まっている。しかし、正常化を模索する上では、1金融政策は何ができて何ができないかを整理し、2その上で日本の潜在成長率をいかに高めるかが重要だ。
その意味ではアコードのうち、成長戦略への取り組みが進まなかった点をどう総括するかに焦点を当てるべきだ。アコードには、1革新的研究開発への集中投入、2イノベーション基盤の強化、3大胆な規制・制度改革、4税制の活用など、潜在成長率を高めるための取り組みが言及されており、その価値は今も失われていない。
成長戦略への取り組みが進まなかった理由を浮き彫りにしつつ、YCCをはじめ複雑化した政策を解きほぐすことこそが、植田日銀が直面する困難さの本質である。
なお、植田氏が衆議院での所信聴取で「今後どのようにしていくかは大問題だ」と指摘した上場投資信託(ETF)の扱いは上記政策とはトーンが異なる。市場に影響を与えない移管などの出口策を示すなど、異なる時間軸で取り組む必要がある。
日本で最後に金融引き締めが行われたのは、17年も前の06年3月(量的緩和の解除)、その前が00年8月(ゼロ金利の解除)だ。私たちがこれから経験する正常化は、多くの人には「初めての大事件」だ。過去2回の金融引き締め局面に何が起きたかを振り返りつつ、1景気、2企業、3政治の三つの切り口からリスクと課題を考えたい。
第一の「景気」は、正常化に耐えられるほど国内景気の足腰は十分に強いかである。振り返れば、00年8月の引き締めはITバブル崩壊が予感されるタイミングで、日銀はその後の景気悪化と消費者物価の下落を受けて7カ月後の01年3月に量的緩和政策の採用に追い込まれた。06年3月の引き締め時も企業の資金需要は強くなく、銀行の貸し出しや利ざや改善ペースが鈍かったように、タイミングが適切だったとは言い難い(図)。国内景気は今回も必ずしも強いとはいえず、正常化に耐えられるかは十分な分析が必要である。
一方、米国の急速な金融引き締めで内外金利差が拡大して円安が進んだことを受け、日本も正常化を急ぐべきという議論が持ち上がった。しかし、米国では今年後半の物価下落が見え始めたとの見方があり、そうなれば逆に日本が正常化のタイミングを逸する可能性がある。米国消費者物価指数(CPI)は3割強のウエートを占める家賃などの住居費が強い伸びを示していることから、インフレの再燃が懸念されているが、CPIの家賃は継続契約分であり、新規契約の家賃が22年夏にピークアウトしている点はまだCPIには表れていない。FRB(米連邦準備制度理事会)もこれを認識しており、今年1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨で「新規契約分の家賃が小幅な増加、もしくは潜在的な下落傾向にある点を反映して、住居費のインフレは今年後半には落ち始める可能性」が指摘されている。
悲観主義を克服する
第二の「企業」は、慎重過ぎる投資行動、すなわち、元日本銀行理事の早川英男氏が説く「学習された悲観主義」からの脱却である。「学習された悲観主義」とは、エレクトロニクス業界の大規模投資の失敗や1997年の金融危機から08年のリーマン・ショックまでたびたび繰り返された金融不安を踏まえ、多くの企業が投資行動を萎縮させたことを指し、デフレマインドを長期化させた一因ともいえる。企業がアニマルスピリットを取り戻せるかは日本経済の重要な課題である。
他方、銀行は債券ポートフォリオの評価損拡大に加え、正常化に伴う資金調達コスト上昇でマイナス影響を受ける可能性がある。理由は、1調達サイドの金利更改期間(デュレーション)が運用サイドに比べて短いため、調達金利上昇の影響が運用金利上昇の影響よりも先に出ること、2プライムレート(最優遇貸出金利)ベースの貸出金利の引き上げが(マイナス金利導入時は引き下げられなかったため)見込めないことである。特に、調達方法が預金頼みで多様化していない銀行は、調達金利が運用金利より先に上昇すればALM(資産・負債の総合管理)の不安定化要因となる。
銀行はコア預金に留意
3月10日に経営破綻した米国のシリコンバレーバンク(SVB)は邦銀にとり対岸の火事とはいい切れない。破綻の引き金は急激な預金流出だが、その原因は同行ALM体制の不備にあった。邦銀、特に地域金融機関は、これまでは粘着性の高い調達手段とされていた流動性預金(コア預金)の在り方を再考する機会となるだろう。
第三の「政治」は、1政府が金融政策依存から脱却できるかに加え、2正常化で中小企業や地域経済の再生策も見直しを迫られる。今後、地域経済は正常化でデフレ影響を受ける地域と、製造業のサプライチェーン見直しの恩恵からインフレ影響を受ける地域に二分されるのは避けられず、従来とは異なる再生策が必要だ。なお政治日程との関係では、6月の通常国会閉会後に内閣改造や解散総選挙が俎上(そじょう)に載れば、正常化のスケジュールにも影響が及ぶ可能性も否めない。
●27日東京株式市場前場 金融不安への警戒感残る 85円92銭高で終了  3/27
週明けの東京株式市場は、先週末のアメリカ市場で株価が上昇したことを受け買い注文が先行したが、依然、金融不安への警戒感もあり、日経平均株価は値下がりする場面もあった。
日経平均株価の午前の終値は、先週末に比べ、85円92銭高い、2万7,471円17銭、TOPIX(東証株価指数)は1,963.26だった。
●急転直下の米銀破綻、規制当局はなぜ見逃したか  3/27
3月8日時点で、開示資料にはシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行のいずれも「十分な資本を保有」と記されている。連邦規制が定める健全性基準で適切なレベルを満たしているとのお墨付きだ。
ところが、そのわずか数日後、両行ともに経営破綻に追い込まれた。
「われわれが当初1週間に自問したのは『一体これがどのようにして起こったのか』という問いだった」。米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は22日の記者会見でこう述べている。
現在および当時の規制当局者や審査官、業界関係者、破綻した両行の事情を知る人物らへの取材からは、経済が変化するスピードと、変化に対する規制当局の軌道修正の遅れが重なり、今回の危機を招いた構図が浮かび上がってきた。監督当局は問題を把握していながら、迅速かつ断固とした行動を取らず、雪だるま式に危機へと発展するのを阻止できなかった。
長年の低金利環境から一転して金利が跳ね上がる中で、規制当局は銀行が保有する債券価値に打撃が及ぶことを完全には想定していなかった。FRBは2021年半ばまで、超低金利時代が続くと予想。規制当局が金利リスクの管理モデルが不十分だとSVBに伝えたのは、すでに金利が大きく上がっていた22年終盤のことだ。
二つ目の要因は、銀行が連邦保険の対象外である25万ドル(約3300万円)を超える預金に依存しているリスクを理解できていなかったことだ。規制当局はこうした懸念について強く警告してこなかった点を認めている。SVBもシグネチャー銀も、大口預金は中核顧客のもので、引き出されることはないとの見方が背景にあった。
だが預金はかつてないスピードで引き揚げられた。背景には、ソーシャルメディアで銀行の経営に対する懸念が瞬時に拡散し、スマートフォン経由で簡単に多額の資金が動かせる仕組みになっていたことがある。
三つめの要因は監督の性質自体が変化したことだ。ちょうど銀行業務のスピードが上がっているタイミングで、規制は煩雑さを増し、過程を重視するようになっていた。
ボストン地区連銀の前総裁、エリック・ローゼングレン氏は「監督プロセスは迅速な意志決定にあわせて進化していない」と話す。「これだけ目まぐるしく変わる環境で、(規制)制度は早急に(銀行に対して)是正を迫るようには設計されていない」
銀行規制当局が今回の危機の全容を把握する作業は、数年とまではいかなくても数カ月がかりになるかもしれない。FRB、米連邦預金保険公社(FDIC)、財務省はSVBとシグネチャー銀の預金全額保護やすべての銀行を対象とする緊急支援策を導入して、ひとまず危機の連鎖を抑えている。パウエル氏は問題の原因に関する内部調査の実施を発表し、5月までに結果を報告するとしている。議会でも公聴会が始まる予定だ。
FDICの管理下に入ったSVBと、同行の元最高経営責任者(CEO)はコメントを拒否した。傘下の子会社がシグネチャー銀の資産を取得したニューヨーク・コミュニティー・バンコープもコメントを控えた。
SVBはハイテク業界の顧客らと共に、過去数年に急激な成長を遂げた。主要規制当局はワシントンに本部があるFRBとサンフランシスコ地区連銀、カリフォルニア州金融保護イノベーション局だ。
審査官は過去にSVBの問題を把握していた。FRBは2019年、同行のリスク管理の問題について経営陣に指摘している。昨夏には、流動性やリスク管理、ガバナンス(企業統治)に関する落ち度についても警告していた。内情を知る関係者が明らかにした。SVBは最終的に、買収が禁止される「4M」という制限措置の対象に置かれたという。
SVBの問題に関する監督当局のメモは「注意が必要な案件」と「至急の注意が必要な案件」との警告レベルにとどまり、断固とした行動は伴わなかった。
より高い利回りを求めてSVBを含む一部の銀行が選好していた長期債の価格は、金利の上昇で特に大きな打撃を受けた。2022年末時点で、これらの銀行では多額の含み損が発生。この点に関してFDICが警告し始めたのは同年の下期頃からだ。
保有債券の価値下落は理論上、銀行の資産と負債の緩衝材として損失を吸収する資本を毀損(きそん)する。米議会は1991年、金利が資本に与える影響を測る仕組みを考案するよう、規制当局に指示した。
しかし、FRB、FDIC、米通貨監督庁(OCC)は1996年、潜在的な利点よりも負担やコストの方が大きいなどとして、「業界と連携してリスク管理技術改善に向けた取り組みを促していく」方針を示した。金利変更による影響は、審査官が検証するよう指示されている項目の一つだ。
FRBはここ何年も、大手金融機関を対象に実施するストレステスト(健全性審査)で、インフレ高進や金利の大幅上昇といったシナリオを盛り込んでおらず、規制関連で金利リスクを重視していなかったケースがあった。
あるFRBの元審査官によると、SVBは2022年の時点でFRBの監督チームの規制下に置かれるほどの規模に拡大していた。資産規模が厳しい金融規制の対象になる2500億ドルのラインに近づいていたことで、同行スタッフは対応を急いでいた、と関係者らは話す。リスク管理部門に勤務していた元SVB社員の一人は、FRBの審査官との会合では激しいやり取りが増えたと明かした。
SVB内では金利上昇で債券ポートフォリオのリスクが増すことを認識し、幹部らに変更を迫る社員もいた。内情に詳しい関係筋が明らかにした。
だが、経営陣は実質的に金利低下を見込んだ戦略を採っていた。結果的に経営破綻に追い込まれたことで、FRBが監督当局としてなぜ経営陣に早急な行動を迫らなかったのか、疑問を呈するSVB社員もいる。
関係筋によると、サンフランシスコ地区連銀は昨秋、SVBの経営陣との会合で、金利が上がっている環境で金利リスクの管理に問題があると指摘した。
SVBは金利リスクの管理モデルを使っていたが、モデルでは金利上昇が利益を押し上げる前提になっていたという。関係筋の一人は、金利モデルについても、FRBが「注意が必要な案件」との警告を発したと述べた。
銀行監督はここ数十年で、スピードよりも、一貫性や公平性、透明性を重視する方向で進化してきた。1990年代に州をまたぐ銀行業務に関する障害が消え、連邦当局は州の垣根を越えた規定の整備を進めるようになり、意志決定がワシントンへと集中していく。
ローゼングレン前ボストン連銀総裁によると、2007〜09年の金融危機や10年に成立した米金融規制改革法(ドッド・フランク法)により、さらに規制の中央集権化が進み、手続きの煩雑さも増えた。
審査官は注意が必要、至急の注意が必要といった警告を頻繁に出すものの、業務停止命令などで経営陣に変更を迫るには、さらに複数のステップを経る必要がある。
あるFDIC当局者は、長期的に法令順守を怠っている傾向がない限り、業務停止命令まで発展するのはまれだと明かす。一定の切迫性がない限り(SVBの場合、手遅れの段階になるまで顕在化しなかった)、銀行が資本および流動性の要件を満たしていれば、監督当局が経営陣の主張を退けるのは難しいという。
政治の影響も絡み始める。金融危機の記憶が薄れていた2018年には、SVBなど複数の銀行が規制緩和を求めるようになり、共和党のみならず、民主党の一部からも支持を得た。米議会は同年、ストレステストなどFRBの厳しい監督下に置く銀行の資産規模を500億ドルから2500億ドルに緩めた。
金融危機以降、銀行は資金調達先として、時に振れの激しく状況が変化しやすい金融市場ではなく、企業や個人からの預金集めに注力するようになった。その結果、保険対象外の預金が積み上がっていった。
昨年11月のFRBの金融安定報告書では、金融システムの資金調達に占める預金の割合が増加の一途をたどっており、早急な引き揚げの可能性があると指摘していた。だが、これをリスクとしては言及していなかった。むしろ、大手行が短期資金の調達で変動の激しい金融市場への依存度を低下させている点を歓迎しているかのようだった。
シグネチャー銀はSVBのような長期債のエクスポージャーに絡むリスクはなかったが、同じく保険対象外の預金に依存していた。ドッド・フランク法の生みの親の一人であるバーニー・フランク氏は、規制当局はこれを問題視していなかったと話す。同氏はシグネチャー銀の取締役を務めていた。
これまで預金流出のスピードは、どれだけ素早く銀行窓口担当者が現金を数えられるか、あるいはATM(現金自動預け払い機)が補充されるかに左右された。口座を閉じる、あるいは多額の現金引き出しには支店に足を運ぶ必要があった。そのため、規制当局や銀行幹部には、顧客の不安を払しょくするための戦略を練る時間があった。しかし、スマホで簡単に資金が動かせる時代になり、こうした猶予期間は消滅した。
協議の内容を知る関係者によると、ソーシャルメディアで人々が「デジタルパニック」に陥りやすくなっているとして、FDICは国民の信頼をどう管理していくかについて協議している。
●預金の全額保護、万能薬ではない  3/27
ジャネット・イエレン米財務長官は22日、「全面的な」預金保護の導入については検討していないと言明し、足元の銀行危機に対する即効薬の一つになるとの期待に冷や水を浴びせた。
とはいえ、この発言で預金の全額保護というアイデアが消えることはまずないだろう。イエレン氏は一方で、米議会が預金保護について検討することは「価値がある」とも述べている。シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の経営破綻を受けて実施したように、米財務省はすでに、連邦預金保険公社(FDIC)とともに「システミックリスクの例外措置」を使って、保険対象外である25万ドル(約3300万円)を超える預金についても全額保護の対象とすることが可能だ。メガバンクは異なる扱いを受けていると痛感している中小銀行やその支持者の間などでは、ここにきて全額保護の導入を求める声が高まっている。
その魅力は言わずもがなだ。人々は自らの預金について心配せずに済み、SVBを破綻させたような取り付け騒ぎが実質的に起きなくなる。そうなれば、銀行破綻の連鎖を回避できるだけではない。銀行が預金引き出しに備えて潤沢な流動性を確保し、短期的な運用をする必要性が低下すれば、与信の拡大も可能になるだろう。
とはいえ、コストも伴う。典型的な反対理由としてモラルハザード(倫理観の欠如)が挙げられる。これは緊急時の備えを提供することで、リスクテイクを助長するとの考えだ。しかし、2008年の金融危機時における金融機関への公的資金注入とは異なり、預金保護を拡大すれば銀行側に何ら処罰が下されないとは言い難い。預金が全額保護されても、破綻した銀行の幹部は持ち株や職を失う可能性があり、報酬返還の憂き目に遭うことすらあり得る。
預金者は取引銀行の選択に関するリスクを負わされるべきだろうか? 多くの場合はそうではないだろう。給与口座に40万ドルを預けている玉軸受けメーカーが、銀行のリスクについて考え続ける必要はないはずだ。一方で、ローン金利で優遇を期待する場合など、多額の資金を一つの銀行にあえて預けているケースもある。そのような場合、全財産を1カ所で管理することを意図的に選んだ富裕な預金者を保護すべきだろうか?
預金の全額保護を導入しても、資金を動かす動機をすべて取り去ることはない。米財務省から物価連動貯蓄国債(Iボンド)を直接購入するなどして、より高い預金金利を求める顧客もいるだろう。そのため、固定された資産利回りと預金の負債コスト増大による逆ざやで資金繰りに窮した銀行にとって、圧力が完全に和らぐことはない。
皮肉なことに、預金保険の対象上限があるからこそ、預金の分散を促している面もありそうだ。人々が多額の資金を25万ドル以下に分けて複数の銀行に預ける手助けをするツールは存在する。このうちの一部は小規模な銀行に向かい、預金金利が高い方へと流れることも多い。個人向けの手続き自動化サービスを手掛けるマックスマイインタレスト・ドット・コムの創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるゲリー・ジマーマン氏は、総資産規模20億〜600億ドルの銀行への預金が増えていると話す。
預金保護には財政の問題もある。FDICによると、2022年末時点の保険対象外の預金総額は推定8兆ドル近くで、米議会が追加でこれだけの返済義務を手当てする白紙小切手を簡単に手渡すとは思えない。つまり、銀行が支払うFDICへの保険料引き上げなどの形で、預金保険拡大のコストをまかなう何らかの仕組みが必要になるということだ。
銀行はこれまで、保険料負担をあからさまに顧客に転嫁しないよう、FDICから指導を受けてきた。だが、マネーは交換可能なため、FDICの預金保険料が上がれば、いずれは何らかの形で顧客に跳ね返ってくるだろう。例えば、預金残高が現行の保険限度額を超える顧客に対してのみ、新たな手数料が導入されるといったことが考えられる。
米金融規制改革法(ドッド・フランク法)で盛り込まれたようなことが、議会で支持を集めることもあり得る。同法では、2010年末〜12年末まで、預金金利ゼロの取引口座については限度額なしで保護するという時限措置が設けられた。このような口座は利息がつかないため、日々の資金使途向けで、顧客は単により高い金利を求めていなかった。このような預金を促進すれば、銀行の金利コスト抑制にも寄与するかもしれない。
全面的な預金保護は目の前の危機を解決するものの、将来的には別の問題を招く恐れのある措置と言えそうだ。しかも、われわれがまだ想像もできないような問題を引き起こすかもしれない。だからこそ、預金の全額保護は適切な慎重さを持って扱われるべきだ。
●安全通貨復活と言えない円、金融不安で起きているマネーフローの実態 3/27
過去2週間、米国ではシリコンバレー銀行、シグネチャーバンクの破綻、欧州ではUBSによるクレディスイスの買収などが続き、欧米の金融セクターに対して先行き不透明感が強まっている。こうした中、為替市場では円が買われ、主要通貨の中で円が最強通貨となっている。
投資家のリスク回避志向が強まった結果、円が安全通貨のような動きを取り戻しているようにも見えるが、もう少し全体を眺めると、やや違和感のある動きとなっている。為替相場の動きが、投資家によるリスク回避志向の強まった時の典型的なパターンとなっていないのである。
リーマン破綻時と異なるドルと円の動き
その顕著な例は、ドルが最も弱い通貨となっていることだ。通常、投資家のリスクテイク志向が後退する、いわゆるリスクオフの時には、円とドルの双方が買い戻される。
これは円とドルが「安全通貨」として選好されているのではなく、両通貨が資本調達通貨として元々売られているので、ポジションを閉じる過程で買い戻されるためと考えられる。
通常のリスクオフ時は円とドルの双方が買い戻され、どちらがより強いかでドル/円相場の動きが決まる。
例えば、米国のリーマンブラザーズが破綻した2008年9月から同年12月半ばまでの3カ月間強で、ドル/円相場は108円台から90円割れまで20%弱急落した。その際、ドルは主要通貨の中で2番目に強く、円がそれよりもさらに強かったのでドル/円は急落した。
今回、ドルは最弱で、かつ主要10通貨の強弱は各国の2年国債金利の変動幅の差でおおむね説明できる。
日米10年債金利と連動続けるドル/円
ドルが強くならないこと以外にも、今回の動きがリスクオフの動きを映じた円高なのか疑いたくなる事象がある。それはドル/円相場の動きが、1月半ば以降続く日米10年国債金利差との強い相関から離れずに推移しているということだ。
日米金利差とドル/円相場の相関が強くなる時は、実需のフローの影響が小さく、短期筋が金利差の動きを見ながら売買するフローの影響力が大きい時だと考えられる。先行きの不安感が増す中で投資家がポジションを手仕舞う場合、金利差の動きを見ながら動くとは考えにくい。
実際、リーマンブラザーズ破綻時のドル/円相場の急落時は、日米金利差から大きくかい離して下落している。
しかし、過去2週間のドル/円相場は、日米10年国債金利差との1月半ば以降の強い相関関係に沿って動いており、金利差が10bp動くとドル/円相場が1.4円動く関係が続いている。誰かが先行きに対して不安感を強め、あわてて円を買い戻しているような動きには見えないのである。
円高が過熱しにくい3つの要因
また、現象面だけでなく、ファンダメンタルズ面からみても、リスクオフの円高が過熱しにくいと考えられる点が3つある。
まず、第1にそもそも短期的な円ショート・ポジションがさほど積み上がっておらず、先行き不安からポジションを閉じるとしても、買い戻さなければならない円はそれほど多くないと考えられる。
世界の投資家は昨年末から日銀の金融政策正常化に対する期待を強めており、どちらかと言えば円に強気だった。円キャリートレードにとって重要な、日本と世界の短期金利差は非常に大きく拡大しているが、市場全体として元々ボラティリティが高かったので、まだ、円キャリートレードが活発化するような状況とはなっていなかった。
日本の投資家がリスクを嫌って対外証券投資を巻き戻す可能性も考えられなくはないが、まさに欧米の金融不安が強まった3月6日週と13日週の2週間で日本の投資家は合計4.2兆円もの外債を買い越している。
第2に日本と世界の短期金利差が大きいだけに、投機的な円ロング・ポジションを作りにくい。さらなる金融不安の広がりに対するリスクをヘッジするために円ロング・ポジションを造成する向きもあるかもしれないが、日本と世界の短期金利差が大きいため、このポジションを維持するのはコストがかかる。
例えば、ドル・ショート/円・ロングポジションを1週間保有し続け、ドル/円相場が動かなかったとすると、それだけで0.1%以上の損失を被ることとなる。
第3に、以前と異なり日本は大きな貿易赤字国となっている。貿易黒字だった時には円の買い戻しで短期的に円が上昇すると、輸出企業が不安になり円を買い始め、それが円高を加速させたが、今は短期的に円が上昇すると、輸入企業が喜んで円を売るため、円の上昇が加速しないことになる。
もちろん現在進行形の欧米金融不安が、一段と悪化するリスクは排除できない。しかし、今のところ、ドル/円相場の行く末にとっては、欧米金融不安によるリスクに対するセンチメントというよりは、米10年国債金利の方が重要なように見える。
マーケットは今後2年間で米連邦準備理事会(FRB)が2%ポイント程度利下げを行うことを織り込んでいる。かなり悲観的なように見え、金融セクターに対する不安が続いても、そこまで事態が悪化しないというだけで、米長期金利が全体的に水準を再び切り上げ、それがドル/円を押し上げる可能性は低くなさそうに見える。
●アマゾンもアマゾン・キラーもまとめて苦境に…米国の金利上昇 3/27
“カネ余り”に乗じて取引を強化してきたが…
足許、世界経済の環境は急速に変化している。米メタなど大手IT企業の追加リストラや、米欧金融機関の経営不安の高まりはそれを象徴する。リーマンショック以降、日米欧などの主要中央銀行は利下げなどの金融緩和を強化した。
世界全体で“超低金利”と“カネ余り(過剰に流動性が存在している状況)”は続いた。その状況が未来永劫(えいごう)続くと楽観する主要投資家は増えた。多くの投資・投機資金は成長期待の高まった米国の有力IT先端企業やスタートアップ企業の株式や暗号資産(仮想通貨)などに流入した。それに目を付けた米欧などの金融機関は、関連企業との取引を強化した。
しかし、2021年春ごろから世界的に物価は上昇し、その後はインフレの高進が鮮明化した。米欧などの主要中銀は金融政策を急速に引き締め、世界的に金利は上昇した。それによって世界経済の環境は大きく変化している。金利上昇は企業や家計の利払い負担を増やし、資産価格を下押しする。足許、そうした変化に対応するプロセスが起きている。それが、SNSやサブスクリプションのビジネスモデルの行き詰まりや一部金融機関の破綻につながった。世界経済の先行きは一段と不透明になっている。
コロナ禍で成長した“アマゾン・キラー”が急増
2008年9月にリーマンショックが発生してから2022年3月まで、事実上、世界全体は超低金利とカネ余りの環境に浸った。中央銀行は金融緩和を強化し、世界各国で短期から長期、超長期の金利は低下した。金融市場では資金のだぶつき感が高まった。より高い利得を求めて投資資金は、高い成長が期待される分野に流れ込む。
米国のIT先端企業の株や、暗号資産には多くの資金が流入した。世界の大手金融機関が発行した自己資本比率を引き上げるための特殊な債券にも、利回りが高い分、多くの資金が流入した。
コロナ禍の発生によって一時的に成長期待は低下した局面はあったが、感染の再拡大によって各国で都市封鎖や外出制限は長引いた。テレワークやネット通販、動画視聴、フードデリバリーなど世界経済のデジタル化は加速した。その結果、SNSやサブスクリプション型のビジネスモデルの優位性は一段と高まり、成長期待も押し上げられた。そうした環境変化に目を付ける企業家も増えた。一時、米国などで“アマゾン・キラー”などと呼ばれるIT系スタートアップ企業は急増した。
先端企業に積極投資していたクレディ・スイス
そうした企業は一時、超低金利環境を活用して資金調達を行い、高い成長を遂げた。成長期待の高まりに支えられ、米国のIT先端企業の組み入れが多いナスダック総合指数も大きく上昇した。カネ余りと高い成長への期待は連鎖反応的に高まり、“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理に拍車がかかった。
米国や欧州では、成長期待の高い先端分野の企業との取引を強化したり、関連する株式の取引業務などを強化する金融機関が急増したりした。その一つが、スイスのクレディ・スイスだ。
同行の出自は、富裕層向けを中心とする商業銀行ビジネスにある。しかし1980年代以降、同行はより高い成長を目指し投資銀行ビジネスに参入した。リーマンショック後は超低金利環境をよりどころに米欧などで投資銀行事業を強化し、IT関連株の発行、IT先端分野などに投資するファンド向けの与信ビジネスなどを強化した。
アルケゴス・ショックで巨額の損失を被った
しかし、2021年の春ごろから世界全体でインフレの進行が鮮明化した。2022年3月にはインフレを鎮静化するために米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始した。その後、米国、ユーロ圏、英国、カナダなどで金融は急速に引き締められ、世界的に金利は上昇した。
その結果、超低金利環境の継続期待を根底とするIT関連の株式や社債、暗号資産などの価格は下落した。企業、家計の利払い負担も増え、世界全体で需要の減少懸念も高まった。
そうした環境変化の裏返しとして、事業規模の小さい分、成長期待が余計に高まったITスタートアップ系企業や暗号資産関連企業の経営体力は急速に低下した。クレディ・スイスは、強気相場の変調にいち早く直撃された。2021年3月、同行は世界経済のデジタル化を背景に成長期待の高まった英フィンテック企業“グリーンシル・キャピタル”やIT関連銘柄などに投資を行った米アルケゴス・キャピタルとの取引から巨額の損失を被った。
かつての“サクセス・ストーリー”は雲散霧消した
2022年11月、暗号資産分野では世界的な交換業者であったFTXが破綻した。それをきっかけに暗号資産取引業者の顧客資産の保全などに対する疑義は高まった。政策金利の引き上げによって企業の信用力への不安も高まり、ファンド勢は未公開株投資に一段と慎重になった。ITなどスタートアップ企業から投資資金も引き揚げられはじめた。
結果的に、カネ余り環境を足掛かりにして特別目的会社(SPAC)に買収され、その上で株式の新規公開を実現するというITスタートアップ企業の“サクセス・ストーリー”は雲散霧消したといえる。GAFAをはじめとするIT有力企業の成長ペースの鈍化も鮮明化した。
さらに、2023年3月上旬の議会証言にてFRBのパウエル議長は、2月から一転し、インフレ圧力が想定以上に強いとの見解を示した。世界的に、金利上昇への警戒感は急上昇した。資金繰り確保のための企業の預金取り崩しの急増、金利上昇による保有債券の価値毀損(きそん)を背景に、暗号資産関連企業との取引を強化した米シルバーゲート銀行は事業清算に追い込まれ、シグネチャー銀行は破綻した。
「過度なリスクテイク」という共通点
3月10日、ITスタートアップ企業などとの取引を強化したシリコンバレー銀行は破綻し、ファースト・リパブリック銀行の経営不安も高まった。3月19日、クレディ・スイスはUBSに救済買収された。
共通するのは、過度なリスクテイクだ。特に、クレディ・スイスは商業銀行とカルチャーの異なる投資銀行分野で、無理をしてリスクテイクを続けた。ずさんなリスク管理体制も重なり、同行は自力で損失を吸収し、財務内容を健全化することが難しい状態に陥った。
一方、IT先端分野などでのリストラは一段と加速している。3月14日、メタは今後約2カ月で1万人程度の人員を追加で削減すると発表した。アマゾンも9000人を追加削減する。2023年、アップルのティム・クックCEOの報酬は前年の半分になる見通しだ。マイクロソフト、インテルなどもリストラを強化している。リーマンショック後の世界経済の緩やかな成長を支えたIT大手企業の成長鈍化は鮮明だ。
過剰人員を抱える企業のリストラはさらに進む
リスクを取りすぎた投資家や金融機関、事業法人が環境変化に耐えきれず破綻するなどするのは、過去にも繰り返された。1990年代以降の世界経済では、主要国の景気先行き不透明感が高まると中央銀行は利下げなど金融緩和を強化してきた。
しかし、足許の状況は大きく異なる。世界的にインフレ圧力は依然として強い。主要先進国の中央銀行にとって利下げは難しい。慎重に政策金利は追加的に引き上げられる、あるいは高い水準に据え置かれる公算は高い。それによって過剰人員、過剰設備を抱えるIT先端分野などの企業のリストラはさらに強化されるだろう。
今すぐではないにせよ、投資銀行業務を強化して成長期待が高いIT企業などとの取引を強化した欧州などの金融機関の経営不安は高まりやすい。3月に入って以降の欧米の金融機関の経営不安やIT先端大手企業の追加人員削減は、世界経済の先行き不透明感が一段と高まっていることの裏返しといえる。
●迫力失う「リスクオフの円買い」、根強い実需の円売り 3/27
3月10日、シリコンバレー銀行(SXB)の破綻で始まった国際金融不安は米地方銀行の経営不安問題を超えて、欧州の大手金融機関の再編にまで至った。
米連邦準備理事会(FRB)や欧州中銀(ECB)の利上げ幅や回数に注視していた従前のムードは一変し、「これで不安が収まったのかどうか」という目先の展開に目を奪われる雰囲気が充満している。
厳格な資本規制の下、「第2のリーマンショック」は起き得ないというのが市場の本心に近いはずだが、そこまで信じ切れていないというのが、本稿執筆時点の市場心理と見受けられる。
しかし、為替市場、とりわけドル/円相場の見通しに関しては目先の不安やこれにつれた金利動向で右往左往しないように努めたい。国際金融不安に伴う米金利急低下とこれに伴うドル安・円高で円安予想が難しくなったかのようなムードもあるが、筆者の基本認識はあまり変わっていない。
2023年も貿易赤字の重圧
年初2カ月の貿易赤字は約4兆円と過去に類例のない規模に達している。その上で2022年に記録した20兆円の貿易赤字は、ラグを伴いながら2023年以降の円相場にも影響を持つことを考慮する必要がある。
このような状況の下で、需給環境は依然として円売りに傾斜していると考えるべきである。例えば、主要通貨の名目実効為替相場(NEER)に関し、2022年と2023年初来(3月21日時点)の変化率を比較し、主要通貨の現状をみると、結局、昨年来の円安相場が変わっていないことが分かる。
2022年では12.4%、2023年初来では0.5%とそれぞれ下落し、反発が見られていない。昨年、NEERベースでトルコリラ(17.9%)をほうふつとさせる2ケタ下落率を記録しながら、円は未だにその弱さを引きずっている。
昨年10月下旬にドル/円相場が152円付近でピークアウトして以降、FRBの利上げ幅は3分の1になり、足元では利上げ停止観測(その先にある早期利下げ観測)まで浮上している。
その間、1月に127.22円の年初来安値をつけたものの、その後は130円台へ復帰し安定した。ちなみに、この際の円高には「日銀新体制における正常化観測」も効いており、FRBの政策運営だけが原因ではなかった。
過去の本コラムへの寄稿でも論じている点だが、そうした中央銀行の「次の一手」に絡んで金利動向が目先の変動を説明するのに有用なことは間違いないとしても、底流にある需給動向に関し「円を売りたい人の方が多い」という事実がある以上、今次の円安局面が始まる直前の水準(113円付近)まで戻るのは難しいように思える。
実効ベースでは円安修正進まず
為替市場では昨年10月から今年1月の約3カ月間で152円から127円まで進んだ鋭角的な円高のイメージが脳裏に焼き付いていると思われる。また、2月中に137円付近まで上昇した後に、130円割れまで引き戻されたことも記憶に新しいだろう。しかし、実効ベースで見れば大して円高が進んでいるとは言えない。
例えば、1973年以降のNEERおよび実質実効為替相場(REER)の動きを確認してみると、NEERは円安バブルと言われた2007年頃と同じ水準、REERは変動為替相場制が導入される以前(1971年頃)と同じ水準で推移していることが分かる。
超長期の視点に立った場合、2021年から2022年の円安は視認可能だが、昨年10月から今年1月の円高はそれほど大きな動きとは言えない。特に半世紀ぶりの安値水準でいまだに推移しているREERは日本が海外の財・サービスを求める際の購買力にほかならず、「安い日本」の状況が全くと言ってよいほど変わっていないことを示している。
金利だけで円相場の方向・水準決まらず
現状、筆者はグローバルな金融不安はこのまま沈静化し、再びインフレ抑制がテーマとなる局面に戻っていくことを前提に為替見通しを策定している。したがってFRBの早期利下げを受けた(米国の)金利面からの円高圧力は限定的と見る立場だ。
そもそも「75bPの利上げが常態だった局面」から「早期利下げ観測まで台頭する局面」へシフトしても、ドル/円相場の130円割れは定着していない。ということは、金利だけで方向や水準を考えるのは危ういということではないだろうか。こうした現状から理解されるべき事実は「需給面からの円安圧力も非常に強いこと」ではないか。
もちろん、グローバルな金融不安が本当に早期利下げに直結するのであれば、それは想定外の円高リスクになる。しかし、それでもドル/円相場で言えば125円割れがあるかどうかというのが筆者の相場観だ。さらに言えば、仮に125円までドル安・円高が進んだとしても、NEERやREERで示唆される歴史的な円安水準が大きく変わるとは限らない。
とりわけ諸外国との相対的な物価格差を織り込むREERはほぼ間違いなく、「半世紀ぶりの円安」が残存するはずだ。NEERやREERに映る円安は内外金利差の拡大・縮小よりも、過去10年間における日本の需給構造変化を反映したものであり、大局観としての「安い日本」はほとんど変わらないと考えられる。
「安全資産としての円」、確認できず
ちなみに年央以降の米利下げが織り込まれ、日米金利差が縮小する現状において、動きの速い投機筋はドル売り・円買いを増やしているのか──。
この点を確認するためIMM通貨先物取引の状況を見ると、3月21日時点までの数字が明らかになっている。SXB破綻が3月10日、シグネチャー・バンク破綻が3月12日、UBSによるクレディ・スイス救済が3月19日であるから、一連の金融不安勃発を受けた投機ポジションということになる。
昨年10月下旬、152円付近を付けた頃に最も膨らんだ円のネットショートポジションは今年1月末には概ね中立に近づいた。その際につけたドル/円相場の年初来安値が127.22円だった。今次の円安局面の起点が113円付近だったことを思えば、「投機ポジションが清算されても130円弱までしか戻らなかった」というようにも読める。その背景が2022年中に膨張した貿易赤字に象徴される需給環境の激変というのが筆者の基本認識だ。
今年2月以降は、インフレ再加速の懸念を背景に米金利が再び上昇するのに合わせて円のネットショートポジションも再拡大した。その結果、ドル/円も137円付近まで急上昇している。
その後、SXBやシグネチャーバンクの破綻を経てFRBの年内利下げ転換は大分織り込みが進んでいるわけだが、3月21日時点の投機ポジションを見る限り、円は対ドルで大きく買い戻されているわけではない。
むしろグロスで見れば、円ロングは2月中旬以降で顕著に減少傾向にあり、3月21日時点では6.84億ドルと2022年4月以来の低水準を記録している。
要するに、今回の混乱において「安全資産としての円」という需要はほとんど確認することができてない。「リスクオフムードが高まっても円が買い戻されない」という状況はちょうど1年前にロシアがウクライナに侵攻した際にも指摘されており、やはりかつての日本円とは性質が変わりつつあることを感じさせる。
こうした中、当面の円相場が顕著に上昇する展開があるとすれば、それは国際金融不安の増大とこれに伴う早期利下げ転換が現実味を帯びるよりほかないように思える。日米金利差に照らした場合、米10年金利がはっきり3.20%を割り込んでくれば安定的に130円を割り込む展開が期待できるように思っている。
裏を返せば、そこまで想定してようやく130円を割り込める地合いになるということであり、かつて日本経済・社会を揺るがせてきた「リスクオフの円買い」は着実にその迫力を失っていると言わざるを得ない。 

 

●アメリカの銀行破綻はG7世界体制崩壊につながる  3/28
2008年のリーマンショック以来となるアメリカの銀行の破綻が起きた。その後にアメリカの100以上の銀行の危機が伝えられ、なおかつそれがスイスのクレディ・スイスに波及し、破綻を引き起こし、今ではドイツ銀行も危機だと伝えられている。
人々は、これがリーマンショック以来の世界恐慌になるのではないかと、危惧している状況だ。もちろん、アメリカのバイデン大統領はすぐに信用不安を取り除く発言を行い、イエレン財務長官も不安の除去に躍起となっている。
さて、今回の出来事は次の点でリーマンショックとまったく違っている。それは、バブルの破綻といういわば自業自得の問題ではなく、その背景にアメリカのドルの価値低下と、アメリカの国債の信用低下が関連している点である。
ドル基軸体制の危機
信用不安の大きな理由は、アメリカという戦後経済を支えてきたドルを基軸とする世界システムが危機に瀕していることにある。
戦後経済体制は、1944年のブレトンウッズ体制で始まった。ドルを基軸通貨としたIMF(国際通貨基金)体制は、強い経済力をもつアメリカと圧倒的に多くの「金」を持つアメリカによる支配体制でもあった。
1国の通貨ではなく、どの国のものでもない客観的通貨を作ろうとするケインズ案は葬り去られ、アメリカという国家の通貨を基準とした国際通貨システムができあがったのだ。それは、当時のアメリカの圧倒的経済力からすれば当然のものであった。
人類の歴史は、獲得した富を貨幣によってどう維持し、発展させるかで悩んできた歴史といってよい。資本主義の根幹こそ、この貨幣の探求なのだが、その貨幣となるものの価値が安定していないのだ。結局、人類は歴史的に金や銀といった産出量が限られていて、世界中の誰もが認める金属を貨幣だと考えるしかなかった。
あるものが貨幣となるには、5つの貨幣の機能を充足しなければならない。1頭の中だけで存在し、現実的価値の実体を持たなくてもいい観念的貨幣、つまり計算の単位としての価値尺度機能、2流通を円滑にする流通手段としての機能、3現実に存在し価値を体現している実体的貨幣、すなわち価値を蓄蔵する蓄蔵貨幣としての機能、4国際決済において支払い手段として承認される機能、最後は5誰もが認める世界貨幣としての機能だ。これをすべて満たすものは、今の時代でもやはり金や銀しかないともいえる。
1971年、当時のアメリカのニクソン大統領がドルと金との兌換一時停止を宣言した「ニクソンショック」までは、ドルは金とのリンクをもっていたことで、間接的であるが、この5つの機能を持つことができた。世界中の誰もがドルを信頼し、いざというときにドルを金に変換すればいいので、安心してドルを使うことができた。
ドルは信用貨幣であり、一種の手形である。その意味でそれ自体に実体的価値を持っているのではない。国家による信用の裏付けが価値なのである。しかし、金にない利点もあった。それは金と違って経済成長に合わせてどんどん自由に発行できることで、貨幣不足を避けることができるという特徴だ。
ほころぶSWIFT体制
もちろん金に価値の実体があるといっても、それはその産出に必要な労働の費用にすぎず、金を価値として認める人々の信用がなければ意味がない。「猫に小判」という言葉にあるように、猫にとっては金であろうとドルであろうと無価値である。しかし、金はそれを生産する膨大なコストがかかることで、信用のみならず実際にも大きな価値を持っている点がドルのような通貨と異なっている。
だからこそ、絶大なる生産力を持つことで信用を獲得したアメリカのドルは、金に代替できる信用を勝ち得ることができたともいえる。価値尺度として、流通手段として、蓄蔵貨幣として、支払い手段として、世界貨幣として、アメリカという体制が世界経済の中心にある限り、あたかもドルは金のような役割を持つことができた。
しかし、国家というものは成長することもあれば、没落することもある。アメリカ経済はすでに世界経済を牛耳るレベルにはない。その実態を暴露したのが、2022年から始まった経済制裁のつまずきである。
アメリカはドルによる決済体制「SWIFT」を持つことで、すべての国の貿易にドルの使用を義務づけることができていた。だからこそ、この支払い体制からある国がはじかれると、その国は国際貿易決済が不可能となり、経済が立ちいかなくなる。アメリカはヘゲモニー(覇権)国家として、この方法を弱小国に多用してきた。
しかし、何度もその制裁の対象になったロシアや中国などが、このやり方にいつまでも我慢し続けるわけではなかったのだ。ウクライナ戦争に対するロシアへの制裁が功を奏さなかったのは、制裁慣れしたロシアがその抜け道をすでに見つけていたことにある。
もうずいぶん前から、ロシアや中国などは金の備蓄を始め、自国通貨の価値の安定を図り始めていた。そして、ドルによる多国間決済制度に代わるものとして2国間決済制度を導入し、国際貿易を維持することに成功する。
そしてBRICSという新興国の経済グループの制度を拡大し、中国の元を中心とした新しい多国間決済制度を模索し始めた。もちろん、その先には人民元でもない、新しいデジタル通貨というものも構想されている。
ロシア、中国が世界通貨をつくったら
かつて社会主義体制では「振替ルーブル」という決済制度があった。この制度は社会主義国で相互の互恵貿易を前提にしていて1国が豊かになることを避ける決済制度であり、帳簿上でお互いが黒字、赤字にならないように調節するメカニズムであった。ただ、この振替ルーブルは、IMF体制のドルより世界貨幣としての流通性がなかったことによって、最終的には崩壊してしまった。
ロシアや中国が元もしくはルーブルなどにより、新たな世界貨幣としての制度作りを始めたら、いったいどうなるだろうか。そうなるとドルの世界貨幣としての流通性は限定される。とりわけ、エネルギー資源や原料の多くがBRICSに賛同する諸国にあることで、ドルによる資源や原料の購入ができなくなるのだ。ペトロダラーという言葉は、アメリカが自国で刷った通貨で、石油資源を安く叩いて買うという制度であった。それが機能しなくなったらどうなるか。
もっといえば、すでに金融やサービスに特化している西側諸国は、農作物や工業製品をBRICSの諸国に大きく依存している。アメリカは財政赤字と貿易赤字を抱えながら、どんどんドルを乱発し、これらの諸国から製品を買っていたのだが、それができなくなるのだ。
こうして起こった現象が、世界貨幣であったドルの価値低下である。流通領域が狭まり、価値ある通貨として認められなくなれば、ドルは売られ、金に代わっていく。アメリカの国債を売っている中国などの国は、国債を売って得たドルを、金へ交換することで、ますますドルの価値は低下している。
では、なぜ金を求めるのかといえば、金にはとてつもない魅力があるためだ。それは、金の生産は容易ではなく大量に生産できないこと、また腐敗することもなく、また細かく分割することもできることで、これまでの産出した金が価値を失わず残っていることだ。
18世紀イタリアの経済学者フェルディナンド・ガリアーニは『貨幣論』の中で、金を「神の授けもの」といっているが、まさに人間が人工的に作れないという点でその名にふさわしいといえる。
もちろん今後も、金が通貨として流通することはもはやないだろう。すでに、1オンス(約28.35グラム)=2000ドル以上という時代を迎え、金は稀少であり、通貨として流通する可能性はない。しかし金が、ある通貨の準備金になる可能性は十分ある。だから、今多くの国が準備金としての金を追い求めているのだ。
「世界市場はただひとつの富である貨幣を求めて叫ぶ」
今回のアメリカの銀行システムの危機は、IMF体制の危機問題と関係している。マルクスは、恐慌が起こったときに多くの者が「金」を求めることをこう述べている。
「鹿が水辺を求めて鳴くように、世界市場はただひとつの富である貨幣を求めて叫ぶ」(拙著『超訳「資本論」』祥伝社新書、104ページ)。
確かに、今回の銀行破綻で求められているのはドルであり、金ではない。しかし、ドルが国際通貨として不安定であることがインフレを招き、そのインフレが利上げを呼び、その利上げが資金ショートと預金引き出しを導き出したのだとすれば、問題は簡単ではない。
インフレを避けるためにドルを強くすべく利上げをすれば、資金需要は高まり、銀行預金のショートは加速される。しかし利下げをすれば今度はインフレが加速し、早く通貨を使おうと銀行の預金ショートは進む。まさに王手飛車取り、トレードオフの関係だ。
今の危機を乗り越えるには、経済制裁を解除し、ドルから離れていった国々を元のドル決済の国に戻すしかない。とはいえ、アジアやアフリカ、ラテンアメリカ諸国にはこれまでの強いドルで何度も経済破綻をした国々が多く、ドルへの不信は大きい。復帰は簡単ではないだろう。もはやG7による世界経済支配の体制は終わりに近づきつつあることを理解したほうがいいのかもしれない。
●なぜアメリカで銀行の経営破綻が相次いだのか?  3/28
2023年3月に、アメリカで銀行の破綻が相次ぎました。ITスタートアップ企業を主要な取引先としてきたシリコンバレー銀行と、共に暗号資産(仮想通貨)関連企業を主な顧客とするシルバーゲート銀行(シルバーゲート・キャピタル傘下)、シグネチャー銀行の3行です。特にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行は、破綻規模が史上2番目、3番目という「超大型倒産」でした。この時期に破綻の連鎖が起きた原因はどこにあり、影響はどこまで広がる可能性があるのでしょうか。
破綻したのはどんな銀行だったのか
今回破綻した3つの銀行には、取引先を特定のセクターに特化していた、という特徴がありました。
   スタートアップ企業、ベンチャーキャピタルに特化
シリコンバレー銀行は、その名の通り、最先端のIT企業やスタートアップ企業が集まる西部カリフォルニア州のシリコンバレーに拠点を置いていました。創業は1983年で、主にテクノロジー関連のスタートアップ企業や、スタートアップ企業に出資するベンチャーキャピタル向けの融資に、アメリカでも有数の実績を持つ銀行だったそうです。
   暗号資産に特化
一方、シグネチャー銀行は2001年の設立で、ニューヨークに拠点を置き、40の店舗を展開していました。こちらの主要顧客は、暗号資産関連の企業でした。シルバーゲート銀行も同様で、1988年に設立され、仮想通貨ブームの初期にこの分野に参入したシルバーゲート・キャピタル傘下の銀行でした。
破綻の連鎖が起こった理由
   「投資バブル」の崩壊
3行が破綻した原因は、ある意味単純明快で、融資先や預金者となっていた企業の急速な業績悪化です。
こうした企業の業績悪化の前には、バブルといえる急成長がありました。その引き金になったのは、2020年に始まった新型コロナのパンデミックです。外出制限などにより景気が急速に冷え込む中、各国は経済対策として金融緩和(金利の引き下げ)政策を断行し、アメリカもその例外ではありませんでした。
その結果、世界的に「成長セクター」のリターンに対する過度な期待が膨らみました。最たるものが、ITをはじめとするスタートアップ企業であり、暗号資産関連の企業だったのです。これらの企業に対する投資熱は高まり、この3行には、調達された大量の資金が流れ込む形になりました。各銀行は、それを元手にした投融資を増加させ、自らの業績も拡大させました。
ところが、後で述べるように、アメリカの中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策を一転させ、2022年3月から段階的な政策金利(中央銀行が一般の銀行に貸し付ける際の金利)の引き上げを開始したことから、このバブルは崩壊に向かいます。さきほどとは反対に、金融引き締め(金利の引き上げ)によって、3行の顧客から投資マネーが撤退する結果となったわけです。
   「成長産業」を襲った環境変化
破綻した銀行の取引先である暗号資産、ITスタートアップ企業の置かれた状況について、もう少し詳しくみることにします。
まず、暗号資産について。FRBが利上げを実施すると、米国債の金利(利回り)も上昇します。「安全な資産」である国債の利回りが上昇すれば、暗号資産のような「リスク資産」の価値は、相対的に低下していきます。わざわざリスクの高い資産を持つ意味が薄れるからです。
実際、金利の上昇により暗号資産を売却する人が増え、価値も下落して、交換所を運営する企業の業績は大幅に悪化しました。2022年11月の大手暗号資産交換所、FTXトレーディングの破綻は、その代表例といえるでしょう。暗号資産関連企業の倒産は増加し、その業界に特化していたシルバーゲート銀行は清算、シグネチャー銀行も経営破綻に追い込まれたわけです。
ITスタートアップに関しても、同様の逆風が吹きました。金融引き締めで借り入れのハードルが上がり、株価も低迷するようになったためにIPO(株式新規上場)による市場からの資金調達もしにくい環境になりました。
この分野では、GAFA(Google、Apple、Facebook=現Meta、Amazon)の業績悪化、大幅人員削減というニュースもありました。ビジネス自体の成長性の鈍化、競争の激化が顕在化したこともあって、もともと経営基盤が盤石とはいえないスタートアップのへの投資を手控える動きは、一気に強まりました。そうした状況の下、シリコンバレー銀行は、貸し倒れや、資金繰りに窮した取り引き先企業の預金引き出しの急増などに耐え切れず、破綻を余儀なくされました。
引き金を引いたFRBの金利引き上げ
   8回の利上げを実行
このように、風向きを変えたのは、FRBによる政策金利の引き上げでした。2022年3月に0.25%(上限)の利上げが行われて以降、2023年2月まで計8回にわたり、0.25%〜0.75%の幅で金利の引き上げが行われたのです。
FRBが金融引き締めに政策転換した理由は、想定外のインフレの進行でした。アメリカでは、2021年12月以降、およそ1年間にわたって消費者物価指数が7%超という空前のインフレが続き、国民生活に大きな影響を与えました。ピークは過ぎたものとみられますが、2023年に入っても物価は高止まりの状態です。
この状況を打開するために、利上げを断行し、行き過ぎた投資や消費を抑えようというのがFRBの狙いです。
   国債の金利上昇が「致命傷」に
こうした政策が3つの銀行の顧客の業績に影響を与え、そのあおりで経営破綻にまで追い込まれた事情は説明しましたが、実は「致命傷」となったのは、これらの銀行が大量に保有していた米国債の存在でした。
これらの銀行は、投資バブルの余波で増大した預金の多くを、国債の購入に充てていました。購入時、その金利(利回り)は、1%程度(10年国債)の極めて低い水準でした。ところが、その後矢継ぎ早の利上げが行われ、それにつれて国債の金利も4%近くにまで上昇したのです。そうなると、銀行が持つ利回りの小さい国債の価値は下落します。
国債は、基本的に元本が保証された債券です。ただし、それには、「満期まで持ち続ければ」という条件が付きます。投資環境が悪化し、資金繰りに苦しむ顧客からの預金の引き出しが増えると、銀行は損失を覚悟で、保有する国債を現金化する必要に迫られました。そのことが、経営にとって大きなダメージになったのでした。
世界的な信用不安の連鎖は起こらない?
   「預金全額保護」を打ち出したアメリカ政府
銀行の経営破綻という事態を受けたアメリカ政府の対応は、素早いものでした。政府は、こうした場合に本来25万ドルまでしか保護されない預金を、全額保護するという異例の措置を発表したのです。金融不安を払しょくするための対応であることは、いうまでもありません。
ちなみに、日本で同じことが起こった場合には、1,000万円までの預金、利子が保護されることになっています(ペイオフ)。
   注目されたFRBの3月の利上げ
破綻後に注目されたのは、3月に予定されていたFRBによる9回目の利上げがどうなるかでした。利上げの一時停止の観測も流れたのですが、結局0.25%の金利引き上げが決まっています(3月22日)。
FRBのパウエル議長は、記者会見で、信用不安の影響を見極めるため利上げの休止も検討したことを明かしつつ、現時点で「銀行システムは健全だ」と述べ、引き続きインフレ対策を優先する姿勢を示しました。
   影響の拡大はあるのか
3月の半ばには、経営危機に陥ったクレディ・スイスを、スイス金融最大手のUBSが買収するというニュースがありました。気になるのは、「米国発」の銀行破綻が、2008年の「リーマンショック」のように、世界に飛び火することはないのか、ということです。
これについては、今のところその可能性は低い、という見方が強いようです。説明したように、破綻した3行はそもそも取引先が「偏って」いました。新型コロナという特殊な環境下でマネーゲームに翻弄された結果、事業の継続が不可能になったという点で、他の多くの金融機関とは事情が異なる、というわけです。あっけなく行き詰ったことに、リスク管理の甘さも指摘されています。
一方で、アメリカを中心に依然としてインフレの懸念を払拭できない現状には、リーマンショック後の調整局面とは異なる政策実行の難しさがある、という見方もあります。今回の銀行破綻が「特殊な事例」で終わるのかどうか、今後も注視する必要がありそうです。
まとめ
2023年3月に相次いで発生したアメリカの銀行破綻の背景には、インフレ抑制を目的としたFRBの段階的な金利引き上げがありました。現在のところ、世界的な信用不安に発展する可能性は低いものとみられていますが、インフレの持続など懸念材料も払しょくされてはいません。当面は、世界経済の動向に注目する必要があるでしょう。
●米ファースト・リパブリック、危機の種まいた富裕層戦略 3/28
米中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクは、同行の急成長を支えた富裕層客が預金を引き出し始めたことで経営が揺らぎ、米地銀危機の震源地となった。
シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の経営破綻を受け、JPモルガン・チェースを筆頭とする米大手行はファースト・リパブリックに計300億ドルの預金を預けて同行の資金繰りを支えるとともに、同行のための資本調達を探ってきた。
そうした努力も虚しくファースト・リパブリックの株価は月初から90%も暴落。専門家らは、同行の事業構造を考えると再建の門戸は狭いと指摘している。
ファースト・リパブリックは長年、住宅ローンや融資に優遇金利を提示して富裕層の客を呼び込んできた。米国の預金保険制度では1つの貯蓄口座につき25万ドルまでしか保護されないため、富裕層を客に持たない他の地銀に比べて同行は危うい状況にある。
モルガン・スタンレーのアナリストチームが20日に公表した推計では、ファースト・リパブリックの預金は約半分が流出している。預金保険で保護されない預金は、同行の資産の68%を占めていた。
金利の上昇に伴ってファースト・リパブリックの融資および投資ポートフォリオの価値も下がり、資本調達の妨げとなっている。アナリストや投資家は、同行の含み損を94億―135億ドル程度と見積もっている。
オートノマス・リサーチの銀行アナリスト、デービッド・スミス氏は「(含み損の分と)同程度の成長は実現できそうもない」と語った。
ファースト・リパブリックの広報担当者は、客や地域社会の支援を受けて、同行の銀行部門と富裕層向け資産運用部門は口座開設や融資などの事業を継続していると説明した。
同行は1月に開いた投資家向け説明会で、株主リターンが複利で年率19.5%と、他の地銀の2倍に達すると胸を張っていた。富裕層客に照準を定めた戦略を説明し、同行から一戸建て住宅向けローンを借りている客の現金保有額は中央値で68万5000ドルと、平均的な米国民よりはるかに多額だと指摘した。
ファースト・リパブリックはまた、富裕層客を呼び込むためにローンに優遇金利を適用していると公言していた。
同行幹部のロバート・リー・ソーントン氏は昨年11月9日に投資家に対し、「お得意様向けの最優遇金利を利用していただくため、完全なデポジット・リレーションシップ(融資実行の条件として、その銀行に主要な預金口座を開設すること)を当行は望んでいる」と説明。「これが最も力を入れている点であり、これほどの急スピードで預金残高を増やすことができた一因だ」と述べた。
ニューヨーク市の記録によると、同行は2月にマンハッタンのコンドミニアムを買った客に期間30年超、1000万ドルのローンを当初金利4.6%で実行している。これに対し、バンク・オブ・アメリカのウェブサイトを見ると、同行が同じ地区の大型住宅ローンに適用している金利は現在5.5%だ。
セントルイス地区連銀のデータによると、30年物大型住宅ローン金利の全米平均に比べても、ファースト・リパブリックの金利は1―2%ポイント低い。
客の中にはザッカーバーグ氏も
ジェームス・ハーバート氏が1985年に創業したファースト・リパブリックは当初、低金利の大型融資に注力していた。2007年にはメリル・リンチに買収されたが、メリルを買収したバンク・オブ・アメリカに売却されて10年に再上場した。
フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏はカリフォルニア州パロアルトの住宅を購入するためにファースト・リパブリックから期間30年、595万ドルのローンを借りたことが、2012年のブルームバーグの記事で分かっている。
ファースト・リパブリックの宣伝資料を見ると、食品宅配アプリ企業、インスタカートの創業者であるアプールバ・メータ氏など、他にもそうそうたる面々が客に名を連ねる。
プライベート・エクイティー(PE)企業、スメル・エクイティー・パートナーズの共同創業者、ランディー・ランドルマン氏はロイターの取材に答え、同社はファースト・リパブリックの優遇金利を利用して成長するハイテク企業に投資するなどしたと説明。「(同行は)われわれのような企業に非常に高いレベルのサービスを提供してくれる」とし、自身は今でも忠実な客だと述べた。
ファースト・リパブリックは富裕層以外を対象とした事業も行っており、同行の資料によると事業向け融資の22%を学校と非営利組織向けが占めている。
金利上昇
ファースト・リパブリックの含み損が膨らみ始めたのは、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ対応のために急速な利上げに着手した時だった。
年次報告書によると、政府系証券など、主に満期保有目的の資産で構成される投資ポートフォリオの含み損(グロス)は、2021年末に5300万ドルだったのが、昨年末には48億ドルに膨れあがっていた。
政府が介入するか金利が低下するかしない限り、この含み損はファースト・リパブリックを買収する企業によって、もしくは同行自身が流動性確保のために売却することによって実現化せざるを得ない。
年次報告書では、融資ポートフォリオの半分以上は巨額ローンを中心とする一戸建て住宅向けローンで構成されており、他の銀行に売却することは困難だ。
ボストン大学ロースクールのパトリシア・ア・マッコイ教授は「富裕層客は、非常に低い金利で多額の住宅ローンを借りられることが一因でファースト・リパブリックに引きつけられた」と指摘。金利が大幅に上昇した今、こうした低金利の住宅ローン債権は潜在的な買い手企業にとって価値が大幅に下がっており、「大きな負担になる」と語った。
●米金融不安、銀行業界の関心は中期的な成長鈍化に移行 3/28
地銀2行が経営破綻し、小規模行で記録的な預金流出が起きた後、米銀行業界の関心は目先の危機から経済成長の鈍化という中期的な懸念へと移りつつある。
米連邦準備理事会(FRB)が24日発表したデータによると、シリコンバレー銀行が経営破綻した10日以降、国内小規模行の預金は1190億ドル減と過去最大の落ち込みを記録した。
ゴールドマン・サックスのアナリストチームは国内総生産(GDP)に触れたメモで、「米銀行システムのストレスが信用の伸びを鈍らせ、GDPの実質的成長率を押し下げる」と予想。首席エコノミストのジャン・ハッチウス氏は、顧客の預金保護に対する政府の姿勢が明確でないため、金融市場は依然として不安定な状態だと指摘した。
アポロ・グローバル・マネジメントの首席エコノミストのトーステン・スロク氏はノートで、顧客が資金を当座預金口座から政府の預金保険の付いた口座であるマネーマーケット預金口座に移動させており、消費支出は減少するだろうとの見通しを示した。
米ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は26日のCBSの番組で、最近の銀行セクターへのストレスとそれによって起こり得る信用収縮が、米経済を景気後退(リセッション)に近づけると警告した。
一方、バークレイズのアナリストは先週のノートに、金融環境の引き締まりは経済活動にとって大きな圧力になるが、「本格的な信用危機」が起きない限り破滅的な状況にはならないと書いた。
バンク・オブ・アメリカのアナリストはノートで「銀行システムへのストレスは引き続き強いが、安定の兆しもいくらかうかがえる。銀行向け緊急流動性供給の伸びは鈍化しているようだ」と分析した。
●円相場 小幅に値下がり 米の長期金利上昇を背景に  3/28
28日の東京外国為替市場は、アメリカやヨーロッパでの金融不安への警戒感からドルを売って円を買う動きが出て、日中は円高が進みましたが、夕方になるとアメリカの長期金利の上昇を背景に円安が進み、円相場は小幅に値下がりしています。
午後5時時点の円相場は、27日と比べて23銭円安ドル高の1ドル=131円15銭から17銭でした。
ユーロに対しては、27日と比べて1円17銭円安ユーロ高の1ユーロ=141円91銭から95銭でした。
ユーロはドルに対して1ユーロ=1.0820から21ドルでした。
市場関係者は「夕方に入るとアメリカで長期金利が上昇し、日米の金利差の拡大が意識されて円を売りドルを買う動きが強まった。投資家の間では日本時間の28日夜からアメリカ議会で行われる公聴会で、銀行の破綻についてFRBの幹部がどのように発言するか注目されている」と話しています。
●ニューヨーク株式市場 3営業日続伸 金融不安やわらぎ買い注文  3/28
週明け27日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3営業日続伸した。
経営破綻したアメリカのシリコンバレー銀行を中堅銀行のファースト・シチズンズ銀行が買収すると発表したことを受け、金融システムに対する投資家の不安が和らぎ、買い注文が優勢となった。
ダウ平均は前週末比194ドル55セント高の3万2432ドル08セントで取引を終えたハイテク株主体のナスダック総合指数は反落し、55・12ポイント安の1万1768・84だった。
●“リーマンショック”の2倍超え 米・中小銀行で約15兆円の預金流出 3/28
3月10日のシリコンバレー銀行の経営破綻に端を発し、世界の金融市場に広がった信用不安。アメリカで2つの銀行が破綻した15日までの一週間に、中小規模の銀行全体で1200億ドル、日本円で約15兆7000億円もの預金が流出したことがFRB(=連邦準備制度理事会)の統計で明らかになった。
これは過去最大の流出額で、リーマンショックに繋がるサブプライムローン問題が浮上した2007年3月の2倍を超える額だ。相次ぐ破綻で預金者の不安が高まり、預金を引き出して大手銀行などに移す動きが広がったためとみられている。
バイデン大統領は、沈静化に躍起になっている。
「事態が落ち着くまで少し時間がかかると思いますが、大混乱になるようなことは何もないでしょう。しかし、この件に関して不安を抱えていることは理解しています。中堅銀行は生き残らなければなりません」
バイデン大統領は、金融不安が続くと判断した場合、引き続き特例的な預金保護の措置を講じる考えを示した。 

 

●アメリカ発「金融危機」でも関係なし!日本株「超・絶好調銘柄」の正体 3/29
世界の中央銀行の利上げによって金融危機が広がり、今後も波乱相場が予想される。
デフレに見舞われてきた日本では、急激なインフレが進行中。勤労世代には未知のインフレは、円安と相まって日本経済を窮地に追い込んだ。
ところが、最悪な環境の中でもそれをもろともせず、成長を続ける銘柄がある。現在の日本株を詳しく分析したストラテジストの大川智宏氏が厳選した「全18銘柄」を一挙公開する! 
インフレに勝ち続ける企業たち
具体的にどのような方法で銘柄を抽出していくべきだろうか。今回は、シンプルに「実質売上高成長率」と「マージン改善率」2つの要素を用い、その成長力の強さを判定基準としたい。
まず、実質売上高成長率についてだが、その名の通り、売上高成長率を実質化したものを指標として定義する。具体的には、売上高を消費者物価指数で除したものを実質売上高とし、その対前年比成長率を計算する。
   図:実質売上高成長率の考え方
この数字がプラスになっていれば、物価の上昇を上回る売上高の成長が達成されたことを意味する。つまり、消費者物価の騰落、インフレの影響を排除した売上高の成長率が可視化されるのだ。
では、実際に日本株市場の実質売上高成長率の推移を見てみよう。業種特性による違いを見るため、内需・ディフェンシブ業種と、外需・景気敏感業種のそれぞれを集計して別々に観察している。
   図:内需・外需業種の実質売上高成長率の推移
基本的には、外需・景気敏感業種の方が成長の加速・減速の振れ幅は大きく、内需・ディフェンシブにやや先行するかのような傾向がある。
そして、無視できない動きとしては、やはり物価が上昇したあとに成長率の鈍化が見られる点だ。足元では、コロナ禍からの回復を経て成長自体は達成されたものの、物価の急騰を経て外需・景気敏感業種はすでに成長の勢いの鈍化が見られ始めている。
過去の例に倣えば、内需・ディフェンシブ業種も早晩に成長は頭打ちとなる可能性が高いと考えた方がよさそうだ。
ダメージの大きな業態
続いては、利益率(マージン)の成長率についてだ。こちらは、基本的な事項なので詳しい説明は割愛するが、成長率の計測イメージは以下の図のようになる。
   図:マージン成長率の考え方
マージンについては、少なくとも理論(数式)的にはインフレの影響を受けない。なぜなら、分子の純利益、分母の売上高の双方にインフレの要素が加わって相殺されるため、インフレ発生前後の金銭の価値は等しくなるからだ。
しかし、当然ながら現実はそう単純ではない。
コストの増加を販売価格に素直に転嫁するのが困難な場合もあり、今までと同じようにビジネスをしていても、名目上の売上高の増加を上回る形で原材料や人件費などが高騰すれば、言うまでもなくマージンは悪化してしまう。
そのため、難しいことは抜きにして、マージンの対前年比の成長率(改善度合い)を見れば、インフレ環境下であっても企業努力によって収益性の改善を達成してきた素晴らしい企業であるということになる。
そして、同様に内需・ディフェンシブ業種と外需・景気敏感業種の双方の推移を見たものが、以下の図である。
   図:内需・外需業種のマージン成長率の推移
こちらも、振れ幅は外需・景気敏感業種の方が大きいが、内需・ディフェンシブ業種の推移を消費者物価指数と見比べると、明らかに真逆の動きをしていることが分かる。当然ではあるが、国内の物価が高騰すれば、直接的に内需の利益率の悪化に連動するようだ。また、売上高成長率と異なり、タイムラグなども見られないことも特徴的である。
何にしても、物価の高騰は内需系企業にとって深刻な悪影響をもたらしているのは間違いないだろう。
そして、最終的に、この2つの要素を用いて、インフレ耐性の高い銘柄を定量的に抽出していきたい。
2159銘柄から厳選した「お宝」は18銘柄
方法はいろいろあると思うが、今回は「インフレ、デフレに関係なく成長を達成できる銘柄」にフォーカスしていく。
というのも、足元はインフレの急伸による悪影響が懸念されるが、そういった状況が長期化すれば、結局のところ物価は頭打ちとなって景気の後退局面に移行する可能性が高いからだ。
中長期の投資の観点で見れば、インフレ期でもデフレ期でも、安定して実質的な売上高が成長し、マージンの改善が達成されるほうが望ましいといえる。景気が折れた瞬間にデフレとともに失速してしまう企業を保有するのは、現在の世界経済の状況を考えるとリスクが高いだろう。
具体的には、まず東証プライム指数構成銘柄について、過去10年間の月次の実質売上高成長率、および純利益マージン成長率を算出する。
数字は実績値だ。無論、実績の売上高および利益の数字は四半期決算時にしか更新されないが、消費者物価指数の値は毎月公表されるため、月次による計測としている。そして、それぞれの指標について、過去10年間のうちで成長率の値がプラスであった月の割合が高かった銘柄を抽出すればよい。
今回は、便宜上で両指標のプラス月の割合が80%以上という条件を満たす銘柄を抽出している。
これを満たした銘柄は、東証プライム市場に上場している2159銘柄のうちで、わずかに18銘柄のみであった。
いよいよ公開!「超絶優良銘柄」
   図:実質売上高成長率とマージン成長率 高勝率銘柄
顔ぶれとしては内需・ディフェンシブの業種が多く、特に情報・通信業に属する銘柄が目立っている。
システムの保守運用やサブスクリプション型のビジネスなどは景気に左右されにくく、インフレ環境下でも価格転嫁がしやすいことなどが起因しているかもしれない。
今後、国内のインフレの進行と世界景気の後退というリスクが手を取って日本株市場を襲う中で、我が道を進んで成長と利益率の向上を達成できる銘柄は、防御資産として有能である可能性が高いといえそうだ。
さらに連載記事『加速するインフレ、止まらない金利上昇…「植田和男・日銀総裁誕生」で株式市場におきた「重大変化」の見逃せない実態』では、日本を襲うインフレとそれに対応する銘柄について詳しく紹介している。
●28日の米国市場 米国株式市場は下落、金融危機への不安がくすぶる 3/29
NY株式:米国株式市場は下落、金融危機への不安がくすぶる
ダウ平均は37.83ドル安の32,394.25ドル、ナスダックは52.75 ポイント安の11,716.08で取引を終了した。
破綻した地銀を巡る上院銀行委員会での金融監督当局指導者による証言を控えた警戒感から売りが先行。その後発表された3月消費者信頼感指数が予想外に上昇したためダウ平均は一時プラス圏を回復。一方、長期金利の上昇を嫌気しハイテクは終日軟調に推移。また、終盤にかけて、金融危機不安がくすぶり、一時上昇していた地銀セクターが再び下落に転じて相場全体を押し下げ、主要株価指数は下落して終了した。セクター別ではエネルギー、消費者サービスが上昇した一方、ヘルスケア機器・サービスが下落。
調味料メーカーのマコーミック(MKC)は値上げが奏功し第1四半期決算で売上3%増を計上、さらに、第2四半期の伸びが加速するとの楽観的な見通しを示し、買われた。エネルギー資源会社のオキシデンタル・ペトロリアム(OXY)は著名投資家のバフェット氏運営の保険バークシャ・ハサウェィ(BRK)が同社株を追加で購入したことが当局への届け出で明らかになり上昇。ドラッグストアチェーン運営するウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(WBA)は四半期決算で新型コロナワクチンや検査キット売り上げが減少したものの、調剤などの強い伸びが相殺し調整後の1株利益が予想を上回ったほか、通期の見通しが好感され、上昇した。中国のテクノロジー、アリババ(BABA)は電子商取引、メディア、クラウドなど6つの主要部門に分割、独自の資金調達、新規株式公開(IPO)などの可能性も含めた事業改革を明らかにし、大幅高。
一方、後払い決済のプラットフォームを提供するアファーム(AFRM)は携帯端末のアップル(AAPL)が同サービスを開始することを発表したため競争激化懸念に売られた。地銀のファースト・リパブリック(FRC)は経営難への懸念が払しょくせずに下落。配車サービスのリフト(LYFT)は最高経営責任者(CEO)の交代を発表し一時買われたが、新CEOが「身売りはない」と発表すると売られた。
取引終了後に四半期決算を発表したヨガアパレルのルルレモン(LULU)は調整後の1株利益や見通しが予想を上回り、時間外取引で上昇している。また、半導体のマイクロンテクノロジー(MU)も在庫水準の回復が好感され上昇している。
NY為替:米CB3月消費者信頼感指数は予想外の改善、ドルは下げ渋る
28日のニューヨーク外為市場でドル・円は、130円41銭まで下落したのち、131円20銭まで上昇も、130円89銭へ再び反落して引けた。米金利の低下に伴うドル売りが優勢となったのち、米1月FHFA住宅価格指数が予想外のプラスに改善したほか、米3月消費者信頼感指数も2月から低下予想に反し上昇したため金利が上昇に転じ、ドル買いが再燃した。その後、経営難が懸念されている地銀のファースト・リパブリック銀など地銀株価が再び下落に転じると金融混乱への懸念が再燃しリスク回避の円買いが強まった。
ユーロ・ドルは、1.0816ドルまで下落後、1.0849ドルまで上昇して1.0846ドルで引けた。ユーロ・円は141円43銭へ下落後、142円10銭まで反発。ポンド・ドルは、1.2300ドルまで下落後、1.2349ドルまで上昇した。ドル・スイスは、0.9170フランから0.9223フランまで上昇した。
NY原油:続伸で73.20ドル、ドル安を意識した買いが入る
NY原油先物5月限は続伸(NYMEX原油5月限終値:73.20 ↑0.39)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物5月限は、前営業日比0.39ドルの73.20ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは72.19ドル-73.93ドル。米国市場の序盤にかけて72.19ドルまで下げたものの、ドル安を意識して73.93ドルまで反発。ただ、その後は上げ渋り、通常取引終了後の時間外取引では主に73ドル台で推移した。
●世界的な金融危機で中国の地銀にスポットライトが当たる 3/29
世界的な銀行危機により、経済の急減速を受け、苦境にある中国の地方銀行は新たな監視下に置かれている。しかし、北京の最近の動きは投資家に安心感を与えるだろう。
米国と同様、中国は100兆元(1,900兆円)以上の資産を抱える中小地方銀行に問題を抱えている。当局が何年もかけて地方銀行のリスクを抑えようと努力してきたが、シリコンバレーバンク(SVB)の破綻や、最近多くの中小銀行が発行した債券の償還オプションの使用を控えたことから、再び懸念が高まっている。
投資家に動揺を与えているのは、パンデミック(世界的大流行)の前に、北京が救済措置から目をそらし、地元金融機関の宝尚銀行を約20年ぶりに中国の銀行として倒産させたことを思い出す。
しかし、アナリストによれば、中国は長年にわたるコビド規制の打撃を受けた後、成長を復活させようとしているため、モラルハザードの懸念よりも安定性を優先し、銀行の破綻を防ぐために救済や合併を承認する傾向が強いという。
フィッチ・レーティングスのシニア・ディレクターで中国銀行格付けの責任者であるグレース・ウーは、「中国のシステムがEUや米国の銀行システムと大きく異なる点は、政府支援のレベルです」と述べている。「フィッチ・レーティングスのシニア・ディレクターで中国銀行格付けの責任者であるグレース・ウーは、次のように述べています。「世界の他の地域で見られるような、本土当局による規制介入の例や証拠は確かにあります」
習近平国家主席も最近、金融システムの監視を見直し、常識を覆す3期目を迎えるにあたり、金融システムを共産党の厳しい直接管理下に置くことになった。
北京が救済の準備を進めているもう一つの手がかりは、昨年、金融安定化基金を設立し、第1回目の資金調達ラウンドで646億元を調達したことである。北京はまた、2020年以降、地方政府に対し、中小銀行の資本増強に使用される5,500億元の債券を発行するよう促している。
これは、2010年代に中国東北部の小規模金融機関を救済した際のアプローチに戻ることになる。
Gavekal Dragonomicsのアナリスト、Wei Heは「規制システムの見直しは、金融規律の徹底とモラルハザードの回避という中央銀行の最近の目標からかなり変化している」と指摘した。
経済成長が回復すれば、地方銀行の収益も回復するはずです。北京はここ数年、地方の金融機関を一掃し、資本を増強させており、その成果は上がっているという。 中国人民銀行は、中国国内の約300の銀行がリスクを抱えていると推定しており、2018年の420から減少している。
それでも、中国人民銀行(PBOC)の金融安定局の孫天g局長は、1月の解説で、リスクを紛らわすための銀行による「偽」の増資や隠蔽の可能性を警告し、高リスクの評価に近い金融機関は、さらなる悪化を防ぐために厳しく監視されると述べている。
地方銀行の弱点は、資産面と負債面の両方にある。競争力のない地元企業や政府のペットプロジェクトに多額の融資を行い、不良債権化を招いた。負債面では、安定した預金資金を集めることができず、より飛ばしやすい資本市場からの借り入れに頼っている。
パンデミックはその状況をさらに悪化させた。中国の中小金融機関は、地方政府の債務や中小企業向け融資により多くのエクスポージャーを有しており、不動産市場の崩壊やゼロ・コロナ政策による経済の低迷で最も影響を受けている。また、金利の低下により純利鞘が圧迫され、財政的にも苦境に立たされている。
2012年から2016年にかけての景気後退期において、小規模な地方銀行は、不良債権を処理し生き残るためにそれ以前の時期を過ごした後、着実にリスクを高めていった。ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのアナリスト、シュウジン・チェンは、「コロナによる景気低迷の後、小規模銀行の健全性が悪化したため、同様のパターンが今、繰り広げられている」と述べた。
「かなり多くの企業の財務状況が悪化し、おそらく融資の支払いも滞ったため、中小の地方銀行はより脆弱になっている」とチェンは言う。
今月に入り、煙台農村商業銀行や安徽太和農村商業銀行など、いくつかの銀行がバーゼルV適格Tier2証券の償還オプションを行使しないことを選択したため、こうした脆弱性が表面化してきている。
その前には、九江銀行が市場の暴落を受けて償還を見送る決定を撤回した。資産の質に対する市場の懸念と重なる頻繁な償還停止は、地方銀行の資金調達コストを引き上げている。
国金証券のリサーチノートによると、2017年から2022年にかけて、農村部の金融業者を中心とする約44の小規模銀行が、Tier2債の償還を行わないことを選択したそうだ。この債券は、自己資本比率を維持するための重要な手段であり、通常、10年から15年という長い期間と早期償還が可能な期日を持つ債券だ。投資家は、発行体が最初のコール日に債券を償還することを期待している。
ポールソン研究所のシンクタンク「マクロポロ」によると、地域金融機関の平均的な資産自己資本比率は30を超え、世界金融危機前の米国の投資銀行とほぼ同じレバレッジになっていると推定している。これに対し、中国の大手国有金融機関は10〜12%程度である。
香港大学ビジネススクールのZhiwu Chen教授(金融)は、「もし経済が意味のあるミニブームにならなければ、より多くの地方銀行が大きなプレッシャーにさらされることになるだろう」と述べた。
北京のアプローチは、依然として金融の安定性に重点を置いており、ワシントンのSVBに対する処置と強い反響があった。預金者を保護するために預金保険の限度額が引き上げられ、一方で株式保有者はTier2債の保有者とともに一掃された。ただし、宝祥の大口預金者は10%の減額となったが、SVBの預金はすべて丸抱えされた。
経営難に陥った銀行に対する北京の新しいアプローチがどのようなものか、2月に財務リストラを発表した地域金融機関、金州銀行がその試金石となるかもしれない。錦州銀行は、中国で最も成長が遅れている地域の一つである遼寧省に拠点を置いている。
このような試みは、5年足らずで2回目だった。2019年には、中国工商銀行を含む中国の国有金融会社3社が、破綻しかけた錦州銀行の株式取得に乗り出した。
規制当局はこれまで、リスクの高い小規模銀行に対処するため、統合を奨励してきた。しかし、近年合併した地方銀行は限られており、合併した地方銀行は、一握りの弱い地方銀行の資産と負債の組み合わせを解きほぐすという追加の課題に対処している。
コンサルタント会社トリビウムの市場調査ディレクターであるディニー・マクマホンは、「銀行の合併は、非常に政治的であるため、常に難しい」と述べている。「どの地方自治体も、自分たちの管轄内に銀行を置きたいと考えています。そのため、1つの州内に多くの銀行を集めて新しい銀行を設立する場合、本社がどこにあるのか、税金はどこに納められるのかが問題になります。本当の意味での敗者と勝者が生まれることになるのです」
●銀行不安で 「華僑系富豪が香港・シンガポールに資産移転」情報も 3/29
銀行に対する信用不安はどこまで拡大するのか。FRB(連邦準備制度理事会)は3月24日、9〜15日までの1週間で米国銀行全体の預金額が984億ドル減少したと発表した。シリコンバレーバンク、シグネチャーバンクが破綻、ファーストパブリックバンクへの支援策が打ち出されるなど米国の一部の銀行に対する信用不安が高まったことで、経営基盤の弱い中小金融機関から1200億ドルの預金が引き出された。
欧州ではクレディ・スイスが経営不振に陥り19日、UBSによって救済されることになったが、国際的な自己資本比率規制(バーゼルIII)において自己資本(Tier1)に相当する同行発行のAT1債(Additional Tier 1債)が無価値となった。銀行の財務安全性に対する信頼が損なわれかねない事件であり、それが欧州大手行であるドイツ銀行の経営不安につながり、24日の株価は8.5%安と大きく売り込まれた。
昨年春先をピークに緩やかに減っていた米国商業銀行の預金額が、秋口から減少ペースを加速させている。昨年6月から量的引き締めが開始されたが、それに急ピッチの利上げが重なった。銀行の収益構造を考えると、金利上昇時は平均預金金利よりも平均貸出金利の上昇の方が早いため、一般に利上げは業績にプラスに寄与する。しかし、それも行き過ぎてしまうと景気悪化、不良債権発生リスクを高めてしまう。銀行経営は預金者の厚い信頼の上に成り立っている。短期で調達した資金を長期で運用するといった収益モデルである以上、預金引き出しが顕著になれば途端に経営は危機に陥る。
今回のグローバル金融機関の経営不安は米国が発信源であり、米国政府の適切な対応を期待したいところだ。
預金者の立場から考えると、銀行預金すらリスクを意識しなければならないのなら、資産をより分散させるしかない。最近の金価格や、米国債価格の上昇(金利の下落)にはこうした預金者のリスク回避行動が背景にあると考えられる。
これまで最も安全だと考えられていた米国や、スイスなどの銀行において信用不安が発生している以上、富裕層は水面下で預金を他国に移そうとしているはずだ。
米国、スイスは資産運用のうえで安全な国ではない?
この点について、中国本土の複数のマスコミが先週、「海外の華僑が大量の資金を香港、あるいはシンガポールなどに移している」と伝えている。
3月23日付の「経済観察報」によると、「この1か月の間に、華人の資産だけで、米国、スイスからそれぞれ760億ドル、1650億ドルの資金が流出している。スイスの銀行については、世界の富豪、特に中国の富豪が数百万ドル単位で預金を香港、シンガポールを中心に、カナダ、オーストラリアなどの銀行に移している」と伝えている。
米国は第二次世界大戦当時、米国在住の日本人を収容し、その資産を没収した。また、スイスは中立国でありながら昨年2月、ロシアに対する制裁パッケージを適用した。米国との覇権争いが激化している中国を祖国に持ったり、中国籍であったりする華僑系富豪にとって米国、スイスはもはや資産運用上、決して安全な国とは思えないのであろう。
もっとも、こうした預金流出に関する情報は現在のところ、本土筋からしか出てきておらず、それが事実かどうか断定はできない。正しいかどうか確かめるためには、各国の金融当局、香港であれば金融管理局が3月の統計を発表する2か月後まで待つほかない。とはいえ、誰もが正確な情報を知り得たときにはリスクを回避しようにも、高いリターンを狙うにも、既に手遅れになっている可能性が高い。
資産運用において、ハイリスクとハイリターンは表裏一体だ。しばらくの間は、リスク回避に重心を置きつつ、玉石混交のマスコミ情報を大まかにチェックし、各国の銀行セクターの株価、金先物価格、為替などの値動きを総合的に注意深く見守りながら最悪期の通過時期を淡々と探るしかなさそうだ。
●欧米金融不安、危機につながる4つの現象 首相の解散判断に影響も  3/29
米欧金融不安が世界的な金融危機に発展するのかどうか、新年度入りを前に不透明感が払しょくできていない。米連邦準備理事会(FRB)が5月に一段の利上げに踏み切る可能性があり、債券価格の下落が見込まれるだけでなく、主要国の金融セクターにどの程度の不良債権があるのかはっきりしないためだ。
もし、新たな金融不安がどこかで勃発した場合、連鎖するリスクが高まっており、最悪の場合は日本が議長国を務める主要7カ国首脳会議(広島サミット)でのメーンテーマが「金融危機回避」になる可能性すら否定できない。サミット後の衆院解散を狙っているとの観測が浮上している岸田文雄首相にとって、金融危機への発展が現実になれば、政治的に大きな逆風となりそうだ。
米中小金融機関、1190億ドルの預金流出
今回の米欧金融不安には、いくつかの特徴的な現象が発生している。
1つ目は、米中小金融機関から大規模な資金シフトが発生したことだ。FRBが24日に公表した週次統計によると、シリコンバレー銀行(SVB)の破綻後を含む9─15日の1週間に米国の中小銀行から過去最大となる1190億ドルの預金が流出した。
22日のCOLUMNで指摘したように、SNSを経由した情報拡散の速さとネットバンキングによる瞬時の預金引き出しは「デジタル・バンクラン」と呼ぶべき現象を生み出し、いったん引き出しが激化すると、それを止めることは政府・中銀にとって至難の業となる。
不明なままのクレディ・スイスの損失額
2つ目は、UBSが30億スイスフラン(約32億3000万ドル)で買収することになったクレディ・スイスの問題だ。CSの損失がどの金融取引によって発生したのか、損失の総額、債務超過だったのかどうかなどに「ふたをした」ままで、他の欧州大手銀への懸念を逆に呼び起こしたことが挙げられる。
20カ国・地域(G20)の金融当局でつくる金融安定理事会(FSB)が28日、米・スイスなどの当局が最近実施した経営不振の銀行に対する救済措置から得た教訓を検証すると発表。声明の中で「引き続き警戒を怠らず、世界の金融システムの耐性を維持する政策措置を講じる用意がある」などと表明したのも、CS問題が他に波及するリスクが高いことを世界の当局が強く意識した結果だと指摘したい。
米欧の急激な利上げ、大手銀も含み損発生
3つ目は、長期間に及んだ世界的な超低金利政策の後の急激な利上げによって、中小金融機関から米欧日の大手銀行に至るまで、マネーを安全な「場所」にシフトさせることが難しかったという構造的な問題があるということだ。
世界的なパンデミックの発生を挟んで長期化した世界的超緩和策の結果、グローバルに「債券バブル」が発生し、低格付け商品にもマネーが流入して少しでも高い利回りを享受しようという行動が常態化していた。
そこに急激な利上げが実施されると、無傷でいられる金融機関は事実上、皆無ということになったのではないか。FRBは合計で475bpの利上げを実施しており、米国債から低格付けの社債にいたるまで保有債券の含み損は急激に膨張していたはずだ。
米金融システムの周辺部に位置するSVBが、最初に含み損を実現損にすることを強いられ、過小資本となったことが知られて経営破綻に陥ったが、債券バブルが崩壊し、含み損が膨張している構図は、大手銀といえども大同小異のはずだ。
貸し渋りから不良債権急増、危機へのトリガーに
4つ目は、3つ目の項目で指摘した現象が、金融機関の貸し渋りにつながり、融資先の信用格付けが悪化し、金融機関の不良債権が急増するステップに入るリスクが増大することだ。
FRBのジェファーソン理事は27日、中小銀行から大手銀への預金流出は、地域金融機関や地銀への依存度が高い中小企業にとりわけ大きな影響を与える可能性があるとの見方を表明。4つ目の段階に入るリスクを公式に認めたかたちだ。
このフェーズに入ると、2つの現象が新たに発生すると予想される。1つは、実体経済の悪化であり、もう1つはローン担保証券(CLO)の劣化に飛び火するという事態だ。
日本にとっては、対米輸出の減少とCLOを保有する邦銀の財務悪化を招くという大きな懸念材料となって跳ね返ってくる。
4つ目の段階に入りそうだと分かった段階で、「リーマンショック」の再来ではないかとの観測が、グローバルマーケットを駆け巡ることになると予想される。
急速な円高なら、危機の予兆
東京市場では、米市場におけるCLOの劣化の兆しや、欧州におけるCSの次に「危ない銀行」探しの実態について、どうしても情報の伝ぱが遅れがちになるというのが、リーマンショックやその他の金融不安で経験してきたことだ。
筆者は今回、米欧での危機の進展を迅速にキャッチする方法があると考える。ドル/円の動向だ。足元では130─131円台での推移だが、原因がはっきりしないまま120円台半ばから120円割れを試す展開になった局面では、米欧金融不安が危機へと歩を進めそうな「何か」が一部の参加者に探知されたとみた方がよいと考える。
広島サミットと金融不安の行方
今のところ、その気配は感じられないが、もし、金融危機へとつながる新たな局面が4月以降のどこかで到来した場合、5月の広島サミットはウクライナ問題だけでなく、世界的金融不安が主要テーマになる可能性も浮上しそうだ。
このケースは、大幅な賃上げをバックに景気回復を図ろうとしている日本経済にとって大きな打撃となるが、政治的にも岸田首相の目算が外れることになると指摘したい。
岸田首相は28日、与党内で浮上する早期衆院解散論に関し「統一地方選と衆参補欠選挙、それと合わせて先送りできない課題に取り組む。今はそれしか考えていない」と述べた。ただ、国内報道各社は、与党内に広島サミット終了後の6月に衆院を解散し、総選挙を実施するシナリオの実現性が足元で高まっていると伝えている。
サミットでの実績をバックに衆院を解散すれば、選挙準備の遅れている野党の対応も手伝って与党が勝利できるとの思惑が早期解散論の裏にありそうだ。
だが、米欧金融不安がこれまで指摘したような要因によって顕在化し、金融危機に発展しそうになれば「政局よりも危機対応優先」の声が国民から巻き起こり、解散権が当面、封印される展開になるのではないか。
岸田首相の行く手を遮る存在があるとすれが、それは世界的な金融危機のリスクであると指摘したい。 

 

●クレディ・スイス「脱税容認してない」 米議会報告受け 3/30
米連邦議会上院の財政委員会が29日、スイス金融大手クレディ・スイスが米国の富裕層の脱税ほう助を継続していたと指摘したのを受け、同銀行は日本経済新聞に対し「脱税を容認していない。当局と積極的に協力している」と述べた。財政委はクレディ・スイスと米司法省の2014年の和解に同銀行が違反したと指摘しており、司法省の動向が焦点となる。
クレディ・スイスは14年、数千人の米国人の脱税をほう助したことを認め、米メディアによると26億ドルの和解金を司法省などに支払った。29日公表の財政委の調査では、和解以降も23件の富裕層の申告漏れ口座が見つかり、隠蔽された資産総額は7億ドル以上になる。財政委はクレディ・スイスが、今後は脱税ほう助をしないという合意に違反したと糾弾している。
クレディ・スイスの広報担当者は「報告書は10年前のレガシー(遺産)が記載されている」と述べた。和解以来「大規模な(脱税対策の)強化を実施した」と強調した。「残されたレガシーな行動や懸念に対処するため、司法省を含む当局と連携している」と述べた。詳細は明らかにしていないが、脱税ほう助の継続を許すような体制ではないとの主張だ。
スイス金融大手UBSは19日、経営不安に陥ったクレディ・スイスを救済買収することで合意した。UBSの広報担当者は「買収の審査の過程で、未解決の訴訟や調査案件の精査をした」と述べた。報告書では、23件の申告漏れ口座のうち、13件は報告書公表の数日前に財政委に開示されたとしている。UBSの指摘を受けて開示した可能性がある。
クレディ・スイスの元銀行員は21年に、同銀行の脱税ほう助行為が続いていることを米司法省や日本の国税庁にあたる米内国歳入庁(IRS)に内部告発した。財政委はこうした内部告発などを精査した。告発者の代理人を務める弁護士のジェフリー・ニーマン氏は29日、「財政委がクレディ・スイスの継続的な不正を明らかにしたことに感謝する」と述べた。
ニーマン氏によると、14年にクレディ・スイスは当初39億ドルの罰金を科されていたが、脱税ほう助を認めたことで26億ドルに減額となり和解した。「合意違反がわかり、少なくとも(減額された分の)13億ドルを追加で米当局に支払う必要がある」と強調した。
財政委は「司法省はクレディ・スイスに対する甘い監視を改め、同銀行が14年の合意を順守しているか厳しく精査し、違反に対して責任を負わせる必要がある」として、司法当局に調査を要求している。司法当局の捜査次第で、クレディ・スイスは巨額の罰金を科される可能性がある。
●銀行危機による米国の信用リスクは限定的=ムーディーズ  3/30
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは29日、米銀行業界における最近の混乱が長引かない限り、米国のソブリン信用プロファイルに対するリスクは限定的との見方を示した。
シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻は、米銀行業界の信用不安に火を付け、当局が信頼回復のための緊急対策を打ち出したにもかかわらず、多くの地銀で預金流出につながった。
ムーディーズは「過去2週間における米地銀の経営環境の急速な悪化は、米国のソブリン信用プロファイルにこれまで織り込んでいたよりも高い銀行業界リスクを示している」と指摘。
現在の銀行業界の混乱からソブリンに重大かつ直接的な財政コストがかかるとは予想していないとしながらも、混乱が長引けば、米国の経済力や財政力を弱める可能性があると強調した。
同社は米国の格付けを「Aaa」、見通しは「安定的」としている。
同社は今月、米銀行システムの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。
●ユーロ圏への波及否定 破綻米銀は「特有の問題」―欧州安定機構トップ 3/30
ユーロ圏の債務危機対策基金である欧州安定機構(ESM)のグラメーニャ専務理事は29日までに、東京都内で時事通信のインタビューに応じ、経営破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)の問題は「特有」だとして、ユーロ圏への波及リスクを否定した。信用不安の一因となった債券市場の混乱の中でも、日本はESMの債券を相当額購入したとして、欧州の金融安定に日本が果たす役割の重要性を強調した。
グラメーニャ氏はSVBについて、顧客が新興企業に偏っていた上、金融機関の規制は欧州と米国で異なるため、「欧州の銀行のような流動性がなかった」と指摘。欧州では経営危機に陥ったスイス金融大手クレディ・スイスが同業のUBSに買収されることが決まり、ドイツ最大手のドイツ銀行の株価も一時急落した。同氏は「ドイツ銀は過去10年、銀行の健全性改善に向けた規制の対象になってきた」ことから、危機的状況にはないと明言した。
SVBは、金利上昇に伴う債券価格の下落で、保有債券に多額の含み損を抱えたことが破綻の引き金となった。ESMも資金調達のため債券を発行しているが、グラメーニャ氏は今年2月の起債時に「日本が相当な額を買い入れた」と説明。欧州債務危機がピークだった2011年、日本政府がESM前身組織による初めての起債時に2割を引き受けたことにも触れ、「日本の投資家とはそれ以降、緊密な関係を保ってきた」と語った。
債務危機時には、国債利回りの急激な上昇で南欧諸国などの財政が悪化した。グラメーニャ氏は「国債の借換期間は平均で7〜8年。各国はまだ過去の低金利の恩恵を受けられている」とし、余裕があるうちに、危機再来を防ぐ努力をすべきだと訴えた。
●3兆ドルの日銀黒田レガシーが逆回転の恐れ、世界の金融市場に衝撃も 3/30
日本銀行の黒田東彦総裁は3兆4000億ドル(約451兆円)に上る日本の資金を投資の世界に放ち、世界市場の流れを変えた。植田和男次期総裁は今そのレガシーを壊し、世界経済に衝撃を与えかねないマネーの逆回転を引き起こす準備を整えるとみられている。
日銀の重要なリーダーシップ交代を約1週間後に控えて投資家は、10年にわたり預金者を困らせ、多額の資金を海外に流出させてきた超低金利の終わりに向けて準備を進めている。黒田総裁が2016年に債券利回りの抑制に動いた後、日本からの資金流出は加速し、日本の経済規模の3分の2を上回る海外投資の山が築かれた。
こうした投資は植田次期総裁の下で逆回転する恐れがある。金利上昇が銀行セクターを揺るがし金融の安定を脅かしている中、植田氏は世界で最も大胆な金融緩和の実験を終わらせる以外の選択肢をほとんど持たないかもしれないが、リスクは甚大だ。日本の投資家は米国債の最大の海外保有者で、ブラジルの債券からローン担保証券まであらゆるものに投資しているからだ。
日本の金利が上昇すれば、1年にわたる米国の積極利上げと新たな信用収縮の脅威から既に揺らいでいる世界の債券市場の変動が増幅されるリスクがある。昨今の欧米銀行セクターの危機を受け、日本の金融機関に向けられる目が日銀の金融引き締めにより厳しくなる可能性は高い。
ブラックロック・インベストメント・インスティテュートの責任者で元カナダ中央銀行副総裁のジャン・ボアバン氏は、日本の政策変更は「評価されていない追加的な力」であり、それが起こるとき「三大経済圏がそろって何らかの形でバランスシートを縮小し、金融引き締めを行っているだろう」と指摘。「価格をコントロールし、そのグリップを緩めるとき、それは挑戦的で厄介な可能性がある。われわれは次に何が起こるかが大きな問題と考えている」と話す。
逆回転は既に進行している。日銀が金融政策の正常化に動くとの思惑から円債利回りが上昇する中、日本の投資家は昨年、外国債券を過去最大規模で売り越した。12月には黒田総裁がイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)をわずかに緩めたことが火に油を注ぐ形となり、日本国債が急落。円は急騰し、米国債からオーストラリア・ドルまであらゆる資産を揺さぶった。
世界最大の上場ヘッジファンド運用会社マン・グループ傘下のマンGLGでポートフォリオマネジャーを務めるジェフリー・アサートン氏は「日本への資金回帰はすでに始まっている」とし、「彼らが自国に資金を戻し、為替リスクをとらないことは理にかなう」と語った。同氏が運用する日本コアアルファ・株式ファンドの過去1年間のパフォーマンスは、競合ファンドの94%を上回る。
国内回帰
銀行セクターの混乱により、政策当局が金融の安定を優先させる可能性が高まったことで、日銀の政策変更に対する思惑はこのところ後退しているが、緊張が和らげば、政策修正が再び話題になると市場参加者は予想している。
邦銀への影響は、SVBショックによる信用危機に耐えうる4つの理由
戦後初の学者出身の日銀トップとなる植田氏は、今年後半に金融政策の引き締めを加速させるとみられており、そこにはYCCのさらなる修正や巨額の国債買い入れプログラムの巻き戻しが含まれる可能性がある。
黒田総裁が10年前に量的・質的金融緩和に踏み切って以来、日銀は465兆円もの日本国債を買い上げ、利回りを押し下げるとともに国債市場に未曽有のゆがみをもたらした。その結果、国内投資家は同期間に206兆円相当の国債を売却し、より高いリターンを国外に求めた。
対外投資へのシフトは劇的で、日本の投資家は米国債の最大の海外保有者になったほか、オーストラリアやオランダの債券の約1割を保有することになった。ブルームバーグの試算によると、ニュージーランドの債券の8%、ブラジル債の7%も日本の投資家が保有する。
日本の投資家は13年4月以降、世界の株式にも54兆1000億円を投じた。保有比率は米国、オランダ、シンガポール、英国の株式市場の1〜2%に相当する。
日本の超低金利により、円は昨年、32年ぶり安値に下落し、金利収入を求めるキャリートレーダーがブラジル・レアルからインドネシア・ルピアまでさまざまな通貨で運用する際の資金調達通貨として最良の選択肢になってきた。
元ゴールドマン・サックス・グループのチーフエコノミスト、ジム・オニール氏は黒田緩和が「ほぼ間違いなく大幅な円安と日本の債券市場の著しい機能不全に寄与した」とし、次期総裁が正常化を進めれば、「黒田時代に起きたことの多くが、部分的にあるいは完全に反転するだろう」と指摘した。ただ、今回の銀行危機を受けて、日銀はより慎重に動くことになるかもしれないと付け加えた。
円相場はその後、日銀政策の正常化は避けられないとの見方が強まったこともあり、反転。昨年10月に付けた安値から値を戻してきた。
アセットマネジメントOneの竹井章ファンドマネジャーは、昨年の歴史的なグローバル債券市場の損失により、日本の投資家が国内に資金を戻す理由はさらに増えたとみている。
「過去1年間、金利が大きく上がったため、日本の投資家は海外で嫌な思いをしている」と同氏は指摘。「今まで海外に出ていたが、全部行く必要はなく、国内でいいのではないか」と考える国内投資家も出てきているようだと語る。
もちろん植田氏が総裁就任直後から市場を揺さぶると予想する向きは少ない。ブルームバーグが実施した日銀ウオッチャー調査では、6月の金融政策決定会合で金融引き締めが行われるとの予想が41%と最多となり、2月調査の26%から増加した。次回会合は植田新総裁の下で4月27、28日に開催される。
18年から22年まで米連邦準備制度理事会(FRB)の副議長を務めたリチャード・クラリダ氏は「ストレート・シューター(真面目で率直)」である黒田総裁の長年の知り合いで、日本が米国や世界の金融政策に与える影響を考察してきたことから、間違いなくほとんどの人より深い見識を持っている。
現在、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)でグローバル経済アドバイザーを務めるクラリダ氏は「市場は植田氏の下でかなり早期にYCCが撤廃されると予想している」とした上で、植田氏はバランスシートを縮小する方向にかじを切りたいと考えるかもしれないが、「就任初日にということではない」と指摘。日本の金融引き締めは「世界の債券のけん引役」ではないかもしれないが、市場にとって「歴史的な瞬間」になるだろうと続けた。
緩やかなシフト
一部のマーケットウオッチャーは、日銀が金融緩和の縮小に踏み切った場合に何が起こるかについて、より控えめな予想を立てている。
三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、インフレの高止まりが続けば、米金融当局が大幅利下げに動く可能性は低く、日銀も当面は利上げを行うとは考えられないため、日米金利差はある程度維持されると予想。「資金の流れを考えるとき、修正の見通し、金融政策全体として日銀がどうするのかを見極めていくことが大事だ」と語る。
三菱UFJ国際投信商品プロモーション部推進グループの大島良介グループマネジャーは、フローの変化の潜在的なトリガーとして利回り水準に注目する。「10年債利回りで1%など、金利が上昇するなら多少の投資意欲はあるかもしれない。ただ、データなどを見る限り、急に外へ投資していたお金が逆流するというのは考えにくい」と話す。
マーケット歴36年のベテラン、ラジーブ・デメロ氏などにとっては植田氏が行動を起こすのは時間の問題で、その結果は世界的な影響をもたらす可能性がある。
GAMAアセット・マネジメントのグローバルマクロポートフォリオマネジャーを務めるデメロ氏は「私は日銀が引き締めに動くとのコンセンサスに完全に同意する」とし、「それは中銀の信頼性に関わることであり、インフレの条件は今やますます満たされている」と指摘。「日本にも正常化がやってくる」と話した。
●中国、巨額融資した22カ国に大型の救済支援 3/30
過去10年間で、中国は莫大(ばくだい)な額の貸し付けをアジア、アフリカ、欧州の各国政府に行ってきた。各国のインフラの巨大プロジェクトに資金面で関わりながら世界的な影響力を高め、債権国としても世界最大の部類に名を連ねるようになった。
新たな調査が示すところによれば、今や中国政府は緊急時における主要な救出役をも担い、これらの同じ国々に融資している。そうした国々の多くは現在、債務の返済に苦慮している。
2008年から21年にかけ、中国は2400億ドルを拠出し、22カ国の救済に充てた。対象は「ほぼ例外なく」、習近平(シーチンピン)国家主席が提唱するインフラ構想「一帯一路」に絡んだ債務国。具体的にはアルゼンチン、パキスタン、ケニヤ、トルコなどだ。世界銀行や米ハーバード大学公共政策大学院などの研究者らが携わった28日発表の論文で明らかになった。
中国による緊急支援は、米国もしくは国際通貨基金(IMF)による拠出額に比べればまだ規模が小さい。米国とIMFは定期的に緊急融資を行い、危機に陥った国々を救済している。それでも中国はここへ来て、多くの発展途上国を救う主要なプレーヤーとなった。
国際的な危機管理者としての中国の台頭は、1980年代の債務危機の時期に中南米諸国をはじめとする高債務国に救済を申し出た米国を彷彿(ほうふつ)させると上記の論文は指摘。米国はこのほか、30年代と第2次大戦後にも融資大国として頭角を現していたという。
しかし、現在の中国との間には違いもある。
1つは、中国による融資の方が格段に目立たない形で行われるという点だ。そうした事業や商取引の大半は、公の目から隠される。これが反映するのは世界の金融システムが「一段と非制度化、非透明化する一方で、断片化には拍車がかかる」現状だと、論文は指摘する。
中国の中央銀行もまた、他国中銀との間の融資及び通貨スワップの合意に関するデータを公開しない。国有銀行も国有企業も、他国への貸し付けについての詳細な情報を発表することはない。
今回研究チームが依拠したのは、中国の銀行と合意した他国の年次報告書並びに財務諸表、ニュース報道、プレスリリース、当該国のデータセットをまとめたその他の文書だった。
論文の共著者を務めたブラッド・パークス氏は「中国による救済ローンの影響を見積もるには、格段に多くの調査が必要になる。とりわけ中国人民銀行が管轄する大規模なスワップ枠を調べなくてはならない」「中国政府は国境を越えた救済貸し付けのための世界的なシステムを新たに構築したが、その手法は不透明でまとまりがない」と指摘する。
論文は米ウィリアム・アンド・メアリー大学のグローバル・リサーチ・インスティテュートに所属する研究機関エイドデータが運営するブログに投稿された。
中国の融資
論文の報告によると2010年時点では、債務にあえぐ国々を支える国外からの融資のうち、中国が占める割合は5%に満たなかった。22年までにその比率は60%にまで跳ね上がっている。これは中国政府が救済事業を強化する一方、インフラ投資からは距離を置いている実態を反映するものだという。こうしたインフラ投資は、10年代初めの一帯一路を特徴付ける取り組みだった。
融資の大半は、16〜21年の期間に集中している。
救済融資の総額2400億ドルのうち、1700億ドルには人民銀が他国の中銀との間で合意した通貨スワップ枠を活用。残る700億ドルは中国国有銀行のほか、石油・ガス会社を含む中国国有企業が貸し付けた。
中国との通貨スワップ枠を活用した国のほとんどは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって財政難が悪化していたことも、報告から明らかになった。
しかし、中国による救済は高くつく。人民銀が求める救済融資の利子は5%で、IMFの2%を上回ると論文は指摘する。
しかも融資拡大の対象となったのは、中国の銀行セクターにとってより重要と見なされた中所得国だった。低所得国への新規の融資はあっても微々たるもので、債務の再編が条件として提示された。
論文の共著者のカーメン・ラインハート氏はエイドデータへの投稿で、「中国政府は最終的に自国の銀行を救済しようとした。そのために国際的な救済貸し付けというリスキーな事業に足を踏み入れた」と述べた。
一帯一路構想
13年に習主席が初めて発表した一帯一路構想は、世界的な大国として急速に台頭する中国の影響力を一段と伸展させるものと見なされてきた。
米シンクタンク、外交問題評議会(CFR)によると、21年3月の時点で同構想には139カ国が参加。国内総生産(GDP)の合計は世界全体の4割に上っていた。中国の投資額は1兆ドルに迫ると同国外務省は明らかにしている。
しかし資金不足と政治的な抵抗から特定のプロジェクトは頓挫(とんざ)。環境に絡む事案や汚職スキャンダル、労働に関する違反で損なわれたプロジェクトもある。
一部の国の世論では、債務超過や中国の影響力に対する懸念も噴出する。一帯一路は大がかりな「債務の罠(わな)」であり、現地のインフラを支配下に置くために策定されているとの非難は、構想の評判に傷をつけている。エコノミストらは概ねこうした非難に否定的な見解を示す。
CNNは中国人民銀にコメントを求めた。
今年1月、中国の秦剛(チンカン)外相は同国がアフリカで「債務の罠」を仕掛けているとの非難を一蹴。一帯一路の主要な投資先であるアフリカについては債務の軽減に尽力しているとし、そのための合意を多くの国々との間で結んでいると強調した。
秦氏は今月も一帯一路を擁護し、構想が「公共の利益」になると指摘。途上国での債務の悪化は米国による利上げに原因があると非難した。
●ニューヨーク株式市場 反発 金融不安薄らぎ ほぼ全面高  3/30
29日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は323ドル、反発した。
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が近く利上げを停止するとの見方が強まる中、シリコンバレー銀行などの経営破綻を受けた金融システムに対する不安も薄らいだことで買い注文が膨らみ、ほぼ全面高となった。
2月の中古住宅仮契約指数が、市場予想に反して上昇したことも好材料となった。
結局、ダウ平均は反発し、前日比323ドル35セント高の3万2717ドル60セントで取引を終えた。
また、ハイテク株主体のナスダック総合指数も反発し、前日比210・16ポイント高の1万1926・24だった。  
●大手企業の英国離れ進む―企業投資インセンチブ競争で米・EUに出遅れ 3/30
企業への投資インセンチブをめぐり、英国と米・EUとの格差が広がる中で、英国の証券市場に異変が起き始めている。アイルランドの建材大手CRHが3月2日、ロンドン証券取引所での上場を廃止、ニューヨーク証券取引所に移管することを検討中と発表。また、英国と米国で二元上場している英ブックメーカー大手フラッターもプライマリー上場をニューヨークに変更する可能性を示唆、企業の英国離れが相次いでいる。
英紙デイリー・テレグラフのオリバー・ギル経済部デスクは3月2日付コラムで、「これらは今週初め(2日)、英半導体設計大手アームホールディングスのオーナー(ソフトバンク)が英国での上場を断念、当面は米国だけで上場することを決定したことに続くショッキングな出来事だ」とした上で、「ロンドン市場の改革のうねりが横ばいとなっている一方で、バイデン米大統領のグリーン減税による財政支出の急増が英国企業にとってニューヨーク市場は抗しがたい魅力があることを証明した」と指摘する。
ロンドンの金融街(シティ)でも英投資大手シュローダーのファンドマネージャーのピーター・ハリソン氏は3月2日付のテレグラフ紙で、「英国をより魅力的にしようとする政府の取り組みが鈍いため、今後、多くの企業が英国を去るだろう」と懸念を示している。米国のインフレ削減法は、グリーンエネルギー企業に税制優遇措置を提供する一方で、半導体メーカーには別途400億ドル(約5.2兆円)が支援されるからだ。
テレグラフ紙のギル経済部デスク(前出)は同日付コラムで、「金融危機以降、英国に上場している企業数は約40%減少、ロンドン市場は2015-2020年に世界の上場企業のわずか5%しか占めていない。2007年のピーク時には、ロンドンの株式市場の時価総額は3.6兆ポンド(約580兆円)だったが、今では2.6兆ポンド(約420兆円)だ。一方、同期間で米国株式市場の規模は倍増した」と指摘する。その上で、「2022年末、パリがロンドンを抜いて欧州最大の株式市場となり、国家の誇りに打撃を与えた。金融街(シティ)では『英国で肥育され、米国に食べられる』と揶揄する言葉も聞かれる」と懸念を示す。
ロンドン市場の低迷の打開策として、ブレア元首相と保守党のウィリアム・ヘイグ元党首は最新のレポートで、英国の5300の年金基金を100程度のメガファンドに統合、それぞれのファンドのポートフォリオの25%を英国の資産に投資する権限を与えるべきとする提案を行っている。
ブレア元首相が率いる「トニー・ブレア・グローバル・チェンジ研究所」が2月22日に発表した最新レポートによると、「現在、英国の年金市場は世界2位という利点があるにもかかわらず、海外の年金が英国のベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ(PE)ファンドに対し、国内の公的年金や私的年金よりも16倍多く投資している」とし、その上で、「運用資産が200億ポンド(約3.2兆円)を超え、その資金の最低比率を英国の資産に投資している年金基金にはキャピタルゲイン課税の免除を適用することにより、年金の統合を奨励し、株式の成長を促進すべき」としている。その一環で、英国年金保護基金(PPF)と全国雇用貯蓄信託(NEST)を統合した単一の投資主体(1000億ポンド(約16兆円)の「英国年金制度投資基金」を設立すべきと提言している。

 

●金融危機は再来する?「リーマンショック」との相違点 3/31
世界市場の銀行不安はいったん和らいだか
3月上旬に発生した銀行不安と景気の先行き懸念を嫌気して軟調となった世界株式はいったん下げ止まりの兆しをみせています。
図表1は、機関投資家が注目しているMSCI指数の「世界銀行株指数」と「世界株指数」の年初来推移を示しています。世界銀行株指数は一時下値を模索しましたが、今週初の米国市場で銀行セクターの混乱が拡大するとの懸念が和らぎ金融株が反発。政府金融当局が信用不安の拡散防止に向け追加策を講じるとの見通しが買い材料となりました。
バーFRB(米連邦準備制度理事会)副議長(銀行監督担当)は28日に開催された議会上院公聴会で、「アメリカの銀行システムは健全で強固な資本と流動性がある」と述べ、「今後も銀行システムの安全性と健全性を維持するために必要に応じてどんな規模の金融機関に対してもあらゆる手段を講じる用意がある」と証言しました。
また、金融持ち株会社ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズが、経営破綻したSVB(シリコンバレー銀行)の大部分を買収することで合意したことも金融市場の安堵(あんど)感につながりました。
29日の米国市場ではリスクセンチメントが回復し、S&P500種指数は節目とされていた4,000ポイント台を回復し、ナスダック100指数は昨年12月の安値から20%上昇し「強気相場」入りを示唆しました。銀行不安の影響についていまだ予断を許しませんが、金融システムへの過度な不安がいったん和らいだことは、目先の世界市場にとって総じて下支え要因です。
   図表1 世界市場で銀行株が底打ちした可能性
今回の銀行不安は「金融危機」に至っていない
米欧の銀行不安を発端に、「リーマンショック級の金融危機が再来する」と恐れる悲観論が浮上しました。そこで、過去の金融危機の状況と今回の事象について「信用市場の悪化度合い」と「ドルの調達コストの上昇」の両面で比較したいと思います。
図表2は、ハイイールド債(高利回り社債)市場の平均信用スプレッドと、ドルの調達コストを示す「TEDスプレッド」の水準を、2008年(金融危機=リーマンショック)や2020年(コロナ・パンデミック)当時と比較したものです。
TEDスプレッドとは、LIBOR(ロンドン銀行間取引)3カ月物金利から3カ月物米国短期国債金利を差し引いた値で、信用不安や資金繰り不安が高まるとドル需要が強まりTEDスプレッドは上昇します。
ハイイールド債の発行企業には「非投資適格」に格付けされている企業が多く、2008年や2020年は事業継続の危機に直面しました。特にリーマンショック時(2008年)には、金融機関を中心に信用危機と流動性危機が同時的に発生し、株価の暴落につながりました。
   図表2 米国市場で警戒された信用リスクと流動性リスクの上昇
図表2でみるとおり、最近はハイイールド債の信用スプレッドもTEDスプレッドも上昇しましたが、2008年の金融危機時や2020年と比較するとその上昇水準(悪化度合い)は限定的にとどまっています。
2008年当時は、サブプライム関連の不良債権拡大で投資銀行を中心に金融機関が連鎖的な経営危機に直面しましたが、今回の銀行不安は「リーマンショック級」に至ってはいません。銀行不安の先行きにいまだ予断は許されませんが、今回の事案が世界的な「金融危機」に発展するとの悲観論には違和感があります。
金利の安定見通しを反映した業種物色に注目
今回の銀行不安が昨年春以降の利上げ累積効果とともに、米景気見通しに悪影響を与えることは否定できません。一方、そうした見通しによる債券市場金利の低下が株式市場におけるセクター(業種)別の強弱に影響を与えている可能性はあります。図表3は、S&P500業種別株価指数の「年初来騰落率」を高い順(降順)に示したものです。
総じて、「金融」や「エネルギー」が不調であるのに対し、「IT(情報技術)」や「通信サービス」が優勢であることがわかります。ITにはアップルやマイクロソフトにエヌビディアなどの半導体銘柄が含まれ、通信サービスにはアルファベットやメタ・プラットフォームズなどが含まれています。
これらのセクターは、米国市場で「テック株」と総称されます。テック株の優勢は、FRBによる金融引き締めと債券金利上昇の影響を被り昨年下落した反動(自律反発)とも考えられますが、債券金利のピークアウト感も支援要因とみられます。
民間エコノミストによる予想平均によると、実質GDP(国内総生産)成長率(米国の場合は前期比年率換算成長率が標準)について、第3Q(7-9月)にマイナス成長が見込まれています(Bloomberg集計)。ディスインフレ(物価上昇率の減速)傾向や銀行不安の影響も相まって、先物市場では政策金利見通しが切り下がっています。
こうした状況を反映した債券金利の低下や安定がテック株の持ち直しを下支えしている可能性があります。米国市場でグロース株の中心を担うテック株の復調が鮮明となれば、東京市場や世界市場のグロース株持ち直しに寄与するものと考えられます。
   図表3 米国市場の業種別・年初来騰落率に格差
●シリコンバレー神話の終焉…EVに大打撃、SVB破綻で「世界の脱炭素」遅れる 3/31
メタ(旧フェイスブック)をはじめ、多くのスタートアップ企業を世界に輩出した米カリフォルニア州のシリコンバレー。驚異的な企業成長スピードから「シリコンバレー神話」と称されることもあったが、今その神話が終わりを迎えようとしている。その発端が、スタートアップの成長を支えてきた米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻だ。これにより、最先端を走るスタートアップ企業の資金調達が困難になっているという。IT業界、ひいてはITの未来にどう影響が出るのか、考察する。
イノベーションは「10年超後退」する
SVBが3月10日に経営破綻した直後、スタートアップ支援を行う老舗のYコンビネーターのギャリー・タンCEO(最高経営責任者)は、「スタートアップやイノベーションが10年以上は後退する」と語り、中長期的なイノベーション創出への悪影響を示唆した。
その後、米当局がSVBの預金を全額保護したことで最悪の危機は避けられたものの、シリコンバレーに本拠を構える企業の資金調達は不透明さを増している。米Wedbush証券が顧客向け分析で指摘したように、SVBはテック企業への資金の流れの大動脈であったからだ。
直近のSVB決算報告には、ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けるテック企業(ライフサイエンスを含む)のおよそ半数が同行と取引があり、VCが資金注入するテック新規上場(IPO)の40%以上がSVBからの保証を受けていた。
しかしSVBの経営破綻によって、多くのスタートアップが中小の米銀行から、バンクオブアメリカ、シティ、JPモルガンチェースなどの大手行に預金を避難。その結果、3月9〜15日の1週間で、1,200億ドル(約15.7兆円)の預金が米中小行から流出した。
JPモルガンチェースの3月22日付の分析結果はさらに深刻で、2022年以降、預け入れにリスクがあると考えられる(SVBを含む)米国の銀行から、約1兆ドル(約130兆円)の預金が流出。その半分であるおよそ5,000億ドル(約65兆円)が、SVBの破綻後に流出した公算が大きいとしている。
手持ちのキャッシュすべてをSVBなどの脆弱な銀行に預けていた多くの顧客が、安全のため、預金を複数行に分散させているわけだが、それはローン金利などの有利な条件を引き出す上で障害になると専門家は指摘する。
なぜなら、顧客がすべての金融ニーズを委ねるほど、銀行は面倒見が良くなるからだ。預金分散の安全と引き換えに、多くのスタートアップは低利ローンを受けにくくなると予想される。
「近所の肉屋さん」的存在だったSVB
SVBはテック企業向け金融のパイオニアだ。IT業界で莫大な先行投資が必要となることや、審査時間を短くしてでも借り受けが必要なケースがあることをよく理解していた。
そのため、規制へのこだわりが小さく、SVBが貸し出しする際はリスクを負ってくれる存在であった。米ファストカンパニー誌が指摘するように、「近所の肉屋さんやパン屋さんのように、個人的な付き合いをしてくれた」SVBは、シード(創業前または創業直後)後の利益を生み出せない企業にも喜んで貸し付けを行った。
大手行のように予見可能で安定したビジネスばかりを扱うのではなく、時には返済条件や金利の再交渉に応じるなど、忍耐強く面倒を見た。その代わりとなる金融機関は見当たらず、スタートアップを育むエコシステムの重要な一部が消滅した影響は小さくない。
有力VCのSequoia Capitalにおけるパートナーであり、伝説的なベンチャーキャピタリストであるマイケル・モリッツ氏は、「過去40年間に最も重要なビジネスパートナーであったSVBを失った」と述べ、その消滅を惜しんだ。
では、具体的にどのようなスタートアップが打撃を被っているのだろうか。
EV普及に悪影響? 気候テックに大打撃
EV向けバッテリーを設計・製造するスタートアップの多くが、SVBの世話になっていた。こうした企業の一部が継続性を確保できるか危ぶまれている。それは、米国における環境対策の切り札とされる、EV普及のペースにも影響を及ぼすかもしれない。
また、他の低炭素テクノロジーも打撃を受けている。一例が、マサチューセッツ州に本拠を置く低炭素セメントメーカーのSublime Systemsだ。セメント製造工程で石灰石が焼成される際に排出されるCO2を低減させることに成功した、注目のサステナブルスタートアップである。
今年創業3周年を迎えるSublime Systemsは直近のシリーズA資金調達で4,000万ドル(約52億円)を確保し、そのすべてを破綻したSVBに預けていた。幸い、連邦預金保険公社(FDIC)の保証外である25万ドル(約3,250万円)以上の預金についても当局が全額を保護したために、同社は危機を免れた。
しかし、低炭素セメントを製造する工場の建設には少なくとも5億ドル(約650億円)が必要だ。そこでSublime Systemsは、SVBからの低利貸し付けを期待していたのである。ところが、SVBが破綻したことでプロジェクトに対して融資を受けられるかは不透明になってしまった。
太陽光発電の融資「900億円超が消失」か…
SVBは、全米の家庭用太陽光発電向け融資の60%に関与していた。その中で最大規模であるSunrunはSVBから18億ドル(約2,340億円)の融資枠を取得していたが、まだ7億1,000万ドル(約923億円)の枠が使い切れずに残っていた。SVBを買収する銀行が、この残りの融資枠の貸し付けを行ってくれるかは不明だ。
一方、コミュニティー向け太陽光発電グリッドを開発するArcadiaのキラン・バトラジュCEOは、「SVBは信用チェックを省いて、弊社が顧客に電力供給をすることに同意してくれた。だが、新しい銀行は変更を要求するだろう」と語る。環境スタートアップがリスクを取りにくくなるわけだ。
また2022年11月の中間選挙で米下院を制した共和党は、環境事業への補助金支出に消極的であり、銀行の代わりとしての政府からの助けも当てにできないだろう。インフレや人件費の高騰、サプライチェーンの混乱という既存の問題に加えて、環境スタートアップは資金問題に悩まされることになる。
サステナブル企業の資金調達を手掛けるGreat Circle Capital Advisorsのダン・ファーガー常務は、「創業初期の気候変動テクノロジー企業はSVB破綻以前から向かい風を受けていたが、あとどれだけ持ちこたえられるかわからない」と話す。
SVBの顧客に多かったのが、ある程度の事業規模となるまでに時間も金もリスクもかかるビジネスモデルの気候変動スタートアップであった。しかしそうした企業は良き理解者であったSVBを失った。先述のようなSVB破綻の影響に直面すれば、世界の脱炭素の流れを遅らせる事態も考えられる。
来たる「買収ラッシュ」でIT業界が大再編?
米国の銀行はSVBの経営破綻以前から、貸し出し基準を厳格化させ始めていた。そのため、金融機関全体によるさらなる貸し渋りを引き起こす可能性があるという。
また、JPモルガンチェースのエコノミストであるマイケル・フェローリ氏は、「中小規模の金融機関で預金の流出が続けば、貸し出しを縮小する銀行が増える。今回のSVB破綻で当局の規制が強化されれば、さらにローンは借りにくくなる」との見方を示している。
今年借り換えが必要なローンは、借り入れコストがはるかに高くなる。ところが、スタートアップは利益を生み出せるようになる前にかなりの勢いで現金を消費する。このため、当面の資金調達に行き詰まり、事業を継続すること自体が危ぶまれる可能性があるわけだ。
こうしてマネーの流れがタイトになる一方、インフレによる経済停滞など不景気の風が吹いている。そのため、米スタートアップ支援VCのForecast Labsのアルジュン・カプール共同創業者は「テック企業ではコスト削減がさらに進む」と予想する。中小企業向けの保険商品を販売するCounterpart Insuranceのタナー・ハケットCEOも、スタートアップにおけるレイオフや解雇の加速を予測している。
こうした中、Wedbush証券のアナリストであるダン・アイブス氏は「軒並み評価額が低下したスタートアップのIPOが困難になり、より規模の大きいライバル企業に買収されることが増えるだろう」との見方を示した。資金を調達できず事業も継続できないスタートアップ企業が増えれば、それらの企業を狙った買収ラッシュが起きるなど、IT業界が再編されることは想像に難くない。
終焉を迎える「シリコンバレーの成長神話」
シリコンバレーは過去20年ほど、人々が想像もできなかったような便利さや驚き、そしてライフスタイルの革命的なトランスフォーメーションをもたらすことで、世界中のマネーを集めてきた。フェイスブック(現メタ)など多くのスタートアップが驚異的な成長を遂げ、上場企業に化けていった。合言葉は、「一に成長、二に成長、三に成長」であった。
SVBはまさに、そうした成長を陰で支えた立役者であり、スタートアップとともに急成長をした。だが、シリコンバレーの成長神話には陰りが見え始めており、SVBの破綻で終焉を迎えたように見える。人々が長い夢から覚めた後、時代は従来のイノベーションとディスラプションから収益中心主義へと移るだろう。
とはいえ、米国の基幹産業としてのテクノロジーの重要性が減じたわけではない。米当局は、シリコンバレーの「大きすぎてつぶせない」重要性を認識しているからこそSVBを救済したのである。
米地銀のファースト・シチズンズ・バンクシェアーズがSVBの買収に合意したと報じられたが、スタートアップにとっての良き理解者であるSVBの役割を受け継ぐかはわからない。だが、IT業界も銀行も成熟が求められるようになり、破天荒な成長神話を生んだやんちゃさや個人主義は抑制されていくかも知れない。
米ニュースサイト「インサイダー」のリネット・ロペス記者はシリコンバレーの資金調達スキームの変調を評して、「スタートアップへの資金提供を通してVCは、教育から運輸、そして金融に至るまで、社会全体がどのようにあるべきかビジョンを示してきた。だが、SVBの破綻でVC自体がビジョンを持たないことが明らかになった」と総括した。
イノベーションの源泉であるマネーの流れが絞られる中、合併や業界再編が起こり、シリコンバレーはそのミッションや役割を変えてゆくと予想される。SVB破綻は、そのトリガーとして記憶されそうだ。
●国内地銀は十分な資本、米破綻銀と全く異なる=金融庁審議官  3/31
金融庁総合政策局の屋敷利紀審議官はロイターとのインタビューで、日本の地銀経営に関して、リスク管理体制や資産の運用方針などの面で米シリコンバレー銀行(SVB)など破綻した銀行とは全く異なると述べた。外債の含み損はあるものの、それを勘案しても十分な資本を有しているとした。
屋敷審議官は金融機関のモニタリングやマクロプルーデンス(金融システム全体のリスク把握)を担当している。
「日本の銀行セクターは引き続き非常に強いと断言できるし、日本の金融システムは十分に堅固なままだ。現在、日本の銀行の資本と流動性のポジションは、世界的な金融危機以前に比べてはるかに良くなっている」と強調した。
破綻したSVBには、1)資金調達を粘着性が低い少数の大口法人預金に依存していた、2)資金運用を主に満期保有債券で行っていた、3)リスク管理体制、内部統制がずさんだったーーという3つの大きな問題点があったと指摘。その比較で懸念が示される日本の地銀については「シリコンバレーバンク等とは全然違う」と話した。
預金に対する有価証券運用の比率は、SVBの約7割に対し、地銀は1―2割、せいぜい3割だという。また、地銀のリスク管理、内部統制については「金融庁が重層的に常時モニタリングしているし、流動性リスク管理については日本銀行とも連携してモニタリングしている」と述べた。
また、外国債券の含み損が多いとの懸念に対しては「確かに外債の含み損が大きいところはあるが、それを勘案してもなお、十分な資本を持っている」とした。SMBC日興証券によると、2022年12月末時点の上場地銀全行の外債は1.4兆円の含み損となっていた。
新体制下で日銀が金融緩和政策の変更に踏み切れば、金融機関の経営に大きく影響する。米国が1年間で金利をゼロから5%に引き上げたのに対し、日本では実施しても小幅な変更にとどまる可能性が高いものの、仮に日銀が政策を変更すれば「より注意深いモニタリングが必要になる」とした。SMBC日興証券は、単純計算で10年国債が今後1%になれば地銀の円債の含み損は、昨年12月末の1.4兆円から4兆円程度に増えると試算している。
規制強化の必要性については「今すぐに規制を見直すということは現時点では考えていない。そこは海外をみながら、対応していくことになる」とした。さらに、今回の事象を受けて、内部統制やリスク管理といったコーポレートガバナンスをしっかりとすることが非常に重要になると指摘した。
●FRB 新たな枠組みでの貸出額 1週間で1兆4000億円余増加  3/31
アメリカで2つの銀行が破綻したことを受けて、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が導入した、新たな枠組みによる銀行などへの貸出額が、1週間で107億ドル、日本円で1兆4000億円余り増えたことがわかりました。
この枠組みは銀行の破綻が相次いだことを受けて、金融不安を払拭(ふっしょく)するためFRBが12日に導入したもので、銀行などの預金を扱う金融機関は従来の制度より有利な条件で最長1年間の融資を受けられます。
FRBが発表したこの枠組みによる貸出額は、29日時点では644億ドル、日本円で8兆5000億円余りでした。
これは前の週、22日時点と比べ107億ドル、1兆4000億円余り増えています。
一方、FRBによる従来の融資の枠組みの残高は、29日時点で881億ドルで、前の週と比べて220億ドル、日本円で2兆9000億円余り減少しました。
アメリカ政府とFRBは、金融危機を防ぐためにはあらゆる手段を講じる考えを繰り返し強調していて、市場では金融不安がいくぶん和らいでいるという見方も出ています。
●ニューヨーク株式市場 続伸 金融不安やわらぎ買い優勢 3/31
30日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続伸した。
アメリカ当局の救済措置などにより、地方銀行の経営危機がこれ以上広がらないとの見方が強まり金融システムへの不安が和らいだことで、買いが優勢となった。
個別銘柄では、半導体のインテルや航空機大手ボーイングの上昇が目立った。
前日比141ドル43セント高の3万2859ドル03セントで取引を終えた。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も続伸し、87・23ポイント高の1万2013・47だった。
●TPP イギリス加盟で大筋合意 日本からのコメ「関税撤廃」  3/31
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の参加国は、イギリスの加盟を認めることで大筋合意した。
TPP経済圏は、ヨーロッパにまで広がる。
TPPは、関税撤廃や投資などでの共通ルールに基づき、自由貿易を推進する枠組みで、日本やオーストラリアなど11カ国が参加している。
イギリスは、2021年に加盟申請していて、日本時間の午前に開かれた閣僚会合で加盟が大筋合意された。
TPP内では、日本に次ぐ2番目の経済大国の参加となり、GDP(国内総生産)の合計額はおよそ12兆ドルから15兆ドルに増える。
後藤経済再生相「自由貿易、開かれた競争的市場、ルールに基づく貿易システム、経済統合をさらに促進して行くうえで非常に大きな意義を有するものである」
今回、新たに日本からイギリスに輸出する米の関税の撤廃が決まり、後藤大臣は、世界的和食ブームの中で、米の輸出に弾みがつくことに期待感を示した。 
●日本の銀行株はなぜ売られたのか? 3/31
3月10日にアメリカで起きた突然の銀行破綻をきっかけに世界に広がった金融不安。日本でも銀行株が軒並み下落し、1日で株価が10%以上急落した銀行もありました。金融システムが比較的健全だとされていた日本でなぜ銀行株がここまで売り込まれたのか。その背景を取材しました。
世界に広がった金融不安
3月10日、12日と相次いだアメリカの銀行破綻。これをきっかけに広がった金融不安は15日にはヨーロッパにも飛び火し、スイスの大手金融グループ、クレディ・スイスの経営問題が市場の不安を増幅させました。この間、世界の金融市場は大きく動揺し、東京株式市場では日経平均株価が3月13日に一時、500円以上下落。14日には700円以上、16日には500円以上、値下がりする場面もありました。
日米欧の銀行株の下落水準は
株価の下落を主導したのは銀行など金融関連の銘柄です。欧米では銀行株が急落し、日本でも規模の大小を問わず、銀行株が軒並み大きく値下がりしました。それでは銀行株の値下がりはどの程度だったのか。主な銀行銘柄で構成されるアメリカ(KBWナスダック銀行株指数)、ヨーロッパ(ストックス欧州600銀行株指数)、日本(トピックス銀行業指数)の株価指数を見てみます。アメリカの銀行破綻の前の3月9日の株価指数を100とすると、3月28日時点では、アメリカは15.9%、ヨーロッパは14.5%、そして日本は15.4%それぞれ下落したことになります。この間のグラフをみると、日本の銀行株の下落率は、震源地にある欧米の銀行の株価の下落率と同じような水準で推移していることがわかります。
日本の銀行株が大きく値を下げた理由は
欧米の金融不安が広がる中、政府・日銀の関係者は、日本の金融システムは安定しており、金融機関に及ぼす影響は限定的だという見方を示しています。それでは、金融不安の震源地である欧米から遠く離れ、影響も限定的だとされる日本でなぜ銀行株がここまで大きく売り込まれたのか。その理由について市場関係者が口をそろえたのが、金利が上昇から低下に転じたことです。去年12月、日銀は大規模な金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を0.5%程度に引き上げました。これを受けて長期金利が上昇。金利の上昇が銀行の収益を押し上げるという見方から銀行株は値上がりを続けます。海外の投資家や国内の機関投資家の中には、日銀がさらに金融緩和策を修正し、金利が上昇するとの思惑から、「日本国債売り、銀行株買い」のスタンスを強めていたところもありました。ところがアメリカの銀行が突然、経営破綻し、金融不安が広がったことで長期金利が急低下。投資家の姿勢は、「日本国債買い、銀行株売り」に転じることになりました。つまり株高が続いた反動の大きさが、急激な株価の低下につながったという見方です。もう1つは、世界の銀行株が同時並行的に下落するという今回の姿こそ、新しい金融不安の形ではないかという見方です。
丸紅経済研究所 今村卓 所長「今回の金融不安は、銀行の取り付け騒ぎがきっかけとなったが、これだけをみると過去の銀行破綻と比べて新しいことが起きたわけではない。ただ、SNSなどであっという間に情報が拡散し、スマホでの金融取引も当たり前になった今の時代、金融機関が経営破綻に陥るまでの速さ、金融不安が世界に広がるスピードはこれまでとはまったく異なっている。金融不安の増幅の度合い、世界に波及する”波”の大きさもこれまで以上に大きくなる可能性もある。今回は日本への直接的な影響は限られたが、金融不安の波がさらに大きくなれば、日本に影響が及ぶおそれもあることも想定しておくべきではないか」
銀行株の急落から何を読み解く
クレディ・スイスは、スイスの金融当局の関与のもと、同じスイスの金融最大手、UBSによる買収という形で救済されることが決まりました。これと歩調を合わせて日米欧の6つの中央銀行が協調して、市場へのドル資金の供給を拡充すると発表。こうした異例の対応によって市場の動揺はひとまず収まった形となっています。“景気敏感株”とも呼ばれる銀行株。その突然の急落から何を読み解けばよいのか。世界経済や金融機関の動向をにらみながら、引き続き銀行株の動きに注目していきたいと思います。
来週は3日に日銀の短観=企業短期経済観測調査が公表されます。民間の予測では、大企業・製造業の景気判断が5期連続で悪化するという見方が多くなっていますが、海外経済の減速や仕入れコストの増加などの懸念材料が企業の景況感にどう影響するのか注目されます。また来週はアメリカの雇用関連の経済指標の発表が相次ぎ、7日には雇用統計が発表されます。物価高の要因となっている人手不足の問題が統計ではどのような形であらわれるのか注目です。
 
 

 

●「リーマン2.0」で米ドル覇権は終わるのか? 4/1
世界に金融恐慌の影が忍び寄っている。恐慌(英語でパニック)は経済より、心理学上の現象だ。カネ余りで投機がはびこっても、皆が取引を続ければ経済は回っていく。ところがある日、どこかの銀行がつぶれると、「あの会社、あの銀行もひょっとして、ゾンビなのではないか。ここと取引をするとカネを失ってしまうのでないか」という疑心暗鬼が広がって取引は止まり、経済も止まる。いつそうなるかは、誰にも分からない。
今後の見通しは大きく言って、2つしかない。1つは、当面踏みとどまるというもの。しかしそれでも、利上げしなければインフレ高進、しかし利上げすれば銀行などがつぶれて金融恐慌、という恐怖のジレンマはなくならない。いつかは、綱渡りから落ちることになるだろう。
もう1つは、「リーマン2.0」が起きるということ。その場合、アメリカではFRB(米連邦準備理事会)がこの1年続けてきた利上げを緩和、あるいは金融緩和を再開することすらあるだろう。米政府は破綻した金融機関、あるいは大企業に公的資金を注入し、世界の中銀にドルを配布して(と言っても、帳簿上の話)世界の貿易・投資の決済が止まるのを防ぐことになる。
2008年秋のリーマン・ショックでは、米政府と連銀は財政支出拡大、金融大緩和で景気を刺激し、10年にはプラス成長を回復している。もっとも成長分の多くは当初、富裕層に流れてしまい、格差が増大して、16年の大統領選でトランプの当選を助けてしまったのだが。
アメリカをしのぐ投資対象はない
08年の場合、世界中でドルが不足したため、破綻国通貨のドルが急騰するという奇妙なことが起きた。だが1年もたつと実力を反映して、ドルの実効為替レートは急降下する。金利を下げなかった日本では円が高騰するが、アベノミクスの「異次元緩和」で逆に過度の円安になる。この中でユーロなども価値を下げたから、世界の通貨秩序は変わらなかった。
中国は、リーマン危機を受けての内需拡大措置で(GDPの10%超)成長を維持。10年には日本をGDPで抜きはしたものの、輸出依存、インフラ建設依存の経済体質は変わっていない。しかも人民元は金融取引では自由化されていないので、世界の基軸通貨になることはできていない。アメリカがつまずくと、中国、ロシアの経済はコケる。中国のドル箱である対米貿易黒字(21年には約4000億ドル)は激減するし、ロシア経済の命綱である原油価格も急落するからだ。
近世になって資本は地中海諸都市からオランダへ、そして18世紀にかけてオランダからイギリスへ、次に20世紀にかけてアメリカへと移動した。資本は常に「大きくて、かつ将来有望な」相手を探し、それに投資して一層盛り立てる。
今日、アメリカをしのぐ投資対象はない。中国は前記のとおりだし、インドも近代ビジネスの環境を欠いている。人民元をデジタル化しても、覇権は握れない。肝心の中国当局が、自分の統制が及ばない外国人に人民元を自由に使わせないだろうからだ。
このように、アメリカの力がドルの担保となるドル=米国本位制はまだまだ続く。WBCでは優勝できたが、日本に通貨覇権を握る力はない。今の枠の中で成長と格差是正を図っていくしかないのだ。
ただ、ブロックチェーンの技術で資金の流れが透明化されれば、余計なバブル、投機を防げるかもしれない。リーマン危機以後、日本は利下げ、利上げで欧米から一周も二周も遅れることで経済に負担をかけてきたが、それも終わらせてもらいたい。
●米 中小規模銀行の預金量 増加に 金融不安いくぶん和らいだか  4/1
アメリカでは、2つの銀行の破綻を受けて中小規模の銀行から預金が流出していましたが、先月16日から22日にかけては預金量がわずかに増加し、市場では金融不安がいくぶん和らいでいるという見方が出ています。
FRB=連邦準備制度理事会は、アメリカで2つの銀行が相次いで破綻したことを受けて、先月15日までの1週間で中小規模の銀行から1200億ドル、日本円にして15兆円余りの預金が流出したと発表していました。
しかし、その翌週の先月16日からの1週間では全体の預金量が59億ドル、日本円にして7800億円余り増加したということです。
また、中小の銀行は、この期間に243億ドル、日本円にして3兆2000億円余り、借り入れを減少させました。
前の週は、資金繰りの強化に向けて「最後の貸し手」のFRBなどから借り入れを大きく増やしていましたが減少に転じました。
政府とFRBは、金融危機を防ぐために、あらゆる措置を講じる方針を繰り返し強調していて、市場では金融不安がいくぶん和らいでいるという見方が出ています。
●NY市場 ダウ平均株価値上がり インフレ懸念緩和で買い注文増  4/1
3月31日のニューヨーク株式市場は、アメリカのPCE・個人消費支出の物価指数の発表を受けてインフレへの懸念が和らいで買い注文が増え、ダウ平均株価は400ドルを超える値上がりとなりました。
3月31日のニューヨーク株式市場は、この日に発表されたアメリカの2月のPCE・個人消費支出の物価指数の伸びが市場予測を下回ったことを受けてインフレへの懸念が和らいで買い注文が増えました。
このため、ダウ平均株価の終値は前日に比べて415ドル12セント高い3万3274ドル15セントでした。
ダウ平均株価の値上がりは3日連続です。
IT関連銘柄の多いナスダックの株価指数も1.7%の大幅な上昇でした。
市場関係者は「インフレが収束に向かえば、FRB=連邦準備制度理事会の金融引き締めによって景気が冷え込む期間が短くなると見て、買い注文を出す投資家が多かった。アメリカの金融当局が、銀行の経営破綻が相次いだあと広がった金融不安を抑え込むとの見方が出ていることも株価の上昇につながった」と話しています。 

 

●人工知能 「人間超え」の出発点 米国覇権の失墜、金融危機、大量辞職… 4/2
2023年を出発点にして、いま私たちは「シンギュラリティー」と呼ばれるテクノロジーの本質的な変化の過程に突入している。これは、国際秩序や政治・経済だけではなく、社会のあり方や人間の意識も含めた根源的な転換ともシンクロしている。金融危機もかならず起きるだろう。人工知能がもたらす社会の劇的な変化について解説したい。
2023年〜2025年に起こる劇的な変化
もしかしたら、2023年の今年は、既存の世界が本質的に転換する「シンギュラリティー」の過程の出発点になる年なのかもしれない。とすれば、これから約2年間、2025年くらいまでに我々は根本的に変化することを迫られることだろう。
すでに大きな変化は2020年から始まった新型コロナのパンデミック、さらにコロナが次第に落ち着きつつあった2022年2月から始まり、いま泥沼化しつつあるロシア軍のウクライナ進攻などの歴史的な出来事で、我々の世界は大きく変化しつつある。これに異論を唱える人はほとんどいないはずだ。
コロナのパンデミックでは、世界的なサプライチェーンの寸断、サービス業の打撃と格差の拡大、また自殺者の増加、そしてリモートワークの普及によるデジタルトランスフォーメーションなどを我々は経験した。
またいまも続くウクライナ戦争では、ロシアと欧米の政治的・経済的な対立と決定的な分断を背景に、エネルギーや食料を中心とした世界的なインフレが進行し、これに対応できない人々の激しい抗議運動が特にヨーロッパを中心に続いている。
2020年からの3年間に我々が経験した変化は、ことのほか大きかった。
この変化の大きさは、他の時期の3年間と比べて見ると歴然としている。東日本大震災のあった2011年は例外としても、例えば2012年から2015年、また2015年から2018年などの3年間を見ると、それなりの出来事は起こっていただろうが、ほとんど記憶に残っていないのではないだろうか?我々の日常の基本的な枠組みは維持され、日常の細々とした変化に忙しく対応していた。2020年から2023年までとは変化のインパクトがまるで異なる。
しかし、おそらく2023年から2025年くらいまでの2年間の変化は、このインパクトをはるかに凌ぐものになりかねないのだ。
2020年から2023年の変化にもなんとか持ちこたえた既存の社会の大きな枠組みが、今度は根本から新しい形態のものへと向かう本質的な転換になりかもしれない。この変化を形容するには、「シンギュラリティー」という言葉しかない。
2023年が「シンギュラリティー」の出発点
すでにやってきているこの本質的な変化の内容を語る前に、「シンギュラリティー」とは何かについて簡単に解説したい。すでに広く使われているので、知っている読者の方々も多いだろうが、一応この言葉の意味だけは明確にした方がよいだろう。
「シンギュラリティー」とは、人工知能や機械学習技術が急速に進歩し、人間の知能を超える機械やAIが登場するとされる未来の時点を指す概念だ。この「シンギュラリティー」が到来すると、AIや機械による自己改善が指数関数的に加速し、人間には予測や制御が困難な技術的進歩が続くとされている。要するに、「シンギュラリティー」のポイントを越えると、技術の進歩が飛躍的に加速し、その後どうなるのか予測できなくなるのだ。
どうも2023年に我々はこの「シンギュラリティー」の出発点にいるようだ。すでに多くの人が使っているので周知だろうが、昨年の11月に「OpenAI」というスタートアップが出した「ChatGPT」がある。現在はバージョンが4になり、一層速く回答することができるようになった。
「ChatGPT」は、ユーザーが入力するあらゆる質問に答える能力がある。これを使うと、司法試験の問題や大学院レベルの試験、科学論文の要約、本の執筆、作曲、プログラミング、そして占いまで、知的な作業の多くを実行する能力が「ChatGPT」にはある。
そして、「ChatGPT」の出現後、ほぼ毎日のように新たなAIの商用サービスが出現している。デザインや画像の自動生成、作曲、ビデオ自動編集、記事や本の執筆のアドバイス、法律相談、ホームページ自動作成、会社のロゴの自動作成、プレゼンの自動作成など考えられる限りのサービスが雨後のタケノコのように登場している。2年後の2025年頃になると、知的な仕事のほとんどがAIによって置き換えが可能になるだろう。これにより、我々の社会も予想のできない方向に激変することだろう。
「シンクロニシティー」が起こる
「Futurepedia」というサイトがある。ここではすでに提供されている1,500を越えるAIの商用サービスが検索できる。ぜひとも見ていただきたい。
しかし、こうしたAIの「シンギュラリティー」による変化は単独で起こるわけではない。記事が長くなるので具体例は出さないが、過去の歴史でも多くの事例があるように、ある分野の革命的な進化と発展は、まったく異なった領域の本質的な変化とシンクロしながら進む。
これらの領域は相互に直接的には関連しておらず、本質的な変化が、それこそ同時並行で起こるのだ。いま「シンギュラリティー」が始まる中、これとシンクロした変化は、世界秩序から経済や政治、そして我々の社会のあり方を根本的に変える変化が起こっている。
それらの変化には直接的な因果関係はないものの、それらは相互に刺激しあって変化をさらに加速させる。いわば、「シンギュラリティー」で起こった変化の振動が、他の領域にも同じ振動数で伝播しているかのような状態だ。
そうした根本的な変化を順次見ることにする。
アメリカの覇権の失墜から多極型世界秩序へ
まず同時並行的に起こっている変化の中で最大のものは、アメリカの覇権の本格的な失墜と中ロを主軸とした多極型秩序の台頭である。
この多極化の動きは、2003年のイラク侵略戦争からすでに徐々に始まっていたが、ウクライナ戦争の勃発が背景となり、一挙に加速した。いわば2003年から蓄積された小さな変化は2023年になって臨界点に達し、世界秩序の構造的な転換を促す変化になった。
この3月に行われたプーチンと習近平との首脳会談は、多極型秩序への転換を一挙に進めるタイミングで実施された。ロシア軍に優勢に戦いが進行しているものの、欧米の支援を得たウクライナ軍は激しく抵抗しており、戦線は泥沼化している。アメリカを中心とした西側諸国も政治的決着以外に停戦の方法はないと思っている。そうした時、習近平は中国の「12項目」の方針を明確にした和平案を提示し、中国が仲裁役を引き受ける用意があるとした。
ウクライナ戦争で中国とロシアの関係がこれまでになく強化されている。ウクライナ戦争が中国の仲裁によって終結するようなことにでもなれば、中国の国際的な威信は一挙に高まり、中ロによる多極型秩序を形成する動きはさらに具体化しながら加速することだろう。多極型秩序と言っても、それを安定した秩序として構成するためには「IMF」や「世界銀行」などのような国際機関が必要になる。必要なものを列挙すると次のようになる。
   ・新国際決済通貨
   ・一帯一路を基軸にした新国際経済秩序
   ・新しい国際機関による管理体制(新世界銀行、新IMFなど)
   ・国際紛争の調停機関としての新たな国際組織
   ・中ロを基軸にした新しい安全保障の体制
   ・中ロ基軸の新軍事同盟
   ・西側の民主主義とは異なる社会経済モデル
いま水面下でこうしたものの形成が進んでいるようだ。中国の仲裁によってウクライナ戦争が万が一終結するようなことでもあれば、多極型秩序の現実的な構成に必要な組織や機関、そして取り決めは一挙に具体化する可能性がある。ここまで来ると、アメリカの覇権失墜は決定的となり、不可逆的となる。世界は新しいルールで動くことになる。
金融危機は必ず起こる
そして、覇権の転換と同時平行に進行するのが金融危機だ。「シリコンバレー銀行」や「シグネチュアー銀行」の破綻は「FRB」による利上げが原因だとされているが、それだけが原因ではない。もっと構造的な原因がある。
15年前の「リーマンショック」以来、世界的な金融緩和政策が実施され、市場には過剰な資金があふれていた。過剰な流動性である。いつでも低金利で得られるいわゆる「イージーマネー」の拡大だ。その結果、特にアメリカでは、多くの企業は本業で利益を出すよりも、金融的な手段による手っ取り早い利益の獲得を優先した。「M&A」と自社株買いである。
「M&A」を実施すると企業規模は確実に大きくなるので、株価も上昇する。また自社株買いで自社の株価を吊り上げて業績をよく見せることで、さらに株価は上昇する。高い株価は将来自社が「M&A」の対象になったとき、企業価値を高めるので好条件で身売りすることができる。さらに、「CLO」を始めとしたローン担保証券の取得により、大きな収益が得られた。
このような、異常な低金利の「イージーマネー」に依存した状態は、コロナのパンデミックによる巨額の支援金の供与によってさらに拡大した。本業の利益が少ないにもかかわらず、金融機関から簡単に低金利のローンがを得られたので、本業の利益が減少している「ゾンビ企業」でも存続することが可能となった。そううした企業は得たローンで自社株買いをして、自社の株価を吊り上げで業績をよく見せたので、さらに大きなローンを得やすくなった。ローンと自社株価買いを組み合わせ操業形態である。
このような慣行は企業体質を脆弱にした。いざ「FRB」による利上げが継続すると、たちまちローンの利払い費の高騰に耐えられなくなり、銀行の預金を引き出すことになった。自社株買いをする余裕もなくなると同時に、利上げの影響で新たなローンが組めなくなった。
いまアメリカを中心に、こうした企業はかなりの数に上っている。そのため、「シリコンバレー銀行」で起こったような取り付け騒ぎは、どの銀行にも起こり得る。「シリコンバレー銀行」などは「FRB」によって預金の保護がいち早く宣言されたので、銀行破綻とそれによる企業破綻の連鎖は回避された。しかしながら、銀行不安はまったく払拭できていない。市場も神経質になっている。なので、なんらかの出来事がきっかけとなり、多くの銀行で一気に取り付け騒ぎが発生するかもしれない。「FRB」による救済も間に合わないこともある。
要するにいまの金融危機は、極端な金融緩和とマネーのばらまきという、過剰な流動性の状態に依存している現在の資本主義の終焉を表すものとなるだろう。それは、現在の資本主儀に本質的な転換を迫るはずだ。
止まらない大量辞任の波と人手不足
しかし、資本主義の変質は企業よりも、そこで働く人間の側ですでに進行している。以前の記事に書いたように、すでにアメリカでは全労働人口の39%が企業を辞めフリーランスとなっている。リモートワークや新しく提供されたさまざまなAIのツールを活用すると、膨大な仕事がすでにアウトソーシングされているので、企業に依存しなくても十分に生活ができることが分かった。フリーランス化の動きは加速しており、人手不足が慢性化する状態になっている。今後もこれは続くことは間違いない。アメリカだけではなく、すべての先進国にこの波はやってきている。
言ってみればこれは、労働者が企業を放棄する流れである。リモートワーク、デジタルトランスフォーメーション、そして高度なAIのツールの活用によって、これまで企業の従業員や労働者であった人々が企業から自立して労働者というアイデンティティーを捨て、個人として自由に生き始めたのである。すでに始まっているが、労働者の確保に失敗して破綻する企業もこれから増えるはずだ。
こうした、企業には依存しない自由な個人の出現という現象に、一カ所に集めた労働者を管理し、最大の生産性を上げるように強いる既存の資本主義の企業は、自由な個人となった人々から放棄される運命にある。そうした企業が生き残るためには、本質的な転換が迫られる。この転換の波が現存の資本主義を新たな形態へと変化させて行くに違いない。
多極型秩序で進む変化
これらの変化が、AIの爆発的な進化による「シンギュラリティー」とシンクロし、同時平行に起こっている。これを見ると、中ロが主導する多極型の世界秩序という大きなプラットフォームの上で、金融危機で矛盾が一掃された資本主義が、デジタル技術と高度なAIで武装した自由な個人に対峙する過程で、本質的な転換と進化を経過するはずだ。その過程では、既存のシステムがどの程度生き残るのかは分からない。まったく新たな形態になるかもしれない。
どうも2023年は、こうした根本的な変化が起こる出発点の年だ。この変化はすさまじく加速し、どうも2025年頃になると、激変した社会を見ることになるだろう。・・・
●テラ共同創業者逮捕、依然として残る4つの疑問 4/2
暗号資産(仮想通貨)について書く仕事で最も大変なことは、常にあらゆることが起き、重要さと興味深さと劇的さが入り混じっていることだ。その証拠にここ2週間は銀行危機や規制強化のニュースがもちきりで、テラ(Terra)ブロックチェーンの共同創業者ドー・クォン(Do Kwon)氏がモンテネグロで逮捕という大ニュースを味わう時間がなかった。
5月にテラが崩壊したことは、2022年の暗号資産低迷の直接的なきっかけとなった。特に暗号資産レンディングを手がけるセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)とヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)を破綻に追い込んだ。
米証券取引委員会(SEC)の訴状には、クォン氏の行為について驚きの新事実が含まれていた。今回の逮捕によって、さらに多くの事実が明らかになることが望まれる。
答えを必要とするクォン氏についての疑問は、まだいくつも残っている。
なぜセルビアにいたのか?
クォン氏の逮捕に関して、現在最も興味深いのはこの点だ。韓国の警察は12月、クォン氏がセルビアに逃亡したと報告。最終的に逮捕されたのは、隣国のモンテネグロだった。どちらも非常に美しい国で、私が個人的に訪れたい国のリストでも上位に位置しているが、クォン氏にはもっと深い動機があったと考えて良いだろう。
場所の選択は、1つには地理的な理由だったかもしれない。クォン氏とテラフォーム・ラボ(Terraform Labs)の最高財務責任者ハン・チャン-ジュン(Han Chang-Joon)氏は、ドバイに行こうとプライベートジェットに乗り込むところを逮捕されたと報じられた。ドバイは富裕な逃亡者には人気の隠れ家で、バルカン半島はシンガポールからドバイへの経路上にあると言っていいだろう。
しかしもう1つ、理由と推測できることがある。SECは2月の民事告訴の中で、クォン氏はスイスの銀行を利用して、自らのプロジェクトから盗んだとされる約1億ドル(約130億円)相当のビットコインを売却できたとしている。クォン氏はそのため、あるいは警察から逃れるために犯罪組織を頼った可能性もあり、バルカン半島はマフィアと関連した暗号資産詐欺の温床となっている。これもクォン氏がセルビアに逃亡した理由の1つかもしれない。
誰が告訴するのか?
クォン氏がモンテネグロで逮捕された数時間後に、アメリカの検察官は同氏対して刑事告訴を行った。これはつまり、その準備が行われていたことを示している。クォン氏のアメリカ送還を要求できるようにしたわけだ。
元SEC職員のリサ・ブランカガ(Lisa Brancaga)氏によれば、クォン氏はアメリカの投資家をターゲットとしていたため、アメリカは法的権限を主張することができる。一方、クォン氏は祖国である韓国でも詐欺容疑で告発されている。
つまりアメリカと韓国は、どちらが最初にクォン氏を追及できるかを巡って交渉、あるいは競い合わなければならない。しかしまずは、偽造パスポートを使った罪でモンテネグロで裁判にかけられることを待つ必要があるだろう。
道徳的な観点だけで言えば、韓国が先の方が正しいかもしれない。テラはアメリカ人をターゲットとしていたが、被害者は韓国人の方がはるかに多いようだ。
クォン氏がテラの共同創業者で同じ韓国人のダニエル・シン(Daniel Shin)氏を通じて韓国のエリートたちに人脈を有していたことを考えれば、韓国の方が徹底的な追求が行われる可能性がはるかに高い。しかしアメリカの検察はその点をアメリカで行うべき理由として利用するかもしれない。クォン氏が韓国のエリートたちとコネクションを持っていることは、そのような人たちが裁判に干渉する可能性があると主張できる。
投資家たちはなぜ簡単に騙されたのか?
この疑問は、クォン氏の裁判では答えは出ないかもしれないが、特にイライラさせられる疑問だ。クォン氏を称賛した投資家は本当に同氏の言い分を信じるほど愚かだったのだろうか? それとも、他に何かあったのだろうか?
テラのアルゴリズム型ステーブルコイン「terraUSD」は、その後に明らかとなった不正を脇に置いたとしても、理論的に意味をなさないものだった。そうなると、暗号資産を専門とし、金融に精通していた人たちも含めた投資家がテラに対してきわめて間違った投資をしたのか、それとも、他に隠れた動機があったのかと不思議に思わずにはいられない。
しかし、SECの告訴から見えてくるのは、単なる恥さらし以上のリスクにさらされたあるカウンターパーティーの存在だ。SECはアメリカを拠点としたある投資会社が、terraUSDがドルペッグを失った2021年5月に秘密裏に行われた救済に関与したと主張している。
この出来事は後に、terraUSDは安全だという偽りの主張を支えるために使われたとSECは指摘。つまり、単なる投資ではなく、詐欺を助長する行為と捉えられる可能性がある。
CoinDeskは、この企業がシカゴにあるジャンプ・クリプト(Jump Crypto)であることを確認した。検察が詐欺のほう助と簡単に見なすことのできる行為に対して、なぜジャンプが法的な報いを受けていないのかはわからない。ジャンプがそれによって、12億8000万ドルもの利益を上げたとされることを考えればなおさらだ。
テラはどうなる?テラ2.0は?
クォン氏が手を触れたものはすべて、根本的に無価値になっている。クォン氏が携わったプロジェクトとの金銭的、職業的関わりを断つことを私は強く勧める。
もし私の言うことをを信じられない、あるいは理解できないとしたら、残念だ。私はもう1年もかけて説得を試みてきている。
●超有名ハリウッド女優も被害 ツイッターがあおった金融不安 4/2
ハリウッド映画「氷の微笑」の主演女優シャロン・ストーンさんも影響を受けたという米国の金融不安。その不安を増幅したのがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。日本の金融は「総体として安定」(岸田文雄首相)しているが、「初のツイッターがあおった銀行取り付け騒ぎ」(マクヘンリー米下院金融サービス委員長)は、人ごとではない。
拡散された「恐怖」
「銀行の取り付け騒ぎだ」「あなたは今、絶対おびえているはず」「月曜日の午前にはもっと多くの取り付け騒ぎが始まる」―。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、米シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した翌日の3月11日の土曜日に人気ブロガーや有名投資家がこうしたメッセージをツイッターで相次いで発信し、拡散されていった。
全米16位(総資産2090億ドル=約27兆円)で、直近まで健全経営を保っていたはずのSVBは3月9日だけで全体の4分の1に相当する420億ドル(約5兆4600億円)もの預金が流出、翌10日に破綻した。米利上げが背景にあって、保有する債券の売却で18億ドル(約2340億円)の損失を出したことがきっかけだった。破綻は全米史上2番目の規模だが、それを上回る過去最大の破綻だった貯蓄貸付組合(S&L)最大手ワシントン・ミューチュアルの破綻時でも10日間の預金流出は160億ドル(2兆円余り)だった。たった1日でその2.6倍もの預金が逃げたことになる。
日曜日だった12日にはシグネチャー銀行も破綻。経営体力の弱い中小銀行がバタバタとつぶれる連鎖破綻を恐れた米政府と連邦準備制度理事会(FRB)は同日、通常は保護しない25万ドル(約3250万円)超の預金も含めて預金を全額保護すると発表した。2008年のリーマン・ショックのような金融危機が再来するのではないかと不安視されている。
取り付け騒ぎは、金融危機時などに銀行の経営を不安視した預金者が預金を引き出そうとして窓口に一気に押し寄せる現象だ。08年には米銀行で発生し、1990年代後半には不良債権問題で苦しんでいた日本でも起こった。95年8月の木津信用組合(大阪市=当時)の破綻直前にはニュースをきっかけに本・支店に預金者が殺到。怒号と悲鳴の中で預金払い戻しを求める光景はテレビで大きく報じられた。
銀行監督では防げず
リーマン・ショック時と今回との決定的な違いは「ソーシャル・メディアの役割」(WSJ)だ。
個人がメッセージを瞬時に大量発信できるツイッターやフェイスブックは既に存在したが、まだ社会に浸透してはいなかった。だが今回はSVBの危機が報じられた直後、写真や動画を伴う書き込みがネット上にあふれた。中には真偽が怪しいものもあった。銀行に並ぶ人の列なのか、タコス(メキシコ)料理の屋台に並ぶ人の列なのか論争を呼び、取り消された写真もあったという。
SNSによる取り付け騒ぎは米連邦議会でも問題視された。3月16日の米上院財政委員会公聴会でホワイトハウス議員は、「われわれは史上初のソーシャル・メディアによる『ネット取り付け騒ぎ』を目撃している」と指摘。同議員からコメントを求められたイエレン財務長官は「どんなに強力な資本や流動性の監督があったとしても、ソーシャル・メディア等にあおられた極度の取り付け騒ぎに見舞われたら、銀行は破綻の危険に置かれる可能性がある」と語った。さらに「(預金を全額保護する非常事態である)『システミック・リスク例外』を宣言したのは、連鎖破綻の恐れがあったと認識したためだ。他の銀行も同様の取り付け騒ぎにさらされる可能性がある」として、SNSが拍車をかける金融不安に強い懸念を示した。
SNSは欧州の銀行も揺るがしている。3月19日の日曜日、スイスの名門銀行クレディ・スイスは同業のUBSに救済買収されることが決まった。スイス政府は買収に伴うUBSの損失を一部補塡(ほてん)する予定で、官民一体での救済劇だ。クレディ・スイスは過去の巨額損失と経営スキャンダルで資産と預金の流出が止まらず、SVB破綻後は株価が急落した。全世界にオンライン中継された記者会見で、誰に責任があるのかと問われたレーマン会長は「われわれはソーシャル・メディアの嵐を受けた」と無念そうに語った。
取り付け騒ぎは銀行窓口に預金者が殺到するイメージだが、SNSとインターネットバンキングの普及した現代では指先だけで巨額の預金を引き出すことが可能だ。預金保険の限度額を超えるお金を口座に持つ富裕層の預金ほど逃げ足は速い。ある日銀OBは「静かなる取り付け騒ぎ」と表現する。
一方、SNSだけが悪いのではないとの見方もある。SVB破綻後の11日に「月曜日(13日)には10万人のアメリカ人が自らの取引銀行の窓口に並び、預金払い戻しを求めるだろうが、ほとんど手にできないだろう」とツイートしたベンチャー投資家はWSJの取材に、SVBの取り付け騒ぎは、SNSではなく、プライベートなグループチャットや電子メールで引き起こされたと反論した。
冷静なファクトチェックを
前出のマクヘンリー氏は「思惑にまどわされず、冷静さを保ってファクト(事実)を見ることが大事だ」と語っている。実際、SVBの取り付け騒ぎでは、不安をあおるような書き込みをいさめようとしたSNSユーザーもいた。
SNSがない昔でも、日本では根拠のない信用不安説が出回った。1973年には愛知県内で女子高生の会話をきっかけに信用金庫から預金が流出。2003年には佐賀県で携帯メールのデマによる信用不安説が広がったため地方銀行の頭取が緊急記者会見を開いて否定し、信用棄損罪で容疑者不詳のまま告訴する事態に発展している(ちなみに真山仁氏の小説「オペレーションZ」に登場する保険版取り付け騒ぎは、この佐賀の騒動に着想を得たと思われる)。いずれも破綻には至らなかったが、SNS時代の今ならどうなったかと考えたのは私だけではないだろう。
日本におけるツイッターの1日当たり利用者は米国と同じだという。月間のアクティブユーザーは数千万単位とされる。SNSが金融不安を増幅するリスクへの備えは日本でも欠かせないのではないか。
SNSユーザーは、不確かな書き込みに惑わされずに行動することが求められる。金融機関や企業は、タイムリーな情報開示とともに、風評によって信頼が揺らぐ「レピュテーション・リスク」へのSNS上の対応がますます重要になるだろう。金融庁・日銀も米欧で発生した一連の事態を注視している。そしてSNSが報道を引用する形で拡散することが多いことを踏まえれば、マスメディアが金融機関の経営不安をどう報じるべきかを平時から考えておくべきであることは言うまでもない。海の向こうの金融不安は、対岸の火事ではないはずだ。
●新しい金融不安の形?世界同時並行下落を分析 4/2
3月10日にアメリカで起きた突然の銀行破綻をきっかけに世界に広がった金融不安。日本でも銀行株が軒並み下落し、一日で株価が10%以上急落した銀行もありました。金融システムが比較的健全だとされていた日本でなぜ銀行株がここまで売り込まれたのか。その背景を取材しました。
世界に広がった金融不安
3月10日、12日と相次いだアメリカの銀行破綻。これをきっかけに広がった金融不安は15日にはヨーロッパにも飛び火し、スイスの大手金融グループ、クレディ・スイスの経営問題が市場の不安を増幅させました。この間、世界の金融市場は大きく動揺し、東京株式市場では日経平均株価が3月13日に一時、500円以上下落。14日には700円以上、16日には500円以上、値下がりする場面もありました。
日米欧の銀行株の下落水準は
株価の下落を主導したのは銀行など金融関連の銘柄です。欧米では銀行株が急落し、日本でも規模の大小を問わず、銀行株が軒並み大きく値下がりしました。それでは銀行株の値下がりはどの程度だったのか。主な銀行銘柄で構成されるアメリカ(KBWナスダック銀行株指数)、ヨーロッパ(ストックス欧州600銀行株指数)、日本(トピックス銀行業指数)の株価指数を見てみます。アメリカの銀行破綻の前の3月9日の株価指数を100とすると、3月28日時点では、アメリカは15.9%、ヨーロッパは14.5%、そして日本は15.4%それぞれ下落したことになります。この間のグラフをみると、日本の銀行株の下落率は、震源地にある欧米の銀行の株価の下落率と同じような水準で推移していることがわかります。
日本の銀行株が大きく値を下げた理由は
欧米の金融不安が広がる中、政府・日銀の関係者は、日本の金融システムは安定しており、金融機関に及ぼす影響は限定的だという見方を示しています。それでは、金融不安の震源地である欧米から遠く離れ、影響も限定的だとされる日本でなぜ銀行株がここまで大きく売り込まれたのか。その理由について市場関係者が口をそろえたのが、金利が上昇から低下に転じたことです。去年12月、日銀は大規模な金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を0.5%程度に引き上げました。これを受けて長期金利が上昇。金利の上昇が銀行の収益を押し上げるという見方から銀行株は値上がりを続けます。海外の投資家や国内の機関投資家の中には、日銀がさらに金融緩和策を修正し、金利が上昇するとの思惑から、「日本国債売り、銀行株買い」のスタンスを強めていたところもありました。ところがアメリカの銀行が突然、経営破綻し、金融不安が広がったことで長期金利が急低下。投資家の姿勢は、「日本国債買い、銀行株売り」に転じることになりました。つまり株高が続いた反動の大きさが、急激な株価の低下につながったという見方です。もう1つは、世界の銀行株が同時並行的に下落するという今回の姿こそ、新しい金融不安の形ではないかという見方です。
丸紅経済研究所 今村卓 所長「今回の金融不安は、銀行の取り付け騒ぎがきっかけとなったが、これだけをみると過去の銀行破綻と比べて新しいことが起きたわけではない。ただ、SNSなどであっという間に情報が拡散し、スマホでの金融取引も当たり前になった今の時代、金融機関が経営破綻に陥るまでの速さ、金融不安が世界に広がるスピードはこれまでとは全く異なっている。金融不安の増幅の度合い、世界に波及する”波”の大きさもこれまで以上に大きくなる可能性もある。今回は日本への直接的な影響は限られたが、金融不安の波がさらに大きくなれば、日本に影響が及ぶおそれもあることも想定しておくべきではないか」
銀行株の急落から何を読み解く
クレディ・スイスは、スイスの金融当局の関与のもと、同じスイスの金融最大手、UBSによる買収という形で救済されることが決まりました。これと歩調を合わせて日米欧の6つの中央銀行が協調して、市場へのドル資金の供給を拡充すると発表。こうした異例の対応によって市場の動揺はひとまず収まった形となっています。“景気敏感株”とも呼ばれる銀行株。その突然の急落から何を読み解けばよいのか。世界経済や金融機関の動向をにらみながら、引き続き銀行株の動きに注目していきたいと思います。 

 

●迫るTLTRO返済期限、欧州中銀は政策運営で工夫必要に 4/3
ユーロ圏の銀行はこれまでのところ、米地銀2行の経営破綻やクレディ・スイスの経営危機に起因する市場の混乱を乗り切ってきた。そのおかげで欧州中央銀行(ECB)はインフレ抑制を目的とする利上げを続けられる。ただECBのラガルド総裁にとって、間もなく政策運営の難易度は高まることになる。
欧州の銀行業界では、6月28日は重要な節目だ。この日に各銀行は、新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われていた3年前にECBの貸し出し条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)を通じて借り入れた5490億ユーロを返済しなければならない。
表面的には、これはECBには朗報となるはずだ。ECBは既に、満期を迎えた保有債券の再投資を見送ることでバランスシートの縮小を進めている。そうした引き締め的な政策において、TLTROのマイナス1%前後という極めて銀行に有利な金利設定での貸し出しは、「時代錯誤」となっている。ECBがかつて見積もったところでは、TLTROの資金によって押し下げられた銀行の貸出金利幅は最大60ベーシスポイント(bp)と、大幅利下げに匹敵する。
だが単純にTLTROの返済を促すだけでは、銀行は別の手段での資金調達を強いられ、借り入れコストは上昇する。しかも各銀行は調達面で既に苦境にある。投資家が金利上昇や不動産関連損失の影響を巡る懸念を強めているからだ。ICEバンク・オブ・アメリカ指数によると、政府証券に対する銀行債の利回りスプレッドは3月上旬以降で約35bpも拡大している。
ラガルド総裁は、ユーロ圏の銀行の自己資本は充実し、流動性も潤沢にあると力説してきた。問題は3月でなお前年比上昇率が6.9%となった根強いインフレで、そのあおりでラガルド氏は中銀預金金利を現在の3%からもっと高くせざるを得なくなるだろう。そうなると銀行にとって債券発行に伴う調達コストは一層増大する。
ECBがこの銀行の痛みを和らげつつ、インフレとの戦いにも支障をきたさないようにする方法を見つけることは可能だ。例えば5490億ユーロのTLTRO返済の資金として、当初の3年より期間を短く、金利を高くしたつなぎ融資を提供できる。適用金利は、ECBの主要リファイナンス金利に上乗せした水準とするのが一案。足元の主要リファイナンス金利は3.5%で、中銀預金金利より50bp高い。
このように金利を設定すれば、本当に資金が必要な銀行だけが借り入れを申請してくるだろう。さらにこれならば、大量の流動性が供給されて物価を押し上げるリスクを限定できる。ECBのシュナーベル専務理事が最近発言したように、銀行融資縮小は利上げの効果を補強してくれるので、TLTROの返済に関して何も手を打たないというのはECBにとって魅力ある対応かもしれない。それでも今の環境で、銀行の流動性を不足させることは、あえて背負い込む価値があるリスクだとは思われない。
●OPECプラス、予想外の追加減産表明 米「得策でない」 4/3
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」は2日、日量約116万バレルの追加減産を行うと発表した。5月から開始し、今年末まで継続する。予想外の動きで、アナリストは原油価格が押し上げられるとみている。
ロイターの算出に基づくと、これによりOPECプラスの減産量は日量366万バレルとなり、世界需要の3.7%相当する。
OPECプラスは3日に開くオンライン閣僚会合で、2023年末まで日量200万バレルを減産するという現行の方針を据え置くと予想されていた。
原油価格は先月、世界的な銀行危機が需要に打撃を与えるとの懸念から、1バレル=70ドルに向かって下落し、15カ月ぶりの安値を付けたが、現在は80ドルに向けて持ち直している。
投資会社ピッカリング・エナジー・パートナーズの代表は2日、今回の減産により原油価格が1バレル当たり10ドル上昇する可能性があると予想した。
米国は、経済成長を支え、ロシアによるウクライナ戦争の資金源を抑制するため、原油価格の押し下げが必要だとしている。
米国家安全保障会議の報道官は「市場の不透明感を踏まえると、現時点で減産は望ましくないと考えており、われわれはそのことを明確にしている」と述べた。
サウジアラビアは日量50万バレル減産する。サウジのエネルギー省は、自主的な減産は市場の安定性を支えるための予防的措置だと説明した。
●米ドル安を想定する理由とドルインデックスの見通し 4/3
サマリー
・インフレ圧力の緩和が確認され米金利は再び低下基調へ
・FRBのバランスシート拡大がひとまず一服 米国株は上昇トレンドを維持か
・外為市場は米ドル安を再び意識する局面にある
・米ドル相場(ドルインデックス)の見通しと注目のチャートポイントについて
インフレ圧力の緩和と米金利の低下
2月のアメリカ個人消費支出(PCE)デフレーターは前年同月比で5.0%と、前月の5.3%から低下した。食品とエネルギーを除くコア指数も同比4.6%と、前月の4.7%から低下した。前月比でもコア指数が0.3%と、前月の0.5%から鈍化した。
連邦準備制度理事会(FRB)が注視している物価指標でインフレ圧力の緩和が確認されたことで、先月31日の米債市場では利回りに低下の圧力が高まった。
   アメリカPCEデフレーターの推移
FRBのバランスシート拡大がひとまず一服
3月は金融システム不安を受けて金融機関による資金供給制度の利用額が急増した。この結果、連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシートが急拡大した。しかし、先月23日以降は利用額が減少し、バランスシートの拡大が一服した。
金融システム不安が完全に後退したわけではない。しかし、18ポイント台まで低下しているVIX指数(VIX)やFear & Greed Indexが 「Fear」から「Neutral」へ転じている状況を考えるならば、この問題(金融システム不安)に対する投資家の心理は改善の傾向にある。上で述べたインフレの鈍化とそれにともなう米金利の低下基調も考えるならば、今週の米国株は上昇トレンドを維持する公算が大きい。
   FRBのバランスシート
再び米ドル安の進行を意識する状況に
2月PCEデフレーターでインフレの鈍化傾向が確認されたこと、そして金融機関による資金供給制度の利用額が減少へ転じている状況を考えるならば、今週の米国市場は金利の低下と株高が同時に発生することが予想される。この状況が発生する場合、外為市場では米ドル安の圧力が最も高まりやすい。ゆえに外為市場では、米ドル安の進行を再び意識する状況にある。
米ドル相場のトレンドを示すドルインデックス(DXY)は現在、102ポイント(フィボナッチ・リトレースメント76.4%の水準)を意識する状況にある。反発の局面では、50日MA(103.50レベル)のはるか下で推移している10日MA(102.66レベル)での攻防が続いていること、MACDで地合いの弱さを示唆するトレンドが続いていることも考えるならば、テクニカルも米ドル安を意識する必要があることを示唆している。
ドルインデックスが102ポイント台を完全に下方ブレイクする場合は、今年2月の安値100.82レベルを視野に下落幅の拡大を警戒しておきたい。
   ドルインデックスのチャート
米ドルの買い戻し要因
   強い米経済指標
一方、米ドルの買い戻し要因として今週注目しておきたいのが、強い経済指標と原油先物価格の動向である。
前者では、ISM製造業/非製造業景気指数や雇用関連の指標で強い内容が確認される場合、米金利の反発とそれにともなう米ドルの買い戻しが予想される。なお、3月の雇用統計は海外市場が休場する7日に発表される。ゆえに今回の雇用統計の内容は、来週以降の相場に影響を与えるだろう。
   原油先物価格の動向
サウジアラビアは2日、5月から23年末にかけて日量50万バレルの原油を減産する発表した。OPECプラスとの協調により、合計で110万バレル超の減産となる。サウジアラビアの減産発表を受け、週明けのNY原油先物価格(WTI)は一時81ドル台へ急騰する局面が見られた。
株高のムードが高まっているタイミングで原油先物価格の上昇幅が拡大する場合、米債市場では短期的かつ単発的な利回りの上昇が予想される。米金利の上昇は米ドル買いの要因となろう。このケースでのドルインデックスは、103ポイントおよび50日MAのトライを想定しておきたい(上の日足チャートを参)。
   NY原油先物価格のチャート
●大企業製造業の景況感は5期連続悪化、海外経済減速で−日銀短観 4/3
日本銀行が3日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)は、景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業・製造業でプラス1と前回の昨年12月調査のプラス7から悪化した。欧米の急速な利上げに伴う海外経済の減速や原材料高などの影響が背景にあり、悪化は5期連続となる。
業種別に見ると、部材供給不足の影響が緩和している自動車や、造船・重機が改善した一方で、電気機械やはん用機械、石油・石炭製品などが悪化した。
大企業・非製造業の業況判断DIはプラス20と前回のプラス19から上昇した。改善は4期連続。新型コロナウイルス感染症による影響が落ち着いた中で、インバウンド(訪日外国人)需要の回復もあり、小売りや対個人サービスなどの改善が続いた。
先行きについては、大企業・製造業がプラス3に改善を予想している。同・非製造業はプラス15へ悪化を見込んでいる。
9日に就任する植田和男新総裁は、27、28日に開かれる金融政策決定会合に初めて臨む。欧米発の金融不安も相まって足元で世界的な景気後退のリスクが高まる中、金融政策運営は現在の大規模な金融緩和策の効果と副作用を入念に点検しつつ、慎重な判断を迫られる可能性が大きい。
キーポイント
SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、製造業DIの予想を上回る悪化について「グローバルな製造循環の影響が大きい。製造業サイクルはアメリカも欧州もアジアも全部下に向かっているので、日本でも悪化した」と指摘。非製造業は「シンプルにウィズコロナが効いている」とした上で、インバウンドも増えており、消費関連が基本的には全部良くなってきていると総括している。
三菱総合研究所の堂本健太研究員は、自動車は先行き景況感の改善が見込まれているほか、企業が中長期的に設備投資を行うことも確認できたとし、「先行きについて期待できる部分も大きい」と指摘。日銀の金融政策運営に関しては「拙速に政策修正を行うというより、政策修正ができるような経済状況が整っているかを引き続きデータを見て確認していく」とみている。
企業が想定する消費者物価(CPI)は平均で1年後が前年比2.8%上昇となり、前回調査の2.7%上昇から上振れした。3年後の2.3%上昇、5年後の2.1%上昇とともに、調査を開始した14年以降で最高。 
●全国銀行協会会長「リーマンショックのような金融危機には陥らない・・・」 4/3
全国銀行協会の会長に就任したみずほ銀行の加藤勝彦頭取は世界的な金融不安が広がる中、「リーマンショックのような金融危機には陥らないとみている」との見解を示しました。
全国銀行協会の会長に就任したみずほ銀行頭取の加藤勝彦会長は会見で、「将来不安を払拭して、明るい未来に繋げたい。銀行界の先頭に立ち、この責務を全うしてまいる」と会長としての抱負を述べました。
アメリカの銀行の相次ぐ経営破たんをはじめとする世界的な金融不安については、「海外金融当局による一連の市場安定化策は、金融環境の一段の悪化に歯止めをかけて、一定の成果を上げている」との認識を示しました。
また、今回の一連の破たんや信用懸念は、個別銀行の資産と負債の総合管理の失敗や業績不振などの特有の要因だとして、「リーマンショックのような金融危機には陥らないとみている」と述べました。
●銀行危機はストラテジストのレーダー外−2023年のリスクに挙がらず 4/3
昨年12月に2023年1−6月(上期)の株式相場の苦戦を予想したウォール街のトップストラテジストの多くは、金利上昇による経済および企業利益に対するリスクの高まりについて警告したが、銀行セクターの波乱を予想した者はいなかった。
シリコンバレー銀行(SVB)など複数の米地銀の突然の破綻とクレディ・スイス・グループ株急落は、リセッション(景気後退)リスクと金利上昇、インフレによる企業利益へのダメージからの影響を焦点としていた相場の予言者らの不意を突いた。
その中で、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のチーフ投資ストラテジスト、マイケル・ハートネット氏は昨年12月、次に起こるのは米金融引き締めに起因する「クレジットイベント」だろうとしていたが、米地銀が震源になるとは予測していなかった。
年初には弱気派も含めて多くの投資家とストラテジストが、金利上昇による利益拡大を見込み銀行株について確信的に強気だった。HSBCホールディングスのマックス・ケトナー氏などは1月前半に市場全体についても楽観に転じていた。ウォール街全般の悲観が逆張りの相場上昇をもたらす可能性が高いと論じた。
同氏は最近のリポートで「ごまかしは効かない。当社の前向きな見方は大きな誤りであったことがこのところの展開で判明した」と認めた。
米S&P500種株価指数は3月も上昇したが、銀行セクターの混乱で欧州の力強い相場上昇は頓挫し、ディフェンシブ株と成長株へのローテーションが起こった。一方、テクノロジー株中心のナスダック100指数は強気相場入りし、1−3月(第1四半期)は同四半期として2012年以来の好パフォーマンスとなった。これも、ほとんどのストラテジストが予想しなかった展開だ。
大方のストラテジストは株式市場の上期の厳しさを正しく予想したが、最近の変動を受けてJPモルガン・チェースやモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス・グループなど弱気派は23年を通じた慎重な見方に自信を深めている。
著名ストラテジストの予想のスコアカードは以下の通り。
ゴールドマンは驚き
ゴールドマンは利上げ見通しの中で23年の株式市場は困難な回復に直面すると予想していたが、シャロン・ベル氏によれば、同社ストラテジストらは銀行セクターに関連する「具体的なイベント」として弱さが展開したことに驚かされた。「急激な金利上昇で米市場は脆弱(ぜいじゃく)だと考えていたが、脆弱だと指摘することと起こり得る問題を特定するのは別物だ」と同氏はインタビューで語った。
弱気なウィルソン氏
不動の株式弱気派、モルガン・スタンレーのマイケル・ウィルソン氏は23年上期のS&P500種の「不安定な軌道」を警告していた。企業の利益予想は引き下げられ始めており、ウィルソン氏は先週、一段の引き下げで株価が急激に下落する可能性があるとの見方を示した。S&P500種が最大22%下落するとの同氏の予測はまだ実現してはいない。同氏は一段の下げを見込んでいるが、株価が長く低水準にとどまるとは予想していない。同氏はブルームバーグに対しコメントを控えた。
ミンスキーモーメント
JPモルガン・チェースではドゥブラフコ・ラコスブハス氏、マルコ・コラノビッチ氏らが上期の相場下落を予想していた。ストラテジストらは現在、第1四半期が株式の「クライマックス」になると予想している。コラノビッチ氏は最近のリポートで、銀行破綻と市場混乱、景気不透明で、過度のリスクテークを後押しする長期的ブームの最終局面である「ミンスキーモーメント」が訪れるリスクが高まったとの見方を示した。
一段の下落
バンク・オブ・アメリカ(BofA)ではマイケル・ハートネット氏が昨年12月に、クレジットイベントが23年の株式相場の底をもたらすだろうと予測。ただ、それを引き起こすのは銀行以外の貸し手、いわゆるシャドーバンクだろうと予想していた。同氏は今年の一段の株価下落予想を維持している。
コラノビッチ氏とハートネット氏はブルームバーグに対しコメントを控えた。
少数の強気派
ドイツ銀行の米株担当チーフストラテジスト、ビンキー・チャダ氏はポジショニングを理由に1−3月の米株上昇を予想していた。現在も年末のS&P500種予想4500を据え置いている。これは現水準から10%程度の上昇になる。
HSBCのケトナー氏は昨年10−12月(第4四半期)を通じて「最大限のアンダーウエート」を維持した後、今年1月に強気に転じた。銀行セクター波乱で足をすくわれたが、強気は維持。センチメントとポジショニングがまだ非常に低調なため、逆張りによる見通し改善の可能性はあるとインタビューで語った。
●米銀のジャンク債売却、SVB破綻で難儀に  4/3
米金融機関にとって最近の銀行業界の混乱は、数百億ドル規模に及ぶ高リスク債権を売却するという、ただでさえ困難な仕事をさらに難しくしている。
レバレッジド・ファイナンス分析会社9フィンによると、バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)、バークレイズ、モルガン・スタンレーなどは現在、総額で250億〜300億ドル(約3兆3000億〜4兆円)の「ハングデット」をバランスシート上に抱えている。この売れ残り債権はレバレッジド・バイアウト(LBO、買収先企業の資産などを担保とした資金調達による買収)に関連したものだ。昨年に信用状況が悪化した結果、銀行が合意していたLBO向け融資(債権)に対する投資家の需要が鈍った。
銀行関係者によると、銀行は最近、こうした債権を徐々に減らし始めていたが、シリコンバレー銀行(SVB)やレバレッジド・ファイナンス大手のクレディ・スイス・グループを巻き込んだ今回の危機によって、このプロセスは行き詰まった。さらに悪いことに、ハングデットの中で個別では最大のもの(米実業家イーロン・マスク氏によるツイッター買収を支える130億ドル超の融資債権)の魅力が一段と低下している。ツイッターの売上高と利益が急落したことを受けて、マスク氏が同社の評価額を買収価格の半分未満に設定したためだ。
投資家の熱意が薄れていることを示すように、銀行部門の安定性に対する懸念が浮上すると高リスクの債券・ローン市場は値下がりした。債券データ提供を手掛けるSOLVEが作成した北米ハイイールド債インデックスの平均利回りは3月に約9%となり、2月の約7.5%から急上昇(価格は急落)した。
昨年に金利が上昇し始めた時のように信用状況が急速に悪化すれば、銀行は、引き受けに合意した債権を売却(多くの場合、損失が出る)するか、市況の改善に期待して保有し続けるという難しい選択を迫られる。ツイッターのケースでは、銀行が同社の債権を売却した場合、5億ドル以上の損失が出る可能性があると、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は昨年10月に報じている。
シリコンバレー銀が損失覚悟での債券売却を余儀なくされ、結果的に経営破綻したことで、そうした損失に対する大手銀行の許容度は一段と低下した、と銀行関係者らは述べた(ただし、大手行がそのような売却を迫られればシリコンバレー銀と同じ運命をたどる恐れがある、と示唆している人はいない)。
銀行がLBO向けローン債権を売却すると多額の損失が出てしまうため、銀行の間で新たなLBO向けローンを組成する意欲が後退し、ウォール街の利益源に大きな打撃を与えている。
ディールロジックによれば、プライベートエクイティ(PE)投資会社が発表した米国でのLBO案件額は3月31日時点で約500億ドルと、前年同期の約860億ドルから大幅に減少した。
ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのグレッグ・ハートリッチ氏は「在庫が一巡するまで引受会社の多くは新規組成を減速させる、と考えるのが妥当だ」と述べた。「だが、これら金融機関の大半は資本と流動性に余裕があるため、銀行が投げ売りをする可能性は低そうだ」
今回の混乱の前に、銀行はハングデットを売却する運にいくらか恵まれ、ソフトウエア開発会社ローパー・テクノロジーズや調査会社ニールセン・ホールディングス向けなどの債権を売却できた。金融機関は、ソフトウエア開発会社クアルトリクス・インターナショナルの125億ドルの買収(もっとも、借り入れの割合は比較的小さかった)など、多くの新規大型案件を支えることを約束した。
JPモルガン・チェースを中心に9社で構成された金融機関グループは、PE投資会社アポロ・グローバル・マネジメントによる化学品販売会社ユニバー・ソリューションズの買収に40億ドル超の融資を提供した。銀行によるこの種のコミットメントとしては過去数カ月で最大となった。
だが、その勢いは止まった。資金調達が必要な借り手は、専用の資金プールを確保して支援するノンバンクに頼るようになっている。
法律事務所デビボイス&プリンプトンのファイナンスグループを率いるジェフリー・ロス氏は「銀行の状況は、当社が扱う案件の多くが頓挫(とんざ)したことを意味する」と述べた。
銀行は、さらなる混乱がなければ、こうした状況はすぐに変わると楽観視している。昨年のIT(情報技術)サービス大手シトリックス・システムズ買収案件の資金調達を支え、約6カ月にわたりハングデットとなっていた約40億ドルの債権は、間もなく売却される見通しで、大きな損失が出る可能性が高いと、この問題に詳しい関係者らは述べた。
●米国株、第1四半期は力強く上昇 景気後退リスクに警戒も  4/3
銀行危機の中、米国株式市場は第1・四半期に力強い上昇を見せた。ただ一部の投資家は、広く予想されている通りにリセッション(景気後退)が到来すれば米国株は圧力にさらされると警戒感を示している。
2022年には20%近く下落したS&P総合500種指数は、第1・四半期は7%上昇した。ナスダックは第1・四半期に16.8%上昇、四半期としては20年以来の大幅高となった。
投資家は、こうした底堅さを理由に株式のリセッションへの脆弱性が高まったと指摘する。バリュエーションが歴史的な水準に高止まりしているほか、リセッションとなれば企業収益も打撃を受けるからだ。
フィデューシャリー・トラストのハンス・オルセン最高投資責任者(CIO)は「市場はリセッションを全く織り込んでいない」とし、株式について「向こう数四半期に極めて不快なサプライズに見舞われるかもしれない」と話す。同社は通常よりキャッシュの持ち高を増やし、将来の市場動揺に備えているという。
株価がどの程度リセッションの可能性を織り込んでいるのか、リセッションが起こるのかどうかは市場で議論の的になっている。指標は今年に入って好調で、米連邦準備理事会(FRB)による一連の利上げにもかかわらず、米経済はごく穏やかなリセッションに陥るだけで済む、もしくはリセッションを回避できると期待感も広がった。
先の銀行セクターの混乱で懸念は再び高まった。一部のアナリストは、FRBの引き締めの影響が出始めているときに銀行へのストレスが強まったことで、経済に圧力がかかりかねないとしている。
その結果、投資家は企業収益などの主要指標に改めて注目するようになっている。向こう数四半期の利益見通しは既に低調だが、リセッションになれば一段と悪化する可能性があるとの指摘も一部で聞かれる。
モルガン・スタンレーのストラテジストはリポートで、最近の銀行危機の前ですら企業利益の予想値は15─20%過大だったと指摘。その上で「過去数週間のイベントを踏まえると、株式が今後はるかに低い利益予想を織り込むリスクが高まっている」との見方を示した。
リフィニティブのデータによると、S&P500採用企業の利益は第1・四半期、前年同期比5%減少したと予想されており、第2・四半期は同3.9%の減益が見込まれている。ネッド・デービス・リサーチによると、企業利益はリセッション時に平均で年24%減少している。
米企業の第1・四半期決算は、向こう数週間で発表が本格化する。

 

●アメリカの金融危機が日本の地銀に波及する恐れも… 4/4
3月15日に、米国に亡命していた中国の大富豪、郭文貴氏が逮捕されました。ニューヨーク州連邦検察によれば、詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いがあるとのこと。郭氏は、実業家ですが、中国共産党の指導部を厳しく批判していたことで知られます。
逮捕される数日前、郭氏はユーチューブで経営破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)について、「北京にとって特別な存在だった」と指摘しています。
海外の有力メディアが報じる情報をサイトで紹介しているクーリエ・ジャポンも、「『シリコンバレー銀行には中国共産党の金がある』中国人富豪の郭文貴が逮捕前に残したメッセージ」のタイトルで記事を掲載しました。そこには、<ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)の分野で業界をけん引していたSVBの経営陣は、中国で特別な「おもてなし」を受けていたという>との一文があります。
SVBは、米スタートアップ企業に対する資金提供の中心的な役割を担っていたといいます。中国系のスタートアップも数多かったはずです。米政府はSVBが中国やロシア、アラブなどの富裕層のマネロンに使われていた疑いを持っているともいわれます。
真偽は不明ながら、さまざまな臆測も金融市場で流れます。SVB経営陣は、中国共産党の幹部が表沙汰にできない海外資金を秘密裏に預かっていた、不動産開発大手の創業者など成功者の利用が多く、SVBの資産に占める中国関連は全体の15〜20%に達していた――といった具合です。郭氏の逮捕劇にしても、実は郭氏の安全確保のためなのではないかという見方も出てくるほどです。
金融危機の背後に米中対立?
SVBの破綻は“米中経済戦争”と深く関わっているかもしれません。
米銀に続き、スイス大手のクレディ・スイスが連鎖的に経営危機に陥り、同じスイスのUBSによる買収で合意しています。レコードチャイナは3月22日、中国メディアの報道として、華人資本が米国やスイスから大量に引き揚げられていると伝えました。その額は米国から760億ドル(約10兆円)、スイスから1600億ドル(約21兆円)です。資金の移転先は主に香港、シンガポール、カナダなど。
世界の株式市場を見渡すと、米銀破綻やクレディ・スイスの経営危機による金融危機は沈静化してきたとの見方が有力です。しかし、今回の金融危機の背後に米中対立が大きく横たわっているとしたら、そう簡単に決着するとは思えません。
金融危機の余波が日本に押し寄せないとも限らず、そうなればただでさえ経営難の地銀はピンチに陥りかねません。もうしばらく、SVB発の金融危機から目を離さないほうがよさそうです。
●米銀行危機がビットコインの一人勝ちに拍車:コインベース 4/4
暗号資産(仮想通貨)市場は、アメリカの銀行システムが混乱に直面した中でも回復力を示し、特にビットコイン(BTC)は他の仮想通貨をアウトパフォームしているとコインベースは3月31日の調査報告書で述べている。
ビットコインの上昇は2月中旬以降、他の仮想通貨を上回っており、暗号資産時価総額に占めるビットコインの割合は、3月中の43.9%から47.7%に達したとコインベースは指摘している。このアウトパフォームは月初めに加速し、アメリカの銀行システムの混乱の始まりと重なっていたと報告書は述べている。
「その理由の一つは、銀行システムのストレスがビットコインの価値の保存特性を強化したことだ」と報告書は述べ、BTCは主に従来の金融システムの外に存在するので、「現在の状況に対するヘッジを提供した」としている。
また、他の仮想通貨の規制に対する投資家の懸念からも恩恵を受けているとアナリストのデビッド・ドゥオン氏とブライアン・キュベリス氏は記している。
ビットコインのS&P500株価指数に対する相関は、昨年5月のピーク時の70%から、3月末には25%に低下したという。
ビットコインの相対的なアウトパフォームは、他の暗号資産の規制に対する投資家の懸念や、一部のBTC対ステーブルコインの取引ペアに特有の流動性の低下も反映していると、同レポートは付け加えている。
●アメリカの「金融不安」と「株式市場」の展望 4/4
過度な不安後退で3月7日以降、ダウ平均、S&P500、ナスダックは上昇も、銀行株指数は低迷
米シルバーゲート銀行が自主清算を発表した3月8日から、まもなく4週間が経過します。この間、米国ではシリコンバレーバンク(SVB)やシグネチャー・バンクが破綻し、スイスではクレディ・スイス・グループを巡る混乱が表面化するなど、金融不安が一気に高まりました。ただ、その後は連鎖的に銀行の問題が広がることはなく、過度な不安は幾分、後退したように見受けられます。
そこで、改めて米国株の動きを確認すると、米シルバーゲート銀行の自主清算発表前日の3月7日から31日までの期間、ダウ工業株30種平均は1.3%、S&P500種株価指数は3.1%、ナスダック総合株価指数は6.0%、それぞれ上昇しています。しかしながら、米国の大手行や主な地銀で構成されるKBWナスダック銀行株指数は、同期間21.7%下落しており、銀行セクターは依然、低迷が続いています。
情報技術、通信サービス、公益事業などは好調、市場はある程度信用条件の引き締まりを想定
次に、もう少し詳しく業種別の動きを検証します。同じく3月7日から31日までの騰落率をみると、「情報技術」や「通信サービス」、「公益事業」や「生活必需品」が好調で、ハイテク銘柄や景気変動の影響を受けにくいディフェンシブ銘柄が選好されている様子がうかがえます(図表1)。これに対し、やはり「金融」は最も低調で、景気敏感な「資本財」や「素材」なども下落しています。
   [図表1]S&P500種株価指数と業種別指数の動き
一般に、金融不安などで銀行の貸出姿勢が厳格化すると、信用条件が引き締まり、景気の下押し圧力となります。そのため、図表1の動きから、市場はこの先、ある程度の信用条件の引き締まりを前提とし、「利上げ終了」、「景気減速」、「長期金利低下」を見込んでいると推測されます。このシナリオの下では、銀行借入に頼らずとも潤沢な現金を保有し、長期金利の低下が追い風となるハイテク銘柄が、最も物色されやすいと考えられます。
業種別の動きは信用条件の引き締まり次第、今後も銀行に関する新たな悪材料の有無に注意
図表1のような傾向が続くか否かは、信用条件の引き締まりの度合いによるところが大きいと思われます。すなわち、米国で今後、信用条件が強く引き締まれば、情報技術、通信サービス、公益事業、生活必需品などのパフォーマンスが、金融、資本財、素材などのパフォーマンスを相対的に上回る可能性が高いと考えます。一方、金融不安が収束に向かい、信用条件の引き締まりが軽度となれば、これとは逆の動きも予想されます。
なお、米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融機関向けに積極的に流動性を供給しており(図表2)、中小銀行の預金残高は3月22日時点で前週比59億ドル増と、3月15日時点の同1,964億ドル減から預金流出が一服しています。金融不安はまだ完全に払しょくされた訳ではありませんが、銀行に関する新たな悪材料が浮上しない限り、信用条件の引き締まりが更に加速する恐れは小さいと思われます。
   [図表2]FRBの資産の部におけるローン残高の推移 

 

●次は商業用不動産がヤバい…米国“中小銀行の危機” 4/5
3月26日、米シリコンバレーバンク(SVB)の事業引受先が決まり、市場では金融システム不安が若干後退したが、中小規模の銀行の財務への警戒は続いたままだ。
発端となったSVBの2022年末時点の総資産は約28兆円、リーマンショック時に破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ、米銀では過去2番目の規模だった。
「SVBが保有している米国債等が目減りした」との情報がネット上で拡散し、預金が一気に流出したことが破綻の原因だったことを踏まえ、連邦準備理事会(FRB)を始め米金融当局は、規制強化に向けた取り組みを開始している。だが、事態は規制当局の動きを上回るスピードで深刻化している。
市場の懸念が預金などの問題から運用先にまで広がりつつある。
中でも注目を集めているのは米国の商業用不動産向けのローンだ。
SVBに次いで3月12日に破綻したシグネチャー・バンクの総資産(約1104億ドル)の3分の1に相当する360億ドルが米国の商業用不動産ローンの融資だったことが関係している。同行は新興テクノロジー企業などが集うオフィスタワーや集合住宅に積極的に融資していたことで知られていた。
賃貸マンションやオフィスビルなどの商業用不動産の米国の市場規模は5兆6000億ドルに達すると言われている(3月23日付フィナンシャル・タイムズ)が、戸建て住宅など住宅用不動産よりも貸付比率が高いため、金利引き上げの悪影響を受けやすい。
FRBが昨年3月からわずか1年で政策金利を4.75ポイント引き上げたことは、米国の商業用不動産市場にとって逆風以外のなにものでもなかった。
新型コロナのパンデミックで普及した在宅勤務も災いした。常勤勤務者が減少したため、企業はオフィスの規模を縮小し、賃貸料が高い都心から離れる動きを本格化させている。
商業用不動産ローンの借り換えがピークに
米格付け会社ムーディーズによれば、米国内主要25都市のオフィスの空室率は一気に上昇した。サンフランシスコの場合、オフィスの空室率は2019年第4四半期の約5%から昨年第4四半期には19%にまで跳ね上がっている。
商業用不動産ローンの分野の異変は今年2月から生じている。
コロンビア・プロパティ-・トラストは、ニューヨークやサンフランシスコなどの都市部のビルに関連する17億ドル相当の変動金利ローンで債務不履行(デフォルト)を生じさせてしまった。その後、ブルックフィールド・アセット・マネジメントもロサンゼルスのオフィスタワー関連債務(7.5億ドル相当)をデフォルトさせている。
モルガン・スタンレーは「市場はオフィス対象の上場不動産投資信託(REIT)の組み入れ資産が3〜4割下がることを織り込んでいる」と試算している。
米抵当銀行協会が3月15日に公表した報告書によれば、米国の銀行が保有する商業不動産ローンの融資残高(4兆4000億ドル)の8割近くを中小規模の銀行が占めている(3月29日付日本経済新聞)。そのうち16.5%に相当する7280億ドルが今年償還期限を迎え、来年も15%相当の6590億ドルが続く。今年から来年にかけて、商業用不動産ローンの借り換えがピークを迎えるのだ。
中小規模の銀行の商業用不動産ローンへの傾倒ぶりも気になるところだ。
今年2月時点の米国の上位25行の総資産に占める商業用不動産ローンの融資残高の割合が29%であるのに対し、米国の中小規模の銀行は67.3%と突出している(3月29日付現代ビジネスオンライン)。
「商業用不動産ローンの融資残高の5割が市場悪化が懸念される米国向けだった」ことが材料視されてドイツ銀行の株価も急落した。
今回の騒動で米国の中小規模の銀行の貸し出し姿勢は格段に厳しくなることは間違いなく、商業用不動産ローンの借り換えの失敗が頻発するような事態になれば、次の金融危機の震源地になってしまうことだろう。
「リーマンショック級」を断言するつもりはないが…
住宅用不動産市場にも暗い影が漂い始めている。
住宅用不動産ローンの分野でも中小規模の銀行が主役を演じているからだ。
融資残高のうち、中小規模の銀行は6割のシェアを誇り、米国全体の住宅ローンの7割を担う住宅ローン企業にも積極的に資金を提供している(3月28日付日本経済新聞)。
住宅用不動産の分野でも中小規模の銀行の貸し渋りが始まるのは時間の問題だと思う。
企業債務も心配だ。ジャンク債やレバレッジドローンなどの高リスクの借り入れは金利上昇に脆弱であるため、イングランド銀行は3月29日「次の金融危機は企業債務が引き金となる恐れがある」と警告を発している。
グローバル化した世界経済では一国の危機がたちまち他国に波及してしまうのが常だ。
「リーマンショックのような金融危機が起きる」と断言するつもりはないが、米国の中小規模の銀行の危機が発端となって、欧米各国で深刻な資産デフレが生じ、バブル崩壊後の日本のように長期不況に陥る可能性は排除できないのではないだろうか。
世界銀行も3月27日「2030年までの世界経済の成長率は約30年ぶりの低水準になる」との予測を発表している。
「欧米諸国で『アラブの春』のような政変が起きる」との憶測が既に流れている(3月22日付ZeroHedge)が、その上、スタグフレーションという悪夢が再来すれば、そのリスクは飛躍的に高まることだろう。残念ながら、日本も例外ではない。
経済危機が政情不安を招いた1930年代の悲劇が繰り返されないことを祈るばかりだ。
●米国株式市場=下落、景気後退懸念強まる 低調な指標受け 4/5
米国株式市場は下落して取引を終えた。低調な米経済指標を受け、米連邦準備理事会(FRB)が実施してきた積極的な利上げが深刻な景気後退を招く恐れがあるという懸念が強まった。
米労働省が4日発表した2月の雇用動態調査(JOLTS)は、求人件数が約2年ぶりの低水準となり、労働市場が冷え込みつつある可能性が示された。また、商務省が発表した2月の製造業新規受注は前月比0.7%減少し、2カ月連続のマイナスとなった。
インデックスIQのサル・ブルーノ最高投資責任者(CIO)は「求人数が減少し、採用活動がかなり減速しているとの懸念につながった。経済にマイナス材料だ」と語った。
JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)が株主に宛てた書簡で、米国の銀行危機はまだ終了しておらず、影響は何年にもわたり継続するとの見方を示したことを受け、銀行株が売られた。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)、ウェルズ・ファーゴは2%超下落。S&P銀行株指数は1.9%下落した。
S&P主要11セクターでは、7セクターが下落。工業が2.25%安、エネルギーが1.72%安と下げを主導した。一方、景気動向に左右されにくいヘルスケアや公益事業などは上昇した。
S&P総合500種は1週間ぶりの下落となった。半導体大手エヌビディアが1.8%下落し、指数を押し下げた。
重機械メーカーのキャタピラーは5.4%安。
金利先物市場は、FRBが5月に利上げを停止するとの見方に傾いている。CMEグループのFedウオッチによると、5月の25ベーシスポイント(bp)利上げ確率は42%で、データ発表前の60%近くから低下した。
英実業家リチャード・ブランソン氏の宇宙開発企業ヴァージン・オービットは23.2%の大幅安。長期資金が確保できず、米連邦破産法第11条の適用を申請した。
映画館チェーン大手AMCエンターテインメント・ホールディングスも23.5%下落。同社は訴訟で和解し、優先株の普通株への転換を進めると発表した。
トランプ前大統領に関連する特別買収目的会社(SPAC)のデジタル・ワールド・アクイジション・コープは8%安。年次財務報告書の提出を延期した。
米取引所の合算出来高は103億株。直近20営業日の平均は128億株。
米株市場全体では、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を2.2対1の比率で上回った。
●株下落、求人件数の減少で国債上昇−円は買われ131円台 4/5
4日の米株式相場は下落。銀行株などが売られ、S&P500種株価指数は5営業日ぶりに反落した。
ウェルズ・ファーゴやシティグループといった金融機関で構成するKBW銀行株指数は2%安。ザイオンズ・バンコーポーレーションやファースト・リパブリック・バンクを中心に地銀も下げた。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は株主宛て年次書簡で、先月市場を揺るがせた米銀行危機の影響は今後何年も残るだろうと警告した。
TDセキュリティーズのストラテジスト、ジェナディ・ゴールドバーグ氏は「投資家は銀行ストレスの兆候に対する警戒を緩めてはならない」と指摘。「市場参加者は悲観的な経済ニュースに過度に反応すると見込まれる」とも述べた。
米国債
米国債は上昇。米求人件数の統計を受けて、米金融引き締めサイクルの終了が近いとの見方が強まった。2年債利回りは一時14ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下。金利スワップ市場が織り込む5月の0.25ポイント利上げ確率は50%を割り込んだ。
2月の米求人件数は2021年5月以来の低水準に減少し、エコノミスト全員の予想を下回った。
ブック・リポートを執筆するピーター・ブックバー氏は「結論を言えば、このデータでは労働需要減少の兆候が見られるかどうかではなく、いつ見られるかが問題だった」と指摘。「企業が利益率の確保や景気減速への対応に努めるのに伴い、いずれ人員解雇のペースは加速する。この米引き締めサイクルにおいて5月、あるいはそれ以降に利上げがあるとは思えない」と話した。
7日に発表される3月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が24万人増、失業率は歴史的低水準の3.6%で変わらずのそれぞれ予想。
外為
外国為替市場ではポンドが10カ月ぶりの水準に上昇したほか、スイス・フランは2021年8月以来の高値となった。米求人件数が予想を下回ったことを受けて、ドルが下落した。
円も対ドルで上昇。朝方は円が下げて推移し、一時は133円17銭を付ける場面もあった。
BBVAの為替ストラテジスト、ロベルト・コボ・ガルシア氏は「トレーダーらは今週の米マクロ指標が悲観的な内容になるとの見方に基づいてポジションを建てているようだ」と指摘。「ISM非製造業指数や非農業部門雇用者数が短期的なドルの見通しを決定づけるだろうが、これらのデータ公表前に一段と下げても意外ではないだろう」と述べた。
ウェルズ・ファーゴの為替ストラテジスト、エリック・ネルソン氏は「大方が世界的な引き締めサイクルの終了に焦点を絞っている」と指摘。「それが現実になると仮定すると、当然ながらドルにマイナス、円にプラスとなる」と続けた。
原油
ニューヨーク原油先物相場は小幅な上昇にとどまった。米国の2月の求人件数が2021年5月以来の低水準に減少し、世界経済の減速を巡る懸念が再燃した。
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」によるサプライズ減産決定を受けて急伸した3日の流れを引き継ぎ、取引開始後には一時2%近く上昇した。ただ、低調な雇用関連データを受けて上昇幅を縮小した。
マレックス・ノースアメリカで原油オプション取引の世界責任者を務めるジョナサン・ワグナー氏は、在庫がさらに減少し、需要の高まりを確認するまで短期の上昇余地は限られていると指摘。「このマクロ環境では、7日の雇用統計の発表を前にして雇用主が労働者を求めていないというシグナルは助けにならない」と語った。
ニューヨーク商品取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)5月限は、前日比29セント(0.4%)高の1バレル=80.71ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント6月限は1セント上昇し84.94ドル。
●第二のリーマン ・ショック"危機は本当に去ったのか? 4/5
シグネチャーバンクなどの破綻を受けて、異例の「預金保護」に動いたアメリカ政府。イエレン財務長官は今後も同様の措置を講じるとしたが、その後、撤回するなど二転三転した。
アメリカの2銀行の経営破綻を皮切りに、ヨーロッパにも飛び火した金融不安。その後、各国の金融当局の素早い対応で、事態は収束したかに見えるが、アメリカの大幅利上げの「副作用」といえる金融不安の波はこれで収束に向かうのか?
かつて、2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する「リーマン・ショック」を予見した経済アナリストの中原圭介氏に聞いた。
「Twitter型銀行破綻」
米銀行のシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクの経営破綻に端を発した一連の金融不安。その余波は瞬く間に欧州にも飛び火し、世界有数の投資銀行であるスイスのクレディ・スイスが経営危機に追い込まれるなど、「リーマン・ショックの再来か」と世界経済に動揺が走った。
この動きに金融当局の対応は素早かった。米財務省は破綻したふたつの銀行の「預金保護」を打ち出し、クレディ・スイスは同じスイスの大手投資銀行UBSが買収することが決まり、いったんは危機不安が収束したように見えた。
だがその後も、イエレン米財務長官の預金保護に関しての一部撤回とも受け取れる発言が報じられると株価が大幅に下落するなど、金融システムへの不信感はくすぶり続けており、今後の見通しは依然として不透明だ。
今回の金融不安はなぜ起きたのか? そして"第二のリーマン・ショック"の危機は本当に去ったのか?
「金融不安の背景にあるのは、昨年以来、アメリカやヨーロッパで行なわれてきた『利上げ』による影響と、SNSの広がりが加速させた『不安の拡散』だと思います」
と語るのは、経済アナリストの中原圭介氏だ。
「長く続いた金融緩和の時代が終わり、アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、2021年の秋頃から金融引き締めに転じる姿勢を見せていました。そして昨年から、FRBは0.75%の利上げを4回連続で行なうなど、異例ともいえるスピードで利上げを進めていき、これに追随する形で欧州中央銀行も、利上げの方向へとかじを切りました。その影響をダイレクトに受けて、財務状況が急激に悪化したのが破綻したシリコンバレーバンクです。一般的に金利が上がると債券の価格が下がる傾向にあるため、すでにおととしに利上げの兆候があった時点で、そうなることは予想できたはずでした。ところが、シリコンバレーバンクは米国債の長期債などを中心に、極端に債券に偏った形の運用を続けていたことから、利上げによる債券価格の下落で巨額の含み損を抱えたのです」
また、預金者の大部分が、通常は預金保護の対象とならない企業や法人だったというシリコンバレーバンク特有の事情も、破綻の大きな要因になったという。
悪化していた財務状況がSNSで瞬く間に広がり、シリコンバレーバンクの預金引き出しに人々が殺到。経営破綻に至った。
「同銀行の顧客の中には、『コロナバブル』の恩恵を受けてきたIT情報系企業が多かったのですが、コロナが落ち着いて各企業の業績が悪化、その後リストラを強いられ預金の引き出しが増えたことで、銀行が抱える債券の含み損が表面化しました。その財務状況に関する不安がTwitterなどのSNSによって瞬時に拡散し、預金引き出しが殺到して経営破綻に追い込まれた。つまり、人々の疑心暗鬼が急激に広がったことで起きた『Twitter型銀行破綻』なのです。10年前であれば、こうした破綻は起こりませんでした。初めてのケースだと思います」(中原氏)
日本でも同様の破綻が起こる?
このように、いくつかの事情が重なって起きたシリコンバレーバンクの破綻だが、いったん金融システムへの不安が膨らむと、一種のパニックになって雪崩のような連鎖反応を引き起こすのが金融危機の恐ろしさだ。
その心理的な不安のターゲットになっているのが、経営内容や財務状態に何かしらのキズを抱えた金融機関だと中原氏は指摘する。
「不安材料は金融機関によってさまざまです。例えばシリコンバレーバンクに続いて経営破綻したシグネチャーバンクは、昨年11月に破綻した暗号資産交換業者大手のFTXなど、仮想通貨関連企業との取引が多いことが不安視されて、預金の引き出しが殺到したといわれています。またクレディ・スイスも、昨年破綻した米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントへの高リスクの投資に入れ込んで巨額の損失を計上したほか、マネーロンダリング(資金洗浄)などの不祥事や経営ガバナンス上の問題が次々と発覚。大きく信用を失っていたところに今回の金融不安が起きて、とどめを刺されてしまった形です」
さらにここ数年、ロシアを巡る資金洗浄対策の問題が指摘され、経営再建を進めていたドイツ最大手のドイツ銀行が大幅な株価下落に見舞われ、ドイツのショルツ首相が「ドイツ銀行の経営状況は健全で、第二のクレディ・スイスにはならない」と強調するなど火消しに追われている。中原氏が続ける。
「ただし、アメリカの大手銀行の財務状況は健全で、現時点でリーマン・ショックのような世界的な金融危機が起きるとは考えにくい。
破綻を回避したクレディ・スイス。同じスイスの大手投資銀行UBSが買収することが決まった。
先日、イエレン財務長官の発言で金融不安が再燃する動きも見られましたが、当初アメリカ政府は素早く預金保護を明言し、スイス当局もクレディ・スイスの買収交渉を短期間でまとめるなど、各国が『危機は小さいうちに鎮める』という姿勢を示した点はリーマン・ショックの教訓が生かされているのだと思います。
一方で、経営や財務状況に問題がある中小の銀行や、金融当局の規制が及ばないヘッジファンドなどで、低金利の時代に利益を出そうとリスクを度外視した運用をしていたところには、まだまだ火種が残っている可能性はある。
今回の金融不安は、ゼロ金利時代に蓄積された金融業界のゆがみが、利上げの時代に転じたことで一気に表面化したといえるかもしれません」
ちなみに、日本でも債券の運用に大きく依存している金融機関は少なくなく、その中には米国債の下落で多額の含み損を抱えている地方銀行もあるという。
アメリカやヨーロッパと異なり、日銀総裁の交代後も金融緩和を当面続けるという日本だが、景気が上向く兆しも見えない中、国際的な金融不安の火の粉が日本に飛び火する前に、何かしらの手を打っておく必要がありそうだ。
●米銀危機なお進行中、影響長期化=ダイモンJPモルガンCEO 4/5
米金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は4日、米国の銀行危機はまだ終了しておらず、影響は何年にもわたり継続するとの見方を示した。
ダイモンCEOは株主に宛てた年次メッセージで「危機はまだ終わっていない。危機が終わった後も影響は何年も続く」と指摘。「市場が見込む景気後退の確率は高まっている。2008年の(金融危機の)ようなものではないが、現在の危機がいつ終わるかは分からない。この危機で市場に多くの動揺が引き起こされ、銀行やその他の貸し手が一段と保守的になるにつれて、金融条件が引き締まるのは明らかだ」と述べた。
ただ、今回の混乱で米経済を牽引する個人消費が減速するかは不明としたほか、08年の世界的な金融危機との類似性も否定。08年の危機では銀行大手、住宅ローン業者、保険会社などが直撃を受けたが「今回の銀行危機では関連する金融機関の数も、解決しなければならない問題の数もはるかに少ない」とした。
今回の混乱に対応するために導入される可能性のある新たな規制については、破綻行の対応を巡る一段と明確なルールを含む「思慮深い」ものでなければならないと指摘。「ストレステストに基づく資本要件や将来の規制に関する絶え間ない不確実性で、銀行システムはより安全なものにはならず、むしろ損害を被る」とした。 
●アメリカの銀行破綻「実は日本の方が深刻だ」 4/5
アメリカでシリコンバレー銀行など中堅銀行が破綻し、クレディ・スイス、ドイツ銀行まで信用不安が急速に連鎖した。背景にはSNSで「次に危ない金融機関」の情報が広まったことがある。信ぴょう性とは別に、不安がネットで拡散され、取り付け騒ぎが起きる時代だ。
こうした欧米の金融不安は、わが国にとって対岸の火事なのか。そうは思わない。ニッポン放送の番組で経済評論家の森永卓郎さんと意見交換した。シリコンバレー銀行は大量の米国債を保有しており、FRBの利上げで、保有していた米国債の価値が下がり、含み損を抱えたことが最大の要因だと指摘。森永さんは、利上げを続ければ、アメリカ経済は失速し、ニューヨークダウは一年後ぐらいには大暴落すると予想していた。
しかし私は、日本の方が深刻だと感じる。先ごろ成立した今年度予算は、約114兆円の歳出に、8兆円以上の「利払費」が含まれている。現状が低金利だから8兆円程度にとどまっているが、利上げをすればこの「利払費」が一気に跳ね上がる。だから金利は実質上げられない。FRBと違い、日銀は金利の上げ下げで物価を調整する機能を失っている。さらに、日本の金融機関も国債を大量に保有しており、金利が上がれば、保有国債の価値が下落し、シリコンバレー銀行のように、含み損を抱え、経営が行き詰まることになる。
そうした危機直前なのに、今回の予算からは「何の工夫もない」という印象を受けた。歳出では防衛費を大きく増やし、社会保障関係費も年々増加。一方の歳入では赤字国債などの公債金が3割以上にのぼる。借金体質は顕著で「ダメな経営者が立てた予算」にしか見えない。
極めつけは予備費だ。バラマキ政策で予備費を使い切るのは、選挙前の人気取りにしか感じない。日本経済を支える99%は中小企業で、その約7割は赤字だ。赤字の会社が賃上げをできるわけがない。岸田文雄総理の「賃上げによる経済の好循環」はそう簡単ではない。
そうした中、ワタミの宅食では、全国約7000人のお弁当配達スタッフの配達手数料を約8%あげるベースアップを行った。燃料費などのコストが上がっているので当然のことだ。一方、お弁当の価格も少し値上げさせていただき、お客さまにもご理解を求めている。持続可能な経営モデルを確立し、現在の1日25万食を100万食に伸ばす「夢」は変わらない。物価高の中、民間はギリギリの経営努力を重ねている。
一方の政治は、財政赤字にも関わらず、統一地方選で、当選するためだけのバラマキ政策を掲げている。すべての政治家は、歳出を減らし、歳入を増やすギリギリの努力をし、耳の痛いことも国民にお願いすべきだ。少なくても、今の日本は持続可能な経営モデルではない。このままでは、ある日突然SNSで、日本の信用不安が拡散されてもおかしくない。
●クレディ・スイス問題は「スイス政治の危機」 4/5
スイス金融街の人事情報からゴシップ、大スクープまで、さまざまな業界情報を掲載し銀行からも一目置かれている金融ブログ「インサイド・パラーデプラッツ」。運営人のルーカス・ヘーシッグ氏は、クレディ・スイスの危機は銀行だけではなく、スイスの政治や報道、文化にも問題があると考える。
2022年12月、クレディ・スイス(CS)は「インサイド・パラーデプラッツ(IP)」を提訴。52本の記事の削除を要求し、同ブログ発行人のジャーナリスト、ルーカス・ヘーシッグ氏に30万フラン(約4300万円)の損害賠償を請求した。
だが2023年3月19日、CSはライバルのUBSに買収されることが決まった。責任は誰にあるのか?IPはスイスで2番目に大きい銀行の崩壊に、一役買ったのだろうか?
ゴッサム・シティ:CSは3カ月前、52本の記事に関してIPを相手取り訴訟を起こしました。削除を求めたのは、IPで同行の名前に言及した記事全てでした。また、読者のコメント200件と、経済学教授ハンス・ガイガー氏とのインタビュー記事の削除も求めました。1メディアに対するこのような大規模な法的攻撃は、スイスではあまり例がありません。なぜ、CSはこうした反応を取ったと考えますか?
ルーカス・ヘーシッグ:CSは従業員を守るためだと言いましたが、その裏には私のブログを止めさせたいという思いがありました。私には情報源があり、読者からも色々なことを聞きます。私を非難することで、CSはこうした情報源を黙らせたかったのです。
ゴッサム・シティ:CSは「インサイド・パラーデプラッツ」の読者コメントを良く思っていませんでした。コメントはどのようなものだったのですか?
ヘーシッグ:CSを「タイタニック」と表現した人たちがいましたが、それは全く正しかったと分かりました。トップマネジメントを馬鹿と表現した人たちもいましたが、それはもちろん、良い言い方ではありませんでした。
ゴッサム・シティ:それは現在、CSに対して皆が言っていることではありますが。
ヘーシッグ:これら全てのコメントをウェブサイト上に掲載するのは一仕事ですし、大きな責任を伴います。膨大な作業が必要とされます。今は1400件のコメントが掲載待ちで、私は全てに目を通さなければなりません。それでも、読者に自由な表現の可能性を提供するためには、価値ある努力だと考えています。
ヘーシッグ:もちろんです。表現の自由には限界があります。そのため、全てのコメントを読む必要があります。ベストを尽くしますが、間違いを犯すこともあるかもしれない。その時はぜひとも、私に電話やメールで「しかじかのコメントは削除されるべきだ」と言ってください。コメントが度を過ぎている場合は削除します。しかし、あれ(訟訴)は別次元です。CSは、重要な情報を提供するがゆえに金融業界で有名になったメディアを潰そうとしたのです。
ゴッサム・シティ:今考えてみれば、CSの法的攻撃はパニックから起きたものだったと思いますか?
ヘーシッグ:いいえ。単なる愚かさと傲慢さから生じたものです。私はこの11年間で時折、自分がブログに書いたことに対する訴訟に対応しなければなりませんでした。しかし、CSは民事訴訟だけでなく刑事告訴もした点で、さらに踏み込んだ。私の意見では、レッドラインを越えた行いです。
ゴッサム・シティ:つまり、個人運営の報道機関に対し30万フランの損害賠償を訴えたのは、正当だったということですか?
ヘーシッグ:彼らはそう考えたわけです。CSにはビジネスがあり、私にもビジネスがある。今回の件は大企業が小企業に対抗したものですが、裁判官も普通は愚かではないから、その構図に気づいている。通常、裁判官側も小さな報道機関を潰したくはないのです。一方で、名誉毀損による刑事告訴はとても危険かつ非常に敵対的な行為で、私が思うには、あまりスイス的なやり方ではありません。CSは、自分を批判したジャーナリストや同行に対する怒りを表明するコメントを書いた読者を、検察官が追求するように仕向けました。訴訟が起きて以来、検察官は批判した人物を全力で突き止めようとしている。そんな国は、我々がスイスに求めるものではありません。
ゴッサム・シティ:CSは本当に否定的な読者コメントを追求しているだけなのか、それとも、あなたの情報源からの情報の流れを絶とうとしているのか。どう考えますか?
ヘーシッグ:CS幹部は通常、年に1千万フラン稼いでいました。野心旺盛なビジネスパーソンで、1ブログのくだらないコメントを読む暇はない。そう、彼らが求めていたのは私の情報源を絶つことでした。そこで、検察官の助けを借りたのです。
ゴッサム・シティ: 今、CSは被害者の立場にあります。ソーシャルメディアに対する不服、そして同行を集団で攻撃する英語メディアへの不服が表明されています。
ヘーシッグ:その点については、まだ十分には分かっていません。我々が今見ているのは、私の意見ですが、ひどく無能な政府です。スイスは全く準備ができていなかった。これだけのことが起きた後なのに、実に不思議です。
ゴッサム・シティ:英経済紙フィナンシャル・タイムズと米ブルームバーグ通信の記者は、先週末にチューリヒで行われた秘密交渉の様子を報道していました。一方、スイスのメディアは完全に不意打ちを食らってしまった。この事態はどのように説明しますか?
ヘーシッグ:そのことは、スイスで多くの人が「こうしたメディアが(CSを)袋叩きにした」と言う理由の1つになっています。しかし真相としては、昨年10月の時点でも、CSが大きな問題を抱えているのは極めて明白だった。何かが起きようとしていることは公然の秘密だったが、いつ起こるのかが誰にも分からなかっただけです。大嵐が接近している時に(銀行業界の)病人でいるのは良いことではありません。
ゴッサム・シティ:もしかすると、スイスとその政府機関がただ様子見をしていた間に、こうした(海外)メディアが事態の深刻さにより早く気づいただけかもしれませんね?
ヘーシッグ:全くその通りです。報道機関は、自分たちが事態を把握したと示せば、見返りに情報を入手できます。それはさておき、これら海外メディアは指示を受けて報じたこともあったのでしょうか?そうかもしれません。そして、スイスのメディアは?こちらもそうかもしれません。日刊紙NZZを例にしてみましょう。私が大好きな新聞です。実際、毎日読んでいます。NZZが現在どんな厳しい書き方をしているかを見てください。しかし、以前は十分に批判的だったでしょうか?そうではなかった、だがそうでなければいけなかった。NZZ編集部は英語を理解できる。
フィナンシャル・タイムズは重要な報道機関です。スイスの金融市場にとって、常にそうであり続けてきた。なので、言い訳の余地はありません。しかし、それがスイスなのです。スイスには常に、全てが崩壊するまで権力者を守る傾向があります。
ゴッサム・シティ: 3月20日の朝に目覚めると、CSを買収したUBSという究極のメガバンクの誕生が決まっていました。どのようなことが結果として起きてくるのでしょう?
ヘーシッグ:スイスは以前、「大きすぎて潰せない」2銀行で、同様の事態に陥ったことがあります。リーマン・ブラザーズの破綻、そして破綻しかけたUBSのケースから何年も経ち、もしまた同じことが起きれば、解決策が提示されるだろうと思っていたのでしょう。しかし日曜日以降、我々は自分たちがひどい思い違いをしていたと知りました。銀行は清算できると考えていたのは、間違いだった。トゥールガウ州のライファイゼン銀行や似たような銀行なら可能だったかもしれません。または、それは全くもって不可能なのかもしれません。
CSを一時的に国有化するべきだったと言う人もいます。スイスでなければ、それも有効策だったかもしれない。イギリスやドイツは実際、過去に行っています。しかし、スイスは違います。スイスは分権化された、連邦制の国です。知的資源にしても商業資源にしても、資源の限られた小国です。政府もぜい弱です。有事立法などで強く見せようとしていますが、それは上辺だけのものだと、今の我々にははっきりと分かります。
スイスの金融規制機関である連邦金融市場監督機構(FINMA)は今回のケースでは役に立ちませんでしたが、驚きはありません。このような強力な利害関係者に対応できるのは、行政執行機関だけです。連邦政府はもっと強力になる必要があります。今回スイスが対峙しているのは、政治的な危機です。この数日間で見てきた状況は、我々に単に対応能力がないことを示しました。アメリカが我々に電話をかけ、何をすべきか指示できるというのは、何と悲惨な事態でしょう。我々は、政治的に強くなる必要があります。
ゴッサム・シティ:メディアはどうでしょう? このような絶対的な力を持った相手に渡り合うことができるのでしょうか?
ヘーシッグ:そうであってほしいですね。少なくとも、メディアは競争的な状態を保っています。大手報道機関にできなくても、小さな報道機関は常に幾つかありますから。問題は、小規模な報道機関は簡単に潰され得ることです。
ゴッサム・シティ:いつかUBSがスイスの小規模な報道機関を相手に訴訟を起こすこともあるでしょうか?
ヘーシッグ:そう考えたくはないですね。
ゴッサム・シティ:買収決定後、IP読者の反応はいかがでしたか?
ヘーシッグ:私には全く新しい状況です。と言うのも、多くの人が、私がCSの崩壊に一役買ったと思っているようです。その人たちは私を破壊者と考えています。そう考えている人がいることは知っていましたが、ここまでとは思いませんでした。私は、それを真剣に受け止めています。もちろん、自分自身がそういう見方に同意しているわけではありません。むしろ、今回のケースでは真逆だと主張します。私は繰り返し、人々に警告しようとしました。私の書いたもの全てが素晴らしいものではなかったかもしれません。しかし全体を見れば、私はただ、大きな問題が起きていることを伝えようとしていたのです。
CSの幹部が私やコメント投稿者を刑事告訴したのは、彼らがそうしなければならないと考えていたからだ。チューリヒの検察官も同様です。彼らは「このブログは自分たちを潰そうとしている。自分たちの職を奪われてしまう」と考えました。しかし、なぜそんなレベルの事態になってしまったのでしょうか?現実には、クレディ・スイスは自滅したのです。リーダーたちが、何が実際に起きているかを把握できなかったから、こうなったのです。
文化の問題もあったと私は考えています。何がスイスの問題なのでしょうか?なぜ私たちは批判を、たとえそれが少し無遠慮なものであったとしても、受け入れられないのでしょう?本当に、物事に対して1つの考え方だけ持っていればいいのでしょうか?常に親切で、全てが上手くいっていると言わなければいけないのでしょうか?それでは上手くいかないと分かるはずです。なぜなら、世界はそこにあり、物事が起きているのですから。
●SVB、クレディと続いた金融不安が「ひと段落」とならない訳...日本はこれから 4/5
米シリコンバレー銀行の破綻やクレディ・スイスの経営不振など、金融システムに対する不安が広がっている。一連の問題は個別の要因で起こったものであり、金融システム全体に欠陥があるわけではない。
だが、同じタイミングで金融機関の経営問題が複数発生した背景には、アメリカの中央銀行に相当するFRB(連邦準備理事会)の急激な利上げがある。
FRBが急ピッチで利上げを行っているのは、これまで行ってきた大規模緩和策の弊害が大きくなってきたからであり、一連の金融不安は緩和策バブルのツケと考えてよいだろう。
FRBは2023年3月22日に開催したFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げを決めた。銀行の相次ぐ破綻を受けて、政策金利の引き上げを据え置くとの見方もあったが、FRBはインフレ抑制を最優先し、金利引き上げを継続した。
金利が上昇すると債券価格が下落するため、金融機関によっては損失が発生する可能性がある。金融機関の多くは調達金利と貸出金利の差額(利ざや)を収益源としているので、利上げは本来、追い風となる政策だが、金利上昇ペースが速すぎた場合、資産価格の変動で損失を被るケースが出てくる。
不安の払拭に必要な手が打てない
一連の経営不安を払拭するには、利上げを停止する、あるいは利下げに踏み切るといった措置が必要だが、今の中央銀行にはそれができない深刻な事情がある。過去10年にわたる大規模緩和策によって全世界に大量のマネーがばらまかれており、これを回収しなければ、インフレが手が付けられなくなるリスクを負っているからである。
リーマン・ショックをきっかけにアメリカをはじめとする各国の中央銀行は、市場に大量のマネーを供給する大規模緩和策の実施に踏み切った。07年の段階で1兆ドル以下であったFRBのベースマネー(中央銀行が直接、供給する貨幣の量)は、ピーク時には6兆ドルを超える水準まで膨らみ、実体経済の規模を大きく上回った。
経済成長を超えたマネーの供給は潜在的なインフレ要因であり、この状態を放置した場合、インフレが制御不能になるリスクを抱え込んでしまう。
FRBやECB(欧州中央銀行)は金利の引き上げなど、マネーの回収に乗り出しており、膨らみすぎた緩和策バブルの手仕舞いを開始している。
利上げなら日本にも混乱が生じる可能性
しかしながら、ここまで肥大化したマネーを回収するのは容易ではなく、その過程においてはさまざまな混乱が発生する。今回の経営不安もまさにその1つであり、こうした問題は正常化が終了するまで続くことになるだろう。
不安の連鎖を恐れる市場からは利下げを求める声が上がっている。中央銀行がこの要求を受け入れた場合、インフレリスクが台頭する可能性があり、逆に利上げを継続した場合には、再び金融システム不安が起こる可能性がある。いずれにしても金融当局にとってはいばらの道にならざるを得ない。
主要国の中央銀行で日銀だけが唯一、大規模な緩和策を継続中でありマネーの大量供給が続く。日本経済は低金利にどっぷりとつかった状態にあり、日本でも本格的な利上げがスタートした場合、今回と同様の混乱が発生する可能性がある。日銀はいよいよ金融政策における正念場を迎えたと言ってよい。

 

●シリコンバレー銀行以降相次ぐ銀行経営破綻。米国での現地報道は? 4/6
アメリカでは2023年3月、3つの銀行の破綻が立て続けに報じられました。シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行、そしてシルバーゲート銀行です。たった5日間で中堅銀行の閉鎖が次々に伝えられ、国民に金融不安をもたらしました。本国アメリカではどのような報道がなされたのでしょうか。現地からレポートします。
「大銀行の1つ」シリコンバレー銀行
アメリカでは今年の3月に入り、中堅銀行の破綻が3件も発生しました。暗号資産(仮想通貨)取引を主軸としたシルバーゲート銀行が8日、地方銀行のシリコンバレー銀行が10日、そしてシグネチャー銀行が12日と、3つの銀行が1週間以内に立て続けに経営破綻したのです。当然、金融業界は危機感を募らせています。
中でもシリコンバレー銀行は、アメリカ国内でも規模の大きな銀行としてこれまで成長をしてきた銀行の1つでした。IT企業の多いカリフォルニア州サンフランシスコ市のシリコンバレーに拠点を置き、一時期はシリコンバレー最大の銀行と言われてきたほどです。
そんな中、銀行が相次いで倒産したアメリカ。3行のうちの1つ、シグネチャー銀行は、筆者が居住するニューヨーク市に拠点があります。状況が刻々と変化する中ですが、本稿では現段階の現地報道をピックアップして紹介します。
シグネチャー銀行「一時期、NYでもっとも成功」
ニューヨーク州では3月12日以降、地元のシグネチャー銀行の破綻が大きく報じられています。同行は中小企業や不動産融資を主軸に、暗号資産(仮想通貨)バンキングなどを含め国内事業を展開していた州公認の商業銀行で、本拠地であるニューヨーク市内をはじめ、ニューヨーク・トライステートエリア、カリフォルニア、ノースキャロライナなど全米各地にオフィスを広げていました。FDIC(連邦預金保険公社)の保険にも加入していました。
当地NYでは、メガバンクであるシティグループ、JPモルガンチェース、バンク・オブ・アメリカ銀行が一般的にポピュラーですから、一般市民にとってシグネチャー銀行はあまり馴染みのない銀行だったと言えます。ただ、不動産会社の銀行業務に注力して成功しており、2014年には 「ニューヨークでもっとも成功した銀行」と持て囃された時代もありました。
経営破綻後、米財務省などが同行の預金者の保護を迅速に発表したため、倒産のニュースが報じられた後も一般市民の間でパニックのようなものは起こりませんでした。ファイナンシャル危機を回避し、市民がパニックに陥らないためにも「同行は連邦政府の管理下に置かれている」と、さまざまなメディアによって強調されました。
ロイターやゴッサミストなどの報道では、同行の中小企業の預金者の中には、イノベーション経済を牽引するテック業界などニューヨーク経済を強固に支えているIT企業も多く含まれているということです。また、ニューヨーク市自体が2017年以降にシグネチャー銀行に口座を持っていると報じられています。その預金額は21年末の時点で5000万ドル(約65億円。1ドル130円計算。以下同)以上とされています。
ちなみに数ある金融機関の中から、行政がどのように取引先である銀行を選別しているかについては、ブルームバーグの調査によると、人種差別がないかなど企業を詳しく精査した結果だといいます。例えば、ウェルズ・ファーゴ証券はローン申請者のうち黒人の半数以上が拒否され、白人の70%以上が承認されていることが判明。この結果を受けNY市は同証券会社の新規口座の開設を停止したと伝えられました。このような視点でも、シグネチャー銀行が行政から選ばれ信頼に基づく銀行の1つであったのは間違いなかったようです。そのような堅実な銀行が、今回の倒産劇の主軸にあったということなのです。
「シグネチャー銀行の崩壊がNYにとって何を意味するか?」という記事を発表したザ・シティは、このように述べています。「州の規制当局によって突然閉鎖されたというニュースを知った。ニューヨーカーのほとんどがこれまで聞いたこともなかった銀行だが」。この記事でも、連邦政府により預金額は保証の対象になっていることが述べられています。
さらに「破綻後、シグネチャー銀行の経営幹部は職を失い、 株主は一掃された」ということです。今年暮れに引退予定だったCEOのジョセフ・デパオロ氏は約20万株を所有しており、株価のピーク時には約7300万ドル(約96億円)だったということです。
同行の破綻によって影響を受けるのはどちらかというと「賃貸アパートメント(日本でいう賃貸マンション)の所有者や管理会社、ディベロッパーだろう」といいます。その理由として、「同行の主要取引先が、賃貸や家賃が市によって規制されている建物、レント・スタビライズド・アパートメント*などの所有者だったから」です。( * レント・スタビライズド・アパートメント / アメリカの大都市では基本的に、契約更新ごとに家賃が上昇し続ける。よってNYなどいくつかの州では家賃コントロールの一種「レント・スタビリゼーション」つまり家賃の安定化が設定され、所有者や管理会社による法外な家賃の急上昇を防いでいる。レント・スタビライズド・アパートメントとは、そのような規制が敷かれたアパートを指す。)
同行の破綻による今後起こりうる長期的な問題としては、金利の上昇や融資基準の厳格化などが予想されています。「特に2019年の賃料規制改革によって賃料の値上げが制限されているビルの所有者にとって、借り入れがより困難になってくるだろう。貸し手はより多くのローンを請求できるようになる」というのが専門家の見方です。
またアメリカ全体では、個人のSNSの投稿でも銀行破綻の引き金になりうる危うさも囁かれています。今年2月、フィンテック系メルマガ『The Diff』の発信者、バーン・ホバート(Byrne Hobart)氏が金融不安を警告した自身のメルマガを引用しツイートしたのですが、それがバズり、取り付け騒ぎに発展し、シリコンバレー銀行の破綻の引き金になった可能性を、フォーチューン誌やヤフーなどが報じました。
そしてSNSに今ほどの影響力がなかった時代、リーマンショックの金融危機との違いや、今後さらに用途が広がっていくAIが主導するSNSが引き起こす未来の金融危機の恐ろしさも指摘されています。
「口座を移動する計画はない」(NY市)
経営破綻後、米財務省やニューヨーク州のホークル知事などが「同行のすべての預金者の預金は保護されている」と強調し、ニューヨーク市も「口座を移動する計画はない」と発表しました。また3月19日には、当地NYを地盤とするフラッグスター銀行が買収することで合意したことが、連邦預金保険公社によって発表されました。(ちなみにシリコンバレー銀行の方は26日、地銀のファースト・シチズンズ・バンクシェアーズによる買収が発表されています)。
別の報道によると、ニューヨーク市が取り引きしている銀行や金融機関は約30もあり、そのうち例えばJPモルガンチェース銀行には6億4500万ドル(約839億円)、バンク・オブ・アメリカには約5億ドル(約650億円)を保有しているといいます。それらに比べるとシグネチャー銀行への市の預金額は総資産のほんの一部と言えるかもしれません。
ホークル州知事も「米政府による預金者保護の取り決め措置が金融システムの安定性と信頼を高めることに繋がると期待する」と表明しました。同行の破綻によって影響を受ける当地のほかの銀行もないといいます。
しかし、それでも5000万ドルとされる市の預金額はかなりの大金です。これらは市民(納税者)から徴収した大切な資産なのですから、預金先や買収先の金融機関へのさらなる精査を求める声が市民から多く上がっているのは当然のことと言えます。
●脱ドル加速と中国仲介後の中東和解外交雪崩現象 4/6
中国がイラン・サウジの和睦を仲介して以来、中東における和解外交雪崩現象が起き、同時に中東やASEAN、BRICSなどが中国と提携しながら脱ドル現象を加速させている。背景にあるのは何か?
中国が仲介したイラン・サウジ和睦後、中東で和解外交雪崩現象
今年3月10日、習近平が国家主席に三選したその日に合わせて、中国の仲介により北京でイランとサウジアラビア(以下、サウジ)が和睦したことを発表した。この事に関しては3月12日のコラム<中国、イラン・サウジ関係修復を仲介 その先には台湾平和統一と石油人民元>で詳述した通りだ。
それをきっかけに、中東では雪崩を打ったように和解外交が突然加速している。
その時系列を図表1として以下に示す。
   図表1
イランやイラクは言うまでもないが、中東諸国のほとんどはアメリカの内政干渉やアメリカが仕掛けた正義なき戦争により、多くの人命を失いながら混乱と戦争に明け暮れる日々に追い込まれてきた。
3月25日のコラム<中露首脳会談で頻出した「多極化」は「中露+グローバルサウス」新秩序形成のシグナル>にも書いたが、「他国の民主化を支援する」という名目で設立された全米民主主義基金会(National Endowment for Democracy=NED)はアフリカの一部をも含む中東全域の民を、「民主化させる」ことを名目に「アラブの春」(カラー革命)と言われる民主化運動に駆り立てた。民主化するのは良いことのように見えるが、実は中東の秩序を乱し、果てしない混乱と災禍の連鎖をもたらしただけだった。 NEDはアメリカの戦争ビジネスを操るネオコンの根城でもあるので、当然の結果かもしれない。
事実、中東の国々には、「アメリカは内政干渉して中東を混乱に陥れるが、中国は内政干渉せずに中東各国に安定と経済的メリットをもたらす」と映ったのだろう。
その結果が図表1に現れている。
各国・地域・組織の要人が訪中ラッシュ
図表2に示すのは、中国がウクライナ戦争に関する「和平案」を発表したあとに訪中した各国・地域・組織の要人の一覧表である。もっとも、3月28日から31日にかけて海南島でボアオ・アジアフォーラム(以下、ボアオ)が開催されたので、それに出席したケースもある。ボアオに出席したあと北京に呼ばれて北京で中国の指導者と会談した人もいれば、そうでない人もいるので、図表2では、ボアオで会談した場合にのみ、( )の中に「ボアオ」と書いた。また、3月13日前まではまだ李克強が首相だったので、李克強や栗戦書など、前期のチャイナ・セブンの名前もある。中国の指導者の肩書は省略してあるが、李強は首相、王毅は外交トップ、秦剛は外交部長(外相)だ。
   図表2
日本の「超親中系」の要人の名前も、ファクトなので入れてあるが、そこは無視して頂いて、やはり3月27日のASEAN事務総長、3月28日のマレーシア外相、あるいは3月31日のマレーシアのアンワル首相の訪中は、「脱ドル」の真相を解くカギとなる。
3月31日にシンガポールのリー・シェンロン首相が訪中して習近平と会談しただけでなく共同声明まで出したことは、バイデン大統領の神経に障(さわ)ったのだろうか。民主主義の代表であるようなアジアの国家の一つ、シンガポールが、3月29日にバイデンが主催した民主主義サミット・オンライン会議から排除されるという、怪奇現象が起きている。
IMFのゲオルギエバ専務理事や、フランスのマクロン首相およびEUのフォンデアライエン委員長の訪中も注目すべき点だ。(コラム執筆時では、マクロンは北京に着いたばかりなので、面会相手は空欄にした。)
加速する脱ドル
図表1で示した中東における和解外交雪崩現象を受けて、「脱ドル」現象が加速している。その脱ドルの動きを図表3に示した。
   図表3 
脱ドルの流れは大きく分けて3つある。
   【流れ1】 中東との関係において石油人民元で取引
   【流れ2】 ASEAN域内での自国通貨取引アジア通貨基金
   【流れ3】 BRICS諸国内での共通通貨構想
【流れ1】に関しては、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の【第二章 習近平が描く対露「軍冷経熱」の恐るべきシナリオ】のように、中東とは早くから「石油人民元」取引に関して検討してきた。特に今般の図表1で示した雪崩現象が起きて、その実現の広がりは一気に加速している。
問題は【流れ2】だ。
なぜ、ASEANが「脱ドル」方向に動き出したのか、不思議に思う方もおられるかもしれないので、少し詳細に見てみよう。
実は現在のマレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、1997年のアジア金融危機のときにマレーシアの副首相兼財政部長だった人だ。アジア金融危機の対応に際し、ドル依存のために苦労したため、当時もアジア通貨基金を提案したが、却下されたという経緯がある。そのため当時のマハティール・ビン・モハマド首相との関係が悪くなり、挙句の果てに汚職と同性愛の罪で逮捕されるに至った。
2022年11月24日に首相に当選した彼は、脱ドルに対して強い執念を抱いたようだ。中国の観察網は、4月4日、<マレーシアのアンワル首相:アジア通貨基金組織はすでに中国に対して提議した。米ドルに依存し続ける理由はもはやない>という記事の中で、アンワル首相の「脱米ドル」に対する強烈な思いを報道している。
【流れ3】に関しても、深い考察が必要とされる。
提案したのがロシアの国家院副議長だからだ。『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第七章 習近平外交とロシア・リスク】で【プーチンの「核使用」を束縛した習近平】のように、習近平はプーチンをBRICS共同声明の中で束縛し、核兵器や化学兵器あるいは生物兵器を使用しないよう約束させている。プーチンにとってBRICSは、上海協力機構とともに最後の砦なので、その約束は守るしかないだろう。その上でロシアがBRICS共通通貨構想を提案しているのだが、ここでもサウジが大きな役割を果たしている。
図表3にあるように、サウジが正式に上海協力機構への加盟を決議した。上海協力機構は中露が主導し、「反NATO」で意思統一されている。すなわち、サウジの絡みで、非米陣営が「脱ドル」を基軸として強化されつつあるということだ。そしてそのサウジを味方に付けたのが中国だという、複雑に絡み合った連鎖が爆発しつつある。そのマグマは実に長期間にわたって形成されてきたが、これが中国のイラン・サウジ和睦仲介によって噴き出し始めたのである。
OPECプラスが原油の生産量削減を決定
このような流れの中で、4月2日、OPEC(石油輸出国機構)加盟国(イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラ、リビア、アルジェリア、ナイジェリア、アラブ首長国連邦、ガボン、アンゴラ、赤道ギニア、コンゴ)とその他の産油国(アゼルバイジャン、バーレーン、ブルネイ、カザフスタン、マレーシア、メキシコ、オマーン、ロシア、スーダン、南スーダン)で構成される「OPECプラス」は、日量100万バレル以上の減産を実施すると発表した。
この中にイランやサウジだけでなく、「ロシア」が入っていることが注目点だ。
ロシアのウクライナ侵攻と、アメリカのロシアに対する制裁により、西側諸国はロシアから安価な石油や天然ガスを購入することができなくなったので、原油価格は高騰を続けている。特にアメリカでは金融政策のまずさも加わり、異常なまでにインフレ率が高くなっているため、今回のOPECプラスによる原油減産措置は、アメリカにとって手痛い。原油減産は原油価格のさらなる高騰を招くので、産油国であるロシアにとっては非常に有利になるため、バイデン政権は激しい反対の姿勢を示した。この塊は、脱ドルを加速させることも分かっているにちがいない。
しかし、それを含めて、この流れは変わらないだろう。
習近平が狙う「世界新秩序」構築
3月25日のコラム<中露首脳会談で頻出した「多極化」は「中露+グローバルサウス」新秩序形成のシグナル>で書き、また週刊エコノミストでも書いたように、習近平三期目以降の一連の動きは、アメリカによる世界一極支配から抜け出て、「多極化」による「新世界秩序」を構築することにあるからだ。
アメリカは台頭する中国を潰そうと、制裁や対中包囲網形成、あるいは日本に命じてNATOのアジア化を実現しようとしている。このまま行けば、「アジアはアメリカが仕掛けた戦争の災禍にまみれるだけでなく、中国はアメリカに潰される」と習近平は警戒している。
ここは、生きるか死ぬかの闘いなのである。
したがって習近平は一歩も退かないし、また今となっては中東を惹きつけ、グローバルサウスを惹きつけているので、このまま脱ドルを加速させ、多極化による世界新秩序を構築して、アメリカによる一極支配の抑え込みに入るだろう。
言論弾圧をする中国を肯定はしない。それは筆者の基本だ。その決意は『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』で明確にしている。
しかし、だからといって、「民主」の名のもとに「アメリカ脳」を染みこませては戦争を仕掛け続けるアメリカの手法に賛同するわけにはいかない。
戦争だけは、絶対に反対を主張し続ける。そして戦争の元凶を徹底して見極めるのが筆者の使命でもある。 

 

●米国雇用・製造業指標が悪化、今後は景気「下り坂恐怖」 4/7
米国の景気低迷が現実化するかもしれないという「Rの恐怖」が拡散している。銀行危機の余波が続く中で景気指標の悪化が相次いで発表されて沈滞(Recession)不安をあおっている。下半期景気反騰を狙う韓国経済に悪材料として作用する恐れがあるとの懸念が出ている。
フィナンシャル・タイムズ(FT)は6日(現地時間)、「国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ総裁が『世界経済が(5年前後の)中期見通し基準として1990年以降30余年ぶりに最悪の沈滞に陥っている』と明らかにした」と報じた。ゲオルギエバ総裁は「世界経済が今後5年間(過去20年間平均の3.8%より低い)年3%成長にとどまるだろう」と述べた。
民間雇用情報会社オートマティック・データ・プロセッシング(ADP)が5日(現地時間)に発表した全米雇用報告書によると、3月の民間企業雇用は前月比14万5000人増えた。2月の増加幅(26万1000件)に比べて10万人以上少ない。ダウ平均株価が集計した市場予想値(21万人)を大きく下回る。
これは前日労働統計局の求人・離職報告書(JOLTS)に続き出てきた米国雇用市場の冷却シグナルだ。JOTLSによると、2月の米国企業の求人件数は993万件で、21カ月ぶりに初めて1000万件を下回った。1年間持続した米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ余波に最近中小地域銀行の連鎖危機が労働市場に追加で打撃を加えたという分析が出ている。
ADPチーフエコノミストのネラ・リチャードソン氏は「3月の雇用データは経済が遅くなっていることを示す数多くのシグナルの一つ」とし「過去1年間の強力な雇用と給与引上げで雇用主が消極的になっている」と説明した。
強い雇用とインフレを後押しした製造業とサービス業の指標も予想より振るわなかった。供給管理協会(ISM)の3月の製造業購買担当者指数(PMI)は46.3で2020年5月以降、最も低かった。ISMの3月のサービス業PMIも51.2で3カ月内最低値を記録し、ブルームバーグ専門家による展望値である54.4を大きく下回った。PMIは基準線である50を上回れば景気拡張、下回れば萎縮と意味だ。
ここから米国の貿易収支も異常信号が感知されている。米商務省によると、2月の商品・サービスなど貿易収支赤字は705億ドル(約9兆2900億円)で前月比2.7%増となり、最近4カ月内で最大値を記録した。輸入は1.5%減少し、輸出は2512億ドルで2.7%減った。輸入と輸出が同時に減少したのは景気鈍化信号と解釈される。
事実、米国の雇用鈍化はこれまで市場が期待してきたイベントだ。だが、先月の銀行危機が発生して雰囲気は変わった。インフラキャップのジェイ・ハットフィールド最高経営責任者(CEO)は「『悪いニュースは良いニュース』という考え方から『悪いニュースは悪いニュース』へと移行したのかもしれない」とし「景気後退懸念が市場の主要なテーマとなっている」と評価した。
来月3日に予定された連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが政策金利を凍結するという展望が有力だ。
米国発景気低迷が本格化すれば対外依存度が高い韓国としては少なくない打撃が避けられない。西江(ソガン)大学経済大学院のキム・ヨンイク教授は「利上げに伴う消費減少の効果が時差を置いて現れ、米国経済は4−6月期からマイナス成長する可能性が高い」とし「韓国の輸出回復が遅れて、金融市場に不安が広がりかねない」と懸念した。
●米国は3月に236,000の雇用を追加し、失業率は3.5%に低下 4/7
3 月の雇用の伸びの鈍化と労働力の増加は、バイデン大統領に歓迎すべきニュースをもたらした。
氏雇用創出 236,000/月、昨年、経済と物価を安定させる必要があると述べた。 バイデンは言った。 より多くのアメリカ人が労働力に加わり、賃金上昇はわずかに減少しました。 こうした展開は、インフレをさらに抑えるのに役立つだろう。
しかし、この報告書は、今春に予定されている大統領の再選を求める発表を前に、経済的責任をアメリカ人に売り込もうとしている大統領の政治的および経済的緊張を浮き彫りにしている。
共和党は氏を非難した。 バイデンを批判。 アナリストの中には、予測者の予想を1年連続で上回った後、今後数か月で雇用の伸びが急激に低下するか、マイナスに転じる可能性があると警告するアナリストもいます。 これは、金融危機の可能性を回避するために規制当局と連邦準備制度理事会が先月介入した後、銀行が融資を控えていることが一因です。
調査によると、アメリカ人の経済に対する見方は改善しているが、人々は依然としてその業績に不満を持っており、その将来について悲観的である. 3月に実施されたCNNの世論調査 また、10 人中 7 人のアメリカ人が、今週の経済状況を「やや悪い」または「非常に悪い」と評価しました。 5 人に 3 人が、1 年以内に経済が悪化すると予想しています。
2024 年のキャンペーンの準備のために国をツアーする際、Mr. ホワイトハウスの立法議題の直接的な結果として、インフラストラクチャ、低排出エネルギー、半導体製造などへの新たな投資で数千億ドルを生み出した激戦州の工場や建設現場を定期的に訪れています。
金曜日、大統領は 3 月の雇用データに対して同様のアプローチを取りました。 「これは勤勉なアメリカ人にとって良い仕事の報告だ」と彼は言った。 書面による報告今週、企業が新たな事業拡大を発表した7つの州をリストアップする前に、Mr. バイデンはそれを彼の議題に結び付けました。
しかし、彼がよくするように、Mr. バイデン氏は、労働者と家族を圧迫している高価格を引き下げるために「やるべきことはまだある」と警告した.
アシスタントも同様に興奮していました。 氏バイデン氏の国家経済評議会を運営するラエル・ブレナード氏はMSNBCに対し、「非常に良い」報告だと語った。
ブレナード氏は、「概して、報告書は安定した持続可能な成長と一致している」と述べた。 「ある程度の緩和が見られます。確かにインフレ率の低下が見られます。これは非常に歓迎すべきことです。」
しかし、アナリストは、政府がシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の預金者を救済した後、銀行が融資を削減したため、今後数か月で雇用が急激に減少する可能性があると警告しました。
パンテオン マクロエコノミクスのチーフ エコノミスト、イアン シェパードソン氏は金曜日に、雇用の増加は 5 月にわずか 50,000 人にまで減速し、経済は夏に純ベースで雇用を失い始めると予想していると書いています。 しかし彼は、雇用市場が良い意味でアナリストを驚かせ、ますます多くの労働者を労働力に引き寄せていることを認めた。
「労働力の需要と供給は均衡を取り戻しつつある」と同氏は語った。 シェパードソンは書いた。
昨年5月のバイデン氏 毎月の雇用創出を書いた 平均して50万の雇用が15万未満に減少するはずであり、これは「低い失業率と健全な経済と一致する」と彼は述べた。
それ以来、大統領は労働市場と複雑な関係を築いてきた。 雇用創出は、多くの予測者よりもはるかに力強いものでした。 バイデン自身 — 期待。 その開発 Mr. これはバイデンの政治顧問を喜ばせ、経済が不況を回避するのに役立ちました。 しかし、これには歴史的水準を超えるインフレが伴い、消費者を圧迫し続けており、トランプ氏は. バイデンの支持率急落。
3 月の報告書は、これら 2 つの経済的現実を調整することの政治的な難しさを示しました。 アナリストらは、連邦準備制度理事会(FRB)が歓迎すべき雇用と賃金の伸びの鈍化を、金利を引き上げてインフレを引き下げるキャンペーンの一部であると呼んだ。
しかし、その冷え込みには製造業の1,000人の雇用の減少が含まれており、一部のグループは中央銀行を非難した. 「米国の工場は、金利上昇による破壊的な影響を受け続けている」と、業界団体である米国製造業連合のスコット・ポール社長は述べた。 「連邦準備制度理事会は、その政策が米国の国際競争力を弱体化させていることを理解しなければなりません。」
共和党 Mr. 彼らは、バイデンの賃金上昇率の低下を非難した。 「平均時給は上がり続けている トレンドは低い インフレが名目賃金上昇を 2 年以上払拭したとしても」と、共和党全国委員会の迅速対応担当ディレクター、トミー・ピゴット氏はニュースリリースで述べた。
ミズーリ州の共和党員で、歳入委員会の委員長であるジェイソン・スミス氏は、この報告書は、「中小企業と雇用創出者は、経済に迫る暗雲に反応している」ことを示していると述べた。
自身の出版物で、Mr. バイデン氏は、今年の夏に経済の嵐となる可能性がある雲の 1 つにうなずきました。国の債務上限の引き上げが行き詰まり、政府の債務不履行につながり、何百万人ものアメリカ人が追い出される可能性があります。 仕事。 不特定のコスト削減については、Mr. バイデンが同意するまで、共和党はそうするのを拒否した。
氏バイデン氏は上限引き上げについて直接交渉することを拒否した。 彼は金曜日に雇用報告書をまとめ、議会共和党の戦略を提示した. 「わが国の経済を危険にさらすような試みをやめます」と彼は言った。
●次なる金融不安はゆっくりと忍び寄る? 4/7
世界の金融市場が動揺するきっかけとなったアメリカの銀行破綻からまもなく1か月。株式市場などは落ち着きを取り戻しているかのように見えますが、どうなのでしょう。ひそかに進行しているのではとニューヨークの市場関係者の間でささやかれているのが住宅市場の冷え込みをともなう新たな銀行危機です。
不吉な感じ再びか
ニューヨークに駐在する記者にとって毎朝、経済チャンネルCNBCを見るのと、経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルを読むのは日課です。
ある日の朝、新聞の記事にふと目がいきました。
「住宅市場 西の価格下落、東の高騰」と題した記事。
東海岸の都市では不動産の価格が上昇を続けるものの、西海岸の都市では下落が目立つという記事でした。サンフランシスコ、サンノゼのことし1月の住宅価格は前の年の同じ月と比べて軒並み10%を超える価格下落。
ふと不吉な予感がしました。
2007年に突如、起きたサブプライムローン危機。右肩上がりだったアメリカの住宅価格が西海岸から崩れていき、複雑な証券化商品の価格が急落し金融不安、そしてリーマンショックへとつながっていきました。
リーマンショックのとき私は日本で証券業界の取材を担当し、関係者からその打撃の大きさをよく聞かされていたので、あの時と似ていないだろうかと嫌な感覚に襲われたのです。
11年ぶりの中古住宅価格下落
住宅市場の変調は中古住宅の統計にも現れています。
2023年3月21日に発表された2月の中古住宅価格の中央値は前の年の同じ月と比べて0.2%の下落と、11年ぶりの下落に転じたのです。
2012年3月から10年11か月もの間、価格上昇を続けてきたこと自体が驚きですが、住宅市場の潮目が変わったと感じたのは私だけではないように思います。
猛烈な勢いの取り付けで破綻
世界の金融市場が動揺するきっかけとなったシリコンバレーバンクの破綻。
3月9日のわずか一日で420億ドル、日本円でおよそ5兆5000億円もの預金が急速に流出しました。
財務省やFRB=連邦準備制度理事会など金融当局はすぐさま経営破綻した2つの銀行の預金の全額保護に乗り出すなど対応策をとり、今、金融市場は落ち着きを取り戻しているかのように見えます。
スローモーション型の危機
しかし、ウォール街の関係者に話を聞くと、一気に危機が広がることは避けられたとしても、ゆっくりと、真綿で首を絞められるような危機が忍び寄っているのではないかと懸念の声が聞かれます。
ウォール・ストリート・ジャーナルは「スローモーション型の銀行危機」と書いています。
何が「ゆっくりと、忍び寄る」危機なのか。
中堅、中小の銀行はこれまでの金融不安による預金流出に加えて、驚異的な速度の預金流出への恐怖から、企業や個人に「貸し渋り」を行う可能性が指摘されています。そうなれば企業や個人が資金を調達しにくくなって景気は悪化します。
ここに住宅価格下落という要素が加わると、住宅を保有する人たちの資産価格が下落し、消費が落ち込むという逆資産効果が起きて、景気をさらに冷え込ませることも起きえます。こうした経済の変化はえてしてじわじわと起きがちなため、「忍び寄る」危機なのです。
今回の金融不安の前は、アメリカが景気後退に陥ったとしても深刻なものにはならないとの見方が多くありましたが、ゆっくりとした危機は景気後退の底を深くするおそれがあるとの指摘も聞かれます。
“Bad news is bad news”へ
FRBが2022年3月に利上げに転じてからこの1年、ウォール街を取材していてよく耳にしたのが、“Bad news is good news”という言葉です。
景気の悪化を示すような経済指標が発表されても、それによって利上げのペースが鈍れば景気にはプラスになると市場が受け止め、株式の買い注文の材料になることが繰り返されてきました。
しかし最近は、市場の雰囲気は“Bad news is bad news”に変わりつつあることを感じています。
それでもゆっくりと景気が減速していくのであれば、インフレ抑制を目指すFRBにとっては想定どおりなのかもしれませんが、2007年のサブプライム危機のときのように、堰を切ったような急流にならないと誰が断言できるのか。
長期にわたる未曽有の金融緩和に記録的なインフレ、そして急速な利上げという異様な環境にいる今、素直に“Bad news is bad news”と自分に言い聞かせておいたほうがどうやらよさそうです。

 

●「貸し渋り」「貸し剥がし」がやってくる、米国でよみがえる日本の悪夢 4/8
米国でシリコンバレーバンクが破綻してからまもなく1カ月。株価が持ち直しの動きを見せるなど、一見すると落ち着きを取り戻した感もあるが、それはFRBの救済策などによって本質的な問題解決を先送りしているからに過ぎない。米国はさらに大きな金融危機に向かっていると筆者はみている。(JBpress)
バーナンキも「量的緩和は一時的」と言っていた
今年3月のシリコンバレーバンク(SVB)破綻は、預金の流出を原因とする流動性危機でした。破綻の連鎖を回避するために、米銀は一時、米連邦準備制度理事会(FRB)から1日平均1170億ドルの特別融資(discount window)を受けることになりました。
FRBの必死の対応で危機の広がりは避けられたように見えますが、この金額は2008年に発生したリーマン・ショック時を上回るものなのです。
さらにFRBは、BTFP(Bank Term Funding Program)という制度を新設し、銀行に626億ドルを貸出しました。これは銀行が持つ、評価損を抱えた債券を担保として受け入れ、額面相当額を融資するものです。
この融資についてFRBは、あくまで「一時的」なものであり、1年後には返済されるので金融緩和ではないとしています。
しかし思い出してください。リーマン・ショックの際も、当時のバーナンキFRB議長が「量的緩和は一時的」だと断言したのです。
12年後のいま、FRBのバランスシートはコロナ禍への対応などで急拡大し、当時の9倍に膨張しています。BTFPもこの先、さらに膨張し、最終的に民間銀行が保有する低利の国債・政府機関債の相当部分をFRBが肩代わりするのでないでしょうか。
市中のマネー総量が増加へ
そうなると結果的に市中に放出されるマネーの総量が増加します。最終的には猛烈なインフレが起きることになります。
そんなインフレになれば、有形資産を持つ伝統的な会社の株価は暴騰すると思われるかもしれませんが、株価に反映されるのはまだ先の話で、夏から秋にかけていったん大きく下がる局面があるとみています。
そもそも米銀はなぜ苦境に陥ったのでしょうか。あらためてそのいきさつを振り返ってみます。
2020年に発生したコロナ禍以降、米銀には量的緩和による預金が大量に流入しました。一方で景気悪化が確実視される中、貸出は増やせないので、利回りが1%に満たない中長期の国債や政府機関債に資金を振り向けることになりました。
ところが、ウクライナ戦争の勃発もあり、急ピッチなインフレ進行に直面したFRBは、2022年3月以降、矢継ぎ早に利上げを行います。その過程で3カ月もの短期国債の利回りは0%から直近は4.8%まで上昇し、10年国債の価格も20年7月のピークから2割以上も下落しました(図1)。
他方、国債より信用力が劣る銀行の預金金利(3カ月CD)は、0.4〜0.6%程度と低いままなので、低利の銀行預金を引き出して、より高利の短期国債や、(短期国債で運用する)マネーマーケットファンドに移す人が増えてきました。
銀行は貸出の圧縮を余儀なくされる
破綻したSVBなどは、預金の引き出しに応じるために、含み損を抱えた国債や政府機関債の損切りを余儀なくされて損失が表面化したのです。それがさらに預金が流出するという悪循環をもたらしました。
これがいま起きている金融危機のあらましです。
SVBのリスク管理が甘かったと言えばそれまでですが、FRBがあまりにも長い間、低金利を維持したことが全ての元凶なのです。
今回、FRBは先述したBTFPという制度を創設したので、預金流出に苦しむ銀行が多額の債券売却損を計上して破綻するケースは減るでしょう。
しかし、預金金利と短期国債の利回り差が4%超もあることが知れ渡ってしまいました。特に中小地方銀行からの預金流出はさらに加速すると考えるのが自然です。
そうなると銀行は、預金、つまりバランスシートの負債サイドの縮小に対応し、貸出を中心とする資産を圧縮するしかありません。
日本でも1990年代後半の金融危機時には、多くの銀行が貸し渋り、貸し剥がし、新規融資の先送りといった対応を行ったことはよく知られています。
7割安となったニューヨークの上場REIT
かつて日本で起きたことが米国でも起きるでしょう。同時に、こうした信用の収縮は、「借金の値段=貸出金利」を上昇させます。つまり近い将来、不況の深化と金利の上昇が同時に進行する公算が大きいと思われます。
いまのところ、米銀の貸出残高はまだ減少していませんが、預金残高の減少に伴って、前年比でみた貸出は下向きに転じ始めたことには注意が必要です(図2)。
この場合、最も影響を受けるのは商業不動産ローン市場でしょう。2兆8000億ドル規模を持つ市場で、中小地方銀行が全体の7割の資金を提供しています。
それでなくてもオフィス所有者は、金利の上昇と、リモートワークの増加による稼働率低下の両面で苦境に陥っています。
ニューヨーク最大のオフィス所有者である2つの上場REITの価格が、この1年で7割安となっていることはその表れです(図3)。
金利を下げても解決しない
このうえ銀行の貸し渋り、貸し剥がしが起きるなら、米国の不動産市況は大打撃を受けることは確実です。次の金融危機はもう間近に迫っているのかもしれません。
厄介なことに、この問題は金利を下げるだけでは解決しません。
なぜならば資金を供給する銀行のインフラが傷ついているからです。だから、FRBは利上げを断行し、一連の銀行破綻はあまり心配していないという姿勢を見せる一方で、その裏では事実上の量的緩和を復活させて流動性危機に対応しました。
その規模は決して小さなものではありません。昨年3月から1年かけて圧縮した資産減額分の6割相当額を、わずか2週間で戻してしまうほど慌ただしいものでした。それだけ事態は切迫していたわけです。
このところ株価が上昇していたのは、こうしたFRBの対応をみて、リーマン・ショック後やコロナ禍後のようなカネ余り相場の再来の期待があったからでしょう。実際、リーマン・ショック以降、日米欧の中央銀行(FRB、ECB、日銀)の資産総額と世界時価総額は連動してきました(図4)。また、昨年9月末以降の株高も日銀の国債買い支え、つまり事実上の量的緩和拡大が影響しているのです(図5)。
では、このまま事実上の量的緩和が続けばいいのでしょうか? もちろん、そんな甘い話はありません。
インフレ再燃のリスク
中銀の資産総額にやや遅れて物価が反応していることは見逃せません(図6)。
いったんは落ち着いたかに見えるインフレですが、FRBのスタンスが量的緩和に回帰したことで、数カ月も経たずに再燃する可能性があります。
もしそうなると、怖いのは不動産市況の下落を発火点とする、もっと大きな金融危機です。米政府はなりふり構わず国債を増発し、銀行に公的資金を注入するしかなくなります。景気や株価はボロボロになるでしょう。このところ株価は比較的、堅調に推移していますが、株を買うのはもう少し様子をみたほうがいいのかもしれません。
●アメリカでは「失業保険の申請」が増加…それでも米株価が下がらない理由 4/8
いま米国で「失業保険」の申請件数が増加している
冒頭で、先週公表された経済指標のポイントを拾っておきます。まず、新規失業保険申請件数に少し変化が見られます。
[図表1]に示すとおり、労働市場がタイトだった2018年、2019年および2022年と比べると、このところ、失業保険の新規申請件数が増加しています。今後の労働市場が、最近の銀行や金融市場の状況変化を受けて軟化していくかどうかに注意が必要です。
   [図表1]米国の新規失業保険申請件数(季節調整前)
続いて、2月分の米個人所得・消費支出のデータが公表されました。[図表2]に示すとおり、財のインフレ率は鈍化が続いているものの、サービスのインフレ率は上昇が続いています。
   [図表2]米国のインフレ率(前年同月比)
サービスのインフレ率は、米連邦準備制度理事会(FRB)が注目していることもあり、その伸びが止まらない現状は、「今後の利下げを阻む要素」です。
とはいえ、インフレ率にも増してFRBの利下げを阻む要素は、相変わらずの「金融市場の利下げ期待を背景にしたナスダック市場の上昇」です。筆者は引き続き、銀行部門の今後の与信縮小を踏まえると「FRBはまずは政策金利を据え置き、その後まもなく利下げに転じられる」と考えています。
しかしながら、あのナスダック市場の強さを見ていると、「利下げは遠そうだなぁ。大丈夫かなぁ」と感じてしまいます。
さて、今回は、最近のアナリストの煽りやメディアの大げさなヘッドラインに惑わされないよう、米国の銀行に関するデータを眺めたいと考えました。
景気に循環はつきものです。今後、景気は鈍化するとみられますし、銀行の収益は悪化するでしょう。しかし、米銀はいつものとおり、時間をかければ、資本基盤を回復させることが可能です。
米銀のこれまでの動き
   1.利益水準と収益性
まず、[図表3]で、米国の商業銀行と貯蓄機関(→直近時点で合計4,706行)の収益性を確認しておきます。
【青色】の最終利益をみると、米銀は、サブプライム危機の影響で、最大3四半期連続で最終赤字を計上します。しかし、直近では、危機直前の1.5倍超の規模に利益を増やしています。
【緑色】のROE(自己資本利益率)をみると、サブプライム危機で利益が低迷し、公的資本を受け入れたこともあり、ROEは(危機後しばらく)幾分低位で推移していました。しかし、利益蓄積と公的資本の返済後、直近ではトランプ減税などを足掛かりに株主還元を拡大したことで、収益性は危機前に近い水準まで回復しています。
   [図表3]米国の商業銀行および貯蓄機関の最終利益とROE
   2.資本水準
   [図表4]で、米銀の資本の水準を確認しておきます。
【青色】の株主資本の金額をみると、米銀は、サブプライム危機で資本を受け入れた公的資本を返済しつつ、資本基盤を拡充してきました。【緑色】の総信用(=投資有価証券と融資・リース)に対する株主資本の金額をみると、規制強化の影響もあり、リスク資産に対して、資本を厚めに積んできたことがわかります。
前項でみた利益増加の背景には、総信用の増加も当然に寄与していますが、そうした信用の増加に沿って、資本基盤も拡大させています。
   [図表4]総信用に対する株主資本の比率(右軸)
「含み損」は大規模だが“気にすることではない”
[図表5]に、米銀の株主資本に対する投資有価証券の含み損の割合を示します。今回の危機で幅広く報道された項目です。データは、2008年からのみ公表されていますが、現在の含み損は過去と比べ、大規模であることがわかります。
   [図表5]米国の商業銀行・貯蓄機関の株主資本に対する投資有価証券の含み損の割合
ただし、これらの投資有価証券の約8割は、米国債や連邦政府機関が発行する債券/MBS(住宅ローン担保証券)であり、
1.利下げが起きれば、価格・収益性ともに回復します。
2.満期まで持てば、満額で償還されます。
3.仮に、今後、預金の取り付けが生じる際は、米連邦準備制度理事会(FRB)による流動性供給(=市中銀行が持つ国債・MBSなどの優良資産を担保にした貸出)によって、「投げ売り」(=売却損の計上=含み損の実現)は回避されます。
ですから、これらの投資有価証券の含み損の多寡を強調してもあまり意味はありません。むしろ、いたずらに家計や投資家を怖がらせてしまいます。
   融資の延滞率上昇は避けられない
今後、問題は、通常の景気循環と同様に、「融資の収益性低迷」→「不良債権の拡大」というかたちで生じるとみられます。
[図表6]で、主要な融資項目の延滞率(=30日以上89日以内の返済遅延の割合)を確認しておきます。自動車ローンやクレジットカードの延滞率は上向いています。他方で、住宅ローンや事業融資、商業用不動産の延滞率は低いままです。おそらく今後はすべての項目で延滞率が上昇していくとみられます。
   [図表6]米国の商業銀行および貯蓄機関の融資延滞率
ただし、[図表7]に示すとおり、たとえば、米国家計の借入残高はGDP比で低下しており、家計のバランスシートは健全化しています。他方の企業については、パンデミックで増えた借り入れが増えたものの、最近の名目GDPの拡大がこれを一部相殺しています。
最近の金利上昇によって、企業の返済負担は増えているとみられます。デフォルト率の上昇は循環的に避けられませんが、景気鈍化によって利下げが生じれば、企業の返済負担は和らぎます。
   [図表7]米国の家計部門と企業部門に対する信用供与(いずれもGDP比)
米銀の今後…大幅な引き当てでも「資本で吸収可能」
[図表8]では、米銀が今後、融資の引き当てを増やした場合に、それが株主資本のどの程度に相当するのかを試算したものです。
【1番左の棒】が、米銀による直近の融資残高です。【左から2番目の棒】は1つ目の試算で、融資の引当率が、現状の水準(1.6%)からリーマン危機時のピーク水準(3.5%)にまで引き上げられると仮定した場合の追加の損失額の規模(試算)を示しています。
【右から2番目の棒】が2つ目の試算で、現状の引当率に加えて、商業用不動産融資の10%、それ以外の融資の2%を追加的に引き当てると仮定した場合の追加の損失額の規模(試算)です。
いずれも、【1番右の棒】に示す株主資本の金額に比べると、必ずしも過大ではなく、今後、時間をかけて資本基盤を回復させていけば、資本で吸収することは十分可能でしょう。
   [図表8]米国の商業銀行・貯蓄機関の直近の融資残高と株主資本金額
重要な確認として、これらの追加損失(試算)は(それが仮に実現する場合には)、11四半期で全額が費用認識されるわけではなく、数年にわたって認識されていきます。
また、2処理に数年の時間をかけるあいだに、正常な債権から得られる利息収入など(=利益)と相殺されます。合わせて、利下げや景気の回復とともに、不良債権の一部は「要注意先」や「正常先」へと好転していきます。
言い換えれば、これらの追加損失(試算)は文字どおり、「損失」の面だけを考えており(=(「利益」の面を無視しており)、これらの数値をそのまま株主資本から差し引いて「残った規模」だけを考えることは適切ではありません。)あくまで追加損失の規模感を測るために参考までに例示するものです。
株主資本はまもなく回復へ転じる
[図表9]は別の試算です。リーマン危機時のROA(総資産利益率)の推移と現在の総資産金額に基づいて、今後の最終利益の推移を計算し、それらによって、株主資本がどの程度、減少しうるのかを試算したものです。
リーマン危機時は、融資の引き当てのみならず、保有有価証券の減損やデリバティブでの損失計上もありましたから、それらを含め、すべて「リーマン危機と同じ」とし、なおかつ、当時と同様に、時間をかけた処理として考慮しています。
すると、時間をかければ、そのあいだに得られる利息収入や利下げよって回復する利ザヤ、景気回復に伴う与信先の収益性・返済能力の向上などによって、株主資本はまもなく回復に転じていくことがわかります。
   [図表9]米国の商業銀行および貯蓄機関の資本金額とROA(総資産利益率)
レイ・ダリオの著書から引用したように、今回も「誰もが順調であるというふりをしつつ、何年もかけて償却していく」ことができるはずです。
   そして、利下げで好転する
過去は、景気後退とともに利下げが生じていますが、利下げの主要な背景は、経済の「要」である金融部門を支えるためです。
[図表10]に示すとおり、過去、銀行の株価が低迷するときには、景気後退にもなり、利下げも起きていることがわかります。銀行の株価が低迷するときは、銀行の収益が低迷すると市場が見込んでいるときであり、中央銀行は、金融部門による与信を極力維持するために、利下げを行って、銀行や融資先の収益性回復に努めます。
   [図表10]米国の政策金利と銀行株の相対株価
それは、リーマン危機のときも同様です。
   [図表11]米国国債のイールドカーブ
銀行株は長期でアンダーパフォームしていますが、最近の株価低迷もまた、利下げを呼び込むと見られます。
インフレを心配する方も多くおられますが、今後の与信収縮による需要低迷によって、インフレはさしたる懸念材料ではなくなるはずです。 
●OPECプラスの減産でも下落が続く可能性が高い原油価格 4/8
米WTI原油先物価格は1バレル=80ドル台で推移している。今年(2023年)1月下旬以来、約2カ月ぶりの高値水準だ。
OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)の加盟国が4月2日に「5月から年末まで追加減産を行う」と発表したことが上昇の起爆剤となった。
不意打ちだった自主的減産
サウジアラビアが「日量50万バレルの原油を自主的に減産する」と発表すると、他のOPEC諸国も追随した。ロイターによれば、イラクは21万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)は14万バレル、クウエートは13万バレル減産する。トータルの減産量は116万バレルに達する見込みであり、規模は世界の原油供給量の1%分に相当する。
市場は「OPECプラスは昨年11月実施している日量200万バレルの減産を維持する」と当然視していたため、今回の決定はまさにサプライズだった。OPEC当局者の間からも「完全に不意打ちを食らった」との嘆き節が聞こえてくる(4月4日付ブルームバーグ)。減産の仕方も異例だ。OPECプラス全体で減産枠を決めたわけではなく、各加盟国の自主的減産という形をとっている。
不意を突かれたことが原油価格の急上昇につながったわけだが、OPECプラスはなぜこのような緊急避難的な減産に踏み切ったのだろうか。
JPモルガンは4月3日、「供給過剰の影響が下半期に及ばないようにするための先手を打った措置だった」と見方を示した。最近の欧米諸国の金融不安が今回の決定に関係しているとの分析だ。
金融不安と言えば、2008年9月に起きたリーマンショックが想起される。金融危機のせいで市場のセンチメントが急速に悪化したのにもかかわらず、OPECは減産などの緊急措置を講じなかったことから、原油価格はその後1バレル=30ドル台にまで急落したという苦い経験がある。
原油価格は3月中旬、1バレル=65ドルを割り込んでおり、サウジアラビアをはじめOPECの首脳たちは「2度と同じ失敗を繰り返してはならない」との思いがあったとしても不思議ではないだろう。
市場へのインパクトはほとんどない
今回の決定により第2四半期の世界の原油市場は供給不足に陥るとの憶測から、「原油価格は1バレル=100ドルを超える」の声が出ているが、足元の原油市場の状況はどうなっているのだろうか。
OPECの3月の原油生産量は前月比7万バレル減の日量2890万バレルだった。3月下旬にイラク北部のクルド自治区からのトルコへの原油輸出(日量45万バレル)が停止したことが主な要因だったが、イラク政府とクルド自治政府との対立が4月4日に解消し、輸出は今後再開される見通しだ。
注目すべきはOPECの生産量が目標に達しない状態が続いていることだ。OPEC加盟国10カ国の減産遵守率は、2月の169%から3月には173%に上昇している。今回の減産決定は実際の生産量に近づけたに過ぎず、市場へのインパクトはほとんどないと言っても過言ではない。
次に世界最大の原油生産国となった米国だが、このところ生産量は日量1200万バレル強の水準で推移している。シェール企業は10年前、OPECの減産に乗じて大幅に生産量を増加させたが、今回は増産に動かない見通しだ。増産を望んだとしても、機器や労働力不足などが制約要因になっている(4月4日付ブルームバーグ)。
生産量とは異なり勢いを増しているのが米国の輸出量だ。
米エネルギー省は3月30日「昨年の米国の原油輸出量は前年比22%増の日量360万バレルに達し、過去最高となった」と発表した。昨年の欧州連合(EU)への原油輸出で米国が首位に浮上し、ロシア産原油の穴を埋めた形になっている。
米中の製造業不振で需要に不透明感
このように、供給が比較的堅調なのに対し、不透明感が増しているのは需要だ。
ゼロコロナ政策を解除した中国の原油需要が拡大するとされているが、その期待が肩すかしに終わる可能性が高まっている。
財新伝媒が4月3日に発表した3月の中国製造業購買担当者指数(PMI)は50となり、2月の51.6から低下した。個人消費は回復の兆しを見せているものの、自動車販売は前年比2桁減が続いている。製造業と自動車販売が低迷したままでは中国の原油需要のV字回復は見込めないだろう。
世界最大の原油需要国である米国の製造業も苦境に陥っている。米サプライマネジメント協会(ISM)が4月3日に発表した3月の米製造業景況感指数は前月から1.4ポイント低い46.3だった。好不況の節目である50を5カ月連続で下回った。
米中2大大国の製造業の不振は原油需要にとって大きな脅威だ。3月に発生した金融不安が今後、欧米諸国の原油需要を減少させるとの懸念も生じている。
OPECはこれまで世界の原油需要に対して強気の姿勢をとってきたが、今回の減産決定は「OPECも世界の原油需要に弱気になった」とのメッセージを期せずして市場に送ってしまったことになる。
サプライズ効果で原油価格は上昇したが、市場の関心は需要にあることから、「今後原油価格は再び下落傾向を強めるのではないか」と筆者は考えている。
米国のプレゼンス低下が招く中東の地政学リスク上昇
最後に今回の決定の外交的な影響について述べてみたい。
米国政府は4月3日、サウジアラビア当局者から事前通告された際、「(今回の決定について)同意できない」と回答したことを明らかにした。インフレ抑制のために原油価格の下落に躍起になっているバイデン大統領にとって不快だったことは想像に難くないが、バイデン氏は事を荒立てない姿勢を示している。
だが、最近の米国とサウジアラビアの間にすきま風が吹いていることはたしかだ。中国の仲介で3月10日にサウジアラビアとイランの外交関係の正常化が実現したことは、中東地域における米国の影響力の低下を象徴する出来事だった。サウジアラビアは米国の反発をよそに、ロシアを後ろ盾にしてきたシリアのアサド政権との関係改善も進めている。
サウジアラビアは米国との良好な関係を維持したいようだが、今回の決定で再び米国の顰蹙(ひんしゅく)を買ったことは間違いない。
米国の中東地域でのプレゼンス低下は中東地域全体の地政学リスクの上昇に直結する。中東地域が混乱に陥れば原油価格が高騰するばかりか、新たな石油危機が勃発してしまうかもしれない。
ウクライナ戦争の影響で日本の原油輸入の中東依存度は98%と史上最高だ。ウクライナ情勢ももちろん大事だが、流動化する中東情勢に関する情報分析が最も重要ではないだろうか。

 

●戻り鈍いイスラエル通貨 4/9
金融不安を背景としたドル買いは根強く、イスラエル通貨シェケルの戻りは限定的です。首相に返り咲いたネタニヤフ氏の権限強化による国内の混乱がシェケル買いを抑制していることもその要因です。中東の新しい調停役になりつつある中国との関係が注目されます。
1カ月前に米シリコンバレー銀行(SVB)の破たんをきっかけとした金融不安が強まると、リスクオフのドル買いに振れ、新興国通貨はおおむね対ドルで売り込まれました。米連邦準備制度理事会(FRB)の流動性供給を中心とした支援策により銀行危機への過度な懸念は和らいだものの、新興国通貨はまだ買いづらい状況です。シェケルもコロナ後の最安値圏となる1ドル=3.62シェケル付近でもみ合っています。
イスラエルの場合、コロナ禍やウクライナ戦争による経済へのダメージは弱まりつつあり、昨年10−12月期の国内総生産(GDP)は6%近い伸びを記録。今年1−3月期にはそれを上回るか注目されます。一方、消費者物価指数(CPI)はピークアウトし、中央銀行は4月3日の定例会合で利上げ幅を0.25%に縮小しました。ただ、回復基調は鮮明でありながら、株安・金利安・通貨安と市場の反応はネガティブです。
その理由として考えられるのは、ネタニヤフ政権の司法制度改革に対する国内の混乱です。最高裁の判断を国会が覆せる内容で、ネタニヤフ氏自身への有罪判決をかわす狙いが指摘され、三権分立が脅かされるとの批判から抗議活動がエスカレート。ここ数年の議会選で政党間の調整が難航し、昨年12月の発足に際しネタニヤフ政権が連立を組む極右政党の方針を取り入れたことが問題視されています。
ネタニヤフ政権は外交政策でも決定的なミスを犯しました。アラブ諸国との関係改善に向けサウジアラビアと外交の正常化を目指していたものの、サウジはイスラエルと敵対関係にあるイランとの国交を回復させたのです。サウジとイランは2016年に国交を断絶しましたが、中国の仲介により正常化を実現。こうしてイスラエルが蚊帳の外に放り出されたことも、政権への反発を助長しているようです。
ネタニヤフ氏は改革を延期すると発表したものの、前週末には抗議デモに16万人超が参加するなど反政府活動は拡大中です。再び解散・総選挙なら次の政権を発足させるのに再度混迷が予想されます。こうした状況を受け、格付け会社は格下げを警告しました。アメリカに代わって中東の新たな調停役となった中国とイスラエルがどのように関係を構築するかが当面の焦点になりそうです。
●名門クレディ・スイスを葬った金融ビジネスの「毒」 4/9
経営危機に陥ったクレディ・スイスをUBSが買収し、救済することになった。スイスの名門金融グループがこのような憂き目に遭った理由は、金融ビジネスの「毒」に耐えられなかったからだと筆者は考えている。その「毒」の正体と、それがクレディ・スイスをどのようにむしばんでいったのかをお伝えしたい。
クレディ・スイスをUBSが救済苦肉の策の買収劇
スイスの名門金融グループであるクレディ・スイスが経営不安に陥り、同業大手のUBSに買収されることになった。買収額は円貨換算で約4200億円と、世界的な大銀行であり、広いビジネスと顧客層を持つ銀行としては極めて安い。
しかし、金融関係者はむしろ、UBSの方を心配したのではないか。「クレディ・スイスを丸ごと買って、本当に大丈夫なのか?」と。しかも、この買収は、いかにも急ごしらえの苦肉の策に見える。
クレディ・スイスが発行した自己資本に繰り入れることができる特定社債は、円貨で2兆円分が無価値になることとなった。額は小さくても株主に価値が残って、社債が無価値とは金融常識的には奇妙だが、短期間に株主の同意を得るための苦肉の策だったのだろうか。また、スイス国立銀行(スイスの中央銀行)からは既に受けている数兆円の流動性支援の他に、UBSが被るかもしれない潜在的損失に備えた保証が1兆円程度提供されるという。
スイスとしても、UBSを含む金融界としても、何としても先の週末の間に話をまとめる必要があったのだろう。確かに、仮にクレディ・スイスが単純に破綻した場合、その波及効果は米リーマン・ブラザーズの倒産以上であった可能性がある。リーマンは根本的に証券会社なのに対して、クレディ・スイスは世界的な大銀行だ。クレディ・スイスは、間違いなく「トゥービッグ、トゥーフェイル(=大きすぎてつぶせない)」に該当する金融機関だった。
米国では、ジャネット・イエレン財務長官と、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、UBSとスイス当局の決断を歓迎する旨のメッセージを発したが、当然のことだ。もちろん、他人が決めることなので「絶対に」とは言えないが、この状況下でFRBが次の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを決めることは考えにくい(注:とはいえ、投資家の皆さんはご自身の責任で判断してください)。
クレディ・スイスは1856年の創業だが、顧客の秘密保持で名高いスイスのプライベート・バンクの老舗であり、欧州型のユニバーサルバンクの代表格の一つでもあって、堅実経営の名門銀行のはずだった。同社は、どうしてこのような末路を迎えたのか。
以下で、筆者の仮説を述べてみたい。クレディ・スイスは、現代の金融ビジネスが抱える毒に耐えられなかったのだと考えられる。
クレディ・スイスは国内でも「ワル」だった
かのリーマン・ブラザーズがまだ健在だった2000年代の初頭に、金融マンに向かって「悪い外資系金融を3社挙げよ」と問うた場合、答える人によって順番が変わったかもしれないが、おそらく、シティバンク、リーマン・ブラザーズ、クレディ・スイスの3社の名前が挙がっただろう。次点やその次の名前も出てこなくはないのだが、現在も営業中なので名指しはやめておこう。
つぶれてしまったリーマンの名前を挙げるに当たって今や気を遣う必要はないが、日本で三度にわたって業務停止命令を受けたシティバンクに加えて、クレディ・スイスが同格のワルに並ぶのはなぜか。その理由は、例えば逮捕者まで出た決算粉飾幇助(ほうじょ)の仕組み債販売に血道を上げるがごとく、もうけのために手段を選ばなかったことや、日本株の取り扱いをいきなりやめて撤退してしまうようなビジネスの荒っぽさが際立っていたからだ。
実は、筆者はかつてグループ転職で同社の証券部門に入りかけたことがある。しかし、結果的には別の証券会社に入社した。クレディ・スイスの面接は、ひたすら見込み顧客のリストと目標収益を問うものだった。入ったのが別の会社で、つくづく良かったと今でも思っている。
クレディ・スイスは、社員の扱いも手荒だった。端的に言って、クビになるまでの期間が短い。経験者が中途入社して、証券ビジネスなら早ければ半年、資産運用系の仕事でも1年で、成果が上がらなければクビになる。ある年には、株式部の部長が3回替わったことがあったと記憶している。確かに、同社に転職した筆者の知人が1年でクビになった事例が通算3回ある。
また、日本株の取り扱いからいきなり撤退した年には、同社にその年の春に新卒で入社して、たまたま株式部門に所属していたために同年の秋にクビになった青年(慶應義塾大学卒だった)の就職の世話に関わったことがある。筆者の勤務先の証券会社では採れなかったが、他の会社を紹介した。外資とはいえ、新卒で採用した社員にここまでするものかと驚いた。
日本のビジネスは、クレディ・スイスにとって「末端」の一つにすぎないのかもしれない。たぶん、そうだろう。しかし、こうした所業を見ているので、近年の同社が、麻薬取引関係のマネーロンダリングへの関わり、顧客情報の漏洩、米国のファミリーオフィスとの取引での巨額損失などの不祥事続きであったことに関して何ら驚きはなかった。いずれについても「クレディ・スイスなら、いかにもあり得る」と思えた。
そして昨年後半から、ついに大規模な顧客資金の流出が始まった。いったん「信用」を失うと銀行という業態はもろい。
では、何が名門銀行の企業風土をここまで堕落させたのだろうか?
欧州系の銀行を席巻した「投資銀行」という悪夢
1990年代、ヨーロッパの銀行は軒並み「米銀化」した。米銀と書くと正確ではないかもしれない。より正確には、「米国の投資銀行ビジネス」にかぶれた。
投資銀行というと気取った響きがあるが、要は証券会社のビジネスだ。具体的には、自己資金を用いた、大規模なトレーディング、株式・債券の引き受け、M&A(企業や事業の合併・買収)の仲介ビジネスなどを指す。
これらのビジネスの「ディール」は、リスクも大きいが、うまくいった場合の収益も大きく、ディールをまとめたプレイヤーの報酬も大きい。
それまで、就職先としてのヨーロッパの金融機関は、大まかに言って「報酬はそこそこだが、クビにはなりにくい」という評判だった。他方、米国の投資銀行は「クビになりやすいけれども、報酬は大きい」職場であった。
スイス、ドイツ、フランスなどヨーロッパの銀行は、一つの金融機関で銀行業と証券業を両方行うユニバーサルバンクのスタイルだった。当時、銀行として大きな資金力を持つヨーロッパの銀行の投資銀行業務進出に対して、米国の投資銀行や日本の証券会社が、太刀打ちできなくなるのではないかという危機感が台頭した時期があったことが思い出される。
クレディ・スイスは、米国の投資銀行であったザ・ファースト・ボストンと1978年に提携して、88年には同社を買収しており、欧州銀行の米銀化の先頭ランナーの一つであった。
おそらく、このザ・ファースト・ボストンの買収が、クレディ・スイスに米国型の投資銀行の毒がしっかりと組み込まれた不可逆的な転機だったのだろう。徐々に米国流をまねするのではなく、毒は一気に全身に回った。毒と体質とが戦うのではなく、毒は体質の一部になって、体質自体を支配するようになった。
では、堅実な金融業の伝統は、投資銀行の毒に勝てないのか?
経済の世界では、残念ながら「悪化が良貨を駆逐する」場合が多いのだと言わざるを得ない。
クレディ・スイスを葬った投資銀行の「毒」とは何か
投資銀行の「毒」とは何か? 端的に言って、その中核は投資銀行の「プレーヤー個人のビジネスモデル」であり、それを許容する空気を組織内に醸成する相互作用のことを指す。
プレーヤーとは、トレーダー、M&Aなどのディールメーカー、営業の担当者など主に「P/L(損益)を持った個人」および、その周辺の人々を指す。例えば、調査部の証券アナリストは個人としてP/Lを持っていないかもしれないが、分析対象企業にビジネスに使える影響力を持っていたり、経営者とのコネクションを持っていたりして収益に貢献する。そのため、広義のプレーヤーと呼んでいい場合があり、大きな報酬をもって会社に抱えられる場合がある。
典型的な手口は以下の通りだ。
   1_プレーヤーとして投資銀行に入る
   2_成功報酬の約束の下に仕事に取りかかる
   3_会社にも顧客にもできるだけ大きなリスクを取らせる
   4_うまくいったらもうけに比例した成功報酬をもらう
   5_失敗したら転職して次のカモ(投資銀行)を探す
彼らの報酬が巨額なものになり得る仕掛けは、「成功報酬」と「リスクの拡大」の組み合わせにある。
ヘッジファンドのフィー(手数料)の一部によくある成功報酬もそうなのだが、この契約は金融論的には「獲得利益を原資産とするコールオプション」である。そして、コールオプションの価値は原資産のボラティリティー(変動性)と正の相関があり、リスクをできるだけ大きくして価値の増大を図るのが、プレーヤー側から見たこの仕組みを利用するコツだ。
プレーヤーは、いわば勝ったときに成功報酬をもらう約束でカジノのテーブルに着いたギャンブラーのような存在だが、クレディ・スイスのプレーヤーは銀行付きの潤沢な資金でプレイするのだから素晴らしい。
「能力のある者が、能力を使って稼いで、稼ぎに見合う報酬を取ることは全く正当だ」という米国型能力主義と、「高度なノウハウを持ったプロを雇わないと投資銀行はもうかりませんよ」というプレーヤー集団から投資銀行に対する脅しとを組み合わせて、プレーヤーは投資銀行の株主という「資本家の中の資本家」をカモにしている。
「労働者から搾取される資本家」という構図も現実には多い
最近になって今さらカール・マルクスにかぶれている人にぜひ聞いてほしいが、現実の経済では、資本家が常に労働者を搾取するわけではない。力関係やゲームの性質によっては、資本家が搾取される側に回るケースが頻繁にあるのだ。今回のクレディ・スイスの場合、筆頭株主であるサウジ・ナショナル銀行以下の株主は、不運にも損失を負担する巡り合わせになった「カモ」であった。
ちなみに、投資銀行の経営者は「代打ちギャンブラー組織の元締め」のような存在であって、彼(彼女)も主に子分を使ってだが、投資銀行の株主にリスクを取らせて、たっぷりと成功報酬を得ることを目指す大物プレーヤーなのだ。
2000年代に入ってからも、少なくともリーマンショックの前まで、クレディ・スイスは巨大な銀行付きのギャンブラーだった。証券ビジネスなどはそのための手足の一部にすぎなかった。絶えず地球上の開いている市場をめがけて、24時間体制で巨大なポジションを回していることを内部の関係者から自慢されたことがある。
ちなみに、投資銀行の同業他社は、米国でのように銀行に衣替えしてリスクテイクのレバレッジ比率を下げて規制に従って見せたり、富裕層向けの資産管理のような別のビジネスに注力したりで、今のところしぶとく生き延びている。
クレディ・スイスも資産管理ビジネスでは大手だが、投資銀行的な毒を持ったプレーヤーが関わってビジネスが進行すると、危ない資金源の顧客と取引をしたり、富裕層向け取引でもリスクを取る仕掛けを忍び込ませたり、顧客情報を不正に使ったりといった「反則行為」に対する大きなインセンティブがそこかしこで働いていたことが想像できる。
もちろん、元投資銀行も含めて、クレディ・スイス以外の会社にも同様のリスクが十分あり得ることを付記しておく。
クレディ・スイスの経営危機は「来るべくして、来た」
クレディ・スイスはリーマンショックを比較的軽い傷で乗り越えたが、行内のプレーヤーたちが自分自身の収益のために銀行にリスクを取らせる行為はやむことがなく、この状態を制御しない限り、経営危機は「来るべくして、来た」と言うべきものだろう。
UBSによる経営の下では、常識的にはクレディ・スイスの主要なプレーヤーたちが一掃されることになるはずだが、それで物事が片付くかどうかは不透明だ。個々のビジネスや顧客をいわば質にとって存在意義を主張するプレーヤーもいるだろうし、UBS自身の中にも同じカルチャーのプレーヤーがいないとは限らないからだ。
ノウハウなり、情報なり、立場なりを持った個人が、金融資本をカモってしまう構造に見られる金融ビジネスの制御の困難は、世界経済が抱える難題の一つだ。金融は、お金の流れを通じて、エネルギー開発からいわゆるITビジネスまで広い範囲のビジネスを商売の種にして生き残ることができて、ギャンブルのテーブルに例えると賭け金の大きなテーブルだ。
プレーヤーにとって都合のいいこの仕組みは、今日では、主に米国の企業経営者によって模倣されて、経営者の報酬を急上昇させることに利用されているように見える。プレーヤーたちに「運」や「リスク」の分まで報酬を巻き上げさせない知恵が、企業の株主をはじめ、投資家を含む大衆の側では必要だろう。
せめて、「成功報酬にインチキがあるかもしれない」というくらいのことが分かる人が増えるといいのだが、仕組みが分かった人間の多くは、これを批判するよりも利用する側に回ってしまうので、経済を適切に制御することはつくづく難しい。
クレディ・スイスという存在が地球上から消えて、少しホッとしたというのが正直なところだが、安心は束の間なのかもしれないことに注意しよう。金融ビジネスの毒は簡単には消えない。 

 

●ビットコインと金融危機 4/10
以前に「国が引き起こした景気後退の中では、暗号資産が金融インフラの代替として注目されることはないだろう」と書いた。しかし、2023年3月に入り、米国の銀行が相次いで破綻したことで状況が変わりつつある。欧州においても大手銀行クレディ・スイスの経営状況が悪化し、同じく大手銀行UBSによる買収によって救済される事態となった。日本の地銀も他人事ではない、そんな声が聞こえる。
このように金融システムへの信用不安が世界的に広がる中、ビットコインは強い値動きとなっている。暗号資産関連企業と取引のある銀行が揃って破綻し、業界全体への懸念から一時は大きく売り込まれたが、米国政府による預金者保護が発表されると他のアセットを凌ぐ早さで急回復した。上昇時には金との相関が強まり、一部ではビットコインがデジタルゴールドとして買われていることが示唆された。
暗号資産を知らない人は「一体なぜ?」と疑問に思うだろうが、ビットコインの歴史を振り返ればその理由がはっきりする。
ビットコインは世界的な金融危機を引き起こしたリーマン・ショック事件の直後となる2008年10月に誕生した。正確には2009年に入ってから発行がスタートしたが、いわゆる中央集権的な金融システムへの不安が広がった時にビットコインは世に出てきた。まさしく今のように銀行セクターの信用が低下する中で、個人同士が自由に取引できる電子通貨システムが作られたのである。
ビットコインはこれまでも金融危機のタイミングで注目されてきた。2013年に欧州の小国キプロスを巡る金融危機が起きた時も、金融システムが停止する中でビットコインが逃避資産として買われた。2020年に新型コロナウイルスが発生した時も、世界経済が不安定になる中でビットコインは金とともに買われた。そして2023年に米国の新興銀行が立て続けに破綻した時も、ビットコインは同様に買われている。
シリコンバレー銀行等の破綻劇はリーマン・ショックほどの影響は出ないとの見方が多い。しかし、今回の景気後退を起こしうる要素として銀行セクターの信用低下が加わったことはビットコインが再び注目を集めるチャンスかもしれない。
●米 銀行破綻から1か月 市場は落ち着き取り戻すも警戒感拭えず  4/10
世界に金融不安を引き起こしたアメリカの銀行「シリコンバレーバンク」の経営破綻から10日で1か月となります。当局が打ち出した異例の対策によって市場はひとまず落ち着きを取り戻していますが、アメリカのほとんどの銀行が債券の含み損を抱えるなど警戒感が拭えない状況が続いています。
アメリカでは先月10日から12日にかけて2つの銀行が相次いで破綻したことをうけて、政府が預金を全額保護する異例の措置を取るとともに、FRB=連邦準備制度理事会は銀行が有利な条件で資金を借りられる新たな枠組みを設けました。
こうした措置の影響もあってニューヨーク株式市場ではダウ平均株価が破綻前の水準を上回るなど市場はひとまず落ち着きを取り戻しています。
一方でほとんどの銀行ではFRBの急速な利上げによって保有する債券の価格が下落し、含み損を抱えていてその額は去年末の時点で6200億ドル、81兆円余りにのぼっています。
また、大規模な金融緩和で資金が流れ込んでいた商業用不動産の価格も下落し、融資している銀行への悪影響が懸念されています。
FRBの幹部は今後、銀行の間で損失が発生するリスクがあり、金融システムが元に戻るには時間がかかるという認識を示しているほか金融市場でも警戒感が拭えない状況が続いています。
FRB融資はピーク時から減少
アメリカで2つの銀行が破綻した直後はFRBによる銀行への資金供給額が急増しました。
“最後の貸し手”と言われるFRBが銀行の資金繰りを強化するために供給した融資の総額は破綻直後の先月15日時点で1647億ドル、日本円で21兆円余りと前の週に比べて35倍以上に急増しました。
その後も高い水準ではあるものの、3週連続で減少し、今月5日時点では1487億ドル、19兆円余りとピーク時に比べて160億ドル、2兆円余り減少しました。
アメリカ政府とFRBは金融危機を防ぐためにはあらゆる手段を講じる考えを繰り返し強調していて、市場では金融不安が和らいでいるという見方も出ています。  
●「物価高倒産」前年度比3.4倍、価格転嫁難で=帝国データ 4/10
帝国データバンクが10日に公表した調査によると、2022年度の「物価高倒産」は463件と、前年度の136件から3.4倍に増加したことが明らかになった。22年度の物価高に起因し、価格転嫁が難しい企業を中心に倒産が確認された。
法的整理企業のうち、原材料などの仕入れ価格上昇、価格転嫁ができない値上げ難などで収益が維持できずに倒産した企業を集計した。
業種別にみると、製造業(96件)、建設業(94件)、運輸・通信業(83件)など、価格転嫁率の低い業種が目立った。負債規模別にみると、「1億─5億円未満」が205件となり、中規模以上の倒産が目立った。要因別では、原材料が37.4%と最多で、エネルギーコスト(23.7%)、包装・資材(20.4%)と続いた。
また、物価高による23年3月単月の倒産件数は67件と前月より急増し、9カ月連続で最多を更新。今後も増加傾向で推移していくと予想している。
22年度の全国企業倒産は前年比14.9%増の6799件と、リーマン・ショック時の2008年度以来14年ぶりに前年度から800
件以上大幅増加した。負債総額は前年度比97.7%増の2兆3385億9100万円と、2017年度以来5年ぶりに2兆円台となった。
業種別では14年ぶりに全業種で前年度を上回り、サービス業が最多となったほか、小売業も続き、コロナ関連の倒産が目立った。主因別にみると、「不況型倒産」が5249件と全体の77.1%を占めた。「経営者の病気、死亡」は過去20年間で最も多かった2021年度を上回り過去最多を更新、0.7%増の277件だった。

 

●日銀 新体制始動 今月下旬に新総裁就任後初の金融政策決定会合  4/11
日銀の植田新総裁は10日夜、今の大規模な金融緩和を継続し、2%の物価安定目標の実現を目指す考えを示しました。今月下旬には、就任後初めてとなる金融政策決定会合に臨むことになっていて、今後の金融政策についてどのような方針を示すのかが焦点となります。
日銀の植田新総裁は10日夜、就任の記者会見を開き、長期金利と短期金利に操作目標を設けて金融緩和策を行う今の枠組みについて、「継続するということが適当であると考えている」と述べ、大規模な金融緩和を継続し、2%の物価安定目標の実現を目指す方針を示しました。
また、目標達成の時期について植田新総裁は、現時点では見通せないとしつつも、「賃金でも少しよい動きが出ている。目標の達成につながる可能性は十分ある」と述べ、任期中の目標達成に向け全力をあげる考えを示しました。
任期が始まったばかりの植田新総裁は、このあと今週12日と13日にアメリカ・ワシントンで開かれるG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議に出席し、海外の中央銀行のトップらと、欧米で広がった金融不安への対応などについて意見を交わすことにしています。
さらに今月27日と28日には、就任後初めてとなる金融政策決定会合に臨みます。
市場の一部には、日銀が総裁の交代を機に金融緩和策を修正するのではないかという観測も出ているだけに、植田新総裁が今後の金融政策について、さらに具体的な方針を示すかどうかが焦点となります。
●機能不全が続くG20財務相・中銀総裁会議 途上国債務問題は金融危機に 4/11
G20財務相・中央銀行総裁会議では銀行不安と世界経済減速がテーマに
4月12・13日にワシントンでG20(主要20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる。9日に就任したばかりの日本銀行の植田新総裁も出席予定であり、国際舞台のデビューとなる。
G20の枠組みにはロシアや中国が参加している。インドで行われた前回2月のG20財務相・中央銀行総裁会議では、ロシアのウクライナ侵攻を巡る表現で各国間の意見の隔たりが埋まらずに、共同声明の採択が見送られた。今回も共同声明の採択は難しいと見られている。G20の機能不全が改めて浮き彫りになるだろう。
ロシアのウクライナ侵攻以外に、経済面で大きな議題となるのが、3月に欧米で生じた銀行不安への対応だ。再発防止や新たな銀行規制が議論されるだろう。
また、銀行不安が一層高めた感がある世界経済の減速リスクも、重要な議題となる。10日からワシントンで開かれる国際通貨基金(IMF)・世銀年次総会で、IMFは最新の世界経済見通しを発表する。IMFのゲオルギエバ専務理事は6日の講演で、「2023年の世界経済の成長率は3%未満で、さらに今後5年間は3%前後で推移する。これは、1990年以降最も低い成長率見通しだ」と述べている。
世界銀行が3月に、向こう10年程世界の成長率は一段と低下するとの見通しを打ち出したが、IMFもこれに続き、中長期の成長率が下振れするとの見通しを示す見込みだ(コラム「銀行不安が高める世界経済の後退確率と世界銀行が指摘する『失われた10年』のリスク」、3月28日)。
中長期の成長率が下振れるきっかけとなったのは、コロナ問題とロシアによるウクライナ侵攻による物価高騰である。これに深刻な銀行不安、金融不安が重なれば、世界の成長率見通しはさらに厳しくなる。
深刻さを増す途上国債務問題
経済・金融の環境悪化に最も脆弱なのは、巨額の債務を抱える途上国だろう。コロナ問題を受けた医療関連、景気対策関連の支出拡大や、エネルギー・食料価格上昇への対応策が政府債務そして対外債務を急増させた。世界銀行によると、2021年末の低・中所得国の対外債務残高は約9兆3,000億ドルと、2010年末の約4兆2,900億ドルから倍増したのである。
さらに、物価高騰への対応として2022年3月に始まった米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げ(政策金利引き上げ)は、ドル建ての対外債務を多く抱える途上国に大きな打撃となった。金利上昇が利払い負担を増加させる一方、FRBの利上げによって進んだドル高は、自国通貨に換算したドル建て対外債務を大きく膨らませたのである。さらに、金利上昇によって資金は米国に引き揚げられ、これが途上の金融市場を不安定にさせている。
こうした点から、途上国債務問題は、G20財務相・中央銀行総裁会議で最大のテーマとなるのではないか。かつて途上国債務問題は先進国の問題であった。債権国と債務国が2国間の債務返済見直しなどを協議する場は、先進国の代表からなる国際会議「パリクラブ」だった。
ところが、途上国債務問題がG20財務相・中央銀行総裁会議で話し合われるきっかけとなったのは、債権国としての中国の台頭であった。国際開発協会(IDA)加盟の最貧国の2国間債務残高のうち、対中国の割合は2010年の18%から2021年には49%にまで拡大したという。ただし、中国による途上国への貸出の実態は、明らかになっていない部分も多い。
債務問題への対応で債務減免の必要性は高まっている
途上国の債務問題が深刻さを増す中、もはや債務返済の繰り延べではなく債務減免の必要性が高まっている段階に見える。米国のボストン大学は4月6日に公表した報告書で、既に債務危機に陥っているか陥るリスクが高い61か国の債務の減免が不可欠、としている。さらに、必要な債務減免の額は最大で5,200億ドルに上るとした。
他方で、中国は概して債務減免に否定的であり、返済期限の延長を認めつつも、つなぎ融資によって引き続き債務返済を途上国に求めている。
先進国と中国が、何とか連携して債務再編で合意できた例がスリランカだ。外貨不足や経済危機に直面していたスリランカでは、パリクラブに加え、中国やインドなども協力を表明した。
インド輸出入銀行がスリランカとの債務に関して、返済期限の延長や金利の引き下げなどの救済策を取り、中国輸出入銀行が2022年と2023年を返済期限とするスリランカの債務支払いを猶予することで合意した。これら主要債権国の対応を条件に、IMFは3月の理事会でスリランカ向けの30億ドル相当の支援策を承認したのである。
途上国債務問題はG20の機能回復の試金石。失敗すれば金融危機の引き金にも
しかしパキスタンの債務問題では、先進国を中心とするパリクラブが経済改革の実施と引き換えに債務軽減をパキスタンに求める姿勢であるのに対し、主要債権国の中国はつなぎ融資で返済の継続を促す姿勢であり、債務再編策の合意ができない状況が続いている。
IMFのゲオルギエバ専務理事は中国の李強首相に対して、中国はチャドやスリランカの債務再編については協力的で合意に貢献したと評価する一方、ザンビアやガーナ、エチオピアなどの債務再編合意に向けた前向きの取り組みを要請した。
途上国債務問題は、純粋な経済問題ではなく、中国にとっては安全保障分野も含む国家戦略と深く関わっていることから、情報開示などの点を含めて、先進国側と足並みを揃えた対応には慎重である。
こうした先進国と中国の利害が関わる途上国債務問題で、双方が問題解決に向けて強く連携することは簡単でない。しかしそれが可能となるかは、G20の機能を取り戻していけるかどうかの重要な試金石となるだろう。
他方、それに失敗すれば、途上国債務問題がより深刻化するだろう。それは世界の金融市場を大きく混乱させるきっかけとなり、金融危機の引き金ともなりかねないのではないか。
●4マスは新聞がプラス、ネット広告はプラス2.6% (広告売上動向 2023/2) 4/11
4マスは新聞のみプラスに
経済産業省が先日発表した「特定サービス産業動態統計調査」の結果によれば、2023年2月分の日本全体の広告業全体における売上高は前年同月比でマイナス1.1%となり、減少傾向にあることが分かった。主要業務種類5部門(4マスとも呼ばれる4大従来型メディアである新聞・雑誌・テレビ・ラジオと、新形態の広告媒体となるインターネット広告)では雑誌、テレビ、ラジオがマイナス、新聞とインターネット広告がプラスを示した。下げた部門では雑誌が一番下げ幅は大きく、マイナス13.3%。
   4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2023年1月〜2月)
今件グラフの各値は前年同月比を示したもので金額そのものではない。また前回月分からの動きが確認しやすいよう、2023年1月分のデータも併せてグラフに反映している。
しばらくは軟調が続いている4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)だが、今回月では新聞のみがプラスを示した。2015年以降4マスは概して軟調が続いており、特に紙媒体の新聞と雑誌は下げ基調が止まらず、2ケタ台の下げ率を見せたのは新聞が26回、雑誌は44回。
   4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)(2014年1月以降)
一方、インターネット広告はプラス2.6%と前回月から続きプラスを示す形となった。新型コロナウイルス流行による経済活動萎縮の影響はインターネット広告への出稿にも生じていたが、回復の動きも他部門と比べて早いものがある。
4マスとインターネット「以外」の一般広告(従来型広告)の動向は次の通り。
   一般広告の広告費(前年同月比)(2023年2月)
全部門で最大の下げ幅を示した海外広告だが、金額は約16億円。売上高合計へは大きな影響は与えていないようだ。
インターネット広告は新聞の約7.21倍
部門別の具体的売上高は次の通り(億円単位における小数点以下は四捨五入しての表記となる)。
   月次広告費(億円)(2023年2月)
現時点では2014年1月を最後に、毎月の新聞の広告費の金額はインターネット広告の金額を超えておらず、金額面で主要業務種類5部門の上位順位はインターネット広告・テレビ・新聞の順となっている。
今回月では両者の金額差は約1033億円。約7.21倍の差がついている。もちろんインターネット広告の方が上。「従来型メディアの紙媒体全体の広告費」は約192億円で、これはインターネット広告費よりも下。つまり今回月も前回月に続き「インターネット広告の売上高が、大手4マスのうち、紙媒体全体の広告費を上回った」ことになる。
次のグラフは主要5部門、そして売上高合計(主要5部門以外の広告も含むことに注意)について、公開されているデータを基にした中期的推移を示したもの。今調査でインターネット広告の金額が調査されはじめたのは2007年1月以降なので、それ以降に限定した流れを反映させている。
   4大従来型メディアとインターネット広告の広告費(前年同月比)
雑誌と新聞の折れ線がグラフ中では「0%」よりも下側に位置する機会が多い。これは金額が継続的に減っていることを意味する。前年同月と比べてマイナスの値が続けば、金額が漸減していくのは道理ではある。そして効果が上がらない、広告力(世間一般に働きかけられる影響力。メディア力)の無いメディアに広告費を継続して大量投入することは、少なくとも広告の直接対価によるものとしては想定しがたいので、雑誌・新聞の広告力が漸減していると広告主からは判断されているようだ。
昨今の動向を見返すと、やや起伏は大きいもののインターネット広告が確実に上昇基調(プラス領域)の中にあり、他の業種とのかい離が生じていたこと、テレビがプラスマイナスゼロ付近でもみ合いをしていたことが分かる。ラジオも似たような動きだったが、2017年初頭あたりから失速したようだ。
2015年に入ってから4マスの軟調さが際立ち、現在に至るまで紙媒体では継続しているのも気になる。2014年同月からの反動でもなく、広告市場における何らかの動きが生じている可能性は否定できない。とりわけ新型コロナウイルスの流行による影響を大きく受けているように見える。
他方、インターネット広告も2017年以降伸び率がやや頭打ち、むしろ低下を示している。特に2019年10月以降は低迷感が否めなかった。消費税率引き上げ、そして新型コロナウイルスの流行によるものだろう。そして前年同月比でみる限りでは、新型コロナウイルス流行による広告費の減少ぶりは、リーマンショックのそれに等しい、むしろ下落期間が短い分だけ急降下な動きであることが確認できる。雑誌に限ればリーマンショック以上の下げ幅。そしてインターネット広告もともに大きく落ちていただけに、全体としてもより大きな下落といえる。
2020年夏ぐらいからの持ち直しで早期にプラス圏に転じ、さらに新型コロナウイルス流行前の基準に戻り、その上勢いよく成長しているようにすら見えるインターネット広告が救いではある。4マスも大きな上昇を見せていたが、これは前年同月の大幅減からの反動でしかないため、失速してしまっている。中でも昨今では再び雑誌が大きな下落を示しているのが確認できる。
昨今ではインターネット広告の伸び方も足踏み状態の気配を見せるが、これは単に前年同月の値が非常に大きかったことの反動でしかない。例えば今回月分となる2023年2月との比較となる2022年2月はプラス11.4%という高い値を示している。
何はともあれ新型コロナウイルスの流行、そして景気の足を引っ張っているもう一つの要素であるロシアによるウクライナへの侵略戦争が片付かないとお手上げ状態なのが実情には違いない。 
●植田日銀は早々から打つ手なし…金融緩和修正なら日本は3度目の大やけど 4/11
日銀の植田新体制が10日スタート。植田和男新総裁の初会見は、金融緩和の修正に関する質問が相次いだ。植田氏は「現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みを継続することが適切だ」と強調したが、市場では早期修正の見方が広がっている。
QUICKと日経ヴェリタスの調査(3月6〜8日実施)によると、市場関係者75人の約半数が4月か6月の金融政策決定会合で修正されるとみている。この観測に、金融ジャーナリストの森岡英樹氏は首をかしげる。
「世界各国の懸念はインフレから景気後退へとシフトしつつあります。米国の利上げは5月でいったん停止し、景気次第では年内の利下げもささやかれている。3月上旬の米SVB(シリコンバレー銀行)の経営破綻以降、世界的に金利が低下しています。日本の長期金利も日銀が設定する上限利回り0.5%以下で推移している。国債市場も安定しており、早期にYCCを修正する必要性はなくなっています」
YCC修正は事実上の利上げを意味する。再び金融緩和へと向かう世界の潮流に逆行し、植田氏は周回遅れの引き締めを決断するのか。想起されるのは、日銀の世界的な危機対応をめぐる2度の“前科”だ。
2000年8月。ITバブルへの懸念が指摘され始めていたのに、当時の日銀・速水総裁は楽観視し、ゼロ金利解除に踏み切った。その後、バブルがはじけ、景気は急降下。翌01年3月に慌てて金融緩和に転じざるを得なかった。
米国でサブプライムローン問題が広がっていた08年6月。白川総裁(当時)は「たぶん、危機、最悪期は去ったのだろう」として、政策金利を据え置いた。わずか3カ月後、リーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけに「リーマン・ショック」が発生。同年10月末には利下げに追い込まれた。
世界情勢を読み切れず、後手対応により2度も“大やけど”。3度目の過ちはまっぴらごめんだ。
「00年のゼロ金利解除に、日銀審議委員だった植田氏は反対しています。植田氏は足元の世界情勢を見て早期の緩和修正には踏み切らないでしょう。ただ、植田氏ができることは緩和の維持まで。速水氏や白川氏の時は金利を下げる余地があったのですが、今はゼロ金利。植田氏の場合は利下げしようにもできない。利上げを繰り返してきた各国は景気後退に対抗して、利下げに踏み切れます。ところが、植田氏には“打つ手”がないのです」(森岡英樹氏)
日本だけが取り残されるのか。

 

●下振れリスクへの警戒継続、ウクライナ戦争や銀行の緊張で=米財務長官 4/12
イエレン米財務長官は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う経済的悪影響や最近の米銀行システムなどへの圧力を踏まえ、世界経済が直面する下振れリスクを引き続き警戒するという見解を示した。一方で、全体的な見通しは「それなりに明るい」と述べた。
国際通貨基金(IMF)は11日改定した世界経済見通し(WEO)で2023年の世界経済の実質成長率を2.8%とし、1月の前回見通しから0.1%ポイント下方修正したほか、金融システムの混乱が深刻化すれば生産活動が景気後退に近い水準まで落ち込むおそれがあると警告した。
これに対し、イエレン長官はIMFと世銀の春季会合の冒頭記者会見で「世界経済について否定的な見解をしすぎることはない」とし、「もっと前向きになるべきだ」と語った。
先月の米銀2行の破綻後に信用収縮を示唆する証拠は見られていないが、その可能性はあるとした一方、米銀行システムは引き続き強固で健全な資本と流動性を維持しており、世界金融システムは2008年の金融危機後に実施された大幅な改革により弾力的と指摘。「それでもなお下振れリスクへの警戒は怠らない」と言明し、春季会合では銀行の動向を巡る討議を続けたいという考えを示した。
さらに「引き続き堅調な雇用創出、インフレ率の緩やかな低下、堅調な個人消費など米経済が非常に好調に推移しているのは明らかだ。もちろんリスクは依然としてあるが、景気が悪化するとは想定していない」とした。
また、世界経済は昨秋に見込まれていたよりも良好な状態にあり、エネルギー・食品価格は安定し、サプライチェーンを巡る圧力は引き続き緩和されていると述べた。
ロシア産原油製品に対する価格上限はロシアの主要な収入源に打撃を与えると同時に世界のエネルギー市場安定化の一助となっていると述べた。
このほか、米財務省が金融安定理事会(FSB)やバーゼル銀行監督委員会などの国際的な機関を通じて、ノンバンクの脆弱性に対処しながら取り組んでいくと確約。債務面に関しては、高水準の債務負担が「あまりにも多くの国々に大きな経済的逆風」をもたらし、低所得国の半数以上が債務危機に近いか、債務危機に陥っているとし、国際的な債務再編プロセスを改善するための措置を呼びかけた。
ウクライナ戦争に関しては、ロシアから自国を守り続けるウクライナを支援し続け、制裁などの措置を通じた戦争終結に向けロシアに圧力をかけ続けるよう国際的なパートナー国に呼びかけるとした。
●MMFとは何か 銀行危機が起こると、なぜMMFの人気が高まるのか 4/12
・シリコンバレー銀行の破綻で銀行への信頼が揺らいだ投資家は、マネー・マーケット・ファンド(MMF)に現金を注ぎ込んでいる。
・MMFによって運用される資金の総額は、3月29日に5兆2000億ドルと過去最高を記録した。
・ここでは、MMFとは何か、そしてなぜ人気が急上昇しているのかについて説明する。
2008年の金融危機以来となる大規模な銀行破綻が発生し、それに恐怖を感じた人々は資金をマネー・マーケット・ファンド(money-market funds:MMF)に移している。
Investment Company Institute(ICI)が発表したデータによると、2023年3月29日までのわずか3週間で、3040億ドル(約40兆円)がMMFに流入し、それらのファンドによって運用される資金の総額は5兆2000億ドル(約690兆円)と過去最高を更新した。
この資金移動は、2023年3月上旬のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行(Signature Bank)の破綻がきっかけとなって始まった。預金者は銀行の安全性に不安を覚え、小規模で脆弱な金融機関に預けていた資金を引き出し始めたのだ。
ウォール街の大企業はこの資金移動の恩恵を受け、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)に520億ドル(約6兆9000億円)、JPモルガン(JPMorgan)に460億ドル(約6兆1000億円)、そしてフィデリティ(Fidelity)に370億ドル(約4兆9000億円)が流れた。
突然人気の高まったMMFとは一体どのようなものなのか、なぜ預金者にとって銀行の代わりに資金を預ける魅力的な場所になったのか、その理由を説明する。
MMFとは何か?
MMFは、投資会社や金融サービス会社が運用する投資信託のことをいう。短期金融市場(money-market )において米国債やレポ取引などの債券から得られる利子によって、安定したリターンを得ることができる低リスクの投資商品だ。
MMFを選ぶ際には、プラスの利回りで経費率が低いものを探すことになる。経費率とは、運用コストとして投資家に課される固定費を言う。
金融サービス会社のBankrateによると、3月31日現在、最も高い利回りを提供しているのは、UFB Direct、CFG Community Bank、CIT Bankが運用するMMFだ。
なぜMMFに投資するのか
資金がMMFに向かったのは、小規模の銀行までSVBと同じような運命をたどるのではないかという懸念によるところが大きい。投資家たちは、より安全だと思われる場所に資金をすばやく移動させたのだ。
またアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、12カ月前にはほぼゼロだった基準金利を5%にまで引き上げ、借入コストは1980年代以降で最も上昇し、短期金融市場の利回りも上昇した。そのため預金金利がなかなか上がらなかった銀行に現金を預けるよりも、MMFに投資する方が高いリターンが得られるようになっている。
米国債1年債の利回りは2021年末から約12倍に急騰し、現在は4.66%程度となっている。
「預金者は、MMFで比較的高い利回りを得ることができ、かつリスクも低いことに気が付いたのだろう。銀行とは異なり、MMFの資産はFRBの引き締めサイクルにおける金利リスクを被る可能性ははるかに低い」とバークレイズ(Barclays)のストラテジスト、ジョセフ・アベイト(Joseph Abate)はブルームバーグに語っている。
MMFへの資金流入は、経済にとってどのような意味を持つのか
MMFが銀行預金よりも貯蓄者にとって魅力的な投資先であり続けるなら、小規模銀行の預金が引き出される可能性がある。
「銀行は大量に預金を失っている。しかし彼らは何も分かっていないようで、利回り0%を宣伝し続けている!そして今、我々は貸し渋りの兆候を見ている。クレジット・クランチ(信用収縮)が起きているのだろう」と業界の有力者、ジム・ビアンコ(Jim Bianco)は4月3日のツイートで警告した。
ブルームバーグによると、銀行預金からの流出額は3月15日までに17兆5000億ドル(約2310兆円)に増え、小規模銀行では5兆4000億ドル(約713兆円)に達している。
●IMF、金融市場の「危険な脆弱性」警告 金利上昇への備え不十分  4/12
国際通貨基金(IMF)は11日に公表した世界金融安定報告で、金融市場参加者が金利上昇に対し十分に備えていなかったことが、金融システムの健全性を巡る重大な不確実性につながっていると指摘し、金融市場の「危険な脆弱性」を警告した。
また、約1カ月前の米銀2行の破綻を受け、消費者と企業の信用に大きな影響を及ぼす銀行部門の弱点が明らかになったことから、特に米国の地方銀行に対する一段と厳しい監視が必要になるとの見解も示した。
IMFは世界金融安定報告で、世界的な金融安定リスクは半年前の前回報告時と比べ「急速に」増大したと指摘。3月に米国でシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行が突然破綻したほか、スイスで経営難に見舞われた金融大手クレディ・スイスがUBSによる買収を余儀なくされたことを受け「市場心理は依然として脆弱で、多くの機関や市場でなお顕著な緊張が見られている」とした。
その上で、金融引き締め政策に加え、約10年前の世界的な金融危機以降の脆弱性の蓄積によりもたらされた課題が今回の銀行破綻で「強力に思い起こされた」と指摘した。
IMFのトビアス・エイドリアン金融資本市場局長はインタビューに対し「銀行が多くの資本と流動性を確保していることを踏まえても、脆弱な(金融)機関が存在し、それが金融システム全体に波及するおそれがある」とし、IMFは中央銀行が金融システムに対する信頼を維持するための手段を備えているかどうか、注意深く見守っていくと述べた。
IMFはまた、潜在的なマクロ経済リスクとして、中国経済の力強い再開やウクライナでの戦闘激化など、物価上昇の加速につながる可能性のある数点の要因を列挙。エイドリアン局長は「金融政策の引き締めが続く中、リスクは明らかに存在している」と述べた。
●IMF、世界全体の経済成長率を下方修正  4/12
IMF(国際通貨基金)は11日、アメリカの銀行破綻などを発端とした金融不安を背景に、世界全体の経済成長率を下方修正した。
IMFが発表した最新の「世界経済見通し」では、2023年の世界の経済成長率は、2.8%と1月時点の予測から0.1ポイント引き下げられた。
IMFは世界的なインフレの高止まりを、「危険な時期に突入」と指摘したほか、アメリカのシリコンバレー銀行などの破綻を発端とした、金融不安により世界経済が「下振れ方向に大きく傾いている」と分析している。
また、日本については、2022年10月から12月期の設備投資の不振などを反映し、経済成長率は1.3%と、予測から0.5ポイント引き下げた。
一方、アメリカのイエレン財務長官は講演で、「半年前よりも世界経済は確実に強く明るくなっている」と述べた。
インフレや経済の状況は改善しているとして、金融不安の広がりに対し、楽観的な見方を示した。 

 

●米銀破綻「パニック必要なし」、08年危機と問題異なる=バフェット氏 4/13
米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は12日、米国のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の経営破綻を受け、銀行業界や米国の銀行預金の安全性についてパニックに陥る必要はないとの考えを示した。
バフェット氏はCNBCテレビに対し、銀行破綻は増えると予想されるものの、銀行業界が現在抱える問題は2008年の世界的な金融危機を引き起こした問題とは異なるとし、「パニックに陥る必要はない。米国の銀行に預けている預金について心配する必要はない」と述べた。
ただ、一部の銀行は資産と負債の管理を誤ったとし、経営トップが株主に損害を与えるような過ちを犯した場合は確実に責任を取らせなければならないと指摘。「銀行に対する信頼が失われれば(銀行)システムに影響が及ぶ」と語った。
投資会社バークシャー・ハザウェイを率いるバフェット氏は、バークシャーが保有する日本の商社株に関連して現在、日本を訪問中。東京でCNBCテレビにコメントした。
バークシャーは米銀大手バンク・オブ・アメリカ(BofA)を含む大手行に投資している。
●G7財務相・中央銀行総裁会議 金融不安などについて議論… 4/13
G7(=主要7か国)の財務相・中央銀行総裁会議が12日、アメリカの首都・ワシントンで開かれ、欧米の銀行破綻危機に伴う金融不安などについて意見を交わしました。
会議には鈴木財務相や、就任後初の国際会議となる日本銀行の植田新総裁らが出席しました。
採択された共同声明では、金融システムは強靱(きょうじん)であるとしながらも、「引き続き金融セクターの動向を注意深く監視し、グローバルな金融システムの安定と強靭性を維持するために適切な行動をとる用意がある」などと明記されました。
鈴木財務相「(金融不安の)波及が万が一、起きた場合には、各国当局で連携しながら、流動性確保などの対応がとられるんだろう」
また、植田日銀総裁は各国に対し、大規模な金融緩和を継続すると説明しました。
植田日銀総裁「日本銀行は物価安定目標の持続的・安定的な実現を目指し、金融緩和を継続すると申し上げた」
会議にはウクライナの財務相も出席し、ロシアへの制裁を継続する方針などを改めて確認しました。
●G20財務相・中央銀行総裁会議 金融不安への対応など意見交換か  4/13
G20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議が日本時間の13日午前7時半すぎからアメリカのワシントンで開幕しました。欧米でくすぶり続ける金融不安への対応のほか、インフレやそれを抑えるための金融引き締めが世界経済に及ぼす影響などについて意見が交わされる見通しです。
G20の会議は、2日間にわたって開かれ、日本からは鈴木財務大臣と今月9日に就任したばかりの日銀の植田総裁が出席しています。
初日の会議では、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に伴うエネルギーや食料の価格高騰の問題、それに途上国の債務問題などをテーマに議論します。
世界経済は、記録的なインフレやそれを抑えるために欧米の中央銀行が進めている金融引き締めによって減速への懸念が強まっています。
さらに先月、欧米で広がった金融不安は依然としてくすぶり続けていて、会議では、実体経済や金融市場に与える影響や、金融不安の拡大を防ぐための対応などについて意見が交わされるものとみられます。
ただ、G20の会合は、ウクライナ情勢を強く非難する欧米各国などとロシアとの対立が続いていて去年4月の会合以降、4回連続で共同声明をとりまとめることができていません。
今回も共同声明のとりまとめは困難な状況で、世界経済の先行きへの不透明感が強まる中で、各国がどこまで協調した姿勢を打ち出せるかが焦点となります。
●FRB 会合議事録公表 “見送り言及”も利上げ選択経緯 明らかに  4/13
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は銀行の破綻が相次いだあとに開いた先月の会合の議事録を公表しました。会合では金融不安の影響で複数の参加者が利上げの見送りに言及したものの最終的には小幅な利上げを選択した経緯が明らかになりました。
FRBは、先月開いた金融政策を決める会合で0.25%の利上げを決めました。
会合の10日ほど前に2つの銀行が相次いで破綻し、利上げを続けるかどうか政策判断が注目されていました。
12日に公表されたこの会合の議事録によりますと、複数の参加者が利上げの見送りが適切ではないかと考えたと言及し、それによって、銀行破綻が金融や経済にもたらす影響や、これまでの金融引き締めの効果を評価する時間を確保できると指摘していました。
一方、一部の参加者はインフレ率の高さや強い経済指標を考慮すれば0.5%の利上げが適切だと考えていたと言及していました。
しかし、破綻によって金融環境が引き締められインフレが抑えられる可能性もあるとして、小幅な利上げが適切だと判断したということです。
最終的には、参加者全員が0.25%の利上げに賛成しました。
また会合では、FRBのスタッフが、金融不安の影響を踏まえてアメリカではことし後半に緩やかな景気後退が始まるという見通しを示していました。 
●ウォール街ショック! FRBが「年内に景気後退に入る」と議事録で認めた 4/13
米国経済の先行きに不安をもたらす経済データが、またウォール街にショックを与えている。2023年4月12日、米労働省が発表した3月の米消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比5.0%とインフレ鈍化を示す内容となった。
しかし、米国株式市場は軒並み下落した。同じ日に発表された3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録要旨が大きな懸念材料となった。
米国が年内に景気後退に入ると予想されていたのだ。いったい米国経済はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。
FRB執行部「年内に穏やかなリセッションが始まる」
「CPIは鈍化しつつあり、それは確かに良いニュースだが...」
「(我々の予想を)大幅に下回ったわけではない」
「FRBが利上げを見送るには十分ではない」
「経済成長の減速を示唆するデータは、株下落のきっかけとなる可能性がある」
こんなアナリストたちの声から、米経済メディアのブルームバーグ(4月13日付)はウォール街の困惑した空気を伝えた。
4月12日、3月CPIでインフレ鈍化が示されたことを受けて、米株式市場は買い優勢で取引を開始した。だが、内容を詳細に検討すると、インフレのしぶとさを改めて示したかたちであることがわかり、失速。さらに数時間後、FOMC議事録要旨に「バッドニュース」が織り込まれていることが伝わり、マイナス圏に沈んだ。
3月CPIは、ほぼ市場予想通りだった。前年同月比の上昇率が5.0%となり、9か月連続で鈍化。5.1%の市場予想を下回ったのはむしろ好材料だ。上昇率は前月の6.0%を下回り、9か月連続で縮小。5%台となったのは2021年9月以来、1年半ぶりだ。
ただし、上昇率の縮小はガソリン価格が前年同月に比べて17.4%も下落、中古車価格が11.2%減少したことが主な要因だ。一方、変動の大きい食品やエネルギーを除いたコアCPIは、前年同月に比べて5.6%上昇。上昇率は前月を0.1ポイント上回り、6か月ぶりに拡大に転じた。
しかも、CPI下降に貢献したガソリン価格は、産油国でつくるOPECプラスが5月から原油をさらに減産すると表明したため、再び値上がりする可能性がある。
こうした不安材料に追い討ちをかけたのが、FOMC議事録要旨だ。3月に米地銀の相次ぐ破綻を受け、金融システム不安が高まったとして、複数の参加者が利上げの見送りを検討していた。また、信用収縮が経済を一段と減速させる可能性に警戒を続ける姿勢を強調した。
参加者は、金融システム不安が沈静化した点を評価したが、今後の展開には不透明性が高いとの理解も共有した。公的には「金融システムの安全は確保した」と言いながら、金融当局自身が、まだまだ安心できないと本心を明かしたわけだ。
さらに、FRB(米連邦準備制度理事会)のスタッフ(執行部)が、年内に穏やかなリセッション(景気後退)が始まると予想。数人の参加者が、経済活動へのリスクは下方向に傾いているとの認識を示した。
とまあ、こういった内容だったから、ウォール街にとってはCPI以上に不安をあおる結果となり、市場の注目は今週末に集中する銀行の決算に移っている。
金融不安がくすぶるなか、市場はインフレ鈍化にすがろうとしているが...
今回のCPI結果とFOMC議事録を、エコノミストはどう見ているのか。
日本経済新聞オンライン版(4月12日付)「米消費者物価5.0%上昇 3月、9か月連続で鈍化」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、慶應義塾大学総合政策学部の白井さゆり教授(国際経済学)は、
「エネルギー価格が前年比大きく下落したことに加え、いくぶん食料価格の上昇率も低下したことでインフレ率は6%から5%へ低下し、しかも予想を上回る低下となった。しかし、コアインフレ率はむしろ上昇しており、中でも住宅関連の伸び率はむしろ上昇している」
と指摘。今後のFRBの動きについて、
「金融政策判断としてはコアインフレ率を重視する必要があるため、5月は利上げをすると予想されます。ただ、地方銀行の問題がまだくすぶっており、企業への貸出条件が厳格化している兆しもあるため、これ以上の利上げは行われない可能性があると思います。市場は早々と比較的早く利下げが行われる見通しに傾いていますが、利下げについては、FRBは慎重に判断をするのではないでしょうか」
と予想した。
同欄で、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者は、
「米CPIはいつもサプライズ。3月のCPI上昇率は前年同月比で5.0%と、2月の6.0%に比べて1.0ポイントも低下しました。今回のCPI発表に誰よりも胸をなで下ろしているのは、イエレン財務長官とパウエルFRB議長でしょう。ただし3月のCPI鈍化はガソリン価格の低下のおかげが大ですから、先行きに『油断』は禁物です」
と注意を呼びかけた。そのうえで、
「CPI発表前に強含んでいたドルは、CPIの発表を受けストンと下落しました。それ以上に目立つのが米国株。ダウ先物が一時3万4000ドル台に乗せ、率直にCPIの鈍化を寿(ことほ)いでいます。米金融不安がくすぶるなか、市場参加者はインフレ圧力の鈍化にすがろうとしています。幾度となく見た光景です」
と、ウォール街の一喜一憂を皮肉った。
米銀行の貸し渋りが景気を悪化させ、インフレを鈍化させている
米地銀が相次いで破綻したことで、銀行の貸し渋りによる信用収縮が広がっているが、そのことがインフレの鈍化につながっている――そう指摘するのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。
石黒氏はリポート「米インフレ圧力残るも信用収縮が物価を抑制へ」(4月13日付)のなかで、米銀行の貸出態度とCPIの関係を表わすグラフを示した【図表1】。これを見ると、最近、米銀行の顧客に対する貸出態度が厳格化していることがわかる。
   (図表1)米銀行貸出態度と米CPI
石黒氏はこう説明する。
「米銀破綻前の昨秋頃から、すでに米商業銀行の貸出態度は厳格化しています。さらに、FRBが4月7日に公表したデータでは、米商業銀行の3月29日までの2週間の融資残高減少額は1047億米ドルと、2週間としては統計開始以来最大の減少となっています。3月に顕在化した米金融システムの混乱が米商業銀行の貸し渋りを加速させていることが確認できます」
「米商業銀行の貸出姿勢の厳格化は、米雇用環境の悪化や企業活動の縮小を通じて、米インフレを抑制する傾向があります【図表1】。こうした点を踏まえると、米インフレは今後一段と鈍化することが見込まれ、5月のFOMCでは同会合を最後に、利上げを停止するとの見方が示される可能性が高いといえそうです」
ノンバンクが金融不安を第2ステージにする「4つの理由」
さて今後、米国経済はどうなるのか。FOMCの議事録ではFRB執行部は「年内に緩やかな景気後退が始まる」との予想を示しているが...。
「銀行の貸し渋りを加速化によって、米国銀行不安の第2ラウンドが始まる」と警告するのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「投資ファンドなどノンバンク(非銀行金融仲介機関)の金融リスクに注目」(4月13日付)によると、銀行の貸し渋りは投資ファンドなどノンバンクに多大な悪影響を与えるという。【図表2】は、主なノンバンクの脆弱性と金融リスクをまとめた一覧表だ。
   (図表2)主要なノンバンクの脆弱性
木内氏はこう指摘する。
「貸出抑制は、リスク資産を圧縮することで銀行が財務環境の健全性を高め、顧客や金融市場からの信頼性を回復しようとする試みである。そうした信用収縮的な状況は、経済活動を悪化させ、結局は銀行の貸出資産を劣化させて、不良債権問題を生じさせてしまう。銀行不安への銀行の対応が、次の銀行不安のリスクを高めることになってしまう」
そして、次の4つのリスクを生むという。
(1)第1のリスクは「流動性のミスマッチ」だ。オープン型投資ファンドはいつでも解約できることから、金融環境が悪化し、ファンドのパフォーマンスが低下すると、顧客は解約を急ぐ。ハイイールド債や新興国債券を中心に、流動性が低いものが多く、ファンドがそうした商品を換金売りすると、価格が大きく下がるため、顧客は損を拡大させないように、我先へと解約に動く。
(2)第2のリスクは「流動性のスパイラル」だ。ヘッジファンドは、ストレス時に流動性が一気に低下しやすいデリバティブのような金融商品を用いて資金調達を行い、それで投資を行う。いわゆるレバレッジ(てこの作用)だ。現在、ヘッジファンドのレバレッジ比率が高まっている。
こうした状況では、金融資産価格が下落する際に、デリバティブを通じた資金調達も同時に困難となる。そのため、金融資産の換金売りが加速して、金融資産の価格がさらに下落する「流動性のスパイラル」が起きやすくなる。これは、昨年(2022年)英国の年金基金危機で見られた現象だ。
(3)第3のリスクが「投資対象の類似性」だ。ノンバンクの投資対象がそれぞれ大きく異なっていれば、金融市場が混乱しても、ノンバンクの運用パフォーマンスにばらつきが生じ、損失リスクが全体として分散される。
しかし実際には、ノンバンクは同じ金融資産に投資する傾向が強まっている。金融市場の混乱時には、多くのノンバンクが同時に損失を拡大させ、混乱を増幅させることになる。
(4)第4のリスクは「各国の金融政策対応の不確実性」だ。ノンバンクを通じた金融市場の混乱は、国境を越えて伝播する。特に、新興国債券ファンドのリスクが大きい。投資ファンドが、新興国市場のリスクを高め、先進国と新興国との間の資金の流れを大きくかく乱するからだ。
木内氏はこう結んでいる。
「かつてであれば、経済、金融に大きなショックが生じる際には、FRBなど中央銀行が大幅な利下げを実施して、経済、金融の安定回復に貢献してきた。しかし現在は、中央銀行は物価高騰という課題を抱えているため、積極的な金融緩和策の実施に慎重となる可能性がある」
「こうした金融政策対応の不確実性が、銀行不安やノンバンク危機などといった金融ショックが生じた際に、金融市場の混乱が深まるリスクを強く意識させ、結果として金融市場の安定性をより損ねることにもなるのである」

 

●日本も金融不安は起こる?カギを握る「粘着性」 4/14
アメリカで相次いだ銀行破綻やスイスの大手金融グループ「クレディ・スイス」の経営危機をきっかけに金融不安が広がってから1か月。そこで私たちが見たのはこれまでとは様相が異なる金融不安の形でした。SNSで瞬く間に情報が拡散し、急速に預金が流出する事態となったほか、「AT1債」と呼ばれる社債が突然に無価値となるなど、新たなリスクも意識されるようになっています。日本の金融機関の備えは万全なのか、検証しました。
「AT1債」の混乱 なぜ無価値に?
「日本円で2兆円以上の資産価値が一瞬にして失われた」
「AT1債」と呼ばれる社債をめぐる対応が、金融関係者に大きな衝撃を与えました。ライバルのUBSに買収される形で救済された「クレディ・スイス」が、これまで発行した「AT1債」と呼ばれる社債を突然、無価値としたのです。
日本でも三菱UFJモルガン・スタンレー証券が、クレディ・スイスの「AT1債」をおよそ950億円分、国内の富裕層を中心に販売し無価値となっていたことが14日に明らかになるなど影響が出ています。
なぜ社債が一瞬で無価値になるようなことが起きたのか。クレディ・スイスは、契約であらかじめ決まっていた条件に沿った対応だと説明します。
どういうことなのか?今回のケースでは、契約上、「AT1債」が無価値になるトリガーが2つありました。
1 株式など損失を吸収する資本が一定の水準を下回った場合。
2 スイス当局が銀行が破綻のおそれがあるとみなしたり、特別な政府支援を行ったりした場合。
今回は、クレディ・スイスを買収したUBSに対して政府保証を行ったことが2つ目のトリガー「特別な政府支援」に該当し、この結果、「AT1債」が無価値とされました。契約に沿った対応だとはいえ、スイス政府の対応は、投資家の間で大きな論議を呼びました。
その要因は2つあります。
1つは、「特別な政府支援」というトリガーがスイス特有のルールで、それが発動する条件が明確でなかったこと。
2つ目は、通常の破綻時であれば先に価値を失うはずの株式より先に「AT1債」が無価値となるという「弁済順位の逆転」が起きたことです。
日本で“トリガー”発動の可能性は?
それでは、日本でもスイスで起きたような「特別な政府支援」のトリガーが発動することはあるのか。
日本でもメガバンク3行が「永久劣後債」という名前でAT1債を発行し、およそ3兆円の残高があります。
鈴木金融担当大臣は、3月28日の参議院予算委員会の質疑の中で、日本では「特別な政府支援」のトリガーが発動して「AT1債」が無価値となるということはないという認識を示しました。
「クレディ・スイスのAT1債には、特別な公的支援がある場合に、元本が削減される旨の特約があって、今回のスイス当局による一連の措置は、この特約に基づき銀行の国家的顧客や金融システムの安定のために行われた。そうした特約は、日本の金融機関の発行するAT1債にはないと承知をしていて、一般に公的支援が行われることにより、元本が削減されることはない」
次に「弁済順位の逆転」は起こりうるのか。
金融やファイナンス論が専門の東京大学公共政策大学院 服部孝洋特任講師によりますとクレディ・スイスのケースにあった1のトリガー「資本が一定の水準を下回った場合」という条件は、日本の「AT1債」にも盛り込まれているということです。「AT1債」の性質上、破綻が起こらないよう株式より先に価値が減ることはあり得るということですが、「日本ではスイスのようにAT1債のみが無価値化して株式が無価値化しないということは起こりにくい」と指摘しています。
また、多くの市場関係者も日本のメガバンクの場合はいずれも自己資本が15%前後で、このトリガーが発動する条件の5.125%を下回ることは想定しにくいといいます。クレディ・スイスのケースでも自己資本は10%を超えていて、1でなく2のトリガーが発動しています。
日本のメガバンクが発行した「AT1債」には、仮にトリガーが発動して、その価値が減った場合でも、銀行の自己資本が回復すれば、「AT1債」の価値が復活するという仕組みを取り入れたものも発行されています。
預金の急速な流出 防ぐカギは「粘着性」
アメリカの銀行の経営破綻では、銀行の経営悪化に関する情報がSNSを通じて一気に拡散し、大口の顧客が急速に預金の引き出しに走ったことが突然破綻に陥った1つの要因とされています。また、顧客の多くが大口のスタートアップ企業で、預金保険で守られない資金が多かったことも預金の流出に拍車をかけたと指摘されています。
これについて、金融庁の幹部はこう発言していました。
「1日に5兆円以上の預金が流出するというのは聞いたことがないスピードだ。SNS時代の預金者は1日たりとも待ってはくれないということだろうが、これまでの『金月処理』(金曜日に破綻を公表し、月曜日に譲渡先での営業を開始する破綻処理の仕組み)で対応できるのか、時代に合った仕組みを考えねばならない」
こうした中で、日本の金融当局が今、注目するのは預金がいかに引き出されにくいかを示す「粘着性」という分析指標です。例えば、預金保険法のもとで保護される企業の「決済用預金」や「1000万円以内の個人の預金」などは、粘着性が高いとされています。
金融庁によりますと、日本では、破綻したアメリカの銀行のように、顧客の構成や預金の種類が極端に偏っている金融機関は確認されていないということで、一定の「粘着性」は確保されていると見ています。
金融機関側の認識も同様です。4月3日、みずほ銀行の加藤勝彦頭取は、全国銀行協会の会長の就任会見で、次のように指摘しました。
「邦銀は、(破綻したアメリカの)シリコンバレーバンクと異なり、日銀による長期の量的・質的緩和によって潤沢な資金も保有しており、その預金は企業や個人などに分散されている。すなわち、預金の『粘着性』が高く、同様の事象が起こる可能性は低い」
金融危機を防ぐには 規制より監督が重要
「AT1債」で資本にバッファーを持たせる仕組みや預金の「粘着性」に関する規制は、2008年のリーマンショックを教訓に設けられた国際規制「バーゼル3」で重視されたものでした。しかし、今回の金融不安で同様のリスクが再び顕在化しています。
おととしまで日銀に務め、通算15年余りバーゼル規制の業務に携わった秀島弘高さんは「今回の経験の教訓はこれからしっかり洗い出す必要があるが、すぐに規制強化に飛びつくのではなく、日常の金融当局の監督が重要ということを忘れるべきでない」と指摘します。
国際的な規制の枠組みをつくるバーゼル委員会は、規制づくりだけでなく、金融機関の監督を重視するため2021年に組織を改編しました。さらに、去年12月に公表した計画でも、金利上昇時に金融機関が保有する債券に含み損を抱えるリスクが指摘され、ストレステストや危機時のシナリオ作成を行って、リスクを点検するこれまでのやり方が十分か検証する必要があるとしていました。
今回そうしたリスクを踏まえた監督がなぜ行えなかったのか、アメリカの中央銀行にあたるFRBのバー副議長は、経緯を検証した報告書を5月1日までに公表するとしています。
また、4月10日には、元金融庁長官の氷見野良三日銀副総裁が、就任記者会見の中でリーマンショック後の規制改革が十分だったかと問われ「規制は監督の代わりにはならない。規制さえ厳しくしていけば問題は全部起こらなくなるということではない。そうした視点を大事に議論に参加したい」と述べ、世界の金融当局とともに監督のあり方を検証する考えを示しています。
金融危機を防ぐためにどのような備えが必要か、金融当局の今後の検証と議論に注目が集まります。
●経営トップの判断と戦略、行動で企業の命運が左右される 4/14
金融危機の中で…
コロナ禍が和らぎ、ウクライナ危機の解決の糸口をどう見つけていくかと世界中にまだ緊張感が残っているときに、今度は金融危機である。
3月10日、米シリコンバレーバンク(SVB・カリフォルニア州)が破綻。預金の引き下ろしが瞬く間に広がり、2日後には米ニューヨーク州のシグネチャー・バンク破綻へと飛び火した。
その数日後には、カリフォルニア州のファースト・リパブリック・バンクが危機に追い込まれ、大銀行が救済に回るといった具合に、米FRB(連邦準備制度理事会)と金融界も極度の緊張を強いられている。
世界的な金融危機のリーマン・ショックが起こったのは2008年9月。
有力投資銀行のリーマン・ブラザーズが約6000億ドル(約70兆円)もの負債を残して倒産。同じ投資銀行のメリルリンチはバンク・オブ・アメリカの完全子会社となって生き延びた。
それから15年近く経っての今回の米銀の相次ぐ破綻劇。今回、欧州の名門クレディ・スイスも危機に見舞われ、慌てたスイス政府は同国1位のUBSがクレディ・スイスを買収することで、当面の危機を回避。
今回、米政府にしろ、スイス政府にしろ、動きは機敏で早かった。米政府がSVBの預金を『全額保護』と即応したのも、下手すれば金融危機が一気に広がる─と読んだからであろう。
それでも、市場の不安心理はそう簡単には消えない。緊張感の中で、しっかり対応していかなくてはならない。
産業人の士気は高い
こうした状況下に、産業人も肝を据えて、経営に取り組まなければならない。
世界45カ国で拠点を構え、全売上の9割近くをグローバル市場であげる日本電産(今年4月、ニデック=NIDECに社名変更)は、今年1月、「2023年3月期の決算で垢を全部取ってしまう」として、連結純利益は前年比56%減の600億円になる見通しと公表。
創業者会長の永守重信さん(1944年=昭和19年生まれ)の一大決断だが、環境激変をいち早く察知し、垢を取る作戦に打って出たということ。時代が大きく変わり、環境も変化するとき、いかにそれに対応していくか。文字通り、ここは経営トップの判断と戦略、そして行動でその命運が左右される。
味の素・藤江さんの志
「ピンチはチャンスだと思っています。逆にチャンスはピンチだと思いますので、さまざまな変化をいい機会として捉えられるかどうかというのがポイントじゃないかなと思います」
味の素社長の藤江太郎さん(1961年10月生まれ)はこう語り、「これまでの経験もあまり順風満帆の仕事をしてきていなかったものですから、割とそういう変化の時にいろいろな成長の機会があるというのを体験しているところがあります」と前向きに対応していく考え。
原材料コストの高騰、それを製品価格にどう反映させていくか、はたまた、社員の賃上げをどう上げていくか─といった今日的課題にどう取り組むか?
まさに今、経営トップの『覚悟』が問われているが、筆者が取材しているトップの皆さんの士気はすこぶる高い。自分たちの存在意義は何か、自社の強さと課題を把握しながら、それを追求しておられる。
藤江さんは中国事業を手始めに、海外事業を担当。赤字だったフィリピン事業を軌道に乗せられた。
受け継ぐべきもの
経営は持続されるべきものという視点で、前任の社長・西井孝明さん(1959年12月生まれ)から、受け継ぐものは何か?
「それはASV、Ajinomoto Group Creating Shared Valueです。社会課題を解決しながら経済価値、儲けも出させていただいて、この儲けをさらに多くの社会課題を解決しようというASVです」
このASVをしっかり受け継ぎながら、藤江さんは、「志と志に向けた社員の熱意と、そして1人ひとりが実力を磨き込むこと。これを出した人たちは『志×熱×磨(く)』と読んでいます」と語る。
その製品の価値、引いては企業価値を見定めるのはやはり客。その客の心をどう掴んでいくか?
「そうですね。価格改定にしても、その製品の価値をお客様に認めていただけない製品はやはり値上げできないですよね。そういう面でも、自分たちが強くなり続ける。磨き続けるということが大事だと思います」
『志×熱×磨』をこの変化の時代に合い言葉として生き抜こうという藤江さんの経営を4月19日号でレポートした。
潜在力掘り起こしへ
日本の成長力が停まったとか、存在感が薄れてきた─と言われて久しい。
GDP(国内総生産)でも、このところの円安で、3位の座が脅かされ、4位ドイツどころか、その後に控えるインドあたりにも近々抜かれるのではという見方が強まる。
潜在成長力をどう掘り起こしていくか─。今、日本全体に突きつけられたテーマ。
これは産業界にとっては重要な課題だが、産業界だけで国力を高められるわけではない。人材育成という意味では、教育、さらには家庭との連携が不可欠だし、地域社会との連携も必要。
政治、経済、教育、文化と各領域が連携し、国全体で取り組んでいく時だと思う。
栗山監督、ありがとう!
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で侍ジャパン≠ェ見事に優勝を果たした。
3大会ぶりの栄冠。対メキシコ戦の準決勝、米国相手の決勝戦は、最後の最後まで諦めず、文字通り死力を尽くした戦いぶり。栗山英樹監督の選手を最後まで信じる采配が光った。
今回の結果に、日本中が勇気をもらったが、何より各選手が自分の持ち味をしっかり発揮したことと、監督と選手の間の信頼関係があったことが大きな勝因である。
MVP(最優秀選手)の大谷翔平選手やダルビッシュ投手らだけでなく、1人ひとりが力を発揮したと言える大会だった。
ラグビーで言う、One for All, All for One.(個人はチームのために、チームは1人ひとりの選手のために)≠ニいう精神が今回のWBCで発揮されたと言っていい。
日本全体が何かと活力を失ったという話が多い時だけに、今回のWBC優勝は日本に元気と活力を植え付けてくれた。
侍ジャパン≠ノ見習って、日本全体に活力を取り戻していきたいものだ。
●アメリカの金融不安は本当に過ぎ去ったのか?:銀行経営の脆弱性とリスク  4/14
アメリカの金融不安は本当に過ぎ去ったのか、というお題に対して私の現在の気持ちは「微妙です」としか返せません。何が不安なのか、ご説明します。
まず、アメリカに銀行がいくつあるかご存知でしょうか?2022年6月現在で商業銀行 4178行、貯蓄金融機関 593行、信用組合 4853行の合計9624行あります。いくら日本と人口が3倍弱違うとはいえ、日本の金融機関の数(含む生保、証券、農協)が23年3月末時点で1415であり、いわゆる銀行だけで見ると534行しかないのと比べればとてつもない差なのです。
うち、商業銀行(Commercial Banks)は貸付が出来ますが、貯蓄銀行の貸し出しは住宅ローン等制約があり、信用組合は個人の協働組織なのでここでは除外します。アメリカで大手と称する資産額1兆ドルを超える銀行はJPモーガンを筆頭に上位6行しかありません。日本では3メガプラスゆうちょ銀行です。つまり、意外にもアメリカの銀行は大手と言っても知れています。7位のUS Bankcorpの資産でりそな銀行と同等の600億ドル規模、20位の銀行で200億ドル、100位になれば19億ドルしか資産がありません。日本ではランクが分かる限り93位の島根銀行ですら40億ドルぐらいは資産があります。つまり、アメリカの銀行は規模に大きな偏りがあり、基本的にはビー玉のような小さな銀行が無数にあってその中のごく一部が番を張っているといってもよいのです。
この4000を超える商業銀行でもずいぶん数は減ったのです。1980年代前半までアメリカの商業銀行は14000行を超えていました。が、その後急減します。理由はあの有名なS&L危機(Saving & Loan Banks Crisis)です。日本の方にはあまりなじみがないと思います。
70年代から80年代前半に年率2桁のインフレを背景に証券会社がMMFという市場連動型の投資信託を開発、発売したところ爆発的にヒットし、中小金融機関から証券会社に個人預金が大移動をしたのです。特に貯蓄銀行(Saving and Loan banks)は壊滅的打撃を受け、1988年には205行の銀行が倒産しました。この衝撃的な貯蓄銀行の崩壊により商業銀行でもクレジットクランチ(貸し渋り)が起き、金融主導のリセッションが起きたのです。日本がバブル経済の最中です。
私はS&L問題が再発するとは言いたくありません。アメリカの金融当局も数々の修羅場を乗り越え、現在に至るので様々なチェック機能は働いています。が、現状は似ています。しかもシリコンバレー銀行の瞬時の破綻は監督当局のチェック漏れも指摘されています。その上、SNSによる想定を超える預金の流出スピードについて金融当局はなすすべもなかったというのが現状です。
今、アメリカでは預金移動が起きています。S&Lが起きた時と同じです。より安全そうな大手銀行に預金が動いているとされます。しかし、ブルームバーグによるとその大手すら預金流出に苦しんでいるというのです。第1四半期の大手3行(JPモーガン、ウェルスファーゴ、バンクオブアメリカ)では1年前に比べ約70兆円の預金流出が起きています。今回も結局、S&L問題が起きたときとまったく同様に証券会社に資金が動き、MMFが買われています。この資金移動がもたらす金融機関の歪みは解決できないのです。
シリコンバレー銀行がなぜ、潰れたか一言で説明せよ、と言われたら私はこう答えます。
「銀行業における預金と貸し出しのバランスを崩した」と。
かつての取り立ては銀行の前に人が並んだので予兆は分かりました。日本では女子高生が銀行を破綻の瀬戸際まで追い込んだ例もあります。それが1973年の愛知県の豊川信用金庫事件で女子高生3人が「信用金庫は銀行強盗に襲われるから危ないよ」と同行に就職が決まっていた同級生にジョークで言ったことがとんでもない流言となり、最終的に当時のお金で20億円が引き出され、大変な騒ぎになったのです。当時は銀行は3時にシャッターが閉まったのです。今はネットバンキングで24時間引き出せるのです。これは怖いのです。
問題は銀行の預金と貸し出しのバランスが崩れた際のリスク対応です。預金に対する資産は貸出先であり、それ以外の余資は運用しています。多くは国債でしょう。仮に引き出しが急増したとします。金利が急上昇している中、銀行が国債を売却すれば大損です。この部分はS&L問題があった時と同じ背景、つまり、高金利下における銀行経営の脆弱性であります。
今、私はREIT(不動産投資信託)に着目しています。特にオフィスビルにウェイトが大きいREITです。理由は銀行の借り換えが困難になる可能性が指摘されているからです。背景はオフィスの空室率です。アメリカの3月のオフィス空室率は16.5%。ヒューストン、アトランタ、オースティンは20%を超えています。カナダも同様の空室率です。理由はオフィスの作り過ぎもありますが、リモートワークが増えたことと業務の効率化で管理部門の従業員が減る方向にある点です。
REITにとってオフィスの空室率が高ければ賃料は入らないし、テナントの契約更改では賃料は下がります。事実アメリカのリスティングの平均賃料は過去1年で1.6%下落の38.28jになっています。その上、借り入れ部分は金利高で利払いが増えます。一番怖いのがローンの借り換えの際、中小金融機関が借り換えに難色を示した場合です。これは困ります。ただ、概ね、シンジケートローンで旗振り役の大手銀行が増えた預金ベースに貸し出し維持をして乗り切ると思いますが、そうすれば中小銀行の食い扶持が無くなるということです。
S&L問題は時間をかけてゆっくり進行した問題でした。今回取りざたされる信用収縮もシリコンバレー銀行のように突如起きるというより、予兆なり、兆候は見えると思います。が、FRBが利上げを止めない限り、この問題のリスクは払しょくできないということであります。
●アメリカ人労働観に異変が起きている 景気後退でも労働力不足が続いている 4/14
「銀行が与信を引き締めており、米国の景気後退(リセッション)の確率は高まった」
JPモルガン・チェースのダイモンCEOは4月6日、CNNのインタビューでこのように述べた。ダイモン氏は米銀大手でリーマンショックを経験した唯一のCEOだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)によれば、商業銀行の貸し出しは3月最終週に約450億ドル、その前の週は約600億ドル減少した。減少幅は史上最大の規模だ。
金融不安は既に不調になりつつあった製造業にとって「泣き面に蜂」だった。
米サプライチェーンマネジメント協会(ISM)が3日に発表した3月の米製造業景況感指数は前月より1.4ポイント低い46.3だった。好不況の節目である50を5ヶ月連続で下回った。現在の水準は過去4回のリセッションの初期(1990年、2001年、08年、20年)と一致している。
危うい市場が続々と
中でも最も打撃を受けているのはテクノロジー企業だ。
3月10日に破綻したシリコンバレー銀行(SVB)が、テクノロジー企業にとって主要な資金の出し手だったからだ。SVBはベンチャーキャピタルが投資する米国のテック、ヘルスケア企業の半数と取引があり、他の商業銀行が取引を断るようなリスクが高いスタートアップ企業の経営を支えてきた(3月15日付日本経済新聞)。
有力なテクノロジー企業を生み出すシステムの根幹が揺らいでおり、米国経済の今後に赤信号が点滅していると言っても過言ではない。
不況の波はサービス業の分野にも及びつつある。
ISMが5日に発表した米非製造業景況感指数は前月より3.9ポイント低い51.2だった。市場予想(54.3)を下回り、サービス需要にも陰りが出てきた形だ。
アマゾンやウォルマートなどが物流の拠点とする倉庫の集積地、カリフォルニア州南部に広がるインランド・エンパイア地域も1年前に比べ様変わりだ(4月5日付ブルームバーグ)。この地域はロサンゼルス近郊の北米最大規模の港湾施設を通じた記録的な輸入のおかげで倉庫はモノであふれかえっていたが、今は閑散としている状態だ。
不動産市場もますます危うくなっている。
オフィス物件がリモートワークの定着を受けて打撃を被っていることに加え、好調だった部門にも逆風が吹いている。
1棟に複数世帯が入居する住宅のマルチファミリー物件(アパート)は個人の不動産投資の対象として最も人気があるが、今年第1四半期の売上高が前年比74%減の140億ドル弱となった(4月6日付Forbes)。アパート市場は新型コロナのパンデミックで急拡大し、2021年第4四半期には過去最高の1160億ドルに達したが、金融不安などの影響で人気ががた落ちとなっている。
米国のGDPの7割を占める個人消費にも 金融不安の影が忍び寄っている。
ニューヨーク連銀が10日発表した3月の消費者調査によれば、「1年前と比べて融資を受けることが難しくなった」と回答した割合は58.2%と過去最多になった。
大口の買い物である自動車のローン活用が減少することが見込まれ、今後、自動車販売が大幅に減速するリスクが指摘されている。
なぜ労働力不足が続くのか
このように、米国経済が急速に活力を失いつつあるのにもかかわらず、景気の下押し効果をもたらすFRBのさらなる利上げが想定されている。
3月の失業率が2月の3.6%から3.5%に低下するなど、雇用市場の過熱状態が続いており、労働力不足に起因するインフレが続いているからだ。
米国経済は減速傾向が強まっているのになぜ労働力不足が続いているのだろうか。
米国の労働参加率(15歳から64歳の人口に占める労働力人口)の低下が指摘されることが多いが、それ以上に注目され始めているのは自発的に労働時間を減らす動きだ。
ワシントン大学の研究チームが1月中旬に「25〜39歳の男性が自発的に労働時間を年16時間減少させた」との調査結果を公表した。学歴が低い男性を中心に仕事への意欲が低く最低限の仕事しかこなさない、いわゆる「静かな退職」が話題となったが、高学歴で勤勉な高給取り(年収10万ドル以上)の男性も仕事との関係を見直すようになってきている(2月28日付BUSINESS INSIDER)。
労働時間の短縮は米国人全体に波及していることがわかってきている。
エイブラハム元労働統計局長がレンデル・メリーランド大学教授らとともに3月末に発表した論文で「米国人の就労時間はこの3年で1人当たり週30分以上減少した」ことを明らかにした。「ちりも積もれば山となる」ではないが、就労時間のトータルの減少量は240万人分の雇用に相当する。
減少分のうち新型コロナの後遺症などによるものは10%程度にとどまっていることから、エイブラハム氏らは「ワーク・ライフ・バランスを考え直した米国人が多いことが一因なのではないか」とみている。スタンフォード大学のホクスビー教授は「コロナ禍でショックを受けた米国人は仕事に対して欧州的なアプローチをとるようになったのかもしれない」と解釈している(4月6日付ブル-ムバーグ)。
労働力不足の原因は、これまで先進国の中でワーカホリック(仕事中毒)の部類に属していた米国人がワーク・ライフ・バランスに目覚めたことにあるというわけだ。
たしかにワーク・ライフ・バランスは大事だが、そのせいで米国経済が苦境に陥ってしまうのだとすれば、これほど皮肉な話はないのではないだろうか。
●IMF世界経済見通し「スローバリゼーション」の加速で「世界は貧しくなる」 4/14
国際通貨基金(IMF)が春季の「世界経済見通し」を公表した。
リスクシナリオとして、昨今の金融不安の影響で信用収縮と株安が重なった場合、「1970年以降で5回(1973・1981・1982・2009・2020年)しか経験していない世界経済の成長率2%割れ」が「20%の確率で起こり得る」との見方が示された。
ただし、金融不安については、シリコンバレーバンク(SVB)破綻直後の混乱が一段落し、残るは「個別の金融機関の問題」との認識が広がっていることもあり、2023年通年の成長率は2.8%と1月時点の見通しから0.1%ポイントの下方修正にとどまった。
インフレ沈静化のために利上げが必要とされる一方、金融の安定が懸念される中で利下げへの期待が高まるという矛盾と葛藤に世界経済が苛(さいな)まれる中、「特に先進国にとって」ハードランディングシナリオが「より大きなリスク」になっているとIMFは指摘する。
これは比較的踏み込んだ言いぶりで、秘めたるリスクの大きさを感じさせる。
サブタイトルには「不安定な回復(A Rocky Recovery)」とあり、見通し全体を通して伝わってくるIMFの本音を、簡潔ながらも的確に表現しているように思える。
直接投資の「分断化」で世界は貧しくなっていく
筆者には、第4章「地経学的な分断と直接投資」の議論がとりわけ興味深く感じられた。
2019年以前から、米中貿易摩擦に象徴される西側諸国と中国の対立構図を背景に、グローバル規模で構築・最適化されたサプライチェーンに懸念が生じていたが、2020年のパンデミック発生でそのサプライチェーンが物理的に寸断され、さらにその終息と回復のプロセスでロシアがウクライナに侵攻。経済制裁や輸出制限が実施されたことで、商品市況に著しい制約が生じた。
パンデミックについては、懸念された深刻な感染再拡大の動きもなく終息に向かっていると思われるが、地政学リスクにはいまだ緩和の兆しが見られない。この3年間でサプライチェーンが被った甚大なダメージも、回復に向かっているとはいえ正常化にはほど遠い状況が続く。
こうした流れの中で、国境をまたぐ企業の経営判断も変化を強いられている。特に、ここ数十年の世界経済のトレンドとも言える海外直接投資の拡大を巻き戻し、対内直接投資に回帰させようという動きが勢いづいている。
海外直接投資は基本的に企業行動の話だが、最近では政治においても大きな関心事となっている。例えば、製造業を中心に企業の国内回帰を促したトランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」政策はその象徴的な動きだった。
バイデン大統領も同じ路線を踏襲し、近年ではユーロ圏でも自国第一主義を掲げる国が出てきている。今回の世界経済見通しでも、フランスがアメリカに対抗して「メイド・イン・ヨーロッパ(Made in Europe)」戦略を提唱していることが紹介されている。
西側諸国対中国という大きな対立構図が存在しつつ、西側諸国の中にも政治・経済的な分断が見られる、そうした「直接投資の分断化現象」が世界経済全体にどのような影響を与えるのか分析したのが、本節の最初に挙げた(世界経済見通し最新版の)第4章だ。
近年、世界全体で海外直接投資が顕著に減速する一方、地政学的に見た友好国への直接投資の集中、さらには半導体など戦略分野への集中も進んでいる。
そのように企業が海外直接投資のリロケーション(再構築)の検討を進める中で、企業が本拠を置く国(多くは先進国)と政治的に距離がある国(多くは新興国)は、直接投資の流出に見舞われやすくなる。専門家でなくとも直感的に想像される展開ではないか。
結果として、海外直接投資が「流入」する国と「流出」する国の分断化が進み、世界全体として見た時にアウトプット(生産量)が減って貧しくなっていくというのが、第4章で展開されるIMFの問題意識だ。
加速する「スローバリゼーション(slowbalization)」
IMFが懸念する前節のような展開は、言ってみれば「グローバリゼーション(globalization)」の「スローダウン(Slowdown)」であり、今回の見通しでは「スローバリゼーション(slowbalization)」なる造語で形容されている。
実は、スローバリゼーションは今に始まったものではなく、リーマンショック以降、一部の国々で進んできた現象だ。
例えば、下の【図表1】に示すように、2000年代に世界の国内総生産(GDP)の3.3%を占めるまで増加していた海外直接投資は、2018〜2022年の間に1.3%まで落ち込んだ。
   【図表1】世界の貿易・サービス収支(青色)と直接投資(橙色)の推移(対GDP)。
10年ほどかけて徐々に進んできたスローバリゼーションが、昨今の地政学リスクの高まりを受けてさらに加速している、というのが実情だろう。
IMFは今回の世界経済見通しの中で、海外直接投資の分断化は世界経済に負の影響をもたらす「新たな要素」だと指摘する。
企業も為政者も、自国もしくは政治的利害が一致する友好国に生産拠点を移す戦略に軸足を移しつつ、地政学的な緊張に対して耐久性のあるサプライチェーンの構築に腐心しており、その影響を最も受けるのが、先進国からの直接投資を多く受け入れてきた新興国だ。
上の【図表1】で見たように、世界経済における貿易・サービス収支の比重はほとんど変化していないのに、直接投資の勢いだけが落ちている。
主に先進国からの直接投資は、「持たざる者」としての新興国に経済成長機会をもたらす役割を果たしてきた面がある。そのため、現状のような構図が続けば、国境を越えた商取引の恩恵を受ける国・地域がこれまでより狭く限られてくる可能性があり、それは新興国ひいては世界の経済成長にネガティブな影響をもたらすことになるかもしれない。
なお、今回の世界経済見通しでは、海外直接投資の分断化の影響を国・地域別に試算した結果が示されている。
アメリカが中国の拠点を引き揚げて世界各地に分散させる動きが顕著に見受けられ、程度の差こそあれ、欧州にも同様の動きが見られた。一方の中国は、世界各地から海外直接投資を引き揚げ、自国への集約を進めている様子が見て取れた。
とりわけ、このような動きは半導体のような戦略分野ほど顕著で、アメリカも欧州も自国域内での生産拠点構築に向けて動いている。
下の【図表2】に示すように、中国への直接投資は2018年以降、顕著な減少傾向にある。一方、欧米ならびに中国を除くアジアへの直接投資は2020年以降、明確に増加している。
   【図表2】国・地域別(アメリカ・欧州・中国・中国除くアジア)の直接投資(半導体)件数の推移。2015年第1四半期を100とした場合の相対値。
グローバリゼーションもスローバリゼーションも、端的に言えば、中国を軸とする企業の離合集散だったと結論できるのかもしれない。
「スローバリゼーション」は悪?
前節で詳説した第4章は、現在の潮流が続けば世界は貧しくなる、と警鐘を鳴らして終わる。
ただし、ここで注意したいのは、第4章の分析はあくまで海外直接投資の分断化に伴うスローバリゼーションのデメリットに注目したもので、メリットは見ていないということだ。IMF自身がそう認めている。
世界経済見通しにおける分析は、最適化されたグローバルサプライチェーンが破壊されたことで、世界の経済成長がどれほど失われるのか、そのコストに重きが置かれている。
同じ文脈で、世界経済のより大きな成長を目指す観点から見れば、スローバリゼーションは(国際取引が減速するわけなので)デメリットしかない。
しかし、政治的な観点から見れば、世界の経済成長率鈍化というコストを支払わねばならないとしても、海外直接投資の国内および友好国へのリロケーションによって、経済安全保障を強化したり、技術流出を防いで競争上の優位を確保したり、国益に対する「強固な守り」が実現されるのだから、それは「合理的な」コストとも言える。
実際、サプライチェーンが寸断されて戦略的な資材を確保するのが困難になれば、一国経済の成長に甚大な影響が及ぶにとどまらず、社会不安にまでつながりかねないことを、我々はパンデミック時に経験している。
そうした見方もあるため、スローバリゼーションは何もかも間違っているというのはあまりに乱暴な議論だ。
世界経済は当面このスローバリゼーションという大きな流れに支配され、従来よりコストのかかる状況が続くと思われる。
世界各国の政府・中央銀行は金融引き締めによるインフレ沈静化に躍起になっているが、実はこの「従来よりコストのかかる」新たな世界のあり方を踏まえると、インフレの根は(一時的な供給制約といった要因より)もっと奥深いところにあるのでは、という気がしてくる。

 

●米銀3行第1四半期、金利高が恩恵 景気悪化に備え引当金積み増し 4/15
米銀3行が14日に発表した第1・四半期決算は、金利上昇による恩恵で貸し出しから得る利息収入が増加し、銀行部門を巡る不安の影響が相殺された。同時に、3行は景気悪化で貸し倒れが増えた場合に備え引当金を積み増した。
JPモルガン・チェース、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ(Wファーゴ)の第1・四半期決算は、金利が上昇する中でも消費支出と企業投資が持ちこたえたことで市場予想を上回るけ結果となった。
こうした中でも、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制に向け積極的な利上げを行っていることに加え、3月の米中堅銀2行の破綻を受けた混乱から景気減速を巡る懸念が高まり、銀行は潜在的な貸付損失に備え引当金を積み増している。
JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、米経済は依然として堅調であるものの、3月のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー・バンクの破綻に端を発する銀行危機で金融機関が保守的になり、個人消費が影響を受ける可能性があると警告。「過去1年注視してきた嵐の雲はなお地平線上にとどまっていおり、銀行業界の混乱がこうしたリスクに拍車をかけている」と述べた。
シティグループは、貸し出しから得る利息収入が増加したことで、利益が予想を上回ったものの、米経済は穏やかな景気後退に入ると予想。ジェーン・フレーザーCEOは電話会見で「米国が下半期に緩やかな景気後退に入る可能性が高くなった」とし、信用収縮が悪化するおそれがあるとの見方を示した。
今年に入ってから大手行が利益を上げるのが難しくなっている分野の1つは投資銀行業務。JPモルガンでは同部門の収益が24%減少した。第1・四半期の世界のM&A(合併・買収)は金利上昇、高インフレ、景気後退への懸念から約10年ぶりの低水準に縮小。ディールロジックのデータによると、第1・四半期のM&A規模は5751億ドルと、前年同期から48%減少した。
米大手金融機関の四半期決算発表は来週も続き、18日にバンク・オブ・アメリカ(BofA)とゴールドマン・サックス、19日にモルガン・スタンレーが決算を発表する。
●米国株式市場=反落、指標受け追加利上げ観測 銀行株は上昇  4/15
米国株式市場は、一連の経済指標で米連邦準備理事会(FRB)の追加利上げが裏付けられ、反落して終了した。ただ、大手3行が発表した四半期決算が好調だったことで銀行株には買いが入った。
前日は経済指標でインフレ鈍化が示され、FRBの積極的な利上げサイクルは終了に近づいているとの見方から株価は急伸。インデックスIQ(ニューヨーク)のサル・ブルーノ最高投資責任者(CIO)は「昨日の動きはやや行き過ぎていた可能性がある」とし、「昨日の急伸を受け今日は一服商状となった」としている。
この日にJPモルガン・チェース、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ(Wファーゴ)が発表した第1・四半期決算は、金利が上昇する中でも消費支出と企業投資が持ちこたえたことで市場予想を上回る結果となった。
ベアード(ケンタッキー州ルイビル)の投資戦略アナリスト、ロス・メイフィールド氏は「地方銀行の危機がシステミックなものでないのは明らかだ」とし、「予想通りに大手行は地方銀行の混乱でそれほど大きな被害を受けなかった。むしろ恩恵を受けている可能性もある」との見方を示した。
決算発表を受けJPモルガンは7.6%高。1日の上昇率としては2020年11月9日以来の大きさとなった。シティグループは4.8%高。一方、Wファーゴは0.1%下落した。S&P銀行化株指数は3.5%高。
この日に発表された小売売上高、鉱工業生産、消費者信頼感などの米経済指標は強弱まちまち。総じて、FRBが5月の次回会合で0.25%ポイントの利上げを決定するとの見通しが裏付けられた。
インデックスIQのブルーノ氏は「工業生産と設備稼働率は予想以上に好調で、経済にまだ活気があることが示された」とし、5月だけでなく6月も利上げが継続される可能性があるとの見方を示した。
S&P主要11セクターでは7セクターが下落。不動産が最も大きく下げた。一方、金融は1.1%高と、上昇率は11セクターの中で最も大きかった。
資産運用世界最大手ブラックロックは3.1%高。四半期利益が予想を上回ったことで買いが入った。
航空機大手ボーイングは5.6%安。ボーイングは前日、主力機「737MAX」について、航空部品企業スピリット・アエロシステムズから品質に関する問題が報告されたため一部の納入を中止したと発表した。スピリット・アエロシステムズは20.7%安。
ニューヨーク証券取引所では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を2.01対1の比率で上回った。ナスダックでも2.07対1で値下がり銘柄数が多かった。
米取引所の合算出来高は99億8000万株。直近20営業日の平均は113億1000万株。 
●大阪統合リゾート、発進!:カジノについてはもはや時代遅れの産物  4/15
政府が花粉症対策にようやく本腰を入れ始めました。コロナより患者が多い花粉症を長年放置した政府の責任は問われそうです。もともと「安い、(成長が)早い、加工しやすい」の三拍子が揃ったスギが何故か輸入木材に押され伐採も進みませんでした。ならば政府は補助金を出して伐採を推し進め、木材を内外で使うのがベストでしょう。スギがある山林の半分は私有地だそうで「あの山、誰のものか、わかんねぇ」「境界線もそのあたりでねーか?」という感じ。よって伐採は苦労すると言いますが、政府が補助金付けたら皆さま目をキラキラさせて名乗り出るでしょう。土砂崩れの防止策だけはしっかりしてもらいたいと思います。
ゴールドにする?暗号資産にする?行き場を探すマネー達
昨日、アメリカの預金流出について書かせて頂きました。注目は本日から始まったアメリカ大手銀行の決算で、JPモルガンの預金残高は3月末で12月末比2%増となりました。ただ、中身が大きく動いているようで中小銀行からの預金の増分に対してMMFなどへの資金流出で相殺された模様です。MMFは高くなった国債の利回りを求めた資金で現金の足は非常に早いとみています。アメリカの金融不安はまだまだ続くのでしょう。
その中でこのところゴールドと暗号資産が快調に値を上げています。理由は金融不安と景気に方向性が見えにくくなり、金利引き上げのピークが近いとみたことが主因です。5月2-3日に開催のFOMCは利上げしても0.25%、引き上げ見送りの可能性も3割ぐらいあります。カナダが引き続き見送りましたのでアメリカも上げてもせいぜいあと1回ではないかと見られています。
とすれば米ドルが他通貨に比べて安くなり、米ドル建てで換算されるゴールドや原油は高くなりやすくなります。暗号資産はリスクマネーへの資金の流れで説明できます。FTXが倒産し、ビットコインが16000j程度まで売られた際、「時間がかかるけれど必ず値を戻す」と申し上げました。私が見る限り暗号資産は確実に市民権を得つつあります。手掛ける人が増えるということです。ウォーレンバフェット氏はお嫌いのようですが、彼はもう神様ではありません。
大阪統合リゾート、発進!
まず、一点、初めに申し上げたいのは「リゾート」という言葉遣いに違和感があるのです。リゾートの語源は古いフランス語のre(もう一度)とsortir(行く)という意味で、基本的には非日常の中でリラックスし、英気を養うところです。業界では議論になるのですがディズニーやUSJはリゾートかと言えばNOなのです。人造の装置の上で人間がもて遊ばれるところはリゾートではなく、大自然の中で人間が戯れ、想像し、時として無になれるところが本質的なリゾートと考えています。
それはさておき、大阪の人工島に1兆円超の投資をしてIR統合開発が決まりました。もともとは国内3か所を予定していたのですが、長崎は基準に満たず、横浜、札幌は地域の意見が集約されませんでした。経済効果だけで考えるなら沖縄がベストでしょう。理由は世界水準からみれば沖縄は天候不順でリゾート適格性が低い中、屋内施設が代替になり、外国からの集客が期待できるからです。なので北海道もアリだと思います。
カジノについてはもはや時代遅れの産物でもっと想像力のある日本ならではのアイディアを提供してもらいたかったと思いますが、許可条件はカジノが全体延床の3%以下ですのでおまけ的なものと考えてよいでしょう。私ならカジノとして日本のお家芸、パチンコを導入し、代わりに街中のパチンコ屋を撤廃すべきかと思います。カジノは個人が目の色を変えて賭け事をするところというイメージがあるのですが、アミューズメントセンターとしてカップルや友人、夫婦が楽しく遊ぶテーマパーク的に展開すべきでしょう。さもなければラスベガスのように高齢者の暇つぶし場所と化します。
力を注ぎたい工業デザイン
東京ビックサイトで開催される介護機器のイベントには確か4-5回連続でお邪魔しているのですが、前回お風呂の介助用機器のコーナーで日本を代表する大阪の某社の製品が大々的に展示されていたので説明を受けました。ただ私はショックだったのです。機能としては悪くないのですが、工業デザインとして最低で、凹凸が多く、ボルトの頭があちらこちらにあります。説明してくれた方に「申し訳ないけれど、これは頂けない商品ですね」とはっきり申し上げました。びっくりした顔をするその方に「濡れる場所での使用だし、ある程度拭き掃除も必要ですね。だけどこんなにボコボコしていたらどうやって日々の掃除をしますか?」と。
日本の工業デザインは機能性を重視したものが多いのですが、見た目に美しくないものが多々あります。サービスにお金をかけない日本と言いますが、動けばデザインなんて何でもいいだろうと言わんばかりのものも多いのです。今週号の日経ビジネスの「有訓無訓」に元日産自動車でデザイン部門のトップだった中村史郎氏が「デザインの役割は大きい。日本市場だけ見ていると気付かないですが、韓国勢は当然のこと、中国勢もその方向に戦略をシフトさせています。モノづくりへの情熱と新しいものに挑戦する力で我々は負けている」と断じています。
ところで私が当地で不動産開発を始める際、プロジェクトのロゴマークをカナダ人のプロの方に作って頂きました。何度も修正を重ねて出来た「葉っぱが水に落ちる日本的な美的センス」のロゴマーク製作費は今から28年前に驚愕の100万円でした。その後業務上、様々なロゴを作ったのですが、どれも陳腐。結局その100万円のロゴに勝るものはないのです。そのロゴのセンスはプロジェクトの品質も示すものとなり、高級コンドミニアムの先駆けとして当時、圧倒的な地位を築いたのです。工業デザインも同じです。価格競争の末の安物から脱皮し、所有者が自信を持てる商品に変えていくことが日本企業の使命です。

当地で流行らなかった居酒屋の後に有名居酒屋チェーンが入居し大盛況でした。違いはたくさんありますが、ポイントは2つ。1つは改善も工夫もないメニューは今や誰も見向きもしないこと、もう1つはSNSのチカラはすさまじい点です。事務所の近くにある韓国人が経営するとんかつ屋。味は普通ですが、プレゼンが上手で日本のデパートのとんかつ屋みたいな感じです。ごはん、みそ汁、キャベツお代わり自由は日本なら普通なのにこちらで誰もやらなかった「先鞭」です。工夫のしどころはいくらでもある、ということです。

 

●アメリカの株価が大幅下落を免れそうな理由  4/16
アメリカでは3月10日前後の突然の銀行破綻によって、市場心理が一時急速に悪化した。銀行破綻から1カ月が経過したが、同国の代表的な指標であるS&P500種指数はすでに破綻前を上回る水準まで上昇するいっぽう、長期金利は低下している。当局の連鎖破綻を封じ込める一連の対応で、2008年時と同様の大型金融危機には至らないとの認識が広がりつつある。
アメリカの株高の真因は何か
懸念された中小銀行の預金減少は3月末までにはいったん収まり、預金流出に備えたFRB(連邦準備制度理事会)からの借り入れも増えておらず、銀行システムは落ち着きつつある。破綻直後の預金保護の徹底などの対応で、金融危機の最初の火消しには成功したと言える。
筆者も銀行破綻が発生した直後のコラム「アメリカ株が再び大きく下落する可能性はあるか」(3月16日配信)で、銀行不安はインフレ抑制をもたらす点を指摘したが、実際に金利の大幅な低下となって現れている。一方で、株価の反発は、銀行問題を楽観しているというよりも、金利低下によるハイテク株などの株高で説明できる部分が大きい。金利が低下しても株高につながらない値動きもみられ、同国経済が大きく失速するリスクが懸念されるなど、依然として不安定な状況にある。
今後は、銀行の信用仲介機能が引き締め的に作用するので、企業や家計の支出行動を抑制し経済成長率を低下させることになりそうだ。
こうしたショックが急激に経済全体に波及したのが2008年の金融危機だった。一方で、現在起きている銀行問題について、筆者は金融危機を招くほど深刻になる可能性は高くないと想定している。FRBの利上げが、リスクを積極的にとっていた一部の銀行の経営を揺るがしているが、これは利上げの引き締め効果が顕在化した事象と位置付けられるのではないか。
今後はどうなるのか。FRBは次回5月2〜3日のFOMC(連邦公開市場委員会)における利上げを続けるかどうか、難しい判断を迫られるだろう。
ただ、現在起きている「逃げ足の早い預金」に依存する銀行破綻がもたらす金融不安は、2008年時などとは異なるとFRBは判断するのではないか。
このため、経済過熱やインフレリスクが変わっていない中で、FRBは利上げを継続すると現時点では考えている。実際、4月上旬に発表された同国の経済指標は事前予想を下回るものが多かったものの、7日に発表された3月雇用者数は前月比23.6万人と堅調な数字だった。
同調査は「銀行破綻が起きた週」に行われたので銀行問題の雇用市場への悪影響をはかる指標にはならない。ただし2023年の1〜2月は暖冬で大幅な雇用増となった直後ということもあり、その後に労働市場がどの程度底堅いかという意味で重要だったが、20万人以上の底堅い雇用拡大が示された形だ。
アメリカ経済は深刻な景気後退にはならない
同国では昨年末から大手ハイテク企業のリストラ報道が続いているものの、求人数は依然かなり多いため、企業全体として見れば雇用増加が続いている。
今後は労働市場も減速するとみられるが、高い求人数がある中で、雇用削減があっても労働市場での調整は深くならないと見る。筆者はこれが同国経済の深い景気後退が回避される1つの要因になると考えている。「労働市場は依然逼迫(ひっぱく)している」とするFRBの判断も変わらないだろう。
一方で同国の労働市場については、失業率が約3.5%前後と過去1年ほとんど変わっていない中で、昨年の平均時給が前年比5%台の上昇から2023年3月に同4.2%台まで低下していることをどう考えるかが、今後のFRBの政策判断に影響しそうだ。
失業率が極めて低い水準なら本来賃金は減速しないはずだ。だが、実際には過去1年賃金の伸びは鈍化している。この理由の1つは、失業率は低水準でも求人数自体は減少傾向にあるなど、労働需給逼迫が和らいでいることである。
もう1つ別の要因も考えられる。2022年前半までの高賃金は、コロナ後の政策対応などで強まった労働供給不足がもたらしていた側面が大きかったことである。昨年来のコロナ禍からの正常化とともに、移民流入も増えたことで、サービス業などで高賃金の抑制要因になっている可能性がありそうだ。
労働供給の要因が高賃金緩和の主因だと断定するのは難しい。だが、コロナ後の労働供給不足が賃金上昇を招いていたならば、2022年から続く労働供給の回復は、インフレと賃金のスパイラル的上昇への対応を迫られていたFRBにとっては、大きな安心材料になる。
今後、FRBは5月のFOMCで追加利上げを行ったとしても、同時に、銀行問題に配慮して引き締めの影響に慎重に対応する姿勢をみせる可能性がある。
先の「低失業率+高賃金の和らぎ」が併存してきた状況については評価が定まっていないとみられるが、高賃金が和らぐ兆しが前向きに取り上げられる可能性がある。
もし賃金インフレに対する懸念が和らげば、失業率が3%台の低水準のままであっても、「十分引き締め的な政策金利に達しつつある」と判断する可能性もありうる。これらが、6月以降のFOMCで利上げ見送りの判断材料になるのではないか。
FRB高官は、銀行破綻後も高インフレ抑制が最大の課題との見解を繰り返している。だが12日に発表された3月CPI(消費者物価指数)は事前予想どおりに落ち着き、インフレ警戒を強めるような数字とはならなかった。
現在の債券市場は、はやばやと「夏場からの早期利下げ」を織り込む展開にある。このハードルは高く、利下げの可能性は低いとしても、FRBによる「先を見据えた」政策姿勢の変化で、利上げ見送りは柔軟に判断されそうだ。
当面のアメリカ株式市場は、企業決算発表や銀行問題への懸念が残るため、依然として方向感が定まらないとみられる。だが今後想定されるFRBの政策姿勢の変化は、株価下落リスクを緩和する要因になるかもしれない。
●巨大IT企業で相次ぐ大量解雇、銀行破綻に動揺したシリコンバレー住民 4/16
アメリカの「テック・ジャイアンツ」といわれるグーグル、メタ(旧フェイスブック)、ツイッター、アマゾンなどで、昨年末から大規模な人員削減が次々と発表されています。そして、その影響は金融やコンサル業界にも波及しています。
定例会議に出て「なんだか、今日は人数が少ないなあ」と思っていたら、その場にいないチームメンバーは解雇されて、生き残ったのはその日の会議に出ていた従業員だけだった――。会議室に突然呼ばれて解雇を告げられ、映画によくあるシーンのように私物を詰めた段ボール箱を抱えて建物を出た――。カードキーが無効にされてオフィスにはもう入れなくなっており、荷物は送られてきた――。こういった話を耳にするようになりました。「去年の年末から職場の雰囲気が悪いんだよね」と話す人もいました。
コンピュータープログラマーの中には、「H-1B」ビザと呼ばれる、アメリカの特殊技能職のビザで働いている外国籍エンジニアたちも数多くいます。彼らが解雇の対象となった場合、60日以内に次の仕事を見つけなければいけません。家族連れの場合は、子供は学期の途中であっても、キリがいい学年末まで滞在させてくれるわけもなく、家族もろとも荷物をまとめてアメリカを去らなければなりません。
経費削減はホチキスにまで….
今年1月、1万2000人の人員削減方針を発表したグーグルではその後、経費削減を強化するあらゆる取り組みが報道されました。
ノートPCの交換頻度を削減したり、エンジニア以外の従業員はノートPCをMacBook ではなく、より低価格のChromeBookが標準となったり、古くなってもデバイスの交換頻度を一時停止したり。
また、1日3食がカフェテリアで無料提供されていましたが、そのカフェテリアも在宅で働く社員が多いことを理由に、月曜と金曜は閉鎖するかもしれない、と報道されました。
深刻度が伝わってくるのが「ホチキスとテープが社内で必要な場合、受付で借りる必要がある」という部分。グーグルといえば(他の巨大IT企業もそうですが)Wi-Fi完備のシャトルバス、ジムやヨガレッスンは当たり前、洗濯代行サービス、マッサージ、非常に高額な卵子凍結や体外受精、不妊治療までもが福利厚生の一つとして無料で社員に提供されていました。優秀な人材の引き抜き合戦を勝ち抜くために、これでもか、これでもか、というような手厚い福利厚生を導入していたグーグル。いよいよホチキスにまで言及されるようになったかと思うと、隔世の感があります。
自分が「インパクト」を受けたら、とにかく人に言ってまわる
筆者は実情はともかくとして、仕事柄、「いろいろな人を知っている」と思われているからでしょうか、突然「インパクト(影響)を受けた」(解雇された、と言うとストレートにネガティブな印象をもたれるので、多少聞こえのいい「影響を受けた」と表現する人が多い気がします)方たちから、「一度話をさせてください」と人づてに連絡をいただくことが増えました。
筆者と話しても彼らの時間の無駄になるのでは、と懸念しつつも、時間が許す限り、なるべくお話しさせていただくようにしています。自分がその立場だったら同じようにしていると思うからです。
ビジネス系SNS「リンクトイン」や事前に送って頂いた履歴書を拝見すると、それはそれは、うらやましいほどのキラキラした職歴の方々ばかり。エンジニア、マーケティングディレクター、プロジェクトマネージャー、UI/UXデザイナーなど、少し前であれば、引く手あまただったろう、と思う人たちばかりです。
他企業に移るとしても同時期にレイオフされた人たちと同じポジションを争うことになり、一つの求職案件に何人もが応募するので、必然的に競争率が上がり、再就職までには時間がかかります。
日本の場合、仕事を解雇されたら、恥ずかしくて他の人には内緒にして(ときには家族にも言えず)求人サイトやリクルーターを通してひっそり、せっせと職探しする場合もあるかと思いますが、アメリカでの就職活動では、「誰を知っているか」という人脈が一番の鍵。いざ仕事を失ったら、「とにかく周囲に言って回る、ネットワーキングにいそしむ」というのが近道となります。採用する側も、一応、公に募集をかけますが、まずは身近なところからの紹介で、人となりがある程度分かっている優秀な人材を採用したがります。企業の中には、従業員の紹介者が本採用となったら臨時ボーナスが出るシステムもあるくらいです。
そんな中で起こった「スタートアップ御用達の銀行」の破綻
バブルも、バブル崩壊も人生の中で何度か経験してきていますが、FDIC (連邦預金保険公社) がシリコンバレーバンク(SVB)の資産を差し押さえ、経営破綻が発表される激震が走った3月10日は、金融業界の人間でもなければ、シリコンバレーのテック業界のど真ん中に身を置く人間でもない筆者ですらも、さすがにざわざわした気持ちで過ごしました。シリコンバレーに住む多くの人がそうであったように思います。
破綻が他行にもどんどん連鎖するのではないかという不安。金融発の不況が本格化するのではないかという不安。経営者たちがいち早く預金を引き出し、取り付け騒ぎになったことで、SVBが職場のメインバンクの近所の人や友達のお給料が払われずに混乱が加速するのではないかという不安――。影響を受けているであろう知り合いや友達の顔が次々と浮かびました。
ちなみにアメリカでは、月1回ではなく2週間に1回、月に2回お給料が払われることが多く、3月10日がそのお給料日にあたる企業も多かったそうです。
そして2日後に破綻することになるシグネチャー銀行も、筆者の勤務先が口座を持っていたのと友達も働いていたので、連絡を取り合いました。不安がどんどん高まっていきました。
東日本大震災やアメリカ同時多発テロ事件の発生日がそうであるように、シリコンバレーの住民は「2023年3月10日、あの日、何してた?」という記憶が、後になっても鮮明に残る人が多い気がしています。
SVBは預金者の大半が法人で、90%以上が預金保護制度の上限の1口座当たり25万ドル(約3300万円)を超過していました。筆者は富裕層以外の一般の個人は口座は持てないのだろう、と思っていたくらい、「スタートアップ御用達の銀行」というイメージがありました。
日本のメガバンクから最近までシリコンバレーに駐在していた知人に聞くと、彼らの中でSVBは、「シリコンバレーといういわゆる『投資』が中心と言えるエコシステムの中で、預金と貸し出しがメインとなる“銀行“というビジネスモデルを大成功させている巨大な存在」というイメージだったそうです。
「世界中の英知と企業とお金が集まってくるイノベーションの中心地で、エコシステムの中のプレーヤーとして活躍することを目指さなければ、シリコンバレーに来た意味がない。自分の銀行の付加価値をどのように高めていくか、大成功している(ように見えた)SVBに一太刀浴びせたい」という理想を掲げていましたが、現実は「(SVBのような)銀行、投資家(VC)、起業家が密接なインナーサークルを構築してマネーを循環させていることで成り立つビジネスモデルであり、よく言われる『シリコンバレーの敷居の高さ』と同様、新参者が入り込む余地のない世界に見えた」と言っていたのが印象的でした。現実は「アリがゾウに立ち向かうようなレベルだった」と。
相当な数のベンチャーキャピタルがSVBに口座を持っていたので、必然的にスタートアップの方も資金調達の際はSVBに口座を開設して融資を受ける、というシステムができあがっていました。シリコンバレーの数多くのベンチャーキャピタルとスタートアップにとってはSVBはインフラそのもの。他が入り込めないような独占的なポジションでした。
金曜日の混乱を抑えるべく、日曜日にはアメリカ政府も全力でサポートする姿勢を即効で見せました。大統領が預金全額を保護すると発表しなければ、いったいいくつのスタートアップやベンチャーキャピタルが潰れ、どれだけの家族が路頭に迷っていただろう、と思います。
SVBとファーストリパブリック・バンクの手厚い顧客サポート
筆者の非常に個人的な体験に基づいてではありますが、破綻したシグネチャー銀行も、破綻は免れたものの経営不安が高まったファーストリパブリック・バンクも顧客サービスが手厚いという印象がありました。
新型コロナウイルス影響を受けて、アメリカ政府は雇用継続と再雇用の促進を目的とした給与保護プログラム(Paycheck Protection Program)を経済対策として打ち出されました。銀行経由で申し込みが開始されたのですが、申し込みが殺到し、すぐに予算を使い果たした結果、受け付け停止となってしまいました。
メインバンクも含めてどこも、筆者が勤める小さな非営利団体には対応してくれず(請求する金額によって銀行に手数料が入ります)、筆者の当時の上司やマネジメント部門の人たちも含めて誰も助けてくれず、一人で銀行に電話をかけまくってもらちがあかず途方に暮れていたときに、「ミホ、第2期で枠が少しあるから申し込む?」と唯一助けてくれたのがシグネチャー銀行の担当者でした。
知り合いの日本のスタートアップ企業も、アメリカの大手銀行では申し込みが複雑であったり、口座開設が不可能だったけれどもシグネチャー銀行ではストレスなしでさくっと口座開設ができ、担当者が丁寧にフォローしてくれたり、他にない顧客体験だったと言っていました。
リーマンショックの後、アメリカでは「これだから大きい金融機関はダメだよね。やっぱり中小銀行だよね」といった風潮だったのが、今回のことでお金の流れも人々の印象も真逆の反応になってしまいました。
シグネチャー銀行はその後、フラッグスター銀行に買収されましたが、現場の素晴らしいサービスがなんらかの形で継続されればと希望しています。
SVBやシグネチャー銀行の破綻から1カ月となり、預金も全額保護されることからひとまず落ち着きを取り戻した感があります。テック・ジャイアンツにしても、大量採用しすぎていたのでは、という報道も多々あります。
こんなときだからこそ、イノベーション聖地と言われる底力で、またみんながわっと驚く「世界を変える」が新しい価値が生まれたら、と思わずにはいられないのです。 

 

●2024年の金融大暴落「グレートリセット」が全世界に10倍のリーマン・ショック 4/17
「2024年末から史上最大規模の新たな金融危機が始まる」と警鐘を鳴らすのは、為替トレーダーとして30年以上、世界経済を見続けている岩永憲治氏だ。NYダウの大暴落が「すでに決まっている」と断言する理由とは。著書『金融暴落! グレートリセットに備えよ』から一部を抜粋、再構成してお届けする。
リーマン・ショックで終焉とはならなかった米国経済
2024年の秋以降、100年に一度の史上最大にして最後の、米国発バブル崩壊が訪れる。世界はリーマン・ショック時の10倍ものショックに襲われることだろう。
なぜ、2024年に発生するであろう米国発のバブル崩壊が2008年のリーマン・ショック時の10倍のショックを世界にもたらすのか?
答えから先に示すと、NYダウがピークから10分の1程度まで下がる可能性があると考えるからだ。株価が10分の1になるのに、10倍のショックが来ない、あるいは軽微で済むと考えるほうがおかしい。
ただし、仮にそうなる場合にはある程度事前に予測ができるはずだ。今後発生するかもしれないそうしたリスクの回避方法を紹介するのが、本書の目的でもある。
相場展開は様々なパターンがありうるが、パターンごとに対処方法は異なる。本書では最もインパクトが強く、最もリスクが高いシナリオを想定している。
これから2024年第3四半期近辺に合わせて、NYダウは4万ドル近辺まで上昇、臨界点でトップアウト。そこからは全世界的に100年に一度の怒濤のグレートリセット(社会や経済のシステムの大幅な 見通し・刷新)が始まる。金融界のみならず世界経済の常識が変わるだろう。
その後のNYダウのボトム(底)はバラク・オバマ政権時代のリーマン・ショック後に付けた6500ドルでは止まらず、そこを突き抜けてさらに下がっていくだろう。
次ページの「NYダウの経緯(月足)」を見ていただきたい(図表1-1)。白抜き、黒抜きの一つ一つの細長いラインは、ある期間の値動きのうち4つの価格(始値、高値、安値、終値)を1本の「足」として描いたものだ。その形状がろうそくに似ていることから、ろうそく足と命名されている。
ちなみに、このろうそく足を並べたチャートから相場の流れを分析する方法は日本の江戸時代、堂島の米取引に由来するとも言われている。90年代前半あたりまでは海外のチャート分析では3本足(高値、安値、終値)が主流だったが、いまやろうそく足の知名度は抜群だ。
株式チャートが示す「暴落のサイン」とは
終値が始値より高い、つまり上昇力の強い相場展開を表したものは白い「陽線」、逆に終値が始値より低い、つまり下向きの圧力がかかっているものは黒い「陰線」となる。白・黒の分は「実体(胴体)」と呼ばれ、「実体」部分以外の実体から高値までの細い線は「上ひげ」、安値までの細い線は「下ひげ」と呼ばれる。
   図表1-1 NYダウの経緯(月足)
図表は月足の動きを示したものだが、左上に2016年の2月から示現した「六陽連(月足で6カ月連続高)」の拡大図を入れた。この「六陽連」こそが上昇の相場の合図であり、この時は1万5000ドル台から上伸する合図であった。
少々細かい解説になるが、ろうそく足のなかには「実体」がほとんどなく「上ひげ」とよりひき「下ひげ」だけからなる「寄引同時線」がある。2016年2月は「寄引同時線」のなかでも「トンボ」の名称を持つ独特のろうそく足となっている。
これは月初から価格がどんどん下がっていったものの終わってみれば始値の水準まで終値が戻ってくるという、行って来いで相場が戻ってきた展開を示す。「トンボ」の場合は買い方が優勢、底値圏で出てくると底打ちを示唆するとされ、陽線と同等にカウントできる。
大きなトレンドでは、ここからバブルがスタートし、2022年1月に3万6900ドル台まで上昇後、同年10月に2万8600ドル台まで下落。そこから先は4万ドルを目指して上がっていく可能性があるが、結局はグレートリセットにより、リーマン・ショック後の底値6500ドルでは止まらず、最大 年から 年をかけてもう一段下の4000ドルあたりまで下がっていくというのが私のシナリオである。
よく日本の株式関係者はバブルが崩壊すると「株価は半値八掛け二割引」になると語るが、それよりも強烈な下落が待っているわけである。
NYダウは実はすでに「終わっていた」
なぜNYダウは、そこまで落ちなければいけないのか?
それは、2008年9月のリーマン・ショック発生のときに米国経済もEU経済圏もすでに破綻していたからである。本来であれば、現状のような経済構造を持つ資本主義下での 「最後のバブル」はそこで終了だったのにもかかわらず、各国政策当局は、淘汰されるべきゾンビ企業〞などを残したままマネーを投入することで延命を図ってきた。
FRB(米連邦準備制度理事会)は金融緩和と量的緩和とを駆使し、何とか、ごまかしごまかししつつ経済活動を持ちこたえさせてきた。ごまかしとおせると思っているところで、今度はコロナ禍に見舞われ、さらに米国政府はコロナ対策として国民に対して総額8500億ドル超(1ドル130円換算で110兆円規模)もの現金支給を実施した。
過剰な資金供給を背景に米国経済は活性化したかのように見える。それが本当なのかどうかを今回、マーケットが確認〞しにいくということだ。
●JPモルガン 金融不安前の株価を回復 シティなども好決算 景気には懸念 4/17
3月に金融不安が拡大した米国で大手銀行の経営状態の安定性が示された。米大手銀行のJPモルガン・チェースが14日に発表した2023年1-3月期決算は総収入、1株当たり利益ともに市場予想を大きく上回る好決算。JPモルガンの株価は前日比7.6%高となり、不安拡大前の水準を回復した。好調な業績は米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを進める中で、金利収益が大きく伸びたことが要因だ。同じ大手銀行のシティグループとウェルズ・ファーゴもそれぞれ好決算を発表している。ただし米国経済の今後の先行きは金融システムへの不安で不透明さを増しており、経営陣からは景気後退の可能性を懸念する声も出ている。
JPモルガン決算、市場予想を大きく上回る
JPモルガンの決算は総収入が前年同期比24.5%増の393億ドル、1株当たり利益は55.9%増の4.10ドルだった。金融情報会社リフィニティブによると、総収入は直前の市場予想を8.7%上回り、1株当たり利益も予想を20.9%上回った。JPモルガンの14日の株価(チャート)は前日終値から10ドル近く高い138.73ドルで取引を終え、金融不安拡大の3月7日の水準を回復した。
好決算の原動力となったのは金利収益だ。1-3月期の金利収益は前年同期の約1.5倍にあたる207億ドル。FRBの利上げが市場金利の上昇につながったことで、融資の際の金利を高く設定することができたうえ、預金に支払う利息などのコストは大きく上がらなかったことなどが理由だ。一方、投資銀行事業における手数料収入は債券引受業務が減ったことなどから減少。住宅ローン業務の手数料収入も減った。
また14日にはシティグループとウェルズ・ファーゴも2023年1-3月期決算を発表した。いずれも増収増益の好決算で、シティグループの株価(チャート)は4.8%値上がりした。ウェルズ・ファーゴの株価(チャート)は0.05%値下がりした。
ダイモンCEO、「嵐の予兆」は消えていない
米国では3月10日にシリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻した。市場金利の上昇で保有する債券の価値が下がったことで巨額の損失が発生し、経営が不安視され、預金の引き出しが殺到したことが原因だった。その後、シグネチャーバンクも経営破綻したことから、金融システム全体への不安が高まり、JPモルガンなどの大手銀行も含めて金融業界全体の株価が下落する事態となっていた。今回の決算は大手銀行の経営への不安を払拭する内容だったといえる。
ただし金融不安をきっかけに米国経済の先行き不透明感は強まった。FRBは物価上昇を抑え込むための利上げを進めながら、景気後退リスクも注視せざるを得ない状況だ。また、3月下旬には銀行融資の残高が減少するなど、金融機関が個人や企業への貸し出しに慎重になっている様子もうかがえる。今後、経済活動が落ち込んでいけば、資金需要が減るなどして、銀行の業績に逆風となる可能性もある。
JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは決算発表に際してのコメントで「嵐の予兆」は消えていないと指摘。金融システムは全体として健全であることに触れつつ、「貸し手がより慎重になる中で、貸し出しをめぐる状況は絞り込まれていくだろう。このことが消費に与える影響は見通せない」と言及し、景気の先行きに警戒感を示した。シティグループのジェーン・フレイザーCEOも決算説明会で「米国は今年中に緩やかな景気後退に入る可能性が高くなった」と話している。
●米国の銀行破綻はまだ続く その理由と日本への影響 4/17
3月に米シリコンバレーバンク(SVB)が破綻しました。米国政府の救済策により、金融危機はいったん落ち着いたようにも見えますが、このまま収束するとは思えません。むしろこれからゆっくりと時間をかけて、影響は広がっていくとみています。
今回の銀行破綻は何の前触れもなく唐突に起きたものではなく、米国の銀行株指数は2021年9月から下げ始めていました。21年11月に米連邦準備理事会(FRB)が「インフレは一時的ではない」という見解を初めて示し、今後はインフレ退治のための利上げが行われること、それにより銀行が保有する債券の含み損が大きくなることを市場は織り込み始めました。
利上げは銀行にとって別の問題も生みました。1年物国債の金利が5%、2年物国債でも4%なら、預金金利が0.25%程度の銀行に資金が集まる理由はありません。さらにSVB固有の事情ですが、顧客の多くを占めるテックベンチャーの資金調達環境が悪化すると、彼らの資金繰りのために預金が流出するのです。いずれも利上げに起因した、含み損と預金流出という2つの問題が重なったのが、SVB破綻のメカニズムです。
金融システムが「不公平」に
米国政府は破綻が金融システム全体に波及するのを防ぐため、SVBの預金を全額保護すると発表しました。しかしこの救済措置は、むしろ米国の金融システムにゆがみを残してしまったと思います。
米国の預金保険制度は本来、1口座当たり25万ドルを超えた分を保護しません。今回はそれを曲げて預金全額を保護したわけですが、米連邦預金保険公社(FDIC)の資金は米国の預金総額の1%未満。仮に今後も銀行の破綻が相次げば、その全てを保護する力はないのです。イエレン米財務長官も、全ての預金を保護するわけではないという趣旨の発言を行っています。
米国には小規模な地方銀行が多く、金利の高止まりが続く限り、含み損や預金流出というストレスを抱えた銀行は増えます。破綻予備軍は他にもあると思うべきで、今後何カ月もかけて表面化してくる可能性があるのです。
リーマン・ショックの時も、いくつもの銀行がルールを曲げて救済されたのに、米リーマン・ブラザーズは救われないという「不公平」がありました。その過程で、銀行救済への世論の不満が高まったことも背景にあります。今回も、後から破綻した銀行ほど救われない不公平が生じる可能性があり、それは信用力の低い銀行で取り付け騒ぎを誘発し得ます。既に「一番安全な銀行は、政府が全額保証を約束したSVB」という皮肉な状況が発生したのですから。
SVBの破綻は、FRBの金融政策も変えてしまいました。銀行に対して流動性を供給する目的で資産購入を増やしたため、FRBのバランスシート(BS)が久々に拡大したのです。パウエル議長は、この措置は量的緩和(QE)とは違う一時的なものと説明していますが、BSが拡大した以上は量的緩和と同じ効果があります。
3月下旬には再びBSが小幅に縮小する場面もあり、今後はまだ不透明ですが、FRBが金融引き締めを行いにくくなったことは間違いありません。「FRBはインフレ退治を諦めて金融システムの安定を選んだ」状況です。
金融政策が緩和的になるなら、株式市場にも追い風に見えますが、やがて再度のインフレの暴走というシナリオが訪れる可能性は高まりました。為替市場では円高・ドル安圧力が生じるでしょう。
米国株指数は一見すると上昇局面ですが、実はAI(人工知能)ブームで沸く米エヌビディア(NVIDIA)など一部の銘柄が指数を押し上げている状態。株式市場全体への楽観論はありません。歴史的にも、FRBが金融緩和に転じた直後は、まだ株価が下げ続ける例の方が多いのです。
日本への危機の波及はあるか
米国では銀行危機の火種が残る状況ですが、日本に波及する可能性はあるでしょうか。私はそれほど心配はいらないと思います。
そもそも一般論としては、金利が上昇すれば貸し出しの利ザヤが拡大するため、銀行の経営にはプラスなのです。米国でそれがマイナスに働いてしまった理由は、利上げが急過ぎたことに尽きます。
1年で5%近い金利上昇スピードでは、それを早期に融資金利に反映させるのは不可能。結果として預金金利を上げられず、預金流出リスクも高まりました。日銀が仮に利上げに向かうとしても、米国のような急激な利上げになるとは思えません。
もちろん、金利上昇で債券の含み損が生じるのは日本の銀行も同じです。とはいえ、預金流出さえ起きなければ、含み損がある債券でも満期まで持つことができます。
気軽に債券に資金を移す米国の預金者と異なり、日本人はそう簡単に預金を引き出しません。というよりも、預金をやめるメリットにまだ気付いていない。そう考えた方がいいかもしれません。
日本でも、破綻時の預金保護には1000万円と利息までという上限があります。ならば、証券口座に入れて公社債投資信託でも買った方が、預金より安全だと言うこともできるのです。すぐに日本人がそんな発想で動くことは考えにくいですが、遠い将来まで今の状況が続くかは分かりません。
足元では銀行危機の影響で日本の長期金利が低下し、日銀の金融政策見直しの必要性がいったん薄れていることもあり、銀行危機の日本への波及リスクは限定的と考えていいと思います。 
●イエレン財務長官「追加利上げ不要」発言が波紋…米国で貸し渋り加速 4/17
「リーマン級危機」の前夜なのか──。イエレン米財務長官が「追加利上げ不要」と発言し、波紋が広がっている。16日放映のCNNとのインタビューで、最近の米銀破綻を受けて、金融機関が融資を一段と引き締める可能性を指摘。金融機関の融資引き締めが「FRB(米連邦準備制度理事会)が行う必要がある追加利上げの代わりになる可能性がある」と語ったのだ。
FRB議長も務めたイエレン財務長官の発言は重たい。金融ジャーナリストの森岡英樹氏が言う。
「驚きの発言です。追加利上げの代わりになるほど、金融機関の“貸し渋り”が横行するとの見通しがあると認めたに等しい。米国ではシリコンバレー銀行の破綻をきっかけに、中小銀行への信用不安が急速に広がりました。銀行は信用不安を払拭するために健全経営を示す必要に迫られ、すでに貸し出し態度を厳格化させている。その結果、リスクの高い顧客に対する貸し渋りや貸しはがしが急増しています。銀行としては生き残るための自己防衛と言えます」
疑心暗鬼の悪循環
FRBの週次統計によると、米中小銀行の融資残高は急速に減少している。今のところ、貸し渋りは市況の悪化が激しい商業用不動産向けが中心だが、今後は、ベンチャー企業やクレジットカード向けにも広がるとみられている。
「金融は経済の血液ともいわれている。血液が足りなければ、経済は回らなくなります。銀行の貸し渋りにより、企業の資金繰り悪化は避けられず、倒産件数も増える。融資先が倒産すれば、銀行の経営も悪化し、かえって、銀行への信用不安は拡大する。すると、さらに貸し出し態度を硬化させるという“悪循環”に陥ってしまいます」(森岡英樹氏)
ニッチもサッチもいかなくなれば、悪循環から抜け出すのは容易でない。
「信用不安の場合、必要以上に疑心暗鬼に陥るケースも少なくない。米国の景気後退が長期化する可能性があり、世界経済は壊滅的な影響を受ける恐れがあります」(森岡英樹氏)
米国のサブプライムローン問題を契機に起きた「リーマン・ショック」により、日本経済はボロボロになった。警戒が必要だ。
●アメリカ経済のほころび…「夏には景気後退が明らかになる」 4/17
イギリスのシンクタンク、パンテオン・マクロエコノミクスの創業者でチーフエコノミストのイアン・シェファードソン氏によれば、アメリカ経済はすでに破綻し始めており、今年の夏にも景気後退が始まるだろうという。
先月の雇用者数の増加はエコノミストたちの予想をわずかに上回ったとはいえ、まもなく非農業部門雇用者数の報告はそれほど目を引くものではなくなり、2、3カ月のうちには大きく落ち込むだろうとシェファードソン氏は予測している。
2023年4月10日、顧客へ送ったメモの中で彼はこう述べている。
「23.6万人の増加という3月の雇用者数報告は、銀行危機以前の世界の残像で、まるで遠い昔のニュースのように思えます。あの頃はまだ、全国的な異例の暖冬が雇用の増加を下支えしており、連邦準備制度理事会(FRB)による合わせて4.75%におよぶ金利引き上げの影響が認識される前のことでした」
彼は2005年の時点で、住宅部門の破綻を皮切りにアメリカがいずれ不景気に突入することを予測していた。
「現状は向こう数カ月のうちに変化していくはずで、早ければ今月中にも変わり始める可能性があります。我々の現在の仮予測では、4月の雇用者増加数は15万人、5月に関しては5万人程度です」
さらに彼は続ける。
「今年の夏には雇用者数の減少が起こり、その結果、失業率が押し上げられるだろうと我々は予想しています」
シェファードソンは全米独立企業連盟(NFIB)の雇用意向調査を、労働市場の動向を占う主要な指標として挙げた。また、貸し渋りの原因となっている銀行システムの動揺によって、こうした雇用状況の悪化が加速しかねないとも述べている。

 

●「2024年末から史上最大規模の新たな金融危機が始まる」 4/18
インフレを引き起こした真犯人は誰だ?
――2020年からこれまでに起きた出来事を振り返ってみると、新型コロナの流行、ウクライナ戦争、歴史的なドル高円安、物価高などが挙げられます。このような流れのなか、米国は約40年ぶりの激しいインフレに見舞われました。ロシアのウクライナ侵攻など予測不可能な事象がインフレの犯人と捉えてよろしいのでしょうか?
岩永憲治(以下同)それまで米国経済は基本的には4〜4.5%の成長率を維持してきました。ところが、世界的にコロナパンデミックが流行し始めた2020年2月末から3月にかけて、米国株が大暴落した。
するとバイデン政権は国民が被った経済的な打撃を緩和するとして、国民に禁じ手≠ナあるマネーのばら撒きを行いました。総額で8500億ドル超(1ドル130円換算で110兆円規模)もの現金支給に踏み切った。しかも3度にわたって。
アメリカ経済は本来、そこまでしなくてもよいポテンシャルを十分持っていたのですが、おそらくアワを食ったのでしょう。では、それで何が起きたのか。
消費者物価指数、耐久財(自動車、家具、大型電化製品等)受注額など景気の良し悪しを判断するための経済指標が、ばら撒きを行うたびに、おのおの前年比30%も跳ね上がったのです。知ってのとおり、もともと米国人は、日本人とは真逆のキャラで、貯蓄の概念に乏しいと言われます。大仰でなく、政府からコロナ給付金をもらったら、その倍から10倍くらいを消費に回してしまう国民性なんです。
なおかつコロナ禍の最中ということで、工場が生産停止に追い込まれ、モノの供給がストップしていました。モノがないなかでマネーをばら撒いたら、当然ながら、モノを買おうとする猛烈なパワーが働いて、モノの値段は上がります。ただでさえ、コロナ禍で大好きな買い物を我慢していた米国民が現金支給を契機に爆買いに走ったことで、物価が一気に上昇していったのでした。
よくメディアはウクライナとロシアの紛争が米国の物価高を招いたのだともっともらしい説明をするのですが、実際はまったく違いました。ウクライナ紛争が起きたときには、すでに米国はインフレになっていたのですから。その証拠は当時の耐久財のチャートを見れば一目瞭然。つまり、インフレの真因はバイデン政権のばら撒き施策にあるのです。
「1929年世界大恐慌」直前の状況と酷似
――岩永さんは著書の中で、2025年に米国発の金融暴落を経て、“グレートリセット”が起きると予測しています。この推移について、過去に似通った例はありますか?
1929年から1932年にかけて起きたNY発の「世界大恐慌」です。おそらく、これに則した状況になるはずです。というのも1929年の世界大恐慌が発生する手前のNYダウのチャートと、2023年のNYダウのチャートが瓜二つなのです。
当時と今の状況とを比べて、当時はモノがない時代だったし、経済規模も桁違いなどとさまざまな差異はあるけれど、今回も金融恐慌→金融収縮→大恐慌に発展していくだろうと見ています。
どんなに時代が変わろうと、人間の欲望、熱望、渇望、スペキュレーションには限りがないのです。そしてマーケットにはもれなく”臨界点”が存在しているのです。
1980年から米国は40年間も利下げを続けてきました。その間、小さなデコボコがあったにせよ、基本的にNYダウは上昇し続けてきました。オバマ政権時にはいったんリーマン・ショックによりNYダウは6500ドルまで下落を見たものの、現在は3万3000ドルと、リーマン・ショック時のボトムから5倍に膨らんでいるのです。
1929年の世界大恐慌時はどうだったでしょうか。NYダウは40ドル台からスタートして1928年から急上昇をし始め、381ドルまで上がりました。
日本で暮らしていると、今のアメリカ経済がバブルなのかどうかはよくわからないかと思いますが、例えば今年に入ってから暗号資産交換業大手のFTXが破綻したり、ビットコインの価格が暴落したことなどは、世界規模でバブルが起きていて、その崩壊が近づいていることを教唆してくれています。
ただし、それでも米国のNYダウは下落せずにじりじりと上昇している。先にふれたように、私には今のNYダウの状況が1929年の状況に重なっているように見えるのです。2023年の我々の立ち位置は、世界大恐慌が発生する1年前の1928年の状況に酷似しているように思えてなりません。
世界中のCEOの70%が景気後退場面を懸念
――ということは、米国は今、バブルの真っ只中にいるわけですね。 2023年3月に起きたシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行の経営破綻、クレディスイスの実質破綻処理などの危機が騒がれた状況は、どのように考えれば良いのでしょうか? 
シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が経営破綻、クレディスイスが実質破綻し、UBSに買収される状況になっても、NYダウはまったく落ちる気配を見せません。
ここが肝要なところですが、大恐慌発生前の1920年代に米国で何が起きていたかというと、フロリダで不動産バブルが起きておおいに盛り上がった末に弾けたのです。当時は群がった投資家に融資した銀行が100行ほど潰れました。
ところが今と同じで、当時のNYダウはまったく下げなかったのです。それを見た米国の投資家たちは、いったんフロリダ不動産からマネーを引き揚げ、手っ取り早く儲けられるNYダウへの投資にさっさと方向転換≠オたのです。
昨今のFTXや仮想通貨の破綻、ビットコインの暴落、銀行の破綻などは、まるで当時との重ね絵を見るようです。これが何を示しているのか。マーケットからの警鐘に他なりません。
バイデン政権のマネーのばら撒きは、あらゆる消費財価格を急騰させてしまった。これを抑えるのに、FRBは金利を上げざるを得なくなりました。金利が急騰するにつれ、各金融機関が保有する債券の価格は逆に暴落の憂き目を見たのです。
2022年10月の段階で、米国債の発行高は31兆ドル(約4000兆円超)にも及びました。先般成立した2023年度の日本の国家予算が約114兆円ですから、ざっとその40倍です。その4000兆円のうちの数百兆円の米国債はその時点で、含み損を出していた。そうした状況下、経営破綻に至る銀行が出てきましたが、これは氷山の一角に過ぎません。
これまでFRBは40年間にわたって金利を下げてきて、景気を良くして、米国株は基本的に上がり続けてきました。ところが、FRBはバイデン政権の失政≠ゥら、40年間下げ続けてきた政策金利を上げ始めた。
すると長年FRBが行ってきた金融緩和政策のために市場が緩和中毒≠ノなってしまい、その症状が経済の歪みとなってどんどん目立ってきました。だから、世界中のCEOの70 〜80%がリセッション、すなわち景気後退場面が訪れると表明しているのです。実際、ブルームバーグもロイターもウォールストリート・ジャーナルもリセッション入りを予測しています。
実体経済が強いにも関わらず、マーケットが弱気という不思議
――2022年10月にNYダウは2万8000ドルに下落しましたが、その後盛り返して3万3000ドル台に復帰しています。実際に現在の米国の景気はよいのでしょうか。それとも米国の経済メディアが示すように、リセッションの手前にあるのでしょうか?
岩永憲治(以下同) 現在のアメリカは物価の上昇が止まらない。だから金利を上げなくてはいけない。しかし、金利が上がれば株価が暴落する。この3つを一度に解決できるのが戦時経済の到来なのですが、2022年には、おあつらえ向きにロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。
それ以前には、2020年から始まったコロナ禍の下、米国の医療業界は笑いが止まらぬほど潤いました。米国経済は大づかみに言うと2つの柱で成り立っています。1つは医療業界、もう1つは軍産複合体です。この2つを潤して、経済全体を持ち上げるのが米国の常套手段なのですが、2020年から始まったコロナ禍で米国の医療業界は笑いが止まらぬほど潤いました。
そして金利が上がり、物価も上がり、米国経済がリセッション(景気後退)の入り口に立たされたと経済メディアが騒ぎ出した段階で、タイムリーにウクライナを巡る戦端が開かれた。
戦時経済が米国に有利≠ノ働くのは、議会で予算がすんなりと通ることです。案の定、次々と新たな軍事予算案が通っています。ドルの輪転機が猛烈に回っているのに対して、マーケットのセンチメント(感情)はいたって弱気です。
しかし、現実にはヘッジファンドがいくら売りに回っても、裾野がきわめて広い軍産複合体関連が潤ってきていることから、実体経済は強いわけです。米国のGDPの底堅さがそれを表しています。
さらにそうした状況を補強する格好になったのが、S&Pが発表した3月のPMI(米総合購買担当者景気指数)でした。これは購買者から見た米国の景気を表す指数のことで、速報値で53.3と10ヵ月ぶりの高水準となりました。米国の実体経済が強いにも関わらず、マーケットが弱気。これが現状です。グローバル・マクロ・ファンドはドル、日本株、米国株を売りまくっています。
ところで、2023年の第2四半期が始まりました。懐疑的な相場の動きを、私はこう予測しています。これまでと同様に、NYダウは2万8000ドルから3万4000ドルまでスクイーズされる。つまり買い戻されるでしょう。3万ドル、3万1000ドルまで売りまくった連中は、3万3000ドル、3万4000ドルで買わされるということです。
第2四半期において、NYダウはじわりと上昇していくはずです。ただし、本格的に伸び始めるのは第3四半期だと、私は踏んでいます。理由を少しだけ明かしましょうか。キーワードは、3月21日の岸田文雄首相のウクライナ電撃訪問です。これはウクライナとロシアの手打ちがすでになされている可能性が限りなく高いことを示しています。
破綻した金融機関には共通項があった
――2023年にはグレートリセットの前ぶれのような事象が起きてくると予測されていますが、実際にそれはどんなことからスタートするのでしょうか?
今回のシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行の経営破綻がその前ぶれと考えていいと思います。2008年9月に起きたリーマン・ショックのときも、その前年にベアスターンズ証券などが破綻しており、そのパターンを踏襲しているように見えます。
加えて、クレディスイスが実質破綻し、UBSに買収されることになりました。ただ、クレディスイスはもともとリーマンブラザースの元社員の多くが転出、マフィアのマネーロンダリングの幇助などで金融当局からペナルティを食らっていたほどの体たらくで、株価は2ユーロほど。つまり、いつ潰れてもおかしくはなかったのです。
ちなみにFTX、仮想通貨、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行の破綻には、ある共通項が存在していました。それは、そのすべてが中国資本と密接に絡んでいたのです。つまり米国はそれを許さなかったということです。
クレディスイスのバックボーンは中東各国の中央銀行であり、中東のオイルマネーです。もうピンとこられた人もいるでしょうが、中東のオイルマネーは、大株主としてクレディスイスに莫大なマネーを入れていて、それが吹っ飛んでしまった。手持ち債券を無価値にされ、株価は暴落、UBSに半値で買収されたのですから、中東各国の中央銀行は大損を被ったわけです。
これに繋がるのが今年1月に開催されたダボス会議です。1973年の石油危機以降、中東の石油の取引はドルのみで行うペトロダラー制でした。同会議の席で中国側は「人民元を石油取引の基軸通貨にしたい」と発言しました。これに対して中東側の代表、サウジアラビアの財務相は「ペトロダラーだけではない」と返したのです。要は、中東はペトロダラー制を放棄して、人民元を石油取引の基軸通貨にすることに前向きであると示唆したのです。
この一件が、米国が中国資本と繋がる銀行、組織を破綻させ、クレディスイスを窮地に追いやり、中国と中東各国の資本を大きく棄損させた真因だと私は見ています。
米国が仕組んだ世界金融ガラガラポンの中身
――歴史を振り返ると、膨れ上がったバブル経済は必ず崩壊してきました。今後、どのような形でバブル崩壊、グレートリセットへと展開していくのでしょうか?
岩永憲治(以下同)米国が見据えているのは、2024年11月に行われる大統領選挙です。その前までに米国がすべきことは、経済の中心である銀行の膿を出すこと、加えて、ゼロ金利あるいは超低金利の環境でしか生き残れないゾンビ企業潰しでしょう。それらを行ってから、「さあ、米国株を買ってください」と世界に呼びかける。今はそのお膳立てを整えている真っ最中といえます。
3月22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)においてFRBは0.25%の政策金利引き上げを決めました。それでも依然としてマーケットやメディアの読みと実体経済には乖離が見られます。おそらくマーケットやメディアが米国経済の強さに気付くのは2024年になってからでしょう。
なぜならば、FRBがこれだけ政策金利を上げても、株が落ちずに上がっていくというシナリオを現状では誰も描けていないからです。株の推奨セクターは軍需産業。その理由は前述したように、戦時経済体制に入っていることで、議会で予算が通りやすくなっているからです。
――米国の物価高、インフレ状態はどこまで進むと予測されていますか?
今はインフレを抑えるためにFRBは政策金利を上げています。FRBがインフレに対する判断を何に求めているかというと、それは原油価格です。原油価格はいったん120ドルでピークを打ち、現在は70ドル台まで下がってきています。ピークから50ドルも下げたところで落ち着いていることから、おいおいインフレは収まっていくでしょう。
結局、米国政権がこれ以上国民にマネーをばら撒かず、金利を粛々と上げて、マーケットから資金を吸収していくならば、おのずとインフレは収束するはずです。ただし、インフレターゲット2%などと目標を掲げているとはいえ、そこまではなりません。
なぜなら、いまの米国は労働市場がかなり強いからです。先刻も示したとおり、軍産複合体を中心とした裾野の広い産業がドルの輪転機を回し続けているからで、世界中の軍需産業が活発化しています。
2024年に入れば、今度はマーケットやメディアは一転して強気一辺倒になって、「今回は違う。バブルではない。米国株式市場は盤石だ!」と大声を張り上げるでしょう。2024年の第3四半期、あるいは大統領選挙の直前まで、米国は史上最大のバブルをつくっていきます。
バブル崩壊後、何が起こるのか?
――だが、実際には米国経済は盤石ではないと。
そのとおりです。リーマン・ショックのときにすでに米国経済は実質的に終わっていたからです。それをFRBが誤魔化し誤魔化しして、ここまで来てしまった。
紙幅の関係で詳細は拙著に譲りますが、実は米国は逃げられないところまで輪転機を回していて、すでににっちもさっちもいかない状態に追い込まれているのです。ですから、どこかでガラガラポンをしなければ、米国経済は持ち堪えられないのです。そこで仕組まれたのが、最大にして最後の米国株バブルの生成と崩壊、そして自らが主導する国際金融の大再編と新通貨体制の立ち上げなのです。
米国株がバブルのピークを付けるのは、2024年11月の米国大統領選挙の前後となるでしょう。そこまでは最後のバブルを必死になってつくっていき、最後は自国通貨であるドルに価値を見出せなくなって梯子を外す。これしか、米国に残された道はありません。
そして、バブル崩壊を教えてくれているのがゴールド相場の動きです。2023年3月末時点で、安全資産としてのゴールド(NY先物)は1トロイオンス=2000ドルまで上昇しています。2000ドル超えはウクライナ危機勃発後の2022年4月以来約11カ月ぶりのことでした。
ゴールドのウイークポイントは金利が付かないことです。ですから、昨年来の利上げはゴールドには大変なアゲンストでしたが、ここにきて再び2000ドル超えを達成してきたのは、投資マネーがゴールドに逃避する姿勢を強めていることを如実に示しています。
――米国のバブルが崩壊した後、具体的には何が起こるのでしょうか?
2025年に始まるであろう米国のバブル崩壊により、とんでもない数の企業が潰れて、銀行も次々と倒れていくでしょう。米国のバブル崩壊に伴って進むのが金融大再編です。たとえば今回、クレディスイスがUBSに吸収されたのは、その前哨戦のようなものとご理解していただければよいでしょう。大手、中堅、地方でさまざまな形で潰し合い、合従連衡が昂進していくのです。
私の見立てでは、金融大再編により、FTX、暗号資産なども破綻の憂き目を免れないと思います。それをテコにして、FRBはデジタル通貨体制を立ち上げたいからです。ただ、FRB単独では難しいでしょう。FRBはずっと「暗号資産は危険だ」と警告を発し続けていました。中央銀行の信用力と経済規模というバックグランドがなければ、デジタル通貨の発行など絵に描いた餅に過ぎない。FRBとしてはそんな心持ちだったに違いありません。
そして、さらに大きな視点で金融大再編を論じるならば、世界の中央銀行がタッグを組んで、デジタル通貨を創設するのでしょう。おそらく今夏あたりにその構想が出来上がってきます。最速で進めば、今年10月に開催されるIMF年次総会で、国際通貨体制を「金本位制」に戻す話が取り沙汰されるかもしれません。
強い相場は懐疑のなかで育つ
――1929年に始まった大恐慌の際、米国では約1万の銀行が破綻したという記録が残っています。今回もそのくらいの被害が出る可能性はあるのでしょうか?
岩永憲治(以下同)あります。というのも、本来ならばオバマ政権下で起きたリーマン・ショックのときに潰さなければならなかった銀行が生き残っているからです。おそらく1000行程度はあるはずです。それをゾンビ銀行にしたまま、結局、FRBはマネーをばら撒き、利下げを行って、今日まで生きながらえさせてきた。
2025年の恐慌時には、NYダウはピークの4万ドル近辺から4000ドルまで暴落すると見ています。そのときに初めて、潰れるべき銀行が軒並み潰れる。クレディスイスにしたって、これまではあまりにも図体が大きすぎて潰せなかった。だからスイス中央銀行が慌てて処置を講じて、UBSに引き取らせたわけです。
各国の中央銀行は過剰な銀行数を淘汰し、再編したかったのですが、なかなかきっかけが掴めなかった。2025年から本格化する米国発の大恐慌はその絶好の機会であるとも言えます。
――米国経済の現状と、今年から来年に向けて経済指標はどのように変化していくと思われますか?
「強い相場は懐疑のなかで育つ」。これは著名投資家ジョン・テンプルトン卿(1912〜2008年)の言葉で、全文は「強気相場は悲観のなかで生まれ、懐疑のなかで育ち、楽観のなかで成熟し、陶酔のなかで消えていく」というものです。現状はリセッション(景気後退)がいつやってくるのか、そしてどの銀行が次に潰れるかもわからない。でも、NYダウは堅調で、じわじわと上昇中。まさしくいまの時点が「懐疑」の段階なのです。
それが今年の第3四半期にはNYダウはぐっと上昇速度を上げにかかってきます。24年を迎えると、高金利下でゾンビ企業が次々と潰れていくなか、FRBの狙い通り、重厚長大銘柄がほぼ全面高という状態を迎えます。残った銘柄についてはどれを買っても上がるようになっているはずです。そのときには米国株が落ちるなどとは誰も考えない環境になっており、マーケットは「今回だけは違う。今回はバブルではない」と大声で主張するのでしょう。
ただし、NYダウのバブルが破裂する目安は3万5000ドル以上、S&P500は4500以上、一蓮托生となる日経平均は3万円以上。これを超えたら、いわゆる“毒饅頭ゾーン”なのですが、皆、たらふく食べてしまうのが”相場”の恐ろしいところでしょう。
バブル後は最悪、相場が10分の1に
2023年の後半から24年11月の大統領選挙に向けての時期、米国株式市場は世界中を巻き込んでの史上最大のバブルをつくり上げることになります。これから強烈なバブルの波に乗る米国株に対する投資チャンスの掴み方、さらに逃げのタイミングについては、拙著(『金融暴落! グレートリセットに備えよ』)第5章に詳細に記してあるので、是非、お読みいただきたい。
ただし、2025年のどこかの時点で米国株式市場は確実にクラッシュします。天文学的負債を抱え込み、自国通貨ドルに価値を見出せなくなった米国のガラガラポンが始まるのです。クラッシュするときには、もう何もかもが衝撃的な速度で下がります。最悪、ピーク時から10分の1まで暴落すると私は見ています。
――岸田政権は2024年から新NISA制度をスタートさせ、ますます貯蓄から投資への動きを促そうとしています。グレートリセットが起こるとしたら、個人投資家はどのような対策を講じるべきでしょうか?
多くの個人投資家が投資信託で資産運用を行っているようですが、私自身はあまり勧めたくはないですね。なぜなら、投信は「お金に働いてもらう」という安易な考え方に立脚しているからです。
投資信託の考え方は、高いところも買ったけれど、下落して安いところも買えば、平均したらそこそこ、また高くなっていけば、いいところで売れるよね、というものです。このようにお金に働いてもらうとする考え方が日本国内で浸透してきているから、いまは投資信託に莫大なお金が投入されています。
ですから、そういう考え方の人たちは2024年の最後のバブルのときに、持ち株を全部売るか、アセット・アロケーション(資産配分)で少なくとも3分の1はゴールドに換えるとか、そういうアクションに出ないと、金融資産を根こそぎ奪われてしまうでしょう。例えば日経平均連動の投信ならば、バブルが破裂すると、ピークの3万2000円くらいから、4000〜5000円まで瞬く間に急落するでしょう。
従来ならば、株バブルが崩壊して安くなったらまた買えばいいとする仕切り直しもありでした。けれども、今回の株バブルの崩壊後はおそらく20〜30年間、株は上昇しないと思いますので、復活は不可能です。
そのときに価値が急上昇するもの、それがゴールドです。ですから、極論を言えば、最後のバブル崩壊時にゴールドでヘッジできた投資家のみが助かるでしょう。
時代は株(バーチャル)から現物(リアル)へ
本来ならば、これだけNYダウが強くて株バブルになって、金利が高くなっている状況下ならば、どう考えてもゴールドは1000ドル割れしていなければおかしい。それが現実には2000ドルです。
この現実から、もはや株(バーチャル)の時代は終焉し、今後はゴールドを含めた貴金属、農作物などのコモディティ、資源エネルギー…つまり現物(リアル)の時代が到来するという答えを導き出すことができます。これを知ってか知らずかわかりませんが、著名投資家のウォーレン・バフェットは現在、原油および天然ガスの採鉱、開発に携わる会社の株を積極的に買っています。
――金融暴落に備えてゴールドの保有が有効なのはわかるのですが、多くの人がそれに気付いて、品薄になって買えなくなる可能性はあるのでしょうか?
ないと思います。理由は、米国が金利を上げてくるからです。同時にこれからNYダウが上昇速度を増していく。ゴールドが急騰するのは24年の年末あたりからでしょう。そのタイミングとは、NYダウが急落≠オ始めたときです。それを合図にFRBがどんどん政策金利を下げてきます。そのときにはゴールドの価格は一気に4000ドル近辺まで上昇するのではないかと思います。
それまでは金利の付かないゴールドは落ち切らず、かといって上がりもせずといったジリジリした動きを見せるので、買えなくなるようなことはないと思います。
1929年に始まった世界大恐慌のとき、国際金融資本の連中は「公共株」を買い漁りました。大恐慌が続いている間は生活に不可欠なことから、配当が出やすく、株価の変動しにくい電力やガス、水道、燃料などの公共関係株に触手を伸ばしたのです。
そして1932年に景気がボトムを打ったのを確認すると、今度はパフォーマンスが期待できるベンチャー、一般産業株の投資に方向転換を遂げていて、そのしたたかさには脱帽です。
おわり
●日銀 黒田前総裁 NYで講演 “物価上がらない考え強かった” 4/18
日銀の黒田前総裁はアメリカ ニューヨークで講演し、任期中に2%の物価目標を持続的に達成できなかった理由について、人々のあいだで物価は上がらないという考えが強かったためだと説明しました。
10年の任期を終えた日銀の黒田前総裁は17日、ニューヨークのコロンビア大学で講演し、アメリカのFRB=連邦準備制度理事会の元副議長、ブラインダー氏とも対談しました。
この中で、黒田前総裁は任期中に2%の物価目標を持続的に達成できなかった理由について、1990年代に日本で起きた金融危機などにも言及しつつ「15年間の長いデフレのせいで物価や賃金が上昇しないとの人々の考え方が強かったためだ」と説明しました。
一方で、最近の日本経済については「状況は変わってきている」とし、任期中に雇用が400万人増えた結果、労働市場の需給は引き締まり、労働力はこれ以上、供給されにくい状況にあるとして「賃金は上昇していくだろう」と述べました。
そのうえで黒田前総裁は「物価や賃金が上昇しないとの人々の考え方は急速に変化している」と指摘し、2%の物価目標は近い将来に持続的、安定的に達成できるとの考えを示しました。
聴衆から円安の副作用について質問が出ましたが、黒田前総裁は「残念ながら何も答えられない」と述べるにとどめました。
●インフレは金融安定リスク、ドイツの銀行資本は強固=独財務相 4/18
ドイツのリントナー財務相は17日、 インフレは金融安定に対するリスクであるということを中央銀行は念頭に置いておく必要があるとの考えを示した。
リントナー財務相はドイツの銀行協会のイベントで、インフレは「猛々しい獣」のようなものだとし、金融システムだけでなく経済にとってもリスクだと述べた。
その上で「財政政策が金融政策と矛盾することがあってはならない」とし、財政の健全化を呼びかけた。
また、米国の銀行部門とスイス金融大手クレディ・スイスを巡る問題受けても、ドイツ国内の金融安定について懸念する必要はないと指摘。「銀行危機は発生していない。ドイツの銀行には強固な資本基盤がある」と語った。
●韓国経済が危機的状況で「中国離れ」鮮明に、元駐韓大使が詳しく解説 4/18
韓国経済が 危機的な状況に
韓国経済が危機的な状況になりつつある。これは支持率低迷に苦しむ尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権にとって致命傷となりかねず、早急に立て直す必要があるが、その際の経済・外交政策は、前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏の政策とは対極をなすものになるだろう。
半導体輸出の不振を反映し、経常収支は2カ月連続で赤字となった。輸出の減少は対中輸出の減少が大きく響いている。
国際通貨基金(IMF)は韓国経済に関する警鐘を鳴らし続けている。IMFは、韓国の今年の経済成長率見通しを1年間継続して下方修正している。IMFが「家計債務脆弱国」と指摘した4カ国のうちには韓国も含まれている(残る3カ国はスウェーデン、ベルギー、フランス)。
危機感を反映し、韓国銀行(韓銀)は物価が上昇していても、2月に続き4月も基準金利の引き上げを見送った。
韓国経済は、どこを見ても危機的な状況を示唆している。これを打ち破るためには、文在寅政策を根本的に改める必要がある。
景気回復には 時間がかかる
IMFは、韓国の今年の経済成長の見通しを昨年4月の2.9%から4回連続で引き下げ、さらに今年4月には1.5%にまで下げた。今年に成長率見通しを引き下げた国は他に日本やドイツもあるが、主要20カ国(G20)のうち経済成長率が連続して下落したのは韓国だけである。
輸出依存度が高い韓国は、世界景気の影響を大きく受ける。景気鈍化で韓国の主要輸出品目である半導体などの製造業関連需要が急減した。韓国の生産の10%、輸出の20%を占める半導体の景気が酷寒期を迎える中、サムスン電子の1〜3月期の営業利益は前年同期比96%減の6000億ウォン(約600億円)となった。
中国が新型コロナに伴い経済封鎖したことの影響もあった。中国は防疫を緩和し、「リオープニング」したというが、これによる輸出回復は期待ほどではない。
韓国国内では「今年上半期の景気は厳しいが、下半期には回復する」との期待が高かった。しかし、足元では下半期の回復は難しいという懸念が出ている。また、IMFが景気見通しを引き下げたのは、韓国の景気回復が予想より遅れるという見通しのためとの分析も出ている。
いずれにせよ、物価上昇と高金利は、家計支出も含め、内需を制約する要因となっている。
金利上昇による可処分所得減少で 景気がさらに縮小する可能性
IMFによる韓国経済に関する懸念の一つは、前述の通り、家計債務脆弱国であることであり、家計の負債が多いために消費が抑制され、その悪影響が経済全体に波及することである。
その根拠となっているのが家計部門の総負債償還比率(DSR)の高さだ。DSRとは家計が一定期間に返さなければならない貸付元利金の所得に占める割合である。韓国のDSRは昨年4〜6月期に13.4%を記録した。つまり、韓国の家計は稼ぎの13%以上を負債と利子の返済に使ったという意味である。ちなみに日本や米国は6〜7%にすぎない。
2007年に665兆ウォン(約67兆9300億円)だった家計負債は昨年末には1867兆ウォン(約190兆7200億円)にまで膨れ上がった。金利上昇による可処分所得の減少で、景気がさらに後退するリスクがあるとの指摘も出ている。
急激な金利引き上げは 韓国経済に大打撃となる
韓銀は、「高い物価上昇率が相当期間継続した場合、経済主体のインフレ期待が高まり、さらなる物価上昇を誘発する可能性もある」として、2021年8月に0.5%だった政策金利を1年5カ月で計3%引き上げ、3.5%とした。
昨年の消費者物価上昇率は5.1%で、1998年の通貨危機以降で最高値を記録し、今年も年間で3.5%を予想している。こうした中、韓銀は最近2回の政策決定会合で金利の引き上げを見送ってきたが、これは苦渋の決断である。
今年1〜3月期の名目国内総生産(GDP)に対する民間債務(家計負債+企業負債)規模は216.3%と過去最大水準であり、今後金利が上がれば滞納が0.3ポイント増えると推定している。株式市場にもマイナスの影響が予想される。
急激な金利引き上げは経済に大打撃を与えかねない。上半期の景気低迷が、果たして高金利の余波に伴う一時的な状況なのか、長期低成長の始まりなのか、注視する必要がある。
韓国経済の再生に 動き出した尹錫悦政権
韓国経済の再生のための動きは、既に始まっている。
例えば以下の4つである。
(1)韓国の最大の輸出国が中国から米国に代わった。
(2)尹錫悦大統領の訪日に合わせ、4大財閥のトップが大統領に同行し日本の経団連をはじめ個別企業との話し合いを行った。
(3)尹錫悦大統領は、今月下旬に国賓として訪米し、26日首脳会談と夕食会、27日に米上下両院合同会議での演説と昼食会に臨むことになっている。訪米には与野党の国会議員や財界関係者も同行する。
(4)現代自動車が29年ぶりに韓国国内に新工場を設置することになった。それは尹錫悦政権が過激労組・民主労総の政治的な動きと経済を麻痺させるストを封じる行動に出ている点が大きい。
尹錫悦政権は、今後こうした流れを本格化させていくだろう。
韓国の主要輸出先が 中国から米国に回帰
韓国経済の成長エンジンであった中国との関係が転機を迎えている。その象徴的なものが、前述の通り、韓国の輸出の割合が1位の中国から米国にシフトしていることである。
政府と韓国貿易協会の統計によると、今年1〜3月の韓国の総輸出のうち中国の割合は19.5%と、昨年の22.8%から大幅に減少した。一方、米国の割合は20年前の水準である17.7%にまで回復した(2011年には10.1%まで下がっていた)。対中輸出の空白を対米輸出が埋めた格好である。米国市場で自動車輸出が好調を続ければ、米国の割合が20年ぶりに中国を逆転する可能性もあるという。
尹錫悦政権はこれまで日米韓との同盟強化に乗り出してきたが、中国との関係では、中国の反発を意識して、米国の期待に十分応えてこなかった。韓国は高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)の配備に対する中国の報復を目の当たりにしてきたからである。
韓国国内には、最大の輸出相手国が中国であり、中国を怒らせることによる経済的打撃を懸念する声が高い。また、北朝鮮の挑発を抑制する上での中国への期待も高かった。しかし、こうした中国との構造的問題に変化が起きている。
最近の中国への輸出減少と貿易赤字の増加は、韓国の景気悪化や特定品目の不振という要因のみならず、グローバルな貿易環境の変化が本格的に反映された結果だという分析が出ている。
長期化する米中貿易戦争や、世界経済のブロック化現象など、韓国の輸出動向に大きな変化が起きている。また、北朝鮮のミサイル発射に対する国連制裁強化を妨害しているのも中国である。
中国の圧力を低減させ、韓国が名実ともに西側の連携に加わるためには、日米韓がより強い結び付きを示し、中国が圧力をかけにくくすることが重要である。中国へ輸出比率が下がってきた現在は、そうした取り組みを強化するための良い機会である。
韓国経済の再生には 日米との関係強化が重要
韓国経済の再生のためには、日米との協力関係の強化が重要である。
日本との間では、尹錫悦大統領の訪日、首脳会談でその足掛かりを作った。
日韓の経済関係で象徴的なものは、半導体素材に関する韓国のホワイト国への復活であり、そのための条件を整備させるべく、日本も協力する必要がある。
尹錫悦大統領の訪日時には経団連と全経連がビジネスラウンドテーブルを開催し、韓国からは4大財閥の会長らが参加した。
日本商工会議所と大韓商工会議所の間でも、「首脳会議」の6年ぶりの開催に向けて実務接触が行われている。2025年の大阪・関西万博と、韓国が釜山への誘致を目指す2030年万博のプラットフォームなどでの連携も提案した。
朴振(パク・チン)外相の国会での答弁によれば、尹錫悦大統領の米国訪問では、「北朝鮮の高度化する核・ミサイル脅威に対抗し、拡大抑止の実行力を質的に強化する案を議論する」という。併せて、供給網(サプライチェーン)の安定化などの経済安全保障や人工知能(AI)、原子力、宇宙など、最先端分野での協力強化の方針を表明する予定である。
米韓首脳会談で韓国が期待するのは、北朝鮮への拡大抑止に合意することであるが、米国の期待は中ロと関連した韓国の「前向き」な対応である。中ロに対する米韓の連携強化によって米国の信頼を得ることは、経済面において米国の協力を得るために不可欠である。
尹錫悦大統領は米国訪問において「先端産業協力や未来の核心分野の交流に重点を置き、訪問都市を検討している」という。
現代自動車の国内工場設置は 労使関係の変化への期待を反映
現代自動車は11日、尹錫悦大統領も出席して、京畿道華城市に建設する韓国初の電気自動車(EV)専用工場の起工式を行った。同社が韓国国内に新工場を設置するのは1994年以来29年ぶりである。
現代自動車は華城(ファソン)市のEV専用工場を皮切りに、国内外で本格的にEV企業としての体制を整えていく構えだ。韓国国内でEV分野だけで24兆ウォン(約2兆4500億円)を投資する。これによってEV生産台数を昨年の33万台から2030年には364万台に増やす。
現代自動車が韓国にEV生産の工場を設置するのは、グローバル競争力を備えた電池メーカーが韓国国内にあり、また、長年にわたり、ハイブリッド車などの車載電子部品を下請け企業と共同で開発・生産してきたノウハウと生態系があるからである。
現代自動車は民主労総系の強硬な労組に支配され、生産性の低さ、高い人件費、飽和した内需市場などのため、29年間国内での工場設置を見送ってきた。それにもかかわらず新工場設置を決めたのは、尹錫悦政権の民主労総を取り締まる姿勢が鮮明になったからであろう。
尹錫悦政権は、2023年の韓国経済の重点課題として、年金・労働・教育の3大改革を挙げた。文在寅政権の下では労働組合は甘やかされ、その代表格である民主労総の主張は一層過激になっていた。
しかし、尹錫悦政権は、輸送労働者の組合である貨物連帯が無期限ストに入った際には職務復帰命令を出すなど、強硬に対応し、スト中止に追い込んだ。また民主労総が北朝鮮のスパイの温床になっているとして捜査を強めている。
もともと現代自動車の労組は民主労総が主流であり、ストを頻発させ、賃上げや労働条件の改善を求めてきた。しかし、尹錫悦政権になって様相が変わってきたことが、新工場設置の決断を促したのであろう。実際、尹錫悦大統領は起工式に参加し、民主労総と対峙(たいじ)する姿勢も示した。
尹錫悦大統領にとって、経済の再生が支持率回復の鍵である。そのためには韓国企業の国内投資を活発化させるのが第一歩である。
支持率が回復すれば、日韓関係にもさらに前向きに取り組めるようになる。それは文在寅政権からの決別を意味することになるだろう。 
●投資家の株式配分、債券との比較で09年来の低水準−BofA調査 4/18
リセッション(景気後退)懸念が広がる中で、投資家の株式への資産配分が債券との比較で世界金融危機以来の低水準になった。バンク・オブ・アメリカ(BofA)の世界ファンドマネジャー調査で分かった。
先月の銀行セクター波乱以降で初めてとなった調査の結果は今年に入って最大の弱気を示した。投資家は信用逼迫(ひっぱく)への懸念から債券への配分を差し引き10%オーバーウエートとした。これは2009年3月以来の高い水準。差し引き63%の回答者が景気減速を予想し、22年12月以来の悲観度を示した。
ただ、BofAのストラテジスト、マイケル・ハートネット氏はリポートで、弱気のセンチメントはリスクアセットにとって強気のシグナルだと指摘。「リセッションを求めるコンセンサス」が4−6月(第2四半期)中に的中しなければ、債券利回りと銀行株の上昇が痛みをたらすだろうと予想した。
米国株は複数の米地銀破綻を受けた先月の安値からは反発したものの、労働市場の軟化を示すデータが年内の経済縮小を示唆する中で今月は勢いが弱まっている。
BofAの調査によれば、市場にとって最大のテールリスクは信用逼迫と世界的リセッション、次いで高インフレとそれに伴う中央銀行のタカ派姿勢だった。システミックな信用イベントと地政学的状況悪化もリスクに挙がった。
調査は4月6−13日に合計運用資産6410億ドル(約86兆円)の249ファンドマネジャーを対象に実施した。
●米国企業決算は好スタート、厳しい市場予測に反し上振れ続出 4/18
米銀バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストらによれば、米企業の1−3月(第1四半期)利益はここ数年で最も厳しい状況を見込むアナリストの警告に反して好スタートを切っている。
サビタ・スブラマニアン氏率いるストラテジストは17日付の調査リポートで、S&P500種株価指数構成企業で決算を発表済みの30社のうち、1株利益が予想を上回ったのは90%、売上高が予想を上回ったのは73%に上ったと指摘した。JPモルガン・チェースやシティグループ、ウェルズ・ファーゴ・アンド・カンパニーの好業績などにより、少なくとも2012年以降の決算発表シーズン第1週としては最高の上振れとなった。
スブラマニアン氏は「3月の銀行不安にもかかわらず大手銀行が堅調な業績を発表したことが貢献した」と分析。「銀行は信用基準を厳しくしているかもしれないが、大手行は以前の危機と比べ、余剰資本を備えて経営している」と付け加えた。
先月のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻後に発表された金融大手の堅調な決算は、銀行業界が危機に陥るとの懸念の緩和に寄与している。BofAは懸念されたよりも良い内容の決算発表を受け、3月の銀行不安が一時的なものであるという証拠がさらに示されればS&P500種の2023年1株利益(EPS)を200ドルとしている同社予測は低過ぎる可能性があるとの見方を示した。市場予想コンセンサスは220ドル。
その一方でBofAは業績修正が全般に下振れしているとして、企業による業績見通しの下方修正を予想している。先週、同行ストラテジストは、業績下方修正の動きが今後加速する可能性があると警告した。
「金融システムの信頼性を巡る大規模でシステミックな衝撃は回避されたようだが、信用収縮が実体経済で顕在化している」とし、信用収縮が産業や消費に与える影響が一段と広がっていることに言及した。
今週は、金融機関だけでなく、S&P500種を構成する公益事業以外の企業の26%が決算を発表する予定。需要の見通しや利益率などにBofAは注目している。同行も18日に1−3月期決算を公表する。
●FRBは利上げ継続を、米景気後退陥らず=セントルイス連銀総裁 4/18
米セントルイス地区連銀のブラード総裁は、インフレ持続を示す最近のデータを踏まえ米連邦準備理事会(FRB)は利上げを続けるべきと述べた。また広範な経済はゆっくりだが成長を続ける態勢が整っているようだと語った。
ロイターとのインタビューで、米国が近い将来、銀行危機、リセッション(景気後退)、あるいはその両方に向かっているとの見方に反論。市場はFRBが近い将来利下げに踏み切るかもしれないとみているが、「労働市場は非常に堅調のようだ。社会通念では堅調な労働市場は経済の大部分を占める消費の堅調さにつながる。2023年後半にリセッションに陥ると予測する時期ではない」とした。
また先月発生した米銀2行の破綻が危機に発展するとすれば、セントルイス連銀の金融ストレス指標などに表れるはずと指摘。「本当に重大な金融危機が起こるとすれば、この指数が4か5に跳ね上がるだろうが、現在ではゼロだ。そのため現時点ではあまり大きなことが起きているようには見えない」とした。
3月のFOMCでは大半のFRB当局者があと1回の利上げを実施し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.00─5.25%に引き上げることが必要と想定。ただ、ブラード総裁は引き締めサイクルが終わりに近づいていることに同意しながらも、同水準を0.50%ポイント上回る5.50─5.75%への利上げが必要との見方を示した。
さらにインフレと経済の動向を考えると確約は少ない方が良いと言及。フォワードガイダンスなどに縛られインフレが過熱したり過度に粘着性を持ったりするよりも、夏から秋にかけて入手されるデータに対応するほうが望ましいとした。
インフレ抑制に向け金利が「十分に制約的」とみなされる水準になれば、インフレが完全に抑制されることを確認するために金利の「方向性はより長期かつ高水準になる」とした。

 

●米 ゴールドマン・サックス 3か月間決算 最終利益18%減少  4/19
アメリカで銀行破綻が相次いだ影響が、金融機関の決算にも一部出始めています。アメリカの金融大手ゴールドマン・サックスの先月までの3か月間の決算は、金融不安を背景に債券や株式の取り引き収入が落ち込んだことなどから、最終利益は18%減少しました。
ゴールドマン・サックスが18日発表した、ことし1月から3月までの3か月間の決算によりますと、最終利益は前の年の同じ時期と比べて18%減って32億3400万ドル、日本円でおよそ4300億円でした。
減益となった要因としては、3月、銀行の相次ぐ経営破綻によって市場が不安定となった影響で債券や株式などの取り引き収入が落ち込んだことがあげられます。
また、企業の合併や買収に助言する投資銀行部門の収入も低迷したということです。
決算の説明会でソロモンCEOは「市場の変動の大きさが最悪な状況は過ぎ去ったようだ」と述べた一方、銀行が融資に慎重になっていることに触れて「信用収縮のリスクが高まっている」として警戒感を示しました。
このほか、JPモルガン・チェースなど大手銀行4行の3月までの3か月の決算では、収益は好調だったものの、企業の貸し倒れに備えた費用の合計が前の年の同じ時期と比べて4.3倍に増えるなど、金融不安の余波や景気減速に身構える様子が表れています。
●シリコンバレー銀行の経営破綻に伴うスタートアップへの今後の影響と対策 4/19
現地から特別解説!世界各国のメディアが報じていないシリコンバレー銀行の経営破綻の真相とは
現地時間3月10日、世界中のスタートアップとベンチャーキャピタルを中心に衝撃が走った、アメリカ・カリフォルニア州に本拠を構えるシリコンバレー銀行の経営破綻。
各国のメディアが驚きをもって報じるなど、その後も喧騒が続いていますが、「今回の同銀行の経営破綻に至るまでの経緯や、スタートアップとVCが取るべき対策などについて詳しく伝えられていない」と語るのはペガサス・テック・ベンチャーズ代表パートナー兼CEOのアニス・ウッザマンさんです。
同社は米シリコンバレーを拠点にグローバルな投資活動を展開。世界中の優れたスタートアップ企業に知識ノウハウや金融面での支援を提供しています。従来の投資アプローチに加え、最先端のテクノロジーベンチャー企業との提携を希望する大規模なグローバル企業向けに独自のVCaaSモデルでサポートしていることも特長です。
今回はアニス・ウッザマンさんに、シリコンバレー銀行の経営破綻の真相とともに、スタートアップへの今後の影響と取るべき対策について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
シリコンバレー発展への貢献とエコシステムの活性化を担ったシリコンバレー銀行
大久保:シリコンバレー銀行の経営破綻に関するお話をお伺いする前に、まずはシリコンバレー銀行とはどういう銀行なのか?についてお聞かせ願えますか。
アニス:シリコンバレー銀行(以下SVB)とは、主にスタートアップ企業向けに融資を行ってきた銀行です。およそ40年前に開行され、弊社のオフィスから約4キロの位置にあるカリフォルニア州サンタクララに本社を構えていました。アメリカ合衆国で最も規模の大きい銀行のひとつで、2016年6月時点でシリコンバレーにおける預金量の25.9%のシェアを保持していたため、シリコンバレー最大の銀行でもありました。
大久保:「シリコンバレーの発展に大きな貢献を果たした銀行」とも称されているそうですね。
アニス:加えて、エコシステムを活性化させたこともSVBの大きな特長です。この「シリコンバレーの発展への多大なる貢献」と「エコシステムの活性化」という2つの要素を兼ね備えた存在は非常にめずらしいんですね。企業・投資家・エコシステムのすべてにおいて重要な役割を担っていました。
大久保:SVBと起業家との関係性について詳しくお教えください。
アニス:シリコンバレーで事業を起こす起業家の多くが、まずはじめにSVBで口座開設を行います。同地で一番最初に関わるケースが圧倒的に多い理由は、エコシステムで起業家が必要としているあらゆる機能をSVBが有していたからです。たとえば会計士や弁護士の紹介、優秀な人材を確保するためのサポート、投資家とのマッチングやコンタクトなど、すべてスタートアップにとって欠かせない要素ですよね。こうしたサービスを独自の仕組みにより提供してきたのがSVBです。主要各機関がSVBと連携しネットワークを構築していたため、スタートアップと各機関をつなげるハブとしての活動も行ってきました。
大久保:アメリカ全土でこれまで誕生したスタートアップのうち、約半数がなんらかの形でSVBと関わっていたそうですね。
アニス:はい。それからスタートアップのおよそ7割がシリコンバレーを拠点としていますので、グローバルな視点で考えるとグローバルスタートアップの約4割と密接な関係だったことになります。また投資家の間でも非常に人気が高く、約2,500社がSVBに口座を持っていました。いくつか理由があるのですが、なかでも最も大きなポイントは先ほど申し上げた通り、投資先のスタートアップを紹介してもらえるからです。つまりイノベーションを創出・支援する主な業界にとってSVBはインパクト抜群で、常に大きな存在感を放っていました。
アメリカ国内で過去2番目となる大型破綻。発端は2021年の経済成長と米国債買入
大久保:SVBの経営破綻の経緯についてお教えください。
アニス:米連邦預金保険公社(以下FDIC)がSVBの経営破綻を宣言し、すべての預金を管理下に置いたと発表したのは現地時間の3月10日です。アメリカの銀行としては、2008年の金融危機の煽りを受けたワシントン・ミューチュアルの破綻に次ぐ過去2番目の大型破綻でした。世界中のメディアが報じた今回の経営破綻ですが、その主な原因としてアメリカで高騰するインフレを抑えるために連邦準備制度理事会(以下FRB)が積極的に金利を引き上げた引き締め政策の影響による株価暴落などをあげています。ところが、それまでの経緯や根本要因について詳しく伝えているニュースがほとんどありません。SVBの株価暴落に至るまでの発端は、2021年に遡ります。新型コロナウイルスのパンデミックにより、2020年のアメリカ経済の実質GDP成長率は前年比マイナス3.4%の成長でしたが、2021年は5.7%と急回復しました。世界経済全体でも2021年は6.1%の高成長だったんです。
大久保:アメリカではスタートアップが続々と上場した年でもありますよね。
アニス:はい。いずれの企業も資金が潤沢でしたので、ものすごい活気で盛り上がっていました。こうした盛況ぶりはSVBも同様で、約210億ドルがあり余っている状態だったんです。本来であれば積極的な融資を行うのが銀行の取るべき策ですよね。ところがこの年は融資先がありませんでした。なぜならみんな資金が潤沢で、借りる必要がなかったからです。そこでSVBは米国債の購入を行いました。この米国債買入が、のちに経営破綻の要因としてつながっていきます。
2022年の物価高から景気後退ののち、18億ドルの損失計上で経営破綻に至る
大久保:2022年に入り、大きく状況が変わったと伺っています。詳しくお聞かせください。
アニス:2021年は経済回復とともに世界的に物価高が台頭し始めたのですが、2022年になるとロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーや食料価格の高騰がさらなる物価高に拍車をかけました。特にアメリカでは40年ぶりの物価高となっただけでなく、そこから派生する金融引き締めや、消費・生産の抑制などが目立ちだし景気が後退し始めました。投資環境にも多大な影響を及ぼし、グローバルにおいて全体のアマウントが大きく下落したんです。このときに多くのスタートアップが講じた対策が、ダウンラウンドを避けるために資金調達や上場を控え、保有していた資金を使い崩すことでした。どの企業でもSVBに口座を持っていましたので、そのお金を取り崩す、つまり同銀行預金は大幅な減少を招くことになったんですね。
大久保:その結果として、流動性を失ってしまったということでしょうか?
アニス:その通りです。困り果てたSVBが次に打った策が、2021年に購入した米国債の売却でした。ただしFRBによるインフレ抑制を目的とした政策が影響し、購入時と比較して金利が高くなっていたため、18億ドルの損失を計上することになりました。この損失計上が起こったのが3月8日です。その翌9日、複数の著名なベンチャーキャピタルが、投資先企業に対してSVBから資金を引き上げるよう助言しました。その結果、想定を超える預金の引き出しにつながり、大騒動に発展。午後5時頃には同銀行に大きなマイナスが発生しました。
大久保:その翌日の10日、FDICからSVBの経営破綻が宣言されたわけですね。
アニス:はい。こうした一連の経緯からおわかりいただけたかと思いますが、この経営破綻の一番最初のフェーズは2021年のアメリカ経済の成長だったんです。
スタートアップとVCが日頃から意識したい、複数口座を使い分ける分散管理
大久保:今回のSVBの経営破綻を受けて、スタートアップとベンチャーキャピタルが日頃から取るべき対策についてお教えください。
アニス:最も有効なリスクヘッジはダイバーシティ、つまり複数の口座を使い分ける分散管理が適しています。弊社は規模が大きくなっていて、現在の運用総資産額は約3,000億円です。そのため、SVBに口座を設けていませんでした。ナショナル・バンクを基本として、どの口座にも預金保険で保護される範囲の金額しか預けていない企業が多いと思います。弊社でも同様に、常にリスクヘッジをシビアに捉え、万全な対策を取りながら運営してきたことでSVB破綻の影響も受けずに済みました。
大久保:御社のご経験も含めて、分散管理がリスクヘッジに最も有効な手段だと実感されていらっしゃるわけですね。
アニス:はい。そこまで慎重にリスク対策をしてきた弊社でも、今回の問題からあらゆる分析を行いましたが、やはり重要なのは分散だなと。ひとつの銀行に口座を作ってすべての資金を預けてしまっているスタートアップも少なくありませんが、これは非常に危険ですので早期の対策をおすすめします。ナショナル・バンクと地方銀行を上手に交えながら、少なくとも2行から4行ほどに分けて口座を開設してください。うまく分散させながら管理しないといけない時代ですので、ぜひ心がけていただきたいです。
日本への影響は避けられないが、それ以上に追い風の革新的イノベーション
大久保:今回のSVBの経営破綻により、日本への影響を心配している起業家が少なくありません。日本のスタートアップに及ぼす可能性についてお聞かせください。
アニス:日本への影響はどうやっても避けられませんし、現在資金調達に奔走しているスタートアップは数ヶ月ほど苦しい状況が続く可能性があると思います。多くの投資家がしばらく様子見で慎重になっているんですね。ただし、これはあくまでも短期的な影響に過ぎません。2022年以降、久しぶりに革新的なイノベーションの波が起こっているからです。
大久保:コロナ禍や不安定な世界情勢のなかで創出されたイノベーションですよね。具体的にお教えください。
アニス:コロナ禍で最もインパクトを与えてくれたのはmRNA(メッセンジャーRNA)です。通常であれば開発に10年はかかるワクチンをわずか1年半で誕生させることができたのは、イノベーションの大きな兆しだと驚きました。ワクチンに関しては、アメリカが世界をリードしましたね。mRNAは世界で初めてがんの治療にも有効という報告もあがっていて、私も東京で開催したセミナーで紹介させていただきました。今後もさらに期待したいと思います。また世界情勢の不安の要因となったロシアによるウクライナ侵攻で、ウクライナにとって大きな希望となったのが衛星インターネットサービスです。イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業SpaceX(スペースエックス)が提供するStarlink(スターリンク)は、従来のマリンケーブルではなく衛星を活用しています。すでに約4,000台の人工衛星を打ち上げており、40カ国でサービスが利用できるようになりました。ロシアがウクライナから占領地のインターネットを分断し、デジタル鉄のカーテン内に囲い込もうと目論んだ計画を阻止した偉大な功績とともに、Starlinkは科学技術の進化を証明しています。
大久保:昨年末に登場したチャットGPTも素晴らしいイノベーションですよね。
アニス:おっしゃる通りです。AIやテクノロジーの分野において、ものすごく大きな風を起こしてくれました。チャットGPTの最も優れた特異性は、リサーチ領域を次の段階へと大幅に推進できることです。これまで世界で味わったことがないレベルのパワーをもっています。これだけ大きなイノベーションの波が連続して起こったのは、実に久しぶりのことです。これからも続々と登場すると予測しています。確かにSVBの経営破綻で世界中が混乱に陥りましたが、イノベーション創出の勢いは止まりませんし、スタートアップが活躍する土壌が失われることはありません。ぜひ起業家の皆さんには、いち早く元気を取り戻してがんばっていただきたいです。
SUエコシステムの構築と起業家精神育成を目指す「スタートアップワールドカップ」
大久保:世界中のスタートアップと企業の提携を支援している御社ですが、主催されている「スタートアップワールドカップ」もその取り組みのひとつですよね。詳しくお教えください。
アニス:「スタートアップワールドカップ」は、世界のスタートアップエコシステムの構築と起業家精神の育成を目的とするスタートアップピッチコンテストです。世界50地域・国以上で予選が行われ、サンフランシスコで開催される決勝大会には世界トップクラスのスタートアップ・起業家・ベンチャーキャピタル・大手企業が集結し、優勝企業には約1億円の投資賞金が贈られます。今年の「スタートアップワールドカップ2023」の日本予選は京都・東京の2ヶ所での開催が決まっており、日程は京都が7月6日(京都大学)、東京が9月8日(グランドハイアット東京)です。
大久保:決勝戦は12月1日、サンフランシスコで行われると伺っています。
アニス:今年の会場はヒルトン・サンフランシスコ・ユニオンスクエアとなっています。Netflixの共同創設者であるマーク・ランドルフ氏やAmazonのCTOを務めるワーナー・ヴォゲルス氏らによる特別講演など、今年も業界著名人のスピーチを予定している注目度の高いイベントです。
大久保:スタートアップが大手企業と組んで事業に取り組み、次のステージへと大きく成長を遂げることを願って開催されてきたそうですね。
アニス:はい。さらに今年の日本予選ではスタートアップと大手企業のミートアップの場を設けようと考えています。初めての試みですが、ポジティブなネットワークを提供するために準備しているところです。そしてもうひとつ、ウクライナ情勢の影響による燃料高騰について多くが注視しているため、今年は「持続可能な世の中」をテーマにゲストを迎えたいと計画しています。
昨今のイノベーションに注目を。日本からも次のイノベーション創出を願う
大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。
アニス:今回のSVB経営破綻を不安視し、事業運営や資金調達などあらゆる面で危機感を抱いた起業家が多いかと思います。ただ、米連邦政府のパーシャルベイルアウトなどの救済策により、ひとまず状況は落ち着きました。それ以上に、昨今のイノベーションは素晴らしいということに注目していただきたいです。mRNAや衛星インターネットサービス、チャットGPTなど、短期的に連続してこれだけ大きなイノベーションが起きたのはここ10年で初めてなんですね。イノベーションの力が衰えることはありません。ぜひ自信をもってがんばっていただきたいですし、日本からも次のイノベーションの創出を願っています。
●コンサル・監査あまり時代到来 マッキンゼー、アクセンチュア大規模リストラ 4/19
マッキンゼーは1400人、アクセンチュアは1万9000人
2月下旬以降、米国の大手コンサルティング企業が相次いで人員の削減を進めている。まず、マッキンゼー・アンド・カンパニーは約2000人の削減計画が報じられた。削減規模は同社にとって過去最大規模とみられる。3月23日、アクセンチュアも大規模なリストラ計画を発表した。今のところ削減規模は1万9000人に達する見込みであり、コンサル業界で過去最大級のリストラが進もうとしている。
リーマンショック後、世界の有力コンサルティング企業は、新しい事業の育成、その運営体制の企画、設計などに関する業務をIT先端企業などから受託してきた。そうすることで企業は迅速に、必要な業務運営の体制を整備できた。コロナ禍の発生によって、世界経済のデジタル化は一時的に急加速した。その結果、IT先端分野などで新しい業務運営の確立に必要なコンサルティング・サービスへの需要も押し上げられた。
しかし、競争の激化、世界的なインフレ進行、ウィズコロナへの移行、さらには世界的な金利上昇などを背景に、IT関連企業の成長期待は急速にしぼんでいる。すでに、米メタ(旧フェイスブック)などで、コンサル出身の経営幹部が要職を退いた。IT業界でのリストラは加速している。その成長を取り込んだコンサル業界などにもより強いリストラ圧力がのしかかろうとしている。
過剰投資、過剰採用を抱えたIT企業の退潮
足許、米国を中心に急速にコンサル業界でリストラが進んでいる。それだけ、多くの企業は、高い成長が続くと先行きの展開を楽観し、採用を強化した。しかし、世界経済の減速、特にIT先端分野での業績悪化懸念が急速に高まった。IT有力企業では過剰な投資や採用が顕在化している。それに伴い、IT先端分野での需要を取り込んできたコンサル業界でも、過剰人員などの問題が浮上し、コストカットが急がれている。
リーマンショック後、米国ではアップルの"iPhone"などのヒットをきっかけに、経済のデジタル化が加速した。"21世紀はデータの世紀"と呼ばれるように、ビッグデータの重要性は急速に高まった。データを活用することによって、新しいビジネスが次から次へと生み出された。
メタやツイッターなどはSNSという新しい業態を生み出した。それにデータを用いた広告ビジネスが結合され、収益はおおきく伸びた。物流分野では、アマゾンがネット通販で購入された品物の配達スピードを引き上げるために、物流施設の建設を増やすなどした。
業務効率化でコンサルティング依頼は急増したが...
そうした新しい業務運営の在り方を確立し、実際のマネジメント手法を組織に浸透させるために、マッキンゼーやアクセンチュアへのコンサルティング依頼は急増した。
コンサルティング各社は、顧客企業が新しい分野に進出し、いち早く安定した業務の運営体制を確立するために必要な方法論を提供して対価を得る。具体的にマッキンゼーなどは、経営戦略や財務、管理会計の理論を結合することによって、効率的に業務運営を行う標準的な手法を確立した。
そうしたサービスを利用することによって、IT関連分野の企業は、データの利用など自社の強みがより発揮できる分野に集中しやすくなった。コンサル業界でのリストラ増加は、IT先端分野での企業の成長性が低下していることを意味する。そうした変化を機敏に感じとり、早い段階でIT先端企業を去った人もいる。
コンサル出身のサンドバーグ氏はいち早くメタを去った
その一人として、2022年6月、シェリル・サンドバーグ女史はメタの最高執行責任者(COO)を辞すと表明した。それは、メタなどの成長の勢いが弱まり、新たな成長分野を探さなければならないという認識に基づいた意思決定だったように見える。ハーバード・ビジネス・スクールを修了した後、サンドバーグ女史はマッキンゼーでコンサルタントとして働いた。グーグルなどを経て、2008年、COOとしてサンドバーグ女史はフェイスブックに参画した。
メタ創業者のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)にとって、経営コンサルタントとしてのスキル、グーグルでの広告ビジネスの高い成長を支えたサンドバーグ女史の実力は、SNS分野でのビジネスモデルを確立し、高い成長を実現するために喉から手が出るほど欲しかった要素だったはずだ。
このようにして、多くのIT先端企業は、コンサル業界出身の人材採用を強化した。また、アクセンチュアやソフトウエア分野への選択と集中を進めたIBMなどに、ビジネスモデルの確立や、新規事業の業務運営体制の企画、マネジメント手法などのコンサルティングを委託する企業も増えた。
その結果、世界的にコンサルタント人材の求人は急増した。一部では、組織運営などに関する理論に加え、人工知能(AI)やネットワーク・テクノロジーに精通した人材の争奪戦に拍車がかかった。
ビジネスモデルの行き詰まりを鮮明に理解している
しかし、高い成長がいつまでも続くことは考えづらい。2021年の秋ごろから、徐々にメタをはじめとするIT有力企業の成長鈍化懸念は高まった。株価も下落し始めた。
2022年3月に連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを開始し、その後は急激に金融が引き締められた。世界全体で企業の資金調達などのコストも増加した。スタートアップ企業とGAFAなどの競争も激化した。SNSやサブスク型のビジネスモデルの優位性は行き詰まり、業績懸念は追加的に高まっている。
2023年2月には、ユーチューブのスーザン・ウォジスキーCEOの退任も発表された。ウォジスキー女史もベイン・アンド・カンパニーで経営コンサルタントとしてキャリアを積み、その上でグーグルに参画した。コンサルタントとして多くの企業を見てきた経験があるだけに、彼女らはビジネスモデルの行き詰まりをより鮮明に理解しているはずだ。
コンサル、会計監査需要は急速にしぼんでいる
コンサル業界だけでなく、米国では大手会計事務所のKPMGも2%程度の従業員(約700人)を削減すると報じられた。3月23日、リクルートホールディングスは2012年に買収した米インディードの従業員の15%を削減すると発表した。
リーマンショック後から2022年3月まで、世界全体で、超低金利環境の長期化観測は高まった。投資(投機)資金は成長期待の高いIT先端分野の株式などに流入した。高い成長は間違いないという過度な期待は一段と膨張した。そうした環境変化を追い風に、IT先端分野での起業は増えた。
コロナ禍の発生後は、カネ余りとデジタル化の加速期待に拍車がかかった。特別買収目的会社(SPAC)による買収を通した株式の公開によって資金を調達し、事業規模の拡大に取り組む企業は急増した。こうして、採用、コンサルティングや会計監査といったサービス需要も押し上げられた。
そうした強気な環境は急速にしぼんでいる。メタなどは追加リストラ策を発表した。IT先端企業などとの取引を強化した米欧金融機関のいくつかは破綻した。IT先端企業の成長を取り込んできたコンサル業界などでも、リストラの強化は避けられないだろう。
相次ぐリストラの背景にある「新たな成長機会」
しかし、すべての分野でコンサルティングの需要が減少しているわけではない。米国では、マイクロソフトなどが"チャットGPT"をはじめとする生成型のAIを用いた新しい広告サービスなどのビジネス創出に取り組んでいる。IBMは既存分野でリストラを進めつつAI関連の事業運営体制を強化している。
加えて、台湾問題の緊迫感は高まっている。世界の工場としての中国経済の成長鈍化懸念も上昇している。それらを背景に、世界全体でインドやASEAN地域の新興国、さらには企業の本国に近い場所に生産拠点などを移す動きも激化している。
世界規模で供給網の再編に取り組みつつ貿易管理体制を強化するためにも、企業はコンサルティング企業の助言を必要とする。コンサル業界でのリストラは、世界経済を支えたIT先端企業の成長性が鈍化し、新しい成長の機会が模索されていることの裏返しといえる。

 

●銀行危機の抑止に日本が堅持する公的資金の手段  4/20
リーマンショック時に巨大金融機関を公的に救済したことが国民の非難を浴び、先進諸国の金融規制改革で公的資金は封印された。
しかし今回、銀行破綻が金融危機に発展するのを防ぐため、アメリカでは金融機関に流動性を供給する緊急措置が講じられた。スイスはクレディ・スイスの救済合併に際し、流動性に政府保証を与えた。どちらも国民負担に直結するものではないが、公的資金の封印は揺らいだ。
金融規制改革において、とくに巨大金融機関の破綻処理については、株主および債権者による損失吸収が主軸とされた。それを大まかに整理したのが下図だ。
アメリカは公的資金の使用を禁じる。EU(欧州連合)は公的資金投入を例外として認めるが、株主・債権者の損失負担を条件とする。
一方、日本は国際機関からクギを刺されながらも、公的資金による資本増強と流動性供給の手段を堅持する。2008年のリーマンショックに先んじて、日本は1990年代後半に平成金融危機の辛酸をなめた。これらの制度は危機対応の迷走を経て手にした貴重なツールという位置づけなのだ。
日本でも当初、住宅金融専門会社の破綻処理への公的資金投入が国民の批判を浴び、公的資金はタブーとなった。しかし1997年秋に三洋証券破綻による短期資金のデフォルトが市場流動性を枯渇させ、金融機関が毎週破綻する事態に陥り、景気後退を招いた。翌年の日本長期信用銀行の破綻を機に大手行に公的資金が資本注入され、金融不安は十数年を経て収束した。
再建すれば返済できる
バブル崩壊以降の不良債権問題に端を発する平成金融危機を丹念に検証した著書『金融危機と倒産法制』を昨年出版した辻廣雅文・帝京大学教授は、「金融危機を抑え込むために公的資金は必要」との見解に行き着いた。
「問題のある個々の銀行の倒産が連鎖するのではなく、問題のある銀行も健全な銀行も乗っている金融システムというテーブルが揺れているときには、健全な銀行も倒れかねない。テーブルを安定させるために資本性資金を入れて銀行の健全性を裏打ちしなければ危機は収まらない」。
辻廣教授は、公的資金投入と株主・債権者負担の間に明確な線引きはできないとも指摘する。
1つには、公的資金を投入したとしても、結果として金融機関の経営が持ち直し、返済に至れば、国民負担は生じずに済むからだ。例として、2003年のりそな銀行への公的資本注入を挙げる。
2000年の預金保険法改正で危機対応手段は、対象銀行が資産超過の場合の資本増強、債務超過の場合の全額預金保護、さらに一時国有化の3つに整理された。りそな銀行はこれに沿って約3兆円の資本増強が施され、12年後に返済した。
さらに、国際的な金融規制改革の枠組みに沿って、大手を中心に広く金融業を対象とする2つの危機対応スキームが2013年に加わった。
危機に瀕した金融機関が資産超過であれば、預金保険機構が監視下に置き、流動性を供給しながら自力または第三者支援による再建を図る。債務超過の場合は、清算されると影響の大きい取引を事業譲渡などで保護する一方、金融機関は倒産法に基づいて清算される。
今回、経営危機に陥ったクレディ・スイスについて、野村資本市場研究所の小立敬・主任研究員はこんな視点を持つ。
「日本の制度によって対応したのなら、資産超過と思われるクレディ・スイスは、預金保険機構の監視下で、流動性供給を行いつつ事業の再構築を図ることができたのではないか」。うまくいけば、りそな銀行と同様、経営を立て直せるというわけだ。
逆に、公的資金を封印したとしても、結果的に税金が費やされる事態は起こりうる。
例えば今回、FRB(米連邦準備制度理事会)は金融機関に流動性を供給するため、貸し出しで担保に取る国債などを額面で評価する緊急措置を講じた。「もし担保価値が下がれば、実質的に国民負担が生じることになる」(辻廣教授)。金融機関が返済できなければ、元本と担保の差額がFRBの損失となり、国庫納付金が減るからだ。
早期介入は同じ
金融危機の教訓は、金融機関の経営悪化の内実をリアルタイムではつかめず、時間が経つほど悪化するため、早い段階で介入したほうが危機を防げることだ。
欧米当局は、金融機関が債務超過に陥るはるか手前で株主・債権者に対する債務カットに踏み切って財務を改善するスタンスだが、日本も資産超過の段階で公的資金を投じ、再建を図る手段を持っており、早期介入という点では相通ずる。
ただし、公的資金という“切り札”は「いざとなったら国が救ってくれる」とモラルハザードを招く面がある。市場規律を損ない、過剰なリスクテイクを促しかねない。だからこそ、平時には引っ込めておき、有事の際に素早く持ち出すほうがいいのかもしれないが、「切り札をすぐ使えるかどうか」は各国事情による。
瞬く間に預金が引き出されるデジタル取り付けが銀行破綻を引き起こしたように、新たな危機がどんな姿で到来するのかは読み切れない。日本は公的資金も駆使しつつ、事態に即して対応できるかどうかが問われる。
●迫る金融倒産連鎖、ついに日本へ飛び火の可能性… 4/20
シリコンバレー銀行にクレディ・スイス。これらの大手銀行が経営難に陥ったことにより、世界的な金融危機への不安が高まっている。この負の連鎖はいかにして発生し、私たちは現状をどう見るべきなのか。日本人が深く目を向けていない世界経済のいまを、経営コンサルタントの小宮一慶氏が解説する――。
世界中のどんな銀行もつぶれるおそれがある
いまの世界の金融界の関心事は「世界金融危機が起こるかどうか」です。このところ、少しその懸念が後退したので、株価も底堅い展開をしていますが、まだまだ油断は禁物です。この発端となったのは、3月10日の米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻。SVBが破綻した大きな原因は、米国の金利が急激に上昇したことで、運用している債券に多額の含み損が発生し、そのことに不安を感じた預金者が、一斉に預金を引き出す取り付け騒ぎを起こしたことにあります。
銀行は通常、ALM(Asset Liability Management)を行っています。これは、市場金利や為替の価格変動、流動性といったリスクとリターンを勘案しながら資産と負債を管理していくやり方です。ALMさえしっかりやっておけば、金利が上下したとしても、そこまで大きな影響を受けずに済むはずで、銀行経営の基本とも言えるマネジメント手法です。
しかし今回、SVBでは、このALMが不十分でした。景気の低迷により預金を債券運用に回す割合が増え、金利リスクを増大させてしまった上、金融当局からリスクを指摘されても迅速に対処できなかった。そんな中で金利が上昇し、保有債券の価格が下落したわけです。米連邦準備制度理事会(FRB)のマイケル・バー副議長は「明らかにひどいリスク管理だった」と批判しています。
ところで、銀行というのは、基本的にあまりお金を持っていません。これはどういうことかというと、銀行は主に貸出金利と調達金利の差から得られる「利ざや」で利益を得ていますが、この利ざやは1%あるかどうかです。優良企業への貸し出しなら0.25%やそれ以下ということもよくあります。つまり、かなり利益率が薄いんですね。そのため、少しでも多くの資金を運用に回そうとしているのです。
一方で、預金者の立場に立つと、当たり前の話ですが、預金者はいつでも自分の預金を引き出すことができます。たとえ定期預金であったとしても、預け入れ時点の利率より低い金利になることさえ我慢すれば、即日引き出しが可能です。逆に、貸し出しには期日があり、借り手はそれまでは返済義務はありません。ですから、もし預金者が一斉に預金を引き出そうとすれば、その引き出しに応じられるだけの十分な資金は銀行にはないので銀行はつぶれます。それは大手銀行であっても同じです。
金融界の名門、クレディ・スイスの買収額がたったの4300億円
怖いのは、どこかでこのような破綻が起これば、連鎖的に他の金融機関の倒産が起こるおそれがあるということです。この連鎖を止めるため、米財務省や米連邦預金保険公社(FDIC)、FRBはそれまで25万ドルを上限としていた預金保護について、今回のSVBなどの預金者に対しては、全額保護する措置を承認する声明を発出しました。これは預金者のためでもありますが、銀行の連鎖倒産を恐れている証拠でもあります。
前述のように、大手銀行も一気に預金を引き出されると、ひとたまりもありません。もし「あの銀行は危ないらしい」という噂が流れてしまい、一気に預金が引き出されてしまえば、たとえ、その噂が真実ではなかったとしても、銀行はつぶれます。そこで全額保護を表明して、国民に安心感を持ってもらうことで、他の銀行や金融システム全体を守っているのです。
米国は国を挙げて対策を打ちましたが、シリコンバレー銀行、続くシグネチャー銀行の経営破綻は、国を超えてスイスに飛び火しました。同国有数の大手銀行であるクレディ・スイスに経営破綻の懸念が生じ、同国のUBSに買収されることが決まりました。
クレディ・スイスは、世界有数の大手行としても存在感を示してきた銀行です。そんな銀行が潰れてしまうと、多方面に大きな影響を及ぼすことから、スイス当局は迅速にUBSに買収させました。その買収額は、日本円で約4300億円ほどと報じられており、クレディ・スイスほどの金融機関がそのような値段で売りに出されるのは異例中の異例です。それでもUBSは、当初1300億円程度での買収を提案したといい、よっぽど資産内容等が劣化していたものと思われます。
クレディ・スイスの行きづまりにより、同行が発行していた劣後債の一種である「AT1債」は無価値化されることが発表されました。AT1債の総発行高は約170億ドル、日本円にして2兆円を超えています。
この発表を受け、同じような劣後債を発行している銀行を不安視する向きが加速。そのため、ドイツ銀行などの株が大幅下落しました。預金者が重視するのは、銀行の名前ではなく安全性と利便性です。特に、もともと財務内容がよくない銀行においては、一たび経営不安の声がささやかれ出すと、一気に預金引き出しが起こる「取り付け騒ぎ」に発展するおそれがあります。
いつか見た風景…リーマン・ショックの1年前、人々にはほとんど危機感が無かった
もしこれ以上、危機が拡大していけば、目も当てられない状態になります。私自身は、リーマン・ショックよりも、今回の金融危機の方が危ない可能性もあると思っています。というのも、リーマン・ショックで経営危機に陥ったのは投資銀行が中心でしたが、今回はさらに国民生活に身近で、企業への貸し出しも多く行っている銀行が舞台になっているわけですから。
ですが一般の人には、危機感はありませんよね。クレディ・スイスが経営破綻しても、日本人はやれWBCだ、やれ春が来ただのと浮かれていました。これはリーマン・ショック前にも見た光景です。2008年9月にリーマン・ショックが起こる前の2007年8月、フランスの大手銀行であるBNPパリバの投資子会社が破綻するということがありました。米国で比較的所得が低い人向けの住宅ローンであるサブプライムローンが開発され、それを束ねた証券化商品をパリバの子会社が大量に保有しており、その価格が急落したのです。いわゆる「パリバ・ショック」です。
パリバ・ショックを受け、その直後から社債を発行できない企業が増えたり、米大手証券会社のベアー・スターンズが経営危機に陥ったりと、金融市場は大混乱に陥りました。ですが一般の人たちには、それほどの危機感がありませんでした。一般の人たちだけではなく、日本企業の経営者にも危機感は薄かった。それがリーマン・ブラザーズが破綻して、ようやく事の重大さに気づいたんです。
今後、金融機関の破綻ドミノが続けば、各国の銀行が自分たちを守るため、急激に融資を削る可能性もあります。そこまでいけば、実体経済にもとても大きな影響が出てきますが、そうならなければ多くの日本人は危機に気づかないのだろうと思います。
もちろんいま、各国の中央銀行は世界金融危機を引き起こさないよう、さまざまな手を打っています。たとえば現状でも多額のドル資金を市場に流していますが、これもリーマン・ショック前と全く同じ図式です。
金融危機は「対岸の火事」ではない…ネット時代には一瞬で銀行からお金が消える
このような流れの中で、いま日本の銀行については「欧米の銀行よりも安全」だとみなされています。日本も、金利を上げると金融機関の持つ国債などの債券の含み損が増える構造は変わりませんが、金利の上昇幅も小さく、かつ日本の国債はその9割が日本国内で消化されていることもあり、そこまで不安視はされていません。
そのため、いまは円が買われている状況ですが、これは一時的なものだと言えるでしょう。たとえば、普段立派な鉄筋の家に住んでいる人でも、家で火災が起こってしまったら、一時的に安普請の木造の家に住むことだってありますよね。鉄筋の家は欧米経済で、木造の家は日本経済です。円が買われているのも、それと同じ論理で、あくまで短期的な円高だと思います。
振り返ってみれば、2009年に発生したギリシャ危機の際には、日本円は80円台になるまで買われました。それが、いまは円が買われたと言っても、130円程度です。この50円の差が、日本の国力低下を端的に表しています。 GDPがほとんど伸びず、財政赤字が膨らみ、これから人口減少が進むことが確実な日本の、10年以上前とは異なる現実なのです。
金融危機についても「日本の銀行には関係ない」と楽観視するのではなく、世界中の経済はつながっているという認識と危機感は、持っておいた方がいいでしょう。
10年前と比べて、ネットバンキングは発達しています。かつては預金を引き出すには、銀行まで出向いてATMなり窓口なりに並ぶ必要がありましたし、夜は支店を閉めてしまえばよかった。銀行はその間に時間を稼げました。ところがいまは「危ない」と思ったら、一瞬の間にお金を引き出すことができます。「絶対に安全な銀行」なんてないんです。
金融危機を回避できれば、日本経済にも明るい見通しが
しかし、この金融危機を回避できれば、米国や欧州も落ちついていくはずです。米連邦公開市場委員会(FOMC)は3月21・22日に開催した定例会合で、0.25%の利上げを決定しました。これは日本経済新聞も報じていた通り、苦渋の決断だったと言えます。金融不安から利上げをやめる選択肢も検討したでしょうが、インフレ率は2月の段階で6%と、目標としている2%から見ればまだ高い状態。利上げをせざるを得ないと判断したとみられます。
ただアメリカのインフレも、もうピークはすぎました。あと1回ほど0.25%の利上げはあるかもしれませんが、金融危機さえ起こらなければ、アメリカ経済が軟着陸できる可能性は十分あります。
加えて、中国も不動産バブルが崩壊しなければ、新型コロナウイルスの感染拡大の混乱から復活して底堅い動きを見せるはずです。中国経済の復活は日本経済にとっても明るい材料です。さらに、早ければ間もなく、日本へのインバウンド観光客も戻ってくると思います。
そのような状況なので、日本経済の行方は「金融危機が起こるかどうかに大きく左右される」と言えます。世界的な金融危機の懸念から米長期金利も弱含みで、日銀が金利を引き上げることは当面難しくなりました。長期的には金利を上げて金融を正常化させる必要はありますが、少なくともそれは、いまではありません。その前に、金融危機が起こらないことを心より祈るばかりです。
●BofAとモルガン・スタンレーも追随、SVB破綻後の起債で 4/20
バンク・オブ・アメリカ(BofA)とモルガン・スタンレーは19日、両行合わせて160億ドル(約2兆1500億円)相当の投資適格級債を売り出した。シリコンバレー銀行(SVB)の破綻後に起債した米大手金融機関としてはウェルズ・ファーゴに続く。
ウェルズ・ファーゴ、大手米銀でSVB破綻後初の起債−5000億円相当
事情に詳しい関係者によれば、BofAは2本建てで85億ドルを起債。このうち償還期限11年物の利回りは米国債を168ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上回るという。詳細が部外秘だとして同関係者が匿名で明らかにした。
またモルガン・スタンレーは75億ドル相当を3本建てで売り出しており、償還期限が最も長いのは11年物だと、別の関係者が語った。
シュローダーズの米債券商品管理責任者、デービッド・ナットソン氏は大手銀の債券は景気減速へのエクスポージャーが恐らく低いとして、起債では「健全な需要」を集める可能性が高いと指摘。ブルームバーグがまとめたデータによれば、18日の金融機関の社債スプレッドは平均154bpと、より広範な高利回り債のスプレッドを約22bp上回った。
ナットソン氏は「最近の金融システムを巡る問題は金融危機時とは正反対のものだったと市場は気づきつつある」と述べ、「当時は大手銀行が問題だったが、今の問題は小規模な銀行だ」と続けた。
●原油、需要減退で価格急落の兆候…金融危機が本格化 4/20
米WTI原油先物価格はこのところ1バレル=80ドル前後で推移している。OPEC主要加盟国の4月2日の発表(5月から年末まで自主的に追加減産を行う)が原油価格を下支えしている。個別にみると、サウジアラビアが日量50万バレル、イラクが21万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)が14万バレル、クウエートが13万バレルそれぞれ減産する。トータルの減産量は116万バレルに達する見込みだ(世界の原油供給量の1%分に相当)。
市場関係者は「OPECプラスは昨年11月から実施している日量200万バレルの減産を維持する」と当然視していたため、この決定はサプライズだった。不意を突かれたことが原油価格の急上昇につながったわけだが、足元の原油市場の状況はどうなっているのだろうか。OPECの3月の原油生産量は前月比7万バレル減の日量2890万バレルだった。OPECの生産量が目標に達しない状態が続いており、3月の遵守率は2月の169%から173%に上昇した。今回の減産決定は実際の生産量に近づけたにすぎず、市場へのインパクトはほとんどないといっても過言ではない。OPECの自主減産の発表後にロシア産原油の価格も1バレル=60ドルを超える水準に上昇し、輸出量もウクライナ侵攻前の水準に戻っている。
世界最大の産油国となった米国の生産量は日量1200万バレル強の水準を維持しているが、注目すべきは輸出量の増加だ。米エネルギー省は3月30日、「昨年の米国の原油輸出量は前年比22%増の日量360万バレルに達し、過去最高となった」と発表した。昨年の欧州連合(EU)への原油輸出で米国が首位に浮上し、ロシア産原油の穴を埋めている。
米中の製造業が苦境
供給サイドが比較的堅調なのに対し、需要サイドはどうだろうか。ゼロコロナ政策を解除した中国の原油需要が拡大することが期待されている。中国の3月の原油輸入量は前年比22.5%増の日量1230万バレルとなった。2020年6月以来の高水準だが、石油製品の輸出需要に牽引された形となっており、国内の需要がそれほど伸びているわけではない。製造業と自動車販売が低迷しており、「中国の原油需要のV字回復は見込めない」との見方が有力となりつつある。
世界最大の原油需要国である米国の製造業も苦境に陥っている。米サプライマネジメント協会(ISM)が4月3日に発表した3月の米製造業景況感指数は前月から1.4ポイント低い46.3だった。好不況の節目である50を5カ月連続で下回った。米中両大国の製造業の不振は世界の原油需要にとってマイナスだといわざるを得ない。OPECはこれまで世界の原油需要に対して強気の姿勢をとってきたが、4月13日に公表した月報のトーンは下がり気味だ。「米国では毎年夏のドライブシーズンに輸送燃料の需要が伸びるが、金融引き締めのせいで経済が弱含めば、季節的な力を一部相殺される恐れがある。世界経済についても高インフレや金融引き締め、金融市場の安定、債務水準といった潜在的課題がある」といった内容だ。最近の米国発の金融不安などの影響に触れた形だが、緊急避難的な減産に踏み切ったOPECの苦しい胸の内が垣間見える。
金融不安といえば、2008年9月に起きたリーマンショックが想起される。金融危機で市場のセンチメントが急速に悪化したのにもかかわらず、OPECは減産などの緊急措置を講じなかったことから、原油価格は半年後に1バレル=30ドル台にまで急落したという苦い経験がある。原油価格は3月中旬、1バレル=65ドルを割り込んでおり、サウジアラビアをはじめOPECの首脳たちは「2度と同じ失敗を繰り返してはならない」との思いがあったとしても不思議ではないだろう。
OPECプラスは大規模な減産か
「今回の決定で第2四半期の世界の原油市場は供給不足となり、原油価格は1バレル=100ドルを超える」の声が出ているが、はたしてそうだろうか。筆者は「金融不安はこれから本格化し、原油価格は急落する」と考えている。市場関係者の注目は銀行の融資先に向かいつつあるからだ。
足元で槍玉に上がっているのは商業用不動産だ。引き締めの影響に加え、新型コロナのパンデミックで普及した在宅勤務のせいで空室率が急上昇していることが悪材料となっている。住宅用不動産市場も「バブル崩壊は時間の問題だ」との声が聞こえてくる。中国でも人口減少が激しい地方都市で不動産価格の下落圧力が強まっており、中小銀行の連鎖破綻が懸念されている(4月4日付日本経済新聞)。
「今回の危機の震源地は中小銀行とノンバンクだ」と筆者はみている。中小銀行やノンバンクが破綻しても、リーマンショックのような金融危機は起きないが、マネーが急激に収縮し、世界経済全体が深刻な資産デフレに陥るリスクがある。バブル崩壊後の日本のようにデフレは原油需要を急減させる効果をもたらすことから、OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)は再び大規模な減産を実施せざるを得なくなるのではないだろうか。 

 

●米銀行業界混乱、危機との表現は「強過ぎ」−BofAのモイニハン氏 4/21
金融機関が負担する預金保険は「かなりうまく機能した」
BofA、ファースト・リパブリックを支援した大手行の一つ
米銀バンク・オブ・アメリカ(BofA)のブライアン・モイニハン最高経営責任者(CEO)は20日、米地銀が最近見舞われた混乱は危機的なレベルではなかったと述べるとともに、金融機関が負担する預金保険は顧客保護に役立ったとの認識を示した。
ニューヨークで開催されたブルームバーグのイベント「セルサイド・リーダーズ・フォーラム」でモイニハン氏は「ここ数週間に相当な混乱があった」としつつも、「危機という表現は強過ぎる」と語った。
預金保険については「かなりうまく機能した。業界が保険料を負担しており、われわれは自分たちに保険をかけている。政府は、預金保険があることを人々に理解させる仲介役で、人々はわれわれから資金を取り返せる」と述べた。
BofAは、シリコンバレー銀行(SVB)破綻をきっかけにパニックに直面したファースト・リパブリック・バンクを計300億ドル(約4兆円)の預金預け入れで支援した米銀11行の一つ。BofAは、各行がファースト・リパブリックに資金を少なくとも120日間預けるこの取り組みに50億ドルを提供した。
モイニハン氏はこの措置を巡り「流動性の提供が目的だった。流動性が問題だったためだ」と説明した。
政府の預金保険手続きの変更については、1930年代から実施され、かなりうまく機能してきた制度だけに「慎重に対処する必要がある」との考えを示した。
●米銀行業界混乱、危機との表現は「強過ぎ」−BofAのモイニハン氏 4/21
米銀バンク・オブ・アメリカ(BofA)のブライアン・モイニハン最高経営責任者(CEO)は20日、米地銀が最近見舞われた混乱は危機的なレベルではなかったと述べるとともに、金融機関が負担する預金保険は顧客保護に役立ったとの認識を示した。
ニューヨークで開催されたブルームバーグのイベント「セルサイド・リーダーズ・フォーラム」でモイニハン氏は「ここ数週間に相当な混乱があった」としつつも、「危機という表現は強過ぎる」と語った。
預金保険については「かなりうまく機能した。業界が保険料を負担しており、われわれは自分たちに保険をかけている。政府は、預金保険があることを人々に理解させる仲介役で、人々はわれわれから資金を取り返せる」と述べた。
BofAは、シリコンバレー銀行(SVB)破綻をきっかけにパニックに直面したファースト・リパブリック・バンクを計300億ドル(約4兆円)の預金預け入れで支援した米銀11行の一つ。BofAは、各行がファースト・リパブリックに資金を少なくとも120日間預けるこの取り組みに50億ドルを提供した。
モイニハン氏はこの措置を巡り「流動性の提供が目的だった。流動性が問題だったためだ」と説明した。
政府の預金保険手続きの変更については、1930年代から実施され、かなりうまく機能してきた制度だけに「慎重に対処する必要がある」との考えを示した。
●中国の本当のGDPは当局発表の6割しかない…人工衛星で光の量を測定 4/21
中国のGDPが米国を超える日は来るのだろうか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離する。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度しかないという研究結果もある。中国経済は10年後には弱体化しているのではないか」という――。
香港株は2018年の高値から56%も下落
近年、中国の経済成長のほとんどは不動産投資、インフラ投資によるものであった。しかし昨今、投下された資本効率が低くなっていた。アウトプットを出すためには、さらにインプットをしなければ成長は望めない。それが叶わなくなっていた。
不動産バブルが崩壊し、中国の景気が悪くなるということは、世界のマーケット関係者には周知の事実である。だから、香港株は2018年の高値から56%も下落しているのだ。
金融危機の定義を数字で表すならば、指数が高値の半値になるレベルということができる。すでに香港株は半値以下になっているので、金融危機に突入していると言っても過言ではないのである。
ライトの使用量と経済発展レベルに齟齬
もう一つ、経済の実態について紹介したい。中国の本当のGDPは、中国政府当局の発表の6割程度に留まるということを、皆さんはご存じだろうか。
その見方を示したのは、シカゴ大学の研究だ。
最近IMF(国際通貨基金)や世界銀行も似たようなアプローチをとり始めているが、各国の経済成長を人工衛星から入手した夜のライト(明かり)量で比べて抽出したもので、過去の映像と当時の各国の経済力を比較した研究結果が2022年11月、『TIME』誌に掲載された。
中国のような独裁国家は、ライトの使用量のレベルと経済発展のレベルに大きな齟齬そごが見られることが判明した。
研究結果として得られた結論は、中国のGDPについては政府当局発表の6割でしかないとする衝撃的なものだった。
独裁専制国家のGDPは実態と大きく乖離
この研究結果を見ると、きわめて興味深い事実が浮かび上がってくる。
欧米日などいわゆる先進国、あるいは自由主義国家の数字を見ると、「夜のライト量で割り出したGDP」と「当局から報告されたGDP」はほとんど乖離かいりしていない。
これが、部分的にしか自由がない国々、民主主義を敷いてはいるがさまざまな問題を孕はらむ国々になるとどうなるか。
レバノン、メキシコ、コロンビア、ナイジェリア、フィリピン等々は、「夜のライト量で割り出したGDP」よりも「当局から報告されたGDP」のほうが高い数値になっている。
さらに完璧なる独裁専制国家を見てみると、その乖離がひどくなっており、中国、エチオピアなどはその最たるものであることがわかった。
「中国がGDPで米国を抜く」は空論
この事実を鑑かんがみると、中国がGDPで米国を抜く、凌駕りょうがするという説は空論であると考えるほかない。
中国経済はあと10年、15年後には弱体化することを、中国自身もわかっているのだろう。
バブル崩壊後の日本のように、活力を失い、国力も沈んでいくと意識しているのかもしれない。
次に社会問題である。深刻なのは食料に関わることである。
一般的な中国人の食生活に不可欠な食材は、大豆とトウモロコシと豚肉と言われている。
大豆とトウモロコシは豚の飼料になるので、大げさに言えば、中国人とは三位一体の関係を成す。
こうした食料はコモディティ相場と切っても切れないものなのだけれど、大変興味深い現象が見られる。トウモロコシ価格が上がった年には、肉の価格が下がることが多いのである。
特に牛肉の場合は顕著なのだ。
2023年の牛肉価格は上昇
なぜか。本当は来年まで育てて大きくしてから売るつもりであった牛まで、と殺さつして売ってしまう傾向が強くなるからである。
だから、トウモロコシ価格の高かった年には牛肉価格は下落し、その翌年は市場に出回る牛肉自体が減るため、価格は急騰することになる。
2022年夏のトウモロコシ価格はかなり高かったことから、おそらく2023年の牛肉価格は上昇するものと私は予測している。
牛肉市場をウォッチするには、米国シカゴ市場の素牛(フィーダーキャトル)先物市場が適していると思う。
「もっと自由を!」「飯を食わせろ!」
これらは牛肉市場の話だが、流れ的には豚肉も大差がない。
こういうサイクルは、農作物についてもよくあることで、その年の価格が上がっていたら、翌年はまったく振るわない。
と思ったら、その翌年は急騰したりする。
要は、農業従事者が相場を見ながら“生産調整”するわけである。
その意味で、中国は豚肉、大豆、その他もろもろの作物が不作となり、食料危機に発展する火種を常時秘めている。
すでに一部の作物については価格が急騰しているので、その不満が各地で発生するデモの要因になっている可能性もある。
2022年12月に起きた「白紙デモ」のとき、掲げられたのは白紙だけではなかった。
白紙に紛れて「もっと自由を!」、そして「飯を食わせろ!」と書かれたものもあったのだ。
中国・ロシア・イランを苦しめる食料インフレ
余談になるが、他国に目を転じると、ここのところスリランカ、イランなどでも大型デモが起きている。その要因は当然ながら、食料インフレがあまりにも厳しいからだろう。
権威主義陣営である中国、ロシア、イランなどでは早くも食料危機が訪れているのではないか。そんな印象を私は抱いている。
ここをどう乗り越えるのか。いまのところ、中国を初めとした権威主義国家は、国民の怒りをガス抜きする政策によって乗り越えようとしているように映る。
だが、これは本来の権威主義陣営の“流儀”ではない。逆だ。
イランなどは拒否しているけれど、権威主義陣営ではモラル警察を廃止することをチラつかせたりしており、行き詰まり感を垣間見せている。
それらの原因をつくったメインは、やはり食料インフレだと思う。
国民にとって、食えなくなること以上の苦しみはない。
他の自由や人権については我慢できるけれど、飢えだけはどうもならない。
今後、中国などでは社会不安が高まっていく可能性がある。
中国は米国に弱みを握られている
そしてこの食料問題に関し、中国は米国に弱みを握られている。
中国は農産物を毎年、米国から相当量輸入している。
中国は経済安保上、相手陣営に強く依存したくないはずで、本音では米国からはあまり買いたくないだろう。しかし、背に腹は代えられない状況になっている。
米中関税合戦は中国国民を苦しめる
米国は中国からアパレル、家電、雑貨、家具、アセンブリー部品などを輸入している。
その逆の、中国が米国から輸入する品目のほとんどは、食料(農作物、肉類、酒類)なのである。
そして、トランプ政権時代から米国は中国製品や品目に対して高関税をかけるようになった。そこで、中国も米国の高関税に対抗して、同程度の関税を輸入品にかけると宣言し、実行した。
しかし、両国の事情は大きく異なっていた。
先に述べたように、中国が米国から輸入する品目のほとんどは食料である。これに高関税をかけてしまい、最終的には消費者である中国国民を苦しめることになったのである。
ただ、米国民も高関税分のコストを引き受けなければならないので、お互い様と言えないこともない。
そこで米国は輸入物価を下げるため、意図的に“ドル高”に持っていった。中国が20%の追加関税分を20%のドル高で“相殺”したわけである。
だが、中国は米国と同様の手は使えない。
知ってのとおり、このところどんどん人民元レートが下落している。輸入はできるものの、輸入価格はドルベースで高くなったし、さらに米国への報復措置としてかけた追加関税分が上乗せされている。
中国国民からすれば、報復関税が痛みとなって刺さってきたのだ。
こうした措置を、バイデン政権が撤廃するかもしれないと、中国側は期待を抱いていた。だが、それは見事に裏切られ、今日に至っている。 
●金利が魅力的なMMFに、銀行の預金が流れ込み、地銀・大手銀行にダメージ 4/21
中長期で大手銀行にダメージを与える、地銀から大手銀行ではない、預金の大きな流れとは? 
前回、銀行株投資は大儲けできる場合もあるけれど、個人投資家にはハードルが高めで、長期投資には向かないことを教えてくれたポールさん。そして、長期投資に向いているセクターや銘柄を、リスクをあまり取らない場合と、ある程度リスクを取る場合に分けて、オススメしてくれた。
今回は、米大手銀行の決算に注目。SVB(シリコンバレー銀行)破綻をきっかけに、地銀から大手銀行に預金が流れたこともあり、大手銀行の決算はそこまで悪くなかったものの、中長期で、地銀だけでなく大手銀行にダメージを与える、別の預金の大きな流れがあるとのことなので、さっそくチェックしていこう。
アメリカ人にとって、日本のものは信じられないほど安いうえに、質も高い
番組冒頭、アシスタントの木村カレンさんに、シアトルから日本を経由して、台湾に最近帰った話を振られたポールさん。
わざわざ日本を経由した理由は、JALに乗りたかったからだそうだが、羽田空港でポールさんが驚いたのは、入国審査の列に1時間かかるくらい、空港が混んでいたこと。
コロナが落ち着き、入国規制が緩和されたことで、インバウンド(訪日外国人旅行)が復活。ポールさんの感覚では、今回のインバウンドは前回と違って、アメリカ人が多いようだ。
今回のインバウンドで、アメリカ人が多いのはなぜか。それは日本とアメリカの強烈な物価の違いにあると、ポールさんは考えている。
日本はずっと円安、デフレだった一方、米国はずっと米ドル高、インフレだったことで、日本とアメリカの物価の差がかなり激しくなっているというのだ。
例えば、アメリカでランチを食べると、ウェイターがいて座って食べられるところなら、高級店でなくても18ドル、チップ入れると20ドルを超えてきて、日本円に換算すると2500円から3000円ほどかかる計算になる。
けれど、日本では1000円以下のランチや、500円弁当もあるうえに、クオリティもかなりいいとのこと。
つまり、アメリカ人にとって、日本のものは信じられないほど安いうえに、質も高いと感じられるようだ。
台湾は、中国の脅威を感じながら生活しているわけではなく、普通に生活している
そんな日本を経由して、3年ぶりに台湾に帰ったポールさん。
お墓参りをしたり、親戚や友人と再会したり、実家のリフォームの様子を見に行ったりしたそうだが、ここで、スタジオMCの渡部一実さんから、台湾有事に関連する質問が飛ぶ。
台湾有事に備えて日本は軍備を増強しているが、台湾の現地で中国の脅威を感じたか、との問いに、台湾有事はそこまで話題になっていなかったとポールさんは答えた。
韓国は、北朝鮮とわずかな距離しかないけれど、普通に生活しているように、台湾も、中国の脅威を感じながら生活しているわけではなく、中国は実際には攻めてこないのではないかという見方も結構あるとのことだった。
5月のFOMCで利上げが終わると考えられる背景には、金融システム不安とインフレ緩和がある
続いては、相場の話題に。
米雇用統計、米CPI(消費者物価指数)、米PPI(卸売物価指数)の結果が出て、インフレは落ち着いているものの、雇用はそれなりに強いという状況のなか、5月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%利上げして、利上げは終わり、年内に利下げ、という見方について聞かれたポールさん。
5月のFOMCで利上げが終わると考えらえるのは、SVB破綻などで金融システムが不安になったから、とポールさんは指摘する。
さらに利上げしてしまうと、金融システムがさらに問題になり、それをFRB(米連邦準備制度理事会)が望んでいないため、利上げは終わると市場は考えているそうだ。
そして、インフレを見てみると、米CPIは12カ月で年率5%の上昇だったが、去年(2022年)7月から今年(2023年)2月の8カ月だと、2.2%の上昇、年率は3.3%で、インフレが緩和してきていることがわかるという。FRBのインフレ目標である2%と、8カ月の数字がそんなに遠くないことも、FRBがさらに利上げしないと考えられる理由だと、ポールさんは解説した。
「HOPE」で景気を見ると、Employmentで問題が出始めた
また、ポールさんは景気を「HOPE(※)」で見るのだが、Housing、Order、Profitは緩やかな鈍化で、大きな下落はなかったものの、Employmentで問題が出始めたという。
(※「HOPE」の「H」は住宅の「Housing」、「O」は受注の「Order」、「P」は利益の「Profit」、「E」は雇用の「Employment」で、それぞれの頭文字をとったもの)
アメリカで最近、マッキンゼーやベインという有名な戦略コンサルティング会社が、新卒採用者の入社を1年間先送りする代わりに、語学などの勉学を援助する提案をした、というニュースがあったそう。
コンサル会社はいろんな業界にかかわっていることから、景気弱体化の影響を受けやすく、その雇用に問題が出始めたということも、FOMCの利上げが終わると考えられる理由につながっているのかもしれない。
今回の大手銀行の決算で確認できたのは、SVB問題によるパニックの状態から、少し回復してきたことだけ。銀行セクターが上に向くわけではない
そうした景気認識を踏まえて、今回注目されているのは銀行の決算だと、渡部さんはコメント。
大手銀行であるJPモルガン、バンカメ(バンク・オブ・アメリカ)、ゴールドマン・サックスの決算は、そんなに悪いわけではなく、SVB問題は大手銀行にとって短期的にはよかったのか、とポールさんに質問した。
SVB問題で、地銀から大手銀行に預金が流れたため、大手銀行にとってはプラスで、地銀は弱くなったことが決算で確認できたとポールさん。そして、それはアメリカ経済全体にとって悪いことだという。
地銀には、地元の地域に貸し出しすることで、地域を活性化させる役割があるのだが、アメリカで地域といっても場所は大きく、カリフォルニアやワシントンなど州全体の貸し出しが鈍化するため、経済全体に影響が出るという。
そして、そのしわ寄せはいつか大手銀行にも来るとのこと。
つまり、今回の決算で確認できたのは、SVB問題によるパニックの状態から、少し回復してきたことだけであり、ポールさんが言いたいのは、SVB問題の影響すべてが見えてきたわけではなく、銀行セクターが上に向くわけでもない、ということなのだ。
銀行の預金がMMFへ流れ込み、地銀だけでなく大手銀行にもダメージを与えている
SVB問題で、地銀から大手銀行に預金が流れたのは確かなのだが、その流れとは別の、預金の大きな流れがあるとポールさんは指摘する。
その流れの行先というのが、MMF(マネーマーケットファンド、市場金利連動型投資信託)だ。
MMFへの投資リスクはゼロに近く、利回りが4.5%を超えるのが魅力的で、MMF全体の総資産は過去最高水準にある。
記者のイメージでは、5月のFOMCで0.25%利上げされれば、FFレートの上限は5.25%にもなるのだから、アメリカの銀行口座で預金すれば、5.25%までいかないにしても、利息はそれなりにありそうなもの。
けれど、ポールさんいわく、アメリカの銀行が預金に対して払っている利息はかなり低く、銀行全体では2%台とのことだった。
これには渡部さんも、銀行に預金を置いても1%とかしかつかないんだったら、銀行から預金が流出して、MMFに流れ込んでしまうと納得の様子。
つまり、銀行の預金がMMFに流れるということには、地銀だけでなく大手銀行も無関係ではいられず、金融大手でも預金が流出した例として、ポールさんが挙げたのがチャールズ・シュワブだ。預金流出を嫌気して下落した株価は、流出前の水準に戻っていない。
チャールズ・シュワブをはじめ、預金流出の第一波目を耐えることができたところはあるが、小さい波は引き続き来ているとポールさん。
預金の流出は、利息を引き上げないと止まらず、利息を引き上げると、銀行の利益が圧縮されるため、中長期的にダメージが続くということのようだ。
ただ、FRBの利上げが止まり、利下げに転じれば、この問題は解消されるため、銀行株投資をするなら、タイミングを見極めなければならないとのこと。
FRBも、インフレと銀行セクターの健全性のバランスを見ながら、かじ取りをしているのだとポールさんは語った。
商業用不動産の株は安くなっているが、避けたほうがよい
最後は、商業用不動産の話題に。
銀行の決算を見ると、住宅ローンが売れなくなっていて、商業用不動産や不動産業界は、金利や銀行と密接なことから、先行きがどうなっていくのか、渡部さんは気になるようだ。
ポールさんによると、商業用不動産は、大手銀行より地銀のほうが4.4倍持っていて、商業用不動産ローンの80%は、資産が2500億ドル以下の銀行が持っているとのこと。不動産は地域に密接するものなので、地銀のほうがたくさん持っているということのようだ。
そんな商業用不動産は、コロナで人がオフィスに戻らないため、あまりよくないそう。借り換えの時期も来ていて、金利が上昇して6%台になったため、返済が少し苦しく、不良債権がたくさん出ると問題にもなるとのこと。商業用不動産の株は安くなっているが、これらの理由から避けたほうがよいかもしれないと教えてくれた。 

 

●金融不安が収まったとは、とてもまだ言えない 4/22
表面上、風景は随分変わりました。欧州の巨大銀行クレディ・スイスが、UBSに救済買収される形で実質的に破綻してから、1か月が経ちました。この1か月間、アメリカの地方銀行にも、欧州の大銀行にも、新たな破綻は生じませんでした。アメリカの当局が、破綻の連鎖を断ち切るために大量の流動性供給を行ったことが功を奏しました。世界の株価も比較的堅調で、金融市場は落ち着きを取り戻したようにも見えます。しかし、これで金融不安が収まったと見るのは、早計です。
米地銀とクレディ・スイスに共通項なし
目の前にある事実は2つです。破綻したのが、アメリカの2つの地方銀行(シリコンバレー銀行とシグニチャー銀行)と、地理的に遥かに離れたクレディ・スイスだったこと。
そして、いずれの銀行破綻も急激な預金の流出が引き金になったことです。逆に言えば、米地銀とクレディ・スイスの間には、それ以外の共通点が見つからないことに、むしろ不気味さを感じてしまうのです。
確かに、今回の金融不安の扉を開いた、アメリカの2つの地方銀行には、米当局が強調するように「固有の事情」がありました。
預金保険対象外の預金の比率が異常なほど高かったこと、国債投資のリスク管理に問題があったことは事実です。
また、クレディ・スイスには相次ぐ不祥事や経営の不透明性など、市場につけ込まれる素地がありました。
しかし、こうした「固有の事情」だけで、破綻したわけではありません。破綻につながる「環境」があったからこそ、現実化したのです。
今後も高まることが予想される信用リスク
例えば、各国の利上げによって金利が急上昇し、これまで安全とされてきた国債に膨大な評価損が生じていることは、程度の差こそあれ、どの銀行にも当てはまります。
そしてインフレがなかなか収まらないために、利上げはまだ続きそうです。金利高は債券の評価損だけでなく、信用リスクをさらに高める方向に作用するでしょう。
また、利上げの影響で景気そのものが減速、悪化しているのですから、銀行にとって、貸出先のリスクは高まっているのです。すでにアメリカの大手銀行も貸倒引当金を厚めに積み始めています。
さらに、今回の金融不安を機に、銀行は貸し出しを、急速に厳格化させています。アメリカの4大商業銀行の1-3月期の決算によれば、融資残高の合計は2年ぶりに前期末を下回ったということです。
すでに「貸し剥がし」が始まったとも伝えられており、「カネ回り」は確実に悪くなっています。
一方、欧州に目を転じれば、クレディ・スイスの他にも、大手銀行の経営の健全性に疑問が投げかけられるという構図そのものは、依然として変わっていません。
クレディ・スイスの実質破綻では、発行していたAT1債は無価値になりましたが、多くの欧州の銀行は大量のAT1債を発行しています。こうした銀行は、引き続き市場で注目されることでしょう。
本格的SNS時代初の銀行破綻
今回の破綻劇は、本格的なSNS時代になって初めてと言える金融破綻でした。その預金流出の速さと量の凄まじさは、想像を絶するものでした。
アメリカの金融当局がシリコンバレー銀行の異変に気づいた時には、営業停止を言い渡す以外、成す術がありませんでした。
大手のクレディ・スイスに至っては、1日1兆円以上の預金が流出したとされています。
「危ないらしいという情報」が、瞬く間に「拡散」し、直ちにデジタルで「預金が流出する」という、いわば「サイバー取り付け」が起きていたのです。
かつての金融危機では、「あの銀行が危ない」といった噂が特定の地域で広まることから始まるというケースがほとんどでした。
特定の支店に預金引き出しを求める行列ができ、それが徐々に広がって、危機が本物になるというパターンです。
だからこそ、90年代の日本の金融危機の際にも、そうした行列の取材に際しては、最大限の神経を使ったものです。
また、危機を抑えようとする当局や銀行の側も、大量の現金を運び込み、敢えて札束の山をカウンター越しの見える場所に置いて、顧客の不安心理を鎮静化させようとしたものです。
しかし、今の時代の「サイバー取り付け」には、もはや、そんな時間的余裕はありません。
危ない銀行があるらしいという心理は、カリフォルニアから一気にスイスまで飛び火する時代なのです。
利上げ局面では必ず「危機」発生
歴史的には、アメリカの金利引き上げ局面では必ずと言っていいほど危機が発生しています。
今回も、危機が起きるとしたら、シャドーバンク(影の銀行)だろうか、新興国だろうかと、専門家たちは様々な推論をしていました。
しかし、実際に危機に見舞われたのは、本家本元であるアメリカの銀行であり、欧州の名門銀行でした。これはとても重い事実です。
利上げの終着点に未だ至らず、インフレや需給の調整も終わっていないのに、わずか1か月の表面上の静けさで、「これで終わった」と思って良い訳がありません。

 

●アメリカの商業用不動産への懸念。景気後退か? 4/23
次に訪れる金融市場の不安は商業用不動産だと言われています。市場は今、不動産に対して厳しい目を向けていて、不動産会社の株価はかなり下がっています。単に不動産だけの問題というわけではなく、そこには銀行の問題も深く関わっています。銀行と不動産、そして金融市場全体がどうなっていくのか考えてみたいと思います。
商業用不動産が不安視されるワケ
不動産は基本的にはお金を借りて投資をするもので、その返済期限が来ると新たに融資を受けることになります。しかし、銀行が次の融資を行わないのではないかという不安が高まっているのです。そこにはSVB(シリコンバレー銀行)の破綻が大きく影響しています。
   SVB破綻
SVBの破綻の原因は、長期金利の上昇によって米国債が下がり含み損が増え、危機感を持った預金者が大量に預金を引き出して取り付け騒ぎが起こったことです。財務に問題は無かったとしても、手元に現金が無ければ簡単に倒産してしまうということを如実に示してしまいました。逆に、多少財務に問題があっても現金さえあれば倒産はしないということであり、今、銀行はとにかく現金の流出を防ぎたいという状況です。
   空室率上昇
商業用不動産向けの融資を行うのは中小銀行が中心です。これまでは、不動産という担保があれば比較的簡単に融資していたものと思われます。しかし、この不動産に問題が発生しています。マンハッタンの空室率が22%にもなっているのです。特に空室率が上昇しているのがコロナショック後で、リモートワークが進展したことによるものです。ニューヨークのオフィスの賃料は当然高く、社員はリモートワークなのに高い賃料を払う必要はないということでオフィスを返上してしまっているのです。供給量は増えているのに需要が追い付いていない状況です。また、インフレに合わせて賃料も上がっていて、空室率の上昇に拍車がかかっています。空室率が上がっている不動産事業者に対して、銀行が貸し倒れのリスク回避のために融資を行わないのではないかという懸念が広がっています。
   借り換えができない場合
不動産事業者が借り換えができない場合、まずは他の銀行から借りることになりますが、多くの銀行が同じ状況なのでなかなか難しいと思われます。融資を受けられないとなると、不動産を売却するという選択肢があります。今、不動産価格は上がっているので、多くの不動産事業者が早く売ってしまおうと動き、結果的に不動産価格の下落を招きます。借り換えもできず、不動産価格の下落で担保価値が下がるといよいよ債務不履行となり、銀行は損失を被ってしまいます。そうなると銀行はさらに融資を厳格化するようになり、不動産のみならず他の企業融資にも影響が出て、景気後退へと繋がります。このように、銀行と不動産は表裏一体の関係にあり、それが景気のバロメーターになっている側面があります。
景気後退の予兆
   CMBS信用スプレッド
多くの投資家が景気の後退を懸念していて、それがCMBS(商業用不動産を証券化したもの)の信用スプレッドに表れています。信用スプレッドが上がれば上がるほどデフォルトの可能性も上がると言えますが、最近になってグッと上がっています。ロックダウンの時ほどではないですが、投資家が商業用不動産に対してリスクを感じていることを示しています。
   信用収縮
「貸し手や金融機関が貸し出しを減らすことにより、資金調達や借り入れが困難になることを指します。通常、経済や金融市場の不安定性、不況、金利上昇、債務返済能力の低下、信用リスクの高まりなどが原因で発生することが多いです。信用収縮が起こると、企業や個人が資金調達をしにくくなり、投資や消費が減少するため、経済活動全体に悪影響を及ぼすことがあります。また、金融機関や債権者が貸し出しを減らすために借り手からの要求を厳格化することで、借り手が債務不履行や破産に陥るリスクも高まります。」
今回の商業用不動産の問題は金利上昇を発端とするものですが、一方でインフレの問題もあり、金融の引き締めも行わなければならない状況です。景気は循環するものですが、景気後退の予兆として商業用不動産に表れると私は考えます。
   逆イールド
2年金利と10年金利を比べると、通常なら10年金利の方が高くなりますが、逆に2年金利の方が高くなっている状態を「逆イールド」と呼びます。グラフがマイナスになっている時が逆イールドの状態で、グレーの帯が景気後退が起こった時期です。ITバブル崩壊やリーマンショックの時にも、逆イールドが起こったのちに景気後退が訪れています。今回の逆イールドは既に長い期間に及んでいて程度も大きいです。近いうちに景気後退が起こることはもはや必然とも思われます。
本質的に伝えたいこと
株価を見ると、昨年10月に底を打って今は回復基調にあるように見えますが、商業用不動産をはじめとするリスクが顕在化した時には大きく下落してもおかしくありません。しかし、私が言いたいことはこの商業用不動産の問題が現実化するかどうかということではありません。景気後退や「○○ショック」による株価の下落は必ず起こります。そんな時に、良い企業・良い銘柄を買っておいて、やがての上昇に備えるという投資法を提唱しています。
   素晴らしい銘柄を探そう
・本当に素晴らしい銘柄は、長期間にわたって成長を続ける
・見極めるポイントは、実績、ビジネスモデル、経営者の考え方
・理想の投資法は「素晴らしい企業を見つけ、それを良いタイミングで買い、素晴らしい企業である限り持ち続けること」
●商業不動産物件の連鎖破綻でアメリカ中の大都市が廃墟に?  4/23
今週月曜日に開示されたバンク・オブ・アメリカの2023年第1四半期決算が予想外の好収益を示したために、早くも「もうアメリカの銀行業界は危機を脱した」といった声も聞かれるようになりました。
たしかに、営業収益、純利益、1株利益すべてにわたって、前年同期比2ケタの増収増益ですから、一見文句のつけようがない決算です。
公表数値は威勢が良かったのですが、その陰で先日来何度か指摘させていただいた含み損が肥大化していることを感じさせる数字も散見される、表を見るか裏を見るかでずいぶん印象の違う決算でした。
含み損は拡大している?
まず、そのへんから検証していきましょう。
実際に計上した貸し倒れ損失は、じわじわ確実に増加しているというだけのことです。まだ融資総額の0.5%にも達していません。ただ、貸し倒れ引当金は去年第4四半期よりやや減少させているのに、前年同期比で見るとじつに31倍になっています。
これはやはり、平穏無事な時代の銀行が開示する決算ではありません。臨戦態勢に入った企業の決算です。しかも、どうやら去年の第2四半期(4〜6月)には、臨戦態勢に入っていたようです。
さらに貸し倒れ損失を消費者向けと企業向けに分けてみると、いっそう気がかりな点が出てきます。
消費者向けローンでは常にある程度の貸し倒れが生ずることは織り込み済みです。また、企業向けの中でも、中小企業向けは貸し倒れの発生頻度はやや高めになります。
ところが、2022年第4四半期、そして今年の第1四半期と2四半期続けて本業中の本業であるはずの商工ローンで急激に貸し倒れが増えています。まだ金額は消費者向けに比べれば5分の1程度ですが、この増え方は気になります。
これは3月24日投稿の「銀行連鎖破綻で確認できた米ドル覇権の終わり」でも指摘させていただいたことですが、アメリカの銀行業界は副業というべき証券投資で古今未曾有と言ってもいいほどの巨額の含み損を抱えています。
約2600億ドルにのぼる銀行業界全体の純営業利益をもってしても、この含み損を全部消却するには2年以上かかるという金額です。
つまり、現在のアメリカ銀行業界は本業では石橋を叩いて「絶対大丈夫」と思っても、それでも渡ることを躊躇するほど、慎重な経営を迫られているはずなのです。
サービス業主導経済では投資の役割が軽くなる
それなのになぜ、本業の融資でもボロボロと貸し倒れが出てきているかと言えば、結局のところ、企業があまりカネを借りてくれなくなってしまったからなのです。
バンク・オブ・アメリカの場合も、預金総額のうち融資で運用できているのはかろうじて50%強で、残りは融資以外で運用せざるを得ない状況です。
したがって、2022年のアメリカの金融市場のように株価はだらだら下げ基調の上に、金利は急騰を続けて保有債券の価格が急落したりすると、莫大な含み損を抱えてしまうわけです。
企業があまり投資を重視せず、したがって銀行から借金をしてまで大型投資をすることはめったになくなった事情は次の2枚組グラフによく出ています。
上段が、企業が自社の営業活動で得たキャッシュフローと銀行などからの借入金をどんな用途に遣っているかを示しています。
ご覧のとおり、設備投資やR&D投資といった将来の収益を拡大するための投資は少なくなりつづけ、配当や自社株買いといった株主還元の比重が高まっています。
下段は、企業全体としての借入金プラス社債発行残高がGDPに占めるシェアですが、1980年代までは長期間を通じた中央値である5%弱を上回る年が大部分でした。
逆に1990年代以降は、中央値を下回る年のほうが多くなっています。時には新たな借入金と過去の借入の返済がほぼゼロになったり、新規借入より過去の借入を返済する額のほうが多くなったりもしています。それが、マイナスのシェアが意味することです。
私はアメリカだけではなく、先進諸国の銀行はすべて徐々にダウンサイジングをして、あまり巨額の投資を必要としないサービス業主導経済にふさわしいスリムな業界に変身すべきだと考えています。
日本の銀行業界などは、1980年代末のバブル期に比べれば、融資総額にしても営業収益にしてもずいぶんGDPに占めるシェアを減らしてきて、世界中の銀行業界のお手本だと思うのですが、経営陣の方々はどうやらそれがご不満の様子です。
Fedのミルク補給で安全に稼げていた米大手銀行
アメリカの銀行業界が順調に業績を伸ばしてきたように見えるのは、銀行が連邦準備制度(Fed)に開いた口座に法律で定められた以上の準備を置いたり、Fedに1晩だけアメリカ国債を貸したりすると、低金利のご時世では破格の高金利を受け取れていたからです。
保有している米国債を連邦準備銀行に1泊させるだけで金利が稼げる仕組みのことをリバースレポといいます。Fedがフェデラルファンド金利を急上昇させていたうちは、リスクゼロで、しかも高金利が稼げるということで銀行にも迷う余地がありませんでした。
ところが、直近ではリスクを取る気さえあれば、もう少し大きな利ざやが稼げる状況に少しずつ変わりつつあります。
ご覧のとおり、リスクを取って一般企業の発行した社債を買うより、ノーリスクの超過準備やリバースレポのほうが高い金利を稼げるという異常事態がようやく終わろうとしているのです。
銀行業界には、ここで積極的にリスクを取る運用をする準備ができているでしょうか。残念ながら、私は無理だと思います。
先ほどご紹介したとおり、すでに証券投資で出した莫大な含み損があります。それに加えて、企業向け融資の中でもかなりリスクを伴う商業不動産向け融資が、今後本格的に焦げ付く可能性が非常に高いのです。
リスクが急拡大しつつある商業用不動産融資
まずバンク・オブ・アメリカを例にとってアメリカの大手銀行の融資ポートフォリオに商業用不動産融資が占める位置を確認しておきましょう。
右側のグラフでおわかりのように、商業不動産融資が企業向け融資に占めるシェアは2019年の21.2%から今年第1四半期の12.3%へとかなり大きく減少しています。ですが、融資全体に占めるシェアはほぼ不変です。
つまり、危険回避のために消費者向け融資から企業向け融資への転換は進んだけれども、その企業向け融資の中ではかなりリスクの高い商業不動産向け融資が融資全体に占めるシェアは下がっていないのです。
多くの銀行で商業用不動産投資中最大のウエイトがかかっているのはオフィスビル開発です。バンク・オブ・アメリカでも商業用不動産向け融資総額730億ドルのうち187億ドル、26%がオフィスビル開発向けでした。
2020年春の第1次コロナ騒動で多くの都市がロックダウンを実施したアメリカでは、その後丸3年になるというのに、オフィスビルの多くが抜け殻状態のまま放置されています。
大企業テナントなどの場合、賃借中の面積を圧縮することは経営不振を疑われたりするので、契約期間中に賃借面積を削ったり、別の小さなスペースに転居することはあまりしません。
ですが、借りている面積の中でどの程度が実際に従業員が出社して使っているかとなると、恐るべき数字が出ています。
私が仮に入居床占有率と訳したのは、きちんと契約を取り交わしたテナントが賃借中の面積を指す入居率のことではありません。
入居テナントの従業員がどの程度実際にオフィスに来て仕事をしているかを示す数字で、これはオフィス警備・安全保障などの大手企業、キャッスル社が自社の管理物件の入館証の利用状況から推計しています。
もう第1次コロナ騒動が始まってから3年、ほぼ平常どおりの生活に戻ってからも約1年経つというのに、アメリカの大都市オフィスビルの入居床占有率は、まだコロナ騒動勃発直前の水準に比べて半分にも達していないのです。
これはあまりにも深刻な数字なので、民間企業1社だけの推計で判断するのは危険と思って、いろいろほかの推計を探してみました。都市学部を持つほど積極的に大都市圏問題に関わっているトロント大学が、まさにそうしたセカンド・オピニオンを出してくれています。
なかなかユニークな発想で、大都市圏の経済・社会活動が盛んか不振かを調べています。携帯電話の使用頻度を、どの程度経済・社会活動がおこなわれているかの代理変数にするというのです。
ちょっと考えると、会う必要を無しで済ませるためにも使う道具なので、実際に特定の都市圏で人間がどのくらい活発に動き回っているかを測定するには向かないような気がします。
でも、私は昔から電話などによる通信は実際になま身の人間が会うことの代替財ではなく、補完財だと思っていました。
携帯でひんぱんに連絡を取り合うことがらを考えれば、だれかと会う日時や場所の連絡、行ったことのない場所に行くための案内を受けるためということが多いような気がします。
この携帯電話の使用頻度によって推計したアメリカ・カナダ合わせて62都市圏の活動ぶりは、コロナ前に比べて中央値で61%となりました。入居床占有率よりはマシですが、それでもやはりまだ4割近く都市活動が低下したままだという結果が出ています。
そのうちから特徴的な8都市圏を選んで活動状況を図示したのが、次のグラフです。
古くからの大都市がけっこう善戦している反面、サンフランシスコやシアトルなどの「シリコンバレー」系の人々が多い都市は惨憺たる状態です。
なお、サンフランシスコと同じカリフォルニア州の大都市でも、ロサンゼルスはシリコンバレー人脈とは縁が薄く、反面ロサンゼルス・ロングビーチ港がアメリカ最大の輸出入の窓口となっていて、しっかりした実物経済の基盤を持った都市です。
その結果、ロックダウンなどの被害も小さく済んで、比較的順調に回復しているのではないかと思います。
なお、この8都市にも入っているアトランタ、シカゴ、サンフランシスコに別の3都市を加えて、コロナショックのどん底からの回復を経緯を見たのが、次のグラフです。
人口でも経済活動でも北米大陸の中で突出して大きな都市であるニューヨークが、ロサンゼルス以上に健闘していることにはホッとしますが、それにしても完全に本格回復の軌道に乗ったかと思った2022年の6月末頃から、また経済活動が萎縮し始めたようです。
去年後半の反落はおそらく在宅勤務後遺症
この点については、私はひとつの仮説を持っています。
ちょうどこのころから、ハイテク大手の人員削減が目立ち始めたのは、華やかなイメージで在宅勤務をはやし立てていたハイテク大手各社のあいだで、在宅勤務の普及が余剰人員の多さを認識するきっかけになったのではないでしょうか。
当人は在宅勤務のほうが生産性が上がると思っているけれども、経営陣から見るとなんの成果も出せていない。きちんと出社するようにと業務命令を出しても従わない。いてもどうせ戦力にならないのだからと、大量解雇という事態にいたる。
こんな光景が、アメリカ中の大都市オフィスで見られたのではないでしょうか。中小都市では、ハイテク大手が大量に冗員を抱えていたということがほとんどなかったので、コロナ被害からの回復も比較的順調に進んでいるのだと思います。
それとともに、アメリカでは治安の良し悪しなどもかなり影響して、大都市になるほどいったん低下した都市活動を再稼動させるのに苦労が多いようです。
100万人をほんのちょっと上回るだけの人口しかいない都市なのに、華麗な大都会のイメージばかりが先行していたサンフランシスコと、しっかり地域に根付いた実物経済が生き残っている大都市、ニューヨークとロサンゼルスを3つの例外として、アメリカは都市規模が大きくなるほど、あらゆる自然災害や人災への対応がむずかしくなる国だと実感します。
事情はどうあれ、今後ハイテク大手の大量解雇をきっかけに、大都市圏中心にオフィス床需要の大収縮が起きることは間違いないでしょう。
大収縮するオフィス市場のツケはだれに回る?
間の悪いことに、2023年から2027年まで商業用不動産開発ローンの返済期限が集中していて、この5年間で合計2兆5000億ドルの償還が見こまれています。
当然のことながら、約定どおりの返済ができない開発業者も多くなるでしょう。貸し手の中で最大のシェアを占めているのは銀行ですが、不動産のビッグプロジェクトといえば、ほとんど大手銀行が融資の主力となる日本と違って、アメリカでは主役は中小銀行なのです。
このグラフを見ると、アメリカの大手銀行はもう2017年頃から商業用不動産向け融資は5000億ドル前後で横ばいに維持し、2020年からは若干とは言え減少させてきたことがわかります。
やはり、ほかにいろいろ儲け口があるアメリカの大手銀行にとって商業用不動産融資は取る必要のないリスクだったのでしょう。
一方、異常な低金利の中で大手ほどはFedからのミルク補給も期待できない中小銀行は、リスクは承知の上でこの分野を積極的に増やさざるを得なかったのだろうと思います。
銀行からの商業用不動産向け融資に占める中小銀行のシェアも、たった8年で57%から72%まで伸びました。
この状況でバンク・オブ・アメリカの好決算に便乗して中小銀行株のETFであるKREまで反発したと聞いてびっくりしたのですが、わずか2日間と3ヵ月弱のチャートを見比べれば、コップの中の嵐とさえ言えないほど小さな反発にとどまっていたことがわかります。
全米各地で、大手不動産投資信託(REIT)が借入金の返済に困って、融資団に開発中あるいは稼働中の不動産物件を渡して解散するという事態が始まりつつあります。
残念なことですが、この期に及んで中小銀行の連鎖破綻を回避することは、ほぼ不可能に近いのではないかと思います。
中小銀行に次ぐ被害者は都市の多様性
それとともに残念なのが、かつてはそれぞれに個性のある繁栄を謳歌していたサンフランシスコやサンノゼやシアトルといった西海岸の都市が、シリコンバレーブームの退潮とともに、一緒くたに衰退の中に放りこまれそうなことです。
平日はほぼ毎日必ず出勤してくるオフィス人口を目当てに多種多様なモノやサービスを提供していた企業群が、オフィス人口の減少とともにさびれていきます。
かつては大勢の人々が毎日出入りしていた超高層オフィスビルも、大きすぎる墓標のように立ち腐れていくのでしょうか。
ケーブルカーで急坂を登り詰めると、なんとそこには海辺がある、地理自体が魔法にかけられたような町、サンフランシスコがシリコンバレーのスタートアップ成り金と同じように没落していくのは、私にはなんとも納得がいきません。
クルマ社会化とはどうにも折り合いが付かない都市文明の滅びを、サンフランシスコが象徴しているということなのかもしれません。
●米アップルの普通預金「年4.15%」が話題に なぜそんなに高い? 4/23
4月17日(米国時間)、米アップルが米国で提供している「Apple Card」の利用者向けに、普通預金口座のサービスを始めることを発表しました。
その金利は「年4.15%」となっており、日本から見れば高く感じますが、米国ではそれほど珍しいものではないようです。
普通預金「年4.15%」は珍しくない?
Apple Cardはアップルが2019年3月に米国で発表したクレジットカードで、金融大手のゴールドマン・サックスと組んで提供しています。
特徴としてはiPhoneとApple Payに最適化されており、申し込みや発行、利用明細の確認がiPhone内で完結。Apple Payで使うと2%の現金キャッシュバックを受けられます。
そのApple Cardの利用者に向けて、新たに始めるのが普通預金口座(Savings account)サービスです。
実体としてはゴールドマン・サックス銀行の支店に口座が作られるとのことから、電子マネーなどではなく、預金保険の対象になる正規の銀行口座といえます。
この普通預金の金利は、4月14日時点で年4.15%とのこと。アップルはこれが全米平均の10倍以上であることを強調しています。
日本から見ればかなりの高金利に感じるところですが、現在の米国ではそれほど珍しいものではないようです。これはインフレ対策として政策金利を引き上げているためで、現在は4.75〜5.00%に達しています。
とはいえ、こうした状況下においても、JPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカといったメガバンクの金利は「0.01%」です。
最近の金融危機ではこれらのメガバンクに多くのお金がなだれ込んだように、預金は十分にあるので金利を上げる必要はない、という空気が感じられます。
一方、地方銀行やネット銀行など小規模な金融機関を中心に、4%台の高い金利をうたう普通預金(high-yield savings account)があります。
その間で微妙な立ち位置にいるのがゴールドマン・サックスです。投資銀行としては名高いものの、16年に鳴り物入りで始めた個人向けサービス「Marcus by Goldman Sachs」は苦戦が続いています。
そこで、高金利のサービスで顧客を惹き付けようというわけですが、Marcusの普通預金金利は3.9%であることから、アップルが提供する4.15%はそこに何らかの上乗せをしているのではないか、との指摘があります。
また、米国で高い金利を得るには最低口座残高などの条件が課せられるものがありますが、アップルの普通預金ではMarcusと同様にそうした条件がないことも魅力です。口座の上限は25万ドルで、これは米国の預金保険でカバーされる上限と同じ金額です。
23年1月には、ゴールドマン・サックスの個人向け事業などが3年間で30億ドルの損失を出していることが明らかになりました。今後の選択肢が注目される中、アップルとの事業は逆に強化するという点も、このニュースの見どころといえそうです。
●ロンドン証券市場改革「ビッグバン2」計画巡り、英政府とBOEが対立 4/23
昨年11月、パリがロンドンを抜き、時価総額で欧州最大の株式市場となったことは記憶に新しいが、最近も大英帝国の「王冠の宝石」と称された半導体設計大手アームホールディングスが米国上場を決定、さらにアイルランド建材大手CRHもロンドンからニューヨークに移ると発表した。ギャンブル世界最大手フラッター・エンターテインメントも米国での二次上場計画を示した。
相次ぐ主要企業の米国詣でにロンドン金融街(シティ)の投資会社シュローダーのピーター・ハリソン投資運用部長は、「英国がリスクテイカー(リスクを取る投資家)を支援しないということは、ロンドンがニューヨークと競争できないことを意味する」(英紙デイリー・テレグラフの3月2日付コラム)と嘆いた。
テレグラフ紙のオリバー・ギル経済部キャップは3月2日付コラムで、「こうした英国離れの動きは、ロンドン市場改革の波が止まったという非難を引き起こした一方で、バイデン米大統領のグリーンエネルギー投資減税計画が英国企業にとって抗しがたい魅力であることを証明した」と指摘する。グリーン減税計画ではインフレ削減法(IRA)に基づき、クリーンエネルギーに取り組む企業に7380億ドル(約100兆円)の税制優遇措置、半導体メーカーにはさらに400億ドル(約5.4兆円)を支援する。
これにはハント英財務相も公然とバイデン米大統領を批判している。ハント氏は4月16日の英テレビ局スカイニュースのインタビューで、「バイデン大統領のグリーン減税は企業への補助金による利益誘導だ。世界景気を悪化させる」と噛みついた。インフレ削減法は、英紙フィナンシャル・タイムズの推定によると、昨年の同法成立以降、2000億ドル(約27兆円)の投資を米国に呼び込んでおり、EU(欧州連合)と英国は対抗策をとらざるを得なくされている。テレグラフ紙のエア・ノルソエ経済部デスクは4月17日付コラムで、「それは経済が関税と補助金によって緊密に管理される保護主義の新時代への恐怖を引き起こした」と断じた。
ロンドン金融街(シティ)の投資会社シュローダーのピーター・ハリソン投資運用部長は市場改革を加速するためには特に、ブレグジット(英EU離脱)後の待望の「ソルベンシー(支払い余力)II」ルールの早期緩和の必要性を挙げる。ソルベンシーは保険会社の自己資本ルールで経営の健全性を示すものだが、このルール緩和は年金ファンドの株式などリスク資産への投資拡大に道をつける。同氏は「現在、英国の年金資産の10−13%が英国株に投資されているが、非常に低い数値だ」という。
テレグラフ紙のノルソエ経済部デスクは2月20日付テレグラフ紙で、「現在のソルベンシーIIルールでは風力発電などの新規プロジェクトへの投資を思いとどまらせ、代わりに利回りの低い国債や社債への投資を強いている」と指摘。ハント財務相も市場改革「ビッグバン2」の目玉としてソルベンシールールの緩和にこだわるのは、「このルールにより保険会社はバランスシートに巨額の現金を保有する必要があり、保険会社がどこに投資できるかが決まる。(ルール緩和で)企業は英国経済に数十億ポンド(数千億円)を投資できるようになる」(昨年11月17日付テレグラフ紙)と、持論を展開している。
ソルベンシー(支払い余力)IIルールは2016年にEU(欧州連合)によって導入され、英国の保険会社はバランスシートに多額の現金を保有する必要がある。このため、保険会社と年金基金は現在の制限により、インフラのような流動性の低い資産に必要なだけ資本を投じることができない。
英国の保険会社は確定給付型年金(DB)の資産と債務の全部または一部を保険会社などの第三者に移転する年金バイアウトを積極的に行っており、年金が第1の事業となっているため、ソルベンシーは年金基金にも影響が及ぶ。
英紙デイリー・テレグラフのオリバー・ギル経済部キャップは、「金融行為監督機構(FCA)が関連当事者取引(親会社や子会社、兄弟会社間の取引)に関する制限を緩和することで株式市場での新規上場ルールを緩和すれば、半導体設計大手アームホールディングスは英国での二次上場への扉を開くことができる」と主張。この要件は、アームの親会社である日本のソフトバンクグループが所有する企業と多くの関係を築いているため、アームが英国で上場する際の障壁と見なされているからだ。
世界第2位の規模を誇る年金部門ではリスク回避的な投資アプローチが一般的で、他国に比べ、退職金を株式投資することははるかに少なく、代わりに債券を好む傾向がある。コンサルティング大手LCPのパートナーであるスティーブ・ウェッブ元年金相は、「(ソルベンシー)規則によって資金が過度に慎重になった」と指摘する。
しかし、ハント財務相のソルベンシー改革にイングランド銀行(英中銀、BOE)が立ちはだかっている。BOEのサム・ウッズ副総裁は2月20日、英国保険協会の夕食会での講演で、ソルベンシーIIルールの変更時期について財務省との協議を進めているとしたが、「規制緩和は2024年まで起こらないかもしれない」とくぎを刺した。テレグラフ紙のエア・ノルソエ経済部デスクは同日付のコラムで、「ウッズ副総裁の発言はスナク首相とハント財務相のビッグバン2計画に対する率直な反応だ。BOEはビッグバン2の波が金融街(シティ)の成長を加速させるという期待を軽視している」と指摘する。
ウッズ氏は英国の金融機関の健全性を監督するBOE傘下の健全性規制機構(PRA)のトップでもあるが、同氏は「ブレグジット(英EU離脱)後に待望されていたソルベンシールールの見直しは複雑すぎて、一度に導入することはできない」と、否定的。ベイリーBOE総裁も「金融街のブレグジット後の自由(規制緩和)がエクイタブル生命保険(2000年12月に経営破たん)と同様な破綻を引き起こし、100万人近くが貯蓄を失う危険性がある」と警告しており、テレグラフ紙のエア・ノルソエ経済部デスクは「政府与党の保守党との緊張をさらに高める可能性が高い。BOEは規制が緩くなるとリスクが高まり、破綻が増える可能性があると懸念している。BOEはブレグジット後の機会を利用するには遅すぎで、ルール変更に抵抗しているとの批判が強い」とした上で、「保険会社がバランスシートに多額の現金を保有し、どこに投資できるかを指示することを保険会社に要求するこれらの規則を緩和する努力は、政府が英国への投資を開始するために重要だった」と指摘する。
ハント財務相は昨年末、BOEの反対を却下した上で、「ソルベンシー改革は我々の成長促進産業への数百億ポンドの投資を解き放つ」と指摘、ジェイコブ・リース・モッグ元ビジネス相も昨年11月、「BOEは一貫して改革の障害であり、足を引きずり続けている」と非難している。英財務省のアンドリュー・グリフィス・シティ大臣(中堅大臣)に至っては、「英国の銀行がEUの同業大手に比べ、多くの現金を保有することを義務付けられるリスクを冒す厳しい金融規則について、BOEを訴えることができる」と、金融界に語るほど、両者の関係は冷え切っている。
昨年9月のトラス前首相の大規模減税を柱としたミニ予算の発表後、英国債が暴落、経営破綻の危機に直面した年金基金に対し、イングランド銀行(英中銀、BOE)はさらなる市場危機を防ぐため、年金基金はもっと厳しい規制を受ける必要があると主張している。特に資産運用手法として、LDI(債務主導投資:年金債務をベンチマークとして、それに対する超過リターンを追求する資産運用)戦略を使用している年金基金に新しいストレステストを実施すべきだとしている。この方針に従って、BOE傘下の金融安定委員会(FPC)は3月下旬、年金規制当局に対し、LDIファンドが国債利回りの2.5ポイントの急上昇に耐えうるか確認するためのストレステスト(健全性審査)を緊急に導入するよう指示した。LDIファンドは国債利回りが1.6ポイント上昇した後、危機に陥っている。
もう一つ、ハント財務相のビッグバン2計画に立ちはだかるのはIMF(国際通貨基金)だ。IMFは最新の「国際金融安定性報告書」(4月11日正式発表、4日に事前公表)で、「トラス前首相の下で短期間に起きた年金基金の崩壊危機は世界的な金利上昇が今後数カ月でさらなる金融危機を引き起こすリスクを浮き彫りにした」と指摘。また、「最近では米国の中堅行シリコンバレー銀行とスイスの金融大手クレディ・スイスの破綻救済は単独の事件ではない可能性があり、問題が従来の銀行部門を超えて年金基金や保険会社、ヘッジファンドにまで及ぶ可能性がある」と指摘した。
英紙ガーディアンのラリー・エリオット経済部デスクは4月4日付コラムで、「IMFはノンバンク規制を強化する必要性を強調している」という。IMFは、ノンバンク金融仲介機関(NBFI)の成長が2008年の世界金融危機後に加速し、今や世界の金融資産のほぼ50%を占めているとした上で、「このように、ノンバンク部門の円滑な機能は、金融の安定にとって不可欠だ」と結論付けている。
IMFの3人の専門家(ファビオ・ナタルッチ氏とアントニオ・ガルシア氏、パスクアル・トーマス・ピオンテック氏)は共同で発表したIMFブログで、「金利が低く、安価なお金が容易に利用可能だった10年以上の期間後に弱点が現れた」と指摘。
「NBFIの成長が2008年の世界的な金融危機後に加速し、今や世界の金融資産のほぼ50%を占めている」とし、また、「米国と欧州の一部の銀行で起きた最近の金融不安は、何年にもわたる低金利や抑制されたボラティリティ、十分な流動性によって構築された金融脆弱性の高まりを強く思い出させる」、「このようなリスクは、世界的な金融政策の引き締めが続く中、今後数カ月で激化する可能性があり、銀行の範囲を超え、さまざまな機関で構成される広大な金融セクターを理解し、保護することが特に重要になる」という。 

 

●円安が再び140 円台に向かって進む 4/24
3月上旬の米銀不安は、ドル安を強く意識させたが、4月に入るといくらか落ち着きを取り戻し、円安がじわじわと進んでいる。このまま米長期金利が4%に近づくと、1ドル140円台の円安に進むだろう。植田総裁の姿勢如何では、2022年10月の150円という円安水準に向かうこともあり得る。
米銀不安の一服
ドル円レートがじわじわと円安方向に向かっている(図表1)。3月上旬の米銀不安が一段落しつつあるからだ。3月上旬は、米長期金利が一時4%を越えていた。ちょうど米国の物価上昇率が高止まりしそうなタイミングで、突如、米銀2行が経営破綻した。まだその余波は残っていて、米長期金利は、4%から3.3%まで低下した後、まだ 3.5〜3.6%までしか戻っていない。しかし、それが再び4%を越えてくれば、ドル円レートも1ドル140円台に移行する展開になるだろう。そして、5月のドル円レートは、円安基調がさらに1ドル150円へと接近していく可能性がある。
   図表1
どうする植田総裁
目先の注目は、4月末の日銀会合である。植田総裁がよりハト派的な姿勢を強調すると、その分、10年金利の上限見直しが遠のく。筆者は、いずれは金利上限の変動幅を動かすとみているが、すぐではなさそうだ。就任会見をみる限りは多くの人が思っているよりも、さらにハト派に感じる。今後、しばらくは長期金利の変動幅さえ当分は動かさないという見方はより強まるだろう。それに反応するかたちで、円安は現在よりも進行することが予感させる。
今後の展開で重要なのは、米長期金利が4%に接近したときだ。現在、日本の10年金利はすでに0.50%近くまで接近している(図表2)。目先、米長期金利が上昇すれば、日本の10年金利に上昇圧力がかかることは間違いない。従来のように、10年金利を8・9年金利が上回っていけば、そこが植田総裁の決断のしどころだ。ここで副作用を強調して、上限引き上げをする構えを採れば、円安には歯止めがかかるだろう。
   図表2
反対に、10年金利を0.5%に抑えるために、連続指値オペを打てば、円安が1ドル150円に向かって進むだろう。どちらの選択を採るかで、ドル円の行方は大きく道が分かれる。
今後のシナリオは、(1)指値オペを打つ、(2)上限を引き上げる、の2つの選択の可能性がある。筆者は、黒田路線の急激な修正を印象づけないために(1)を選択する公算が高いと考える。
一方、複雑なのは、指値オペを打たなかった場合だ。10年金利が0.5%を上回って上昇していくことになるだだろう。そうなると、変動幅の上限0.5%は有名無実化する。YCCの長期金利コントロールは骨抜きになっていく。当然、植田総裁はそれに対する説明責任を求められる。そこで、近い将来の会合では変動幅の上限を引き上げるということを示唆すれば、円安は止まる。
逆に、金利上昇を容認しつつ、長期金利の変動幅上限の引き上げに慎重な姿勢をみせるとどうなるか。その場合は円安だろう。日米長期金利差は縮小するから、円高になってもおかしくはない。しかし、敢えて変動幅の上限見直しに動かないことで、投資家たちは、植田総裁が「タカ派方向の選択ができない」と評価する。金利正常化に旗色を鮮明にしないから、ドル円は円安方向になるだろう。
4月末の決定会合は、その分岐点になるだろう。筆者は、いくつかの選択肢の中で、メインシナリオは、ひとまずは指値オペを打って0.50%の上限を守るとみている。これは円安がもっと進むシナリオだ。いずれにしろ、今後の注目点は、米長期金利が4%まで動いたとき、植田総裁がどう反応するかである。
米国の問題
次回のFOMCは、5月2・3日に開催される。さて、FRBはそこで+0.25%の利上げを決めて、利上げの最終到達点(ターミナル・レート)に行き着いたとアナウンスするのだろうか。政策金利は5.00〜5.25%にまで引き上げられる。仮に、3月以降の最終到達点の目途を変えていなければ、そこが一応のゴールになるはずだ。
この最終到達点は、もうこれ以上は利上げをしないという意味だが、もう一つは「次は利下げ」という意味にもなる。従来、年内利下げを否定してきたパウエル議長が、年内利下げに含みを持たせた発言をするのならば、それはドル高・円安を促すだろう。
そうなるケースを考えると、米銀不安が個人消費を抑制させる変化が色濃くなったときだ。3月の小売売上高は前月比1.0%のマイナスになった。クレジット・カードの利用が抑制されて、個人消費が減っているという見方もある。消費者心理は、金融面での不安に敏感に反応して、消費拡大を手控える可能性もある。
そうしたデータは、現時点ではまだ確認ができないが、5月のFOMCはより見方がはっきりと出てくるので、それを受けてメンバーたちが何らかの判断をするだろう。筆者は、5月で利上げの打ち止めを強調する可能性はあるとみる。これまでは、利上げの長期化によって米経済は大きく悪化してドル安に向かうとみられてきた。それが、利上げの打ち止めによって、「次は利下げ」という連想が強まると、米経済が支えられることによって、為替レートをドル高・円安に向かわせる公算が高いと予想する。
貿易赤字体質
マネタリーな側面だけではなく、日本は実体面から円安になりやすくなってしまった。貿易赤字構造である。2011年の東日本大震災以降、原発を止めて化石燃料への依存度が高い。G7など国際会議がある度に、欧州からは脱炭素化の加速を迫られるが、日本はそれどころではないという印象すら受ける。電気代の上昇を抑制することはある程度は仕方がないが、それでは化石燃料の消費量が間接的に増えてしまう。岸田政権は、4月までは統一地方選挙を重視するだろうが、5月以降は電気代抑制を強化するのだろうか。原発再稼働が進まないと、やはり貿易赤字が巨大化して、円安に向きやすくなる。電気代上昇を抑制する政策は、貿易赤字を促して円安を進める。すると、輸入物価が上昇して、政権が物価対策のために電気代抑制に動くという悪循環構造に陥っているとみることができる。
筆者は、原発稼働によって電気代を抑制し、貿易赤字も最小限に抑えることが、現時点では最善とみる。そうした働きかけができないから、岸田政権は悪循環構造を断ち切ることができずに苦しんでいる。実体面での円安進行は、そうした矛盾の上に成り立っているという見方もできる。
●米生活雑貨「ベッド・バス」が経営破綻…  4/24
米生活雑貨小売り大手のベッド・バス・アンド・ビヨンドは23日、米連邦破産法第11章(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したと発表した。同業他社やネット通販大手などとの競争激化による業績低迷に加え、米中堅銀行の破綻に伴う金融不安で資金繰りに行き詰まった。
裁判所への提出資料によると、負債総額は10億ドル(約1300億円)以上に上る。同社は1971年創業で、北米を中心に台所用品や寝具などを販売している。約360ある店舗やウェブサイトは当面営業を続け、事業の売却先を探す。
ネット通販への対応の遅れなどにより、同社の2022年9〜11月期決算は、売上高が前年同期比33%減の約12億5900万ドル、最終損益が約3億9000万ドルの赤字だった。米国の金融不安によって資金調達も難航した。

 

●3月の金融不安でアメリカの地方銀行の一つ 約10兆円の預金流出  4/25
先月、アメリカで銀行破綻が相次ぎ金融不安が広がっていたさなか、経営への懸念が高まっていた地方銀行「ファースト・リパブリック・バンク」は、およそ10兆円もの預金が流出していたことを明らかにしました。
これは、西部カリフォルニア州に拠点を置く「ファースト・リパブリック・バンク」が24日の決算発表で明らかにしたものです。
それによりますと、3月末時点の預金残高は、去年の年末時点と比べて719億ドル、日本円でおよそ9兆6000億円減少しました。
銀行の預金全体のおよそ4割が流出したとしています。
先月は、「シリコンバレーバンク」など、銀行の相次ぐ経営破綻で金融不安が広がっていました。
マイケル・ロフラーCEOは決算説明会で「前例のない預金の流出を経験した」と述べています。
当時、経営への懸念が高まった「ファースト・リパブリック・バンク」は、11の大手金融機関から経営への支援策として、合わせて300億ドルの預金を受け取りました。
アメリカのメディアは、これを除けば1000億ドル、13兆円を超える預金が流出していたと報じていて、金融不安に伴う預金流出の速さが改めて示された形です。
銀行ではコスト削減策として、ことし6月までの3か月間に従業員をおよそ20%から25%減らす見込みだとしています。
●ビットコイン、米ドルの流動性低下と債務上限問題の再来で5カ月ぶり大幅下落 4/25
債券利回りが上昇し、米ドルの流動性が低下したため、4月17日から23日の1週間で、ビットコイン(BTC)は大きな売り圧力に直面した。
TradingViewと米CoinDeskのデータによると、時価総額でトップの暗号資産(仮想通貨)は9%下落して2万7600ドルになり、11月初旬以来、単週で最大の下落率を記録した。米国債10年物の利回りは0.6%上昇して3.58%となり、2週連続で上昇し、暗号資産などのリスク資産の魅力に水を差した。
TradingViewのデータによると、通貨システムにおける米ドルの供給量を追跡する指標である米ドル流動性条件指数は6兆1300億ドルに低下し、1カ月以上ぶりの低水準になったという。また、トレーダーはアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が5月に0.25%の利上げを行い、引き締めサイクルを継続する可能性が高いと見ている。
2021年以降、ビットコインとその他の暗号資産市場は、ドル流動性指数の局所的なピークと底を密接に追跡してきた。ビットコインは、FRBが銀行危機を抑えるために流動性の蛇口を開き、ドル流動性指数を5兆8200億ドルから6兆3500億ドルへと押し上げたため、3月前半に当時の高値である2万8000ドルまで上昇した。
「金融流動性の面で心強い兆候がない中、BTCは月曜日に急落した後、他の主な暗号資産を引きずりながら下降し続けた」と人気のニュースレター「Crypto Is Macro Now」の著者、ノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏はニュースレターの週末版で書いている。
「BTCは、他の資産グループが苦しんでいるときにアウトパフォームするはずの『保険』資産である一方、金融流動性期待に大きく左右される全体的なマクロムードに強く影響される」とアチェソン氏は付け加えた。
パリに拠点を置く暗号資産データ企業カイコ(Kaiko)のリサーチアナリスト、デシスラバ・ラネバ(Dessislava Laneva)氏によると、アメリカの債務上限問題の影響で、ビットコインや金融市場全般で短期的に価格のボラティリティが増加する可能性がある。
アメリカ政府は1月に債務が法定債務限度額(自ら課した借入限度額)の31兆4000億ドルに達し、財務省は少なくとも5カ月間は政府が義務を果たすための特別措置を実施することを余儀なくされた。これらの措置は、ドルの流動性を高め、リスク資産の買いを維持した。
それ以来、債務上限交渉は行き詰まりを見せている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、先週、今後12カ月間の政府の債務不履行に対する保険のコストを測定するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が過去最高値に上昇した。
CDS市場における現在の価格は、デフォルトの確率が2%であることを示している。ニューヨークを拠点とするMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)のポートフォリオ・マネジメント・リサーチ責任者であるアンディ・スパークス(Andy Sparks)氏はWSJに、「金融危機になり得るものにしては、不快なほど高い」と述べた。
観測筋は、財務省が6月に資金を使い果たすかもしれないと心配している。
「債務上限のドラマは短期的な変動要因であり、市場に不確実性をもたらしている」とラネバ氏は米CoinDeskに語っている。
ビットコインは依然としてリスク資産と見なされており、ある時点で株式が投げ売りされれば、売り圧力に直面する可能性がある。2011年の債務上限問題では、ワシントンの行き詰まりから、トリプルAソブリン格付けを失うことになり、リスク資産が打撃を受けた。
「今年後半に予想される取引が成立すれば、財務省は準備金を補充する必要があり、それによって流動性が低下し、量的引き締め(利上げ)の影響が悪化する…この状況はFRBの利下げを促すかもしれず、最終的にリスク資産に利益をもたらすだろう」とラネバ氏は述べている。
暗号資産データ企業メッサーリ(Messari)のアナリスト、トム・ダンリービー(Tom Dunleavy)氏によると、デフォルトの可能性がある場合、3月の銀行危機の時のように、ビットコインがヘイブン買いを集めるかもしれないという。
●「第2次南北戦争」は起こるのか 追い込まれたバイデン政権 4/25
中国やロシア、中東など世界の安全保障環境が厳しさを増している。国際投資アナリストの大原浩氏は、米民主党のジョー・バイデン政権こそ、一連の混乱を招いた元凶だと指摘する。大原氏は寄稿で、24年の米大統領選に向けて「米国有事≠ェ勃発してもおかしくない」と警鐘を鳴らしている。
バイデン大統領は2021年1月の就任以来、アフガン撤退の大失敗だけではなく、米国抜きのイラン・サウジアラビア国交正常化まで許してしまった。バイデン政権が外交で無策であることは明白だ。ウクライナ戦争においても、対ロシア経済制裁やウクライナ支援の手法が稚拙で、結果として中国とロシアを接近させた。習近平国家主席はロシアを訪問してプーチン大統領と会談し、両国の協力をアピールした。
それどころか、バイデン政権の強権的な外交手法を嫌った多くの国々が米国離れを起こした。
例えば、4月13日に中国・上海訪問中のブラジルのルラ大統領が「人民元やその他の通貨が国際決済通貨になってはならないのか。なぜ、自国の通貨で決済できないのか」と発言した。
米国が、ドルが基軸通貨であることを利用して、ロシアの中央銀行の資産を凍結し、国際的な決済システム「SWIFT」から排除したことが影響しているとみられる。この制裁はロシアに大した打撃を与えなかったどころか、世界中の国々に「米ドルで資産を持っていると何をされるかわからない」という恐怖を与え、ドル離れの加速という大ブーメランとなって返ってきた。
ウクライナ戦争でも、米国はバイデン政権自らの覇権を重視しているように見える。最悪なのが天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム爆破疑惑」である。バイデン政権は限りなく黒に近い灰色だといえよう。
疑惑をスクープしたジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏は新たに「ゼレンスキー大統領がロシアから安くディーゼル燃料を購入する一方、米国が燃料購入代として送った数億ドルの支援を側近とともに着服している」と報じた。ウクライナをめぐっては、2014年にバイデン大統領の息子、ハンター氏が、国営天然ガス会社ブリスマに高額報酬のコンサルタントとして就任したことも知られる。
米国の内政においても、シリコンバレー銀行などの破綻による「連鎖的金融危機」はまだ序章だといえる。イエレン財務長官は「預金を全額保護する」との発言で沈静化を図っているが、そのための資金の裏付けが必要であり、債務問題がのしかかる。
このように追い込まれたにもかかわらず、バイデン氏は延命を図り、24年大統領選挙への出馬を画策している。
ニューヨーク州の大陪審ではトランプ前大統領が起訴された。民主党支持者が多い同州だが、民主党系のメディアにも起訴は「暴挙」との見方が散見され、中間層だけではなく、党内の良識派にまで見放されつつある。
20年の大統領選以来、多くの人々が民主党の横暴に口をつぐんできたが、バイデン氏が大統領に居座るのであれば、「第2次南北戦争」という「米国有事」の可能性が絵空事では無くなってきたと米国在住の知人も口にしている。
もちろんそれは中国による「台湾有事」にさらされている日本国民に大きな影響を与えるだけではなく、世界情勢にとって重要な問題になる。

 

●FRB、SVB監督に関する見直しを28日公表へ 4/26
米連邦準備理事会(FRB)は25日、シリコンバレー銀行(SVB)の監督に関する見直しを28日午前11時(日本時間29日午前0時)に公表すると発表した。
連邦預金保険公社(FDIC)も5月1日までに、SVBに対する監督の詳細と預金保険制度の概要を記した報告書を発表する予定。
●バイデン氏、労組集会で選挙戦開始 「中間層が米国つくった」 米大統領選 4/26
2024年米大統領選への再選出馬を正式に表明したバイデン大統領は25日、ワシントン市内で開かれた建設労組の集会で演説した。
「ウォール街が米国をつくったのではない。中産階級が米国をつくったのだ」と述べ、中・低所得層の底上げを重視する姿勢を強調。事実上の選挙活動をスタートさせた。
バイデン氏が同日朝に動画で立候補を宣言した後、公の場で発言するのは初めて。強固な支持基盤である労働組合員を前に、国内での製造業復活の実績に触れると、会場からは「あと4年!」と歓声が上がった。 
●インフレ対策と金融危機対応の併用で待ち受けるインフレよりも憂鬱な世界 4/26
3月に米国でシルバーゲート・バンクが自己清算し、中堅の2つの銀行、シリコンバレー・バンクとシグネチャー・バンクが破綻に追い込まれた。スイスでも、大手のクレディ・スイスがUBSの傘下に入った。
この3月危機以降、さまざまなリスクへの警戒感が広がっている。毎年4月にIMF(国際通貨基金)が発表する「世界経済見通し」(WEO)と「国際金融安定性報告書」(GSFR)にはそれらが網羅されている。
長引くインフレと逆イールド
金融危機が懸念される理由は、FRB(連邦準備制度理事会)がインフレ対応の大幅な利上げを短期間で実施し、短期金利が急テンポで上昇する一方、先行きの景気悪化予測から長期金利は低いままとなる逆イールドが起きているからだ。これが幅も大きく、かつ長期化している。運用市場では逆ザヤが生じ、資金借り換えのコストが急上昇している。
   【図表・逆イールド】
今、巷で懸念されている市場を列挙すれば、商業用不動産(CRE)、それを証券化したCMBS市場、住宅ローン市場、金融監督当局のグリップの弱いノンバンク金融仲介(NBIF)、すなわち年金、保険、投信、ヘッジファンド、証券化商品などである。
また、コロナ危機対策として2020〜21年に各国で政府から家計部門への大規模な資金移転が行われたため、政府債務は膨らんでいる。そこへドル金利が上昇したため、海外からの資金調達に頼る脆弱な新興国のソブリンリスクも取り沙汰されている。
そればかりか、米国も決められている債務上限に6月にも引っかかる恐れが出てきた。デフォルトはなくても、格付け機関からの格下げリスクが話題になりそうだ。
長引くインフレのみならず、こうしたリスクへの警戒感からくる流動性の悪化(資金繰り難)に加えて、米中対立やロシア・ウクライナ戦争に伴うブロック経済化、各国企業の生産の国内回帰もコストを高めるため経済成長を阻害する。
IMFは2023年について世界の成長率を2.8%に下方修正している。3%割れはかなり厳しい数字だ。24年は3.0%とわずかに回復方向で見ているがこれは不透明だ。
問題を難しくしているのは、インフレ対策と金融危機対応がトレードオフの関係にあることだ。インフレを退治するには財政も金融も引き締めが必要だが、金融危機を抑え込むには、預金が流出して資金繰り難に見舞われている銀行への中央銀行による資金供給、公的資金による預金の保護など金融や財政の拡張が必要になってしまう。
金融危機対応は優先され過剰になる
いったん危機が表面化すると、各国政府はリーマンショックのような危機の連鎖を避けることを優先するので、インフレ対策は一時的に棚上げされたり、効果を弱められたりする。また、預金の取り付け騒ぎや資産の投げ売りといった市場のパニックを封じ込め、恐怖心を和らげるための対策は過剰になりがちだ。
現に、2022年11月の英国の年金危機ではイングランド銀行(中央銀行)はそれまでの国債の売却による資金吸収を一時的に停止し、時限的に国債を買い上げた。
今年3月の米国での金融危機ではシリコンバレー・バンク、シグネチャー・バンクとも預金を全額保護した。
クレディ・スイスも当局の指導でUBSに買収された。AT1債は全損になったものの、契約どおりであり危機の波及にまでは至らないとの判断だろう。
現在、個人の資金は0%台の金利しかつかない預金から4%台で回るガバメントMMF(TB<財務省短期証券>などで運用)に逃避している。FRBがリーマンショック時をしのぐ流動性供給を行っているため、いったん株式市場も安心しているのが現状だ。
しかし、こうした政策を打つとインフレ退治はさらに遅れてしまう。
コロナ後に激増した米国の個人金融資産
米国のインフレはそもそも需給両面で起きたものだ。
コロナで早期退職した人々が労働市場に戻らないことによる人手不足、米中対立やロシア・ウクライナ戦争による国際的な物流網の寸断による供給力の低下もあるが、コロナ禍対策としてトランプ、バイデン時代に多額の給付金がばらまかれ、それが資産価格を押し上げたことで、脱コロナのペントアップ需要が爆発した。
米国の個人金融資産はコロナ危機前の87兆ドルから2022年12月末には23兆ドル余り増えて110兆ドルに、不動産も含めると個人資産は127兆ドルから約40兆ドルも増えて167兆ドルになっている。
みずほ証券の大橋英敏シニアエグゼクティブは「足元でリスク資産の価格が軟化しているが、問題にならない。さらにフローの収入が支出を上回って、貯蓄が再び増加基調になっている」と指摘する。
金融危機が起きたといっても、預金者は資金を移しただけ。カネ余り状態は続き、資産効果の下で、物価高でもサービス消費は堅調で、インフレ率はなかなか下がらないわけだ。
そのため、FRBもあと1〜2回は0.25%ポイントの利上げを行うとみられ、その後は、すぐに利下げに転じず、政策金利は年内まで高止まりすることが予想される。
こうした中、今回はリーマンショックのような特定のセクター(当時は住宅バブル)が大規模な金融危機を引き起こすというよりは、個別ファンドの凍結や破綻、中堅中小金融機関の破綻や自主廃業が散発的に起きるのではないか。
低金利の下では、過度なリスクをとったNBIF、2021年3月に問題化したアルケゴス・キャピタルのような、コンプライアンス上の問題のある運用会社は必ず出てくる。その波及を避けんがための当局のその都度の対策が成長力を削いでいくという展開になるのではないか。
危機の防止は資金の流れを非効率化する
例えば、注目が高まっている商業用不動産市場。商業用不動産は長期の運用なので、長短の逆ザヤの影響が大きいことが予想されるし、中堅中小銀行の貸出に占める不動産の割合が高いので、資金供給が細る恐れがある。
昨年11月にブラックストーンのファンドの凍結が話題になったが、同社は今年に入って、新たなファンドを立ち上げたりもしている。これがサブプライムのように大きな問題を引き起こすという見方がある一方、それに懐疑的な意見もある。
   【図表:米銀貸出】
ピクテ・ジャパンの大槻奈那シニア・フェローは以下のように指摘する。
「商業用不動産の価格指数は昨年から下げているが、あくまでも評価額の問題。空室率の上昇は懸念材料だが、今のところパニック的な売りにはつながっていない。借り換え時のリスクは確かにあるが、一部では逆イールドは昨年から続いている。キャッシュフローの面で空室率の上昇についてはある程度バッファーがあるのではないか」「フローの収益悪化がまだ破綻の連鎖には至らず、むしろ住宅価格の下落に波及して、個人金融資産を目減りさせ、逆資産効果をもたらすほうが先ではないか」
3月危機を契機に、金融監督当局はトランプ大統領の時代に緩和された中堅銀行への監督強化に着手している。銀行自体も、健全行さえ取り付け騒ぎでつぶれたことを教訓に、金利リスクの削減のため資産の圧縮を進める。
利上げの進んだ昨年からすでに金融機関の貸出態度は引き締まっているが、監督・規制強化を先取りし、今後、貸し渋りや貸し剥しは増えていくだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズの小野亮プリンシパルは「それが玉突きのような形で、結局、ノンバンクセクターの流動性も悪化させる」と話す。さらにNBIFの規制も強化されれば、資金効率はますます低下する。
リーマンショックでは過度な信用リスクの積み上がりが問題となった。だが、今回、あまり信用リスクは積み上がっていない。オイルショック後の利上げと主にALM(資産負債管理)上の長短期間のミスマッチが重なって、中堅中小の金融機関が破綻していったS&L(貯蓄貸付組合)危機の頃に似ているという見立てが合うように思う。
政府債務は現下ではインフレで減少する効果もあり、一息つく状態にあるが、GDP対比の債務水準はコロナ危機以前の数値を上回っており、これから景気悪化や金融危機への対応も迫られれば、債務水準は高止まりする。これは政策の余地が狭まる意味でも厄介だ。
再び日本化がテーマになる
景気が悪化すれば、FRBも利下げに転じるだろう。市場の期待ほど早くはないと考えるが、早くて今年の年末、遅くとも来年には利下げが視野に入る。ただし、それを株式市場は好感しても、世界経済は強さを取り戻せないだろう。
1990年代からリーマンショックまでは冷戦終結後の新自由主義とグローバリゼーション、IT化がけん引して、世界経済の効率化が進んだ。新興国の成長とそこへの投資の果実を先進国は享受した。今は逆の方向にあり、経済のブロック化と自国回帰、効率よりもあらゆる面で安全や安心を重視する規制が広がる中、コストは高止まりする。
そうすると、中期で見て潜在成長率が下がっていき、対前年で見たインフレ率も次第に低下していくだろう。もともと先進国の経済は人口動態から低成長になってきたし、コロナ禍前には「低成長、低インフレ、低金利」にはまる、いわゆる「日本化」が問題視されていた。
さらに、中国も人口動態の変化や不良債権の処理に直面し、低成長への移行期にある。非効率によるコスト高を甘受する来年以降の世界経済は、中長期で経済の停滞が長引くという憂鬱な状態になるのではないか。
●ゴールドマンのルーブナー氏が米国株に警鐘−クオンツは「弾切れ」 4/26
米銀行不安が再燃する中、動揺した株式市場は、重要な買い手の源を失ったまま進まざるを得ないかもしれない。
こう警鐘を鳴らすのはゴールドマン・サックス・グループのスコット・ルーブナー氏だ。同氏のデータによると、システマティック・マネーマネジャーは過去1カ月間に世界の株式1700億ドル(約23兆円)強相当を購入し、ファンドのエクスポージャーを2022年初頭以来の最高水準に押し上げた。
20年にわたり資金フローを調査してきたルーブナー氏によれば、ポジションが今ピークに近づいているだけに、彼らは今後数週間は売り手に回る傾向を強めるという。
ルーブナー氏のモデルでは、資産価格の勢いをみながら先物市場でのロング・ショートベットを通じて運用する商品投資顧問業者(CTA)にとってのトリガーシグナルは、S&P500種株価指数で4130などのレベルにあることが表示されているが、同指数は25日に65ポイント下落し4071.63で終了した。
ルーブナー氏は25日午後の顧客向けリポートで「私は戦術的に弱気だ」と述べ、「買い手は弾切れだ」と指摘した。
ゴールドマンのモデルによれば、トレンド追随者からボラティリティーのシグナルに基づき資産配分するトレーダーまでクオンツファンドは、今後1カ月間に相場が急落した場合、最大2760億ドル相当の株式ポジションの解消を余儀なくされる。一方で、エクスポージャーが高いため、同じ期間に株価が大幅上昇した場合は、最大250億ドルの購入だけで済むという。
これは株式強気派には悪いニュースになる可能性がある。米銀ファースト・リパブリック・バンクの暗いニュースで、銀行危機が収束していないという懸念が再燃し、S&P500種は25日に1カ月強ぶりの大幅安を記録した。こうした状況が続けば、リセッション(景気後退)懸念や米連邦政府の債務上限問題で警戒感が広がる市場に、クオンツのポジション解消がさらなるプレッシャーを与える恐れがある。
●金融不安は収束したのか?〜利上げ継続の先に待ち受けるリスクとは〜 4/26
アメリカの大手銀行4行が2年ぶりに融資を抑制していることが4月18日、明らかになった。市場では楽観論も聞かれるが、金融不安は収まるのだろうか。
「信用収縮」のリスク高まる?米大手銀行の融資抑制などで「カネ回り」悪化
3月10日にアメリカのシリコンバレーバンクが、その2日後にはシグネチャーバンクが経営破綻し、アメリカの銀行発で広がった金融不安。19日に起きたスイス金融大手UBSによるクレディ・スイスの買収劇で一気に緊張が広がった。しかし、その後、アメリカ政府による預金全額保護の異例の措置やスイス当局によるクレディ・スイスの事実上の救済合併などを経て市場は落ち着きを取り戻し、金融不安の懸念は和らいだかのように見える。
18日、バンク・オブ・アメリカなどアメリカの大手銀行4行の3月末の融資残高が2年ぶりに前期を下回り、銀行が融資を抑制していることが明らかになった。すでに貸しはがしが始まったとも伝えられ、「カネ回り」は確実に悪くなっている。こうした中、2年ぶりとなるアメリカ大手銀行の融資の抑制についてゴールドマン・サックスのソロモンCEOの発言に注目が集まった。
「最近の銀行部門での出来事で成長期待が低下し、信用収縮のリスクが高まっている」。信用収縮とは金融危機や不良債権処理などを背景に金融機関が融資を抑制することで資金が不足し、市場の流動性が失われることをいう。2008年のリーマンショックでは連鎖倒産への懸念や金融機関の救済をめぐる政府対応の遅れが市場の不信感をあおり、世界的な信用収縮に陥った。
――アメリカの2つの地方銀行とヨーロッパの名門銀行と言われたクレディ・スイスが破綻して驚いたが、金融当局は固有の銀行の事情だから心配しなくていいと言う。一体何が問題だったのか。
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部副会長 中空麻奈氏「アメリカの金融機関のデフォルトが始まった時に私も含めてですが、これは金融システム不安にはならないと。なぜなら、シリコンバレーバンクなどは、M&AやIPO、ベンチャーなどにお金を貸しているという新しいビジネスだったし、今回ダメだったのはALMと言って自分の資産と負債の調節ができなかったという初歩的なミスでデフォルトしているので、このようなことは多くの銀行には移らないことだと言っていたのです。ところが、数日経つとクレディ・スイスに問題が来た。結局SNSが問題だったわけです。自分が預金を持っている銀行がSNSで「この銀行は問題だぞ」と言われると、デジタライゼーションでデジタル化されているので携帯で預金を出せるわけです。昔のように並ばないで済むわけですから、知らないうちに1兆円という金額が毎日出たわけです。」
――サイバー取り付けという言葉もある。今はデジタルの世界で瞬時に取り付けが起きているということか。
中空麻奈氏「起きてしまった。これからどうすればいいのかという新しいポイントを提供したということだと思います。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、銀行が出している債券等が焦げ付いた時の保証料を示すもので、高いほどリスクが大きいということになる。」
クレディ・スイスのAT1債無価値化で世界に衝撃 欧州銀行のCDSは落ち着く
――クレディ・スイスは2022年からずっと上がってきて、一気に跳ねたということか。
中空麻奈氏「かなり過去のグリーンシルやアルケゴスというファンドへの投資で出した損失が大きかった。それがずっと尾を引いていたのです。損失処理はやり方がだいたい決まっていて、まず過去の損失を処理して、問題になっていた部門を縮小したりして手当てをします。そこに対して不足してきた資本はサウジアラビアの株主が入れてくれたのです。必要な措置は十分取ったのに(クレディ・スイスのCDSは)ずっと一人旅でした。要はみんながどの銀行が危ういかと思ったらクレディ・スイスだということだったのだと思います。そういう疑いの目線があった中で、それを抑えることができなかったのはクレディ・スイスの問題ですが、一方、シグネチャーバンクだ、シリコンバレーバンクだということでSNSで急に広がってしまったのは、残念ながら不幸な話だとしか言いようがないと思っています。」
――クレディ・スイスの実質破綻の後は、ヨーロッパの銀行のCDSは落ち着いてきているのか。
中空麻奈氏「パッと見に判断するのであればだいぶ落ち着いてきたと見るべきだと思います。クレディ・スイスも割と下の方に来たなというのが見られると思います。ただし、割とばらけているのです。マーケットは次は誰なのかということを多少見ているので、他の安定的なものに比べると今スプレッドが現状で要求されている銀行は多少リスクだと見られていると見てもいいと思っています。」
銀行の資本は中核的資本の「Tier1」が最も重要で、発行している株式とアディショナルTier1(AT1債)という2つがあり、普通はまず株式が無価値になってから上位のものが無価値になっていくという弁済の仕方をする。
しかし、今回スイスの規定によって、クレディ・スイスのAT1債がいきなり無価値になってしまったことで世界の市場に衝撃が走っている。金融庁によると、日本国内の証券会社10社余りが1400億円程度販売し、口座は約2000口座ということだ。
AT1債は発行残高が2540億ドル(約33兆円)で、発行している金融機関の8割が欧州の銀行だ。日本は3大メガバンクで約3.6兆円を発行している。そうした中、三井住友フィナンシャルグループは19日、1400億円規模のAT1債を新規に発行すると発表した。
――国際的にも自己資本を充実させるためにAT1債などを発行した方がいいという流れでやってきたが、それが突然無価値になった。
中空麻奈氏「なぜ返済順位を構成するかというと、銀行がデフォルトしたら困るので、救済順位が高い預金者を守るために低いところで吸収してほしいわけです。株を買う人はリスクは取るけれどもリターンもほしいという人で、上に行けば行くほどリターンは少なくていいのでリスクは少ない方がいいという人が構成されていく。AT1債は微妙で、普通株よりはリターンは少なくていいけれども、普通社債などを買う人よりはリスクを取りますよと。その代わり真ん中のリターンはほしいという人が入ってくる。このように投資家層にグラデーションをつけることによって、預金者や普通社債の持ち主は守られるということを目的として出したのです。今回、普通株式についてはクレディ・スイスの22株がUBSの1株になるのですが、普通株式の人たちがまだ価値が残ったのに、なぜ上にいるはずのAT1債がゼロなってしまうのかという話になるわけです。AT1債保有者はこの先どうしたらいいかとなってしまうし、銀行がAT1債を新しく出すときにそれを買っていいかという問題が来るわけです。このかたちが保てなくなる可能性が出てくる。」
――銀行の資本に対する疑問が出てきかねない。
中空麻奈氏「出てくると思っています。例えばAT1債を持っていていいのかどうか。自分のAT1債の正しいリスクリターンはどれぐらいか、ティア2や普通社債の価格もわからなくなってくる。金融当局による差はないのか、そういうものも全部考えなければいけなくなってくるし、大変不透明なことだと思います。」
信用リスクのポイントは「金利高」「景気減速」「貸出厳格化」 住宅ローンや商業不動産は要注視
今一見、株式市場も落ち着いたかのように見え、金融不安は収まったのではないかと思う人もいるかもしれない。しかし、そのようなことはないのではないか。信用リスクの今後のポイントをまとめた。
――今どんどん金利が上がっている。これが人々の不安の根底にあるということか。
中空麻奈氏「そもそもですが、2022年1年間で0.75%を4回という驚きの金利の上げ方だったわけです。0近傍だった金利がもう今や5%近いわけです。これだけ金利が上がったら負債を保有している人から見れば大変なことです。にもかかわらずこの数か月は金利上昇してもあまり影響がないという話でした。でも、まずは銀行で出てきてしまったわけです。負債を持っている人はみんな共通の悩みを持っているはずです。ここからまだ出るのではないかと考えるのが普通だと思います。」
――もう一つが、金利が高くなって意識的に景気を今落としているわけで、減速あるいは場合によってはマイナス成長、後退ということが起きてくると信用不安が高まる。
中空麻奈氏「銀行決算で見るとアメリカの下期はもうマイルドリセッションだと言っています。そうすると後半は景気が悪くなるはずです。景気が悪くなると不良債権という問題が増えていくはずです。なぜなら、貸し倒れていくからです。金利が上がって誰が大変かということがはっきりわからないうちに景気減速によって不良債権が増えていくということもあるので、ダブルで問題は大きくなるのではないでしょうか。」
――そして、もう一つが今回の金融不安で融資の姿勢が厳格化してくるのではないかと。これは実は一番大きく効いてくるかもしれない。
中空麻奈氏「もうすでに起きてきています。例えば預金を外してMMFに移したり、預金の間でも中小銀行から大銀行に移し替えるということがもう起きているし、貸し出しの方も大銀行も中小銀行もみんな貸し出しの態度を厳しくしていて、お金が出なくなっています。これから本当に出るのか出ないのか、誰だったら出せるのか、その線引きが出てくると思います。結構厳しいことが起きてくると見るべきだと思っています。」
――金融不安が峠を越えたと思うのは早計で、むしろこれから環境としては厳しくなってくると見た方がいいのか。
中空麻奈氏「例えば当局に「もう大丈夫、預金は保護します。安心してください」と言われると、それを疑う理由はあまりありません。だから、瞬間的に安定するのは間違いないことですが、申し上げたようにさまざまなリスクが残っているので、この火種をどこが受け止めるのか。それは十分見極めないとこれで終わりだと考えるのはいけないかなと思います。」
――アメリカの金利引き上げ局面は、世界的に危機が起きることが多い。新興国やシャドウバンクなどいろいろ推測していたが、いきなり銀行にきてしまったというところが不気味だ。
中空麻奈氏「シャドウバンク、ヘッジファンドなのではないかと言われていたのですが、銀行に来た。銀行のリスクはどこに行っているのか。これから貸し出しが終わっていくと企業の資金繰りが止まったりすることがあると思います。数日前にベッド・バスというところが破綻申請をするという話が出ましたけれども、この会社もずっとまずいと言われていたのですが、ついにお金が止まってしまうわけです。このようなことはこれからまだ出るし、住宅ローンや商業不動産などがどうなるのか見ておく必要があると思います。」 

 

●FRBは市場が知らぬ何かを把握しているのか 4/27
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長にとっては、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)直前という、なんとも間が悪いタイミングで、米地銀ファースト・リパブリック・バンクの危機が表面化した。事前想定通りに利上げを決定すれば、市場の安定よりインフレ重視かとの正解の無い難問を投げかけられよう。
かといって市場の危機感を鎮めるために、今回利上げを見送れば、FRBは我々が知らない何かを把握しているのではないかと、市場が疑心暗鬼を募らせる可能性がある。
さらに、ウォール街が危惧するのは、金融不安が地銀に限定されるか、という問題だ。たたけばほこりが出るリスクを欧州市場で予告編のごとく見せつけられてきたからだ。
まず昨年、財政不安に端を発する英国債の投げ売りが生じたとき、英国年金基金がデリバティブ(金融派生商品)にレバレッジをかけて投資していたことが発覚。
さらに、クレディ・スイス・グループが英金融会社グリーンシル・キャピタル経由で「サプライチェーンファイナンス」という新商法に出資して巨額の損失を計上したことが、結局、同銀行の命取りの一つとなった件。
一般的に、未公開企業への直接投資を手掛け「プライベートキャピタル」と呼ばれる金融会社は、銀行ライセンスを持たず、金融規制も相対的に緩い。シャドーバンク(影の銀行)ともいわれる。
プライベートキャピタルに資金を投じる顧客投資家は数年単位で出資するので「取り付け騒動」は起きない。ただし最終的な投資先はサプライチェーン・ファイナンスのごとき、高リスクな分野に及びがちだ。ゼロ金利時代には、画期的な新ビジネスともてはやされたが、金利上昇とともに化けの皮がはがれる事例がいまだ市場のどこかに埋もれているやもしれぬ。疑心暗鬼になりやすい地合いといえる。
今回の米国銀行不安は、破綻という第1波から、その後遺症ともいえるクレジット・クランチ(信用収縮)という第2波に移行しつつある。市場の流動性が縮小すると、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の名言のとおり「誰が裸で泳いでいたかあらわになる」ことになる。
現時点では、FRBも含め金融監督部門が、その「誰か」を正確には特定出来ていない。リスクが見えない状況は市場が最も嫌うところだ。
このような市場環境で、FOMCでは利上げが議論される。恒例の記者会見では、金融不安と利上げの関連について、質問が集中しそうだ。
最近は「即興の達人」とやゆされるパウエル氏の受け答えが、思わぬ市場の反応を誘発するリスクには要注意だ。 
●救済のクレディ・スイス、紙切れになった債券に泣いた投資家多数… 4/27
箱根駅伝で2015年以降の4連覇などの実績で知られる青山学院大学駅伝部の原晋監督が、インターネット番組などでスイスの金融大手クレディ・スイスのAT1債への怒りをあらわにしました。リスク商品に損失は付き物ですが、クレディ・スイスの株式は一定の価値が維持されたのに対し、AT1債が債券であるにもかかわらず無価値となった事実は大きな衝撃でした。ハイリスク金融商品を見極める方法を考えました。
報道によると、原監督は少しずつ貯めたお金を投資していましたが、損失額はサラリーマンの年収の数年分といいます。出演したテレビ番組で「(自分の資産が)紙切れになりました」「日本の投資会社は説明責任を果たしているのか」と疑問を投げかけました。証券会社の営業マンに勧められるがまま、ローリスク商品だと思い購入したが、その際、リスクに関する説明はなかったといいます。
クレディ・スイスのAT1債の悲劇
アメリカのシリコンバレーバンクの経営破綻に端を発した市場の混乱を受け、2023年3月19日にクレディ・スイスが長年のライバルであるUBSに救済される形で買収されました。この出来事は金融業界のみならず全世界でトップニュースとして報じられ、「2008年の金融危機のようなことが起こるのではないか?」と取り沙汰されたことは記憶に新しいと思います。この救済策の一環として、スイスの規制当局は「AT1債」と呼ばれる債券を無価値化することを決めました。
債券とは借用証書のようなもので、企業が投資家から資金を借り入れる際に発行する有価証券です。発行した企業が経営破綻しない限りは元本と利息が取り決めた条件通りに投資家に対して支払われます。そして、一般的には経営破綻した際にも、残っている資産から優先的に弁済を受ける権利があるとされています。
そのなかでもAT1債は、銀行の資本を補強するために発行される特別な債券で、発行した銀行の経営状況が悪くなった場合、利払いが停止されたり、株式に転換される可能性があるとされています。すなわち、経営破綻した際には一般的な債券ほどの優先権はない、債券の中ではリスクが高い金融商品なのです。
一方でAT1債であったとしても、そもそも弁済を受ける優先順位が低い株式よりは優位とされていて、比較的利回りが高く、かつリスクも抑えられた商品として多くの投資家が好んで購入していました。
ところが、スイスの金融当局はAT1債を無価値化する一方で、株式については一定の価格でUBSが買い取ることとしたのです。投資家の間で常識とされていた優先順位が逆転する決定がなされたことで、市場に衝撃を与えました。
2022年6月に発行されたクレディ・スイスのAT1債は年率9.75%の利回りを確約するなど、非常に高い利回りが魅力でした。これを受けて日本を含むアジアの富裕層が多く保有していたとされていて、日本でも一部の富裕層が巨額の損失を出したことが報じられました。
ただ、販売時に「全額を失うリスク」についての説明がなかったケースもあるようで、スイスの金融当局に対して法的措置を検討する動きも出てきています。
なぜ投資家はリスクの高い商品を好むのか
日本では事実上のゼロ金利が長年続いている一方、NISAやiDeCoなどの投資家を優遇する政策が相次いで導入されたことで、より高い利回りを求める投資家が増えています。その結果、投資家の間では比較的リスクの高い金融商品の購入がトレンドになっているようです。
しかし、リスクを十分に理解せずに投資を行うことで、大きな損失を被る可能性もあります。投資家がリスクの高い商品に興味を持つ理由はその高い利回りにあります。クレディ・スイスのAT1債も10%に迫る水準のリターンが確約されていました。スイスの大手金融機関という安心感と相まって、投資家は「経営破綻するリスクはないに等しい」と考えて購入していたのでしょう。
ただ、リスクとリターンは表裏一体であり、リターンが高いということは必ずその分リスクも高いのだということを理解しなければなりません。有名な企業の名前がついている債券であったり、リスクに対してリターンが高いかのような説明がされたりと、本来のリスクを見えにくくする要素が多い商品がたくさん出回っており、投資家が知らないうちにハイリスク商品に手を出す原因となることもあります。
金融商品の仕組みをすべて理解することは一般の人にとってハードルが高いですが、リスクを少しでも下げるためには、信用格付けなどをチェックし、バランスの取れた資産配分を行うことが重要です。
年率3%を利回りの目安に
金融商品のリスクを見極める基準の一つが利回りの高さであることはここまででご理解いただけたと思います。では、何%くらいを目安に投資商品を選べばよいのでしょうか。
様々な考え方がありますが、私は「年率3%」を一つの目安とすべきだと考えています。その根拠は近年の世界経済の平均成長率です。これは、様々な国や企業に分散して投資をした場合に期待できる収益がこの水準であるということを示しています。
この水準を大きく超える利回りを謳う金融商品をすすめられた場合は、中身はなんなのか、誰がどのように運用しているのかを確かめ、説明が理解できない場合は投資を見送る勇気を持つことが重要です。
ハイリスクな金融商品を見極めるためには、商品の特性やリスクを理解し、自分の投資目的に合っているかを確かめることが重要です。投資資産全体で年利3%程度を目指す事で、バランスの取れた成長が期待できます。
また、ハイリスクな金融商品への投資を選択する場合は、投資の基本原則を念頭に置くことも大切です。投資の基本原則とは、
   1) 資産配分を適切に行うこと
   2) 分散投資を心掛けること
   3) 長期的な視点を持つこと
   4) 定期的にポートフォリオを見直すこと
などが挙げられます。印象や先入観に左右されず、金融商品自体のリスクや中身をしっかりと見極める事でより安全な投資を行っていただければと思います。
●いまなぜ「金」が値上がりしているのか? 金投資のポイントと注意点 4/27
金(ゴールド)の価格が歴史的高値圏で推移している。なぜ、いま金が注目されているのか。また、金投資のメリットとは。『世界一楽しい!会社四季報の読み方』などの著書がある個人投資家で株式投資講師・藤川里絵さんが解説するシリーズ「さあ、投資を始めよう!」。第40回は、「金の投資」について。
金の価格がぐんぐん上昇しています。じつは円建ての金価格は、1970年代に、ドルが変動相場になってからの価格推移をみると史上最高値となっています。いったいどうして金が買われているのか、今からでも金を買ったほうがいいのか、買うための方法などを解説します。
今、金が買われている理由
最近、「金、買い取ります!」といったチラシをよく見かけませんか? 家にある金のアクセサリーを買い取ってもらっている様子などが、テレビなどでもよく特集されています。金価格がかつてないほど上昇しているため、なんだか世間がざわついているのです。
金価格が上昇している理由はいくつかあります。
【1】金融不安、地政学不安に対する備え
シリコンバレーバンクの破綻を発端として、世界中で金融機関に対する信用不安が起こっています。こういった不安に対して、「有事の金」とも言われる安全資産として、金の需要が伸びています。実際、中国やシンガポール、インドなど、今年に入って各国の中央銀行が、金を大量に購入しており、それらも金価格上昇にひと役買っています。
【2】インフレに対するリスクヘッジ
日本でもじわりじわりと物価が上がっています。金は、お金の価値が下がるインフレ時にも比較的影響を受けづらく、インフレに強いと言われています。
【3】金利上昇の一服
2022年は、アメリカをはじめ日本以外の国で急激な金利の引き上げが行われました。金は金利がつかない商品なので、金利上昇局面では不利になります。ところが、金利引き上げに一服感が出たことで、金が買われやすい状況になりました。
金投資の魅力は?
史上最高値となっている金を今から買うのはどうなの?と思うかもしれませんが、「2030年には金価格は現在の倍になる」というレポートを出している資産運用会社もあり、まだまだこの先、上昇の余地はありそうです。
そもそも金はいくらでも刷れる紙幣とちがい、供給量に限界があります。その点においても価格が暴落するリスクは小さいと考えられます。
また、金は株式が下落するときに、比較的安定した値動きをするので、株式と合わせて持つことでポートフォリオ全体のリスクを分散することができます。そういった意味でも、資産の一部に金を組み入れることは、悪くない選択でしょう。
金投資の方法
金に投資する方法はいくつかあります。投資初心者でも取り入れやすいのは以下の4つ。
   ・金貨・金地金の購入
   ・純金積立
   ・投資信託
   ・金ETF(上場投資信託)
当然、安いときにまとめて買うのが理想ですが、そのタイミングを計るのは難しいものです。時間分散しながら、少しずつ買いためていく積立投資をおすすめします。SBI証券、楽天証券、マネックス証券など王道のネット証券では、純金の積立、投資信託での積立、どちらも可能です。最近、楽天証券では、純金積立をクレジットカードで積み立てられるサービスをスタートしました。ポイントを貯めながら投資できるのがうれしいところです。
金投資の注意点
前述した通り、金には金利がつきません。そのため金利上昇局面では不利になります。複利による資産運用ができないので、長期保有で爆発的に増えることはありません。
また、純金積立の場合は、その都度、買付手数料がかかります。証券会社によって手数料は異なるので、その点は確認が必要です。投資信託の積立の場合は、信託報酬もチェックしましょう。通常のインデックス投信よりはお高めになります。
まとめ
・金投資はインフレや地政学リスクのヘッジの意味合いも
・投資するなら時間分散で積立投資
●米GDP1.1%増、1〜3月期 FRBの引き締めで大幅鈍化 4/27
米商務省が27日発表した1〜3月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、年率換算で前期比プラス1・1%だった。米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めの影響で前期(プラス2・6%)から大幅に鈍化した。市場予想(プラス2・0%)も下回った。
米GDPの3分の2を占める個人消費はプラス3・7%で前期(プラス1・0%)から大きく改善した。外食、娯楽などのサービス価格や家賃が高止まりしているものの、昨夏に高騰したガソリン価格が従来通りの水準に下落し、消費意欲が改善した。
一方、企業の設備投資はプラス0・7%で、前期(プラス4・0%)から大幅に鈍化した。米シリコンバレー銀行の破綻に伴う金融不安などで投資意欲が冷え込んだとみられる。
住宅投資もマイナス4・2%で、前期(マイナス25・1%)に続き低調だった。FRBの利上げに伴う住宅ローン金利の高止まりが響いた。
ロシアのウクライナ侵攻で米経済は2022年1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続でマイナス成長となった。その後はプラス成長に転じたが、FRBが利上げを続けているため、成長が減速している。

 

●ファンド危機に備え始めた米金融当局 ノンバンク規制緩和を修正へ 4/28
ノンバンクが将来の金融危機の火種に
3月の米銀破綻を受けて、米国での金融規制のあり方を見直す動きが出ている。それは、銀行に対する規制の強化に加えて、将来の金融危機の火種となり得る銀行以外の金融機関、MMF、ミューチュアル・ファンド、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ、保険会社、年金基金などを含むいわゆるノンバンクへの規制強化である(コラム「米国を襲うファンド危機:金融危機はいつも違った顔で現れる」、2023年4月5日、「投資ファンドなどノンバンク(非銀行金融仲介機関)の金融リスクに注目」、2023年4月13日)。
トランプ政権下でノンバンクの規制は緩和された
トランプ前政権時代の規制緩和措置によって、金融当局がノンバンクを監視する権限は弱められた。リーマンショック(グローバル金融危機)を受けて2010年に導入された金融規制改革法、いわゆるドッド・フランク法や、「システム上重要な金融機関(SIFI)」に指定することで米連邦準備制度理事会(FRB)が厳しく監視できる対象には、ノンバンクも含まれていた。
しかし、2019年のガイダンスの見直しによって、ノンバンクはこのSIFIの対象から外れた。個別のノンバンクを対象に加える場合には最大で6年かかることになり、FRBが機動的に問題のあるノンバンクを監視することが難しくなったのである。
そこで、イエレン財務長官が議長を務める、米金融規制当局からなる金融安定監視評議会(FSOC)は4月21日に、このガイダンスの修正案を示した。特定のノンバンクが経営悪化などで市場が不安定化するリスクがある場合には、米金融当局が経営情報を求め、必要であれば監督の対象としてその金融機関に関与できるようにする。今後60日間、この提案に対する意見を公募する。
特定のノンバンクを監視対象とするための2つのステージ
特定のノンバンクを当局が監視できるようになるには、2つのステージを経ることになる。第1ステージでは、対象となる金融機関について、FSOCが公開情報や規制当局から得られた量的、質的情報に基づいて、予備的な分析を行う。この際、対象となる金融機関にその事実を伝え、金融当局に関連する情報を提供し、また協議することを認める。
第2ステージでは、第1ステージで追加の審査が必要と判断された金融機関に対して、FRBの監視下に置くこと、経営の改善策を求めることが検討されている事実が伝えられる。また、その金融機関から直接提出された情報に基づいて、追加的な分析がなされる。
第2ステージの最後では、FSOCは金融機関に対して監視対象に指定する提案を行うかどうかを検討する。監視対象に指定する提案が決定されれば、対象となる金融機関は聴聞(ヒアリング)を要求できる。その後に、FSOCはその金融機関を監視対象とするための採決を行う。
中小銀行とノンバンクの複合的な金融危機の可能性
リーマンショック後に金融規制強化が進められてきた中で、ハイイールド債、証券化商品の一部など高リスク資産の保有を減らしてきた銀行に代わって、こうしたノンバンク、つまり非銀行金融仲介機関(NBFI:Nonbank Financial Intermediaries)がリスク性資産を多く保有するようになった。超低金利環境の下で、投資リターンをできるだけ高めるために、投資ファンドなどノンバンクは、期待リターンの高い高リスク資産に積極的に投資を行ったのである。
しかしこの先、利上げと信用収縮の影響で経済情勢が悪化していけば、不動産市場の悪化や企業の経営悪化などを映して、ハイイールド債、証券化商品の価格下落が顕著になるだろう。それは投資ファンドを中心に、ノンバンクの投資リターンを低下させる。そのことが投資家の解約を促し、換金のためのノンバンクの金融資産の投げ売りが、金融市場を大きく混乱させる可能性が考えられる。
その結果、米国では再び金融不安が生じる可能性があるだろう。それは、中小銀行の破綻懸念とノンバンク危機が複合された新しいタイプの金融危機となるのではないか。
●世界三大投資家ジム・ロジャーズ「歴史が証明! ロシア株の急騰に備えよ」 4/28
ウクライナ侵攻と新型コロナ
ロシア、ウクライナ、中国、日本が狙い目
戦争に勝者はおらず、ロシアもウクライナも苦しんでいます。私はウクライナやロシアに投資がしたいのですが、アメリカ人なので、現在はどちらにも投資をすることができません。ですが、長年の経験から、戦争中の地域に投資をすれば、大儲けできると学びました。忍耐力をもって戦争が終わりかけの国に投資すれば、非常にうまくいくはずです。
今のロシアには多くの経済制裁が科されています。制裁は一時的な効果をもたらしますが、このような歪んだ状況では長期的な効果はありません。もしあなたに持続力と忍耐力があるのなら、この2カ国に投資するのは非常に賢いやり方でしょう。
そう遠くないうちに、何らかの合意が行われるのではないかと思います。2023年4月中旬時点では、日本国内からもロシアへの投資には規制がありますが、規制が解除されれば、どちらか、あるいは両方が投資先として適しているかもしれません。
そして、新型コロナウイルス感染症に関しては、最も被害を受けたのは中国でしょう。日本も大きな打撃を受けましたが、日本よりも厳しく規制されていたのは中国です。しかし、最近は中国も日本も、世界中のあらゆる場所が国境を開きつつあります。この傾向が続くことを望んでいます。
もし私が投資先を探しているのなら、投資家が今注目すべきなのは、日本か中国のどちらかでしょう。株式市場は最高値から大きく下落しているからです。
株以外にも、インフレのときに、農作物のコメや銀などに投資をすれば、大儲けできるかもしれません。しかし、モノを生産する企業は、インフレ時に資源や農作物、貴金属を生産しているサプライヤーを見つけなければなりません。価格が上がるモノを生産している企業は、利益を得ることができるわけです。
とはいえ、インフレは一方的に上がり続けるものではありません。経済には浮き沈みのサイクルがあり、いったん下がってから再び上昇するのが一般的です。インフレだからといって、綿花の値段が毎日上がると思わないでください。市場の仕組みはそうなっていません。
ウクライナ産の穀物輸出の再開をめぐって、ロシアとウクライナの協議が行われていますが、合意が延長されたため、23年の生産量は予想よりも大幅に減少するようです。通常、コモディティ(商品)の資産価格が下がっているときに買うことができれば、儲かる確率が高いものです。私は今のところ買っていませんが、農作物、特に穀物はとても良い投資先になると思いますね。
銀行連続破綻とアメリカ株
GAFAMは再び高騰する
通常、強気相場でもっともパフォーマンスの高い株は、次の弱気相場では非常に苦しむことになります。アップルやマイクロソフトをはじめGAFAMなどのビッグ・テックの株を買うには素晴らしい機会となるでしょう。
なぜなら、ビッグ・テックの株価は一番下がるからです。今はまだ最終的な弱気相場には入っていないと思いますが、次の強気相場で、これらの株は「ベストバイ」とも言える買い時となるでしょう。
米国のアップルや中国のアリババ、テンセントなどのテック銘柄は、崩れたときに一斉に売られ、調子が良さそうなときに一斉に買われるものなのです。
テクノロジー・バブルは今後も続くでしょう。今、世界のテクノロジー業界では非常に面白くてリアルな変化が起こっています。アメリカやアジアだけでなく、世界中の技術が変化しています。スマートフォンやコンピュータの分野でも、さらなる発明がなされるでしょう。
しかし問題は、こうした変化がやがて投資市場で過度に利用されるようになることです。市場の誰もが「今回は特別だ」と言うようになるでしょう。その意味するところは、「今回は非常に高価になる」ということです。その言葉を聞いたならば、バブルを心配し始めなければなりません。どのようなバブル市場でも、人々はいつも身の丈以上のものを手に入れ、高値で取引していますし、今回も同じようになるでしょう。
私はテクノロジーそのもののことはよくわかりませんが、15歳の娘はテクノロジーで何が起きているのかについて、多くのことを知っています。こういうことは若い人のほうが敏感です。家族にティーンエイジャーがいるならば、ぜひ聞いてみてください。
シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻
さて、23年の3月に、米国のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻しました。
SVBは、米国のテクノロジー企業へ融資することで知られていました。今回の破綻は、米国の銀行では、2008年のリーマンショックで破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ規模の破綻となりました。
しかし、代わりとなるような競合の銀行はたくさんあります。米国には十分な資金を持つ銀行が多くあるのです。
通常、このような事態が発生して誰かが被害を受けると、私たちがしばらく呻(うめ)き声を上げているうちに、事態が好転するのですが、たいていはそれだけでは終わりません。また誰かが次のトラブルに見舞われることになるでしょう。
次にどの業界が被害を受けるかはわかりません。歴史上、世界最大の債務保有国である米国は、これからさらに多くの問題を抱えることになるでしょう。テクノロジー業界だけでなく、銀行やあらゆるところに問題が見られます。今回の問題がまだ終わったとは思わないでください。
24年までには、必ず株式市場の大調整期が来ると思います。今すぐに株を売ろうとは思いませんが、23年の後半から24年の初めにかけては、空売りするタイミングになると予想しています。
そして、米SVBの破綻により、以前から慢性的な赤字が続いていたスイスのクレディ・スイス銀行にも信用不安が拡大しました。スイスの金融最大手UBSが同2位のクレディ・スイスを、30億スイスフラン(約4260億円)相当で買収することになりました。
株主はともかく、銀行を救済するというのは、世界の常識ではありえないことです。債券保有者であれば、劣後債のような信用度が低い債券を保有していても、株主より権利が優先され、弁済順位が高くなるはずでした。
しかし、スイス政府は、株主などを優先して救済しています。クレディ・スイスの劣後債の一種である「AT1債」の保有者は返金されないのに対して、弁済順位がより低くなるはずの株主は、UBS株が割り当てられることになったのです。
この状況は良いことではありません。非常に悪い先例になると思います。債券保有者が安心できない状況に陥れば、問題が悪化したときに、世界の金融市場でさらに似たような事態が繰り返されることになるでしょう。
私はこれらの企業の証券をどれも持っていなくてよかったと思います。もし、愚かにも債券は安全だと信じていたならば、今ごろ大損をしていたでしょうね。実際に大損したファンドや富裕層はたくさんいると聞きます。
もちろん、このような事態は良いことではありませんし、スイス政府が通常機能する方法ではないことは確かです。「ショック」というより、「暴虐」と言ってもいいくらいです。
米利上げとインフレ
2024年からインフレが再開する
ウクライナ危機や新型コロナウイルスの感染拡大による中国の都市封鎖の影響で、世界中でインフレーションが加速しました。止まらない物価高を食い止めるため、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、過去12カ月間で最大の利上げに踏み切りました。
しかし、FRBによる繰り返しの利上げが、SVBの破綻に影響を与えたと言われています。
今後、FRBが利上げを緩めるのか、それとも23年中に利下げを開始するかが注目されているのです。
中央銀行は、愚かにも楽な政策を取りたがります。つまり利下げをしたがるということです。「今の状況は大丈夫だ」と言って、できるだけ早く、利上げにブレーキを踏もうとしているのです。
残念ながら、中央銀行家のほとんどは、市場の仕組みについて実際のところ無知であるのです。米財務長官のジャネット・イエレン氏が言うように、本当にインフレ問題が過去のものだとするならば、私の考えでは、しばらくの間はインフレ率が低い状態が続くはずです。
しかし最終的に、24年には、再びインフレに見舞われるでしょう。金利も再上昇し、そのときに起こる弱気市場は、すべての人にとって非常に悪い影響をもたらすでしょう。アメリカだけでなく、日本でさえも打撃を受けることになります。
約40年前、当時のFRB議長のポール・ボルカーという人物はインフレを抑制したと言われています。ボルカー氏は、当時のジミー・カーター大統領に対して「インフレ問題は非常に深刻で、大胆な施策が必要だ」と訴えました。カーター大統領は、ボルカー氏を守る代わりに、この問題を終わらせるよう返事をしたそうです。
ボルカー氏は、FRB議長就任後、すぐに金融引き締め策を始めました。当時のアメリカの短期国債の金利は、約20%まで上昇したのです。カーター大統領は再任されませんでしたが、インフレ問題は解決されました。
当時の金利に比べると、今の金利は非常に低いですが、インフレは当時と比べると非常に深刻で、悪い状況にあります。懸念すべきであることは間違いないでしょう。米国のインフレ率は、23年後半は鈍化する可能性があります。少なくとも、報告されている数字は、すでに少し下がっています。
この数字を見て、中央銀行はしばらく満足するでしょう。今の中央銀行家は、この問題を理解していると思い込んでいます。物価がそれほど早く上がっていないことも一因です。しかし、いずれインフレは戻ってきます。
24年以降はインフレ率がまた上昇し、弱気相場が来ると予想されています。ですから、FRBが再びインフレに関心を示すのは、24年になると思います。人々は再び心配になり、金利はさらに上がるでしょう。そのときに、本当の弱気相場がやってくるはずです。
インフレが再び戻ると、もっと多くの企業が倒産すると思います。そのとき、日本もきっと痛い目に遭いますよ。
今回はSVBやクレディ・スイスが打撃を受けましたが、次の倒産に関してはみんな怖がっています。ドイツ銀行も株価が急落しましたね。新聞やテレビに目を通せば、怖いと思うのは当然です。
しかし、財務長官は心配する必要はないと言っているのです。みんなしばらくはそれを信じて、事態は好転していくように思われるでしょう。しかし、そのうちに、次の大きな危機がやってくるのです。
中国経済のバブル
中国のワイン会社に私が投資をする理由
中国は新型コロナウイルスのパンデミックから立ち直り、人々は旅行を始めています。今後数年間は、中国経済は非常に好調となるでしょう。しかしそれは、封鎖していた大きな経済圏を開放したからです。今の経済が良いのは、これまでが酷い状況だったからでしょう。もちろん今が良いからと言って、これから起こりうることも同じだとは限りません。
楽観的な状況はしばらく続くでしょうが、アメリカや欧州、日本、そして他の国々の景気が減速し始めると、中国は大きな打撃を受けることになるでしょう。中国は世界でも有数の貿易国です。貿易国である以上、顧客となる国の経済が減速すれば、中国の経済も減速します。
私は中国のワイン会社に投資をしていて、今でも保有しています。その理由は、中国にいるほとんどの人が、ブドウ酒が何なのかをまだよく知らないからです。
私が若いころは、ワインを飲むアメリカ人はほとんどいなかったのを覚えていますが、今ではアメリカ人の多くがワインに詳しくなっています。中国でも同じようにワインが広まるだろうと思っています。
さて、中国の不動産は、国内総生産(GDP)の大部分を占めています。不動産市場の低迷は、中国経済に打撃を与えました。不動産開発大手の恒大集団は、巨額の負債を抱えたために債務不履行に陥り、今もこの問題は続いています。
中国の不動産バブルは、終焉を迎えています。とてつもなく大きなバブルでしたから、すぐに弾けるとは思っていません。中国政府は不動産バブルに対して、何かしらの対策をすると述べるにとどまっていました。
為替市場においては、通貨・人民元の取引が規制されていたため、中国人はかつて、投資できる選択肢をあまり持っていませんでした。そのため、皆急いで不動産に投資し始めたのです。国家全体がこれほど巨大なバブルに見舞われたのは、史上初めてのことでしょう。
不動産バブルは必ず弾けます。しかし今の段階では、多少の亀裂があっても、崩壊の兆しはまだ見えてはいません。
このバブルは1、2カ月で弾けるものではなく、もっと長い間続くと思われます。バブルの崩壊はもっと先の話です。そうなれば、より多くの倒産を引き起こし、崩壊が進むでしょう。
私は日本の不動産バブルを覚えているくらいの年齢ですが、現在の中国の状況は当時の日本を超えています。バブル崩壊後しばらくは、代償を払うことになるでしょう。
金・銀
最高値更新の金より割安の銀を注視せよ
金や銀の価格が高騰しています。ウクライナ危機やSVBの破綻が影響して、金融不安が広がっています。社会的な不安が広がれば、資産として信用の高い金や銀が買われることになります。
特に、安全資産として代表的な「金」が多く買われているため、価格が高騰しているのです。23年4月には、金の価格が1オンスあたり2000ドル超にまで上昇し、過去最高値の水準です。
銀価格への上昇圧力も高まっていると言えるでしょう。エネルギー価格が高騰しているため、銀の需給もひっ迫しているからです。銀は、工業用途や投資向けに需要が高まっています。
また、利上げがいったん落ち着く見通しであるため、ドルの価値が上がりにくくなっていることも、金や銀の価格が上がっている背景となっています。通常であれば、米国の経済が強ければドル建ての需要もそのぶん増します。しかし、今はドルが相対的に弱くなっていると言えるでしょう。
もし私が買うとしたら、金よりも銀を買うでしょう。歴史的に見ると、銀のほうが安くなっているからです、銀は史上最高値から50%以上下落しています。対して、金は最高値を更新しそうな状況にありますから割高です。
しかし、私はまだどちらも買っていません。なぜなら、本格的な弱気相場が到来したら、銀や金ですら売られることになるからです。人々は現金が必要になるため、金や銀を売らなければなりません。そのような状況になったら、もっと銀を買うか、あるいは金と銀の両方を買おうと考えています。
また、金が米ドルの代替資産になると考える人がいるようです。金の価格は、米ドルが値上がりすれば値下がりし、値下がりすると値上がりする傾向があります。すなわち、金は米ドルに対して逆相関の値動きをしているとされています。歴史的に米ドルが弱くなったとき、金や銀に流れる人がよくいました。同じことはまた起こるでしょう。ただ、金と銀が米ドルに取って代わるとは思えません。金や銀は通貨として、様々な問題があったからです。
しかし、物事がうまくいかなくなったとき、クローゼットの中に金や銀を入れておくのは良いことでしょう。ベッドの下に銀をいくつか持っている人もいることでしょう。私もベッドの下に、銀を置いておきたいと思います。
日本円・日本株
円安は続くし日銀の買い入れも続く
日本では、10年ぶりに日本銀行の総裁が交代しました。新しく就任したのは、植田和男総裁です。日本銀行のトップが代わっても、現在の金融緩和は継続されると思います。
私は長い間、金融業界にいますが、日本の通貨が1ドル=300円を超えていた時代のことを覚えています。それから、日本は膨大な量のお金を印刷し、莫大な借金を抱えるようになりました。為替レートは、お金を印刷する量に委ねられています。
1998年に日本円が暴落したときのこともよく覚えています。当時はスイス・フランを除けば、日本円より高い通貨はありませんでした。今となっては、以前のような状態にはありません。22年、円は米ドルに対して150円を記録しました。残念ながら、円安は今後も続くでしょう。一方で米ドルも、他の通貨に対して大幅に下がるでしょう。今は経済環境が良くないため、日本円や米ドルに投資するには、適した時期ではありません。
経済が深刻に悪くなるまで、日本銀行はたくさんのお金を刷り続けるのではないでしょうか。そして、通貨が本当に崩壊したとき、日本で何かが変わるかもしれません。しかし、そうなれば、日本だけでなく、世界的に非常に悪い時代になります。
米ドルにも問題があるため、私は、米ドルの対抗馬になるものを探しています。しかし、まだ見つかっていません。なぜなら、米ドルに対してより競争力を持つものが現れるだろうと考えているからです。
100年以上続いている国際通貨はありません。すべての通貨は、何かしらに置き換えられています。だからと言って、ビットコインなどの仮想通貨が良い投資先だとは思いません。ビットコインが好きな人はいいですが、ビットコインが国際的にメジャーな通貨になるとは思えないからです。中国の通貨である人民元についても、国際的な取引ができるようになるまでには、まだ長い道のりがあると思います。
日本の観光業は、コロナ禍の最中よりも、ずっと良い未来が待っています。通貨が弱くなれば、日本の物価が安くなり、競争力が増すと期待されています。多くの人が観光のため、日本を訪れるようになるでしょう。
窓の外を眺めてみてください。日本の観光業は良くなり続けるでしょう。観光業が発展し、素晴らしい国の一端を担うことができるのですから、大丈夫だと思います。旅行ツアー以外にも、日本には素晴らしいものがたくさんあり、訪れるべき場所として推進されています。
しかし、日本の個別株を買おうとは思いません。なぜなら、日本銀行が中心となり、大きな資金がインデックスに連動したETFに集まっているからです。この状況が続く限り、日本への投資はインデックス投資とすることを継続したいです。
●米地銀 ファースト・リパブリック・バンク株価急落 警戒強まる  4/28
巨額の預金流出が明らかになったアメリカの地方銀行、「ファースト・リパブリック・バンク」の株価が急落し、市場では金融不安への警戒が強まっています。欧米のメディアは金融当局の関与やほかの銀行による追加支援策も協議されていると報じています。
アメリカ西部カリフォルニア州に拠点を置く地方銀行、ファースト・リパブリック・バンクは3月、銀行破綻が相次いだ際に連鎖的に預金が流出し、金融大手のJPモルガン・チェースなど11の大手金融機関から支援策としてあわせて300億ドル、日本円でおよそ4兆円の預金を受け取っていました。
この地方銀行は預金が先月末時点で719億ドル、日本円でおよそ9兆6000億円、流出していたことを今月24日、明らかにしました。
この発表を受けて銀行の経営への懸念が再び高まり、銀行の株価は翌日の25日に49%、26日も29%下落し、金融不安が起きる前と比べると株価が20分の1になりました。
欧米のメディアはこの銀行が財務の改善のために資産売却を検討していると伝えたほか、金融当局の関与やほかの銀行による支援策も協議されているなどと報じています。
市場では再び金融不安を引き起こしかねない事態に警戒が強まっています。
●27日の米国株式市場は上昇、金融不安後退や一部ハイテク決算を好感 4/28
NY株式 / 米国株式市場は上昇、金融不安後退や一部ハイテク決算を好感
ダウ平均は524.29ドル高の33,826.16ドル、ナスダックは287.89ポイント高の12,142.24で取引を終了した。
経営難に陥っている地銀のファースト・リパブリック(FRC)株が下げ止まったため、金融システム不安が後退し、上昇して始まった。また、ハイテクのメタ・プラットフォームズ(META)の良好な決算を好感した買いが相場を押し上げ、終日堅調に推移した。終盤にかけ、上げ幅を拡大し高値圏で終了。セクター別ではメディア・娯楽、小売りが上昇した。
テクノロジー会社のハネウェルインターナショナル(HON)は第1四半期決算で調整後の1株利益が予想を上回ったほか、通期の目標を引き上げたことで上昇。ソーシャルメディアのフェイスブック(FB)を運営するメタ・プラットフォームズ(META)は四半期決算で1株利益と売上高が予想を上回り、アナリストは投資判断を引き上げ、さらに、ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が人工知能にさらなる投資を計画していると言及したため期待観が広がり大幅高。配車サービスのリフト(LYFT)はコスト削減の一環で全従業員の26%を削減すると発表し上昇。航空会社のアメリカン(AAL)は四半期決算が予想に一致、夏の国際線需要が強く、第2四半期の1株利益見通しが予想を上回り、買われた。
一方で、サウスウエスト(LUV)は昨年12月の悪天候やコンピューター不具合などによる全国的な運航停止が年初の売り上げに響き1-3月期決算で2四半期連続の赤字を計上し下落。重機メーカーのキャタピラー(CAT)は第1四半期決算で調整後の1株利益が予想を上回ったものの、在庫状況から需要がピークに達したとの思惑が強まったほか、正式な見通しが示されず警戒感から売られた。
取引終了後にオンライン小売のアマゾン(AMZN)は第1四半期決算を発表。売上高が市場予想を上回ったほか、第2四半期見通しが好感され、時間外取り引きで上昇している。
NY為替 / 米1-3月期GDP価格指数の伸び加速で追加利上げ観測再燃
27日のニューヨーク外為市場でドル・円は、133円24銭まで下落後、134円20銭まで上昇し、133円95銭で引けた。1-3月期国内総生産(GDP)速報値が10-12月期から予想以上に減速したため利上げ停止観測受け一時金利が低下しドル売り優勢となった。しかし、同期GDP価格指数やコアPCE速報値が予想以上に伸びが加速し高インフレが根強い証拠となったほか、週次新規失業保険申請件数も予想外に減少し労働市場の強さも示され追加利上げ観測に伴うドル買いが再燃した。日銀の金融緩和維持を織り込む円売りも加速。
ユーロ・ドルは、1.1056ドルから1.0992ドルまで下落し、1.1028ドルで引けた。ユーロ・円は147円15銭まで下落後、147円79銭まで反発。金融不安を受けたリスク回避の円買いが強まったのち、日銀の金融政策決定会合で緩和策据え置きを織り込む円売りが優勢となった。ポンド・ドルは、1.2498ドルまで上昇後、1.2437ドルまで反落し再び1.2499ドルへ上昇。ドル・スイスは、0.8921フランまで下落後、0.8976フランまで上昇した。
NY原油 / もみ合いで74.76ドル、75ドルを挟んだ水準で推移
NY原油先物6月限はもみ合い(NYMEX原油6月限終値:74.76 ↑0.46)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は、前営業日比+0.46ドルの74.76ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは74.03ドル-75.28ドル。米国市場の前半にかけて自律反発狙いの買いが入ったことで75.28ドルまで戻したが、一時74.03ドルまで反落。その後は下げ渋り、通常取引終了後の時間外取引では主に74ドル台で取引された。
●FRBの緊急融資が1552億ドルと2週連続で増加 4/28
4月26日に終了した週のFRBの緊急銀行融資が前週の1439億ドルから1552億ドルと2週連続で増加した。窓口貸出は前週の699億ドルから739億ドルに増加。銀行ターム・ファンディングローンも前週の740億ドルから813億ドルに増加した。
また、SVBとシグネチャー銀を解決するために米連邦預金保険公社(FDIC)が設立したブリッジバンクに対する融資は前週の1726億ドルから1704億ドルに減少。
●FRBからの銀行緊急借入残高、2週連続増加−金融システム緊張続く 4/28
米連邦準備制度理事会(FRB)の2つの緊急貸出制度で、銀行の借入残高が2週連続で増加した。先月にあった一連の米地銀経営破綻を受け、金融システムの緊張が続いていることを裏付けた。
FRBが27日に発表したデータによれば、4月26日までの1週間の借入残高は両制度合計で1552億ドル(約20兆7900億円)と、前週の1439億ドルから増えた。
このうち連銀窓口貸出制度を通じた借り入れが739億ドルと、前週の699億ドルから増加した。3月には過去最大の1529億ドルを記録していた。
一方、シリコンバレー銀行(SVB)やシグネチャー・バンクの経営破綻を受けて3月12日に新設された「バンク・ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)」での借入残高は813億ドルと、前週の740億ドルを上回った。
銀行株は今週、新たな圧力にさらされている。ファースト・リパブリック・バンクの1−3月(第1四半期)決算で、予想を上回る預金流出が示され、同行株価が上場来安値を付けたことなどが背景。
●米FRBの銀行向け融資が小幅増、高水準続く 4/28
米連邦準備理事会(FRB)の銀行向け融資が26日までの週に小幅に増加し、非常に高い水準にとどまっていることが分かった。
FRBが公表したデータによると、銀行の流動性支援を目的とする3つの制度を通じた融資総額は26日時点で3256億ドルと、19日時点の3165億ドルから増加した。地銀破綻を受けて3月22日に記録したピークの3437億ドルは下回っている。
米連邦預金保険公社(FDIC)による破綻銀行対応に関連した融資が1704億ドルと引き続き大部分を占めた。前週の1726億ドルからは減少した。
一方、連銀窓口貸出(ディスカウント・ウインドウ)利用額は739億ドルで、19日時点の699億ドルから小幅に増加。FRBが新設した銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)の利用額も前週の740億ドルから813億ドルに増加した。
FRBによる海外の中央銀行や金融当局への貸し出しはゼロ。前週は200億ドルだった。
FRBのバランスシート全体の規模は8兆6130億ドル。前週は8兆6430億ドルだった。 
●OPECプラス石油減産の背後にある「サウジ第一主義」 4/28
英フィナンシャル・タイムズ紙は、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟国で構成する「OPECプラス」の、サウジアラビア主導による突然の減産についての解説記事を4月3日付で掲載している。要旨は次の通り。
4月2日、突然、サウジ他のOPECプラス加盟国が日量100万バレル以上の生産削減を発表すると原油価格は急騰し、3日にはアジア市場で8%上昇したが、この事は、サウジが米国との衝突を選んだことを意味する。
サウジは、OPEC加盟国と非加盟国の減産と協調して日量50万バレル(自国の生産量の5%以下)の自発的な減産を行うと発表したが、原油需要の低下の恐れがある中で原油価格の引き上げを狙っている。
このサウジが主導する値上げはOPECプラスの公式会合の外で公表された点で例外的であり、この生産削減に参加した諸国の焦りを示唆している。今回の生産削減は、3月、米国のシリコンバレー銀行の破綻とスイスのクレディ・スイス銀行のUBS銀行との強制合併により世界的な金融危機に陥り、原油需要が大幅に減るのではないかと懸念された後に決定された。
昨年10月、ロシアがウクライナを全面的に侵攻し、ロシアの欧州向けの天然ガスの供給をカットしてエネルギー危機を起こそうとしているにも関わらず、OPECプラスが公式に日量200万バレルの生産削減を公表すると、米国政府はサウジがロシアに味方していると非難した。
バイデン政権は昨年、インフレと戦うために放出した原油の戦略備蓄の再備蓄を、原油価格が安くなるまで行わないと発表した。サウジはこれに怒っていると見られる。
サウジは、バイデン政権下で米国との関係が悪化した後、米国から自立した経済戦略の道を探っているが、要するに「サウジアラビア第一主義」である。最近の中国が仲介してサウジとイランが関係回復したことが示す通り、サウジは、中国などの新しい友人を作っており、米国に対して「世界は米国一極の時代ではない」というメッセージを送っている。
サウジのムハンマド皇太子の異母兄弟でサウジのエネルギー相であるアブドルアジズ王子は、原油供給に対して世界的に投資が足りていないと主張しているが、ムハンマド皇太子の野心的な経済改革プログラムの予算は、原油収入に依存している。
今回のOPECプラスの一部のメンバーによる日量116万バレルの減産決定は、寝耳に水であり、油価は一時的に8%上昇した。なお、OPECプラスは、昨年10月にも日量200万バレルの減産を決定しており、OPECプラスの減産プラスは、日量300万バレル強となる。
減産の事前通報に対して米側は同意しなかった由だが、米国では依然として6%の高いインフレが続いており、特にガソリン価格の上昇は米国民の生活を直撃する。バイデン政権が、今回の値上げを主導したサウジに対して怒ったであろうことは想像に難くない。
OPECプラスは、今回の減産決定は世界的な原油需要の減退に対応するためと説明している。確かに米国経済を初めとして世界的な景気後退の観測が高まっており、原油需要の減退の可能性がある。他方、米ゴールドマン・サックスなどは、今回の減産決定前に、中国経済が新型コロナに対する規制解除により回復することから原油価格は100ドルになるとの見通しを立てており、やはり、サウジを初めとするOPECプラス加盟国の懐具合の事情と考えるのが妥当であろう。
また、今回の減産決定は、最近の米国・サウジ関係の困難さをさらに一層浮き彫りにした。これまで米国の安全保障の傘に依存していたサウジを初めとするペルシャ湾岸のアラブ産油国(湾岸協力会議<GCC>加盟国)は、自国の懐具合よりも米国との関係を重視してきた。
しかし、米国は対中国シフトのためにこの地域から軍事力を再配置し続けており、2021年には4万人の米軍が中東に展開していたが、最近では3万人に減っている。否応なくGCC側も中国などとの関係強化に乗り出しており、サウジは、「サウジアラビア第一主義」を選び、米国に対して「世界は米国一極の時代ではない」というメッセージを送っている由である。
中国によるサウジ・イラン仲介の影響も
しかし、今回の減産決定をサウジが主導することを直接的に可能にしたのは、中国の仲介によるサウジとイランの関係修復が大きいと考えられる。これまでサウジはイエメン内戦に介入した結果、イエメンの反政府勢力であるイスラム教シーア派武装勢力フーシからのサウジ本土に対するミサイルとドローンの攻撃に手を焼いていたが、フーシの後ろ盾であるイランと和解したため、サウジに対する安全保障上の直接的な脅威が大幅に減じた。
また、フーシの攻撃が続く中、これまで米国に地対空ミサイルなどの武器弾薬の供給を依存していたが、ユダヤ・ロビーの反対などでなかなか思うとおりに進まなかったところ、誇り高いサウジ人にとり、米国に頭を下げなくて済むということは重要であろう。
さらに現在、サウジの全権を掌握しているムハンマド皇太子にとり、「サウジ・ビジョン2030」と呼ばれる経済改革は、彼が国民の支持をつなぎ止めるために失敗は許されず、必要な財源確保のためには米国を怒らせてでも減産して油価を引き上げざるを得ないのだろう。
シェール革命で世界最大の産油国となった米国は、OPECプラスの減産に対抗して自国の原油生産を増産する事が可能だと思われるが、バイデン政権の脱炭素化重視政策が障害となっている。今回の出来事は、米軍の撤退が米・サウジ関係の緊張のきっかけとなり、他方、バイデン政権の脱炭素化重視政策が自国の増産で油価の上昇を抑えられないということだから、米国は自ら苦境を作り出しているとも言えよう。
●「ムチとムチ」──摘発と粛清でテック産業を育てようとする中国 4/28
2012年秋に習近平体制が誕生して以来、中国政府は反汚職キャンペーンに力を注いできたが、ここ数年はそれが新たな重要性を帯び始めている。
米中対立の激化を背景に、中国政府はテクノロジー分野での外国依存を弱めるため、規律と統制という過去に例のない手法を採用し始めた。その一環として汚職の摘発を強化しているのだ。
中国共産党で汚職取り締まりを担う中央規律検査委員会は21年秋以降、政府の金融当局の高官たちを立て続けに調査対象にしてきた。銀行保険監督管理委員会や中国証券監督管理委員会、さらには中国人民銀行(中央銀行)の幹部が共産党から除名されたり、死刑判決を受けたりしている。
政府高官だけではない。招商銀行、中国銀行、中国光大集団などの金融機関の元トップたちも相次いで調査の標的になっている。
汚職の根絶や資本の非効率の解消そのものは、これまでも習政権が目指してきたことだ。しかし、アメリカによる対中制裁や輸出管理を受けて、この政権はテクノロジーの自給強化を国の重要目標と位置付けるようになった。
それに伴い、テクノロジー産業の有力投資家を反汚職キャンペーンの標的にするケースが増えている。この分野における腐敗が中国のテクノロジー産業の成長を妨げていると考えているためだ。
テクノロジー分野に注力している投資銀行の華興資本では、創業者で会長の包凡(パオ・ファン)が2月以降身柄を拘束されている。これに先立って、同社の社長を務めた叢林(ツォン・リン)も取り調べの対象になっている。
産業界を萎縮させる?
これとは別に、半導体産業を標的にした摘発も目立つ。半導体産業の育成を目的に設立された政府系投資基金「国家集成電路産業投資基金(CICF)」(通称・ビッグファンド)の多くの幹部たちが調査対象になっているのだ。
摘発や粛清と並行して、中国政府はテクノロジー産業への投資に対する監督の在り方も大きく改めた。3月には、共産党中央委員会が直轄する中央科学技術委員会を新設して、科学技術分野を監督させることが発表された。
この新体制の下で、重要性の乏しい業務を他省庁に移管する一方で、重要なテクノロジーの開発を促進する科学技術省の役割が強化された。これにより、適切な投資を後押ししようというのだ。
金融分野では、国家金融監督管理総局を新設し、株式市場を除く金融監督機能を集中させることにした。株式市場は引き続き中国証券監督管理委員会が監督するが、同委員会も組織変更を行い、監督権限を大幅に強化する。
一連の動きから見えてくるのは、中国指導部が現状に満足していないということだ。しかし、これらの措置によって中国政府の懸念が緩和されるかどうかは定かでない。
最大の問題は、テクノロジー産業に活力をもたらすためのインセンティブ設計が導入されていないことだ。
中国共産党のDNAに深く刻み込まれたレーニン主義的な規律と統制の手法により、重要なテクノロジーの発展が実現する保証はない。むしろ、中国のテクノロジー産業と金融産業を萎縮させる結果を招いても不思議でない。

 

●米シリコンバレーバンク破綻「FRBはぜい弱さ認識せず」報告書  4/29
アメリカでシリコンバレーバンクが破綻したことを受けてFRB=連邦準備制度理事会は破綻の経緯や金融当局の対応を検証した報告書を公表しました。FRBが銀行のぜい弱さを認識していなかったとして監督・規制の強化が必要だとしています。
FRBが28日に公表した報告書によりますと史上2番目の規模で破綻したシリコンバレーバンクについて、リスク管理を怠った経営の失敗の教科書のような事例だと銀行の経営を批判しました。
一方で銀行を監督するFRBが銀行のぜい弱さを認識しておらず、問題を把握したあとも十分な措置を講じなかったと指摘しています。
要因としてトランプ前政権の下で行われた規制緩和をうけて銀行経営の健全性を審査する「ストレステスト」の基準が弱められたことで経営悪化を見抜けなかったとしています。その上で現在、審査基準が緩やかになっている総資産が1000億ドルから2500億ドルの銀行についてもより厳しい基準で対応すべきだとしています。
具体的な項目として金利上昇のリスクや、インターネットを通じて預金が急速に引き出された場合に十分な資産を保有しているかなどを挙げています。
報告書の中でFRBのバー副議長は「銀行監督や規制が機能せず破綻の連鎖を生んでしまった。FRBによる監督や規制を強化しなければならない」とコメントしています。
●SVB破綻巡るFRB報告、規制・監督改革の必要性補強=ホワイトハウス 4/29
ホワイトハウスのマイケル・キクカワ報道官は28日、米中堅銀シリコンバレー銀行(SVB)の破綻に関する連邦準備理事会(FRB)の検証結果は、バイデン大統領が提唱してきた「常識的な規制・監督改革」の必要性を補強すると述べた。
「前政権下で大手地銀に対するセーフガードや監督が緩められたが、銀行システムを強化し米国の雇用と中小企業を守るためにこれらは撤回されるべき」とした。
FRBは28日に公表した報告書で、銀行の規模が拡大し複雑化する中でSVBの脆弱性の程度を十分に理解していなかったとし、SVBに対するFRBの判断は「必ずしも適切ではなかった」と結論付けた。
●日銀会合を受けてドル円は136円台に急伸 株高でリスク選好の円売りも 4/29
きょうの為替市場は円売りが強まる中、ドル円は136円台に急伸している。植田総裁就任後初となる日銀決定会合の結果が発表されたが、現状の金融緩和策を据え置いた。マイナス金利も温存している。また、金融緩和策について最大1年半程度の多角的なレビュー期間を設けることも発表。一方で先行きの政策指針となるフォワードガイダンスの撤廃を発表した。植田総裁は会見で、粘り強く緩和措置を続けて行く方針を強調した。
なお、本日は展望レポートも発表になっていたが、2023年度のコアCPIの見通しを1月の1.6%から1.8%に上方修正した。日銀が年度後半にかけてインフレは鈍化して行くと見ている。
大方想定通りだったとは思われるが、為替市場は急速に円安に反応した。オプション市場ではサプライズに備えた円高警戒が3月以上に高まるなど、海外勢中心に警戒感が高まっていた分、切り返しも強く出ている模様。来週のFOMCやECB理事会に向けてのポジション調整が活発に出ている印象もあるほか、下落して始まった米株式市場が切り返していることもフォローとなっている模様。
市場からは、135円台を固められるようであれば、138円台が視野に入るとの見方も出ている。きょうの上げで140円までの上昇の可能性も指摘されているようだ。
ユーロドルは一時1.09ドル台に下落する場面が見られたものの、NY時間に入って米株式市場が堅調に推移していることもあり、1.10ドル台に戻している。ロンドン時間には米アマゾンが決算を受けて下落していたことで、リスク回避の雰囲気が広がり、為替市場ではドル買い・ユーロ売りが出ていた。また、本日の日銀決定会合を受けてユーロ円が150円台に急伸していることもユーロドルの下値をサポートしているようだ。ユーロ円が150円台は2008年のリーマンショック以来。
ユーロに関しては、来週のECB理事会とその前々日に発表になるユーロ圏消費者物価指数(HICP)の結果に注目が集まっている。利上げは確実視されているものの、利上げ幅が0.25%か0.50%ポイントかで見方が分かれている。ただ、いまのところは0.25%が有力視されている状況。HICPの結果が決めてくれそうだ。
市場では、ECBのターミナルレート(最終到達点)について、織り込みを概ね完了させている。現在の中銀預金金利は3.00%だが、それを夏までに3.75%まで引き上げて利上げを一旦停止というのが基本シナリオのようだ。3月中旬には3.25%で設定されていた。ただ、一部からは、今後発表になるユーロ圏の経済指標を受けて、設定を4.00%まで上昇させる可能性は十分にあるとの指摘も出ている。
ポンドドルは1.25ドル台後半まで上げ幅を拡大している。昨年6月以来の水準に上昇し、上昇トレンドを継続している。ポンドは短期的に上昇の可能性もあり、ポンドドルは1.30ドルまでの上昇も想定されるが、次第に上値が重くなる可能性があるとの指摘も出ている。
英経済の見通しが改善するにつれて、今後数カ月はポンド高は続くと期待されるが、良いニュースが夏以降も続くとは限らないという初期の警告サインがいくつか示されているという。インフレ鈍化と、これまでの金融引き締めの影響により、年後半の英経済は下振れリスクが高まる可能性があり、それは信用の伸びと信用需要の低下において、すでにその兆候が表れているとしている。 
●米ファーストリパブリック銀、再び崖っぷちに 4/29
米中堅銀行ファーストリパブリック・バンクの先行きは厳しそうだ。
ファーストリパブリック銀の株価は今週、約75%下落。24日発表の1〜3月期の決算が期待外れだったことから銀行危機への市場の不安が再燃し、同行株からの資金流出を招いた。
27日には株価が小幅反発し、苦境の同行を救済する「ホワイトナイト」の出現に市場が期待を寄せていることが示唆されたものの、その後事態は悪い方向に転んだ。
政権情報筋は28日、CNNの取材に、ファーストリパブリック銀を救済する新たな計画はないと述べ、政府介入への期待を打ち消した。米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入る可能性が高いとの報道が相次ぎ、民間セクターの支援がまとまる可能性への楽観的な見方も崩壊。株価は約37%下落した。
ファーストリパブリック銀が経営破綻(はたん)するかどうかは依然として不透明だ。近く破たんする可能性もあるし、存続できる可能性もある。
ただ、資金注入なしでは存続は難しいとみられる。ファーストリパブリック銀はすでに先月、大手銀行団から多額の支援を受けた。当時はシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクの相次ぐ破綻で投資家や預金者が地銀から流出し、金融セクターの健全性が疑問視される状況だった。
ファーストリパブリック銀の株価は今年に入り約97%下落している。
雲行きが怪しくなり始めたのは今週。1〜3月期に預金残高が41%減り、1045億ドルに減少したと同行が報告したのがきっかけだ。アナリストが予想していた預金残高は1367億ドルだった。
マイケル・ロフラー最高経営責任者(CEO)は記者会見で預金の動きは3月末から安定していると述べ、動揺する株主を安心させようと努めた。大手銀行団から受け取った300億ドルを除き、4月4日時点で保険対象外の預金の倍の手元資金があるとも明らかにした。
だが、それでも投資家の懸念は収まらず、激しい売りが発生。ファーストリパブリック銀の株価は25日に50%下落し、その後も下落が続いた。
他の銀行の決算発表で追加の悪材料がなかったことから投資家の懸念が和らぎ、株価は27日に9%持ち直したものの、その後再び急落した。
●米ファースト・リパブリック銀行に「第3の破綻」の可能性 株価暴落 4/29
全米14位のファースト・リパブリック銀行(本店・カリフォルニア州)の破綻懸念が強まっている。28日の米ニューヨーク株式市場で同行の株価は一時、前日終値に比べ5割安の2ドル台に暴落、終値は同43・3%安の3・51ドルだった。3月上旬に米国で金融不安が始まる前、同行の株価は100ドルを超えており、当時に比べ95%以上価値が下がった計算になる。
ロイター通信によると、米財務省や連邦準備制度理事会(FRB)など金融当局は28日、同行を支援するための緊急協議を始めたが、銀行救済には世論の反発が予想され、米中堅行の「第3の破綻」となる可能性がある。
ファースト銀の経営不安が再燃したのは、24日に発表した1〜3月期決算で巨額の預金流出が明らかになったためだ。3月末時点の預金残高は1044億ドル(約14・1兆円)で昨年末から4割減少。バンク・オブ・アメリカなど米大手11行が3月中旬に経営支援のため計300億ドルの無保険の預金をしたにもかかわらず大きく減っていた事態に市場が動揺し、株価は10ドルを割り込む水準に暴落した。
米国では3月上旬に全米16位のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した。急ピッチの利上げで保有国債の価値が下落する一方、預金保険制度で保護される上限(25万ドル)超えの預金が9割を占め、ツイッターなどのソーシャルメディアで信用不安の情報が流れた途端、一気に預金が逃げ出し、破綻に追い込まれた。全米29位のシグネチャー銀行も連鎖破綻し、信用不安は全米に拡大した。
ファースト銀も預金保険制度の上限を超える預金が全体の7割近くを占め、預金が逃げ出しやすい構造。顧客の預金引き出しに応じるため値下がりした保有国債を売却すれば、SVBと同様に大きな損失が発生する恐れがある。市場では「第3の破綻先」との懸念が浮上し、SVBの破綻直後から株価が急落していた。
米財務省やFRBは破綻行の預金全額保護や銀行への資金供給などの緊急措置をとり「米国の金融システムは健全で強じん」との認識を示してきた。しかし、第3の破綻が発生すれば全米で信用不安が再燃するのは避けられない。

 

●リセッションの予兆か、米国でフードバンクの需要急増 4/30
米国はリセッションへ向かっているのか。エコノミストや投資家は、インフレ率や雇用、住宅、銀行その他の先行指標をかき集めて判断しようとしているが、生活困窮者や福祉施設に食料を提供する国内最大のフードバンクの倉庫には不吉な兆候がある。
非営利団体(NPO)「アトランタ・コミュニティー・フードバンク」の棚の半分以上は空っぽだ。幹部によれば、サプライチェーンの問題もあるが、食料支援の需要が新型コロナウイルスによるパンデミックの最中と同じくらい高いのが主な原因だという。今年、ジョージア州アトランタ地域で食料配給に頼る人の40%は、これまで配給を受けた経験がなかったという。
民間慈善団体であるこのフードバンクで最高財務責任者(CFO)を務めるデブラ・ショーフ氏は「誰も予想していなかった事態だ」と語る。同NPOは企業・個人からの寄付、さらには政府からの補助を受け、ジョージア州内の29郡で食料を配布。ショーフCFOは全米規模の慈善団体「フィーディング・アメリカ」でも財務運営委員会に参加しているが、米国中から同じような報告が上がっていると言う。「コロナ禍の頃の状況まで戻ってしまった」と同氏は話す。
新型コロナの影響が最も厳しかった時期より配給の需要が多い地域もある。オハイオ州中部の地元のフードバンクでは、支援を求める世帯数が昨年以降50%近く増大しているという。
米国勢調査局のデータによれば、4月前半に無料の食料配給を受けた世帯数は1140万戸以上で、前年同期に比べ15%増えている。
「フードバンクという活動が始まってから約50年がたつが、失業率が過去最低にもかかわらず、食料配給の需要は前例がないほど大きいという状況は、これが初めてだ」と語るのは、フィーディング・アメリカで最高政府交渉責任者を務めるビンス・ホール氏。同団体は、6万カ所の食料配給所を支援している。
配給への需要が続く一方で、コロナ禍に伴う政府の緊急支援の大半はすでに終了。特に、補助的栄養支援プログラム(SNAP)のコロナ対応緊急拡大措置が終わってしまったのは大きい。以前は低所得者向け食料購入補助制度(フードスタンプ)と呼ばれ、店舗での食料購入にそのまま使えるデビットカードが配布されていた。
インフレも大きな要因だ。米労働統計局によれば、パンデミックが始まった2020年3月以来、食品価格は23%上昇した。
ノースイースタン大学でフードバンク経営と公衆衛生を中心に研究しているジョン・ロウリー教授(経営学)は、感染の急拡大が終了した後も食料の無料配布に対する需要がこれだけ大きいことは「(経済にとって)良い兆候ではなく、恐らくリセッションが間近であることを示している」と語る。
「配給に頼るのは恥ずかしいなどと気にしていられない多くの初回利用者は、もはや店舗で食料を買う余裕すらなく、配給所のありがたさを実感している。この現実は、経済と消費者が健全かどうかを的確に示している」とロウリー教授は言う。
フィーディング・アメリカに関する研究で有名なベイラー大学のクレイグ・グンダーセン教授(経済学)は、パンデミック時以上の需要急増を経験しているフードバンクは珍しくないと語る。今年需要が増加するのが意外ではない理由として、コロナ禍の緊急事態において政府が非常に多くの支援を提供していたことを挙げる。またSNAPの給付についても、2021年の定期見直しにより上方修正されており、4年前よりも今の方が多い状態が続いていると指摘する。
「コロナ禍では景気対策としての給付金があったし、長期にわたって家賃の支払いが免除され、賃金以上の失業給付があった」とグンダーセン教授は言う。
バージニア州のアパラチア山道沿いに広がる25の郡で活動する「ブルーリッジエリア・フードバンク」のマイケル・マッキー最高経営責任者(CEO)は、コロナ禍の下での緊急支援によって、基本的な経済の実態が隠されてしまったと語る。労働統計局による最新のデータでは、2020年3月以来、インフレ率が賃金上昇率を上回っていた。
「いま起きている状況は、この国における食料不安の範囲や規模、広がり、そして格差の影響をさらけ出している。最近のインフレだけに留まらず、賃金が生活費の上昇に追いついていない」とマッキーCEOは言う。
「未知の領域」へ
問題を複雑にしている要因が1つある。政府による食料支援の問題が、国債発行残高の上限を引き上げるべきか否かという政界での議論に巻き込まれてしまっているのだ。
連邦議会の共和党議員らは、ケビン・マッカーシー下院議長の言葉によれば「(バイデン大統領による)無分別な支出」に歯止めをかける対策パッケージの1つとして、食料支援の制限を提案している。
バイデン大統領は「低所得の米国民に悪影響をもたらす」として共和党の提案を一蹴した。飢餓対策の啓発活動家はロイターの取材に対し、SNAPの利用をさらに困難にする政策が導入されれば、フードバンクその他の緊急食料支援団体にはさらに負担がかかると話している。
米国における困窮者向け食料支援として圧倒的に規模が大きいのは、連邦政府の制度であるSNAPだ。配給される食事の回数で見れば、フードバンクや食料配給所は約10分の1を占めるにすぎないが、それでもSNAPに続いて2番目に大きい存在であり、社会的なセーフティーネットの重要な柱となっている。
コロナ禍への一時的対応としてのSNAP拡大が終了した今、ジョージア州やコロラド州、バージニア州など各地のフードバンクから、支援への需要が増大しているとの声が上がっている。
オハイオ州中部の20郡で活動する「フード・コレクティブ」は今年1―3月、食料配給所を訪れる世帯数が前年同期の約27万戸から39万戸程度へ45%近く増えたと報告している。
「未知の領域に入っている」と語るのは同慈善団体の広報を担当するマイク・ホクロン氏。「家計が苦しくなり、飢えをしのぐために緊急支援に頼る人がかつてないほど増えている」
ヒューストン・フードバンクのブライアン・グリーンCEOは1988年からこの仕事に就いているが、これまでも需要は供給を上回っており、経年比較は難しいと話す。支援食料の量では全米最大という同フードバンクで配布する食料は、昨年より今年の方が少ないが、その原因は現金や食料の寄付が減少しているからだという。
「コロナ禍の頃と同じくらいの食料が入ってくれば、配布できるのだが」とグリーンCEOは言う。
バージニア州のブルーリッジ・エリア・フードバンクが供給元となっている食料配給所も、最近の利用者急増を報告している。「ダレス・サウス・フードパントリー」では、2021年4月には週109世帯に食料を配布していた。2022年4月は147世帯、今月は183世帯に増えている。
バージニア州ウィンチェスターの「ハイランド・フードパントリー」では、コロナ禍の最中、週90世帯程度に食料を配布していた。今月は約135世帯だった。新たな利用者の1人、ヘイウッド・ニューマンさん(47)は便利屋として働いているが、コロナ禍の間は支援に頼らずに切り抜けたものの、今は生活が苦しいと話す。
「水道代やゴミ処理代、電気代、車関係の出費や家賃もある。こういう業者は状況を考慮してくれない」とニューマンさんは言う。
綱渡りの食料確保
アトランタには、全米最大規模のフードバンク「アトランタ・コミュニティー・フードバンク」の倉庫が4エーカー(約1万6200平方メートル)の敷地に広がっている。供給担当ディレクターを務めるミシェル・グリア氏によれば、約500万ポンド(2300トン)の食料を保管できる設計だという。その大半が食品メーカーや食料品店から輸送用パレット単位で寄付される。だが、先月の在庫水準は平均180万ポンドにすぎなかったとグリア氏は言う。
到着した食料はあっというまに棚から消えていく。多くの場合は数時間以内に、末端の食料配給所から要請がある。グリア氏によれば、この倉庫が3月に受け取った食料は980万ポンド、配送したのは960万ポンドで、余裕はごくわずかだった。
シャローン・ホワイトさん(31)は不動産会社で時給約18ドルを稼ぐシングルマザーだ。今月、アトランタ地域の食料配給所を初めて訪れた。ホワイトさんによれば、託児所の料金や家賃、光熱費を払えば、食品やガソリン、不慮の支出に充てられるのは毎月約300ドルしかないという。
4月初め、ホワイトさんは古着を寄付するために地域住民センターを訪れ、食料配給所の案内に気づいた。「結果的に、非常に助かった」とホワイトさんは言う。
大半の地域フードバンクと同様、このアトランタのフードバンクも、政府予算によるプログラムや企業や生産者からの現物寄付に支えられて食料を確保。危機的な状況を除き、自己資金で食料を調達しないようにしている。アトランタでは企業や農家からの現物寄付はおおむね安定しており、フードバンクの記録によれば、配布した食料の半分以上を占めている。だが政府支出が占める比率は大きく変動している。
コロナ禍以前、このフードバンクが配布する食料の約27%は政府に支えられていた。コロナ禍の最中だった2021年度は、政府が44%近くを提供した。今年はわずか13%を占めるにすぎない。
アトランタ・コミュニティー・フードバンクのカイル・ウェイドCEOは、こうした変動分を補うため、今年度は手元資金のうち1800万ドルを使う予定だと話す。5年前、この慈善団体は地域で配布した食料のうち約5%を自己資金で購入していた。今年はその比率が25%になる。
「しばらくは何とかなる」とウェイドCEOは言う。「だが、いつまでも続けられるわけではない」
●日本政府は破産しない。なぜなら、投資家には「日本国債を買う理由」がある 4/30
膨張を続ける日本の財政赤字。このままでは日本政府が破綻する――。このような危機感を抱いている人は少なくありません。しかし、心配は無用だといえます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
破産するか否かは「資金繰りの問題」
日本政府は財政赤字を続けていて、借金が膨れ上がっています。そこで、日本政府がいつかは破産する、と心配している人も多いようです。しかし、筆者は心配していません。理由は多数ありますが、最大の理由は「資金繰りがなんとかなれば、破産することはないから」です。
企業は債務超過になると倒産する場合が多いですが、それは債権者たちが「他の債権者が資金を回収する前に急いで回収しよう」と頑張ることで債務者の資金繰りが破綻するからです。
企業が黒字続きで債務超過に陥らなくても「資金繰り倒産」ということはあり得ますし、反対に、債務超過でも銀行が支えれば危機を乗り越えるまで倒産せずに持ち堪える場合もあるのです。
日本政府の場合は、資金繰りが破綻することはあり得ません。すぐに思いつくのは日銀が紙幣を印刷して借金を返せばいい、ということです。実際にそんなことをしたら超インフレになりかねませんから、これは禁じ手でしょうが。
政府には徴税権がありますから、破産しそうになったら大増税をすればいい、ということも言えますが、これも暴動が起きそうですから、禁じ手ということにしておきましょう。
しかし、禁じ手とはいえ「最後の手段があるから政府は破産しない」ということだけでも、貸し手に安心感を与えることはできるでしょう。貸し手が安心感を持てば、気軽に貸してくれるでしょうから、政府が資金繰りに困る可能性はそれだけでも低下するわけです。
そして、実際には投資家たちが日本国債を買う理由があるから日本政府は破産しないのです。投資家にとって日本国債が最も安全な資産だからです。
日本国債は「最も安全な資産」である
投資家にとって、日本政府が破産する可能性はリスクですが、メガバンクに貯金するよりは安心でしょう。現金で保有していると強盗に襲われるリスクがありますし、大きな金庫を買う費用もかかるでしょう。
米国政府が倒産する可能性は低いかも知れませんが、米国債を買うとドル資産を持つことになり、為替リスクを負ってしまいます。ドル安で損をする可能性が出てくるわけです。
したがって、日本人投資家たちは喜んで(消去法的に仕方なく?)日本国債を買うのです。それを見た他の投資家たちは「他の投資家たちが日本国債を買っているから、日本政府は資金繰りに困ることはなく、破産もしないだろう」と考えて更に安心して国債を買うのです。投資家たちが意図せずお互いを励まし合っているわけですね(笑)。
将来、日本政府が外国から借金をする必要が出てくると、外国人投資家にとっては、日本国債は為替リスクと信用リスク(借り手破産のリスク)がありますから、借金が難しくなるのでしょうが、日本の経常収支は黒字ですし、対外純資産も巨額なので、そうした事態に陥ることは考えにくいでしょう。
「心配ない。数千年たてば、すべては解決する(笑)」
少子化が続くと、日本人が最後の1人になるでしょう。その人は、家計金融資産2,000兆円を相続するはずです。その人が亡くなると、その金は国庫に入ります。日本政府の借金は1,000兆円しかありませんから、なんの問題もなく借金が返せるわけです。
もちろん、本当に最後の1人になることは考えにくいですが、上記のような可能性を考えると、「日本政府の借金は巨額だからいつか破産するに違いない」と考える根拠が乏しいことがわかります。
じつはもう1つ、「政府の借金は将来世代に増税を強いる世代間不公平だ」という考え方に説得力が乏しい、ということもわかるのですが、この話は別の機会に。
少子高齢化による労働力不足で、増税も容易に
少子高齢化により、労働力不足が今後一層深刻化していくでしょう。しかし、それは悪いことではなく、失業のない時代を迎えるということなのです。いまは、「増税して景気が悪化したら失業者が増えてしまう」という増税反対論者も多いわけですが、10年もするとそういう論者はいなくなるでしょう。増税して景気が悪くなっても失業者が増えない時代になるからです。
もしかすると、労働力不足による賃金上昇でインフレの時代が来るかもしれません。そうなった時に日銀がインフレ抑制のために金利を上げると政府の金利負担が増えますから、政府は「日銀さん、政府が増税で景気を抑えてインフレを止めますから、金利は上げないで下さい」と頼むかもしれません。
そうなれば、増税はインフレ予防策であると同時に財政再建策ということにもなるわけで、一石二鳥の政策となり、頻繁に採用されることになるでしょう。
こうして考えると、日本政府が破産する可能性は小さいように思えます。そうは言っても、ある時突然投資家たちが一斉に日本政府の破産を信じるようになり、日本国債を買わなくなる可能性はあります。そうなれば、国債暴落となり、政府は新しい国債が発行できず、資金繰りに困るかもしれません。 
 
 

 

●「リーマンショック」の2008年以来、米銀で“最大の経営破綻”の可能性 5/1
経営不安が高まっているアメリカの地方銀行について、FDIC=連邦預金保険公社が管理下に置き、現地時間先月30日中に他の金融機関への売却を発表する可能性があると現地メディアが報じました。
カリフォルニア州を地盤とするファースト・リパブリック・バンクは、3月にシリコンバレー・バンクなどが経営破綻し金融不安が広がった影響などで、1月から3月にかけて日本円で13兆円あまりの預金が流出するなど、経営不安が高まっています。
こうした中、現地メディアは、FDICがファースト・リパブリック・バンクを管理下に置いたのちに、売却を発表する可能性があると報じました。
ファースト・リパブリック・バンクの資産規模は去年末時点で全米14位で、売却が行われた場合、リーマンショックが起きた2008年以来、アメリカの銀行で最大の経営破綻となります。
●「38%がゾンビ企業」アメリカ経済がまもなく大恐慌に陥るかもしれない 5/1
体力を失いつつある「アメリカ経済」
連邦準備理事会(FRB)が4月21日に公表したデータによれば、米国の銀行預金は12日終了週に前週に比べ762億ドル減少した。
「中堅・中小銀行の預金流出は一服しつつある」と言われているが、アメリカの金融システムは依然として脆弱であることに変わりはない。
アメリカでは「経済は信用危機に見舞われていないものの、与信環境がタイト化している(信用収縮)の局面にある」との見方が広がっている(4月21日付ブルームバーグ)。
JPモルガン・チェースなど米銀大手4行の今年3月末の融資残高は3兆752億ドルと前年末から191億ドル減少した。FRBが昨年3月から急ピッチで進めた利上げのせいで不動産分野の資金需要が減少したことが主な要因だ。
JBモルガン・チェースの悲観シナリオによれば、米国の商業用不動産住宅ローン関連の損失は、2008年のリーマンショック時に3500億〜4000億ドル規模だったサブプライムローンの損失に迫る恐れがあるという。
大量増殖をはじめた「ゾンビ企業」
米地銀シリコンバレー銀行(SVB)などの破綻で強まった金融情勢の悪化も、銀行の融資姿勢の厳格化を促している。流出を防止するため預金の金利を上昇させる銀行が相次いでおり、資金調達コストの上昇が与信を縮小させている。
「米国経済が景気後退に陥る」との見方が広まっていることも悪材料だ。
米CNBCが4月18日に公表した調査結果によれば、「経済を否定的に捉えている」と回答した割合が過去17年間の調査で最も高い69%となった。不景気になれば、不良債権の増加を警戒した融資先の選別が進み、「貸し渋り」「貸し剥がし」が始まるのが世の常だ。
米フィラデルフィア連銀が4月20日に公表した4月の製造業景況指数はマイナス31.3となり、SVB破綻前後の期間に集計した3月に比べて8.1ポイント悪化した。その水準も、企業活動に急ブレーキがかかったコロナ禍を除くと、金融危機後の2009年3月以来の低さだ。
製造業の不振は資金調達環境の悪化が大きく影響していると考えられる。
全米自営者連盟(NFIB)が4月11日に公表した調査結果によれば、高い頻度で資金を借り入れている経営者が「融資を受けにくくなった」と回答した割合が、2012年12月以来の高水準となった。
「次の3ヶ月に信用状況が一段と厳しくなる」とみている割合も過去10年で最も高い水準となっている。
そして今、アメリカで最も懸念されているのが、ゾンビ企業の大量増殖だ。
米上場の上位「38%」がゾンビって…
日本でいうところのゾンビ企業は、すでに経営に持続性がないにもかかわらず、金融機関や政府機関の補助金などで生きながらえている企業をさす。
アメリカで言う「ゾンビ企業」とは、利払い・税引き前利益(EBIT)で金利負担分すらも稼げない企業のことだ。
これはリーマンショック以降、長年続いてきた金融緩和のツケであり、ある種、モルヒネのような働きをした低金利に甘んじ、体力が減退したゾンビ企業が「大繁殖」したわけだ。
なんと、アメリカ上場の時価総額上位3000社のうち、38%がゾンビ企業だと言われている(4月23日付日本経済新聞)。
金利上昇局面で資金調達が悪化した米国で、このゾンビ企業はいかにも不吉な存在だ。
アメリカに出現した「ゾンビ」
アメリカで「ゾンビ企業」が大量増殖していることをご存じだろうか。
日本ではあまり注目されていないが、こうしたゾンビ企業は、金利が上昇し資金調達が困難な今、アメリカ経済の負のスパイラルを巻き起こす危険が現実味を帯びている。
米FRBの金融引き締めという厳しい局面で、どこにリスクが内包されているのか、その一端でも知っておきたい。
危機に陥る米「スタートアップ」
全米自営者連盟(NFIB)は「経営者はこの先には大きな不確実性があり、『銀行危機がさらに進む恐れがある』と懸念している」と指摘している。
特に深刻な環境に置かれているのはスタートアップ企業だ。世界の約半分を占める米国のスタートアップ投資が急速に縮小している。
米調査会社ピッチブックと全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)は4月12日、米国でのベンチャーキャピタル(VC)などの投資額を発表した。それによれば、今年第1四半期は前年比55%減の370億ドルで、四半期ベースの投資額としては2019年第4四半期以来、約3年ぶりの低水準となった
金利上昇などの影響に加え、スタートアップの上場が遠のき、投資家が資金を回収しづらくなっていることも災いしている。
投資先の新規株式公開(IPO)やM&A(合併・買収)でVCが得た金額は今年第1四半期に前年比82%減の58億ドルと5四半期連続で落ち込み、四半期としては2013年以降で最低だ。
スタートアップをはじめ、財務基準の弱い企業の市場での資金調達も困難になっている。
調査会社ディールロジックによれば、米欧市場の今年第1四半期の低格付け債(ジャンク債)の発行総額は前年比17%減の448億ドルにとどまった。
直近のピーク時(2021年第1四半期)の4分の1の水準で、米国ではSVB破綻前後の週から3週連続で発行ゼロとなった。
ゾンビ企業にとどめを刺す「貸し渋り」
新株発行による資金調達も不調だ。米欧市場の今年第1四半期のIPO調達額は前年比7割減の47億ドルと直近のピーク時(2021年第1四半期)より97%も少ない水準だ。
「泣き面に蜂」ではないが、このような状況で銀行の「貸し渋り」や「貸し剥がし」が進むようなことになれば、いわゆるゾンビ企業の大量倒産は一気に現実味を帯びることになるだろう。
銀行不安は10兆ドル規模の米国の社債市場にも悪影響を及ぼしつつある。銀行の資金調達コストの上昇で社債市場への投資意欲が抑制され、「リスクプレミアムの急上昇は避けられない」との不安が高まっている(4月20日付ブルームバーグ)。
中でも心配なのはジャンク債市場だ(4月24日付ブルームバーグ)。
「負のスパイラル」に陥るアメリカ
資金繰りに窮したゾンビ企業が大量に破綻すれば、彼らが発行しているジャンク債が前例のない規模でデフォルトすることになるからだ。ジャンク債市場の不調が世界の社債市場に悪影響をもたらす可能性も排除できない。
「リーマンショックのような金融危機が起きる」と言うつもりはないが、銀行不安がもたらす負のインパクトはますます大きくなっていくのではないだろうか。
●2カ月で米銀3行破綻はリーマン級危機の前夜なのか…破綻予備軍186行! 5/1
欧米メディアは4月29日、経営不安が高まっている米中堅銀行ファースト・リパブリック銀行(FRC)が30日にも経営破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれると報じた。リーマン・ショック後で最大規模の破綻となる。シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行に続き、わずか2カ月足らずで米銀3行が破綻。何が起きているのか。
サンフランシスコに拠点を置くファースト銀行は資産規模全米14位(2126億ドル=約29兆円)。昨年来の金利上昇によって債権の含み損が膨らみ、市場では警戒が広がっていた。3月にシリコンバレー銀行が破綻すると、ファースト銀行でも取り付け騒ぎが発生し、3月末時点の預金残高は昨年末より4割も減少していた。ファースト銀行は公的管理を経て金融大手に売却される方向だ。
「含み損を抱える米国の中小銀行は少なくなく、信用不安はまだまだくすぶっている。大口預金が引き出され、破綻に追い込まれる銀行は今後も続く恐れがあります」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
3月に発表された学術調査によると、米国内にはシリコンバレー銀行と同様のリスクを抱えた銀行が186行に上るという。
預金者がナーバスになっているだけでなく、金融当局も銀行に対するチェックを厳しくしている。経営の健全性を示したい銀行は、信用の低い企業や個人に対して融資態度を硬化。貸し渋りや貸しはがしが横行し、米国の中小銀行の融資残高は激減している。
景気後退と物価高が同時に起こる
イエレン米財務長官は銀行が融資をさらに引き締める可能性を指摘し、「追加利上げの代わりになる可能性がある」と発言。信用のない低所得者やベンチャー企業は融資を受けにくくなっているのだ。
「FRB(連邦準備制度理事会)は2023年後半から緩やかな景気後退に入るとの見方を示していますが、すでにリセッションの“入り口”に差し掛かっていると言う人もいる。厄介なのがインフレです。米国の3月のCPI(消費者物価指数)は上昇率5.0%と依然高い水準です。景気後退でありながら物価が高止まりする可能性があります。08年のリーマン・ショックも当初、局地的とみられていましたが、あれよあれよと大きな世界的危機に発展してしまった。今はリーマン級危機の前夜なのかもしれません」(森岡英樹氏)
2日から2日間、FOMC(連邦公開市場委員会)が開かれる。こんな状況でもパウエルFRB議長は追加利上げに踏み切るのか。 
●円続落、金融政策格差でドル137円付近−ユーロは08年来の150円後半 5/1
東京外国為替市場では円が続落。日本銀行による早期緩和修正観測の後退を背景に円売りの流れが続いた。今週は米国やユーロ圏で追加利上げが見込まれており、内外金利差が拡大するとの見方からドル・円は1ドル=137円ちょうど付近まで上昇、ユーロ・円は2008年以来となる1ドル=150円台後半までユーロ高・円安が進んだ。
大和証券金融市場調査部の多田出健太チーフ為替ストラテジストは、日銀は「想定よりハト的だったという印象」で、日銀会合後の円安が続いていると説明。「米金利も大きなレンジの中でまだ上がる余地が残っている」とし、ドル・円は137円を抜けて3月に付けた「年初来高値(137円91銭)ぐらいまでいけば、少し走る可能性がある」と話した。
米国では2、3日に連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれる。先週末発表された3月の個人消費支出(PCE)統計や1−3月の雇用コストでは根強いインフレ圧力が確認され、スワップ市場は0.25ポイントの利上げを9割近く織り込んでいる。
今週は供給管理協会(ISM)指数や雇用統計など米国の主要経済指標の発表も相次ぐ。りそなホールディングス市場企画部の石田武為替ストラテジストは、日銀が1−1年半かけて金融政策のレビューを行うということで「基本的に期間中の大幅な政策変更の可能性は低下した」とし、今後は日銀政策に対するマーケットの関心が薄れると予想。ドル・円は「米経済、米金利動向への連動性が強くなっていく」とみている。  
3、4日開催の欧州中央銀行(ECB)の政策委員会については、少なくとも0.25ポイントの追加利上げが見込まれている。
大和証の多田出氏は、2日公表の銀行貸し出し調査やユーロ圏消費者物価指数の結果次第では「0.5ポイント利上げを織り込む動きも出る可能性はある」とし、ユーロ・円は「節目がなく、走りやすい」だけに上昇が加速するリスクがあると指摘した。
一方、経営危機に陥った米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)を巡っては、米連邦預金保険公社(FDIC)が同行買収に向けJPモルガン・チェースなど銀行各行に要請していた最終案の提出期限(現地時間4月30日正午)が過ぎた。
ソニーフィナンシャルグループの石川久美子シニアアナリストは、FRCの問題でリスク許容度が低下すれば、いったんはドル売り・円買いになりやすいが、「それほど基調に影響するとは今のところ考えていない」と指摘。その上で、きょうはメーデーのため「ほとんどの国が祝日で、相場が非常に薄く、値の飛び方には警戒が必要」と話した。
●米MMFに大量の資金流入、過去4週間で最大 地銀や景気後退を懸念 5/1
リフィニティブ・リッパーのデータによると、4月26日までの1週間は米国のマネー・マーケット・ファンド(MMF)に大量の資金が流入した。
地銀への不安や景気後退(リセッション)が近いとの懸念で安全な逃避先を求める資金が流入した。
MMFへの純流入額は477億2000万ドルと、週間ベースで3月29日以来の高水準。
米中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクでは第1・四半期に1000億ドル以上の預金が流出。米地銀の危機はまだ終わっていないとの懸念が浮上している。
一方、米国の株式ファンドは5週連続で資金が流出。純流出額は37億5000万ドルだった。
セクター別では、ハイテクが8億4200万ドルの純流出、一般消費財が3億3500万ドルの純流出。金融は4億6700万ドルの純流入と、3週連続で流入超となった。
米国の債券ファンドは16億2000万ドルの純流出。2週連続の流出超となった。
米国の一般国内課税債券ファンド、物価連動債ファンド、ローン・パーティシペーション・ファンドは、それぞれ21億8000万ドル、8億9200万ドル、7億9700万ドルの純流出。
国債ファンドは22億2000万ドルの純流入。前週は21億4000万ドルの純流出だった。
●米欧金融機関の経営破綻がもたらすもの 5/1
シリコンバレーバンク(SVB)など米国で相次いで発生した銀行の経営破綻は、欧州に飛び火してUBSによるクレディ・スイス・グループの買収劇にまで発展した。それ以上の金融不安の連鎖を引き起こさぬよう、米国やスイスにおいて必要な事後対応が取られたことで、金融システムを揺るがすような危機的な状況にまでは至ることなく事態は一応、収束に向かっているようにみえる。しかし、今回の事態を、長年に亘る金融緩和の中で生じてきた歪みが、金融引締めに転じたことで表面化したものとして捉えるとすれば、金融市場にはまだ多くのリスク要因が存在していると考えておくことが適切だろう。
今回起きた一連の事案、とりわけSVBの事案については、今一つ腑に落ちないところがある。SVBのビジネスモデルに特殊性があったことはその通りなのだろう。スタートアップやベンチャーキャピタル関連の事業に特化していたこと、大口法人預金が預金の大宗を占め、急速に流出したこと、多くの資金を長期の債券の満期保有に回して利鞘を稼いでいたため、預金の流出に伴ってその換金が必要となると、多額の金利リスクが顕在化したこと。しかし、金融当局からすれば、これらは、はじめから分かっていたことではないか。金融政策の転換に伴い、金利が相当程度、上昇することも当然予想されていただろう。もし、これが日本での事案だとすれば、金融庁や日本銀行による日常のモニタリングにおいて問題は把握され、改善に向けた取組みが強く促されていたはずだ。
SVBが経営破綻に至った過程についても、よく検証されていく必要がある。報じられている事実を見る限りにおいて、SVBが経営破綻に陥った直接の要因は、資本の不足ではなく、預金引き出しが相次いだことによる流動性の不足であったと考えられる。そうだとすれば、債券を担保に、最後の貸し手としての中央銀行が必要な流動性の供給を迅速に行っていれば、経営破綻、あるいは少なくとも突然の経営破綻は免れたのではないかという疑問が生じてくる。しかし実際には、そうした対応が取られる前にSVBは経営破綻に至り、FDIC(連邦預金保険公社)の管理下に置かれた後に異例の預金全額保護が行われることとなった。預金の流出が速かったという事情はあるにせよ、こうした経過を辿ったことが結果として金融市場に不安を呼び起こしたことは否定できないだろう。
以上で見た通り、今回の事態の引き金となったSVBの事案をめぐっては、その監督上の対応についてなお多くの論点が残されていると考えるが、今後の議論はこれに留まらないかもしれない。リーマン・ショック後に導入された金融機関の資本および流動性にかかる国際ルールの強化など金融規制の見直しが取り沙汰されている。だが、冒頭にも述べた通り、金融市場にはまだ多くのリスク要因が存在している。規制強化の内容やタイミングを誤ると、金融政策の転換等を受けて既に発生し始めている信用の収縮を更に加速し、大幅な景気の後退につながりかねない。十分な注意が必要だ。
●米地銀ファースト・リパブリック銀が経営破綻の恐れ…JPモルガンなど買収入札 5/1
欧米メディアは4月30日、米地銀ファースト・リパブリック銀行(カリフォルニア州)が同日にも経営破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれると報じた。同行は3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB、カリフォルニア州)を資産規模で上回っており、2008年のリーマン・ショック以降で最大の米銀破綻になる可能性がある。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、米銀大手JPモルガン・チェースなどがファースト・リパブリック銀の事業買収に向けた入札に参加したと報じた。
ファースト・リパブリック銀の資産規模は昨年末時点で約2100億ドル(約28兆円)と全米14位で、16位のSVBを上回る。4月24日には、3月中旬以降に約1000億ドル(約14兆円)の預金が流出したと発表していた。市場予想を上回る流出規模で、急速に経営不安が高まっていた。
米国では銀行が破綻した場合、1人あたり原則25万ドル(約3400万円)までの預金が保護される。大口顧客が多いファースト・リパブリック銀は保護対象外の預金を多く抱える。3月には米銀大手11行から300億ドルの預金を受けたと発表したが、破綻懸念は解消しなかった。
一部の米銀では、米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げによって保有する有価証券の価格が下落し、巨額の含み損が生じている。3月にはSVBに続いてシグネチャー銀行(ニューヨーク州)も破綻に追い込まれた。金融不安は欧州にも波及し、クレディ・スイスは、スイス金融最大手UBSに買収されることが決まった。
FRBは5月2〜3日、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)を開く。前回3月の会合では、SVBやシグネチャー銀の破綻による影響が懸念される中、0・25%の利上げを決めた。ファースト・リパブリック銀が破綻すれば一段と金融不安が強まり、FRBの判断にも影響を与える可能性がある。 
●米地銀ファースト・リパブリック銀が破綻、リーマン以降で最大… 5/1
米連邦預金保険公社(FDIC)は1日、米地銀ファースト・リパブリック銀行(カリフォルニア州)が経営破綻したと発表した。
3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB、カリフォルニア州)を上回り、2008年のリーマン・ショック以降で最大の米銀破綻になる。
発表によれば、米銀大手JPモルガン・チェースがファースト・リパブリック銀の事業を買収し、預金や支店業務を引き継ぐとしている。
ファースト・リパブリック銀の資産規模は昨年末時点で約2100億ドル(約28兆円)で全米14位。SVBの16位を上回る。4月24日の決算発表で、3月中旬以降、約1000億ドル(約14兆円)の預金が流出したと発表した。市場予想を上回る預金流出だったことで信用不安が高まり、発表後、ファースト・リパブリック銀の株価は約80%下落していた。
米国では銀行が破綻した場合、1人当たり原則25万ドル(約3400万円)までの預金が保護される。大口顧客が多いファースト・リパブリック銀は保護対象外の預金を多く抱えており、破綻を懸念した利用者が預金を引き出したことで資金繰りに行き詰まった。
米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)が進めてきた急速な利上げによって保有する有価証券の価格が下落し、巨額の含み損が生じたことで破綻に追い込まれる金融機関が相次いでいる。3月にはSVBに続いてシグネチャー銀行(ニューヨーク州)も破綻に追い込まれた。経営不安が高まったスイス金融大手クレディ・スイスは、スイスの金融最大手UBSに買収されることが決まった。

 

●米ファースト銀が経営破綻 リーマンショック以降、最大規模の銀行破綻… 5/2
経営悪化が懸念されていたアメリカの地方銀行の一つファースト・リパブリック・バンクが経営破綻しました。アメリカの銀行の破綻はこの2か月で3行目で、リーマンショック以降、最大規模の銀行の破綻となります。
記者「経営破綻したファーストリパブリック銀行ですが、きょうも通常通り営業をしています」
アメリカのFDIC=連邦預金保険公社は、1日、経営悪化が懸念されていたファースト・リパブリック・バンクが経営破綻し、銀行大手のJPモルガン・チェースが全ての預金と資産を買収すると発表しました。
銀行の顧客「喪に服しているような気分です。本当にがっかりです」「他にも破綻する銀行が出てくると思います」
ファースト・リパブリック・バンクの資産規模は4月13日時点でおよそ2291億ドル=日本円でおよそ31兆円で、経営への不安が高まる中、預金の流出が続いていました。
破綻を受け、バイデン大統領は、「すべての預金者を確実に保護するための措置を講じた」と強調しました。
●「2008年ほどの危機感はまだない」史上2番目の銀行破たん 混乱は見られず 5/2
破たんしたアメリカのファースト・リパブリック・バンク。世界的金融危機につながったリーマンショック以降、最大規模の銀行破たんですが、金融大手のJPモルガン・チェースに買収されたことで混乱は見られません。
記者「ニューヨーク・マンハッタンにあるこちらの店舗では、破たんの発表後も特に大きな混乱は見られず、営業を続けています」
利用者「口座を閉鎖するつもりです」「私は資金を預けていますが、この銀行は今はJPモルガンです。預金者としてリスクについて不安はありません」
今後、金融不安は拡大するのでしょうか。専門家は…
大和総研ニューヨークリサーチセンター 主任研究員 矢作大祐氏「ある程度コントロールしているというところはあって、(リーマンショックが起きた)2008年ほどの危機感はまだない」
ただ、3月に破たんに追い込まれた別の銀行のケースとは異なる点があるとしています。
矢作大祐氏「元々シリコンバレーバンクは問題があって破たんした。今回(ファースト・リパブリック・バンク)はシリコンバレーバンクの懸念を受けて連鎖的に破たんした。余波になる。リスクが広がったというふうに見ることができる」
また、破たんの連鎖の背景には、歴史的インフレを抑えるため、アメリカの中央銀行が進めてきた急速な利上げの副作用があると指摘しました。
アメリカ史上2番目の規模の銀行破たんについて、バイデン大統領は…
アメリカ バイデン大統領「(規制当局の)措置は金融システムが安全で健全であることを保証します」「すべての預金者は保護されている」と強調しています。
●ファースト・リパブリック破綻で米地銀株が急落 危機の「伝染」不安収まらず 5/2
米株式市場で1日、米地方銀行のファースト・リパブリック・バンクの経営破綻とJPモルガン・チェースによる買収が発表されてから数時間後、シチズンズ・ファイナンシャル・グループやPNCファイナンシャル・サービシズなど主な地銀の株価が軒並み急落した。相次ぐ地銀破綻は米国の銀行システム全体に「伝染」するのではないかという懸念がくすぶっている。
ファースト・リパブリックをめぐっては何度か救済策が試みられたものの実を結ばず、本社を構えるカリフォルニア州の金融当局が1日に同行を閉鎖した。管財人に指名された米連邦預金保険公社(FDIC)によると、米銀最大手のJPモルガンがファースト・リパブリックのすべての預金と大半の資産を引き継ぐことになった。
米国の地方銀行の破綻は3月のシリコンバレー銀行(SVB、本社カリフォルニア州サンタクララ)とシグネチャー・バンク(同ニューヨーク州ニューヨーク市)クに続いて3件目。米国の銀行破綻としてはSVBを上回り史上2番目の規模になった。
一連の発表を受けて、1日の米地銀株は総崩れとなった。シチズンズ銀行の親会社でロードアイランド州プロビデンスに本社を置くシチズンズ・ファイナンシャル・グループの株価は1日午前、6%強急落。ペンシルベニア州ピッツバーグを地盤とするPNCファイナンシャルの株価も6%近く下げた。
USバンコープ(本社ミネソタ州ミネアポリス)とトゥルイスト・ファイナンシャル(同ノースカロライナ州シャーロット)の株価もそれぞれ2.5%強下げたほか、UMBファイナンシャル(同ミズーリ州カンザス市)も4%あまり下落した。
一方、JPモルガンの株価は3%近く上昇し、年初来2番目の高値をつけた。
JPモルガンの発表によると、同行が引き取るファースト・リパブリックの預金は920億ドル(約12兆6000億円)にのぼる。うち300億ドルは3月半ばにJPモルガンなど米大手銀行が預け入れていたもの。ファースト・リパブリックの預金は、FDICの預金保険の上限25万ドル(約3400万円)を超える分も含めすべて保護されることになった。8州に計84店あったファースト・リパブリックの支店は1日にJPモルガンの支店として営業を再開する。
2カ月足らず前のSVBの破綻については、経営陣の判断ミスと米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの影響が原因と指摘されている。その数日後にはシグネチャー・バンクで取り付け騒ぎが起き、同行はニューヨーク州当局によって閉鎖された。そのころから、ほかの地銀にも銀行システム全体の問題として危機が伝染する懸念が出ていた。
●NY株式市場反落 ダウ3万4051ドル70セント ファースト・リパブリック破綻 5/2
週明け1日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は反落した。
経営危機に陥っていたアメリカのファースト・リパブリック銀行が経営破綻したことを受け、地方銀行株が売られた。
金融大手のJPモルガン・チェースが経営破綻したファースト・リパブリック銀行を買収したことが好感されダウは上昇して取引が始まったが、マイクロソフトなどハイテク株が売られたことが相場を押し下げた。
アメリカサプライ協会(ISM)の製造業総合景況指数が市場予想を上回り、FRB=連邦準備制度理事会による利上げが長期化するとの警戒感が強まったこともハイテク売りに繋がったとみられる。
結局、ダウ平均は46ドル46セント安の3万4051ドル70セントで取引を終えた。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も反落し、13.98ポイント安の1万2212.60だった。
●NY株反落、46ドル安 FRBによる利上げ長期化に警戒感強まる 5/2
週明け1日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は反落し、前週末比46・46ドル安の3万4051・70ドルで取引を終えた。米長期金利が上昇し、相対的に割高感が意識されたIT銘柄などが売られたのが相場を押し下げた。
朝方発表された米サプライ管理協会(ISM)の製造業総合景況指数が市場予想を上回った。米景気の底堅さが示されたことから、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げが長期化するとの警戒感が強まった。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も反落し、13・98ポイント安の1万2212・60。
●株価 小幅な値動き 米銀行経営破綻めぐる金融不安の懸念 後退  5/2
2日の東京株式市場、アメリカの銀行、ファースト・リパブリック・バンクの経営破綻をめぐる金融不安への懸念は後退していて、日経平均株価は小幅な値動きとなっています。
1日にアメリカのファースト・リパブリック・バンクが経営破綻したことに対して、ニューヨーク市場では資産と業務が大手銀行に引き継がれたことから金融不安への懸念が後退し、影響は限定的でした。
東京市場では値上がりして取り引きが始まり、日経平均株価は一時取り引き時間中としてのことしの最高値を更新しました。
円安を背景に輸出関連の銘柄を中心に買い注文が集まりましたが、その後は値上がりした銘柄に売り注文も広がり、売り買いが交錯して小幅な値動きとなっています。
   ・日経平均株価、午前の終値は前日の終値より18円35銭安い2万9104円83銭
   ・東証株価指数=トピックスは7.64下がって2070.42
   ・午前の出来高は5億922万株でした。
一方、東京外国為替市場では、アメリカの長期金利の上昇を背景に円を売ってドルを買う動きが強まり、円相場は値下がりしています。
市場関係者は「ファースト・リパブリック・バンクの資産と業務が大手銀行に引き継がれたことで先行きの不透明感が和らいだと受け止めた投資家もいた。ただ、アメリカの金融市場に与える影響は今後も慎重にみていく必要がある」と話しています。
●米大統領、銀行の規制強化 5/2
バイデン米大統領は1日の演説で、中堅銀行ファースト・リパブリック銀行の破綻を踏まえ、銀行への規制強化を改めて進める意向を示した。3月のシリコンバレー銀行(SVB)などの破綻で検討してきたが「再びこのような状況に陥らないようにしなければならず、そのための道を順調に進んでいる」と述べた。ファースト銀の経営陣の責任を追及する考えも示した。
米銀の破綻は今年3行目。ファースト銀の総資産は4月13日時点で2291億ドル(約31兆円)に上り、2008年の金融危機リーマン・ショック後最大で、米史上2番目の銀行破綻となった。
金融大手JPモルガン・チェースが買収し、ファースト銀の預金と大半の資産を引き継ぐことになった。バイデン氏は「全ての預金者は保護される」と強調。相次ぐ銀行破綻を受けた市場の動揺を沈静化する狙いがあるとみられる。
一方、投資家は今回の買収を好意的に受けとめたもようだ。1日の米株式市場でJPモルガンの株価は上昇し、前週末と比べ2%超値を上げた。
●NY外為市場=ドル約2週間ぶり高値、FRB利上げ見通し変わらず 5/2
終盤のニューヨーク外為市場では、ドル指数が約2週間ぶりの高値に上昇した。米連邦準備理事会(FRB)が今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25ベーシスポイント(bp)の追加利上げを実施するとの見通しは変わっていない。
投資家は、FRBが5月以降の利上げ一時停止を示唆するか、あるいは6月以降の追加利上げの可能性を維持するかに注目することになる。
バノックバーン・グローバルフォレックスのチーフマーケットストラテジスト、マーク・チャンドラー氏は「利上げ一時停止を示唆するとの見方も多いが、そんな余裕はないとみている。FRBはある程度の選択肢と柔軟性を維持したいと考えている」と述べた。
ドル指数は一時、4月19日以来の高値となる102.19を付けた。終盤は0.41%高の102.13となった。
ユーロ/ドルは0.43%安の1.0970ドルとなった。
欧州中央銀行(ECB)は4日の理事会で7回連続の利上げを行うことが広く予想されており、利上げ幅は50bpになるとみられている。ベーシスポイントの引き上げが視野に入っている。
一方、ドル/円は0.84%高となり、3月8日以来の高値となる137.46円まで上昇した。日銀は27―28日に開いた金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を全員一致で決めた。
オーストラリア準備銀行(中央銀行)も2日の理事会で政策金利を3.6%に据え置く可能性が高いと見られている。豪ドルは0.20%上昇し0.6630ドルとなった。
この日は、多くの市場がメーデーの祝日で休場となったため、取引量は少なかった。
●米国、90年ぶりのドル供給急減…インフレより信用収縮心配する時 5/2
オフィスビル価格の急落に注目すべき
互いに異なる見解を持つ2人の専門家に同じ日に電話インタビューをした。FRBが3月のM2増加率を発表した直後の先月27日だった。ハンキー教授は持論通りにM2急減が物価と成長率に影響を与えると話した。ところがサイナイ代表は普段と違う話をした。「最近銀行破綻とドルの大移動のためM2は再び注目すべき指標になった」とした。M2増加率が90年ぶりに急減した異例の事件のため「忘れられた指標」が復活した格好だ。
一般的に米国のM2増減とニューヨークの株価の間には1〜9カ月ほどの時差が発生する。実体経済との間には6〜18カ月、物価との間には12〜24カ月程度の時差がある。ハンキー教授は「M2は2022年7月に21兆7000億ドルに達した後減り始めた。M2が減少し始めて9カ月ほど過ぎたので実体経済に沈滞の兆しが現れるからと驚くことではない」と話した。
サイナイ代表とハンキー教授は景気低迷と物価上昇率下落を懸念する線にとどまらなかった。慎重に「信用収縮と金融危機につながる可能性を警告したい」とした。2人が指摘した発火地点は業務用不動産(CRE)市場だ。
すでに米業務用不動産価格は1−3月期に金利上昇と貸付減少のため明確に落ち込んだ。そのため世界的ファンドであるブラックストーンの実績が急減した。このように疲労症状を見せた業務用不動産市場は銀行貸付などがさらに減ればM2の追加減少となり、さらに深いどん底に陥りかねないという話だ。
FRBの一進一退の政策が禍根
米業務用不動産市場は2020年以降に中小都市銀行が競争的に資金を貸し付けたところだ。最近中小銀行は破綻の崖っぷちで貸付を抑制している。これに先立ち莫大な資金を供給した業務用不動産価格がさらに下がり自分たちを危険に陥れる悪循環を起こしている形だ。
中小銀行の危機を沈静化するためFRBと米預金保険公社(FDIC)などは必死に動いている。預金離脱と株価急落で窮地に追い込まれた中小銀行ファーストリパブリックを大型銀行に吸収させる作業にも積極的だ。2008年春に危機に陥った投資銀行ベアー・スターンズを他の投資銀行に半強制で吸収させた事例を思い起こさせる。
FRBの希望通りに危機の中小銀行を吸収合併させるからとドルがまともに回るかは疑問だ。ハンキー教授は「パウエル議長らFRB内部者がインフレを一時的な現象と言いながら突然インフレファイティングに急変したため都市銀行が受ける衝撃を考えられなかった。そのため信用創出エンジンが以前の利上げよりさらに萎縮しM2が90年ぶりに急減する事態が発生した」と指摘した。 
●米国で相次ぐ銀行破綻、金融システムの信用を回復させるには 5/2
高く評価されていた米国の金融機関がまたも破綻した。預金者は保証を求めており、銀行は今後銀行システムに対する信頼を回復するための方法を模索している。
銀行は経済における金融システムを機能させるための「配管」を提供している。そうした目で見ると、この配管システムこそ保険をかけられるべきものであることが判然とする。
そうすれば、あらゆる規模や形態の法人に安定と信用をもたらし、米国のうらやましがられる大規模な金融システムでより公平な競争を促進することができる。
米国には現在、個人または団体の1口座あたり25万ドル(約3440万円)を上限とする預金保護制度があり、さまざまな方法で追加の保険がかけられているが、その中には合成的に作られたものもある。その他の預金はすべて保護されていない。
多くの銀行が最近注目してきたのは、主に法人口座が保有する保護されていない預金の比率だ。直近の銀行破綻を受けて、消費者や企業は資金を複数の金融機関に分散させるべき、あるいは資金を最大手の金融機関に預けた方が安全だと考える風潮が見受けられる。大手行に預けるというのは結局、大きすぎて潰せないという構造を補強する。中小銀行や地方銀行は預金の保険を広げるために実質的に仲介業者を利用する相互預金商品の使用で対応してきた。
最も残念なことは、こうした事態が業界の信用喪失につながったことだ。リアルタイムで情報を発信できるようになり、金の動きも速くなったことで、銀行の取り付け騒ぎが短時間に凝縮して起こった。他の銀行でも同様の影響が見られ、いくつかの地方銀行では大規模な預金流出が発生した。
信用を回復するために、業界の一部は連邦預金保険公社(FDIC)による預金の完全保護を求めている。この対応は極端から極端に振れる振り子だ。短期的には落ち着くことになるかもしれないが、一連の長期的な課題に直面することになり、無謀な競争者が出てくる可能性がある。
中小企業の経営者は雇用する従業員から、金を払って利用している業者、提供するサービスに至るまで、毎日、地域経済を活性化させている。中小企業が成長すればするほど、経済への影響も大きくなる。請求書の支払いや給与支払いなど日々の業務に銀行サービスを利用している企業は、金融システムが危機に瀕していることを疑うべきではない。
こうした企業の多くは平均残高が25万ドルを超えている。筆者は分割されたシステムが必要だと考えている。その1つが当座預金と呼ばれるもので、事業の日々の機能を支える資金が全額保護される。コアバンキングサービスを日常的に利用する事業主は当座預金に心配不要の資金を持つべきだ。
もし、余剰資金があってそれを利息が払われる口座に移せば、他の投資と同じようにリターンを得るために負うリスクがある。
現在、破綻騒ぎをきっかけに金融システムの信用についてさまざまな意見が飛び交っている。銀行業界の核となる要素を念頭に置き、銀行をサポートする解決策に取り組むことが重要だ。米経済の強さはその自由市場システムの多様性からきており、それはさまざまな規模の銀行によって支えられてきた。銀行の破綻がシステム全体でのパニックを引き起こしてはならない。究極的には、私たちの配管を支え、力を与える解決策が必要だ。
●「銀行システムの健全性を確保」バイデン大統領 金融不安払拭へ 5/2
アメリカのバイデン大統領はファースト・リパブリック銀行の経営破綻を巡り、金融当局の対処によって銀行システムの健全性が確保されると強調しました。
アメリカ、バイデン大統領:「はっきりさせておきたいのは、預金者は保護されるが、銀行の株主は投資分を失うということだ。決定的なことは納税者は責任を負わないということだ」
ファースト・リパブリック銀行はアメリカで史上2番目の規模の銀行破綻となり、大手銀行のJPモルガン・チェースが資産や預金を引き継いで買収することになりました。
アメリカで銀行の経営破綻が続くなか、バイデン大統領は金融当局の措置によって預金者が保護され納税者の負担も回避でき、銀行システムの安全性と健全性が確保されると強調しました。
また、銀行の規制強化の重要性を訴えています。
●日本の銀行株は軒並み下落 東京市場でも警戒感広がる 5/2
2か月足らずでアメリカの3つの銀行が破たんする異例の事態に、東京市場でも警戒感が広がっています。
きょうの東京株式市場では、円安が130円台半ばまで進んだことで自動車など輸出関連株が買われましたが、午前は18円の値下がりとなりました。
相場の重しとなったのが銀行株です。アメリカの金融機関への信用不安がくすぶっていることから、三菱UFJフィナンシャル・グループなど日本の銀行株も軒並み下落しています。
また、市場に不安を与えているのが、アメリカの中央銀行にあたるFRBの追加利上げです。FRBのあまりに急速な利上げが、中小の銀行の資金繰りを悪化させ、相次ぐ破たんを招いたにもかかわらず、市場では今週、FRBが再び0.25%の利上げに踏み切るのではという見方が強まっています。
史上2番目の銀行破たんが起きる中で、また利上げするのか。追加の利上げが銀行の経営を圧迫し、預金の流出が続くと、さらなる銀行の破たんも現実味を帯びることになるため、当面は日本だけでなく、世界の市場で緊張が続くことになります。

 

●NY証取、ファースト銀を上場廃止へ 5/3
ニューヨーク証券取引所は2日、経営破綻し米銀最大手JPモルガン・チェースに買収されることが決まった地銀ファースト・リパブリック銀行の株式を上場廃止にすると発表した。普通株に加え、7種類の優先株も上場廃止となる。
ファースト銀は2007年にメリルリンチが買収。その後メリルを傘下に収めたバンク・オブ・アメリカ(BofA)が08年の金融危機を受け売却し、10年に再上場した。
時価総額は21年11月に400億ドルを超え、ピークを付けていた。
●金融不安が燻る米国に追い打ち、債務上限危機とデフォルトリスクの正念場 5/3
金融不安が燻る米国。破綻したファースト・リパブリック・バンクについてはJPモルガン・チェースが引き受ける形で救済したが、同じ状況に追い込まれている中堅銀行は少なくないとみられている。その中で、追い打ちをかけるような事態が進行中だ。米国政府の債務上限問題である。
米国のイエレン財務長官は5月1日、「議会が債務上限の引き上げ、ないしは停止を決めなければ、米政府は債務不履行に陥るリスクがある」として、「米国の完全な信頼と信用を守るように」と議会に迅速な対応を求めた。
米政府の現在の法定債務上限は31.4兆ドル。規定がある以上、これに抵触すると新たな国債発行はできないうえ、利払いや償還もできなくなる可能性がある。長期的にそうした状態が続く可能性は低いが、短期的には市場が混乱しうる。
これを受けて、バイデン大統領は、5月9日に話し合いを行うため、共和党のケビン・マッカーシー下院議長と民主党・下院院内総務のハキーム・ジェフリーズ議員、上院で多数を握る民主党のチャック・シューマー院内総務、共和党のミッチ・マコネル上院議員に連絡を取ったという。
米国の政府債務問題は出口が見えない状態に陥っている。
予想よりも早まったXデー
1月にすでに法定上限に到達したが、そこでは特別措置(公務員退職・障害基金への投資の一時停止などのやりくり)によって、なんとかクリアした。だが、議会予算局(CBO)は7〜9月には上限にぶち当たるという見通しを出していた。
4月15日が2022年分の確定申告の期限で、4月にはキャピタルゲイン課税の納付の状況をめぐって危機が6月にも早まるのではないか、いや、6月はクリアできそうだ、と一喜一憂する有様だった。
4月25日にはイエレン財務長官が、「債務上限の引き上げに失敗して、デフォルトを引き起こすような事態になれば、今後何年も金利が上昇する経済的惨事の引き金になる」と警告を発した。
26日には共和党が僅差で過半数を握る下院で1兆5000億ドルの債務上限引き上げと引き替えに、経費削減を行う法案を通過させた。再生エネルギー奨励策の廃止や低所得者支援の受給条件を厳しくするなど、国防費以外の経費の削減を盛り込んだものだ。
マッカーシー下院議長は就任に際して共和党内強硬派のフリーダム・コーカスの執拗な抵抗に会い、「債務上限の引き上げには経費の削減を要求する」という約束をした経緯がある。
しかし、民主党はこの法案を、いつもの共和党の瀬戸際作戦だとして、反発し話し合いにも応じなかった。
バイデン大統領の態度に対して噴出する不満
バイデン大統領は、気候変動問題や国民経済を人質に取った強迫だと非難して、共和党の要求を一蹴。民主党が過半数を握る上院では通らないため、膠着状態になっていた。
ただ、バイデン大統領の態度に対しては、エコノミストや超党派のシンクタンク「責任ある連邦予算委員会」のマヤ・マクギネス委員長からも無責任との批判が出ていた。
バイデン大統領は今月後半に東京で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席する予定もあり、引き上げ交渉の時間はない。また、もともと債務上限の引き上げはハードルが高い。小さな政府を標榜する共和党が債務上限の引き上げは認めたくないのは言うまでもない。
だが、民主党も「借金を増やした財政健全化に反した政権だ」という汚名は避けたい。みずほリサーチ&テクノロジーズの小野亮プリンシパルは「ここ10年ほどは「適用停止」という手段が頻繁に使われてきた」と話す。今回も、そうなるかもしれない。
金融不安も収まらず、米政府の正念場
今回、イエレン財務長官は6月1日というデッドラインを示して、早期の解決を迫ったわけだが、これは金融不安が燻る中で危機感の足りないバイデン政権に解決を促したと言えるだろう。
破綻したファースト・リパブリック・バンクについてはJPモルガン・チェースが引き受ける形で、なんとか危機の波及を抑え込んだ。だが、金利の上昇による債券の含み損を抱え、預金流出リスクにさらされている中堅銀行はまだある。
銀行不安のみならず、5月はファンドの財務状況が明らかになってくる月でもある。再び、金融危機の火種が噴出したときに、政府自らが国債の利払いをめぐって危機の火種になるような事態はなんとしても避けなければならない。
5月3日のFOMC(連邦公開市場委員会)にはインフレを抑え込むために、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が今一度0.25%ポイントの利上げを行うとみられている。潜在的な金融危機リスクに配慮して、6月以降は利上げを停止する可能性が高まったが、物価や賃金の上昇はようやく減速が見えてきた程度であり、金利の高止まりは続く。
米中堅銀行の預金金利は0%台で、ガバメントMMFの金利は4%台なので、不安が高まれば余剰資金はガバメントMMFに逃げ込み、決済資金は大手銀行にシフトする構図だ。
みずほリサーチ&テクノロジーズの小野亮プリンシパルは「インフレが収まってFRBが利下げに転じない限り、中堅銀行における預金流出のリスクには去らない。そればかりか、ノンバンクのファンドでも同様のことが起きるだろう」と指摘する。米国政府・金融当局とFRBの正念場が続く。
●米政府が銀行救済を秘密裏に進めていた日、ビットコイン取引数は過去最高 5/3
4月30日、米政府が水面下で2つの銀行と救済案を練っていた頃、ビットコインネットワークは1日あたりの取引数が過去最高を記録した。2017年の強気相場の中で達成したこれまでの記録を超え、14年の歴史の中で確定された取引数が最多となった。翌5月1日には、ファースト・リパブリック銀行が公的管理下に置かれ、その後、JPモルガン・チェースが預金と資産を買収。アメリカ史上、2番目の規模の銀行破綻となった。
偶然の一致
ビットコインの利用増加と、アメリカ金融業界の最新の惨事という2つの出来事は、正確には関連性はない。だが、このタイミングの一致は、暗号資産業界の未来とますます機能不全に陥る経済におけるビットコイン(BTC)の可能性について何かを示唆している。規制当局や政治家が広範な経済への暗号資産の浸透を妨げようと取り組むなか、民間銀行セクターは自力でやっていけないという事実を露呈している。
数週間にわたる不透明感と株価低迷後、ファースト・リパブリック銀行は連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に移行。取り付け騒ぎとその影響の拡大、FDICの準備資産の枯渇というリスクの可能性を防ぐための措置だった。
FDICは即座に「(ファースト・リパブリック銀行の)預金のすべてと実質的にその資産のすべて」を米銀最大手のJPモルガン・チェースに売却。JPモルガンは取引を完了させるために、500億ドル(約6兆8500億円、1ドル137円換算)の融資も受けた。1日に市場が開く前に急いでまとめられたと報じられる今回の取引に、民主党議員たちはおそらく異議を唱えるだろう。
「政府が私たちや他の銀行に協力を呼びかけた。だから、そうした」とJPモルガンのジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)CEOは語った。同氏は最も有名なブロックチェーン支持者として知られ、また長年ビットコインを批判してきた人物として知られている。
大きな動きの一部
ファースト・リパブリック銀行の破綻は、ビットコイン誕生のきっかけにもなった2008年の世界金融危機で破綻したワシントン・ミューチュアル(Washington Mutual)に次ぐ史上2番目の規模。ファースト・リパブリック銀行の経営陣にもある程度の責任はあるが、同行の破綻は少なくとも部分的には、シルバーゲート銀行やシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行を破綻に追い込んだ利上げと米連邦制度理事会(FRB)によるタカ派的金融政策が原因だという点でエコノミストの意見はおおむね一致している。
この状況とビットコインが特に関連しているのは、暗号資産業界がポピュリズムに向かう広範な政治再編の一部である点だ。中央銀行の権威や既得権益に挑むムーブメントは暗号資産だけではない。多くの人はファースト・リパブリック銀行の救済を、利益は一部の民間企業に移され、損失が社会に転嫁される新たな事例と見るだろう。
FDICの準備資産が大幅に減少することを避けるために、政治家たちはすべてのアメリカの銀行は大き過ぎて潰せないと言ってしまったも同然だ。これは、一部の階級の人たちを、自らの決断から生じた結果から守るというある種の道徳的なジレンマだ。
ビットコインはオルタナティブな通貨システムとして台頭し、多くの人はビットコインは最終的には現在の米ドルのような世界の基軸通貨になり得ると考えている。(米ドルをコントロールする政治的利益や金銭的利害とは異なり)ビットコインは社会的コンセンサスで決定した固定された発行スケジュールをはじめ、事前に決定されたルールに従っているため、一部の人には魅力的に映る。
オープンソースという自由さ
ビットコイン価格は前回の一連の銀行破綻の間に着実に上昇した。今回も上昇するかもしれない。だからと言って、ビットコインは金融界の混乱に対する「ヘッジ」だというわけでも、人々がますます信頼を失っている銀行よりも「トラストレス」な金融システムを選んでいるというわけでもない。
ビットコインブロックチェーンが今回マイルストーンを達成したタイミングは、純粋に偶然。ビットコインの取引数は、ビットコインがNFTに対応できるようになったBitcoin Ordinalsのスタート以降、増加していた。
デジタル資産メディアBlockworksが引用したグラスノード(Glassnode)のデータによれば、これまでに239万のOrdinals(=ビットコインNFT)が作成された。しかし、ビットコインNFTは現在、ビットコインネットワーク上の取引の約半分を占めているが、すべてのビットコイナーがNFTへの対応は価値ある機能だと思っているわけではない。
通貨としての用途だけを守り、NFTなど取るに足りない考えているビットコイン純粋主義者は多い。だが申し訳ないが、ビットコインはオープンソースネットワーク。つまり、人々は好きなようにこのテクノロジーを使う自由がある。ビットコインが将来のグローバル経済で役割を果たせるとすれば、それは人々が好きなように使うことができる自由があればこそだ。 
●アメリカ中堅行の株価急落 危機終息の楽観論一転、信用不安再燃も 5/3
ニューヨーク株式市場で2日、米国の中堅行の株価が大幅に下落した。前日に全米14位のファースト・リパブリック銀行の破綻処理が円滑に進んだことで、市場では「3月上旬に始まった銀行危機は終わった」(アナリスト)との楽観論が広がっていたが、一転して信用不安がくすぶる展開となっている。
株価が急落したのはカリフォルニア州に拠点を置く全米53位のパシフィック・ウェスタン銀行。一時、前日終値比42・0%安の5・26ドルまで下落し6・55ドルで取引を終えた。銀行危機が始まる前の3月1日の終値(27・99ドル)に比べ7割以上、価値が下がっている。
パシフィック銀の2022年末の総資産額は411億ドル(約5・6兆円)で破綻したファースト銀の3分の1程度の規模。一連の銀行危機の引き金となったシリコンバレー銀行と同じく新興企業向け取引が多く、一時、大量の預金流出に見舞われた。米メディアによると、4月以降、流出していた預金が戻ってきていたがファースト銀の破綻を受け、不安が再燃した格好だ。
アリゾナ州に拠点を置く全米40位のウェスタン・アライアンス銀行の株価も2日、一時前日終値に比べ3割近く下落した。終値は30・93ドルで、危機前に比べると約6割価値が下がっている。
不安の背景には、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げがある。FRBは22年3月以降、金融引き締めを続けてきたが、金利が上がれば中堅行の保有する国債の価値が下がり財務基盤が弱くなる。シリコンバレー銀などは、預金引き出しに対応するため値下がりした国債を売却して多額の損失を計上し、破綻に追い込まれた。

 

●FRB議長「インフレ圧力は依然高い水準」金利0.25%引き上げ 5/4
アメリカの中央銀行にあたるFRB(=連邦準備制度理事会)は3日、金融政策を決定する会合を開き、0.25パーセントの利上げを決めました。
FRBは3日、政策金利を0.25パーセント引き上げることを決めました。利上げは10会合連続で、リーマンショック前の2007年以来の水準に並びました。
ファースト・リパブリック・バンクなど銀行の経営破綻が相次ぎ、金融不安がくすぶる中、インフレを抑え込むことを優先した形です。
FRBパウエル議長「インフレ率は、去年の半ば以降いくぶん緩やかになっている。しかし、インフレ圧力は依然として高い水準で、2%の目標まで道のりは遠い」
パウエル議長はこのように述べた上で、今後の引き締め策を判断する際は、データを考慮するとしていて、利上げ打ち止めの可能性を示唆しました。
●米FRB 0.25%の利上げ決める 金融不安も物価高の抑制優先 5/4
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は3日、0.25%の利上げを決めました。金融不安が広がっていますが、物価高の抑制を優先した形です。
FRBは3日、政策金利の誘導目標を0.25%引き上げ、年5.25%を上限とすることを決めました。
去年3月から10回連続での利上げです。
1日に「ファースト・リパブリック・バンク」の経営破たんがあり、金融不安が広がっていましたが、物価高の抑制を優先しました。
FRB パウエル議長「3月に発表した声明には『追加の政策措置が適切だ』という表現があったが、今回の声明ではその表現がなくなっている」
パウエル議長はこのように述べ、次回、6月の会合では金利の引き上げを見送る可能性を示唆しています。
●地銀不安、商業不動産が火種に 融資減で資金繰り懸念―米 5/4
米国では、中堅銀行の相次ぐ破綻で、商業用不動産市況の悪化に拍車が掛かるとの懸念が強まっている。オフィスビルやショッピングモールなど商業用不動産への貸し付けが多い中堅・中小の地方銀行が、金融不安を背景に融資を絞れば、関連企業の資金繰りが悪化する恐れがある。関連する金融商品も多く、金融不安増大の火種と警戒されている。
商業用不動産価格は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを始めた昨年、下落に転じた。調査会社グリーン・ストリート・アドバイザーズが算出する商業用不動産価格指数は今年3月にはピークだった1年前から15%下落。特にオフィスの下落率は25%と落ち込みが顕著で、「在宅勤務の普及など働き方の変化も逆風」(邦銀関係者)という。
苦境を助長しかねないのが、シリコンバレー銀行やファースト・リパブリック銀行などの破綻による金融不安だ。
調査会社トレップによると、商業用不動産向けローン残高のうち、中堅・中小銀行を中心とした銀行融資は半分を占める。「地元の事情に詳しい地銀が力を発揮しやすい」(米エコノミスト)とされ、金融緩和期に大きく残高を伸ばした。
しかし、3月以降の銀行破綻を踏まえ、中堅・中小銀行の間では、財務基盤強化のため融資を厳しくする動きが広がっている。不動産開発会社の資金繰りが悪化すれば、銀行にとっても不良債権の増大につながり、経営危機を招く悪循環に陥る恐れがある。
商業用不動産担保ローン証券や不動産投資信託(REIT)でも、価格下落圧力は強まっている。米銀幹部は、商業用不動産関連の貸倒損失はまだ大幅増加が見られないが、「時間とともに厳しさは増していく」と話している。
●米国株式市場=続落、FRB利上げの行方に不透明感残る 5/4
米国株式市場は続落して取引を終えた。当初は上昇していたが、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見で、FRBの次の一手に不透明感が残ったことで、下落に転じた。
米連邦公開市場委員会(FOMC)声明を受けて、指数は指数は当初、上昇を維持した。
しかし、パウエル議長の会見後に株価は急落し始めた。パウエル氏は、FRBは依然としてインフレ率が高すぎるとみているとし、利上げサイクルが終わったと考えるのは早すぎると述べた。
FRBは5月2─3日に開いたFOMCで、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ5.00─5.25%とした。
S&P500の主要業種は全て下落。エネルギーと金融が最も大きく下落した。KBW地域銀行指数は0.9%下落し、週初からの下落幅を拡大した。
投資家は、金利の上昇で最終的に景気後退に陥る可能性を懸念している。
個別銘柄では、米半導体大手アドバンスト・マイクロ ・デバイセズ(AMD)が9.3%下落。パソコン(PC)市場の低迷を背景に四半期の売上高が予想を下回った。
米取引所の合算出来高は120億3000万株。直近20営業日の平均は105億1000万株。
ニューヨーク証券取引所では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を1.44対1の比率で上回った。ナスダックでは1.00対1となった。
●NY市場 ダウ平均株価 200ドル超の値下がり FRB利上げ発表受け  5/4
FRB=連邦準備制度理事会の利上げの発表を受けた3日のニューヨーク株式市場でダウ平均株価は200ドルを超える値下がりとなりました。
3日のニューヨーク株式市場、ダウ平均株価はFRBが発表した声明とパウエル議長の記者会見の内容をめぐって売り買いが交錯しました。
0.25%の利上げは市場の予想通りだった一方、FRBの声明文が変更され利上げの停止を示唆しているとの受け止めが出て、ダウ平均株価は値上がりする場面もありました。
しかし、その後、パウエル議長が記者会見でインフレの収束には時間がかかるとして早期の利下げを否定したことなどから景気減速への懸念が高まり、株価は値下がりに転じました。
ダウ平均株価の終値は、前日に比べて270ドル29セント安い、3万3414ドル24セントでした。
市場関係者は「相次ぐ銀行破綻を受けて投資家の間でリスクを避ける動きが出ていることも株価下落につながった」と話しています。
また、3日のニューヨーク外国為替市場ではFRBが利上げの一時停止を示唆したとの受け止めから日米の金利差縮小が意識されドル売り円買いにつながり、円相場は一時、1ドル=134円台後半まで値上がりしました。
●NY外為市場=ドル下落、FRBが利上げ停止の可能性示唆 5/4
ニューヨーク外為市場では、米連邦準備理事会(FRB)が利上げ停止の可能性を示唆したことを受け、ドルが下落した。
FRBはこの日までの2日間の日程で開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、全会一致で0.25%ポイントの利上げを決定。前回のFOMC声明で「幾分の追加的な金融政策引き締めが適切になるかもしれないと予想する」としていた部分を「追加的な金融政策の引き締めがどの程度適切かを決めるに当たり、委員会は金融政策の度重なる引き締め、金融政策が経済活動とインフレ率に及ぼす影響の遅れ、および経済と金融の動向を考慮する」に変更した。
ただ、利上げサイクルの終了を明確に確約しなかったため、ドルはFOMC声明発表直後に付けたこの日の安値からは上向いた。
主要6通貨に対するドル指数は0.42%安の101.24。一時は101.05と、4月26日以来の安値を付けた。
ユーロ/ドルは0.46%高の1.1047ドル。先週付けた13カ月ぶり高値(1.1093ドル)近辺にとどまっている。
欧州中央銀行(ECB)は4日の理事会で0.25%ポイントの利上げを決定するとの見方が大勢となっている。
ドル/円は1.02%安の135.15円。
FOMCがこなされ、市場は5日発表の4月の雇用統計のほか、来週発表される消費者物価統計に注目。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(ボストン)のチーフ投資ストラテジスト、マイケル・アローン氏は「FRBは、インフレに対応しながら経済のソフトランディング(軟着陸)を目指すという綱渡りを強いられている」と述べた。
ドル/円 NY終値 134.68/134.70
●原油先物4%下落、FRB利上げ後に下げ幅を拡大 5/4
米国時間の原油先物は4%下落。米連邦準備理事会(FRB)による利上げ後、前営業日からの下げ幅を拡大した。
清算値は北海ブレント先物が2.99ドル(4%)安の1バレル=72.33ドル、米WTI先物が3.06ドル(4.3%)安の68.60ドル。 
●FRB議長が抱える難題 インフレ抑制と金融安定の両立 5/4
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は「米国の銀行システムは良好で強固だ」と強調し、インフレ抑制を優先して主要政策金利を0・25%引き上げた。ただ、相次ぐ銀行破綻の影響で銀行が融資を縮小する動きも出始めており、FRBのパウエル議長は慎重な判断と状況の変化に応じた迅速な対応が求められることになる。
パウエル氏は記者会見の冒頭、3月にシリコンバレー銀行(SVB)やシグネチャー銀行が相次いで破綻したことに関し、「銀行部門の状況はおおむね改善している。状況を引き続き監視し、そのような出来事が再び起こらないよう取り組む」と語った。
FRBは昨年、記録的なインフレ対応で通常の3倍となる0・75%の利上げを4会合連続で行うなど異例の措置を実施。急ピッチな利上げを受けた金利上昇で、銀行が保有する債権価格が下落し含み損が発生するという副作用を抱える。
SVB破綻はその副作用が一因とされ、経営危機の可能性を見通せなかった金融当局の対応が問題視された。ファースト・リパブリック銀行が1日に破綻した直後の利上げ決定だけに、銀行システムの安定を強調する姿勢が目立った。
ただ、先行きを警戒する銀行で融資条件を厳格化する動きが出る中、景気を冷やす利上げを継続したことで、景気悪化を懸念する声が高まる可能性もある。
パウエル氏は会見で、同日発表した声明に関して前回からの変更点を指摘し、「もはや追加的な金融引き締めを見込むとは言っていない」と述べ、利上げ停止の可能性も示唆した。
景気悪化の懸念を強める追加利上げの必要性が弱まっていることをにじませつつ、インフレ対応を着実に実施する姿勢も示す複雑なメッセージとなっている。
ロイター通信によると、バイデン政権高官からは利上げによる銀行への悪影響を懸念する声も出始めている。パウエル氏は、経済・金融の安定とインフレ抑制を同時に達成するという難しい政策のかじ取りを迫られている。
●FRB、金利0・25%引き上げ 金融不安もインフレ抑制重視 5/4
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は3日、金融政策を協議する連邦公開市場委員会(FOMC)で、主要政策金利を0・25%引き上げることを決めた。1日に米中堅銀行のファースト・リパブリック銀行が経営破綻し金融システムへの不安が高まる中、インフレ抑制を重視し金利を引き上げた。同日に発表した声明では、従来の「追加的な引き締めが適切と予想している」との文言を削除し、利上げ打ち止めの可能性も示唆した。
FRBは声明で、利上げの理由に関し「雇用は堅調で失業率は低水準で推移している」と指摘し、インフレは「高い状態にある」と述べた。利上げは2022年3月から10会合連続。誘導目標は5・0〜5・25%とし、2007年以来の高水準となる。
またFRBは声明に「引き続きインフレリスクを注視する」と明記。インフレ率を長期的に2%に戻す目標に向け、状況によって対応を「適切に調整する用意がある」と述べ、慎重に対応していく姿勢を示した。
パウエルFRB議長は会合後の記者会見で、物価上昇率に関して「それほど早くは下がらない」との見通しも示し、早期の利下げに否定的な考えを述べた。
FRBがインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)物価指数は、今年3月の数値が前年同月比4・2%上昇と、FRBの目標2%を大きく上回っている。
パウエル氏は、不安がくすぶる米国の銀行システムについて「良好で強固だ」と強調した。
●NY市場サマリー 5/4
為替
ドルが対ユーロで上昇した。欧州中央銀行(ECB)が利上げ幅を縮小したことを受けた。
欧州中央銀行(ECB)は4日の理事会で、予想通り0.25%ポイントの利上げを決定した。利上げ幅はこれまでの0.5%ポイントから縮小。ただ、ラガルド総裁は理事会後の会見で、インフレ抑制に向け利上げを「停止しない」と強調した。
前日には米連邦準備理事会(FRB)がフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ5.00─5.25%とした一方、利上げ停止の可能性を示唆した。
スコシアバンク(トロント)のチーフFXストラテジスト、ショーン・オズボーン氏は「金融政策のダイナミクスは、引き締めサイクルという点で、現時点では多かれ少なかれ完全に織り込み済みだ。今後はFRBがいつ緩和し始めるのか、どの程度緩和するのか、他の中銀の動きとどのように関与するのか、などに焦点が当てられる」と述べた。
ドル指数は0.15%高の101.36。ユーロ/ドルは0.41%安の1.1018ドルとなった。ドル/円も0.34%下げ134.17円。
CMEグループのフェドウオッチによると、フェデラル・ファンド(FF)金利先物市場ではFRBがが7月までに利下げに着手する確率を約62%としている。
モルガン・スタンレーのアナリストは「FRBの利上げは終了したと考えているが、米ドルは上昇するだろう」と指摘。「米債利回りの低下はリスクオフの取引環境の到来を告げている可能性があり、ドル高を暗示している」とした。
23年第1・四半期の生産単位当たりの報酬を示す単位労働コストは前期比6.3%上昇。22年第4・四半期の3.3%上昇から加速したこともドルを一時的に押し上げた。
ポンド/ドルは0.10%高の1.2580ドル。序盤には一時1.2593ドルと2022年6月以来の高値を付けた。
ノルウェークローネは0.87%安の10.76クローネ。ルウェー中央銀行は4日、主要政策金利を予想通り25ベーシスポイント(bp)引き上げ3.25%とした。6月に追加利上げする公算が大きく、通貨安が続けば一段の引き締めもあり得ると表明した。
債券
パックウエスト・バンコープなど複数の地銀株が急落したことを受けて銀行危機深刻化の懸念が高まり、長期債利回りが低下した。
10年債利回りは3.373%、2年債の利回りは3.763%。一時4月6日以来の低水準を付ける場面があった。30年債利回りは3.731%だった。
この日は終日、長期債の利回りは低下した。米連邦準備理事会(FRB)が年内に利下げを行うとの期待が高まった。
市場では7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ確率が60%以上織り込まれている。3日には9月の利下げを織り込んでいた。
バンガード・フィクストインカムグループでの国債担当幹部ジョン・マジイヤー氏は「現在の市場を動かしているのは、経済指標の内容よりも金融安定性への懸念だ」と指摘した。
朝方に発表された経済指標を受けて、利回りは当初急上昇した。
米労働省が4日発表した2023年第1・四半期の非農業部門の労働生産性(速報値)は年率換算で前期比2.7%低下した。一方、生産単位当たりの報酬を示す単位労働コストは前期比6.3%上昇した。
一方、投資家は、米の連邦債務上限問題を懸念し、償還期間の短い債券の投げ売りを続けている。
3カ月物国債の利回りは、夜間に5.55%に上昇し、2001年1月以来の高水準を付けた。終盤は5.24%。
3カ月物国債と3カ月のOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)のスプレッドは47ベーシスポイント(bp)まで拡大。12年2月中旬に付けた76bp以来最も大きくなった。
株式
続落して取引を終えた。米カリフォルニア州を地盤とする銀行持ち株会社パックウエスト・バンコープが戦略的選択肢を模索していると明らかにしたことで、金融機関の健全性への懸念が深まった。
パックウエストは51%安。複数のパートナー・投資家候補とあらゆる選択肢の検討を続けており、協議は進行中だとした。
このほかの地域金融機関の株価も売り込まれた。
米地銀ウエスタン・アライアンス・バンコープは一時60%超急落し、何度も取引停止となった。終値は39%安だった。ウエスタン・アライアンスは身売りを検討しているとの報道を否定した。
コメリカ、ザイオンズ・バンコープはともに約12%下落した。KBW地域銀行指数は3.5%下落。一時は約7%下落する場面があった。
カナダのトロント・ドミニオン銀行(TD)は4日、米地銀ファースト・ホライズン銀行の買収を中止すると発表。ファースト・ホライズンは33%下落した。
TIFFインベストメント・マネジメントのマネジングディレクター、ゼー・シェン氏は「地銀問題や信用の引き締めが市場の重しになっている。信用サイクルや銀行の融資基準について、投資家が現在の状況を把握し、いつ不況に陥る可能性があるのかを再確認しようとしているためだ」と述べた。
投資家の不安心理の度合いを示すボラティリティー・インデックス(VIX)は21ポイントまで上昇し、3月下旬以来の高水準となった。
S&P500の主要11セクターでは、9指数が下落した。金融は1.29%下落し、通信サービスは1.26%下落し、全体の下げをけん引した。
米取引所の合算出来高は120億株。直近20営業日の平均は105億株。
米大手銀行では、JPモルガンが1.4%安、ウェルズ・ファーゴは4.25%安などとなった。
アップルは1%下落した。
米半導体大手クアルコムは5.5%下落。第3・四半期(4─6月)の業績についてさえない見通しを発表した。
金先物
景気先行き不安が強まる中で資金の逃避先として選好され、3日続伸した。6月物の清算 値(終値に相当)は、前日比18.70ドル(0.92%)高の1オンス=2055.7 0ドル。中心限月の清算値としては、2020年8月上旬以来2年9カ月ぶりの高水準 となった。
米原油先物
エネルギー需要先行きに対する不透明感が強まる中、売り買いが交錯し、ほぼ横ばいとなった。米国産標準油種WTIの中心限月6月物の清算値(終値に相当)は前日比0.04ドル(0.06%)安の1バレル=68.56ドルと、3月下旬以来約1カ月半ぶりの安値水準だった。7月物は0.04ドル安の68.51ドル。
●ニューヨーク株式市場 4日続落 米地銀の売却報道で売り注文  5/4
4日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は4日続落し、前日比286ドル50セント安の3万3127ドル74セントで取引を終えた。
アメリカの地方銀行の売却報道を受けて金融不安が拡大し、景気の先行きへの懸念から売り注文が膨らみ、下げ幅は一時400ドルを超えた。
またFRB=連邦準備制度理事会が3日、利上げを決めたことも相場の重荷となった。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も4日続落し、58・93ポイント安の1万1966・40だった。
●上海外為市場=人民元上昇、FRB利上げ停止示唆や国内旅行好調で 5/4
上海外国為替市場の人民元相場は対ドルで上昇。米連邦準備理事会(FRB)が3日まで開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で引き締め停止を示唆し、ドルが幅広い通貨に対して売られている。
労働節の連休(4月29日─5月3日)中の国内旅行データが堅調だったことも元相場を支援している。
連休明けの国内スポット市場の元は1週間ぶり高値の6.8888元を付けた。
中国人民銀行(中央銀行)は市場の取引開始前に元の対ドル基準値(中間値)を6.9054元に設定。前営業日基準値よりも元高だった。
みずほ銀行のアジア通貨担当チーフストラテジスト、ケン・チャン氏はFRBの利上げ停止示唆を受けて資本流出圧力が弱まり、元を含むアジア通貨が上昇したと指摘。
「連休中の旅行・支出データも、リベンジ型消費を示す心強い内容だった」と語った。
労働節の連休中の国内旅行者数は新型コロナウイルス感染拡大前の水準を回復した。
●米株投資家、FRB利上げ休止示唆でも波乱を警戒 5/4
米連邦準備理事会(FRB)は3日、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ5.00─5.25%としたが、利上げ停止の可能性を示唆した。昨年来、市場を苦しめてきた利上げサイクルの終わりが見えてきたかもしれないが、株価水準や経済の先行きに対する不透明感から投資家はさらなる波乱を警戒している。
パウエルFRB議長は連邦公開市場委員会(FOMC)終了後の会見で、物価圧力の高さがFRBの懸念事項で必要なら追加利上げの用意があると述べる一方で、政策金利を十分に引き上げた可能性があるとの見方も示した。
理論上、これは歓迎すべきニュースだ。しかし一部投資家は、S&P総合500種指数が年初から6.5%上昇したことで株価が割高になっていると懸念する。FRBの利上げで年内に景気後退(リセッション)入りするのではないかと見る向きも多い。
エドワード・ジョーンズの投資ストラテジスト、アンジェロ・クルカファス氏は「FRBが据え置きの準備を始めたことは一つのステップだが、全て解決するわけでない」と述べた。
3日の米株市場は続落。S&P500指数は0.7%下落して終了した。
それでも、ここ数週間、米地銀の破綻や政府債務上限問題という不安要因が出たにもかかわらず米株は上昇してきた。S&P500指数は3月中旬から6%上昇。リフィニティブ・データストリームによると、S&P500指数の予想株価収益率(PER)は18.2倍となった。歴史的な平均は15.6倍で、この水準は割高と指摘する投資家もいる。
ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのリサーチ・ディレクター、マット・ペロン氏は、市場が上昇し、バリュエーションは目いっぱい高まっているとも言えるとし「市場はショックに対しやや脆弱になっていると思う」と述べた。
ペロン氏は、株式をアンダーウエートにし、混乱への耐性があるとされるヘルスケア銘柄の配分を増やしている。
多くの投資家は、利上げが成長を圧迫し始め、いずれ景気後退に至ると考える。しかしパウエル議長は会見で、景気後退を回避する可能性が高いとの見方を示し、雇用や小売売上など各種指標は、経済が比較的堅調なことを示すと指摘した。
数カ月前から、株式投資を控え債券にシフトしているノースウェスタン・ミューチュアル・ウェルス・マネジメントのブレント・シュッテ最高投資責任者(CIO)は「たとえ今、利上げを停止してもリセッションは免れない」と述べた。
3日は地銀を巡り新たな懸念が台頭。カリフォルニア州を地盤とする銀行持ち株会社パックウエスト・バンコープが60%近く急落し、ウエスタン・アライアンス・バンクなどの地銀株も売られた。
それでも、多くの投資家の心配をよそに株式市場は今年回復しており、その傾向が続く可能性はある。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの米州資産配分責任者ジェイソン・ドラホ氏は、株式のリスクは「下向き」と考えている。ただ、投資家は景気後退に備えてすでに株の持ち高を減らしており、株式市場に戻る可能性のある待機資金が蓄積されていると指摘した。

 

●米国株式市場=続落、銀行危機の深刻化懸念で 地銀株が急落 5/5
米国株式市場は続落して取引を終えた。米カリフォルニア州を地盤とする銀行持ち株会社パックウエスト・バンコープが戦略的選択肢を模索していると明らかにしたことで、金融機関の健全性への懸念が深まった。
パックウエストは51%安。複数のパートナー・投資家候補とあらゆる選択肢の検討を続けており、協議は進行中だとした。
このほかの地域金融機関の株価も売り込まれた。
米地銀ウエスタン・アライアンス・バンコープは一時60%超急落し、何度も取引停止となった。終値は39%安だった。ウエスタン・アライアンスは身売りを検討しているとの報道を否定した。
コメリカ、ザイオンズ・バンコープはともに約12%下落した。KBW地域銀行指数は3.5%下落。一時は約7%下落する場面があった。
カナダのトロント・ドミニオン銀行(TD)は4日、米地銀ファースト・ホライズン銀行の買収を中止すると発表。ファースト・ホライズンは33%下落した。
TIFFインベストメント・マネジメントのマネジングディレクター、ゼー・シェン氏は「地銀問題や信用の引き締めが市場の重しになっている。信用サイクルや銀行の融資基準について、投資家が現在の状況を把握し、いつ不況に陥る可能性があるのかを再確認しようとしているためだ」と述べた。
投資家の不安心理の度合いを示すボラティリティー・インデックス(VIX)は21ポイントまで上昇し、3月下旬以来の高水準となった。
S&P500の主要11セクターでは、9指数が下落した。金融は1.29%下落し、通信サービスは1.26%下落し、全体の下げをけん引した。
米取引所の合算出来高は120億株。直近20営業日の平均は105億株。
米大手銀行では、JPモルガンが1.4%安、ウェルズ・ファーゴは4.25%安などとなった。
アップルは1%下落した。
米半導体大手クアルコムは5.5%下落。第3・四半期(4─6月)の業績についてさえない見通しを発表した。 
●目覚めよ岸田首相、植田総裁…グローバル経済は複雑数奇「ハイブリッド危機」 5/5
グローバル経済のヤバさが次々と顕在化してきた。「OPECプラス」が突如として原油の減産に向かい、インフレの火に油を注ぐ形になり、各国の金融政策の運用がますます難しくなっています。グローバルサウスと呼ばれる国々の債務問題が相当に深刻になるだろうともいわれています。
各国の中央銀行は、金融を引き締めなければいけないと考えているものの、引き締めれば引き締めるほど金融機関や巨額の債務を抱えた国々を危機に陥らせることになる。デフォルトラッシュになったらどうするのかということで、あちらを立てればこちらが立たずの状況に当面しています。
そんな中で日銀の体制が変わり、植田総裁が就任した。しかし、YCC(イールドカーブ・コントロール)とマイナス金利政策、量的緩和政策は変えるつもりがないという。それで本当に乗り切れるのかどうか。グローバル経済の諸問題について、どういう分析をしているのか。その分析に基づいて考えた時に異次元緩和の継続で大丈夫なのか。植田氏はどうも「それはそれ、これはこれ」と「仕切り線」を設けているように見える。
岸田首相にしても花粉症対策だとか言ってる場合なのか。グローバル経済の危機的状況下においても人気取り主眼では、次元が違いすぎる。状況をしっかり整理し、分析し、危機の真相を見極めるという政策態度が、ことのほか日本において見られないのは、とても恐ろしい。
「目覚めよ、岸田首相。目覚めよ、植田総裁」と言いたい。
舵取りは本当に難しいと思います。金利を上げていかなければ、インフレに歯止めがかからない。それで生活苦が増せば、大不況に陥るかもしれない。物価賃金スパイラル的な現象が米国では見えてきた。インフレだからと便乗して収益マージンを広げる企業行動も出ており、それに後れを取ってはならずと賃金引き上げ要求も高い。そうした歯止めのない舞い上がりも加わり、複合危機、ハイブリッド危機がグローバル経済に襲いかかろうとしているのです。
そこに今回は地政学的な思惑も絡む。ロシアや中国は政略的な利益を確保するためには何でもやるという感じになっていて、彼らの態度が中東産油国の姿勢をも変えている。皆でなんとかグローバル経済の均衡を保持しようという発想がなくなり、それぞれが自国の利益のために独り善がりになるので、完全につじつまが合わなくなる。行き着く先は一体なんだとなって、この先、あちこちでミサイルが飛ぶようなこともあるんかい、という感じで、日本の安全保障政策の大転換などというものも出てきてしまった。
まさに今のグローバルな風景は、そういう複雑怪奇で高度なハイブリッド危機だという認識を、あらためて整理しておく必要がある。ところが、日本においては非常に低次元の日和見性が前面に出ているので本当に危うい。かたや安保政策の大転換で、抜本的に防衛力を強化すると平気で言い、それと花粉症対策が並行して動いているというおかしな状況です。
もっとレベルの高い政策判断、現状分析、それに基づいたきめ細かな政策運営を、声を大にして求めていかないといけない。
●アメリカ雇用統計、市場予想を大きく上回る…インフレ根強く利上げ判断に影響 5/5
米労働省が5日発表した4月の雇用統計(季節調整済み)で、景気動向を反映する非農業部門の就業者数は前月比25・3万人増と、3か月ぶりに伸びが加速した。市場予想(18万人程度増)を大きく上回った。
失業率は3・4%で3月から改善し、引き続き歴史的な低水準となっている。インフレ(物価上昇)に影響を与える平均時給は前年同月比4・4%増で、前月(改定後、4・3%増)から伸びが加速した。人手不足に伴う賃金上昇が続いており、インフレ圧力は根強さを維持している。
米連邦準備制度理事会(FRB)は3日、政策金利を0・25%引き上げ、次回6月以降の利上げ停止を示唆した。金融不安の再燃で景気後退への懸念が強まる中、堅調な雇用情勢が改めて示され、今後の利上げ判断に影響を与える可能性がある。
●アメリカの地銀問題は対岸の火事に留まるのか?  5/5
先週の金曜日、トロントの証券マン氏から「アメリカの地銀問題はいつまで続くと思うか?」と聞かれたので「ファーストリパブリック銀行はつぶしてはいけない。仮にそれをしたら本当にSaving and Loan事件の二の舞になる」と。残念ながら当局はお得意の週末作業でファーストリパブリックの処理を決め、アメリカの最大の銀行、JPモルガンに超好条件で譲ってしまいました。
月曜日、JPモルガンのダイモンCEOは得意満面で「これで嵐は去った」とし、JPモルガンがいかにも金融当局の業務の代行をしたかのような大御所のスタンスを見せました。ダイモン氏は現役の大物バンカーとしては唯一リーマンショックを経験した重鎮であり、誰も彼にモノが言えないというのが実情ではなかったかと思います。
が、市場はダイモンCEOの誇らしげな発言をあざ笑うかのように「次の破綻予備軍」のサーチを始めます。一部の地銀の株価は日中よりもアフターアワーの取引で崩落するケースが増えているのは市場参加者が少ないため、株価のボラティリティが高まるからです。3割4割安が当たり前になったアフターアワーの取引を受けた翌朝のNY市場は当然、一般投資家と機関投資家による売りが売りを呼ぶ展開となります。そしてアフターアワー取引の安値にすり合わせるように株価は目も当てられない状態になるのです。
FRBもダイモンCEOも伝統的で常識的な市場形成と金融事業の健全な運営がなされているという性善説に基づく発想が変わりつつあることを認めないのです。間違っているわけではないけれど違うフレーバーが生まれつつあることを見ようとしないのです。
その兆候を私はミーム株(はやり株)の取引にみています。コロナの最中、箸にも棒にもかからないような企業の株が突然何倍にも暴騰します。リテール投資家(個人投資家)がよってたかってボロ株祭りをしたのです。ヘッジファンドはあり得ない株価に当然、ショート(売り)で立ち向かいます。が、リテール投資家の買いの勢いは増す一方で一部のヘッジファンドは白旗を上げたのです。
その銘柄の一つ、Bed Bath and Beyondは今年初めから倒産が確実視されていたのにリテール投資家の根強い支持があり、株価が今年に入っても乱高下を続けます。が、同社のカナダ部門が破産し、本体も4月にようやく息絶えるのです。余談ですが、カナダにあった60か所の同店舗のスペースを虎視眈々と狙っていた大手の小売り会社が一気に群がり、大型ディールが次々と決まっています。21店舗分と10店舗分を奪い取った企業をはじめ、亡骸を貪るあくなき弱肉強食の世界にこの私ですらおののいてしまうのです。
ミーム株のチカラが何であったか、と言えば市場の常識であったプロと素人の境目が無くなった点です。「次の危ない銀行を探せ」と言うのは銀行を潰すテレビゲームの乗りに近い状態になっているのです。当然、個人投資家はショートを仕掛けるわけで、莫大な儲けを得ているのでしょう。
これを見た銀行の本当の顧客は恐れをなし、預金を引き揚げ、口座を解約するでしょう。ネットバンキングが進んだ時代の声なきパニックです。おまけに当局のやり方は猶予なく、金曜日に重篤な状況ならば月曜日の朝には葬式が終わっているのです。銀行版安楽死です。株主の保護も一切ありません。無茶苦茶です。この週末も葬式があるかもしれません。
カナダ最大手の一角、TDバンクがアメリカの南部の地銀、ファーストホライズン銀行と合併工作をしていましたが、昨日TDは破談を通告、違約金以外に270億円のお土産まで付けました。同行の株価はこれを嫌気し、今朝から崩落しこれを書いている現在で35%安です。大手銀行ですら、見放さざるを得ない状況になっているわけでJPモルガンがファーストリパブリックを救い「それで嵐は収まる」と思ったダイモンCEOは楽観視に過ぎなかったと思います。
ではお前はどうしたらよいと思うのか、と聞かれれば「銀行を潰さない。投資家を保護する」そのために必要資金を当局が保証し、注ぎ込み続けるしかないのです。公的注入です。もちろん税金を使うこのやり方はほぼ無理なのはわかっていますが、リーマンショックを切り抜けたのは公的資金だったことも事実なのです。今地銀で起きていることは一種の群集心理なのです。これに対峙できなければ地銀が崩壊するのです。
では我々は何処にお金を預ければよいのか、といえばそんなのはいくらでも代替できるのです。MMFがもっともポピュラーですが、ビットコインでも金(ゴールド)でも更には不動産でもあります。アップルの銀行化についても私が懸念したとおりになりました。同社が提示した4.15%の利息に個人は飛びつき、開始4日間だけで1360億円も集めたのです。マネーの腰は軽いのです。義理も人情も律儀もないのです。昨日までは「愛は永遠よ」と言っていたのに今朝になれば「お別れね!」なのです。理由はネットという無機質なやり取りだからです。
パウエル議長が昨日の記者会見の際、「Regrets, I’ve had a few」と述べました。そう、フランクシナトラのマイウェイの一節です。「後悔も多少はあった」と言う意味です。つまり、FRBも間違いを犯したことを認めたとも言えます。昨日のパウエル氏の記者会見の前半の質疑は防戦一方でした。この記者会見、質問は最前列に座るいつもの大手メディアのメンバーによる一番聞きたいおいしい質問から始まるのですが、確か2列目にいたウォールストリートジャーナルの若手記者の質問にパウエル議長が詰まる一幕もありました。
不幸にもイエレン財務長官は債務上限問題で手いっぱいなのです。ここはパウエル議長が踏ん張らないと対岸の火事では済まされない大延焼を引き起こす可能性がないとは言えなくなります。

 

●米国民の48%「預金に不安」 08年上回る 民間調査 5/6
米地銀の相次ぐ経営破綻を受け、預金の安全性を心配する米国民が増えている。米調査会社ギャラップがこのほど公表した調査によると、米国民の48%が懸念していると回答した。不安を感じる人の割合は2008年の金融危機時を上回った。
調査は4月3日〜25日にかけて、全国の18歳以上の成人1013人を対象に実施した。3月には米地銀のシリコンバレーバンク(SVB)やシグネチャー・バンクが相次ぎ破綻し、他の地銀からも預金を引き出す動きが広がった。ギャラップが同様の調査をしたのは、08年のリーマン・ショック時以来15年ぶり。
今回の調査では、銀行などに預けているお金の安全性について19%が「非常に心配」と回答、29%が「やや心配」と答えた。08年9月の調査では合わせて45%だった。
支持政党や学歴などによる違いも浮き彫りになった。共和党支持者のうち「心配」と回答した割合は55%と、民主党支持者(36%)を上回った。大卒では同36%だったのに対し、大学の学位を持たない人では54%となった。所得階層別では世帯年収が10万ドル(約1300万円)未満の人は10万ドル以上の層と比べて、預金を心配する割合が相対的に高かった。
ギャラップは調査結果について「現政権や経済環境への不満と結びついているとみられる」と分析。1口座あたり25万ドルまでの預金保護措置に関する認知度の違いが階層ごとの調査結果に反映している可能性もあるという。
SVBなどが破綻した直後の3月13〜15日に米調査会社モーニング・コンサルトが実施した別の調査によると、米国の成人の5人に1人が預金を銀行口座から自宅や金庫など別の場所に移したと回答した。一方、預金全額保護が決まった直後だったため、「銀行を信じている」という人の割合は70%と、2月時点の調査(66%)を上回った。
●FRB年内利下げ着手との市場の見方変わらず、雇用統計好調でも 5/6
米労働省が5日発表した4月の雇用統計で労働市場の好調さが示され、米連邦準備理事会(FRB)による利上げが裏付けられた格好だが、市場では年内利下げとの見方が引き続き織り込まれている。
4月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は25万3000人増加で、エコノミストの予想(18万人増)を大幅に上回った。失業率は3.5%から3.4%に低下した。労働市場が強さを維持していることが示され、FRBが当面、利上げを継続する可能性がある。
アメリプライズ・ファイナンシャルのチーフ市場ストラテジスト、アンソニー・サグリンビーン氏は「労働市場は熱く、FRBにはまだやるべきことがある。FRBが年内に利下げに動くような環境には見えない」と述べた。
ただCMEのフェドウオッチによると、雇用統計発表後も6月利上げの可能性は小さく、金利を据え置くとの見方が大勢。9月には利下げに踏み切るとなお見込まれている。
また金利先物市場ではFRBが12月までに政策金利を4.2%程度まで引き下げるとの見方が織り込まれている。
●過熱薄まる米労働市場、FRBには一息つく余裕 5/6
米労働市場は確かに冷えてきている。いや、むしろ以前ほど熱くはないと言った方がいい。  米労働省が5日発表した4月の雇用統計によると、就業者数は前月比25万3000人増え、失業率は3.5%から3.4%に低下した。就業者数の伸びはウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がまとめたエコノミスト予想の18万人を上回った。失業率は1月に並び、数十年ぶりの低水準に改善した。平均時給の伸びは予想を上回り、前年同月比4.4%となった。  とはいえ、就業者数の伸びは鈍化している。労働省は2月と3月の数字を下方修正し、過去3カ月の月平均は22万2000人増となった。 
●原油価格は上昇するも、需要不安で3週連続の損失見通し 5/6
ヒューストン:ロイター通信によると、原油価格は金曜日のアジア取引で上昇したが、米国経済の弱体化と中国需要の鈍化に対する懸念から市場が劇的な下落を見せたため、3週連続の損失となる構え。
ブレント原油は、午前5時45分(GMT)に0.60ドル(0.8%)上昇の1バレル73.10ドル、米国のWTI は、4日連続の損失後、0.52ドル(0.8%)上昇の1バレル69.08ドルとなった。
今週は、ブレントが8.1%安、WTIが10.0%安で取引を終えることとなった。
シンガポールIGのマーケット・ストラテジスト、ジュン・ロン・ヤップ氏は、「原油価格にとって二重の痛手となっている」と述べた。
「米国の銀行破綻の再燃がより広い範囲で懸念を生じさせ、景気後退の話を広めた。その上、中国の製造業が予想外に縮小したことで、石油需要の見通しに対する楽観的な見方を押し戻した」と指摘した。
パックウェスト・バンコープが戦略的選択肢を検討する予定であると発表したことから、米国の地方銀行危機の不安が続いた。
中国では、受注が減少したことから4月の工場活動が予想外に縮小し、内需不振が広大な製造業の足を引っ張った。
中国のサービス業は4月まで増大したが、拡大率は鈍化していることが、金曜日のデータで示された。
「しかし、6月に開催される石油輸出国機構とその同盟国(OPEC+)の次回会合での供給削減の可能性に対する期待が価格の支えになっている」と、シンガポールOANDAのシニア・マーケット・アナリストであるケルビン・ウォン氏は述べた。
「昨日のWTI原油先物の日中の急落は、61.85ドルの主要なサポートで何とか足踏みしている。市場参加者は、OPEC+が作った潜在的な『底値』だと暗示しているようだ」とウォン氏は話した。
トレーダーは、この後発表される4月の米雇用統計に注目しており、これが経済の健全性を測るのに役立つことを期待している。また、ミネソタ経済クラブでのセントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁とミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁による金融政策についてのコメントにも注目が集まっている。
米中央銀行が政策声明から追加利上げを「予想する」との文言を削除したことから、投資家は現在、Fed が6月の会合で利上げを一時停止すると広く予想している。

 

●商工中金改革 政府は将来像の明示を 5/7
政府系金融機関の商工中金について、約46%の政府保有株式をすべて2年以内に売却することなどを盛り込んだ商工中金法の改正案が、国会で審議されている。
株主構成上は民営となり、代表取締役選定や新株発行の政府認可制も4年以内に廃止する。
一方、災害時などに低利で融資する危機対応業務は維持する。
政府出資金を振り替えた特別準備金制度、代表取締役の解任命令権といった政府の関与も残り、半官半民の実態は実質的に続く。
現行の法律にある「完全民営化の実現」の時期は先送りした。
コロナ禍に苦しんだ中小企業の支援は急務であり、民間金融機関が敬遠しがちな高リスクの低利融資を担う存在は必要だろう。
だが民業圧迫の懸念は根強い。2016年には危機対応融資を巡って組織的な不正が発覚した。
中小企業金融は今も過当競争が指摘される。政府は商工中金の立ち位置を明確に示し、役割や将来像を国会で議論すべきである。
完全民営化の方針は06年に小泉純一郎政権が決めたが、リーマン・ショックや東日本大震災などを理由に延期を繰り返していた。
2年以内の政府保有株売却は、経済産業省の有識者会議が2月の報告書で求めていた。売却先は中小企業組合などに限定する。
法案で売却時期を示したのは前進と言えるが、完全民営化の実施を曖昧にしたのは気がかりだ。
現行の商工中金法は、政府保有株式をすべて売却した時に同法を廃止するよう規定している。中小企業には危機対応業務も廃止になるのではと心配する声がある。
政府は民間金融機関による補完などを十分に検討し、完全民営化への道筋を示す必要がある。
商工中金の貸出金残高は、22年3月期で9兆6千億円と地銀上位並みの規模だ。政府の関与が続くことで信用力も担保される。
今後は企業再生事業に力を入れていくという。長引いたコロナ禍で財務状況が悪化した中小企業は多く、ニーズは高いだろう。
ただ地銀や信用金庫も重視している分野だ。民間と連携して取り組んでいく姿勢が求められる。
低利での貸し出しばかりではなく、企業の経営改善策などについてお互いにノウハウを持ち寄って効果を高めてもらいたい。
法案にはさらなる政府関与の縮小に向けて、4年以内に事業を見直す規定も設けられた。経産省などから役員への天下り禁止などを含め、前倒しで進めるべきだ。
●インフレと金融不安を退治できないFRBの苦悩  5/7
アメリカのインフレは落ち着かず、景気も底堅い中、5月2〜3日のFOMC(連邦公開市場委員会)において、FRB(米連邦準備制度理事会)は0.25%の利上げを決め、今後の利上げ打ち止めも明確にしなかった。市場は年内利下げを期待するなど意思疎通がうまく行かない中、5月1日の中堅銀行ファースト・リパブリック・バンク(FRC)破綻など金融不安も続き、景気後退のリスクは高まりつつある。
株式市場は言質が欲しかった
――FRBは0.25%の利上げを決め、政策金利は5〜5.25%と16年ぶりの水準に達しました。今回のFOMCの内容をどうみますか。
バランスをとるのに苦心した印象だ。市場は「今回で利上げ打ち止め」を期待した一方で、インフレはまだ収まっていない。声明文では前回盛り込まれた「追加の政策措置が適切」という表現が削除され、「追加策がどの程度必要か決定する際には、これまでの金融引き締めの累積効果や経済、物価に時間差で与える影響を考慮する」と金融政策のタイムラグについての内容が入った。タイムラグは利上げに慎重を期する際に使用されやすい表現で、市場はFRBが再利上げに消極的になったと当初理解した。
一方で、パウエル議長は記者会見で追加利上げをめぐる決定はデータに基づいて行うとした。国債金利は下がっているので、債券市場は金融引き締めが終わりつつあると冷静に受け止めたようだ。しかし、株式市場はパウエル氏が再利上げに含みを持たせたことにがっかりし、中堅銀行株を中心に売りが広がった。
――アメリカの株式市場がFRBの利上げ停止や利下げへの転換に過度に期待しているのでしょうか。
FRBが早期にハト派的姿勢へと変化することを株式市場が期待しすぎていることは確かだ。ただ、株式市場が現在の状況に不安を感じていることも理解する必要がある。
中堅銀行の相次ぐ破綻や株価の下落で株式投資家は損失を被っている。悲観的なムードが市場に漂い、次に破綻する可能性がある弱い投資先を探し、損失を回避しようと株式を売却する。金融機関の株価が下がるのをみた預金者は、破綻を恐れて預金を引き出そうとする。すると株式市場で、また株式が売られる。不安心理による負のスパイラルが起きている。
市場心理が大きく悪化している中で、株式投資家は藁をもすがる思いでFRBに再利上げの可能性を否定してほしかった。パウエル議長がそこまでリップサービスする必要はないが、もっと丁寧に伝えるべきだっただろう。たとえば、利上げもありうるが、どのような場合には利下げすると両論併記することもできたはずだ。
金融危機になると経済は大混乱に陥り、インフレ抑制どころではなくなってしまう。将来の不確実性が高いので、明言しづらいのはわかるが、インフレ退治のためにも経済・金融の安定性が必要だ。FRBは市場への伝え方に苦労しており、経済・金融に関する不確実性を自ら高めている面もある。コミュニケーションの工夫が求められている。
不安心理スパイラルを払拭できない
――FRBが金融システムのリスク把握と安定化を目指すマクロプルーデンス政策を失敗しているといえますか。
パウエル議長も2019年に中堅銀行の規制を緩めたことは失敗で、後悔していると話しており、規制監督の点で改善の余地はある。3月にシリコンバレー銀行(SVB)が破綻した原因としてSNSによる不安の拡散やオンライン送金などで預金流出が想定以上のスピードだったことから、それらに対応した規制や制度にアップデートする必要もある。
とはいえ、今回のFOMC前日に破綻したFRCについては、規制・監督の問題がすべてではない。SVBはずさんな経営があったことが判明した。FRCは大口預金が多かったというSVBとの類似点があることで手元流動性の枯渇が懸念される「標的」になった点では同じだが、FRCの経営自体に必ずしも大きな問題があったわけではない。SVB破綻の余波であり、その意味で規制監督の網があっても連鎖破綻する可能性を示唆している。
不安心理に対応できなかった責任をすべてFRBに帰すのは難しいが、その一挙手一投足が注目されているのは確かであり、うまくコミュニケーションをとる必要はあった。
――異様な経済環境でFRBにとってもコミュニケーションが難しい面があるのでは?
実際に舵取り自体が難しい。市場による今回のFOMCに対する評価も後付けであり、事前にわかっていればパウエル氏もうまくやっているはずだ。しかし、パウエル氏が率いるFRBが将来の金融政策の先行きを示すフォワードガイダンスで、ミスを重ね続けているのも事実だ。例えば、2021年にインフレは一時的と発言し、2023年1月にはインフレは減速したと示し、SVB破綻直前には利上げ加速に言及している。
コミュニケーションの取り方について反省し、市場の不安心理を理解して金融当局が発するニュアンスの修正を図ることも一考に値する。これまでなら、利上げに慎重だったブレイナード前副議長がその役割を担っていたが、同氏の退任により現在はFRB中枢部にハト派が少ない。どこまでハト派にすべきかは議論の余地があるが、ニュアンスを微調整し、銀行不安の拡大を抑制できるかどうかが注目だ。
またアメリカの投資家と話していると、情報の伝え方をめぐり、FRBにSNSの専門家がいないことを指摘する声も聞く。豊富な流動性を供給するなど金融システムの安定性を強化するのはFRBの本分だが、デジタライゼーションやSNS時代に合わせるため、情報の拡散や群集心理にどう対応するかなど中央銀行のコミュニケーション自体もSNS時代に対応させなければいけない。今後の課題であり、研究が必要になるだろう。
景気自体は底堅いがリスクも高まる
――金融不安が再燃して、信用収縮が起きる可能性はあるのでしょうか。
貸し剥がしなど信用収縮は一部で起きている。商業不動産や商工業ローンは減少し、企業の資金調達環境は悪化している。一方で、消費者ローンや住宅ローンは増えており、アメリカの屋台骨である個人消費では信用収縮はまだみられない。経済が今にも崩れるとまではいえない。
4月の雇用統計でも非農業部門雇用者数は25.3万人と底堅い結果となり、失業率は3.4%と低下した。雇用環境は悪くなく、個人消費を下支えするだろう。
――金融不安がある一方で、景気が底堅い状況をどう考えるべきでしょうか。
ベースシナリオとしては大幅な景気後退を避けることができるというソフトランディングだ。しかし、銀行のさらなる破綻や信用収縮が発生し、景気後退に陥るリスクシナリオの可能性は高まりつつある。ただ、リスクはあくまでリスクであり、現在の経済状況を理解するうえではいったん切り離してみるべきだ。個人消費や雇用は堅調だ。リスクシナリオをベースシナリオのように思い込み、消費者心理が悪化してしまわないか注意する必要もある。
――個人消費ではFRBが政策決定で重視するPCE(個人消費支出)価格指数の動向をどう予測していますか。
FRBは3月のFOMCで、2023年末のPCE価格指数の予想(中央値)について前年比3.3%、食品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数では同3.6%としている。4月末に公表された3月のPCE価格指数は前年同月比4.2%、コアPCE価格指数は同4.6%だった。食品とエネルギー価格は下落しているのでPCE価格指数は目標値に達する可能性はあるが、労働市場の需給がなおタイトなことから、コアPCE価格指数は今後も下がりにくいだろう。
株式市場や債券市場の一部では年内の利下げが期待されている。PCE価格指数が早い段階、たとえば7〜9月期までに目標値に落ち着けば、年内利下げはありうるが、そのハードルはものすごく高いと言わざるをえない。
利下げが本格的に意識されるであろう秋口までにPCEが落ち着かず、年内の利下げがないことがはっきりした段階で、株式市場の期待がはがれる「PCEショック」が生じる可能性もある。8月に行われるジャクソンホール会議が年内利下げの可能性をどう見るかの節目になりそうだ。
――利下げ開始は来年からとみたほうがいいのでしょうか。
現時点においては、2023年内は金利が据え置かれると想定したほうがいい。利下げは景気とインフレの動向による。物価面で利下げに転じる条件のハードルは高いが、仮に景気が大幅に悪化すれば利下げの可能性は高まる。現在、FOMC参加者や市場コンセンサスは、今年10〜12月期のGDPについて前年同期比でプラス成長を予想しているが、仮に個人消費の落ち込みなどでマイナス成長に陥る可能性が出てくると利下げに転じる可能性はある。
また個人消費と雇用が強いものの、インフレが落ち着く可能性もある。例えば低賃金の雇用は堅調だが、高賃金の雇用が悪化することだ。これは従来の景気減速時にも起きており、雇用者数は伸びるものの賃金上昇自体は落ち着くことで、インフレ圧力が抑制される。足元でも金融機関やIT産業といった高賃金業種でのレイオフが起きており、賃金上昇が減速することでインフレが落ち着き、利下げが可能となる道は残っている。
債務上限問題で不安心理加速も
――イエレン財務長官は、6月にもアメリカ政府の債務上限問題が限界に達すると指摘しています。
イエレン氏はリスク管理上の観点から期限を早めに提示している点もあり、多くの人は債務上限問題は大きな問題にならないとみている。一方、現在の銀行不安は急速な利上げで満期保有を目的とした債券を売却した際に損失が出たことが、銀行の経営懸念につながっている。国債などの債券価格は銀行にとって生命線であり、債務上限問題で米国債が格下げとなれば、国債価格が急落し、市場の不安心理に拍車がかかるリスクはある。
最後に非常にテクニカルな話になるが、流動性を確保するためにFRBは資金供給を行っているものの、銀行に資金はとどまらず、短期国債やレポで運用するMMF(マネー・マネージメント・ファンド)に流入している。MMFは安全神話が強く、現在資金が集中しているが、債務上限問題が顕在化すれば、MMFも債券価格急落のあおりを受ける可能性がある。
このほか、流動性の確保による資金供給で、FRBのバランスシートは拡大しており、株式市場では疑似QE(量的緩和)と捉え、株価のバリュエーションが高い状態にある。景気悪化懸念がEPS(一株あたり純利益)を押し下げれば、投資家もオーバーバリューにいずれ耐えられなくなり、売却の連鎖が起きる可能性もある。現状、売買高が低い状態にあるが、それはオーバーバリューによって手を出せない一方で、景気もまだ底堅いので市場が動くに動けないからだ。流れが変われば、一気にオーバーバリューが是正される動きが出るだろう。その点では相場格言の「Sell in May」(5月に株は売り)を気にする必要はあるだろう。
●FOMC後にパウエルFRB議長が示唆した「後悔の正体」…「多過ぎて救えない」 5/7
パウエル議長が口にした「複数の後悔」
3日に25bpの利上げを決めたFOMC後の記者会見の席上、パウエルFRB議長は銀行の経営破綻が相次いだことに対して後悔はないかという質問に対して、フランク・シナトラの名曲「My way」の歌詞になぞらえて「我々が間違いを犯したことは十分に認識している」と政策ミスがあったことをあっさりと認めた。
拍子抜けするほどのその潔さは、就任時に「2%の物価安定目標」を「2年以内に達成する」と豪語しながらも2期10年の任期中に目標を達成できなかったにもかかわらず「これまでの政策運営は適切なものである」と「後悔」を一切口にしなかった黒田前日銀総裁とは好対照だった。
パウエルFRB議長が口にした「後悔」に関しては、3月以降1カ月余りの間に4行もの銀行が相次いで破綻したことに対してFRBの金融監督機能が十分に機能しなかったことを指しているという文脈で報じられている。
会見の質疑の中で、2月の理事会向けブリーフィングの中でシリコンバレー銀行(以下SVB)が資産ポートフォリオに含み損を多く抱えているとの報告を受けていたにもかかわらず、預金取り付けのリスクに考えが及ばず対応しなかったことを明らかにしており、対応が遅れたことに対する後悔を持っていることは確かなはずである。
しかし、先月末にFRBが公表したSVBについて経営や金融監督の実態を検証する報告書では、破綻の第1の理由として「経営陣による典型的な失敗」だとしたうえ、FRBがその失敗の把握が遅れた理由として資産規模が1000億ドル以上の中堅銀行を対象にしたトランプ前政権時の規制緩和などが「効果的な金融監督を阻害した」と不可抗力が存在したことも示唆している。
確かに、銀行を監督する立場にいるFRBとしては、短期間に4行もの銀行が破綻するという現実は受け入れ難いものであるはずだ。重要な点は、パウエルFRB議長が「I've had a few.」という表現で「複数の後悔」が存在していることを示唆したところである。つまり、SVBの抱える問題に対するFRBの監督機能が不十分だったことは、「複数ある後悔」の1つに過ぎないと捉えるのが賢明だと言える。
甘かった「インフレは一時的」という見通し
では、パウエルFRB議長の脳裏に浮かんだ「複数の後悔」とは何だっただろうか。
おそらくそれは、2021年11月30日の議会証言で撤回するまで「インフレは一時的」という見解を示し続けてきたことだと思われる。
米国のインフレ率は2020年3月から6月にかけてのコロナウイルスによるロックダウンの影響を受けて4月に原油価格(WTI)が一時マイナスになるなど、2020年5月にはCPI総合は前年同月比プラス0.1%まで大きく落ち込んだが、ロックダウン解除後に回復し2021年3月にはFRBが目標としている2.0%を上回る2.6%(前年同月比)まで戻していた。
しかし、パウエルFRB議長は「インフレは一時的」という見解を示し続け、発言撤回に追い込まれた2021年11月時点では6.8%(前年同月比)まで上昇する事態となってしまった。
WTIがマイナスを記録する等経済統計が歪められた4-6月期を過ぎてもインフレ率は下がらず、CPI総合が前年同月比で6%を上回る水準まで上昇する事態を目の当たりにしたことでFRBは「インフレは一時的」であるとしてきた認識に過ちであったことを認識して発言を撤回し、急速に金融引締め路線に転じることになった。
しかし、そこでも想定外の事態が起きてしまう。それは2022年2月末に起きたロシアによるウクライナ侵攻である。ウクライナ侵攻によって資源価格は急騰し株価が急落する等、金融市場の緊張が急速に高まることになった。
金融市場の緊張が高まる事態を受けて、金融引締め路線に転じていたFRBは同年3月のFOMCでの利上げ幅を25bpに止めることを余儀なくされ、結果的にCPI総合が2022年6月に9.1%(前年同月比)と約40年ぶりの高水準まで上昇してしまうことを許すことになってしまった。
「インフレは一時的」と誤った見通しの下で金融引締めが遅れたうえに、ウクライナ侵攻という不測の事態の発生によって、FRBは40年ぶりの高インフレを追いかける形での大幅かつ急速な利上げを迫られ、2022年末のFFレートは4.5%まで一気に引き上げることになった。
コロナ禍で預金規模が3倍に膨れ上がったSVB
FRBのバー金融監督担当副議長が3月末の議会証言で「SVBが破綻したのは経営陣が金利と流動性のリスクを効果的に管理しなかった」ことによる「ずさんな経営の教科書的な事例だ」と指摘したこともあり、SVBの破綻は銀行のリスク管理の怠慢が招いたものだという認識が定着している。
しかし、目を向けなければならない点は、SVBに「金利と流動性のリスクを効果的に管理」することが現実的に可能だったかどうかという点である。
コロナ禍前の2019年末時点でのSVBの預金量は利息の付かない決済用の当座預金を中心に644億ドルであった。しかし、コロナ禍の2020年末には1071億ドル、2021年末には1947億ドルと、僅か2年間に預金規模は3倍に膨れ上がってしまった。
僅か2年間で預金量が3倍以上に増えることをSVBの経営陣に予期することが出来ただろうか。当然のことだが、銀行のリスク管理は銀行の規模によって全く異なってくる。経営上預金量が600億ドル規模の銀行にはその規模に応じたシステムや人材を配置するのが当然のことである。日本でいえば地銀や信用金庫がメガバンク並みのリスク管理システムや人材を持っていないのと同様である。
600億規模の銀行に突如3倍もの預金が集まったらリスク管理が追い付かないのはある意味当然である。
問題は、何故SVBに短期間にこれだけ大量の預金が集まったかである。その背景にあるのがコロナによる経済活動停滞に対応するために2020年に打ち出された総額約2兆ドル、米国GDPの約10%にも及ぶ過去最大規模の経済対策である。さらにこの経済対策と同時にFRBの資金供給能力も4兆ドル増額された結果、経済対策の規模は総額6兆ドルにまで膨らんでいた。
コロナ禍を乗り切るために必要なのは生き延びるための資金であるから、経済対策によってばら撒かれた大量の資金は使われずに銀行預金に流れ込むのは当然の流れだといえる。
こうして破綻に追い込まれた
史上最大規模の経済対策によって大量の預金が流れ込んだことはSVBにとっても想定外のことだったに違いない。とはいえ「リスク管理が追い付かない」という理由で預金を断る選択肢はあり得ない。さらに、大量に預金が集まった要因がコロナ禍による経済活動停滞であるから、大量に集まった預金の貸出し先を確保することは当然不可能なことである。
こうした預貸ギャップ(総預金と貸出金の差額)を埋めるのが国債を中心とした有価証券投資である。預金が大量に集まった2020年の3月にはコロナ対応によってFRBが再びゼロ金利政策をとり始めたこともあり、年末時点の短期金利はほぼ0%であったのに対して米10年国債の利回りは0.9%程度であった。さらにFRBが「インフレは一時的」という見解を持ち続けたこともあり、翌2021年末時点でも短期金利はほぼ0%だったのに対して米10年国債利回りは1.5%台だった。
要するに、ほぼ0%に近い預金で集めた資金を10年国債で運用すれば1.5%程度の利鞘を確保することが出来る状況だったのである。
銀行のビジネスモデルは預金(短期金利)で集めた資金を中長期で運用して利鞘を稼ぐというものであるから、大量に集まった預金を長期国債など利鞘が取れる有価証券に投資するのは至極当然のことでしかない。しかも、銀行の自己資本比率上国債のリスクウエイトは0であるうえ、最も流動性の高い投資資産でもある。当時のSVBにとって余剰資金を国債に投資するという選択に何のためらいもなかったはずである。
しかし、事態は2021年11月30日の議会証言でパウエルFRB議長が「インフレは一時的」という見解を撤回し、急速かつ大幅な利上げに舵を切ったことによって大きく変化していく。
FRBの方針転換によって2021年末時点で0.25%であったFFレートは2022年末には4.5%まで一気に引き上げられ、それに伴って10年国債利回りも大幅に上昇し10月には4%を超えるところまで上昇(価格は下落)してしまった。SVBがゼロ金利政策下の1.5%程度という低い利回り(高い価格)で投資した10年国債の価格は大幅に下落し、SVBは国債投資によって大きな含み損を抱えてしまったのである。
とはいえ、国債投資によって多額の含み損が発生したからといって、銀行がすぐに破綻に追い込まれるわけではない。国債がちゃんと償還されれば国債の額面分は戻ってくるのだから、償還まで保有し続けることさえできれば保有期間中の含み損は致命傷になり難いからだ。これは日本人が大好きな「長期投資」と同じ理屈である。
問題なのは、償還前に保有国債の売却を迫られる場合である。SVBに限らず銀行の国債購入原資は預金である。この預金が一度に引き揚げられるような、所謂取り付け騒ぎのような事態が起きれば、預金払出しに必要な現金を確保するために保有する国債を売却して現金を確保しなければならない。こうした国債の売却を迫られる局面では、含み損は実現損に変わり、預金払戻しに必要な量の現金を確保できなくなったり、自己資本が棄損したりすることで経営危機に陥ることになる。
SVBは流出した預金の埋め合わせをするため、増資によって必要な資金を確保しようとしたが、一部のベンチャーファンドが投資先企業に対してSVBから預金を引き揚げることを推奨したことなどもあり、この増資計画は失敗し破綻以外の選択肢を失うことになった。
SVBは国債投資によって大きな含み損を抱えるなかで大規模な預金流出に見舞われ、経営破綻に追い込まれていった。こうしたSVBの経営危機に対して米国金融当局が預金の全額保護という超法規的な措置をとったのは、他行で同様の事態が起きることを回避しようとしたからである。預金の一部が失われるリスクが高まれば、預金者が預金の引出しに動くのは必至だったからである。 
●FRBは利上げ休止可能か、4月の米CPIが手掛かり提供へ 5/7
10日に発表される4月の米消費者物価指数(CPI)は、米金融当局が来月の会合で一連の利上げを休止できるかどうかに関する手掛かりを提供するとみられる。
食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年同月比で5.5%上昇の予想。3月は5.6%上昇だった。こうした数字は基調的な物価上昇圧力のペース鈍化が小幅にとどまっており、インフレが根強いことを示唆する。
コアCPIは過去4カ月にわたって5.5−5.7%のレンジで推移しており、インフレの根強さを浮き彫りにしている。今回のCPIは米連邦公開市場委員会(FOMC)が6月の政策決定前に入手する2回のCPI統計のうちの1つ目となる。
FOMCは5月2、3日に開催した定例会合で、主要政策金利を0.25ポイント引き上げることを決定。一方、経済面でのリスクが強まる中、利上げが今回で打ち止めになる可能性も示唆した。
インフレ抑え込みでの進展は緩やかながらも、米金融当局は地銀セクターでの最近の緊張や過去1年余りに及ぶ利上げによる景気への影響を考慮する必要がある。利上げは遅れを伴って作用する。
11日には4月の米生産者物価指数(PPI)も公表される。前月比では物価圧力の強まりが予想されている。財価格は下向きトレンドだが、その過程は不安定となる可能性を示唆する見通しだ。
ブルームバーグ・エコノミクスのエコノミスト、アナ・ウォン氏やスチュアート・ポール氏らは、「パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は5月のFOMC会合で、金利は既に『十分に抑制的』な水準に達した可能性があるとの見方を示したが、その判断で確信を得るにはもっと時間をかけて展開を見極める必要がある。4月のCPIとPPIはいずれも安心感をもたらすものとはならないだろう」と指摘した。
●中国が「日本化」の波に飲まれていく…バブル経済の崩壊前と酷似した状況 5/7
世界第2位の経済大国に成長した中国の現状が、90年代前半のバブル期の日本と酷似しているという。急速な経済成長から一転、長期の景気低迷に陥った日本と中国が同じ道をたどる可能性を、英経済紙が検証した。
バブル経済の崩壊は、日本人にとっては思い出したくもない悪夢だろう。だが、中国は隣国の負の記憶を教訓にしようとするかもしれない。
不動産バブルがはじけるとともに爆発する“時限爆弾”が、中国でも時を刻んでいるからだ。
バブル崩壊前の日本経済と、現在の中国経済には多くの類似性があると指摘されている。最新の研究によれば、中国に「日本化」の波が押し寄せる可能性もあるという。
かつての日本経済は米国のそれを追い抜くと見られていたが、90年代にその可能性は消えた。2003年になると、日本はもはや「すべて順調だ」とうぬぼれていられない状況に陥った。その後も、虚栄に満ちた80年代の不良債権の処理を誤り、「日本はすぐに立ち直る」という見通しも消えた。
2000〜03年にかけて、日本政府の支援のもとに大規模な銀行合併がおこなわれたが、連動する危機の数々が解決されるには至らなかった。
2003年3月、三井住友フィナンシャルグループは巨額の損失を出し、慌ただしく子会社を逆さ合併した。同年4月には、国内大手のりそな銀行が破綻の兆しを見せ、5月には、170億ドル(当時約2兆円)の税金を投入する救済措置がとられた。
同年末、追い打ちをかけるように大手地銀の足利銀行が破綻した。こうした出来事はすべて、先延ばしされた「爆発」だった。もっと早くにはじけていれば、被害はもっと少なくすんだかもしれない。
いまの中国と「バブル期の日本」の類似点
2023年2月、米金融大手シティグループのアナリストチームが中国に関する報告書を発表。同国の現状が、バブル崩壊前の日本ときわめて多くの点で類似していると指摘している。
当時の日本と同様に、中国では人口減少が始まっている。90年以降、日本で35〜54歳の年齢層が減少し、住宅価格指数が下落したことが想起されるという。
さらに日本も中国も、インフラ投資と輸入の促進によって、GDPが長期的に急成長した。日本は戦後から、中国は2001年にWTOに加盟してからだ。
世界銀行によれば、2010〜20年にかけて、中国のGDP成長率における資本形成の占める割合は43%と非常に高い水準にあった。一方、バブル崩壊時の日本の資本形成の割合もおよそ36%だった。
日中両国は、経済成長を促すための融資の仕方も似ている。日本のバブル経済は、政府に後押しされた商業銀行が景気のよい産業に長期低利で貸し付ける間接金融によって成長した。中国も同様に、間接金融に依存した金融システムを構築してきた。中国政府は、中央銀行である中国人民銀行のみならず、商業銀行の融資活動も操作できるのだ。
80年代に日本政府が内需を促進するため、金融緩和政策を導入すると、日本の不動産バブルは急速に拡大した。
借入金が飛躍的に増大し、株式と不動産が流動化した結果、企業はビジネスよりも、金融投機からのほうが高い収益を得られるようになった。
それから数十年を経て、中国も実体経済と金融システムを切り離した。シティグループによると、中国の不動産市場は2020年までに65兆ドル(約8900兆円)に達した。これは米国、EU、日本の市場の合計を超えており、明らかなバブルと言える。
2021年には、中国の銀行の総資産の41%を不動産関係の融資と貸し付けが占めた。日中どちらの場合も、不動産バブルを加速させたのは、正規の方法では銀行融資を受けられない人に融資をする「影の銀行」だ。この融資の市場は、国が課す融資制限をくぐり抜けるために生まれ、肥大していった。
投資家は「中国のリスク」に注意を払うべき
シティグループは、日中と米国の関係にまで類似点を見出している。バブル期に日本経済が成長すると、技術、知財、安全保障の問題を巡って日米貿易戦争が激化した。一方、近年の米国は中国を意識してか、国外からの先進技術へのアクセスを制限する法整備を講じる。
こうした類似点があるからといって、当時の日本と現在の中国が完全に同じだとは言えないかもしれない。だが、こうした状況から受ける影響には、共通するものがあるだろう。20年前、日本はまさにバブル崩壊のどん底を経験していた。
ゾンビ企業の負債が、金融機関のバランスシートを圧迫した。さらに、企業も家計も長期的なデレバレッジに突入し、低金利が続いた。
シティグループはこう結論づける――「日本化」は中国にも起こりうることであり、投資家は同国のリスクに注意を払うべきだ。

 

●雇調金特例、失業抑制に貢献 支出6兆円、財政悪化 新型コロナ 5/8
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は2020年から雇用調整助成金(雇調金)に特例措置を導入した。
企業の雇用維持に対する手厚い支援で、失業の抑制に一定程度貢献したが、約3年間で支出は6兆円規模に膨らみ、雇用保険財政の大幅な悪化を招いた。
雇調金は、企業が従業員に支払った休業手当の一部を助成する制度。1人1日当たりの上限額は現在8355円だが、特例では最大1万5000円に引き上げ、助成率も最大100%に拡充した。経過措置を経て、特例は今年3月末に終了した。
特例について、連合の芳野友子会長は「コロナ禍で雇用を守っていくのが大変な産業がたくさんあった。雇調金があったからこそ、雇用を維持できたところもある」と評価する。実際、コロナ流行下での完全失業率(季節調整値)は20年10月の3.1%が最高で、リーマン・ショック後の09年7月の5.5%と比べ低水準にとどまった。
一方、この間の雇調金支給決定額は累計6兆円規模に上り、雇用保険財政は悪化した。雇調金を含む雇用保険二事業で、貯金に当たる雇用安定資金の残高は19年度の約1.5兆円から20年度以降はゼロとなり、本来は失業手当などの原資となる積立金から累計3兆円以上を借り入れるなどして急場をしのいだ。
手厚い支援は労働力の移動を妨げ、人手不足に拍車を掛けた面もある。加藤勝信厚生労働相は特例に関し、「雇用と暮らしの安定に貢献したと考えているが、有効な人材活用が進まなかったとの指摘もある」と総括。「今後の政策の在り方について検討したい」と述べ、効果の検証などを進める方針を示した。 
●日本の政策立案者はいかにして深い穴に落ちたか 5/8
日銀による金融引き締めに賭ける投資家は、過去30年あまりの超低金利の中で、ほとんど勝利の経験をしたことがない。日銀の植田和男新総裁による最初の決定は、その例外ではないことを証明した。中央銀行の主要政策であるイールドカーブ・コントロール(10年物国債の利回りを0.5%に抑え、積極的な国債購入を行う)は、4月28日、据え置かれた。その代わりに、日銀の政策立案者は金融政策の見直しを発表した。この見直しは1年、場合によってはそれ以上続くと予想されている。
投機筋が再び火傷を負った指を治療する姿は、殺伐とした喜びに満ちている。しかし、この政策レビューは、一見すると官僚的な運動よりも有意義であることが判明するかもしれない。日本経済が1990年代にデフレに突入して以来、日銀が下した決断を評価する報告書である。
その出発点は、中央銀行が置かれている厳しい現実であろう。2016年に始まったイールドカーブ・コントロールは、日銀の膨大な資産購入が債券市場の機能に問題を引き起こし、追加的な刺激策がほとんど不可能であるという事実に対する譲歩であった。しかし、今、日銀が抱えている問題は大きく変わっている。日本のインフレ率は1980年代初頭以来の高水準にあるが、金利がわずかに上昇するだけでも、経済には大きな打撃を与えかねない。停滞した経済を刺激するために何十年も試行錯誤してきた日本の中央銀行は、どの方向にも大きく動くことができず、厄介な窮地に陥っている。
その理由を理解するためには、問題の根源に立ち返ることが必要だ。1980年代後半、日本は株価と不動産価格を中心とした巨大な資産バブルに見舞われた。世界で最も価値のある企業10社のうち6社が日本を本拠地とした。しかし、1989年の利上げでバブルは意図的に弾け、株価は直ちに下落し、地価は1990年代を通じて下落の一途をたどった。それ以来、日本は野村総合研究所のリチャード・クーが言うところの「バランスシート不況」に陥っている。企業や家計は投資や消費よりも借金の返済に集中し、経済成長を阻害している。
数十年にわたる倹約の結果、日本の住民は負債よりも金融資産をはるかに多く持っており、金利の上昇に対して非常に脆弱であるようには見えない。家計は株に貯蓄するのではなく、銀行預金を好んで保有し、その残高は1,100兆円(約8兆ドル)と、日本のGDPのほぼ200%に相当する。非金融機関はさらに561兆円を保有している。
世界では、家計は金利の上昇で圧迫されるのが普通だ。少なくとも短期的には、日本の家計は恩恵を受けることになるかもしれない。調査会社キャピタル・エコノミクスのマルセル・ティエリアントは、日本の金利が1ポイント上昇するごとに、家計の純金利収入は4.7兆円、つまり年間可処分所得の1.5%が増加すると指摘している。通貨高で輸入品が安くなることもあり、家計はむしろ金利上昇を喜ぶと思われる。
しかし、その痛みは他の場所にも及ぶだろう。最初に被害を受けるのは、民間企業の節約で負債が大きくなった政府機関である。昨年の予算では、国債の平均金利が0.8%でも、昨年の予算では歳出の約8%が利払いに充てられていた。
その影響は、かつてほどではないにせよ、何年もかけて滴り落ちてくる。日銀が日本の債券市場の半分以上を所有し、さらに長期の債券を所有していることが、金利上昇が財政に影響を与えるペースを速めている。日銀が債券を購入すると、基準金利を生む資産を作ることになる。金利が上昇すれば、日銀は直ちにこの資産を増やすことになる。政府はこの増加分を負担することになる。
金利上昇の痛みを直ちに感じるのは、経済の第二の部分である銀行システムである。金利が上がれば、中小の金融機関の資産に大きな含み損が発生する。コンサルタント会社の日本経済研究センターは、長期金利が1%ポイント上昇すると、地方銀行の経済価値(資産と負債の予想キャッシュフローに応じた価値)は、資本金の60%に相当するほど低下すると指摘している。
日本の最も脆弱な金融機関の一部を劇的に弱体化させることによって需要を潰すことは、理想的な方法ではないにせよ、最近のインフレを抑制する方法として、いずれは機能することになるだろう。しかし、長期的な需要不足の問題を解決することも、今や困難になっている。過去30年間に政府債務が大幅に増加したにもかかわらず、財政刺激策は、経済全体の崩壊を防ぐには十分だが、より強い成長に火をつけるには不十分であった。長年にわたり、より積極的な政府支出によって個人消費を増加させるという協調的な努力が、日本に対するケインズ派の明確な処方箋であった。しかし、国債の利回りが上昇したことが、事態を複雑にしている。
ベルリンの壁が崩壊したのと同じ時期に始まった危機から、日本がまだ立ち直っていないというのは少し奇妙に聞こえるが、日本経済は資産バブルの崩壊から協調して回復した経験がないのである。1990年の日本の一人当たりGDPは、アメリカの水準を約18%下回っていた。2021年には、同じ指標で、日本の一人当たりGDPはアメリカの39%以下となった。
このように、世界第3位の経済大国である日本が、政策担当者たちの手によって、厄介な状況に置かれ続けている。植田は、アカデミックな立場から日銀の門外漢であり、それを端的に伝えるチャンスである。レビューは、助けを求める叫びであるべきだ。問題を認めることは、解決への第一歩であり、その解決策が不快なものである場合はなおさらである。
●「のほほん」と上がっている日本株の先行きがかなり心配だ 5/8
アメリカの景気や企業収益が、筆者の予想どおり、着実に悪化している。同国の企業収益については、5月5日までに1〜3月期の決算発表がほぼ一巡した。同期におけるS&P500種指数採用企業の1株当たり利益は、IT大手企業の想定以上の奮闘によって、前年同期比2.0%の減益で着地するもようだ。これは、昨年10〜12月期の同3.7%減益からは傷が浅くなりそうだ。
4〜6月期の米企業収益予想は下方修正、消費も変調気味
ただし、7日時点でのアナリスト予想の集計値(ファクトセット調べ)では、続く4〜6月期は同4.4%減と減益率が拡大しそうだ。しかも、同期の予想値は足元で下方修正が続いている。
もし予想どおりとなれば、同国の企業収益は3四半期連続の減益となる。直近ではコロナ禍(2020年1〜3月期、4〜6月期、7〜9月期)以来のことで、企業収益の不振を示すものとなりそうだ。
同国の経済全体の規模をGDP(国内総生産)で測ると、その7割弱は個人消費だ。その動向がわかる小売売上高は3月(4月14日発表)が前月比で1.0%減少し、2月の同0.2%減に続いて2カ月連続の前月比マイナスと、明らかに変調気味だ。
消費を支えるのは雇用だが、先週発表されたいくつかの指標を見ても明らかに減速している。2日発表の雇用動態調査における求人件数は、2月の997.4万件から3月は959.0万件に減少し、市場の事前予想の977.5万件を大きく下回った。まだ求人数の水準自体は高いものの、企業が採用意欲を減退させていることがうかがえる。
また、4日に公表された新規失業保険申請件数(週次統計)も、直近(4月最終週)は24.2万件と、その前週の22.9万件から増加し、市場の事前予想の24.0万件をわずかながら上回っており、ごく最近の失業者の増加がうかがえる。
こう書いていくと、読者の方の中には、「馬渕さんはとんでもない誤りを語っている。5日発表の4月分の雇用統計では、非農業部門の雇用者数が前月比で25.3万人も増えた。これは市場の事前予想(18.0万人増)を7.3万人も上回ったではないか。だから『景気は堅調だ』との見解が市場に広がり、アメリカの主要な株価指数は週末に大きく持ち直したのだ」などと、憤る方がおられるかもしれない。
しかし、筆者はまったくそうは思わない。実は、その雇用者数の統計からこそ「雇用情勢は弱い」と判断すべきだ。
4月分の雇用統計の発表の一方で、すでに発表されていた3月分の雇用者数は前月比23.6万人増から同16.5万人増へと、7.1万人分も下方修正された。それだけで4月分の「事前予想より上回った分(7.3万人)」を、ほぼ完全に打ち消している。
それだけではない。さらにさかのぼって、2月分の前月比も32.6万人増から24.8万人増に、7.8万人分も下方修正された。つまり、4月分の雇用者数の水準は、想定よりもかなり弱かったといえる。
なぜ前週末のアメリカ株は上昇したのか
では、なぜ5日の金曜日にアメリカの主要な株価指数は前日比で上昇したのだろうか。
このところの同国の株式市場は、銀行の経営不安に振り回されている。経営危機が取り沙汰されていたファースト・リパブリック・バンクについては、5月1日にFDIC(連邦預金保険公社)が正式に同行の破綻を表明すると同時に、JPモルガン・チェースによる同行の買収が決定された。
「破綻したが、どう処理するかはこれから決めます」といったことではなく、水面下でFDICとJPモルガンが協議し、迅速に収拾策を打ち出したという点は評価できる。
ところが3日には、複数のメディアが中堅銀行であるパックウエスト・バンコープについて「身売りなどを検討している」と報じ、銀行全般の経営不安が再燃した(同行は経営不安を否定)。一連の銀行の経営不安については「リーマンショックの再来だ」などと騒ぐ向きもいるようだ。
しかし、当時は根強い「住宅神話」があった。「信用リスクが高い(返済できない可能性が高い)借り手に住宅ローンを貸し付けても、値上がりし続ける住宅を担保にとっていれば大丈夫」だとして、幅広い銀行が深入りした。
その結果、住宅価格の反落(担保価値の下落)で不良債権を抱えたという展開だった。また、そうした住宅ローンは証券化されて、幅広い投資家が保有し、損失を被った。今回は、金融界全体に厳しい事態が再来するような情勢にはない。
しかし、銀行危機がくすぶり続けている背景には、景気悪化で融資が伸びない状況の中で、昨年来の金利上昇(債券価格の下落)で銀行収益が傷んでいることが挙げられる。また、景気も冴えないことから、預金者が手元に現金が必要になって預金を引き出し気味だという要因もある。そのため、手放しで銀行の収益環境を楽観することも妥当ではない。
こうした根強い不安から、銀行の株価下落に歯止めがかかりにくい情勢が続き、投資家の警戒心が緩みにくかった。この「心理悪」が銀行以外の業種も含めて、アメリカの株価全般を抑制する方向で働いていた。
そこへ4日、大手通信社のロイターが、銀行株が売り込まれていることについて「連邦政府・州政府の関係者が『銀行株に関する市場操作の可能性について一段と注意を払っている』と語った」と報じた。
同日には、こうした報道の背景として、アメリカの銀行協会が、SEC(証券取引委員会)に書簡で「財務が良好にもかかわらず、大規模な空売りを受けている銀行がある」、あるいは「銀行株の空売りが市場を歪める」などと訴えていたことが明らかになった。
「SECへの警戒感」で銀行株が買い戻された?
確かに、銀行経営に対する漠然とした不安が強い中で、市場では、それに乗じて空売りで儲けようとする投機筋が増えて、それが銀行の株価を不当に押し下げてしまうという現象が起きていたのだろう。
もし、株価下落に歯止めがかからなければどうなるか。「市場はつねに正しいのだから、これだけ銀行の株価が下がるということは、何かその銀行について経営が危ういという確かな情報があるに違いない」と預金者が誤った判断を行いかねない。その結果、預金の取り付け騒ぎが広がって、実際に銀行を破綻させてしまうという事態も起こりかねない。そうした状況の中で、前述のような報道がなされたと推察される。
この4日の報道が、「SECが何らかの空売りの規制を行うのではないか」との憶測を翌5日に広げ、そのため、とくに銀行株について空売り筋が買い戻しを行ったようだ。これで銀行株が反発、市場全体にはいったん楽観的なムードが広がったことで、先週末のアメリカの株価指数が上昇した。筆者はそう判断している。
ただ、当局が空売り規制を実際に行うかどうかについては、疑念を抱く向きも多いようだ。たいがい、投機売りを規制すれば、かえって「そんな規制を行わなければいけないほど、事態が悪いのだ」という観測が膨らんで、逆効果になることもあるからだ。
仮にこれから、実際に当局による空売り規制が打ち出されたとしても、それによる株価上昇効果は、目先の買い戻しが終わってしまえば消えてなくなる。あとに残るのは、着実に悪化している景気と企業収益に沿った、アメリカ株の下落基調だろう。
今一度、世界のさまざま市場を広く眺めると、世界的な景気悪化に沿った動きを示しているものが多い。
例えばアメリカの10年国債利回りは、先週の1日の引けあたりでは3.59%に強含んでいた。だが、4日には3.30%近辺に低下した。週末はやや戻し、3.45%前後と金利上昇はしているものの、頭が重い。長期債券市場では、景気動向に対する疑念が色濃いと解釈する。
また為替市場では、4月28日に日本銀行の金融政策決定会合の結果発表があったが、そこで金融政策の変更がなかったことを「ネタ」に、そこから円安の動きが進んだ。先週の5月2日には、ドル円相場は一時1ドル=137円70銭超え、ユーロ円相場は1ユーロ=151円60銭超えと、大きく振れた。
こうした円安で日本の輸出関連株については楽観論が広がったが、ユーロ円はいったん天井をつけた形になったし、ドル円は完全に「行って来い状態」だ。やはり、アメリカの景気に対する疑念がドルを下に押し戻したといえる。
また、国際商品市況においても、例えば原油の国際指標であるWTI先物価格は、一時は1バレル=63.50ドル手前までと、70ドルを大きく割れた。前週末現在では71ドル台を何とか回復しているものの、世界的に景気が悪化し、エネルギー需要が減退するという展望を反映していると考える。
日本市場だけ「のほほん」としていないか
世界の諸市場が経済環境などの悪化を正しくとらえている中、日本の株式市況だけは「のほほん」としているように見える。いまだに「ウォーレン・バフェット氏が日本株を買うから大丈夫だ」などと安心しているのだろうか。
こうした中、具体的な記事名は述べないが、ある報道で気になるものがあった。今、大きな問題になっている銀行の「AT1債」(銀行が発行する劣後債の一種。クレディ・スイスのAT1債が無価値になったことで話題になった)についてだ。
要約すると、以下のようになる。「日本以外の投資家はAT1債が高リスクだと正しく評価しており、もはや手を出さない。だが、日本の投資家は別だ。日本株への『のほほんさ』に表れているように、リスクに対して鈍感だから、海外金融機関などがAT1債をパッケージにして日本でさばいている」ということだ。
「日本勢が世界中のババをつかんだ」という結末にならなければよいのだが、筆者は心配している。
●5日の米国市場ダイジェスト:米国株式市場は反発、4月雇用統計を好感 5/8
NY株式:米国株式市場は反発、4月雇用統計を好感
ダウ平均は546.64ドル高の33,674.38ドル、ナスダックは269.02ポイント高の12,235.41で取引を終了した。
健全性が警戒され前日に大きく売られた地銀の株価が大幅反発したことで警戒感が緩和、さらに携帯端末アップル(AAPL)の好決算も好感され、寄り付き後、上昇。4月雇用統計が総じて予想を上回ると経済のソフトランディング期待から買戻しが強まり、相場全体を一段と押し上げた。また、セントルイス連銀のブラード総裁が銀行のストレスを巡り「制御可能」との見解を示し、金融不安がさらに緩和したことも買い材料となり、終盤にかけて、上げ幅を拡大した。セクター別では自動車・自動車部品やテクノロジー・ハード機器の上昇が目立った。
携帯端末のアップル(AAPL)は「iPhone(アイフォーン)」の強い売り上げが奏功し決算内容が予想を上回ったほか、新興国市場の強さや供給の回復に言及したため一段の業績改善期待から大幅高。中古車販売プラットフォーム運営のカーバナ(CVNA)は第1四半期決算で損失が予想ほどには拡大せず、さらに、第2四半期の調整後収益の改善見通しが好感されて上昇。地銀パックウェスト(PACW)は売られ過ぎとの見方から買戻しが強まり、上昇。同業のウェスタン・アライアンス・バンコープ(WAL)、ザイオンズ・バンコーポレーション(ZION)、コメリカ(CMA)はアナリストの投資判断引き上げで買われた。
電気自動車メーカーのテスラ(TSLA)は中国での上級モデルの値上げを発表、収益回復期待から上昇。半導体のエヌビディア(NVDA)はソフトウェア会社のマイクロソフト(MSFT)が人工知能を巡る競合アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)との協業報道を否定したため、買われた。配車サービスを供給するリフト(LYFT)は競合ウーバー(UBER)との競争激化などが影響し、見通しが予想を下回り下落。
セントルイス連銀のブラード総裁はインフレに進展があまり見られず、連邦準備制度理事会(FRB)が結果的に追加利上げを強いられるとの考えを示した。
NY為替:良好な米雇用統計を受けて金利先高観強まる
5日のニューヨーク外為市場でドル・円は、134円16銭から135円12銭まで上昇し、134円81銭で引けた。米労働省が発表した4月雇用統計で失業率が予想外に54年ぶり低水準に低下、非農業部門雇用者数の伸びも予想外に拡大する強い結果を受けて、追加利上げ観測やソフトランディング期待にドル買いが加速。昨日下げた地銀株の反発で、金融不安が緩和したためリスク選好の円売りが優勢となった。
ユーロ・ドルは、1.0967ドルまで下落後、1.1037ドルまで上昇し1.1019ドルで、引けた。強い米雇用統計を受けたドル買いが強まったのち、欧州中央銀行(ECB)の追加利上げ観測を受けたユーロ買いが優勢となった。ユーロ・円は147円77銭から148円71銭まで上昇。金融不安後退でリスク選好の円売りが強まった。ポンド・ドルは、1.2561ドルまで下落後、1.2652ドルまで上昇した。70年ぶり英国王戴冠式の経済的効果を期待したポンド買いが強まった。ドル・スイスは、0.8973フランへ上昇後、0.8904フランまで反落した。
NY原油:上昇、良好な米雇用統計や株高を好感した買いが入る
NYMEX原油6月限終値:71.34 ↑2.78
5日のNY原油先物6月限は上昇。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は、前営業日比+2.78ドルの71.33ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは68.48ドル-71.72ドル。良好な4月米雇用統計を受けて株高となり、6月以降も利上げを継続する可能性は残されていることから、原油先物は強い動きを見せた。
●潮目が変わるネット広告業界  5/8
今年2月に電通が「2022年 日本の広告費」を公開した。総広告費は7兆1021億円と過去最高額を記録。7兆円を突破したのは2007年以来15年ぶりである。
これだけ長期間過去最高額を更新しなかったケースは珍しい。総広告費が伸び悩んだ理由は、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2020年のコロナ拡大と、広告業界にとって逆風の出来事が相次いだからだろう。それらを乗り越えての市場規模回復だ。広告業界の方々にとってポジティブな話題だと想像する。
さて主題は総広告費ではなくネット広告費。2022年は前年比14.3%増の3兆912億円と3兆円台に乗った。総広告費の市場規模は15年ぶりに過去最高となったが、この間ネット広告費の市場規模は一度も前年割れすることなく一貫して拡大を続けてきた。
2019年にはテレビメディア広告費を逆転し2021年にはついにテレビ、ラジオ、新聞、雑誌の4媒体広告費をも抜き去った。なるほどネット広告の勢いは全く衰えていないようだ。別角度からもう少し掘り下げてみよう。
個人消費額全体に占めるネット広告費の比率を算出してみた。分かりやすくいえば個人消費に対し、ネット広告費がどれくらい投入されたかというマクロレベルでの計算である。
2022年の個人消費額を分母、ネット広告費を分子とし計算すると1.08%となった。つまり10万円の個人消費に対し、1080円のネット広告費が投入された計算になる。この値が高いのか低いのかを理解するために、同様の計算を米国のデータでも行い時系列で日米を比較してみた。
結果はグラフの通り。両国とも年々、比率が上昇しており、かつ米国の方が日本よりも値が高い。両国とも個人消費においてネット広告の重要性が日に日に増している証左だろう。
米国の広告費に関するデータは複数あり、出所によって結果に多少の差異が出るのだが、いずれのデータでもこの傾向は変わらない。なお電通のリリース「2022年 日本の広告費 インターネット広告媒体費詳細分析」によると、2023年もさらに国内のネット広告費は拡大するとしている。
企業心理は後ろ向き
他方、CARTACOMMUNICATIONS(カルタコミュニケーションズ)による「2022年下期インターネット広告市場動向」では、2022年下期のネット広告費は横ばいか減少とアンケートで回答した率が過半数に達している。
同調査では、広告千回表示ごとの費用を意味するCPM(Cost Per Mille)が記載されているが、2022年は前年比9.48%増となっている。まさに費用対効果が問われている状況と見る。CPMの上昇がネット広告の投下マインドを押し下げていると推測される。
話を整理すると市場規模が拡大する一方、個々の企業レベルではネガティブな傾向が見られるということだ。この事象はネット広告を新たに行った企業数の増加が、広告単価上昇につながった結果と想像する。
サードパーティクッキー規制などネット広告には気になる要素もある。今まさに潮目が変わろうとしている状況かもしれない。
ネット広告の手法などのテクニカルな変化もさることながら、思い切ってビジネスモデルの改革が必要かもしれないと個人的には予見している。
●円相場 2円以上値上がり FRBが利上げの打ち止め示唆で  5/8
連休明けの8日の東京外国為替市場、アメリカの中央銀行にあたるFRBが利上げの打ち止めを示唆したという受け止めなどからドル売り円買いが進み、円相場は2円以上値上がりしています。
先週開かれたFRBの会合の結果を受けて、外国為替市場では一時、1ドル=134円台まで円高ドル安が進みました。
市場関係者は「FRBの会合を受けて、日米の金利差の縮小が意識され、円高が進んでいる」と話しています。
また、連休明けの東京株式市場では、円高の進行を受けて、輸出関連の銘柄などに売り注文が出て、日経平均株価は今月2日と比べて、小幅に値下がりしています。 
●銀行危機と預金保護 5/8
3月10日(金)にカリフォルニアのシリコンバレーバンク(SVB)が破綻した。連邦預金保険公社(FDIC)が管理下に置き、預金を全額保護する、とした。その2日後にはニューヨークのシグネチャーバンクが破綻した。これをきっかけに、アメリカの地方銀行のいくつかから大きな預金流出が起きた。
銀行不安は、欧州にも飛び火して、3月19日に、スイスの2大銀行のうちのひとつクレディ・スイスが、スイスの銀行当局の仲介で、ライバルのUBSに買収されることとなった。
SVBの破綻は、根本的には教科書的な破綻だが、破綻を急速なものにした特殊要因もある。
教科書的というのは、金利の急上昇によって保有する長期国債の市場価値が下落して危機に陥ったという点である。長期国債の未実現評価損を計上すると、大幅に資本が棄損する。ただし、市場価値の下がった長期国債を満期まで保有すれば、満額の償還を受けるわけなので、満期までの保有を宣言して未実現評価損を計上しない、ということができる。
しかし、満期保有による価値回復がうまくいくためには、条件がある。
急激かつ大規模な預金引き出しが起きると、支払いのために、未実現評価損が出ている国債を売却せざるをえなくなる。そうすると、未実現評価損が実現損となり、(満期まで保有することによる)取り戻しが不可能になる。まさに、これがSVBで起きて、そのことをSVBが公表したことで、その後預金流出が急加速した。
また、ひとつの銀行に取り付け騒ぎが起きて経営破綻が起きると、次に危ない銀行がどこだと預金者が不安になり、次から次へと預金引き出しと銀行破綻が続くことになる。いわゆるドミノ倒しの銀行危機である。
銀行取り付け騒ぎが起きないようにする、そしてドミノ倒しのような危機の伝播が起きないようにするのが、銀行監督と預金保険制度の役割だが、今回のSVB危機では失敗して、結局預金を全額保護することになった。ドミノ倒しを防ぐための最後の手段と言える。
SVBのケースで特異なのは、SVBの預金のうち90%が、預金保護の対象外の大口預金だったことで、それが急速な引き出しにつながった。大口預金者が、銀行が破綻すると預金の一部が返還されなくなる(ヘアカット)のではないか、という心配になり破綻前に引き出した。預金保険制度による預金引き出し抑止が機能しなかった、ということになる。
FDICがSVBを管理下に置いたあと、預金保険限度額を超えて預金全額保護すると発表した。全額保護には、賛否両論ありうる。
賛成の立場の人は2つの理由を挙げるだろう。第一に、SVBは直面しているのは、流動性の危機であり、債務超過ではない、という見方である。税金を投入するまでもなく、預金は全額保護できるという論理である。第二に、ドミノ倒し銀行破綻を防ぐには、最初に破綻した銀行で全額保護を打ち出すことが正しい選択だ。
一方、全額保護には反対論もありうる。第一に、そもそも預金保険による保護に上限があるのは、預金保険は少額預金者だけを保護すればよいという、消費者保護的考え方である。大口預金者は資産家で金融リテラシーもあるので自己責任だと考える。
第二に、流動性の危機を危惧する銀行は預金を集めようとして、多少高い金利の預金商品を提供する。預金ではあるが、破綻リスクを考えるとハイリスク・ハイリターンの商品である。これを承知で預金する大口の預金者は実は投機者であり、このような行動を保護する必要ない。全額保護を実施すると、モラルハザードを引き起こすというものだ。
このような銀行危機の余波は日本には来ていない。
主な理由は、日本のインフレ率が欧米に比べて低いので、金利上昇が微々たるもので、長期国債の評価損が発生していないからである。しかし、日本の賃金上昇が大幅となり、インフレ率が継続的に目標の2%を超えるようであれば、10年継続した異次元緩和の金融政策も転換されるかもしれない。
●FRB利上げ、それでも米国経済を襲う「3つの危機」 5/8
金融危機再燃の不安が高まるなか、FRB(米連邦準備制度理事会)は2023年5月2、3日に開催したFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利を0.25%引き上げた。
銀行破綻の連鎖を防ぐことより、歴史的なインフレ退治を優先させたかたちだ。しかし、「追加利上げ停止の示唆」と受けとめられる声明を出したため、一気に「年内に利下げが行われる」との観測が株式市場で織り込まれた。
揺れ動くFRBの判断。米国経済はどうなるのか? エコノミストの分析を読み解くと――。
「債務上限」で浮上した新たな危機、米政府のデフォルト
FRBが政策金利を0.25%引き上げた一方で、5月5日に発表された4月米雇用統計は米雇用関係の強さを改めて示す内容となった。
失業率は1969年以来という3.4%にまで低下。これはほぼ「完全雇用」状態に匹敵する。賃金インフレを読むうえで重要な平均時給も、前月比プラス0.5%、前年比プラス4.5%と、賃金上昇圧力のしぶとさを印象付けた。
こうした賃金上昇は、物価上昇に直結する。そのため、「インフレ退治」を最優先するFRBとしては、利上げを進めて経済活動を停滞させ、物価と賃金上昇を抑え込まなくてはならないが、さらなる金融引き締めは、リスク管理に問題のある銀行をあぶり出す危険性をはらんでいる。
今回のFRBの追加利上げ決定と米国雇用統計の結果について、エコノミストはどう見ているのだろうか。
ヤフーニュースコメント欄では、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミスト渡辺浩志氏が、
「インフレ退治の金融引き締めが金融不安を招くなか、FRBは金融の安定と物価の抑制の両立を迫られています。とはいえ、利上げ開始から1年あまりが経過してもなお力強い雇用と低い失業率が続いており、インフレの粘着が強く警戒されるところ。今般の金融不安が金融危機に発展しない限り、FRBはインフレ退治を優先し、引き締め的な金融政策を継続する公算です」と指摘。そのうえで、「もっとも、政策金利(5.1%)は米国経済が耐え得る水準(名目潜在成長率、4%)を超えており、オーバーキルも警戒されます。今般の金融不安も銀行の貸出態度の厳格化や信用収縮を通じて景気の谷を深くする恐れがあります。インフレと景気後退が同時に進むスタグフレーションに陥る恐れも。その場合、FRBは容易には金融緩和に転じられず、金利の下げ渋りと業績悪化で株式市場には逆風が吹きます。早期利下げによる株高(金融相場)のシナリオは修正が必要でしょう」と、早期の利下げを期待する金融市場の甘さを批判した。
同欄では、上智大学総合グローバル学部学部長の前嶋和弘教授(現代アメリカ政治外交)が、もう1つの危機に警鐘を鳴らした。米政治を揺るがしている「債務上限問題」だ。
「3.4%という低失業率は1969年ぶりという記録的な数字。コロナによるサプライチェーンの崩壊が直るとともに失業率も改善してきました。ただ、本格的な景気後退期に入ってくるという見方も根強く、不安感から先日の中堅銀行の相次ぐ破綻も実際の影響よりも大きく報じられる傾向にあります。また、何といっても今年のアメリカ政治の最大の争点である債務上限引き上げをめぐる駆け引きの展開次第では、世界経済を巻き込むような大きな事態も懸念されます」
「債務上限」とは、米連邦政府が国債などで借金できる債務残高の枠のこと。債務が上限に到達すると、議会の承認を得て、上限を引き上げなければ新たな国債を発行できずに債務不履行(デフォルト)に陥る。すると、金融市場に大混乱が起こる可能性がある。
しかし、議会ではバイデン政権と野党共和党との対立が続いており、主張の隔たりが大きい。財務省が資金繰りに行き詰まる「Xデー」が6月1日に迫っている。
5月9日にバイデン大統領は共和党幹部と話し合いを持つが、共和党内には民主党との妥協に断固反対する保守強硬派「フリーダム・コーカス」(約30人)がおり、先行きは不透明だ。
金融市場の甘い期待「年内利下げ」がない理由とは?
このように混沌とした情勢もあって、「FRBは6月FOMC以降、政策金利を年内いっぱいは据え置く」と予想するのは、三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。
市川氏はリポート「2023年5月FOMCレビュー 〜今後の政策判断について示されたこと」(5月8日付)のなかで、現在、金融市場が織り込んでいるFRBの金融政策に関する予想一覧表を紹介した【図表】。
   (図表)FRBの金融政策に関する市場予想
これを見ると、6月と7月のFOMCで政策金利は5.00%〜5.25%のまま据え置かれる。そして、9月FOMCで0.25%、12月FOMCで0.50%、それぞれ利下げされ、年末には4.25%〜4.50%になる見通しだ【再び図表】。
これは、今回のFOMC声明から、「追加利上げが適切になるかもしれない」という文言が削除されたため、利上げが打ち止めになる可能性を示唆したと受け止められたためだ。
しかし、市川氏は、「これは利上げ停止の趣旨ではなく、会見のパウエル発言を踏まえると、利上げはデータ次第の趣旨とみる」として、こう指摘する。
「(パウエル議長は)『FOMCごとに入手されるデータで政策判断を行う』と述べました。つまり、今後発表される経済指標の内容次第で、追加利上げも、利上げ停止もあり得る、という見解を示したと推測されます」
「また、パウエル議長は、信用条件の引き締まりによる利上げ効果について、『正確に見積もることは全く不可能』とした一方、『信用条件や貸出に何が起きているのかは確認でき、それについては多くのデータがある』とし、『それを意思決定に反映させる』と発言しました。そして、利下げに関し、インフレ率の低下は『ある程度の時間がかかる』ため、そのような状況で『利下げは適切ではない』と述べました」
以上の理由で、今後のFRBの政策判断は経済データ次第とみられ、6月のFOMCでは追加利上げの可能性も残るが、基本的には年内いっぱいの据え置きを予想するとしている。
パウエル議長自身が、銀行不安の火に油を注いでいる
一方、市場が期待する利下げの可能性は、銀行不安がさらに拡大し、マイナス成長にまで景気後退した場合しかないだろうと警鐘を鳴らすのは、大和総研ニューヨークリサーチセンター主任研究員の矢作大祐氏だ。
矢作氏はリポート「FOMC 今回の利上げをもって一旦打ち止め 更なる利上げはデータ次第。早期の利下げ転換はハードルが高いか」(5月8日付)のなかで、こう述べる。
「市場の期待が高い2023年内の利下げの可能性に関しては、景気やインフレ見合いとなる。パウエル議長は、インフレが想定以上に迅速に減速していかない限り、可能性は低いと考えているようだ。利下げ可能性を高めるとすれば、銀行不安の更なる広がりに伴うマイナス成長といった、景気の想定以上の下振れだろう。ただし、利下げが可能になるとはいえ、市場も銀行不安のさらなる広がりは本望ではないだろう」
また、矢作氏は「FOMC自体が銀行不安のさらなる広がりのきっかけとなり得ることに注意を要する」と指摘する。いったい、どういうことか。
「記者会見でパウエル議長が、前述のとおりインフレ減速なき利下げに対して慎重な姿勢を示したことで、銀行セクターの直面するストレスが継続するとの市場の認識が強まり、中堅銀行の株価が落ち込んだ」
「こうした株価の下落が進めば、預金者は銀行の経営に対して不安を抱き、預金の引き出しを進め得る。預金の引き出しが進めば、銀行の手元流動性不足に対する市場の疑念は強まり、株安がさらに進むことも考えられ得る。こうした不安心理のスパイラルに陥ることが最終的には、さらなる銀行の経営破綻へとつながるだろう」
そして、矢作氏はこう結ぶのだった。
「インフレの高止まりリスクがある中で、FOMCとしても拙速な利下げの示唆は難しい。しかし、銀行不安の行く末はこうした市場と預金者の不安心理次第でもあることから、事態の沈静化を図るうえでもFOMCは慎重なコミュニケーションが不可欠となっている」
米国の金融危機は始まったばかり、かなり長期化する?
その「米国の銀行不安」はまだ始まったばかりだと警告するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「米地銀の次の破綻・買収候補を探す金融市場:経営リスクの指標は預金流出から株価下落に」(5月8日付)のなかで、5月1日に米地銀ファースト・リパブリックバンクが破綻した後、次の破綻や買収候補として3つの銀行が挙がっていると指摘した。
それは、カリフォルニア州のパックウエスト・バンコープ、アリゾナ州のウエスタン・アライアンス、テネシー州のファースト・ホライゾンの3行だ。
いずれも経営営不安が強まり、株価が下落した。さらに地方銀行株全体の下落に歯止めがかからないなか、共通するリスクが浮き彫りになっているという。
「各行が低金利環境下で過剰な預金獲得も含めてビジネスを急拡大させたものの十分な金利リスクの管理を怠り、そうした中、金利急騰でそのリスクが一気に表面化したことである。それは、債券投資や固定金利での住宅ローンなどの貸出で生じた巨額な含み損の問題だ。大量の預金流出が生じると、こうした含み損を抱えた証券、貸出債権を売却せざるを得なくなり、損失が拡大して自己資本不足に陥る」
「他方、預金流出が生じなくても、投資家が銀行の破綻や身売りを意識すると、含み損分だけ株式の価値が切り下げられることを警戒し、株価が大きく下落することになる」
つまり、経営不安を示す指標が、預金流出から株価下落に移ってきているわけだ。そして、木内氏はこう結んでいる。
「注目したいのは、現時点での銀行の資産の劣化は金利急騰によってもたらされたものであり、デフォルト(債務不履行)など信用リスクを反映したものではないということだ」
「この先、金利引き上げや銀行の貸出抑制によって米国経済の悪化が明確になれば、貸出資産の焦げ付き、不良債権問題が銀行経営の追加的な逆風となるだろう。このような点から、米国での銀行不安問題はかなり長期化することが予想されるところだ。銀行不安はまだ始まったばかりと言えるのではないか」
●円相場 2円以上値上がり FRBが利上げの打ち止め示唆で  5/8
連休明けの8日の東京外国為替市場、アメリカの中央銀行にあたるFRBが利上げの打ち止めを示唆したという受け止めから、ドルを売って円を買う動きが強まり、円相場は2円以上値上がりしました。
外国為替市場では、先週開かれたFRBの会合の結果、利上げの打ち止めが示唆されたという受け止めから、円高ドル安が進みました。
8日午後5時時点の円相場は、連休前と比べて2円57銭円高ドル安の1ドル=135円2銭〜4銭でした。
ユーロに対しては、連休前と比べて1円96銭円高ユーロ安の1ユーロ=149円19銭〜23銭でした。
ユーロはドルに対して、1ユーロ=1.1049〜50ドルでした。
市場関係者は「投資家の間では、FRBの利上げの打ち止めが意識されているが、先週発表されたアメリカの先月の雇用統計の伸びが市場の予想を上回ったことで、ドルを買い戻す動きも出て、東京市場では、狭い範囲での取り引きになった」と話しています。
●米FRB、前回と同じく政策金利0.25引き上げ、年内の金利引き下げは否定 5/8
米国連邦準備制度理事会(FRB)は5月2〜3日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.25ポイント引き上げ、5.0〜5.25%にすることを決定した(添付資料図参照)。米国では3月10日にシリコンバレー銀行(SVB、2023年3月13日記事参照)、3月12日にシグネチャー銀行(2023年3月14日記事参照)、5月1日にファースト・リパブリック銀行(FRC)(2023年5月2日記事参照)が経営破綻するなど、銀行セクターの信用不安が続いているものの、市場の事前予想どおり、前回(2023年3月23日記事参照)と同じ引き上げ幅となった。なお、決定は参加者11人による全会一致だった。
声明文外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、主な変更・追加点として、4月27日に発表された第1四半期(1〜3月)のGDP成長率速報値(2023年4月28日記事参照)を踏まえ、「第1四半期の経済活動は緩やかなペースで拡大した」との評価が明記された。また、前回の声明文に盛り込まれた「(インフレ率を長期的に2%に戻すために)いくらか追加の政策決定が適切になるかもしれない」とした表現を削除し、「どの程度の追加の金融政策引き締めが適切かを判断する際、FOMCはこれまでの引き締めの累積と、それが経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する」として、引き締めが前提だったこれまでの表現を軟化させた。
ジェローム・パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見の冒頭、前回と同様に銀行セクターの信用不安に触れ、3月初旬以降の状況は改善していると述べた上で、銀行システムは健全で強靭(きょうじん)だと強調した。また、政策金利は前回会合での経済見通しで示した2023年末時点の金利水準(5.1%)に達したが、今後の利上げ停止の決定は今回行っておらず、現状では2023年内の利下げは適切ではないとの考えを示した。また、今後景気後退入りの可能性はあるが、後退回避の可能性の方が高いと述べた。
一方で、債務上限問題については(2023年5月2日記事参照)、議会で対応すべき問題としつつ、上限が引き上げられなかった場合、米国経済を守れる可能性は低いと述べた。なお、資産規模全米1位のJPモルガン・チェースがFRCを買収したことに関して、大手銀行は買収を行わないことが望ましく、今回は例外措置とした。現在、資産規模全米53位のパックウェスト・バンコープが身売りを検討と報道されており(ブルームバーグ5月4日)、同銀も戦略的選択肢を検討していると公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますするなど、銀行セクターの信用不安は今もくすぶっている。また、FRBは2022年6月から米国債などの保有資産を圧縮する量的引き締めを進めているが(2022年5月6日記事参照)、財務省は2023年5月3日に国債を買い戻す措置を2024年度から始めると発表した。金融市場にはすでに負荷がかかっており、債務上限問題の行方によっては、パウエル議長も懸念する深刻な景気後退の引き金になりかねない。与野党間で速やかに決着をつけられるか、注目される。

 

●米FRB、「適切な政策」決定へ 融資条件厳格化踏まえ―財務長官 5/9
イエレン米財務長官は8日、CNBCテレビのインタビューで、連邦準備制度理事会(FRB)は銀行による融資条件の厳格化を踏まえつつ、「適切な政策」を決定するとの見方を示した。FRBは先週の金融政策会合で0.25%の追加利上げを決める一方、次回会合では政策金利の引き上げを停止する可能性を示唆している。
FRBがこの日発表した4月時点の銀行融資担当者調査では、46%が過去3カ月で融資基準を厳格化したと回答。前回1月時点から小幅な上昇となった。イエレン氏は「金融引き締めが効いている」とした上で、「FRBは融資条件の厳格化が景気を鈍化させると認識している」と語った。
●8日の米国市場 米国株式市場はまちまち、債務不履行リスクが重し 5/9
NY株式:米国株式市場はまちまち、債務不履行リスクが重し
ダウ平均は55.69ドル安の33,618.69ドル、ナスダックは21.50ポイント高の12,256.92で取引を終了した。
地銀セクターの回復で金融不安が緩和したため、寄り付き後、上昇。その後、連邦政府の債務不履行リスクを警戒した売りに押され下落に転じた。さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)銀行融資担当者調査で融資基準が一段と厳格化されたことやビジネス融資需要の弱さが証明されると、売り圧力がさらに強まり下落幅を拡大。一方、今週予定されている消費者物価指数(CPI)などの重要インフレ指標発表を控え下値も限定的となり、終盤にかけて下げ幅を縮小した。ナスダック総合指数はプラス圏を回復し、まちまちで終了。セクター別ではメディア・娯楽や保険が上昇した一方で、不動産、医薬品バイオテクが下落した。
地銀のパックウエスト(PACW)は金融混乱を受けて四半期減配を発表したものの、資本増強に向けた理に適う措置との見方が広がると同時に、ビジネスは堅調であることを強調したことが好感され、上昇。同業のウエスタン・アライアンス・バンコープ(WAL)やザイオンズ・バンコーポレーション(ZION)も株価が著しく過小評価されているとしアナリストの投資判断引上げを受けた買いが継続した。著名投資家バフェット氏が運営する保険のバークシャー・ハサウエイ(BRK)は保険業の回復がけん引し第1四半期決算で営業利益12.6%増を発表し上昇。テーマパーク運営会社のシックス・フラッグス・エンターテインメント(SIX)は四半期決算で値上げが奏功し1株損失が予想程には拡大しなかったほか、入園者数が予想を上回ったことで上昇。一方、肉食品メーカーのタイソンフーズ(TSN)は四半期決算で予想外に損失を計上、さらに通期の売り上げ見通しを引き下げ、大幅安となった。
イエレン財務長官は、もし、債務不履行に陥った場合、金融市場は混乱に陥ると警告した。
NY為替:米長期金利上昇を意識してドル買い強まる
8日のニューヨーク外為市場でドル・円は、135円22銭から134円66銭まで下落し、135円09銭で引けた。イエレン米財務長官が週末のインタビューにおいて、「もし、米国が債務不履行となった場合、金融市場は災難に見舞われる」と警告したため警戒感からリスク回避の円買いが優勢となった。同時に、債務不履行リスクに米国債相場が売られ金利上昇に伴うドル買いが下支えとなった。連邦準備制度理事会(FRB)銀行融資担当者調査結果で引き続き貸付基準の厳格化が明らかになったがドル買いが続いた。
ユーロ・ドルは、1.1044ドルから1.1000ドルまで下落し、1.1003ドルで引けた。ドイツの製造業や鉱工業生産の指標が冴えず域内の景気後退懸念が再燃しユーロ売りが優勢となった。ユーロ・円は149円20銭から148円46銭まで下落。ポンド・ドルは、1.2655ドルから1.2613ドルまで下落した。ドル・スイスは0.8903フランから0.8880フランまで反落。
NY原油:上昇で73.16ドル、米国経済の大幅な悪化に対する警戒感は低下
NY原油先物6月限は上昇(NYMEX原油6月限終値:73.16 ↑1.82)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は、前営業日比+1.82ドルの73.16ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは71.04ドル-73.69ドル。米国経済の大幅な悪化に対する警戒感は低下し、米国市場の前半にかけて73.69ドルまで買われた。ただ、ドル高や米長期金利の上昇を意識した売りも観測されており、通常取引終了後の原油先物は上げ渋った。
●クレディ・スイスまでなぜ?SNS時代における取り付け騒ぎの舞台裏 5/9
シリコンバレーバンク破綻の原因は?
シリコンバレーバンクが10日に破綻した。破綻が伝わり、ダウ平均は345.22ドル安、日経平均は479円安となった。
シリコンバレーバンクは(SVBFG傘下)は、スタートアップ企業やスタートアップ企業に出資するベンチャーキャピタル向けの融資を行う銀行だ。スタートアップ企業とは、起業してまもない起業やITに関連する技術革新、成長が高い企業等を指す。また、ベンチャーキャピタルとは、そのスタートアップ企業の株を買い(出資)、その株式価値が上がったり、またはその株式が上場したりしたときに売却して大きな利益を上げる企業をいう。
シリコンバレーバンクが破綻したのは、以下の理由があると考えられる。
1預金を債券で運用したためその価格が下落、SNSで情報が拡散し預金引出し始まる
28日に資本増強のために株式を発行して資金調達すると発表、債券を売却し18億ドル(約2,376億円)の損失を計上
39日シリコンバレーの持株会社SVBFGの株が前日比60%安になる
49日の時間外でさらに20%まで下がる。行動が早いスタートアップ企業がさらに預金引き出し
債券価格の下落は、下記のようにこのところ続いているFRBの利上げにより、運用で保有していた債券価格が下落したためである。
債券は満期まで保有すれば、その発行企業が倒産しない限り元本が戻ってくるものであるが、途中での売却または時価評価は変動する。その価格は、金利によって変動する。通常の債券は100で発行され、満期に100で返ってくるが、途中で95になったり、105になったりと変動する。例えば、A債券が金利3%であった場合に、市場に出回る債券の金利が5%であればそのA債券は魅力が低く、債券価格が下がる。逆に市中の金利が1%になればそのA債券の魅力は高まり債券価格が高くなり、100%を超えることもある。
既に発行されている債券価格と市場金利はシーソーのような関係にあり、市場金利が上がれば保有している市場金利より低い金利の債券は価格が下がってしまい、途中で売却または、時価評価すれば評価損が大きくなる。
このところのFRBの利上げにより保有債券価格が下がるということは、シリコンバレーバンクに限らないが、預金者がスタートアップであったこと、SNSで情報が拡散されたことから、預金が大量に引き出されてしまい、破綻に陥ってしまった。
このときと同時にシルバーゲート・キャピタルの傘下銀行のシグネチャー・バンクが、暗号資産の交換業大手FTXトレーディングの破綻で預金が急減したために有価証券を売却して対応したが、その売却時に売却損が発生し資本が毀損し、自主清算に追い込まれた。
このことから、3月9日(木曜日)は前日比終値から一時607ドル安まで、10日(金曜日)は一時471円まで下げ、週明けはまた一層下がる可能性もあった。
しかしながら、週明け株式市場が開く前の12日(日曜日)にシリコンバレーバンク、シグネチャー・バンクに預けられている預金がもともとの保護対象外の預金についても全額保護されることが発表され、その後の株式市場は落ち着きを取り戻した。
シリコンバレーバンクは市中金利が上がったことにより保有債券の価値が下がった。そもそも債券は満期まで保有すればその発行会社が倒産しない限り元本が返ってくるものである。このことから、シリコンバレーバンクの保有する債券を担保にFRBが預金者の預金引出しに対応する資金を貸し出す。債券が満期で元本が返ってくればFRBの資金も返ってくるため、米国の納税者の税金は使わなくても大丈夫だ。このように、今回の破綻は納税者の税金を使わなくても預金を保護することができた。
クレディ・スイスまでが破綻危機に
クレディ・スイスは、スイスを拠点とする世界的投資銀行で、ゴールドマン・サックスやバンク・オブ・アメリカのような世界9大投資銀行に入る。
クレディ・スイスが破綻したのは、以下の理由があると考えられる。
12021年に米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントで44億スイスフラン(約6,000億円)の損失計上
22022年2月内部告発により犯罪や汚職などの不正資金を数十年に渡って預かっていたことが発覚、その他不祥事多発
3最大40億スイスフラン(約6,000億円)の増資、証券化事業の売却をして再建目指す
4クレディ・スイスが過去の財務報告に弱点があることを発表し、さらに筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクが追加出資しないと述べたことのよりクレディ・スイスの株価が過去最安値に
5シリコンバレーバンク、シグネチャー・バンクが3月9日に破綻した金融不安から、クレディ・スイスの株価急落、さらに預金が1日1兆円以上引出される
3月19日(日曜日)に政府主導によりスイスの第1位の銀行UBSが株式交換によりクレディ・スイスを買収することが公表され、週明け20日の株式市場で混乱することはなかった。
ただし、急な買収であり、株式は交換で無価値にはならないのに、社債(AT1)は無価値としてしまうこと(破綻時は通常株式より社債等が優先して弁済される)等、株主、債権者が訴訟を起こす可能性がある。
新たな火種『シャドーバンク』
シリコンバレーバンクとクレディ・スイスに共通しているのは、以下の通りだ。
・SNSにより経営不安しされ、預金流出、株価下落し破綻
・国際的銀行規制の自己資本比率(CET1)は最低ライン7%を両者とも大幅に超えていた
 シリコンバレーバンク15.3%、クレディ・スイス2022年14.1%
・政府主導により救われた
今回は、シリコンバレーバンクは預金保護、クレディ・スイスは買収により破綻を免れたが、必ず救済されるとは限らない。また、両銀行とも不祥事や損失などの問題はあったものの、資本は破綻するほどではなかったが、SNSなどの影響で株価下落、預金引出しと破綻への追い打ちをかえられてしまったところが怖い。
今後もこのような銀行破綻があってもおかしくない。
さらに、シャドーバンクについての懸念もある。リーマンショック後銀行は大きな危機が起きても耐えられるような厳しい規制が設けられている。一方、その規制対象外となるのが、機関投資家が直接企業に貸し出す「シャドーバンク(影の銀行)」だ。
最近の低金利下で高利回りの運用ができるシャドーバンクへの運用が増えている。利回りは高いがその貸出先の信用力は低く、金利が上昇して借入コストが高まれば破綻してしまう貸出先が出てくるかもしれない。その規模は過去4年間で2倍の1.1兆ドル(約120兆円)で危機が高まっており、もし破綻しても上記のような銀行のようには救えないため、破綻すれば大きな危機に発展する可能性がある。 
●利上げの効果 アメリカとヨーロッパで表れ始める スタグフレーションに懸念  5/9
5月9日の「おはよう寺ちゃん」(文化放送)では、火曜コメンテーターで上武大学教授の田中秀臣氏と番組パーソナリティーの寺島尚正アナウンサーが、アメリカとヨーロッパでの利上げの効果について意見を交わした。
注目すべきは都市部と地方の格差!
ECB=ヨーロッパ中央銀行の理事会メンバーであるオランダ中央銀行の総裁は、「ECBの利上げの効果が出始めているものの、インフレ抑制に向けてさらなる利上げが必要になる」という見解をしめした。
ECB=ヨーロッパ中央銀行は、5月4日の理事会で政策金利0.25%引き上げを決定。
「アメリカに続いて、ヨーロッパでも利上げの効果が出始めているということですが、これは田中さん、どうご覧になりますか?」(寺島アナ)
「“利上げの効果”をどう考えるかですよね。あんまり利上げの効果が出過ぎると、景気後退につながることもありますし。さらにヨーロッパもアメリカもそうですが金融機関への重しになってきます。ご存じのようにアメリカの場合はいくつかの中央銀行が破綻して、それによって金融不安的な状況が生まれました。それにヨーロッパの金融システムを懸念するような見方もありますから、欧米共にお金の量が安全資産に流れ込んでいるところも見ていかないといけないと思います」(田中氏)
アメリカの中央銀行にあたるFRBは今月の会合で、0.25%の利上げを決める一方で、利上げを一旦停止する可能性を示唆した。
そんななか、景気停滞とインフレが同時に起こる“スタグフレーション”がじわじわと広がりつつあると言われている。
「このスタグフレーション=景気停滞とインフレが同時に起こる現象、田中さんはどうご覧になりますか?」(寺島アナ)
「このスタグフレーションっていうのは、経済全体を見た話ですよね? いま注目しなければならないのは、アメリカの都市部と地方の格差ですよ。地方銀行の破綻というのは、地方の企業に金融機関がお金を貸している状況が難しくなっていって、地方経済に落ち込みにつながります。一方で都市部の方は、コロナ禍明けで消費も強くなっています。それが全体的な物価と経済停滞の共存につながるかどうかは、それだけ地方経済を中心にアメリカの今後を見ないといけないと思います」(田中氏)

 

●米FRB、信用状況悪化で利上げの必要性が低減=NY連銀総裁 5/10
米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は9日、最近の銀行部門のストレスに伴う信用状況の悪化を受け、連邦準備理事会(FRB)は経済のバランスを取り戻すためにそれほど高い水準まで金利を引き上げる必要がない可能性があると述べた。
ウィリアムズ総裁は、信用力の低下で経済が減速すれば、FRBが利上げを行う必要性は低減すると述べた。
●米FRB、必要なら再び利上げ実施=NY連銀総裁 5/10
米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は9日、連邦準備理事会(FRB)にとって再び利上げが必要になる場合には行動を起こすと述べた。
ニューヨーク経済クラブが開催したイベントで「利上げが終わったとは言っていない」と指摘。「追加的な政策引き締めが適切であれば、そうする」としたほか、FRBが年内に利下げを決定する可能性は極めて低いとした。
●見通せぬ米国の未来。分断が加速する大国を覆う「モヤモヤ感」の正体 5/10
中国の台頭はあるものの、未だ国際社会に大きな影響力を誇るアメリカ。しかしそんな大国は現在、進むべき方向を見出だせず苦境に立たされているとの見方もあるようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、より一層の分断が進むアメリカを包んでいる多数の「モヤモヤ感」を列挙し、それぞれについて詳しく解説。その上で、同国が活力を取り戻すために何が必要となるかを考察しています。
モヤモヤ感が支配。分断進むアメリカの定まらぬ方向性
アメリカの社会というものは、ある時は大きく右に振れ、次はその反動で左に振れというような「左右の振り子」の振幅を繰り返すことで、時代を先へと刻んできました。近年でも、レーガン・ブッシュ(父)の保守の後には、クリントン時代が、そしてブッシュ(子)の戦争と経済破綻の後にはオバマ、その反動としてはトランプという具合です。
そう考えると、一体、現在そのアメリカの振り子はどこへ向かおうとしているのか、これは難しい問いだと思います。とにかく、方向性が定まらないのです。勿論、トランプが、いやオバマへのアンチが湧いてきた茶会の時代からそうですが、アメリカでは「分断」が進んでおり、その結果として健全な左右の振り子が機能しなくなっているということはあるかもしれません。
ですが、それでも中道無党派層というのは大きな塊としてあります。熱狂的な現状否定のトランプ派というのは、それほど巨大でもないという説もあります。そんな中で、社会には解決すべき問題は山のようにあり、それを考えると方向性というのは出てきそうですが、どうにもその「大きな流れ」というのが見えないのです。
非常に一般化してみると、一期目の大統領の3年目には、そんな感じがあるのかもしれません。例えば、ジョージ・W・ブッシュの場合は2001年の911テロに対して、アフガン戦争を仕掛け、更に2003年にはイラク戦争を仕掛けましたが、戦況が有利だったのは序盤だけで、すぐに泥沼化しました。ですから、2004年の選挙は非常な接戦になったわけですが、その前後の状況には一種の停滞感があったのを記憶しています。
「大人の理屈」を理解できなかった若者と保守
オバマの場合もそうで、2008年の選挙では大勝したのですが、2010年の中間選挙に負けるとやはり社会の方向性は見えなくなりました。今から考えると、リーマン・ショックからの景気回復について、オバマは可能なことは全てやり、着実に成果は出ていました。特に2009年の最悪期を脱した後は、多くの経済指標はプラスに転じていましたし、特に株価は堅調でした。
ですが、まずアンチとしての茶会が選挙では猛威を振るい、その一方で、党内左派の源流とも言える「占拠デモ」の動きがありました。人権の星、リベラルの希望と思われていたオバマに対して、当時は「どうして左派の若者が反抗するのか」というのは疑問に思われていました。特にオバマは、リーマン・ショック後の金融危機にあたって、TARPという名前で、400ビリオン(4兆ドル=520兆円)規模の巨額な救済資金を投入しました。
若者たちは、「自分たちが苦しんでいるのに、どうしてそんな大金をウォール街救済に投入するんだ」と激しく抗議したのです。ですが、実際はこのTARPは、「株式の購入」であり、結果的に救済された後に政府はその金融機関の株を売って、全額を取り返したどころか4%弱の利益まで計上しているのです。
ですが、そうした「大人の理屈」を若者たちは理解しませんでした。また茶会支持の保守州の世論も理解しませんでした。何故ならば、こうした危機克服の対策で、金融システムは維持され、株も堅調だったにもかかわらず、多くの企業は、不況克服のために、まず「自動化などで雇用をカット」し、更に「主として中国などに生産を移転することで空洞化」を進めていきました。
ブッシュ・オバマ両時代の停滞の背景にあるもの
オバマは、骨の髄まで自由経済の信者ですから、そこに合理性がある限り、不況脱却を優先し、あえてリストラも、空洞化も止めなかったのでした。ですから、猛烈な反発を左右から買っていたのですが、オバマも、そして多くの「大人や都市の世論」はそこに危機感は持っていなかったのです。そんな中で、漠然とした「方向性の喪失」のようなことが起きていました。
今から考えてみると、ブッシュ時代の「停滞」の背景には、「どうして巨額なカネと米兵の生命を、意味不明な中東や中央アジアのために犠牲にする必要があるのか」という今に続く「孤立主義からの厭戦論」が相当なマグマとして溜まっていたのです。
また、オバマの時代の停滞には「経済合理性の名の下に、多国籍企業とエリートだけが利益を得るのはおかしい」というマグマが溜まって行ったわけです。これは、現在のトランプ的な孤立主義と、AOCやサンダース流の左派に連なるエネルギーとなっていたのでした。
そう考えてみると、現在のアメリカが直面している停滞感の奥には、何らかの予兆というものがありそうにも思われます。では、それは何なのでしょうか?
色々と考えてみたのですが、1つには絞れそうにありません。今回は、現在のアメリカを包んでいる「モヤモヤ」の正体について、とりあえず列挙して考えてみようと思います。
80歳のバイデン、78歳のトランプの居座りに貯まる不満
1番目は「世代」です。次回の大統領選に出馬を宣言したバイデンは既に80歳。対抗意識を燃やしているとされるトランプは78歳と、とにかく高齢者が居座っているという風潮には、若い世代(ミレニアルからZまで)には相当に不満が溜まっているようです。
先週、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)が報じたところでは、全有権者の70%、そして民主党支持者の中でも51%が、バイデンの再選出馬に反対しており、その理由は「高齢」だとしています。この種の世論調査は、昨年から色々なメディアや団体が実施していますが、コンスタントに同じような結果が出ています。これは深刻です。
これに対して民主党の側では、バイデン陣営としては「万が一の代替はハリス」と決めているようで、例えばバイデンの立候補表明動画には、ハリスがサブリミナル映像のように何度も登場しており、まるで他の選択は受け付けないかのようです。ですが、ハリスは移民問題の担当として与野党から「ダメ」を出されていますし、表面は人権派で本音は市場経済論者(現実的でいいセットだと思うのですが)という信念の部分が単純な左派からは憎まれてもいます。
とにかく、民主党内は、バイデンの健康問題などが露呈して、改めて党内で一から候補を決め直すというプロセスが必要で、そうしないと党の勢いも今ひとつとなりそうなのですが、その気配はありません。
そんなわけで、高齢批判というトレンドがある中では、共和党の場合、ロン・デサンティス・フロリダ州知事が44歳と、この問題では非常に有利な位置につけています。ですが、2月に自伝を出し、4月には訪日して出馬の機運を見極めているようではあるのですが、未だに動きがありません。これは、予備選において序盤に走ってしまうと失速するというジンクスを気にしているのと、やはりトランプの各種裁判の行方を睨んでいるのだと思われます。
そのジンクスということでは、87年に民主党で勢いのあったゲーリー・ハート議員が失速した例、同じく2004氏の民主党のハワード・ディーンが先行しながら「絶叫動画(内容は全く悪くないのですが)」だけで失速した例が典型です。また、共和党の場合も、2016年に本命と思われたジェブ・ブッシュがトランプの攻勢の前に崩れ去った例など、とにかくデサンティスは慎重になっているようです。
そんな中で、現時点では若い有権者の間には「自分たちの代表がいない」という不満が蓄積しているようです。
左右対決で対策進まず全ての事態が深刻化
アメリカの「モヤモヤ感」の中には、環境問題というのはかなりを占めているように思われます。特にこの春は、異常気象が非常に極端になっており、冬の豪雪が溶けて大河ミシシッピの流域で広域的な洪水被害が起きているとか、豪雨や竜巻の被害も増えています。雨のない季節、西海岸では毎年のように山火事被害が拡大しています。その背景には、明らかに温暖化の問題があるわけです。
ですが、「そもそも異常気象の被害が激しい、中西部や西海岸の山岳地帯」というのは、アメリカ保守の牙城です。彼らは「大自然の猛威と戦うのが開拓者の使命であり、そのために神に選ばれた人間は技術を手にしているし、神は最大の恩恵として大地から石油の恵みを与えた」と信じています。そして「こんなに激しい自然の猛威は絶対に人為ではない」というのです。つまり、被害の激しい地域に限って「温暖化理論を信じない」ということになり、全国的な議論が発展しないのです。
同じことは銃規制の問題にも通じています。現在のアメリカは、毎週のように銃の乱射が起きており、先週末にはテキサス州のダラス近郊のショッピング・モールで銃撃があり、8名が死亡するという惨事となりました。犠牲者の中には、少なくとも2名の幼児、3名の韓国系アメリカ人が含まれているようです。乱射犯は射殺されていますが、精神疾患で陸軍を除隊になっていた人物のようです。
こうした事件が起こると、民主党と都市部の世論は「精神疾患を患っている人間がどうして強力な銃を購入できるのか」と激しく抗議しますが、テキサスなど中西部の風土の中では「病気の人間には強盗に襲われたら死ねというのか」という論理で、全くテコでも動きません。そんな中で、保守の側は「リベラルな政権が成立して、上下両院を取られたら銃が買えなくなり家族が守れない」という不安を抱く一方で、都市とリベラルは「銃が野放しで何の対策もできない」と不安を募らせるということになっています。
同じように、移民問題も左右対立の中で抜本的な対策ができないまま、事態だけが深刻化しています。
従来では考えられなかった停滞感に覆われるIT業界
経済に目を向けますと、この30年、アメリカ経済を大きく牽引してきたコンピュータ技術の発展が、ここへ来て踊り場に差し掛かっているようです。特に、フェイスブック(メタ)の経営の低迷、ツイッターの買収による迷走、ティクトックの問題など、従来では考えられなかった停滞感が業界を覆っています。
そんな中で、もしかすると、テックの世界を新たなレベルに引き上げるかもしれないと期待のかかる「メタバース」に関しては、メタにはこれ以上の大規模投資を行う余力はないようで、次の実用化ステップに進むかどうかについては、アップル社の決断に懸かっているようです。アップルがどう判断するのか、そしてゴーとなった場合に果たして成功できるのか、この業界にも不透明感は強くなっています。
経済ということでは、インフレが深刻な問題となっていました。ですが、ここへ来てやや鎮静化の傾向が見られます。例えば、鳥インフルの猛威のために、日本より先行して価格高騰していた「鶏卵」の場合は、一時期は1ダース12個入りが「6ドル(780円)」まで行っていました。ですが、最近ではディスカウントストアで「2ドル10セント(290円)」、牧場が経営している牛乳店では「1ドル94セント」と、ほぼインフレ前の水準まで戻りました。野菜や肉類も、一時の狂乱物価ではありません。
ただ、その他のジャンルに関しては、高止まりという感じになっていて、輸送費が重くのしかかっているジャンルの場合は、原油高が終わらないと無理でしょうし、外食やサービスなどの人件費は、恐らくもう戻らない可能性があります。
そんな中で、パウエル総裁率いる連銀(FRB)は、今回も0.25%の利上げをしたわけですが、この先はどうするのか、やはり不透明感が強くなっています。一部銀行の信用不安、そして不動産ローンの金利高騰による不動産価格の下落も始まる中、今後の米国経済については、一定の警戒感をもって見てゆく必要があると思います。
アメリカが活力を取り戻すために必要なこと
アメリカの若者の労働市場についても、現時点ではまだ需給が拮抗していますが、仮に景気が大きく減速すると、雇用が更に冷え込むことが予想されます。そうすると、現在ニューヨークの場合は労使間で成立している「週にテレワーク3日、出勤2日」という条件が、より出勤を促すようになるかもしれず、そうなると子育て世代などの不満が政治に向かうかもしれません。
景気と金融ということでは、現在、連邦議会では債務上限の問題が大きな課題になっています。共和党は下手をすると、このまま米国債を「債務不履行」に追い込むと脅して、バイデン政権に歳出カットを迫る構えです。一方で、バイデン政権の方は「合衆国憲法修正14条」前半の解釈改憲をして「憲法上は債務があっても構わない」という理解で突破しようとしています。
これは困ったことで、仮にそんな解釈改憲が通ってしまうと、下手をすると米国債の大きな下落を招き、日本は植田日銀総裁が何もしないうちから、一時的な円高に追い詰められる危険があるようにも思われます。この問題に関しては、そうした乱暴な話になる前に、民主党がある程度の譲歩をして、一部ではあっても多少の財政規律を見せ、共和党も多少の債務上限引き上げに合意してくれて、結果的にドルが安定するのが良いと思いますが、まだまだ予断を許さない状況です。
いずれにしても、政府の債務、物価、景気、雇用、更には銃規制に温暖化、移民問題など多くの課題において、国の方向性が不透明になっています。その背景には左右対立があるのですが、これに加えてリーダーと現役世代の「年齢・世代の乖離」という問題もある中で、不透明感が更に濃くなっているのだと思われます。そんな中で、軍事外交にはなかなか目が向かない、依然としてアメリカは内向き志向だとも言えます。
いずれにしても、共和党、そして恐らくは(たぶん)民主党でも、2024年を目指した大統領予備選がスタートします。その論戦を通じて、こうした課題に関する議論が深まり、最終的に選挙戦が活性化すること、それがアメリカが活力を取り戻すためには必要です。
●史上2番目に大きい米国銀行破綻から考える資産形成とは 5/10
2008年リーマン・ショック以降、銀行では米国最大の破綻
2023年5月、カリフォルニア州に拠点を置く銀行であるファースト・リパブリック・バンクが経営破綻しました。3月にはスタートアップやテクノロジー企業への融資で広く知られ、シリコンバレーのエコシステムの中核を担ってきたシリコンバレーバンクも経営破綻、米連邦預金保険公社の管理下に入りました。5月のファースト・リパブリック・バンクの経営破綻は、3月のシリコンバレーバンクを超えて、史上2番目の規模。このように連続したアメリカ金融機関破綻のニュースは、世界中に激震を走らせました。
シリコンバレーバンクの例を見てみましょう。この銀行は土地柄もあってスタートアップへの融資が多いため、シリコンバレーバンクの預金は他の金融機関と比べて個人預金が少なく、法人顧客で構成されていました。起業したら当然のように口座を持つ銀行として、シリコンバレーでも人気の銀行です。ただ2023年3月、シリコンバレーバンクは巨額損失を出しての債券売却と増資を発表しました。すると一気に不安が広がり、そこに有名な投資家からの声も拍車をかけて、ファンドから資金調達を受けているスタートアップが一斉にシリコンバレーバンクから預金を引き出しはじめました。
スタートアップでは定期預金ではなく普通預金でいつでも引き出せるように対策している企業も多いため、預金が一気に引き出されてしまい、シリコンバレーバンクは預金残高が急激になくなり、数日で破綻まで追い込まれたのでした。それは発表からたった3日間の出来事でした。
デジタル時代の預金の取り付けとは
それではお金のトレーニング。
このような金融機関の破綻の原因となった、信用不安によって金融機関でおきる取り付け騒ぎ。現在では、SNSやインターネットを通じた金融サービスが普及したデジタル時代の預金の取り付けという意味で、なんと呼ばれるでしょうか?
答えは「デジタル・バンク・ラン」。以前は窓口に殺到する「バンク・ラン」でしたが、金融サービスのデジタル化によってそのスピードが一気に加速しているのです。
次にファースト・リパブリック・バンクについてです。1985年に創業しており、サンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨーク、ボストンなどに84店舗を展開している地方銀行です。3月10日のシリコンバレーバンク破綻、3月12日にはニューヨークに拠点を置き資産規模が14兆円もあったシグネチャーバンクの破綻。その連鎖破綻で金融不安が増していき、ファースト・リパブリック・バンクはアメリカ当局によって保護されない預金の割合がおよそ70%と大きかったことなどから、顧客が預金を引き出す動きが強まり、株価が急落して経営懸念が高まりました。金融不安が起きる前と比べると株価が20分の1まで下がり、救済としてJPモルガンが買収することになったのです。
現金を銀行に預けている人がほとんどだと思いますが、それだけだと資産が現金に集中していて非常にリスクの高い状態と言えます。
資産を最も守れることを表した投資の格言とは
それではお金のトレーニング。
資産を分散することがリスク分散になり、資産を最も守れることを表した投資の格言があります。それはなんでしょう?
答えは、卵をひとつのカゴにもるな、です。複数の卵をひとつのカゴに入れておくとそのカゴが壊れた時にすべての卵が割れてしまいますが、複数のカゴに分けて入れておけば被害を最低限にできるという考え方です。分散投資は基本中の基本と言えるでしょう。
現金だけ持っていることは現金への集中投資状態である、ということ。さらに現金を預かる銀行も破綻することはあります。デジタル・バンク・ランにより、金融の変化のスピードも早くなって予測・対策が難しくなってきています。
だからどんな事態にも対処できるように、分散投資で備えることが必要なのです。資産を現金・株・不動産・債権・金などの種類に分散したり、例えば株も国内株や海外株など、地域で分散させることでよりリスク分散できることになります。
投資は分散投資が基本ですが、そもそも投資するにも元手が必要です。ですので、20代のうちは仕事で稼ぐことに比重をおいても良いと思います。私もそうでした。
若いうちに給与を上げやすい方法
最後に若いうちに給与を上げやすい方法をいくつか紹介しようと思います。
まず大前提として「成果」を出すこと、出し続けることです。それがないと給与はどうやっても上がりません。
その前提のうえで給与を上げやすい方法として、ひとつはポジショニングがあります。人や需要の集まるところに身を置くことです。人のほとんどいない砂漠の村に身を置くのではなく、大都会に身を置く方が給与が高いのは人と需要が多く集まるからです。企業で言うと、成長産業に身を置くこと。今はまだ小さくてもこれから成長する領域にはチャンスが溢れています。これはニュースになっている注目領域だったり、政府の発表をよく見ておくことです。
さらに成長産業の中でもNo.1の企業に身を置くこと(入社試験は頑張りましょう)。人はランキング5位や6位ではなく、ランキング1位のものを買いたくなるものなので、そこに需要が集まり続けます。だから出来ることならそこにポジショニングするのです。世の中みんなが成長産業だと気付いてからは入社試験のハードルがぐんぐん上がりますので、先にその情報に気づけた人はそれだけで先行者メリットがあります。
またチャンスの量を増やすことも成果の可能性=給与アップの可能性を高めます。それには、社流を読み、発信を怠らず、上司と徹底的に仲良くなっておくことです。感情的に上司と対立してうまくいくのはドラマの世界だけで、残念ながら、現実はチャンスが回ってきにくくなります。でも成果の可能性を上げるには、上司からいい仕事をいくつももらっていくことが重要です。
サッカーで言うと、自分のチームの戦略(攻めるパスサッカーなのか、1-0で守り抜くサッカーなのか)を理解し、自分は何が得意かを監督に発信し、試合中もスペースが空いてたらパスをくれと発信。その下準備として常に監督やチームメイトと仲良くなっておくことです。そうするとスタメン出場のチャンスが増えたり、パスをもらえるチャンスも増えて、ゴールを決められるチャンスが増えるというわけです。
ただ最後は仕事もサッカーも自分の技術次第なので、努力して日々技術を磨き、仕事を頑張るしかありません。でも技術がせっかく高まっても、試合にでないと話は始まらないし、そこでいいポジションだったりパスが来ないとゴールは決められない、つまり給与も上がらないわけなので、そこを忘れずに頑張っていれば、同じ努力でも同僚よりもきっと稼げるようになっていくことでしょう。
そうして効率的に稼げるようになっていきながら、徐々に資産を分散させて、投資の世界へと足を踏み入れていく。このステップが資産を形成するうえで、最も確率が高い手法だと思っています。
●「SVB破綻の影響」と「次の成長領域」は 投資家が明かす“2023年” 5/10
資金調達のハードルが上がっている――。
STARTUP DB MAGAZINEの取材に応じた経営者らの多くが口を揃える。
発端はアメリカを中心とする世界の中央銀行の利上げだ。その副作用として、2023年3月10日には現地のスタートアップを支え続けてきたシリコンバレー銀行(SVB)が破綻。動揺が広がった。
こうした環境を投資家はどう見ているか。日本に現存するVC(ベンチャーキャピタル)のうち最も長い歴史を持つジャフコ グループの坂祐太郎・パートナーは、環境の変化を実感しつつも「悲観的に捉えているわけではない。地力が試されている」と指摘する。経済価値を測る指標の変化に伴ってこれまでにないビジネスの種が生まれるなど、明るい予兆もあると話す。スタートアップを取り巻く環境の今と、求められる視点について聞いた。
シリコンバレーバンク(SVB) 破綻の原因と影響は
資金調達環境に変調が起きたきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大だ。景気対策として実施された大規模な金融緩和の恩恵を受け、スタートアップにも潤沢な投資マネーが流れ込んだ。だがアフターコロナに突入し、インフレ退治などを名目に引き締めが始まると状況は一変。アメリカでは上場テック株が大きく株価を下げ、日本にも波及した。
「アメリカのテック株のマルチプルが下がったことで、日本のマーケットも引きずられました」と坂さん。マルチプルとは、企業価値を算出するために売上高などにかける倍率を指す。
「例えばSaaS(クラウド上で提供されるソフトウェアサービス)のマルチプルは、PSR(売上高倍率)でいえば10倍から15倍だったのが、今は5倍前後です。すると、上場企業を目安にしている未上場のスタートアップの評価額(バリュエーション)にも調整が入ります」
上場に近いスタートアップが資金調達をしようとする場合、評価額算定の基準の一つとして、上場済みの類似企業の株価が参照される。そのマルチプルが下がっているため、未上場企業の評価額もつられて低めになる。
利上げの副作用が日本でも大きく報じられたのは3月。アメリカ・シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻に陥った。現地のスタートアップの多くが口座を持ち、融資を受けるなどしていただけに衝撃が広がった。
破綻の構造はこうだ。利上げの影響で、SVBに口座を構えるスタートアップの資金調達が困難になり、預金を切り崩す動きが加速。そこに経営戦略の失策も重なった。SVBは集めた預金を国債などの債権として運用していたが、金利が上がれば価格は下がる。足元の資金確保のために含み損を抱えた債権を売却することになり、経営の不安定性が露呈された。これを受け、SNSを中心に不安を煽る言説が拡大。ネットを起点とした「バンクラン(取り付け騒ぎ)」となり、預金の大部分が流出してしまった。
SVBについては、アメリカの金融当局が預金の全額を保護する方針を打ち出したことで、騒動はひと段落したとされる。坂さんも日本では「顕在化している影響は今のところ出ていない」と見る。一方で「アメリカのスタートアップにとって中枢的な機能を担っていた金融機関。現地の資金調達環境が影響を受ければ日本にも連鎖しかねない」と注視している。
アメリカの銀行破綻はその後、シグネチャーバンク、ファースト・リパブリック・バンクの2行にも波及している。
投資先とは「予実管理」徹底 成長投資の機会狙う
アメリカの景況感が改善する見通しは立てづらい。その影響を一定程度受ける日本のスタートアップにとっても楽観視できない市況は続きそうだ。活況だった21年までと比較して、国内の調達環境を「冬の時代」とする向きもある。
これに対し坂さんは「きちんと業績を出せば投資家も確実に評価してくれる環境です」と指摘する。
「全部の銘柄が評価されていないのかと言えば、そうではありません。売上や利益を伸ばしている企業は引き続き相応の評価を受けています。(今の環境は)続きますが、悲観的に捉えるわけではなく、本質的なファンダメンタル(業績や財務状況)を積み上げることが大事。地力が試されていると思っています」
環境の変化に適応するために、坂さんは投資先のスタートアップとの間で「生産性」をめぐる会話を増やしているという。
「ゲームが変わったんだ、という話はしています。(これまでは)投資して売上を伸ばすのが最優先ということもありました。もちろん売上は伸ばさなければいけませんが、同時に生産性も見なくてはなりません。売上高成長に見合った投資ができているかちゃんと検証しよう、と経営者とはよく話しています」
投資先と実践しているのが、予算上の数字と実績を比較して事業の進捗を評価する「予実管理シート」の作成だ。
「いかにリアルタイムに経営指標を把握するかが重要です。全員が同じ数字を見て議論を始めることにも意味があります。今のコストはいくらで、キャッシュはどれだけ残っているのかなど、最初は必ずそこから始めています」
地道な取り組みは効果を発揮しつつある。次の資金調達を実現するために達成すべき業績など、数字をベースにした議論が進む。「かなり喧々諤々と話しています。この1年間で、自分の投資先はかなり精緻になってきました」と坂さんは感じている。
とはいえ、一般的にスタートアップは加速度的な成長を志向するもの。時には赤字を厭わない先行投資も求められる。坂さんは限られた成長資金の配分が重要だと話す。
「コストを絞ったスタートアップも多いと思いますが、逆張りの発想で言えば投資のチャンスでもあります。他の会社が投資しない局面はチャレンジするのに良いタイミングです。ファイナンスが少し厳しい環境下で、いかに本質的な投資をしていくのか。議論のフェーズはそこに移っていると思います」
課題そのもの≠ェ変わる時代 「極めて面白い」
資金調達環境が冷え込むなかでも、前向きな予兆はある。坂さんは、ビジネスの価値を測る「新しいモノサシ」が生まれ、新たな成長領域になっていくと見ている。
「経済価値の新しい指標が出てきました。例えば投資先のゼロボードは二酸化炭素の排出量を可視化するSaaSです。数年前までは二酸化炭素の量を計測することに価値を見出す人は少なかったと思いますが、今は変わりました。次は何か。サプライチェーンにおける人権や生物多様性の観点を計測する価値指標が出るのではないでしょうか」
かつてはCSR(企業の社会的責任)活動の一環と捉えられることもあった脱炭素も、今や多くの企業が経営課題と位置付ける。これと同じように、強制労働や搾取、児童労働などを排除する人権保障も無視できない存在になっていくという。
実際、企業が対応に追われるケースも出てきている。
例えば、安全保障の世界で名前が知られるオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は2020年に発表した報告書で、日本を含むグローバル企業80社以上の社名を挙げ、サプライチェーン上でウイグル族ら中国の少数民族が強制労働などに従事させられていたと告発している。これを受け、国際人権団体が企業に対するアンケート調査を実施し、その結果を記者会見で公表するなどした。
日本でも、国際社会の潮流に適応しようとする動きがある。政府は2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表。サプライチェーン上の人権侵害などの特定や予防、それに対処などを含めた「人権デューデリジェンス」を促進する姿勢を示した。
加えて、内閣官房は4月3日に示した方針で、公共事業などの政府調達の入札に参加する企業に対して、人権尊重の取り組みを求める方針を打ち出した。
「サプライチェーンの正常化は、何も二酸化炭素に限ったことではありません。働く人の人権が守られているのかなども問われてくる。大企業を中心に(対応の)準備を始めているのをひしひしと感じています。(人権保障は)今はコンサルティングが中心だと思いますが、国際社会を中心に基準が固まってくると、プロダクトやスタートアップの出番になってくるのではないでしょうか」
「何の課題を解決するか、がビジネスならば、課題そのものが目まぐるしく変わっている」と坂さん。これまでは「より早く、より安く」などが付加価値と捉えられてきたが、別の評価軸が生まれているとみる。課題を解決する方法もまた、高性能AIの普及などで変わっていく。「極めて面白い時代に入っていると思います」。
こうしたビジネスの種を育てる起業家や投資家、それに政策の支援などは厚みを増している。坂さんはこの10年でスタートアップは「強固な文化になってきた」と指摘する。
「転職先としても選択肢に入ってきたし、創業融資の仕組みも整うなど起業のコストも下がってきています。政府は支援策を打ち出し、オープンイノベーションに取り組む大企業も増えました。大企業も、起業家も、VCも、政府も、目線は(以前と)全然違います。『冬の時代』と言われるようになって全員が退場したかといえば、そんなことはありません」
資金調達をめぐる環境は冷え込んだ。しかし高い評価を受けるスタートアップは引き続き出現し、これまでになかったビジネスの種も生まれてくる。環境の変化と向き合いつつも、悲観的には捉えない。スタートアップを取り巻く環境は、一概に冬の時代とも言い切れない。「成熟期と言えるのではないでしょうか」と締めくくった。
●新紙幣発行で「預金封鎖が起こるのでは」というウワサが蔓延…「タンス預金」 5/10
2024年。世界では1月の台湾総統選に始まり、3月はロシアとウクライナ、11月にはアメリカで大統領選挙が予定されている重要な年です。そんな中、日本では20年ぶりに新紙幣が発行されます。世界情勢が混沌とする中で行われる新紙幣への切り替えに、「預金封鎖が起こるのではないか」などの不安の声も耳にします。
キャッシュレス推進下での新紙幣発行の意味
新紙幣発行が発表されたのは2019年4月5日のことで、2024年度の上半期を目処に千円札、5千円札、1万円札の新紙幣の流通がスタートします。
一方、経済産業省は消費税引き上げに伴い、「キャッシュレス・消費税還元事業」を2019年10月から2020年6月末まで実施しました。この事業を皮切りに国のキャッスレス推進が本格化し、経済産業省では2025年6月までにキャッシュレス決済比率40%を目指すとしています。この目標に対し、2019年には26.8%だったキャッシュレス決済の比率が2022年には36.0%と順調に推移しています。おそらく目標達成は前倒しとなるでしょう。
キャッシュレス化推進とは、裏を返せば「現金決済をなくそうとする動き」にほかなりません。順調にキャッシュレス化が進行する中で、現物の紙幣のニーズは希薄化していくものと考えられます。
その流れに逆行するかのような新紙幣発行には、いささか違和感を覚える人もいるのではないでしょうか。
キャッシュレス化推進は、生産性向上、インバウンド消費への対応などが表向きの目的とされています。しかし、キャッシュレスを推進する最大のメリットは、取引データが記録され、活用可能である点です。
キャッシュレス決済によって記録されたデータは活用方法によって、さまざまな価値を生むと期待されます。また、キャッシュレス決済とマイナンバーが紐付けられると、個人の財産状況は国に把握されることになるのです。
タンス預金をする人の本音と政府の思惑
キャッシュレス化が順調に進むなか、実はタンス預金も増加しています。タンス預金の残高は、日銀の「資金循環統計」の家計の資産・負債データの「現金」の金額です。2022年末のデータによると109兆7227億円と前年末の107兆2394億円からさらに増加しています。
タンス預金が増加している理由には、以下のようなものがあります。
・銀行に預けても利息がほとんど付かない
・銀行でお金を下ろすと手数料がかかる
・キャッシュレス決済は緊急時に使えないかもしれない
・手元にお金があると安心
しかし、これらはあくまで建前で、タンス預金に走る人の心理には「税務署や国に資産を把握されたくない」という本音が隠れていると考えられます。
キャッシュレスを推進していくためには、タンス預金は大きな妨げとなります。そこに紙幣の切り替えが行われたらどうなるでしょうか。もちろん、紙幣が新しくなっても旧紙幣の使用は可能です。
しかし、新紙幣の流通が進むにつれ、タンス預金の旧紙幣は使いづらくなっていきます。どこかのタイミングで旧紙幣をまとめて新紙幣と交換ということになるでしょう。そこで、金融機関に身元と金額が記録され、個人の財産として紐付けられる可能性があるのです。
政府による紙幣切り替えは「偽造防止」が主な目的とされていますが、実際にはこのような隠れた資産を捕捉する狙いもあると考えられます。つまり、キャッシュレス推進と新紙幣切り替えは根本的な目的は同じというわけです。
1946年の預金封鎖と新円切り換え
2024年の新紙幣発行を、1946年に起きた預金封鎖と新円切り換えに結びつける声が聞かれます。預金封鎖とはハイパーインフレや財政悪化の際に、政府によって銀行預金の引き出しに制限をかけられることです。
1946年2月16日に幣原喜重郎内閣は予告なしに新円への切り替えを発表し、17日から預金封鎖が実施されました。当時、戦争にかかる費用をまかなうために大量の戦時国債を発行していた政府の債務は、GDPの約2倍ありました。
また、戦後間もない日本では国内の人口が急激に増え、食糧や物資が供給不足に陥りました。それらのためにハイパーインフレが起こり、インフレ沈静化のために市中のお金の流通を抑制する、預金封鎖を実行したといわれています。
この預金封鎖について、以前NHKで特集が放送されました。当時の様子を林直道大阪市立大学名誉教授がお話しくださっています。
預金封鎖当時、林名誉教授は22歳の学生で、大阪でお母様とお姉様の3人暮らしでした。すでに物資不足は深刻でしたが、預金が少額しか引き出せなくなり、食糧の確保がさらに困難になったそうです。
川の堤防の草を茹でて、わずかの米しかないお粥に混ぜて食べたとの言葉から、過酷な国民の生活がうかがえます。突然の預金封鎖に恐怖を感じ、お金が自由に使えなくなったときの物心両面の辛い思いも口にされていました。
この番組ではさらに、当時の大蔵大臣・渋沢敬三の預金封鎖に込めた真の目的も明らかにしています。預金封鎖には本当は「国民に財産税を課して、国の借金を返済する」という狙いがあったことを、本人が証言しているところが記録されているのです。
預金封鎖と併せて課された財産税は、資産額に応じて25%から90%の税率がかかりました。課税対象は預金だけでなく、株式、不動産、金なども含まれていました。
なかでも財産税を課しやすい資産は預金であり、税金を課す時点で対象となる預金を減らさないために、預金封鎖をする必要があったわけです。また、政府はタンス預金も見越して預金封鎖と新円切り換えを同時に行い、旧紙幣を使えなくしたのです。
預金封鎖の仕掛人ともいえる渋沢敬三は、新1万円札の渋沢栄一の孫です。偶然とはいえ、できすぎていると考える人がいても不思議ではないでしょう。
1946年の日本と2023年の日本
日本で預金封鎖が起こるのではと危惧される原因は、1946年の日本と現在の日本の状況に共通点があるからです。1946年当時の政府債務はGDPの2倍でした。現在はどうでしょう。
普通国債残高は2022年末現在で1,029兆円、対GDP比で262.5%です。主要先進国の中でもダントツに高い水準にあります。また、2022年はそれまでのデフレから一転、ハイパーインフレとはいかないまでもかつてない勢いで物価が上昇しています。
政府債務残高がGDP比で262.5%とは、1946年よりひどい状況です。そして、1946年の預金封鎖は財産税を課すことで財政を再建するのが狙いでした。預金封鎖が起こる可能性は低いとしても、ゼロではないと考えたほうがよいのではないでしょうか。
タンス預金のリスク
それでは、現在タンス預金をしている人のリスクについて考えていきましょう。
――― 一般的なタンス預金のリスク―――
タンス預金の主なリスクは以下のとおりです。
・盗難のリスク
・災害で滅失するリスク
・誤って処分してしまうリスク
・資産隠しと見なされるリスク
・相続時にトラブルになるリスク
・インフレに弱い
タンス預金には、盗難や災害のリスクがつきまといます。また、家族に黙って保管していて、誤って捨てられてしまうおそれもあるでしょう。金額が100万円単位になると、相続時にトラブルになったり、税務署から資産隠しと見なされたりするリスクもあります。
資産を隠すつもりで自宅に長期間保管すると、いつの間にかインフレで価値が目減りする、というリスクも見逃せません。
使えなくなることはない。けど…
2024年に新紙幣が発行されても、旧紙幣のタンス預金が使えなくなることはありません。あまりまとまった金額でなければ、少しずつ使って新紙幣と入れ替えることもできるでしょう。
しかし、旧紙幣がほとんど流通しなくなってくると、旧紙幣のタンス預金を新紙幣に交換せざるを得なくなります。その際に、金融機関でまとまった金額を交換すると記録が残り、財産を把握されると考えられます。つまり、紙幣切り替えによってタンス預金があぶり出されるというわけです。
最悪、預金封鎖が行われることになるとします。預金封鎖が行われるだけなら、タンス預金のある人は使えるお金があって有利です。しかし、預金封鎖とともに旧紙幣が使えなくなる場合は、タンス預金も使えなくなってしまいます。
また、財産税が課される場合に、タンス預金は把握されないから安全でしょうか。タンス預金を隠していると、必要なときに使えなくなってしまいます。たとえば、自動車をタンス預金で購入しようとすれば、販売会社にお金を支払います。その記録からタンス預金が発覚してしまうでしょう。
タンス預金の取扱い
いざというときの当座のお金として、数十万円程度ならタンス預金で持っていてもいいかもしれません。しかし、ここまでの内容を踏まえるとタンス預金にはリスクが多く、別の管理方法を考えたほうが安心安全です。
当面必要なお金以外は銀行に預けておくのが無難です。多額のタンス預金がある人は、一度に銀行に預けることに不安を感じるかもしれません。タンス預金が完全に自分のお金であれば、特に問題はありません。心配であれば、何回かに分ける、または複数の銀行に分けて預けるのも選択肢となるでしょう。
しかし、相続や贈与で得たお金は適正な申告が必要です。申告をせずに後で税務署から指摘を受ける場合、追徴課税されるおそれもあるので注意しましょう。
子どもや孫に贈与するなら適正な方法で
子どもや孫への贈与は、タンス預金の移動先として有効です。暦年贈与では、毎年110万円までは非課税で贈与できます。この非課税枠は受贈者(贈与を受ける側)1人につき110万円なので、子どもや孫が何人もいる人は、それぞれに贈与してもよいでしょう。110万円以内の贈与では、確定申告は不要です。
ただし、後で名義預金(真の所有者と名義人が異なる預金)と見なされないために、贈与契約書を作成しておきましょう。贈与契約書は面倒でも贈与の度に作成し、保管しておきます。
余裕資金は投資に回す
タンス預金は銀行に預けていないため、そのままでは利息も付きません。また、銀行に預けたとしてもお金はほとんど増えず、インフレリスクにも対応できません。そのため、当面使う予定のないお金は、投資に回すほうが資産防衛につながります。
投資には短期的には値下がりのリスクがありますが、長期・分散などでリスクを軽減すれば資産を増やすことも期待できます。
インフレに強い投資対象としては株式や投資信託などの金融資産の他、不動産や金などの現物もよいでしょう。世界経済が複雑になっているため、金融商品の価格変動の要因もさまざまです。一点集中を避け、複数の資産に分散して投資するのが賢明です。
預金封鎖の可能性は低くても対策は立てておくべき
新紙幣発行が直接預金封鎖につながるとは考えにくいですが、日本の財政は深刻な状況といえます。通常の方法で正常化を目指すことは、ほぼ不可能です。
私たち国民は日本の置かれている状況を理解し、ハイパーインフレや預金封鎖に備えてリスクヘッジを行っていかなくてはなりません。財産はなるべく複数の資産に分散して持つようにしましょう。これが、唯一にして最高の資産防衛術なのです。
●「円高はやってこない」 FRBが利上げをやめても  5/10
植田日銀の初会合を経て、円金利の低位安定が確認された後、ドル円相場は137.50円付近と年初来高値を断続的に更新した。
その後、5月2〜3日のFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)で利上げ停止が示唆され、5月4日のECB(欧州中央銀行)政策理事会でも利上げ幅の縮小が決定されるなど、欧米中銀のハト派傾斜が顕著になったものの、ドル円相場の下落は限定的で、134〜135円付近で推移している。
こうした相場展開は多くの為替市場参加者にとって意外なものだったのではないか。
年末年始時点では「年央にかけてFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が利上げを停止する。これに伴って日米金利差も縮小し、ドル円相場も反転する」という金利動向を主軸とする円高予想が支配的だった。各種の関連記事をさかのぼれば「3月、遅くとも5月の米利上げ停止を受けて円安相場は反転する」というストーリーラインは非常に多かったと記憶する。
日米金利差が縮まっても円安
確かに、そうした市場の読み通り、3月以降の日米金利差は2年・10年ともに顕著な縮小傾向が認められる。しかし、ドル円相場は逆に上昇基調にあるように見える。これをどう解釈すべきか。
そもそも金利差は縮小したがまだ十分ある、という考え方もある。2022年9月、筆者は「『春になれば円安は止まる』という見立ての死角」と題し、利上げ停止は日米金利差の顕著な縮小を約束するものではなく、顕著な円高を予想すべきではないと論じた。
5月FOMCを振り返ってみても、パウエルFRB議長は性急な利上げが金融システム不安につながった可能性を認めつつも、年内利下げの可能性については一蹴している。当面、予想すべきは「タカ派的な現状維持」であり、利下げを念頭に日米金利差縮小を期待し、円高を当然視するような風潮はやはり危ういと考えるのが筆者の基本認識である。
しかし、金利以前に注目しなければならないのは、日本における為替の需給環境の激変である。この点も過去のコラムで論じてきた。需給環境の激変を例示する数字はいくつかあるものの、象徴的なものはやはり日本の貿易赤字である。
既報の通り、貿易赤字は2022年通年で約マイナス20兆円を記録、2023年に入ってからは年初3カ月間では約マイナス5兆円を記録している。それでも多くの市場参加者は経験則を重視しながら「米金利が相対的に下がってくれば円高になる」という説を支持してきたし、今もその考えを抱く向きは多い。
しかし、少なくとも今のところそうなっていない。
もはや米金利低下だけで円高を期待する(円安を止める)のは難しいというのが筆者の認識だが、FRBが利下げに転換すれば、これほどの貿易赤字を抱えていても、やはり円高が始まるのだろうか。
歴史的にも「巨大な貿易赤字の下での米金利低下」は円相場が直面したことのない状況であり、経験則に頼り過ぎるのは危ういように思う。
ちなみに実質の世界では、年初から途切れなく円安が続いている。内外物価格差を加味した実質実効為替相場(REER)ベースで円を見た場合、3月は75.15と年初来安値である(1月は77.26、2月は75.28)。
名目実効為替相場(NEER)ベースでは1月が83.95、2月が82.84、3月が82.86と2月から3月で横ばいであるかのように見えるが、実質実効為替相場では続落している。
円の購買力は浮揚の兆しがない
日本社会に暮らす市井の人々にとって為替といえば、名目ベースのドル円相場が真っ先に思い浮かぶところだが、国際社会に暮らす日本という国にとって、それは物価格差を勘案した実質為替レートである。
島国だからこそ海外からさまざまな資源を購入し、国内の経済活動に充てていかねばならない。資源はできれば安価で購入できることが望ましい。
しかし、海外から購入する財には当然、相手国の賃金・物価水準が反映される。極端な話、名目の世界で「1ドル=100円」という固定相場が続いても、アメリカの物価が上がり、日本の物価が横ばいという状況が続けば100円で買えるアメリカの財は少なくなる。
理論的にはそうした物価格差を埋めるために円高・ドル安が進むはずであり、それを購買力平価と呼ぶのだが、その話は今回控えるとする。いずれにせよ一国の購買力は名目為替レートからでは測れず、実質為替レートから測るのが正しい。
重要なことは、ドル円相場は年初、いったん127円台まで円高になり、4月には137円台で推移するなど相応に乱高下しているように見えるかもしれないが、「円の購買力である実質為替レートは下がり続けている」という事実である。円の購買力は浮揚の兆しがない。
主要通貨全体の中での円の立ち位置はどうなっているのか。
主要通貨の名目実効為替相場(NEER)の2022年初から足元(4月下旬)までの推移を見ると、過去1年4カ月で初めて、はっきりとスイスフランが最強通貨に浮上している。
シリコンバレー・バンク(SVB)の破綻やクレディ・スイスの救済・合併から市場不安がピークに達していた時、「金融不安への警戒からドル、スイスフラン、ユーロは買えず、消去法的に円が買われる。安全資産としての円が復活する」という言説が一時的に流行った。結局、完全に読み違いだったと言えるだろう。
ロシアのウクライナ侵攻でも、3月以降の国際金融不安勃発でも、「安全資産としての円」はその存在感をアピールできているとは全くいえない。
遠ざかるスイスフランの背中
この点、金融不安の震源地だったスイスフランが買われていることについて違和感を覚える向きもあるかもしれない。しかし、スイスフランは貿易黒字国である。また、スイスフランを追いかけるように上昇しているユーロも同様に貿易黒字国である(しかもその水準は世界最大級だ)。
もっと言えば、スイスもユーロも連続的に利上げをしている通貨だ。
スイスは2022年9月までは、日本と共にマイナス金利採用国としてまれな存在であったし、長い歴史において「安全資産としての逃避通貨」ともいわれていた。
しかし、スイスの政策金利はすでに1.50%に到達している。円から見ればスイスフランはもはや需給で見ても、金利で見ても仲間とはいえない。
今後、FRBやECBが利上げの手を止め、現状維持を基本路線とした時、金融市場全体のボラティリティは低下するだろう。その時に何が起きるか。
流動性が高く、金利の低位安定が約束されている通貨を原資(調達通貨)として高金利通貨を買い、そのポジションを維持することで金利差を得るキャリー取引が奏功しやすくなるのではないか。ちょうど2006〜2007年、円安バブルと言われた時代に流行った円キャリー取引の再来である。
円キャリー取引は再来するか
今回も調達通貨として最も選ばれやすいのは、言うまでもなく円だろう(もっとも、バブルと形容されるほど日本経済の過熱感が強まるとは思えないが)。
そうした相場こそ昨年来、筆者が強調してきたシナリオであるし、2022年12月の「2023年の『ドル円相場シナリオ』はどうなるのか」でもはっきり議論した通りである。今のところ、その想定に沿って、実勢相場は動いているように思える。
仮に、FRBが早期利下げに転じた場合、そうした円キャリー取引主導の円安という相場現象は期待できないだろうが、FRBが利下げしたからといって、上述したような日本の膨大な貿易赤字がなくなるわけではない。
金利と需給の双方から見て、円高が確信できるような状況が年内に実現するのは難しいのではないかと引き続き考えている。
●FRB「軟着陸シナリオ」の成算、インフレ収束遅れても銀行不安の沈静化優先 5/10
FRC破綻と予想超える雇用増 難題抱えるFRBのかじ取り
5月5日に発表された米雇用統計は、非農業部門の雇用者数が市場の予想を大幅に上回る増加となり、失業率も過去最低水準。
米連邦準備制度理事会(FRB)の昨年3月からの連続利上げにかかわらず、米経済の堅調、インフレ圧力の根強さを示すことになった。
その一方で1日には、全米14位の地方銀行、ファースト・リパブリック銀行(FRC)が経営破綻し、その後も地銀など銀行株の下落が続く。
FRBが0.25%の利上げを決めた3日の連邦市場公開委員会(FOMC)をはさむように起きた2つの動きは、「物価(インフレ)と銀行不安」の間でのFRBの難しいかじ取りを象徴する。
だがここに来てFRBは戦略を変えつつあるようにみえる。
銀行不安が長引く様相になってきた中で、FRBはインフレ収束が多少、遅れることになっても銀行システムに過剰なストレスがかからないことを優先しながら景気の軟着陸を目指すシナリオを描き始めたようだ。
4月の非農業部門雇用者数25万人増。失業率は最低水準
米国経済は実に粘り腰だ。
昨年はオイルショック以来の高いインフレを経験し、賃金の伸びを上回った物価の伸びの定着で消費は失速せざるを得ないだろうとの見方や、FRBの急ピッチな利上げでさすがに経済は急ブレーキがかかるとの見方が市場では強まった。
そして、昨年夏から、好況をけん引してきた大手IT企業などが大型のレイオフ(一時帰休)が発表し始めると、失業率はいつ、どのようなペースで上がり、それを根拠にFRBはいつ利下げをするのか、という議論が沸いた。
だが逆風の下で米国経済は総じて堅調だ。
今年1〜3月の実質GDP成長率は前期比年率で1.1%とやや低めの伸びにとどまったが、企業が在庫圧縮を進めていることが背景であり、最終需要が落ちているわけではない。むしろ、個人消費は財・サービス支出ともに堅調だった。
経済の堅調を改めて印象付けることになったのが、5日に発表された4月の雇用統計だ。
自営業や農業従事者を除いた製造業やサービスなどの非農業部門の雇用者数が前月と比べ25万3000人も増えた。
市場が予想していた18.5万人を大幅に上回り、過去の景気拡大局面で1月当たりの雇用者数の増加が平均20万人だったことと比較すると、企業の求人意欲は依然として強い。
失業率も3.4%と過去最低水準だ。
昨年夏から報道されているレイオフの影響も雇用統計には表れていない。
細かく見れば、テクノロジーに関連する業種や金融業では雇用の増加ペースは緩んでいるのだが、目立って減ってもいない。
レイオフはされても短期間で次の職が見つかっているため、失業者にカウントされる間もなかったという例が多いようだ。
レイオフは確かに高水準だが、それを吸収するに近い規模での新規の募集も多い、ということだ。労働市場の回転率は高く、だからこそ、名目賃金も全産業で前月比0.5%と高いままなのだ。
焦点は銀行不安の行方 システミック・リスクにつながるか
だが、FRBの10会合連続の利上げで、政策金利は5.00〜5.25%まで引き上げられた中、米国経済の先行きをより慎重に見る人の間では、雇用指標は遅行指標であり、ここまで大幅に利上げが行われた以上、景気の後退は避けられないという見方は根強い。
3月のシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の破綻を引き金にした銀行不安が長引きそうな状況がこうした見方に影を落とすことになっている。
銀行破綻は、昨年来の金利引き上げの影響であり、債券などの急落で損失を抱えた銀行に対する不安が続けば、経済の資金の巡りが悪くなり、それが深刻な景気後退に陥るというものだ。
今後の鍵を握るのは、米銀3行の破綻を受けた銀行経営への不安から、預金流出が続き、一方で銀行が融資に慎重になったり株や債券が売られたりすることで、資金が回らず決済不履行などが金融市場全体波及する「システミック・リスク」につながるかどうかだ。
預金流出が破綻の引き金に「非付保預金」多い特異な顧客構造
米国ではリーマンショックを機に金融規制が強化され、特に大手の銀行は金利や流動性、融資などでのリスク管理が徹底されている。
通常ならFRBによる積極的な利上げで市場金利が上昇しても、それだけでは銀行は簡単にはつぶれないはずだった。
ところが、今回の破綻した地銀の場合は、金利リスクの管理が必ずしも万全ではなかった上、顧客が新興テック企業や富裕層が中心で、預金保護の上限を超える「非付保預金」の割合が極めて高いなど、特異な顧客構造があだになった。
発端となったSVBは、顧客であるテクノロジーなどスタートアップ企業が、事業が滞り始め、資金確保のための預金引き出しを急いだことが事態を急変させた。
SVBが預金支払の要求に応えるため米国債などの保有証券を売却し、それが含み損を大きく吐き出し収益が大幅に落ちこんだのだ。
同行の預金の大半は預金保険の対象外だったため、経営不安などの情報がSNSなどで拡散すると、預金の流出がさらに加速した。
破綻が連鎖したシグネチャー銀行も、取引先企業が暗号資産取引事業に偏っていた。顧客預金の流出は暗号資産の価格下落にもつながった。
2行はそれぞれ特化する事業は異なるが、預金流出が結果として短期間に破綻に追い込まれたことは共通だ。
SVBが3月10日に破綻すると、当局は同行を連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置くとともに、この2銀行に対して預金保険額の1口座当たりの上限(25万ドル)を超えて全額保護することを13日に決定。
ほぼ同時に、FRBは、不安が広がる過程で資金繰りが難しくなった銀行に対して、資金供給に当たっては担保を時価ではなく額面で評価し資金を供給する策を公表した。
2行の預金を全額保護することを打ち出せば、預金流出の流れを止め、銀行不安の拡大を抑えることは可能と判断したと思われる。
だがFDICがこれら2行の売却先を見つけるのに長い時間がかかってしまったことなどでもあって、市場の不安が強まった。
もともとこの2行の破綻は、過剰な融資などで不良債権を抱えたり、過剰なレバレッジによる金融資産バブルが崩壊したりしたことが原因ではなかった。
ざっくり言えば、預金の流出を短期で止めた上で、2行に対し厳しい監督や指導をすることで問題を大きくするのを防げたかもしれない。
金利上昇のリスクに脆弱な銀行に不安広がる
ところが、地銀不安の波は収まらず、市場の目は、預金保険で保護されない「非付保預金」への依存度の高い銀行だけでなく、金利リスクが脆弱な銀行にまで範囲が広がってしまっている。
そして預金流出の「次の標的」となったのが今月1日に破綻したファースト・リパブリック銀行(FRC)だった。
FRCは富裕層ビジネスに強みがあり、近年は低利で住宅ローンを拡大してきた。しかし市場金利の上昇によってローン債権に含み損が出る一方、市場からの資金調達コストは高くなっている。こうした脆弱性が標的となり、預金の流出が加速し破綻に追い込まれた。
FRCの場合は、FDICの管理下に置かれた上で、大手銀行JPモルガンが富裕層向けの預金業務を買収すると同時に、JPモルガンにとっては魅力的ではない不動産ビジネスについては、FDICが今後5〜7年にわたり損失の8割を請け負うという条件でJPモルガンに引き継がれることになった。
これにより、FDICが延々と預金の全額保護で止血処置を続ける必要性はいったんはなくなった。
しかし大手行による問題銀行の買収という形で、預金流出や銀行不安を抑えるやり方には、銀行市場の寡占を進めることになり、当局が許容できるはずもなく、限界はある。
預金流出を中心とする一連の銀行セクターの動揺は、これまでのところは一部の地方銀行に対する「不安」が支配しており、FRBが最も懸念する市場全体の流動性の枯渇にまでは至っていない。
とはいえ、もし預金流出が止まらず、より広範囲に銀行株が下落したり、銀行の破綻の連鎖が起きたりすることになれば、今の流動性供給策も効かなくなり問題はより深刻になる。
沈静化はFRBのかじ取りに依拠 物価より銀行不安の抑制を優先
何が銀行セクターを巡る動揺を抑えることができるのかを考えてみると、最も効果があるのは、銀行預金を全額保護する法律を議会で成立させることだろう。
だが上院と下院で多数派政党が異なる「ねじれ議会」の下ではコンセンサスを形成することは極めて難しい。
結局は、FRBの金融政策のかじ取りに依拠する要素が大きいだろう。
5月FOMCの利上げですでに政策金利はFRBが見込む今年末到達水準(中央値は5.1%)に達している。
利上げが急ピッチで進んできた過程で、事業が立ちいかなくなった企業が銀行から預金を引き出したことが事の発端だったことから言えば、利下げをすればそうした緊張はいくらか和らぐかもしれない。
しかし、問題はそこまで単純ではない。
3月以降の緊張で、銀行セクターから抜けた資金はマネーマーケットファンドに多く流入した。そうした資金は一般には、利息が付くFRBの口座に預けられることが多いのだが、今回の局面では他の証券の口座にも預けられており、利下げに転換したからといって即座に元の銀行に預金が戻るわけではない。
そして、インフレの圧力が根強いことだ。
3月の消費者物価指数は食品・エネルギーを除くコア指標で前年比+5.6%と高いままだ。2%物価目標への距離は遠いままで、利下げを正当化するのは難しい。
資金市場でのドルの流動性の枯渇という事態になれば、たとえ物価が高止まっていても緩和方向へとかじを切る可能性はあるが、状況はそこまでには至っていない。
今後、金利リスク管理に不備のある脆弱な体質な銀行で預金流出が起きることになっても、FDICによる預金保護の拡充や破綻銀行の売却などで対応できる範囲であれば、FRBは容易に利下げのカードを切ることはないだろう。
ただしここに来てのFRCの破綻は銀行不安が依然、根強く、長引く様相を感じさせるものだ。
3月の銀行問題が発生する前は、インフレ圧力の鎮まりが遅れていることで、需要の収縮を狙うFRBは大幅な景気後退も辞さず、といったシナリオが現実的とみえるときもあった。
だが今、FRBは、インフレの収束がいくらか遅れても、金融システムに過剰なストレスがかからないように配慮することで景気を軟着陸させる戦略に変わったと考えられる。 
●「日本病」の憂鬱  5/10
ある言葉がふと頭に浮かんでは気が重くなる。それは「日本病」である。 憂鬱ゆううつ な気分になったきっかけは、空き家になっている実家の整理だった。
押し入れの奥から、「イギリス病」(A・グリン/J・ハリスン著、平井規之訳)という本が出てきた。大学生の時に買った覚えがある。産業革命を起こした経済大国が1970年代、深刻な経済停滞に陥り「英国病」と呼ばれた。その原因と対策を分析した経済書である。片付けの手を止めてページをめくるうちに、日本経済の状況が英国病ならぬ日本病だと確信したのだ。第2章の冒頭にこうある。
「七〇年代を通してイギリスにおける経済発展の特徴をなしてきたのは、イギリス資本が国際市場における競争力を驚くほど急速に低下させたという事実である」
まるでバブル崩壊後の日本経済ではないか。さらに読み進めると第二の特徴も挙げられていた。
世界市場に占める英国のシェア(占有率)は縮小したが、世界全体が成長したため輸出などの絶対量は減らなかった。このため競争力の低下を実感できず対処が遅れたという。長期停滞への危機感が乏しく、「ゆでがえる」と 揶揄やゆ された日本に似ている。
国際競争力は、メイド・イン・ジャパンが世界市場を席巻し、日米貿易摩擦を引き起こした1980年代とは比べるべくもない。バブルに沸いた日本経済は「泡」の破裂ともに失速した。金融危機、デフレ不況、リーマン・ショックと試練に見舞われ、「失われた30年」と言われる冬の時代が続いている。
この間の経済停滞はどのようなものか。国内総生産(GDP)の数字で確認したい。
1992年の名目GDPは約500兆円で、30年後の2022年は556兆円だ。30年もかけてわずか1・1倍である。ほぼゼロ成長と言っていい。同じ期間に米国の名目GDPは4倍、中国はなんと45倍になった。日本は米中に次ぐ経済大国とはいえ、成長がほぼ足踏みしているうちに、トップ2の背中は猛スピードで遠ざかった。
ジャパニフィケーション(日本化)という言葉がある。日本のように低成長、低インフレ、低金利が常態化することを指す。この言葉が生まれたのは、日本経済の停滞が「当たり前」とされるほど長期化したためだろう。停滞が当然視されるのは情けないし、日本病を克服しないと日本の未来が危うい。
GDPの多寡だけが豊かさの指標ではないが、経済を一定の成長軌道に乗せないと、国民生活の安定は望めない。ゼロ成長では、税収が増えず少子化や経済格差、安全保障など重大な政策課題に対処する安定財源の確保は難しい。インフレに対抗する賃上げも、企業は「ない袖は振れぬ」ことになろう。
成長の実現に向けて政府が実施した経済対策は、内閣府のホームページに掲載されたものだけで1998年4月から今年1月までの25年間に30を超える。手数は多いが、効果は期待外れだった。
そもそも、政府の借金を増やしてお金をばらまいて、潜在成長率が1%を下回って久しい日本経済が力強い成長力を取り戻せるのか。甚だ怪しい。発想を転換して方策を練り直すべきだろう。
経済学では経済成長と経済発展を区別して使うことがある。成長が規模拡大を示すのに対し、発展は質的向上を含むことが多い。どなたの説かは覚えていないが、成長は死ぬまで大きくなり続ける恐竜、発展は幼虫からサナギを経て華麗に変身するチョウのようなもの、という解説を読んだことがある。
成長に行き詰まった感のある日本経済が発展のステップを踏んで、高く舞い上がる。そんな夢を可能にするイノベーション(革新)の促進に、官民を挙げて全力を傾注してほしい。
●米消費者物価指数4.9%増、10カ月連続伸び鈍化 市場予想下回る 5/10
米労働省が10日発表した4月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で4・9%上昇した。伸びは昨年6月(9・1%上昇)をピークに10カ月連続で鈍化した。事前の市場予想(5・0%)も下回った。今回の結果も踏まえ、物価高(インフレ)の抑制をめざす米連邦準備制度理事会(FRB)が6月の次回会合で利上げを休止するかどうかが注目される。
CPIへの寄与が大きい住宅費は前年同月比で8・1%増、食費は同7・7%増だった。価格動向に米国民が敏感なガソリン代は12・2%減だった。変動の大きいエネルギー価格などを除いたCPIのコア指数は5・5%増で、3月(5・6%増)を下回った。コア指数はFRBがインフレ動向をみるうえで重視している。
FRBのパウエル議長は今月2〜3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げの休止の議論があったことを認めた。市場では次回6月会合で、FRBが利上げの休止に踏み切るとの見方が出ている。

 

●米国発の金融危機は起こるのか…「安心」とは言い切れないもやもや 5/11
米シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行の破綻に続いて、中堅サイズの銀行としては3行目のファースト・リパブリック銀行がJPモルガンチェース銀行に吸収される形で救済された。実質的には経営破綻だ。米国の地方銀行には「次」と目される銀行が複数控えていて、預金の流出や株価の下落に悩まされている。
リーマン・ショックの後のような米国発の金融危機は起こらないのだろうか。あの時と現在では何が同じで、何が違っているのだろうか。
リーマン・ショックの際はもともと不良な借り手への不動産融資をやり過ぎて、不良債権化した「サブプライム問題」があった。大手銀行も含めて巨額の損失を抱え、しかも、これが複雑な証券化の仕組みを通して行われていたために、どの金融機関がいくら損を抱えているのかが、お互いに把握できない「疑心暗鬼」の状態に陥っていた。
今回は、銀行の損失の仕組みが分かりやすいことに加えて、特に大手銀行はリーマン・ショック後の規制強化でかつてよりも自己資本を手厚く積んでいるので、「全面的な危機は起こりにくい」とは言える。
損失の仕組みは以下のようなものだ。米連邦準備制度理事会(FRB)による急激な金融引き締めが行われる前の長短金利が共に低い状態にあって、多くの米銀は「それでも相対的に利回りが高い」長期の債券を買い込んだ。ところがインフレ対策で金融引き締めが始まり、まず長期債の利回りの急上昇(価格は大幅下落)が起こった。米銀にも「満期まで保有する分類の債券は時価評価を損益に反映させなくてもいい」という極めていい加減なルールがあり、多くの銀行は大きな含み損を抱えたまま「満期まで我慢してやり過ごす」つもりだ。
ところが、預金が流出するとこれに対応するためには、債券を売らなければならなくなるが、この際に含み損が現実の損として表面化して、銀行の評判悪化を招く。
また、含み損のある債券ポートフォリオの資金のコストは主にFRBの政策金利に連動する短期金利のコストだが、現在、10年程度の長期債の利回りが3%台半ばである一方、金融引き締めによって短期金利は5%台に上昇しており、銀行の「我慢のコスト」が引き上げられている。
先週行われたFRBの0・25%の利上げは、インフレ対策の建前は分からなくもないが、米銀の台所事情を考えると「中央銀行マンとは、ずいぶん強情なものだなあ」との印象を禁じ得ない。
確かに、大手銀行は破綻しにくいはずだし広範な金融危機が起こる可能性は小さい。ただし、預金者が逃げ出すときの銀行ビジネスのもろさと、強情な中央銀行の組み合わせを考えると、「すっかり安心」とまでは言い切れないもやもやが残る。
●怖すぎる…アメリカの「金融破たん連鎖」が、ついにカナダや欧州にも「飛び火」 5/11
「過去2番目の規模」の破綻
5月1日、資産規模で全米第14位(2022年末)の銀行であった、ファースト・リパブリック銀行(FRC)が経営破綻した。
FRCの預金のすべてと殆どの資産はJPモルガンが引き継ぐ。
破たんした銀行の規模としては、2008年のワシントン・ミューチュアル(JPモルガンに買収された)に次いで過去2番目だ。
3月にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破たんしたとき、米国の財務省や連邦預金保険公社(FDIC)は預金の全額保護を表明した。
それでも、FRCは預金の流出を止められなかった。
特に、SNSによって、人々の不安心理が急速に伝播したことは見逃せない。
FRCなどから預金を引き出し、利回りの高いMMFなどにうつす人も増えた。
今後、経営不安の懸念が高まる、米国の中堅銀行は増えることが懸念される。
今年2月末から4月末の間、米銀株で構成されるKBWナスダック銀行株指数は約26%下落した。
投資家が銀行株から逃避していることが浮き彫りになる。
特に、経営が行き詰まりそうな銀行からは、投資家のみならず預金者も逃げ出すことも考えられる。
高リスクのローンビジネスを強化したFRC
FRCの破たんは、ある意味では古典的な金融機関の経営の失敗といえる。
重要なポイントは、銀行自身の調達と運用のミスマッチがあったことだ。
FRCは預金を集め、流動性の低い資産への貸し出しなどで利ザヤを獲得してきた。
先に破たんしたシリコンバレー銀行などと同様、FRCもITスタートアップの企業への投融資などを行った。
また、FRCは富裕層向けに“インタレスト・オンリー”と呼ばれる特殊な住宅ローンビジネスを注力した。
通常の住宅ローンでは、返済開始と同時に金利部分と元本部分の支払いが発生する。
ところが、インタレスト・オンリー型の契約では、借り手は10年などの一定期間は金利の支払いのみを行う。
10年後から元本の返済も始まる。
元本の回収が先延ばしになるという点でリスクは高い。
FRCは商業用不動産などへの投融資ビジネスにも注力した。
FRCは、低金利環境は続き資産価値の上昇も継続すると過度に楽観したといえる。
FRCは積極的なリスクテイクを続け、不動産やIT関連企業への投融資を積み増した。その結果、FRCの融資債権の価額は増加した。
3月末時点のFRCのバランスシートを確認すると、資産総額(2329億ドル、1ドル=135円で約31兆円)のうち融資債権は1725億ドルを占めた。
しかし、良好な条件がいつまでも続くとは限らない。
2022年3月にFRBは急速に金融を引き締め始めた。
急激な金利上昇によって投融資を行った資産の価値は下落した。
さらに、3月にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破たんした。
預金が引き出せなくなるという群集心理はSNSを介して急増した。
1〜3月期、FRCの預金は約4割減少した。
預金の流出、流動性の低い不動産などへの融資債権の価値下落などが重なった結果、FRCの資金繰りは行き詰まり破たんした。
中堅銀行の破たんと商業用不動産ファンド
今後、米国の中堅銀行の分野では、“破たん予備行”探しが活発化するかもしれない。
FRBとFDICは金融機関の監督を行う人材の不足によって対応が遅れたと報告している。
結果的に、FRCなどの過度なリスクテイクは野放しにされた。
今後、米金融当局は規制を強化し、金融システムの健全化を図るとみられる。
それに伴い、流動性の低い資産を売却してキャッシュ保有を増やそうとする銀行は増えるだろう。
問題は、金利上昇や米国経済のさらなる減速、および後退リスクの上昇などを背景に、流動性の低い資産の売却が追加的に難しくなる懸念だ。
金融政策の引き締めや景気後退の懸念で、資産売却は難航することが予想される。
2月末から4月末の間、2022年末時点で全米20位のキーコープ、同37位のコメリカの株価はともに38%程度下落した。
また、米国の銀行だけではなく、欧州やカナダの銀行も資産価格の下落の影響を受ける可能性がある。
今すぐではないにせよ、米国の中堅銀行の資金繰りの懸念が追加的に高まり、それが欧州などの金融セクターに飛び火するリスクは軽視できない。
米中堅行の資産売却増加によって、商業用不動産市況にもより強い下押し圧力がかかるだろう。
それに伴い、規制が相対的に緩い投資ファンド業界からの資金流出も増加しそうだ。
そうなると、連鎖反応のように、銀行の融資債権の焦げ付きや不良債権の増加懸念は高まり中堅銀行の経営体力の低下懸念も高まる。
FRBやECBがインフレ鎮静化のために金融引き締めを継続する可能性が高い。
世界経済の先行き不透明感は一段と高まっていると考えるべきだ。
●バイデン大統領が「G7広島サミット」に来ない アメリカに“デフォルト”の恐れ… 5/11
アメリカのバイデン大統領が「G7(=主要7か国首脳会議)広島サミット」に来ない可能性が出てきました。原因は、アメリカが抱える「国の借金の問題」です。このままでは、来月1日にも借金の一部が返せなくなる“デフォルト”状態となる恐れがあるといいます。バイデン大統領が来ない場合、サミットはどうなるのでしょうか?
G7広島サミット“来ない”可能性…背景に「国の借金の問題」
有働由美子キャスター「『問題が解決しなければ、G7に行かない』…アメリカ・バイデン大統領の発言ですが、来週に迫った『G7広島サミット』にバイデン大統領が来ない可能性があるということですか?」
小栗泉・日本テレビ解説委員「本当に驚きました。政府関係者に聞いたところ、一報が入った時には『え、本当に?』『もし来なかったら、どうなっちゃうんだ』という反応でした。外務省で広島サミットの準備を担当する関係者は『それはないと信じているけど、保証はない』と、それぞれ不安そうでした」
有働キャスター「G7に行けなくなるほどの問題とは、一体どういうものなのでしょうか?」
小栗解説委員「これは『国の借金の問題』です。実は、アメリカでは政府が借金をしてもいい上限が法律で決められていて、その額は日本円で約4200兆円です。この上限を、今年1月に超えてしまったのです。バイデン政権は『じゃあ、上限を引き上げよう』としていますが、野党・共和党は『政府の歳出の削減が条件だ』と主張しています。9日も協議が行われましたが議論は平行線ということで、議会の同意が得られる見通しが立っていません。このままだと、来月1日にも借金の一部が返せなくなる“デフォルト”状態となる恐れがあります。“デフォルト”状態になるとアメリカの金融システムが機能しなくなり、日本を含めた世界経済全体に大打撃を与えることになってしまいます。このため優先順位としては『債務上限の引き上げ』の方が『G7広島サミット』よりも高いということです」
「アメリカ政治に詳しい明海大学の小谷哲男教授によると、『バイデン大統領がG7に“1日〜2日遅れて参加”、または“完全にキャンセル”、つまり日本に来ない可能性も十分ある』と指摘しています。一方、バイデン政権の中枢の人にも聞いてみました。すると、現状はですが、『バイデン大統領が日本を訪れることになんら疑いの余地はない』と答えています」
オンラインで参加? 副大統領か国務長官が代わりに来日の可能性も…
有働キャスター「まだ今のところ、どちらか分からないと…。仮にバイデン大統領が来ないとなると、サミットはどうなるのでしょうか?」
小栗解説委員「『バイデン大統領がオンラインで参加する可能性はあり得る』と日米の外交筋は話しています。ただ、オンラインだと、今まさに岸田首相が調整中の“首脳らによる『広島平和記念資料館』の訪問”ができません。『代わりに、ハリス副大統領かブリンケン国務長官を行かせるのでは』ということも言われています」
有働キャスター「あと9日に迫っての事態ですが、辻さんはどう思いますか?」
辻愛沙子・クリエイティブディレクター「ウクライナの危機、そして東アジアの緊張感も高まっている今、広島で行うというサミットの国際的意義は本当にかなり大きいです。経済も含めて、国際社会の中でのアメリカの役割は本当に大きいので、難しい葛藤だとは思います。ただ、金融危機に関しては今年の頭には大々的に報じられていたわけですし、せめてもう少し早めに経済対策が進められなかったのかとは思ってしまいます」
有働キャスター「いずれにしても、議長国としては『アメリカが来ないと日本って何もできないよね』とならないように、来ない場合も想定したシナリオを、今から大変だと思いますけれども、作っておいてほしいと思います」
●きょうからG7財務相・中央銀行総裁会議 新潟県の魅力発信へ 5/11
G7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議が11日から新潟市で始まります。
新潟市や県は、各国代表の歓迎レセプションで県内産の食材を使った料理や地酒をふるまうなど、この機会に県の魅力を世界に発信することにしています。
G7の財務相・中央銀行総裁会議は11日から3日間の日程で新潟市中央区の朱鷺メッセで開かれます。
会議には、日本の鈴木財務大臣や日銀の植田総裁、それにアメリカのイエレン財務長官などが出席し、欧米でくすぶる金融不安への対応やウクライナ支援などについて意見を交わします。
会議の期間中、各国代表や多くの報道関係者が会場を訪れる見込みで、新潟市や県は、この機会に県内の食や文化をアピールする予定です。
具体的には、各国代表を歓迎するレセプションで、のどぐろの握りずしなど県内産の食材を使った料理や地酒をふるまいます。
また、式典では、古町芸妓の踊りや新潟市出身の三味線奏者の演奏が披露されるほか海外の報道関係者に地域の歴史や文化に触れてもらうプログラムも用意し、この機会に県の魅力を世界に発信することにしています。
●ガソリン価格 3週ぶり値下がりも全国で2番目に高い水準 5/11
今週の長野県内のレギュラーガソリンの平均小売価格は1リットルあたり177.3円で3週ぶりの値下がりとなりましたが、全国で2番目に高い水準となっています。
国の委託を受けてガソリン価格を調査している石油情報センターによりますと、今月8日時点の県内のレギュラーガソリンの平均小売価格は、先週よりも1.2円値下がって1リットルあたり177.3円でした。
3週ぶりの値下がりとなりましたが、長崎県に次いで全国で2番目に高い水準となっています。
このほか、ハイオクガソリンは1リットルあたり188.6円で、先週よりも1.1円値下がりました。
軽油は1リットルあたり158.4円で、先週よりも1円値下がりました。
灯油の店頭価格は18リットルあたり1976円で、先週よりも15円値下がりました。
値下がりについて、石油情報センターは、今月1日にアメリカの銀行「ファースト・リパブリック・バンク」が経営破綻したことによる金融不安や中国の経済指標が悪化したことなどが影響し、原油の買い控えの動きが強まったことが影響していると分析しています。
また、来週以降の価格の見通しについては、「政府の補助金による価格の調整で、横ばいか小幅な値動きが予想される」としています。
●2022年度の国の経常黒字は約9兆円 過去2番目の下げ幅 5/11
2022年度の日本の経常収支は、資源価格の高騰や円安などの影響で黒字額が前の年度より54・2パーセント減のおよそ9兆円にとどまり過去2番目の下げ幅となりました。
財務省が発表した2022年度の国際収支速報によりますと、海外との総合的な取引を示す経常収支は、9兆2256億円の黒字でした。
前の年度よりも54・2パーセント10兆9千億円余り減少し、リーマン・ショックの影響で輸出が極端に減少した2008年度以来の下げ幅です。
原油や石炭などの高騰に加え円安による輸入価格の上昇で、貿易赤字が18兆円と過去最大に膨らんだことが要因です。
一方、海外からの利子や配当による黒字額は35兆円を超え、こちらも過去最大となっています。
●2023年は「日本株の年」になる 「日経平均4万円」 3つの強気ポイント 5/11
3年余り続いたコロナ禍が一段落し、経済活動も本格的に再開する目処が立ってきた。円安の動きも落ち着き、5月初頭には日経平均株価が年初来高値の2万9000円台を記録するなど、足元の日本経済は上向きの気配が漂う。
一方で、米国では3月に相次いだ銀行の経営破綻の影響が続き、5月1日には総資産31兆円のファースト・リパブリック・バンクが経営破綻した。リーマン・ショック以来、史上2番目の規模の銀行破綻となった。
米国で金融不安・物価高の終わりが見えないことから、日本経済の先行きは、また不透明さを増したようにも見える。そうしたなか、兜町ではあるレポートが改めて注目されている。
〈2023年は日本株の年に 脱デフレで見えてくる日経平均4万円という「新しい景色」〉
そう題されたのは、昨年12月14日、SMBCグループの三井住友DSアセットマネジメントが発表した投資家向けのレポートだ。
2022年末時点の市況について、急激な利上げや景気減速などで低調な米国などの外国株に比べ、日本株が堅調に推移していると評価。諸外国と比べた日本の堅調さは、2022年よりも2023年に〈鮮明に〉なるとし、〈日本株への内外からの注目〉が高まり、〈2年後には日経平均4万円〉があり得ると締めくくられている。
同レポートは株価・為替相場の双方の乱高下に投資家が苦しんでいた昨年末の段階から今年の株高を予想したもので、足元では、まさに今このレポートの“予言”通り、株高基調が出現している。
ただ、そうは言っても、これまで日経平均の最高値(終値)はバブル期の1989年12月29日につけた3万8915円である。それを上回る4万円という強気な予想を、メガバンクのグループ会社が公式に表明するのはなぜか。
同レポートを執筆した三井住友DSアセットマネジメントのチーフグローバルストラテジスト・白木久史氏が言う。
「レポートを書いた時と若干足元の環境は変わっていますが、基本的に見解は変えていません。今年は『日本株の年』だと思っています。強気のポイントは3つあると考えています」
まだ見ぬ4万円台という“新しい景色”を見られるのだとすれば、その要因はどこにあるのか──。
白木氏が指摘する第1のポイントは、「日本株が非常に割安な状態にある」ということだ。
「現在、2023年度の日本株(TOPIX)の予想PER(株価収益率=株価/1株あたり当期純利益の予想値)は約12倍で、これは歴史的な低水準なのです。割安になっているのは、今後、日本企業の成長が鈍化するのではないかと警戒されているからだと考えられます。つまり、日本企業がコロナ禍による経済停滞を完全に脱し、順調に業績を拡大させていくところを見せられれば、株価の大きな上昇を期待できるということです」
白木氏が、日本株が“過小評価”されている現状から抜け出せる可能性があると見る理由が、第2のポイントとなる「マイルドなインフレによる好循環の予兆」だ。
「エネルギーや食品の価格が上昇し、ユーロ圏で一時10%台、米国でも同9%台のインフレを記録しました。それに対して長くデフレに苦しんできた日本では、今年3月分の消費者物価指数(CPI)が前年同月比プラス3.2%と、適度でマイルドなインフレと評価できます」
もちろん、値上がりによる生活苦の声も少なくないが、“マイルドなインフレ”からの好循環を生み出すきっかけとなり得るのが、「賃上げ」だという。
「4月に連合が公表した賃上げ率は3.69%と、30年ぶりの高水準です。デフレ下では給料を上げなかった企業がマイルドなインフレ下で賃上げに転じていけば、消費が活性化する好循環が生まれやすい。1980年代後半のバブル期以来となるインフレと賃上げの両立によって、日本経済は様変わりするかもしれません。当社では、日本の名目GDPは今年度も来年度も2%前後、成長すると見ています」
バフェット来日の影響力
そして第3のポイントは、日本に生じたこうした変化を「外国人投資家」が評価し始めていることだ。かつて日本株を買っている人の大半は日本人だという時代もあったが、半数以上は「外国人投資家」が取引している。
「日本のマーケットは1日3兆円程度の売買がありますが、その6割にあたる1.8兆円は外国人投資家によるものです。IMFが予測する今年の日本の経済成長率はプラス1.3%で、G7のなかでもカナダ、米国並みに高い水準。外国人投資家の日本株に対する“期待感”はすでに出始めています」
そうした空気をさらに盛り上げたのが、今年4月に来日した“投資の神様”と呼ばれるウォーレン・バフェット氏だ。
「個人資産だけで15兆円、しかも投資した株を長期保有するスタイルで知られるバフェット氏が来日し、世界に向けて『日本株が買いだ』とのメッセージを発した事実は大きい。世界中の投資家が『日本株を持たないとまずい』となるわけで、この変化はとても大きいと言えます」
それらの点を鑑みて、白木氏は今年度中(2024年3月まで)に日経平均が過去最高に近い「3万8000円」に到達する可能性があると見る。
「先ほど述べた日本株(TOPIX)の予想PERは、市場の評価が高まることで、現在の約12倍から過去10年の平均である14倍近くまで回復すると考えられます。そうなると計算上、日経平均は3万8000円という上値が見えてくる。
その前提のひとつとなるのが、早ければ今年9月にも始まると予想されている米国の利下げです。国際分散投資をする海外投資家は、米国の金融緩和をきっかけに、日本株を含めた世界中の株式を買い始めると予想されるからです」
そしてそこからさらに日本株は上昇を続けると見ている。
「2024年の米国の景気は今年後半より良くなると予想されます。日本の輸出産業などもその恩恵に与って評価が高まり、再来年(2025年)の1月から3月にかけて、TOPIXの予想PERが15倍まで拡大すると、計算上は日経平均4万円を突破することになるのです」
日本経済の置かれた状況は、数十年ぶりに大きく変わろうとしているのかもしれない。
●FRBの利上げ停止では円安は止まらない、巨額の貿易赤字が示す真実 5/11
FOMCの後、思ったほど円高にならない現実
日銀・植田総裁の初会合を経て、円金利の低位安定が確認された後、ドル/円相場は年初来高値となる138円付近まで急騰した。
その後、5月2〜3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ停止が示唆され、5月4日の欧州中央銀行(ECB)政策理事会でも利上げ幅の縮小が決定されるなど、欧米中銀のハト派傾斜が顕著になったが、本稿執筆時点のドル/円相場は134〜135円付近で推移している。
多くの為替市場参加者は「思ったほど円高にならない」と感じているのではないだろうか。
年末年始時点では、「年央にかけて米連邦準備理事会(FRB)が利上げを停止する。これに伴って日米金利差も縮小し、ドル/円相場も反転する」という金利動向を主軸とする円高予想が支配的だった。各種調査を遡れば、「3月、遅くとも5月の米利上げ停止を受けて円安相場は反転する」というシナリオが非常に多かったと記憶する。
実際、その読み通り、3月以降の日米金利差は2年、10年ともに顕著な縮小傾向が続いてきた。しかし、ドル/円相場は読み通りとはならず、逆に上昇基調にある(図表1)。
   【図表1】
これをどう解釈すべきか。そもそも金利差は、縮小しているといっても十分にある。昨年来、筆者は日米金利差を頼りとして円高シナリオを描く危険性を断続的に論じてきた。
今年の最初のコラムでも、『春にも終わる米FRBの利上げ、その後の為替市場で何が起きるか?「2023年は円高の年」という市場のコンセンサスに死角はないか』と題し、FRBの利上げ停止を契機として円高が進むという見通しに懸念を示してきた。
まだ1年の4分の1しか終わっていないものの、その懸念は今のところ適切だったように思える。
「日米の金利差」以前に注目すべきこと
そもそも利上げ停止は利下げ開始と同じではないため、巷説で支持されてきた「日米金利差の顕著な縮小が円高を促す」という主張は弱さを孕んでいる。
5月のFOMCを振り返ってみても、パウエルFRB議長は性急な利上げが金融システム不安につながった可能性を認めつつ、年内利下げの可能性は一蹴している。当面、予想すべきは「タカ派的な現状維持」であり、利下げを念頭に日米金利差の縮小を期待し、円高を当然視するような風潮はやはり危ういというのが筆者の基本認識である。
金利以前に注目しなければならないのは日本における需給環境の激変である。
この点も過去のコラムで論じているように、需給環境の激変を例示する数字はいくつかあるものの、象徴的なものはやはり日本の貿易赤字である。
既報の通り、貿易赤字は2022年通年で約20兆円を記録した。2023年に入ってからの3カ月間では約5兆円の赤字である。それでも多くの市場参加者は経験則を重視し、「米金利が相対的に下がってくれば円高になる」という説を支持してきたし、今もその考えを抱く向きは多い。しかし、少なくとも今のところそうなっていない。
もはや米金利低下だけで円高を期待する(円安を止める)のは難しいというのが筆者の認識だが、FRBが利下げに転換すれば、これほどの貿易赤字を抱えていてもやはり円高が始まるのだろうか。歴史的にも「巨大な貿易赤字の下での米金利低下」は円相場が直面したことのない状況であり、経験則に頼り過ぎるのは危ういように思う。
ちなみに、「実質」の世界では年初から途切れなく円安が続いている。
表面上は乱高下しているが実質的に続いている円安
内外物価格差を加味した実質実効為替相場(REER)ベースで円を見た場合、3月は75.15と年初来安値である(1月:77.26、2月:75.28、図表2)。名目実効為替相場(NEER)ベースでは1月で83.95、2月で82.84、3月で82.86と2月から3月で横ばいであるかのように見えるが、REERでは続落している。
   【図表2】
日本社会に暮らす市井の人々にとって、為替といえば、名目ベースのドル/円相場が真っ先に思い浮かぶところだが、国際社会に暮らす日本という国にとってそれはREERである。島国だからこそ海外から様々な資源を購入し、国内の経済活動に充てていかねばならない。その購入する資源はできれば安価で購入できることが望ましい。
しかし、海外から購入する財には当然、相手国の賃金・物価水準が反映される。極端な話、名目の世界で「1ドル=100円」という固定相場が続いても、米国の物価が上がり、日本の物価が横ばいという状況が続けば100円で買える米国の財は少なくなる。
理論的にはそうした物価格差を埋めるために円高・ドル安が進むはずであり、それを購買力平価と呼ぶのだが、その話は今回控えるとする。
いずれにせよ、一国の購買力とは名目為替レートからでは測れず、物価格差を勘案した実質為替レートから測るのが正しい。
重要なことは、年初に127円台まで円高になり、4月には137円台で推移するなど、ドル/円相場は相応に乱高下しているように見えるかもしれないが、「円の購買力であるREERは下がり続けている」という事実である。円の購買力は浮揚の兆しがない。
いつの間にか最強通貨に浮上したスイスフラン
主要通貨全体の中での円の立ち位置はどうなっているのか。
図表3は折に触れて本欄で参考にしているG7の名目実効為替相場(NEER)だ。昨年初から足元(4月下旬)までの推移を見ると、過去1年4カ月で初めて、スイスフランが最強通貨に浮上しているのが分かる。
   【図表3】
シリコンバレー銀行(SVB)の破綻やクレディスイスの救済・合併から市場不安がピークに達していた時、「金融不安への警戒からドル、スイスフラン、ユーロは買えず、消去法的に円が買われる。安全資産としての円が復活する」という言説が一時的に流行ったが、完全に読み違いだったと言える。
ロシアのウクライナ侵攻でも、3月以降の国際金融不安勃発でも、「安全資産としての円」はその存在感をアピールできているとは全く言えない。
この点、金融不安の震源地だったスイスフランが買われていることについて違和感を覚える向きもあるかもしれない。しかし、スイスフランは貿易黒字国である。スイスフランを追いかけるように上昇しているユーロも、同様に貿易黒字国だ(しかも、その水準は世界最大級)。
もっと言えば、スイスもユーロも連続的に利上げをしている通貨だ。スイスは2022年9月まで、日本とともにマイナス金利採用国として稀な存在だった。長い歴史において、「安全資産としての逃避通貨」とも言われていた国だ。
しかし、スイスの政策金利は既に1.50%に到達している(図表4)。円からすれば、スイスフランは需給で見ても、金利で見ても、仲間とは言えない。
   【図表4】
想定されるのは円キャリー取引の再来か
今後、FRBが利上げの手を止め、現状維持を基本路線とした時、金融市場全体のボラティリティは低下するだろう。その時に何が起きるだろうか。
流動性が高く、金利の低位安定が約束されている通貨を原資(調達通貨)として高金利通貨を買い、そのポジションを維持することで金利差を得るキャリー取引が奏功しやすくなるのではないか。
ちょうど2006〜2007年、円安バブルと言われた時代に流行った円キャリー取引の再来である。
今回も調達通貨として最も選ばれやすいのは言うまでもなく円だろう(もっとも、バブルと形容されるほど日本経済の過熱感が強まるとは思えないが)。そうした相場こそ、昨年来、筆者が強調してきたシナリオであるし、本コラムでの寄稿で論じてきたものである。今のところ、その想定に沿って実勢相場は動いている。
仮に、FRBが早期利下げに転じた場合、そうした円キャリー取引主導の円安という相場現象は期待できないだろうが、FRBが利下げしたからと言って上述したような日本の膨大な貿易赤字がなくなるわけではない。
金利と需給の双方から見て、円高が確信できるような状況が年内に実現するのは難しいのではないかと引き続き考えている。
●FRBに6月金利据え置きの余地、CPIが物価圧力緩和の兆候示す 5/11
4月の米消費者物価指数(CPI)で物価圧力緩和の兆候が示され、連邦公開市場委員会(FOMC)としては6月の会合で利上げを停止する余地が生まれそうだ。ただ政策当局者らが利下げを検討するには、インフレはなお高過ぎる状況にある。
4月の米総合CPIは前年同月比で4.9%上昇と、伸び率は2年ぶりに5%を下回った。また食品とエネルギーを除くコアCPIも伸びが若干鈍化。だがFOMCにとってより重要なのは、一部の重要なサービスコストの伸び鈍化だろう。航空運賃とホテル宿泊費は低下した。
アーンスト・アンド・ヤング(EY)のチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は「ざっと目を通したところでは、金融政策がさらにやや引き締められる可能性に傾いていることを示唆している」としつつ、「だが細部を見ると、大半の内容が利上げ停止の可能性が高まっていることを示している」と述べた。
市場は年内の利下げをなお予想している。複数の銀行破綻を受けた与信の引き締まりが影響し、景気が顕著に減速するとの懸念が背景にある。ただ4月のCPIデータからは、当局がインフレとの闘いで勝利宣言するにはなお時期尚早であることが示唆される。
ブルームバーグ・エコノミクスのチーフ米国エコノミスト、アナ・ウォン氏は「必ずしも安心できる内容ではないが、米金融当局者に6月の追加利上げを示唆させるほどの衝撃を与えるものでもない」と指摘。「しかしながら、コアインフレ低下のペースが遅いことは、年内利下げの可能性がいかに低いかを浮き彫りにする」と語った。
●年内利下げ期待はFRBの歴史と一致 市場の期待は決して的外れではない 5/11
市場は先週のFOMCを受けて、利上げ停止と年内利下げ期待を高めているが、本日の米消費者物価指数(CPI)の結果はその期待を正当化する内容との声も多い。CMEが公表しているフェドウォッチでは、6月の据え置きの確率が90%超になっているほか、7月の利下げ期待が35%程度に上昇。9月までであれば70%超に高まっている状況。
FRBはもちろんのこと、エコノミストの間でも年内の利下げに否定的な見解が多いが、市場の期待は根強い。一部からは、現状のインフレや米労働市場の状態を考慮すると、7月の利下げ開始は現実的ではないものの、市場が織り込んでいる9月の利下げ開始は十分に有り得るシナリオだという。
過去13回のFRBのサイクルで、最後の利上げから最初の利下げまでの期間の中央値もしくは平均値は4カ月か5カ月間だという。つまり、5月が最後の利上げと仮定した場合、9月か10月になる計算だ。ただ、10月はFOMCがないので、実質的に11月ということになる。
過去の経験則からすれば、市場の期待は決して的外れではないと指摘している。 
●爆発に向けたカウントダウン──米銀行の連続破綻は必然だった 5/11
週末に考え抜いた末の決定だった。
米金融当局は5月1日の月曜日の早朝、経営不振に陥っていたファースト・リパブリック銀行(FRC)を公的管理下に置き、事業の大部分をJPモルガン・チェースに売却すると発表した。FRCの破綻は、アメリカの銀行破綻としては史上2番目の規模だ。
これがFRCだけの問題なのか、それとも米金融界全体の危機を意味しているのかは、これから熱い議論の的になるだろう。いま確かなのは今回の破綻が、米金融界でいくつもの火種が爆発して起きていたカオスの延長線上にあるということだ。
3月上旬、カリフォルニア州に拠点を置くシルバーゲート銀行が暗号資産(仮想通貨)の下落などで経営状態が悪化し事業を閉鎖。
続いてシリコンバレー銀行(SVB)が高金利に加え、スタートアップ企業やワイン産業への融資に偏った事業内容が原因で破綻した。米金融機関としては2008年の金融危機以降、最大の規模だった。
さらにその後、ニューヨークを拠点とするシグネチャー銀行が取り付け騒ぎにより破綻。米政府は3つの銀行全てを管理下に置く決定を下した。
FRB(米連邦準備理事会)や米連邦預金保険公社(FDIC)などが迅速に動き、これら全ての銀行の預金を全額保護すると発表したが、一連の騒動の余波はヨーロッパにまで到達。メガバンクのクレディ・スイスが経営不安に陥り、ライバル銀行に救済される羽目になった。
この余波の中で何とか持ちこたえていた中堅銀行のうち、最も打撃を受けていたのがFRCだ。SVBが破綻した翌週、FRCの株価は1日で62%下落し、過去10年で最低の水準を記録。その後、FRBや大手銀行が資金注入を行ったが、事態は悪化の一途をたどった。
預金1000億ドル流出
FRCの健全性がさらに不安視されるなかで、S&Pグローバルが3月15日、FRCの格付けをジャンク(投資不適格)級に引き下げた。同22日にはFRBが金利引き上げの継続を決め、FRCの立て直しは絶望的になった。
FRCの顧客は懸念を募らせ、次々と預金を引き出した。第1四半期にFRCから流出した預金は、約1000億ドルに上った。
FRCは4月上旬に配当の支払いを一時停止すると発表。年初から4月末までに、FRCの株価は実に97%下落した。買収に前向きな企業はいなくなり、ついにFRCは公的管理下に置かれることになった。
FRCのビジネスモデルは、公的預金保険の限度額25万ドルをはるかに超える口座預金を持つ富裕層の顧客と、金利が上昇すると価値が下がる低利の住宅ローンによって成り立っていた。
一連の破綻についてFRBは、大手金融機関への監視が強まる一方で、より小規模な銀行が監視を免れたことなどが原因と分析し、規制改革を求める材料にするだろう。
今回の一件で、SVBの破綻から6週間以上が過ぎても、米金融システムがその打撃から立ち直っていないことがはっきりした。相次いだ破綻は「伝染」ではない。FRCという火種の爆発に向けたカウントダウンは、はるか前から始まっていたのだ。
●米、初のデフォルト現実味 債務上限の協議難航 ドル信認低下も 5/11
米政府の債務上限引き上げを巡ってバイデン大統領と野党・共和党の協議が難航し、米ドルの信認が揺らぐことへの懸念が強まっている。政府の運営資金が来月1日にも払底するのを前に協議がまとまらなければ、米国史上初のデフォルト(債務不履行)が現実味を増す。米主導の世界秩序を支えてきた「ドル一極体制」はさらに揺らぐことになる。
7日、イエレン財務長官は米テレビで、債務上限を引き上げられなければ、経済と金融の両面で「破滅的な結果」になると強い警告を発した。
どのような影響が予想されるのか。米メディアによると、政府職員の給与や高齢者向け健康保険、年金、退役軍人の恩給、州への補助金といった各種支払いが停滞するほか、国債の利回り上昇に連動してローン金利が高くなることが予想される。金融市場への打撃は避けられず、急速な景気後退や社会不安の引き金となる可能性もある。
政府が額面1兆ドル(約134兆円)のプラチナ硬貨を発行して当面の資金を調達するといったデフォルト回避案も浮上しているが、実現性は不透明だ。
さらに懸念されるのは、米国の威信に対する長期的な打撃だ。トランプ前政権で大統領副補佐官を務めたマット・ポッティンジャー氏らは米外交専門誌フォーリン・アフェアーズへの寄稿で、デフォルトの可能性が取り沙汰されること自体が米国の信用低下や各国のドル離れを招き、ドルを基軸通貨とする金融システムの弱体化につながると指摘。「中国やロシアが米国の弱みを突こうと狙っているときに米国の力を損なうことになる」と警鐘を鳴らした。
米国がデフォルトの危機に直面するのはこれが初めてではない。
バイデン氏が副大統領だったオバマ政権期の2011年にも、与野党対立の激化で債務上限を引き上げる立法措置が難航し、デフォルトまで数日の崖っぷちに追い込まれた。米格付け大手S&Pは米国債の長期信用格付けを最高水準の「トリプルA」から「ダブルAプラス」に1段階引き下げ。世界の外貨準備に占める米ドルのシェア低下に拍車がかかったと指摘される。
当時、下院の過半数を握る共和党で債務上限の引き上げに抵抗したのは、草の根保守運動「ティー・パーティー(茶会)」系の議員グループだった。現在の共和党で、デフォルトのリスクを盾にして影響力を振るう保守強硬派は、その流れをくむ。
バイデン氏とマッカーシー下院議長ら与野党幹部は12日に再協議に臨む予定だが、互いに歩み寄る姿勢はみえていない。
米国では、連邦政府が国債の発行などで借り入れられる金額の上限が法律で定められている。債務が上限に達した場合、新たに国債を発行するには議会での立法措置による上限の引き上げが必要となる。直近では2021年末、債務上限が2兆5千億ドル引き上げられて約31兆4千億ドルとなった。
今年1月にこの上限に達したことから、現在は財務省の特別措置などによる資金繰りが続いているが、同省は6月1日には資金が枯渇すると予測。新たに債務上限を設定して国債を発行できなければ、発行済み国債の利払いが不可能となり、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高いとみられている。
●米議会は債務上限引き上げを、G7は中国の威圧に対抗=財務長官 5/11
イエレン米財務長官は11日、31兆4000億ドルの連邦債務上限を引き上げ、前例のないデフォルト(債務不履行)を回避するよう米議会に呼びかけた。米国がデフォルトに陥れば、世界的な景気低迷につながり、世界経済における米国のリーダーシップを損なうことになると警告した。
新潟市で開催される主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議を控えた記者会見の準備原稿で述べた。
「デフォルトは、過去数年間われわれが懸命に取り組んできたパンデミック(世界的大流行)からの回復の成果を脅かすことになる。そして世界的な景気低迷を招き、われわれはさらに後退するだろう」と指摘。
また「世界経済における米国のリーダーシップを損なう恐れがあるほか、国家安全保障上の利益を守る能力にも疑問が生じる」とした。
この問題に対する共和党の瀬戸際戦略は「われわれ自身が作り出した危機」であり、デフォルトの脅威があるだけで米国の信用格付けの引き下げにつながる恐れがあるとの認識を示した。
住宅ローンや自動車ローン、クレジットカードの金利が上昇する可能性があり、6月1日頃に期限を迎える債務は既に金利が急上昇していると述べた。
財務省が国債を発行できなくなれば金融市場や企業、消費者信頼感は言うに及ばず米経済に「多大な」打撃を与えるとし、そのような事態は「考えられない」とした。
「そういう事態が有意の期間続けば非常に深刻な低迷に陥ると、あらゆる分析で示されている」と述べた。
G7は世界経済やウクライナ支援などが焦点に
G7会合について、世界経済を強化しインフレを抑えるための行動、ロシアの侵攻からウクライナを守るための支援の再確認、経済の回復力を高めるための長期的な取り組みなどが優先事項になるとした。
G7の大半で総合インフレ率が前年比で低下し成長見通しが改善したことに言及し、世界経済は下振れリスクがあるものの、6カ月前の大方の予想よりも良い状態を保っていると評価した。
米地銀3行の経営破綻を受けて米当局は銀行システムの信頼性を強化するための措置を講じたほか、インフラ、代替エネルギー、半導体への投資に関する法案を制定したと述べた。
同時に途上国を支援することも重要だとし、債務危機にある国に対して「タイムリーで包括的な」債務処理を進める取り組みをG7が調整するとした。
他のG7メンバーと協力して長期的に経済の回復力を高めると表明。そのために重要な商品の国内生産を促進し、途上国が国際供給網における地位を拡大するのを支援していくと説明した。
これは「(途上国が)単なる採掘産業から、国内経済と雇用により寄与する活動」に移行するのを支援することを意味すると述べた。この取り組みはG7の「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」を通じた6000億ドルの投資が基礎になるという。
中国の「経済的威圧」に対抗
またG7は地政学リスクの軽減や経済的威圧に対抗するための活動も継続するとし、外国の競争相手を支配しようとする中国の行為に対して米国は立ち向かうと述べた先月の講演に言及した。
イエレン氏は会見で、中国が他国に対して経済的威圧を用いることへの米国の懸念をG7の多くの国が共有しており、対抗手段を検討していると明らかにした。
米政府は対中投資に対して的を絞った制限を課す可能性を検討しており、G7でもこれまでに議論したと語った。米国は手段を最終的に決定しておらず、この問題に関してパートナー国と協調して取り組みたいと述べた。
米国が措置を講じるとすれば「国家安全保障に明らかに影響がある技術に(対象を)絞ったものになる」とした。期日の見通しは示していない。
米国政府はすでに、対米投資の審査や輸出管理などを通じて国家安全保障上の防護に取り組んでおり、対外投資に一定の規制を掛けるのは補完的措置だと説明。
「国家の安全保障に焦点を絞るべきというのが私の考えだ。たとえば中国の経済競争力や経済的進歩能力を削ぐことは想定していない」とした。
イエレン氏は、中国による海外の競争相手を支配する行為に米政府が対抗するとした先月の講演に言及し、G7と欧州連合(EU)が戦略地政学リスクや経済的威圧の緩和に取り組んでいくとした。
その上で、中国がオーストラリアやリトアニアに明らかに経済的威圧を行使しており、「それはわれわれ全ての懸念事項とすべき問題」だとした。
中国が最近、国内で活動するコンサルティング会社を調査していることは承知しているが、それが経済的威圧に当たるかどうかは分からないとした。
中国国営メディアは、技術や防衛など国家機密の窃取を防ぐために当局がコンサルティング会社に対する大々的な取り締まりに乗り出したと報じている。

 

●政策は制約的、物価抑制に十分かは不透明=ボウマンFRB理事 5/12
米連邦準備理事会(FRB)のボウマン理事は12日、インフレが高止まりすれば追加利上げが必要になるとの見方を示した。今月発表された重要指標は物価圧力の緩和を確認できる内容ではないと指摘した。
ボウマン理事は欧州中央銀行(ECB)で行う講演の原稿で「インフレが高止まりし労働市場がタイトなままであれば、インフレ低下に向け金融政策スタンスを十分制約的にするために追加的な政策引き締めが適切となる公算だ」とし「インフレを押し下げ労働市場の持続的強さを支える環境を作るうえで政策金利が十分制約的な水準にとどまる必要があると予想する」と述べた。
先週末発表の4月の雇用統計では雇用者数が予想を上回る伸びとなり失業率は53年ぶりの低水準となる3.4%に改善した。
今週発表の4月の消費者物価指数(CPI)は前年比の伸び率が2年ぶりに5%を下回り2021年4月以来の低水準となった。
CPI統計を受け、利上げ停止観測が台頭しているが、ボウマン理事は、雇用統計もCPIもインフレ低下を示唆する「整合的証拠」ではないと指摘した。
FRBの政策は既定の軌道上にはないとした。需要減退、求人減少、成長鈍化など、金利上昇の影響が出ている兆しがある程度見られると述べた。与信は引き続き厳格化するとみられ、最近の相次ぐ銀行破綻で経済見通しの不透明感が増したと指摘した。
「私の考えでは、われわれの政策スタンスは今や制約的だが、インフレを押し下げるのに十分制約的かは依然として不確かだ」とし「6月会合に向けて適切な金融政策スタンスを検討する上で引き続き今後出てくるデータを注視していく」と述べた。
●ボウマンFRB理事、追加利上げ必要−物価高と労働力逼迫根強ければ 5/12
米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は米物価圧力が弱まらず、労働市場に鈍化の兆候が見られない場合は金融当局として追加利上げを行い、しばらくの間高水準に据え置くことが必要になる可能性が高いとの見解を示した。
ボウマン氏はフランクフルトの欧州中央銀行(ECB)本部で12日に開かれるシンポジウムでの講演テキストで、「インフレが高止まりし、労働市場の需給が引き続きタイトな場合、十分景気抑制的な金融政策のスタンスを取るため、追加の金融引き締めが適切になる可能性が高いだろう」と述べた。
さらに、「インフレを鈍化させ、持続的に力強い労働市場を下支えする状況を生み出すために、政策金利をしばらくの間、十分景気抑制的な水準に維持する必要があると予想する」と指摘した。
その上で、経済の見通しが不透明で政策措置は事前に設定されたコースにはないため、6月13、14両日の次回連邦公開市場委員会(FOMC)会合前に公表されるデータを検討してから政策スタンスに関する立場を決めるつもりだと語った。
また、「今後の利上げや、どの時点で十分景気抑制的な政策金利スタンスを達成したことになるかを検討する際に、インフレが減速傾向にあることを示す一貫性のある証拠」の兆候を探ると説明した。
「失業率が低下し、賃金の伸びが続く中、インフレは引き続き非常に高過ぎる水準にあり、コアインフレの指標も高止まりし続けている」とし、直近の消費者物価指数と雇用統計では「インフレの減速傾向を裏付ける一貫性のある証拠は得られなかった」とも話した。
現在の政策スタンスについては「景気抑制的だが、インフレを減速させるのに十分な程度かどうかは依然はっきりしない」とコメントした。
FRBは4月28日、経営破綻したシリコンバレー銀行(SVB)の監督を検証する報告書を公表。同行破綻により監督の不備が露呈したと規制当局は指摘し、バーFRB副議長(銀行監督担当)は米金融機関に対する要件の抜本的な見直しを求めた。
ボウマン氏はこの問題について、第三者機関によるさらなる検証が必要だと指摘した。
●ウォラーFRB理事、気候変動がもたらす深刻な金融リスクはない 5/12
米連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事は11日、気候変動が金融の安定にもたらす明白な危険はなく、気候変動に伴う金融システムへのリスクに中央銀行が特別な注意を払う必要はないとの見方を示した。
同理事はマドリードの会議で、「気候変動は現実のものだが、それが大手銀行の安全性や健全性、あるいは米国の金融安定に深刻なリスクをもたらすとは思わない」と述べた。
「私の仕事は金融システムがさまざまなリスクに対し強靱(きょうじん)であるよう確実にすることだ」と説明した上で、「気候変動がもたらすリスクは、他のリスクと比べ特別な扱いを受けるに値するほど特殊でも重大でもないと考えている」と語った。
ウォラー理事は事前に用意した発言テキストの中で、米経済や金融政策の見通しには触れなかった。
●数字を見れば不吉な予感…アメリカ経済はリーマンショック時よりも悪化するかも 5/12
破綻3行の債務合計はリーマンショック時以上
米国の金融システムの動揺が一向に収まらない。
5月1日、米地銀ファースト・リパブリック・バンクが経営破綻した。破綻した米銀行の資産規模としては過去2番目だったが、米銀最大手JPモルガン・チェースによる買収が決まり、市場では「大きな混乱は回避された」との安堵感が広がった。
だが、翌2日の米株式市場で地銀株が軒並み下落した。特にカリフォルニア州を地盤とするパックウエスト・バンコープは一時42%安となった。
シリコンバレーバンク、シグネチャーバンクに続き、2カ月足らずで3つの銀行が破綻したことへの警戒感が強まっていることのあらわれだ。
最近破綻した地銀は「『スーパープライム』と呼ばれる信用力が高い富裕層を専門にしていた」という共通点があった(5月2日付日本経済新聞)。このことは経営上の利点とされてきたが、急速に利上げが進んだことで、富裕層がより高い金利が得られる別の銀行や投資先に逃げ出してしまったことが災いしてしまった。なんとも皮肉な話だ。
2008年のリーマンショックの際には信用力の低い個人向け住宅融資「サブプライム・ローン」の焦げ付きが問題となったが、今回の危機は全く違う様相を呈している。「金融危機は常に違う顔で現れる」という警句の正しさを痛感する今日この頃だ。
日本でも「再び金融危機が起きるのではないか」との懸念が生じているが、足元の状況で既に「リーマン超え」の数字が散見されるようになっている。
2008年のリーマンショック時は25行が破綻し、債務の合計は3736億ドルだったが、今年破綻した3行の債務の合計はそれを上回る5485億ドルに達している。
FRBに対する怨嗟の声は高まるばかり
預金の安全性を心配する米国民の比率もリーマンショック時を超えている。
米ギャラップが5月5日に公表した世論調査(4月3日から25日にかけて実施)によれば、48%が「(銀行などに預けているお金の安全性について)心配だ」と回答したが、この数字はリーマンショック直後の2008年9月時点の45%を上回った。
支持政党による違いも浮き彫りになっている。共和党支持者が「心配」と回答した割合は55%と民主党支持者(36%)に比べて高く、ギャラップは「現政権への不満と結びついている結果だ」と分析している。
米サプライマネジメント協会(ISM)が5月1日に発表した4月の米製造業景況感指数も47.1となり、好不況の節目である50を6カ月連続で下回った。リーマンショック後の記録に並んだが、この記録を更新されるのは確実な情勢だ。
相次ぐ銀行破綻が引き金となって米国で信用収縮(与信環境のタイト化)が起きており、製造業の資金調達環境が近年になく悪化しているからだ。
金融システムの脆弱性が意識される中にあって、頭が痛いのは米連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制を優先する政策を維持していることだ。
FRBは5月3日、0.25%の利上げを決定した。利上げのペースは1980年代以降で最速であり、政策金利は16年ぶりの水準に達した(5.0〜5.25%)。
FRBは利上げの停止を示唆したものの、長期にわたって高水準の政策金利を維持する事態となりつつある。4月の雇用統計で、非農業部門の就業者数が前月から25万3000人増加し、失業率が半世紀ぶりの水準(3.4%)となったことが明らかになっており、FRBが6月の会合で11回連続となる利上げをする可能性も排除できなくなっている。
5月3日の記者会見で銀行破綻が相次ぐ現状について聞かれたFRBのパウエル議長は「我々は間違いを犯したことは十分に認識している」と述べたが、市場からは「多くの地銀が破綻に追い込まれる水準にまで利上げをしてしまった」とFRBに対する怨嗟の声が高まるばかりだ。米国の金融システムの専門家も「4800に上る米銀の半数が破綻する.可能性がある」と警告を発している(5月7日付ZeroHedge)。
M2の減少が米国経済全体に悪影響を及ぼす可能性
にわかに想定しづらい事態だが、米国で大量の銀行が破綻した前例があるのは事実だ。1929年9月の米株式市場の暴落に端を発した世界恐慌のせいで、1933年の米国の国内総生産(GDP)は1929年の4分の3の規模にまで縮小した。
米国では多数の銀行が破綻に追い込まれており、預金引き出しを求める国民が「長蛇の列」を作るのは当たり前の光景となっていた。
この事態を重く見たルーズベルト大統領は就任直後の3月6日、4日間の全国銀行休業日(バンク・ホリデー)を宣言し、すべての銀行を閉鎖させて取り付け騒ぎを沈静化させた。米国人にとっては忌まわしい記憶だが、悪夢の再来を予感させる兆しがここにきて出ているのは気がかりだ。
FRBの利上げがもとで米国全体のカネの流れが不振となっており、3月のマネーサプライ(M2)が前年に比べて4.05%減少した。M2減少は第2次世界大戦後初めてのことであり、世界恐慌真っ只中の1933年12月以来、約90年ぶりのことだ。
マネーサプライとは世の中に出回っているお金の量全体を指し、現金や普通預金に加え、解約が容易で決済手段として使える金融資産(定期預金など)が含まれるM2が代表的指標とされている。
米国のM2は毎年増加するのが当たり前だとみなされており、2008年の金融危機や2020年のコロナ禍でも増えていた。このことからわかるのは、足元のM2減少は今後、米国経済全体に悪影響を及ぼす可能性が高いということだ。
「1930年代の悪夢が再来する」と断言するつもりはないが、米国経済がリーマンショック時以上の深刻な打撃を被るのは確実なのではないだろうか。
●世界経済の無法者・中国に、とうとうアメリカが「本気の怒り」を見せ始めた… 5/12
米経済政策の大転換点
米国のジェイク・サリバン大統領補佐官が4月20日、講演で自由貿易や規制緩和による市場重視の経済政策から、補助金を使った産業政策への大転換を宣言した。これは「新しいワシントン・コンセンサス」と呼ばれている。いったい、何を目指しているのか。
ジョー・バイデン政権の産業重視姿勢は、昨年8月9日に成立した半導体製造を支援するCHIPS法と、同じく16日に成立したインフレ抑制法が象徴的に示している。
前者は米国内で半導体を製造、研究開発する企業に、政府が5年間で総額527億ドル(約7兆円)の補助金を支給する。後者は電気自動車や再生エネルギーの普及など気候変動対策を中心に、10年間で3910億ドル(約52兆円)を投入する。
CHIPS法の効果はめざましく、米国や台湾、韓国、日本、英国などの半導体関連企業が補助金目当てで、続々と米国への投資計画を発表している。日本貿易振興機構によれば、昨年末時点で、その額は2000億ドル(約27兆円)に上る見通しだ。
米財務省は3月31日、電気自動車やPHV(プラグイン・ハイブリッド車)について、補助金の対象になる車種の条件を示した。CNNや米業界紙は税額控除の対象になる車種を具体的に報じている。車種によっては、最大7500ドル(約100万円)の控除を受けられるのだから、新車購入を考えている消費者には、朗報に違いない。
問題は、これらの政策が「米国への投資」と「米国企業」を優遇している点だ。半導体企業への補助金は米国での工場建設や研究所設立が対象になっている。電気自動車に対する税額控除も、基本的に米国内で部品を調達し、生産された車にしか適用されない。
日産やBMW、ボルボ、現代などの車は税額控除の対象から外され、実際に適用されるのはフォルクスワーゲンを除いて、テスラやフォードなど米国製の車ばかりだった。
新しい産業政策の理念
米国優遇の産業政策を支える理念を、サリバン氏はブルッキングス研究所での講演で「新しいコンセンサス」という言葉を使って、初めて包括的に説明した。以下のようだ。
〈第2次世界大戦後、米国は崩壊した世界に新たな国際経済秩序を導入した。それは数億人の人々を貧困から救い、技術革新を促し、多くの国を新たな繁栄に導いた。だが、過去数十年間にひび割れが入ってしまった。金融危機は中流階級に打撃を与え、疫病はサプライチェーンの脆弱性を暴露した。ロシアのウクライナ侵攻は、過度の依存が危険をもたらす事態を裏書きしている〉
〈いまや、我々は「新しいコンセンサス」を構築しなければならない。それこそが、バイデン政権が米国と世界で、現代の産業政策と技術革新戦略を追求している理由なのだ〉
彼は、なぜ「新しいコンセンサス」と呼んだのか。
過去30年以上にわたって「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる政策体系が、世界を支配していたからだ。それは、米シンクタンク、国際経済研究所(IIE、現PIIE)のエコノミスト、ジョン・ウイリアムソン氏が1989年に書いた論文で提唱した政策パッケージである。
パッケージは「財政規律の維持」「公共支出の優先順位付け」「税制改革」「市場で決まる金利」「競争力のある為替レート」「貿易自由化」「海外直接投資」「政府事業の民営化」「規制緩和」「財産権の尊重」の10項目からなっている。
ワシントン・コンセンサスは当時、債務に苦しんでいた南米各国が採用すべき政策の指針として提唱された。だが、やがて先進国の「世界標準」になって、世界の左翼勢力からは「市場原理主義」や「新自由主義」といったレッテルとともに「強者の論理」として攻撃の的になった。
「新しいコンセンサス」の内実
そんな経緯を念頭に置いて、サリバン氏は「かつてのワシントン・コンセンサスに対する決別」を宣言すると同時に「新しいコンセンサス」を唱えたのである。中身は次のようだ。
〈バイデン大統領は2年前、4つの挑戦に直面していた。まず、米国の産業基盤が空洞化していた。米国を活性化させた公共投資の将来像は消滅し、減税と規制緩和、民営化、貿易の自由化にとって代わられていた〉
〈2つ目は地政学的な安全保障上の競争である。過去数十年の国際経済政策は「経済統合が各国をより開かれ、責任あるものにして、世界秩序はもっと平和で協力的になる」という前提に立っていた。だが、そうはならなかった〉
〈中国は鉄鋼のような伝統的部門とクリーンエネルギー、デジタル基盤、最先端生物科学のような未来産業に巨額の補助金を与え続けた。経済統合は中国の軍事的野心を止められなかった。ロシアの侵攻も止められなかった。両国は責任ある協力的な国にはならなかった〉
〈3つ目は気候変動危機と公正で効率的なエネルギー改革への対応だ。最後が不平等とそれが民主主義にもたらす打撃に対する挑戦である。我々は働く人々に手を差し伸べるのに失敗した。豊かな人々が一層豊かになっている間に、米国の中流階級は失速した。オバマ政権の努力は共和党の反対で窒息させられた〉
過去をこう総括したうえで、本題に入っていく。
〈我々の経済政策の核心は「構築」だ。「国内でも海外の友好国でも、能力を作り、回復力を作り、包括力を作る」。それを我々は「中流階級のための外交政策」と呼ぶ。目標は米国と同志国が、強く回復力がある最先端技術の基盤を構築することだ〉
〈市場自由化を放棄するとは言っていない。貿易合意を求めていく。だが、問題は「関税引き下げをどうするか」ではなく「貿易が、どう我々の国際経済政策に沿うのか、そしてどんな問題を解決したいのか」が重要だ〉
〈強靭で多様なサプライチェーンを構築し、エネルギー改革と持続的な成長のために、公共と民間の投資を動員する。雇用を作り、デジタル基盤への信頼を回復し、法人税の引き下げ競争を止める。雇用と環境に対する保護を強化する。汚職と戦う。これらが根本的な優先事項だ。単なる関税引き下げではない〉
〈我々はWTOにコミットしているが、非市場経済国の慣行や政策がWTOの価値に挑戦している。労働者の利益を守り、正統な国家安全保障に対応するように、WTO改革に取り組む〉
〈最先端半導体技術の対中輸出を制限したのは、完全に国家安全保障上の理由からだ。中国が言うような「技術封鎖」ではなく、我々への軍事的挑戦を意図している少数の国を対象に、ごく限られた技術に焦点を当てたものだ〉
〈産業基盤と技術革新、クリーン・エネルギーへの投資に賭ける。国家の安全保障と経済的活力がかかっている。米国のすべてを費やし、同志国の政府、世界の人々と一緒に仕事をしたい〉
以上で明らかなように、サリバン氏が新しいワシントン・コンセンサスを提唱した最大の理由は、中国に対抗するためだ。
中国は軍事的脅威であるだけでなく、経済面でも米国に挑戦している。知的所有権を盗み、WTOルールには従わず、外国の投資相手に技術移転を強要する。そんな中国に対抗するのに懲罰的関税では不十分で、米国自身の産業基盤を強化しなければならない。
そのために、政府と民間の投資を最大限に活用する。それを具体化したのが、先に紹介したCHIPS法とインフレ抑制法だった。
世界中で賛否両論が巻き起こった
こうした政策思想は、サリバン氏の講演前から、欧米で議論を呼んでいた。
4月19日付の英「フィナンシャル・タイムズ」は「これは、かつての世界標準とは違って、ワシントンだけに限られている。かつてはプラスサムを目指していたが、新しいのは、ある国が成長すれば、他国が犠牲になるゼロサムだ」などと批判した。
サリバン氏自身が批判を意識して、講演では「ある人々が言及したように『新しいワシントン・コンセンサスは米国だけ、あるいは米国と西側だけで、他国を排除した考え』というのは、まったくの間違い」と反論したほどだ。
英エコノミスト誌は1月9日付で「米国の保護主義への転向は世界にとって、何を意味するのか」と題した記事で「ワシントンでは民主党も共和党も、この新しいアプローチが常識になっている。中国の挑戦をかわして、米国の産業基盤を守るには、これしかない、と信じているのだ。だが、フランスのマクロン大統領はインフレ抑制法を『私たちの殺人者』と呼んだ」と批判的に書いた。
米国内でも、賛否両論を巻き起こしている。
講演を主催したブルッキングス研究所は「サリバン講演への反響」と題して、10人の識者の意見をまとめて紹介している。たとえば、以下のようだ。
〈サリバンは非常に思慮深い指導者だ。これまでに、もっとも知的に政権の哲学を示した講演だった、と思う。たしかに世界は変わったし、中国の挑戦もその通りだ。だが、安価な製品を輸入する重要性を強調しなかったのには、失望した。それは、我々の生活水準と製造業の生産性を決める重要な部分だ。こうした考えが米国の長期的利益に資するとは、思わない。第2次大戦以来の我々の伝統とも少し違う。それは、もっと多国間主義でグローバルなアプローチだった(ラリー・サマーズ元財務長官)〉
これは、古いワシントン・コンセンサスへの未練を感じさせる。逆に「これでは生ぬるい」という意見もある。
〈サリバン氏が「極端に単純化された市場効率」を批判したのは異例であり、歓迎したい。独占禁止や産業政策のような問題で前進もあった。軍事技術の移転を阻止して、サプライチェーンを確実にするために「デカップリングではなくて、ディリスクキングであり、多様化する」と言った。だが、中国が明日、武装解除したところで、彼らの経済的影響力は衰えず、米国の自由と繁栄を蝕むだろう。デカップリングこそが重要だ。我々の自由主義経済は彼らの国有化、国営化、補助金化システムとは共存できない(シンクタンク「米国のコンパス」創業者のオレン・カス氏)〉
私は、欧州やサマーズ氏らの批判は「ごもっとも」と思う。だが、それでも「日本としては、米国に付き合うしかない」と思う。欧州は中国に遠いが、日本は米国以上に中国に近いからだ。中国に侵攻される心配がないなら、自由主義の建前を唱えていても、不都合はない。
サマーズ氏が言うように「長期的には不利益になる」としても、問題は「長期とはいつまでか」だ。経済学者の故・ケインズ氏が言ったように「長期的に我々はみんな死ぬ」。だが、経済的に不利益になる前に、中国に侵攻されたら、日本は不利益どころか、文字通り、存亡の危機を迎えてしまうのだ。
日本は米国以上に、まずは目先の脅威に対抗しなければならない。米政権がここまで腹を固めた以上、自由と民主主義、市場経済といった建前の政策を議論していれば済んだ時代が終わったのは、たしかである。
●G7財務相・中央銀行総裁会議2日目 金融システムなど議論 5/12
新潟市で開かれているG7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議は2日目の討議が行われ、金融システムの強化などをテーマに議論が交わされています。
12日の会議ではアメリカで相次いだ銀行破綻を教訓にデジタル時代のリスクをふまえた議論が行われています。
一連の銀行破綻では、SNSを介して経営情報が拡散したことをきっかけにインターネットバンキングで預金を引き出す動きが加速。
金融不安が増幅する事態となりました。
12日の会議では、「現状の金融システムは強じんである」との認識に立った上で、「デジタル時代の取り付け」といった新たなリスクにどう対処し、金融システムの強化をはかるかを議論します。
その上で「金融機関は流動性の高い資金を確保することが重要だ」という考え方を示し、G7として各国の金融当局でつくるFSB=金融安定理事会に対し、金融機関への監督や規制のあり方を早急にとりまとるよう求める方針です。
一方、午後に開かれる拡大会合にはインドや韓国などG7以外の国も加わり、サプライチェーン=供給網の強じん化に向けた新たな枠組みや途上国の債務問題などをテーマに議論します。
議長国の日本としては、今回の会議で成果を積み上げ、来週の広島サミットにつなげられるかどうかが問われることになります。
●「インフレとの戦い」FRBとECBの決別で為替が動く  5/12
インフレに対し利上げを続けてきた欧米中央銀行。名言を織り交ぜた5月の総裁会見から浮かび上がる、ドルとユーロ、そして円の行方とは。
東京市場がゴールデンウィークで休場の中、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)といった海外主要中央銀行では大きな動きが相次いだ。
まず5月2〜3日のFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)は0.25%の利上げを決定したものの、従前の利上げに伴う累積効果に加え、相次ぐ国内地方銀行の破綻を受けた与信環境の引き締まりなども意識され、声明文において利上げ停止が示唆されるに至っている。
具体的には追加利上げを示唆していた「追加の政策措置が適切」との表現が削除され、「追加策がどの程度必要か決定する際には、これまでの金融引き締めの累積的な効果や経済や物価に時間差で与える影響を考慮する」と利上げ打ち止めを示唆する表現が挿入されている。利上げの終着点は近いと考えるべきだろう。
市場は利上げ停止の先にある利下げ可能性まで織り込み始めており、FOMC直後のドル円相場は年初来高値となる138円付近から一時134円割れまで急落した。
需給で動く円はそれでも買われない
こうした「年初来高値にある円安・ドル高が、金融不安を受けて反落(円高・ドル安)を強いられる」という展開は、2月下旬から3月上旬にかけて直面した光景とまったく同じだ。金融不安が与信環境の引き締まりを促し、結果として利上げの必要性が小さくなり、米金利低下とドル安に直結するという展開は論理的ではある。
だが、金融不安が第2次リーマンショックのような事態に至らないという理解が広まれば再び円安になる、というのが引き続き筆者の基本認識である。利上げ停止と利下げ開始は同義ではなく、日米金利差の顕著な縮小は見込めない。とすれば、需給環境が大崩れしている円が積極的に買われる理由はない。シンプルな話である。
筆者はあくまで「需給構造変化を映じた円安」を予想の主軸としており、アメリカの金利動向はドル円相場の水準感には影響しても方向感には影響しないという立場だ。現在起きている(そしてこれから起きるであろう)FRBの姿勢変化が円安相場を断ち切り、円高相場を促すとまでは考えていない。
FRBの早期利下げ転換は円高相場を引き起こすだろうが、その可能性は今のところ高くない。
会合後の記者会見においてパウエルFRB議長は過去1年の大幅利上げの影響について反省の弁を見せていた。
フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」の歌詞の一節「Regrets, I've had a few(後悔も多少はあった)」は直接的にはシリコンバレー銀行(SVB)破綻に関する監督不行き届きを指していたが、間接的にはそうしたずさんな監督にもかかわらず利上げのアクセルを踏み続けたことについても含みがあったのではないかと察する。
しかし、それでも年内の利下げ観測については「適切ではない」と一蹴している。依然、アメリカの雇用・賃金情勢が逼迫している以上、この回答は必然だろう。事実として、総合ベースのインフレ率がピークアウトしてもコアベースのそれは失速が確認されておらず、「賃金主導のインフレ高進」という最も避けるべき展開に至っている不安は拭えない。
とすれば、これからのFRBがやることは「政策金利高止まりで据え置き」だろう。そうした政策環境が「低金利通貨を売って、高金利通貨を買う」というキャリー取引戦略が好まれやすくなる中、どうしても円相場は軟化しやすくなるのではないだろうか。
ECBは「小さく、長く」利上げ持続
片や、FOMCの翌日5月4日に開催されたECB政策理事会は、FRBと対照的な情報発信だった。預金ファシリティ金利を筆頭とする政策金利に関し、0.25%の利上げが決定されている。政策金利水準は2008年11月以来、約14年半ぶりの高さとなる。
3会合ぶりの利上げ幅縮小(0.50%→0.25%)は予想通りの展開であり、声明文やラガルドECB総裁会見などを踏まえる限り「小さく、長く」利上げを持続させるのが今後の基本方針になってくると思われる。
FRB同様、金融市場は「次の一手」としての利下げを期待しがちだが、ラガルド総裁は「インフレの見通しはあまりにも長く、高すぎる状態が続いている」「利上げは止めない」とその可能性を一蹴している。
会見の中でも「0.50%を主張したメンバーもいれば、0.25%を主張したメンバーもいたが、ゼロと主張したメンバーはいなかった。これは利上げの旅路がまだ続いていることを意味している」とラガルド総裁は述べ、政策理事会内で利上げ路線自体に迷いがないことが強調されている。利上げ路線が維持される理由はさまざまだが、ひとえに「まだインフレが高い」ということに尽きる。
ユーロ圏消費者物価指数(HICP)はコアベースの鈍化がようやく確認されたばかりであり、これが潮流として根付くのかどうかは予断を許さない。
   ユーロ圏消費者物価指数の推移グラフ
ECBは自身のHPにおいて「一目でわかる金融政策」といったコンテンツを用意しており、現在の政策運営について一問一答形式で論点を整理している。これを読めば現状把握がほとんど済んでしまう利便性の高い作りとなっている。
この中の「What is going on in the economy?」という欄で「Inflation has come down from its peak but is still too high」「Rising wages and higher profits are behind high inflation」などの見解が示されており、インフレ率が依然高く、その背景として「上がる賃金と高い企業収益」が言及されている。半ば賃金・物価スパイラルを認めるような記述でもあり、すぐに利上げが終わらないことを予感させる。
もっとも、既に利上げ幅が3%に達している状況を踏まえれば、「どこまで利上げを続けるつもりなのか」という疑問は抱かれる。声明文には「十分に制約的な水準」まで引き上げられるとの言及があるものの、はっきりはしない。
この点、記者からは3.75%がIMF(国際通貨基金)や金融市場の想定するターミナルレート(最終到達点)だと前置きをした上で「十分に制約的な水準」について概算を教えてほしいという質問も出ていた。
この点、ラガルド総裁は「魔法の水準」があるわけではないとして明言を避けたうえで、「“It is not the destination so much as the journey”」とアメリカの思想家(ラルフ・ウォルドー・エマーソン)の名言を引用し「(利上げの)到達点ではなくそこに至るまでの過程が重要である」という点を強調している。
適当な政策金利水準は賃金・物価から判断されるものであり、現状では何も言えないという主張であり、それ自体は説得力が感じられた。
もっとも、IMFなどがターミナルレートとして指摘する3.75%といえば、あと0.25%の利上げ2回分であり、現状から察するに十分あり得る水準だろう。筆者も同様に考えている。
なお、今回は金利だけではなく量的な縮小についても進展が見られた。2月会合では拡大資産購入プログラム(APP)で購入した資産の再投資停止に関し「3月から月間150億ユーロずつ実施」と決められ、その運用が始まっていた。
今回の会合では再投資に関し「7月で打ち切り」となる方針が加えられた。つまり、今夏を境としてECBのバランスシートはいよいよ縮小過程に入ることになる。
”借り入れ需要減は利上げのおかげ”
今回、ECBはなぜ利上げ幅を縮小したのか。この点に関し、ラガルド総裁ははっきり銀行貸し出し態度調査の結果を引用している。3月15〜16日開催分の政策理事会議事要旨でも同調査の重要性は予告されていたが、今回の声明文でも「貸し出し態度は企業の予想していた以上に厳格化しており、今後貸出の一段の減少が予想される」明記されている。
なお、記者会見でラガルド総裁は貸し出し態度の厳格化もさることながら、「企業からの借り入れ需要は本当に、本当に減少している。この点が非常に興味深い点だ」と回答している。
さらにラガルド総裁は域内企業が調査に際して「投資をしたくないわけではなく、金利が高いから借り入れをしたくないのだと回答している」という実態を挙げ、利上げ効果の喧伝に努めている。
貸し出し態度調査は貸し出し態度が厳格化していることはもとより、借り入れ需要に関して「増えた」の回答割合よりも、「減った」の回答割合のほうが大きくなっていることがかなり目立つ。
   欧州銀行の企業向け貸出態度と借入需要グラフ
会見では引き締めすぎの議論はしたのかという点に質問が入るような現状でもあり、0.50%の利上げを躊躇する心境は理解できる。このタイミングで利上げ幅を0.25%に縮小するのは中銀として合理的な判断だろう。
FOMCとECB政策理事会の結果を総合すれば、ユーロ相場にとっては当面、追い風の時間帯が続きそうではある。FRBが利上げを停止しそうな一方、ECBの利上げは持続するという構図はわかりやすいユーロ買いの理由となる。
ある記者からは「FRBが利上げを止めてもECBは利上げを続けるのか」と直球の質問が投げかけられているが、ラガルド総裁は「FRB次第ではない」と一蹴している。
実際のところ、FRBは2022年3月に、ECBは2022年7月に利上げをスタートしているのだから、「ECBの利上げが長引いている」という表現は正確とは言えないが、直情的な為替市場においてはユーロ/ドル相場が欧米金利差と安定した関係にある以上、両者のコントラストが方向感を規定するのはやむを得ない。
   米独2年金利差とユーロ/ドル相場グラフ
兎にも角にも、今回のECB政策理事会はラガルド総裁が会見で言い放った「我々はやるべきことをたくさん抱えているし、利上げは止まらない。それは極めて明らかである」というフレーズに尽きる。
強いユーロの死角は天然ガス不足
こうした情報発信は、FRBが従前の利上げ累積効果と向き合うことを宣言した声明文とのコントラストが非常に大きいものであり、少なくともECBが利上げを続けるだろう夏前まで、ユーロ/ドル相場の背中を押すものと予想したい。
ユーロ/ドル相場は節目とみられる1.15付近までの上昇はあるのではないか。当面のG3通貨見通しとしては「ユーロ>ドル>円」といった強弱関係で構えておけばよいだろう。
だが一方、ユーロにも死角はある。それはエネルギー問題である。
2022年に引き続き、ロシアからの天然ガス供給を代替するメドがまったく立っていないのも事実であり、2022年同様、夏場を超えるあたりから「エネルギー危機と隣り合わせの冬」を意識したユーロ売りが勢いづく可能性もある。
天然ガス価格の急騰がドイツ貿易収支を大きく崩すような展開に再び至れば、需給面からのユーロ売りは余儀なくされるはずである。これは現時点では合理的な予想が難しいが、リスクシナリオの1つとして注記しておきたい。
●11日の米国市場ダイジェスト 5/12
NY株式 / 米国株式市場はまちまち、地銀の健全性への不安くすぶる
ダウ平均は221.82ドル安の33,309.51ドル、ナスダックは22.06ポイント高の12,328.51で取引を終了した。
地銀のパックウェスト(PACW)の預金減少を受けて金融不安が再燃し、寄り付き後、一時大幅に下落。日中も同セクターの下落が相場全体を押し下げ軟調に推移した。シリコンバレー銀行の破綻による損失を埋めるため、連邦預金保険公社(FDIC)が大手銀に対し多額の追加負担を求める計画だとの報道も金融の懸念材料となった。一方、4月卸売物価指数(PPI)が予想を下回ったため金利先高観の後退でハイテクの買いが相場を支援した。ナスダック総合指数はプラス圏を回復し、まちまちで終了。セクター別ではメディア・娯楽が上昇した一方、エネルギーが下落した。
検索のグーグルを運営するアルファベット(GOOG)は新たな人口知能(AI)機能や折り畳み式スマホ市場への参入などの発表が好感され上昇。高級ブランドのコーチなどを運営するタペストリー(TPR)は四半期決算の良好な結果や通期の見通し引き上げが好感され買われた。一方で、地銀パックウェストは複数の投資家候補と交渉しているとの報道が影響して預金が先週に9.5%減少したことを明らかにし大幅下落。在宅フィットネス事業を展開するペロトン・インタラクティブ(PTON)はサドルの安全性の問題でエクササイズバイク2百万台のリコールを発表し下落。代替肉メーカーのビヨンド・ミート(BYND)は第1四半期決算で売上高が予想を上回ったが、最大2億ドル規模の株式売却による増資計画を発表し下落。エンターテインメントのウォルト・ディズニー(DIS)は動画配信ディスニープラスの有料会員数の減少が嫌気され、下落した。
ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は鈍化の兆候があるものの、インフレは依然高すぎるとの見解を示した。
NY為替 / 米金融不安再燃でリスクオフ
11日のニューヨーク外為市場でドル・円は、134円63銭から133円75銭まで下落したのち下げ止まり、134円54銭で引けた。4月生産者物価指数(PPI)が前年比で3月から予想以上に鈍化したほか、週次失業保険申請件数が予想以上に増加したため米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ停止観測が強まりドル売りが加速。その後、ポンド安に対するドル買い、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁のタカ派発言を受けたドル買いや、金融不安を受けた質への逃避のドル買いに下げ止まった。
ユーロ・ドルは、1.0948ドルから1.0900ドルまで下落し、1.0916ドルで引けた。ユーロ・円は147円16銭から146円13銭まで下落。地銀の安定性を警戒したリスク回避の円買いが再燃した。ポンド・ドルは、1.2611ドルまで上昇後、1.2497ドルまで下落した。英国中銀は金融政策決定会合で、予想通り0.25%の利上げを決定し必要とあれば追加利上げも示唆し一時ポンド買いが強まった。しかし、2委員が利上げ停止に投じたほか、ベイリー総裁もインフレが鈍化した場合、利上げ停止の可能性を示唆したためポンド売りが優勢となった。ドル・スイスは、0.8913フランへ下落後、0.8958フランまで上昇。
NY原油 / 続落で70.87ドル、ユーロ安などを意識した売りが入る
NY原油先物6月限は続落(NYMEX原油6月限終値:70.87 ↓1.69)。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は、前営業日比−1.69ドルの70.87ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは70.63ドル-73.50ドル。ロンドン市場で73.50ドルまで買われたが、米国市場の中盤にかけて70.63ドルまで反落。戦略石油備蓄補充に絡んだ買いは一巡しており、ユーロ安も嫌気され、原油先物は伸び悩んだ。通常取引終了後の時間外取引では主に71ドルを挟んだ水準で推移。
●米国:信用収縮の兆候はあるのか? 5/12
シリコンバレー銀行(SVB)の破綻以降、米国で金融システムへの不安が燻っている。特に懸念されているのは、融資の縮小による景気への影響だろう。もっとも、米国の商業銀行の預貸率は70%を切り、全体で2兆ドルの現金を保有している。預金の引き出しには十分に対応できるため、あくまで個別行の問題に止まるのではないか。不動産向け融資も4月以降は増加している。
鍵は低い預貸率:預金の引き出しは現金により対応可能
ITバブル崩壊、そしてリーマンショック・・・この2つの歴史的な金融危機直前、米国の商業銀行の預貸率は100%を超えていた(図表1)。従って、信用不安が広がり預金の引き出しが起こると、銀行は融資の回収、資産の売却による現金の確保を迫られ、経済が一気に失速したのだ。
一方、足元、銀行全体の預貸率は69.6%に過ぎず、預金残高の12.6%に相当する2兆175億ドルの現金を保有している。これは、リーマンショック後のQE1、2、3、そして新型コロナ禍の下での歴史的な金融緩和の結果に他ならない。3月の預金の減少額は前月に比べ3,802億ドルであり、マクロ的に見た場合、仮に大規模な預金流出が続くとしても、米国の金融システムは十分に耐えられると考えられよう。
SVBの破綻、ファーストリパブリック銀行の経営危機に際して、財務省、FRB、連邦預金保険公社(FDIC)など当局は迅速に対応、買収先を見付けるなかで、預金は全額保護された。その結果、預金者の不安が緩和されたと見られ、預金残高は4月に入って第4週までに75億ドル増加している。
一方、株式市場においては、一部の銀行に売りが集中し、株価が急落する状況が終わったわけではない。今後も個別銀行の経営が問題視される状況は当分続くだろう。しかしながら、それが急激な信用収縮をもたらし、米国経済が失速するとのシナリオは、悲観的に過ぎるのではないか。
ちなみに、もっとも懸念されている不動産関連の融資は、3月後半に347億ドル減少した(図表2)。もっとも、4月は第4週までに406億ドル増加している。つまり、SVBの破綻を受け一時的に与信の縮小はあったが、米国の商業銀行も融資先の開拓に苦労しているため、今のところそれは一過性の動きに止まっている模様だ。
課題は連邦債務の法定上限:政治決着なら経済への悲観論は後退か!?
FRBのジェローム・パウエル議長は、5月3日の会見で銀行監督に甘さがあったことを率直に認めた。ドナルド・トランプ前大統領の時代に規制が緩和されており、それが今回の地銀破綻の要因になったとの見方は少なくないようだ。ジョー・バイデン政権は、規制の見直しに着手するだろう。
もっとも、それが急激な信用縮小をもたらすものになるとは考え難い。金融危機が実体経済に広がれば、そこから回復させるコストは極めて大きなものになると想定されるからだ。また、バイデン大統領は来年11月に自らの再選を賭けた大統領選挙を控えている。新たな銀行規制が景気を失速させるリスクは避ける可能性が強い。
米国の政治は連邦債務の法定上限問題を抱えている。ジャネット・イエレン財務長官は、ケビン・マッカーシー下院議長に宛てた書簡で、債務の上限引き上げ、もしくは上限の一時的な停止がなければ、6月の早い段階で米国政府がデフォルトに陥る懸念を示した。この件の趨勢は、米国経済の先行きを大きく左右するだろう。もっとも、この件が政治決着すれば、米国経済への悲観論は大きく後退するのではないか。
●2匹のヘビが睨む市場 危ういゲームの行方 5/12
ニューヨークの金融市場が今、2匹のヘビに睨まれて震え上がっています。まるでカエルのように。1匹目のヘビは銀行破綻を材料に「空売り」と呼ばれる手法で株価の値下がりを期待するヘッジファンド。もう1匹のヘビはアメリカの債務上限問題で国債を人質にとりながら党派対立を繰り広げるワシントンの政治家たちです。どちらも危うい“ゲーム”を展開し、一歩間違えれば市場に大混乱を引き起こすおそれがあります。このゲームの行方は?
次なる標的となった3つの銀行
1匹目のヘビであるヘッジファンドなどの投機筋は3月のシリコンバレーバンクの経営破綻をきっかけに起きた金融不安のさなか、次を狙っているといわれています。
今、標的にされかけているのは3つの銀行で、いずれも5月初旬に株価が一時、急落しました。
   ▽5月2日:27%下落 4日:50%下落
   ▽5月2日:15%下落 4日:38%下落
   ▽5月2日:7%下落 4日:33%下落
保護されない預金の多い銀行が狙われた
これらの銀行が狙われた要因の1つと見られているのが、預金に占める保護されない預金の割合です。
アメリカの預金保護制度では銀行が破綻した際に保護されるのは1口座当たり25万ドルまでとなっています。
5月1日に経営破綻した「ファースト・リパブリック・バンク」は2022年末時点で25万ドル以上の保護されない預金の割合が推定でおよそ67%と大きかったことが狙い撃ちされて預金が流出し、破綻につながりました。
3つの銀行も、保護されない預金の割合が、パシフィック・ウエスタン・バンクとウエスタン・アライアンス・バンクは2022年末時点で50%を超え、ファースト・ホライゾン・バンクも2023年3月末時点で45%となっていました。
マネーゲームが金融不安を助長する
それにしてもなぜここまで株価が下がるのでしょうか。
ウォール街でささやかれているのが投機筋による「空売り」と呼ばれる手法です。「空売り」とは、実際には株式を持たない投資家が証券会社などから株式を借りて売り注文を出す取り引きです。
株価が値下がりする局面で利益を上げることができ、市場の混乱を助長するとも指摘され、2008年のリーマンショックの時にも問題視されました。
アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルは9日、ウォール街で再び空売りが流行となっているとする記事を掲載しました。
ヘッジファンドなどから見れば、価格の下落が見込める銀行は空売りの格好の標的で、借りられるだけ株を借りて空売りをしかけて利益を上げる絶好のチャンスだったわけです。
しかし、これは危うい“マネーゲーム”です。株価が急落した銀行の顧客がパニックになって預金を引き出せば、銀行の経営破綻につながり、金融不安がさらに深刻化するからです。
実際にパシフィック・ウエスタン・バンクは株価が急落した今月5日までの1週間で預金のおよそ9.5%が流出したことが11日、明らかになり、ほかの銀行の預金流出にも懸念が広がりました。
ウォール街でアメリカの銀行業界を分析する証券会社のアナリストは、次のように警鐘を鳴らします。
ウェドブッシュ証券 銀行業界アナリスト デビッド・シェビリーニ氏「銀行業というのは信用のゲームだ。信用の危機が起きたときには、現実のビジネスの土台に影響を及ぼしかねないのだ。市場はいま最も弱い銀行に圧力をかけている。市場にパニックが起こり、株価が下落方向に変動を見せれば、一部の預金者を不安にさせ、さらなる預金流出につながりうるだろう」
政治の“ゲーム” アメリカの債務上限問題
金融市場を震え上がらせているもう1匹のヘビはバイデン大統領含むワシントンの政治家たちです。
アメリカの債務上限問題をなかば“政治ゲーム化”させて与野党で対立を続けています。
アメリカでは政府が借金できる上限が決められていて、引き上げるためには議会の承認が必要です。ところが財政規律をめぐる考え方は民主党と共和党で異なっているため、たびたび政治対立の道具となってしまっています。
2011年には債務上限問題をきっかけにデフォルト=債務不履行への懸念から株価が大きく下落。財政への不信からアメリカ国債が史上初めて格下げとなり、外国為替市場ではドルが売られ急激な円高が進むなど、金融市場が混乱に陥りました。
格付け会社ムーディーズ傘下の経済調査会社は仮にアメリカ国債がデフォルトになればGDP=国内総生産はピークから4%近く落ち込み、600万人近い雇用が失われると予測しています。
「空売り」と債務上限をめぐる「政治闘争」という2つのゲームがいかに危ういものか。どちらも日本で暮らす私たちの生活や資産と決して無縁ではありません。
ヘビは恐ろしい印象がありますが、一方で古来、脱皮することから復活と再生を連想させ、幸運の象徴とも言われています。
2匹のヘビが果たして金融市場にとって幸運をもたらす存在に変わるのかどうか。私自身は懐疑的に見つつも、市場の安定と「復活」を願っています。
●世界経済減速が迫る原油市場、OPECプラスは「身を切る」減産を実施できるか 5/12
米WTI原油先物価格は年初来安値圏で推移している(1バレル=70ドル台前半)。
5月4日の時間外取引で一時1バレル=63ドル台と1年5カ月ぶりの安値を付けた後、70ドル台に戻るという値動きの激しい展開となっている。週間ベースで見ると3週連続で下落しており、原油価格への下押し圧力が強まっている感が強い。
中国や米国の景気懸念に加え、ロシアからの原油輸出が予想外に堅調なため、供給過剰が意識されやすい構図となっている。
ロシア産原油をインドと中国が積極購入
まず供給サイドの動きを見てみたい。
OPECの主要加盟国は5月から自主的な追加減産に踏み切った。個別に見ると、サウジアラビアが日量50万バレル、イラクが21万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)が14万バレル、クウエートが13万バレルそれぞれ減産する。トータルの減産量は世界の原油供給量の1%分に相当する116万バレルだ。
市場関係者は「OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)は昨年(2022年)11月から実施している日量200万バレルの減産規模を維持する」ことを当然視していたため、追加減産が発表されると原油価格は急上昇した(1バレル=80ドル超え)。
だが、追加減産による原油上昇の効果は一時的だった。OPECの生産量が目標に達しない状態が続いており、5月からの追加減産は実際の生産量を追認したに過ぎなかったからだ。原油市場の需給に影響を与えるものではなければ、早晩「化けの皮」が剥がれる。
OPECの自主減産は「見かけ倒し」に終わったものの、ロシアはその恩恵に浴した。OPECの自主減産の発表後に、買い叩きに遭っていたロシア産原油の価格は1バレル=60ドルを超える水準に上昇した。
ロシアは「今年2月から日量50万バレルの減産を実施した」としているが、ロシア産原油の海上輸送量は新型コロナのパンデミック前の水準に迫る勢いだ。主要7カ国(G7)などが制裁を課した2022年12月に日量450万バレルだった海上輸送量は、4月には523万バレルにまで戻っている(5月9日付日本経済新聞)。
制裁で割安となったロシア産原油をインドと中国が積極的に購入しており、原油価格が回復したロシアは輸出拡大の努力をさらに進めることだろう。
世界最大の産油国となった米国の生産量は日量1200万バレル強の水準で推移しているが、注目すべきは輸出量の増加だ。
米国の昨年の原油輸出量は日量360万バレルに達し過去最高となったが、今年に入ってもその勢いが弱まることはない。3月の輸出量は日量450万バレルを記録し、4月も400万バレル台を維持している。欧州連合(EU)への原油輸出で米国は首位に浮上し、ロシア産原油の穴を埋めている。
V字回復は見込めない中国の原油需要
供給サイドが比較的堅調なのに対し、需要サイドは波乱含みだと言わざるを得ない。
ゼロコロナ政策を解除した中国の原油需要が大幅に拡大することが予測されていたが、雲行きが怪しくなっている。中国の4月の原油輸入量は日量1030万バレルと、今年1月以来の低水準となった。中国の4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.2となり、好不調の境目である50を4カ月ぶりに下回った。
中国経済の屋台骨である不動産業は相変わらず低迷しており、若年層を中心に雇用情勢も極端に悪化していることから、「中国の原油需要のV字回復は見込めない」との見方が有力になりつつある。
世界最大の原油需要国である米国の製造業も苦境に陥っている。米サプライマネジメント協会(ISM)が5月1日に発表した4月の製造業景況感指数は47.1となり、節目の50を6カ月連続で下回った。リーマンショック後の記録に並んだが、この記録が更新されるのは確実だと言わざるを得ない。
相次ぐ銀行破綻が引き金となって米国で信用収縮(与信環境の悪化)が起きており、製造業の資金調達環境が近年になく悪化している。
米中両大国の製造業の不振は世界の原油需要にとって大きなマイナスだ。
米国の金融不安はこれから本格化
OPECも世界の原油需要拡大の見通しに懐疑的になっている。4月13日に発表した月報で「米国では毎年夏のドライブシーズンに輸送用燃料の需要が増加するが、金融引き締めのせいで経済が弱含めば、季節的な力は一部相殺される恐れがある」と指摘した。最近の米国発の金融不安の影響に触れた形だが、OPECの予測は的中している。
米国のガソリン先物価格がドライブシーズンを前に異例の低さとなっており、上昇が鮮明な例年との違いが際立っている。「景気減速でガソリン需要が鈍る」との警戒感が主な要因だ。インフレが続く中、ガソリンの消費を抑えて食料品などに生活費を充てる傾向が強まっており、足元のガソリン需要は、新型コロナ禍の2020年を除けば、10年ぶりの低水準となっている。
だが、筆者は「米国の金融不安はこれから本格化し、悪影響はガソリン需要の低迷にとどまらない」と考えている。
市場の警戒は金融機関の融資先にも向かっており、足元で槍玉に挙がっているのは商業用不動産市場だ。引き締めの影響に加え、コロナ禍で普及した在宅勤務が災いして空室率が急上昇したことが問題視されている。
不良債権化しつつある商業用不動産向けローンの主な貸し手である地方銀行とノンバンクの破綻が今後相次ぐことが予想される。
リーマンショックのような世界規模の金融危機は起きないかもしれないが、米国経済が深刻な資産デフレに陥るのではないだろうか。
市場が織り込み始めた世界経済の減速
バブル崩壊後の日本のようにデフレは原油需要に深刻なダメージを与える。米国の原油需要が急減する可能性が高く、筆者は「原油価格は今後、急落する」とみている。
2008年9月に起きたリーマンショックで原油市場のセンチメントが急速に悪化したのにもかかわらず、OPECは減産などの措置をタイムリーに実施できなかったため、原油価格は半年後に1バレル=30ドル台にまで急落してしまった。
足元の原油価格が国際通貨基金(IMF)が算定したサウジアラビアの今年の財政収支が均衡する水準(1バレル=80.9ドル)を下回っており、「6月4日に開かれるOPECプラスの閣僚級会合で追加減産が決定されるのではないか」との憶測が流れ始めている。
だが、米国をはじめ世界経済の減速を市場が織り込み始めており、「付け刃」の減産ではリーマンショック後の「二の舞」を繰り返すことになりかねない。
2020年5月のような「身を切る」大減産を再び実施しない限り、OPECプラスは原油市場のセンチメントの急速な悪化を未然に防止することはできないのではないだろうか。 
●米国は「利上げ打ち止め」の見通し、日銀はどう動く? 5/12
先々週末から先週にかけて、日米欧で金融政策の決定会合が相次ぎ、それぞれ異なる金融政策の方向性が示された。
まず、4月28日(金)、日銀は、植田新体制で初となる金融政策決定会合で、現行の金融政策の維持を決定した。一部では、長期金利に誘導水準を設定するイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の見直しが実施されるのではないかという見方もあった。結局、今回は見送りとなり、黒田体制以来の金融緩和策を、当面は継続する姿勢が明確にされた。
一方、5月3日(水)には米連邦準備制度理事会(FRB)が0.25%の追加利上げを決定した。これで、米国の政策金利(短期市場金利であるフェデラルファンド金利の誘導目標)は5.00〜5.25%にまで上がった。それと同時に、今回の措置で一連の利上げがいったん打ち止めとなる可能性も示唆されている。
翌5月4日(木)には、欧州中央銀行(ECB)がやはり0.25%の追加利上げを決めた。主要政策金利(入札方式でECBが市中銀行に資金を供給する際のオペ金利)はこれで3.75%になった。同時にECBは、FRBとは違って、今後も利上げを継続する方針を打ち出している。
米国は利上げ打ち止め、そして利下げへの早期転換へ
米国の状況を少し詳しく見てみよう。米国は今なおインフレ率が高止まりしている。5月5日に発表された雇用統計の非農業部門雇用者数が予想を上回るなど、少しずつ減速し始めているとはいえ、経済状況は想定以上の堅調さを示している。
だが、すでに政策金利が5%に達し、またこれまでの金利上昇によって債券価格が大幅に下落、それが中堅・中小金融機関の経営に打撃を与えて金融不安を引き起こしている。これらのことから、ここからは当面、様子見の姿勢に転じることになるだろう。インフレ率が今後も高止まりを続ければ、夏場以降に再び引締め方向に動く可能性もないわけではないが、市場では「次の一手は利下げ」という見方が圧倒的に有力になっている。
先物市場などが織り込んでいる、来年末までの政策金利の推移予想を確認する。これによると、FRBは今年9月頃から利下げに転じ、年内に3回(0.75%)程度、24年末にかけては計8回(2%)以上の利下げが見込まれている。
その背景にあるのは、インフレ圧力が今後、着実に沈静化していくと同時に、景気が停滞色を強め、かつ金融不安が完全には解消されずにくすぶり続ける、との想定である。
インフレ率が高止まりして早期に利下げに転じることが難しくなる可能性がほとんど考慮されていないという点で、こうした市場の見方はやや前のめりとも感じられるが、アメリカの金融情勢が大きな局面転換を迎えつつあることは確かであろう。
一方欧州は、まだ政策金利がアメリカほどには高くなっていないこと、インフレ圧力の根強さがアメリカ以上であることから、なお1〜2回程度の利上げを実施することが予想され、それが為替市場でのユーロ高を支えている。とはいえ、欧州の経済動向もいずれはアメリカの後を追う可能性が高く、遅かれ早かれ、利上げ停止さらには利下げへの転換を視野に入れることになりそうである。
さて、こうした海外の情勢が、日本の金融政策にどのように影響するのであろうか。それを以下で見ていこう。
政策正常化の第一歩は「YCC政策の修正」
植田日銀の最大のミッションは「金融政策の正常化」である。
金融政策の正常化とは、経済情勢にあわせて金融政策を機動的に動かせるようにすることだ。そのためには「YCC(イールドカーブコントロール)政策の修正もしくは撤廃」「日銀当座預金に対するマイナス金利賦課の廃止」を順次進めて金融政策の変更余地を作らなければならない。
第一歩になるのが、YCC政策の修正もしくは撤廃である。
現在、日銀は長期金利の代表的存在である10年物国債利回りに、0プラスマイナス0.5%の誘導目標を設定している。長期金利は、経済や物価の見通し、金融政策や財政政策の妥当性などを背景に市場でその水準が形成されるのが本来の姿であるが、日銀はこれを一定レンジに押さえ込もうとしているのだ。
しかしながら、インフレ圧力の高まりで長期金利が上昇し始めると、この誘導水準を維持するために日銀は国債を無制限に買って、金利の上昇を押さえ込まなくてはならない。結果として、日銀は600兆円近くという巨額の国債を抱え込むようになっているのである。
もし市場の圧力によって誘導目標を維持できなくなれば、長期金利が跳ね上がり、そうすると保有する債券の価格が急落して自分自身の首を絞めてしまうことになる。
さらにいえば、日銀が低金利を維持するという期待のもと、たとえば経営基盤が弱い地銀など地域金融機関の多くが債券を大量に保有しているので、長期金利が急上昇すれば財務基盤が痛む金融機関も多く現れるだろう。これはまさに、アメリカでおきたシリコンコンバレー銀行やファーストリパブリック銀行の経営危機と同様の構図である。
だからこそ、市場の圧力を受けて政策修正に追い込まれる前にYCC政策を緩和もしくは撤廃しておき、経済環境の変化によって金利が上昇するにしても、それができるだけ自然で緩やかなものになるように整えておく必要があるのだ。
日銀金融政策、今後のゆくえ
さて、4月27〜28日に行われた植田日銀最初の金融政策決定会合では、緩和政策の維持が決められると同時に、政策の将来指針である「フォワード・ガイダンス」の文言が少しだけ中立方向に修正された。
加えて、過去25年の金融政策の効果について、1年以上の時間をかけてじっくりと多角的な「レビュー」を行うことも表明された。なお、「レビュー」中であっても、必要な政策修正は行われうるとのことである。
これらから窺えるのは、植田日銀は、決して無理をせずに少しずつ堀を埋めていき、エビデンスや議論に基づいて時間をかけて正常化を進めていく、という姿勢である。問題は、外部環境がそれを待ってくれるかということであるが、先ほど見たような米国の金融局面の転換は、そんな植田日銀にとって非常に大きな助け船になると考えられる。
たとえば、現在の日本国債の市場では、金利の上昇圧力がひと頃よりも収まりつつある。米国で金融政策の転換が織り込まれるようになったことが、日本の長期金利にも影響しているのだ。
なぜ米国の金融政策の動向が日本の長期金利に影響を与えるかというと、金利の動きは世界的に連動するものだからである。米国で金融政策が引き締めから緩和に転じるとの見込みが強くなると、米国の長期金利が下がり始める。そうすると、いくつかのルートを経て日本の長期金利にも強い低下圧力となるのだ。
まず、ドル金利の低下はドル安円高要因となり、景気悪化や輸入物価の低下を通じて日本の金利水準を引き下げるように働く。また、金利の下がったドルから円を含む他の通貨に運用先を切り替える動きも出てくるだろうから、円で金余りが生じて、やはり円の金利低下要因になる。
しかしながら本当のところは、そうしたさまざまな要因が働くことを見込んで、米国の金利が下がったとたんに、日本を含めて他の先進諸国の金利も下がるように世界中のマネーが一斉に動き始めるのだ。それが、少なくとも先進諸国の長期金利を連動させる強い力となる。
以下のグラフは国債の利回りを年限別に並べたイールドカーブといわれるものだが、日銀が定めた10年国債利回りの上限(0.5%)まで、わずかとはいえ少し余裕ができつつある。
この余裕がないときに、いわば市場の圧力に耐えかねて上限金利の引き上げや撤廃を行えば、長期金利はそのまま大幅に上昇してしまう可能性が高く、市場には大きなショックが走る。だが、余裕があるときであればショックが生じる可能性は低くなる。つまり、アメリカの金融環境次第で、スムーズにYCCを修正することが可能になる余地が生まれるのである。
以上を前提にすると、今後のスケジュールとしては、6〜7月にかけてYCCの修正が行われることが予想される。今回見せた慎重姿勢からすると、いきなり撤廃するのではなく、何らかの修正がまず行われる可能性が高い。具体的には、(1)10年物国債の利回り変動幅を現在のプラスマイナス0.5%から拡大する、あるいは(2)誘導目標の対象をよりコントロールしやすいと考えられる短い年限(2年や5年)に切り替える、などの選択肢が考えられる。
その後のスケジュールは、さまざまな状況次第なのではっきりと見通せないが、YCCの撤廃、マイナス金利政策の廃止は来年以降にずれ込む可能性が高いのではないか。
想定されるリスクシナリオ
最後にリスクシナリオについても簡単に触れておこう。
現在の市場は、「インフレ圧力が早晩収まるはずである」ということを前提に動いている。だが一方で、インフレ圧力が予想以上に高止まりする可能性も残されている。
もし、今の市場のインフレ沈静化シナリオが崩れれば、再び世界的に金利上昇圧力が高まり、日銀が追い込まれる形で政策修正を余儀なくされて、長期金利の大幅な上昇が引き起こされる事態も起こりうる。
逆に、現在アメリカで起きている中堅・中小金融機関への不安心理が沈静化せずに拡大していくと、世界的な景気悪化が引き起こされ、日銀も金融政策の正常化どころではなくなるだろう。
いずれにしても、今の日銀にできることは限られており、しかもそれは外部環境頼みとなる部分が大きいのである。
●どうなるグローバル経済―どう転ぶか分からないナイフの刃の上― 5/12
まとめ
・米金融システム不安の影響は、日本経済にまだ直接は及んでいない。
・米経済が景気後退局面に入った場合、日本として実行できる政策があまり見当たらない。
・日本でできる金融政策は、YCCの建付け変更の意味を理解すること、長期的に経済活動を活性化させる歳出を考えること。
ナイフ・エッジという言葉があるが、グローバル経済はこれからどうなるのか不透明感が強く、まさにその上にいる感じがする。どちらかというと、慎重な見方の方が多いようだが、しかし失速が確定した訳でもない。
米国では金融システム不安がなお燻っており、さらに政府債務の上限が近づいている。また欧州では、インフレ圧力が米国以上に根強く、銀行貸出の厳格化の影響も出始めているようだ。さらに新興国経済でも、そのような欧米経済の状況を受け、コロナ禍からの回復の動きは今一つ鈍い。そうしたグローバル経済の高波の影響は、日本経済にはまだ直接は及んでいないようだが、日本銀行の金融政策がどうなるかとも絡めて、様々な不確実性がある。
各国の政策当局は、これらの様々な要因を勘案し、うまくインフレ圧力を抑え、昨年生じた供給面のショックを乗り越え、ソフトランディングが実現できるよう最善を尽くすだろう。しかし、その結果うまくいくかどうかは、なお五里霧中だ。今日のグローバル経済は、まさにナイフの刃のような不安定なところにあり、どちらにころぶかよく分からない。
米国の金融システム不安は完全には払拭されていない
欧米では、昨年以降の急速な金利上昇の結果、金融機関が保有している債券に含み損が発生した。3月に相次いで起こった米国での地方銀行の破綻は、それを嫌った大口の預金者が、インターネットを通じて素早く預金を引き出したところから始まった。
そうした事情は、どの銀行にも共通だが、米国の大銀行については、先の国際金融危機後、規制が強化され、それだけ備えも手厚いので、今のところ大きな問題は起きていない。不安なのは、大銀行ほど厳しい規制を受けていない地方銀行の経営がどうなるかだ。これまでのところ当局の素早い対応もあって、何とか不安の連鎖は喰い止められている。このままうまくいくかどうかが非常に重要なポイントだ。
一方、インフレ圧力抑制のための金融政策は、引き続き引き締め方向にある。ただ、金融システムの不安定化は、日本の1990年代を思い出すまでもなく、経済活動に抑制的に作用するので、利上げによる需要抑制はその分不要になる筋合いだ。だからこそ米国の連邦準備理事会(FRB)も、政策金利の引き上げ打ち止めのサインを出した。
インフレ抑制、金融システム安定、景気後退回避をいずれも実現する微妙なバランスを保てるか。今、まさに正念場である。その可能性がない訳ではない。しかし、そこに至るパスに乗れるかどうかはなお不確実だ。株式市場も、その辺を見極めようとして気迷い気味だ。
米国景気後退の影響は甚大
米国経済の景気後退がはっきりするようなことになれば、グローバル経済への影響は甚大だろう。そもそも米中対立の激化、ロシアのウクライナ侵攻の帰趨の不透明さなどを背景に、コロナ禍からの回復の過程は欧州でも新興国経済でも緩慢だ。それは特に製造業部門で顕著である。
これまでのところ、コロナ禍で抑制されていた消費需要の解放、インバウンドの回復などから、ゆっくりと復調しつつある日本経済も、米国経済が景気後退局面に入ればその影響を避けることはできない。さらに、そうなった場合、政策的には打つ手が極めて限られている。
長期金利には、グローバル経済の供給構造が変わってきた影響で、日本でも上昇圧力がじりっと強まった。それを無理矢理抑え込むことは、むしろ資金調達面の障害になる。だからこそ、イールド・カーブ・コントロール(YCC)の見直しが議論になっているのである。そもそも金融政策で厳密に誘導することができない長期金利が、あたかも誘導できたかのようにみえていたのがこれまでだ。その点の是正が金融引き締めであるかのように受け止められがちなだけに、米国景気が後退に入った時に身動きがとれなくなってしまう可能性もある。
他方、短期の政策金利はすでにマイナスとなっており、そのマイナス幅をさらに広げることは、経済活動を活性化させないとの見方も多い。そうなると金融政策で打てる手はない。では財政支出をまた増やすのかということになるが、これも長期的なビジョンがないままずるずると財政赤字を拡大することには気持ち悪さがある。
現在のような財政赤字が当面は持続可能だということ、いくら財政赤字を拡大しても問題は生じないということとは、全く別の話だ。厳格なYCCをやろうとすると市場機能が損なわれるような状況にあるだけに、長期的な展望なき財政赤字の拡大による景気対策には、個人的にも不安を拭えない。
がんばってほしい米国経済
以上のように、もし米国経済が景気後退局面に入った場合、日本として安心して実行できる政策があまり見当たらない。さらに、米国金利に先安感が生じるようなことがあれば、為替レートに円高圧力も加わるかもしれない。そうしたことをものともせず来年も賃上げが続き、自律的な経済活力を取り戻していくような展開を日本経済に期待できるかどうかも自信がない。
こうなってくると、全く他力本願だが、米国経済には是非がんばってほしいところだ。特に、債務上限の問題は、政治対立が本質だけに、そのような非経済要因で経済が不安定化し、それを契機にナイフ・エッジにある米国経済が景気後退へと転ぶようなことがあるとすれば、本当に悲劇だ。
そういう状況において日本経済側でできることがあるとすれば、まず金融政策面では、YCCの建付け変更の本当の意味を経済全体として正しく理解することだろう。現在のイールド・カーブは、かつてのような低インフレ経済が戻ってこないという将来の見通しの変化を反映したものであり、長期金利を金融政策で厳密に誘導することができない以上、それは受け入れざるを得ないのではないだろうか。
また、財政政策面では、何らかの長期的な帳尻の話がない一方的・一時的な歳出拡大は、そろそろ政策効果が薄まり始めているように思えてならない。少なくとも、コロナ禍への対応として、金額だけ積んだようなところのある補正予算、特に予備費の扱いなどを明確にした上で、確かに長期的に国内の経済活動を活性化させると多くが納得できる歳出を考えてほしいものだ。
それにつけても今日の状況からは、グローバル経済に対する米国経済のモーメントの大きさに改めて気付かされる。

 

●G7財務相、供給網多様化へ新たな枠組み立ち上げ=共同声明案 5/13
主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は13日、供給網(サプライチェーン)を多様化し、エネルギー安全保障を強化する新たな枠組みを年末までに立ち上げることを盛り込んだ共同声明を採択する。
ロイターが確認した声明の草案によると、世界経済の不確実性が高まる中、当局が警戒を怠らず、機敏性と柔軟性を保つ必要性にも言及する。膠着(こうちゃく)状態が続く米国の債務上限問題には触れていない。
不安が広がる金融システムについては、2008年の世界金融危機後に導入された規制により「強靱(きょうじん)」であると指摘。データ、監督、規制の隙間に対処する、としている。
新潟市で3日間にわたって開かれた会合は13日に閉幕する。財務相らの関心は中国に向き、議長国の日本は供給網を多様化し、中国への依存度を下げる新たな取り組みを主導した。
低・中所得国が鉱物の精製などエネルギーの供給網でより大きな役割を果たせるよう、G7が支援していく。共同声明には、供給網の多様化はエネルギー安全保障やマクロ経済の安定につながると盛り込む。新たな枠組みは、関係国や国際機関と協力して遅くとも年末までの発足を目指す。
●米市場は年内利下げを予想〜FRB 10回連続利上げでインフレ抑制を優先〜 5/13
FRB(米連邦準備制度理事会)は政策金利をさらに0.25%引き上げて、5%から5.25%にすることを全会一致で決めた。景気後退懸念や金融不安がくすぶる中、インフレの抑制を優先した形だ。
「早期の利下げは否定」も市場は利上げ打ち止め、年内利下げを予想
FRBは3日、政策金利の誘導目標を0.25%引き上げ、年5.25%を上限とすることを決めた。利上げは2022年3月から10回連続だ。
パウエル議長の会見のポイントをまとめた。「利上げ停止は明言せず」、「早期の利下げは否定」、「インフレ2%実現は長い道のり」、「景気後退より後退回避の可能性が高い」ということだ。
アメリカの3月の消費者物価指数の上昇率は、前年同月比5.0%だが、インフレ率を長期的に2.0%に戻すためインフレの抑制を優先した形だ。パウエル議長は今回の利上げ決定について、インフレの抑制と景気減速とのバランスを重要視する姿勢を強調した。一方で、利上げを続けた今回のFRBの決定が景気を冷やすリスクを高めたと指摘する専門家もいる。
ムーディーズ・アナリティクス マーク・ザンディ氏: これまでの上限5%の金利で経済活動を十分に抑制して物価上昇の圧力を緩和できていた。銀行システムに圧力がかかると、その間トラブルに見舞われることがある。なぜ利上げというリスクをとったのか。FRBは今回利上げを見送るべきだった。
ニューヨークに拠点を置くヘッジファンド、ホリコ・キャピタル・マネジメントの堀古英司氏に話を聞いた。
――パウエル議長は明確な利上げ打ち止め宣言はしなかった。どのように受け止めたか。
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏: 3月に利上げ打ち止めは近いかもしれないというようなニュアンスが入って、今回はもう一歩踏み込んで、追加利上げを前提とした声明ではなくなったので、さらに打ち止めの可能性が出てきた声明の内容だったと思います。
――パウエル議長は利上げの可能性を否定せず、利下げは明確に否定した。市場はどう見ているのか。
堀古英司氏:  今のFRBの一番の目標はインフレ抑制ですので、この辺で緩和というと市場が先走ってまたインフレが再燃してしまいますので、それは避けたいので、いやでも強気の姿勢を見せると思います。ただ、このFOMC後のマーケットの反応ですが、完全にマーケットは利上げ打ち止めを織り込んでいて、さらに7月には1回目の利下げが始まって、年末までに合計1%ぐらいで利下げされると、そういうところまで織り込んでいる状況になっています。
――6月はおそらく金融政策の方はステイだろうが、そこから先はどのように政策が転換して、市場はどのような動きを見せていくのか。
堀古英司氏: 2022年から金利の読みがものすごく難しくて、今の状況では本当にどちらでもあると言っても過言ではないと思います。パウエル議長の発言を聞いてもどちらかというともう1回あってもおかしくないようなニュアンスですが、一方で、マーケットはもう完全にこれで打ち止めで、利下げもあり得るというところに来ているので、見方が非常に分かれています。その中でキーを握るのは信用不安が私はもう少し続くと思っていますが、一旦落ち着くと利上げしない理由がなくなってくるのです。今アメリカで一番リスクとされているのは、6月にも期限を迎えると言われている債務上限問題です。この行方によっても金利の動向が変わっていくと思います。
景気後退かインフレ再燃か、分岐点にあるアメリカ経済
今回、政策金利を0.25%引き上げ5%から5.25%とした。これでFOMCが2023年末のターミナルレート、金利の最終到達点とした5.125%に達したことになる。
――1年余りで0%の金利が5%まで上がって、それでもまだ終着点だと明言できない。アメリカ経済で何が起きているのか。
ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:  元々アメリカが強いというのはあると思うのですが、FRBが1年前、2年前、物価がそんなに上がることはないということを言っていて急に物価が上がり始めて、判断を間違ってそれを取り返そうとしてものすごく利上げをしたというのが、この1年間の動きではないでしょうか。いまだに利上げの打ち止めが明言できない背景には物価がある。
アメリカの3月の消費者物価指数は、前年同月比5.0%の上昇となっている。一方、変動の大きい食品やエネルギーを除いたコア指数は前年同月比5.6%上昇している。
――コアの部分について見ると、明確に下がったという感じになってきていない。
矢嶋康次氏: 今後コア指数をいつまでにどこまで下げるのかというところがポイントになってくるのではないかなと思います。例えば2年なのか3年ぐらいなのか、はたまた半年なのか、そこのところのコミュニケーションをこれからパウエル議長が市場とやらないといけない最大のポイントだと思います。
物価が下がっていないのと同様に雇用も悪くないということがパウエル氏の心配の種だ。
矢嶋康次氏:  失業率の過去の歴史を見ると、いまはものすごい低水準にあるわけです。
――4月は3.4%だ。
矢嶋康次氏: インフレ率を抑制するということはこの先の経済として、景気後退とか金融不安が大きくなるということを連想するわけですが、足元のアメリカ経済がなかなか悪くならない中で、インフレ率を中長期で下げればいいやということで諦めることになると、景気のリセッションとか信用不安は緩和されるかもしれないですが、中長期的にインフレが再燃するリスクも当然あるわけで、今アメリカ経済はどちらに舵を切るのかの分岐点になっていることは間違いないと思います。
――これだけ金利を引き上げたのに、景気も落ちてこないし、雇用も好調だ。なぜなのか。
矢嶋康次氏: 金利は上がっているけれども量の方はたくさん出しているとか、財政も出しているとか、コロナで適正水準の雇用が企業サイドももうわからなくなっているとか、いろいろな要因はあると思うのですが、それをわからない中で舵取りをするのは相当今難しい局面だと思います。
――日本は今まだインフレにならないと言って困っている状況だが、一旦局面が変わったときに、日本ほど量を出していたら何が起きるのだろうかと思うと怖くもある。
矢嶋康次氏: 確かに量的に考えると日本がダントツ先進国で高いです。一つ言えることは、周りの国がやっているので経験値はあると思うのです。周りの経験値を見て、今のうちに議論しておくことが日本はすごく大事なのではないかなと思います。
●米大統領、FRB副議長にジェファーソン理事を指名へ 5/13
バイデン米大統領は12日、米連邦準備理事会(FRB)のジェファーソン理事を副議長に指名する方針を明らかにした。副議長は現在、ブレイナード氏が国家経済会議(NEC)委員長に就任したことで空席となっている。
ジェファーソン氏が起用されれば、FRBとしては史上2人目の黒人副議長となる。
また、クック理事の2期目続投も決めた。クック理事は1年前から同職にあり、現在の任期は2024年1月までとなっている。
さらに、世界銀行のエコノミスト、アドリアナ・クグラー氏を理事に指名する意向も示した。コロンビア系米国人のクグラー氏は、ジェファーソン氏の昇格で生じる空席を埋める。起用されれば、初のラテン系理事となる。
ジェファーソン氏とクグラー氏の起用には上院の承認が必要。
●NY外為:ドル・円再び200DMAも視野、FRB高官が追加利上げも示唆 5/13
ドル・円再び200DMAも視野、FRB高官が追加利上げも示唆 NY外為市場では追加利上げの可能性が再燃しドル買いが継続した。グールズビー米シカゴ連銀総裁はPBSとのインタビューで「インフレは依然高過ぎるが、少なくとも鈍化」「FRBの2つの責務において最大雇用の達成では進展もインフレでは進展していない」と、インフレ改善の進展はないと言及。
先に、欧州中央銀行(ECB)のイベントでボウマンFRB理事は最近の雇用やインフレ指標が、著しいインフレ改善の証拠になっていないとし、物価高や労働市場のひっ迫が継続した場合追加利上げが必要との見解を示した。、
短期金融市場は年内の利下げを織り込んだがFRBは利下げを依然想定していない。ドル・円は135円75銭まで上昇。転換線135円64銭を突破し再び200日移動平均水準の137円04銭を目指す展開。ユーロ・ドルは転換線を割り込み1.0849ドルまで下落し、一目均衡表の雲の上限1.0812ドルを目指す展開となった。 
●半年後に「リーマンショック級の金融危機」あるか  5/13
今年3月、世界は「金融危機」の戦慄を思い出した。時は、コロナ禍の発生から約3年が経過し、ロシアのウクライナ侵略からは約1年。突如として沸き起こったシリコンバレー銀行の経営破綻は、「リーマンショック以降で最大」「アメリカ史上2番目の規模」といった表現と共に世界的に報じられ、10年以上前のグローバル金融危機――いわゆるリーマンショック――の悪夢を彷彿とさせた。
今回の金融危機はどれほど深刻なものなのか。『日米金融危機の政治経済学: 平成金融危機&リーマンショック 7つの教訓』著者である滝波宏文氏が過去の日米金融危機と比較し、今回の金融危機の先行きを占う。
金融危機は繰り返す
日本では1997年11月に、政府が世界にその存続を約束していたはずの大手銀行の一角(北海道拓殖銀行)や、証券業界4位の規模を誇った山一証券が破綻し、1998年秋には、日本長期信用銀行や日本債券信用銀行が国有化で消滅、2003年のりそな銀行への「資本注入」が収束するまで長く続く「平成金融危機」となった。
アメリカでは2008年9月に投資銀行大手リーマン・ブラザーズの破綻をピークとしていわゆる「リーマンショック」が発生した。
今回、2023年3月10日に破綻したシリコンバレー銀行は、直前のシルバーゲート銀行の清算/直後のシグネチャー銀行の破綻と、偶々であるがいずれも頭文字Sで始まる。加えて、5月に入り、ファースト・リパブリック銀行も破綻した。これら“問題化した金融機関“である4銀行は、規模としては、アメリカの健全性規制においてカテゴリーIV相当以下であり、地銀のレベルであった。
むしろ、飛び火したヨーロッパの巨大銀行クレディ・スイスのほうが、アメリカではカテゴリーIに位置づけられるG-SIB(Global Systemically Important Bank:グローバルなシステム上重要な銀行)であり、その行く末は日本を含め相当の影響があり得た。しかし、スイス当局にサポートされた、同じスイスのG-SIBであるUBSによるクレディ・スイス買収で、当座の収束を見ている。
この一連のアメリカ"3S+F"地銀とクレディ・スイスによる金融不安は、金融危機が決して過去のものではなく、つねに「今ここにある危機」であることを、世に示している。
めったに起こるべきではない金融危機ではあるが、歴史を振り返れば、むしろしばしば起こってきた現象と言い得るものであり、経済史上、枚挙にいとまがない。いったん起こって深刻化してしまうと甚大な社会的影響を与えかねない金融危機について、我々は、その対応策の重要性を忘れてはならないだろう。
もっとも、1930年代の世界大恐慌や1920年代の昭和金融恐慌を引いても、当時の世界的な金本位制や保護貿易主義など、時代が違いすぎて、なかなか参考になり難い。
この点、現在のグローバル経済下における著しく深刻な金融危機として、1990〜2000年代に発生した「リーマンショック」、およびそれに先立ち歴史的に近接して、同じく経済大国であり先進民主主義国家である日本が経験した「平成金融危機」――本稿において「日米金融危機」とは、この両危機を指す――への対応とその教訓は、いざという時に備えるための政策分析・立案における貴重な価値を、引き続き有するであろう。
平成金融危機、リーマンショック「7つの教訓」
拙著では以下を、平成金融危機およびリーマンショックからの「7つの教訓」としている。
【1】銀行が資本支援を断る可能性
【2】救済パッケージを十分に大型とすること
【3】ソルベンシー(純資産)問題解決における資産買い取りプログラムの限界
【4】支援を信用性のある検査プログラムと結び付ける重要性
【5】国有化の危険性
【6】(中小企業向け貸し出し促進など)政治主導的貸し出しの危険性
【7】銀行の回復におけるマクロ経済成長の重大な役割
そしてこれは、先行研究(東大の星教授とシカゴ大のカシャップ教授による論文*)が示す「日本の経験からの8つの教訓」から、教訓の削除1つ・変更1つを行って提示したものであるが、この教訓自体の修正につながった同書の「中心的結論」は、次の2点である。
1. 日米金融危機のような著しく深刻な金融危機において、問題は「資産」サイドではなく、「資本」サイドである。すなわち、「不良資産買い取り」ではなく、「資本注入」がカギである。
2.(国による強制的倒産である)「国有化」は、著しく深刻な金融危機への対応としては経済回復を遅らせかねず、むしろ“問題化した金融機関”の債務超過が確定する前に、できる限りスピーディーに十分な「資本注入」を行うべきである。
「国の迅速な対応」の必要性と、「資本」の重要性
平成金融危機とリーマンショックの経緯を追いながら整理をした、以上の教訓等の詳細については拙著をご覧いただきたいが、これらに大きく共通するのは、「国の迅速な対応」の必要性と、「資本」の重要性である。
今般は、クレディ・スイスをUBSが買収したため、国による直接的な「資本注入」(資本サイドからの救済的な公的資金投入)などには至らなかったが、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行より1000億スイスフラン(約14兆円)を上限とする政府保証付き貸し付けが用意され、また、スイス政府が90億スイスフラン(約1.3兆円)を上限としてUBSが取得するクレディ・スイスの一定資産に対する損失補償を提供している。
ちょうどリーマン・ブラザーズ破綻の「半年」前に(アメリカの中央銀行であるFRB下の)ニューヨーク連邦準備銀行からの290億ドル(約2.9兆円)拠出を前提になされた、JPモルガンによるベアー・スターンズ買収のように、これらスイス当局からのサポートに基づき、UBSはクレディ・スイス買収を決定しており、金融危機の深刻化を止めるための迅速な(中央銀行を含む)国の対応は、やはり重要であることが示された。
そして、リーマンショック後に整備された――公衆の強い批判を受けやすい、納税者等の負担に基づく救済である「ベイルアウト(Bailout)」ではなく――、危機時に“問題化した金融機関”の株主・債権者による損失負担がされる「ベイルイン(Bail-in)」が、機能した。
具体的には、バーゼルV(金融規制に関する2010年国際合意)において、自己「資本」の向上として整備されたAT1債(Additional Tier 1債:永久劣後債)は、今般のクレディ・スイス買収に当たり全額無価値となり、損失吸収力を発揮した。(この点、一方、株式は約6割減価で済んだため、順序が逆ではないかとの批判はある。)
今般、シリコンバレー銀行、そしてそれを若干上回る規模であったファースト・リパブリック銀行の破綻は、「アメリカ史上2番目の規模」とされたが、史上最大は、(リーマンショック時の)ワシントン・ミューチュアル破綻である。
リーマン破綻が史上最大ではない理由
ここで読者の皆様は、あれ?と思われたかもしれない。なぜリーマンショックという危機名にも掲げられ、世界を震撼させたリーマン・ブラザーズ破綻が史上最大ではないのか?――ここには、何を「銀行」と呼ぶかという範囲・定義の問題がある。
具体的には、「商業銀行」と「投資銀行」の違いである。リーマン・ブラザーズは、アメリカ「投資銀行」4位行であった。しかし、投資銀行とは、日本では証券会社に該当する。
アメリカでは、株の売買だけでなく、新株・社債の発行や資産流動化、更にはM&Aを含めた財務全般のアドバイスを幅広く手掛けており、インベストメント・バンク(Investment Bank:投資銀行)とは総称されるが、預金は有しない。伝統的な預金取扱金融機関である「商業銀行」(=本来の銀行)とは別物である。
シリコンバレー銀行、およびファースト・リパブリック銀行の破綻が、アメリカ史上2番目の規模という時、そこでは(「投資銀行」は外され)預金を有する「商業銀行」を対象としているのだ。
リーマンショックは、実は「投資銀行」の落日でもあった。どういうことか。リーマンショックとは、まさにアメリカの大手投資銀行が1つずつ崩れていくストーリーであった。
レバレッジ比率(自己資本に対する負債の比率)が30倍を超えアメリカ5大投資銀行の中で最も高かった業界5位のベアー・スターンズが、まず経営不安に陥り、ニューヨーク連邦準備銀行の支援の下、2008年3月に商業銀行JPモルガンに買収された。
そして「半年」後の9月、4位のリーマン・ブラザーズが破綻。買い手候補に挙がっていた商業銀行バンク・オブ・アメリカが、3位のメリル・リンチ買収に向かったのが、リーマン破綻回避ができなかった最後の理由の1つであった。
残る投資銀行、すなわち、2位のモルガン・スタンレーそして最大手のゴールドマン・サックスにも市場の疑念が襲い、株価が下落し「資本」が低下していく。防衛のために出資者を求めたモルガンは、中国に期待していたが折り合わず、そこで救世主として急浮上したのが三菱東京UFJフィナンシャル・グループであり、約20%の株式に対し90億ドルを出資した。
ゴールドマン・サックスも、アメリカを代表する投資家であるウォーレン・バフェットに有利な条件を付けて頼み込み、優先株を50億ドル買ってもらって、株価急降下阻止を図った。
この間、ついにゴールドマンとモルガン両行は、「投資銀行」つまり証券会社のままでは得られない、FRBからの融資への恒久的なアクセスを得るため、「銀行持ち株会社」への転身を決定したのだった。
このような投資銀行の崩壊がどうして起きたのか?拙著でも詳述しているが、それは、投資銀行を中心とする「シャドウ・バンキング・システム 」が機能不全を起こし、個別行の事情を超えて連動的にビジネスモデルに支障を来したからである。
沈んだままの日本、立ち直ったアメリカの差
では今回はどうか。
読者は鋭く気にされたかもしれないが、あえてベアー・スターンズ買収の「半年」後にリーマン・ブラザーズ破綻があったと強調してきたけれども、今回のクレディ・スイス買収の後、同じような巨大破綻が半年後に来る、とは筆者は現時点で考えていない。
日米金融危機の政治経済学: 平成金融危機&リーマン・ショック 7つの教訓
『日米金融危機の政治経済学: 平成金融危機&リーマンショック 7つの教訓』(中央経済グループパブリッシング)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
クレディ・スイスの経営不安の原因は、投資銀行部門を中心とする不振と筆頭株主サウジ・ナショナル・バンクの追加出資否定報道であり、未だ個別行の問題と見受けられるからである。(なお、クレディ・スイスは、預金も有しており、商業銀行部門も投資銀行部門も共に備える、ヨーロッパで一般的な「ユニバーサル・バンク」の1つである。)
一方で、そのベアー・スターンズ買収後の経緯のように、また、「アメリカ史上最大」の破綻であったワシントン・ミューチュアルが、現在の米国健全性規制ではカテゴリーIIIに当たるものの、リーマンショック時の危機を深めアメリカ政府による「資本注入」の対応を余儀なくしたように、つねに警戒は決して怠ってはいけないであろう。
とりわけ、アメリカ”3S+F”地銀の崩壊が示した「デジタル・バンク・ラン」(スマホ取引やSNS情報拡散等で格段に加速されたデジタル環境下の銀行取り付け)については、たんに取引などのスピードの問題と軽視せずに、実態を超えた不安の拡大への一定の歯止めを含め、政策的備えが必要と考えられる。
そして、今のところ、UBSのクレディ・スイス買収、JPモルガンのファーストリパブリック買収と、「民間共助」が生きているが、利上げ基調の下、金融機関の株価が引き続き不安定の中、金融システム維持上、いざとなれば資本注入など国の直接的な公的資金投入をためらってはならないのではないか。
いずれにせよ、先例のないまま対応に苦しみ脱却まで長く時間がかかった日本の「平成金融危機」から、(反面教師的に)「学んだ」アメリカが、いかにして、とりわけ不人気政策ではあるが「正解」たる「資本注入」を迅速に実施し、リーマンショックからV字回復したのか。そして、この日米両危機を比較検討した結果、以降の金融危機への教訓とは何なのか。
ここで拙著を踏まえ一言だけ申し上げると、その後の日米の経済状況の格差を見るにつけても、「『正解』たる政策は、必ずしも人気政策ではない」ということである。

 

●米銀行破綻の連鎖「本番」はこれから。“危ない銀行リスト”と日本への影響 5/14
おそらく銀行破綻の連鎖は、むしろこれからが本番だと思ってよいだろう。破綻懸念のある銀行のリストを紹介しながら、この危機的状況について解説する。
連鎖破綻の可能性が高い米銀行の危機
これから米銀行の破綻が連鎖する可能性について解説したい。破綻懸念のある銀行のリストを入手した。
5月3日、ブルームバーグ通信は、米銀行持ち株会社、「パックウエスト・バンコープ」が、身売りを含む「戦略的な選択肢」を検討していると報じた。傘下の中堅行、「パシフィック・ウエスタン銀行」では、 3月の「シリコンバレー銀行(SVB)」破綻後に預金が大量に流出し、経営不安が高まっている。
アメリカでは3月以来、「シリコンバレー銀行」、「シグナチャー銀行」、そして「ファーストリパブリック銀行」が破綻しているので、「パックウエスト・バンコープ」のニュースはこれから銀行破綻が連鎖するのではないかとの懸念を深めた。
しかし、0.25%の利上げに踏み切った「FRB」のパウエル議長は、アメリカの銀行破綻の時期が終わったと宣言した。パウエル議長は、「3月上旬に見られたストレス、つまり深刻なストレスの中心となっていたのは、本当に当初から3つの大きな銀行だった」と断言。それらは現在すべて解決され、預金者はすべて保護されている」と述べた。
この発言を受けて、5月9日の取引開始直後、これまで破綻懸念がささやかれていた地方銀行の株価は急騰した。複数の金融専門家は銀行危機の終焉を宣言し、空売り以外に恐れるものはないと言いはなった。これ以降、米財務省と「FRB」によって問題は適切に対処され、危機の発生はなくなったとするムードが広まっている。アメリカの銀行危機の危険性を伝えるニュース報道もかなり少なくなった。一時は2008年の「リーマンショック」級の危機が懸念されていたが、いまは多くの人がほっとしている恐々だ。
実は危機はこれからが本番
しかしながら、「FRB」の危機終了宣言にもかかわらず、銀行破綻の連鎖はこれから本格化する可能性の方が高いことを示すデータが圧倒的に多い。
名前は公表されていないが、スタンフォード大学の銀行専門家は、アメリカの銀行の半数はまだ水面下にいるような状態だとし、次のように発言している。
「シリコンバレー銀行とファーストリパブリック銀行だけの問題だと思わないでください。おそらく、全米の約2,315の銀行が、現在、負債が保有する資産を上回っていると思われる」
要するに、債務超過に陥りデフォルトする懸念のある銀行が、全米ですでに2,315行もあるということだ。これは驚くべき数だ。もし万が一こうした銀行の一割でも破綻したとすると、破綻の規模が大きすぎ、「FRB」や米財務省の対応能力さえ越える可能性もある。そうすると、コントロールの効かない銀行破綻の連鎖となる。
2008年当時とは明らかに異なる状況
これから数行の破綻はあるかもしれないが、いくらなんでも「FRB」が対応できない数の銀行が一挙に破綻することなど考えられないと思うかもしれない。しかしながら、警鐘を鳴らす専門家や、危険性を示すデータが圧倒的に多いのだ。
5月4日の「ギャラップ社」の世論調査によると、アメリカ人の半数近く(48%)が銀行預金の安全性に不安を抱いているとのことである。憂慮すべきことに、この調査結果は、「リーマン・ショック」直後の状態に近似している。
また、最近、「リーマン・ブラザーズ」の元副社長ローレンス・マクドナルドは、米国の財政・金融当局が構造的課題の解決に向けた措置を講じない場合、銀行危機によって米国の地方金融機関がさらに50行破綻する可能性があると予測した。
こうした予測が多いのは、いまの状況は「リーマン・ショック」が起こって金融危機が発生した2008年当時とは決定的に異なっているからである。2008年当時、携帯電話が主流で、スマホの先駆けとなる「iPhone」は2007年に登場したばかりであった。このため、もちろんSNSはあったものの、ユーザー数はまだまだ少なかった。さらに、オンラインバンキングのサービスも提供されていたものの、現在のように誰でも気軽に使うようなサービスとして一般化はしていなかった。このため、SNSやオンラインバンキングの社会的影響力はまだ限定されていた。
しかしいま、SNSとオンラインバンキングの拡大は銀行破綻を一気に加速させている。銀行経営の悪化を伝えるうわさがSNSに掲載されると、これを信じたユーザーがオンラインバンキングを使って一気に預金を引き出すため、際限のない預金流出に見舞われ、あれよあれよという間に破綻してしまうのだ。このスピードは2008年にはなかったことだ。
「危ない銀行リスト」の見方
このような状況なので、たとえ実際にはさほど危機的な状況ではなくても、経営状態悪化のうわさは預金流出による破綻の引き金になってしまいかねない。だから、これから紹介するリストの銀行は、どれも破綻の可能性はあるだろう。
この危ない銀行のリストを紹介する前に、知っておかねばならない概念がある。それは、「包括利益累計額(AOCI)」と「自己資本(TEC)」だ。筆者は会計の知識はないが、リストを見るためには必要なので、簡単に解説する。
「包括利益累計額」とは、企業がこれまでに得た累計利益のことだ。これは、企業が営業活動を通じて得た利益を時系列に沿って足し合わせた金額である。通常、企業の業績や財務状況を分析する際に使用される。「包括利益累計額」がマイナスになることは、企業がこれまでの期間で損失が発生していることを意味する。
また「自己資本」とは、企業が株主から調達した資本と、これまでに稼いだ利益のうち再投資や配当に充てられていない部分の合計額を指す。「自己資本」は、企業が自らの力で資金を調達し、資産を保有していることを示す指標であり、企業の財務状況や経営の安定性を評価する際に重要な役割を果たす。自己資本が高いほど、企業の財務基盤が強く、経営リスクが低いと評価されることが一般的だ。
そして、重要なのが「包括利益累計額」と「自己資本」の比率である。この比率がマイナスになる場合、自己資本が縮小している状況を表す。具体的には、企業がこれまでに稼いだ利益が過去の損失によって相殺され、さらに損失が自己資本を縮小させている状態だ。損失の大きさを示す指標として使われる。
この状況は、企業の財務状況が悪化していることを示し、経営者や投資家にとって大変懸念すべき事項だ。マイナスの「包括利益累計額」と「自己資本」の比率を持つ企業は、経営改善や収益性の向上に努める必要がある。また、企業が資金調達を行う際にも、このような財務状況は信用リスクとなり、資金調達が困難になることがある。これは、負債が自己資本を上回り経営破綻となる可能性が高い「債務超過」の状態ではないものの、そのような状況に陥る可能性を示唆している。
●「放漫経営」で倒産、過去10年で最高 コロナ禍で露見相次ぐ 5/14
アフターコロナに向け企業活動が再び活発化するなか、「放漫経営」による倒産が増加している。経営者の判断ミスやずさんな管理体制、本業以外への資金流出などの会社の私物化により経営が困難になった「放漫経営」倒産は、2022年に144件発生し、前年(124件)から16%・2年ぶりの増加となった。また、全倒産に占める割合は2.3%となり、過去10年では最高を記録。2000年以降ではリーマン・ショック直後の2009年(2.4%)以来となる高水準だった。
放漫経営倒産は近年、悪質化の傾向もみられる。放漫経営の末に、粉飾決算や業法違反、脱税といった「コンプライアンス違反」に抵触した倒産の割合は2022年に4割を占め、2年連続で増加した。最も多いのは事業外への資金流出など「資金使途不正」によるもので、放漫経営倒産のうち29件・約2割を占めた。
不適切な会計処理など「粉飾」による倒産も16件・約1割を占め、売上高減少などで支援を要請したものの、不適切な会計処理で大幅な債務超過状態が明るみに出たことで周囲の協力を得られず、自力再建を断念したケースも多かった。
放漫経営は一般に好況期に多く発生する傾向にある。最近ではアフターコロナに向け景況感や企業活動が上向くなか、コロナ関連融資などで膨らんだ債務整理といった場面で、無理な事業展開による過剰投資や粉飾決算といった過去の放漫経営が発覚するケースが多く発生している。
コロナ禍での資金繰りを支えてきた各種支援も段階的に終了していくなか、事業再生などの場面で過去の放漫経営が表面化し、最終的に法的整理を余儀なくされる中小企業が今後増加する可能性がある。
●FRBは市場の期待どおりに年内に利下げを実施するのか 5/14
日米の株価は今後も堅調に推移するのだろうか。アセットマネジメントOneのシニアエコノミスト、村上尚己氏の見方をお届けする。まずは、5月3日に結果が判明したアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)から振り返ってみたい。FRB(連邦準備制度理事会)は、市場の予想どおりに0.25%(25ベーシスポイント)の利上げを行い、政策金利を5.25%(上限)まで引き上げた。
アメリカの「インフレ率2%回帰」には時間がかかりそう
だが、声明文では、利上げを継続する方針が、以前よりも弱められる方向で書き換えられていた。ジェローム・パウエルFRB議長は記者会見で、現在の政策金利が「十分引き締め的な水準」に近づいている可能性に言及するなど、政策姿勢は変わりつつある。
もちろん、FRBは「利上げ」か「金利据え置き」の判断について、その時々で行うフリーハンドはまだ残している。ただ、パウエル議長を含めて、多くの政策決定メンバーは、次回の6月会合(13〜14日)では政策金利を据え置いて、これまでの利上げの引き締め効果を見定める局面に移りつつある、との判断に傾きつつある。
もっとも、政策姿勢の変更に際しては、「インフレリスクが低下した」など「明確な理由」を挙げることは難しい。5日に発表された4月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月差+25.3万人と、予想よりも上振れた。
アメリカで3月10日にSVB(シリコンバレーバンク)の破綻が起きた後も、FRBが目指すほど労働市場は減速していない。雇用統計の数字については特殊要因があり、テクニカル的に上振れている部分があるのだが、それを割り引いても労働市場の減速は起きておらず、FRBが目指す「2%インフレへの回帰」には相当距離がある。
むしろ、FRBが本来重視する雇用統計の結果だけで判断すれば、さらなる利上げ姿勢が示されていただろう。
銀行破綻でFRBの政策判断の基準は変わった
だが、FRBの政策判断の基準は、銀行破綻が起きたことで大きく変わったとみられる。預金流出に見舞われた中堅銀行の破綻をきっかけに、信用収縮による経済活動を落ち込ませるリスクを相当配慮せざるをえなくなった、ということだろう。
一定規模の銀行が破綻したことに関して、パウエル議長は金融監督が十分機能していなかったことを率直に認めている。FRB自身も信用収縮がもたらす影響度を見定められず不確実性があまりに大きいこともあり、政策金利を据え置いて様子を見るのが「無難な選択」になったと言える。以上が、政策姿勢が変わりつつある実情であり、その根拠はかなり曖昧ということになる。
一方で、パウエル議長は「利下げへの転換」という政策対応からは、かなり距離を置いているとみられる。市場では、現在の高インフレに対して当局が「甘い顔」を見せることは難しい、との認識は強い。こうした中で、債券市場では、すでに9月のFOMC会合(19〜20日)までの利下げ開始が織り込まれている。
筆者は、以下のような思惑が、債券市場での早期利下げ期待を強めていると考える。「金融システムを揺るがせたFRBの判断ミスは明らかだ。それと同様に、利下げからも距離を置いているFRBの判断も誤りだ。よって、『利下げは考えない』との姿勢も早晩変わるはずだ」――。このFRBと市場参加者の認識ギャップは無視できない。
もし、今回の銀行問題をきっかけに、リーマンショック時に匹敵するような大きな経済ショックが起きれば、現在FRBを疑ってかかる債券市場の思惑が実現することになるだろう。ただ、今後は銀行の信用仲介機能が引き締め的に作用するだろうが、このことはアメリカの経済成長を徐々には押し下げても、経済活動が急激に冷え込む可能性は低いとみられる。
確かに求人は労働市場において減速しているが、対人サービス業を中心に、人手不足感は依然強い。労働市場の底堅さが、信用収縮がもたらす景気下押し圧力を相応に吸収する、と筆者は考えている。そうであれば、銀行不安によって景気減速の兆候がみられても、FRBが早期に利下げに転じる可能性は高くないだろう。金融危機を伴うような大幅な経済の落ち込みでなければ、政策金利をしばらく据え置く可能性が高い。
もしこの見立てが正しければ、3月の銀行破綻の報道の後に、早期利下げ期待から大きく下げたままで推移しているアメリカの長期金利は、いったん上昇する場面があってもおかしくない。
今後は予想外にドル高円安が進む可能性も
なお、ドル円相場については、植田和男総裁の下で初となった日銀の金融政策決定会合(4月27〜28日開催)の結果が「ハト派的」と受け止められ、ドル高円安方向に動く場面があった。
植田総裁の会見では、前任の黒田東彦総裁体制時と同様の発言が目立った。例えば金融政策の見直しについて問われた際に「金融引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクより、拙速な引き締めで2%の物価安定目標を実現できなくなるリスクの方が大きい」と発言した部分などである。
植田総裁が「2023年度後半にはインフレ率がいったん2%を下回る」と述べているが、日銀がこの見通しの行方を見定めてから動く」ということならば、政策変更は今年の年末まで後ずれする可能性もありうる。
このまま、日銀が緩和修正に対して慎重に臨むなら、当面日本側の要因でドル安円高が進む可能性は低いだろう。先述したとおり、仮にアメリカの金利に上昇余地があるとすれば、今後は予想外にドル高円安が進む可能性がある。
●米債務協議、迫る期限 デフォルトなら混乱不可避 5/14
米連邦政府の借入限度額である「債務上限」の引き上げ協議が難航する中、米国のデフォルト(債務不履行)が刻一刻と迫っている。財政資金は早ければ来月1日にも枯渇する見通しだが、米政権と野党共和党の対立に落としどころは見えない。米国が史上初のデフォルトに陥れば、金融市場が混乱し、世界経済に深刻な打撃を及ぼすことは避けられない。
7〜9月期に米国の株価は45%急落し、800万人を超える雇用が失われ、実質GDP(国内総生産)も年率換算で前期比6.1%落ち込む―。米大統領経済諮問委員会(CEA)は3日、デフォルトが長期化した場合の試算を示した。
米デフォルトは「歴史上、前例がない」(CEA)事態だ。先行きを見通すのは難しいが、金利高騰や支出削減、米国の信用格付けの引き下げなどが予想され、「2008年のリーマン・ショック時と同等の経済的な落ち込み」(米エコノミスト)に見舞われる公算が大きい。
ただでさえ世界経済は、米欧の利上げや金融不安、途上国の過剰債務問題、高インフレなど逆風下にある。国際通貨基金(IMF)のコザック報道官は11日の定例会見で「米国の債務問題に関する協議は、世界経済が非常に困難な局面を迎える中で行われている」と危機感をあらわにした。
議会で資金繰り継続に必要な法案が可決されなければ、デフォルトを防ぐのは難しい。国債の利払い原資の優先確保や、財務省が1兆ドル(約136兆円)コインを発行し、資金を調達するといったさまざまな案が取り沙汰されているが、「妙案はない」(イエレン財務長官)のが現状だ。
13日まで新潟市で開催された先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議でも、米債務問題を警戒する声が相次いだ。ドイツのリントナー財務相は「世界経済への影響の点からも、大人の決断を望む」と述べ、米議会に速やかな行動を求めた。 
●ジェファーソンFRB理事、急速な引き締めの効果はこれから表れる 5/14
米連邦準備制度理事会(FRB)のジェファーソン理事は、今年のインフレ動向は「まちまち」だとした上で、政策が経済に浸透するには時間を要するもので、政策は「順調に進展している」との見方を示した。
同理事はカリフォルニア州のスタンフォード大学フーバー研究所での講演向けに準備したテキストで「3月に予想に反して下落した中古車価格を除いては、コア物価のディスインフレは想定よりも緩やかなペースで起きている」と指摘。「金融政策は経済とインフレに長期かつさまざまな時間差を伴って影響を与えるもので、われわれの急速な引き締めの十分な効果は依然としてこれから表れる公算が大きい」と語った。
この数時間前、バイデン大統領は同理事をFRB副議長に指名する方針を表明。ジェファーソン理事はこのニュースについて光栄に思い、恐縮していると述べた。
同理事はまた、「われわれの金融政策行動に反応した金融環境の引き締まりは、最近の銀行セクターでの緊張が信用状況に与えた影響によって強まる可能性が高い」と発言。ただ、信用状況の引き締まりが経済成長に及ぼす悪影響は多分「軽度」なものにとどまるだろうとの見通しを示した。
また同じイベントで発言したセントルイス連銀のブラード総裁は、政策当局が利上げを終了する局面に近づいている可能性を示唆した。
同総裁は「現在のマクロ経済の環境を考慮すると、金融政策は現在、恐らく十分に景気抑制的な水準の下端にある」とした上で、景気抑制的なゾーンは今後のデータに反応して動くこともあり得ると話した。

 

●企業業績を見る限り「リセッション」はすでに到来している 5/15
米国経済がリセッション(景気後退)の瀬戸際にある中、ウォール街はすでに、過去7年間で最も長期化する恐れのある企業収益の悪化に直面している。
1−3月(第1四半期)決算シーズンも終盤を迎える中、 S&P500種株価指数構成企業の利益は平均で前年同期比3.7%減少したとみられる。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)がまとめたデータによると、78%の企業が市場予想を上回ったものの、決算発表前にアナリストが予想を下方修正していたことを踏まえると、実際はそれほど良好な決算ではないだろう。
さらに重要な点は、2四半期連続で米企業の業績が悪化したことだ。BI集計のデータでは、4−6月も7.3%の減益が見込まれている。金利上昇と消費者需要減退による影響は7−9月まで続くとアナリストはみており、その頃には業績が回復するとの従来予想は覆されつつある。
これは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)時よりも長期にわたる利益の落ち込みを意味する。3四半期を超える利益悪化が最後に見られたのは2015年から16年にかけてであり、前回の利上げサイクルの開始時期とほぼ重なっている。
今決算シーズンの主な結果と、今後数四半期に注目すべき点を以下にまとめた。
利益率への圧力
景気減速で企業の利益率は低下しており、コンセンサス予想では23年10−12月まで回復しないとの見通しが示されている。オンライン決済サービスのペイパル・ホールディングスは、通期の調整後営業利益率の伸び見通しを引き下げた。米食肉最大手タイソン・フーズも利益率予想を下方修正した。
「第1四半期業績は堅調に見えるが、売上高の伸びが利益の伸びを上回るような亀裂が見えており、利益率が圧迫されている」とファン・ランショット・ケンペンのマネジングディレクター、アネカ・トレオン氏は述べた。
モルガン・スタンレーのストラテジスト、マイケル・ウィルソン氏は、労働コストが引き続き企業にとって逆風であり、景気軟化が企業の価格決定力を弱らせているため、「一段の利益率低下」が見込まれるとしている。
銀行への逆風
金利収入の増加や預金流入などで、大手銀行は3月のシリコンバレー銀行(SVB)破綻などによる金融システムへの圧力を総じて回避した。
ウォール街、地銀破綻によるストレスの兆候見られず−1〜3月期決算
しかし、別の向かい風が迫っている。支払いを滞らせる消費者が増える中、4大銀行が1−3月期に計上した消費者向けローンの損失額は前年同期比73%増えた。
米銀行危機の影響はまだ市場に完全に浸透しておらず、商業用不動産にこれから影響が出るとの見方を、フランクリン・テンプルトン・インベストメンツのジェニー・ジョンソン最高経営責任者(CEO)は示している。
ハイテク企業
テクノロジー企業の1−3月決算には明るさがあった。アップル、メタ・プラットフォームズ、グーグルの親会社アルファベット、アマゾン・ドット・コムはいずれも予想を上回った。
ただ、4−6月のハイテク企業の利益は7%余りの減少が見込まれている。BIのアナリストは、テクノロジー、メディア、通信各業界の利益の伸びについて、2024年までS&P500種構成銘柄全体を下回るとみており、株価には下押し圧力がかかりそうだ。
グレートヒルの会長兼マネジングメンバー、トーマス・ヘイズ氏は、短期的なハイテク企業の業績悪化を見込む投資家のうちの1人。ハイテク業界に業績低迷が迫っているのは「既知の情報であり、今後数カ月の間に市場は2024年の業績回復を期待し始めるだろう」と述べた。
人工知能(AI)技術の進展が鍵を握るとみられる。すでにAIはエヌビディア、マイクロソフト、アルファベットの株価上昇の原動力となっており、3社は今年のS&P500種上昇に大きく寄与している。
●FRBが完全に「ペダルから足を離す」のは難しいだろう−ルーミス 5/15
米金融当局は6月に利上げを停止する可能性が高いが、インフレ率が当局の目標を上回ったまま推移する中での力強い緩和サイクルは見込みにくいと、ルーミス・セイレスのシニア・ポートフォリオマネジャー、エレーン・ストークス氏は指摘した。
同氏はポッドキャスト「ワット・ゴーズ・アップ」で、「米当局は利下げの対応がやや鈍くなるだろう」とし、「市場は若干、先走っている」と語った。
また、われわれに不利に作用する人口動態と脱グローバル化、脱炭素と、赤字拡大という4つのDがあるとした上で、これらはいずれもインフレを引き起こす可能性があるものとしてなじみがあると指摘。「米金融当局がペダルから完全に足を離すのは難しいだろう」とし、「今後、力強い利下げサイクルになる感じはしない」と述べた。 
●日本人も銀行にお金を預けっぱなしで大丈夫か… 5/15
2カ月の間に中堅銀行3行が経営破綻
最近、米国で預金に対する不安が急速に高まっている。その背景には、約2カ月の間に3行の中堅銀行が破綻したことがある。3月初旬以降、シルバーゲート銀行、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が相次いで破綻した。また、5月に入ると、資産規模で全米14位のファーストリパブリック銀行も破綻した。
それとは対照的に、3月までのデータではわが国の預金は増えている。米国と異なり、わが国では預金に対する安心感があるということだ。わが国の場合、2002年以降の不良債権処理によって、金融システム全体で体質は健全化された。それに加えて、わが国の金融機関は国債取引や、個人、法人向けの融資によって相応の利ザヤを稼いできた経緯がある。
ただ、足元でも、米国では経営不安が取り沙汰される中堅銀行が増えている。今後、SNSを介して預金への不安心理は急速に高まり、さらなる預金引き出しが急速に進むことが懸念される。それが現実となれば、米国の金融システムは1980年代のようにかなり不安定な局面を迎える可能性もある。わが国でも、預金保険制度を十分に理解しておく必要があるだろう。
預金不安はリーマンショック時を上回っている
5月4日、米国の調査会社であるギャラップは、「米国民の約半分が銀行に預けたお金を心配している」と題したリポートを発表した。リポートには、ギャラップが実施した世論調査の結果が記されている。
当該の調査は、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破綻した後の4月3日から25日に実施された。“銀行などに預けているお金の安全性についてどの程度心配しているか”との質問にして、“非常に心配している(Very worried)”は19%、“少し心配(Moderately worried)は29%”だった。“あまり心配はしていない(Not too worried)”は30%、“まったく心配していない(Not worried at all)”は20%だ。なお無回答者は集計から除外されている。
全体として預金への不安を抱く人は48%に達している。この水準はリーマンショック直後のギャラップの調査結果(45%)を上回っている。
財務長官は「全額保護も検討する」と述べたが…
3月以降に起きた一連の米銀破綻は、預金への不安を急速に高めた。多くの米国の中堅銀行は、個人などから集めた預金を、長期の投融資に回した。その多くはITスタートアップ企業に投資するファンドや商業用不動産など、流動性の低いものだった。結果として、シリコンバレー銀行などの破綻、他の中堅銀行の経営不安の高まりによって預金を引き出す個人、法人は増えた。
米国では、連邦預金保険公社(FDIC)が1口座(個人も法人も)あたり25万ドル(約3400万円)までの預金を保護している。さらに、3月にはイエレン財務長官が「必要であれば預金全額保護も検討する」と述べた。
それでも、預金に対する不安が高まっている。特に、今日の世界ではSNSを通して瞬く間に人々の不安などが拡散し、群集心理が高まりやすくなったことは大きい。5月1日にはファーストリパブリック銀行が破綻した。2日にはカリフォルニア州地盤のパックウエスト・バンコープなどの地銀株が大きく下げた。ギャラップの調査時点と比較した場合、預金への不安を強める米国民は一段と増えている可能性がある。
なぜ、日本では預金流出が起きていないのか
一方、わが国では預金が依然として増えている。全国銀行業界(全銀協)が公表する“全国銀行 預金貸出金速報”によると、2023年3月、110ある全国の銀行の総預金は前年同月比で3.3%増えた。
都市銀行(5行)は同3.7%増、地方銀行(62行)は同2.0%増、第2地方銀行(37行)は同2.2%増、信託銀行(4行)は同5.5%増だ。信用金庫業界に関して、信用中央金庫が発表した“2023年3月末の信用金庫の預金・貸出金動向(速報)”によると全国254の信用金庫の預金残高は前年同月比0.8%増加した。
米国では中堅銀行から預金を引き出し、JPモルガンなどの大手行や、相対的に利回りの高い“マネー・マーケット・ファンド(MMF)”、あるいはアップルがサービスを開始した預金口座などに資金を移す人は増えている。一部報道によると、サービス開始から最初の4日間でアップルの預金口座には9億9000万ドル(約1360億円)の資金が流入したようだ。
今のところ、わが国でそうした資金の移動は起きていない。日米の預金の安全性に対する社会心理は異なっているといえる。
投融資を積み増してきた米国と、停滞が続く日本
その理由の一つには、日米経済の差が大きく影響しているだろう。リーマンショック後、米国では超低金利環境の長期化観測が高まった。GAFAやスタートアップ企業なども、IT先端分野での成長期待も大きく押し上げた。超低金利環境と過剰な成長期待に支えられ、中堅行はIT先端企業や商業用不動産などへの投融資を積み増した。
それは景気が良い間は大きな問題にはならなかった。しかし、いつまでもよい状況が続くとは限らない。2022年3月以降は連邦準備制度理事会(FRB)が急速に利上げを行い、融資債権などの価値が急速に下落した。その中で、3月上旬、シリコンバレー銀行などは破綻し、米国の中堅行の経営に対する懸念は急速に高まった。
一方、わが国経済は長期にわたって停滞している。国内の銀行は国債の短期取引や住宅ローンなどによって利ザヤを稼ぐ状況が続いている。日米銀行セクターにおけるリスクテイクの水準感の差はかなり大きい。そのため、米国の中堅銀行の経営不安上昇がわが国の預金不安を高めるには至っていない。
1980年代の「S&L危機」の再来か
今後の展開次第では、米国の金融セクターの一部で、1980年代のような不安定な状況になる可能性は高まっている。1980年代、米国では貯蓄貸付組合(S&L)と呼ばれる金融機関の破綻が急増した。その要因の一つは、資金の調達と運用のミスマッチだ。
多くのS&Lは、預金など短期で調達した資金を住宅ローンなど長期の信用創造に回した。当時の米国では、故ポール・ボルカーFRB議長によって徹底したインフレ鎮静化が行われ、金利は大きく上昇した。その結果、多くのS&Lが預金金利の上昇(資金調達コストの増加)や、保有していた資産の価値下落に直面して破綻した。
その後、S&Lの経営はいったん落ち着いたかに見えたが、1980年後半、S&Lの経営不安は再燃した。主たる要因は原油価格下落によるエネルギー業界の業績悪化による不良債権増加、規制緩和による過度なリスクテイクだった。
資金の調達と運用のミスマッチ、過度なリスクテイクなどは、今回の米銀破綻にも共通する要素だ。足元、米国の中堅銀行の株価は合併交渉の破断やさらなる預金の流出懸念などから荒い値動きを伴いつつ下げ基調にある。
株価下落→預金流出の負の連鎖はまだ続く
今後、株価が一段と下落すれば、預金者は自分の銀行が危ないとの不安に駆られ、預金を急いで引き出そうとするだろう。すでに確認された通りSNSを介した群集心理を抑えることは難しい。
短期的に株価下落、預金流出という負の連鎖反応は増幅されやすい。それに伴って米国では銀行の融資態度が一段と硬化し、労働市場、個人消費など実体経済への下押し圧力も強まる。加えて、米国のインフレ率は依然として2%を上回っている。FRBが金融システムの安定に配慮しつつ金融引き締めを続ける可能性も高い。
今年後半、米国の景気後退懸念は高まり、世界経済の先行き不透明感も一段と高まりそうだ。そうなると、わが国の景気に下押し圧力がかかることは避けられない。そのタイミングで米国の中堅銀行の経営不安が一段と高まる可能性がある。
今すぐではないにせよ、わが国の金融セクターでも、一部の銀行から他の銀行へ預金を移し財産を守ろうとする人は増えるかもしれない。現状、普通預金では元本1000万円まで保証されるが、そうしたリスクを考えると、わが国にとって預金保険制度の内容を国民により分かりやすく伝える意義は増している。米国で検討され始めたように、預金保険の制度拡充に向けた議論を進める必要性が出てくるかもしれない。
●米金融不安で蘇る故・中川昭一元財務相発言 「キャッシュ・ディスペンサー」 5/15
5月の連休前に拙著「現代日本経済史〜現場記者50年の証言」と宮崎正弘さんとの共著「金融大波乱〜ドル・円・人民元の通貨戦争が始まった」を相次いで上梓した。
それらで明かした故中川昭一元財務相(2009年10月没)に関する秘話が各方面で反響を呼んでいる。それは、2008年9月のリーマンショックの後、中川氏が米政府元高官を通じて、「日本はアメリカのキャッシュ・ディスペンサーになるつもりはない」とブッシュ米大統領(当時)に伝えたことだ。
事の発端は、08年10月11日にブッシュ政権による、唐突な北朝鮮へのテロ支援国家指定解除である。中川氏はリーマン危機対策協議のためのG20(主要20カ国財務相・中央銀行総裁会議)会合出席のためワシントンにおり、ホワイトハウス・ローズガーデンでの歓迎午餐(ごさん)会に向かう途中に指定解除の報を聞いた。まさに寝耳に水。ローズガーデンで大統領に抗議しようとしたが果たせず、憤懣(ふんまん)やる方がないまま帰国した。そして、10月20日午後3時、霞が関の財務大臣室を訪れた旧知の米元高官に上記の大統領へのメッセージを託したのだった。
「キャッシュ・ディスペンサー」とはもちろんたとえ話だが、決して大げさではない。日本は米金融市場のアンカー(いかり)役を果たしているからだ。世界最大の対外債権国である日本は、米金融市場の要である米国債の最大の保有国であり続けている。リーマン当時、米国債は市場流通分の5割超(現在は約4割)を海外の政府や投資家が保有していたが、海外勢の中心が日本である。日本政府は米国債を外貨準備資産運用の主力対象としている。
中川氏は前述の午餐会の前日に、ブッシュ大統領、ポールソン財務長官、ライス国務長官、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が集まった会合に呼ばれている。金融面ではそれだけ日本を頼りにしていたからだ。中川氏は北朝鮮問題も議題にした。ところが、米側要人はだれもテロ支援国家指定解除については中川氏に伝えなかった。翌日のローズガーデンのパーティーで中川氏は大統領に詰め寄ったが、大統領は「あそこにいるコンディ(ライス氏)に聞け」と逃げ去った。「カネだけ出せと言われても」という思いから、中川氏は冒頭のメッセージを発信した。
グラフはリーマンショック以降の日本と中国の米国債保有の推移である。危機後、中国は日本をしのぐ勢いで米国債を買い続けたが、2018年の米中貿易戦争勃発を機に、米国債売りに転じた。以降、習近平政権は脱ドル路線を鮮明にし、年を追うごとに売却の度合いを強めている。対する日本の米国債保有額は中国に抜かれたが、19年には再び首位に立った。
リーマン、また中川発言から14年以上たった今、米国は銀行危機におびえる。「ディスペンサー日本」の出番と言うべきか。米国債買いを促す日銀の大規模金融緩和政策は続くだろう。
●企業債務がトリガーとなる米国経済・金融危機 5/15
変わる米国の債務構造と金融引き締めの影響
米国では歴史的なペースで金融引き締め策が実施されてきたが、そのもとでも経済はなお失速には至っていない。金融引き締めの影響がまず金利に敏感な個人の住宅投資、自動車購入の悪化をもたらし、その影響が経済全体に波及する形で景気が後退に陥るのが今までの典型的なパターンであった。しかし、住宅投資が2年間減少を続ける中でも、経済全体の安定はまだ大きく崩れていないのが現状だ。
   図表1 米国企業・家計債務サイクルと経済・金融情勢
これは、個人消費がコロナ問題の影響をなお強く受けていることに加えて、個人債務の状況が大きく影響しているものと考えられる。2008年のリーマンショック前には、個人債務の膨張と住宅不動産価格高騰とが同時に進行していた。しかしその後は、個人債務のGDP比率は急速に低下していく。いわゆるデレバレッジ(債務削減)が進んだのである(図表1)。
個人の経済活動が金利上昇に対する抵抗力を強めた背景には、債務の抑制が進み、利払い負担が従来ほど高まらなくなったことがあると考えられる。その結果、住宅ローン、住宅モーゲージ担保証券(RMBS)、自動車ローンなど、個人の債務に関わる金融の問題は深刻化していない。
企業債務は歴史的な水準に
こうした個人の債務とは対照的に、リーマンショック後に急増したのが企業の債務である。そのGDP比率は1980年代から横ばいで推移してきたが、過去数年は歴史的な高水準に達している(図表1)。さらに、2020年のコロナショックを受けて企業債務のGDP比率はもう一段上昇した。これは、急速な金融緩和による資金調達コストの低下によるものだろう。この点から、コロナショックの金融緩和は行き過ぎ、企業の債務を過度に膨らませた可能性が考えられる。
個人債務の抑制が進んだ結果、従来よりも個人の経済活動は、金利上昇に対する抵抗力を強め、金融引き締め効果を減じている面があると考えられる。他方で、企業の経済活動は、債務が増加した分、従来よりも金利上昇に弱くなっているだろう。足もとでは設備投資の弱さが顕著になっており、金利上昇の影響が確認できる。
金融危機は常に違った顔で現れる
このような債務の環境変化を受けて、金利上昇を受けた経済のリスクは、個人から企業へと移っている。金融面でのリスクについても同様である。
過去の金融問題も、個人と企業の債務状況を反映した形で生じてきた。1980年代を通じた貯蓄貸付組合(S&L)危機は企業債務増加を背景に、1987年のブラックマンデーは債務拡大を伴う個人の過剰な株式投資を背景に、2000年のドットコムバブル崩壊は企業債務増加を背景に、2008年のリーマンショックは住宅関連の個人債務の増加を背景にそれぞれ生じてきた。
個人債務の増加に根差す金融危機と企業債務の増加に根差す金融危機とが交互に生じているのが特徴的だ。金融危機は同じ形で繰り返されることはなく、常に違った顔で現れるのである。
経済悪化で銀行不安は第2ラウンドへ
以上の考察から、金融引き締めの影響は、今回は個人よりも企業の経済活動により表れやすく、さらにそれは企業債務に関わる金融の問題へと発展しやすいと考えられる。
5月1日に米地銀ファースト・リパブリックバンクが破綻した。3月のシリコンバレーバンク(SVB)、シグネチャーバンクの破綻といった銀行不安がまだ終わっていないことを示すものだ。
今まで表面化した銀行の経営不安の根底にあるのは、金利リスクの管理の失敗である。金利急上昇を受けた債券含み損の拡大や固定金利貸出の債権価値の低下が問題の本質である。銀行預金の流出を受けて、それらの資産の売却を強いられ、含み損が実現損になってしまった。
他方で、企業の経営不振の高まりを受けた貸出債権や証券の価格下落といった信用リスクの上昇は、まだ表面化していない。金融引き締めや銀行の貸出抑制の影響から企業活動の悪化が進めば、それは企業向け貸出の信用リスクを高め、銀行は新たな逆風に直面するだろう。これが、この先起こりうる「銀行不安の第2ラウンド」である。
   図表2 合成指数と実質GDP成長率
先般発表された米連邦準備制度理事会(FRB)の銀行融資担当者調査では、銀行の融資基準の厳格化が進むとともに企業の資金需要も急速に悪化していることが確認された。この融資の供給面と需要面の双方の影響を反映する複合指数は、企業の借り入れ環境が、2000年のドットコムバブル崩壊時、2008年のリーマンショック時、2020年のコロナショック時と並ぶ水準にまで悪化しており、この先米国経済が本格的な景気後退に陥るリスクが相応にあることを示唆している(図表2)。
注目は預金流出から株価下落へ
3月以降、預金の流出は、銀行を流動性危機から破綻に追い込むなど、事態を一気に悪化させる役割を果たしてきた。ただし、中堅銀行からの大量の預金流出の動きには歯止めがかかっている。預金保険でカバーされない25万ドル以上の大口預金を、経営破綻が懸念される銀行から移す動きは一巡しつつあるのだろう。
しかし、預金保険制度は銀行不安の本質的な問題ではない。本質的な問題は、銀行の金利リスクの管理の失敗である。含み損の拡大や逆イールドによる資金収益の悪化を受けた銀行の経営不振の問題はまだ続いている。景気悪化による企業の信用リスクの問題が表面化していけば、与信コストの上昇を受けて銀行の経営不振の傾向がさらに強まるだろう。
こうした銀行は、当局が介在する形での救済的な買収の対象となる。しかし、ファースト・リパブリックバンクの破綻及び買収劇でも見られたように、買収を検討する側の銀行は、できる限り安く銀行を買おうとする。そのためには、買収対象の銀行の株価が十分に低下するまで待つ傾向がある。さらに、米連邦預金保険公社(FDIC)が銀行の業務を引き継ぐ破綻処理を待ってから買収を決める姿勢が強まっているように見受けられる。破綻処理となれば、FDICが預金保険基金を使って一部の損失を負担してくれるからである。
ファースト・リパブリックバンクのケースのように、買収する側の銀行がFDICによる破綻処理を待ってできるだけ安く銀行を買収しようとする結果、純粋な救済買収は成立しにくくなり、破綻処理と買収が同時に行われるファースト・リパブリックバンクのようなケースがこの先も複数出てくるのではないか。結果として、銀行破綻は増えるだろう。
また、破綻処理、買収観測が強まると、市場は債券や貸出債権の含み損を企業価値に反映する傾向をより強める。銀行が継続している限りは含み損は表面化しない可能性があるが、破綻処理、買収時には厳格な資産査定がなされるからである。従って、経営不振から破綻処理、買収観測が強まる銀行の株価は下落しやすくなる。
今までは銀行預金の流出が、銀行の破綻リスクを見すえた上での重要な指標であったが、これからは株価下落により注目すべきだろう。
次の注目はプライベート・クレジット・ファンド
   図表3 プライベート・クレジット・ファンドとは何か
この先、企業活動と経営環境が悪化していけば、金融面では企業債務に関連した金融資産に問題が生じやすくなる。それは、銀行の企業向け貸出債権に加えて、証券やノンバンク(非銀行金融仲介機関)の問題となる。そこで注目しておきたいのが、プライベート・クレジット・ファンドである(図表3)。
プライベート・クレジット・ファンドは、機関投資家や富裕層から資金を集め、信用リスクが高い無格付けや低格付けの企業など、多くは非上場の企業に直接融資を行うファンドだ。2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)後に急成長を遂げた新しいタイプのファンドである。
FRBによれば、プライベート・クレジット・ファンドへの投資家構成(資産規模)は、2021年末時点で公的・私的年金が31%、プライベート・エクイティなどその他のプライベート・ファンドが14%、保険会社が9%、個人が9%である。国際通貨基金(IMF)によれば、その資産規模は1.5兆ドル程度とされる。
経済が悪化し企業の信用リスクが高まれば、プライベート・クレジット・ファンドは、運用パフォーマンスが落ちた企業向け融資を急速に絞るだろう。そうなれば、リーマンショック以降、プライベート・クレジット・ファンドからの資金調達への依存を急速に強めてきた低格付け企業は一気に資金繰りに困るようになり、破綻が増加する可能性が考えられる。それが経済をさらに悪化させるという悪循環を生む。
金融リスクトリオ
   図表4 金融リスクトリオ
ただしそうした事態となっても、プライベート・クレジット・ファンド自体は破綻しにくいと言える。それは第1に、多くは解約が制限されたクローズドエンド型であり、一気に資金が引き上げられることがない、第2に、借り入れの割合(レバレッジ比率)が小さいことから、債務不履行に陥り難い、第3に、変動金利での貸出が中心であるため、昨年来の金利上昇局面でも貸出資産の大きな劣化が生じていない、ためである。
しかし、プライベート・クレジット・ファンドの運用リターンが悪化すれば、そこに投資をしているオープン型ファンドの運用リターンも悪化し、そこで顧客の資金流出が強まり、換金売りが金融市場を混乱させる可能性もあるだろう。このような経路で、プライベート・クレジット・ファンドを媒介して、他のファンドの経営が大きく揺さぶられてしまう可能性もある。
この先、低格付け企業の経営不安が高まると、プライベート・クレジット・ファンド、銀行のレバレッジドローン(低格付け企業向け融資)、ハイイールド債の3つが金融不安の震源地となるのではないか。この3つはそれぞれ約1.5兆ドル、約1.4兆ドル、約1.5兆ドルと資産規模がほぼ肩を並べており、「金融リスクトリオ」と言える(図表4)。
レバレッジドローンの証券化商品であるローン担保証券(CLO)の価格も大きく下がることから、CLOやハイイールド債に投資するオープン型ファンドでは破綻のリスクも出てくるだろう。
米国経済がひとたび悪化し、企業部門の経営不安と企業債務に関わる金融資産に大きな問題が生じれば、銀行とノンバンクの双方を巻き込む新しいタイプの金融危機へと発展する可能性がある。
●米国史上初のデフォルトに現実味…「6.1」が招く未曽有の世界金融危機 5/15
このまま最悪の事態に突き進むのか──。米国の債務上限問題がこじれ、米国史上初のデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高まっている。デフォルトの期限とされる6月1日が迫っているのに、解決の見通しが全く立っていないからだ。
「過去に2011年、13年、15年にもデフォルト危機がありましたが、最後は与野党が歩み寄り、何とか回避してきました。ところが、今回は交渉になっていない。バイデン大統領が交渉している共和党のマッカーシー下院議長は党内基盤が弱く、安易な妥協を許されていないからです。市場はデフォルトを織り込み始めています」(市場関係者)
デフォルトに備えた金融派生商品の保証料率は、14年ぶりの水準に上昇している。デフォルトの確率が高くなっているとみているのだ。
デフォルトに陥ると、政府の資金繰りが苦しくなり、行政の執行がままならなくなる。政府窓口は閉鎖され、公務員の給与も支払いが遅れかねない。さらに金利は上昇し、企業の借り入れや住宅ローンにも大きな影響が出る。金融ジャーナリストの森岡英樹氏が言う。
「最悪のタイミングです。米国では経営不安の金融機関から預金が引き揚げられ、米銀3行が経営破綻しました。さらに、政府のデフォルトが起きてしまうと、不安感を強めた預金者が預金を引き出し、新たな銀行破綻が次々と起こってもおかしくありません。しかも、政府がデフォルトに陥ると、上限25万ドル(約3300万円)の預金保護も怪しくなってくる。そうした懸念から預金がさらに引き出されるという悪循環が起きかねません」
資産5500兆円がすぐに換金される可能性
オバマ政権の2011年はギリギリでデフォルトを回避できたが、米国債は史上初めて格下げされた。現実にデフォルトになれば、米国債の格下げと下落は必至だ。米国債の信用が低下すると、株や債券の売りも加速する。
国際通貨基金(IMF)によると、投資家がいつでも解約できる「オープン型投資ファンド」の資産総額は41兆ドル(約5500兆円)に上る(22年1〜3月期)。5500兆円もの資産がすぐに換金される可能性があるのだ。
「売りが売りを呼ぶパニックに陥り、未曽有の世界金融危機に突入する可能性があります。バイデン大統領は何としてもデフォルトを回避する必要があります。広島サミットが開かれる今週末は下院議長との交渉のヤマ場と言える時期です。バイデン大統領は広島を訪問している場合ではありません」(森岡英樹氏)
11年のデフォルトを回避したのは当時、副大統領だったバイデンだ。今回も交渉役は政治経験が長く、野党に人脈があるバイデン大統領しかいないとされる。広島サミットに出席すれば、岸田首相の顔は立てられるが、その代償が世界金融危機とはいかにも割に合わない。
バイデン大統領は10日、「米政府がデフォルトに陥れば全世界がトラブルに巻き込まれる」と発言。ホントに広島に来るのか。
●メガバンク決算 3社ともに「堅調な業績」 世界的な金融不安には警戒強める 5/15
金融大手のメガバンクグループ3社の決算が出そろい、各グループとも堅調な業績となりました。
メガバンクグループ3社が発表した2022年度の決算で、「みずほフィナンシャルグループ」は、海外の法人向け業務などが好調だったことから、最終利益は前の年度と比べて250億円増加し、5555億円となりました。
「三井住友フィナンシャルグループ」は、法人向けの預金貸し出しの増加や決済ビジネスが好調だったことから、最終利益は992億円増加の8058億円となりました。
「三菱UFJフィナンシャル・グループ」は、前の年度と比べて143億円減少しましたが、運用や貸し出し業務などが堅調だったことから、最終利益は1兆1164億円と、過去最高益だった2021年度に続き、2年連続で1兆円超えとなりました。
一方で、3社はいずれもアメリカの銀行破綻に端を発した世界的な金融不安に警戒を強めています。
●FRB、物価抑制に向けやるべきことある=ミネアポリス連銀総裁 5/15
米ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は15日、米労働市場はなお好調なほか、連邦準備理事会(FRB)の一連の利上げにもかかわらず、インフレ率は「非常に高すぎる」と述べた。
イベントで、FRBには「もっとやるべきことがある」と指摘。インフレ率は低下し始めているが、FRBの物価目標である2%に回帰するまでには長い道のりがあるとし、FRBは数カ月間の好ましい良好なデータに「惑わされるべきではない」とした。

 

●50歳就職氷河期世代 「平均年金月14万円」の高齢者にも完敗… 5/16
コロナ禍も沈静化し、景気も上向いてきた現在。企業もアグレッシブにビジネスを展開している。企業業績が上昇すれば、株主はもちろん、就労する従業員たちも給与面等でメリットを享受できることになる。だが、そんな景気回復の明るい兆しから、完全に取り残されている人たちもいる。それが、非正規から脱せられなかった「就職氷河期世代」だ。現状を見ていく。
景気は回復傾向なのに…「アラフィフたち」は蚊帳の外
ゴールデンウィークも過ぎ去り、どことなくぎこちなかった新入社員たちもすっかり通勤風景に溶け込んだ今日この頃。コロナ禍も落ち着き、企業はコロナで喪失した利益を取り戻すべく、どこもアグレッシブにビジネスを展開している。
そして、企業の一員となった若手社員たちは、戦力として大いに期待され、給与その他の面でも手厚い待遇を受けている。
ひるがえって、40代〜50代前半のいわゆる「就職氷河期世代」はどうか。超不景気となった1990〜2000年代に大学卒業時期が重なったこの世代は、高い学歴を保有しながらも、収入に結び付けられない人も多く、いまなお非正規から脱出できない人もいる。
2000年代後半、雲間から光が差したかのように、一瞬だけ雇用環境が改善した期間があったが、その後はふたたびリーマンショックによって状況が悪化。2010年代中盤にようやく雇用環境が改善したとき、最初の氷河期世代はすでに40代後半になっていた。
かつて多くの企業が採用を見送りった、現在「アラフィフ」世代のうち、いまなお非正規の立場にある人は、苦しい状況に立たされている。
年金受給額、月11万円を下回る人たちも多数存在か
大卒男性・非正規社員の給与(所定内給与額)の中央値は24.5万円(厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より)。50代前半なら22万3000円、手取り17万円程度だ。60歳まで現在と同じ給与水準と仮定したうえで、厚生年金に加入していた場合、65歳から手にする年金額は月11万6000円程度※になる。
   年金の支給額
〈国民年金〉 = 年金額×(保険料の納付月数÷480ヵ月)
〈厚生年金〉 = 
   加入期間 2003年3月まで
 (1)「平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数」
   加入期間 2003年4月以降
 (2)「平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」
便宜上、(2)だけで計算した場合。厚生年金は月5.2万円程度、国民年金は満額支給で現在の受給額でとすると、月11万6000円程度となる。2020年10月から非正規(短時間労働者)にも適用されることになった厚生年金保険だが、それ以前は加入できないケースが多かった。そのため、上述の年金受給額月11万円を下回る人たちも、かなりの数に上ると考えられる。
「厚生年金」「国民年金」の平均受給額
一方、現状の年金受給者の状況だが、厚生労働省『令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、2021年の厚生年金受給者の平均年金受給額は、老齢厚生年金が月額14万5,665円、国民年金受給者の平均年金受給額は老齢年金(加入25年以上)で月額5万6,479円。
年齢別に年金受給額をみると、繰り上げ受給の影響によると思われるが、厚生年金・国民年金とも、65歳以前を境に平均受取額は増加。厚生年金は、70代は平均14万円台、80代前半は平均15万円台、80代後半以降は平均16万円台と、平均受取額は上昇傾向。おそらくこちらは、法改正の影響だろう。
   年齢別年金受給額
    厚生年金  / 国民年金
60歳:  87,233円 / 38,945円
65歳: 145,372円 / 58,078円
70歳: 141,026円 / 57,405円
75歳: 145,127円 / 56,643円
80歳: 154,133円 / 55,483円
85歳: 161,095円 / 56,404円
90歳以上: 160,460円 / 51,382円
厚生年金の受取額の分布において、年金月20万円以上は全体の15%と、6〜7人に1人の割合だ。年金15万円以下は全体の54%程度、月10万円に満たないのは全体の23%でほぼ4人に1人、月5万円未満は2.5%と、50人に1人となっている。
「自己責任」と突き放しても、問題は解決しない
正社員で就労してきた高齢者ですら決して多いとは言えない年金受給額。就職氷河期世代の場合は、一層厳しい状況が予想される。
なにより、就職氷河期世代の非正規の人が、現状の生活を継続したとしたら…。高齢者となったときに、悲惨な状況に陥る可能性は高い。
将来、実現する可能性が高い「貧困リスク」。対策を練り、回避することが何より重要だ。就職氷河期世代については、自己責任論も飛び交っているが、彼らを突き放したところで問題解決にはならない。官民一体となって、現実的なサポートを展開することが望まれる。
●FRB利上げ完了、勝利宣言できる−株価今年上昇とジョーンズ氏 5/16
ヘッジファンド運営会社チューダー・インベストメントの創業者で、最高経営責任者(CEO)を務めるポール・チューダー・ジョーンズ氏は、米連邦準備制度は利上げを完了したとの認識を示し、景気が減速しても株価は前年比上昇して今年の取引を終えると予想した。
ジョーンズ氏はCNBCとのインタビューで、「連邦準備制度は恐らく勝利宣言できるのではないかと思う」と発言。インフレ率が12カ月連続で低下した状況に言及し、「かつて起きたことがない」と指摘した。
米経済は今年7−9月(第3四半期)か10−12月(第4四半期)にリセッション(景気後退)入りの恐れがあるとしながらも、年末時点の株価は前年を上回ると同氏は見込む。
ジョーンズ氏は 連邦準備制度が利上げを停止し、株価上昇がさらに1年続いた2006年6月までの期間と比較し、今回は「ゆっくりした動きになると考えているため、著しく強気ではない」と語った。
「大規模言語モデルと人工知能(AI)の導入が、過去75年で数回しか経験のない生産性の向上を実現すると思う」と同氏は述べた。
●SVB元幹部「利上げと預金流出が破綻要因」、FRB見解と対立 5/16
経営破綻したシリコンバレー銀行(SVB)のCEOだったグレゴリー・ベッカー氏は、16日に開催される米上院銀行委員会の公聴会で、破綻の主因として金利の上昇と多額の預金流出を挙げる見通し。証言の準備稿が15日に明らかになった。
ベッカー氏は「前例のない」破綻を謝罪する一方、破綻に至った際に同行はリスク管理に関する規制当局の懸念に対応し、問題解決に取り組んでいたと記述。SVBの破綻は金利リスク管理や融資先の多様化に失敗したことが原因とした、規制当局や銀行業界幹部らの説明とは対照的なものとなった。
ベッカー氏は「いかなる銀行も、あのような速度と規模の預金引き出しに耐えられるとは考えられない」と主張。SVBが金利リスクの管理を怠ったという当局の見解を一蹴し、2021年後半まで米連邦準備理事会(FRB)は金利は低水準で推移し、インフレ率の上昇は一過性に過ぎないとみていたと指摘した。
●6月FOMCの利上げの可能性探る、FRB高官の意見は相違 6/16
連邦準備制度理事会(FRB)は直近の5月連邦公開市場委員会(FOMC)で、25ベーシスポイントの利上げを決定したと同時に、声明で前回会合まで用いていた「追加利上げを想定する」との文言を削除し、次回6月会合では利上げ停止の選択肢を残した。金融危機や成長減速、インフレの鈍化を受けFRBが次回6月FOMCで利上げ停止するとの予想が強まった。
しかし、FRBが注視しているミシガン大消費者信頼感指数の最新5月の長期期待インフレ率が予想外に上昇したため追加利上げの思惑が再燃。そのほか、金融危機の影響もあり今後の金融政策を巡り、FRB高官の見解は分かれる。米アトランタ連銀のボスティック総裁は「利下げは24年に入るまで想定しない」「リセッションのリスクはあるが、ベースケースではない」としたほか、「インフレ対処は最優先課題」と再確認。また、「高インフレは追加利上げに傾斜する必要性を示唆しているかもしれない」と、追加利上げの可能性を残した。
また、米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁も、労働市場が「非常に強い」「インフレはピークから鈍化も依然過剰に高い水準にある」「インフレにおいて、恐らくまだなすべき仕事がある」と、やはり追加利上げも辞さない姿勢を見せた。一方で、23年の連邦公開市場委員会(FOMC)の投票権を有するシカゴ連銀のゴールズビー総裁は、金融混乱や信用状況による経済への影響に懸念を表明。同総裁は5月の25BPの利上げを巡り、支持は5分5分だったことを明らかにし、次回会合では利上げ停止を支持する可能性も示唆。昨年からの急速利上げを巡り影響の表面化はこれから、と追加利上げに慎重姿勢を表明した。経済指標やインフレ指標で今後の金融動向を探る展開となる。
●FRB当局者、追加利上げの可能性に言及 5/16
米連邦準備理事会(FRB)の4人の当局者は15日、インタビューやメディア発言で金利が高止まりし追加引き上げを実施する可能性に言及した。
市場では、次回6月13─14日の連邦公開市場委員会(FOMC)では金利は5.00─5.25%に据え置かれるとの見方が多くなっている。
ただ各氏はこの日、まだ結論は出ていないとの認識を改めて強調。前回のFOMC以降に発表された指標では、労働市場は依然強くインフレの改善が進んでいないことが示されたとしている。
リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は、インフレが比較的速く低下し、経済が緩やかに減速する展開も想定できるものの、「まだ確信が持てない。インフレを必要な水準まで下げるには、需要にもっとインパクトを与える必要があるのではないかと考えている」と述べ、さらなる利上げの可能性を示唆した。
また、FRBの利上げ効果は出始めているが、米経済は多くの面で耐性を保っているとし、「失業率の面ではレッドホットからホットに落ち着いたと言えるのではないか」とも語った。
次回のFOMCまでに発表される経済指標は多く、銀行の信用問題や連邦債務上限を巡る不確実性が存在していることなどを踏まえ、6月の会合で利上げを支持するか判断を保留していると述べた。
アトランタ地区連銀のボスティック総裁は、これまでの利上げの効果はまだ十分にでていないとして、金利据え置きに傾いているとの認識を示した。
過去に政策がオーバーシュートし経済に悪影響を与えた歴史を踏まえ、そういった事態を回避する必要性に言及した。
ただその一方で、それでももし必要なら追加利上げにオープンとの考えも強調。
CNBCに対し、インフレ率が市場参加者が考えているほど急速に低下するとは思えないとして、年内の利下げは想定しておらず、逆に「上げる必要がある」との見方を示した。
「行動にバイアスがあるとすれば、私としては、引き下げではなく、もう少し引き上げる方向になる」と述べた。
ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は、FRBには「もっとやるべきことがある」と指摘。インフレ率は低下し始めているが、FRBの物価目標である2%に回帰するまでには長い道のりがあるとし、FRBは数カ月間の好ましい良好なデータに「惑わされるべきではない」とした。
またシカゴ地区連銀のグールズビー総裁は、5月のFOMCで利上げを支持した自身の決断について「ぎりぎりの判断」だったと述べた。最近の銀行危機による信用収縮の影響を考慮したためという。
これまでの利上げの効果はまだ十分に表れていないため、慎重なアプローチが必要との認識も示した。
その一方で、次のEOMCに対してはオープンマインドだと付け加えることは忘れず、今後発表されるデータのより慎重な分析が必要と強調した。 
●米国債がデフォルトに陥ったらどうなる?…各界の有力者が警告 5/16
・アメリカ政府が借入できる債務上限を引き上げる期限が近づくにつれ、デフォルトの懸念が高まっている。
・ジャネット・イエレン財務長官は、議会がすぐに決定を下さない場合、懸念される結果になると警告している。
・ここでは、現在問題となっている債務上限について、6人の有力者がこれまでに述べたことを紹介する。
アメリカでは債務上限をめぐり数カ月にわたって政治が行き詰まる中、米国債のデフォルト(債務不履行)リスクに対する投資家の懸念が急速に高まっている。
31兆4000億ドル(約4270兆円)の債務上限が引き上げられなければ、6月1日までに財務省の資金が底をつくとされているにもかかわらず、議員たちは行き詰まりを打破できずにいる。共和党は、バイデン民主党政権が歳出削減に同意すれば上限引き上げを支持する意向だが、政権はそのような条件は受け入れられないと主張している。
この議論には、各界の有力者からさまざまな鋭いコメントが寄せられている。アメリカが借りたお金を返せなくなれば、経済に深刻な影響を及ぼす危険性が高いと警告する人もいる。
ここでは、債務上限をめぐる政治的対立に関する有力者6人の意見を紹介する。
イーロン・マスク、億万長者の起業家
ツイッターユーザーのWhole Mars Catalogが、「米国債をデフォルトさせるのはよくない」と5月10日にツイートすると、テスラ、スペースX、ツイッターのCEOであるマスクは、「その可能性が高まっている」と不安にさせるような言葉で返信した。
ポール・クルーグマン、ノーベル経済学賞受賞者
クルーグマンは、ニューヨーク・タイムズへの寄稿で次のように警告している。
「連邦政府が通常業務の資金繰りをできなくなる可能性が、非常に現実味を帯びてきた」
「それは下院の共和党が債務上限を利用して、通常の立法手続きでは成立の見込みのない政策立案に向けた譲歩を強要しようとしているためだ」
「政府が債務の定義を弄ぶことができるのであれば、どうやって債務上限を強要するのか、と思うかもしれないが、そもそも債務上限を設けるべきではないということだ。政府はラディカリストが武器にできるような新たなチョークポイント(そこがふさがると世界の経済が止まってしまうというポイント)を作ることなく、課税と支出について決断を下し、財政的な影響を考慮すべきだ」
ウォーレン・バフェット、バークシャー・ハサウェイ CEO
バフェットは自社の年次株主総会で、政府が銀行破綻に伴う預金者の資産損失を放置したり、さらなる政府借入金を拒否するという考え方について、「アメリカ政府は、債務上限で世界を混乱に陥らせることはしないのと同様に、そのような振舞いはしない」と述べた。
ジェイミー・ダイモン、JPモルガン CEO
デフォルトは「大惨事になる可能性がある」とパリで開催されたグローバル・マーケット・カンファレンスで、ダイモンはブルームバーグTVに語っている。
彼は、アメリカがデフォルトに陥るとは考えていないが、合意形成の期限は間近に迫っていると述べた。
「その期限が迫るほど、パニックが起こるだろう。市場は不安定になり、株価は下がるかもしれない。米国債市場は独自の問題を抱えるだろう」
ジャネット・イエレン、アメリカ財務長官
イエレン財務長官は、アメリカが債務不履行に陥った場合について、次のように述べている。
「世界経済のリーダーとしてのアメリカの地位が損なわれるリスクもあり、国家安全保障上の利益を守る能力も疑問視されるようになる」
「アメリカでは何百万人もの人が職を失い、家計収入が減少するだろう。企業にとってのクレジット市場は悪化し、政府からの給付金を受けていた何百万もの世帯は、予定されていた支払いがなされないまま放置されるだろう」
「米ドル、アメリカの制度、リーダーシップの価値が世界的に揺らくことは、ほぼ間違いない。このことにより、ドルで価格が決定される通貨や金融市場、商品市場が不安定になる可能性がある」
デビッド・ローゼンバーグ、ローゼンバーグ・リサーチ 社長
5月3日、ローゼンバーグは次のようにツイートした。
「我々はデフォルトの可能性を抱え、銀行危機も広がっている(ジェイミー、申し訳ないが、これは終わっていないようだ)。そしてFRB(連邦準備制度理事会)は明日、利上げをする。今では2008年7月よりも低くなったインフレ率に注目している。彼らは何も分かっていない」 

 

●習近平氏がほくそ笑むような、米・民主党と共和党のつばぜり合い 5/17
アメリカ債務上限問題、バイデン大統領と野党側の協議まとまらず
アメリカ政府の債務上限をめぐり、5月16日午後(日本時間17日午前4時)からホワイトハウスでバイデン大統領と野党・共和党側が約1時間ほど協議を行った。しかし、協議がまとまらず、話し合いを続けることとなった。
飯田)政府の支出を債券発行によって担保するということですが、アメリカの仕組みでは法律によって上限が決まっています。
クリントン元大統領の90年代、オバマ元大統領の2010年代にも起きた債務上限問題
佐々木)日本であれば、政治的な裁量でどのぐらい国債を発行できるか決められるのですが、アメリカの場合は議会の了承を得なければならず、共和党と民主党の間で必ず対立します。過去にもクリントン元大統領の90年代、またオバマ元大統領の2010年代、両方とも民主党政権ですけれど、そのときに債務上限をめぐって揉めました。
飯田)そうでした。
佐々木)民主党は歴史的に大きな政府路線ですから、予算を拡大しようとする。保守側である共和党は、どちらかと言うと小さな政府路線なので、「野放図に予算を拡大するな」と必ず対立があり、過去3回、危機的な状況に陥っています。
飯田)一部政府閉鎖などもありました。
佐々木)前回のオバマ元大統領のときは、アメリカ国債の格付けが落とされて大騒ぎになったことがあります。また同じことが起こるのではないかと危惧されています。
飯田)オバマ政権のときのように。
佐々木)シリコンバレー銀行の破綻から始まり、銀行不安がアメリカで広がって、それが他の国にも波及するのではないかと言われている。そんな状況のなかでこういうことがあると、アメリカ国内の政治のつばぜり合いで世界全体が大迷惑をこうむるという。
飯田)振り回されてしまう。
過去の例からも、やりすぎると共和党の支持率が低下する 〜どこかに落としどころを見出すのでは
佐々木)どういう可能性があるかと言うと、国債が発行できなくなれば、資金調達も当然できないですよね。でも、すべてが使えなくなるわけではなく、増やそうとしている分が増やせなくなることを考えると、何かを減らさなければいけない。
飯田)何かを減らさなければならない。
佐々木)でも国債利回りをやめてしまうと、国債に対する不安に火がついて、国債が暴落してしまいます。国債が暴落すると、その他の金利にも影響するので、それはやりたくない。政権としては、利払いは行う代わりに、政府の給料遅配などが起きてしまう可能性があります。
飯田)職員への。
佐々木)それでまた失業率が上がれば、世論に対する影響力も大きい。ただ、過去を見ると90年代のクリントン氏のときも、2010年代のオバマ氏のときも、野党・共和党がやりすぎて支持率を落としたのです。
飯田)そこまで大混乱させてしまうと。
佐々木)民主党を虐めたいという共和党の目論見があっても、やりすぎて民意に離反され、支持率が落ちてしまったら、次の大統領選で戦えません。その微妙なバランスのなかで共和党は駆け引きをしているのだと思います。
飯田)「このくらいで勘弁したるわ」と、どこでなるのか。
佐々木)決定的に破壊的なことにはならないと思います。もしそれをやってしまったら、来年(2024年)の大統領選で勝てないですから。どこかに落としどころがあるのではないかと期待していますが。
G7のあとに予定されていたパプアニューギニア訪問と、オーストラリアでの「クアッド」首脳会合への出席を中止
飯田)外交にもいろいろな影響が出ています。G7には一応、バイデン大統領は出るということですが、そのあとに予定されていたパプアニューギニア訪問と、オーストラリアでの「クアッド」首脳会合への出席を中止しました。
佐々木)どちらも大事ですよね。
飯田)セットされていたけれども、予定が飛んでしまった。これは問題ですよね。
佐々木)G7にも来てもらわなければいけないけれど、クアッドも大事です。「台湾有事がどうなるか」と言われているような大変な局面の状況で、「アメリカは何をやっているのか」と思います。
中国やロシアによるシャープパワーの脅威
飯田)中国にすれば、パプアニューギニアには行かないし、クアッドにも出ないということで、ニヤニヤしてしまいますよね。
佐々木)習近平さんは心のなかで「共和党頑張れ」と言っているのではないでしょうか。
飯田)そういうことですよね。アメリカも含めて「民主主義諸国は国内を混乱させればガタガタになるぞ」と思われかねない。
佐々木)そういう状況も見て、シャープパワー的なものがいずれ起こるのではないかと心配です。
飯田)工作活動などを用いて有利な状態をつくるという。
佐々木)「中国が野党時代の共和党に資金提供しました」というような可能性が今後、出てくるかも知れない。SNSも含めた世論の操作合戦のようなところが、いまや軍事や文化と並んでパワーの1つとして浮上してきているのです。
飯田)それはアメリカに限った話ではないですよね。
佐々木)日本でもシャープパワー、世論操作的なものに対する国外からの圧力があるのではないかと噂されていますが、現状、まだ陰謀論の域を脱していない。日本語の壁もあると思うのですが。
飯田)言語の壁。
佐々木)今後、そういうノウハウを中国やロシアが蓄積していくと、日本にもそういう魔の手がやってくる時代になるかも知れません。しかも、気付かないうちにやってくるのです。何かおかしいと思ったら、「あれ?」というようなことが起こる可能性もあります。
「何を引っ張ったら何が起きるのか」という連鎖反応を見ることが大事
飯田)そういうところまで考えると、いろいろなものがつながって見えてしまう感じですね。
佐々木)結局、国内の政治もグローバルな外交も、あるいは経済も、すべてがつながっています。どこかを引っ張ると、どこかが「ボコッ」と出てしまう。そのようなグローバリゼーションの世界に我々は生きているのです。
飯田)そうですね。
佐々木)ですから、「何を引っ張ったら何が起きるのか」という連鎖反応を、きちんと見ていくことが大事なのではないでしょうか。
飯田)クリアカットな解決策、「ここをこう切ればいい」ということではなく。
佐々木)「なぜ小学生でもわかることがわからないのか」と怒る人がいますけれど、小学生がわかることで解決できるのであれば、誰も苦労しませんよ。
グレーなものを引き受けるというのが大人 〜現状維持と改革の間を取って少しずつ変えていく
飯田)現状のバランスがどう成り立っているのかを、まず理解しなければならない。
佐々木)そのバランスを崩さないように、少しずつ変えていく。もはや段階的な改修しか、いまの21世紀の社会にはあり得ないということを認識するべきだと思います。
飯田)「スクラップ・アンド・ビルドだ!」と、「全部ぶち壊せばいいんだ!」 として、そこから新しいものが出てくるようなやり方では難しい。
佐々木)日本維新の会も頑張っていますけれど、改革1本では無理があるかなと思います。改革でうまくいかないことは、民主党政権のときにわかってしまったわけです。
飯田)古くはその前の小泉純一郎政権なのかも知れませんが。「改革」と言って飛ばされた側の人たちにとっては、たまったものではない。
佐々木)現状維持もよくないけれど、改革もよくない。その間を取って、少しずつ変えていくしかありません。
飯田)まどろっこしいし、すっきりはしないけれど、そういうモヤモヤしたものと付き合っていくしかないのでしょうか。
佐々木)基本的には、グレーなものを引き受けるのが大人ですよ。
飯田)清濁併せ呑むという感じですね。
●予想外の円安は日本経済正常化を支える 5/17
ドル円相場は23年初から1ドル=128-137円のレンジでやや円安気味で推移している。3月には米国の銀行破綻でドル安円高に動いたが、米当局の対応などで大手銀行を含んだ危機には至らなかった。また債務上限問題に関する報道も増えているが、「通貨ドル」は年初対比でややドル安だが総じて安定している。
ユーロドルは、4月初旬の1ユーロ=1.06から5月初旬には一時1.10台にドル安に動く場面があった。ECBの利上げ観測が高まったことに加えて、米国の銀行問題がやや「ドル安要因」になったかもしれない。この同じ期間、ドル円でみると、4月初旬の130円付近から月末までに135円付近に「ドル高円安」になっている。対ユーロでドル安気味だったが、ドル安以上に円安が進んだということである。2022年秋のような1ドル150円台までの円安ほど急激ではないが、緩やかな「円の独歩安」の地合いと言えるだろう。
円安は、日本の衰退をあらわす象徴?
こういう状況になると、円安を理由付けする様々な見方がでてくる。例えば、昨年進んだ円安には、日本の貿易赤字が広がったことが影響している、との見方が良く聞かれる。日々の貿易取引に基づく為替取引で、通貨安になる部分はあるにしても、貿易収支の変動が通貨変動を引き起こす因果関係は曖昧である。
例えば、2008年の原油価格急騰、2011年の大震災などなどに日本の貿易収支赤字に転じた時には、大きく円高が進んだ。また、原油価格が既に昨年の高値からかなり低下しているので、日本の貿易収支赤字は22年後半をピークに23年には縮小しているのだが、2023年の円高要因にはなっていない。
貿易赤字が「日本経済全体の衰退」の象徴と考える論者ほど、購買力の低下を表す円安を同一視しがちだが、これはナイーブな印象論なのだろう。これは、必要な金融緩和や円安をネガティブに報じたいメディアなどの論調とも関連している、と筆者は考えている。
実際には、為替変動は、インフレ動向に影響する金融政策の動向が大きく影響する。4月に円が独歩安で動いたことは、日本銀行に対する市場の思惑で説明できる部分が大きいとみられる。4月の金融政策決定会合を前に、新たな体制を率いる植田日銀総裁がYCC(イールドカーブコントロール)修正を早期に開始するとの見方が後退した。
黒田総裁の後を継ぐ植田総裁の金融緩和への姿勢が変わることが、円高要因になるのではないかと筆者も実は警戒していた。ただ、実際には植田総裁は、YCC修正を含めて正常化に慎重な姿勢を示した。足元で原材料価格上昇の波及効果などでCPIコアが2%を大きく超え、今年の春闘賃上げ率は90年前半以来の伸びを示すほど賃金も上昇している。それでもなお、「賃金の上昇を伴うかたちで 2%の物価安定の実現を目指す」「基調的なインフレ率が2%に達していない」「粘り強く金融緩和を続けたい」などの考えを、記者会見において植田総裁は述べた。
2%インフレが基調的に上昇するには、ようやく始まった賃金上昇が持続することが必要だろう。それには日本経済の経済成長によって、需要超過がある程度続く事が必要条件になる。ただ米国など海外経済の減速をうけて、日本の需給バランスが改善せずに、2%インフレが定着しないシナリオを植田総裁らは警戒しているとみられる。そうであれば、先行きの経済動向については、黒田前総裁と同様(あるいはそれ以上)に慎重なのかもしれない。
現在の円安は日本経済の復調を支える追い風に
4月金融政策決定会合の審議委員の議論(主な意見)をみると、「YCCの副作用の大きさ」を強調する意見もあった。そういう主張があっても、なお2%インフレを確実に実現するために、YCCがもたらす緩和を続けるメリットが大きい、と植田総裁ら執行部は重視しているとみられる。
このまま、植田総裁がサマーズ教授が言う「和製バーナンキ」としての役割を果たし、黒田前体制を引き継ぐのであれば、筆者が抱いていた円高リスクは杞憂に終わるかもしれない。そして、現在みられている程度の円安は、日本の衰退をあらわす象徴というよりは、インフレ安定を伴う日本経済の復調を支える追い風になるだろう。
●JPモルガン、苦しい地銀をこれ以上買収する公算小さい−ダイモン氏 5/17
現在の銀行業界混乱で苦境に陥っている米地銀を、JPモルガン・チェースがこれ以上買収する可能性は低いとジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)が語った。
ダイモン氏は16日に開かれた年次総会で株主からの質問に答えた。地銀業界が「安定を取り戻す」と期待していると述べた。
JPモルガンは今月、公的管理下に置かれたファースト・リパブリック・バンクを買収。ファースト・リパブリックは破綻した銀行の規模としては米国史上2番目に大きく、米地銀の破綻は今年4行目だった。
米主要銀行のCEOとして金融危機から唯一、指揮を執り続けるダイモン氏は先週、「銀行危機を終わらせなくてはならない」と主張し、監督当局は「驚いてばかりという状況にならないよう」、小規模銀行の財務状況をもっと把握する必要があると論じていた。
●高まる利下げ期待、米中銀は年内にどう動くのか  5/17
米国の中央銀行である連邦準備制度(Fed)は、5月2〜3日に行った連邦公開市場委員会(FOMC)の会合で、25ベーシスポイントの追加利上げを決定した。米国の政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートは5.00〜5.25%となり、ドットチャートと呼ばれるFOMCメンバーが予想する水準の中央値に達した。
この先の最大の焦点は、利上げは終わるのか、そして利下げはいつ始まるかだ。
シリコンバレー銀行の破綻を機にした金融システムの不安が収まらない一方、労働市場の需給がタイトな状況は続いており、経済情勢をめぐる要因は複雑に絡み合っている。アメリカの債務上限をめぐり、アメリカ国債のデフォルト(債務不履行)リスクも浮上している。
アメリカの金利動向はどのように読めばいい?
FOMCの見通しとは裏腹に、金融市場はすでに段階的な利下げを織り込み始めた(図参照)。エコノミストの間でも、利上げ停止や利下げの開始時期などで見方は大きく分かれる。アメリカの金利動向をどのように読めばいいのか。
シティグループ証券の相羽勝彦氏、SMBC日興証券の丸山義正氏、大和証券の末廣徹氏の3人に、見解と今後見通しを聞いた。
   シティグループ証券 エコノミスト 相羽勝彦
   経済の減速は不十分、年内に利上げはまだ2回ある
Fedは引き続き、6月と7月に開催されるFOMCで、それぞれ25ベーシスポイントの利上げを行うと予想する。5月3日に終了したFOMCの声明文は、利上げサイクルの終盤にきていることをうかがわせるものの、6月の利上げ停止まで示唆していると考えるのは早計だろう。
声明文で注目すべき箇所は2つある。前回3月のときにあった「いくらかの追加的な政策引き締めが適切となる可能性があると予想している」という文言から、「予想している」という部分が削除されたことが1つ。この部分が削除されたことは、Fedが追加の利上げにコミットする要素が消え、以前よりも利上げへのハードルが上がったことを意味する。
もう1つは、残りの「追加的な政策引き締めが適切となる可能性」という部分が条件付きの表現に組み入れられたことだ。
この部分は「どの程度の追加的な政策引き締めが適切となるかを決定するうえで、FOMCは金融政策の累積的引き締めと金融政策が経済活動やインフレに影響をもたらす時間差、そして経済・金融の情勢を考慮に入れるだろう」となっており、今後の利上げの可能性を排除していない。
さらなる利上げの見通しを裏付けるデータもある。
FOMC後の5月5日に公表された雇用統計では、4月の非農業部門雇用者数が25.3万人増となった。3月は16.5万人増だった。昨年から伸びが減速しているが、20万人以上の増加は底堅い数字だ。一方、失業率は3月の3.5%から4月は3.4%に低下し、歴史的な低水準で推移した。時間当たり賃金も3月の前月比0.3%の上昇の後、4月は0.5%の上昇と伸びを高めている。
今後の利上げはデータ次第
これらのデータから、インフレ率が2%に向けて低下するほど、経済が十分に減速しているとは言い難い状況になっていることがわかる。5月のFOMC後に発表されたFedの声明文や記者会見から、今後の利上げはデータ次第という側面が強まっていることを頭に入れておいた方がいい。
現在FF金利先物市場では利下げが折り込まれているが、パウエル議長は、「インフレ率は減速するとみているが、それほど急速なものではない。特に住居費を除くサービスインフレは(高い水準で)非常に安定している」「需要がもう少し弱まる必要があり、労働需給ももう少し緩和する必要がある。そうした世界では、利下げは適当ではない」と会見後の記者会見で述べている。
攪乱要因は、金融市場における地銀の経営不安だ。さらなる銀行の破綻によって市場が不安定化する、あるいは、銀行の与信状況が急速に収縮するといった事態になれば、Fedは追加的な利上げを躊躇するだろう。
債務上限に関する問題もある。6月上旬に財務省の手元資金が枯渇するため、それまでに解決されると予想している。ただ、例年になく不透明感が高く、仮に深刻な事態に発展した場合には、6月利上げが見送られる可能性も出てくるだろう。
   SMBC日興証券 金融経済調査部 チーフマーケットエコノミスト丸山義正
   次回6月に利上げは休止へ、FF金利先物市場の動きは性急
Fedの利下げ開始は、従来の見通しを据え置き、1年後の2024年5月になると予想している。信用収縮の影響を懸念する下で、2023年6月のFOMCはこれまで続けてきた利上げの休止に踏み切るだろう。ただ、インフレ抑制に必要な労働需給緩和の実現に時間を要するため、利下げタイミングは2024年以降にずれ込むとみている。
5月のFOMCは、声明文で追加利上げのガイダンスを明確に取り下げた点で、実質的な利上げ休止と言える内容だった。一方、パウエル議長は早期利下げを引き続き明確に否定している。労働需給の緩和に向けたシグナルこそ見られ始めたが、賃金上昇ペースはなお相当に速い。インフレ鈍化が早期に進展するとは、当社の経済分析チームも考えていない。
金融市場はOIS(スワップ取引の一種)フォワードカーブで見ても、FF金利先物で見ても、9月までの利下げ開始を見込んでいる。ただ、セントルイス連銀のブラード総裁が5月5日に示唆したように、雇用統計などの指標は6月会合における追加利上げを求めている。
昨年から行われている金融引き締めの効果が発揮される下で、労働需要は鈍る方向にある。非農業部門雇用者数(NFP : Nonfarm Payroll)の増勢は3カ月平均で見て11〜1月平均の月当たり33万人から2〜4月平均の22万人に鈍化し、求人数も減少傾向を辿っている。 大企業の新規雇用計画数は相当の低位だ。
労働需要の水準としては高い
しかし、労働需要の水準としてなお相当に高い。NFPの伸びは失業率の横這い推移に必要な8万人程度の3倍に達する。失業者1人当たりの求人数はピークの2人から減少も3月時点で1.6人と、コロナ禍前の1.2人を大幅に上回る。求人移動調査(JOLTS:Job Openings and Labor Turnover Survey)によれば、フローベースの非自発的離職者数が増加しているものの、ストックベースの非自発的離職者数は4月にコロナ禍後の最低を更新した。大企業のレイオフによる非自発的離職者数の増加は、中堅・中小企業の旺盛な労働需要により吸収されている模様だ。
労働供給に更なる拡大は期待できない。生産年齢人口全体の労働参加率は3月と4月に62.6%にとどまり、コロナ禍前の63.3%に届かない。とりわけベビーブーマーの引退やリタイヤの早期化によって、55歳以上の労働参加率はコロナ禍前の40.3%から直近38.4%まで低下しており、当然だが復元は期待できない。
労働需給を反映すると考えられる賃金データは、雇用統計の平均時給が3月まで鈍化傾向にあったが、4月に反転した。これらの強い経済データやインフレデータを踏まえれば、利下げどころか、金融市場は6月追加の利上げを織り込む方向で反応するタイミングが再び生じる可能性もあるだろう。
   大和証券 エクイティ調査部 チーフエコノミスト 末廣徹
   2023年5月の利上げが最後。指標の弱含み踏まえ、12月に利下げへ
シリコンバレー銀行が破綻した3月の金融システム不安以降、Fedは利上げ停止を前提としたコミュニケーションを取っている。5月の雇用統計は強い結果だったが、経済指標は着実に弱含んできており、コモディティ価格の低迷を考慮すれば、追加的な引き締めは必要ない。Fedは6月と7月のFOMCでは利上げに関してフリーハンドを維持し、9月と11月に簡単には利下げを行わないというスタンスに変化。そして12月に利下げを実施すると予想している。
全会一致でFF金利誘導目標を25ベーシスポイント引き上げた5月2〜3日のFOMCの声明文では、銀行システムは健全であるとの見方が維持された。一方、追加的な引き締めを予想する記述はなくなり、利上げ停止の地ならしが行われたと言えるだろう。
FRBのパウエル議長は記者会見でデータ次第のスタンスを示したが、「追加的な引き締めを予想する」としなかったことは「意味のある変化」だとした。利下げの議論は利上げ停止後の重要なコミュニケーションとなるため、現時点ではほとんど言質を与えない印象だった。
また雇用情勢について、パウエル議長は「賃金上昇率が5%程度で推移しているのであれば、3%程度に近づけることが、より長い期間にわたってインフレ目標と一致させるために必要なこと」と述べたが、「賃金がインフレの主要な要因だとは思っていない」とも話した。6月13〜14日のFOMCまでにはもう1度雇用統計の発表が予定されているが、大幅な変化がない限りは6月に利上げはないだろう。
インフレ率は既に鈍化傾向となっている
5月12日に発表されたミシガン大の消費者信頼感指数(速報値)では、消費者のインフレ予想は、1年先(短期)が4.5%と前月の4.6%から小幅に低下した一方、5〜10年先(長期)は3.2%と前月の3.0%から上昇した。足元では長期のインフレ予想が 3.0%前後で推移してきており、3.2%への上昇は予想外の結果だった。長期のインフレ予想の上昇はインフレ長期化のリスクを高め、Fedの金融引き締めの長期化に繋がる可能性がある。
もっとも、ミシガン大の消費者調査ディレクターのジョアン・シュー氏は、インフレ期待の加速は気がかりだが、将来の価格上昇を見越した駆け込み消費の兆候もほとんどみられないと指摘し、「長期のインフレ期待上昇は、インフレ心理の影響増大や賃金物価スパイラルのリスク上昇を反映しなかった」ことが示唆されると説明している。
バイデン大統領が副議長に指名すると表明したジェファーソンFRB理事は12日、「金融政策は経済とインフレに長く様々なラグを伴って影響し、私たちの急速な引き締めの十分な効果は依然としてこれからあらわれる可能性が高い」と話している。実際のインフレ率は既に鈍化傾向となっていることもあり、インフレ予想の上昇に対する警戒感は強くないようだ。今回のミシガン大の長期インフレ予想の上昇は、Fedが5月を最後に利上げを停止し、金融政策の効果を見極めるフェーズに入るという流れを変えるものとはならないだろう。
●日経平均株価が一時3万円台を回復 21年9月以来、1年8カ月ぶり 5/17
17日の東京株式市場で、日経平均株価が一時、3万円台を回復した。3万円台乗せは2021年9月28日以来、約1年8カ月ぶり。コロナ禍からの回復や円安で企業決算が好調だったこと、自社株買いをする企業が増えていることなどが好感され、日本株を買う動きが広がっている。
日経平均株価は取引開始直後から続伸し、午前9時半すぎに一時、3万円台を回復した。午前の終値は、前日終値より196円42銭高い3万39円41銭。
年初に2万5千円台だった日経平均は、新型コロナウイルスの規制緩和で消費が回復したり、外国人観光客が増えたりするとの期待から上昇基調にあった。
東京証券取引所が3月末、上場企業に「株価を意識した経営」をするよう通知したことを受け、株価の上昇につながる自社株買いが増加。日本銀行の新体制が4月、大規模緩和の継続を決めたことや、3月期決算で好業績が相次いで発表されていることなどから、日本株買いがさらに加速。日経平均は16日まで4営業日続伸した。
日経平均はバブル期の1989年12月、史上最高値の3万8915円をつけた。その後、バブルが崩壊し、3万円を割った。2008年のリーマン・ショックで株価はさらに下落。09年3月には7054円98銭の安値をつけた。
世界経済が緩やかに回復するなか、大規模な金融緩和を柱にした経済政策「アベノミクス」を掲げた第2次安倍政権が2012年末に誕生すると、株価は上昇基調を強めた。
20年に始まった新型コロナの感染拡大は、日本と世界の経済に大打撃を与えた。ただ、各国が財政支出を急拡大し、強力な金融緩和を導入したことなどから、ハイテク銘柄を中心に株価は急上昇。日経平均は21年2月、30年6カ月ぶりに3万円台を回復した。
しかし、その後、欧米の主要国が相次いで金融引き締めに転じたことなどから、株価は世界的に伸び悩んでいた。
●FRBの予想は「希望的であり、現実的ではない」−エラリアン氏 5/17
3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合後に公表された最新の四半期経済予測では、フェデラルファンド(FF)金利が年内に5.1%に達し、インフレ率が低下傾向を続けると当局者の大多数がみていることが示された。だが、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストでグラマシー・ファンズ・マネジメント会長のモハメド・エラリアン氏は、その予想にあまり確信が持てていない。
エラリアン氏は16日、米当局の同四半期経済見通し(SEP)について、「過去数年に目にしたほぼ全ての予測と同じ特徴があると言える。希望的であり、現実的ではないということだ」とブルームバーグテレビジョンで語った。
世界経済の軟化にもかかわらず米国の消費者は予想以上に持ちこたえているとし、それが米国の適切な金利水準とインフレ率の判断を難しくしていると指摘した。
「第一に、経済状況は流動的だ。第二に、構成により大きな違いが出る。サービスに注目した場合とモノに注目した場合とでは全く違った答えになる」とエラリアン氏は主張。「第三に、米当局は期待を抑制していない。米当局の戦略的で長期的な見解が何であるかが見えない」と論じた。
米金融当局の経済予測は6月のFOMC会合時に更新される。だがエラリアン氏は、米当局はデータ依存の姿勢を十分に取っておらず、市場を「混乱させる」ことで知られていると述べた。
●債務上限問題を発端に金利リスク高まる恐れ=バーFRB副議長 5/17
米連邦準備理事会(FRB)のバー副議長(金融規制担当)は16日、銀行監督当局は米国の連邦債務上限引き上げ問題に起因して金利リスクが高まる可能性などを注視していると述べた。
バー氏は議会の公聴会で、銀行がどのように金利リスクを管理しているかを「集中的に監督」していると述べた。
●NY外為:ドル・円200DMA目指す、ドル高値探る、FRB高官が追加利上げ示唆 5/17
NY外為市場でドルは金利上昇に伴う買いが継続した。クリーブランド連銀のメスター総裁は、データによると金利が十分に引き締め水準ではなく、連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ抑制のためにやっていることを続ける必要があると、追加利上げの必要性を指摘。さらに、米リッチモンド連銀のバーキン総裁は、労働市場が依然かなり過熱しており、想定されていたほど減速していないとの見方で、必要とあれば追加利上げも辞さない構えを見せた。
米4月小売売上高や米5月NAHB住宅市場指数の良好な結果に加えて、FRB高官のタカ派発言を受けて、米国債相場も続落。10年債利回りは3.562%まで上昇した。ドル指数は102.657まで上昇。
ドル・円は136円62銭まで上昇し、重要な節目200日移動平均(200DMA)水準の137円05銭を目指す展開となった。ユーロ・ドルは1.0856ドルまで下落し日中安値を更新。ポンド・ドルは1.2530ドルから1.2481ドルまで下落した。
●NY為替:ドル強含み、FRB高官のタカ派発言で追加利上げ観測 5/17
16日のニューヨーク外為市場でドル・円は、135円69銭へ下落後、136円68銭まで上昇し、136円39銭で引けた。米4月小売売上高の伸びが予想を下回りいったんドル売りが優勢となったのち、プラスの伸びに改善したことや、国内総生産(GDP)の算出に用いられる自動車・建材などを除いた小売りの伸びが予想を上回ったことを受けて、金利上昇に伴うドル買いが強まった。さらに、米4月鉱工業生産・設備稼働率、5月NAHB住宅市場指数も予想を上回ったほか、メスター・クリーブランド連銀総裁やバーキン米リッチモンド連銀総裁が追加利上げの必要性に言及したためドル買いが一段と加速した。
ユーロ・ドルは、1.0890ドルから1.0855ドルまで下落し、1.0862ドルで引けた。ユーロ・円は147円73銭から148円50銭まで上昇。ポンド・ドルは、1.2536ドルから1.2477ドルまで下落。ドル・スイスは0.8934フランから0.8971フランまで上昇した。

 

●米地銀株が上昇、ウエスタン・アライアンスの預金増で安心感 5/18
17日の米国株式市場で地銀株が上昇した。ウエスタン・アライアンス・バンコープの預金残高が増加したことを受け、銀行危機が最悪期を脱したとの見方が広がった。
ウエスタン・アライアンスは16日、5月12日までの3カ月間に預金残高が20億ドル以上増加したと発表した。バンク・オブ・アメリカ(BofA)・グローバルリサーチは投資判断を「買い」とし、目標株価を42ドルに設定。BofAは、同行のビジネスモデルは「想定より耐性があった」と述べた。
ウエスタン・アライアンスの預金の79%以上が保険対象となっている。その割合は3月31日時点の68%から上昇した。
B.ライリー・ウェルスのチーフ市場ストラテジスト、アーサー・ホーガン氏は、同行の預金増加は懸念を抱く投資家にとって朗報だと指摘。大きな打撃を受けた銀行が預金残高の安定を示し始めるに伴い、セクター全体に信頼感が戻ると述べた。
ウエスタン・アライアンスの株価は10.2%高と急伸し、ここ2週間の下げ幅を回復。年初来ではなお41%安となっている。
このほかパックウエスト・バンコープも21.7%、ザイオンズ・バンコープは12.1%、コメリカは12.3%、キーコープは8.6%、それぞれ上昇。KBW地銀株指数は7.3%上昇し、今月1日以来の高値となった。
ホーガン氏は「地銀の収益環境は悪化した状況が続くため、(株価が)早期に危機前の水準に回復するわけではないが、緊急の事態は薄れ、ファンダメンタルズ(基礎的条件)がより重視されているようだ」と述べた。
●債務上限、影響じわり デフォルトへ時間切れ迫る 米 5/18
米連邦政府の借入限度額である「債務上限」問題を巡り、16日行われたバイデン米大統領とマッカーシー下院議長(野党共和党)ら議会指導部の協議は物別れに終わった。
議会が上限引き上げ法案を速やかに通さなければ、6月1日にも米政府の支払いが滞り、デフォルト(債務不履行)に陥る恐れが高まる。時間切れが迫る中、短期金利が急上昇するなど、着地点が見えない政治的駆け引きの影響が出始めている。
「短期間でやるべきことが多い」。協議後、マッカーシー氏は記者団に対し、与野党の隔たりが大きいことを示唆した。
一方で、双方は折衝を続けることで合意。バイデン氏は広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)後に予定していたオセアニア訪問を取りやめ、「議会指導部との最終交渉に戻る」と述べ、合意に自信を示したが、不透明感は確実に強まっている。
米国が史上初のデフォルトに陥れば、「前例のない経済・金融の嵐」(イエレン財務長官)に見舞われるのは必至だ。イエレン氏は、デフォルト状態が長引けば800万人超の雇用が失われるとの試算を引き合いに、2008年のリーマン・ショック時と「同じくらい深刻な景気の落ち込みをもたらす可能性がある」と警告した。
市場も、デフォルトのリスクを意識し始めた。米国債1カ月物の利回りは今月初めに4%台だったが、11日には5.8%へ跳ね上がり、その後も5%台半ばを推移。イエレン氏は「交渉の行き詰まりが納税者の債務負担を既に増大させている」と訴え、議会に一刻も早い合意を促した。 
●韓国でいよいよ高まる「資金流出」への懸念…「日本への接近」 5/18
激しい輸出の落ち込み
ここにきて、韓国経済の先行き懸念は一段と高まっている。一つの要因として、最大の輸出先である中国経済の持ち直しペースは緩慢なことがある。韓国にとって最重要の輸出品目である、半導体の市況が世界的に厳しい状況に追い込まれている。その結果、4月の輸出は前年同月比で14.2%減少した。7か月連続での輸出減少だ。2022年3月に赤字に転落して以降、14か月連続で韓国の貿易収支も赤字だ。また、韓国国内では家計の債務問題への懸念が高まっている。韓国銀行(中央銀行)は家計の利払い負担増加などに配慮し、利上げを一時休止せざるを得なくなった。輸出の減少、米韓の金利差拡大懸念などを背景に外国為替市場ではウォンの弱さも目立つ。それは海外に資金が逃避していることを示唆する。そうした状況下、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は対日関係の修復を急いでいる。次世代半導体の製造体制確立に不可欠な、超高純度の部材や製造・検査装置の調達を円滑にすることもあると見られる。また、韓国は一段の資金流出に備えて、金融面でもわが国との関係を改善することが得策と考えているのかも知れない。
一段と厳しさ増す韓国経済の現状
足許、韓国経済の減速、後退の懸念は一段と高まっている。韓国にとって最も重要な輸出品目である半導体の価格下落は大きい。2021年秋口以降、サムスン電子が世界最大のシェアを持つDRAMの価格下落は鮮明化した。NAND型フラッシュメモリの価格も下落している。ゼロコロナの終了後、中国では個人消費の回復ペースが鈍い。そのため中国ではスマートホンの出荷台数が減少し、半導体需要は下押しされている。コロナ禍によるデジタル化の急加速の反動なども重なり、世界全体で半導体の需給は緩み在庫が積みあがっている。その結果、4月、韓国の半導体輸出は前年同月比41.0%減少した。その状況下、韓国の設備投資も低迷している。一因として、メモリ半導体価格の下落鮮明化によってSKハイニックスが設備投資を縮小したことは大きい。内需面では、ウィズコロナの経済運営を背景に動線が修復され、飲食、宿泊、交通などの分野でペントアップ・ディマンドが発生している。ただ、それが長く続くとは考えづらい。世界的な物価の上昇とウォン安の掛け算によるインフレの高止まりを背景に、徐々に韓国の個人消費は圧迫されるだろう。また、韓国ではソウルなど首都圏でのマンション価格が高騰した。住む場所を確保するために借金に依存せざるを得ない人は増え、家計の債務問題は深刻化している。そうした状況に配慮し、韓国銀行は利上げを一時停止した。インフレ率が2%の目標水準を上回る状況下、本来であれば韓国銀行は慎重に利上げを進めてインフレの鎮静化と通貨価値の安定を図るべきと考えられる。ただ、それが難しいほど韓国の内需はぜい弱なのだろう。足許、EVなど自動車の輸出は増加してはいるが、輸出全体に歯止めがかかる状況にもなっていない。
対日関係の修復を急ぐ尹政権
現在、尹政権はわが国との関係修復を急いでいる。3月、尹政権は元徴用工への賠償問題に関する解決案を発表した。約12年ぶりに日韓の首脳が両国を行きかう“シャトル外交”も再開された。尹大統領はそうした恩恵を「国民が実感できるようにする」と発言している。根底には、当面、韓国経済の状況は一段と悪くなるとの懸念の高まりがあるだろう。中国では、耐久財を中心に個人消費の停滞感が高まっている。また、米国経済の動向が韓国に与える負の影響も増えるそうだ。足許、米国では中堅銀行の経営懸念が一段と高まっている。銀行株の下落圧力は高まり、預金流出にも拍車はかかりやすい。一方、インフレを鎮静化するためにFRBが早期に利下げに動くことは考えづらい。資金繰りを確保するために米銀の融資態度は硬化すると予想される。それに伴い、米国の個人消費を支えてきた労働市場の改善ペースは追加的に鈍化する。米国の債務上限を巡る不透明感も個人消費を抑圧するだろう。中国経済の高度成長が限界を迎えた中で米国の個人消費の減少が鮮明となれば、世界的に景気後退の懸念は追加的に高まらざるを得ない。それは、外需依存度の高い韓国経済にとって大きな負の材料だ。状況によっては、半導体市況がさらに悪化してサムスン電子などの業績悪化懸念が高まり、海外に流出する資金が一段と増える展開も想定される。そうしたリスクに対応するために、尹政権はわが国との関係修復を急いでいる面はあるのだろう。韓国半導体産業が、次世代ロジック半導体の生産体制を確立するため、わが国の超高純度の半導体部材や製造装置の輸入促進は欠かせない。また、わが国との通貨スワップ協定は韓国経済がリーマンショックなどの厳しい状況を乗り切るために重要な役割を果たした。今後も尹政権は経済の下方リスクを抑えるために、対日関係の改善に取り組むだろう。
●米FRB監察総監、幹部の金融取引「徹底調査」 批判受け釈明 5/18
米連邦準備理事会(FRB)のマーク・バイアレク監察総監は17日、上院銀行委員会の公聴会で証言し、FRB幹部の金融取引に関する倫理調査に批判があることは承知していると述べた上で、独立した立場で徹底した調査を行ったと釈明した。
FRB幹部の金融取引がここ1年半で問題視されるようになり、ダラス地区連銀、ボストン地区連銀の各総裁が批判を浴びる中で退任。アトランタ地区連銀のボスティック総裁も昨年10月に金融取引で意図せず倫理規定に違反したことを認めた。
バイアレク氏は「私が監察総監に就任して以来、われわれの監視業務に抵抗したり異議を唱えたFRB議長はいない」と説明。「仮にそのようなことがあれば、私はためらわずに議会に報告する」とした。
上院の一部議員はFRB首脳が任命する監察総監が適切な監視と説明責任を果たせるかについて懐疑的な見方を示している。
監察総監室(OIG)は昨年7月、パウエルFRB議長とクラリダ副議長(当時)の金融取引に問題はなかったと報告したが、問題行為を隠したとの批判が出ていた。
バイアレク氏はこの報告書に少しの情報しか盛り込まれなかったのは意図的で、地区連銀に関する調査がまだ続いているためと語った。
●パウエル米FRB議長が正念場、インフレや銀行危機で集中砲火 5/18
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は2018年に就任して以来の数年間、新型コロナウイルスのパンデミック期などを通じて米経済をうまく導いてきた。しかし今は、根強いインフレやリセッション(景気後退)懸念、銀行監督などを巡り集中砲火を浴びており、どのようなFRB議長として歴史に名を残すかが決まる正念場を迎えている。
バイデン米大統領が先週、FRBでは比較的新顔のジェファーソン理事を副議長に指名したことは、ある意味でパウエル議長への信任投票と見なすことができる。
ただパウエル氏(70)は現在、金利の行方を巡って難しい選択を迫られ、支持率はFRB議長として過去最低に落ち込み、FRB内部からも監督体制の外部検証を求める声が上がるという異例の状況に直面している。そうした中でジェファーソン氏を副議長に迎えることは、パウエル氏の指導力を試すものでもある。
リセッションを招かずにインフレを抑え込み、がたついた金融システムの維持に成功したFRB議長として歴史に名を残すのか。それとも物価を制御できなくなり、手綱を取り戻すために激しい利上げという手段に訴えた議長として記憶されるのか。これからの時期が、その明暗を決することになりそうだ。
信認低下
40年ぶりの高インフレと金利の高騰、相次ぐ銀行破綻を受け、パウエル氏の支持率は低下している。最近のギャラップ調査によると、同氏への信認は調査開始の2001年以来、歴代のFRB議長の中で最低を記録した。
外部機関によるFRBへの厳しい監督を求める声は共和、民主両党から上がっており、パウエル氏は全方位から攻撃を受けている。いわく、トランプ前政権時代に規制緩和を黙諾したことが銀行の問題を悪化させた、いや、小規模銀行を傷付ける対応をしようとしている―。インフレ制御のために十分な利上げを実施しなかった、いや、利上げをし過ぎて経済を脅かしている─。
FRB内部からもそうした批判は上がっている。コンセンサスで物事を決め、独立性を守ってきた組織として異例の事態だ。
ボウマンFRB理事は12日、シリコンバレー銀行破綻の経緯を巡るFRB内部の調査報告書について、内容が「限定的」だと指摘し、さらに検証を深めるために外部機関に調査を委託すべきだと述べた。
FRB史を研究する学者からは、現職理事が外部検証を求めるのは、前代未聞ではないが珍しい、との声が出ている。
インフレを誤診
トランプ前大統領に任命されたパウエル氏が昨年再任されたのは、パンデミックに全力で対応し、2021年に就任したバイデン大統領の景気刺激策を力強く支えた手腕が評価されたためだと言ってよい。
しかし同年、パウエル氏はインフレが「一過性」であるという誤った判断を下し、その後急スピードの利上げを余儀なくされた。
FRBは今後、毎回の連邦公開市場委員会(FOMC)で金利をさらに引き上げるべきか、あるいは据え置くべきかについて、いつになく激しい議論を繰り広げそうだ。ジェファーソン理事が副議長に任命されれば、パウエル氏の片腕として議事進行を支えることになるだろう。
ジェファーソン氏は12日、フーバー研究所で開催された金融政策会議で、FRBが「軌道に乗っていない」と主張する向きは「視野を広げて」経済がパンデミック以来いかに変化したかを考えるべきだと述べ、パウエル氏率いるFRBの政策を擁護した。
●経済見通しに対するリスク、なお高水準を維持=NY連銀 5/18
米ニューヨーク(NY)連銀が17日に公表したリポートで、連邦準備理事会(FRB)による急速な利上げ下での経済見通しに対するリスクはやや緩和したものの、なお高水準を維持していることが分かった。
NY連銀は経済が直面する様々なリスクを測定するための新たなデータシリーズの一環として今回の調査結果を発表。NY連銀は金融情勢の変化がカギを握っているとし、「実質的な活動に対する下振れリスクは2023年に後退したが、依然として高水準にある」とした。
また、昨年大幅に高まった失業率の上昇リスクも今年に入り和らいでいるものの、依然として高水準にあると指摘。一方、FRBの対応はインフレ上昇リスクを低下させたとした。 
●日経平均3万円台回復は“うたかた”と専門家 株高に「3つの落とし穴」 5/18
株価3万円は通過点か、天井か──。17日の日経平均終値は前日比250円高の3万93円と1年8カ月ぶりに3万円台を回復した。18日の日経平均株価も、前営業日比480円34銭高の3万573円93銭で終了。さらには東証株価指数(TOPIX)はバブル期以来、約33年ぶりの高水準と、列島は株高に沸いているが、額面通りには受け取れない。「セルインメイ」(5月中に売り抜けろ)と言われるが、どうしたらいい?
逃げ足が早い海外投資家
株価は3月末から約2000円も上昇。牽引するのは海外勢だ。東証によると海外投資家は5月第1週まで6週連続で日本株を買い越した。
「米中など世界経済の雲行きが怪しい中、日本は比較的、好材料が揃っている。欧米の金融引き締めが終わらない中、海外投資家は金融緩和が継続している日本に目をつけ、株を買い続けている。東証によるPBR(株価純資産倍率)改善指導や、著名投資家のバフェット氏が日本株に強気なのも追い風です。ただ、海外投資家は株価が天井を打ちそうになると、たちまち売りを加速させる。決して安定株主ではありません」(市場関係者)
企業業績はまちまち
3万円台に乗せるほど企業業績はいいのか。上場企業の2023年3月期決算をみると、資源高と円安の恩恵を受けた商社など非製造業は好調だが、自動車など製造業は減益。大手メガバンク3行は高収益も、上場地銀73行の純利益は前期比2%減だ。
22年10〜12月期決算のように、「下方修正」はあまり聞こえないが、全体として“絶好調”と言える業績ではない。
「5月中に売り抜けろ」が賢明か?
17日に発表された1〜3月期のGDPは、海外経済の低迷により輸出が4.2%ものマイナスだった。日本株は輸出への依存度が高いが、この先、世界経済がさらに悪化する可能性が高まっている。
米国は金融不安が払拭されていない。3月以降、米銀3行が破綻し、金融機関は融資を引き締めている。14、15日には新興メディアや製薬会社など7社が倒産(負債額5000万ドル=約70億円以上)。2日間の倒産件数としてはリーマン・ショック以降、最多だ。米政府のデフォルト危機もくすぶり、リセッション(景気後退)の可能性が日に日に高まっている。
ゼロコロナ解除により、世界中から期待を集めた中国経済もパッとしない。
住宅需要が低迷し、耐久消費財の需要回復に時間がかかっている。16〜24歳の失業率はナント20%超。消費拡大の足かせとなっている。
金融ジャーナリストの森岡英樹氏が言う。
「世界的な金融危機やリセッションが起き、世界同時株安が起こる可能性は否定できません。日本経済が堅調でも、“リスクオフ”の流れができれば、投資は株から金や国債に向かい、日本株も大きく売られることになる。株価3万円は“うたかたの株高”ととらえた方がいいでしょう」
兜町では、夏に向けて日経平均は下落し、2万5000円を割るとの見方もある。
「セルインメイ」が賢明のようだ。
[ 「セルインメイ」 5月に売り逃げろ / 米国の格言で、1月から5月にかけて株式相場は上昇、6月から下げる傾向があることから、5月には株式を売って相場から離れたほうが良いという意味。英語では「Sell in May and go away」、但しこれに続けて「But remember to come back in September」とあり、9月頃には株価が底を迎える傾向があることから、そのころに再び市場に戻ってくることを忘れないように、としている。]
●外国為替市場で円安再び進む 1ドル=137円90銭台半ば 5か月ぶり円安 5/18
18日の外国為替市場で、円相場は一時、1ドル=137円93銭まで円安・ドル高が進みました。去年12月以来、5か月ぶりの円安水準です。
円相場は、今年3月8日に1ドル=137円91銭をつけたあと、アメリカでシリコンバレーバンクなど銀行の破綻が相次いだことで金融不安が発生し、アメリカの中央銀行・FRBの急速な利上げが停止するのではとの思惑から円高が進んでいました。
さらに最近では、「債務上限問題」でアメリカがデフォルト=債務不履行になることの悪影響が懸念されていましたが、17日にバイデン大統領が「デフォルトにはならない」と改めて強調したことで、安心感から円売り・ドル買いの動きが進みました。
●米インフレ高すぎる、利上げ累積効果まだ=ジェファーソンFRB理事 5/18
米連邦準備理事会(FRB)のジェファーソン理事は、インフレ抑制に向けた進展が緩慢になっている可能性があるとしながらも、FRBがこれまでに実施した急速な利上げの完全な効果を評価するのは現時点では尚早との考えを示した。
ジェファーソン理事は、ラエル・ブレイナード氏が国家経済会議(NEC)委員長に就任したことで空席になっているFRB副議長に指名されている。
全米保険監督官協会(NAIC)向けの講演原稿で「インフレはなお高すぎ、いくつかの指標では進展が鈍化している。エネルギーと食品以外では、インフレの進展は依然として課題になっている」とし、特にサービス業では著しい低下の兆候は見られていないと述べた。
同時に、経済は今年に入ってから「かなり減速している」とも指摘。米経済はリセッション(景気後退)に陥らないと自身は予測しているとしながらも、時間の経過とともに雇用の伸びが鈍化し、失業率が上昇する可能性があると警告した。
その上で、FRBのこれまでの利上げの遅行効果のほか、このところの銀行業界のストレスによる「下振れリスク」もあると指摘。6月13─14日の次回連邦公開市場委員会(FOMC)で金利据え置きと追加利上げのどちらを自身が支持するかについては明らかにしなかったものの、同FOMCまでに発表される雇用や物価のデータを踏まえ検討すると述べた。
金融政策の効果が出るには時間がかかるということは歴史で示されているとし、需要に対する金融政策の効果が十分に得られるには1年という期間は十分ではないと指摘。最近の銀行業界のストレスを受けた貸出条件の引き締まりは「小幅」でしかなかったことを示す証拠が今のところは出ているとしながらも、これが家計消費や企業支出に及ぼす影響の予測は難しいとし、「家計消費と企業投資への影響の大きさにはかなりの不確実性があり、これにより経済見通しの予測が複雑になっている」と述べた。
●FRB理事 積極利上げと融資基準の厳格化を巡り辛抱強く見守る 5/18
ジェファーソンFRB理事は、過去1年間の積極利上げがどのように経済に浸透するか、政策の遅効性と融資基準の厳格化を巡る不確実性を理由に、辛抱強く見守る意向を示した。
同理事はワシントンで開催された全米保険委員会での講演の中で、「金融政策は時間差をもって機能し、需要が金利上昇の効果を十分に感じるには、1年という期間は不十分であることを歴史は示している」と述べた。また、最近の銀行セクターの混乱による融資基準の厳格化が成長にどのような影響を与えるかは不明であるとした。「今後数週間、金融政策の適切なスタンスを考えるうえで、これらすべての要因を考慮するつもりだ」と述べた。
理事は、成長が減速の兆しを見せているにもかかわらず、インフレ率がまだ高すぎることを強調。「インフレは高過ぎるし、その低下はまだ十分に進んでいない」と述べた。エネルギーと食料品以外ではインフレの進展は依然として課題だと述べている。
バイデン大統領はジェファーソン理事を次期副議長に指名し、上院の承認を待っている。
●バイデン大統領「米国債がデフォルトにならないと確信」 サミット出発前演説 5/18
アメリカのバイデン大統領は、G7広島サミットに出発する前に演説し、野党との協議が続く「政府の債務」の上限の問題に関連して「アメリカ国債がデフォルトに陥ることはない」と改めて強調しました。
バイデン大統領は17日、G7広島サミットへの出発を前に、野党との協議が続く政府の「債務の上限」の引き上げについて演説しました。
バイデン大統領「アメリカは借金を踏み倒す国ではありません。これまで、これからもデフォルトには陥りません」
アメリカでは、議会が「債務の上限」の引き上げなどの対策で合意できなければ、6月1日にも国債が債務不履行=デフォルトに陥るおそれが指摘されていますが、バイデン大統領は「デフォルトにはならない」と改めて強調しました。
バイデン氏はこの問題に対応するため、G7広島サミットへの出席後に予定していたオーストラリアなどへの訪問を取りやめていて、21日に帰国し、その後、野党側とできるだけ早く合意したい考えです。
一方、野党・共和党のマッカーシー下院議長は記者会見で「協議にかけられる時間が短い」と指摘したうえで、デフォルトのおそれが迫っているのはこれまで野党との協議に応じてこなかったバイデン政権の責任だと強調しています。
●債券は下落、米デフォルト懸念後退でリスク選好−日銀オペ結果は弱め 5/18
債券相場は下落。米国で債務上限問題を巡る交渉が進展し、デフォルト(債務不履行)を回避するとの見方からリスク選好の流れが強まり、売りが優勢だった。日本銀行が実施した国債買い入れオペの結果が弱めだったことから、午後は下げ幅を拡大をした。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは、国内外の株高や海外金利高など外部環境がリスクオンのムードになっていることが相場の重しと指摘。日銀オペについては、残存5年超10年以下と25年超の応札倍率が上昇するなど売り圧力が強く、「午後の相場で売り材料になった」と話した。
日銀は午前の金融調節で定例の国債買い入れオペを通知した。対象は残存期間1年超3年以下、3年超5年以下、5年超10年以下、25年超。買い入れ額は5年超10年以下が前回比500億円減の5750億円。それ以外は据え置いた。10年国債を0.5%の利回りで無制限に買い入れる指し値オペも通知し、先物決済に使われる最も割安な受渡適格銘柄(チーペスト)対象の同オペも継続した。
●米、デフォルト回避の可能性高まる 5/18
ドル円は続伸。米国がデフォルトに陥る可能性が後退したとの見方からリスクオンが強まり、ドル円は137円72銭まで上昇。5月2日に付けた直近高値に迫る。ユーロドルでもドル高が進み、ユーロはおよそ1カ月半ぶりに1.0811まで売られる。株式市場は3指数が揃って大幅に上昇。債務上限問題で与野党が合意に達するとの見方が強まったことで、ダウは408ドル、S&P500は48ポイントの上昇。債券は続落。長期金利は3.56%台に上昇。金は続落し、原油は大きく反発。
●米政府デフォルトと金利、為替の関係 5/18
米債務上限拡大を巡る政府と議会の交渉が続く中で、米2年債利回りなど米金利が一時上昇する場面も見られた。ではこれは、上限の拡大が遅れ、米政府がデフォルト(債務不履行)状態に陥ることでの米国債価格下落(利回り上昇)を織り込む動きかと言えば違うのではないか。米政府のデフォルトが現実味を帯びた2011年8月、米国債価格はむしろ上昇し、利回りは低下した。そして、米ドル/円は米金利低下に連れる形で下落となった。
基本は株安・金利低下・米ドル安の「トリプル安」
米ドル/円への影響が大きい米2年債利回りと米10年債利回りは、約2ヶ月もの間、比較的狭い範囲での方向感の乏しい展開が続いてきたが、今週にかけてじりじりと上昇し、この間の上限に接近してきた(図表1参照)。ではこれは、米債務の上限拡大が遅れ、米政府がデフォルトに陥ることで米国債下落、債券利回り上昇となることを織り込み始めたということだろうか。
   【図表1】米2年債及び10年債利回りの推移(2023年1月〜)
米政府のデフォルトが現実味を帯びたのは2011年8月だった。ただこの時は、むしろ2年債も10年債も価格は上昇し、利回りは大きく低下に向かった(図表2、3参照)。ではなぜ、米政府が債務不履行となりかねない中で、米国債価格は暴落どころか、逆に大きく上昇するところとなったのか。
   【図表2】米2年債利回りの推移(2011年)
   【図表3】米10年債利回りの推移(2011年)
そもそも米政府がデフォルトに陥っても、すぐに米国債の利払い等が全面的にストップするわけではないと見られている。一方で、一部の短期債償還に支障をきたす懸念はあるため、金融市場ではリスクを回避する動きが広がり、リスク資産の株価は売られ、安全資産とされる中長期の国債はむしろ買われることで、債券利回りは低下になったと考えられた。
以上のことから、今週にかけて米2年債や10年債の利回りが上昇したのは、5月12日に発表されたミシガン大学の消費者期待インフレ率が予想より強かったことなどをきっかけに、一時は見送られるとの見方となっていた6月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ予想が再燃したことなどの影響が大きいのではないか。別な言い方をすると、米債務上限問題に伴う政府のデフォルト・リスクを優先的に織り込む動きになっていなかった可能性が高そうだ。
2011年8月のケースなどを見ても、今後本格的に米政府のデフォルト・リスクを織り込む動きが広がるようなら、株価下落、そして中長期の米国債が買われることで、債券価格上昇、利回り低下に向かう可能性が基本となるのではないか。
さて、米ドル/円は米金利及び金利差と基本的に連動する(図表4参照)。このため、米デフォルト懸念が高まった場合は、米国株安、米金利低下、米ドル下落といった米「トリプル安」との見通しになりそうだ。
   【図表4】米ドル/円と米2年債利回り(2023年4月〜)
●NYダウ・仮想通貨関連株大幅反発 米デフォルト懸念後退か 5/18
伝統金融
・NYダウ:33,420ドル +1.2%
・ナスダック:12,500ドル +1.2%
・日経平均:30,093円 +0.8%
・米ドル/円:137.5 -0.05%
・米ドル指数:102.8 +0.2%
・米国債10年:年利回り3.5 +0.6%
・金先物:1,985.9ドル +0.01%
暗号資産
・ビットコイン:27,370ドル +1.2%
・イーサリアム:1,823ドル -0.2%
本日のNYダウ
本日のNYダウは+408.6ドルと大幅に反発。ナスダックは+157.5ドルで取引を終えた。米債務上限問題が今週中に解決されることへの期待感が買いを誘った格好だ。
米債務問題の進捗
バイデン米大統領は17日の記者会見で、債務上限問題を巡り両党の議員幹部との間で上限引き上げに関する合意が成立すると確信しているとして、デフォルト(債務不履行)を回避できると述べた。また、21日に進捗について記者会見を行う予定があると話したという。「Xデー」は6月1日とされる。
マッカーシー下院議長も「米国が債務不履行に陥ることはない」と言明し、週内合意は「実行可能だ」と述べた。
前日では、バイデン大統領とマッカーシー下院議長は債務問題について予定通りに協議を実施したが、当時は合意がまとまらず、話し合いを続けていくことになった。
また、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOや、シティグループのジェーン・フレーザーCEOら米大手銀のトップたちは17日に米民主党のシューマー上院院内総務に招待され債務上限問題をめぐって話し合った。ダイモン氏は、デフォルトは「恐らく」ないだろうとコメントした。
デフォルト回避への期待からドルは続伸し、ドル/円で一時は1ドル=137円71銭まで上昇。リスオンモードが広がり、米国債相場は全面安となった。
4月の米住宅着工件数
4月の米住宅着工件数は年率換算140万1000戸に2.2%増加し、予想の140万戸を上回った。一戸建て住宅の建設許可件数は昨年9月以来7カ月ぶりの水準に増加したが、住宅建設許可件数は前月比-1.5%、141万6000件にとどまった。
住宅不動産業界は徐々に回復しつつあることを裏付ける内容ではあるが、ロイターによるとネーションワイドのチーフエコノミストのボストジャンチッチ氏は信用状況の引き締まりなどを背景に「住宅市場の著しい回復にはまだ程遠い」とコメントしたという。
経済指標
・5月18日21時30分(木):米前週分失業保険継続受給者数・新規失業保険申請件数
・5月19日24時(金):パウエル米連邦準備理事会議長 発言
・5月23日22時45分(火):米5月製造業購買担当者景気指数(PMI、速報値)
・5月25日3時(木):米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨
・5月25日21時30分(木):米1-3月期四半期GDP個人消費(改定値)
米国株全面高
IT・テック株は全面高。個別銘柄の前日比:NVIDIA+3.3%、c3.ai+14.3%、テスラ+4.4%、マイクロソフト+0.9%、アルファベット+1.1%、アマゾン+1.8%、アップル+0.3%、メタ+1.5%。
仮想通貨関連株も大幅上昇
・コインベース|61ドル(+5.4%/+6.4%)
・マイクロストラテジー|290.5ドル(+6.2%/+7.2%)
・マラソン・デジタル|10ドル(+9%/+13%) 

 

●イーロン・マスクが「銀行は大バカ」と呆れた理由 5/19
1999年、若きイーロン・マスクと天才ピーター・ティールが、とある建物で偶然隣り同士に入居し、1つの「奇跡的な会社」をつくったことを知っているだろうか? 最初はわずか数人から始まったその会社ペイパルで出会った者たちはやがて、スペースXやテスラのみならず、YouTube、リンクトインを創業するなど、シリコンバレーを席巻していく。なぜそんなことが可能になったのか。
その驚くべき物語が書かれた全米ベストセラー『創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説』がついに日本上陸。東浩紀氏が「自由とビジネスが両立した稀有な輝きが、ここにある」と評するなど注目の本書より一部を公開する。
兄弟で南アフリカからカナダに移住
イーロン・マスクの金融界での冒険は、大学時代に始まった。
イーロンと弟のキンバルは80年代の終わりごろに南アフリカからカナダに移住して、オンタリオ州キングストンのクイーンズ大学に通っていた。二人は有名人と知り合うために、新聞で見つけたおもしろそうな人に片っ端から電話をかけた。
あるときイーロンは、ノヴァ・スコシア銀行(スコシアバンク)の経営幹部、ピーター・ニコルソン博士の記事に目を留めた。ニコルソンは物理学とオペレーションズ・リサーチを修め、政治や政策、金融の世界に科学の知見を取り入れた人物だ。ノヴァ・スコシア州議員に選出されたり、カナダ首相府で副首席政策補佐官を務めたこともある。多彩なキャリアを通じて、パンチカード式コンピュータからカナダの漁業会社の漁業権共有協定までのあらゆる問題に取り組んでいた。
マスクは興味を引かれ、記事を書いた記者からニコルソンの電話番号を聞き出すと、早速電話をかけた。「突然、仕事をくれなんて言って電話をかけてきたのは、イーロンだけだよ」とニコルソンはほほえむ。マスクの度胸に感心したニコルソンは、イーロンとキンバルと食事の約束をした。
三人は昼食を取りながら「哲学や経済、世の中の仕組み」について語り合った。マスクは記事を読んで感じた、「めちゃくちゃ賢い巨大な脳の持ち主」という印象が間違っていなかったと確信した。
インターンとして働かせてほしいと二人が切り出すと、ニコルソンはスコシアバンクの自分の小さなチームに席が一つだけあると言った。ニコルソンの科学的志向に共感したイーロンがその席をもらうことに決まり、ニコルソンは彼を一人だけのインターンとして自分の手元に置いた。
ピーター・ニコルソンも栄誉を得た。イーロン・マスクの数少ない上司の一人になったのだ。(中略)
マスク、銀行に勤める
19歳のインターンのマスクにとって、これは金融界を最上部から俯瞰する絶好の機会となった。彼は早くも才能の片鱗を見せていた。「非常に優秀で、非常に好奇心が強かった」とニコルソンは言う。「すでに物事をとても大局的に捉えていたね」
仕事以外の時間にはニコルソンと「クイズをしたり、物理学や人生の意味、宇宙の本質について語り合ったりして過ごした」とマスクは言っている。ニコルソンによれば、マスクは当時から、ある分野に特別な関心を持っていた。「彼が本当に愛していたのは宇宙だった」
インターンシップの間、ニコルソンはマスクにどんどん難しい課題を与えた。その一つが、スコシアバンクの中南米向け債権ポートフォリオを分析するというプロジェクトだ。北米の銀行は70年代に発展途上国、とくに中南米の数か国に、経済の急成長を当て込んで数十億ドルの融資を行った。だが80年代になると成長は落ち込み、新興国の債務危機と融資した銀行の経営危機が取りざたされ始めた。
さまざまな対応措置が取られたが、いずれも失敗に終わった。ニコルソンを含む多くの専門家は、不良債権の証券化、すなわち債券への転換が、最善の解決策だと考えた。銀行は金利の固定化と返済期限の延長に同意し、その見返りとして、新しい債券を公開市場で売買できる。成長が再開すれば理論上は債券の値上がりが見込めるはずだ。たとえそうならなくても、国や銀行が連鎖的にデフォルトを起こし世界恐慌を招くという破滅的なシナリオよりは望ましい。
アメリカ財務長官ニコラス・ブレイディはこの案を支持し、その結果生まれた債券は「ブレイディ債」と呼ばれた。ブレイディ債は米ドル建てで、アメリカ財務省とIMF(国際通貨基金)、世界銀行が保証を与えた。89年にメキシコが初めて債務交渉に合意し、他国もあとに続いた。「ブレイディ債の流通市場がすぐに生まれた」とニコルソンは語る。
「50億ドル儲かりますよ、いまこの瞬間に」
実を言えばニコルソンは、中南米向け債権の課題で、とくに成果を期待していなかった。たんに飽きっぽいマスクを熱中させるほど手強い課題を与えただけのつもりだった。ところがマスクはブレイディ債の市場を詳しく調べ始めると、たちまちそこにビジネスチャンスをかぎつけた。
マスクがブレイディ債の保証にどれだけの価値があるかを計算してみると、それよりはるかに安い金額で、債権そのものを他行から購入できることがわかった。マスクはニコルソンに内緒で、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどのアメリカの金融機関に電話で問い合わせた。「僕は19歳かそこらの若造だったけど、『こちらはスコシアバンクですが、この債権はいくらで買えますか』なんて聞きまわっていた」
マスクは莫大な利ざやを稼ぐチャンスを見出した──他行から不良債権を安く買い入れ、ブレイディ債に転換されるまで持っていたらどうだろう? 数十億ドルの利益が得られるうえ、理論上はアメリカ財務省とIMF、世界銀行の保証付きだ。早速ニコルソンにこのアイデアを持ちかけた。
「債権を買い占めましょう。どこの銀行も大馬鹿ですよ、絶対に損しない投資スキームなのに」とマスクは言った。「50億ドル儲かるんです、いまこの瞬間に」
「銀行は新しいことは何もできない」
銀行の経営陣はそうは考えなかった。カナダの他行は途上国向け債権をすでに売却して莫大な損失を計上していたが、スコシアバンクだけは含み損を抱えたままブラジルとアルゼンチン向け債権を数十億ドル保有していた。このリスクで取締役会の批判を受けていたCEOは、これ以上のリスクを、ましてや新しく不確かなブレイディ債のリスクを積み増す気などなかった。
マスクは啞然とした。これは過去とは何の関係もない話だ。ブレイディ債はたしかに新しい。だがまさにそこが、このスキームの肝なのだ。
「だからこそ債権が売りに出されていた。どこの銀行のCEOも愚かで横並びの考え方に囚われていた」とマスクは息巻く。「莫大な利ざやを得るチャンスが目の前にぶらさがっているのに、銀行が何もしないのを見て仰天したよ」
ニコルソンは、CEOセドリック・リッチーの決定に理解を示す。中南米向け不良債権を保有し続けていたスコシアバンクは、他行よりも大きなリスクにさらされていた。「イーロンは当時よくわかっていなかったかもしれないが、スコシアバンクは含み損が大きすぎて債権を損切りできなかったんだ。そこに、さらに債権を買い増す? それはできない相談だった」
リッチーにもマスクにも同じ先見の明があったと、ニコルソンは言う。リッチーは途上国向け債権を保有し続けるべきだと考え、マスクは買い増すべきだと考えた。最終的にどちらの正しさも証明された。1989年から1995年にかけてさらに13か国が債務交渉に合意し、債務は売買可能な債券に転換されたのだから。
マスクはこのときのインターン経験から、「銀行がいかに能なしか」を痛感した。銀行は未知を恐れるがゆえに、数十億ドルもの利益をみすみす逃した。マスクはのちのX.comとペイパルでの取り組みで、このときの経験を根拠に、「銀行に勝てる」と信じて疑わなかった。「銀行がこんなにイノベーションが苦手なら、金融業界への参入企業が銀行につぶされるはずがない。銀行は新しいことは何もできないんだから」
●NY外為市場=ドル対円で半年ぶり高値、FRB緩和観測後退 5/19
ニューヨーク外為市場では、ドル指数が7週間ぶりの高値を付けたほか、ドルは対円で6カ月ぶり高値を更新した。底堅い経済指標を受け米連邦準備理事会(FRB)による緩和観測が後退したことに加え、連邦債務上限を巡り合意が得られ、米国はデフォルト(債務不履行)を回避できるとの期待で押し上げられた。
主要6通貨に対するドル指数は一時103.63と、7週間ぶりの高値を更新。終盤の取引では0.7%高の103.56。
ドル/円は一時138.74円と、6カ月ぶり高値を更新。終盤の取引では0.7%高の138.715円。
ホワイトハウス当局者によると、債務上限問題を巡りホワイトハウスと議会共和党の交渉担当者はこの日に再度会合を開き、19日も改めて会合を開く。報道によると共和党のマッカーシー下院議長はこの日、債務上限を引き上げる法案が来週に下院に提出されるとの見通しを示した上で、交渉は先週よりも良い位置にあるとの見方を示した。
マッコーリー(ニューヨーク)のグローバル外為・金利ストラテジスト、ティエリー・ウィズマン氏は「危機を予期して一部の人がヘッジとしてドルをショートにしていたことは明らかだが、数日中に解決策が見つかるというシグナルを受け、こうしたポジションが解消され、ドル高が進んでいる」と述べた。
この日発表の米経済指標では、労働省発表の5月13日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)が前週から2万2000件減少の24万2000件。エコノミスト予想は25万4000件だった。
このほか、フィラデルフィア地区連銀発表の5月の製造業業況指数はマイナス10.4と、4月のマイナス31.3から改善した。
コーペイ(トロント)のチーフ市場ストラテジスト、カール・シャモッタ氏は、一連の予想を上回る経済指標とFRB当局者のタカ派的なコメントが相まって金利先高感が出ていると指摘。下半期の利下げ観測は後退しているとの見方を示した。
中国人民元は対ドルで6カ月ぶり安値を更新。オフショア取引で一時1ドル=7.0608元を付けた。
マッコーリーのウィズマン氏は「中国の経済指標はここ数週間、思わしくない」とし、「回復が軌道に乗り、5%を超える経済成長率が達成できると中国が示すまで、ドルが(人民元に対し)再び弱くなるのは難しい。中国が何らかの景気刺激策を発表することが唯一の道かもしれない」と述べた。
ドル/円 NY終値 138.71/138.74   ユーロ/ドル NY終値 1.0769/1.0773
●NY円、一時138円75銭 FRBの利上げ観測再燃 5/19
18日のニューヨーク外国為替市場で円が対ドルで急落し、一時1ドル=138円75銭と昨年11月下旬以来、約5カ月半ぶりの円安ドル高水準を付けた。堅調な米経済指標を背景に米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げが継続するとの観測が再燃し、運用に有利なドルが買われた。
午後5時現在は、前日比1円01銭円安ドル高の1ドル=138円66〜76銭を付けた。ユーロは1ユーロ=1・0766〜76ドル、149円33〜43銭。
朝方発表された米週間失業保険申請件数が市場予想を下回り、労働市場が依然として逼迫しているとの見方が強まった。米長期金利が上昇し、円売りドル買いが膨らんだ。日銀による大規模な金融緩和政策は当面続く見通しで、日米金利差の広がりも意識された。
●NY円、続落 1ドル=138円65〜75銭 FRBの利上げ継続観測で 5/19
18日のニューヨーク外国為替市場で円相場は6日続落し、前日比1円の円安・ドル高の1ドル=138円65〜75銭で取引を終えた。一時は138円75銭と2022年11月以来の安値を付けた。米連邦準備理事会(FRB)の利上げが続くとの見方から円売り・ドル買いが出た。米債務上限問題への懸念が和らいだのも低リスク通貨とされる円の重荷だった。
18日発表の週間の米新規失業保険申請件数などの経済指標は米経済の底堅さを示したと受け止められた。ダラス連銀のローガン総裁は同日、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ見送りについて「きょうの時点ではまだその段階にない」と述べた。今後のデータ次第では6月も利上げが続く可能性が意識された。一方で日銀の金融緩和策は長引くとの見方は強く、日米の政策の方向性の違いが円売り・ドル買いを促した。
米債務上限問題を巡っては、野党・共和党のマッカーシー下院議長が18日に「合意に至る道筋が見える」と述べた。来週にも下院で採決する見通しという。米国が資金繰りに行き詰まって債務不履行(デフォルト)に陥る事態は避けられるとの見方が広がったのも円売りにつながった。
円の高値は137円77銭だった。
円は対ユーロで5日続落し、前日比20銭円安・ユーロ高の1ユーロ=149円35〜45銭で取引を終えた。
ユーロは対ドルで3日続落し、前日比0.0070ドルユーロ安・ドル高の1ユーロ=1.0765〜75ドルで取引を終えた。FRBの利上げ継続観測を背景にユーロ売り・ドル買いが出た。
ユーロの安値は1.0763ドル、高値は1.0817ドルだった。
●FRBの利上げと銀行監督責務、矛盾せず=バー副議長 5/19
米連邦準備理事会(FRB)のバー副議長(金融規制担当)は18日、FRBの金融政策設定と銀行に対する監督・規制の責務の間には本質的な矛盾はないと述べた。
「金融政策に携わる際には、雇用の最大化および物価の安定という責務に集中することが重要だ」と指摘。こうした急激な利上げの中でシリコンバレー銀行(SVB)はリスク管理を怠り、それが3月に破綻した根本的な理由だとした。 
●米地銀に商業用不動産の重圧、見切り売りで損失増大も 5/19
米国の不動産市況が悪化する中、多くの米地銀が規制で定められた不動産向け融資の上限数値を突破しており、商業用不動産(CRE)ローンの売却を検討せざるを得なくなるかもしれない。
地銀は、商業用不動産および建設市場への最大の貸し手だ。最近は不動産向け融資の基準を引き締めたり件数を減らしたりしており、特にシリコンバレー銀行など一連の地銀破綻後は、そうした動きを強めている。
金利の上昇を受け、多くの不動産企業は利払いに苦慮している。しかも、リセッション(景気後退)懸念が広がっているため、オフィス需要が減って不動産価格は下落している。
それでも不動産データ企業トレップのデータによると、いまだに多くの地銀で不動産向け融資が規制の上限を上回っている。
米連邦預金保険公社(FDIC)などが2006年に定めた指針では、銀行はCREおよび建設向け融資がそれぞれ総資本の300%と100%を超えると、当局からの監視が強化される。
16日に公表された4760行の公式規制データをトレップが調査したところ、763行はCRE向けと建築向けのいずれかが上限を超えていた。
そうした銀行の割合は、総資産10億─100億ドルの銀行で約30%、総資産100億─500億ドルの銀行で23%に及ぶ。
最近は大手銀行の過剰なCRE向け融資が指摘されているが、このデータを見ると、銀行セクター全体で問題が深刻化していることが分かる。
貸し渋りも
トレップの調査ディレクター、スティーブン・ブッシュボム氏は「(CRE)を巡る懸念が広がる中で、集中比率(規制で定められた比率)を超えている銀行は、融資継続を大いにためらいそうだ」と語った。
当局の指針では、上限を超えた銀行は特定のローン債権を売却するなど「リスク管理慣行を強化」するよう求められている。
地銀のパックウエストは3日、ローン債権の売却を検討していると発表した。トレップのデータによると、同行はCRE向け融資の比率が328%、建築向け融資の比率が126%と、いずれも上限を超えている。
FDICのグルーエンバーグ総裁は16日の議会証言で、現在のような市場環境が続けば、CREローンのポートフォリオは「厳しい状況に直面する」と警鐘を鳴らした。
過剰な融資を抱えた銀行は、CREローンの借り換えを断る可能性がある。当局の指針やアナリストの話を踏まえると、極端なケースでは既存ローンの一部もしくは全部を処分する銀行も出てきそうだ。
KBRA・クレジット・プロファイルのマネジングディレクター、マイク・ブロットショル氏は「テナントが一斉にオフィス面積を減らしているため、供給がだぶついて賃料に下押し圧力が働いている。つまりオフィス用不動産は現在、最悪の状況だ」と説明。「大きな銀行危機に見舞われたことで、こうした地銀の一部はCREローンの一部をバランスシートから切り離そうとするかもしれない」と語った。
投資プラットフォーム、ファンドライズのベン・ミラー最高経営責任者(CEO)によると、CREローン債権の需要は乏しいため、売り手は損失を引き受けざるを得ないかもしれない。
「銀行はひどい価格を提示されるだろう」とミラー氏は話した。
●株価バブル後最高値更新、日本経済の変化の芽 5/19
今回の局面で、株価がバブル後最高値を更新するとは、恥ずかしながら思っていませんでした。日経平均株価は17日に、1年8か月ぶりに3万円台を回復、さらに19日には、終値が3万808円35銭と33年ぶりの高値をつけて、バブル後の最高値を更新したのです。
バブル崩壊後の高値更新
日経平均株価は、バブル時代の1989年に3万8915円と終値でのピークをつけました。その後は、日本経済の停滞と共に、長らく低迷を続け、再び3万円台を回復するのに30年もかかりました。
それが、2021年2月のことでした。コロナ禍で世界的に財政・金融政策が総動員されて、世界の株価が急回復を遂げた時期と重なります。
同じ2021年9月にも再び3万円台をつけたものの、日本経済はコロナ感染者が増加する度にマイナス成長を繰り返し、この間、株価は3万円の大台に戻すことができませんでした。
米株価の上昇を伴わない日本の株高
その日経平均株価が、3月中旬の2万6000円台から急伸し、3万円台回復どころか、バブル後最高値まで更新したのですから、驚きです。
なにせ世界は金融引き締め局面、アメリカの景気後退が心配され、銀行破綻など金融不安が燻る中で、日本株が突出して値上がりすることに違和感がなくもありません。
今回は、2021年の時と違って、アメリカの株価上昇を伴っていないことが大きな特徴です。私が、今回そう簡単には3万円は行かないだろうと思っていた理由も、そこにありました。
しかし、どうやらアメリカの株式市場の方向性が定まらないからこそ、日本株が買われたようです。
インフレや金利の先行きや、景気悪化の程度が見通せない上に、金融不安まで加わって、長らく買い時を待ってきたアメリカや世界の投資家たちが、その代替先を求め始めたのです。
その際に光が当たったのが、日本市場だったようです。「消去法」、「代替先探し」、「幕間のひとコマ」などと専門家が評するのも、そのためです。
日本株が評価された理由とは
日本株がなぜ選ばれたのか。まずベースとして、日銀の緩和姿勢が変わらないという安心感が広がったことでしょう。
植田総裁に変わって、すわ政策転換かと身構えたものの、当面は「変化なし」と、市場は判断しました。為替市場も円安で推移していて、総じて日本企業の業績にもプラスです。
そして、その企業業績が、2023年3月期の決算を見ても全体としては非常に好調です。コロナからの経済活動再開で非製造業を中心に期待以上の好業績で、24年3月期も全産業で見れば増収増益が見込まれています。
その背景にあるのが、「物価も賃金も上がり始めた日本」という海外投資家の認識でしょう。物価も賃金も凍り付いていた状態が正常化に向けて動き始めたという期待です。物価が上がることが経済成長や業績向上につながると見ているのでしょう。
そうした期待を端的に表しているのが、アメリカの著名投資家ウォーレン・バフェット氏の「日本株推奨」です。日本の総合商社株に投資したバフェット氏が日本を訪れ、追加投資を表明したことは、世界中の投資家の多くの注目を集めました。
さらにここに来て、東京証券取引所がPBR1倍以下の上場企業に対し改善措置を求めていることも影響しています。
PBRとは「株価純資産倍率」のことで、これが1倍以下だと事業を続けるよりも、資産をすべて売り払って会社を解散した方が株主にとって得、という数字です。
東証のこうした要請を受けて、東京市場では自社株買いがブームになっており、それが株価を押し上げている面もあります。
もちろん、「内部留保」を「自社株買い」にあてるだけでは企業は成長しませんが、少なくとも株主を意識した経営に変わりつつあることが、投資家には評価されているのです。
日本の変化の芽に注目も、米景気には警戒が必要
こうして見てくると、いわゆる「稼ぐ力」を含めた日本企業や日本経済の変化が、それなりに評価を受け始めたという面があるのです。
その一方で、株価の先行きに警戒は必要です。アメリカの景気後退が現実のものになれば、日本の株価にも影響は避けられません。
グローバル経済の後退局面では、生産財輸出を得意とする日本経済は、想定以上に大きなダメージを受けます。依然として先行きに慎重な見方をする市場関係者は多くいます。
前回の2021年の時には、3万円台の「滞空時間」は、短いものでした。その3万円台が定着するかどうかは、海外投資家たちが目ざとく見つけた日本経済の変化の良い兆候を、どれだけ定着させて行けるかにかかっています。それは、「バブルとその清算の時代」を越えていくための、必要な過程です。
●深刻化する中国の地方債務問題に解決策はあるか  5/19
中国では、地方政府の財政状態が悪化している。『財新周刊』4月24日号の社論は、地方政府の財政健全化には、救済ではなく、構造改革が必要だと指摘する。
地方債務がはらむリスクが大きな注目を集めている。先日、西部のある省の公式シンクタンクが省内の債務整理の状況を調査し(訳注:現地報道では貴州省とされる)、同省では「債務整理を進めることが極めて難しく、もはや自力で解決できる状態ではない」とするリポートを発表した。地方政府の見解を反映したものとみられるが、前代未聞のことである。
財政部(日本の財務省に該当)は2023年初頭に、中央政府による救済は行わないという原則を堅持すると述べた。中央政府は、財政規律を緩めるべきではない。
膨れ上がる地方債務
地方債務は、08年のリーマンショック後に急激に膨れ上がった。中央政府は15年ごろから対策を打ち始めるが根本的な解決には至らず、地方債務は増え続けている。17年以降、地方政府の債務残高は年平均16.3%のペースで増加しており、同時期の名目経済成長率7.8%を大きく上回っている。
地方債務増加の一因には、地方政府の特別債が一般債務と化していることがある。特別債とは、収益の見込みがある公共事業に発行され、一定期間内に元利返済することを約束した国債を意味する。
19年以降、特別債を利用した投資範囲は拡大し続け、極めて長期の満期が設定されたものもある。22年には地方政府の特別債の発行規模は初めて5兆元を超え、22年末には債券市場の20%以上を占めるまでになった。債務規模の急速な拡大は、利払い圧力の急上昇につながっている。地方の隠れ債務の規模を正確に把握できておらず、債務の費用対効果も疑問視される。
こうした問題の背景には、地方政府の体制改革が停滞していることがある。地方政府にとって主要な税収源となってきた土地財政はもはや持続不可能である。その他の地方税は、十分とはいえず、地方債務は途方もない額に膨れ上がっている。また、財政政策の執行権と責任の所在があいまいであることも問題だ。省レベル以下の地方政府では、上層部が財政政策を決定しているが、その責任を取るのは下層部である。そのため、無責任な過剰投資が続いてきた。
とくにこの3年間は、新型コロナ禍による深刻な経済影響、不動産業界の価格下落、各種税の減免が重なった。税収減少に加え、新型コロナ関連の歳出増加で、地方政府の財政状態は悪化している。
こうした問題の背景には、地方政府の体制改革が停滞していることがある。地方政府にとって主要な税収源となってきた土地財政はもはや持続不可能である。その他の地方税は、十分とはいえず、地方債務は途方もない額に膨れ上がっている。また、財政政策の執行権と責任の所在があいまいであることも問題だ。省レベル以下の地方政府では、上層部が財政政策を決定しているが、その責任を取るのは下層部である。そのため、無責任な過剰投資が続いてきた。
とくにこの3年間は、新型コロナ禍による深刻な経済影響、不動産業界の価格下落、各種税の減免が重なった。税収減少に加え、新型コロナ関連の歳出増加で、地方政府の財政状態は悪化している。
政府による構造改革が急務
問題の解決に向けて重要なのは行動である。政府は、財政・税制の改革を進め、中央政府と地方政府にとって合理的な債務管理のシステムを構築する必要がある。さらに、地方債務について迅速な責任追及をすべきであり、外部監督を強化する必要がある。少なくとも、(政府が地方債務削減に動き始めた)15年以降の8年間は徹底的に調査を行うべきだ。債務を残したままでも役人として出世できるあしき例を示すことになる。
今年と来年は地方債務返済のピークであり、そのリスクはますます顕在化していくだろう。一度、救済の門戸を開けば、ほかの地方も続いて救済を求めるようになる。中央政府は、返済時期が近づけば近づくほど、財政規律を堅持していくべきなのだ。
政府による構造改革が急務
問題の解決に向けて重要なのは行動である。政府は、財政・税制の改革を進め、中央政府と地方政府にとって合理的な債務管理のシステムを構築する必要がある。さらに、地方債務について迅速な責任追及をすべきであり、外部監督を強化する必要がある。少なくとも、(政府が地方債務削減に動き始めた)15年以降の8年間は徹底的に調査を行うべきだ。債務を残したままでも役人として出世できるあしき例を示すことになる。
今年と来年は地方債務返済のピークであり、そのリスクはますます顕在化していくだろう。一度、救済の門戸を開けば、ほかの地方も続いて救済を求めるようになる。中央政府は、返済時期が近づけば近づくほど、財政規律を堅持していくべきなのだ。
●ボウマンFRB理事、銀行の規制強化けん制−統合促進の可能性指摘 5/19
米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は19日、銀行業界に最近生じたストレスへの対応として中小規模の金融機関を対象とした規制を強化することに反対を表明した。
ボウマン理事はテキサス州サンアントニオで開かれた銀行業界の会合で、「規模が小さく複雑ではない金融機関に対し、過剰に複雑で大規模な規制上の要件をさらに広げるべきだという見解があるが、これは銀行統合につながる可能性が高いという状況を無視したものであり、規制下の銀行システムの外側に銀行業務を押し出しかねない」と指摘。「2008年の金融危機を教訓にした改革でその支持者が求めていた結果とは確実に一致しない」と話した。
シリコンバレー銀行(SVB)の破綻を巡っては、第3者による調査をあらためて訴えた。

 

●賃上げトレンドを持続させ経済停滞を脱する足掛かりに 5/20
2023年3月の春闘は物価高の下、久しぶりの大幅賃上げに沸いた。政労使の意見交換も開かれ、賃上げを目指す日本経済のそれなりの一体感も醸成できた。ただし残念ながら、賃上げ率は不十分なものにとどまるだろう。大手企業の高回答は定期昇給分が含まれており、かさ上げされているからだ。連合の集計ではベースアップ分は2%程度であり、直近の物価上昇率4%弱(22年度3%)には届かない。そもそも今年の春闘の起点は輸入物価高騰によるコスト高であり、金融緩和継続による円安加速がそれを倍増した。22年度の貿易赤字は22兆円弱にも達し、政府は物価高対策として15兆円もの財政支出増大ならびに円安阻止方向の為替介入を迫られた。未組織の中小企業の状況は集計中だが、総じて見れば労使の痛み分け、財政を加えて政労使3者の三方一両損に終わった結果ではないか。
このように巨額の負担までしてインフレ目標を堅持し、望ましい成果をあげたと大本営#ュ表する必要があるのだろうか、と筆者は考える。しかし賃上げが必要とされる理由はインフレ目標達成のためばかりではない。むしろ日本の長期停滞を打破する手段として、賃上げが有効なのである。
マクロ経済上の各部門の投資・貯蓄とそれに伴う資金の流れを使って説明しよう。下記の図の上方の太線〈オレンジ〉は民間資金余剰(企業・金融機関・家計の貯蓄から投資を引いたもの)を表し、下方の太線〈青〉は資金余剰の貸出先である海外と政府部門を足したものを表す。図上の矢印はそれぞれ1998年金融危機、2008年リーマンショック、20年コロナショックの3度の資金取引のノコギリ刃状の急拡大を示している。これらはショックの合間は縮小傾向ではある。
民間資金余剰の中でも企業(非金融法人)の状況を表す面グラフ〈グレー〉が重要だ。転換点は金融機関が次々と倒れ、金融危機が生じた1998年である。当時、企業は当てにならない銀行を見切り、賃金や設備投資を節約して手元資金を増やし、借り入れ主体から貯蓄主体に転じて危機に備えた。この利益剰余金(いわゆる内部留保)を通した企業の貯蓄主体化が日本経済の長期停滞を招いた大きな要因だ。
通常の想定が成立しない日本のマクロ経済循環
この現実に正面から向き合う必要があるはずだが、多くの経済分析はうまく対応できていない。伝統的な経済学モデルの想定から外れているからだ。
家計が「貯蓄」し企業が「投資」する形で資金が循環して経済は成長していく。日本も98年以前は当たり前にこう動いていたものの、98年以後は家計だけでなく、企業も貸し手となってしまった。そこで成長と分配の好循環を改めて目標とするわけである。
是正策としてまず実施されたのは、二つの伝統的マクロ経済政策だった。一つは企業が資金を借り入れて設備投資を行わないので、資金のコストである金利を下げる金融政策、もう一つは民間消費過少・貯蓄過剰の場合、この貯蓄を借りて政府が公的支出拡大を行う財政政策である。
現状の巨額公的債務やマイナス金利が示すように政府と日本銀行は極限までこの二つの政策を推し進めてきた。ところが企業が貯蓄をしているぐらいだから、もともと資金需要は限られる。家計の利子収入は下がったが、日本では株式投資が家計に浸透していないため、上がった企業利益と株価の果実は得られない。他方、金融緩和で発生した資金余剰をいつまでも市場が吸収できなければマクロ経済が縮小均衡に陥る「必要悪」となる。
民間資金余剰の吸収先の一つ目が政府なら、もう一つの資金吸収先は海外だ。ショック直後は大規模に行われた政府借り入れも、時間が経てば徐々に減少していく。ところがその後、結果的に資金は海外に流れていき、内需にうまく回らなかった。これは企業選択の結果だが、海外投資は企業にとって経営上必要な判断だったとしても、国内家計にとってのメリットは薄い。国内の設備投資や雇用に還元されず空洞化を招くだけでなく、 海外M&Aなど直接投資のかなりが失敗し、これが海外子会社の株式評価損などに反映され、平均的にはこのストック評価損がフローの配当収入などを打ち消す大きさであることが分かってきた。さらに、 仮に利益を上げて株価に反映されたとしても、株式保有が少ない日本の国内家計には還元されない。
当然ながら、日本の伝統的製造業が輸出先で海外生産を迫られることは政治的には必然だし、輸出大国だった日本があまりに一国主義的なことは言うべきではない。しかし流れに付和雷同した非製造業などの無理な海外投資は失敗しているのである。反面国内では、日本企業は平均的には減価償却費の範囲内で投資をしており、追加の純投資あるいは拡大再生産をしていない。つまり日本は営々として余力を政府の借金と海外資産に振り向けたことで、世界一の公的債務国と対外純資産国になってしまったことになる。企業利益が海外流出している現状は、自らグローバル経済の植民地≠ノなっているようなものだ。
平均して国内総生産(GDP)比10%弱にも及ぶこの財政と海外部門に流れる資金余剰が、もし仮に内需に使われていたならば、大幅な経済成長につながっていたことは間違いない。多くの経済学者が議論を好む1〜2%の生産性の違いやインフレ率の微調整は、米国の課題と学会流行を反映しており、日本ではGDP比にして一桁違う資金循環の変化こそが重要だ。こういった循環に開いた大きな「穴」は政策や分析の「失態」でもあるが、改善余地という「希望」と見ることもできる。
以上のように日本の長期停滞の背景には「企業貯蓄放置」があり、2000年代の小泉純一郎政権下における「小泉改革」の時期が最初のボタンの掛け違いをもたらした。不良債権処理という言わば「手術」は成功したが、家計所得増大という「リハビリ」は行われなかったからだ。その結果、消費の原資である家計所得が不足し、消費増大の見込みがないため国内投資が進まない、人口が増大しないという低成長と低分配の悪循環という「合成の誤謬」に陥ってしまった。
コロナ禍後の今こそは、3度目の正直として民間貯蓄の有効活用が必要だ。主な活用先は1設備投資、2配当、3賃上げだ。日本の家計は未だに株式保有に躊躇しており、設備投資が消費より先行すると不良債権化してしまう。そこでまず賃上げで日本の家計を温めていかないと消費不振・人口減少により国全体が疲弊してしまう。
「分配」の主体は企業であれ「株式報酬」の拡充も視野に
問題はマクロ的な合成の誤謬だが、個別の企業にとっても人口減少とデジタル化の技術動向のもと、優秀な若年労働者を賃上げで惹きつけることはますます必要だ。そこで提案だが、現金による報酬だけでなく、従業員持株会(現在、シェア1%)やストックオプションなど、「株式」を使った労働者への報酬を拡充し、使い勝手を良くすることはできないだろうか。
格差拡大的として政府は強調しないが、実はこの10年で国内株式時価総額は利益に比例して250兆円から750兆円まで3倍近く上がった。アンケート調査によれば多くの上場企業は、金融機関や株式持ち合いなどで安定株主5割を確保しており、それ以上の興味は持たない。しかし安定株主は文字通り売買しないので、年間GDPに匹敵する500兆円もの株価時価総額上昇の果実は売買高の7割を占める外国人投資家を中心に流出してしまった。
また、有名人を社外取締役に据えるなど形だけの企業ガバナンス改革に政府は熱心だが、これでは従業員は力が入らないだろう。企業の利潤が自分の持ち株の価値に反映され、生活に役立つからこそ、従業員は定着し、業務そのものや業務の効率化にも熱意が持てるというものだ。実は1998年以前には、メインバンクによるガバナンスがあり、企業利益の上昇をボーナスや預金利子によって還元する広義の利潤分配が存在した。混乱の中でそれらのガバナンス機能が消え、株価の上昇を企業から家計へ還元する手段がなくなっている。家計の株式保有を促進する新NISA拡充を政府が決定しているこの時期に、「株式」という報酬手段を含めることが、ガバナンスのみならず企業内の保身保守一辺倒の判断を覆す方策ともなるのではないか。
これまで政府は成長と分配の好循環を唱えてきた。誤解しがちだが、そこでの分配とは企業が付加価値を賃金や利子、配当に分けて配分することであって、政府が行う「再」分配ではない。実は日本の生産性も利益も株価も悪くない。企業の分配が日本の家計に向けば、先行きを悲観する必要はない。
●米FRB、利上げ停止の可能性も 5/20
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は19日の会合で、米銀行の相次ぐ経営破綻を背景にした融資基準の厳格化が起きているのを踏まえて「政策金利をそこまで引き上げる必要はないかもしれない」と述べた。6月の次回連邦公開市場委員会では政策金利を据え置き、利上げを停止する可能性もあることを示唆した。
ただ「(融資縮小による影響の)程度は極めて不確実だ」とも指摘。現時点で「いかなる決定もしていない」とし、今後の状況を見極める考えも示した。FRBは物価高の抑制に向けて今月上旬に10会合連続となる利上げを決定、市場関係者からは景気への悪影響を懸念する声が出ている。
●FRB議長「利上げ、さほど必要ないかも」 停止観測、強まるか 5/20
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は19日、相次ぐ銀行の経営破綻で信用収縮懸念が強まっているとして「さほど金利を引き上げる必要はないかもしれない」と述べた。FRBはインフレ抑制に向け急ピッチで政策金利を引き上げてきたが、6月13、14日に開く次回会合での利上げ停止観測が強まりそうだ。
首都ワシントンで開かれた金融関連のイベントで発言した。パウエル氏は、シリコンバレー銀行など国内の中堅行が3月以降、相次いで破綻した影響で銀行の貸し出し態度が厳しくなり、「経済成長や雇用の重しとなる可能性が高い」と指摘。これが景気を冷やす金融引き締めと同じ効果を発揮するとし、以前の想定に比べて利上げの必要性が薄まる可能性があると説明した。
パウエル氏は「(利上げを)やり過ぎるリスクと、やらな過ぎるリスクとのバランスがとれてきている」と述べた。これまでは行き過ぎた金融引き締めで米経済を悪化させる恐れより、利上げ不足でインフレに歯止めが利かなくなるリスクの方が大きいとの見方を示しており、修正した形だ。一方で「追加の金融引き締めがどの程度必要かは何も決めていない」ともしており、利上げの是非は経済指標などを参考に柔軟に判断する考えを示した。
FRBは2022年3月から10会合連続で利上げを続けてきたが、前回5月会合で今後の利上げ停止の可能性を示唆し、対応が注目されていた。
●NY外為市場=ドル下落、FRB議長のハト派発言で 5/20
終盤のニューヨーク外為市場では、ドルが下落した。市場の予想に反しパウエル連邦準備理事会(FRB)議長が緩やかなハト派姿勢を示したことを受けた。また、連邦債務上限を巡る協議が一時中断したことも重しとなった。
パウエル議長はワシントンで開催された会議で、信用状況の逼迫は「われわれの目標を達成するために政策金利をそれほど引き上げる必要がないかもしれない」ことを意味すると指摘。FRBは「会合ごとに」意思決定を行うと改めて表明した一方、1年間の積極的な利上げを経て、当局者には「データと変化する見通しを確認し慎重に判断する余裕がある」とした。
シルバー・ゴールド・ブルのFX・貴金属リスクマネジメントディレクター、エリック・ブレガー氏は「パウエル氏はあからさまなハト派ではなかったが、タカ派でなかったことは確かだ」と指摘。債券市場でも外為市場でもタカ派的なポジションが解消され、週末に向けたドル高の勢いを削いだとした。
パウエル議長の発言を受け、金利先物市場では、FRBが6月の会合で政策金利を0.25%ポイント引き上げる確率が約16%に低下。パウエル議長の発言前は約40%だった。
ドル指数は序盤に7週間ぶりの高値を付けたが、終盤は0.4%安の103.08。週間では0.6%上昇した。
ユーロ/ドルは0.3%上昇の1.0806ドル。週間では0.8%安だった。
ドル/円は0.7%安の137.76円。一時138.745円と6カ月ぶりの高値を付けた。週間では1.7%の上昇を記録し、2月中旬以来最大の上昇率となった。
また、米ホワイトハウスと共和党の連邦債務上限を巡る協議が一時中断されたと、複数の米メディアが報じた。一方、ホワイトハウスは合意の可能性は残されているとの見解を示した。
このニュースもドル安につながった。
オフショア人民元は対ドルで一時7.0752元と昨年12月以来の安値を付けた。ただ終盤は0.3%高の6.9539元だった。
ドル/円 NY終値 137.95/137.98   ユーロ/ドル NY終値 1.0802/1.0806
●米銀、預金残高と信用総額が減少=FRB週次統計 5/20
米連邦準備理事会(FRB)が19日発表した週次統計によると、国内商業銀行の預金残高と信用総額が減少した。
5月10日までの週の預金残高は季節調整前で17兆1000億ドルと、前週の17兆1600億ドルから減少。大手行で減少し、中小行はほぼ横ばいだった。
米銀の預金残高は3月のシリコンバレー銀行(SVB)破綻後に大きく減少している。
一方、銀行の信用総額は17兆3200億ドルと、前週の17兆3700億ドルから減少した。証券保有の減少が目立った。融資とリースは小幅に減少した。 

 

●「金融危機は一瞬で日本にも伝播する」 銀行破綻ドミノ時代の経済情報 5/21
米国のシリコンバレーバンクの破綻に端を発した金融危機は依然として予断を許さない状況だ。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「ネットバンキング全盛の今、国内外を問わず、危ないといううわさが出回ると預金が瞬時に移動して破綻し、その連鎖も起こりやすい」という――。
21世紀型の金融破綻の恐怖
前回、シリコンバレーバンクの破綻に端を発した金融危機について書きましたが、その後も米国では中堅銀行の破綻が不気味に続いています
最近でも、カリフォルニア州の地銀、パックウエスト・バンコープの預金が一週間で1割流出したというニュースが流れていました。現状は当局が大手行に買収させるなどしてなんとかしのいでいますが、「危ない」といううわさが出て預金が流失すると、どんな銀行でも破綻リスクに直面します。
ましてや、ネットバンキング全盛の時代ではなおさらです。「21世紀型」の金融危機と言ってもいいでしょう。米国発の銀行破綻が、他国であるスイスの大手行クレディスイスの破綻に急に飛び火したのに驚いた方は多いかもしれませんが、金融の世界はそういうものです。金融、とくに銀行は信用で成り立っているので「危ない」といううわさが流れれば、それが外国の銀行であろうと容赦はありません。
ネットでうわさが飛び交う上に、預金者はネットバンキングで預金を即座に移動させることができるのです。以前なら、万一破綻ということになっても、金曜日にそれを発表し、土日であらかたの対策をとるというのがパターンでしたが、今では、ネット上で銀行が開いている時間かどうかにかかわりなく、預金が動かせるので、瞬く間に破綻が起こり、それが連鎖しかねないという状況です。
今のところ日本の金融機関は比較的安全ですが、それでも米国、欧州の銀行が今後も破綻を続ければ無傷でいられるかは不明です。
また、米国では金融への不安から銀行の貸し出し態度が厳しくなっていますが、これは米国経済を縮小させる可能性があります。経済が縮小すれば、もちろん、米国内の雇用や株価に影響します。世界のGDPの約4分の1を稼ぎ出す米国経済ですが、それに大きく依存する日本経済にとっても大問題です。
個別の産業では米国で活躍するトヨタやホンダなどの自動車産業、米国内に多くの店舗を持つセブン‐イレブンなどの流通業、米国への輸出を多く行っている機械関係の企業などにも影響しますし、せっかくコロナから立ち直りかけている旅行ビジネスにも影響が出ます。
コロナを何とか乗り切った日本経済ですが、これも、米国や海外で活躍するグローバル企業の業績が良かったことも大きく関係しています。米国経済が先行き不透明なことは、日本のグローバル企業の今後の業績にも影を落とすのです。
今回は金融危機を横にらみしながら、米国経済全体を俯瞰ふかんします。今のところ減速感が出てきているものの、何とか急降下はしのいでいるという状態です。しかし油断は禁物です。米国経済は軟着陸する可能性もありますが、すべては、金融危機が来るかどうかにかかっていると言えます。
インフレはそろそろ収束する
米国では2022年にすさまじいインフレを経験しましたが徐々に収まりつつあります。
同年6月にピークの9.1%をつけた消費者物価の上昇率ですが、直近では5%程度まで下がっています。
注目すべきは卸売物価です。11%程度まで上がっていたのが、この3月では2.7%です。
ここでポイントとなるのは、米国では、企業の仕入れ増加分を以前からかなり最終消費財に転嫁できていたこともあり、また、原油価格が1年前に比べて低い水準にあることから、このまま、消費者物価上昇率は徐々に下がっていくことが予想されます。
ただ、図表1にあるように現状(3月)の5%(4月は4.9%)は、FRB(連邦準備制度理事会)が目標としている2%からはまだほど遠い状況なので、FRBは直近に0.25%の利上げを行い、政策金利は現状5〜5.25%という水準です。
   【図表】消費者物価上昇率(前年比%)
金融危機懸念もあり、また、米国の景気が徐々に落ち始めていることもあるので、利上げは今回で打ち止めという意見が多くなっています。
注意しなければいけないのは、インフレ抑制のために政策金利をほぼゼロから5%程度まで急速に上昇させた弊害が表れたことです。ひとつは、後で述べるような住宅市況の悪化など実体経済への影響。もう一つは、金利上昇により、銀行が保有する国債の評価損が増えたこと。これにより前述のシリコンバレーバンクなどの財務内容に大きな懸念が生じました。つまり、今回の金融危機の引き金を引いたということです。繰り返しますが、この金融危機がグローバルに伝播するかは予断を許さないところです。
ちなみに、図表1に参考値として載せてある日本の直近(3月)の消費者物価上昇率は3.1%ですが、企業物価の上昇率は7.2%なので、もうしばらくは企業による最終消費財への価格転嫁が続くと考えられ、消費者物価の下落は、しばらくは限定的です。
そうしないと企業の利益が確保できないからです。ただ、昨年央には最大で49.2%まで上がった輸入物価が、この3月には9.9%まで低下していることから、今後は企業物価が下がり、それにつれて消費者物価も下がると予想されます。
下落が止まった不動産市況だが
米国では、政策金利が5%程度にまで上昇したことにつれて、長期金利も上昇しました。政策金利は、1日だけ銀行間で資金の貸し借りをする金利(フェッド・ファンド金利オーバーナイト)を指します。一方、10年国債利回りのような長期金利は米国では自由金利で市場の需給で決まります。
コロナの蔓延で政策金利が0%台にまで下がった時に、長期金利も0%台にまで下がりました。それにともない、住宅ローンも3%程度まで下落しました。それが、政策金利の上昇により、10年国債利回りも大幅に上昇し、長期金利に連動する住宅ローン金利も6%台後半から7%程度まで上昇しました。
それにより、住宅市況が一気に悪化しました。コロナによる巣ごもりと低金利に支えられた住宅ブームは終焉しゅうえんしたのです。
図表2にあるケース・シラー住宅価格指数は、全米の住宅価格を指数化したものです。2017年に200程度だったのが、先に述べたように、低金利とコロナによる巣ごもり需要があり約5年後の2022年6月には315.24まで5割程度上昇しました。不動産のミニバブルが発生し、そのせいで木材が高騰する「ウッドショック」が起こり、日本にまで影響したのは数年前のことです。
   【図表】不動産市況の動きと自動車販売
その後、金利上昇やコロナの影響低下もあり不動産市況は下落に転じましたが、最近の数字を見ると今年の1月に300.36をつけた後、2月にわずかですが反転しているのが分かります。
まだひと月だけの数字で、底を打ったとまでは判断できませんが、米国経済に陰りが見え、また、金融危機の影が忍び寄る中で、今後のこの数字の動きは注目です。
図表2にある住宅着工数は月の数字は年換算です。こちらもピークからはかなり落ちていますが、今はある程度底堅い推移をしています。この数値の今後の動きにも注意が必要です。不動産市況の動きが米国経済にも少なからぬ影響を与えるからです。
一方、自動車販売は2017年には1700万台を超えていたのが、最近では年換算で1400万台程度と5年前の水準には及びません。半導体不足などの影響や自動車ローン金利の上昇などが原因と考えられます。
こういった点では米国経済は、現状ではそこそこの動きをしていると言えます。今のところ、日本経済への悪影響も限定的ですが、今後の動きは予断を許さないというところです。金融危機の影が忍び寄っているからです。
不確実なのは金融情勢
金融の実情はなかなか一般の方には分かりにくい上に、どんなに健全な銀行でも、急激に預金が引き出されるようなことがあれば、破綻のリスクは一気に高まります。
今回は、シリコンバレーバンクの破綻に始まり、それが他の中堅行の破綻へと続いています。それに対して、米金融当局は、FDIC(連邦預金保険公社)による預金保護を通常の25万ドルから全額に引き上げるとともに、JPモルガン・チェースのような大手行に破綻銀行の業務を引き継がせることにより、今のところ、何とか破綻の連鎖、つまり金融危機を回避している状況です。
ただ、金融危機は欧州に飛び火し、スイス大手のクレディスイスが破綻、同じく大手のUBSが救済合併をするというように、思わぬところに危機が飛び火することはご存じの通りです。日本にも飛び火しないという保証はどこにもありません。
こうした中、米国の銀行の融資姿勢が厳格化しているのが明らかになりました。
とくに破綻が相次いでいる中堅銀行では、預金流出懸念や景気の先行きに対する不安などがあり、融資姿勢が厳格化し始めているということです。その中で、商業不動産に対する融資姿勢はとくに厳しくなっています。
実際の引き締めの影響が出てくるにはもうしばらく時間がかかると考えられますが、米国経済の先行きに対する不透明感はぬぐえません。また、経済の先行き不透明感が企業側の借り入れ意欲を減退させているということもあります。
実際の借り入れが大きく縮小すると、米国経済も縮小をまぬかれず、日本経済にも少なからぬ影響が出ることが懸念されます。
こうした中、中央銀行であるFRBは先に述べたように政策金利を最近0.25%上昇させましたが、これまで述べたような不透明感が増す中、今回で利上げを終えるとの見方も広がっています。
いずれにしても、激しいインフレの先がようやく見えた状況ですが、金融危機の懸念をなかなか払拭することができていません。いずれにしても不安定な状況がしばらくは続くと考えられます。注意が必要です。
●米政府は金融危機を起こしたい? 「債務上限引き上げ問題」と日本を襲う余波 5/21
アメリカの債務上限引き上げ問題が引き起こす深刻な事態について解説する。銀行破綻の連鎖とこれが重なる場合、予想を越えた経済的な混乱になるかもしれない。
6月に金融危機が起こる?恒例行事「米債務上限引き上げ」問題
いまウクライナ戦争とともに今後大きな問題になりつつあるのが、アメリカの債務上限引き上げ問題である。うまく行くと早期に決着できるが、もめると最悪な場合、金融危機の引き金にもなりかねない。
債務の上限の引き上げをめぐり、イエレン財務長官は議会で対策が合意されなければ来月1日にもアメリカ国債がデフォルト(債務不履行)に陥るおそれがあるとの見通しを改めて示した。野党・共和党のマッカーシー下院議長に宛てた書簡を公開し、政府の「債務の上限」が引き上げられなければ「6月1日にも国債がデフォルトに陥るおそれがある」と改めて指摘した。
バイデン大統領は事態の打開に向けて16日にマッカーシー下院議長と会談したが、マッカーシーは15日、メディアの取材に対して「与野党の間にはまだ大きな距離がある」と話している。
一方、日本の国税庁にあたる「米内国歳入庁(IRS)」の税の徴収状況から米政府の予算状況の把握を試みた「ムーディーズ・アナリティックス」のチーフエコノミスト、マーク・ザンディは、上院予算委員会の公聴会で、デフォルトするXデーは、6月8日頃になると予想していると述べた。
周知のように、米政府のデフォルトは決して珍しいことではない。21世紀に入ってからでも2011年、13年、15年と3回のデフォルト危機があった。11年はデフォルト直前で債務上限法案が成立。13年と15年は債務上限の運用停止という対応などで乗り切ってきた。しかし、2011年には法案成立にてこずったため、格付け会社の「ムーディーズ」は、米国債の格付けを最高ランクのAAAからAA++に引き下げた。その余波は思いのほか大きかった。ドルと国債、そして株価は下落し、金利は上昇した。
今回の「債務引き上げ」は過去とは異なる
しかし、今回の債務上限引き上げ問題は、過去のそれとはかなり条件が異なっている。
2011年と2013年、そして2015年は、2008年の「リーマン・ショック」が頂点になった金融危機を乗り越え、景気の回復期に入っていた。銀行危機のような状態にはなかった。
ところが2023年の今回は様相がかなり異なる。この メルマガ の記事で何度も紹介したように、いまアメリカは銀行破綻が連鎖する可能性のある危うい時期にある。破綻した「シリコンバレー銀行」、「シグナチャー銀行」、そして「ファースト・リパブリック銀行」と同じか、さらにそれよりも経営状態が悪い銀行はたくさんあり、これから50行が破綻してもおかしくないと言われている状況だ。
いまアメリカは商業用不動産のバブルが弾け、オフィスビルの空室率の上昇から、破綻する不動産会社も増えている。全米の大都市圏の空室率を見ると、状況の深刻さが分かる。
・東京 4.2% / ・サンフランシスコ 23.1% / ・ニューヨーク 15.4% / ・ロサンゼルス 21.3% / ・シカゴ 22.2% / ・ボストン 17.8% / ・ワシントンDC 20.7% / ・ダラス 23.0%
東京と比べると、空室率の高さがよく分かる。「FRB」による連続的な利上げによってローン金利が高騰しているときに高い空室率が発生しているので、ローンの支払いができずに破綻する不動産会社も増えている。こうした状況は、2011年、2013年、2015年の債務上限引き上げ問題で紛糾した時期にはなかったことだ。
さらに、ウクライナ戦争で資源大国であるロシアの国際貿易システムからの排除が背景となり、ドルベースの決済システムには依存しない経済圏が台頭している。人民元やルーブルなどが決済通貨として使われる頻度は非常に高くなっている。脱ドル化の方向性だ。
今回は何が起こるのか?
それでは、今回の問題が紛糾した場合、どんなことが起こるのだろうか?
もちろん、妥協が成立し債務上限の引き上げが実現する可能性は十分にある。しかし今回は、銀行危機の連鎖と商業用不動産の破綻、そして脱ドル化の加速という条件の元で起こるので、最終的に妥協が成立したとしても、問題が紛糾しただけで影響力はかなり大きくなるはずだ。どのような影響が出るのか、以下に簡単にまとめた。
(1)国債の下落による金利の上昇
ドルは、唯一の国際決済通貨ではなくなりつつある。そうした状況でデフォルトする可能性が高まると、ドルと米国債の信任は揺らぎ、ドル安と米国債の下落が起こる。その結果、金利は上昇することになる。
(2)中小の銀行経営の悪化と破綻の連鎖
金利の上昇は多方面に深刻な影響を与える。「シリコンバレー銀行」、「シグナチャー銀行」、「ファースト・リパブリック銀行」が破綻した理由のひとつは、資産の多くを米国債で運用していたことにある。「FRB」の金利上昇で国債が下落し、含み損が出たところに資金繰りが悪化した預金者が預金を引き出した結果、経営状態が悪化した。それがSNSでウワサとなり、預金の引き出しラッシュになったのだ。
破綻した3行と同じような財務体質を持ち、経営状態がよくない銀行は多い。もしこのような状況で債務上限引き上げ問題が紛糾し、金利がさらに上昇すると、同じような取り付け騒ぎから銀行破綻の連鎖が起こるかもしれない。
(3)信用収縮
銀行破綻が連鎖する前に、金利の上昇から経営状態が悪化した銀行は、信用の供与を収縮させる可能性が高い。貸し渋りである。この信用収縮が原因となり、ただでさえ厳しい状況にある商業用不動産の企業破綻が相次ぐ。特にアメリカの中小の銀行の借り手は不動産会社が多い。その破綻は不良債権となり、これが銀行の信用をさらに収縮させる結果になる。
(4)税の還付金の支払い停止
日本もそうだが、アメリカの中小企業も収めた税の還付金を事業資金に組み入れて操業しているところが非常に多い。債務上限の引き上げに紛糾する期間が長くなったり、またデフォルトするようなことがあれば、連邦政府の予算の枯渇から、還付金の支払いができなくなる。すると、銀行も信用の供与を収縮させているので、資金繰りに困って破綻する企業が一気に増大する。
他にもまだまだあるが、これらが2023年の債務上限引き上げ問題が引き起こす特徴的な問題である。経済学者の中には、政府が本当にデフォルトに陥った場合、大量の解雇が行われると警告している人もいる。またホワイトハウスは、デフォルトが長引いた場合、800万人以上の雇用が一掃されると見積もっている。
なぜイエレン財務長官は危機を何度も煽るのか?
しかし、こうした状況を見ていると、一抹の違和感を感じざるを得ない。
特に今回はこのような深刻な状況になることは分かり切っているのに、イエレン財務長官はあたかも危機を煽るかのように、何度も繰り返し6月1日にもデフォルトする可能性があると発言している。むろん、こうした発言は危機感から出たものと理解できる。しかし逆にこの警告が、市場を緊張させ、ドル安や金利の上昇を早期に引き起こす可能性もあるだろう。
うがった見方だが、もしかしたらイエレンは意図的にこうした発言をしているのだろうか?
それが、アメリカが意図的に金融危機を引き起こそうとしているのではないかとの疑念は意外なところから出ているのだ。以前の記事で紹介したフランスの著名なシンクタンク、「LEAP2020」が発行する「Global Europe Antication Bulletin(GEAB)」だ。その最新号には次のような文章が掲載されていた。
「危機を決して無駄にしない ・・・ 米国の地方銀行危機は、今もなお、その勢いを増している。状況が制御不能に思えるほど、アメリカやヨーロッパの政治・金融当局は、自分たちの経済システムを再発明するための必要悪と捉えていると、私たちのチームは考えている。(中略)また、政治当局にとっては、資金の流れを再びコントロールし、国民の信頼を回復するために、より管理された経済に戻る機会でもある。」
ちょっと分かりにくいかもしれないが、こういうことだ。欧米の政府は、これから深刻化するアメリカやヨーロッパの地方銀行の危機を新しい金融システムに作り替えるための絶好のチャンスと見ている。その新しい金融システムとは、多くなり過ぎた銀行を淘汰して、いくつかの巨大な銀行に統合し、政府が金融を管理しやすい体制にするということだ。このような新しいシステムを構築した上で、デジタル通貨を導入する。「GEAB」の最新号は、米政府が債務上限引き上げ問題を利用して金融危機を意図的に煽り、大手行への統合を図りながら、新しい金融システムへと移行するために行っているというニュアンスでこの記事は書かれている。「GEAB」の最新号は、このプロセスは2023年から始まり、2025年くらいで完了すると見ている。
筆者もこの可能性は十分にあると思う。現在の欧米の政府は、この危機を金融システム刷新の好機として見ていると思える。だとするなら、政府は金融危機を未然に防ぐのではなく、積極的に引き起こすのではないだろうか?
たしかにこれは、荒唐無稽の陰謀論に聞こえるかもしれない。しかし、この可能性は排除してはならないと思う。そうであるなら、金融危機はこれから本格化する。債務上限引き上げ問題はその最初の契機かもしれない。
もちろんこの余波は、日本にもやってくる。我々も備えなくてはならない。
●繰り返されたずさんな銀行経営 高額報酬、リスク追求招く―米 5/21
米欧での金融不安の端緒となった米中堅銀行シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を巡り、同行の業績と連動した高額報酬が過度なリスク追求を招き、ショックに対して脆弱(ぜいじゃく)になった実態が浮かび上がっている。SVBの方が規模ははるかに小さいが、2008年の「リーマン・ショック」と似た構図。連邦準備制度理事会(FRB)の監督も甘く、ずさんな銀行経営が繰り返された格好だ。
「リスクヘッジ(回避)しなかったのは、利益が減るからではないか」(ケネディ上院議員=共和党=)。16日の上院銀行委員会の公聴会では、証人として出席したベッカーSVB前最高経営責任者(CEO)に対し、リスク軽視の経営を問いただす声が上がった。SVBは、FRBが急激な利上げを進めた時期に、金利上昇時に先物取引などを通じ損失を低減するヘッジを止めていた。
ベッカー氏は「ヘッジの決定はSVB財務委員会などが監督していた。詳細は知らない」などの弁明を繰り返した。
FRBのバー副議長(金融規制担当)は18日の上院銀行委で、「SVBは利益を増やすため、リスクを一層取る措置を選んだ」と証言。FRBの報告書によると、SVBの報酬体系は「短期的な業績の最大化を促す」仕組みだったという。ベッカー氏の21年の賞与は現金部分で300万ドル(約4億1000万円)。また同氏は破綻前の今年2月、報酬の一環として自社株を売却し、約350万ドルを得た。
米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所のニコラス・ベロン氏は「銀行は民間企業で、(報酬などに関する)契約の自由がある」と指摘。ずさんな経営が明るみに出るたび、規制をどこまで及ばせるか「非常に難しい議論になる」と話す。
一方、SVB破綻では、FRBがリスクに気付きながら、結果として適切な是正措置を取れなかった。「監督で明らかな失敗がいくつかあった」(FRB高官)と自省の声も上がる。
ベロン氏は「金融業は本質的に景気の上がり下がりの影響を受けやすく、危機は付きものだ」と指摘。「経営失敗の頻度を減らすことを目指す必要がある」と語った。 
●米大統領「デフォルトに陥ることはない」 5/21
バイデン米大統領は記者会見で「米国がデフォルト(債務不履行)に陥ったことはなく、これからもない」と強調した。

 

●米インフレの高止まり示唆か、FRBの難題に−26日PCE指数発表 5/22
米国の基調的な物価上昇圧力を示す最新指標では、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長率いる金融当局者が、金融引き締めのブレーキから足を外せるほどインフレ対策で前進したとの結論に至るような希望をほとんど持てないだろう。
米金融当局が物価指標として重視する個人消費支出(PCE)価格指数の4月分が26日に発表される。エコノミスト予想では、変動の大きいエネルギーと食品を除くPCEコア指数は前月と同じ前年同月比4.6%上昇と、当局目標の2倍強の水準での高止まりが見込まれている。
24日には連邦公開市場委員会(FOMC)会合の議事要旨(5月2、3日開催分)が公表される予定で、当局が来月の会合で金利据え置きにどの程度の支持があるか、多少の手掛かりが得られるかもしれない。
先週は複数の米金融当局者が、経済データや銀行セクターのストレスを評価するため、オープンな姿勢を維持していることを示唆した。ダラス連銀のローガン総裁は、来月の利上げを1回見送るべきだとはまだ確信していないと発言。ジェファーソンFRB理事は辛抱強い姿勢が適切だと述べた。
個人所得と個人支出の数値は、インフレ調整後の消費支出が4−6月(第2四半期)初めに依然として緩慢だったことを裏付ける見通し。米実質GDP(国内総生産)の伸びが1−3月(第1四半期)の1.1%(速報値)からさらに減速するとエコノミストが予想している理由の説明となりそうだ。
今週はこのほか、4月の新築住宅販売と耐久財受注、1−3月期GDP改定値などの指標も発表される。
22日にはセントルイス連銀のブラード総裁とサンフランシスコ連銀のデーリー総裁が講演する予定。アトランタ連銀のボスティック総裁とリッチモンド連銀のバーキン総裁は会合で大きな変革をもたらす技術について議論する。
●19日の米国市場 5/22
NY株式:米国株式市場は反落、債務不履行や金融混乱の懸念再燃
ダウ平均は109.28ドル安の33,426.63ドル、ナスダックは30.94ポイント安の12,657.90で取引を終了した。
債務上限問題の解決期待を受けた買いが先行して始まった。その後、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が追加利上げに慎重な考えを示し、6月連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ観測が後退。しかし、債務上限の交渉が中断されたことが報じられると先行き警戒感が再燃し売りに転じた。さらに、イエレン財務長官がさらなる銀行合併が必要になるかもしれないと大手銀の幹部に伝えたとの一部報道を受け、地銀経営不安の再燃も重しになった。セクター別では自動車・自動車部品が上昇した一方で、耐久消費財・アパレルや銀行が下落した。
エネルギー資源会社のオキシデンタル・ペトロリアム(OXY)は当局への報告で著名投資家バフェット氏が運営するバークシャーハサウェィ(BRK)による追加保有が明らかになり上昇。発電設備メーカーのブルーム・エナジー(BE)はアナリストが値ごろ感から投資判断を引き上げたことで買われた。
一方、靴販売会社のフットロッカー(FL)は第1四半期決算で内容が予想を下回ったほか、困難なマクロ経済の状況を理由に通期の見通しを下方修正し下落。エンターテインメントのウォルト・ディズニー(DIS)は配信サービスを巡る業績不透明性を理由にアナリストが投資判断を引き下げたため売られた。また、地銀のパックウェスト(PACW)やウェスタン・アライアンス・バンコープ(WAL)などはイエレン財務長官が大手行の最高経営責任者(CEO)に対しさらなる銀行合併が必要になる可能性を伝えたとの報道に加え、パウエル議長が信用ストレスに言及したことが不安材料となり下落した。金融のモルガンスタンレー(MS)はゴーマンCEOが1年以内に退任する意向を年次総会で明らかにし、売られた。
NY為替:ドル弱含み、米6月追加利上げ観測後退
19日のニューヨーク外為市場でドル・円は、138円67銭まで上昇後、137円43銭まで反落し、137円95銭で引けた。
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は「信用ストレスを受けて想定していた程高く金利を引き上げる必要がないかもしれない」と慎重な見解を示したほか、債務上限交渉が中断されたため、債務不履行懸念が再燃、6月連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ観測が後退しドル売りが優勢となった。また、リスク回避の円買いが強まった。
ユーロ・ドルは、1.0782ドルまで下落し、1.0829ドルまで上昇し、1.0806ドルで引けた。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が金利を持続的に高い水準で推移する必要があるとの考えを示し、ユーロ買いが優勢となった。ユーロ・円は149円80銭まで上昇後、148円72銭まで反落。日欧金利差拡大観測を受けたユーロ買いが優勢となったのち、リスク回避の円買いに押された。ポンド・ドルは、1.2421ドルへ下落後、1.2484ドルまで上昇した。ドル・スイスは、0.9032フランから0.8975フランまで下落。
NY原油:伸び悩み、ポジション調整に絡んだ売りが増える
NYMEX原油7月限終値:71.69 ↓0.25
19日のNY原油先物7月限は伸び悩み。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物7月限は、前営業日比−0.25ドル(−0.35%)の71.69ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは71.18ドル-73.58ドル。米国市場の序盤にかけて73.58ドルまで買われたが、株安や米長期金利の上昇を意識した売りが増えたことでポジション調整に絡んだ売りが増えた。一時71.18ドルまで反落し、通常取引終了後の時間外取引では主に72ドルを挟んだ水準で推移。
●方向感乏しいか、米利上げ打ち止め期待と米国債デフォルト懸念が交錯 5/22
週明け22日の香港市場は方向感に乏しい相場か。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が19日、「政策金利は想定されていたほど上昇する必要がないかもしれない」と述べたことで米利上げ打ち止め期待が高まる半面、前週末の米株安や中国景気の不透明感が引き続き懸念されそうだ。強弱材料が入り混じるなか、投資家は持ち高を一方向に傾けづらいだろう。
業績を手掛かりとする個別物色が引き続き活発と予想される。きょうはハンセンテック指数構成銘柄の快手科技(01024)が2023年1−3月期決算を発表する。また、きょうの寄り付き前に中国の5月の最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)が発表される。
19日のNY株式相場は、主要3指数がそろって3日ぶりに反落した。早期の合意が期待された米国債務上限を巡る与野党協議が中断し、米国のデフォルト懸念が再び高まった。同日の香港株の米国預託証券(ADR)は高安まちまち。国際金融銘柄のHSBC(00005)とAIAグループ(01299)が香港終値を上回った半面、中国ネット通販大手のアリババ集団(09988)、香港公益株のホンコン・チャイナガス(00003)が下回って引けた。 
●みずほ、米投資銀行グリーンヒルを買収へ−企業価値5.5億ドル 5/22
みずほフィナンシャル・グループは米投資銀行グリーンヒルを買収することで合意した。買収により米事業拡大を加速させる。
みずほは1株当たり15ドルを現金で支払う。債務を含めグリーンヒルの企業価値を5億5000万ドル(約760億円)と評価した取引。両社が22日発表した。
グリーンヒルの経営陣は身売り後もとどまり、スコット・ボク最高経営責任者(CEO)は合併、買収および再編担当の会長となる。
邦銀は米国の投資銀行との提携を強めているが、みずほは買収で一歩先へ進んだ。三井住友フィナンシャルグループは先月、米国での資本市場および企業の合併・買収(M&A)助言事業強化を目指し、米ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループへの出資比率を引き上げた。三菱UFJフィナンシャル・グループは2008年の金融危機時からモルガン・スタンレーと提携している。
1株当たり15ドルの買収価格はグリーンヒル株の19日終値に対して121%の上乗せとなる。
米国みずほ証券のジェリー・リッツィエーリ社長兼最高経営責任者(CEO)はインタビューで、グリーンヒル株は「つい2月までこの水準で取引されていた。地銀株は40%程度下落したが、グリーンヒル株はかなり大きく下げた。優れたブランドに対して適正価格を支払うことになると考えている」と語った。
グリーンヒル株は22日の通常取引開始前の時間外取引で一時116%高となった。
買収によりみずほの従業員は370人増え、グリーンヒルは世界15カ所での営業を続ける。メルボルンとストックホルム以外はみずほの既存の拠点と重なっているという。買収は年末までに完了する計画で、グリーンヒルはみずほのディールメーキング部門の一部となる。
みずほはグリーンヒル買収が投資銀行チームを補強すると考えている。「当行がM&Aバンカーの採用を開始したのは最近で、ここ数年のことだ」とリッツィエーリ氏が述べた。債務、株式、資本市場、デリバティブ(金融派生商品)、債券と株式のセールスやトレーディング、証券化とフルレンジの商品を提供しているが、M&Aが欠けていたと説明した。
ブティック型投資銀行のグリーンヒルは、創業者でM&Aベテランのボブ・グリーンヒル氏の下で2004年に株式を公開。ボク氏は10年から単独でCEOを務めている。過去10年にはモーリスやフーリハン・ローキー、PJTなどのブティック型投資銀も株式を公開し、グリーンヒルの競争相手となっていた。
●バイデン大統領は裕福な税金詐欺や仮想通貨トレーダー保護協定には不同意 5/22
ジョー・バイデン(Joe Biden)米国大統領は、米国が債務不履行のリスクに直面する中、富裕層の税金泥棒や仮想通貨トレーダーを保護し、食糧支援を危険にさらすような取引には同意しないと述べたことが明らかになった。
バイデン大統領は、広島で開催されたG7主要7カ国会議後の記者会見で、米国の債務危機と予算交渉に関する最新情報を提供し、出発する前に4人の議会指導者全員と会談し、超党派の合意によってのみ実行可能な前途があることに同意したと強調した。バイデン大統領は、自分が同意しない項目を複数挙げており、2022年2,000億ドル(約27.6兆円)を稼いだ石油産業に対する300億ドル(約4兆円)の減税保護の一方で、メディケイドの廃止によって2,100万人の国民の医療を危険にさらすような取引に同意するつもりはないと述べたとのこと。また、バイデン大統領は、製薬業界への2,000億ドルの超過支払を保護し、それをカウントしない一方で、10万人以上の学校の先生やアシスタントの仕事、3万人の法執行官の仕事を、アメリカ全体で削減するという取引に同意するつもりはないと強調し、次のように語っている。
「私は自分の役割を果たしました。今こそ共和党が極端な立場から動く時だ。なぜなら、彼らがすでに提案したことの多くは、単に、率直に言って、受け入れがたいものだからです。富裕層の税金泥棒や仮想通貨トレーダーを保護する一方で、約100万人の米国人の食糧支援を危険にさらすような取引に同意するつもりはない。」
バイデン大統領の発言に多くの批判が噴出
今回の仮想通貨に関するバイデン大統領の発言に、多くの人がソーシャルメディア上で反応しており、仮想通貨トレーダーと税金泥棒を同じカテゴリーで括った大統領を批判する人もいれば、バイデン政権下でのすべてのお金の印刷と支出を思い出させる人もいる。
さらに同大統領は、米国が債務不履行に陥るという懸念が広がっていることにも言及。イエレン財務長官は、議会がその前に債務上限を引き上げたり、停止したりしなければ、財務省は早ければ6月1日に政府のすべての請求書を支払えなくなる可能性があると述べた。CBO(米国議会予算局)も同様に、6月の最初の2週間で米国の債務不履行が発生する可能性があると試算。同大統領は、4人の議会指導者全員がデフォルトは選択肢ではないという意見に同意していると述べた。
米国が債務不履行に陥った場合、世界的な金融危機を含む深刻な影響を及ぼすと多くの人が警告しており、米国の主要企業146社のトップは、米国のデフォルトを防ぐために迅速に行動するよう同大統領と議会指導者に要請し、悲惨な結果を警告している。一方、前大統領で2024年の大統領候補であるドナルド・トランプ(Donald Trump)氏は、民主党が歳出削減に応じなければ、米国が債務不履行に陥ることを共和党議員に促し、酔っぱらいの船乗りのようにお金を使っていることで、債務不履行を招くことになると指摘している。
●米FRB利下げ時期予想、24年第1四半期に後ずれ=NABE調査 5/22
全米企業エコノミスト協会(NABE)が22日発表した調査によると、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ開始時期を巡るエコノミストの予想が来年第1・四半期へ後ずれした。
インフレ率の予想は上方修正され、雇用市場はより強気な見通しが示された。
2月の調査では利下げ時期は今年第4・四半期となっていた。政策金利のピークについては5.0─5.25%で変わらず。
米経済がリセッション(景気後退)に陥るかをどうかについては見方が分かれた。予想の中央値は2024年まで緩やかな成長が見込まれ、23年第4・四半期の成長率は前年同期比0.4%となっている。
23年第4・四半期の消費者物価指数(CPI)は前年比3.3%の伸びが見込まれ、前回調査の3%から上方修正された。
雇用市場の見通しは改善し、1カ月当たり14万2000人の雇用増を予想した。前回は10万2000人だった。今年の失業率の予想は3.7%と3.9%から低下した。

 

●FRBの利上げ継続の思惑でドル反発 5/23
22日のニューヨーク外為市場でドル・円は、138円00銭まで下落後、138円69銭まで上昇し、138円59銭で引けた。
バイデン米大統領と下院議長の債務上限交渉に悲観的な見方に一時ドル売りが優勢になったが、ブラード米セントルイス地区連銀総裁が「年内あと2回の利上げが必要」との考えを示すと、利上げ継続観測を受けたドル買いが再開した。
ユーロ・ドルは、1.0831ドルまで上昇後、1.0796ドルまで反落し、1.0814ドル引けた。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が6月の利上げを示唆し、ユーロ買いが優勢となったのち、予想を下回ったユーロ圏5月消費者信頼感指数速報値を受けたユーロ売りに押された。ユーロ・円は149円92銭まで上昇後、149円34銭まで反落。ポンド・ドルは、1.2471ドルへ上昇後、1.2414ドルまで反落した。ドル・スイスは、0.8954フランへ弱含んだのち、0.8995フランまで上昇。
●海外市場(22日)米金利上昇、FRB高官「タカ派」発言相次ぐ 5/23
株式
米株式市場でダウ工業株30種平均は続落し、前週末比140ドル05セント(0.4%)安の3万3286ドル58セントで終えた。米連邦準備理事会(FRB)高官による金融引き締め継続に前向きな発言が相次ぎ、景気悪化への警戒が広がった。米連邦政府債務問題を巡るバイデン米大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長の会談を控え、積極的な売買も手控えられた。ハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数は反発した。
債券
ニューヨーク債券市場で長期金利の指標である10年物国債利回りは上昇し3.71%で終えた。セントルイス連銀のブラード総裁が「インフレ沈静化のために連邦公開市場委員会(FOMC)は今年あと2回利上げを余儀なくされる」と話すなど、FRB高官から利上げ停止に慎重な発言が相次いだ。FRBが6月も利上げを続ける可能性が意識され、早い段階で利下げに転換するとの観測も後退した。政策金利の影響を受けやすい2年債利回りも上昇した。
為替
ニューヨーク為替市場では1ドル=138円台とドル高・円安水準で取引を終えた。FRB幹部からのタカ派発言が相次ぎ、金融引き締めが長引くとの見方から米国金利が上昇。日米金利差を意識したドル買いが優勢だった。ドルは対ユーロでは小動き。米欧の長期金利がともに上昇したため、方向感に欠けた。
商品
原油先物相場は反発し、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は1バレル71ドル台後半で取引を終えた。主要産油国の減産に加え、ドライブシーズンを迎える米国のガソリン需要が増えるとの見方から、需給悪化懸念が後退した。ただ、米連邦政府の債務上限問題を巡る不透明感は強く、上値は限られた。一方、ニューヨーク金先物相場は反落した。米長期金利が上昇し、金利が付かない資産である金の投資妙味が薄れるとみた売りが優勢だった。
ワンポイント
FRB高官の利上げ継続に前向きな「タカ派」発言が相次いでいます。根強いインフレにどう対処するのか。地銀破綻の連鎖で金融システム不安もくすぶるだけに、6月予定されている米連邦公開市場委員会(FOMC)でどんな判断を下すのか注目が集まります。
●NY株続落、140ドル安 FRBの利上げ継続を警戒 5/23
週明け22日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続落し、前週末比140・05ドル安の3万3286・58ドルで取引を終えた。米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ継続への警戒感から売りが優勢となった。ただ、米政府の債務上限問題の行方を見極めようと様子見ムードも強く、値動きは限られた。
この日はセントルイス連邦準備銀行のブラード総裁が年内に0・5%利上げする必要があるかもしれないと発言したのを受け、利上げ長期化の可能性が意識されて投資家心理が悪化した。一時は220ドル近く下げた。
一方、ハイテク株主体のナスダック総合指数は反発し、62・88ポイント高の1万2720・78。
個別銘柄では、スポーツ用品のナイキ、家庭用品のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の下落が目立った。化学・事務用品の3M(スリーエム)は買われた。
●G7サミットの対中「脱リスク」 米国こそ最大のリスク 5/23
米国をリーダーとする7カ国首脳会議(G7サミット)が広島で開催された。米国は西側同盟国と連携し、中国に対する「脱リスク」を何度も言及。引き続き中国を中傷し、圧力をかけた。ただ人々の目には、現在の世界のさまざまな重大リスクの源が他者ではなく米国であることは明らかだ。
第一に、米国は世界の平和と安定を破壊する最大のリスクとなっている。米国はG7サミットで引き続き他国をけしかけ、ロシア・ウクライナ衝突など敏感な地政学的問題で絶えず火に油を注ぎ、対立をあおり、地域の緊張状態を作り出している。根本的な目的は、米国の覇権を維持し、私利を図ることにある。米国が建国240年余りの歴史で戦争をしなかったのはわずか十数年しかない。大まかな統計によると、1945年の第2次世界大戦終結から2001年までに世界で起きた武力衝突248件のうち、201件は米国が引き起こした。直接的な軍事介入のほかにも経済制裁や文化浸透、暴動扇動、選挙介入がアメリカの常とう手段となっており、世界で戦雲を巻き起こし、社会不安や経済崩壊、過激・テロ組織の強大化、人々の離散・難民化を招いた。
第二に、米国は国際秩序と国際ルールをかく乱する最大のリスクとなっている。政治・安全保障の分野では、米国はイラクからシリア、さらにアフガニスタンにいたるまで、国連憲章が定める自決、主権、紛争の平和的解決などの理念を見下してきた。第2次世界大戦終結以降も絶えず戦争を起こし、またはカラー革命を策動し、50カ国余りの政府転覆を試み、少なくとも30カ国の民主的選挙に乱暴に干渉してきた。経済・貿易の分野では、権威ある報告書によると、米国はこれまでで最も「ルールを守らない」国であり、世界貿易機関(WTO)の規定違反の3分の2は米国が引き起こした。米国の行動の本質は「合えば使う、合わなければ捨てる」「従うものは栄え、逆らうものは滅びる」だ。米国が唱える「ルール」は独断専行の覇道のルールであり、「秩序」は「米国ファースト」の覇権的秩序だ。広島ではG7を操り、西側の利益を代表する「秩序」を形成しようと妄想したが、結局は現実性に欠け、大勢にもそぐわず、人心を得ることはなかった。
第三に、米国は世界経済をねじ曲げる最大のリスクとなっている。米国はかつて、日本に「プラザ合意」を結ばせ、「経済的人質」を取ってフランスのアルストム社を解体し、欧州諸国の多くに関税の「こん棒」を振るった。米国は長年にわたり、制裁や貿易制限、関税引き上げなど多くの措置を用いて他国に経済的ないじめを行ってきた。「ロングアーム管轄」を行い、海外腐敗行為防止法や対敵通商法などの国内法を整備し、特定の国や組織、個人に横暴な制裁を加えた。政治力と軍事力で他国に「陣営選択」やデカップリング、サプライチェーン切断を強要し、これらの国に自然な経済的結びつきと巨大な相乗効果を放棄せざるを得ないよう仕向けた。手を変え、品を変えて繰り出される米国流の「ゲーム」は、すでに世界の産業チェーン、サプライチェーンの安全と安定をかく乱しており、世界を二大市場、二つのシステムに分裂させようとするたくらみは、今まさに世界経済の回復と持続可能な開発に深刻な打撃を与えている。国際通貨基金(IMF)は、世界経済が深刻な分断に陥れば世界の経済産出は最大で7%縮小する可能性があると警告している。
第四に、米国はグローバル金融の安定を脅かす最大のリスクとなっている。バイデン米大統領は19日夜、主催者が用意した重要イベントを放棄し、米国の債務上限をめぐる厄介な交渉にあたった。周知のように、予算を先食いする米国の財政政策、急進的で変化の多い通貨政策、極度に対立する政党間争いは、グローバル金融システムと市場の安定を損なう巨大な濁流となり、米国自身のリスクを絶え間なく世界にもたらしている。昨年以降の米連邦準備制度理事会(FRB)による急進的な利上げと急激なドル高は、多くの国に自国通貨安や資本流出、債務返済コストの上昇、輸入インフレの激化をもたらし、一部の国は通貨危機や債務危機に陥った。米国は長期にわたり、ドル覇権をかさに着たドルの供給・流通の遮断や制限を通じて他国に圧力や制裁を加え、金融ショックや経済ショックを引き起こしてきた。2008年の金融危機は言うに及ばず、その後何度も起こった世界的な金融不安も米国が「張本人」だった。
周知のように、中国は平和的発展の道を堅持し、互恵ウィンウィンの開放戦略を揺るぎなく遂行している。過去10年間の世界の経済成長に対する中国の平均寄与率はG7の合計を上回る。中国が世界にもたらすのは挑戦ではなくチャンス、動揺ではなく安定、リスクではなく保険だ。「脱リスク」というのであれば、米国はよく鏡を見て、「泥棒が泥棒を捕まえろ」と叫ぶようなことをしない方がいい。米国こそが世界最大の混乱の源、最大のリスクであることは誰もが知っている。
●米欧の金融不安 デジタル社会の落とし穴 5/23
米欧で金融機関の破綻や経営危機が相次ぎ、信用不安が広がっている。リーマン・ショックのように金融危機が世界経済を揺るがす事態は防がなければならない。
急速にデジタル化した社会に金融システムは対応できているだろうか。日本でも再点検が必要だ。
米サンフランシスコを拠点とするファースト・リパブリック銀行が1日に経営破綻した。米国では3月に地銀2行が破綻したばかりで、2カ月間に3行が破綻する異常事態である。
破綻に至る構図は同じだ。米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために利上げを繰り返したため、銀行が保有する債券の価値が下がり、含み損が拡大した。これを不安に思った預金者が一気に預金を引き出し、経営が行き詰まった。
金利上昇局面での資産運用など経営に問題があったと言わざるを得ない。一方で、健全な銀行であっても取り付け騒ぎに遭えば経営が危うくなるのも現実だ。
3月に破綻したシリコンバレー銀行の元最高経営責任者(CEO)は米上院委員会の公聴会で「うわさと誤解がインターネットで広がり、前例のない取り付け騒ぎが起きた」「(急速な預金流出は)歴史的前例をはるかに超える」と証言した。
交流サイト(SNS)で信用不安が広がり、ネット取引で短時間に大量の預金が流出する。デジタル社会ならではの取り付けが破綻の引き金を引いたと言える。
米当局は破綻した銀行の預金の全額保護を打ち出した。市場の動揺を収めるためだ。ただ、含み損を抱えて株価が低迷する銀行は他にもあり、市場にはなお警戒感が残る。
FRBなど米金融当局は、預金が急拡大した銀行への監督が不十分だったと認めた。破綻の連鎖を断ち切るには、銀行に対する規制や監督の強化が適切だろう。企業口座の保護上限額の引き上げなど預金保険制度の改革も検討される見通しだ。
米国発の金融不安は欧州に飛び火し、スイスの金融大手クレディ・スイスが経営危機に陥った。救済合併で危機の拡大は抑え込んだものの、クレディの債券「AT1債」が無価値となり、日本でも損害が出ている。
米国では銀行の融資姿勢が厳しくなっている。資金のパイプが詰まれば、企業の投資が鈍るなど経済の先行きに悪影響が出かねない。
先日の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は、金融システムは強靱(きょうじん)だと再確認しつつ「強靱性を維持するために適切な行動を取る用意がある」と首脳声明に盛り込んだ。社会の変化に対応した規制や監督の在り方を探ることが不可欠だ。
日本でも金融が正常化されれば、金利が上昇する。金融機関は米国での出来事を他山の石とすべきだ。
●物価高騰で米家庭の経済的不安増大=FRB調査 5/23
米連邦準備理事会(FRB)が22日公表した2022年の「米国世帯経済・意思決定調査」報告書によると、物価高騰が多くの家庭の経済的不安を高めていることが鮮明になった。
調査は昨年10月に1万1775人の成人を対象に実施。今回、「少なくとも金銭的に問題はない」との回答割合は73%と、過去最高だった21年に比べて5ポイント低下した。これは13年の調査開始以来最大の落ち込みだった。
「暮らし向きが悪化した」との回答は15ポイント上昇の35%と、この質問を始めた14年以降で最も高くなった。また現役世代の間で、引退生活に向けた貯蓄が「順調に進んでいる」との回答は21年の40%から31%に下がった。
「家計をやりくりするために貯蓄を取り崩した」「引退後の不安が増した」「買い物を先送りするか、より安い商品を買うようにした」といった声も多かった。
背景にはインフレが続いていることがある。消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率は昨年夏に9.1%と1980年代前半以来の高い伸びを記録し、足元でもなお4.9%と高止まりしている。
こうした中で物価上昇圧力が家計の予算に及ぼす影響が「大きい」との回答は、18歳未満の子どもを持つ家庭で54%に達した。また金銭面での主な試練としてインフレを挙げた家庭の割合は全体の3分の1で、16年に比べて4倍に膨らんだ。
●債券先物下落、FRB高官発言で米金利高−物価連動入札は無難との声 5/23
債券相場は先物が下落。米連邦準備制度理事会(FRB)高官から利上げ停止に慎重な発言が相次ぎ、長期金利が上昇した流れを引き継いだ。一方、23日実施の10年物価連動国債入札は新回号となることや割安感からの需要で無難に通過するとの見方が出ている。
米国の債務上限問題についてバイデン大統領と会談した共和党のマッカーシー下院議長は22日夕、「建設的な議論だったが、まだ合意に達していない」と話した。ただ、相場への影響は限定的となっている。
SMBC日興証券の奥村任シニア金利ストラテジストは、米長期金利はタカ派的な発言が続いて上昇しやすくなっていると指摘。「銀行破綻後のピークを越してきている。4%とかになってくると米銀バランスシートの問題が出てくる可能性から、上昇ペースはゆっくりになる」とみる。朝方軟調になった後は底堅い展開ではないかとも述べた。
セントルイス連銀のブラード総裁は22日、インフレ沈静化のために連邦公開市場委員会(FOMC)は今年あと2回利上げを余儀なくされるだろうと発言。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は「6月会合での追加利上げもしくは利上げ見送りのどちらも判断が際どく、五分五分だ」と述べた。
●米国のデフォルト迫ると再度警告 イエレン財務長官 5/23
米国のイエレン財務長官は22日、連邦議会に対し、米国がデフォルト(債務不履行)に陥る前に債務上限問題に対処できる時間はわずかしか残されていないと改めて警告した。
イエレン氏はマッカーシー下院議長に宛てた書簡で、財務省は最短で6月1日に完全かつ予定通りに債務を支払うことができなくなる「可能性が非常に高い」と述べた。
書簡には「現在手元にある新たな1週間分の情報を踏まえると、もし議会が6月上旬、最短で6月1日までに債務上限の引き上げまたは停止のための行動をとらない場合、財務省が政府債務の全てを履行することはもはやできなくなる可能性が非常に高いと伝える」とある。
ホワイトハウスと下院共和党はデフォルトに陥る「Xデー」が来る前に合意にこぎ着けようと協議を続けている。
バイデン大統領と同日面会予定だったマッカーシー議長は、いい議論は行われたものの「何も合意されていない」と述べた。特に争点となっているのは歳出削減の大きさで、マッカーシー氏は下院が債務上限の法案を通過させるには、削減パッケージも今週同時に進める必要があるとの認識を示している。
イエレン氏はデフォルトに陥れば米国史上初の事案となり、世界経済の後退や金融の混乱を引き起こし、連邦政府の支払いに頼る年金受給者や政府職員など数百万人の米国人に影響を与える可能性があると警告する。
アナリストの一部からは6月上旬にXデーを迎える可能性があるものの、1日とは限らないとの見方も出ている。
もし財務省が6月中旬まで支払いを継続できた場合は、夏の終わりまでデフォルトが遠のく可能性が高い。6月15日は第2四半期の予定納税の期限となっていて、月末には1450億ドル(約20兆円)の「緊急措置」も可能となる。
●イエレン財務長官 デフォルトのおそれ「非常に高い」 強い表現で警告 5/23
アメリカ政府の「債務の上限」の問題でイエレン財務長官は、与野党が合意できなければ来月1日にも国債がデフォルト=債務不履行に陥るおそれが「非常に高い」とこれまでより強い表現で危機感を示しました。
アメリカのイエレン財務長官は22日、野党・共和党のマッカーシー下院議長に宛てた書簡を公開し、政府の「債務の上限」が引き上げられなければ、6月1日にも国債がデフォルトに陥るおそれが「非常に高い」とこれまでより強い表現で危機感を示しました。イエレン長官は、2週間前から6月1日にもデフォルトに陥るとの見通しを示していて、議会に対して再三、合意を急ぐよう警告しています。
バイデン大統領は22日、事態の打開に向けてマッカーシー下院議長と会談する予定です。
●米債務上限協議、合意に至らず バイデン氏「デフォルト選択肢にない」 5/23
バイデン米大統領と共和党のマッカーシー下院議長は22日、債務上限問題を巡り約1時間協議したが、合意には至らなかった。双方とも協議を継続する意向を示した。政府の支払いが滞ると財務省が警告する6月1日まで10日ほどしか残っておらず、デフォルト(債務不履行)の危機が迫る。
バイデン氏は声明で「デフォルトが選択肢になく、超党派合意を誠意をもって目指すことが唯一の道筋という点を再確認した」とし「生産的な」会談だったと述べた。
マッカーシー氏も協議が「生産的」だったと述べ、合意点を見い出すために事務方の交渉が「夜通し」で行われるとの見通しを示した。「合意はなお達成できると考えている」とした。
自身とバイデン氏は毎日協議する見込みだと語った。ただ、富裕層の増税や石油・製薬業界の税の抜け穴をふさぐことで財政赤字の削減を図るというバイデン氏の提案を検討する考えはないとした。
バイデン氏は協議前に何らかの進展があると「楽観」していると語っていた。それぞれの有権者に「売り込む」ためには超党派の合意が必要だとし、まだ見解の相違があると述べた。
イエレン財務長官は22日、議会に書簡を送り、債務上限が引き上げられなければ6月1日にも政府の支払いが滞る「可能性が極めて高い」という認識を改めて示した。
バイデン氏とマッカーシー氏が合意にこぎ着けても、議会で関連法案を可決するのに数日を要するとみられる。マッカーシー氏はデフォルトを回避できるタイミングで法案を成立させるには、週内に合意をまとめる必要があると述べた。
債務上限を引き上げる条件として、マッカーシー氏は歳出削減を要求。ホワイトハウスの当局者にょると、共和党側は先週、低所得層への食料援助プログラムを対象に支出を追加で削減することを提案した。
バイデン氏はツイッターへの投稿で、石油業界への大型補助金や富裕層の節税を認めながら多数の国民の医療保険や食料援助を削減のリスクにさらすような提案は支持しないと表明した。 
●M&A低迷の中で大手行が動く、みずほもブティック型投資銀買収へ 5/23
企業の合併・買収(M&A)助言業務でトップクラスの銀行が自行の顧客に与えるアドバイスに従っている。買収相手が割安な時に買い、統合して不況を乗り切るというものだ。
新型コロナウイルスが世界経済を直撃した2020年を除きM&Aがここ10年で最も低迷している状況下で、少なくとも大手4行が規模の小さい投資銀行の買収を最近1カ月間に相次ぎ明らかにしている。
みずほフィナンシャルグループは22日、米投資銀行グリーンヒルの買収を発表。上場投資銀行としてはイタリア最大手のメディオバンカは先週、テクノロジーに焦点を絞った助言会社の英アーマ・パートナーズを買収すると発表した。
みずほ、米投資銀行グリーンヒルを買収へ−企業価値5.5億ドル
4月28日にはドイツ銀行が英国の大手ブティック型投資顧問会社ヌミスを現金で買収することで合意したと明らかにし、その前日の27日には三井住友フィナンシャルグループ傘下の三井住友銀行(SMBC)が米ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループの経済持ち分を最大15%まで引き上げることが発表された。
ジェフリーズ株急伸、三井住友銀が持ち分を最大15%まで引き上げ
3月にはカナダのトロント・ドミニオン銀行による米証券会社カウエンの買収が完了。トロント・ドミニオン銀は昨年8月、カウエンを現金13億ドル(現在の為替レートで約1800億円)で買収することで合意したと発表していた。
M&Aを進める動きは銀行業界に限らない。法律事務所のアレン・アンド・オーヴェリーとシャーマン・アンド・スターリングは統合計画を今月21日に明らかにした。
ブティック型
ブルームバーグがまとめたデータによると、経済の不確実性や独占禁止法の制約、資金調達市場の厳しさを背景に、今年これまでで全体の合併規模は約44%減り9730億ドルとなっている。
トレーディングや貸し出しを行わずM&A助言業務に特化したいわゆるブティック型投資銀行の一角は景気低迷で打撃を受け、株価も米国の地方銀行危機によって下落した。
アラントラ・パートナーズの投資銀行業部門で最高経営責任者(CEO)を務めるミゲル・エルナンデス氏は「M&A案件の減少により多くのアドバイザーが苦境に立たされている。そのため、立ち位置がしっかりしていれば、この市場は成長という点で極めて魅力的だ」と述べた。
ブルームバーグがまとめたデータによれば、ニューヨークを本拠とするグリーンヒルは金融危機以前はM&Aランキングでトップ20位入りの常連だった。今年は74位に低下した。
みずほがグリーンヒルに提示した1株当たり15ドルという買収額はグリーンヒル株の19日終値を121%上回る水準。ただ、グリーンヒル株は09年に96.09ドルまで値上がりした。
戦々恐々
グリーンヒルは創業者でM&Aのベテラン、ボブ・グリーンヒル氏の下で04年に上場し、最も早期に新規株式公開(IPO)を実施したブティック型投資銀行の1行となった。今年6月に87歳になる同氏と現在のグリーンヒルCEOでみずほ傘下で働くスコット・ボク氏が2大株主。
モーリスやフーリハン・ローキーといった投資銀行が相次ぎ上場する中で、グリーンヒルはここ10年、急増するブティック型投資銀行との競争激化に直面していた。
ロンドン大学のベイズ・ビジネス・スクールでコーポレートファイナンスの上級講師を務めるバレリヤ・ビトコバ氏は、「貸し出しを手掛ける大手銀行は金利上昇で大きな利益を上げているが、M&Aのブティックはここ2四半期、本当に苦しんでいる」と指摘。「大手行が自信満々で買い手として行動する一方で、M&Aのブティック投資銀は身売りを強いられると戦々恐々としている」と話した。
上場取りやめを選択したブティック型投資銀行はグリーンヒルだけではない。ロスチャイルドは2月、その名を冠した会社の上場を廃止する計画を発表した。
●S&P500は今後数カ月で最大17%の下落に、JPモルガンが予測 5/23
バンク・オブ・アメリカは、2023年末のS&P500種株価指数目標を4300ドルと従来の4000ドルから7.5%引き上げた。しかし、市場にはこのような楽観的見方を疑問視するさまざまな要因が現れている。
バンク・オブ・アメリカのサビタ・スブラマニアン率いるアナリストは、直近の企業のコスト削減努力と人工知能(AI)ブームがテクノロジー株の復活を後押ししていることを理由に、5月21日の顧客向けメモでS&P500のターゲットを引き上げた。
しかし、ウォール街の他の多くのアナリストは、はるかに弱気で、モルガン・スタンレーのマイケル・ウィルソンは21日に、ここ6カ月間のS&P500の約15%の上昇は「大量のパニック買いが引き起こした、すぐに失速する上昇に過ぎない」と書いた。ウィルソンはさらに、ここしばらくの市場の楽観が、AIの進歩や当局の金利の引き上げ意欲の低下などに起因しているが、今年の後半に訪れる深い業績後退を防ぐことはできないと指摘した。
ウィルソンのS&P500に対する弱気な見方は、別の市場データでも支持されている。J.P.モルガンのジェイソン・ハンターが率いるテクニカルグループは22日、今後数カ月の最も可能性が高いシナリオとして、S&P500が最大17%下落し、約3年ぶりの安値をつけると予測した。
今年の米国株の上昇は、インフレの緩和や金利引き上げの減速、企業収益の堅調さなどに支えられ、3月の歴史的な銀行危機ですら、市場の暴落には至らなかった。しかし、S&P500の上昇分のほとんどは、一握りのメガキャップのテクノロジー株に集中しており、市場の広がりのなさがウォール街に懸念をもたらしている。
ニュースレター「ザ・セブンズ・リポート」を創業したメリルリンチの元トレーダーのトム・エッセイは21日、単に重大な懸念事項がないことが理由で株価が上昇するという見方は「もう古い」と書き、S&P500がさらに上昇するためには「実質的なポジティブなソリューション」が必要であると指摘した。
●ドルLIBOR代替金利、銀行財務への悪影響に懸念も 5/23
米ドルのロンドン銀行間取引金利(LIBOR)が6月30日に全面廃止され、融資などの指標金利が「無リスク金利」であるSOFRに移行する。金融市場でストレスが高まっている今、新金利への移行が銀行のバランスシートに悪影響を及ぼしかねないとの懸念が再燃してきた。
SOFRへの移行は何年も前から周知の事実で、銀行はほぼ準備を完了している。ただ、移行は米中堅行から預金が大量流出したタイミングに重なることになった。
SOFRを巡る主な懸念は、信用リスクを反映しないため金融危機やリセッションが起こって米連邦準備理事会(FRB)が利下げに向かう際、一緒に低下する傾向があることだ。政策金利のフェデラルファンド(FF)金利は、SOFRを含む無リスク金利全般の指標だ。
SOFRは、レポ市場で使われる安全な米国債を担保にした翌日物の借り入れ金利。今では米国の融資の約95%がSOFRを基準金利としている。
これに対してLIBORは無担保の銀行間取引金利であるため、信用リスクを反映。金融市場でストレスが生じた際には上昇する傾向がある。
アナリストは、SOFRが低下すれば、銀行の資金調達コストが増加している正にそのタイミングで融資のリターンが圧縮されかねないと言う。危機時には通常、投資家が銀行発行の債券に要求する利回りが上がり、銀行の資金調達コストが増加する。
そうなると銀行のバランスシートが悪化し、最悪のタイミングで実体経済への貸し出しが抑制されかねない。
スタンフォード・グラジュエート・スクール・オブ・ビジネスのファイナンス学教授、ダレル・ダフィー氏は、「危機時にはSOFRが低下し、借り手は非常に低い金利で借りることができるため、銀行はSOFRを基準金利とするリボルビングクレジット(企業が一定の与信限度額内で自由に借り入れられる制度)債権が増える」と説明。「危機の最中に企業がリボルビングクレジットを使って低金利で借り入れられるなら、銀行は調達コストが上昇する中でその融資のための資金を調達せざるを得なくなる」と述べた。
複数の地銀は2019年、米当局に書簡を送り、SOFRへの移行は融資実行に悪影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らした。SOFRが低下すれば借り手は与信枠から資金を引き出してそれを抱え込むことになるとの懸念だった。
ダフィー氏によると、リボルビングクレジットは銀行の企業向け融資の59%を占める。
FRBが昨年利上げを開始して以降、銀行の調達金利は上昇している。しかし銀行は、今でも最もコストの低い資金調達手段である預金の金利をゆっくりとしか引き上げてこなかった。
ニューヨーク連銀の最近の調査によると、顧客がより高い金利を求めて預金を引き揚げる中、銀行はよりコストの高い資金調達によってそれを補い、利上げ開始以来でそうした調達は8000億ドルに上っている。
実質的な政策金利
地銀の破綻が相次いでもSOFR金利は安定して推移し、現在も5.05%とFF金利の5%に近い水準を維持している。
リスク管理会社チャタム・ファイナンシャルのマネジングディレクター、ロブ・マングレリ氏は「SOFRはリセッションになってもFRBの政策金利外には動かないだろう。実質的な政策金利であり、FRBはSOFRを一定のレンジ内に維持する手段を持っているということだ」と説明した。
FRBが銀行に対し、融資の基準金利にSOFRを使うよう義務付けているわけではないとダフィー氏は言う。信用リスクを反映する代替金利として、Axi、AMERIBOR、BSBYの3種類がある。ただ、これらは広く利用されておらず流動性が低い。
アナリストによると、今のところ信用リスクを反映する金利とSOFRの極端なかい離は起こっていない。過去数カ月間に銀行セクターが混乱に見舞われたことで、SOFRが他の金利に比べて低下してもおかしくなかったが、実際には両者のスプレッドは縮小している。
フィッチ・レーティングス(ロンドン)の金融機関調査責任者、モンスール・フセイン氏は「結局のところ、銀行は新たな金利への移行準備をしっかり行ってきた。移行はほぼ終わっており、SOFRの金利は政策金利と一緒に上昇してきた」と語った。
●3万1000円は通過点?"日はまた昇る"を期待させる理由とは? 5/23
日経平均は33年ぶりの高値水準!米国市場も年初来高値を更新
5月第3週の日経平均(5/15-19)は続伸し、前週末比1420円超(+4.8%)の大幅高。海外勢による買いが継続し、週内最終営業日5/19(金)には取引時間中高値30,924円57銭をつけ、バブル崩壊以来の高値水準となりました。
同期間の東証グロース市場指数は+0.1%、東証マザーズ指数は▲0.02%と中小型株が軟調なパフォーマンスでした。東京株式市場の買いの主体である海外勢や機関投資家からすると、時価総額や流動性といった部分で中小型株には資金を投入しづらい面があります。投資部門別取引状況で海外勢は5月第2週まで7週連続の買い越しであり、物色の対象としては時価総額が大きく、流動性のある、いわゆるプライム市場の主役級の面々となりました。
日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(5/15〜22・図表7)では、東京エレクトロン (8035)や、1:4の株式分割を発表したアドバンテスト(6857)、SCREENホールディングス (7735)等の半導体製造装置を手掛ける企業がランクインしました。米SOX指数(フィラデルフィア半導体株価指数)の上昇に加え、足元で世界の半導体企業が日本への投資を拡大していることが追い風となっている模様です。5/18(木)にはメモリーの世界的大手マイクロン・テクノロジー(MU)が日本国内の工場に最大5,000億円の投資を行うと日経新聞のインタビューにて明らかにしています。
同期間の米国市況ではS&P500が+1.6%、グロース中心のナスダックが+3.0%と年初来高値更新となりました。債務上限問題では大統領や下院議長、財務長官といったキーパーソン達の発言や、交渉の進捗状況の報道で揺れ動いたものの、特段新たな追加材料はありませんでした。小売大手の決算において、市場が想定していた程実績や見通しが悪くなかったことや、パウエル議長のハト派発言がプラスに作用し上昇相場となりました。また、グロース株優位となった要因として、機関投資家の株主保有状況報告書「13F」で、大手ファンドが23.3末までにハイテク株の保有割合を増やしていたことが明らかになったことが挙げられます。
5月第4週の日経平均は、5/22(月)に次なる節目である31,000円を突破。終値べースでは、1990年7月末以来の高値水準です。米債務上限交渉での進展が見られないことによる海外からの資金逃避需要が継続したことや、日経平均の高値水準に耐え切れなくなった売り方の買い戻しなどが、株価を押し上げたと考えられます。
   図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
   図表2 日経平均株価
   図表3 NYダウ
   図表4 ドル・円相場
   図表5 主な予定
   図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
   図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(5/15〜22)
   図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(5/15〜22)
3万1000円は通過点?“日はまた昇る“を期待させる理由とは?
5月22日(月)の日経平均は前日比278円高の3万1,086円と、終値では1990年7月31日以来、約33年ぶりに3万1,000円を上回りました。これで日経平均は8連騰を記録しており、5月12日に昨年8月の高値(2万9,222円)を上抜けすると、そこから株高の勢いが強まりました。日経平均の5週(25日)移動平均線に対する乖離率は6%超、また東証プライム市場の騰落レシオ(25日)は129%と買われ過ぎのサインとされる120%を上回り続けています(図表9)。相場の過熱感が強まっていることは否めませんが、その一方で外国人投資家による日本株買いに支えられた相場上昇の腰は思いの外強く、外部環境が大きく悪化しない限りは日本株の堅調地合いは当面、続きそうな勢いと思われます。
   図表9 日経平均と騰落レシオ
さて、前回に日経平均が3万1,000円を上回っていた頃ですが、当時は89年末につけた3万8,915円から翌90年10月1日の1万9,781円(ザラ場安値)にかけて、株価が転げ落ちるように下落する過程にありました。日本経済は、90年3月の大蔵省(当時)による不動産融資の総量規制と、金融引き締めにより、日本の不動産価格が下落へ転換し、それが後の不良債権問題や金融危機へと発展する、バブル崩壊の道のりを歩んでいました。英紙エコノミストの記者だったビル・エモット氏の著書「日はまた沈む」(90年)は、日本のバブル崩壊を予測しベストセラーとなったのですが、当時は市場でバブル崩壊が理解されていませんでした。急激な株安は、政局不安や日米構造協議への不安、金融引き締め、(湾岸戦争による)原油価格上昇などが要因と考えられていました。日本の景気拡張は岩戸景気(拡張期は58年6月から61年10月)を抜いたので、次はいざなぎ景気(65年10月から70年7月)を超えるのではないか、といった論調が関心事であり、市場では「景気は良いのに、なぜ株価は下がるのか」といった空気が強かったそうです。
図表10は90年7月31日と23年5月22日(現在)における、国内企業時価総額トップ20社の顔触れです。90年7月31日時点で東証1部の時価総額は約530兆円、時価総額の上位には銀行が目立ちました。当時は“Japan as NO.1”と言われており、世界の時価総額トップ50社でも日本企業が32社ランクインされるなど、日本経済はまさに絶頂期にあったと言えます。一方、現在は東証プライム市場の時価総額は約770兆円へと大きく増加しましたが、時価総額トップ20社の顔触れは大きく変わりました。当時と現在と両方でランクインしているのは、トヨタ自動車、NTT、任天堂、日立製作所の4社しかありません。不良債権問題に苦しんだ銀行は単独で生き残ることは出来ず、経営統合などを繰り返してきました。また、世界の時価総額トップ50社のうち、日本企業はトヨタ自動車のみと、日本企業のプレゼンスは大きく低下してしまいました。
   図表10 国内企業の時価総額ランキング
   図表11 日経平均と東証1部市場時価総額
現在、日経平均は90年と異なって株価上昇局面にあります。前述のビル・エモット氏は「日はまた沈む」を書いた17年後の2006年に「日はまた昇る」という著書で日本経済の復活を予測しました。この当時は、後のリーマンショックの影響もあって日本再興とまではいきませんでした。もっとも、同書のサブタイトルは“日本のこれからの15年”であり、日本経済のゆっくりとした変化を予測しており、現在になってようやく復活の芽が息吹き始めたのかもしれません。実際、足元の日本経済は、物価高に背中を押されたとは言え大企業を中心とする賃上げの動きが強まっていることや、インバウンドを含めた内需の喚起、あるいは世界的な半導体メーカーによる日本への直接投資など、これまでになかなか見ることが出来なかった動きが出てきているように思えます。日本株上昇を支える外国人投資家の買いは、日本経済復活への期待が背景にあるのであれば、息の長い資金流入が期待できるのかもしれません。
●日本株上昇「3つの理由」とこの先の株価の行方…経団連会長は警告 5/23
この株価上昇はいつまでつづくのか──。23日の日経平均株価の終値は、前日比129円05銭安の3万957円77銭で、9営業日ぶりの値下がりだった。
とはいえ株価は22日まで8日続伸し、心理的節目だった3万1000円台まで上昇、約33年ぶりのバブル崩壊後の高値を更新した。わずか8営業日で約2000円も上昇している。
日本株が上昇しているのは、企業が株主への利益還元策を強化していることと、先行き不安のアメリカ経済に比べ、日本経済の方が安定しているとみられているためだ。経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「株価上昇の理由は、3つあります。1つはバフェット効果です。アメリカの著名投資家ウォーレン・バフェット氏が、日本株への投資を明言したことで内外の投資家が便乗している。2つ目が、日銀の植田新総裁が“株高支援策”である大規模緩和の継続を決めたことです。投資家は安心して株を買っている。3つ目が、企業の株主還元策の強化です」
全面高ではないという意外
しかし、日本経済はまだ回復途上だ。GDPはコロナ禍以前である2019年の水準に戻っていない。さすがに経団連の十倉雅和会長も、この株価について「あまりぬか喜びをしない方がいい」と指摘し、物価高や金融引き締め、ウクライナ侵攻など「いろいろな心配事がある」と警告を発しているほどだ。
意外なのは、日経平均株価は上昇しているが、全面高ではないことだ。22日のプライム市場は、値上がりした銘柄は68%、値下がりした銘柄は29%と、値上がり銘柄の方が多かったが、19日は値上がり812銘柄、値下がり945銘柄と、下落した株の方が多かった。
この先、株価はどうなるのか。個人投資家も儲けるチャンスがあるのか。
株で儲けられるのは2割だけ
「2023年の後半から、アメリカ経済は景気後退入りする可能性が高い。FRBによる利上げの影響がいよいよ顕在化してくるとみられています。この先、アメリカよりも日本経済の方が景気回復の余地がある、と日本株が買われているのでしょうが、アメリカ経済が悪化したら、日本経済も、日本株も無傷ということはあり得ない。そもそも、株で儲けられるのは2割だけ、8割は損をしているともいわれている。個人投資家は慎重に判断した方がいいでしょう」(斎藤満氏)
外資系ファンドが買っている大型株だけが上昇し、売り抜けてボロ儲け――というバカみたいな結末もあり得るということだ。

 

●「娘を売った」昭和恐慌が再来か、アメリカがデフォルト危機で引き起こるデフレ 5/24
アメリカのバイデン大統領が5月18日に訪日し、広島市内で開催されたG7サミットに出席したが、そのウラで未曽有の危機が迫っていた。
「発行している国債の元本の償還や利払いができなくなるデフォルトに、アメリカが早ければ6月1日にも陥る可能性が浮上しているのです。アメリカでは国が借金をできる上限金額が法律で決まっているのですが、今年1月には借金が上限に達していたのです。議会での承認がなければ、上限を引き上げることができません。このままでは世界的な経済危機が到来してしまう」(全国紙経済部記者)
デフォルトした場合の影響は?
ただ、経済アナリストの森永卓郎氏はこう話す。
「バイデン大統領が来日していたことから、水面下で上限引き上げの話がついたのでしょう。デフォルトは起こらないと思いますよ」
経済ジャーナリストの荻原博子さんも同意見だ。
「年中行事みたいなものですから、大丈夫です。デフォルトすることは考えられません」
アメリカのデフォルト危機は、2011年や2018年などたびたび起こっている。専門家2人も“大丈夫”と太鼓判を押すだけあってひと安心。
だけど、仮にデフォルトした場合、私たちへの影響は?
「前例のないことですから、正確なことは言えませんが、まずアメリカを襲うのは、金利の上昇と株価の下落です。長期金利が上昇すれば債権の価値が下がり、巨額の含み損が発生し銀行が軒並み破綻していく。これにより、アメリカ経済が失速し、バブルが崩壊。世界的な経済恐慌を引き起こすのです」(森永氏)
荻原さんは、私たちにはこんな影響があると続ける。
昭和恐慌では「娘を身売りする家」が続出
「金融機関は世界中でつながっていますから、アメリカの影響を受けて日本の金融機関でも大動乱が起きる。金融商品が大量に売りに出され、その価値は大暴落。昨今は、多くの人が株や不動産の投資信託などを買っていますから、その資産が失われる可能性がある」
2019年に金融庁は、老後30年間で約2000万円が不足するとの試算を示した。岸田文雄首相も“貯蓄から投資へ”とのスローガンを掲げていることから、老後資金を少しでも増やそうと、新たに金融商品の購入へと踏み切った人も少なくないはずだ。しかし、その資産が泡のように消えてしまうかもしれない。
「影響はそれだけではありません。円高と世界経済の失速によって物の価値が下がるデフレに陥り、企業が続々と倒産。失業も増加するでしょう。どこまで経済が悪化するかは予測がつきません。例を挙げるならば、1927年から起こった昭和恐慌では、1929年にニューヨークの株式市場が大暴落したのを契機に、経済状況はさらに悪化しました。日本は失業者であふれ“大学は出たけれど……”が流行語に。農村部では娘を身売りする家が続出したのです」(森永氏)
仕事を失い、生活が困窮するかもしれない。そして、政府は私たちに負担を強いる。
「経済から軍事まで日本はアメリカにベッタリですから、多額の資金を拠出して全力で支援するでしょう。その原資として増税し、私たちに重い負担を課す可能性はあると思います」(荻原さん)
これらはアメリカがデフォルトしたら……の話だが、将来的に起こる可能性は?
「可能性はあると思いますが、200年に1度ぐらいの確率ですね」(森永氏)
バイデン大統領は、G7後に予定していた外遊を取りやめ帰国した。本当に、この危機を回避できるのか─。
●FRB金利政策に影響か、米地銀危機で信用収縮 5/24
ロサンゼルス西部のサンタモニカ。観光客や買い物客でにぎわうプロムナードのモールから2ブロック離れたガラス張りのビルに「SVBプライベート」のロゴ。破綻したシリコンバレーバンク(SVB)の富裕層向けサービス部門の支店だ。いわゆるプライベートバンク。ホームページを確認すると、ファースト・シチズンズのディビジョン(部門)と記載されていた。3月10日に破綻したSVBの預金や融資債権などは地銀ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズが引き受けることで連邦預金保険公社(FDIC)と合意したが、SVBの名称はまだ使っているようだった。
SVBプライベートが入居するビルから北方向に5分ほど歩くと地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)の支店がある。FDICは今月1日、FRCが経営破綻し、公的管理下に置いたと発表。同時に米銀大手JPモルガン・チェースがFRCの全ての預金と資産を買収するとも発表した。リーマン・ブラザーズが破綻した約2週間後の2008年9月25日、ワシントン・ミューチュアル・バンクに業務停止命令。米国史上最大の銀行破綻になった。入札でJPモルガン・チェースがワシントン・ミューチュアルの大半を取得。JPモルガン・チェースは米国で破綻した最大規模と2番目の規模の銀行を買収したことになる。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米最大の銀行であるJPモルガン・チェースの店舗が全米のいたるところにあるが、さらに拡大する方向にあると報じた。買収したFRCに加えSVBとシグネチャー・バンクの破綻で地銀の預金が大量流出する危機に陥ったが、JPモルガン・チェースは一段と強固になったとしている。ヒューストン、ニューヨーク、シカゴなどの大都市で預金残高トップ、ロサンゼルスはバンク・オブ・アメリカとウェルズ・ファーゴと合わせた大手銀3行で預金全体のほぼ半分を占めていると伝えた。
ブルームバーグ通信によると、JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)は、16日に開かれた年次株主総会で、銀行業界の混乱で苦境に陥っている米地銀をこれ以上買収する可能性は低いと述べた。地銀業界が「安定を取り戻す」と期待していると語った。その2日後の18日。イエレン米財務長官は、ダイモン氏やシティグループのフレイザーCEOら大手銀トップとの会合で、さらなる銀行合併が必要になるかもしれないと話した。CNNが匿名の関係者2人を引用して報じた。
フィナンシャル・タイムズ紙は19日、CNNの報道を受け米地銀行が大幅安で推移したと報じた。KBW地銀指数は2.2%下落したとしている。CNBCは、連邦債務上限交渉の不透明感が強い中でイエレン財務長官の発言が伝えられ、パックウエストやウエスタン・アライアンスなど地銀株が売られ、週前半の上昇分の一部を削ったと伝えた。
米連邦準備理事会(FRB)が8日発表した上級貸出担当者を対象にした調査(SLOOS)で、大・中規模企業向け融資基準を引き締めた割合は差し引き46%と、1月調査の44.8%から上昇した。1990年、2001年、2007年、2020年は50まで上昇、米経済はリセッション(景気後退)に陥った。注目された「50」に届かず、急激な信用収縮ではなかったが、FRBの利上げと銀行危機が融資厳格化を招いたと指摘された。FRBのパウエル議長は、信用収縮が金融政策に影響を与える可能性に言及。CNBCが19日に中継したワシントンのイベントで、銀行システムのストレスを理由に「政策金利をそれほど引き上げる必要がないかもしれない」と述べた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、金利据え置きの可能性を示唆したと報じた。
ダラス地区連銀のローガン総裁をはじめFRB高官のタカ派発言が相次ぎ、市場では6月13〜14日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%利上げの可能性があると見方が再浮上。10日発表された米消費者物価指数(CPI)を手掛かりに利上げ停止がコンセンサスになったが、CMEグループの「フェッドウォッチ」が示す6月利上げ確率は40%近くまで上昇した。パウエル議長がタカ派に属さないことを示したことで、据え置き確率が大幅上昇、利上げ確率は20%を再び割った。目まぐるしく動き、市場がFRB金利政策にいかに敏感かわかる。
スタンフォード大学院で金融を教えるアミット・セル教授は、ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿文で、商業不動産への融資焦げ付きリスクが大きいと指摘、銀行危機に備えるべきと主張。ショート・ヒルズ・キャピタルを率いるスティーブ・ヒルズ氏は、CNBCのインタビューで、米地銀危機はまだ終わっていないと警告した。銀行リスクは後退したと投資家の一部は楽観的だが、銀行と融資基準、FRBをめぐる観測・思惑が市場に引き続き影響しそうだ。
●1950年代に回帰する米民主党 迷走する国際経済政策 5/24
4月27日、米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はワシントンのブルッキングス研究所で「米国の経済的リーダーシップ再生のために」と題する演説を行った。主要点の一部を挙げれば、次の通り。
(1)戦後の国際経済秩序につき過去数十年亀裂が生じ、多くの労働者や住民が取り残された。金融危機は中間層を打撃した。サプライチェーンの脆弱性が露呈、ロシアはウクライナを侵略した。
(2)バイデン政権は発足に当たり4つの課題に直面した。第一は、米国の産業の空洞化。市場効率という名の下に戦略物資のサプライチェーンが海外に移転した。貿易の自由化は米国の輸出を増大させ、雇用や能力を輸出することにはならないと言われたが、それは守られなかった。全ての成長が良い成長だと考えられた。そのため金融など特定分野が優遇され、半導体などの不可欠な分野は衰退した。金融危機とパンデミックは今までの経済政策の前提の限界を露呈した。第二は、地政学と安全保障の競争。過去30年の国際経済政策は、経済統合を通じて国は責任ある、開放された国になるとの前提に立っていた。中国は、そのような国にはならなかった。第三は気候変動とエネルギーの転換。第四は、格差の問題とそれが民主主義に与えたダメージ。
(3)90年代のような関税撤廃では今日の問題(供給網など)を解決することはできない。自由貿易協定(FTA)では対処できない。
(4)バイデン政権は中間層や労働者に不利益を与える法人税の撤廃につき関係国に働きかけている。
(5)重要技術は、「狭い範囲の高い壁の中」で守る。対中関係は、デリスキングであり、デカップリングするのではない。
(6)今必要なのは、われわれの賃金労働者、産業、気候、安全保障、世界の最貧で最も脆弱な国にとり良い国際経済システムだ。
サリバン演説の全文は、ホワイトハウスのウェブサイトで読むことができる。
この演説には暗澹たる気持ちにさせられる。書生のごとき観念的な世界観に驚く。戦後70年の国際社会の発展・経験の現実をあまりにも無視している。この演説に対しては、「冷戦終了後の30年両党の大統領の追及した貿易政策を全面的に否定するに等しい演説」との批判もある。
●日本株好調の要因は? 5/24
日経平均がバブル期以来の高値
日経平均は5月22日に終値で3万1000円を超え、バブル景気の1990年8月以来、約33年ぶりの高値となった。
翌日は先端半導体製造装置の輸出規制報道や一部の国内年金基金の大口売り報道があり反落したが、好調さを持続している。
欧州も政治不安、新興国も中国問題、米国も利上げのスケジュールが不透明で、SVBに端を発した金融危機、債務上限問題と問題が山積で伸び悩む中、日本株が独り勝ちの様相を呈している。
かつては米国がくしゃみをすると日本が風邪をひくと言われてきたが、日本株の好調さの要因はなんだろうか?世界の時価総額の上位を日本株が独占していた平成バブルのような、“令和バブル”が到来するのだろうか?
考えられる好調の要因
1つは2023年3月期の上場企業の決算が軒並み好調であったことが挙げられる。ようやく脱コロナとなり、GDP(国内総生産)の個人消費が好調であったことも好感されている。
旅行支援は継続され、インバウンドもようやく戻りつつある。出遅れていた銘柄も買いが入っている。
もう1つは、世界の半導体メーカーによる日本への投資が活発となっている点である。対中国のリスク管理もあり、経済安全保障の面からも米国・韓国・台湾などの投資提案が活発化している。
そして、植田新日銀総裁も緩和継続の姿勢を鮮明にしており、世界中が引き締めに向かう中、日本だけが緩和していることも大きい。
どこまで続くのか?
日本は常に悲観論が先行することが多いが、日本株が買われる要素は客観的に見ても多い。
PBR1倍割れ是正のための自社株買いや、個人投資家が買いやすい金額にするための株式分割など、東証による上場企業への働き掛けは海外投資家からも好感されている可能性が高い。
ただし、いつまでも続くという楽観論は危険である。
中国の景気や米国の金融危機などの外部要因で売られるリスクも否定できない。日銀の金融緩和も出口戦略が意識されると、また売られることも十分考えられる。
だがバブルの時のような狂乱はなく、地道な投資をしていれば、大きな損をすることもなさそうである。
●26年間で株価が400倍になった、ゲーム業界の草分けとは? 5/24
給与収入だけで老後資金をまかなえるのか不安に思う人が増えている。多くの人にとって「投資」が避けて通れない時代になってきた。資産を増やすという点で大きな選択肢の1つになるのが株式投資だ。「株投資をはじめたいけど、どうしたらいいのか?」。そんな方に参考になる書籍『株の投資大全ーー成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』(小泉秀希著、ひふみ株式戦略部監修)が3月15日に発刊された。「ひふみ投信」の創始者、藤野英人氏率いる投資のプロ集団「ひふみ株式戦略部」が全面監修した初の本。株で資産をつくるためには、何をどうすればいいのか? 本連載では、特別に本書から一部を抜粋・編集してその要旨をお伝えしていく。
国内市場は年率7%、 世界市場は10%程度の成長が続く
ゲームは国内2兆円、世界20兆円という巨大産業です(2021年現在)。
しかも、国内市場は年率7%、世界市場は10%程度の成長が続いています。これは、国内市場は10年で2倍、世界市場は10年で2・5倍程度になるペースです。
このペースでいけば、2031年には国内4兆円、世界50兆円程度の市場に成長する計算となります。これだけ巨大で成長性も高いゲーム業界なので、当然、成長株も多数出現しています。
日本のゲーム産業の草分けである任天堂(7974)は、1981年に上場してから26年間で株価が400倍になりました(下図)。現在でも豊富なキャラクターやコンテンツを抱えゲーム業界の有力企業であり続けています。
任天堂は、あまり流行りのトレンドになびかずに独自路線を歩み続けている印象です。たとえば、ゲームの主戦場がスマホになっても、任天堂自身はスマホへの事業展開をほとんどしていません。
しかし、任天堂が持っている豊富なキャラクターやコンテンツ、さらに、面白いゲームを生み出し続けている力を考えると、どんな環境変化が起きてもこの会社は楽しいゲームや魅力的なキャラクターを生み出す力を発揮し続ける可能性がありそうです。
2016年には、アメリカのベンチャー企業であるナイアンティックが任天堂の協力をえてスマホゲーム「ポケモンGO」をリリースして世界中に大ブームを起こしました。任天堂のキャラクターの潜在性の大きさが感じられる出来事でした。今後、さまざまな技術やプラットフォームが出てきても、任天堂は強みを活かした事業展開をしていけるのではないでしょうか。
●「アップル銀行」サービス開始のタイミングが超秀逸な理由、天下獲りも? 5/24
米アップルがスタートした預金サービス(いわゆるアップル銀行)が驚異的なペースで顧客を獲得している。米国は急激な金利の引き上げで金融不安が発生しつつある状況であり、高金利のサービスが登場すると、金融システムがさらに混乱する可能性がある。同社は日本市場への進出も検討していると報道されており、これから金利が上昇する日本においても他人事ではない。
他社を圧倒する金利
米アップルは2023年4月17日、同社のクレジットカードであるアップルカードの保有者向けに年4.15%という高い利率の預金サービスを開始した。実際にはアップルが銀行になるのではなく、投資銀行大手ゴールドマンサックスと組む形でサービスが提供されるが、アップルの知名度の高さやiPhoneの顧客基盤の厚みを考えると金融業界に与える影響は大きい。
企業の知名度の高さもさることながら、多くの人が驚いたのは、他社を圧倒する高い金利である。
日本の場合、低金利が続いていることに加え、銀行のサービスは横並びであり、どの銀行に預けても金利はほぼ同じになる。米国の場合、商品内容によって金利にバラツキが生じるのことは当然のことと理解されており、全体的な金利水準も日本より圧倒的に高い。だが、日本における普通預金に相当するサービスの金利が4%台というのは、米国人にとっても驚きの数字である。
しかもアップルという超有名企業が提供している金融サービスであることを考え合わせると、このサービスはやはり破格とみて良いだろう。
それだけではない。アップル銀行のサービスは、最低残高などの制限もなく、カードの保有者であればごく簡単な手続きで口座を開設できる。米国では審査基準に満たないことから銀行口座を開設できない人が一定数存在しており、口座の開設そのものが容易ではない。十分な預金残高がなく信用情報が低くても自由に口座を開設できるメリットは大きく、若年層などを中心にかなりの顧客を獲得する予想される。
これは消費者にとっては良い話と言えるのだが、金融システム全体に目を向けると、必ずしもそうとは言えない面がある。その理由は、このタイミングでアップルが挑戦的なサービスを展開した場合、現在、懸念されている金融システム不安をさらに増大させる可能性が否定できないからである。
3行破綻のタイミングでアップルが新事業を開始
米国の中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)は、リーマンショック以降、続けてきた大規模緩和策から脱却するため、金融引き締め策に転じており、米国では金利が急上昇している。
金利の上昇局面においては、利率が低い銀行に資金を預けていた顧客は損をするので、利回りの高い商品にマネーがシフトする。こうした動きは今年に入って顕著となっており、一部では顧客が預金を一気に引き出したことで、米シリコンバレー銀行など3行が破綻するという事態まで発生している。
今回、破綻した3行のうち2行は新興企業に特化した特殊な銀行であり、その顧客属性上、金利上昇局面での預金の動きは一般商業銀行と比較すると圧倒的に素早い。破綻したもう1行であるファースト・リパブリック銀行も富裕層に特化した銀行であり、ほかの商業銀行とは顧客属性が異なる。富裕層は経済動向の変化に敏感であり、ほかの2行と同様、急激な預金の引き出しが発生した。
こうした事情から、3行の破綻は金融システム全体の問題とは認識されていないが、金利の引き上げが今後も続いた場合、預金流出やほかの金融商品への乗り換えがさらに進むことはほぼ確実であり、金融機関の連鎖破綻が発生するのではないかと懸念する声も出ている。
こうしたタイミングで登場してきたのが今回のアップル銀行である。
アップル銀行はサービス開始からわずか4日で9億9000万ドル(約1350億円)の預金を獲得するなど、想定外のペースで事業展開を進めている。
高い知名度と高金利を背景に、同社がこのままのペースで顧客を獲得した場合、特に中小銀行からの預金流出が激しくなると予想される。アップルにとっては大きなビジネスチャンスかもしれないが、体力の弱い銀行にとっては、破綻リスクを高める結果となりかねない。 ・・・
●富士フイルム、「脱フイルム」で過去最高益達成の卓越経営… 5/24
これまでも富士フイルムは収益分野を拡大してきた。多くの取り組みが進められているなか、ヘルスケア分野ではバイオ医薬品の受託製造体制が強化されている。マテリアルズの事業セグメントでは国内外で設備投資の積み増しや買収が行われている。特に、半導体部材の製造体制の強化が急がれている。それに伴って業績も拡大している。
富士フイルム経営陣は、自社の強みが微細な素材の創出に力にあることを理解し、その製造技術が発揮でき、なおかつ成長期待も高い分野に応用してきた。現在、そうした事業運営戦略は一段と強化されている。一方、2012年、かつてフイルムをはじめ世界最大の写真用品企業だった米イーストマン・コダックは経営破たんした。写真フイルムの製造などに必要な技術を、化粧品やサプリメント、複合コピー機、医療機器や製薬、電子機器向けの部材などに応用して新しい需要を創出したところに、富士フイルム事業戦略策定の妙がある。中長期的に世界全体でバイオ医薬品や次世代の半導体の需要は増加する。環境変化を成長の加速につなげるべく、富士フイルムはこれまで以上に事業ポートフォリオの見直しを実行し、自社の強みが発揮でき成長の期待も高い先端分野に経営資源を再配分するものと予想される。
過去最高を更新した2023年3月期の業績
ここにきて、富士フイルムの事業ポートフォリオ全体で収益力は上昇している。2023年3月期、富士フイルムの連結売上高は前年比13.2%増の2兆8,590億円だった。営業利益は同18.9%増の2,731億円、当期純利益は3.9%増加の2,194億円だった。いずれも、過去最高を更新した。売上高は、リーマンショック発生直前の年度決算であった2008年3月期以来の最高益更新だ。第4四半期の業績に関しても、2023年2月8日に公表した自社業績予想を上回った。事業セグメントごとに確認すると、医療機器などを扱うヘルスケア、半導体部材などを供給するマテリアルズ、複合機などを製造販売するビジネスイノベーション、およびインスタントカメラ「チェキ」などを手掛けるイメージングの全事業分野で売り上げは増えた。年度末時点の自己資本利益率(ROE)は8.3%、投下資本利益率(ROIC)は6.1%だった。
同社がROICを決算説明会資料に記載し始めたことは注目に値する。ROICとは、企業が事業活動のために投じた資金を使って、どれだけの利益を生み出したかを示す指標だ。企業は自己資本(株式)と銀行などから借り入れた資金(負債、他人資本)を投下して事業を運営する。投下資本からどれだけ効率的に利益が生み出されたかを評価するのがROICだ。一般的な計算式は、ROIC=(営業利益×(1−実効税率))÷(株主資本+有利子負債)だ。2020年5月の決算説明会資料に富士フイルムは、ROICを導入してキャッシュ創出力を引き上げ、財務の健全性を維持、向上に取り組むと明記した。背景のひとつとして、コストプッシュ圧力の高まりは大きかった。新型コロナウイルスの発生、感染再拡大、ウクライナ紛争の発生などをきっかけに、世界全体で物流、資源、資材、人件費などの企業のコストは上昇した。ROICの導入後、2021年3月期は4.3%、2022年3月期は5.6%、そして2023年3月期は6.1%と着実に投下資本に対する収益獲得の効率性は高まっている。収益力向上は主要な投資家の予想を上回っている。3月末から5月18日の間、富士フイルムの株価は20%上昇した。同期間の東証株価指数(TOPIX)の上昇率は7%だった。
バイオ医薬品分野での受託製造体制強化
セグメントごとに過去最高益を支えた要因を確認すると、医療・医薬やITに関する領域の収益増は顕著だ。一つのポイントとして同社は、バイオ医薬品分野での受託製造体制を一貫して強化している。世界のヘルスケアセクターでは、バイオ医薬品の受託製造への需要が急速に増大している。主要な受託製造企業として、スイスのロンザ、独ベーリンガーインゲルハイム、米サーモフィッシャーサイエンティフィックが有名だ。がんや遺伝子疾患などの治療を行うために、世界の製薬業界では化学合成物質を用いて医療用の医薬品を生産する方式から、患者から免疫細胞を取り出して培養し、再度体内に戻すことによって治療を行うバイオ医薬品の研究開発競争が激化している。ファイザーなどの大手製薬メーカーは、治療効果の高いバイオ医薬品の有効成分を発見すると、受託製造企業に薬剤の製造などを委託する。製薬メーカーは新薬の開発により集中できる。
富士フイルムはその点に着目して、新規参入を果たした。2010年代に入って以降、メルクやバイオジェンから資産を取得し、細胞培養などの受託製造体制を急速に強化している。事業を行う地域も拡大し、米国、デンマーク、英国、および、国内でバイオ医薬品の製造能力は拡充されている。グローバルに受託製造ニーズに対応するための買収戦略や設備投資の成果が表れ、ヘルスケア事業の成長ペースは加速した。2023年3月期、当該領域の売上高は前年度比29.2%増の1,942億円だった。
見方を変えれば、富士フイルムはカメラフイルムで蓄積した製造技術を医薬・医療分野の潜在的な需要と結合した。同社の資料によると、2000年以降、デジタル化の加速によって写真用のカラーフイルム需要は急速な減少に転じた。富士フイルムは技術の応用の可能性、成長期待の高さ、競争優位性の発揮を評価軸に、医療・医薬、電子材料などの新規分野に参入し収益分野を拡大している。抗インフルエンザウイルス剤であるファビピラビル(アビガン)の製造もそうした取り組みの体表的な事例だ。
電子材業分野などでの収益分野拡大
現在、富士フイルムは半導体部材の供給体制も強化している。中長期的に世界経済のデジタル化は加速し、超高純度の半導体部材需要は増加するだろう。足許では台湾のTSMCや韓国サムスン電子、米マイクロン・テクノロジー、インテルなどはわが国への直接投資を発表した。地政学リスクの上昇などを背景に、台湾や韓国から、米国や日本、そして欧州へ半導体の製造拠点は急速に分散し始めている。
富士フイルムは、事業環境の加速度的な変化への対応を急いでいる。2023年4月以降、半導体部材関連事業で富士フイルムは3つのプレスリリースを出した。4月28日には欧州の半導体材料工場の製造設備増強が発表された。5月10日には米インテグリスから半導体用プロセスケミカル事業を買収することが明らかになった。過酸化水素など半導体製造の前工程で異物の除去などに用いられる部材を半導体用プロセスケミカルと呼ぶ。微細化など半導体製造技術向上に伴い、中長期的な需要増加の可能性は高い。
5月16日には台湾での工場建設も公表された。熊本県でもTSMC、ソニー、デンソーが建設する工場への供給を行うために最先端の半導体部材供給能力を引き上げる。国内、アジア、欧州、米国とグローバルに富士フイルムの半導体部材供給体制は強化され、収益分野は拡大するだろう。富士フイルムは2026年度に2,500億円としてきた電子材料事業の売上高計画を2年前倒しの2024年に達成可能と予想している。また、2030年度の電子材料事業の売上高は5,000億円に増加する見通しだ。
先端分野での投資や買収などの資金を獲得するために、富士フイルムは資産の売却なども加速させるだろう。2022年10月には、中国の複合機工場の閉鎖が発表された。医薬品分野では放射性医薬品事業がペプチドリームに売却された。このように新規事業でのキャッシュ創出のスピードを引き上げつつ、富士フイルムは既存分野から先端分野へ経営資源の再配分を加速させている。同社の事業戦略はわが国の多くの企業が成長を目指す刺激となるだろう。 
●日経平均は3万円台回復で33年ぶりの高値 割安な日本株の上昇 5/24
バブル崩壊から33年ぶりの株高。個人投資家は恩恵を享受できている? 
先週の日本の株式市場はまさにお祭りムードのような雰囲気だった。日経平均株価は2021年9月14日につけたバブル崩壊後の日中高値3万795円を更新して3万808円をつけ、1990年8月以来となる33年ぶりの水準を回復した。TOPIXも同様の動きを見せている。
1990年と言えば、ちょうど私が第一證券(現、三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社して3年目の年。前年の1989年12月29日の大納会をピークにバブルが弾けて、株式市場が一気に冷え込み始めた時期に当たる。日経平均の最高値は3万8957円。現状の株価水準からはまだ26%上の水準であるが、私にとっては「ようやく振り出しに戻って来た」「失われた33年を挽回しつつある」との感慨が深い。皆さんもご存知のように、日経平均は2008年10月28日に6994円まで下落した経緯がある。底値を付けるまで18年、底値から這い上がって今の水準に戻すまで15年もの年月を要している。
今年初めの日経平均はちょうど2万6000円のレベルだった。そこからわずか5ヶ月で5000円近くも上昇している。個人投資家はさぞかし儲かっているだろうと思いきや、現実はそうではないようだ。果たして皆さんはどうだろうか?  投資行動をいくつかのパターンに分類してみよう。
投資行動別にパフォーマンスを考察。あなたはどれに該当する? 
1「新興銘柄や小型グロース株」重視派
個人投資家に非常に多いのが値動きの軽い新興銘柄や小型グロース株への積極的な投資だ。確かに金融相場における金余りでバリュエーションを気にしない相場なら、こうしたイケイケ投資は短期間で儲かるが、今はまだ逆金融相場から逆業績相場に移行したばかりの局面。このような相場での株価上昇は期待薄どころか、業績悪化で急落する銘柄が目立っている。年初からのマザーズ指数のパフォーマンスは+2.3%に過ぎず、日経平均の+18.1%と比較して全く冴えないのは一目瞭然だと思う。
2「大型株」重視派
こちらは最も報われているタイプ。やはり投資の王道は、「経営基盤がしっかりしていて、収益が伸びている大企業」への投資である。このところ低PBR(株価純資産倍率)株や主力半導体株などの活躍が目立っている。回転売買が少ない人ほどパフォーマンスが良いという傾向が出ていると思う。
3「早々に利益確定売り」派
日経平均が2万8000円を超えたあたりで利益確定売りをした人が多い。これは投資家別動向をみればよく分かるが、2万8000円を超え始めた4月14日の週から5週連続で個人投資家は売り越しとなっており、その金額は1.37兆円にも上っている。一方、海外投資家は3月31日の週から7週連続で買い越しており、その金額は2.88兆円と物凄い勢いである。日経平均が33年ぶりの高水準まで上昇した今、「あー、早く売り過ぎた」という後悔の念の強い人たちが数多くいる。いったん降りてしまうと、なかなか高値では買えなくなってしまうのがつらいところだ。
4「金融不安や米国破綻に怯える」派
「金融不安でリーマンショック並みの暴落が来る! 」や「米国破綻で株価は暴落する! 」などSNSでの書き込みや怪しげな評論家のコメントやデマのような噂に怯えて、保有株を売却したり、投資を控えたりしている。そういう人たちに向けて私はコラムで「日本の銀行株は問題なし」「大暴落は来ません」「安心してください」と言い続けてきたが、怯える派はもっと冷静な判断力を養う必要がある。
5「先物ショートやインバース型ETFへの投資」派
これはもう壊滅的にヤラれているはずだ。先週の1週間だけでも日経平均は1400円も上昇している。「もうそろそろ下がる」や「割高感が出てきた」との勝手な思惑で猛烈な上昇相場に対して売りポジションを持つと、一気に大きな損失を被ってしまう。
6「やっぱり米国株でしょう」派
米国株はGAFAMなどごく一部の銘柄の上昇しか起こっておらず、しかも割高な株をさらに割高に買っていくというゲームになっている。過熱の中での投資行動に支えられているため、いびつな株価形成になっている。米国市場は日本市場に比べると高金利&高インフレ&厳しい企業収益という三重苦を抱えている。かなり条件が悪そうだ。
日経平均3万円は通過点。ドル建てでは直近高値20%下にあり上値余地
今、日本株に大きな流れが来ている。従来なら「日本企業は成長しない」「日本企業は株主還元に乏しい」「日本企業は割安で当たり前」「だから買っても意味がない」との見方が海外投資家のみならず、日本の個人投資家たちを支配していたように思う。それが東証による低PBR是正のムーブメントにより、その状況から脱却しようという銘柄が大企業を中心に続々と出ているのだ。そもそも欧米市場に比べると割安すぎる日本市場。これはもう疑いの余地がない。したがって、新たな潮流が起こっているのなら、日経平均3万円は通過点に過ぎず、投資を考えるべきだと思う。
NYダウから日経平均を引いた単純株価格差は一時8000ポイントも開いていたが、今や3000ポイントを切るレベルにまできている。では、これで買われ過ぎか?  といえばそうではない。日本人にとっては、過去の高値だったバブル期とのバリュエーション比較をすれば明白だと思う。その状況を踏まえた上で、外国人投資家からすれば日本人とは違う景色が見えるからだ。それは彼ら彼女らが投資をする際のドルで見た「ドル建て日経平均」の姿である。今ちょうど2021年9月のバブル崩壊後の高値を更新したものの、ドル建て日経平均だと株価はまだ20%も下のレベルにある。個人投資家もドル建て日経平均には常に注意を払っておいた方がよい。
「ごちゃごちゃトレード」は厳禁。安値売りの高値買戻しを招くだけ
最後に、皆さんへのアドバイスがある。それは「ごちゃごちゃトレードしない」ということだ。私に多数寄せられた質問の中に「金融不安だからいったん売って、安くなってから買い戻したい」とか「米国の債務上限問題でマーケットが下がると思うので、いったん売ってから安く買いたい」というのがあったが、自分の思い通り都合のいいことは起こってくれない。結局、安値で売ってしまい、高くなって買い戻せないという結果を招いてしまう。
さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」。先週も日々&週間ベースでの過去最高値を更新した。年初来高値は15銘柄とポーフォリオ組み入れ銘柄の半分以上が該当し大活躍している。
その中には銀行株も含まれており画期的である。欧米の金融不安でとばっちりを受けた日本の銀行株。一時は相当下落したが「日本の銀行株は問題なし」「安心してください」「安くなれば買いチャンス」と私が言っていた通りの展開である。きちんと息を吹き返してきた。
6月7日開催のWebセミナーは必見。好調銘柄や新規投資銘柄を徹底解説! 
また1銘柄の新規投資もおこなった。この銘柄は2024年3月期の営業利益が過去最高を更新する計画にも関わらず、高値から半値以下になっているちょっと変わりダネである。株価的には明らかに底入れしているので、これから大いに期待できると思う。
まだ逆業績相場である。思わぬ季節外れの「お年玉」をもらったかのようであるが素直に受け取っておくことにしよう。このところ毎週過去最高値を更新しているが、ここからさらにパフォーマンスを積み上げていきたいと思う。
●ドル円 139円前半で一段高、FRB理事が6月の利上げ可能性に言及 5/24
ウォラー米連邦準備理事会(FRB)理事の「今後のデータは6月の利上げを裏付ける可能性がある」「6月か7月の利上げを支持する可能性」などの発言が伝わったことも手がかりに、米10年債利回りは3.73%台まで上げ幅を拡大し、ドル円は139.39円まで一段高。
また、ユーロドルは1.0750ドル台で上値が重い一方で、ユーロ円はドル円の上昇につられ149.87円まで高値を更新した。

 

●「変革期にある自動車産業の過去から現在、将来の展望」 5/25
今回は日本の経済を支える基幹産業の一つである自動車産業について、バブル経済崩壊後の転機とも言えるリーマン・ショック以降、東日本大震災、アベノミクス、CASE変革といった様々な時代を経て、再びコロナ禍によって各種影響を受けている現在までに、それらが自動車メーカーやサプライチェーンといった自動車産業とそのお客さまであるユーザーへどのような影響を与えてきたのか? について、更には再び北米の金融危機が取り沙汰されている中で将来はどういった自動車産業の動向が予想されるかを中心にコラムをお届けします。
リーマン・ショックの影響
今から15年ほど前の2008年9月にリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(USA)が経営破綻、その後は連鎖的に世界金融危機へと至り、自動車産業も非常に大きい打撃を受けました。
特に金融危機の震源地であった北米市場への影響は凄まじく、年間に1600万台ほどあった新車販売が翌年には1000万台ほどまでに落ち込みました。単純に考えれば生産や販売、開発や他といった事業規模を30%以上も縮小しなければならないので、その影響の大きさが推し量られます。
当時、既にグローバル事業展開が必然とされていた自動車メーカーの生産や販売、開発やマーケティング、他とあらゆる領域にまで影響が波及して、世界中の事業展開や戦略、そして、雇用にまで影響を受けました。
北米を主軸に事業を展開してきた日本の自動車メーカーにもインパクトは大きく、設備投資や生産といった計画の見直し、在庫の調整やサプライチェーン網の維持と多方面での対応と改革に迫られ、裾野の広い自動車産業全体に影響が広がったことで日本経済が停滞する要因にまで至りました。
この時、スズキ自動車の鈴木 修会長(当時)は北米における自動車の在庫滞留の状況などを見て様子がおかしいと異変に気付き、前もって生産を調整させたというカリスマぶりを記憶されている皆さまも多いのではないでしょうか。
東日本大震災と復興への歩み
リーマン・ショックから数年が経って、少しずつ落ち着きと活況を取り戻しつつあった自動車産業ですが2011年3月の東日本大震災によって再び未曾有の状況に陥ります。大震災によって自動車産業の拠点でも尊い命、多くの設備が失われ、ほとんどの産業機能がストップする状況に一時は陥りました。
更には現在も事態の収束が見通せていない東京電力の福島第一原発事故も発生して、不変の課題であるエネルギーについて将来を再検討する必要性が生じた出来事でもありました。
当時、先ずは生命と生活を守るための取り組みが最優先で産業の復興が後回しであることは必然でしたが、少しずつ落ち着きを取り戻した頃に自動車産業においても、特に地震や津波の被害が大きかった東北地方や関東地方の拠点を中心に復興の歩みを進めました。
そんな中、トヨタは2012年7月に関東自動車工業(株)・セントラル自動車(株)・トヨタ自動車東北(株)の3社を統合してトヨタ自動車東日本(株)を宮城県に設立しました。同社は、その後の東北地方を始め日本の復興を加速させ牽引する役割を担い、現在においてもトヨタの主力生産拠点の一つとして日本経済を支えています。
アベノミクスとCASEによる業界変革
2012年12月に第2次安倍政権が表明したアベノミクスとは「最大目標を経済回復と位置づけ、㈠ 大胆な金融政策、㈡ 機動的な財政政策、㈢ 民間投資を喚起する成長戦略、といった3本の矢によって日本経済を立て直す」という経済政策です。
自動車産業にとってもデフレスパイラル(物価が下落して経済も縮小する様子をあたかもらせん階段を下りる様に例えた表現)や円高(輸出時の価格が高まるため輸出産業の競争力低下要因の一つ)からの脱却が促されたことで、リーマン・ショックや東日本大震災といった危機からの業績回復に一定の効果があったと言われ、以降は自動車産業でも主要メーカーを中心に業績はおおむね右肩上がりで推移、その後の姿を消していたスポーツカーの復活やCASE(Connected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared&Services:シェアとサービス、Electric:電動化)変革に伴う投資の源泉確保、将来景気の好材料も見通せたことで新規開発や設備投資でもポジティブに働き、結果として自動車産業や日本経済が活性化したと評されています。
しかし、それらの追い風を持ってしても自動車産業にとってCASE変革の負担は重く、開発投資に対してリニアに結果がアウトプットされるステージにあるCASE領域は、資金力勝負の様相が強いため業界のアライアンスや資本提携に拍車をかけ、その一例として日本の乗用車メーカーは現在、トヨタと日産三菱とホンダの3つに広域グループ化されています。
コロナ禍による先の見えない時代
2019年末から世界的に広がった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題によって、世の中の多くの活動がストップ或いは縮小してしまい、自動車産業においても生産活動を中心に大きい影響を受けてきました。
特に半導体を中心としたサプライチェーンの機能不全によって、生産することができず納期遅れが発生、需要と供給のバランスが崩れ、一部のモデルの受注停止、中古車価格の高騰といった状況に至っております。
世界でロックダウンや緊急事態宣言が頻発した2020年度は、日本の自動車メーカー各社も生産の予測ができずに業績の見通しさえ提示ができないひどい状況でした。
そんな中、業界最大手のトヨタは営業利益5000億円(年)の黒字を死守すると、懸命の業績見通しを打ち出してサプライチェーンの安定化に務めたことで、結果的に自動車産業やさらには日本経済への打撃をおさえることに一定の成果をあげたと見られています。
生産は見通し(計画)無くしては実行できませんので、もしその発表が無ければ更に大きい痛手を自動車産業や日本経済は負っていたと想定されます。
トヨタは先ごろ会長が内山田 竹志氏から豊田 章男氏へ、社長が豊田 章男氏から佐藤 恒治氏へと経営のキャプテンが代替わりしましたが、同社が自動車産業と日本経済を牽引するリーダーシップと果たす役割は、想像を絶するほど大きいと思わずにはいられません。
カーボンニュートラルの実現とBrand Originality
これまで過去の自動車産業を取り巻く状況について振り返ってきましたが、ここからは今後のキーポイントと展望について予想してみます。現在の自動車産業にとって、最大課題の一つはカーボンニュートラルですが、LCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクル全体、走行時のみならず製造時や廃棄などまでの全体が含まれる)で鑑みて、どういった方策を取るのが全体ベストか?という視点が非常に重要です。
具体的には地域やユーザーの用途によって選択肢が異なることを前提に、世界各国のエネルギー政策や原材料資源(貴金属、他)、それに伴う技術開発(電動化、安全化、低コスト化、他)、そして、世界に15億台以上存在していると言われる既存車両のカーボンニュートラル対応についてどうするか? といった全体を網羅した大きい計画が必要です。
特に発電リソースは国によって事情が異なり、石炭火力発電や石油火力発電、原子力発電や自然エネルギー発電など様々な形態があるため、生産時や走行時等の結果が変わってきてしまいます。
また非常に難しい問題である既存車両をどうするか? については、長年乗ってきた自動車を全て代替するのはグローバルレベルでの政府や自治体の推進及び補助金等の財源確保を考えても非現実的です。
すると一つの方策としては、走行時にCO2排出の無いBEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー型電気自動車)の新車を市場に増やしつつ、用途(長時間、間隔を開けずに走り続ける必要があるや給電インフラが無い等々)によっては、従来からのガソリンや軽油(ディーゼル)を置き換えられる合成燃料(e-fuel)を始めとした代替燃料の使用やガソリンや軽油への配合も必要になると想定されます。
更にカーボンニュートラル対応にあたっては、いずれの施策を進める場合においても製造者とユーザーと行政の全てにコスト負担が伴いますので、廉価にできるエポックメイキング技術や各国政府による大規模補助金やエネルギー政策といった官民一体の取り組みが重要となるため、日本においては経団連に発足したモビリティ委員会がキーになると見ています。
言い換えれば、もはや自動車産業のみで検討しても限界で経済界として国家としてどのようにカーボンニュートラルを実現していくか検討する必要が高まって具現化したと言えます。
いずれにしても、CASEによって自動車産業の商品である自動車の機能やサービスの幅が広がった現在は、カーボンニュートラル対応のアプローチにおいてもブランドのオリジナリティが問われます。
製造者視点でもユーザー視点でもどういった自動車やサービスをブランドとして提供するのか? がポイントで、例えばBEVだったらこのブランド、代替燃料車だったらこのブランド、ハイブリッド車だったらこのブランドといった具合に世界大手規模のメーカーを除けば投資力の関係で必然的に明確化が進むと予測されますので、より一層にアライアンス強化や資本提携、吸収合併といった業界再編も起こりうると考えられます。
従ってどの市場(マーケット、仕向地)にブランドとして専念するのが自社にとって得策であるのか? とある程度絞って戦略を立てる必要があるため、これまでのようにグローバルありきの自動車産業の様相が少し変わる可能性もあるかもしれません。
日本においては、東京電力の福島第一原発問題が解決しない限りは、エネルギー政策として石炭や石油による火力発電中心の状況が急変するとは考えづらいため、高級車や近距離移動を中心にBEVが普及して、それ以外はハイブリッド車が進化、更には代替燃料車に置き換わるといった将来が予想されます。
今後の自動車産業についての展望
世界はウクライナ危機や再び北米の金融不安が高まっており、自動車産業の各社においても米中のデカップリングやカーボンニュートラルへの対応、将来に向けた各種不安材料や様々な経営課題が山積しており、これまで以上にユーザー(お客さま)のニーズ(需要)を着実に捉え、ブランドのオリジナリティを明確にした自動車やサービスをユーザーであるお客さまへ提供する必要があります。
伴って、近年の自動車産業においてもCX(Customer Experience:カスタマーエクスペリエンス)の重要度が高まり取り組んでいる企業が増えている背景には、各ブランドでその分析と対応に注力していることがあります。
自動車のグローバル需要(全需)の増加が、ブランド(メーカー)の生産と販売の拡大を上回っていた時代は過ぎたと考えられ、他のブランドと同じオリジナリティを掲げ事業を推進した場合にどちらかが淘汰される可能性は高く、技術や販売やサービスなど、いずれかの面でアドバンテージを持つブランドが生き残るといった、これまで以上に競争の激しい時代の到来が想定されます。
一方で政策と連動、各社で協調して取り組む必要がある課題も多く、他社ブランドと連携を強めつつも自社ブランドのオリジナリティや戦略、方針を明確に打ち出す必要があるため、広域グループの枠組みは更に拡大して協調領域が増えつつ、同時に競争領域も自動車の機能やサービスの多角化に伴って増えると予想しています。
●米債務上限問題、期限までに合意できないとこうなる 5/25
米連邦政府の債務上限問題を巡る政治的対立で政府がデフォルト(債務不履行)に陥り、資金繰りに行き詰まれば、メディケア(高齢者向け医療保険制度)への支払いが止まったり株式市場が急落したりするなど、一般市民が即座に広い範囲で痛みを被る。
米政府がデフォルトになった場合の市民への影響をまとめた。
最初に打撃を被る場所
イエレン財務長官によると、議会と政府が連邦政府の債務上限引き上げで合意できなければ、財務省は6月1日にも支払いの不履行が発生し始める可能性がある。
そうなれば財務省は、世界の金融システムを支える米国債の支払いを続ける上で厳しい圧力にさらされる。支払いが滞れば、米金融業界は歴史的な大混乱に陥りかねない。ムーディーズ・アナリティックスのエコノミスト、マーク・ザンディ氏は「正に大惨事になるだろう」と話す。
財務省は米国債保有者に対して期限通りに支払いを行おうとするとの見方が一般的だが、たとえ支払いを実施したとしても、今回の危機を招いた政治の機能不全によって米経済の見通しに対する不信感が生まれ、住宅から老後資金の運用資産まで、市民が保有するあらゆるものの価値が下落するとザンディ氏はみている。
金利が上昇すれば、住宅や車を買ったり、事業立ち上げのために資金を借りたりするのが難しくなる。
ザンディ氏によると、数日以内には金融の大混乱が主な要因となって米経済はリセッション(景気後退)に向かうとみられる。
一層の悪化も
通常、景気後退に伴って発生する大規模なレイオフ(一時解雇)がデフォルトから数週間後に発生するだろう。それよりも早く、連邦政府の支出が停止する可能性がある。
最初に苦境に陥るのは病院や保険会社などだろう。シンクタンクのバイパルチザン・ポリシー・センターによると、6月1日にはメディケアを通じて約470億ドルの支払いが予定されている。
メディケアの資金は米国の医療費の5分の1を賄っているため、スタッフの給与や経費の支払いなどができなくなる医師が出てきそうだ。こうした支払いができなくなると、手術など治療のスケジュールで苦しい判断を迫られることもあり得る。調査グループ、KFFのトリシア・ニューマン氏は「こうした状況が長引けば長引くほど、混乱が大きくなるだろう」と述べた。
社会保障給付に遅れも
6月2日には全米の退職者の約4分の1が銀行口座を確認し、社会保障給付金が振り込まれていないことに気付くかもしれない。振り込まれない給付金の総額は250億ドルに達する恐れがある。
6月2日には国防関係の契約業者に支払われるはずだった10億ドルなど、政府と契約している業者への支払いも停止する可能性がある。6月9日には200万人余りの連邦政府機関職員の一部で40億ドルの給与未払いが発生し、連邦政府からの10億ドルの給付を予定していた学校が資金不足に陥る可能性もある。また支払いの大幅な遅延が起きるかもしれない。
人々は入金漏れがないか銀行口座を監視する一方で金融業界も動向を注視するだろう。米国の信用力を巡る懸念から、生活のための貯蓄資産は価値が大幅に下落するかもしれない。
バイパルチザン・ポリシー・センターの経済政策担当ディレクター、シャイ・アカバス氏は「社会保障給付の入金が遅れる日々があり、別の日には確定拠出年金(401k)の運用資産評価額が20%下落する」とデフォルト後の生活を描いて見せた。
●世界における米国の信用が損なわれる危険〜銀行不安から国家不安へ 5/25
銀行不安に続いて、再び米国の国内問題が世界の金融市場を混乱させるリスク要因になっている。銀行不安が突然発生したのに対して、債務上限によるデフォルト問題は以前から分かっていたにもかかわらず、解決を瀬戸際まで延ばすという点で著しい不作為といえよう。しかも、過去に何度も繰り返されてきたためか、一部の議員は財務省発表のデッドラインを疑っている。オバマ政権下で生じた同様の危機時(2011年や13年、15年)は、FOMCがリーマン・ショックで導入した低金利を維持しコアインフレ率も1%台と低かったが、今回は終盤とはいえ、利上げ局面・高インフレ下での混乱である。リセッションの可能性も指摘されるタイミングで不透明さが一段と増すことから、金融市場がその行方に神経を尖らせるのも当然だ。大統領経済諮問委員会は債務上限問題が米国経済に与える影響を試算し、デフォルトに陥る最悪のケースでは、財政対応も困難なためリーマン・ショック級のダメージになるとしたが、注目すべきは、土壇場で決着しデフォルトを回避しても景気下押しのコストが発生する点である。インフレに加えてデフォルトが意識されれば、米国への信用は低下し世界的なドル離れにつながる恐れがある。つまり、世界が低リスク資産の代表である米国債を従前ほど保有しなくなると、金利上昇圧力は高まり、ドル安は米国のインフレ率を押し上げよう。市場にとってのポジティブサプライズは、長期間(例えば24年の大統領選挙後まで)の先送りで米議会が合意することだが、現実的には、小幅な上限引き上げ等猶予期間の短い妥協となる可能性が高い。ただ、そうなると混乱は繰り返され、無駄なコストを払いながら、米国の景気や信用は徐々に悪化していく恐れがある。
●1ドル140円が目前に:日銀の政策修正観測の後退で円安が進む 5/25
昨年は「ドル高」、今は「円安」
為替市場で円安傾向が強まっている。25日の東京市場では1ドル139円70銭程度と約半年ぶりの円安水準となり、1ドル140円の節目が目前に迫った。昨年10月には1ドル150円超まで円安が進んだが、その後は円高傾向に転じ、今年1月には127円台まで円高が進んだ。現状はその間に進んだ円高の半分程度まで、円安方向に振れ戻されたことになる。この円安傾向こそが、足元での急速な株高の最大の要因だ。
昨年10月に大幅に進んだ円安ドル高と、足元の円安とでは様相が異なる。昨年は「ドル高」の性格が強かったのに対して、現在は「円安」の性格が強い。ユーロ円は1ユーロ150円程度と、2008年のリーマンショック時以来の円安水準にある。
昨年の急速な円安ドル高は、米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げとそれによる日米金利差拡大によるところが大きかった。対円だけでなく、多くの通貨に対してドル高が進み、まさに「ドル独歩高」の様相だったのである。
他方足もとは、ドル高よりも円安の性格が強い。3月末以降、円は対ドルで6%程度下落しているが、ユーロは同時期に対ドルで1%程度しか下落していない。足もとで強まる円安ドル高は、日本側の要因によるところが大きいのである。それは、日本銀行の政策修正観測の後退だ。
7月にかけて140円台半ばから後半まで円安が進む余地も
昨年12月に日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅の拡大を突如決めたことをきっかけに、今年4月の新総裁のもとで政策の修正が大きく進むとの観測が強まり、それが円高を加速させた。
しかし、4月に就任した植田総裁が、予想外に政策修正に慎重な姿勢を見せたことで、早期の政策修正観測は一気に後退している。その結果、日米金利差拡大観測が再び強まる中、円安ドル高傾向が為替市場で強まったのである。
金融市場では6月あるいは7月に、YCC見直しを中心に政策修正が行われるとの観測がなお燻ぶっている。それが実施される可能性は高くないと思われるが、実際に政策修正が見送られれば、政策修正観測がさらに後退していく中、円安傾向はもう一段後押しされることになるだろう。
この点から7月にかけてはなお円安ドル高の流れが続く、とみておきたい。昨年10月の1ドル150円の水準を超えて円安が進む可能性は高くないと考えられるが、140円台半ばから後半まで円安が進む余地があるのではないか。
向う数年で1ドル109円程度まで行き過ぎた円安の修正が進む可能性
他方で、年後半に入り、急速な金融引き締めと銀行の貸出抑制の影響から、企業部門を中心に米国経済が悪化、金融不安が再燃し、FRBの早期利下げ観測が強まれば、リスク回避傾向と日米金利差縮小観測が重なる形で、円が急速に巻き戻される可能性がある。
米国経済が本格的な景気後退に陥り、金融不安が顕著に広がる場合には、円は年末までに1ドル120円台まで巻き戻される、と見ておきたい。
10年前に日本銀行が異例の金融緩和を導入したことをきっかけに円安が進み、行き過ぎた円安水準が維持されてきた、と考えられる。実質実効円レートは、当時から10年移動平均値を一貫して下回る円安水準にある。
   図表 実質実効円レート
植田総裁のもとで、金融政策の修正が進めば、行き過ぎた円安も修正されていくと考えられる。この10年移動平均値を円の均衡水準と考えれば、ドル円レートの均衡水準は1ドル109円程度、となる計算だ(図表)。
植田総裁は早期の政策修正には慎重であるが、2024年後半以降には、副作用を軽減することを狙った「金融緩和の枠組み見直し」を相当進めていくことが予想される。その結果、向う数年を視野に入れれば、1ドル109円程度まで円高が進み、異例の金融緩和が作り出した行き過ぎた円安が解消されていく、とみておきたい。
●米債務上限問題、FOMCの判断に影響させない−ウォラーFRB理事 5/25
米連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事は24日、米国の債務上限問題が来月の金融政策判断に影響を与えてはならないとし、連邦議会とバイデン政権が合意に達することを望むと述べた。
同理事は債務上限問題が6月13、14両日の連邦公開市場委員会(FOMC)での決定に影響するのかとの質問に対し、「そうはさせない」と述べ、政権と議会が「決断を下すと考えている」と明らかにした。
「決断を下さなかった場合の結果は、壊滅的なものになりかねない。米国の金融システムをクラッシュさせて、何を達成しようとしているのか」と語った。
ウォラー理事はカリフォルニア大学サンタバーバラ校が主催したイベントでのスピーチ後に短いインタビューに応じた。
債務上限問題で解決策が見いだせず、米国がデフォルト(債務不履行)に陥るのではとの懸念が強まる中で、24日の米国債市場では6月1日に満期を迎える米財務省短期証券(TB)の利回りが一時7%を上回った。
同理事は債務問題を「解決するのは議会と大統領だ。短期的な利回りの急上昇について、私は何もできない。連邦準備制度が解決できることでもない。議会には私をこうした立場に立たせてほしくない」と述べた。
米国債市場に機能不全が生じた場合、連邦準備制度は状況に応じ介入が可能だが、「これは人々が国債から逃げ出しているようなものだ」と指摘し、「こんなことは初めてで、われわれは本当に厳しい立場に立たされる」と話した。
●ウォラー理事、6月利上げ有無はデータ次第−引き締め終了は時期尚早 5/25
米連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事は24日、米金融当局が来月に利上げを再度実施するか見送るかどうかは今後数週間の主要なデータ次第になるが、引き締めサイクルが終わったと宣言するのは時期尚早だとの考えを示した。
ウォラー氏はカリフォルニア大学サンタバーバラ校が主催したイベントで、「インフレが2%目標に向かって低下しつつある明確な兆候が得られるまで、利上げを停止することは支持しない」と発言。「6月の会合で利上げを実施するべきか見送るべきかは向こう3週間に発表されるデータ次第になる」と述べた。発言は講演原稿に基づく。
「今後3週間に主要なデータがいくつかまだ公表される。与信状況の進展に関してもさらに分かるだろう。両方の要素から最善策についての情報が得られることになる」と同氏は指摘。「それまでは、6月に下す最善の判断に関して柔軟性を維持する必要がある」と続けた。
●FRB、追加利上げの確実性低下でおおむね合意=FOMC議事要旨 5/25
米連邦準備理事会(FRB)が24日公表した5月2─3日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨で、FRB当局者は追加利上げの必要性が「それほど確かではなくなった」との見解で「おおむね同意」したことが分かった。一部の当局者は決定された0.25%ポイントの利上げが最後になるかもしれないとの見方を示したという。
また一部の当局者は、インフレが持続するリスクを考慮するとFRBは選択肢をオープンにしておく必要があると警告したという。
FRBは5月2─3日のFOMCで、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ5.00─5.25%とした。決定は全会一致。また、利上げ停止の可能性を示唆した。同時に信用状況などの経済リスクを注視する姿勢も示した。
議事要旨では「複数の参加者は現在の見通し通りに経済が進展すれば、今回の会合後にさらなる政策引き締めは必要ないかもしれないと指摘した」と記し、次回6月13─14日の会合でFRBが利上げを一時停止するとの観測の説得力が増した。
ただ、今後の道筋については意見が分かれた。
FRBのスタッフが引き続き今年後半に穏やかな景気後退を予想している中、一部の政策立案者は「過去1年の引き締めで意図した効果が出始めている証拠がある」とし、「ほぼ全ての参加者」は相次ぐ銀行破綻後に銀行の信用引き締めによる経済成長へのリスクがあるとの見方を示した。
一方、「ほぼ全員」がインフレ率の上振れリスクもあると見ており、金利を据え置くか引き上げるかで「多くの参加者が選択肢を持たせておく必要性に焦点を当てた」。さらなる利上げが必要になる「可能性が高い」との見方をする参加者もいた。
さらに、利下げがありそうだ、あるいは政策金利をさらに引き上げる可能性が「除外された」と伝えないことが「極めて重要だと一部の参加者が強調」した。
また「参加者は、データに依存するアプローチを伝えることの重要性を強調した」という。
債務上限問題を巡る懸念
5月FOMCは、米国の連邦債務上限引き上げをめぐるバイデン政権と議会共和党との政治的対立のさなかに行われ、FRB当局者はそのリスクを指摘した。
一部の参加者は米連邦政府の債務上限引き上げ問題が失敗に終わると「金融システムに重大な混乱が生じて金融環境がさらに逼迫し、経済が弱体化する」恐れがあると指摘した。
「何人かの」参加者は、債務上限問題で合意できずにデフォルト(債務不履行)が起きた場合のダメージを埋めるためにFRBが「流動性のツールを使う態勢を整えておくべきだ」と発言した。
●将来の追加利上げの確実性低下で合意、6月休止のシナリオも停止は程遠い 5/25
英国のインフレ率は予想を大幅に上回り英国中銀の追加利上げ観測が強まり、100ベーシスポイントの利上げ予想も浮上した。また、欧州中央銀行(ECB)もラガルド総裁が利上げ停止する意向はないと表明。主要各国のサービスインフレが依然強く、連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ停止の思惑も後退しつつある。
FRBは5月連邦公開市場委員会(FOMC)で全会一致で5月の25ベーシスポイントの利上げを決定。公表したFOMC議事要旨(5月2-3日会合分)の中で、インフレが容認できないほど高かったとした。
ただ、将来の追加利上げを巡り、今まで実施した金融政策が経済に反映するには時間を要することを理由に、高官の見解が分かれたことも明らかになった。このため、多くの高官は選択肢を保つ必要性を主張。データ次第の政策を強調する一方で、利下げの可能性は少ないことが示された。
タカ派で本年のFOMC投票権を持つウォラー理事やミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は金融状況の展開や今までの急速な利上げの影響を確認するために6月にいったん利上げを休止し、7月に利上げを再開することも可能だと言及した。パウエル議長も先週のイベントでFRBが金融市場や経済指標の見直しをする余裕があると発言している。今後発表されるインフレや経済指標の結果次第だが、6月FOMCでは、いったん利上げを休止し、7月から利上げを再開するというのが今のところ可能性の強いシナリオだと考えられる。ただ、インフレの進展は予想以上に遅く、労働市場も依然ひっ迫、また、住宅市場も強く消費者物価指数(CPI)に影響する賃貸の一段の低下予想を正当化できない可能性が出てきたため利上げを停止すべきでないとの見解で、FRBの金融政策者は合意していると見られる。ドルの上昇は継続すると見られる。 
●米債務不履行なら円安加速か、ドル不足が顕在化 5/25
米債務上限問題の着地点が見えないまま、デッドラインとみられている6月1日が近づいてきた。上限の引き上げがない場合、米財務省が支出のやり繰りをしても6月上旬には米短期債の償還ができなくなりデフォルトになる可能性が高い。その場合、市場ではドル不足が顕在化し、外為市場でドル買いが活発化する展開が予想される。
デフォルト時にはリスクオフ心理が優勢になり、円高になるとの見方が東京市場では多いが、ドル不足に市場の焦点が集まれば、円安加速の展開もあるのではないかと筆者はみている。
Tビル償還できない可能性
イエレン米財務長官は22日、議会に書簡を送り、連邦債務上限が引き上げられなければ、6月1日にも政府の支払いが滞る「可能性が極めて高い」という認識を示した。24日にはデフォルトに陥る可能性のある期限を6月上旬とする見通しを維持し、政府の財政状況を近く議会に報告すると明らかにすると述べている。
もし、債務上限の引き上げで合意ができない場合、最初に問題になるのは、米財務省短期証券(Tビル)の償還になるだろう。同省によると、Tビルの償還は6月1日、6日、13日、15日と順次到来する。JPモルガンの調べによると、1日が1170億ドル、6日が1230億ドル、8日が1080億ドル、13日が1230億ドル、15日が2460億ドルとなっている。
15日に法人税などの大口の税収があるが、複数の市場関係者によると、その前にデフォルトになる可能性があるという。
大手米銀がドルを抱え込む事態も
Tビルは大手米銀などが保有している。償還されない場合はその分のドルが不足することになり、米連邦準備理事会(FRB)はニューヨーク連銀を通じて大規模なドル資金供給を実施することになるだろう。
ただ、ドル不足が誰の目にも明らかになれば、中小も含めた多くの銀行がドルを囲い込むため、ノンバンクや一般企業はドル資金不足が短期的に深刻化するリスクが出てくる。
これを米国以外の国の銀行から見ると、米銀からドルを調達するニーズが飛躍的に高まる事態に直面するということになる。
この場合、日銀は大量のドル資金供給オペを実施して国内銀行のドル需要に対応するだろう。しかし、米債務上限問題が解決しないうちはドル不足が根本的に解決しないとの見方が市場で広がれば、外為市場でもドル買いニーズが高まると筆者は予想する。
デフォルト長期化なら混乱拡大
25日午後の東京市場で、ドル/円は139円半ば付近で推移している。もし、米国でデフォルトが発生すれば、リスクオフの円買いが優勢となり、ドル安・円高になるというのが、足元での市場関係者の多数派の声だろう。
しかし、米市場でドル不足が深刻化するなら、ドル買い・円売りが優勢になる可能性があると予想する。多くの市場関係者が「想定外」とみれば、ドル/円が140円台に乗せた後も、さらに円安が進むことがあり得る。
その時に、円安を材料に海外勢が日本株を買ってくるのか、それともデフォルトと同時に急落が予想される米株と連れ安になるのか──。
現時点では、変数が多過ぎて確定的な判断が難しい。ただ、Tビルが償還できなくなり、米市場発で世界の金融・資本市場に激震が走れば、米国における民主・共和両党の対立が解け、債務上限の引き上げが可能になるという道筋も残されてはいるだろう。
もし、合意までの道のりが遠いと市場に分かった時は「未知との遭遇」とも言うべき、大変動に直面するリスクもある。
●米政府に忍び寄るデフォルトの危機 株式から社会保障まで影響 5/25
米連邦政府の債務上限問題を巡る政治的対立で政府がデフォルト(債務不履行)に陥り、資金繰りに行き詰まれば、メディケア(高齢者向け医療保険制度)への支払いが止まったり株式市場が急落したりするなど、一般市民が即座に広い範囲で痛みを被る。
米政府がデフォルトになった場合の市民への影響をまとめた。
最初に打撃を被る場所
イエレン財務長官によると、議会と政府が連邦政府の債務上限引き上げで合意できなければ、財務省は6月1日にも支払いの不履行が発生し始める可能性がある。
そうなれば財務省は、世界の金融システムを支える米国債の支払いを続ける上で厳しい圧力にさらされる。支払いが滞れば、米金融業界は歴史的な大混乱に陥りかねない。ムーディーズ・アナリティックスのエコノミスト、マーク・ザンディ氏は「正に大惨事になるだろう」と話す。
財務省は米国債保有者に対して期限通りに支払いを行おうとするとの見方が一般的だが、たとえ支払いを実施したとしても、今回の危機を招いた政治の機能不全によって米経済の見通しに対する不信感が生まれ、住宅から老後資金の運用資産まで、市民が保有するあらゆるものの価値が下落するとザンディ氏はみている。
金利が上昇すれば、住宅や車を買ったり、事業立ち上げのために資金を借りたりするのが難しくなる。
ザンディ氏によると、数日以内には金融の大混乱が主な要因となって米経済はリセッション(景気後退)に向かうとみられる。
一層の悪化も
通常、景気後退に伴って発生する大規模なレイオフ(一時解雇)がデフォルトから数週間後に発生するだろう。それよりも早く、連邦政府の支出が停止する可能性がある。
最初に苦境に陥るのは病院や保険会社などだろう。シンクタンクのバイパルチザン・ポリシー・センターによると、6月1日にはメディケアを通じて約470億ドルの支払いが予定されている。
メディケアの資金は米国の医療費の5分の1を賄っているため、スタッフの給与や経費の支払いなどができなくなる医師が出てきそうだ。こうした支払いができなくなると、手術など治療のスケジュールで苦しい判断を迫られることもあり得る。調査グループ、KFFのトリシア・ニューマン氏は「こうした状況が長引けば長引くほど、混乱が大きくなるだろう」と述べた。
社会保障給付に遅れも
6月2日には全米の退職者の約4分の1が銀行口座を確認し、社会保障給付金が振り込まれていないことに気付くかもしれない。振り込まれない給付金の総額は250億ドルに達する恐れがある。
6月2日には国防関係の契約業者に支払われるはずだった10億ドルなど、政府と契約している業者への支払いも停止する可能性がある。6月9日には200万人余りの連邦政府機関職員の一部で40億ドルの給与未払いが発生し、連邦政府からの10億ドルの給付を予定していた学校が資金不足に陥る可能性もある。また支払いの大幅な遅延が起きるかもしれない。
人々は入金漏れがないか銀行口座を監視する一方で金融業界も動向を注視するだろう。米国の信用力を巡る懸念から、生活のための貯蓄資産は価値が大幅に下落するかもしれない。
バイパルチザン・ポリシー・センターの経済政策担当ディレクター、シャイ・アカバス氏は「社会保障給付の入金が遅れる日々があり、別の日には確定拠出年金(401k)の運用資産評価額が20%下落する」とデフォルト後の生活を描いて見せた。

 

●日銀・植田総裁金融緩和策の出口判断は「賃金より物価の上昇」 5/26
日銀の植田総裁は25日、報道各社によるインタビューで、物価上昇率の見通しについて、「もう少し丁寧に見たいとの判断が続いている」と述べた。
2022年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率は3%と、日銀が目標とする2%を上回ったものの、日銀は2023年度は1.8%に低下し、2024年度には再び2%へ上昇するとの見通しを立てている。
植田総裁は、物価が再び上昇する見通しについて、その前にいったん下落する見通しほどは自信がないとして、「(再び上昇後は)そこそこ高い見通しにはなっているが、まだもう少し丁寧に見たいという判断が続いている」と説明した。
また、現在続けている金融緩和策の出口戦略については、「政策変更の判断となると、賃金というよりも物価上昇のところで判断させていただくことになる」と述べ、賃金の持続的な上昇よりも、物価の上昇を重視する考えを示した。
一方、日銀総裁に就任して1カ月半がたち、生活の変化について問われると、「学者の時は、調べものをしたい時に、本屋街で本を調べてということが自由にできたが、それがなかなかできなくなったという違いはある」と明かした。
●EUの監督当局、暗号資産レンディングやステーキングも規制対象に 5/26
欧州連合(EU)の金融安定化監視機関は、成長する暗号資産(仮想通貨)と分散型金融(DeFi)が経済にシステミックリスクをもたらすようになるかもしれないと警告し、大規模な暗号資産コングロマリットとスマートコントラクトをカバーする新たな規制が必要になるかもしれないと述べている。
欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)総裁が議長を務める欧州システミックリスク理事会(ESRB)は、2024年にEU圏内で新しい暗号資産市場規制(MiCA)が施行されるのを前に、5月25日の報告書で暗号資産レンディングやステーキング、暗号資産市場における高いレバレッジのリスクを警告した。
政策のオプションの1つとして、「DeFi開発者は、スマートコントラクトの設計と作成をカバーする特定の規制を遵守するよう求められる可能性がある」と報告書は述べている。コード監査の義務化、製薬業界のような知的財産の制限、現実世界のデータを自動化ソフトウェアに送信する「オラクル」の規則などの可能性が浮上している。
MiCAは、ウォレットプロバイダーやステーブルコイン発行者のようなプレーヤーに対して、ガバナンス、ライセンス、準備金の要件を設定する一方で、暗号資産レンディングやステーキングのような分野は除外している。しかし、今回の報告書は、これらの分野は「消費者に大きなリスク」をもたらすと警告している。
ESRBによると、MiCAの下で企業は事業間の利益相反を管理しなければならないが、取引やカストディのようなサービスを提供することで生じるかもしれない業務リスクや風評リスクを特定し、軽減する包括的な要件はない。
報告書は「市場の発展やMiCAの適用で得た経験を考慮し、EUにおける暗号資産コングロマリットの活動を調査すべきである」と述べ、監督当局がリスクの高いサービスを別会社に分離するように強制できる既存の決済法を引用している。
「この1年は暗号資産とDeFiにとって激動の1年だったが、システミックな影響は顕在化していない」と報告書は述べ、「指数関数的な成長ダイナミクス」は、将来の動揺が2008年のリーマンショックに似た大きな脅威をもたらす可能性を示唆していると付け加えた。
3月、ESRBは、暗号資産の人気が高まっていることを理由に、暗号資産市場の過熱を防ぐために、フィンテック企業が銀行のような貸出上限規制に直面する可能性があることを示唆していた。
●FRBからの銀行緊急借入残高、前週比ほぼ変わらず 5/26
米連邦準備制度理事会(FRB)の2つの緊急貸出制度では、銀行の借入残高が前週比ほぼ変わらずとなった。
FRBが25日に発表したデータによれば、24日までの1週間の借入残高は両制度合計で961億ドル(約13兆4600億円)と、前週とほぼ同じだった。
このうち連銀窓口貸出制度を通じた借り入れは42億ドルと、前週の90億ドルからほぼ半減。一方、シリコンバレー銀行(SVB)やシグネチャー・バンクの経営破綻を受けて3月12日に新設された「バンク・ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)」での借入残高は919億ドルと、前週の870億ドルから増えた。
●FRB、利上げ一時停止間近の可能性=ボストン連銀総裁 5/26
米ボストン地区連銀のコリンズ総裁は25日、連邦準備理事会(FRB)が利上げを一時的に停止し、これまでの引き締めの影響が経済活動に及ぼす影響を確認する時期が間近に迫っている可能性があると述べた。
講演で「インフレ率はなお高すぎるが、緩和を示す有望な兆候がいくつか見られる」と指摘。物価上昇圧力の緩和は「利上げを一時的に停止することが可能な地点、あるいはその近くまで来ている可能性がある」ことを意味するとした。
また、利上げ見送りの可能性があるということは「これまでの措置と信用状況の全般的な引き締めが経済活動に与える影響をより十分に評価する機会を提供することになる」とした。
コリンズ総裁は今年の連邦公開市場委員会(FOMC)での投票権を持っていないが、6月中旬に開催される次回のFOMCまでに「入手可能な情報の総合的な評価に基づいて各政策を決定することが重要だ」と強調。「われわれは物価動向、労働市場、金融情勢などに関する幅広いデータを監視し、経済がどのように推移しているかを評価している」とした。
また、リセッション(景気後退)入りを明確に否定しなかったものの、経済的な大打撃に備えているわけではないと言及。自身の基本的な見通しでは「大幅な景気後退を招くことなく(インフレ率の2%目標への回帰という目標に)到達できるだろう」とした。その上で失業率が上昇する可能性もあるとした。
●米CDSのデフォルト警告、投機筋の思惑も 5/26
米債務上限を巡る協議が長引く中、デフォルト(債務不履行)リスクを示す指標は警告を発している。ただ、市場関係者は短期間で利益を得ようとする思惑が金融派生商品(デリバティブ)の価値を膨らませているとも指摘する。
米1年物クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドは5月に入って一時、過去最大の175ベーシスポイント(bp)に拡大した。
S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのデータによると、25日のスプレッドは160bpと前日取引終了時からわずかに低下したものの、投資家の懸念を示している。
市場関係者らによると、CDSの支払いに関わる低コストでハイリターンな仕組みがヘッジファンドや投機家をこの取引に引き付けている。
コーペイのチーフ市場ストラテジスト、カール・シャモッタ氏によると、CDSは現在、本来の保険契約というよりも金利プットオプションのような取引になっており、「デフォルトのインプライド(暗黙)リスクはスプレッドだけから推測されるよりもはるかに低いままだ」という。
ロイターの計算によると、CDSスプレッドと原債券の価値を用いて測った米国債デフォルトのインプライド確率は、2011年に同様の問題があった際の6─7%台と比べると、まだ3─4%台と非常に低い。
不履行イベント決定後のCDSの潜在的な支払いでは、決済に最も安価な債券の価格が通常使用されるが、これらの債券は利回りが過去最低付近だった20年半ばの低クーポン発行により大幅に低い価格となっている。
オルタナティブ資産運用会社サマラ・アルファ・マネジメントのウィルフレッド・デイ最高経営責任者(CEO)は、ソブリンデフォルトの場合、現在のレートでCDSを購入する人は高額支払いを期待するだろうと述べた。ソブリンデフォルトに至らなければ、CDSを買うために支払った約1─2%のプレミアム(保険料)を失うことになる。
同CEOは「得られる金額が5倍なら誰もやらないだろうが、25倍となれば人々はそれに賭けたくなる」と話す。
このため「CDSは買い手にとって異常に魅力的な商品」(前出のシャモッタ氏)という。
関係筋によると、マクロ経済のシグナルに基づいてソブリン債を取引することで知られるヘッジファンドが、CDSプロテクションの最大の買い手になっている。
●米デフォルト懸念、清算機関が担保の扱い巡り調整=関係筋 5/26
米国が債務不履行(デフォルト)に陥りかねない期日を間近に控え、清算機関と清算業務メンバーは担保として使用される米財務省証券や債券の扱いについて調整している。関係筋4人が明らかにした。
清算機関は一般的に、6月1日の潜在的なデフォルトによって直ちに影響を受けるとみられる、数日以内に満期を迎える財務省証券を担保として受け入れないが、関係筋によると、今後数週間で満期を迎える証券の受け入れ継続についても疑問符が付いている。
25日時点では、清算機関がこうした証券を担保プールから排除するか、大幅なヘアカットの対象とするかは不明という。
CMEグループ、インターコンチネンタル・エクスチェンジ、LSEG(ロンドン証券取引所グループ)傘下のLCHを含む6清算機関は、いずれも話し合いの詳細についてコメントを避けた。
ある大手銀行幹部はロイターに対し、清算機関の対応を見極めようとしているとしつつ、ほとんどの清算機関は依然としてデフォルトはあり得ないと考えているとの認識を示した。
清算機関が適格担保プールを狭める場合、投資家はポジションを確保するためにより多くの証拠金を積み上げるか、リスクを縮小する必要があり、金融市場に影響を与える可能性がある。 
●米債務上限問題 「黒い白鳥」ほんとに現れるか? 5/26
アメリカ政府の借金できる上限を引き上げる債務上限をめぐる協議に世界がやきもきしています。そこに1羽の鳥が舞い降りてきました。普通の白鳥か黒い白鳥か。黒い白鳥は金融界では「予想ができず、起きたときの衝撃が大きい」ことを意味します。この先いったい何が起きうるのか。アメリカ国債のデフォルト=債務不履行はあり得るのか。国際部デスクによる「グローバル経済コラム」です。
債務上限めぐる協議は難航
アメリカ政府の借金の上限、債務上限問題をめぐってバイデン政権と野党・共和党の交渉が大詰めを迎えています。合意が近いとの報道も出ていますが、バイデン大統領と野党・共和党幹部との間で合意できても、この先、議会に法案を通さなければならず、果たしてすんなり決まるのか、これまでの激しい対立を見ているとハラハラしてしまいます。アメリカは政府が借金できる額はあらかじめ決められていて、それを超えるには議会の承認が必要になる制度になっています。しかし、財政について、拡大路線の与党・民主党と、財政規律を重視し、小さな政府を目指す野党・共和党との考え方の違いからこの上限が引き上げられず、与野党で対立を繰り返してきました。今回、政府の資金が枯渇するXデーが、早ければ2023年6月1日に到来しようとしています。
黒い白鳥=ブラックスワンとは
冒頭書いた1羽の鳥。白鳥は長い間、すべて白い色だと信じられてきました。しかし、17世紀にオーストラリアで「黒い白鳥」が発見されたことで、当時、科学者のあいだで衝撃がはしったと伝えられています。この出来事を参考に、元ヘッジファンドの運用者であり、研究者でもあるナシーム・ニコラス・タレブ氏が、金融界でこれまでの常識や見識からは予測できない、社会や経済に大きな影響を与える極端なことが起きることを黒い白鳥=ブラックスワンと呼び、広く知られるようになったのです。
米国債のデフォルトこそがブラックスワン
この局面でのブラックスワンは、世界でもっとも信頼度が高いとされるアメリカ国債のデフォルト=債務不履行です。アメリカ国債は私たちにとって縁遠いものかというとそんなことはありません。信頼性が高い安全な資産として知られ、その価格や利回りの動向は世界の金融市場で指標となっています。年金基金や銀行、さらには外国政府が保有し、重要な資産運用先となっています。仮にアメリカ国債がデフォルト=債務不履行になると、投資信託や年金基金の運用がままならなくなり、わたしたちの資産が目減りしたり、最悪消滅したりしてしまう恐れすらあるのです。これは大混乱以外のなにものでもありません。これまでの常識や見識からは予測できない事態、十分、ブラックスワンといえるでしょう。
その可能性は?CDSに異変が
ではブラックスワンが飛んで来るリスクはどれぐらいあるのか? ここで参考になるのが、ヘッジファンドなど投資のプロたちが注目している、ある特殊な市場の動きです。それはCDS=クレジット・デフォルト・スワップという企業や国の破綻に備えた保険のような機能がある金融商品の市場です。破綻のリスクが高まるほど、保証料率と呼ばれる利率が上がります。例えていうと自動車保険が分かりやすいかもしれません。保険会社は車の車種ごとに事故が起きるリスクを分析しています。事故率の高いスポーツカーの方が、事故率の低いファミリーカーより保険料が高くなる、そんなイメージです。
14年ぶりの水準に
これと同じことがアメリカ国債のCDSで起きています。アメリカ国債の5年もののCDSの保証料率は、2023年4月下旬から5月にかけて一時、0点7%台と、リーマンショック後の2009年以来、およそ14年ぶりの水準にまで上昇していたのです。今は少し下がっていますが、それでも0点6%台です(5月26日時点)。しかも1年もののCDSの保証料率の方が5年ものより高くなっており、その数値はフィリピンやギリシャの国債の保証料率を上回る事態となっています。債券の世界では期間の長い方が金利が高くなるというのが常識です。期間が長い方が先々のことが読めず、リスクがあるという考え方からです。今、CDSで1年ものの方が保証料率が高いというのは、市場が今の債務上限をめぐる協議がリスクがあると見ているという証しなのです。このCDS、なぜ投資のプロたちが見るかとういと先を読む材料になるからです。2009年秋から始まったギリシャ危機のときもプロたちはCDSをじっと見つめていました。当時、ギリシャの新しい政権が、巨額の財政赤字を旧政権が隠していたことを明らかにしてから、じわじわとギリシャ国債のCDSの保証料率が上昇しました。投資家たちが危機を察知したからです。それがギリシャ国債の価格下落へとつながり、最後は通貨ユーロの信認が問われる事態、いわゆる欧州債務危機へと発展していきました。このときは日本も激しい円高に見舞われ、その後、2011年に1ドル=75円台と最高値を記録。輸出企業の業績悪化につながり、経済的な打撃を受けました。世界はつながっているのです。
刑事ドラマのようになるか
今のアメリカに話を戻します。ある市場関係者に話を聞いたら「刑事ドラマみたいなものでハラハラ、ドキドキしながら最後、犯人は逮捕されるんですよ」と話していました。この関係者の見立てではさすがにアメリカ政府も国債のデフォルト=債務不履行は回避したいだろうから、仮にXデーである6月1日が来ても、まずは連邦政府職員の給料支払いを遅らせたり、企業などへの支払いを延期したりとあの手この手をつくし、国債の元本償還と利払いを維持し続けるだろうとの見立てでした。この見立てどおりであればアメリカ国債はデフォルト=債務不履行にはならないはずです。
格付け会社の冷静な視点は…
しかし、別の怖さがあります。格付け会社の存在です。2011年、同じように債務上限問題がこじれたとき、政府と議会が最終的に合意したにもかかわらず、大手格付け会社「スタンダード・アンド・プアーズ」(現S&Pグローバル・レーティング)がアメリカ国債の格付けを最も信頼度が高い「AAA」から1段階引き下げました。アメリカ国債の格付けの引き下げは歴史上初めてのことで、株価が急落するなど市場が大混乱に陥りました。今回の債務上限をめぐり、5月24日、別の大手格付け会社「フィッチ・レーティングス」は、アメリカ国債の格付けは最も信頼度があるとされる「AAA」を維持しつつも、格付けの短期的な見通しであるウオッチをこれまでの「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたと発表しました。バイデン政権と野党・共和党の政治闘争が続くなか、格付け会社はあくまで金融・経済的な視点から冷静に国債の価値、その背後にある財政の健全性を見極めようとしています。2011年、「スタンダード・アンド・プアーズ」がアメリカ国債を格下げをしたとき、その理由として次のように書かれていました。「アメリカ政府と議会が合意した財政健全化策は十分ではない」
本当にブラックスワンは飛来しない?
ブラックスワンは本当に舞い降りないのか、刑事ドラマのように最後、犯人は逮捕されるのか。ただでさえ、今、アメリカもヨーロッパも大規模な金融緩和のあと、急速な利上げを行い金融引き締めの最中で、国債の金利にはさまざまなプレッシャーがかかっています。過去起きたさまざまな「まさか」という出来事を思い返すと、なかなか安心できない日々が続いています。
●相次ぐアメリカの銀行破綻:国家破綻を防ぐ方策は? 5/26
このところアメリカでは大手銀行の破綻が相次ぐようになりました。シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行、シルバーゲート銀行と破綻の連鎖です。日本では馴染みが薄いかも知れませんが、シリコンバレー銀行の総資産は2,090億ドル、シグネチャー銀行は1,103億ドルと、日本でいえば大手地銀に匹敵します。
思い起こせば、2008年に証券大手のリーマン・ブラザーズが経営破綻し、世界的な金融危機が発生しました。「その再来になりかねない」と新たな懸念が世界に広がっています。
事態を重視した米財務省と連邦準備制度理事会(FRB)は「すべての預金を保護する」と発表しました。バイデン大統領も緊急声明を発表し「アメリカの金融システムは盤石だ」と強調。
しかし、盤石なら連鎖倒産など起きないはず。背景にあるのはFRBの急速な利上げと言われています。市場金利が急上昇し、債権価格が急落したことは否めません。
実は、シリコンバレー銀行もシグネチャー銀行も融資先の大半は新興IT企業です。しかも、その大部分を占めているのは中国企業に他なりません。そのため、中国系のメディアによれば、「中国のスタートアップ企業やベンチャーキャピタルの間ではパニックが起きている」とのこと。言い換えれば、今回破綻したアメリカの銀行は米中間の金融橋渡しの役目を担っていたわけです。
FRBが「預金の保護」という措置に踏み切ったのも、バイデン大統領が3期目に突入した中国の習近平国家主席との首脳会談に意欲を見せていることが影響したと思われます。富士山の地下のマグマと同じように、アメリカ政界の深層部でも「中国マグマ」が火を噴く可能性が高まっています。
と同時に、アメリカでは中央銀行にあたるFRBの債務不履行の可能性が取りざたされるようになってきました。先に広島で開催されたG7サミットにも、バイデン大統領は対面での参加がぎりぎりまで危ぶまれていたものです。
その理由も議会共和党との連邦政府の借入額の上限引き上げをめぐる意見の対立でした。バイデン政権は上限を外さなければ、この6月1日にもアメリカは債務不履行(デフォルト)に陥りかねないと危機感を露にしています。
他方、共和党は歳出削減を優先すべきで、現状のような無制限の借り入れを認めてしまえば、アメリカ経済は破綻し、世界から信用されなくなる、との立場です。「デフォルト」となれば、信用不安が巻き起こり、アメリカの国債やドルの価値が失われることにもなります。
そのため、世界の投資家の間では、すでにドルを手放し、金や銀、あるいはレアメタルや不動産など現物への乗り換えを加速する動きが見られようになってきました。もちろん、ただちにアメリカが国家破綻するわけではありませんが、アメリカの金融政策に不信感や不安感が広がり始めていることは間違いありません。
アメリカの表向きの財政赤字は32兆ドルと言われていますが、実際は200兆ドルを突破している模様です。連邦議会予算局の見通しでは、2040年までに税収の100%が高齢者向けの社会福祉に向けられることになるとのこと。
ということは、2040年までにアメリカは国家破綻という危機的状況に直面するということです。連銀は今後も金融引き締め策を取るでしょうが、このピンチを回避する方策が財務省保有の金の評価額を現在の1オンス42ドルから実勢価格の2000ドルに変更することにあるとの見方が出てきました。いずれにせよ、金価格が上昇する流れはまだまだ続くと思われます。
そんな中、この5月19日、中国の山東省では史上最大の金の鉱山が発見されたとの報道がありました。今後30年にわたり、毎日1万トンの金を産出できるようになるとのこと。中国が対米交渉で強気になるのも理解できます。
●取引所のイーサリアム残高、過去最低に迫る──ステーキング急増の影響 5/26
暗号資産(仮想通貨)取引所におけるイーサリアム(ETH)の数は、ステーキングによって利用可能なイーサリアムが吸い上げられ、2016年7月以来の低水準になっている。
グラスノード(Glassnode)のデータによると、5月25日の時点で、イーサリアムの14.85%が中央集権的な取引所のウォレットに保有されている。2016年の夏にイーサリアムが初期段階にあった時以来、これほど低い水準だったことはない。
一方、2021年の強気相場では、取引所残高は25〜26%程度だった。一般的に残高が少ないことは、購入可能なイーサリアムが限られていることを意味するため、価格上昇の圧力となり、強気のサインになる。
ここ数週間、ステーキングの人気が高まっており、市場からの供給が吸収されている。
イーサリアムのネットワークにシャペラアップグレードが導入されたことで、ステーキングが急増し、アップグレード以降、新たに440万個以上のコインが預け入れられた。
Binfinexのアナリストは、「デフレの力がイーサリアムの価格を大幅に上昇させるであろうことを考えると、この傾向は続くと予想される」と述べている。「このアップグレードの前は、潜在的な利害関係者は彼らの資金が許容できないほど長い期間ロックされるという懸念のために、彼らのイーサリアムをステーキングすることを躊躇していたのかもしれない」。
これらすべては、暗号資産の取引量が2桁減少することによって起こっている。
世界最大の暗号資産取引所であるバイナンス(Binance)は、4月に2カ月連続でスポット取引量が48%減少し、2021年以来2番目に低い2870億ドル(約40兆円)になった。市場シェアも46%に減少し、マクロ経済の不確実性とアメリカの銀行危機による業界全体の40%という幅広い取引減少を反映している。
CoinDeskの市場データによると、イーサリアムは直近では2%上げて1816ドルで取引されている。
●米スーパー地銀の連鎖破綻は収まる 小規模地銀の悪化くすぶる 5/26
今年の3月以来、米国の地銀の破綻が連鎖して起こった。ニューヨーク連銀によると、とりわけ総資産500億ドル〜2,500億ドルに位置するスーパーリージョナルバンクで破綻が多く起きた。
このクラスの地銀から流出した預金は総資産2,500億ドル以上であるJPモルガン、バンカメ、シティなどの大手銀行に移し替えられた。
スーパーリージョナル銀行の経営不安は峠は越えたが、より小規模の地銀に波及しており、いまも経営不安を巡る動揺は続いている。リーマンショックのような大きな金融ショックは今のところ、想定されていない。
しかし、FRBが金利引き上げを躊躇する、不動産価格の下落が続くのではないか、といった懸念はくすぶり続けている。
これまでの動きを簡単に整理してみたい。米国地銀の経営破綻の嚆矢となったのは、3月8日に持ち株会社シルバーゲート傘下のシルバーゲート銀行が自主的に業務を縮小すると発表してからだ。
暗号資産取引への融資などで活躍していたが、仮想通貨の価格下落などから22年第4四半期の決算では10億ドルの資産売却損を出していた。
続いて3月10日に破綻したのがシリコンバレー銀行(SVB)である。名前が示す通り、カリフォルニア州(サンタクララ)に本拠を置く総資産2,090億ドル(約28兆円)と全米16位の中堅銀行である。SVBでは、テックブームや不動産価格の高騰に伴う富裕者向け住宅ローンなどで業績は好調に推移していた。
しかし、昨年3月以降のFRBによる急速かつ大幅な金融引き締めで、資金繰りの苦しくなったベンチャー企業向け融資の焦げ付きや保有国債の価格下落が嫌気されて預金の流出が続いた。このため、SVBは損失覚悟で保有米国債の売却(実際に18億ドルの損失を計上)に踏み切って穴埋めを図った。
これがSVBの経営不安を高めて3月8日には一日で420億ドル(約5兆円)と全預金の1/4にあたる預金取り付けが起きた。さらに3月10日にはこのままでは1,000億ドルに及ぶ預金取り付けが起きそうだ、というのでついにギブアップ、FDIC(連邦預金保険公社)による公的管理のもとに入った。
当時、銀行の破綻規模としては2008年のワシントンミューチュアルに次ぐ史上二番目の規模であった。
その2日後、今度はニューヨークに本拠を置く全米29位のシグネチャー銀行(総資産1,103億ドル)もSVBと同じ運命をたどった。シグネチャー銀行は暗号資産(仮想通貨)を取り扱う企業との取引や商業用不動産に幅広く貸し付けていたことで知られていた。
FDICはSVB、シグネチャー銀行の両行に対して預金保護の上限とする25万ドルでは企業の決済性資金などをカバーできないため、金融システム不安を起こしかねないとして異例の全額保護を適用した。
さらに、5月1日には、全米第14位で総資産2,291億ドルのファースト・リパブリック銀行(FRC)が経営破綻した。FRCは預金保険の対象外である大口預金が全体の2/3を占め、預金を引き出す動きが強まっていた。このため、JPモルガンなど大手行が300億ドルに及ぶ協力預金を行うという異例の経営支援策を発表した。
しかし4月24日に発表されたFRCの1〜3月期決算で同期間中、預金が719億ドル(約9兆6千億円)減少したことが明らかになり、株価は8割減となった。4月28日の株価は3ドル強と昨年末の120ドルの1/30まで落ち込んだ。
5月1日、JPモルガンが全米8州に展開する84の店舗を買収して営業継続を図った。FSCの破綻規模は前出のSVBを上回る史上第二位となった。
地銀の経営不安は最悪期は脱したが、現在もくすぶっている。スーパーリージョナルから小規模銀行に懸念対象は移っている。
カリフォルニア州のパック・ウエスト銀行(総資産410億ドル、全米53位)、アリゾナ州のウエスタン・アライアンス、テネシー州のファースト・ホライゾンなどで経営不安が募り、預金の流出、株価の下落が続いている。
例えばパック・ウエスト銀行では、貸出債権の含み損が18億ドル弱に達しており、これを割り引くと自己資本は5億ドル弱しかなく、株価が急落するのも当然である。
このような一連の米国地銀の経営破綻は、個別銀行のリスク管理、ALM(資産負債管理)の拙劣さといった弛緩した経営姿勢に最大の原因があることは疑いがない。しかし、FRBが創設以来109年の歴史の中でもっとも急速かつ大幅と言われる利上げを行ったことにも責任はある。
FRBはインフレの高進を「一時的」と見誤って手をこまねいていた。しかし、年率8%を越える急速なインフレ進行に慌てて、昨年3月からわずか1年2か月で通算5%に及ぶ利上げを敢行した。
通常、金利上昇は銀行収益にとってプラスに働く。しかし、あまりにも急速かつ大幅な利上げで、運用利回りの引上げが中々追いつかなかった。FRBのバー副議長らFRB関係者は経営者の責任を厳しく追及しているが、利上げの判断が遅れたがゆえに急速、大幅な利上げを強いられたFRBが免責されるものではない。
また政策金利の引き上げに伴い長期金利が急上昇して地銀が保有する長期国債の価格が急落した。貸出についても富裕層向けの固定金利住宅ローンなどで評価損を拡大した。
さらにSVBやシグネチャー銀行などで積極的に行ってきたベンチャー企業向け融資も金利上昇でベンチャーの収益が悪化して延滞融資の増加が懸念されるようになった。
米国の地銀は商業用不動産(CRE : Commercial Real Estate)ローンの主要供給先でもある。全米のCREローン残高の40%は地銀によって保有されている。
CREローンはオフィスビル、ショッピングモールなどの好採算を前提に高金利で組成されてきた。また大手銀行の場合、リスク管理の観点から、組成されたCREローンを証券化などの手法を通じてバランスシートから切り離してきた一方で地銀は利回りの高さに魅かれてバランスシートに残す場合が多かった。
しかし、商業用不動産もFRBの利上げで急速に取引が冷え込んで、取引で損失を計上する先も目立ってきた。
例えば積極的な資産運用で有名なカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース、CalPERS)では、オフィス空室率の上昇などを背景に商業用不動産投資において時価評価額が簿価を2割ほど下回っていると伝えられている。このCREローンに対する不安も地銀の経営不安を助長した。
このように米国の地銀において資産の質が劣化しているとの推測が強まってきた。そのため、預金等の資金が流出して資金繰りが苦しくなるとともに銀行収益も悪化してきた。
SVBのように、満期まで保有していれば、評価損を計上する必要のない債券を売却してでもキャッシュを補填する必要にも迫られた。預金取り付けが起きる土壌が形成されてきたわけだ。
その後はSNSなどを通じて経営悪化のうわさが直ちに広がった。追い打ちをかけるようにインターネットバンキングを通じて預金の取り付けが起きた。
従来であれば、店頭に預金者が殺到する取付け騒動(バンク・ラン)が起きたはずだが、今回はデジタル・バンク・ランと呼ばれる静かな、しかし24時間にわたる取り付けが起きた。
議会の公聴会に呼ばれた破綻銀行の経営者は、デジタル・バンク・ランで預金取り付けの動きが急すぎて、対応ができなかったと言い訳している。預金取り付けは、もともと資産内容の悪化など経営の杜撰さからきており、言い逃れに過ぎないのだが。
このように米国地銀の経営不安は金融緩和の長期化で、地銀経営者の一部が金利上昇の事態を予想できず、少しでも利回りの高い資産を積み上げるリスク管理、ALM管理などが弛緩した経営姿勢がもたらした。
カリフォルニア州に問題地銀が集中したのは、いわゆるテックバブルの崩壊が背景にあるからだ。カリフォルニア州ではシリコンバレーを中心とするテックバブルで預金総額がほぼ1.5倍となった。
これを原資にスタートアップ企業に対する融資やCREローンを増やしていったほか、余資運用は利回りの高い10〜30年もの米国債などに集中した。これが金利急上昇で裏目に出た。
FRBによる金利急上昇で地銀では債券や貸出の評価損、引当金繰り入れ増を余儀なくされた。米国の地銀は地元の上下院議員に対する影響力も強いと言われている。金融システム安定の観点からFRBは5月まで10回連続で実施した利上げを次回6月の会合でいったん停止とするとの予想が広がっている。
●米財務副長官、債務上限協議「確実に合意を」 デフォルト受け入れ難い 5/26
アデエモ米財務副長官は26日、CNNテレビのインタビューで、難航している野党共和党との「債務上限」引き上げを巡る交渉について、「確実に合意することを目指す」と強調した。共和党が多数派を占める下院を含め、議会が連邦政府の借入限度額引き上げに関する法案を速やかに通さなければ、6月1日にも米政府の支払いは滞る可能性が高いとされている。
アデエモ氏は「デフォルト(債務不履行)は受け入れられない」と語った。デフォルトの期限が迫る中、既に米国債の短期金利は上昇、政府の資金調達コストは増大しており、「つくられた危機を一刻も早く終わらせる必要がある」と訴えた。

 

●デフォルト期日先延ばし 6月5日に―米財務長官 5/27
イエレン米財務長官は26日、マッカーシー下院議長(野党共和党)など議会指導者に宛てた書簡で、米国がデフォルト(債務不履行)に陥る恐れがある期日について、これまでの6月1日から5日に先延ばししたことを明らかにした。税収などに関する最新のデータに基づいて判断したという。
イエレン氏は連邦政府の借入限度額である「債務上限」について、「議会が6月5日までに引き上げなければ、財務省には支払い義務に応じる十分な資金がない」と警告。速やかな引き上げを促した。
バイデン政権と共和党の交渉は「進展している」(アデエモ財務副長官)とされるが、歳出削減規模などを巡って難航。期日が数日先送りされたとはいえ、法案の議会通過に時間がかかることを踏まえれば、切迫している状況に変わりはない。
●「Xデー」は来月5日 米デフォルトの予測修正、債務上限引き上げなければ 5/27
米政府の借入限度額である債務上限の引き上げ協議が難航しデフォルト(債務不履行)の危険性が高まっている問題で、イエレン財務長官は26日、野党・共和党のマッカーシー下院議長に宛てた書簡で、このまま債務上限が引き上げられなければ「6月5日」にデフォルトに陥ると明らかにした。最新の財務状況に基づき、早ければ「6月1日」としてきたこれまでの予測を修正した。
米メディアによると、デフォルト回避に向けたバイデン政権と共和党の協議は妥結に近づきつつある。ただ、債務上限引き上げとセットで行う歳出削減に関連し、低所得層向け医療保険の要件を厳格化するか否かなどでなおも対立。政権側との交渉に参加する共和党のマクヘンリー下院議員は26日、記者団に、交渉妥結は「手の届くところにある」と語り、6月5日までの債務上限引き上げは可能だとの見方を示した。
●NYダウ6日ぶり反発、終値328ドル高…デフォルト警戒感が後退  5/27
26日のニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価(30種)の終値は前日比328・69ドル高の3万3093・34ドルだった。値上がりは6営業日ぶり。
米国の債務上限問題への懸念が和らぎ、債務不履行(デフォルト)への警戒感が後退した。半導体大手インテルやIT大手マイクロソフトなどの銘柄が値上がりした。前日までの5営業日で700ドル以上値下がりしていたため、株を買い戻す動きも株価を支えた。
IT企業の銘柄が多いナスダック店頭市場の総合指数の終値は277・60ポイント高の1万2975・69だった。 
●全ホワイトカラーに衝撃 「メーカー・小売・金融・商社の雇用が減る」 5/27
チャットGPT(ChatGPT)の脅威的な性能が、連日のようにメディアに報じられる中で、一時期静まっていた “AI脅威論” がまた沸騰してきている。AIによって、人間の仕事はなくなってしまうのか。
アメリカでは3月、非営利団体「フューチャー・オブ・ライフ・インスティチュート(FLI)」が、チャットGPTの最新モデル「GPT-4」をシステム開発停止の対象にするべきだ、とした公開書簡を発表。著名実業家のイーロン・マスク氏をはじめ、米経済界・学会の大物を含めた2万人以上が署名して注目を集めた。
一橋大学名誉教授で経済学者の野口悠紀雄氏は「人類史的にも未曾有の危機に直面している」と言う。みんかぶプレミアム特集「リストラ連鎖」第4弾は、経済学やAIに対する知見やファクトに基づき、『2040年の日本』(幻冬舎新書)などの書籍で、雇用に関する未来予測も披露されている同氏に、2030年の日本の雇用状況はどうなっているのか、個人・社会はどう対応すればよいのか、聞いた。
2030年までに、たった2つの産業を除き、全分野の雇用者数が減っていく
過去の推移が変わらなければ(2030年まで日本の雇用状況は)「医療介護」「専門科学技術」の2つの分野以外の、すべての雇用者数が減っていくことになります。それはメーカーや小売り、金融、商社、マスコミなどを含む全分野です。「専門科学技術」の裾野は狭いですから、事実上「医療介護」以外の分野の雇用者数は減っていく、と言えるでしょう。
そもそも、日本全体で労働力人口が減っていくことが見えているので、他の産業の就業者数は、それに比例する以上に減っていくしかありません。
そして今、世界的に話題になっているのは、AIが人間の仕事を代替していくことです。3月にはイーロン・マスク氏らが、チャットGPTの最新モデル「GPT-4」の開発中止を求めた公開書簡に署名したことからも、世界中の知識人の危機感が見て取れます。しかし、今後、AIが人間の仕事を代替していく流れは止めようもなく、急激に進んでいくことでしょう。
そこで気になるのが、どのような仕事がAIに代替されるか、ということです。
例えば、自動車の運転が自動運転によって代替されれば、バスやトラックの運転手がいらなくなります。
チャットGPTをはじめとした生成系AIによって、人間とロボットとの会話がより滑らかになっていけば、コールセンターの仕事などに、生成系AIが埋め込まれたチャットボットが使われ、そうした仕事もAIに代替されていくでしょう。
そのようにして、これまで人間がやってきたあらゆる仕事がAIによって代替され、人間の仕事量は削減されていきます。
その上、AIが代替できる仕事は、単純労働だけに限定されません。ホワイトカラーにもこの影響が及ぶ可能性がある点が、これまでのAIとは違い、ここまで騒がれることになっている要因です。
これまでであれば、機械によって代替されるのは、代替可能な単純労働だけでした。しかし生成系AIをはじめとする高度なAI技術は、専門的な研究やクリエイティブな業務などすら、代替する可能性があります。だからこそ、その脅威に戦慄している知識人らが、研究開発を「停止すべきだ」と公開書簡に署名したのです。
●日経平均株価が今後も3万円を十分維持できると読む理由 5/27
今後の株式市場の行方は、どうなるのか。第一生命経済研究所の藤代宏一・主任エコノミストが解説する。5月22日、日経平均株価は3万1086円で取引を終えた。大型連休明けの約2週間で一気に2000円超の上昇となり、平成バブル崩壊後の最高値を連日で更新した。
PBR1倍超企業の自己株買いには「副作用」あり
この株価上昇のきっかけとしては、2022年度の決算や株主還元策が投資家の期待を満たしたことが大きい。東京証券取引所が、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して資本効率改善を求めたことに企業が呼応、自己株買いや増配など株主還元策を強化、投資家の日本株に対する評価が上がった形だ。
ちなみに「PBR1倍割れに対する治療薬としての自己株買い」(もちろん消却を前提とするもの)は、以下の点において理にかなっている。これはPBRが1倍を超える企業の自己株買いが、BPS(1株当たり純資産)の減少を通じてPBRの押し上げに寄与してしまうという「副作用」を内包していることを理解すると、わかりやすい。
つまり、PBRが1倍を超えている企業が自己株買いを実施すると、BS(貸借対照表)に計上されている自己資本よりも高い株価で自己株を取得(買い戻す)することになるため、そのプレミアム(PBR1倍超の部分に相当する額)の分だけ、自己資本が減少する。
そのため、自己株買いは、BPSの低下を招き、PBRを追加的に高め、PBRでみた株価バリュエーション(企業価値評価)を割高にしてしまう効果がある。発行済み株式数の減少に伴ってEPS(1株当たり利益)は増加(PER=株価収益率は低下)し、ROE(自己資本利益率)上昇にも寄与するため、実際の株価にはプラス影響を与えることが多いが、こうした副作用もある。
それに対してPBR1倍割れの企業による自己株買いは、BSに計上されている自己資本よりも低い株価で自己株を取得するため、そのディスカウント(PBR1倍割れの部分に相当する額)の分だけ自己資本が増加する。
そのためBPS増加につながり、PBRを低下させ、PBRでみた株価を一段と割安にする効果がある。同時にEPSは増加(PERは低下)し、ROE上昇にも寄与するため、上記のような副作用はない。
もちろん、これとは別の観点から「自社の株価は経営陣が妥当と判断する水準よりも割安である」とのメッセージを送るシグナリング効果や、単純に株式需給の改善に貢献するという効果もある。日経平均採用銘柄の半数超がPBR1倍割れとなっている現状、自己株買いが株価上昇に効果を発揮したということだろう。
世界的にも製造業が3月に底打ちした可能性
またそれとは別に、ここへ来て世界的に製造業の底打ち感が強まっていることも効いているだろう。
世界的な製造活動のサイクルについて、筆者は「3月底説」を唱えている。アメリカ経済はFED(アメリカの連邦準備制度)の金融引き締めの副反応、すなわち銀行貸出態度の厳格化によって企業の資金繰り環境が悪化するといった不気味な材料が多くなっている反面、日本株との関係が深い製造業については、そのサイクルに反転の兆しが認められている。
確かに4月のISM製造業景況指数は47.1と依然低水準であるが、それでも3月からは0.8ポイント改善している。また1〜3カ月先の生産活動を読む上で有用な新規受注・在庫バランスに目を向けると、1月を底に反転基調が明確化しつつある。新規受注が停滞する中でも在庫の圧縮が進んだことが背景で、先行きの生産活動が上向きやすい環境にあると言える。この間、類似指標の製造業PMIも底打ち感を強めている。
また、この3月底説はIT関連財の生産集積地である台湾にも共通する。台湾の貿易統計によると4月の輸出金額は前年比マイナス13.3%と依然大幅なマイナスだが、スマホやPC向けの需要が停滞する中でも中国経済の回復などを背景に1〜3月期からは回復しており、こちらも3月が「底」になっている。こうした構図は輸出受注統計でみても同様であった。先行きについてはどうであろうか。
そこで電子部品の出荷と在庫の伸び率を比較した出荷・在庫バランス(鉱工業生産統計ベース)をみると、やはり今年に入ってから底打ちの兆しがある。
依然として過剰在庫が残存している模様だが、最悪期は脱しているように見え、ダウンサイドリスクは低減していると判断される。今後中国経済が回復力を強めるなど、追い風が吹けば生産活動が底入れする可能性は高まっていく。そうであればTOPIX(東証株価指数)の予想EPSは半導体関連が多く含まれる電気機器セクターに牽引され、水準を切り上げていくだろう。
日経平均が今後も3万円台を維持できそうな理由
また国内では内需の回復を裏付けるデータが相次ぎ、日本株の魅力を高めている。まず4月の景気ウォッチャー調査は日本の内需が力強さを増していることを印象付ける結果であった。
現状判断DIは54.6へと前月比1.3ポイントの改善を示し、先行き判断DIに至っては55.7へと同1.6ポイント上昇し、双方ともパンデミック発生以降の最高水準に比肩し、2019年水準を明確に上回った。
また、5月23日に発表されたサービス業PMIは56.3と統計開始以来の最高を記録。生活必需品の値上がりによって家計の圧迫は続くが、それでも消費者が貯蓄よりも消費を優先している姿が透けて見える。その背景にあるのは賃金上昇率の高まりと、それによる消費者マインドの改善であろう。連合の集計によればベア相当部分の春闘賃上げ率は約30年ぶりの高水準であるプラス2.1%となっており、これが個人消費の源泉であると考えられる。
日本株はこうした好条件が揃って上昇した。先行きは、アメリカの銀行不安など海外発のダウンサイドリスクに注意は必要だが、国内景気については、中国からのインバウンド再開などにも支えられて底堅さを維持するとみられ、投資家の期待を支えよう。
日経平均は5月に急上昇した反動もあり、短期的には利益確定売りに押されそうだが、それでも3万円台を維持できるのではないか。
●「FRB利上げ停止」の観測後退 インフレ率が高止まりで 5/27
米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ停止観測が後退している。米国のインフレ率の高止まりを示すデータが相次いで示されているためだ。前回5月会合で急ピッチで進めてきた金融引き締めの一時停止を示唆したFRBだが、6月13、14日の次回会合に向け難しい判断を迫られそうだ。
米商務省が26日発表した4月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比4・4%上昇だった。伸び率は前月(4・2%上昇)を上回り、3カ月ぶりに拡大に転じた。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数も4・7%上昇で、伸び率は前月(4・6%上昇)から小幅に拡大。賃金上昇を背景にしたサービス価格の高止まりが影響しているとみられる。
PCEは企業の小売りデータなどから個人消費の動向を調べる指数。米労働省が発表する消費者物価指数(CPI)よりカバー範囲が広く、FRBはインフレ動向を見定めるうえでPCEを重視している。
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は26日の記者会見で「インフレ率は依然として高い。PCEは、まだ(FRBの)仕事が終わっていないことを物語る」と述べ、追加利上げが必要との認識を示した。
米国では25日発表の1〜3月期の国内総生産(GDP)改定値も年率換算で前期比1・3%増と速報値から上方修正され、経済の堅調ぶりが示されている。
FRBは5月会合後の声明文で「追加利上げが適切と予想する」との文言を削除し、2022年3月から10会合連続で実施してきた利上げを停止する考えを示唆。パウエル議長は19日のイベントでも「さほど金利を引き上げる必要はないかもしれない」と発言し、市場では6月会合での利上げ打ち止め観測が強まっていた。
●IMF、米国に一段の利上げ勧告 物価抑制で 5/27
国際通貨基金(IMF)は26日、対米経済審査完了に際して声明を発表した。
その中で、インフレが引き続き高水準を保つと予想し、米連邦準備制度理事会(FRB)に政策金利を2024年にかけて一段と高く維持するよう勧告した。また、物価圧力を緩和するためにも、米国に財政政策の引き締めを要請した。
IMFは、米国のインフレ率は23年末も約4%と、FRB目標の2%を大きく上回ると予測。政策金利は24年遅くまで年5.25〜5.50%と、現行水準(5〜5.25%)からの引き上げが求められるとの見方を示した。 
●イエレン米財務長官「6月5日にもデフォルトの恐れ」… 5/27
米国のイエレン財務長官は26日、米連邦政府の借入金の限度を定めた「債務上限」について、上限の引き上げを行わなければ6月5日にも債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあると指摘した。これまで6月1日としていた期限を先延ばしした。
イエレン氏は共和党のケビン・マッカーシー下院議長ら米議会指導部に送った書簡で「最新のデータに基づく」とした上で、「議会が6月5日までに債務上限を引き上げたり適用を停止したりしなければ、政府債務の支払いができなくなると見積もっている」と警告。「米国の家庭に深刻な苦難をもたらし、米国の世界的な指導的地位を損ない、国家安全保障上の利益を守る能力について疑問を投げかけることになる」と、改めて議会に早急な対応を求めた。
政府債務は今年1月、上限の約31兆4000億ドル(約4400兆円)に到達し、米財務省が6月初旬までの特別措置で資金繰り策を実施している。
●NYダウ6日ぶり反発、終値328ドル高…デフォルト警戒感が後退 5/27
26日のニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価(30種)の終値は前日比328.69ドル高の3万3093.34ドルだった。値上がりは6営業日ぶり。
米国の債務上限問題への懸念が和らぎ、債務不履行(デフォルト)への警戒感が後退した。半導体大手インテルやIT大手マイクロソフトなどの銘柄が値上がりした。前日までの5営業日で700ドル以上値下がりしていたため、株を買い戻す動きも株価を支えた。
IT企業の銘柄が多いナスダック店頭市場の総合指数の終値は277.60ポイント高の1万2975.69だった。

 

●債務上限問題が決着したあと米国株は下落する懸念がある 5/28
アメリカの株価は堅調だ。だが、ニューヨーク在住で東京を往来するトレーダー、松本英毅氏は“今後”を警戒する。まずは、アメリカ経済の先行きを見るうえで欠かせない、物価の動きを少し前から追っていこう。
同国の4月の消費者物価指数(CPI、5月10日発表)は、市場が懸念していたほどに強い数字とはならなかった。総合指数は前年同月比で5.0%の上昇となり、3月とほぼ同水準の伸びとなった。また、変動の激しいエネルギーと食品を除いたコア指数も同5.5%の上昇と、これも3月の同5.6%上昇からはやや伸びが鈍った格好となった。
事前の市場予想平均とほぼ一致しており、とくにサプライズという印象はなかった。だが、発表後には長期金利が低下、株価指数先物には買いが集まるなど、市場の反応はかなり大きなものとなった。
ナスダック総合指数はこの日、銀行破綻ショック後の戻り高値を終値で抜き、1万2300ポイント台を回復した。直近(5月26日)では、画像半導体大手エヌビディア(NVDA)の好決算などもあり、同総合指数は1万2975ポイントと、2021〜2022年の下落分のほぼ半分を回復している。
アメリカのインフレは収まったのか
10日のCPI発表後に市場が強気になったのは、最近のインフレを主導してきたサービス価格や家賃などの住居費が、前年同月比では前月を下回る伸びにとどまったことが挙げられそうだ。実際、サービス価格は前年同月比で6.8%の上昇と、3月の同7.2%から伸びが鈍化。住居費も同7.4%の上昇と、やはり3月の同7.8%上昇から減速した。
これらの指標については強い伸びが続いてきたことから、これまでもジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が何度となく懸念を表明してきたところだ。
5月26日に発表された4月のPCE(個人消費支出)物価指数が市場予想を上回るなど、足元ではさまざまな指標が出ており、判断が難しいところだが、2020年10月から一貫して前月を上回る伸びを見せてきたサービスが2カ月連続で、また2021年1月から強い伸びが続いていた住居費も3カ月連続で前月を下回る伸びとなった。これらのことから「ようやくインフレが鎮静化する兆しが出てきた」と判断してもいいかもしれない。
もちろん、6月2日に予定されている5月雇用統計をはじめ、今後の経済指標の内容による。だが、6月13〜14日に開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げがいったん見送りとなる可能性は、それなりに高いと思われる。
もしシリコンバレーバンクなど一連の地銀の破綻をもたらした利上げがついに見送りとなれば、市場にとってはよい知らせであることは間違いなさそうだ。しかしながら、実際に利上げの打ち止めを受けて単純に株式市場が上昇基調を完全に取り戻すかどうかは、なお定かではない。
今後のアメリカ景気は一段と減速、悪化へ
すでにFOMCで10会合連続の利上げが打ち出されたことにより、現在、政策金利であるFF金利の誘導目標は5.00〜5.25%となっている。これは景気抑制的な水準であり、この水準が維持されている間は、アメリカの景気は放っておいても自然に減速、悪化していくことになりそうだ。
だが、一時は「FRBが早期に利下げに転じる」という観測があったが、現在はパウエル議長をはじめFRBの高官は、誰ひとりとして年内の利下げ転換を予想していない。もし年末まで半年以上、今の高金利が続くことになれば、景気や雇用が一段と悪化するのは避けられない。
深刻なリセッション(景気後退)に陥るのかどうかについては、アナリストの間でも意見が分かれるところだ。だが、早ければ4〜6月期中に経済成長がマイナスに転じる可能性は高いと考える。現在は、半導体など一部の企業業績をハヤしているが、消費財関連の企業業績などは今後一段と悪化する可能性が高く、市場もそれを結局織り込みにかからざるをえないのではないか。
では、FRBが早期に利下げに転じる可能性はまったくないのだろうか。そのカギは、やはり今後のインフレ動向が握る。
前出の4月のCPIにしても依然として高い水準にあり、サービスや住居費はこれらを上回る強い伸びを維持している。6月のFOMCでは再度利上げの可能性も残っている今、FRBが利下げを検討できるような水準までインフレ圧力が低下するには、かなりの時間を要する可能性が高い。
しかも、以前からも指摘しているように、夏にかけて商品市場があらためて騰勢を強めるリスクも消えていない。やはり、今後はインフレが思った以上に長期間、高止まりを続けるシナリオに対する警戒感を、強めておいたほうがよい。
具体的に言えば、少なくともCPIが前年同月比で3%台にまで下がってこなければ、利下げ転換が現実のものとなることはなさそうだ。今のところ、何か大きな変化でもない限り、「年内のCPI3%台」はほぼ不可能だ。
今後のリスクシナリオは、以下の2つだろう。
1つ目は、前出の懸念が顕在化、アメリカの経済が悪化し、深刻な景気後退に陥るというシナリオだ。実際、FRBは景気抑制的な政策金利を維持しているだけでなく、並行して現在も量的縮小(QT)を進めていることも忘れてはいけない。
2つ目のリスクは、与野党間の協議が大詰めを迎えているとされる連邦債務上限問題だ。政府の資金繰りがつかなくなる「Xデー」について、当初は6月1日とされていたが、ジャネット・イエレン財務長官は連邦議会議員向けの書簡で「6月5日」としている。
万一、連邦政府が債務不履行(デフォルト)に陥った場合の影響は計り知れないだけに、債務不履行が実際に起こってしまう可能性は低そうだ。ジョー・バイデン大統領が「(野党・共和党との交渉については)非常に楽観的だ」と繰り返し述べていることからも、与野党はギリギリの段階で妥協に応じ、最悪の事態を回避するものと考える。
「Xデー」回避でも、FRBの金融引き締めは続く
最新の状況では、与野党で時限措置を設定して、その期間は政府債務が上限に到達することを回避するなどの案が有力だ。だが、一部低所得者層への支援を削りたい共和党と、維持したい民主党との溝は完全には埋まっておらず、最悪の事態が避けられるとしても、ギリギリのタイミングでのことになりそうだ。
筆者が住むアメリカは29日がメモリアルデー(戦没将兵追悼記念日、南北戦争だけでなく、それまでの戦争で亡くなったすべての兵士を追悼する日)で3連休となる。3連休中に与野党が合意に達しても、そうでなかったとしても、最終的には協議はまとまるだろう。
だが、当面の債務上限問題が回避され、株価が上昇したとしても、FRBの金融引き締めリスクが消えるわけではない。株価が上昇すればするほど、株式市場にはその分、大きな売り圧力がかかってくることになりそうだ。
●米財政、綱渡り変わらず デフォルト期限先延ばしでも 5/28
米連邦政府の借入限度額である「債務上限」問題を巡り、バイデン政権と野党共和党の交渉が難航する中、イエレン財務長官は26日、米国がデフォルト(債務不履行)に陥る恐れのある期限を6月1日から5日に先延ばしした。
これまで曖昧だった期限がはっきりし、米財政が綱渡り状態であることが改めて浮き彫りになった。
「6月5日までに上限が引き上げられなければ、資金は不十分になる」。イエレン氏が議会指導者に宛てた書簡では、財務省が1、2日に社会保障関連の支出を行えば、財政資金がほぼ底を突くと明言された。これまでは「1日にも」支払いが滞る可能性が高いとしていただけに、「より正確な予想」(米紙ワシントン・ポスト)と受け止められている。
たとえ上限引き上げで合意に達したとしても、上院と、共和党が多数派を占める下院の両院が関連法案を可決する必要がある。通常の法案でも上下両院を通すには数日かかるため、期限が若干先延ばしになった程度では、デフォルトリスクが遠のいたとはとても言えない。
一方、こう着していた政権と共和党の交渉には進展もうかがえる。バイデン大統領は26日、記者団に対し、「合意について深夜0時(日本時間27日午後1時)前に、よりはっきりした証拠をいくらか得られると望んでいる」と指摘。「(合意は)非常に近い」と述べた。しかし、バイデン氏が示した時刻を過ぎても、交渉妥結の報はない。
米メディアによると、双方は向こう2年間の歳出抑制と債務上限引き上げに関して協議している。ただ、共和党内で強い影響力を持つ右派は今後10年間の歳出抑制などを強硬に主張しており、協議の行方に影を落としているもようだ。 
●ホワイトハウスと共和党、債務上限問題で原則合意−デフォルト回避 5/28
ホワイトハウスと下院共和党の交渉担当者は27日夜、連邦政府の法定債務上限を実質的に引き上げ、世界経済に激震を与えかねない米国のデフォルト(債務不履行)を回避することで原則合意に達した。
バイデン大統領とマッカーシー下院議長(共和)は同日夕に約1時間半、電話協議を行い、原則合意を取りまとめた。今後は最終的に法案として上下両院での可決にこぎ着ける必要がある。合意には民主・共和両党の強硬派からの反対が予想される。
議長は28日に大統領と再び協議し、31日に採決を行う方針を表明。「まだやるべきことが多く残されているが、これは米国民に価値ある原則合意だと確信する」と、連邦議会議事堂で記者団に語った。
バイデン大統領は27日夜の声明で、マッカーシー議長との間で原則合意に達したと表明した上で、合意内容は妥協の産物であり、「誰もが望むわけではないことを意味する」と説明した。
大統領はさらに、合意によって政権と議会民主党の重要な優先事項と立法面の成果は守られると指摘。交渉担当者が法案テキストの最終的な策定作業を行うとし、上下両院に迅速な可決を訴えた。
原則合意には、債務上限の適用停止に加え、非国防支出を今後2年間にわたりほぼ現行の水準に据え置く歳出合意が盛り込まれた。事情に詳しい関係者1人が匿名を条件に明らかにした。
債務上限適用停止の期間は2025年1月までで、24年11月の大統領・議会選挙後までとなる。枠組みに詳しい一部の関係者は、25年1月1日に適用が再開されるとする一方、別の関係者は正確な日程について、これからまとめられる法案テキスト次第だと論じた。
メディケイド(低所得者向け医療保険)受給に関する就労義務の要件厳格化は盛り込まれなかった一方、「補助的栄養支援プログラム(SNAP)」として知られる低所得者向け公的食料費補助は、就労義務の適用される年齢を段階的に54歳にまで引き上げる。
大統領と議長は27日夕、電話で協議を行った。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。債務上限問題を巡る交渉の担当者は合意取りまとめの協議を急いで進めてきた。
電話協議はワシントン時間午後6時(日本時間28日午前7時)ごろに始まり、7時半までに終了したと関係者の1人は語った。バイデン、マッカーシー両氏が最後に対面で会談したのは22日。
議長は電話協議に先立ち、「数時間」以内に合意があるかもしれないし、妥結まであともう数日かかるかもしれないと述べていた。
イエレン財務長官は26日、債務上限の引き上げもしくは適用停止が講じられない場合、財務省は資金繰りを続けるための特別措置を6月5日までに使い切るとの見通しを明らかにした。
共和党交渉担当者の1人であるマクヘンリー下院金融委員長は、「双方の間には大きな相違点が複数ある」と話し、こうした相違点の大半はトップ2人で解決しなくてはならないとコメントしていた。 
また、バイデン大統領はまとまりつつある合意について、既にシューマー上院院内総務、ジェフリーズ下院院内総務の議会民主党トップと話をしたと、関係者の1人が明らかにしていた。
●米、債務上限上げで基本合意 2年分、デフォルト回避へ  5/28
バイデン米大統領は27日、債務上限引き上げを巡って野党共和党のマッカーシー下院議長と電話会談し、引き上げで基本合意に達した。米メディアによると、2年分の資金を確保できるよう上限を引き上げることで一致。議会での法案審議が残るが、懸念されたデフォルト(債務不履行)は回避できる可能性が高まった。
バイデン氏は声明を出し、デフォルトを避けられるとして「国民にとって朗報だ」とアピール。上下両院に対し、上限引き上げの関連法案を「すぐに可決することを強く求める」とした。
関連法案は上下両院で可決し、バイデン氏が署名する必要がある。バイデン、マッカーシー両氏は合意内容を党内に説明し、法案に賛成するよう説得する。
マッカーシー氏は記者団に対し、関連法案について28日にもバイデン氏と協議し、31日に採決する意向を表明した。「米国民にふさわしい合意だと信じている」と強調。「まだやるべきことはたくさんある」とし、法案作成を急ぐ考えも示した。 
●リスク資産が上昇か、米債務上限巡る妥結で−週明けの金融市場 5/28
米連邦債務上限を巡りホワイトハウスと下院共和党の交渉担当者が27日夜に原則合意に達したことを受け、世界の金融市場は安堵(あんど)感から上昇する見通しだ。債務危機でリスクセンチメントは過去数週間にわたって圧迫されていた。
ホワイトハウスと共和党、債務上限問題で原則合意−デフォルト回避
法定債務上限を巡る懸念から逃避需要に支えられてきたドルは週明けの動きが注目されそうだ。29日は米国と英国の市場が祝日で休場のため、流動性は低い見通しだが、米国債とS&P500種株価指数の先物はいずれも取引される。
米財務省が支払いを履行できなくなると見込まれる「Xデー」が急速に近づく中、投資家はここ数週間にわたって安全資産に殺到していた。
DBSグループ・ホールディングスのストラテジスト、チャン・ウェイ・リアン氏は「債務上限問題がようやく解決したことから、市場は安堵するはずで、ドルはやや軟化する可能性が高い」と指摘。「今回の合意は成長を脅かすことなく歳出を削減するというバランスがうまくとれた内容で、米国債にとっては若干のプラスとなる公算が大きい」と述べた。
ある意味皮肉にも、米デフォルト(債務不履行)の可能性はドルを押し上げ、伝統的な安全資産とされる円をもアウトパフォーマンスしてきた。
●FRBに多少の安堵感与えるか、今週発表の米労働市場関連統計 5/28
米雇用者は新規採用のペースを徐々に落とし、平均時給の伸びも鈍化しつつある。高止まりするインフレ率の押し下げに取り組む米金融当局者に多少の安堵(あんど)感を与えることになりそうだ。
米労働省が6月2日に発表する5月の雇用統計では、非農業部門雇用者数の増加幅が前月比で20万人を割り込み、月間ベースで過去1年間の平均(約37万人)を下回ると見込まれている。平均時給は0.3%増と、1年ぶりの大幅増だった前月から鈍化する見通し。
このほか、5月31日発表の4月の求人件数は2年ぶりの低水準が予想されている。新型コロナウイルス禍以前の数字をまだ約200万件上回る見込みだが、4カ月連続の減少となれば、過去1年間にわたりインフレ高進につながってきた労働市場の需給逼迫(ひっぱく)が徐々に緩和しつつあることが裏付けられる。
ホワイトハウスと下院共和党の交渉担当者は27日夜、連邦債務上限問題で原則合意に達したが、労働市場を巡るこうした最新の統計は、信用状況の引き締まりや金利上昇、景気の先行き懸念などの影響について、金融当局に手掛かりを与えることになる。
米金融当局は6月13、14両日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)会合で0.25ポイントの追加利上げが適切かどうか判断を下す。先週発表の統計では、4−6月(第2四半期)の早い段階のインフレ加速と底堅い需要が示された。
今週発言が予定されている米金融当局者は、リッチモンド連銀のバーキン総裁とフィラデルフィア連銀のハーカー総裁、ジェファーソン連邦準備制度理事会(FRB)理事ら。
ブルームバーグ・エコノミクスは「5月の雇用統計では採用ペースの減速が示される見通しだが、米金融当局を安心させるには不十分だろう」と指摘。「月間の雇用者数のデータのばらつきは2021年終盤以降の漸進的な採用ペース鈍化を覆い隠す一方、労働市場の沈静化は大半のアナリストの予想よりゆっくりだ」としている。
●「破滅的デフォルト防ぐことできた」…債務上限引き上げで共和と原則合意 5/28
米連邦政府の借入金の限度を定めた「債務上限」の引き上げ問題で、バイデン大統領と野党・共和党のケビン・マッカーシー下院議長が27日、原則合意した。上限を2年間に限って引き上げる内容とみられ、世界経済に深刻な打撃を与えると懸念されていた米国史上初の債務不履行(デフォルト)は回避できる公算が大きくなった。
ホワイトハウスによると、バイデン、マッカーシー両氏は電話で協議し、詰めの交渉を行った。終了後、バイデン氏は声明で原則合意したと明かし、「国民にとって朗報だ。破滅的なデフォルトを防ぐことができた」と述べた。マッカーシー氏も記者団に「国民にふさわしい合意であると信じている」と語った。
双方とも具体的な合意内容には言及しなかったが、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は関係者の話として、双方が2年限定の債務上限引き上げと歳出抑制で一致したと報じ、「(2024年の)次期大統領選を乗り切るには十分な内容だ」と伝えた。交渉は、無条件の上限引き上げを求めるバイデン政権に対し、共和党が引き上げと引き換えに厳しい歳出削減を訴えて難航していた。
債務上限の引き上げには、議会上下両院の法案可決が必要だ。マッカーシー氏によると共和党はすでに法案作成の作業に着手。28日午後に再びバイデン氏と協議をし、議会での法案審議に臨む方針だ。

 

●シカゴ連銀総裁、米国がデフォルトなら経済に「極めてネガティブ」 5/29
米シカゴ連銀のグールスビー総裁は28日、連邦債務上限を引き上げる暫定的合意に超党派の支持が集まるとの楽観的な見方を示した上で、引き上げに失敗すれば経済に悪影響が及ぶと述べた。
グールズビー総裁はCBSの番組「フェース・ザ・ネーション」とのインタビューで、「われわれは、債務上限を引き上げなければならない。そうしなければ、金融システムやより広範な経済への影響は、極めてネガティブなものになろう」と指摘した。
ホワイトハウスと下院共和党の交渉担当者は27日夜、連邦債務上限を実質的に引き上げ、世界経済に激震を与えかねないデフォルト(債務不履行)を回避することで原則合意した。イエレン米財務長官は26日、債務上限の引き上げもしくは適用停止が講じられない場合、財務省は資金繰りを続けるための特別措置を6月5日までに使い切るとの見通しを明らかにしていた。
グールズビー総裁は、期限まで近いことについて「少し危険だ」と述べ、デフォルトの予想だけでも経済や金融市場に影響を及ぼしている点に言及した。
今年の連邦公開市場委員会(FOMC)で投票権を持つグールスビー氏は、6月13、14両日開催の会合でどう投票するかはまだ決めていないことも明らかにした。
「米金融当局が取る措置がシステムを通じて機能するには数カ月ないし数年かかる」と指摘。「インフレが高過ぎるのは間違いないが、それでもインフレは減速している」との認識を示した。
●欧米で相次いで「銀行破綻」が起きたワケ 5/29
2023年3月。米国のシリコンバレー銀行が経営破綻したという第1報が飛び込んでからわずか1週間ほどで、今度はスイスのクレディ・スイス銀行をUBSが救済するというニュースが飛び込んできました。銀行セクターでの相次ぐ破綻に、リーマン・ショックを思い出した方も多いはず。はたして金融危機の再来となるのか、世界有数の資産運用会社、アライアンス・バーンスタイン(以下AB)のシニア・インベストメント・ストラテジスト、荒磯亘氏が解説します。
3月に相次いだ欧米銀行の破綻…いったいなぜ?
   [図表1]米国利上げ以降の株式・債券の騰落率
――相次ぐ銀行破綻に驚愕しています。なぜ、こうした事態が起きてしまったのですか?
荒磯「根本を探っていくと、どうやら急速に利上げを進めてしまったのではないか、そこに行き着くように感じます。銀行はお金を預かり、そのお金を運用するわけですが、そこで損が出たというところから不安が広がりました」
――なにか、リスクの高い運用をしていたということでしょうか?
荒磯「そういうことではないようです。[図表1]をご覧ください。米国が利上げを始めた2022年3月以降の株式や債券の騰落率をみると、軒並み下落していることがわかります。安全資産といわれる米国国債ですらマイナス・リターンとなり、“資金の逃げ場がなかった”というのが本当のところでしょう」
――クレディ・スイス銀行への飛び火も同じ理由からなのでしょうか。
荒磯「これには複合的な背景があると思っています。というのも、クレディ・スイス銀行は数年前から投資の損失が膨らみ、また内部文書が流出するといったガバナンス上の問題も指摘されてきました。ですから、金融市場がちょっと不安定になってきたときに『次はここが危ないのではないか』という不安が増幅したのだと思います」
――AT1債券(金融機関の破綻を防ぐために強制的に元本が削減される特性を持つ債券)が無価値化してしまうなど、当局の対処に余裕がなかった印象があります。
荒磯「スイスの金融当局も、1週間前に米国の西海岸で起きたことが、よもや自分たちの足元に飛び火するとは思っていなかったのではないでしょうか。ただ、この状況を見過ごし対応を誤ると金融危機が広がると判断し、一部の債券を犠牲にしてでも急ぎ救済策をまとめる必要があったのではないかとみています」
――異例の決断が下されたということですね。
“リーマン・ショック再来”の声も…今後の展開は
   [図表2]米国経済主体別債務/GDP比率の伸び
――これからも金融危機への不安はくすぶるのでしょうか?
荒磯「リーマン・ショックの再来を心配する声はあります。たしかに似た雰囲気もあるのですが、よく分析していくと、少し違う面が見えてきます。危機が起きるときには、“特定のセクターにいったんお金が集中する”というパターンがあります。その後に、たまった債務が一気に崩れていくプロセスが典型例です」
――では、今回はどうなのでしょうか?
荒磯「[図表2]は、米国の経済主体別に債務の伸びを示したものです。1990年代から2000年初頭にかけたテックバブルでは、債務が金融機関に集中しています。それが崩れたことで米国では銀行の再編が進み、メガバンクが誕生しました。リーマン・ショックでは、サブプライムローンなどの債務を抱える個人や証券化商品を大量に組成や保有していた投資銀行の債務が目立ちましたが、リーマン・ショック以降は金融機関の債務は減っています。厳しい金融規制が課せられ、銀行の財務は全体的には健全化しているのです。一方で、コロナ対策が理由となって政府部門の借金が膨らんでいます」
――今回の一連の騒動では、信用不安は急速に波及していくのだと実感しました。金融危機を防ぐため、政府当局にはスピード感を持って正しく対処してもらいたいものです。うまく対応していけそうでしょうか?
荒磯「政府部門には多額の債務があり、リーマン・ショック時と比べ財政出動や税金投入といった対策が講じにくい点はあるでしょう。ただ、その点は楽観的にみています。これまでの危機を踏まえて、なにをするべきかという対応策をあらかじめ想定している印象です。シリコンバレー銀行で破綻の話が出た際に、預金の全額保護や銀行向けの緊急貸し出しを実施したのも、その表れです」
――そもそも、米国の利上げが要因だったのであれば、今後は打ち止めに動いていくのでしょうか。
荒磯「利上げ継続という選択肢は難しくなってきたと思っています。なぜなら、今回問題が起きたのが銀行セクターだったためです。銀行が財務の健全性を維持しようとして、今後の貸し出しを渋ると、経済全体にお金が回らなくなってしまいます。おのずと景気過熱へのブレーキが踏まれていくと思いますので、中央銀行が無理して利上げをしなくてもよい環境になってきたのではないでしょうか」
米国金利は低下に向かうのか
   [図表3]米国政策金利FEDドッツプロットと市場織り込み
――では、米国の金利は低下に向かっていくということでしょうか?
荒磯「そこは不透明なところです。[図表3]をご覧ください。米国の金利が今後どう変化するか、金融市場の関係者の予想をグラフにしたものです。シリコンバレー銀行の破綻する前の2月28日と破綻後の3月27日では大きく異なり、利下げが急がれるとの見方が強まっています。ところが、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)の態度は以前として大きくは変わっていません」
――なぜ、市場参加者と中央銀行の見解にギャップが生じているのでしょうか。
荒磯「“インフレが収まらないと利下げはできない”というのが、現在のFRBのスタンスです。金融不安に対しては、インフレ率が下がれば利下げという強力な一手が出せるのですが、それが難しい限り、金融市場が不安定な状態におかれるリスクも長期戦が考えられます」
――今回の金融不安は、リーマン・ショックとは性質が異なるとのことでしたが、しばらくはFRBの動向を注視する必要がありそうですね。
●商品市場 需要回復で原油先物は持ち直し、金先物は高値一服の様相も 5/29
   〔図表〕WTI原油先物価格とNY金先物価格の推移
WTI原油先物価格は足元で1バレル=70ドル前後で推移しており、世界景気の減速懸念や需給の緩みから弱含みに転じた。具体的には、中国の需要回復が市場予想より鈍いと想定されたため、サウジアラビアが6月のアジア向け原油小売価格を小幅に引き下げたことや、安価なロシア産原油が輸出拡大し、中国やインドに出回っていることなどが、弱含みに転じた理由に挙げられよう。さらに、米国の金融引き締めが長期化するという観測もくすぶっており、市場はややリスク性資産に対して慎重な姿勢になった。足元では米原油在庫も増加している。
ただ、原油価格の下値は固そうだ。3月の欧米銀行の経営危機の際には、原油価格が一時70ドルを割ったが、その後は石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国によるOPECプラスの追加減産発表によって反発。5月からOPECプラスは日量115万バレルの減産を行っており、引き続き価格を下支えするとみられる。
加えて、米備蓄補充計画も価格を下支えするだろう。米エネルギー省(DOE)は、8月受け渡し分の原油(300万バレル)を戦略備蓄の補充に充てると発表した。米国の戦略備蓄は2022年の備蓄放出の結果、約40年ぶりの低水準となった。DOEは23年後半もエネルギー安全保障のために備蓄を補充する予定だ。
これらを受けて国際エネルギー機関(IEA)は、23年の世界の需要を200万バレル増の日量1億190万バレルへと上方修正した。今後はアジアを中心とした需要拡大から、原油価格は持ち直す可能性が高い。ただし、OPECプラスによって供給が絞られるなか、想定外の供給障害や天候不順等により原油価格が振れやすくなる可能性には留意したい。以上から、23年のWTI原油先物価格は1バレル=65〜90ドルと予想する。
もう一つ、先物の動向で注視したいのが「金」の価格だ。ニューヨーク(NY)金先物価格は、5月初旬に1トロイオンス=2,050ドル台と最高値圏に接近した。上昇の背景には、23年中の米利上げ停止観測の高まり、米欧銀行の経営不安、米債務上限問題、ドル離れによる新興国を中心とした中央銀行の需要増などがある。
他方、金の実需要は弱く、主要な消費国となる中国やインドの需要は伸び悩んでいる。投資需要の面では、金ETFの残高は足元で小幅に増加したものの、比較的低水準にとどまっている。5月3週目には、米債務上限問題に対する懸念がいったん後退したことから、金価格は高値一服の様相も見せている。
今後、米国の金融政策が政策金利の据え置き局面に入れば、24年にかけて米利下げ観測の高まりとともに金価格の下値を支えよう。以上から、23年の金価格の予想レンジを1トロイオンス=1,750〜2,100ドルと想定する。
●G7の「凋落ぶり」が目立った広島サミット GDPも人口も影響力も「少数派」 5/29
「日本の歴史で最も重要なサミットになる」
岸田文雄首相がそう述べ、鳴り物入りで臨んだG7(主要7カ国)広島サミット(5月19〜21日)が終わった。
結果として歴史に残るサミットになったとすれば、それは「核なき世界」を画期したからではない。G7が主要先進国の衰退によって世界秩序をリードする役割を終え、かつての「金持ちクラブ」から「黄昏(たそがれ)クラブ」になったのを際立たせたからだ。
「G7、気づいてみれば少数派」そんな現実を噛みしめる時が来た。
「グローバルサウス」への配慮
岸田氏の選挙地盤・広島で開かれたことから、サミットのテーマは(1)核廃絶(2)ウクライナ(3)台湾(4)経済安保、とされた。
サミット拡大会合には、韓国とオーストラリアのほか、新興・開発途上国のインド、インドネシア、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナムの6カ国も招待した。
これら6カ国は、経済成長が著しく国際政治でも発言力を強める「グローバルサウス」に属し、ウクライナ問題や台湾問題では日米の主張に与(くみ)しない。
5月20日に発表された首脳声明を読むと、岸田氏が呪文のように唱えてきた「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」や、民主・自由などの「普遍的価値」といった表現は影を潜めた。
代わって使われたのが、「力による一方的な現状変更は許さず、自由で開かれた国際秩序を守る」との表現で、ロシアと中国を間接的に非難しているのが特徴だ。
グローバルサウス諸国からの反感を招かぬよう、官邸と外務省が知恵を絞った結果だろう。
欺瞞に満ちた「核廃絶」
初日の5月19日、岸田氏にとってサミットの最も重要なテーマである核廃絶、核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」が発表された。
1 ロシアの核威嚇(いかく)はもちろん、核兵器のいかなる使用も許されない
2 北朝鮮に核実験と弾道ミサイル発射の自制を要求する
3 (中国を念頭に)透明性を欠く核戦力の増強は、世界と地域の安定にとって懸念
「核の脅威」に関してはこの3本柱から成り、中国、ロシア、北朝鮮を敵視する内容だった。
「核なき世界」と岸田氏は繰り返すが、日本の安全保障政策は、バイデン米政権が進める「統合抑止」戦略の下で、日本の大軍拡とアメリカの「核の傘」をドッキングさせる内容だ。
さらに、日本政府は核兵器の廃絶を目指す「核兵器禁止条約」に反対し続け、ドイツのようなオブザーバー参加にすら否定的な姿勢を示してきた。
岸田氏は「理想をいかに現実に近づけるか」と弁解するが、今回の広島ビジョンはむしろ、核廃絶を目指すとの主張がいかに欺瞞(ぎまん)に満ちているかを浮き彫りにする形となった。
ゼレンスキー大統領が参加した意味
では、ウクライナ問題についてはどうだったのか。
5月20日にゼレンスキー大統領が広島に到着してから、広島サミットはさながらゼレンスキーに「支配された(dominated by Zelenskyy’s presence)」感があった(インディアン・エクスプレス、5月22日付)。
官邸や外務省にも「サミットがゼレンスキー氏一色になってしまう」と懸念する向きがあったようだが、まさにその通りになった。
大統領が自らG7サミットに乗り込んだ理由は、ロシアとの戦争継続のために軍事支援の強化を要求するとともに、インド、ブラジル、インドネシアなど政治解決を求める新興・開発途上国に、ウクライナの立場を理解させることにあった。
これに対し、バイデン政権は5月20日、アメリカ製F16戦闘機のウクライナ供与容認を発表、ゼレンスキー氏の希望に応えてみせた。ウクライナ側としては、軍事面での目的は達成したと言えるだろう。
サミット首脳宣言も「ロシアの違法な侵略戦争に直面する中で、必要とされる限りウクライナを支援」と冒頭でうたい、戦争継続を確認した。
「グローバルサウス」の反応
一方、新興・開発途上国はどう反応したか。
グローバルサウスの代表を自認するインドのモディ首相は、ウクライナ支援を求めたゼレンスキー氏に対し、「紛争解決に向け可能なことは何でもする」と答えた。
同時に、ウクライナ紛争は人道問題と指摘した上で「対話と外交が唯一の解決策」と述べ、政治解決の必要を繰り返した。G7とは一線を画し、ロシア軍の即時撤退を求める内容は口にしなかった。
「ゼレンスキー氏を待っていたが、同氏が約束の時間に現れず、会談できなかった」(EFE通信、5月22日付)というブラジルのルラ大統領は記者会見で、「ウクライナとロシアの戦争の話をするためにG7に来たわけではない」と持論を展開した。
欧米主導の対ロ制裁を支持しているのは世界で40カ国に過ぎず、グローバルサウス諸国の大半は政治的解決を主張している。
上記のようなモディ首相とルラ大統領の反応を見る限り、ゼレンスキー氏が今回のサミット参加で目指した、新興・開発途上国にウクライナの立場を理解させるという目的は達成されなかった。
ウクライナ問題「政治解決」支持の声大きく
ルラ大統領は5月26日までにロシアのプーチン大統領と電話会談し、中国、インド、インドネシアとともに、ウクライナ和平に向けてロシア、ウクライナ双方と協議の準備ができていると伝えた。同大統領は中国の習近平国家主席とも電話会談したという。
また、ウクライナ危機の仲介外交を担当する中国政府の李輝ユーラシア事務特別代表は、ウクライナ、ポーランド、フランス、ドイツ歴訪を経て5月26日にモスクワ入りし、ラブロフ外相と会談した。
さらに同じ26日、中国外交部直属のシンクタンク、中国国際問題研究院はロシアとウクライナをはじめ新興・開発途上10カ国余りの国際政治学者や識者を招き、「平和への道 ウクライナ危機の政治解決の展望」と題したオンライン会議を3時間以上にわたって開催した。
筆者も参加したが、サウジアラビアや南アフリカ、インドネシアの識者がいずれも紛争の政治的解決を主張したのが印象的だった。同時に、中国の仲介への本気度を感じた。
G7のGDP世界シェアは4割台に低下
広島サミットに話を戻そう。
グローバルサウスには現在、世界人口の半数を上回る40億人が住み、100以上の国家が属する。
一方、G7は発足した1970年代半ばに世界の6割強を占めた国内総生産(GDP、構成国の合計額)シェアが4割台まで低下した。人口シェアでは世界の10%を占めるに過ぎない。昨今の経済力・政治的影響力の低下と併せて考えれば、いまや世界の「少数派」と言っていいだろう。
グローバルサウスはまとまりのある集団ではないが、共通点は多い。
米中対立でバイデン政権が強調してきた「民主か専制か」「アメリカか中国か」といった二元論的な「新冷戦」論に、グローバルサウス諸国は与しない。
また、普遍的価値観としての民主、自由、法の支配を主張する日米のような理念先行の外交ではなく、国益に基づく実利外交を追求する点でも共通する。
米中対立を利用して、エネルギー、食料、気候変動問題などで米中双方から経済的支援を引き出すことを利益とみなすスタンスも共通している。
グローバルサウスを「民主主義陣営に引き込む」という米欧側の狙いとは逆のベクトルが働いているのだ。
アジアで「西側の身分」誇る日本
岸田首相はことあるごとに日本を「アジア唯一のG7メンバー」と、誇らしげに口にする。
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(4月18日付)は、G7外相会議閉幕に際して発表した社説で、その「口癖」を次のように突いた。
「(日本は)アジアでG7唯一のメンバーと主張し、アジアで自分の『西側の身分』を突出させることにアイデンティティを見出してきた」
G7メンバーであることがあたかも「名誉白人」であるかのような錯覚に陥っている、と指摘したのだ。
日本の1人当たりGDPは米ドル換算で韓国、台湾、香港、シンガポールを下回り、世界30位にまで下落した。インドのGDPは間もなく日本のGDPを抜く。
世界秩序はもうアメリカの一極支配には戻らない。中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカ(BRICS)に代表される多極化秩序が、それにとって代わりつつある。
G7の凋落は、2008年のリーマンショックの際、新自由主義に基づく金融資本主義が破綻したことで鮮明になった。その後のG7の凋落ぶりと、多極化の進む新たな世界秩序の現実が、一層際立ったのが今回の広島サミットだった。
●超高層マンション市場動向・23年以降全国で287棟11.4万戸完成― 5/29
全国で建設中または計画中の超高層マンション(20階以上)が約11.4万戸に達していることが不動産経済研究所の調べでわかった。23年以降に完成を予定している超高層マンションは287棟・11万4205戸で、22年3月末の前回調査時点に比べ23棟・1万5247戸増加している。
圏域別では、首都圏168棟・8万4671戸(全体比74.1%)、近畿圏50棟・1万6578戸(14.5%)、その他の地区は69棟・1万2956戸(11.3%)となっている。完成予定年次別では、23年59棟・1万7721戸、24年61棟・1万6958戸、25年59棟・2万3071戸、26年39棟・2万790戸、27年以降69棟・3万5665戸。
超高層マンションは09年には123棟・3万5607戸が竣工していたものの、リーマンショック後の事業縮小などから10年には67棟・1万7967戸と半減、11年には震災の影響もあり45棟・1万3321戸とさらに落ち込んだ。12年以降は増減を繰り返しており、15年に55棟・1万8821戸まで伸ばした後は1万戸から1万7000戸程度で推移していた。しかし、22年はコロナ禍での工期の遅延などの影響が大きく、8244戸にまで落ち込んだ。超高層マンションの竣工が1万戸を下回るのは01年(9795戸)以来となる。
23年に完成する超高層マンションは、22年から完成がずれ込んだ物件などがあるため、1万7000戸以上に急増する。その後も東京の都心部や湾岸エリアだけでなく、地方中核都市でも新たな大規模複合再開発プロジェクトなどが数多く控えていることから、26年までは毎年1万7000戸から2万戸3000戸ほどの住戸が完成する見込みである。
首都圏の計画168棟・8万4671戸のうち、東京23区は113棟・6万166戸。全国における23区の戸数シェアは52.7%(前回52.7%)と引き続き5割を超えている。その他のエリアは、都下8棟・3510戸、神奈川県26棟・1万2156戸、埼玉県9棟・2952戸、千葉県12棟・5887戸。完成予定年次別では23年24棟・1万239戸、24年26棟・9469戸、25年41棟・1万9386戸、26年25棟・1万5187戸、27年以降52棟・3万390戸となっている。1976年から22年までに竣工したのは957棟・27万8160戸。
近畿圏は50棟・1万6578戸が建設・計画中。内訳は大阪市内30棟・8497戸、大阪府下10棟・4458戸、兵庫県7棟・2645戸、京都府3棟・978戸。完成年次別では23年13棟・3031戸、24年14棟・4314戸、25年5棟・1037戸、26年9棟・4764戸、27年以降9棟・3432戸となっている。その他の地区でも北海道8棟・1901戸、福岡県10棟・1639戸、愛知県9棟・1627戸など69棟・1万2956戸が建設・計画中。
50階建て以上の超・超高層マンションも複数の計画が進行中。虎ノ門5丁目の64階建てなど、首都圏で14件・21棟、近畿圏で1棟の50階以上の超・超高層プロジェクトが進行している。
●日経平均株価3万円超え〜バブル期以来の株高は日本経済の実力? 5/29
日本の株価の上昇傾向が続いています。日経平均株価は、29日の終値で3万1233円と、バブル景気の時期の1990年7月以来、およそ33年ぶりの高値を付けました。その背景と、この株高がどこまで持続可能なものなのか考えていきたいと思います。
1) 株高の背景に景気回復期待と企業の好業績
まずこのところの株価の推移と背景をみていきます。
今年の干支、ウサギ年の相場の格言は「はねる」です。実は、今年最初の1月4日の取引の終値は、2万5716円と、去年の年末に比べて377円ほど値下がり、「跳ねる」とはなりませんでした。
しかしその後は上昇に転じ、3月に、アメリカの銀行の経営破綻などの影響で、いったん値下がりしたものの、いち早く回復。5月17日には、終値で3万円台の大台に乗せています。
背景には、日本経済が欧米より一足遅れて、コロナ禍からの回復期に入っていることがあります。感染防止のための行動制限が緩和されて以降、国内では買い物や外食、旅行に行く人が増え、サービス産業を中心に、売り上げが大幅に回復。今年1月から3月のGDP=国内総生産は前の期よりも年率に換算して1.6%と3期ぶりのプラスとなりました。とりわけ、一般の人々の心境の変化を顕著に示すのが、国内旅行の消費の増加です。今年1月から3月までの間に、日本人の旅行者が国内で消費した金額は2兆3000億円余りと、コロナ禍前の2019年の同じ時期の水準を上回りました。今月5日には、WHO世界保健機関が、公衆衛生上の緊急事態宣言を終了し、8日には、国内の感染症法上の扱いが「季節性インフルエンザ」と同じ「5類」となったことで、海外からの観光客=インバウンドの回復も含め、国内経済が一段と活発になることが期待されています。
こうした中で、コロナ禍で大きく落ち込んでいた、運輸やサービス産業など企業の業績も回復しています。その結果、旧東証一部上場企業を中心に先週までに昨年度の決算を発表した1400社余りのうち、およそ54%が最終的な利益が前の年度を上回る増益となりました。さらに今年度の決算の見通しも全体的に堅調なうえ、外国為替市場では再び1ドル140円台の円安が進み、輸出企業の業績を押し上げると予想されることも、株高を支える要因になっているとみられます。
2) 奏功したか 企業価値改善策
さらに、今回の株高の背景にあるのが、東証=東京証券取引所の企業評価改善策です。
東証では、上場する株式の時価総額の残高で、ニューヨークに大きく離されるだけでなく中国・上海取引所にも追い抜かれ、国際的な存在感をどう高めるかが課題となっています。そうした中で力を注いでいるのが、上場企業に対する評価を改善し、株価を引き上げようという取り組みです。
日本の株価を評価する指標に、株価純資産倍率というものがあります。その会社が保有する資産から、負債を差しひいた純資産の価値を株式発行総数でわった数字=つまり一株当たりの純資産と、実際の株価、どちらが大きいかを比べるもので、大雑把に言うと、二つの数字が、同じであれば、株価がほぼその会社の価値に見合っているということになりますが、日本では株価のほうが下回る企業が多く、企業の価値が低く評価されている実態があるといいます。東証では、今年3月、市場の評価が低い企業に対して株価上昇につながる具体策を作り、株主に開示するよう求めたのです。
これを受けて、企業の間では、市場に流通する株式を自ら買い上げる自社株買いという動きが広がっています。株式発行総数を少なくすれば、1株あたりの利益が上がるなど、株式の価値が高まるとも考えられているからです。
実際に、東海東京調査センターによりますと、今月に入ってからの自社株買いの総額は3兆2400億円と、企業が一か月に発表した自社株買いの総額としては過去最大となり、これが今回の株高の一因になっているといわれます。一方で、企業が自社株買いのために、巨額の資金を使ってしまえば、その分手持ちの資金が減り、脱炭素やデジタル化の資金、それに、人手不足に対応するため、また従業員に還元するための賃上げなどに必要な資金が減ってしまい、長期的な企業の成長を阻害するおそれもあります。このため、自社株買いによる株高は長続きしないかという指摘もでています。
3) 続くか 海外からの自社株買い
では今回の株高はどこまで持続性があるものなのでしょうか。そこを見るうえで、カギとなるのが、外国人投資家の動向です。
東京と名古屋の証券取引所では、海外の投資家が株式を買った額が売った額を上回るいわゆる買い越しが、5月中旬まで8週連続で続いています。買い越しの額は、この間に3兆6300億円にのぼり、株価を押し上げてきました。背景には、さきほどお話ししたような、日本企業の好調な決算や、自社株買いなどの要因に加え、急速な金利の引き上げで景気の減速が予想される欧米よりも、比較的安定した経済が見込まれる日本に資金を振り向けたいという投資家が増えていることがあるといわれます。
さらに、より中長期的な観点からみると、外国人投資家の間で、日本経済が大きな転換点をむかえているという期待感が強まっているという指摘もあります。日本経済は長い間デフレが続き、その後も物価が上がらない状況が続いていましたが、去年、ロシアによるウクライナ侵攻などをきっかけに、物価が急激に上昇。これを受けて企業が原材料などのコスト上昇分を価格に上乗せして、利益を確保する動きが広がるなど、それまでの20年間とは、明らかに違う動きが見られます。こうした中海外の投資家の間では、「日本は経済の好循環の入り口にたっているのではないか」という分析が広がり、「日本株を持たないことが逆にリスクになる」として、日本株を買う動きが広がっているというのです。先月来日したアメリカの著名な投資家で“投資の神様”と呼ばれるウォーレンバフェット氏が日本の総合商社をはじめ日本株に積極的に投資をする姿勢を示したことも、こうした海外の投資家の日本買いの動きを後押しているともいわれます。
しかし、今後もこの株高が続いていくかというといくつかの不安材料が指摘されています。
欧米では、景気減速のおそれがあることに加え、アメリカの銀行の経営破綻に端を発した金融システム不安が依然くすぶっています。また、外国人による日本買いが、期待先行の面がある点も懸念材料です。33年あまり前。日経平均株価が3万8900円あまりに値上がりした際には、財テクブームや地価の高騰を背景にしたバブル経済でした。今後、日本株がバブルでない形で、買い続けられるようになるには、国内経済を一段と強固にしていく必要があるのではないでしょうか。具体的には脱炭素の取り組みやデジタル化の政策を推し進めることで、新たなビジネスの芽を育てるとともに、経済をより効率的なものにしていく。一方、企業は、賃上げの動きを継続し、賃金の上昇をともなう景気回復の動きを確かなものにしていくことが求められています。逆に、それができなければ、外国人投資家が日本から離れていくことにもなりかねません。 
日本買いの動きを、期待先行で終わらせず、株高を息の長いにトレンドにしていくことができるか。真の実力をたくわえた日本経済を基盤とする企業価値の向上が引き続き求められています。 
●米債務問題、混乱防ぐウォール街の戦略 5/29
ウォール街は米国がデフォルト(債務不履行)に陥った場合を想定した戦略を準備している。
金融業界の最大の目標は金融市場の機能を維持することだ。多くの人たちは、コンピューターの不具合から次々と波及するパニックに至るまで、米国債の元利払いが滞った場合に起きると予想されるあらゆる事態を恐れている。米国債は取引の基盤であり、通常は現金とほぼ同じくらい安全だと考えられている。
ただウォール街の計画では、デフォルトが起きても、投資家は元利払いの期限を過ぎたものを含めてすべての米国債の取引を続けることができる。無秩序な状況や混乱は、電話による一連の会議を通じて回避されると想定されている。会議の議題は、米証券業金融市場協会(SIFMA)が既にまとめている。
SIFMAの取り組みを主導しているのは、証券取引委員会(SEC)とニューヨーク連銀で弁護士を務めた経験があるロバート・トゥーミー氏だ。同氏は先週の会議で、ジャネット・イエレン米財務長官が今月初め、連邦議会が債務上限の引き上げを承認しなければ早ければ6月1日にも政府の支払資金が不足する可能性があると発言したことに、市場参加者は驚いたと述べた。
イエレン氏が示したこの期日は多くのアナリストの予想よりも早かった。債務上限問題を巡る2011年の攻防で金融市場が動揺して以降、デフォルトに備えた計画の策定に苦心してきた業界は騒然となった。ウォール街中の企業は現在、デフォルトが起きた場合の被害を軽減するため積極的に計画を練っている。
SIFMAの資本市場担当責任者を務めるトゥーミー氏は、「死刑執行(の脅威)があれば、人々の心は集中する傾向にある」と述べた。
デフォルトに備えて計画を立てるウォール街の取り組みは10年以上前に始まったが、当初はうまく進まなかった。
2011年の債務上限交渉の行き詰まりの最終段階で、ニューヨーク連銀のスタッフは中銀当局者に対し、市場参加者は潜在的なデフォルトに対応する上で、「十分に調整された極めて有効なアプローチに到達できなかった」と報告した。会議の議事録で明らかになった。それ以降、取り組みはSIFMAおよび、ニューヨーク連銀から後援を受けた市場参加者の団体によってけん引され、徐々に進んでいった。
トゥーミー氏をはじめとするSIFMAの関係者にとって最近の基本的な任務は、証券会社・銀行・資産運用会社などのSIFMA会員にデフォルト戦略の存在を確実に認識させることだった。
想定の一つは、支払いの遅延が差し迫っている場合に、SIFMAが1日早く通知を受けられるようにすることだ。この場合、SIFMAは最初の電話会議を米東部時間午後6時45分、2回目を午後10時15分に開催する。
2回の電話会議の主な目的は、重要な質問に答えること。それは、財務省が翌朝に満期を迎える国債の元本償還を1日遅らせることに決めたのか否かだ。そうなった場合でも、影響を受ける米国債の取引は事実上、通常通りに行われる可能性がある。
例えば、火曜日に満期を迎える米国債については、翌日の水曜日を新たな「運用上の満期日」とする。電話会議と満期日の延期は毎日の恒例行事となり、財務省が国債の返済ができるようになるまで必要な限り続けられる。返済が可能になった時点で、財務省は国債保有者に対し、元の満期日ではなく運用上の満期日の前の晩に支払いを行う。
支払い義務をすべて果たす上で財務省が資金不足に陥った場合でも、国債の元利払いが本来の期日までにできなくなるかどうかは明確ではない。2011年のケースについてウォール街の対応を報告したニューヨーク連銀の議事録によれば、財務省は土壇場になって、他の支出よりも債務返済を優先する決定を下した。
想定されている計画では、財務省は満期を迎える国債の返済に必要な現金を調達するため、国債入札を継続する。一方で同省は、国債の利払いに必要な資金を確保するため、必要に応じて債務返済以外の支払いを遅らせる。
イエレン氏はこれまで再三にわたって、米政府債務が法定上限に達した場合に取り得る良い選択肢は存在しないと説明。財務省の支払いシステムが特定の支払い項目を他の項目より優先するのは不可能かもしれないと警告してきた。
ウォール街では、債券市場以外へのデフォルトの打撃を抑えようとする動きもある。
この問題について詳しく知る人たちによると、JPモルガンやバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)などの銀行は、顧客への社会保障給付の支払いを数日前倒しする用意がある。その間に、債務上限を巡る交渉で何らかの合意が成立することを想定してのことだという。そうした措置をいつまでも続けるわけではない。
バンカメのブライアン・モイニハン最高経営責任者(CEO)は2月、政府から支払いを受ける人たちに対して、同行は遅延損害金などの費用を免除する用意があることを明らかにした。これは、新型コロナウイルス禍などの危機の際に取られた措置と同様のものだ。
モイニハン氏はテレビインタビューで「政府からの給付を受けている顧客は大勢いる」として、「われわれは、そのような人々のための準備を万全にする必要がある」と述べた。
財務省が債務返済を行えない場合、SIFMAの戦略を実行しても債券市場の平穏は保証されない。自動で元利払いが行われるよう設定されたコンピューターシステムは、手動で変更する必要がある。たとえ満期を過ぎた国債を取引できたり、短期借り入れの担保として利用できたりしたとしても、投資家がそれを望まない可能性があり、金融システムにおける重要な部分に混乱が生じる恐れがある。
米国の格付けが引き下げられる恐れもある。格付け会社フィッチ・レーティングスは24日、「債務上限をめぐる瀬戸際政策」を理由に、現在は最上位「トリプルA」の米国の格付けの見通しを「ネガティブ」にしたと発表した。これに先立つロイター通信の報道によると、ムーディーズ・インベスターズ・サービスのアナリストは、デフォルトの可能性が高そうに見えただけでも、米国の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げる可能性があると述べたという。
ここ数週間、投資家は6月初めが償還期限の財務省短期証券(TB)を敬遠している。リスクがより低い他の証券を購入できるのであれば、支払いの遅延によって発生する面倒は避けたいからだ。
トゥーミー氏らは、米国債市場でデフォルトが起きても大した問題ではないという印象を与えることなく、悪影響を最小限に抑えるための計画を考え、バランスを取ろうとしている。同氏はインタビューで、「これは事前の計画の問題だ」と述べた。 
●米デフォルト回避でリスク選好ムード広がり、バブル崩壊後の高値を更新 5/29
29日の日経平均は大幅続伸。317.23円高の31233.54円(出来高概算11億9000万株)とバブル崩壊後の戻り高値を更新して取引を終えた。前週末の米国市場でハイテク関連株が大きく上昇したほか、円相場が一時1ドル=140円台後半まで進んだことから輸出関連株に好影響を与えた。さらに、懸念された米連邦政府の債務上限問題で、バイデン大統領とマッカーシー下院議長が原則合意したことから、デフォルト(債務不履行)への警戒感も後退し、投資マインドを好転させた。日経平均は取引開始直後に31560.43円まで上げ幅を広げ、1990年7月下旬以来の水準まで上昇。ただし、上昇ピッチの速さに加え、29日の米国や英国市場が休場となるだけに海外投資家の動きは鈍く、次第に模様眺めムードが広がった。
東証プライムの騰落銘柄は、値上がり銘柄が1100を超え、全体の6割超を占めた。セクター別では、海運、卸売、銀行、保険など29業種が上昇。一方、陸運、食料品、小売の3業種が下落し、電気ガスが変わらず。指数インパクトの大きいところでは、ソフトバンクG<9984>、アドバンテス<6857>、KDDI<9433>、リクルートHD<6098>、信越化<4063>が堅調で、ソフトバンクGとアドバンテスの2銘柄で日経平均を約132円押し上げた。半面、ファーストリテ<9983>、アステラス薬<4503>、ソニーG<6758>が小幅に軟化した。
前週末の米国市場は、マーベル・テクノロジー・グループが30%超急騰したことなどから、他のテック株にも好影響を与え、主要株価指数は続伸。SOX指数は6%超上昇した。この流れを受け、東京市場でも東エレク<8035>やアドバンテス、村田製<6981>やニデック<6594>などが値を上げた。また、円安進行で投資家心理が大きく上向き、日経平均の上げ幅は一時650円に迫った。
東京市場はリスク許容度が高まり、日経平均は一時心理的な節目である31500円台を上回った。さすがに過熱感は強い。目先は戻り待ちの売りなどに上値の重さが意識されよう。29日の米国市場はメモリアルデーのため休場となり、短期筋の動きも鈍く、買いの勢いが鈍れば騰勢も一服するのは当然で、目先は過熱感の解消が必要だろう。一方、米国は今週、重要な経済指標の発表が相次ぐ。業況の先行きが気がかりな製造業の景況感の改善が示されれば、米国株は騰勢を強め、日本株も追随する可能性があるだけに、注目が集まりそうだ。

 

●米国債のデフォルトは回避か 5/30
米国のバイデン大統領は28日、連邦政府の債務上限引き上げをめぐり、与野党が大筋合意に達したと発表した。債務上限引き上げの法案を速やかに連邦議会に提出する方針を示した。
政府の資金繰りは6月1日にも行き詰まるとされていたが、イエレン財務長官は26日、その「Xデー」が6月5日になるという新たな試算を示した。
米国債の発行根拠法は、合衆国憲法(第1条第8項)に基づいて連邦議会が定めた第二自由公債法となる。同法において、国債残高に制限額を課して、その範囲内であれば自由に国債を発行し資金調達できる。
これはつまり、国債残高が定められた制限を超えてくる場合には、新法を制定し上限を引き上げる必要がある。債務上限の引き上げを可能にする新法への与野党合意がないままでは、6月5日も連邦政府は資金が枯渇し、史上初のデフォルト(債務不履行)に陥る可能性があった。
格付け会社フィッチ・レーティングスは24日、米国の格付けは最上位「トリプルA」に据え置いたが、米国格付けの見通しを「ネガティブ」とし今後の状況次第で格下げがあり得るとした。
これまでも米政府の債務上限を巡っては、ぎりぎりの折衝が続けられる場面は何度もあったが、これによって米国がデフォルトとなったことはなかった。このため、もしデフォルトとなった場合には世界経済に多大な影響を与えかねず、当然、日本も巻き込まれるのではとの警戒があった。
米国がデフォルトとなったとしても、過去にアルゼンチンやロシア、スリランカで発生したようなデフォルトとはまったく状況が異なる。米国はあくまで手続き上の問題にすぎない。民主党と共和党が、米政府の債務上限問題を使って、自らの政策を取り込ませようとしているだけである。
まさにチキンレースの格好となり、バイデン大統領は、この合意は妥協の産物なので、希望がすべてかなった人はいない。統治する責任とはそういうものだ」とも大統領は述べていた。
野党・共和党のマッカーシー氏は債務上限引き上げの法案にかんして、下院議員の95%が賛成する見通しだと話した。党内の強硬派が反対し債務上限引き上げの法案が通らない可能性はゼロではないものの、仮にデフォルトとなり、一時的にせよ米国の社会経済に打撃を与えたならば、政治問題となりかねず、次回の大統領選挙にも大きな影響を与えかねないものとなり、その可能性は極めて薄いといえよう。
議会を通るかどうかを、念の為、確認する必要はあるものの、米国がデフォルトとなる懸念は後退したとみて良いかと思われる。
●JPモルガン、150億ドル強をテクノロジー関連に支出 語られた12の注目点 5/30
2021年、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOがフィンテックに宣戦布告してから状況は大きく変わった。米銀最大手の同行は、テクノロジーへの多額の投資を続けている。
JPモルガンは5月22日、投資家向け説明会(インベスター・デイ)を開催、幹部たちはマディソンアベニュー383番地の本社に集まり、金利上昇、M&AとIPO市場の低迷、地方銀行の危機にもかかわらず、健全なビジネスを運営し、支出について決定していると投資家にアピール。顧客を守りながらビジネスライン全体のイノベーションを目指すため、特にテクノロジーへの投資が増え続けていると述べた。
同行のテクノロジー投資は今年、10億ドル(約1400億円、1ドル=140円換算)増の153億ドル(約2兆1400億円)にのぼると推定される。エンジニアの給与、サイバーセキュリティの強化、AIイノベーションなどが主な項目だ。一方、破綻したファースト・リパブリック銀行の買収を含め、地方銀行危機に関する負担は最終的に60億ドル(約8400億円)になるようだ。
ちなみに、顧客にチョコレートクッキーを提供することで知られていたファースト・リパブリック銀行の買収は、すでに成果を上げていると幹部たちは述べた。
JPモルガンは、かつてその支出をめぐって苦境に立たされたことがある。2022年のインベスター・デイでは投資家やウォールストリートのアナリストから厳しい質問が浴びせられた。
しかし今年は、アメリカを代表する大物経営者のダイモンCEOが登壇し、後継者や経営スタイルについての質問に答えるなど、盛況のうちに幕を閉じた。
後継者問題についてダイモンCEOは詳細は語らず、これまでと変わらないと回答。だが、後任CEOにふさわしい資質として、気概と勇気を挙げた。
67歳のダイモンCEOは、自身の経営スタイルに関する質問にも答えた。同氏は自分が「激しい性格」であることを認め、「私は変わるつもりはないし、ゴルフをするつもりもない」と述べた。さらに次のように付け加えた。
「激しさがなくなったときは、去るべきだと思う」
またダイモンCEOは、チームがこのインベスター・デイのプレゼンテーションを行う様子を見て誇らしく思ったと述べた。だが、チームにいつも感謝を示しているわけではないことを認めた。
同氏は『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく(原題:TED LASSO)』で知られる俳優のジェイソン・スデイキス氏が同行のあるミーティングに出席したときのエピソードを披露した。
「直属の部下に感謝の気持ちを伝えるにはどうすればよいかと質問された。部屋には私の直属の部下が何人かいたが、皆、大笑いしていた」
「人は感謝されることが好きだ。私はその教訓を何年もかけて学んだ」
JPモルガンは数百枚のプレゼン資料を使い、成長戦略と支出戦略が正しいものであることを投資家に印象付けた。Insiderは、2024年のJPモルガンの課題とチャンスを最もよく表している12枚の資料をピックアップした。順に見ていこう。
   ・2023年、テクノロジー関連投資は前年比10億ドル増
グローバル最高情報責任者のロリ・ビア氏は、テクノロジー人材の「賃金インフレ」や銀行の近代化のための投資など、テクノロジー関連費用の上昇にはさまざまな要因があると指摘。「CCB(Consumer & Community Banking)への投資は間違いなく行われている」とリテールバンキング業務にも言及した。
「しかし、賃金インフレを忘れないでほしい。私たちはハイテク需要の時代を経験した。時間の経過とともに、この傾向は緩やかになっていくと考えている」
●米デフォルト、実際に起きたらどうなる? 5/30
米政府の債務上限引き上げをめぐって与野党が協議していましたが、基本合意に達したとの報道が出ています。懸念されていたデフォルトは回避に向かっていますが、もし実際に起きたらどうなるのでしょうか。また、どう資産を守ればよいのでしょうか?天才投資家のジム・ロジャーズ氏は「世界の終わりがあるのなら、金や銀をベッドの下に置いておきたい」と語っています。
回避された危機…もしアメリカがデフォルトするとどうなる?
こんにちは。シンガポール在住ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。
「アメリカがデフォルトするとどうなるのでしょうか?」こんな質問を最近よく受けます。米国では、政府が法律で決められた債務上限に到達をすると、議会の承認がないと追加の借り入れをすることができません。
認められない場合は国債の元本償還や利払いに回す資金が調達できなくなり、デフォルトに陥るリスクがあります。
金融関係者の間では毎年の恒例行事のように見守っていますが、議会が上下院で多数党が異なる「ねじれ」議会となっている今回は、例年以上に議会の承認を得ることが困難と見られて警戒されていました。
2011年にも米国の債務上限問題が深刻になり、8月2日に債務上限がギリギリのところで引き上がったものの、8月5日に米国債の格付けが下がり、前後の約10日間の間に株式市場が大きく下がったということがありました。
このとき、S&P500は約17%、ユーロストックは約22%、日経平均は約10%の下落でした。為替も米ドル安になり、金や銀は大きく上昇をしました。
ジム・ロジャーズ「世界の終わりがあるのなら、金や銀をベッドの下に置いておきたい」
株式のポジションが大きい人はプットオプションを数ヶ月間かける、ポジションを一時的に減らすなどで、リスクを軽減させることが可能です。
また、金や銀の価格が上昇をしていますが、こうしたものをポートフォリオに加えて保険をかけることも考えられます。
先日もジム・ロジャーズ氏にインタビューをしましたが、相変わらず金や銀は保有しており、「世界の終わりがあるのなら、金や銀をベッドの下に置いておきたい」と言っていました。
米国債のデフォルトリスクだけではなく、ロシアが核を使用するリスクなど、様々なリスクを世界は抱えているからでしょう。
円安による資産目減りを回避しつつ、日本バブルに乗る方法は?
日経平均株価が3万円を突破し、都心3区の不動産が上昇し続けています。
しかし、その裏で円安が進んでいることに気づいている人がどれくらいいるでしょうか?ドルも安くなっているので円はそれ以上に安くなっています。
先進国の中央銀行の中で唯一、日銀だけが金融緩和を継続させています。マネーはより利回りが高く安全なところに引き寄せられます。そのために日本円は選ばれず少しずつ弱くなっていくことが推測されます。
しかし、金融緩和を続けているので、日本株と一部の不動産はバブルになっています。
円安を回避しつつ、日本バブルに乗る方法はあるのでしょうか?
天才投資家たちの手法を「真似る」という生き残り方も
答えはシンプルで、天才投資家のバフェットやジム・ロジャーズ氏に真似ればよいのです。
バフェットは円で借り入れをして、日本株に投資をしています。ロジャーズ氏も借り入れまではしていないものの、日本株ETFに投資をしています。
彼らの共通点として大量のUSDを保有していることが挙げられます。ロジャーズ氏はUSD建ての米国市場に上場しているADR(米国預託証券)を通じて日本株を購入しているので、円安を回避することができます。
バフェット氏は円での借り入れをしているために、円安が進行すれば借り入れは目減りし、USDを円転して返済することも可能です。
彼らは単純に保有している日本円をそのまま日本株に投資しているのではなく、日本円の目減りを防ぐ手段をいくつも持っているのです。
私自身も日本円での収入があるのですが、日本円から真っ先に使うか、シンガポールドルに両替をするなどをして日本円を減らすようにしています。
日本不動産への投資は吉か
先日、シンガポールで、日本の不動産のマネー勉強会を開催しました。日本の不動産はシンガポールのデベロッパーや富裕層にも人気が高く、特に円安が進行した昨年末には日本円の借り入れをして、日本不動産に投資をする外国人が多かったようです。
では、日本人も日本の不動産に投資をするべきでしょうか?日本企業に勤務している会社員にとって ・・・  
●インフレ時代への転換期、経済指標と金融政策どうみる? 5/30
低インフレ・低金利時代の終わり
インフレが世界的に進行し、主要国の中央銀行が物価高抑制のために急激な金融引き締めを実施しました。2008年のリーマン・ショック以降、低インフレ・低金利が続きましたが、今は高インフレ・高金利の時代への転換期に差し掛かろうとしています。ロシアによるウクライナ侵攻など地政学リスクが高まり、米国の地方銀行やスイスの金融大手の破綻が相次ぎ、景気後退懸念も広がっています。
『世界インフレ時代の経済指標』をこのほど刊行した国際エコノミストのエミン・ユルマズ氏に個人投資家がインフレ時代の相場を判断するための経済指標の読み方のコツや、日米の金融政策の見通しなどを聞きました。
経済指標を自ら読み解くことでインフレ時代の大局観を持つ
――インフレが高止まりしています。何が起きているのでしょうか?
今はデフレからインフレに移る時代の転換点です。これまでは米国と中国は仲良くしてグローバル化が進み、安い賃金で安い製品を作ることができました。しかし現在、米中は対立し、ロシアによるウクライナ侵攻も起こり、世界は反グローバル化に向かっています。
サプライチェーン(供給網)は先進国から新興国に移転してきましたが、ここにきて安全保障上の理由から先進国に戻ろうとしています。先進国の人件費の方が高いので生産コストが上がり、インフレの原因になります。
そうしたインフレを抑えるため、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が急激な金融引き締めを実施しました。金融システムや経済全般にストレスがかかっています。世界経済の構造が変わろうとする中で、相場がどこに向かうか見通すには目先のイベントに左右されない「大局観」が必要です。そのためには経済指標を読み解く力が求められています。
『世界インフレ時代の経済指標』では、一般投資家やビジネスパーソン、就活中の学生さん向けに経済指標でこれだけ押さえておけばいいものを選んで紹介しています。経済指標の本はプロ向けのものが多かったのですが、さっと読める内容にしています。
米国の12指標のほかに、中国やブラジル、インドの指標、景気の先行きを読む上で手掛かりとなる企業やコモディティも取り上げました。時事的なネタではないので、10年後もそのまま使えます。
――自分で経済指標を見て判断する意味はどこにありますか?
個人投資家には経済指標をツイッターやヤフーの掲示板で見たり、誰かに言われたりしただけといった方もいます。今の金融システムはものすごく脆弱(ぜいじゃく)なので、ここ半年や1年先は大丈夫なのか、どんなリスクがあるのか、自分で判断できるようにならないといけません。
証券会社などのアナリストやエコノミストは大きな局面で何度も見通しを外しています。株式や投資信託を販売する「セルサイド」の人たちは優秀で能力は疑っていません。しかし、立場上リスクを過小評価しがちで、相場の見方には強気バイアスがかかっています。
2008年のリーマン・ショックの際も米国の金融システムの話で日本は大丈夫だといった分析が多かったです。今の相場はいろいろなひずみがたまって、一気に崩れてしまいかねないので、自分自身でリスク評価をしないといけない。そのためにこそ経済指標を知らないといけません。
為替の投資家は特にそうですが、米雇用統計の発表前後で外れたら大損して、当たったら大もうけするといった指標ギャンブルを繰り返しています。経済指標そのものにどういう意味があるのか。過去数カ月のトレンドがどうだったか。
それに関連する事前に出た指標は何を示唆していたのか、ある程度分からないと、金融機関に支払う取引手数料もかかるので結局、損してしまいます。投資信託やコモディティに投資をしている場合も敏感に見ないといけません。 
――先行指数、一致指数、遅行指数と見分けながら読み解くことは重要でしょうか?
どの指標が遅行指数か、一致指数か、先行指数か知らない投資家も多いのが現状です。例えば米国の小売売上高だけを見て、米景気がまだ良さそうだと判断して買いに行くと、消費は遅行指数だから、実際の景気はすでに悪化していて損することになりかねません。どの指数が景気の先行き(先行指数)、足元の現状(一致指数)、これまでの状況(遅行指数)を映し出しているのか、把握した上で投資することが大切です。
今の米国は雇用が極めて強いのに米国の先行指数はずっと下がっています。5月12日に公表されたミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)は予想以上に低く、消費者心理が悪化していることを示しています。だけど、まだ雇用は強い。
雇用は本来一致指数ですが、いまの米国の雇用は遅行指数的な動きをしている可能性があります。パンデミックで多くの人が早期退職して職場を去ったので、企業には人手不足を解消しようという動きがまだ残っています。でも、そうした特殊要因は解消されつつあるので、失業率がこれから上がっていくと思います。
景気動向を敏感に映すのはGAFAMではなく、半導体企業
――景気を判断する上でどの企業に注目したらいいですか?
半導体関連の企業が最も敏感に景気変動に反応しやすいです。例えば半導体世界大手TSMC(台湾積体電路製造)の受注が低くなったらどうなるか。TSMCに半導体チップを注文しているのはアップルなど米国のメーカーです。
逆にTSMCはどこに発注しているか、日本の東京エレクトロンやファナックから半導体製造装置を買っている。その仕組みを知らないと、次に何が起きるか分かりません。投資における連想、風が吹けば桶屋がもうかるという発想が最も大事です。
一方で、「GAFAM」と総称される米ハイテク企業は景気動向に反応が鈍く、先行きを判断する上で参考になりません。今、株価指数は高いけど、一部の銘柄しか買いが入っていません。株価指数の高さだけ見て全体像を間違いがちです。
GAFAMや景気指数だけを見て投資をすることは、木を見て森を見ず、葉を見て木を見ずです。下げ相場でも株価が上がったり、下がるリスクが高くなったときに買われたりするディフェンシブ銘柄もあります。世の中の流れが理解できないとそういった銘柄への投資は難しくなります。
FRBは失業率が上がらなければ利下げしない
――米国の金融政策を判断する上でどの経済指標に注目したらいいでしょうか?
FRBは米国の失業率が上がらないと利下げしません。日本銀行も含めて中央銀行には雇用と物価の安定という二つの使命があります。米国の失業率が歴史的に低いレベルで雇用が極めて好調なときに、中央銀行が一番優先させるのは物価の安定です。今の状態でFRBが物価抑制の手を緩めて、利下げすることはありません。
難しいのは、市場が利下げを見込んでいる間は、FRBが実際に利下げに動くことはないということです。市場が利下げを織り込んで株高が続くと資産インフレになります。そうである以上、FRBはインフレを抑えるため引き締めを続けざるを得なくなります。
市場は昨年初め、FRBが政策金利をそこまで引き上げることはないと高をくくっていました。今、政策金利は5.0〜5.25%の高い水準です。市場が見誤ったのは、2008年のリーマン・ショック以後の金融緩和に慣れきってしまったせいです。
FRBはここずっと、相場や指標が少し悪くなるとすぐに弱腰になって利上げを止めたり利下げしたりしていました。当時は利下げしてもインフレにならなかったから、問題はありませんでした。
――投資家は景気がクラッシュするリスクにも身構えていないといけませんか?
少なくともリスクは大きいですよね。クラッシュするとは限らないけど、リスクは過去5年、10年より高まっています。なぜかというと、米中対立やロシアによるウクライナ侵攻など地政学的リスクがあります。
さらに世界経済を見渡すと新型コロナウイルス禍の後遺症がまだ続いています。40年ぶりの高水準のインフレもしつこく残る中で、FRBが極端な引き締めを短期間でしました。金融システムや経済全般にものすごくストレスがかかって、ひずみを残しています。
米国の地方銀行がこれだけ相次いで倒産したことは米国の歴史でありませんでした。倒産した銀行の資産規模は小さくありません。リスクが高まる中で、米大統領選が来年あって、与党民主党と野党共和党の対立が続いています。これは警戒した方がいい。備えておけば株価が下がった場合のダメージは少ない。
――米国の物価高については、どういう見方をしていますか?
米国の物価は、雇用市場がタイトな以上はなかなか下がりにくい。物価高の理由には二つあって、一つは住宅や家賃の価格がまだ高いこと。もう一つはサービス業で引き続き人手が足りないこと。この二つが解決するには、住宅価格が大きく下がって、企業業績が悪化して、人々が大量に解雇されて、失業率が上がってくる。そうするとインフレが大きく下がります。
――GAFAMは従業員を大量に解雇していますが、まだ足りませんか?
GAFAMは給料が高いので、そういうところが高給取りの従業員を解雇して、ギグワーカーなど給料が安いところに雇用が流れている。米国は失業率が低いけど、人々の所得は、物価の伸びほど上がってはいません。
それもミシガン大学消費者信頼感指数に表れていて、5年期待インフレが3月時点の3.0%から4月(速報値)は3.2%に上昇しました。消費者は物価がまだ高まると思っている。個別株では、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)が従業員を解雇したら株価は上がりましたが、しかし景気全体としては悪くなります。
今回のシリコンバレー銀行もそうです。シリコンバレーはスタートアップがビジネスをしているところです。スタートアップは、2021年度は絶好調でお金も集まった。SPAC (特別買収目的会社)のような訳が分からないものまで上場しました。
しかし、昨年はFRBが蛇口を閉め出した時点で、入ってくる資金が細くなり金欠になっています。スタートアップは資金が集まらないからどんどん預金を引き出して運転資金にして、銀行から預金が流出しています。スタートアップやベンチャーの不調に米国の深刻な状況が表れています。
――住宅価格が高いままだということですが、下落の兆候は何を見たら把握できますか?
新規住宅許可件数です。住宅ローン金利がかかわるため、景気やインフレの動きに対して敏感に反応します。住宅ローン金利が上がると、長期のローンを組んで住宅を買うことが難しくなるため、住宅需要が減り、住宅価格も落ち着いてきます。
今は米国の1年債に投資をすれば金利が5%付きます。住宅も不動産投資という一つの投資です。キャップレート(不動産投資の期待利回り)がどれくらいか考えたら、不動産投資でリスクを冒す必要はありません。株もそうです。住宅はまだ強いですが、商業用リートや商業用不動産の相場は完全に崩れています。ただでさえ弱かったのが、コロナでさらに需要が減りましたから。
日銀の政策修正、日本国債市場に注目を
――日銀の政策修正はいつありますか? 植田和男総裁は緩和継続の姿勢を示し、意外にハト派だったと受け止められていることも日本株好調の理由の一つになっています。一方、中長期的には大規模緩和からの脱却もテーマです。日銀の政策修正を占う上でどういった指標を見たらいいでしょうか?
日銀が政策を変えるシナリオは二つ考えられます。一つはインフレが今より進んで、国民に不満がたまって、日銀に政治圧力がかかるとき。もう一つはこのまま日本国債に買い手がいなくなり、日本の債券市場が機能しなくなるとき。
インフレに関しては、日本人の物価高に対する不満は海外に比べてそんなに高くありません。インフレへの不満が高まったら、自民党政権が転覆する。それだけパワフルです。今の日本は、物価は高くなっているけど、円安で企業業績が好調だったり、コロナ禍後の経済活動が活発化したりしていて、労働者の収入も上がってきています。
日銀は米国ほどの物価高は起きてないからそこまで切羽詰まっていない。植田総裁はCPI(消費者物価指数)の上昇についてあまり懸念してなく、インフレは一時的で長く続くと思っていないとみています。日本も日銀もマインドはデフレのままで、長い低インフレ時代が続いた後遺症です。
ただ考えないといけないのは、台湾有事が南シナ海で発生して、中国から日本にモノが来なくなれば、ハイパーインフレ(過度なインフレで、通貨が信用を失い暴落すること)が起きます。日本人は過去30年間のデフレや低インフレにとらわれてしまって、インフレへの危機感がありません。
――日銀が保有する日本国債の割合(短期証券を除く)は昨年9月末に初めて発行残高の5割を超え、昨年12月末時点には52%となり、拡大が続いています。
日銀が唯一、懸念しているのは国債市場をどうするかという話だけです。それ以外はあまり気にしていないと思います。そうなると、日銀は米国みたいなドラスティックな引き上げではなくて、微調整しかしないのではないでしょうか。 
黒田東彦前総裁は(金融緩和に積極的な)ハト派だったけど、現時点で植田氏は黒田氏ほどハト派だとは思いません。政策修正に動く時期を見ているのでしょう。今は中国の景気が悪く、4月の生産者物価指数は前年同月比3.6%の低下でマイナスになっています。日本もインフレは一時的でもう一回デフレになって、景気が悪くなるかもしれない。日銀は変に引き締めをしなくてもいいと思っている可能性もあります。
日銀には1980年代後半のバブル経済期に不必要に引き締めを急いで景気をハードランディング(急激な失速)させてしまったトラウマがあることも緩和修正には重しになっています。
ただ、日銀は今、景気がいいうちに金融政策をある程度正常化させておかないと、またリーマン・ショックのようなことが起きたら、打てる金融政策がありません。米国のFRBは政策金利をリーマン・ショックの一因となったサブプライムローン問題が表面化する前と同じ水準(5.0〜5.25%)まで上げました。今後、米景気の悪化が鮮明化しても、景気刺激策として1、2年は利下げを続けられます。
一方、日銀はマイナス金利政策を続けており、これ以上の利下げ余地はありません。量的緩和、国債やETF(上場投資信託)の購入もしていて、これ以上打つ手がない。今の金融緩和政策は永遠に続けられません。
●米債務上限で基本合意も…対立の背景に「緊縮派」と「反緊縮派」の闘い 5/30
米国の債務問題は上限を引き上げることで基本合意した。政治的対立の背景は、財政をめぐる「緊縮派」と「反緊縮派」の闘いだった。緊縮派は、不況から十分に立ち上がれない時でも、財政支出を減らすことを選ぶ。具体的には歳出削減や増税、負担増だ。
通常の経済学では、不況であれば政府は財政支出を拡大し、中央銀行は金融緩和を行う。それが常道だ。だが、不況の中で緊縮財政をすれば、それだけ経済が鍛えられると考えるのが、緊縮派の経済思想だ。例えば不況を利用して非効率な経営をしている企業を淘汰(とうた)し、またはリストラされた労働者をこの機会に鍛え直すというわけだ。
いままでの歴史で、不況を十分に脱しないまま緊縮財政をして、まともになった経済は事実上ない。リーマン・ショックや新型コロナ禍で、緊縮すればどうなったか想像すればわかりやすい。だが、この緊縮思想は何度もゾンビのように蘇ってきた。
米国では緊縮財政を訴える議会下院で多数を占める共和党と、低所得者層への支援を重視する民主党のバイデン大統領が対立していた。債務上限の引き上げが認められなければ、社会保険料や医療費の支払いが遅れる可能性があった。債務不履行(デフォルト)が起きると、金利が上昇し、金融市場の混乱や経済危機に至る可能性もあった。
特に米国はただでさえ大手地銀の破綻が続き、金融不安が晴れないままだ。さらなる金利の上昇は米国経済の不況入りを確実なものにする。
また共和党と民主党のそれぞれの提案は、いずれも現状よりも大小の違いはあっても緊縮財政だ。米連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き上げに加えて、政府の緊縮が重なることで、いずれにせよ米国経済の先行きは不透明感を増す。これは世界経済にとっても嫌なシグナルになる。
日本でも緊縮思想は胎動している。財務省主導のいわゆる「ザイム真理教」に取りつかれた政治家や官僚は多い。少子化対策で3兆円の予算増のうち、歳出削減やまた現役世代に負担増を強いることで実現しようとしている。一応、2年間は国債でつなぐようだが、そこには明白なビジョンが欠ける。緊縮思想にあくまでも取りつかれているのだ。
本来であれば、現在の総需要不足20兆円ほどを解消し、その上でインフレ目標2%以上を安定的に達成する中で、少子化対策の財源問題も考えるべきだ。だが、経済がうまくいくと自然税収増で財源のかたがついてしまい、ザイム真理教の信者たちが権威をふるう余地がなくなる。それを避けたいのだろう。国民生活を忘れた連中だ。 
●金融緩和による「低金利」を、いかに味方につけるか? 投資家と借手 5/30
欧米ではインフレ抑制のため、「政策金利」の利上げがなかなか止まらない。そんななか、日本の金利はここ数年最低水準で推移しており、日銀は現在、その他の金利が基準とする「政策金利」をマイナス0.1%としている。
こうした低金利の原因は何だろうか? 日銀は国のマネーサプライ(通貨供給量)、すなわち国内で企業が借り入れられる通貨量を監督するという使命の一環として金利を調節している。利下げは金融緩和政策の一部だ。倒産や失業につながる景気の減速や後退に立ち向かうために、日銀は金融緩和政策を講じているのである。
理論的に言えば、利下げにより景気が刺激され、企業や消費者は借入や支出を増やし経済が活性化される。例えば、米連邦準備理事会(FRB)は世界金融危機の後、2008年から2015年まで政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利をゼロに据え置いた。日本では2016年に、短期政策金利をマイナス0.1%程度に、長期金利(10年国債利回り)の上限をゼロ%近辺に据え置く長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)が導入された。現在この長期金利の上限は0.5%となっている。
だが、低金利は個人の投資や貯蓄、負債にどのように影響するのだろうか? その答えはまちまちで、有利に働くこともあれば不利になることもある。だが全体として、低金利を生かすために対策を講じることは可能だ。
低金利を最大限生かすために知っておくべきことを順番に説明しよう。
低金利は資産にどのような影響を与えるか?
銀行口座を保有している人には悪いニュースだ。金利の引き下げは通常、預金金利の低下を意味する。預金口座であろうとマネーマーケットファンド(MMF)であろうと、現金の預け先の金利が下がるのだ。
一方、お金を借りている人には朗報かもしれない。クレジットカード・ローンなど変動金利ならば利率が下がる。借入残高全体には影響しないが、金利として支払う金額が減ることになる。
自動車や家など大きな買い物にローンを使おうと思っている消費者は、より有利な金利で借り入れできる。
一方、投資家は投資する商品によって影響が異なる。だが、大まかに言うと、低金利は株式投資家には好材料だ。金利が下がると消費者は支出を増やし、銀行は貸し出しを増やす。企業の売上高も増加し、事業拡大のためのローンが借りやすくなる。これらは株価上昇の要因となりうる。
低金利を味方につける方法
低金利の時には「安い資金」を活用するために取るべき重要な戦略がある、とマネーのプロは言う。
借手にとっての低金利戦略
・住宅ローンや学生ローンを借り換える:住宅ローンや学生ローンを借りている場合は、借り換えを考えよう。つまり、今借りているローンを返して新たに借りるのだ。新しいローンの金利はもちろん下がる。理想を言えば低金利を固定できる固定金利型ローンにしよう。借り換えには良好な信用状況が必要だが、借り換えができれば利払いに消えるお金をかなり節約できる。
・借金をまとめる:多方からクレジットカード・ローンや消費者ローンを借りて四苦八苦しているなら、おまとめローンが借金の管理に役立つだろう。おまとめローンは、複数の借金を1つにまとめ、毎月1回の支払いにするものだ。特に低金利を生かせれば、借金の返済がより管理しやすくなるだろう。
・クレジットカード・ローンを移行する:米国にはバランストランスファー・クレジットカードというものがある。複数のクレジットカード会社に債務残高がある場合、新たにバランストランスファー・クレジットカードを作ると、既存のクレジットカード残高が新しいクレジットカードに移行される。通常そのメリットは、一定期間低い金利が適用されることだ。最初の12〜21カ月間は金利がゼロというものもある。したがって、一時的な支払い(結婚式や旅行など)でクレジットカード残高が増えてしまったがすぐに返せるならば、こういうカードも選択肢の一つだろう。ただし、優遇金利期間が終わると、金利が跳ね上がることが多いので注意が必要だ。
投資家にとっての低金利戦略
・不動産を購入する:家の購入を考えているならば、金利が過去最低の時は住宅ローンを借りるベストな時だ。すでに持ち家を所有していたとしても、低金利で住宅ローンを固定できるなら、セカンドハウスやその他不動産への投資を考えるのも良いだろう。
・利子の節約を活用する:極めて低金利で住宅ローンや自動車ローンを借りているなら、返済しない方が良い。その代わり、追加「所得」を得ることを考えよう。つまり、ローン金利と投資商品の利回り格差を生かすのだ。例えば確定拠出年金の掛け金を増やすこともこうした戦略の一つだ。
・債券を売却する:金利が下がると債券価格は上昇する。新発債のクーポン(表面利率)が下がれば、クーポンの高い既発債の価値が上がる。したがって、債券から得られるクーポン所得が不要なら、この機会に「額面以上(オーバーパー)」で債券を利食い売りしよう、と投資のプロは言う。
低金利の時の投資先
インカム重視の投資家が、特に債券や固定金利の投資先を求めているなら、低金利環境は喜ばしくない。だが低金利であっても次のような投資が考えられる。
・高金利預金口座:金利が低い時は、大半の伝統的な預金口座よりも高金利預金口座の方が少なくとも預金金利が高い。資産形成には十分ではないだろうが、インフレで預金が目減りするのを見るよりはましだ。
・譲渡性預金(CD):金利が最低水準に下がる前に短期商品でそこそこの金利を固定したいなら、譲渡性預金(CD)が良いかもしれない。満期が短いものが多いので、仮に金利が上がってもインフレから貯蓄を守ることができる。譲渡は可能だが一定期間資産が拘束されることを前提として保有する方が良いため、低金利局面では金利がより高く、期間がより長いほど有利だ。ただし、満期が2年未満のものは最後に元利金が一括して払われることに注意しよう。また、通常1000万〜5000万円で投資できるが、預金保険の対象外だ。
・社債および地方債:債券はボラティリティ(変動率)が低く、銀行預金やCDよりも利回りが高いため、固定利回りを求める投資家には魅力的だ。社債——企業が発行する債券——のクーポンは米国債や日本国債よりも若干高く、リスクもやや上がるが、それでも比較的安全である。都道府県や市が発行する地方債も国債より利回りが高い。
・不動産投資信託(REIT):金利が低下している時には、商業用不動産を所有・運営している上場投資信託への投資が賢明だろう。低金利は不動産に追い風だからだ。REITが低金利で借り入れるならば、建設を拡大し、プロジェクト数を増やし、すでに借りているローンの借り換えができる。どれもREITのパフォーマンス、ひいては投資家と共有する利益を押し上げる。
まとめ
低金利は預金者には嬉しくないかもしれないが、借金の返済には追い風だ。また、住宅ローンなど大きな買い物のための借り入れには特に有利だ。
一方、投資家への影響はまちまちである。ゼロ近辺の金利は、特にリターンが安定した低リスクの投資商品を求める、投資所得に依存する投資家にとっては有り難くない。だが、低金利環境での投資方法は数多くあり、少なくとも資産維持に役立つだろう。また、不動産や債券のような投資商品は、低金利環境で高いリターンを計上し、売却により利益を確定できる可能性もある。

 

●米銀行株「最悪の事態」織り込む、地銀危機きっかけ 5/31
米銀行株は地銀危機をきっかけに投資家から過剰に痛めつけられていると、ウェルズ・ファーゴの銀行アナリスト、マイク・メイヨー氏が指摘した。
現時点で銀行株には「最悪の事態」が織り込まれており、銀行セクターを巡る不確実性の中にある機会が見落とされていると、メイヨー氏は顧客向けリポートで分析。銀行は規制強化や金利低下に加えリセッション(景気後退)の可能性に直面しているが、一部の金融機関は「魅力的な領域」にあり、株価収益率(PER)は30%余り上昇する可能性があるとした。
同氏は「このグループが一部の見方のように、『投資不可能 』あるいはPERが30−50%下がるリスクがあるとは、われわれは考えていない」と説明した。
メイヨー氏はなおJPモルガン・チェースやシティグループ、バンク・オブ・アメリカ(BofA)など、一部の中堅・中小規模の地銀破綻後に事業が舞い込んだ大手銀行を選好する。その一方で、USバンコープとステート・ストリートにも注目しているとした。
インフレ率の鈍化だけでも、銀行株のバリュエーション上昇を正当化するには十分だとメイヨー氏は主張する。
1960年以降のデータでは、インフレ率の低下と銀行株のPER上昇の間に強い相関関係があることが示されているという。「過去を振り返ると、2023年のインフレ率が平均4%であれば、われわれの調整後EPS(1株当たり利益)に基づく銀行株のPERは8倍ではなく11倍となるはずだ」と指摘した。
同氏によれば、ウェルズ・ファーゴのエコノミストはインフレ率が23年に4%、24年に3%にそれぞれ鈍化すると現時点で予測している。
●もし米国の債務上限問題が解決していなかったら 5/31
先週末5月27日土曜日、米国連邦政府の債務上限(デット・シーリング)の引き上げについて基本合意に達したという報道が流れました。次のステップは合意内容が法案化され、31日には議会で採決される見通しが立ってきました。これまで、最終的には合意に至るだろうと思うものの、万が一そうならない可能性もあるのではと、世界中の市場参加者が神経を尖らせていたこの債務上限の引き上げ問題、この問題の持つ意味を今一度振り返ってみたいと思います。
債務上限引き上げとは、政府が法的に設定した債務(国の借金)の上限を増やすことを指します。米国においては、政府が発行できる国債の総額の上限が法律によって定められており、この上限を債務上限と呼びます。政府が歳出を賄うために必要な財源が税収だけでは足りなくなり、追加で国債を発行して調達する必要が生じた場合、その国債の発行額が債務上限を超えてしまうと、法律上、新たに国債を発行することができなくなってしまいます。これが債務上限問題です。債務上限が引き上げられない場合、政府は法定通貨を発行するための財源を失い、国債の利払いやその他の政府支出を賄えなくなります。この状況は「債務不履行」または「デフォルト」とも呼ばれ、その結果、金融市場に大きな混乱を引き起こす可能性があるのです。本来は、国を運営するために必要なお金の話ですから、債務上限の引き上げに合意するのは当たり前のことだと思うのですが、そこは政治の世界のやり取り。民主党と共和党それぞれの思惑もあり、民主党を代表するバイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議員との間の政治の駆け引きに使われていた側面もありました。イエレン財務長官によると、今回最終的には6月5日までに合意に達しないと連邦政府の資金が枯渇してしまい、米国政府がデフォルト(債務不履行)になってしまう可能性があると警告していました。では、果たしてデフォルトになった場合、一体何が起きていたのでしょうか?
実は、米国の債務上限問題というのは、これまで何度も歴史的に発生しており、その都度、金融市場にネガティブな影響を及ぼしています。特に注目されたケースとしては、2つがあります。
2011年の夏、米国は実際に債務上限に達してしまい、政府の一部閉鎖とデフォルト(債務不履行)の危機に瀕しました。この問題は、最終的には妥協案により解決されましたが、その間に起こった政治的な対立と不確実性は金融市場に大きな影響を及ぼしました。特に、この時は米国の国債の格付けがS&Pグローバル・レーティングスにより初めて最上位の「AAA」から「AA+」に引き下げられたのです。
米国債は世界中の金融市場で最も安全な資産とみなされており、その信用格付けが下がった場合、金融市場に混乱を与える可能性が高いのです。実際この時は、ドル安が起き、株式市場ではS&P500が2週間で17%下落しています。
今回も債務上限を巡り政治的対立が続き、いわゆる「瀬戸際政策」がとられていたことで、S&Pとは異なり、未だ米国債の信用格付けを「AAA」としていた格付会社フィッチ・レーティングスは先週、格下げを行う方向で見直すことがある「ネガティブ・ウオッチ」に指定しました。金融格下げが起きるということは、米国政府が債券の利息支払いまたは元本返済に失敗するリスク(信用リスク)が高まったことを示し、投資家の信頼を損なう可能性があり、その結果として米国債への需要が減る可能性もあります。債券の価格は需要と供給によって決まるため、需要が減少すれば価格が下落します。債券価格が下落すると、その逆の関係にある金利が上昇します。これは、新たな債券を発行する際のコストが上昇し、それが連鎖的に経済全体の借り入れコストを高めることを意味し、米国経済に大きな影響を及ぼすことになります。また、長期的には、借り入れコストの上昇は企業の投資を抑制し、家計の消費を減らし、米国経済の成長が減速する可能性すらあったのです。
債務上限問題は2013年にも再び発生し、政府の一部閉鎖が実際に16日間にわたって起こり米国政府が機能しなくなりました。この時の閉鎖は、政府の支出を一時的に停止させ、経済活動に影響を及ぼしました。社会保障や政府の給付金の支払いが停止するなど、何百万人ものアメリカ人の生活に影響を与えたのです。
現在は2011年と違い、高インフレで、金融政策の引き締めが起きており、株価のバリュエーションに懸念もある中、今回万が一債務上限の引き上げ合意に達していなかったとすると、金利の上昇、そして株価の大幅な下落を招き、アメリカの経済システムへの世界的な信頼が修復不可能となるダメージを与える可能性もあったと考えられます。
最終的に議会で採決されるまで余談は許されないものの、与党と野党のトップが合意をしたことで、金融市場にとっての目先の大きなリスクは一つ解消されたと考えて良いでしょう。
●米雇用市場は強い予想。FRBの6月利上げ確定で円安再開か? 5/31
5月雇用統計の予想
BLS(米労働省労働統計局)が6月2日に発表する5月の雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)の市場予想は+19.0万人となっています。前回4月は+25.3万人、3カ月平均+24.8万人でした。雇用増が20.0万人を下回れば、2021年1月以来のことになります。
「インフレ率を下げるには、雇用市場の熱を下げる必要がある。」これがFRB(米連邦準備制度理事会)の考えです。パウエルFRB議長が「適正」と考える雇用者数は約10万人増程度。5月の予想は、その2倍弱ですから、雇用市場の過熱状態はまだ続いていることになります。
失業率は、前回より0.1ポイント悪化して3.5%の予想。平均労働賃金は、前月比+0.3%、前年比+4.2%(前回+0.3%、4.4%)の予想となっています。
賃金上昇率はFRBのインフレ目標に見合う水準を少なくとも1.5%上回っているといわれています。この賃金高止まりに歯止めをかけない限り、インフレは終息しないとパウエルFRB議長は指摘します。
労働市場の調整は供給サイドからではなく、需要サイドから行う必要があるとFRBは考えています。なぜなら、労働力の供給問題は人口学(老齢化社会)にかかわる問題であり、解決には長い時間が必要だからです。
少子化対策は、中央銀行ではなく、政治の仕事です。FRBにできることは、金融引き締め政策で景気にブレーキをかけることで、企業に労働力の需要調整を促すことです。
FRBは最近、政策指針に関して重大な変更を行いました。これまでの「フォワード・ガイダンス」をやめて、「バックワード・ガイダンス」に切り替えたのです。金融政策の政策指針を示すのではなく、決定に至る要因を示すようになったのです。
今後のインフレ見通しに基づいて利上げを決定する代わりに、現在までのインフレ率のデータに基づいて判断していくことになります。
「バックワード・ガイダンス」によると、インフレ率の低下には時間がかかるというFRBの考えをデータが裏付けているようだと、パウエルFRB議長は述べています。FRBは利上げを継続するか、しばらくの間金利を据え置く確率が高い。今年中に金利を引き下げることはないということになります。
仕事やめるの、やめました
6月FOMC(米連邦公開市場委員会)会合での利上げは「五分五分」というのが現在の市場予想。するかしないかは経済データの結果で判断すると、FOMCメンバーは口をそろえます。その重要な決定要因となる5月雇用統計は、「強い」という予想が出ています。
米国の労働力不足は、雇用のミスマッチよりももっと根深い構造的問題だといわれています。
米セントルイス連邦準備銀行によると、 2009年から2020年までの約10年間の、米国における雇用増の理由のほとんどは、「55歳以上の就業増」で説明できるそうです。
2008年のリーマンショックの株価大暴落によって老後の生活資金の多くを失ってしまった当時のシニア層は、生活のために働き続けるしかありませんでした。しかしそれから15年がたち、新型コロナ感染が世界中に広がる中で、2020年の米国の株式市場の株価はリーマンショック前を超え史上最高値を更新するまで上昇しました。
そのおかげで、引退資金を手にした、これまで労働力供給の中心を担っていた層が一斉に雇用市場から去っていったのです。
しかし、この話はまだ続きがあります。これから第二の人生を楽しもうとしていた引退組は、新型コロナ禍の次に到来した猛烈なインフレのせいで、みるみる貯蓄が減っていくことにがくぜんとしたのです。最近の米調査によると、退職した人の4分の1以上が、仕事をやめなければよかったと後悔しているそうです。
必要に迫られて再就職を考えているのは、FIRE(経済的自立と早期退職)で仕事をやめた40代ミドルシニア層も同じでした。FIREは、穏やかなインフレと右肩上がりの株式市場という想定で成り立つライフスタイルです。急激な金利上昇に経済がついていけず、株式市場が本格的なダウントレンドに入る時代では、以前の生活水準を維持することが難しくなったのです。
FRBの考えは、金融引き締めによる景気減速によって、雇用の需要サイドを調整(縮小)しようとするものでした。しかし実際には、景気減速による供給サイドの調整(拡大)が起きようとしています。
より多くの人々が労働市場に復帰すれば、需給の関係で労働賃金も低下する。FRBからすると、失業率上昇を回避しつつインフレを抑制する目標を達成できる可能性が高くなったわけです。
FRBが米景気後退を予測しながらも、失業率に関しては楽観的見通しを維持するのは、この状況を予想していたのかもしれません。景気サイクルが米国の労働力不足を短期的に緩和するかもしれませんが、長期的な構造問題が解決されたわけではありません。
●ドル円は139円台での推移が続く FRBの追加利上げ動向に関心を集中 5/31
NY時間の終盤に入って、ドル円は139円台での推移が続いている。きょうの為替市場はドル買いが一服し、ドル円は139円台に伸び悩んでいる。前日に引き続き140円台後半まで上昇していたものの、海外市場に入って戻り売りに押されている。先週末に米債務上限問題がバイデン大統領とマッカーシー下院議長の間で合意した。本日から議会審議に移り、明日にも採決したい意向。一部には反対の議員もおり、可決できるかどうかはなお未知数ではあるが、債務不履行(デフォルト)は回避できると見られているようだ。
市場はもともと楽観視していた面もあったが、実際に合意に達したことにより、若干リスクムードが高まっている。その一方で今回の合意により、市場は本格的にFRBの追加利上げ動向に関心を集中させている。
市場は6月13、14日のFOMCでの利上げ確率を60%程度で見ている。追加利上げを見込んではいるものの、確信までには至らない状況。7月FOMCまでであれば、1回ないしは2回の利上げの可能性を75%程度で見ている状況。なお、6月、7月の連続利上げの可能性は20%程度。
いつもの通りに経済指標次第といった雰囲気で、その意味では金曜日の米雇用統計、そして、FOMC結果発表前日13日の米消費者物価指数(CPI)を確認したい意向も強い。現時点ではどちらの指標の予想も前回から若干の低下が見込まれているものの、利上げできないほどではない。FOMC委員の中でも追加利上げと据え置きで意見が分かれる中、指標の強弱が明確になれば、方向感ははっきりとする。しかし、そうでない場合は複雑になりそうな局面ではある。
きょうのユーロドルは下げ一服となっており、1.07ドル台を回復している。ロンドン時間に発表になった景況感指標が弱い内容だったこともあり、一時1.06ドル台まで下落していた。市場は6月、7月のECBの追加利上げを見込んでおり、ECB理事からもその観測を後押しする発言が出ている。
その意味でも今週の5月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)速報値の発表は重要な判断材料になりそうだ。現在の予想では前回から低下が見込まれているものの、ECBは注視しているコア指数は依然として高水準が見込まれており、予想範囲内であれば、利上げは正当化されそうだ。
   ユーロ圏消費者物価指数(HICP) ( 概算値速報 5月1日18:00 )
   予想 0.3% 前回 0.6%(前月比)
   予想 6.4% 前回 7.0%(前年比)
   予想 5.5% 前回 5.6%(コア・前年比)
きょうもポンドドルは買い戻しが続いており、1.24ドル台を回復している。依然として21日線を下回る水準での推移となっているものの、100日線の上は維持されている状況。
一部からは、英中銀が追加利上げに踏み切るようであれば、ポンドは恩恵を受けるとの指摘が出ている。先日発表の英消費者物価指数(CPI)を受け、あと4回以上の追加利上げを見込んでおり、ターミナルレート(最終到達点)は現在の4.50%から、場合によっては6.00%までの上昇の可能性も否定できないという。ポンドに対する強気な見方は、これらの見通しと英内需の回復力によるとも述べた。
大半の兆候は今年の英成長が比較的緩やかであることを示唆しているが、これは以前の想定よりも遥かに良好で、成長予測は引き続き高く修正されているという。
●東京為替:ドル・円は底堅い、FRB当局者は引き締め姿勢継続 5/31
31日午後の東京市場でドル・円は底堅く推移し、139円80銭付近を維持。メスター米クリーブランド連銀総裁はインタビューで「利上げ停止を理解する理由は見当たらない」と発言。連邦準備制度理事会(FRB)当局者の引き締め姿勢は変わらず、ドルは売りづらい。
ここまでの取引レンジは、ドル・円は139円61銭から139円91銭、ユーロ・円は149円46銭から150円11銭、ユーロ・ドルは1.0694ドルから1.0735ドル。
●米デフォルト「Xデー」、後ずれの気配なし=ホワイトハウス 5/31
米連邦債務上限の引き上げ問題を巡り、政権側の交渉担当者であるシャランダ・ヤング行政管理予算局(OMB)局長は30日、政府資金が枯渇する期日とされる、いわゆる「Xデー」が6月5日から後ずれする兆候はないと述べた。
イエレン米財務長官は26日、債務上限が引き上げられなければ、米政府は早ければ6月5日にデフォルト(債務不履行)に陥る可能性があるとし、早ければ6月1日としていたこれまでの期日を後ずれさせた。 
 
 

 

●ボウマンFRB理事、住宅価格回復はインフレとの闘いを不利に 6/1
米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は31日、住宅価格の持ち直しはインフレ抑制を目指す米金融当局の仕事に影響する可能性があるとの考えを示した。
ボウマン氏はボストンで開かれたFRB関連のイベントで、「新たなリース契約が算出に組み込まれるにつれ、家賃の下落はいずれインフレのデータに反映されると想定するが、住宅用不動産市場は持ち直しつつあるように見受けられ、住宅価格は最近横ばいになっている。これはインフレ率の低下を目指す当局の闘いに影響を及ぼし得る」と述べた。発言は講演原稿に基づく。
ボストン連銀のコリンズ総裁は同じイベントで、米金融当局は「実に高過ぎるインフレの抑制に努めている」と説明。「物価安定を最大限の雇用の基盤としてみている。最大限の雇用は堅調な雇用市場で持続可能だ」と付け加えた。
今月発表された4月の米新築一戸建て住宅販売(季節調整済み、年率換算)は2022年3月以来の高水準に増加。中古住宅の在庫が限定的なことから、住宅建設業者が引き続き恩恵を受けていることが示唆された。
●FRBの金利据え置き、引き締め終了を意味せず=ジェファーソン理事 6/1
米連邦準備理事会(FRB)のジェファーソン理事は31日、FRBが今後の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利の据え置きを決定したとしても、金融政策の引き締めが終了したと受け止めるべきではないと述べた。
ワシントンで開催される金融会議向けの準備原稿で「次回の会合で利上げを見送れば、FOMCが追加引き締めの程度について決定する前により多くのデータを見ることができる」と指摘。「今後の会合で政策金利を据え置くという決定は、今回の(引き締め)サイクルにおける金利のピークに達したことを意味すると解釈すべきではない」とした。
またインフレ率は依然として「高すぎる」ものの、一部の指標では鈍化が示されていると言及。一方で、家計が新型コロナウイルス禍で積み上げた貯蓄を使い果たし、信用コストが上昇する中で、年内の米経済は引き続き停滞すると見込んだ。
さらに一連の銀行破綻を受けて、金融機関がどの程度融資を制限するかはまだ不透明な一方、景気鈍化に伴い企業によるローン返済が滞り始めるかもしれないとした。
リセッション(景気後退)入りは想定していないものの、一連の利上げを受けて慎重になる理由があると述べた。
ジェファーソン理事は、ラエル・ブレイナード氏が国家経済会議(NEC)委員長に就任したことで空席になっているFRB副議長に指名されている。
●ジェファーソンFRB理事、6月利上げ停止示唆−終了は意味せず 6/1
米連邦準備制度理事会(FRB)のジェファーソン理事は5月31日、連邦公開市場委員会(FOMC)が6月の会合では金利据え置きに傾いていることを示唆した上で、そうした決定が行われても利上げ終了を意味するわけではないと指摘した。
ジェファーソン理事は金融安定性と経済に関するスピーチで、「次回会合で政策金利の据え置きを決定しても、今サイクルのピーク金利に達したと解釈すべきではない」と指摘。「実際には、次回会合で利上げを見送ることにより、FOMCはより多くのデータを見てから追加引き締めの程度について決定できるだろう」と述べた。
FRB副議長に最近指名された同理事の今回の発言は、市場で高まりつつある6月の追加利上げ観測を押し戻す形となった。
この発言を受け、トレーダーが予想する6月会合での利上げ確率は35%程度と、前日の約60%から低下した。
フィラデルフィア連銀のハーカー総裁も31日、次回FOMC会合での利上げ停止を支持する考えをあらためて表明した。
「1回見送ることが可能だと思う。私が次の会合での利上げ休止を考える立場の一人であることは確かだ」とした上で、「追加の引き締めが必要な局面に入った場合、他のどの会合でも引き締めが可能だ。毎回そうする必要はない」と同連銀のイベントで話した。
米金融当局はインフレ退治を目指し、この1年2カ月で計5ポイントの利上げを実施してきた。5月のFOMC会合でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0.25ポイント引き上げて5−5.25%とした後、パウエルFRB議長はデータや変化する見通しを注視して慎重に分析する余裕があるとの見解を示している。
●米FRB “雇用の増加や物価の上昇ペースは緩やかに” 6/1
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は31日、最新の経済見通しを公表し、「経済活動はほとんど変化がなかった」としたうえで雇用の増加や物価の上昇ペースは緩やかになっていると指摘しています。
全米12の地区連銀がまとめた最新の経済報告によりますと、経済活動は前回、ことし4月の時点と比べて全体としてほとんど変化がなかったと指摘しています。
このうちサンフランシスコやアトランタなど4つの地区では経済活動がやや増加した一方、6つの地区では変化がなく、ニューヨークとフィラデルフィアの2つの地区はやや減少したと報告しました。
また今後についてはほとんどの地区の担当者が経済活動はさらに拡大すると予想していますが、経済成長の見通しはやや引き下げたとしています。
一方、物価は緩やかに上昇したものの多くの地区で上昇率は鈍化したとしています。
また雇用情勢をめぐっては人材の確保が難しい状況が続く一方で各地区の担当者が労働市場は少し落ち着きをみせたと指摘したということです。
市場では、FRBが今月13日から2日間開く金融政策を決める会合で▽利上げを続けるのか、それとも▽一時停止するのか、見方が分かれていて、2日に発表される雇用統計など今後の経済指標が焦点となります。
●米景気「ほぼ変わらず」 判断据え置き―FRB報告 6/1
米連邦準備制度理事会(FRB)は31日公表した全米12地区の連銀景況報告(ベージュブック)で、4月から5月初めにかけて国内の経済活動が「全般的にほぼ変わらなかった」との見解を示した。4月発表の前回報告の景況判断を据え置いた。ただ、企業の将来的な成長見通しは「若干悪化した」と指摘した。
●NY外為市場=ドル伸び悩み、FRB当局者が6月利上げ見送り示唆 6/1
ニューヨーク外為市場ではドルが一時付けていた約2カ月ぶり高値から下落。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ見送りを示唆する連邦準備理事会(FRB)当局者の発言に反応した。
ジェファーソンFRB理事は31日、「次回の会合で利上げを見送れば、FOMCが追加引き締めの程度について決定する前により多くのデータを見ることができる」と指摘。FRBが今後の会合で政策金利の据え置きを決定したとしても、金融政策の引き締めが終了したと受け止めるべきではないとも述べた。
フィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁は6月FOMCについて、現時点で利上げの見送りを支持していると述べた。同時に「一時停止というのはしばらく金利を維持することを意味する」とし、FRBはある時点で長期にわたり金利を据え置く可能性があるが、現在そうした時点になっているのかは分からないと述べた。
金利先物市場では、朝方発表された4月の雇用動態調査(JOLTS)で求人件数が予想外に増加したことを受け、6月の利上げ確率が71%となっていたものの、FRB当局者の発言を受け、3分の1程度に低下。さらに、利上げが見送られる確率は70%以上となった。
主要通貨に対するドル指数は一時3月16日以来の高値となる104.63まで上昇していたものの、終盤の取引では0.259%高の104.300となった。
ユーロ/ドルは一時1.066ドルと、3月20日以来の安値に沈んだ後、終盤は0.58%安の1.06735ドルで推移した。
マネックスUSAのトレーディングディレクター、フアン・ペレス氏は、米債務上限問題が落ち着けばリスク選好が回復する見通しだが、「それまではドルは現在の水準近辺にとどまるだろう」という見方を示した。
5月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)が予想に反し悪化し、5カ月ぶりの低水準を付けたことを受け、人民元は下落し、対ドルで昨年11月以来の安値を付けた。終盤は1ドル=7.1197元。
円は対ドルで0.34%高の139.33円、ポンドも0.08%高の1.2422ドル。
   ドル/円 NY終値 139.34/139.35
   ユーロ/ドル NY終値 1.0688/1.0692
●銀行破綻が相次ぐアメリカ、過去最大の預金流出…3か月間で65兆円減る 6/1
米連邦預金保険公社(FDIC)は5月31日、2023年3月末の国内銀行の預金総額が18兆7424億ドル(約2600兆円)だったと発表した。22年12月末よりも4720億ドル(約65兆円)減った。3か月間の減少幅は、集計を始めた1984年以降で最大となった。
預金総額の減少は4四半期連続。米国では個人、法人ともに原則、25万ドルまで保護される。集計によると、対象外となる預金が約6630億ドル減った。保護の対象となる預金は増えている。
米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な利上げをきっかけに3月、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が相次いで経営破綻した。金融機関の経営に対する信用不安が広がり、多額の預金が流出したとみられる。
●ドイツ最大労組、EVシフト覚悟の条件闘争へ 日本はどう備える? 6/1
電気自動車(EV)シフトが進むドイツでは、従業員の人員削減や働き方を巡り労使で激しい議論が交わされてきた。日本もEV生産が増えてきた際には、同様の問題が起こり得る。ドイツの労働者団体の取り組みは、今後の日本の参考になる部分がある。
5月16日、約220万人が加盟するドイツ最大の産業別労働組合「IGメタル」の中央執行委員会が新会長候補を選出した。2015年から会長を務めたイェルク・ホフマン氏に代わり、初の女性会長候補としてクリスティアーネ・ベンナー氏が指名された。10月に実施される組合員の選挙を通じて、正式に選任される。
ベンナー氏は1968年にドイツ西部のアーヘンに生まれた。2015年からIGメタルの第2会長を務め、独BMWと独コンチネンタルの監査役も務める。
ドイツ最大の企業で、世界の自動車会社でも最大級のフォルクスワーゲン(VW)の従業員代表のトップも初の女性が就いている。21年に、VWの監査役でもある労働評議会議長となったダニエラ・カヴァロ氏だ。
ドイツの自動車産業の従事者にとって、大きなテーマがEVシフトだ。EVはエンジン車に比べて部品点数が少ないため、生産に必要な従業員数が従来より減少すると見られている。そのため、当初はIGメタルやVWの従業員代表は、EVシフトが大規模な人員削減を招くとして強い懸念を示してきた。
実際、「『EVリストラ』、独部品会社が震源地に エンジン生産縮小が直撃」で取り上げたように部品メーカーにおいては人員削減が増えている。欧州自動車部品工業会(CLEPA)は21年12月、エンジン車からEVへのシフトにより、約27万5000人の雇用が危険にさらされると警告している。
ドイツ国内の生産台数も減少している。1998年からリーマン・ショック後の1年を除き約500万台を上回ってきたが、2019年に466万台まで減少。新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足などの特殊要因があるにせよ、20年は310万台まで落ち込んだ。22年は348万台と回復が鈍く、国内での生産体制を維持するために正念場を迎えている。
「EVシフトで雇用が減少するとの論には容易にくみしない」
だが、この数年、労組の対応に変化が表れている。EVシフトを所与のものと認め、その内容について経営者と争っているのだ。
ホフマン氏はドイツメディアに対し、以下のように発言している。「 EVのドライブトレインは、内燃エンジンに比べて付加価値が低いことは確かだ。だが、EVはエンジン車に比べて部品数が少ないために雇用が減少することは必然だという論には安易にくみしない。ソフトウエア、モビリティサービス分野の新しいビジネスモデル、そして電池技術にいかに注力するかだ」。
特にホフマン氏は、ドイツで生産されているのが高級EVに偏っていることに警鐘を鳴らしている。大衆向けEVの開発が遅れているため、EVの生産台数が伸びず雇用を維持できなくなるからだ。廉価版EVの生産が始まるのは、25年以降になるといわれている。
ドイツにおいては、23年からEV向け補助金が縮小したものの、新車販売に占めるEVの比率は14%となっており、EV関連の生産拠点も増えている。同国内では、VWとメルセデス・ベンツグループ、BMWの3社がEVの完成車工場や部品工場を持つほか、米テスラがベルリンに完成車工場と電池工場を持ち、米フォード・モーターもケルンでEV生産の準備を進めている。労組としてはEVシフトを批判するより、適切な移行で雇用の減少を食い止めようとする働きかけが多くなっている。
「EVシフトは安定した雇用をもたらせる」
VW社内でもEVシフトを巡り、様々な論争が交わされてきた。20年前後には、労働評議会議長だったベルント・オスターロー氏が、経営陣と激しく争った。
VWのEV生産について当初は本社工場から始める案があったが、本拠地での人員削減を避けたい労組が強硬に反対し、東部の工場などからEV生産が始まったといわれている。20年ごろまではEVシフトに恐怖を抱き、多くの課題を挙げていた。EVシフトだけが要因ではないが、ヘルベルト・ディース前最高経営責任者(CEO)とは対立し、同氏を何度も辞任の瀬戸際まで追い込んだ。
だが、欧州各社が一気にEVを発売し、EV販売が急増し始めた20年ごろから労組の姿勢が変わり、EVシフトを支持する発言が増えていく。その後任としてVW労働評議会議長に就いたカヴァロ氏は、その方向性をさらに明確にする。筆者もその雰囲気を身をもって感じる場面があった。
22年7月にドイツ北部のザルツギッターで電池工場の定礎式が開催された。ショルツ独首相も訪れた定礎式では、工場のホールに従業員たちが集まり、建設開始を祝った。壇上に上がったカヴァロ氏は、「EVシフトは良い展望、良い仕事、安定した雇用をもたらせる」と語り、会場から拍手を浴びた。筆者はイベントの後にカヴァロ氏と立ち話をしたが、EVシフトに理解を示していた。
カヴァロ氏はVWの従業員たちの気質をよく理解しているはずだ。1975年にVW本社があるヴォルフスブルクで生まれた。VWコーチング(現グループアカデミー)でトレーナーとして働き、2010年から労働評議会のメンバーに就任している。
22年10月の英フィナンシャル・タイムズのインタビューでもこう述べている。「私たち労働評議会は、ブレーキを踏む傾向があるように思われているようだが、それは違う。今、この変革(EVシフト)を成功させなければ、我々の仕事も危うくなる」
週休3日とリスキリングの提案
こうした状況の中で、ドイツの労働者団体は主に2つの解決策を訴えている。1つは、従来とは違う知識や技術を学び直すリスキリングだ(参照:ボッシュ、2800億円投資の学び直し 内燃エンジン技術者はどこへ)。IGメタルの新会長候補であるベンナー氏はドイツメディアに対し、「EVシフトなど産業界が新たな課題に適応するにはリスキリングが欠かせない。これが雇用を維持し、新たな雇用を創出する一番の方法だ」と語っている。
実際、ドイツの企業では社内で従業員にEV関連の技術や知識を習得する研修を受けてもらい、違う職種に就くことを促す投資を増やしている。ボッシュはこうしたリスキリングに多額の投資をする予定だ。また、企業間連携で他社に転職する取り組みも広がっている。ある企業で従業員が余剰になった際に、同じ地域で事業展開する他の企業に受け入れの余裕があれば、転職を促すという仕組みだ。
もう1つが、週休3日制など時短勤務の導入である。IGメタルはドイツで仕事が減少することに対応するために、週4日の勤務で労働時間を短縮し、従業員同士で仕事を分け合うことを訴えている。
ドイツではこうしたワークシェアリングにはなじみがある。新型コロナウイルスの感染拡大の際に、就業時間の短縮で目減りした給与の一定割合以上を政府が補償する時短勤務(クルツアルバイト)制度を導入した。今後、どのような補償があるかは分からないが、時短勤務には一定の社会的な理解がありそうだ。
雇用の維持は社会の基盤をなす、極めて重要な問題だ。ドイツはEVシフトへの切り替えが早かったために、労使間でも何度も激しい議論が交わされてきた。課題が多いものの、リスキリングやワークシェアリングへの取り組みが具体的になっている。
日本はドイツと同様に新型コロナ感染拡大以降、国内の自動車生産台数が減少している。EVシフトによる雇用への影響について具体的な検討を始めなければ、漠然とした不安がつきまとい、雇用対策が遅れることになりかねない。
●米インフレ根強い、FRBあと2回利上げ=ブラックロックCEO 6/1
米資産運用大手ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は31日、インフレは依然として根強く、米連邦準備理事会(FRB)は物価上昇圧力を抑えるために一段の利上げを実施しなくてはならない可能性があると述べた。
フィンク氏はドイツ銀行の金融サービスに関する会合で、FRBは少なくともあと2回の利上げを行うとの見通しを示した。同時に、米経済が景気後退(リセッション)に陥るリスクは小さいとの考えを示し、陥ったとしても小幅なものにとどまるとの見方を示した。
その上で「市場の予想以上に米経済には回復力があるため、FRBは警戒を強めなければならない」と指摘。利上げで経済が縮小するとするFRBが描くシナリオを念頭に「インフレ率が低下している証拠も、(経済が)ハードランディングに陥る証拠も見当たらない」と述べた。
米国の連邦債務上限問題については、引き上げを巡る「ドラマ」でドルに対する信頼が損ねられていると指摘。「解決されると信じている」としながらも、「米国がドルの基軸通貨としての地位を危うくしているということは明白だ」と語った。
●NYダウ終値134ドル安…FRBの金融引き締め長期化を懸念 6/1
5月31日のニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価(30種)の終値は前日比134・51ドル安の3万2908・27ドルだった。値下がりは2営業日連続。
米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めが長期化するとの懸念から、建設機械大手キャタピラーや石油大手シェブロンなどの銘柄が値下がりした。
IT企業の銘柄が多いナスダック店頭市場の総合指数の終値は82・14ポイント安の1万2935・29だった。
●米下院、債務上限停止法案を可決 デフォルト回避へ大きく前進 6/1
米議会下院は5月31日、連邦政府の借金限度額を定める「債務上限」の適用を2025年1月まで停止する法案を賛成多数で可決した。上院で可決し、バイデン大統領が署名すれば成立する。野党・共和党が多数派を握る下院を通過したことで、法案成立の公算が大きくなった。世界経済の混乱を招く米国債のデフォルト(債務不履行)の回避に向けて大きく前進した。
投票結果は賛成314、反対117で、民主・共和両党とも賛成票が上回った。米財務省によると、政府資金が枯渇する恐れが強まるのは6月5日。デフォルト回避には、同日までに法案を成立させる必要がある。上院は与党・民主党が多数派を握っており、タイムリミットまでに成立する公算が大きい。
法案は、連邦政府の24会計年度(23年10月〜24年9月)の非国防予算を前年度並みに抑え、25年度も1%増にとどめる歳出抑制策が柱。米議会予算局(CBO)によると、10年間で財政赤字を1・5兆ドル(約210兆円)減らす効果がある。これとセットで25年1月まで債務上限の適用を停止する。上限を引き上げた場合と同様、連邦政府は追加で借金できるようになる。
連邦政府の債務総額は1月に法定上限の31兆4000億ドル(約4400兆円)に達し、追加の借り入れができなくなった。財務省が公的年金基金の運用見直しなどの臨時措置でしのいできたが、早ければ6月5日に資金繰りに行き詰まる可能性が強まっていた。米国債の元利払いが滞るデフォルトが発生すれば、国際金融市場が大混乱に陥る恐れがあり、イエレン財務長官は議会に速やかな対応を求めていた。
バイデン氏と共和党のマッカーシー下院議長は5月上旬に、債務上限問題を解決するための協議を開始。共和党が求める大幅な歳出削減案にバイデン氏側が反発するなど交渉は難航したが、デフォルト回避のタイムリミットが迫る中で双方が歩み寄り、5月27日に原則合意に達した。共和党の保守強硬派と民主党の急進左派の双方が反発したが、バイデン氏とマッカーシー氏が法案可決への協力を呼びかけていた。
●欧米企業のデフォルト率、24年にピーク到達へ=ドイツ銀 6/1
ドイツ銀行は31日に発表した報告書で欧米企業のデフォルト(債務不履行)のリスクが高まっていると指摘し、デフォルト率が2024年第4・四半期にピークに達するとの予想を示した。過去15年で最も早く進められた金融引き締めの影響などがある。
ドイツ銀はピーク時のデフォルト率が米融資で11.3%になると予想し、過去最高に迫る水準となる。07─08年の世界金融危機時は12%、1990年代後半の米国でのハイテクバブル時は7.7%だった。
米高利回り債はピーク時に9%、欧州高利回り債は4.4%、欧州融資は7.3%にそれぞれ達すると予想した。
欧州企業のデフォルトリスクは米企業より低いと見られている。背景には格付けの高い債券の割合が高いことや、欧州の方が財政支援が多いこと、テクノロジーなどの高成長セクターの負債額が少ないことなどがある。
報告書によると、欧州高利回り債市場では不動産部門が最も大きく圧迫されており、欧州高利回り債の不良債権全体の半分超を占めている。
ドイツ銀は、企業が未公開株所有者からの新たな資本の受け入れ、欧州の財政刺激策、中央銀行の利下げがリスクを一部軽減し、最悪のシナリオの回避に役立つ可能性があるとした。ただ、デフォルト率上昇の基本的な見通しを防ぐことはできないとも予想している。
●ドル円139円台半ば、米下院法案可決でデフォルトは事実上回避される 6/1
1日午前の東京市場でドル円は139円台前半中心の動き。朝方139.34レベルで取引の始まったドル円は、昨晩ドル円が大きく下げた流れを受け、序盤に一時138.97レベルまで下値を拡大しました。しかし138円台は買い戻され、時間外の米長期金利が反発したことなどを受け、徐々に値を戻す動きに。その後、10時台に米下院で連邦政府の債務上限停止法案が可決、事実上デフォルト回避が確定的となったことから139.55まで反発しましたが、株式市場のリスクオンの反応が一時的なものにとどまったこともあって伸び悩み、東京時間正午現在は139.44レベルで取引されています。
日経平均株価は、朝方から買いが先行。値を上げる堅調な展開となりました。その後10時半前に米下院での債務上限停止法案可決が伝わると、上げ幅は200円を超え前場高値の31,185円をつけましたが、直後に同様に上げた米株先物が直ぐに下げに転じたことから日経平均も急落、一時前日比マイナス圏まで沈んだ後、88円高で午前の取引を終了しています。
昨晩海外市場では、ドル円は、欧州序盤に139.31まで下落した後、米株先物の反発等で買い戻され139円台後半中心のもみ合いとなりました。その後発表された、米雇用動態調査で求人件数が大きく増加すると一時ドル円は急上昇し、140.38の高値をつけたものの早々に反落。更に、このところタカ派的な発言が目立ったFRB高官の一部から6月FOMCでの利上げ見送りを示唆する発言が出たこと等から、終盤にかけ米長期金利の低下を伴い一段安となり、139.23まで下値を広げ、139円台前半で東京時間につないでいます。
テクニカルにはドル円は、本日朝の下落で一時転換線(本日139.21)を下回る水準まで下落しましたが、現在は持ち直しています。尚、下方向137円台前半には200日移動平均線、21日移動平均線、基準線等が集中していて、強いサポートを形成していると同時に、本日このままの水準で行けば21日線が200日線をゴールデンクロスする見込みとなっており、テクニカルの地合いの強さは変わりません。
本日この後は、米株式市場がデフォルト回避を受け、改めてどのような反応を見せるのかに注目です。材料的には織り込みも進んでおり、また、今回デフォルトを回避しても、一連の混乱から米国債の格下げリスクを指摘する声も出ています。昨日も煮え切らない動きとなった米株式市場が、一旦は反発基調を見せるのか、それとも本日、明日と米国で重要指標発表も続くことから、既に消化済み材料とされるのか一応要注視です。 
●サプライサイドの改革、潜在成長率上昇に限界…高圧経済が不可欠 6/1
潜在成長率の低下は長期の需要低迷
イエレン氏やパウエル氏が意識する高圧経済論の理論的支柱には、経済成長率と失業率の関係を示した「オークンの法則」で有名な経済学者であるオークン氏が1973年に執筆した論文がある。そしてこの論文では、高圧経済によって労働市場で弱い立場にある若年層や女性雇用に恩恵が及び、経済全体の生産性も高まることが示されている。理屈としては、経済が過熱すれば企業は賃金上昇を抑制しながら人手不足の対応を余儀なくされ、結果として労働市場で立場の弱い若年層や女性の雇用機会が増え、スキルも磨かれる。そして、こうした高圧経済で労働市場を過熱状態に置けば、労働市場に参加していない人が市場に戻ることで労働参加率が上がり、より生産性の高い仕事への転職も増えることで経済成長が促される。
一方、サプライサイドへの影響に対する仮説に基づけば、リーマンショックやコロナショックなどの深刻な不況は失業者の人的資本の毀損等を通じて潜在成長率も低下させるとしており、これはサマーズ元財務長官らが唱えている「長期停滞論」とも親和性がある。となれば、高圧経済は潜在成長率も高めることになろう。
伝統的な成長会計に基づけば、一国の潜在成長率は潜在的な労働投入量と資本投入量と生産性の三要素によって規定され、短期的な需要の変化に左右されないとされる。しかし、バブル崩壊や金融危機などにより需要の低迷があまりにも長引くと、企業の設備投資の慎重化などにより供給力に悪影響を及ぼす。逆に強めの需要刺激が続けば、雇用の増加や賃金の改善に伴う企業収益の改善を通じて設備投資の回復を促す。そして、研究開発や新規創業等を通じて生産性も上向くことで、結果として労働+資本+生産性の潜在成長率も上向かせることになる。実際、日本の経験に基づけば、潜在成長率は実際の経済成長率に遅れて連動していることがわかる。こうした見解に基づけば、高圧経済で日本の潜在成長率も高まる可能性がある。
日本の経済成長率と潜在成長率の関係
(1)潜在成長率は現実の経済成長率に1年半遅れて動く
以上のように、日本経済において高圧経済の時期が少なかった背景には、バブル崩壊に伴う需要サイドの急減が供給サイドにダメージを与え、長期の成長力が低下した可能性がある。そこで以下では、日本経済の需要不足が低成長を恒久化させた高圧経済で言うところの「履歴効果」について検証してみよう。
先に見た通り、日本の潜在成長率を見ると、経済成長率に遅れて変動しているように見える。そこで、潜在成長率と経済成長率の時差相関係数を計測すると、潜在成長率が経済成長率に1年半遅れて最も高い正の相関を示していることがわかる。構造改革派によれば、潜在成長率の低下は供給側の構造問題により起こってきたと考えられてきた。これが、金融・財政政策を中心とした需要刺激策よりも、生産性向上などの供給力向上策が重要と指摘される根拠となっている。しかし、これまでの実質成長率と潜在成長率の因果関係を見た限りでは、潜在成長率が現実の成長率を後追いして変動していることからすれば、潜在成長率の低迷は供給側の構造的な要因というよりも、総需要の変動の影響を大きく受けてきたものと推測される。
(2)潜在成長率を構成する殆どの要因が総需要の影響を受ける
そこで続いては、日銀の潜在成長率を資本ストック、労働時間、就業者数、TFPの4要素に分解し、各要素と現実の成長率の動向を比較してみた。
すると、TFPがほぼ同時、資本ストックと就業者数が現実の成長率にやや遅れて変動していることがわかる。一般的には、労働投入量低下の要因として、時短や少子高齢化、雇用のミスマッチ等といった供給側の問題が大きいと捉えられてきた。しかし資本ストックについては、その源泉が総需要の動向に大きく左右される設備投資であることからすれば、供給側の構造問題のみで潜在成長率の変動を説明するのも無理がある。したがって、定性的に判断しても、特にバブル崩壊以降の潜在成長率の低下は供給側の構造問題というよりも、総需要の変動の影響が大きいと考えるのが自然である。そして実際に、総需要が各要素に及ぼす影響は以下のようなものが考えられる。
   [1] 需要変動に伴う職探しや完全雇用失業率の変化が潜在労働投入量に影響
これまで経済成長率と就業者数要因の因果関係を見れば、就業者数要因が1年遅れて連動していることがわかる。
背景には、総需要の長期停滞で職探しを諦めて労働力人口が減少することで、潜在労働投入量が低下することが指摘できる。となれば、高圧経済で総需要が拡大すれば、職探しをあきらめていた非労働力人口が労働市場に参入することで労働力人口は増えるだろう。また、非自発的失業を除く失業率を完全雇用失業率と定義すれば、景気拡大に伴い人手不足で失業率が低下しても、完全雇用失業率は低下する関係が見て取れる。したがって、潜在労働投入量は総需要の影響も受けることになるといえよう。
   [2] 需要の変化に伴う企業の期待成長率変化を通じて資本ストックに影響
資本ストックの伸び率鈍化が90 年代以降の潜在成長率の押し下げ要因となってきたが、これまで経済成長率と資本ストックの因果関係を見れば、潜在資本投入量が現実の経済成長率に2年程度遅れて変動していることがわかる。資本ストックの伸び鈍化は、企業の期待成長率の低下を意味する。これは、資本ストックの源泉である設備投資の意思決定が企業の期待成長率に依存するからである。そして、これまでの企業の期待成長率は現実の成長率に大きく左右されることがわかっている。
したがって、長期停滞が続けば、企業の期待成長率の低下を通じて設備投資が低迷し、資本ストックの伸びが減速する一方、現実の成長率の拡大が続けば、企業の期待成長率の低下を通じて設備投資が拡大し、資本ストックの伸びが加速する。つまり、バブル崩壊以降の長期停滞に伴う資本ストックの伸び鈍化が潜在成長率の低下に寄与しており、逆に高圧経済に伴う需要拡大の効果は、資本ストックの伸び加速に伴い、潜在成長率の上昇に寄与する可能性が高い。
   [3] 需要変化に伴う雇用と設備の質の変化がTFPに影響
これまでの経済成長率とTFPの因果関係を見れば、TFPが現実の成長率とほぼ一致して変動していることがわかる。そして、TFPの動向を見ると、2019年度頃からは伸びが拡大している。一般的なTFPの伸び鈍化の背景として、供給側の構造問題により生産性の低い産業や企業に経営資源が塩漬けになり、生産性の高い分野に資源が配分されなかったことが指摘されてきた。しかし、総需要の長期低迷もTFPの伸びを鈍化させる。なぜなら、景気が低迷すれば企業内失業や不稼動設備という形で過剰雇用や過剰設備が発生するが、計測される労働投入や資本投入は減りにくいので、残差としてのTFPの伸びが低下するからである。したがって、TFPの伸びも総需要の動向が大きく影響するものと思われる。こう考えれば、2019年度以降のTFPの伸び加速は、過剰雇用や過剰設備が減少した裏として出ているものと推察される。
以上のように、一般的に供給側の構造問題として認識されている潜在成長率は、資本投入、労働投入、生産性のいずれの側面からも総需要の動向に大きく左右されると判断できよう。
高圧経済が潜在成長率を高める近道
総需要が潜在成長率に及ぼす影響を纏めると、<1>潜在労働投入量への影響として、失業者の職探し動向に伴う労働参加率の変化、労働需給の変化に伴う完全雇用失業率の変化、<2>潜在資本投入量への影響として、企業の設備投資変動に伴う資本ストック伸び率の変化、<3>TFPへの影響として、企業内失業や不稼動設備に伴う過剰雇用、過剰設備の変化および設備の更新や雇用の正社員化や転職等に伴う資本や労働の質向上、等を通じて、それぞれ潜在成長率に変化をもたらすことが推察される。
したがって、日本でも総需要を拡大させることで潜在成長率を押し上げる効果があり、高圧経済の有効性が正当化される。実際、足元ではコロナからの回復などに起因する総需要の拡大が、設備や雇用の不足に伴うTFPの伸び率拡大を通じて潜在成長率を上昇させつつある。逆に、デフレギャップ解消前に時期尚早の増税や金融緩和の出口を模索すれば、資本と労働の量的・質的低下により、経済全体で見た供給力の向上は難しい。つまり、政策当局の需要拡大政策の持続なしに自律的な民間の供給力向上を期待することは難しく、供給側の改革さえ進捗させれば潜在成長率が上昇するといった考えは根拠に乏しいといえよう。
経済の供給力向上は、少子高齢化に加えてパンデミックや戦争に伴う経済社会構造の変化が急速に進行する我が国にとっては必須の政策課題である。しかし、総需要の拡大がまだ不十分な中で需要喚起策をおろそかにすれば、供給側の改革を進めようとしても潜在成長率も高まりにくいことは今回の分析で確認した通りである。従って、我が国が潜在成長率を高めるには、さらなる需要の拡大に務める高圧経済が不可欠といえる。
しかし、喫緊の課題である民間資本ストックの伸び加速に軸足を置いた政策を図る観点からすれば、民間の経済活動を締め出す防衛増税等については政策的に改善すべきことが多い。また、アベノミクス以降の金融政策も絶大な効果を挙げてきたが、資本投入量の伸びを拡大させるような効果は道半ばである。こうした見地から、(1)2%のインフレ目標を堅持し、実質金利の低下を通じて企業の前向きな投資を促すことを視野に入れた大胆な金融緩和の継続、(2)緊縮財政の緩和と共に、需要喚起効果の高い減税を中心とした財政政策の拡大、といった高圧経済政策が強く求められる。
このように、効果的に財政政策を拡大し、大胆な金融緩和の継続の合わせ技で資本と労働の潜在投入量と生産性の伸びを加速させることが、日本経済にとって必要な政策運営といえよう。

 

●米連銀理事会、シルバーゲート銀行への自己清算計画を提出するよう命令 6/2
米連邦準備制度理事会(FRB)は6月1日、シルバーゲート・キャピタル・コーポレーションとシルバーゲート銀行が、業務を停止させ、カリフォルニア州および連邦政府の要件に準拠した自己清算計画を10日以内に提出するよう求めた。
同社は今年3月、「最近の業界と規制の動向を考慮して」業務を停止する計画を発表。仮想通貨に対応した3つの主要な銀行のうちの1つが閉鎖された。
シルバーゲートは、全額の預金の返済を含む清算を自主的に発表したが、FRBの通知によると、2022年11月の仮想通貨取引所FTXの崩壊を受けて、同行では「多くの不備」が指摘された。FRBによれば、シルバーゲートは2022年第4四半期に、仮想通貨関連顧客による預金の大幅な減少を経験し、「資金調達および流動性のストレス」が生じたという。
シルバーゲートの自己清算計画では、預金者の資金を保護することが最優先される。FRBの役員およびカリフォルニア州金融保護革新局は、シルバーゲートが提案する計画を監督および承認する。また、規制当局は、シルバーゲートの経営陣が「黄金のパラシュート(退職金)」を受け取ることや、業務停止プロセス中に責任を変更することを制限している。
シルバーゲートは、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行に続いて、最初の主要な仮想通貨対応銀行として業務を停止した。コインベース、パクソス、ジェミニ、ビットスタンプ、ギャラクシーデジタルなど、多くのデジタル資産企業がシルバーゲートとの金融関係を持っていたが、同行がFTXの崩壊に関与していたとの疑惑を受けて離脱することを発表した。
●米FRB、シルバーゲート銀行の清算に同意 6/2
米シルバーゲート銀行、自主精算へ
米連邦準備制度理事会(FRB)は1日、米シルバーゲート・キャピタルとその銀行事業シルバーゲート銀行に対して、銀行事業の清算に同意する命令書を発表した。シルバーゲート銀行と暗号資産(仮想通貨)業界のつながりについても指摘している。
シルバーゲートは、命令書発行の1日から10日以内に、閉鎖計画を監督機関に提出する必要がある。また、監督者に承認を得てから10日後までにその計画を実施しなければならない。
また、命令書は、シルバーゲート銀行を閉鎖する上で、預金者と預金保険基金を保護しなければならないと規定している。
これによりシルバーゲート銀行には、預金者の利益に資するためにスタッフを維持して金融商品を管理し、関連の記録を保管することが求められる形だ。
また、命令書によると、シルバーゲートが規制当局の承認なしに特定の取引を行ったり、事業を拡大したりすることはできない。新たに雇用した幹部社員あるいは配置換えされた幹部社員に対して、過剰な報酬を与えることができるような契約を行うことも禁止される。
仮想通貨業界とのつながりを指摘
命令書は、シルバーゲート銀行は仮想通貨業界との関わりが強かったと説明している。
シルバーゲート銀行は、2013年頃より国内外の仮想通貨業界に、預金および現金管理サービスなどの金融サービスを提供してきたと指摘する形だ。
中でも、シルバーゲートエクスチェンジネットワーク(SEN)という、銀行内のほぼリアルタイムの決済ネットワークの提供と運用を行い、これを仮想通貨業界の顧客が使用していたとする。命令書は、次のように続けた。
「シルバーゲート銀行は、2022年の第4四半期(10〜12月)以降、仮想通貨取引所FTXとその関連会社アラメダリサーチの破綻を一因として、仮想通貨関連の顧客による預金の大幅な減少を経験した。これにより、当行の資金調達および流動性にストレスが生じ、主要な収益源であった活動が縮小した。」
サンフランシスコ連邦準備銀行などが実施した、シルバーゲートに対する最新の検査では、安全性と健全性、銀行業務のコンプライアンスなどの点で多数の欠陥が発見されたとも続けた。
命令書は、シルバーゲートが3月1日に「自己資本が十分でない可能性があり、事業を見直している」と米証券取引委員会(SEC)に伝えていたという経緯についても言及している。
なお、シルバーゲートエクスチェンジネットワーク(SEN)サービスは3月に終了した。
――3月に自主精算の方針を発表
シルバーゲート・キャピタルは3月8日、銀行事業を自主的に清算して、事業を縮小する方針であると発表していた。
同社は事業縮小および清算にあたっては、シルバーゲート銀行のすべての預金の全額返済が行われる予定だと表明している。
●百貨店は終焉か、あるいは復活・再生か 6/2
我々世代が昔から感じていた、「特別なハレの場としての百貨店」というイメージは、もはやなくなってしまうのだろうか。
渋谷の東急本店が閉店し、池袋の街をつくってきた西武百貨店も終焉を迎えつつある。
バブル期から長年日本の文化を支えてきた主役が終わろうとしているのだから、百貨店というスタイルは終焉すると言えるのかもしれない。経済成長時代からバブル期を知る人たちにとってみれば、こういう日が来ることなど、まったく予想できなかった。
一億総中流と言われた頃がやはりピークだったのだろうか。
みんなが一歩上を目指して、「お客さま」扱いしてくれる百貨店に、家族総出で出かけて行ったものだ。
バブル期だからとはいえ、みんながお金を持っているわけでもなかったのだが、明るい未来を想像し、将来のお金をどんどん遣った。
百貨店は不動産会社?
しかし、バブルは崩壊し、リーマンショックも経て、徐々に社会は階級化していき、一般庶民にとっては百貨店で買えるものがなくなっていった。ファストファッションの台頭はさらに拍車をかけ、人々の足は百貨店から遠のいていった。
お得意の文化事業に人は集まったが、イベント会場に直行直帰する人ばかりとなり、もはや販促にもならなくなった。
さらに、いまではほとんどのメーカーやブランドがオンラインショッピングを行い、いろいろなセレクト系のサイトが存在しているなかでは、もはや百貨店での買い物の合理性はあまりない。
陳列商品も限られているし、基本価格は同じだ。
いくつかの百貨店は、すでに不動産賃貸事業をベースに経営が成り立っているのだが、昨年は、松屋が銀座コアビルを44億円でヒューリックへ売却したとの報道があった。売却となれば、事業の縮小、消滅への一歩なのか、ビジネスモデルの転換なのか、いずれにしても、これまでの百貨店とは様相が大きく変わっていくのは間違いない。我々世代が昔から感じていた、「特別なハレの場としての百貨店」というイメージは、もはやなくなってしまうのだろうか。
なんとバブル越え。百貨店のV字回復
ところが、誰もが百貨店は終わりと思っていたなか、伊勢丹の好調っぷりが報道された。
三越伊勢丹HDが5月9日に発表した2023年3月期連結決算によれば、高級ブランド品などの仕入れ相当額を含む総額売上高が1兆884億円(前期比19.3%増)と3年ぶりに1兆円台を回復。営業利益も前期比で約5倍となる296億円となり、コロナ禍前の2019年3月期を大きく上回った。旗艦店の伊勢丹新宿本店の売上高は3276億円とバブル期の1992年3月期以来、31年ぶりに過去最高を更新。バブルの象徴とまで言われたのだが、そのバブル期を超えたのだ。
コロナ前にも好調期はあったが、その頃は中国人を中心とした多くの観光客が、爆買いを繰り返し、ある種の特需が起きていた。しかし、今回の好決算は、それほど多くの訪日客でにぎわったことが原因ではない。また、日本人の来店者数も、コロナ前に完全に戻ってはいない。では誰が支えているのだろうか。
ここのところの好調っぷりを支えているのは、「外商」だという。
つまり、富裕層とのビジネスだ。コロナ禍でも日本の富裕層(野村総合研究所が定義する富裕層は金融資産1億円以上)は、確実に増加しているという。コロナ禍で、収入格差はさらに広がったと言われ、外国人の訪日数が減り、一般層の来店数も伸びないとなれば、生き残りをかけた戦略は、これしかないだろう。
外商部門は、まさにこの富裕層を相手にビジネスをしているのだが、絵画や芸術品から、ファッションのトップブランドまで幅広く商材を持つ百貨店にとっては、本来、得意中の得意なビジネスだ。来店数が2〜3割減ろうとも、売価が倍になればいいのだ。一億総中流時代での、「ひとつ上の暮らし」提案から、富裕層への本物の「一流の暮らし」の提案ができるのが、いまの百貨店外商ということなのだろう。
三越伊勢丹HDの今回の好決算は、富裕層対象ビジネスが、成功への第一歩を踏み出せたことを物語っている。この先は、間違いなく、この成功を足掛かりに、富裕層ターゲットのビジネスへと舵をきっていくのだろう。
とはいえ、富裕層相手のビジネスと言っても簡単なことではない。客の持つ高尚でストイックなニーズに応えながら、独自の商品を提供しなければならない。
そして何より必要なことは、顧客層の拡大、つまり、若年層(といっても50歳以下)の取り込みだろう。往年の百貨店外商の顧客は、日本の資産家の多くがそうであるように、高齢者が多く、その子ども世代への拡大が何よりマストだ。
時代に合わないと言われて久しい百貨店だが、本来持つ自分たちのコンテンツを見直せば、自然にたどりつく戦略と言えるのかもしれない。目先にとらわれず、これからも、百貨店にしかできない提案を継続し、日本の百貨店が、世界のなかでも注目される存在になってほしいものだ。
●FRBが発信した利上げ一時停止の信号、雇用統計控えた市場に波紋も 6/2
6月13ー14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げをいったん停止した上で、その後の利上げ再開カードは残しておくとのシグナルが、連邦準備制度理事会(FRB)当局者から相次いで発信された。5月の雇用統計発表を控えた市場が揺らいでいる。
雇用統計はこれまで、金融政策を左右する重要データとウォール街で見なされてきた。しかし前日のジェファーソンFRB理事による発言後、今月のFOMCで政策金利が引き上げられる確率は約35%と市場に織り込まれ、前日の60%弱から急低下した。
ハイ・フリークエンシー・エコノミクスの米国担当チーフエコノミスト、ルビーラ・ファルキ氏は「これがシグナルであることに間違いはない。このシグナルがパウエル議長と完全に一致している可能性は高い」と話す。「プライシングによる市場の反応を見ただけでも、そのメッセージが届いていることは明白だ」と続けた。
パウエル議長はこれまで、金融政策を決定する上ではデータと見通しの変化を見極める余裕があるとの考えを示している。
ジェファーソン理事も前日、「実際には、次回会合で利上げを見送ることにより、FOMCはより多くのデータを見てから追加引き締めの程度について決定できるだろう」と述べた。
しかし、誰もが利上げ一時停止説に賛同しているわけではない。ローレンス・マイヤー元FRB理事らマネタリー・ポリシー・アナリティクスのエコノミストは前日のリポートで、市場はジェファーソン理事発言を「過大解釈している」と指摘。4月の求人件数が増加したため、6月は利上げの可能性が相対的に高いとみている。
非農業部門雇用者数は5月に19万5000人増加したと予想されているが、この数値の速報値はこの1年間、予想中央値を上回ってきた。平均時給は前月比0.3%増が予想されているが、前月はほぼ1年ぶりの大幅増加だった。5月の失業率は3.5%に小幅上昇すると見込まれている。
ADPがこの日発表した5月の民間雇用者数は、全てのエコノミスト予想を上回る大幅な増加だった。
パウエル議長がインフレ率を押し下げるには「痛み」が必要だとの考えを示唆しているのに対し、ウォラーFRB理事やシカゴ連銀のグールズビー総裁ら複数の当局者は労働市場と物価の関係性はそれほど強くないと主張する。米消費者物価指数(CPI)は昨年6月に9.1%を記録したが、これが4月に4.9%に落ちても雇用市場は強さを維持している。
ウィルミントン・トラストのチーフエコノミスト、ルーク・ティリー氏は「強い雇用統計を受けた直後の市場は自動的にタカ派的な反応を示すようだが、それはあまりにも短絡的だと思う」と話す。「賃金がコロナ禍前をやや上回る堅調さで推移しているのに、インフレが著しく減速するのはすでに実証済みだ。こうした状況を踏まえてFOMCは2者の関係性についての見解を再評価することが可能であり、そうすべきだと思う」と述べた。
●FRBは利上げのスキップ(一回休み)を選択か 6/2
FRBのジェファーソン理事は31日の講演で、6月の会合での「利上げスキップ(見送り)は委員会に追加の金融引き締めについて決断するためのデータを検証する時間を与える」と話した。一方、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁も同日、現時点では「スキップすべきだ」との考えを示したと伝わった(1日付日本経済新聞)。
この場合のスキップとは「一回休み」という意味のようである。6月13、14日に開催されるFOMCでは、利上げ、据え置き、それともスキップ(1回見送り)かという三択かとの見方となっていたが、どうやらスキップの可能性が高まったようである。
ちなみにジェファーソンFRB理事は副議長候補に指名されている。そのジェファーソン理事は、ワシントンでの講演で「今後の会合で政策金利を据え置いても、政策金利がピークに達したと解釈すべきではない」と指摘した。いったん停止が選択肢となる理由について「より多くのデータを確認できるようになる」と説明した。
フィラデルフィア連銀のハーカー総裁も同日の講演で「今後さらに引き締めをする必要があるなら、1回おきに行うことができると思う」と述べていた。
これらから考えられるのは、FRBは今後も利上げを継続するつもりだが、そのペースを落とすということであろう。このためスキップという言葉を使ったものと思われる。
今後は経済物価動向をみながら、毎回の利上げではなく、タイミングを見計らいながら利上げを行う可能性を示した。市場での連続利上げ予想に対してけん制するとの見方もあったが、利下げ観測が出ることを極力、抑えたかったのではないかと思われる。
いずれにしてもFRBが当面、金融引き締めスタンスを維持させることが予想され、これはECBやイングランド銀行も同様であろうと予想される。それはつまり、日銀との金融政策の方向性の違いが今後も意識され続けることを意味しよう。
●FRB、6月に利上げ停止し「様子見」が望ましい=フィラデルフィア連銀総裁 6/2
米フィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁は1日、高水準にある米国のインフレは緩慢なペースで低下しているものの、連邦準備理事会(FRB)は6月13─14日の次回会合で利上げを決定するべきでないとし、経済データにサプライズがない限り政策金利を据え置き「様子を見る」ことが望ましいと述べた。
ハーカー総裁は全米企業エコノミスト協会(NABE)のウェビナーで「少なくとも1回の会合で停止ボタンを押すときだ」と指摘。FRBが2022年3月から実施した合計5%ポイントの利上げで、特に住宅価格に対し効果がが出ていることを示す有望な兆候が出ているとし、インフレ動向に加え信用収縮のペースに不透明感があるため、利上げの継続に慎重になっていると述べた。
小売支出の縮小のほか、賃金が当初の予想ほど上昇していないことなどに言及し「こうしたことを全て合わせると、今回は(利上げを)見送り、どうなるか様子を見ようということになる」と語った。
ただ、2日に労働省が発表する5月の雇用統計や、来週発表されるインフレ指標が予想を大きく上回った場合には、考えを改める可能性があるとも述べた。
ハーカー総裁は、今年の米国の経済成長率は1%未満にとどまり、失業率は現在の3.4%から4.4%近辺に上昇すると予想。インフレ率は年内に3.5%、来年に2.5%に低下し、2025年までにFRBが目標に掲げる2%に達するとの見方を示した。
その後の利下げに関する質問に対しては、労働市場が大幅に悪化した場合、またはインフレ率が急激に低下した場合にのみ利下げを行う可能性はあるが、いずれのケースも自身のベースシナリオでは想定されていないとした。
その上で、金利を据え置くことでインフレ低下に必要な時間を確保し、FRBが政策を過度に引き締めた場合に起こりうる景気後退(リセッション)を回避するために「合理的に広い」道筋を維持することが自身のベースシナリオになると指摘。「現在は明らかに制約な領域、もしくはそれに極めて近いところにいる。当面はここにとどまることができる。金利を引き上げ続け、その後すぐに軌道を修正する必要はない」と語った。
●米FRBの銀行向け融資減少、破綻処理関連の政府貸出がけん引 6/2
米連邦準備理事会(FRB)が1日発表したデータによると、FRBの銀行向け緊急融資は前週からやや減少した。破綻した銀行に対処する政府機関への貸し出しが大きく減少したことが背景。
5月31日までの1週間の連銀窓口貸出(ディスカウント・ウインドウ)の利用額は40億ドルで、24日までの週の42億ドルから減少。
3月の地銀破綻を受けて創設された銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)の利用額は936億ドルで、前週の919億ドルから増加した。
破綻した銀行に対処する政府機関への貸し出しは前週の1926億ドルから1881億ドルに減少した。
この3つの制度を合わせた融資総額は2857億ドルで、前週の2887億ドルから減少した。
FRBのバランスシート全体の規模は8兆4360億ドル。前週は8兆486億ドルだった。
●米上院、債務上限停止法案を可決 デフォルト回避 6/2
米上院は1日、債務上限停止法案を63対36の賛成多数で可決した。デフォルト(債務不履行)を土壇場で回避した。
バイデン大統領は議会の対応をたたえ、可能な限り早期に署名して成立させると表明。「この超党派合意は米経済と米国民にとって大きな勝利だ」と強調した。
財務省は法案が可決されなければ5日に資金繰りが行き詰まると警告していた。
法案は、法定債務上限(31兆4000億ドル)を2025年1月1日まで停止し、連邦政府が借り入れをできるようにする内容。
民主党のシューマー院内総務と共和党のマコネル院内総務は総力を挙げて手続きを加速するとし、上院は深夜の採決で10本前後の改正案を相次ぎ否決して最終採決に持ち込んだ。
財務省は連邦政府債務が1月に法定上限に到達して以降、臨時の資金繰り策を実施してきた。
バイデン氏、イエレン財務長官、議会指導部は史上初のデフォルトに陥れば金融市場の混乱や景気後退を招くリスクがあるとの認識を示してきた。
共和党が多数派を占める下院は5月31日に同法案を可決していた。
この法案を巡る不透明感は払拭されたものの、マコネル氏は上院共和党が今後数カ月、民主党の無謀な支出を抑制するために引き続き取り組むと述べ、予算を巡る次の対立を示唆した。
マコネル氏は10月1日から始まる会計年度の政府プログラムの資金を手当てするため、議会が夏の間に取り組む12の法案に言及しており、これらの法案では債務上限停止法案の幅広い指示も実行することになる。
イエレン氏は、過去数カ月間に共和党がしてきたように「米国の全面的な信頼と信用を交渉の材料にしてはならないと引き続き強く信じている」と述べた。
●アルゼンチン―デフォルト再来に警戒 物価1年で2倍、通貨急落 6/2
南米アルゼンチンの経済が危機的状況に陥っている。物価が1年で2倍に高騰し、自国通貨ペソの急落と合わせ庶民の生活を直撃。国民の4割が貧困にあえぐ中、政府のデフォルト(債務不履行)という悪夢が再び迫りつつある。
首都ブエノスアイレス郊外に住むマリア・コンティさん(56)は「稼ぐよりも出費が多い」と嘆く。コンティさんの子供2人のうち1人は独立したが、もう1人は学生。乗馬を教える本業だけでは足りず、ウーバーの運転手も務め家計を支える。好きな本業より稼げるのはウーバーで「ウーバーの時間を増やすかどうか」と頭を抱える。
新型コロナウイルス禍の影響が尾を引く中、干ばつが経済に追い打ちをかけた。小麦や大豆など国の経済を支える穀物の輸出は、1〜3月期に約24億ドル(約3340億円)と前年同期からほぼ半減。供給不足でインフレにも拍車が掛かり、消費者物価の上昇率は4月まで3カ月連続で前年同月比100%を超えた。
輸出低迷により外貨不足の懸念に火が付き、通貨安を誘発。ペソの対ドル相場は年初から約35%下落し、ペソ安がさらなるインフレ高進をもたらす悪循環に陥っている。
状況の悪化を受けてS&Pグローバル・レーティングは3月、既に投機的水準としていたアルゼンチンの格付けを「CCCマイナス」と2段階引き下げた。「外貨建て債務の返済を巡るリスクが高まっている」と警告し、追加格下げも示唆した。政府が2001年、1300億ドルを超える公的債務の返済を停止してデフォルト状態に陥った記憶がよみがえる。
中銀は今年5月、ペソ防衛などのため政策金利を97%に引き上げた。政府はドル需要を抑えようと、中国からの輸入品に対して人民元で支払う措置なども導入した。10月の大統領選を控えて混乱の回避に躍起となっている。
●米下院「財政責任法」を可決 6/2
「債務上限引上げ」と「デフォルト」を巡る騒動の“本当の勝者”は誰か
多数の共和党議員の支持を得て、大差で『財政責任法』が下院を通過
5月31日、バイデン大統領とマッカーシー下院議長の合意に基づいて、債務上限引上げと共和党が要求する歳出削減を盛り込んだ「財政責任法」が下院を通過した。賛成は314票、反対は117票であった。賛成票の党派別の内訳は、共和党の149票と民主党の165票であった。反対票は共和党の71票、民主党の36票であった。票決前、共和党右派は激しい抵抗を示していたが、過半数の218票を大きく超える賛成票を得て、法案は可決された。共和党議員222人のうち149人が賛成に回った。民主党議員の46名が反対票を投じたのは意外であった。ちなみに共和党議員2名と民主党議員1名は棄権した。右派の共和党議員は修正案を提出したり、マッカーシー議長の解任動議を提出すると息巻いていたが、大きな混乱を招くことなく、「財政責任法」は与党野党の支持を得て“超党派”で可決された。
だが、まだ同法は議会で成立したわけではない。法案は上院に送付され、可決されなければならない。イエレン財務長官が財務省の資金が払底すると指摘した6月5日(月曜日)までに上院で同法を可決する必要がある。上院の議席は民主党51議席、共和党49議席である。上院共和党議員の中には、「いかなる手段を用いても法案成立を阻止する」と主張する議員もいる。また民主党リベラル派にもバイデン大統領が妥協したことに反対する議員もいる。ただ、デフォルトの危機を前にして、党派的利益を主張するのは難しい。どんなことがあっても、月曜日までに可決しなければならない。上院議員にとって多忙な週末になるだろう。
下院で法案が可決されたことを受け、マッカーシー議長はツイッターで「下院共和党が団結したことでバイデン大統領は私と交渉をせざるをえなくなった。今夜、財政責任法が成立したことは正しい方向に向かう重要な一歩である。次は上院が遅滞なく、同法を可決する番である」とツイッターで発信している。また、バイデン大統領も「今夜、下院は史上初のデフォルトを防ぎ、苦労して手に入れた、歴史的な経済回復を守るために極めて重要な一歩を踏み出した。私は、事態を打開する唯一の道は、両党の支持を得ることができる超党派の妥協であると信じてきた。この合意は、そのテストに合格した。私は、上院が速やかに同法を可決することを要求する。そうすれば、私は法案に署名することができる。我が国の経済は世界で最も力強い経済を構築し続けることができる」と、ツイッターで発信した。
共和党右派強硬派の戦略は失敗に終わった
昨年11月の中間選挙で下院の過半数を獲得した共和党右派勢力は、選挙直後から債務上限問題を“武器”として使い、バイデン政権に歳出削減を迫ると公言していた。2023年1月にイエレン長官がマッカーシー議長に債務上限の引き上げを要請する書簡を送り、債務上限の引き上げが実現しないとアメリカはデフォルト(債務不履行)に陥ると警告した。バイデン大統領は、債務上限引上げ問題は下院が処理すべき問題であり、政府の問題ではないと共和党との交渉を拒否し続けた。メディアは「デフォルト問題」を取り上げ、センセーショナルな報道を繰り返した。市場も大きく反応した。不安が高まる中、5月22日、広島で開催されたG7サミットに出席したバイデン大統領は、サミット後の外交日程をすべてキャンセルし、急遽ワシントンに戻り、22日にマッカーシー議長と会談を行い、「合意」に達した。バイデン大統領は会談後、「原則的に合意した」、「私は楽観的だ」と、会談の印象を語っていた。だが、多くの関係者は「まだ両者の間には大きなギャップがある」と慎重な姿勢を示していた。
週末、両者のスタッフの間で調整が行われ、合意の内容を織り込んだ「財政責任法」が作成された。議会はメモリアル・デー(戦没者記念日)の休会に入っており、多くの議員がワシントンを離れ、選挙区に戻っていた。その間隙を縫って、バイデン大統領とマッカーシー議長の交渉が行われ、一気に法案が作成された。多くの議員は合意の内容や法案の詳細を検討する余裕も与えられなかった。バイデン大統領とマッカーシー議長の陽動作戦の勝利であった。
共和党強硬派は、下院総会で採決日程を決める権限がある下院規制委員会で法案の票決の阻止を図ったり、下院総会で修正案提出したり、議長解任動議の提出など法案成立を阻止すると主張していた。29日、バイデン大統領とマッカーシー議長の交渉に関わり、法案作成者の一人である共和党のパトリック・ヘンリー議員が下院に「財政責任法案」を提出した。規制委員会で強硬派議員の反対にも拘わらず、法案は委員会で承認され、総会での採決に掛けられた。ちなみにアメリカ議会は議員立法が原則で、政府に法案提出権はない。すべての法案は議員が提出しなければならない。
“最大の勝者”はマッカーシー議長である
下院での「財政責任法」の成立は、マッカーシー議長の“大きな勝利”を意味している。共和党は下院の過半数を占めているが、政府と上院は民主党が支配している。共和党は党の政策を実現するのには極めて困難な状況に置かれている。下院で共和党の法案を通しても、上院で否決される可能性が強い。バイデン政権も共和党と妥協する姿勢を見せていない。共和党強硬派は、デフォルトも辞さないほど強硬姿勢を取り続けていた。ただ、もしデフォルトが現実のものになれば、真っ先にマッカーシー議長は責任を問われることになる。
バイデン大統領は交渉を行う気はなかった。3月28日、バイデン大統領は、マッカーシー議長から会談の要請があったが拒否している。マッカーシー議長にとって、状況を打開するためには、バイデン大統領を交渉の席につかせる必要があった。ヘンリー議員は「ホワイトハウスはマッカーシー議長を過少評価していた」と、交渉に関わった印象を語っている。共和党のギャレット・グレーブス議員も「ホワイトハウスは、この問題でマッカーシー議長を読み違えていた。議長は私が一緒に働いた中で最高の戦略家である」と語っている。バイデン大統領に交渉に応じさせ、原則的に合意にこぎつけたのは、マッカーシー議長の最大の勝利であった。デフォルトという差し迫った危機的状況を前に、両者は歩み寄らざるを得なかった。会談の後、バイデン大統領は「マッカーシー議長は信頼を持って私と交渉した。彼は約束を守る人物だ。議長は自分のできる子をと言った。そしてできることを行った」と、マッカーシー議長に対する尊敬の気持ちを語っている。マッカーシー議長がバイデン大統領の信頼を勝ち得たことが、合意につながったといえる。
もう一つのマッカーシー議長の勝利は、149名の共和党議員が「財政責任法」に賛成票を投じたことだ。この数は想定を上回った。法案成立には民主党の支持が不可欠である。同時に何人の共和党銀が賛成するが、法案の命運を決めることになる。もし共和党議員の過半数が反対し、民主党議員の支援を得て、法案が成立する事態になれば、共和党内でのマッカーシー議長に対する批判は強まっただろう。党内でのマッカーシー議長の指導力が失われることになる。結果的に、同議長は穏健派の共和党議員の動員に成功し、過半数以上の共和党議員が賛成に回り、議長は党内の基盤を強化したともいえる。
下院総会で投票が行われる前日の31日、マッカーシー議長は「私は歴史を作りたかった。今までのどの議会もできなかったようなことをしたかった。文字通り、私たちは船の方向を転換させようとしている。(財政責任法によって)初めて歳出が前年の額を下回ることになる」と、自分が成し遂げた成果を誇った。共和党のアングスト・プフルーガー下院議員は「マッカーシー議長は決意を示した」と語っている。マッカーシー議長は、院内総務の職にあった2021年1月にトランプ前大統領を批判したことがあった。それがトランプ前大統領の逆鱗に触れ、恐れをなしたマッカーシー院内総務は謝罪するためにフロリダのトランプ私邸を訪ねたことがあった。そうした軟弱さは、今回、すっかり消え、戦略家としての逞しさが垣間見られた。共和党のケビン・クラマー上院議員は「マッカーシー議長を批判する人は間違っている。彼は得られるもの全てを手に入れた。それは驚くべき成果だ」と語っている。またパトリック・マクヘンリー議員は「マッカーシー議長の党内の地位は以前より強くなった」と高い評価を与えている。
保守派議員はマッカーシー議長の「解任動議」を提出する構え
ただ同時に、これからマッカーシー議長は”代価”も払わなければならなくなるだろう。議長の共和党内での地盤は決して強いとは言えない。共和党強硬派派は「マッカーシー議長はホワイトハウスに踊らされた」と、議長批判を展開している。財政均衡を主張する共和党右派グループの「フリーダム・コーカス」のリーダーであるチップ・ロイ議員は「マッカーシー議長に対する信頼を失った」と公然と議長批判をツイッターで呟いている。
議長選挙の際、「フリーダム・コーカス」のメンバーが反対したため、マッカーシー院内総務(当時)は選挙で過半数を獲得できず、選挙は15回繰り返された。最終的にマッカーシー院内総務は強硬派に大幅な譲歩をすることで議長に選出された経緯がある。
「フリーダム・コーカス」に属すダン・ビショップ議員は「保守派の議員は法案に十分な歳出削減が盛り込まれていないことで怒っている。マッカーシー議長が共和党の反抗に直面する可能性は高まっている。一人の議員でも議長解任動議を提出できる」と語たり、今後、議長解任動議が提出される可能性を示唆している。同議員は30日にマッカーシー議長の解任動議を提出すべきだと公然と主張した。ケン・バック議員も31日に「マッカーシー議長は解任動議が提出されることを心配すべきである」と語っている。共和党議員の71名が法案に反対した事実も無視できない。「フリーダム・コーカス」のアンデフィ・ビッグス議員は「今やマッカーシー議長の同盟者は民主党である」と、冷ややかな発言をしている。
こうした共和党保守派の動きに対して、マッカーシー議長は「議長職を失うことは恐れていない」と、保守強硬派議員の“脅し”を退けている。同じ保守強硬派議員のなかにもマッカーシー議長容認派はいる。「フリーダム・コーカス」の設立者の一人であるジム・ジョーダン議員は「議長解任動議は酷いアイデアである」と、マッカーシー議長の容認に回っている。また、共和党議員の67%以上の149人の議員が法案に賛成したことで、保守強硬派は議長解任動議が出しにくくなったといえる。
ただ、実際に議長解任動議が提出されれば、マッカーシー議長の党内における地位が揺らぐ可能性もある。過去に議長解任動議が出されたことがある。1997年にニュート・ギングリッチ議長に対する解任動議が提出されたが、否決されている。だが、解任動議でギングリッチ議長は党内の支持基盤を失った。さらに2015年にジョン・ベイナー議長に対する解任動議が出されている。動議は否決されたが、その結果、同議長は党内の指導力を失い、数カ月後に議長を辞任し、政界から引退している。今回の“騒動”によって、共和党内の力関係が変わる可能性がある。そうした事態が繰り返される可能性は否定できない。
●NY株、反発=米利上げ観測が後退 6/2
1日のニューヨーク株式相場は、弱い内容の米経済統計を受け、米利上げ観測が後退したことで反発した。優良株で構成するダウ工業株30種平均は前日終値比153.30ドル高の3万3061.57ドルで終了。ハイテク株中心のナスダック総合指数は165.69ポイント高の1万3100.98で引けた。
この日発表された米サプライ管理協会(ISM)の製造業景況指数は市場予想を下回った。このため景気減速が意識され、米連邦準備制度理事会(FRB)が今月の金融政策会合で利上げ決定を見送るとの見方が台頭。買いが優勢となり、取引序盤の下げから切り返した。 
●FRB、6月据え置き後に7月利上げか 米市場想定 雇用統計受け 6/2
米労働省が2日に発表した5月の雇用統計で非農業部門雇用者数が急増したものの、賃金の伸びが鈍化したことを受け、市場では連邦準備理事会(FRB)が6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を据え置く一方、7月利上げの可能性を残すとみられている。
5月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は33万9000人増と市場予想の19万人増を大幅に上回った。ただ時間当たり平均賃金は前月比0.3%上昇、前年同月比4.3%上昇し、ともに前月から伸びが鈍化。4月は前月比0.4%上昇、前年同月比4.4%上昇だった。
これを受け、市場は現在、FRBが6月13─14日のFOMCで11回連続の利上げを決定する確率を3分の1程度とみている。
ボケ・キャピタル・パートナーズのキム・フォレスト最高投資責任者(CIO)は「FRBは(利上げを)一時停止すべきと考える人々にとって、この低調な賃金インフレの数値は朗報だ」と述べた。
一方、堅調な雇用者数の伸びを背景にFRBが7月に0.25%ポイントの利上げを決定するとの見方が維持された。
7月利上げ確率は据え置き確率のおよそ2倍となっているが、7月会合までにさらに多くのデータが得られれば、この確率が変動する可能性がある。
●円相場 値上がり FRBが利上げ一時停止するとの見方広がる 6/2
2日の東京外国為替市場、FRBが今月の会合で利上げを一時停止するとの見方が広がりドルを売って円を買う動きが出て、円相場は値上がりしました。
午後5時時点の円相場は、1日と比べて、92銭円高ドル安の1ドル=138円99銭から139円2銭でした。
一方、ユーロに対しては、1日と比べて、29銭円安ユーロ高の1ユーロ=149円58銭から62銭でした。
ユーロはドルに対して、1ユーロ=1.0761から62ドルでした。
市場関係者は「アメリカのFRB=連邦準備制度理事会の幹部の発言などを受けて、FRBが今月の会合で利上げを一時停止するとの見方が広がった。ただ、日本時間の今夜発表されるアメリカの雇用統計の結果を見極めたいとして積極的な取り引きを控える投資家も多かった」と話しています。
●NYダウ一時700ドル超高 デフォルト回避や雇用統計受け 6/2
2日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続伸して始まり、前日比で一時700ドル超高となる場面があった。米上院は1日、政府の債務上限の効力を停止する財政責任法案を可決した。米国のデフォルト(債務不履行)が回避される見通しとなり、好感した買いが先行している。
法案は今後、バイデン米大統領の署名を経て成立する。デフォルトが起きた場合の金融市場の波乱に備え、株式を売っていた投資家の買い戻しが入っている。
朝発表の5月の米雇用統計で、非農業部門の雇用者数は前月比33万9000人増だった。市場予想(19万人増)を大幅に上回った。一方、平均時給の上昇率は前年同月比4.3%と市場予想(4.4%)に届かなかった。賃金インフレへの警戒を過度に高めるような結果になっておらず、株式相場の支えとなっている面もある。
ダウ平均の構成銘柄では、スポーツ用品のナイキ、建機のキャタピラーや化学のダウが高い。一方、通信のベライゾン・コミュニケーションズ、医療保険のユナイテッドヘルス・グループが下げている。
ハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数は続伸して始まった。

 

●アメリカ債務上限停止法案 3日に大統領が署名、デフォルト回避へ 6/3
米連邦政府の債務上限問題で、バイデン米大統領は2日、ホワイトハウスで演説し、債務上限の効力を一時的に停止する法案に3日に署名すると述べた。法案は1日までに議会上下院で可決しており、署名を受けて成立する。懸念されていた米史上初のデフォルト(債務不履行)は回避される。
バイデン氏は野党共和党との合意によって「経済危機と経済破綻を免れた」と強調した。デフォルトに陥れば日本を含む世界経済に打撃を与えるだけに、金融市場には安心感が広がった。2日のニューヨーク株式市場では、ダウ工業株30種平均が約半年ぶりの上げ幅となり、前日比701・19ドル高の3万3762・76ドルで取引を終えた。
バイデン氏はデフォルトに陥れば「これほど無責任で、壊滅的なことはない」と強調。「誰もが望むすべてを手にした訳ではない」として、政権側と共和党が互いに譲歩したことをにじませた。
今後については「まだやるべきことがある」とし、富裕層などへの課税強化に取り組む考えを示した。
●米国のオフィス空室率がQ1に過去最高、さらなる悪化も  6/3
ニューヨーク州からカリフォルニア州の都心部といえば、青空をコントラストにそびえる超高層ビルが印象的ですよね。
しかし足元、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がリモートワークは「道徳的に間違い」、米運用会社大手ブラックロックが社員に対し少なくとも週4回の出社を要請するなかでも、オフィス空室率はskyrocketingの言葉よろしく急上昇中なのです。
商業不動産会情報会社コースターによれば、全米1〜3月期のオフィス空室率は12.9%と、6期連続で上昇した結果、データを公表した2003年以降で最悪でした。コロナ直前でありリーマン・ショック後の最低である2019年Q2は9.4%だったものの、世界が一変したかのようです。また、利用可能率(availability rate:空室と現在賃貸中のスペースのうち、更新されていない、あるいはサブリースのために提示されているスペースを合計したもの)も16.4%と過去最高を記録。企業の普及に合わせ、不要なスペースの契約解除に動いている様子が伺えます。
調査元によってオフィス空室率の数字は異なるものの、ニューヨーク州NY、イリノイ州のシカゴは23年Q1に過去最悪を更新するほか、テキサス州のダラスやヒューストンも高止まりが続きます。
   チャート:全米の都市別では、サンフランシスコ(SF)を中心に軒並み上昇
テキサス州ヒューストンやダラスを始め南部でオフィス空室率の上昇が目立つ背景としては、コンピュータ大手HPEやソフトウエア大手セールスフォース、EV大手テスラが本社をテキサス州に移転するなか、低金利もあって建設ラッシュを迎えたためです。その他、カリフォルニア州の場合は特殊要因も重なります。ディスカウント小売大手ターゲットが決算発表後のカンファレンス・コールで窃盗や組織犯罪の影響で5億ドル相当の減益を予想したように、犯罪の増加を受けて企業も従業員も出社に消極的なのですよ。
カリフォルニア州の特殊要因はさておき、オフィス空室率が上昇する主因はコロナ禍後に普及したリモートワークにあります。ピュー・リサーチ・センターによる調査によれば、テレワークが可能な労働者のうち、2023年2月時点で完全にリモートワークの割合は35%と、2022年1月の43%、2020年10月から低下したとはいえ、コロナ禍前を7%上回ります。何より、出社とリモートワークのハイブリッドを選択する割合は41%と、2022年4月の35%を上回りました。
   チャート:リモートワーク、コロナ禍を経て米国人の間で浸透
プライベート・エクイティ大手KKRのパートナーでロジャー・モラレス商業不動産部門ヘッドは、大手法律事務所グッドウィンとコロンビア大学ビジネススクール主催の2023年不動産資本市場会議で「米国はオフィス部門の大きな苦境サイクルに直面するだろう」と予想していました。
また、ムーディーズ・アナリティクスが2023年Q1に商業不動産価格が2011年以降で初めて下落した指摘した上で、マーク・ザンディ首席エコノミストは一段安に警告、5年先にピークから10%の下落を予想します。
そして、6月1日には米銀大手ウェルズ・ファーゴの最高経営責任者(CEO)が、オフィス融資で「損失の発生を見込む」と発言しました。
商業不動産は今年と来年に借り換えラッシュを迎えるだけに、オフィス空室率の上昇は決して歓迎すべきニュースではありません。足元で金融不安が後退しても、地銀のショートが高水準であるのは、米商業不動産ローンのうち中堅・中小銀行が約7割を占めているためではないでしょうか。
●エラリアン氏、FRBのメッセージ伝達には問題−利上げ休止示唆で 6/3
米金融当局は5月の米雇用統計を確認する前に、6月の利上げ休止を投資家に想定させるべきではなかったと、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストでアリアンツの首席経済顧問を務めるモハメド・エラリアン氏が指摘した。
エラリアン氏はブルームバーグテレビジョンで、「この統計と次回の消費者物価指数(CPI)公表に先だって、米金融当局はなぜ利上げ休止の方向にあれほど強く市場を誘導したのか、人々は困惑するだろう」と話した。5月の雇用者数が市場予想を上回ったことを受けた発言。
5月の米雇用者数は前月比33万9000人増加。4月分は上方修正された。一方、失業率は3.7%に上昇し、平均時給は鈍化した。雇用者数の伸びが上振れしたのはこれで14カ月連続で、米景気は引き続き雇用創出の主要なエンジンであり、良いニュースだと、エラリアン氏は付け加えた。
「単月のデータが大きな違いを生むと考えるのは錯覚だと思うが、当局がそのような枠組みを作ってしまった。残念だ」とも同氏は話した。
その上で、「米当局が2%のインフレ目標に関して真剣であるならば、データを踏まえると、利上げを実施するべきだ」と指摘。「当局がデータ次第の姿勢をとっており、そのデータが予想を上回っているためだ」と続けた。
●デフォルト回避も「弱含み」据え置き 米国債格付け見通し―フィッチ 6/3
格付け大手フィッチ・レーティングスは2日、米国債の格付け見通しについて、今後の格下げの可能性を示唆する「ネガティブ(弱含み)」に据え置くと発表した。米上下両院が政府の債務上限の効力を停止する法案を既に可決し、デフォルト(債務不履行)回避は確実な情勢だが、フィッチは中期の財政見通しなどを考慮する必要があると判断した。
●ロンドン株式市場=続伸、米デフォルト回避で買い 6/3
ロンドン株式市場は続伸して取引を終えた。米連邦政府の債務上限に関する法案が議会で可決され、米国債のデフォルト(債務不履行)が回避されたことで投資家のリスク選好度が高まった。
FTSE350種株価指数の主要業種は全てプラスで引けた。
米議会上院が1日、31兆4000億ドルの法定債務上限を事実上引き上げる法案を可決したことを受けて、国際企業が多くを占めるFTSE100種指数も上昇。米連邦準備理事会(FRB)による政策金利据え置きへの期待感も相場を押し上げた。
中型株で構成するFTSE250種指数は1.71%上昇した。動物用医薬品のデクラ・ファーマシューティカルズが7.6%と大幅高。投資会社EQTによる株式44億6000万ポンド(56億2000万ドル)相当の買収で合意したことから買いが広がった。
コモディティー(商品)価格の反発を背景にFTSE350種石油・ガス株指数、鉱業株指数はそれぞれ2.19%、4.21%上昇した。
その他の個別銘柄では、マーケティングソフトウェア会社のペラトロが19.2%と急上昇。中東での契約獲得が好感された。
週間では、イングランド銀行(英中央銀行)による一段の金融引き締めが企業収益を圧迫するとの懸念や、アナリストがスタグフレーションのリスクを指摘したことを背景にFTSE100種指数は0.26%安と2週連続で下落。一方、FTSE250種指数は1.89%上昇し た。 
●米国デフォルト回避に市場安堵 銀行預金減には警戒 6/3
米政府債務の上限を停止する法案が議会を通過して債務不履行(デフォルト)が土壇場で回避され、金融市場では安堵が広がる。不安心理を映す指数は約3年4カ月ぶりの水準に低下した。政府の資金繰りで綱渡りが続いた余波が今後、銀行システムへの負荷を高めかねないとの警戒感もくすぶる。
2日のダウ工業株30種平均は前日比701ドル高の3万3762ドルとなり、5月1日以来、約1カ月ぶりの高値を付けた。同日はイエレン財務長官が「6月初旬にも政府資金繰りが行き詰まる」との書簡を議会指導部に送り、デフォルトの可能性を市場が意識し始めた日に当たる。
合意形成を危ぶむ見方から5月下旬に株安が進んだ場面もあったが、バイデン大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長の合意や上下両院の法案可決を経て、株を買い戻す動きが優勢となった。
「恐怖指数」との異名を持つ米国株の変動性指数(VIX)は6月2日に14.6に低下し、新型コロナウイルスの感染が広がる直前の2020年2月以来の低水準を付けた。
デフォルトという最悪の事態は避けられたが、金融市場では早くも別の問題を指摘する声が相次ぐ。今後は、底をつきかけた政府資金を穴埋めするため短期債の大量発行が確実視されている。
個人投資家などが短期債投資に動けば銀行預金を取り崩すことになり「銀行システムから資金を吸い出しかねない」(モルガン・スタンレー)。3月以降に相次いだ米地銀破綻の直接の原因は預金の取り付けだった。足元では預金減少圧力は和らいでいるが、短期債の大量発行に伴い再燃する懸念が指摘される。
格付け会社の動向もリスク要因だ。米ブルームバーグ通信は2日、大手格付け会社フィッチ・レーティングスが中期の米財政予測や今回の混乱がもたらした影響の分析が終わるまで、米国の格付け見通し「ネガティブ」を改めない見通しだと伝えた。
フィッチは合意前の5月24日、格付け見通しを「ネガティブ」とし、最上位とする現在の格付けを引き下げる可能性があると警告していた。
●NY株続伸、701ドル高 米国債のデフォルト回避で 6/3
2日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続伸し、前日比701・19ドル高の3万3762・76ドルで取引を終えた。終値の上げ幅としては昨年11月30日以来、約半年ぶりの大きさ。米連邦政府の債務上限問題で懸念された米国債のデフォルト(債務不履行)が回避されたことから投資家の警戒感が後退し、ほぼ全面高となった。
朝方発表された5月の米雇用統計で失業率が悪化したことを背景に、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ停止を期待した買いも入った。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も続伸し、139・79ポイント高の1万3240・77。
個別銘柄では、化学・事務用品の3M(スリーエム)や建設機械のキャタピラーの上昇が目立った。通信のベライゾン・コミュニケーションズは売られた。

 

●バイデン米大統領、債務上限停止法に署名 デフォルト回避 6/4
バイデン米大統領は3日、上下両院が可決した債務上限停止法案に署名し、デフォルト(債務不履行)を回避した。
同法は法定債務上限(31兆4000億ドル)を2025年1月1日まで停止し、連邦政府が借り入れをできるようにする内容。財務省は法案が可決されなければ5日に資金繰りが行き詰まると警告していた。
バイデン氏は法案署名に関する声明で、マッカーシー下院議長など両院の与野党指導者の名を挙げて「パートナーシップに感謝する」と述べた。
法案は共和党が多数派の下院で314対117で、民主党が多数派の上院では63対36の賛成多数で可決されていた。
格付け会社フィッチは2日、デフォルトは回避されたものの、米国の「AAA」格付けに対する「ネガティブウォッチ」を維持すると明らかにした。
●米債務上限の停止法が成立 大統領が署名、25年1月まで 6/4
バイデン米大統領は3日、連邦政府の債務上限の効力を2025年1月まで停止する法案に署名し、同法が成立した。ホワイトハウスが発表した。今月5日にも米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る危機が迫っていたが、直前で回避された。
バイデン氏はツイッターで、自身が署名する様子の動画を公開し「史上初のデフォルトを防ぐ超党派の法案に署名した」と強調。「世界最強の経済をつくるための仕事を続ける」と訴えた。
同法は、バイデン氏と野党共和党のマッカーシー下院議長との合意に基づく内容。共和党が求めた国防費以外の歳出の抑制と引き換えに、25年1月まで債務上限の効力を停止し、新たな借り入れを可能にする。今年1月に現在の上限である約31兆4千億ドル(約4400兆円)に達していた。
上下両院は今月1日までに、与野党の賛成多数で法案を可決。バイデン氏は2日の演説で「経済危機と経済破綻を免れた」と述べていた。
米議会予算局(CBO)によると、今後10年で財政赤字が総額1兆5千億ドル減少する。
●相次ぐアメリカの銀行破綻 : SBI新生銀行の未来は? 6/4
延暦19(西暦800)年、富士山が大噴火を起こしました。これによって足柄路(神奈川県―静岡県)は埋没してしまい、代わって箱根路が新たに開通したわけです。「災害は忘れたころにやってくる」とよく言います。実は、このところロシアのシベリア地方、インドネシアやメキシコでも火山の噴火が相次いでおり、環太平洋火山帯の動きが懸念されるところです。
朝鮮半島の白頭山は北朝鮮で聖地としてあがめられていますが、ここでも群発地震が起きており、噴火の予兆として緊張が高まる一方です。白頭山の場合は、北朝鮮による地下核実験の影響が指摘されています。そのため、日本政府は気象衛星を飛ばし、24時間体制で監視を続けていますが、不安材料はなくなりません。
ところで、災害といえば自然のものではありませんが、アメリカで大手銀行の破綻が相次ぐようになりました。シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行、シルバーゲート銀行と破綻の連鎖です。これらは日本では馴染みが薄いかも知れませんが、総資産はそれぞれシリコンバレー銀行が2,090億ドル、シグネチャー銀行が1,103億ドルと、日本でいえば大手地銀に匹敵します。
「アメリカがくしゃみをすれば、日本は風邪をひく」とは、よく聞かれる日米経済の依存関係を表す表現です。アメリカでは4,800行ある銀行のうち2,315行が債務超過に直面しているとのこと。スタンフォード大学とコロンビア大学の分析によれば、その内186行はすでに倒産のリスクに直面している模様。日本への影響は避けられないでしょう。
銀行 イメージ SBIグループの北尾吉孝社長は地方の銀行を取り巻く厳しい経営環境に対して、「資本の増強、徹底したコスト削減、収益源の多様化」を通じて、「地域経済そして日本経済全体を一層の高みに押し上げる」と豪語。はたして、その見通しや経営戦略に対する過剰な自信が落とし穴となることはないでしょうか。
5月15日、SBI地銀ホールディングスはSBI新生銀行グループの株式に対する公開買い付けを発表しました。期間はその日から6月23日までの30営業日です。買い付け価格は1株2,800円。最大5,500万株を買い付ける予定とされています。公開買い付け後の公開買い付け者の株式所有割合は最大で77%強になると想定。
北尾社長の説明によれば、公開買い付けとその後の「スクイーズ・アウト(株式併合)」によって、SBI新生銀行グループの株式を非公開化するとのこと。株式併合が実現すれば、SBI新生銀行グループの株主はSBI地銀HDと政府系株主(預金保険機構と整理回収機構)のみとなり、SBI新生銀行グループの株式は上場廃止になります。
要は、同グループの非公開化によって、これまでよりも機動的かつ柔軟な意思決定やSBIHDグループとのさらなる一体化を図り、「公的資金の返済に向けた道筋を示せることも可能になる」とのこと。
また、買い付け価格である1株2,800円は少数株主への利益を確保できるように配慮したものであることも強調。適切なプレミアムを付した価格なので、「どうぞ売ってください。儲けてください」というわけです。
北尾社長は1951年生まれ、72歳です。野村証券を経て、ソフトバンクに入社。財務部門を掌握し、99年に現SBIHDの源流となるソフトバンク・インベストメントを設立し、社長に就任。SBIグループは2024年、創立25周年を迎えます。55人でスタートした会社ですが、今では社員数は2万人に達する勢いです。
72歳という年齢は「リタイアしてもおかしくないのでは」と、問われることも多いようですが、本人は生涯現役を目指しているとのこと。「体力、気力、知力とも問題ない。今のところ、健康面にはまったく不安がない。退くようなことは微塵も考えていない。私以上に金融業に対する知見や経験をもっている人はいないだろう。だから、やれるところまでやる」と語るなど意欲的です。

住む世界は違っていますが、ノーベル平和賞も受賞したヘンリー・キッシンジャー博士はさる5月27日に100歳の誕生日を迎え、ニューヨークで盛大な祝賀会が開かれたばかりです。ドイツ生まれで、ナチスの迫害を逃れてアメリカに移住し、アメリカ国籍を取得し、歴代の大統領の外交指南役として活躍。あまり知られていませんが、ホワイトハウスや政府とのコネを生かしたコンサル・ビジネスにおいては、誰も真似できない「キッシンジャー王国」を築いています。
ニューヨークでも活躍したことのある北尾社長にとって、「自信をもって、わが道を進み、人知れず大富豪の仲間入りする」というキッシンジャー流の生き方は、大いに刺激材料となっているに違いありません。北尾社長の口癖は「強いリーダーシップが企業を成長させ、持続させることになる。トップの志は利己的なものを排し、公に仕える気概を大切にすること。他人の批判など気にしている暇はない」。
そのうえで、「正しい倫理観」を標ぼうし、「儲かるから事業を行うわけではない。それをすることが社会正義に照らして正しいと自信をもって取り組めるかが鍵だ」との自説を繰り返しています。その延長線上で、新たな技術への関心を絶やさず、インターネット、バイオテクノロジー、AIなどを活用した新産業の創造、育成にも熱心に向き合っているようです。
とはいえ、人間である限り、不老不死はもとより万能ということはありないこと。最近の国際情勢の不安定要因となっている「ロシアによるウクライナ侵攻」についても、北尾社長は大胆な発言を繰り出していますが、その現状認識には疑問符が付くものも多々あります。
たとえば、SBIグループはロシア国内に「SBIBank」と称する商業銀行を保有しています。そこで、ロシアによるウクライナ侵攻の影響について問われると、「小さな銀行なので影響は極めて軽微だ」と応じています。
また、国際銀行間の送金・決済システム「SWIFT」をめぐっては、仮想通貨リップルの運営に参画したときに「そもそもSWIFTに対する挑戦だった」とのエピソードを披露し、ロシアがSWIFTから排除されたことは問題視せず、「ロシアのみならず、中国へのけん制にもなる」との見方を披露。
要は、欧米諸国がロシアや中国、はたまた北朝鮮に制裁を強化することがSBIにとってはプラス効果をもたらすと受け止めているわけです。そのうえで、プーチン大統領の人となりについても、突っ込んだ分析を加えています。「プーチンはどうかしちゃったのかな。的確な判断ができていないのではないか。心配になる。聞くところによると、これまでは自閉症やアスペルガー障害を患っていたようだが、このところはパーキンソン病になったらしい。本当のところは不明だが、いきなり戦争を仕掛けるとは尋常な沙汰とは思えない。このままでは、ロシア国内でも体制が崩壊する恐れがあるだろう」。
これらはすべてアメリカ政府のプーチン評の受け売りとしか思えません。しかも、北尾氏は「ロシアが日本に北方領土4島を返還することはあり得ない。2島だって返ってこないだろう。日本に敵対するロシアに投資するのは危険極まりない。体制の転換を待つのがベストだろう」とも自説を強調。
その一方で、北尾社長はロシア圏にあるウズベキスタンへの積極的な投資を展開しています。国営企業の民営化に舵を切ったウズベキスタンの長期計画を歓迎し、26年までに同国の金融市場に参入し、ウズベキスタン国営銀行や主要な民間金融機関への投資や買収を熱心に仕掛けているようです。すでに1,000社を超える国営企業が売りに出ており、SBIグループは選り取り見取りで触手を伸ばしています。
北尾社長自らがウズベキスタンに乗り込み、情報、金融、医療分野のスタートアップ企業の選別に凄腕を発揮している模様。「ロシア国内の体制転換を待つ」と言いながら、実は、周辺国での有望株を見定め、本丸のロシア参入の機会を虎視眈々とうかがっていることは間違いありません。

さて、借入金の上限引き上げ問題で、右往左往するアメリカですが、何とか与野党の合意ができつつあり、最悪のデフォルトは回避できそうですが、安心はできません。思い起こせば、2008年に証券大手のリーマン・ブラザーズが経営破綻し、世界的な金融危機が発生しました。「その再来になりかねない」と新たな懸念が世界に広がっています。
当然でしょうが、事態を重視した米財務省と連邦準備制度理事会(FRB)は「すべての預金を保護する」と発表しました。バイデン大統領も緊急声明を発表し「アメリカの金融システムは盤石だ」と強調。しかし、盤石なら連鎖倒産など起きないはず。背景にあるのはFRBの急速な利上げと言われています。市場金利が急上昇し、債権価格が急落したことは否めません。
実は、シリコンバレー銀行もシグネチャー銀行も融資先の大半は新興IT企業です。しかも、その大部分を占めているのは中国企業に他なりません。そのためか、中国系のメディアによれば、「中国のスタートアップ企業やベンチャーキャピタルの間ではパニックが起きている」との報道が相次いでいます。
言い換えれば、今回破綻したアメリカの銀行は米中間の金融橋渡しの役目を担っていたわけです。FRBが「預金の保護」という措置に踏み切ったのも、バイデン大統領が3期目に突入した中国の習近平国家主席との首脳会談に意欲を見せていることが影響したと思われます。
一方、水面下では中国との利害関係をめぐって民主党と共和党の間でせめぎ合いが続いています。バイデン大統領とすれば、アメリカ進出を加速させる中国のIT企業を救済するための措置を取らざるを得なかったのかも知れませんが、共和党からすれば「バイデン一家は中国マネーに毒されている」との立場を補強する新たな攻撃材料を手にしたことにもなりそうです。
富士山の地下のマグマと同じように、アメリカ政界の深層部でも「中国マグマ」が火を噴く可能性が高まっています。先に広島で開催されたG7サミットにも、バイデン大統領は対面での参加がぎりぎりまで危ぶまれていたものです。
バイデン政権は上限を外さなければ、アメリカは債務不履行(デフォルト)に陥りかねないと危機感を露にしました。他方、共和党は歳出削減を優先すべきで、現状のような無制限の借り入れを認めてしまえば、アメリカ経済は破綻し、世界から信用されなくなる、との立場です。
もし「デフォルト」となれば、信用不安が巻き起こり、アメリカの国債やドルの価値が失われることを意味します。そのため、世界の投資家の間では、ドルを手放し、金や銀、あるいはレアメタルや不動産など現物への乗り換えを加速する動きが見られようになってきました。北尾社長がロシアにもウズベキスタンにも目を光らせている理由も、そこにあります。何しろ、ロシアも中央アジア諸国もエネルギー資源大国ですから。
もちろん、アメリカがただちに国家破綻するわけではありませんが、アメリカの金融政策に不信感や不安感が広がり始めていることは間違いありません。アメリカの表向きの財政赤字は32兆ドルと言われていますが、実際には200兆ドルを突破している模様です。
連邦議会予算局の見通しでは、40年までに税収の100%が高齢者向けの社会福祉に向けられることになるとのこと。ということは、40年までにアメリカは国家破綻という危機的状況に直面するということに他なりません。
万が一、債務不履行に陥れば、アメリカ国内では連邦政府職員の給与が払えなくなり、福祉手当なども支払いがストップします。長期的にはアメリカ経済は景気後退の局面に陥り、その影響で失業率が上昇し、治安の悪化も加速するはずです。アメリカの天下は終わりを迎えるはず。
連銀は今後も金融引き締め策を取るでしょうが、この先にも継続しそうな財政ピンチを回避する方策が財務省保有の金の評価額を現在の1オンス42ドルから実勢価格の2,000ドルに変更することにあるとの見方が急浮上してきました。いずれにせよ、金価格が上昇する流れはまだまだ続くと思われます。北尾社長もそうした「ポスト・ドル時代」を見据え、「金やレアメタルの裏付けのあるデジタル通貨時代」の勝者を目指しているに違いありません。
そんななか、5月19日に中国の山東省で同国最大規模の金の鉱山が発見されたとの報道がありました。中国の古典をこよなく愛する北尾社長ですが、実は中国の公的機関である「中国投資協会」の戦略投資高級顧問に就任しています。北尾社長が次に姿を見せるのは山東省かも知れません。
●学費ローン延滞大量発生でアメリカは金融危機から体制崩壊の危機へ  6/4
発端は連邦政府債務の上限枠をめぐるカラ騒ぎ
アメリカ連邦政府の総債務が、連邦議会で設定した現在の上限枠を突破しそうになったため、民主党・共和党のあいだで上限枠の引き上げをめぐる駆け引きが展開されました。
上限枠が引き上げられないと、満期償還を予定している米国債の償還ができないといった事態が生じ、金融市場ばかりか世界経済に致命的とも言えるような打撃を与えることになります。
両党ともその責任を負わされるのはいやなので、いつも期限ぎりぎりに新しい上限枠を設定して一件落着となるので、正直なところ今回の上限枠をめぐる駆け引きについても、あまり注目していませんでした。
中には好調な消費の腰折れを招く項目も
ところが、今回成立した妥協案にはアメリカ国民の生活にかなり深刻な影響を及ぼす細目が含まれています。それがコロナ対策の一環としての「学費ローンを未納のままでいても延滞扱いにならない」という特例措置の廃止です。
この罰則無しで学費ローンの未納を続けられるという特例がどれほどアメリカ国民の消費行動を活性化したかは、ちょっと日本では想像もつかないほどです。
たとえば、次の2枚組グラフをご覧ください。
耐久財も非耐久財も、消費財の購入は第1次コロナショックの落ちこみ後、過去のトレンドをはるかに上回る勢いで推移しています。
最近は消費の主流を占めているサービスの消費は、ほぼ一貫して過去のトレンドを下回っていることと比べると、まさに対照的です。
もちろん理由の一端はロックダウンなどによって行きたいところに行けない時期が続いたので旅行や娯楽施設利用、スポーツ観戦、コンサートや劇場に足を運ぶことができなかったため、その代償としてモノの消費ばかりが増えたということでしょう。
ただ、それだけではなく、バイデン政権が3回にわたって実施した大型支援策の発動に呼応してトラック陸運の需要が伸びていることも明白なのです。
もちろん、世界中どこの政府でもやるように緊急支援とか補正予算とかはありとあらゆる項目まで数え入れて「盛った」数字になっていますが、それにしても表面上の金額だけでも3回合わせて10兆ドルを超える対策というのは、驚きです。
この10兆ドル余りの中で、いわゆる「真水」部分だけでも2兆3000億ドル、GDPの1割近くに達するという推計もあります。
その支援策がいかに大きな製商品の購入に結び付いたかを示すのが、陸運発注量指数です。この指数は1万が好調・不調の境界になっているのですが、コロナ対策が本格化した2020年夏ごろから2022年初頭まで約1年半にわたって長期水準の4〜6割増しが続いたのです。
なぜ需要はモノに集中したのか?
これほど物流を活性化させた需要がどこから来ているかと言うと、バイデン政権によるコロナ支援策がかなり意図的に、下に厚く上に薄い構造になっていることが挙げられます。
下段の表は直接給付や税制上の優遇措置が、さまざまな所得階層の世帯にとってどの程度所得を増加させたかを示しています。
アメリカ社会全体としては消費の主な対象がモノからサービスに移っていると言っても、中にはまだ欲しいものが買えないという所得水準の人たちも大勢います。
とくに世帯所得が2万1300ドル未満という層の人たちの所得が約3分の1増えれば、このチャンスに欲しいものを買っておこうということになるのは、自然な成り行きだと思います。
下に厚く上に薄い支援策自体は、もちろん逆に上に厚く下に薄いよりいいことです。ただ、終わりのある臨時措置ですから、そのあとどうなるかにも細心の気配りが必要だったと思います。
バイデン政権のコロナ支援策でいちばん無責任さが表れているのが、緊急事態が続いているかぎり「家賃を未納にしていても滞納扱いしないし、学費ローンの返済が遅れても延滞扱いしない」という項目を入れていたことです。
とくに、学費ローンについては「いずれは学費ローンの残債全部を棒引きにする(いわゆる徳政令です)。それまでの経過措置として未納のままであっても、延滞扱いにしないことにする」と主張していたことです。
同じように「未納でも延滞扱いにはしない」と言われても、家賃の場合はいずれ支払わなければならないことがわかっているので、あまりこの特例を利用して未納を続けた人はいませんでした。
ところが、学費ローンの場合は民主党が2020年大統領選の公約のひとつにもしていたため、「未納のままでいれば、そのうち徳政令で全額チャラになるから、あとからの返済負担が大きくなる心配はいらない」と考えた人が多かったようです。
その学費ローンの残高がどれほど大きな金額かを示しているのが、上段のグラフです。1兆7,600億ドルは、GDPの7%に相当します。そして、現在学費ローンを返済中の人が約4000万人いる中で、民主党を信じて未納を続けてしまった人が64%、約2500万人もいるのです。
これは、ほんとうに深刻な話です。下段の表でいちばん手厚く支援を受けている世帯所得2万1300ドル未満の人たちが受け取った金額が年間3590ドルに対して、学費ローンの月間返済額の平均値は約393ドル、1年未納を続ければ4700ドルも「浮く」ことになっていたからです。
民主党側の主張としては「一応政府系金融機関からの学費ローンに関しては、一定の限度額以下なら免除するという大統領令は出した。だが、保守派ばかりで固めた最高裁がこの大統領令を憲法判断で無効にしたら、それはもう最高裁の責任だ」ということなのでしょう。
実際、最高裁は現在この案件を検討中ですが、自分で何とか学費を工面して大学に通っている人、ローンを受けられずに大学入学を断念した人に対してあまりにも不公平なので、この大統領令は無効と判断する可能性が高いと言われています。
学費ローン未納=延滞扱いの再開が意味すること
さて、今回の妥協で学費ローン未納を延滞扱いしない特例は、6月末をもって打ち切ることが確定しました。ただ、60日間の周知徹底期間を置いて、8月末までは未納でも延滞にはならない、9月からは未納の延滞扱いが再開されることになります。
それがとくに学費ローンの残債がある世帯にどれほど深刻な影響を及ぼすかを暗示しているのが、次の2枚組グラフです。
2010年末から2020年初めまでの10年強にわたって、学費ローンは通常の30日以上延滞率でも、90日以上の重度延滞率でも断トツでした。それが、2020年半ばから魔法でもかけたように急落したのは、まさに未納を延滞扱いしないという特例措置のおかげです。
また、学費ローンに90日以上という重度の延滞が多かった理由のひとつが、学費ローンの性質上延滞から債務不履行に切り換えたとしても、差し押さえて競売で資金回収ができるような担保物件がないという事情も存在します。
学費ローンを未納にしたままでいた世帯の多くは、それまで学費ローンの返済負担がきついので、欲しくても買えなかったモノを買ってしまった可能性が高いのです。経過金利はいっさいなしでも、今年の9月から毎月返済を続けることができない世帯が続出するでしょう。
「2007〜09年の国際金融危機で急上昇したクレジットカード・ローンの延滞に懲りて、その後クレジットカード債務には慎重になった人が多い。学費ローンに関しても同じように経験に学んで今後慎重に行動するようになるだろう」とおっしゃる方もいます。
ですが、痛い経験から学んでクレジットカード・ローンの延滞率が下がったのとは違って、学費ローン延滞率の急低下は民主党バイデン政権による制度いじりの結果なのです。
この政権を支持するリベラル派の人たちは「なんとか制度を工夫すれば、本来返さなければいけないローン負担を帳消しにすることもできる」という身勝手な発想をする人が多いような気がします。
債務負担激増が凍て付く中古住宅市場と連動
間の悪いことに、アメリカの庶民は学費ローン返済負担が突然のしかかってくる頃に、これまでの住宅価格高騰による持家の評価益を実現して、下がる一方の実質賃金を補って生活水準を維持することも非常にむずかしくなっています。
アメリカ庶民の生活を支えてきた重要な柱のひとつが、持家のある世帯ではよほど不運な時期に買っていなければたいていの家には評価益が溜まっていて、買い替えによって評価益の一部を住宅以外の用途にも使えることでした。
低金利の時代には、たとえ残債のある持家でも他の家に住み替えるときに一度ローンを完済して低金利のローンを組めば、ローン返済負担も減らすことができていたのです。
しかし、住宅ローン金利が30年物固定金利だけではなく5年物変動金利でさえ急騰している現在、残債のある持ち家を売って新しい家のローンを起こすと、ほとんどの世帯にとってかなり返済額が上がってしまいます。
住宅ローン金利の急騰ぶりを示すのが、次の2段組グラフです。
下段のグラフでは、現在の30年固定金利ローンの負担は国際金融危機のさ中の2008年と同じ程度に見えます。しかし、実際には年収に対するローン負担が現在と同じ高さだったのは、ちょうど日本で地価・株価バブルがピークに差しかかっていた1988〜89年のことなのです。
そのあたりの事情を示しているのが、次の2枚組グラフの上段です。
年収の半分近くをローン返済負担に振り向けなければならないとしたら、自宅の売却代金と手持ちの資金だけで次に住む家を買える世帯以外は、ほとんど買い替えを考えなくなるでしょう。
それによって何が困るかと言うと、下段のグラフでおわかりのように中古住宅買い替え市場は非常に大きく、年間400〜700万戸が売買されているからです。アメリカの住宅市場は完全に中古買い替えが主で、毎年130〜180万戸にとどまる新築購入や持家建築は従なのです。
ギャラップ社が毎年行っている世論調査では、「住宅は今が買いどき」と考えている人の比率が、調査開始以来最低の21%に下がっています。
去年も「初めて30%台を割りこんだ」と話題になったのですが、今年はさらに下がってかろうじて20%台に踏みとどまっている感じです。しかも、「来年は住宅価格が上がる」と見ている人が56%もいて、住宅の買いどきが来るのはかなり先のことと考えているようです。
アメリカでは、中古住宅売買市場が冷えこむと、その派生需要のケースも多い住宅新築市場も低迷するようになります。
米株市場には住宅建築会社がほとんどなく、全国ネットの大手は皆無と言ってもいいほどなのであまり金融業界では話題になりませんが、地場産業としては住宅建築の存在は大きいのです。
さらに、銀行危機が不動産業界の中でも非常に重要なオフィスビル、大型小売施設開発に支障をきたす形勢になっています。
オフィス小売施設開発融資は中小銀行中心
表面的には銀行危機は小康状態にあるように見えます。
上段のグラフからは、3月いっぱいかなりのスピードで続いていた預金流出は、4月の第2週以降ほぼ横ばいに変わったことが読み取れます。
しかし、下段を見ると、今回銀行危機が勃発してから慌てて創設された、緊急措置としては異例の最長1年までの期間にわたって資金を貸してくれるバンク・ターム・ファンディング・プログラムの利用は、5月第4週についに900億ドルを突破しています。
また、連邦準備制度以外の目立たないところで政府による銀行支援はかなり巨額に達するようになっています。
連邦住宅貸付銀行は、名前どおりに住宅ローンの貸付を本業とする銀行ですが、銀行危機に際しては「前貸金(Advances)」という名目で担保を取って流動性が不足している銀行に融資をしています。
この前貸金の残高が、国際金融危機のピークでさえ到達しなかった1兆ドルを突破しました。銀行危機はまったく終息しておらず、むしろなるべく目立たないところに潜伏させられているだけだと思います。
こうした緊急支援措置の対象となっている金融機関は、今のところほとんどが地方の中小銀行でしょう。しかし、「大手銀行の破綻さえなければ、国民経済に大きな影響はない」と考えるのは間違っています。
下段の表にあるとおり、商業用不動産開発、中でも現在かなり深刻な構造不況に陥っているオフィスビルや大型商業施設の開発資金に関するかぎり、最大の貸し手は中小銀行なのです。中小銀行の資金繰り悪化は、即商業用不動産開発の冷えこみにつながるのです。
「もともとオフィスビルも大型小売施設も建てすぎだから、新規事業が立ち往生しても別に需要を満たせないわけではない。むしろ、不動産開発業者や中小銀行が捨て値で処分した物件を大手金融機関が買い集めれば業界の安定化につながる」との見方もあるでしょう。
しかし、ほとんどあらゆる産業分野で寡占化が進んでいるアメリカで珍しく競合企業の多い、住宅建築、不動産開発、そして中小銀行までもが寡占化の波に呑みこまれてしまうのは決して健全な変化ではありません。
米株市場はますますの寡占化を促す
こうした状況の中で、2022年を通じて不振だったアメリカ株が今年に入ってAI銘柄を中心に一握りの巨大寡占企業が牽引するブル相場に転換したように見えるのは、決して危機が回避された証拠ではなく、むしろ危機の深化を示しています。
上段を見ると、今年5月25日までの時点でS&P500採用銘柄のうち、S&P500株価指数を上回る値上がりをしていたのは、たった29銘柄だったことがわかります。下段のいわゆるハイテク大手7銘柄を除くと、わずか22銘柄、サッカー2チーム分だけです。
また、アメリカ株は1990年代後半以降どんなに景気が悪くてもS&P500を上回る値上がりをするのは50〜60銘柄台、景気がいいときには20〜40銘柄台と、つねにほんの一握りの銘柄に牽引されていて、残る450近くの銘柄は足を引っ張っている構造だとわかります。
1998年の28銘柄、99年の30銘柄までアウトパフォーム銘柄が少なくなったとき、米株市場は2000〜02年のハイテクバブル崩壊を迎えました。今年5月までの29銘柄というのも、かなり切迫した危険信号だと思います。
●円安傾向いつまで続く? ニュースから、為替の「大きな流れ」をつかむコツ 6/4
1ドルが140円を突破するなど、再び円安が進んでいます。円の動きを巡っては多くの人が様々な見解を出していますが、今後の動きについてはどう考えれば良いのでしょうか。
市場というのは多くの参加者による予想の集合体ですから、将来、相場がどう推移するのか完璧に予測することはできません。しかしながら、市場の動きについて分析するコツは存在しています。そのコツとは「大きな流れ」と「個別要因」を分けて考えるというものです。
為替が動く時には、大抵の場合、原動力となる「大きな流れ」があります。そして、大きな流れの中で、日々のニュースなど個別要因で細かく相場が動くというメカニズムで価格が形成されます。
例えばですが、大きな流れとしては円安になっていても、個別要因として円高になるニュースが飛び込んでくると、一時的に円高に振れることがあり得えます。しかし、あくまで個別要因ですから、大きな流れに変化がなければ、一定時間が経過した後は、再び円安に戻る可能性が高いとの見立てが成立するのです。
こうした捉え方に慣れていない人は意外と多く、個別要因に過剰に反応してしまい、市場全体がそれに惑わされる現象がよく見られます。困ったことに専門家の中にも、両者についてうまく切り分けられない人が存在します。
学者やエコノミストなど、大きな流れを取り扱う専門家は、理論的な部分だけに着目し、短期のトレーディングを行っているようなプロの投資家は目の前の個別要因にばかり着目する状況になりがちです。メディア関係者がそれぞれの専門家に話を聞きに行き、当該情報だけを報道するということになると、全体を上手く捉えられないケースが出てくるわけです。
こうしたことを頭に入れた上で、昨年からの円安についてもう一度、整理してみましょう。今進んでいる円安の「大きな流れ」は、日米金融政策の違いです。
各国の中央銀行はリーマンショック以降、大量のマネーを市場に供給する大規模緩和策を続けてきました。ところが マネーをバラ撒きすぎた弊害が大きくなり、日本を除く各国の中央銀行は、金利を引き上げ、市場に供給したマネーを回収する政策を進めています。
一方の日本は、先進国では唯一大規模緩和策を継続しており、引き続き市場に大量のマネーを供給しています。米国は市場からお金を回収してお金の量を減らす政策を行っており、日本は逆に市場にお金を供給し、お金の量を増やす政策を行っていると解釈してよいでしょう。
ドルの量は減って価値が上昇し、円の量は増えて価値が下がるため、日本とアメリカの金融政策が変わらない限り、ドルが高く、円が安くなりやすい環境が続くことになります。これが昨年から続いているドル高・円安の最大要因であり、先ほどの説明で言うところの「大きな流れ」ということになります。
昨年は一気に円安が進み、一時は1ドル=150円を突破しました。米国では金利の引き上げがあまりにも急激だったことから、景気が悪くなるのではないかという懸念が台頭し、一部から金融の引き締めをやめるべきとの意見が出てきました。
もし米国の中央銀行が引き締めをやめれば、これはドル安要因となりますから、1ドル=150円を突破した後は、逆にドルが売られ、円高が進んでいたのです。しかし米国と日本の中央銀行の政策は何も変わっていませんから、これは先ほどの例で言うところの「個別要因」と考えた方が自然でしょう。
米国の中央銀行は、多少の混乱があっても金利の引き上げを継続するとの見方が強くなり、日本でも4月に新しく就任した日銀の植田総裁が、当面は大規模緩和策を継続するとの方針を明確にしました。米国は金融引き締めを継続し、日本はマネーのバラ撒きを継続することがハッキリしたわけですから、もともと想定されていた「大きな流れ」がまだ続くとの解釈が成立します。結果として、多くの投資家がドルを買う動きを強め、これが直近の円安の主要因となっています。
今後も、個別要因で円高に戻すケースは出てくると思いますが、日本とアメリカの金融政策が変更されない限り、円安が進みやすいという状況に変わりはありません。
●政府の金融勘定:日本政府の負債が増えた時期とは? 6/4
1. 政府の金融勘定:日本
前回は、企業の金融勘定について主要国ごとの比較をしてみました。日本の企業は1980年代に主に負債のうち借入を極端に増やし、2000年代あたりでそれを調整する期間が見受けられました。他の主要国企業は、資金過不足が対GDP比でプラスマイナス5%程度の範囲でゼロ近辺でアップダウンしているだけです。日本の企業は1980年代の大きく資金過不足の状態から、1998年位以降の大きく資金余剰の状態へと転換しています。日本企業の変化の異質さが数値的にも現れているようです。今回は、政府の金融勘定を比較してみたいと思います。
経済は主体間で繋がっているわけですから、これまで見てきた家計、企業の挙動へのリアクションとして政府がどのように振舞ってきたかが良くわかるのではないでしょうか。
まずは、日本政府の金融勘定からです。
   図1 日本 一般政府 金融勘定 対GDP比
図1が日本政府の金融勘定 対GDP比です。
前回、資金循環統計のデータをご紹介しましたが、今回はOECDのデータとなります。
日本は1991年にかけて資金過不足がプラス化していき、その後マイナスに転じます。主に債務証券(国債、オレンジ)が増えたためですね。
特に1997年→1998年に一気に増え、その後高い水準が続きます。
2009年の増加はリーマンショックを受けてのもので、後ほど明らかとなりますがこれは各国共通の挙動です。
一方、1998〜2004年ころの高い水準が日本固有の挙動で、企業の黒字化に伴って政府の負債が増加した時期となりそうです。
また、日本の場合、金融資産の増加もそれなりに多いようですね。
全体を通じて、1990年代以降の資金過不足はマイナス5〜10%程度で推移しています。
2. 政府の金融勘定:アメリカ
次にアメリカ政府の金融勘定を眺めてみましょう。
   図2 アメリカ 一般政府 金融勘定 対GDP比
図2がアメリカ政府の金融勘定 対GDP比です。
やはり日本同様で多くの期間で資金過不足マイナスになっていますね。マイナスの水準でいえば、日本よりも大きそうです。
2009年、2020年の急激な高まりはリーマンショック、コロナ禍へのリアクションと考えられそうですね。
1982〜1993年あたりで資金過不足マイナス5%強の状態が続いていたようです。
また、日本とは異なり金融資産の増加があまり見られないのも特徴的ですね。
3. 政府の金融勘定:ドイツ
続いてドイツの状況を眺めてみましょう。
   図3 ドイツ 一般政府 金融勘定 対GDP比
図3がドイツ政府の金融勘定 対GDP比です。
1980年代のデータがないのが残念です。
緊縮的と言われるドイツ政府ですが、2010年頃までは資金過不足でマイナス5%弱と、それなりの資金不足の状態が続いていたようです。
1995年にピンポイントでマイナスのタイミングがあるのが興味深いですね。
1993年にドイツは深刻な不況に見舞われた(経済企画庁)、という事ですがそれに対するリアクションなのかもしれません。
2011年以降からプラス化していき、コロナ禍でまたマイナスに転じています。
確かに負債のうち債務証券(国債)の水準は日本やアメリカよりも少な目ですが、資金余剰は2012〜2019年のあたりに見られる程度ですね。
3. 政府の金融勘定:フランス、イギリス
続いてフランスとイギリスについても眺めてみます。
   図4 フランス 一般政府 金融勘定 対GDP比
図4がフランス政府の金融勘定 対GDP比です。
1996年以降のデータですが、挙動は他国と似ていますね。やはり2009年と2020年に大きく資金不足となっています。
経済的な危機になると、政府がリアクションして負債を増やしている状況です。
概ね資金過不足でマイナス5%前後で推移しています。
   図5 イギリス 一般政府 金融勘定 対GDP比
図5はイギリス政府の金融勘定 対GDP比です。
1991年から1997年頃にかけて資金過不足が大きくマイナスになる期間が観測されます。
経済企画庁の情報によると、イギリスは1989年から1992年にかけて景気後退期だったようです。
1テンポ遅れて政府が支出を増やして対応したという事なのかもしれませんね。とても興味深い挙動だと思います。
その後2000年にかけて資金過不足が解消されていきますが、2001年からはまたマイナスです。
概ね挙動としてはほかの主要国と連動しているように見えますね。
4. 政府の金融勘定:カナダ、イタリア
続いてカナダとイタリアです。
   図6 カナダ 一般政府 金融勘定 対GDP比
図6がカナダ政府の金融勘定対GDP比です。
とても特徴的な傾向ですね。
1990年代後半までは資金過不足が大きくマイナス(5〜10%)で、その後はゼロ近辺が続きます。
リーマンショック、コロナ禍でのリアクションも確認できますが、比較的すぐにゼロに戻っていますね。
   図7 イタリア 一般政府 金融勘定 対GDP比
図7がイタリア政府の金融勘定 対GDP比です。
1993年以前のデータが無くて残念ですが、1995年の時点では資金過不足マイナス8%の状態だったようですが、その後5%未満の状態で推移しています。
イタリアは経済が不安定で、政府の負債が多い国として知られていますが、1995年以降の金融勘定としては他国とそれほど変わりません。
ストック面での純金融負債を見ると、1995年の時点ですでに1兆ユーロに達していて、ドイツやフランスの倍程度の水準だったので、それ以前のマイナスが大きいのかもしれませんね。
5. 政府の金融勘定比較
最後に各国政府の資金過不足を1つのグラフにまとめてみましょう。
   図8 資金過不足 対GDP比 一般政府
図8が一般政府の資金過不足 対GDP比をまとめたグラフです。
各国ともアップダウンがありますが、多くの期間で同じような挙動をしている事がわかります。
2009年、2020年と極端にマイナスなのは、それぞれリーマンショック、コロナ禍に対するリアクションですね。
日本の政府が特殊な挙動をしているのが、1998〜2004年です。この期間他の主要国は比較的資金不足の程度が低いか、黒字化していた期間になります。
この期間は日本の企業が負債を減らしていた時期と一致しますね。
そのリアクションとして政府が負債を増やしていると理解できそうです。
   図9 政府純負債 対GDP比
図9はIMFによる政府の純負債 対GDP比の推移です。
日本政府は、1997年までは比較的低めの水準で、ドイツ、フランスと同程度でした。
それが1998年以降でマイナス水準がが大きく増え、イタリアと同程度となります。
この当時の挙動分だけ、負債の水準が他の水準よりも嵩増しされているような状況ですね。
6. 政府の金融勘定の特徴
今回は、主要国政府の金融勘定について眺めてみました。
主要国の政府は、経済危機時に大きく負債(主に国債)を増やすという挙動がみられます。それ以外にも、基本的には資金過不足マイナス気味で推移している共通点も確認できました。
日本政府の負債水準が問題になりやすいですが、その一部は1998〜2004年の企業の変調時に積みあがった分が大きく影響していそうですね。
この期間が他国と比較して日本特有のイベントだったことがわかります。この期間で対GDP比40〜60%分追加で積みあがったような推移です。
経済活動が主体間で繋がっているため、企業や家計の変調に対して政府がリアクションしているような印象を持ちました。 

 

●日経平均株価 米債務上限を巡るデフォルト回避で再び株高へ 6/5
日経平均はバブル後高値を更新
2023年6月2日の東京株式市場で、日経平均株価の終値は、前日比376円21銭高の3万1524円22銭となりました。バブル崩壊後の高値はこれまで、5月30日に付けた3万1328円(終値ベース)でしたが、それを上回りました。1990年7月以来およそ33年ぶりの高値圏になっています。前日に、ダウ工業株30種平均、ナスダック総合株価指数など、主要な株価指数が上昇したことを受けて、日本株も買われました。
今週、日経平均はどのような値動きになるでしょうか。2日の米株式市場でダウ平均は続伸し、前日比701ドル19セント高の3万3762ドル76セントで終えています。上げ幅は今年最大でした。1日に、米連邦政府の債務上限を停止する法案が上下両院で可決されまし債務不履行(デフォルト)が回避されたことから、幅広い銘柄が買われました。S&P500種株価指数も2022年8月以来の高値、ナスダック総合株価指数も2022年4月以来の高値となっています。日本株も週初から買われる展開になることが期待されます。
2日には5月の米雇用統計も発表されました。非農業部門の雇用者数が前月比33万9000人増と、市場予想(19万人増)を大幅に上回りました。一般的に、労働市場が堅調だと、米連邦準備理事会(FRB)による金融引き締めが長期化するとの見方から株が売られることになりますが、今回は逆に買われました。足元でFRB高官から利上げ見送りを示唆する発言が相次いでいることも、安心感につながったと思われます。次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)は13〜14日に開かれます。政策金利を据え置くとの見方が広がっています。ただし、さらなる利上げが行われた場合、失望売りにつながります。
気になるのは為替の動きです。2日のニューヨーク外国為替市場で円相場は反落し、前日比1円20銭円安・ドル高の1ドル=139円95銭〜140円05銭で取引を終えています。ドル高は自動車や機械など輸出関連銘柄にとっては追い風ですが、内需関連企業にとっては原材料の高騰につながります。
3万1000円台を維持し続伸
先週の日経平均の値動きをテクニカル面から振り返ってみましょう。前週はバブル後最高値を更新したことから、これを維持できるか、さらに更新できるかどうかがポイントでした。実際には、週初29日に窓をあけて上昇して寄り付きました。引けにかけては陰線となりましたが窓埋めにはなりませんでした。さらに終値ベースで3万1233円と、前週の22日以来、再度3万1000円を超えました。
その後は陰線と陽線が交互に出るような動きとなりましたが、週末には窓をあけて上昇して寄り付くと、さらに陽線となり、バブル後高値を更新(終値ベースで3万1524円)しました。
今後の展開はどうなるでしょうか。チャートは主要な移動平均線が、下から200日線、75日線、25日線と並び、さらにこれらが扇形に開いています。強い上昇トレンドを示しています。積極的について行きたいところです。
すでに月足ベースの長い足でも、主要な上値メドは超えています。今後は、心理的節目となる3万2000円などの目標をこなしながら、バブル後高値を更新していくことが期待されます。逆に、今年に入ってから6000円近く急上昇していることから、このあたりで利益確定の売りなども出やすいところです。その場合でも、心理的節目となる3万円を割るまでは、押し目買いの好機と考えていいでしょう。
上昇の勢いが強く、押し目待ちも難しいところですが、直近では25日線が下値サポートになっていることから、25日線にタッチして最上昇するタイミングなどを狙いたいところです。
●2日の米国市場 米国株式市場は続伸、デフォルト回避や5月雇用統計を好感 6/5
NY株式:米国株式市場は続伸、デフォルト回避や5月雇用統計を好感
ダウ平均は701.19ドル高の33,762.76ドル、ナスダックは139.78ポイント高の13,240.77で取引を終了した。
債務上限を停止させる「財政責任法案」が上院でも可決、債務不履行(デフォルト)が回避されたことで安心感が広がり、寄り付きは上昇。5月雇用統計は強弱入り混じる内容だったが、連邦準備制度理事会(FRB)が今月半ばに控える連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げを見送るのではとの見方につながり、相場を一段と押し上げた。景気敏感株の上昇が目立ち、ダウ平均の上昇幅は700ドルを超えた。主要株価指数は、週を通じて上昇した。セクター別では2セクターを除くすべてのセクターが上昇。半導体・同製造装置がわずかに下落、電気通信サービスも下落した。
ヨガアパレルのルルレモン(LULU)は前日引け後に発表した2−4月期決算と通期の見通しを上方修正したことが好感され大幅高。ソフトウエア会社のモンゴDB(MDB)や半導体のブロードコム(AVGO)、コンピューターメーカーのデル・テクノロジーズ(DELL)も決算を受け上昇した。アマゾン・ドット・コムがアメリカのプライム会員向けに携帯電話サービスを検討しているとの報道で、アマゾンが交渉中と伝えられた通信会社のベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)やTモバイルUS(TMUS)が下落、ディッシュ・ネットワーク(DISH)は上昇した。
5月雇用統計では非農業部門雇用者数の伸びが市場予想を大幅に上回った一方、失業率は増加し、平均時給の上昇率は鈍化した。
NY為替:サプライズ的な雇用増で金利上昇・ドル買い優勢に
2日のニューヨーク外為市場でドル・円は、138円74銭まで下落後、140円07銭まで上昇し、139円97銭で引けた。米国の5月雇用統計は、非農業部門雇用者数がサプライズ的な増加となる一方、失業率は上昇、平均時給の伸びも鈍化する強弱まちまちの内容となり、発表直後はドルの売り買いが交錯した。しかし、その後は米金利の上昇にともない、利上げ停止観測によるドルショートポジションのカバーとみられるドル買いが優勢になった。
ユーロ・ドルは1.0771ドルまで上昇後、1.0705ドルまで下落し、1.0706ドルで引けた。ユーロ・円は149円28銭まで下落後、149円96銭まで上昇した。
ポンド・ドルは1.2535ドルまで上昇後、1.2442ドルまで下落。
ドル・スイスフランは0.9047フランまで下落後、0.9092フランまで上昇した。
NY原油:続伸、一時72.17ドルまで買われる
NYMEX原油7月限終値:71.74 ↑1.64
2日のNY原油先物7月限は続伸。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物7月限は、前営業日比+1.64ドル(+2.34%)の71.74ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは70.00ドル-72.17ドル。アジア市場の序盤に70.00ドルまで売られたが、米債務上限停止法案が議会を通過し、債務不履行が回避されたことを受けて買い戻しが入った。この日発表された5月米雇用統計で非農業部門雇用者数は市場予想を上回ったが、平均時給の伸び率は鈍化しており、6月利上げの可能性は低いことも原油先物の上昇を促した。米国市場の中盤にかけて72.17ドルまで一段高となった。通常取引終了後の時間外取引では主に72ドルを挟んだ水準で推移。
●混乱とリスクもたらす米債務上限、撤廃への政治的合意見込めず 6/5
米国の債務上限問題は、連邦政府が破滅的なデフォルト(債務不履行)に陥るほんの数日前という土壇場でようやく決着に至った。そのため一部からは、いっそ債務上限を撤廃するべきだとの声が出ているが、これがすぐに実現する公算は乏しい。
債務上限を巡る政治対立は投資家を不安にさせたばかりか、過去10年余りで2回目の米国債格下げが起きる恐れをもたらした。それでも近年の米議会で、債務上限廃止に向けた提案への支持はあまり広がってこなかった。
共和党は、債務上限を交渉手段として利用し、歴代の民主党政権から何兆ドルもの歳出削減を勝ち取ってきただけに、撤廃に前向きな姿勢は全く見せていない。同党のマイク・ラウンズ上院議員は「われわれの歳出慣行に対応する手段は(債務上限の)ほかにない」と語った。
債務上限に関する今回と過去2回(2011年と2013年)の大きな政治対立は、いずれも大統領と上院の多数派が民主党で、下院多数派が共和党という図式だ。
ただ民主党は、上下両院の多数派を握っていた2021年と22年に債務上限撤廃に取り組もうとはしなかった。そして今は撤廃の手立てを欠く。
昨年11月、中間選挙で民主党が下院の多数派を失い、共和党優勢の新議会が始まる前の時点で、イエレン財務長官は議会の民主党に対して危機を避けるために債務上限を何とかしなければならないと警告したが、彼らの胸には響かなかったようだ。
その結果、今夏の合意が失効する2025年1月の前には、また米国の政治は同じ問題に直面せざるを得なくなる。
賞味期限切れ
以前は債務上限の枠組みを肯定してきた財政タカ派主義者の一部も、政治の機能不全でデフォルトのリスクが高まり過ぎたとの理由から態度に変化が見える。
米財政を監視している市民団体「タックスペイヤーズ・フォー・コモンセンス」は今年になって、債務上限制度に対する支持をとりやめた。スティーブ・エリス事務局長は「かつて有用だったとしても、その有用性はもはや賞味期限切れで、廃止するべき時期がやってきた」と訴えた。
既に発生した政府債務の支払いに議会の承認を必要としているのは、先進工業国で米国とデンマークだけ。もっともデンマークは、問題が起きる余地がないほど十分高水準に債務上限を引き上げている。
民主党のビル・フォスター下院議員は「このような制度を運用しているのはわれわれのみで、赤字抑制に効果がないことも証明されている」と語る。フォスター氏は債務上限撤廃法案の起草者だ。
この法案は下院の民主党議員44人の賛成を得ており、同氏によると共和党議員からも非公式な形では支持を伝えられた。しかし公式に支持を表明した共和党議員はいない。
民主党が多数派の上院でも同じような法案が出されたが、共和党議員の支持を集められずにいる。
米国が最後に財政黒字となった2001年以降、議会では債務上限の引き上げないし停止について21回の採決が行われてきた。
この間、政府債務の対国内総生産(GDP)比は27%から98%まで上昇。議会では戦争や減税、景気刺激、社会福祉プログラム拡充といった理由で歳出が認められている。
それでも債務上限は時折、議会に自ら打ち出した税制や歳出方針に正面から向き合わせる手段として有効だと証明されてきた面もある。
議会は1980年代と90年代に、複数回にわたって超党派の予算合意を盛り込んだ形の債務上限引き上げを実行し、20世紀末までに財政均衡化を実現させた。
もっと近い時期では、2011年には共和党が債務上限問題をてこにオバマ政権から1兆ドル余り、今回もバイデン政権から1兆3000億ドルもの、歳出削減の同意を取り付けている。
保守系シンクタンク、マンハッタン・インスティテュートのブライアン・リードル研究員は「債務上限は赤字問題解決という面でひどい代物だが、われわれが有する唯一の手段だ」と述べた。
リードル氏や予算に関する他の外部専門家は議会に対して、デフォルトの脅威を避けながら債務問題を検討する方法を提案している。
バイパーティザン・ポリシー・センターは議会が年度予算を可決すれば自動的に債務上限が切り上がる仕組みを示し、リードル氏は予算編成プロセスそのものの「タコつぼ化」の色合いを薄めるべきだと主張する。
これらの改革がなければ、何らかの形で予算膨張にブレーキをかけるには債務上限を使うしかなくなる、と多くの専門家は口をそろえる。
コミッティー・フォー・ア・レスポンシブル・フェデラル・バジェットのマヤ・マクギネアス氏は「債務上限を撤廃するだけでほかに何も手を打たないということは決してあり得ない。債務上限は、今存在する唯一の財政ブレーキなのだから」と強調した。
●重力に逆らって上昇する日経平均が下落するのはいつか 6/5
日本株、とくに日経平均株価は「『砂上の楼閣』の上に楼閣を重ねるような動き」が続いている。
シカゴの先物価格などの値動きからすると、6月5日の日経平均は3万2000円近辺でスタートしそうな勢いだ。ただ、「こうした株価上昇は短期的には危うい」という筆者の見解は変わっていない。また日経平均の安値予想値も、前回の当コラム「暴走している日経平均株価はいずれ『正常化』で下落する」(5月22日配信)で上方修正した2万7000円から変更はない。
さらに、「日本株はいったん下振れする」と考える背景についても、前回のコラムで述べたとおりだ。確かに経済面では日本の内需は想定以上に堅調だが、世界経済の悪化に伴い、日本の外需(輸出)が不振である点を指摘した。
「円安だから日本の輸出株は買い」などと言っている場合ではない。また、短期筋が中心となって、日本の金融緩和維持、ウォーレン・バフェット氏の日本株への前向きな姿勢、東証の低PBR(株価純資産倍率)企業に対する改善要請など、日本株独自の買われすぎ要因を「格好のネタ」にして日本株買いを行っていることについても、やはり前回のコラムを参照されたい。
アメリカの金融政策は経済や株価、ドル相場に逆風
今回は主として、前回配信後から2週間ほどの間に起きた出来事に絞って材料を並べよう。この期間だけを眺めても、世界的に景気やほかの投資環境の悪化を示す要因が目白押しだ。
アメリカでは、同国の中央銀行に当たる連銀の高官から、タカ派的な発言が相次いでいる。そうした中、5月24日のクリストファー・ウォラー理事の講演は注目を集めた。
この講演はウェブで中継されたが、タイトルは“Hike, Skip, or Pause ?” であった。すなわち、今月13〜14日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)では、3つの選択肢、「利上げ(hike)」「利上げの先送り(1回飛ばし、skip)」「利上げの停止(pause)」がある、という論点を指している。
ウォラー理事を含め、高官たちの主張は「経済データや金融環境次第で、利上げをするかもしれないし、しないかもしれないが、skipはあってもpauseはまだだ」という方向だった。つまり、政策金利の終着点はまだ高いという主旨だ。
「史上初の資金量M2の縮小」は何をもたらすのか
アメリカの経済指標が軟化する中で「まだ利上げをする」という方針は、一段と景気を悪化させる。このため本来は、連銀の利上げはドル安要因と解釈するのが素直だ。現時点では「アメリカの金利上昇はドル高要因だ」との過去の解釈を引きずっている為替相場も、いずれドル安円高方向に進むだろう。これは日本株にとって打撃だ。
アメリカの金融政策を見るうえでは、金利だけではなく、資金量も注視すべきだ。5月23日には4月のマネタリーベース(中央銀行が散布した資金量)が公表され、前年同月比で5.0%減と、13カ月連続でのマイナスだ。ただ、すでに連銀は量的引き締めを行っているので、マネタリーベースの減少自体は驚くことではない。
目を引くのは、同国の経済全体に出回っている現金と預金の量を示す、M2の推移だ。マネタリーベースがどうなろうと、経済全体の資金量の増減こそが、景気や市場に影響を与えるからである。
M2は、コロナ禍のあとは、連銀が経済を支えようと量的緩和を行ったことに加え、同国政府も家計への補助金や失業保険給付金の上乗せなどを行ったため、2021年2月には前年同月比26.9%と急増した。これがコロナ禍からの景気の脱却を支え、株価も支持したと推察される。
しかし連銀は量的引き締めに回り、政府による景気支持策も一巡した。そのため、M2の伸びは急低下し、直近まで前年同月比マイナスが5カ月続いている。最新の4月分では同4.6%減で、マイナス幅が拡大する一方だ。グラフを描くと、前年同月比の線が下向きに突き刺さっているように見える。
実は、M2の統計が現在と同じ定義で公表されているのは、1959年1月からで、前年同月比は1960年1月以降について計算できる。こうしてデータがある限りで見ると、M2が前年同月比でマイナスに陥るのは史上初となる。
こうして、かつてない資金量の縮小(ただし異なる定義でさかのぼると、1929年の大恐慌直後などはM2がマイナスになっていたようだ)を受けて、同国経済が拡大し続け、株価が上がり続けるとは、とても想定できない。
また、こうした金融環境と関連して、気になることが2つある。1つは、アメリカの商業用不動産の不振だ。
商業用不動産の不振が招く金融引き締め懸念
最近の景気の不振や、リモートワークの定着による出社社員数の低迷によって、オフィスビルの空室が増えている。5月4日付のCNBCテレビでは、“commercial real estate crisis”(商業用不動産の危機)という特集が取り上げられ、マンハッタン地区のオフィスの空室は9400万平方フィート(約873万平方メートル)に上り、エンパイアステートビル37棟分に相当するとのことだ。
また空室の面積は、コロナ禍前の水準と比べると1.75倍に達していると報じられている。オフィスに出社している社員がほぼ48%しかいないということが日常化しているそうで、広いオフィスを返却してより狭いところに移転するという企業が増えており、それは当然の行動だ。
こうしたオフィス昼間人口の減少は、オフィス街など都心の小売店や外食店にとって打撃だ。筆者が昨年11月に訪米したときにはすでに、シャッターを下ろして閉店してしまった店が多かった。
さらには、市街地中心部の人通りが少なくなったことや、景気悪化による貧困層の困窮から、まだ開店している店舗を標的とした犯罪が増えており、高級スーパーのホールフーズやコーヒーチェーンのスターバックスなどが犯罪増を理由に閉店を進めているとの報道も目にする。小売業や外食業などの店舗用不動産にとって、かなりの痛手だろう。
こうした商業用不動産の斜陽は、銀行の商業用不動産ローンの劣化を引き起こす。だからといってリーマンショックが再来するとは見込まないが、銀行がさらなる不良債権の拡大にブレーキをかけようと、融資審査を厳格化し、それが一段と金融を引き締めるというおそれはある。
もう1つの懸念は、アメリカの債務上限問題をめぐるものだ。「えっ、債務上限の時限的な凍結法案が、3日の大統領の署名で成立し、アメリカ国債のデフォルト(債務不履行)の恐れがなくなって、いい話じゃないの?」といぶかる方もおられるだろう。
しかし、連邦政府の債務は以前から上限に達し、国債が発行できない事態が続いていた。それを何とかやり繰りしてきたわけだが、債務上限が凍結されたことで、政府は大手を振って国債を発行することができるようになった。
つまり、これから国債の増発がやってくるわけで、民間から政府へと資金が吸い上げられる。民間部門がそうした国債の買い入れにあまり応じなければ、需給面から国債価格が下落して(金利が上昇して)、やはり景気と株価の悪材料となりうる。
また、今回の債務上限をめぐる交渉で、野党・共和党は、ジョー・バイデン大統領が推し進めたい政策を標的として、歳出削減を求め、政権はいくばくか譲歩した。こうした歳出の抑制は、景気面ではマイナス要因だ。
世界的にも経済は悪化している
「『いや、アメリカの景気が悪化している』などというのは、馬渕さんの妄想だろう。なぜなら、6月2日発表の5月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比で33.9万人も増えたではないか」と反発する読者の方もおられるだろう。
しかし、雇用統計の内容は雇用者数の伸びばかりが強かったととらえている。例えば平均時給の前月比は、4月分が0.5%増から0.4%増に下方修正されたうえ、5月分は0.3%増にとどまり、緩やかな所得環境の伸び悩みが示された。
また、雇用動向の先行指標として、1人当たり労働時間に注目している。景気悪化に伴って仕事量に陰りが出れば、それが残業や休日出勤の減少を通じて労働時間を抑制する。それが続くと、待っているのは雇用削減だ。
この1人当たり週当たり労働時間の前年同月比は、今年1月分がプラスマイナスゼロだったが、その前が10カ月連続のマイナスだった。2月以降も直近の5月分まで4カ月連続で減少しており、マイナス幅が改善する気配も乏しい。
目をほかの主要国に転じると、欧州でもインフレ率の高止まりを受けて金融引き締めが行われており、景気が圧迫されている。欧州最大の経済規模を誇るドイツにおいては、1〜3月期の実質経済成長率(前期比ベース)が、5月25日発表の改定値で0.3%減となり、昨年10〜12月期(0.5%減)に続いてのマイナスだった。2四半期連続でのGDP減少は、リセッション(景気後退)の目安とされる。
また、ゼロコロナ政策解除後の中国景気の戻りもはかばかしくなく、それが国際商品市況の軟化に表れているとの有力な説も、最近多くささやかれるようになった。「中国の1〜4月の不動産開発投資の前年同期比が6.2%減だった」「4月の製造業購買担当者景気指数が50を4カ月ぶりに下回った」などといった懸念の声も聞こえる。
無理やりにでも日本株が上がると強弁したい向きは、中国の景気悪化が中国株から日本株への資金移動を引き起こすと語りたいようだ。しかし、グローバルな株式投資家の立場で考えれば、中国経済が悪化して中国株が下落するなら、中国と地理的に近く、経済的な結びつきも強い日本が、中国の代替投資先の第1候補とは考えないだろう。
こうした世界的な荒波が、砂上の楼閣である日本株の砂を流し去ると、懸念している。
●米大型ハイテク株、売却か継続保有か 投資家の見解割れる 6/5
米株式市場が上昇を続ける中、そのけん引役となっている大型のハイテク・成長株を保有する投資家の間で、こうした銘柄を売却して現金化するか、それともさらなる値上がりを待って持ち続けるか、といった議論が起きている。
バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチのデータによると、ハイテク株には直近週に過去最高の85億ドルが流入。値上がりする株式市場に投資家が押し寄せてハイテク銘柄が多いナスダック100指数は年初来で33%上昇。S&P総合500種指数 も同11.5%上昇し、10カ月ぶり高値となっている。
ただ警戒を要する理由があると慎重な声も聞かれる。例えば相場上昇が狭い範囲に限られているというのがその1つで、ネッド・デービス・リサーチの最近のリポートによるとS&P500は時価総額が最も大きい5銘柄の全体に占める比率が24.7%と、1972年の統計開始以来最も高くなっている。つまりこうした銘柄が変調を来せば、相場全体が大きく下げる恐れもある。
チェース・インベストメント・カウンセルのピーター・タズ社長は「米株は大幅に値上がりしたが、重要な問題はこの流れが続くと考えるか、それとも平均に戻ると考えるかだ」と述べた。
人工知能(AI)の進歩を巡る興奮は大型株の上昇を後押しする主因の1つになっている。例えば半導体のエヌビディアは年初から170%近く上昇し、時価総額が1位と2位のアップルとマイクロソフトも40%近く上げている。
ヘッジファンドのインフラキャップのジェイ・ハットフィールド最高経営責任者(CEO)は、AIを巡る盛り上がりで大型株は上昇を続けると見ており、エヌビディア、マイクロソフト、アルファベットなどのハイテク大型株をオーバーウエートにしている。「AIブームを100%信じている」と言い、「こうした銘柄が年末までに大幅に上昇しなければ衝撃的だ」と自信を見せた。
大型株は世界金融危機後の10年間のほとんどで市場のけん引役を担い、今年大型株に売りを仕掛けるのは危険な戦略になっている。バンク・オブ・アメリカのデータによると、投資家はポートフォリオに占める現金の比率が長期の平均よりも高くなっており、株高を加速させるのに十分な「燃料」があるとの見方もある。
強力なモメンタムも引き続き株価を押し上げる可能性がある。
トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズのマイケル・パーブスCEOは最近、テクニカル分析に照らすとナスダック100指数は買われ過ぎだが、2年前に同じ状況になったときに3カ月でさらに10%の上昇を成し遂げたことがあると指摘した。
エヌビディア株の最近の急騰ぶりは、大幅に上昇した後でもまだ株が値上がりし続けることが可能であることを示している。
ヘニオン・アンド・ウォルシュ・アセット・マネジメントのケビン・マーン最高投資責任者(CIO)は、リフィニティブ・データストリームの推計で予想利益ベースの株価収益率(PER)が44倍となっているエヌビディア株について、「ほんの少し割高」との認識を示した。マイクロソフト株については、目を見張るようなキャッシュフロー水準と健全な配当利回りなどを理由に依然として魅力を保っているとした。
一方、バリュエーションの上昇や、一握りの銘柄が急騰する一方で残りの銘柄で価格が低迷する相場の偏りを挙げて、懸念を強める向きもある。
S&P・ダウジョーンズ・インダイシズによると、アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、エヌビディア、メタ・プラットフォームズ、テスラのわずか7銘柄がS&P500種の年初来の全リターンを占める。
またS&P500種構成銘柄のうち3カ月移動ベースの値動きが同指数を上回ったのは全体の20.3%にすぎず、これは過去50年間で最低の水準だと、ネッド・デービス氏は指摘している。この水準が30%を割ると市場全体が弱気になる前兆だ。
カンバーランド・アドバイザーズのデービッド・コトクCIOはエヌビディアの最近の株価急騰を受けて、この数日でiシェアーズ半導体ETFの保有を圧縮した。株式市場の上昇がごく一部の銘柄に集中しているのは不吉な兆候だと考えており、資産評価に関する一部指標でも株式は魅力が低下しているように見えるという。
リフィニティブ・データストリームによると、S&P500種は予想利益に基づくPERが18.5倍。長期平均は15.6倍。
コトク氏は「(市場が)一部の銘柄に偏り、それがしばらく続くことはある」としつつ、「私にとって一部銘柄への集中は警告灯だ」と述べた。
●日経平均4万円への上昇シナリオ ・ 米景気ハードランディング回避の公算 6/5
日経平均の上昇続く、米国債デフォルト回避・米利上げ停止視野に
先週(5月29日〜6月2日)の日経平均株価は、5月26日終値から比べて1週間で608円上昇し3万1,524円となりました。
バブル後の戻り高値更新が続いています。米国の二つの不安が低下、GAFAM(グーグル・アマゾン・メタ・アップル・マイクロソフト)など米大型グロース株の上昇が加速したことが好感され、日本株にも外国人投資家と見られる買いが続いて一段高となりました。
   日経平均とナスダック総合指数の動き比較:2021年末〜2023年6月2日
米国の二つの不安と言っているのは、【1】債務上限問題と【2】利上げが続く懸念のことです。先週、債務上限問題はようやく解決しました。米政府の債務上限を2025年1月まで凍結する法案が上下院を通過し、米国債がデフォルトに陥る危機は、ぎりぎりで回避されました。
米国債を人質にとった、与野党のきわどい攻防は金融市場に大きな不安を与えていましたが、上限凍結のニュースに安堵(あんど)が広がりました。
もう一つの不安、米利上げが続く不安はまだ払しょくされていませんが、とりあえず6月13〜14日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げを見送る公算が高まったことを、株式市場は好感しました。FRB(米連邦準備制度理事会)要人から、6月は利上げを一時停止する発言が出たことが好感されました。
ただ、利上げがこれで終わるか不透明です。6月2日に発表された5月の米雇用統計が強く、インフレ低下が遅れればさらなる利上げ実施もあり得ます。まだ米国の不安は続きます。
それでも、米国でリーマンショックのような金融危機や景気後退が起こるリスクは低下したと考えています。もう1年半以上も続いている米景気ハードランディングの不安が低下したことが、日本株の上昇につながっていると判断しています。
グロース復活、米大型テック株・半導体株の上昇加速
2022年以降、米国株より日本株の方がパフォーマンスが良く、また、世界的にグロース(成長)株よりバリュー(割安)株の方がパフォーマンスの良い状況が続いてきましたが、2023年に入ってから、その傾向に変化が出つつあります。
ナスダック急反発を受けて、2023年の年初来上昇率で比較すると、ナスダックが日経平均を上回っています。米国ではバリューよりグロース優位がはっきり出ています。
   日米の主要株価指数の年初来上昇率比較:2023年6月2日まで
   米国主要株価指数の動き比較:2021年末〜2023年6月2日
外国人の買いが日経平均の上昇をけん引
東京証券取引所の発表によると、外国人投資家は先々週(5月22〜26日)、日本株を約5,800億円も買い越ししています(株式現物と日経平均先物・TOPIX先物の合計)。これで、4月以来の買い越し額は7兆円を超えました(現物と先物の合計)。
   日経平均と外国人の売買動向(買越または売越額、株式現物と日経平均先物・TOPIX先物の合計):2022年1月4日〜2023年6月2日(外国人売買動向は2023年5月26日まで)
外国人投資家は現在、米国株よりも相対的にファンダメンタルズの良い日本株を選好していると考えられます。
   日米の投資環境の違い
日経平均4万円への道のり
私は「日本株は割安で長期的に良い買い場を迎えている」といつもお話ししています。短期的に急落・急騰を繰り返す可能性はあるものの、5年以内に日経平均は、史上最高値を更新して4万円まで上昇すると予想しています。その根拠を、5月31日のレポートに記載しました。その内容をここに再掲します。
前提条件ですが、楽天証券経済研究所では5年後までに東京証券取引所上場企業のEPS(1株当たり純利益)(加重平均)が29.5%増加すると予想しています。それにより、TOPIX(東証株価指数)が29.5%上昇、日経平均もそれに連動することを前提としています。
日経平均の6月2日終値は3万1,524円です。そこから29.5%上昇すると4万823円となります。それが、5年以内に日経平均が4万円に到達すると予想する理由です。
東証上場企業のEPSを増加させるドライバーが三つあります。【1】海外での利益成長、【2】インフレ、【3】自社株買いです。この三つを合わせて、EPSは年率平均5.3%増加すると予想しています。それが5年続くと、EPSは29.5%増加します。
東証上場企業のEPS増加要因
【1】海外事業による利益成長:年率寄与度(予想)2.2%
「人口が減少する日本の株は魅力がない」と言う人がいます。もし、日本企業が日本国内だけでビジネスを行っているのならばその通りですが、実際には日本企業は人口が増加するアジアや米国などで幅広くビジネスを展開しています。これからも巨額M&A(買収や合併)で、海外企業の買収を積極的に進めていくと思います。
日本企業の海外事業の成長が、東証上場企業のEPSを年率2.2%増加させると予想しています。
【2】インフレ(CPI総合指数の上昇率):年率寄与度(予想)1.7%
日本のインフレ復活が、日本の企業業績・株価を上昇させる要因となります。日本企業は長年にわたり、ゼロ・インフレに苦しんできました。コアコア・インフレ率(生鮮食品およびエネルギーを除くインフレ率)が2023年4月時点で4.1%まで上昇したことは、企業業績にとって干天の慈雨となります。
【3】自社株買い:年率寄与度1.3%
東証上場企業は、毎年10兆円の自社株買いをすると予想しています。自社株買いによって、毎年EPSが約1.3%増加します。
10兆円は発行済み株式数の約1.3%に相当します。10兆円の自社株買いをやると、発行済み株式数が平均で約1.3%減少します。発行済み株式総数が約1.3%減少するので、利益総額が変わらずとも、EPSは約1.3%増加します。
日本企業は、米国企業に比べて、これまで自社株買いに積極的ではありませんでした。それは日米のカルチャーの違いもあります。日本企業は、経営危機になったときでも従業員を解雇せずに生き延びられるように財務余力を残そうとする傾向があるからです。
めいっぱい自社株買いをして株価を上昇させて、経営危機になったら簡単に破綻する米国企業とは異なります。そのカルチャーは簡単には変わらないと思います。
ただし、日本企業の財務的ゆとりがかなり大きくなったにもかかわらず、自社株買いをやらないために株価低迷が続き、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業が半数を超える状況が続いています。この現状を憂慮して、東京証券取引所がPBR1倍割れ企業に対して株主価値改善策の開示・実施を要請したことが、話題になっています。
こうした変化を受けて、今後は日本企業でも年間10兆円くらいの自社株買いが行われるようになると予想しています。10兆円は控えめの見通しです。実際にはもっと自社株買いは増える可能性があります。
ただし、日本企業の経営者が経営危機に備えて財務余力を温存しようとするカルチャー自体は変わらないと思います。そういう中で、年間10兆円くらいの自社株買いになると予想しました。 
●経済成長・人口増で重要性増すグローバルサウス 6/5
1 重要性増すグローバルサウス
国際秩序でも経済面でも関係構築は急務
近年、「グローバルサウス(Global South)」の国々への注目が高まっている。名目GDP(国内総生産)の合計は2050年にかけて米国や中国を上回る規模となり、人口も50年には全世界の3分の2を占めると見込まれる。
ウクライナ危機では国際政治面でも存在感を示す。対ロ非難決議で中立を保って棄権や無投票を選ぶグローバルサウスの国は多い。1国1票の国連投票においてその意見は無視できない。
日本にとって、国際秩序の観点から、グローバルサウスが権威主義陣営(中ロ)に過度に傾くのを防ぐことが重要だ。民主主義陣営/西側陣営への支持が弱まれば、脱炭素や人権問題などの解決はより困難になる。
企業活動の観点では、経済関係の強化が肝要。国内市場の大幅拡大が期待できない日本企業にとって、成長するグローバルサウス市場は重要だ。物資の中ロ依存脱却の点からも有望な代替先候補であり、経済関係の構築は重要物資の安定調達という経済安全保障に直結する。
関係構築が遅れれば、将来的な市場や物資の安定調達を失いかねない。日本にとって、グローバルサウスとの関係構築は急務である。
2 若者の消費トラブルを防ぐ教育
SNSに潜在するリスクへの注意喚起を
2021年の若者の消費生活相談件数は約9.5万件。最近はSNSなどをきっかけとしたトラブルも増加しているが、その要因には金融経済やリスクに対する知識不足がある。
例えば「暗号資産取引で儲けられると言われ個人名義の銀行口座に送金したが、出金できなくなった」「SNSで知り合った相手から借金するために保証金を払ったが、その後連絡が取れない」といった事例。暗号資産取引や融資は登録業者しか行えない、無登録の相手との取引は詐欺の疑いあり、などの知識があれば被害を防げたはずだ。
持続化給付金の不正受給の勧誘など、若者が犯罪行為の加害者になるケースもある。これも勧誘が罪となる可能性の知識があれば防げたと考えられる。
18年の消費者庁の報告は、若者に、SNSに潜在するリスクを認識させる必要があると指摘。また、消費者被害の回避には「借金やクレジット」「悪質な手口」「契約」「相談先」の知識が必要だが、若者は詐欺、悪質商法への関心が低いとする。
これらの知識を身に付けるには、社会に出る前の高校までの消費者教育、金融経済教育がとくに重要だ。22年度からは高校の家庭科でこれらの教育が拡充され、各省庁、業界団体なども教材を作成している。だがトラブル防止には、登録金融機関と無登録業者の違い、SNSなどでの詐欺的な勧誘の存在、自らが加害者になる可能性など、実情を踏まえた注意喚起が必要だ。
そのためには、弁護士などの実務家や外部講師の活用、生徒自身が主体的・対話的に取り組む学びなど、消費者力向上に結び付く消費者教育・金融経済教育のさらなる推進が重要である。
3 ベトナムのエビと持続可能性
バリューチェーンの果たす役割
甲殻類の世界的な需要増加の中で台頭したのがベトナムである。ほぼ100%養殖で生産されるバナメイエビは、世界の甲殻類生産高の3分の1以上を占める。ベトナムはそのバナメイエビ生産シェアで10%超、5位の生産国だ。
ただし、現状のベトナムのエビ養殖は持続可能性に課題を抱えている。養殖業者は零細で組織化されておらず、小さな養殖池が分散して立地しているため、非効率的だ。疫病への対処と管理能力が不足し、疫病の蔓延リスクもある。病気に対処するため薬品を積極的に投入することで、残留物質が基準値を超えて輸出できなくなったり、周辺水系を汚染したりするなどの課題もある。
一般的に、途上国における先進的な技術の移転やよい管理手法(BMP)の実践が、エビ養殖でも生産効率および社会・環境的側面の持続可能性において有効であるとされている。
途上国の養殖業者が先進国市場向けのグローバル・バリューチェーンにつながり、かつバリューチェーンを統括する海外企業の戦略的な意思決定でBMPの実践を後押しする。そうすれば、経済・社会・環境の3つの側面における持続可能な取り組みが実現される。
バリューチェーンの統括企業の意思決定は、川上部門に位置する途上国の農業、水産業、食品加工業などに影響を及ぼす。つまり、途上国のフードセクターがサステイナブルかどうかは、日本企業など統括する企業に大きく依存している。
途上国の生活の持続可能性を担保するためには、先進国によるサステイナビリティーの押し付けをしてはならない。バリューチェーンに関わる多様なステークホルダーとの対話を推進し、多角的な情報共有を進めていくことが、日本企業を含むバリューチェーンの統括者の新たな経営課題になると考えられる。
4 スマートビルの連携ハブ・ビルOS
管理の効率化・高度化、利便性向上を実現
不動産業界では建物・設備とデジタルを組み合わせたスマートビルの取り組みが進んでいる。スマートビルにおいて、さまざまな設備とシステムを連携させるハブの役割を果たすのが「ビルOS」である。
ビルOSは、ビル設備に関わるデータの通信仕様変換、データ管理、送受信の機能を備えたソフトウェア/サービスである。システム連携により設備の稼働状況を可視化することでビル管理業務の効率化・高度化を実現する。また、空調・照明などのビル設備の遠隔操作も実現し、利用者の利便性を向上させる。
スマートビルの計画段階では、まずビルOS導入の必要性の見極めが必要だ。連携させる設備が限定的な場合やリアルタイムでのデータ取得が必要ない場合には導入は必須ではない。
また、建設後数十年と、一般的なシステムより運用期間がはるかに長いため、アップデートを前提に、拡張性や互換性を備えたOSの選定が必要となる。
ゼネコンやSIerなど、ステークホルダー間の役割設定・体制整備や、同時並行的に進むシステム導入の全体スケジュールの策定などもポイントだ。
複数のスマートビルでサービスやデータを連携させれば、広域での価値創出が可能になる。その1つの形がスマートシティーだ。今後は不動産デベロッパーがスマートビルを相互に連携させる、ボトムアップ型アプローチも増えていきそうだ。
●米債務上限問題、解決後が怖い「リーマンショック級の金融不安?」... 6/5
米国の国債が史上初めてデフォルト(債務不履行)に陥るのではないか、と心配された米債務上限問題。
2023年6月3日、バイデン大統領が上限の適用を停止する法案に署名、決着した。とりあえず、世界経済の大惨事は避けられたが、安心するのは早いようだ。
米国債新規発行の津波が市場に押し寄せ、金融不安を引き起こすリスクがあるという。いったい、どういうことか。米経済メディアとエコノミストのリポートから読み解くと――。
ウォール街「これほどの流動性縮小は、リーマン危機級」
米経済メディア「ブルームバーグ」(6月4日付)「1兆ドルの米国債の津波が流動性吸い上げへ―すべての資産クラスに影響」によると、債務上限問題の決着を受け、米財務省は新規国債を大量に発行する計画だ。発行額は7〜9月末までに1兆ドルを超える可能性がある。
銀行にある預金がこの購入に充てられると、流動性が低下する見込みだ。だが、市場に準備ができていないため、これによる負の衝撃は、米債務上限をめぐる前回の株価暴落の危機(2011年)の後遺症をはるかに上回る恐れがあるという。
その理由として、ブルームバーグは、FRB(連邦準備制度理事会)の量的引き締め(QT)プログラムがすでに銀行の準備金を減少させているうえに、資産運用会社が景気後退に備えて現金を抱え込んでいるからだ、と指摘する。
つまり、金融機関には、大量の国債を購入する資金の余裕が不足しているわけだ。もし、銀行が買わない場合でも、一般の顧客が銀行預金から国債購入に資金を移すと、銀行の預金が一気に減り、混乱を引き起こす。
ブルームバーグは、ウォール街のアナリストたちの悲観的な見通しをこう伝える。
JPモルガン・チェースのストラテジスト、ニコラオス・パニギリツオグル氏「米国債の洪水がQTの影響に加わり、株式と債券を合わせた今年のパフォーマンスを約5%押し下げるだろう」「これほどの(流動性)縮小が見られるのは、リーマン危機のような重大な衝撃の時だけだ」
シティグループ・グローバル・マーケッツのグローバルマクロ戦略責任者、ダーク・ウィラー氏「銀行の準備金の縮小は常に逆風だ」
国債への投資増で銀行預金が減ると、人々は「銀行破綻」を意識する
日本のエコノミストはどう見ているのだろうか。
やはり、「むしろ債務上限問題の解決後に、市場の流動性不安が高まる恐れがある」と指摘するのは、大和総研ニューヨークリサーチセンター主任研究員(NY駐在)の矢作大祐氏だ。
矢作氏はリポート「政府債務上限問題の解決後は、流動性不安にご用心?」(6月2日付)のなかで、今後、予想される市場混乱のメカニズムを、米国の財政事情の仕組みから説き明かした。FRBのバランスシート(財務状況を表わす貸借対照表)の負債の構成を表わす【図表】を示しながら、こう説明した。
   (図表)FRBのバランスシートの負債構成
「(財務省の)新規国債発行が再開すれば、債務上限問題によって減少してきた政府預金は増加に転じると想定される。テクニカルな話にはなるが、政府預金はFRBの負債に計上されている。FRBは2022年6月よりバランスシートの縮小(QT)を進め、FRBの資産に計上される国債やMBSを減らしてきた」
ちなみに「MBS」とは、政府系住宅金融公社が元利支払いを保証した証券のこと。FRBは、日本銀行と同様に国債や公的証券を大量に買い込み、政府の財政を支えているわけだ。
ところが、現在、FRBは政策金利引き上げによる金融引締めと同時に、量的引き締め(QT)を通じて、FRB自身の負債を減らす作業を行なっている最中だ。ここで、もう一度、【図表】を見てみよう。
「QTの進展に沿って、FRBの負債で減少してきたのは主に政府預金である【図表】。一方、上述の通り、国債発行によって政府預金が増加するのであれば、QTに伴うFRBの負債の減少は、政府預金以外の項目になる」
政府預金以外の項目で、減少の対象としてクローズアップされているのが「準備預金」だ。「準備預金」が減少すると、大きなリスクとなる。
矢作氏はこう指摘する。
「問題は準備預金の減少が、銀行不安を一層意識させる可能性があることだ。通常であれば、国債への投資増による銀行預金の減少は大騒ぎとならない。しかし、3月以来の銀行の経営破綻が影を落とす中で、銀行預金の減少によって流動性への不安が強まれば、人々はさらなる銀行破綻を懸念するかもしれない」「また、銀行預金の減少は銀行によるマーケットメイキング機能の低下につながり得る。そもそも、3月以来の銀行不安を背景に、銀行経営は保守化している。マーケットメイキングなどが一層抑制されれば、市場の流動性不安が強まる可能性がある」「銀行や市場における流動性への不安を未然に防ぐのであれば、QTのペース調整や停止が有益であろう。しかし、高インフレが懸案であるなかで、FRBもQTのペース調整や停止を決断することは難しいかもしれない。政府債務上限問題の解決後は、流動性不安にご用心である」
米政府の大幅な支出削減が、景気後退のリスクを高める
もう1つ、米政府の大幅な支出削減の面から、債務上限問題解決後の景気後退に懸念を示すのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「米下院が債務上限法案を可決し上院に送付:歳出抑制は米国景気後退リスクを高めるか」(6月1日付)によると、可決された債務上限法の削減内容は、「2024年度から2033年度の10年間に裁量的歳出は1兆3318億ドル抑制される」というものだった。
そこから、米経済に与える影響をこう試算した。
「この場合、裁量的歳出抑制のGDP押し下げ額は8434億ドルとなる。これは年間名目GDPの3.31%となる。2024年度、つまり2023年10月から裁量的歳出抑制が始められると、初年度の成長率は0.33%押し下げられる計算だ」
「これだけで米国経済が一気に悪化するわけではないが、大幅利上げ、銀行の貸出抑制によって強い逆風を受けている米国経済が、今年後半から来年初めにかけて景気後退に陥る確率を高めることに寄与するだろう」
ただし、必ずしもマイナスばかりではない。
「他方、米国は引き続き物価高騰に見舞われている。現時点では、FRBの金融引き締めによって物価の安定回復が図られている状況だ。しかし、バイデン政権の積極財政が物価高騰の一因であるとすれば、緊縮的な財政政策によって、物価安定回復に向けた金融政策の負担を一部引き受けることは、正しいポリシーミックスとも言えるのではないか」
「金融引き締めだけに頼る物価高対策には、行き過ぎた金融引き締めが経済を抑制するだけでなく、金融市場の大きな調整を引き起こし、金融不安の引き金となってしまうリスクがあるからだ」
●NY株式 米国株式市場は続伸、デフォルト回避や5月雇用統計を好感 6/5
ダウ平均は701.19ドル高の33,762.76ドル、ナスダックは139.78ポイント高の13,240.77で取引を終了した。
債務上限を停止させる「財政責任法案」が上院でも可決、債務不履行(デフォルト)が回避されたことで安心感が広がり、寄り付きは上昇。5月雇用統計は強弱入り混じる内容だったが、連邦準備制度理事会(FRB)が今月半ばに控える連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げを見送るのではとの見方につながり、相場を一段と押し上げた。景気敏感株の上昇が目立ち、ダウ平均の上昇幅は700ドルを超えた。主要株価指数は、週を通じて上昇した。セクター別では2セクターを除くすべてのセクターが上昇。半導体・同製造装置がわずかに下落、電気通信サービスも下落した。
ヨガアパレルのルルレモン(LULU)は前日引け後に発表した2−4月期決算と通期の見通しを上方修正したことが好感され大幅高。ソフトウエア会社のモンゴDB(MDB)や半導体のブロードコム(AVGO)、コンピューターメーカーのデル・テクノロジーズ(DELL)も決算を受け上昇した。アマゾン・ドット・コムがアメリカのプライム会員向けに携帯電話サービスを検討しているとの報道で、アマゾンが交渉中と伝えられた通信会社のベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)やTモバイルUS(TMUS)が下落、ディッシュ・ネットワーク(DISH)は上昇した。
5月雇用統計では非農業部門雇用者数の伸びが市場予想を大幅に上回った一方、失業率は増加し、平均時給の上昇率は鈍化した。
●米国デフォルト回避と5月分雇用統計:6月のFRB利上げは見送りか 6/5
デフォルト回避と雇用統計で米国株は大幅上昇
米国では、5月31日の下院に続き、6月1日には上院が債務上限法の適用を2025年1月まで停止する「財政責任法案」を賛成多数で可決した。これによって、米国政府が史上初めてとなるデフォルト(債務不履行)は回避されることがほぼ確実となった。国債の格下げ懸念はしばらく残るだろうが、格下げの可能性も低下したと考えられる。
これを受けて金融市場の関心は、再び米国経済と米連邦準備制度理事会(FRB)に注がれる。6月2日に発表された米5月雇用統計では、雇用者数は事前予想を上回り、雇用の堅調を裏付けた。他方で失業率は大きく上昇し、賃金上昇率が低下を続けたことから、6月の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げが見送られるとの金融市場のコンセンサスは概ね維持されたとみられる。
このデフォルト回避と5月分雇用統計を受けて、2日のダウ工業株30種平均は、昨年11月以来となる前日比701ドルの大幅高となり、約1か月ぶりの高値に達した。
雇用統計はまちまちの内容ながらも物価上昇圧力低下を示唆
労働省が2日に発表した5月分雇用統計では、非農業部門雇用者数は33万9,000人増と、市場予想の約19万人増を大幅に上回った。労働市場の堅調ぶりが改めて確認された形だ。他方で、前月に53年ぶりとなる3.4%にまで低下した失業率は、5月には3.7%と予想外の大幅上昇となった。また時間当たり賃金は、前月比+0.3%と前月の同+0.4%から鈍化し、前年同月比は+4.4%とやはり前月の同+4.3%を下回った。
労働参加率(生産年齢人口に占める労働力人口の割合)は5月に62.6%と、コロナ問題が広がる前の2020年2月の63.3%を依然下回っており、これが労働需給のひっ迫の一因をなしている。しかし、労働需給の緩やかな緩和を映して賃金上昇率も低下方向にある。この点を踏まえると、物価上昇率が低下方向を辿っていることは疑いがないだろう。
6月には利上げ見送りの公算も7月に再開される可能性が残る
5月のFOMCでは、6月13、14日に開かれる次回FOMCで、利上げを見送る可能性が示唆された。その後も、パウエル議長は6月の利上げ見送りを示唆する発言を繰り返している。
5月31日にはジェファーソンFRB理事が、「次の会合で利上げの見送りを決定しても、金利が今回のサイクルのピークに達したと解釈すべきではない」と発言した。さらに「次回会合で利上げを見送れば、さらなる政策引き締めの程度について決断を下す前により多くのデータを確認できるだろう」と述べている。バイデン大統領は5月に、ジェファーソンFRB理事を副議長に指名している。
今年のFOMCで投票権を持つフィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁も、次回会合での金利据え置きを支持している。同氏は5月31日に、「1回利上げを見送ってもよい」と述べた。
引き続き6月の利上げを支持する地区連銀総裁の意見もあるが、パウエル議長も含めて有力者が利上げ見送りを相次いで示唆したことで、金融市場でもそれが足元ではコンセンサスとなってきた。さらに、5月雇用統計を受けても、そのような見方は変わらず、雇用統計発表後に金融市場に織り込まれた6月の利上げ見送り確率は70%を超えている。
実際のところ、6月のFOMCでは、利上げは見送られ、昨年3月以来の連続かつ大幅な利上げ局面は節目を迎える可能性が高いと見ておきたい。
今年後半の金融市場は米景気後退、利下げを織り込む流れに
しかし、今後の経済情勢次第では、7月のFOMCで利上げが再開される可能性は残される。債務上限問題はほぼ解消されつつあるが、FRBの利上げの有無を巡って、向こう数か月の間は、金融市場が再び不安定になりやすいだろう。日本市場では、4月以来の一方的な円安、株高の流れも、より複雑な動きに転じていくのではないか。そして、米国景気の後退、FRBの利上げ打ち止めから利下げ観測が浮上すれば、円安株高や円高株安に反転するだろう。時期は不確実ながらも、今年後半はそうした動きが次第に明確になると見ておきたい。

 

●債務上限問題は解決したが…日本人が考えている以上に深刻な惨状 6/6
国別の米国債保有高、1位は日本、2位は中国
米議会下院は5月31日、連邦政府の借金限度額を定める「債務上限」の適用を2025年1月まで停止する法案(財政責任法案)を賛成多数で可決した。
上院も6月1日、本法案を賛成多数で可決し、バイデン大統領の署名を経て成立することとなった。これにより、世界経済の混乱につながりかねない米国債のデフォルト(債務不履行)の回避が確実となった。
米国政府と基軸通貨ドルに対する高い信用から、米国債は世界で最も安全な金融資産とされ、取引の規模も世界最大を誇っている。
米証券業金融市場協会によれば、今年4月末時点の発行残高は24兆ドル。国別の米国債保有高では1位が日本(1兆870億ドル)、2位が中国だ(8690億ドル)。
米国債の利回りは世界の様々な金融商品の基準として参照されていることから、米国政府がデフォルトに陥れば、国際金融市場の大混乱が危惧されていた。
日本を始め主要先進国では債務の上限を定める制度は存在しないが、米国ではこの制度が1917年に導入された。その後、何度も改定が実施され、直近の上限額は2021年12月に定められた31兆3800億ドルだった。
債務上限の引き上げが危ぶまれたのは、今回が初めてではない。1995年、2011年、2013年と3度に及ぶ。いずれも今回と同様、「大きな政府」志向の民主党政権が「予算の大幅拡大に伴い債務上限の引き上げが必要だ」と主張すると、「小さな政府」を目指す野党・共和党が「もっと予算を削減しないと債務上限の引き上げを議会で認めないぞ」と反発する構図だった。
デフォルト回避でも実害が出ることは確実
「米国の債務上限制度は不合理だ」との指摘がある。
債務上限を突破する借金が必要となる予算を承認した議会が、その後に債務上限の引き上げに難色を示す正当性はないからだ。
国際通貨基金(IMF)は5月26日、「今後は予算の承認時に自動的に債務上限を引き上げる仕組みを設け、デフォルトの危機を繰り返さない恒久的な措置を構築すべきだ」と異例の声明を出した。世界の金融システムを危機にさらしかねない米国内の政治対立に、IMFが苦言を呈した形だ。
デフォルトという最悪の事態は回避されたが、今回の合意で米国経済に実害が出ることは確実な情勢だ。
バイデン大統領とマッカーシ下院議長が5月27日に取りまとめた合意では、2024会計年度(2023年10月〜2024年9月)について、社会保障を除く「裁量的支出」の国防費を除いた金額を2023年度とほぼ同じ水準にし、2025年度は1%の増加にとどめることになっている。
5月25日付ブルームバーグ・エコノミクスは「想定される歳出削減により最大57万人の雇用が犠牲になり、年内に見込まれているリセッション(景気後退)が深刻化する可能性がある」と予測している。住宅建設の低迷などの逆風に見舞われる中、連邦政府の支出が米国の経済成長を後押ししてきたが、その勢いが弱まる公算が大きいからだ。
バイデン氏もトランプ氏も歓迎しない米国民
さらに深刻な問題は、債務上限を巡る混乱が災いして、国際金融市場での基軸ドルの地位が揺らいでいることだ。
5月22日付ブルームバーグは「政策が招いた『傷』により米国の威信が低下し、金融市場での打撃は数年にわたって続く可能性がある」と指摘している。
米国では2024年11月の大統領選に向けた前哨戦が始まっているが、現時点ではバイデン氏とトランプ氏の再戦の可能性が最も高くなっている。
米CNNが5月中旬に実施した世論調査によれば、2024年の大統領選でバイデン氏が勝利した場合、「米国にとって後退あるいは災難になる」と答えたのは全体の66%だった。共和党の指名獲得争いでトップに立つトランプ氏が勝利した場合も、56%が「後退あるいは災難」と回答している。バイデン氏とトランプ氏のうち、いずれの勝利が「米国にとって災難」かを問う設問では、46%で両者が並んだ。
このような状況について、米政治学者のイアン・ブレマー氏は「米大統領選、消去法の再対決へ」と題する論説で、「確実なのは2024年の米大統領選が見るも堪えない醜悪な戦いになるということだ」と悲観している(5月25日付日本経済新聞)。
政策も不評…米国への依存を減らす欧州
米国政治への落胆は国際社会にも広がっている。
CNN.co.jpは5月1日、「大統領が誰であれ米国は『当てにならない』 欧州で懐疑的な見方も」と題する米CNN記者の論説を掲載した。バイデン氏が中国への最大限の圧力というトランプ氏の外交政策を引き継いでいることから、「欧州は外交政策で独自路線を取り、米国への依存を減らそうとしている」という。
バイデン政権が推し進める「米国第一」政策も評判が悪い。「米国経済の強化を目指したバイデン政権は、自国中心主義によってその影響力を低下させている」との批判が出ている(5月24日付クーリエ・ジャポン)。
バイデン政権が掲げる「民主主義を独裁主義から守る戦い」についても、前述のブレマー氏は「(ドイツの)ベルリンの壁が崩壊したとき、旧東側(諸国)は米国を『民主主義輸出国』の手本と見た。でもこんにちはそんな状況にはない。米国のような国になりたいと思っている人はどこにもいない」と否定的だ(5月21日付AERA)。
国際社会における米国の威信低下は、私たち日本人が考えている以上に深刻なのではないだろうか。
●市場予想の倍近い伸びを見せた米雇用統計、年内利下げ観測は願望で終わる 6/6
・6月2日に米国で発表された5月の雇用統計は市場予想の倍近い伸びを示した。消費者物価指数などの物価指標も高水準を維持している。
・年内利下げ観測も残るが、極めて良好な米国の雇用・賃金情勢を考えれば、金融不安の勃発を除いて利下げの可能性は低い。
・1ドル125〜130円を下値に、円安ドル高基調は続くと見ておくべきだ。
NFPは予想比倍近くの増勢
6月2日に米国で発表された5月の雇用統計によれば、非農業部門の雇用者数が前月比33.9万人(以下、前年比)と、市場予想の中心(19.5万人増)に対して倍近い伸びを示した。併せて、4月の雇用統計も25.3万人の増加から29.4万人増へ修正されている。
インフレ高進との関連で注目される平均時給は0.3%増、前年比では4.3%増と市場予想(同4.4%増)と概ね一致しており、依然、賃金上昇の勢いが見て取れる。
失業率こそ3.4%から3.7%とまとまった幅(0.3%ポイント増)で上昇しているものの、後述するそのほかの労働関連の計数を総合的に判断すれば、米国の雇用・賃金情勢は極めて良好な状況が維持されていると考えるべきだろう。
図表1に示されるように、賃金とコアPCE(個人消費支出)がそろってピークアウトし始めているのは確かであり、ここに利上げ停止を議論する余地があることは理解できる。だが、ともに前年比4%台後半で推移しており、目標である2%まではかなり距離がある。
   【図表1】
やはり市場の一部で根強く残る年内利下げ観測は願望のままで終わる公算が大きいというのが、引き続きの想定である。
そのような想定を覆して利下げに踏み切るとすれば、3月に見たような金融不安の勃発が必要になるが、危機をメインシナリオとして資産価格の見通しを作るわけにはいかないだろう。
非農業部門の雇用者数の増勢以外にも、米雇用・賃金情勢の強さは確認できる。
相変わらず「強気」が続く米労働市場
例えば、雇用動態調査(JOLTS)の動きは参考になる。
ヘッドラインとなる求人数が市場予想以上の伸びを持続していることは既報の通りだが、労働者の強気姿勢を示す計数として注目される自発的離職件数は、400万件を超えていたピーク時から調整が進んでいるものの、依然としてパンデミック直前の3年間(2017〜19年)をやや上回る(図表2)
   【図表2】
しかも、パンデミック直前の3年間は米国では完全雇用状態と言われ、失業率は半世紀ぶりの低水準だと評価されていた。にもかかわらず、2019年の夏場から利下げが始まっていた背景には、賃金・物価情勢の落ち着きがあった。
その結果、米連邦準備理事会(FRB)が重視するコアPCEデフレーター(価格変動が激しい食品やエネルギーを除いた個人消費支出のデフレーター)など基調的なインフレを示す物価指標は恒常的に2%を割り込み(図表3)、金融政策としては安心して利下げできるような状況だった。
   【図表3】
それでも、総合ベースのPCEデフレーターでは3%台にあり、利上げ翌年の利下げ路線転換を疑問視する声もあったが、程なくしてパンデミック局面に突入し、その疑問もうやむやになった。
ドル/円は年内利下げ期待の雲散霧消で底堅く推移
既述の通り、現状のPCEは総合・コアともに4%台半ばであり、その背景にある賃金上昇も認められる。現在の失業率が2019年当時とほぼ同程度としても、インフレ懸念は比較にならないほど強く、FRBは利下げ判断にかなり難渋すると推測される。
高水準の自発的離職者数は「より良い条件を求めて転職しやすい状況」が米国の労働市場には残されている証左。実際に賃金は強く、結果として基調的なインフレ率も強いというのが米国の雇用・賃金情勢の現状である。
求人数も完全雇用が謳われていた2019年当時よりまだ4割ほど多いイメージにある(図表4)。
   【図表4】
このような背景があるからこそ、パウエルFRB議長は昨秋以降、市場の拙速な利下げ期待を一蹴してきたという経緯もある。
6月13〜14日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げは、FRB高官が公の場での発言を控えるブラックアウト期間の直前にあったジェファーソンFRB理事の発言でいったん見送られた格好になったが、これでまた分からなくなった側面もあるのではないか(本稿執筆時点で利上げ織り込みは3割弱)。
筆者のドル/円相場の見通しには何の影響もない。今後、FRBの年内利下げ期待が徐々に雲散霧消する中で、1ドル130円割れを諦める円安ムードが強まる展開を軸にメインシナリオを検討しておけば良いのではないだろうか。
もちろん、利上げ停止が明確になるタイミングや、これに伴って利下げ期待が高まるタイミングを狙って円高・ドル安は進むだろう。しかし、そこで焦る必要はない。
過去の寄稿を通じて執拗に議論してきた通り、日本の国際収支項目の至るところで構造変化の跡を見出すことが可能であり、円相場の需給は確実に過去よりも緩んでいる。仮に下値で取引されるとしても125〜130円が関の山ではないか。
中国がGDPで米国を上回ることは、もうない? 習近平体制下での栄枯盛衰 6/6
一部では、「2029年に中国のGDPが米国を上回る」との予想があったが、足元の経済状況を考えると、実現の可能性はかなり低下しているとみられる。それは、毛沢東の時代から現在の習近平国家主席まで共産党の政策と経済の動向を振り返れば明らかだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
中国のGDPが米国を上回ることは、ない…?
2023年1月にゼロコロナ政策が終了して以降、中国経済の回復のペースは大方の予想を下回りつつある。輸入や、国内の不動産投資は停滞気味で推移している。また、16〜24歳の若年層を中心に雇用や所得の不安定感も高まっている。そのため内需の回復ペースは弱い。これまでの高度経済成長期は終焉(しゅうえん)を迎えつつある。
一部では、「2029年に中国のGDPが米国を上回る」との予想があったが、足元の経済状況を考えると、それが実現する可能性はかなり低下しているとみられる。その要因の一つとして、共産党政権が改革開放による成長促進よりも、権力基盤強化をより重視し始めたことは見逃せない。生産年齢人口の減少、経済格差などの問題、台湾問題や半導体などでの米中対立の先鋭化も、中国経済の先行き不透明感を高めている。
中長期的に、中国経済は停滞気味に推移する可能性が高まっている。今後、値ごろ感から一時的に中国株を買う投資家も出るだろうが、直接投資が増加基調で推移することは予想しにくい。
労働コストの上昇や地政学リスクを背景に、中国からASEAN諸国やインドなどへの生産移転が加速しそうだ。また、今後の展開次第では、中国の不動産デベロッパーや地方政府の債務懸念が高まり、世界の金融市場に動揺が走る恐れもあるだろう。
こうして中国経済は成長した〜政策を振り返る〜
振り返ると1978年12月の中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議にて、共産党は主要任務を「階級闘争」から「社会主義の現代化」に変更した。毛沢東時代に政治を優先し、経済の優先順位を下げた結果、「大躍進」政策の失敗や「文化大革命」が起き、経済は停滞した。
その後、ケ小平の指揮で、深センなどに経済特区が設けられ、海外企業から国営・国有企業への製造技術移転は進み、工業化が加速した。ITや通信、不動産などの分野で民間企業の設立も認可された。
こうして共産党政権は「改革開放」を進めた。また、党の権能に基づいた経済運営体制が維持された。徐々に、国営企業の分割や民営化など市場原理を取り入れ、経済運営の効率性を高めた。改革開放政策は、多くの人に党の経済政策に対する信頼感を植えつけた。
1989年、「天安門事件」が発生した時、日米欧の経済の専門家は「中国の民主化は一気に進み、一党独裁から民主主義、資本主義経済への転換が加速する」と予想した。しかし、当初の予想と異なり、共産党の一党独裁体制は今なお続くことになった。
90年11月、株式市場は再開された。共産党の指揮による成長分野へのヒト・モノ・カネの再配分はさらに強化された。天安門事件後、中国の実質GDP成長率は年率10%を上回ることが増えた。
そうして多くの人が、民主化よりも党の経済政策のほうが、豊かな暮らしを送る最善策と考えるようになった。天安門事件以後、人口増加による消費増加などのベネフィットを獲得するため、海外からの直接投資は増えた。中国経済の工業化は加速し、「世界の工場」としての地位を確立した。
90年代後半にはアリババやテンセントなど有力IT企業も起こり、雇用機会も増えた。リーマンショック後は投資による経済下支えが強化され、2010年に中国は、わが国を追い抜いて世界第2位の経済大国に成長した。
経済より政治を優先する習近平国家主席
2012年、中国の最高意思決定権者の地位に就いた習近平国家主席は、改革開放推進による経済成長より、自らの支配基盤の強化を優先している。22年の党大会では、習氏の側近の多くが最高指導部である「政治局常務委員」に選出された。
23年の全人代(全国人民代表大会)で、習氏の幼なじみであり経済テクノクラート(技術官僚)として高い評価を受けてきた劉鶴副首相(当時)は退任したものの、市民の反発にもかかわらず、上海のロックダウンを実行した李強氏が副首相に選出されたのは象徴的だった。経済より政治を優先する習氏の姿勢は鮮明に示されたといえる。
今の中国で改革開放への機運は薄れつつある。22年、国有企業の平均年収は民間企業の1.89倍にまで増加した。国家統計局が調査を開始した08年以降で最大だ。一方、中国の生産者物価指数(PPI)は下落している。それは、在来分野を中心に過剰な生産能力、人員、債務を抱える「ゾンビ企業」が政策などで延命している証拠ともいえる。その結果、国有・国営企業の高い賃金が常態化しているとみられる。
株価を見る限り、政府による規制が強化された主要IT企業のバイドゥ、アリババ、テンセント(3社はBATと呼ばれる)の成長期待は停滞している。また、20年8月の「三つのレッドライン」(大手企業に対する財務指針)、米欧での金融引き締めによって中国の不動産バブルは崩壊しつつある。
特に、不動産デベロッパーの債務問題は深刻化している。土地の譲渡益の減少やゼロコロナ政策の経費増加によって地方政府の財政も悪化し、「融資平台」の信用リスクも高まっている。民間企業の成長期待が低下し、国有・国営企業が厚遇されるという状況は、改革開放とは対照的だ。
近年まで、改革開放以降の高度経済成長の「貯金」に支えられてきた中国。しかし今、その貯金と経済成長を実現する余力はなくなりつつあるといえるだろう。
中国経済が世界の足を引っ張る恐れ
現時点で、習政権の政策運営が経済優先に転換することは考えづらい。習氏が終身制の最高意思決定権者の地位を狙っているとの見方も増えている。
他方、中国の最先端の製造技術は必ずしも十分ではない。戦略的物資として重要性が高まる半導体の製造などに関して、中国は高純度の半導体部材、製造や試験に用いられる装置、半導体製造の専門家を日米欧などに依存してきた。
米国の対中半導体規制の強化によって、中国の半導体自給率向上は遅れるだろう。となると、中国が世界最大の経済大国に成長する可能性は低下する。中国内外でそうした警戒感が高まっている。
現在、個人消費の持ち直しは緩慢だ。若年層の失業率は調査開始以来で最高の20.4%に上昇し、固定資産投資も停滞している。先行きの経済環境悪化を懸念し、支出を抑制する家計、企業は増えていると考えられる。
金融市場では台湾問題など地政学リスクの高まりもあり、中国株や人民元を売る海外投資家が増えている。債務問題の深刻化も大きい。足元、共産党政権は、インフラ投資の積み増しで景気を下支えしようとしている。そのためには地方政府の財政支出増加が求められるのだが、ゼロコロナ政策のための支出増、土地譲渡益減少による歳入減によって地方政府の財政は悪化してもいる。
不動産や地方政府で増加する不良債権を、どう処理するかも不透明だ。不良債権処理を進めると、企業の倒産が増え失業者は増加する。一時的な痛みを避けるために、共産党政権の政策対応が近視眼的なものに終始する可能性は高い。
今後、米国やユーロ圏で金融引き締めが長期化する可能性は高い。一方、中国は緩和的な金融政策を続けざるを得ないだろう。
世界的な景気後退懸念が高まると、中国の不動産分野などで信用リスクは上昇するだろう。状況によっては、中国から投資資金が流出し、世界経済と金融市場の足を引っ張る展開も想定される。
●米国株式市場=反落、来週のFOMC見極め アップル一時高値更新 6/6
米国株式市場は反落して終了した。市場では米連邦準備理事会(FRB)が今月の会合で利上げを一時停止するか見極めようとする動きが出ている。
米アップルはこの日から開催される年次開発者会議を控え取引時間中に最大2.2%上昇し、過去最高値を更新。ただ、終値は0.8%安と結局マイナス圏で引けた。
会議では拡張現実(AR)ヘッドセット「Apple Vision Pro(アップルビジョンプロ)」を発表した。
その他の大型グロース(成長)株はまちまち。このところ値上がりしていた半導体大手エヌビディアは0.4%下落。電気自動車(EV)大手テスラは1.7%高。5月の中国製EV販売が増加した。
米供給管理協会(ISM)が5日発表した5月の非製造業総合指数が50.3と、4月の51.9から低下。新規受注が鈍化し、支払い価格指数が3年ぶりの低水準となったのが要因で、FRBが利上げを停止する可能性があるとの見方が高まった。
インガルス・アンド・スナイダーののシニアポートフォリオストラテジスト、ティム・グリスキー氏は「FRBに関しては悪いニュースは良いニュースだ。軟調な経済指標はインフレ抑制の効果が出始めたという見方からFRBが利上げを停止する可能性が高くなるからだ」と語った
S&P総合500種の主要11セクターでは7セクターが下落。工業が0.71%安、エネルギーが0.58%安と下げが目立った。
銀行大手は下落。規制当局が主要行を対象とした規制強化の準備を進めており、資本要件を平均で20%引き上げる可能性があるという米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道が嫌気された。
S&P500では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を1.5対1の比率で上回った。
米取引所の合算出来高は97億株。直近20営業日の平均は105億株。
●NY市場 株反落、ドル下落、利回りおおむね低下 6/6
為替
終盤のニューヨーク外為市場では、ドルが下落した。先週末に発表された米雇用統計を受けて序盤にはドルが上昇したが、米サービス部門を巡る軟調な経済指標を背景に下げに転じた。
米供給管理協会(ISM)が5日発表した5月の非製造業総合指数は50.3と、4月の51.9から鈍化した。新規受注が下がり、支払い価格指数が3年ぶりの低水準となった。ロイターがまとめた市場予想は52.2だった。
コメリカバンクのチーフエコノミスト、ビル・アダムス氏は、今回の雇用統計は「雇用者数の堅調な伸びよりも失業率の上昇の方が」より正確なシグナルであったかもしれないと述べた。
米労働省が2日発表した5月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は33万9000人増と、市場予想の19万人増を大幅に上回った。一方、失業率は3.7%と7カ月ぶり高水準。4月に記録した53年ぶり低水準の3.4%から上昇した。
予想を上回る雇用者数の伸びを背景に連邦準備理事会(FRB)が利上げを継続するとの期待が高まり、序盤はドルが上昇した。
債券
米金融・債券市場では、米債利回りがおおむね低下した。米供給管理協会(ISM)が5日発表した5月の非製造業総合指数で、新規受注が下がり、支払い価格指数が3年ぶりの低水準となったことを受け、高インフレ抑制に向けた米連邦準備理事会(FRB)の取り組みが経済の冷え込みにつながっていることが示唆された。
2年債利回りは3.1ベーシスポイント(bp)低下の4.472%。
ISMが5日発表した5月の非製造業総合指数は50.3と、4月の51.9から鈍化した。5月は引き続き、米経済の3分の2超を占めるサービス業の拡大を示すとされる50を上回ったものの、総合指数の鈍化は景気後退のリスク上昇を示した。
BMOキャピタル・マーケッツの米金利戦略責任者、イアン・リンゲン氏は、1月初旬に発表されたISM非製造業指数が50を下回ったときには10年債利回りが3.75%から3.31%まで低下したと指摘。「われわれがISM非製造業指数を重要なトリガーとみている」とした。
序盤の利回りは上昇。債務上限問題中に減少した手元資金を補充するため財務省が1兆ドルの短期債を発行するとの懸念を受けた。
株式
米国株式市場は反落して終了した。市場では米連邦準備理事会(FRB)が今月の会合で利上げを一時停止するか見極めようとする動きが出ている。
米アップルはこの日から開催される年次開発者会議を控え取引時間中に最大2.2%上昇し、過去最高値を更新。ただ、終値は0.8%安と結局マイナス圏で引けた。
会議では拡張現実(AR)ヘッドセット「Apple Vision Pro(アップルビジョンプロ)」を発表した。
その他の大型グロース(成長)株はまちまち。このところ値上がりしていた半導体大手エヌビディアは0.4%下落。電気自動車(EV)大手テスラは1.7%高。5月の中国製EV販売が増加した。
米供給管理協会(ISM)が5日発表した5月の非製造業総合指数が50.3と、4月の51.9から低下。新規受注が鈍化し、支払い価格指数が3年ぶりの低水準となったのが要因で、FRBが利上げを停止する可能性があるとの見方が高まった。
金先物
ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金塊先物相場は、米サービス業景況感の悪化を眺めて安全資産としての買いが集まり、反発した。
前週末2日発表の米雇用統計が堅調な内容だったほか、3日にはバイデン米大統領の署名を経て「債務上限」の効力停止などに関する法案が成立。米史上初のデフォルト(債務不履行)は瀬戸際で回避された。これを受け、安全資産とされる金を手じまう売りが先行し、相場は朝方にかけてマイナス圏で推移した。
しかし、米サプライ管理協会(ISM)が午前に発表したサービス業購買担当者景況指数(PMI)は50.3と、市場予想に反して低下。景況拡大と縮小の分岐点である50は上回ったものの、5カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。これをきっかけに米景気の先行きに対する警戒感が強まり、金相場はプラス圏に浮上。米連邦準備理事会(FRB)が昨年3月以降の急激な金融引き締めの効果を見極めるため、今月13─14日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げをいったん見送るとの観測も、利回りを生まない金への資金流入を後押しした。
米原油先物
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場は、サウジアラビアが追加減産を表明したことを受け3営業日続伸した。
石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなど非加盟の産油国で構成する「OPECプラス」は4日、現在の協調減産の枠組みを2024年末まで延長することで合意。協議は難航したものの、サウジアラビアが7月に日量100万バレルの追加減産を行うと約束したことで話をまとめた。
減産による需給の引き締まりが意識され、WTI7月物はこの日、前週末比4.59%高の75.03ドルで取引を開始。一時は約1カ月ぶりの高値となる75.06ドルまで上昇したが、その後は減産の実現可能性や需要回復の状況を見極めようとするトレーダーの様子見姿勢を背景に値を消した。
   ドル/円 NY終値 139.54/139.58
   ユーロ/ドル NY終値 1.0712/1.0716
●米国債のデフォルト回避 信頼損ねた内向きの政治 6/6
与野党間の政治的駆け引きで信頼を損ねただけではないか。
米国が国債を償還できなくなる「デフォルト」の危機を辛うじて回避した。政府の借金限度額を定めた「債務上限」の効力を2年間停止する法律を成立させ、償還資金をようやく確保した。
米国債は世界で最も安全な資産とされ、日本など各国の政府や金融機関が大量に保有する。デフォルトに陥れば、リーマン・ショックの再来となる恐れがあった。
土壇場までもつれたのは、来年の大統領選をにらんだ政争が激しくなったためだ。
予算に多くの目玉政策を盛り込んだバイデン大統領は無条件の債務上限引き上げを求めた。一方、野党・共和党は大幅な歳出削減を要求し、トランプ前大統領は「削減を約束しないならデフォルトもやむを得ない」と言い放った。
与党・民主党からは、議会の承認手続きを省く強硬論まで飛び出し、対立がエスカレートした。
世界経済を「人質」にして、互いに一歩も譲らないチキンレースに終始した。最後は妥協したが、代償は小さくなかった。
交渉の難航を受け、格付け会社は米国債を格下げする可能性があると警告した。
米国は巨額の借金を抱えている。債務上限は本来、借金の膨張を防ぐものだ。政争の具にしてしまえば、財政への信認は低下する。
外交にも影響を及ぼした。広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、バイデン氏は債務問題の調整のため、討議の一部を欠席した。
ウクライナ危機や対中政策など国際秩序の根幹に関わる課題がテーマだった。G7のリーダーの対応として疑問符がつく。
背景には、米国の政治が内向きの姿勢を強めていることがある。
経済格差など米国社会の分断が深まる中、指導者は支持者向けのアピールに躍起となっている。「米国第一」を振りかざしたトランプ氏に続き、バイデン氏も国内産業を保護する政策を推進している。世界全体の利益よりも自国を優先する発想だ。
世界の安定は超大国の責務だ。国内問題に足を取られていては役割を果たせない。立場を自覚し、混乱を繰り返してはならない。 

 

●米国株と日本株 6/7
―――GAFAM株は明らかに買われすぎている… 「米国株の実力は半額程度」と見る理由
GAFAMの決算には「カラクリ」がある。GAFAMをはじめとする米国株は今後どうなるのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「米国株には買われすぎの兆候がある。特にGAFAMは決算もさえず、対話型AIの登場がどう影響するかも未知数」という―――。
パッとしないGAFAMの決算内容
GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の決算(2023年1〜3月期)はパッとしない内容でした。盤石と言えるのはマイクロソフトだけではないでしょうか。
グーグル(アルファベット)は、売り上げが前年同期比+2.6%、営業利益が同じく−13.3%。クラウド事業が黒字化し、事前のエコノミスト予想は上回ったものの、前年同期比では減益に終わっています。
アップルは売り上げが前年同期比−2.5%、営業利益が−5.5%と減収減益。iPhoneは予想より好調でしたが、PC「Mac」販売は前年同期比−31%と大きく減少しています。
フェイスブック(メタ)は売り上げが前年同期比+2.6%、営業利益が−15.2%と、営業利益の大幅減少が目立っています。メタバース関連事業の赤字が収益性の足を引っ張っています。
アマゾンは売り上げが前年同期比で+9.4%、営業利益は+30.1%。大幅に増収増益となりましたが、昨年は通期で最終利益が赤字に転落しており、その反動で大幅に増益しているとも考えられます。
決算が悪くても株価が上がるカラクリ
このようにGAFAMの決算はあまり良くありませんでしたが、株価は上昇しています。
GAFAMなどハイテク銘柄が集まるナスダック100指数は、23年年初より約25%も上昇しています。アメリカがインフレ対策として利上げを行っている中、驚異的な上げ幅と言えるでしょう。
決算がさえないのに、なぜ株価が上がるのでしょうか。
実は、これにはウォール街の「カラクリ」があるのです。
GAFAMの決算は株価に正しく反映されていない
特に大企業の決算については、事前にアナリスト予想が公表されます。この「事前予想」が低すぎる場合、仮に減収減益でも、「事前に予想された数字よりは良い」と評価されやすくなります。
また各種メディアの見出しには「決算が事前予想を上回った」という表現がならびます。
そのため、実際には悪い決算でも、良かったように見える場合があるのです。
決算にはこうした「カラクリ」があります。それを踏まえると、GAFAMの決算は株価に正しく反映されていないと見たほうがいいと思います。
GAFAMは本当に成長株なのか
そもそもGAFAMはグロース株(成長株)なのか、それともバリュー株(割安株)、ディフェンシブ銘柄なのか。市場は判断に困っているのではないでしょうか。
もともとGAFAMはグロース株の代名詞でした。配当はゼロに近いのですが、株価の値上がりを期待されて資金が集まっていたわけです。
しかし、昨年からFRBがインフレ対策で利上げを始め、アメリカ株は下がり始めます。S&P500は約20%下落。ナスダック100は約29%下落しました。
一方、今年に入ってGAFAMを含むナスダック100はむしろ買われる動きが目立っています。
なぜでしょうか。
GAFAMはキャッシュリッチ、つまりお金をたくさん持っている企業です。インフレ率が高止まりし利上げが長期化する中、GAFAMは倒産の心配が比較的少ない企業、つまりバリュー株、ディフェンシブ銘柄と見られているのです。
しかし、GAFAMの株価はすでに高値水準にあります。今後の急成長が期待できないなら、株は買われ過ぎでしょう。
もしGAFAMをバリュー株と見るなら、改めてバリュー株としてのバリュエーションがなされるべきです。
アップルの株価はべらぼうに高い
アップルの時価総額は2.7兆ドルもあります。
アメリカ全体の株式時価総額が40兆ドルで世界1位、日本全体の株式時価総額が4兆ドルで世界2位なので、アップルは世界第3位の「国」ということになります。
また、アップルのPSR(Price to sales ratio 株価売上高倍率)は約7倍です。
PSRは時価総額を年間売上高で割った数字です。つまり、あくまで目安ではありますが、アップルの売上高が今後7倍にならなければ、現在の時価総額とは釣り合わないと見ることもできるのです。
いま世界では中国と欧米諸国のデカップリングが進んでいます。
中国とアメリカの関係がさらに悪化すれば、対抗措置としてアップル製品が中国から締め出されることもあり得るでしょう。
西側諸国はファーウェイ製品を締め出しているから、あながち無理な予想ではないと思います。
人口14億の中国市場を失えば、アップルの成長性にも大きく影響するでしょう。
それを踏まえると、アップルの株価はべらぼうに高いと言わざるを得ないのです。
アップルをはじめ、GAFAM株やハイテク銘柄は、今後大きく値下げする可能性を見ておいたほうがいいと思います。
アメリカ株の真の実力は半額程度
そもそもアメリカ株の時価総額40兆ドルも買われすぎだと思います。
これは世界の時価総額の約6割にあたりますが、アメリカのGDPが世界の6割を占めているわけではありません。
世界経済に占めるアメリカのGDPの割合はだいたい25%。それから考えると、アメリカ株全体が本来の価格の倍くらいに値上がりしている、と思っておいたほうがいいと思います。
もちろん、GAFAM株やアメリカ株が今すぐ半額に下がるということではありません。ファンダメンタルズで見れば、買われすぎの可能性があるため、長期的に見ればどこかで大きく調整する可能性がある、ということです。
「オプション取引」で過剰な資金が流入している
GAFAM株、アメリカ株が買われすぎているのは、「オプション取引」の影響も大きいと思います。
オプション取引とは、あらかじめ定められた期日に、定められた価格で株を買う権利(コールオプション)、あるいは売る権利(プットオプション)を売買する取引です。
株取引にはもともと信用取引というものがあります。要するに自己資本がなくても、自分の信用力の枠内でお金を借りて株を買える仕組みです。
信用取引の場合、日本では預けた担保の約3倍まで取引ができます。
しかし、オプション取引なら、もっと少ない資金で売買できます。そのため急速に人気が高まっています。
流動性が低下する時が危ない
しかもアメリカでは昨年から「0DTE(0 Day to expiry、ゼロデイオプション)」という、24時間以内に満期を迎える超短期のオプション取引が流行っています。
ただ、オプション取引とは、ある意味証券会社と顧客がそれぞれレバレッジをかけているようなものです。いわばレバレッジが2乗でかかっているのです。
少ない資金で取引できますが、実際に売買される現物株は巨額です。つまり、オプション取引によって、アメリカの株式市場には実態以上の過剰な資金が流入することになります。
資金に余裕があり、アメリカ株が上昇しているうちはいいのですが、流動性が低下し、株式市場に流入する資金が減少しはじめた時が問題です。
その場合、アメリカ株全体が大きく下落する可能性があります。S&P500やナスダック100などの指数も暴落するかもしれません。
ChatGPTは懐疑的に見たほうがいい
一方で、GAFAMはまだまだ成長するという見方もあります。
特にChatGPTなど対話型AIが、GAFAMを中心としたハイテク株を押し上げると見る人も多いでしょう。
ただ、私はある程度懐疑的に見たほうがいいと思っています。
AIという言葉が定義されたのは1950年代です。それから70年あまり経過し、ようやくある程度形になってきました。
ただ、現状のAIが本当に社会を一変するのかは、まだまだ未知数です。そうなるかも知れませんし、ならないかも知れません。
株式市場にはこういう新技術の話がよく流されます。もちろん株価を吊り上げる材料に使われるのです。
一例が一時話題になったNFTです。かつてはあれだけ話題になりましたが、いま活発に取引されているとは言えません。こうした話題は他にもたくさんあります。
もちろん、対話型AIが検索エンジンの性能を飛躍的に向上させるとか、かなり現実的な話題もたくさんあります。
しかし、それが株価や企業業績にどういう影響を与えるのか、それこそが重要なのですが、現時点ではまだわかりません。
「AIでGAFAM株が上がる」と決めてかからないほうがいい
私は近刊『大インフレ時代!日本株が高い』(ビジネス社)で、今後の注目分野として「無人化・省人化」をあげています。
AIの発展は、無人化・省人化につながるため、今後の有力な成長分野ではあると思います。
レジ打ちや簡単な事務作業などがAIで無人化・自動化された場合、企業はコストダウンによって儲かるかもしれません。
しかし、これはAIが人々の仕事を奪う社会の到来に他なりません。
失業率は高くなりますし、社会が不安定化することも考えられます。
そういう社会になった時に、経済全体が成長できるのか、株価にいい影響が本当にあるのか、長期的な視点では未知数な部分も多いのです。
それも踏まえて、AIの登場でGAFAMが成長すると決めてかからないほうがいいと私は思います。
―――これから世界中のマネーが日本に集まる… 「いまこそ日本株が買い」と断言する理由
日本株はこれからどうなるのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「日本の対外純資産は世界最大で、GDPの約1割を投資で得ているため、円の暴落は考えにくい。そのうえ日本株は相対的に魅力が増しており、世界の投資マネーは今後さらに日本に集中するだろう」という―――。
「有事の円買い」は起きるのか
日本円はスイスフランと並んで「安全資産」とされています。
市場の危機感が高まり、リスク志向が低下、つまりリスクオフになると、こうした安全資産に資金が集まります。いわゆる「有事の円買い」です。
いま市場の緊張感は少しずつ高まってきています。昨年よりFRBによる利上げが始まった結果、アメリカ国債の価格が下落、保有している金融機関に多額の含み損が発生しています。
これが原因で一部の金融機関では大規模な預金流出が発生、シリコンバレー銀行やファーストリパブリック銀行が破綻しています。
「リーマンショック級」なら円は買われる
ただ、足元のドル円相場は130円台後半と、円安水準で推移しており、今のところ「有事の円買い」は起きていません。
なぜか。アメリカ市場がまだ「リスクオフ」になっていないからです。むしろまだ「リスクオン」で、株などのリスク資産を買いに行っている状態です。
前回の記事でも少し触れましたが、アメリカ経済はまだ「バブル」です。
GAFAMの決算がイマイチだったにもかかわらず、GAFAM株を中心にハイテク銘柄が買われています。「AIの登場でハイテク銘柄はますます上がる」と思われているからです。
このような状態はまだリスクオフではありませんし、「有事の円買い」は起きません。
逆に、リーマンショックのような本当のリスクオフイベントが発生した場合、円が買われる可能性は高いと思います。
実際、リーマンショック時には大きく円高になりました。リーマンブラザーズ破綻前の2008年8月の時点では、ドル円相場は1ドル=110円程度でした。しかし9月にリーマンブラザーズが破綻すると、ドル円は下落し、08年12月には1ドル=87円まで円高になりました。
かつてほど極端な円高にはならない
ただ、世界経済の現状を見ると、もし今後リスクオフ局面を迎えたとしても、リーマンショック時ほどの極端な円高にはならないと思います。
私の新刊『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)でも取り上げましたが、世界経済のデカップリングが進めば、ドルの需要がむしろ高まっていくと見ています。
世界では米中の対立、欧米諸国と中国・ロシアの対立が深まっています。
その中で、中国に対して先端半導体を販売しないなど、経済のデカップリングがさらに進んでいます。
その結果、企業はこれまでのように中国で製造できなくなるのです。
「デカップリング」はドル高要因
中国はこれまで安く製造するための拠点、つまり「世界の工場」として、ある意味でデフレを輸出してきました。
その中国と切り離されるということは、製造コストの上昇が避けられないということです。これはさまざまなモノの値段を押し上げます。
つまり、デカップリングが続く限り、今後も世界のインフレ傾向は続くのです。
インフレが続く以上、アメリカの金融当局は当然利上げ方向に動かざるを得ません。
FRBの政策金利が高止まりすれば、世界の資金がドルに集まりやすくなるので、ドルが買われやすい状況が続きます。
ベースにこのような状況があるため、リーマンショックのような暴落が発生した場合でも、そこまで極端な円高にはならないと考えています。
円が暴落しにくい通貨である理由
このように、ドルが買われやすい相場環境ではあるものの、長期的に見て、1ドル=140円、150円は、やはり円安に振れすぎていると思います。
なぜか。円という通貨はそもそも暴落しにくい通貨です。なぜなら日本は「対外純債権国」なのです。
日本が海外に持つ資産額から負債額を差し引いた「対外純資産」は、22年末の時点で約418兆円と過去最高になりました。
このため日本の投資収益はGDPの約1割、50兆円にも達します。いま「日本人はもっと投資しなければならない」と言われていますが、そもそも日本という国は「投資国家」です。世界の隅々までジャパンマネーであふれているのです。
何かが起これば円は買い戻される
もしリスクオフイベントが発生したら、世界中のリスク資産に投資されていた日本人のお金が、より安全な資産、つまり「円」に向かいます。
だから、世界経済になにかが起きた場合でも、円が暴落することはないのです。むしろ円が安全資産と見なされ、大きく買い戻されることになります。
2011年に発生した東日本大震災のあとも、円が大きく買い戻されました。
「大地震があったため、日本が海外に持っている資金が復興のため国内に戻る」という思惑が広がり、円が買われたのです。
このときはあくまで一時的な動きでしたが、日本円の強さを示す一つの材料だと思います。
日本政府はインフレ大歓迎
今後円高になりうる要因がもう一つあります。日銀の政策変更です。
円安は日本企業の業績を押し上げています。実際、自動車など輸出企業の決算はおおむね好調でした。脱コロナでインバウンド消費も戻ってきています。
しかし、円安になると輸入物価が上がりますので、国民の暮らしにはマイナスです。
ただ今のところ、日本の物価高は一時的なもので、持続的な物価上昇ではないと政府・日銀は考えています。植田総裁も、国内の物価は今年半ば以降に縮小する見込みだと発言しています。
政府から見ればインフレ傾向は大歓迎です。なぜなら政府の借金が目減りするからです。
消費税をあと5%上げるとなると、国民の大反発は避けられません。しかし、インフレ率5%なら、国民の大反発は回避できますし、国の借金を減らす効果もより高いのです。
国民の不満が高まれば日銀は政策変更する
ただ、もし物価高が一時的でなく、今後ずっと上昇し続けると分かった場合、日銀が政策修正に動く可能性が出てきます。
「物価が3%後半から4%くらい上昇」とは、中には毎年10%程度値上がりする商品もある、という状況です。
これくらい物価が上昇すると生活はけっこうきついと思います。物価高に対する国民の不満がもっと高くなれば、政府は無視できず、日銀に物価対策を要求するでしょう。
「バフェット氏が日本買い」の理由
先日、「投資の神様」とも称されるウォーレン・バフェット氏が来日し、日本株の追加購入に積極的な姿勢を見せたことが話題になりました。
なぜバフェット氏は日本株を買ったのか。その理由は、やはり世界の中で相対的に日本株に上昇余地があり、逆にアメリカ株には下落余地があるからだと私は思います。
金利1%で借りたお金で買った株が、2倍、3倍に
バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイは、日本で円建て社債を発行し、その資金で日本の五大商社の株を買っています。
バークシャー・ハサウェイの円建て社債の利率は1%と言われています。
ただ、バフェット氏は50年間にわたって毎年20%以上のリターンを得ていると言われています。実際、五大商社株はバフェット氏の購入後大きく値上がりし、三井物産、三菱商事の株価は約2倍、丸紅の株価は約3倍となっています。
金利1%で借りたお金で買った株が、2倍、3倍になっているわけです。
為替も「日本買い」に有利に働きます。
円が今後大きく売られて円安になるなら、円で得た利益も目減りしてしまいます。しかし、円高になればドルに対する円資産の価値が高まります。
金利がまだまだ低いものの、日銀の政策変更など、どちらかというと円高に振れる可能性が高いといういまの状況は、「日本買い」に非常に有利な状況なのです。
バフェット氏から見れば、株価が上がるだけでなく、為替メリットも享受できるわけです。非常に魅力的な取引だと見ているでしょう。
円キャリートレードより「日本買い」の理由
かつて円キャリートレードという取引が一世を風靡(ふうび)しました。
円キャリートレードとは、相対的に金利の低い日本円で資金を借り入れて、金利の高い外国で運用する取引のことです。
日本円を売ってドルなどの外貨を買うので、円キャリートレードが増えると円安要因になります。
ただバフェット氏の場合、借りた円を日本株に投資しているわけですから、いわゆる円キャリートレードではありません。こうした「日本買い」によって世界のマネーが日本に流入する可能性が高くなっています。
相対的に日本の魅力が高まっている
いま世界的に見て日本株の魅力が高まっています。日経平均はバブル後初めて3万円の大台を突破し、突出して良い動きを見せています。
一方でアメリカ株の見通しは不透明感を増しています。
株価や個々のアメリカ企業の業績だけでなく、アメリカ社会全体がいま深刻な課題に直面し、難しい対応を迫られています。
アメリカは貧富の格差が大きい国です。しかも、コロナ禍で格差はさらに拡大しています。
AIの登場で無人化が進むと、低所得層の仕事が奪われ、失業率が上昇することになります。構造的に無人化のデメリットが現れやすいのです。
こうした中、フロリダ州知事のデサンティス氏が、不法移民に厳しい姿勢を見せています。
ただ、いまアメリカのサービス産業を支えているのは、低賃金で働くヒスパニック系などの移民たちです。彼らを追放すればアメリカは立ち行かなくなるでしょう。
本当に重要な仕事をしている人ほど、低賃金で働いている。アメリカはその矛盾と向き合う必要に迫られています。
さらにアメリカは高いインフレに苦しんでいます。富裕層にとって大した問題ではありませんが、低所得層にとってインフレは死活問題です。
格差の問題をどうにかしなければ、アメリカという国は立ち行かなくなると思います。
少子高齢化の日本は「無人化」で恩恵を受けやすい
一方、日本は少子高齢化で人口が減少していますから、AIやロボットの普及で無人化が進んでも、社会が効率化するメリットのほうが大きくなります。
そもそも日本はアメリカに比べて貧富の格差が小さい国です。また企業が雇用を守り、少々コストが上がっても積極的に価格転嫁しないなど、ステークホルダー重視の姿勢が強い風土があります。それも「世界インフレ時代」にはプラスに働くでしょう。
そうしたことを考えると、日本株の見通しは明るく、世界の投資マネーはもっと日本に集中すると思います。
そもそも、バフェット氏が日本株を買ったこと自体が、世界中の投資家に多大な影響を及ぼしています。日本株にとってはかりしれない大きな後押しとなるでしょう。
私は数年前からずっと「いずれ日本株が復活する」と言い続けてきました。それがいよいよ現実になってきたように思っています。
●リーマンショック後の再来?原油価格急落リスク、サウジ追加減産は効果薄 6/7
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの大産油国で構成するOPECプラスは6月4日、協調減産を2024年まで継続することを決定した。OPECプラスは昨年11月から世界の原油供給量の2%に当たる日量200万バレルの減産を実施している。さらに今年5月からOPECの主要加盟国が日量116万バレルの自主減産に踏み切っている。
今回の決定で最もインパクトが大きかったのは、サウジアラビアが7月から日量100万バレルの追加減産を表明したことだ。
原油価格が下落傾向にあることから、会合直前になって「OPECプラスは日量100万バレル程度の追加減産を行うのではないか」との観測が流れた。だが結局、サウジ単独で追加減産を実施することになった。サウジの7月からの原油生産量は日量約900万バレルとなる。
そもそもサウジのアブドルアジズ・エネルギー相は5月23日、「4月に痛い思いをしただろう。(追加減産に)気をつけろ」と述べていた。原油価格の下落で利益を得る「空売り」を仕掛ける投機筋に警告を発したのだ。
実際、4月3日にOPECが自主減産を発表した際には、米WTI原油先物価格が大幅上昇し空売り勢が損失を被った。この苦い経験が投資家の間によみがえり、減産に対する警戒感がにわかに強まった。だが、これに水を差したのがロシアだった。どういうことか。
ロシアが戦費調達のため原油を安く販売
ロシアのノヴァク副首相は5月25日「(今回の会合で)新たなステップがあるとは思わない」と減産に否定的な姿勢を示したのだ。ロシアは今年2月に日量50万バレルの減産を始めると表明したのにもかかわらず、国際エネルギー機関(IEA)によれば、3月の減産幅は同29万バレルにとどまっている。その結果、アジア地域では安値となったロシア産原油がシェアを大幅に拡大し、中東やアフリカ産原油が「割を食う」構図が明確になっている。
インドの4月のロシア産原油の輸入量は前月比4.4%増の日量約190万バレルと過去最高を更新した。輸入シェアも4割に上昇している。中国でも幅広い業者がロシア産原油を購入するようになっている。インドと中国の5月のロシア産原油の輸入量は過去最大となったようだ(6月1日付ロイター)。
戦費を調達したいロシアにとって「割安となった原油を少しでも多く売りたい」というのが本音であり、さらなる減産は選択肢になかっただろう。
サウジアラビアとロシアの間に足並みの乱れが生じ、今回の会合でサウジがどう出るかに注目が集まっていた。ふたを開けてみれば、今回の会合は異例の展開となった。
サウジ、メディアを締め出し事前調整にも難航
その最たる出来事が、ロイター、ブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの西側の主要メディアがOPECプラスの会合の取材を拒否されたことだ。6月3日付フィナンシャル・タイムズは「数十年間に及ぶOPECの会合の歴史の中で報道機関がシャットアウトされたのは初めてだ。この決定を下したのはサウジのアブドラアジズ・エネルギー相だった」と報じた。とりまとめが難航することが予想されたことから、外部の「雑音」を排除する目的があったのかもしれない。
OPECプラスの会合の開始も事前の調整に手間取り、大幅に遅れた。OPECプラスは2024年1月から全体の生産目標を現行の水準から140万バレル引き下げ、日量4046万バレルにすることを決定した。この決定自体は5月からの自主減産分を取り込んだものに過ぎないが、個別の調整は難航を極めた。
各国に割り振られた2024年の生産枠を見てみると、投資不足で実際の生産が目標に追いついていないナイジェリアやアンゴラなどアフリカ諸国が引き下げられた。サウジ主導の措置だとされ、減産を余儀なくされたアフリカ諸国は「将来に向けた投資が呼び込みにくくなっている」との不満がくすぶっているという(6月5日付ロイター)。
嫌われ者になることも厭わず、原油価格の上昇のための合意を取りまとめたサウジだったが、この努力は報われたのだろうか。
原油価格の下落傾向は変わらない
OPECプラスの合意を受けて、米WTI原油先物価格は週明けの時間外取引で一時、1バレル=75ドル台と1カ月ぶりの高値を付けた。だが、その直後に上げ幅の大半が帳消しとなってしまった。サウジが目指していた「1バレル=80ドル超え」という狙いは1日で頓挫してしまった感が強い。
アナリストの間では「原油価格は今後上昇する傾向にある」との見方が出ているが、筆者は「原油価格の下落傾向は変わらない」と考えている。
OPECプラスの今回の決定は生産量未達の現状を追認したに過ぎず、世界の原油市場の需給状況に変化をもたらすものではないからだ。サウジアラビアは実際に減産する意思を示したが、アジア地域を中心に需要が縮小している自国産原油の価格を下支えする程度の効果しか持たないだろう。
足元の供給サイドを見てみると、OPECの5月の原油生産量は前月に比べて日量46万バレル減ったが、予定していた減少幅(日量116 万バレル)の半分にも満たない。OPECプラスは今回も「身を切る」減産を実施できなかったために、市場の関心は需要に対する先行き不安に集まることになるだろう。
OPECやIEAは「ゼロコロナ政策を解除したことで中国の原油需要が大幅に伸びる」との見通しを示しているが、このシナリオが外れる可能性が高まっている。
中国の5月の製造業購買担当者指数(PMI)は48.8となり、ゼロコロナ解除後の最低水準となった。中国経済の屋台骨である不動産業も相変わらず低迷しており、「中国の原油需要のV字回復は見込めない」との見方が有力になっているからだ。
リーマンショック後の「二の舞」か
世界最大の原油需要国である米国も冴えない状況となっている。
米国はドライブシーズンに入ったが、景気減速の影響で世界の原油需要の1割近くを占めるガソリン需要が盛り上がってこない。
連邦債務の上限に伴う予算削減による景気の下押し圧力も心配だ。住宅建設の低迷などの逆風に見舞われる中、連邦政府の支出が米国の経済成長を後押ししてきた。その勢いが弱まることで年内に見込まれているリセッション(景気後退)が深刻化するリスクが生じている(5月25日付ブルームバーグ・エコノミクス)。
懸念されるのが、2008年9月に起きたリーマンショック時の大幅下落の再来だ。原油市場のセンチメントが急速に悪化したのにもかかわらず、OPECは減産措置をタイムリーに実施できなかったため、原油価格は半年後に1バレル=30ドル台にまで急落してしまった。
足元も米国をはじめ世界経済の減速を市場が急速に織り込み始めている状況だ。「付け焼き刃」の減産ではリーマンショック後の「二の舞」を繰り返すことになりかねない。
OPECプラスは次回会合(11月26日)の前に大減産を実施しない限り、原油価格は急落してしまうのではないだろうか。
●NY市場 株反発、ドルが対円・ユーロで上昇、利回り小幅上昇 6/7
為替
ニューヨーク外為市場ではドルが対円やユーロで上昇。米連邦準備理事会(FRB)が利上げを継続するという観測が背景にある。また、オーストラリア準備銀行(中央銀行)の利上げを追い風に豪ドルは急伸した。
13─14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前にFRB当局者が公的発言を控えるブラックアウト期間となっているため、13日発表の5月の米消費者物価指数(CPI)が注視されている。
OANDAのシニアマーケットアナリスト、エドワード・モヤ氏は「インフレ動向が何らかの上振れサプライズをもたらすかどうかを見極める状況になっている」ものの、「6月FOMCが実際の『ライブ会合』ではないという見方が高まる中、大きな動きは見られない」と述べた。
6月会合では利上げ見送りとなる公算が大きいとみられている。ただ、CMEグループのフェドウオッチ・ツールによると、フェデラルファンド(FF)金利先物市場では、65%の確率でFRBが7月に少なくとも0.25%ポイントの利上げを実施するという見方が織り込まれている。
終盤の取引でユーロ/ドルは0.15%安の1.0694ドル、ドル/円は0.06%高の139.64円。
債券
米金融・債券市場では、米債利回りが小幅に上昇した。来週の消費者物価指数(CPI)と米連邦公開市場委員会(FOMC)待ちになっている。
2年債利回りは3.3ベーシスポイント(bp)上昇の4.516%。10年債利回りは変わらずの3.693%だった。
マッコーリーのグローバル外為・金利ストラテジスト、ティエリー・ウィズマン氏は、カナダ銀行(中銀)が7日に会合を開き、利上げを停止すれば、連邦準備理事会(FRB)も1週間後に停止する可能性が高まると指摘。ただ、来週13日に発表される5月の米消費者物価指数(CPI)を受け、FRBによる利上げが正当化される可能性があるとした。
CMEグループのフェドウオッチツールによると、フェデラル・ファンド(FF)金利先物市場では、FRBが政策金利を据え置く確率を79.4%としている。
市場はまた、債務上限問題で減少した手元資金を補充するための財務省による1兆ドルの短期債発行を待っているという。
株式
米国株式市場は反発して取引を終えた。投資家が来週に予定される5月消費者物価指数(CPI)発表や米連邦公開市場委員会(FOMC)待ちとなる中、金融など景気敏感セクターの一部が上昇した。
5月のCPIは前月比でやや鈍化するとみられているが、コアインフレは高止まりする見通し。FOMCでは金利据え置きが予想されている。
S&P総合500種は大型株の上昇や企業の好決算、米連邦準備理事会(FRB)が利上げサイクル終了に近づいているとの期待から昨年10月に付けた安値を約20%上回っており、このところ上げ一服となっている。
クレセット・キャピタルのジャック・アブリン最高投資責任者(CIO)は「投資家がやや楽観的になっているようだ。誰もが上位7銘柄程度に集中していたような状況は少し解消され始めており、良いニュースだ」と語った。
S&P主要11セクターでは金融が1.33%高と上げを主導。KBW地域銀行株指数は5.41%高、小型株で構成されるラッセル2000指数は2.69%高となった。
暗号資産(仮想通貨)交換業のコインベース・グローバルは12.09%急落。規制当局への登録を怠ったまま運営しているとして証券取引委員会(SEC)が提訴した。
金先物
ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金塊先物相場は、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策の行方に関心が集まる中を続伸した。
この日は主な米経済指標の発表もなく、新規材料難から積極的な商いが手控えられ、金相場は動意薄の展開となった。
ウクライナからの報道によると、ロシアが一方的に「併合」を宣言した南部ヘルソン州で6日、ドニエプル川に設置されたカホフカ水力発電所のダムが爆破され、決壊した。ゼレンスキー大統領は動画で、既に住民の避難は始まっているものの、80の町や村が水に漬かったと述べた。AFP通信が当局者の話として報じたところでは、避難対象者は1万7000人に上るという。この報を受けて、地政学的リスクへの警戒感が広がり、安全資産としての金が買われた面もあった。
米原油先物
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場は、エネルギー需要の先細り懸念が強まり、4営業日ぶりに反落した。
石油輸出国機構(OPEC)の盟主、サウジアラビアの追加減産表明を受けた前日までの上昇基調が一服。5日発表の米サプライ管理協会(ISM)サービス業購買担当者景況指数(PMI)の悪化に続き、6日はドイツの製造業受注が予想外の減少を示し、世界的な景気減速に伴うエネルギー需要の鈍化を懸念した売りが台頭した。
   ドル/円 NY終値 139.63/139.64
   ユーロ/ドル NY終値 1.0691/1.0695
●NYダウ2日ぶり反発、終値10ドル高の3万3573ドル…FRB方針見極め 6/7
6日のニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価(30種)の終値は前日比10・42ドル高の3万3573・28ドルだった。値上がりは2営業日ぶり。
来週開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、米連邦準備制度理事会(FRB)の方針を見極めようと、積極的な売買が控えられて小幅な値動きにとどまった。
IT企業の銘柄が多いナスダック店頭市場の総合指数の終値は46・99ポイント高の1万3276・42だった。
●日本株は下落、先物主導で一転売り優勢−日経平均の値幅ことし最大 6/7
7日の東京株式相場は下落。日経平均型を中心としたまとまった先物売りが出て、日経平均株価の下げ幅は500円を超える場面があった。9日に需給の節目である株価指数先物・オプション6月限の特別清算値(SQ)算出日を控え、値動きが荒くなっている。前日まで4営業日続伸したため、反動も出やすい。
朝方は金融不安の後退などを背景に買いが先行して始まったものの、先物売りが響いて相場を支え切れなかった。6日の米国市場で大型テクノロジー株の一角が安く、日本でも足元で上昇が目立っていた電機や精密機器、機械株に売りが出ている。海外原油先物価格が軟調だったことも嫌気され、商社や鉱業株も軟調だ。午後の取引開始前に発表された中国の輸出は予想以上の落ち込みとなった。
日経平均の値幅はことし最大になった。取引が始まって間もなく前日比201円高まで上昇してからは先物売りに押されて失速し、10時過ぎには514円安に下落。高値と安値の差は715円と、日本銀行の金融政策決定会合のあった1月18日の604円を上回った。
●「デジタル時代の銀行破綻」の特徴、「負の連鎖」止まらず1日400億ドル流出 6/7
シリコンバレーバンクに始まった銀行破綻の連鎖はいったん落ち着いたように見え、米国の金融当局も金融システムの安定性は揺らいでないという説明を行っているが、はたしてその通りであろうか?ここまでの破綻状況と米当局による検証を整理するとともに、デジタル化に対応して従来の銀行破綻と異なる点、そして米銀の置かれた状況をみつつ、今後について考えてみたい。
2023年に米国で発生した銀行破綻
2023年3月10日のシリコンバレーバンクにはじまる3件の銀行破綻の概要は以下のとおりである。それ以前に最大だった銀行破綻がリーマンショック(2008年)の際に発生したワシントン・ミューチュアルで資産規模が3,070憶ドルであったことを考えると、3件を合計するとそれを上回る規模(約5,320億ドル)となっていることがわかる。
銀行名(本拠地) / 破綻日 / 資産規模(億ドル) / 破綻の経緯
シリコンバレーバンク(カリフォルニア州) / 3/10 / 2,090 / コロナ禍以降の金融緩和によって資金調達を拡大させたベンチャー企業の預金を獲得して資産規模を拡大、米国債や住宅債券などで運用していたが、金融引き締めとともに債券価格が下落、信用不安がささやかれる中で債券売却と株式による資金調達の計画を発表するも、かえってシリコンバレー投資家層の不安をあおり預金流出が加速したことによって破綻、FDICによる入札の結果、ファーストシチズンズバンクに吸収されることになった。
シグネチャーバンク(ニューヨーク州) / 3/12 / 1,104 / 主に暗号資産関連企業との法人取引が中心で、コロナ禍以降の金融緩和によって大量のマネーが流入、同行の2022年末の資産残高は2019年末と比べて2倍以上に拡大。しかし、金融引き締めにともない資金が暗号資産から引き上げられ、関連企業の経営悪化の影響を受け、預金引き出しが相次ぎ、流動性が急速に悪化したことから、破綻、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYBC)が引き受け、子会社のフラグスターバンクに吸収されることになった。
ファーストリパブリックバンク(カリフォルニア州) / 5/1 / 2,126 / 富裕層取引に強みを持つ同行は、SVBと同様に非付保預金が全体に占める割合が高く、SVB破綻後に預金流出が目立つようになった。救済措置として米銀大手11行がFRCに対して計300億ドルの預金を注入したが、流出を食い止めることができず、ついに破綻、JPモルガン・チェースがFDICの実施した緊急入札で落札。
注:米国ではJPモルガン・チェースのように全米預金シェア10%を超える銀行が他行を買収することが禁止されているが、FRCについては、政府からの緊急要請ということもあり、特例措置が適用された模様。
当局は「2つの銀行経営破綻」をどのように検証した?
米国連邦準備制度理事会(FRB)は4月28日、シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻について検証したレポートを公表している。破綻に至るプロセスとその間の規制当局とのやり取りも含めて詳細が記載されたレポートの報告内容は100ページ以上に及び、経営破綻の原因を大きく2つの面から説明している。
最初のポイントは同行のリスク管理の甘さである。コロナ禍による金融緩和およびベンチャー企業の資金調達が拡大する中で、同行が預金を積み上げたことによって資産規模は急速に拡大したが、流動性の確保と金利変動リスクによる財務健全性のバランスを見誤り、経営陣はリスク管理に失敗したと断定している。
次にFRBの監督管理体制の不備に言及している。SVBが規模を拡大して構造を複雑化させる中で、FRBは同行の脆弱(ぜいじゃく)性を十分に理解しておらず、脆弱性を認識した後でも、これらの問題を迅速に修正するための十分な措置を講じなかったとしている。また、FRB内の人員体制も不十分で、1人の審査官が2〜3週間の間に投資ポートフォリオ、流動性、リスクマネジメントの審査を受け持つこともあったという。
FRBは「SVB破綻の教訓をもとに、監督と規制を強化しなければならない」として、ストレステストや流動性要件などについて、資産規模が1,000億ドルを超える銀行に対する規制の再評価や、満期保有目的債券や売却可能債券の未実現損益の会計処理上の見直しを行う方針を表明している。
連邦預金保険公社(FDIC)も同じ4月28日にシグネチャーバンク(SBNY)の経営破綻について検証したレポートを公表している。
62ページにわたる同報告書においても、まずは、リスク管理に問題があった点に言及している。暗号資産関連ビジネスの比重を拡大させて反動により資金流出が起こったことに加え、調達と運用のバランスを見誤った経営陣に問題があったものとしている。
同時に、急速な状況変化が発生する中で、FDICの監督管理体制が充分でなかった点も指摘し、FDICが審査に十分な人員を割くことができず、審査の適時性と質に影響を及ぼしたと述べている。
このように、それぞれの経営陣の怠慢を指摘すると同時に、それぞれの監督にも問題があった点を金融規制当局が詳細に分析して公開している点は注目される。特に、情報技術の進化によって、金融機関のおかれている状況が変化している点も見落とすことはできない。
1日400億ドル流出「デジタル時代の銀行破綻」3つの特徴
破綻した3件に共通しているのが、信用不安が顕在化してから破綻にいたる時間がこれまでにない速さで進行したという点であり、FRBやFDICが指摘している金融監督の対応の遅れにつながった。
SNSによる情報伝達
前述のFRBのSVB破綻に関する検証レポートにおいて、「SNSへの書き込みがSVBからの急速な預金引き上げを招いた」と指摘されているように、ソーシャルメディア、中でもTwitterで短時間に預金者間で「SVBが危ない」という情報が共有されるようになったために、預金流出が加速したことは間違いない。
有名投資家ピーター・ティール(Peter Thiel)氏自身はSVBに破綻時に5,000万ドルの預金を残していたようであるが、同氏の投資ファンド(Founders Fund)が顧客にSVBからの預金引出しを勧めたことが、一気にシリコンバレーの投資家層に拡がったと言われている。同じようにソーシャルメディアによる情報が、暗号資産投資家(SBNYの場合)、富裕層(FRCの場合)といった預金残高の多いグループに一気に拡散したことが破綻につながった点は、以前の銀行破綻では考えられなかったことである。
ネットバンキングによる取引
以前の銀行における「取り付け騒ぎ」というと、銀行の前に預金者が長蛇の列を作った顧客の写真が報じられたものであるが、インターネットバンキングの利用が定着している状況においては、静かにかつ短期間に預金流出が起こるようになっている。たとえば、2008年のワシントン・ミューチュアルの破綻に際しては、総預金の9%が流出するのに9日間かかっているのに対して、SVBの破綻に際しては総預金の23%にあたる400憶ドルがたった1日で流出していることからも、銀行をとりまく環境が変わっていることがわかる。
預金保険の適用外の比率
前述のFRBやFDICの調査によれば、本格的な資金流出が始まる前の段階で、SVBやSVNYの総預金にしめる預金保険適用外の比率は8割を超えており、FRCの場合でも2022年末の段階で7割近くとなっていたことが、信用不安に対する預金者の預け替えを加速させる結果となった点は、3行に共通している。こうした各行のおかれた状況も、情報開示が進むとともにインターネットで誰でも情報を入手できるようになったことで、預金者の不安を増長させた点も無視できない。
信用不安「負の連鎖」、全米銀で2兆ドルの資産価値下落
FRBが発表したSVBの経営破綻について検証したレポートにおいて「米国の銀行システムは充分は資本と流動性にうらづけされて健全かつ強靭である」と述べている。
つまり、米国政府は一貫して発生した経営破綻はそれぞれの銀行の個別事情(SVBのベンチャー企業中心の預金と運用のミスマッチ、SBNYの暗号資産関連取引拡大、FRCの富裕層中心の預金と運用のミスマッチ)と経営の失敗が信用不安を引き起こし、株価下落と預金流出の負のサイクルが短期的に進行したためで、金融システム全体の問題ではないという説明を続けている。
とはいえ、欧州におけるクレディ・スイス破綻もあり、その後も「次の破綻行はどこか?」という疑心暗鬼の状況は続いている。たとえば、パシフィック・ウエスタン・バンク(Pacific Western Bank)を傘下に置く持ち株会社の株価は、FRCの破綻後、3月に比べておよそ8分の1に下落、預金も流出しているため、破綻リスクは高まっている。
銀行業界全体に関して米有名大学の研究チームが行った調査によれば、国内金利の上昇にともなって米銀全体で2兆ドルもの資産価値の下落が生じており、預金保険でカバーされていない預金の割合を考慮すると、これまでに破綻した3行と同様の預金流出に陥る可能性のある銀行が190もあるとのことである。
SVBとSBNYの破綻を受けて、FRBは保有する米国債などの安全資産を見合いに流動性供給を行うことを発表しているが、FRCの破綻を防ぐことができなかったことを考えると、「信用不安の負の連鎖」が止まったと考えるのは早計であろう。
今後は何に注目するべきか?
3行の破綻から得た教訓をもとに米金融当局も銀行監督を強化するとともに、流動性のモニタリングに万全を期すようになっていることから、さらに銀行がバタバタと倒れる状況は考えにくいが、デジタル金融の浸透に対して預金流出のスピードをコントロールする方策が確立しているわけではないことを考えると、信用不安の波にのまれる銀行がまだ出現する可能性は充分にある。
目先注目を浴びているのが、3行の破綻に関連して株価の動向が報道されているパシフィック・ウエスタン・バンクである。同行では不動産ローンの売却を行って26憶ドルを捻出するなど、流動性の確保に注力していることに反応して株価の戻りもみられるようであるが、次にネガティブな材料が出てくればさらなる預金流出につながる可能性はあり、生き残りをかけた戦いはまだ続くものとみられている。
次の破綻行を探る上では、金利下落の影響を受ける資産の比率、預金保険適用外となる預金の比率などの条件に加えて、信用不安の先行指標としての株価下落を睨みながら、預金者がどのようなタイミングで行動するか見極めていく展開が当分続くものと考えられる。
さらなる銀行破綻が発生するようであれば、米経済全体への影響も無視できず、景気後退につながる可能性があることから、今後数カ月が米金融当局にとっても正念場となろう。
●大統領「民主主義が機能」 6/7
バイデン米大統領は6日、ホワイトハウスで閣議を開いた。連邦政府の債務上限の効力を2025年1月まで停止する法律を今月3日に成立させ、米国債のデフォルト(債務不履行)を回避したと自賛し「米民主主義が機能することを証明した」と強調した。
バイデン氏はデフォルトを防いだ超党派の法律に関し「歩み寄り、合意を得なければ不可能だった」と説明。予算削減に対する不満が与党民主党側から出たことを念頭に、共和党への譲歩が必要だったとの見方を示した。
●「債務上限引上げ」「デフォルト」騒ぎは何だったのか、翻弄されるアメリカ政治 6/7
「債務上限引上げ問題」の背後にあるイデオロギー対立
アメリカの政治的対立の背後には常にリベラル派と保守派のイデオロギー対立が存在する。リベラル派である民主党議員は、政府が社会問題を解決のために積極的な役割を果たすべきだとする“大きな政府”を志向しているのに対して、保守派の共和党議員は、政府の個人的な事柄に対する関与すべきではなく、社会的な問題は個々人の努力、あるいは市場を通して解決すべきだとする“小さな政府”を支持する。債務上限引上げ問題も、その対立の延長線上にある。
なぜ共和党は「デフォルト」という大きなリスクを犯してまで債務上限の引き上げに反対したのか。それは、債務上限引上げを拒否することでバイデン政府に圧力を掛け、歳出削減を勝ち取るためであった。債務上限引上げ問題は、共和党が政府と交渉するための“手段”であって、それ自体は目的ではない。
共和党にとって歳出削減の対象は福祉プログラムである。今回のバイデン大統領とマッカーシー下院議長の交渉で最大のテーマのひとつが、「フードスタンプ(The Supplemental Nutrition Assistance Program―補助栄養補給プロがラム)」の受給資格を巡る問題であった。アメリカでは貧困者に現金を給付するのではなく、「フードスタンプ(食券)」を支給する。受給者は食券を使ってスーパーマーケットなどで食糧を購入する。共和党は食券の給付条件の厳格化を求めた。それは、民主党にとって、受け入れがたい要求であった。この議論の詳細は後で説明する。
共和党は、貧困は個人の努力が足りないのが理由であると主張する。福祉プログラムは、人々を福祉プログラムに依存させ、怠惰にすると考える。福祉プログラムは富裕層の税金で賄われており、富裕層の減税を主張する。富裕層は自らリスクを犯し、成功したのであり、高所得は当然の報酬であり、高い所得税を課すのは不当であると考える。共和党が常に富裕層の減税を主張する理由である。
また、失業保険があるから人は一生懸命、仕事を探さず、失業率が高留まると考える。確かに、筆者がアメリカの大学にいたころ、アメリカの失業保険制度は潤沢なため急いで仕事を探さず、受給期限一杯、失業保険を受給し、ゴフルを楽しむという人物に会ったことがある。保守派の経済学者は、失業保険制度を廃止すれば、人はもっと一生懸命に仕事を探し、低賃金の仕事でも受け入れると主張する。それによって失業保険給付は減り、財政赤字が縮小し、失業率も低下すると考える。新自由主義の発想であり、勝者の論理である。
共和党は、政府が個人的なことがらに関与することを嫌う。国民健康保険制度を拒否し、あくまで個人が個人的に保険会社と契約すべきことであり、国が強制すべきものではないと主張する。個人の“自己責任”こそが、社会に基本にあるべきだと考える。共和党にとって、“平等な競争”が保証されれば、“結果の不平等”は個人の責任である主張する。「格差」があって当然であり、「格差」は社会的に好ましいとさえ考える。
これに対してリベラル派の民主党は、人は様々な理由から失業や病気などの不幸に見舞われる。好んで失業したり、病気に罹るわけではない。失業したり、病気になれば、社会全体で支えるべきだと主張する。また努力すれば成功する訳ではない。幸運もあれば、不運もある。不幸な状況に陥った人は、社会全体で支えていくべきだと考える。そもそも「平等な競争」などありえない。富裕層の子弟は恵まれた状況から競争を始める。貧困家族の子弟は、貧困の連鎖に絡み取られ、成功の機会が奪われている。社会にとって大事なのは、ありえない「平等な競争」ではなく、「結果の平等」である。一生懸命に生きている人を支えていくことが政府の仕事だと考える。
もう一つ付け加えておこう。共和党が債務上限引上げを拒否したもうひとつの理由は、2024年の大統領選挙を有利に展開するためであった。共和党内の極右勢力は、バイデン政権を追い詰めるために、この問題を利用したのである。仮にデフォルトという事態になっても、それをバイデン政権の責任に転嫁できる。極めて党利党略的な思惑が存在していた。
アメリカで政府が本当に「デフォルト」に陥る可能性はあったのか
事柄の本質を見極めることは重要である。「現象的な問題」が「本質的な問題」であるとは限らない。アメリカの「債務上限引上げ問題」は、そうした種類の問題であった。多くのメディアは、デフォルト騒ぎだけに注目していた。確かにアメリカ政府がデフォルトに陥れば、金融市場に留まらず、世界経済に甚大な影響が及ぶ。だがアメリカの政治や歴史を詳細に検討すれば、本当にデフォルトが起こるとは思えない。最初から“チキンゲーム”であることは明らかだった。
今年の1月にアメリカ政府は既に債務上限額に達していた。財務省の資金が底をついていた。特別阻止で資金を捻出する状態であった。債務上限の引き上げが承認されなければ、財務省の資金は枯渇し、公務員の給与支払い、年金や医療保険の支払いは止まってしまう。政府機関の閉鎖や公務員の一時解雇も起こる。財務省証券の利払いができなくなる。財務省証券の格付けが引き下げられる。デフォルトに陥れば、財務省証券は売られ、長期金利は上昇する。その結果、アメリカ経済はリセッションに陥り、株価は大暴落し、アメリカ経済のみならず、世界経済も大混乱に陥るという最悪の事態も起こりうる。トランプ前大統領は、それでも債務上限の引き上げを認めるべきではないと主張し、共和党内の極右グループはトランプ前大統領に同調した。しかし、共和党議員の中には穏健派も多い。共和党は下院の多数派を占めるが、最終的に下院は債務上限引上げを認めるのは間違いなかった。下院の共和党議員は222議席、民主党は212議席である。現在、1議席は空席になっている。過半数は218議席で、穏健派の共和党議員6名が民主党に同調すれば、債務上限の引き上げは承認される。ただ、どう政治的に“落としどころ”をつけるかが問題だった。それには政治的な儀式が必要であり、それがバイデン大統領とマッカーシー下院議長の会合であった。
共和党は財政赤字の拡大を阻止するために、債務上限引上げを拒否し、政府に財政支出の削減を迫った。では、現在、アメリカ政府はデフォルトに陥るほど財政的危機に直面しているわけではない。デフォルトは、政府に債務返済能力がない場合に起こるものである。問題になったのは法的あるいは手続き的な問題である。1960年以降、債務上限の引き上げは78回行われている。そのうち共和党政権の下では49回、民主党政権の下では29回であった。債務上限の引き上げが拒否された例は一度もない。極めて事務的に処理されてきた問題であり、政治化する種類の問題ではない。既に決まっている政策を執行するための措置である。
さらにアメリカ政府に支払い能力に問題はない。市場が財務省証券を購入しないという状況にはない。財務省証券の格付けは最高のAAAであり、最も信頼度の高い証券である。財務内容はどうか。2023年1月時点の政府債務は31兆4000憶ドルである。GDP比では123.4%である。同比率が最高を記録したのは、2021年3月で、132.4%であった。だが、その後、比率は低下している。バイデン政権のコロナ対策費やインフラ投資政策などで比率が2021年後半から2022年全般にやや上昇したが、その後、再び低下に転じている。財務状況は良い方向に進んでいた。共和党が主張しているように歳出を急激に減らさなければならない状況にはない。
アメリカ政府の債務のGDP比率123.4%はどう評価すべきか。日本政府の債務残高とGDPの比率は256.0%である(OECDのデータ)。アメリカ政府の比率の倍である。OEC加盟国全体では124.3%であり、アメリカの比率は平均値を下回っている。フランスは116.9%、イギリスが103.6%、ドイツが77.4%である。こうした国際比較を見ても、アメリカ政府の財政状況は危機的な状況とは言えない。大幅な歳出削減が必要だという共和党議員の主張には根拠はない。
「債務上限引上げ」問題発生から「財政責任法」成立までの経緯
アメリカでは債務上限を引上げるには議会の承認が必要である。1月、イエレン財務長官がマッカーシー下院議長宛てに書簡を送り、既に債務上限に達したこと、当面は“特別措置”で資金を捻出できるが、それにも限界があることから、債務上限の引き上げを求める書簡を送った。財務省証券の利払いができなければ、財務初証券はデフォルト(債務不履行)に陥る。メディアは大きく反応した。アメリカの財務省証券がデフォルトになれば、金融市場は大混乱に陥り、アメリカ経済がリセッションになるだけでなく、世界経済が大混乱に陥ると懸念されたからである。アメリカ国内では、政府機関が閉鎖され、公務員の給与支払いが滞り、社会保険や医療保険の支払いができなくなる。多くの公務員はレイオフ(一時解雇)を命じられるだろう。
問題の本質は、財務省証券がデフォルトに陥るかどうかではなかった。常に歳出削減、特に福祉関係や医療関係などの予算削減を求める共和党が、バイデン政権が歳出削減を認めなければ、債務上限引上げを承認しないという戦略を取ったことが問題の発端である。過去、債務上限引上げは形式的に行われ、政治問題になることはなかった。だが、共和党は財政に関する政治的目標を達成するために過激な戦略を取ってきた。クリントン政権の時、下院の多数派を占めた共和党は予算案を承認せず、政府機関は閉鎖に追い込まれたことがある。アメリカの新会計年度は10月1日に始まるが、予算は翌年の1月まで承認されなかった。こうした事態に国民は反発し、最終的に共和党は予算案の承認を強いられた。だが、結果的に共和党は世論の批判を浴び、翌年の1月に予算を承認したケースがある。
債務上限引上げ問題が最初に大きな政治問題となったのは、オバマ政権の2011年である。この時、S&Pは財務省証券の格付けを引き下げた。だが、最終的にはオバマ政権と共和党は妥協し、債務上限は引き上げられ、デフォルトという事態は起こらなかった。民主党はオバマ政権の経験から教訓を得た。それは「債務上限引上げ問題で共和党と協議しない」ということだ。
今回の問題は、2011年の状況の繰り返しであった。政府機関の閉鎖、財務省証券のデフォルト、経済のリセッションへの突入という悪夢のシナリオを背景に共和党がバイデン政権に歳出削減を迫った。3月にマッカーシー議長はバイデン大統領に協議を求めた。だが、アイデン大統領は「債務上限引上げ問題は議会の責任であり、政府は関与しない」と申し入れを拒否した。これを受け、共和党は4月に独自の債務上限引上げと歳出削減案を盛り込んだ法案を下院で可決成立させた。それでもバイデン大統領は妥協の姿勢を見せなかった。メディアはデフォルトの危機を煽った。妥協が成立しなければ、本当にデフォルトが起こるかもしれない、と。バイデン大統領とマッカーシー議長のどちらが先に降りるかという“チキンゲーム”の様相を呈した。
最終的に5月22日、バイデン大統領は広島G7サミット後の外交日程をキャンセルし、ワシントンに急遽戻り、両者の会談が開かれた。その会談では合意は得られなかったが、バイデン大統領は会談後、「楽観的だ」と合意の可能性を示唆。会談に先立ち、イエレン長官は再度マッカーシー議長に書簡を送り、デフォルトを回避する最終日のXデーは6月1日だと伝えた。その後、長官はXデーを6月5日と修正する声明を出した。
会談後、両者のスタッフの間で協議が継続し、26日にバイデン大統領とマッカーシー議長の電話会談が行われ、両者の間で「基本合意」に達した。その合意を受け29日、「財政責任法」が作成され、下院に提出された。下院では、賛成314票、反対117票で可決。共和党議員71名と民主党議員46名名が反対した。222人の共和党議員のうち、151名が賛成したのである。6月2日に上院で同法案は63対36で可決した。民主党議員5名と共和党議員31名が反対した。上院の票決で反対票を投じた民主党議員には、左派ポピュリストのベニー・サンダース上院議員とエリザベス・ウォーレン上院議員が含まれいる。反対した共和党議員の中には、テッド・クルーズ議員、リンゼイ・グラハム議員、マルコ・ルビオ議員といった大物議員が含まれている。同日、バイデン大統領は法案に署名した。イエレン長官が指摘した6月5日の直前に、債務上限引上げ問題は解決した。
バイデン大統領は法案が成立した2日の夜、国民に向かって演説を行い、「合意に達したことは極めて重要であり、アメリカ国民にとって非常に良いニュースだ。私たちは経済崩壊を避けることができた。歳出を削減すると同時に赤字を削減することになる」と、成果を誇った。大統領は「アメリカ民主主義が機能する唯一の道は妥協と同意である」と、「財政責任法」が両党議員の支持を得た“超党派法案”であることも大きな成果であると指摘した。 マッカーシー議長も「共和党が一致団結して臨んだことでバイデン大統領を交渉の場に就かせた」と、共和党の勝利を讃えた。
債務上限引上げ問題を“武器”として使った共和党の戦略
共和党は過去において予算案の承認拒否や債務上限の引き上げを拒否する戦略を取ってきた。過去の経緯からすれば、共和党が歳出規模の縮小、福祉関係予算の削減を実現するために、債務上限引上げを政治的な「武器化(weaponization)」にすることは不思議なことではない。
共和党の戦略は、昨年11月の中間選挙で共和党が過半数を確保したときから始まっている。債務上限引上げ問題を武器化することにトランプ前大統領も同意し、また共和党議員を扇動した。同前大統領の影響下にある下院の財政保守派の議員集団「フリーダム・コーカス」が強硬な姿勢を取った。下院議長選挙で「フリーダム・コーカス」はマッカーシー院内総務(当時)の議長就任に反対した。その結果、議長選挙は15回行われ、最終的にマッカーシー議長は、財出削減を強力に主張する「フリーダム・コーカス」の要求を飲んだ経緯もある。その後の「債務上限引上げ問題」でマッカーシー議長が強硬な姿勢を取った背景には、「フリーダム・コーカス」の存在があった。
共和党の戦略を立案したのはトランプ政権の行政管理予算局長で予算問題を熟知し、現在は保守派シンクタンクCenter for Renewing Americaの理事長を務めるラッセル・ヴォートである。彼は104ページの歳出削減のメモを「フリーダム・コーカス」のメンバーに提供し、同時にホワイトハウスとの交渉の仕方、メディア対策などでアドバイスを行っている。
共和党はバイデン大統領に圧力を掛ける目的で、4月に下院で「債務上限引上げ」と「歳出削減案」を織り込んだ独自の法案(「Limit, Save, Grow Act」)を成立させた。内容は債務上限を1.5兆ドルに引き上げる代わりに10年間で4.5兆ドルの歳出削減を求めるものであった。法案の具体的内容は、12024年度予算の歳出を2022年度の水準に戻すこと、2毎年の歳出規模を1%増に留めること、3軍事予算は削減対象にしないこと、4バイデン政権の目玉である学生ローン免除政策の阻止、5内国歳入庁の予算とスタッフの削減、バイデン政権の成果のひとつである「Inflation Reduction Act」に織り込まれている気候変動、医療保険に関する予算の削減、6フードスタンプの支給条件の厳格化、7メディケア(低所得者向け医療保険)の受給資格者に就労を義務化、8クリーン・エネルギーに対する減税措置の廃止などが盛り込まれていた。共和党の戦略は巧妙で、同法案を成立させることで、共和党主導で交渉のベースを作った。
「財政責任法」に、どんな内容が盛り込まれているのか
「債務上限引上げ問題」と「デフォルト」問題を巡る茶番劇はあっけなく幕を閉じた。共和党の強硬派はデフォルトも辞さないと強硬姿勢を取っていたが、共和党内には多くの穏健派議員もいる。下院の採決で共和党の票は賛成149票、反対71票と割れたことからも分かるように、破局を望む議員は多数派ではない。“チキンゲーム”の結末は予想された通りの結末を迎えた。
では、「財政責任法」で何が決まったのか。最大の問題である「債務上限」に関して、2025年1月まで適用除外が決まった。すなわち次の大統領が誕生するまで、上限引上げを巡る問題は起こらないことになる。ただ、2024年の選挙で民主党大統領が誕生し、共和党が引き続き下院の多数を占める状況が起これば、共和党は「債務上限引上げ」を武器として使い、再び同じ問題が繰り返される可能性はある。いずれにせよ、同法の成立で債務上限引上げ問題は決着した。
共和党の方はどうか。歳出削減でバイデン政権から譲歩を勝ち取っている。同法では、財政赤字を2.13兆ドル削減することが盛り込まれた。その内訳は、2024年度予算と2025年度予算に上限が設定され。今後10年間で1.3兆ドルの余剰が作り、2026年から2029年の間、裁量的歳出に強制的な上限が設定され、5530億ドルの余剰を作る。共和党の主張する歳出削減も盛り込まれている。予算額の増加は抑えられた。
総枠としての合意と同時に、個別政策に関する合意も成立した。今回の交渉で最大の問題となったのは、上述したように「フードスタンプ」の受給条件である。これは貧困層に食券を与える制度である。このプログラムは、レーガン大統領のころから保守派の攻撃の的であった。レーガン大統領はフードスタンプを使ってアルコールを買った女性を「welfare queen(福祉の女王)」と呼んで攻撃した。「税金を使ってアルコールを飲んでいる」と批判したのである。
今回の交渉のなかで、福祉政策を象徴する「フードスタンプ」や「メディケイド(低所得医療保険制度)」の「Work Requirement(労働条件)」を巡って議論が行われた。共和党は支給条件の厳格化することで、受給者を減らし、予算削減することを求めた。現行法では、扶養家族のいない50歳以下の成人がフードスタンプをもらうには、1か月最低80時間の労働をするか、訓練プログラムに参加する必要がある。今回の見直しで、労働条件の適用対象が49歳から54歳に引き上げられた。他方、ホームレスや退役軍人、18歳までフォスター家族に育てられた人には適用除外となる。また、今後3カ月以内に「労働条件」を満たさないと、受給資格を喪失することになる。こうした措置は2030年に失効する。
ただ皮肉なことに、議会予算局の試算では、2023年から2033年の間にフートスタンプの歳出は21億ドル増加する。共和党議員の主張とは程と遠い結果であり、共和党の陰の戦略家ヴォートは「マッカーシー議長は共和党の価値観を裏切りった」と批判している。
他方、バイデン大統領が妥協を迫られた政策もある。バイデン大統領は「Inflation Reduction Act(インフレ抑制法)」で、富裕層の脱税などをチェックするために内国歳入庁(日本の税務署に相当)にたいする予算増加と職員増加を決めていた。だが今回の合意で、14億ドルの予算は取り消され、職員増加も抑制された。また共和党はバイデン政権の目玉政策である環境政策、グリーンエネルギー政策、や学生ローン免除政策などの見直しも迫ったが、必ずしも成功しなかった。大枠の歳出削減では共和党の主張が通ったが、個別の政策ではバイデン政権は守り抜いたともいえる。
ただ、この程度合意に達するために、こんなに大騒ぎしなければならなかったのかといいうのが偽らざる印象である。アメリカの政治は常にイデオロギーに翻弄されているのが現実である。
●米国デフォルト回避したら「国債ブラックホール」というまた別の信管が… 6/7
米国のデフォルト(債務不履行)危機は解消されたが、金融市場は後遺症を懸念している。米財務省の大規模国債発行が市中の流動性を吸い込む「押し出し効果」のために景気が萎縮しかねないということだ。
ブルームバーグは5日、バイデン米大統領が連邦負債限度を引き上げる法案に署名したことを受け、米財務省が1兆ドル(約140兆円)を上回る国債発行に出ると予想した。ブルームバーグはこれを「国債津波」と表現し、経済萎縮など望まない波及効果が生じる恐れがあると指摘した。
これは押し出し効果が現れる可能性があるためだ。投資家が収益率の高い国債を買うために銀行預金を引き出す可能性が大きくなる。米シリコンバレー銀行破綻を受け危機を体験した中小銀行の預金が離脱し支払い準備金が減るなど流動性危機が再び発生する可能性があるという意味だ。また、銀行の資金調達コストが高くなり短期金利が上昇すれば家計と企業の貸付が難しくなる。消費と投資が減り結果的に景気低迷につながる恐れがある。
バンク・オブ・アメリカは米財務省の大規模国債発行が政策金利を0.25%引き上げるのと同じ経済的効果をもたらすとみた。インフレを低くしようとする米連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き上げの可能性が相変わらずの状況で、金融市場にまた別の緊縮の「荷物」が載せられた格好だ。
ただし国債発行の影響は市場の懸念ほど大きくないだろうという反論もある。シリコンバレー銀行問題後に資金が急増したマネーマーケットファンド(MMF)市場で債券を買えば市中の流動性が減少する効果は限定的だろうという説明だ。 
●オーストラリアはリセッション回避できるの? 成長鈍化に「利上げの影響」 6/7
家計はぜいたく支出減らし生活防衛
オーストラリア経済の減速感が強まっていることについて、ジム・チャーマーズ連邦財務相は7日、「利上げが悪影響を与えていることは明らかだ」との認識を示した。
オーストラリア統計局(ABS)が同日発表した1月〜3月期国内総生産(GDP)成長率は、前期比0.2%増にとどまった。チャーマーズ財務相は「金利引き上げと高いインフレ、減速する世界経済による強い逆風を踏まえると、驚くべき数字ではない。家計は金利上昇と生活コストの上昇によって重圧を受けている」と述べた。
その上で同財務相は「家計は生活必需品のために、裁量的支出(ぜいたく支出)を減らしている」と指摘した。1月〜3月期の個人消費の伸びは0.2%まで鈍化。利上げで住宅ローン支払い額は1年前と比べて倍増。家計貯蓄率は3.7%とリーマンショックが起きた2008年以降で最低の水準まで落ち込んでいる。
「1年半以内に景気後退もあり得る」とエコノミスト
一方、移民受け入れの再開により、人口増加のスピードは経済成長を追い越した。1人当たりGDPの成長率は2022年7月〜9月期0.1%増、22年10月〜12月期0.1%増とほぼ横ばいが続いた後、23年1月〜3月期は0.2%減とマイナスに転落した。
本格的なリセッション(景気後退=2四半期連続のマイナス成長)が間近に迫っているとの見方も出ている。金融大手AMPの副主席エコノミストを務めるダイアナ・ムシナ氏は、公共放送ABC(電子版)にこう述べた。
「豪準備銀(RBA)のタカ派的な姿勢と、7月または8月に予想される再利上げを踏まえると、今後1年〜1年半の間に(1人当たりGDPベースではない)本物のリセッションがやってくる可能性は高そうだ。私たちの見方では、RBAは金利を引き上げ過ぎた。インフレの先行指標は既に、今後半年間にわたって物価の伸びが鈍化することを示しており、RBAはインフレ圧力を抑えるためにリセッションを引き起こし、家計を痛めつける必要はない」
●円相場 小幅な値動き FRBの利上げ判断見極め取り引き控える 6/7
7日の東京外国為替市場、円相場は小幅な値動きとなりました。
午後5時時点の円相場は6日と比べて、13銭円安ドル高の1ドル=139円43銭から45銭でした。
ユーロに対しては6日と比べて、28銭円高ユーロ安の1ユーロ=148円97銭から149円1銭でした。
ユーロはドルに対して、1ユーロ=1.0684から85ドルでした。
市場関係者は「アメリカの中央銀行にあたるFRBが来週開く会合で利上げを見送るという見方が広がっているが、FRBの判断を見極めたいとして積極的な取り引きを控える投資家が多かった」と話しています。

 

●「ホワイトハウスにも共和党にも新たなリーダーが必要」ペンス前副大統領 6/8
アメリカのペンス前副大統領が来年の大統領選挙への出馬を表明しました。トランプ前大統領とは決別する姿勢をみせています。
ペンス前副大統領「神と家族の前で私は大統領選への出馬を表明します」
ペンス前副大統領は7日、自身のSNSで大統領選挙への出馬を表明。その後の集会では「ホワイトハウスにも共和党にも新たなリーダーが必要だ」と訴えました。
また、トランプ前大統領が憲法に反して2020年の大統領選挙の結果を覆すよう圧力をかけてきたことを非難し、こう強調しました。
ペンス前副大統領「憲法を尊重しないように働きかけるような人物は、二度とアメリカ大統領になるべきではない」
ペンス氏はウクライナ情勢に対するトランプ氏の姿勢を批判するなど、前大統領との決別を強く印象づけました。
●FRBにも警鐘か、カナダ中銀の利上げ再開−物価抑制で手探り続く 6/8
カナダ銀行(中央銀行)が予想外の利上げ再開を決めたことで、世界の債券市場に衝撃が広がるとともに、インフレ抑制のため景気減速を目指す各国・地域の中銀が抱える困難な課題が浮き彫りとなった。
カナダ中銀は利上げ再開の理由として、物品・サービスに対する堅調な個人消費需要や住宅部門の上向きなどに言及し、インフレ率を2%の当局目標に押し下げるには景気が過熱状態にあると説明した。
ただ、こうした状況は同国だけに限られたものではない。現在の引き締めサイクルにあって、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長率いる米金融当局を含め、他の中銀も金利を景気抑制的な領域に一段と引き上げなければならない可能性もある。
元カナダ中銀顧問で、現在はフィデリティ・インベストメンツのポートフォリオマネジャー、デービッド・ウルフ氏は「通常はカナダの出来事に米国では誰も関心を払わない」とした上で、「だが今回のケースでは、これまでの想定ほど中銀としての責務完了に近づいていないとのメッセージを受け取っていると考えられる」と話した。
米2年債利回りは一時4.6%に上昇し、カナダ2年債は2007年以来の高水準を付けた。トレーダーは7月までの米追加利上げを完全に織り込む場面もあった。
カナダ中銀は決定に際してあまりフォワードガイダンスを示さなかった。ターミナルレート(金利の最終到達点)がどこになりそうか確信に乏しいまま、利上げモードに急きょ戻ったことを示唆するものだ。
マックレム総裁の早期の利上げ再開を称賛する声も一部にあるが、先の利上げ停止が時期尚早だったことを暗に認めたものとも言える。カナダの政策金利は大多数の識者や中銀自体が以前に必要と考えていたよりも高い水準に向かう公算が大きい。
ブルームバーグ調査で今週のカナダ中銀の利上げを真っ先に予想していたシティグループのベロニカ・クラーク氏は7日の電話インタビューで、「カナダ中銀は利上げを停止することで、データの推移を見守りたい考えだった。経済活動とインフレの減速を予想していたが、そうはならなかった」と語った。
さらに、カナダ中銀による先の利上げ停止の結果、同国の住宅市場は底入れし、回復し始めたと述べ、「利上げ休止に関して米金融当局にも多少の教訓」となるとの考えを示した。 
米金融当局が利上げをいったん停止した場合、それが何を意味するのか、投資家にも教訓になるとの指摘もある。パウエル議長ら米金融当局者は、13、14両日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で利上げをいったん休止する意向と見受けられる一方で、物価抑制のための引き締めキャンペーンはまだ完了していないと説明している。
BMOグローバル・アセット・マネジメントの債券・短期金融市場責任者、アール・デービス氏は電子メールで、今週のオーストラリア、カナダ両国中銀による利上げはサプライズで、「炭鉱のカナリア」かもしれないとし、「米金融当局からもサプライズがある可能性を米市場は認識しつつある」とコメントした。
●カナダ山火事の煙が風にのりアメリカ東部まで到達 6/8
カナダ東部で発生している山火事の煙が流れ込み、アメリカ・ニューヨークなどでは視界が悪い状況が続いています。
記者「正午になりました。晴れていれば美しい景色が広がるはずのマンハッタンの様子、今にも消えてしまいそうです」
ニューヨーク・マンハッタンでは7日、朝から空気が淀んでいて、午後2時頃のタイムズスクエアでは空がオレンジ色に変わり、近くの高層ビルも霞んで見えます。
「嫌な臭いがします。頭がくらくらします」「30年住んでいますが、これほどひどいのは初めてです」
ニューヨーク州当局などによりますと、カナダで発生している山火事の煙が風にのってアメリカ東部まで流れ込み、前日の6日から視界が悪い状況が続いています。
記者「普段なら議会議事堂がよく見えるところに来ているのですが、煙がかかっているように見えます」
カナダでの山火事の煙はニューヨークからおよそ350キロ離れた首都ワシントンにも到達しました。議会議事堂やホワイトハウス、ワシントン記念塔などに煙がかかっています。
ワシントンにも大気汚染警報が出されていて、屋外での活動は控えるように呼びかけられています。
また、ホワイトハウスの報道官によりますと、先週からカナダ政府と連絡を取り合っていて、すでに600人以上の消防士らを派遣するなどして、カナダ政府の消火活動を支援しているということです。
●FRBリバースレポ残高、6月のTビル大量発行で減少も 6/8
米連邦政府の債務上限停止に伴い、財務省の短期証券(Tビル)発行による多額の資金調達が予定されていることで、長期にわたり大量の現金が集まっていた連邦準備理事会(FRB)のリバースレポ・ファシリティーからついに資金が流れ出す可能性がある。
米財務省は7日、債務上限停止を受け、Tビル発行を拡大し、6月末までに約3500億ドルの調達を目指すと発表した。
これはFRBが短期金融市場の調節手段としているリバースレポに影響を与える。ファシリティーは2021年春までは実質的に利用されていなかったものの、昨年1年間で主にマネー・マーケット・ファンドから1日あたり2兆ドル以上を集めている。
リバースレポの利用額は昨年12月30日に2兆5540億ドルと過去最高を記録し、今年はだいたい1日の利用額が2兆1000億─2兆2000億ドルで推移している。
バークレイズ・キャピタルのアナリストは、財務省の発表を受け、ファシリティーから4000億ドルが流れ出す可能性があり、その場合には残高は1兆7500億ドルまで減少する可能性があると指摘した。
BMOキャピタル・マーケッツの米国金利ストラテジスト、ベイル・ハートマン氏は、将来的にTビル発行総額は1兆ドルに達すると見ており、リバースレポ利用への直接的な影響は断言できないが、減少する可能性は高いとした。
リバースレポ・ファシリティーに預けられる現金をTビルに振り向けるには、FRBがファシリティーに現金を預ける適格企業に支払っている5.05%の利息よりも高い利率を提供することが重要になるだろう。
FRB当局は、積極的な利上げの過程でリバースレポの利用が減ることを期待していたが、これまでのところ実現していない。
●米金融・債券市場=利回り上昇、カナダ中銀の利上げ受け 6/8
米金融・債券市場では、米債利回りが上昇した。カナダ銀行(BOC、中央銀行)による利上げを受け、米連邦準備理事会(FRB)が来週の連邦公開市場委員会(FOMC)でタカ派スタンスを維持するとの見方が広がった。カナダ銀行は7日、政策金利である翌日物金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ、22年ぶりの高水準となる4.75%とした。
2年債利回りは4.8ベーシスポイント(bp)上昇の4.573%。指標10年債利回りは9.3bp上昇の3.793%となった。
みずほ証券USA(ニューヨーク)の米国チーフエコノミスト、スティーブン・リッキート氏は、債券市場は金利がより長期にわたり高水準で推移するとのFRBの見解をなかなか受け入れなかったが、現在はその見解に徐々に近づきつつあるとした。
CMEグループのフェドウオッチツールによると、来週のFOMCで金利据え置きが決定される確率は7.1%。前日終盤の78.2%からやや低下した。
ウィズダムツリーの債券戦略責任者、ケビン・フラナガン氏は最近のパウエルFRB議長の発言を踏まえると、FRBが来週利上げを見送る可能性が高いと指摘。ただ、13日に発表される消費者物価指数(CPI)によってFRBの判断が変わる可能性があるとした。
30年債利回りは6.7bp上昇の3.942%。
2・10年債の利回り格差はマイナス78.2bpだった。
物価連動国債(TIPS)と通常の国債の利回り差で期待インフレを示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は5年物US5YTIP=RRが2.196%、10年物が2.225%。
インフレ期待指標として注目されるドル建て5年先5年物インフレスワップは2.541%。 
●オルガノンとラテンアメリカ開発銀行(CAF) 6/8
女性の健康分野における持続可能な資金調達に向けた世界初の共同プロジェクト開始。
米ニュージャージー州ジャージーシティ--(BUSINESS WIRE)-- (ビジネスワイヤ) -- 女性の健康に特化したグローバルヘルスケア企業のオルガノン(NYSE:OGN)とラテンアメリカ開発銀行(CAF)は、ラテンアメリカとカリブ海地域の女児と女性の平等、健康、自立を促進および改善する持続可能なプログラムの設計、設立、実施を通じて国連の持続的開発目標に貢献する覚書(MOU)を交わしました。現在、女性の健康に関しては世界的に極めて大きなギャップが存在し、それが潜在的に女性の能力の十分な活用を妨げているだけでなく、経済にも影響が及んでいる可能性があります。持続的な資金調達は、性と生殖に関する教育や医療サービスへのアクセス向上など、他の手段では十分な支援を受けられないような取り組みに資金を動員することによって、女性の健康増進を推進することができます。
持続可能な資金調達は、医療iや社会経済的な進歩を促しながら、政府の厳しい予算に対処するための潜在的な解決策の1つです。健康に焦点を当てた社会的インパクト投資(成果主義ファイナンスとも呼ばれる)は、政府や投資家に対してリスクを軽減しつつ測定可能な意味のある成果を提供することが可能です。しかし、2020年現在、健康関連の投資は、世界のソーシャルボンドの発行額1900億ドルのうちの10%を占めるにとどまっています。ii
「オルガノンでは、成果主義の資金調達が、女性の健康目標を推進するための集団行動を促すことができると考えています」とオルガノンCEOのケビン・アリは述べています。「私たちは、女性の健康、ひいては国の経済と発展にプラスの影響を与えるために特別に構築された、CAFとの初の共同プロジェクトを誇りに思っています。」
オルガノンとCAFの連携は、ラテンアメリカとカリブ海地域の女児や女性の健康、平等、オートノミーの向上に対する優先的な取り組みの後押しとなります。そして、女性が健康で充実した生活を送り、経済の発展に貢献するうえで必要となる資源とサポートを確保することにつながります。ある報告書は、女性が男性と同等に経済へ参加した場合、2025年の世界のGDPは、28兆ドル(26%)も多くなる可能性があるとしています。iii
「今回のオルガノンとの合意で、女性の健康、金融サービス、非金融サービスへのアクセスを制限し続ける構造的な障壁を取り除くための取り組みに、私たちの力も加えていただけることになります」とCAFのセルヒオ・ディアス=グラナドス頭取執行役員は話しています。
オルガノンは、女性と女児の生活を改善し、国内総生産(GDP)を成長させるために、各国政府とグローバルな開発銀行の協働を図る新しい変革的モデルを構築してきました。同社はデータを活用することで、政府による健康関連投資を通じた持続可能な資金調達が、国民や経済にどれくらいの価値を提供できるかを把握する支援を行っています。現在、メキシコ、コロンビア、エクアドル、ペルー、パナマ、タイ、ケニア、南アフリカの8か国でさまざまな段階のプログラムが実施されています。
オルガノンについて
オルガノンは、女性の生涯にわたる健康の向上に重点的に取り組むために設立されたグローバル・ヘルスケア企業です。オルガノンは、さまざまな治療領域の成長中のバイオシミラー事業と大規模な既存医薬品のフランチャイズに加えて、女性の健康分野の60種類以上の医薬品と製品を提供しています。オルガノンの既存の製品は強力なキャッシュフローを生み出し、女性の健康とバイオシミラーにおけるイノベーションと将来の成長機会への投資を支えています。また、オルガノンは急成長中の国際市場での規模とプレゼンスを活用して、製品の商業化を目指すバイオ医薬品イノベーターとの協業機会を追求しています。
オルガノンは、大規模で広い地理的範囲に及ぶ世界的拠点網を有し、ワールドクラスの商業能力を持っています。従業員数は約1万人に上り、ニュージャージー州ジャージーシティに本社を置いています。
将来見通しに関する注記
本プレスリリースの記述および開示情報の一部は、1995年米国民事証券訴訟改革法のセーフハーバー規定の意味における「将来見通しに関する記述」に該当します。将来見通しに関する記述には、過去の実績や現在の事実に関係する記述だけでなく、「可能性がある」、「予想する」、「意図する」、「予測する」、「計画する」、「考える」、「探る」、「見積もる」、「思われる」をはじめ、その他同様の意味を持つ単語の使用により識別可能なあらゆる記述が含まれています。これらの将来見通しに関する記述は、同社の現時点での計画および予想に基づくものであり、数々のリスクおよび不確実性を伴い、よって実際の結果を含め、将来見通しに関する記述と同社の計画や予想が大きく変わる可能性もあります。
同社の将来の業績に影響を与える可能性のあるリスクおよび不確実性には、国連の持続可能な開発目標への貢献を通じてラテンアメリカおよびカリブ海地域において成果主義ファイナンスを推進できない状況、最終契約をCAFと交渉できず覚書を上書きできない状況、適用される法律や規制の変更、景気後退圧力、金利や為替レートの変動を含む一般的な経済的要因、一般的な業界の状況および競争、世界的な医療費抑制傾向、国際経済の金融不安およびソブリンリスク、ならびに特許訴訟や規制措置を含む訴訟リスクといったものが含まれますが、これらに限定されません。
オルガノンは、新たな情報、将来の事象、その他の事情にかかわらず、将来見通しに関する記述を公に更新する義務を負いません。将来見通しに関する記述とは大きく異なる結果を引き起こす可能性のあるその他の要因については、米国証券取引委員会(SEC)へのオルガノンの提出書類(フォーム10-Kによる2022年12月31日終了年度のオルガノンの年次報告書およびその後のSECへの提出書類を含む)に記載されており、SECのインターネット・サイトで入手可能です。

 

●FRBなど各国中銀、物価抑制に向け金融引き締め維持を=IMF 6/9
国際通貨基金(IMF)は8日、米連邦準備理事会(FRB)をはじめとする世界各国の中銀に対し、金融政策の「軌道を維持」し、インフレとの戦いで引き続き油断しないように要請した。
IMFのジュリー・コザック報道官は、米国ではインフレの勢いが弱まっているが、依然として喫緊の懸念事項と指摘。定例会見で「インフレが予想以上に続くようであれば、FRBはより長期にわたり金利をより高い水準に引き上げる必要があるかもしれない」と述べた。
IMFは7月25日に最新の世界経済見通しを発表するという。
また「世界経済には中期的に課題があると見ており、そのためには現時点で政策措置を講じる必要がある」と強調。「インフレを決定的に低下させるために、中銀は金融引き締めを継続すべき」とした。
●トランプ前大統領を起訴 機密文書持ち出しめぐり…米メディア相次ぎ報道 6/9
アメリカメディアは、トランプ前大統領が機密文書の持ち出しをめぐって起訴されたと報じました。
アメリカの主要メディアは先ほど、トランプ前大統領が機密文書を違法に持ち出した問題をめぐって起訴されたと一斉に報じました。
CNNテレビは7つの罪で起訴されたと報じています。
トランプ氏は先ほど、SNSで「バイデン政権から弁護士に対して、私が起訴されたとの連絡があった」と明らかにするとともに、「自分は潔白だ。これはバイデン政権による選挙妨害であり、最大の魔女狩りだ」と批判するメッセージを投稿しています。
機密文書の持ち出しをめぐっては、去年8月、FBI=連邦捜査局がトランプ氏のフロリダ州の私邸マール・ア・ラーゴの家宅捜索を行い、100点を超える機密文書を押収したと報じられています。
●アメリカ・イギリスが「大西洋宣言」発表 AIや重要鉱物などで幅広い協力強化 6/9
アメリカ・ワシントンを訪問中のイギリスのスナク首相とバイデン大統領は8日、会談後の記者会見で、AI=人工知能などの先端技術や重要鉱物の供給網で協力を強化することなどを盛り込んだ「大西洋宣言」を発表しました。
イギリス スナク首相「アメリカとイギリスは、世界で最も優れた民主的なAI大国だ。そのため、本日、バイデン大統領と私は、多国間を含め、AIの安全性について協力することで合意した」
「大西洋宣言」では両国がAI=人工知能や、クリーンエネルギーの開発また、EV=電気自動車用のバッテリーに使う重要鉱物の供給網など幅広い分野で協力を強化するとしています。
また、スナク首相は経済安全保障の重要性を指摘し、「中国やロシアのような国々は我が国の開放性を悪用し、権威主義的な目的のために科学技術を利用しようとする」と述べて対抗姿勢を強調。
AIの研究開発にあたっては、両国が安全性を重視した形で協力して行うことで合意しました。
●中国 キューバに通信傍受の施設設置 米メディア報道 6/9
中国がアメリカの軍事情報などを収集するため、キューバに通信を傍受する施設を設ける計画だとアメリカメディアが伝えました。
8日付のウォールストリート・ジャーナル電子版によりますと、中国はアメリカの通信を傍受するための施設をキューバに設けることでキューバと秘密裏に合意しました。
中国が財政難に陥っているキューバに対して数十億ドルを支援する一方、その見返りとして、キューバが通信を傍受する施設の建設を許可したとしています。
キューバはアメリカのフロリダ半島からおよそ160キロ南に位置していて、中国は多くの米軍基地があるアメリカ東南部の通信を傍受したり、船舶の航行を監視できるようになるとしています。
ただ、アメリカ国防総省の報道官は8日の会見で、「中国とキューバがスパイ基地を建設しているとは把握していない。報道は正確ではない」と話しています。
●米債務上限法案成立で浮上する2つのリスク、Tビル大量発行と… 6/9
米債務上限問題は、超党派法案「財政責任法案」の成立で幕を閉じ、ひと安心・・・と言いたいところですが、一難去ってまた一難、ここからは別の2つのリスクが浮上してきます。
1つは、既に市場で話題のTビル大量発行による米金利上昇懸念。米財務省は米債務が31.4兆ドルの上限に達した1月以降、新規の債券を発行できず、特別措置を講じ資金繰りを行ってきました。その間、米財務省が保有するキャッシュは減少を続け、5月30日時点で374億ドルと2017年以来の水準に落ち込んだのです。
   チャート:米財務省の現金保有高は、5月30日時点で374億ドル
   (注:チャートの単位は10億ドルで、縦軸のゼロの次は200ですが2,000億ドルを意味するため、5月の数値がゼロに近いように見えます)
だからこそ、米財務省は米デフォルト回避後に大規模な資金調達を行う必要があり、J.P.モルガン・チェースとゴールドマン・サックスは、向こう6〜7カ月にわたる米財務省短期証券(Tビル)の発行規模について約1兆ドルと試算しています。ドイツ銀行は年内1.3兆ドルとし、Tビルの純発行額は6月だけで4,000億ドル、7〜9月に5,000億ドルと予想。BNPパリバは、銀行預金やFRBとのオーバーナイト資金取引など、現金に近い商品から7,500億〜8,000億ドル程度が移動する可能性があると分析。こうした資金移動を含め、9月末までに8,000億ドルから8,500億ドルのTビルを購入するために利用されるといいます。
つまり、Tビルの大量発行により、1市場から資金が吸収され株式などのリスク資産が下落、2米金利と米ドルの上昇――の2つのシナリオが想定されます。マネーマーケットファンド(MMF)がTビル購入に動くと想定され、1と2の影響を軽減する期待もあります。また、アップルなどを含む米大手企業の社債発行額が5月に1,520億ドルと、5月としては2000年以来の規模に膨らんだのも、こうしたTビルの大量発行を想定していたとされ、市場は織り込み済みとの見方もあります。
問題は、1のリスク資産下落、2米金利と米ドルの上昇――といったリスクの顕在化がどちらに傾くか。ここを考える上で、筆者は米経済の減速に着目したい。
そこで出てくるもうひとつのリスクこそ、財政責任法の成立と共に弾かれた学生ローン債務免除の延長終了で、法案には阻止を盛り込んだ条項が存在しました。99ページにわたる同法に基づけば、6月末から30日以降に終了するため、8月29日という日付が浮かび上がります。
タイミングとしては、最悪と言わざるを得ません。足元で、貯蓄率は可処分所得比で4.1%と2019年平均から半減したままで、米5月雇用統計で明らかになったように、ゆるやかながら平均賃金は鈍化トレンドにあります。さらに、S&Pグローバルによれば、4月までの企業による破産申請件数は236件と、前年比2倍増であるだけでなく2010年以来の高水準です。
   チャート:企業の破産申請件数は4月までに236件、2010年以来の高水準
何より、若い世代を中心に自動車ローンやクレジットカードなどの延滞率も上昇中です。アポロ・アカデミーの調査では、クレジットカードの延滞率はリーマン・ショックが直撃した2008年以来の高水準だったとか。
   チャート:90日以上の新規延滞率、学生ローンはコロナ禍での債務免除を受けて急低下していましたが・・。
   チャート:年齢別:クレジットカードの延滞率
   チャート:年齢別、自動車ローンの延滞率
高インフレを受け、低所得者層を中心に生活費をクレジットカードで賄う人々が増加する事情もあって、米消費者信用残高の回転信用(クレジットカードの買い入れなどを指す)は急増中。貯蓄率と比較すると明らかに”ワニの口”状態である事実も、懸念材料です。
   チャート:米消費者信用残高の回転信用と貯蓄率は、”ワニの口”状態
では、気になる1カ月当たりの学生ローン返済額はというと・・・2022年時点で大卒で621ドル(約8.6万円)!日本と同じく実質賃金がマイナスな状況下、債務者に重く圧し掛かります。
   チャート:博士なら、月々のお支払いは12万円超え也
中間選挙前に学生ローン債務免除を決定したバイデン政権に、投票した若者は何を思うのでしょうか。むしろ「共和党のせいだ!」と解釈するのか、答えはバイデン氏の支持率に現れることでしょう。
●NY株3日続伸、168ドル高 FRB利上げ一時停止の観測強まり 6/9
8日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3日続伸し、前日比168・59ドル高の3万3833・61ドルで取引を終えた。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを一時停止するとの見方が強まり、景気の先行きへの警戒感が和らいだ。
朝方発表された米週間失業保険申請件数は26万1千件と約1年7カ月ぶりの高水準となり、労働市場の逼迫緩和が示されたことで利上げ停止観測が強まった。ただ、FRBが金融政策を決める連邦公開市場委員会を来週に控えて様子見ムードも広がった。
ハイテク株主体のナスダック総合指数は反発し、133・62ポイント高の1万3238・52。
●米国株、ダウ続伸 FRBの引き締め長期化への懸念和らぐ 6/9
8日の米株式市場でダウ工業株30種平均は3日続伸し、前日比168ドル59セント高の3万3833ドル61セント(速報値)で終えた。8日発表の経済指標が労働市場の軟化を示したと受け止められた。米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締め長期化への懸念が和らぎ、金利が低下したことで株式の買い安心感が広がった。
8日発表の週間の新規失業保険申請件数は26万1000件と市場予想(23万5000件)を上回った。市場では、働き手の需給が緩む兆候との受け止めがあった。今週に入ってオーストラリアやカナダの中央銀行が相次いで利上げを決めたことからFRBの金融引き締め継続への警戒が高まっていたが、ひとまず落ち着いた。市場では、13〜14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置き、その後の会合でも利上げ圧力が和らぐと受け止められた。
米債券市場では、長期金利が3.7%台前半に低下(前日終値は3.79%)し、相対的な割高感が薄れた高PER(株価収益率)のハイテク株に買いが入った。顧客情報管理のセールスフォースやスマートフォンのアップルが上昇した。航空機のボーイングや医療保険のユナイテッドヘルス・グループも買われた。半面、化学のダウやクレジットカードのビザは下落した。
ハイテク比率が高いナスダック総合株価指数は反発し、前日比133.629ポイント高い1万3238.524(速報値)で終えた。
●NY円、138円台後半 「FRBが利上げ一時停止」の見方広がる 6/9
8日のニューヨーク外国為替市場の円相場は午後5時現在、前日比1円23銭円高ドル安の1ドル=138円88〜98銭を付けた。ユーロは1ユーロ=1・0777〜87ドル、149円70〜80銭。
朝方発表された米週間失業保険申請件数の結果を受け、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを一時停止するとの見方が広がった。このためドルを売って円を買う動きが強まった。
●米金融・債券市場=利回り低下、失業保険受けた利上げ停止観測で 6/9
米金融・債券市場では、米債利回りが低下した。米失業保険申請件数が予想以上に増加し、労働市場の冷え込みを示唆。米連邦準備理事会(FRB)による利上げ停止観測が高まった。
米労働省が8日発表した3日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は前週から2万8000件急増し、26万1000件となった。件数は約1年半ぶり高水準、増加幅は約2年ぶりの大きさとなった。ロイターがまとめたエコノミスト予想は23万5000件だった。
一方、アクション・エコノミクス(サンフランシスコ)のグローバル債券担当マネジング・ディレクター、キム・ルパート氏は、1週間だけの失業保険申請件数では「何かの前触れ」になることはないと指摘。債券市場はFRBによる来週の据え置き決定を裏付ける材料を探しており、今回の失業保険を労働市場の冷え込みの兆しと受け止めたが、ルパート氏自身はFRBが来週利上げを決定する可能性はあると考えているとした。
国際通貨基金(IMF)は8日、FRBをはじめとする世界各国の中銀に対し、金融政策の「軌道を維持」し、インフレとの戦いで引き続き油断しないように要請した。 
●米債務上限去り、もう1つのデフォルト懸念が… 6/9
金融やビジネスの世界でデフォルト=債務不履行と聞くと、ドキッとする方も多いのではないでしょうか。世界の投資家が気にかけていたアメリカ国債のデフォルトは、Xデーが来る直前にバイデン大統領が政府の債務上限を一時的になくす法案に署名し、危機は回避されました。しかし、世界には次なるデフォルトリスクがささやかれている国が存在します。その1つが南アジアのパキスタンです。金融市場や国際情勢に悪影響を及ぼしかねない新たな危機とは?
デフォルト寸前?
「いつデフォルトしてもおかしくない状況だ」
新興国や発展途上国の経済を専門とする第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストはこのように語り、パキスタンの経済情勢に懸念を深めています。
パキスタンとはどのような国なのでしょうか。
実は潜在的には経済成長が期待できる国だと言われています。繊維産業や農業が主力産業で人口は2億人以上。毎年の出生数はおよそ600万人とされ(日本は2022年に80万人割れ)、今後も人口増加が続くと予想される、若くて巨大な市場です。
しかし、恒常的に貿易赤字となる弱い経済体質が続いていたところに、2022年、大規模な洪水に見舞われ、経済の混乱が一段と深まっています。
外貨準備高は2023年1月末時点で、およそ31億ドルと1年前の5分の1以下まで急減。通貨安とインフレの同時進行に悩まされています。
通貨パキスタンルピーは、2年前は1ドル=160ルピー前後だったのが、今は280ルピー前後にまで急落。2年間で価値が半分近くにまで落ち込みました。
インフレも加速し、消費者物価の上昇率は前年比30%台が続いています。
私たちの財産にも影響?
そもそも外国の国債がデフォルトすると私たちの暮らしにとってどのような悪いことが起きるのでしょうか?
デフォルトは債務の不履行ですから、借りたお金を返せないことになります。
仮にみなさんの投資信託や確定拠出年金(DC)にパキスタン国債が入っていたとします。この国債がデフォルトすることで、投信や確定拠出年金の一部が焦げ付き、お金が一部返ってこない、あるいは運用成績が悪くなってしまうといったことが考えられます。
過去にはこんなことがありました。アルゼンチンの円建ての国債(サムライ債)は高金利で人気がありましたが、2001年にデフォルトし、保有していた個人投資家や公益法人などに対し償還や利払いが行われない状態が続きました。
遠い国の国債デフォルトはもしかすると私たちの財産にも影響するかもしれないのです。
大手格付け会社が警戒
パキスタン経済の厳しい状況を受けて、大手格付け会社「ムーディーズ」は2023年2月、パキスタンの国債の信用度を示す格付けを一気に2段階引き下げ、「Caa3」に。
「外貨準備高が大きく落ち込み、輸入と債務の支払いに必要な水準をはるかに下回っている」としました。
別の大手格付け会社「フィッチ・レーティングス」も2月に2段階の格下げを行いました。
欧米の利上げの影響も
パキスタンが経済的に苦境に陥っている背景の1つには、欧米が続けてきた利上げの影響もあると指摘されています。
アメリカのこれまでの利上げでドルの金利は上昇し、それがパキスタンなど発展途上国のドルなど外貨建て債務の返済負担を増しているというものです。
欧米がインフレの抑え込みに成功し、利下げが視野に入ってこないと、発展途上国の債務状況は厳しいままです。
2022年には南アジアのスリランカやアフリカのガーナが対外債務の支払いを停止すると発表し、事実上のデフォルトに陥りました。今の状態が続けば今後はその数が増えていくことも懸念されています。
「投資家が保有する国債の割合はそれほど高くないとみられ、仮にデフォルトしても直接的に金融市場を揺るがす事態になる可能性は低い」
第一生命経済研究所の西浜エコノミストはパキスタン国債についてこう指摘する一方で、パキスタンをめぐる地政学リスクが高まることには警戒が必要だとしています。
「パキスタンに多額の資金を貸しているとみられる中国、その中国と国境を巡って対立するインドなどがパキスタンの債務再編や経済支援に関して入り乱れたり、けん制しあったりして地政学リスクが高まることが最大の懸念だ」
歴史に学び、リスクの見極めを
ロシアによるウクライナ侵攻、エネルギー価格高騰に欧米の急速利上げ、いくつもの異常事態が重なり、そのひずみが「稼ぐ力が弱い国」に押し寄せています。
法案を可決できればあっという間にデフォルトリスクから解放される国とは違い、複雑な国際情勢によって逃げ場を失いかけている国が世界には存在します。
1997年にタイが震源地となったアジア通貨危機など、過去の事例を振り返ると、新興国、発展途上国で起きた危機があっという間に世界に伝わり、市場を揺さぶったことがあります。
歴史に学び、冷静にリスクを見極める必要がありそうです。
●数字を掲げなかった社長 数字に表れた変化...収益構造を変えた豊田章男 6/9
2023年1月26日、トヨタイムズニュースで生放送された社長交代会見の中で、豊田は次のようなことを語っている。
「この13年間を振り返りますと、とにかく必死に、一日一日を生き抜いてきました」
豊田が社長に就任したのは2009年。当時はリーマンショックの波が世界各国に押し寄せていた。逆風という言葉では、あまりにも生ぬるい、暴風雨の中での船出。2008年度の営業利益は創業以来最悪の4,610億円の赤字となった。
それでも豊田は社長就任後、収益構造の改善に着手。2009年度には収益を黒字に戻すと、その後の北米に端を発する大規模リコール問題、東日本大震災、タイの洪水など度重なる会社存亡の危機にあっても黒字を守ってきた。
2020年度には、コロナウイルスの影響により、リーマンショックのあおりを受けた2008年度と同規模の販売台数減(マイナス15%)となりながらも、連結営業利益2兆1,977億円を計上。多くの変革の末、企業体質が強化されてきたことを数字のうえでも証明してみせた。
豊田はどのようにして創業以来最悪の赤字に陥っていたトヨタを立て直し、収益構造を変えてきたのか。豊田が行った改革とともに、数字に表れた変化を追ってみたい。
社長就任前夜
豊田が社長に就任する以前、トヨタは北米を中心に、海外生産をハイペースで拡大していた。
2007年末時点での海外生産拠点は27カ国・地域。年産能力20万台規模の工場を毎年2〜3カ所新設するような状況にあった。
グローバルな生産・販売台数の増加に伴い、業績も増収増益を続け、連結営業利益は、2001年度に1兆円、2006年度は2兆円を突破する。
クルマをつくればつくるだけ売れる状況にあった。
右肩上がりで成長を続けるトヨタだったが、順風満帆とはいかなかった。
2008年、リーマンショックの影響は、自動車産業全体に暗い影を落とし、北米をはじめ世界の新車市場は急速に冷え込む。
トヨタの2008年度の連結販売台数は、前年の891万台から756万台に下落(マイナス15%)。増やし続けた工場と設備は、固定費として重くのしかかった。
円高も重なり、2008年11月の第2四半期決算から翌年2月の間にトヨタは3度の業績下方修正と赤字予想を出す。メディアからは「トヨタショック」と報じられた。
最終的な営業利益はマイナス4,610億円。
2009年6月、当時、社長に内定してした豊田は年度初めのグローバル方針説明会で、「一つひとつのオペレーションや、意思決定が、『台数・収益優先』に進んでしまったことを、私たちは謙虚に反省し、今後に活かしていかなければなりません」と、販売台数だけを求めない、地域の実情やニーズに沿った商品づくりへと舵を切ることを誓った。
TPS・原価低減で体質強化
豊田は社長に就任してからの期間を振り返る際、度々「トヨタらしさを取り戻す闘い」と発言してきた。
「トヨタらしさ」として真っ先に思い浮かべられることが、トヨタ生産方式(TPS)と原価低減だろう。
TPSとは「ムダを徹底的になくして、よいものを安く、タイムリーにお届けする」、トヨタの経営哲学だ。「お届けする」相手は、クルマの購入者のみならず、クルマをつくる過程における後工程も指す。
そのTPSの2本の柱が「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」である。
「自働化」とは、自“働”化であって、自“動”化ではない。人の知恵で「ムダ・ムラ・ムリ」を取り除き、「品質と生産性の向上を工程でつくり込むこと」、さらには、「人を機械の番人にしないこと」が主な考え方だ。
そして「ジャスト・イン・タイム」は、リードタイムを極力短くし、「必要なものを、必要なときに、必要な分だけつくる」ことである。
「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」に支えられたTPSは、原価低減と競争力向上の源泉であり、元来トヨタの根幹をなしてきた技だ。
トヨタの真骨頂は「トヨタ生産方式、TPS」と「原価低減」です。
TPSの基本の1つに「原価主義より原価低減」ということがあります。
「原価に適正利潤を上乗せして販売価格を決める」のではなく、「販売価格は、市場すなわちお客様が決める」という大前提のもと、「我々にできることは原価を下げることだけだ」という考え方です。
「原価」を見ることは「行動」を見ることです。一人ひとりが「原価意識」と「相場観」をもって、日常の行動の中にある「ムダ」を徹底的に排除する。
かつては、当たり前であったことが、いつのまにか「当たり前でなくなっていた」と気づくことからのスタートでした。
あらゆる職場で、「固定費の抜本的な見直し」を掲げ、日々の業務から、大きなイベント、プロジェクトに至るまで、一つひとつの費用を精査し、自分たちの行動の「何がムダか」を考え、地道な原価低減に徹底的に取り組みはじめました。 ・・・(中略)・・・
「連敗だけは絶対にしない」という強い決意のもと、トヨタに関わるすべての人が、全員参加で、地道に、泥臭く、徹底的に原価低減活動を積み重ねた結果が決算数値にも少しずつ表れ始めてきたのではないかと思っております。
ゆえに、今期の決算を、私の言葉で総括いたしますと、「たゆまぬ改善という『トヨタらしさ』があらわれはじめた決算」ということになるでしょうか。 (2018.5月 2017年度決算発表スピーチ)
2017年度の決算発表において、TPSと原価低減の浸透の手応えをこのように語った豊田。それを裏付けるように、「原価改善の努力」の項目が、社長就任以前の2001年度〜2008年度は平均約1,625億円であるのに対し、2009年度〜2017年度は約3,183億円と2倍近い効果をあげている。
商品軸と地域軸で損益分岐台数30%改善
豊田は社長就任時、経営を立て直すため、「もっといいクルマづくり」を軸に据える。それを具体化する策として、前編で詳述したように、2012年にTNGA(Toyota New Global Architecture)、2016年にカンパニー制を打ち出す。
これらの施策によって商品力を高める一方で、海外ではタイから始まったIMVシリーズや北米のタンドラなど、地域のニーズに寄り添ったクルマを、現地主導で生産・供給してきた。
豊田が副社長時代に主導したIMVプロジェクトは、「世界各国のお客様に、同時期に、より魅力的な商品を、よりお求めやすい価格で提供」と説明されているように、新興国での販売シェアを広げていく。
さらに、豊田は先に紹介した2009年のグローバル方針説明会において、「ここ数年のトヨタは、グローバルモデルと称し、大票田主導のクルマづくりに、比重がかかってしまった(中略)この先、地域に根ざした理想の品揃えを、各地域の皆さんと共有したいと思います」と語っている。
変化は、地域別の販売シェアに表れた。2005年には、日本と北米で約60%を占めていたのが、2022年には約40%に。一方で、中国が3%から20%、アジアが12%から14%と伸長。日米頼みの販売状況は、グローバルにバランスの取れた事業構造に変化した。
このように、豊田はTNGAやカンパニー制の導入によって、素性の良いクルマづくりと開発効率の向上を実現。「クルマづくりの基盤」を生かし、地域に根差した商品をバランス良く販売した結果、損益分岐台数は、リーマンショックの頃と比べて約30%改善した。
2020年、コロナウイルスにより世界的に経済が低迷する中での株主総会において、豊田はリーマンショックのころとは違う、外乱に強い企業体質へと成長した手応えを語っている。
「体質強化は進んでいるのか?」という質問をいただく度に、私は、「リーマンショックのような危機に再び直面した時にしか、その答えは出ないと思います」と申し上げてまいりました。
そして、今回、リーマンショックを上回るコロナ危機が世界を襲いました。・・・(中略)。。。
今、私はこうお答えしたいと思います。
トヨタは確実に強くなったと思います。そして、その強さを自分以外の誰かのために使いたいと思っております。 (2020.6月 株主総会)
ステークホルダーへの分配
しかし収益が見込めるようになってくると、今度は決算説明会の場などで、「トヨタの一人勝ち」と言われることも起こり始めた。
こういった声に対して、豊田は2021年の株主総会において、国や自治体、従業員、仕入先など、さまざまなステークホルダーへの貢献を具体的な数字を用いて説明している。
ぜひ、ご理解いただきたいのは、12年間の売上の総数は300兆円になります。自動車産業は裾野の広い産業です。約7割の部品が仕入先からの購入部品で、部品を購入する対価として、(その分の金額を)お支払いしています。その金額の累計が230兆円です。
国家予算が1年100兆円と考えると、相当に大きな金額が世の中に回っていると思います。
トヨタは内部留保をたくさん抱え、配分を間違えているのではないかという声も耳にします。皆様にご理解いただきたいのは、12年間でトヨタの連結従業員は5万人増加していますが、これが経済面でどのような影響を与えているかということです。
仮に世帯年収を500万円とすると、5万人×500万円=2,500億円のお金が家計に回っています。
また、消費税増加が叫ばれている中、消費税を1%上げると、約2兆円の国富への貢献と言われていることからすると、20兆円の時価総額が上がったということは、消費税10%に値します。 (2021.6月 株主総会)
自動車産業は、完成車メーカーだけでやっているのではなく、さまざまなステークホルダーと支え合いながら成立している産業であり、その経済波及効果も大きい。
普段はあまり数字を口にしない豊田だが、販売店や仕入先などとともに積み重ねた「意志ある情熱と行動」の結果であることを、実績を用いて理解を求めたのだ。
また、2023年の労使協議会でも、豊田の社長在任期間でステークホルダーへの分配が増加してきたことが報告された。従業員や仕入先などとともに成長してきたことが示されている。
「もっといいクルマづくり」を通じて得られた収益を、研究開発費などの「未来への投資」やステークホルダーへの分配につなげていく。こうしたサイクルを通じて、持続的成長に向けた基盤を強化していった。
未来への種まき
豊田が社長就任時に掲げた「もっといいクルマづくり」といった言葉は、平易であるがゆえに理解されにくく、「数値目標をあげられないのか」と批判されることもあった。
しかしながら、「モリゾウ」「マスタードライバー」「トヨタの社長」として、現地現物で取り組んできた組織改革や人材育成が成果を伴ってくると、徐々にその声は小さくなっていった。
2023年1月の社長交代の生放送内で、豊田は「グローバルトヨタ37万人が、それぞれの町のそれぞれの現場で、もっといいクルマづくりに取り組んできた結果、商品が大きく変わりました」と語っている。
5月に公表された2022年度の決算は1兆5,450億円にのぼる資材高騰の影響を受けながらも、2兆7,250億円の黒字を確保した。
12代目トヨタ社長としてバトンを受けた佐藤恒治は、「商品を軸にした稼ぐ力が高まっている」と決算の成果を受け止め、今期は電動化やソフトウェアといった未来投資を加速していくことを発表した。
豊田はよく、経営を畑に例える。収穫を終えた畑を引き継がれたからこそ、次世代には、収穫と種まきのバランスのとれた畑を引き継ぎたい。そんな想いで14年間、経営にあたってきた。
そうして育てられてきた土壌の上に、築き上げるモビリティカンパニーへの変革。豊田の志を受け継ぐ新体制が未来への挑戦を続けていく。
●米FRBの緊急融資枠、先週は銀行の利用額が小幅増加 6/9
米連邦準備理事会(FRB)が8日公表したデータによると、緊急融資枠、銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)の利用額は7日までの1週間で1002億ドルと、前週の936億ドルからわずかに増加した。
連銀窓口貸出(ディスカウント・ウインドウ)の利用額は40億ドルから32億ドルへ減少した。
破綻した銀行の処理に関連した「その他の信用」に分類される融資は1881億ドルから1852億ドルに減った。
これら3つのプログラムからの借入総額は7日時点で2886億ドルとなった。5月31日時点では2857億ドルだった。
FRBのバランスシートの規模は前週の8兆4360億ドルから8兆4390億ドルに拡大した。
●アジア通貨動向(9日)=大半が上昇、米指標受けたFRB利上げ停止観測で 6/9
アジア新興国通貨は大半が上昇。米国の週次の新規失業保険申請件数が急増したことを受け、連邦準備理事会(FRB)が来週の会合で利上げを停止するとの観測が高まった。
タイバーツは一時0.7%高と強さが際立ち、1週間ぶりの高値を付けた。韓国ウォンとマレーシアリンギはそれぞれ0.6%と0.2%上昇した。
クルンタイ銀行の市場ストラテジスト、プーン・パニクピブール氏はFRBが年内はほぼ、政策金利を5─5.25%に据え置くと予想。ただ、「米経済がリセッション(景気後退)に陥った場合は、第4・四半期終盤に利下げを決めるかもしれない」と分析した。
一方、フィリピンペソとシンガポールドルはどちらも0.1%下げた。
フィリピン中央銀行は8日、銀行の預金準備率を引き下げると発表。国内の安定した信用状況を確保することが狙いで、新型コロナウイルス流行で銀行を対象に導入した流動性向上の支援措置が失効することに配慮した。

 

●4月後半、FRBがついに債務超過 6/10
4月後半、筆者がかれこれ1年半近く注目してきたことが起きました。米連邦準備制度理事会(FRB)の債務超過です(=資本の部・純資産がマイナス;negative equity)。
[図表1]は、米連邦準備制度理事会(FRB)が週次ベースで公表しているバランスシート項目のひとつ『その他の負債・資本』勘定を時系列で示したものです(→直近5月31日時点で、マイナス118億50百万ドル)。
   [図表1]FRBの負債鑑定科目『その他の負債・資本』(→事実上の純資産)
念のために申し添えると、この図は筆者がなんらかの計算をして表示したものではなく、FRBが毎週公表しているものをそのままダウンロードして表示したものです。
債務超過のカギを握る「財務省への送金未払金/繰延資産」
詳細は後に譲りますが、かいつまんで説明すると、また[図表2]でも示すとおり、この『その他の負債・資本』勘定は、FRBの「資本金」と「剰余金」に、「財務省への送金未払金/繰延資産」を足したもので構成されます。
   [図表2]FRBの負債勘定科目『その他の負債・資本』の内訳
この図から「財務省への送金未払金/繰延資産」が、FRBの債務超過のカギを握ることがおわかりいただけると思います。
「財務省への送金未払金/繰延資産」は、「各連銀が利益を上げている平常時」においては、前者の「財務省への送金未払金」(資本勘定・貸方でプラス)として計上されます。
FRBのポートフォリオは昨年7〜9月期に赤字…それ以降、損失が累積
他方で、米国債や住宅ローン担保証券(MBS)などで構成されるFRBの金融政策のためのポートフォリオ「連邦準備制度公開市場勘定」(SOMA)は昨年7〜9月期に赤字になり、その後、昨年9月にほとんどの地区連銀は財務省への剰余金の送金を停止しました(Federal Reserve Bank of New York (2023))。
この赤字は、負債サイドの市中銀行準備預金とリバース・レポに支払う利息(およびその他の業務コスト)が、資産サイドの保有債券や貸出から受け取る利息(およびその他の利益)を上回っていることから生じています。
なお、QT・量的引き締めに関連して、FRBは、たとえば昨年末時点で、8.4兆ドルの保有債券(アモチ後)に対して1兆ドルを超える含み損を抱えていましたが、現時点では、これらを売却せずに償還に任せているために、売却損は生じていません(→たとえば、イングランド銀行はアウトライトでの保有国債売却を進めており、売却損が生じている模様です)。
FRBの会計原則により、FRBや各連銀が赤字になって送金不能になる場合には、「財務省への送金未払金/繰延資産」は、「繰延資産」(資産勘定・借方でプラス)として計上されます。この繰延資産は、過去の費用・損失の合計にほかならず、債務超過(アンバラ)になったあとの「バランスシートをバランスさせるための勘定」(balancing item)です。
今年4月後半以降、この「繰延資産(累積損失)」が「資本金」と「剰余金」の合計金額を上回っており、FRBの「資本の部」言い換えると「純資産」は事実上マイナス(negative equity)になっています。
   [図表3]FRBの負債勘定科目『その他の負債・資本』の内訳
FRBの債務超過は「問題なし」なワケ
―――実は世界各国で債務超過が起きている
驚かれたかもしれません。しかし、債務超過に陥っているのはFRBだけでなく、現在すでに、オーストラリア準備銀行も債務超過に陥っています(Bullock (2022);おもに保有債券の評価損による)。
また、過去にも、チリ、チェコ、イスラエル、メキシコの中央銀行のほか、先進国では、ドイツ連銀が1977〜1979年に債務超過に陥っています(Archer and Moser-Boehm (2013), Bell et al (2023), Ueda (2003), Bundesbank (1976, 1977, 1978, 1979, 1980);おもに外貨準備の評価損による)。
これらの中央銀行は数年単位で債務超過が継続しましたが、金融政策を適切に実行することができています(Bell et al (2023))。
付け加えておくと、現在すでに、イングランド銀行(資産買い入れファシリティ;債券売却損と準備預金利払いの増加)や欧州中央銀行(ECB;おもに保有債券の評価損と準備預金利払いの増加)、ドイツ連銀(同)、スウェーデン中銀(同)なども赤字です。
中央銀行が赤字・債務超過に陥る「5つの要因」
また、中央銀行が赤字や債務超過に陥るかどうかに作用する要因として、もちろん、
1.どのような資産をどの程度の規模で増やすか(→市場リスクの保有量;為替介入の結果としての外貨準備の増加や、QE・量的金融緩和の結果としての保有債券の増加)
2.金融市場の変動の大きさ(→為替レートや金利)、
3.市中銀行準備預金への付利とインフレ率の大きさ、政策金利対応
なども大きく影響しますが、このほかにも、
4.採用している会計基準や、
5.中央銀行の利益や剰余金の分配ルール
も少なからぬ影響を与えます。
たとえば、上記4の「会計基準」については、オーストラリア準備銀行やECBは、保有債券を時価評価して評価損(費用)として認識します。他方で、FRBは(他行よりも巨額の含み損を抱えているものの)、損益計算書には反映せず、簿価金額と償還額面との差額を期間案分して損益認識します(→アモチ認識)。
当然、前者のほうが、損益は振れやすく、赤字に陥りやすくなります。
また、上記5の「利益や剰余金の分配ルール」については、財政支援のために財務省への送金や株主への配当を増やし、内部留保(剰余金)を限定して資本(≒いざというときのバッファー)を低めに留めれば、保有資産価格の変動や(準備預金への付利がある場合には)政策金利しだいで、債務超過に陥りやすくなります。
FRBの場合には、総資産がリーマンショック前(2007年12月末時点)の約0.9兆ドルから、パンデミック後には最大9兆ドルにまで増加した一方で、現在の資本金と剰余金の合計水準は2007年12月末時点とほぼ同水準です。
剰余金の水準はこの間に成立したいくつかの財政支出法にともなう連邦準備法の修正によって引き下げられ、現在はわずか約67億ドルに留められています。
   [図表4]FRBの総資産と資本
   [図表5]FRBの自己資本比率(資本/総資産)
   [図表6]FRBの負債勘定科目『その他の負債・資本』の内訳
また、FRBは2008年以降、1兆ドルを超える送金を財務省に行った一方で、現在の純資産の金額(資本金+剰余金+繰延資産・累積損失)はマイナス118億50百万ドルですから、財務省への送金額を少なくし、剰余金を増やすことで資本を厚くしておいたなら、少なくとも現時点では債務超過には陥っていなかったことは明らかです。
   [図表7]FRBから財務省への送金額
債務超過は「想定内」も、マーケットの反応は不透明…解決策は
中央銀行の赤字や債務超過については、過去30年以上にわたって、中央銀行のエコノミストや経済学者による多くの研究蓄積があります。実は、日銀の植田和男総裁も、いまから20年前の2003年にこのトピックで講演を行っています(Ueda (2003))。
すなわち、中央銀行の赤字や債務超過は予想外の出来事ではありません。中央銀行や経済学者はこうしたことが起きることを予見し、事前にメディアや一般向けに情報提供を行っています(→たとえば、Bonis, Fiesthumel and Noonan (2018), English and Kohn (2022), Nordström and Vredin (2022))。
もちろん、
1.中央銀行の債務超過には先例がある:「オーストラリア中銀もそう」
2.中央銀行の債務超過は会計基準や剰余金の分配ルールしだいである:「利益を送金していなければ債務超過ではなかった」
3.中央銀行の債務超過については学術的蓄積がある:「勉強にもアナウンスにも積極的である」
といっても、主要な中央銀行が次々と赤字や債務超過に陥る状況を、金融市場がどう受けとめるかはわかりません。
ですから、現実に起きてしまった赤字や債務超過の状況をどう解決できるのかを考え、あるいはFRBは実際にどう解決しようとしているのかを知っておくことは重要に思えます。
●米金融・債券市場=利回り上昇、FRBのタカ派姿勢を警戒 6/10
米金融・債券市場では、米債利回りが上昇した。米連邦準備理事会(FRB)は来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、積極利上げを一時停止するものの、高インフレに対する警戒感からタカ派姿勢を維持するとの見方が背景。
カナダの5月の雇用者数が予想外に減少したことを受け、米債利回りは一時的に低下した。今週はオーストラリアとカナダの中央銀行が予想外の利上げを行ったため、今回の雇用統計は米市場を動揺させた。
カナダ統計局が9日発表した5月の雇用者数は前月比1万7300人減り、9カ月ぶりに減った。ロイターがまとめた市場予想の2万3200人増に反して減少した。失業率は5.2%と前月より0.2%ポイント上昇し、9カ月ぶりに悪化した。
ナットウエスト(コネチカット州)のマクロストラテジスト、ブライアン・デインジャーフィールド氏は、6月FOMCで利上げを「スキップ」した場合、市場はFRBの表現がかなりタカ派になることを予想していると述べた。
金利期待に敏感な2年債利回りは8.5ベーシスポイント(bp)上昇し4.604%となった。指標である10年債利回りUS10YT=RRは3.1bp上昇し3.745%だった。
2・10年債の利回り格差はマイナス86.1bpと、反転が一層拡大した。
フェデラルファンド(FF)金利先物市場では、来週FOMCで金利据え置きが決定される確率を70.9%と見積もっている。
30年債利回りは0.3bp上昇し3.886%となった。
物価連動国債(TIPS)と通常の国債の利回り差で、期待インフレを示すブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は、5年物US5YTIP=RRが2.166%、10年物が2.21%だった。
財務省短期証券は、1カ月物は9.2ベーシスポイント上昇し5.194%、3カ月物は1.4ベーシスポイント低下し5.251%。
●NY円、反落 1ドル=139円30〜40銭 FRBが引き締め姿勢継続との見方で 6/10
9日のニューヨーク外国為替市場で円相場は反落し、前日比40銭円安・ドル高の1ドル=139円30〜40銭で取引を終えた。米連邦準備理事会(FRB)が6月に利上げを見送った後も、根強いインフレ圧力を背景に金融引き締め姿勢を維持するとの見方から円売り・ドル買いが優勢だった。
FRBは13〜14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置くと予想されている。ただ、その後の会合でも利上げを控えるかは不透明で、市場では「FRBは(声明などで)引き締め寄りの姿勢を示す」(JPモルガンのマイケル・フェローリ氏)との見方がある。今後の物価指標次第ではFRBの金融引き締めが長期化すると懸念されている。
米株式市場ではハイテク銘柄を中心に株高が続き、多くの機関投資家が運用指標にするS&P500種株価指数は9日に2022年8月以来の高値を付けた。株式投資家が運用リスクを取る姿勢を強めているのも低リスク通貨とされる円の重荷だった。
円の安値は139円59銭、高値は139円04銭だった。
円は対ユーロで反落し、前日比5銭円安・ユーロ高の1ユーロ=149円75〜85銭で取引を終えた。
ユーロは対ドルで3日ぶりに反落し、前日比0.0030ドルユーロ安・ドル高の1ユーロ=1.0745〜55ドルで取引を終えた。週末を前に持ち高調整のユーロ売り・ドル買いが出た。
ユーロの安値は1.0743ドル、高値は1.0784ドルだった。 

 

●海外の金融勘定 : 日本の対外投資 6/11
1. 海外の金融勘定:日本
前回は、政府の金融勘定 対GDP比について、主要国の水準の比較をしてみました。日本の政府は1998〜2004年で負債(主に国債)を大きく増やす時期があり、この分だけ他国よりも負債を多く蓄積している状況という事がわかりました。この時期はちょうど、企業が負債を減らしているタイミングと重なります。企業の挙動へのリアクションとして政府が負債を増やしているという状況が良くわかりますね。今回は、各国に対する海外の金融勘定について眺めてみましょう。
   図1 日本 海外 金融勘定 対GDP比
図1が日本に対する海外の金融勘定 対GDP比です。全体のボリュームは、バブル期に大きく拡大し、バブル崩壊とともに収縮している事が良くわかりますね。2000年あたりからまた拡大しているようです。資金過不足では1980年代から一貫して0〜-5%で資金不足が続いています。日本から海外への投資が超過し続けている事がわかります。金融資産側で多いのは債務証券、株式等、貸出です。資産側の株式等は近年存在感が薄いですね。海外から日本への株式投資が少ないようです。一方負債側で多いのは、債務証券と株式です。日銀の資金循環では株式は対外証券投資と対外直接投資で分かれて集計されているのですが、OECDのデータでは合計されているようです。
2. 海外の金融勘定:アメリカ
続いてアメリカの状況を眺めてみましょう。
   図2 アメリカ 海外 金融勘定 対GDP比
図2がアメリカに対する海外の金融勘定 対GDP比です。日本とは逆で、1980年以降資金過不足が常にプラス(0〜5%)で推移しています。海外からアメリカへの投資が超過し続けているという事になりますね。金融資産側で増えているのは債務証券と株式です。アメリカの企業の社債なども含まれますが、多くは政府の国債であると思われます。株式も存在感が大きいですね。一方負債側で存在感が大きいのは株式等です。アメリカは国内企業への海外からの株式投資も活発ですが、海外企業へのアメリカからの株式投資も活発であることがわかります。
3. 海外の金融勘定:ドイツ
続いてドイツに対する海外の金融勘定です。
   図3 ドイツ 海外 金融勘定 対GDP比
図3がドイツの金融勘定 対GDP比です。まず金融資産と負債の変化の規模に注目いただきたいのですが、特に規模の拡大する2005〜2008年で対GDP比30〜40%に達しています。日本やアメリカが多くてせいぜい10%程度だったのと比べると、極めて高い水準の金融取引を海外と行っている事になります。もちろんEU圏内での取引が活発だとは思いますが、とても大きな水準ですね。2008年以降は、リーマンショックによる影響か、急激な収縮が確認できます。資金過不足は近年-5〜-10%で推移していて、2000年以降急激にドイツから他国への投資が活発化したことが窺えます。東欧などへの海外生産が急激に増大している事が想像できますね。ドイツは日本と同様、海外に対して投資の超過する国という特徴があります。
4. 海外の金融勘定:フランス、イギリス
続いて、フランスとイギリスです。
   図4 フランス 海外 金融勘定 対GDP比
図4がフランスに対する海外の金融勘定 対GDP比です。極めて印象的な推移ですね。ドイツよりも更に極端な傾向です。リーマンショックまでの金融取引が対GDP比70%を超える水準にまで拡大し、その後は20%程度に縮小しています。差引の資金過不足だけ見ていてはわかりませんが、金融取引を可視化するといかに海外との取引が活発であったかが良くわかります。もちろん、EU圏での取引が多いものと推測されますが、それだけ相互にとって合理的な取引がされているのかもしれませんね。当時は資産側も負債側もその他が大勢を占めていたようで、その中身は良くわかりません。貿易信用の可能性が高いと思いますが、半分以上を占めています。上図からだとわかりにくいですが、資金過不足は近年ではややプラスで推移していますね。ほぼ相殺されてゼロに近い状況です。
   図5 イギリス 海外 金融勘定 対GDP比
図5がイギリスに対する海外の金融勘定 対GDP比です。フランスほどではありませんが、やはりリーマンショックを機に金融取引の規模が収縮しています。特徴的なのは、金融資産の現金・預金が大きくプラスの状態から、マイナスへと転じているところですね。海外がイギリスに対して持っていた現金・預金を、リーマンショックを機に減少させている事になります。負債側も同様ですね。金融資産側はポンド、負債側の多くはユーロと思われますが、これがどのような変化を示しているのか、専門の方がいればお教えいただきたいです。資金過不足は常に0〜5%程度でプラスで推移していますので、海外からイギリスに対する投資が超過し続けているようです。
5. 海外の金融勘定:カナダ、イタリア
続いてカナダとイタリアについて眺めてみましょう。
   図6 カナダ 海外 金融勘定 対GDP比
図6がカナダに対する海外の金融勘定 対GDP比です。1990年代中盤までは資金余剰、その後リーマンショックまではやや資金不足気味で、その後また資金余剰となっています。負債側の株式等が大きな存在感がありますので、カナダから海外に対する株式投資が盛んであることがわかりますね。カナダは家計の株式投資も多い国です。資産側で多いのは債務証券です。政府の金融勘定を見ると、傾向がほぼ一致しますので、政府の国債がほとんどのようです。また、資産側でも株式等の存在感も大きいですね。カナダは、海外からの国債や株式等への投資も多いという事が言えそうですね。
   図7 イタリア 海外 金融勘定 対GDP比
図7がイタリアに対する海外の金融勘定 対GDP比です。資金過不足はゼロ近辺をアップダウンしていますが、近年ではマイナス気味です。意外にもイタリアから海外への投資が超過しているという事になります。2007年ころまでは、資産側の債務証券が大きな存在感ですね。イタリアは政府の負債が多い事でも知られていますが、海外からの国債購入も多かったようです。ただし、リーマンショック後はマイナスの時期もあったりと、以前ほど存在感がなくなっていますね。近年では金融機関が国債を増やしているようです。
6. 資金過不足の比較
最後に、海外の資金過不足の比較をしてみましょう。
   図8 資金過不足 対GDP比 海外
図8が各国に対する海外の資金過不足 対GDP比です。日本が常に資金不足、ドイツは近年大きく資金不足です。一方、アメリカ、イギリスは資金余剰ですね。カナダ、イタリア、フランスはアップダウンしてプラスやマイナスになっています。
7. 海外の金融勘定の特徴
今回は、主要先進国に対する海外について、金融勘定の対GDPを見比べてみました。主に海外への投資が超過している日本、ドイツ、海外からの投資が超過しているアメリカ、イギリスという特徴がありそうです。また、特に欧州ではリーマンショックを機に海外との関係が大きく縮小している様子が良くわかりますね。特にドイツ、イギリス、フランスでその影響が大きかったようです。今回のコロナ禍を経て、今後も変化していくのかもしれませんね。
●利上げ休止、協議へ 銀行融資動向など見極め―米FRB 6/11
米連邦準備制度理事会(FRB)は13、14の両日、連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、金融政策を決定する。インフレは依然として根強いものの、急ピッチで進めた利上げの影響や、相次いだ米銀破綻をきっかけとした融資厳格化の動向を見極めるため、利上げの休止を協議するとみられる。
FRBは昨年3月以降、高インフレを抑制するため、10会合連続で計5%に及ぶ大幅な利上げを断行した。今後、これまでの利上げの効果が本格的に表面化し、景気を冷ましてインフレ圧力を和らげる可能性がある。
金利上昇リスクに十分対応できず、今年3月には米中堅銀行シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻。その後、他の中堅2行も破綻した。経営環境が悪化する中、銀行が融資基準を厳しくし、景気や雇用などを想定以上に圧迫する事態が懸念されている。
パウエルFRB議長は5月19日の会合で融資条件の引き締まりを踏まえれば「それほど利上げは必要ないかもしれない」と発言。ジェファーソン理事も同月31日の講演で「利上げを見送ることで、より多くの指標を確認できる」と述べ、利上げの休止を示唆した。
ただ、インフレ率はなお、FRBの目標である2%を大きく上回っている。5月の雇用統計では、非農業部門の就業者数が前月比33万9000人も増え、雇用の好調ぶりを改めて浮き彫りにした。強い労働市場は賃金上昇を招き、特にサービス分野の価格を押し上げている。
政策決定の前日となる13日には、5月の消費者物価指数(CPI)が発表される。FRBはCPIも踏まえ、利上げ再開の可能性に含みを持たせつつ、慎重に金融政策を検討するとみられる。 
●時給1,282円のバイトに嫉妬する「日本のサラリーマン」の平均時給… 6/11
賃金アップで騒がれたものの、実質賃金は1年以上も前年割れが続いている……苦境が続くサラリーマンですが、バイトの時給事情を知って、思わず嫉妬してしまう人も続出とか。サラリーマンと、パート・アルバイトの給与事情をみていきましょう。
サラリーマンの給与は上がっていないが、パート・アルバイトの時給は…
厚生労働省が公表した『毎月勤労統計(速報)』によると、今年4月の現金給与総額は28万5,176円と、前年比1.0%増となったものの、消費者物価指数(CPI)は前年比4.1%上昇となり、実質賃金は前年比3.0%低下。13ヵ月連続で減少となりました。企業の賃上げが物価上昇にまったく追いついていないことが、改めて浮き彫りになりました(図表1)。
いつまで物価高が続くのか、さまざまな専門家の意見がありますが、生鮮食品については、物価高が一巡し、落ち着いてくるだろうという見方が多い一方で、それ以外はコスト高分の価格転嫁がこれからも進むとされています。2023年後半からは落ち着くだろうとされていますが、まだ不透明な状態です。
しかし物価高が進んでも、進まなくても、給与そのものの「金額」が増えないことには、給与アップは実感できるものではありません。同調査でこの20年ほどの「現金給与総額(年平均)」をみてみると、2002年、一般労働者(以降、会社員)の現金給与総額は月41万3,752円。それが2022年では42万9,051円。2002年比4%のアップとなりました。リーマンショックの落ち込みがありますが、基本的に以降は上昇傾向。しかし「会社員の給与は、20年でたった4%だけ……」という事実に、少々複雑な気持ちになります(図表2)。
一方、会社員以外のパート・アルバイトの給与をみていくと、2002年の現金給与総額は月9万3,234円。それが2022年では10万2,078円。2002年比9%アップと、会社員と比べて高い伸びを見せています。20年の推移をみていくと、会社員のようにリーマンショック時の落ち込みが少なく、一貫して上昇傾向にあることが分かります(図表3)。
また労働時間に注目してみると、会社員の総労働時間は2002年168.1時間から2022年は162.3時間に減少。一方で、パート・アルバイトは95.1時間から79.6時間に減少。会社員は2002年比3%減に対して、パート・アルバイトは16%減となっています。
そして時給換算すると、会社員は2002年は2,461円だったのが、2022年は2,643円で、20年で7%の上昇。一方、パート・アルバイトは2002年に980円だったのが、2022年には1,282円で、20年で31%も上昇。その推移をみていくと、会社員はこの20年で、時給前年比割れが9度あったのに対し、パート・アルバイトの時給が前年比割れになったのは、2010年の1度だけでした。
――なんでバイトの時給ばかり上がるんだ
そんな嫉妬心を抱いてしまうサラリーマンも多いのではないでしょうか。
給与が上がらず「日本のサラリーマン」…さらなる負担増は既定路線
この20年、国は1人当たりの生産性を上げようと、最低賃金の引き上げを積極的に行ってきました。少子高齢化のなか、労働人口は減少傾向にあり、1人当たりの生産性を上げないといけない、というもので、賃金が上がる→生活が安定する→労働者の生産性が上がる、というものです。
しかし最低賃金の引き上げは、会社員の給与にはなんら関係なく、この20年、「給与が上がらないなあ……」と、誰もが首を傾げていたわけです。しかも、これから会社員の手取り額はさらに大きく減っていくという事態が想定されています。
現在、月収43万円だとすると、独身であれば手取り31.7万円ほど、夫婦と子どもが1人であれば33万円ほど。そんななか、異次元の少子化対策の財源問題で、「少子化対策の財源はまず徹底した歳出改革等で確保することを原則とする」と強調する一方で、医療保険など社会保険料の引き上げもほぼ確実といわれています。
健康保険組合連合会によると、2023年度の健康保険の平均料率が9.27%になる見通しとし、介護・年金・医療を合わせた保険料率は29.35%と過去最高の水準に達したといいます。今後も高齢化は進んでいき、医療費や介護費はさらに増えていくのは確実。保険料はさらに引き上げられるのも既定路線です。そこに「少子化対策」という名目でプラスαとなるわけです。
現役世代は、将来給付される3倍以上の保険料を支払っているという試算もあり、今後はさらに負担だけが増えていくといわれています。子育て支援のために保険料を増やすことが、逆効果になるという指摘も。そうなると「何のための手取りの減少」なんか、分からなくなります。次世代のためにも、さらなる負担は避けられないことは理解しつつも、せめて効果を実感できる使い方をしてほしいものです。

 

●インフレとの闘い「重大岐路」、FRB先頭に継続か停止か判断へ 6/12
世界の主要中央銀行はインフレとの闘いで重大な岐路に差し掛かっており、彼らが最終的に選択するルートはこの先何年も経済に影響を及ぼす。
物価圧力が和らぎ始めたばかりの状況で、過去40年で最も積極的な金融引き締めが物価沈静化に十分と信じるか、2%のインフレ目標が過去のものになったのではないかという不安を未然に防ぐため対応を続けるか、各国・地域中銀は二者択一を迫られる。
金利のピークに最も近いと考えられる米連邦準備制度は13、14日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)、欧州中央銀行(ECB)は15日の政策委員会、イングランド銀行(英中央銀行)は来週にかけ開催する金融政策委員会(MPC)で、さらにどこまで踏み込むか判断する必要がある。金融刺激の解除に動く時期が近づいているとの臆測が絶えない日本銀行も15、16日に金融政策決定会合を開く。
先週のオーストラリア準備銀行とカナダ銀行による予想外の金融引き締め決定は、物価抑制の闘いが継続する状況を浮き彫りにした。豪中銀は6日の政策決定会合で、5月に続いて0.25ポイントの利上げを決め、ロウ総裁は雇用の伸びを維持したいからといって、政策委員会が物価圧力の長期化を容認することを意味しないと警告した。カナダ中銀も景気過熱を理由に2会合連続で停止していた政策金利引き上げを再開した。
両中銀の動きを受け、トレーダーの間では追加の金融引き締め期待が高まり、債券投資家は各国・地域中銀が経済をリセッション(景気後退)に導く可能性が高まると予想。逆イールド(長短金利差逆転)が進行し、イールドカーブは米英独とカナダでフラット化しつつある。
利上げを一時休止ないし停止し、政策効果の伝達プロセスを信頼することは、誰もが望むソフトランディング(軟着陸)を実現する最も安全な道筋かもしれない。だが後になって追加引き締めが必要と分かれば、1970年代に米国にひどい傷痕を残した「ストップゴー政策」(引き締めと解除を繰り返す政策)の二の舞になりかねない。
引き締め継続という選択肢は、インフレ制圧のより確実なやり方だが、その過程で景気に大打撃を与え、国際金融システムを動揺させる恐れがある。
政策決定それ自体に加え、コミュニケーションの課題もある。引き締めサイクル終了の示唆を伴う利上げや休止は、アニマルスピリットを再燃させ、既に強気の株式市場をさらに刺激する危険を伴う。
米連邦準備制度理事会(FRB)副議長への昇格が発表されたジェファーソン理事は5月31日のスピーチで、「次回会合で政策金利の据え置きが決まったからといって、今回のサイクルで金利のピークに達したことを意味すると解釈すべきでない」と発言した。
ECBは15日の政策委会合後、0.25ポイントの利上げ発表がほぼ確実視されており、金利がピークに達する時期と水準を巡り、政策担当者の公の議論に関心が集まる。
ユーロ圏の5月の消費者物価指数(速報値)は、変動の大きい食料品やエネルギーを除くコア指数の上昇率が前年同月比5.3%と予想以上に鈍化し、消費者のインフレ期待も大きく後退した。7月を最後に引き締め停止を支持する向きが勢いづく可能性が高い。
だが9月の追加利上げが検討対象から完全に外れたわけではない。ラガルド総裁は5日の欧州議会で、「緩和の兆しが一部に見られるが、基調インフレがピークに達した明確な証拠はない」との認識を示した。
●中国向け半導体輸出規制が日本に「無風」のナゼ 6/12
「半導体市場は月を追うごとにマイナス幅が拡大している。半導体メーカーの中には『リーマンショック以来の落ち込みになる』という声もある」
半導体材料のシリコンウエハーで世界トップの信越化学工業の轟正彦専務は5月、2023年3月期の決算会見で半導体市況について語った。同社が手がけるウエハーの出荷は、2023年1〜3月期に前四半期比で1割の落ち込みとなった。
コロナ禍からの2年間、空前の活況に沸いた半導体関連業界。テレワークなどでPC・スマートフォン需要やデータセンター投資が拡大し、こうした製品に欠かせない半導体の需要は世界的に急膨張した。世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2021年の市場は前年比26%増を記録。2022年も同4%増と成長が続いた。
だが、足元ではその反動に苦しめられている。昨秋頃は2023年後半に市況は回復に向かうという見方もあったが、半導体メモリを中心に需要の低迷は当初想定よりも長引いている。調整期間は2023年後半から2024年まで続くとみられる。
装置メーカーの意外な見通し
半導体需要の低迷が続く中、経済産業省は5月23日に最先端半導体の製造に使われる装置などを輸出管理の対象に加える省令改正を公布した。
対象となるのは製造工程で使われる洗浄装置や露光装置など23品目。特定の国を対象にしたものではないが、輸出には政府の許可が必要になる。実質的に中国への輸出は難しくなる。2022年10月には、アメリカが最先端半導体の製造に使われる装置や技術の対中輸出規制を導入していた。この方針に日本も事実上、足並みをそろえた格好だ。
焦点になるのは日本の半導体関連企業への影響だ。日本企業は半導体を製造する際の装置や材料に強みを持つ企業が多く、中国向けの売り上げも無視できない規模になっているところが少なくない。
たとえば製造装置メーカー大手の東京エレクトロン。半導体前工程の装置が主力で、製造装置で世界3位の売上高だ。同社の中国向け比率は23%(2022年度)に上る。またSCREENホールディングスは、半導体ウエハーの洗浄装置で世界シェア1位だが、同部門売上高のうち約20%を中国向けの売り上げが占めている。
半導体市場が冷え込んでいる中での輸出規制は、まさにダブルパンチ。しかし両社の今期計画を紐解いてみると、意外な見通しが明らかになった。「中国向け売り上げはむしろ伸びる」というのだ。
アメリカの輸出規制を受けた昨年11月、東京エレクトロンは前2023年3月期の売上高予想を2500億円下方修正した。このうち半分程度が中国向けの売り上げの減少分だと見積もっていた。規制によって中国メーカーの半導体製造が厳しくなると見込んでの下方修正だった。
ところが東京エレクトロンの河合利樹社長は決算説明会で、今2024年3月期の中国向けについて「顧客の最先端分野への投資は抑え気味になっている一方で、多くがレガシー(成熟品)分野の投資に積極的になっている。売上高に占める割合は30%程度になるだろう」と語った。
同社は今期売上高1兆7000億円を見込む。このうち中国向けは約5100億円で、前期比2%増を計画する。全社で23%の減収を見込むことを考えれば、かなり目を引く数字だ。
「レガシー(成熟品)分野の半導体」とは、主に家電や自動車、産業機械向けに使われる。最先端のスマホやデータセンターに搭載されるものよりも、古い世代の技術を使って製造されるものだ。
半導体の自給率が低い中国では、国策ファンドを通じて半導体産業に多額の補助金がつぎ込まれてきた。「先端品に限らず成熟品のニーズも強く、メーカーなど関連企業にはかなりの支援が流れ込んでいる」(中国企業に詳しい千葉大学客員准教授でジャーナリストの高口康太氏)。
製造装置メーカーの目には「中国メーカーの投資意欲は非常に高い。先端分野で規制があるたびに投資戦略を変えてきている」(東京エレクトロン)と映る。前述のSCREENでも同様の理由で中国向け売り上げが伸び、全体の業績を引っ張る見込みだ。2024年3月期には中国比率は3割にまで拡大するとみられる。
「中国向けの約半分が出荷できなくなる懸念も持っていたが、日本の規制は本当に最先端のものに限られていた。実際に輸出できなくなるものはほとんどない」(SCREENホールディングス)という事情もあるようだ。
悲観ムードはなし
中国以外の市場の先行きについても、業界全体に悲観ムードは漂っていない。東京エレクトロンをはじめ大手装置・材料メーカーのほとんどが今期は大幅減益を見込むが、目線はすでに2024年以降の回復に向いている。
東京エレクトロンでは今期の設備投資額を前期比約7割増となる1240億円と計画する。熊本県や宮城県をはじめ複数の地域で、装置増産に向けた生産設備の新棟建設などを進める。SCREENを含むほかの大手装置・材料メーカーも、今期の設備投資額は高水準となっている。
装置メーカーだけではない。国内半導体メーカー大手のルネサスエレクトロニクスも、甲府工場に900億円を投じて自動車や家電に使われるパワー半導体の増産を計画中。同工場は生産拠点統廃合の一環で2014年に閉鎖していたが、今回の増産投資に伴って10年ぶりに再稼働する見込みだ。
足元はシリコンサイクルの後退局面で不況に沈むが、中長期での市場拡大に備えた設備投資は勢いづいている。半導体関連企業の強気姿勢は、まだまだ続きそうだ。
●仕事を始める前に読んでおきたいニュース 6/12
過去1年余りにわたって利上げを実施してきた米金融当局。今週の会合では一休みすると広く予想されていますが、5月の消費者物価指数(CPI)は基調的な物価圧力が依然根強いことを示すと見込まれており、5月米雇用者の伸びも堅調だっただけに、政策判断はますます難しくなるかもしれません。
利上げ休止か
米連邦公開市場委員会(FOMC)は6月13−14日の会合で、政策金利を5−5.25%のレンジに据え置くと予想されている。しかし、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長はインフレでの進展が失速したと懸念する複数の当局者らの理解を得なくてはならず、驚くほど強靭(きょうじん)な経済を鈍化させるため一段の行動が必要かもしれないとの考えを示すだろう。ドイツ銀行の米国担当シニアエコノミスト、ブレット・ライアン氏は労働市場が堅調で、インフレ指標で全く進展の兆しが見られない中、「FOMCにはやるべき仕事がさらにある」と述べた。
物価圧力
13日に発表される5月のCPI統計では、変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数が前月比0.4%上昇の予想。実際にそうなれば、6カ月連続で0.4%かそれ以上の伸びを示すことになり、政策金利がより長期にわたり高い水準にとどまり得る理由を説明する一助になりそうだ。前年同月比ベースでは、コアCPIが5.2%上昇と、2021年11月以来の小幅な伸びの予想。総合CPIは4.1%上昇への伸び減速が見込まれている。
投資家にリスク
米国株が再び強気相場入りしたほか、米経済は一貫して予想を上回ってきており、リセッション(景気後退)の脅威は和らいだと、一部企業は示唆している。しかし、このような考えは投資家に重大な間違いを犯すリスクをもたらすと、フィデリティー・インターナショナルなど債券運用大手の一角は指摘する。こうした企業は景気下降の予測を維持し、リスク資産での賭けをヘッジするよう助言している。過去10回連続利上げによるダメージは既に起きており、3月の米銀3行の破綻は今後起こる大きな危機の一端に過ぎないというのが、そうした企業の見方だ。
「司法の茶番」
トランプ前米大統領は、退任後の機密文書の取り扱いなどを巡り連邦犯罪で起訴されたことについて、「司法の茶番」だと述べた。2024年大統領選に向けた共和党の候補者指名争いで先行する同氏は、今回の起訴は「有力な敵を収監」しようとするバイデン大統領の試みだと証拠を示さずに主張。国防情報の意図的な保持や不正な文書隠蔽(いんぺい)、司法妨害の共謀、虚偽の説明などの罪で起訴された前大統領は13日にフロリダ州マイアミの連邦裁判所に出廷する見込み。
スパイ施設
米ホワイトハウスは、中国のスパイ施設がキューバに存在することを認めた。その存在はトランプ前政権時代までさかのぼり、中国は施設の拡大に向けた取り組みを続けていると、ホワイトハウスはみている。バイデン政権高官は声明で、中国がキューバで以前から情報収集施設を設け、2019年に拡充したと米情報機関が示唆していることを明らかにした。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、キューバにスパイ施設を開設することで中国とキューバ側が密約を結んだと先に報じていたが、ホワイトハウスは当初これを否定していた。
●ゴールドマンの低い米リセッション確率は間違いか−債券投資家が示唆 6/12
米国株が再び強気相場入りしたほか、米経済は一貫して予想を上回ってきており、リセッション(景気後退)の脅威は完全に過ぎていないにせよ和らいだと、一部企業は示唆している。
しかし、このような考えは投資家に重大な間違いを犯すリスクをもたらすと、フィデリティー・インターナショナルやアリアンツ・グローバル・インベスターズなど債券運用で世界大手の一角は指摘する。こうした企業は景気下降の予測を維持し、リスク資産での賭けをヘッジするよう助言している。
過去10回連続利上げによるダメージは既に起きており、何かが壊れるまで主要中央銀行がタカ派姿勢を堅持する中、3月の米銀3行の破綻は今後起こる大きな危機の一端に過ぎないというのが、そうした企業の見方だ。インフレが高い水準に根強くとどまる中、先週にはカナダとオーストラリアの中銀が予想外の利上げを実施し、米金融当局に今後の会合で追随するよう一定の圧力をかける格好となっている。
フィデリティー・インターナショナルの債券担当グローバル最高投資責任者(CIO)、スティーブ・エリス氏は「私が最も警戒しているのは信用収縮のようなものだ」と指摘。中銀の引き締め継続は、彼らが「昨年の闘いに挑んでいる」ことを示していると述べた。
ゴールドマン・サックス・グループは先週、米経済が向こう12カ月以内にリセッション(景気後退)に陥る確率の予想を25%に引き下げていた。銀行セクターのストレスが和らいだことや、米債務上限適用停止についての超党派の合意を踏まえ、予想を変更した。同社のジョン・ウォルドロン最高執行責任者(COO)は、米国はリセッションを回避できるかもしれないとの見方を示した。
●危機のクレディスイス、汚職官僚や犯罪者らの不正資金口座疑惑浮上… 6/12
世界の富裕層の間でスイスから資金を引きあげる動きが広がっている。スイス金融大手UBSによる同業クレディスイス・グループの買収の過程で、不信感が強まったからだ。
ビットコインも海外資金逃避の伏魔殿だった
金融の伏魔殿はビットコインが代表する暗号通貨資産である。
暗号通貨取引大手だったFTXのトップ、バックマンフリードは、バハマ諸島ナッソーで逮捕され、ニューヨークで裁判が進行中である。
3年ほど行方をくらましていた韓国人の「暗号通貨王」ことド・クォンは、23年3月にソウルから遙かに遠い、バルカン半島のモンテネグロで逮捕された。韓国当局から逮捕状がでていた。
このド・クォンは暗号通貨「テラUSDコイン」なる投機商品を発行し、被害総額は400億ドル。「3本の矢キャピタル」や「セルシウス」など流通業者が倒産に追い込まれ、SEC(米国証券取引委員会)からも召喚されていた。
ド・クォンはシンガポールの拠点を畳み、ドバイからセルビアあたりに潜伏していたが、3月23日にモンテネグロのポドゴリッツア空港で逮捕された。
大富豪らが「危ない資金」をスイスから「もう少し安全な場所」へ
この暗号通貨破産と、さきのSVBの倒産とはいかなる因果関係で結ばれるか?
トランプ前政権の首席補佐官代行だったマルバーニが「オペレーション・チョークポイント2・0」との関連を示唆した。
米財務省は「暗号通貨はSVB倒産と無縁」と考えて、「リスク管理の悪さが原因だ」としているのだが、当局がSVBに対して「暗号通貨を避けるよう」に圧力をかけた経過がSVB崩壊につながった可能性があることを示唆した。つまりSVBは暗号通貨に手を出していたのだ。
「オペレーション・チョークポイント2・0」とは銀行が暗号通貨の預金を保持したり、当該通貨の「安全性と健全性」に基づいて暗号通貨会社に銀行サービスを提供したりすることを思いとどまらせる取り組みを意味する。ただし米国当局は「オペレーション・チョークポイント2・0」を公式戦略とは認定していない。
FRBならびに連邦預金保険公社(FDIC)、通貨監督庁(OCC)が「暗号資産に関する共同声明」で、「暗号通貨と分散型ブロックチェーン・ネットワークは安全で健全な銀行業務と矛盾する可能性が非常に高い」と警告していた。
暗号通貨は富豪たちの隠れ蓑となった。一時はビットコインの80%が中国人によって商われた。マイニングならびに取引業者は香港、シンガポールから現在はドバイに集中している。要するに大富豪らが「危ない資金」をスイスから「もう少し安全な場所」へ移したのだ。いずれ『ドバイ文書』の出現となるかもしれない。
スイスはペーパーカンパニー設立に最も多く関与した国の1つ
『パナマ文書』は2016年に公開された。筆者はこのペーパーバックをロンドンの書店で購入したが、タックスヘイヴンに設立された法人に関する機密ファイルだった。
『パナマ文書』によると、スイスはペーパーカンパニー設立に最も多く関与した国の1つだった。翌年に明るみに出た『パラダイス文書』でもスイスの大物政治家や企業経営者、大企業の名前が関係者として挙がった。
ロシアのプーチン大統領の名前はなかったが、彼の3人の友人の名前が挙がった。中国の習近平総書記の義兄、同李鵬元首相の娘、英国・キャメロン元首相の亡父、マレーシアのナジブ・ラザク首相の息子、アゼルバイジャンのアリエフ前大統領の子供達、カザフスタンのナザルバエフ前大統領の孫、パキスタンのシャリーフ元首相の子供、南アフリカのズマ大統領の甥、モロッコのムハンマド6世国王の秘書、韓国の盧泰愚元大統領の息子や、俳優のジャッキー・チェンら有名人の名前もあった。
パナマの新聞『エル・シグロ』は、ジャッキー・チェンが英国領ヴァージン諸島に登記された6つのダミー会社の株主になっていると報じた。
2017年に暴露された『パラダイス文書』は漏洩案件が1340万件もあり、調査に時間がかかった。顧客の企業や個人数を国別に分けると、米国が3万余、次いでイギリス1万4000余だった。
タックスヘイヴン関連文書にゼレンスキー大統領の名前も
ついで『パンドラ文書』の発覚は2021年10月だった。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、リークされた機密書類の概要を暴露したので、銀行と組んだスイスの弁護士、会計士、コンサルタントらが富裕層や権力者の資産を世界各地に移動させる手助けをしていた事実が浮かんだ。
分析の結果、91ヶ国の330人以上の政治家や政府高官にタックスヘイヴンとのつながりが確認された。ブレア元イギリス首相、アブドラ2世ヨルダン国王、ウクライナ大統領のゼレンスキーの名前も報道された。「正義の大統領」=ゼレンスキーの名前があるのだ。
また、詐欺や贈収賄や人権侵害等の不正行為で告発された人物や企業が隠れ資産を所有していた事実も明るみにでた。
スイスの銀行法第47条は、たとえ違法行為を公開する目的であっても、個人の口座情報を他人に公開した場合は刑事罰に問われると規定している。しかしスイスの法律の壁は壊れた。大富豪たちはスイス口座を畳みはじめ、世界のオフショア、とりわけドバイ、リヒテンシュタイン、ケイマンなどへ巨額を移動した。
クレディスイスに、汚職官僚や犯罪者らの不正資金口座疑惑
2023年3月9日、クレディスイスは22年度決算で最終損益が72億9300万スイスフラン(約1兆円)の赤字だったと発表し、経営不安による顧客の預入資産の流出が原因だとした。
表面的には22年10月頃から経営不安が強まり、富豪顧客が預金引き出しを開始していた。このため7%という高金利を謳って、クレディスイスは中国へも進出した。
日本の定期預金は100万円を1年預けても利息は雀の涙にもならない! クレディスイスは新規500万ドル以上の預金に対して3ヶ月定期預金に年率6.5%の金利を設定。1年物では最高7%の金利を設けた(スイス政府の保証はひとり13万5000ドル)。
中国に開設した合弁の「クレディスイス・セキュリティーズ(中国)」は深圳に限られていたブローカー免許の拡大も認められ、中国全土で営業をはじめた矢先だった。同行は米国投資銀行と熾烈な競争を繰り返し、その無謀とも言える拡大主義によって多くの不祥事を起こし、信頼を落としてしまった。
内部告発情報を基に行った調査で、クレディスイスに、汚職官僚や犯罪者らが不正資金を預けた口座がまだ数十件あるという疑惑が浮上した。
「スイス・シークレット」と名付けられた同調査では数十件の問題口座を特定。預金額は計80億ドル(約9200億円)を超え、汚職スキャンダルに関与した重要人物の名前もある。ベネズエラの石油関連汚職で告発された官僚や、追跡不可能な57億ドルの負債を抱えて自身の銀行が破綻し、ポルトガルで捜査を受けているアンゴラの銀行家らの名前が挙がっている。
かくして秘密口座の機密が漏洩し世界の富裕層はスイスに預金口座をおく必要性がなくなった。
●原油先物は小幅安、FOMC控え 中国需要懸念も重し 6/12
アジア時間の原油先物は小幅安。米連邦公開市場委員会(FOMC)を週内に控え、連邦準備理事会(FRB)の追加利上げ意欲を見極めようというムードが広がっている。中国の燃料需要やロシアの原油供給増加を巡る懸念も重しとなっている。
0058GMT(日本時間午前9時58分)時点で、北海ブレント先物は0.29ドル(0.4%)安の1バレル=74.50ドル、米WTI先物は0.24ドル(0.3%)安の69.93ドル。
いずれも先週は中国のさえない経済指標を受けて需要の伸びを巡る懸念が高まったことから、2週連続で下落した。
バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチのフランシスコ・ブランチ氏は「原油価格は金融収縮を指摘する弱気な投資家と、今年下期の在庫減少を予想する強気な投機筋という、相反する二つの勢力の板挟みになっている」とした上で、「FRBがマネーサプライを緩めるまで原油価格は上昇しにくいため、当面は弱気の投資家が優勢を維持する」との見方を示した。
市場参加者の多くはFRBが13─14日のFOMCで政策金利を据え置くと予想している。FRBによる利上げはドルを上昇させ、他通貨保有者にとってドル建て原油の割高感につながることから原油価格の重しとなる。
●8度の「倒産」を糧に成長してきた? アルゼンチン経済とワインの奇妙な関係 6/12
「デフォルト」「債務不履行」。言葉の響きからして嫌な感じがするのは筆者だけではないはずです。
今回はアルゼンチン出張帰りのソムリエ・別府岳則氏への取材内容を交えながら、過去8度のデフォルト(債務不履行)を経験したアルゼンチンにおける経済とワインの奇妙な関係を紹介します。
そもそも「デフォルト」とは?
デフォルトとは、平たく言えば「国が倒産すること」です。国は国債という形で、国内外に借金をしていますが、その国債が返せなくなる(=債務不履行)ことをデフォルトといいます。
つまり、アルゼンチンはこれまで計8回も国が倒産したということになります。
「裏レート」の存在
そんなに倒産を繰り返すと、当然国の通貨の信用が低下していきます。結果として、アルゼンチンには「ブルーレート」という裏レートが存在します。
これは、アルゼンチン国内でアルゼンチン通貨であるアルゼンチン・ペソを使うよりアメリカドルなどの海外通貨でやりとりすると、為替レートが全く変わるというものです。
ざっくりブルーレートは通常レートの50%引きくらいのイメージで、アルゼンチン・ペソで支払うと1万円程度のものが海外通貨で支払うと5000円! なんともお得ですね。
今は海外発行のクレジットカードで支払いをすると、ブルーレートに合うように、キャッシュバックする仕組みもあるようです。
アルゼンチンのワイン産業
金融の話はここまでにして、次はアルゼンチンのワイン産業について見ていきましょう。
アルゼンチンは19世紀初頭にスペインから独立を果たすと、当時強みであった畜産業をはじめ州ごとに注力する畜産物、農産物を割り振っていきました。その中でワイン用のブドウ栽培を任されたのがメンドーサ州とサンフアン州でした。
特にメンドーサ州は今日でも、アルゼンチンにおけるワイン生産量の7割以上の生産を担う巨大産地として成長しています。それもそのはず、ブドウの栽培面積は14万ヘクタール(=1400平方キロメートル)と、フランスの一大銘醸地・ボルドーの10万ヘクタールを超え、世界最大級のワイン産地として広く認知されています。
アルゼンチン経済とワインの奇妙な関係
先述したように、国が倒産したらほとんどの人が絶望的な気持ちになるでしょうし、輸入ビジネスをしている筆者も想像したくありません。
ところが、アルゼンチンワインはデフォルトなどの経済危機を通じて“成長する”という奇妙な運命をたどってきました。どういうことでしょうか?
特にワイン産業への影響が大きかったのは、最大規模のデフォルトと言われる2001年のデフォルトです。1980年代から世界規模の経済不況が世の中を覆い、1989年にはアルゼンチンも国内債務不履行に陥ります。
そうなってくると、アルゼンチン・ペソの価値は暴落し、逆に外国資本が参入しやすい状況に。実際、1980年代末から1990年代にかけて、高い技術と豊富な知識を持つワインメーカーとして知られる「クロス・デ・ロス・シエテ(=Clos de los Siete)」のミッシェル・ロラン(フランス)、「ヴィーニャ・コボス(=Vina Cobos)」のポール・ホブス(アメリカ)、「アルトス・ラス・オルミガス(=Altos Las Hormigas)」のアルベルト・アントニーニ(イタリア)らが次々にアルゼンチンでワイナリーを起ち上げました。
さらに2001年のデフォルトによってアルゼンチン・ペソの暴落が決定的となると、安く仕入れることができるためアメリカ市場におけるアルゼンチンワイン需要が一気に高まり、当時アメリカで人気だったフルボディタイプの赤ワインとして多くの「マルベック」が輸出されていきました。
ワインを少しかじったことのある人なら、アルゼンチンワインといえばマルベックという印象を持っている人も多いかもしれません。しかし、アルゼンチンにおけるマルベックは、初めて苗木が持ち込まれた1853年から長らく人気の高いものではありませんでした。2000年代のアメリカ市場への輸出をきっかけに、今日でもアルゼンチンで最も生産される赤ワインへと変ぼうしていったという歴史があります。
つまり、デフォルトなど経済危機に端を発するアルゼンチン・ペソ安を受けて、アルゼンチンワイン産業では、外国資本の流入と海外需要が喚起され、量・質ともに大きく向上するきっかけになったのです。
ブドウ醸造に関する国の研究機関・INV(Instituto Nacional de Vitivinicultura)のデータを見てみても、1980年から2000年の20年間でアルゼンチンのファインワイン生産量は2倍以上に増えています。
アルゼンチンワインの質的な変化
最後に、アルゼンチンワインの質的な変化についても触れましょう。
2000年代にアメリカ市場におけるアルゼンチン・マルベックの需要は増加し、この当時は「濃くて重い」ワインが好まれ、大量に生産されましたが、近年ではその傾向も変わりつつあります。
これには世界的なトレンドの変化、メンドーサ州とチリの自然国境となっているアンデス山脈の高い標高の地域に畑が広がってきていること、外国資本によるエレガントなタイプのワイン造りの普及など、さまざまな要因が関係しあっているようです。
先述のマルベック品種も、一昔前までは「濃くて重い」ワインの代表格でしたが、近年ではイタリア系移民が創設した「アルトス・ラス・オルミガス」をはじめ、赤ワインであっても重すぎない軽やかな造りに変わってきているようです。
経済や政治がワインに与える影響は意外なほど大きなものですが、アルゼンチンワインもまた、8度のデフォルトという数奇な国の運命を糧として成長してきた面白いカテゴリーなのです。
最新! 世界のワイン生産量ランキング
最新データによれば、2022年のワイン生産量は下記の通り。三大生産国であるイタリア、フランス、スペインで全世界のワイン生産量の約50%を占めます。
   1位:イタリア
   2位:フランス
   3位:スペイン
   4位:アメリカ
   5位:オーストラリア
   6位:チリ
   7位:アルゼンチン
   8位:南アフリカ
   9位:ドイツ
   10位:ポルトガル 

 

●「世界経済クラッシュ」のトリガーが、いま引かれようとしている…! 6/13
債務上限問題は終わってない…
アメリカの債務上限問題の危機は「去った」との楽観論が出ているが、実態はますます深刻だ。
米財務省は米議会で政争が行われている間に減少してしまった手元資金を拡充しなければならない。
大量の国債を発行して資金を調達するわけだが、金融危機への懸念から預金流出に苦しんできたアメリカの銀行で再び深刻な流動性不足に陥るとの懸念が出ているのだ。
そうなった場合、銀行が行うことは目に見えている。企業にお金が回らなくなるのだ。その影響を真っ先に受けるのが、おさらく不動産業界だろう。
「シャドー空室」に苦しむアメリカの不動産
5月31日に公表されたFRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)は「オフィス需要の低迷が経済活動の重荷になるとの報告が目立った」としている。
オフィスの長期契約を結んだにもかかわらず、ほとんど利用されない「シャドー空室」が増加しており、商業用不動産を巡る情勢はさらに悪化することが予測されている。
不動産業界からは「銀行が融資を再開しなければ、不動産不況に陥ってしまう」との悲鳴が聞こえてくる(6月1日付ブルームバーグ)。
商業用不動産ローンの焦げ付きに加え、新たに問題となっているのは企業向けローンだ。 「倒産予備軍」と呼ばれる企業数が急増しており(6月2日付日本経済新聞)、銀行が「貸し渋り」や「貸し剥がし」に走れば、これらの企業は一巻の終わりだ。
米調査会社クレジットリスク社が考案した今後1年で倒産確率が上がる度合いを測る「FRISKストレス指数(金融を除く事業会社)」の5月末の数値は、リーマンショック後の2009年以来の高水準となっている。
ドイツ銀行は「米融資におけるデフォルト(債務不履行)率は過去最高に迫る水準となる」と分析している。
市場では最低の格付け「CCC」クラスの社債が投げ売り状態になっており(6月4日付ブルームバーグ)、商業不動産ローン債権とともに金融市場へのストレスになっている。
流動性不足は世界をカオスに…
世界の金融センターである米国の流動性不足は国境を越えて波及する可能性が高い。
「欧州の商業用不動産の価値は最大40%下落するリスクがある」との指摘がある(5月11日付ZeroHedge)ように、欧州の不動産バブル崩壊の懸念は米国以上に深刻だ。
欧州金融市場で不動産企業の債務に警戒感が高まっている。欧州の不動産企業は2026年までに1650億ドル相当の社債の満期を迎えることになるが、「借り換えができず倒産する企業が相次ぐ」との声が高まっている(6月4日付ブルームバーグ)。
欧州中央銀行(ECB)は追加利上げに動く構えだが、その一方で「厳しい金融環境を背景にユーロ圏市場では流動性に負荷がかかる可能性がある。
シャドーバンク(ファンドや保険会社など)の問題が欧州大手銀行にも波及する恐れがある」と警告を発している。
米国からのマネーの引き揚げが加速すれば、欧州の金融市場はさらなる打撃を被るのは間違いないだろう。
中国でも危機は高まっている
中国経済への懸念が高まっている。
世界経済の牽引役として期待されている中国だが、最大のアキレス腱は地方政府の債務問題だ。昨年、中国の約半数の都市が債務返済コストの管理で困難に直面したという(6月2日付ロイター)。
資金繰りに窮した地方政府にとっての「頼みの綱」は、上海自由貿易試験区で外債として発行される「真珠債」だ(5月31日付ロイター)。
規制があいまいなため、地方政府にとって国内の借り入れ規制を回避する手段となっているからだが、米国からのマネーが期待できなくなれば、万事休すだ。
地方政府の破綻が相次ぐような事態になれば、住民の不満が噴出し、習近平指導部は体制の危機に直面するかもしれない。
米国政治の大欠陥とも言える債務上限問題のせいで、世界の金融市場は深刻な局面を迎えてしまうのではないだろうか。そんな「Xデー」が来ないことを祈るばかりだ。
●歴史的株高の裏で迫る金融倒産連鎖「想像を絶する破綻予備軍数」… 6/13
プレミアム特集「今日から1年で億り人になる」第2回目は名物投資家・木戸次郎氏が日本株を狙う海外アクティビストの動向をレポートする。日経平均が3万2000円を突破する数か月前には欧米で金融機関の連鎖倒産不安が起きていた。今われわれは資産をどこに持てばいいのかーー。
銀行からの預金流出を終息させたい米当局だが、現実は厳しい
さて、東京市場は日経平均で32000円を突破した。つい先日まで世間を騒がせていた銀行など金融機関の連鎖倒産不安も今では話題にすら上がらなくなった。果たして連鎖倒産の危機は完全に回避できたのであろうか? 
シリコンバレーバンクのケースでは米国政府の迅速で異例な救済策により、取り付け騒ぎは回避され、金融危機はいったん落ち着いたようにも見えた。しかし、これに続いてスイス第2位クレディスイスが経営破綻し、再び金融システム不安が懸念されたものの、この際もスイス政府が迅速に動き、スイス金融最大手UBSが同国2位のクレディ・スイス・グループを救済合併するという力業でこちらも金融不安を回避できたことで多くの投資家の中では既に過去の話とされているようだ。
イエレン米財務長官が米国の預金保護について「必要ならさらなる措置を講じる用意がある」と述べたことも安心感となり、銀行からの預金流出を終息させたい米当局の強い意思がうかがえる。しかし、現在では米国債で3〜5%の金利を得られるので、1%に満たない銀行金利では預金流出を止めるのは難しいといわざるを得ない。
破綻予備軍が想像を絶する数にのぼる
それでは金融連鎖倒産は本当に終わったのであろうか?私は全くそう思っていない。なぜなら、米国は今後もインフレ抑制のための利上げが行われること、それにより銀行が保有する債券の含み損が大きくなることが目に見えているからだ。米国の預金保険制度は本来、1口座当たり25万ドルを超えた分を保護しないというのが基本だ。しかし、今回はそれを曲げて預金全額を保護したわけだが、米連邦預金保険公社(FDIC)の資金は米国の預金総額の1%未満なので、仮に今後も銀行の破綻が相次げば、その全てを保護する力はないといえよう。
実は米国には小規模な地方銀行が6000行近くもあり、債務超過状態の銀行が多く存在している。その中には、想像を絶する数の破綻予備軍が存在するだろうことは容易に想像できる。
今後も金利の高止まりが続く限りは含み損や預金流出というストレスを抱えた銀行は増えることとなる。破綻予備軍は、今後何カ月もかけて表面化してくる可能性が十分にあると考えている。
日本でも「深刻な状況を招きかねない」
一方、日本への影響については今後の金利動向にもよるところではあるが、急激に3%も4%も上げることは考えられないので、極端な預金流出がない限りは大きな心配はいらないであろうと思う。
むしろ、日本にとって心配なのは行き過ぎた円安だろうと思。株式市場は円安を好感しているようだが、このまま行き過ぎた円安状態が放置されれば、エネルギーをはじめとして原材料のほとんどを輸入に頼っている日本にとっては、公共料金をはじめ、家計に深刻な状況を招きかねない。
さて、そうしたリスク要因を念頭に置いたうえで株式市場の話にもどそう。ここ最近、皆さんもアクティビスト達の活発な動きをニュースなどで目にする機会が増えているのでないかと思う。今年の株主総会では多くの「物言う株主」であるアクティビストが数多の株主提案をしてきているようだ。
親子上場の解消が急ピッチで進んでいる
今、日本株が買われている大きな要因としてはウォーレン・バフェット氏が日本株について「今は5大商社の株しか持っていないが、次の投資先は常に頭の中にある。価格次第だ」と、割安感が強まったら追加投資に踏み切る考えを明らかにした事がきっかけなったように思う。
バフェット氏はこれまで優良企業を割安な価格で買う投資手法で成功してきたことで有名なので、日本のように何十年間もバリュー・トラップばかりで割安な銘柄がいつまで経っても割安なまま放置されいることをチャンスと捉えた投資家が多くいたのだと思う。
このことで一気に日本株への投資熱が高まったのが始まりで、それに加えて東証や金融庁が株価純資産倍率(PBR)1倍割れ企業に改善策の公表を要請するなど、プライムとスタンダード両市場の全上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応計画の策定と開示を求めている事が拍車をかけた格好だと思う。
更にもう一つは親子上場の解消が急ピッチで進んでいることが上げられると思う。これは2022年の東証の市場改革や2021年6月に再改訂されたコーポレートガバナンスコードでガバナスや報告義務が厳しくなったことがあげられるが、利益相反状態の親子上場が放置されているものについては更に厳しい状況に追い込まれるのは必至であろうと思う。
なぜなら、東証は「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」を立ち上げ、2023年5月まで計6回も開催されている。
その場では支配株主の責務として「支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはならない」という基本原則4の「考え方」についてや、親会社の業務執行者などは「独立」ではないとされているが、いわゆる主要株主の関係者は「独立」とされている。こうした摩訶不思議な解釈について「考え方」の根本をガバナンスに関する具体的な制度を設計する際に活かすことが必要であり、ガバナンスに関する少数株主保護枠組みの範囲拡張が話し合われているのだ。
我々個人投資家としてはそうした問題のある親子上場解消銘柄を狙うことこそが今の過熱相場の中でも割安な価格で株を買うチャンスなのではないかと思うのだ。
●日経平均株価が3万3千円を突破して取引終了 バブル崩壊後33年ぶり 6/13
株価の上昇が続いています。きょうの東京株式市場では日経平均株価が500円以上値上がりし、およそ33年ぶりに3万3000円を突破して取引を終えました。
株価の急上昇の背景には「アメリカが利上げを停止するのではとの期待もある」と市場関係者は話しています。
きょうの東京株式市場は幅広い銘柄に買い注文が広がり、日経平均株価は一時、600円以上値上がりする場面もありました。
結局、終値は1990年7月以来、およそ33年ぶりに3万3000円を突破し、バブル崩壊後の最高値を再び更新しています。
アメリカのFRBが景気を犠牲にしてでもインフレを抑制するため続けてきた利上げを一旦、停止するとの見方が広がったことで、アメリカの景気減速への懸念が和らぎ、株価を押し上げました。
今週は日本とアメリカで金融政策を決める会合が控えていて、日米の中央銀行の判断に市場の注目が集まっています。
●日経平均株価3万円超えから考えるお金のこと 6/13
日経平均株価が3万円を超え、バブル崩壊後の最高値を約1年半ぶりに更新しました。コロナショックや円安などの暗いお金のニュースの中で、日本でも景気の良いニュースも少しずつ増えてきました。
早速ですがお金のトレーニング。投資をする上で基礎的な株価指標であるこの「日経平均株価」、日本の株式市場の大きな動きを把握する際の代表的な指標ですが、何を元に算出されている指標でしょうか?
答えです。日経平均株価とは日本経済新聞社が、東京証券取引所プライムに上場する約2000銘柄のうちから市場流動性(売買の活発さ・安定度など)の高い225銘柄を選定し、その株価をもとに算出する指数となります。この日経平均株価は、東京証券取引所で株式が立会取引されている時間帯に「5秒間隔」で算出され、配信されています。また、選定される225銘柄の構成は、年に1回の定期見直しにより、入れ替えられます。そして、市場流動性の高い銘柄が採用され、低くなった銘柄が除外されているのです。
日経平均株価と近い指標が、アメリカにもあります。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が、ニューヨーク証券取引所やナスダック市場に上場している主要30銘柄を対象に算出する株価指数になります。そこにはアップルやウォルトディズニーなど、日本でもおなじみの企業によって構成されています。構成銘柄が少ないのが特徴です。構成銘柄の株価を合計し、除数で割って求めています。
それではお金のトレーニング。このアメリカの株価指標はなんと呼ばれるでしょうか?
答えは、「ニューヨーク・ダウ」です。ダウ・ジョーンズ工業株価平均、ダウ平均などのようにも呼ばれます。最大の上昇率は、1933年フランクリン・ルーズベルト大統領がラジオ演説を初めて行い世界恐慌で混乱するアメリカ国民の不安をなだめた3日後のことです。ニューディール政策が始動しはじめた直後、アメリカが世界恐慌を克服する第一歩ともなりました。
イギリスだと「FTSE100」と呼ばれる株価指標があり、ロンドン証券取引所に上場している時価総額上位100銘柄を対象に算出する株価指数です。日経平均株価やニューヨーク・ダウとは異なり、時価総額加重平均で求められます。
フランスだと「CAC40」です。ユーロネクスト・パリが、ユーロネクスト・パリ証券取引所に上場している時価総額上位40銘柄を対象に、時価総額加重平均で算出する株価指数です。フランス国外での売上高の比重が高い企業が多いことが特徴です。
ドイツだと「DAX」です。ドイツ取引所の子会社であるSTOXXが、フランクフルト証券取引所に上場している主要30銘柄を対象にして、時価総額加重平均で算出する株価指数です。ドイツは欧州を牽引する存在であるため、この指数は欧州の株価や通貨に影響を与える存在だと言われています。
「お金」が人類が発明した世界共通の道具であるように、「株式」という仕組みも世界共通です。ですので金融リテラシーを一度身につけてしまえば、給与所得という収入以外(資産所得収入)にも視野が広がるだけではなく、日本以外の海外へも視野が広がることになります。
そして投資を身銭を切って始めると、未来について真剣に予測するようになります。過去から学び、未来を予測する、そして有望だと思うところに投資をしたり、自分の身をおいたりすることもできるようになります。そのすべての起点は金融リテラシーにあると思います。
ここまでは投資家の視点でしたが、ここからが供給者(会社員など)の視点で見ていきましょう。
金融リテラシーはビジネスシーンでも重要です。この施策は世の中にとって意義があることなのか、そして売上につながるのかコストダウンになるのか。この両軸を常に考えている人はビジネスパーソンとして優秀と言えると思います。
非営利組織であるボランティア団体であれば大義のみで良いと思いますが、会社という営利組織であれば業績(売上・利益)を追求することが求められます。だからボランティア団体では給与は出ませんが、会社という組織では業績が上がるから自分たちの給与がもらえるわけです。
太古の昔であれば、マンモスを狩ることに成功した村の人々だけが肉を食べることができる、という原理原則です。そこにお金の「交換機能」が入って見えにくくなっていますが、今も昔も原理原則は変わっていません。
私は起業して間もない頃、日本で誰もが知っている大企業の社長にお会いする機会がありました。そこで「売上とはなんですか?」という質問したことがあります。返ってきた答えは「売上とはサービスの対価である」というものでした。いいサービスを1人でも多くの人に提供すればするほど、その提供したサービスの対価として顧客から代金を頂ける、その代金の合計値が売上であるというものでした。
ABCashも金融リテラシーを教えるプロ集団として、「大義と算盤」という考えを大事にしています。社会性の高いことをやろう、そしてちゃんと売上を上げてお金を稼ごう、という考えです。高校生で金融教育が始まったとはいえ、まだ日本にはお金を汚いものだと嫌悪する古きマインドが残っています。
この日本のマインドを変えることができれば、日本でも資産形成をスタートする若い人も増えて、人生に選択肢を持てるようになる。お金が原因で挑戦を諦める社会ではなくなる。お金の不安のない人生を生きるためのきっかけになれる。金融リテラシーにはそういう力があると私は信じています。金融教育が日本の国家戦略になって、本当に嬉しく思っています。
●国際システムは崩壊寸前。投資家たちはいっせいに資産をゴールドへ変換! 6/13
米国・シリコンバレー銀行の経営破綻から始まり、クレディスイス銀行、ドイツ銀行などEUの金融大国にも危機が飛び火。中国の資産家や企業も打撃を受ける事態に発展している。もはや世界経済のバブルが弾けかけているのか‥‥。
「すべてはトランプの所為だ」と左翼が問題をすり替え
シリコンバレー銀行(SVB)は3月9日から取り付け騒ぎに発展し、3月10日に倒産した。あっという間だった。
米国のリベラルなメディアにSVBの倒産は「トランプの責任」との、こじつけ論が目立つ。議論を歪めるのは彼らの常套手段である。
2018年のトランプ政権時代に小規模な銀行(資産2500億ドル以下)への監査基準が緩和されたのは事実だ。したがってFRBサンフランシスコ支部もSVBに対して「乱高下が烈しいハイテク企業への投資や暗号通貨保有」に関して何度か警告を発していたが、それまでだった。暗号通貨への投資が多かったのはニューヨーク基盤のシグニチャー銀行だった。
しかしFRBには注意するだけで、それ以上の行政命令権は付与されておらず、法改正はトランプ時代だったとして、金融危機を招いたのは法律を緩和したトランプだ、と牽強付会な論理をリベラルなメディアが展開をしている。
「2022年7月にFRBは全面的警戒を発し、SVB幹部を呼んで話し合いを持ったが『金利が上昇するので大丈夫』」と見通しを語ったとか。たしかに金利は上昇した。それは銀行経営を利したのではなく危機を深めた。2023年初頭、リスクマネジメントが必要と危機ランプが点った」(『ニューヨーク・タイムズ』3月21日から要約)
SVBの取締役会は2020年選挙でバイデンに11900ドルの政治献金をしており、CEOのグレグ・ブレィデイは個人的にも5600ドルの献金をバイデン選挙本部に行った。このことはほとんど報じられていない。
問題は25万ドル以下の預金者の預金保護だが、FDIC(連邦預金保険公社)にはそれだけの資力はない。米国人の預金総額は18兆ドル(正確な数字は17兆9750億ドル=邦貨換算で2336兆円強)。ちなみに日本人の預金好きは世界的に有名で、2000兆円の金融資産がある。
米国では今後もずるずると地方銀行、小規模な銀行が経営危機に直面するだろう。フランスやドイツが試みたように、銀行国有化という最後の手段を唱える論客も出始めている。
投資家たちは一斉にゴールドへ走った
今後の大問題はクレディスイスが起債したAT1債(ADDITIONAL TIER ONE)が紙くずになることだ。
2月末時点でAT1債保有が大きいファンドにラザード・フレール・ジェスティオン、GAMインベストメンツが運用する投資信託が含まれている。最大のファンドはサウジアラビア、ついでカタール政府ファンド、中国の富裕層もかなりの巨額を失ったと推測される。名門のピムコなどのファンドも大口債権者である。
悲観的なエコノミストはSVB、シグニチャー銀行の破綻が欧州へ飛んで、クレディスイスに及び、「いよいよ米ドル体制は崩壊し、いまは生命維持装置をつけているだけ」と主張している。論拠は米国赤字国債のうちの18兆ドルが海外の購入に依存しており、まさに過去30年の累積赤字と同額であり、この海外購入資金に枯渇がみられるからとする。
金融危機再来を目撃した投資家たちは一斉にゴールドへ走った。23年4月4日、東京の金相場は史上最高値をつけた。
投資家たちは理論に従って金投資をしているわけではない。通貨価値はなぜ変動するのか。固定相場なら安心できるではないかという原則論はまったく顧みられない。金は紙幣のようにある日、突然紙くずにはならないからだ。
日本円がやや持ち直しているのは「信用」
1971年まで米ドルは金兌換だった。ニクソン大統領が金本位制を離脱し、変動相場制に突入後は通貨が金融商品として投機の対象となった。たとえば2022年10月14日の1日だけをとっても、為替市場での取引が1000兆円を超えた。
もし手元にドル紙幣をお持ちだったら裏面を見ていただきたい。「この紙幣は金兌換です」とは書かれておらず、替わりに「IN GOD WE TRUST(神を信じるのみ)」と書かれている。サインは大統領でもFRB議長でもなく財務長官である。
為替相場を決める要因は第一に金利、第二に経常収支、第三が政治状況である。世界一低金利の日本の通貨が強くなることはない。
日本経済の自慢だった貿易黒字は資源輸入代金が円安で暴騰したため赤字に転落した。特許収入などで経常収支はかろうじて黒字だが、あまり円高圧力にはならない。であるとすれば日本円がやや持ち直しているのは「信用」なのである。
為替を固定相場とし、金本位に戻せば良いと古典的な正論を述べると、変動相場裨益組から猛烈な批判が浴びせられる。彼らが市場の多数派である。
金本位制への復帰議論のスタート
しかし米国議会にもまっとうな論客が存在しており動きがでた。
米連邦議会下院のアレックス・ムーニー議員が「金本位制再現法案」を提出した。
ムーニーはウェスト・ヴァージニア州選出の共和党議員。彼の法案は「財務省とFRB(連邦準備制度理事会)は全ての金保有と金取引を30ヶ月以内に公開」を求め、「その後、連邦準備制度理事会のドル紙幣は金との固定相場に移行し、FRBは新しい固定価格で金と交換が可能になる」とするもの。
ムーニー議員は「金本位制の復活がワシントンの無責任な支出、無からのお金の創造という無秩序から米国経済を守る」とし、「貨幣の価値を決めるのは官僚でなく、経済学によって形成される。米国経済は連邦準備制度理事会や無謀なワシントンの消費者に翻弄されることはなくなる」と主張した。
金本位制への復帰議論は1981年にレーガン政権が誕生した直後、「金問題委員会」が設置され、当時のジュード・ワニンスキらの論客を呼んで、突っ込んだ討議がなされた。しかし新資本主義とかグローバリズムの担い手のウォール街が、金本位制復帰を「古くさい」と強く反駁し立ち消えになった。
ムーニー議員の指摘は「ニクソン大統領の金本位離脱は『暫定措置』であり、従前の法律は有効だ」とする。ガソリン高騰などの物価高、インフレ、失業をもたらしたのも、金本位制度から離脱したのが遠因とする考え方である。
23 年3月時点で、自動車ローンの金利は9.1%に跳ね上がっている(22年10月は5.8%だった)。
理論的に言えば通貨は固定制が望ましく為替差損は政府が負うのが経済学の基本ではなかったのか。ところが実体貿易の数十倍もの投機資金が為替相場に投入されており、理論ではなく現実をみると、もし為替相場が固定制に戻ると仮定したら、猛烈な投機がおこるだろう。伝家の宝刀が抜けなくなったのが現状である。
「ビットコインは投機的な資産でしかなく、世界的規模で規制しなければならない」
暗号通貨の代表「ビットコイン」の先も見えてきた。
2022年5月にビットコイン相場が絶頂から(22年4月の64895ドル)下落し、32601ドル。およそ50%の暴落を演じた。その後も下落を続け2万ドルを割り込み、SVB倒産直後に投資家の狼狽買いがあって、一時期2万ドルを回復した。金を借りて投資していた中国人と韓国人に損害が出たという報道があった。
この時の暴落原因はEV(電気自動車)を主導するテスラがビットコイン支払いを拒否したからだ。テスラはビットコインでの支払いを受け付けると発表し、自らも15億ドルを投じたばかりだった。
中国はデジタル人民元の普及を目標としているため、21年秋にアリババ傘下の「アント」(庶民銀行でデジタル決済)の上場を延期させ、同時にアリババに3000億円の罰金を課した。さらに分社化を命じたため、先行きに不透明感が漂っていた。アントは消費者金融から手を引かざるをえなくなった。アリババのジャック・マーは海外へ出た。
G7財務相会議前後、主要国の中央銀行トップが申し合わせたようにビットコイン否定の談話を発表した。
ラガルドECB総裁は「投機的な資産でしかなく、世界的規模で規制しなければならない」とし、ECB幹部も「決済に多くは使われていない。ユーロ圏の金融機関も殆どは暗号通貨を保有していない。ECBが介入するほどのものではない」と問題外とする発言を繰り出した。
英国のジョンソン首相(当時)は「暗号通貨投資者は『自分で始末しろ』」と放言し、またベイリー英国中銀総裁は「暗号通貨には本質的な価値がない。投資すると資金を失う可能性を認識せよ」と発言、投資家の自己責任とした。
もっとも慎重なのは米国である。
ゲンスラー米SEC委員長は「投資家保護が市場健全化に必要だ。詐欺や価格操作から投資家を守る規則がない」とした。
中国人民銀行は「ビットコインの決済取引の停止」を発令
パウエルFRB議長は「リスクを抱えているので監視を強めるが、経済に浸透するほどには普及していない。夏までに暗号通貨発行の可能性とリスクに関しての見解を公表する」と慎重だった。米財務省は1万ドルを超える暗号通貨送金には報告義務を課した。
かくしてビットコインの先は見えた。
中国人民銀行は「ビットコインの決済取引の停止」を発令し、直ちに中国国家発展改編委員会は取引所を閉鎖した。理由として、「電力消費が急増、カーボンゼロ達成が困難になる」と本質をはぐらかした。
ホンネは中国政府が早期導入を予定し、市場で実験を繰り返している「デジタル人民元」の普及にとって、ビットコインが最大の障害となるからである。
とはいえ、「上に政策あれば下に対策あり」の中国人、当局の裏をかく行動を続けている。
暗号通貨の採掘には膨大な電力消費をともなうため、比較的電力に余裕がある内モンゴル自治区などに取引所がある。またハッカーの身代金がビットコインなので、闇の交換業者が存在する。
当局と密売、闇取引。つまり金融マフィアとの戦いは続くだろう。銀行はそもそも小さな共同体の相互協力から生まれた。それぞれが通貨を発行していた。資本主義の発展とともに銀行は国家的規模になった。
19世紀の銀行は取り付け騒ぎが頻発したけれど、救出措置は無かった。
そもそも米国には中央銀行がなかった。金融システムがないため信頼は組織レベル、個人レベルで維持されていたのだ。南北戦争以前には民間銀行が独自の通貨を発行し、信用が失墜すると預金者は預金を下ろした。取り付け騒ぎは日常茶飯だった。
1980年代初頭、イリノイ州コンチネンタル銀行が経営破綻に直面し、「大きすぎてつぶせない」と初めて救済措置が取られ、これが「救済文化」の台頭に繫がった。連邦預金保険公社はSVBの預金者に対して行ったのと同じように、大口預金者に無制限の保護を拡大した。
1980年代にS&L(貯蓄貸付組合)が破綻したときも救済措置が取られ、つまりは弱肉強食の米国資本主義が社会主義的な性格に変貌したのである。
S&Lは組合員の住宅資金用の貯蓄と貸付を目的として発展した金融機関だった。個人などから集めた短期の小口貯蓄性預金を、長期固定金利の住宅モーゲージローンで運用した。しかし商業銀行ではないため、小口貯蓄性預金には決済機能は事実上付与されていなかった。
金融恐慌への時限爆弾は静かに鳴っているのである
2023年3月29日、米国上院財政委員会は、クレディスイス銀行が隠蔽してきた米国の納税者の家族が保有する1億ドルの口座に関して犯罪的陰謀を指摘した。
米国の実業家らが2億2000万ドル以上のオフショア口座を隠蔽する手助けをしてきた。クレディスイスが隠してきた口座は、それぞれ2000万ドル以上の価値があり、7億ドル以上が米国司法省との司法取引に違反してきた。
ヘッジファンドの損失からブルガリアのコカイン組織によるマネーロンダリングを防げなかったことによる罰金まで、長年にわたる問題を抱えているクレディスイスは、「脱税を容認しない」と述べていた。
金融恐慌への時限爆弾は静かに鳴っているのである。
●中国の地銀で倒産連鎖! 共産党による達成不可能な目標  6/13
現在、国際金融の危機が多くのエコノミストや経済史家から警告されている。これから世界はどこへ向かおうとしているのか。
中国全人代では達成不可能な数値目標が並んだ
中国共産党は懲りもせず虚言と誇大宣伝を並べ立てて自慢することが得意である。3月5日から13日まで開催された全人代では、初日に李克強首相(当時)が演説した。
GDP成長目標を5%とし、22年は「コロナ禍と不動産不況にも拘わらず3%伸びた」と白々しい噓を報告した。李克強は報告書を読みあげながらも、忸怩たる思いがあったのではないか。
都市の新規雇用は1200万人、失業率を5.5%とする。インフレ抑制を3%前後とし、赤字国債の上限はGDPの3%とする。また食糧5000万トンを増産する等とおおよそ達成不可能な数値目標を羅列した。
政府活動報告で目立った表現には「習近平同志を核心とする党中央の力強い指導」、「習同志の核心としての地位と習を中心とする党中央の権威を守る」など、時代錯誤の修辞が続き、「貧困脱却堅塁攻略戦に勝利する」との抽象的で意味不明な表現がある。要するに貧困層を減らし、皆の暮らし向きが良くなるように努力すると言いたいのだ。
内需拡大の項目では「地方政府特別債は3兆8000億元〔76兆円〕とする」とあって、表現に隠れているが、地方政府債務を新規債券発行で肩代わりし、当面誤魔化せと言っているようなものである。
地方政府が乱発した債券は既に1000兆円を超えた(公式には900兆円前後)
地方政府が乱発した債券は既に1000兆円を超えた(公式には900兆円前後)。
名指しはしていないが欧米のサプライチェーンの分断に関して「製造業の重要産業チェーンに関して国を挙げて重要な核心技術をめぐる難関を乗り越え、ハイテク研究開発と応用促進を加速する。デジタル経済をおおいに促進する」とした一方で、「外資の市場参入規制を緩和し、TPP加入交渉を推進する」と主張した。
同時に「金融」と「香港、マカオ、台湾」の項目で、政府活動報告は何を言ったのか。「習近平の強軍思想」を貫徹し、環境にも取り組むとしたうえで、金融では「監督監査を強め、地域性、系統性金融リスクを回避する。大手不動産企業の経営危機に対処し、負債比率を改善し、無計画な拡大経営を防ぎ、不動産の安定成長をうながす」。このため「地方政府の債務リスクを防止・解消し、債務期限構造を改善し、利息負担を低減し、新規発行額を抑え、債務残高を削減する」とした。
この箇所を裏読みすると不動産は無謀な計画で大借金の山を築いたが、利下げと期限を延ばして救済措置をとるという意味だろう。そして、なんとか市況の暴落を防げないものかと言っているのである。
「昨年の不動産投資は前年比10%減。それだけでGDPは3%の下落圧力になる。それでも実質3%の成長をとげたとは信じがたい」(田村秀男氏『産経新聞』3月18日付)。
ちなみに全人代が終わった3月20日、習政権の首席補佐官となる中央弁事処長に蔡奇が指名され、また香港マカオ弁事処主任は丁薛祥が指名された。ふたりとも昨秋の党大会で政治局常務委員に抜擢された習近平側近である。
地方銀行では、あちこちで取り付け騒ぎ倒産が相次いでいる
中国の地方銀行では、あちこちで取り付け騒ぎがおこり、倒産が相次いでいる。
日本のメディアが大きく伝えないので、現地の深刻な状況が分からないかも知れない。この銀行経営危機という中国経済の病理は末期がんである。静かに進行し、やがて死の床につく。
直近でもクレディスイスのAT1(永久劣後債)の紙くず化が間接的な引き金となって、中国の中小の4つの銀行の債権利回りが急上昇した。
湖北省の農村商業銀行と荊門農村商業銀行、山東省の煙台農村商業銀、遼寧省の営口銀行で、23年3月末の償還を見送ったのだ。中国全体の劣後債償還額は400億元(8兆円)。23年上半期に償還のピークがくる。
内モンゴル自治区フフホトといえばレアアース景気に沸騰しているところだが、一方で、地元の「包商銀行」は3年前に倒産した。
これを皮切りに、河南省、安徽省、遼寧省などの村鎮銀行(田舎の信用組合のような小規模な金融機関)が口座を凍結したりした。包商銀行はインサイダー取引の黒幕だった肖建華が、監督の届きにくい地方銀行にテコ入れして、株式取引や大がかりな投機行為の財布替わりに活用していた。肖が香港のホテルから拉致されて行方不明となり、不正融資の実態が露呈した。
抗議集会に介入し、参加者を暴力的に排除
2022年7月には杭州市、南京市などで預金者が人民銀行支店を取り囲んで抗議した。とくに河南省では人民銀行支店前に3000人が座り込んだ。地元銀行の40万人の口座がいきなり凍結されたからで、ほとんどが小口預金の農民だった。全土に同じ動きが見られ、公安系の屈強な男たちが抗議集会に介入し、参加者を暴力的に排除した。
遼寧省の遼寧農村商業銀行は22年8月に倒産した。原因は同行トップが賄賂をとって不正融資を拡大していたからだった。同行は瀋陽農商銀行が事業を引き継いだ。遼寧太子河村村鎮銀行も倒産した。
政府はこうした不良債権処理に邦貨換算で、1人当たり1000万円までの保証をしているが、2018年から22年末までに注ぎ込んだ不良債権処理の総額は627行、52兆円(2.6兆元)にもおよぶ。さらに銀行監査監督委員会、財務省ならびに人民銀行は289行に2兆7000億円弱(1335億元)を注入した。砂漠にジョウロで水をやっても何ほどの効果も期待できないが、信用不安をとりのぞこうと当局も必死なのだ。
政権中枢に経済通がいない
それでも中国のあまたある銀行の闇を解決出来る見通しはない。
5大銀行は中国工商、中国建設、中国農業各銀行に中国銀行、そして交通銀行である。ついで有力なのが浦東発展銀行、上海銀行など。これらは国有もしくは公有であって倒産の心配はないが、地方銀行、郵貯のたぐいから農村などの信用組合などは、「信用」の看板があっても信用できないのだ。
第一に中国の人口動態の激変である。農村から都市への移住が激しく、地方銀行の疲弊がある。第二に地方政府の債務の「融資平台」で債権デフォルトの爆発がみられる。
これを「隠し債務」というが、公式に900兆円(45兆元)。このため政府は地方債起債の再開を黙認し、ハイテク都市建設債とかグリーン債とか、じつに適当な、しかも薔薇色の投資だと銘打って金利8%以上のおまけ付きで売り出した。運転資金であって新規投資のためでないことが明らかだから一般民衆はそっぽ、国有企業や保険会社が買わされている。悪循環である。
共産党の直接管理としたため見通しはますます暗い
第三はネット銀行が興隆し、若者ならびに都市生活者がネット上に口座を開設、既存の銀行から預金を取り崩した。
第四はもっと本質的な中国の汚職文化である。銀行トップが融資先から賄賂をとって、不正融資と知りながら裁決するのだ。これらは不動産開発などに振り向けられた。
第五に不正融資先の多くがマフィアなど犯罪集団で、地元の共産党幹部とグルになっているため将来の焦げ付きがわかっていても断れないという地方の暗黒面が反映している。
中国政府は「救済合併」という手段で倒産銀行をほかの地方銀行に押しつけ、事態の沈静化を計った。しかしマグマはくすぶり続けている。その一方で、倒産した不動産デベロッパーに巨費を注ぎ込んで、救済を図るとはナニゴトカと、預金者の不満が爆発寸前である。
習近平は独裁皇帝、なにごとも自らが決済する。それゆえ直面する金融危機にあたって、強権的立場をさらに強化した。経済政策は国務院の専管だった。これを取り上げ共産党の直接管理としたため見通しはますます暗い。
自分の権力のもとに総てを集中させる党独裁熱中症候群
経済通の李克強も王岐山も周小川も不在となった、かろうじて対米交渉をやってきた劉鶴もお払い箱、習近平独裁3期目の政権中枢に経済通がいない。
にも拘わらず党が金融行政を直轄するとしたため、党中央に「中央金融委員会」と「中央金融工作委員会」を設置した。
また中国銀行保険監督管理委員会を基礎に国務院に「国家金融監督管理総局」を新設した。改革の第1弾は銀行員の給与引き下げだった。従来、職員の給料は公務員の2倍以上あった。
習近平は行政組織をいじくるのが好きで、軍のシステムをまず7大軍管区から5大戦区として、次に4大総部(総政治部、総参謀部、総後勤部、総装備部)を15の部局に分割した。軍人の不平たらたらだったが、要するに自分の権力のもとに総てを集中させる党独裁熱中症候群に取り憑かれているからだ。
すなわち中央軍委の「7大部・庁」となったのが中央軍委弁公庁、中央軍委聯合部、中央軍委政治工作部、中央軍委後勤保障部、中央軍委装備発展部、中央軍委訓練管理部、中央軍委国防動員部である。
習近平独裁への忠誠を競うような組織改悪
中央軍委「3大委員会」は中央軍委紀律検査委員会、中央軍委政法委員会、中央軍委科学技術委員会である。
そして「5大弁公室・署・局」とは中央軍委戦略計画弁公室、中央軍委改革・編制弁公室、中央軍委国際軍事合作弁公室、中央軍委審計署、中央軍委機関事務管理総局。それぞれが細かな任務も分からずに右往左往していた。
4大総部体制では軍を動かすのは総参謀部であり装備品、武器の開発、保管などは装備部だから汚職の巣と言われた。総政治部が権力を持っていた。
現在の15の部局では、いったい誰が、どの軍人が軍を掌握しているのかが不明となり、結局効率的な軍の運営という目標ではなく習近平独裁への忠誠を競うような組織改悪である。
チャイナウォッチャーのなかに中国の体制を「地方分権的全体主義」と呼ぶ人がいる。「習思想」などと意味不明の個人崇拝体制で行政と経済政策が、最高指導部管轄となれば、国務院以下の中央官庁の存在意義はどうなるのか?
いうまでもなく行政機構は無力化し、無骨格状態となり、党中央独裁、いや個人独裁の毛沢東時代と変わらなくなる。
香港とマカオの「一国二制度」の方針を揺るがさずに貫徹すると唱えながら(すでに反古となっているが)、「法に基づく統治を堅持する」とした。香港とマカオの自治を踏みにじったが、「法に基づく統治」と言うのは、その後、勝手に作った共産党支配の合法化のための「新法」を指す。
政策に柔軟性を希求するのは無謀だろう
台湾についても「新時代の党の台湾問題解決の基本方策を貫徹し、独立反対、祖国統一促進を貫き」、「祖国の平和的統一への道を歩む」などと「平和的統一」の美辞麗句を並べただけだった。
そして金融、治安、ハイテクが共産党の直接管理となった。ここが一番重要なポイントである。
西側の制裁に対抗し、習近平が統制を強化する目的がある。つまり国務院がこれまで専管事項としてきた分野も共産党直轄になったわけだ。
治安では公安、国家安全部と戸籍の管理を共産党内務工作委員会へ移管する。金融では人民銀行と金融監督部署が共産党のふたつの委員会に権限移管され、科学技術と教育部門が党の専門委員会の直轄となる。
人事面では新首相に経済のド素人、李強が任命された。前任の李克強は北京大学経済学博士号。続投が決まった易鋼(人民銀行総裁)はイリノイ大学博士号を持つ専門家だった。
国家副主席には韓正が選出された。王岐山前副主席は完全な引退に追い込まれた。しかし人民銀行総裁に居座ることになる易鋼は中央委員候補からもすべり落ち、もはや飾りでしかない。胡錦濤時代に人民銀行総裁だった周小川にはやや独自政策の裁量権があったが、金融も共産党直轄となれば、政策に柔軟性を希求するのは無謀だろう。まして経済の回復なんて!
中国は米国と並ぶ「特許大国」となったそうな
こうみてくると以下の報道がいかに白々しいか。
中国は米国と並ぶ「特許大国」となったそうな。実態は研究論文と申請件数のおびただしさで、他人の論文の剽窃や横取りも多い。ただしこれからもつれるであろう難題は、日本や米国と中国との共同出願による特許がかなり存在することである。中国と共同研究をすること事態が間違いだったのである。
とくに中国の特許はEV、スマホ、太陽光パネル、電池、レアメタルなどの先端分野に集中している。中国はこれら共同特許も解釈変更で中国の特許としている。トヨタは中国との共同特許が30件、まるで人質ではないか。
筆者が『日米先端特許戦争』を書いたのは1983年で、そのときから防衛直結特許は非公開とすべきだと主張してきたが、2022年になってようやく国家安全保障に関する特許の非公開が決まり、予想される特許収入は国が保証するという制度ができた。39年かかった。
国際学会での論文数では米国を抜いて中国が1位である。以下、韓国、台湾、日本とつづき、技術大国だった日本の地位低下が顕著になった。10年後に日本人のノーベル賞受賞者はいなくなるかもしれない。
米国企業での問題は、研究者の中に圧倒的に中国人が多く、わけてもテスラの技術陣は中国人が過半である。つまり中国人エンジニアが不在となると、世界各地で生産効率が下降する。一方、中国のBYDがついにテスラの売れ行きを抜いたのである。
西側企業の中国撤退が続いている
BYDはバッテリーメーカー・比亜迪公司の子会社で、前身は西安秦川自動車だった。同社倒産後、比亜迪が買収し2003年に設立した。2010年には日本の金型メーカーオギハラの館林工場を買収した。中国政府のEV補助金を受け、EV販売数では世界一となった。
それにしても脱炭素、環境保護という左翼運動の余波で世界の自動車メーカーがEVに傾斜したことは、ガソリンエンジンが主力の日米独の自動車産業を落日に追い込んだ。しかしEVの今後の発展が電池技術にあるばかりか、充電の必要があるから電気需要が増大することも明らか。発電には石炭、原油、ガスが必要であり、脱炭素にはならないという皮肉な結論がでる。EU諸国は2035年のガソリン車撤廃目標を降ろした。ハイブリッド車は残るのである。
また太陽光発電は寿命10年、雨が降ると役に立たずあちこちで不評な上、熱海の山崩れの原因とされ、勢いが削がれた。太陽光パネル生産も中国が世界一だった。
西側企業の中国撤退が続いているうえ、日米欧は中国へのハイテク輸出を規制し、米国はブラックリストを公表し、日欧にも協力を要請した。とりわけ半導体装置では日本とオランダが米国と協議し輸出停止を申し合わせた。
海外マネーの逃避が続出している
欧米ファンドも中国から引き揚げをはじめ、中国をのぞく新興工業国家群への投資に分散、米ファンドの日本向け投資は中国へのそれの2倍近くになった。ベトナム、インド、マレーシア、豪州などへ、ハゲタカファンドのKKRやブラックストーンなどの巨大ファンドが投資対象を切り替えた。この2つのファンドは日本への投資拡大を目論んでいる。
中国株への投資も海外マネーの逃避が続出している。アリババ、JD、美団など中国のハイテク企業株から足を洗っているのだ。
かような情勢変化に直面する中国が5%成長を遂げるという習近平の方針は、張り子の虎(ペーパータイガー)としか言い様があるまい。
●米上院銀行委、FRB副議長・理事人事で21日に公聴会 6/13
米上院銀行委員会は21日にバイデン大統領が連邦準備理事会(FRB)副議長に指名したジェファーソン理事など首脳人事の承認公聴会を開く。シェロッド・ブラウン委員長の電子メールで分かった。
公聴会は午前10時から予定されており、FRBのクック理事の再指名とエコノミストのアドリアナ・クグラー氏の理事指名の人事案も検討される見通し。
●原油先物は反発、米FRBの政策決定前に慎重ムード 6/13
13日の原油先物価格は反発している。ただ、米連邦準備理事会(FRB)など主要中銀の政策決定を控え慎重ムードが広がり、上げは限定的。
北海ブレント先物は、0048GMT(日本時間午前9時48分)時点で0.16ドル(0.2%)高の1バレル=72.00ドル。米WTI先物は0.07ドル(0.1%)高の67.19ドル。
インフレ統計と連邦公開市場委員会(FOMC)を前に需給を巡る懸念が高まり、両先物は前日に約3ドル下落した。
前日の下げを受けて押し目買いが広がり、原油価格を支えているとの指摘が出ている。
市場関係者の大半はFRBの金利据え置きを予想。FRBのこれまでの利上げはドルを支え、ドル建て商品は他通貨保有者に割高となり価格を圧迫している。
欧州中央銀行(ECB)は今週の会合で0.25%の利上げを実施すると予想されている。日銀は16日に超緩和策の継続を発表する見通し。
●主要中銀、ガイダンスから徐々に脱却 インフレ再来で 6/13
主要中央銀行は過去15年間、今後の方針について具体的なフォワードガイダンス(指針)を示し、予見可能な金融政策運営を行ってきた。しかし今、各行は金利の変更や据え置きを不規則に行い、時にはサプライズも起こすという、かつての不明瞭な政策運営に戻ろうとしている。
この背景には、インフレの再来によって金利変更の頻度が高まるかもしれないとの認識がある。
2007年に始まった金融危機からユーロ圏債務危機、低成長、石油価格下落、新型コロナウイルスのパンデミック、そして戦争と危機が相次いだ15年間、主要中銀は確固とした、そして往々にして詳細なガイダンスを示してきた。
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は先月、「コミュニケーションは誤解というコストを伴う上、柔軟性が制限される可能性がある」と指摘。「フォワードガイダンスは次のような時には慎重に使うべきだ。すなわち政策軌道が十分に理解されている時。もしくは、それとは反対に、政策軌道が将来の不確実な動向に左右されるあまり、将来について建設的なことをほとんど言えない時だ」と述べた。
現状は後者にあてはまる。先進国の中銀は今なお40年ぶりの高インフレの抑制に奮闘しており、どこまで政策金利を引き上げるべきか、そして利上げに経済がどう反応するか、確信を持てていない。
各中銀がガイダンス脱却
中銀がリスクや見通しについては語る一方、金融政策パスについては明示しない時代への回帰は、散発的に始まろうとしている。
オーストラリア準備銀行とカナダ銀行は先週、国民の政策金利見通しを一定方向に導く努力をまったく、もしくはほとんど払わないままに利上げを再開した。インフレが予想以上に根強いことが分かったからだ。
イングランド銀行は2月に明示的なガイダンスを廃止し、政策決定をインフレ統計にひも付けた。物価が上がり続けたため投資家は追加利上げを織り込んだが、見通しが非常に不確実な中、ベイリー総裁はそうした市場の見方を別方向に導こうとはしなかった。
これら中銀とは対照的に、日銀は今なお慢性的な低インフレと格闘中であり、金融緩和を「粘り強く」継続すると約束することで、ガイダンスの中核部分を残した。ただ、政策金利を「現在の水準、または、それを下回る水準」で推移させるという部分を和らげたのは、小さいが重要な変化だった。
欧州中央銀行(ECB)は、「毎回の会合ごとに」政策を決める姿勢を採用し、「政策金利に関する直接的なフォワードガイダンスへの回帰には強く反対」するとした。ただ、実際には幹部らが政策の方向性を強く示唆しているため、金融市場は今月15日の理事会でほぼ確実に利上げが実施されると予想している。また、多くの幹部は7月にも追加利上げを実施すべきだと述べている。
一方、FRBは今週の連邦公開市場委員会(FOMC)で難しい局面に直面する。
パウエル議長は、先行きが不確実な時には明確なフォワードガイダンスは有用ではないと釘を刺しているが、13─14日のFOMCでは各委員が今後のフェデラルファンド(FF)金利を予想するドットチャートは公表せざるを得ないからだ。
ドットチャートの難点
ドットチャートは、FOMCメンバーが経済の先行きをどう見ているかを示し、透明性を高めるための道具だが、往々にして金利ガイダンスだと見なされる。バーナンキ元FRB議長は先月、「コミットメントと予想の違いがいつも理解されない」と述べ、政策立案者にとって「理想的ではない」状況だとの見方を示した。
ドットチャートで年内の追加利上げ見通しが示されている状況で、今週のFOMCが予想通り金利を据え置けば、疑問が持ち上がりそうだ。また、利上げ予想が示されなければ、「データ次第」と言いながら足元の高いインフレ率に対応しないのはなぜだ、という疑問を突きつけられるだろう。
ただ、こうした不明瞭な状況が必ずしも悪い事だとは言い切れない。危機が相次いだ15年間を経て、正常な状態が戻ってきた証しかもしれない。
セントルイス地区連銀のブラード総裁は今年ロイターに、現在の引き締めサイクルは「一種の正常な金融政策への回帰だ」と発言。中銀のコミュニケーションが今より限定的だった90年代のように、データに応じて適切な金融政策を行う状況に戻っているとの見方を示した。
●東証終値3万3千円台 バブル期以来33年ぶり トヨタ株が牽引 6/13
13日の東京株式市場の日経平均株価は大幅続伸した。終値は前日比584円65銭高の3万3018円65銭。バブル経済崩壊後の最高値を更新し、平成2年7月19日以来、約33年ぶりに3万3000円台を回復した。米連邦準備制度理事会(FRB)が追加利上げを見送るとの観測が強まり、金融引き締めへの警戒感が後退して幅広い銘柄で買い注文が優勢だった。
13日の東京市場は前日の米国株の上昇が波及。12日の米国市場はFRBが13、14日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを一時停止するとの観測が強まり、ハイテク株を中心に株価が上昇した。
これを受けて、東京市場も半導体関連が上昇。大型株のトヨタ自動車が全体を牽引した。トヨタは電気自動車(EV)に搭載する次世代電池「全固体電池」を令和9年に実用化する方針を示し、前日比で約5%上昇した。株価純資産倍率(PBR)も1倍に回復した。
大和証券の林健太郎シニアストラテジストは、「投資家は16日に閣議決定される骨太の方針も期待しており、当面は日本株の上昇基調は続くだろう」とみる。
●米デフォルト騒動は棚上げしただけ…本当の嵐はこれから 6/13
米国連邦議会下院は5月31日夜(日本時間1日午前)、米政府の債務上限を停止するという奇手を使い、「債務責任法」を可決、ジョー・バイデン大統領が3日に署名した。株価は急騰し、米国のデフォルト(債務不履行)騒ぎは一時的に収まった。
危機を遠ざけただけの措置で、上限設定を棚上げしたのだ。デフォルト騒動は多分、3、4カ月後に再燃するだろう。
歌を忘れると、カナリアは捨てられる運命にある。
世界最大の米ヘッジファンド「ブリッジウオーター・アソシエーツ」の創業者、レイ・ダリオ氏は「シリコンバレー銀行(SVB)の破綻は『炭鉱のカナリア』だ。近い将来、マーケットを襲う危機の前兆である」と言う。
ウォール街の銀行株は、ハゲタカファンドの仕掛けた「空売り」で50%から80%の暴落を演じ、倒産しなくても生き延びられた銀行まで経営危機に陥った。強欲資本主義の行き着いた先である。
「炭鉱のカナリア」とは、人間より早く有毒ガスの発生を察知するため、英国では炭鉱夫が地下に降りるときに、先頭がカナリアのカゴを持っていた。
日本でも、1995年の地下鉄サリン事件の2日後、警視庁は山梨県上九一色村(当時)にあったオウム真理教の施設を強制捜査するとき、捜査員がカナリアを携行していた。
ダリオ氏は「世界経済は信用バブル収縮の初期段階にある。歴史上、このようなケースでは、新たな巨額損失が次々と明らかになるのが通例だ。さらに融資縮小や株価の暴落が進み、危機が本格化するだろう」とも語った。
米国連邦準備制度理事会(FRB)は5月3日、金利を0・25%引き上げて5%とした。2007年以来、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)レートが5%を超えたのは初めてである。この金利高は住宅ローン金利を6・7%に跳ね上げ、住宅着工件数も中古マンション取引も激減した。インフレが更新し、米国人の家計を暗くした。
「米国景気は回復する」というエコノミストが多いが、単純に2つの疑問をいだく。
1.なぜ、次の産業を牽引(けんいん)するAI(人工知能)や、対話型AI「チャットGPT」に懐疑論が多いのか。
2.なぜ、投資家は欧米株より日本株へシフトしたのか?
モグラが地震予兆を感じたら地表に出てくる。ネズミが洪水を予兆したら地面をはい回る。「本能的な危機回避策」として日本株を買っているのが外国人投資家である。
つまり日本国債と日本株は、欧米ファンド筋の避難地であり、何かを「予兆」している証拠だろう。 
●米国5月消費者物価+4.0% 物価上昇に一服感でFRB利上げ停止か 6/13
アメリカの先月の消費者物価の伸び率は4.0%で、11か月連続で伸びが縮小しました。去年、一時9%を超えた物価上昇の勢いは落ち着きつつあります。
アメリカ労働省が13日に発表した5月の消費者物価指数は、前の年の同じ月に比べて4.0%の上昇で、市場の予想をわずかに下回りました。
11か月連続で伸び率は縮小していて、ガソリンが大きく値下がりしたほか、中古車価格も値下がりしました。
4.0%の伸び率は2021年3月以来、2年2か月ぶりの低さで、去年、一時9%を超えた物価上昇の勢いは落ち着きつつあります。
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は13日から金融政策を決める会合を開きますが、物価上昇に落ち着きがみられることから、市場では去年3月の会合から10回連続で続けてきた金利の引き上げをいったん停止するとの見方が強まっています。

 

●無リスク資本主義 6/14
―――シリコンバレー銀行の保険対象外預金を保護するというアメリカ政府の決定は、自由市場の規律を損なう―――
破綻したシリコンバレー銀行(SVB)の保険対象外の預金者を救済する必要はあっただろうか。25万ドルを超える預金は保険対象外だと皆が知っていたとしても、保険対象外の預金が全額保護されていなかったら、パニックが銀行システム全体に波及していたに違いないというのが救済の論拠である。他の銀行でも大口預金者が預金を引き出し、金融の安定が損なわれただろうというのだ。
その通りかもしれない。しかし、大口預金者が金融安定の名目で常に保護されるのであれば、そうした預金者がせめて保険対象預金に課される保険料を負担しないのはなぜだろうか。企業の財務担当者にとって、銀行の取引口座に資金を置いておくリスクを軽減する低コストの方法はたくさんある。給与の支払いやその他の当面の取引に必要な額だけを要求払い預金(当座預金)口座に預け、近いうちに必要となる追加の現金を流動性の高いマネー・マーケット・ファンド(MMF)に投資しておくことが可能だ。しかしながら、あまりにも多くの企業が初歩的なリスク管理を実践していなかった。ロイター通信によれば、ストリーミング機器メーカーのロク社は、SVBに4億5,000万ドル超を預金していた。SVBの株主は当然のことながら全滅となり、経営陣も解雇されたのに対して、大口預金者は政府によるルール変更のおかげで無リスク資本主義の恩恵にあずかることになった。
SVBの大口預金者に対してはヘアカットを課すこともできただろう。米連邦預金保険公社(FDIC)による過去の介入事例に基づくと、ヘアカットを行っていた場合、保険対象外の預金者が被った損失は預金残高の約10%であったと考えられる。その場合、顔を赤らめた企業の財務担当者が数名、当然の報いとして仕事を失うことになっただろう。そして、他の銀行への波及の兆候が見られたならば、イエレン米財務長官が最終的にそうしたように、政府は包括的な暗黙の保証を発表すればよかった。その際、FDICは200億ドルを節約し、リスクを取った者の少なくとも一部はその結果に責任を負うという原則も維持できたはずである。そうすれば、SVBのケースは逸脱としてとらえられることはなく、無リスク資本主義へのさらなる試みを誘発する可能性が高い前例とはならなかった。そうではなく、無能な者にはペナルティを課す資本主義とみなされただろう。
より一般的には、米連邦準備制度理事会(FRB)の独自の調査が示しているように、SVBは「銀行による教科書的な経営失敗ゆえに」破綻した。であれば、逃げ足の速い保険対象外の要求払預金は、システムのバグなのではなく、特色のひとつであり得る。保険対象外の預金者が注意を払えば、無能あるいは強欲な銀行経営を素早く止めることができ、納税者が莫大な額を節約することにつながる。規制当局者が「今はモラルハザードを心配する時ではない」という陳腐な理由を持ち出して保険対象外の預金者が麻痺してしまうと、彼らは将来的に注意を払わなくなる。救済の意向を繰り返し示す政府は、次回は同じではないと述べても信頼性がほとんどない。
政府の決定は、大規模なロビイングを受けたものだった。それには、ベンチャーキャピタリストから寄せられた助けを求める多くの叫びも含まれる。クラフト・ベンチャーズのデビッド・サックスは、「銀行規制当局者に対してシステムの健全性を確保するよう求める。アメリカの預金は安全かそうでないかのどちらかだ」とツイートした。ヘッジファンド界の巨人で億万長者のビル・アックマンは、「民間資本が解決策を提示できない場合には」、政府による救済措置が検討されるべきであるとツイートした。救済を称賛した政治家のひとりに、ニューサム・カリフォルニア州知事がいる。オンラインメディアのインターセプトによると、同知事のワイナリーのうち3件がSVBの顧客であったほか、妻の慈善団体の理事会にSVBの役員のひとりが名を連ねているという。ニューサム知事の保有資産は、2018年に知事に選出されてから白紙委任信託に移されていた。
システムの保険ルールを大口預金者に有利な形で曲げることができたことは、われわれが20年前に著書『セイヴィング キャピタリズム』で指摘した由緒あるシカゴ学派経済学に内在する矛盾を思い起こさせる。シカゴ学派は、一方では、自由で公正な市場の機能には明確に定義され正しく執行される財産権の存在が何よりも必要であると主張する。他方で、いかなる形の規制も既得権益によって取り込まれがちであると論じる。もし既得権益による規制の取り込みが可能であるなら(実際、SVBに関するFRBの事後検証報告書では、2019年にSVBのような銀行に対して業務の透明性低下と検査緩和を容認するルール変更があったことが認められている)、既得権益による財産権の定義・執行の取り込みが不可能な理由はあるだろうか。強力なベンチャーキャピタリストが、何らかのより大きな公共財を引き合いに出して、保険対象外の預金を保険対象のものに端的に定義し直すことができない理由はどこにあるだろうか。
それが可能であるというなら、自由企業資本主義は小さな政府によって必然的にもたらされる産物なのではなく、政治の創造物であり、それは非常に特定的な条件下でのみ発展・存続しうることになる。さもなくば、そうした資本主義が向かう自然の状態は、市場志向の資本主義ではなく、見境のない縁故主義(クローニズム)であるか、より穏当な形としては企業志向の資本主義となる。
われわれの著書では、金融市場の発展と存続に焦点を当てた。それは、金融市場がおそらく最も脆弱であるからだが、われわれの議論はより一般的なものである。われわれは、「資本主義にとっての最大の政治的な敵は、システムに辛辣な言葉を浴びせる扇動的な労働組合ではなく、ピンストライプのスーツに身を包み、口を開くたびに競争市場の利点を称賛しながら、あらゆる行動においてそれをなくそうとしているエグゼクティブである」と論じた。資本家らは、市場を創出したり支えたりする代わりに、市場の機能を損ねているのだ。彼らは競争市場そのものだけでなく、市場の機能を可能にしている諸制度にも脅威を感じているからだ。「経済的な強者は、自由市場を支える諸制度に懸念を抱いている。というのも、そうした諸制度は人々を平等に扱い、権力を不必要なものにするからだ」。
われわれは、「市場は政府のよく見える手なしには繁栄することはできず、それは、市場参加者が自由にかつ信頼感を持って取引できるようにするインフラの整備と維持に必要である」ことを認めた。しかしそのことは、誰が「政府に競争市場を支えさせることに利益を見出すのか」という問いを生む。「競争市場によって可能になるより良い製品、サービス、アクセスの平等は全体としては各人に恩恵をもたらすが、特定の者がシステムの競争性と公平な競争環境を維持することで大きな利益を得ることはない。したがって、誰にとっても、ただ乗りをし、システムの擁護を他の者に委ねるインセンティブが存在する」。
であるとすれば、自由企業資本主義は決定論的な進化プロセスの最終段階なのではない。「むしろ、既得権益という雑草による絶え間ない攻撃から守りつつ育てる必要がある繊細な植物と考えた方がよい」。
われわれは、この繊細な植物の生育を促進するのに必要な4つの条件を特定した。第1に、非常に強力な既存企業が存在してはならない。その代わりに、各企業の力はあまり大きくないものにとどまっている必要があり、その結果、国が公平な執行者としての役割を果たすことが必要になる。
第2の条件は、効果的な福祉制度である。「競争は倒産を引き起こす。こうした倒産は創造的破壊のプロセスにとって不可欠であるが、その影響を受ける人々にとっては非常に大きな痛みを伴う。彼らに課される調整コストが大きければ大きいほど、あるいは苦境に陥る人々が多ければ多いほど、介入に対する政治的要求は強まり」、それは容易に操作可能となる。救済が政治争点化するのを防ぐひとつの方法は、影響を受けた人々に基本的な支援を直接提供する明示的なセーフティネットを備えることである。企業は倒産すべきだが、人々はそうではない。
第3の条件は、既存企業を、非効率な企業を保護しない他国の企業と競争させることにより、その力を低下させることである。「既存企業の立法への影響力を弱める最も効果的な方法は、国際競争に対する国内市場の開放を維持することだ」。銀行業界が最も政治的影響力の大きい業界のひとつであるのは偶然ではない。銀行業界は、事業が国内に大きく集中しており、国際競争に真に直面していないからだ。
最後に、われわれは、自由で競争的な市場が不可欠であることについて一般の人々を説得する必要があると考えている。「より広範囲の人々が自由市場の利点を目にして、その政治的な脆弱性を理解すれば、狭い利益集団が自らのアジェンダを押し通すことはより難しくなるだろう」。
今日、SVBのベイルアウトに対する関心がこれほどまでに薄いのはどうしてだろうか。現在のアメリカの状況は、われわれが本を執筆した時に比べて、競争市場をもたらしにくくなっているのだろうか。いくつかの点では、当惑させるようだが、答えは「イエス」である。
われわれが挙げた条件について、順番を逆にして検討してみよう。2008年に始まった世界金融危機の最中に銀行の直接的な救済が大規模に行われ、また、パンデミックの最中には(世帯や企業への給付が実施され、銀行ローンの返済に充てられたという形で)間接的な救済が行われた後、現在では周期的な銀行救済は不可避であると見られており、学問的にも立派な地位を得ている。
さらに、本来であればそのような縁故主義に関連した非効率性を浮き彫りにするはずのシステム間の競争も、多くの場合地政学的懸念を隠れ蓑にした旧式の保護主義によってますます脅かされている。同じような価値観(ついでに言えば同じような既得権益)を有する他国との貿易のみに重点が置かれる場合には、全員が同じような非効率性に悩まされることになり、競争を通じた変革への圧力は小さくなる。2008年には、ドイツ、イギリス、アメリカが立て続けに銀行を救済した。
市場の逆境に関連した損失の発生を目の当たりにすることを先進国がそれほどまでに躊躇する理由のひとつは、おそらく、有権者の怒りを恐れているからだろう。有権者は、資本主義による利益が公平に分配されておらず、競争、とりわけ国境を越えた競争は不公正だと考えている。しかしながら、そうした恐れは非効率な慣行を固定化し、無能な企業を温存することになる。実際、自由市場による失敗に対するペナルティが排除されることで、無能な企業の行動が悪化する。
最後に、SVBはアメリカで16番目に大きい銀行であるにすぎなかったものの、その顧客には非常に強力で政治的なつながりを持つベンチャーキャピタリストや企業が含まれていた。市場支配に関する通常の指標を用いる反トラスト当局であれば、関心を示さなかったであろう。影響力について理解している当局は懸念を抱いている。われわれは、企業の政治力を制限するために、政治的影響力に基づいたより良い指標を開発する必要がある。
●世界貿易への高まる脅威 6/14
―――保護主義によって、世界的に強靭性が低下し、格差が広がり、紛争が起こりやすくなる可能性がある―――
4年前のことだが、ブレトンウッズ75周年を記念した本誌の2019年夏号に、貿易の未来に関する記事を私たち共著者の1人、ゴールドバーグが寄稿している。同記事の趣旨は、グローバル化後退を示す強力な証拠はないものの、国際貿易とその基盤である多国間制度への風当たりが強くなっており、それらの未来は政策面での選択にかかっている、というものだった。当時から現在までの間に、一部の世界的経済大国では、政策当局者が国際統合の進展に停止ボタンを押す決定を下しており、その中には、保護主義的・自国第一主義的な政策を積極的に進める事例も複数見られる。
現時点でも、国際貿易が脱グローバル化しているという、決定的な証拠は存在しない。世界貿易の伸びは、米ドル換算で見ると、2008〜09年の世界金融危機後に鈍化し、2020年の新型コロナ危機勃発時に急速に縮小した。しかし、その後、過去最大規模まで貿易は回復している。ただし、世界貿易額を対GDP比で見ると、わずかに減少している。この主要因は、中国とインドだ(図参照)。前者は、国際貿易・投資を歓迎しつつも、国内消費を重要視する「双循環」戦略を何年も推進してきた。両国では、先立つ数十年間に経験した異例の輸出ブームが終わっており、また、中間財の輸入が以前よりも減少している。こうした変化が世界貿易の対GDP比に反映された結果だ。一方で、両国以外については、中間財輸入の対GDP比が今も伸びている。同じ点が輸出にも当てはまる。
米中双方が2018年に導入した関税は、貿易の縮小につながらなかった。これら関税は、想定通り、米中二国間の貿易を抑制した。しかし、関税の影響が特に大きかった製品群の貿易は、両国以外の世界各地で拡大したのだ。別の表現をするならば、貿易は再配分されただけで、縮小しなかった。そして、米中関税戦争は、地域内・複数国間での貿易協定を推進する他国の動きを止めもしなかった。アフリカ連合や東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)の締結国などは引き続き貿易協定を推進したのだ。
新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、数多くの国が医薬品の輸出を制限した。一部諸国は、ロシアがウクライナを侵攻し、価格が高騰した後に、小麦など食糧の輸出を停止している。しかし、多くの政府が依然として経済統合を積極的に進めている。例えば、専門職外国人の労働要件を緩和したり、共通安全基準を導入して、消費財の流れを円滑にしたりといった事例が見られる。
もちろん、政策環境の変化に対する貿易の反応が遅れて生じる場合もある。そして、政策自体も、国民感情の変化に後れを取るかもしれない。報道記事や研究論文でも、「国家安全保障」や「リショアリング」といった言葉の使用頻度が高まっている。この点を特に良く示しているのは、シカゴ大学ブース経営大学院が先日、経済学者を対象に実施したアンケート調査であろう。2018年3月には、調査対象者全員が当初の米国関税に反対していた。しかし、2022年1月になると、アンケート回答者はグローバルなサプライチェーンに懐疑的になっている。経済学者44人中2人のみが、「外国の投入財に依存した結果、米国産業はショックに脆弱になった」という意見に、異議を呈した。
超グローバル化
1990年代から具現化した超グローバル化の時代は、以降、偉大な経済的成果と結び付けられてきた。世界銀行が定義する、極度の貧困は、劇的に削減され、少数の制度的に脆弱な国を例外として、その根絶があまねく予想されていた。この推進力のひとつが、飛躍的な成長を遂げた東アジア諸国だった。1人あたりの所得で測った生活水準は、世界中で向上した。
貿易に開放された国々の消費者は、地球上のあらゆる場所から届く、驚異的なまで豊富な種類のモノを手ごろな価格で入手できた。スマートフォン、パソコンなど電子機器のおかげで、先人たちがかつて思い描いた以上に、高い生産性が実現されたり、多彩な娯楽が提供されたりするようになった。航空券の価格低下によって、国外移動も容易になり、新たな文化や考えに触れられるようになった。昔は、超富裕層にしか許されなかった体験だ。
こうした生活水準の向上に貢献した要因は数多くあるが、開放性など市場志向の政策が不可欠な役割を果たしてきた。(当時は)賃金水準の低かった国との貿易によって、先進国ではモノの価格と賃金に影響が生じ、先進国の消費者と輸出国の労働者にとって、プラス効果となった。物価上昇率は、アメリカの量的緩和と債務増加にもかかわらず、驚くほど低水準で推移した。
最後に、西洋諸国では歴史的に希少なことに、平和が長期間にわたり継続し、繁栄が促進された。こうしたことに大いに貢献したと言えるかもしれないのは、20世紀末までに実現された、世界的な相互連結性の緊密さだ。相互に連結した世界では、品行方正であろうとする動機付けが誰に対しても働く。超グローバル化時代の戦争は、現在私たちの目の前で展開しているように、世界的なサプライチェーンの断絶を意味し、世界経済に惨憺たる影響をもたらしうる。
しかし、表面下では、グローバル化への反動につながる緊張が高まっていた。こうした脱グローバル化の動きを、3段階に分けて検討したい。第1段階は、2015年前後に始まった。この段階では、低賃金の国との競争やグローバル化への不安に伴い、イギリスが欧州連合を離脱し、米中が関税と報復関税を導入し、ヨーロッパでは過激主義思想が再燃した。
世界的な反動
世界人口の平均的な生活水準は2010年代末までに改善しているが、先進国では多くの労働者が親世代よりも暮らし向きが悪くなり、取り残されたように感じていた。こうした分配効果を取り上げた経済学的研究は数多くあり、研究からは地理的な要素もはっきりと見て取れる。産業化の空間的パターンにより、低賃金の国との輸出競争の影響が大きかった地域は、輸出の影響を免れた地域よりも、さえない結果となっていた。
そして、これに伴い、アメリカとイギリスで重大な政治的影響が生じた。同時に、グローバル化によって、強大な力をもつ成功者が生まれた。コスト減と収益増というかたちで、グローバルなバリューチェーンの超専門化から利益を得た大スター級の多国籍企業と、市場拡大と新たな経済的機会に乗じて、その果実にありつけた高給取りの一群である。取り残された人々もいれば、ぶっちぎりのスピードで進んでいた人もいたのだ。
こうした影響が、主流の経済学者から正当な評価を受けるまでには、時間がかかった。しかし、多くの点で、こうした影響は以前から見られたもので、貿易がもたらす分配上の利害対立と、全体の厚生との間に生じる、いつもの緊張関係を反映していた。しかし、こうした変化の速度と深刻度に伴って、この緊張関係に新たな側面が生まれた。同様に、経済学者がこの問題に関して行う提言にも、基本的に何ら新しい点はない。大半の経済学者が、解決策として、保護主義を否定し、何らかの形態で勝者から敗者に再分配を実施するように勧めた。
同時に、欧米諸国の政府は、中国との競争が「不公平」だという懸念を深めていた。中国政府による補助金、また、中国市場参入を図る企業に課された規制がその背景にあった。その結果、中国がもはや貧しい発展途上国でなくなったことも踏まえて、対立志向の濃い対中政策を求める声が強まった。
もちろん、過去にも世界貿易に対する反動は見られていた。顕著な例が、1999年の米シアトルでの抗議運動だ。しかし、これらの反動は政策に影響を及ぼさなかった。また同様に、2015〜18年に見られた反グローバル化の動きが、グローバル化の未来に対して恒常的な影響を残すことになるだろうと信じる理由も大して存在しなかった。結局のところ、世界は相互に連結しすぎていて、旧体制に戻ることは不可能だったのだ。
パンデミックの圧力
脱グローバル化運動の第2段階は、2020年のコロナ禍勃発時に、強靭性を求める声とともに始まった。しかし、強靭性とは何だろうか。明確なベンチマークは存在しない。強靭性の定義と尺度は、ショックの性質によって変わってくる。新型コロナウイルスを例にとると、供給ショックと需要ショックの両側面があった。供給面では、主要なサプライヤーが世界各地でばらばらに都市封鎖に直面し、配送に遅れが生じた。需要面では、自動車やセカンドハウスなど耐久財と医薬品に対する需要が急速に高まった。
コロナ禍の最中、国際貿易の断絶による配送の短期的な遅れや供給不足は、広く危機として描写されてきた。しかし、この大半は誇張されており、実のところ、市場は非常に力強い強靭性を見せた(Goldberg and Reed 2023a)。例えばアメリカは、さまざまな国から医薬品・医療用品を輸入している。その例外がマスクだが、2020年に中国から輸送されたマスクは、数か月後には到着していた。つまり、供給不足は大幅に緩和されたのである。
こうした事例からは、国際貿易の強靭性が高まっていることがわかる。同様に、アメリカは貿易関係の維持を事実上、図っている。全体的な貿易量は減少したものの、輸入業者は外国側とより定期的に取引したり、新たな供給元を見つけようとしたりした。定量的モデルシミュレーションに基づく他の研究でも、国際貿易によって国の経済の多角化が進み、その結果、強靭性が向上することが示されている(Caselli and others 2020; Bonadio and others 2021)。直感的にわかる表現をすると、供給ショックは各国内よりも各国間で相関性が低く、複数の調達先が確保されていると、各国固有のショックへの対応がより簡単になるのだ。
一般的に、サプライチェーンの脆弱性を強調して貿易に反対する意見は、実際のエビデンスと一致しない。こうした貿易への反対意見は、第1段階に端を発した保護主義的な感情を煽るために用いられてきた。しかし、結局のところ、当初の効果は持続していないのだ。感染症制御の面で峠を越えた2021年には、貿易が急成長している。
地政学的な圧力
第3段階は、2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻とともに始まった。一般市民の目線に立つと、調達先を特定の国々に特化することに付随する新たなリスクが際立った。ロシアが欧州へのガス供給を打ち切り、エネルギー価格が天井知らずの高騰を見せる中、重要な投入財を単独国家に依存することの落とし穴が明白になった。これは、ロシア固有の懸念点ではない。諸国はこの事態をもとに、中国とのデカップリングを一夜にして行う羽目になった場合、どのような事態になるのか推測・深慮し始めたのだ。政策当局者の結論は、中国とのデカップリングがまだであれば、自国の望むかたちで今すぐ分離するのが良いだろう、というものだった。
同時期に、国際的な厚生がゼロサムゲームだという考え方に代表される、新たな考えが広がっていった。アメリカは最先端型の論理チップやメモリチップ、またそれらの生産機器の対中輸出を禁じる措置を講じた。半導体技術は、確かに軍事用途に応用可能で、その禁輸は、中国軍にとって足枷となりうる。しかし、民生部門にさらに多くの用途があるため、こうした禁輸は民生技術の開発を遅らせることになる。あらゆる国々での貿易・競争・革新が推奨されていた世界は消え去り、先進国が競争だけでなく、排除も模索する世界が生まれた。
現時点で何らかの予測をしても、バクチのようなものだ。以前同様に、結果は政策面での選択に大きく左右される。ひとつの可能性は、脱グローバル化の動きがこれ以上進行しないというものだ。このシナリオでは、デュアルユースの疑いが妥当な技術にのみ、その利用から排除する介入措置が限定的に適用され、その一方で、他製品の貿易は今後も発展する。しかし、別の可能性もある。世界が対立する集団へと分断化され、米中(と双方の同盟国の)間で新たな冷戦が展開されるというシナリオだ。後者の可能性通りに物事が進むと、その代償は深刻なものになるだろう。
新たな冷戦
多くの長期的成長モデルは、人口規模が研究開発において果たす役割を強調する。人口規模で他を圧倒する大国は、様々な製品市場で有力な地位を築いている点からもわかるように、新たなアイディアや絶対的な優位性を生み出すことが予期されている。米中間の科学協力が停止すると、世界的な感染症や地域固有の病気が次に発生したときに、世界で利用可能な解決策が減っているかもしれない。
より一般的に言うと、「非友好的」な相手国からの分離を図ろうとすると、低コストの調達先候補を除外することになる。ここで脱炭素化を例にとると、太陽光パネルのコストは、欧米諸国のほうが中国よりもかなり高い。産業界の試算によると、関税によって、その設置ペースが鈍化したようだ。気候変動対策は、喫緊の課題だ。1年が失われる度に、損害は大きくなり、緩和コストも相当に膨らむことになる。
これは、強靭性強化の代償なのだろうか。世界貿易を制限しても、強靭性にはつながりそうにない。先述の通り、強靭性の評価は、各種ショックへの言及なしに行えない。貿易先を「友好国」に限定すると、地政学的リスクへの強靭性が少なくとも短期的に向上すると示唆されるかもしれない。しかし、友好の概念自体も常に変わる可能性がある。一方で、この形態の貿易は、直近の公衆衛生ショックのように、他の種類のショックに対する強靭性の低下につながりうる。
国内での格差も悪化するかもしれない。貿易障壁の高まりは、物価上昇につながり、実質賃金の低下に帰結しうる。グローバル化は、空間的な格差拡大に寄与したかもしれない。しかし、保護主義では、その治療はできない。むしろ、問題をさらに悪化させる可能性が高い。諸国間で、世界的な格差を深刻化させるリスクが存在する。地理経済的な分断が、「友好的」な高所得国間での貿易拡大につながるかもしれない。貿易協定を通じ、環境基準・労働基準をさらに重視すると、非常に貧しい国々にとっては、参入障壁が高くなるだろう。こうした国々が基準要件を満たすことは、困難だ。収益性の高い外国市場に参入できないと、これら貧困国は、貧困削減や開発につながる明らかな道のりを失ってしまう(Goldberg and Reed 2022)。
しかし、最大のリスクは、平和に対するものかもしれない。冷戦はしばしば、熱い戦争へと姿を変えた。1930年代の戦間期には、多国間貿易が後退し、帝国内、また、非公式の勢力圏内部での貿易を進める動きが見られた。歴史学者 は、こうした変化によって、第二次世界大戦勃発にかけ、各国間の緊張が悪化したと主張してきた。今後の何年間かが、こうした交戦に先立つ時代の繰り返しにならないことを祈るしかない。
●一気に30万人消失! 台湾人が中国大陸から逃げ出している… 6/14
リーマンショックの惨状を超える国際金融の地獄が待ち受けているといわれる今の国際経済。
1980年代、台湾人は恐る恐る大陸へ
1980年代、中国が改革開放に転じたとき海外華僑は半信半疑だった。最初は香港の華僑が、それも零細企業がスイッチの部品とか、プラスチック成形機を運んで、人件費の安さに惹かれ中国に進出した。といっても広東語の通じる広州から深圳にかけて進出した地域は限定されていた。広東人にとって上海語はまったく理解できない。
華僑コネクションを通じて噂を伝え聞いた台湾人が、おそるおそる、繊維、プラスチック、玩具、軽工業や機械部品の工場を大陸に移管し始めた。第一に台湾語は福建語の変形だから言葉が通じる福州、厦門あたりへ。第二の理由は賃金だった。アパレル進出の台湾工場では大陸の女工さんたちを台湾の5分の1以下の給与で雇用できた。
台湾企業の中国投資ブームが起こった。ウーロン茶製造のノウハウからカラスミの処理方法まで台湾人が大陸へ持ち込んだ。台湾の経営者のなかには現地妻を抱える手合いも夥しく、そのお手当の安さを吹聴したものだった。
ここでマフィアが絡み出した。台湾人の住まいを狙う窃盗、強盗事件が頻発。殺人事件も相当数にのぼった。ついで脅迫、誘拐による身代金、美人局ときた。政治的に見ると江沢民から胡錦濤時代の20年間、中国ではかなりの程度まで商業活動は自由で、ぼちぼちスナックがナイトクラブとなり、高給バーやらワインバー、なかには日本酒の銘酒をそろえたバーもできた。めざましい経済発展がおきた。クラブは大概が銀座の真似でボトルキープの棚が目立った。ほとんどのビジネスホテルにカラオケバーがあった。
「大丈夫、われわれは中国人同士、考えていることはわかる」
1990年代に台湾は中国投資を上限5000万ドルとして正式に許可し始める。
台湾プラスチックの王永慶会長にこの頃インタビューに行ったが、上限額を超える投資を中国大陸になすというので「禁止されているのでは?」と聞いた。王は「米国子会社の投資とするので台湾の規制には引っかからない」とあっけらかんとしていた。
金門島の知事に会いに行くと、「台湾から対岸の厦門へ橋をかける」と豪語しはじめ、具体的な青写真を見せてくれた。台湾侵略にミサイルを配備している国に金門島から橋を繫げるのは危険では?」と尋ねた。「大丈夫、われわれは中国人同士、考えていることはわかる」と胸を張った。
中国から30万人の台湾人が逃げ出した
2011年、中国に40万人の台湾人が駐在、あるいは移住していた。2015年、42万人となった。おそらくピーク、習近平の台湾強攻策が始まった。
2020年、往時の半分近い24万2000人に減った。理由はコロナ、共産党の強硬な態度、そして中国以外への工場移転である。このころ、台湾の世論調査では台湾独立をのぞむ台湾人が過半、現状維持が25.7%、両岸統一を語る人は11.8%だった。
2021年、中国に滞在している台湾人は16万3000人に激減した。その傾向は歯止めがかからず、現在はもっと減っているはずである。主因はコロナ災禍で、工場を休業し台湾へ帰り、そのまま戻らなかった。加えて習近平の独裁が確定し、台湾統一を前面にだして軍事訓練、威嚇を本格化させたため嫌気がさすようになった。
台湾企業も技術を盗まれ、投資した工場は彼らに乗っ取られ、愛人たちはさっさと金を持ち逃げ
つぎに人件費の高騰で、川下産業の典型、繊維や玩具、雑貨などは中国からベトナムへ、カンボジアへ、そしてバングラデシュへ工場を移転した。台湾企業の繊維の街だった厦門近辺はゴーストタウン化した。
結局、台湾企業も技術を盗まれ、投資した工場は彼らに乗っ取られ、愛人たちはさっさと金を持ち逃げ、投資そのものが間違いだったことに気がついた。
日本企業諸氏、この台湾起業家たちの教訓をどう読むか?
ジャック・マーに帰国をうながした中国政府
そんな中で、2023年3月、馬雲(ジャック・マー)が忽然と浙江省杭州に出現した。杭州市はアリババ本社があり、上海とは新幹線で繫がって45分。
アリババ創業者のジャック・マーは1年以上の海外旅行の後、中国本土に戻って杭州市に彼が設立した学校を訪れた。2017年にアリババが資金提供した、幼稚園から高校までをカバーする私立学校の教師と生徒と、「チャットGPT」などについて話し合ったとか。
馬雲はスペイン、オランダを彷徨い、農業技術開発センターを視察し、またイスラエル、米国に旅行し、半年にわたって滞在した日本では、近畿大学のマグロ養殖実験場を見学しており、ビル・ゲーツ同様に次世代農業技術に異様な興味を示した。
馬雲に帰国をうながしたのはどうやら中国政府で、『自由時報』に拠れば、民間企業の新しい分野の活動を取り締まっていながら、他方で中国は世界に向けて、「民間企業を支援する」と獅子吼している。この文脈から中国政府はジャック・マーを政府と民間部門の評判を修復するための最良の候補者と見なしたのだ。
起業家や世界の投資家の間で北京を不信にする可能性
ボーアオ会議(23年3月、海南島)で李強首相は「グローバル路線で中国が成長する方針には変わりない」と打ち上げ、海外企業の進出継続をうながした。アップルCEOのティム・クックも訪中し、就任後初めて、李首相と会見した。
事情通に拠れば、新首相の李強が「民間企業への確固たる支援を強調するために、ジャック・マー(馬雲)が中国に不在であることは、起業家や世界の投資家の間で北京を不信にする可能性があるため帰国をうながした」と分析している。
海外流浪といえば、タイのタクシン・シナワット元首相だろう。タクシンはたびたび日本にも来ているが、頻度多い訪問先は香港。ここで次女の貝東丹(ペイトンタン)と会った。彼女は5月の総選挙に立候補を予定し、将来の首相候補のひとり。タクシンは東京で共同通信とのインタビューに応じ、16年間も海外を流浪しているが、近くタイに戻る可能性があると述べた。
タクシンは2006年の軍事クーデターで追放され、英国と日本で暮らした。帰国すれば2年の懲役を宣告されており、選挙結果を待って恩赦を狙っての帰国となりそうだ。
●株式への資金配分、5カ月ぶり低水準=BofA調査 6/14
米金融大手バンク・オブ・アメリカ(BofA)が13日公表した調査によると、世界のファンドマネジャーによる株式への資金配分は5カ月ぶりの低水準となった。現金比率は5.1%と約1年半ぶりの低水準になった。
BofAのストラテジストは投資家向けメモで、「FOMO(取り残されることへの不安)の強気な値動きにもかかわらず」ファンドマネジャーが株式への資金配分を減らし、投資家心理が「頑固なまでに低い」ままだと指摘した。
BofAは「人工知能(AI)の『ベビーバブル』、FOMO、テクニカルなどで引き上げられることもあるが、基本的に調査対象の資産配分担当者は、金利に意味のある下方サプライズや成長率に意味のある上方サプライズが必要だと言っている」とも記した。
投資家は債券の「オーバーウエイト」は維持した。
投資家は「テック株ロング」を維持し、ヘルスケアと銀行にシフトした。一方、エネルギーなどのコモディティー(商品)のエクスポージャーを減らした。
6月に最も活発化したトレードは「大手テックロング」と「中国株ショート」だった。
ネットベースで回答者の87%が今後1年以内に世界の消費者物価指数(CPI)が低下すると予想し、この割合は5月から3ポイント上昇した。
調査はファンドマネジャー285人(運用資産総額7640億ドル)を対象に実施した。
●日経平均株価 きょうもバブル後最高値を更新 一時400円超高 6/14
日本株の上昇は止まらず、日経平均株価はきょうも一時400円を超える大幅な値上がりとなり、再びバブル後の最高値を更新しました。中継です。
「アメリカが景気を犠牲にしてでも続けてきた利上げを今回は見送るのではないか」。市場では、こうした期待感が強まっています。
きょうの東京株式市場では取引開始直後から買い注文が集まり、日経平均株価は一時400円を超える大幅な値上がりとなりました。
取引時間中に3万3400円を超えて1990年3月以来の水準となり、バブル後の最高値を再び更新しました。
結局、午前の終値は3万3307円となりました。
追い風となったのは前日に発表されたアメリカの5月の消費者物価指数です。物価の上昇幅が縮小したことで市場ではFRBが去年3月から続けてきた利上げをひとまず停止するとの見方が強まりました。景気減速への警戒感が和らぎ、東京市場でも買い注文につながっています。
また、前日の会見で岸田総理が衆院解散について明確に否定せず、解散の可能性が高まったとの見方も支えとなりました。
一方で、市場関係者は「きっかけがあれば、これまでの急ピッチでの上昇を警戒した調整がいつ入ってもおかしくはない」と話していて、今夜、アメリカの金融政策を決める会合の発表を前に市場の警戒が続いています。
●クレディ・スイスとは? スイス第2の銀行を巡る買収劇の背景と影響 6/14
スイス第2の規模を持つ金融大手、クレディ・スイス・グループ。1856年に創業した同行は、欧州を代表する銀行の1つとして知られてきたが、2023年3月に発生した信用不安により経営危機に陥った。スイス最大の金融機関UBSによる買収で経営破綻は免れたものの、世界の金融業界に与えた影響は小さくない。今回はクレディ・スイス買収に関する過去記事を紹介する。
スイス第2の金融大手だった「クレディ・スイス」
クレディ・スイス・グループは、スイス国内で第2の規模を誇る大手金融機関で、欧州を代表する銀行の1つ。1856年にチューリヒで設立された同行は、欧州連合(EU)加盟国を中心とする約50カ国に拠点を置いていた。手がけるサービスも幅広く、個人及び法人向けの資産運用、投資銀行業務、プライベートバンキングなどの金融サービスから、企業買収や株式発行のアドバイザー業務にまで及ぶ。長い歴史と豊富な実績を持つクレディ・スイスだが、2023年3月に信用不安が発生。経営危機に陥った同行の経営破綻を防ぐため、スイス最大の金融機関、UBSが買収(救済合併)を発表した。これにより同国の二大銀行が経営統合することとなった。この記事ではクレディ・スイス買収の背景や、その発端の1つとなった米シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻などについて、過去記事から振り返る。
金融大手クレディ・スイス救済で知っておきたい10のこと
長い歴史を持つクレディ・スイスは、主に富裕層ビジネスや投資銀行ビジネスによって規模を拡大してきた金融機関だ。しかし2022年12月期決算の段階で2期連続の赤字を出したことに加え、米投資会社や英金融会社の経営破綻によって多額の損失を出したこと、ガバナンスを巡る不祥事などが相次ぎ、同行の株価は下落。預金流出が相次いだクレディ・スイスは、UBSによる救済合併を受け入れることで破綻を免れることになった。
UBSがクレディ・スイス買収 スキャンダル連鎖が招いた危機
クレディ・スイスの経営危機は、3月10日に発生した米シリコンバレーバンク(SVB)経営破綻の余波とされる。しかし背景には、クレディ・スイスの度重なるスキャンダルがあるという。たとえば投資銀行業務に傾斜しすぎて多額の損失を計上したこと、他行に移籍した元幹部への内偵やコロナ規制への違反などガバナンス面でも不祥事があり、これらが積み重なることで経営不安が一気に拡大したと考えられている。
UBSが着手する事業再編
UBSはクレディ・スイスの富裕層向けの資産管理業務とスイス国内銀行業務を残す意向だ。今後は、新たにUBSが引き継いだ事業にどれほどの既存顧客が残るかが焦点となるが、すでに他の富裕層向け金融機関の株価が急騰するなど、波乱の兆候は始まっている。
株式より先に債券「全損」 クレディ・スイス救済の余波
UBSによるクレディ・スイス買収は、スイス政府の主導により実現した。国内外にリーマン・ショック級の危機が連鎖しないための措置だったが、市場の動揺は続いているという。というのも、クレディ・スイスが発行していた「AT1債」の価値が、当局の方針により「ゼロ」とされたためだ。
金融危機は再来するか
クレディ・スイスの経営危機と買収を巡り、多くの人が関心を持っているのが「経営危機は再来するか」という問いだ。2008年に発生したリーマン・ショックにより、世界中の金融機関が危機に陥ったことは記憶に新しい。最近のコロナ禍でも、やはり業種によってはリーマン・ショック級のダメージを受けた。今回のクレディ・スイスを巡る出来事も、これまでの危機と共通する要素があるという。
クレディ破綻、金融危機後のルールが機能せず 健全性をどう評価?
実際それほど大規模ではないものの、金融機関への影響は出始めている。英国では中小規模の銀行の預金流出が加速し、経営危機がささやかれるドイツやフランスの銀行も株価を大きく下げた。米国やEU当局による金融引き締めにより、欧米では2023年内に景気後退に陥る可能性も指摘されているという。
最後に
クレディ・スイスの経営危機は、スイス国内はもちろんEUや米国の金融業界にも影響を与えている。一方日本では目立った影響は出ていないものの、直前に発生した米SVBの経営破綻の影響と合わせて、今後は地方銀行などの経営に一定の影響を及ぼすと考えられている。金融業界の関係者に限らず、今後の動きに注意していきたい。
●物価上昇率の低下持続でFRBは利上げ見送りへ 6/14
13日に発表された米国消費者物価(CPI)は、総合で前年同月比+4.0%(前月比+0.1%)と2年2か月ぶりの低水準、食料・エネルギーを除くコアでは前年同月比+5.3%(前月比+0.4%)と1年3か月ぶりの低水準となった。依然として物価目標である+2%を大きく上回っており、米連邦準備制度理事会(FRB)によっては許容できない水準にある。しかしこの物価統計は、昨年3月以来の連続した利上げが経済、物価に与える影響を見極める猶予をFRBに与えるものとなったと言えるだろう。6月14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、昨年3月以来の利上げ局面で初めて利上げが見送られる可能性が高い。
7月のFOMCで利上げが再開される可能性は、現時点では50%程度と見ておきたい。いずれにせよ、利上げは最終局面にある。
物価上昇率はさらに低下の方向
消費者物価指数全体の34.6%もの高いウエイトを持つ住居費は、2か月連続で低下したとはいえ、5月に前年同月比+8%と高い上昇率を維持している。住居費を除くとコアCPIは前年同月比+3.4%である。
ただし、住宅費は物価全体に遅行する傾向が強い。他方、消費者物価の住宅費に先行する傾向がある、米不動産情報サイトのジローの数字によると、5月の家賃の前年同月比上昇率は+4.8%と、昨年2月の+17%から既に大きく低下している。住宅費の上昇率がこの先低下傾向を強めていけば、コアCPIの上昇率は低下のペースが高まることになるだろう。
5月の時間当たり賃金は前年同月比で+4.3%と、コアCPIの上昇率を下回っている。そうした中でも個人消費が安定を維持しているのは、物価高騰が一時的現象であるとの見方が消費者の間で崩れていないためだろう。
低位の中長期のインフレ期待は経済にプラス面とマイナス面の双方
10年のインフレ連動債に織り込まれている期待インフレ率は約2.2%である。実際の物価上昇率がかなり上振れるなかでも、金融市場、そして企業、家計の中長期のインフレ期待が安定を維持しているのが米国の特徴である。既に述べたように、これが消費を中心に経済の安定を支えている面があるだろう。
他方、このように中長期のインフレ期待が低位に抑えられている中で、FRBが大幅な利上げを進めてきたことは、経済に影響を与える実質金利(名目金利−インフレ期待)も急速に上昇してきたことを意味する。そして実質金利の現在の水準は、市場の期待インフレ率約2.2%とFF金利の5.0%〜5.25%から算出すれば3%超である。これは、2008年のリーマンショック直前に並ぶ高水準だ。
加えてFRBは7月のFOMCでは利上げを再開するとの見方がある。他方で、この先、景気減速や一段の物価上昇率低下が確認されれば、中長期のインフレ期待がさらに下振れるだろう。それでも、高いインフレ率が定着してしまうことを強く警戒するFRBは、利下げに踏み切ることに慎重な姿勢を維持するだろう。
そのため、名目金利は高水準に維持される中、中長期のインフレ期待が下振れることで、実質金利はさらに上昇する。景気減速の傾向が確認される中で、むしろ実質金利は上昇し、事実上、金融引き締めが強化されることになる。
このように、米国の中長期のインフレ期待が低位に抑えられていることは、経済の安定にとってプラス面とマイナス面の双方がある。
米国経済の行方が金融市場を大きく左右
現状では、米国経済は物価高騰、FRBの大幅利上げに対して、予想外の耐性を見せている。しかし、以上のようなメカニズムによって、一気にその安定を失うリスクがあるのではないか。
また金融市場では、FRBの利上げは最終局面との見方が強まる一方、年内利下げの期待が後退しており、これが長期金利の上昇を通じて、為替市場では、円安・ドル高傾向を生じさせ、それが日本株を強く押し上げている面がある。
しかし、ひとたび米国の景気情勢が厳しさを増せば、米国長期金利は再び低下傾向を強め、円安・ドル高傾向が一気に巻き戻される可能性があるだろう。
●サラリーマンの平均給与「443万円」は“20年前”以下…日本の悲惨な状況 6/14
日本では、もう長い間、給与がなかなか上がらず、銀行にお金を預けておいても増えません。そんななかで、可能な限りお金を守り、増やしていくには、正しい知識を身につけ、実行することが不可欠です。FPの頼藤太希氏と高山一恵氏が、著書『1日1分読むだけで身につくお金大全100 改訂版』から、生活に役立つ「お金の教養」について解説します。今回は、現在の日本の「平均給与」「退職金」の実態について解説します。
給与は上がりにくいって本当?
   [図表1]平均給与の推移(2000〜2021年)
2021年の日本人の平均給与は443万円。多いと思われるでしょうか。それとも少ないでしょうか。
[図表1]は、2000〜2021年における平均給与の推移のグラフです。
これをみると、世界的に不況に陥った2008年の「リーマン・ショック」によって405万円まで下がった2009年よりはいくらか増えています。
しかし、2021年になっても、平均給与の額はまだ2000年の水準を回復していないことがわかります。ちなみに、男性の平均給与は545万円、女性の平均は302万円です。
また、正規雇用者の平均は508万円、非正規雇用者の平均は197万円。平均給与には、男女差や雇用形態の差もあるのです。
しかも、仮に給与が2倍になっても、手取りは2倍になりません。[図表2]は年収300〜2,000万円まで、年収が10万円増えるごとの手取り額を示したグラフです。年収が上がるごとにとくに所得税が大きく増えます。
所得税の税率は「累進課税」といって、所得に応じて5〜45%まで、段階的に増えるためです。
つまり、給与は上がりにくいうえ、上がっても税金や社会保険料が高くなるため、手取りを増やすのも難しいのが日本の現状です。
   チェック!
この20年で平均給与は上がっていません。手取りは所得税・住民税・社会保険料によってさらに減っています。今後も当面きびしい平均給与額が続くでしょう。
退職金って減ってるの?
   [図表3]一般企業の退職金額の推移
「退職金額の推移」によると、退職金制度を実施している企業は80.5%。従業員1,000人以上の企業であれば92.3%が実施している一方、30〜99人までの企業では77.6%と減っています。
退職金の金額も減少傾向です([図表3]参照)。
大学卒の場合、1997年には平均で2,871万円あった退職金が、20年後の2017年には1,788万円と、約1,080万円も減っています。
高校卒の場合でも、近年の退職金が減少しています。
一方、公務員は法律で退職金の支払いが規定されています。とはいえ、こちらも金額は不安定です([図表4]参照)。
たとえば、国家公務員の場合、2015年度には約2,181万円あった退職金が、2018年度まで約4年かけて、約2,068万円に減少しています。2021年度にかけ多少持ち直しているものの、民間に合わせて再び減少することも十分に考えられます。
2019年に「老後資金は2,000万円不足する」と話題になりました。その老後資金も、退職金に頼ることはできなくなってくると考えられます。
   チェック!
大卒の退職金の平均額は1997〜2017年までで約1,000万円減っています。公務員の退職金もゆるやかではあるものの、4年間で約100万円減っています。
●日経平均株価、大台3万円超えの先の先を読む 6/14
6月12日発売の『週刊東洋経済』では「3万円時代に勝てる株 株の道場」を特集。16日発売の『会社四季報』夏号では全上場企業平均の営業利益は8.9%増と業績が順調。いち早く四季報を駆使して各種ランキングを作成し、上値余地の大きい銘柄をリストアップ。33年ぶりの大波に乗って欲しい。ここでは、3万円を超えた日経平均の「今後の見通し」について、強気派、慎重派双方の見解を聞いた。
年末に3万6000円へ リスクは割高な米株の調整
   強気派 マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
日本株が急伸した背景としてはさまざまな要因を指摘できるが、まずは基本的なことを確認したい。ファイナンス理論によれば、株式に限らずすべての証券の理論価格は将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたものとして表される。キャッシュフローを左右するのは企業の業績で、割引率は長期金利だ。つまり、株価は企業業績を金利で割り引いたものだといえる。代表的な数式として「P=E÷r」が挙げられる。Pは株価、Eは企業業績、rは割引率(金利)を表す。
まず分母の割引率(金利)を左右する日本の金融政策について、植田・日銀の新体制になっても金融緩和が継続する見通しである。少なくとも向こう1年程度は金利が大幅に上がる可能性はそうとう低いといえる。
次に分子のEだ。今年度の上場企業の業績は増益となり、3期連続で最高益を更新する見通しだ。その牽引役が自動車産業だ。トヨタ自動車はグループ世界販売が1138万台と過去最高となり、営業利益で初の3兆円を目指す。部品メーカーにも好影響を与え、デンソーは6年ぶりの最高益になる予想。こうなると円安も業績の追い風だ。企業の想定為替レートは1j=130円程度。実勢に照らせば業績は上振れる可能性が高い。
このように企業業績は最高益で、それを割り引く金利が当面上がらないとなれば、「業績÷金利」で表される株価が上昇しないわけがない。日経平均株価のバブル後高値更新は当然の帰結である。
こうしたファンダメンタルズのよさに加え、需給やマクロ、政治の安定性などの要因が指摘できる。
米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の日本株に対するポジティブな見方も、海外投資家の呼び水となった可能性がある。海外投資家が日本株を見直しているのには、東証によるPBR改善要請を受けて日本企業が大きく変貌する兆しを鋭く嗅ぎ取っているという理由もある。実際に、ROEの数値目標を掲げたり、増配や自己株買いなどの株主還元策を発表したりする企業が相次いでいる。
日本のマクロ環境も良好だ。消費が緩やかに回復し、インバウンドもさらに期待できる。
日経平均の予想PERはまだ14倍台。確かに過去1年でみれば14倍台は高いが、アベノミクス相場開始の2013年からの過去10年では平均PERは15倍強だ。円安効果を考えれば業績の上振れ余地は十分にある。日経平均の予想EPS(1株当たり利益)は現状の2180円から1割上方修正されて、年後半には2400円に達するだろう。それをPERの過去平均15倍で評価すれば、日経平均は年末には3万6000円に上昇すると予想する。
ただし、リスクは国内よりも海外だろう。とくに米国は景気減速の懸念が高まっている。また米株価は割高水準で、調整が起こる可能性がある。日本株相場のリスクは、米株の調整に巻き込まれるリスクオフ(投資家のリスク回避で株から安全資産に資金が移動)である。
上昇理由はいずれも怪しい 夏場に2万7000円へ下落も
   慎重派 ブーケ・ド・フルーレット 代表 馬渕治好
日本株、というよりも日経平均株価は直近では買われすぎだ。
その理由はPER(株価収益率)などで見た企業価値評価によるものではない。今、市場では1円安2欧米との金融政策の差3米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の日本株買い増し効果4東京証券取引所の要請による低PBR是正期待の4つが上昇理由とされているが、ことごとく怪しいからだ。
順に見ていこう。1「円安は輸出企業の収益を支える」というが、日本からの輸出数量は4月まで前年比7カ月連続の減少だ。これは海外景気悪化による需要減だろう。輸出金額も4月分はわずか2.6%増。円安で何とか息継ぎをしているにすぎない。しかも中国向けは前年比5カ月連続マイナスで、ゼロコロナ政策解除後も同国経済は不振が続く。
2はすでに存在しており、新たな材料ではない。3は「バフェット効果で海外投資家が買い出動している」というが、同氏がこれから日本株を本格的に買うかどうかは保証の限りではない。ただし、バフェット氏の発言を「ネタ」と割り切って買いを入れている短期筋は多いと推察される。
4についても、日本株の経験が長い海外長期投資家たちからは、「言われて改革できるならとっくに改革しているはず」との正当で冷静な見解が聞こえる。足元は自己株買いなどによるROE引き上げの動きが広がるが、「余剰資金抱え込み」という最悪の経営を続けてきた日本企業が一部を株主に還元しているにすぎない。「手元の現金を優れた投資機会に充て、長期での高い利益成長で株主に報いる」というのが株価を上げる企業経営のはずだが、どれほどの日本企業がそこまでの経営改革に踏み切れるだろうか。
リーマン級の暴落はない
このように現在の日本株の買い材料とされているものを並べると、ことごとく「砂上の楼閣」に見える。今後は「日本株の正常化」という名の「短期株価下落」の局面が訪れそうだ。
ただし、日本株の下落は「リーマンショック」や「コロナショック」のような暴落にはなるまい。日本経済にはインバウンド消費の拡大や国内の人流の回復など、底堅さを期待させる材料が多い。むしろ悪材料は海外からやってくる。欧米では景気を犠牲にしてでもインフレを抑え込もうとの金融政策が継続。また中国も、前述のように景気悪化がうかがえる。これらが経済面から日本を圧迫し、今後海外株安と外貨安・円高が並行して日本株を押し下げるだろう。
今後訪れるのはよくある「普通の景気悪化による普通の株価下落」にすぎない。日経平均の今年の最安値は、年央から夏場にかけての2万7000円程度と見込む。その後、今年末、さらに来年に向けては、世界経済の持ち直しに沿った世界的な株価上昇の流れの中に、日本株を位置づけてよい。それは、インフレ率が緩やかながら低下を続け、一方で景気悪化が深刻化すれば、米国などの主要国で再度の金融緩和が行われると予想するからだ。これが日経平均も下支えする形で、今年末までに再度3万円の大台を奪回するだろう。
●FRBも日銀も「見送り姿勢」、外国勢の日本株買い続く 6/14
これまで日銀の金融政策決定会合には見向きもしなかった外国人投資家が、今週は「政策修正見送り」と読んで、先取りするかたちで日本株買いを増やしている。さらに米連邦準備理事会(FRB)も今週は「利上げ見送り」と読んで、マネーが株へと回帰する流れの中、日本株への運用配分を「アンダーウエート」から「ニュートラル」、さらに「オーバーウエート」へ引き上げる傾向も明らかになっている。
日本株買いをする投資家層が明らかに広がっていることを、日常のウォール街の人たちとの会話から私も感じ取っている。「日銀の声明文発表は日本時間16日の12時台だろうか」や「植田和男総裁の記者会見で何かサプライズがあれば、こちらは深夜でも構わないから、知らせてくれ」といったような会話をしている。
すでに日本株を購入した投資家も、これから購入を予定している投資家も、いつになく気にしているようにみえる。
すでに日本株を購入した投資家は、日本株保有の「初体験組」が多いので、その決断が正しかったのかどうか、不安な心理状態にいる。そのため、日本株についての好意的な記事をあさるように探している。マーケティング理論でいうところの「認知的不協和」を最小限に抑えるように行動しているのだ。こうして日本株の存在感は米国市場で日々、確実に強まっている。
そうはいっても、危うさも見え隠れする。日本経済や日本株に関する知識が断片的で、一夜漬けの傾向も目立つからだ。例えば、昨日も経済専門チャンネルの著名な株式専門キャスターが「日本株が買われている理由は円安だ。日本は輸出企業が多いので、円安が朗報なのだ」と説明していた。
日本のインフレ率が上昇している点についても「物価や賃金が上がらない国とレッテルを貼られた日本の経済が正常化に向かっている」と言われ、円安による輸入物価の上昇効果や資源を輸入に依存する実態などは詳しく論じられない傾向も気になる。
日銀の上場投資信託(ETF)買いによる株価下支えについても、これまで「中銀の世界では禁じ手」と批判してきた人たちが、ひとたび日本株を買うと、日銀買いに期待するようになる。結局は、それが相場と割り切るしかない。今は外国人投資家による本格的な日本株買いの第1段階だ。いずれ第2段階に入るところで、日本株の真価が厳しく問われることになるだろう。
●FRB、利上げ見送りか 銀行破綻の影響見極めで 6/14
米連邦準備制度理事会(FRB)は13日、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)を2日間の日程で始めた。14日に結果を発表する。複数のFRB高官は相次いだ銀行破綻による経済への悪影響を見極めることが必要と指摘しており、市場では前回まで10会合連続で決めてきた政策金利の引き上げを見送るとの見方が大勢を占める。
FRBは社会問題化した物価高を抑えるために昨年3月から急激に金利引き上げを続けてきた。現在は5〜5.25%と高い水準で、金融関係者は過度な利上げによる景気後退を警戒している。
●NY商品、原油反発 FRBの利上げ見送り観測で 金は続落 6/14
13日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で原油先物相場は4営業日ぶりに反発した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で期近の7月物は前日比2.30ドル(3.4%)高の1バレル69.42ドルで取引を終えた。13日発表の5月の米消費者物価指数(CPI)は市場予想通りの内容で、物価上昇圧力の緩和を示した。米連邦準備理事会(FRB)が13〜14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを見送るとの観測が強まり、買いが入った。
CPIの上昇率は前年同月比4.0%と4月(4.9%)から鈍化し、市場予想と一致した。食品とエネルギーを除くコア指数の伸びも市場予想並みの5.3%だった。利上げ継続で米景気が冷え込み、原油の需要が伸び悩むとの懸念が後退した。
原油先物は前日までの3営業日で7%下落した。短期間で大きく下落したため、押し目買いが入りやすかった面もある。中国の景気刺激策への期待も相場を支えた。
ニューヨーク金先物相場は3日続落した。ニューヨーク商品取引所(COMEX)で取引の中心である8月物は前日比11.1ドル(0.6%)安の1トロイオンス1958.6ドルで取引を終えた。米長期金利が上昇し、金利の付かない資産である金の先物の投資妙味が薄れるとみた売りが出た。
●NY円、140円台前半 FRB利上げとの見方で円売り優勢 6/14
13日のニューヨーク外国為替市場の円相場は午後5時現在、前日比63銭円安ドル高の1ドル=140円19〜29銭を付けた。ユーロは1ユーロ=1.0788〜98ドル、151円23〜33銭。
米連邦準備制度理事会(FRB)が7月の連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げを決めるとの見方が根強く、米長期金利が上昇。運用に有利なドルを買って円を売る動きが優勢となった。
●NY株6日続伸、145ドル高 FRB利上げ見送る見方強まり 6/14
13日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は6営業日続伸し、前日比145.79ドル高の3万4212.12ドルで取引を終えた。インフレ鈍化が示されたことを受け、米連邦準備制度理事会が利上げを見送るとの見方が強まり、買い注文が優勢となった。
この日発表された5月の米消費者物価指数の前年同月と比べた伸び率は11カ月連続で縮小し、FRBが14日に政策金利の据え置きを決めるとの観測が強まった。一方、高い金利水準が長期化することへの警戒感から上値は限られた。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も4営業日続伸し、111.40ポイント高の1万3573.32。 

 

●FRB、利上げ見送り 2022年1月以来 銀行破綻、不動産も悪化 6/15
米連邦準備制度理事会(FRB)は14日、利上げを見送り、政策金利の誘導目標を5〜5.25%に据え置くと決めた。利上げの見送りは2022年1月以来11会合ぶりで、今回の利上げ局面では初めて。FRBは記録的な物価上昇(インフレ)を抑制するため急ピッチで利上げを続けてきた。だが、今年に入り銀行破綻などの副作用が出ており、景気への影響を見極める姿勢に転換した。
米国では、FRBの急激な利上げに伴う米国債の価格の下落で中堅銀行が相次いで破綻に追い込まれているほか、ローン金利の上昇などで不動産市況も悪化している。一方、5月の米消費者物価指数は前年同月比4.0%上昇と、前月(4.9%)から上昇幅が縮小。22年6月(9.1%上昇)をピークに11カ月連続で鈍化していることもあり、FRBは金融引き締めの副作用や効果を見定めるため利上げ見送りを決めた。
ただ、インフレは落ち着きつつあるとはいえ、人手不足を背景に賃金上昇が続き、サービス価格などは高止まりしている。インフレが再加速すれば、次回7月会合以降、追加利上げに踏み切る可能性もある。
新型コロナウイルス禍からの景気回復に伴うインフレを抑制するため、FRBは22年3月会合で2年ぶりにゼロ金利を解除し0.25%の利上げを実施した。だが、インフレの勢いは収まらず、6月会合からは4会合連続で従来の3倍の上げ幅となる0.75%の利上げを続けた。12月会合からは利上げ幅を縮小。パウエル議長は23年5月の会合で利上げ停止の可能性を示唆していた。
●FRB 11会合ぶりに利上げ見送り 年内に追加で0.5%の利上げ可能性を示唆 6/15
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は、物価高を抑えるために続けてきた政策金利の引き上げを11会合ぶりに見送りました。
アメリカのFRBは14日、金融政策を決める会合で、5.25%を上限とする現在の政策金利を据え置くことを決めました。
FRBは物価高を抑えるため、去年3月の会合から急ピッチで利上げを続けていましたが、「経済への影響を見極める」として、11会合ぶりに利上げを見送りました。
一方で、FRBは今年末の政策金利の見通しをこれまでの5.1%から5.6%に引き上げ、年内に追加で0.5%の利上げを行う可能性を示唆しました。
FRB パウエル議長「物価の上昇は去年半ばから緩やかになっていますが、上昇圧力はまだ強く、目標としている2%への道のりは遠いです」
アメリカの先月の消費者物価の伸び率は4.0%と、2年2か月ぶりの低さでしたが、パウエル議長は物価上昇の圧力は根強いとして、抑え込む姿勢を強調しています。
●FRBが金利据え置き、年内あと2回利上げ想定:識者はこうみる 6/15
米連邦準備理事会(FRB)は6月13─14日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.00─5.25%で据え置いた。決定は全会一致。ただ、同時に発表された金利・経済見通しでは予想を上回る堅調な経済とより緩慢なインフレ鈍化を想定し、年末までに合計0.50%ポイントの利上げが決定されるとの見方が示された。市場関係者の見方は以下の通り。
年内の米利上げ期待回復なら日銀政策修正期待も長期化
<野村証券 中島武信氏>
ドットチャートでは年内に50ベーシスポイント(bp)の追加利上げが行われるとの見通しが示され、パウエル(米連邦準備理事会)議長も記者会見で「利下げは2年ほど先になる可能性が高い」と述べたが、FF先物市場では年内に25bpの利上げを8割程度、また来年から利下げ開始と織り込んでおり、ドットチャートやパウエル議長の発言と、市場の織り込みには乖離がある。今後は、年内の利上げ期待の回復と来年以降の利下げ期待の後退が進むことで、米国の長期金利に上昇圧力がかかる可能性に注意したい。ただしFRBの引き締めにより景気後退懸念が高まれば、来年以降の利下げ期待が高まると想定されるため、米長期金利の上昇には景況感の持続も必要となるだろう。またこれまで日銀の政策修正のタイミングとして7月が有力視されてきた1つの背景として「日銀が米国の利上げが終わった後に政策修正すると金融政策の方向感の違いから円高に振れる可能性があるため、日銀は米利上げ終了前に政策修正を行う」との見方があったが、FRBが年内に50bpの利上げを行う方針を示したことから、年後半にも米利上げがある可能性が高まれば、日銀が6月や7月に政策を据え置いたとしても政策修正期待は残存し続けることになるだろう。
再利上げは五分五分、ドル142.50円超えるかが焦点
<SBIリクイディティ・マーケット 上田真理人氏> 
大まかにみれば予想通りの結果だ。同日公表されたドットチャートでは2回の利上げが示唆されているものの、市場はまだ織り込んでいない。今週発表された米消費者物価指数(CPI)や米卸売物価指数(PPI)の下振れを踏まえると、米連邦準備理事会(FRB)が果たして再度利上げに踏み切るのかは懐疑的だ。市場は利上げ停止時期を探り始めている。年内の利下げはないものの、インフレ率の伸びの鈍化が今後も続けば、このまま利上げ停止が続く可能性が十分あるとの見方が出てきた。再利上げの可能性は否定できないが、実際のところ五分五分だとみている。1回の追加利上げはあったとしても、2回はできないのではないか。7月の会合は今後の状況次第で常に変化する「ライブ会合」になるとしたパウエル米FRB議長の発言にも、本当のところは分からないという自信のなさが表れている。これがドルに反映されており、大きく崩れることはないものの、喜んで買うという動きにはなりにくい。ドルは142.50円を超えるかどうかが一つのポイントとなり、同水準を超えれば145円が視野に入るとみているが、昨年付けた150円台に達するのは難しいとみている。
金利見通しタカ派寄りでも「データ次第」で波乱回避
<三井住友DSアセットマネジメント 市川雅浩氏>
FF金利先物は2回の利上げを織り込んでいない。市場では、追加利上げはあと1回で、年内利下げもあり得るとの見方が優勢となっている。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、年内の利下げに否定的だったが、引けにかけて米国株は持ち直した。データ次第との発言を受けて、差し迫った問題ではなさそうだと受け止められたのではないか。データ次第のため、物価や雇用が強ければ利上げもあり得るが、7月利上げは想定済みのため、株式市場はさほど荒れないのではないか。一方、政策対応が後手に回って引き締め姿勢が改めて強まるようなら相場にとって好ましくない。雇用や物価の動向は引き続き関心を集めそうだ。
市場不安定に、対話難しくなる
<TDセキュリティーズ ゲンナディー・ゴールドバーグ氏>
今回の引き締めサイクルで最も興味深い動きだ。米連邦準備理事会(FRB)は政策金利を据え置きながら、経済見通しであと2回の利上げを想定し、矛盾する2つのことを両立させようとしているようだ。FRBはさらに政策を引き締めるとみられるが、大きな疑問は実際に金利据え置きを決定しながら、あと2回の利上げに確実にコミットできるのかだ。市場との対話がかなり難しくなるだろう。市場は不安定な展開になると思う。FRBはかなりタカ派的であると同時に非常に慎重な姿勢も示そうとしており、想定される利上げがどの程度実際に行われるかを正確に判断するのは困難だ。
利上げ見送りでもタカ派色強まる
<エドワード・ジョーンズ アンジェロ・クルカファス氏>
タカ派色を強めた停止だ。引き締めサイクル開始以降初めてFRBは利上げを見送ったが、年内の追加利上げが1回にとどまらないことを示唆したFRBの見通しに市場が目を向けているのは明らかだ。この見通しによって当局者は、景気とインフレの推移次第である程度柔軟に対応できる余地を維持した。CPIとPPIからは(インフレ抑制)の進展が引き続きみられるが、インフレ率がなお2%の目標を上回っているためFRBは勝利宣言できない。景気が底堅いことはFRBにとって良いニュースだが、当局者は一定の減速を望んでいる。FRBの政策金利見通しの中央値が年内あと1回ではなく2回の利上げを示唆したことはサプライズだった。これまでの利上げ幅を踏まえればそれほどタカ派的ではないとも言えるが、年内に利下げする可能性は排除された。
前回会合以降、タカ派化
<CFRAリサーチ サム・ストボール氏>
これから年末までの間に少なくともあと2回の利上げが実施され、(年内の)利下げはないとの見方から市場で売りが出た。一部では、FRBが今回の会合で実際に利上げを停止し、その後は利上げはないとの見方が出ていた。また、今回は一時停止した後、7月にあと1回の利上げを実施して、それで利上げは終了されるとの見方も出ていた。前回会合以降、FOMCメンバーが一段とにタカ派化したように見えたことが市場にとってサプライズとなった。
年内2回利上げは想定以上にタカ派
<RBCグローバル・アセット・マネジメント アンジェイ・スキバ氏>
タカ派的な利上げ休止を予想する声は広がっていたが、ここまでの内容は市場の予想以上だった。ドットチャートが年内あと2回の利上げを示唆しているうえ、年内の会合があと4回しか残っていないことの二重のインパクトがあるからだ。市場を驚かせたのは、ドットチャートで1回ではなく2回の利上げが示されたことだった。
タカ派的な利上げ見送り
<トレーダーX マイケル・ブラウン氏>
今回のFOMCでは予想通り政策金利が据え置かれたが、ドットチャートでは2023年の予想中央値が0.50%ポイント上方修正され、少なくとも2回の追加利上げが年内に決定される可能性を示唆し、タカ派的な利上げ見送りとなった。労働市場の堅調さとコアインフレ率の粘着性に対する持続的な懸念がパウエルFRB議長率いる委員会の政策判断を主導し続けていることは明らかで、インフレ率という獣を退治したことを祝うウイニングランはまだ先だ。
●1ドル141円台まで円安進行 およそ7か月ぶりの円安水準 6/15
外国為替市場で円安が進行し、円相場は先ほど一時1ドル141円台をつけました。去年11月下旬以来、およそ7か月ぶりの円安水準です。
アメリカの中央銀行にあたるFRBのパウエル議長が今後の追加利上げを示唆したことで、日米金利差がさらに広がるとの見方から、円を売ってドルを買う動きが強まりました。
●NY円相場 一時140円台 ダウ値下がり FRB金利見通し引き上げで 6/15
14日のニューヨークの金融市場ではFRBが利上げを見送った一方、政策金利の見通しを引き上げたことを受けてさらなる利上げが行われるとの観測が強まり、円相場は一時、1ドル=140円台まで円安が進んだほか、ダウ平均株価は値下がりしました。
14日のニューヨーク外国為替市場ではFRBが利上げを見送った一方、政策金利の見通しを引き上げたことを受けてさらなる利上げが行われるとの観測が強まりました。
このため、日米の金利差の拡大が意識され、利回りが見込めるドルを買って円を売る動きが強まり、円相場は一時、1ドル=140円台前半まで円安が進みました。
また、ニューヨーク株式市場ではさらなる利上げによって景気が減速することへの懸念から売り注文が増え、ダウ平均株価は一時、400ドルを超える値下がりとなりました。
しかしその後は、追加の利上げが行われるかどうかは今後の経済指標で決まるとの見方も出て値下がり幅は縮小し、ダウ平均株価の終値は前日に比べて232ドル79セント安い3万3979ドル33セントでした。
市場関係者は「政策金利の見通しが年内にあと2回の利上げを想定する内容だったことは驚きをもって受け止められたが、本当に利上げが行われるのか慎重に見極めたいという投資家も多かった」と話しています。
●日本にとって祝福となる円安と韓国にとって災いとなるウォン安 6/15
インフレを抑制するためアメリカの攻撃的な金利引き上げのせいでドル高だ。これによりドルに対する円とウォンの価値が下落(円安、ウォン安)している。
2021年末に1ドル115円だったが、4月現在、1ドル130円に達した。ウォンについては、4月27日午前現在のソウル外国為替市場で前日比10ウォン急騰した1ドル1260ウォンで取引されている。1月初めに心理的最低ラインである1ドル1200ウォンを突破してから急激なウォン安(ウォンの価値の下落)が続いている。
このように円安とウォン安が続くと、今後それぞれにどのようなことが起こるだろうか?
一言で言うと、円安は日本にとって再跳躍の機会が与えられ、ウォン安は韓国にとって災いを招く。日本の再跳躍とは、1980年代の好況のような状況が再び到来することを意味し、韓国の災いとは1997年の通貨危機のような状況が再び到来することを意味する。
ドルに対して日本と韓国の貨幣が同じように価値の下落を見せているが、どうして結果は正反対に出るのだろうか?理由は簡単だ。日本と韓国が置かれた状況が、完全に違うからだ。日本と韓国の基礎体力が違うという話だ。
日本は元から基礎がしっかりした状態で、韓国は元から基礎が不十分な状態だった。日本の場合、「バブル崩壊」と「失われた10年」といった過去に多くの困難を経たが相変わらず揺るがない経済を維持するほど強い体力だと言える。一方、韓国は過去に通貨危機を幾度か経験した。アメリカと日本に助けられて、何とか今まで耐えてきたと見える。
現在日本は、30年以上も世界1位の対外純債権国だ。2020年末現在、357兆円規模の対外純債権を保有していた。ここから出る利子や配当などの収益が、貿易収支やサービス収支(観光収入など)の成績(黒字もしくは赤字)を圧倒している。
同時に日本の長所の一つである「打たれ強い」という点が挙げられる。アメリカが貿易赤字を解消するため、自国産業の輸出競争力を高める目的で日本などの主要国の通貨を切り上げるよう措置したのが「プラザ合意」(1985年)だった。これにより、当時1ドル240円だったが、3年で1ドル120円にまで暴落した(円高になった)。日本の輸出競争力が半分になったのだ。
並大抵の国家なら、すでに経済が焦土化し、再起不能の国家になっていただろう。しかし日本は、相変わらず経済強国の位置を守っている。付加価値の高い技術分野を中心に成長し続けてきたからだ。しっかりとした内需市場が存在するのも日本の長所だ。
一方、韓国は「外貨準備高不足」と「高い貿易依存度」によって不安な状態が続いている。世界金融市場が少しでも不安になると、韓国はすぐに揺れ動く。1997年、2008年、2020年の通貨危機は代表的な事例だ。始まったばかりのアメリカの金利引き上げは、当分の間続く可能性が高い。それならば、韓国の過去の事例を見ると、2025年頃に韓国は再び通貨危機を迎え、経済が破綻する可能性が非常に高い。
1997年、韓国の通貨危機は韓国企業の経営不振など複合的な要因によるものだったが、決定打は1994年から始まったアメリカの攻撃的な金利引き上げだった。アメリカが攻撃的な金利引き上げを始めた今の状況は、当時と非常に似ている。
4月現在、韓国の外貨準備高は4580億ドルで国際決済銀行の勧告値である9000億ドルの半分に過ぎない。外貨準備高が不足することでアメリカの金利引き上げにお手上げで、最近ドルが急騰してウォンの価値が下落しているのだ。
したがって韓国は対応策として金利を引き上げざるを得ない状況になった。韓国の政府関係者やマスコミは「インフレ抑制のために金利を引き上げる」と表現したが、実際は「ドル流出による通貨危機の恐れがあり、金利を引き上げるしかない」というのが正しい表現だ。もし韓国が金利を引き上げなければ、外貨(ドル)は大量流出しかねない。
ところが問題は金利を引き上げたら、韓国の時限爆弾である家計負債がバブル崩壊のようにはじける可能性が存在するという点だ。韓国はGDP対比の家計負債の比率が106%で世界最高レベルだ。金利の引き上げが続くと、貸付者の利子負担が重くなり、延滞比率が増加して最悪の場合、大規模の不良債権が発生する。
そうなると消費が委縮し、金融機関の不堅実化が続く。金融機関の不堅実化は経済全般に大きな悪影響を及ぼす。結局、韓国は今この瞬間、金利を引き上げないわけにはいかず、引き上げることもできない王手がかけられたのだ。
●NY外為市場=ドル下落、安値からは切り返す FRB年内2回の利上げ示唆 6/15
終盤のニューヨーク外為市場ではドルが下落。ただ、序盤に付けた4週間ぶり安値からは回復した。米連邦準備理事会(FRB)は14日までに開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利を据え置いたものの、年末までに合計0.50%ポイントの利上げを実施するという見方を示した。
終盤の取引で、主要通貨に対するドル指数は0.3%安の103.01。序盤には4週間ぶり安値となる102.66を付ける場面もあった。 ユーロ/ドルは上げを削り、0.3%高の1.0827ドル。ドル/円は0.2%安の139.905円。
FRBは声明で「今回の会合で目標誘導レンジを安定的に保つことで、委員会は追加の情報と金融政策への意味を評価することが可能になる」と指摘。パウエルFRB議長は記者会見で、ほぼ全てのFRB当局者が年内に一定の追加利上げを実施することは適切と判断しているとし、7月FOMCについては何ら決定していないものの、「ライブ会合」になると言明した。
FRBが公表した最新の金利・経済見通しによると、2023年末の政策金利の予想中央値は5.6%で、年内にさらに2回の25ベーシスポイント(bp)の利上げを示唆している。前回3月時点の予想は5.1%だった。
ADSSの戦略・トレーディングサービスのグローバルヘッド、スリジャン・カトヤル氏は、5月の米インフレ率が4%に鈍化したことで「FRBは利上げを停止する自信を得た」と指摘。「インフレ圧力の最悪期が過ぎ去った兆候はあるものの、FRB当局者はインフレの粘着性が持続すれば、今年後半に追加利上げに踏み切る可能性があると明言している。一方、前回に金利が5.25%だった状況と比較すると、金利が当面、現在の水準にとどまる可能性はある」と述べた。
金融市場はFRBが7月に約70%の確率で利上げを実施するという見方を織り込んでいる。
英ポンドは0.4%高の1.2660ドル。一時、22年4月以来の高値1.2699ドルを付けた。
   ドル/円 NY終値 140.09/140.10
   ユーロ/ドル NY終値 1.0831/1.0835
●パウエルFRB議長、インフレ否認から受容への5段階 6/15
米連邦公開市場委員会(FOMC)は14日、11会合ぶりに政策金利を据え置き、米国の金融政策は大きな節目を迎えた。委員らはなお年内に最大0.5%幅の追加利上げを予想してはいるが、今回の決定で新型コロナウイルスのパンデミックによる経済的影響への対応に一定の区切りがついたのは間違いない。
ここまでの道のりを振り返ってみよう。人が不幸な出来事に遭った際の「受容過程」を示す枠組みを使い、パウエル連邦準備理事会(FRB)議長の言葉遣いの変化をたどると、物語が見えてくる。
否認
インフレ率はまだFRB目標の2%を下回っていたが、上昇を始めていた。2021年3月17日の記者会見で、過剰貯蓄と過剰支出の可能性について記者から問われたパウエル氏は「物価が一時的にある種の膨張を示したことが後に判明するだろう。ただ、これで将来のインフレが変化するわけではない」と答えた。
怒り
公の場で冷静沈着過ぎるとも言われるパウエル氏を形容する言葉として、「怒り」は強すぎるかもしれない。しかし、議長が最初に「一過性」と表現したインフレは瞬く間に悩ましい現象となり、2021年7月28日の記者会見で議長は一過性の具体的な意味を追求された。議長の答えはこうだった。「『一過性』とは本当にその言葉通りの意味だ。物価上昇が起こること。それが反転するとは私たちは言っていない。一過性とはそういう意味ではない。その意味は、物価上昇が起こる、すなわちインフレが起こるが、そのインフレ過程は止まるだろうということだ」
取引
年次「ジャクソンホール会議」の記者会見でパウエル氏は、インフレが今より執拗(しつよう)になった場合に何が起こるかを体系的に説明した。ただ議長の焦点は依然として、米労働市場をパンデミックの傷から癒やすことにあった。2021年8月27日の講演で、議長はFRBの2つの責務のバランスを取る発言をしている。「失業の期間が長引くと、労働者に、そして経済の生産性に長く傷を残すことをわれわれは知っている。しかし、一過性の要因によるインフレは必ず消滅すると、中央銀行がたかをくくってはならないことも歴史は教えている」
抑うつ
パウエル議長がインフレの判断基準を示した途端、賃金その他のデータが悪い方向に動き出したのは、議長にとって最悪の時期だっただろう。2021年9月22日に終わったFOMC後の記者会見の冒頭発言は降伏宣言のように読める。「経済の再開と支出の回復が続くにつれ、物価上昇圧力が生じている。その特筆すべき理由は、一部セクターで供給ボトルネックが起こり、短期的には生産が(需要に)素早く対応できないことだ。このボトルネック現象は予想以上に大きく、長引いており、(FOMC)参加者のインフレ予想の上方修正につながっている」
受容
2022年3月までには、FRBはパンデミック期の債券購入プログラムを段階的に終了し、利上げを始めていたが、インフレは加速を続けた。FRBは利上げスピードを加速させ、議長は2022年6月15日にこう説明した。「予想に反し、インフレは再び予想外に上振れした。一部のインフレ予想指標も上昇し、今年の(インフレ)見通しは著しく引き上げられた。従ってわれわれは、今回会合で力強い行動が正当化されると考え、75ベーシスポイント(bp)の利上げを実施した」
罪の意識
「怒り」と同様、「罪」という言葉も強すぎるかもしれない。だがパウエル氏は次第に、FRBがインフレ見通しを読み間違えたことを素直に認めるようになり、労働市場に害が及ぶのは必要悪かもしれないと、率直に口にし始めた。2022年8月26日のジャクソンホール会議では「金利上昇と成長鈍化、労働市場環境の緩和によってインフレ率は下がるだろうが、家計と企業に一定の痛みをもたらすだろう。これはインフレ抑制による残念なコストだ」と語った。
再建
インフレの最終章はまだ書かれていない。FRBが重視する指標では、インフレ率はなお2%目標の2倍で推移している。しかし議長は14日の記者会見で、物価上昇が減速し、失業率が低水準を保ち、利上げサイクルが終わりに近づいていることにある程度の安心感を示した。「SEP(FOMCメンバーによるマクロ経済変数の予測値)によると、大半の人々の状況が目的地からそう遠くなくなっている」と議長は述べた。
●米原油先物1.5%安、FRBが年内利上げ示唆 6/15
米国時間の原油先物は1.5%安。米連邦準備理事会(FRB)が年内の利上げを示唆したほか、米原油在庫の予想外の大幅増を受けた。
清算値は、北海ブレント先物が1.0
9ドル(1.5%)安の1バレル=73.20ドル、米WTI先物が1.15ドル(1.7%)安の68.27ドル。
両先物とも序盤に1.5%超上昇する場面があった。
FRBは6月13─14日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.00─5.25%で据え置いた。決定は全会一致。ただ、同時に発表された金利・経済見通しでは予想を上回る堅調な経済とより緩慢なインフレ鈍化を想定し、年末までに合計0.50%ポイントの利上げが決定されるとの見方が示された。
プライス・フューチャーズ・グループのアナリスト、フィル・フリン氏は「市場は金利上昇によって石油需要が減少することを恐れている。反射的な動きが原油価格を押し下げている」と述べた。
米エネルギー情報局(EIA)のデータによると、6月9日までの1週間の米原油在庫は約800万バレル増加した。アナリスト予想は50万バレル減だった。
●FRB決定「影響を注視」 松野官房長官 6/15
松野博一官房長官は15日の記者会見で、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを見送った一方で政策金利見通しを引き上げたことについて、「日本や世界経済にどのような影響が生じるか、引き続き注視したい」と述べた。
●午前の日経平均は小幅続伸、FOMC受け不安定な動き 6/15
午前の日経平均は前営業日比113円15銭高の3万3615円57銭と小幅に続伸した。連騰を続けてきた日本株だが、前日の米連邦公開市場委員会(FOMC)がプラスとマイナス両材料が入り混じる結果で、上値が重かった。為替の円安が支えとなりつつも、マイナス圏に沈む場面もあり不安定な値動きとなった
日経平均は8円安と、小幅に下落してスタート。寄り付き後はプラス圏とマイナス圏を行ったり来たりするなど、方向感が定まらなかった。足元で売られていたハイテク株が買い戻される一方、ここ数日株高をけん引してきた指数寄与度の大きい銘柄の一角が軟調に推移し、循環的な動きがみられた。日経平均は一時、上げ幅を150円まで広げたが、騰勢は続かなかった。
米連邦準備理事会(FRB)は14日まで開いたFOMCで、利上げを見送りながらも年末までに合計0.50%ポイントの利上げを実施する可能性を示唆した。前日の米市場で大きな動揺がみられなかったことや、為替の円安進行を受けて買い安心感が意識されたとの意見が聞かれた。
一方、「利上げ見送りは想定内だったが、年内2回分の利上げ見通しが示されたことを受け、リスクオンが加速する流れは難しくなった」(フィリップ証券のアナリスト・笹木和弘氏)として、上値の重さを指摘する声が聞かれた。
それでも、「中長期的にみればしっかりした地合いは続くのではないか」と笹木氏はみる。東証による低PBR(株価純資産倍率)企業への改革要請や、半導体関連企業への投資など構造的な好材料は変わらないと話す。
TOPIXは0.45%高の2304.87ポイントで午前の取引を終了。東証プライム市場の売買代金は2兆1150億2300万円だった。東証33業種では、証券、海運、その他金融など27業種が値上がり。医薬品、電気・ガス、小売など6業種は値下がりした。
個別では、前日に業績予想の上方修正を発表したLink−Uが10.2%高で推移し、年初来高値を更新した。
前日の米市場でフィラデルフィア半導体指数(SOX指数)が上昇したことを好感し、東京エレクトロンが1.5%高、アドバンテストが3.5%高と堅調に推移。アドバンテストは節目の2万円台に乗せる場面もあり、年初来高値を更新した。
東証プライム市場の騰落数は、値上がりが1160銘柄(63%)、値下がりが588銘柄(32%)、変わらずが85銘柄(4%)だった。
●日経平均5日ぶり反落、終値16円安の3万3485円 6/15
15日の東京株式市場で日経平均株価は小幅ながら5営業日ぶりに反落し、大引けは前日比16円93銭(0.05%)安の3万3485円49銭だった。前日まで連日でバブル経済崩壊後の高値を更新していたなか、目先の利益を確定する目的の売りに押された。前日の米ハイテク株高や円安・ドル高の進行を受けて海外勢が株価指数先物に断続的な買いを入れ、日経平均は200円超上げる場面もあったが、積極的な買いは続かなかった。 
●生成AI、チャットGPTに米政財界で懐疑論 「原爆に匹敵」 6/15
焦点は「生成AI(人工知能)」である。5年後に17兆円ビジネスになるという。
ところが、「投資の神様」として知られる米大手投資会社「バークシャー・ハサウェイ」のウォーレン・バフェット会長兼CEOは、同社の年次総会で次のように言い放った。
「(生成AIやチャットGPTなどの)AIは原爆に匹敵するのではないか」
AIへの懐疑を公にしたのだが、メディアはこの発言を無視して、「バフェット氏は、シリコンバレー銀行(SVB)の預金者保護は不可避的だったのであり、もしそうしていなければ事態はもっと深刻となっただろう」と発言した部分だけを強調した。
米IT大手「グーグル」で最高経営責任者(CEO)を務めたエリック・シュミット氏が、これまでの立場を変えて「AIにはガードレールが早急に必要である。1年前には考えもしなかったことが起こっている」と言い出した。つまり、次の経済を牽引(けんいん)すると期待されたAIやチャットGPTなどの新技術に投資筋は懐疑的なのである。
シュミット氏は、元米国務長官のヘンリー・キッシンジャー氏らと共同で、「AI開発と国家安全保障」を追求し、ガイドラインを制定する委員会を継続してきただけに、姿勢の変化には注目が必要だ。
ホワイトハウスが動き出した。
ジョー・バイデン大統領は5月4日、グーグルのスンダー・ピチャイCEOや、マイクロソフトのサティア・ナデラCEO、オープンAIのサム・アルトマンCEO、アンスロピックのダリオ・アモデイCEOを呼んで会談した。カマラ・ハリス副大統領も同席した。
アンスロピックは新興企業だが、CEOのアモデイ氏は、グーグル、オープンAIを経て2021年に独立した。
わずか1年前、「メタバースが次の産業を牽引する」と言われた。いま、そんな未来を語る人を見かけなくなった。
AIビジネスの構造的図式は、マイクロソフト陣営にオープンAI社が、グーグル陣営にアンスロピック、アマゾンの協力関係という、二大巨大企業の競合的対決となっている。
1980年代後半からのIT産業革命は、この新技術が伸びて新しい産業分野が広がると確信したクリントン&ゴア政権の追い風となった。だから、2024年大統領選を前に、選挙資金としてもAIビジネスが伸びてほしいと民主党が選挙資金も含めて期待している。
AIへの懐疑論は、米国連邦議会でも超党派で広がった。チャック・シューマー上院院内総務(民主党)も、ケビン・マッカーシー下院議長(共和党)も、議会の審議予定に「AI規制議論」を考えていると答えた。
●FRB再利上げ示唆、市場の動揺に警戒感 株高続くか難問に直面 6/15
株式市場が堅調に推移する中、米連邦準備理事会(FRB)がタカ派的なメッセージを発したことを受けて、投資家は、金融政策のさらなる引き締めがもたらしかねない市場の動揺を警戒しつつ、上昇を続ける株式へのエクスポージャーをどう維持するのかという難問に直面している。
FRBは13─14日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げをいったん停止。一方、予想を上回る景気の堅調さと緩慢なインフレ鈍化ペースを踏まえ、年末までに合計0.50%ポイントの利上げを行うシナリオを示した。発表後、トレーダーのターミナルレート(利上げの最終到達点)予想は軒並み切り上がった。
多くの投資家は、50ベーシスポイント(bp)の利上げだけで、米国株の上昇が止まることはないと考えている。しかし、政策引き締めによって金融システムに圧力がかかり、複数の銀行破綻や金融市場の動揺につながった危機が再燃する可能性への警戒感も広がっている。
米経済は銀行システムを除けばおおむね耐性があるが、投資家は、緩和マネーが引き揚げられた際に脆弱になりかねない分野に警戒心を抱いている。具体的には商業用不動産で、債務不履行が急増すれば銀行や経済全体、その他の信用市場セクターにも影響を及ぼす可能性がある。
投資顧問会社ウィルシャーのジョシュ・エマニュエル最高投資責任者(CIO)は「信用収縮のリスクが高まっているのではと懸念し始めている」と話す。一方、株式をアンダーウエートにすることは「危険」とも指摘、小型株などの市場のストレスが突然高まった場合に大きな打撃を受ける可能性がある資産には手を出さないようにしていると述べた。
これまでの上昇局面で株式のポジションを増やしてきたがトレンドが変わり始めたらスタンスを転換する予定と話すのはシエラ・インベストメント・マネジメントのジェームズ・サン・トーバンCIO。利上げ長期化や逆イールドは銀行の融資による収益性低下につながるため、銀行システムへのストレスが高まる兆候を注視していると語った。
ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック最高経営責任者(CEO)も同様の見方を示しており、「もしFRBが予告通りのことをすれば、何かを壊すことになるだろう」とCNBCで指摘。株式の保有比率を下げる一方、優良債券への配分を増やすことを推奨した。
ペン・ミューチュアル・アセット・マネジメントのマーク・ヘッペンストールCIOは、株高は信用状況を緩め消費者物価を押し上げる可能性があり、インフレと戦うFRBには望ましくない結果になると話す。「株高が続けば引き締めがさらに積極化するもしれない」とした。
もちろん、金利の上昇によって景気が悪化するとは限らず、そのような事態が起こったとしても株価に打撃が及ぶかどうかは分からない。
クリアブリッジ・インベストメンツの投資戦略アナリスト、ジョシュ・ジャムナー氏は、投資家は近く、金融政策やインフレといったマクロ的な懸念よりも、企業業績などのファンダメンタルズに注目するようになると指摘。「1年で500bp利上げしたのだから、あと25bpや50bp利上げしたとしても大きな影響はない」とした。
●年内「あと2回利上げ」示唆 アメリカFRBの思惑と、世界中に広がる副作用は 6/15
米連邦準備制度理事会(FRB)は14日に利上げを見送った一方、年内に2回利上げする可能性を示唆した。あと1回と見込んでいた多くの市場関係者の予想を上回る「サプライズ」だった。長引くインフレへの警戒感を反映した形だが、利上げの長期化は金融不安やドル高円安など副作用も懸念される。
FRBが3月に示した今年末時点の政策金利の見通しは、中央値で5.1%。すでに5月の利上げで到達しており、一部には利上げが終了するとの観測もあった。ただし、米国経済は予想以上に堅調で、インフレも鈍化しているとはいえFRBが目指す前年同月比2%増を上回り続けている。このため、市場関係者の多くはあと1回の利上げを予想していた。
しかし、14日にFRBが示した年末時点の金利見通しは5.6%に上振れ。あと2回の利上げが必要になる計算で、FRBが市場関係者よりも利上げの必要性を強く感じていることを示しており、発表直後に為替相場が円安に振れるなど市場に動揺が走る場面もあった。
利上げが長引くことで、副作用も顕在化している。金利の上昇により債券の価格は下落するなどし、米国では債券を多く保有する金融機関の財務に対する警戒感が拡大。3月以降、複数の中堅銀行が破綻し、銀行が融資を渋るなど信用収縮に発展している。
また、為替相場では高金利のドルで運用するほうが有利だとして、ドルが買われて独歩高に。日本にとっては円安が進み、22年3月初めに1ドル=115円前後だった相場は直近で140円程度まで下落。輸入物価が上がり、生活を圧迫する。さらに、ドルで資金を借り入れた新興国の金利負担が増して返済に困るなど、米国の利上げは世界にも波紋を広げている。
大和総研ニューヨークリサーチセンターの矢作大祐主任研究員は「FRBは7月の次回会合で0.25%利上げし、さらに年内にもう1度利上げする可能性がある」と分析。副作用については「最優先課題のインフレが収まっておらず、副作用への対応は後回しにならざるをえない。FRBの限界とも言える」と話した。
●時給2000円では暮らせない…給料も物価も高いアメリカ 6/15
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は、物価高を抑えるため1年あまり続けてきた金利の引き上げを見送りました。一方、物価を押し上げている賃金は高いまま。何が起きているのでしょうか。
アメリカ東部・メリーランド大学の4年生、イスマイルさん(23)。大学でIT機器の使用をサポートするアルバイトをしています。
イスマイルさん「ITサポートの仕事で時給15ドルです」
時給は15ドル=日本円でおよそ2100円なのですが…。
イスマイルさん「やりくりするのに精一杯です。家賃と食費を払うため、何度か父親に資金援助も頼みました」
実は、メリーランド州で時給2100円は最低賃金に近い水準。人手不足による賃金の上昇が続いていて、アメリカの正規雇用を含む平均時給はおよそ4700円に達しています。
学生に話を聞くと…。
学生 「時給23ドル50セント(約3300円)です。悪くないと思ったけど、食品やガソリン代に使うとあまり残りません」「時給22ドル(約3100円)です。毎月家計はギリギリです」
平均時給は10年前からおよそ4割も増えています。
企業は人件費の上昇分をカバーするため、商品やサービスの価格を上げ「歴史的な物価上昇」となって市民生活を直撃してきました。
その一方で…。
記者「賃金と物価が上がり続けてきたアメリカ経済ですが、こうした状況が変化しつつあるとの見方を中央銀行にあたるFRBが示しました」
物価高を押さえるために、去年3月から急ピッチで利上げを続けてきたFRB。一時、9%を超えていた消費者物価の伸び率が先月、4%まで下落し、物価上昇は落ち着いたとみて、去年から10回連続で続けてきた利上げを14日の会合で見送りました。
FRB パウエル議長「急速に高い水準まで利上げしたので、効果を見極めるため、利上げを見送るのが適切と判断しました」
それでも賃金そのものは5月も上昇が続き、パウエル議長は、物価の動向によっては年内に0.5%、追加で利上げをすることに含みを持たせました。
FRBが賃金に目を光らせる日々が続きそうです。
●約7か月ぶり円安水準 一時1ドル=141円台半ば 株価はバブル後最高値に 6/15
およそ7か月ぶりの円安水準です。きょうの外国為替市場では円相場が一時、1ドル=141円台をつけました。
きょうの東京外国為替市場で円相場は一時、1ドル=141円台をつけ、去年11月以来の円安水準になりました。
きっかけとなったのがアメリカの中央銀行にあたるFRBの議長の発言です。会見でパウエル議長は、今回は利上げを見送るものの、今後の金融引き締めに含みを持たせました。
利上げが長期化するとの観測から、日米の金利差の拡大が意識され、円売り・ドル買いの動きが強まりました。
一方、きょうの東京株式市場では円安が相場の支えとなり、日経平均株価は一時、取引時間中としてバブル後の最高値を再び更新しました。
日銀ではきょう・あすと金融政策決定会合を開いていますが、現状では大規模な金融緩和を維持するとの見方が優勢です。
ただ、円安に拍車がかかればさらなる物価上昇を招くため、今後、政策修正の機運が高まることになりそうです。
●地銀の“2024年問題”公的資金返せるか 6/15
物流業界で人手不足の深刻化や輸送量の減少が懸念される「2024年問題」。
実は複数の地方銀行に投入された公的資金をめぐっても同じ「2024年問題」が取り沙汰されています。
リーマンショックなどをきっかけに投入された公的資金の返済期限が来年に迫っているのです。
地銀の経営環境が厳しさを増す中、公的資金は返せるのでしょうか。
地銀の「2024年問題」とは
ことし4月28日、山形市に本店を置く「きらやか銀行」は会見を開き、親会社で宮城県と山形県が地盤の「じもとホールディングス」とともに金融機能強化法に基づく公的資金をことし9月をめどに金融庁に申請すると発表しました。
申請する金額は160億円から180億円を見込んでいます。
2020年に改正された金融機能強化法の「コロナ特例」を活用したいとしています。
「コロナ特例」とは、コロナ禍で打撃を受けた地域経済を下支えするために設けられた仕組みで、特例に基づく公的資金の申請は全国で初めてとなります。
仮に公的資金が投入されれば銀行としては3度目。
この日、きらやか銀行は、ことし3月期決算の最終損益が過去最大の83億円の赤字となる見通しも明らかにしました。
ただ、この会見に出席した私(桐山)には疑問がありました。
リーマンショックを機に投入された公的資金200億円の返済期限が来年・2024年の9月末に迫っていたからです。
業績が低迷する中で本当に返済できるのか。
会見で川越頭取にこのことを問うと、「来年9月末に期限を迎える公的資金の200億円は予定どおりに返済する」との答えが返ってきました。
さらに「借り換えではない」とも述べ、新たに受け入れた公的資金で過去の公的資金を返済するのではないという考えを示しました。
きらやか銀行のように来年2024年に公的資金の返済期限が迫っている地方銀行は4行あります。
東洋大学の野崎浩成教授(金融、銀行論)は、これを「地銀の2024年問題」と指摘します。
低いリスクで貸し出すことができ、コロナ禍の地銀の収益を支えた実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」。
融資を受けた企業の返済がことしの夏から本格化し、中小企業の倒産が増えるおそれも指摘されています。
また、多くの地銀は、アメリカのFRBの利上げの影響で保有する外国債券に多額の含み損を抱えています。
野崎教授は、地銀を取り巻く経営環境がさらに悪化すれば、きらやか銀行のほかにもコロナ特例による公的資金を申請するところが出てくる可能性があるとしています。
東洋大学 野崎教授「新型コロナ特例による公的資金は経営責任が問われず、返済期限も設定しないとされているため、地銀が申請した場合にモラルハザードに陥らないかチェックすることが重要だ。いわゆる『ゼロゼロ融資』の制度が終わった今、もともと厳しかった地銀の経営環境が悪化すれば、公的資金への依存が強まるおそれがある」
川越頭取に聞く 公的資金の返済は可能か 3度目の申請の行方は?
きらやか銀行が5月12日に発表したことし3月期の決算では、最終損益が83億円の赤字に転落。
全国の地方銀行で、昨年度、最終赤字に陥った地方銀行は3行ありますが、赤字額はきらやか銀行が最大です。
来年9月の期限までにどうやって200億円の公的資金を返済するのか。
6月8日、取材に応じた川越浩司頭取に改めて聞きました。
きらやか銀行 川越頭取「ことし3月末の自己資本が556億円あるので、その中から200億円を返済するつもりだ。そのときに懸念されるのが自己資本比率の低下だが、単体でみると7.6%から5%台になると試算している。ただ、中小企業に資金供与をしていくことを考えると5%では心もとない、7%以上あれば十分対応できると考えている。そこを公的資金による資本の増強も含めて対応したい。使いみちも地元の中小企業への資金供与などで限定されると承知しているので、そういった認識で活用したい」
きらやか銀行には、リーマンショックの翌年の2009年に200億円、仙台銀行と経営統合した2012年には100億円の公的資金がそれぞれ投入されていて、今回で3度目の公的資金の申請となります。
去年5月にも公的資金の申請を表明していましたが、夏になって大口融資先の産業用ロボットメーカーの粉飾決算が発覚。
メーカーはことし2月に民事再生法の適用を裁判所に申請し、きらやか銀行は23億円の取り立て遅延・不能のおそれがあると発表。
この影響で昨年度の決算は最終赤字に転落しました。
きらやか銀行の経営について、地元の経済界からは「メインバンクで粉飾が見抜けないのはおかしい」「ほかの金融機関と比べて融資の審査の基準が緩い」などという厳しい声があがっています。
6月13日には融資先の部品商社が弁護士に債務整理を一任したことで融資額のうち回収ができないおそれがある3億8000万円について貸倒引当金を計上すると発表。
メインバンクではありませんが、この融資先も粉飾決算の疑いが持たれています。
こうした中、金融庁は、きらやか銀行の公的資金申請に対し、慎重な姿勢を変えていません。
金融庁幹部「自分の取引先の粉飾決算が見抜けないということは中小企業の本業支援がきちんとできていないということだ。これが改善されないと大切な公的資金を任せられない。銀行の赤字補てんに使われないよう、ちゃんと地元の中小企業に使ってもらえるか見極めていきたい」
きらやか銀行は、2020年11月にネット金融大手「SBIホールディングス」と資本業務提携を結び、投資助言契約に基づいてSBI側とともに資産運用を行っていますが、世界的な金利上昇を背景に外国債券の運用状況が悪化。
ことし3月期の決算で有価証券の評価損は176億円まで拡大し、この提携関係も現状は裏目に出ています。
ただ、多くの銀行が外国債券の損失処理を進める中で、きらやか銀行は「時間をかけて回復させたい」としていて外国債券を持ちきる方針を変えていません。
川越頭取は、銀行のビジネスモデルを見直した上で、来年3月期の決算で黒字化する目標を掲げています。
新型コロナの影響を受けた企業を支える専門チーム「企業支援部」を立ち上げ、中長期的な視点で取引先の経営に関わるとしています。
これまでは、業績目標の達成のため手数料の収入が得られるコンサルティングなどの件数を数値目標に掲げていましたが、本来の融資を重視する体制に回帰するということです。
きらやか銀行 川越頭取「新型コロナの3年間で傷んだ経済はすぐには回復しない。そういう企業実態をしっかりと把握したうえで支援していく必要がものすごくあると思う。地元企業を支えるにはコロナ特例を使わせてもらうのがベストで、3回目とかいろいろ言われるが、私は何を言われても地元の企業を支えなければならない。公的資金をどう使うかは私に経営責任があるしわれわれの経営スタンスを見てもらうしかない。順番でいうと、公的支援の申請を9月に行うことを優先的に進め、SBIホールディングスによる再支援を2番手として考えている。3つ目の策も考えなければならないのかという思いもあるが、現時点では言える状況ではない」。
極めて異例な3度目の公的資金申請。
これが認められるかどうかは、着実に黒字化できるような経営体質に変わることが大前提となります。
なぜ粉飾決算が見抜けなかったのか。
なぜ外国債券の運用リスクが露呈する事態となったのか。
銀行にはこうした経営課題に対する徹底した検証とリスク管理の力を高めることが求められます。
●ウォール街「ショック慣れ」 利上げ休止のFRB「タカ派」ポーズに市場冷ややか 6/15
「またもサプライズか!」ウォール街に衝撃が走った、と思われた......。
FRB(連邦準備制度理事会)2023年6月13日〜14日、FOMC(連邦公開市場委員会)開き、昨年3月に利上げを開始して以降、初めて利上げの見送りを決めた。
これは事前の予想通りだったが、予想外だったのは年内2回分の追加利上げが示唆されたこと。市場では「年内利下げ」をもくろんでいたため、ダウ平均株価は一時400ドル以上下落、ドル円相場も一時、1ドル=140円台にまで円安に振れた。
いったい、米国経済はどうなるのか? 日本経済への影響は? エコノミストの分析を読み解くと――。
FRBはいったん利上げを見送り、経済の動向を見極めたい
FOMCでは、参加者18人による政策金利の見通し(ドットチャート)を示された。2023年末時点の金利水準の中央値は5.6%で、前回(今年3月)に示した5.1%から0.5%引き上げられた。1回の利上げを0.25%とすると、年内にあと2回想定される内容だ。
また、2024年末時点の金利水準の中央値も4.6%と、前回(3月)の4.3%から0.3%引き上げられた。これは「高金利政策がより高く、より長く続く」ことを意味する。
会合後の記者会見でFRBのパウエル議長は「インフレ率はいくぶん落ち着きつつあるが、インフレ圧力は引き続き高く、物価目標である2%までの道のりは遠い」と述べた。
また、「インフレ率を目標の2%に戻すのに、さらなる政策が必要かどうか決定するため、追加の経済データと金融政策の影響を評価できるよう金利据え置きを判断した」と説明した。
今回のFRBの利上げ休止決定、エコノミストはどう見ているのか。
ヤフーニュースコメント欄では、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミスト渡辺浩志氏が、
「金融の安定とインフレ抑制の二兎を追うFRB。いったん利上げを見送り経済・物価の動向を見極める一方、インフレの粘着やインフレ期待の上振れを警戒し追加利上げの余地を広げた格好です(タカ派姿勢を示すことで、市場の楽観を鎮める狙いも)」と、FRBの狙いを説明。市場の動揺については、「利上げ長期化が意識され、NYダウは7営業日ぶりに反落し、前日比232.79ドル安(マイナス0.7%)。一方、ハイテク株中心のナスダック指数は、金利敏感にも関わらず5日続伸し、前日比53.16ポイント高(0.4%)。生成AIなどをテーマにハイテクセクターの期待成長率が高まっていることが背景にあるようです。なお、米国株の恐怖指数(VIX)は低下し、14ポイントを割りました。市場は金融政策を巡る不透明感がいくぶん後退したと受け止めた模様です」と、まちまちの反応を示し、さほどショックを受けていない様子を伝えた。
FRBのタカ派ポーズを、半信半疑で受け止めた市場
FRBがドットチャートを高く設定し、追加利上げ2回を示唆したのは、「市場に前のめりになるなよ」とタカ派を演じえみせたのでは、と見るのは、第一生命経済研究所主席エコノミストの藤代宏一氏だ。
藤代氏はリポート「経済の舞台裏:ドットチャートは『疑寄り』の半信半疑で眺める必要 確信犯的な『外し』」(6月15日付)のなかで、FOMC参加メンバーのドットチャートのグラフを示しながら、こう指摘した【図表1】。
   (図表1)FOMC参加者の政策金利見通し
「利上げが最終局面に差しかかっているとの現状認識が広く共有される中、Fed(連邦準備制度)は、金融市場参加者が前のめり気味に利上げ停止を織り込まないよう、ドットチャートを上方改定することでタカ派的な姿勢を演じた。FOMCを通過し、FF金利先物は7月の利上げ(0.25%)を約6割の確率で織り込んだ」
タカ派的なポーズは一定の効果があったわけだ。しかし、と藤代氏は続ける。
「タカ派的なドットチャートの形状は多くの市場関係者を驚かせたが、市場参加者がそれを真に受け止めたかは別問題であり、実勢としては『疑寄り』の半信半疑だろう。FF金利先物は相変わらず12月FOMCにおける『利下げ』を約3割の確率で織り込み、2024年1月FOMCまでに利下げが実施される確率を75%程度とみている。追加利上げはせいぜい1回で、その後は比較的早期に利下げに転じるという市場参加者の共通認識に大きな変化はない」
そして、今後の展開を藤代氏はこう結んでいる。
「パウエル議長はタカ派的な発言をしたが、一方で『7月の決定は全てのデータや状況の変化を見て下す』、『政策金利は十分抑制的な水準に近づいた』などと利上げ見送りが有力な選択肢であることも示唆しており、バランスを取っていた。結果的に、ドットチャートが示した政策金利水準(5.75%)には到達しない可能性が濃厚であると筆者(=藤代氏)は判断している」
FRBのタカ派姿勢と裏腹に、利上げが最終局面にある「証拠」
藤代氏と同様に、「タカ派」に見えるFRBの姿勢とは裏腹に、実質FF金利(政策金利)のメカニズムからみて、利上げは終了段階に来ていると指摘するのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。
石黒氏はリポート「FRBは利上げ見送りも年内の追加利上げを示唆」(6月15日付)のなかで、実質FF金利と米自然利子率との関係を示すグラフを紹介した【図表2】。
   (図表2)米自然利子率・実質FF金利・FF金利誘導目標上限値
自然利子率とは、景気の影響が緩和状態にもなく、引き締められた状態にもなく、景気に中立的な状態にある実質利子率のこと。このような実質利子率が中長期に続く状態だと、潜在的成長利率と類似してくる。その状態のまま経済が安定しているといえるという。
そして、潜在成長率並みの経済成長を持続的に達成するためには、実質利子率を自然利子率に一致させるような金融政策が望ましいとされている。
そこで、石黒氏はこう説明する。
「FOMC後の記者会見でパウエル議長は、『インフレ圧力は高い状態が続いており、インフレ率を2%に戻すプロセスにはまだ長い道のりが残されている』と語るなど、FRBは『高い』金利水準を『長期間』続けることで、インフレ抑制を図る方針のようです」「もっとも、実質FF金利(政策金利)と米自然利子率の関係からみると、利上げ終了時期は近いといえます。自然利子率とは、インフレ率を目標水準で維持し経済を完全雇用状態に保つような、緩和的でもなく引き締め的でもない実質金利です。あと2回の追加利上げで実質FF金利が米自然利子率を上回る水準に達します【図表2】。過去も同様の状態になったところで、FRBは利上げを停止してきました」
その状態とは、【図表2】の2007年と2019年の長方形の点線で囲った箇所だ。両方とも実質FF金利と自然利子率が接近している。そして、現在、両者がかなり接近しつつあることがわかる。石黒氏はこう結んでいる。
「今回のFOMCはタカ派的な内容だったといえますが、市場はFRBの金融政策姿勢を冷静に受け止めています。利上げ停止時期が近づくなかで、リスク資産が買われやすい環境は今後も続きそうです」
予想外の日本株高「終わりの始まり」、どうする日銀?
さて、最終局面に近づいてきたFRBの金融政策。日本銀行の金融政策にどんな影響を与えるだろうか。
金融市場は「オーバーキル」(過剰な景気引締めで経済が悪化すること)を意識し始めてきた、と警告するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「利上げ停止の後に年内2回の追加利上げを示唆したFRB」(6月15日付)のなかで、こう述べている。
「今回のFOMCで示された年内の追加利上げ幅は事前予想を上回ったが、それに対する金融市場の反応は複雑であった。ダウ平均株価は大幅に下落した。先行きの金利見通しの引き上げによって株価のバリュエーションの調整が生じた、との解釈もできるが、他方で金利による敏感なナスダックの株価は上昇している。この点から、ダウ平均株価の大幅下落は、追加利上げによる景気悪化を警戒したものと考えられる」「2年国債利回りは前日から0.1%ポイント程度上昇した。他方、10年国債利回りは逆に0.2%ポイント程度低下し、逆イールドが一段と進んだ。これも、追加利上げによる景気悪化懸念を反映したものだろう」「このように金融市場は、FRBの利上げによって景気が悪化するオーバーキルのリスクをより意識したように見える。実際、あと2回の利上げが実施されれば、実質金利(FF金利−中長期の予想物価上昇率)は3%台半ばと、リーマンショック前の3%程度を大きく上回ることになり、オーバーキルのリスクは高まるのではないか」
そして、木内氏はこう結んでいる。
「こうした点を踏まえると、日本銀行の緩和継続観測とFRBの追加利上げ観測によって1ドル140円まで進んだ円安ドル高の流れも、そろそろ一巡するのではないか。それは、予想外の日本株高を演出してきた大きな要因が薄れることを意味しよう」
FRBがタカ派姿勢を強めたことを受け、6月15日の東京株式市場ではバブル後最高値を更新し続けてきた日経平均株価は5営業日ぶりに反落した。
折しも6月16日には、「植田日銀」の金融政策会合の結果が発表される。市場では、「大幅金融緩和策の維持」という見方が大半だが、こちらでも「サプライズ」はあるのか?

 

●米FRBが金利の引き上げを一時停止…それは何を意味するのか 6/16
・アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は6月14日、6月は利上げを停止すると発表した。
・利上げを実施しなかったのは2022年3月以来で、これは経済の見通しが楽観的であることのサインだ。
・これにより、この夏のアメリカ経済で予測されることを紹介する。
利上げが夏休みに入った。
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は2023年6月14日、インフレに関するいくつかのデータを受けて、経済の健全性を再評価するために10会合連続で行ってきた利上げを一時停止することを発表した。
「特に住宅や投資など影響を受けやすい分野において、金融引き締めと需要の効果が見られる」とジェローム・パウエル議長は発表後の記者会見で語った。
この発表は、6月13日に発表された消費者物価指数(CPI)がの上昇が鈍化し、一部では下がったものもあったことを受けたものだ。そこに労働市場が落ち着いたことも加わり、企業や消費者が消費や投資、さらに経済全体の冷え込みを期待して行ってきた積極的な利上げを一時停止する道を開いたというわけだ。
一時的な利上げ停止は、今後利上げが一切行われないわけではないことに注意することが重要だが、金融引き締めの終焉が見えてきたことを示唆している。今回の決定には、年末までに0.25%引き上げる見通しが含まれている。
FRBのメンバーの大半が、今後2度の利上げを行うと予測している。彼らは経済成長と失業率について、3月時点での予測よりも楽観的になっており、FRBが景気後退せずにインフレ率を下げるという、望まれていたソフトランディングへの道筋を見出した可能性がある。
Insiderでは、すでにインフレ率について詳しく紹介しているので、ここではより大きな視点で、我々の財布にとってどんな意味があるかを見てみよう。
労働市場は依然として強く、利上げ停止は助けになる
FRBの利上げという厳しい手段は、正常に機能すれば、企業に投資を控えさせ、それには雇用も含まれる。2022年からのFRBの積極的な利上げに対して批判する人々は、ビジネスを圧迫してアメリカ人から仕事を奪うリスクがあると指摘している。
マサチューセッツ州選出のエリザベス・ウォーレン上院議員は2022年11月、次のように述べた。
「パウエル議長は、経済を崖から突き落とす危険にさらしている。仕事を失う人は誰だろう?証券ブローカーや投資銀行家ではない。仕事を失うのは低賃金の労働者で、すでに物価高に苦しんでいる人々だ。政府はこの異常な利上げを緩和して、物価の安定と雇用の最大化という2つの使命を思いだす必要がある。何百万人ものアメリカ人の仕事と生計がかかっている」
だが数字が示したのは、ビジネスはまだ痛みを伴うような規模で労働者をカットしていないということだ。テック企業やメディアなど組織的な変更に苦心している業界を除いて、解雇は広がっていない。失業率は3.7%と低く、4月には求人数が上昇した。
大退職は終わりつつあるかもしれないが、転職を考えている人は実行するのにまだいいタイミングだ。
食品とエネルギー価格は落ち着いたが、住宅と自動車は依然として厳しい
インフレは落ち着いてきたが、これまでの水準より依然として高く、FRBの目標とする2%を上回っている。そして、消費者もそれを実感している。
住居費がインフレの最大の要因で、次に中古車となっている(新車の価格が5月にわずかに下がったにも関わらず)。だがキャピタル・エコノミクス(Capital Economics)の最新の報告書では、高い金利と経済の低下によって需要が落ち着くことから、下半期には住居費が下がる可能性があると指摘している。
一方、エネルギー価格は5月に下落し、現在は1年前より11%以上下がっている。ガスの価格は20%下がり、航空運賃は3%下がった。
食品価格は5月は安定しており、もうひとつの良い結果となった。食品は金利の影響を受けにくいが、RSMのチーフエコノミストのジョー・ブルセラス(Joe Brusuelas)は、食品価格が金利と並行して上昇が鈍化する可能性があるとし、「家計にとってとても良いことだ」と述べている。
EYアメリカのコンシューマー・リーダーであるキャシー・グラムリング(Kathy Gramling)は、最近の消費者物価指数とFRBの決定は、アメリカの消費者に夏に向けて大きな自信を与えているとInsiderに語った。
「消費者はこの夏を通して消費することになるだろう。知っての通り、アメリカの消費者はそれが上手だ」と彼女は語った。
着目するべきものの1つはサービスの価格で、5月に年4.6%で増加した。サービス業は2023年後半に高いインフレがやってくる可能性があると懸念するエコノミストもいる。
銀行口座はどうなる?
モーニングスターウェルスのアメリカ部門の最高投資責任者、マルタ・ノートン(Marta Norton)は、シリコンバレー銀行とファーストリパブリックの破綻によって始まった地方銀行の危機は、「ワイルドカードだった」とInsiderに語った。
2つの銀行が破綻し、その他の銀行は持ちこたえて支払い能力を維持しているが、消費者も銀行もシステムの亀裂を懸念し、経済の活況を維持する資金の流れが逼迫する可能性がある。
融資の引き締めは、FRBが6月に利上げを停止した一つの要因であり、銀行システムの安定は、年内に利上げを再び行うのか、いつ行うのかを決めるための大きな材料になるだろう。
多くのアメリカの銀行口座は何が起ころうとも安全だ。連邦預金保険公社(FDIC)は最大25万ドルの預金を保証しており、もし多くの地方銀行が倒産しても、これ以下の預金は完全に保護される。この春のいくつかの銀行の破綻において、政府はさらに踏み込んで、25万ドル以上の預金についてもすべての預金を保護した。
「政府の政策は預金を安定させた可能性が高い。そして、初期の破綻は大きな組織のリスクではなく、個人の管理不足の結果だと考えられる。しかし、ここ何年も続いた貯蓄貸付危機は著しく高い金利水準でこれらのビジネスの不確実性を示唆している」とノートンは述べた。
●FRBとSEC シリコンバレー銀行破綻を巡ってゴールドマン・サックスを調査 6/16
ゴールドマン・サックスは、シリコンバレー銀行(SVB)の破綻前に同行の証券ポートフォリオの購入に関与していた件で、米連邦準備制度理事会(FRB)および証券取引委員会(SEC)から調査を受けている。ウォール・ストリート・ジャーナルが関係者の話として報じた。
報道によれば、両機関はゴールドマン・サックスがSVB破綻前の資本調達に失敗した際の行動を調査している。また、司法省もゴールドマン・サックスに対し、SVBに関する調査の一環として召喚状を発行したとされる。
内部関係者によると、FRBとSECは特に、ゴールドマン・サックスがSVBの証券ポートフォリオの買い手であり、同行の資本調達のアドバイザーでもあったという二重の役割に関する文書の入手に関心を寄せている。また、ポートフォリオの売却に関して、ゴールドマンの投資銀行部門と取引部門の間で不適切なコミュニケーションがなかったかどうかも調査されているという。これに対し、ゴールドマン・サックスは「SVBに関する調査や問い合わせに対して、さまざまな政府機関と協力し、情報を提供している」と述べている。
SVBが破綻する直前、ゴールドマン・サックスは同行の資本調達を支援するために雇われたとされる。同時に、取引部門は「SVBの210億ドル相当の売却可能な有価証券ポートフォリオを割引価格で購入した」という。WSJによると、銀行が企業の資産のアドバイザーと買い手の両方として同時に行動することは、経営危機時にある場合を除いては珍しいとされる。
関係者によると、ゴールドマンはSVB幹部に対し、「証券ポートフォリオの一部または全部を売却した後に資本を調達するよう助言した」という。この助言は、SVBの元CEOであるグレッグ・ベッカー氏が、上院銀行委員会での証言の中でも繰り返し言及されていた。これに対して、ゴールドマン・サックスの広報担当者は、「(ゴールドマンは)SVBに対し、売却に関してアドバイザーとして行動しない旨を書面で通知し、同行がこの件に関してゴールドマンからのアドバイスに依存しないよう求め、代わりに第三者の金融アドバイザーを雇うよう助言した」と述べている。
3月10日、カリフォルニア州の規制当局は、ベンチャーキャピタル企業やテック企業向けの主要な金融機関だったシリコンバレー銀行を閉鎖するという前例のない措置を講じた。閉鎖前、SVBは米国で16番目に大きな銀行であり、資産総額は2120億ドル以上だった。その後、3月17日にSVBファイナンシャル・グループは米国破産裁判所で破産を申請した。
●ヨーロッパ中央銀行 8会合連続の利上げ 次回も「可能性は非常に高い」 6/16
ヨーロッパ中央銀行は、政策金利を0.25%引き上げることを決めました。利上げは8会合連続です。
ヨーロッパ中央銀行は15日、理事会を開き、政策金利を0.25%引き上げることを決めました。これで主要政策金利は4.00%になります。利上げは去年7月以降、8会合連続で、0.25%の利上げ幅は先月と同じです。
ただ、ユーロ圏の5月の消費者物価指数の伸び率は前年に比べ6.1%で鈍化傾向にあるものの、依然として目標としている2.0%からはほど遠い状態です。
ヨーロッパ中央銀行のラガルド総裁は会見で、「基調的なインフレ圧力は強いままだ」として、来月開かれる次の理事会でも「利上げを続ける可能性は非常に高い」と話しました。
●日経平均「3万8915円超え」は必然!その先に迫る上場企業の大不安時代は 6/16
日経平均は、年内にバブル期の最高値3万8915円を抜く――。私はそう確信しています。日経平均を押し上げる「三大要因」が強力に作用しているからです。しかし、「そのあとの世界」はどうなるのでしょうか。実は、上場企業の過半数が足をすくわれる「大・不安時代」がやってくるかもしれません。3メガバンクやオリックス、三井不動産や野村不動産ホールディングス(HD)、日本郵船や商船三井、鹿島建設や大林組、東レや旭化成、日本製鉄やJFEHD、ホンダにSUBARUなど……日本を代表する上場企業も例外ではないのです。
日経平均は今年中に バブル最高値を抜くだろう
経済評論家の鈴木貴博です。未来予測を専門にしているせいで最近よく聞かれるテーマが、AIと日経平均です。日経平均は、バブル期の過去最高値(終値)の3万8915円87銭を今年中に抜く可能性が高まってきました。もう一歩踏み込んで予測すると9月までに一度、3万8000円台に到達する可能性も高いと思っています。
そこまで到達するのには、日経平均があと16%も上がる必要があります。株価の平均が16%上がるというのは相当なことなので、「年内に」と区切ればそのような予測をしている専門家は少数です。それでも、私は「たぶんそうなる」と確信しています。
今回の記事では、その根拠もお話しします。さらに、もう一つ問題にしたいのが「そのあとの世界」です。
日本経済にとって日経平均3万8915円という数字は呪いのような性格をもっていて、過去30年にわたって「われわれの成績はここを超えることができない」という目印になっていました。「もしそれを超えたらその先は?」というと、ここが問題で日本人にはイメージしづらい未知なる世界が待っているわけです。
ということで、今回の記事では「なぜ日経平均は3万8915円を超えるのか?」という話と、「超えた後、日本企業はどうなっていくのか」について、予測とその根拠を書いていきたいと思います。
まず、日経平均がなぜ上がっているのかですが、大きく三つ理由があります。
日経平均の上昇要因は 「異次元緩和」「円安」「地政学リスク」
一つ目に、日銀が相変わらず異次元緩和を継続していることです。もう1年以上、利上げによる引き締めを行っているアメリカやEUとは対照的な状況です。お金がじゃぶじゃぶ集まる場所では投資が過熱するわけですが、その場所が世界の中でも日本に限られているため日本が過熱しやすい。これが、一つ目の理由です。
二つ目に、円安です。今、都心に戻ってきたインバウンド消費で外国人がこれほど日本旅行を楽しんでいる最大の理由が、「日本は安い」からです。この日本が安いという感覚は観光客だけでなく外国人投資家にとっても同じで、日本企業は割安とその目に映っているのです。
円安は昨年と比べるとマイルドな形におさまっています。しかし、もしこの夏、円ドルレートが1ドル=160円台に突入したとしたらどうでしょう。
アメリカ人にとって「160円台での日経平均3万8915円」という価格は、「1ドル=140円での3万3500円」とドル建てで見れば同じ数字です。
冒頭で申し上げた今年9月までに日経平均が3万8000円台もありうるという予測の前提の一つが、「もしこの夏に円安進行の事態になれば」という懸念とつながっているのです。
そして三つ目が、地政学的リスクの高まりです。アメリカと中国の対立が深まってきたせいで、今年に入って棚ぼたで中国、台湾への投資分を日本へ振り替える動きが加速しています。たとえば今、熊本と北海道に急ピッチで半導体工場の建設が進められていますが、稼働は先でも当然、建設需要から半導体製造装置の受注まで経済を押し上げる動きが活発になっていきます。
関連して、世界の製造業にもそれまでのサプライチェーンを見直して日本に軸足を移す動きが出てきています。金融緩和、円安、サプライチェーンの見直しの3要因はどれも日本の製造業にとってはラッキーチャンスです。
ですからこの先、決算発表の記者会見の内容が悪くなるはずはない。全体的に明るいニュースが増え、投資家心理も「買い」に向かっていくでしょう。
ということで私は経済評論家の中では楽観的に「年内3万8915円超え」を予測しているのですが、一番の問題はその先です。
日本の上場企業の大半は 「たたんだほうが株主が喜ぶ」会社
よく、長年のゴールを達成した後に虚脱状態になるアスリートがいらっしゃいますが、私は「たぶん日本経済は3万8915円超えをした後に虚脱状態になる」と危惧しています。来年にかけてはコロナやウクライナのようなサプライズなマイナス要因が出現しない限り、日経平均が4万2000円ぐらいまでは余裕でいくと思うのですが、それが長くは続かないという予測です。
先に根拠を示しましょう。投資家界隈で問題になっていることの一つが、日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さです。PBRとは企業の時価総額を純資産、言い換えると会社の資産を全部売り払った後に残る価値で割ったもので、このPBRが1よりも低い会社は株主から見れば「ここでもう活動をやめちゃった方が、利益が出る会社」を意味しています。
今、問題になっていることは東証のプライム市場とスタンダード市場に上場する3274社のうち、過半数にあたる1728社がPBR1倍を割り込んでいることです(2023年6月14日時点)。
直近のデータで銘柄スクリーニングをしてみると、時価総額5000億円以上の超優良銘柄の中にも「会社をやめちゃったほうがお得な」PBR1倍以下の企業が79社あります。
主な企業名を挙げると、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)、三井住友FG、みずほFGの3メガバンクやオリックス、SBIホールディングス(HD)のような金融関連の企業、三井不動産や野村不動産HD、日本郵船や商船三井、鹿島建設や大林組、東レや旭化成、日本製鉄やJFEHD、ホンダにSUBARUといったような会社の名前がずらりと並びます。
ちなみに13日、トヨタがPBR1.03倍と1倍以上のグループに昇格したことが経済ニュースになりましたが、それまでのトヨタも会社をたたんだほうが、株主が喜ぶ側の一員だったわけです。
このことの何が重要なのかというと、これらの会社はお金があるのに投資をしていない会社なのです。経営者目線で考えるとわかりやすいのですが、経済の先行きが不透明で不安な場合、内部留保を増やしてこれから先に備えようとします。何に備えるかというと、従業員の給料が払えなくなることがないように備えるわけです。
日本企業はチャンスがあっても 「投資」を十分に行わない
日本人経営者から見れば「年功序列はもうすたれたにせよ、終身雇用は依然残っていて、正社員は家族のようなものだからそれを守る責任がある」と考えるので、お金を手元にためる性向があるのです。「会社は、本当は従業員のもの」という昔の経営哲学が、上場企業の半数以上でいまだに続いているのです。
これが海外の投資家から見ると不満なところです。日本企業は海外の投資家から見ると現金の保有比率が高いのです。その状況を「目の前にものすごく投資チャンスがあるのに投資をしていない」と受け止めるのです。
わかりやすい例を若干デフォルメしながらお伝えすると、金融業界は少なくともアメリカの場合は、AIの台頭を大チャンスだと捉えています。実際に、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーといった会社では従業員の3分の1がITエンジニアやデータサイエンティストに置き換わり、内部は実質的にIT企業と呼ぶべき状態になっています。
かたや日本のメガバンクはAIやDX化の流れを受けて2017年頃から大規模な行員のリストラ計画を発表して、人員削減には邁進(まいしん)しています。
人件費という固定費を削減するのはリスクにはならないので、経営者も自信をもって進められるのですが、投資の側がわからない。いまだにITは情報システム部が担い、経営の下請け業務の域を出ていません。あくまでデフォルメですが、外国人投資家からはその姿勢が疑問視されます。
そうなると、海外の投資家から見れば日本のメガバンクが成長するイメージがわかない。業績相応の株価しかつかず、結果として日本の銀行のPBRは1を大幅に割り込みます。
自動車会社も同じで、今、業界としては脱炭素とAIのダブルチャンスが起きていて、仕事の領域を「自動車製造」から「モビリティービジネス全般」ないしは「エネルギービジネスへの進出」まで、いくらでも投資を広げられる状態にあります。
にもかかわらず、トヨタが3兆円近い利益をたたき出しているのを筆頭に、自動車業界全般で過少投資の状態が続いています。これが海外の投資家にとっては不満で「利益を出さずに投資を3兆円増やせ」という怒号となり、ひいては株主総会で会長の不信任案がとりざたされるようになっている背景なのです。
まあ、「日本企業なんだし、外国人投資家のためにビジネスをやっているわけじゃないですから」という意見もわかります。
ただそれでも不安なのは、だからといって日本企業が投資を十分に行っていないことであり、そしてもっと恐ろしいことを言えば、それはアメリカ企業も実は同じなのです。
大半の上場企業が 日経平均を「押し下げる」時代が来る
日経平均と同じようなアメリカの株式インデックスがS&P500という上位500社の平均株価なのですが、このS&P500はリーマンショック以降、やはり右肩上がりでの上昇を続けています。
しかしその内訳をGAFAM5社、つまりグーグル、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフトと、それ以外の495社に分けて計算し直すと、前者がめちゃくちゃ成長している一方で、後者の株価は停滞しています。
495社からさらにエヌビディア、テスラ、ネットフリックスを除いたら、状況はもっと悲惨なことになるはずです。
つまりアメリカでも、機会への十分な投資ができていない企業の株価は伸びていない。だとすれば日本企業もマクロ要因で3万8915円超えを達成した後、その後でも成長を続けていくことができるのは、ほんのごく一部のチャレンジングな企業だけということになると予測されます。
具体的にはソニーグループ、キーエンス、ファーストリテイリング、信越化学、東京エレクトロン、三菱商事、伊藤忠、三井物産、任天堂あたりが「日本のGAFAM」を形成して、日経平均の成長をけん引するでしょう。その一方で、リスクをとらない過半数の上場企業群が平均点の足を大きく引っ張る構図が、「日経平均3万8915円のあとの世界」での不安材料です。
少子高齢化、人手不足、脱炭素、コスト高、エネルギー不足、防衛問題――何を考えてもこの先の日本経済には不安材料がめじろ押しだというのも事実です。
一方で、それを乗り越えるためには本質的には投資しかない。それができない企業が居座り続けることができる日本経済の構造自体に、大きな未来の不安材料があるのかもしれません。
●揺れる国際金融システム 欧州、危機時の預金保護に懸念 6/16
3月に米シリコンバレーバンク(SVB)とスイスのクレディ・スイス・グループの経営危機が同時に発生したが、大口預金が多いこと以外には両行の類似点は少ない。今回の対応により米欧の金融システム対策の課題が浮上した。
預金への取り付けが生じた際の標準的手段は「最後の貸し手」である中央銀行による緊急融資だが、その対象は破綻リスクのない銀行に限られる。しかし取り付けが起きやすいのは、銀行が資産運用に失敗して負債(預金、銀行債)の返済が困難になるまさに破綻リスクが顕在化する局面だ。
一部の銀行の問題がシステム全体の危機に発展する可能性を配慮し、銀行が破綻しても預金は安全にする方策として米国は1934年に預金保険制度を導入した。これ以降取り付けも銀行危機もまれな状態が続いたが、2008年にリーマン・ショックが起きる。
家計貯蓄が投資信託に向かうなか、それを管理する金融機関は投資銀行との債券貸借(レポ)取引などを流動資産の保管場所とした。短期資金を調達した投資銀行は住宅ローンなどが根源の長期の仕組み債で運用する。07年以降、住宅ローン不履行の急増に伴い仕組み債の評価が低下すると、金融機関はレポの対象債券の評価額も引き下げ投資銀行への貸出額を減らした。この「ヘアカット」は銀行預金取り付けと同じ効果を持った。レポ取引には保険がなく米大手投資銀行全体が存亡の危機に立たされる。
資産運用の失敗に預金保険の死角が重なった点は共通するが、証券化など21世紀型要因によるリーマン・ショックと違い、23年3月のSVB破綻は新しい要因が不在の19世紀型危機だ。

SVBには法人から25万ドルの預金保険上限を超える大口預金が殺到し、それを長期国債で運用した。だが利上げで長期国債の時価は低下する。時価が下がっても証券を満期保有目的にすれば損失計上を免れるが、預金取り付けが起きれば銀行は証券を売却せざるを得ず、その際に含み損は現実の損失に転換する。
3月の段階で米銀全体に2.2兆ドルの含み損が生じ、米国の1割以上の銀行はSVB以上の含み損を被った。だがSVBの場合、預金の9割以上が保険上限を超えた大口のため、取り付けが殺到して破綻した。
同様の問題を抱える銀行の破綻はあったが、システム全体への危機は防がれている。SVBの全預金を預金保険対象に即決した政策効果によるものだろう。米地銀間ではスワップ取引を用いて全預金を預金保険対象内に収める動きが進む。全預金を保険対象にすべきだという政策論議も盛んだが、1980年代の貯蓄金融機関(S&L)型危機の再発防止という課題がある。
80年代初頭の米国で短期金利が大幅に引き上げられた際、預金を住宅ローンなど固定資産に回していたS&Lは、投資信託に流れる家計貯蓄を引き留めるため預金金利を引き上げた。他方、住宅ローンの長期貸出金利は決まっているため、預金金利が貸出金利を上回る逆ザヤが生じ、S&Lは経営危機を迎える。ここで一発逆転を狙い危険なデリバティブ(金融派生商品)投機に乗り出したものの失敗し、損失は一層膨らんだ。
この問題では預金保険の弊害が出た。大幅な預金金利上げやデリバティブ投機に家計は不信を抱いたはずだが、預金が保証されているため行動しなかった。保険対象外の大口預金があったなら、その引き出しが銀行に警告を与えたはずだ。
今回のSVB問題では保有証券の含み損と大口預金が結び付く危険について米国の監督は不十分だった。預金保険の適用拡大で危機を抑えたのだ。S&L危機を教訓に、今後は中小を含めた銀行の監督体制を大幅に強化する必要がある。

米国と同時に銀行危機を迎えた欧州では、リーマン危機の余波の欧州金融危機をきっかけに銀行監督体制は大幅に強化された。司令塔を欧州中央銀行(ECB)に統一したユーロ圏では今回問題が具体化していない。他方でクレディ・スイスが、スイス政府の監督下で破綻回避のためにUBSに買収された事件はユーロ圏にも衝撃を与えた。
リーマン危機後にバーゼル銀行監督委員会で進められた銀行改革は、金融システムに影響力を持つ銀行に焦点を当てながら、「ベイルアウト(第三者による救済)」でなく「ベイルイン(当事者による救済)」により銀行危機を解決する仕組みを模索した。リーマン危機時のベイルアウトは庶民の税金で金持ちを救済する措置として政治的に不人気で、ポピュリズム政治が台頭する原因にもなった。
加えて欧州には切迫した事情があった。金融危機以前には、欧州連合(EU)の経済圏内では小国の銀行でも全域にわたる活動を展開して問題ないと考えられていた。ところが事業を広げた銀行がユーロ危機で打撃を受け、ベイルアウト能力が国の経済規模に依存する自明の論理が露呈する。
銀行資産が国内総生産(GDP)の8.5倍のアイルランドは、銀行危機が生じると全預金保証を宣言したためたちまち財政危機に陥る。同時に銀行が取り付けへの対応に保有自国債を売却したので国債金利は一層上昇する。ベイルインの確立で財政と銀行のこうした危機連動の再発防止が可能と欧州は考えたのだ。
その具体的方法として、中核的自己資本(Tier1)の拡充に加え、これと預金の間にも劣後債やCoCo債(偶発転換社債)の分厚い防御壁を設けて、銀行の経営危機には防御壁で損失を吸収し、ベイルアウトなしで預金が安全になる仕組みが提案された。クレディ・スイスの救済合併の際に、株式の前に無価値にされた「AT1債」は、この目的でスイスの金融当局が発案したCoCo債だ。
今回のスイスの対応は欧州に2つの衝撃を与えた。第1は同行の経営問題はかねて指摘されていたが、なぜこのタイミングで政府・中銀による緊急対応が必要になったかが不明な点だ。第2は急展開を受けルールに基づかない処理がされたことだ。AT1債無価値化はTier1が7%以下になった時に行われる約定に従わずスイス当局の独断でなされる一方、UBSの買収資産の損失への公的補償というベイルアウト措置が唐突に盛り込まれた。この事件でユーロ圏の金融当局も、銀行危機がベイルインルールに従い処理できるという幻想から覚まされた。
監督は不十分だが預金を保証する財源は十分ある米国と反対に、銀行の監督は十分だが、預金保護にベイルアウトが必要な場合に財源も政治意思も不十分なのが欧州だ。特に小国、中でもGDPの5倍超の銀行資産を抱えるスイスなどは、銀行資産が毀損した場合の脆弱さを抱える(図参照)。
   図:主要国の銀行総資産のGDP比率
ユーロ圏でも域内共通預金保険制度が議論されたが政治意思の欠如から実現していない。欧州で深刻な銀行危機が起きた場合、大銀行経営者と中心政治家が緊急会合を開き大型ベイルアウト策をまとめる以外に解決法があるかは不確かだ。
●経済再開後も高まり続けるサンフランシスコのオフィス空室率 6/16
米国のオフィス市場が軟調に推移している。中でもサンフランシスコはかなり厳しい状況にある。図表1はサンフランシスコのオフィスの空室率の推移を示している。2023年3月には空室率は26%まで上昇している。リーマン・ショック後の動きを振り返ると、2010年の17%程度から2019年には5%を切る水準まで低下してきた。米国全体の景気回復や、サンフランシスコに隣接するシリコンバレーに本拠を構えるハイテク産業の勢いを反映している。2020年からは、新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウンや在宅勤務の広がりにより、オフィス需要が急速に減少し空室率は一気に上昇した。
しかし、コロナ禍を脱した景気回復後も、空室率は上昇を続けている。在宅勤務が定着したことにより以前のようなオフィススペースが必要でなくなった企業が、リースを打ち切ったりリース面積を縮小したりする動きが継続しているからだ。また、コロナ禍によってeコマースがさらに普及したこともあり、ショッピングモールなどの商業用施設にも逆風が吹いているといわれる。在宅勤務の定着やeコマースの一段の拡大は商業用不動産市場にとって構造的な問題であり、かつてのようなオフィスや商業施設への需要が戻ってくることは考えにくい。
図表2は商業不動産ローンの満期の分布を示している。米国の不動産向け与信総額は4.4兆ドルとされるが、2023年の返済額は全体の16%に当たる7,280億ドル、2024年は15%の6,596億ドルと、ここ1〜2年先の間に大規模な返済が予定されている。空室率の上昇による賃料の減少や2022年からの急速な利上げにより、借り換えができないビル・オーナーも少なからず出てくる可能性がある。こうしたオーナーへのローンが銀行にとって不良債権になる恐れが強まっている。
欧米における銀行破綻による金融市場の激しい混乱や不安の高まりは一旦、沈静化している。しかし、今年から来年にかけて商業用不動産への融資比率が大きい米国の中小規模の銀行には相応のリスクがあることは認識しておくべきだろう。
●米の年内2回利上げ確率6% 市場がFRBに反旗 6/16
市場が米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締め姿勢に異を唱えている。まず14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル議長の会見を受け、「債券王」の異名をもつ著名投資家のジェフリー・ガンドラック氏が米経済専門テレビで「FRBはもはや利上げできない」と断言した。高インフレは順調に収束しつつあり、これ以上利上げは景気後退や金融危機を誘発しかねないとの懸念がこの発言の背景にある。
更に米ゴールドマン・サックスをはじめとする大手金融機関が相次いで、「年内あと4回のFOMCで利上げは1回のみ」との予測を発表した。米金利先物の値動きから米金融政策を予想する「フェドウオッチ」でも、今年12月時点の政策金利を5.50〜5.75%(利上げ2回に相当)とみる確率は6%程度にすぎない。
FRBの公的予測に対して、市場がこれほど間髪入れずに「不同意」の姿勢を示すことは極めて珍しい。「FRBを信じるな」がニューヨークの金融・資本市場関係者の間で合言葉になるほどだ。
かつては悪材料が出てもハト派姿勢で相場を支える「パウエル・プット」で市場に安心感がもたらされていた。「FRBには逆らうな」が共通認識だったころとは隔世の感がある。FOMC内部でも今後の利上げに対する意見が割れているだけに、市場は金融当局幹部の発言に反応して動く局面が増えそうだ。
利上げに積極的なタカ派として、セントルイス連銀のブラード総裁、クリーブランド連銀のメスター総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁、リッチモンド連銀のバーキン総裁、ダラス連銀のローガン総裁、FRBではウォラー、ボウマン両理事の名前が取り沙汰される。
対してハト派陣営には、FRBで次期副議長に指名されているジェファーソン理事、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁、シカゴ連銀のグールズビー総裁、ボストン連銀のコリンズ総裁らが挙がる。
このほかニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁、FRBのクック理事とバー金融監督担当副議長は中庸派とされる。今回は6月のFOMC議事録も常になく注目度が高まっている。
日銀も黒田東彦総裁時代にはニューヨークの市場関係者から「永遠のハト」と呼ばれていた。16日の金融政策決定会合で大規模緩和を維持した植田和男総裁体制の日銀がハトから変身するのはいつのことだろうか。これも、ニューヨーク市場の関心事である。
●FRBの利上げ終了、なお視野に 6/16
投資家は、予想外の新たな現実に直面している。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを打ち止めにできると見なす時期が早まれば早まるほど、将来的に利下げをする必要は低くなる。
FRBの引き締め政策の終息は、まだ到来していないとしても、もう目前に迫っているようだ。FRB政策当局者は14日、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを5〜5.25%で据え置くことを決定した。利上げの見送りは昨年1月の連邦公開市場委員会(FOMC)以来。ただし、多くの予想を超える、さらに0.5ポイントの利上げを年内に行う見通しを示した。しかし、次の物価統計でインフレが一段と低下する兆しが表れれば、それも疑わしくなる可能性がある。
もっともFRB当局者は、すぐに金利を現在の水準から大幅に引き下げることは考えていない。当局者は現在、2024年末時点の金利が4.5〜4.75%になると予想している。投資家は、この高金利が長期間続くとの見通しが現実化する可能性を認識し始めている。
FRBの過去の利上げでは、しばしば雇用市場が損なわれ、リセッション(景気後退)を招くことなり、FRBはすぐに方針を覆し、金利を大幅に引き下げる結果になっている。投資家は、今回もそのパターンになると考えていた。シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破綻した直後の3月のある時点では、FRBが年内に政策金利の誘導目標レンジを3.75〜4%またはそれ以下に引き下げると予想されていることを金利先物は示していた。一方、現在の予想は、金利据え置きと0.25ポイントの利上げでほぼ割れている。
しかし、雇用市場は多少軟化しているとはいえ、失業率は低く、未充足求人件数は高い水準にあり、依然かなり健全に見える。その状態が続く限り、たとえインフレが大幅に低下したとしても、政策当局者は利下げの必要性をあまり感じないだろう。金利先物は現在、FRBの年末時点の金利誘導目標レンジが現在のままほぼ据え置かれることを示唆している。
この期待の変化は長期金利にも影響を及ぼしている。10年物米国債利回り(理論上、投資家の向こう10年の短期金利予想をおおむね反映)は足元で3カ月物米財務省短期証券の利回りを上回るペースで上昇している。インフレの低下が実際に続き、雇用市場も好調に推移し、この傾向が持続すれば、長期金利が短期金利を上回る可能性もある。つまり、通常のように景気後退によって逆イールドが解消されるのではなく、景気後退の回避によって逆イールドが解消されるということだ。
当然ながら、これは経済にとっては大きな朗報だ。しかし投資家にとっては、高金利の長期継続はもっと複雑な意味を持つ。
●ビットコインが2万5000ドル割れ、FRB金利見通しで3月以来の安値 6/16
暗号資産の価格は、米連邦準備制度理事会(FRB)の発表を受けて、6月15日朝にさらに下落した。ビットコインの価格は、3月以降で初めて2万5000ドルを割り込んだ。
ビットコインの価格は米東部時間の14日深夜に3%急落し、15日の早朝になっても下落が止まらず、午前9時には前日から約1000ドルの下げとなる2万4800ドル付近に下落した。他の暗号資産もこれに続き、イーサは6%、カルダノは6%、ソラナは5%下落したとMarketWatchは報じている。
今回の下落は、FRBが最新の会合で、過去12カ月間に9回実施した利上げを一時停止する一方、今年後半には最高金利が5.6%に達し、これまでの予想の5.1%を上回るとの見通しを示したことで始まった。
FRBの見通しは、市場にとって全体的にはポジティブなものだが将来的には未知数な部分もあり、2つの大手の取引所が当局の訴訟に直面している暗号資産業界に試練を与えている。バイナンスとコインベースは、米証券取引委員会(SEC)から提訴され、ロビンフッドなどの複数のプラットフォームも、特定のコインの取引を停止した。
バイナンスコインは、SECからの提訴で始まった下落を続け、15日朝にはさらに5%下落した。もう1つの犠牲者であるコインベースの株価も3%下落した。
ビットコインの価格は、3月中旬にも約2万ドルに急落したが、その際も金利の引き上げがきっかけとなり、暗号資産に特化した金融機関であるシルバーゲート銀行の破綻によってさらに悪化していた。シリコンバレー銀行も同時期に破綻し、連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれていた。しかし、その後は、米国の銀行システムに対する信頼が揺らぐ中ビットコインや暗号資産の価格は上昇していた。
15兆ドルの資産を持つ世界最大級の資産運用会社のブラックロックは、ビットコインETFの申請を近く行う予定であると、暗号資産関連のニュースサイトCoinDeckが15日に事情に詳しい人物の話を引用して報じた。このファンドが、スポットを対象とするものか、先物を扱うものなのかは不明だが、CoinDeskによると、SECはビットコインのスポットETFの取引申請をすべて却下している。フォーブスはブラックロックにコメントを求めている。 
●26年前、現みずほ信託銀行の「取り付け騒ぎ」が隠蔽されていた…! 6/16
かつて大手信託銀行の窓口に預金を引き出そうと顧客が殺到したことは、あまり知られていない。日本発の世界金融恐慌を食い止めようと、現場の記者は苦悩した。知られざる金融危機の内幕に迫る。
銀行に長蛇の列が
今から26年前の'97年11月26日、安田信託銀行(現みずほ信託銀行)の各支店の前には、一刻も早く現金を引き出そうと預金者が押し寄せていた―。
いわゆる「取り付け騒ぎ」である。
当時、同行の役員だったA氏がこう振り返る。
「その前日(25日)に安田信託は500億円の第三者割当増資を発表しました。資本増強となり、これ自体は健全なニュースのはずでした。それと同時に、本店の売却も進めるという経営合理化策も合わせて発表した。
ところが、これに関して大阪のタブロイド紙が本店まで売却するほど資金繰りに窮しているかのように捉えて『安田信託倒産か』と書いた。
いくら前向きな方策だと説明しても、メディアはわかってくれない。もちろん、不良債権問題を抱えていた我々に責任があるのは当然です。ただ、金融不安を防ぐために、当時の銀行が必死でやっている対策がきちんと評価されないのは、精神的に厳しい状況でした」
そして、安田信託への信用不安から、取り付け騒ぎが発生する。
本店に詰めていたA氏の元に、各地からどんどんと情報が入ってきた。
「札幌・大通にあった北海道拓殖銀行の対面に安田信託の支店がありました。その頃、すでに破綻していた拓銀で預金を解約したお客さんが、そのまま安田信託の支店に並んで預金を引き出すという状態で、大通に長蛇の列ができた。これは大変なことになったと思いました。
別の支店では、並んでいるお客さんに、他行の営業マンが『ウチなら安全なので、口座を作りませんか』と営業をかけていた。もうなんでもありの状態でした。
なぜ、報じられなかったのか
東京・八重洲の本店にも預金解約を求めて行列ができましたが、慌ててすべてのお客さんを行内に入れました。資金不足になっていると思われてはいけないので、『おカネはたっぷりあります。皆さんの預金は安全です』と行員全員で呼びかけていました。とにかく、パニックにならないかだけが気がかりでした」
安田信託の各支店に押し寄せた、大勢の顧客。しかし、この取り付け騒ぎがメディアで報じられることはなかった。
なぜか。話はその2年前に遡る。
'95年7月31日、東京・日本橋に本店を構えるコスモ信用組合に預金を解約する顧客が早朝から詰めかけ、総預金の14%にあたる約630億円が一日で引き出された。
当時、日経新聞の記者として金融業界を取材していたジャーナリストの磯山友幸氏が振り返る。
「コスモ信組は、他の金融機関より利率の高い『マンモス定期』で預金を集めていました。ところが、莫大な金額の不動産向け融資が焦げ付いており、7月29日に毎日新聞が『自主再建困難』と報じたことで、取り付け騒ぎに発展しました。
大都市での大規模な取り付け騒ぎは、1927年の昭和金融恐慌での東京渡辺銀行以来のことでした。戦後初の取り付け騒ぎの発生で同日夜、監督官庁の東京都は同信組の事業の継続が困難になったと、業務停止命令を出した。
当時の記者にとって、日本で取り付け騒ぎが起き、小規模とはいえ、金融機関が潰れるなんて想像もしていないこと。これ以後、記者の側も『報道で信用不安が広がれば、銀行が本当に潰れる』と慎重にならざるを得なくなりました」
山一證券の破綻が引き金
当時の日本の金融業界はバブル崩壊後から引きずる不良債権の処理をめぐって混乱の極みにあった。コスモ信組に続き、翌月には兵庫銀行と木津信用組合が経営破綻。翌年には太平洋銀行と阪和銀行が破綻した。
そして'97年11月24日、4大証券会社の一角だった山一證券が自主廃業を発表する。当時、取材にあたった金融専門誌の記者が述懐する。
「山一證券は旧安田財閥の流れを引く企業集団『芙蓉グループ』と親密でしたが、その中核企業である富士銀行も山一證券を支えきれなかった。
すると、同じく芙蓉グループの一員である安田信託のことも富士銀行は支えられないのではないかと、不安が広がりました。金融機関がバタバタと倒れている時代です。
次に潰れるのは、安田信託ではないかと疑心暗鬼になり、取り付け騒ぎの標的になったのです。
しかし、その様子が報じられることはありませんでした。報道規制というのはありません。ただ、金融当局からは、『書いてもいいが、その記事が日本発の世界金融恐慌の引き金を引くことになるかもしれない』と釘を刺されたのです。
いま現場で起きていることを伝えるジャーナリズムの役割は大事ですが、一方で、いたずらに金融不安を煽ることはしたくないと苦悶したことを覚えています」
実際に破綻するのならともかく、まだ財務的に健全さを保っているにもかかわらず、メディアの報道によって倒産に追い込むことだけは避けなければならない。しかし、読者に向けて金融機関の危機的な状況は伝えなければいけない。その間で記者たちは葛藤した。
責任と報道の葛藤
『週刊ダイヤモンド』の記者として'90年代の金融業界を取材し、後に同誌の編集長も務めた帝京大学経済学部教授の辻廣雅文氏はこう語る。
「当時は非常に影響力の大きかった大手メディアの人たちが安田信託の取り付け騒ぎなどに際して、一定の報道自粛を行ったのは事実です。
『あえて書かなかった』と後に書いた記者も複数います。その理由は、報道を通じて『この銀行は危ない』と多くの人が信じると、預金の取り付けが起こって、破綻が現実のものになってしまい、他行にも波及して金融危機が発生しかねないからです。
記者は、危ないと噂される金融機関が破綻するスクープをものにしたいが、憶測記事が端緒となって金融機関の破綻を誘発してしまうと、報道機関はその責任を負うことはできません。
'90年代後半は自分たちの報道が金融システム、ひいては日本社会全体を壊してしまうかもしれないという異様な緊張感がありました」
かくして、安田信託の取り付け騒ぎは「隠蔽」された。報じられれば、倒産に追い込まれたかもしれない。その場合、その後の金融再編の構図も違ったものになっただろう。前出のA氏が言う。
「不良債権問題が明るみに出て以降、ようやく私の緊張が解けたのは、第一勧業銀行と富士銀行の信託子会社と安田信託が一緒になったときでした。
あれから四半世紀が経ちましたが、悪夢にうなされなくなったのは、つい最近のこと。当時は新聞で『安田』の文字を見るだけで心臓が早鐘を打ったものです」
●SNS時代に「銀行の取り付け騒ぎ」が起こったら、日本経済は崩壊する 6/16
「26年前、現みずほ信託銀行の「取り付け騒ぎ」が隠蔽されていた…!」では、安田信託銀行(現みずほ信託銀行)で1997年冬に起こっていた取り付け騒ぎについて記した。この騒ぎが明るみにならなかったのは、世界的な金融危機に発展するかもしれないと警戒した取材記者たちの判断があった。ではSNS時代の今、同じような事態が発生したらどうなってしまうのか――。
予測不能の時代に
'90年代にはメディアが報道を自粛すれば、「取り付け騒ぎ」はなかったことにできた。だが、令和のネット社会では、こうはいかない。金融機関に人が押し寄せれば、たちまちSNSで拡散され、世界中が知るところとなる。
小説『Disruptor金融の破壊者』で、地方銀行の取り付け騒ぎがSNSを通じて広がる様子を描いた作家の江上剛氏がこう話す。
「地方銀行では、コロナで打撃を受けた中小企業向けの実質無利子無担保のいわゆる『ゼロゼロ融資』が終了したことを踏まえ、不良債権が増え始めている可能性があります。
こうした状況が明るみに出て、不安を感じた取引先が預金を相次いで引き揚げるようになれば、SNSであっという間に拡散され、一般の預金者の取り付け騒ぎに発展するでしょう。ネットバンキングの普及で、窓口に足を運ばなくても預金を引き出せるようになったことも混乱に拍車をかけるはずです。
SNSの時代になり、金融機関にとって、危機がどこから訪れるか予測不能の時代になったことは間違いありません」
たった2日で経営破綻
実際に米国では、今年3月に中堅銀行のシリコンバレーバンクが突然、経営破綻したことは記憶に新しい。
「シリコンバレーバンクは、預金の大半を企業への融資ではなく、債券で運用していました。米国では急激な物価高を抑えるために、FRB(米連邦準備制度理事会)が急ピッチで利上げを行いました。その結果、債券価格が下落し、含み損を抱えることになった。それを補うために、増資をするとアナウンスをしたところ、『シリコンバレーバンクは危ない』という噂が広がって一気に資金が逃げてしまった。
信用不安から取り付け騒ぎが起こり、資金繰りがつかなくなって破綻するという古典的な銀行倒産の形ではありますが、従来と異なるのは、その急激なスピードです。
わずか1日で預金総額の4分の1に近い420億ドル(約5兆8500億円)が流出。その背景にあるのが、SNSによる噂の拡散と、ネットバンキングを通じた預金流出です」(前出・辻廣氏)
その結果、シリコンバレーバンクは噂が広がり始めてからわずか2日間で破綻に追い込まれた。
こうしたケースは対岸の火事ではない。慶應義塾大学経済学部教授の櫻川昌哉氏は、日本の地銀の財務を不安視する。
「地銀は日本銀行の金融緩和による国債購入で生まれた余剰資金で、相当の額の米国債を購入しているとみられます。米国のハイペースの利上げで、米国債価格は下落しているため、地銀はかなりの含み損を抱えている可能性がある。
しかし、メガバンクと違って、地銀はこうした実態を積極的に細かく公開していない印象です。地銀の含み損に対する懸念が疑心暗鬼を生んでSNSなどを介して広まった場合、シリコンバレーバンクのような取り付け騒ぎに発展する可能性はゼロではないと思っています」
現代の取り付け騒ぎとは
もちろん、日本の金融機関の場合、利息のつかない決済用預金は全額、それ以外の預金は1000万円とその利息までが預金保険制度で保護されている。だからといって、取り付け騒ぎが起こらないと考えるのは早計だ。
「仮に500万円を預けていた地銀が破綻した場合、その預金は保護されますが、引き出そうとしても、預金保険機構から支払われるまでにそれなりの時間がかかるとみられます。
手元の生活資金や事業資金に余裕がない人にとっては、短期的にかなりの苦痛を強いられる。だったら、経営不安への懸念が広がった時点ですぐに預金を引き出して、他の金融機関に預け替えるという判断をする人が数多く出てくるはずです。
ネット社会になり、口座から口座に預金を移すことは簡単になっています。令和の時代の取り付け騒ぎは、ある意味でバーチャルな出来事となり、かつてのように店頭に人が殺到するようなものにならないかもしれません」(櫻川氏)
さらに地銀を危機に陥れるのが、日銀の利上げだ。世界各国で物価高に対処するため、利上げが行われているが、日銀は現状、金融緩和を続け、長期金利をゼロ近傍で維持するために莫大な量の国債を購入し続けている。
1行でも倒産したらヤバい
「1ドル=140円の円安水準が定着しつつありますが、実態はもっと深刻です。円の本当の実力を測る『実質実効為替レート』は今年に入ってから、'70年と同じ水準になっています。
当時は1ドル=360円。日本円の本当の実力は、1ドル=360円まで下がっていると見るべきです。日本は多くの食料や資源を輸入に頼っているので、インフレが起こらないはずがない。そうなると、諸外国と同様、物価高を抑えるために、利上げせざるを得なくなります。
その結果、銀行が保有する日本国債の価格が下落して膨大な含み損が発生し、体力のない地銀から経営不安に直面します。1行でも倒産すれば、誰もが『次はどこだ』と疑心暗鬼になり、金融危機が広がるでしょう」
かつてと違い、ネット社会では人の口に戸は立てられない。新しい取り付け騒ぎはある日、突然、発生するかもしれない。
●なぜ日銀は政策修正をしないのか〜大規模な金融緩和策維持 6/16
日本銀行は金融政策を決める会合で、大規模な金融緩和策の維持を決定。円安・物価高の傾向が止まらず、さらに賃上げの動きも高まる中、なぜ日銀は政策修正をしないのか。植田総裁の会見を経済部・宮島香澄解説委員が読み解きます。
──植田総裁の2回目の金融政策決定会合と記者会見でしたけれども、どんな内容だったでしょうか。
印象としては落ち着いた会見だったと思います。
前回、初めての会見の時は、その段階でも植田総裁はかなり慎重な発信はされていたんですけれども、その前の黒田総裁の時にいろいろサプライズがあったということもありまして、聞いている記者や関係者は、もう今にも修正があるんじゃないかという構えで聞いていたんですね。そこに大きなずれがあったんですけれども、今回はその後のコミュニケーションが多分うまくいっていて、大方の人が今回は政策の変更はないだろうと思っていました。
お互いに共通の前提の中で会見が進んでいますので非常に落ち着いた印象を受けました。
──会見のポイントとしてはどうでしょうか。
会見の内容をまとめますと、まず、これまでの大規模な金融緩和策を維持しました。
そして日銀の声明文に、これまでと全く同じように「不確実性が極めて高い中、粘り強く緩和を継続する」ということが書かれました。これは今までと変わらないんですけれども、引き続き不確実性と粘り強く緩和するということを継続しています。
それから物価安定の目標達成については、「なお時間がかかる」というふうに言いました。植田総裁は9日に国会でこの言い方について、「まだ少し間がある」というふうに言ったんですね。関係者の中では、これはもしかして少し認識が変わったんではないかという見方もあったんですけれども、今回の会見の中では、前と同じように「なお時間がかかる」と言っていますので、やはり粘り強く金融緩和を続けるということを示しています。
また今回、アメリカのことで質問がありました。14日、アメリカで金融政策の決定がありまして、利上げはしなかったんですけれども、その先に、まだこの先さらに利上げがあるんだなというところが注目されました。つまり、アメリカは、思ったより景気は強いのかもしれない、その分さらに引き締めをする可能性があると。引き締めをすると、その先にマイナスの影響が出てくる可能性があるということが14日も取り沙汰されていました。
それに関しまして、植田総裁もアメリカの利上げの影響について「マイナスが全部出尽くしているわけではない」ということを話しました。
それから、これまで金融政策に関しては副作用がずっと話題になってきたんですけれども、これについては12月の政策の修正もありまして、「市場機能は改善した」と話しました。ただ、これに関しては、まだこれも不確実性があるので、状況を見守るということです。ただ少し改善したので、副作用のためにすぐに金融緩和を変えなければいけないというプレッシャーがかかる状態でもなくなったのかなと思います。
それから会見の途中ですけれども円安が進みました。
──会見終了時は141円18銭から大体19銭ぐらいですね。
元々今回、政策修正はないだろうということで、15日も1回、円安が進んだんですけれども、一旦ちょっと円高に戻って、16日の昼ごろの政策の決定を見てからは、会見中もどんどん円安が進んでいました。これは皆さんの想定通りで、当面、金融政策は変わることはないだろうと。それで円安に進むというのは、素直に受け止めた結果だと思います。
──想定通りでサプライズなしということで、植田新体制のこの慎重なスタートということだと思うんですけれども、日本の市場参加者にも伝わっているということなんでしょうか。
そうですね、植田さんは会見でもかなりコミュニケーションに気を遣っていると思います。いろいろな質問に関して、多少長くなりますがというようなことをおっしゃりながら丁寧に説明をされているので、私が聞いていても非常に理解しやすいと思っています。
──そうはいっていても、また円安も進んでいますし、食料品などの値段もどんどん上がっている。記者会見の中でも物価の番人という言葉も出てきていますけれども、そういった今の状況を日銀に止めてほしいといった声もあるのではないでしょうか。
まさに問題とされている円安物価高はどんどん進んでいますので、質問にも出ました。なぜ政策修正をしないんですかということを、お話ししたいと思います。
まず、物価の安定と経済成長のどちらを優先するかという議論が世の中にある、タカ派ハト派と言われているんですけれども、植田さんは、それよりはもっと現実的に状況を見るタイプなんだと思うんです。つまり、まず政策ありきで物事を考える、自分のロジックありきなのではなくて、ちゃんと景気の循環メカニズムを見て、それをしっかりと確認しながら慎重に金融政策をしたいんだとみています。
特に日銀は、金融政策を修正したら、それが失敗だったとしても、やり直すっていう手があまりないんですね。今、金融政策を動かした時、失敗が許されないっていう気持ちはすごくあるのだと思います。政策ありきではなくて、一つ一つ丁寧に説明をしながら、景気や物価や賃金の状況をちゃんと見て、政策をやっていくというスタンスだと思います。
植田さんは5月19日の講演で、市場のある質問に答えました。なぜ物価上昇が2%をここのところずっと超えているのに緩和を続けるのかと。
これについてのお答えは、「持続的、安定的な目標の実現を目指しています」と。まだその状況ではないんですという説明をされています。
それから、賃金のベアが大きく上昇して目標の達成の可能性が高まっているんじゃないですか、だったら少し動いてもいいんじゃないですかという質問が世の中にあるんですけれども、これに対して、「賃上げの動きについて、中小企業も含めて今後も継続し、定着していくのかを見極める必要がある」と言っています。
つまり、確かに大企業などでは大きな賃上げも見られるんですけれども、これが中小企業までちゃんと浸透して、全体が底上げされているのかということは、まだまだだという認識を持っていると思います。
この賃金情報については、16日の会見でも、「賃金の決定する行動には変化が出てきた」と。賃金をちゃんと上げないと、人が来てくれませんよっていうことで、動きは変わってきたと。けれども、これが景気と賃金と共に上昇する状態になっているか、好循環についてはまだ時間がかかるということですね。まだ確実でない部分がいろいろあるということです。
今回の声明文でも「内外の経済や金融市場を巡る不確実性が極めて高い」とあります。
──具体的には、金融政策が修正できない理由というのはどんな心配があるんでしょうか。
四つほどあげてみます。
まず、1「地方銀行の経営の状況」があります。日本はこの春から、新型コロナウイルスの時にやっていた企業支援の、いわゆるゼロゼロ融資という、実質的に無利子で無担保の融資の元本の返済がいよいよ本格的に始まっています。
そうすると、その中小企業向けの融資は不良債権になる部分も結構出てくるかもしれないということで、地方の銀行、金融機関が心配されているんです。この段階で金利を上げますと、債券を持っている地方の金融機関にとって大きなダメージになるということで、これはやはり心配なんです。地方の金融機関の債権の状況は、金利がどうなるかでかなり慎重に見ていく必要があると認識していると思います。
それから2「総選挙の可能性」です。これにつきましては、15日に岸田総理が、今国会中に解散に踏み切ることはないと話しました。ただ、いつになるか。日銀と政府はそれぞれ独立しているんですけれども、影響を与えますので、日銀が総選挙が近いという時に金融政策を大きく動かしたということは今までもないんです。昨日の今日ですから、一方で、今ないということで、9月に総選挙かもしれないなら、一部の人からは政策修正をするなら7月がいいんじゃないかという声はあります。
ただ、今日16日の総裁の会見を見たところでは、すごくすぐにやるつもりには私は見えませんでしたけれども、でも総選挙も影響はあります。
それから会見で何度も出ました、3「アメリカやヨーロッパの情勢」です。アメリカは去年からすごいペースで利上げをしてきて、これは1980年代以来の上げ方なんです。今までアメリカで大きく金利を上げた時には、その後しばらくして、大きな不況になったことが何回かあるんです。それは大変なリスクだと捉えられています。出てくるまでにはタイムラグがあるということで、16日の総裁の会見でも、しばらく先の状況に関してまだ不確実性が高いんだという話が繰り返し出てきました。
今回、一旦アメリカは金利を上げるのを止めたのですが、その後また上げるという情勢なので、経済がその先、悪くなる可能性も出てくるわけです。こういったことを慎重に見極めなければいけないということです。
四つ目は、4「アメリカの銀行」の話です。3月以降、アメリカの金融で破綻があったりして金融不安がありましたけれども、これを受けてアメリカの金融の当局が規制と監督を今までよりも厳しくする方針になっています。金融当局が厳しくすると、銀行の貸し渋りなどが考えられ、銀行で取り付け騒ぎになる可能性もゼロではありませんし、景気にとってはマイナスの影響です。こういった海外のこの二つの不安というものはこの日の会見でも出てきました。
日本の状況や、こういった心配があるので、物価や円安で、政策をすぐに動かしてほしいという声があったとしても、そう簡単には踏み切れないということなんです。
──これだけの理由があってなかなか動きづらいということなんですね。
次の7月の決定会合では、展望リポートで先の見通しが出ます。この数字の内容によっては、日銀のその先の行動について発言があるかもしれないということで、注目したいと思います。
●日銀 大規模な金融緩和の維持を決定 外国為替市場ではやや円安に 6/16
日本銀行はきょうまで行われていた会合で、大規模金融緩和の維持を決めました。
日銀はきょうまでの2日間、金融政策決定会合を行い、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導することを柱とする、現在の大規模な金融緩和策を維持することを全員一致で決めました。
植田総裁はこの後会見を行い、決定の背景などを説明します。
大規模緩和の維持をうけて、年内に2回の利上げが想定されるアメリカとの金利差が拡大していくとの思惑から、東京外国為替市場では一時、1ドル=140円台後半まで円安が進みました。
また、東京株式市場では、緩和維持の安心感から午後に入って買い注文が集まり、日経平均株価は値上がりに転じて推移しています。
●物価高は“大きな負担” 日銀は大規模金融緩和の継続決定 6/16
日本銀行は、きょうこれまでの大規模な金融緩和を継続することを決めました。植田総裁は会見で大規模な緩和を続ける意義を強調しました。
日銀 植田総裁「粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で2%の物価安定目標を持続的に実現していく方針」
日本銀行は、きょうまでの会合で現在の大規模金融緩和を継続していくことを全員一致で決めました。
足下では、消費者物価指数が前年同月比で3.4%上昇するなど、日銀が目標とする2%を上回る物価高が続いていますが、植田総裁は物価高について「国民の大きな負担になっているということは認識している」と話しました。
そのうえで、現在の物価高は一時的なもので持続的安定的なものではないと、金融緩和を続ける意義を改めて強調しました。
●ECBの7月利上げもほぼ確定でユーロ高が進んだが、円独歩安で高値更新 6/16
昨日はECB会合であった。実に予想通りで25ベーシスの利上げとなった。カナダとオーストラリアの追加引き締めの様子を見て、世界的に利上げバイアスが高まっている。前日のFOMCでも市場予想を超える年内あと50ベーシスの利上げを示唆した。
そもそもインフレ率の低下がハッキリしていない欧州では、利上げを打ち止めする根拠に乏しかった。それでラガルド総裁も利上げ打ち止めは飛んでもないことだと一蹴している。それで7月利上げも確定。わかっていたことではあったが、ユーロの通貨価値は上昇した。
今週に入ってユーロは強いぶくんでいたのだが、ECBの利上げ発表とラガルド総裁の発言を契機にさらに上がった。ユーロドルは1.09台の乗せてくるのは仕方のないことだとしても、ユーロ円もアジア時間に152円台に乗せてきたのを皮切りに153円台のミドルを越えてきたのだ。このまま154円台もつけてしまうのではないかと思うほど、緩みはまったくなかった。
ユーロが全面高の中で私もユーロドルを何度かロングで攻めてみたのだが、なかなかうまく持っていられない。基本がユーロブルの相場展開になってしまっているのだから、ポジションがそちら方向にたまってしまっているのだろう。すぐに調整的な売りも出てくる。根本にはドル高も怖いのだ。
それでも今しばらくはユーロ円が上がる方向の展開が続くだろう。それはロスカットに拍車がかかっているからでもある。ユーロ円が上げていく形で、ドル円が買われたり、ユーロドルが上がったとを繰り返すのかもしれない。
●政府「iPhoneもサイドローディング対応を」、モバイル市場の寡占解消へ向け 6/16
16日、政府は「デジタル市場競争会議(第7回)」を開催した。「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」として、スマートフォンのアプリストアやOSなどの環境に関して取りまとめた資料が公開されている。
本稿では、公開された資料に基づき、取りまとめられた内容の一部を紹介する。
アプリストア
   決済・課金システムの利用義務付け
「App Store」「Google Play」を利用してアプリ内コンテンツなどを販売する場合は、アップルやグーグルが提供する決済・課金システムの利用や、手数料の負担が必要になる。これに関して、多様な料金プランやサービスを提供できないといった課題がある。
デジタル市場競争会議では、こうした制約は「イノベーションによる新たな価値提供と競争の減退につながり得る」と指摘。
対応の方向性として、「一定規模以上のアプリストアを提供する事業者が、開発者などに対し、自社の決済・課金システムの利用を任意のものにすること」などが挙げられている。
   アプリ内における情報提供の制限
アップルやグーグルは、「App Store」「Google Play」を利用する開発者に対し、アプリ内における情報提供などを制限している。
たとえば、アプリ外でのデジタル商品購入などは案内できない。これについてデジタル市場競争会議では、「ほかの事業者が提供する決済・課金サービスの取引機会が著しく減る」と問題視する。
対応の方向性としては、「一定規模以上のアプリストア上で獲得したユーザーへのさまざまな情報提供について、開発者がアプリストア側への対価を支払わずに情報を提供できるようにすること」などが挙げられている。
   アップルにサイドローディング求める方針へ
iPhoneでは、App Store以外の経路を利用したアプリのインストール(サイドローディング)が、原則として認められていない。アプリの代替流通経路が制限されている状況であり、デジタル市場競争会議では「さまざまな競争上の問題が生じている」とする。
対応の方向性として、一定規模以上のOSを提供する事業者に対し、アプリの代替流通経路への対応を義務付けることなどが挙げられている。
なお、セキュリティやプライバシーの確保も必要とされている。事務局では、「App Storeを通じて提供される代替アプリストア」「iPhoneにプリインストールされた代替アプリストア」「ブラウザ経由で提供される代替アプリストア」のほか、ブラウザ経由でのサイドローディングを検討している。
プリインストールアプリ
iPhoneやAndroidスマートフォンでは、アップルやグーグルによるブラウザなどがデフォルトとして設定されている。利用者に対するアンケート結果では、そうしたデフォルト設定が変更されにくい傾向があるという。
デジタル市場競争会議では、「デフォルト設定のサービスが競争上優位となり、サードパーティが不利な状況になる」と指摘。
利用者がデフォルト設定を容易に変更できるシステム整備などを事業者側に求めていくことが、対応の方向性とされている。
UWBやNFCなどへのアクセス
アップルは、近接デバイスを認識する独自のU1超広帯域チップ(UWB)を所有しており、2019年にiPhone 11へ導入。その際、ある開発者からのUWBへのアクセス要求を認めなかった。その後、2021年〜2022年にアクセスが認められたが、数年にわたってアクセスに差異が生じる結果となった。
また、iPhoneではNFCの技術仕様がオープンになっていない。そのため、iPhoneのNFCチップにアクセスする場合、必ずApple Payを利用する必要がある。
デジタル市場競争会議では、OSなどの機能について、「提供事業者と同等の機能へのアクセスを、サードパーティにも提供すること」などを対応の方向性として挙げている。これにより、公正な競争を実現する「イコールフッティング(条件の同一化)」が成立するとしている。
松野官房長官のコメント
松野博一官房長官は16日の会見で、デジタル市場競争会議で取りまとめたことを報告した。
松野官房長官は、スマートフォンが広く普及している状況を踏まえ、モバイルエコシステムを「デジタル社会の不可欠なインフラ」と表現。セキュリティやプライバシーを確保しつつ、多様な主体によるイノベーションや消費者の選択の機会が確保されることが重要であるとした。

 

●テクノロジーの未来は、米国とインドの関係がカギを握る 6/17
米国とインドがテクノロジー分野で関係を深めることのメリット
いまインドは、世界でも有数の有利な立場にある国だ。人口は世界最多の14億人余り。しかも、この30年間、力強い経済成長を続け、国民1人当たりのGDPは3.45倍に跳ね上がった。それでも、世界の中では、まだ比較的発展していない国であることも事実だ。2019年のデータによれば、インドでは6億人以上の人たちが1日当たり3.65ドル未満で生活している。
それは裏を返せば、経済成長と人々の幸福度を改善できる潜在的可能性が極めて大きいことを意味する。米国が中国に対する懸念を強めるなかで、インドは、サプライチェーンにおける調達先として、またイノベーションの拠点として、そして合弁事業のパートナーとして、中国に取って代わりうる国として魅力が高まっている。世界で最も人口の多い民主主義国であり、経済の自由化が進展しつつあり、しかも強力なテクノロジー産業を擁しているインドは、経済活動の規模をいっそう拡大させられる潜在能力を持っている。
これらの点を考えると、国家安全保障と自国のレジリエンスに関する不安によって突き動かされて、筆者らが言うところの「リグローバリゼーション」(re-globalization)を推し進めようとしている米国にとって、インドは最も重要な地政学的、経済的パートナーになる可能性を秘めた国といえるだろう。
一方、インドが世界でリーダーシップを発揮しようとするのであれば、テクノロジー産業におけるイノベーションを実行する力を強化し、ソフトウェアとハードウェアにおけるバリューチェーンの上流へ移行するための包括的な能力を高めなくてはならない。そのためには、政府レベルでも民間レベルでも、米国との関係をより緊密なものにすることが不可欠だ。
つまり、両国の状況を見ると、米国とインドはテクノロジーの分野で協働を深めていく必要がありそうだ。両国の政府当局者とビジネスリーダーたちは、両国を結ぶ「米印テクノロジー回廊」を構築するための戦略を確立しなくてはならない。それを通じて、インドをテクノロジー分野における世界のリーダーに押し上げる。米国は安定したサプライチェーンと強力なパートナーを確保できる。両国に利益をもたらす好循環を生み出すべきなのだ。
「リグローバリゼーション」とテクノロジーの「デカップリング」
今日の世界は、新しい経済関係の時代に突入しつつある。筆者らは、この新しい時代を「リグローバリゼーション」という言葉で表現している。米国が唯一の超大国として世界に君臨する時代が終わり、大国が競い合う世界が戻ってきたことに加えて、気候変動、新型コロナウイルス感染症の世界的流行、2008年の世界金融危機といった世界的な危機の影響も相まって、世界の国々は、自国経済のレジリエンスを強化し、国防、エネルギー、製造などの重要産業で他国に依存することを避け始めた。これが筆者らの言う「リグローバリゼーション」である。
「リグローバリゼーション」の時代における経済システムは、過去にまったく例のないものだ。第1次世界大戦前と、現在から遡ること過去30年間(1990年頃から2020年頃)は、世界が結びつくことが当たり前だった。自由な市場と好ましい規制環境に後押しされて、モノとサービスが容易に世界中を移動していた。一方、1950年頃から1990年頃までの冷戦時代には、米国とソ連の間の緊張が高まり、世界経済が完全に分断されていた。
いま私たちが目の当たりにしているのは、このいずれとも異なり、きわめて特殊で複雑な状況だ。世界経済が完全に結びついているわけでもなければ、完全に分断されているわけでもない。その両方の要素が混ざり合っているのである。
他方では、消費者余剰が大きく、国の存立を脅かすリスクが小さい分野(単純な消費者向け商品はその典型だ)など、一部の産業においては、グローバリゼーションが当然のこととして進展し続けている。しかし、世界経済のデカップリング(2者の間で連動していないこと)が進行している業種もある。その最たる例がテクノロジー分野だ。テクノロジープラットフォームの世界はすでに、米国と中国という2つの覇権国に属する2つの世界に分裂し始めている。
これらのことは、インドにとって何を意味するのか。基本的に、インドは米中双方と行っている大規模なビジネスを失うわけにいかない。インドの対米貿易は年間1000億ドル規模に達しているが、隣国である中国との貿易額はその2倍に上る。インドは、今後も両方の国との貿易を積極的に継続するだろう。しかし、テクノロジー分野では世界経済のデカップリングが進行しつつあり、どちらの国とのパートナーシップを優先させるかを選ばなくてはならない。
歴史に照らして考えると、インドのテクノロジー産業のエコシステムが発展を遂げるためには、ほかの国との協力が不可欠と言えそうだ。インドのテクノロジー産業が本格的に成長し始めたのは、1990年代以降のことである。これは、インドが世界規模のITアウトソーシング産業の有力プレーヤーとして台頭した時期である。1950年代と60年代にインド工科大学のテクノロジー教育が確立されたことにより、インドは高度なスキルを持ったテクノロジー人材を大量に擁していた。そうした豊富な労働力と、安価なコスト、そして英語が公用語の一つであるという言語面の環境を追い風に、インドはITサービスのアウトソーシングビジネスを目指す多国籍企業にとって、魅力的な国になっていったのである。
アウトソーシング産業の成長に後押しされて、インドではスタートアップ企業の活気あるエコシステムが形成され、多くの起業家がこのチャンスを利用して自分のビジネスを立ち上げた。2010年代に入る頃にインドは、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)プラットフォームの分野で大きな存在感を発揮するようになっていた。ほかの国々のテクノロジー企業よりも、コストが低いことが大きな強みになったのだ。
そしていま、インドはそこからさらに一歩前進している。国内で生まれたユニコーン企業が世界市場でトップに立ち、活発にイノベーションを成し遂げるようになったのだ。今後もインドのテクノロジー産業が成長と近代化への歩みを続けるためには、インド政府が国際的なパートナーとの関わり方を戦略的に考える必要がある。
インド政府が取っている多くの行動から推察できるのは、自国の安全保障を強化したいという意図の下、中国がテクノロジー分野で覇権を握るのを防ぎたいと考えていることだ。2020年には、中印国境地帯での衝突が続いたのち、インド政府は、ティックトックなど、いくつもの有名な中国系アプリのインド国内での使用を禁止する措置を打ち出した。中国から流れ込む投資も、ほかの国からの投資より厳しく精査されており、投資の規模も限定的なものに留まっている。
これとは対照的に、米国とインドの間では、協働が進んでいることを示す強力な材料がある。インド政府国家安全保障担当補佐官のアジット・ドバルと米国バイデン政権の国家安全保障担当大統領補佐官であるジェイク・サリバンは2023年1月、「重要技術・新興技術に関する米印イニシアティブ」の立ち上げで合意した。世界で最も人口が多い民主主義国であるインドと、2番目に人口が多い民主主義国である米国の政府当局者とビジネスリーダーたちは、両国のパートナーシップの強化を継続しなくてはならない。それを通じて、両国のテクノロジー産業を結びつけ、イノベーションと成長を後押しする必要があるのだ。
米国とインドの間に「テクノロジー回廊」を築く
世界の国々にとって、特にテクノロジー分野において自国のレジリエンスを強化するうえでますます重要になるのは、国外の戦略的パートナーとの協働を育むことである。米国とインドも、新しい段階に移行した世界で成功したいのであれば、両国間で好ましい技術移転が実現する仕組みをつくることが必要不可欠だ。
インドは、テクノロジー分野で世界を牽引するイノベーション大国になりたいという野望を持っているだろう。インド企業はこれまでのところ、いくつかの重要な例外はあるものの、おおむね他国で生まれたイノベーションのスケールアップと展開に専念してきた。しかし、米国企業と協働して、両国間にイノベーションの互恵的なサイクルを生み出せれば、テクノロジー分野における真のリーダーになるインド企業が増えると期待できる。潤沢な人材を武器に、独自の知的財産を生み出せるようになる。
そのためには、米国企業がインド企業に対する見方を変えて、単なるアウトソーシング先ではなく、強力な協働のパートナーと見なすように転換すべきだ。具体的には、多国籍チームの編成と法的な統合の進化を通じて、バリューチェーンでより上流に位置する課題に取り組むことなどが求められる。それを通じて、インドは、人工知能(AI)やヘルスケアなどの発展著しい産業で自国の能力を高めていくことができる。
一方、テクノロジー分野で米国と中国のデカップリングが進んでいる状況を考えると、米国も、インドがテクノロジー分野で潜在能力を開花させることを必要としている。インドは経済的な影響力を強めていく条件が整っている。その潜在能力通りにインドが経済成長を遂げれば、「リグローバリゼーション」の下で米国が中国との貿易を失っても、インドがそれを埋め合わせる存在になりうる。
すでに、未来の新しい青写真が浮かび上がっている。インド企業が半導体のような米国が保護するテクノロジーへアクセスできば、そのようなテクノロジーを土台にイノベーションを実行し始めるだろう。
そうした現象は、ソフトウェア分野ですでに現実化している。初期のインド企業は、ITアウトソーシングという形で、ほかの市場で開発されたソフトウェアを複製しているだけだった。しかし、今日のインド企業は、新しいソフトウェアのイノベーションで世界の先頭を走っているのだ。
たとえば、インドには、世界最大そして世界最先端の生体認証国民IDシステム「アーダール」がある。1世紀近く前に導入された米国の社会保障ナンバー制度と異なり、このシステムには個人の生体情報が登録されていて、効率的で安全な決済に利用できるようになっている。
また、通信会社のジオは、2016年に安価な高速データサービスの提供を開始して、業界の勢力図を塗り替えた。同社はインドにおけるデジタルサービスを大幅に拡張し、インドの18州で5G通信を利用できるようにすることで、人々がスマートフォンの世界で活動する道を開いた。インドの人々にとってスマートフォンは唯一手に入るコンピュータだが、世界でも屈指の低価格で購入できる。
このようにして、新しい重要テクノロジーに関してもインドでイノベーションが起きることが期待される。米国での発明を一足飛びに跳び越すようなイノベーションが実現するケースも多いだろう。
インドと米国は、互いから学べることが多い。両国は、双方が互いのイノベーションによる最大の受益者になるための体制を整えるべきだ。ところが、両国における現状での思考様式と政策は、そうした面では時代遅れのものに留まっている。
米国のビジネスリーダーは、安価な労働力だけを目当てにインドとビジネスを行うという発想を脱却すべきだ。インドを真のイノベーションハブと位置づけ、インドのビジネスリーダーとの協働を強化する必要がある。また、これまで以上に大きな野心を抱いて、インドにおける工場や研究機関、事業活動の規模と範囲を中国の対印投資に匹敵するくらい拡大させることを目指すべきだ。これまで米国のテクノロジー投資を牽引してきたベンチャーキャピタル会社などの投資家は、インドへの投資を増やし、インドに関する知識を育まなくてはならない。
米国とインドの政府当局者は、通商政策を変更して、両国間のオープンな技術移転とイノベーションを促す仕組みづくりを推進すべきだ。米国はいまも、インドに対して大幅な輸出制限を課しており(インドが1998年に核拡散防止条約に違反したことを受けて導入された措置だ)、それにより自由な技術移転が阻害されている。
一方のインドも、いまだに保護主義的な政策を継続している。外国からの投資を妨げる障壁が強力なうえに、国内の法制度が複雑で、外国企業は対応に苦労しているのだ。
まず、米国はインドに対する輸出規制を緩和する道筋を明確に示すべきだ。そしてインドは、米国のテクノロジー企業に特例的な扱いを認めることにより、障壁を取り除いて両国間に真のパートナーシップが形成される後押しをする必要がある。
「リグローバリゼーション」の時代において、保護主義は一時しのぎの方策にしかならない。というより、問題をむしろ悪化させかねない。活力のある経済を築いて、世界のどの国とも競い合えるようになることを究極の目標とすべきだ。その点、「米印テクノロジー回廊」を築けば、インドは、グローバルプレーヤーになるためのスキルとテクノロジーと市場と自信を獲得できる。
この75年間、米国とインドは、称賛と緊張と対立が混ざり合った関係を続けてきた。いま両国は、古い思考を乗り越えなくてはならない。両国がより深い関係を育み、テクノロジーを共有し、貿易を拡大させ、信頼を強化することは、双方に大きな恩恵をもたらす。それは、いくつもの面で「ウイン・ウイン」のシナリオと言える。テクノロジーの面でも、経済の面でも、政治的な面でも、地政学的な面でも、両国に恩恵が及ぶのだ。
また、世界で最も人口が多い民主主義国と2番目に人口が多い民主主義国がオープンな経済と自由を重んじる価値観を尊重し、両国間のパートナーシップを強化し、いま出現しつつある新しい世界でアジェンダを設定する方法を見出すことは、世界にとっても好ましい。それにより、世界はよりよい場になるだろう。
●ビットコイン、2万6300ドル超え─ブラックロックのETF申請で1週間ぶりの高値 6/17
世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)がビットコインETF(上場投資信託)を申請してから24時間足らずで、ビットコイン(BTC)は16日に2万6000ドルを超え、1週間ぶりの高値まで上昇した。
CoinDeskのデータによると、当記事執筆時点で2万6369ドル付近、24時間で約5%上昇した。前日15日朝には3カ月ぶりの安値に近い2万5000ドル割れとなっていた。
イーサリアム(ETH)も同様に24時間で約4.5%上昇、1721ドル付近。今週初めには3月中旬以来初めて1700ドルを割っていた。
先週、バイナンスとコインベースに対する米証券取引委員会(SEC)の提訴で「証券」と名指しされたあと大きく下落したものを含む、他の主要暗号資産も大きく反発。ソラナ(SOL)は7%以上上昇。カルダノ(ADA)、ポリゴン(MATIC)、アルゴランド(ALGO)は、それぞれ3.5%、3%、4.1%上昇した。
暗号資産市場全体のパフォーマンスを示すCoinDesk Market Index(CMI)は4.4%上昇したが、ビットコインとイーサリアムのトレンド・インジケーターは、アメリカでの規制強化、インフレ、金融政策に関する懸念に影響されている業界に対する投資家の不安を反映して、依然として下落圏にとどまっている。
16日にノルウェーで行われたカンファレンスで、クリストファー・ウォーラー米連邦準備制度理事会(FRB)理事は、FRBのタカ派姿勢が3月の銀行危機を招いたという批判をかわしつつ、FRBは依然としてインフレに対する懸念を持っていると述べた。今週初め、FRBは暗号資産や他の資産市場に重くのしかかっていた利上げを一時停止した。
「FRBの仕事は、金融政策によって2つの使命を果たすことであり、今はインフレと戦うための利上げを意味する」
「金利リスクに対処することは銀行のリーダーたちの仕事であり、ほぼすべての銀行のリーダーたちがまさにそうしてきた。私は、一部の銀行で運用の効果が上がらないことを懸念して、金融政策のスタンスを変えることを支持しない」
カナダの暗号資産運用会社3iQのリサーチ責任者、マーク・コナーズ(Mark Connors)氏は、ブラックロックのETF申請のタイミングは、SECの法的措置に対抗するという「暗黙の支持」を反映しているかもしれないとCoinDeskに述べた。ブラックロックが申請した「iShares Bitcoin Trust」では、コインベースがカストディアンとして機能することになっている。
「バイナンスとコインベースを連日で提訴することで、SECは2つの取引所を、すべてではないが、多くの容疑に関連しているとして、文字どおりペアとして扱った。ブラックロックの申請タイミングは、コインベースとビットコインETFへの同社のコミットメントを再確認することによって、このペアリングを取り消すためのものと考えることができる」
コナーズ氏はさらにConnorsはさらに「申請によって、カストディ、流動性、価格監視のための明確なプロセスが示されたため、コインベースと業界にとって間違いなくプラス。コインベースの事業見通しと業界での拡大にポジティブな影響を与えた」と付け加えた。
●金融不安が広がる米国では、銀行の融資基準の引き上げが加速 6/17
公的金利と無関係の融資引き締めを指す「信用収縮」がはじまっているのではとの声も。みていきましょう。
銀行破綻を受け、融資基準はより厳しいものに
2023年3月以降、アメリカの銀行破綻が連鎖しています。5月1日には、かねてから経営状況の悪化が報じられていた中堅銀、ファースト・リパブリックバンクの破綻が決定。これはリーマン・ブラザーズに次ぐ史上2番目の規模の銀行破綻で、同行の預金者や債務者はもちろん、金融市場全体に金融不安が広がっています。
金融機関側も、市場の不安感から来る預金引き出しの急増をはじめ、金融不安がもたらしうるリスクへの警戒を強めています。その現れが、融資引き締めです。FRBによる上級銀行貸出担当者調査では、調査対象者の多くが融資枠の縮小と融資基準の厳格化に取り掛かっていると回答。その原因として、経済の不確実性、リスク選好の低下、担保価値の低下、銀行の資金調達コストなど広範な懸念が挙げられましたが、他行の破綻が与えたインパクトは小さくないでしょう。
事業者の資金調達を阻む、信用収縮
シカゴ連邦準備銀行総裁のオースタン・グールズビー氏は、こうした状況を「Credit Crunch(<米>信用収縮)、あるいは少なくとも Credit Squeez(<英>信用収縮)が始まっている」と独特の言い回しで表現しました。つまり、どのような形にせよ信用収縮の徴候が見られると発言したわけですが、信用収縮とは何なのでしょうか?
信用収縮とは、信用創造(Credit creation)の逆の働きです。銀行が貸し付けによって預金を創り出すことができます。銀行Aが企業Bに100万円を貸すとき、その100万円は現金として渡されるのではなく、企業Bの持つ銀行Aの口座に預金として入金されるからです。この預金を生み出す一連の働きを信用創造(預金創造)と呼びます。貸付金が返済されることは、預金の減少を意味します。
対して信用収縮は、銀行が融資枠を縮小したり、融資基準を厳格化したりすること、つまり貸し付けを減らすことを指します。新規貸し付けが減り、返済がそれを上回ると、預金規模が小さくなります。信用創造によって大きく膨らんだ信用が縮む局面という意味で、信用収縮なのです。
信用収縮が起こると、事業者が資金を調達しづらくなり、必要な投資が行えません。結果、業績不振に陥り、融資基準からさらに遠のいてしまいます。なかには倒産や事業撤退に追い込まれる企業もあるでしょう。経済への悪影響は計り知れません。
信用収縮は、本当に始まっているのか?
現在の状況は「融資枠を縮小したり、融資基準を厳格化したり」にまさに当てはまるわけですが、信用収縮とみなすべきかどうかには、まださまざまな意見があります。というのも、融資引き締めの原因が、公的金利の上昇である場合は信用収縮ではないと考えるのが一般的だからです。利上げ真っ只中の今、融資引き締めが金利の影響の範囲内だと考える人もいるのです。
とはいえ、冒頭でも紹介したように、銀行が金融不安を強く意識していることは間違いありません。明確な答えが出るまでにはまだしばらく時間がかかりそうですが、警戒しておくに越したことはないでしょう。
●16日のS&P500は反落、マイクロソフトなど大型株の下落が響く 6/17
16日の米株式相場は反落。株高に乗り遅れることへの不安と高値警戒感の間で投資家は揺れ、日中は不安定な値動きとなった。大量のオプション取引が期限を迎えたこともボラティリティーを増大させる要因になった。
人工知能(AI)を巡る熱狂が一息つき、ハイテク銘柄中心のナスダック100指数は他の主要株価指数をアンダーパフォームした。マイクロソフトやアップルなど大型株の下落が響いた。
S&P500種株価指数は週間ベースでは2.6%高と、3月以来の大幅高。これで5週連続の上昇となり、2021年11月以降で最長の連騰となった。
本来なら株価を動かす材料となりそうなインフレ指標や地政学的ニュースが、この日の市場ではさほど意識されなかった。
米ミシガン大学の6月消費者調査速報値では、1年先のインフレ期待が約2年ぶりの水準に低下。ロシアのプーチン大統領は、主要同盟国である隣国ベラルーシに戦術核弾頭を移送したことを確認した。
さらに米金融当局者からのタカ派的発言でさえ、相場の動きにはほとんど影響を与えなかったとみられる。
ニュースレター「ザ・セブンズ・リポート」を創業したメリルリンチの元トレーダー、トム・エッセイ氏は「市場はFOMO(乗り遅れ恐怖症)に苦しむトレーダーからの買いが再び入り、上値追いになっている」と指摘。「われわれは現時点で株に弱気にはなっていないが、目先の相場の方向には慎重になりつつある」と述べた。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のマイケル・ハートネット氏は、S&P500種は先週テクニカル上の強気相場に入ったが、新たな上昇相場の始まりではないと指摘。現在の市場はむしろ2000年や08年に似ており、「大きな上昇の後に大崩れが来る」と予想した。
国債
米国債相場は短期債を中心に下落。2年債利回りは一時13ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し、10年国債との利回り格差(スプレッド)はさらに拡大した。
午前の取引では、6月のミシガン大学消費者調査速報値に反応する場面もあった。同調査では1年先のインフレ期待が約2年ぶりの水準に低下し、消費者マインドの改善につながった。
外為
外国為替市場では、円が主要10通貨に対して全面安。日本銀行による金融緩和策の修正がなかったことを受け、対ドルでは一時1ドル=141円92銭まで下げた。
日銀は16日の金融政策決定会合で、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)を軸とした現行の大規模な金融緩和政策の継続を決めた。景気・物価の認識にも大きな変化はなかった。
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨戦略グローバル責任者、ウィン・シン氏は「ドル・円にとってクリティカルなエリアは142円50銭付近だ」とテクニカル面で指摘。「142円50銭を上抜けると昨年10月の高値152円付近を試すことになるだろう。中間的な目標は145円付近にある」と語った。
円は対ユーロでは、一時1ユーロ=155円22銭と2008年以来の安値に下落。ドイツ連邦銀行のナーゲル総裁をはじめとした欧州中央銀行(ECB)政策委員会のタカ派が16日、ECBは秋まで利上げを続けなければならないかもしれないと警告した。
またラガルド総裁は、利上げではまだやるべきことがあるとあらためて述べ、「7月の政策会合で利上げを継続する公算が極めて大きい」との見解を示した。
原油
ニューヨーク原油先物相場は続伸。週間でも上昇した。マクロ経済のトレンドが世界的な需要拡大を示唆していることが好感された。
中国で原油消費拡大の兆しが出ているほか、米行楽シーズンのガソリン需要は堅調な見通しで、米金融当局による利上げ見送りが一時的ながらも経済に支援を提供するとの見方も相場を支えている。ただ、石油輸出国機構(OPEC)内外の主要産油国で構成する「OPECプラス」による減産にもかかわらず、在庫は引き続き積み上がっており、上値を抑えている。
オアンダのシニアマーケットアナリスト、エド・モヤ氏は「原油相場は極めて不安定な状態にあり、製油所の稼働に支障が生じていることで、原油価格に浸透し始めている回復基調を損なうだろう」と話した。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物7月限は、前日比1.16ドル(1.6%)高の1バレル=71.78ドルで終了。週間では2.3%上げた。ロンドンICEの北海ブレント8月限はこの日94セント(1.2%)高の76.61ドルで引けた。

ニューヨーク金先物相場はほぼ横ばい。米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)がタカ派姿勢を鮮明にしたことで、週間では3週間ぶりに下落した。
7月追加利上げの「公算が極めて大きい」とした前日のラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁に続き、この日は米金融当局者2人がインフレ抑制にはさらなる利上げが必要になるかもしれないとの認識を表明した。金融政策見通しがタカ派に傾き、米国株が値上がりする中でも、金価格はなお歴史的には高水準にとどまっている。
オアンダのモヤ氏は「足元の米株高が途切れるまで、金への逃避買いは見込めない」と指摘。当面は値固めの展開が続き、リスク選好が後退した瞬間に大きく持ち直す可能性があるとの見方を示した。
ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は、前日比50セント(0.1%未満)上げて1オンス=1971.20ドルで引けた。週間では0.3%安。金スポット価格はニューヨーク時間午後2時22分現在、ほぼ横ばいの1958.84ドル。
●FRB、信用状況の引き締まりが米成長の重しにも−金融政策報告 6/17
米連邦準備制度理事会(FRB)は、3月の銀行破綻を受けた米国の信用状況の引き締まりが経済成長の重しとなる可能性があると指摘。また、追加の金融引き締めの程度については今後入手するデータに左右されるとの認識を示した。
FRBは16日公表した半期に一度の金融政策報告で、「連邦公開市場委員会(FOMC)は、インフレ率を時間とともに2%へと戻すのに適切と考えられる追加の政策引き締めの程度について、会合ごとに判断する。判断は、入手するデータと、それらが経済活動とインフレの見通しに対して持つ意味合いの全体像を考慮して行われる」と説明。
また「インフレ率を2%に戻すには、経済成長が潜在成長率を一定期間下回ることや、労働市場環境の幾分かの軟化が必要になる可能性が高い」と記した。
金融政策報告は21日に予定される下院金融委員会でのパウエルFRB議長の証言に先立ち、FRBのウェブサイトで公表された。議長は22日にも上院銀行委員会で証言する。
報告でFRBは「銀行セクターでの最近のストレスとそれに関連して生じた預金流出と資金調達コストを巡る懸念が、一部銀行において融資基準・条件の厳格化および厳格化見通しにつながったことを示唆する証拠が存在する」と記した。
その上で、与信の引き締まりは「商業用不動産や中小企業といった銀行の与信に強く依存するセクター」でより大きい可能性があると指摘した。
●FRB、主要サービスインフレ高止まり 緩和の兆しなし=報告書 6/17
米連邦準備理事会(FRB)は米議会に提出した最新の金融政策に関する報告書で、サービス分野の主要部門のインフレ率は「高止まりし、緩和の兆しを示していない」と問題視し、FRBに求められているインフレ抑制は「労働市場の逼迫した状況がさらに緩和されるかどうかが左右する一因となる」と指摘した。これは失業率が悪化する可能性が高いことを意味する。
報告書は、パウエルFRB議長の来週の議会証言を控えて策定された。
報告書は「労働需要は経済の多くの分野で緩和されたが、資質を備えた労働者の供給を上回る状態が続いており、空席のポストが高止まりしている」と紹介。賃金上昇は今年前半に鈍化したものの、「長期的にはインフレ率が2%に見合うペースを上回っている」と記した。
また、銀行による融資が過去1年間に「著しく引き締まった」とし、3月に複数の地方銀行が破綻したことを受けて一段と引き締まる可能性が高いとの見解を示した。一方で「一部の銀行は収益性に懸念があるものの、銀行システムは引き続き健全で耐久性がある」と訴えた。
●FRB「利上げ一時停止」で次の一手検討可能に=シカゴ連銀総裁 6/17
米シカゴ地区連銀のグールズビー総裁は16日、米連邦準備理事会(FRB)が14日まで開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを見送ったことについて、政策立案者が矛盾する経済データを選別し、次の行動を決定する時間を得ることができると述べた。
同総裁はラジオ番組で「私はこの決定を偵察任務ととらえている。丘を登る前にいったん歩みを止め、状況を確認するものだ」と述べた。
その上で、経済指標は相反する結果を示しており「景気は過熱しておりもっと利上げが必要なのか、それとも過去1年間に5%ポイントの引き上げを行ったことで十分なのか」と問いかけた。
●NY外為:ドル続伸、FRB高官が追加利上げ支持 6/17
NY外為市場ではドルが続伸した。注目されていたミシガン大消費者信頼感指数の期待インフレ率で1年物は原油安が奏功し大幅に低下した。5-10年期待インフレも予想通り低下した。しかし、米連邦準備制度理(FRB)のウォラー理事が、コアインフレに改善があまり見られず追加引き締めが必要になる可能性に言及。さらに、リッチモンド連銀のバーキン総裁も「もし、FRBが利上げを時期尚早に終了した場合、一段と高い水準までの利上げリスクに直面することになる」と警戒感を示した。さらに、データが正当化されれば、追加措置を支持する姿勢を示した。
また、FRBは議会に提出する半年に一度のFRB金融政策報告を公表。「インフレは鈍化も依然2%目標を上回っている」との見解が示された。パウエル議長は来週、上下両院で公聴会に参加を予定している。
追加利上げを織り込み、米2年債利回りは4.77%まで上昇。ドル・円は141円84銭まで上昇し昨年11月来の円安・ドル高を更新した。ユーロ・ドルは1.0791ドルの高値から1.0918ドルまで反落した。ポンド・ドルは1.2848ドルから1.2806ドルへ反落した。 
●アメリカが日本を為替操作の監視対象から除外 2016年以来初めて 6/17
アメリカ財務省は16日、日本を通貨政策の監視対象から除外しました。2016年に指定されて以降、除外されるのは初めてです。
アメリカは対米貿易黒字が著しく大きかったり、継続的な為替介入を行ったりする国や地域を通貨政策の「監視対象」に指定し、為替操作に目を光らせています。
アメリカ財務省が16日発表した報告書では、中国や韓国、ドイツ、台湾など、あわせて7つの国と地域が監視対象とされ、日本はこの制度が始まった2016年以降、初めて除外されました。
基準の1つである経常黒字が円安や資源の高騰で縮小したことで対象から外れました。
日本は去年秋、円安が進んだことを受けて24年ぶりの円買い・ドル売り介入を行いましたが、「継続的な介入」とは認定されませんでした。
●過小評価は禁物?「老齢大統領候補」バイデンの真骨頂 6/17
「米政治史上、最高齢候補」としてあえて来年選挙に再出馬したバイデン大統領。健康、メンタル面の不安を指摘され、支持率低迷にあえぎながらも最近、否定的だったこれまでの評価を見直す指摘も少なくない。
債務上限引き上げ交渉で見せた粘り腰
きっかけは、先の未曽有の危機に立たされた米政府債務上限引き上げ問題で、政府と野党共和党主導の下院との決定的ともいえる対立を土壇場で見事に切り抜けたバイデン氏の手腕と粘り腰だった。
債務上限の引き上げ法案が議会で可決されなかった場合、米国は史上初の「債務不履行」(デフォルト)に陥り、世界規模の金融危機にも発展する恐れがあった。
さっそく米「Vanity」誌は、議会との債務上限引き上げ合意で危機回避が確定した直後の去る6月1日、「マッカーシー下院議長は政府相手に一定の譲歩を引き出し『勝利宣言』をしたが、最大の勝利者はこれまで過小評価されてきたバイデン大統領だった。彼は、極めて困難な状況の下で、可能な限りの最善の取引を勝ち取り、米国民を危機から救った」と高い評価を示した。
翌2日には、英国有力経済誌「Economist」が、サイモン・ラビノビッチ米経済部長の「過小評価のジョー・バイデン」と題する署名記事を掲載、以下のように論評した。
「過去数年、バイデン氏については、マイナス評価、イメージがつきまとった。2020年大統領選の党大会で民主党候補に確定した際にも、覇気のない候補≠ニいうのが大方の見方だった。ところが、すぐにその後の選挙戦を通じ『トランプを打ち負かせる最も安全で確実な民主党の賭け』と見られるようになり、実際に勝利した。その後『米国のより良い再建build back better』をスローガンに掲げホワイトハウス入りして以来、実現できずお払い箱になると見られていた具体的再建計画の主だった法案も次々と成立させた。先月の債務上限引き上げ交渉でも、野党の執拗な予算カット要求を巧みに交わし、相手を打ち負かすだけの器量をいかんなく発揮した」
「民主党急進派は当初、共和党と債務上限引き上げで交渉し始めれば、取引で福祉、環境保護政策の規模縮小に応じざるを得なくなるとして猛烈に反対したが、結果は、バイデン政権の目玉ともいうべき気候変動関連や社会保障予算は手づかずのまま合意に達した。瀬戸際まで続いた緊迫の交渉結果について、両党ともに勝利宣言≠オ、合意内容についての下院審議では、民主党議員の80%、共和党議員の70%が支持投票する結果となった」
「もちろん、これをもって、来年選挙で果たしてトランプ候補(あるいは別の共和党候補)に勝てるのかというこれまでの疑念が消えるものではない。しかし、バイデン氏の大統領候補としての適性を疑う場合には、最低でも、『愛されるより、恐れられるほうがまし』というマキャベリの格言を今一度思い起こす必要がある。なぜなら、バイデン氏にとっては、過小評価されていた方が却ってよいからだ」
内政、政局、外交で見せた成果
このほか、いくつかの米ネットメディアでも、「大統領は議会取引では何十年もの経験と実績があり、今回も見事にその真骨頂ぶりを示した」「野党との合意に失敗し、デフォルトに追い込まれたら、来年選挙で勝ち目はないとみられてきたが、予想を覆した」「超高齢でもうろくしているといった批判はお蔵入りにすべきだ」といった、バイデン氏の力量を再評価する指摘が少なからず出始めている。
しかし、バイデン氏に対するプラス評価は、今回だけに限ったことではない。就任以来の内政、外交両面においても、以下のような点が指摘されている。
内政ではまず、2021年1月就任当時、米国はトランプ前政権当時の失政もあり、コロナ禍、経済低迷、環境汚染悪化など深刻な危機に直面していた。しかし、その後の2年間で、終焉には程遠いもののコロナ危機を乗り切り、経済面では数兆ドルに上る巨額のインフラ整備投資法案を超党派で可決させ、雇用拡大により失業率も3%台と過去50年ぶりの低水準となった。
物価に関しても、車社会の米国でとくに関心の高いガソリン価格も、数年ぶりに落ち着きを取り戻すなど、諸物価インフレへの懸念も改善に向かっている。
政局面では、昨年の中間選挙で、事前予想では上下両院ともに大敗が予想されたが、結果的に下院では最小限の議席減に踏みとどまり、上院では議席増で多数党を維持した。
医療・福祉面でも、「インフレ抑制法」成立により、300万人の生活困窮者を新たに国民健康保険対象者として救済し、「メディケア法」改正により、数千万人の高齢者の処方医薬品価格引き下げを実現させた。
外交面ではまず、前政権下で悪化した日欧同盟諸国間との関係修復に腐心し、各国歴訪を通じ、信頼関係の再構築で一定の成果を挙げた。とくに増大する中国の脅威に対する結束強化は重要な一歩となった。
また、前政権時代の国連はじめ国際機関軽視外交を見直し、対外関与の方向を打ち出した。その一環として来月、国連教育科学文化機関(UNESCO)への復帰が確定している。
来年の大統領選に向けては
では、肝心の来年選挙に向けての展望はどうなのか。この点でも、バイデン再選はけっして侮れない。その理由として、以下のような点が挙げられよう。
・共和党候補の乱立
共和党はこれまで、トランプ氏のほか、ニッキー・ヘイリー元国連大使、エイサ・ハッチンソン元アーカンソー州知事、ロン・デサンティス・フロリダ州知事、マイク・ペンス前副大統領、ティム・スコット上院議員、クリス・クリスティー元ニュージャージー州知事ら10人が候補として名乗りを上げている。このまま来年夏の党大会に向けて、指名獲得レースの激化が予想され、共和党有権者間でも、支持候補をめぐり内ゲバ≠フ懸念も少なくない。仮にトランプ氏が最終的に同党指名候補となったとしても、支持者間のしこりが残り、本選で党離反者が出る可能性もある。
・多難続きのトランプ候補
トランプ氏は、去る4月の不倫もみ消し事件をめぐるニューヨーク州検察局起訴に続き、今月初めには、機密文書持ち出し・隠匿疑惑の連邦大陪審で起訴された。大統領経験者で2度の起訴処分を受けるのは米国史上初めて。さらに近く、ジョージア州検察が20年大統領選挙介入・妨害容疑で同氏起訴の公算が大きくなっているほか、米司法省特別検察官が21年1月の連邦議事堂乱入・占拠事件を教唆・扇動した疑いで別件捜査に乗り出している。この間、トランプ氏は相次ぐ刑事訴訟事件の当事者として、対応と法廷闘争に多大な時間と労力を割かざるを得ず、その分、大統領選の予備選、および本選での長丁場の戦いに支障をきたすことは避けられない。かりに、予備選を勝ち抜き、本選に臨んだとしても、今後の一連の裁判審理を通じ、共和党支持者の間で次第に離反者が広がる恐れもある。
・無風状態のバイデン候補
民主党側は、バイデン氏のほか、弁護士のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏、著作家のマリアン・ウィリアムソン女史ら数人が出馬意向を表明しているが、民主党内での最新動向調査では、バイデン氏支持が60%と他候補を大きく引き離しており、健康問題で不慮の事態が生じない限り、このまま党大会で指名獲得の公算は極めて大きい。
・党大会後の民主党挙党体制
今月初めにCNNテレビが公表した世論調査によると、バイデン氏に対する「好感度」は、昨年12月時より7%下落し33%となったほか、大統領としての支持率も40%にとどまり、依然として不人気が続いていることに変わりない。しかし、来年党大会以後、11月本選挙で共和党候補との対決となった場合、全米有権者の過半数を占める民主党支持者が、いつまでもバイデン批判を繰り返し、結果的に共和党の政権奪回を許すとはまず考えにくい。20年大統領選では、民主党支持者はバイデン氏に不満を抱きながらも、最終的に本選では団結し、トランプ現職大統領相手に700万票以上の差をつけ、勝利に導いた。24年でも同様シナリオが十分あり得よう。さらに、民主党支持層以外にも、ここ数年拡大しつつあるといわれる無党派層の間でも、共和党側の最終候補次第では、その多くがバイデン支持に回ることが予想される。
・カギ握る高齢層の支持率
バイデン大統領はこれまでの実績として、高齢者層に関心の高い社会保障・福祉関係予算を一貫して重視し、手厚い措置を講じてきた。去る3月には、ラスベガスで次期大統領選を念頭に置いた重要演説を行い、詰めかけた多くの高齢者支持層を前に「共和党候補者たちは、社会保障年金や公的医療保険の予算カットを目指している」と批判、違いをアピールした。
公共ラジオNPRと公共テレビPBS合同世論調査によると、18〜29歳世代でのバイデン支持率は29%ととくに低いものの、66歳以上の高齢者層の間では逆に49%と高い数字を記録している。
次期大統領選では、80歳の高齢に達したバイデン候補への同情と連帯感が高まり、バイデン支持票の上積みも不可能ではない。
「高齢」は老練さという見方も
バイデン氏出馬に際しての最大の関心事である最近の「健康状態」だが、医師団はフィジカル、メンタル両面にわたる精密検査の結果として、去る2月、以下のような診断結果を公表している。
「大統領は、歩行の際に多少こわばったようなぎこちなさが感じられるが、一般に見られる高齢化の症状であり、膝腱とふくらはぎの硬化に起因している。脳卒中、多発性硬化症、パーキンソン病のような神経性疾患に相当する症状は知見されない。心房細動、コレストロール、喘息、胸やけ用常備薬を服用。全体として大統領は、とくに健康上の制約、考慮なしに職務を十分遂行できる状態にある」
結論として、たんに「高齢と不人気」の理由だけで、来年11月に向けてのバイデン候補の潜在パワー≠ニ老練さを軽視するとすれば、結果を見誤ることになるといえるだろう。

 

●なぜ静かな危機にある日銀・植田総裁にみんな優しいのか 6/18
アメリカのジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長は、6月14日のFOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見で、記者たちに「吊し上げ」にあった。
それはなぜか。今回FED(同国の中央銀行)が利上げを見送ったのは、ほぼすべての人の予想どおりだった。だが、今年末の金利見通しにおいて、さらに0.5%の利上げが示唆されており、これがほぼすべての人の予想に反するものであったからである。
久しぶりに総攻撃にさらされたパウエル議長
事前に「今回の利上げ休止は当然。あとは7月以降のFOMCでいつ利下げをするか」というシナリオを期待していた投資家たちは、パウエル議長を総攻撃した。その流れに乗って、記者たちも、パウエル議長のこれまでの発言の変遷の矛盾を突いて、ありとあらゆる攻撃的な質問を行った。
「ここ数回のFOMCではそれほど攻撃的でもなかったのに、なぜ今回はまた総攻撃をしたのか」というのが私の記者会見を見た感想であった。
彼らの表面上の不満は、FEDの見誤りであり、政策のチグハグさである。コロナショック後にFEDは大規模緩和を行ったところ、予想とは正反対にインフレが起き始めた。すると「インフレは一時的な供給混乱によるもの」と思われ、またパウエル議長もそう説明し続けた。
ところが、この「コストプッシュ型のインフレ」は収まらなかった。さらに2022年2月にはロシアによるウクライナ侵略が起こり、エネルギー価格が暴騰し、インフレは大加速。欧米はパニックとなった。
そこでFEDはようやく利上げを開始した。しかし、大幅に金融引き締めが遅れたため、FEDもパニックになって、利上げ幅が0.25%から0.5%、0.75%と一気に拡大し、「4回連続で0.75%の利上げ」という27年ぶりの急激な引き締めを行った。
インフレを見誤り、これほどの規模では不必要だった利上げを、しかも21世紀としてはありえない急激なペースで行ったことが、激しく批判されている。
日銀の植田総裁への非難はゼロでいいのか
一方、ECB(欧州中央銀行)も、アメリカに負けず劣らずインフレが欧州でも進行したので、急激な利上げを行ってきた。ようやくインフレは減速してきたが、それでもインフレ率は非常に高く、それでいて景気も弱いままだ。
これは「意外と依然として景気が良く、その分インフレが収まらないアメリカ」とは大きく異なる。「景気も悪化しそう、インフレは止まらずアメリカよりもひどい。インフレが収まった先の成長力はもちろん、アメリカよりもはるかに弱い」というのが今の欧州経済だ。ということで、散々なありさまになっているのだが、ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁にはそれほど批判がない。
さらに日本に至っては、植田和男総裁は4月9日の就任後、事実上何の動きもないが、今のところ誰も非難しない。
日本経済は順調。インフレは少し高めだが、欧米よりは断然マシであり、景気自体も悪くない。これだけ問題が少ないにもかかわらず、黒田東彦前総裁が10年間にわたって行った、緊急避難的な危機対応の異次元緩和を維持し続けている。そして「副作用がもっと大きくなるまでは、現状の緩和を続ける」構えを見せている。要は、まったく動く気配がないといってもよい。
経済がこれだけ長期にわたって平時を取り戻したのであれば、普通の金融緩和は継続しても、緊急避難的なトリッキーな手法は即時撤廃すべきだ。
すなわち、ETF(上場投資信託)の購入やYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)といった、世界の中央銀行の歴史において前代未聞、まさに古今東西類を見ない非常事態政策を継続していることを放置している。しかし、それでも「誰も不作為の罪」だと攻撃しない。
私は、パウエル議長は気の毒だと思う。まず「インフレを見誤った」と攻撃されているが、それを言うなら、パウエル議長が2021年に引き締めをしなかったときに攻撃すべきだろう。
パウエル議長に怒りがぶちまけられる理由
あのときには、大多数が納得していた。むしろ、株式市場をはじめとして、投資家たちは「資産価格が下落しないよう、早まった引き締めに走らないように」と牽制していたはずだ。ロシアのウクライナ侵略後も、「これはただの一時的な供給ショック、一時的な資源価格の高騰だから」と、利上げに反対する向きもあった。
しかし、FEDはやや手遅れではあったが、2021年と違って2022年は、そのような「投資家ポピュリズム」に屈せず、毅然として緊急事態対応の利上げを行った。1つ目のミスは犯したが、2つ目はしなかった。
そもそも、2021年から2022年のインフレをほぼ誰も予想していなかった。渡辺努・東京大学教授を除いては。しかし、今それが賞賛されているということは、ほかは全員「インフレは一時的、コロナでデフレになる」と言っていたのだ。
そして、現在の金利引き上げ、長期引き締め維持は、どう見ても必要なことであり、年内利下げを望む投資家たちはどうかしている。駄々っ子よりもひどい。
もちろん、パウエル議長はすばらしかったとは言えない。だが、平均的な市場関係者よりははるかに適切な判断をしており、毅然と行動している。だから、ほめることはできないが、攻撃する必要もないはずだ。
では、なぜ、投資家たち、とりわけアメリカの投資家たちはパウエル議長に怒っているのか。それは、金融引き締めをしているからである。
一方、日本ではなぜ植田総裁は攻撃されないのか。引き締めていないからである。投資家に甘いハト派であれば、彼らは文句を言わないのである。ただ、それだけのことなのだ。
「ECBは引き締めているではないか」と言うかもしれない。だがインフレの度合いに比べれば、ハト派といえるぐらいの引き締めだ。何よりも、欧州は実体経済がそもそも脆弱すぎて、引き締めに耐えられない。だから、投資家たちも本来よりも甘い引き締めなので、文句を言わないのだ。
さらにいえば、ECBが引き締めようが何をしようが、世界的に見れば影響は限定的だからだ。もはや英国の中央銀行であるイングランド銀行が何をしようが、誰も関心がない。ECBはそこまでノーマークではないにしても、FEDがどう出るかが世界のリスク資産市場のすべてを決めるので、攻撃するエネルギーはFEDへ集中投下しているのである。
一方、日本では、カモを狙う一部のトレーダーは関心があるふりをして、時折、日銀を攻撃する。
だが、それは総会屋やアクティビスト(いわゆる「物言う株主」)のようなもので、日本の金融市場関係者、日銀、政府、そしてメディアや社会が気弱な精神構造をしているので、ここぞとばかりに攻め立てるという、「小学生のいじめっ子のレベル」なのである。
「今世紀4回目の緩和」はあるのか
しかし、本質的により深刻な問題を抱えているのは、いうまでもなく日銀の金融政策である。また、もはや押すにも引くにも動きにくく、ジリ貧の欧州経済なのである。
これが、21世紀の金融政策をめぐる本質である。投資家もエコノミストもメディアも、そしてなぜか経済学者たちも、中央銀行が甘い緩和三昧の金融政策を行っていれば、中央銀行は非難されず、セントラルバンカーたちはぬくぬくと仕事を続けられるのである。
その結果、バブルが大崩壊しても、そのときはすべての人々が中央銀行にすがるから、過去の緩和を攻撃している場合ではない。それどころか、さらなる異常な前代未聞の金融緩和を切望し、それを「英断する」(ただ甘く行動するだけなのだが)中央銀行は、「救世主」として市場と社会から絶賛されるのである。
問題は、今世紀に入って、すでにこれを3回繰り返しているが、もう1度やる余力が世界経済にあるかどうかである。いうまでもなく、私は「ない」と思っている。だが、「ある」と思っている投資家たちですら、うすうす懐疑的になってきている。ただ、今のところ、都合の悪いものは見ないようにしているだけである。
崩壊の日は近い。
と書いて、ここで終了しようと思っていたが、15日のECB理事会、16日の日銀、それぞれの金融政策決定会合を受けて、若干追加した。
ECBは前回に続いて0.25%の利上げを行い、今後も利上げを継続すると明言した。しかし、0.25利上げはすべての人が知っていたことで、かつ欧州のインフレの状況を見れば、まだ実質金利は大幅にマイナスなので、投資家たちは誰も文句を言わなかった。ユーロドル、ユーロ円ともにユーロ高となって上昇したが、混乱はどこにもなかった。
そして、16日の正午前、日銀は大方の予想どおり、まったく動かなかった。完全な無風である。1ミリメートルの政策変更もなかった。
15時半からの記者会見で、植田総裁が何らかの今後の正常化の動きを示唆、または含みを持たせると期待した向きも一部にあったようだ。だが、これも完全なゼロ回答。それどころか、就任前の国会での聴取からは大幅に後退、毎回しゃべるたびにハト派というか、自信のなさそうな話しっぷりになっている。
学者的な雰囲気はむしろさらに強まったかのようだ。少なくとも「闘う男植田」は消えた。
危機は深まっている
しかし、投資家もメディアも優しい。ほとんど植田批判は聞かれない。金融政策の中身については、黒田前総裁の路線を完全に踏襲している。黒田総裁は強気の会見だったからか、途中から総攻撃を受けたが、植田氏は金融政策崩壊の危機は刻々と近づいているのに、誰も攻撃しない。
なぜか。株価が上がっているからである。円安が再びジワジワと進んでいるだけで、ヘッジファンドの攻撃という、目に見える危機がないからである。むしろ、ヘッジファンドから攻撃の標的にされていないのに円安が進んでいるということは、対抗措置も効かないことを意味しており、危機は深まっているのにだ。
中央銀行がバカなのではない。投資家が愚かであり、メディアも、その日の危機をあおるニュース以外には関心がないという「平和ボケ」だ。
今さら私が吼(ほ)えていても仕方がない。ある意味、これが黒田日銀のいちばんの罪である。最も派手に金融政策を躍らせたため、人々の感覚が麻痺してしまい、静かな危機に不感症になってしまったからである。これこそ私が「(インフレを意図的に起こす)リフレはヤバい」と言ってきたように、リフレがもたらした最大の罪なのである。
今後、危機がいよいよ崩壊となって実現したときのために、「正しい」金融政策を整理しておこう。これは私の意見ではなく、客観的な事実、誰も否定できない経済理論、市場の原理である。
「正しい」金融政策に向けた6つの指針
1:現在起きているインフレは、供給ショックがきっかけだった。それは収まったが、構造的な人手不足による賃金上昇圧力が顕在化し、中期的に継続する。
2:それに対しては、金融政策は直接的な効果がない。できることがあるとすれば、利上げだ。金利上昇によって、不動産価格を下落させ、消費、投資需要を減少させ、主要因ではないものの要因の1つである需要の強さを減衰させるしかない。
3:インフレは継続すると定着してしまう。よって、短期的に大きなコストを支払っても、インフレの上昇継続を阻止する必要がある。結局、インフレは長期的な経済成長には大きなマイナスである。
4:「物価やGDPの名目的増加が重要だ」「経済指数は実質が中心だが、名目も現実世界では重要だ」という議論は、実質金利と名目金利にも当てはまる。それどころか、21世紀においては、名目金利は名目GDP増加率よりもはるかに重要だ。名目金利は明示的に銀行の融資姿勢、財務健全性に影響を与え、経済主体の投資行動に影響を直接的に与えるからだ。
したがって、高インフレ、高金利は経済成長にとって最悪のシナリオである。これは20世紀後半では誰もが知っていたことだ。だが、21世紀の最初の約20年間、流行を追う経済学者やエコノミストには忘れられていた。そして、彼らはようやくそれを思い出している。
5:「インフレ率は2%が理想だ」という理由はどこにもない。「ほかの国が2%だから、自分の国も2%にそろえたほうがよい」という理由は1つもない。それは各国それぞれの経済事情を反映して、むしろ、世界経済や各国経済の健全な成長のために、柔軟に調整されることが必要であり、インフレ率が各国で異なることこそ重要である。
変動為替レートの世界において為替を固定しようとするのが最も愚かであるのと同様に、各国の通貨、経済が相互依存の中で独立に動いている下で、インフレ率を各国でそろえようとするのは最も愚かしいことである。
6:YCCは、金融政策の歴史において例外中の例外の政策であり、緊急避難的に行われた歴史的事例が数例あるだけだ。しかも、それを長期に継続することはなく、実施した金融当局はいずれも、できる限り早くYCCから正常な金融政策に復帰することを目指していた。それでも、復帰のときには大きなダメージを金融市場に与え、当局が大きく反省したオーストラリアの事例(2021年11月にYCC目標撤廃)が教訓になる。
●メキシコペソは7年ぶり高値圏 6/18
好調なメキシコ経済を背景に、ペソは対ドルで7年ぶりの高値圏に浮上しています。米金融引き締めによるドル買いに押される場面もありましたが、底堅さを維持。ただ、高支持率のロペスオブラドール大統領の任期を控え、政治の不安定化への警戒も広がりつつあります。
メキシコの5月消費者物価指数(CPI)は前年比+5.84%と、昨年9月に付けた前年比+8.70%のピークから低下し、インフレ沈静化に向かっています。政策金利は2021年5月の4.00%から11.25%まで引き上げられましたが、メキシコ中銀は先月、16会合ぶりに利上げを休止。コロナ後のインフレ不況を乗り切ったもようです。アメリカよりも引き締めを先行させ、かつての通貨危機の教訓を生かしました。
米連邦準備制度理事会(FRB)は6月13-14日の連邦公開市場委員会(FOMC)でインフレ抑止に前向きな姿勢を改めて示し、ややドル買いに振れました。ただ、1ドル=17ペソ台とペソ相場は対ドルで底堅く、2016年4月以来7年超ぶりの高値圏で推移。コロナ最盛期の2020年4月には新興国経済の先行きが危ぶまれ、一時24ペソ台まで売り込まれましたが、それ以降はおおむね上昇トレンドが続いています。
メキシコの1-3月期国内総生産(GDP)は前年比+3.7%と、2022年10-12月期の伸びを小幅に上回りました。コロナ禍からの回復過程で8四半期連続のプラスを維持し、3-4%の成長は新興国のなかでは安定的と言えるでしょう。消費地に生産拠点を近づける「ニアショアリング」を追い風にベトナム経済は拡大し、2023年も加速する見通し。特に、アメリカの関税を回避したい中国メーカーの進出が活況を支えているようです。
メキシコが成長を維持できるかどうかは、政治情勢次第でしょう。犯罪や腐敗などが深刻化するなか、2018年の大統領選・議会選の勝利を受けロペスオブラドール政権が発足し今も6割超の高い支持を得ています。公正な社会の実現を目指しそれらに合わせた政策を推進している点が評価されているようです。ただ、社会不安は解消されておらず、来年の大統領選・議会選に向け野党は巻き返しを狙っています。
ロペスオブラドール氏は比例代表の廃止や選挙を管理する国家選挙庁の再編を柱とする選挙制度の改革案を提示。それにより選管当局のメンバー選出に民意が反映されるほか、歳出削減が可能と主張しています。対する野党は民主主義の後退と反発。メキシコは大統領の再選が禁止され、同氏が率いる左派「国家再生運動(MORENA)」が議席を守れるかが焦点です。ペソの大きな変動要因としても注目されそうです。
●世論調査での支持率は4割前後も バイデン大統領が選挙戦本格スタート 6/18
アメリカのバイデン大統領は来年の大統領選挙に向け、初めての選挙集会を開きました。ただ、再選に向けた環境は盤石ではないようです。
記者「バイデン大統領がステージに姿を見せました。再選に向けて選挙戦を本格スタートさせます」
アメリカ バイデン大統領「仕事を成し遂げるにはあなたたちの力が必要です。一緒に来てくれますか?」
バイデン大統領は、17日、東部ペンシルベニア州で自身を支持する労働組合を前に初めての選挙集会を開き、多くの雇用を生み出し、中間層を押し上げてきたと実績をアピールしました。
観衆「あと4年!」
バイデン氏支持者「年齢とともに知恵がつき、世界が分かるようになる」
支持者は、ことし81歳となる年齢についても問題ではないと強調しますが、世論調査での支持率は4割前後で推移、不支持が上回っています。
さらに、共和党のトランプ前大統領がバイデン氏を上回る調査もあり、再選に向け、厳しい選挙戦が続きそうです。
●金融機関の金融勘定:経済活動の拡大と収縮 6/18
1. 金融機関の金融勘定:日本
前回は海外の金融勘定 対GDP比について、主要先進国での比較をしてみました。
EU圏を中心に海外との金融取引を活発化させる欧州、海外からの投資が増えるアメリカ、カナダ、海外への投資が超過する日本という特徴がありそうです。
今回は金融機関の金融勘定について、対GDP比で比較をしてみたいと思います。
金融機関の金融勘定は、他の主体の金融取引が反映されて、その国の総合的な動きが見えてくると思います。
   図1 日本 金融機関 金融勘定 対GDP比
図1が日本の金融機関の金融勘定 対GDP比の推移です。
金融資産が青・緑系、負債が赤・橙系で表現しています。
金融資産が増えるまたは負債が減るとプラス側に、その逆だとマイナス側に記録されます。
金融機関の金融取引は、金融資産と負債がほぼ対照的に計上されていて、差引でほぼゼロとなりますね。金融機関は金融取引を媒介する存在であることが良くわかります。
差引の資金過不足ではほぼ相殺するわけですが、それぞれの取引の規模や内訳を見ると、その国の経済活動の特徴が見えてきそうです。
日本の場合は何と言っても1989年までの金融取引の活発化と、1990年からの急激な収縮が確認できる点が特徴的ですね。
もちろんバブル崩壊による収縮が可視化されている事になります。
1989年には対GDP比の60%の規模に達していたことになります。
バブル崩壊までは、負債のうち現金・預金(他者の金融資産のうち現金・預金)が大きな規模で、同じくらい金融資産のうち貸出(他者の負債のうち借入)が大きな存在感でした。
バブル崩壊によりこれらが収縮し、2012年あたりからまた徐々に増え始めています。
日本の経済が、バブル・バブル崩壊の影響を長期間引きずっていたことが可視化されているのではないでしょうか。
2020年にはコロナ禍への反応と思われるピークが確認できますね。この年は政府が負債を増やし、家計や企業の金融資産が増えています。
2. 金融機関の金融勘定:アメリカ
続いて、アメリカの金融機関のデータを見てみましょう。
   図2 アメリカ 金融機関 金融勘定 対GDP比
アメリカかの場合は、日本とは大きく異なる点がいくつかありそうです。
まず、負債側では現金・預金の割合が大きくありません。これは、他の主体が現金・預金を金融資産としてあまり保有していないことと符合しますね。
一方で、貸出は一定ボリュームでプラス側で計上されていますが、2008年を境に一気に収縮します。
リーマンショックによる影響が見て取れますね。
2009年には、貸出が大きくマイナスになっていますので、他の主体が借入をするよりも、返済をする方が大幅に上回ったことを示します。
2014年ころから貸し出しが増え始めていますので、ある程度リーマンショックの影響からは抜けたように見えますが、2019年までではかなり規模が収縮している事がわかります。
2020年以降はコロナ禍の影響とみられる急拡大が確認できますが、2022年には落ち着いているようです。
負債のうち株式等や年金・保険、金融資産のうち債務証券の存在感が大きい事も特徴的です。
3. 金融機関の金融勘定:ドイツ
続いてドイツのデータです。
   図3 ドイツ 金融機関 金融勘定 対GDP比
図3がドイツの金融機関の金融勘定 対GDP比です。
拡大と収縮を繰り返していますが、リーマンショックによる収縮、コロナ禍による変動が可視化されています。
また、1990年代末頃をピークとした拡大と収縮も見られますね。金融取引のボリュームとしては、対GDP比で15〜30%程度のようです。
特徴的なのは、金融資産側の現金・預金(青)の存在感が大きい事です。比較的株式(緑)も多いようです。
負債側では貸出が大きく、債務証券、株式、借入、年金・保険がある程度の存在感で推移しています。
4. 金融機関の金融勘定: フランス、イギリス
続いてフランス、イギリスのデータを見てみましょう。
   図4 フランス 金融機関 金融勘定 対GDP比
図4がフランスの金融機関の金融勘定 対GDP比です。
金融資産も負債もその他(グレー)が目立ち、詳細が良くわからないグラフになります。
フランスの場合、海外の金融勘定もその他のボリュームが大きかったですね。
項目がわかる範囲では、負債側では現金・預金が多く、資産側では現金・預金、債務証券、貸出、株式が比較的バランス良く保有しているという事くらいでしょうか。
何と言っても金融取引の規模が2007年で100%を超えていて、全体的に高水準であるのが特徴的です。
その他の内訳がどのようなものなのか、気になるところですね。
   図5 イギリス 金融機関 金融勘定 対GDP比
図5がイギリスの金融機関の金融勘定 対GDP比です。
やはり、リーマンショックでの急激な収縮が確認できます。フランスと異なって、内訳が良くわかりますね。
金融取引の規模が2007年で100%を超えているのも特徴的です。
やはり、負債側の現金・預金が拡大していて、その後急激に収縮しています。資産側の現金・預金や貸出も同様ですね。
少なくとも金融面から見た経済活動が、リーマンショック前まで拡大し、その後急激に縮小して停滞しているという事がわかります。
そして、コロナ禍での変動が起こり、2022年はまた落ち着いている状況です。
5. 金融機関の金融取引: カナダ、イタリア
続いて、カナダとイタリアのデータです。
   図6 カナダ 金融機関 金融勘定 対GDP比
図6がカナダの金融機関の金融勘定 対GDP比です。
他の主要先進国と異なり、安定している印象です。
確かにリーマンショックによる収縮も見られますが、他の主要国ほど急な変化ではありませんね。
アメリカほどではありませんが、負債側の現金・預金が少ないのが特徴的です。その代わり、債務証券、借入、株式、年金・保険がバランスよく含まれている印象ですね。
資産側も貸し出しをベースに、債務証券、株式などのバランスが取れている印象です。
金融取引の規模は対GDP比で15〜40%程度ですね。
   図7 イタリア 金融機関 金融勘定 対GDP比
図7がイタリアの金融機関の金融勘定 対GDP比です。
特徴としては、リーマンショックによる収縮が少ない事(その前に既に収縮している)と、資金過不足がやや大きめのプラス側で推移していることですね。
リーマンショック後の貸出がほとんど増えておらず、その代わり債務証券の増え方が大きいのも特徴的です。
6. 金融機関の金融勘定の特徴
今回は主要先進国の金融機関の金融勘定について対GDP比の比較をしてみました。
リーマンショックを機に金融取引が急激に収縮したアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスと、あまり影響しなかった日本、カナダ、イタリアで分かれているのは興味深いですね。
日本やイタリアはその頃すでに、金融取引が収縮していたことが大きいように見受けられます。
比較的家計が現金・預金を持たず、企業の負債のうち借入が少ないアメリカやカナダの特徴も良く表れていますね。
フランスやイギリスの金融取引が、リーマンショック前には対GDP比で100%を超えていたことも驚きでした。
金融機関の金融勘定では、このように他の主体の金融取引が反映されるという特徴があるようです。
各国の金融取引が活発だった時期や、急激に収縮した時期、金融取引の内訳なども読み取れますね。
2020年、2021年はコロナ禍の影響とみられる急拡大が見られますが、2022年にはある程度落ち着いているようです。
この後どのように経済活動が推移していくのか、金融機関の金融勘定にも注目していければと思います。
●GAFAM+テスラ「衰退開始」論の間違い…圧倒的な技術力と創造力 6/18
「GAFAM【グーグル、アマゾン、フェイスブック(現メタ)、アップル、マイクロソフト】」と呼ばれるビッグ・テックにリストラの嵐が吹き荒れていることは日本でも広く報道された。グーグルが1万2000人、メタが1万1000人、マイクロソフトが1万1000人、アマゾンは1万8000人を削減。リーマンショック以降の世界経済の成長を支えたこれらの企業の黄金時代は終わりを迎えつつあるのだろうか?
ビッグ・テックの人員削減が意味するもの
世界に知られるこれらの企業の人員削減の背景には、業績の停滞がある。2000年代後半から現在まで“この世の春”を謳歌してきたこれらの企業の業績が、今低下しつつある。『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(田中道昭著)はそんなビッグ・テックの今を解説し、未来を予見する。
先述の人員削減の背景には業績の低迷がある。GAFAM各社の2022年度の年間売上高はグーグルが前年比112%、アップルが同108%、アマゾンが109%、メタが99%となっている。ただ、2021年の売り上げを見るとグーグルは前年比138%、アップルが133%、アマゾンが121%、メタが137%と大きく売り上げを伸ばしており、それだけに2022年の売上高はビッグ・テックの業績停滞と黄金時代の終わりを強く印象づけるものとなった。
GAFAMは新技術での競争に勝てるか
グーグルは検索、アマゾンはネットショッピング、アップルはハードウェア向けアプリやコンテンツ。事業内容は様々だが、これらの企業はいずれも独自のプラットフォームを展開することで巨額の利益を得てきた。
しかし2020年代に入り、メタバースやAIなどの先端技術やサービスの発展によって新たなプラットフォームを作りだす企業も出てきている。彼らの出現による競争激化やスマホアプリの配布や販売への規制強化などによってGAFAMの優位性が崩れ、今後業績が悪化していくのではないか。そんな懸念から株価も下落気味となっている。
しかし、本書は業績の停滞や人員削減といった直近のニュースのみから「ビッグ・テックの終焉」を語るのは早計ではないかと疑問を呈している。業績の停滞でいえば、パソコンやスマホ、オンラインサービスの需要が激増したコロナ禍の期間が「特需」だったのであって、それが終わったからといって、GAFAMの技術力や創造性が失われたわけではない。
グーグルの親会社であるアルファベットのCEOサンダー・ピチャイが認めているように、コロナ禍の需要の急増に対応するために人員を増やし過剰な設備投資を行った結果、大規模な人員削減をせざるを得なくなったと考えると、経営上の不手際の誹りは免れないが、現在の状況は強烈な追い風が去って、通常の状態に戻っただけとも言える。
また、チャットGPTと検索サービスのBingを融合させたマイクロソフトや、メタバースの分野で世界をリードするメタなど、最新技術・サービスで依然ビッグ・テックの存在感は大きい。GAFAMのいずれかがこの分野でイノベーションを起こす可能性もある。少なくとも2022年の売り上げだけで「ビッグ・テックに冬の時代が到来した」と断じるのは早計だろう。

『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』はGAFAMに加え、先進性と技術力でこれらの企業に引けをとらないテスラを加えた6社の現状と戦略、将来の展望を解説していく。全世界にユーザーを抱えるビッグ・テック各社の動向を知ることは、今後の世界を見通すために大いに役立つはず。
彼らが今何を考え、何を仕掛けていこうとしているのか。本書からは表面的なニュースからはわからない真の知見が得られるはずだ。 
●「決定的なダメージを与えることになる」岸田総理、核軍縮・不拡散に危機感 6/18
岸田総理は、核兵器の威嚇を続けるロシアによるウクライナ侵攻を許してしまえば核軍縮・不拡散に「決定的なダメージを与えることになる」と指摘した上で、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加したG7広島サミットの意義を強調しました。
岸田総理「核兵器を放棄した国(ウクライナ)が核兵器を持ってる国に威嚇され、そして侵略される。こういったことを許したならば、国際社会における核軍縮において、そして核軍縮・不拡散において、決定的なダメージを与えることになってしまう」
岸田総理は母校・早稲田大学での講演で、核兵器の威嚇によるロシアのウクライナの侵攻を許してしまえば、「やはり核兵器を持たなければ駄目なんだというメッセージを与えてしまう」と核軍縮・不拡散に危機感を示しました。
そのうえで、5月に行われたG7広島サミットにゼレンスキー大統領が参加し平和や核軍縮への思いを語ってもらったことについては、核軍縮・不拡散の「議論に重みを与えることになった」として、開催の意義を強調しました。

 

●米銀破綻を許した当局のザンゲは「対岸の火事」か 6/19
銀行の基本を忘れたようなずさんなリスク管理の末に取り付け破綻した地銀に対し、なぜアメリカ当局は後手に回ったのか。何を汲み取るべきか。
シリコンバレーバンク(SVB)をはじめ、3月にアメリカで発生した相次ぐ地方銀行の破綻は、その規模の大きさ、さらにはSVBの場合、わずか2日間で全預金の85%程度が流出した可能性が指摘されている預金流出のスピードの異常な速さから、金融関係者の肝を冷やす出来事となった。
もっとも、金余りの中、急速に増えた預金をそのまま固定金利の長期債等に回すといったリスク管理の基本のキを忘れたような行為は、銀行には許されないものだ。高インフレ勃発でFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が急速な利上げに走り、保有資産に巨額含み損が発生したことが表面化するとSNSで噂が一気に拡散し、まれにみるスピードの預金流出となったわけだ。
通常は、こうしたずさんな運用に対しては、銀行のリスク管理部門や株主のエージェントであるべき取締役会がチェックを入れる。SVBの場合、執行部側が自らの利益を追求するなかで、相当意図的な形で組織内部のリスクに対するチェック体制を骨抜きにしたようである。
ただ、銀行のリスク管理が機能しなかった場合でも、監督当局が是正に向けて動き出す。これがなぜ機能しなかったのだろうか。
遅すぎた落第点
シリコンバレーバンクの場合はFRB(なお直接監督に当たっていたのはFRB傘下のサンフランシスコ連銀)、シグネチャーバンクの場合は連邦預金保険公社(FDIC)が監督に当たっており、それぞれの当局が銀行破綻後間髪を入れずに、事の顛末を綴った「懺悔レポート」を出している。
2つの当局のレポートの内容には似通った部分が多い。
最初に、今回の破綻劇の最大の要因は、余りに「稚拙な」破綻銀行のリスク管理体制であり、これに対し事前に監督当局が忠告していたにもかかわらず、これに対し「聞く耳を持たなかった」破綻銀行経営陣の「図々しさ」であることが指摘されている。
しかし、である。レポートをよくよく読むと、FRBもFDICも、破綻銀行の経営に明確な「落第点」を付けたのはつい最近であることがわかる。
例えばFRBの場合は、検査チームが中小行担当から大手行担当に変わった2021年にようやくシリコンバレーバンクの評価を下げ、その後「証拠の積み上げ」を経て2022年8月に監督上の格付を「欠陥あり」に引き下げた。FDICに至ってはシグネチャーバンクが破綻する直前まで、評価を大きく引き下げていない。
この遅すぎた評価については、両当局ともに「忸怩たる思い」を語っている。本来であればもっと早い段階で、より深刻な問題として先方経営陣に伝えると同時に、自信を持って是正措置を取らせるべきであった、と……。
今から振り返れば、いずれの銀行の経営も、信じられないほどにガバナンスとリスク管理ができていなかったわけである。それにもかかわらず、なぜ両監督当局は今頃になって悔しい思いを吐露することになったのか。
両当局が異口同音に言い訳しているのが、検査官の「質」「数」の不足である。
検査時間、スタッフが4割減
FRBの場合、シリコンバレーバンクの担当は、大手行チームに引き継がれる2021年以前は、何と中小行担当とコミュニティバンク(日本の信金/信組クラス)担当の混成チームが当たっていた。さらに、資金規模が急成長した2017〜2021年の間に同チームが検査に費やした延べ時間は、何と4割も減少していたのである。
FRBのレポートは、2016〜2022年の間に全米の銀行総資産が37%増える一方で FRBおよび傘下連銀の銀行監督に当たるスタッフ数がこの間3%減少したと指摘している。暗にスタッフ不足が上記事態を招いたと言いたげだ。
FDICの場合はより明確で、必要な人材が高給で民間に取られてしまい、本来あるべきスタッフ数に比較して4割不足していたと嘆いている。こうした慢性的なスタッフ不足が対象金融機関の不十分な評価や、評価結果の伝達の遅さにつながった可能性が高い。
FRBはこれ以外にも、銀行監督や会計ルール等に関するさまざまな制度的欠陥を十分な対応が出来なかった理由として指摘しているが、同時に監督当局としてやや微妙な論点も持ち出している。政治的要因である。
トランプ政権下で中規模銀行に対し規制を緩和した結果、シリコンバレーバンクやシグネチャーバンクのように急成長に伴い大規模銀行の一歩手前にまできた銀行に対し、有効な監督を実施できなかったというのである。
さらには、当時の監督当局内の「(銀行に過大な負担を求めないという)ライトタッチを志向する空気」も、問題先の指摘を難しくしたらしい。
例えばシリコンバレーバンクは、アメリカ経済の「ドリーム」を担うシリコンバレーのスタートアップをまとめて世話してきた特別な存在である。株価も比較的最近までは高値を維持してきた。
モノ申しにくい空気
そのような銀行に対し中小銀行を担当する2線級の検査官が、仮に深刻な問題を発見したとして、これをサンフランシスコ連銀の上司、さらには最終的なチェックが入るワシントンDCのFRBに対しモノを申すことなどできなかったのではないか。
同じようにFDICが対応したシグネチャーバンクのボードメンバーには、かの有名な元共和党議員のフランク氏が名を連ねていた(2008年の世界金融危機の反省に立ち金融規制の抜本的強化を実現したドッド・フランク法の「生みの親」である)。現在の金融規制の生みの親が監督する銀行経営にケチをつけることは、決して容易ではないはずだ。
それでは果たして、こうしたアメリカで起こったイベントから、われわれが何か学ぶべき点はないのか。
まず、アメリカの地銀に起こった破綻という点では、日本で同じような問題が起こる可能性は低いと言える。日本の地方銀行のリスクプロファイルは、今回アメリカで破綻した地方銀行とは大きく異なるからだ。
確かに、アメリカで長期金利が急上昇し、日本で日銀のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の修正から長期金利水準が切り上がる中、日本でも有価証券投資で大きな損失を出した地方銀行は多い。その結果、一部の銀行の自己資本比率は、仮に含み損まで勘案すれば、所要最低自己資本比率を下回る水準にまで落ちている。
さらに一部の経営体力の低い銀行が取っている金利リスク量は、アラーム水準である自己資本比率の2割を大きく超える水準まで高まっている。
それでも、こうした先の数は限られ、規模も小さい。さらに日本がアメリカと異なるのは、預金の安定性だ。その大部分が個人の小口預金であり、預金保険の対象となっている。アメリカの破綻銀行で法人の決済性預金が中心で、預金保険の対象外の預金が全体の過半に達していたのとは大きく異なる。
一方で、当局による監督体制はどうかとなると、日本でもやや気になるところがある。
アメリカ当局に対する複雑心中
今回のアメリカの金融システム不安に対し、日本の当局も「呆れ返っている」との声を聞く。なぜあれほど明確なガバナンスやリスク管理上の不備を、当局は許してしまったのか、ということだろう。
日本としてみれば、リーマン・ショックに端を発する世界金融危機の際に、それまで自己資本比率規制の国際ルールであるバーゼルII導入を主導しながら、その実施にいつまでも踏み切れなかったアメリカが、金融危機の導火線を引いてしまったという嫌な「既視感」がある。
アメリカ当局は自らの「罪」を目立たなくするかのように、(まだ導入もしていなかった)バーゼルIIを悪者にして、新しいバーゼルIIIの策定の必要性を唱えた。これに付き合わされた日本当局としては、たまったものではない。さすがに今回の地銀破綻では、アメリカ当局はバーゼルIIIの実施導入が遅れた非を認めたわけだが……。
いずれにしても、アメリカの金融システム自体が世界経済にとって”too big to be disrupted”(大きすぎて崩壊させられない)である中で、アメリカ当局にもう少し頑張ってほしいというのが日本当局の本音であろう。
ただし、である。筆者はアメリカ当局がさらした問題の一部は、実は日本でも存在するのではないかと考えている。それは何か。
1つは当局のスタッフ不足の問題だ。
日本の国家公務員のなり手が減っていることは、最近大きな社会問題となりつつある。これは金融庁にも当てはまる。金融庁職員は、数こそここ数年1500〜1600人で推移しているようだが、なかなか優秀な新人が入ってこない、あるいは優秀な若手が民間に流れるといった(他の省庁でもよく聞く)問題が深刻化しているらしい。
さらにいえば、金融庁は従来、規制策定や実施の中核部分を俗にいう「外人部隊」(監査法人等民間からの出向者) に任せてきた。
「外人」活用の功罪
「外人」活用には、スタッフ不足解消やピラミッド構造(幹部は少数のプロパーが占め、その下の中核部隊を出向者で膨らませる構造)の維持、さらには高い給与が払えない中でも民間の優秀な知見を吸収できるといったさまざまなメリットがある。
ただし大きな問題となるのは、こうした「外人」たちが数年で古巣に戻ってしまうことだ。残念ながら、彼らが築いてきた規制・監督の専門的知見が組織知として確立されないことも多いようだ。
例えばバーゼルIIの国内規制を策定し実施してきた実働部隊の中核がほとんど抜けてしまった今、バーゼルII実施の維持(例えばいったん金融庁が認可した信用リスクモデルが、その後の外部環境変化に応じてアップデートされているか否かの確認等)が困難化しているとの懸念も聞かれる。
さらには、2017年の検査局の廃止に伴い、銀行の債務者企業の資産評価が記された「ラインシート」を読める検査官が少なくなったとも聞く。不良債権問題の華やかなりし頃に活躍した検査官は、銀行の自己査定制度の高度化に伴い必要なくなったというのが理由だ。
もっとも、今回のアメリカの地方銀行のように、あえて「不適切な」リスクを取りに行く先が出てくれば、かつての検査官からみれば「明白な問題」を当局が簡単に見逃す可能性も出てきてしまう。
当局が抱える問題のもう1つは、政治からの独立性である。
アメリカであっても、陰に陽に政治的圧力が監督当局の判断に影響を与えた可能性は否定できない。欧米主要国の銀行監督当局は、政治から独立した機関とはなっているものの、そのトップは政治家が指名する仕組みとなっている(日本銀行と同じような仕組み)。
一方、日本の場合は、欧米とは異なり金融庁は政府の一部(正確には内閣府の外局)であり、また金融行政を主管する大臣(内閣府特命担当大臣<金融担当>)も存在する。少なくとも組織的な形態からみれば、政治の影響がより及びやすい構造となっている。
政治家に遠慮せずに判断できるか
IMF(国際通貨基金)が2017年に日本に対し行った金融セクター評価プログラム(以下FSAP)では、金融庁の業務的独立性は保たれているとしつつも、金融庁長官の解任を規定する法規定をより厳格化する余地が残るとも指摘している。
最近の金融庁長官の「変則」人事をみていると、確かに金融システムの安定を図るプルーデンス政策に関して一定の独立性を担保するという意味では、的を得た指摘なのかもしれない。
政治と銀行監督当局との間の距離は、銀行の破綻処理まで考慮すれば、公的資本投入の必要性も出てくるわけで、少なくとも政治と中央銀行の関係に比べ、より近いものが望ましい。ただし、その結果として金融システムや個別行の健全性判断に政治的バイアスが強く及ぶようになれば、今回のアメリカのように、問題行を長期間放置するケースも出てくるかもしれない。
アメリカでは、破綻に瀕した銀行に公的資金を投入しない原則が確立される中でも、政治的圧力が残っている。一方、日本では公的資金の投入が徐々に「当たり前化」しつつあることから、たぶんアメリカ以上に強い組織的独立性を監督当局に付与しない限り、政治家に遠慮しないプルーデンス判断は難しくなるのではないか。
このようにみると、日本の当局にとっても、今回のアメリカでの地銀不安のケースは決して他人事とはいえないようだ。
●仮想通貨は「要らない」とアメリカ財界大物が爆弾発言… 6/19
SEC委員長の「仮想通貨不要論」
5月末から6月13日までの間、暗号資産(仮想通貨)の代表格である“ビットコイン”の交換レートは下落した。対米ドルの下落率は約4.7%だった。
仮想通貨下落の要因の一つとして、米証券取引委員会(SEC)のゲイリー・ゲンスラー委員長が、仮想通貨の“不要論”を打ち出した影響は大きかった。
委員長の主張はこうだ。仮想通貨の取引サービスなどを提供する企業は、投資家保護など法的な責任を負う。関連企業は証券法を守らなければならない。
しかし、企業と顧客の資産の分離管理などが徹底されているといいがたい。また、多くの暗号資産の価値は一定ではない。どうしても投機の対象になりやすい。
6月5日、SECは、有価証券と考えられる暗号資産の売買を未登録のまま仲介したとして、世界最大手、“バイナンス”を提訴した。そうしたケースは増える可能性が高い。
今すぐではないにせよ、仮想通貨や、関連企業の株価下落リスクも高まりそうだ。
展開次第によってそれは、米国などの金融市場の不安定性を高める要因になると懸念される。
「救世主」破たんの教訓
SECは、法令を遵守していなかったと判断し、バイナンスを提訴した。SECの公表文にその理由が示された。
主なものは、取引高の水増し。無登録での有価証券の勧誘と販売、などだ。SECは多くの仮想通貨を有価証券とみなし、投資家保護のために登録が必要と考えている。
その理由の一つとして、FTXの経営破たんの教訓は大きい。FTX創業者のサム・バンクマン=フリード氏は仮想通貨業界の“救世主”と、もてはやされた。
政治献金も積極的に行い、急速にビジネスは拡大した。裏側で、FTXは顧客資金を流用していた。その余波から、2023年3月、シルバーゲート銀行は清算に追い込まれた。
仮想通貨の取引業者が法令を遵守しなければ、利用者や金融システムに負の影響が及ぶ恐れは増す。
また、多くの仮想通貨の価値は一定ではない。どうしても投機の対象になってしまう。群集心理が突如として高まり、価格の高騰と、その後の急落が起きやすい。
それに伴い、リスクを取りすぎた業者が破たんするリスクも高まる。
仮想通貨は「トレカ」になる
ゲンスラー委員長は、「ドルなどの法定通貨もデジタル空間で取引されており、これ以上仮想通貨は必要ない」と述べた。6日、SECは米大手交換所コインベース・グローバルも提訴した。
提訴後、コインベース株は下落した。その後、バイナンスの米国法人は、顧客のドル資金預け入れを止めた。仮想通貨業界全体で、先行き不透明感は高まっている。
それは、株式など金融市場に負の影響をもたらす恐れがある。代表的なケースは、米国の著名投資家であるキャシー・ウッド女史が率いる、“アーク・インベストメント・マネジメント”だ。
SEC提訴とほぼ同じタイミングで、同社のファンドはコインベース株を買い増したと報じられた。
長期的な展開予想として、仮想通貨は“トレーディングカード”のように、一部愛好家に取引される商品としての性格を強めるのではないか。
ゲンスラー委員長が指摘する通り、わたしたちはネット上で法定通貨を利用できる。
日銀などは“中央銀行デジタル通貨”の研究開発も進めている。仮に仮想通貨がなくなったとして、生活に支障が生じるとは言いづらい。
そうした考えに基づき、コインベース株を買い増したファンドの価値下落を懸念する人は増える可能性はある。
株式市場にも影響が
ファンドの解約が増えれば、ファンドマネージャーは他の保有銘柄も売却し、現金を用意しなければならない。
今後の展開次第で、仮想通貨関連の株を購入したファンドを起点に株式市場全体に売り圧力が広がる恐れは、排除できない。
また、米国で、金融引き締めが継続される公算は大きい。米国の金利は高止まりしそうだ。
それによって、仮想通貨関連の企業と取引する小規模な銀行が不良債権を抱える恐れは増す。
今すぐではないにせよ、仮想通貨の価値が下落すれば、米国の株式市場でリスクオフが進み、世界的に金融市場の不安定性は高まる恐れもある。
さまざまな形で、世界同時株安のリスクは高まっている。連載記事〈今の日本株はやはりバブル…?目前に迫る「世界同時株安」に備えよ〉では、別の視点からそのリスクについて注目している。
●それでも「日経平均株価の上昇は危うい」と断言できる理由 6/19
日本株が続騰基調にある。代表的な指標である日経平均株価は反落も交えたものの、6月16日にはザラ場高値(3万3772円)と終値(3万3706円)がともに平成バブル崩壊後の最高値を更新した。
同日のアメリカではシカゴ日経平均先物は3万3675円で引けたが、これは現物指数に換算すると3万3750円辺りに相当する。今週(19〜23日)も勢いだけの上振れが続くことで、「3万4000円超え」の局面到来を否定できない。
相場予測は大外れ、率直にお詫びする
当コラムでは「今年前半は投資環境の悪化による株価下落が優勢になる」と唱え続け、安値のメドとして現時点では2万7000円を提示している。だが、実際の市況はこれとは真逆の株価暴騰となっており、筆者の見通しは大外れだ。
筆者は種々の機会において、専門家の予想数値だけを取り上げることは有益ではなく、その背景となる分析のほうがはるかに重要だと主張してきた。また、投資家の方々が自分自身で投資戦略を立案するうえで、専門家の主張や見解を丸ごと信じるのではなく、それを踏み台として、それらを上回り、高みに立つような展望を構築してほしい、とも述べてきた。
とはいっても、市況の予測数値は筆者から提示する情報の重要な一部であり、それが大外れであることは専門家として重責だ。すでに多くの叱責を頂戴しているが、そうした声をいただく以前から、筆者の予測の誤りが投資家の判断に悪影響を与え、投資収益面でご迷惑をおかけしているという点に日頃から思いを巡らせている。
実際、毎日胃が痛い思いをし、眠れない日も少なくない。当コラムの執筆だけでなく、雑誌、電子媒体などへの寄稿、テレビやラジオへの出演も「投資家にさらにご迷惑をおかけするばかりではないか」との恐怖にとらわれる。
だが、筆者が心痛を覚えても、皆さんに及ぼしたご迷惑は消えてなくならない。実際に投資成績に悪影響を被った投資家の方々のほうが、筆者の何倍も辛い思いだと拝察する。この場を借りて、心よりお詫び申し上げたい。
筆者は、証券会社の調査部門に勤務した期間が長い。市場見通しを誤った際には、上司から「お前の軽い頭を下げて詫びられても、投資家の収益が改善するわけではない、そんな役に立たない謝罪をしている暇があったら、分析を再点検することに時間を使え」と諭された。
日本への知見が浅い「ツーリスト投資家」が今の主役
当時の上司の教えに従って、現在の日本株暴騰の背景を再点検したい。その結論は、読者の方々は「懲りないやつだな」とあきれるだろうが、やはり世界の投資環境は悪化し続けており、日本を含む世界主要国の株価下落が示唆されているということだ。
投資家動向から述べると、5月以降の日経平均暴騰の主役は海外投資家の買いだ。ただし、筆者自身が情報交換している海外投資家から得られる感触では「日本株投資の経験が長く、日本を熟知している長期投資家は本格的な買いは行っていない」というものだ。
こうした感触は、海外投資家と接しているほかの多くの証券関係者からも寄せられる。加えて、日本株を大いに買っているのは「ツーリスト投資家」が中心だ、との言葉もよく聞く。
観光業界ではその国を団体旅行で初めて訪問したり、「単なる旅行者」として訪れるよう人を「ツーリスト」と呼ぶ。「ツーリスト投資家」はそれと同様、日本株への投資経験がないかほとんどない状態で「試しに日本に資金を投じるような投資家」を指す。ツーリストが短期間の旅行で本国に帰るのと同様に、ツーリスト投資家も日本株投資が短期間となる場合が多い。
こうした投資家について、豊島&アソシエイツ代表の豊島逸夫氏が、14日付の日本経済新聞電子版で披露していた見解が興味深いので、一部を引用したい。
「すでに日本株を購入した投資家は、日本株保有の『初体験組』が多いので、その決断が正しかったのかどうか、不安な心理状態にいる。そのため、日本株についての好意的な記事をあさるように探している。マーケティング理論でいうところの『認知的不協和』を最小限に抑えるように行動しているのだ」
ここで言う「認知的不協和」とは、自身の中に2つの矛盾する認識があることを意味する。人はその矛盾が不快なので、何かのこじつけでもそれを解消しようとする。
有名なのは「すっぱいブドウ」の逸話だ。キツネは、高い場所にブドウを見つけ、食べたいと思った。しかし、高すぎて手に取って食べることができない。「食べたい」という気持ちと「食べられない」という現実との矛盾を解消するため、キツネは「どうせあのブドウはすっぱくてまずい」といった、真実かどうかわからない言い訳で気持ちを落ち着かせる。
それと同様に、ツーリスト投資家も「自分は日本株を買った、儲かりたい」という願望と「自分は日本株投資の経験がなく、日本のこともよくわからないので、買いは失敗だったのでは」との不安が、矛盾しているのだろう。
その矛盾解消のため、「円安で日本株は上がる」「ウォーレン・バフェット氏が日本株に前向きだから上がる」「東京証券取引所が低PBR(株価純資産倍率)企業に改善を求めているから上がる」といった、確固たるものか定かではない報道にすがって、自身の投資判断を正当化しているのだろう。
海外投資家のレベルを知り、椅子から転げ落ちそうに
「海外投資家」と聞くと、そのすべてが高度な投資手法を駆使し、知識も見識もすばらしい投資家だと、誤解しているかもしれない。
だが、日本を知らない海外投資家は本当に多い。最近、「ある豪州の機関投資家が日本株に関心があり、とくに日本の政治について知りたがっている」と知人から紹介され、メールで解散総選挙の可能性を中心に、政治情勢について質問を受けた。多くの質問のあと、最後のメールの末尾の文章を読んで、椅子から転げ落ちそうになった。
「ハル(筆者のニックネーム)、詳細に教えてくれてありがとう。衆議院の解散について、とてもよくわかったよ。ところで、参議院の解散についてはどう思う?」
日本の国会制度などをきちんと説明したが、その程度の投資家も今は日本株買いに多く参戦していると考えたほうがよい。
世界の金融・経済環境も再点検しよう。金融政策については、最近2週間だけでも、ユーロ圏、カナダ、豪州で利上げが行われた。ユーロ圏では、昨年10〜12月期、今年1〜3月期と、実質経済成長率(前期比)が「景気後退の目安」とされる2四半期連続のマイナスとなった。それでも、根強いインフレを抑え込むため、景気をさらに押し下げ、株価には逆境となる政策が進行し続けている。
また、アメリカではFED(連銀)が、13〜14日のFOMC(連邦公開市場委員会)でこそ利上げを見送ったものの、年末の政策金利予想値を0.5%幅引き上げた。アメリカの資金面では、経済全体の資金量を測るM2(現預金合計)の前年同月比は、昨年12月から直近の4月分(4.6%減)まで5カ月連続の減少だ。M2が前年同月比でマイナスとなるのは1960年1月以来初めてで、アメリカの景気や株価を締め上げていくだろう。
さらに中国でも、経済統計は4月以降、不振が目立つ。ゼロコロナ政策解除による景気押し上げが期待されたが、空振りに終わっている。確かに足元で中国は政策金利引き下げの姿勢を強めているが、景気悪化に歯止めがかかるかは心もとない。
こうした世界経済の悪化は、日本からの輸出に影を落としている。15日に公表された5月の貿易統計では、輸出数量は8カ月連続の前年同月比マイナスだ。
円安が外貨建て輸出の円換算値を膨らませていることで、輸出金額は増加してはいるが、5月の前年同月比はわずか0.6%増にすぎず、今後マイナス圏への転落もありえよう。
「円安だから輸出株中心に日本株は買いだ」などと楽観できる状況ではない。しかも、何とか増加している輸出金額でも、中国向けは6カ月連続の減少だ。中国と地理的・経済的に関係が深い日本への悪影響が強く懸念される事態で、「中国がダメだから日本株に資金が逃避する」などという主張は夢物語だろう。
「長期展望は悲観せず」も不変
ただ筆者は、長期的には日本株に悲観ではない。長期展望を丁寧に解説するのには一定の分量が必要だ。また、筆者の予想では株価上昇は、いったん株価が下振れしたあとになる。よって、こうした長期予想はまたあらためて解説しよう。ただし『週刊東洋経済』(6月17日号)ではその背景に簡単に触れているので、お読みいただければ幸いだ。
また、筆者が主催しているセミナーの参加者の方々には「日経平均はいったん下落したあと、今年末までには再度3万円の大台を奪回すると見込むし、2024年はさらに株価が上がるだろう。日本株を購入するなら、株価がいったん下振れすることを覚悟しつつ、じっと現物株やファンドを持ち続ければよい」と解説している。
避けるべきなのは、今後日経平均が2万7000円程度に「下がってから」、怖くなって株式などを思いっきり売却してしまうことだ。逆に、この水準に近いところまで下がったら買い場だ」とも伝えている。
●米国務長官と中国外交トップの会談始まる 台湾問題など議論か 6/19
北京を訪問中のアメリカのブリンケン国務長官は中国の外交トップ、王毅政治局員との会談に臨んでいて、米中関係改善の糸口をつかめるか注目されています。北京から中継です。
会談は1時間ほど前に始まり、台湾問題などについて議論を続けているとみられます。
ブリンケン国務長官と王毅政治局員は会談前に握手を交わし、着席後は王毅氏がカメラに向かって手を振る場面もみられました。2人は4か月前にドイツで会談しましたが、その際は直前に起きた中国の気球の撃墜をめぐり、激しく批判し合う形となりました。
ブリンケン氏はきのうは、秦剛外相とおよそ7時間半会談。アメリカ国務省によりますと、誤解や偶発的な衝突を防ぐために、開かれた対話の窓口を維持する重要性を強調したということです。
また、中国外務省によりますと、秦剛外相は両国関係について「国交樹立以来、最悪だ」「正常な軌道に戻さなければならない」と述べ、双方が緊張緩和の必要性を訴えました。
しかし、台湾問題については中国側が「核心的利益の中の核心で、最も突出したリスクだ」と指摘し、アメリカとの深い溝もあらためて浮き彫りになりました。
ブリンケン長官は今夜、北京を発つ予定ですが、習近平国家主席との会談も模索しているとみられ、緊張緩和に向けて道筋をつけられるかも焦点となっています。
●利上げ停止という安心材料で、米国株は年末までに15%上昇も 6/19
33年ぶりに高値を更新した堅調な日本株に対して、米国株は堅調ながらも勢いが鈍い。しかし筆者は、米国の景況感と物価および利上げの見通しから、米国株について強気の見通しを持っている。
5月のISM製造業指数は46.9と好不況の分かれ目とされる50を下回ったが、そう悲観することはない。ISM製造業指数は、在庫循環サイクルに連動するように「ボトム」と「ピーク」をつけるかたちで推移してきた。2020年4月が直近のボトムとすれば、周期的に次のボトムは23年7月ごろとなろう。
もっとも、足元の水準はすでに相応に低く、この水準からさらに悪化するとは予想し難い。1990年1月から2023年2月までのデータでは、ISM製造業指数が46以上48未満にあった月は22回あった。これらについて3カ月後の変動幅を見ると、2ポイント以上悪化した事例は、いずれも「イラクのクウェート侵攻」「9.11」「リーマンショックの発生」に関連して悪化したものと推察される。つまり、相応の悪材料がない限り、足元の水準からの悪化は免れる可能性が高い。
利上げが景況感に悪影響を与える可能性についても考えたい。過去には、利上げから1年ほどのタイムラグを置いて景況感が悪化するというケースが散見された。これに従えば、先行きの景況感も悪化しそうだ。しかし、今回の利上げ局面に関しては、すでに景況感がピークをつけてから1年ほどタイムラグを置いて利上げが開始されており、その後は利上げと景況感の悪化が同時進行してきた。そして、今回の利上げ局面はもはや終了したか、あるいは終盤と言ってよいだろう。そうだとすれば、景況感についても、既往の利上げの累積効果が顕現化するよりも、むしろ利上げ終了という安心感があって反発する可能性もある。
米国の消費者物価を「商品」「家賃」「家賃を除くサービス」に分解して先行きを占うと、商品や家賃については、先行的に推移するCRB商品指数やS&Pケース・シラー住宅価格指数(主要20都市)などの前年比はマイナス圏にあることから、目先では、スムーズにインフレ鎮静化に向かうとみられる。家賃を除くサービスについても、自発的離職率がこの2年余りで最低水準となるなど、雇用市場が落ち着きつつあることから、次第に低下すると思われる。従って、先行きの消費者物価指数の伸び率も鈍化し、利上げ終了を後押しすることになるだろう。
1995年以降、5回の利上げ局面終了後の米国株価を振り返ると、ドットコムバブルの渦中にあった2000年5月の事例を除き、米国株は堅調に推移していた(図表)。今回も同様の展開を予想し、目先の6カ月で15%程度上昇するとみる。
●FRB当局者、タカ派発言相次ぐ 利上げ休止直後に 6/19
米連邦準備理事会(FRB)の当局者らは16日、金利据え置きを決めた13─14日の連邦公開市場委員会(FOMC)後初めて発言し、タカ派姿勢を相次ぎ示した。
ウォラー理事はノルウェーで開かれた会合で「コアインフレは想定したほど低下していない」とし、「インフレに動きは見られず、インフレ低下に向け、おそらくもう少し引き締める必要があるだろう」と語った。
同氏は講演原稿で3月上旬に起きたシリコンバレー銀行破綻以後の信用状況の変化は、それ以前に始まっていたFRBの利上げによる金融引き締めの流れに「沿っている」と指摘。信用環境の想定以上の逼迫によって追加利上げの必要性が低下するとの見方には同調しなかった。
「最近の銀行部門の緊張」によって、FRBが金利政策を通じて意図した以上に「融資環境の引き締まりを著しく強めたかどうかはまだ明らかではない」と語った。
リッチモンド地区連銀のバーキン総裁はメリーランド州で行われた会合で、インフレ率が2%の目標に戻る軌道にまだ明確にはないため、追加利上げに抵抗感はないと述べた。
需要減速によりインフレ率が比較的早期に目標の2%に戻るというシナリオに確信を持つための材料をまだ探しているとし、「今後の指標がこのシナリオを裏付けない場合はさらなる行動に前向き」と述べた。
FRBはFOMCで利上げを見送ったが、同時に発表した金利見通しは年末までに合計0.50%ポイントの利上げを行うシナリオを示した。
利上げに慎重とみられるシカゴ地区連銀のグールズビー総裁は、利上げ休止の決定についてラジオ番組で「私はこの決定を偵察任務と捉えている。丘を登る前にいったん歩みを止め、状況を確認するものだ」と述べた。
経済指標は相反する結果を示しており「景気が過熱しもっと利上げが必要なのか、それとも過去1年間に5%ポイントの引き上げを行ったことで十分なのか」と問いかけた。その上で「今後は臨機応変に対処するしかないようだ」と語った。
●パウエル議長議会証言、BOE、FRB理事承認、ブリンケン米国務長官訪中 6/19
今週はFRBが年2回公表する金融政策報告書に関し、パウエル議長は2日間の議会公聴会に出席する予定で注目となる。FRBが公表した金融政策報告では、「インフレは鈍化も依然2%目標を上回っている」と慎重。追加利上げを巡り、各会合で決定していく方針を確認した。また、金融システムは「依然堅調で柔軟性がある」とした。成長では、信用状況の引き締まりは経済活動の重しになる可能性を指摘したほか、インフレ制御には潜在的な水準を下回る成長が必要である可能性に言及した。民主党はウォ―レン上院議員などが「FRBが利上げを停止すべき」と主張。一方で、共和党はバイデン政権の巨大な歳出拡大がインフレを高止まりさせており、支出削減の必要性を訴えている。
そのほか、FRB副議長に指名されたジェファーソン理事、FRB理事に再指名されたクック氏、新たに理事に指名されたクーグラー氏が承認手続きの上院銀行委での証言が予定されている。
FRBは6月FOMCで市場の予想通り昨年3月に利上げ開始して以降初めて利上げを見送った。声明では、金利据え置きにより10会合連続での大幅利上げによるインフレや景気への影響を、今後の追加経済データで見直すことができるとした。ただ、議長は利上げ見送りは、緩やかな利上げ軌道の一環だとしており、利上げ終了ではないことを再確認した。
FRBの見通しではピーク金利見通しが前回から一段と引き上げられ、年内あと2回の利上げを想定していることが明らかになった。パウエル議長はインフレリスクが依然上方で、過去6カ月間、コアPCEインフレにもあまり改善が見られないとタカ派姿勢を維持。ほぼ全メンバーが追加利上げが適切だと見ていることを明らかにする想定以上にタカ派的な内容となったためドル買いに拍車がかかった。ウォラー理事は、16日の講演で、「コアインフレに変化なく、追加引き締めが必要となる可能性」を指摘。リッチモンド連銀のバーキン総裁も「インフレは依然高すぎる。かなり根強い」とし、「もし、FRBが利上げを時期尚早に終了した場合、一段と高い水準までの利上げリスクになる」と警告。データがインフレ減速を示さなければ追加措置に依存はない、とした。ただ、FOMCでは7月の追加利上げは明言せず、経済次第で、各会合ごとに政策を決定する姿勢を示した。
また、ブリンケン国務長官は16日から19日に中国を訪問。米中関係の改善はリスク選好の動きを支援する。
中銀関連では英中銀やスイス中銀は22日金融政策決定会合を開催する。英中銀は25BPの利上げに踏み切る公算。同国の予想を上回る賃金の伸びを受けて、市場はピーク金利6%も織り込み始めポンド買いにつながった。追加利上げが示唆されると一段のポンド買いが予想される。
●借り入れ依存の現実、デフォルト増も−利下げ2年先とパウエル氏 6/19
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、利下げが2年ほど先になる可能性が高いと示唆したことで、借り入れに最も依存する米企業は先週、痛みを伴う現実を直視せざるを得なくなった。
より高い借り入れコストがより長く続く状況に企業は今後耐える必要がある。細る資金供給への対応に企業が苦しむ中で、資金調達コストの上昇はデフォルト(債務不履行)のリスクを高める。
モルガン・スタンレーの集計データによれば、返済期限が1年以内の企業の借り入れは来年1月までに現在の水準からほぼ倍増し、約2600億ドル(約36兆9000億円)に達する見通しだ。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)時の低利借入金が借り換えを必要とすることを考えれば、「債務の壁」はそこから一層大きくなる。
レンタ4バンコのフアン・カルロス・ウレタ会長は「このような金融環境が米連邦準備制度が言うように長く続けば、企業セクターで多くの犠牲が予想される。このプロセスは始まったばかりだ」と指摘した。
不透明な景気見通しを背景に連邦準備制度が利上げから方向転換すると期待していた最高財務責任者(CFO)らにとって、そうした状況は痛手だ。少なくとも一部のジャンク級(投機的格付け)企業は、利回り低下を期待し、昨年と今年は起債を見合わせた。
ブルームバーグの集計データによると、借り換えを行う企業の減少に伴い、ブルームバーグの指数を構成するジャンク債の平均残存期間はわずか5年強と過去最も短くなった。
ドイツ銀行のアナリストらは、借り換えが必要な債務の増加がデフォルトリスクを高め、デフォルト率は来年10−12月(第4四半期)に米国の高利回り債が9%、レバレッジドローンが11%でピークに達すると見込む。
モルガン・スタンレーのスリカンス・サンカラン氏らストラテジストは「『より高い水準でより長く』は、格付けが比較的低い借り手への圧力増大につながる。 2025年の満期の壁が視野に入る状況で、比較的小規模で格付けの低い企業にとって、そうした調整が破壊的に作用する恐れがある」と今週のリポートで分析した。
●ドル神経質な動き、FRB議長証言に注目=今週の外為市場 6/19
今週の外為市場で、ドルは神経質な展開が続くと予想されている。米経済指標やパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言を見極めながら、今後の米金融政策の道筋を探る展開となりそうだ。22日の英中銀会合で積極的な金融引き締め姿勢が示されれば、日銀と主要中銀との金融政策の方向性の違いが意識され、クロス円の上昇でドル/円も押し上げられやすい。一方、23日の全国消費者物価指数(CPI)が上振れた場合は、7月の日銀会合の政策修正を巡る思惑から、円高に振れる可能性がある。
予想レンジはドル/円が137.50━142.50円、ユーロ/ドルが1.0850―1.1050ドル。
あおぞら銀行 チーフマーケットストラテジスト 諸我晃氏
「米連邦公開市場委員会(FOMC)ではドットチャートで2回の利上げが示唆されるなどタカ派姿勢をみせたものの、パウエル米FRB議長が会見でデータ次第と強調したこともあり、足元では米金利上昇圧力はかかっておらず、ドルを押し上げていない。金融引き締め継続姿勢を示した欧州中央銀行(ECB)に加えて、22日の英中銀会合の結果を受けて、ユーロやポンドなどクロス円が上昇すれば、ドル/円の下支え要因となる。ただ、上昇しているクロス円を中心に利益確定の動きが強まれば、ドルは200日移動平均線がある137円台まで軟化する可能性がある。一方、政府・日銀による為替介入への警戒も広がりやすく、142円台に向けては上値が重くなるだろう」
SBIリクイディティ・マーケット 金融市場調査部長 上田真理人氏
「利上げをいったん休止した米FRBと金融引き締め継続を示したECB、金融緩和を継続した日銀と各中銀の立場は明確となった。金利やファンダメンタルズの観点からはドルよりもユーロが有利となる。一方で、円を積極的に買う材料は乏しい。ユーロやポンドなどクロス円の上昇が、ドル/円を支えるとみている。日米の金融政策の方向性の違いも引き続き意識され、ドルは円に対してもじわじわと上がっていくだろう。まずは142.50円を抜けるかがポイントとなる。同水準を抜ければ、日本当局者による円安けん制発言のニュアンスの変化に注意が必要となるが、145円までは買いが続くのではないか。ドルの売り圧力が強まったとしても、139円台では下げ渋るとみている」
●信用収縮の脅威高まる、相次ぐ米利上げで−ジャナス・ヘンダーソン 6/19
昨年の英年金の混乱や最近の米地銀のストレスは危機の始まりに過ぎず、最終的に世界的な信用収縮をもたらす恐れがあると、米資産運用会社ジャナス・ヘンダーソン・グループが指摘した。
11本のファンドで合計30億ドル(約4300億円)を運用するダイバーシファイド・オルタナティブ戦略責任者デービッド・エルムズ氏(ロンドン在勤)は先週のインタビューで、金利高の中で起きた2つの出来事は、信用収縮やデフォルト(債務不履行)増加、企業利益低迷につながるかもしれないと発言。「過去15年間の穏やかな信用状況を踏まえると、私は信用に神経質になる」と語った。
エルムズ氏によると、ジャンク債のデフォルト増加は、金融市場への根本的な脅威をさらに裏付けるものだ。「ボトムアップで見ると、ハイイールド債のデフォルトは非常に大きな問題のようだ。利益とデフォルトに関し相当なリスクがある」とした。
また「金利上昇は物事を破壊する傾向がある」とし、「当社に競争力がない分野ではあまりリスクを取りたくない」とも述べた。
一方、エルムズ氏が価値を見いだし買いを進めてきた分野の一つは、欧州金融機関が発行する「その他Tier1債」(AT1債)だ。
UBSグループによるクレディ・スイス・グループ救済合併を仲介したスイス当局が、クレディ・スイスのAT1債を無価値にした影響を受け、AT1債価格は3月に急落した。
ブルームバーグの指数によると、AT1債はクレディ・スイス救済以降に10%余り上昇しており、エルムズ氏のように、売り込まれた証券に投資した向きは報われた。 
●トルコで初めて中央銀行総裁に女性が就任 「金融政策の転換」か 6/19
トルコのエルドアン大統領は中央銀行の新たな総裁に、元米国銀行幹部のハフィゼ・ガイ・エルカンを指名した。トルコとして初めての女性総裁となったエルカンはどんな人物で、なぜ彼女が指名されたのか。トルコリラが最安値を更新し続けるなか、今後のトルコの金融政策の行方について各紙の見方をまとめた。
エルカンの経歴
トルコで初めて女性の中央銀行総裁となったハフィゼ・ガイ・エルカンはエンジニアの父と、数学教師の母のもと、1982年にイスタンブールで生まれた。中東メディア「アルジャジーラ」によると、トルコでも有数の名門高校を学年2番目の成績で卒業。その後、トルコの名門・ボアズィチ大学で工学を学んだ。
2005年から2011年までは米国大手金融ゴールドマン・サックスで働き、最後はマネージング・ダイレクターのポジションについている。ゴールドマン・サックス時代に出会った創業者の誘いで、その後破綻することになる米国のファースト・リバブリック銀行に2014年に入社し、2021年にはCEOに就任することになる。
働く間も学ぶことをやめず、2006年には米国プリンストン大学で博士号を取得。2015年にはハーバード・ビジネス・スクールで、2016年にはスタンフォード大のビジネススクールでそれぞれ学んでいる。
英「フィナンシャル・タイムズ」紙によると、エルカンは子供の頃、「C++」というプログラミングを近所の人から学び、そのお返しにトルココーヒーを振る舞ったという。学ぶことが好きな子供だった。
ファースト・リパブリック銀行に入社した数年後には、米国でもっとも影響力のある銀行員の1人に選出。彼女はリスクマネジメント業務にあたっており、同行が破綻に至ったことは想定外の結末だっただろう。
エルカンが中央銀行総裁に指名された理由
経済学者のブラッド・セッツァーは、米紙「ニューヨーク・タイムズ」の「彼女が中央銀行総裁に就任することは、ガラスの崖(経営不振や不正などにより組織が危機的状況のときほど、女性がCEOなどのトップの地位に置かれやすいという意味)なのか」という問いに対し、「おそらく、そうだ。窮地に追いやられたからこそ、女性を起用したのだろう」と答えている。
業績が低迷し、危機的な状況にある組織では、男性よりも女性がリーダー的な役職や幹部に起用される傾向にある。エルカンの指名はこの例に漏れない。
英「フィナンシャル・タイムズ」紙はファースト・リパブリック銀行時代にエルカンが発した「データは明白だ。どんな立場にあっても数字を重んじる」という言葉に注目した。これまでデータを無視して独自の金融政策を断行してきたエルドアン大統領とは真逆の考えだ。
中央銀行総裁としての職務は、エルカンに外交官としての手腕を問うだろう。トルコ語、英語、ドイツ語を操る彼女は、いかに海外投資家からトルコへの投資を誘致できるのか。独立性を失った中央銀行をいかに再建するか、その力が問われている。
一方、英通信社「ロイター」によると、キャリアの大半をトルコ国外で過ごし、中央銀行に関連する経験がほとんどないエルカンの金融政策は不透明だという。
エルカンの元同僚たちは、公的な職務に就いたことに驚いた人も多い。一方、「もともと、公的な政策や福祉への関心は強かった。公的な職務を引き受けたのは納得」と語る人もいる。
「エルカンはタフで賢く、影響力がある」と評する人もいた。
トルコの金融政策の今後
エルドアン大統領は「金利はすべての悪の母であり、父だ」とし、「金利を下げれば物価も下がる」という独自の理論を掲げ、通貨安や物価上昇局面でも景気を浮揚するための緩和を続けるという、世界の常識とは真逆の政策を断行してきた。その結果、トルコリラは過去最安値の水準まで下落している。
5月にも米テレビCNNの取材に対し、「トルコでは金利が低下すればインフレも低下する。これはエコノミストとして言っている。魔法ではない」と自身の政策の正当性を主張している。
一方で、米メディア「CNBC」によると、エルドアン大統領は、新たに指名した中央銀行総裁と財務大臣の考えに沿うと発言し、自身が推し進めてきた利下げ政策を転換する考えを示唆した。トルコは金融政策を転換し、進むリラ安を止めることはできるのだろうか。
●日本郵政とヤマトがタッグ “2024年問題”物流危機に対応 6/19
日本郵政グループと物流大手のヤマトグループは、トラック運転手の不足など、物流危機ともいわれる「2024年問題」に対応するため、互いのネットワークを共同活用すると発表しました。ヤマト運輸のクロネコDM便のサービスは来年1月で終了し、日本郵便の配送網を利用した「クロネコゆうメール(仮称)」の扱いをはじめます。
日本郵政 増田寛也 社長「4社は協業をすすめることについて、本日、基本合意書を締結しました」
日本郵政の増田社長はこのように述べ、日本郵政グループとヤマトグループが持つ経営資源を有効活用することで顧客の利便性を高め、持続可能な物流サービスの実現を目指すと発表しました。
互いのネットワークやリソースを共同で活用することで、トラック運転手の不足を緩和したり、環境負荷の低減を目指します。
具体的には、ヤマト運輸が取り扱っているクロネコDM便のサービスを2024年1月31日に終了し、日本郵便が取り扱う「ゆうメール」を活用した新サービス「クロネコゆうメール(仮称)」の取り扱いをヤマト運輸ではじめます。
また、現在、ヤマトが取り扱っている小型の荷物「ネコポス」のサービスも2023年10月以降順次終了します。今後は日本郵便が取り扱う「ゆうパケット」を活用した新サービス「クロネコゆうパケット(仮称)」として取り扱い、日本郵便の配送網を活用して荷物が届くことになります。
こうした新サービスは、2024年度末をめどにすべての地域で利用可能になる見込みです。
●一時1ドル142円台まで円安進行 約7か月ぶりの円安水準 6/19
19日の外国為替市場では円安ドル高が進行し、午後7時ごろ、一時1ドル142円台をつけました。去年11月以来、およそ7か月ぶりの円安水準です。
アメリカでは追加の利上げが検討される中で、日本銀行は大規模な金融緩和を継続する考えを示していて、日米の金利差が広がるとの見方から、円を売ってドルを買う動きが進んでいます。
●本当に何もしない日銀会合にユーロ円2日で3円の円安、会合の度に円安加速 6/19
日銀の金利会合が終わった。予想通りに何も変化はなし。相変わらず大規模な金融緩和を継続するというもの。植田総裁が口ではYCC政策を何とか正常化しないといけないとか、ETFの残高の処理はどうしようかと言っているのに、何もしないということだ。何もしないどころか、これからも円債や日本株を買い続けるということを意味している。
学者出身なのだからもうちょっと額面通りに経済環境を見渡して、すぐにでもインフレ対策に打って出るのを期待されていた。それだけに1年半も欠けて検証するとか言っているのは、役所仕事的なのんびり感を拭いきれない。
何もしないということを明言したので、それを受けて為替相場では円安が進んだ。ドル円の141円台は止むをえないとしても、ユーロ円の155円台乗せと言うのは2日間で3円以上も円安が進んだことになる。
ユーロ円の方がドル円よりも買いやすいというのはわかる。金融政策の違いで為替相場が動いているのだから、ユーロの利上げ姿勢の方が鮮明なのでユーロ円の上昇にバイアスがかかるのは理解できる。またそれを持って短期勢もユーロ円のロングで参戦しやすいだろう。
こうなるとリーマン・ショック直前につけたユーロ円の最高値である160円台も通過点にしかならない可能性もある。今後日銀の会合があるたびに円安加速となる相場展開が続くことになりそうだ。またユーロ円が高いと言うことで、ユーロ円だけで円買い介入したことが過去にないだけに、ユーロ円では攻めやすい。
●米FRB金利据え置きで注目高まる 金利水準と新興国債券!? 6/19
米FRB金利据え置きで注目高まる 金利水準と新興国債券!?
米連邦準備制度理事会(FRB)は14日、連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.00〜5.25%とし、11会合ぶりの据え置きを決定しました。決定は全会一致で、市場予想通りではありましたが、利上げは10会合連続で止まりました。
ただし、同時に発表された金利・経済見通しでは予想を上回る堅調な経済とより緩慢なインフレ鈍化を想定し、2023年末までに合計0.50%ポイント利上げとの見方(予想中央値)が示されました。年後半からの利下げはなく、2024年にインフレ率の低下によって累計1%程度の利下げが行われるのではとの見方です。
利下げ見通しは後ずれとなりましたが、今回示されたターミナルレート5.6%に達した後に利下げが予想される米国の金利環境下においては、新興国など高金利国の債券への投資に注目が集まると考えます。そのため、今回は債券ファンドの中でも新興国債券に焦点を当てます。
新興国債券ファンドにおいて、3年リターンが良好なファンドを図表1で示しました。上位6本はメキシコ、ブラジル、インドネシアの単一国に投資している債券ファンドで、3年リターンが年率で13〜19%台となっています。
好成績となっている要因は、主に現地通貨の上昇にあります(図表2)。2023年5月末基準での過去3年間のメキシコ・ペソ、ブラジル・レアル、インドネシア・ルピアの上昇率(対円の年率換算)は、それぞれ17.5%、10.9%、8.0%となっています。この3年間はコロナショックによって新興国通貨が対円で下落した後の反発・上昇局面となったため、メキシコ・ペソやブラジル・レアルは米ドル(年率+9.0%)を上回る上昇となりました。
これらの新興国通貨の上昇は、自国の政策金利の引き上げが要因といえます(図表3)。ブラジルは高インフレに対応するため累計11.75%も政策金利を引き上げました。メキシコでも同様に累計7%の利上げ幅となっています。これら2ヵ国は米国の累計利上げ幅の5%を上回っています。一方、インドネシアについては累計の利上げ幅は2.25%です。
その後、ブラジルは2022年8月から、インドネシアも2023年1月から、メキシコは2023年3月から、インフレ率の低下を考慮して政策金利を据え置いています。
こうしたことに加えて米国長期金利の上昇が2022年10月をピークに一服したこともあって、3ヵ国の長期金利は低下基調となっています(図表4)。
これら3ヵ国においては、政策金利据え置きによって、これまでのような通貨の上昇は期待しにくいものの、債券については高金利と金利低下による価格上昇を享受しやすい環境といえます。
特に、金利水準が相対的に高いブラジルとメキシコについては債券への投資妙味が高いと考えます。
また、5年間で見た場合に、コロナショック後の通貨の下落が大きかったことから、上昇率が相対的に低いブラジル・レアル(図表2参照)については、高い実質金利(=名目金利−予想インフレ率)からも通貨高の余地が残ると考えます。
将来的には、日銀の金融緩和修正によって円高新興国通貨安となる可能性も考えられます。しかし、円高修正が限定的であれば、高金利となっている新興国債券への長期投資については、長期の金利収入の積み上げ効果によるプラス要因が円高によるマイナス要因を吸収することが期待されます。
   図表1 好成績 新興国債券ファンドの特徴と運用成績
順位 ファンド名 特徴 (投資対象)
1 メキシコ債券オープン(資産成長型)(愛称:アミーゴ) メキシコ・ペソ建てのメキシコ国債等
2 フランクリン・テンプルトン・ブラジル国債ファンド(年2回決算型) ブラジル・レアル建てのブラジル国債
3 ブラデスコ ブラジル債券ファンド(成長重視型) ブラジル・レアル建てのブラジル国債
4 イーストスプリング・インドネシア債券オープン(年2回決算型) インドネシア国債(インドネシア・ルピア建て)
5 DWS ブラジル・レアル債券ファンド(年1回決算型) ブラジルの国債及びレアル建の国際機関債等
6 ブラジル・ボンド・オープン(年1回決算型) ブラジル・レアル建て債券
参考 iFree 新興国債券インデックス 新興国債券インデックス(現地通貨建て)
   図表2 メキシコ・ブラジル・インドネシア 為替レートの比較(対円)
   図表3 メキシコ・ブラジル・インドネシア 政策金利の推移
   図表4 メキシコ・ブラジル・インドネシア 長期金利(10年国債利回り)の推移
好成績 新興国債券ファンドの特徴は?
3年リターン1位のメキシコ債券オープン(資産成長型)(愛称:アミーゴ)は、メキシコの国債・政府機関債および国際機関債を中心に投資しており、5月末のポートフォリオの最終利回りは9.1%となっています。金利感応度を示すデュレーションは5.0年となっています。直近1年はメキシコ・ペソ上昇と債券利回りの低下と高金利で27.89%と好パフォーマンスになっています。
2位のフランクリン・テンプルトン・ブラジル国債ファンド(年2回決算型)は、主としてブラジル・レアル建てのブラジル国債に投資しており、5月末のポートフォリオの最終利回りは12.7%、デュレーションは0.6年となっています。ブラジルにおいては、短期の債券でも高い金利収入が獲得できることからデュレーションは短めにしていると考えられます。
3位のブラデスコ ブラジル債券ファンド(成長重視型)は、ブラジルレアル建てのブラジル国債を中心に投資しており、4月末のポートフォリオの最終利回りは11.9%、デュレーションは1.7年となっています。
4位のイーストスプリング・インドネシア債券オープン(年2回決算型)は、インドネシアの国債、社債等に投資しています。インドネシア・ルピア建ておよび米ドル建ての債券に投資していますが、米ドル建て債券に投資した場合は実質的にインドネシア・ルピア建てとなるように為替取引を行っています。4月末のポートフォリオの最終利回りは6.6%、デュレーションは6.0年となっています。ブラジルやメキシコの債券ファンドと比べると利回り水準は低いですが、相対的に安定したパフォーマンスとなっています。
5位のDWS ブラジル・レアル債券ファンド(年1回決算型)は、主にブラジル・レアル建のブラジル国債及び国際機関債等に投資しており、4月末のポートフォリオの最終利回りは12.2%、デュレーションは2.3年となっています。ブラジル債券ファンドの中ではデュレーションを長めにしているため、1年リターンでは金利低下で好成績となっています。
6位のブラジル・ボンド・オープン(年1回決算型)は、政府、政府関係機関、国際機関等が発行するブラジル・レアル建て債券に投資しており、4月末のポートフォリオの最終利回りは12.6%、デュレーションは2.7年となっています。ブラジル債券ファンド4本の中では最もデュレーションを長めにしているため、1年リターンは金利低下で好成績となっています。
参考で示したiFree 新興国債券インデックスは、現地通貨建ての新興国債券インデックスであるJPモルガン ガバメント・ボンド・インデックス−エマージング・マーケッツ グローバル ダイバーシファイド(円換算)の動きに連動することをめざすファンドです。通貨別構成比は図表5となっています。メキシコ・ペソ、ブラジル・レアル、インドネシア・ルピアが上位で、最終利回りは7.0%、デュレーションは4.9年となっています。多くの新興国に幅広く分散投資し、リスクを抑えたい方はこのファンドが1つの選択肢といえます。
株式ファンドの価格上昇でリバランス(資産配分の調整)を検討している場合は、リバランス先として債券ファンドへの分散投資がパフォーマンスを安定化させる上で有効と考えます。その際には、先進国債券と比較してリスクは高いものの高金利となっている新興国債券はパフォーマンスを高める上で重要な資産といえます。
なお、6月15日に低コストアクティブシリーズとしてブラジル国債ファンドが設定されました。詳細ページはこちら。設定後1年間の信託報酬は年率0.2475%です。コスト重視の方は、このファンドの活用も有効です。
   図表5 iFree 新興国債券インデックス の通貨別構成比
●フィッチ、メキシコ格付けを「BBB−」に据え置き 財政は健全 6/19
格付け会社フィッチは16日、長期外貨・現地通貨建て長期発行体デフォルト格付け(IDR)を「BBBマイナス」に据え置いた。アウトルックは「安定的」。財政政策と公共財政の健全性を根拠に挙げた。
フィッチは、メキシコの今年の実質国内総生産(GDP)伸び率は2.5%に鈍化するが、従来想定を上回ると予想。2024年は1.8%になると予想した。米国の景気鈍化でメキシコの輸出需要と海外からの送金が影響を受けるという。
政府債務の対GDP比は、今年が3.5%と昨年の3.3%から低下し、来年は3.2%になる見通しとした。
歳入と歳出はともに、マクロ環境の悪化で23年予算の想定を下回ると予想した。

 

●バイデン大統領が米中関係について「正しい道を進んでいる」  6/20
アメリカのブリンケン国務長官が中国を訪問し、習近平国家主席らと会談したことを受けて、バイデン大統領は、米中関係について「正しい道を進んでいる」と述べました。
バイデン大統領は19日、ブリンケン国務長官の北京訪問について記者団に問われ、「彼は大した仕事をした」と称賛した上で、米中関係について「正しい道を進んでいる」と述べました。
ブリンケン国務長官は2日間の北京滞在中、秦剛外相や王毅政治局員とあわせて10時間を超える会談を行ったほか、習近平国家主席とも面会し競争が衝突に発展しないように高いレベルでの対話を続けていく重要性を訴えました。
一連の会談では米中双方から関係を安定させたいとの意思が示され、緊張関係が続く米中関係の改善につながるか今後の進展が注目されます。
●米・ブリンケン国務長官 中国との対話の必要性を強調 6/20
中国の習近平国家主席らと19日に会談したアメリカのブリンケン国務長官は、「前進があった」と手応えを示すとともに、さらなる対話の必要性を強調しました。
中国 習近平国家主席「国と国との交流は、常に互いの尊敬と誠意に基づいて行われるべきです」
中国外務省によりますと、習主席は面会の中で「世界は全般的に安定した両国関係を必要としている」と指摘。「ウィンウィンの協力に基づき、正しい道を見出すことができると信じている」と述べ、関係改善に意欲を示しました。
アメリカ ブリンケン国務長官「私たちは前進し、前向きに進んでいます。しかし、どの問題も1回の訪問、1回の会話では解決できません」
一方、ブリンケン国務長官は会見でこのように述べ、中国との一連の会談を前向きに総括するとともに、今後のさらなる対話の必要性を強調しました。 
●シリアはイランとロシアとの貿易を現地通貨で行うとことを希望する 6/20
ロシアのサンクトペテルブルグにて、サンクトペテルブルグ国際経済フォーラムが開催され、シリアからはヤーギー財務相を団長とする代表団が参加した。このフォーラム、商業や貿易の振興云々という関連からはほとんど見るべきところは期待できないだろうし、そもそもシリアがそこにいたところで、紛争や制裁の結果、シリアにはもうよそに売るものもよそから物を買うお金もたいして残っていないので、ますます見るべきところがないだろう。その一方で、経済にはまるで門外漢の筆者でも最近ときおり見聞きするようになった、国際的な決済での「ドル離れ」の文脈でこのフォーラムを眺めるとどうなるだろうか?
そんな折、フォーラムでヤーギー財務相が、シリアとロシアの中央銀行の間で、両国の二国間貿易を各々の現地通貨(シリア・ポンド。以下SPとルーブル)で行うための銀行システムの稼働についての協議が行われていると述べた。これを報じた2023年6月18日付の『シャルク・ル・アウサト』(サウジ資本の汎アラブ紙)によると、シリア政府はイランとも、共同で銀行を設立するための手続きを迅速化しているそうだ。この銀行は、シリアとイランとの間の貿易を各々の現地通貨(SPとイランのリヤール)で行うのを促進することを目的としている。この銀行が両国の合意通りに設立され、運用されるならば、両国の通貨で決済する口座の開設、両国で同一のキャッシュカードの利用が可能になる・・・はずだ。シリアがロシア、イランとの二国間貿易をドルなどの外貨を介在させずに行おうとしているとなると、それはシリアが紛争や制裁の結果直面している経済危機、外貨危機を打開するための努力の一環ということになる。
ちなみに、上記の報道によるとイランは紛争勃発以来、石油製品の供給で約200億ドル、軍事的支出で約500億ドルの債権を持っているそうで、合同銀行の設立により、シリアでひそかに自国資産を運用したり、債権を管理したり、シリアでの投資や土地購入をしたりするつもりらしい。一方、同じ記事によると、シリアとロシアとの間の貿易(注:おそらく軍事関連を含まない“堅気の”貿易)は年間2億ドルに達しておらず、シリアから見た輸入が1億8000万ドル程度に対し、輸出は2000万ドル程度の非常に不均衡な貿易だ。筆者がシリアの中央統計局が発表する対外貿易の実績を眺めている限りでは、近年のシリアとロシアとの貿易はシリアから見た輸出:輸入の比率は、大体1:20〜40、イランとでも大体1:10〜20で、両国との貿易でダルやユーロを排除したところでシリアの経済・外貨危機対策としてはあまり役に立ちそうにない。
落ち着いて考えれば、シリアは1970年代からの「伝統ある」反米国であり、長らくアメリカに経済制裁を科されている。従って、シリアがアメリカのドルへの依存(や欧米諸国による経済覇権への従属)を低減するために払ってきた努力も、それと同じくらい「伝統ある」ものと思ってよい。例えば、レバノン情勢をめぐってアメリカによる対シリア制裁が強化された2000年代半ば過ぎの時点で、シリアの公称の外貨準備の半分はドルからユーロに切り替えられていたはずだ。そんな「伝統」にもかかわらずシリアのドルへの依存が改善しそうにないのは、シリアの貿易相手国を見るとその理由の一端が明らかになりそうだ。上述の通り、ロシアもイランもシリアにとって輸出先、輸入元として最も重要な国々とは言えない。シリアにとって重要な貿易相手国は、輸出先としてはアラブ諸国、輸入元としては隣接するレバノンや中国だ。興味深いことに、2021年までの貿易統計ではシリアにとってはロシアよりもウクライナの方がよほど大口の輸入元となっていた年の方が多い。去る5月にシリアがアラブ連盟に復帰した際は、やたらと「孤立」からの脱却といわれたが、それはあくまで政治関係の上でのことであり、サウジ、UAE、エジプト、ヨルダン、レバノン、イラクのような諸国は、シリア紛争勃発後もシリアにとって最重要の貿易相手国であり続けた。当然ながら、これらの諸国はシリアとの貿易をSPや自国通貨やルーブルや人民元で営もうなどとは思わないはずだ。欧米諸国から「孤立」しているシリアですら、ドルやユーロ決済からの脱却は途方もなく困難なことだということがよくわかる。
●アメリカ中国 外相会談で合意された両国を結ぶ航空便増便の検討 6/20
18日の米中外相会談で合意された航空便の増加に向けた検討について、中国政府は20日の記者会見で「柔軟かつ実務的な態度で推進したい」と述べました。
アメリカのブリンケン国務長官と中国の秦剛外相は18日に北京で会談し、米中両国を結ぶ航空便の増加に向けた検討を進めることや、人的往来の拡大で一致しました。
中国外務省 毛寧報道官「私たちはアメリカ側とともに、柔軟かつ実務的な態度で、航空便の増加を推進したい」
中国外務省の毛寧報道官は20日の記者会見で、「両国の主管部門は航空便の増加について意思疎通を保っている」と強調。両国外相の合意に基づいて、航空便の増便に向けた具体的な取り組みを進める姿勢を示しました。
●中国政策金利0.1%引き下げ 景気回復鈍く 6/20
中国の中央銀行は20日、事実上の政策金利を0.1%引き下げました。利下げは去年8月以来10か月ぶりで、ゼロコロナ政策終了後の景気回復の勢いが鈍く、金融緩和に踏み切ったものとみられます。
中国の中央銀行「中国人民銀行」が引き下げを発表したのは、事実上の政策金利とされる「LPR」という金利で、1年ものと5年ものをそれぞれ0.1%引き下げました。
金融機関の貸し出しの目安となる1年ものは3.55%、住宅ローンの目安となる5年ものは4.2%になりました。
中国は、「ゼロコロナ政策」の終了以降、経済の回復を目指していますが、不動産市場の低迷が長期化するなど、回復の勢いは鈍っています。さらに、物価上昇率も0%台が続き、デフレへの警戒感も強まっています。
ロイター通信によりますと、アメリカ金融大手ゴールドマンサックスは18日に公表したレポートで、中国の今年の実質GDP=国内総生産の見通しを「6.0%の増加」から「5.4%の増加」に下方修正。「中国ほど早く、コロナ制限を解除した後の景気押し上げ効果が薄れた国はない」と指摘しています。
中国人民銀行としては、利下げによって不動産の取引を拡大するほか、企業向けの貸し出しを増やすなど、市場に出回る資金の量を増やし、経済を活性化させる狙いがあるものとみられます。

 

●株価を長期的に上昇させるために「日本型経営2.0」で企業の発展を 6/21
バブル崩壊は「日本型経営」のせいではない
日本の失われた○○年の起点は1990年頃のバブル崩壊である。この時の日本人、日本企業の経営者たちは浮かれすぎていた。そして、「継続的な成長を持続させる」長年の知恵の蓄積による「日本型経営」を忘れ去っていたのだ。
「日本型経営」のどこをとっても、バブルを誘発する要素は見当たらない。むしろ、「持続的成長」を促すための「バブルに対する戒め」が盛りだくさんである。例えば350年前に住友財閥の住友正友が遺した「文殊院旨意書」の中にある言葉「確実を旨とし浮利に趨(はし)らず」は有名だ。
ところが、バブルに至るまで「浮利を追った戦犯」ともいえる経営者や彼らを持ち上げたオールドメディアたちは、バブル後の日本経済低迷の原因を「旧態依然とした日本型経営」のせいだとした。
つまり、「日本型経営を忘れた罪」は追及せずに、「責任のすり替え」を行って、経済低迷の原因を「日本型経営」に押し付けたのだ。
その代わりに彼らが崇めたてまつったのが、欧米流、特に「米国型」の経営である。
1975年のサイゴン陥落による事実上の敗戦以来、米国の経済は大いに低迷し、「米国の失われた20年」とでも呼ぶべき時期が続いた。その米国経済がまるで1990年頃の日本のバブル崩壊がきっかけであったかのように、1990年代前半から急回復を始めた。
1993年に、当時のクリントン大統領とゴア副大統領が掲げた情報スーパーハイウェイ(全米規模の高度情報通信ネットワーク)構想を打ち出したことが大きい。その後、IT・インターネット産業が米国産業の中核になっていったことを考えれば、クリントン政権の功績は大きい。
米国経済の成長と衰退
また、それ以前から力を伸ばしつつあったウォール・ストリートも、「金融ハイテク商品」を武器にさらに勢力を拡大した。
IT・インターネットと金融の両輪が、過去30年ほどの米国経済発展を支えてきたということには異論がないだろう。だが、そのことが「米国型経営」の優秀さを示すことではないことも明らかだ。
米国経済が好調であったからこそ、「米国型経営」が「優れているように見えた」だけであって、実際に優れているわけではない。
米国経済を牽引してきた両輪の一つのIT・インターネットについては、昨年11月30日公開「ついにGAFAバブルも『崩壊』か…『IT・インターネット革命』の時代は終わった」、同11月14日公開「いよいよGAFAが総崩れ、メタはメタメタ、アマゾンよお前もか!」、同9月5日公開「IT成金がいよいよ没落する、産業分野栄枯盛衰の歴史は繰り返す」という状況である。
また、ウォール・ストリートを中心とする金融産業も過去リーマンショックなどを乗り切ってきたが、「大原浩の逆説チャンネル<第25回>スタグフレーションと連鎖する金融危機。インフレは終わらない」や4月15日公開「SVB、クレディ・スイス破綻劇から考えると固定資産税はこれから急上昇する」冒頭「『世界金融危機』はまだ序章」という状態だ。
11歳で投資を始めてから第2次世界大戦、ベトナム戦争、数々の経済・金融危機などを挟んで80年以上、「米国」に対して万年強気であったバフェットが、4月6日公開「いよいよスタグフレーションがやってくる…金融危機・不況でもインフレは終わらない」で述べた、「金融機関の経営問題」を懸念し、「米国経済の『信じられないような時期』が終わりつつある」と述べる。
米国経済は衰退に向かう
結局のところ、これから「米国経済の信じられないような時期」が終わり、衰退に向うことによって、これまで包み隠されていた「米国型経営」の問題点が顕わになる。バフェットの言葉を借りれば「プ―ルの水を抜けば、誰が裸で泳いでいるのかはすぐにわかる」ということだ。
米国経済好調というプールの水で覆い隠されていた「米国型経営の信奉者」が裸で泳いでいることが、プールの水が抜かれることによって明らかになるわけである。
それに対して、「日本経済不調」という分厚いカーテンによって覆い隠されていた「日本型経営」の優れた面が明らかになる。6月13日公開「パンデミックが終わった! 30年ぶりに日本の黄金時代がやってくる!?」で述べた通り日本経済は、世界が「大乱」に見舞われているにもかかわらず、今後発展する。
ダウと日経平均が逆転
例えば本稿執筆時点、6月16日の終値ベースで、NYダウが34299ポイント、日経平均が33706ポイントである。
2020年11月27日公開「米大統領選挙と世界的混乱は『日本株の大相場』の始まりかもしれない」3ページ目「日本の発展は混乱の中で始まった」の内容が現実のものになりつつあるといえよう。
同時に、2021年3月14日公開「株価の歴史的推移からわかることーバブルは必ずオーバーシュートする」3ページ目「日米株価の関係」で述べた「(日米株価の)逆転」がいよいよ始まりそうな気配である。
拙著「勝ち組投資家は5年単位でマネーを動かす」の25ページ、「図表3 日経平均株価とNYダウ平均株価の比較表」を見ると一目瞭然だ。歴史的に米国の株価が低迷しているときに日本の株価が好調で、逆に米国の株価が好調な時には日本の株価が不調なのだ。
日経平均は80年代バブル末期に4万円(ポイント)直前にまで到達した。その頃のダウジョーンズは数千ドル(ポイント)にしか過ぎない。しかし、90年頃にバブルが崩壊し、2009年3月10日には終値で7054円(ポイント)を記録した。
それに対して、前述のように、米国は90年代前半からIT・インターネット産業が勃興し、株価も長期的に上昇を始めた。日米株価の「ポイント数」が交差して逆転したのは2000年代前半のことであり、両者の差はさらに拡大した。
そして現在、日米の株価の「ポイント数」は前述の通りだ。このままの調子で、日経平均がダウジョーンズのポイント数を上回り、そのポイント数の差を広げることによって「『米国が没落』し『日本が繁栄』する」ことが明らかになるはずだ。
優良企業は惑わされなかった
バフェットは投資の神様と呼ばれるだけではなく、時価総額で堂々の世界第6位(STARTUP DB)というバークシャー・ハサウェイを率いる経営者でもある。これだけの実績を上げたバフェットを称賛する声は大きい。
しかし過去を振り返れば、ウォール・ストリートや彼らを代弁するオールドメディアなどから激しく非難されてきた。なぜなら、米国の「主流派」が主張する「米国型経営」のあるべき手法と、「バフェット流」がまったくといってよいほど異なっていたからである。
例えば、2000年頃に至るITバブル華やかりし頃には、「自分のわからないものには投資しない」方針からIT企業を避けていたバフェットを、「ITがわからない時代遅れのポンコツ」と揶揄していたのだ。
だが、どちらの考えが正しかったかはITバブルの崩壊を知っている我々には明らかだ。そして現在では、バフェットがアップルなどへの投資で大成功していることもよく知られている。
バフェットは「長期的視野で投資」を行うことで有名だが、経営についても同様だ。彼の経営は、「目先の利益を追う」いわゆる「米国型」とはまったく違う。長期的利益を追求するという点では、「日本型」と呼んでもよいほどである。
例えば、2019年1月25日公開「バフェットが実践する『実力主義の終身雇用』こそが企業を再生する」で述べた通り、バフェットは「終身雇用」を重要視し堅持する方針だ。
一般的な日本企業以上に「日本型経営」を実践していると言えるかもしれない。だからこそ、2020年という早い段階で、総合商社の成長性を見抜き、今ではさらなる日本企業への投資を行うことを表明しているのだ。「日本型経営」のよき理解者であるバフェットが、日本の将来に対して強気であることは、大いに勇気づけられる。
日本型経営2.0の登場
ただし、かつての日本型経営をそのまま復活させればよいというわけではない。
過去の日本型経営の大きな問題点は、
   1. 年功序列
   2. 同調圧力
の2つであろう。
1の「年功序列」については、前記「バフェットが実践する『実力主義の終身雇用』こそが企業を再生する」の副題「年功序列とは必ず切り離すこと」の通り、バークシャーの経営とはまったく無縁だ。むしろバークシャーは徹底した実力主義の会社である。
だが、米国と違って日本では5月31日公開「地方の活性化にはまずボス猿排除、補助金やふるさと納税という援助に頼って腐敗している」で述べたように、企業だけではなく社会そのものに「年功序列」が文化としてしみついてしまっている。
しかしそれでも、日本型経営が「バ―ジョンアップ」するためには、年功序列の打破が必要不可欠である。
2の「同調圧力」には裏表がある。2021年6月19日公開「米国企業が『デフレ』に強く、日本企業が『インフレ』に強い、納得の理由」4ページ目「マニュアルはコピーできるが暗黙知は真似が難しい」で述べた日本企業の強みである「暗黙知」と「同調圧力」を区別するのが困難だからだ。
だが、米国型経営の直輸入ともいえる2019年8月10日公開「日本の企業と社会を破滅させる『過剰コンプライアンス』のヤバイ正体」の過剰コンプライアンスや、2020年12月5日公開「ウォーレン・バフェットも批判! 世の中、社外取締役があまりにも多すぎる」のようなお飾り社外取締役の問題は、今後改善されるはずだ。
「日本型経営」の主要部分ともいえる、「経営陣と従業員の『信頼関係』」を取り戻せば、「同調圧力」ではなく、「暗黙知」が日本企業の成長を牽引する。
「日本型経営」で日本企業が成長すれば、日本の株価も長期的に上昇するのは当然のことである。
●多角化のコストは下がっている? コングロマリット・ディスカウントの現在地 6/21
長年指摘されてきた「コングロマリット・ディスカウント(複数の事業を有する複合企業が、それぞれ単体事業を展開している場合の企業価値の合算と比べて、市場から評価されにくく株価が低迷している状態)」は今も厳然と存在するのか?
巨大なコングロマリットが出現した1960年代以降、多角化企業モデルは、その是非について議論されてきた。特にこの数年の企業社会を見ると、多角化企業による事業分離の動きが顕著になっている。
この現象は特定の業界に留まらない。例えば、消費財(クラフト・フーズは国際的なスナック事業をモンデリーズとしてスピンオフ)、素材(アルコアは自社を、レガシー事業を受け持つアルコニックと新生アルコアに分割)、テクノロジー(ヒューレット・パッカードはサーバおよびソフトウェア事業を、プリンター/PC事業から分離)および工業製品(タイコは自社を3つの独立した上場企業に分割)といった業界で観察されている。
コングロマリットの象徴ともいえるGEでさえ、事業分割のプレッシャーに晒されている。事業分離の増加は米国に限った現象でもない。例えば近年では、ドイツの大手医薬品メーカー、バイエルが自社の素材科学事業をコベストロの名で分社化、オランダの工業コングロマリットであるAPモラー・マースクはその石油事業を売却、産業コングロマリットのシーメンスは医療機器部門をシーメンスヘルシニアーズとして分離独立させている。
これらの事例は、多角化企業の終焉と、全社戦略の目的適合性の低下を示すのだろうか。もしくは、我々は、これらの目立った事業分割および事業分離のハロー効果(※1)に惑わされているだけで、より頻繁に行われているものの事業分割や分離ほど華々しくはない多角化戦略の成功例を見落としているだけなのだろうか。
多角化と業績の間の関連は、戦略経営研究において最も多くの研究がなされているトピックである。ただし、これらの学術文献上、「企業の多角化」の正確な定義についていまだ合意には至っていない。本書では、「企業の多角化」を広義に捉え、「新たな製品、顧客または市場に関して企業が行う事業活動の拡大」と定義する。これには、水平的多角化(既存事業との関連性の有無にかかわらず、新しい業種、製品、または地域に参入すること)だけでなく、垂直的多角化(既存のバリューチェーン内における上流または下流への事業活動を拡大すること)が含まれる。
企業が多角化をめざす3つの理由
企業が多角化戦略を追求する主な動機には、以下の3つがある。
第一は、成熟した中核事業を持ちキャッシュフローは良好だが、投資機会は限られているため、成長オプションを見つけようと多角化戦略をとるケースである。会社の規模は、権力、地位、および経営チームの報酬と相関しているため、このような成長の模索は単なる経営者の権力拡大欲によるものではないか、という批判もある。
第二は、広範なポートフォリオに事業リスクを分散させるケースである。これは、特に企業の存続を強く意識する傾向にある同族企業に当てはまる。同時に、みずからが解雇されるリスクを低減し、特定の人的資本への投資を守りたいと考える経営者にも当てはまる動機である。この動機は、多角化によるリスクの低減は株式ポートフォリオに投資することにより自前で実現できると主張する多くの投資家から批判されている。
第三は、業績に対する厳しい圧力に直面している企業が、戦略的な刷新のために多角化を利用するケースである。このような企業は、より高いリターンが期待できる事業機会を探索し、より魅力的な産業や市場のセグメントに事業部門のポートフォリオをシフトさせたいという意向を持つ。例えばノキアは近年、このような多角的な戦略的刷新を行い、携帯電話からネットワーク・インフラへ主力事業をシフトさせている。
多角化のメリット
多角化には多くの目に見える利点があることから、こうした動機は正当化されがちである。第一の利点は、取引の内部化に起因するものである。関連する事業を統合すれば、この事業との協業に係る取引コストを下げられる可能性がある。取引の内部化は、内部資本市場にも当てはまり、情報の優位性がより効率的な資本配分につながり、独立企業間取引では正当化が困難な特定の投資を可能にする場合がある。同様に、経営管理スキルの内部化にもつながり、多角化された事業部門間において効率的な人的交流を促す可能性がある。このような取引コスト関連の利点は、金融市場や労働市場が発達していない地域では特に重要である。
多角化の第二の利点は、範囲の経済に起因するものである。こうした利点には、売上シナジー(例:事業部門全体でのブランドの共有または商品・サービスのクロスセリング)、コストシナジー(例:資源のプーリングまたは製造設備の共有)、および経営シナジー(事業部門間における知見およびベストプラクティスの共有)が含まれる。
最後の利点として、多角化企業は市場支配力の増大による恩恵を享受できる可能性がある。例えば、相互に売買取引をするような場合、ある事業部門の潜在顧客は別の事業部門への潜在的な供給者でもある。2つの会社は、「あなたが私から買ってくれるのなら、私もあなたから買いましょう」という形で好ましい合意を形成することが可能である。同様に、多角化企業は互いに複数の市場で競合している場合に、相互に依存していることを認識し、競争をほんの少し和らげ、互いに自制することで恩恵を受けることができる。
ある企業が2つの製品をバンドルすることで、ある市場での強固な地位を関連市場にも拡大する場合、市場支配力が増す場合がある。マイクロソフトがウィンドウズOSとウェブブラウザであるエクスプローラーをバンドリングし、ネットスケープをブラウザ市場から締め出したことを思い出してほしい。最後に、多角化企業は内部相互補助のメリットを得ることができる。すなわち、ある事業で得られたキャッシュを別事業に使うことができる。これは競合相手が非多角化企業であれば持ちえない機会である。
メリットとリスクのバランス
企業を多角化することによって得られるこれらの潜在的なメリットは、潜在的なリスクとのバランスを取らなければならない。重要成功要因(KSF:Key Success Factor)が異なる事業で構成される広範な多角化ポートフォリオを持つ企業では、全社レベルのマネジメント能力に求められる水準が過度に高くなる可能性がある。個々の事業の特殊性への理解が不十分だと、戦略的ガイダンスを誤り、資源配分が行われない可能性もある。限界的な事業部門は、そうでない事業部門に対する注目度のほうが高いことから、放置される場合がある。グループ本社と事業部門間で求められる内部調整や意思決定プロセスの鈍化に起因した事業の複雑性に伴う費用が発生する可能性がある。多角化ポートフォリオの不透明性は、個々の事業の業績をわかりにくくするため、限界的または業績不振事業には、資本市場による監視の目が届かない。これらすべての理由によって、多くの投資家はポートフォリオに注視し、非中核事業を売却するように、グループ本社の経営陣にプレッシャーをかけるのである。
しかし、彼らが多角化企業を非難し、戦略的な集中を要求するのは正しいことだろうか。平均的な多角化企業は、企業の多角化によるメリットとリスクのバランスをどのように取っているのであろうか。大量の文献研究を行った結果、企業の多角化がそれだけの理由で有利または不利をもたらすような明白な経験的証拠は存在しないことが明らかになった(Nippa et al.2011; Palich et al.2000)。企業と多角化の度合いと企業価値の間には、曲線系(逆U字型)の関係があるという点については非常に強力な根拠が得られている。このことは、多角化は一定のレベルまでは企業にとってメリットとなる一方で、すべての企業には最適な多角化の度合いが存在し、これを超えてはならないことを示唆している。
過去50年にわたる研究と28ヵ国、約15万件の企業レベルの観察結果を網羅した、多角化と業績の関連に関する267件の先行研究による実証結果をまとめた近年のメタアナリシス(※2)によれば、高水準の多角化は必ずしも業績に悪い影響を与えるものではないことが確認された(Schommer et al.2019 ※3)。さらに過去50年間で平均すると、企業の「多角化度」は低下傾向にあるものの、1990年代後半以降に限っていえば、「多角化度」が再び上昇に転じていることも判明した。さらに重要なのは、この研究によって、既存事業と関連性のない多角化は、以前ほど業績に与えるマイナスの影響は少ないと立証されたことである。実際、このような既存事業と関連性のない多角化戦略が業績に与える平均的効果は、1970年代から1990年代にかけては明らかにマイナスであったのに対し、90年代後半以降ではほぼゼロとなっている。
こうした結果は、どのような要因によって説明できるだろうか。
多角化が業績に与えるマイナスが少ない要因
まず1つ挙げられるのは、近年になり多角化のコストが低下していることである。資本市場の効率化、コーポレートガバナンスの強化、価値志向の業績指標やインセンティブの普及、そして情報通信技術の進歩による透明性が向上し、企業の舵取りがしやすくなったことによって、価値を破壊する行為に係るリスクは低下したと考えられる。ほかに考えられることとしては、多角化のメリットは依然として存在しており、多角化企業は資本、知識および経営人材の内部市場化による財務的・組織的優位を実現しているということだ。
とはいえ、以上はあくまで平均値に基づく議論であり、多角化による正味のメリットは企業間で大きな差が生じている可能性がある。ある企業にとってどの程度の多角化が最適なのかは、その企業にとって多角化のメリットおよびリスクの発生源となるさまざまな要素の相対的重要度に依存する。例えば、アジアおよびラテンアメリカの大部分の諸国では、多角化度の高いコングロマリットは依然として国家経済を支配している。また多くの同族経営企業は、リスク分散および会社の長期存続のために意図的に高レベルの多角化を選択している。多角化が保険のような働きをすることを示す証拠は実際に存在する。例えば、(2008〜2009年の金融危機のような)危機に際して、多角化企業の相対的評価額は上昇し、資金調達が比較的低コストで容易にできることから、投資の継続や危機後に備えた競争力の強化に使うことができた(Beckmann et al.2012; Kuppuswamy and Villalonga 2016)。
結局のところ、多角化戦略それ自体は企業経営にとって有利とも不利ともいえない。多角化に成功した企業に関する無数の例が示している通り、さまざまな多角化モデルとそれに対応する全社戦略は、適切な方法で実行されれば機能する。「多角化戦略は、(平均的には)価値を創造する戦略であるか否か」という問いから、「全社戦略をどのように駆使すれば、多角化企業を効果的に経営し企業価値を高められるか」という、より興味深い問いに視点を移すべきである。

※1:ある対象を評価する際に、目立ちやすい特徴に引きずられてほかの特徴への評価が歪められること。光背効果ともいう。ハローとは、聖人の頭上に描かれる光輪のこと。
※2:過去に行われた類似研究のデータを収集・統合し、統計手法を用いて解析する研究やその手法のこと。
※3:ここでの先行研究に関する議論は、ルメルトによる多角化企業研究を下敷きにしている。多角化研究の嚆矢とされる同研究では、米国企業200余社のデータから多角化戦略を類型化、経済的な成果との関係を分析し、中程度に関連性のある多角化は資本効率が高いが、中から高程度に関連性のない多角化を行った企業は、平均あるいはそれ以下の業績であるとした。その後、多くの追究が行われているが、多くは非関連多角化が業績にマイナスの影響を与えるという結果となっている。それに比べて、本書で指摘するような90年代以降から最近の傾向は興味深いものである。
●「拙速な修正はリスク大」 政策修正に慎重な意見相次ぐ 植田総裁の初会合 6/21
4月に日本銀行で行われた植田総裁のもとでの初めての金融政策決定会合で、「拙速な金融緩和の修正はリスクが大きい」など、政策の修正に慎重な意見が相次いだことがわかりました。
植田新総裁のもとで行われた4月の金融政策決定会合で日銀は、大規模な緩和の維持を決めました。
日銀は、その議論の過程を記した「議事要旨」をきょう公開しました。
それによりますと、委員からは先行きの不確実性が高いことから、2%を超える物価上昇が続くリスクより「『拙速な金融緩和の修正によって2%実現の機会を逸してしまうリスク』の方がずっと大きい」といった政策修正に慎重な意見が相次ぎました。
また、日銀が目指す「物価と賃金の好循環」を実現するうえでカギとなる賃上げについて、複数の委員が今年の春闘で「予想以上の賃上げが実現する見通しである」としたうえで、「金融緩和の維持によって賃上げのモメンタム(勢い)をしっかりと支え続けることが必要である」と大規模緩和を維持する必要性を指摘しました。
4月の会合では、物価の先行きについても議論され、何人かの委員は、すでに輸入物価がピークアウトしていることなどから、「米欧のように物価上昇率が高止まりする可能性は大きくない」との見方を示したということです。
一方、一部の委員からは、「賃金と物価の好循環の兆しが表れはじめており、政策対応が後手に回らないよう、基調判断を適切に行う必要がある」といった意見も出ました。
4月の会合で初めて打ち出された過去25年間の金融政策の「レビュー」については、委員から「客観的で納得性のあるレビューとするため、特定の政策変更を念頭に置くのではなく、多角的に行うことが望ましい」などの声があがりました。
●物価見通しに大きな不確実性、政策修正は時期尚早=安達日銀委員 6/21
日銀の安達誠司審議委員は21日、鹿児島県金融経済懇談会であいさつし、物価のメインシナリオは大きな不確実性を伴っており、金融政策の修正に踏み切るのは「時期尚早だ」と強調した。
イールドカーブ・コントロールについては、予想物価上昇率がひと頃に比べて上昇しているものの、先行きの物価のメインシナリオや下振れリスクの存在なども考慮すれば、YCCの枠組みは必要だと話した。
日銀は消費者物価の前年比について、いったんプラス幅を縮小した後、2%の物価目標に向けて再びプラス幅を拡大していく展開をメインシナリオにしている。安達委員は「このメインシナリオには大きな不確実性があり、上振れ・下振れともにリスクは相応に厚い」と述べた。
金融面のストレス、米景気後退を増幅するリスクも
安達委員は価格改定の頻度に応じて物価を2つに分類。サービス価格を中心に改定頻度が少ない「粘着的な消費者物価」と、改定頻度が多い財価格を中心とする「伸縮的な消費者物価」に大別した。その上で、当面は物価の上振れリスクに注意が必要だが、その後は下振れリスクにより注意が必要と述べた。
物価の上振れリスクとして、「粘着的な消費者物価」の上昇が続く一方で「伸縮的な消費者物価」の上昇率が下がらないリスクを指摘。日銀が実施している「生活意識に関するアンケート調査」の結果などを見ると「家計において、これまで定着していた『物価は上がらない』という物価観が変化する時期に来ている可能性もある」と述べ、こうした物価観の変化をもとに、企業が原材料価格が下がっても値下げしなければ、伸縮的な消費者物価の上昇率は想定ほど下がらない可能性があるとした。
一方で、物価の下振れリスクとしては、伸縮的な消費者物価がいったん下がった後で想定通り再浮上しない可能性を指摘。伸縮的な消費者物価には資源価格などが影響を及ぼす観点から、海外経済の不確実性を挙げた。
安達委員は米国景気の先行き懸念を強調した。米国で短期金利が長期金利を上回る「逆イールド」状態となっていることについて「先行きの景気後退のシグナルだとの見方も引き続き排除できない」と述べた。
1980年代後半に本格化したS&L(貯蓄貸付組合)危機、2008年のリーマン・ショックと、金融面のストレスが景気後退を増幅した例は少なくなく「仮に金融面のストレスが生じた場合でも、それが実体経済に与える影響を正確に予測することは容易ではない」と警戒感を示した。
●バイデン大統領の次男ハンター氏を訴追 所得税を支払わなかった容疑など 6/21
アメリカ・バイデン大統領の次男、ハンター氏が、所得税を支払わなかった容疑などで訴追されました。ただ、罪を認める司法取引に応じ、禁錮刑を免れる見通しです。
バイデン大統領の次男、ハンター氏をめぐっては、ウクライナや中国などでのコンサルティング業務で得た報酬について適切に税務処理を行わなかった疑いや、銃を購入した際に薬物中毒の状態であることを隠した疑いで捜査が行われてきました。
司法省は20日、ハンター氏を連邦所得税を支払わなかった容疑と銃を違法に所持した容疑で訴追したと、裁判所に提出した書類の中で明らかにしました。
ハンター氏は連邦所得税に関する容疑については罪を認める司法取引に応じたということで、近く行われる罪状認否で、裁判官が司法取引を認めればハンター氏は禁錮刑を免れる見通しです。
また、銃の違法所持については、特定の条件に従うことで検察側と合意し、起訴は猶予されるということです。次男、ハンター氏が訴追されたことについて記者団に問われたバイデン大統領は。
アメリカ バイデン大統領「息子をとても誇りに思っている」
ホワイトハウスも「大統領とファーストレディは息子を愛していて、人生の再建を引き続き支援していく」とのコメントを発表しています。
一方、疑惑を繰り返し批判してきたトランプ前大統領は「腐敗したバイデンの司法省がハンター・バイデンに単なる『交通違反切符』を与えた。我々のシステムは崩壊している」とSNSに投稿しました。
野党・共和党のマッカーシー下院議長は「大統領の有力な対抗相手が起訴され、実刑がありうる一方で、大統領の息子は実刑を免れる。法は平等なのか?」と語気を強めています。
来年の大統領選挙の有力候補でもあるトランプ前大統領が複数の刑事事件で起訴される中、再選を狙うバイデン大統領の家族による不正疑惑に司法当局がどのような判断を示すか注目されていました。
●インフレ2%回帰へ注力継続、FRB副議長指名のジェファーソン理事 6/21
米連邦準備理事会(FRB)のジェファーソン理事は、インフレが「和らぎ始めている」ものの、目標の2%に向け回帰させることに引き続き注力すると言明した。
21日に上院員銀行委員会で行われる副議長への指名承認公聴会向けの証言原稿で述べた。
ジェファーソン理事はさらに「経済はインフレ、銀行セクターのストレス、地政学的不安定などの複数の課題に直面している。FRBは引き続きそれら全てを注視する必要がある」とした。
●ジェファーソンFRB理事ら、インフレ抑制への取り組み継続表明 6/21
バイデン米大統領が先に連邦準備制度理事会(FRB)副議長に指名したジェファーソン理事ら3氏は20日、上院銀行委員会での公聴会を翌日に控え、指名が承認されれば最優先課題としてインフレ抑制に取り組む意向を表明した。
ジェファーソン理事は21日の公聴会向けに事前に公表された冒頭発言のテキストで、米経済がインフレや銀行セクターのストレスを含む複数の課題に直面していると指摘。「インフレ率は減速し始めており、それを2%の目標に戻すことに引き続き重点を置いている」とコメントした。
また、新たに14年の任期に指名されたクック理事も証言テキストでジェファーソン理事と同様、「当局として仕事をやり遂げるまでインフレに集中的に取り組み続ける」との姿勢を示した。同理事の現行任期は2024年1月末。
クック理事は「米経済は重要な分岐点にあり、連邦公開市場委員会(FOMC)がインフレ率を2%の目標に回帰させるため、必要に応じて行動するのが必須だ」と指摘した。
上院銀行委はジェファーソン、クック両氏に加え、次期FRB理事に指名されたアドリアナ・クーグラー氏の指名承認公聴会を合わせて行う。同氏が承認されれば、ラテン系の人物として初のFRB理事となる。FRB理事ポストは、ブレイナード前副議長がホワイトハウスの国家経済会議(NEC)委員長に転出したため、1人空席となっている。
経済学者で世界銀行の米国理事を務めるクーグラー氏は上院銀行委が事前に公表したテキストで、「指名が承認されれば、インフレ抑制と最大限の雇用の促進、金融セクターの強靱(きょうじん)性向上のための金融政策運営を行い、雇用創出と経済成長を支えることに強くコミットする」と表明した。
クーグラー氏はカリフォルニア大学バークレー校で経済学博士号を取得し、オバマ政権で労働省のチーフエコノミストを務めた経歴を持つ。
●パウエルFRB議長の議会証言、金利巡りメッセージ明確化の機会 6/21
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は今週、半期に一度の金融政策報告に関する議会証言を行い、金利の道筋を巡り混乱に満ちたと多くが感じたメッセージについて明確化する機会を持つ。経済に変調はないと民主・共和両党議員を安心させるのも課題だ。
パウエル議長は21日の下院金融委員会、22日の上院銀行委員会の公聴会にそれぞれ臨み、議員の質問に答える。3月に行われた前回の議長証言の直後、一連の米地銀経営破綻があり、米金融当局は厳しい批判にさらされ、政策の戦略見直しも迫られた。
その後、最も深刻な金融面の緊張は和らいだものの、与信の引き締まりが米経済にどの程度の影響を及ぼし、それが米金融政策運営にどのような意味を持つかについて、疑問が残ったままだ。
パウエル議長は当局として物価圧力抑制のキャンペーンの手を緩めることはないと共和党議員に再確認する一方、年内の追加利上げの準備も念頭に、経済の底堅さを民主党議員に指摘する必要もある。
ブッシュ(子)政権時代の財務省当局者で、現在はビーコン・ポリシー・アドバイザーズのマネジングパートナー、スティーブン・マイロウ氏は民主党議員について、インフレ抑制に勝利宣言して次の課題に移りたい考えで、「神経質になっている」と推測する。
その上で、民主党からは今回、追加利上げに対して警告を発する動きが見込まれるのに対し、「共和党議員はインフレ鈍化に進展がないかのような言動を繰り返すだろう」との見方を示した。
パウエル議長率いる金融当局者は13、14両日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、1年3カ月ぶりの金利据え置きを決めるとともに、最新の四半期経済予測で年内2回の追加利上げの可能性を示唆した。
FRBウオッチャーや投資家はFOMC会合後のパウエル議長の記者会見のメッセージを巡り消化不良に見舞われており、議員からは先週、議長の詳しい説明を求めるとの声が上がった。
ティリス上院議員(共和)は15日、「次の一歩に関して現時点では多くの混乱がある」と指摘した。
休止歓迎
2022年3月に現行の引き締めキャンペーンを開始した米金融当局は、これまでに計5ポイントもの急ペースの利上げを実施した。パウエル議長は会見で、一連の利上げによって当局には一息ついて次の一手を考えるため、新たなデータを監視する余地が生じたと説明した。
矢継ぎ早の利上げは、インフレの根強さを認識できなかった金融当局が遅れを取り戻そうとする戦略の一環だが、金利上昇が失業者の増加を引き起こすと懸念する民主党進歩派の批判を招いた。失業率は最近、50年ぶりの低水準から小幅悪化したものの、雇用者は引き続き急ピッチで採用を続けている。
パウエル議長が主導する金融政策の批判の急先鋒(せんぽう)の1人であるウォーレン上院議員(民主)は、今月の利上げ休止に楽観論を示した。
ウォーレン議員は15日のインタビューで、「パウエル議長は6カ月前、米労働力の1%を失業させる目標を設定した」とコメント。「議長はこの目標を達成しておらず、インフレ率を下降させる他の取り組みが成果を上げ、失業率押し上げのための利上げに重点を置くのはやめると、彼には今月語ってほしい」と注文をつけた。
金融の安定性を巡る懸念
昨年にいったん9%超に達したインフレ率を共和党議員はなおも心配しつつも、地銀の連鎖的破綻を受け、追加利上げがあれば金融セクターをさらにどの程度揺さぶることになりそうか懸念を抱いている。
同党のハガティ上院議員は「過去40年で最も急激なペースで利上げが行われ、それが銀行システムに多大なストレスをもたらした」と述べた上で、「それがどこまで根深く、将来の利上げの考察にどう組み込まれるのか、議長の見解を聞きたい」と話す。
金利上昇に伴う緊張を一因とした一部地銀の破綻後、米金融当局は3月に影響波及を阻止して銀行システムに緊急で流動性を注入するための積極的な措置を講じた。ただ当局は、物価圧力抑制の取り組みと、金融の安定性維持の措置とを別々に保つ従来の方針は堅持しようと努めた。
ハイジンガー下院議員(共和)は、金融当局者が政治プロセスからの独立性維持に腐心しながらも、当局が既に多くのことを行ったという超党派の懸念を十分に認識していると論評。「これからも利上げを続けるなら、与野党問わず不満が高まるだろう」と語った。
銀行規制
今週の公聴会は上下両院議員にとって、シリコンバレー銀行(SVB)などの地銀破綻後としては初めて、パウエル議長に銀行規制見直しの計画を公に質問する機会ともなる。
民主党議員は規制監督に関する規則厳格化を議長に呼び掛ける公算が大きい一方、共和党議員は、バーFRB副議長(銀行監督担当)が検討中としている計画が銀行の負担増大につながるとして異議を唱え、むしろ規制当局自体の監督体制に不備があったのではないかと疑問を呈している。
下院金融委のマクヘンリー委員長(共和)は「バー副議長がやろうとしているのは、危機を利用して自身の当初の政治的プランを達成することではないかと考えられ、大いに懸念すべきものだ」とし、「それは市場の安定性と経済成長のいずれにも利益にならないと思う」と述べた。
●米国株式市場=下落、FRB議長の議会証言に注目 6/21
米国株式市場は、3連休明けに利食い売りが出たことで下落して終了した。市場では米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が21日から行う議会証言が注目されている。
石油メジャーのエクソンモービルとシェブロンがS&P総合500種とダウ工業株30種を下押しし、主要株価3指数がそろって下落したが、この日の安値からは下げ幅を縮小して引けた。
ナスダック総合は週間で2019年3月以来、S&P500は21年11月以来最長の連騰を記録していた。S&P500はこの日の下落分を含めると年初来14.3%上昇している。
ダコタ・ウェルスのシニアポートフォリオマネジャー、ロバート・パブリク氏は「市場は最近の上昇が続くか試そうとしている」とし、「直近の値上がりは多くの人にとってサプライズだった」と述べた。
投資家の関心は21日から2日間行われるパウエル議長の議会証言に集まる。
米商務省が20日発表した5月の住宅着工件数は年率換算で前月比21.7%増の163万1000戸と、1年1カ月ぶりの高水準となった。
一方、中国人民銀行(中央銀行)が景気下支えに向けて銀行貸出金利の指標となる最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)を引き下げたことを受け、世界的な需要減速を巡る懸念が広がった。
S&P500の主要11セクターでは一般消費財を除く全業種が下落。中国の需要後退の兆しを受けて原油価格が下落したことから、エネルギーが2.3%安となった。
電気自動車(EV)メーカーのリビアン・オートモーティブとテスラはそれぞれ5.5%高と5.3%高。リビアンがテスラの充電規格を採用することで合意したと発表した。
ペイパル・ホールディングスも3.7%上昇。欧州の後払い決済サービス「バイ・ナウ・ペイ・レイター(BNPL)」を巡り、KKRが最大400億ユーロ(437億1000万ドル)相当の融資債権を取得することで合意した。
一方、ナイキは3.6%下落。モルガン・スタンレーが過剰在庫による利益率圧迫を予想した。
中国の電子商取引大手アリババ・グループの米上場株も4.5%安。張勇・会長兼最高経営責任者(CEO)が退任し、クラウド・インテリジェンス・グループに専念すると発表した。
フェデックスは、決算発表を受けて引け後の取引で約5%下落した。
ニューヨーク証券取引所では値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を2.23対1の比率で上回った。ナスダックでも1.63対1で値下がり銘柄が多かった。
米取引所の合算出来高は約111億5000万株。直近20営業日の平均は113億6000万株。
●NY株続落、245ドル安 FRBの利上げ継続観測で 6/21
連休明け20日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続落し、前週末比245・25ドル安の3万4053・87ドルで取引を終えた。この日発表された米住宅着工件数が市場予想を大きく上回ったことで米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを継続するとの観測が強まり、売り注文が膨らんだ。下げ幅は一時380ドルを超えた。
5月の米住宅着工件数は年率換算で前月より21・7%増え、昨年4月以来、1年1カ月ぶりの高水準となった。一方、FRBのパウエル議長の米議会証言を控え、発言内容を見極めようとする様子見ムードもあった。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も続落し、22・28ポイント安の1万3667・29。
個別銘柄では、半導体のインテル、スポーツ用品のナイキの下落が目立った。ITのセールスフォース・ドットコムは買われた。
●商業不動産、オフィス中心にリスク拡大=ムーディーズ 6/21
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは20日のリポートで、オフィスセクターを中心に商業不動産(CRE)のリスクが高まっていると指摘した。金利上昇、在宅勤務の増加、銀行部門のストレスが拍車をかけているとした。
在宅勤務を続ける労働者が多いためオフィスは特にリスクが高く、オフィス向け融資には債務不履行(デフォルト)リスクがあると説明した。リポートによると、オフィス向け融資は7360億ドルと、CRE債務残高の16.7%を占めている。
残高の16%を占める商業用モーゲージ担保証券(CMBS)については、裏付けとなる商業物件が一部厳しい状況にあり、借り換えの際に問題が生る可能性があるとした。
集合住宅から接待業、小売業、工業まで、幅広いセクターのCREが、景気減速によって収入拡大を阻まれると予想。CRE価格は全セクターで弱含むとの見通しを示した。
「全面的なCREの悪化は、銀行を大きく圧迫するだろう。銀行はCRE債務残高の約半分を担っており、2023─26年に満期を迎える債務の最大シェアを抱えている」とした。
●国内金は最高値更新が続く、日米金利差の拡大観測を受け円安の追い風 6/21
国内金は6月、日銀が金融緩和の維持を決定し、円安に振れたことを受けて一段高となり、現物(店頭小売価格、税込)が9876円、先物(JPX金先限)が8915円と、ともに最高値を更新した。日銀はインフレ目標2%を定めているが、植田総裁は会合後の記者会見で、「基調的なインフレ率がどうなるかが重要だ」と述べた。一方、13〜14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標水準を5.00〜5.25%に据え置くことが決定されたが、金利見通し(ドット・プロット)で年内あと2回の利上げが示唆された。
日米の金利差拡大見通しを受け、円安が進んだ。円相場は昨年11月以来となる1ドル=142円台前半まで円安に振れ、国内金価格を押し上げる要因になった。7月27〜28日の日銀会合で展望リポートが議論される予定であり、物価見通しが上方修正されるかどうかが焦点である。また、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)修正の判断については、次の会合までに得られたデータをもとに政策を決めるとしており、サプライズになる可能性もある。
円安が続くかどうかが当面の焦点であるが、鈴木財務相のけん制発言も出ており、円安が進行すると介入の可能性も出てくる。
現物相場は米デフォルト回避などで2000ドル割れ
金の現物相場は5月、米国の債務上限問題に対する楽観的な見方を受けて2000ドルの節目を割り込んだ。米政府と議会指導部の協議は期限ぎりぎりまで続いたが、バイデン米大統領が6月3日に債務上限法案に署名して成立し、債務不履行(デフォルト)は回避された。米FOMCで年内の利上げ見通しが示されたことを受けて3月17日以来の安値1927ドル台をつけたが、欧州中央銀行(ECB)の利上げをきっかけにドル安に振れると、下げ一服となった。
米FOMCでは年内あと2回の利上げが示唆されたが、CMEのフェドウォッチでは、7月に利上げを決定したのち、金利を維持するとの見通しとなっている。一方、15日のECB理事会で、政策金利を0.25%ポイント引き上げ、中銀預金金利を3.50%とすることを決定した。ユーロ圏の域内総生産(GDP)が2四半期連続で減少し、景気後退(リセッション)入りしたが、ラガルドECB総裁はインフレ抑制のため、7月も利上げを継続する可能性が極めて高いとの見方を示した。ECBの利上げ見通しを受けてユーロが最も強く、対円では1ユーロ=155円台前半と15年ぶりの高値をちけた。
金の現物相場はテクニカル面で悪化したが、ニューヨーク市場で投資家は強気見通しを維持している。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ局面の終わりが近いとの見方が支援要因である。ただ、トルコやロシアの金準備が売却され、中国の実需筋の買い意欲が後退していることが上値を抑える要因である。トルコでは経常赤字解消、ロシアでは財政赤字補てんのため、金準備が売却された。中国では輸出減少や小売売上高の伸び鈍化で景気回復の遅れが懸念され、実需筋の買い意欲が後退した。一方、米国の商業用不動産のリスクが表面化すれば、地銀に対する信用不安が再燃し金は2000ドル台を回復する可能性があるが、現物が出てくるようなら上値は抑えられるとみられる。
金ETFの押し目買いと手じまい売り
世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、6月16日に934.03トン(4月末926.28トン)に増加した。2000ドル割れで押し目買いが入り、943.89トンまで増加したが、米国のデフォルトが回避されると、手じまい売りが出た。欧米の経済指標で金融政策の見通しを確認したい。
一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは昨年5月3日以来の高水準となる5月9日の19万5814枚をピークとして縮小し、6月13日は16万0209枚となった。テクニカル面で悪化し、手じまい売りが進んだ。ただ強気の見方も残り、安値では買い戻す動きも出た。
●PE投資会社に報い−金利ヘッジせずでコスト急騰、傘下企業が窮地に 6/21
プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社は金融の世界の上流階級であり賢い賭けと巨額利益はウォール街の羨望(せんぼう)の的だ。
しかし、抜け目のないディールメーキングにもかかわらず、業界の大物までが急激な金利上昇に足をすくわれている。金利上昇を受けて保有する傘下企業は利払い負担が膨らみ、その多くがデフォルト(債務不履行)に追い込まれかねない。
10年に及ぶ低金利と容易な利益の時代に安穏としていた結果、KKRやプラチナム・エクイティ、クレイトン・デュビリエ・アンド・ライス(CD&R)などPE投資業界の大手が、自らの行動の報いを受けている。
各国・地域の中央銀行がどの程度の利上げをするかの想定を見誤り、多くのPE投資会社は金利ヘッジをしなかった。ヘッジをしていれば、3兆ドル(約425兆円)に上る変動金利債務を抱える企業を利払い負担上昇から守ることができたはずだ。こうしたヘッジのコストはここ10年の大半を通じてほぼゼロだった。
ひどい目に遭う
「金利について心配する人は多くなかったため、多くの企業がひどい目に遭った」とカーライル・グループの欧州資本市場責任者、クリス・スコット氏が述べた。
ヘッジのない負債の額については活発な議論がされているが、バイアウト企業は具体的な話には口をつぐんでいる。しかしバンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリストの推計によれば、米国ではレバレッジドバイアウトブーム期の変動金利債務のほぼ4分の3が昨年8月時点でヘッジされていなかった。
マン・グループによると、欧州では欧州中央銀行(ECB)が引き締めを開始してかなり時間が経過した今年1月末の時点でも、70%以上がヘッジなしだった。
正確な数字がどうであるにせよ、確かなのは、数百あるいは数千社の金利負担が上昇することの影響は甚大で幅広いものとなりかねないことだ。大きな損失に直面する投資家と職を失う恐れのある労働者にとってばかりでなく、世界経済にとっても大問題だ。企業のデフォルトが積み上がれば経済が大きな打撃を受けかねない。
マン・グループ傘下マンGLGのクレジット担当マネジングディレクター、スリラム・レディ氏は、ヘッジなし債務が高水準であることは「じわじわと広がりつつある潜在的リスクだ。少しでも収益が悪化すれば大きな痛みをもたらす」と話した。
この状況は、銀行幹部やトレーダー、エコノミストなど、ウォール街きっての優秀な頭脳がほぼそろって、インフレ加速と世界の中銀の強力な対応に不意を突かれたこと最新の例だ。10年にわたり、中銀が供給する潤沢な流動性をてこに最低水準の金利で記録的な数の買収を行ってきたPE投資業界の命運は暗転した。
KKRの広報担当者はブルームバーグ・ニュースへの電子メールで、保有する傘下企業全ての「変動金利リスクのヘッジに、慎重に熟考して対応している」と説明。CD&Rはコメントを控え、プラチナムはコメント要請に応じなかった。
他の大半の企業と同様に、PE投資会社が保有する企業も賃金インフレとエネルギーコスト高騰、サプライチェーンの目詰まりに苦しんでいる。
金利負担に押しつぶされる
それに加えて今、レバレッジドバイアウトのための借り入れからの負担に押しつぶされつつある。プラチナムが2017年に買収したアベンティブ・テクノロジーズが好例だ。
米刑務所向け電話サービスを手掛けるアベンティブは近年、利益を出すのに苦戦している。ここ数週間は合計約13億ドルの2本のローンの借り換えと、1億3500万ドルの回転信用枠の返済に取り組んでいる。ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)に連動する2本のローンの金利は現在の水準に基づくと10%と13%程度に上昇しており、21年末に比べて少なくとも3ポイント高い。
ブルームバーグ・ニュースが確認した財務文書によれば、この結果アベンティブの利払い費は昨年、20%以上増え1億1400万ドルに上った。これは調整後EBITDA(利払い・税・減価償却・償却控除前利益)の半分に近い。
北米全体では昨年、PE投資会社が保有する企業の利払い費の中間値がEBITDAの43%に膨らんだ。バーダッド・アドバイザーズが、株式を公開しているか、公開市場で取引される債務を持つ350社について分析し、調査結果を先月発表した。これは既にS&P500種株価指数構成企業の中間値の6倍ほどだが、金利の上昇が続いているため利払い負担は今年も増え続ける。
モーニングスターのLSTA米レバレッジドローン100指数によると、実際、米国の大規模レバレッジドローン(バイアウトの代金として使われることの多いジャンク級のローン)の金利は今月、平均で10%に達した。米連邦準備制度が積極的な利上げサイクルを開始する直前の21年末時点では3.9%だった。
金融当局が追加利上げを示唆している欧州でも同様のトレンドだ。
200倍にも跳ね上がったヘッジコスト
大きな負債を抱えながら金利ヘッジをしておらず足をすくわれた企業は、はるかに高いコストを支払って、ヘッジをしなければならなくなっている。
バリダス・リスク・マネジメントのチーフコマーシャルオフィサー、ハーコン・ブラックスタッド氏によれば、ヘッジコストは現在、金利が低かった時との比較で最大200倍にもなっている。
20年に5億ユーロ(約770億円)の債務を金利3%を上限として3年間ヘッジするコストは5万ユーロだったが、今では1000万ユーロを上回ると同氏は推計している。
しかし、金利があまりにも長い間にわたり極めて低かったため、バイアウト企業も買われる側の財務チームも金利ヘッジは時間と費用の無駄だと考えていた。
ヘッジは、しばしば後から思いついて、急いでアレンジされるのがせいぜいだったとブラックスタッド氏は指摘。「多くのPE企業はヘッジについての一元的な見解がなかった」と話した。
こうした油断が企業を不必要な危険にさらしたと、カーライルのスコット氏は指摘する。
例を挙げると、CD&Rが21年に買収した英食料品小売りチェーンのWmモリソン・スーパーマーケッツの約28億ポンド(約5060億円)の変動金利債務は昨年9月まで、金利ヘッジがされていなかった。ムーディーズ・インベスターズ・サービスが指摘した。
モリソンは最終的に債務の45%についてヘッジをしたが、ムーディーズはそれでも、モリソンの直近の会計年度の利払いはプロフォーマ(見積もり)ベースで3億7500万ポンドだったと試算している。同期間の調整後EBITDAは8億2800万ポンドだった。
インフレ高進の中で他社との価格競争に苦戦するモリソンは、利払い負担も一因となり、回転信用枠を利用。以来、同社の見通しは悪化し、ムーディーズは信用格付けをさらに引き下げ。13億ユーロ相当のローンの価格は最近、ディストレスト水準に近づいた。
がっちりヘッジ組も
KKRとシンベン、プロビデンス・エクイティが20年に買収したスペインの電話会社、マスモビル・イベルコムは中銀が利上げを開始する直前に金利ヘッジを減らしてしまった。届け出資料から分かった。20年には22億ユーロの変動金利債務の事実上全額がヘッジされていたが、21年末までにはヘッジされているのは債務のほぼ3分の1の6億6000万ユーロになっていた。
マスモビルは結局ヘッジを復活させ比較的良好な財務状況にあるが、それでもECBの利上げ開始で昨年は利払い負担が50%増えた。KKRとシンベン、プロビデンスはマスモビルについてコメントを控えた。
もちろん、もっとうまく乗り切っているケースもある。例えば、カーライルの欧州バイアウトチームは保有企業の変動金利債務約100億ユーロについて、金利がほぼ底だった21年に0%を上限とした金利ヘッジを購入した。KKRは保有企業全体で2億ユーロ程度の金利が節約できたと考えている。
事情に詳しい関係者によると、ベインキャピタルも21年半ばに、支払う金利を最長5年間、1.5−2%までに抑えるヘッジを購入した。公に話す権限がないとして匿名を条件に語った関係者によれば、少なくとも20億ドルが節約できたという。ベインの広報担当者はコメントを控えた。
デフォルト急増予想
金利を「リスクの一つと捉えている企業は本当にわずかだった。市場は油断していた」とスコット氏が話した。
中規模企業とプライベート・デットに特化した格付け会社、KBRAのシニアマネジングディレクター、ウィリアム・コックス氏は、ヘッジをしていなかった企業のデフォルト急増を予想する。企業は金利上昇についていけるほどのキャッシュフローを生み出すことができないだろうと同氏はみている。
コックス氏と同氏のチームは2000社程度の株式非公開の米中規模企業を分析した。現在の金利環境では多くの企業がオールインのレートで12%またはそれ以上の金利に直面しており、300社以上が利払いが行えず、債務についての再交渉か、オーナーのPE投資会社からの救援が必要になる公算が大きいとチームは見積もっている。
一部の企業にとっては既に手遅れだ。
KKRが保有する医療サービス会社エンビジョン・ヘルスケアは先月、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。救済ファイナンスで10億ドル余りを調達してからわずか1年だった。
約2万1000人を雇用する同社は発表文で、破綻に至ったさまざまな理由を挙げた。ただ、そこに含まれていなかったのは数十億ドルの変動金利債務がヘッジされていなかったという事実だ。
KKRの広報担当者はブルームバーグ・ニュースに、エンビジョンは21年までは金利ヘッジをしていたと説明。ただ、その期限切れ後にエンビジョンは、同社が支払えるような価格でヘッジを引き受ける取引相手方を見つけることができなかったため、ヘッジは「当時の同社の状況から、利用できる選択肢ではなかった」と同広報担当者は発表文で指摘している。 
●米・バイデン大統領 “習近平主席は独裁者”発言に中国反発 6/21
バイデン大統領が20日、中国の習近平国家主席を「独裁者」と呼んだとアメリカメディアなどが報じました。これについて中国政府は「外交礼儀に著しく背くものだ」と強く反発しています。
アメリカメディアなどによりますとバイデン大統領は20日、カリフォルニア州でのイベントで習近平国家主席を「独裁者」と呼びました。
これについて、中国外務省の毛寧報道官は次のように述べ、強く反発しています。
中国外務省 毛寧報道官「アメリカ側の言い分は、極めてでたらめ、無責任で、基本的事実に著しく違反し、外交礼儀に著しく背き、中国側の政治的尊厳を著しくおかすもので、政治的な挑発だ。中国はこれに強烈な不満と断固たる反対を表明する」
米中関係をめぐってはブリンケン国務長官が19日に中国を訪問し、習近平国家主席と面会するなど対話の機運が高まったばかりでしたが、今回の発言はそれに水を差す可能性もあります。
●韓国で8年ぶりの円安水準…日本旅行が好調の一方、経常収支悪化 6/21
一時、円安が8年前の水準まで進んだ韓国。その影響で日本への旅行が人気となる一方、自動車など日本と競合する輸出産業への懸念も出ています。
きょう、韓国ソウルの金融街・汝矣島を訪れると…
記者「証券取引所のロビーには、100円あたり910ウォンあまりという今のレートが出ています」
韓国の為替相場でも円安が進んでいます。
日銀が金融政策で大規模緩和の維持を決めた今月16日には、100円あたりおよそ905ウォンまで下落。おとといには一時、およそ8年ぶりとなる800ウォン台まで下がりました。
ソウルの金浦空港で、日本人の旅行客に話を聞いてみると…
日本→韓国「化粧品とかを買おうと思ったら、日本で韓国のサイトを通して買った方が安いなと思った」「(新型コロナ流行前は)お得に買い物できていたんですけど、もう全然だめですね、今はね。仕方ない、それしかないですね」
反対に、韓国から日本に向かう観光客にとって円安は嬉しいニュースとなっています。空港で話を聞いてみると…
韓国→日本「たくさん両替をしました」「夫は買い物をしないと言ってましたが、することにしました」「円安なので、すき焼き店の予約もしました」
韓国の旅行会社が販売している今月から8月までの北海道へのパッケージ旅行は、7割以上の予約がすでに埋まるなど、円安は日本旅行人気の追い風の一つとなっています。
一方、韓国メディアからはこんな指摘も…
韓国・中央日報「円安は、日本との輸出競合度が高い韓国の自動車や鉄鋼などの競争力を低下させる恐れがある」
韓国は日本と産業構造が似ているため、海外市場の競争で不利になるという懸念が出ているのです。
さらに、日本に出かける韓国人観光客が増加して韓国の経常収支が悪化する恐れもあるという報道も相次いでいます。

 

●年内2回利上げは妥当 ペース緩やかに 米FRB議長 6/22
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は21日、議会下院金融サービス委員会で証言し、根強いインフレ圧力を抑え込むため、年内に2回の追加利上げを行うとの市場の見方は「非常に良い推測」と述べ、妥当との認識を示した。
また、金融引き締めのペースは緩やかになると語った。
FRBは先週の連邦公開市場委員会(FOMC)で11会合ぶりに利上げを見送り、政策金利を年5〜5.25%に据え置くことを決めた。同時に公表した会合参加者の政策金利見通しでは、0.25%の幅で年末までにあと2回の利上げが示唆された。
FRBによる急ピッチの利上げが経済に及ぼす影響は、これから本格化するとみられる。パウエル氏は今後の景気動向を見極める上で、いったん金利を据え置くことが賢明だと強調した。
ただ、インフレ率はFRBが目標とする2%を大きく上回って推移しており、「インフレ圧力は引き続き強い」と警告。目標水準に戻るまで「長い道のりがある」と、金融引き締めを続ける必要性に理解を求めた。
今後の政策運営については「金利をより高くするのは適切かもしれないが、一段と緩やかに行う」との認識を示した。行き過ぎた引き締めを避ける考えだ。 
●FRB パウエル議長 “追加の利上げ 年内にあと2回必要”示唆 6/22
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長は議会下院で証言し、追加の利上げが、年内にあと2回必要になるという考えを示唆しました。
FRBは今月13日から2日間開いた金融政策を決める会合で、去年3月に利上げを開始して以降、初めて利上げの見送りを決める一方、今後については、年内にさらに2回の利上げが想定されるという見通しを示しています。
FRBのパウエル議長は21日、議会下院の金融サービス委員会で「インフレは去年半ばからいくぶん落ち着いたが、インフレ圧力は依然として強く、物価目標の2%に戻すまでには長い道のりがある」と述べました。
そして、金融政策を決める会合のほぼすべての参加者が、追加の利上げが適切になるだろうと考え、大多数が年内にあと2回の利上げが必要という見方を示したと指摘しました。
その上で「私も、経済が予想通りに推移すればその予測は妥当だと考えている」と述べました。
一方、インフレの要因となっている人手不足については、この数か月間、改善の兆しが見られるものの、企業の求人数が労働者の数を大きく上回り、依然として人手不足は収まっていないという認識を示しました。
●FRBパウエル議長「インフレは予想以上に持続」…金融引き締め継続を示唆 6/22
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は21日、下院での議会証言で、「インフレ(物価上昇)は一貫して予想以上に持続し、私たちを驚かせてきた」と語り、なお金融引き締めが必要との認識を示した。
FRBは、今月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げを見送った一方で、2023年末時点の政策金利見通しを従来から引き上げ、通常の利上げ幅(0・25%)2回分の追加利上げを示唆した。パウエル氏は、歴史的なインフレの沈静化には、なお「長い道のりがある」とし、「FOMC参加者のほぼ全員が、年内に金利をさらに引き上げることが適切と予想している」と語った。
米中堅銀行への規制強化の必要性にも言及した。米国では今年3月以降、中堅銀行が相次いで破綻し、パウエル氏は「 脆弱ぜいじゃく 性に対処することを約束する」と強調。中堅銀行へのより強力な監督と規制が必要としつつも、規制が過度にならないよう留意する考えも示した。
●米財務省 ミャンマーの2銀行に制裁「ロシアなどからの武器取引に関与」 6/22
2年前のクーデターで軍が実権を握ったミャンマーをめぐり、アメリカ財務省は外国からの武器や軍事物資の取り引きに関わっているとして、軍政管理下の2つの銀行を新たに制裁対象に加えました。
アメリカ財務省は21日、クーデター以降、市民への無差別攻撃を繰り返しているミャンマー軍事政権の国防省と、軍政の管理下にある2つの銀行を制裁対象にしたと発表しました。
制裁の理由については「ロシアなど外国からの武器や軍事物資を軍が外貨で調達するのに利用されている」としています。
これに対し、ミャンマー軍の報道官は国営メディアを通じて「新たな制裁のことは心配していない」と強調しつつ「民主主義体制に移行するためのプロセスにおいて望ましくない遅れを引き起こすことになるだろう」とけん制しています。
JNNの取材に応じたミャンマーの企業関係者は「国の経済が輸入に頼る中、ドルがなければビジネスが止まる可能性があり、大騒ぎになっている」と述べ、さらなる混乱への危機感を示しています。
●FRB利上げ見送りの影響〜NYヘッジファンド代表はどう見る?〜 6/22
アメリカのFRB(米連邦準備理事会)は6月14日、11会合ぶりに利上げを見送った。パウエル議長は根強いインフレを背景に、年内2回の利上げを示唆している。
年内あと2回示唆も株価は堅調。景気後退は相当先か緩やかか
FRBは14日、2022年3月から10回連続で実施した利上げを見送り、政策金利の誘導目標を現在の5%から5.25%の間に維持すると全会一致で決定した。一方、パウエル議長は根強い物価上昇について、「上昇圧力はまだ強く、目標の物価上昇率2%への道のりはまだ遠い」と述べた。
アメリカの5月の消費者物価指数は4.0%と11か月連続で伸び率は縮小したが、人手不足による賃金は高い水準で推移し、物価が高止まりする原因となっている。
FRBは2023年末の政策金利の見通しを5.1%から5.6%に引き上げ、年内に0.5%の利上げを行う可能性を示唆した。
14日のニューヨーク市場は年内の利上げが示唆されたことから、発表直後は下落したが、タカ派への懐疑が優勢となり、発表前の水準を回復している。
ニューヨークに拠点を置くヘッジファンド、ホリコ・キャピタル・マネジメントの堀古英司氏に聞く。
――年内あと2回も利上げするかもしれないという話が出たのに株が比較的堅調だ。なぜか?
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
FRBとしては、今回見送ったことでマーケットが利上げ打ち止めだと完全に織り込んでしまうことを極端に嫌がっている感じです。だからこそ、年内に2回ぐらいあるぞと、強気の姿勢を見せているというだけの状況だと思います。もしそうではなかったら、今回も利上げしているはずですから、2回をそのまま額面通り受け止める必要はないと思います。
FRBの使命として、インフレの抑制と雇用の最大化というのがあります。雇用の最大化の方はもう達成されているので、インフレをどうするかという問題なのですが、こちらもインフレ率の低下を示す指標がどんどん出てきて、積極的な利上げを正当化する理由はもうなくなりつつあります。個人的にはあと1回がせいぜいではないかと思っています。
――今後のアメリカ経済は景気後退に陥るのではないかという悲観論もあるが、意外に堅調に推移していくと見てもいいのか?
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
悲観的に見る人のほとんどはこれまでがそうだったからということなのです。利上げをずっとやっていけばいずれ景気がスローダウンして、成長率が低くなるということなのですが、そういう意見で絶対的に見逃しているのは、今回は非常にマネーが大量に供給されたままの状態で、金融引き締めが行われている。お金を借りている人は困っているのですが、お金を持っている人はものすごく潤っていると。これまでのように金融引き締めの効果がそのまま効いているわけではありません。私は景気がスローダウンすることがあっても相当先か、緩やかか、一部の悲観的な人が思っているよりもだいぶマシなものになる可能性が高いと思っています。
――株価の今後の見通しは楽観的に見ているのか?
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
はい。2022年、かなり株式相場が下がりましたし、直近では債務上限問題とか銀行の信用不安とか、リセッションがいつか来るのではないかと不安に思っている人がたくさんいて、機関投資家のポートフォリオなどは現金の比率がかなり多い。とりあえず債務上限問題を越えたのでちょっと買おうかということが今上昇に繋がっていると思うのですが、今後、銀行の信用不安も実はたいしたことはなかったとか、リセッションもそんなにひどいものにはならないということになれば、ポートフォリオの比率を元に戻すだけで相当株を買わないといけません。今は株の買い遅れが非常に顕著な状況だと思っています。
FRBはタカ派的姿勢。日銀の政策変更のカギは為替か?
経済見通しの中身を見ると、5.1%が終着駅だと言われたのを0.5上方修正した。経済は思っていたより強いというのがFOMCの見通しだ。
――今後2回も利上げするかもしれないと言わざるを得ないのは、インフレが収まらないからか?
東短リサーチ代表取締役 加藤出氏: 下がってきたのは確かなのですが、コアの下がり方がゆっくりなのです。なぜゆっくりかというと、人手不足からくる賃上げ圧力が強いというのが背景にあります。賃上げによるインフレも静まり方がまだ遅いということです。
――失業者1人に対する求人は?
東短リサーチ 加藤出氏: 少し下がってきているとはいえ、相変わらず高水準です。大手企業のレイオフのニュースが時々出ますが、すぐどこかで採用されるという状況です。これをFRBとしては押し下げたいわけです。
――賃金もなかなか落ちない?
東短リサーチ 加藤出氏: 転職者、非転職者とも統計開始以来最高の水準にあります。FRBとしては非常に悩ましいわけです。金利を上げていくと、3月以降現れた銀行の破綻の問題とかまた出るかもしれないし、その辺のバランスを取ろうとして今回は1回見送ったわけですが、まだこの状況だと利上げを止められないということなのでしょう。
――今後のFRBの見通しは?
東短リサーチ 加藤出氏: 7月は(利上げを)やるのでしょう。9月はまた見送り、あと1回が11月だと思いますが、ここは5分5分ですかね。秋にかけて経済指標がたくさん出てきます。インフレがある程度下がってきたとなれば無理してやらないということでしょう。ただ、あり得ますよということはずっとパウエル議長は言い続けるということでしょう。
タカ派のポーズをとり続けるパウエル議長と対照的なのが、日銀の植田和男総裁だ。「粘り強く金融緩和を継続していく」方針だ。足元の消費者物価は3.4%の上昇と、日銀が目標とする2%を上回っており、植田総裁は「国民の大きな負担になっている」との認識を示した。
――アメリカの利上げが長引いて、日本が修正に動く余地が出てきている?
東短リサーチ 加藤出氏: 今絶好のチャンスで、10年金利を固定している政策を少々緩めてもそんなに長期金利は上がらない環境にあると思います。別にどんどん金融引き締めをすべきと言っているのではなくて、今やっている政策の弊害の部分をちょっと緩和しておいてからじっくり今後見極めていくというなら、7月までに政策変更すると非常にいいタイミングだと思うのですが、どうも慎重です。
――物価は既に2%を超え、実感としては10%近く上がっている?
東短リサーチ 加藤出氏: 現状のインフレは財政資金で電気料金とか抑えているからこれで済んでいるわけで、実際はもっと高いわけです。日銀が動かないと言えば為替市場で円安が進んで、それによってまた輸入物価が上がってしまうということが起きる。
――今後円安がどこまで進むかが日銀を動かす一つのカギになるかもしれない?
東短リサーチ 加藤出氏: 為替がズルズルと円安に行ってこれはまずいということになれば、植田総裁も(政策変更を)決断するということでしょうから、その点では為替は要注意です。
●NY株3日続落、102ドル安 米FRBの追加利上げ警戒 6/22
21日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3営業日続落し、前日比102.35ドル安の3万3951.52ドルで取引を終えた。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が追加利上げを示唆したことから、景気後退を懸念した売り注文が優勢となった。
パウエル氏は米議会下院の公聴会で、物価上昇率を目標の2%に引き下げるために力強く取り組むと強調。年内にさらに2回の利上げが実施されるとの観測が強まり、投資家が警戒感を高めた。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も3営業日続落し、165.09ポイント安の1万3502.20。
●NY商品、原油上昇 FRB議長発言への警戒後退で 金は続落 6/22
21日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で原油先物相場は上昇した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)でこの日から期近物になった8月物は前日比1.34ドル(1.9%)高の1バレル72.53ドルで取引を終えた。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は21日の米下院の議会証言で、インフレ抑制を重視する姿勢を改めて示した。ただ、市場が警戒していたほどタカ派的な発言が目立たず、次第に買いが入った。
外国為替市場ではドルがユーロなど主要通貨に対して下落し、ドル建てで取引する原油先物の割安感が意識され買いが入った面もある。米エネルギー情報局が22日に発表する週間統計で、石油在庫が減ることへの警戒も原油先物の支えになったとの見方が出ていた。
ニューヨーク金先物相場は続落した。ニューヨーク商品取引所(COMEX)で取引の中心である8月物は前日比2.8ドル(0.1%)安の1トロイオンス1944.9ドルで取引を終えた。米長期金利が上昇した場面で、金利の付かない資産である金の先物の投資妙味が薄れたとみた売りが出た。
●ドルは141円台後半、金融政策格差が円を圧迫−英大幅利上げに警戒も 6/22
22日の東京外国為替市場のドル・円相場は1ドル=141円台後半で推移。21日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言は新味に欠けたものの、欧州で利上げが見込まれる中、大規模緩和を続ける日本銀行との金融政策格差が円の上値を圧迫した。英国で大幅利上げも警戒され、欧州通貨を中心にクロス円が高値圏で推移した。
大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジストは、パウエル議長の発言後も米国金利の見通しに大きな変化はなく、「ドル指数が下げる中でドル・円が上値を更新していくのも難しいが、クロス円は欧州通貨が底堅い」と指摘。英インフレ指標が予想を上回る中、イングランド銀行(英中央銀行)による0.5%の利上げや「英国発の世界的な金利上昇には一応警戒する必要がある」と述べた。
パウエルFRB議長は21日、物価圧力を抑制するために金利が上昇する必要があると述べた一方、追加利上げのタイミングは今後入手するデータに左右されると説明した。バークレイズ証券の門田真一郎チーフ為替ストラテジストは「目新しい内容ではないが、日銀との金融政策の違いが改めて認識された」と言う。
22日に英国とスイスの金融政策発表を控えて、ポンド・円は1ポンド=180円台後半で推移。スイスフラン・円は一時1フラン=158円99銭付近と1979年以来の高値を付けた。欧州中央銀行(ECB)の利上げ継続姿勢を受け、ユーロ・円も一時1ユーロ=155円94銭と2008年9月以来の高値を更新している。  
門田氏は、相対的にドルと円が弱いと指摘し、「ドル・円と言うより、クロス円で円安圧力がかかりやすい」との見方を示した。  
ドル・円は21日の海外市場で一時142円36銭と昨年11月以来の高値を更新した後、141円台後半に反落した。大和証の石月氏は「介入警戒感という話もあるが、ドルが下落している中でドル売り・円買い介入は理解を得られるのかというのもある」とし、日本が金融政策で考えるべき問題との見方を示した。
●後がない指導者不足問題 6/22
令和4年度のものづくり白書は、能力開発や人材育成に問題がある事業所の増加傾向を指摘した(関連記事=指導担う人材が不足 製造業の能力開発で ものづくり白書)。製造業に限ればその割合は85%近くを占め、2001年度以降で最も高い数字となっている。具体的な問題点を尋ねた設問では、6割超が「指導する人材の不足」を訴え、4割台半ばが「育成しても辞めてしまう」というのだから、深刻だ。
大手製造業が国内の製造拠点を続々と海外へ移転させ、技能職の採用抑制に踏み切ってからすでに20〜30年が経つ。その間に短大卒を一般事務職として採用するルートも衰退し、今や大学進学率は50%超にまで高まった。年代別の人員構成に今もゆがみを抱えるケースは多く、とくに製造現場は中堅層の人員に乏しい。チームを束ねる監督職にふさわしい経験年数を持つ人材は限られ、次世代の早期育成が求められてきた。
他方で高校新卒者の採用市場は近年、確実にタイトになっている。昨年度(令和5年3月卒)の選考および内定開始は9月16日だったが、同月末現在の内定率は62.4%に上る(厚労省調査。対象は学校およびハローワークからの職業紹介を希望する者のみ)。解禁直後に内定率が6割を超える傾向は、17年卒以来続いている。02〜05年卒が4割に届いていなかったのと比べると、隔世の感がある。
1990年代初めには50万人を超えていた高卒の求職者数は、直近の23年卒で13万人を割り込み、約4分の1にまで減少した。求人数についても長期的には減少しているものの、近年はめだった増加傾向を示す。リーマン・ショック後はいったん20万人を切ったが、この十数年で44万人まで回復した。求人倍率は1.24倍から3.49倍に高まり、すでに90年代初めの数字を上回っている。
65歳までの継続雇用が義務化されて以来、製造現場は再雇用のシニアに頼ってきた。白書が引用する能力開発基本調査でも、技能継承の取組みとして5割超の企業が再雇用者を指導者として活用している。若手の確保・育成が喫緊の課題であると同時に、リタイアの近付くベテランに頼り続けるのにも限界がある。
●調整過程にあるヨーロッパの住宅市場 6/22
〜警戒されるドイツの住宅市場の調整
・ ヨーロッパでは、欧州中央銀行(ECB)によるハイピッチでの利上げを受けて、実体経済に対する下押し圧力が高まることへの警戒感が広がっている。注視すべき問題の一つに、住宅市場の調整がある。すでにヨーロッパの住宅市場は調整過程にあるが、今後も ECB が金融引き締めを継続することに加えて、景気が停滞し住宅需要が
低迷することから、ヨーロッパの住宅市場の調整はさらに強まるだろう。
・ 住宅市場の調整リスクが大きい国は、金利上昇と価格下落の両面でリスクを抱えるドイツ、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガルである。最も調整リスクが深刻な国はオランダだが、ヨーロッパ経済全体への影響という観点に鑑みれば、経済規模が大きいドイツの住宅市場の動向に注視すべきである。同国の住宅市場で調整が強まると、その経済規模の大きさゆえに、ヨーロッパ全体の景気が下押しされるだろう。
・ また EU 各国の銀行は、住宅市場の調整が進むことを受けて、住宅ローンの不良債権を増加させると考えられる。住宅ローンの不良債権の増加は銀行の経営を圧迫するが、一方で欧州連合(EU)各国の銀行がリーマンショック後に自己資本を手厚くしたこと、住宅ローンの不良債権は流通市場が発達しているために処理しやすいことなどから、本格的な経営不安に陥る銀行は限られるだろう。
・ とはいえ、一部の銀行の経営悪化を受けて投資家が疑心暗鬼となった場合、ヨーロッパの金融市場は混乱に陥る恐れがある。それにヨーロッパでは、商業用不動産部門でも、住宅市場と同様の調整圧力が生じている。本格的な金融不安を呼び起こす可能性を持つ一つのリスク要因として、今後もヨーロッパの住宅価格や不動産価格の動向を注意深く見守っていく必要がある。
1. 住宅市場が調整過程にあるヨーロッパ
ヨーロッパでは、欧州中央銀行(ECB)によるハイピッチでの利上げを受けて、実体経済に対する下押し圧力が高まることへの警戒感が広がっている。
注視すべき問題の一つに、住宅市場の調整がある。ECB は2015年に資産購入プログラムを実施し、またマイナス金利政策を導入するなど金融緩和を強化した。さらに2020年には、ECB はコロナショックへの対応から金融緩和をさらに強化した。こうした ECB による長期かつ強力な金融緩和を受けて、2014年初の時点で3%台だったユーロ建ての住宅ローン金利(新規)は、2021年後半には年利1.3%程度まで低下した(図表1)。この低金利環境が住宅ローン需要を刺激するとともに、投機マネーの流入を呼び込んだ結果、個人消費デフレーターを用いて物価変動の影響を除いた実質住宅価格も、コロナショック後のピーク時には2015年との対比で約30%上昇した(図表2)。
しかしながら、ECB が2022年7月に利上げに着手し、それ以降も追加利上げを進めたことで、住宅ローン金利は急上昇し、2023年4月時点で3.5%台まで達した。また一時は1.6%程度まで低下した住宅ローン残高の金利も、同月時点で2.2%まで上昇した。一方で、住宅価格の調整は金利の上昇に先行しており、ユーロ圏ベースでは2021年10-12月期を、欧州連合(EU)ベースでは2022年1-3月期をピークに下落に転じた。
このように、ヨーロッパの住宅市場はすでに調整過程にある。ただし、住宅市場の調整は、ユーロ圏のみならず非ユーロ圏でも各国ごとに様相は異なる。例えば、ユーロ非加盟国のうち、ハンガリーでは住宅価格の高騰が目覚ましく、それだけに住宅価格が下落すると強い逆資産効果が生じる危険性がある。またスウェーデンでは、金利が短期間で上下する変動金利ベースの住宅借り入れが主であるため、政策金利を引き上げると直ぐに家計の返済負担が急増し、個人消費が強く圧迫される。そうした一様ではないヨーロッパの住宅市場に対し ECB の利上げが与える影響を、本レポートは概観・整理するものである。
   図表1.利上げで住宅ローン金利に上昇圧力
   図表2.住宅価格はすでに調整入り
2. 警戒されるドイツとオランダの住宅市場の調整
最初に、金利上昇リスクの観点から、住宅ローン残高の状況を名目 GDP との対比で確認したい(図表3)。コロナショック前の2019年まで、ユーロ圏の住宅ローン残高は、ECB による大規模金融緩和が長期化したにもかかわらず、名目 GDP と同じテンポの増加にとどまった。そのため、住宅ローン残高の対名目 GDP 比率は37%程度で安定していた。しかし2020年に入ると、コロナショックに伴って名目 GDP は減少した一方、住宅ローン残高は増え続けたために、住宅ローン残高の対名目 GDP 比率は41%台まで上昇した。
この間に住宅ローン残高が増え続けた主因は、ECB が金融緩和を強化したことにある。また各国政府が景気刺激策を強化したことも、家計の住宅購入意欲を刺激し、住宅ローン借入の増加を促した。2021年に入るとヨーロッパの景気が回復に転じ、その後は高インフレを受けて名目 GDP が急速に増えたことに加えて、ECB による金融引き締めで住宅ローン残高の伸びが鈍化したことで、住宅ローン残高の対名目 GDP 比率は40%を切る水準まで低下し、コロナショック以前の水準まで落ち着くようになった。
とはいえ各国単位で見ると、家計の住宅ローン残高の水準は各国でかなり異なっている。資料上の制約から家計の借入金(住宅ローン+消費者ローンなど)での確認となるが、ユーロ圏の家計の借入金水準の平均値は2021年時点で名目 GDP の53.0%だった(図表4)。うち最も水準が高いのはオランダ(100.2%)であり、さらにキプロス(82.6%)やフィンランド(67.3%)、ルクセンブルク(66.0%)、フランス(65.8%)といった高所得の国々が、ユーロ圏平均を上回った。他方でユーロ圏平均を下回ったのは、ラトビア(19.1%)やリトアニア(23.5%)、スロベニア(26.3%)、アイルランド(29.4%)、エストニア(36.3%)など、低所得の国々だった。
他方で非ユーロ圏の国々を確認すると、平均値は44.4%だった。各国別には、デンマーク(103.6%)やスウェーデン(90.6%)の水準が著しく高く、中東欧諸国は総じて借入金の水準が低いことが特徴的である。
   図表3.全体で見た住宅ローンの膨張は限定的
   図表4.バラツキを伴う家計の借入金残高
続いて住宅価格の動き、つまり価格下落リスクを確認したい。図表5は、ECB が資産購入プログラムを実施し、低金利環境が強まった2015年を基準として、2022年時点での EU 各国の実質住宅価格(各国通貨建て)の上昇度合いを見たものである。これによると、ポルトガル(1.67倍)を筆頭に、ルクセンブルク(1.64倍)、オランダ(1.55倍)、スロベニア(1.45倍)、リトアニア(1.43倍)、ドイツ(1.40倍)などがユーロ圏平均(1.32倍)を上回った。うちドイツとオランダ以外は、基本的に人口が数百万人規模の小国である。一方、非ユーロ圏の国で平均(1.33倍)を上回った国は、ハンガリー(1.75倍)、チェコ(1.62倍)、クロアチア(1.38倍)だった。
住宅価格の上昇が激しい国々に共通する要因としては、1人口が少なく市場が小さいため投資マネーの影響を受けやすいこと(ただしドイツは除く)、2新築・中古ともに持ち家の住宅供給が少ないことがある。さらにハンガリーの少子化対策(多子世帯ほど手厚い住宅購入支援を受けられる)のように、特殊な要因で住宅価格の上昇が促された国も存在する。
ここで家計の借入金水準(金利上昇)と住宅価格の騰勢(価格下落)の2つの軸を合わせて評価すると、ユーロ圏の中で住宅市場の調整余地が大きい高リスク国は、オランダ、ルクセンブルク、ポルトガル、ドイツになる(図表6)。特にオランダの場合、家計の借入金水準と住宅価格の騰勢の両方でユーロ圏平均をかなり上回っている。そのためオランダの個人消費は、金利上昇に伴う利払い負担と住宅価格の下落による逆資産効果の両面から強く圧迫されると懸念される。同時にこのことは、家計に住宅ローンを提供しているオランダの金融機関が、多額の不良債権を抱えるリスクを有していることを意味する。
他方で、とりわけ金利上昇の面で強い調整圧力を抱えている国としては、キプロスを除けば、フィンランドやフランス、ベルギーといった高所得国がある。一方、価格下落の面で強い調整圧力を抱えている国には、オーストリアやスロバキア、バルト三国など多くの中東欧の小国が該当する。
   図表5.小国ほど住宅価格が上昇
   図表6.ドイツ、オランダなどが高リスク
同様に、非ユーロ圏の8ヶ国に関して、金利上昇と価格下落の2つの軸を合わせて評価すると、両面からリスクが高い国は存在しない(図表7)。しかし、金利上昇の面でリスクが高い国は、デンマークとスウェーデンとなる。一方で、価格下落の面でリスクが高い国は、ハンガリーとチェコ、クロアチアとなる(ただしクロアチアは2023年よりユーロ圏)。
以上を整理すると、EU27ヶ国において、住宅市場の調整リスクが大きい国は、金利上昇と価格下落の両面でリスクを抱えるドイツ、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガルとなる(図表8)。最も調整リスクが深刻な国はオランダだが、オランダの人口は1,750万人程度であり、経済規模も限定的である。そのため、ヨーロッパ経済全体への影響という観点に鑑みれば、人口が8,300万人と多く、経済規模も大きいドイツの住宅市場の動向に注視すべきである。ドイツの住宅市場で調整が強まると、その経済規模の大きさゆえに、ユーロ圏のみならずヨーロッパ全体の景気が下押しされるだろう。
このように、すでにヨーロッパの住宅市場は調整過程にあるが、今後も ECB が金融引き締め路線を継続することに加えて、景気が停滞し住宅需要が低迷することから、ヨーロッパの住宅市場の調整はさらに強まるだろう。それでも、ドイツの住宅市場の調整が限定的なら、ヨーロッパ経済全体に与える悪影響も軽微にとどまると考えられる。逆に、その他の国々の住宅市場の調整が限定的でも、ドイツの住宅市場で調整が深刻化すれば、ヨーロッパ経済に強い下振れ圧力がかかると懸念される。
   図表7.北欧とハンガリー、チェコが高リスク
   図表8. 注視すべきドイツの調整動向
3. 高リスク国の住宅市場
以下、ユーロ圏で住宅市場の調整リスクが大きい国のうちドイツとオランダ、非ユーロ圏で住宅リスクの調整
リスクが大きい国のうちスウェーデンとハンガリーについて、各国の住宅市場の現状を整理したい。
   3.1 ドイツ
ドイツの住宅価格は、ECB が資産購入プログラムを実施して金融緩和を強化した2015年から上昇が加速した(図表9)。当初、住宅価格の上昇はベルリンやフランクフルトなどの都市部を中心としていたが、その動きは農村部へと徐々に広がった。ドイツ連銀は、住宅価格が上昇した理由として、所得増、低金利、人口増(特に移民流入)の3つ要因を指摘しているが、とりわけ2015年以降に強化された金融緩和の要因を強調している(Deutsche Bundesbank, 2020)。つまり、所得の増加テンポに比べて金利の水準が低かったため、住宅需要が刺激されて住宅価格が上昇した。そこにコロナショックに伴う大規模金融緩和が加わり、ドイツの住宅価格は一段と上昇することになったというわけである。
その後、ドイツの住宅価格は2021年10-12月期を頂点に下落へ転じ、直近2022年1-3月期の実質住宅価格の水準は、ECB が金融緩和を強化した2015年以降のトレンドを下回っている。しかしながら、ECB が資産購入プログラムを実施する前のトレンドに比べれば、実質住宅価格には依然として20%ほど下落余地がある。そのため、今後は一段の逆資産効果が生じ、家計の消費を圧迫する可能性がある。
他方で家計の借入金水準は、この間に横ばい圏(対 GDP 比率が55%前後)で推移した(図表10)。また住宅ローン金利(残高ベース)も、ドイツでは10年超の固定ローンが主流であるため、緩やかな上昇にとどまっている。ゆえに家計の利払い負担の増加は限定的であり、個人消費はそれほど圧迫されないかもしれないが、大国であるドイツの動向は他のヨーロッパに強い影響力を持つため、動向を注視する必要がある。
   図表9.ドイツ住宅価格の調整余地は20%ほどか
   図表10. ドイツ家計の借入金水準はそれほど膨らまず
   3.2 オランダ
2000年代のオランダの住宅価格は、住宅ローンの借入利息の全額を課税所得控除とした優遇税制の影響などから上昇が続いたが、2008年のリーマンショックを受けて下落に転じた(山口, 2013)。それ以降も、2013年前半まで実質住宅価格は下落したが、同年後半には下げ止まった(図表11)。そして ECB が資産購入プログラムを実施するなど金融緩和を強化した2015年から上昇に転じ、さらにコロナショックに伴う大規模金融緩和で上昇テンポが加速した。ドイツ連銀と同様に、オランダ中銀もまた、ECB による低金利政策の強化が住宅価格の急騰につながったと指摘する(De Nederlandsche Bank, 2020)。
その後、オランダの住宅価格は2021年1-3月期をピークに下落に転じ、足元の水準は、ECB が資産購入プログラムを実施するなど金融緩和を強化した2015年以降のトレンドまで落ち着いている。しかしそれ以前の住宅価格は下落トレンドにあったため、トレンド線との比較では住宅価格の下落余地がさらにどの程度あるのか、不透明な状況にある。今後、オランダの住宅価格が一段と下落し、強い逆資産効果が生じて個人消費が圧迫されることが懸念される。
他方で、オランダ家計の借入金水準は、コロナショックに伴う景気の腰折れで一時的に膨張したものの、一貫してデレバレッジが進んでいる(図表12)。とはいえ、すでに指摘したように、ユーロ圏全体で比較すれば、オランダの家計の借入金水準は突出しており、必ずしも調整が十分ではない。オランダの住宅ローン借入も長期固定金利が主流であるため、支払い金利の上昇はまだ限定的であるが、今後は利払い負担の増加の面からも、オランダの個人消費が圧迫される恐れを意識すべきだろう。
   図表11.下落の目安が不透明なオランダの住宅価格
   図表12. 家計の借入金はデレバレッジが不十分な恐れ
   3.3 スウェーデン
スウェーデンの住宅価格は、2012年に当時の ECB の利下げを受けてスウェーデン中銀(リクスバンク)が利下げを行ったことで、上昇が加速した。さらに2015年2月、リクスバンクが ECB と同様に資産購入プログラムを実施し、マイナス金利政策を採用するなど金融緩和を強化したことで、住宅価格の上昇に弾みがついた(図表13)。さらに、銀行間の競争が激しく、元本よりも金利を優先して返済するローンが提供されたことも、住宅需要を刺激し、住宅価格の急上昇を促した(川野, 2015)。
2018年に入ると、米国発の金融市場の変調(金利の上昇に伴う低格付け債市場の調整など)を受けて、スウェーデンの住宅価格は天井を打ち、軟調となった。その後、コロナショックに伴う金融緩和の強化を受けてスウェーデンの住宅価格は再び上昇したが、2022年1-3月期をピークに下落に転じ、足元の価格はコロナショック前の水準に収束すると同時に、長期の価格トレンドを下回っている。こうしたことから、すでにスウェーデンでは、住宅価格の下落に伴う逆資産効果が相応に生じており、この経路から個人消費が圧迫されていると考えられる。
他方で、スウェーデンの家計の借入金水準は、2010年から2018年の間に GDP の55%程度から62%程度まで膨らんだ(図表14)。さらにコロナショックで60%台後半まで膨張した後、50%台後半まで縮小した。そしてスウェーデン(及び近隣の北欧諸国)の場合、変動金利ベースでの借入が多いため、2022年後半から住宅ローン金利の上昇が顕著である。そのため、すでに利払い負担の増加の面からも、スウェーデンの個人消費は圧迫されている模様である。
   図表13.長期の価格トレンドを下回った住宅価格
   図表14. 金利急騰の影響が懸念されるスウェーデン
   3.4 ハンガリー
2000年代のハンガリーの住宅価格は、好景気を反映した旺盛な住宅需要と外貨(日本円やスイスフラン)建ての低金利ローンが普及したことで急上昇したが、2008年のリーマンショックを受けて下落に転じた。その後、ハンガリーの住宅価格は2014年まで下落したが、2015年を底として上昇に転じた(図表15)。ECB による金融緩和の強化を受けてハンガリー国立銀行(中央銀行)も金融緩和を強化したこと、外貨建て住宅ローンの救済策が採られたこと(国内通貨フォリントへの転換と優遇金利の適用)、さらに少子化対策として子育て世帯向けに住宅購入刺激策を実施したこと(住宅購入に際して政府が補助金を給付したり、住宅ローンの優遇金利を提供したりすること)が、住宅価格の上昇を促した。
住宅価格は2022年1-3月期をピークに下落に転じ、足元の水準はハンガリー中銀が金融緩和を強化した2015年以降のトレンドを下回っている。とはいえオランダと同様に、それ以前の価格は下落トレンドにあったため、トレンド線との比較では価格の下落余地があとどの程度あるのか、不透明な状況にある。こうしたことから、ハンガリーの住宅価格は今後も下落が進み、強い逆資産効果が生じて個人消費が圧迫される可能性が懸念される。
他方で、ハンガリーの家計の借入金水準は、コロナショックに伴う景気の腰折れで一時的に膨張したものの、一貫してデレバレッジが進んでいる。かつてと異なり、住宅ローンは、外貨建てではなくフォリント建ての長期固定ローンが圧倒的である。また残高に適用される住宅ローン金利も低位にとどまっているため、利払い負担の増加という経路からは、個人消費はあまり圧迫されないかもしれない。
   図表15.下落余地が大きいハンガリーの住宅価格
   図表16. ハンガリー家計の借入金の規模は限定的
4. 本格的な危機は回避の見込みだが住宅市場の動向には引き続き注視する必要性
以上、ヨーロッパの住宅市場に ECB の利上げが与える影響を概観してきた。すでにヨーロッパの住宅市場は調整過程にあるが、今後も ECB が金融引き締め路線を継続することに加えて、景気が停滞し住宅需要が低迷することから、ヨーロッパの住宅市場の調整はさらに強まるだろう。特に、金利上昇と価格下落の両方の観点から調整リスクを抱える国のうち、経済規模が大きなドイツの動向を注視する必要がある。
経済規模が大きなドイツの住宅市場の調整が限定的なら、ヨーロッパ経済全体に与える悪影響も軽微にとどまると考えられる。逆に、その他の国々の住宅市場の調整が限定的でも、ドイツの住宅市場で調整が深刻化すれば、ヨーロッパ経済に強い下振れ圧力がかかると懸念される。
またドイツを中心に、ヨーロッパ各国の銀行は、住宅市場の調整が進むことを受けて、住宅ローンの不良債権を増加させると考えられる。住宅ローンの不良債権の増加は銀行の経営を圧迫するが、一方でヨーロッパ各国の銀行がリーマンショック後に自己資本を積み増したことや、住宅ローンの不良債権を買い取るファンドなどが発達し、以前よりも不良債権を処理しやすくなったことなどから、経営不安にまで陥る銀行は限られるだろう。
とはいえ、一部の銀行の経営悪化を受けて投資家が疑心暗鬼となった場合、ヨーロッパの金融市場は混乱に陥る恐れがある。スイスの金融大手クレディ・スイスが、米国のシリコンバレー銀行(SVB)の経営破たんに伴い生じた金融不安の波に飲まれて実質的な経営破たんに陥ったように、投資家が疑心暗鬼になれば金融市場に強い調整圧力が生じる。それにヨーロッパでは、商業用不動産市場でも、住宅市場と同様の調整圧力が生じている。
本格的な金融不安を呼び起こす可能性を持つ一つのリスク要因として、今後もヨーロッパの住宅市場や不動産市場の動向を注意深く見守っていく必要がある。 
●中国の限界を示すもの、人民元と大使の言動 6/22
この30年間、中国の追い上げは恐ろしい勢いだった。現在のような地政学時代が到来した理由も、米国がこのような追い上げに脅威を感じたためだ。約30年前の1990年、中国は世界人口の20%を占めていたが、経済の比重は2%にも及ばなかった。中国の人口の大多数が絶対貧困の状態にいた。米国の経済規模の5%に過ぎなかった中国が、今は75%まで追い上げた。貿易での成長はさらに目覚ましい。中国の貿易規模は米国を追い越して久しい。世界の輸出において中国が占める比重は18%である一方、米国の比重は12%だ。しかし、軍事力は中国の方が米国よりはるかに低い。空母など保有戦力も劣勢であるうえ、中国の年間国防費支出額(3000億ドル)は米国(8000億ドル)の半分にも満たない。
軍事力より中国の存在感をさらに薄くするのは人民元の国際的地位だ。国際決済に使われる通貨は依然として米ドルが圧倒的だ。ユーロが多く使われるヨーロッパを除いた地域で、貿易代金の約80%はドルで決済される。国際金融取引を含めた決済で人民元の使用比重は2%余りだ。貿易に限定するとこれより少し高いが、これは中国が貿易取引の際に人民元の決済を強く求めているためだ。世界各国の外貨準備高の構成も似ている。米ドルが60%を占め、人民元の割合は3%にも及ばない。中国と特殊関係にあるロシアなど数カ国で人民元の比重が大きいことが反映された結果だ。
中国は覇権国である米国の力の多くがドルに由来すると考えた。そのため、2008年の世界金融危機以降、人民元の国際通貨化に本格的に乗り出した。中国企業が貿易や海外投資をする際に人民元を使うよう誘導し、他の国々が人民元使用を増やすためにも多方面で努力を傾けてきた。数十カ国と通貨スワップを締結し、人民元を直接取引する外国為替市場を開設した。ところが、15年が過ぎた今、このような努力の結果は芳しくない。
なぜだろうか。金融の発展は信頼と透明性の産物であるからだ。金融という構造物が鉄筋とコンクリートがなくても持ちこたえられる理由は、相手に対する信頼と各自の透明性を後押しできる制度的装置があるためだ。類型の物を製造する能力は短期間で取得できるが、金融はそうではない。
数年前、ドルの覇権が欧米の大型金融機関の陰謀によって作られたかのように説明した中国人著者の本が韓国と中国で人気を博した。そのような観点から見れば、国際通貨は国家間の策略や企画によって作られるものにみえるかもしれない。しかし、それは誤った評価だ。ある貨幣が国際的に通用するのは、少数の金融機関が陰謀を企てたからといって、政府が努力したからといってできることではない。世界の個人、企業、金融機関は価値の安定性を維持しながらも適正量の通貨を供給すると信じられる国の通貨を選ぶ。言い換えれば、中国がこのような信頼と透明性を備えていない限り、人民元は国際通貨にはなりえない。
中国人民元の地位は当分大きく上がらないだろうというのが学界の一般的な評価だ。人民元によるドル地位の蚕食が目で認識できないほど遅いという意味で、レーダーに探知されない戦闘機の名前を取り「ステルス型蚕食」と呼ぶ人もいる。今後、中国が国際社会で信頼を高めることができなければ、このような蚕食すら現れない可能性もある。中国が国際社会で今のようなやり方を続けると、相手の信頼を得ることはできないだろう。自分の大きさだけを信じて相手国に接するなら、その限界は明らかだ。先日の「中国の敗北に賭けると後悔することになるだろう」という駐韓中国大使の脅しじみた言動は、その限界を抜け出せずにいることを示している。
中国は国際的影響力を拡大するため、いわゆる「一帯一路」政策を約10年間展開してきた。習近平主席は、「一帯一路プロジェクトがアジアとアフリカ大陸の運送網を強化すると同時に、人民元の国際化も達成するだろう」と述べた。ところが、1兆ドル規模の人民元借款が投入された同プロジェクトで、低開発国に数万キロメートルの鉄道と道路を建設したにもかかわらず、人民元を国際通貨にすることはできなかった。その理由が何なのかを、中国は振り返ってみなければならない。規模と資金だけでは得られない無形の力がある。駐韓中国大使の発言はそのような力を得る上で、今の中国の持つ限界をよく示す事件だった。
●絶好調MMF、資産ますます増加へ−翌日物以外への投資で利回り上昇 6/22
米国のマネー・マーケット・ファンド(MMF)は米連邦準備制度の利上げによる恩恵を受けているが、投資家を引き付ける新たな手段を得てますます残高が膨らむ見込みだ。
MMFの残高は過去1年で約1兆ドル(約142兆円)増え約5兆5000億ドルに達した。
安全なMMFから株や長期の債券に乗り換えるべき時なのかとの問いが市場に渦巻く中で、この業界の年次会議である「クレーンズ・マネー・ファンド・シンポジウム」が21日に始まり、約450人が参加している。
米当局の積極的な引き締めの中、ボラティリティーからの逃避先として、また銀行預金より高い利回りを提供する商品として、MMFの人気が高まった。業界には1年前に比べて大きな変化があり、これがMMFの魅力を維持し資金流入を持続させるとみられる。
まず、米債務上限問題が6月に解決した後の米財務省短期証券(TB)をはじめ、MMFが投資できる高利回り商品が増えた。
また、米連邦準備制度の行動見通しがより明瞭になったため、翌日物以外への投資も可能になった。より長期の商品を購入できるということは、より高いリターンが得られることを意味する。
RRP金利より高い
バンク・オブ・アメリカ(BofA)の米金利ストラテジー責任者、マーク・カバナ氏は「マネーファンド業界は今、絶好調に違いない」と話す。「資産残高は大きく増えているし、投資先商品の供給は急増し、より明確になった市場に関するファンドの見方を反映させる余地も大きい」と指摘した。
米財務省は9月末までに1兆ドル超のTBを発行する可能性がある。また、銀行セクターを巡る不安が和らいだとはいえ銀行のドル需要は続いているため、米連邦住宅貸付銀行(FHLB)は銀行に貸し付ける資金を調達するため短期証券を発行。MMFがこれを購入している。カウンターパーティーリスクがある現先取引の一種も利回りが高い。
例えば8週間物TBの利回りは約5.18%と、米金融当局の翌日物リバースレポ(RRP)金利5.05%より高い。MMFは巨額資金を運用するので1ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の差もおろそかにできない。株式など他の投資先と競争するためにはなおさらだ。
MMFの平均利回りは5%弱だが、S&P500種株価数は年初来2桁台の上昇となっている。「あらためてリスクテークしようとする意欲が強まり続ければ、MMFには逆風だ」とカバナ氏は述べる。
利回りを高めるためMMFは翌日物への投資を減らし、保有資産の満期までの期間の加重平均は長くなっている。フェデレーテッド・ハーミーズでは25−35日を目標としており、先月の15−25日から伸ばした。同社のグローバル流動性市場担当最高投資責任者(CIO)のデボラ・カニンガム氏が明らかにした。
MMF市場拡大の原動力は銀行預金から資金を移すリテール投資家だったが、今年後半には企業の財務担当者など機関投資家からの需要が高まると同氏はみている。
●円安ユーロ高もすすむ 一時1ユーロ=156円台 6/22  
リーマンショック以来15年ぶり円安水準更新
外国為替市場で、円相場はヨーロッパの通貨・ユーロに対し、一時、1ユーロ=156円台をつけ、リーマンショックが起きた2008年9月以来、およそ15年ぶりの円安・ユーロ高水準を更新しました。
外国為替市場では、金融緩和を続ける日銀と、アメリカの中央銀行・FRBの金融政策の違いから、1ドル=142円台近辺まで円安・ドル高が進んでいますが、ヨーロッパ中央銀行・ECBも歴史的な物価高への対策から金融引き締めを継続していて、金利の低い円を売ってユーロを買う動きが進んでいます。
●英 中央銀行が0.5%利上げ、年5%に インフレ抑制へ 6/22
イギリスの中央銀行(イングランド銀行)は深刻な物価高を抑制するため、政策金利を年5%に引き上げると発表しました。約15年ぶりの高水準です。
イングランド銀行は22日、政策金利を年4.5%から5.0%に引き上げると発表しました。
0.5%の上げ幅は市場の予測を上回りました。
今回の利上げはおととし12月以降、13回連続で2008年のリーマンショック以来の高水準となりました。
イギリスの先月の消費者物価指数は去年の同じ月と比べて8.7%上昇と、依然としてインフレが続いています。
特に食品価格の高騰が深刻で、先月までの1年間で卵や牛乳が約3割、グラニュー糖が5割値上げするなど、市民生活に影響を及ぼしています。
イングランド銀行は利上げの終了時期を検討していましたが、インフレを抑える目的で利上げを継続したとみられます。
●相次ぐ欧州中銀の利上げ、日欧中銀スタンスの差でクロス円上昇 6/22
ロンドン序盤はクロス円主導で円安が進行している。この日は欧州各国中銀の金融政策が発表されるが、ここまでにスイス中銀が25bp利上げ、ノルウェー中銀が50bpの利上げを発表している。いずれも今後の追加利上げの可能性についても言及している。一方で、日銀は大規模緩和の継続を繰り返しており、日欧金融政策スタンスの差は拡大方向にある。スイス円は発表直前に159.20レベルまで買われ、1973年の変動相場制移行後の最高値を記録した。ノルウェークローネ円は13.30付近から13.536円まで上昇、年初来高値を更新した。
この後の英金融政策委員会(MPC)の金融政策発表を控えているポンドについても、ポンド円が買われている。180円台後半での揉み合いを上放れると181.46近辺に本日の高値を伸ばしている。英中銀は25bp利上げ観測が優勢だが、先日の英CPIでのしつこいインフレ圧力を受けて50bpの観測も一部にでている。ユーロ円は心理的節目となる156円台に乗せている。リーマンショックの2008年9月以来の高値水準となっている。

 

●日本経済最大のタブー“ザイム真理教”…信者8千万人 6/23
『ザイム真理教――それは信者8000万人の巨大カルト』(フォレスト出版)。そんなおどろおどろしいタイトルの本が、バカ売れしている。5月22日に発売後、売上をグングン伸ばし、3週間で4万部を突破。同ジャンルの書籍としては異例の売れ行きで、アマゾンでは、発売直後から経済学ジャンル1位の座をキープし続けている。
著者は、20年前に『年収300万円時代を生き抜く経済学』で一世を風靡した経済アナリストの森永卓郎氏。柔和な笑顔で、難解な経済の仕組みをわかりやすく解説してくれる森永氏が「人生の集大成」として取り組んだのが“ザイム真理教”だったという。
いったい、どんな内容なのか。本人に、そのカラクリをじっくりと話してもらった。
「岸田文雄総理が、このまま緊縮財政に取り組めば、日経平均株価は、現在の10分の1の3000円になっても不思議ではありません。いま総理の頭の中にあるのは、金融の正常化と財政の健全化しかない。なので、とてつもない勢いで増税と社会保険料アップ、あるいは公共サービスカットがきます。すでに、もう毎月やるのかと思うくらい、ビッシリ増税メニューが並んでいるんです」
そう言って森永氏が予測する、岸田政権の増税スケジュールは、確かに強烈だ。
岸田総理の経済政策の元になっているのが、“ザイム真理教”だという。絶対的な国の指針として財務省(旧大蔵省時代から)が布教し続けてきたものの正体は、目に見えないだけに、不気味でおそろしい。
ザイム真理教とは、「国の借金が増え続ければ、国家財政は破綻する」と国民にアピールして、税金や社会保険料の負担を増やすよう、“布教活動”を行っている財務省(旧大蔵省)官僚によるカルト的な教えのこと。
「政治家も多くの国民も、財務省のマインドコントロールによって支配されていて、もう身ぐるみはがされるくらいに不幸な目に遭わされるかもしれないのに、それでも多くの人が信じ続けているんです」(森永氏)
では、ザイム真理教の教えとは、具体的にどんなものなのか。本の中から、その“教義”の一部を引用してみよう。
・税収を大きく上回る歳出がなされ、その差である財政赤字がどんどん拡大している。
・その結果、日本の国債残高は、どんどん増えていて、いまや先進国のなかでダントツに大きな残高になっている
・財政赤字を放置すれば、将来世代に負担を先送りすることになる。
・同時に、国債の信任が失われれば、通貨の信任や金融機関の財政状況にも悪影響を及ぼす
・国民が広く受益する社会保障費は今後も増大していくと見込まれ、その費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税の引き上げは必要
「どれも、まったくその通りだ」と思った人は、すでにザイム真理教に洗脳されている可能性が高い。森永氏は、有力な学者や政治家、財界人、マスコミがことごとく、この教義を信じ込まされた結果、とんでもない方向に日本経済が迷い込んでしまったと指摘する。
財政再建を至上命題とし、景気動向を無視して消費税をアップして、デフレ脱却の芽を摘んできた。長年、赤字国債を大量に発行してきたせいで、国の財政は借金まみれだと言うが、森永氏の試算によれば、その借金と同じくらいの資産を日本は持っており、 危機的な状況には、まったくないという。
「2020年度末に財務省が公表した数字を見ると、日本は1661兆円もの借金を抱えています。ところが、それと同時に、政府は有価証券や土地、建物など1121兆円という莫大な資産を保有しています。さらに通貨発行益を加えると、実質債務はわずか8兆円。しかも現在の岸田政権が財政緊縮を徹底した結果、すでに日本政府は借金どころか、預金を持っていると見込まれるんです」
では、いったいなぜ、ザイム真理教がそこまで力を持つようになったのか。いくつかのポイントを挙げて、森永氏に詳しく解説してもらった。
みんな知っているけれど、誰も怖くて言えないこと
――どうして、このテーマを書こうと思われたのですか。
森永氏 ちょうど、65歳になって、子供も巣立ったし、無理に仕事をする必要はなくなったんですよ。あと畑で農業も始めて、お金がなくても生きていける手立てが整ったので、最後に本当に書きたいことを書いて、人生を終えようと思ったんです。
ずっと、みんな知っているんだけれども誰も怖くて言えないテーマが、私の中では2つありました。ひとつは財務省がカルトだっていう話と、もうひとつは日本航空123便の墜落事件の真相です。そのうち、とりあえず、ひとつをやったという感じなんです。
――大手の出版社からも出版を断られたそうですね。
森永氏 そうなんです。まず、書く前に企画を持ち込んだんですが、みんな断られました。そこでとりあえず原稿を書いてしまって大手出版社に持ち込んだんですが、これもすべて門前払い。
どこがいけないというのでなく、そもそもこのテーマは書いてはいけないんだという雰囲気でした。編集者レベルで通ったところでも編集会議にもあげてもらったけれど、もう箸も棒にもかからない感じでした。私は、これまで100冊以上本を出していますが、こんなことは初めてです。
――それはタブーに触れるからでしょうか。
森永氏 (言葉にはしないけれど)そんな感じですね。でも、その気持ちはわからないでもないんです。彼らもサラリーマンで、生活を守らないといけませんので。私は、出版にはまだ言論の自由は残っていると思っていたけれど、もうそれもないなということは、はっきりわかりました。諦めかけていたときに「うちで出しますよ」と、社長ひとりで経営している三五館シンシャという出版社が引き受けてくれたんです。
――それだけ断られ続けた企画が、いざ発売したら、たちまちベストセラーになりました。
森永氏 この3週間、経済書では、ずっと1位をとっています。だから8000万人は騙されているんだけれども、4000万人はまだ騙されていない(※1)。その人たちには響いたのかなと。
※1 2021年10月に朝日新聞が行った世論調査によれば「消費税を下げたほうがいい」と答えた人は、全体の35%(約4000万人/1億2000万人)にすぎなかった。残り65%(約8000万人)の人は「消費税を下げなくてもいい」、あるいは「増税してもいい」と回答している。
――メディアで、本書のことは取り上げられていますか。
森永氏 大手新聞社とテレビ局は完全無視です。書評もまったくありません。大手でない出版社と週刊誌でいうと、「アサヒ芸能」とか「週刊実話」はわりと大きく扱ってくれています。あとはタブロイド紙やネットメディアもメチャクチャ扱ってくれています。大手メディアとテレビは一切ないです。
――20年前の『年収300万円時代を生き抜く経済学』と比べたらどうでしょうか。
森永氏 『年収300万円〜』は、最初のバージョンが37万部ですが、続編が十何万部か売れて、関連本もすべて入れると約100万部売れました。それと比べると、今回の本も同じくらい勢いはありますが、取り上げられ方は、大手新聞とテレビ局が無視しているというのが徹底的に違いますね。
莫大な資産があることは隠されたまま
――ザイム真理教は、いつ頃から流布されるようになったのでしょうか。
森永氏 私は、1980年に社会に出て日本専売公社(現JT/日本たばこ産業)の主計課という、大蔵省から予算もらってくる部署に配属されたんですけど、その頃からおかしくなってきたんです。きっかけは、1973年に石油ショックが起きて、景気対策として国債を発行したこと。意外と多めに。それが10年たつと返済しなければいけないから、財政を締めないとダメだと言い始めました。“財政再建元年”と当時の大蔵省の役人が言い出して、それでおかしくなったんです。だって10年で返す必要なんてまったくないんですから。
一方、バランスシートに資産がたくさんあることを、ずっと財務省が隠し続けていたんですね。国の財務書類という統計は、高橋洋一さんという、いま嘉悦大学にいらっしゃる方が財務省在任時代につくりました。役人の習性で、一度つくった統計を途中で辞めるのは難しいんです。前例踏襲で仕事をするからです。
――国の資産にも「売れるものはたくさんあり、売れないものはほんの一部にすぎない」と書かれています。
森永氏 はい。財務省は「まったく売れない」と言っていますが。そんなことはありません。一番巨額なのは、世界でもっとも流動性が高くて売りやすい米国国債。それが100兆円くらい。あと地方債などで、全体の7割が金融資産です。土地・不動産については、一等地ばかりなので全部売れます。それらをひっくるめると、国には、ざっと1100兆円も資産があるんです。
――家計にたとえれば、収入を上回る借金をして、毎年借金だらけではないのかと言われたら、確かににそのとおりだけど、実は、その人はとんでもない資産家だったということでしょうか。
森永氏 そうです。私の試算では、2020年度末で8兆円しか借金ないんですけど、その後、岸田政権がものすごい財政の引き締めをして、日銀も国債を大量買い入れしていますから、おそらく現時点では、間違いなくプラス。貯金を抱えているんです。貯金を抱えているのに「増税をするぞ」と言っているんです。
東大法学部出身は経済学を知らない
――そのあたりは、専門家の世界での議論はされていないのでしょうか。
森永氏 ないです。というか、そういう話をすれば、たちまち干されます。
――森永さんも、その恐れはありますか。
森永氏 あります。私は小泉内閣のときまでは、いくつもの政府の審議会の委員を務めていたんですが、ある時期から全部クビになりました。任期が更新されずに次々と消えていく。そして次からは選ばれない。
――政策の方向性に忠実な人を委員会の専門家に呼んでくるのは、今も変わらないのでしょうか。
森永氏 財政制度等審議会なんて、もう信者ばっかり。というか、ザイム真理教の“教団幹部”に近い人たちを集めているんです。財務省は、ケタ違いに悪質。どこへでも洗脳しにきますからね。一方的に説明されたら、確実に信者になってしまいます。
森永氏 政治家にしても、ちゃんと経済を勉強していない人ほど簡単に“落ち”ます。反論できる人は、ほとんどいません。財務省出身の政治家も少なくありませんが、財務省が一番経済学を勉強していない。なぜなら、東大法学部が支配しているので。法学部出身者は、経済学をちゃんと勉強していないんです。あと、もっとも潤沢な天下り先を持っているのが財務省なんです。
――天下りの撲滅は、小泉内閣の頃から言われていましたが。
森永氏 世間は誤解しているようですが、これまで天下りが禁止されたことは一度もないんです。天下りの斡旋が禁止されただけです。ですから、退官後も転々と天下り先を渡り歩いて、数年ごとに数千万円の退職金がもらえるうえ、個室と秘書、専用車、交際費、海外旅行が漏れなく付いてくるという待遇です。これは、やめられないですよ。
帳簿上の債務超過はインフレを起こさない
――本に書かれている「通貨発行益」は、いまひとつ一般人にはわかりにくいと思います。お金をたくさん印刷して発行しても、国民にはなんらデメリットはないということでしょうか。
森永氏 自分が権力者だったとすると、紙切れに「1万円」と書いたら、それだけの価値の紙幣として使えるわけですよ。ということは、発行者に「1万円」の利益が転がり込んでいるということになります。これは大昔から行われています。貨幣の歴史とともに、「通貨発行権」が使われているんですね。世界中でどの時代でもみんな使っています。
――やりすぎると猛烈なインフレがくる?
森永氏 そうです。問題は、どこまでなら大丈夫かっていうところ。安倍政権が残した最大の成果というのは、2020年度に1年間で80兆円財政赤字を出したこと。それでも、なんともなかったんですよ。たぶん80兆円くらい毎年赤字を出しても大丈夫ということです。
国が大量に国債を発行して、中央銀行が引き受ける。金利が上がると債務超過になる。債務超過になったら、その瞬間、誰もその国を信用しなくなり、経済が壊滅するといわれていました。
だけど去年、オーストラリアの中央銀行が債務超過になったけど、何も起こらなかった。最近、アメリカの中央銀行が債務超過になった。でも何も起こってない。だから、真っ赤なウソだったというのがわかったんです。
――これまでの学説とは、何が違っていたのでしょうか。
森永氏 債務超過に陥った瞬間に信用を失うといわれていました。でも、誰も中央銀行が債権超過かなんて気にしていなかったんです。
――デフォルトになっているのとは違うのでしょうか。帳簿上は債務超過に陥っているものの、支払いは続けるということですか。
森永氏 はい。一般の民間銀行はダメですよ。債務超過になると、自己資本比率規制があるから業務はできなくなるけれど、中央銀行は全然問題にならないということがわかったんです。
――1990年代後半のアジア通貨危機はどうでしょうか。
森永氏 あれは海外から大量の借金をしていた国で起きたことです。海外の投資資金というのは、(高利貸しの)街金みたいな感じなんですよ。あるいは闇金に近いような存在。だからヤクザみたいなところから金借りてはダメということ。日本の場合は自国通貨で借金しているので、それとは違って、まったく問題ないんです。
――海外から高利で借りている場合、返せなくなると資本を引き上げられておかしくなるということでしょうか。
森永氏 そう。日本にはそんなものはない。国債にしても、外資が何度も日本を破綻させようとして、日本の国債を売りにいったけれど、すべて失敗して、みんな尻尾を巻いて帰っていきました。
日銀が通貨発行権を握っているので、日銀が買ってしまえば暴落なんてしようがなかった。そんな当たり前の仕組みをわかっていなかったということなんです。
国民負担率10割になったら起きること
――アベノミクスによって、株価、企業業績は上向きましたが、庶民の生活はよくなっていないのはどうしてでしょうか。
森永氏 消費税を上げたからです。2013年4月に、黒田東彦日銀総裁が「異次元の金融緩和」を始めました。びっくりすることに、たった1年で消費者物価がほぼ2%弱、上がったんです。それでデフレ脱却するはずだったんだけど、財務省がそのタイミングで消費税を引き上げました。すると、たった1年でデフレに戻ってしまいました。だから最大の失敗は、消費税を引き上げたことといえます。2014年に8%にして、その後2019年に10%にしました。
――税率の引き上げが、たとえ2%、3%であっても、どんどん物価が下がって、給与が上がっていない時代に、これをやられるとダメージが大きいですね。ダメージが大きいから、消費が一気に失速。心理的に、ありとあらゆるものが上がっていくと思うと、サイフのひもが固くなっていくわけですね。
森永氏 そうです。安倍総理の最大の人事ミスは、日銀副総裁だった岩田規久男先生を総裁にしなかったことです。岩田先生は上智大学の元教授で、リフレ派経済学者の第一人者です。
黒田前総裁はもともと財務省の人なので、ザイム真理教の信者なんです。岩田先生が退任されて時間がかなりたったので、最近、本当のことを言い始めました。2014年の消費税引き上げを岩田先生は「絶対にダメだ」と言っていたのに、黒田前総裁は「絶対に大丈夫だ」と言って、それ以来、もう冷戦状態だったらしいです。
――新しい日銀総裁については、どのように見ていますか。
森永氏 植田和男総裁は、元同僚の話を聞いても、あまり期待できません。岸田総理の忠実な執行者になるでしょう。たぶん、選挙が終わったら金融引き締めにいくと思います。これはとてつもなく危険で、それが世界の金融危機の引き金を引くことになるかもしれないと言う人もいるくらいの行為。それでも岸田総理は、やると思います。
――このところ株価は絶好調なのにですか。
森永氏 だから、とてつもない勢いで落ちると思います。なかなか信じてもらえないんですが、世界恐慌に至る1929年10月24日の“暗黒の木曜日”から始まった暴落によって、株価は10分の1になりました。日本で今、暴落が起きたら、それと同じくらいのインパクトがありますので、私は日経平均が3000円になっても不思議ではないと思っているんです。
――岸田総理が考えている引き締めというのは、どういうものですか。
森永氏 岸田総理がザイム真理教を信じてしまっているものですから、彼の頭の中には、金融の正常化と財政の健全化しかないんです。なので、とてつもない勢いで増税と社会保険料アップ、あるいは公共サービスのカットがきます。毎月やる気かと思うくらい、ビッシリ増税メニューが並んでいるという状況なんです。
でも、このまま放っておくと、「全部もっていかれるぞ」と私は言っていたのですが、最近冷静に考えてみると、国民負担率100%になったからといって止まらないんです。110%、120%といくかもしれません。カルト教団が年収のすべてを献金させるのでは止まらず、家屋敷もクルマも売って献金しろと言いますね。それと同じです。
――いま国民負担率が5割近くですが、それが2倍になるという見立てでしょうか。
森永氏 2倍以上になるかもしれません。このまま放置したら。
――稼いだものが全部持っていかれるというのは、どういう状態でしょうか。
森永氏 稼いでも稼いでも持っていかれるというのは、今の北朝鮮とかと同じになるということです。
――そういうなかで、何か庶民ができることはあるのでしょうか。
森永氏 江戸時代に五公五民(5割を年貢で持っていかれる状態)になったときに、一部のグループの人たちは一揆を起こしました。もうひとつのグループの人たちは、田畑や家屋敷を全部捨てて逃げたんです。
現代では、「戦え」と言う人たちのほうが、私が聞いている限りではまだ多いんですが、私は戦うほうが、正直いうと難しいと思っています。なぜならば“脱洗脳”というのは、洗脳された期間と同じだけの期間がかかるからです。国民が目を覚ますまでに、あと40年くらいかかるんです。だから「逃げようぜ」と言っているんです。
――株価も落ちると考えられますか。その時点で、何か方向転換が起きないものでしょうか。
森永氏 世界恐慌のときでも、普通の人たちがみんな困ったんですね。あるいは東京大空襲の後とか、関東大震災の後とか、そういうときには普通のサラリーマンたちが一気に追い込まれるんです。
そういうときに誰が強かったかというと、農民です。都会の人は、ずっと大切にしてきた着物とか書画骨董とかをお米に換えてもらいにいった。だから先回りして、私はもう自分で食べるものは自分でつくることにしました。自分で使う電気も自分でつくる。自分で使う水も自分でつくる、というふうにすれば、消費税もかからないし収奪のしようがない。
タダで借りた土地で、消費税と電気代無料の自己防衛
――家庭菜園の規模を超えたものですか。
森永氏 野菜をつくっているのは30坪です。それで十分、自給自足はできるんだけど、いまスイカとメロンをつくっていて、全部で60坪耕しています。
野菜は、スーパーで売っている基本的なものは、すべてつくっています。トマト、キュウリ、ナス、ピーマン、アスパラガス、レタス、サラダ菜、春菊、ラディッシュ、大根に、ほうれんそう、ニンジンとか、いま25種類つくっています。さらに、うちの周りでいろいろつくっている人がいて、その人と物々交換しています。隣のおっちゃんは、自然薯までつくっています。
うちの近くで始めて、今年で4年目。その前に3年、群馬で農業をやっていました。
――どなたかから教わりながらですか。
森永氏 群馬のときに、プロの農家の方に教わっていました。一番大変なのは、雑草との戦い。うちは農薬を使っていないから、1日畑に行かなかったらボウボウに生えてくるんです。早めにやらないといけない。私は芸者みたいな商売をしているので、仕事がこうポンポンと入ってきたら行けなくて、その後始末がすごく大変なんですよ。
――水やりはどうしているのでしょうか。
森永氏 雨が降らない時期は、三輪の自転車にポリタンクを積んで、一日100キロくらい蒔かなければならず、結構な重労働です。害虫もたくさんいます。敵は大雨、大風、鳥、虫、病気。動物も出ます。捕まえたことはないですが、タヌキかハクビシンなどです。あとカラスは大敵ですね。
――電気はソーラー発電ですか。
森永氏 そうです。ムチャクチャやってます。家とは別のところでソーラー発電のパネルを設置しています。うちは築30年で、屋根の上に負荷をかけると危ないといわれているからです。とりあえず、発電した電気を売っています。自宅のパネルもありますがすごく小さくて、すべての電力をまかなうまではいっていません。
私は、一番現実的な抗議の仕方というのは、東京や大阪を捨てることだと思っているんです。東京は家賃も物価も高いから、その生活費をまかなうために死ぬまで働かなくてはいけなくなる。ローンも高いし。そこから抜け出せば楽しい仕事ができます。
――都会人の地方移住は、人間関係が大変ではないですか。
森永氏 田舎は相当若い時期に行かないと難しいんですが、うちは「トカイナカ」と呼んでいます。田舎と都会の中間にあり、そこくらいだとそんなに人間関係は濃くないので心配はないです。
――ご自宅は埼玉県所沢ですね。
森永氏 はい。所沢も駅の周りは盛り上がっていて大都市になっちゃったんですが、うちはその先で、駅からも離れています。
――それでも土地代は高いのではないですか。
森永氏 確かに、東京で畑をやろうとすると、とてつもなく高い。私の友人が、世田谷で畑を借りて、一坪切るくらいの面積が月1万3000円でした。だから、うちと同じ面積を借りると毎月70万円以上かかってしまう計算になります。
その点、うちはタダです。固定資産税は、地主持ちです。農家の土地をお借りしてやっていて、生産緑地の耕作者名義に名前を入れてもらっているだけで、生産緑地なら地主もそんなに負担しなくていいんです。
――今回、ザイム真理教の本を出したので、森永さんも突然、スキャンダルに巻き込まれるおそれはないでしょうか。たとえば、痴漢の冤罪に巻き込まれるといったことや、何かスキャンダルが出てくるといった具合に。
森永氏 それは、ありますね。国税が査察に入ってくるとか。警察も予算や金融関係のデータ面で財務省の傘下にあるので、何をされるかわからない。あとは、スラップ訴訟に巻き込まれるおそれもあります。
その準備をするためには、今の2倍くらい本が売れてくれないといけないですね。
――ありがとうございました。
●FRB議長、利上げの必要性擁護 「利下げ当面ない」 議会証言2日目 6/23
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は22日、上院銀行委員会の公聴会で行った証言で、経済が予想通りに推移すれば年内にあと1回、もしくは2回の利上げが適切になるとFRB当局者は考えていると述べ、雇用への影響が懸念される中でも一段の利上げの必要性を擁護した。
この日の公聴会では、上院銀行委のシェロッド・ブラウン委員長(オハイオ州、民主党)らが、インフレ抑制に向けたFRBの取り組みで人種的少数派が不釣り合いに大きな雇用喪失に直面しないかなどと質問した。
これに対しパウエル議長は「物価上昇の影響を最も直接的、かつ迅速に受けるのは働く人々の家計だ」との認識を示し、FRB当局者は現時点で「経済が予想通りに推移すれば、年内にあと1回、もしくは2回の利上げが適切になる」と考えていると述べた。
議長は、FRB当局者が金利をあとどの程度引き上げる必要があるのか議論を進める中、向こう数カ月のFRBのアプローチについて説明。0.75%ポイントのペースでの利上げを実施する時期があったことに言及し、「われわれは迅速に動かなければならないときは、極めて迅速に動いた」と指摘。ただ、現在は「われわれが目的地と見なす地点に少なくとも近づいている」とし、6月の会合で金利を据え置いたことに言及し「慎重なペースで動くのが理にかなう」と述べた。
その上で「われわれは必要以上のことはしたくない。連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げはまだ継続するとの見方が大勢だが、入手される情報を確認できるペースで行っていきたいと考えている」と語った。
同時に、FRBが利下げに転じる試金石になるのはインフレが低下しているという確信だとし、インフレ率がFRBが目標とする2%に向かっているとFRB当局者が確信するまで利下げは待たなければならないと表明。FRB政策担当者の最新の予想中央値では金利が来年に低下し始める可能性が示されているものの 「インフレ率が2%に低下すると確信できるまで待つ必要がある」とし、「利下げは当面は行われない」と述べた。
パウエル議長は前日、下院金融サービス委員会の公聴会で証言を行った。
●パウエル議長、年内1回か2回の追加利上げ必要も−上院証言 6/23
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は22日に上院銀行委員会で証言し、インフレ率を2%に回帰させることが米経済の長期的な健全性を支援する上で不可欠だとの認識を示した。年内に追加利上げが必要となる可能性があるとの見解も明らかにした。
パウエル議長は、政策金利が適切に景気抑制的な水準に既に引き上げられていたとしても、経済がほぼ予想通りに推移するならば、政策当局は「年内に再び、恐らく2回の利上げを行うことが適切になる」と感じていると述べた。
高インフレの影響を最も直接的に受けているのは勤労者世帯だと指摘。「インフレ率2%という状態を持続的なベースでこの国に取り戻すことが必要で、それがこうした人々、および他のあらゆる人々のためになる」と発言。「われわれはインフレ抑制にコミットしている。連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の大多数は、そこに近づいているが、もう少し利上げの余地が残っていると感じている」と述べた。
パウエル氏は前日の下院金融委員会に続き、半期に一度の議会証言を行った。民主党議員からは信用引き締めによる失業率上昇の懸念も提起されているが、パウエル氏はこの日もインフレを当局目標に戻すことに全力を注いでいるとの考えをあらためて示した。
パウエル議長は「必要以上のことはしたくないが、委員会参加者の圧倒的多数が追加利上げはあると考えている。ただ、金融当局として良い判断ができるよう、今後入手する情報の精査が可能なペースで利上げを実施したい」と語った。
リッチモンド連銀のバーキン総裁も22日に同様の考えを示し、物価上昇圧力が予想通りに緩和されなければ、政策金利に関して「さらに行動することに強く賛成する」と述べた。同総裁は今月16日に行った講演をほぼ繰り返した。
●NY円、一時143円23銭 FRBの追加利上げ観測で 6/23
22日のニューヨーク外国為替市場の円相場は対ドルで急落して一時1ドル=143円23銭と昨年11月以来、約7カ月ぶりの円安ドル高水準を付けた。円は対ユーロでも下落し、一時1ユーロ=156円93銭と2008年9月以来、約15年ぶりの円安ユーロ高水準となった。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がこの日の米議会上院の公聴会で、年内にさらに2回利上げする可能性を改めて示唆したことを受けて米長期金利が上昇。日米金利差の拡大が意識され、運用に有利なドルを買って円を売る動きが加速した。
日銀が大規模な金融緩和政策を当面継続する姿勢を崩していないことも、ドル買い円売りに拍車をかけた。
午後5時現在は、前日比1円24銭円安ドル高の1ドル=143円08〜18銭。ユーロは1ユーロ=1・0950〜60ドル、156円71〜81銭を付けた。
●円安進み7カ月ぶり143円台 FRBが利上げ積極的との見方広がる 6/23
22日の米ニューヨーク外国為替市場で円安ドル高が進み、一時、昨年11月以来約7カ月ぶりに1ドル=143円台まで下落した。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長らの発言から、FRBが利上げに積極的との見方が広がり円安ドル高が進んだ。
米東部時間の22日午後5時(日本時間23日午前6時)時点では、前日同時刻より1円24銭円安ドル高の1ドル=143円08〜18銭。円は対ユーロでも売られ、一時、1ユーロ=156円台と2008年9月以来、約15年ぶりの円安ユーロ高水準をつけた。
パウエルFRB議長は米上院銀行委員会で、金融政策を決める米連邦公開市場委員会(FOMC)の委員は年内に2回の追加利上げが適切と考えていると発言。また、ボウマンFRB理事もこの日の講演で追加利上げが必要だと主張した。市場はFRBが利上げに積極的と受け止め、米国の金利が上昇。金利の高いドルを買い、円を売る動きが広がった。
また、22日に英イングランド銀行が利上げを決めたことも、円安につながった。
●NY株4日続落、4ドル安 FRBの利上げ継続を懸念 6/23
22日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は4営業日続落し、前日比4・81ドル安の3万3946・71ドルで取引を終えた。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを継続するとの観測が根強く、景気の先行きを懸念した売り注文がやや優勢となった。
FRBのパウエル議長はこの日の米議会上院の公聴会で、年内にさらに2回利上げする可能性を改めて示唆。一方、最近の下落で割安感が出たハイテク銘柄などが物色され、下げ幅は限られた。
ハイテク株主体のナスダック総合指数は反発し、128・41ポイント高の1万3630・61。
●米国株式市場=S&Pとナスダック上昇、FRB議長の証言受け 6/23
米国株式市場はS&P総合500種とナスダック総合が上昇して取引を終えた。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は2日目の議会証言でタカ派的な発言を続け、FRBが引き締めサイクルの終了に達していないことを示唆した。
ナスダックはアマゾン・ドット・コム、アップル、マイクロソフトなどモメンタム株主導で1%近く上昇。S&P500はより小幅な上げにとどまった。ダウ工業株30種は工業、金融の下げが重しとなってほぼ横ばいで引けた。
パウエル議長は上院銀行委員会の公聴会で行った証言で、経済が予想通りに推移すれば年内にあと1回、もしくは2回の利上げが適切になるとFRB当局者は考えていると述べ、雇用への影響が懸念される中でも一段の利上げの必要性を擁護した。
FRBのボウマン理事も講演で、インフレ抑制に向け「追加的な政策金利の引き上げ」が必要になると述べた。
CFRAリサーチのチーフ投資ストラテジスト、サム・ストーバル氏は「市場はFRBが米連邦公開市場委員会(FOMC)後に示唆したあと2回ではなく、あと1回の利上げを予想している」と指摘。21、22日のパウエル議長の証言について「(利上げは)データ次第だと改めて表明した。市場はインフレがより速いペースで鈍化し、失業率が上昇し始めるとみている」と述べた。
イングランド銀行(英中央銀行)は22日、市場予想を上回る50ベーシスポイント(bp)の利上げを発表。高インフレがなお世界経済の逆風であることを示した。
米労働省が発表した週間の新規失業保険申請件数は、上方改定された前週から横ばいとなり、1年8カ月ぶりの高水準を維持した。
S&P500の主要11セクターのうち5セクターがプラス圏で引け、一般消費財の上昇率がトップとなった。不動産とエネルギーは下落率が大きかった。
個別銘柄では、航空機部品のスピリット・エアロシステムズが9.4急落。労働者が24日からストライキに入ることを受け、カンザス州工場の生産を一時停止すると発表した。ボーイングは3.1安。
ニューヨーク証券取引所では、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を2.17対1の比率で上回った。ナスダックでも1.62対1で値下がり銘柄が多かった。
米取引所の合算出来高は約96億株。直近20営業日の平均は113億7000万株。
●ザンビア、債務減免で合意 デフォルトの途上国に支援 6/23
アフリカ南部の途上国ザンビアは22日、債務減免で債権国と合意したと発表した。コロナ禍で財政状況が悪化し、2020年にデフォルト(債務不履行)に陥っていた。合意を受け、国際通貨基金(IMF)によるザンビアへの金融支援に向けた協議も加速しそうだ。
20カ国・地域(G20)が構築した、低所得国の債務減免を促す「共通枠組み」を活用する。ザンビアに巨額を貸し込んだ中国も支援の輪に加わる。ザンビア政府は今回の合意を「歴史的な偉業だ」と歓迎した。
報道によると、再編対象の債務は63億ドル(約9000億円)規模。元利払いの長期繰り延べなどを通じ、債務負担の大幅な軽減を図る。共通枠組みの趣旨に基づき、民間債権者には68億ドル規模のザンビアの債務に関して債権国と同様の対応を求める。
パリではマクロン・フランス大統領の提唱で新興・途上国支援の首脳会合が22、23両日開かれ、ザンビアのヒチレマ大統領やゲオルギエワIMF専務理事らが出席。イエレン米財務長官は「ザンビアの債務軽減は最優先課題の一つだった」と述べ、合意を歓迎した。  
●高値更新の日経平均、今後の相場展望とは 6/23
日経平均はバブル崩壊後の高値更新。東証プライム市場時価総額は800兆円超えに
日本の株式市場が堅調な値動きを続けています。日経平均は6月半ば(6月16日)に終値で33,706円08銭まで上昇し、バブル崩壊後の高値を更新しました。1990年3月以来、33年ぶりの高値に到達しています。
日経平均は週間ベースで数えて、すでに10週続けて陽線を記録しています。終値でも10週続けて前週末比で上昇しました。東証プライム市場の時価総額は800兆円を越えています。これまでこちらのコラムで解説してきたように、買いの主体は海外投資家と見てよさそうです。3月末以降の11週間、海外投資家は現物株の買い越しを続けており、金額も+5兆円を越えました。
あまりに急激な株価の上昇ピッチに直面して、株式投資に長く携わっているベテランの投資家ほど戸惑っているという声を耳にします。1990年代のバブル崩壊の時代はもちろん、2000年代後半の小泉改革でも、これほどの上昇スピードは見られませんでした。2010年代のアベノミクスの時期に匹敵する大型の上昇相場です。
ベテランの投資家層が悩むのも無理はありません。2023年は景気後退が避けられない、との見方が世界中のエコノミストの間で2022年暮れから強く指摘されていました。その理由は高金利です。
マネーの世界では「金利はすべてに優先する」と言われます。目下の関心は世界的なインフレです。物価の上昇に対処するために主要国の中央銀行は一斉に政策金利を引き上げています。
金利の引き上げは経済のブレーキとなり、そうなると企業業績には下押し圧力がかかります。企業が業績不振に陥ることによって、株価には下押し圧力が強まります。それが特に2023年後半に起こると予想されていたため、市場参加者は強い警戒心を持ってマーケットに臨んでいました。
ところが、これまでのところ世界の景気は後退せず、株価下落の予想は実現していません。それどころか世界の株価はきわめて高い水準にあります。ドイツとインドはつい先日、史上最高値を更新しました。日本も33年ぶりの高値にあります。
現在の日経平均は33,000円台後半に到達していますが、この水準はもはや割高なのでしょうか。それとも、まだ割安な状態にあるのでしょうか。
「失われた30年」から振り返る日本経済の過去、そして現在
海外投資家の売買動向も重要ですが、それはあくまで結果であって、より重要なのはそれをもたらした原因です。特に大切なのは企業の業績動向で、そして同じく企業の財務・資本政策にあると言えるでしょう。
前者は経済の「循環的な変化」、後者は企業内部の「構造的な変化」とも言い換えられます。まず前者、利益の絶対額から言えば現在の株価は決して割高ではないと判断されます。
四半期に一度、財務省から発表される「法人企業統計」で見る日本の企業(上場企業、非上場企業22,627社の合算)の売上高、および経常利益の金額は、最新の2023年1―3月期では売上高は365兆円、経常利益は24.0兆円です。
これが33年前の1990年1―3月期は、売上高は287兆円、経常利益は9.1兆円でした。物価水準や対象となる企業の変化もあるため、単純な比較はできませんが、それでも33年前と比較して現在は、株価はほぼ同じ水準なのに売上高は1.3倍、経常利益は2.7倍に増えています。
この間、日本経済は「失われた30年」と称されて世界経済から距離を置いて見られてきました。しかも、33年前は現在のような連結決算が整備されていませんでした。上場企業でさえ単独決算がほとんどで、親会社・子会社間の売上げ・利益の相殺は考慮されず、資産は時価ではなく帳簿価格で計上されるのが普通でした。(この会計慣行が90年代のバブル崩壊で不良債権問題として日本経済を大きく揺るがしてゆくのですが、それはまた別の問題です。)
その後、日本企業の売上高はバブル崩壊期のボトム(1993年10―12月期)に305兆円まで減少し、経常利益も4.7兆円まで激減しました。ピーク時と比べると利益の額は半減しています。
その後は2003年10―12月期に経常利益が初めて10兆円を越え(10.5兆円)、小泉改革の2007年1―3月期に15.5兆円まで盛り返します。
しかし、リーマン・ショック(2009年1―3月期)で3.4兆円まで再び急降下したあと、アベノミクス時代の劇的な回復を経て、2022年4―6月期には24.6兆円に拡大しました。この金額には新型コロナウイルスに対処する持続化給付金など助成金がかなり含まれると思われますが、コロナ感染症は「5類」に分類されました。
経済活動が平時に戻って、現在2023年1―3月期の売上高は365.9兆円、経常利益は24.0兆円という水準で、日本経済はほぼ正常な姿を取り戻しました。数十年にわたっていくつもの山谷をくぐり抜けてみれば、日本を長らく苦しめたデフレは日常生活からほぼ姿を消し、逆にインフレが世の中に蔓延しています。企業は販売価格の引き上げを躊躇しなくなりました。
同時に優秀な人材を繋ぎとめるために人件費の引き上げを急ぎ、社内に積み上げた現預金を実物資産に変えるために有形・無形の設備投資を活発化させています。
高騰する物流コストを抑えるために、企業の系列を超えた物流システムの再編、採算の悪化した事業・子会社の切り離し、持合い株式の売却にすら着手しています。資本コストを意識した経営改革が急がれ、企業が本業ベースで稼ぎ出すキャッシュフロー、「稼ぐ力」を高める方向が着々と進められている現実を目の当たりにします。
日本の変化が手に取るようにわかるようになって、これまでは「ジャパン・パッシング」「ジャパン・ナッシング」と日本を無視し続けてきた海外投資家の関心を掻き立てているのだと推察されます。
今後の株価動向、日経平均は2023年末には33,500〜34,000円を目指すか?
株価は週足でも月足ベースでも連騰感が強まっており、ここから1〜2ヶ月程度は価格面、時間軸での調整は起こり得ると予想されます。
おそらく主要な3月決算の第1四半期の決算発表が本格化する7月下旬〜8月上旬頃まで、日経平均は一旦下押しすることが考えられます。価格水準としては高値から5%程度の下押し、5月下旬の保ち合い水準である31,000〜31.500円あたりがメドとなるのではないかと思います。
企業から発せられる今後の業績見通し、経営戦略に関するアナウンスを確認した後に、夏過ぎから再び騰勢を強めて、秋から2023年末には33,500〜34,000円を目指すと考えています。
そこで注目しているのは、ソフトウェアを含む設備投資関連株です。
EV、繋がるクルマ、自動運転、生成AI、半導体、DX、再エネなど、日本企業が挑む先端分野で技術革新が次々と生まれています。新しいテクノロジーを獲得して新製品・新サービスを生み出すには新しい設備が欠かせません。人手不足を補うためにもロボットやAIへの投資は不可欠です。そこで、ハード面では「機械」、ソフト面では「情報処理サービス」に注目したいと思います。
●米FRB、銀行の資本要件引き上げへ 融資抑制に懸念、強まる反発 6/23
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は21、22両日の議会証言で、シリコンバレー銀行(SVB)など米中堅銀行の経営破綻を受け、大手行を中心に自己資本比率などの要件を引き上げる方針を示した。資本増強は銀行の安定度を高める一方、融資を抑制する恐れがある。大幅利上げや、銀行破綻による信用不安で、ただでさえ融資条件が厳しくなっているだけに議員らは反発を強めている。
「資産規模1000億ドル(約14兆3000億円)以上の銀行は、いくらかの増資が求められる可能性がある」。パウエル氏は22日の上院銀行委員会で、そう明言した。前日の下院金融サービス委の証言では、「今夏」にもFRB理事会が資本要件引き上げなど、規制強化策を決める意向を明らかにした。
SVBをはじめ、破綻した3行は資産規模が1000億〜2000億ドル台だった。これら中堅行を対象にトランプ前政権が進めた規制緩和が、過度なリスク志向を招いた面もあり、一連の破綻は「この規模の銀行に対する適切な規制、監督を備える重要性を浮き彫りにした」(パウエル氏)形だ。
一方、資本要件が引き上げられれば、銀行は融資縮小を迫られかねない。議員からは「経済はFRBの急速な利上げがもたらした逆風に直面しており、大規模な規制変更を行う時ではない」(アンディ・バー下院議員=野党共和党)といった批判が相次いだ。
これに対し、パウエル氏は資産規模1000億ドル未満の小規模行は規制強化の対象としないと言明。さらにFRB理事会が規制案を決めても、パブリックコメント(意見公募)の実施など導入までには時間がかかり、「短期的な経済状況には影響しない」と、理解を求めている。

 

●外為デリバティブ、店頭から取引所への移行拡大 6/24
外為投資家の間で、デリバティブ取引を店頭市場経由から取引所経由に移行する動きが広がりつつある。最近の国際的な規制改革に伴うコスト増大が理由で、実態が見えにくい外為デリバティブ市場の透明性向上に役立っている。
店頭約定のデリバティブ利用者が規制の対象になる例が増えたため、取引所取引に軸足を移して法令順守コストを抑える必要性が高まった形だ。
ソシエテ・ジェネラルのFXトレーディング・セールストレーディング責任者ベン・フューアー氏は「(取引所上場商品の取引においては)透明性は改善し、必要な証拠金は全体として少なくなる。これは資産運用会社やヘッジファンドがポートフォリオにレバレッジを効かせる際にプラスとなる」と指摘した。
昨年9月時点で、バイサイドの市場参加者が抱えていた少なくとも80億ドル相当の未清算店頭デリバティブが、バーゼル銀行監督委員会と証券監督者国際機構(IOSCO)の定めた新たな規制の対象となり、取引相手のデフォルト(債務不履行)リスクに備えて十分な証拠金を積まなければならなくなった。
金利上昇が証拠金コストを押し上げている面もある。
CMEグループなどの取引所と提携して先物とオプションの商品開発を手がけているエリス・イノベーションズのマイケル・リドル最高経営責任者(CEO)は「多くの取引所のセールス担当者がこれまで長らく投資家を回って『上場先物商品の取引が(店頭より)はるかに効率的ですよ』と説得してきたが、金利水準がゼロではなく5%になってようやく真剣に受け止められている」と述べた。
特に初めて証拠金を積むバイサイドの市場参加者にとって金利上昇の痛みが最も大きい、と話すのはCMEグループのFX市場責任者ポール・ヒューストン氏。「彼らには証拠金差し入れという資金コストとともに、証拠金ファシリティー設置に伴う業務と法令、保管面でのコストも発生する」という。
CMEの上場外為先物・オプション市場の1日当たり平均売買高は現在850億ドル。全体で1日7兆5000億ドルが取引される外為市場の規模からすればまだ非常に小さいが、2021年の760億ドルからは増加し、投資家による店頭取引から取引所取引への移行が進んでいる様子がうかがえる。
英清算会社LCH傘下のフォレックスクリアも5月に扱った外為オプション取引の名目元本が初めて2000億ドルを突破。同社を統括するジェームズ・ピアソン氏は「バイサイドにとって、(取引所経由の)清算はカウンターパーティーリスクを大幅に引き下げ、ポートフォリオを最適化し、業務運営面でメリットをもたらしてくれる」と説明した。
リスク集中懸念も
CMEのデータによると、同取引所で今年初めて外為先物・オプションの取引を開始した投資家は60社前後で、その3分の2強はバイサイドの顧客だった。昨年、こうした取引を始めた投資家は300社だったという。
国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)の見積もりでは、昨年9月に新たな規制が適用される形になった投資家は775社だ。
ヘーゼルツリーの商品管理ディレクター、ジョー・スピロ氏は、投資家のエクスポージャーが大きくなるのに伴って新たな規制に従う必要が出てくる中で、取引所取引に魅力を感じる層は拡大しつつあるとの見方を示した。
もっともコストが増大したからといって、全ての投資家や全てのデリバティブが取引所取引・清算へ移行すると想定されるわけではない。
BNPパリバ・アセット・マネジメントの通貨チームでポートフォリオマネジャーを務めるピーター・バサロ氏は、取引所で売買される先物契約は、店頭取引と比べて決済期日が固定的で、一部の投資家にとっては妙味が薄いと述べた。
より多くの取引が清算会社に向かえば、リスク低減よりもリスク集中を招くと懸念する声も出ている。
エリス・イノベーションズのリドル氏は「互いにデリバティブを売買している多くの市場参加者には本源的なリスクが内在しており、それら全てを取り除くモデルなどない。リスクの存在場所を変えるだけであり、リスクを弱めることはできない」とくぎを刺した。
●インフレ率と雇用統計から考察…アメリカで広がる「利下げの噂」は本当か? 6/24
アメリカの金融政策が利下げに転じるのではと予想する人が増加傾向にあるものの、FOMCメンバーは利上げ継続を示唆しています。利下げとなるのか、それとも利上げを継続するのか……考えていきましょう。
利下げが近いと期待する人々が増加中
アメリカの一部の人々の間で、FRBが利下げへと転じるんではという期待が高まっています。Googleにおける検索ボリュームの変遷を可視化できるGoogleトレンドによると、アメリカ国内での「Rate Cut」の検索数は4月中旬ごろに年始の2倍ほどに達し、現在もその水準をキープ。利下げへの関心の高まりが読み取れます。
FRBの使命に立ち返るのが、利上げ/利下げ予測の王道
一方で、各種メディアではさらなる利上げの可能性を伝える記事のほうが目立ちます。2023年5月15日には、リッチモンド地区連銀の総裁でFOMCメンバーでもあるバーキン氏がインフレが続く限り利上げを行うべきであると発言、「障壁はない」と金融不安を理由に判断を曲げることはない旨を明言しています。
利上げは継続するのか、それとも利下げに転じるのか、正反対の予想が飛び交う今、何をヒントに未来を予想すればいいのでしょうか? 推論の組み立て方は様々ありますが、王道はFRBの使命に立ち返って考えることでしょう。FRBの使命は「物価の安定」と「雇用の最大化」です。極論を言えば、銀行への信用が失墜しようと、不況に突入しようと物価と雇用さえ守れたらそれで使命は果たせているのです(現実的には、金融不安や不況の下では物価や雇用も不安定になるため、放置できるわけではありませんが)。
利上げも利下げも、本質的には物価と雇用をコントロールするためのアクションです。利上げを行うと、インフレと雇用の両方にブレーキがかかります。借り入れ利息が高まると事業者が投資を控えるため、消費が減り人件費も抑制されるからです。一方、利下げはインフレも雇用も後押しします。借り入れコストが小さいため、どんどん借りてどんどん投資しようという圧力が働くためです。
根強いインフレと、堅調な雇用。そこから導かれるのは?
「物価の安定」と「雇用の最大化」という2つの使命に、現在の状況を照らし合わせてみましょう。インフレ率は徐々に抑制されつつあるものの、4月の時点で年率4.9%とFRB目標の2%からすればまだまだ高い水準です。対して雇用は堅調です。5月5日に発表された雇用統計によると、4月の失業率は3.4%で、歴史的な低水準と言われた3月よりもさらに低い数値を記録。平均時給も前年同月比で4.3%増加しています。
そんな状況で、FRBが踏むのはアクセルでしょうか? ブレーキでしょうか? 物価はインフレ傾向が根強く、雇用は伸びている今、インフレを抑制を優先してブレーキを踏むと考えるのが自然でしょう。アクセルを踏む(利下げに転じる)のは、ブレーキが効きすぎて雇用が停滞しはじめてからになるのではないでしょうか。
そのタイミングがいつになるのかを正確に予想するのは困難ですが、「近々利下げがあるから、◯◯を仕込むなら今」という甘い誘いにはご注意ください。 

 

●市況 年後半は超円安を回避か 6/25
世界的なインフレはピークを越したとはいえ高止まり、2023年後半も引き続き各国の金融政策がテーマとなりそうです。ただ、日銀の政策修正は見込めず、円売りは継続。ドル・円は日本政府が昨年介入に踏み切った140円台に定着し、再び緊張感が高まっています。
ドル・円相場は米シリコンバレー銀行破たん前に付けた137円90銭付近を5月下旬に上抜けると、上昇基調を維持しながら140円台に到達。6月に入ってからは140円付近でもみ合った後、21日以降は142円台に浮上しました。足元は利益確定売りに押されながらも徐々に上値を切り上げています。昨年10月の151円90銭台から今年1月に127円20銭台に下げ、5カ月半での戻りは半値を越えました。
今年前半のドル高・円安の主要因は日米金利差。日銀は4月に植田和男総裁が就任して新体制が発足しました。黒田東彦前総裁下で10年間続いた大規模金融緩和で債券市場などに歪みが生じており、植田日銀が修正に動くとの期待が高まっています。コロナ禍やウクライナ戦争で日本にも徐々にインフレが波及するなか、今後は日銀が引き締め路線に向かうというのが専門家やマスコミの論調です。
ところが、植田氏は4月の就任直後から一貫して従来の金融緩和路線を引き継ぐ方針を示しています。金融政策決定会合では、賃金の上昇を伴う2%の物価目標を実現するまでは現行の政策を継続する考えを表明。市場関係者はそれでも年後半には緩和政策を修正するとの見立てですが、植田氏や他の当局者の見解や言葉のニュアンスから、少なくとも1年半は現行の政策が据え置かれるとみる方が現実的になってきました。
一方、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は議会証言に臨み、足元のインフレ率が物価目標を大きく上回っているため、緩やかながらも引き締め継続の必要性を強調。利上げは6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で見送られ、7月も不透明です。ただ、年内の追加利上げはあと2回と示唆。利下げは2年程度先としており、インフレ撲滅への最終決戦に向けドルはなお買い余地がありそうにもみえます。
しかし、昨年は日本政府による142円台と145円台での円買い介入が「実績」となり、最近でも円安けん制発言は有効です。さらに、米バイデン政権は為替報告書で日本を為替操作国の監視対象から除外。介入を容認しているわけではありませんが、円安けん制をバックアップする材料にはなるでしょう。また、年後半はリセッション入りの回避が主題になり、円高対策を準備する必要もありそうです。
●米住宅市場に異変も、今回はリーマン・ショック時とは違う? 6/25
( 以下、2022年7月に筆者が寄稿したコラムです。経済指標を始めとした数字は当時のものです。当時の予想が的中し、米不動産市場は当時懸念されていた”リーマン・ショック”モーメントを回避しました。)
「人々は大抵、家にいる時が一番幸せなんだ」とは、ウィリアム・シェイクスピアが残した名言として知られます。また、住宅とは米国人にとって富を築く上で重要な投資先でもあり、アメリカン・ドリームを実現する上で必須アイテムなんですね。
米連邦準備制度理事会(FRB)の家計資産報告によれば、長年、米国人にとって不動産資産は大事な虎の子で、ITバブル期とコロナ禍での株式投資ブーム時を除けば、株式資産を上回ってきました(注:ただし22年1〜3月期は不動産資産が37.6兆ドルと、株式資産の44.1兆ドルを下回る)。
その住宅市場に、異変が生じています。住宅市場の約9割を占める米5月中古住宅販売件数は前月比3.4%減の541万戸と、4ヵ月連続で減少しただけでなく、2020年6月以来の低水準でした。住宅価格は前年同月比14.8%上昇し40万7,600ドルと過去最高値を更新した結果、潜在住宅購入者が遠ざかっている実態が浮かび上がります。
米連邦住宅金融抵当公庫のフレディマックによれば、米30年物固定住宅ローン平均金利が6月22日週に5.81%と2008年11月以来の水準まで上昇を続けたことも、需要を圧迫しました。米30年物固定住宅ローン平均金利は7月6日週に5.3%と、前週の5.7%から0.4%ポイントと2008年12月以来で最大の下げ幅を記録しましたが、これだけの住宅価格が高いと、影響は限定的でしょう。
中古住宅の在庫数も、注目です。5月は同12.6%増の116万戸、と2.6ヵ月相当と在庫逼迫の節目となる5ヵ月を下回るとはいえ、21年8月以来の水準を回復。新築住宅の在庫に至っては、5月こそ7.7ヵ月相当、4月には8.3ヵ月と2010年8月以来の水準まで延びていました。
リアルター・ドットコムによれば、全米の917地域のうち873地域で在庫の増加を確認しており、そのうち137地域では2倍に増えました。ユタ州プロボやテキサス州オースティンでは、それぞれ3.7倍、3.6倍に急増したといいます。これらの地域は、もともとは割安な市場として知られ、カリフォルニア州サンフランシスコやワシントン州シアトル、NY州NY市など割高な都市から在宅勤務の普及をきっかけに引っ越してきた人々の人気スポットだっただけに、在庫数の増加が際立っています。
その結果、チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社が発表する人員削減予定数をみると、不動産関連は上半期で前年同期比5,920件と2021年同期の634件から急増しています。特に、足元の金利急騰と価格の高止まりを背景に、6月だけで3,445件と年初来の約6割を占めます。
そもそも、米国での住宅市場は全人口の22%程度のベビーブーマー世代(1946〜64年生まれ、22年時点で58歳から76歳)が過半数を占め、結婚して子供を持ち始めたミレニアル世代(1980〜1996年生まれ、26〜42歳)など、若い世代での住宅購入が困難とされてきました。米国勢調査局によれば、55歳以上の住宅保有者の割合は、サブプライム・ローン問題が金融危機の引き金を引いた2008年の39.2%から、2021年には54.2%へ上昇。逆に、35〜54歳は2008年の40.7%から2019年に33.8%へ低下していたのです。
全米リアルター協会(NAR)は、2021年に公表したレポートで、「2010年から2020年にかけ、新築住宅は世帯数の増加の他、老朽化した住宅や自然災害で倒壊した住宅の代替に必要な戸数を680万戸下回った」と試算していました。新築住宅建設数の減少は、直近ではコロナ禍が影響したわけですが、それ以外にベビーブーマー世代が保有する住宅を売却せず、購入可能な土地が不足する傾向が挙げられます。2018年に全米最大の高齢者団体AARPが実施した調査では、50歳以上の76%が現在の住居にとどまりたいと回答していました。
マイホームを購入したくてもできない若い世代が増加するなか、住宅市場のひっ迫に合わせ家賃がうなぎ上りの状態となり、一段と家計を圧迫し深刻な影響をもたらしかねません。
オンライン不動産大手レッドフィンによれば、全米の平均提示家賃は5月に前年同月比15.2%上昇し、初めて2,000ドルを突破し2,002ドルとなりました。コロナ前の1,600ドルから、わずか3年で25%も上昇したことになります。米5月消費者物価指数をみても、家賃は前年同月比5.2%上昇し、1986年10月以来の伸びを記録していました。
足元、不動産や住宅建設関連のほかネットフリックスやフェイスブックなどテクノロジー関連企業、テスラなど電気自動車メーカー、ビットコインの急落を受けたフィンテック関連でリストラが相次ぐなか、家賃の上昇は国内総生産(GDP)の約7割を占める個人消費の下押しとなること必至です。
住宅市場の減速に合わせ、家賃の上昇は米国のリセッション入りを連想させます。ただし、住宅市場に関して言えばThis time is different、今回はリーマン・ショック後の時と違って、深刻な調整を招くリスクは小さいと言えそうです。
まず、当時の住宅市場と違って、住宅ローン保有者の信用スコアのうちサブプライム層にあたる620点以下は過去3年平均で2.5%と、サブプライム危機時の12.7%を大きく下回り、健全性が高いと言えます。何より、変動住宅ローン残高が全米の住宅ローンに占める割合は8%程度で、2007年1,310万件(36%)を大きく下回り、金利上昇の影響は限定的です。従って、差し押さえ物件は当時のように急増しそうにありません、
ただし、家賃の観点で言えば需給の観点から高止まりが続く可能性を示唆します。従って、足元はガソリン価格や食料品価格など、他の生活必需品が値下がりしなければ、家賃負担が個人消費に重く圧し掛かる公算が大きい。頭金を用意することが困難となり、まだまだ若い世代にとって、マイホームの購入は叶えるのが難しいアメリカン・ドリームであり続けそうです。
●エジプトが参加を申請、BRICSの影響力を高める 6/25
メディアの報道によると、エジプトが正式にBRICSへの参加を申請し、かつBRICSの「脱米ドル」に強い興味を示している。BRICSへの参加を申請しているのはエジプトだけではなく、エジプトを含む19カ国が参加の意向を持っている。うち13カ国が正式に申請を行い、6カ国が仮の申請を行っている。
エジプトなどの多くの発展途上国がBRICSに参加しようとしているのはなぜか。これは現在の国際情勢と強く関連している。BRICSを始めとする発展途上国の集団的な台頭に伴い、グローバルパワーに重大な変化が生じている。世界は百年に一度の大きな変局に直面している。米国を始めとする西側諸国はこの国際的な事実を尊重しないばかりか、もたれ合い「小グループ」の政治を行い、これにより米国及び西側の現在の国際秩序における既得権益を守ろうとしている。西側の一部の国は発展途上国の集団的な台頭を受け、保護貿易、一国主義、「デカップリング」「チェーン寸断」という冷戦思考によって対応し、発展途上国の正当な発展の権利を奪おうとしている。
今回のBRICS閣僚級会合で議論された「脱米ドル」は、何も新しい現象ではない。過去10数年に渡る発展途上国の集団的な台頭に伴い、国際通貨体制におけるドルのシェアが持続的に低下した。米国とその同盟国は制裁を乱用し、ウクライナ危機勃発後にロシアの外貨準備を凍結し、かつロシアを国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済システムから排除した。ロシアは国際貿易及び往来においてドルやユーロなどの西側通貨を使用できなくなり、世界の「脱米ドル」が加速した。主要経済体及び新興市場は、ドルの国際金融体制における役割を疑問視している。ドルの武器利用は歴史が古く、多くの国の米国への不信を招いている。
この大きな国際的な背景を受け、発展途上国は自ずと警戒心を強めている。発展を願うすべての発展途上国が、西側の「小グループ」の矛先を向けられる可能性があるからだ。西側集団からの排斥により、発展途上国は活路を模索している。新興国及び発展途上国の集団的な台頭を代表するBRICSの実力と、発展途上国に対する魅力が高まっている。BRICSはその高い経済力と潜在力により、世界経済成長のエンジンになった。世界のGDPに占めるBRICSの割合は31.5%超と、その他の経済体を大きく上回っている。
BRICSは設立後、多国間主義を貫き、平等とコンセンサスという意思決定方針を採用し、互恵とウィンウィンを促している。複雑な国際構造の変化を受け、BRICSは全面的で緊密で実務的で包摂の高品質パートナーシップを構築し、パートナーを作り同盟を避けている。BRICSはすでにグローバルガバナンスの変革を促す重要なパワーになっている。
騒々しい排他主義と保護主義の逆流に対して、BRICSの協力は閉鎖的な「小グループ」に成り下がらず、順を追い一歩ずつ進める原則を堅持し、BRICS参加国拡大を適切な時期に開始する。2022年と23年に開かれたBRICS外相会議はその他の招待国の外相も招き、多くの新興市場国及び発展途上国に新たな協力の場を構築した。これを背景とし、エジプトは正式にBRICSへの参加を申請した。BRICSは現在、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの声を代表している。エジプトが参加すれば、BRICSはアラブ世界の意見を考慮できるようになる。
より多くの新興市場国及び発展途上国がBRICSの協力により深く浸透するに伴い、BRICSもより豊富な協力の成果でより大きな魅力を示し、グローバルガバナンス体制の建設的な変革を促すより大きな力になる。

BRICs(ブリックス、英語 Brazil, Russia, India, China から)は、2000年代以降に著しい経済発展を遂げた4か国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の総称。また、BRICs 4か国に南アフリカ共和国 (South Africa) を加えた5か国は、BRICSと総称される。近年はBRICSの表記が一般的である。
●日本株上昇停止 日経平均11週連続高に失敗 ロシア武装蜂起の影響は? 6/25
急上昇を続けてきた日本株が変調をきたしている。23日の日経平均株価の終値は1週間前比で900円超のマイナス。外国人投資家の買い越しに支えられてきた4月半ばからの週次の連続上昇記録は10週で途絶えた。26日以降の金融市場では、週末に起きたロシア国内での武装蜂起の影響も注目される。日本株の先行きは、英国をはじめとする欧米の中央銀行が利上げ姿勢を強調してきたことなどでも不透明になってきた。海外の利上げが世界的な経済活動や企業業績を減速させる可能性が改めて意識されれば、日本株への下落圧力も増すことになりそうだ。
日経平均は1週間で900円超下落
日経平均の23日の終値は前日比483.34円安の3万2781.54円。1週間前(16日)の終値と比べると924.54円安という水準だ。日経平均は3月下旬から始まった海外投資家の日本株買い越しを背景に、4月10-14日週から10週連続の上昇を続けてきた。6月23日の終値は依然として4月7日比で5263.23円(19.1%)高という高水準だが、これまでのような一本調子の上昇は難しくなっている。
ロシア国内の武装蜂起は沈静化へ
6日以降の金融市場の先行きは、2022年2月にウクライナに侵攻したロシアの政情不安が週末に急激に緊張したことでも見通せなくなった。ロシアの民間軍事会社のワグネルが24日、セルゲイ・ショイグ国防相らへの不満を露わにしてモスクワへの進行を開始。これに対してウラジミール・プーチン大統領がワグネルの行為を反逆罪として批判する声明を発表し、「ロシア内戦」の可能性が高まったためだ。
その後、ワグネルは24日中に進行を停止。ロシア政府もワグネル創業者のエフゲニー・プリゴジン氏への刑事訴追を取り下げ、事態は沈静化に向かった。戦火がウクライナ国内からロシア国内まで広がる展開にならなかったことは安心材料ではあるが、ロシア国内の政情不安の高まりは今後の投資家心理にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。
欧米の中央銀行は相次ぎ利上げ姿勢を強調
投資家心理の冷え込みが懸念される背景には、欧米の中央銀行の利上げ姿勢もある。英国の中央銀行は22日、前日に公表された消費者物価指数の上昇を受け、0.5%の利上げを決定。米連邦準備制度理事会(FRB)も6月の利上げは見送ったものの、ジェローム・パウエル議長は21日と22日の議会証言で、改めて年内に2回の利上げを行う可能性を強調している。欧州中央銀行(ECB)も15日に利上げを決めた際、物価見通しを引き上げ、7月の追加利上げを示唆した。世界的な金利上昇が企業活動にマイナスとなる可能性が意識され、23日の米国の株式市場ではS&P500種株価指数が値下がり。この1週間では1.4%安となり、6週連続での値上がりはならなかった。
また中国経済をめぐっては、中央銀行の中国人民銀行が20日に10か月ぶりの利下げを決定。しかし利下げ幅が市場の想定よりも小さかったことから、景気刺激策として不十分だとの見方もある。
一方、金融情報会社リフィニティブのデータによると、23日のニューヨーク外国為替市場ではドル円相場(チャート)が1ドル=143.68円で取引を終え、前日比で0.57円の円安ドル高が進んだ。円安ドル高は2022年11月10日以来の水準で、海外投資家にとっては引き続き、日本株を割安に買える状況が続いている。世界的に経済の先行き不透明感が強まる中で、海外投資家が日本株への評価をどう下すかが、26日以降の日経平均の先行きを左右しそうだ。 

 

●習近平の想定以上に中国経済の落ち込みが深刻化しているワケ 6/26
米国との覇権争いにも陰りが
今年1月に“ゼロコロナ政策”を終了して以降も、中国経済の回復は期待されたほど進んでいない。むしろ、中国の景気が本格的に回復するには時間がかかりそうだ。そうした状況を反映して、中国の株式、債券、人民元が売り込まれトリプル安の様相を呈している。中国経済が米国を抜いてトップの座に就くとの期待も後退気味だ。
中国経済の中で不動産関連分野は約3割を占める。その不動産の市況に低迷はかなり重要だ。リーマンショック後、共産党政権は不動産投資を増やし高い経済成長を実現した。現在、その成長ビジネスが限界を迎えている。足許で不動産投資の減少は鮮明だ。中国は高度成長期の終焉(しゅうえん)を迎えつつある。
共産党政権は、その状況に懸念を強めている。6月19日、習近平国家主席は、ブリンケン米国務長官と会談した。経済面から考えると、対米輸出を増やす狙いがある。一方、不動産や地方政府の債務問題は深刻化している。共産党政権は景気対策を強化するだろうが、景気の持ち直しは簡単には進まないだろう。
マンション建設が資材、建機、雇用を支えてきたが…
中国の不動産分野の回復は鈍い。2023年1〜5月の不動産の開発投資は、前年同期比7.2%減少した。マンションなどの建設が増えないことには、中国の景気が上向くことは難しい。
リーマンショック後、地方の政府は、不動産デベロッパーに土地の利用権を売却した。また、米国など主要先進国の金融政策は緩和された。世界全体で、超低金利の環境が長く続くとの期待は高まった。中国国内では、共産党政権がマンションなどの建設を増やし、価格は上昇し続けると過度な成長の期待が盛り上がった。
不動産業者はマンションなどの住宅を急速に増やした。土地の利用権を売却することによって、地方政府は財源を確保した。得られた資金は、空港、道路、高速鉄道などのインフラ建設(投資)に回った。
インフラ投資、マンション建設の増加は、生産活動を押し上げた。鉄鋼、銅線、ガラス、コンクリートなどの基礎資材、ショベルカーなどの建機、自動車や白物家電などの耐久財の生産能力が増強された。雇用の機会も増え、個人消費も支えられた。
“3つのレッドライン”が実施されると急激に悪化
中国は不動産などの投資を増やして、高い経済成長を実現した。それによって、地方の政府は、経済成長の目標水準の達成に取り組んだ。目標実現は、幹部の出世にも大きく影響した。
しかし、2020年8月に“3つのレッドライン”(不動産デベロッパー向け融資規制)が実施されると事態は悪化した。デベロッパーの資金繰りは逼迫(ひっぱく)し、建設活動は停滞した。建設が完了しないまま放棄されるマンション〔鬼城(グェイチョン)〕も増えた。マンションなどの価格が上昇し続けるという期待は低下した。
中国恒大集団(エバーグランデ)などのデベロッパーは資産売却を急ぎ、資金繰り確保に取り組んだ。それでも、財務内容の改善は容易ではない。今なお不動産業界全体の業況が持ち直す兆しは見いだしづらい。
“世界の工場”としての地位は低下している
それに伴い、過剰な生産能力の問題も深刻化した。5月、中国の鉱工業生産は前年同月比3.5%増加だった。4月の5.6%増から鈍化した。基礎資材から住宅に設置される家電など、あらゆる分野で過剰な生産能力は深刻だ。5月、生産者物価指数(PPI)は前年同月比4.6%下落した。
構造的にも、中国の生産は増えづらくなっている。2013年、生産年齢人口(15〜64歳)はピークをつけ、それ以降は減少している。労働コストは上昇している。台湾問題など地政学リスクの高まりもあり、インドやASEAN地域などに工場を移す企業は増えた。“世界の工場”としての中国の地位は低下している。
その結果、雇用の環境も悪化した。5月、16〜24歳の若年層の調査失業率は20.8%に上昇した。2023年の新卒者数は過去最多の1100万人に達する模様だ。一方、すでに職を得ている人は、景気が停滞する中で職と賃金を守らなければならない。危機感の高まりを背景にストライキも増えているようだ。若い人を中心に雇用、所得の環境は悪化するだろう。
経済より政治重視の習主席のジレンマ
理論的に考えると、中国が過剰生産能力を解消するためには、大きく2つの取り組みが必要だ。まず、不良債権の処理を進める。次に、規制緩和などを行い、成長期待の高いITなど、先端分野などに生産要素(ヒト、モノ、カネ)が再配分されやすい環境を整える。
ただ、共産党政権にとって、一時的であれ、失業者の増加などは避けなければならない。政治を優先していると考えられる習国家主席にとって、不良債権の処理や構造改革による一時的な痛みは、民衆や党内部からの批判が増える要因になりかねない。2021年12月以降、そうした展開を避けるために中国人民銀行は利下げを再開し、金融緩和を強化した。
2022年3月以降、米国では利上げが実施された。中国と米国の金利差は拡大した。人民元の先安観は高まり、海外への資金流出は増加した。そうしたリスクが高まるにせよ、共産党政権は金融緩和によって目先の需要を下支えしなければならなくなった。足許、中国はかなり厳しい経済環境に陥っている。投資に頼った成長は限界のようだ。
ブリンケン国務長官と面会した狙いは
6月19日、習氏はブリンケン米国務長官と面会した。半導体や人工知能(AI)など先端分野で米中の対立は激しさを増した。それに対して、日用品や雑貨などの分野で、相互の依存は深まった。2022年、米国と中国のモノ(財)の輸出入の合計額は過去最高を更新した。
足許、幾分か弱まってはいるが、米国の労働市場は改善基調を保っている。個人の消費も予想よりしっかりしている。習政権は、アパレルや玩具などを中心に米国への輸出を増やしたいと考えているだろう。それは、中国にとって過剰な生産能力を活かし、ゾンビ企業の延命に重要だ。そうした思惑もあり、習氏はブリンケン国務長官と面会したと考えられる。
だからといって、今すぐ、米中の関係が修復されるとは考えづらい。また、米国では想定された以上に物価が高止まりしている。連邦準備制度理事会(FRB)は追加の利上げを慎重に進め、個人消費は減少するだろう。それによって、中国の輸出も伸び悩む恐れがある。今後、中国が外需に頼って景気の本格的な回復を目指すことは難しいと考えられる。
中国からの資金流出は増える恐れ
共産党政権は財政支出を増やし、追加的な利下げも余儀なくされる可能性は高い。6月15日には、電気自動車(EV)など新エネルギー車の農村部での販売支援策が発表された。20日、事実上の政策金利に位置付けられている期間1年と5年超の最優遇貸出金利も追加的に引き下げられた。
地方政府は、インフラ投資も積み増すことになるだろう。再生可能エネルギーを用いた発送電網の強化、内陸部や農村部の不動産開発なども強化されるだろう。それによって、一時的、かつ、小幅に、景気の持ち直し期待は高まるかもしれない。
それ以上に懸念されるのは、不動産企業、地方政府などの債務問題の深刻化だ。今後、米国での利上げによって世界的に株価が下落すれば、主要な投資家はリスクの削減を急ぐだろう。人民元建ての債券、株式への売り圧力は強まり、中国からの資金流出は増えると懸念される。当面、中国経済は厳しい状況が続きそうだ。
●信用収縮の行方の先に、より大きな「爆弾」が控えている 6/26
米国の債務上限問題は2025年1月1日まで上限適用が見送られたことから、2024年11月の大統領選挙までに同問題で議会が機能不全になることは回避された。予算不成立によって、一時的な連邦政府機関の閉鎖リスクはあるものの、過去にも経験済みであり、デフォルトリスクに比べれば経済に与える影響は限定的だろう。それよりも、信用収縮が拡大するリスク、さらには大統領選挙でトランプ前大統領が復活する可能性の方が、より大きなインパクトとなろう。リーマン・ショックの場合、ショック前の水準に回復するのに約3年を要したが、大統領の任期は4年間である。
過去に再選に失敗した現職大統領は11人いるが、みたび目指すことは法律上問題なく、19世紀のクリーブランド大統領(第22代、第24代)のように、唯一だが、返り咲いた例もある。トランプ前大統領は2022年11月、他に先駆けて出馬表明し、全米で選挙活動を展開している。その後、フロリダ州のデサンティス知事やペンス前副大統領等、多くの候補者が立候補を表明したが、直近の世論調査を見ると、トランプ前大統領は共和党内の約50%の支持を集め、2位以下の候補者にダブルスコアの大差をつけている。共和党内の予備選・党員集会が始まるまで約7カ月間あるが、トランプ前大統領が最終的に共和党の大統領候補になる公算が大きい。現職のバイデン大統領との対決となれば、現時点の世論調査では、ほぼ互角の支持を集めている。
もっとも、トランプ前大統領が退任後も様々なトラブルを抱えているのは周知の事実である。例えば、支持者らに連邦議会議事堂襲撃を扇動したとして弾劾裁判にかけられたり、最近では、機密文書問題を巡って連邦大陪審に起訴されたりしている。普通に考えれば大きな打撃のはずだが、トランプ前大統領の場合はむしろ逆だ。政治的に歪められて不当な扱いを受けていると主張し、反発のエネルギーに変えている。実際に厳しい判決が出れば世論に影響するだろうが、選挙まで残された時間を考えれば、フェイクだ、信じるなと呼びかけて、自らの支持基盤を固める材料に利用するだろう。それに、これ以上新たなスキャンダルが表面化しても驚かれないだろうし、身内に好かれて敵に嫌われるというポジションは大統領時代から変わっていない。普通なら2020年の敗北経験を踏まえて中間層への支持拡大を目指すようイメージチェンジを図るものだが、一切、スタイルを変えようとしていない(そもそも、不当に勝利が奪われたと思っているのだから無理もない)。
では、仮にトランプ前大統領が再登板となったら、どのような変化が予想されるだろうか。現役時代の基本姿勢は、オバマケア撤廃や不法移民対策見直し、TPP離脱、環境規制緩和・パリ協定離脱等、前のオバマ政権のレガシーを消し去ることだった。再び同じスタイルを踏襲するならば、ウクライナ問題も例外ではないだろう。事態の長期化とともに共和党内の支援疲れが強まると予想される中、トランプ前大統領の登場によって、ウクライナ侵攻に対する米国の態度は大きく変わる恐れがある。最大の支援国の方針転換は、西側のウクライナ支援体制を瓦解させ、米欧の対立を引き起こすだろう。また、トランプ再選の可能性が見えてくれば、ロシアのプーチン大統領は引き延ばしを目論み、トランプ前大統領の主張をサポートするような情報戦略を展開することも予想される。逆に、ウクライナを支援する側からすると、トランプ就任前(2024年末)までに一定の進展が得られるように、支援を急がないといけないかもしれない。やはり、トランプ再登板のリスクに備える必要がありそうだ。
●韓国経済「ダブルパンチ」を食らって大ピンチ…!「日韓通貨スワップ協定」 6/26
債務問題と米欧の金融引き締めが逆風に
6月8日、韓国の秋慶鎬(チュ・ギョンホ)経済副首相兼企画財政相(わが国の財務大臣に相当)は、“日韓の通貨スワップ協定”の再開に前向きな考えを示した。
1997年のアジア通貨危機の時、韓国経済が大きく混乱しドル資金の海外流出に直面した際、日韓の通貨スワップ協定は危機的状況の克服に貢献した。
その後、韓国経済の立ち直りで、2015年に朴槿恵(パク・クネ)政権時に協定は終了した。
今回のスワップ協定再掲への動きの背景には、中期的な世界経済の不透明感の高まりがある。
足許、韓国にとって最大の輸出先である中国の景気回復は遅れており、韓国のサムスン電子がトップシェアを持つメモリー半導体の価格も下落が続いている。
韓国では家計の債務問題も深刻だ。米欧の金融引き締めも長引きそうだ。いずれも韓国経済にとっては逆風になりそうだ。
今すぐではないにせよ、米金利が上昇すれば、世界の金融市場でリスク回避の動きが強まるだろう。その場合、韓国からの資金流出は増加する恐れがある。
輸出の減少が鮮明に
世界経済の状況次第で、コロナショック時などのように、韓国がドル資金の不足に直面する展開も排除できない。そうしたリスクに備えるため、韓国はわが国との経済、金融面での関係強化を目指している。
足許、韓国経済は底堅さを維持しつつも、不安定な部分が増えている。プラスの要素として、国内の経済は想定されたより安定感を保っている。
特に、個人消費は相応にしっかりとしている。背景の一つとして、ウィズコロナによる飲食、宿泊、交通などの“ペントアップディマンド”が現れたことは大きい。1〜3月期の実質GDPは前期比0.3%増加した。
ただ、韓国の経済成長を支えてきた輸出の減少は鮮明だ。5月、輸出は前年比15.2%減少した。最大の輸出先である中国の景気回復ペースが弱いことは大きい。
品目別にみると、最重要品目である半導体の輸出が10カ月連続で減少した。半導体需要減少の要因として、世界全体で、スマホ、パソコンの需要は飽和した。
世界的な物価上昇により、消費者の買い控え心理も高まった。2022年秋ごろから米マイクロン・テクノロジー、キオクシアなどは減産に着手した。
4月から最大手のサムスン電子も生産調整に踏み切った。それでも、NAND型フラッシュメモリーとDRAMの価格は下落基調だ。メモリー半導体市場全体で需要と供給の調整に時間がかかっている。
資金流出のリスク
また、中国では不動産業界や地方政府の債務問題が深刻だ。短期間で韓国の対中輸出が回復することは期待しづらい。
北朝鮮は、軍事偵察衛星の打ち上げを急ぐ方針を示した。地政学リスクの側面からも韓国経済の先行き不透明感は高まりやすい。
5月以降、世界的に株価が上昇する中、そうした見方に影響され、韓国総合株価指数(KOSPI)の上値は抑えられた。
今後、徐々に韓国から資金が流出するリスクは高まりやすい。国内では、金融引き締めが長引きそうだ。
19日に公表された報告書の中で、韓国銀行は食料品とエネルギーを除く“コア・インフレ率”の上振れに警戒を示した。人手不足などを背景とする労働コストの上昇、価格への転嫁などによって、人々の物価上昇予想は上振れているようだ。
外部環境も、厳しさを増すだろう。現在、日米の株価上昇などを見る限り、先行きを楽観する投資家は多い。
一方、米国や英国、ユーロ圏では物価の安定のために追加利上げが行われる可能性が高い。米金利の上昇は、世界的な株価の下落要因となるだろう。急速に投資家心理は悪化し、リスクオフが鮮明化する恐れもある。
日本も他人事ではない
それが現実となれば、韓国株への売り圧力は高まり、ウォン安も鮮明となるだろう。状況次第で、急激な海外への資金流出も起きうる。
1997年のアジア通貨危機、2008年9月のリーマンショック、2020年3月のコロナショックで、韓国はドル資金不足に直面した。特に、リーマンショック時、日韓通貨スワップ協定が韓国のドル資金調達に寄与した。
2022年末、韓国家計などの債務残高はGDPの105.0%だった。韓国内外での金融引き締め長期化に伴い、家計の利払いコストは増え、景気後退の懸念も高まるだろう。
これまでの教訓を活かし、中期的な経済の不安定化リスクに備えるために、韓国政府は日韓通貨スワップ協定の再開を重視している。
半導体関連部材、製造装置などの主要輸出先である韓国との金融面での関係強化は、わが国の経済にとっても重要だ。
●ボウマンFRB理事、資本要件引き上げより監督強化が望ましい 6/26
米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は25日、米銀の資本要件を引き上げれば融資と競争を阻害する可能性があるため、監督強化の方が望ましいとの見解を示した。その上で、最近の銀行破綻について独立機関による調査が必要だとあらためて訴えた。
ボウマン理事はオーストリアでのイベントの講演テキストで、「検査官が重要な問題を特定し、迅速な改善を要求するのに適切な手段と支援を得ているかどうか、われわれは検討する必要がある」とし、「資本要件を単純に引き上げるのでは、監督の効率性に関するこうした根底の懸念を解消できない」と説明した。
パウエルFRB議長は22日、上院銀行委員会での証言で、大手銀行は資本要件の約20%引き上げを課される可能性があると述べた。今回の変更は、2008年の金融危機を受けた国際的な資本規制見直しの一環。今年に入って米銀数行が破綻したことから、資本規制見直しが優先課題に浮上した。
ボウマン理事は独立機関による米銀破綻調査を重ねて求めるとともに、連邦準備制度の内部調査を批判。「こうした取り組みが実情を十分説明しているかどうか、実に疑問だ」とし、調査の多くは「少数の匿名インタビューに頼り、限られた範囲で早急にまとめられたもので」、FRB理事全員の見解が反映されていないと指摘した。
●デジタル資産をめぐる不確実性が金融機関を「監督上の空白」に陥れる 6/26
米連邦準備制度理事であるミシェル・ボウマン氏は、米国における新技術に対する明確な規制枠組みの欠如を批判した。
ボウマン氏はザルツブルク・グローバル・セミナーでの講演で、特に銀行業務とデジタル資産など、新たな銀行活動の監督について世界の規制当局が注意を払うよう呼びかけた。ボウマンによれば、金融機関は、新たなテクノロジーに関して「監督上の空白」に取り残されているという。
「ガイダンスを示そうとする努力はなされているが、これらの活動の許容性や監督上の期待については、依然として不透明な部分が多い。このため銀行は、政策立案者による一般的だが拘束力のない声明に依存し、将来のある時点で批判されるという危険な立場に置かれている」と、2034年にFRBの任期が終わるボーマンは述べた。
さらに、ボウマン氏は現行の規制状態によるリスクについて言及し、明確な規制枠組みがない場合、規制者は大きな投資が行われた後で新たな要求を事業者に課す可能性があると指摘した。「私たちの役割が効果的な監督と規制であるなら、新規活動と伝統的な活動の両方に関与する意欲を示すべきだ」とボウマン氏は付け加えた。
ボウマン氏と同様に、デジタル資産について明確な規制枠組みを求める声はいくつも出ている。レーティング機関のムーディーズは6月20日に警告し、米国の立法者からデジタル資産に焦点を当てた立法に対する支持がなければ、投資家や企業は他の仮想通貨に友好的な司法管轄区域に転向する可能性があるとした。
米下院金融サービス委員会と下院農業委員会の議員はこのほど、特定の仮想通貨を商品とすることを示す議論の草案を公表した。この草案では、デジタル資産取引プラットフォームが規制された機関として登録しようとする際に、米証券取引委員会が登録を拒否することを禁じるとともに、「デジタル商品とペイメントステーブルコイン」の提供を許可することとされている。
新規技術について金融機関に明確なアプローチを提供しないことは、「金利上昇を乗り切る銀行にとって重大な結果をもたらす可能性がある」とボウマン氏は警告した。
●米銀行規制強化に懸念 FRB幹部「融資を阻害」 6/26
米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は25日、オーストリアでの会合で、FRBが検討を進めている銀行の資本に関する規制強化について「不必要に銀行の融資を阻害し、競争を低下させると懸念している」と述べた。FRBの方針に内部から異論を唱えたとみられ、規制強化の議論に影響を与える可能性がある。
シリコンバレー銀行(SVB)などの破綻を受け、FRBはSVBへの監督を検証し、規制強化が必要と結論づけた。パウエル議長は今月の議会公聴会で、大規模な銀行とSVBのような中堅銀行に対し、求める自己資本の基準を引き上げる可能性に言及。今夏に規制案が示されるとした。
銀行規制を巡っては、トランプ前政権が規制を緩和。FRBは検証で「効果的な監督を阻害した」と批判した。しかし、ボウマン氏は前政権の規制に対する批判について「説得力ある証拠を見たことがない」と疑問視。FRBの検証についても、バー金融監督担当副議長が主導したことを念頭に「1人の成果であり、ほかの理事によって見直されることはなかった」と批判した。
●ドル円見通し 米FRBの追加利上げ姿勢強まり143円台後半、高値追及続く 6/26
ドル円は6月24日未明高値で143.87円へ上昇して1月16日安値127.22円以降の高値を更新した。6月21日と22日に、パウエル米FRB議長が半期に一度の議会証言において年内あと2回の利上げが適切として年内の利下げを否定したことに加え、6月22日にノルウェー中銀と英中銀が予想を上回る0.50%利上げを決定したことでFRBも利上げを継続しやすい状況になったとの認識で上値を拡大した。また、日銀は6月23日の金融政策決定会合において黒田総裁時代からの大規模金融緩和政策の継続を決定したことによる円安の流れを継続したため、米国の追加利上げ予想と日銀のマイナス金利継続による政策差が意識されてドル買い円売りが進んだ。
昨年10月天井からの下げ幅に対する3分の2戻しを超えてさらに揺れ返しの上昇を継続
ドル円は昨年10月21日高値で151.94円を付けた後、日銀による単独の大規模市場介入や米CPIが予想外に鈍化し始めたことによるCPIショック、黒田総裁退任へ向けた長短金利操作における変動許容上限の0.50%への引き上げ(事実上の利上げ)等を背景に今年1月16日安値127.22円まで24.73円の下落となった。
2021年1月6日安値102.56円から2022年10月21日高値151.94円までの49.38円の上昇幅の凡そ半値を削ったのだが、その後の上昇で5月25日の上昇時に半値戻しとなる139.58円を超え、5月30日高値140.92円の後を小規模な調整的持ち合いとしていたが、米FOMC(6/13・14開催、6/15未明に結果発表)を通過して5月30日高値を超えて一段高に入り、6月23日夜の上昇で3分の2戻しとなる143.71円をクリアした。
昨年の8月2日安値から10月21日高値へ歴史的な大上昇となったところと比較すれば上昇角度はやや鈍いものの、昨年5月後半からの上昇角度と今年3月24日安値からの上昇角度はほぼ同レベルであり、すでに3分の2戻しを超えたことにより4分の3戻しとなる145.77円や昨年10月21日高値151.94円への「往って来い」を試すのではないかとの思惑も出始める状況となっている。
日米の金融政策差による円安
ポスト黒田総裁人事を巡って異次元金融緩和からの大胆な軌道修正が警戒されていたものの、植田新総裁が黒田路線を継承し、就任後初となる4月会合では金融緩和政策に対する検証を1年から1年半かけて行うとしたことにより、当面は小規模のYCCに対する修正があったとしても基本的な金融緩和継続姿勢は変わらないとの見方が強まり、年明けへの下落背景が大きく後退したために揺れ返しの上昇に入ったといえる。
また米FRBも、昨年3月から9月にかけてのハイペース利上げが一巡して利上げサイクルの終了プロセスに入ったとの見方が年明けにかけてのドル円の下落にも影響したが、インフレは期待ほどには低下していないため、今回のFOMCでは米銀破綻による信用不安問題を意識して利上げを見送ったものの、あと2回の追加利上げ予想と利上げ期間の継続姿勢を示している。米国の利上げサイクルが終了プロセスに入っていることには違いないとしても、まだ先行きが読み切れず織り込み切れていないとして、昨年10月からの下落時のドル安感を解消して1月16日以降のドル高円安を助長している。
パウエル議長の議会証言のほか、先週はFRBのボウマン理事が22日の講演で「インフレ率を目標の2%へ押し下げるには追加利上げが必要」とし、「インフレはピークを越えたものの引き続き受け入れがたい高さにある」、「もっとやるべきことがある」と追加利上げを支持し、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁も23日に「今年はあと2回の利上げが非常に妥当な予想」と述べており、FOMCメンバーの意向はあと2回の利上げで固まっている印象だ。
米長期債利回りは日替わりの騰落で持ち合い、NYダウは続落
6月23日の米10年債利回りは前日比0.06%低下の3.74%、30年債利回りは0.05%低下の3.82%、2年債利回りは0.04%低下の4.75%となった。10年債利回りは5月26日の3.86%から6月1日の3.57%へ低下したが、その後は追加利上げの見通しを背景に上昇に転じたが、6月15日に3.85%へ戻したものの5月26日高値に届かず、その後は3.70%を割り込むところからは繰り返し戻して持ち合いの様相で推移しており、先週は日替わりのように米経済指標や主要国利上げおよび要人発言等を見て騰落を繰り返したが持ち合いから抜け出せていない。一方で2年債利回りは6月23日に高値で4.81%を付けてから低下したが、3月24日の3.56%以降の高値を更新しており3月8日に付けた5.08%へ徐々に迫ってきている印象だ。
昨年9月にかけてのようなどこまで利上げのピークが切り上がるのかという先の見えない状況ではないものの、年内はせいぜいあと1回程度とみている市場にとっては、2回あるいはさらに増える可能性も消せないために利回り低下基調へと進めずにいる印象だ。今のところ、FOMCの見通しでは2024年が利下げ期と想定されているが、年明け早々に早まる可能性よりも遅くなる可能性がやや優勢な印象もある。
ドル円にとっては米長期債利回りが大きく崩れない限りは上昇基調を維持しやすい環境と思われる。
6月23日の米国株式市場は下落、NYダウは前日比219.28ドル安となり6月16日からは5営業日続落となった。ナスダック総合指数は6月19日から21日まで3営業日続落し、22日に128.41ポイントと反発したものの23日は138.09ポイント安と反落しており、週間では2019年3月以来で最長となる8週連続上昇が途切れた。株式市場は年内あと1回の利上げがせいぜいだろうとの楽観が優勢で推移してきたが、あと2回の利上げをする姿勢で念を押されたことで失速し始めているようだ。
日足一目均衡表・サイクル分析による中勢観
ドル円は1月16日安値を起点として3月8日高値までを第一波の上昇期とし、3月24日安値を起点として第二波の上昇期に入っているが、5月30日高値からの小持ち合いから上放れに入っており、現状は第二波の上昇期の継続中と思われる。
日足における底打ち周期は3か月平均で2か月強から4か月前後までの範囲で推移しており、3月24日安値を起点とした上昇期の高値形成期は6月中から7月序盤にかけての間と想定される。まだ上昇余地のあるところだが145円を超える場合はいったん売られやすいと注意する。また下落に転じる場合は直前高値から3円ないし6円規模の下落となる可能性があるという点にも留意しておきたい。
日足の一目均衡表では4月後半から遅行スパンが好転し、先行スパンを上抜いた状況も維持されている。26日基準線が下値支持線として機能しているため同線にかけて反落する場面は押し目買い有利とし、同線割れから続落に入る場合は弱気転換注意とし、同線自身が低下し始める場合は下落期入りにより暫く安値試しを続けやすくなると注意する。
日足の相対力指数は6月23日への上昇で70ポイントを超えてきたが、5月30日への上昇時を若干超えてきているのでまだ弱気逆行とはならずに売られ過ぎ警戒感も浅い印象だ。当面は80ポイントを目指す上昇余地ありとし、60ポイント台への低下ならまだ押し目買い有利の範囲と考える。

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、6月23日夜安値142.65円を下値支持線、144.00円を上値抵抗線とする。
(2)142.65円を割り込まないうちは上昇余地ありとし、144円超えからは144.50円から145円前後にかけての水準を試す上昇を想定する。145円手前では高値警戒感からの売りも出やすいとみるが、143.50円以上を維持するか直前高値から1円を超える反落が発生しないうちは高値試しへ向かいやすいとみる。
(3)142.65円割れからは142円前後への下落を想定する。142.50円以下での推移が続く場合は徐々に安値を切り下げてゆく可能性があると注意するが、142円から141.70円台にかけての水準は押し目買いされやすいところとみて、直前高値からの下げ幅の半値以上を解消するところから上昇再開へ進み、年初来高値更新へ向かうとみる。
●パキスタン議会、修正予算案を承認 IMF融資獲得目指す 6/26
パキスタン議会は25日、国際通貨基金(IMF)の融資条件を満たすために修正された2024年度(23年7月─24年6月)予算案を承認した。
IMFは6月中旬、当初予算案について、より進歩的な方法で税基盤を拡大する機会を逃していると不満を表明していた。
ダール財務相は24日、予算案に新たな税と歳出削減を盛り込んだ。石油税の引き上げや、IMFの主な懸念事項だった輸入制限の解除など複数の修正も加えた。
パキスタンは深刻な財政危機に直面しており、IMFの融資が受けられなければデフォルト(債務不履行)に陥る可能性があるとアナリストは指摘している。
IMFが19年に承認した65億ドルの拡大信用供与措置(EFF)は今月末に期限切れとなる。IMFはそれまでに昨年11月から棚上げしている25億ドル分について一部融資を実行するかどうか検討する必要がある。
●世界の空きオフィスビル、債務の時限爆弾に−家主はデフォルト選択 6/26
ニューヨークでもロンドンでも、オフィスタワーのオーナーは債務を返済するよりも物件を差し押さえられることを選んでいる。サンフランシスコのダウタウンで最大のショッピングモールの家主たちもこの物件を見捨てた。香港の新築の高層ビルは4分の1しか埋まっていない。
商業用不動産を浸食しつつある問題は、世界経済に広がる暗い傷のようなものだ。株式相場が上昇し投資家が数十年ぶりの急激な利上げが終わると期待している傍らで、不動産のトラブルは数年がかりで顕在化していく見込みだ。
低金利に支えられて長い間買いまくった後、不動産保有者と資金の貸し手は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の働き方や買い物、住む場所などの変化に直面した。同時に、金利上昇が債務借り換えのコストを上昇させた。
限界点が近づいている。全米抵当貸付銀行協会(MBA)によると、米国だけでも今年と来年に1兆4000億ドル(約200兆円)相当の商業不動産向けローンが満期を迎える。 
他の推計はこれより若干控えめな数値だが、巨額の元本を返済する期限が到来したとき、不動産保有者は返済のため新たな借り入れをするよりデフォルト(債務不履行)を選ぶかもしれない。
不動産オーナー大手のブラックストーンやブルックフィールド、パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)は既に、一部の保有物件について債務の支払いをやめた。現金やリソースのより良い使い道があるからだ。
資金難の不動産物件についての再交渉を手掛けるキーンサミット・キャピタル・パートナーズのニューヨーク責任者、ハロルド・ボードウィン氏は「強いストレスがある。希望がなく既に物件価値が落ち込んでいると認識していない限り、オーナーはそう簡単に所有物件をあきらめたりはしないものだ」と話した。
「グレートリセット」
不動産の売買件数は急減しており、売買が成立しても物件の評価額下落は目を見張るものがある。オフィス復帰の比率がアジアと欧州より低い米国では企業向けのオフィスビルの価格が、金利が上昇し始めた2022年3月に比べ27%下落している。データ分析会社のグリーン・ストリートが推計した。住宅用ビルは21%、ショッピングモール物件は18%値下がりした。
欧州ではオフィス物件価格が底を打つまでに25%余り下げ、アジア太平洋地域では約13%下落すると、米プルデンシャル・ファイナンシャル傘下のPGIMリアル・エステートは予想している。
PGIMのアナリストらが言うところの価値の「グレートリセット」は悲痛なほどゆっくりと進むだろう。2008年の金融危機の中心は住宅用不動産だったが、それでも危機後にオフィス物件の価格が回復するのに6年を要した。CBREグループの世界チーフエコノミスト、リチャード・バーカム氏は「今回は10年かかる」とみている。
商業用不動産を巡る問題は今年の米地銀危機で既に動揺している金融システムへのさらなる圧力となるだろう。落ち込みが深まるに伴い、空のビルを抱え不動産税収入が減少している一部の都市にも大きな変化をもたらすかもしれない。
問題は、商業用不動産の調整が経済全体を不安定化させるほどの規模になるかどうかだ。不動産セクターへの逆風は広範なものの、不動産は地域限定のビジネスだ。都会の高層ビルばかりでなく、小さな町のショッピングセンターや郊外の集合賃貸住宅、倉庫施設なども含まれる。
PGIMリアル・エステートの投資調査担当マネジングディレクター、ピーター・ヘイズ氏(ロンドン在勤)は「都市の事情はそれぞれ異なる」として、「投資家は立地についてこれまで以上によく考える必要があるだろう」と述べた。
債務返済の困難は既に、ロサンゼルスからスウェーデンや韓国に広がっている。
個別の都市について見てみよう。
サンフランシスコ
米国で不動産危機がサンフランシスコほど顕著な都市は他にない。ビル所有者が次々とデフォルトし、下降トレンドは加速している。ハイテク企業の中心地の不動産価格は過去10年の間に歴史的高水準に達していた。このため値下がり余地は大きい。
サンフランシスコはエアビーアンドビーやツイッター、ウーバー・テクノロジーズなど話題のスタートアップと、セールスフォースなどの大企業でにぎわっていたが、今はその多くが人員を削減しオフィススペースを縮小している。
サンフランシスコのダウンタウンは、雇用主と、リモートワークを謳歌(おうか)している被雇用者を呼び戻すのに苦戦。この地域の建物はオフィスビルが大半なため、特に人通りが少ない印象だ。
オフィスに来る従業員は全米で最も長い通勤時間をかけてやってくる。サンフランシスコのホームレス危機もダウタウンが中心だ。横行する窃盗を避けるため一部の店舗は閉まっている。
かつてはファッショナブルだったユニオンスクエア地区では、市内最大のショッピングモール、ウェストフィールド・サンフランシスコ・センターが6月に5億5800万ドルの商業用不動産ローンの貸し手によって差し押さえられた。百貨店チェーンのノードストロムが同物件内の店舗を閉鎖すると発表した後だった。
パンデミック後の観光の回復も鈍いため、パーク・ホテルズ・アンド・リゾーツは市内の2大ホテル、ヒルトン・サンフランシスコ・ユニオンスクエアとパーク55サンフランシスコを担保とした債務の支払いを停止した。
地元の主要不動産保有企業であるベリタス・インベストメンツは、6億7500万ドルの債務でデフォルト。20年には10億ドルを超える価値のあった住宅用不動産のポートフォリオを担保としていた。
オフィスの空き室率はパンデミック前の3倍になった。数少ないオフィス物件売買の例としてはウェルズ・ファーゴが最近、カリフォルニアストリート550番地のタワービル(13階建て)を1平方フィート当たり約200ドルで売却したが、不動産サービス会社ニューマーク・グループによれば、19年のピーク時は1平方フィート当たり1000ドルを突破していた。
価格下落で一部の投資家は好機を探り始めた。フィラデルフィアの不動産開発会社ポスト・ブラザーズのマイク・ペストロンク最高経営責任者(CEO)は「サンフランシスコで物件を購入したことはないが、非常に興味深くなってきているように思われる」と語った。
買い手にとって興味深い状況とは、オーナーにとっての地獄だ。
ニューマークのサンフランシスコ在勤アナリスト、デービッド・ビットナー氏は「到来しつつある価格リセットを免れるすべはない」とし、「オフィスが値下がりの中心になっているが、古めの小売り施設やより新しい集合住宅にも影響が出ている」と述べた。
市の税収も打撃を受けている。ブリード市長は2年間で7億8000万ドルの財政赤字を見込んでいる。同市長はより多くのビルを住宅に改装するなどダウンタウンの多様化を提案。ウェストフィールドのモールも「新しいビジョン」を反映した別の用途に転用する構想を打ち出しているが、今のところ大量の空きスペースがある。
ニューヨーク
ニューヨークの街頭は観光客と住民でにぎわっているが、オフィスセキュリティー会社カッスル・システムズによると、オフィス勤務に復帰した働き手は半分程度に過ぎない。
多くのビルがテナントを失い、設備刷新の必要性に直面している。雇用主は必要な最新のオフィス設備について考える場合、古い物件よりもハドソンヤードやグランドセントラル駅近くの新築ビルを選べる。
借り手のこうした選択によって、世界金融の中心を象徴するようなビルですら困った状況に陥っている。
1950年代に建ったミッドタウンのシーグラム・ビルディングはその建築デザインで有名だが、オーナーのRFRホールディングは新たな資金調達ができず、今年満期の10億ドルの債務について1年間の延長を交渉しなければならなかった。
同社は2500万ドルをかけてスポーツコンプレックスやウェルネスセンターを整備し、今年に入ってからも95%がリースされている。しかしパンデミック前にテナントのウェルズ・ファーゴとプライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社のクレイトン・デュビリエ&ライス(CD&R)を失った。
アダムズ市長はより多くの従業員がオフィス勤務に戻るよう促し、ウォール街の銀行に対面での働き方を強化するよう働きかけた。ニューヨークのオフィス物件空き室率は今年、過去最高の22.7%に達する見込みだが、ニューヨーク市では通常、オフィスが不動産税収の約20%を占める。
ニューヨーク大学とコロンビア大学の研究者が行った共同研究は、ニューヨークのオフィス物件がリモートワークの影響で29年までにパンデミック前の価値の44%を失うことを示した。
不動産ブローカー、ウォートン・プロパティー・アドバイザーズのルース・コルプヘーバーCEOは、「家主は今、本当に最悪の状態にある。全方面から問題にとりかこまれている」とし、「有力オーナー企業が持つ最高のビルは何とかしてこの状況を乗り切るだろうが、空き室が多く大規模な改修が必要なビルが経済的に成功することはないだろう」と述べた。
ロンドン
ロンドンではハイブリッドワークの広がりがまだら模様だ。店舗やナイトスポットの多いウェストエンドの空き室率は過去最低に近く、企業が求めているのは、最適な建物と従業員を呼び戻せる立地で、入居スペースを減らす分、1平方フィート当たりの額の上昇を受け入れるため、賃貸料も上昇している。
一方、1990年代にできたタワービルの多いカナリーワーフは大きなトラブルに見舞われている。多くの人から金融街と見なされているため、銀行以外の借り手を引き付けるのが難しい。
法律事務所のクリフォード・チャンスは狭いが新しく中心街に近いシティー(金融街)のビルに引っ越そうとしている。英銀HSBCホールディングスも本店を移そうとしており、シティーが有力候補だ。
トムソン・ロイターの元本社を再開発し最近完成したYYビルは、地下鉄のカナリーワーフ駅を出てすぐの立地だがまだ借り手がついていない。
ほんの数年前に貴重な優良物件と見なされていた2棟のオフィスビルも今は銀行に差し押さえられている。
ロイズ・バンキング・グループはチャーチヒルプレース5番地とカナダスクエア20番地のビルの管財人を指名した。オーナーの中国企業、祥祺集団がこれらの物件を担保としたローンでデフォルトした。2棟とも空き室が多く、改修コストもかさむ見込みだ。
ロンドンの不動産市場に覆いかぶさるもう一つの問題は、数百棟のビルが英国の環境基準に適合せず使えなくなることだ。不動産はそのエネルギー効率によって「A」から「G」にランク付けされており、2030年までには「B」を下回るランクの商業用ビルを賃貸することは違法になる。オーナーは経費を負担し改修するか、空きビルにしておくしかなくなる。
英国の欧州連合(EU)離脱がロンドン不動産の魅力を低下させたともPGIMのヘイズ氏は指摘。オフィスビルは「短期的に非常に難しい状況にある」と同氏は話した。
ストックホルム
スウェーデンの不動産市場では問題は空きオフィスではなく、不動産のオーナー企業が低金利時代に膨らませた巨額の債務だ。その借り入れの多くが短期の変動金利債券によるもののため、債券の利回りと利払い負担が急上昇するのは必至だ。スウェーデンの不動産オーナーは向こう5年間に420億ドルの債務を借り換える必要があり、そのほぼ3分の1が来年満期を迎える。
典型的なのがSBBで、同社は5月上旬に投資不適格(ジャンク)級に格下げされて以来、崩壊の危機にさらされている。配当停止と資産売却では株価下落に歯止めがかからず、株価は21年末に比べ90%余り下落。現在は不正会計の疑いでスウェーデンの金融監督当局が調査しており、創業者の最高経営責任者(CEO)は更迭された。
香港
香港のビクトリアハーバーを見渡す26階建てのビルを中国恒大集団が2015年に16億ドルで購入した時にはニュースになった。オフィスタワーの価格としてそれまでの最高の2倍以上だった。
香港にはその後数年、中国資本が集まり、オフィス物件や土地をしばしば記録的価格で買いあさった。狭い香港での中国本土企業からの需要が高いオフィス物件への投資は安全だと思われた。
そこへ反政府デモが発生。20年には新型コロナ流行で厳しいロックダウン(都市封鎖)が敷かれ、投資家は金融センターとしての香港のステータスについて考え直し始めた。さらに、中国恒大を中心とした中国の不動産債務危機が訪れた。
巨額債務を抱えた中国恒大はあらゆる方法で資金を調達しようとし、20年終盤に問題のオフィスビルを米ドル換算で約9億7100万ドルの融資の担保とした。ビルは昨年管財人の手にわたり売りに出されたが、希望する価格での提案はなかった。
所有構造の複雑さも敬遠される理由となり現在は25%しか借り手が入っていない。中国恒大が購入した時には満室だった。
香港全体で新築ビルの供給が増える中、コストに敏感な外国銀行や中国企業は既存のビルのスペースを賃借しようとはしない。コリアース・インターナショナル・グループのデータによると、香港の一流オフィスビルの空き室率は4月に15%に上昇し、19年の3倍以上になった。
ニューヨーク、ロンドンと異なり香港の家主は低迷をリモートワークのせいにすることはできない。効率的な公共交通システムと手狭な住宅という事情は在宅勤務をする理由を奪う。香港の働き手はオフィス復帰を果たしている。地下鉄の利用者数は3月に19年の水準を上回った。
しかし、金利上昇の中での商業用不動産市況の低迷は中国恒大などの不動産保有者を苦境に立たせている。物件の価値が下がっているために債務の借り換えができない上に、買い手も簡単には見つからない。安値で売るか、金利を支払い続けるかの選択肢しかない。
不動産は流動性と安定を提供するものではなく、重荷になっている。 
●円安加速 世界で利上げ“協奏曲”再び いつまで? 6/26
日銀の植田総裁が寂しく思ったかどうかは分かりませんが、世界で日本とともに数少ない金融緩和策をとってきたトルコまでもが6月22日に大幅な利上げに踏み切りました。この決断をリードしたのは6月に就任したばかりのトルコ中央銀行初の女性新総裁です。
それだけではありません。6月はカナダ、イギリス、ノルウェー、スイスなどが次々と利上げを決めました。アメリカも年内にあと2回の利上げを予想。
円相場や株価にも大きく影響する世界のインフレと利上げ、今後どうなるのか。国際部デスクによる「グローバル経済コラム」です。
世界利上げラッシュの6月
2023年6月に入って世界各国や地域の中央銀行による利上げが相次いでいます。まとめてみると、「世界利上げラッシュ」、あるいは「利上げ協奏曲」とでも呼ぶべきか、まるで複数の楽器が調和をとっているかのように各地の中央銀行が利上げを宣言しています。
このうち、カナダの中央銀行、「カナダ銀行」の利上げは市場にとってサプライズでした。2023年1月まで8回連続で利上げしたあと、3月と4月に開いた会合では政策金利を維持していましたが、再び0.25%の利上げに踏み切ったのです。収まりつつあるのかと思いきや再びの利上げ。インフレのしつこさを物語っています。
各地の利上げ、あるいは利上げ予想の影響を受けて円安が加速しています。円相場は一時、1ドル=143円台後半まで下落、ユーロに対してはおよそ15年ぶりに一時、1ユーロ=156円台まで値下がりしました。(6月26日時点)
トルコ、真逆の政策でインフレ退治?
利上げを決めた国のなかにはトルコも含まれます。トルコは慢性的なインフレと通貨安に悩まされていますが、エルドアン大統領の「金利を下げればインフレ率も下がる」という独自の理論のもと、2021年9月から4か月連続の利下げを行うなど、金融緩和策を続けてきました。
一般的には、インフレを抑え込むには利上げを行うというのが中央銀行の政策としてセオリーなはずですが、真逆の対応をとっていることもあり、トルコの通貨・リラは急落、輸入品の価格高騰をもたらしました。
2022年10月にはインフレ率が85%超を記録。その後下がってきているとはいえ、2023年5月も39%と、厳しい物価上昇が市民生活を直撃しています。
新総裁による政策転換
この金融緩和策にピリオドを打ったのが、6月に就任したばかりのトルコ中央銀行初の女性総裁、エルカン氏です。
ロイター通信によりますと、エルカン氏はトルコ・イスタンブールにあるボアジチ大学を卒業後、アメリカに渡り、ハーバード大学ビジネススクール、プリンストン大学で金融工学などの博士号を取得。2005年からアメリカの金融大手ゴールドマンサックスに勤務していたという、バリバリの金融のプロです。
2021年6月から12月まで短期間ですが、アメリカの銀行、ファースト・リパブリック・バンクのCEOも務めていたといいます。(2023年5月に経営破綻)
エルカン新総裁のもと、トルコ中央銀行が下した決断は大幅な利上げでした。政策金利を8.5%から15%へと、6.5%も引き上げる大胆な金融引き締めへの転換で「エルドアン理論」の修正、あるいは挑戦状ともいえるかもしれません。
もっとも市場は政策金利を20%以上へと利上げすることを見込んでいたため、期待外れだと逆に通貨リラが1ドル=23リラ台から25リラ台へ、7%余りも売られる結果になり、エルカン新総裁のデビュー戦はほろ苦いものとなりました。
強権的ともいわれるエルドアン大統領がみずからの理論を簡単に修正するのか、疑問の声もあり、エルカン新総裁のインフレとの闘いはそう簡単なものではなさそうです。
根深いアメリカのインフレ
一方、日本経済の先行きに大きく関わるアメリカの金融政策ですが、FRB=連邦準備制度理事会は6月13日、14日に開いた金融政策を決める会合で、政策の現状維持を決め、利上げを見送りました。しかし、同時に示された政策金利の見通しでは0.25%の利上げを年内にあと2回行う想定となり、「まだ利上げするのか!」と、勝手に利下げまで妄想していた市場を驚かせました。
FRBのパウエル議長が心配しているのは人手不足による賃金の高止まりです。
パウエル議長は6月14日の記者会見で「賃金は1年前の極端に高い水準からは徐々に下がってきているが、まだ力強く上昇している。企業の求人数は依然として労働者の数を大きく上回っている」と危機感をあらわにしています。
働き方の変化?
なぜアメリカでここまで人手不足が続くのか。移民の減少や、コロナ禍による中高年層の早期退職などが大きな要因だとされてきました。
今、移民の数は増え、中高年層も少しずつ職場に戻ってきていると言われていますが、それでもかつてほどではないといわれています。また、アメリカ人の働き方に変化が起きているとの分析もあります。
意外に思われるかもしれませんが、アメリカ人は「働きすぎ」の傾向が強いと言われています。
OECD=経済協力開発機構の2022年の統計によりますと、年間の平均労働時間はアメリカが1811時間。日本の1607時間、OECD平均の1752時間を大きく上回っています。しかし、コロナ禍で、若い世代を中心に「仕事だけに染まる働き方はしたくない」と考え方の変化が起きたとされています。
アメリカ人全体の仕事時間が減少、職種によって雇用の需給があわなくなり、人手不足が起きて賃金を押し上げているという分析があるのです。
コスト高の時代に突入か
世界に目を向けると脱炭素に向けて、例えば再生可能エネルギーの積極利用など、さまざまなコストが製品やサービスの価格に上乗せされる時代に入っています。
また、ロシアによるウクライナ侵攻や米中対立を背景に、企業のあいだでは部品などのサプライチェーン=供給網に対する考え方が根底から変わりつつあります。「モノを世界の最適な場所で、低コストでつくる」という価値観が通用しなくなれば、一定程度のインフレがくすぶり続ける可能性があります。
日本と世界の金利差がもたらす円安、そして輸入物価上昇の圧力がいつまで私たちの生活を脅かすのかは世界利上げ協奏曲のコンサートがいつまで続くかに大きく左右されます。
●日経平均のリスクは? 6/26
1.現状の日経平均株価について
まずは、2023年6月現在の日経平均の上昇幅を確認しましょう。
   ドル円チャート
上記は日経平均株価(青色)、米国S&P500指数(オレンジ)、ドイツDAX(水色)の年初からの騰落率を示しています。日経平均株価は30%近く上昇していると分かります。
一方でアメリカS&P500指数の上昇は14%程度、ドイツDAXは11%程度であり、日経平均株価と比較して、あまり上昇していません。
日本株は米株などと比較して割安であり、海外投資家の資金流入により上昇しています。
また日本と海外の金融政策の差も大きく影響しています。日銀は大規模金融緩和を継続するスタンスを堅持しています。一方で米国や欧州は、インフレ沈静化のために利上げを継続しています。
政策金利の引き上げは、株価にとってマイナスです。日銀の金融緩和も、日本株が選好されている理由です。
2.日経平均株価で今後考えるべきこと
   2-1.短期的にはテクニカル的に過熱感があり
   週足の日経平均株価
上記は、週足の日経平均株価にRSIとストキャスティクス、ローソク足にはボリンジャーバンドの2σを表示させています。
RSIは買われすぎの水準を維持し続けており、ストキャスティクスも高い水準で張り付いている状態です。ボリンジャーバンドも2σを突破したまま上昇が継続しており、過熱感が高まっていると判断できます。
日経平均を2023年6月現在の水準から、ロング(買い)ポジションの構築は、リスクリワードを考えても難しいとの判断になる投資家も多いでしょう。
   2-2.業績が良好な状態を織り込んでしまっている
日経平均株価を、EPSとPERで分けて分析してみましょう。PERは将来への期待を、EPSには各企業の業績が反映されます。
今回の上昇は、PERの寄与度が7割を超えています。一方でEPSの寄与度は、3割程度となっています。
日経平均の上昇はPER主導であり、海外投資家による日本株への期待が反映された相場と言えるでしょう。
EPS×PERの計算式から、現在の株式の水準が測れます。2023年6月現在のPERは15倍超であるため、33,400円÷15=2,266円(EPS)となります。
この計算から、EPSが2,266円以上ではないと理論上は日経平均株価が33,400円以上で推移できないと判断できます。
EPSの推移をチェックすると、割高なのか割安なのかを判断する材料になります。ただしあくまで理論であるため、参考程度に留めましょう。
   2-3.夏場のアノマリー
短期的に日経平均株価を考える上では、夏場のアノマリーも参考になります。
7月、8月、9月は過去30年程度の月次のパフォーマンスの平均がマイナスとなっています。6月から8月のお盆あたりまではポジション調整の影響で下落することが多く、特に8月前半のパフォーマンスは弱い傾向があります。
8月まではロング(日本株の買い)ポジションを作らず、待つ戦略も、選択肢の一つでしょう。
6月は、日本人のボーナス支給月であり、一時的に上昇しやすいタイミングです。上昇すると買いたくなるものですが、堪えて下落を待つと高値掴みのリスクを軽減できます。
一方で10月、11月のパフォーマンスは上昇する傾向があります。10月から11月の上昇を狙って、安い価格で仕込んでいく投資戦略も、選択肢の一つでしょう。
   2-4.海外投資家のリバランス
海外投資家が日本株のポートフォリオの割合を増加させています。しかし、四半期に一度等大幅な見直しが入る場合があります。
機関投資家は、債券と株式の割合を定期的に見直しています。株式市場が上昇する一方で、利上げがそろそろ最終局面を迎えるため、株式の割合を減らし、債券を増やす動きが出やすくなります。
日本株の割合は元々小さく、大きくなってきている段階であるため、今回のリバランスで売られない可能性もあります。世界の投資家は安定した利回りを確保するには?という視点で動いています。今後、日経平均株価がさらに上昇する場合は、ポートフォリオのリバランスのフローの影響を受ける可能性があるため、注意しましょう。
   2-5.日経平均株価の平均値幅はリーマンショック並み
日経平均株価の値幅は、リーマンショックで発生した急落時の値幅を超えてきています。2008年のリーマンショック時は8,161円であり、2023年の年初は25,000円台後半でした。2023年6月現在は、33,000円台後半となり、8,000円以上の値幅が発生しています。
プロトレーダーの筆者としては、値幅に注目しています。マーケットは、投資家がまだ上昇すると言っている時こそ、上昇が止まる傾向があります。相場の過熱感に惑わされ、高値掴みをしないように、注意しましょう。
3.今後の日経平均株価は?
プロトレーダーの筆者としては、日経平均株価は年末にかけて30,000円前後まで下落すると考えています。38,000円との意見も出始めているものの、上昇の維持は難しく、年内には到達しないでしょう。
7月まで高値圏を維持する可能性があるものの、その後夏場にかけて下落し、30,000円を挟んだ水準で推移すると予想します。
ただし急落は考えにくく、ジリ安と底堅い展開が秋口まで続くでしょう。夏場に急落する局面があれば、ロングポジションの構築を検討できるでしょう。
4.まとめ
本稿では日経平均株価が上昇している理由と、株価を見るうえでのポイントを5つ紹介しました。
相場が上昇しても冷静に、リスク管理をしながらトレードを行いましょう。

 

●米国の後塵を拝する欧州、その差は開くばかり 6/27
ウクライナの戦争を機に、大西洋をまたぐ同盟は息を吹き返した。だが、米国と欧州の同盟国との関係は、ますます偏ったものになっている。
米国経済は今、欧州連合(EU)や英国のそれよりかなり豊かでダイナミックだ。
しかも、その差は開く一方だ。これは生活水準の相対的な差にとどまらず、幅広い影響を及ぼすだろう。
EUは「戦略的自律性」を手に入れたいと思っているかもしれないが、米国の技術、エネルギー、資本、軍事的な保護に依存しているのが実情で、自律性に対する意欲は着実に衰えている。
ほぼ同じだった経済規模に大きな開き
2008年にはEUと米国の経済規模は大体同じだった。だが、世界金融危機以降、両者の経済の命運は劇的に乖離していった。
シンクタンクの欧州外交評議会(ECFR)に籍を置くジェレミー・シャピロ氏とヤナ・プグリエリン氏は次のように指摘している。
「2008年にはEU経済の規模は16兆2000億ドルで、米国の14兆7000億ドルより多少大きかった」
「2022年になると、米国経済が25兆ドルに成長したのに対し、EUと英国の経済規模は合計で19兆8000億ドルにしかなっていない」
「今では米国経済が3分の1近く上回っている。英国を除くEUとの比較では、米国の方が50%以上大きい」
合計額は衝撃的だ。そしてこれを裏付けるのが、セクターごとに見受けられる欧州の出遅れぶりだ。
欧州のテクノロジー業界はアマゾン、マイクロソフト、アップルといった米国企業に牛耳られている。
株式時価総額で見た世界の7大テック企業はすべて米国企業だ。
そのリストを上位20社まで拡張しても、欧州企業は2社しか顔を出さない(オランダのASMLとドイツのSAP)。
中国が巨大テック企業を国内で発展させてきたのに対し、欧州の有力企業は米国企業に買収されることが多い。
スカイプは2011年にマイクロソフトに、ディープマインドは2014年にグーグルに買収されている。
人工知能(AI)の開発も、米国企業と中国企業に牛耳られることになりそうだ。
大学ランキングでも半導体製造でも後れ
米国ではテック業界のスタートアップ企業に有力大学が人材を供給しているが、欧州にはそういう大学がない。
世界大学学術ランキング(いわゆる上海ランキング)や英国の教育情報誌タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)がまとめるTHE世界大学ランキングを見ても、EUの大学は上位30校に1校しか入っていない。
(この点では、ケンブリッジ、オックスフォード、インペリアル・カレッジなどのおかげで英国は健闘している)
1990年には、世界で作られる半導体の44%が欧州製だった。今では9%で、米国の12%を下回っている。
EUも米国も生産能力の増強に奔走している。だが、米国では2025年までに14の新しい半導体工場が稼働し始める予定なのに対し、欧州と中東では10工場にとどまる。
ちなみに中国と台湾では43工場が新たに建設される予定だ。
米国もEUも、半導体や電気自動車(EV)の製造業者に公的融資や優遇策を提供する野心的な産業政策を講じ、この状況をひっくり返したいと思っている。
だが、自国通貨が世界の準備通貨になっている米国には、金融市場を怯えさせることなく必要な資金を調達する力がある。
欧州のある財界人が言うように、「(米国は)クレジットカードを端末の溝に入れてさっと滑らせるだけでいい」。
対照的に、EUの予算ははるかに少なく、「共同債」の発行も始まったばかりだ。
資本市場は米国に完全に依存
民間資本も、米国の方がはるかに容易に集められる。
ドイツ銀行のパウル・アッハライトナー監査役会会長は、欧州は今や「米国資本市場にほぼ完全に依存している」と言う。
また、米国資本市場を懐の深いものにしている大型の年金基金が欧州にはごくわずかしかないと筆者に指摘したうえで、「企業買収であれ新規株式公開(IPO)であれ、大型の取引をまとめたいと思ったら、米国の投資家に声をかけるのが常だ」と付け加えた。
EUは以前から、米国並みのスケールを欧州にもたらそうと「資本市場同盟」なるものを作る話を何度もしてきた。
だが、遅々として進んでいない。
また米国は欧州とは異なり、安価なエネルギーが国内から大量に供給される。シェール革命のおかげで、今では世界最大の石油・ガス産出国になっている。
片や欧州のエネルギー価格は高騰した。
ウクライナの戦争と安価なロシア産ガスの供給停止により、欧州の産業界は米国のライバルに比べて3〜4倍も高い価格でエネルギーを調達している。
おかげで欧州ではすでに工場の閉鎖が始まっている、と欧州の経営者たちは沈痛な面持ちで話している。
英国の一部の人はこの状況を見て、EU内にとどまっていたら英国は「死体に鎖でつながれていた」、ブレグジットが正解だった証拠だと言いたくなるかもしれない。
だが、英国は欧州単一市場の外で、EU自体の足かせになっている問題を数倍大きくしたバージョンに苦しめられている。
その結果、英国の産業界もすでに後れを取っている。
ライフスタイル産業だけは上だが・・・
では、欧州が世界のリーダーとなっている分野は、もう本当に存在しないのだろうか。
この問いに対しては、EU単一市場の規模は大きく、それゆえに世界中の企業が欧州の規制を受け入れなければならなくなっているという事実を、誇らしげに指摘する人がいる。
いわゆる「ブリュッセル効果」というものだ。
だが、同じ世界をリードするなら、規制ではなく富を創り出す分野でリードする方が明らかに優れている。
欧州がほかの地域を上回っているのは「ライフスタイル」産業だ。
例えば、世界の観光客のほぼ3分の2は欧州を訪問先に選んでいる。高級品市場は欧州企業の独壇場だ。
世界で最も人気の高いスポーツであるサッカーも、欧州のチームが牛耳っている――もっとも、今では最大手のクラブの多くが中東、米国、アジアの投資家の所有になっているが。
ライフスタイル産業を欧州が支配していることは、旧大陸での暮らしが多くの人々にとってまだ魅力的であることを浮き彫りにしている。
だが、ひょっとしたらそれも問題の一端なのかもしれない。
もっと強い脅威を感じなければ、欧州は勢力、影響力、そして富の止めようのない衰えを覆そうとする意志を決して呼び起こせないかもしれない、ということだ。
●「就職氷河期世代」の絶望感…「年収400万円」でも生活が苦しい「現実」 6/27
平均年収443万円――これでは普通に生活できない国になってしまった。
平均年収の生活、いったい何ができて、何ができないのか? 
20年ほど労働や雇用の問題を取材し続けてきたジャーナリスト・小林美希さんの話題書『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』では、「平均年収では思うような暮らしができない国」の実情を追っている。
年収400万円でも安心できない国
国税庁が毎年発表する「民間給与実態統計調査」では、2021年の給与所得者の平均年収が443万円となっている。
地方と都市でその捉え方は異なるが、「年収400万円」でも安心して暮らせない社会になっている。
『年収443万円』では、平均年収前後やそれ以下の人々の暮らしを、かなり細かいディティールとともに伝えている。
〈北陸地方に住む30代男性は、リーマンショック後の就職氷河期世代。現在、電車の運転士で、年収は450万円。その地域の平均収入を超えている。
不妊治療を始めるところで、「いったい、いくらかかるのか」と頭を悩ませている。自分で弁当を作り、水筒にお茶を入れて仕事に出かける。スマートフォンの契約は、「au」から「UQモバイル」に変えて利用料を月5000円ほど浮かせる。
妻も同じくらいの収入があるが、5年ごとに仕事の契約が結ばれるため、見通しが不透明。ダブルインカムが続かない可能性もある。男性は倹約して、残ったお金をすべて貯金に回している〉(『年収443万円』より)
平均程度の年収でも、節約を意識し、将来不安も大きいことが見えてくる。
ワンオペ介護の日々はまるで地獄
年収443万円を下回る暮らしはさらに厳しすぎる……。
例えば、埼玉県で暮らす56歳男性のエピソードはその絶望的な実態を物語る。
大学の非常勤講師として働き、年収200万円を得ているが、母親の介護に追われる日々――。
〈就職氷河期世代のゆく先を物語るのが、埼玉県で高齢の親と二人暮らしをする50代男性の例だ。
母親の介護が必要で、できる仕事にも制約がかかり、貧困に陥っている。研究者を目指していたが、大学の安定した研究職のポストは少なく、ずっと収入は不安定。非常勤講師で得られる収入は年に200万円程度だ。
大学院に通った学費を奨学金で賄い、まだ250万円もの返済が残っている。年金保険料も住民税も未納状態で、ポストには督促状が配達されてくる。カードローンにも手を付けなければ、生活が回らない。ワンオペ介護の日々はまるで地獄のよう。
いつか結婚して子どもを──そんな、ささやかな幸せが、どんどん遠のいていく〉(『年収443万円』より)
『年収443万円』では11人のエピソードを通じて、いまの日本で生きるとはどういうことか、日本はどのような社会なのかを描いている。
たとえ自分が大丈夫だとしても、家族や友人が直面しうる現実がそこにあるかもしれない。
●利上げ後の米欧中銀、政治家や家計の急変する要求にどう対応するか 6/27
多くの先進国では、中央銀行は自らの判断や責務に基づいて金融政策を運営すべきとの考え方が広く共有されている。実際、そのための法制面の手当てがなされているほか、中央銀行と政府は物価安定の目標を共有している。また、金融政策の運営がそうした原則から顕著に逸脱した印象を与えた場合、金融市場は通貨安や金利上昇といったネガティブな反応が生ずることもある。
金融政策の独立性が求められる理由
金融政策の運営で独立性が必要である理由としては、政治家やその背後にいる家計や企業の間では景気拡大への要求が強く、従って、中央銀行に金融緩和を求める声が強まりやすいという歴史的な経験が指摘されることが多い。
中央銀行がこうした要求に過度に影響されると、中期つまり景気サイクルを通じた視点に基づく金融政策の運営に支障が生じ、過剰ないし過度に持続的な金融緩和を招くことになる。その結果、総需要の過大な成長やインフレ期待の不安定化を通じて、物価安定が高インフレによって損なわれる恐れが高まるわけである。
逆転するロジック
しかし、コロナ後の先進国では、政治家も家計や企業も中央銀行に対してインフレ抑制を求め、そのための金融引き締めに一定の支持を示すという、上記とは逆の現象が生じている。こうした現象は途上国ではむしろ一般的とも言えるが、先進国では1990年代以降にはほとんど見られず、従って多くの人々にとって未経験の現象とみられる。
先進国の中央銀行からみれば、こうした現象には歓迎すべき面も含まれる。なぜなら、中央銀行に対するこうした要求の強まりは、政治家や企業、家計が中央銀行による物価安定の責務や意義を理解し、しかも、金融政策による物価安定の効果に一定の信頼を置いていることの証左と理解できる面もあるからである。
これらの理解や信頼は、先進国の中央銀行が政策対応の積み重ねを通じて獲得した貴重な財産であり、緩和方向であれ引き締め方向であれ、いずれにしても金融政策の効果を強める方向に作用することは言うまでもない。金融政策の効果は、政策変更に伴って家計や企業が、どのように行動を変化させるかに依存しているからだ。
新たなロジックの問題−政策効果のラグ
一方で、先進国の政治家や家計、企業による金融政策への要求の方向が逆転したことは、いくつかの点で新たな問題を招く恐れがある。
第1に、金融政策の変更が物価に影響を及ぼすには一定の時間が必要という事実との関係である。この点は、政策の方向が緩和であれ引き締めであれ、基本的には変わらない。また、前回の本稿で取り上げたように、政策効果が経済活動への影響を通じて物価へは2段階で波及するだけに、メカニズムも相応に複雑になる。
しかも、現在はコロナ後という特殊な局面であるだけに、強力な金融緩和からの金融政策の急速な転換や、労働市場の構造変化といった未経験の要素が多く、既に金融引き締めを本格化している米欧の中央銀行も、政策効果の時間的ラグの長さや不透明性に直面している。
これに対し、家計や企業は生活費や生産コストの高騰に日々悩まされているだけに、1日も早く高インフレを抑制してほしいと考えるのは当然である。
こうした声が強まれば、政治家も選挙のサイクルを意識しつつ、中央銀行に対する要求を強めることも自然である。しかも、こうした要求には、コロナ後に中央銀行による金融緩和の解除が遅すぎたという批判も含まれている点で相応の合理性もある。
しかし、中央銀行が物価安定を実現しうるとしても、それは景気サイクルといった中期の時間的な視野の下であるのに、高インフレを直ちに抑制するよう要求されることは困難なことである。
結局のところ、中央銀行が短期の視点による政策運営を求める声に直面しやすいという点では、以前のロジックと根源的には同じことだとも言える。
新たなロジックの問題−物価安定のコスト
第1の問題に密接に関連する第2の問題は、金融政策の変更が物価に影響を及ぼすには、相応のコストが必要という事実との関係である。
この点では、一般的には金融引き締めと金融緩和とで非対称性が存在する。前者の場合は、消費や設備投資の減速、雇用の喪失といったコストが生じないとインフレは減速しないが、後者の場合は、資産価格の過大評価や過度なリスクテイクによる金融安定の喪失といったコストは相当先になって顕在化する傾向がある。この点はリーマンショックの経験が示す通りである。
ところが、コロナ後の今回の局面は、既往の財政支援のバッファーによって消費への影響が抑制されるとか、労働供給の回復によって雇用がむしろ拡大するなど、米欧の中央銀行が急速な金融引き締めを行っても、マクロ的なコストが顕在化しにくい特異な状況が出現した。
この点は、先進国の中央銀行にとって、金融引き締めのトレードオフを心配せずに物価安定の回復に専念できた点で、好都合だったと受け止めることも可能である。
実際、先進国の中央銀行は、物価安定を持続的に実現することが、経済活動や雇用の安定的な拡大の前提条件であるとの考えを強調し、トレードオフを重視すべきでないと主張している。
それでも、前回の本稿で議論したように、コロナ後のエネルギーや食料の供給構造の変化や企業によるサプライチェーンの再構築などによって、フィリップス曲線の傾きがこれから急になる可能性も含めて、今後に向けて景気循環といった時間的視野で見た場合、トレードオフはなくならないはずである。
そこで、第1の問題である政策効果の時間的なラグを加味すれば、欧米における金融引き締めのコストは、むしろこれから明確になると考えることもできる。
実際、米欧の中央銀行が足元で利上げペースを減速させている理由として、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長もラガルド欧州中銀(ECB)総裁も、政策金利の水準が既に高いという事実だけでなく、政策の波及効果を見極めたいという意向を示唆している。
そこで、次の局面で想定される問題は、金融引き締めのコストが家計や企業にとって一層、明示的に生じた場合の中央銀行に対する要求の急速な変化だ。
つまり、中央銀行にとっては、総需要の抑制を通じて物価安定を回復するという政策効果がせっかく意図通りに実現したところで、今度は家計や企業、政治家から金融緩和への転換という逆方向の要求に直面することが考えられる。
既に、米欧では労働需給は緩和に向かい、コロナ期の超過貯蓄も消滅しつつある中で、こうした要求の転換もそう遠くないことかもしれない。
古くて新しい問題
ここまでくれば、中央銀行と政治家やその背後にいる家計や企業との関係も、コロナ以前の構造に回帰するし、金融政策の独立性のための様々な枠組みが政策運営の難しさを緩和すると期待することもできる。
それでも、米欧の中央銀行が直面する課題は、金融引き締めの是非自体ではなく、それをいつまで続けるべきかであり、それだけに家計や企業の理解も得にくい。
特に、先に見た政策効果の時間的ラグの不透明性に加えて、米欧ともに中長期のインフレ期待は概ね安定を維持し、従って物価と賃金のスパイラル的な上昇のリスクも抑制されている以上、政策金利を意図的にオーバーシュートさせ続ける合理性も大きくない。
米欧の中央銀行には、金融政策に対する要求の急速な変化に過度に振り回されることなく、中期的な物価安定を目指す原則を堅持することが改めて求められている。
●円安の先行きを語る時に直視すべき「日本の現実」  6/27
アメリカが利下げに転じれば円安は終わるのか。唐鎌氏は「円高になるとしても、せいぜい125〜130円が主戦場」とみる。重視するのは需給だ。
2023年も半分が終わろうとしているが、2022年以来、多くの識者が予想してきた円高・ドル安はまったく進んでいない。
円の対ドル変化率(年初来、6月26日時点)はマイナス7.6%とむしろ大幅な円安・ドル高である。また、5月末までの間に円の名目実効為替相場は5%下落し、対ドルだけではなく主要貿易相手国の通貨に対して満遍なく円は下落している。
FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利上げ停止が円高のトリガーとなるような見方はいまだ健在だが、2022年11月以降、FRBの利上げ幅が0.75%→0.5%→0.25%と縮小しても、その間の円安・ドル高傾向はあまり変わらなかった。
もっと言えば、2023年6月のFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)で利上げが見送られてからも円安・ドル高はさらに進んだ。
「100〜120円」から「125〜145円」にシフト
為替市場では2022年から「FRBは早ければ2023年3月、遅くとも6月に利上げを停止する」という想定があった。実際、その想定はおおむね的中している。しかし、大方の円高予想は今のところ外れている。
円相場の展望を検討する上では、アメリカの金利以外の論点に目を移す必要があるのではないか。
筆者はこれまで執拗に論じているが、今後も大きな円高になる可能性は高くないように感じている。
もちろん、変動為替相場である以上、円高になることもある。特に、ここから先はFRBの利下げ転換という大きな節目が控えているのだから、それに合わせてドル円相場の下値を狙うというのは市場参加者として当然の構えである。
しかし、問題は「どこまで円高になるのか」だ。
筆者は2022年以来、「円高になるとしてもせいぜい125〜130円が主戦場」と考えてきた。ラフに言えば、「100〜120円のレンジ」という時代が終わり、「120〜140円」ないし「125〜145円」といったシフトアップが起きているのではないかというのが筆者が抱いている相場観である。
ドル円相場の行く末を検討する際、真っ先に用いられるのが日米金利差とドル円相場のチャートである。確かに、両者の関係性は安定しており、参考にすべきデータの1つに違いない。
だが、為替は金利だけで動かない。最終的には需給で決まるのであり、その点が軽視される風潮はまだ強いように感じる。
今回、論じるような需給関連のデータは特に混み入っているため、好んでウォッチする向きが識者(特に為替だけを見る識者)といわれる人たちの間でも多くないのではないかと想像する。
筆者の2022年以来の立場は、国際収支統計が示唆する日本円、ひいては日本経済の直面している構造変化の可能性を知ろうとすることが、結果的に円相場見通しに役立つのではないかというものだ。
大幅な経常黒字でも、史上最大の円安
例えば、本稿執筆時点では4月分までの経常収支が発表されている。1〜4月分を合計して中身を詳しく見てみると経常黒字は4.4兆円で、その中身は貿易収支が約6.0兆円の赤字、サービス収支が1.6兆円の赤字となる一方、第一次所得収支が12.1兆円の黒字となっている。
今までどおり、貿易・サービス収支の赤字を過去の投資の「あがり」部分である第一次所得収支で相殺して黒字に持ち込む構図である。
しかし、経常収支の符号(黒字or赤字)は円相場の需給を考える上でもはや参考にならなくなっている。
例えば、2022年通年の経常収支は11.5兆円と相応に大きな黒字を記録したが、円は対ドルで最大30%以上下落し、値幅(年初来高値と年初来安値の差)で言えば、プラザ合意以降では「史上最大の円安」というほど大きなものだった。
経常収支と円の関係を議論するにあたっては、項目別の事情を丁寧に把握することが必要である。経常的なフローとして必ず為替市場に出てくる「貿易収支ならば黒字と円買い、赤字と円売り」の関係は比較的安定していようが、経常収支が全てそうではない。
2022年10月の寄稿「日本は『成熟した債権国』の終わりに来ているのか」でも言及した論点だが、やはり過去10余年の月日を経て、日本の国際収支が明確な変化に直面しているのは間違いない。
端的には「これまでよりも外貨が入ってこない国」になっており、だからこそ「これまでよりも通貨が弱くなりやすい」、言い換えれば「これまでよりも円高になりにくい」という現状があるのだと筆者は思っている。
このあたりが、FRBの金融政策動向を主軸にドル円相場を考えても報われなくなっている理由ではないかと思われる。
では、具体的に国際収支をどう見ていけばよいのか。
近年、日本の国際収支を議論する際、1貿易赤字が大きいこと、2第一次所得収支黒字が大きいこと、そして最近では3その他サービス収支の赤字が大きいことが注目の論点となることが多い。
いずれも重要な論点だが、日本の経常黒字の「要」はなんといっても第一次所得収支であるため、なかなか円高にならない現状を深掘りするという観点からは2の実相を知ることが重要である(デジタル赤字など新しい論点を含む3も非常に重要だが、今回は議論を控える)。
巨大な黒字は外貨のまま再投資される
今回強調したいポイントは「第一次所得収支黒字は巨大だが、円の価値を支える効果は期待できない」という点だ。なぜか。答えは単純で第一次所得収支黒字はその性質上、「外貨のまま再投資されるフローが多い」という事実があるためだ。
つまり、巨大な黒字額の見かけほど円買い・外貨売りは発生していない可能性が高い。
前回の寄稿「通貨防衛する日本は今や米国の脅威ではないのか〜喜んでいられない為替報告書『監視リスト』除外〜」で筆者は「日本の経常黒字はアメリカの雇用や金利について安定をもたらしている面も認められるはずであり、感謝されることはあっても批判される理由はない」と述べたが、こうした主張も「日本の経常黒字は基本的に外国に残るものが多い」という意図からである。
まず、定義上、第一次所得収支黒字は雇用者報酬と投資収益に分かれるが、基本的に投資収益でほとんどを説明できる。
例えば2022年の第一次所得収支は35兆1857億円の黒字だが、このうち投資収益は35兆2479億円とほぼ同額だった。その投資収益は直接投資収益と証券投資収益、そしてその他投資収益の3つに分かれる。これら各収益に受取と支払いが計上され、その差額が収支となる。
周知の通り、日本は2022年末まで32年連続で「世界最大の対外純資産国」であるため、圧倒的に海外投資からの受取が多い。
この内訳を見ると、2010年頃までは第一次所得収支(受取、以下全て受取ベースで議論)の6〜7割は証券投資収益だった。しかし、2010年以降、直接投資収益が顕著に比率を押し上げ、2021年は統計開始以来で初めて両者の比率が逆転し、2022年はその差がさらに開いている。
   第一次所得収支に占める直接投資収益と証券投資収益のシェアが逆転した
これは2010年以降、日本企業による海外への対外直接投資(要するに企業買収)が爆発的に増えた結果である。
なぜ日本企業が海外に活路を見いだすようになったのかは諸説あるが、国内市場の縮小(≒少子高齢化による人口減)、自然災害(台風や地震など)の多さ、断続的な円高、硬直的な雇用法制など多くの要因が指摘されている。いずれも事実なのだろう。
とりわけ国内市場が縮小する以上、期待収益の高い投資機会を求めれば、海外へ行き着くのは自然な成り行きである。
一方で、リーマンショック以降の世界経済は基本的に「金利の無い世界」が常態化し、証券投資のうまみも劣化した。こうして2010年以降、日本経済の対外投資はその収益源が「有価証券投資から海外企業買収へ」と変化した。
有価証券投資と異なり、買収した海外企業は容易に巻き戻されないであろうから、第一次所得収支のうち直接投資収益の比率が高いという関係性は今後定着していく可能性が高い。
この10年間で状況が変わった
ちなみに2023年5月末に財務省が公表した「本邦対外資産負債残高」によると、2022年末時点で日本が抱える対外純資産は418.6兆円と32年連続で世界最大を記録し、このうち約55%に相当する228.6兆円が直接投資だった。10年前、直接投資の比率は30%にも満たなかったので大きな変化である。
今後10年以上かけて直接投資収益が6〜7割を占める時代になっていくのか。いずれにせよ、日本の対外経済部門が構造変化の最中にあることは紛れもない事実である。
それは外貨の流出入状況にも直結する変化であろうから、円相場の現状や展望を語る上でも当然影響してくるはずだ。
「構造的な円安」というとかたくなに否定しようという向きもあるが、対外経済部門の変化に伴うごく自然な相場現象だと筆者は感じている。
上記のような投資収益(≒第一次所得収支)の構造変化は、円相場にどのような影響を持ち得るのか。端的には、「投資収益のどの程度の割合が円転されるのか」が注目論点になる。
まず、近年注目される直接投資収益から見ていこう。
直接投資収益は配当金・配分済支店収益、再投資収益、利子所得の3つから構成され、その構成比は配当金・配分済支店収益と再投資収益で半々というイメージである。配当金・配分済支店収益は海外から日本へ回帰する(≒円買いが発生する)ことが期待できる一方、再投資収益は文字通り、外貨のまま再投資されるので為替市場の需給には中立である。
日本に戻ってこない収益が半分
つまり、直接投資収益の半分は日本へ戻ってこない(円買いにつながらない)という理解になる。
具体的な数字で言えば、2022年の直接投資収益の受取は27兆5950億円だったが、このうち再投資収益は13兆410億円と約47%を占めていた。この再投資収益が直接投資収益に占める割合は過去10年余りで明確に切り上がっており、「戻ってこない円」が増えていることがわかる。
   再投資収益の割合が切り上がっている
片や、証券投資収益はどうか。
証券投資収益は配当金、債券利子等(短期債と中長期債)から構成されているが、7割が中長期債からの利子収入である。再投資収益と異なり円転される可能性を断定できるわけではないが、海外の有価証券(例えば米国債)から生じた利子は外貨のまま再投資されるのが普通だろう。
具体的な数字で言えば、2022年の証券投資収益の受取は18兆5230億円だったが、このうち債券利子は11兆4886億円と約62%を占める。この部分も恐らくほとんど円買いにつながらない。
まとめると、再投資収益と債券利子の合計24兆5296億円について円転は期待できないことになる。2022年の第一次所得収支の受取総額が約49兆9161億円だったので、約半分が円転されないイメージになる。
   第一次所得収支のうち円転を期待できる額
なお、ここでは簡易的に再投資収益と債券利子を円転が期待できない部分としたが、証券投資収益の配当金部分(2022年だと約7兆円の受取)についても再投資される部分が小さくないように思える。だとすると、第一次所得収支の受取に関し、円転が期待できない部分は半分以上にのぼる恐れがある。
こうした「第一次所得収支の受取の半分は戻ってこない」という事実は過去からそれほど変わっているわけではない。しかし、貿易赤字やその他サービス収支赤字から漏出する外貨が近年、著しく増えている。
貿易赤字にデジタル赤字で円流出
特に、アメリカ巨大IT企業に対するクラウド使用料やネット広告料の支払いで膨らむ「その他サービス収支赤字」はデジタル赤字という異名もあり、日本の経常収支が背負う新しい脆弱性として注目に値する(デジタルだけではなくコンサルティングサービスや研究開発サービスなどでも外貨支払いは増えている)。
こうした状況下、第一次所得収支の黒字は貴重な存在であるのは確かだが、「そのうちの半分は外貨のままで戻ってこない」という実態が続くことで「見かけ上の経常黒字は大きくても円安になる」という需給環境になりやすくなる。
対ドルで円が30%近くも下落するという歴史的な円安相場となった2022年の背景には、このような事実も関係があったのではないかと筆者は思っている。
2022年の第一次所得収支の黒字は35兆1857億円と過去最大を記録したが、貿易・サービス収支の赤字も21兆1638億円と過去最大を更新した結果、経常黒字は11兆5466億円にとどまった。
11兆円以上の経常黒字は世界的に見れば相応に大きいものではある。だが、上述したように、そもそも約50兆円に及ぶ第一次所得収支の受取総額のうち半分(約25兆円)が円転されていない可能性がある。第一次所得収支黒字は当然、額面通りの円買いを誘発しないだろう。
経常黒字が11兆円しかないのに、「25兆円分は円買いにならない」という事実があれば、経常収支は黒字でも本当の需給は円売りの方が多いという状況は十分想像がつく。
今までより「円安になりやすい」
なお、こうして脆弱性を増す経常収支の状況をよい方向に変えていくにはどうしたらいいのか。それは別途紙幅が必要な大きなテーマである。
例えば貿易収支改善を企図するならば、輸出増のために国内への製造業回帰や対内直接投資の喚起が求められるし、輸入減のためには原発の再稼働が求められるだろう。6月に閣議決定された「骨太の方針」で「2030年までに100兆円」と対内直接投資残高の目標が掲げられたのは、同様の問題意識があるのだと思われる。
そのほか近年赤字が広がっているサービス収支はインバウンドの呼び込みで旅行収支黒字を拡大させるほか、税制優遇策などを通じて研究開発拠点の誘致などを介しても収支改善を図ることができるかもしれない。
もちろん、ほかにも多くの争点はあろう。しかし、過去10年以上かけて日本の経常収支の形が変わってきたように、今後それがよい方向に変わっていくとしても一朝一夕にはいくまい。現状では、「今までもよりも円安になりやすい(円高になりにくい)国」という日本が直面している変化をまず理解する必要がある。
為替の需給環境を精緻に把握するのは不可能である。しかし、経常収支の符号(大きな黒字)だけを見て、円相場の頑健性を語るのが非常に難しい時代に入っているのは間違いないと筆者は考えている。
為替見通しを検討する上で、どうしてもアメリカの経済統計の一挙手一投足に目を奪われ、これらを受けたFRBの利上げ回数や幅などに議論が終始しやすいものの、それと同じくらいの目線で需給環境の変遷を注視すべき時代に入っているのではないかと感じる。
●FRB、重要任務は「インフレ圧力引き下げ」=NY連銀総裁 6/27
米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、インフレ圧力を低下させることが米連邦準備理事会(FRB)の重要な任務との認識を示した。
ウィリアムズ総裁は25日に国際決済銀行(BIS)で行われたパネル討論会で「物価の安定は持続的な経済と金融の安定の基盤であるため、物価の安定を取り戻すことが最も重要だ。物価の安定は二者択一ではなく必須なものだ」と述べた。
また、金融政策と金融の安定との関連性を否定。「金融政策の変更が金融の安定に関する脆弱性の出現に影響を与える中心的な役割を果たすとは明確になっていない」としたほか、バブルを阻止するために金融政策を活用することは、より広範な経済に受け入れがたい代償をもたらす可能性があるとした。
冒頭発言で金融政策の見通しに関する言及はなかった。
●バイデン氏支持率43% 4月から持ち直す 6/27
米調査会社ギャラップは26日、バイデン大統領の6月の支持率は43%で、就任後最低を記録した今年4月の37%から持ち直したと発表した。米政府の債務上限問題で野党共和党と折り合い、デフォルト(債務不履行)を回避したことを無党派層が評価したという。不支持率は54%。
調査は6月1〜22日に実施した。バイデン氏の支持率は2021年1月の就任直後は57%だったが、同年8月のアフガニスタン駐留米軍撤退を巡る混乱を批判されて以降、不支持率が支持率を上回っている。 
●金利「引き上げ」欧米と「上げない」日本で円安拡大か 1ユーロ=157円台 6/27
円安が進んでいます。1ユーロ=157円台をつけ、15年ぶりの円安水準を更新しました。輸入食品の値上がりで家計負担は一段と膨らんでいます。
ヨーロッパワインなどを販売する都内のワインショップ。円安ユーロ高の影響で最大2割ほど値上げしています。
そごう・西武 フード担当 小島裕也さん「こちらのフランスワインは、昨年と比べて1000円ほど値上がりしています。値上げをしているからこそ、客がしっかり商品を選びたいという傾向が多く見られる」
先月から新たに試飲コーナーを設置。セット販売も活用し、売上は伸びているといいます。輸入ワインの値上げの大きな要因は「円安」です。
記者「1ユーロ=157円台と、15年ぶりの水準です」
円安ユーロ高は先ほど1ユーロ=157円台をつけ、リーマンショックの2008年以来の水準に。ドルに対しても7か月ぶりの円安水準です。
足元で続く円安傾向を鈴木財務大臣はけん制しました。
鈴木財務大臣「急速で一方的な動きも見られる。行き過ぎた動きに対しては適切に対応する」
続く円安。背景にあるのは、欧米と日本の対照的な金融政策です。
欧米では物価高を抑え込もうと利上げを続けていますが、一方の日銀は…
日銀 植田総裁「粘り強く金融緩和を継続していく」
2%の物価安定目標の達成には「なお時間がかかる」として、大規模な金融緩和の継続を決めました。
金利を「引き上げる」欧米と、「上げない」日本。政策の方向性の違いが金利差をさらに拡大させるとの見方から円安が進んでいるのです。
日銀 植田総裁「(Q.円安による物価高の国民負担をどう考えるか)国民の大きな負担になっていることは強く認識している」
植田総裁は国民の負担を認めつつも、当面いまの金融政策を続ける姿勢です。
ただ、このまま円安が続けば、物価高による家計負担も続くことになります。
●1ユーロ=157円台に 2008年9月以来 リーマンショック以来の円安ユーロ高 6/27
円安が止まりません。円相場は一時1ユーロ=157円台をつけ、リーマンショックが起きた2008年9月以来、およそ15年ぶりの円安・ユーロ高水準を更新しました。
27日の外国為替市場で、円相場はヨーロッパの通貨・ユーロに対し、一時、1ユーロ=157円台をつけ、リーマンショックが起きた2008年9月以来、およそ15年ぶりの円安・ユーロ高水準を更新しました。
ヨーロッパ中央銀行であるECBは今月15日、歴史的な物価高を抑え込もうと、8会合連続で利上げに踏み切りました。
一方、日銀は当面、現在の大規模緩和政策を続ける姿勢を示していて、日欧の金利差がさらに広がるのではないかという見立てから、円安ユーロ高に拍車がかかっています。
●欧州経済減速ショック、日本株4日続落! 欧州発の世界金融危機 6/27
欧州経済が、景気後退に入った。ショックを受けた米国株式市場は、2023年6月22日の先週末から続落を続け、日経平均株価も6月27日現在、4営業日連続で下落した。
しかし、米国を上回る高いインフレが収まらず、欧州の中央銀行が相次いで利上げを加速させ、経済減速に拍車をかけている。
世界経済はどうなるのか。欧州発世界金融危機が危惧される事態になった。エコノミストの分析を読み解くと――。
マイナスに沈んだ製造業に続き、支えだったサービス業まで...
報道をまとめると、世界的な格付会社「S&Pグローバル」(本社米国)が6月22日(現地時間)に発表した6月のユーロ圏の総合購買担当者景気指数(PMI)速報値が、世界の市場に衝撃を与えた。
PMIは50.3で、前月の52.8から低下し、5か月ぶりの低水準となった。好不況の分岐点である50をかろうじて上回ったものの、市場予想の52.5を大きく下回った。昨年7月以来、50割れが続いている製造業PMIは、5月の44.8から43.6に低下した。これは新型コロナが世界的に拡大していた2020年5月以来の低水準だ。
一方、落ち込んだ製造業に代わり、経済を下支えしてきたサービス業にもブレーキがかかってきた。サービス業PMIが55.1から52.4へと一気に下落。製造業の悪化を牽引したのはドイツ、フランスだが、サービス業でもドイツ、フランス、その他ユーロ圏がそろって下押しするありさまとなった。
同じ日に「S&Pグローバル」が発表した英国のPMIも、構図は同じだった。
製造業PMIは47.1から46.2へと50割れが加速した。サービス業PMIも55.2から53.7へと下落。ユーロ圏・英国ともに製造業はすでに景気後退圏に入っており、サービス業の踏ん張りで持ちこたえていたが、いよいよ全体でも景気後退圏に近づいてきた。
ちなみに、実質GDP成長率では、ユーロ圏は2022年10〜12月に前期比マイナス0.1%、2023年1〜3月に同マイナス0.1%と、2四半期連続のマイナスを記録、「テクニカル・リセッション」(機械的判定に基づく景気後退)入りしている。
停滞する経済に打撃覚悟で、大幅利上げに踏み切った英中銀
こうしたなか、英イングランド銀行(中央銀行)は6月22日に突然、政策金利を0.5%引き上げ、5.0%にすると発表した。高止まりするインフレの抑制に向け、通常の2倍に当たる大幅利上げで金融引き締めを加速させる決断に踏み切った。
この「サプライズ利上げ」に米ウォール街は衝撃を受け、株価が大きく下落した。
厳しい金融引締めは、英国経済をさらに悪化させることは確実だ。世界の金融市場がユーロ圏と英国の景気後退を強く意識することとなった。
こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。
ヤフーニュースコメント欄では、ニッセイ基礎研究所研究理事の伊藤さゆり氏が、英国中央銀行の「サプライズ利上げ」について、
「今回は経済・物価見通しの改定や総裁会見がない会合であり、3会合ぶりとなる0.5%の利上げは異例の決定と言えるだろう。背景には、現時点で最新となる5月時点の英中銀の見通しが、CPI(消費者物価指数)も、サービス価格も、賃金上昇率も、実績値よりも0.5%も低く、予測の誤りと政策対応の遅れへの批判が高まっていたことがある」
と説明。そのうえで、
「昨日(6月21日)公表のCPIは、前年同月比8.7%%、食品価格に至っては同18.4%も上昇しており、生活費危機は深刻化している。スナク政権は、年初にインフレ率半減を優先課題に掲げながらも、有効な手立てを打てず、低支持率が続く。BOE(英イングランド銀行)への信頼感も、先週公表されたサーベイ調査によって、大きく損なわれていることが確認されている。停滞する経済に打撃を及ぼすことを覚悟のうえで、大幅利上げに踏み込まざるを得ないところまで、政権も中銀も追い込まれている」と、英国経済の深刻さを指摘した。
ユーロ圏経済のけん引役ドイツが、衝撃的な落ち込み
しかし、ユーロ圏はまだ「小幅な景気後退」であるため、ECB(欧州中央銀行)は、目標である「2%」を大幅に上回る物価上昇率の抑制を優先、6月の理事会で0.25%の利上げを決めた。さらに、ラガルド総裁は「(利上げの)旅は終わっていない」として7月の利上げも示唆している。
こうしたECBの「タカ派」姿勢が、景気後退を加速させるのではないかと懸念を示すのは、住友商事グローバルリサーチのシニアエコノミスト鈴木将之氏だ。
鈴木氏はリポート「景気後退でも利上げを継続するユーロ圏経済」(6月23日付)のなかで、ユーロ圏の景況感指数の悪化を示すグラフ【図表1】を紹介しながら、こう述べている。
   (図表1)ユーロ圏の景況感指数
「ユーロ圏経済のけん引役であるドイツは2023年Q1(第1四半期)まで2四半期連続でマイナス成長になっており、先行きの回復に期待を持ちにくい状況が続いている。例えば、ドイツのIfo経済研究所の企業景況感指数(2015年=100)は4月の93.4から5月の91.7へと低下した。また、シンクタンクbrugelによると、ドイツはエネルギー対策として2021年9月以降、2650億ユーロの資金を投じてきた(3月23日時点)。それでも、2023年Q1にかけてドイツ経済が景気後退局面入りした、という事実は重い。エネルギー価格が落ち着かなければ、景気の足取りは重いものになるだろう」
一方、ECBの経済見通し(2023年6月)によると、ユーロ圏の消費者物価指数は、2025年にようやくプラス2.2%を示し、2年後にならないと、目標である2%が視野に入らない。その間、実質GDP成長率は2023年のプラス0.9%から2025年にプラス1.6%と、潜在成長率並みに回復する姿が想定されている。
ただし、このように回復する前提条件がかなり「甘い期待」なのだ。
2023年第2四半期Q2以降に、エネルギー価格が緩和し海外需要が力強く発展、さらに企業が受注残をこなすことができること。また、堅調な労働市場を背景に、実質所得が改善することなどが挙げられている。
鈴木氏はこう懸念を示している。
「米中の景気減速や、物価上昇の高止まりに伴う購買力の回復の遅れなどを踏まえると、すでに上記の前提条件の一部が崩れているようにも見える。ユーロ圏経済は、ECBの想定に比べて厳しい道のりを歩むのかもしれない」
ユーロ圏の悪いシナリオ...不動産が引き金の「金融危機」
今後のユーロ圏のリスク要因として、米の銀行破綻が欧州に飛び火し、依然燻(くす)り続ける「金融不安」を挙げるのは、三井物産戦略研究所国際情報部の平石隆司氏だ。
平石氏のリポート「燻(くすぶ)る金融不安とユーロ圏経済の行方〜リスクは貸し渋りと実体経済悪化の悪循環〜」(6月20日付)は、10ページにわたる詳細な報告だが、そのなかで金融不安が実体経済に与える影響を示した【図表2】を紹介。
そして、今後ユーロ圏がたどる「メインシナリオ」と「リスクシナリオ」の2つの道を説明している。順を追って整理すると、以下のようになる。
   (図表2)金融不安が実体経済に与える影響
(1)メインシナリオ=金融不安は燻り続けるが、金融危機は回避。インフレ圧力が根強く、ECBが利下げに転じるのは消費者物価上昇率が目標である2%程度に落ち着いてから。2024年半ば以降にずれ込む。
一方景気は、利上げ効果の浸透によって、内需の低迷が続き、成長率は年率ゼロ%台の底ばいが続く。ECBの金融引き締めと銀行の収益環境の悪化が続くため、金融不安は燻り続ける。
しかし、金融機関個社の問題が表面化しても、金融当局の迅速かつ柔軟な対応が維持される限り、「金融危機」へ発展する蓋然性は小さい。
(2)ここで、シナリオを左右するファクターが登場する。特に注意すべきは、バランスシート改善のための銀行の貸し渋りを通じた実体経済の悪化だ【再び図表2】。足下で急速に銀行の貸し出し基準が厳格化しており、今後の動向次第では以下のリスクシナリオが実現する恐れもある。
(3)リスクシナリオ=貸し渋りと実体経済悪化の悪循環が激化して、金融危機発生。貸し渋りの深刻化から実体経済がさらに悪化し、不良債権増加、そして金融不安の悪化を招き、それが一層の貸し渋りを招くという悪循環が激しくなると、金融危機が引き起こされる。
現状程度で貸し出し基準の厳格化に歯止めがかかれば、危機は回避されるが、リーマンショック時の水準に厳格化が続くと、リスクシナリオが実現する恐れがある。
銀行による貸し渋りの悪影響を受けやすい「弱い環」として、金融緩和期に大量の資金が流入した不動産セクターに注意が必要だ【図表3】。
特に商業用不動産は、パンデミックで盛んとなった在宅勤務によってオフィス需要が減る構造的変化に直面している。現状では価格下落は限定的だが、この動向を注視しておく必要がある。
   (図表3)ユーロ圏の不動産価格
たしかに【図表3】を見ると、商業用不動産価格は2021年以降、下落を続けている。これが、大量の不良債権増加につながると、一気に「金融危機」が広がるというわけだ。

 

●債務不履行続出の商業用不動産は新たな危機の引き金か? 6/28
今年、金利上昇の影響で米地銀が数行倒れた。ここに続きかねない危機の震源が、商業用不動産である。特にオフィスでは状況が深刻で、空室率が高まっており、借入コストの上昇が追い討ちをかけている。
サンフランシスコの中心街では、ここ数ヶ月の間に、いくつかのオフィスビルが3年前の4分の1の価格で取引されている。ソフトバンググループ(SBG)傘下のWeWorkは4月、サンフランシスコの自社ビルが抱えていた2億4,000万ドルのローンを不履行にした。商業用不動産(CRE)データを追跡するプラットフォームであるTreppによると、このビルは、CMBS(商業不動産担保証券)市場で最後に融資を受けた2014年には2,810万ドルと評価されていたが、新たな評価では950万ドルに過ぎなかった。
サンフランシスコでは、数十億ドルの債務不履行が予期されている。ウェストフィールド、ブルックフィールド・プロパティーズ、パークホテルズ&リゾーツなどの主要な不動産所有者は、ローンの支払いを停止し、不動産を明け渡す準備をしている、とフィナンシャル・タイムズが報じた。
ウェストフィールドとブルックフィールドはサンフランシスコのダウンタウンモールを担保にした5億5,800万ドルのローンを不履行とし、パークホテルズは7億2,500万ドルのローンの支払いを停止した後、一流ホテル2軒を引き渡す予定だ。
これらの債務不履行は、サンフランシスコのCREセクターの苦難のシグナルを反映している。しかし、これはサンフランシスコに限った状況ではない。米国から欧州、香港に至るまで、世界中のCREが、10年にわたる低利融資の終焉を受け、次の危機を予測する投資家の焦点となっている。
高い空室率、資本コストの増加、資産価値の下落など、課題はさまざまだ。金利上昇によってリスクのない国債がより魅力的になり、CRE投資家は流動性の低い資産に対してより高い利回りを要求せざるを得なくなった。一方、バリュエーションの下落は企業の借入能力の低下を招き、さらなる負債と評価額の切り下げという悪循環を生む可能性がある。
欧州は、歴史的に不動産利回りが低く、負債への依存度が高いため、特に影響を受けている。しかし、米国では、新築ビルや空きビルの過剰、リモートワークの継続的な普及により、より大幅な評価額の下落が見られている。
大手銀行、調査会社、アドバイザリー会社はCREセクターの将来について、それぞれ異なる見解を示している。以下は各機関の見解の要約である。
•英リサーチ会社Capital Economics:2025年までにオフィスの価値は35%急落し、2040年までに回復する見込みはない。これは、需要の減少、空室率の上昇、負債の償却のためだ。ハイブリッドワークやリモートワークが不動産を再構築する中、回復にはさらに15年以上かかると予想した。
•ゴールドマン・サックス:オフィスビルには「機能的陳腐化」のリスクがあると警告している(4月上旬時点)。CREのオーナーが金利上昇にさらされること、借り換えが困難であること、融資条件が厳しくなっていることが主なリスクであると指摘している。また、CRE取引において小規模銀行が果たす役割の大きさにも言及している。
•モルガン・スタンレー:CREの前途は厳しく、ピーク時からの価格の下落率は40%に達する可能性があり、2007〜2008年の金融危機よりも景気が悪化すると予測している(4月上旬時点)。空室率の上昇、不動産価値の下落、融資条件の厳格化に伴うローンの満期が迫っていることなどが主な問題として取り上げられている。
•ムーディーズ:金利上昇、在宅勤務の増加、銀行セクターのストレスなどにより、特にオフィスセクターを中心にCREのリスクが高まっているとの報告書を発表した。報告書によると、オフィス向け融資にデフォルトリスクが存在し、と指摘している。CRE債務残高の約16.7%にあたる7360億ドルがオフィス向け融資で占められていると明らかにしました。さらに、CRE債務残高の16%を占める商業用モーゲージ担保証券(CMBS)についても、借り換え時に問題が生じる可能性がある
•MSCI Real Assets:報告書によると、米国のCRE業界では、今年第1四半期、不良資産は約640億ドルに達した。借入コストの上昇は業界に大きな影響を与え、価格を押し下げ、一部の所有者を債務不履行に導いている。経営難に陥る可能性があるのは、いくつかの地方銀行が破綻した後の信用収縮期に借り換えを必要とするビルが主である、と報告書は想定する
一部の観測者は危機を否定している。
•PwC:高金利やパンデミックによるリモートワークへのシフトといった課題にもかかわらず、PwCはこのセクターは危機的状況にない。取引量はすべてのセクターで減少しているが、状況が改善すればリース活動やディールフローは回復すると予測している。
•バンク・オブ・アメリカ:CREセクターが直面している課題は管理可能であり、米国経済のシステミック・リスクにはならない。借り手はデフォルトを回避するために資金調達の戦術を取ることができると考えている。
●FRB資産削減継続、短期金融市場がお墨付きへ−準備預金に影響なく 6/28
米金融当局が新型コロナウイルス禍への対応で大量に買い入れた米財務省証券の保有削減を継続することについて、短期金融市場はお墨付きを与えつつある。
金融当局が保有する米政府証券の一部について再投資しないことで、財務省は市場からの借り入れ拡大を余儀なくされている。市場での借り入れが増えることで、銀行システムの準備預金残高が過去に問題を引き起こした水準に減少するリスクがある。
ただ今のところ、そうした状況は生じていない。6月初めに米議会が連邦債務上限の適用停止を承認して以来、米財務省短期証券(TB)発行額が急増しているが、それを消化する潤沢な資金を持つ受け皿が他にあるためだと考えられる。
ライトソンICAPのエコノミスト、ルー・クランドール氏は顧客向けリポートで、「いずれ準備預金の水準を巡る議論が行われるだろうが、当面はないだろう」と指摘した。
通常、TBの大口の買い手であるマネーマーケットファンド(MMF)は、債務上限が有効だった期間にTB不足のため手元資金を米金融当局の翌日物リバースレポ(RRP)に預けていた。RRPの利用低迷は、TB供給増加分の大半をMMFが購入し、米銀の準備預金への影響を抑えていることを示唆している。
準備預金残高は総額でなお3兆ドル(約430兆円)を超える。ウォール街のストラテジストらはあまり確信はないものの、銀行システムの円滑な機能に最低2兆5000億ドルが必要だとみている。
ライトソンによると、5月終盤以降のRRP応札・落札額減少分は、TB供給増加額(3450億ドル)の約67%に相当する。RRPの応札・落札額は1年強ぶりに2兆ドルを下回った。
●NY円、一時144円18銭 7カ月半ぶり円安水準 6/28
27日のニューヨーク外国為替市場の円相場は対ドルで下落し、一時1ドル=144円18銭と昨年11月以来、約7カ月半ぶりの円安ドル高水準を付けた。米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ再開観測が強まって米長期金利が上昇し、日米の金利差拡大を意識した円売りドル買いが進んだ。
午後5時現在は、前日比58銭円安ドル高の1ドル=144円03〜13銭を付けた。ユーロは1ユーロ=1・0956〜66ドル、157円82〜92銭。朝方発表された米経済指標が市場予想を上回り、景気が堅調なのを示した。このため、今月の連邦公開市場委員会(FOMC)で11会合ぶりに政策金利の引き上げを見送ったFRBが、7月の会合では利上げを再開するとの見方が強まった。
FRBは年内にあと2回の利上げを決定するとみられる一方、日銀は大規模な金融緩和を続ける姿勢を変えていない。日米金利差の拡大が続くとの思惑から、円が売られる状況が続いている。鈴木俊一財務相が今月27日に「一方的な動きもみられる」と円安進行を牽制(けんせい)したものの、市場の反応は限られた。
●デフォルトでも「買い」? 米国債の特権的地位 6/28
「大チャンスに決まってるじゃない。絶対に『買い』だよ」。世界最高位の信用力を誇る米国債が史上初めて債務不履行(デフォルト)に陥れば、債券ディーラーはどんな行動をとるのか。米連邦政府の借金限度額「債務上限」の引き上げ交渉が難航し、デフォルト懸念が強まっていた5月下旬、現地の大手銀行幹部に本音を尋ねると、意外な答えが返ってきた。
デフォルトしたり格下げされたりした債券は普通は「売り」が優勢になるのだが、世界で最も安全な「ゼロリスク」資産とされる米国債には、この常識が当てはまらない。焦って安値で売りに出る投資家が出てくれば、もうけの好機とみて喜んで買うというのだ。
理由は、世界最大の経済大国である米国の支払い能力の高さ。債務上限問題が長引き、手元資金が一時的に枯渇してデフォルトを起こす可能性は確かにある。だが、そこでネックになっているのは与野党の政治対立に過ぎず、いずれ解決されるのは確実。「財政基盤の弱い新興国と違い、多少遅れても債務は絶対履行されるとの確信がある」(前述の銀行幹部)というわけだ。
米国の信用力の高さは過去にも証明されている。オバマ政権時代の2011年夏、同じく債務上限の引き上げ交渉が難航したときだ。格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国債の格付けを史上初めて最高位の「AAA」から引き下げたにもかかわらず、米国債は逆に買われ、値上がりした。米国債の格下げ↓金融市場が混乱する恐れ↓安全資産への資金移動↓最も「安全」な米国債に資金流入――という冗談のような展開が起きたのだ。
現在の国際金融市場は、「米国債は絶対安全」との前提の下に成立しており、「米中戦争でも起きない限り、米国債が売り込まれる可能性は考えにくい」(大手金融機関アナリスト)との見方が少なくない。とはいえ、米国債のデフォルトは1776年の米国建国以来初めての事態。どんな衝撃に見舞われるのか本当のところ誰にも予測できず、イエレン財務長官が警告した「経済的破滅」の恐れも十分にある。米国内の政治対立に世界経済が振り回される理由はどこにもない。米政治は債務上限問題が繰り返されないよう早急に対処すべきだ。 
●日韓関係改善と米国の動き 通貨スワップ再開 6/28
日韓両政府が29日に東京で開く「財務対話」で、金融危機時に外貨を融通する「通貨交換(スワップ)協定」の再開に合意する方向で最終調整に入った。日本政府は27日、輸出手続き上優遇する「グループA(旧ホワイト国)」に韓国を再指定するための政令改正も閣議決定した。多くの懸案が残るなか、急速な日韓関係改善に驚くばかりだが、なぜか、ジョー・バイデン米大統領は「自身の外交成果」と強調し、ラーム・エマニュエル駐日米国大使も歓迎のツイートをしている。岸田文雄政権は大丈夫なのか。
「私たちは、同盟国を再び1つにまとめようと懸命に働いた」「第二次世界大戦から長い年月を経て、日本と韓国は和解を果たした」
バイデン氏は19日、カリフォルニア州ロスガトスで開催された行事で、政権の「外交的成果」の1つとして、こう紹介した。
岸田文雄首相と、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が3月の首脳会談で関係正常化した背景に、バイデン政権の働きかけがあったのか。
29日の日韓財務対話には、鈴木俊一財務相と、韓国の秋慶鎬(チュ・ギョンホ)経済副首相兼企画財政相が参加する。スワップ協定の再開は主要議題の1つとなるという。
日韓スワップ協定は、1997年のアジア通貨危機に韓国も巻き込まれた教訓から結ばれた。2015年に、「反日」姿勢を強めた朴槿恵(パク・クネ)政権側から「協定延長は不要」との声が出て、打ち切られた。経済危機に陥る可能性のある韓国にメリットがあるが、日本にはない。
また、日本政府は27日、韓国を輸出手続き上優遇する「グループA」に再指定するための政令改正を閣議決定した。来月21日に施行する。今回の再指定については、いわゆる「元徴用工」問題をめぐる韓国側の解決策を受けた動きと報じる向きもあるが、これはおかしい。
安倍晋三政権時代の日本政府が19年、韓国を「グループA」から除外したのは、大量破壊兵器に転用可能な戦略物資について、韓国側の輸出管理に疑わしい事案が続出したためだ。
安倍氏に近い西村康稔経産相は27日の記者会見で、「今後も政策対話を継続し、第三国への不適切な輸出などの問題が生じた場合は適切な対応を求めたい」と語った。
ただ、バイデン政権は単純に歓迎しているようだ。
エマニュエル大使は27日、「輸出手続き簡略化の優遇措置対象国に韓国を復帰させることを日本政府が決定しました。岸田首相が示してくださったのは、この地域がまさに必要とするリーダーシップです」「米国の同盟国である日韓は、政治的駆け引きよりも目的を重視し、共有する繁栄のために共通の価値観を推進しているのです」とツイートした。
同氏は、LGBT法をめぐっても、発信が目立った。
福井県立大学の島田洋一名誉教授は「岸田政権は『米国の言いなり』のように見える。バイデン氏は誇れる外交的成果が少ないとされ、『岸田政権を導いた』という宣伝をしたい思惑もあるだろう。日本でのLGBT法成立については、米民主党内で評価する声もあると聞く。岸田政権が現状の外交姿勢を続ければ、中国やロシアなどにも『岸田政権は強く背中を押せば動かせる』とのイメージを与えかねない。悪い波及効果が懸念される」と語った。
●韓日8年ぶりに「ドルスワップ」推進…「韓米スワップ効果」 6/28
7年ぶりの韓日通貨スワップ再開交渉が進行される中で具体的に「ドルスワップ方式」が議論されていると確認された。日本は米国と無期限・無制限の常時スワップを締結した状態であるだけに、事実上「韓米通貨スワップ」の効果も得られるという分析が出ている。
韓国政府高位関係者は28日、「今回の韓日通貨スワップはドルスワップで締結される可能性が大きい。(規模は)過去に締結されたスワップの最小水準から議論を始める予定」と明らかにした。
秋慶鎬(チュ・ギョンホ)副首相兼企画財政部長官は29日に東京で開かれる第8回韓日財務相会議で日本の鈴木俊一財務相と会いこうした内容を協議する予定だ。両国の財務相会議が開かれるのは7年ぶりだ。共同通信など日本メディアもこの日、韓日通貨スワップ再開合意に向けた最終調整が進行中と伝えるとともに、両国が通貨スワップの規模と期間のような細部的事項まで合意した上で発表する予定だと報じた。
韓国と日本が通貨スワップを初めて締結したのは2001年だ。20億ドルで始め、その後追加協定が続いた。金融危機を経て残高は2011年700億ドルまで増えた。その後韓日関係が冷え込んで通貨スワップは2015年2月で満了した。
ただ今回の通貨スワップ規模は大きくない見通しだ。経済危機が起きたわけでもなく、韓国もやはりドルが急いで必要な状況ではないためだ。いつでも引き出して使える外貨準備高は4月末基準で4209億8000万ドルに達する。中国、日本。、スイスなどに次いで世界9位規模だ。韓国が1年以内に外国に返済しなければならない短期対外債務が1737億ドルほどで、これを2倍上回るほどのドルをすでに保有している。
その上韓国は3月末基準で外国に返済すべき対外債務6650億ドルよりも貸し付けた対外債権が1兆212億ドルと3562億ドル多い純債権国だ。両国が今回再開する通貨スワップを最小規模で議論している理由もここにある。ドルをさらに増やすというよりは、韓日両国が危機の時に活用できる経済協力の窓口を再び開くという象徴的意味合いが大きい。
それでも円スワップではなくドルスワップで推進され実効性がはるかに大きくなったという分析が出ている。ドルスワップを結ぶことになれば非常状況で韓国のウォンと日本のドルを、反対に日本の円と韓国のドルを一定の割合で交換できることになる。円スワップと比較してドルを直接的に受給できるだけに流動性の側面ではるかに効率的だという利点がある。
最近円安の影響で円の価値が落ちている状況という点も実効性を加える。世宗(セジョン)大学経営学部のキム・テジョン教授は「円が弱い状況で日本銀行も低金利基調を維持するだけにドル基準でスワップ協定を締結するのが有利だ」と明らかにした。
間接的な「韓米通貨スワップ」効果も外国為替市場の不安感を減らすのに役割をするものとみられる。現在米連邦準備制度理事会(FRB)は日本をはじめ欧州連合(EU)、スイス、英国、カナダの5カ国と無制限・無期限の常設通貨スワップを結んでいる。この状況で韓国が日本と通貨スワップを結ぶことになれば韓米通貨スワップでなくとも同様の効果を得られると分析される。対外経済政策研究院(KIEP)のチョン・ヨンシク選任研究委員は「米国との外国為替のつながりがもうひとつできる格好。日本は事実上無制限に発行される『ドルマイナス通帳』を持っているので構造的にドルファンディングに制限がない」と明らかにした。
韓日通貨スワップは2012年に当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が独島(ドクト、日本名・竹島)を訪問して延長に向けた議論が中断された。通常通貨スワップは既存の契約期間を延長したり追加で締結する方式で維持される。最後に残っていた100億ドルの契約が2015年2月で満了し両国間の通貨スワップは8年以上再開されていない。朴槿恵(パク・クネ)政権当時の2016年には再開に向け議論があった。同年柳一鎬(ユ・イルホ)経済副首相と麻生太郎財務相が会談し韓日通貨スワップを再び締結することに合意したが、日本側が一方的に後続議論を中断して失敗に終わった。同年末に釜山(プサン)の日本領事館前に慰安婦少女像を設置したことを問題にしてだ。
●危うい「日韓協力ムード」 韓国「貿易立国」破綻で日本から先端技術パクリ 6/28
日韓財務対話が29日、東京で7年ぶりに再開される。両国政府は、金融危機時に外貨を融通する「日韓通貨交換(スワップ)協定」を再開する方向で最終調整に入った。岸田文雄政権は27日、輸出手続き上優遇する「グループA(旧ホワイト国)」に、韓国を再指定するための政令改正も閣議決定した。岸田首相と、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が日韓関係の正常化で合意したことを受けたようだが、両国には、島根県・竹島の不法占拠や、韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件など放置できない問題が多々ある。気になるジョー・バイデン米大統領と、ラーム・エマニュエル駐日米国大使の発信。日本の主権・国益は守られているのか。ジャーナリストの室谷克実氏は、日本の最先端技術が危険にさらされかねない「日韓協力ムード」の危うさを暴いた。
日韓のマスコミには「日韓協力ムード」があふれている。日本の場合、岸田文雄政権が旗を振り、本質的にマゾヒスティックな「対韓屈従願望」を持つ、多くのマスコミが靡(なび)いているからだ。
しかし、ここに大きな問題がある。
日本人が思う「協力」と、韓国人が語る「協力」では、実態としての意味がまったく違うことだ。韓国政府や韓国企業が上位パートナー≠ノ対して語る「協力」とは、極言すれば「ただでもらうこと」「パクリできる仲になること」だ。
パクリ意欲に満ちた使節団を、日本が「おもてなしの心」で迎えていたら、過去の例なら半導体、最近の例なら高級果実のような大損失が待ち受けている。
韓国は、日本とは異なり「貿易立国」の路線を採り続けている。ところが、最大の儲け先だった中国との貿易が赤字に転換した。
米軍の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配置に始まる限韓令や、中国経済そのものの落ち込みもあるが、最大の問題は技術力だ。韓国で製造される工業製品は、中国でも生産できるようになった。その状況を突き抜ける、つまり「やはり韓国製でなければダメだ」と評価されるような製品は韓国には存在しない。
さらに半導体不況が韓国の「貿易立国」路線にブレーキをかけている。
前政権は「日本には2度と負けない」「いまや韓国は世界を先導する中枢国家になった」と豪語した。そして先端製品の素材、部品、製造装備を国産化すると力んでみた。もちろん政府予算も投入した。大本営発表は「順調な進展」だったが、いま点検すれば先端製品の素材、部品、製造装備の対日輸入額は微増している。
半導体に関しては、システム半導体もファンドリー部門もトップ国家との差が広がるばかりだ。
EU(欧州連合)の内燃機関車に対する厳しい環境基準を突破できる技術もない。水素部門、量子コンピューターの研究も遅々として進んでいない。
だから、いますぐカネを稼げる製品を製造できる技術、いずれ世界をリードする最先端技術を何としてでも手に入れたいのだ。
韓国の産業通商資源省は6月初旬、外部の専門家や経営者も招いて拡大対策会議を開いた。同省の公式ホームページには「韓米・韓日首脳順訪の後続措置として、先端技術協力の積極模索」とある。
韓国が、米国あるいは日本に提供できる先端技術が何かあるのか。ないのに「協力方策を積極的に模索」とは、パクリ意欲の表明としか理解できまい。
同省はかねて、「インドネシア産LNG(液化天然ガス)の日韓共同購入の協力」にも意欲を示している。
「簡単にできそうな協力だ」と考える向きもあろう。だが、日本は長期契約で比較的安価に購入している。スポット買いで負担が大きい韓国としては、日本の買値で入手することを夢想しているのだろうが、インドネシアが黙っているはずはない。
韓国の「対日協力攻勢」を純真な気持ち≠ナ受け止めていてはならない。
対中国、対北朝鮮の軍事協力は進めなければならない。しかし、他の部門の「協力」については、用心第一。「甘い策略」に乗る公務員、企業経営者、あるいは農協指導者が出ないことを願う。
●混乱つづくロシア経済は意外に堅調 制裁に加わっていない中国貿易拡大 6/28
民間軍事会社・ワグネルの反乱により、政治的には不安定な様相を見せるロシアだが、経済は意外にも堅調だ。
2022年のドル建て名目GDPは21%増、ルーブル建てで算出すると12%増である(IMF統計より)。ルーブル建てよりもドル建ての伸び率高いが、これは当時の対ドル為替レートが前年と比べルーブル高に振れたため。ルーブル対ドルレートは侵攻直後こそ暴落したが、中央銀行が強力な資本規制を導入したことで、短期間で危機を乗り越えている。
物価高の影響があって、実質ベースでは2.1%減とマイナス成長ではあったが、ロシアの主要銀行をSWIFT(国際銀行間通信協会)から締め出すような強力な制裁を行った割には、輸入不足、供給不足は限定的であった。
IMFが4月11日に発表した2023年におけるロシアの実質経済成長率は0.7%、2024年は1.3%と予想している。2022年はエネルギー価格の急騰により輸出が増加、財政支出の拡大も加わり、景気は持ちこたえたと分析している。現在の為替はややルーブル安に振れているが、物価は落ち着いてきた。ロシアへの制裁は現在も続いているものの、その制裁がロシア経済に与える影響はそれほど大きくないようだ。
ロシアとの経済的な結びつきの小さい米国は金融、貿易取引を厳しく制限することができても、エネルギー供給をロシアに頼る欧州ではそれは簡単ではない。米国の同盟国ですら、完全にロシアとの取引をゼロにすることはできない。
ロシアへの経済制裁の効果は小さい
制裁に加わっていない非米同盟国、特に中国は、ロシアとの貿易取引を大きく拡大させている。2022年のロシアへの輸出(ドルベース、以下同様)は12.8%増、輸入は43.4%増、2023年については5月までの累計で輸出は75.6%増、輸入は20.4%増であった。5月累計の中国全体の輸出が0.3%増、輸入が6.7%減である点を考慮すれば、ロシアとの貿易の伸びは突出している。
もう少し具体的に調べてみると、ロシア国内で不足が予想される自動車、自動車部品などのロシアへの輸出は5月累計で301.3%増加しており、また、販売先に困る鉱物燃料などについてはロシアからの輸入が21.3%増加している。ちなみに、2022年の鉱物燃料の輸入は59.5%増加している。
貿易大国の中国が人民元建でロシアとの貿易を制限なく拡大する限り、ロシアへの金融、経済制裁の効果は小さい。加えてOPECプラスがロシア寄りの態度を示し続け、今後も減産により原油、エネルギー価格の下落を食い止めようとすれば、それもロシアへの大きな支援策となるだろう。
ウクライナ侵攻後、日米欧は防衛費の増加ペースを加速させている。経済面では米国を中心に軍事産業は今後も業績を大きく伸ばすことになるだろうが、一方で、財政の悪化、公共投資の不足、民需品生産の圧迫、グローバルなサプライチェーンの非効率化など、その弊害も大きい。
ウクライナ戦線が長期化することは、世界経済にとって大きなリスクではないだろうか。
●円安進行1ドル=144円台半ば ECBフォーラムで植田総裁が金融緩和継続 6/29
円安が加速しています。外国為替市場でさきほど円相場が下落し、一時1ドル=144円50銭台をつけました。
去年11月以来およそ7か月ぶりの円安水準です。
きっかけは日銀の総裁の発言です。
現在、各国の中央銀行総裁が集まる討論会が行われていますが、欧米が利上げをつづける姿勢を示す一方、植田総裁は金融緩和を継続する姿勢を改めて見せたことで、欧米と日本の金利差が拡大するとの見方が強まり、円が売られました。
●米7月利上げ否定せず、連続引き締めの可能性も=FRB議長 6/28
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は28日、欧州中央銀行(ECB)が主催する国際金融会議「ECBフォーラム」で、大半のFRB当局者が年内あと2回の利上げを見込んでいると述べ、次回7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを実施する可能性を否定しなかった。
パウエル議長は、利上げに関し「長い道のりを歩んできた」とし、6月会合での利上げ見送りはこれまでに実施した利上げが経済にどのように影響しているか見極めるためだったと説明。今後の政策判断は経済がどのように推移するかによって決定されるとし、「われわれが決定した唯一のことは6月の会合で利上げを見送ったことだ」と強調した。
同時に、FRBは将来の利上げを巡り何ら決定していないとし、今後の会合での連続利上げの可能性を排除しないと言明。年内のいずれかの時点で「追加利上げが適切となる可能性がある」とした。
次回の連邦公開市場委員会(FOMC)は7月25─26日に予定されている。
パウエル議長は、インフレ率が非常に高水準で金融政策のスタンスがそのような環境に一致していないときの大規模かつ迅速なペースでの利上げは適切だったと言及。ただ、金融政策は現在、あるべき姿に近づいており、これまでの利上げがどのように経済に浸透しているか不透明なため、FRBが利上げペースを緩めることは理にかなっているとした。
一方で「政策は制約的だが、十分制約的ではないかもしれないし、十分長期にわたり制約的であったわけでもない」とし、追加利上げの可能性を残した。
一連のFRBによる積極的な利上げを受け、米経済が景気後退に陥る可能性は「最も起こり得ない」シナリオという見解を示しつつも、「可能性はかなりある」と述べた。
また、インフレ率が大幅に鈍化すれば、FRBは制約的な政策を長期的に継続する必要がなくなるかもしれないが、米国のインフレ率が今年または来年にFRBの目標である2%に回帰するとは予想しておらず、2%回帰は2025年以降になるとの見通しを示した。

 

●米FRB ストレステスト結果公表 “深刻不況でも融資継続可能” 6/29
銀行の破綻が相次いだアメリカで、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は銀行経営の健全性の審査、いわゆる「ストレステスト」の結果を公表しました。深刻な不況に陥った場合でも、今回対象となった大手金融機関については企業などへの融資を継続できるとしています。
アメリカでは2008年の金融危機を教訓にFRBがストレステストを毎年、実施していて、23の大手金融機関が対象となったことしの審査の結果は28日に公表されました。
今回は、失業率がピーク時には10%にまで上昇し、商業用不動産の価格が40%下落するなど深刻な不況に陥った場合を想定しました。
このケースでは、不動産融資や住宅ローンなどの損失は合わせて5410億ドル、日本円でおよそ78兆円にのぼるものの、対象となった23の大手金融機関はすべて十分な資本の備えがあり、企業や家計への融資を継続できるとしています。
アメリカではことし3月から5月にかけて銀行の破綻が相次ぎましたが、銀行経営の健全性が示された形となります。
ただ、今回の審査ではより規模の小さい銀行は対象になっておらず、FRBは相次いだ銀行破綻を防ぐことができなかったとして、ストレステストを含めた監督・規制のあり方を見直す方針を示しています。
●減速する「無形資産経済」見えてきた5つの「壁」 6/29
ソフトウェア、データ、研究開発、設計、ブランド、研修などの無形資産への投資は何十年にもわたり着実に増大し続けてきた。一方、金融危機の頃から、無形投資の長期的な成長は鈍化しているという。一体、経済のフロンティアで何が起こっているのか? 
『フィナンシャル・タイムズ』ベスト経済書として話題となった『無形資産が経済を支配する』の著者による最新刊『無形資産経済 見えてきた5つの壁』から一部お届けする。
大いなる経済的失望とその兆候
今日の経済状況を考える時には、つい「こんなはずではなかった」と思ってしまう。世界はかつてないほど豊かで、驚異的なテクノロジーが生活のあらゆる側面を変えつつある──それなのにみんな、経済的観点からすると、何かがおかしいと確信しているようだ。
1970年代末のイギリスでは、何かがおかしいというのはあまりに明らかに思えたので、名前がついたほどだ。イギリスは「ヨーロッパの病人」と呼ばれた。今日の富裕国が直面する問題に名前をつけた人はいないが、各国で次から次へと5つの症状が見られるようになっている。停滞、格差、競争不全、脆弱性、正統性欠如だ。
こうした症状が特筆に値するのは、それが客観的に見て望ましくないばかりでなく、伝統的な経済的説明に沿わなかったり予想外のパラドックスを示したりしていて、いささか説明がつかないからだ。それらをここで簡単に紹介しよう。
1 停滞
生産性上昇は、10年以上にわたり絶望的に低い。結果として、富裕国は21世紀の成長がトレンドのまま続いていた場合に比べ、1人当たりの稼ぎが25%ほど低い。低成長期があること自体は不思議ではないが、現在のわれわれの停滞は、あまりに長く続いているし不可思議だ。
それは超低金利にも、経済を刺激するための各種の非伝統的な試みにも反応しない。そしてそれは、新技術やそれを活用する新ビジネスへの広範な熱狂と共存しているのだ。
2 格差
資産で見ても所得で見ても、格差は1980年代以来、目に見えて増大しているし、下がる様子がない。だが今日の格差は、単に持てる者と持たざる者という話ではない。むしろそれは、尊厳の格差とも言うべきもので複雑化している。つまり、ステータスの高いエリートと、文化や社会変化に取り残されたステータスの低い人々との間に、分断があると思われているのだ。
尊厳と物質的豊かさとの間にはある程度の相関はあるが、完全な相関ではない。現代に取り残されたと感じる人々の多くは資産の多い引退者だし、一方でリベラルなエリートには、無一文で負債を抱えた大卒者が大量にいる。
競争が機能していない
3 競争不全
市場経済の原動力たる競争は、あるべき形で機能していないようだ。企業の業績は見たところ、昔より固定してしまっている。アマゾンやグーグルのような、数兆ドル規模の企業は、絶えず後続企業を上回る業績をあげ、すさまじい利潤を計上する。新興企業の数は減り、人々は転職したり、仕事探しで引っ越したりしなくなった。
ここでもパラドックスが見られる。というのも多くの人は、経済生活においては熾烈でストレスまみれの、無駄な対立が高まっている気がすると不満を言っているからだ。客観的に見て豊かな人々や、金持ちですら、立場を維持するのにますます頑張って働かされる羽目に陥っているらしい。
4 脆弱性
新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界で最も豊かな経済圏ですら自然の力には勝てないことが示された。実際、このパンデミックが引き起こした被害は経済の複雑さと高度に結びついている。
巨大で高密な都市、複雑な国際サプライチェーン、グローバル経済の空前の相互接続性のおかげで、ウイルスは国から国へと拡散し、それを抑えるために必要なロックダウンの費用を引き上げた。
わずか15年前ですら、中国僻地でのパンデミックの発生など、富裕国にとってはせいぜいが小さなニュース記事で終わっていただろう。いまやグローバル化とサプライチェーン、インターネットのおかげで、別大陸でのほんの1羽のチョウの羽ばたき程度のものが、ますます大きな影響を及ぼすようになっている。
多くの人々にとって、新型コロナウイルスが人間に与えた悲惨な影響は、気候変動が今後の年月で引き起こす災厄の前触れだ。パンデミックの実際の影響と、地球温暖化の予想される影響とが組み合わさると、経済がエコシステムレベルの巨大化した脅威に弱いことが示される。
政策がうまく機能しない問題
そしてこの2つの問題に共通する別の特徴がある。解決策はわかっているのに、実際にそれがなかなか実行できないという、奇妙なギャップだ。
台湾からタイまでさまざまな国は、正しい政策を実行すれば新型コロナウイルスの死者数や経済的損害を減らせることを示してきた。同様に、経済を脱炭素化するための詳細で信頼できる計画が存在する。だが知っていることと実行とのギャップは大きく、ほとんどの国はそのギャップを埋められずにいる。
脆弱性を示す別の兆候は、中央銀行が経済ショックを抑える能力の低下だ。新型コロナパンデミックに至るアメリカの9回の景気後退で、FRBは金利を平均で6.3ポイント切り下げた。
イギリスでは、コロナ以前の5回の不景気での金利切り下げは平均5.5ポイントだった。だが 2009年以降、米英欧の中央銀行が設定した平均金利は、それぞれ0.54%、0.48%、0.36%だ( 2021年4月までのデータ)。金利について言えば、中央銀行の持ついわゆる政策余地はきわめて限られている。
労働者や企業がヤル気を失っている問題
5 正統性欠如
21世紀経済の最後のがっかりする特徴は、経済学者が話題にするものではないが、一般人の会話には大きく登場している。それを、正統性欠如またはフェイク性と呼ぼう。労働者や企業は、かつて持っていた本来あるべきヤル気と正統性を失っているという考えだ。
人類学者デヴィッド・グレーバーの「ブルシット・ジョブ」批判を考えよう。「何やら不思議な錬金術を通じて、書類をまわすだけで月給がもらえる連中の数は究極的に増えるようで」、それなのに「クビになったりせっつかれたりするのはいつも、本当にモノをつくり、動かし、直し、維持管理している人たちなのだ」。
グレーバーの批判は、現代世界は「シミュラクラ」に支配されていると主張したジャン・ボードリヤールのようなポストモダニストの足跡をたどっている。シミュラクラとは、根底の現実から切り離された模倣やシンボルで、それがディズニーランドのように独自の命を得たものだ。
同様に、保守派の評論家ロス・ドゥザットは、現代の頽廃の特徴は、文化、メディア、エンターテインメントにおける独創性欠如と模倣の蔓延なのだという。現代世界は、過去とはちがう形でリミックスされ、ナレーションされ、キュレーションされているのだ。
この見方には世間も同意する。製造業は有権者にはきわめて評判がいいし、政府はそれをもっと促進すべきだとされる。
アメリカに製造業雇用を取り戻すというのが、2016年のドナルド・トランプの大統領選挙の公約で最も響いたものだった。歴代のイギリス政府は、世界金融危機への対応として「新たな産業、新たな雇用」や「製造業者の躍進(March of the Makers)」で対応すると約束した。
こうした約束はどれも守られなかったが、そんな約束がそもそも行われたということ自体、われわれが「モノづくり」に回帰すべきだという発想の人気と、現代経済活動の多くが正真ではないという疑念を強く示している。
ますます余裕のない労働生活
経済や社会はしばしば、不穏な時期を経験する。だがここに挙げた5つの問題が共存しているというのは、ことさら不思議でパラドックスめいている。経済停滞は昔もあった。だが今日ではそれが低金利、高い企業利潤、目のまわるような技術進歩の時代に生きているという広範な信念と共存している。
物質的な格差の拡大は低下してきたが、その影響や結果──地位の格差、政治的二極化、地理的分断、コミュニティー荒廃、自殺などの夭逝──は増え続けている。そして、新興企業は減ってトップ企業と後続企業との間の業績ギャップは固定化したため、競争は低下したように思える。だが管理職も労働者も、労働生活はますます余裕がないものになりつつある。
本書は2つの大きな問題に答える。何がこうした症状を生み出しているのか、そしてそれにどう対応すべきか? 
●「引き締めの度合いも期間も十分ではない」FRBパウエル議長 6/29
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長は、アメリカの現在の金融政策について「引き締めの度合いも期間も十分ではない」と述べ、物価上昇を抑えるために追加で利上げする必要性を強調しました。
FRB パウエル議長「ここ3か月の経済指標をみると、アメリカは予想以上に力強い経済成長、ひっ迫した労働市場、高い物価上昇率となっている。これは金融政策は引き締め的だが、引き締めの度合いも期間も十分でないことを示している」
アメリカのFRBのパウエル議長は27日、ポルトガルで開かれた各国の中央銀行総裁との討論会でこのように述べ、物価上昇を抑えるために追加で利上げを行う必要性を強調しました。
FRBは今月の会合で11会合ぶりに利上げを見送った一方、物価上昇は根強いとして、年内に0.5%追加の利上げを行う可能性を示唆していました。
1回の会合で0.25%の利上げを行う場合、年内に2回利上げを行うことになりますが、パウエル議長は「2会合連続して利上げする可能性も排除していない」と述べました。
●米大手23行、健全性審査で合格 景気低迷時でも資本十分=FRB 6/29
米連邦準備理事会(FRB)が28日に公表した2023年の銀行ストレステスト(健全性審査)で、JPモルガンやバンク・オブ・アメリカ、シティグループなどの米銀大手が深刻な景気低迷を乗り切るための資本を十分有していることが示され、全行が合格したことが分かった。
FRBの厳しい景気後退シナリオ下では、1000億ドル以上の資産を持つ大手23行は合計5410億ドルの損失を被ることになるが、それでもFRBの規則で求められる資本要件の2倍以上の自己資本を有するという。
上位となったのはチャールズ・シュワブ・コーポレーションとドイツ銀行の米国部門。一方、地銀大手のシチズンズ・ファイナンシャル・コーポレーションとUSバンコープは下位だった。
FRBのバー副議長(金融規制担当)は、銀行システムが強靭であることが示されたとする一方、ストレステストは業界の健全性を測る一つの指標に過ぎないとも強調。「われわれはリスクがいかに発生し得るかについて謙虚さを保ち、銀行がさまざまな経済シナリオや市場のショック、その他のストレスに対し強靱であるよう確実にする作業を継続すべきだ」と述べた。
厳しい景気後退シナリオでは、商業用不動産価格が40%下落し失業率が10%に上昇するなどして米経済が約8.75%縮小することを想定。この状況下で23行の中核的自己資本比率は平均10.1%と、最低要件の4.5%を上回った。今回よりやや緩いシナリオで34行に実施した昨年の審査では9.7%だった。
ロイターの分析によると、グローバルなシステム上重要な銀行(G─SIB)8行の中核的自己資本比率は平均10.9%と昨年からやや上昇。ステート・ストリートが13.8%とG─SIBの中で最も高かった。
FRBによると、予想される損失合計額5410億ドルには、商業用不動産と住宅ローンによる損失1000億ドル以上とクレジットカードによる損失1200億ドルが含まれる。
商業用不動産ローンによる損失は650億ドルで、平均ローン損失に占める割合は8.8%と昨年の9.8%から小幅に低下した。今回の審査で商業用不動産ローンによる損失の比率が最も高いとされたのはゴールドマン・サックスで16%を占めた。
審査結果発表を受け、大手行の株価は引け後の取引で上昇。バンク・オブ・アメリカとウェルズ・ファーゴ(Wファーゴ)は約2%、JPモルガンとチャールズ・シュワブは1%超、それぞれ上昇した。
金融機関は今後、余剰資本を株主に還元することが認められるが、アナリストは経済の不透明感や差し迫った新たな資本規制を理由に今年の配当は若干減額されると予想している。
FRB当局者によると、金融機関は30日の取引終了後に自社株買いや配当計画を発表することが可能という。
地銀が焦点
米国では今春、シリコンバレー銀行など3つの銀行の破綻を受けて金融部門に混乱が広がり、中堅銀行や地方銀行の健全性が焦点になった。
引け後の取引で地銀株は大半が上昇し、M&Tバンクは2.6%高、PNCファイナンシャルは1.4%高。一方、シチズンズ・ファイナンシャルは約2%下落した。
消費者銀行協会(CBA)のプレジデント兼最高経営責任者(CEO)、リンジー・ジョンソン氏は「今年のシナリオがこれまでで最も厳しかったことを踏まえると、審査結果は最近の銀行破綻を巡りくすぶる不安に対する最良の対処薬だ」と述べた。
ただ、ストレステストでは銀行の潜在的な脆弱性を全て調べることはできず、多くの中堅銀行が審査されないといった批判もある。
非営利団体ベター・マーケッツのプレジデント兼CEO、デニス・ケレハー氏は「危険で誤解を招く不完全な結果だ」とした。
FRBが今回審査したのは2022年末時点の銀行のバランスシートで、今春の金融不安の影響は反映されていない。
FRB当局者は審査結果が比較的良好だった理由について、今回のシナリオで急速な金利低下を想定したことも一部影響したと認めた。
●米国株式市場=S&P500・ダウ下落、FRB追加利上げ懸念で 6/29
米国株式市場では、S&P総合500種とダウ工業株30種が下落した。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が、米国のインフレ率の2%回帰は2025年以降になるとの見通しを示したことを受け、さらなる利上げ観測が浮上した。
パウエル議長は欧州中央銀行(ECB)が主催する国際金融会議「ECBフォーラム」の討論会に出席。次回7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを実施する可能性を否定しなかった。
個別銘柄では、アップルが場中に最高値を付け、終値も2日連続で最高値を更新した。テスラやマイクロソフト、アルファベットも買いが優勢となり、S&P総合500種を押し上げた。
一方、エヌビディアは1.8%下落。米国が中国への人工知能(AI)向け半導体の輸出規制を導入する可能性があるとウォール・ストリート・ジャーナル紙が報道したことが嫌気された。
S&P総合500種の主要11セクター中4セクターが上昇。エネルギーは1%、通信サービスは0.8%、それぞれ上昇した。公益事業は1.5%安と下げが目立った。
LPLフィナンシャルのチーフ・グローバル・ストラテジスト、クインシー・クロスビー氏は、年初から大型株に大きく依存してきた市場でラッセル2000小型株指数が0.5%上昇し、3日連続の上げとなったことを歓迎した。
週内発表の指標では、FRBがインフレ動向を見極める上で重視しているコア個人消費支出(PCE)価格指数や新規失業保険申請件数などが注目されている。
FRBの年次健全性審査(ストレステスト)結果発表を控え、S&P銀行株指数は0.5%下落した。
ネットフリックスは、オッペンハイマーが目標株価を引き上げたことを受けて3%上昇した。
ゼネラル・ミルズ は通期利益がアナリスト予想に届かないとの見通しを示し、5%下落した。
ニューヨーク証券取引所では、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を1.21対1の比率で上回った。ナスダックでも1.11対1で値上がり銘柄が多かった。
米取引所の合算出来高は98億9000万株。直近20営業日の平均は115億7000万株。
●NYダウ反落、終値74ドル安の3万3852ドル…FRB議長の利上げ再開示唆で 6/29
28日のニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価(30種)は反落し、終値は前日比74・08ドル安の3万3852・66ドルだった。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が利上げの再開を示唆したことで米経済の先行きへの警戒感が強まった。
IT企業の銘柄が多いナスダック店頭市場の総合指数の終値は36・08ポイント高の1万3591・75だった。
●米インフレ率の2%回帰は25年以降=FRB議長 6/29
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は28日、インフレ率が大幅に鈍化すれば、FRBは制約的な政策を長期的に継続する必要がなくなるかもしれないが、米国のインフレ率が今年または来年にFRBの目標である2%に回帰するとは予想しておらず、2%回帰は2025年以降になるとの見通しを示した。
その上で「われわれは(物価の安定を)回復させるために必要なことを行う」と述べた。
●パウエルFRB議長、議会証言よりもタカ派色強める 6/29
連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は欧州中央銀行(ECB)のフォーラムで他国中銀総裁との討論会において、金融政策がすでに引き締め域にあるが、十分ではないと強調した。引き締め域にある期間はまだ長くないと指摘しており、一段の引き締めを想定しているとした。また、FRBが特に注目している住宅を除いたサービスインフレにおける進展もあまり見られず、連邦公開市場委員会(FOMC)の委員の多くがあと2回もしくはそれ以上の利上げを支持しているとした。また、6月FOMCでの利上げ見送りを決定したのみで、その後の利上げ軌道に関しては何も決定していないと言及し、連続利上げの可能性も選択肢から除外しないと述べた。
議長は23年、24年にインフレの目標達成を予想しておらず、目標達成は25年になるとの考えで、必要である限り、金融引き締め策を長期にわたり維持していく方針を示した。また、リセッションは「最も可能性の高いケースではない」と、経済の柔軟性を強調。全体的に、先週の議会証言よりもよりタカ派姿勢が強まった。このためドル買いも続いた。
討論会では、FRBのみならず、インフレ対処が台頭し、リセッションを巡る言及は最低限にとどまった。
●東京外為 ドル、144円台前半 FRB議長発言受け強含み(29日午前9時) 6/29
29日朝の東京外国為替市場のドルの対円相場(気配値)は、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が追加的な金融引き締めに含みを持たせる発言を行ったことなどを受け、1ドル=144円台前半で強含んでいる。午前9時現在は、144円39〜40銭と前日(午後5時、144円07〜08銭)比32銭のドル高・円安。
パウエルFRB議長は、前日行われた欧州中央銀行(ECB)主催の会合で、今後の利上げについて「検討から外していない」と明言。次回の連邦公開市場委員会(FOMC)以降における追加引き締めに含みを持たせた。また、ラガルドECB総裁も「7月に利上げをする可能性が高い」と述べるなど、タカ派姿勢を強調した。一方、植田日銀総裁は基調的なインフレ率が目標の2%を下回っていることを理由に「上昇に合理的な確信が持てれば、政策変更の十分な理由になる」と説明、改めて金融緩和継続の必要性を強調した。 これらを受け、市場では日米欧の金利差拡大観測が一段と強まり、ドル円は米国時間に一時144円62銭と、昨年11月上旬以来約7カ月半ぶりとなるドル高水準に上昇した。その後は軟化し、終盤は144円台半ばでもみ合った。この日の東京時間早朝はやや売りが先行し、144円台前半を中心に推移している。
きょうの東京時間については、ECB主催の会合という目先の注目イベントが通過したことから、「材料出尽くし感が漂うだろう」(国内証券)との声が聞かれる。また、心理的節目の145円が視野に入っているため、「介入警戒感がより強まり、上値は徐々に重たくなってきそうだ」(国内銀行)との見方もあった。
ユーロは対円、対ドルともに下落。午前9時現在は、1ユーロ=157円61〜61銭(前日午後5時、157円80〜81銭)、対ドルでは1.0915〜0915ドル(同1.0952〜0953ドル)。  
●米政府高官の北京詣でが続く イエレン米財務長官来月訪中 6/29
イエレン米財務長官が来月訪中するらしい。米国債を購入してくれと頼みに来るのだろう。ブリンケン国務長官訪中に続いて、中国の反応は冷淡だ。ネットには「来るな!」という反発さえ溢れている。
イエレン米財務長官に関する環球時報の報道
中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版が6月29日、<いかなるシグナルか?イエレンが取材で米中間には隔たりがあるので訪中して関係を再建したいと言った>という見出しで、イエレン米財務長官の訪中計画に関する情報を流した。情報源はアメリカの主流メディアの一つであるMSNBC(マイクロソフト+NBC)が現地時間6月28日にイエレンを直接インタビューしたときの回答や27日のブルームバーグの情報などの二次情報を含んでいる。同時に、中国側の見解も専門家に言わせている。報道の概要を以下に示す。
イエレンは米中間に隔たりがあることを認め、北京との関係再構築に向け中国訪問を希望していると述べた。イエレンはまた「たとえアメリカ側に経済的損失があったとしても、アメリカは国家安全保障上の利益を保護するために行動しており、今後も行動するだろう」と主張した。    
ブルームバーグは6月27日、関係者の話として、イエレンが7月上旬に中国を訪問し、中国財政省当局者らとハイレベル経済会談を行う予定であると報じた。
イエレンをはじめとするバイデン政権の経済・貿易当局者らは中国訪問に意欲を示し続けているが、バイデン政権は依然として経済・貿易問題で中国を抑圧している。   
ブルームバーグは27日、イエレンの中国訪問のニュースが出たその同じ日に、バイデン政権は「半導体、人工知能、量子コンピューティングの分野において、対中監視を強化、もしくは対中投資を禁止する大統領令」を承認しようとしていたと報じた。関係者らによると、大統領令の草案作成はここ数週間で加速しており、早ければ7月下旬に発令することを目標にしているが、最終的な詳細はまだ詰められていないため、スケジュールは8月に延期される可能性があるという。
中国WTO研究協会の霍建国副会長は6月27日、環球時報記者とのインタビューで、「バイデン政権が重要な問題に関して立場を変えるとは考えにくいが、しかし米中協力をバイデン政権側が期待している。特に、経済貿易領域における高官同士の直接対話を通して、中米間の戦略的経済対話メカニズムを再開し、なんとか中米経済貿易関係のリスクを抑制したいと考えているのだ」と述べた。(環球時報からの引用はここまで。)
この傲慢な女性の要求など、絶対に吞むな!
一方、中国大陸のネットには<この傲慢な女性の要求など、絶対に呑むな!>という類の、一般ネットユーザーによる情報が溢れている。
たとえば、ここに書いてあるのは、おおむね以下のようなことである。
ブリンケンが中国への旅を終えたばかりなのに、もう次にはイエレンが到着しようとしている。米高官たちの旅は、ずっと前から計画されていたにちがいない。ブリンケンの訪問が米経済界から上がっている中米間の断絶とデカップリングの危機を回避するためであるならば、イエレンの中国訪問はまちがいかく経済的利益と密接に関連しており、米債務を買ってくれという要求に決まっている。
現在、アメリカの債券市場はますます縮小しており、FRBが大量に米国債を購入しなければならない。しかし、大規模な貨幣発行は必然的にインフレ問題につながる。FRBは困窮し、そこで中国に助けを求めに来るんだ。中国経済を追い詰めようと中国に激しい制裁を加えておきながら、アメリカは身勝手にも、自分が困った時は中国を潜在的な経済パートナーと見なしているのだ。
アメリカは口先だけでは聞こえの良いことを言うが、米政府の実践的な行動は変わっていない。
それ以外にも、少し前の情報だが、<オースティンも拒絶しろ、ブリンケンも拒絶しろ、イエレンも拒絶しろ、米高官の訪中は全て拒絶しろ>などと、中国大陸のネット空間は激しい嫌米感覚に燃えている。対中制裁ばかりをして中国経済の発展を圧迫しているので、「中国経済が成長しないようにしておきながら、中国に米国債を買えなんて、何を言ってるんだ!」というトーンに満ちている。
中国の米国債購入に関する世界的割合と推移
それでは中国はどれくらい米国債を購入しているかを、世界の米国債購入主要国の割合と推移で見てみよう。さまざまなデータがあるが、ここではアメリカ議会図書館に置かれている立法補佐機関であるCRS(Congressional Research Service、議会調査局)リポート(June 9, 2023)を見てみよう。このリポートのFigure2には、「米国財務省証券の外国保有比率(2002年〜2022年)」が描いてある。
それを本コラムの図表1として以下に示す。
   図表1:米国債の外国保有比率(2002年〜2022年)
ちょっと見にくいかもしれないが、たとえば2022年時点で、1位が日本で2位が中国大陸、3位がイギリス・・・という感じになっていて、日本を除けば、アメリカの国債を世界で最も多く購入して米経済を支えてあげていたのは中国なのである。
その中国の経済がアメリカを追い越しそうになったので、何とか中国経済を潰そうと、アメリカはさまざまな手段を講じ始めた。制裁をかけたり、最先端ハイテク製品を製造できないようにするために最先端半導体を中国に輸出してはならないという法律を制定したり、あるいはハイテク分野に関しては中国に投資することも禁止したりと、ともかく中国経済が衰退するように、つぎつぎと新しい政策を打ち出して、必死なのである。
そうやって中国経済の成長を懸命に抑えながら、その中国に「アメリカの国債をもっと買ってアメリカを支えてよ」と中国に頼みに行くというのは、いくら何でも勝手が良すぎるだろう。
いま中国経済はコロナの影響だけでなく、アメリカによる激しい制裁により伸び悩んでいる。それでもなお、アメリカの製造業はほとんど中国に依存していて、パソコンや家電製品などの工業製品は中国から輸入している。
さすがに習近平政権になってからの過去10年間は、中国の割合が少なくなっていることは、図表1を見れば歴然としているだろう。
では次に、ウクライナ戦争が起きてからの、中国のアメリカ国債保有に関する推移のみを取り上げてみよう。
図表2に示すのは、CEIC(世界各国のマクロ経済と産業に関する統計データを提供するデータベース・サービス。1992年に香港で設立)が提供している中国大陸の「2022年4月〜2023年3月」の米国債購入推移である。
   図表2:中国大陸の米国債購入推移(2022年4月〜2023年3月)
拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【第二章 中国が招いた中東和解外交雪崩が地殻変動を起こす】に書いたように、アメリカが米陣営の関係国に要求した激しい対露制裁の中に、「米ドル取引を規制し、ロシアの海外資産を凍結する」という制裁が入っていた。そのため、非米陣営の多くは、「アメリカと関係のない経済圏を構築しよう」と、中国の周りに集まり始めた。アメリカと関わっていると、いつ制裁を受けるか分からないし、米ドルを使っていたら、金融制裁を受けて資産が凍結されてしまうかもしれない。だから「脱米」と「脱米ドル」が加速し始めたのだ。
そのため「米国債を購入しない」という動きが、非米陣営(全人類の85%)で急激に起きつつある。図表2にそれが如実に表れ、ウクライナ戦争以降は中国の米国債購入も急激に減っているのである。
3月にだけ増加があるのは、アメリカのシリコンバレー銀行など、複数の銀行が倒産し、このまま行くとアメリカ経済が破綻して世界恐慌になるかもしれないので、それは米ドルを今はまだ使っている世界のどの国も困るから、日本と中国という、世界の二大米国債購入国が米国債を購入してあげて、アメリカ経済の破綻を防いだのである。そのため3月だけ増えているが、4月になってから、また同じ減少率で減少に転じている。
このような中でのイエレン訪中がどうなるのか、この視点で読者とともに考察していきたい。

 

●韓日通貨スワップ 8年ぶり再開 その意義は? 6/30
韓国と日本の間で、金融危機の際に外貨を融通し合う「通貨スワップ協定」が8年ぶりに再開されました。
秋慶鎬(チュ・ギョンホ)経済担当副総理兼企画財政部長官と日本の鈴木財務大臣は、29日、東京で開かれた韓日財務相会談で、「通貨スワップ協定」の再開で合意しました。
これまでの韓日通貨スワップ協定は、韓国が日本にウォンを預けて、円とドルを借りてくる方式でしたが、今回の協定では、100%、ドルでの調達となりました。
日本としても、韓国に円を預けてドルを借りてくる方式になったため、円安に対応できます。
融通枠は、2015年2月に終了した協定と同じ、最大100億ドルで、契約期間は3年です。
韓日通貨スワップ協定の融通枠は、2001年7月に最大20億ドルで初めて結ばれて以降、2011年11月には最大700億ドルにまで増えましたが、翌2012年に当時の李明博(イ・ミョンバク)元大統領の独島(トクト)訪問で両国関係が悪化した影響で縮小され、2015年に期限切れで契約が終了しています。
韓国の外貨準備高は、ことし5月末の時点で4200億ドルを上回り、GDP=国内総生産の25%となっています。
これは中国、日本などに次いで世界で9番目に多い規模です。
今回の韓日通貨スワップ協定の再開は、両国が金融危機の際に利用できる経済協力の窓口を再び開いたということで意義深いと言えます。
また、円ではなくドルベースでの契約となったため、非常時にドルを調達しやすくなり、外国為替市場にもう一つの金融セーフティーネットができたことも評価されます。
今回の韓日通貨スワップは、日本がすでに、アメリカと無期限・無制限の常時スワップを締結しているため、事実上の「韓米通貨スワップ協定」としての間接的な効果が期待できるという見方も出ています。
最大600億ドルの融通ができた韓米通貨スワップ協定は2021年12月に終了しています。
今回の協定締結で、韓国の対外通貨スワップ協定の規模は、日本をはじめ、中国、スイス、インドネシアなど合わせて10か国との間で1482億ドルに拡大されました。
●「"財政赤字=悪"という間違った常識を疑いなさい」 6/30
債務上限引き上げは「政争の具」
春頃から、債務上限問題がアメリカを揺るがしていた。債務上限とは、米連邦政府が国債発行などで借金できる、法律で決められた上限のことである。歳出規模が膨らむと、追加で国債を発行して財源を調達しなければならないが、上限を超えると新たに国債を発行することができない。上限を修正する議会の承認がなければ、国債の元本償還や利払いに回す資金が調達できず、国がデフォルト(債務不履行)になる可能性が高まる――。
これが債務上限問題の本質だ。米財務長官のジャネット・イエレンは、2023年6月5日を期限に債務上限(31兆4000億ドル)を引き上げないと、米国経済は大混乱に陥ると警告していた。
債務上限制度の源は、第1次世界大戦中の1917年にさかのぼる。アメリカでは国債の発行に議会の承認が必要だったが、戦時国債の柔軟な発行をはかるため、発行額の上限を定めたうえで、議会の承認を必要とせず連邦政府が国債を発行できる法律をつくった。そのうちの17年第2次自由国債法が、今に至る債務上限の法的な根拠になっている。
その後、債務上限は繰り返し改定されていった。1960年以来、歳出増加の必要から、米議会は債務上限額を70回以上も引き上げている。その背景には、2大政党の対立がある。伝統的に福祉などの公共政策をよしとする、財政出動路線の民主党。「小さな政府」を掲げて、福祉予算の削減と財政均衡を求める共和党。政治思想が異なる2党の間で、引き上げが政争の具となって難航するようになった。
特に現在のように、大統領と下院多数派のそれぞれの政党が異なる「ねじれ状態」下では、下院多数派が債務上限の引き上げを拒むことで大統領の政策実行を困難にしようとする、ある種の瀬戸際戦術としても使われる。今回はケビン・マッカーシー下院議長(共和党)が、議長選挙で借りをつくった党内のトランプ支持急進派の意向を無視できず、ジョー・バイデン大統領(民主党)と対決することになった。
こうした戦術の元祖は、ビル・クリントン政権(民主党)時代のニュート・ギングリッチ下院議長(共和党)である。95年から96年にかけ、高齢者向け医療保険をめぐる両者の対立が長引いて連邦予算の執行が停止。のべ21日間にわたり政府機関が閉鎖される事態を招いた。
バラク・オバマ政権下の2011年にも債務上限問題が起き、ぎりぎりで与野党の合意が成立した。しかし、格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズが米国債の格付けをAAA(トリプルエー)からAA+(ダブルエープラス)に格下げしたため、ドル不安から世界同時株安が発生。これ以後も2〜3年に1度ほどの頻度で債務上限問題が浮上している。
今回は結局、23年5月31日に下院、翌6月1日には上院で、債務上限の適用を一時停止する法案が可決。米国債のデフォルトという非常事態は回避された。大統領にとって、国が破産する可能性という頭痛の種がなくなったのだ。そのため、安堵(あんど)した大統領と下院議長がお互いに相手を褒め合うという、めったに見られない光景が見られた。それから1週間後には、トランプ前大統領が退任時に機密文書を持ち出した嫌疑で起訴され、メディアの関心はそこに移っていった。
まず「財政赤字=悪」の常識を疑え
債務上限の騒動を見ていると、「本当に財政赤字は悪なのか」といった根本的な議論が欠けているように感じる。「人や会社が破産するのは望ましくない。だから政府も破産を絶対に避けなければならない」という説は一般的に理解しやすいようだ。
しかし、このような議論は国に対して必ずしも成り立つわけではない。役人の無駄遣いであったり、公共支出が大きすぎて総需要が増え、インフレになるほどの財政出動は許されない。だから一定の歯止めとして、債務上限が設定されていることは理解できる。しかし、債務上限の数字そのものは基本的にナンセンスであるというのが正直な意見だ。
財政均衡派が根拠にしているのは、19世紀初頭のイギリスの経済学者、デヴィッド・リカードの理論であろう。リカードは、公債や税がマクロ経済に与える効果は中立だと主張した。政府が国債を発行して歳出を拡張したり、減税を行ったりしても、「いずれその分は将来の増税や歳出削減で均衡させるだろう」と国民は予測して、それに沿って行動する。そのため、財政出動に効果はないから、財政は歳入と歳出を一致させ、規律をもって運営されるべきというわけだ。
一方、ロシアから米国に帰化して、ケインズと同時代に活躍した経済学者アバ・ラーナーは、財政は働く意志と能力を有する者がすべて雇用される状態、つまり完全雇用をもたらすように運営すればよく、そのためには財政赤字はあってもかまわないと主張した。さらに対外債務は問題だが、国全体を考えると国内での政府債務は借金ではなく、むしろ国内の所得分配の問題であるとした。もし償還のために増税が必要になっても、償還される人と課税される人は同時代に生きているので、国家経済全体で見れば「将来世代にツケを回す」ことにはならないとラーナーは唱える。
政府の赤字は気にすることはない
私もラーナーに賛成で、政府の赤字はそれがインフレを起こしたり、国富を減らしたりしないかぎり気にすることはないと考える。民間では借金を続けて返せなくなると、破産して経済行動を制限される。しかし、今回の一連の騒動でノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンが言及していたように、政府はそれが継続するかぎり借り換えればいい。また、通貨発行国であれば通貨を発行してもいい。自国の通貨を発行できる国は、それがインフレにならないように見守ればいいのだ。
なお、日本では、財政赤字により発行した国債は60年で完全に償還する「60年償還ルール」を財政法で定めた。財務省はこのルールが国債発行の歯止めになっていると弁護するが、将来、防衛費などで財政支出の必要が急に生じたとき、この規定は防衛政策の制約になるかもしれない。エコノミストの会田卓司(あいだたくじ)氏は、「国の債務を完全に返済するという考え方を先進国で持っているのは日本だけ」と指摘する。政府債務は将来世代へのツケではないという視点から、償還ルールの見直しを検討してもいい。
近隣諸国に追い越されつつあり、将来への展望がなかなか開けない現在、日本政府は財政赤字だけを心配していても仕方がない。むしろデジタル化への投資、将来を担う技術やシステムを革新できる世代の教育振興のために、十分な政府支出を行うことのほうが、はるかに大事である。
●円安は「行き過ぎ」か 実質金利差から読む介入の可能性 6/30
ドル円は2022年高値の151円95銭から今年1月安値の127円23銭の61.8%戻しが位置する142円51銭を上抜けた。テクニカル上は同76.4%戻しの146円12銭が次の上値メドとして視野に入る。
ドルと円の名目実効為替レートを見ると、6月に入ってからはドルが軟調な一方で、円がそれを上回る大幅な下落となったことが分かる。欧州(ユーロ圏、英国、ノルウェー、スイスなど)の中銀による相次ぐ利上げに加え、米連邦準備理事会(FRB)は6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を据え置いたものの、年内2回の追加利上げを示唆した。
これに対して植田日銀総裁の「緩和維持姿勢」が際立っていることが、円が売り込まれている背景として挙げられよう。今週ポルトガルのシントラで開催された欧州中銀(ECB)フォーラムでも、欧米のインフレ抑制スタンスと、日銀のハト派スタンスのコントラストに注目が集まり、円は一段安となった。
けん制発言に反応限定
1ドル=145円台というと、昨年9月22日に政府・日銀が24年ぶりの円買い介入に踏み切った水準と重なる。この日、145円90銭までドル円が上昇した後、介入により140円36銭まで急落したことは記憶に新しい。
財務省の神田財務官は今週26日、「足元の動きは急速で一方的だ」と市場をけん制。翌27日には鈴木財務大臣も「行き過ぎた動きについては適切に対応する」と警戒感を示した。ただ、昨年の大規模介入の記憶が残るなかで、相次ぐ当局者のけん制発言にもかかわらず、為替市場の反応は意外なほど限られている。
これには、輸入物価の低下が背景にありそうだ。日本の輸入燃料物価を示す円建ての原油価格は、1バレル=9900円台と、22年のピークである6月初旬の1万6000円台を大きく下回っている。年初来の円安トレンドにもかかわらず、円建ての原油価格が1万円前後にとどまっているのは、原油価格が昨年6月の1バレル=123ドル台から69ドル台まで大幅に下落したことが要因だ。
これによる影響か、あるいは、ドル円の143円台が昨年経験済みの水準だからか、又は円安と株高が同時に起きているからか、世論においても昨年程の円安批判は感じられない。ただ、今後、夏のドライビングシーズンに向けて、仮に原油価格が再上昇し始めるようであれば、政府・日銀による円買い介入の可能性は高まりそうだ。
違和感ないドル円上昇
実際のところ、足元のドル円相場は日米実質金利差(10年・米―日)と平仄があっており、「投機筋による一方的な円安」や「行き過ぎた動き(オーバーシュート)」とは言い難い。日米実質金利差は、5月初旬の1.05%台から6月28日時点では2.24%台まで拡大しており、2022年以降のドル円と日米実質金利差の相関から見れば、138円台後半から143円台後半へのドル円の上昇に違和感はない。この間の日米実質金利差の拡大は、米国の長期金利がジワリ上昇し、米実質金利が1.21%台から1.56%台まで上昇したことが一因だ。
加えて、日銀のハッキリとした緩和スタンスによって「出口戦略」への期待が萎み、日本の10年債利回りは0.4%を割り込んだ。更には日本の期待インフレ率が0.7%台から1.0%台へと上昇したため、日本の実質金利がマイナス0.38%台から、マイナス0.67%台へと大きく低下したことが、日米実質金利差をさらに拡大させた。
米実質金利、上昇に限界
果たして、日米の実質金利差が今後一段と拡大する可能性はあるのだろうか。
まず、米国の期待インフレ率は2%台前半でほぼ変わらないと想定すると、重要なのは米10年債利回りだが、あと年内1回の利上げは既に市場に織り込まれているため、足元3.7%付近の利回りが4.0%を大きく上回る可能性は低い。
仮に、あと2回、3回の利上げが必要となった場合には、むしろ米株式市場が崩れて、米10年債利回りが低下する可能性もある。2008年、リーマンショック直前の米政策金利は5.25%だった。年内あと2回利上げすれば政策金利は5.625%となり、同水準を大きく上回ることになる。
さすがにこれ以上利上げするとなれば、素直に「米長期金利上昇→ドル高」とはならず、むしろ先々の景気悪化懸念から長期金利の低下とドル安圧力につながるのではないか。6月22日、英中銀(BOE)がサプライズの0.5%の利上げを決定した後の為替市場の反応は、むしろポンド安だった。米国でもここから先の更なる金融引き締めは、同様の市場の反応を促すとみている。
日本の実質金利、現状付近がボトム
一方で、日本の実質金利はどうだろうか。日銀が植田新体制へ移行した後、YCCの早期再修正への期待が一気に萎み、年初に0.5%の上限に張り付いていた10年債利回りは低下。足元0.36%前後で推移している。しかし、日銀が追加緩和ではなく、あくまで「現状の緩和政策維持」を決め込むなかで、これ以上10年債利回りが大きく低下する可能性は低そうだ。
問題は、日本の期待インフレ率だが、これも日本のインフレが今後減速に向かえば、現状から大幅に上昇するとは考えにくいだろう。日本の消費者物価は、食品価格を主体に財価格の高止まりがしばらく継続する公算だが、足元の資源価格の下落等により、輸入物価は既にマイナス圏となっている。
ソニーフィナンシャルグループは、23年の後半から、財価格を主体に生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)が減速に向かうと予想している。サービス価格は賃金上昇がしばらく押し上げ要因となる一方で、今後、欧米の景気減速が見込まれるなかで、2%の物価目標の持続的な達成が見込まれるほど、賃金インフレ圧力が強まることは想定しづらい。したがって、今後はコアCPIの減速と共に、日本の期待インフレ率も低下していくとみている。仮に、日本のインフレが再加速した場合には、期待インフレ率が上昇すると思われるものの、この場合は同時に緩和解除への期待が高まりやすく、日本の10年債利回りも再び上昇すると思われる。この結果、日本の実質金利はこれ以上低下し難く、現状付近がボトムになると考えられる。
適正水準145円付近か
22年初旬からの相関関係でみると、日米実質金利差が、足元の2.2%付近から、仮に2.5%付近まで拡大した場合、ドル円は145円付近が適正となる。しかし、さすがにそれ以上の大幅な日米実質金利差の拡大は見込みにくいとなると、そこから先のドル円上昇は、投機的な動きによるオーバーシュートと言えるため、政府・日銀による円買い介入の可能性は一段と高まるのではないか。
介入がなかったとしても、日米実質金利の環境を踏まえれば、ドル円は今後オーバーシュート気味に上昇する可能性はあっても、上昇トレンドのピークは近づいているように思われる。
YCC再修正、年内にも
これまでの植田日銀総裁の発言を見る限り、YCCの再修正やマイナス金利政策の解除は当面お預けのように見える。しかし、YCCの再修正に関しては、足元の円安地合いも踏まえれば、7月か9月か、年内のいずれかのタイミングで踏み切っても不思議はない。黒田前日銀総裁は22年9月の会見で、長期金利の上限引き上げは利上げに当たるのかとの質問に「それはなると思う」と答えた。これにより同年12月のYCC修正は、「事実上の利上げ」と受け止められ、市場に混乱が生じた。
しかし、植田総裁はYCC修正と利上げを特段結び付けてはおらず、あくまで「市場の副作用の解消が目的」と説明することはできるのではないか。日本の金融政策が現状維持のまま欧米の景気後退期に突入すれば、欧米の十分過ぎる程の利下げ余地に対し、日銀の追加緩和余地は限られるため、現状とは逆に急激に円高が進行するなど、マーケットのボラティリティを高めるリスクはあるだろう。今の安全運転は将来のリスクにつながる可能性があるように思われる。
●習氏政策は八方ふさがり「デフレ中国」の実態 深刻な外準不足 6/30
今年1〜3月期の中国の国内総生産(GDP)は公式統計上、前年同期比で実質4・5%の伸びだが、実態はかなり深刻だ。都市部の若者(16〜24歳)の失業率は昨年12月の16・7%から月を追うごとに上昇し、5月は20・8%と5人のうち一人以上が失業中だ。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のチャットでは若者たちの悲鳴の声にあふれている。
国内の需給関係を忠実に反映するインフレ指標であるコア消費者物価(エネルギーと食料を除く)の12カ月平均上昇率は2021、22年とも0・8%台で、今年5月は0・7%台に下がった。対照的に、もともと長期の慢性デフレから抜け出せないままの日本のコア物価12カ月平均は昨年4月以降上昇が続き、5月は4・2%に達した。中国では今や日本に程度以上にデフレ圧力がかかっていると見てよい。デフレ圧力のもとでは事業者はコスト上昇分を販売価格に十分転嫁できない。だから新規雇用は控えられ、賃金も下がる。
デフレ圧力から抜け出すための定石は金融緩和と財政出動だが、中国人民銀行の資金供給量は6月時点でも前年同期比で6%台増にとどめている。2008年9月のリーマン・ショック時に30%を優に超えたのと比べるとささやかだ。金利のほうは6月20日に住宅ローン金利を0・1%下げて4・2%とした程度である。これまでの習近平政権10年の国内総生産(GDP)は不動産ブームに支えられてきたが、不動産投資は住宅価格の下落を受けて2022年は前年比10%のマイナスになった。ところが人民銀行の金融緩和は量金利ともじつにしょぼいのだ。
元凶は中国特有の通貨金融制度にある。中国の外準は人民元資金発行の裏付け資産である。リーマン後は人民元発行残高のドル換算額に比べ外準の比率が100%を超えていたが、今は6割ぎりぎりまで下がっている。金利を大幅に引き下げると大規模な人民元売りを招き、外準を取り崩して買い支えるしかない。外準が減ると、人民銀行は金融緩和どころではない。
他方で、土地使用権販売収入が全収入の8割前後を占める地方政府財政難が深刻だ。地方債発行には人民銀行による量的緩和が欠かせない。これも外準の制約を受ける。習政策は八方ふさがりである。
解はただ一つ。外準を増やすことだ。そのためには経常収支黒字と対外負債を増やすしかないが、経常収支黒字の大半を占める貿易黒字増は現状維持がやっとである。残るは、対外負債、すなわち外国企業からの直接投資と機関投資家からの証券投資だが、22年末の残高は前年比で合計4750億ドル減った。資本流出は22年の経常収支黒字約4000億ドルでは穴埋めできず、外準は減る(グラフ参照)。
習氏は先に訪中したブリンケン米国務長官を「格下」扱いして会ったが、虚勢であろう。実際には頭を下げてでも対米関係好転を図らなければ、外国の対中投資復活の糸口は見いだせないはずだ。岸田文雄首相も対中対話を急ぐべきではない。
●NY円、一時144円90銭 FRBの利上げ観測強まる 6/30
29日の欧米外国為替市場の円相場は対ドルで下落し、一時1ドル=144円90銭と昨年11月以来、約7カ月半ぶりの円安ドル高水準を付けた。29日発表された米経済指標が堅調だったのを受け、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを続けるとの観測が強まり、日米金利差拡大の思惑による円売りドル買いが加速した。
ニューヨーク市場の円相場は午後5時現在、前日比32銭円安ドル高の1ドル=144円75〜85銭を付けた。ユーロは1ユーロ=1・0858〜68ドル、157円30〜40銭。
朝方に発表された米週間失業保険申請件数が市場予想より少なく、労働市場の逼迫が続いていることを示した。このためFRBが利上げを進めるとの見方が強まった。
日銀が大規模な金融緩和政策を当面続ける見通しの中で、米長期金利が上昇したことも円安ドル高の流れを後押しした。
●円下落、一時145円台=財務相「急速で一方的」―7カ月半ぶり安値・東京市場 6/30
30日午前の東京外国為替市場の円相場は、一時1ドル=145円台と、昨年11月以来、約7カ月半ぶりの安値水準に下落した。米長期金利の上昇を受け、日米の金融政策の方向性の違いを意識した円売り・ドル買いが優勢となった。
鈴木俊一財務相は、同日の閣議後の記者会見で、円安の進行について「急速で一方的な動きも見られる」と述べ、投機的な動きをけん制。「政府として非常に高い緊張感を持って、市場の動きを注視している」とした上で、「行き過ぎた動きには適切に対応していく」と強調した。
●世界で利回り急上昇、年内2回のFRB追加利上げ織り込む動き 6/30
米国債利回りが3月以来の水準に急上昇する中で世界的に債券安が進行している。堅調な米経済統計を受け、米金融当局が年内にさらに2回利上げするとの観測が市場で強まった。
米政策金利の動向に敏感な米短期債利回りが29日の取引で急上昇した。2年債利回りは一時18ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇して4.89%と3月以来の高水準。今年のピークである5.08%を3月8日に付けた後、業界で破綻が相次いだ地銀株の下落を受けて3.50%に向けて低下していた。
金利スワップレートは、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標について9月までに0.25ポイントの引き上げを示唆する水準となっている。そこからさらに0.25ポイントの利上げが年内行われる可能性も約50%織り込んでいる。日中には織り込み幅がそれより大きくなる場面があった。4月初め時点では年内に約0.75ポイントの利下げが想定されていた。
ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、トレーシー・チェン氏は29日、「この日のデータは、金利がより長期間、より高くなることを示した」と語った。利下げに対する期待から米金融政策変更の見通しが「不適切に織り込まれてきた」と分析した。
欧州で利回りが大きく上昇するなど、他の市場で米国債と同様の動きが見られた。アジア太平洋の債券も30日、軟調な出足となり、オーストラリアとニュージーランドの債券も売られた。
●米国債の逆イールド、一段と深化 FRBのタカ派姿勢で 6/30
米国債市場では利回り曲線のいくつかの年限の組み合わせで、短期債の利回りが長期債を上回る「逆イールド」が一段と深まっている。米連邦準備理事会(FRB)が追加利上げに踏み切るとの見方から、債券投資家の間で景気減速への警戒感が強まっているため。
パウエルFRB議長が年内にあと2回利上げする公算が大きいと示唆すると、逆イールドの動きは6月に入って加速。パウエル氏は28日にも年内2回の追加利上げの可能性が高いとの見解を改めて示した。
29日発表の経済指標が予想を上回ったこともFRBの利上げ長期化予想を裏付ける材料となり、米国債は10年物と2年物の利回りがそれぞれ3月10日、3月9日以来の水準に上昇し、利回り曲線の一部で逆イールドの度合いが拡大した。
リフィニティブのデータによると、29日には5年債の利回りが30年債を24.5ベーシスポイント(bp)も上回り、その差が3月以来の水準に開いた。
1年物と30年物の利回り差は28日に153bpと、1981年以来の水準に拡大した。景気後退の前兆として注目度の高い2年債と10年債の逆イールドも一段と拡大。29日に一時107bp近くと、3月の銀行危機前に記録した1981年以来の水準である108bpに迫った。2年債と10年債は昨年7月以来、逆イールドが続いている。
クアント・インサイトのアナリティクス部門を率いるヒュー・ロバーツ氏は、「逆イールドは景気後退の予測という点で非常に優れた実績があるが、景気後退入りするタイミングの予想ではそれほど良い結果を残していない」と指摘。「タイミングの面でより重要なのは利回り曲線の再スティープ化だ。こうした動きは明らかにFRBが景気後退の脅威に対応し始め、利下げを開始するタイミングだからだ」と述べた。
●米FRB議長、一段の引き締め強調 一連の経済指標好調 6/30
一連の米経済指標が予想を上回る中、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が29日、一段の金融引き締めの必要性を強調した。一方、アトランタ地区連銀のボスティック総裁は、金利据え置きの継続を主張した。
パウエル議長はスペイン中央銀行主催のイベントで、米国のインフレ率が2%の目標を大きく上回り、労働市場が引き続き非常に逼迫する中、連邦公開市場委員会(FOMC)の大半のメンバーが「年内あと2回以上の利上げが適切になると想定している」と指摘。
今後数カ月は緩やかなペースの金利決定が続くとの見方を示し、「われわれは引き続き(決定の)ペースを緩やかにしている。行動しなかった会合も1回ある。われわれは緩やかなペースの金利決定が続くと予想している」と語った。
労働市場については、失業率は3.7%の水準にあり、極めて引き締まっていると評価。物価情勢については、基調的なインフレ率は昨年のピークから低下しているものの、FRBが目標とする2%の倍以上の水準で推移しているとし、「インフレ圧力は高止まりしており、インフレ率を2%に戻すにはまだ長い道のりが残されている」と述べた。
パウエル議長の発言後に労働省がこの日発表した6月24日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は、前週から2万6000件減の23万9000件と、減少件数は2021年10月以来20カ月ぶりの大きさ。予想外に減少し、労働市場が引き続き力強いことが示された。
このほか、商務省発表の第1・四半期の実質国内総生産(GDP)確報値は、年率換算で前期比2.0%増と、改定値の1.3%増から予想以上に上方修正された。
FRBは年内にあと4回のFOMCを開くが、市場では7月25─26日の次回会合で利上げが決定されるとの観測が高まっている。11月の会合でも利上げが決定される確率は40%以上と、一連の経済指標が発表される前の約30%から上昇した。
パウエル議長の発言が伝わってから数時間後、アトランタ地区連銀のボスティック総裁は訪問先のダブリンで記者団に対し、インフレ期待が「困難な方向」に動き出したりすれば、FRBは利上げせざるを得なくなると述べた。ただ現時点ではそのような状況にはないとした。
その上で「FRB議長を含む当局者が述べているほど、利上げを急ぐ必要はない」と指摘。コアインフレ率が頭打ちになっていることや、インフレが「正常の範囲内に入りつつある」ことを示唆する一連の経済指標に言及し、FRB当局者は政策が効果を発揮するのを待つことができると述べた。
ただ、こうした発言がインフレを懸念していないという意味にとらえるべきではないと指摘。「インフレ率が目標から遠ざかったり、大幅に失速したり、インフレ期待が困難な動きをし始めれたりすれば、一段の措置が必要になると認識している」と述べた。
市場は商務省が30日に発表する5月の個人消費支出(PCE)価格指数に注目。前年比での上昇率は4.7%になると予想されている。
●米銀行監督当局、商業用不動産融資の借り手支援を要請 6/30
米銀行監督当局は、商業用不動産市場でストレスに直面している信用力のある借り手と「慎重かつ建設的に」協力するよう金融機関に求める声明を発表した。
連邦準備理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、全米信用組合監督庁(NCUA)、通貨監督庁(OCC)による共同声明で、2009年に発表された商業用不動産ローンに関する指針を更新するもの。
不動産価値が下落し、デフォルト(債務不履行)に陥る借り手が増加する中、商業用不動産ローンは一部の金融機関に懸念をもたらしている。
新たな指針では支払い猶予や部分的な支払いなど短期融資で便宜を図り、借り手を支援するよう求めた。
不動産データ会社トレップによると、米国の商業用不動産ローンは27年までに1兆4000億ドル以上が満期を迎える。このうち約2700億ドルは今年満期となる。 
 
 

 

●NY外為:ドル反落、コアPCE価格指数鈍化でFRBの追加利上げ観測後退 7/1
NY外為市場では米コアPCE価格指数の鈍化で追加利上げ観測が後退し、金利低下に伴うドル売りが続いた。米10年債利回りは3.87%から3.81%へ低下。ドル指数は103.40から102.75まで下落した。
ドル・円は144円75銭から144円21銭まで下落。ユーロ・ドルは1.0860ドルから1.0932ドルまで上昇した。ポンド・ドルは1.2647ドルから1.2727ドルまで上昇。
●FRBのストレステスト、米銀のシステミックリスク管理のプロファイルにポジティブ 7/1
今週結果が公表されたFRBのストレステストは、米銀のシステミック・リスク管理のプロファイルにポジティブな結果となった。FRBによる今年のストレステストに参加した23行の米大手銀はすべて、FRBが設定した世界的不況の仮定を克服し、5400億ドル以上の損失と商業用不動産価格の40%下落を克服するのに十分な資本を有していると判断されている。
ダウ・ジョーンズが発表しているサステナビリティ・スコアによると、システミック・リスク管理に関する情報開示に基づく米銀の上位5行は、モルガン・スタンレー<MS>、JPモルガン<JPM>、ゴールドマン<GS>、コメリカ<CMA>、ESSAバンコープ<ESSA>となっている。
なお、シティグループ<C>、ウェルズ・ファーゴ<WFC>、バンカメ<BAC>を含む他の大手銀の開示スコアは米国の銀行285行の業界平均を上回っているという。
●金融セクターは08年危機以来の難局、成長率0.75%下げも=FRB 7/1
米連邦準備理事会(FRB)は30日に発表した論文で、金融セクターは2008年の世界金融危機以来「最も厳しい状況」にあるとの見解を示した。
この論文は、様々な金融要因が経済活動全体に与える影響を測定するための新たな金融状況指数の作成に向けた作業の一環として発表された。
最新の調査結果に基づくと、「金融情勢は今後1年間、国内総生産(GDP)成長率に対しおよそ0.75%ポイントの引き下げ要因になると推定される」という。さらに、FCI−G(Financial Conditions Impulse on Growth)と呼ばれる指標は、世界経済を崩壊寸前まで追い込んだ08年の世界金融危機以来「最も厳しい水準」にあるとした。
論文の筆者らは、21年末以降、株価の下落や金利の大幅な上昇、ドル高が金融条件の引き締めをもたらしたと指摘。22年後半にかけて、「将来の成長に対する最大の逆風」は短期および長期の金利とドルによって生じているとする一方、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の間に記録された住宅価格と株式価格の調整は「経済の成長に対する追い風であり続けている」と述べている。
●日本にとって祝福となる円安と韓国にとって災いとなるウォン安 7/1
インフレを抑制するためアメリカの攻撃的な金利引き上げのせいでドル高だ。これによりドルに対する円とウォンの価値が下落(円安、ウォン安)している。
2021年末に1ドル115円だったが、4月現在、1ドル130円に達した。ウォンについては、4月27日午前現在のソウル外国為替市場で前日比10ウォン急騰した1ドル1260ウォンで取引されている。1月初めに心理的最低ラインである1ドル1200ウォンを突破してから急激なウォン安(ウォンの価値の下落)が続いている。
このように円安とウォン安が続くと、今後それぞれにどのようなことが起こるだろうか?
一言で言うと、円安は日本にとって再跳躍の機会が与えられ、ウォン安は韓国にとって災いを招く。日本の再跳躍とは、1980年代の好況のような状況が再び到来することを意味し、韓国の災いとは1997年の通貨危機のような状況が再び到来することを意味する。
ドルに対して日本と韓国の貨幣が同じように価値の下落を見せているが、どうして結果は正反対に出るのだろうか?理由は簡単だ。日本と韓国が置かれた状況が、完全に違うからだ。日本と韓国の基礎体力が違うという話だ。
日本は元から基礎がしっかりした状態で、韓国は元から基礎が不十分な状態だった。日本の場合、「バブル崩壊」と「失われた10年」といった過去に多くの困難を経たが相変わらず揺るがない経済を維持するほど強い体力だと言える。一方、韓国は過去に通貨危機を幾度か経験した。アメリカと日本に助けられて、何とか今まで耐えてきたと見える。
現在日本は、30年以上も世界1位の対外純債権国だ。2020年末現在、357兆円規模の対外純債権を保有していた。ここから出る利子や配当などの収益が、貿易収支やサービス収支(観光収入など)の成績(黒字もしくは赤字)を圧倒している。
同時に日本の長所の一つである「打たれ強い」という点が挙げられる。アメリカが貿易赤字を解消するため、自国産業の輸出競争力を高める目的で日本などの主要国の通貨を切り上げるよう措置したのが「プラザ合意」(1985年)だった。これにより、当時1ドル240円だったが、3年で1ドル120円にまで暴落した(円高になった)。日本の輸出競争力が半分になったのだ。
並大抵の国家なら、すでに経済が焦土化し、再起不能の国家になっていただろう。しかし日本は、相変わらず経済強国の位置を守っている。付加価値の高い技術分野を中心に成長し続けてきたからだ。しっかりとした内需市場が存在するのも日本の長所だ。
一方、韓国は「外貨準備高不足」と「高い貿易依存度」によって不安な状態が続いている。世界金融市場が少しでも不安になると、韓国はすぐに揺れ動く。1997年、2008年、2020年の通貨危機は代表的な事例だ。始まったばかりのアメリカの金利引き上げは、当分の間続く可能性が高い。それならば、韓国の過去の事例を見ると、2025年頃に韓国は再び通貨危機を迎え、経済が破綻する可能性が非常に高い。
1997年、韓国の通貨危機は韓国企業の経営不振など複合的な要因によるものだったが、決定打は1994年から始まったアメリカの攻撃的な金利引き上げだった。アメリカが攻撃的な金利引き上げを始めた今の状況は、当時と非常に似ている。
4月現在、韓国の外貨準備高は4580億ドルで国際決済銀行の勧告値である9000億ドルの半分に過ぎない。外貨準備高が不足することでアメリカの金利引き上げにお手上げで、最近ドルが急騰してウォンの価値が下落しているのだ。
したがって韓国は対応策として金利を引き上げざるを得ない状況になった。韓国の政府関係者やマスコミは「インフレ抑制のために金利を引き上げる」と表現したが、実際は「ドル流出による通貨危機の恐れがあり、金利を引き上げるしかない」というのが正しい表現だ。もし韓国が金利を引き上げなければ、外貨(ドル)は大量流出しかねない。
ところが問題は金利を引き上げたら、韓国の時限爆弾である家計負債がバブル崩壊のようにはじける可能性が存在するという点だ。韓国はGDP対比の家計負債の比率が106%で世界最高レベルだ。金利の引き上げが続くと、貸付者の利子負担が重くなり、延滞比率が増加して最悪の場合、大規模の不良債権が発生する。
そうなると消費が委縮し、金融機関の不堅実化が続く。金融機関の不堅実化は経済全般に大きな悪影響を及ぼす。結局、韓国は今この瞬間、金利を引き上げないわけにはいかず、引き上げることもできない王手がかけられたのだ。  
●中国 改正「反スパイ法」施行 「何をしたら拘束されるのか誰もわからない」 7/1
中国でスパイ行為の範囲を拡大した改正「反スパイ法」が、きょう、施行されました。現地で暮らす日本人は「何をしたら拘束されるのか、誰もわからない」と不安を募らせています。
北京で働く日本人「どういう行動をしたら拘束されるのかを知りたい。でも、運用するのは中国当局。何をしたら対象になるのか、誰も答えを知らないんだ」
きょう、中国で施行された改正「反スパイ法」。不安を漏らすのは、北京で働く日本人です。
「反スパイ法」が2014年に制定されて以降、これまでに拘束された日本人は17人。ことし3月には、大手製薬会社の男性が拘束され、現地で働くビジネスマンの間に動揺が広がりました。
「反スパイ法」はこれまで、スパイ行為について「国家機密」を盗んだり提供したりすることなどとしてきましたが、改正法では「その他の国家の安全と利益に関わる文書やデータ」の提供などにも適用が拡大されます。
中国に進出している日系企業の団体「中国日本商会」の会長は先月中旬、改正「反スパイ法」について、影響を注視していく考えを示しました。
中国日本商会 本間哲朗会長「日本企業にとって、中国市場における予見性・公平性・透明性の高い事業環境が今後も維持されることは、非常に重大な関心事」
警戒感を強めているのは日本人だけではありません。中国にある韓国大使館は、地図やデータなど中国の安全保障に関連する資料をインターネットで検索したり、スマホなどに保存したりするだけで法律違反に問われる可能性があると注意を呼び掛けました。
また、EU=ヨーロッパ連合の企業でつくる団体は。
中国EU商会 ジェンズ・エスケランド会長「投資に必要な情報を調べる企業が、当局の調査を受けています。もし『投資が安全だ』と調べる手段がなければ、企業は投資を行うことができなくなるかもしれません」
経済活動への影響を指摘し、何が法律違反なのか、曖昧さを解消するよう提案しています。広がる懸念に中国政府は。
中国外務省 毛寧報道官「法律や法規に従い、コンプライアンスを順守していれば、何も心配する必要はない」 そのうえで「いかなる国も国内の立法を通じて、国家の安全を維持する権利がある」と法改正の正当性を強調しています。
●「電気代の値上げが厳しい」 根本的な原因!エネルギー市場では何が 7/1
2023年6月から大手電力7社の電気料金が15〜39%程度で値上げされることになった。標準的な家庭の使用量をもとにした値上げ後の電気代は、東京電力だと881円上がって7690円となる。物価高が暮らしを直撃するなか、電気代の高騰は私たちにとってさらなる負担となりそうだ。
今回、電気代はなぜ値上げされたのか。原因のひとつとされる資源エネルギーの高騰について、『地政学で読み解く!  戦略物資の未来地図』の著者であり、日本エネルギー経済研究所、専務理事・首席研究員の小山堅氏に聞いた。
コロナ禍で資源エネルギーの需要は激減
資源エネルギーの「安定的な供給」と「手頃な価格」が損なわれた背景のひとつは、新型コロナウイルス禍による経済停滞にまで話をさかのぼります。
2020年、多くの国が感染拡大防止のためにロックダウン(=都市封鎖)を実施したことによって人や物の移動が制限されると、移動のための資源エネルギーを消費する機会が激減しました。
日本の場合、海外のような厳しいロックダウンは実施されませんでしたが、人々の移動や行動は大きく制限されました。その結果、例えば日本航空の2020年度の通期決算では前年比で国際旅客が94.2%減、国内旅客も67.2%減になりました。また、感染対策を目的にリモートワークが急速に普及したことで当時は通勤客が激減するなど、目に見える形で物理的な移動がなくなりました。
人の動きだけではありません。工業製品の国際的なサプライチェーンも寸断され、東南アジアから日本への自動車部品や電子部品の供給が途絶する影響もありました。このように世界中で移動と行動が制限されたことで経済活動は低迷し、資源エネルギーの需要は激減しました。
私の見立てでは、2020年4月から6月にかけて瞬間的にではありますが、世界の石油需要は3〜4割程度減った可能性があります。まさに、需要が蒸発して消えてしまったような状況です。
こうして石油価格は暴落しました。さらに石油だけではなく、アジアのLNGスポット価格は5ドル平均で推移していたのが、最安値となる1.75ドルを記録。石炭はオーストラリア産の価格(一般炭)が100ドル前後だったのが、20年の春頃には50ドルを割り込むまでに下落しました。石油、石炭、天然ガス、LNG、電力など、ありとあらゆるエネルギー価格は暴落し、史上最安値を記録する事態に至ったのです。
なかでも象徴的なのは、2020年4月20日に起きた出来事です。アメリカ産の原油の先物価格がマイナス37ドルになったのです。先物価格がマイナスになるということは、先物で原油を売る側が決済時にやむを得ずお金を払って原油を引き取ってもらうということです。買い手からすれば原油をもらいながら、お金ももらっていることになります。そこまで原油が供給過剰になるほどに、当時は需要が激減していました。
2020年5月、資源がダブついている℃桝ヤを受け、中東やロシアなどの産油国によって構成されるOPECプラスは史上最大規模の協調減産を開始します。供給過剰を解消して石油価格を適正水準に戻すための措置でした。
市場はしばらく波乱の様相が続きましたが、各国政府は企業支援などを推し進めることによって新型コロナウイルス禍からの経済立て直しを図りました。
やがて、少しずつエネルギー需要は回復していきます。産油国による生産調整も奏功したことで、原油価格は2021年6月には、2019年12月(新型コロナウイルスが流行する前)の1バレル60ドルを上回る、1バレル70ドルを超えるところまで戻りました。
高騰の原因はエネルギー市場全体の供給余力不足
しかし事態はそこに留まりませんでした。今度は逆に、「谷深ければ山高し」という投資の格言をなぞるように、石油をはじめとするすべてのエネルギー価格が、大きな下落から急反転して高騰し続けていったのです。
まず、石油は2021年10月に80ドルを超えるまでにアップ。天然ガスも同年末から急激に価格が上昇し、アジアのLNGスポット価格は30ドルまで急騰。石炭価格も同年11月60ドル台まで上がり、年末には80ドル台へと一気に上昇していきました。価格が一気に高騰した大きな原因はエネルギー市場全体の供給余力が不足していたためでした。
資源の生産国は需給の変化が起きたとき、できるだけ速やかに資源エネルギーの生産を増減する対応が求められる場合があります。需給が逼迫していれば資源エネルギーを増産し、反対に需給が緩んでいるときは生産量を減らすということです。しかし、新型コロナウイルス禍から需要が戻り、増加に転じていったときに、その急速な変化に対応できる力が市場には不足していました。
背景には、エネルギー市場で進んできた競争の激化があります。どのようなビジネスもそうでしょうが、競争に勝ち抜いていくためには無駄を省き、コストを下げていく必要があります。無駄な設備を抱えることは、コストの増加につながることから避けようとする動きが生まれます。
例えば製造工場でいえば、設備を常にフル稼働して生産している状態が理想です。エネルギー市場も同様です。石油や石炭、天然ガスなどの生産には、巨額の投資が必要であり、設備をフル稼働させることで利益を生み出せるようにコスト設計されています。逆に言えば、生産に必要のない設備を抱えていることは単に無駄になることを意味し、そうであれば削減してしまおうというのが供給側の合理的な判断となるのです。
エネルギー市場では長い時間をかけて、使わない設備や供給能力をできるだけ減らす「合理化」が進んでいました。その結果、エネルギー市場全体として供給余力も削減されていきました。
「合理化」が皮肉にも大きな足かせに
しかし、いざ新型コロナウイルス禍から需要が戻り増加に転じていった際には皮肉にもそれが大きな足かせとなったのです。すなわち、すべての資源エネルギーで供給力とその余力が不十分となり、供給が追いつかなくなりました。これには新型コロナウイルス禍でエネルギー価格が低迷したことによって、エネルギーへの投資が落ち込んだことも関係しています。
その結果、すべての資源エネルギーの市場で供給力が十分でない状況となりました。消費国は、「石油が高すぎるので天然ガスを増やそう」という代替措置も取れなくなり、一種の悪循環に陥ったのです。
ちなみに、供給余力への制約は、脱炭素を目指した動きも関係しています。どういうことかといえば、近年は脱炭素化への取り組みを進めるためにも、化石燃料関連に対する新たな投資は手控えられる傾向にありました。
このようにして2021年以降はエネルギーの需給が逼迫し、石油、石炭、天然ガスなど、すべてのエネルギーの価格の高騰が同時多発的に発生したというわけです。
追い打ちとなったロシアによるウクライナ侵攻
そして、エネルギー価格の高騰は、以上のような供給余力の不足だけでは終わりませんでした。さらなる追い打ちが2022年に発生したロシアによるウクライナ侵攻で発生しました。
2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、エネルギー価格の高騰は新たな局面を迎えました。
まず2022年3月に世界の指標原油のひとつ、ブレント原油の先物価格が瞬間風速で1バレル139ドルを突破。リーマンショック後の最高値を更新する異常事態が起きました。天然ガスやLNGの価格の高騰はもっと激しく、原油価格に換算すると1バレル600ドル近い価格を記録します。
さらに石炭も同様にスポット価格が400ドル/トン(一般炭)を記録するなど、化石燃料は軒並み暴騰していったのです。原油、天然ガスともに世界有数の輸出国であるロシアからの供給に支障や途絶が起き、国際市場の需給が逼迫するのではないかという憂慮から起きた現象でした。
さらに、欧米によるロシア産の石油や石炭の禁輸という経済制裁などが市場の混乱を深め、資源エネルギーがより重要性を高めることになる「安定的な供給」と「手頃な価格」の崩壊を進展させていったのです。
周知の通り、実際にロシアからヨーロッパ向けの天然ガスのパイプラインによる供給は大幅に減少しています。ヨーロッパ諸国はロシア産のエネルギーを代替するため、エネルギーを世界中に求めなければならず、ロシアと対立関係にはない国々をも巻き込んだ、国際的な資源の獲得を繰り広げることとなり、資源価格の高騰を招くこととなりました。
ここで重要なポイントは、ロシアによるウクライナ侵攻の前にすでに世界のエネルギー価格が同時多発的に高騰していたという事実です。
先ほど述べたように、新型コロナウイルス禍からの経済活動が回復したことによって世界のエネルギー需要は高まって価格が高騰していました。そこにロシアによるウクライナ侵攻が起きてエネルギー市場はより混乱したというふたつの段階があるのです。
LNG争奪戦が世界を再び直撃する可能性も
これが、もしロシアによるウクライナ侵攻が起きる前にエネルギー需給が逼迫しておらず、供給に余裕がある状態だったとしたらどうでしょうか。ロシアからのヨーロッパ向けの天然ガス供給が停止してもその影響は限定的となったでしょう。すべてのエネルギー価格がここまで高騰することはなかったと考えられます。
つまり、2021年からエネルギー価格が高騰しているところに、ロシア産のエネルギー供給に不安が起きたことでさらに事態が切迫したという構図なのです。
なお、LNGの供給不安は2022年で終わったと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、各国の需要はこれからも増えていく可能性が高いのが実情です。2025年までの世界のLNG市場は供給が不足気味になることが予想されており、状況によっては、LNG争奪戦が世界を再び直撃する可能性も十分にあります。
●国の債務不履行(デフォルト)とは 解説 7/1
2023年6月に、アメリカが債務不履行(デフォルト)に陥るのではないかと、世間をにぎわせました。最終的には債務上限が引き上げられましたが、今後も同じリスクが発生する可能性は決して否定できません。
万が一アメリカが債務不履行に陥った場合、経済だけでなく金融や不動産においても世界的に計り知れない影響を及ぼします。大混乱が予想される状況下に備えるには、債務不履行の詳細や過去の事例などを押さえておく必要があると言えるでしょう。
そこで本記事は、債務不履行(デフォルト)について日本や海外の例を踏まえ解説します。アメリカでたびたび債務不履行が意識されるようになった背景、仮に、債務不履行に陥った場合に考えられる各業界への影響についてもご紹介。投資家が取るべきポジションについても解説します。ぜひ参考にしてください。
1.債務不履行(デフォルト)とは、借りたお金を返せないこと
まずは、今回の騒動の中心となったキーワードである「債務不履行(デフォルト)」について解説します。
一般的に債務不履行とは、正当な事由なく債務を履行しない、もしくは履行が不可能である状態です。また債務とは、借金返済の義務を意味します。
個人や企業など、債務不履行に陥るケースはさまざまありますが、本記事で主に焦点を当てるのは国家の債務不履行です。国家が債務不履行に陥ると、公的に発行した国債や債券を持つ債権者に対し支払いができない状況になるため信用が地に落ちると共に続く資金調達が困難となり、財政破綻に至るケースもあります。。
この点、債務が多ければ多いほど返済が困難になり、債務不履行に陥る可能性が高まります。しかし、対GDP比で見ると世界一債務の多い日本は、債務不履行に至っていません。その点に関する議論について、次章で詳しく説明します。
   1-1.日本は債務不履行になりえるか
日本の債務は1,000兆円を超え(対GDP比250%)、驚異的なスピードで増加中です。1990年代頃は200〜300兆円で推移しており、この30年で5倍近く債務額が拡大したことになります。主な原因としては日銀の政策方針のほか、人口減少・経済停滞など債務返済を後押しする要因の勢いが低下していること、年金・医療・子育て・介護に充てられる社会保障費が増えたこと等でしょう。
しかし、日本は債務不履行に至っていません。それどころか「日本が債務不履行に陥る可能性は低い」とする声もあります。
その最大の理由は、国債を外貨建てではなく、法的には政府から独立した機関である日本銀行の発行する独自通貨「日本円」で発行しているため。いざとなれば、ハイパーインフレーションを引き起こすことを代償に通貨を大量に発行して返済することは可能。また、国債を購入する債権者のほとんどが日本人と日本国内の機関であり(令和4年9月末速報値で海外の保有者は7.1%)、借金が国内で完結している点日本銀行の2022年第四半期の発表によると家計の金融資産は2,000兆円を超えている、つまり国内には十分な額のお金があることも、その理由として挙げられることが多いです。
しかし、そういった意見には反論もあります。例えば、仮にハイパーインフレーションが起きた場合は日本円の価値が暴落するため、対外的な輸入事業に大打撃を与えるでしょう。それは、エネルギーや食料の大部分を輸入に頼る日本にとっては致命的です。
また国債を通じた借金が国内で完結しているとはいえ、国債の半分近くは日銀が保有しています。その構造上、日銀が無限に国債を引き受け続ける対応は現実的ではありません。
今回アメリカが債務不履行の危機に瀕したように、日本にもそのリスクがある点は留意しておきましょう。
   1-2.過去に債務不履行を起こした国
続いて、過去に債務不履行を起こした国の例についてご紹介しましょう。
2009年、ギリシャでは政権交代をきっかけに財務赤字が隠ぺいされていたことが明るみになり、ギリシャ国債が暴落。ユーロの下落、ひいては世界経済に多少なりとも影響を与えるきっかけとなり、事実上の債務不履行を起こしました。
その他、中南米のドミニカ共和国やエクアドルで、債務不履行が起きた事例があります。
上記は過去の事例ですが、2023年時点、現在進行形で債務不履行の危機に瀕している国も。ロシアやアルゼンチンの例をご紹介します。
   1-3.現在進行形で債務不履行に陥る可能性のある国
2023年現在、債務不履行に陥る可能性があるロシアやアルゼンチンの背景や置かれた状況をご紹介します。
なお、債務不履行に陥る、もしくは可能性が高いと判断されると、信用格付けに影響します。信用格付けとは、「Moody’s Corporation(ムーディーズ)」「Fitch Ratings Limited(フィッチ・レーティングスリミテッド)」「Standard & Poor’s(S&P:スタンダード・アンド・プアーズ)」などの格付け会社が国や企業の債務返済能力を判断し、アルファベットや数字を用いた記号で表したものです。
ロシアやアルゼンチンの信用格付けがどう変化したかも、あわせて参考にしてください。
   1-3-1.ロシア
まずは、ロシアの状況から解説します。
ロシアが債務不履行の危機に瀕したきっかけは、ウクライナ侵攻に対する、各国からの経済制裁です。いくつか実行された経済制裁のうち、ロシアへのダメージが大きかったとされるのは、SWIFT(国際銀行間通信協会:Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SC)からの排除と外貨準備の凍結の2つ。
SWIFTとは、ベルギーのブリュッセルに本社を置く非営利団体で、国際金融取引には欠かせないシステムを提供しています。ロシアはウクライナ侵攻に対する経済制裁としてSWIFTから排除されたことで、貿易や海外企業との取引が困難になるだけでなく、対外債務の支払いが困難になるという状況下に置かれました。
また、同じく経済制裁の一環として、海外におけるロシア中央銀行の資産が凍結され、外貨準備の半分程度が引き出せなくなりました。本来、外貨建て債券はその外貨で償還する必要があります。ロシアは自国通貨ルーブルで支払うことでなんとか一時的にしのいだものの、各国からの経済制裁が続く限り今後も債務不履行に陥る可能性は否定できません。
今回の騒動の結果、格付け大手3社によるロシアの信用格付けは取り下げられました。つまり、格付けすら剥奪されたことを意味します。これによってロシア国債への信頼度を正確に把握できなくなるため、ロシアへの投資はさらに縮小するとの予想もあります。
   1-3-2.アルゼンチン
続いては、アルゼンチンの事例をご紹介します。
アルゼンチンは、2021年5月末に支払い期限が設定されていたパリクラブ(主要債権国会議)への債務に関し金利が高いことで支払いを拒否。2022年3月末までパリクラブとの交渉を継続することで合意し、債務不履行を回避した経緯があります。
アルゼンチンは、以前にも過去9回債務不履行を起こしています。不安定な経済が長期的に続いており、さらに約20億ドルの債務が残っていることも考えると、10回目のデフォルトを引き起こすリスクがあると言わざるを得ません。
ちなみに、アルゼンチンの2023年6月時点での信用格付けは、Moddy’sが「Ca」、Fitch Ratingsが「C」、S&Pが「CCC-」です。
ここまでに国の債務不履行についてご紹介しましたが、企業においても債務不履行は起こり得ます。次章で企業事例を解説します。
   1-4.企業の債務不履行
企業においては、期限までに社債や利息の支払いができないケースのほか、倒産申請や債権者と交渉し条件を緩和する債務再編が行われたケースも債務不履行とみなされます。
過去には、日本航空株式会社(JAL)やアイフル株式会社などの大手企業が債務不履行に陥り、上場の取り下げや返済期限の猶予申請を余儀なくされました。
2020年1月から始まった新型コロナウイルス感染拡大の折には、景気の低迷により債務の返済や利息の支払いができず、債務不履行に陥る企業が増えたことが問題視されました。企業への投資判断の際は、格付け会社の判断を参考にしながら、検討するとよいでしょう。
2.アメリカが債務不履行に陥りかけた背景
今回、アメリカが債務不履行に陥りかけた背景を解説します。
2023年までの時点でアメリカ政府の支出は収入を上回っており、それを補うために国債を発行し資金を調達しています。とはいえ、いくらでも国債を発行し資金を調達できるわけではありません。債務には上限が定められており、それ以上借金するには連邦議会の許可が必要となります。これまでに、100回以上債務上限は引き上げられており、債務上限が引き上げられること自体は珍しいことではありません。
しかし今回のケースでは、債務上限を条件なしに引き上げたいバイデン政権と、引き上げるならと、引き上げに際して複数の条件を提示した共和党のマッカーシー下院議長らとの交渉が難航しました。その結果、2023年6月5日までに債務上限が引き上げられない場合、国債の償還などができなくなり、債務不履行に陥る可能性があるという状況に至ったのです。
結果として債務上限を引き上げる内容で合意に至ったため、債務不履行の危機は脱しています。
世界一の経済大国であるアメリカが債務不履行に至った場合、世界経済へ極めて深刻な影響を与えるため、米国政府が債務不履行の発生リスクを見過ごす状況は考えにくいと言えます。しかし、万が一アメリカのような大国が債務不履行に陥った場合、各業界にどのような影響を与えるのでしょうか。次章で想定される最悪のシナリオを紹介します。
3.アメリカの債務不履行が各業界に与える影響は計り知れない
アメリカが万が一債務不履行に陥った場合、世界経済に計り知れない打撃を与え、多くの国の財政破綻を誘発するリスクがあるでしょう。
覇権国家の失墜は西側諸国の大幅な勢力低下を招き、西側諸国に対して非友好的な国家の勢力拡大を招くなど、地政学的なリスクも大きく上がります。米ドルは信頼性が高い安全な資産として、国境を超えて貿易や金融のやり取りに用いられているため、金融業界にも大きな影響を及ぼします。。
まず考えられるのが、米ドルへの信頼性の低下に伴い、世界中の投資家による売りが加速し、各国が保有する膨大な米ドルが米国や市場に返還されていくと考えられます。米ドルの価値は急激に減少し、それがさらなる悪循環を引き起こすでしょう。
暗号資産に関しては、こういった状況下で実際にどのような影響を受けるか予測するのは簡単ではありません。米ドルにペッグしているステーブルコインのTether(USDT)や USD Coin(USDC)の価格が下落する可能性は高いと考えられます。しかし、デジタルゴールドと呼ばれるBitcoin(BTC)やEthereum(ETH)などには、中央集権的な法定通貨への不信感からむしろ注目が集まり、資金が流入する可能性もあるでしょう。
また、実際に債務不履行に陥らずとも、前述した国家の信用格付けが下がることで金融業界には大きな影響が及びます。
2011年の米国債ショックでは、米国債の格付けが最上級のAAA(トリプルエー)からワンランク下がり、ドル安を誘発しました。その結果、世界的に株安が引き起こされるという状況に。今回は格付けが下がらなかったものの、下がる可能性のある「ネガティブ・ウォッチ」に指定され、米ドルショックの再来かと、緊張が高まりました。
4.債務不履行に備え、投資家が取れる対策
アメリカのような大国が債務不履行に陥る可能性は低いとはいえ、万が一の際は、全世界に多大な影響が及ぶことが懸念されます。それらに備えて、投資家が取れる対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
基本的ですが、資産を分散させることが何よりも大事です。債務不履行に陥ると、リスク資産が最も大きな影響を受けるので、安全資産もポートフォリオに組み入れる必要があります。
金(ゴールド)や投資家への一定の保護がある仕組債に加えて、スイスフランやユーロ、日本円などの避難資産を加えるのも一つの選択肢です。
5.債務不履行に関する情報を逐一追い、最悪の事態に備える
債務不履行は、契約履行の義務を果たせないことです。国が債務不履行に陥るということは、発行した債券の償還ができなくなることを意味します。対GDP比で見て世界最大の借金大国である日本は、いくつかの理由から債務不履行に至っていませんが、過去には債務を返済できず経済破綻に陥った国もあり、ロシアやアルゼンチンなどは、現在進行形で債務不履行の危機に瀕している状況です。
今回、アメリカはバイデン政権と連邦議会の交渉が難航し、一時は債務不履行になるXデーが訪れるのではないかと危惧されました。最終的には債務上限の引き上げの合意に至りましたが、今後もこのような状況が訪れる可能性はゼロではありません。
リスク資産への影響は免れないため、株式や不動産、米ドルペッグのステーブルコインは大打撃を受けるでしょう。暗号資産業界全体に関しては、資産の避難先として資金が流入する、もしくは金融不安から資金が引き上げられる可能性のどちらも考えられ、起こりうる事象を正確に予想することは困難を極めます。
そのため、今後の債務不履行に関する情報を追いつつ、金(ゴールド)などの安全資産も組み入れ、リスク資産とのバランスを見直してみてください。

 

●貿易相手の変化 : 最大相手国はアメリカから中国へ  7/2
1. 輸出相手国の変化
前回までは、日本や主要先進国の金融資産・負債、金融勘定を見てきました。
バブルやリーマンショックなどで、どの主体がどのように挙動してきたのか色々とわかって興味深いですね。
今回からまた、様々な経済統計データをご紹介していきます。今回と次回は貿易についてです。
以前、貿易については各国の輸出や輸入を相対化してご紹介しました。
日本は貿易大国という印象を持つ人も多いと思いますし、実際に輸出も輸入も増加傾向ではあります。
しかし、他の先進国は更に貿易を活発化していて、相対的に見ると日本は貿易が少ない国という特徴があるようです。
今回は、そんな日本の貿易のうち、輸出や輸入の相手国がどのように変化してきたかを可視化してみましょう。
   図1 輸出額 相手国別 日本
図1が相手国別の日本の輸出額の推移です。
近年では約100兆円の輸出規模となりますが、とても特徴的な変化ですね。
まず、1980年代からアメリカ(赤)が圧倒的な輸出相手国だったことがわかります。12〜17兆円ほどでアップダウンしながら推移していますが、大きく増えているわけではありません。
ドイツや、イギリスなども、数兆円程度のボリュームとなりますが、1990年代から横ばい傾向です。
一方、中国(橙)と韓国(茶)が大きく増大している事が確認できます。韓国は2007年あたりをピークにして5〜6兆円程度で横ばい傾向ですが、中国は増加傾向が続いています。
近年ではアメリカを超え、20兆円近くに迫り、最大の輸出相手国という事になりますね。
   図2 輸出額 相手国別 日本 2021年
図2が2021年の日本からの輸出額が多い国順に並べたグラフです。
中国、アメリカが突出していて、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポールとアジア圏が続きます。
ドイツが2.6兆円で比較的大きな存在感ですが、基本的に上位はアジア地域ですね。
これらの国々には、海外生産拠点への部品や工作機械の輸出なども多く含まれるかもしれません。
いずれにしろ、日本の輸出は欧米からアジアへとシフトしている事が良くわかりますね。
2. 輸入相手国の変化
次に輸入相手国についても見てみましょう。
   図3 輸入額 相手国別 日本
図3が日本から見た相手国別の輸入額推移です。
やはり以前よりアメリカが圧倒的でしたが、2000年あたりに中国が追い抜き今や圧倒的に中国からの輸入が多いことになります。
輸出と違い輸入はアメリカの水準がやや低いのが特徴的ですね。
一方中国からの輸入は2022年には25兆円に達していて、約4分の1を占めることになります。
   図4 輸入額 相手国別 日本 2021年
図4が相手国別の輸入額が大きい順に並べたグラフです。
中国が圧倒的で、次いでアメリカですが、その次はオーストラリア、アラブ首長国連邦、サウジアラビアと資源国が並びます。やはり、原油等の資源の輸入が多いという特徴がありますね。
台湾や韓国、インドネシアなどアジア圏からの輸入も多い事が良くわかります。
3. アジアとの関係を深める日本
最後に地域別の輸出額を見てみましょう。
   図5 輸出額 相手地域別 日本
図5が相手国の地域別輸出額の推移です。
北米(赤)、西欧(緑)は規模は大きいですが、アップダウンしつつ停滞が続いています。一方でアジア(青)は大きく増加傾向が続いていますね。
この多くの割合が中国ではありますが、その他のアジア諸国も大きく増加しています。
貿易という面では、日本はアジア地域での結び付きを強めているという特徴があるようです。もちろん、これらの国々には、貿易ではなく海外生産など対外直接投資も増えていますね。
アジアとの経済的結びつきは今後も強まっていくのではないでしょうか。 

 

●生成AIがもたらす「民主主義の危機」どう迎え撃つ 7/3
活用可能性とともに、リスクも取り沙汰される生成AI。メディアはどんな手立てを打つ必要があるのか。スマートニュースの鈴木健氏に聞いた。
トップ自らがアメリカ市場の開拓に乗り込んだスマートニュース。生成AI(人工知能)の最先端を行くサンフランシスコで、代表取締役会長兼社長CEO(最高経営責任者)の鈴木健氏は何を思い描くか。
「やさしいUI」がもたらすブレイクスルー
――2022年9月に渡米し、以後パロアルト(カリフォルニア州)に活動拠点を移しています。
ようやく現地での生活に慣れてきた。出張ベースで行くのと違い、ローカルの人として交流してもらえることに大きな価値を感じている。
現地で絶えず話題となっているのが、生成AIだ。生成AIの”震源地”はまさに(パロアルトに近接する)サンフランシスコ。オープンAIが本社を構えているし、使い手側のスタートアップもたくさんある。そんな各社のCEOなどと交流して得られる情報は、質、量ともにとても充実している。毎日が刺激的だ。
僕自身、大学院時代には(AIに深く関わる)ニューラルネットワークを研究していた。いま話題になっているLLM(大規模言語モデル)とは違うプログラムだが、当時からすれば、ChatGPTはものすごいことを達成した。ブレイクスルーを起こした、夢みたいなことだと感じる。
――具体的に、ChatGPTの何がブレイクスルーなのでしょうか。
まず、とにかく汎用的に使える、何に使ったらいいかを皆の知恵でいくらでも拡張できるという点。特定の目的だけに使えるAIは、今までいくらでもあった。だがGPTは、使い手の創造性によって応用範囲が広がる、初めてのAIだ。
もう1つは、人間にとってやさしいUI(使い勝手)である点。単に使いやすいというだけでなく、人に不快感を与える表現や倫理的によくない表現について、ちゃんと学習させることができている。「AIアラインメント」ともいわれる部分だ。
――あらゆる仕事において、生産性が大きく上がると期待されています。
人間を介在させずに、さまざまな意思決定や実行ができるようになると思われるが、とくに実行の自動化はインパクトが大きいだろう。
例えばロボットに対して命令する場合、これまではその目的のためにインプットとアウトプットを定義したり、APIをつくったりする必要があった。しかしGPTを使えば、普段われわれが使っている自然言語で指示するだけで工程分解して、それなりに、いい感じに実行してくれる可能性が広がる。
ここでもう1つ重要なのは、AI側が実世界と直接つながれるインターフェースを獲得するということだ。
旅行のプランをChatGPTに提案してもらう場合で考えてみよう。この旅程、このホテル、この新幹線でどうですか?という提案にOKを出すのは人間だけど、その後に各方面の予約を実行するのがAIに置き換わっていくとする。
これまでのAIの学習は人間による入力が主体で、言ってみれば人間を通してしか、世界と触れ合えなかった。だが、予約のような実行までAI側で行えるようになれば、そのフィードバックをAIが直接受けられる。学習のサイクルが高速化し、より強力なAIの実現に近づくだろう。
ボトルネックは半導体と電力コスト問題
――一方で、ディープに使うとしてもコストが見合うのかという点は、よく指摘されています。
目的や使い方によっては、ここがボトルネックになる。導入を検討してみたけれど、結局費用が高くて諦める企業も現状多い。
学習効率を上げるには半導体チップの性能を高める必要があるが、この価格が下がるかどうか。世界中の人にAIを届けられるかの分かれ目になるだろう。
もう1つはエネルギーコストだ。これまではAIを動かすための電力が世界のエネルギー消費全体に占める割合なんて大したレベルじゃなかったけど、GPTというキラーアプリケーションが出てきたことで、様相が変わった。
今後あらゆるところで使うとなると世界のエネルギー需給のバランスを崩しかねず、普及に当たってのリスクといえる。
――倫理上のリスクも、完全には拭えません。
エシカル(倫理的)に変なことが起きないよう、一定程度は調整されているが、ChatGPT上でも正しくないことをあたかも事実のように語ってしまう「ハルシネーション」が実際起きている。解決できなければ、医療や法律、金融など、間違いが起きるとまずい産業には使いづらい。
(生成AI全般において)今後起きうる直近のリスクの1つは、ハルシネーションによって、2024年のアメリカ大統領選挙が混乱することだ。
ソーシャルメディア上でAI由来のコンテンツが大量に出回れば、何を信じていいのかわからなくなる可能性がある。情報操作が投票行動に影響を与えたケンブリッジ・アナリティカ事件が再来しても不思議ではない。
これは民主主義の危機でもある。媒体社やプラットフォーマーなど、関係者が協力しながら取り組んでいく必要のある問題だ。人間もミスを犯すように、AIのミスもゼロにはできない。そうであれば、コンテンツ1つひとつについて、どのくらいの信頼度や期待値を持てばいいかを考えられるようにするのが重要だ。
その意味で、コンテンツのサプライチェーンを可視化していくのは一手だろう。
食品であれば生産・流通をトラッキングしたり、成分表を確認したりできる。これと同じように、例えばすべてのコンテンツに電子的な透かしを埋め込めば、記事制作にどの程度AIが関わっているか、例えば「すべてAIによる制作」とか、「AIが制作したものを人が編集」といった情報をユーザーに示せる。このような共通仕様を作れば、ネガティブインパクトを下げられるはずだ。
そのほかにも、プライバシーの問題、軍事利用の問題など、国際的な議論と取り組みが必須となるテーマがいくつもある。
「局所最適」の対策では意味がない
――スマートニュースとして、すでに行っている取り組みはありますか?
ハルシネーションが情報流通にもたらす危機の防止については、スマートニュースとしても策を考えている。ただ、これは当社だけで解決できる問題ではない。 媒体社やほかのプラットフォーマーも、局所最適ではなくレイヤーを超えて一緒に取り組んでいかなければ意味がない。メディア関連の業界団体でも議論を始めている。
それとは別に、生成AIを積極的に活用する道も模索している。当社はもともと、記事のレコメンドなどでかなりAIを使ってきた。生成AIについても幅広い用途が考えられる。コンテンツの要約、広告主や媒体社の支援機能などが有望な領域だろう。何からやっていいか迷いながら、一部準備を始めている段階だ。
――生成AIをめぐる活用の可能性やリスクについての議論は、日本よりも技術を生み出したアメリカのほうがかなり先を行っているのでしょうか。
日本でも、IT業界関係者や識者の関心は決して低くない。ただ生成AIに関しては、技術の進展や情報の更新がとにかく速く、1人の人間が正しく理解して取捨選択できる範疇を超えている。
そうした今、一線で活躍する技術者や経営者に自らの仮説をぶつけたり、すぐフィードバックをもらえたりする機会は貴重で、自分の時間を有効に使えていると感じる。
またリスクについても、実際にケンブリッジ・アナリティカの事件を経験したアメリカのほうが国民全体としての危機感はより強いかもしれない。
●「徹底した守り」のはずが2期連続の巨額赤字…ソフトバンクG 7/3
「反転攻勢」に打って出ると明言
6月21日、ソフトバンクグループ(SBG)は定時株主総会を開催した。孫正義会長兼社長は、プレゼンテーションの冒頭で「反転攻勢」に打って出ると明言した。今回の反転攻勢に、重要な役割を担うのが英国の半導体設計企業のArm(アーム)だ。同社の上場によって、SBGはアームの事業運営体制の強化に必要な資金を調達し、AI関連分野での収益を拡大する考えとみられる。
長い目で見ると、世界的にAIの利用は増加するだろう。それを支える半導体の開発に、アームは中心的な役割を果たすと期待されている。AI利用の増加に必要な高度な半導体の設計需要を取り込み、アームの高い成長を実現する。それによって、アリババに続く成長企業を生み出す。そうした展開をSBGは真剣に目指し始めた。
ただ、目先、SBGの事業環境は不安定に推移する可能性が高い。5月下旬以降、AIの成長期待などを背景に世界的に株価は上昇したが、先行きの期待は行き過ぎだとの警戒感も強い。米欧では金融引き締めが長期化し、金利の上昇によって株式市場の不安定感は高まりやすい。
今後の株式市場の展開次第では、SBGが出資した企業の株価が下落し、業績の不安定感が高まることも想定される。今後のシナリオの一つとして、SBGはリスク管理を強化しつつ、アーム上場のタイミングをはかることになりそうだ。
2年連続で赤字決算の背景
2023年3月期、SBGの最終損益は9701億円の赤字だった。2022年3月期(1兆7080億円の最終赤字)から縮小したが、2年続けて最終損益は赤字だった。
その背景には多くの要因がある。まず、地政学リスクが高まったことだ。ウクライナ紛争が起きた。朝鮮動乱以来、約70年ぶりに主要国が本格的に参加した戦争といえる。先行きの不透明感が高まったため、世界の主要投資家や企業は長期の視点でリスクをとることは難しくなった。
台湾問題も見逃せない。中国では政治体制の強化を優先する習政権が、台湾への圧力を強めた。半導体など先端分野で米中の対立も先鋭化した。台湾、韓国に偏在した半導体の供給は不安定化した。日米欧の政府は、経済から安全保障までさまざまな分野で重要性が高まる半導体の生産を国内で行うよう、主要企業の直接投資を求め、補助金政策などを強化した。
また、世界全体でインフレが進行した。米中対立、コロナ禍の発生、ウクライナ紛争などを背景に、エネルギー資源や穀物、車載用などの半導体など多くの品目で需給のバランスは崩れ、物価は上昇した。2022年3月以降、インフレ鎮静化のために連邦準備制度理事会(FRB)などは金融引き締めを実施し、世界全体で金利は上昇した。
新規投資と人員を減らし、守りを固めていたが…
さらに、世界的に景気の先行きは不透明化し、企業の業績懸念も高まった。米国では、SNSやサブスクリプションなどのビジネスモデルの行き詰まり、コスト増加などによりグーグル、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)、アップル(GAFA)などIT先端企業の業績が悪化した。スマホやパソコンの需要も減少した。2022年、米国のナスダック総合指数は33%下落した。
特に、ソフトバンクグループが出資した、ITスタートアップ企業からは急速に投資資金が流出した。テレワークによる空室率上昇もあり、米国では商業不動産の価値も下落した。2023年3月には、米シリコンバレー銀行などが破綻し、欧州ではクレディスイスの救済買収も実施された。
厳しさ増す事業環境に対応するため、SBGは新規の投資を減らした。人員も削減した。アリババ株の売却や投資先企業の株式公開も進めた。現金は積み増され、経営の守りは強化された。
「アームの爆発的な成長に没頭する」と宣言
一方、6月21日に開催された株主総会のプレゼン資料で、SBGは反転攻勢に打って出る考えを明確に示した。一つのポイントは、AIの利用増加にある。SBGは、AIがわたしたち人間の知能と同等、それを上回る能力を持つ世界(シンギュラリティ)の実現を目指している。
それが実現すると、これまで多くの時間とコストがかかったシミュレーションなどが行いやすくなる。企業の事業運営、経済運営の効率性は高まるだろう。AI進化の加速に重要な役割を担うのがアームだ。
2022年11月の決算説明会で孫氏は、「今後、数年はアームの爆発的な成長に没頭する」と宣言した。その後、世界のIT先端分野では急激に生成AIの利用が増えた。株主総会のプレゼン資料によると、アームの収益はAI利用増加に伴って伸びている。2022年度の収益は14億8400万ドル(1ドル=140円換算で約2080億円)に増加した(前年度は9億9900万ドル)。
アームが提供するチップの設計図は、米エヌビディアが開発した“グレースCPUスーパーチップ”などに採用された。それを支えに、“チャットGPTなど”生成AI利用は急増した。AIの開発も勢いづいた。
アリババに続く高成長企業に育てようとしている
中長期的に、自動車の自動運転、教育、金融などあらゆる分野でAIの利用は増えるだろう。アームの半導体設計技術の重要性は高まる。そうした展開を念頭に、SBGはアームの上場を計画している。
4月下旬の報道によると、年内に、アームは米ナスダック市場への上場を目指している。株式の公開によって、80億〜100億ドル(1兆1200億〜1兆4000億円)の調達が目指されているようだ。
資金は、より高性能なAI対応チップの設計技術の向上、買収、半導体企業など世界のIT先端企業とのアライアンス強化などに再配分されるだろう。SBGはアームの収益範囲を拡大し、アリババに続く高成長企業に育てようとしている。それが現実のものとなった場合、SBGはアーム株を担保にするなどして資金調達し、先端分野での投資を強化するだろう。
反転攻勢の孫会長が直面する課題
ただ、アーム上場によって資金を調達し、AI関連分野でのビジネスを強化するという成長戦略が想定された成果を実現するか否か、不確定な要素は多い。その一つとして、短期的に、世界経済の先行き不透明感は高まり、株価が不安定化するリスクは上昇しそうだ。
2023年6月の連邦公開市場委員会(FOMC)にてFRBは2023年中に、追加で2回の利上げを実施する考えを示した。エネルギーと食料品を除くインフレの高止まりは大きい。それは米国に限った問題ではない。ユーロ圏やカナダなど主要な先進国で価格変動性の大きい品目を除いた消費者物価は高止まりしている。
また、中国経済は高度成長期の終焉(しゅうえん)を迎えつつある。特に、不動産の投資減少は鮮明だ。建材や家電など多くの分野で過剰生産能力も深刻化した。5月、若年層(16〜24歳)の調査失業率は20.8%、調査開始以来で最悪の水準に上昇した。そのため、世界全体で景気後退懸念は高まりやすくなっている。
本当の意味でのリスク管理能力が問われる
リーマンショック後と異なり、世界的に物価は高止まりしている。米欧の中銀にとって、景気減速や後退に配慮し、金融政策を緩和に転換することは難しい。むしろ、金融引き締めの長期化懸念によって金利上昇が懸念される。世界全体で個人消費や設備投資は減少し、株価が下落するリスクも高まるだろう。
そうした展開が現実のものとなれば、SBGの業績不透明感は高まるだろう。ビジョンファンドは相対的に成長期待の高いスタートアップ企業などに資金を投じた。金利上昇などによって世界の金融市場でリスク回避の心理が強まれば、スタートアップ企業の株価下落圧力も高まるだろう。
6月下旬、AI成長期待は行きすぎと考え、IT先端銘柄を手放す投資家も増えた。物価、地政学リスクなど複合的な要因を背景に世界経済の先行き不透明感上昇を警戒する投資家も多い。
当面、SBGは投資先企業の財務体力、成長性をより詳細に検証し、リスク管理を徹底するだろう。それによって業績の安定性を高めつつ、SBGはアーム上場のよりよいタイミングを見定め、AI利用拡大による成長加速を目指すと予想される。今後、SBGの本当の意味でのリスク管理能力が問われることになる。
●戦争と資源安でロシア財政はボロボロ…プーチン政権を襲う「インフレ」 7/3
急速に悪化するロシアの財政
ロシア政府は昨年6月27日、外貨建て国債が不履行(デフォルト)に陥った。
正確には、ロシア政府は支払いの意思と能力を持っていたが、欧米が経済・金融制裁の一環としてロシアからの支払いの受け取りを拒否したため、外貨建て国債、うちそのほとんどを占める米ドルとユーロ建ての国債の支払いが不履行となったのである。
一方で、ロシア政府は、ルーブル建て国債の発行を増やしている。デフォルトしたのはあくまで外貨建て国債であり、ルーブル建て国債は発行が可能なためだ。今年1〜3月期時点におけるロシア政府の債務残高は名目GDP(国内総生産)の15.0%と、2四半期連続で増加したが、けん引役はそのルーブル建て国債(対内債務)である(図表1)。
   【図表1】ロシア政府の債務残高
1998年に起きた財政危機の際、ロシア政府は外貨建て国債の支払いを継続した一方、ルーブル建て国債の支払いを停止した。今回はその逆であり、ルーブル建て国債の支払いは継続している。そのため、ロシア政府は、国内の投資家向けにルーブル建て国債を発行することができる。
原油・天然ガスの価格暴落で収入減になった
ではなぜ、ロシア政府はルーブル建て国債を増発したのか。
ロシア政府は2023年予算法で、2025年までの3年間、財政赤字を見込んでいる。そのため、国債が増発されるのは自然の成り行きだともいえる。しかし見方を変えれば、それはロシア政府が、今後も財政収支が悪化すると覚悟しているということでもある。事実、ロシアの財政収支は昨年10〜12月期以降、赤字を拡大させている(図表2)。
   【図表2】ロシアの財政収支
財政収支が悪化した理由は、原油・天然ガス価格の下落に伴う歳入の減少と、ウクライナとの戦争の長期化に伴う歳出の増加にあるようだ。
ロシア政府は今年に入って、財政統計より、歳出の細目の公表を停止した。そのため軍事費がどれだけ膨らんでいるか具体的に把握することができなくなったが、財政悪化の主因は軍事費であると推察される。
政府は予備費を取り崩して経済を回してきたが…
他方で、政府の予備費に相当する国民福祉基金(NWF)が余裕を失っていることも、国債の増発につながっていると考えられる。NWFとは、原油高の局面で上振れした税収を、政府が積み立てた予備費である。昨年前半、ロシアの財政収支は黒字だったが、一方でロシア政府は、このNWFを取り崩すことで経済を回していたわけだ。
ロシア財務省によると、ウクライナとの開戦直前の昨年2月1日時点で、NWFの規模は名目GDPの8.9%に相当した(図表3)。
   【図表3】国民福祉基金(NWF)の推移
その後は一貫して減少し、最悪期である今年1月1日時点には6.8%と、NWFの規模は3割近く縮小した。とはいえ、直後にNWFは回復に転じ、直近6月1日時点では8.2%となるに至っている。
NWFの詳細は月次で公表されていないが、NWFは運用部分と流動性部分(すぐ取り崩しができる資産)に分かれている。言い換えれば、NWFには、すぐに取り崩すことができる金額に限度がある。そのため、直近で規模が最も減少した今年1月1日時点で、ロシア政府はNWFの流動性部分のかなりの量を使い切っていた可能性がある。
年明け以降、NWFの規模は再拡大しているが、これは流動性部分の実質的な枯渇を受けて、ロシア政府が歳入の一部を繰り入れるなどし、その回復に努めている結果と考えられる。このように、これまで財政を補塡ほてんしてきた予備費に余裕がなくなっているということも、ロシア政府によるルーブル建て国債の増発につながっていると推察される。
ウクライナとの開戦直後は、原油高・ガス高というボーナスが生じ、それがロシア財政の追い風となった。しかし、昨年後半より資源価格は低下したため、そうしたボーナスは一瞬にして消え去った。反面で、戦争が長期化し、軍事費はかさむばかりである。国内の景気対策に伴う歳出も増えているため、ロシア財政は着実に余裕を失っている。
増発された国債を誰が引き受けているのか
ところで、国債が増発されるということは、その国債を引き受ける先があるということだ。では素朴な疑問として、ロシアで増発された国債を、いったい誰が引き受けているのだろうか。昨年6月の対外的なデフォルトによって、外国人投資家による新発債の購入は見込めなくなった。となると、やはり国内の投資家が引き受けていることになる。
国内最大の投資家となれば、金融機関、それも銀行ということになる。ロシアの銀行のうち、最大手のズベルバンクと第2位のVTBバンクは政府系だ。それに、第3位のガスプロムバンクは、ロシア最大のガス会社で半官半民のガスプロムの子会社でもある。こうした大銀行が、政府の意向を受けて、国債の保有高を増やしているのかもしれない。
そうはいっても、ロシアの貯蓄率の低さに鑑みれば、ロシアの銀行が買い支えることができる国債の量には限界がある。ロシア政府もその点は理解しているだろうから、国債の増発は計画的に行うはずだ。しかしながら、今後も歳入が増加せず、また歳出も削減できない状況が続けば、ロシア政府は国債をさらに増発させざるを得なくなる。
「財政ファイナンス」という禁じ手
そうなると、ロシア中銀による国債の買い支えが視野に入る。それでも、流通市場を経由して買い入れるなら、マネーの膨張はまだ抑制的となる。とはいえロシア中銀が、発行市場で国債をダイレクトに買い入れる事態、いわゆる「財政ファイナンス」が定着すれば、マネーの膨張に歯止めが利かなくなり、ハイパーインフレを起こす恐れが出てくる。
ハイパーインフレが発生すれば、ロシア国民に多大な犠牲がおよぶ。2024年3月に次期大統領選を控えるウラジーミル・プーチン大統領にとって、このようなシナリオは受け入れがたい。政府がまだ冷静な判断ができるうちは、国債の増発も計画的なはずだ。しかしながら、政府が冷静な判断能力を失えば、国債を乱発する事態になりかねない。
このままだとロシアは旧ソ連の失敗を繰り返す
財政ファイナンスはマネー面からインフレ高騰を招く恐れのある禁じ手だ。ロシアの前身国家である旧ソ連では、1970年代にはこうした状況が常態化していた。政府は数量統制(配給制)を強化してそれに対応したが、そうしてインフレ高騰を表面的に封じ込めても、結局は「長蛇の列」にかたちを変えることになった(いわゆる「抑圧インフレ」)。
今のロシアが、こうした旧ソ連のような状況にすぐに陥ることは、まず考えられない。とはいっても、ロシアが今後もウクライナとの戦争を止めることができず、また欧米との関係改善も見込めないなら、ロシア政府は経済運営の在り方を、旧ソ連時代のような統制色の強い、計画経済的なシステムに見直していかなければならないだろう。
もちろん、再び原油・ガス価格が高騰し、ロシアの歳入が急増する事態も予想される。しかしそれは、ロシア自身が分かっているように、一時的な追い風に過ぎない。ウクライナとの戦争を考えるのみならず、ロシアという国の経済の在り方を考えていくうえでも、変調が著しいロシアの財政の動向には、今まで以上に注視すべきである。
●スリランカ議会、国内債務再編計画を承認 IMF支援に不可欠 7/3
スリランカ議会は1日、国際通貨基金(IMF)からの29億ドルの支援を継続するのに必要な国内債務再編計画を承認した。
スリランカは昨年、ドル準備高が記録的な水準まで落ち込み、デフォルト(債務不履行)陥った。全国的な大規模抗議デモが発生、前大統領の辞任につながった。
政府は、債務を持続可能な状態に戻し、IMFの審査を通過させるため6月29日に債務再編の枠組みを発表した。
セマシンハ財務相は、債務再編計画について、2023年までに債務総額を国内総生産(GDP)比95%に削減するというIMFプログラムに盛り込まれた目標の達成に向け不可欠なものだと説明した。 
●昨年度税収、71兆円超え=3年連続で過去最高― 7/3
法人、消費、所得税が軒並み増
財務省が3日発表した2022年度の一般会計決算概要によると、国の税収は前年度比6.1%増の71兆1374億円だった。3年連続で過去最高を更新。企業業績が回復して法人税収が膨らんだほか、歴史的な物価高で消費税収が増えた。賃上げの動きが広がったことにより、所得税収も伸びた。
21年度の67兆379億円を約4兆円上回った。税収の多くを占め、「基幹3税」と呼ばれる法人税、所得税、消費税がいずれも増収だった。全体の税収は、リーマン・ショック後の09年度に40兆円を下回った後、ほぼ一貫して右肩上がりで増え、初めて70兆円を超えた。22年度は昨年11月の補正予算編成時点で68兆3590億円を見込んでいたが、想定を大きく上回った。

 

●アメリカのマーケット展望【2023年7月度】 7/4
短期の相場見通し
S&P500指数の向こう1カ月のターゲットは4200とします。
6月下旬、市場参加者は今後の政策金利の予想に大幅な修正を加えました。具体的には「年内に利下げがある」というこれまで主流になっていた考え方は姿を消し「来年まで利下げは無い」という新しいコンセンサスが醸成されました。
米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利であるフェデラルファンズ・レート(=略してFFレート)を最終的にどの水準まで持ってゆく? ということをターミナルレートと呼びます。現在のターミナルレートのFRBメンバーのコンセンサスは6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で示された経済予想サマリー(SEP)によると5.6%となっています。つまりあと2回利上げがあるということです。これは株式にはアゲンストの風が吹くことを意味します。
2022年2月24日に勃発したウクライナ戦争で開戦後最初の3カ月はエネルギー価格が急騰しました。この時のインフレが酷かった分、今年上半期の前年比較は容易でした。しかし今後は前年比較が厳しくなります。足元の米国経済が強いこともあり、今後、インフレは高止まりし、金利面で落胆させられるリスクは大きいと言えます。
したがって7月は守りに徹するトレード戦略が良いと思います。
米国経済の現況
米国経済はすこぶる好調です。6月29日に発表された2023年第1四半期GDP前期比年率確定値は2.0%と強い数字でした。ちなみに暫定値は1.3%でした。
経済成長の中心は消費であり、とりわけ旅行などのサービス消費が好調です。サービス業は雇用者数が大きく、それが好調なので賃金インフレ圧力は引き続き根強いです。
つまりインフレの原因は去年前半のエネルギー価格の高騰から今は賃金へとシフトしたということです。賃金インフレは一度始まると癖になると言われます。つまりインフレ退治が難しいということです。
このことはFRBをしてタカ派的な金利政策を継続せざるを得なくなることを意味します。株式に強気になれない理由がここにあります。
3月半ばにカリフォルニアを中心としてテクノロジー・セクターと取引の多い地銀が次々に経営危機に陥る場面がありました。しかしその後地銀不安は収束しています。あのとき長期金利は先安観が台頭したのですが今は不安が収まった分、金利には上昇圧力が働きやすいです。
今後問題になりそうな点としてはオフィスビルを中心とする商業用不動産の貸付が焦げ付くリスクが挙げられます。コロナ以降、リモートワークが定着し、それがオフィス需要に暗い影を落としているからです。今後商業用不動産でデフォルトが頻発した場合、おもにそのセクターに貸し込んでいるのは地銀なので再び地銀経営に不安が走るリスクは無いとは言えません。
これとは対照的に一戸建て住宅に関しては新築住宅が盛り返しています。その理由は米国での住宅販売の大半を占める中古住宅の売買成立が低迷していることが挙げられます。過去1年半FRBがぐいぐい金利を引き上げた関係で、今住宅ローンを借り換えすると金利負担がとても重くなります。そこで1〜2年前に30年固定住宅ローンを組んでしまったマイホームのオーナーは、少々いま住んでいる処に不満があっても、有利なレートで借金している関係で、わざわざ持ち家を売りに出し、不利なレートで借り直すことはどうしても避けたいと考えています。それが中古住宅の売り物件が払底する理由となっています。新築住宅がにわかに脚光を浴びているのはそのような理由によります。
住宅建設は経済波及効果が大きいので新築住宅販売が上向くことは景気が強くなる可能性が高まったことを示唆しています。(リセッションが近い!)という市場関係者の思惑とは逆の動きだと言えると思います。
企業業績
7月半ばから2023年第2四半期の決算発表シーズンが始まります。四半期決算の前年同期比の変化率的には第1四半期がボトムで、第2四半期から徐々に改善に向かうという予想がある一方でドル高の企業業績へのマイナスの影響を心配する声もあります。全体的には米国の企業業績は株価を牽引するだけの勢いに乏しく、愚図愚図していると形容できます。
●3日の米国株相場は続伸、EV関連や銀行株が値上がり 7/4
3日の米株式相場は続伸。経済成長鈍化や製造業の減速に対する警戒感はあったが、そうした影響を払いのけて小幅ながら上昇した。独立記念日の祝日を翌日に控え、この日は午後1時までの短縮取引で、商いは通常より薄かった。
テスラは6.9%高で終了。4−6月(第2四半期)の納車台数が過去最多となったと前日に発表したことで買いを集め、競合他社やバッテリー供給業者の株価も連れ高となった。バンク・オブ・アメリカ(BofA)などの銀行株も上昇した。
大手ハイテク株中心のナスダック100指数は0.2%高。同指数は1−6月(上期)として過去最大の値上がりを記録した。
ビアンコ・リサーチ創業者のジム・ビアンコ社長は、不況が実際には起きず、政治的危機を回避できた場合、インフレ率は3%で底打ちし、その後再び上昇し得ると予想。
「インフレ率が3%で底を打ち、その後徐々に上昇し始めれば、米金融当局は容認できないと思うはずだ。その場合、年内あと3回ではないにせよ、これまでに織り込んできたあと2回の利上げは実施されることになるだろう」とブルームバーグテレビジョンで述べた。
米供給管理協会(ISM)が同日発表した6月の製造業総合景況指数は、約3年ぶりの低水準となった。生産や新規受注のデータなどが低下した。
市場関係者の間からは、近づきつつある決算発表シーズンや、7日に発表される米非農業部門雇用者数など今後得られるデータから、米経済の健全性に関する手掛かりを得たいという声が聞かれる。
BMOキャピタル・マーケッツのストラテジスト、イアン・リンジェン氏は「米連邦公開市場委員会(FOMC)が現行の引き締めサイクルであと1、2回利上げをするか、あるいはこれ以上一切しないかは、今後入手されるデータ次第となろう」と指摘。その上で、今週発表されるデータはFOMCの7月会合よりも9月会合に対して大きな影響を与えるとの見方を示した。
国債
米国債相場は下落(利回り上昇)。4日の祝日を前に、この日は午後2時までの短縮取引だった。
2年債と10年債の逆イールド(長短金利差の逆転)が一段と拡大。2年債利回りが一時4.96%に達し、10年債利回りを最大110.8ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上回った。ブルームバーグがまとめたデータによれば、2−10年債の逆イールドは3月に110.9bpに達し、1980年代初期以来で最大に開いていた。
6月のISM製造業総合景況指数が予想外に低下し、約3年ぶりの低水準となった後、逆イールドは約108.5bpに縮小した。
外為
外国為替市場では円が主要10通貨に対して弱含んだ。対ドルでは一時、0.4%安の1ドル=144円91銭を付けた。6月30日には昨年11月10日以来の安値である145円07銭まで下落していた。
クレディ・アグリコルCIBのG10為替調査・戦略責任者、バレンティン・マリノフ氏はこの日のISM製造業指数について、「先週末発表された米個人消費支出(PCE)コア価格指数が市場予想に比べて若干伸びが鈍化したのに続き、この日のISM製造業指数が弱かったことで、利上げ見通しが幾分後退するかもしれない。しかしこの統計は、今週発表される他の米指標、非農業部門雇用者数やISM非製造業総合景況指数、求人件数、ADP民間雇用者数などに比べると重要性が劣る」と指摘した。 
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨戦略グローバル責任者、ウィン・シン氏は「変動の大きい相場展開が続くと予想されるが、イベントリスクを考えると、今週ドルをショートにするのは非常に危険だと考える」と述べた。
このほかオーストラリア・ドルが米ドルに対して3営業日続伸した。豪中銀が追加利上げを行うか休止するかを巡り、エコノミストと短期金融市場の間で見方が分かれている。
原油 
原油相場は小幅反落。サウジアラビアが自主減産をもう1カ月継続する意向を明らかにしたことで上昇したが、米経済統計をきっかけにマイナスに転じた。
ISMが発表した6月の製造業総合景況指数を受けて、ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物は薄商いの中で下落。1バレル当たり70ドルの水準を下回って引けた。製造業総合景況指数は約3年ぶりの低水準だった。サウジは7月に実施している日量100万バレルの減産を8月も継続する意向を発表した。その直後にロシアも8月に日量50万バレルの輸出を削減すると表明した。
両国の動きは主要産油国による原油価格押し上げ努力の一環だが、現時点では今年に入り効果はみられない。中国経済の回復が鈍いため、北海ブレント原油価格は約11%下げており、トレーダーらは米経済がリセッション(景気後退)に陥る可能性や、ロシアやイランからの旺盛な輸出で供給が押し上げられている状況を懸念している。
サウジとロシアによる3日の発表は、投機的なポジショニングに変化を起こす可能性が高い。商品先物取引委員会(CFTC)のデータによれば、ヘッジファンドやその他マネーマネジャーが先週WTIに関して建てた新規の弱気ポジションは、2017年以来の規模に膨らんだ。
英スタンダードチャータードの商品調査責任者、ポール・ホースネル氏は発表された減産計画について「投機的なショートの巻き戻しを後押しするだろう」と指摘。現時点での極端なショートポジションの「かなりの部分はこうした産油国の行動に屈服するかもしれない」と続けた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物8月限は前営業日比85セント(1.2%)安い1バレル=69.79ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント9月限は76セント下げて74.65ドル。

ニューヨーク金相場は小幅上昇。スポット価格はニューヨーク時間午後2時8分現在、前営業日比0.1%高い1オンス=1920.75ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は同10セント(0.1%未満)上昇の1929.50ドルで引けた。
●少子高齢化で赤字にあえぐ健保組合 持続可能な制度の在り方を考えると… 7/4
全ての人が公的医療保険に加入し、医療費の負担を軽くするよう助け合う「国民皆保険制度」。世界一の長寿を支えてきた日本の医療の特徴だが、収支は年々厳しさを増している。少子化や景気低迷で保険料収入が伸び悩み、高齢化や医療の高度化による医療費の膨張に追いつかないためだ。赤字にあえぐ企業の健康保険組合の姿から、持続可能な制度の在り方を考える。
保険料率上げ限界/高齢者医療への拠出増
「収支は四年前から赤字が続いている。いまは積立金を崩して、何とかしのいでいる」。機械器具製造の中小企業五百八十社が加入する健康保険組合「愛鉄連健康保険組合」(愛鉄連、名古屋市)の顧問、井ア茂さん(69)は、こう話す。
収入源は、各事業者と従業員が毎月半分ずつ納めている保険料。平均月収に応じた標準報酬月額に、組合が決めた保険料率9・71%をかけた金額だ。収入を増やすために保険料率を引き上げたいところだが、「加入者に新たな負担を求めるのは、コロナ禍の影響や物価高といった社会情勢も考えると難しい」と言う。
もう一つの手が、支出の削減。従業員やその家族が医療を受けた際の自己負担分以外の支払い「保険給付」を圧縮するため、健康づくりを後押しする事業に力を入れている。
一方で、悩みの種は、支出の四割以上を占める高齢者医療の支援金や納付金。決められた負担割合に従って支払わなければならないからだ。
会社員の場合、一般的に六十五歳未満は勤務先の健保組合か、健保組合のない企業向けの「全国健康保険協会(協会けんぽ)」に加入。六十五〜七十四歳は地域の「国民健康保険」に加入する人が多く、七十五歳以上は「後期高齢者医療制度」に入る。高齢者は現役世代より医療費が多くかかりがちなため、高齢者医療確保法はその支援として、全国に約千四百ある健保組合や協会けんぽなどに、加入者数や財政力に応じてお金の拠出を求めている。
この金額は高齢化に伴って増加傾向が続いており、二〇二三年度の予算では健保組合全体で三兆七千億円余りに上る。給与が伸び悩む中でも、この十年で四千億円以上増え、全体の保険料収入の44%を占めるまでになった。
加えて、医療費も増加傾向だ。健保組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)の専務理事、河本滋史さん(66)によると、二〇年度はコロナ禍による受診控えで保険給付が前年を下回ったが、その後は反動から5%を超える伸び。医療の高度化で単価も上がっている。
二三年度は約八割の健保組合が赤字を見込む。全体の赤字額は約五千六百億円と、リーマン・ショック翌年で経済が急激に落ち込んだ〇九年度並みの規模となる見通しだ。
健保組合は、加入者の標準報酬月額の平均が協会けんぽより高く、財政的に豊かなため、国の補助がなくても、保険料率を独自に低く設定できるのが利点とされる。最近は徐々に上昇し、二三年度の平均料率は過去最高の9・27%。協会けんぽの料率10%と同じか、それを上回る健保組合も二割を超える。
「10%以上の保険料率には事業者も被保険者も、もう耐えられないというのがほぼ共通理解」。協会けんぽの担当者は説明する。二五年には団塊の世代が七十五歳以上となり、後期高齢者支援金の急増も見込まれる。財政状況の悪化した健保組合が解散し、協会けんぽに移ってくる−。深刻な状況が迫りつつある。
支出抑える病気予防推進 デンソー家族に健診勧め効果
健保組合の支出をいかに減らすか。対策を強める動きも広がっている。その鍵となるのは、保健事業。健康な人を増やし、医療費をなるべく使わなくていいようにする取り組みだ。
デンソー健康保険組合(愛知県刈谷市)は愛鉄連と共に二〇二一年から、従業員の家族を対象にした対策を始めた。組合に届いたレセプト(診療報酬明細書)を基に、生活習慣病で通院中なのに、特定健康診査(メタボ健診)を受けていない家族を抽出。県医師会の協力も得て、普段の通院先を指定した上で健診の案内状や問診票を送る仕組みを整えた。
従業員の家族は、従業員本人に比べて組合からの情報発信に触れにくい。メタボ健診受診率も5%未満だったが、案内状を送ると二割近い人が受診。中には、健診をきっかけに病気が見つかり、早期の治療につながった人もいた。
医療機関にとっても、健診を受け入れることで収入が新たに確保できる。デンソー健保組合の永井立美常務理事(58)は「誰も損しない効果的な保健事業。利害が対立しがちな支払い側の健保と提供側の医師会が、手を携えられたことも大きな一歩」と胸を張る。
この取り組みは、二二年度にトヨタ自動車など他の十一の健保組合も加えた事業へ発展。二三年度から健保連愛知連合会の事業となり、県内の九十三ある組合にも参加を呼び掛けている。今後は県内の協会けんぽや、自治体が管轄する国民健康保険といった他の公的医療保険との共同展開も目指すという。
ただ、保健事業やデータ分析にも当然、経費はかかる。高齢者医療への負担などが増え続ければ、保健事業に回せる余力は減る。「被保険者のニーズをくみ、健康を増進する事業を展開できる点が健保組合の強みで、存在意義」と健保連の河本滋史さん。「保健事業がうまく展開できず、保険料率だけが上がり続けるなら、組合を持つ意義は薄れ、解散した方がいいとなりかねない」と危惧する。
解散した場合の受け皿になる協会けんぽは、健保組合と比べて加入者の標準報酬月額が低く、財政基盤が弱いため、保険給付費の16・4%は国庫補助で賄っている。財政の厳しい健保組合が相次いで破綻すれば、国の財政への影響は必至だ。
今国会で成立した改正健康保険法などは、後期高齢者の保険料の上限額を収入に応じて引き上げた。前期高齢者の医療費に対する現役世代の負担についても、収入に基づいて計算する仕組みを導入。協会けんぽや小規模の健保組合より、平均賃金の高い大企業の健保組合に多くの負担を求めることにした。
財政支援策も一部拡大されたが、今後も現役世代が減り、高齢者が増える構図は続く。将来的にさらなる負担増も避けがたい。河本さんは言う。「医療保険はみんなで支え合う制度。負担を抑えるためには、一人一人ができる限り健康でいるための努力を続けることが一番大切だ」
識者に聞く
公的医療保険制度に詳しい日本総合研究所理事の西沢和彦さん(57)と、慶応大教授の土居丈朗さん(52)に健保組合の改善策を聞いた。
   日本総合研究所理事 ・西沢和彦さん 自分ごととして制度理解
医療保険は大まかに言えば、現役世代が高齢世代を支える構造。大半の高齢者は一人あたりの医療費が高く、負担能力が低いためだが、少子高齢化で支える側が少なくなる状況では、この構造を維持するのは大変困難だ。
健保組合は自分たちで保険料率を決められる独立した集団のはずだが、現状はその支出の半分近くが拠出金。後期高齢者医療制度の前身「老人保健制度」が一九八三年に始まって以降、利益を受ける人がその度合いに応じて費用を負担するとの原則は徐々にゆがみ、成り立たなくなっている。
保険料は生活に直結する問題だが、舞台裏で財政調整しているため本来の負担が見えにくく、国民の当事者意識は薄れがち。それがコンビニ受診のような過剰な医療につながっている側面もある。持続可能な制度にするには、一人一人が利益と負担について理解することも不可欠。まずは給与明細で天引きされている保険料を確認したり、加入する医療保険の収支を調べたりしてみてほしい。
   慶応大教授(財政学)・土居丈朗さん  平等負担へ増税議論必要
世代間の分かち合いはある程度必要だが、現役世代の負担にも限界がある。高齢者の保険料は極力上げない方向でこれまで進んでおり、かなりアンバランスになっていた。今国会での法改正で高所得の高齢者の負担を引き上げて是正を図ったことは意義深い。
ただ、問題の本質は、膨らむ医療費をどう負担していくか。なぜ保険料で負担する必要があるか、という根本については、国民に共通理解がないように思う。
増税は毛嫌いし、保険料の引き上げは甘んじて受けがちな向きもある。保険料はリスクに対して支払うもの。少子化対策の財源論もそうだが、リスクに関係なく単に聞こえがいい保険料という名の世代間の所得移転で、政治が取りやすいところに流れているだけだ。
高齢者医療への拠出金(支援金や給付金)はしばらく増え続けるだろう。何に備えた保険として保険料という対価を支払うのか、被保険者や事業主により説明しづらくなる。平等な負担として消費税などの税で不足を賄う議論も必要だ。
●BofAとシティ、FRBにストレステスト結果の明確化要請 7/4
米金融大手バンク・オブ・アメリカ(BofA)とシティグループは3日、米連邦準備理事会(FRB)による銀行ストレステスト(健全性審査)結果が、金融規制改革法(ドッド・フランク法)に基づく自社の分析結果と異なることについて理解するため、FRBと協議を開始したと発表した。
今年のストレステストでは銀行が深刻な景気低迷を乗り切るための資本を十分有していることが示され、全行が合格。これを受け、JPモルガン・チェース、シティ、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーは第3・四半期の増配を発表したが、BofAはまだ発表していない。
BofAは、ストレステストで評価された9四半期の「その他の包括利益」と呼ばれるカテゴリーでの相違を理解したいと発表文で述べた。
FRBはコメントを控えた。
パイパー・サンドラーのアナリスト、R・スコット・シーファーズ氏は3日に公表したリサーチノートで、BofAの分析はFRBの審査よりも悪いことを示唆していると指摘。結果を巡る不透明感がやや増したが、最終的な結果に影響がないことを期待すると述べた。
シティは増配を発表したが、FRBとの協議についてBofAと同様の発表文を出した。
●米金利5%台目前 16年ぶり水準視野 S&P500上昇の重荷に 7/4
2年物米国債の利回りが4.940%をつけ、2007年以来の水準が迫る。値上がりしてきた米国株にとっては不安材料だ。
米国の金利上昇が改めて勢いづいている。2年物米国債の利回りは3日のニューヨーク市場での取引終了時点で4.940%となり、5%台が目前に迫った。今後、3月8日につけた5.066%を超えれば、16年ぶりの高さになる。背景には米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ継続姿勢があり、金利の先高観は根強い。一方、米国の株式市場では5月以降の金利の上昇にも関わらず、株価が値上がりしてきた。ただし金利上昇が株価にとって下落圧力となることは避けられず、投資家心理に悪影響を及ぼす可能性もある。
2年物米国債の利回りが4.940%に
金融情報会社リフィニティブのデータによると、2年物米国債の利回りが4.9%台で取引を終えるのはシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻前日の3月9日以来。前日の8日につけた5.066%は、2007年6月14日(5.098%)以来の高さだっただけに、米国の金利水準が16年ぶりの高水準に迫っているといえる。
   2年物米国債の利回りの推移
利回り上昇の背景にあるのは、米FRBの利上げ姿勢だ。CMEグループのデータによると、7月25、26日の連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%利上げについて、投資家の動向から算出される確率は、日本時間4日午後1時30分すぎの時点で89.9%。年内2回の利上げについての確率は約36%となっている。これらの確率は、6月14日のFOMCで利上げが見送られると同時に年内2回の利上げが示唆された段階では、それぞれ65%と6%程度の高さだった。投資家がFRBの利上げを織り込んでいくにつれて、米国債の利回りも高まっている。
金利上昇でも米国は株高
一方、金利水準の高まりにも関わらず、米国の株式市場は上昇を続けてきた。2年物国債の直近の利回り上昇が始まったのは、ファースト・リパブリック銀行の経営破綻処理が決まった後の5月5日から。利回りは7月3日までに約1.2%も高くなっている。しかしこの間もS&P500種株価指数は約10%値上がり。6月8日には強気相場入りも果たしている。金利上昇が企業活動や消費を抑え、業績に悪影響がでるという不安を感じさせない値動きだ。
ただ、金利上昇が株価にとって不利な条件であることは確かだ。S&P500は2022年1月3日に史上最高値(4796.56)をつけたが、3月以降のFRBの利上げを背景にして値下がりしていった。これに対して2022年秋以降の株価上昇は、米国の物価上昇がピークをつけて金利の先高観が緩んだことや、地銀破綻の影響で金利水準が一気に下がった時期と重なっている。
   2年物米国債の利回りとS&P500種株価指数の推移
FRBが年内2回の利上げを強調している以上、投資家の脳裏に株価の先行きに対する不安は残り続ける。このまま金利水準が上がっていけば、不安がさらに膨らんでいく可能性もありそうだ。
●NY株3日続伸、10ドル高 増配発表の銀行株に買い 7/4
週明け3日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3営業日続伸し、前週末比10・87ドル高の3万4418・47ドルで取引を終えた。増配を発表した銀行株が物色され、相場全体を押し上げた。
米連邦準備制度理事会(FRB)が前週発表したストレステスト(健全性審査)の結果が良かったのを背景に、大手銀が相次いで増配を決めた。この日は午後1時までの短縮取引だったことから市場参加者が少なく、上値は限られた。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も続伸し、28・85ポイント高の1万3816・77。
個別銘柄では、小売りのウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンスや娯楽・メディアのウォルト・ディズニーの上昇が目立った。医薬品のジョンソン・エンド・ジョンソンは売られた。
●中国不動産業界の国外債務再編、復活の一手となるか 7/4
2021年12月にデフォルトに陥った不動産開発大手の中国恒大集団は2022年7月に予定されていた再編暫定案の発表を延期し、このほど3月22日にようやく再編案に関する発表があった。経営危機に陥った不動産関連企業の債務再編は目に見えて加速しており、これが苦境脱却の重要な一歩となるだろう。
「私は会社を代表し、債務の履行遅滞をめぐり投資家の皆さまにご迷惑をお掛けしたことを心よりおわびいたします」。かつての「不動産業界の大御所」らはこのほどそろって謝罪、省察、反省の意を表明した。中国大手デベロッパー融創の董事会主席を務める孫宏斌氏は3月29日夜、同社の海外債務再編説明会の場で冒頭のように投資家に謝罪したのち、現在の債務返済問題に至った原因を総括した。融創は本来、中国政府が2020年夏に示した不動産融資規制「3つのレッドライン」に沿って自社の発展速度をコントロールし、レバレッジを徐々に引き下げていた。「だが、大規模なモメンタムを追求するあまり、投資に対して過度に楽観的かつ急進的となってしまった」と述べた。
この数日後には別の中国不動産代理店大手の易居企業控股(イーハウス)が現金返済や債務の株式への転換からなる外債(国外債務)再編計画を公表した。
重くのしかかる莫大な債務を前に、複数の不動産関連企業が外債再編に関する最新状況を次々と公表している。
融創は3月28日、90億4800万ドルの外債再編に関しすでに国外債権者グループとの間で再編支持契約を締結しており、外債再編案について既存の債権者からより幅広い支持が得られるよう努めていくと発表した。再編案には転換債、強制転換債、融創服務(Sunac Services)の一部株式への転換や新たな債券との交換などが含まれている。
同じく中国不動産開発大手の中国恒大集団(以下、恒大)は3月22日、国外債権者グループとの間で再編案に関する主な項目で合意に至ったと発表した。恒大は新債を発行し旧債と置き換えるとし、新債は償還期間4〜12年、利率は年2〜7.5%で、はじめの3年は利払いなしで4年目から元本の0.5%の利払いが開始されるとした。
また正栄地産や旭輝控股もこれより前に海外キャッシュフローの解決案に関する状況を公開している。
恒大のような債務危機に陥った不動産関連企業はいま債務再編を加速させており、自社のための時間的猶予を確保し、政策緩和の機会を捉えようとしている。だが資金不足を補い、建設中物件の確実な引き渡しを実施しなければ、一切の再編案は最終的に泡と化す恐れがある。
こうした状況からして、債務再編は債務危機に陥った不動産関連企業の自助策の第一歩にすぎないようだ。
投資家の理想とはいえない再編案
恒大は2021年12月、2億6000万ドルの債務担保責任を履行できず、期限前ドル建て債のすべてがクロスデフォルトに陥った。同社は1年余りにわたり外債の再編進展状況をたびたび公開してきたが、本来2022年7月中に予定されていた再編暫定案の発表は延期されてきた。
上述のとおり今年3月下旬に同社の外債再編暫定案がようやく公開されたが、これは外部の恒大に対する疑義を晴らすまでには至っていない。
この合意に関係する外債は2つの部分に分けられる。第1に恒大が発行したドル建て有担保上位債券で、元本総額は139億2250万ドルとなっている。第2に景程有限公司が発行し、天基控股有限公司などが担保する元本総額52億2600万ドルのドル建て優先債だ。2件の外債の元本総額は合計191億4900万ドル、景程と天基はいずれも恒大の海外融資プラットフォームだ。
これらは恒大の外債の全容ではないものの9割以上を占める。2021年12月31日の時点で恒大の有利子外債の規模は1402億8400万元に達しており、国外債務規模は4億900万元ともいわれていた。
具体的には恒大、景程、天基各社の外債についてそれぞれ3件の合意書が締結されたが、各再編案にはやや違いがみられる。
恒大の協議書においては外債がクラスAとクラスCに分けられており、クラスAには恒大のデフォルトとなったかまたは期限前の外債12件、クラスCには恒大の偶発債務と簿外債務が含まれている。
この両グループの債権者の前には2つのプランが提示された。プラン1は債権者が1対1の割合で旧債を恒大が発行する新債と置き換えるもので、新債の期限は10〜12年、クーポンレート(表面利率)は2〜4%で満期時に償還される。プラン2は新債への置換えとデット・エクイティ・スワップ(DES、債務の株式化)から選択可能という案だ。債権者は旧債を恒大が発行する5〜9年満期の新債、もしくは恒大物業、恒大新能源汽車または恒大の上場株式とひも付けられた5件の株式連動型商品に転換できる。
景程の協議書においては、債権者は景程が発行した4〜8年満期の新債5件を獲得でき、元本総額は65億ドルとなっている。また天基の協議書では天基発行の5〜8年満期の新債を債権者が取得でき、元本総額は8億ドルとなっている。
再編案においてはDESも注目を集めている。恒大は現在、恒大物業と恒大新能源汽車の株式をそれぞれ51.7%、58.5%保有しているが、これらの株式の価値についてはその業績などを理由に疑問の声が上がっているのが実情だ。
経営危機に陥った他の不動産関連会社と比べ、恒大の再編案における新債の期限10〜12年というのは相対的に長めだ。例として華夏幸福の新規外債の期限は8年、富力地産の外債では3〜4年であり、新債の期限が長いほど不確定性が高まることを意味している。
諸葛データ研究センターのシニアアナリスト陳霄氏によれば、旧債の新債への交換における償還期限の延長は最大12年で、なおかつ4年目から利子の支払いが始まる。つまり債権者はさらに3年待たされることになり、理想的な案とは到底いえない。しかし、仮に恒大が最終的に債務再編の条件を満たせず清算という命運をたどれば、債権者の損失はもっと大きくなるという。
恒大は再編案の公開の際、再編に失敗して清算に至った場合の債権者の予想回収率は、わずか2.05〜9.34%とのデロイトの試算も明らかにしている。
「今回の債務再編は外債を対象としたものだが、外債では資産ではなく企業自身の信用力を担保として融資を受けており、企業が流動性リスクではなく債務超過リスクに直面した際、この部分の債務の債権者が選択できる処理モデルは決して多くない。もし資金注入に成功し、恒大に数年の時間が与えられて、その間に復活できるならば、それが唯一の手段となるかもしれない」。住宅政策を研究する専門家はこう話している。
「恒大はデフォルト以降、債務や資産規模を今回初めて公開したが、そもそもこれ自体、同社の債務再編業務に重要な進展があったことを意味する」と業界関係者は感慨深く語る。再編案は外債を対象としたものだったが、恒大は内債の処理状況についても公開している。
恒大は昨年以降、国内企業に対する債務の元本または利子の期限延長を相次いで完了したが、延長期間は6カ月から1年で元本金額は合計で約535億元、利子は37億300万元に達している。とはいえこれは恒大の内債のうち一角にすぎない。同社の国内のデフォルト金額は昨年12月31日の時点で有利子負債が約2084億元、商業引受手形が約3263億元、偶発債務が約1573億元に達している。
恒大の内債の整理が、外債以上にいばらの道であることは間違いないだろう。
外債優先、DESが主流
昨年末以降、経営危機に陥った不動産関連会社の債務再編の動きは目に見えて加速しており、かつその多くが恒大と同じく内債に先んじて外債の処理を優先させている。
記者の統計によれば、今年に入り花様年控股、華夏幸福、中梁控股、旭輝控股、中国奥園、融創といった不動産関連企業が債務再編の進展を相次いで発表した。富力地産、緑地控股といった企業は昨年末に再編の進捗が得られているが、このうち富力地産、華夏幸福は国内も含めた債務全体の再編に成功した数少ない企業となっている。
富力地産は昨年、国内外の債務すべての償還期限延長を初めて成功させた。
同社は昨年11月、発行済みの内債8件すべての償還期限を延長し、加重平均満期は約4カ月から3年以上に延期された。債務の総額は135億元である。また、昨年7月には総額49億4300万元のドル建て債10件すべての期限延長を果たした。ここには同社の中長期国外ドル建て債のすべてが含まれ、償還期限は3〜4年に延長された。これで富力地産は合計467億元の国内外債務の再編に成功したことになる。
再編案を公開したこれら不動産関連会社は一刻も早く債権者の支持を得たいと考えているに違いない。3月28日に国外債務再編案を発表した融創は、再編支持協議書に未署名の債権者に署名を促すため、同意費なるものを設けた。4月20日までに再編支持協議書に署名した債権者は元本総額の0.1%を同意費として現金で受け取れるというものだ。
現在、再編債務のうち3割超を保有する債権グループはすでに再編支持協議書に署名している。融創の執行董事兼行政総裁の汪孟徳氏は再編案説明会の場で、同社は最大の誠意と、各債権者とともに難関を乗り越える決意をもっており、再編案に対する支持を早急に得られることを望むと表明した。
諸葛データ研究センターの陳霄氏は、国外債権者が各地に分散していることや構成の複雑さ、監督管理の緩さが複数の不動産関連企業の交渉難度を上げていると話す。一方で内債は刺激政策による下支えがあることから、交渉難度は相対的には国外債務より小さい。外債問題が適切に解決されれば内債再編にとっての好材料となるだろう。恒大が望んでいるのは、外債再編案の立案を通じて営業再開の必要条件をつくると同時に、外債再編が国内債権者との和解を後押しすることによって、秩序立った営業再開を実現することであり、債務返済のキャッシュフローを生み出すことである。
債務解消手段としては、旧債の新債との交換、償還期限の延長、債券の株式への転換などが再編案の主流となっている。例として融創の外債再編案をみると、海外債権者は債券の株式への転換または償還期限延長という2つの選択肢が提供されている。1点目においては債権の全部または一部を株式に換えることで短期的流動性と株価値上がりのポテンシャルというメリットを享受できる。2点目では債権の回復と若干のキャッシュによる弁済メカニズムによって利益を得られる。
債権者はこの2つ目の選択肢において旧債を新債に交換できるが、融創はドル建て債8件の発行を計画しており、規模は5〜13億ドルでクーポンレートは5〜6.5%となっている。
融創の再編案には他にも3つの選択肢があるが、いずれも新債への交換とは違って実質的には債券の株式への転換である。つまり債権者は債務を転換社債、強制転換社債に転換または融創服務の株式に交換できる。
強制転換社債を例に挙げよう。仮に再編案が通れば債権者は債務のゼロ利子、満期5年の強制転換債への転換を選択でき、規模としては全体で17.5億ドルとなっている。債権者は異なるタイミングと価格で債務を融創の普通株に交換できる。再編が効力を有した当日または6カ月後に、債権者は強制転換債の最大25%を1株10香港ドルで株式に転換できる。これ以外のタイミングでの株式転換については、転換価格は転換前の90取引日における融創の普通株の加重平均価格となる。株式転換していない強制転換社債は満期時にすべて融創の普通株に転換されるという。
だが、2021年の年次報告書と2022年の中間決算報告が発表されなかったため、融創はいまも取引停止状態にあり、取引停止前の価格は1株当たり4.58香港ドルとなっている。
融創の董事会主席を務める孫宏斌氏が2021年11月に自社に提供した4億5000万ドルの無利子借款も、強制転換社債の形で融創の株式に転換されるとみられている。
建設事業の確実な引き渡しが鍵
外債再編説明会の場で孫氏が提示したのは2点の要求のみだった。第1にスピードだが、これは企業が通常の経営を再開するにあたっての基礎となるものだ。第2に再編案が体系的かつ周到であることだが、これが企業の真の意味での復活と苦境脱却を支えるものとなる。脱却できなければ債務再編が全債権者の最終的な利益を守る有意義なものとはならない。
融創を含む経営危機を抱えた不動産関連企業が、債務再編のための時間的猶予を必要としているのは明らかだ。
富力地産はかつての債務再編後、内債・外債再編の成功により直近3年間の短中期債務圧力が大幅に軽減し、同社の経営改善と市場への再参入に備えて貴重な「窓埋め」(ここでは乱高下した株価を平常の水準に戻すこと)の時間を稼げたとの見方を示している。
花様年控股は今年1月、元本40億1800万元の外債再編案に関し、置き換えを実施した新債券8件の償還期限が2022年12月から2〜6.5年延長されたと発表した。外債再編の償還がない2年間は、建設プロジェクトの引き渡し完了にとって極めて重要である。この期間に外債利子の現金支出が大幅に減少することで、花様年控股のキャッシュフローが改善し、短期債務(流動負債)の比率が上がることになるからだ。
同社の試算によれば、仮に中国の不動産市場が正常に回復し、企業の業務が通常に戻ってプロジェクトの新たな融資が得られた場合、今年から2030年までに既存プロジェクトのアンレバードフリーキャッシュフロー(UFCF、負債を考慮せず、資本構成に影響されないキャッシュフロー)は年間9億〜160億元となり、累計で約400億元〜700億元になるという。
とはいえ、新たな融資と秩序ある経営を通じて段階的に償還に向けたキャッシュフローを生み出すことが鍵であり、これがかなわなければ償還期限延長による時間稼ぎ的な行為が無意味であることは間違いない。
融資面に関して中指研究院(チャイナインデックスアカデミー)企業研究総監の劉水氏は、今年に入り政策上の奨励が継続するなか、無担保社債の発行主体は著しく多様化したと述べる。中央企業、国有企業および信用補完債券を発行済みの民間企業以外にも中駿、雅居楽などの中規模民間企業や経営危機にある不動産関連企業も発行に成功し、かつ中債信用増進投資股份有限公司(CBIC、保証保険会社)による取消不可連帯責任担保を得ている。
外債の発行が停止となって5カ月以上経過したいま、ようやく光が見えてきた。越秀、金茂は今年1月、マカオ金融資産取引所(MCEX)でいち早く債券発行に成功した。だが国外債券が頻繁に違約している影響で不動産関連会社による外債発行は一時深刻なダメージを受けたため、投資家の信用が短期間で回復することは難しいとしている。
債券発行という資金調達手段を失い、恒大の現在のキャッシュフローはかなり切迫している。2021年年末の時点で、恒大および天基のフリーキャッシュフローは合計でわずか約21億元にすぎなかった。今後3年間における両社の重要任務は住宅物件の確実な引き渡しであり、経営活動回復と秩序ある運営を維持するにはさらに2500億元から3000億元の融資が必要になるだろう。この期間における既存プロジェクトのUFCFは、主に建設事業継続に必要な追加融資の償還に充てられるため、恒大の無担保債務の償還能力はまだ弱い。
恒大が4年目に通常の経営をほぼ取り戻すことができ、かつ実施主体の確認が済んでいない都市老朽化改造事業の開発が続けられれば、恒大のUFCFは徐々に増えていくだろう。2026年から2036年の10年間にUFCFは年平均で約1100億元から1500億元となる見込みだ。ただ、このキャッシュフローは償還を迎えた事業関連の既存債務を考慮しないものである。
しかし、恒大の不動産販売はこの2カ月で積極的な状況をみせている。同社の昨年の成約額は約317億元(建設費用の相殺額を除くと約196億元)、成約販売建築面積は約390万4000平方メートルとなった。また今年1月から2月にかけては約65億7000万元の成約を実現した(施工会社またはサプライヤーに譲渡される現物払い財産控除後の金額は約47億5000万元)。
恒大の今後の重要任務は依然として住宅の確実な引き渡しだが、プロジェクトの債務違約金および訴訟リスクは大きな障害になると劉水氏は述べる。同社の発表によれば、一部の国内債権者はすでに恒大に対して法的措置を講じ始めている。3月22日の時点で係争金額1億元以上の訴訟件数は789件超、係争金額は合計で約3313億元、また、係争中の仲裁案件数は43件超、その係争金額は約322億元に上っている。 

 

●日本の銀行株が世界でアウトパフォーム、政策修正から業績へ関心移る 7/5
日本の銀行株が米国の地銀の破綻を発端とする信用不安前の水準を上回ってきた。日本銀行の政策修正が期待される中、インフレによる貸し出しの増加が株価を押し上げている。
TOPIX銀行業指数は4日、相場全体に逆行する形で大幅高となり、2015年8月以来の高値を付けた。世界の主な銀行株指数の中で、3月からの世界的な銀行株安以前の水準を回復したのは日本だけで、上昇が際立っている。
万年割安株として長らく放置されてきた銀行株は、日銀の政策修正観測が株式市場で強まった22年末から株価のレンジを切り上げた。イールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)で長期金利の変動許容幅を拡大・撤廃するとの思惑から、収益環境の改善を期待した買いが入ってきた。
足元では新たな要因が株価上昇を後押ししている。日銀が6月に発表した5月の貸出・預金動向の速報では、銀行・信金の貸し出し合計が前年比3.4%増と3カ月連続で伸びが拡大した。コロナ禍で貸し出しが増加した時期を除けば09年3月以来の高水準だ。
企業の資金需要の増大は業績への恩恵期待を高める。マネックス証券の広木隆チーフストラテジストは「インフレになり実質金利がマイナスになる中では、資金を借りても投資した方が得だ」と指摘。これまで資金を借りなかった企業が借りるようになっているとし、貸し出し需要の伸びがより鮮明になってくるとみる。
市場が予想する10年後の物価動向を示すブレークイーブンインフレ率(BEI、期待インフレ率)は1%台前半と、約8年ぶりの水準に上昇。名目金利が横ばいの中で期待インフレ率が上昇し、実質金利は足元で大きく低下している。
ただ、株価上昇により銀行株の割安さは薄れている。TOPIX銀行業指数の予想株価収益率(PER)は9.2倍と、米銀の8.6倍や欧州銀行の6.5倍を上回っている。08年のサブプライムローン問題に起因する金融危機以降、めったになかった現象だ。
日銀の政策修正観測は根強いものの、銀行株と金利変動の連動性は失われており、市場の関心は政策修正から業績に向かっている。SBI証券の鮫島豊喜シニアアナリストは「金融政策修正の期待相場はいったん終わり、業績として利ざやをしっかりと稼げるかどうかに目が移る」との見方を示した。
●【令和の株バブル】庶民が実感を得られないまま弾け、株価10分の1まで急落 7/5
この1か月あまり、ニュースでは何度も「日経平均のバブル後最高値更新」の見出しが躍った。当然ながら次はバブル超えとなる「日経平均4万円」の期待も高まるが、物価高で実質賃金はマイナスのまま。肌で好景気を感じた「昭和・平成バブル」と「令和バブル」は何が違うのか。
昭和・平成のバブルが弾け、その後2000年代に入ると、米同時多発テロ(2001年)やイラク戦争(2003年)、リーマン・ショック(2008年)など、世界の金融市場を揺るがす事件が発生する。
「実は、いま日本で起きている株式市場の高値相場は、2008年のリーマン・ショックに深く関連している」と経済アナリストの森永卓郎氏は言う。
「2008年、深刻な不況に直面した各国の中央銀行は、超低金利で大量のお金を供給して何とか景気を刺激しようとしました。日本でも、2012年末に発足した第2次安倍政権の下、黒田東彦・日銀総裁が異次元金融緩和を開始します。ところが、経済成長の起爆剤となるはずだった各国のお金は魅力的な投資先が見つけられずに、投機に向かった。それがいまのバブルを引き起こしたのです」
日経平均4万円でも「国民生活に変化なし」
そんな令和の株バブルは、30年前とは状況がまったく異なるという。
「地方まで波及効果があった当時のバブルと違い、いまのバブルは大都市と大企業に集中しています。株価の上昇も一部の大企業のみの現象。現在も多くの中小企業は経営が悪化しており、実質賃金も下がっています」(森永氏)
昭和から平成にかけて発生した前回のバブルでは鉄鋼、造船、非鉄金属、セメント、石油化学などの「重厚長大産業」が株価を牽引したが、半導体やITテクノロジーの普及に伴い、現在は生成AIに代表される人工知能関連株などハイテク株中心の株価上昇となっている。日本企業の時価総額ランキングも一変した。
マーケットバンク代表の岡山憲史氏も、いまのところそうした令和の株バブルの恩恵に与る人は極めて限定的だと見る。
「現在の高値相場の要因は、海外投資家、機関投資家が日本株を買っていることが背景にあります。今年4月に来日したウォーレン・バフェット氏が、日本株に強気の姿勢を示した影響も大きい。さらに、東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率。企業の純資産に対する株式価値の水準を示す指標)1倍割れ企業への改善要請を受けての『自社株買い』や『増配』の動き、日銀による大規模金融緩和政策の継続も、世界的な日本株買いを後押ししています。
ただし、海外の投資マネーが流入して株価が高騰しても、株を保有していない多くの国民にまで恩恵が及んでいるかは疑問です。日経平均が4万円になっただけでは、国民生活が大きく変わることはないでしょう」(岡山氏)
一方、株価だけでなく不動産価格の上昇も見られる。不動産経済研究所によると、2022年の首都圏新築マンション平均価格は6907万円と“バブル超え”を果たした。住宅ジャーナリストの山下和之氏が言う。
「特に都心マンションは物件が払底しており、その希少性の高さが価格上昇の原因でしょう。投資目的で買う以外に、自分が住むという実需のために買う人も多いと推測されます。建築資材の高騰・高止まり、人件費の上昇などもあり、当面は新築マンション価格の値崩れは考えにくいでしょう」
ただし、ここでも大きな“偏り”が見られると山下氏は続ける。
「前回のバブル期、地価や住宅価格の上昇は全国的な現象でしたが、現在の価格上昇は東京・大阪・名古屋の三大都市に加えて札幌、仙台、広島、福岡の地方4市にとどまります。投資先としての魅力も、それらの中心部に限定されています」
令和の株・不動産バブルは、いまのところ一部の人たちを潤わせているだけで、それ以外の人たちとの格差が広がっていると見られているわけだ。
どうすれば給料は上がるか
近い将来の日経平均の史上最高値更新、そして「4万円突破」を確実視する声もあるなかで、その恩恵が広く行き渡ることはないのだろうか。今後、令和バブルはどのような経過を辿るのか──。森永氏はこう見る。
「日銀は前回のバブル崩壊後、しばらく資金供給を絞り続け、不況を深刻化させました。今回もまた、金融引き締めを端緒にこの株バブルは崩壊するのではないか」
森永氏は、庶民が実感を得られないまま令和の株バブルが弾けていく展開を懸念する。
「岸田政権は金融緩和継続を言いながら、日銀が供給する資金量を示す指標=マネタリーベースを絞り始めています。総選挙が遠のいて岸田政権が利上げを急ぐ可能性があり、そうなるとバブル崩壊はいよいよ近い。反動は極めて大きく、株価が一気に10分の1まで急落しても不思議はないと考えます。日本社会がまた長期に低迷する“令和恐慌”の可能性すらあるでしょう」(同前)
そうした最悪のシナリオを回避する方策を探らなくてはならない。前出・岡山氏は、この令和の株バブルの恩恵が広く国民に行き渡るためのひとつのカギは「財政政策」にあると指摘する。
「日本政府が企業や国民に資金を出す『積極財政』を政策の中心に据え、成長分野に大胆に投資して国民を支援すること。そうすれば、日経平均4万円は単なる通過点となり、ハイテク株以外の幅広い業種が買われてさらに上を目指す動きになる。低迷を続けた日経平均と違って、米ダウ平均はこの30年間で約14倍に成長し、米国の労働者の給料は同期間に1.5倍以上に伸びました。その間、日本の給料の伸びはゼロでしたが、今後、幅広い業種の業績拡大、株価上昇となれば、会社員の給料・ボーナスアップも実現していくはずです」
別掲の図に示した通り、この30数年で日本企業は世界の時価総額ランキング上位から姿を消した。そのままでは「失われた30年」は終わらない。令和の株バブルをごく一部の人の宴で終わらせず、日本経済全体が強く甦るための正念場は、これからやってくる。
●ボラティリティが復活した米ドル/円 7/5
2023年の米ドル/円最大値幅は、これまでに18円程度まで拡大してきた。1990年以降の最大値幅となった2022年に比べるとまだ半分にも満たないものの、2021年まで続いた小動きが変わった可能性がありそうだ。
そうだとしたら、2008年「リーマン・ショック」以降続いた実質的な「金利差なき時代」が終わり「金利差時代の復活」となった影響が大きいのではないか。
「金利差なき時代」終了の影響か
年明け早々127円まで急落した米ドル/円だったが、最近にかけて145円まで米ドル高・円安に戻ってきた。これにより、2023年に入ってからの最大変動幅は18円程度まで拡大してきた。それでも、歴史的な円安が展開した2022年の米ドル/円の年間値幅は38円にも達したため、それと比べるとまだ半分以下にとどまっている(図表1参照)。
   【図表1】米ドル/円の年間値幅の推移(1990年〜)
ただ、そもそも2022年の年間値幅は1990年以降では最大だった。経験的に、年間値幅が20円以上の大幅となった年の翌年は、値幅が3〜5割と大きく縮小してきた。これは大相場の反動などが影響したためだと考えられる。
経験則通り、2023年の米ドル/円の年間値幅が2022年から3〜5割縮小するなら20〜25円程度にとどまるという見通しになる。2023年の年間値幅が20〜25円だとすると、1月に記録した127円が年間の米ドル安値だった場合、米ドル高値は147〜152円程度の計算になる。要するに、年間値幅の観点からは、2022年に記録した米ドル高値151円の更新が微妙との見通しになりそうだ。
それにしても、米ドル/円の年間値幅は、2021年にかけて5年連続で10円前後の小幅となった。またそれ以前も、2013〜2014年のアベノミクス円安や、2016年のトランプ・ラリーと呼ばれた大相場以外は、年間値幅は10円前後の小幅にとどまることが少なくなかった。
そうした米ドル/円の小動き、低いボラティリティという構図が、2022年以降変わった可能性は注目される。それは、2022年以降インフレ対策で米国などを中心に大幅な利上げが行われたことで、内外金利差が大きく拡大した影響が大きかったのではないか。
2008年の「リーマン・ショック」を受けて、米国でもゼロ金利政策を行うことで世界的に低金利化が広がったことから、内外金利差は急縮小となった(図表2参照)。為替相場のボラティリティの低下は、こういった実質的に「金利差なき時代」となった影響が大きかったと考えられる。
   【図表2】主要国の政策金利の推移(2000年〜)
上述のように、2022年以降のインフレ対策の大幅利上げは、「金利差時代の復活」をもたらした。これを受けて、米ドル/円など為替相場も全体的にボラティリティが復活した可能性が高いのではないか。
●インフレ強行軍のFRBとECB−世界金融政策、今後一層乖離も 7/5
執拗なインフレが欧米の中央銀行当局者に引き締めモードを継続させる一方、他の地域の中銀は独自の方向に進んでおり、世界各国・地域の金融政策は今後数カ月で一層乖離する可能性が高い。
米連邦準備制度が25、26日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)の次回会合と、27日の欧州中央銀行(ECB)政策委員会では、追加利上げが予想される。他の一部中銀も似た軌道上にあり、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)が集計する借り入れコストの総合指標は、今四半期に6.25%のピークを示す。これは3カ月前の予想(6%)を上回る水準だ。
しかし、そうした全体の数字の上昇は、最近と比較しても世界的に見て同期性がはるかに失われた現状を覆い隠す。中国人民銀行(中銀)は先月既に金融緩和に踏み切り、インド準備銀行は2会合連続で政策金利を据え置いた。
トルコ中銀は新総裁就任に伴う金融政策の軌道修正で、引き締めを開始したばかりで、ロシア中銀も近く後に続く可能性がある。一方、日本銀行は将来ある時点の金融刺激解除に向け遅々として動いていると受け止められている。
イングランド銀行(英中央銀行)で特に顕著だが、欧米の中銀当局者は今に至るまでインフレ見通しに十分大きな影響を及ぼすことができない現状に直面している。これに対し、他の中銀は、これまでの引き締めの効果が表れるまでさらに時間を要するか判断すべく利上げを停止している。
BEのチーフ欧州エコノミスト、ジェイミー・ラッシュ氏は「どこまで高くなるかが、投資家にとって2023年上期の大問題だった。多くの中銀について、それは明らかになりつつある。インフレとの闘いの第1段階は終わりに近づいており、金利は間もなくピークに達するだろう。いつまで続くかが今年下期の大問題だ。われわれの予測が示す基調インフレ率の低下ペースは鈍い。急激な景気下降がない限り、米国やユーロ圏、英国のような先進諸国では、24年半ばになるまで利下げが行われる可能性は低い」と指摘した。
BEの米国担当チーフエコノミスト、 アナ・ウォン氏は「しつこく下げ渋るコアインフレ率がFOMCに25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の追加利上げを促し、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標レンジの上限は5.5%となる公算が大きい。経済活動が弱まり失業率が上昇することで、政策担当者はその後の追加引き締めを思いとどまるだろう。景気下降にもかかわらず、連邦準備制度は年内は利下げせず、上限5.5%のピーク水準で政策金利据え置きを選択する可能性が高い」と予測する。
BEのユーロ圏シニアエコノミスト、デービッド・パウエル氏は「ECBは利上げサイクルの終わりに近づきつつある。基調インフレ率は既にピークに達し、金融引き締めは信用状況に著しい影響を与えつつある。BEはさらに2回、7月と9月に25bpの利上げが決定されると見込む。われわれの中立金利の推定値は1.5−1.75%だが、中銀預金金利は4%と景気抑制的な領域に深く入り込むだろう。基調インフレ率の鈍化に伴い来年6月に最初の利下げがあると考えている」との見解を示す。
一方、BEの木村太郎シニアエコノミストは「市場の混乱で投機家がイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の枠組みへの挑戦をやめざるを得なくなったため、最近の米銀行破綻に対し、日銀はうしろめたい喜びを感じたはずだ。植田和男総裁は、より持続的で需要主導のインフレを促進する努力に集中できる状態になった。日銀は24年下期のある時期になるまでYCCの枠組みを堅持する公算が大きい。いかなる新たな政策も引き続き緩和的となり、恐らく政策金利をゼロにとどめ、債券の買い入れも継続するだろう」と分析した。
●2023年上半期も粘り強い米国経済、ソフトランディングへの期待高まる 7/5
筆者が年初に執筆した地域・分析レポートでは、2023年の米国経済に対する悲観的な見方が強まっているほか、高インフレ・高金利の中で消費がどこまで持ちこたえられるかが景気動向を左右する、と述べた。2023年上半期を終え、成長ペースは鈍化するも、消費はいまだに堅調さを保ち、米国経済を下支えしている。長短金利の逆転が常態化・長期化しているため、今後の景気後退を見込む声が引き続きある一方、底堅い消費を理由にマイナス成長は避けられるというソフトランディングへの期待も高まっている。本稿では、米国経済の現況と今後の展望をあらためて概観する。なお、使用数値は6月23日の執筆時点の公表値に基づく。
成長ペース鈍化も、粘り強さを見せる
2022年上半期の米国経済は、高インフレや金融引き締めの影響などにより、2四半期連続のマイナス成長を記録した(図1参照)。景気後退入りが懸念されたが、同年下半期は2四半期連続で3%程度のプラス成長となり、上半期のマイナス分を取り戻した。2023年第1四半期(1〜3月期)は前期比半減となる1.3%のプラス成長で、前期に急増した在庫投資が反動減で最大の押し下げ要因となったが、GDPの約7割を占める消費が最大の押し上げ要因となり、見た目以上に中身は力強い成長がみられた。
   図1:実質GDP成長率と寄与度分解(年率換算)
( 2022年から2023年までの実質GDP成長率は、2022年第1四半期はマイナス1.6%、同第2四半期はマイナス0.6%のマイナス成長となるも、同2022年の第3四半期は3.2%、第4四半期は2.6%、続く2023年の第1四半期は2.0%と、成長鈍化ながらも、プラス成長となっている。)
新型コロナ禍からの回復という中長期でみても、経済に粘り強さがある。図2のとおり、当初は政府支出が増加した。その後、巣ごもり需要などを背景に民間投資が増え、高インフレと高金利が顕在化し始めた2022年以降は、堅調な消費が成長を牽引している。なお、純輸出(輸出−輸入)は、輸出以上に輸入が回復しているため、大きく落ち込んでいるが、堅調な国内消費の裏返しであるともいえるため、必ずしもネガティブな動向ではない。
   図2:需要項目別実質GDPの動向
( 需要項目別動向は、2019年の第4四半期を100とすると、新型コロナ禍の最中だった2020年の第4四半期は、政府支出が105.4ポイント、続いて民間投資が102.4ポイントで成長を下支えしていたが、2021年の第1四半期を境に、消費が民間投資を上回り、政府支出が落ち込み始めた。2021年の第4四半期には民間投資が111.2ポイントまで達し、消費も105.7ポイントまで成長。2023年第1四半期時点では、消費が108.5ポイントで成長に最大の寄与、次点で政府支出が107.9ポイントで成長に寄与した。)
実質所得は横ばいだが、余剰貯蓄が消費の支えに
堅調な消費の源泉はどこにあるのか。フローの可処分所得(注1、図3参照)をみると、新型コロナ禍以降、名目所得は賃金の上昇により大きく伸びている。しかし、物価が賃金以上に上昇したため、実質所得は目減り、ないしはほぼ横ばいとなっており、購買力にプラスの影響はほとんどない。一方、前回レポートでも紹介したとおり、新型コロナ禍での行動制限による消費の抑制や政府からの現金給付により、余剰貯蓄は積み上がった。これが実質所得の停滞を補い、依然として堅調な消費を支えている構造は変わっていない。ただし、余剰貯蓄は残り約5,000億ドル(図4の緑色部分と赤色部分の差)で、ピーク時の4分の1まで減少しており、2023年中に尽きることが懸念されている。
   図3:可処分所得の動向
( 2020年2月を100とした場合、名目所得は2021年の3月に129ポイントまで増加。実質可処分所得は2021年3月に126.1ポイントの急激な上昇以降、同年9月は102.3ポイント、2022年3月は98.9ポイント、同年9月は99.6ポイント、2023年1月には101.7ポイント、2月は101.9、3月には102.1ポイントとほぼ横ばい。)
   図4:貯蓄額(フロー)の推移
( 市民の余剰貯蓄積み上げは、新型コロナ禍の消費抑制費や財政支援によって2.1兆ドルを超えるも、2023年3月時点では余剰貯蓄取り崩しが1.6兆ドルとなり、残り約5000億ドルまで減少している。)
マークアップ率は急落、景況感は製造業で特に悪化
企業のインフレへの対応はどうか。マークアップ率(注2、図5参照)をみると、2021年は3.2%と2011年以降では最高を記録し、価格転嫁は順調だった。しかし、2022年はマイナス0.7%と、物価の鈍化以上に急落した。価格転嫁が難しくなっている現状にあるとみられ、企業の利益率は低下傾向にある。
   図5:マークアップ率の動向
( コストの上昇分を含む原価に対する利益の割合を示すマークアップ率は、2021年の平均は3.2%となり、マイナス2%近かった2011年時点以降、最高を記録した。しかし、2022年はマイナス0.7%となっており、価格転嫁が難しくなっている。)
先行きに関して、特に製造業の景況感指数(図6参照)は、2022年11月から一貫して、景況感縮小のサインである50を下回っている。サービス業はかろうじて50を上回り、景況感拡張を維持しているものの、トレンドとしては徐々に低下の兆しを見せている。前述した余剰貯蓄の縮小に伴い、消費意欲が減退する懸念と照らし合わせれば、今後の動向が不安視されている。概して、家計は堅調さを保っている一方、企業部門は息切れ感が目立ってきている現状にある。
   図6:企業の景況感
( 企業の景況感は、製造業において、2022年11月は49.0、12月は48.4、2023年に入ってからも1月は47.4、5月は46.9と、景況感縮小のサインである50を下回り続けている。サービス業は、2022年11月に56.5、12月に49.2と一時は急激な落ち込みを見せるも、2023年1月には55.2、5月でも50.3と50を上回っている。しかし、トレンドとしては、69.1の最高値を記録した2021年の11月以降、落ち込み傾向にある。)
物価の高止まり続く、サービス価格の動向が今後を左右
2023年5月の消費者物価指数は4.0%(前年同月比、特記なき限り以下の数値は前年同月比)となり、1981年以来のピークである2022年6月に記録した9.1%から半分以下まで低下した。しかし、食料品とエネルギーを除いたコア指数は5.3%と、新型コロナ禍以降のピークである2022年9月の6.6%から低下しているが、鈍化の度合いは相対的に弱い(2023年6月14日付ビジネス短信参照)。ロシアのウクライナ侵攻の影響が緩和していくにつれて、食料品とエネルギーのインフレ率は、顕著に鈍化または低下した(図7参照)。一方、コア指数を構成する項目では、供給網の逼迫緩和の影響で、財が顕著に鈍化しているが、家賃など住居費や輸送サービスなどのサービス価格は鈍化の傾向を示すにいたっていない。ただし、急激な金融引き締めにより、住宅価格は鈍化している。このため、住居費は今夏ごろから鈍化する可能性がある。労働市場の逼迫により賃金の上昇圧力は引き続き強く、コスト転嫁というかたちで、サービス価格を中心に物価に上昇圧力がかかっている。サービス価格の先行きは、依然として不透明な状況だ。
   図7-1:インフレの要因分解(前年同月比)/ 食料品・エネルギー
( 食料品のインフレ率は、2022年後半に前年比12%上昇から2023年6月に約8%上昇と低下。エネルギーのインフレ率は、2023年6月は前年比0%を切り、マイナス傾向。)
   図7-2:インフレの要因分解(前年同月比)/ 財・住居費・住居費を除いたサービス価格
( 食料品とエネルギーを除いたコア指数のうち、財については、2022年前半には前年比で約8%上昇だったが、2023年6月には前年比で約2%上昇に低下。住居費は一貫して上昇傾向にあり、2021年時点で前年比約2%上昇が、2023年4月時点で8%上昇。住居費を除いたサービス価格は、前年比4パーセント程度の状態が2022年から2023年にかけて継続している。)
若年層の労働参加回復も、55歳以上は横ばい
前回レポートでは、55歳以上の労働参加率の回復が遅いことを指摘した。この状況は、2023年6月時点でも同じだ。図8のとおり、54歳未満の労働参加率は新型コロナ禍前をすでに超えているが、55歳以上は過去約2年間ほぼ横ばいだ。新型コロナ禍により、米国の資産価格は大きく上昇した。高齢層の方が家や株式などの資産を多く所有していることから、資産効果を若年層よりも享受していると考えられる。54歳以下と55歳以上で回復が分かれている理由は諸説あるが、これが、55歳以上の労働参加率が新型コロナ禍前の水準に戻らない一因と指摘されている。
   図8:年齢別雇用者数の人口比率(2019年比)
( 年齢別雇用者数の人口比率は、54歳以下は新型コロナ禍前まで回復するも、55歳以下はマイナス2%の状態が継続しており、回復が非常に鈍い状態にある。)
出生率や人口増加率は低下傾向
2022年の合計特殊出生率は1.67で、人口維持に必要な水準の2.1(注3)を大きく下回っている。実際のところ、2.1を下回る状況は2007年以降一貫して続いている。米国の人口は、移民の流入数などが出生数を補うかたちで増加してきた。しかし、移民を含めた人口増加率も、新型コロナ禍の影響で2021年に建国以来で最低の前年比0.1%増となった。2022年は前年比0.4%増に上昇したが、低水準に変わりなく、生産年齢人口の増加は望みにくい状況にある。55歳以上の労働参加率が回復しない状況も考慮すれば、労働の供給量は今後も低下する可能性がある。
なお、2023年4月の失業者1人当たりの求人数は1.79件で、前回レポート時点からほぼ変わっていない(図9参照)。労働市場の中でも、特に逼迫が顕著なサービス業では、賃金上昇率が6%程度で高止まりしている。前述したとおり、これが高インフレの大きな要因となっている。
   図9:求人比率とサービス業の賃金上昇率
( 求人比率は2023年2月に1.68、3月に1.67、4月1.79と目立った低下は見られない。サービス業の賃金上昇率は2022年3月以降、常に6%台にあり、米国内における高インフレの大きな要因となっている。)
FRBはさらなる金利引き上げを模索
米国連邦準備制度理事会(FRB)は2023年6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利(フェデラル・ファンドレート)の誘導目標を5.0〜5.25%で据え置きいた。2022年3月から続く異例のペースの金融引き締めは一時停止された。しかし、併せて公表された今後の見通しでは、最終的な到達金利が5.6%と、前回のFOMCから0.5ポイント引き上げられた。すなわち、2023年内にあと2回の引き上げが示唆されている。また2024年に入っても、厳しい金融引き締めにもかかわらず、FRBのインフレ目標である2%は達成困難とみられる。政策金利は2024年末時点で4.6%、引き下げ幅は前年比1.0ポイント程度にとどまる見込みだ。
厳しい金融引き締めなどもあり、2023年と2024年の実質GDP成長率は1.0%との見通しが示されている。これは、定常状態の米国の成長率の半分にとどまる(2023年6月15日付ビジネス短信参照)。前述の労働市場の逼迫は、主に供給側の要因で生じている事象だ。金融政策は、基本的に労働供給に対し効果をもたらさない。例えば、金利を引き上げても、人々の労働意欲は刺激されない。他方、FRBは政策金利の引き上げを通じて、企業の投資コストを上昇させ、投資意欲を減退させることで、労働需要の低下や賃金に対する上昇圧力の緩和、高インフレの低下を図ろうとしている。
一方、金融引き締めによる景気の後退は、常に懸念されている。前回レポートでも紹介した長短金利の逆転現象は続いており、その期間は歴史的にみても長期化している。過去の事例をみると、景気後退の約1年前には、必ず長短金利の逆転現象が発生していた。こうしたことも景気後退懸念を高めている一因だ。また、長短金利の逆転により、銀行は利ざやを稼ぎづらくなっており、貸し出し態度は悪化している(図10参照)。シリコンバレー銀行に端を発した銀行セクターの信用不安は、ファースト・リパブリック銀行の破綻以降落ち着きを見せているが(2023年5月2日付ビジネス短信参照)、当局は今後、銀行に対する規制を強化する見込みとなっている。規制が強化されると、資産規模1,000億ドル〜2,500億ドル程度の中堅・中小規模の銀行を中心に、財務状況の改善に向けて貸し出し態度をさらに悪化させ、個人や企業の信頼感が今後、低下する可能性がある。特に、中堅・中小規模の銀行による融資比率が高い商業不動産セクターへの影響が懸念されている。
   図10:米国銀行の貸し出し態度指数(DI)
( 米国銀行の貸し出し態度指数は、2020年は第2四半期に41.5ポイント、第3四半期は71.2ポイントとなり、厳格化傾向にあった。しかし、2021年第3四半期ごろにはマイナス15.1ポイントまで下がった。その後、景気後退のサインである長短金利逆転や信用不安により、2023年第2四半期時点で46ポイントと、貸出態度は再度厳格化。)
まとめ
まとめると、要旨は次のとおり。
・米国経済は鈍化傾向にあるが、いまだに大きな減速をみせてはいない。新型コロナ禍における余剰貯蓄を原資とした消費が下支えしている。他方、賃金以上のインフレにより、余剰貯蓄は徐々に減少しており、2023年中に尽きる可能性がある。消費の先行きは不透明であり、いつまで持ちこたえられるかが今後の鍵となる。
・インフレは減速しているが、サービス価格の減速は緩やか。サービス部門を中心に、労働の供給不足という構造的要因により、賃金は高止まりしている。また、賃金上昇分の価格転嫁がインフレを助長している。インフレ抑制の観点から、労働需給を緩和させ、賃金上昇率を抑えることが重要になる。
・当局はインフレの抑制を優先し高金利を継続する見込みで、2023年は1%程度の経済成長率を企図している。市場では景気後退が濃厚という見通しが強いものの、堅調な消費により、ソフトランディングは可能という見方も根強い。
・市場を混乱させた銀行セクターの信用不安は落ち着きをみせているが、当局は銀行に対する規制を強化する見込み。規制が強化されると、中堅・中小規模の銀行を中心に、財務状況の改善に向けて貸し出し態度を悪化させ、個人や企業の信頼感が低下する可能性がある。特に、中堅・中小規模の銀行による融資比率が高い商業不動産セクターへの影響が懸念される。
今後の景気に悲観的な見方が依然存在しているものの、前回レポートの執筆時に比べて、いまだ堅調さを保つ消費などを背景に、大幅なマイナス成長は避けられるのではないか、というソフトランディングへの期待や見込みが根強くなっている。インフレの抑制に向けて、ある程度の景気後退は許容されるべきと思う一方、2024年に大統領選挙がある中では、当局は大幅な景気後退を避けたいと考えているのが本音であろう。金融政策を中心に、インフレ抑制に向けた当局のかじ取りは、引き続き困難を極めそうだ。
注1: 税・保険料などを支払った後の所得。
注2: コストの上昇分を含む原価に対する利益の割合。
注3: 死者数は不変で、移民はゼロと仮定した場合の数値。
●パキスタン、IMF融資承認でも流動性リスク減らず=ムーディーズ 7/5
パキスタンは国際通貨基金(IMF)の融資(スタンドバイ取り決め、SBA)が正式に決まったとしても、流動性リスクは高止まりする──。ムーディーズ・インベスターズ・サービスは4日、こうした見通しを示した。
6月30日にパキスタンとIMFは30億ドルのSBA実施を巡り事務レベルで合意し、デフォルト(債務不履行)危機はひとまず回避された。
しかしムーディーズは「政府の流動性リスクは依然として高い。新たなSBAが正式承認されたとしてもだ。パキスタンが9カ月のプログラム期間中に30億ドルを全て受け取れるかどうかは分からない」と述べた。
10月に選挙が控える中で、特に歳入引き上げ策の面で改革措置を継続するという政府の約束が試されるだろうという。
さらにムーディーズは、今回のIMFの融資規模自体も、パキスタンがあらゆる対外債務の返済に応じるには不十分になると指摘した。
ムーディーズは、パキスタンには向こう数年にやってくる多額の対外債務返済のために、より長期の資金調達計画が必要だと説明。選挙後にならないと新たなIMFのプログラムを適用できる可能性はなく、それまで二国間や多国間のレベルで融資資金を確保する余地は非常に限られると付け加えた。 

 

●一本調子の円安は続くか?日銀の政策修正、欧米のタカ派姿勢揺らぐか焦点 7/6
日銀の金融緩和姿勢際立ち、1ドル145円の円安に
6月は、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が昨年3月に始まった利上げ局面で初めて政策金利を据え置きましたが、年内あと2回の利上げを示唆するタカ派見通しとなりました。一方、日本銀行は予想通りの現状維持(金融緩和継続)となったため、日米金融政策の方向の違いを材料にドル買い円売りが進みました。金融引き締めの通貨(ドル)は買われ、金融緩和の通貨(円)は売られるという構図です。
クロス円(米ドル以外の外国通貨と円の組み合わせ通貨ペア)でも、BOE(英中央銀行イングランド銀行)が3会合振ぶりに利上げ幅を0.50%に引き上げたことや、カナダの中央銀行がいったん停止した利上げを再開し、オーストラリア4月に利上げを一時停止した後、5,6 月に利上げをしました。いずれも予想外の利上げだったことからクロス円の円安が進み、対ドルでの円安を後押しした形となりました。
先週、ECB(欧州中央銀行)が主催した国際会議ECBフォーラムでは、28日のパネル討論会で、欧米英の中銀はインフレを警戒し、今後も金融引き締めを続ける方針を表明しました。一方で、日銀の植田和男総裁は基調インフレが目標の2%を下回っているため金融緩和を正当化できるとして緩和継続姿勢を示しています。
日米欧英の4総裁が一同に集まった討論会で、米欧英が金融引き締めを続ける中で日銀の金融政策が際立つ結果となり、円売りに弾みがつき、30日に1ドル=145円台に乗せることになったのかもしれません。
米景気後退示す指標相次ぎ、FRBのタカ派姿勢揺らぐ可能性
日銀以外の中銀が予想外の利上げやタカ派姿勢を鮮明にしているのは、インフレは鈍化しているものの、労働市場が堅調なためインフレリスクがくすぶっていると判断しているからです。
しかし、各国中銀は同時にインフレに警戒しながらも、利上げによる景気への悪影響を懸念していることは間違いありません。7月に入ってからもタカ派姿勢を表明していますが、今後の金融政策はデータ次第で変わる可能性があることに留意する必要があります。
というのも、ここにきて景気後退を示す指標が相次いで発表されているからです。7月3日に公表された米6月ISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況指数は8カ月連続で拡大・縮小の分岐点となる50を割れ(46.0)、かつ生産や雇用指数も悪化したことからドル売りとなりました。
この水準は2020年にコロナ禍に入った時期を除き、リーマン・ショック後となる2009年5月以来、14年ぶりの低水準ということです。製造業よりは強いといわれる6日発表予定のISM非製造業景況指数がどのような結果になるのか注目です。
さらにFRBが7月25、26日に開くFOMC(連邦公開市場委員会)までに米雇用統計(7日)や米6月CPI(消費者物価指数、12日)の公表が控えています。そうした経済指標の内容次第で、FRBのタカ派姿勢が揺らぐ可能性もあるかもしれません。揺らぐたびに為替相場も振らされそうです。
ユーロ圏でも景気後退で利上げ継続は難しい判断に
ユーロ圏でも景気指数が悪化しています。6月23日に発表された6月のユーロ圏PMI(製造業購買担当者景気指数)は総合で50.3と前月より2.5ポイント下がり、5カ月ぶりの低水準となりました。製造業の悪化に加えて全体をけん引してきたサービス業が失速したようです。製造業は43.6と1.2ポイント下落し、3年1カ月ぶりの低水準になりました。
サービス業も52.4と2.7ポイント低下し、5カ月ぶりの水準まで下がりました。さらに7月3日に発表された6月製造業PMI改定値は43.4と速報値の43.6を下回りました。5日には6月サービス部門PMIの改定値が発表されますが、注目したいと思います。
ECBのラガルド総裁はECBフォーラムではPMIの悪化を受けて発言していますが、その後の改定値の悪化や、今後発表される経済指標によってタカ派姿勢が緩むのかどうか焦点です。
ユーロ圏GDP(国内総生産)は2022年10-12月期(前期比0.1%減)、1-3月期(0.1%減)となり、マイナス成長となっています。既に2四半期連続のマイナス成長(テクニカル・リセッション)になっている中での利上げ継続はかなり難しい判断となりそうです。次回のECB理事会は7月27日開催の予定です。
日本の円買い介入是非、米財務長官「根拠よりよく理解しようとしている」
7月は、ドル相場は1ドル=145円に一時乗せたことから、日本政府や通貨当局者からのけん制発言も一層強まることも予想されるため、6月のような一本調子の円安ペースは期待できないかもしれません。
日本の円買いドル売りの為替介入に対する米国の反応はどうでしょうか。2022年9月の円買い介入の時は、米財務省は「日本の行動を理解している」と介入を容認するコメントを出しました。
今の円安局面について、イエレン財務長官は6月30日、昨年9月の介入水準である1ドル=145円の円安水準となったことを踏まえ、日本政府による介入に懸念があるか問われると「私たちのチームは介入の根拠をよりよく理解しようとしており、日本の当局者とも連絡を取り合っている」と答えています。
現時点では介入に容認を示さなかったものの日本政府と調整に入っていることを認めています。日米からのけん制発言によって、ドルが一時的に下落する押し目は買いとのパターンが続いても、利食いの回転が速くなるかもしれません。
日銀、今月会合で政策修正期待高まる!現状維持なら為替介入警戒を
7月の材料としては、日銀の政策変更期待が再び高まりつつある今、27、28日の金融政策決定会合が鍵になります。
植田総裁は6月の政策決定会合後の記者会見で、「(物価の)下がり方が思っていたよりもやや遅い」と述べ、従来の物価見通しと異なる動きになっていることを認めています。
さらに会見では、物価情勢の変化を捉えた政策修正は「ある程度、サプライズとなることもやむを得ない」と発言しています。7月会合後に発表する展望リポートで物価見通しをどの程度上方修正するのかしっかり確認したいと思います。(今年4月時点での物価見通しは、2023年度は前年度比1.8%上昇、2024年度は2.0%上昇)。
また、植田総裁は「(2024年にインフレが再加速する)確信が持てれば、政策変更の理由になる」とECBフォーラムのパネル討論会で述べました。
日銀は2024年度に2%の物価上昇率を見込んでいますが、見通しの「確度」が高まれば、2024年度を待たずとも金融政策の正常化に向かうとの見方を示しています。このことも今月の決定会合で政策修正があるとの期待を高めている背景のようです。
一方で、今月の会合で現状維持となった場合は円売り加速にも警戒する必要があります。通貨当局である財務省もその場合に備え、口先ではなく実弾による為替介入を温存しておくこともシナリオとして想定されます。
●FRB、「ほぼ全ての」当局者が6月利上げ見送りに合意=議事要旨 7/6
米連邦準備理事会(FRB)が5日公表した6月13─14日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨で、「ほぼ全ての」FRB当局者が追加利上げが必要かどうかを見極める時間を確保するために金利据え置きで合意していたことが分かった。ただ、当局者の大半はいずれ追加利上げが必要になると予想していたという。
議事要旨によると、インフレ抑制の進展が遅いため「一部の参加者」は6月利上げを望んだ一方、「ほぼ全ての参加者はフェデラル・ファンド(FF)金利を現行の5.00─5.25%に維持することが適切または容認できると判断した」という。
また「ほとんどの参加者は、今回の会合で(FF金利の)目標レンジを据え置くことで経済の進展状況を評価する時間を稼ぐことができると述べた」とした。
FRBは6月のFOMCで、利上げをいったん停止した。一方、同時に発表した金利見通しは、予想を上回る景気の堅調さと緩慢なインフレ鈍化ペースを踏まえ、年末までに合計0.50%ポイントの利上げを行うシナリオを示した。
議事要旨発表後の市場の見方はほとんど変化せず、FRBの政策金利に連動する先物のトレーダーは7月の利上げ決定を織り込んでおり、年内のさらなる利上げの可能性を3分の1程度と見ている。
FRBのスタッフは年内に「穏やかな景気後退」が始まると依然見ているものの、マイナス成長を回避する可能性はベースラインより少し低い程度にとどまっている。
一方、政策立案者は雇用市場の逼迫が続き、インフレ率も小幅な改善にとどまっていることを示すデータへの対応に苦慮した。経済が弱い可能性が伴いながらも、引き続き経済の強さを示している雇用者数よりも労働市場が弱いことを示す家計調査や、国内総生産(GDP)の顕著な数値よりも弱いと思われる国民所得データを整合させようと試みた。
利上げを1会合だけ「スキップ」するにせよ、長い休止になるにせよ、「待つ」という考え方は政策立案者が指摘したように依然大きな不確実性があることを反映している。
FRBはインフレを抑制するのに十分な利上げを実施しており、引き締め政策の効果が現れるのを待つだけなのか、景気にもっと強く働きかける必要があるのかは不確実なままだ。
議事要旨は「ほとんどの参加者は、経済とインフレの見通しに関する不確実性が依然として高く、追加情報が金融政策の適切なスタンスを検討する上で有益になる」との見解を示した。
6月会合後に発表された予測によると、政策立案者18人のうち16人が年内に政策金利をさらに少なくとも0.25%ポイント引き上げる必要があるとの予想を示した。
短期金利先物市場ではFRBが7月25─26日のFOMCで0.25%ポイントの利上げを決定し、政策金利を5.25─5.50%に設定する可能性が高いと見ている。
●FRB、6月据え置きは妥当 追加利上げいずれ必要も=NY連銀総裁 7/6
米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は5日、米連邦準備理事会(FRB)が6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を据え置いたのは妥当な措置だったとしながらも、景気が堅調に推移する中、いずれ追加利上げが必要になる可能性を示唆した。
同連銀のイベントで、需給のバランスを取りインフレ率を低下させるために「まだやるべきことがある」と指摘。金融政策を巡る判断はデータ次第としながらも、いずれ追加利上げが必要な可能性があるとの見方は、データによって裏付けられているとした。
7月の利上げが必要かどうかについては明言を避けた。
物価上昇圧力は弱まっていると認めつつ、インフレ率はまだ高すぎるとし、現在の水準に「満足していない」と述べた。また、労働需要は依然として高く、経済は利上げに「比較的うまく」対応してきたとの認識を示した。
FRBが5日公表した6月FOMCの議事要旨では、ほぼ全ての参加者が金利据え置きを支持した一方、一部の参加者は利上げを望んだことが分かった。
ウィリアムズ総裁は、追加利上げが必要というFRBの見解と、早期の利下げを見込む市場の観測とのかい離は緩和しているとも指摘した。
●東芝 「2025年に1415億円不足」 非上場化でも“デフォルト危機”の試算結果 7/6
東芝のTOB成立後の資金繰りを巡り、金融機関が融資の前提としているコベナンツ(財務制限条項)が求める最低預金維持額を大幅に下回る試算結果が、同社幹部の間で共有されていることが、「 週刊文春 」の取材でわかった。今年6月初旬、島田太郎・代表執行役社長兼CEO(56)らが集まる幹部会議で配布された極秘扱いの内部文書を入手した。コベナンツに抵触した場合、金融機関は原則として期限前でも融資の全額返済が要求可能とされ、東芝はデフォルトの危機に陥る可能性もあり、上場廃止計画の厳しさが浮き彫りになった。
東芝は2015年に発覚した不正会計問題以降、経営の混乱を重ねてきた。2016年には、米原子力子会社ウェスチングハウスに関する巨額減損を計上し、債務超過に転落。2017年には約6000億円の第三者割当増資を実施したが、その際、アクティビスト(物言う株主)の保有比率が高まった。
「以降、東芝はアクティビストとの関係に翻弄され続け、再建戦略の迷走を余儀なくされます。車谷暢昭氏、綱川智氏が立て続けに社長を辞任し、2022年3月、社長に就任したのが、独シーメンス出身で執行役上席常務だった島田氏です。190センチを超える長身で、『私はビジョナリーな(先見性のある)人間』と公言してきました」(経済部記者)
島田氏も就任後、アクティビストの影響力排除を最優先課題としてきた。そうした中、起死回生の策として掲げたのが、株式の非上場化だった。今年3月23日、JIPからの買収提案の受け入れを発表。TOBで非上場化を推し進め、経営の安定化を図るという。
ただ、懸念点も少なくない。JIPによる買収総額は約2兆2000億円規模とされ、うち約1兆4000億円を三井住友銀行やみずほ銀行など、国内5行からの融資で賄う。だが、東芝の再建が難航すれば債務返済が滞り、銀行団の損失に繋がりかねない。そこで時間をかけてまとめられたのが、融資の条件として、一定の預金額の維持など財務健全性を求めるコベナンツだった。
「銀行団が求める最低預金維持額を下回る」
巨額の融資が伴うJIPによるTOB。島田社長は6月29日に都内で開かれた株主総会でも、「安定的な株主基盤のもとで、一貫した事業戦略を実行してさらなるトランスフォーメーション(=変革)を実現することができる」などと説明し、理解を求めた。
「週刊文春」は今回、6月初旬、島田社長以下、執行役が参加する「エグゼクティブミーティング」で配布された極秘扱いの内部文書を入手した。その一つが、TOBの成立を踏まえた〈資金繰り及び最低現預金維持コベナンツの状況(6/6試算ケース)〉。そこでは、以下のように記されている。
〈最低限預金維持コベナンツは、2024年度及び2025年度に抵触、年度末と3Q末に約1,300〜1,400億円、170〜270億円の現預金が不足〉
加えて、エクセル表で示されていたのが、〈2025/3 3Q末 不足額 1415億円〉〈2026/3 3Q末 不足額 277億円〉などとする試算結果だ。〈1415億円〉〈277億円〉の部分は赤字で強調されていた。3Qとは、第3四半期(10月〜12月)を指す。これらは一体、何を意味するのか。
「この試算結果が深刻なのは、銀行団が求める最低預金維持額を下回ってしまい、コベナンツに抵触すると予測されている点です。エクセル表によれば、2024年度の第3四半期末では最低預金維持額を1415億円下回り、2025年度の第3四半期末でも277億円下回ると試算されています」(東芝関係者)
コベナンツに抵触すれば、金融機関は原則として、期限前でも融資の全額返済が要求可能とされている。つまり、2024年度もしくは2025年度中に“デフォルト危機”に陥りかねないのだ。内部文書によれば、〈本コベナンツは毎四半期末、測定・判定される〉という。
「東芝はこれまで資金繰りのために、家電、医療機器、半導体メモリなど多くの事業を売却してきた経緯があります。非上場化後に生じかねない“デフォルト危機”を回避するには、さらなる事業売却は避けられないでしょう。ところが、島田社長は専らアクティビストの影響力を排除すれば、すべてうまくいくという調子。他方でこうした財務的なリスク、さらなる事業売却の可能性などは会社の存亡にも直結する問題ですが、説明責任を果たしていません。『メガバンクが積極的に融資してくれるから問題ない』という姿勢なのです」(同前)
7月3日、東芝に極秘文書が示す“デフォルト危機”などについて見解を求めたところ、以下のように回答した。
「当社グループの財務状況および取締役会での決議事項につきましては、決算資料を含む適時開示および有価証券報告書にて公表をしております。それ以外の財務情報および社内の定例会議・取締役会の内容は公表しておりません。当社は、企業価値向上の観点から、現時点において、非公開化が最良の選択肢と考えております。当社が中長期で一貫した経営方針を実行してトランスフォーメーション(変革)を成功させるためには、安定した経営基盤を構築し、株主からの統一的な支援を得ることが重要であると考え、非公開化は当社の企業価値向上に資するとの結論に至ったものです。当社は今般の公開買付けに対して、取締役会全会一致で、賛同意見および当社の株主の皆様への応募推奨を決議しております。当社は、短期・中期・長期の時間軸で事業成長戦略を描き、企業価値の向上に向け取り組んでまいります。なお、事業売却等について現時点で決まっているものはございません」
JIPによるTOBは7月下旬にも開始する見通しだが、こうした試算結果を踏まえて、島田社長らがどのような経営判断を取るのか、注目される。 
●インフレと高金利 7/6
政策委員会は六月二十二日、政策金利を〇・五%引き上げ、年率五・〇%にした。二〇二一年十二月以来、十三会合連続の引き上げである。これでイギリスの政策金利はリーマンショック前の水準に戻った。
リーマンショックが起きたのは二〇〇八年である。その後、イギリスの経済は、EU離脱やコロナ禍の影響で、低迷を続けて来た。景気が悪ければ企業に資金が回るように中央銀行は低金利政策を取る。だからイングランド銀行も長い間、低金利を維持して来た。
それが急変したのはインフレのせいである。周知のように、ロシアがウクライナに侵攻した後、原油や天然ガスの価格が高騰した。OPEC(石油輸出国機構)は欧米からの増産の要請を無視した。その結果、電力やガソリンが値上がりし、世界的なインフレを引き起こした。 
しかもイギリスの物価上昇率は他の欧州の国々よりも高かった。それはEU離脱の影響である。イギリスがEUを離脱したため、そこで働いていたEU市民が国外へ去った。それによってあらゆる分野で深刻な人手不足が起きた。さらにEU圏との貿易で、これまで存在しなかった複雑な通関手続きが必要となり、流通が停滞するようになった。そうしたことがイギリスの物価を一層押し上げる要因になった。
イギリスの五月のCPI(消費者物価指数)は四月と同じ八・九%だった。これは予想値より〇・五ポイント高い数値である。深刻なのは食品、エネルギーなどを除外したコア・CPIが一九九二年以来の最高値となる七・二%に達したことだ。天候の影響を受けやすい食品やウクライナ危機によって上昇したエネルギーの価格を差し引いても、なお物価が七%余り上昇しているのは異常である。
中央銀行はこの物価高を抑えるために政策金利を引き上げたのだ。金利を上げることで、企業や個人の資金調達を抑え、投資や消費を鈍化させるためである。ただ、現在のイギリスは不景気である。景気が悪い時に金利を引き上げるのは多くの副作用を伴うから、そのタイミングには十分な注意が必要だ。
実際、急激な金利の上昇に多くの国民が苦しんでいる。その代表格はローンを組んで住宅を買い、金融機関に返済をしている人々である。金利の急激な上昇によって毎月の返済額が増加し、彼らは窮地に陥っている。
たとえば金利変動型のローンで「残存元金が十五万ポンド、返済期間があと二十年」と仮定した場合、一年前は毎月七七六ポンドの返済だったが、現在は毎月一〇七五ポンドを返済しなければならない。これを年間に換算すると、返済額は三五八八ポンドも増加することになる。元金を十五万ポンドと仮定してこの金額なのだから、もっと多くの元金を返済しなければならない場合は「推して知るべし」である。
高金利の影響を受けるのはマイホームローンを抱えている人々だけではない。
家を借りている人々の家賃にも重くのしかかっている。とくに家主が銀行から資金を借りて住宅を購入し、それを第三者に賃貸ししている場合、増加する家主のローンの返済額が家賃に上乗せされる。その結果、イギリスの家賃はうなぎ登りの状態になっている。
問題はこの金利高がいつまで続くかという点だ。インフレを退治するため、中央銀行は近い将来、政策金利を六%まで引き上げると予想する向きも多く、さすがに与野党の議員からそうした手法を批判する声が出ている。
このような状況の中、スナク首相はBBCの番組で、「私は中央銀行を全面的に支持する。インフレは敵である。国民の皆さんはどうか落ち着いてどっしりと構えて欲しい。きびしい局面ではあるが、今のインフレ政策を貫けばきっと克服出来る」と語った。
この呼びかけに一体何割の国民が納得するだろうか。スナク首相は今年末まで物価の上昇率を五%程度まで下げることを公約している。それが実現出来なければ内閣の支持率はますます低下する。だから彼なりに必死なのだろうが、高金利に苦しむ国民に対して緊急の救済策を打ち出すなど、政府が成すべきことがもっとあるのではなかろうか。
むろん金利の引き上げは、すでにローンは返済済みで、銀行に多額の貯金をしている高齢の人々には朗報であろう。ただ、それが国民年金のトリプルロックと相俟って、世代間の分断をますます助長することを私は恐れるのである。
●米経済は予想以上に好調、一段の利上げ必要=ダラス連銀総裁 7/6
米ダラス地区連銀のローガン総裁は6日、6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げの論拠はあったと述べ、インフレ引き下げに向け好調な経済を減速させるには一段の利上げが必要との考えを改めて示した。
ローガン総裁はコロンビア大学で行う講演の原稿で「6月のFOMCでフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を引き上げることは、ここ数カ月のデータのほか、FRBが担う二重の責務の目標に合致しており、完全に適切だった」と指摘。ただ「困難で不確実な環境」を踏まえると「1回の会合で(利上げを)見送り、より緩やかに進めていくことは理にかなう」と述べた。
その上で、6月のFOMCでFRBが公表した最新の金利・経済見通しでは、さらなる利上げが予想されていたと指摘。「FOMC参加者の3分の2は年内にあと少なくとも2回の利上げを予想している」とし、「FOMCが6月に出したシグナルを実行に移すことは重要だ」と述べた。
物価情勢については「インフレ率が持続可能、かつタイムリーに目標に戻るか、なお大きく懸念している」とし、「インフレ率が目標を上回り、労働市場は予想以上に力強いとの見通しを踏まえると、一段と制約的な金融政策が必要になる」と語った。
米経済については、雇用市場やインフレ率に示されるように上半期は予想以上に強かったとし、「労働市場の指標は緩和しているものの、全体的なリバランスのペースは依然としてこれまでの予想よりも遅い」と述べた。
その上で、これまでの政策措置の影響が経済に表れるのを待つとの考えに疑問を呈し、「大きな追加的な効果が出る可能性については懐疑感を持っている」と語った。
商業用不動産については、注視しているものの、特に脅威とは見ていないと指摘。住宅市場は底を打ったように見えるとした。
また、FRBのバランスシート縮小がFRBの金融政策の選択肢に影響を及ぼすとは現時点では考えていないと指摘。FRBはインフレ低下に合わせて利下げを行っても、保有債券を売却し続ける可能性があるとの見方も示した。
米国の銀行システムについては「強固で、流動性も高い」とし、銀行システムは良好な状態にあると指摘。この春に見られた銀行部門のストレスは、多くの銀行がFRBの重要な緊急融資を利用する準備を完全に整えていなかったことを示していると述べた。
ローガン総裁は今年のFOMCで投票権を持っている。
FRBは6月のFOMCで利上げをいったん停止。同時に発表した金利見通しでは、予想を上回る景気の堅調さと緩慢なインフレ鈍化ペースを踏まえ、年末までに合計0.50%ポイントの利上げを行うシナリオが示しされた。
FRBが5日公表した同FOMC議事要旨で「ほぼ全ての」FRB当局者が追加利上げが必要かどうかを見極める時間を確保するために金利据え置きで合意していたことが判明。ただ、当局者の大半はいずれ追加利上げが必要になると予想していたという。

 

●5割が感じる“預金の不安”…56年ぶりにブチ上がった「米国版ゆうちょ」復活論 7/7
日本で郵政民営化に伴うゆうちょ銀行の誕生から17年が経とうしている一方で、米国では今、56年前に廃止された郵便貯金の復活論が叫ばれている。シリコンバレー銀行(SVB)といった地域銀行の破綻が相次いだことにより、「公営で安全な郵便貯金を復活させよ」との声が上がっているのだ。これまでも公営銀行は議論の的とされていたが、今回の提言における新たな狙いが「政府によるフィンテック」として郵便貯金を復活させることだという。一体どういうことなのか。
米国人の“5割”が感じる「預金の不安」
米国では2023年3月以来、SVB、シグネチャー・バンク、そしてファースト・リパブリック銀行という中堅の3つの地方銀行が相次いで破綻した。しかし現段階では金融不安の広がりは抑えられている。金融の安定を優先する米連邦預金保険公社(FDIC)が、預金者の負担となるはずの預金損失を全額補償するなど、救済措置を図ったからだ。
社会的な影響を勘案した結果だが、米国人からは「民間の金融機関にお金を預ければ損失を被るかもしれない」と改めて認識された。事実、預金者の多くが、(一般的に地方銀行より安全だと見られている)大手銀行にお金をシフトしたことが報告されている。
だが、「つぶれにくい」とされる大手金融機関でも安泰とは言えない。米世論調査大手のギャラップは金融不安の続いていた4月に、およそ1000人の成人を対象とした調査を実施。その結果、「あなたが銀行やその他の金融機関に預金しているお金について心配ですか」という問いに対し、19%が「とても心配」、29%が「ある程度心配」と回答し、合計で48%の米国人が預金に不安を感じていることが判明した。
こうした中、4月21日に米郵政公社職員労働組合(APWU)のマーク・ダイモンドスタイン委員長は米政治ニュースサイト「ザ・ヒル」に寄稿し、「SVBなどの破綻で引き起こされた金融危機は、銀行のシステムそのものが連邦政府の預金保険や、ローン保証・金利の設定に完全に依存していることを白日の下に晒した」と指摘した。
民業と言えども、実は政府の「見えない大きな手のひらの上」で踊っているにすぎないというわけだ。ダイモンドスタイン氏はさらに、「政府はすでに銀行を下支えしているのだから、それをさらに拡充して、安全で手数料の安い銀行口座を国民に提供すべきだ」と踏み込んで主張した。
理論上、政府は民間企業のように破綻しないので、国民に安定した金融サービスを提供できる。また営利目的でないことから、最低預金残高の縛りもなく、口座の残高が不足した場合の当座貸越手数料も請求されない。決済手数料も無料になるという。
ダイモンドスタイン氏は、連邦政府がそのようなサービスを提供する最善の方法が、1911年から1967年まで55年間存在した郵便貯金を復活させることだと論じた。
なんと“590万世帯”が口座を持たない?
かつての郵便貯金は1930年代に起きた世界恐慌という大波にも耐え、特に商業銀行の支店がまばらな地方や都市部の貧困地域において、簡易で頼りになる金融機関だった。しかし、商業銀行が提供する高利回りに対抗できず、1947年のピーク時を境に、徐々に郵便貯金の利用者は減っていた。そして、ジョンソン政権が1960年代に進めた政府合理化の対象となり、ついには1967年に廃止されたのである。
廃止から半世紀を経た今、営利目的の金融機関を敬遠する低所得者層や地方の金融弱者が増加、これが社会問題化している。米連邦預金保険公社(FDIC)の2021年の調査によれば、米国の全世帯の4.5%に相当する590万世帯が金融機関の口座を持っていなかった。
信用度が低く金融機関で口座を開設できない世帯は、小切手の現金化や給料前借りサービスといった余計な手数料の支払いに、世帯収入の10%近い2,412ドル(年間平均、約33.6万円)を費やしている。その上、こうした金融弱者を相手にしない銀行が放漫経営に手を染め、金融の安定をたびたび損ねることに関しても問題点の検証が深まり、郵便貯金復活などが議論されるようになったわけだ。
だが、この郵便貯金復活の提言における真新しい狙いはほかにある。それが、デジタル口座やデジタルドルなどに絡んだ「政府によるフィンテック」として郵便貯金を復活させることだ。
「フィンテック×郵便貯金」の深すぎる意義
まずダイモンドスタイン氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)が直接、消費者や企業に手数料無料で提供するデジタル上の預金口座「FedAccount」として郵便貯金を使うことを提言した。個人や企業による365日24時間の即時送金や決済が可能な21世紀型のデジタル金融サービスとして郵便貯金を復活させるべきだとの見解だ。
FedAccountは、ホワイトハウスのラエル・ブレイナード国家経済会議(NEC)委員長や、米上院銀行委員会のシェロッド・ブラウン委員長(民主党)、さらにマサチューセッツ州選出のエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)などが旗振り役となって推進されている構想だ。
これは、7月に先行稼働するデジタル即時決済システム「FedNow」とも深い関係にある。なぜなら、米国版の中央銀行デジタル通貨(CBDC)「デジタルドル」の導入を見据えるFRBが2019年から開発を進め、試験運用を重ねるなど正式な展開に備えてきたものであるからだ。
現在は小切手が振り出されて1〜2営業日、週末の場合は週明けまで現金化に時間がかかるものが、振出口座に送金額相当の現金があれば365日24時間、いつでも数秒で現金化できる。
FedNowとの併用で「フィンテックとしての郵便貯金」が無料、あるいは最低限の手数料で、社会から取り残された低所得層や、銀行が顧みない田舎の消費者に提供するならば、公営の金融サービスとしての意義はあると言えよう。
忘れてはならない「郵便貯金の落とし穴」
しかし、フィンテックとしての郵便貯金は良いこと尽くめではなく、大きな落とし穴があることも忘れてはならない。その理由として反対論者からは、設立・運営が高コスト・高リスクであると指摘されている。
米国銀行協会(ABA)のロブ・ニコルズ会長は有力地方紙フィラデルフィア・インクワイアラー紙への寄稿で、「公営銀行のアイデアは新しいものではないが、19世紀に全米で設立された何十もの公営銀行のほとんどは巨額の損失を出して破綻している。たとえばバーモント州の州立銀行は1806年に設立されたが、その6年後に現在の貨幣価値で30億ドル(約4,180億円)の損失を計上して破綻した。1981年につぶれたデラウェア州の農民銀行も、損失は州民負担となった」と指摘。
その上で「現在も運営されているのは、米領サモアと、民間との連携で設立されたノースダコタ州の2行だけだ」と説明した。
また、カリフォルニア州サンフランシスコ市が検討中の公営銀行についても、「収支がトントンになるまでに、最大39億ドル(約5,434億円)の公金投入と56年の時間が必要になると試算されている」と斬り捨てた。さらには「政権に近い勢力に対して、公営銀行が返済の裏付けのないローンを貸し付ける動機もある」として、郵便貯金の復活に疑義を呈した。
ニコルズ会長の意見が、郵便貯金と競合することになる銀行業界の反対論であることは差し引いて考える必要がある。だが、金融サービスの設立・運営には高いコストがかかり、それに公金が投入されるのは好ましくない、とのニコルズ氏の見解は、財政緊縮に傾く米世論に訴求するものがある。
米国版ゆうちょ復活のカギが「デジタル決済」と言えるワケ
このように、銀行の破綻や金融弱者の包摂で注目される、フィンテック化した米国版ゆうちょの復活論は前途多難だ。そのため、FedAccountに関してはさらなる突っ込んだ論争が行われるだろう。また、デジタルドルに関しても、国民のプライバシーを侵害するものとして反対は根強いため、政治的な決断が必要になる。
そうした中で、デジタル即時決済システムのFedNowは、「デジタルドル実現のためのトロイの木馬」(共和党大統領予選候補であるフロリダ州のロン・デサンティス知事や民主党大統領予選候補のロバート・ケネディ・ジュニア上院議員で構成する派閥)など反対派から疑いの目を向けられながらも、即時決済フィンテックの世界市場における米国の優越性を確立させる意味からも、最も抵抗が少ない。
つまり、連邦政府が関与する金融サービスで最も成功の確率が高いのが、すでに立ち上がっているFedNowであり、デジタルドルやFedAccountへの発展的拡張の基礎となり得る存在なのだ。
FedNowがデジタル決済において消費者に受け入れられる主流的な存在となれば、連邦政府がデジタルドルやFedAccountを前面に押し出した金融サービスへ再進出する可能性も高まる。FedNowの成否に、安全で低コストの郵便貯金の復活もかかっている。
●「リーマンショック」と「ユーロ危機」…国際金融危機終息後に残された置き土産 7/7
バブル崩壊以降、最高値をつけた株価、相次ぐ世界の半導体大手の国内進出。コロナ明けで戻ってきた外国人観光客。なんだか明るい兆しが見えている日本経済。
じつはその背景には、日本を過去30年間苦しめてきたポスト冷戦時代から米中新冷戦時代への大転換がある。
いま日本を取り巻く状況は劇的に好転している。この千載一遇のチャンスを生かせるのか。
商社マン、内閣調査室などで経済分析の専門家として50年にわたり活躍、国内外にも知己が多い著者が、ポスト冷戦期から新冷戦時代の大変化と日本復活を示した話題書『新冷戦の勝者になるのは日本』を抜粋してお届けする。
今回は、いまの世界インフレを用意したポスト冷戦時代の金融を振り返る。
ユーロ危機
第3はユーロ危機である。2005年にifo経済研究所の同僚のドイツ人研究員が「バカンスで南仏に行ったが、別荘地はロシア人だらけで、住宅価格が暴騰している」と教えてくれた。
ユーロの誕生でEU諸国間の為替リスクが消滅したので、海外から南欧諸国への資本流入が1999年の6000億ユーロから2007年には1兆5000億ユーロに急増してしまった。これらのマネーが不動産バブルを醸成していったわけだ。このまま行くとバブルが破裂しかねないという感覚はあったが、リスクへの関心は当時まだ大きくはなかった。
ところが、リーマンショックが起きるや、世界の投資家がリスク過敏症に陥り、資金を引き上げる動きが強まった。この最悪のタイミングでギリシャ財政赤字の粉飾が明らかになり、ギリシャ国債離れが広がり、ギリシャ政府は国債の借り換えができなくなってしまった。
事態を放置しておけば、ユーロが崩壊しかねない。EUはIMFとECBと協調してギリシャ支援に動き、その代わりギリシャには強烈な緊縮財政政策を飲ませた。これで、最大の危機を乗り切ることができたのだった。
非伝統的金融緩和で金融危機に対応
前項の3つの国際金融危機のうち、リーマンショックはアラン・グリーンスパン元FRB議長が米議会の公聴会で述べたように、米経済は「100年に一度の信用の津波」に見舞われたのだった。
その危機の最中の2008年12月にワシントンのFRB本部を訪れたが、知人のジョセフ・ギャニオン国際金融局次長は「我々はできることは何でもやる。それがFRBの使命だ」とすこぶる高揚していた。
事実、FRBは機能不全に陥った金融市場を蘇生させるため、銀行への無制限資金供給、住宅ローン関連証券の購入、個別金融機関への緊急融資、そしてマクロ対策として量的緩和政策(QE)を導入した。
「モラルハザードなんて言ってられない、金融市場が壊れたら経済もあったもんじゃない」と戦時体制で臨んだのである。
それから半年後の2009年6月に再びFRBを訪問したが、「金融危機の最悪期は過ぎたよ」とギャニオン次長が語り、さらに半年後には危なかったシティバンクが政府のTARP(不良資産救済プログラム)の借金返済計画を発表するまでに事態は改善したのである。リーマンショックから15ヵ月で目処が立った。この米国のスピード感には圧倒されるしかない。
一方、ユーロ危機はギリシャなどEU周縁国の債務危機であり、リーマンショックとは性格が異なる。主たる対策は投資家が離れてしまった国債市場の機能維持と正常化であった。
そのために恒久的な救済機関であるESM(欧州安定メカニズム)が設立され、潤沢な資金を原資に債務危機に陥った国の救済プログラムが機能するようになり、ユーロ危機は収束に向かった。
一方、金融政策はどちらかと言えば、補完的な役割だったが、短期から長期に至るまで大規模な資金供給を行って金融市場の機能維持に努め、マクロ的にはFRBと同じく量的緩和政策、さらにマイナス金利の導入という非伝統的政策の採用に踏み切り、未曽有のユーロ危機を乗り切ることができた。
しかし、欧米とも国際金融危機は何とか乗り切ったが、非伝統的政策の置き土産である過剰流動性がインフレの潜在的圧力として温存されたことは、新冷戦時代のインフレを考える上で忘れてはいけない。
●日本のマーケティングは周回遅れで、その差は開いている 7/7
日本企業の世界での競争力が弱くなったと言われますが、その大きな理由として特に法人を相手にするB2Bマーケティングの弱さがあげられます。世界のB2Bマーケティングと比べると日本の同業種・同規模の企業のマーケティングは10年以上の周回遅れで、その差はCovit-19によってさらに開いています。ここでいうマーケティングとは「デマンドジェネレーション」と呼ばれる案件創出のプロセスで、営業部門や販売代理店に商談を安定供給する役割を指しています。なぜ日本企業のマーケティングは遅れたのでしょうか。
それは「必要無かった」からなのです。
戦後の日本企業の法人営業は既存顧客からの引き合いに依存していました。製造業を中心とする日本のGDPを支える多くの企業は、上位20%の顧客からの売上が全体の80%を超えていました。2:8の法則(パレートの法則)がそのまま当てはまっていました。
上図はイゴールアンゾフ博士が提唱したアンゾフマトリックスという、成長戦略を検討するためのフレームワークです。自社の成長の可能性やリソースの偏在を検討する際に使用します。
このフレームワークの中で日本企業は左上の「既存×既存の象限」でビジネスをしてきました。顧客軸でも商品軸でも既存に大きく依存した構造で、これは良い悪いではなく日本企業の特徴なのですが、ひとつだけ問題があるとすれば4つの象限の中でここだけはマーケティングが必要無かったのです。
付き合いの長い既存顧客が良く知っている製品やサービスのリピートオーダーをかけてくるので、「正しく知ってもらう」事を目的にしたマーケティングは要らないのです。この既存×既存の象限を守るために何より重要な事は「納品」です。納期を守る、欠品を出さない、不良品を出さない、品質改善に努めるなどを行って顧客を守る事が何より優先されました。そしてその重要な顧客の担当者をより強くグリップするために、ゴルフや接待は営業にとって必須の活動でした。
しかし「リーマンショック」と呼ばれる世界的な景気減速のタイミングでこの「既存×既存の象限」の成長が鈍化し、多くの企業が納品先から、「これからはウチだけに依存するのは辞めて欲しい、自分の餌は自分で探して下さい」と言われました。日本企業にとっては驚天動地の出来事です。成長を続ける、あるいは生き残るためには他の象限に進出しなければなりませんが、残りの3つの象限はいずれもマーケティング力が無ければどうにもならない象限です。日本企業の低迷の理由はそこにあります。
日本企業は未だに製品開発力や生産技術、メンテナンスサービス、そして営業部門の質は世界トップクラスです。しかし、既存顧客向けに開発した新製品(右上の象限)でも、相手が大企業になれば今までとは違う事業所や部署に持って行かねばならず、そこは新規営業と同じ工数がかかります。無論そこには既に競合がガッチリくい込んでいる事が多く、それを覆すにはマーケティングが必要なのです。
さらに苦戦しているのは既存製品・サービスで新市場を開拓する左下の象限で、ここは同じ10億円の受注を獲得するにも既存から受注するおよそ20倍の工数が必要と言われています。日本企業の営業体制は既存顧客に圧倒的に多くのリソースをわり当てていますから、新規市場の開拓に割くリソースは限定されており、とても20倍の工数をカバー出来ないのです。
低迷しているのはこれが理由です。もう製品やサービスの品質だけでは生き残れない時代になったのに、その変化に気付くのが遅れ、生き残るために絶対に必要なマーケティング力がとても弱く、社内にマーケティングを体系的に学んだ人もいないのが現状です。ここを大至急強化することが、日本企業が再び世界で活躍するために絶対に必要なことなのです。
また、およそ50年にわたって既存顧客中心の営業活動をしてきて、マーケティングやインサイドセールス、カスタマーサクセスといった機能を持っていないため、欧米と比べると営業部門の業務範囲が極めて広く、それが原因で営業生産性を上げにくい、という現象があります。日本企業では新商品の発売が決まると、狙う市場や企業を見つけ、そこらか案件を見出し、クロージングし、納品し、代金を回収し、さらにアフターフォローまでをすべて営業部門が担っています。
しかし、欧米の企業はそれを4つのプロセスに分解し、それぞれのプロセスの専門性を持ったスタッフや部門がリレーをしています。
そして世界のマーケティングはさらに進化の速度を上げています。当社ではCovit-19が明けた昨年から計6回米国、欧州、そしてAPACで開催されたB2Bマーケティングのカンファレンスに参加しましたが、AIやシリコンバレーのテックジャイアントのリストラなどの影響でさらに劇的な進化を遂げています。この遅れを取り戻すために、各社が経営の最優先課題としてマーケティングに取り組むしかないでしょう。
●日本銀行が止められなかった負の連鎖 日本だけが長期デフレに落ち込んだ 7/7
停滞が続く日本経済。閉塞感とポピュリズムが同時に強まる間、日銀はスケープゴートにされ、ラストリゾートにされ、常に主役の一人で居続けた。成長鈍化は先進国の共通課題ではある。にもかかわらず、なぜ日本だけが長期デフレに落ち込んでしまったのか。そもそもなぜデフレは問題なのか。
デフレを引き起こした最大の原因
程度の差はあるが、成長鈍化は先進国の共通課題ではある。にもかかわらず、なぜ日本だけが長期デフレに落ち込んでしまったのか。
日本の消費者物価指数(生鮮食品除く総合、CPI)は1998年に0.3%に急低下し、99年にはマイナス0.1%に転落する。2000年はマイナス0.3%となり、01年にはマイナス0.9%、02年は同0.8%と物価が持続的に下がっていくデフレが本格化する。物価の基調的な下落は12年まで続き、戦後、主要国でこれほど長いデフレに陥った国はない。
マクロ経済全体でみれば、デフレは需要と供給のバランスが崩れることによって起きるとされる。モノをつくる能力があるのに、買い手がいなければ値段を下げて売らざるをえない。この「需給ギャップ」が物価を決める基本要素となるが、日本の長期デフレの構造はそれ以上にかなり複雑だ。
デフレを引き起こした最大の原因は1990年代前半のバブル崩壊とされる。バブル経済によってモノやサービスを提供する「供給能力」が膨れ上がり、そのバブルが崩壊すると需要が失われて需給ギャップが大きくマイナスになる。GDP統計などから算出する需給ギャップをみると、91年1〜3月期にはプラス4.9%だったが、93年にはマイナスに転落し、94年にはマイナス1.7%まで落ち込んでいく。
ただ、物価面でみると、バブル崩壊の91年からデフレが始まる98年まで、7年ものタイムラグがある。なぜか。
その間、91年から日銀は利下げに転じて金融緩和を断行し、先述したように金融機関も貸し出しを増やし続けたからだ。緩和的な金融環境がデフレ転落をギリギリ防ぎ、需給ギャップも一時的にプラス圏に戻っていく。ところが歴史的にみれば、これが失敗の一つとなる。先述したように金融緩和で後押ししたものが、不振企業への追い貸しにすぎなかったからだ。
97年から98年にかけて山一証券や北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行といった大手金融機関が経営破綻すると、銀行システムに追い貸しの余力はなくなった。資金が得られなくなった企業部門は、いよいよ投資を絞って借金返済を優先するようになる。
賃下げがなぜデフレの要因になるのか
企業(非金融部門)全体の資金フローを示す貯蓄投資バランスは、97年度時点で1.4兆円の投資超過だった。それが98年度には一転して2兆円の貯蓄超過となる。
これは、借金額と返済額を比較した場合、97年度はまだ借金額のほうが返済額を1.4兆円上回っていたが、98年度は借金返済が2兆円多くなったということだ。98年度以降、企業部門は貯蓄超過の状態が続く。どれだけ金融緩和を強めても、資金需要がなければ意味がない。日銀は99年にゼロ金利政策に踏み切り、四半世紀にわたってあらゆる金融政策を繰り出したが、緩和マネーは空回りし続けた。
   日本は平均年収が30年間伸びていない:各国との対比
企業の慎重姿勢が決定的なデフレを生み出すのは、98年から賃金が下がり始めたことが大きい。現金給与のほか社会保険料なども含めた「雇用者報酬」をみると、戦後一貫して増え続けてきたのに98年度には人当たり平均で1.3%も減少してしまう。
電機や運輸、金融といった安定企業が相次いで一般社員の賃金カットに踏み切り、99年度も1人当たり雇用者報酬は1.0%減、2002年度には同2.5%減まで給与水準は下がっていく。
失業を出さない代わりに賃下げを受け入れる日本型の対処策は、今でも世界的に極めて異例だ。米国ではリーマン・ショック後に失業率は10%まで上昇したが、平均時給がマイナスになることはなかった。日本の失業率は最悪期でも2004年の5.4%までしか上昇していないが、雇用を守る代償として賃下げを受け入れた。
賃下げがなぜデフレの要因になるのか。労働者が賃金カットを許すようになると、人件費の比率が高いサービス業も値下げが可能になる。そのため、日本のサービス価格指数は1997年の111.9をピークにじわじわ下がり、インフレ環境にあった2022年ですら106.9までしか戻っていない。
これが日本の物価全体の決定的な下落要素となった。耐久消費財などモノの物価指数は、米国でも頻繁にマイナス圏になる。しかし同国は簡単に賃下げができないため、サービス価格がマイナスになることはほとんどない。米国のサービス価格指数を同期間で比べると、ちょうど2倍になっている。その伸び率は年平均2〜3%と高い。
物価停滞が長引いたもう一つの大きな理由
そもそも、デフレはなぜ問題なのかも簡単に説明しておきたい。それは経済停滞をもたらす「原因」になるからだ。
まずは企業部門。デフレになると、製品やサービスの価格を引き上げられないため、売上や収益は伸びなくなる。先述したように企業は人件費を抑えるようになり、家計は賃金が上がらなくなって今度は消費を抑えることになる。家計が消費を抑えると、企業はなんとか値下げしてモノやサービスを買ってもらおうとする。これが物価下落と賃金下落が連鎖する長期デフレの要因となる。
デフレは企業投資も鈍化させてしまう。デフレで借金そのものが重くなるからだ。そのメカニズムは「実質金利」にある。金利はゼロ%でも、物価上昇率によってその重みは変わる。
例えば金利が2%でインフレ率が2%なら実質金利は差し引きゼロだ。それが金利2%のままインフレ率がゼロ%に下がれば実質金利はプラス2%と重くなる。金利がゼロでインフレ率が2%なら実質金利はマイナス2%と軽くなるが、インフレ率がマイナス1%に転落すれば、実質金利はプラス1%となって引き締め的になってしまう。日本経済で起きたことはこういうことだった。
デフレは実質金利の上昇につながるため、企業は借金を減らし、むしろ返済を急ぐことが最善の選択となる。当然、企業の設備投資意欲は失われていく。家計にとっても先行きさらに値段が下がると判断すれば、価格が下がってから商品やサービスを購入すればよいので、消費をできるだけ先送りしようとする。個人消費が伸びないから企業はさらに投資を抑え、それが日本経済の成長力を損なう悪循環となる。
物価停滞がここまで長引いたもう一つの大きな理由は「デフレ均衡」に陥ったからだ。
バブル崩壊と金融収縮でインフレ率は99年にマイナスに転落したが、このときに企業がとった借金返済と投資抑制という行動は理にかなっていた。賃金下落に見舞われた家計が消費を抑えて預金を増やした行動も理にかなっていた。ところがこの合理的な行動によって、経済全体が収縮していく「合成の誤謬」が起きてしまう。景気と物価はさらに上昇圧力を失い、そのまま企業と家計は投資と消費を抑え続ける「デフレ均衡」に陥ってしまった。
バブル経済を放置した80年代の経済政策がそもそもの誤り
日本経済が成長しなければ企業は賃金を上げられない。賃金が上がらなければ家計は消費を増やせない。消費が増えなければ企業は売り上げが増えない。売り上げが増えなければ企業は投資しない。こうした成長鈍化の負の連鎖から抜け出せず、根雪のような物価停滞につながった。日銀はこれを「ゼロインフレのノルム(社会通念)」と表現する。
日銀が主張するように、確かに日本のデフレは1930年代前後の世界大恐慌時に比べれば極めて緩やかではある。1998年度から2012年度の15年間でみると、消費者物価の下落率は平均して年マイナス0.3%程度だ。その程度のマイルドな物価下落であっても「デフレ均衡」から抜け出すのは簡単ではなかった。
資産デフレという観点でみれば、その崩壊は日本経済に多大な悪影響をもたらした。
バブル景気最終盤の1990年、東京23区の商業地の公示地価は1坪あたり2705万円と、83年の7倍を超えた。それが2005年には同449万円と、1990年の6分の1に値下がりする。日経平均株価も最高値の3万8915円(1989年12月)から7607円(2003年4月)まで下落する。
民間銀行は株価下落で含み益という資本の余力を失い、不動産バブルの崩壊で融資先の担保も大きく毀損した。資産デフレが日本経済の金融システムを破壊し、企業の成長投資をストップさせたのは確かで、長期停滞の一端はここにあると言っていい。
日銀は88年から2年で公定歩合を2.5%から6.0%まで引き上げた。大蔵省も土地売買を厳しく制限する「総量規制」を89年に発動。金融政策と金融規制の両面で市場を引き締めすぎてしまい、それがバブルを激しく崩壊させてその後の低迷を招いたという批判は、一見すると正当化されるようにみえる。
しかし、資産デフレは、異常な水準に達した80年代のバブル経済の後始末にすぎない。結局は、経済の実力を大きく超えた資産インフレがその後の経済停滞の起点といえる。バブル経済を放置した80年代の経済政策がそもそもの誤りだったとみるのが適当だろう。
●米FRBは金利引き上げもう少し必要、インフレ抑制で−テイラー氏 7/7
米スタンフォード大学のジョン・テイラー教授は6日、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長率いる金融当局について、高過ぎるインフレ率を抑制するため、もう少し金利を引き上げる必要があるとの見方を示した。
テイラー氏はシンクタンクの米国資本形成評議会(ACCF)主催のウェビナーで、米金融当局の金利政策に関し、「過去数年間にわたり大幅な調整があった」とした上で、「もう少し高くなるべきだと考えている」と語った。
米金融当局は2022年3月から合計5ポイントの利上げを行ってきたが、6月13、14両日の会合で主要政策金利の据え置きを決め、金融引き締めを休止した。会合後に発表された経済・金利予測によると、政策当局者の大多数が年末までに少なくとも50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の追加利上げを予想している。
テイラー氏は、各国・地域の中央銀行の金融政策決定過程で参考にされることもある「テイラー・ルール」の考案者。インフレ率が2%に向けて鈍化すれば、経済は一段と健全化する可能性があるとの見方を示した。
一方、経済の健全性を高めるには連邦政府の財政赤字のさらなる削減や規制緩和、貿易の自由化が必要だと指摘した。
財政赤字の段階的な削減に向け賢明な政策が取られれば、金利をもう少し低くすることが可能となり、米金融当局が財政ファイナンスに追い込まれるリスクも軽減されるとの見方を示した。
●利上げへの前傾姿勢が続くFOMC(6月FOMC議事録) 7/7
FOMCでは追加利上げ実施がコンセンサスに
米連邦準備制度理事会(FRB)は7月5日、11会合ぶりに利上げ見送りを決めた6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公開した。最終的には利上げ見送りは全会一致で決まったが、議事録で示された議論から、金融政策について参加者の意見は分かれており、全体としてはなお追加利上げに前向きな姿勢であることが確認された。
議事録によると、複数の参加者が「0.25%の利上げを続けるべき」と6月も利上げ継続を主張していた。また、「ほぼすべての参加者が年内に追加の利上げが適当との考えを支持した」と記述された。
今回の議事録でFRBが追加利上げに前向きな姿勢が改めて確認されたことから、金融市場では7月にFRBの利上げが再開されるとの見方が強まり、10年国債利回りは3.95%程度まで上昇し、今年3月以来の4%台に迫った。
FOMC内でのハト派は、過去の金融引き締め効果が遅れて表れる累積的効果に注目すべきとし、連続利上げを一度止めることをタカ派に受け入れさせた。それとの交換条件で、タカ派は、引き続き利上げ局面の中にあること、早期に利下げに転じる可能性が低いことをFOMC内で確認したうえで、それを対外的に伝えることをハト派に求めた感がある。6月のFOMCで予想を上回る年内2回の追加利上げの見通し(中央値)が示されたことは、そのことを示唆していよう。実際、その見通しを受けて、利上げ打ち止め観測、年内利下げ観測は一段と後退した。そして今回の議事録を受けて、その傾向はさらに強まったのである。
雇用統計は過大推計か
他方、議事録に盛り込まれたFOMC参加者の見解の中で注目されたのが、雇用統計での雇用者(事業者ベース)の数字が過大評価されている、との指摘だ。家計調査での雇用者数や雇用・賃金の四半期センサス、ADP雇用指数に基づくFRBのスタッフの推計によると、実際の雇用の増加ペースは、雇用統計(事業者ベース)の数字よりも小さい可能性を複数の参加者が指摘した。
非農業部門雇用者数の前月比の伸びは過去3か月平均で28万3,000人だ。さらに、7月7日に発表される6月雇用統計での雇用者増加数の予測の平均値は、22万5,000人程度である。FOMCでの指摘が正しければ、過去数か月の雇用者数は今回下方修正される可能性がある。
それでも、金融市場が予想する7月の追加利上げ観測は簡単には修正されないだろうが、6月ISM製造業指数など、足元での経済指標の下振れも踏まえると、9月の追加利上げ見通しが後退する可能性があるだろう。
景気情勢がかなり悪化しない限り、FRBの早期利下げ観測が金融市場に浮上しないと思われる。FRBの物価高への警戒感が強いためだ。
しかし、実際に景気情勢の悪化を示す経済指標の発表が増える一方、FRBが積極的な利下げで景気を支えない、との観測が広がっていく局面で、景気の悪化傾向が先行き増幅されるとの観測が金融市場に広がり、株価に下落圧力が高まりやすくなるだろう。
さらにそうした局面では、FRBが高水準の政策金利を維持する中で、先行きの景気悪化への懸念やFRBが将来的には大幅な利下げに追い込まれるとの観測が高まり、長期金利が大きく下振れて、ドル安が進むという展開も考えられるところだ。
●NY株続落、366ドル安 FRBの利上げ長期化を懸念 7/7
6日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続落し、前日比366・38ドル安の3万3922・26ドルで取引を終えた。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ長期化による景気後退を懸念した売りが広がり、一時は520ドル弱下落した。
前日に発表された前回の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録が金融引き締めに積極的な内容だったのに加え、6日発表された経済指標は労働市場が堅調なのを示した。このためFRBが年内にあと2回利上げするとの観測が高まった。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も続落し、112・61ポイント安の1万3679・04。
個別銘柄では、住宅用品販売のホーム・デポや化学・事務用品の3M(スリーエム)の下落が目立った。ITのマイクロソフトは買われた。 
●グローバル国債利回り、金融危機以来の水準−米金利急上昇が波及 7/7
米雇用市場の執拗(しつよう)な強さは、遠く離れた国外の債券市場にも圧力を生じさせ、グローバルな国債利回りを反映する「ブルームバーグ・グローバル総合国債トータルリターン・インデックス」は2008年以降で最も高くなった。
ADPリサーチ・インスティテュートが6日公表した6月の民間雇用者数は予想の倍を超える伸びとなった。米利上げ再開の観測が高まり、米国債が売り込まれたことで、世界中の債券強気派は7日に予定する非農業部門雇用者数(6月)の発表に今や備えている。
米国債利回りが急上昇し、グローバルな国債利回りを反映する指数も金融危機以降経験したことのない水準に達したことを受け、オーストラリアの10年債利回りは7日の取引で、14年以来の高水準となる4.26%に上昇した。
ペンダル・グループのインカム戦略責任者、エイミー・シエ・パトリック氏は、米国債利回りがどこまで高くなる可能性があるかとの質問に対し、「予測できない。再びロングに傾く時期はわれわれが考えるより早く訪れるだろうが、ここで勢いに逆らうことは望まない」と答えた。
RBCキャピタルマーケッツのストラテジスト、ジョージ・デービス氏は、米国の10年国債利回りが4.09%のゾーンを上回って終了すれば、昨年最も高かった4.34%に道を開くとみる。
三井住友銀行の宇野大介チーフストラテジストは、米10年国債利回りが年内に6%に到達する可能性すらあると考えている。
オーバーナイトの市場の反応を見る限り、予想より強い雇用統計、特に非農業部門雇用者数は、米連邦準備制度の将来の動きをどのように市場が織り込むか判断する上で、非常に重要であり、それは米国債利回りを今後さらに押し上げる可能性が高いと宇野氏は指摘した。
●JPXプライム150指数が登場 日経平均株価は33年ぶりの高値 7/7
海外からの日本株への注目が高まる中、JPXプライム150指数の登場で、日本株の魅力が高まることが期待される。日経平均株価は33年ぶりの高値を更新した。
日本のトレーダーは、新たにスタートした株価指数に注目すべきだろう。日本取引所グループ(JPX)は7月3日、将来の収益が期待される大型株150銘柄で構成された新しい指数「JPXプライム150指数」を正式に発表した。
また、同日の日経平均株価は33年ぶりの高値をつけた。
JPXプライム150指数の登場
7月3日、JPXがJPXプライム150指数を発表したことを受けて、日本市場は賑わいを見せた。
同グループは、「JPXプライム150指数により価値創造が推定される日本を代表する企業を見える化し、本指数やその構成銘柄が国内外の機関投資家や個人投資家の中長期投資の対象となる」ことを狙いとしている。
同指数は、エクイティスプレッド(株主資本利益率と株主資本コストの差)および株価純資産倍率(PBR)に基づいて企業に優先順位をつける。構成銘柄には、エクイティスプレッドが最も良好な企業75社と、PBRが最も良好な企業75社が含まれている。
トレーダーや投資家は、株式の真価を測るファンダメンタル分析として、エクイティスプレッドとPBRを用いる。JPXによると、PBRが1倍を超える企業は東証プライム市場指数採用銘柄の半数に過ぎない。この水準を上回る株式を同指数に集めることで、投資家により明確に価値を示すことが期待される。
同指数には、米国のS&P250のような魅力が期待され、より多くの投資家やトレーダーを一時的に市場に呼び込む効果的な役割を担うかもしれない。JPXが発表した分析によると、同指数に採用されている企業は2020年以降、全体的にTOPIX(東証株価指数)を上回って推移している。2023年に入ってから外国人投資家による日本株への投資が増えており、より魅力的な指数が発表されれば、より多くの投資家が日本市場とその銘柄に関心を示すようになるだろう。
しかし、通常PBRが1倍を下回る割安株は取引量が減少し、さらに割安となる可能性もある。このような銘柄をトレーダーや投資家が慎重に見極めれば、利益を生み出すことが期待できるだろう。
日経平均株価が33年ぶりの高値を更新
JPXプライム150指数が日本の取引の新たな一歩を期待させた一方で、日経平均株価はさらに大きく上昇した。JPXプライム150指数が発表された7月3日、日経平均株価は1.7%上昇し、終値は33,753円33銭をつけた。
この急騰の背景には、主要な経済指標が好調だったことが挙げられる。6月の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)は5ポイント上昇し、3月の低水準から立ち直って日本経済の回復を示唆した。
銀行株は引き続き好調に推移し、一部の銘柄が銀行破綻危機以前の水準を上回ったことで、その懸念を払拭したと言える。
6月第5週、米ドル/円相場は比較的安定していた。7月3日の終値は、6月30日(金)終値に比べて0.24%円安が進行した。
IG証券では、日本株・米国株など世界12,000以上の株式CFD銘柄を提供しております。日本株CFDだけでなく、IT、金融、自動車、ファッション、製薬、食品など、各業種を代表する世界の優良企業にも投資できます。
●NYダウ続落で始まる FRB引き締め継続への警戒強く 7/7
7日の米株式市場でダウ工業株30種平均は3日続落して始まり、午前9時35分現在は前日比46ドル11セント安の3万3876ドル15セントで推移している。朝方に発表された6月の米雇用統計では時給の伸びが鈍らず、米連邦準備理事会(FRB)による金融引き締めへの市場の警戒を和らげるほどの内容ではなかった。引き締めの継続による米景気への影響も懸念され、株式相場の重荷となっている。
6月の米雇用統計では非農業部門の雇用者数が前月比20万9000人増えた。ダウ・ジョーンズ通信がまとめた市場予想(24万人増)に届かなかった。4月と5月の増加幅も下方修正された。一方、平均時給の伸び率は前月比0.36%と、市場予想(0.3%)を上回った。賃金との連動性が高いとされるサービスインフレの鈍化に時間がかかると受け止められた。市場ではFRBが年内に2回の利上げをするとの警戒が一段と強まった。
米債券市場では長期金利が上昇している。金利の上昇で割高感が意識されやすい高PER(株価収益率)のハイテク株に売りが出ている。ダウ平均の構成銘柄では、ソフトウエアのマイクロソフトとスマートフォンのアップルが安い。利上げによる景気悪化への警戒から、クレジットカードのビザとアメリカン・エキスプレスも売られている。小売りのウォルマート、スポーツ用品のナイキが下落している。
一方、航空機のボーイングと建機のキャタピラーは上昇している。金融のJPモルガン・チェースと石油のシェブロンも高い。
ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数は一進一退で始まった。
●東証大引け 4日続落、FRBの利上げ継続を警戒 主力株に売り 7/7
7日の東京株式市場で日経平均株価は4日続落し、大引けは前日比384円60銭(1.17%)安の3万2388円42銭だった。米金融引き締めの長期化観測から前日の米株式相場が下落し、東京市場でも主力株を中心に売りに押された。日本時間今晩に6月の米雇用統計の発表を控えていることも見送り気分を強めた。
日経平均は朝方に400円超下げる場面があった。前日の米雇用関連指標が市場予想以上の強さとなったことで、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを継続するとの見方が強まった。前日の米主要株価指数が軒並み下落した流れを東京市場も引き継ぎ、業種別では機械や自動車などの下げが目立った。
上場投資信託(ETF)の分配金拠出に伴う売りへの警戒も引き続き重荷となった。朝方の売り一巡後は株価指数先物への押し目買いや売り方の買い戻しなどで下げ渋る場面もあったが、大引けにかけて再び売りが優勢となった。
みずほ証券の中村克彦マーケットストラテジストは「FRBの金融引き締め長期化警戒から投資家は利益確定売りを進めており、日経平均は25日移動平均線(7日終値で3万2944円)が上値抵抗線になりつつある」とみていた。
東証株価指数(TOPIX)は4日続落し、22.18ポイント(0.97%)安の2254.90で終えた。JPXプライム150指数は続落し、10.88ポイント(1.05%)安の1028.81で終えた。
東証プライムの売買代金は概算で3兆8131億円。売買高は15億3732万株だった。東証プライム市場の値下がり銘柄数は1312と全体の約7割を占めた。値上がりは456、変わらずは67だった。
エーザイが大幅安。トヨタ、ダイキン、信越化、三菱UFJ、丸紅なども売られた。一方、中外薬や任天堂、JALは高い。
●スリランカ、経済危機からの脱却の動きは着実に進みつつある模様 7/7
スリランカでは、ラジャパクサ一族(マヒンダ元大統領、ゴタバヤ元大統領)の下での度重なる失政に加え、コロナ禍による主力産業である観光業の壊滅的打撃も重なる形で外貨不足に陥るとともに、エネルギー資源や肥料、穀物、医療品などで幅広く輸入が滞るとともに、インフレ昂進も重なり国民生活に深刻な悪影響が出たほか、対外債務が支払い不能となり債務不履行(デフォルト)に陥った。さらに、国民生活の混乱をきっかけとする反政府デモの活発化を受けて政情不安が深刻化したほか、最終的に当時のゴタバヤ大統領が海外逃亡の末に辞任に追い込まれ、その後に誕生したウィクラマシンハ政権の下で経済の立て直しが図られている。また、ウィクラマシンハ大統領は、財務相を兼務してIMF(国際通貨基金)からの支援受け入れの窓口となるなど、円滑な支援受け入れを通じた経済立て直しを目指す姿勢を前面に打ち出してきた。IMFは昨年9月に拡大信用供与ファシリティー(EEF)に基づく総額22億SDR(約29億ドル)規模の金融支援を行うことを実務者レベルで合意したものの、同国はパリクラブ(主要債権国会議)に属さない中国やインドに多額の債務を負うなか、これらの国々との債務再編協議が難航して支援実施が遅れてきた。しかし、年明け以降にインドと中国が相次いで債務再編に向けた交渉が前進したことを受けて、IMFは今年3月に開催した理事会においてEEFに基づく総額22.86億SDR(約30億ドル)規模の支援実施を承認したほか、この決定に基づく形で直ちに2.54億SDR(約3.3億ドル)相当の財政支援が実施されている。そして、翌4月には日本、フランス、インドが主導する形で同国に関する債権国会合の発足が公表されたほか(注1)、ラジャパクサ政権は年内のうちに債務再編の実現を目指す方針を示しており、今後は具体的な債務再編の内容を巡って詰めの協議が行われる見通しである。他方、同国にとっては二国間融資を巡って最大の債権国である中国は様子見姿勢を維持しており、現時点においては債務再編交渉の行方には不透明なところが少なくないのが実情である。なお、IMFからの支援プログラムを巡っては、2032年までに公的債務残高をGDP比で95%以下に引き下げるとの目標が示されており、その実現に向けて同国議会は今月1日に公的債務のうち国内債務を対象に債務再編を行う計画を承認している。具体的には、国内債務の再編計画の一環として政府短期証券を長期債に切り替える方針のほか、ドル建債の保有者を対象に13割の元本削減の上、満期6年、金利4%に変更(ソブリン債と同条件)、2元本削減なしで満期15年(猶予期間9年)、金利1.5%に変更(二国間のドル建債権者と同条件)、3スリランカルピー建で元本削減なしで満期10年、金利はスリランカ常設貸出ファシリティー金利(SLFR)+100bp、という3つの選択肢を提示するとしている。債権者がこうした条件を受け入れるかは不透明であるものの、1及び2については他の債権者と平仄を併せた内容となっていることを勘案すれば、最終的に受け入れに向けた協議が進む可能性は高いと見込まれる。また、政権交代を招く一因となったインフレを巡っては、昨年後半にかけて大幅に昂進したものの、その後は一転頭打ちの動きを強めており、最大都市コロンボでは今年6月のインフレ率は前年比+12.0%、コアインフレ率も同+9.8%と落ち着きを取り戻している。こうした事態を受けて、中銀は先月の定例会合で政策金利を250bp引き下げるとともに、今月6日の定例会合でも200bpの追加利下げを実施しており、昨年来のインフレ昂進を受けた金融引き締めの動きは大きく転換している。中銀が金融緩和に舵を切っている背景には、昨年以降大きく下振れした通貨ルピー相場がIMFによる支援合意などを受けて落ち着きを取り戻すとともに、足下では緩やかに底入れするなど輸入インフレ圧力が和らぐとの期待も影響しているとみられる。よって、スリランカ経済を取り巻く状況は改善に向かっていると捉えられ、当面は債務再編協議の行方に注目が集まると見込まれる。

 

●FRB、利上げ軌道維持へ 雇用の伸び鈍化も賃金上昇や失業率低下で 7/8
7日発表された6月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が市場予想を下回る2年半ぶりの小幅な伸びにとどまった。しかし、賃金の伸びは引き続き堅調で、失業率も小幅改善したことから、米連邦準備理事会(FRB)が今月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げに踏み切る公算が大きい。
6月の非農業部門雇用者数は20万9000人増で、市場予想の22万5000人増を下回った。しかし依然としてコロナ禍前の10年間の月間平均の伸びである18.3万人を上回っている。
また、時間当たり平均賃金の前年比での伸びは4月以降、4.4%近辺で推移しており、米労働市場が引き続き売り手市場であることを示唆している。
バンガード・グローバル・グループのチーフエコノミスト、ジョセフ・デイビス氏とシニアインターナショナル・エコノミスト、アンドリュー・パターソン氏は、インフレをFRBの目標である2%に回帰させる上で、賃金の伸びは「引き続きFRBが快適と感じられる水準をはるかに上回っている」と指摘した。
インフレーション・インサイトのオメール・シャリフ氏は、4・5月分の米雇用者数の伸びが計11万人下方改定されたことで、過去3カ月の月間平均の伸びは24万4000人と、1年前の40万人超を下回ったという点で、6月の雇用統計は弱めの内容と指摘。ただ、一段と均衡の取れた労働市場に向けた進展は緩慢なペースという見方を示した。
雇用統計を受け、市場ではFRBが今月のFOMCでフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標レンジを5.25─5.50%に引き上げるとの見方がほぼ織り込まれた。
労働統計局によると、FRBが利上げを開始した2022年3月以降、失業率は3.4─3.7%のレンジを推移している。FRB当局者は失業率約4%を、インフレを低下させるために十分な緩みが存在する水準とみなしている。
パウエルFRB議長は6月FOMC後の会見で「労働市場は引き続き非常にタイト」という見解を示しつつも、労働市場の需給バランス改善を示す「一定の兆候」があると述べていた。
●FRB、年内あと2─3回の利上げ必要=シカゴ連銀総裁 7/8
米シカゴ地区連銀のグールズビー総裁は7日、高すぎるインフレを抑えるには年内にあと2、3回の利上げが必要になるとする連邦準備理事会(FRB)当局者の見方に反対しないと述べた。
グールズビー総裁はCNBCのインタビューに対し、この見通しが誤っていると示すものは何もないとし、「リセッション(景気後退)を引き起こさずにインフレ率を2%に引き下げるための王道だ」と指摘。これには年内あと2、3回の利上げを伴うと語った。
また、FRBが昨年3月以来実施してきた合計5.00%ポイントもの利上げの効果が完全に表れるのはこれからだと言及。インフレ率はなお高すぎるとした上で、「FRBの目下の最優先目標はインフレ低下だ」とし、失業率がリセッションを意味する水準まで上昇することなくインフレを低下させることは可能と確信していると述べた。
7月のFOMC時における判断については、会合前に重要な6月のインフレ指標が発表されるため、まだ何も決めていないとした。
労働省が朝方発表した6月の雇用統計については、雇用市場は堅調ではあるものの、冷え込みつつあるのは明らかだと指摘。ただ、1回の雇用統計を深読みしすぎてはならないとの考えも示した。 
●「戦後日本の骨格作り替えた」安倍政治、再評価の声… 7/8
安倍晋三・元首相は、憲政史上最長の8年8か月間、首相の重責を担った。在任中には、内政と外交の両面で日本が直面する重要課題に取り組んだ。8日に一周忌を迎え、政界関係者からは、長期政権で積み上げた実績を改めて評価し、その継承を誓う声が上がった。
アベノミクス
岸田首相は同日、安倍氏をしのんで開かれた食事会で、「私が今、首相として政権運営にあたれているのも、内政、外交で安倍氏が築かれた基盤があってこそです」と述べた。
菅前首相も取材に対し、「内政、外交、安全保障にわたり、戦後日本の骨格を作り替えた政治家と言える」と総括した。菅氏は第2次安倍内閣発足後、一貫して官房長官を務め、そばで「安倍政治」を支えた。
2012年12月に安倍氏は首相に再登板すると、真っ先に傷んだ日本経済の再生に全力を挙げた。当時はリーマン・ショック後の景気低迷が続いていた。金融緩和、財政出動などからなる経済政策「アベノミクス」で、株価の回復など、国内経済の立て直しを図った。
15年9月には、集団的自衛権の限定的な行使を容認する安全保障関連法を成立させた。北朝鮮の軍事挑発などで安保環境が緊迫度を強める中、日米同盟を強化し、抑止力を高める狙いがあった。野党の猛反発も招いたが、安倍氏のもとで自衛隊トップの統合幕僚長を4年5か月務めた河野克俊氏は、「内閣支持率が落ちることは織り込み済みだった。それでも『絶対に国にとって必要だ』との信念で進めた」と振り返る。
地球儀を俯瞰する外交
安倍氏は、「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げて外遊を繰り返し、日本の存在感を高めた。西村経済産業相は、官房副長官として海外出張に同行した経験があり、「長期政権を築く中で、海外の首脳からも一目置かれる存在だった」と証言する。現在でも「海外の首脳に会うと、様々な場で安倍氏のことが話題に上る」(岸田首相)という。海洋進出を強める中国への対抗を念頭に、16年に提唱した「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想はその後、国際社会にも浸透した。
16年11月には、米大統領選で当選直後のトランプ次期大統領と世界の首脳の中で初めて面会した。外務次官などで「安倍外交」を支えた杉山晋輔・前駐米大使は「各国首脳は様子見だったが、『直接話したい。会談を設定できるか』と言われて驚いた」と懐かしむ。
憲法改正「岸田さん…すんなり通るかも」
悲願の憲法改正にもこだわった。17年5月には「20年の改正憲法施行」を打ち出した。だが、タカ派色の強い安倍氏に反発する野党が国会での改憲議論を拒否し、在任中の実現にはこぎ着けられなかった。安倍氏側近の一人だった自民党の萩生田政調会長は、安倍氏が「(ハト派の)岸田さんなんかが首相になった方が、すんなり通るかもしれない」と語っていたのを覚えている。岸田首相は「憲法改正の思いをしっかりと引き継ぐ」と明言している。
野田首相(右から2人目)との党首討論に臨む自民党の安倍総裁(2012年11月14日)
内政にも外交にも腰を落ち着けて向き合うことを可能にしたのが、自民が政権復帰した12年衆院選から19年参院選までの「国政選6連勝」だった。選挙での強さは、求心力の維持にも直結した。
12年12月の衆院選に先立ち、同11月には野党・自民党の総裁として党首討論に臨んだ。その相手だった民主党政権の野田佳彦首相には衆院解散・総選挙を迫り、「解散します」との言葉を引き出したことは今でも国民の記憶に残る。現在は立憲民主党所属の野田氏は、「党首討論では、こちらが攻めてもはぐらかすのがうまく、こちらが失敗すると、かさにかかって襲ってくる。手ごわい論敵だった」と語った。
●賃金の伸び、焦点に 労働市場過熱、物価押し上げ―米FRB 7/8
米労働省が7日に公表した6月の雇用統計では、米国の労働市場の堅調ぶりが改めて示された。求人件数が失業者数を大きく上回る人手不足が続き、賃金の伸びも高水準を維持。足元のインフレは人件費上昇を受けたサービス価格高が主導しているだけに、連邦準備制度理事会(FRB)は追加利上げで過熱気味の労働市場を冷ます必要に迫られている。
統計では、景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数が6月は前月比20万9000人増と、雇用の伸びが5月(30万6000人増)に比べ大きく減速した。ただ、FRBは長期的に安定した就業者数の増加幅を「月10万人程度」(高官)としており、依然これを大きく上回っている。
インフレ率は昨年半ばをピークに低下基調にあるが、エネルギー安によるところが大きく、サービス価格は高止まりしたままだ。基調的な物価高圧力が強い中、パウエルFRB議長は「インフレ率が目標の2%に低下することは来年もない」と予想する。
物価上昇率の今後の推移を占う上でカギを握るのが、賃金の動向だ。特にサービス分野は接客など労働集約型の業種が多く、コロナ禍以降の人手不足が賃金上昇を招き、サービス価格を押し上げる構図が続いている。
雇用統計によると、6月の平均時給は前年同月比では4.4%上昇。1年前の5%超からは伸びが鈍化したが、FRBが妥当な水準とみる3%台半ばを依然上回っている。
失業者1人に対する求人は5月時点で1.6件と「売り手市場」のため、人手を確保するには賃上げせざるを得ない状況だ。過度な労働需要を沈静化させるため、FRB内では「より引き締め的な金融政策が必要」(別の高官)との見方が強まりつつある。

 

●胸突き八丁のECB 7/9
欧州中央銀行(ECB)当局者のタカ派的な見解を受け、上半期のユーロは対円で15年ぶりの高値圏にまで上昇しています。一方、ユーロ圏のインフレは高止まりが目立つものの、秋口以降も金融引き締め姿勢を維持するのは困難との見方が浮上。ユーロ買いは縮小が見込まれます。
ユーロ・円は6月14日に年初来高値を上抜けるとさらに上げ足を速め、心理的節目の155円を突破。6月末にはリーマンショックのあった年として記憶される2008年以来15年ぶりの158円付近に上値を伸ばし、一時は160円台が射程圏内に入りました。ECBのラガルド総裁をはじめ当局者が、今月27日開催予定の理事会で利上げ継続の方針を固め、ユーロ・円は年初から半年で15%程度も値を上げた計算です。
もっとも、上昇基調を強めているのは金融緩和政策を続ける日本や中国の通貨に対してのみで、ドルに対しては上げ渋り、ポンドやスイスフラン、豪ドルに対しては弱含んでいます。ユーロ・ドルは年初の1.04ドル台から2月には1.10ドル台に強含んだものの、欧米金融システム不安が一段落した後も上昇は限定的。ECBは7月の利上げを明確にしているため底堅さが目立ってはいますが、下落基調に転じるのは時間の問題かと思われます。
背景としては、インフレ抑止優先の政策が景気を押し下げるとの見方が広がり始めたためです。域内総生産(GDP)は昨年10-12月期と今年1-3月期が前期比マイナスとなり、テクニカル・リセッション入り。ただ、ECBはマイナスが小幅にとどまっていると判断し、引き締め政策を堅持しています。昨年7月から今年6月まで8会合連続で利上げを実施し、政策金利は-0.50%から+3.50%まで引き上げられました。
ECB当局者の最近の発言は次回7月も0.25ポイントの利上げでおおむね一致していますが、9月以降については見解の違いがみられます。6月30日に発表された域内消費者物価指数(HICP)は前年比+5.5%と前回に続き鈍化。スペインについてはECB目標の2%を初めて下回り、直近で+1.6%まで低下しています。それに対して、スロバキアは2ケタ台と高止まり、バルト諸国もインフレ沈静化は程遠い状況です。
ECBの引き締めにより国債の信用力が低い南欧諸国の国債利回りが高水準になり、ユーロ全体の信用力を損ねる「市場の分断化」も問題視されています。メローニ・イタリア首相は先のECBの継続的な利上げについてインフレ以上に経済を圧迫すると指摘。ビスコ・イタリア中銀総裁は、引き締めを強化するリスクを望ましいとするECB内のタカ派的な意見には理解も同意もできないと批判しています。
ECBは金融正常化を通じて物価や景気の安定に注力しているものの、加盟国間の格差が鮮明になり、その対応にも限界はあるでしょう。タカ派路線が息切れしないか、憂慮します。
●品目別で見る貿易の変化:自動車産業の存在感 7/9
1. 日本の品目別輸出額の推移
前回は、相手国別に見た貿易額の変化についてご紹介しました。近年では既に日本最大の貿易相手国は、アメリカではなく中国になっているようです。今回は、財務省の貿易統計より、品目別の貿易額について共有したいと思います。
まずは輸出から見ていきましょう。
   図1 日本 輸出 品目別
図1が日本の輸出のうち品目別の推移です。
全体的にアップダウンしつつ緩やかな増加傾向が続いていますが、規模感で見ると3つのグループに分かれているように見えます。
最も大きいのが、輸送用機器(青)、一般機械(赤)、電気機器(黄)ですね。
リーマンショックで急減してから少しずつ増えていて、コロナ禍で下がってまた増えつつある様子もわかります。2022年ではそれぞれ18〜19兆円の期のようです。
2つ目のグループが、原料別製品、化学製品、その他です。
完成品というよりも原材料や部品といったものですね。2022年では12〜14兆円規模です。
3つめのグループは、鉱物性燃料、原料品、食料品です。
それぞれ2兆円程度の規模で、他の品目と比べるとかなり規模が小さいようです。
   図2 日本 輸出 概況品名別
図2が概況品名別の輸出額の推移です。
図1は報道発表品目名という区分になり、より大きな区分方法ですが、概況品名別だとより具体的な区分となります。
規模の大きなものだけ抜粋してみました。
概況品名別だと、やはり圧倒的なのは自動車です。アップダウンしていますが、10兆円前後の規模があるようです。自動車の部分品も4兆円程度に達していますので、合わせて15兆円ほどの規模となります。
輸出全体で100兆円前後となりますので、15〜20%程度は自動車関係という事になりそうですね。
その他の項目は横ばい傾向ですが、半導体製造装置(赤)の増加傾向が大きいようで、4兆円規模に達しています。
2. 日本の品目別輸入額の推移
続いて、品目別の輸入額についても眺めてみましょう。
   図3 日本 輸入 品目別
図3が品目別の輸入の推移です。
輸出とは傾向がまるで異なります。
なんといっても、アップダウンが大きいながらも鉱物性燃料の存在感が大きいです。2000年代から10〜30兆円の幅でアップダウンしているようですが、2022年には30兆円を超えています。
また、輸出と異なり、輸入は全体的に増加傾向です。海外の方がインフレが続いているため、値上がりによる貿易額の増加という側面も大きいのかもしれません。
電気機器が18兆円程度で規模が大きく、化学製品、原材料別製品などが続きます。
輸送用機器は3兆円程度で最も規模が小さいというのも特徴的ですね。
3. シェアで見る輸出と輸入
最後に、2022年の品目別シェアを見てみましょう。
   図4 日本 輸出・輸入 品目別 シェア 2022年
図4が2022年の輸出(上)と輸入(下)についての品目別シェアです。
やはり原材料に近いものほど輸入の方が多く、加工製品ほど輸出の方が多い印象ですね。
    品目名 輸出シェア[%] 輸入シェア [%]
   1. 食料品 1.1 9.5
   2. 原料品 1.6 8.1
   3. 鉱物性燃料 2.2 33.5
   4. 化学製品 11.8 13.3
   5. 原料別製品 11.8 10.3
   6. 一般機械 18.9 9.3
   7. 電気機器 17.3 17.3
   8. 輸送用機器 19.1 3.4
   9. その他 14.3 13.5
電気機器の輸入額が大きいのは意外な傾向と言えそうです。中国などからの電化製品の輸入が多いという事なのかもしれませんね。
日本は輸入も輸出も増加傾向ながら、その度合いは他国に比べると緩やかです。
自動車産業は海外生産が進んではいますが、国内生産からの輸出も一定規模維持されていて、更に輸出の中では大きな存在感を示している事もよくわかりました。
今後、自動車産業の変化も含め、この貿易の傾向に変化があるのか、引き続き注目していきたいと思います。 

 

●2024大統領選、経済不安抱える中間層が鍵握る−バイデン氏も重視 7/10
バイデン米大統領は中間層のことで頭がいっぱいだ。大統領にとって常に中間層は米経済のまさに屋台骨であり、経済政策を見直して産業活性化の足掛かりを作る政権の取り組みや外交政策、中国との地政学上の競争など全てにおいて意識してターゲットとしている層だ。
6月28日のシカゴでの演説で明らかにされたバイデン政権の経済哲学・政策を指す「バイデノミクス」の中核となる公約は、中間層ファーストだ。演説の中でバイデン氏は「バイデノミクスはトップダウンではなく、ミドルアウトとボトムアップから経済を構築することだ」と説明し、政府の投資急増に後押しされた好景気というビジョンを示して見せた。
だが、再戦を目指す2024年の大統領選まで1年半弱となる今、バイデン氏はその中間層で問題を抱える。ブルームバーグ・ニュースが委託した世論調査では、年収4万5000−18万ドル(約640万−2560万円)、資産10万−100万ドルの米国民1億人の間で将来に対する不安が根強いことが示されている。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後のインフレ高進と1980年代以来最も速いペースでの利上げを受け、中間層の家計は厳しい状況に陥っている。食料品や住宅、自動車、エネルギーなどに支払う金額が膨らみ、低金利時代の終わりでローンのコストも上昇している。
米カリフォルニア大学バークレー校のエコノミストがまとめたデータによれば、結果的に、米連邦準備制度が利上げを始めて以来、中間層が保有する富のうち2兆ドル余りが消失した。
家計を直撃
ブルームバーグの委託で3月末と6月に実施されたハリス世論調査では、中間層と定義される米国民1億人のうち今後1年間で状況好転を予想したのは39%にとどまった。誤差はプラスマイナス3.5ポイント。昨年10月の35%からは若干の改善だが、バイデン氏にとっては今後さらに悪い方向に傾く可能性もある。
多くのエコノミストは来年の選挙前にリセッション(景気後退)入りを予想する。学生ローン返済猶予期間は秋に終わり、米連邦最高裁判所は6月30日にバイデン氏が政策の柱とする学生ローン返済免除措置が政府の権限を逸脱していると判断した。
一方でホワイトハウス当局者は、中間層はパンデミック前と比較しても明らかに暮らし向きが良くなっていると主張する。利上げサイクルがスタートした22年3月に始まった富への打撃は単に中間層が余剰貯蓄を使い果たしたことを反映しているに過ぎないという。ただ当局者は、多くの中間層世帯がなお経済に不安を感じていることを認めてもいる。
バーンスタイン米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長は「自分の経験や感情について判断するのはヒトだ」としながらも、「客観的に見て大統領は米経済を好転させ、労働市場でかつて見たこともないような機会を創出し、中間層にとって大いに包摂的な経済的未来に向けた種をまいた」と指摘した。
不安と無縁ではないデービス氏のケース
ブルームバーグ・ニュースによる20回を超えるインタビューによって、政治的スペクトラム(志向)や国家について中間層から共通するテーマとして浮かび上がってきたのは、失業率が歴史的な低水準にあり経済が依然として力強いことを示す他の兆候とは相反する脆弱(ぜいじゃく)性という感覚だった。
ロン・デービス氏(56)に聞いた話はこうだ。ミネアポリス郊外で快適な生活を送っており、車はメルセデス・ベンツで、昨年は21歳の娘のためにメルセデス・ベンツ・ミニを購入。20年近く前に購入した4ベッドルームの自宅ローンなどの借金については、歴史的低金利を利用して21年に借り換えた。賢明な投資のおかげで必要なら早期退職も可能だという。  
それでも不安からは逃れられない。デービス氏は2月にテクノロジー企業ゴーダディからレイオフされ、1年半の間に2度目の失業を経験することになった。投資と退職貯蓄がコロナ禍によって3分の1目減りする事態に遭遇しながらも依然自身の経済状況については楽観的だが、周りでは動揺が広がりつつある兆しが見られ、「中間層は本当に苦しんでいるように感じられる」と語った。
多くのエコノミストが予想するリセッションはまだ現実となってはおらず、米経済は成長を続けている。21年1月にバイデン氏が大統領に就任した時に比べ雇用者数は約1310万人増加している。
不安と党派間の分断に拍車
20年1月から利上げ開始までの間、中間層と定義される1億人の米国民は大きな利益を享受した。40歳未満の経済学者に贈られるジョン・ベイツ・クラーク賞を今年受賞したガブリエル・ズックマン氏らカリフォルニア大学バークレー校のエコノミストが収集したデータによると、この1年間の打撃にもかかわらず、このクラス全体の富は20年初頭から6兆7000億ドル増加している。
バイデン氏にとっての問題となるのは、その富のブームが終わったことだ。バークレー校のエコノミストらとその追跡ツール(realtimeinequality.org )によれば、22年3月に利上げが開始されて以来、中間層が保有する資産の価値はインフレ調整後で率にして6%、金額で2兆4000億ドル減少。平均して、中間層の成人1人当たり3万4000ドルの打撃を受けた計算になる。
富の縮小と家計費上昇の板挟みで、世論調査に示される不安と党派間の分断には拍車が掛かっている。ハリス世論調査では中間層のうち、トランプ前米大統領が政権の座にあった5年前と比べ自身の経済状況が良くなったと回答した共和党支持者は46%にとどまったのに対し、民主党支持者では64%。来年に状況改善を見込むとの回答は共和党支持者が35%、民主党支持者は43%だった。
元警察官ピアソン氏のケース
テキサス州グランベリー在住の元警察官タミー・ピアソン氏(56)は、ここ数年で退職貯蓄の価値が4分の1目減りするのを目の当たりにした。食料品やその他の必需品の価格上昇もあり、バーゲンでの買い物を励行し、「できる限り節約している」と語る。共和党支持者の同氏は、経済的苦境の論理的矛先をバイデン大統領に向けている。
住宅価値の下落や、何年か先まで手を付ける予定のない退職貯蓄の日々の市場変動など、失われた大半はまだ実現していない損失だ。だが、パンデミック以降の景気回復の形は、中間層世帯の家計に非常に現実的で直接的な影響を及ぼしている。
ブルームバーグが米労働統計局のデータを分析したところ、中間層の支出は22年の半ばまでにパンデミック前の19年より年間8000ドル増加し、その多くは住宅や交通、食費といった必要不可欠な部分向けだった。
2700万近い米中間層世帯はこうした収入を上回る支出に一段の借り入れやギグワーク(単発、短期の仕事請負)での対応を迫られた。
膨らむ債務
住宅所有者の間では持ち家の価値を利用する動きも広がっている。23年1−3月(第1四半期)の住宅担保ローン、ホーム・エクイティ・ライン・オブ・クレジット(Heloc)は30億ドル増加し、13年近く減少が続いた後、ここ4四半期連続で増えている。
22年末時点で米国の家計が負っていた負債18兆3000億ドルのうち、中間層は7兆8000億ドルを占めた。これは19年末時点を1兆ドル上回る。
学生ローン返済重いミルズ氏のケース
デトロイトに住むデジタルストラテジスト、メル・ミルズ氏(37)は学生ローンの返済額が月960ドルと、14年に購入したデトロイトの家のローン返済額を上回る。パンデミック以降、同氏の退職貯蓄やその他の投資の価値は低迷している。
ミルズ氏は専門職に就く黒人で激戦州に住み、来年の大統領選挙でバイデン氏が支持を期待する層に当たる。最近の銀行破綻や経済に神経質となり、米国で増えつつある政治的無党派層にも加わる。政治家が「私のような人間のことを考えているのか」疑問であることが一因で、来年の選挙では2大政党のいずれにも投票しないつもりだという。
バイデン氏が再選に向けて掲げる経済面での最善の実績は20年のパンデミック初期の混乱から雇用が著しく回復していることだ。ただ、リセッション入りとなれば状況は変わってこよう。テクノロジーや金融、さらに最近では製造業でも解雇が始まっており、ホワイトカラーの中間層が痛みを感じている。
住宅ローン業界失職のブルームスタイン氏のケース
金融業界で40年間働いてきたロリ・ブルームスタイン氏(64)にとって、昨年8月に住宅ローン業界での職を失ったのは不意打ちだった。利上げが不動産市場を直撃し、パンデミック期に見られた住宅ローンブームは一転し、退職を余儀なくされた。
ブルームスタイン氏はコストを抑制し、退職貯蓄を守るための行動を急いだ。フロリダ州内にある3ベッドルームの家を売り払い1ベッドルームの集合住宅に引っ越した。ブルームスタイン氏は民主党支持者で24年はバイデン氏に投票する予定だ。
パンデミックはベビーブーマーたちに退職の波をもたらし、それが労働市場の重しとなり、労働者不足とインフレの一因となった。エコノミストたちはしばしば、こうした退職を自発的退職と表現するが、ブルームスタイン氏は不本意な中間層の退職者だ。「退屈している。引退する準備ができていなかった。残念ながら、私は住宅ローンの仕事しか知らない」と語った。
中間層は踊るか
バイデン氏とその再選に向けての明るいニュースは中間層の回復力が証明されつつあることかもしれない。デービス氏は、労働市場が好調を維持しているおかげで新たなキャリアを踏み出した。慌ただしい面接の末、先月コンサルタントとしての仕事が決まった。
ただ、ここ数年の解雇経験で、デービス氏は最近の中間層の危うさを新たに認識することになり、政治だけでなく、自らが何十年も尽くしてきたコーポレートアメリカやその幹部らに対する見方も揺らいでいるという。
保守派寄りで無党派層と自称するデービス氏は来年の選挙ではバイデン、トランプ両氏いずれにも投票したくないと語る。共和党の指名を誰が獲得するか見極めるつもりで、サンダース、ウォーレン両上院議員のような中道左派のポピュリストにも注目していきたいと話す。
選挙まで約1年半の今、バイデン大統領は経済と中間層の将来についてあくまでも楽観的な見解を示している。だが、まさにそのビジョンの対象である人たちは苦悩しており、今後についても少なからず不安を抱いているのだ。
●勢いづく円安、2005‐07年上回る売り圧力かかる構図=唐鎌大輔氏 7/10
昨年来、円安予想だった筆者から見ても、想定以上のハイペースで円安が進んでいる。足元のドル/円相場の上振れは、筆者がこれまで強調してきた需給というよりも金利・物価動向の影響が大きそうであり、ひと言で言えば「海外の利上げは思ったよりも長引きそう」という思惑がにわかに強まっている。
加速する欧米の利上げ、150円台も
例えば、5月22日にはイングランド銀行(BOE)およびノルウェー国立銀行がともに25bpとの市場予想を超える50bpの利上げに踏み切ったことがサプライズを呼んだ。本稿執筆時点では米連邦準備理事会(FRB)は7月まで、欧州中銀(ECB)は9月までの利上げが既定路線と言われる状況にある。
日本の視点に立てば、せっかく需給面で貿易赤字が縮小過程に入り円安圧力が落ち着き始めたところで海外のインフレ懸念が再燃し、内外金利格差からの円安圧力が復活してしまった構図になる。
筆者は諸条件を考慮して円キャリー取引の環境が整いそうであるため「金利差が因果関係をもって円安に寄与するのは23年」という趣旨を強調してきた。
年始時点では「23年後半は利上げの無い世界」という予想が支配的で、FRBの利下げ転換が当然視されるような雰囲気すらあった。市場関係者の円高予想はこの利下げ転換を前提としたものがほとんどであったため、今のところ外れてしまっているのが実情だろう。
筆者も7月に至ってFRBの利上げが検討されるとは想定していなかったが、利下げ転換までは全く考えていなかった。また、過去の本コラムへの寄稿でもしつこく議論してきた通り、需給環境の激変を踏まえれば、大きな円高はあり得ないという立場を取っている。あくまで金利ではなく需給の影響力を重く見たことが、(少なくとも今のところは)予想が報われている背景と自己分析する。
円安バブル時代と似た景色
現状は「円安バブル」と呼ばれた2005─07年の雰囲気に似ているように感じる。当時も現在同様、日本以外の欧米主要国が連続的な利上げを行い「世界で唯一のゼロ金利通貨」として円の特異性が際立っていた。
円キャリー取引というフレーズは、当時から頻繁に使われ始めていた。キャリー取引は「金利の低い通貨を売って、高い通貨を買い、持ち続ける」という文字通り金利差(キャリー)の積み上げを企図した取引である。
キャリー取引において金利の低い方の通貨を調達通貨と呼ぶが、調達通貨に選ばれるためには2つの条件がある。1つは金利先安観が安定していること(言い換えれば十分な金利差が見込まれること)。
もう1つが潤沢な流動性を持つ通貨であることである。さらに言えば、貿易収支などの需給についても赤字構造であれば安心して調達通貨として選ぶことができる。当時の円は後述するように需給面では潤沢な黒字を抱えていたが、大幅な内外金利差があり、しかもその安定が見込まれる主要通貨という立ち位置にあった。
頼りになる調達通貨があり、金融市場のボラティリティが低下してくれば、それを売って高金利通貨を買うというキャリー取引が奏功しやすくなる。
2000年以降を振り返っても、2005─07年当時ほどボラティリティ(VIX指数参照)が長期にわたって落ち着いていた局面はなく、この点でもキャリー取引に適した相場環境だった。
「十分な金利差」と「低いボラティリティ」が安定感を伴えば、キャリー取引を持続するインセンティブになる。当時の日本では円安を背景に日本から海外へ薄型テレビを中心とする民生家電の輸出が盛んになり、大幅な貿易黒字が記録された。円安と輸出数量増加、結果としての貿易黒字拡大があったからこそ「円安バブル」という言葉が使われたのであり、「悪い円安」と揶揄(やゆ)される現在との大きな違いがあった。
余談だが「最近、『悪い円安』とはもう言わなくなったのは節操が無い」という論調をよく目にする。言わなくなったのはメディアの都合であって、家計部門にとって円安が負担になっている状況は大して変わっていないだろう。
今後、ドル/円が145円という節目を慢性的に超えてくれば必ず、また「悪い円安」論は顔を出す。現在、それが鳴りを潜めているのは、単に株価が上がっているうちは円安を責める議論が出にくいというだけであり、折しも資源高の落ち着きもあって円安の弊害が可視化されにくくなったという側面が相当大きいのだと思われる。
円安バブル当時とは「別の通貨」
話しを円安バブル当時との比較に戻すと、現在と異なる点が2つある。1つは利上げペース、もう1つは需給環境だ。
まず、前者に関しFRBを例に取った場合、2005年1月から07年7月までの30カ月間で300bpの利上げが行われた。一方、今回は2022年3月から23年6月までの15カ月間で500bpの利上げが行われている。
世界が異例のタカ派姿勢を貫く中でも日銀は緩和路線の堅持をアピールしており、「十分な金利差」とその安定感という意味では2005─07年当時をしのぐ。VIX指数で見ればボラティリティは当時よりもやや高いが、当時以上に「十分な金利差」が期待できるならば、多少の変動にも耐え得るというのが合理的な考え方ではないか。
だが、2005─07年の円安バブルと現在の決定的な違いは需給環境だ。先に調達通貨に選ばれるためには「金利先安観(十分な金利差)が安定していること」と「流動性がある通貨であること」の2つの条件があると述べたが、現在はここに「調達通貨の需給が崩れている(売り超過である)」というダメ押しの条件まで加わる。
数字で比較してみよう。貿易収支(国際収支ベース)で言えば、2005年が約11.8兆円、06年が約11.1兆円、07年が約14.2兆円と黒字額は、常に10兆円の大台にあった。
これはこの時代に限ったものではなく、現行統計(BPM6ベースの国際収支統計)で遡及可能な1996年からサブプライムショックが起きる2007年までの12年間、10兆円を下回ったことは2回(1996年と2001年)だけで、同期間の累積貿易黒字は約149兆円に達している。
この結果、07年の経常収支は約24.9兆円と史上最大の黒字を記録した。
一方、2011年から22年までの12年間で累積貿易収支は24.2兆円の赤字だった。もはや需給面では「別の通貨」である。
2005─07年当時は圧倒的な円買い実需を背景にしながらも「日本だけゼロ金利だが、主要国は軒並み利上げ」という構図が定着し、低位安定するボラティリティも相まってキャリー取引が盛んになった。
しかし、キャリー取引は投機色が色濃い取引だ。サブプライムショックそしてリーマンショックを経て金融市場のリスク許容度が縮小し、積み上がったキャリー取引が一気に巻き戻しを強いられた。残るは「実需の円買い」であり、その後、数年にわたる超円高時代が始まったのは周知の通りである。
つまり、当時は「投機は円安、実需は円高」だった。
「投機は円安、実需も円安」という現状
これに対し、今は「投機は円安、実需も円安」である。2007─08年は米国の金融政策がハト派に振れれば実需の円買いが顔を出す環境にあったが、今はそれがない。したがってFRBが利上げペースを落としたり、政策金利を高いまま据え置いたりする決断程度では円高に振れないのは当然と言える。
現状、円安が円高に反転するとしたら「売られ過ぎたから」くらいしか理由が見当たらない。もしくは今年3月のように金融不安などの勃発からFRBの利下げ期待がにわかに高まる展開や政府・日銀による為替介入くらいだろうか。
つまり自律反発と不測の事態に期待するくらいしか、円高への転換は起こりようが無いのが現状と見受けられる。
●パウエル議長、過去の二の舞の回避目指す−量的引き締め進める過程で 7/10
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は先月の長時間にわたる議会証言の中で、米金融当局が4年前、バランスシート縮小の影響に不意を突かれたことを認めた。
パウエル議長は議員に対し、米金融市場の基幹部分の一つであるレポ市場が機能不全に陥った2019年のような事態の回避にコミットしていると安心を呼び掛けたが、ウォール街のエコノミストやストラテジストらは、量的引き締め(QT)はなお複雑で予想が難しいと警告する。保有米国債の一部償還元本について再投資しないことで進めるQTは、金融システムから資金を引き揚げるものだ。
今後数カ月に現行QTプログラムの影響が全面的に感じられる見通しだ。パウエル議長の6月21、22両日の公聴会では共和党議員の懸念が明らかになった。QTがどのように進められ、当局がそのプロセスにどう対処するかによって、バランスシートを今後も重要な手段として使い続ける上での政治的余地が左右されそうだ。
パウエル議長は6月21日の米下院金融委員会の公聴会で、19年に問題が突然生じ当局が望んでいなかった対応を迫られたことに言及し、「それが起きるとは予測していなかった」と認めた。その上で、現在の強みは「経験がある」ということだと語った。
米金融当局による証券保有縮小は現時点で年1兆ドル(約142兆円)程度で、19年よりベースはかなり大きいがはるかに急ピッチだ。パウエル議長は議会証言で、各緩和局面でバランスシートを膨らませたままにしない重要性を「強く意識している」と述べた。
今のところパウエル議長と市場参加者は、状況は順調という点で見解が一致している。連邦準備制度にはなお3兆2000億ドル余りの準備預金があり、19年と同様の問題を短期金融市場で引き起こすような水準に流動性の指標が低下している兆しはない。アナリストらは確信は低いものの、銀行システムが円滑に機能するには少なくとも2兆5000億ドルが必要と試算している。
パウエル議長は先月、「数年前のように突然、準備預金の不足に直面する事態は避けたい」と発言。今回は「うかつにも準備預金の不足に陥らぬよう」、ある時点でQTのペースを落とし、準備預金がまだ「豊富」で追加のバッファーがあるうちに、債券ポートフォリオのランオフ(償還に伴う保有証券減少)を終わらせるのが目標だと説明した。
●デフォルトやディストレス状態の新興国債に好機か、既に2桁リターン 7/10
デフォルト(債務不履行)もしくはそれ寸前の状態にある新興国の債券に投資している投資家は、ここ1カ月に記録した2桁のリターンが相場の大幅上昇の始まりにすぎないと予想している。
JPモルガン・アセット・マネジメントのピエール・イヴ・バロ氏は、現在のような米利上げサイクルの遅い段階において、ディストレスト国債やデフォルト国債にこれほど大きな価値が見いだされたのは初めてだと指摘。UBSアセット・マネジメントのシャマイラ・カーン氏も、同氏の20年のキャリアで今が最大のチャンスだとの見方を示した。
バロ氏は米金融引き締めに言及し、今が「通常のサイクルではない」とした上で、「現在行われている債務再編協議は、市場が織り込んでいたよりも若干好ましい状況にある」と指摘した。
2020年にデフォルトに陥ったザンビアは、今年6月に対外債務63億ドル(約9000億円)の再編で合意に達した。その1週間後、パキスタンが国際通貨基金(IMF)と30億ドルの融資プログラムを巡る合意を発表したほか、スリランカは約200億ドル相当の自国通貨建て短期証券と債券の再編を実施する方針を示した。
これら3カ国のドル建て債はここ1カ月でプラス25%のリターンを記録。新興国の国債全体のトータルリターンの指数はプラス1.3%だった。ブルームバーグ集計のデータによれば、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)開始から今年5月末までは、投資家は45%余りの損失を被っていた。
パンデミックやインフレ高進、積極的な米金融引き締めを受け、脆弱(ぜいじゃく)な国々の債券はディストレスやデフォルトの状態に追い込まれた。
しかし、より正統的な政策への回帰や生産的な債務協議の初期兆候がみられることで、ジャンク(投資不適格級)格付けの国債全体が既に優れたパフォーマンスを示している。大統領選で市場に友好的な政権が誕生するとの期待からアルゼンチン債が上昇しているほか、IMFの要請で通貨切り下げに動いているエジプトの債券も上げている。 
 
 
 

 

 
 
 

 

●リーマン・ショック
アメリカ合衆国で住宅市場の悪化によるサブプライム住宅ローン危機がきっかけとなり投資銀行のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが2008年9月15日に経営破綻し、そこから連鎖的に世界金融危機が発生した事象である。これは1929年に起きた世界恐慌以来の世界的な大不況である。
「リーマンブラザーズ」は1850年に創立された名門投資銀行であり、1990年代以降の住宅バブルの波に乗ってサブプライムローンの積極的証券化を推し進めた結果、アメリカ五大投資銀行グループの第4位にまで上り詰めた。しかし、サブプライム住宅ローン危機による損失拡大により、2008年9月15日に連邦倒産法第11章(チャプター11)を申請して経営破綻した。この破綻劇は負債総額約6000億ドル(約64兆円)というアメリカ合衆国の歴史上最大の企業倒産であり、世界連鎖的な信用収縮による金融危機を招くことに繋がった。
日本でも、日経平均株価が大暴落を起こし、同年9月12日(金曜日)の終値は12,214円だったが、10月28日には一時は6,000円台 (6,994.90円) まで下落し、1982年(昭和57年)10月以来、26年ぶりの安値を記録した。その結果、派遣切りが発生し、年末年始に年越し派遣村が開催された。また、これをきっかけに公務員の人気が上昇し、安定志向が強くなった。
前史
戦後パックス・アメリカーナ世界秩序の中心を占めたアメリカの国内的成長連関の仕組みが60年代末に行き詰まったのに対し、企業・金融・情報のグローバル化と政府機能の新自由主義化により、EUや東アジア、インド、ロシア、ブラジルを巻き込みつつアメリカ経済のグローバル資本主義化が進んだ。その帰結として、90年代になると、ニューヨークに基軸通貨ドルによる国際決済機能が集中し、アメリカの膨大な輸入超過に伴う構造化された経常収支赤字が、黒字国からの膨大なドル資金流入で自動的にファイナンスされる、グローバル資金循環構造が出現した。ニューヨークに累積するドルを原資とし、商業銀行は信用創造の水増し的な拡大が可能となり、投資銀行や機関投資家、ヘッジファンドが関与して、デリバティブと金融工学を駆使した投機操作を含むレバレッジド・ファイナンスを膨張させた。こうしたメカニズムが、ニューヨークを筆頭に、ロンドン、フランクフルト、パリ、東京、シンガポール、香港等、世界の主要金融市場を舞台に、クロスボーダーな金融取引を拡大していった。この拡大の中心として、90年代末にインターネット・バブルの発展、及びその崩壊後の2000年代には住宅バブルの発展が進んだが、それらが内包した欠陥、とりわけ証券化メカニズムが直接の原因となってこの成長連関が破綻し、グローバル金融危機・経済危機を誘発したのである。
2000年代に入り、日本の株式市場も国際経済の波乱に翻弄された。2000年3月10日、IT(情報技術)関連銘柄を多く含む米ナスダック総合株価指数が取引時間中に1年前の2倍以上となる高値5132.52と付けた。「ドットコム・バブル」と呼ばれるインターネット関連株人気が頂点に達した後に、金融引き締めを背景にネット関連株は急落に転じた。ITバブル崩壊は日本にも波及し、2000年3月に2万円台に乗せていた日経平均は同年10月に1万5,000円を割り、2001年8月末には1万713円と1万円の大台割れ寸前まで下がった。
さらに、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件が大きな影響を及ぼした。翌12日の東京市場で日経平均はあっさり1万円を割り、終値で前日比682円 (6.6%) 安い9610円まで下げた。一旦持ち直すが、2002年半ばから米国景気の悪化懸念などを背景に再び下げ足を速めてテロ後の安値を下回り、10月に9,000円を割った。翌2003年3月前半には米国の対イラク戦争が近づいた緊張感も加わって20年ぶりに8,000円を割り込んだ。
その後、株式相場は景気回復への期待から一旦上げに転じたが、2007年のアメリカ合衆国の住宅バブル崩壊をきっかけとして、サブプライム住宅ローン危機を始め、サブプライムローン、オークション・レート証券、カードローン関連債券など多分野にわたる資産価格の暴落が起こっていた。
2007年からの住宅市場の大幅な悪化と伴に、危機的状態となっていたファニー・メイやフレディ・マックなどの連邦住宅抵当公庫へは、政府支援機関における買取単価上限額の引上げや、投資上限額の撤廃など様々な手を尽くしていたものの、サブプライムローンなどの延滞率は更に上昇し、住宅差押え件数も増加を続けた。歯止めが効かないことを受け、2008年9月8日、アメリカ合衆国財務省が追加で約3兆ドルをつぎ込む救済政策が決定された。「大きすぎて潰せない (Too big to fail)」の最初の事例となる。
破綻とリーマン・ショック​
リーマン・ブラザーズも例外ではなく、多大な損失を抱えており、2008年9月15日(月曜日)に、リーマン・ブラザーズは連邦倒産法第11章の適用を連邦裁判所に申請するに至った。この申請により、同社が発行している社債や投資信託を保有している企業への影響、取引先への波及と連鎖などの恐れ、及びそれに対するアメリカ合衆国議会・連邦政府の対策の遅れから、アメリカ合衆国の経済に対する不安が広がり、世界的な金融危機へと連鎖した。
リーマン・ブラザーズは、破綻の前日までアメリカ合衆国財務省や連邦準備制度理事会(FRB)の仲介の下でHSBCホールディングスや韓国産業銀行など、複数の金融機関と売却の交渉を行っていた。日本のメガバンク数行も参加したが、後の報道であまりに巨額かつ不透明な損失が見込まれるため、買収を見送ったと言われている。2008年10月3日には、アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュが、金融システムに7,000億ドルの金銭支援を行う緊急経済安定化法案 (Troubled Asset Relief Program)に署名する。
最終的に残ったのはバンク・オブ・アメリカ、メリルリンチ、バークレイズであったが、アメリカ合衆国連邦政府が公的資金の注入を拒否していたことから交渉は不調に終わった。
しかし交渉以前に、損失拡大に苦しんでいたメリルリンチはバンク・オブ・アメリカへの買収打診を内々に決定しており、バークレイズも巨額の損失を抱え、すでにリーマン・ブラザーズを買収する余力などどこにも存在していなかった。リーマン・ショックの経緯については、アンドリュー・ロス・ソーキン著の『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』(原題: Too Big to Fail)に詳細に説明されている。
日本は長引く不景気から、サブプライムローン関連債権などにはあまり手を出していなかったため、金融会社では大和生命保険が倒産したり農林中央金庫が大幅な評価損を被ったものの、直接的な影響は当初は軽微であった。しかし、リーマン・ショックを境に世界的な経済の冷え込みから消費の落ち込み、金融不安で各種通貨から急速なアメリカ合衆国ドルの下落により相対的に円高が進み、アメリカ合衆国の経済への依存が強い輸出産業から大きなダメージが広がり、結果的に日本経済の大幅な景気後退へも繋がっていった。  
 
 
 


2023/3-

アメリカの銀行危機
アメリカの金融不安
リーマンショック
FRB
デフォルト
シリコンバレー銀行
シグネチャー銀行