孤立するロシア

孤立が進むロシア

プーチン大統領 
どんなロシアの姿 考えているのでしょう

争い 戦争で変えられる社会 
想像できません
私が 平和ボケか

 


1/11/21/31/41/51/61/71/81/91/10・・・1/111/121/131/141/151/161/171/181/191/20・・・1/211/221/231/241/251/261/271/281/291/301/31・・・
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第三次世界大戦  プーチン大統領の「夢」  戦争終結の道  ウクライナ分断 ・・・  プーチンの新冷戦  どこへ行くプーチン大統領  プーチン大統領の冬支度
 
 

 

●プーチン氏は皆さんを滅ぼしている……ゼレンスキー氏がロシア国民に 1/1
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は12月31日、ロシア国民に向かって、ウラジーミル・プーチン大統領はロシアを破壊しているとロシア語で呼びかけた。一方でウクライナ国民に向かっては、新年に勝利を願うと語りかけた。
大みそかにプーチン大統領は、軍服姿の大勢の前に立ち、新年に向けたあいさつをした。これを受けてゼレンスキー大統領は、ロシアの大統領が自軍を率いるのではなく、兵の後ろに隠れていると非難した。
12月31日から1月1日にかけて、ウクライナは首都キーウをはじめ各地でロシアによる砲撃を受けた。少なくとも1人が死亡し、数十人が負傷した。ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は、ロシアが31日に打ち込んだ巡航ミサイル20発のうち、ウクライナ軍は12発を撃墜したと述べた。
こうした状況でゼレンスキー大統領は通信アプリ「テレグラム」で、31日の攻撃の実行者は非人間的だとウクライナ語で非難。続いてロシア語に切り替えると、「あなた方のリーダーは、自分が前線で指揮していて、軍は自分の後ろに従っていると、皆さんに見せようとしている。しかし実際には、彼は隠れている。軍の後ろに隠れ、ミサイルの後ろに隠れ、邸宅や宮殿の壁の後ろに隠れている」のだと語りかけた。
「(プーチン氏は)皆さんの後ろに隠れている。そして皆さんの国と未来を、燃やしている。ロシアによるテロについて、誰もあなたたちを許さない。世界のだれも、あなたたちを許しはしない。ウクライナは許さない」と、ゼレンスキー大統領はロシア語で重ねた。
願うのは「勝利」
ゼレンスキー氏はのちにこれとは別に、ウクライナ国民へ新年のあいさつを発表。ロシアの侵攻を跳ね返してきた国民の「とてつもない」取り組みに感謝した。
「ウクライナの皆さん、皆さんはものすごい。これまで達成してきたこと、いままさに成し遂げていることを見てください。『世界2位』と言われていた軍を、我が軍の兵士たちが初日から撃破してきた、そのすごさを見てください」
「大戦争において小事などありません。無用なことなどありません。私たち一人一人が戦士で、一人一人が前線です。一人一人が防衛の基礎を担っています。私たちはひとつのチームとして戦っている。国全体が、すべての州が。皆さん全員を尊敬します。ウクライナのあらゆる不屈の地域に感謝したい」と大統領は述べた。
さらにゼレンスキー氏は、「新年が来るまで残り数分です。全員に祈りたいことはひとつ、勝利です。それが一番のことで、すべてのウクライナ人に共通する願いです。新年は帰還の年になりますように。国民が帰還し、兵士は家族の元に戻り、捕虜は自宅に戻り、移民はウクライナに戻ってくるように。私たちから盗まれたものが戻ってくるように。子供たちには子供時代が、私たちの親には穏やかな老年期が」と語りかけた。
「西側が嘘をついた」とプーチン氏
プーチン氏の新年のあいさつは、ロシアが2023年になるタイミングに合わせて、国内の11の標準時で次々と放送された。
プーチン氏は、ロシアの未来がかかっているとして、ウクライナで戦う兵を支えるよう国民に呼びかけた。
「かねて分かっていたことを今あらためて確認しているが、主権を持つ独立したロシアが確かな未来を築けるかは、すべて我々にかかっている。我々の力と意志に」と、プーチン氏は述べた。
大統領はさらに、ウクライナ侵攻は、「この国の国民と歴史的な国土を守る」ためのことだとして、「道義的、歴史的な正義は我々の側にある」と強調した。
ウクライナ侵攻は、「この国の国民と歴史的な国土を守る」ためのことだと強調し、「道義的、歴史的な正義は我々の側にある」と強調した。
プーチン氏はさらに、昨年2月24日に始まったウクライナ侵攻は、西側の「挑発」が原因だと非難。「西側は平和について嘘をついた。西側は侵略の準備をしていた(中略)そして今では、ロシアを弱らせて分裂させるため、皮肉にもウクライナとその国民を利用しているのだ」と述べた。
ロシアのウクライナ侵攻開始に関する、プーチン氏やロシア政府のこの主張を、ウクライナと西側諸国は否定している。
●プーチン大統領「前進あるのみ」 南部の前線兵士らと面会 1/1
ロシアのプーチン大統領は12月31日、侵攻したウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州に近いロシア南部ロストフナドヌーの南部軍管区司令部を訪問し「何一つ引き渡してはならない。前進あるのみだ」と述べて軍関係者を激励、目的達成まで軍事作戦を続ける決意を示した。国営テレビなどが報じた。
前線の兵士らと面会したプーチン氏はNATOの東方拡大やウクライナへの欧米の軍事支援を念頭に「ロシアは全てを引き渡すか戦うかというところまで追い詰められた。あなた方のような人たちがいる限り降参するわけにはいかない」と強調した。作戦を統括する司令官らに勲章を授与し、士気を鼓舞した。
●プーチン大統領 「ただ戦い、前進」 攻撃続ける姿勢強調  1/1
ロシアは31日もウクライナへ相次いで攻撃を行い各地で被害が出ています。こうした中、ロシアのプーチン大統領は軍の司令部を訪問し「ただ戦い、前進しなければならない」などと述べ、攻撃を続ける姿勢を改めて強調しました。
ウクライナメディアなどによりますと、ロシアは大みそかの31日もウクライナ各地に対してミサイルなどを使って攻撃し、これまでに首都キーウでは1人が死亡し20人がけがをしたほか、南部のザポリージャ州やミコライウ州でも、複数のけが人が出たということです。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は31日、SNSでロシアにより巡航ミサイル20発以上が発射され、このうち12発を迎撃したとしています。
戦況を分析しているイギリス国防省は31日「ウクライナの人々の士気を下げるため、今後、数日以内にロシアが攻撃を行う現実的な可能性がある」と指摘し、家族などと過ごす新年にあわせた休暇期間にもウクライナのエネルギー施設などに対する大規模な攻撃を行う可能性があるとの見方を示しています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は31日、ウクライナに隣接する南部ロストフ州にある軍の南部軍管区の司令部を訪れました。
国営のタス通信によりますと、プーチン大統領は侵攻の指揮を執るスロビキン総司令官などに勲章を授与したほか、兵士たちとも会い「諦めるという選択肢はない。ただ戦い、前進しなければならない」と述べ、攻撃を続ける姿勢を改めて強調しました。
テレビ演説で国民に支持と協力を訴え
また、ロシアのプーチン大統領は31日、大みそかの恒例となっている国民向けのテレビ演説をウクライナに隣接し前線に近い南部ロストフ州にある南部軍管区の司令部で行いました。
この中で、プーチン大統領はこの1年を振り返り「困難だが必要な決断をした」と述べた上で、「祖国を守ることは祖先と子孫に対する神聖な義務だ。道徳的、歴史的正義はわれわれの側にある」などと主張し、ウクライナへの軍事侵攻を正当化するとともに、一方的に併合に踏み切ったウクライナの4つの州をロシアの一部だとする姿勢を改めて示しました。
また、「西側はロシアを弱体化させ、分裂させるためにウクライナとその国民を利用している」と持論を展開し欧米側を批判しました。
そしてプーチン大統領は「愛する祖国の未来のためにただ前進し、勝利しよう」と述べ、戦闘が長期化する中、軍事侵攻の継続を強調し国民に支持と協力を訴えました。
●プーチン氏、新年演説で侵略正当化 ゼレンスキー氏「戦い続ける」 1/1
ロシアのプーチン大統領は昨年12月31日深夜、新年の国民向け演説を行い、「われわれはロシアの未来と独立、歴史的にロシア領だった新たな地域に住む国民のために戦っている」などと述べ、ウクライナ侵略やウクライナ東・南部4州の併合を正当化した。その上で「ただ前進し、家族や祖国のために戦って勝利するだろう」と宣言した。
プーチン氏は「2022年はロシアが主権を獲得するために困難で運命的な決定を行った年だった」と振り返り、「国民保護と祖国防衛は祖先と子孫に対する神聖な義務だ。正しさはわれわれの側にある」と主張した。また、「米欧はウクライナやその国民を利用してロシアの弱体化と分裂を図ってきた」とし、ウクライナでの軍事作戦は「祖国防衛」のためのものだとする持説を改めて披露した。
例年のプーチン氏は1人で演説してきたが、今回はプーチン氏の背後に軍服姿の男女が並び、「戦時」であることが強調された。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領も同日、新年の国民向け演説を行い、「ウクライナ国民は(ロシアの侵略が始まった)2月24日に目覚めた」と表明。「ウクライナ国民は白旗ではなく、青と黄色の旗(ウクライナ国旗)を選んだ。逃げるのではなく、戦うことを選んだ」とし、「われわれは勝利のために戦い、戦い続ける」と強調した。
ゼレンスキー氏はまた、露国民に向けたメッセージも公表。「あなたたちの国の指導者は軍人の前に立ち、軍人を従えているように見せようとしている。しかし彼は軍人やミサイル、自分の宮殿の後ろに隠れている」と指摘。「彼はあなたたちの背後に隠れ、ロシアの国家や未来を燃やしているのだ」とも述べ、プーチン氏に抵抗するよう暗に呼び掛けた。
●「プーチンは後ろに隠れている」 ゼレンスキー氏、ロシア国民に訴え 1/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は12月31日、国民向けに毎晩行っている演説でロシア国民に向けても語り、ロシアはプーチン大統領が「生きている間ずっと」権力の座にとどまっていられるよう戦争を行っていると非難した。
ゼレンスキー氏は「ロシアが行っているこの戦争は、北大西洋条約機構(NATO)との戦争ではない。あなたたちの宣伝者らはうそをついている」「歴史的なもののための戦争ではない。1人の人間が死ぬまで権力にとどまるための戦争だ」と訴えた。
「あなたたちロシアの市民がどうなるかはプーチンには関係がない」とも指摘した。
さらに、プーチン氏は「軍隊やミサイルの後ろ、住まいや宮殿の壁の後ろ」、そしてロシア市民の後ろに隠れているとし、「プーチンはあなたの後ろに隠れ、ロシアやあなたの未来を燃やしている。誰もあなたのテロを許さないだろう」と述べた。
ゼレンスキー氏はまた、ロシア軍が発射したミサイルの大半がウクライナ軍の防空部隊に迎撃されたことにも言及し、「防空能力がなければ犠牲者の数は違っていた。もっと多かっただろう」「これはウクライナ支援がさらに強化されなければならないことを世界に改めて証明している」と述べた。
●独裁者・プーチンが抱く「ロシア帝国復活」の野望…戦火拡大の危険性も 1/1
ウクライナ・ロシア戦争の陰で渦巻く各国の思惑
ロシアとネットワークを築く国として、しばしば中国が挙げられる。インドもまた、ロシアと経済的な結びつきを深めている。
「自由で開かれたインド太平洋」を守るために、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4ヵ国で安全保障や経済について協議する「Quad(日米豪印戦略対話)」が2007年につくられた。Quadは軍事同盟ではないものの、合同軍事演習を実施している。
Quadの一員であるインドは、今回の対ロ非難に加わらなかった。インドは兵器の4割をロシアから買っており、既存の装備品の8割はロシア製だ。だから兵器のメンテナンスの問題が生じる。
ただし、単に「武器依存度が高いから、インドは対ロ制裁に踏み切れない」という解説は一面的で事態の本質を捉え損ねる。「ロシアとの関係では、極力中立的な地位を維持したい」というインドの主体的な意思の表れだ。
インドにとって重要なのは、中国の脅威に対して、オーストラリアとアメリカと日本を巻き込むことだ。Quadは価値観同盟ではなく、中国を封じ込める利益があるからつきあっている。それ以上でも以下でもないことが露見した。現にウクライナ侵攻によって割安になったロシア産原油を、インドは購入している。
対ロ関係で意外と気づかれていない重要な存在が、サウジアラビアだ。アメリカとイギリスはサウジに対し、原油を増産してロシアを孤立させる取り組みに加わるよう働きかけた。しかしサウジは応じていない。ロシアと手を握っているからだ。中国に販売する原油の一部を、人民元建てにする方向で協議中だという報道もある。
サウジアラビアにとって、西側の消費文明を受け入れながらも、政治に関しては権威的な体制を取るロシアや中国は、つきあうのに都合がいい。人権外交を掲げるアメリカよりも、独自のルールを尊重してくれるからだ。アフリカや中南米の諸国も同じ感覚だ。結局どの国も、イデオロギーや価値観より利害で動くのである。
アメリカや日本と歩調を一にしているのは、EU諸国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどロシアが非友好国としている国だ(もっともEUの中でも、ハンガリーは日和見的だが)。
新しい世界地図の上で、日本はどうやって生き残っていくのか。東アジアにおいて、ロシアと北朝鮮はすでに現実的な脅威だ。中ロの軍事協力が進んでロシアの最新兵器を中国が得れば、軍事力はさらに高まる。韓国は中ロとの関係も深く、歴史認識などさまざまな問題で日本に厳しく当たってくる。
国ごとに抱える事情を等閑視してはならない。ロシア、北朝鮮、そして中国は日本にとっての脅威であり、韓国はどっちを向いているのかわからない。こうした国際関係の新たな緊張の中で、日本は最前線に立たされる可能性がある。
アメリカとの同盟は重要だ。しかし、それがアメリカと価値観を完全に共有する「イデオロギー同盟」という選択肢で良いのか。この点について、日本は自分の頭で真剣に考えなくてはならない。
プーチンが頭の中で思い描く「ロシアの地図」
プーチン大統領に見えている世界地図の中のロシアは、ソ連の崩壊という歴史的悲劇によって不当に縮小させられた版図だ。プーチン大統領にとってのロシアは、「ロシア帝国(1721〜1917年)の地図」だ。
ロシア帝国は現在のロシアをはじめ、フィンランド、ベラルーシ、ウクライナ、ジョージア、モルドバ、ポーランドの一部や、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの中央アジア、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、外モンゴルなどユーラシア大陸の北部を広く支配していた大帝国だった。
ウクライナにはまず反ロシア的でない新政権を打ち立て、非軍事化させてヨーロッパとの緩衝地帯とする。さらに時間をかけて小国家に分割して、少しずつウクライナを併合していく。これがプーチンの狙いだろう。
ただしロシア軍の振る舞いは相当にひどく乱暴なので、現時点で兄弟民族のウクライナ人ほとんど全員を敵に回した。高まった反ロシア感情を鎮めるには、かなり時間がかかる。ロシアもそのことをよくわかっているので、ウクライナ人から内発的にロシアとの協力を望む政治エリートが出現するのを、時間をかけて待つと思う。
プーチン大統領がその先に見据えているのは、南の国境だ。欧米に接近を続けるジョージアには、ロシア軍の介入によって2008年に独立を宣言した「南オセチア共和国」がある。国連加盟国の中ではロシア、ニカラグア、ベネズエラ、ナウル、シリアの5ヵ国だけしか承認していない国家だ。
その南オセチア共和国のビビロフ大統領は22年3月末、「歴史故郷であるロシアと再統一する国民投票を近く行う」と表明した。国民投票が実施されれば、圧倒的多数の賛成を得ることは確実だ。
するとジョージアは反発して、南オセチア共和国に軍事介入する可能性がある。ジョージアが武力で阻止しようとしても、ロシアは力でそれをはね返し、「南オセチア共和国」を併合するだろう。
もう一つ注目されるのが、ロシアの飛び地の領土であるカリーニングラードだ。ここはリトアニアとポーランドに囲まれており、NATO加盟国であるリトアニアが国境を封鎖しようとしている。これは協定違反であり、ロシアにとって見過ごせない。軍事力で阻止しようとすれば、今度こそNATOがロシアとの直接戦争の危機に直面する。
プーチン大統領は長期戦略に基づいて、戦火をさらに拡大させるかもしれないのだ。
●それぞれ火種を抱える習近平とプーチン、ことし中ロは軍事同盟に近づくのか 1/1
傷を舐め合う会談
2022年は、ロシアがウクライナに侵攻し、東西冷戦終結以降の国際秩序が破壊された年として記憶された。続く2023年は、民主国家と強権国家のデカップリングが決定的になる年として、記憶されることになるかもしれない。
そんなことを予感させる出来事が、昨年暮れの12月30日に起こった。中国の習近平主席と、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の42回目となる首脳会談が、オンラインで開かれたのだ。
CCTV(中国中央広播電視総台)の映像を見ると、両首脳とも顔色がよろしくない。察するに、習主席は中国国内の爆発的なコロナ蔓延に、プーチン大統領は泥沼化していく戦況に、相当な危機感を抱いているものと思われる。言ってみれば、「互いの傷を舐め合う会談」となった。
「年末オンライン会談」は恒例行事?
中国側が報じた両首脳の冒頭発言は、以下の通りだ。
習近平主席「尊敬するプーチン大統領、わが旧き友よ、あなたと再び会談できて、とても嬉しい。年末にオンラインで会談することは、すでに私たちのよき伝統となっている。私たちの共同の指導のもとで、中ロ新時代の全面的な戦略的パートナーシップ関係は、さらに成熟し、強靭なものとなっている。変節混乱の国際情勢に直面して、中国はロシアと戦略的な協調を強化し、互いの発展のチャンスと全世界のパートナーシップを堅持していく。両国国民にさらに多くの福祉が生まれるよう努力し、世界がさらに安定していくよう注力していく。私は(プーチン)大統領と双方の関係及び双方が関心を持つ重大な問題について意見交換し、いつ何時たりとも意見交換していきたい。」
プーチン大統領「こんにちは、尊敬する習近平主席、わが親愛なる友人よ、あなたにお目にかかれて大変嬉しい。あなたと中国共産党の指導のもと、中国は経済社会発展の各分野で新たな成果を上げ、中国の国際社会における威信はさらに高まっている。昨今の国際関係が緊張する局面の中で、ロ中新時代の全面的な戦略的パートナーシップ関係の重要な意義はさらに高まっており、それは国際舞台の重要な安定剤となっている。尊敬する習主席、この場を借りて私はあなたと中国国民に、新年と春節(1月22日)を、明けましておめでとうと言いたい。衷心よりあなたの幸福と健康を願い、友好的な中華民族の繁栄を願っている。」
以上である。習主席の発言にあった「年末にオンラインで会談することは、すでに私たちのよき伝統となっている」という発言は、意外だった。
習近平時代になってから、元旦のニュースは、トップが新年を迎えての習近平主席の国民向けメッセージ、2番目が習主席とプーチン大統領が互いに新年の祝電を交換したというものが、定番になっている。3番目以降はその年によって異なる。
だが、「年末にオンライン会談をした」という定番ニュースはなく、これを「非公開の伝統」にしていたか、もしくは祝電の交換のことを言っているかのどちらかだ。だが習主席は、はっきりと「オンライン会談」と述べているので、やはり非公開で毎年行ってきたと見るべきだろう。
ロシアが求める軍事協力強化に中国は明確な返答をせず
中国側は、中ロ関係についての習近平主席の発言を、続いて報じている。それは、以下の通りだ。
「中ロ両国の協力の内なる動力と特殊な価値は、さらに顕著になってきている。今年1月から11月までで、中ロ貿易額は過去最高となり、投資協力はよく整い、エネルギー協力はさらに「錨(いかり)」の役割を発揮し、重点分野の協力項目は安定して実施されている。地方同士の協力も順調に進み、人文交流もますます密接になっている。スポーツ交流年の活動も予定通り進み、双方の友好な社会民意の基礎は、さらに安定して確固たるものとなっている。(中ロ)双方は継続して、現有の協力体制と対話ルートをうまく活用し、両国の経済貿易、エネルギー、金融、農業などの分野で実務的な協力を積極的に進展させていくべきだ。そして港湾などの通行施設の建設を推進し、伝統的なエネルギーと新エネルギーの協力を開拓していくのだ。最近、中国はコロナウイルスの状況の変化により、臨機応変の防疫措置を取っている。科学によるウイルスの防止と、経済社会の発展を統合し、いままさに社会活動に重心を置いた健康保持と重症化防止の方策ができた。中国はロシアを含む各国と、秩序ある回復、人員の正常な往来を行っていくつもりだ」
このように、中ロの経済的な協力強化を謳った。だが、ロシア側が求めている武器・兵器の提供については言及していない。
習近平に訪ロ要請
習主席はさらに、自己の「世界観」を開陳した。
「いまや世界は再び、歴史の分岐点に差しかかっている。それは、冷戦的思考を再現し、分裂対立と集団的な対抗の道に走るのか、それとも人類共通の福祉から出発し、平等互尊と協力共勝の道を実践していくのかということだ。この二つの道は、大国の政治家の知恵を試しており、全人類の理性を試している。事実が繰り返し証明しているのは、包囲し圧力をかけることは人心を得ず、制裁干渉の注力は失敗するということだ。中国は、ロシア及び全世界のあらゆる覇権主義と強権政治に反対する進歩的なパワーと道を同じくし、いかなる一国主義、保護主義、覇権行為にも反対し、(中ロ)両国の主権、安全、発展の利益と国際的な公平正義を固く守り抜いていく。(中ロ)双方が国際的な仕事の中で密接に協力、配合し、国連の権威と国際法の地位、真の多国間主義を維持、保護していこうではないか。全世界の食糧安全、エネルギー安全などを維持、保護していく問題で、大国としての担当、役割を発揮していこうではないか。(中ロ)双方がSCO(上海協力機構)のメンバーの団結と相互信頼を増進させ、それぞれの核心的利益の問題では相互支持を増大させ、手を携えて外部勢力の干渉と破壊に抵抗していこうではないか。BRICS(新興5カ国)の協力は目覚ましく、5カ国の吸引力と明るい前景を十分に展開している。中国はロシアとともに積極的にSCOのメンバーを増やし、BRICSのパワーを増大させ、新興市場国家と発展途上国の共同の利益を維持、保護していく」
以上である。
この発言は矛盾を孕んでいる。アメリカやNATO(北大西洋条約機構)が進めるデカップリング(分断)を非難しながら、自らは中国とロシアを中核としたSCOや拡大BRICSの「準同盟的関係」を築こうとしている。
ロシア側の報道では、3月に中国で3期目の習近平政権が正式に始動した後、習近平主席をモスクワに招待したいとプーチン大統領が述べたという。
思えば習主席は、2013年3月に1期目の政権を発足させた時も、その翌週にはモスクワに飛んでいた。もしかしたら、中国がウクライナ戦争終結の仲介に乗り出す時が、世界が米中新冷戦とデカップリングを決定づける時になるのかもしれない。
●首都キーウにロシア軍攻撃 1人死亡 日本人1人含む20人けが  1/1
ウクライナでは12月31日も首都キーウなどでロシア軍による攻撃があり、キーウでは1人が死亡したほか、日本人のジャーナリスト1人を含む20人がけがをしました。
ウクライナでは31日午後、全土に防空警報が出される中、首都キーウなどでロシア軍によるミサイルなどを使った大規模な攻撃がありました。
ウクライナの地元メディアは、この攻撃で首都キーウの中心部にあるホテルや、教育施設などが被害を受けたと伝えています。
一連の攻撃についてキーウのクリチコ市長は、1人が死亡したほか、日本人1人を含む20人がけがをして病院に搬送されるなどしたとSNSで明らかにしました。
また、ウクライナの内相の顧問はSNSで、クリチコ市長の話として、けがをした日本人は、日本の新聞社に所属するジャーナリストだとしています。
ウクライナでは年末も各地のインフラ施設などが大規模なミサイル攻撃を受けて、電力不足がいっそう深刻化するなど、市民生活への影響が広がっています。
けがをした日本人は
朝日新聞社によりますと、ウクライナの首都キーウでけがをした日本人は、映像報道部に所属する関田航さん(36)だということです。
会社では、けがの程度など詳しい状況について確認を進めているとしています。
NHK取材班のホテルからも白い煙確認
爆発音のような音は、現地時間の31日午後2時ごろから少なくとも5回程度聞こえ、NHKの取材班がいるホテルからは、遠くに白い煙が上がっている様子が確認できました。
ウクライナでは31日も午後から全土で防空警報が出され、キーウでもクリチコ市長が市民に避難を呼びかけていました。
外務省 確認進める
外務省によりますと、現地の大使館員を病院に派遣するなどして確認を進めていて、日本人がガラスの破片などでけがをしたという情報があり、程度は重くはないとみられるということです。
イギリス国防省 新年の休暇期間も攻撃の可能性
戦況を分析しているイギリス国防省は31日「ウクライナの人々の士気を下げるため、今後、数日以内にロシアが攻撃を行う現実的な可能性がある」と指摘し、家族などと過ごす新年にあわせた休暇期間にもウクライナのエネルギー施設などに対する大規模な攻撃を行う可能性があるとの見方を示しています。
●プーチン大統領「祖国防衛は神聖な義務」新年メッセージで侵攻を続ける姿勢 1/1
ロシアのプーチン大統領は新年のメッセージでウクライナ侵攻について「祖国の防衛は神聖な義務だ」と述べ、侵攻を続ける姿勢を強調しました。
ロシア・プーチン大統領「祖国の防衛は祖先と子孫に対する神聖な義務だ。道徳的かつ歴史的な正しさは我々の方にある」
プーチン大統領は兵士たちを後ろに並ばせて、ロシアにとって2022年は「完全な主権を確立するため困難だが必要な決断の年だった」と述べました。
一方的に併合したウクライナの4つの州については「我々の歴史的領土で住民たちを守るために戦っている」と主張。「祖国防衛は神聖な義務だ」と侵攻を正当化し継続する姿勢を強調しました。
そのうえで、「欧米はウクライナを利用してロシアを崩壊させようとしているがそうはいかない」と語りました。
今回のメッセージは前線に近い南部軍管区を訪問して、そこで収録されたということで、その際、侵攻を統括する総司令官らを表彰したとしています。
侵攻が続く中での年越しとなった首都モスクワでは、恒例の花火が中止となりましたが、イルミネーションは実施されていて、侵攻を支持する「Z」の文字なども並んでいます。 
●ロシア国防相「勝利は必定」 1/1
ロシアのセルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu)国防相は12月31日、ウクライナ侵攻が11か月目に突入する中、「新年が必ずやってくるように、わが軍の勝利も必定だ」と述べた。
ショイグ氏は、2022年には大きな試練に直面したが、軍事的・政治的に困難な状況は新年も続くとの見方を示した。
戦地で新年を迎える兵士らについては「ロシアの国益を守り、安全保障を確保するための戦闘任務を勇敢にこなしている」とたたえた。
●プーチン氏、新年のあいさつで「勝利する」 軍服の兵士と出演 1/1
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は2022年12月31日、国民向けの新年の祝辞を発表したが、軍服を着た兵士と共に出演するなど、軍事色を前面に出すあいさつとなった。ロシア軍が苦戦を続けているが、プーチン氏は「我々の家族とロシアのために勝利する」と訴えるなど、戦闘継続の姿勢を揺るがせていない。
国内が11の時間帯に分かれているロシアでは毎年、その地域が新年を迎える直前に、収録された大統領の祝辞が国営放送で報じられる。今回は後方に多くの兵士が控える中、スーツ姿のプーチン氏があいさつする映像が流された。
プーチン氏は22年を振り返り「困難だったが、必要な判断を下し、ロシアの主権を完全に手にするために重要な一歩を歩んだ年だった」と述べ、2月に始めたウクライナ侵攻を正当化した。これまで欧米諸国がロシアへの侵略の準備を進めてきたと主張し、「ロシアを弱体化させて、分裂させる目的で、ウクライナとその国民を利用してきた」とも強弁。そのうえで国内の団結を呼び掛けた。
またロシア大統領府が12月31日に公開した映像では、プーチン氏は南部ロストフナドヌーにある南部軍管区本部を訪問。兵士たちに勲章を与えたほか、シャンパングラスを手にして、兵士たちと談笑する姿が報じられるなど、軍事面への関与が全面的に伝えられている。  

 

●焚き火をしてウクライナ軍に発見される動画が拡散…“冬将軍”未熟なロシア兵 1/2
ろくな訓練を受けていないロシアの徴集兵が戦地の最前線で焚き火をし、ウクライナのドローンに発見されて攻撃を受けた──そのような動画が、ロシア国内で一時的に拡散されたという。今は削除されたのか見られなくなっている。
ロシア軍のお粗末ぶりを報じる記事は多い。例えば、共同通信は12月21日、「ロシアはウィキで銃の扱い学ぶ? 侵攻『歴史的失敗』と米紙」との記事を配信、YAHOO! ニュースのトピックスに転載された。担当記者が言う。
「ニューヨーク・タイムズ電子版の報道を紹介する内容でした。《前線の兵士がインターネット上の百科事典「ウィキペディア」で銃の使用方法を学んでいたとみられる》という記述はインパクトがありました」
軍事ジャーナリストは「ニューヨーク・タイムズの報道は正確でしょう。徴集兵の内部告発にも同じ内容のものがあるからです」と言う。
「ロシアの徴集兵は、一応、基地で訓練を受けているという建前です。そんな徴集兵の一部が隠して持ち込んだスマートフォンの動画や画像の中に、銃の取り扱いを教える“教科書”がウィキペディアのコピーだったというものがありました。ニューヨーク・タイムズの報道と一致します」
ロシア軍は充分な装備を兵士に供与できていないとの報道が以前から相次いでいた。中でも「徴集兵が自腹を切って装備を調える」という記事は注目を集めた。
ゴム長靴の徴集兵
CNN.co.jpは12月23日、「兵士のため一般ロシア人が靴や防弾ベストを購入、政府は供給問題の解決目指す」との記事を配信した。
記事によると、最前線のロシア兵は防寒具や寝袋、防弾ベスト、制服までもが枯渇。装備の費用に充てるため、ロシア国内ではクラウドファンディングによる資金集めが行われているという。
「以前には、徴集兵や新兵に『衣服や寝袋は自分で調達しろ』との命令が下ったと報道されました。ウクライナの最前線で行動するロシア軍部隊の写真をよく見ると、魚市場の人たちが使うようなゴム長靴を履いている兵士がいました。どうやら軍靴も支給されていないようです」(同・軍事ジャーナリスト)
こんな徴集兵が、厳冬期のウクライナに送られる。ウェザーチャンネルによると、12月23日のキーウは、最高気温が2度、最低気温がマイナス1度となっている。
12月20日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(44)は東部ドネツク州の激戦地バフムート(アルチェモフスク)を電撃訪問し、兵士を激励した。
ウェザーチャンネルによると、バフムートの23日の最高気温は5度、最低気温はマイナス1度だった。
軍隊は冬が苦手
デイリー新潮は、キーウでボランティア活動をするパルホメンコ・ボグダン氏に取材した際、現地の気温について訊いた(註)。その時の答えは以下のようなものだった。
《キーウは北海道と同じくらいの寒さと考えていいと思います。僕が勤めていた前の会社の上司が北海道の方で、キーウにいらした時に北海道と似ているとおっしゃっていました》
札幌市の23日の最高気温は2度、最低気温は0度。確かにウクライナに似ている。
比較のため、世界有数の厳寒地として知られるロシアのイルクーツクを見てみよう。日本気象協会の発表によると、23日の最高気温はマイナス8度、最低気温はマイナス15度となっている。
ウクライナは極寒の国だと思っていたが、ロシアに比べればたいしたことはない──そう思った人もいるかもしれない。だが、それは完全な誤りだという。
「少なくとも陸軍の地上部隊にとっては、氷点下の気温は兵士の命に関わる問題です。マイナス1度でさえ野外での行動は危険が伴います。凍傷や低体温症で死者が出る可能性があるからです。しかも、風速が1メートル強くなれば、体感温度は1度下がります。軍隊は冬になると、著しく士気が下がって当然なのです」(同・軍事ジャーナリスト)
アメリカ軍の実力
とはいえ、人間はマイナス40度でも戦争を行った歴史を持つ。1939年11月、ソ連がフィンランドに侵攻した「冬戦争」では、最高気温が氷点下の日も珍しくなく、ソ連兵の多くが凍傷で命を落とした。
「今は防寒具も発達し、NATO(北大西洋条約機構)軍が使うような冬服なら、厳冬期の戦闘も不可能ではありません。ただし、汗をかくと低体温症の危険があり、下着や靴下を小まめに取り替える必要があります。つまり、冬の戦争は、夏より多量の物資を必要とするのです」(同・軍事ジャーナリスト)
極端な話、夏ならTシャツ1枚でも戦闘ができるかもしれない。だが冬は、弾薬だけでなく大量の防寒具や食料、暖を取るための器具などを運ぶ必要がある。
「米軍は寒冷地で戦う兵士用に、特別な戦闘糧食を準備しています。一般に知られる戦闘糧食(MRE=Meal, Ready-to-Eat)とは違い、MCW(Meal, Cold Weather)と呼ばれるもので、高カロリーで凍結の恐れのないフリーズドライの食品で構成されています。パッケージも茶色のMREとは違い、雪原で目立たない白色です」(同・軍事ジャーナリスト)
タイヤの悪夢
ウクライナ軍はNATO軍の支援を受けている。最近はNATO軍の冬服を着るウクライナ兵の姿も目につくという。防寒具を自前で調達しなければならないロシア軍とは雲泥の差だ。
「ろくな訓練を受けていない徴集兵が寒さに耐えかね、焚き火をしても仕方ないのかもしれません。ただ、煙は遠くからでも目立ちます。しかも、現代の戦争はドローンが上空から最前線を偵察しています。火を使えば、現在地を敵軍に把握されてしまうリスクが極めて高いと言わざるを得ません。そんな初歩的なことも教育されていないということでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
先に《冬の戦争は、夏より多量の物資を必要とする》という点に触れた。
思い出されるのは、ウクライナ戦争の緒戦で、「ロシア軍のトラックは中国製のタイヤを使っており、非常に質が悪い」という報道だ。目にした方も多いだろう。
「あの時より、ロシア軍のタイヤ事情がよくなっているとは思えません。冬道を安定して走れるようなタイヤを確保できているかは疑問です。兵士や物資の輸送にトラックは重要な役割を果たしています。陸路の補給が機能しないとなると、ロシア軍は身動きが取れなくなる可能性があります」(同・軍事ジャーナリスト)
不潔なロシア軍
厳冬期を迎えるロシア軍には、他にも意外な強敵が潜んでいる。それは感染症だ。
「冬季は風邪やインフルエンザの感染リスクが最大限に上がります。おまけに今冬は、新型コロナの第8波も取り沙汰されています。規律ある軍隊は衛生を最優先にして感染症の蔓延を封じます。ところが、戦闘に敗れ正規兵が逃げ出したロシア軍の陣地の写真を見ると、ゴミだらけの凄まじく不潔な環境だったことが分かったのです」(同・軍事ジャーナリスト)
正規兵でさえ衛生観念がない。充分な訓練を受けていない徴集兵だと──。発熱者が続出して戦闘不能になることも充分に考えられる。
兵站の話に戻れば、凍結した悪路をロシア軍のトラックが進むことができなければ、最前線で発熱者が出ても医薬品が送れない。これでは戦闘以前の問題だ。
焦土作戦
もちろんウクライナ軍にとっても、冬の攻撃はリスクを伴う。ロシア軍の装備が貧弱でも油断は厳禁だ。
「兵力に勝る軍なら厳冬期でも進撃は可能でしょう。ウクライナ軍もロシア軍を次々に撃破するかもしれません。しかし、前線を押し上げて領地の奪還を継続するとなると、難易度が上がります。何しろ地面さえ凍っています。テントの設営も一苦労です。まして陣地の構築となると難事業でしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア軍は敗走する際、集落や街を焼き払うかもしれない。ナポレオンを苦しめた焦土作戦の復活だ。
もしロシア軍が守りを固めれば、ウクライナ軍が苦戦する可能性もある。攻める難しさを痛感する冬になるかもしれない。 
●プーチン氏「ウクライナはロシアの領土」 正月もキーウ攻撃 1/2
ウクライナを侵攻中のロシア軍は12月31日から1月1日にかけ、各地でイラン製無人機(ドローン)などによる攻撃を続行した。首都キーウ(キエフ)では1人が死亡、朝日新聞の邦人カメラマンが軽傷を負った。ロシアのプーチン大統領は新年演説で「何一つ(敵に)引き渡してはならない」と述べ、軍事作戦を完遂する決意を強調した。
プーチン氏は、2022年を「ロシアが完全な主権を取り戻す道のりの出発点」と述べ、侵攻の決断を自画自賛した。ウクライナについて、ロシアの「歴史的な領土」と表現し、侵攻を正当化。ウクライナ政府へ支援を続ける米欧を「うそつきで偽善的」と強い言葉で非難した。
新年演説は通常、モスクワのクレムリンを背景に行われるが、今回は南部ロストフナドヌーの軍管区で録画され、プーチン氏の周囲を軍人らが固めた。戦時体制を想起させ、国民を結束させる狙いとみられる。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は新年の演説で「国民は戦うことを選択した。われわれはロシアに勝利するだろう」と述べ、徹底抗戦の構えを示し、23年を「奪還の年にしよう」と国民に呼びかけた。
31日から1日の攻撃により、キーウではインフラが損傷し、緊急停電に追い込まれた。一方で、現地メディアによると、ウクライナ軍は無人機45機を迎撃。ドネツク州ではロシア軍基地を破壊し、400人規模の部隊を壊滅したと発表した。
●プーチン氏「今が歴史的転換点」 新年メッセージ、戦闘長期化必至 1/2
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は昨年大みそかの国民向け新年メッセージで「ロシアの主権と独立、将来の安全保障は全てわれわれの力と意思にかかっている」と述べ、今が国にとって歴史的な転換点だとの認識を強調した。
厳しい対ロ制裁を科してウクライナへの軍事支援を続ける欧米との対決姿勢を鮮明にし、国民の結集を図った。併合を宣言したウクライナ東部・南部4州を「ロシアの歴史的領土」と位置付け、軍撤退を和平条件とするゼレンスキー政権の要求を事実上拒否。双方の立場の違いは大きく、一層の戦闘長期化は避けられない情勢だ。

 

●ニーナ・フルシチョワ「ロシアでも西側でも人々は無能で独裁的な指導者を支持」 1/3
今のロシアは、私の曽祖父ニキータ・フルシチョフが首相だった頃(1960年代前半)の全体主義国家ではないはずだ。だが悲しいかな、ロシアのDNAには全体主義が染み付いている。あの国の指導者は今も現実をねじ曲げ、どんなに愚かで、あり得ない話でも国民に無理やり信じ込ませる。
ジョージ・オーウェルの『一九八四年』に登場するオセアニア国では「戦争は平和なり」とされたが、ウラジーミル・プーチン大統領のロシアでは「特別軍事作戦」が平和構築の一形態とされている。2022年2月24日に始まったウクライナ侵攻を、ロシアの都会に暮らす一般市民が気にかけることはなかった。ロシア軍の戦車が国境を越えて戦地に赴いても、みんなパーティーに興じていた。まるで、石油と天然ガスの輸出でプーチンのロシアが絶頂期にあった2004年に戻ったかのように。
このシュールな偽りの平和が、ロシア国内では侵攻開始から半年ほど続いた。許し難いことだ。曽祖父が若き日を過ごしたウクライナ、あの美しい大地が爆弾で穴だらけにされ、首都が包囲され、人々が国外へ逃れ、あるいは家族と離れて戦っていたときも、ロシアの人はいつもどおりの生活を送っていた。
大都市にいれば、それなりに経済制裁の影響は感じられた。高級品は店頭から消え、マクドナルドなどは店を閉ざした。それでも娯楽は十分にあった。ソ連崩壊からの30年で、都会の人は素敵なモノや快楽を手に入れていた。戦争はどこか遠くの話(あるいは近すぎて口にできない話)だった。ならばプーチンに任せておけばいい、どうせ彼が全てを仕切っているのだから。みんなそう思っていた。見ざる、聞かざる、言わざるが一番だと。
ただし西側の人にも、優越感に浸る資格はない。国内外に数え切れない紛争の種をまき散らし、罪深い行為に手を染めながら、やはり多くの人は現実から目を背け、快楽の消費に励んできた。そして今は、せっかく民主主義の国々にいながらプーチンと大差ない指導者たちを担ぎ、道徳的に破綻した契約を結んでいる。
恐怖と恥辱と排除の論理へ
ドナルド・トランプ前米大統領が嘘を嘘で塗り固め、人種差別や反ユダヤ主義を口にし、私腹を肥やし、政府機関を腐らせていた4年間、アメリカ人は抵抗しただろうか。もちろん一定の抗議活動はあり、トランプは4年だけでホワイトハウスを追われた。しかし、それでもまだトランプを支持するアメリカ人が大勢いる。とりわけ共和党内ではそうだ。なぜか。彼が最高裁に保守派の判事を3人も送り込み、大企業に有利な規制緩和を進め、富裕層に減税をプレゼントしたからだ。
イギリスの国民も、ボリス・ジョンソン元首相を3年間も野放しにしていた。彼が無能な取り巻きに政府の仕事を回しても、議会や王室を軽視しても、好きなようにさせた。たぶんブレグジット(イギリスのEU離脱)の「功績」ゆえだろう。
ポーランドではヤロスワフ・カチンスキの政権が法廷と国内メディアの大半を脅し、飼い慣らしている。補助金のばらまきで農村部や貧困層に取り入り、盤石の支持基盤を固めているからだ。
こうして政府が国民の一部と取引するのが当たり前になると、専制主義と独裁の土壌が育つ。人は国家(または世界)のためではなく、自分と仲間の利益のために票を投じるようになる。そして指導者は有権者の望みをかなえる代わりに、民主主義と倫理を堂々と踏みにじる。国民の物質的欲望を満たす一方で、異質な少数者に対する恐怖心をあおり、憎悪を政治の武器とする。
プーチンやトランプのようなポピュリストは巧みに支持者の空気を読み、それに合わせて自分の意見や立場を変える。ウクライナ侵攻に対するトランプの反応を見ればいい。当初はプーチンに肩入れしていたが、国内世論の動向を見て、ある時期から侵攻反対に舵を切った。
だがウクライナ人の勇気をたたえてきたアメリカ人の間にも、今は支援疲れが見える。共和党議員の多くは、ウクライナ支援も無条件ではないと言いだしている。トランプ同様、心の底では「アメリカだけがよければいい」と思っているのだろう。
さすがに今は、ロシアの一般市民もウクライナで起きている惨劇の不条理に気付き始めた。ただしウクライナの人々に同情したからではなく、自分の息子や親兄弟が兵隊に取られかねない事態になったからだ。しかし、もしアメリカの共和党議員がウクライナの現実に背を向け、目を閉じてしまうようなら、ロシアの人々もプーチンの戦争に反対する意欲を失うだろう。
社会契約とは、社会の全ての人が共通の利益のために、一定の規則や規範を受け入れるという暗黙の了解を意味する。だがポピュリストは異質な人を排除して、ひたすら身内の利益だけを追求する。まさにプーチンがやってきたことだ。
そうしたアプローチの有効性にプーチンが気付いたのは、ある意味で意外だった。もともと彼は思慮深い男ではない。トランプも同様だ。しかし、そこが一番の問題かもしれない。だから私たちはだまされ、ポピュリストのゆがんだ統治を受け入れてしまった。もう思慮も分別もなく、あるのは恐怖と恥辱、そして排除の論理だけ。そこでは独裁者が栄え、野蛮な戦争が繰り返される。
●ウクライナ砲撃で「63人死亡」 動員兵か、ロシアが異例の公表 1/3
ロシアのプーチン政権が一方的に「併合」したウクライナ東部ドネツク州マケエフカで12月31日夜から1月1日未明にかけ、ロシア軍を狙い、ウクライナ軍が米国提供の高機動ロケット砲システム(HIMARS)で砲撃を加えた。ロシア国防省は2日、兵士63人が死亡したと発表。一方、ウクライナ側は動員されたロシア軍予備役とみられる約400人が死亡したと明らかにしており、死者数はロシア側発表より多い可能性がある。
ウクライナ侵攻でロシア国防省は、相手の砲撃のたびに占領地の住民の犠牲者数を強調することはあったが、自軍の死者数を個別に公表するのは極めて異例だ。
今回の砲撃については先に、複数のプーチン政権系メディアが通信アプリで「人的損害200人」「死者全員が動員兵」と指摘していた。ロシア国防省は、隠し通せば遺族の不満が増大しかねないことから「最小限」の人数公表に踏み切ったとみられる。
●ロシアの最新核兵器アバンガルドの恐怖 「マッハ27でジグザグに滑空」 1/3
ロシアの最終兵器
12月17日、ロシア国防省は最新の核兵器システム「アバンガルド」を南西部のオレンブルク州に配備したと発表した。形状はハングライダーのようで、従来のICBM(大陸間弾道ミサイル)とはまったく異なる。
プーチンが「隕石のように目標を破壊する。迎撃も不可能だ」と自信満々に語るロシアの最終兵器の性能はいかほどか。
「従来のICBMは高度1000kmから放物線を描き、目標へ飛んでいきます。一方のアバンガルドは、高度100kmという低い軌道から、一直線に滑空して飛来してくる。その速度はマッハ27に達し、探知できても迎撃が間に合いません。しかも、左右ジグザグに滑空するので、撃ち落とすのは非常に困難です」(軍事評論家の高部正樹氏)
アバンガルドの飛行距離は6000km以上で、ウクライナ全土が射程圏内に入る。
従来の防空システムでは対応できない
そんな中、米国政府は21日、迫りくる核の脅威に対抗し、ミサイル迎撃システム「パトリオット」をウクライナへ供与することを発表した。
しかし、それもアバンガルドの飛来速度には対応しきれない。
「これまでは、仮にウクライナへ核ミサイルが撃たれても、従来の防空システムで迎撃できたかもしれません。しかし、アバンガルドが配備されたとなると、話は変わってきます。ウクライナは喉元にナイフを突きつけられたような状態で、緊張はより高まっていくでしょう」(高部氏)
ウクライナ東部のドンバス地方で劣勢が続いていたロシア軍だが、12月に入り、隣国ベラルーシ南部に兵力を移送。ウクライナ軍の総司令官は「'23年1月にも、侵攻当初の目的だった首都・キーウに再び進軍し、制圧しようとしている」と警戒感を示している。
2度目の首都制圧作戦に失敗は許されない。少しでも戦局が膠着すれば、プーチンは迷いなく最終兵器の発射ボタンを押すことだろう。 
●今年の世界10大リスク、1位は「最も危険なならず者国家」ロシア  1/3
国際情勢のリスク分析を手がける米コンサルタント会社「ユーラシア・グループ」は3日、2023年の世界の「10大リスク」をまとめた報告書を発表した。1位には、ウクライナ侵略を続けるロシアを挙げ、「世界で最も危険なならず者国家になる」と説明した。
報告書は「プーチン大統領は少なくとも(併合を宣言した)東・南部4州の大半を制圧するよう(国内で)圧力を受けている。ロシアは撤退しない」と指摘した。
ロシアが核兵器による脅しを強め、ウクライナを支援する欧米の不安定化を狙ってサイバー攻撃や選挙介入も行うと分析した。
2位は、昨年10月の共産党大会で3期目政権を発足させた中国の習近平(シージンピン)国家主席だった。報告書は、習氏が権力を「極限」まで集中させたが、チェック機能が働かず「習氏が大きなミスをする可能性も高い」と予測。新型コロナ対策などの公衆衛生や経済、外交の分野でのリスクを挙げた。
3位は、人工知能(AI)の技術開発で、報告書は文章などを自動生成する技術の開発に言及した。社会に偽情報があふれ、「大半の人々には真偽の見極めができなくなる」と懸念を示した。こうした技術は海外の民主主義国を揺るがし、国内の反体制派を封じ込めたい独裁者への「贈り物」になるとも警告した。
ユーラシア・グループは地政学上のリスクを扱い、国際政治学者イアン・ブレマー氏が社長を務めている。
●プーチン氏、トルコ大統領と4日会談へ 1/3
ロシアのプーチン大統領が4日にトルコのエルドアン大統領と会談する予定と、ロシア大統領府のペスコフ報道官が3日、インタファクス通信に明らかにした。
ロシアが昨年2月にウクライナ侵攻に踏み切って以降、両首脳は数回電話会談を行っているほか、トルコは国連と共にウクライナ産穀物の輸出再開を巡る仲介役を務めた。

 

●国内でも支持を失うプーチン大統領、懸念される八方塞がりの「暴発」 1/4
ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領が、ロシア国内で政治的にますます孤立を深めつつあるとする分析が米国で詳細に報道された。
プーチン大統領はなおロシア国内で強大な権力を保ち、ウクライナの軍事屈服を目指す意図に変わりはないが、年来の側近とされる勢力との間に新たな距離が生まれたというのだ。プーチン氏の新情勢下での孤独は軍事面でのさらに大胆な攻勢にもつながりかねない、とも警告されている。
盟友の言葉からも浮かび上がる国際的な孤立
プーチン大統領の新たな孤立についての分析は米大手紙ワシントン・ポスト(2022年12月30日付)の長文の記事で伝えられた。「敗北に慣れていないプーチンは戦争の行き詰まりとともに孤立を深める」という見出しの記事だった。
筆者は、同紙の国際報道部門での長年のロシア報道で知られるキャサリーン・ベルトン記者である。現在同記者はロンドン駐在だが、ロシア勤務が長く、『プーチンの支持者たち』という著書でプーチン氏の政治経歴をKGB時代から詳しく追い、同氏の支持者や側近に光を当てて国際的な注目を集めた。今回もロシアやウクライナで現地取材を行い、とくにロシア側の関係者多数に直接インタビューしたという。
ベルトン記者のこの記事は、まずプーチン大統領の国際的な苦境を強調していた。同大統領は2022年12月19日にベラルーシを訪れ、国際的に唯一の完全な盟友ともいえるルカシェンコ大統領と会談した。その際のルカシェンコ氏の「プ―チン氏と私は、いま世界中で最も有害で有毒とされる共同侵略者だが、唯一の問題はどちらがより有害か、だ」という自虐的な半分冗談めいた言葉を引用し、プーチン氏の孤独を比喩的に描写していた。
同記事はさらに、プーチン大統領が12月26日にロシアのサンクトペテルブルクで開いた旧ソ連共和国諸国の首脳会議でも、温かい連帯の対応が得られず、中国やインドへのウクライナ問題での協力要請も前進していないことを指摘して、「プーチン氏は1999年にロシアの大統領代行となって23年目の2023年、国際的にも国内的にもかつてない孤立の状態に至った」と総括していた。
保守系エリート層のプーチン支持が大きく減少
そのうえで同記事は、プーチン大統領の最近のロシア国内での孤立について、複数のロシア政府関係者の言葉からとして以下の骨子の考察を伝えていた。
・プーチン氏は元来、少数の堅固な支持者や側近だけを信頼して、依存し、最終的には自分の判断を下すのだが、最近はこの支持者と側近の数が減ってきた。その理由は、プーチン氏のウクライナ戦争での挫折により、プーチン信奉者の数が減ったことと、その側近の間でウクライナでのさらなる軍事エスカレーションを求める勢力と停戦の検討を求める勢力の対立が激しくなったことが挙げられる。
・ウクライナ戦争でプーチン氏は、至近の強固な支持者たちに「軍事的に数日、あるいは数週間で決着をつける」と告げたにもかかわらず、いまや300日が過ぎて、支持者たちの落胆が顕著となった。プーチン氏は和平や停戦に応じると述べながらも、なおウクライナのインフラへの激しいミサイル攻撃で軍事威嚇を続ける以外の方法を見せていないことが、さらに側近との溝を生むようになった。
さらにベルトン記者は、米国でロシア事情分析の権威とされるカーネギー国際平和財団上級研究員のタチアナ・スタノバヤ氏の最新の見解も紹介していた。
スタノバヤ氏はロシアに生まれ高等教育を受け、フランスや米国でも学術活動を続けてきた女性のロシア研究の専門家である。ロシア人ながらプーチン政権に対しては客観的な立場の学者として米欧でも信頼されてきた。そのスタノバヤ氏の見解は以下の通りだった。
・年来、プーチン大統領を支持してきたロシア国内の保守系エリート層の動向は重要だが、この層でのプーチン支持が目立って減ったことが、プーチン氏の孤立という印象を強めている。ウクライナ侵攻に関してこのエリート層はプーチン氏が独自の戦略を有することを信じてきた。だが、ここにきてその戦略への信頼が極端に減ってきたことが明白だといえる。
・プーチン大統領の最近の言動には、疲れが目立つようになった。従来のプーチン氏支持のエリート層からも、ウクライナでの苦戦によるプーチン氏の心労の重さが同氏の本来の能力を減速させているとの観測が表明されている。その結果、エリート層でもプーチン氏の言明を言葉どおりに受け取らない傾向が生まれ、実はウクライナ戦でプーチン氏は具体的で現実に沿った対処策を持っていないのではないかという懐疑が表明されている。
軍事攻撃をさらにエスカレートさせる懸念
ベルトン記者のこの記事は、プーチン大統領の元政策顧問だった政治学者セルゲイ・マルコフ氏の見解も引き出していた。マルコフ氏はウクライナ攻撃を支持するロシア国粋派でプーチン大統領の信頼も厚かったとされる。同氏の見解の骨子は以下の通りである。
・ウクライナでの軍事行動で敏速な勝利を得なかったことが、プーチン大統領の今日の孤立と呼ばれるような苦境を生んだことは明白だ。これまではロシアの軍隊がウクライナで全力で戦闘しながらも、ロシアの一般国民は年来の正常な生活を送ってきた。だが2023年からはかつての第2次大戦のように、国家、国民を挙げてウクライナでの戦争に総力を注ぐ方向へ進まざるをえないだろう。
・2022年秋のロシアでの軍事動員令で新たに徴募された約30万人の軍事要員は、まだ十分な訓練と兵器を得ていない。この新兵力をいつ、どのようにウクライナでの戦闘に投入して、実効ある戦果をあげるのか、その具体的な方途をプーチン大統領はまだ持っていないようだ。同大統領の国内での地位や権力を左右する最大要因はウクライナ戦での勝敗だから、現在の戦況が同大統領の影響力に影を投げることは当然だといえる。
ベルトン記者の報道は以上のように、プーチン大統領の支持勢力からも同大統領の最近の孤独が指摘される現状を伝えていた。
この報道でさらに注目されるのは、ロシア政府の外交官の懸念として「プーチン大統領は現在の苦境を脱するためにウクライナでの軍事攻撃をさらにエスカレートさせることも考えられ、そのエスカレートには戦術核兵器の使用という危険な可能性も含まれる」という言葉を紹介している点だった。
この四面楚歌と呼んでもおかしくない状況をプーチン氏自身はどう打破するのか。2023年の世界の最大の不安定要因ともいえるだろう。
●ロシア、兵士を映画で「英雄化」 1/4
ロシアのプーチン大統領は3日、ウクライナで続ける軍事作戦に参加する兵士らを「英雄」として扱うドキュメンタリー映画の製作を支援するよう国防省に命じた。また軍事作戦をテーマにした映画の上映機会を確保するよう文化省などに指示した。タス通信などが伝えた。
侵攻に加わる軍関係者を英雄としてたたえることにより、戦闘長期化で社会に厭戦気分が広がるのを防ぐとともに、前線の兵士らの士気を高める狙いがあるとみられる。
プーチン氏はまた、軍病院だけでなく一般の病院も軍事作戦で負傷した兵士の治療とリハビリを受け入れるよう保健省に指示した。 
●一般人に紛れ、常にプーチンの背後に控える「謎の金髪美女」...何者なのか? 1/4
ウクライナへの侵攻を開始して以降、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は国民を鼓舞するテレビ演説などを何度も行ってきた。だが、それらの映像のなかに、「同一人物」とみられる女性が様々な立場の人物として繰り返し登場していることが発見され、憶測と嘲笑が飛び交う事態となっている。
この奇妙な騒ぎの発端となったのは、昨年末にロンドン在住のベラルーシ人ジャーナリストであるTadeusz Giczanによるツイートだった。彼は、プーチンが別々の場面で民衆の前に立つ3枚の画像を投稿。1枚目は兵士の前、2枚目はボートに乗った船員たちの前、3枚目は宗教関係の行事に参列する信者たちの前で撮影されたものだ。
まったく違う場面で撮影されたはずのこの3枚の写真(動画)だが、それらのなかになぜか同一人物とみられる金髪の女性が写っていると、Giczanは指摘した。それも最前列のプーチンの真横あたりの場所が割り当てられているため、ロシア当局が何らかの意図をもって彼女を写真撮影の列に送り込んでいるのだろうという印象を受ける。
Giczanはツイートで、「兵士、船員、敬虔なキリスト教徒。神はミステリアスな方法で動く」としている。
ほかにも2枚の写真に登場する人物が
このツイートに反応したCNNのClarissa Ward特派員は、女性の身元と役割について疑問を投げかけている。写真の見栄えを良くするために起用された俳優なのか、それとも様々な場面においてプーチンのすぐ近くに控えていなければならない何らかの理由があるのか......。
「彼女は誰? ボディーガード? 俳優?」とWardはツイートした。さらにWardは、「右側の(2枚の)写真には、ほかにも両方に写っている人物がいる」とも指摘した。
さらに別のジャーナリストたちによる謎解きは続き、「兵士たちとの写真」は新年を迎える直前にテレビ放送された演説の時のもので、「礼拝者たちとの写真」は22年のイースターの演説の際に撮影されたものだとされた。そして話題の女性を含む写真の中の人々は、プーチンの警備隊から選ばれた「民衆」役だという声も上がっている。
ウクライナのアンドリー・ザゴロドニュク元国防相も、こうした指摘に対して「間違いない。驚く人もいないだろう」とした。
●プーチン大統領犯罪的過失<鴻Vア軍「ハイマース」攻撃で400人死亡か 1/4
ロシア国防省は2日、ウクライナ東部ドネツク州の都市マケエフカで高機動ロケット砲システム「ハイマース」による攻撃を受け、軍関係者ら63人が死亡したと発表した。ロシア軍が認めた一度の攻撃による死者数では昨年2月の侵攻開始以来最大だが、ウクライナ側は動員兵ら約400人が死亡したと主張している。ロシア国内では軍指導部を追及する声が強く、プーチン大統領の責任も問われそうだ。
米調査会社ユーラシア・グループが3日、今年の10大リスクの筆頭に掲げた「ならず者国家ロシア」だが、ウクライナで苦戦が続いている。
ウクライナ軍のハイマースによる攻撃は昨年12月31日深夜に行われ、多数のロシア兵が住んでいたマケエフカの職業訓練校が全壊した。米軍供与のハイマース6発のうち4発が着弾した。
英BBC放送ロシア語版は、兵士らが新年を祝う食事を並べ、日付が変わる直前のプーチン大統領の国民向けメッセージが放送されている時刻に攻撃があったと伝えた。
BBCによると、ドネツクにあるロシアの代理機関の元高官は、1つの建物に多数の兵を配置した判断を「犯罪的過失」と非難した。
タス通信は2日、親露派「ドネツク人民共和国」筋の話として、多数の兵士が携帯電話を使ったためウクライナ側に探知されたとみられると報じており、軍の規律の乱れもうかがえる。
プーチン氏は国民向け新年メッセージで「ロシアの主権と独立、将来の安全保障は全てわれわれの力と意思にかかっている」と述べ、今が国にとって歴史的な転換点だとの認識を強調した。
「重要なのはロシアの運命だ。祖国の防衛は先人と未来の世代に対する神聖な義務だ」と語るなど、過去最長の9分間に及んだメッセージでは、停戦交渉に全く触れず、長期戦の構えを見せる。
だが、ウクライナ側が米軍の「パトリオット」など防空システムを強化する一方、ロシア側は兵力の枯渇が懸念されている。不利な戦況が続けば、プーチン氏に反旗を翻す強硬派が台頭する可能性もある。
前出のユーラシア・グループは、プーチン氏には戦争をウクライナ国内にとどめる余裕がなくなっており、戦術核をウクライナ近くに移動させるなど、核の威嚇がより強まると指摘する。ロシアとプーチン氏をどう打ち負かすかが、2023年の西側陣営の重大課題となる。
●国内反発でプーチン氏が追い込まれている?“次の一手”は? 1/4
今年に入ってから、ロシアのプーチン大統領は、異例の対応をいくつも取っています。まず、一つ目の異例の対応は、プーチン大統領が国民に向けた新年の演説です。これまでは、クレムリンを背景に演説していましたが、今回は、軍人を自分の周りに囲む形で行っていました。また、演説時間も9分間と、過去20年で最長となりました。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
Q.プーチン大統領の演説から、何を感じましたか
年末に向けて、ロシア国民に語りかける演説がキャンセルされたので、新年、何を語るのか注目されていました。今回、大きく二つの内容がありました。一つは、軍人をねぎらって、寄り添う姿勢を見せる。だから、背景に軍人とみられる人がいるということです。31日に、軍人に対する勲章の授与があって、そのときに、この演説を収録したとみられます。そして、もう一つ。ロシア国民に対して、改めて欧米を批判したうえで、理解・支援をつなぎとめたいという異例の新年の演説となりました。ある意味、プーチン大統領は追い込まれているともいえます。
年が明けてすぐに、ウクライナ軍がロシア軍の兵舎を攻撃しました。ロシア国防省は、ロシア兵89人が死亡したと発表しました。一度に多くの人的被害を公表するのは異例です。国防省は、兵士に禁止していた携帯電話の使用がきっかけで、ウクライナ側に位置を特定されたと発表しました。一方で、ロシアの有力議員からは、大勢の兵士を1カ所に集めていた軍上層部の対応に批判も出ています。
Q.なぜ、ロシア国防省は、異例の公表をしたのでしょうか
二つあると思います。一つは、侵攻当初から、作戦がうまくいっているというプロパガンダ、情報統制が国内できかなくなってきているので、あえてマイナスの情報を公表することで、ロシア国内からの批判や反発を早めに抑え込む。ダメージコントロールの狙いがあると思います。そして、今回、動員兵が現場に携帯を持ち込んでいたため、位置を特定されたと公表。つまり、これは現場に問題があると、一種の責任転嫁です。これによって、軍の上層部、さらにはプーチン政権の中枢部に非難の矛先が向かわないようにするという狙いもあると思います。
Q.異例の対応を取らざるをえないプーチン大統領の周りで、いま、何が起きているのでしょうか
以前は、絶対的な政治力があったので、プーチン大統領の命令や指示というのは、みんな従っていました。プーチン大統領自らが、軍人に低姿勢で寄り添う姿勢を見せざるを得ない。それぐらい軍と大統領の関係がうまくいっていない側面があります。さらに、一部の強硬派から突き上げられて“4州の併合”を宣言するとか、30万人の部分動員に踏み切らざるを得ないような状況がありますので、プーチン大統領のリーダーシップに陰りが見えてきたといえると思います。
Q.かつてないほど追い込まれているプーチン大統領は、今後、どういった行動を取ると考えられますか
今後、注目される動きが、『国民総動員』『追加の部分動員』。この二つの選択肢がありますが、『国民総動員』は、ロシア国民からさらなる批判・反発が上がるので、それをプーチン大統領は懸念していると思いますので、そう簡単にはしないと思います。そうすると、ロシア国内やウクライナの一部では『追加の部分動員』は、あり得るのではという見方が高まっています。そのタイミングですが、当初、踏み切った30万の部分動員の訓練が終了して、戦力化が行われるのが2月。この部分動員を使って大規模な攻勢を仕掛けてくるのではと、ウクライナ側は警戒しています。それでも、戦況がロシアにとって好転しない場合には、追加の部分動員に踏み切る可能性もあるのではないかと思います。ただ、部分動員に踏み切ると、戦闘は長期化していくし、来年3月、プーチン大統領自身、大統領選挙を控えています。そうなると、国民のプーチン離れがさらに強まっていくことになります。プーチン大統領は、大きなジレンマに直面しつつあるのではないかと思います。
●ロシアとウクライナ トルコなど各国首脳と相次いで電話協議 1/4
ロシアとウクライナの戦闘が2023年に入っても続く中、両国の首脳は3日、それぞれ周辺国首脳と相次いで電話協議を実施し、自国への支援取り付けなどに取り組んだ。4日にはトルコのエルドアン大統領が両国首脳と個別の電話協議に臨む見通し。戦闘終結の見通しが立っていないが、関係国による積極的な首脳外交が続いている格好だ。
ロシア大統領府によると、プーチン大統領は3日、隣国カザフスタンのトカエフ大統領と電話で協議し、2国間問題を中心に意見を交わした。
ロシアによるウクライナ侵攻に対し、カザフスタンが全面的な支持を表明しなかったことなどから、両国の関係は昨夏あたりからほころびをみせてきた。ただしロシアとしては、これ以上の関係の冷却化を避けたい狙いを含め、首脳間の対話に臨んだとみられる。
一方で、ウクライナのゼレンスキー大統領は3日に投稿したツイッターで、英国、オランダ、ノルウェー、カナダの首脳と個別に電話協議したことを明かした。スナク英首相との間では「今年にも(ロシアとの戦闘で)勝利に近づくため、我々の取り組みを強化することで一致した」という。
オランダのルッテ首相もツイッターへの投稿で、ゼレンスキー氏に対し「ウクライナが抵抗するだけではなく、戦争に勝つために、オランダは必要なことを全て実行する意向を伝えた」と明かしている。
トルコメディアによると、同国のカリン大統領報道官兼顧問は、エルドアン氏が4日、プーチン、ゼレンスキー両氏と電話協議に臨む予定を明かした。トルコはロシアによるウクライナ侵攻が始まった初期の段階から仲介役を買ってでたが、停戦協議そのものは頓挫した。トルコとしてはロシア、ウクライナの双方と個別に協議し、協議再開につながる糸口を探す狙いとみられる。

 

●プーチン氏、極超音速ミサイル搭載フリゲート艦の地中海配備を命令 1/5
ロシアのプーチン大統領は4日、極超音速ミサイルを搭載したフリゲート艦「アドミラル・ゴルシュコフ」の実戦配備を命じた。
ロシア国営タス通信はショイグ国防相の話として、このフリゲート艦は大西洋やインド洋、地中海を航行する長距離の航海に出ると報じた。
同艦には「比類のない最新の極超音速ミサイルシステム『ツィルコン』や最新世代のその他の兵器が備わっている」とプーチン氏はショイグ氏、同艦のイゴール・クロフマル艦長とのビデオ通話で述べた。
プーチン氏はまた「そうした強力な武器は潜在的な外部の脅威からロシアを確実に保護することを可能にし、国益を守るのに役立つと確信している」と期待を示した。
ショイグ氏によると、同艦はツィルコンを使って「演習を実施する」という。
同艦への「任務完了の開始」の命令に先立ち、プーチン氏は「非常に喜ばしい。素晴らしい共同作業で、期待通り良い結果だった」と述べた。
●極超音速巡航ミサイル搭載艦を実戦配備 プーチン「世界に類を見ない兵器」 1/5
ロシアのプーチン大統領は、開発を進めてきた極超音速巡航ミサイルを搭載した艦船が実戦配備されたことを明らかにしました。
ロシア プーチン大統領「世界に類を見ないこのような強力な兵器により、ロシアを外部の脅威から守り、国益を守れると確信している」
プーチン大統領は4日、海上発射型の極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」を搭載したフリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」を実戦配備したと明らかにしました。
オンライン形式で行われた式典にはショイグ国防相も出席。開発を進めてきた「ツィルコン」の巡航速度は音速の9倍にあたるマッハ9で、射程は1000キロを超えるとし、「最新のミサイル防衛システムも突破できる」と強調しています。
このフリゲート艦は大西洋、地中海、インド洋への航海に向かうとされ、「ツィルコン」を含めたミサイルの発射訓練が行われるということです。
ウクライナ侵攻以降、欧米との対立が深まる中、最新兵器の実戦配備をアピールすることでけん制する狙いがあるとみられます。
●ロシアの庇護から恐る恐る抜け出す中央アジア 1/5
帝政ロシアは19世紀の全盛期に中央アジアを瞬く間に支配下に置いた。ソビエト連邦の時代になると、この広大な地域におけるロシアの影響力はさらに強まった。
そして今、主にウラジーミル・プーチンがウクライナ征服を目指した戦争に失敗していることから、中央アジアの国々がロシアの庇護から抜け出し、1991年の共産主義崩壊以降には見られなかったやり方で自らの独立を主張している。
いきなり西側を頼らないが・・・
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの中央アジア5カ国はいずれも慎重に行動している。
この地域の軍事、政治、経済そして文化におけるロシアの影響力はまだ強い。
5カ国が戦略を抜本的に組み直して中国や米国に、ましてや欧州連合(EU)やトルコに近づくなどと考えるのは非現実的だ。
また、中央アジア諸国の指導者たちがプーチンとの間に慎重に距離を置き始めていることを、国内の自由化と取り違えるべきではない。
保守的な独裁者たちが支配するこの地域には、政治勢力間の自由な競争など全く見られず、かえってその不在が目を引く。
カザフスタンとウズベキスタンで2022年に発生した暴動で示されたように、社会不安に対する体制側の懸念には十分な根拠がある。
独裁者らが統治する土地は大半がイスラム教社会であり、米軍が2021年にアフガニスタンから撤退してイスラム主義組織タリバンが権力を掌握したことを受け、イスラム過激派が勢力を広げる可能性を懸念している。
このため、同じ旧ソ連の共和国のジョージア(グルジア)、モルドバ、ウクライナなどに見られる西側の同盟への統合と民主主義を渇望する動きは、中央アジアでは再現されていない。
ウクライナ侵攻で認識に変化
それでも、プーチンが侵略の挙に及んだことを受け、中央アジア諸国の指導者たちの目には、ロシアはもう地域の秩序を保証してくれる頼りがいのある国には見えず、最悪の場合には脅威になりかねないように映る。
一方では、中央アジアの指導者たちは2月に始まったウクライナ侵攻とその7カ月後にプーチンが宣言したウクライナ領内4地域の併合を見て、自分たちに攻撃を仕掛けてくる前兆なのではないかと危惧している。
この懸念はカザフスタンに特に当てはまる。
面積が中央アジアで最も広い同国の総人口1900万人のうちほぼ300万人がロシア系民族で、その大部分が国境を接する北部に住んでいるからだ。
プーチンはウクライナの領土の一部併合を発表したとき、ロシア国外に住む数百万のロシア語話者が「昔からの本当の故郷に帰還する」決意でいるなどと不気味に語った。
またその8年前には、カザフという独立国家の正統性に疑問を投げかけ、「より大きなロシアの世界にとどまる」方がカザフの利益になると示唆していた。
これはロシアの超ナショナリストの間で重要なテーマになっており、2年前にはある活動家が「北カザフスタンはロシア領だ」と書いた横断幕をモスクワの在ロシア・カザフスタン大使館に掲げたこともあった。
ロシアの力の衰え
他方では、西側から強力な支援を得ているウクライナとの戦争にロシアが苦戦しているせいで、中央アジアの安定を支えるロシアの力も衰えたように見える。
この変化は急激だった。
プーチンはウクライナ侵攻のわずか1カ月前に、ロシア主導の軍事ブロック「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊をカザフスタンに送り込み、クレムリンの権限を見せつけていた。
これはカザフスタン大統領のカシムジョマルト・トカエフが暴動鎮圧のために行った出動要請に基づく措置で、暴動では200人を超える死者が出た。
ロシアがウクライナを攻撃したことを考えると、トカエフが同様な要請を再度行うことはもうないだろう。
だが、キルギスとタジキスタンとの間で9月に武力衝突が起きたときには、ロシア政府にもCSTOにも介入する意思または力がなかった。
これに苛立ったキルギスの指導部は、10月に予定されていたCSTOの軍事演習への参加を取りやめた。
タジキスタン大統領のエモマリ・ラフモンも同じくらい不満を覚えた。
ロシアと中央アジア諸国との首脳会議では、プーチンが中央アジア諸国をまだ「旧ソ連の一部」であるかのように扱っているとして言葉で長時間攻撃した。
またウズベキスタンは12月、ロシアやカザフスタンと一緒に「天然ガス連合」を結成しようというロシア政府の提案を辞退している。
自国の独立と安定が一番
中央アジアの指導者たちはロシア政府の反感を買いすぎないように腐心している。
カザフスタン、キルギス、タジキスタンはウクライナ侵攻を公の場で非難するどころか、3月に行われた国連での非難決議の投票を棄権した。
トルクメニスタンとウズベキスタンに至っては、意思を示す投票さえしなかった。
5カ国の目的はどこかのブロックに吸い込まれるのを避けることであり、独立と安定を維持することなのだ。
帝政ロシアによる中央アジア支配があっという間に進んだ1860年代のこと。
欧州の列強に配られた覚え書きの中で、ロシアの外務大臣だったアレクサンドル・ゴルチャコフ公爵は「最大の困難はやめ方を知ることにある」と述べていた。
今日におけるロシア最大の問題は、1世紀以上享受してきた中央アジアへの影響力を維持する方法なのかもしれない。
●BBCドキュメンタリーから学ぶ耐えるロシア民の本質 1/5
ウクライナ侵攻はロシアの劣勢が続き、早晩、プーチン大統領は譲歩せざるを得ない。兵器、食料不足でロシア兵の厭戦気分が高まり、反プーチン色が強まり、政権は追い込まれる――。そんな希望的観測をよく耳にするが、「いや、ロシア兵もロシア人も最後まで耐える」とジャーナリスト、石郷岡建さんはみる。20代のころ、天文学でモスクワ大学に留学しロシア女性と結婚し、のちに離婚、1990年から2002年にかけ計2度、毎日新聞の特派員としてモスクワに滞在した人だ。
思い入れが強い気もするが、言い分はこうだ。第2次世界大戦で旧ソ連の戦死者は他を圧倒している。軍人が1450万人、民間人が700万人に上り、日本はそれぞれ230万と80万人なので、異常な多さだ。身内の悲劇は孫、ひ孫にわたって伝えられ、戦死など人生の不条理に慣れた国民という面がある。
「ロシアはドイツと3都市で壮絶な戦いをして、レニングラードだけで100万人以上死んでいます。米軍の第2次世界大戦死者数を上回っているんです」。ちなみに米軍の総死者数は29万人超だ。
「だから、ロシア人は日本軍を褒める。爆弾抱えて戦車に突っ込むとか。うちもそうだったって」。そんな気質から、今回の戦争も「プーチンが交代しない限り最後までやる」と石郷岡さんはみている。
最後とは。「場合によっては核を使う。使う気持ちはある。ウクライナにではない。米国に。ロシア人のほとんどはウクライナとは戦争をしたくない。だけど、ウクライナを使っている米国には降伏しない。もし、負けたらロシアは崩壊します」
こうした考えの根にあるのは、1991年12月のソ連崩壊がまだ終わっていないという見方だ。ソ連という社会主義国家体制は現在も崩壊途上にあり、ロシアもウクライナも歴史上一度も近代国家になり切らないまま現在に至っている。そんな前近代の地ではどんなことでも起こり得ると言うのだ。「崩壊により国内や周辺国で戦争、内乱が起き、膨大な数の人が死ぬことになる。ロシア人は本能的にそれがわかっている」
絶望的な見方だ。筆者のように91年に1カ月ほどカムチャツカ半島に行っただけの部外者には、この是非を判断しようがない。ウクライナ侵攻も、核をもつ大国のおかしな独裁者が弱小国をいじめているだけじゃないかと短絡しがちだが、いくら情報、知識を集めても、その地を知らない者には真相は見えてこない。
旧ソ連、ロシアを知るには今という点だけを見てもわからない。歴史という線でみる必要がある。そこで見たのが、英国のアダム・カーティス監督によるBBCドキュメンタリー、「ロシア1985–1999 トラウマゾーン」だ。
まざまざと見せるロシア民の実際
BBCのモスクワ特派員が撮った膨大な未公開映像を時系列に編集した、計7部、7時間におよぶ作品にはナレーションも音楽もない。つまり見る者を下手に誘導しない。カーティス監督は英ガーディアン紙の取材に、従来の手法を使わなかったのは、「あまりに強烈な映像に無意味に介入せず、見る人にただ出来事を体験してほしかったからだ」と語っている。
映像は2022年8月に死去したゴルバチョフ大統領(当時、以下同)による社会主義体制のペレストロイカ(立て直し)の無力さから始まる。1991年夏のヤナーエフ副大統領らによるクーデターを機に崩れていくソ連の体制、エリツィン大統領による市場経済の急激な導入でオリガルヒと呼ばれた新興財閥、マフィアが台頭する。国の富を懐に入れ外に流し、国内産業を切り崩した魑魅魍魎に押されるように現れたプーチン大統領の登場で幕を閉じる。
だが、これはあくまでも政治の流れであり、映像の妙味は特派員の目で民を間近に捉えているところだ。
宇宙船ミールの乗組員からチェチェンのゲリラ兵、息子を軍から逃亡させる母、物乞いをする少女まで。テレビ中継中に記者を殴打する成り金政治家から、機動隊に素手で立ち向かう中年男、英首相への贈呈を必死に拒むトルクメニスタンの名馬、ロールスロイスのショールームをのぞく男、高級ファッション誌ヴォーグのきらびやかな編集長、売血で飢えをしのぐ人々まで、崩れゆくソ連の構成員をつぶさに、執拗に映している。
意外なのは80年代後半のソ連の人々のファッションや佇まいが当時の日本とよく似ているところだ。また、登場したときはスマートで、宇宙人のように輝いて見えるエリツィン大統領が、権力を握り、オリガルヒと繋がるにつれ、みるみる太り、人間性を崩していくさまも痛々しい。クーデター直後、記者会見するヤナーエフ副大統領の手の震えなど、映像は決定的な細部を記録している。
あらゆる場面で現れる「最後まで耐えるロシア人」
85年から99年。わずか14年という歴史の急変が描くのは、ソ連崩壊前にはなかった貧富の格差のみならず、広大なユーラシアの隅々にまで及んだ大いなる哀しみだ。国家、あるいは国家という幻想らしきものが崩れることで、一人ひとりにこれほどの哀しみをもたらすのか。
大統領も農民も、富裕層も貧しい兵士も、同等に分刻みで映し出される。考えてみれば、当たり前のことで、地位は違っても、一人ひとりはそれぞれの人生を与えられた同じ時間の中で生きている。
哀しみと同時にそこにあるのは、国に期待もしない、半ば諦めている人々の強さだ。中国の王兵監督のドキュメンタリー映画「鉄西区」(2003年)に現れる、街ごと消える製鉄所の工員たちに通じる強さを筆者は感じた。それは、社会主義の長い実験の末、秩序ひとつない混沌の世界に放り出されたせいなのか。
石郷岡氏の言う「最後まで耐えるロシア人」の素顔が作品のあらゆる場面に現れている気がする。統制下とはいえ、なぜウクライナ侵略が10カ月続いても、7割の国民が「プーチンの戦争」を支持するのか。前線で息子を失った母たちはなぜ、不満を吐露しないのか。そんな謎を探る上で、貴重な映像と言える。
●暖かい欧州の気候、プーチンが負けた…バルブ締めたが天然ガス価格急落 1/5
欧州向け天然ガスパイプラインのバルブを握りしめ寒い冬だけを待ったロシアのプーチン大統領が敗着に陥った。欧州で冬季の異常高温現象が発生してガス需要が減り、当初懸念された欧州のエネルギー大乱が起きていないためだ。
ブルームバーグは3日、こうしたニュースを伝えながら「欧州の予想外の暖冬は気候危機が生んだ悪材料だが、本当の敗者はプーチン大統領」と報じた。最近ウクライナ軍の奇襲攻撃でロシア軍の大規模兵力被害が相次ぐ渦中に天候さえもプーチン氏の味方にならない局面ということだ。
この冬の世界は異常気候に陥っている。北米では大雪と寒波で死亡者が続出したのに対し、欧州では新年初日にポーランドやオランダなど少なくとも8カ国で1月としては過去最高の気温を記録し、春のような陽気を見せた。北米大陸の場合、地球温暖化により冷たい北極気流が下がってきて異例の厳しい寒さを引き起こし、欧州の場合、アフリカから暖気団が北上して異常高温を引き起こしたというのが英国気象庁の分析だ。
実際にリヒテンシュタインの首都ファドゥーツでは1日に気温が20度まで上がり、チェコのヤボルニクは19.6度、ポーランドのヨドウォブニクは19度を記録した。海抜2000メートルのアルプス山脈でも雪が溶けスイスやフランスなどのスキー場は開店休業状態だ。ブルームバーグは専門家の話として「この年末年始は欧州北西部地域の気温が長期平均値より8.5度高いものと予測される」と伝えた。
温和な冬の天候で欧州各国の暖房需要が減り、プーチンのエネルギー武器化戦略も力が抜けた様相だ。昨年末から下落傾向を継続していた天然ガス価格はむしろロシアのウクライナ侵攻前の水準よりも落ちた状況だ。欧州の代表的な天然ガス価格指標であるオランダTTFハブの2月物先物価格は、2日基準で1メガワット時当たり約76ユーロだった。昨年2月24日にロシアがウクライナを侵攻する直前の約88ユーロを大きく下回る。
これに先立ちロシアが西側の経済制裁に対抗するため欧州向けガスパイプライン供給を本格的に中断した昨年8月とは異なる状況だ。当時は天然ガス価格が1メガワット時当たり約350ユーロまで高騰した。今回の戦争前まで欧州諸国は天然ガス消費量の40%程度をロシア産に依存していた。
プーチン大統領の戦略を崩したのは異常気候だけでない。ロシアの資源武器化が長期化することに備え欧州の主要国が中東やアフリカなどで液化天然ガス(LNG)確保に死活をかけたためだ。これと関連しニューヨーク・タイムズは3日、「欧州諸国がロシア産天然ガスに代わる新たな供給源を確保して各国のガス備蓄量が80%以上を維持し、天然ガス市場は当分下落傾向を継続するだろう」と伝えた。
さらにウクライナの戦場でロシア軍も苦戦を免れない様相だ。特に1日夜のウクライナ軍によるロシア軍臨時訓練所爆撃はロシア側に大きな衝撃を与えた。ウクライナ軍の多連装ロケットである高速機動砲兵ロケットシステムのハイマース4発がウクライナ東部ドネツク州マキイウカの訓練所を攻撃し多くの死傷者が発生した。
当初ロシア軍が明らかにした死亡者は63人だったが、3日現在89人に増えた。ウクライナ軍は実際の死亡者は数百人に達すると主張した。今回死亡したロシア新兵らは昨年9月にプーチン氏が発動した部分動員令で徴集された兵士だったとBBCは伝えた。
他の激戦地でもロシア軍の被害が大きくなっている。ウクライナ軍総参謀部は「先月31日に南部ヘルソンのチュラキウカ地域でもロシア軍500人が死亡したり負傷した」とフェイスブックを通じて主張した。ウクライナ軍は戦争勃発から今月2日までで約10万7440人のロシア軍将兵が戦死したと集計した。
●「遺体袋山積み」…プーチンの傭兵、バフムトで大規模戦死 1/5
ロシアのプーチン大統領の最側近である民間軍事企業のワグネルグループがウクライナ戦争の最大激戦地であるバフムトで大きな損失を出しているものと把握された。英日刊紙ガーディアンは3日、ワグネルグループ創設者のエフゲニー・プリゴジン氏がウクライナ東部戦線を視察する姿を収めた映像を入手してこのように報道した。
公開された映像にはプリゴジン氏がある建物の地下室を視察する様子が含まれている。床のあちこちには戦闘で死亡したワグネルグループの傭兵の遺体収納袋が置かれており、別の一方には足の踏み場もないほど積み上げられた遺体収納袋も見られる。プリゴジン氏が「戦闘で死亡した戦士らは棺に収められて家に帰るだろう」と話す姿とともに、兵士らが遺体収納袋を運ぶ場面も収められた。ガーディアンが公開した別の映像ではプリゴジン氏が「バフムトではすべての家が要塞化されている」と話す。「1棟過ぎれば防衛線、1棟過ぎればまた別の防衛線が出てくる」ということだ。この戦線で彼らが大きな困難に陥っている傍証だと同紙は伝えた。
ウクライナ東部ドネツク州に位置するバハムトは最近戦争の最大の激戦地に浮かび上がったところだ。
ドネツク州の半分を占領し自国領だと主張するロシアは昨年11月に南部ヘルソンから退いてからはこの地域を死守するために全力を挙げている。そのためには主要都市へ向かう要衝地であるバフムトの掌握が重要だ。プーチン大統領はワグネルグループをこの地域の核心戦力として投じ、新たに補充する兵力も次々と送っている。そのため戦闘が塹壕戦に広がり、ロシアとウクライナの双方で1日数百人の死傷者が続出しているとガーディアンは伝えた。
それでもロシアのバフムト戦闘勝利は容易ではなさそうだとの観測が出ている。ニューズウィークは3日、「ウクライナもやはりバフムトで兵力を増強している。ロシアが突破口を見いだす可能性はますます低くなっている」と報道した。
残忍なことで悪名高いワグネルグループはプーチンが手足のように働かせる傭兵集団だ。戦争が激しくなりプリゴジン氏が直接ロシアの刑務所を訪問して釈放を見返りに囚人を募集する場面が公開されたりもした。米国情報機関は先月ワグネルグループが北朝鮮から兵器を購入しウクライナ戦争で使っていると発表している。 
●ウクライナで一方的停戦を トルコ大統領、プーチン氏に要請 1/5
トルコのエルドアン大統領は5日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、昨年2月から続くロシアのウクライナ侵攻について、一方的に停戦を宣言するよう要請した。
トルコ大統領府によると、エルドアン氏はトルコの仲介で昨夏に成立したウクライナ穀物輸出合意などを「前向きな成果」と評価。ロシアによる「一方的な停戦の宣言と公平な解決見通し(の提示)」が、今後ウクライナ側との和平を進める上で有益という考えを示した。
ロシア大統領府によれば、プーチン氏は、西側諸国が兵器・作戦情報の提供を通じて「破壊的な役割」をしていると批判。「ウクライナがロシアの要求に従い、新しい領土(占領地)の現実を受け入れるならば、ロシアは真剣な対話にオープンだ」と主張した。
●ウクライナ情報機関トップ「プーチン氏はがん」 1/5
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領が、がんを患っていると、ウクライナ国防省の情報機関トップが述べました。
ウクライナ国防省のブダノフ情報局長は4日までのアメリカメディアのインタビューで、ロシアに対する大規模な反撃を春に計画していると述べ、「3月に戦闘が最も激しくなる」との見方を示しました。
また、プーチン大統領に近い人物から得た情報だとして「がんを患っている」と述べ、「死期は近いが、その前に我々が勝利する」と話しました。
こうした中、フランスがウクライナに偵察戦闘車の供与を決め、アメリカのバイデン大統領も歩兵戦闘車の供与を検討していることを明らかにしました。欧米製の戦闘車両がウクライナに送られるのは初めてだということです。
●「プーチン大統領は“がん”患い死期が近い」ウクライナ側が主張 情報戦か 1/5
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ウクライナ側が「プーチン大統領は“がん”を患い、死期が近い」との健康不安説を主張しています。専門家はウクライナ側が仕掛けた情報戦の可能性に触れ、「プーチン大統領は一番触れてほしくないところを敵に触れられた」と指摘しています。
先月31日に公開された映像には、ロシア南部を訪れたプーチン大統領が、大勢の兵士たちとともにグラスを手にする様子が映っていました。兵士たちと「万歳! 万歳! 万歳!」と唱えると、「明けましておめでとう」と乾杯の音頭をとっていました。
大統領は国民向けの新年のテレビ演説で「あらゆる困難を乗り越えて我が国が偉大で独立していられるよう、家族のために、唯一の愛する祖国の未来のために、前進して勝利するのだ」と呼びかけ、首都キーウをはじめとしたウクライナ侵攻をめぐり、一歩も譲らない姿勢を強い口調で改めて示していました。
こうした中、ウクライナ国防省の情報機関トップ、ブダノフ情報局長はアメリカメディアのインタビューで、“ロシアに対する大規模な反撃を春に計画している”とし、「3月に戦闘が最も激しくなる」との見方を示しました。
さらに、プーチン大統領について気になる情報が飛び出しました。ブダノフ氏は、“プーチン大統領に近い人物から得た情報”だとして、「彼(プーチン大統領)は長い間、病気だ。“がん”だと思う。死期は近いが、その前に我々が勝利する」と述べたのです。
“がんを患い死期が近い”とウクライナ側が主張しだした、プーチン大統領の健康不安説。
プーチン大統領はかつて、ことあるごとに屈強なイメージをアピールしてきました。時には、柔道で背負い投げを披露。2009年には、野外の水場でバタフライをしたり、上半身裸で乗馬したりする様子を公開しました。2017年には、またしても上半身裸で、ルアーで魚を釣り上げる様子が。ただ、そんなプーチン大統領も現在、70歳になっています。
“がんを患い死期が近い”との情報は本当なのでしょうか。ロシア政治に詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授は、“ウクライナ側が仕掛けた情報戦の可能性”を指摘します。
慶応義塾大学 廣瀬陽子教授「プーチン大統領の“病気説”というのは、去年の年末からかなりいろいろな海外メディアで出ているんですよ。そういう見方をすれば、むしろ、それにウクライナが乗っかったとも言えるわけで。デンマークの諜報(ちょうほう)機関は『がんであるけれども、末期ではない』とも言っているんです。(今回は)若干、もしかすると情報戦の要素もあると」
ただ、“がんを患っている”といった健康不安説が報じられることで、ウクライナ侵攻への影響が出る可能性もあるといいます。
慶応義塾大学 廣瀬陽子教授「戦闘員の戦意に悪影響を及ぼしたり、国民にとっても“プーチン大統領がこの先、長くないかもしれない”となると、いろいろな疑念・疑問を持ってくることはあると思うんです」
――一番ダメージを受けるのは、やはりロシア側?
慶応義塾大学 廣瀬陽子教授「ロシアというより、プーチン大統領だと思うんですよね。プーチン大統領にとっては、“一番触れてほしくないところを敵に触れられた”というところで、非常に嫌な展開だと思われます」
ロシア軍は4日、核弾頭が搭載可能な極超音速ミサイル「ツィルコン」を備えた最新鋭のフリゲート艦を実戦配備しました。今後、大西洋や地中海などに向かい、「ツィルコン」の発射訓練も行うといいます。ロシアとしては、核戦力をちらつかせることで、ウクライナ支援を続ける欧米などをけん制する狙いがあるとみられます。
●プーチン──支持してもロシアのために戦いたくないベラルーシ 1/5
森林地帯に出現した道路、ウクライナ北部と接する国境付近に向けてゆっくりと輸送される軍事装備品──ベラルーシ領内を捉えた最近の衛星画像では、そんな様子が確認できる。多くの専門家に言わせれば、ベラルーシがロシアのウクライナ侵攻の新たな拠点になる可能性を示す兆候だ。
新年早々にも、今度は北の方角から攻撃されるのではないか。国境付近への軍需品の到着は、先頃ベラルーシ軍が実施した「対テロ」演習や戦闘態勢強化などを目的とする臨時検査と併せて、ウクライナ政府の懸念を呼んでいる。
欧州最後の独裁国家と称されるベラルーシはこれまで、ウクライナ侵攻とは軍事的におおむね距離を置いてきた。だが、それも近々変化しそうな兆しが大きくなっている。
ベラルーシでは対ロシア国境から、ポーランドとの国境に近い南西部の都市ブレストへ兵士・軍需品を輸送する列車の運行頻度が増加。ロシアのインタファックス通信によれば、駐留ロシア軍の戦術演習も予定されている。
ウクライナへの軍の展開は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領にとって危険な賭けになるだろう。ベラルーシ軍特殊作戦部隊の元中佐で、欧州の他の国に亡命したアルツョーム(匿名希望)は筆者らにそう語った。
「ルカシェンコはウクライナ派兵の回避に全力を尽くしている。権力を握っていられるのは、軍や治安当局の(支持の)おかげだと自分でも分かっている。彼らがウクライナで死傷したら、身の破滅につながりかねない。ポーランドがベラルーシ攻撃を計画中だから、国境沿いに軍隊を配置する必要があると主張しているが、ルカシェンコは(ロシアのウラジーミル・)プーチン(大統領)の言いなりだ」
ルカシェンコはウクライナ派兵に消極的だとの見方に同意する声は圧倒的に多い。6選を決めた2020年大統領選後の反政府デモとその弾圧を受けて、国内情勢が不安定化しているためだ。
「複数の調査が示すように、軍のウクライナ派遣には大部分の人が反対している。正当化するのは政治的に難しい」と、ベラルーシ出身の独立系ジャーナリスト、ハンナ・リウバコワは指摘する。
「ベラルーシ軍を構成するのは、社会的地位が低く、戦う動機を持たない徴集兵の若年男性だ。彼らが死体で戻ってくることになれば、抗議デモに火が付く可能性がある」
戦いたくない兵士たち
国境地帯に配置中の兵員の推定数には、大きな幅がある。とはいえロシア軍の増援部隊を含めて、計3万人以上の展開に備えていると、ウクライナ当局者らは言う。
リウバコワの話では、ベラルーシ軍兵士はその一部を占めるにすぎない。「ウクライナ侵攻当初、戦闘準備が整っていたベラルーシ軍大隊の兵員総数は1万人弱。明らかに、ウクライナに打撃を与えるのに十分な規模ではないが、彼らを失えば、ルカシェンコにとって問題になるだろう」
ベラルーシの運輸労働者らが、メッセージアプリ「テレグラム」に作成したチャンネルでは、対ポーランド国境へ向かう兵士・軍事装備の動きを追うことができる。人気が高いあるチャンネルによれば、12月中旬のある日には、対ロシア国境から約60キロ離れた北東部の都市ビチェプスクからブレストに、軍需品と共に兵士計310人が送られた。
複数の衛星画像では、別の国境地帯の森林に新設された道路を移動する軍用車両が確認できる。ベラルーシ軍大隊にロシア軍兵士2万人以上が合流して新たな戦線を張る可能性があると、ウクライナ側は懸念している。
一方で、ウクライナ軍の下で戦うベラルーシ義勇兵集団、カストゥーシュ・カリノーウスキ連隊のバジム・カバンチュク副司令官は、ベラルーシの対ウクライナ参戦は間近とみる。
「ベラルーシ軍の8割は、この戦争を戦いたくないと思っている。ウクライナに派遣されたら、軍は崩壊する。それが分かっているから、ルカシェンコは(派兵を)避けようとしているが、事態がエスカレートして制御不能になり、総動員令発令や参戦に発展するはずだ」
しかし、大量の地雷が仕掛けられた国境地帯を、多数の死傷者を出さずに越えるのは難しい。ベラルーシでの軍事的増強は、新たな戦線をちらつかせてウクライナ軍を攪乱するための情報作戦だと主張する向きもある。
ウクライナへの即時攻撃は、あり得ない展開ではないものの可能性が低いとリウバコワは言う。「これはロシアの情報作戦だと考えている。ベラルーシの現体制は使い勝手のいい仲間として、ロシアに協力している」
「即時攻撃に踏み切るだけの兵力が整っていない。だが22年2月(のウクライナ侵攻前)には、多くの人が判断を間違えた。プーチンにとって(ウクライナの首都)キーウ(キエフ)掌握は軍事的観点から見て最も論理的であり、ベラルーシを経由するのがキーウへの最短ルートだ」
英国防省は22年11月、ベラルーシの首都ミンスク南郊にあるマチュリシ飛行場に、ロシアの迎撃機「ミグ31」2機が駐機している可能性があるとの情報報告を発信した。
マチュリシでは、ミグ31に搭載される兵器の最高峰で、核搭載可能な極超音速ミサイル「キンジャール」のものとみられる容器の目撃報告も複数登場した。英国防省は、ウクライナ戦争へのベラルーシの関与拡大を告げる情報作戦の一環だと判断している。
いずれにしても、ベラルーシが攻撃に出たとして、確実な「敗者」になるのはルカシェンコその人だ。ウクライナ派兵を回避してきたおかげで国内で得ているある程度の支持は、前線から「貨物200便(戦死者運送を意味する軍用語)」が到着する事態になれば、あっという間に逆転しかねない。
数少ない高位の亡命ベラルーシ人であるアルツョームにとって、対ウクライナ参戦が「欧州最後の独裁者」に混乱をもたらす可能性は明らかだ。ベラルーシ軍内部ではロシア支持が厚いが、プーチンのために戦う意欲は欠けている。
「(ロシアの戦争犯罪は)心理戦の一環だと、ベラルーシ兵は聞かされている。ルカシェンコの言葉を信じる者もいる」と、アルツョームは話す。「多くの兵士はロシアを支持しているが、誰もロシアのために戦いたいと思っていない。これは自分たちの戦争ではないと知っているからだ」
●ウクライナ支援の弱体化、プーチン氏に「侵攻継続を促す」 独外相 1/5
ドイツのベアボック外相は4日、西側諸国に対し、ウクライナがロシアの侵攻に対抗できるよう兵器の供与を継続するよう呼び掛けた。ベアボック氏は、ウクライナ政府への支援が弱まることは、ロシアのプーチン大統領に対して侵攻の継続を促すことにつながるとの見方を示した。
ベアボック氏はポルトガル首都リスボンで行われた記者会見で、ウクライナへの支援が弱まる兆候はすべて、プーチン氏に対して侵攻の継続を促すことにつながると述べた。
ベアボック氏は「我々はこの戦争をウクライナの勝利で終わらせたいと考えているため、ウクライナの市民と民間のインフラを守るためには、どうすればより良い支援が行えるのか繰り返し自問自答しなければならない」と述べた。
ベアボック氏は、ウクライナに対して防空システムの供与を継続することは必須だと強調した。
ベアボック氏は、こうした供与は復興に向けた継続的な資金援助や、エネルギーや暖房、水の供給を再開するための資材の供給とあわせて行うことになると言及。これ以上の破壊を食い止めながら実施するとの見通しを示した。

 

●ロシア “プーチン大統領が6日から36時間停戦を命じた”と発表  1/6
ロシア大統領府は、プーチン大統領がロシア正教のクリスマスにあわせて一時、停戦するよう国防相に命じたと発表しました。ウクライナに対して、この期間は「停戦を宣言するよう求める」としていますが、ウクライナ側はロシアが占領地を去ることが条件だと強く反発しています。
ロシア大統領府は5日、プーチン大統領がロシア正教のクリスマスにあたる今月7日にあわせて、6日正午から8日午前0時まで(日本時間の6日午後6時から8日午前6時まで)の36時間は停戦するようショイグ国防相に命じたと発表しました。
そのうえで「ウクライナ側に停戦を宣言し、信者たちが礼拝に参列できるようにすることを求める」としています。
ゼレンスキー大統領 “一時停戦は態勢立て直しの口実”
これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は5日夜、新たに公開した動画で「ロシアはわれわれのドンバス地域での反転攻勢を少しでも食い止め、装備や兵士を輸送するためにクリスマスを利用したいのだ」と述べ、ロシア側の主張する一時的な停戦は態勢立て直しの口実にすぎないとの見方を示しました。
ウクライナ大統領府顧問「占領地から去って初めて一時停戦」
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、SNSで「ロシアが占領地から去って初めて一時停戦ができる。偽善は自身の中にとどめておくべきだ」と述べ、プーチン大統領を批判しました。
また、ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官はウクライナ南部ヘルソン州で住宅がロシア軍の砲撃を受けて12歳の男の子を含む家族3人が死亡したことをSNSで明らかにしました。
砲撃はロシア正教会の総主教が一時、停戦を呼びかけた直後だったとしてティモシェンコ副長官は「家族は正教会のクリスマスを祝う準備をしていたのに、恥知らずのロシアの一撃で命を落とした」と書き込み、強く非難しました。
ウクライナ市民「ロシアは信用できない」
ウクライナの首都キーウの市民からは、冷ややかな声が上がっています。
ロイター通信の取材に対し、52歳の女性は「プーチン大統領が本当に停戦するとは思えない。私たちはミサイル攻撃を受けながら新年を祝った。そのときも私と娘はどこにも行けず、平和だったのは1時間か2時間だけだった」と話し、ロシアを非難しました。
また、市民の男性は「これは悪い冗談だ。私たちの国の歴史上、ロシアを信じていい結果になったことがない。彼らは信用できず、用心しないといけない」と話し、不信感をあらわにしていました。
さらに、別の33歳の男性も「ロシアは口では停戦と言えるが、実際にはイラン製の無人機などを使って攻撃を続けるのだろう」と話していました。
●プーチン大統領が36時間の停戦命令、ウクライナにも宣言求める… 1/6
ロシア大統領府の発表によると、プーチン大統領は5日、侵略を続けるウクライナ東部・南部の前線で6日正午(日本時間6日午後6時)から36時間、停戦に入るようセルゲイ・ショイグ国防相に指示した。プーチン氏がウクライナ侵略で停戦を命じるのは初めて。
ロシア正教会では、旧暦のユリウス暦で12月25日にあたる1月7日にクリスマスを祝う。露大統領府は、停戦はこれに合わせたものだとし、ロシアが一方的に併合したウクライナ東部・南部に多く住む正教徒が礼拝する機会を与えるためと説明した。プーチン氏は、ウクライナ側にも停戦を宣言するよう求めた。
タス通信などによると、ロシア正教会トップのキリル総主教は5日、クリスマスに合わせた休戦を呼びかけていた。
●プーチン氏、極超音速ミサイル搭載の軍艦を派遣 ロシア国営メディア 1/6
ロシアのプーチン大統領が、同国で最も近代的な軍艦の1隻を長距離の航海に派遣したことがわかった。極超音速ミサイルを搭載したこの艦は、大西洋や地中海、インド洋を航行する予定。ロシアの国営メディアが4日に報じた。
当該のフリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」は、ロシア北部の港湾を4日に出発した。港湾の地名は明かされていない。タス通信の報道によるとプーチン氏はこれに先駆け、同艦の艦長やショイグ国防相とビデオ通話で協議していた。
プーチン氏は同艦が極超音速ミサイルシステム「ツィルコン」を搭載していると強調。ツィルコンは音速の5倍の速さで飛行するため、探知や迎撃がより困難になる。
ロシアは2021年後半にツィルコンの発射試験を行った。ロシア北西部の白海でアドミラル・ゴルシコフから発射し、当時の報道によれば400キロ先の標的に命中させたという。
戦闘も想定される状況でツィルコンが配備されるのは今回の任務が初めて。
ロシアが10カ月目に突入した隣国ウクライナとの戦争にツィルコンを投入するのかどうかは不明。タス通信の報道でもこの戦争に関する具体的な言及はない。
ツィルコンがロシアの主張通りに機能するとすれば、恐ろしい兵器となる。ただアドミラル・ゴルシコフに搭載したツィルコンをウクライナ国内の標的に対して使用するのは、兵站(へいたん)上の困難が伴う。
ロシアから見たツィルコンの最適な射程は、ウクライナの南に位置する黒海から発射した場合となるが、アドミラル・ゴルシコフが黒海へ到達するにはトルコが管理するボスポラス海峡を通過しなくてはならない。トルコ政府は戦争の初期から、外国の艦船によるそうした通行を許可しない方針を示している。
アドミラル・ゴルシコフは、理論的には地中海の北の海域からでもツィルコンを発射できるものの、その場合ミサイルはウクライナに到達するまでに北大西洋条約機構(NATO)に加盟する複数の国々の上空を飛行することになる。それはロシアによる侵攻の著しい拡大とみなされる可能性がある。
米海軍の退役大佐でアナリストのカール・シュスター氏は、アドミラル・ゴルシコフの配備について、プーチン氏にとっては軍事面と同様に政治的な声明でもあると指摘。「プーチン氏はロシアが依然として世界的なプレーヤーであることを誇示しようとしている。自身によるウクライナへの侵攻で代償が生じ、各国から激しい非難を浴びているにもかかわらずだ」と述べた。 

 

●ゼレンスキー氏「プーチン政権は戦争継続のため休息」…「36時間停戦」入り  1/7
ロシア国防省は6日、プーチン大統領の指示を受け、ウクライナ東・南部の前線地域で同日正午(日本時間6日午後6時)から、ロシア正教会のクリスマスに合わせた36時間の停戦に入ったと発表した。プーチン氏はウクライナ側にも応じるよう呼びかけたが、ウクライナ側は露軍撤退を求めるなど反発している。停戦の実現は困難とみられる。
ロシア正教会は旧暦を採用し、7日にクリスマスを迎える。プーチン氏は5日、東・南部の戦闘地域に正教徒が多く住んでいるとして、礼拝など祝祭行事に参加する機会を与えるよう、ウクライナ側に求めた。
ゼレンスキー大統領=ロイターゼレンスキー大統領=ロイター
一方、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日夜のビデオ演説で「プーチン政権は戦争を継続するため、休息を利用する」と批判し、改めてウクライナからの露軍の撤退を求めた。ミハイロ・ポドリャク大統領府顧問もSNSで「ロシアが占領地域を去って初めて一時的な停戦ができる」と否定的な見方を示した。
露国防省は6日、露側が設定した停戦期間に入った後、東部ドネツク州とルハンスク州、南部ザポリージャ州でウクライナ軍が攻撃を行ったと主張した。
●ロシア国防省“ウクライナ側が攻撃を続けている” プーチン“停戦”指示も… 1/7
ロシア国防省は6日、プーチン大統領の指示に基づく停戦に入ったものの、ウクライナ側が攻撃を続けていると主張しています。
ロシア国防省の報道官は、プーチン大統領の指示のもと、ロシア軍が6日正午に攻撃をやめたあとも、ドネツク州などでウクライナ軍が砲撃を行っていると主張しました。
親露派指導者のプシリン氏は、ウクライナが攻撃をやめない場合、自衛のための反撃は行うとしています。
ロイター通信は、ウクライナ東部の前線でロシア軍の砲撃による爆発音を聞いたとするウクライナ兵の話を伝えていて、ロシアの一方的な停戦によって交戦がやむかどうかは不透明な情勢です。
●ロシア停戦呼びかけ、侵略正当化へ口実作りか… 1/7
ロシアのプーチン政権による停戦呼びかけには、ウクライナ側が反発することを見越し、侵略を正当化する新たな口実を作る狙いがあるとの見方が出ている。
露大統領府の発表によると、プーチン大統領は、軍や国防省への停戦指示は、ロシア正教会トップのキリル総主教による訴えを「考慮した」と説明した。キリル総主教はプーチン氏と親しい関係で、5日に停戦を呼びかけていた。
ただ、バイデン米大統領は5日、「彼(プーチン氏)は、(12月)25日や元日に病院や保育園、教会を爆撃する準備があった」と記者団に語り、一方的な停戦表明であるとの認識を示した。「息継ぎをしようとしているのだろう」と、時間稼ぎであるとの見方も示した。
米政策研究機関「戦争研究所」も5日、ロシアが直前に呼びかけた停戦は「(ウクライナ側に準備の時間を与えない)突然の発表で、戦闘が続く可能性が高い」と懐疑的な見解を示した。ロシアが、ウクライナ側が応じなければこれを非難し、「迫害されたロシア人の保護」と主張する侵略の目的への支持につなげようとしているとも分析した。
ウクライナのオレクシー・ダニロフ国家安全保障国防会議書記も5日、自身のSNSに「停戦の発表は偽りだ。我々はあなた方にかみつくだろう」と投稿した。6日深夜から7日未明にかけて露軍に対する攻撃を行う可能性も示唆した。
一方で、メドベージェフ前露大統領は6日、露側が表明した停戦開始に先立ち、「ウクライナの指導層は(停戦の呼びかけを)拒否した。感謝の念もない」とSNSに投稿した。
トルコのタイップ・エルドアン大統領は5日、プーチン氏、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と相次いで電話会談し、停戦協議などを呼びかけた。しかし、露大統領府によると、プーチン氏はロシアによる東・南部4州の併合が条件と再び主張したという。領土の完全奪還を目指すウクライナ側との停戦協議が再開する見通しも立っていない。
●「廃虚にされたウクライナ」の教訓とは…全国紙の元日社説読み比べ 1/7
「新聞の社説を読むほど暇ではない」。そう断じるのはもったいない。「保守的な読売新聞・産経新聞」「リベラルの朝日新聞・毎日新聞」「経済人に愛される日本経済新聞」とバラエティーに富んだ各社の新聞社説は、読み比べることで、ニュースへの複合的視点を与えてくれる。私たちに一番役に立つ社説はどこの社のものか。徹底的に解読する。
日経・読売・朝日・産経・毎日 元日の社説を読み比べると…
「今年こそ、良い年にしたい」
日本経済新聞の元日の社説は、2年連続で同じ文言から始まるというユニークな書き出しだ。昨年は、新型コロナウイルスの猛威が衰えを見せない中で、「経済もコロナ禍前の水準には戻らず、いまだに非常時のもとで生活していると感じている人」に寄り添うような形であった。
今年の書き出しは、以下の通りだった。
「今年こそ良い年にしたい。そんな思いで多くの人が新たな年を迎えたことだろう。ちょうど1年前の2022年元日付の社説はこんな書き出しで始まった。そうした願いもむなしく、22年は混迷の1年として歴史に刻まれることになるだろう」
そして、ロシアによるウクライナ侵攻によってもたらされた、エネルギー価格の高騰で、40年ぶりのインフレを嘆いていた。
2023年1月1日、日経新聞のみならず、他の新聞各社(読売新聞・朝日新聞・産経新聞・毎日新聞)の社説も、ウクライナ戦争への議論からスタートした。
いちばん内容が無かった社説から紹介していこう。ワーストは、毎日新聞。『探る’23 危機下の民主主義 再生へ市民の力集めたい』と題する1700文字余りの論稿だ。
「核大国の独裁者が隣国を侵略し、国際秩序を揺るがす中、新年を迎えた」として、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への批判、中国の習近平体制への警戒感に続く。さらに、「民主主義と専制主義の戦い」を標榜(ひょうぼう)する米国のジョー・バイデン大統領には「体制間対立を言い募るだけでは、民主主義国の土台を侵食する深刻な問題が覆い隠される」と批判。チェニジアの議会選挙は投票率が1割などと、話が何一つ深まらないままに転々とする。
そして突然、「看過できないのは、危機を口実にした議会軽視である」として、現代日本の民主主義への批判が始まった。安全保障政策の大転換、原子力発電所の新増設方針について、国会での「熟議」がなかったのだという。
たしかに、熟議ではなかったのかもしれない(というか、テレビと新聞が旧統一教会問題ばかり取り上げていたせいで注目されなかった)。ただ、毎日新聞における「熟議」とは一体どのような状態を示しているのだろう。
社説の後段に、理想的な熟議の方法が示されるのかと思ったが、「期待されるのは地球温暖化対策を生活者の視点で話し合う『気候市民会議』の広がりだ」という言及が出てくるくらいだった。「東京都武蔵野市が昨年、自治体主催としては初の会議を開催した。外国籍の住民や高校生を含む68人が食品ロス削減や節電などについて意見を交わした」と述べられている。
これを読む限りでは、議論の参加者に外国人や高校生を含んでいれば「熟議」ということなのだろうか。熟議になっていないと批判するなら、毎日新聞が考える具体的な「熟議の方法」を示すべきだ。ゆっくり考える時間が与えられたであろう元日の社説がこの調子では先が思いやられる。
朝日新聞の元日社説は読み応えがあった
その点、同じリベラルでも、朝日新聞の社説『空爆と警報の街から 戦争を止める英知いまこそ』は読み応えがあった。「黒こげのアパート群に雪が吹きつける。窓という窓は割れ、飼い主を失った犬が群れをなしてうろつく。開戦初期にロシア軍の砲火を浴びたウクライナの都市ホストメリの空港周辺は、いまも廃虚そのものだ」という書き出しからして、読者を引き込む力を持っている。
ウクライナの悲惨な状況を嘆きつつ、「国連安全保障理事会は常任理事国であるロシアの拒否権行使で、違法な侵略戦争を止める決議を、たった一本も採択できなかった」として、紛争解決手段としての国連の機能不全を指摘する。
その後、欧州の知識人が国家の暴走を止めるための仕組みを模索してきた経緯を述べつつ、次のように続く。
「戦地ウクライナに身を置くとまざまざと実感される。これだけ科学文明が発達し、国境を越えた人の往来や経済のグローバル化が進んだ21世紀の時代にあって、戦争という蛮行を止める策を、人類がなお持ち得ていないことを。一人の強権的な指導者の専横を抑制する有効な枠組みがないことを」
この言葉には、筆者も共感できた。どうやって侵略戦争を抑止するかは、中国や北朝鮮という乱暴な国の隣人である日本も、真剣にその仕組みを模索しないといけない。
読売新聞と朝日・毎日を読み比べると面白い理由
朝日新聞と同じく、国連の機能不全を嘆いていたのが、読売新聞の社説「平和な世界構築へ先頭に立て 防衛、外交、道義の力を高めよう」だ。
ただし読売新聞は、「国連の機能マヒぶりをさらけ出している」としながらも、「国際世論の高まりが、穀物輸出の封鎖、原子力発電所への攻撃などの最悪事態を部分的ながら回避させ、改善策が講じられてもいる。国際世論は無力ではないのだ」「年明けに国連安全保障理事会の議長国を務めるのは日本だ。立場にふさわしい活動が求められていることを自覚したい」として、「ちょっとは何かの役に立っているかもね」と言いたげだ。
日本が国連の機能不全を改善することを期待しているのかもしれないが、ウクライナ戦争に関してそれは無理というものだ。
面白かったのが、毎日新聞と読売新聞の論調の違いだ。毎日新聞は「話し合いで物事を決める民主主義は手間がかかる」、読売新聞は「民主主義にも弱点はある。自由な選挙を通じて多様な民意が表明され、意思決定に時間がかかる」と、同様の指摘をしている。一方、外国人や未成年も参加する多様性こそ民主主義、熟議こそ民主主義だと毎日新聞が捉えているのに対し、読売新聞は「それでも、失政があれば修正が行われる。復元力が民主主義の強みだ」としている。
「シェルター担当大臣」創設まで説いた産経新聞の元日社説
ただ、これはお互いに抽象論でしかない。抽象論を一切排し、徹底的に台湾有事・日本の危機への具体的対処を説いたのが、産経新聞だ。
産経新聞の1月1日の社説は、毎年「年のはじめに」というコラム名となり、論説委員長が執筆する。今年は、「『国民を守る日本』へ進もう」というタイトルだった。産経新聞の社説は、グローバルな視点や民主主義、思想史、歴史などの大きな話を捨てきっている。
岸田文雄首相の「東アジアは明日のウクライナかもしれない」という言葉から、昨年の安全保障政策転換の具体的内容をひもとき、懸念される中国人民解放軍による台湾侵攻、北朝鮮の核・ミサイルへの「抑止力と対処力の向上」が必要であると論じている。
果ては、シェルター担当大臣をつくり、台湾並みの地下シェルター整備をせよという。新たに大臣をつくる必要はみじんも感じないが、実用性の高い社説であった。
日経新聞の元日社説は経団連加盟企業のトップの“台本”?
最後は、冒頭で書き出しだけ紹介した日経新聞だ。日経新聞の社説を読んだ経団連加盟企業のトップが、少し時間がたつと日経社説と同じ趣旨の話をし始めることで有名だ。
今回の社説では「分断から修復(協調)へ」と主張している。しばらくすると同じことを、経団連の誰かが言い出すはずだ。
今回の日経社説は、「世界は『2つの罠(わな)』に陥りつつあるのではないか」として、「ツキディデスの罠」と「キンドルバーガーの罠」について触れていた。この指摘は「米中新冷戦」と呼ばれた18年ごろの議論で、今さら言い出すかというところではあるが、簡単に解説しておく。
ツキディデスの罠とは、新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、二国間で生じる危険な緊張の結果、戦争が不可避となる現象のことをいう。もう一つのキンドルバーガーの罠は、覇権国の不在・空白が国際秩序の混乱や戦争を招くという論だ。
説明して分かる通り、今のウクライナ戦争とは関係がない。日経社説の書き出しだけは面白かったのだが、その後は話が転々としてまとまりに欠けるものだ。「日本では米国のような極端な政治の分断はみられない」と書くぐらいなら、そんなテーマ設定を選ぶべきではない。
朝日新聞、読売新聞、産経新聞の社説から読み解けたのは、「独裁者プーチン」の武力侵略によって「廃虚にされたウクライナ」を前にした教訓だったと感じる。戦争を抑止するのは結局、「軍備か、対話か」という二択ではなく、「軍備も、対話も」ということなのではないだろうか。 
●プーチン氏の停戦宣言は「敗北への一歩」 ロシア側からも否定的な声 1/7
ロシアのプーチン大統領が一方的に宣言し、モスクワ時間の6日正午から始めた36時間の「停戦」をめぐり、米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は同日、ウクライナ侵攻に関わるロシア側の関係者らからも否定的な声が上がっているとの分析を公表した。
ISWによると、ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派が名乗る「ドネツク人民共和国」トップのプシリン氏は、SNSで停戦に言及。「敵の挑発に応戦しないという意味ではない」と述べ、反撃目的での攻撃は可能だと強調した。さもなければ、ウクライナ軍に形勢を有利にするチャンスを与えてしまうことになるとも述べた。
ISWは、プシリン氏の発言について「停戦宣言を暗に批判している」と指摘。「宣言が、ロシアの軍事指導層にあまり受け入れられなかったことの証左だ」としている。
また、ドネツク州の元親ロシア派幹部で、2014年のマレーシア航空機撃墜事件でオランダの裁判所から終身刑を言い渡されているイーゴリ・ギルキン氏も、停戦についてSNSに投稿。ウクライナ軍に守りを固める時間を与えてしまうとし、「(プーチン氏を指す)ウラジーミル・ウラジーミロビッチは、敗北と降伏に向けた大胆で決定的な一歩を踏み出した」とこき下ろした。
ISWによると、インターネット上で侵攻を支持する著名な軍事ブロガーたちも、停戦宣言を「ロシア兵を危険にさらす」として批判しているという。
●露プーチン大統領、ロシア正教会の礼拝に出席 ひとりで十字切る姿 1/7
ロシアのプーチン大統領は、一方的に宣言した停戦期間中の7日、クレムリンにあるロシア正教会のクリスマス礼拝に出席しました。一方、前線では散発的な砲撃が続いています。
在日ロシア大使館によりますと、プーチン大統領は7日、モスクワ・クレムリンの大聖堂で行われたクリスマス礼拝に出席しました。公開された映像では、プーチン大統領がひとりで胸の前で十字を切る様子が映っていて、多くの参列者とともに市内の教会の礼拝に出席した去年とは様子が異なりました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、SNSでクリスマスメッセージを公開し、「ウクライナの地に勝利と平和と繁栄がもたらされますように」と述べました。
プーチン大統領は、日本時間の6日午後6時から36時間の停戦を指示していますが、ウクライナ側はこれを受け入れていません。
ロシア国防省は6日、ドネツク州などでウクライナ軍による砲撃があったと発表しました。一方、ウクライナ軍参謀本部は7日、ロシア軍の占領地を攻撃したことを認めた上で、「ロシア側は、この1日で1回のミサイル攻撃と20回のロケット攻撃を行った」と発表するなど、双方による攻撃が続いているとみられます。
●ロシアの動員予備役30万人のうち「539人死亡」…BBCが独自集計 1/7
英BBCは6日、ロシア語の独立系メディアなどと共同でウクライナ侵略を巡るロシア兵の死者を独自集計した結果、プーチン大統領が昨年9月に発令した予備役の部分的動員で招集された約30万人のうち、539人の死亡が確認されたと報じた。
このうち500人は派遣されたウクライナで死亡したという。残りの39人は、前戦に送られる前にロシア国内で訓練中の事故などが原因で死亡したという。今月1日のウクライナ軍による東部ドネツク州の露軍臨時兵舎への攻撃は含まれていないといい、実際の死者数はさらに多いとみられる。
●ロシア国防省“ウクライナ側が攻撃を続けている” プーチン“停戦”指示も… 1/7
ロシア国防省は6日、プーチン大統領の指示に基づく停戦に入ったものの、ウクライナ側が攻撃を続けていると主張しています。
ロシア国防省の報道官は、プーチン大統領の指示のもと、ロシア軍が6日正午に攻撃をやめたあとも、ドネツク州などでウクライナ軍が砲撃を行っていると主張しました。
親露派指導者のプシリン氏は、ウクライナが攻撃をやめない場合、自衛のための反撃は行うとしています。
ロイター通信は、ウクライナ東部の前線でロシア軍の砲撃による爆発音を聞いたとするウクライナ兵の話を伝えていて、ロシアの一方的な停戦によって交戦がやむかどうかは不透明な情勢です。

 

●プーチンの軽率な開戦決断は、癌のホルモン療法による「誇大妄想のせい」 1/8
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の健康不安説が取り沙汰される中、ウクライナ情報機関のトップが「プーチンはがんを患っており、死期は近い」と述べ、波紋を呼んでいる。
プーチンが昨年2月にウクライナに侵攻して以来、ソーシャルメディアユーザーやアナリストらはプーチンの健康状態に注目し、赤の広場で足を引きずったり、机にしがみついたり、右腕に力が入っていないように見える映像から、プーチンを「診断」しようとしてきた。
ウクライナ国防省の情報機関トップ、キリロ・ブダノフは米ABCニュースに対し、プーチンはがんを患っており、死期は近いと語り、プーチンの健康不安説に拍車をかけた。プーチンは「末期的な病気」なのかと問われたブダノフは、「そうだ」と答え、「非常に長い」期間にわたって、病気の状態にあると述べた。
また、プーチンの死期については、「近いと思う。そう願う」と話したうえで、その時がくるよりも早くウクライナがロシアに勝利すると主張した。
このインタビューの映像を、ウクライナ内務省顧問のアントン・ゲラシチェンコがツイッターに投稿すると、コメントが多数寄せられた。
冷戦史家のセルゲイ・ラドチェンコは、ブダノフの主張を「心理戦を意図したものとみられ、うのみにはしない」ものの、彼の予測は「悪くない」と投稿した。
「丸い顔」はホルモン治療の影響?
デンマーク軍情報機関のロシア分析責任者は、同国の日刊紙ベリンスケに、プーチンは末期疾患ではないとの見方を示している。しかし、がんのためにホルモン治療を受けた可能性は高く、「満月のように丸い顔」もそのためだと指摘した。
「ヨアキム」とだけ名乗ったこの高官は、情報筋は明かさなかったものの、「誇大妄想は、プーチンが受けたホルモン治療の副作用の1つとして知られている」ため、ウクライナ侵攻における彼の軽率さも説明できると述べた。
しかし、プーチンは何度も転倒するなどして慢性的な痛みを抱えていると、この高官はみており、「そのため、座っているとき何かを強くつかむ傾向がある。痛みを和らげるためだ」と話した。
プーチンが12月31日に行った毎年恒例の新年の演説では、頻繁に咳をしているように見えることがネット上で話題になった。
年末の記者会見がこの10年で初めて行われなかったのも、プーチンの健康状態の悪化がカメラの前で目立つようになったことが理由の1つだと、一部のメディアは報筋の話として伝えている。
ニューズウィークは昨年6月、プーチンが同年4月に進行性がんの治療を受けていたことが米情報機関の機密報告書で明らかになったと報じた。
反政府系学者のワレリー・ソロベイは2020年、プーチンががんとパーキンソン病を患い、同年緊急手術を受けたと指摘している。またニューラインズ誌は、ロシア新興財閥「オリガルヒ」のある人物が、プーチンが「血液のがんで重病」だと話す音声ファイルを入手したと報じた。
ロシア政府は、プーチンの健康状態は良好であると繰り返し主張している。
●ウクライナ、Xマス停戦は「欺瞞」=8日までロシア宣言、砲撃で死者  1/8
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン政権が「一方的停戦」を宣言する中、東方正教のクリスマス(7日)の祈とうが6日夜から行われた。ロシア国防省は「順守」をアピール。だが、ウクライナでは空襲警報が全土に発令されたほか、砲撃で死者が出ており、ゼレンスキー政権高官は「欺瞞(ぎまん)だ」と非難した。
プーチン大統領は、クレムリンの生神女福音大聖堂の儀式に独りで参加。7日の声明で「(ロシア正教会は)特別軍事作戦の兵士を支援している」と評価した。
ロシアが宣言した停戦は6日正午〜8日午前0時(日本時間6日午後6時〜8日午前6時)の36時間だが、双方の合意に基づいたものではない。ウクライナが応じないことを想定して提案し、相手を「停戦の意思がない」とおとしめる材料とするのが狙いとみられる。米シンクタンクの戦争研究所は「ウクライナの評判を傷つける情報戦」と一蹴した。
実際、ロシア国防省は「停戦を順守しているにもかかわらず、ウクライナ軍が集落に砲撃を続けた。ウクライナ軍の陣地はロシア軍の反撃で制圧した」と発表。ゼレンスキー政権を批判しつつ、双方の交戦を認めた。東部ドネツク州の高官によれば、激戦地バフムト周辺ではロシア軍の砲撃で住民2人が死亡した。
現地メディアによると、一方的停戦に入った6日午後、ウクライナ全土で約2時間にわたり空襲警報が続き、市民が地下室などに避難を余儀なくされた。ポドリャク大統領府顧問は、ツイッターで「これがロシアの停戦の本質だ。その言葉を真剣に受け止めないでほしい」と警告した。
西側諸国は今回の停戦について、劣勢のロシアが時間稼ぎを図っていると分析している。一方、北大西洋条約機構(NATO)加盟国ながらロシアに融和的なハンガリーのノバク大統領は、ツイッターに「停戦が平和に向けた一歩になるように」と投稿し、賛意を示した。 
●「朝鮮半島型」分断シナリオ警戒 ロシアの出方巡りウクライナ高官 1/8
ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は、ロシアが東・南部4州を占領し、戦況がこう着する現状について、プーチン政権は朝鮮戦争(1950〜53年)の休戦協定で朝鮮半島が分断されたような「シナリオ」も検討していると警戒を促した。
現地メディアが8日、伝えた。
ダニロフ氏は、朝鮮戦争で北緯38度線付近を軍事境界線と定め、南北分断が固定化された経緯を念頭に、プーチン政権の今後の出方を分析。「ロシア人は今、何でも思い付くだろう。提案してくる可能性があるシナリオの一つが『38度線』であることは、確実に分かる」と発言した。
その上で「最近、韓国人と話したのだが、彼らは譲歩したのは間違いだったと考えている。今も(北朝鮮)問題を抱えている」と説明。ウクライナとしても応じられないと拒否する立場を示した。
ダニロフ氏は、劣勢のプーチン大統領が側近のコザク大統領府副長官を通じ、水面下で外交を試みている情報も明らかにした。「(コザク氏は)欧州の往年の政治家と会談することを通じ、ロシアには現状を維持しつつ、ウクライナを停戦に応じさせるため、譲歩の用意があるというメッセージを伝えようとしている」と指摘した。 
●プーチン氏、クリスマス礼拝に一人で出席 1/8
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は6日、ロシア正教のクリスマスに合わせて行われた真夜中の礼拝に一人で出席した。
礼拝は、ロシア大統領府(クレムリン)にある、帝政ロシアの皇帝のために建てられたブラゴベシチェンスキー大聖堂で行われた。大統領府が公開した写真には、礼拝を執り行う金色の法衣(ほうい)を着た聖職者と並ぶプーチン氏の姿が捉えられていた。
プーチン氏は例年、首都モスクワ郊外の教会で行われる礼拝に参列していた。
大統領府が発表したメッセージでプーチン氏は、正教徒を祝福し、クリスマスが「善行と志」を後押しすると述べた。また、ウクライナでの攻勢を全面的に支持する正教会最高指導者のキリル総主教を称賛した。

 

●「プーチン大統領、最大50万人の追加徴集を準備」 1/9
ロシアが最大50万人の兵力を追加徴集するために動員令を下すだろうというウクライナ軍当局者の観測が出た。英紙ガーディアンは「ロシアのプーチン大統領が戦争を終わらせる意思がないという明確な信号」と分析した。
7日(現地時間)、米政治専門メディア「ポリティコ」によると、ウクライナ軍事情報局のアンドリー・チェルニャック報道官は「ロシアは今月中旬、昨年9月に発令した部分動員令よりはるかに大きな規模の追加徴集を準備している」と明らかにした。
バディム・スキヴィツキー軍事情報局副局長は「ロシアが兵力を追加してウクライナの北・東・南部で今夏以前に大規模な攻撃を準備中」と話した。また「ロシアが今回の攻撃でも勝機をつかまなければ、プーチン政権は崩れるだろう」とし「今後6〜8カ月が今回の戦争の最後の山場になるだろう」と見通した。
追加徴集規模を50万人と予想する理由については「ドネツク、ハルキウ、ザポリザで攻撃に踏み切り、同時にヘルソンとクリミア半島の防御が必要であるため」と説明した。
ウクライナ軍事情報局は現在、ロシア地上軍の規模が28万人だと明らかにした。開戦当初15万人だったロシア地上軍は、昨年9月に部分動員令を通じて徴集した30万人のうち半分ほどが追加投入された。
これまで追加動員令に対してロシアは可能性がないという立場を示した。しかし、一部ではこれを既成事実と見なしている。 ロシア極右民族主義評論家で元情報将校のイゴール・ストレルコフ氏は開戦1年目の2月に動員令を発表するものと予想した。
●「負け戦」での終結認めぬロシア国民 1/9
ロシア国民はウクライナでの「プーチンの戦争」を支持しているのだろうか? この問題は昨年2月の侵攻開始以来、ロシアでも頻繁に議論されてきた。
侵攻約9カ月後に行われたロシアの大手世論調査機関(独立系の「レバダ・センター」や政府系の全ロシア世論調査センター「VTsIOM」を含む)の調査によると、人口の約75%が侵略を支持していた。しかし、ロシアの専門家によれば、ロシア人の多くはこの数字には、非常に懐疑的であるという。
「計画通り」との回答減
ロシアの独立系メディア「メドゥーサ」の女性記者とロシアの独立系ジャーナリストは、ロシア当局が状況をどのように見ているかを調べたところ、役人、政治管理者、専門家のグループが、侵攻開始後、少なくとも6カ月間にわたり戦争に対する国民の考え方について「秘密の世論調査」を実施してきたことが明らかになった。両記者は、未公開だったこの調査結果へのアクセスを取得することに成功した。これらの調査は、クレムリンが管理する世論調査サービスによって実施されたものだという。
こうした世論調査で定期的に尋ねられる最後の質問で問われるのは、回答者がウクライナでの軍事作戦が計画通りに進んでいると信じているかどうかである。
秘密調査の結果、夏以降、戦争は計画通りに進んでいないと信じている人の数が着実に増えてきていることが明らかになった。最新データによると、最近、最高レベルの42%に達した。一方、戦争が計画通りに進んでいると考える回答者の数は、減少傾向にある。ある調査の11月の最新の数字は最低で、わずか22%であった。
「レバダ・センター」のデニス・ウォルコフ所長は、回答者に和平交渉のような選択肢が提示された場合、この選択肢を選ぶ人が増えていると指摘した。ウォルコフ所長は「全体的なムードは、全てを迅速に終わらせるというものだが、ウクライナ側への大きな譲歩なしにだ」と述べるとともに、9月21日の部分的動員宣言のあとに交渉への支持が一段と高まった、と付け加えた。
ウクライナでのおよそ9カ月間にわたる戦争のあと、プーチン大統領が正しいことをしたと信じているロシア人はますます少なくなっており、11月17日時点で60%だった。これは依然として過半数だが、6カ月で最低で、春から10ポイント低下している。
年齢は、調査の主要な要因である。18歳から45歳までのカテゴリーでは、回答者の約40%が戦争を始めたのは正しいと思うと答えた。ただし、人口の4分の1を構成し、一般的にインターネットから情報を入手できる若い回答者が、戦闘開始以後の戦争支持率の全体的な低下のほとんどを占めている。高齢者(45歳以上)では、76%が「プーチンの戦争」へ進む決断を支持している。この支持率も春以来の最低のレベルだが、劇的な変化はない。
ウォルコフ所長は、11月中旬のロシア軍によるウクライナ南部ヘルソンの明け渡しや、ウクライナ軍による反撃が成功した中でのその他の軍事的敗北は、人々の意見に深刻な影響を与えていないが、否定的な背景を生み出したと述べた。同所長は「戦争がうまくいっていないと考える人が増えているが、その理由を尋ねると、彼らの最初の反応は、戦争が“あまりに長く”引きずられているという認識である。つまり、物事が計画通りに進んでいないということだ。第2の最も一般的な答えは、動員宣言であり、これはプロの軍隊が失敗していることを意味する」と語った。
戦争は決して開始されるべきではなかったと考える人々がますます増えていくにもかかわらず、戦争の継続を支持する人々の比率は増大している。ある調査によれば、11月17日現在、回答者の67%が戦争継続を支持している。また、当局が戦争を終わらせることを望んでいると回答した人はわずか18%で、過去6カ月で最低だった。
軍事的な敗北を恐れる
ある専門家によれば、ロシア軍が敗北しつつあることを認識している人々は「(戦争を)始めるべきではなかったが、続けなければならない」という態度を取っているという。彼は「敗北の概念は、軍事作戦を今すぐ終わらせてはならないという結論に人々を導くが、『負けつつあるときに、去ることはできない』のだ。人々は軍事的敗北の結果を恐れている」と語った。
ロシア国民の多くは、戦争の早期終結を望んでいるが、「負け戦(いくさ)」での終結は認めたくないという心境のようだ。 
●プーチン政権与党内にも“厭戦”拡大? 与党の6割以上、戦争に反対か 1/9
ロシア・プーチン政権の与党「統一ロシア」を支持する人の6割以上が、ウクライナとの戦争に反対している可能性のあることが、独立系メディアの報道でわかりました。
ロシアの独立系メディア「ベドモスチ」によりますと、政権与党「統一ロシア」は、2024年の大統領選挙などに向けて政党支持者のリストを整理しました。
その際、SNSで「特別軍事作戦に反対」する投稿に「いいね!」を押すなどした支持者をAIを使って割り出したところ、1600万人に上ったということです。これは「統一ロシア」の支持者2500万人のおよそ64%に相当し、これらの支持者は政党リストから削除されたということです。
ロシアでは去年11月末の世論調査で、「停戦協議開始」を支持する人が55%に上ったと独立系メディアが伝えていて、戦争の長期化にプーチン大統領の政権与党内にも厭戦(えんせん)ムードが広がりつつある可能性があります。

 

●ロシア 軍事侵攻の動き 1/10
日仏首脳会談 「G7広島サミットでウクライナ支援継続、強化を」
ヨーロッパなどを歴訪している岸田総理大臣は、フランスの首都パリにある大統領府、エリゼ宮で日本時間の午前4時すぎからマクロン大統領と首脳会談を行いました。会談で岸田総理大臣は、ことし5月の「G7広島サミット」について、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するG7の強い決意を示すとともにウクライナ侵攻を続けるロシアに対する厳しい制裁と強力なウクライナ支援を継続、強化していく姿勢を示す場にしたいという考えを伝えました。また、エネルギーや食料安全保障を含む国際社会の課題も議論する意向も伝え、両首脳は、サミットの成功に向けて連携していくことを確認しました。
マクロン大統領はエネルギー支援などで日本に謝意
フランスのマクロン大統領は、岸田総理大臣との共同記者発表で、ロシアによるウクライナへの侵攻に関連して「日本はロシアの行為を迅速に非難して対抗措置を取り、ウクライナを財政的、人道的に支援したほか、難民を受け入れ、エネルギーの面でも欧州を支援した」と述べて、日本がエネルギー危機に陥るヨーロッパに向けてLNG=液化天然ガスを融通したことも踏まえて感謝を述べました。そして「ウクライナ戦争に限らず、日仏両国は国際的な危機や核不拡散の問題で、協調を欠かしたことはない」と述べて、北朝鮮やイランによる核開発の問題や中国が影響力を強めるインド太平洋地域での安全保障、それに気候変動などの課題で、緊密な連携を続けたい考えを示しました。
ウクライナ東部激しい攻防 ロシア側 “ワグネル”加わり攻勢か
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は東部のウクライナ側の拠点の掌握を目指して、大量の砲撃とともに民間軍事会社の戦闘員も加わって攻勢を仕掛けているとみられ、徹底抗戦を続けるウクライナ軍と激しい攻防となっています。ウクライナ東部のドンバス地域ではウクライナ側の拠点の掌握を狙うロシア軍とウクライナ軍との間で激しい戦闘が続いています。このうちドネツク州のウクライナ側の拠点バフムト近くにあるソレダールについて、ウクライナ軍の報道官は9日、地元テレビに対し「敵はこの1日で106回の砲撃を行った」と述べるとともに至近距離での戦闘も起きていると説明しました。また、ウクライナのマリャル国防次官は9日に「敵は強力な突撃を始めた。民間軍事会社『ワグネル』の戦闘員で編成された多数の突撃部隊を投入し、大量の砲撃を行っている」とSNSに投稿しました。ロシアメディアもロシア側にはワグネルの戦闘員が加わって、市街戦が行われていると伝えていて、兵力を集中させて突破を図るロシア側と徹底抗戦を続けるウクライナ軍との間で激しい攻防となっています。
各地でミサイル攻撃 住民への被害相次ぐ
東部ハルキウ州の知事は9日、市場がミサイル攻撃を受け、2人が死亡し5人がけがをしたと明らかにしたほか、南部ヘルソン州の知事も「住宅地への砲撃で1人が死亡した」とSNSに投稿しました。ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官も、南部ミコライウ州でミサイル攻撃があり8人が病院に運ばれたうえ、住宅100棟以上が被害を受けたと明らかにするなど、各地で住民への被害が相次いでいます。
ゼレンスキー大統領 動画で徹底抗戦続ける姿勢強調
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日公開した動画で、激しい戦闘が続く東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の戦況について触れ「侵略者たちはソレダールに最大限の力を集中させている。我々の兵士たちが厳しい攻撃に抵抗してくれていることで、ウクライナは追加の時間と力を得ることができた」と前線の兵士をたたえました。その上で「テロリストたちを我々の土地から追放し、ロシアの攻撃計画から住民を確実に守るためには、ウクライナは必要なすべてのものを手に入れなければならない。こうした武器や装備は、まもなく前線の兵士たちに届くはずだ」として、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
●「プーチンはガンで死期が近い」報道…背水のロシア 1/10
ウクライナ高官から驚きの発言が出たのは1月4日だ。米国メディア『ABCニュース』のインタビューに、キリロ・ブダノフ情報総局長がこう答えたのだ。
〈ロシアのプーチン大統領に近い人物から得た情報です。プーチン大統領はガンを患っている。かなり進行しているため死期は近いでしょう〉
ブダノフ総局長の発言が本当だとすると、プーチン大統領の不可解な行動のつじつまが合う。ウクライナへの突然の侵攻、予想外の苦戦で慌てて予備役兵30万人を部分的動員、たび重なる核兵器の使用示唆……。どれも常識的な判断とは思えず、強い焦りを感じるのだ。ロシア情勢に詳しい、筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が語る。
「プーチン氏は、6年ほど前から病気を患っているといわれます。病状が悪化すれば、肉体や精神のバランス感覚を失ってしまう。おそらく正常な判断ができないのでしょう。プーチン氏は70歳になりました。男性の平均寿命が65歳ほどといわれるロシアでは、かなりの高齢です。心身両面の衰えが如実になり、プーチン氏は焦っていると思われます」
「もうレイプはしないように」
理解しがたい施策は、いくつもある。ロシアの民間軍事会社「ワグネル」による、凶悪犯登用もその一つだろう。国内の刑務所にいる殺人犯などを、部隊へ動員し前線に送り込んでいたのだ。1月6日、ウクライナ系メディア『ラジオ・スヴォボダ』により、その後の衝撃の事実が明らかになった。
「凶悪犯は6ヵ月間戦闘に加わっていましたが、同メディアによると約20人が前線から戻ってきたとか。紹介された動画には、『ワグネル』のトップが彼らと握手をしながらこう発言する様子が映っています。『君たちは半年間アドレナリンを使ったので、1ヵ月は事件を起こさないだろう。酒を飲み過ぎないように。ドラッグを使わないように。もうレイプをしないように』と。凶悪犯は恩赦を受け刑を免除され、一般の人々との日常生活へ復帰するそうです」(全国紙国際部記者)
前線に投入されるのは凶悪犯だけではない。22年末に『読売新聞』が報じたのは、旧アフガニスタン特殊部隊の勧誘だ。
「特殊部隊は、01年にタリバン政権が崩壊後に欧米から特殊訓練を受けた精鋭です。タリバンとの戦闘で経験も豊富。特殊部隊は3万人にのぼるといわれます。しかし21年にタリバンが復権したことで、多数がイランなどの国外へ脱出します。多くの兵士は仕事がなく、生活に困窮しているそうです。『読売新聞』によると、ロシアはイランの協力をえて元アフガン兵にSNSでメッセージを送り熱心に勧誘しているとか。報酬は月20万円ほどで、家族の住居も確保されるそうです。アフガンは79年に旧ソ連の侵攻を受け、多くの犠牲者を出しています。ロシアへの不信感は大きいでしょう。しかし生活に困る現状を打破するため、応じる兵士も少なからずいるとみられます」(同前)
ウクライナへの侵攻以来、ロシア軍の被害は10万人以上になるとされる。死期が近づき焦るプーチン大統領。なりふりかまわぬ戦闘と軍への動員は、終わりがみえない。
●英国、ウクライナ軍に主力戦車の供給を検討 1/10
英国政府は同国軍の主力戦車「チャレンジャー2」をウクライナに供給することを検討している。実現すれば北大西洋条約機構(NATO)標準の戦車をロシア軍との戦闘用に提供する初の西側諸国となる。
ドイツのショルツ首相は、同国はウクライナに対してこれまで資金面と軍事面で最も手厚く支援してきた国の一つであり、「今後も必要な限り続けていく」と表明した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻開始以降でとりわけ激しい戦闘が続いているドネツク州の前線2カ所を強化すると明らかにした。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
独首相、プーチン大統領との対話は続ける
ショルツ独首相はロシアのプーチン大統領とウクライナでの戦争について対話を続けていくと語った。軍事力によって欧州の国境線を変更しようとするロシアの試みをドイツ、欧州は決して受け入れないと伝えることが目的。首相はさらに、今後の対ウクライナ武器支援でドイツは引き続き米国などの同盟国と緊密に協力していくと述べ、ドイツが単独で動くことはないと言明した。
米大統領補佐官、ウクライナ向けの追加支援は揺るぎない
マッカーシー米新下院議長が共和党の強硬派と交わした2024年度の支出抑制合意が軍事費削減につながる可能性があることを受け、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、先月成立した23年度の1兆7000億ドル(約225兆円)の包括的歳出法に盛り込まれた470億ドル規模のウクライナ向け追加支援が危うくなることはないと主張した。
英国、ウクライナへの戦車供給は最終決定まだ
英国は主力戦車供給についてまだ最終決定を下していない。敏感な問題だとして匿名を条件に複数の関係者が明らかにした。英国防省のウェブサイトでは、チャレンジャー2は他の戦車破壊を目的に設計された主力戦車と説明されている。  
●ウクライナ戦争、NATOとの戦い=プーチン氏側近 1/10
プーチン・ロシア大統領の最側近の1人であるパトルシェフ安全保障会議書記は10日、ウクライナ戦争について、ロシアを世界の政治地図から消そうとする北大西洋条約機構(NATO)との戦いとの認識を示した。
ロシア紙「論拠と事実」に「ウクライナで起きていることはロシアとウクライナの衝突ではない。ロシアとNATO、特に米英との軍事的対立だ」と述べた。
「西側諸国の計画はロシアをばらばらにし、最終的には世界の政治地図から消し去ることだ」と主張した。
●プーチンがただ一人殺せない反体制派ナワリヌイに差し向けられた「生物兵器」 1/10
収監中のロシア反体制派指導者で、ウラジーミル・プーチン大統領に対する批判を続けていることで知られるアレクセイ・ナワリヌイが1月9日、2022年の大晦日を独房で過ごしたことをツイッターで明かした。
その後、刑務所の看守がインフルエンザにかかった受刑者を「生物兵器」として自分の独房に送り込んできたと主張。弁護士は、ナワリヌイがインフルエンザの症状を発症して体調を崩したと報告した。
現時点では、ナワイヌイの症状が命にかかわるものであることを示す兆候はない。だがある大学教授によれば、ナワリヌイが最終的に「自然死」することが、プーチンの究極の目標かもしれないという。
プーチンが権力を握ってから20年超の間に、彼と敵対した数多くの人物が暴力的な死や不審な死を遂げてきた。ナワリヌイは法廷侮辱罪や公金横領罪などで有罪評決を受けて2021年2月から収監されており、あと12年は刑務所での生活が続く見通しだ。
米ジョージ・メイスン大学公正政策大学院のマーク・キャッツ教授は本誌に対して、「もしもプーチンがナワリヌイの死を望むなら、容易にそうすることができたはずだ」と指摘した。「プーチンは、国家が直接手を下す形ではなく、ナワリヌイが病気で死んでくれた方が、自分にとって都合がいいと考えているのかもしれない」
「有名すぎて殺せない」
米ニューハンプシャー大学のローレンス・リアドン准教授(政治学)は本誌に、ナワリヌイが今も生きている理由は単純に、彼が今や「有名すぎて殺せない」からだと指摘した。
「ナワリヌイは弁護士であれ政治家であれオリガルヒ(新興財閥)であれ、プーチンにとっての政敵を怖がらせるのに便利なツールとして利用されている」と彼は述べた。「問題は、プーチンがかつてナワリヌイの暗殺に失敗していることだ(ナワリヌイは2020年に神経剤ノビチョクを使った攻撃を受けたが生き延びた。ロシア政府はこの件について関与を否定している)。この一件でナワリヌイは正義の擁護者として世界的に有名になり、欧州議会から人権や自由を擁護する活動を行う個人を称える「サハロフ賞」を授与され、メディアやソーシャルメディアを活用してロシア内外で反プーチンの政治運動を確立した」
キャッツは、インフルエンザにかかった受刑者がナワリヌイの独房に入れられた一件については、間接的にナワリヌイ殺害を狙った動きではないかもしれないと述べた。
●プーチンを応援する米国人たち  1/10
米国の論客やジャーナリストはウクライナのテレビに度々出演し、同国への連帯を表明したり、戦況の分析を行ったりしている。一方で、ロシアの電波では米国からの声はほとんど聞こえてこない。元下院議員のトゥルシー・ギャバード氏や、FOXニュースのタッカー・カールソン氏、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員などのウクライナ批判者によるコメントが時折、短い映像で流れてくる程度だ。ロシアのメディアに登場する米国人の論客の大半は、過激な政治活動家だった故リンドン・ラルーシュが率いたラルーシュ運動の後押しで設立されたシラー研究所(ドイツ)に所属するバージニア州のリチャード・ブラック元上院議員や、元海兵隊情報将校でイラク戦争批判に転じて評判を落としたスコット・リッター氏など非主流派の人々だ。
だがもっと驚くべきなのは、エスタブリッシュメント(支配階層)の人物が登場することだ。コロンビア大学の経済学者ジェフリー・サックス氏、外交専門誌「ナショナル・インタレスト」の元国家安全保障担当記者マーク・エピスコポス氏、そして同誌を発行する保守系シンクタンクのセンター・フォー・ザ・ナショナル・インタレストのトップを最近まで務めていたディミトリ・シムズ氏だ。彼らは、ロシアで最も鼻持ちならないプロパガンディスト、ウラジーミル・ソロビョフ氏の番組に進んで出演している。ソロビョフ氏は、ロシアに欧州侵略を呼び掛け、ウクライナの都市を徹底的に爆撃し、ウクライナ人を「ナチズム」のために罰することを要求してきた。先月、同氏は放送でこう宣言した。「現段階でウクライナを広く焼き払えば、ドイツ、英国、フランス、欧州のナチス野郎どもを叩くのが容易になり、米国も苦しむことになる」
サックス氏は昨年11月以降、ソロビョフ氏の番組に3回出演している。サックス氏は以前から、ロシアが2014年にウクライナを侵攻したのは、北大西洋条約機構(NATO)がロシアに向けて「威嚇的」に拡張してきたことが理由であり、西側がロシアを挑発したのだと主張してきた。昨年秋に出演した際、同氏は敵対行為の即時終結を求めた。その時点で終結していれば、ロシアはウクライナの15%を支配し続けることになった。これは2022年2月の侵攻以前のロシア支配地の2倍以上だ。サックス氏の英語のコメントをロシア語に吹き替えたものによると、彼はロシア人に対して「大勢の」米国人が「ウクライナ紛争からの撤退を望んでいる」と語り、「偽情報」を流したとして米政権を非難し、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が提示した和平条件を「全くナンセンス」と呼んでいる。
エピスコポス氏もまた、ソロビョフ氏や同じチャンネルの他の番組に頻繁に登場している。彼は、メディアが完全な国家統制下にあるロシア人に対し、「米国では開かれた議論が封じられている」とか、「経済はボロボロだ」などと言うのが好きなようだ。また、「(米下院議員の)マージョリー・テイラー・グリーンは、共和党員だけでなく民主党員も含め、多くの米国人の一般的な気分を反映している。つまり、疲弊し、インフレや犯罪、崩壊しつつあるインフラという深刻な問題を抱えている人たちのことだ」と述べ、「キーウ(キエフ)にまた多額の資金を送る」ことはしたくないと話した。
(米保守系シンクタンクのトップ)シムズ氏については、スターリン時代の外相ビャチェスラフ・モロトフ(故人)の孫にあたるビャチェスラフ・ニコノフ氏とともに、ロシア国営テレビで国際問題番組の司会を長く務め、米ロの協力を促進する外交政策リアリストとして位置づけられてきた。ところが、その冷静な姿勢は消え、シムズ氏はプーチン氏肯定の一辺倒になった。ゼレンスキー氏の訪米を受け、シムズ氏はロシアの視聴者に向けて、「嫌なパフォーマンスだった。ゼレンスキーに愛想良く抱きつく米国大統領の映像を見て、腐敗しきった嘘つきだと感じた。米国の大統領と政権チームはナチスのイデオロギーを代表する人物らを迎えたのだ。彼の軍隊は民間人を撃ち殺す。ゼレンスキーの手にキスをするナンシー・ペロシ下院議長(当時)を見て、私はうんざりした。ペロシ氏はこの国で3番目に位の高い人物だ。称賛と従属が入り混じったような感じだった。何と言ったらいいのか分からない」。(エピスコポス氏もシムズ氏も、出演時にはロシア語を話している。)
米国市民には、その時々の問題に対して意見を述べる権利がある。そして専門家は、大多数の米国人が持つ親ウクライナの見解に異議を唱える自由がある。しかし、大規模な戦争犯罪や残虐行為を行う国家のために太鼓をたたく公式のプロパガンダに協力することは、それとは別の問題である。サックス氏、エピスコポス氏、シムズ氏はもっとよく考えるべきだ。
●全部がプーチンのせいではない、2023年の世界を待つ「5つの危機」とは? 1/10
2023年の世界を脅かす5つの危機のうち4つは、直接もしくは間接的に、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を開始した昨年2月24日の朝にさかのぼる。
プーチンの戦争が原因で、世界の政治システムは第2次大戦以降で最大の危機に直面し、世界経済は激しいインフレに苦しんでいる。そして、エネルギー市場では空前の大激変が起きていて、食料市場は深刻な供給不足に見舞われている。
もう1つの危機だけがプーチンと直接関係がない。今年、世界を悩ます5つの危機を見ていこう。
ウクライナ戦争
ウクライナ戦争は今年も世界の安定を揺るがし、核兵器使用のリスクを高め、各国の経済をかき乱すだろう。アメリカなどの武器支援によりウクライナ軍の能力と士気は高い水準を維持すると思われるが、ロシアもまだ(途方もない数の兵士を失いつつも)ウクライナに甚大な打撃を及ぼせる軍事力を擁している。今後の焦点はウクライナ、ウクライナを支援する国々、ロシアが戦闘継続に向けて国内の結束を維持できるかどうかだ。
世界経済の苦境
これはプーチンだけが原因ではない。ウクライナ戦争以前に、新型コロナのパンデミックにより、世界経済は既に大きなダメージを被っていた。コロナ禍の3年間、世界の国々が国境を閉ざし、社会・経済活動を制限した結果、世界規模で深刻な供給不足が発生。その後、コロナ対策が緩和されて需要が急増すると、需給ギャップが拡大した。それに加えて戦争を機にエネルギーと食料の価格が高騰し、インフレ率は過去40年で最も高い水準に達している。欧米の中央銀行は、インフレ対策で金利を引き上げ始めた。一方、新興国の経済は欧米の利上げの影響とサプライチェーンの混乱で打撃を受けている。今年は世界規模の景気後退が始まる可能性もある。
エネルギー供給の逼迫
プーチンが始めた戦争は、世界のエネルギー市場に混乱と激変をもたらしている。ヨーロッパ諸国は、対ロシア制裁の一環としてロシア産の石油・天然ガスの輸入を減らし、アメリカ産の液化天然ガス(LNG)に切り替える計画に乗り出した。30年までにエネルギー生産の45%を再生可能エネルギーに転換することも目指している。今年は、ヨーロッパ以外の国々も、ウクライナ戦争によるエネルギー市場の混乱への対応を迫られそうだ。
世界の食料供給の混乱
プーチンの戦争は、今年も世界の食料供給を混乱させ続けるだろう。ウクライナは有力な穀物輸出大国(世界の小麦輸出の10%を占めていた)だったが、戦争が始まって以降、その穀物輸出は60%も落ち込んだ。それにより世界の食料供給が減少し、49カ国の4900万人が飢餓の危機に瀕している。世界食糧計画(WFP)は、現在の状況を現代史上最悪の食料危機と呼ぶ。
地球温暖化
今年、世界が向き合わなくてはならない最大の危機は、プーチンが原因ではない。人間の活動による地球温暖化の悪影響は、今後さらに加速する。世界の国々が直ちに、温室効果ガスの排出削減に向けた実のある対策を講じない限り、干ばつの増加、降水パターンの変化、大量の環境難民の発生、海水面の上昇など、取り返しのつかない問題が生じる。この点では専門家の見方が一致しているが、昨年も各国政府は温暖化対策で合意に達することができなかった。
ウクライナ戦争をきっかけに、「脱化石燃料」の流れが加速しているものの、今年も人類は過剰な量の温室効果ガスを大気中に吐き出し続けるだろう。
●戦力枯渇近づくロシア軍、侵攻開始からミサイルは8割減 プーチンの苦境 1/10
ロシア国防省が8日、ウクライナ東部ドネツク州クラマトルスクで、ウクライナ軍の陣地を攻撃し計600人以上を殺害したと発表したことについて、同国軍報道官は同日、「ロシアのプロパガンダ」と否定した。戦力の枯渇が近づいているとみられ、プロパガンダや謀略に頼るプーチン大統領の苦境も浮上している。
ロシア側は陣地2カ所をミサイル攻撃したと主張したが、ウクライナ軍報道官によると、攻撃されたのは民間のインフラ施設で「ウクライナ軍は被害を受けていない」という。ロイター通信は現場の取材班の証言として、攻撃や被害は確認できなかったと伝えた。
英国防省は9日、昨年12月25日の衛星画像から、ロシア南部アストラハン州の基地で最新鋭のスホイ57戦闘機5機が確認されたと明らかにした。使用を自国領内からのミサイル発射に限っていると分析。ウクライナ領内での損失で機体の評価が低下することや、機密の漏えい回避を最優先としていると指摘した。
ウクライナのレズニコフ国防相は、侵攻開始後に確保した分を含むロシアのミサイル貯蔵量は、戦略ミサイルが19%、戦術ミサイルが78%に減少したとのデータを示す。
こうしたなか、ロシアの元軍人や「プーチンファンクラブ」というSNSを運営する極右活動家らが、ドイツで、ウクライナ支援に反対の市民感情を扇動する工作を行っている。昨年8月にベルリンで開かれたイベントに登壇した男性は、ロイターの取材に、かつてスパイ機関として知られるロシア軍参謀本部情報総局(GRU)に勤務していたと認めたという。
●HIMARSでロシア軍徴集兵400人死亡 背景に「兵士のパーティー情報漏れ」 1/10
2023年の幕開けと同時に、またまた「お粗末なロシア軍」の実状が報じられた。テレ朝newsは1月4日、「死者89人に ウクライナ軍『ハイマース』でロシア軍拠点を攻撃」の記事を配信、YAHOO! ニュースのトピックスにも転載された。担当記者が言う。
「注意が必要なのは、テレ朝の記事だけでは事態の全貌が分からないということです。同社の報道姿勢に問題があるというのではなく、情報が錯綜したことがその原因でした。ウクライナ側は戦果を過大に発表した可能性があり、ロシア側は限られた情報しか出しませんでした。各社はファクトチェックを厳密に行わざるを得ず、欧米の主要メディアも慎重な報道に終始しました」
では、各社の報道を精読してみよう。情報が錯綜したことで細切れになった記事を繋ぎ合わせるだけでも、かなりの実状が浮かび上がってくる。
「テレ朝の記事はロシア国防省の発表をそのまま伝えました。それによると、12月31日にドネツク州マキイウカのロシア軍施設が攻撃を受け、89人の戦死者が出たとのことです。攻撃したウクライナ軍は、高機動ロケット砲システム『ハイマース(HIMARS)』を使ったことが分かっています」(同・記者)
ロシア軍が自軍の被害や戦死者数を発表するのは珍しい。世界の主要メディアも「まずは国防省の発表を報じよう」と類似の記事を配信した。
親露派も軍を批判
「加えてテレ朝は、《ロシアの独立系メディアが建物にいたのは動員兵だったと報じました》と補足しています。動員兵=徴集兵は、正規兵に比べて練度や士気が低いことで知られています。それが原因で多数の死者が出た可能性が高いため、国防省の発表とセットにして報じたのでしょう」(同・記者)
ドネツク州マキイウカはウクライナの東部に位置する。今回の戦争が起きる前から親ロ派勢力が掌握していた地域だ。そして一部のネットメディアは、《最前線から20〜30キロほどしか離れていない》とも報じている。
「欧米の記者や専門家だけでなくロシア国内でも、『HIMARSの直撃を受けたはずなのに死者が少なすぎる』と疑問に感じた人は多かったようです。そこでアメリカのニュース専門チャンネルCNNは、ロシアのネット上で拡散されている情報に注目しました」(同・記者)
CNN.co.jpは1月3日、「ウクライナ軍の攻撃でロシア軍に多数の死傷者か、弾薬庫が爆発」の記事を配信した。
「テレ朝は《ロシア軍の建物》と報じましたが、CNNによると《専門学校の建物》だそうです。ここに多数の徴集兵が集められていました。ウクライナ軍は《ロシア軍の死者は約400人、負傷者は300人》と主張。一部の親ロシア派軍事ブロガーでさえ、《ロシア軍の死傷者数は数百人に上る可能性がある》と指摘しました」(同・記者)
携帯電話が原因!?
なぜ400人もの戦死者が出たのか──CNNはHIMARSのロケットが弾薬保管庫を直撃した可能性に触れた。
「興味深いことに、弾薬保管庫の情報も親ロシア派の軍事ブロガーがネット上に書き込んだようです。親ロ派が公然と軍を批判したのですから、これも非常に珍しいと言っていいでしょう。CNNによると、ブロガーは《大量の弾薬の保管庫の隣に宿所を与えられていたようだ》と部隊の安全管理が杜撰だったことを明らかにしました。徴集兵が中心の部隊だと、防御の意識さえ希薄なのかもしれません」(同・記者)
さらに珍しいことが続く。ロシア国防省が「自軍兵士のミス」を認めたのだ。これに着目したのがイギリスの公共放送BBCだ。
「BBC NEWS JAPAN」は1月4日、「ウクライナ東部でミサイル砲撃死ロシア兵は89人に、兵の携帯電話利用が原因とロシア軍」との記事を配信した。
「ロシア軍は兵士たちに、“携帯電話の使用禁止”を命じていたそうです。ところが、専門学校に集まった徴集兵は命令を破り、携帯電話を使った。それをウクライナ軍が探知して場所を割り出し、HIMARSによる狙い撃ちに成功した──これがロシア国防省の説明でした」(同・記者)
規律なき徴集兵
だが、ロシア国防省の説明は、大損害を出した責任を末端の兵士に押し付けようとした可能性もあるという。
「BBCはその点に配慮し、《ロシアのコメンテーターや政治家の間には、軍の失態を批判する声も上がっている》と報じています。国防省の発表をそのまま報じると、ミスリードになってしまう可能性があり、それを防ごうとしたのでしょう」(同・記者)
ただし、ここで疑問が浮かぶ。「兵士が携帯電話を使うと部隊の位置が特定される」というのは本当なのだろうか。
疑問に思った読者も少なくなかったようだ。BBCは翌5日、「【解説】ロシア兵の携帯電話使用で位置を特定し得たのか ウクライナの砲撃」との続報を配信した。
この解説記事でBBCは、《ウクライナとロシアの双方の軍が共に、携帯電話の位置を追跡する能力を持っている》と伝えた。
「例えばウクライナ軍の場合、ロシアの将軍が使っていた携帯電話を割り出し、位置を特定して殺害に成功したそうです。BBCは『機密保持のため、兵士が携帯電話を使うことに制限を課すのは当然』とした上で、徴集兵が中心の部隊で携帯電話が普通に使われていたとしたら、著しく規律が緩んでいる可能性があると指摘しました」(同・記者)
本当の原因はパーティー情報
複数のメディアが報じた記事を精読することにより、次第に事態の全貌が明らかになってきた。やはりと言うべきか、ロシア軍の実状は相当に酷いことが分かる。
ところが、である。まだまだ大手メディアが報じていない驚愕の事実があるのだ。HIMARSの狙い撃ちが成功した理由について、もっと“根本的な原因”がネット上で拡散している。
「専門学校は軍の宿舎として使われており、徴集兵は新年を祝うパーティーを開いていたというのです。そこにミサイルが直撃し、多数の死者が出たという情報がネット上で拡散しました。出所はウクライナやロシアのSNSなどで、パーティー中と思われる写真も投稿されています。日本でも一部のネットメディアが記事にし、ロシアに詳しい専門家もある程度の信憑性を認め、その内容をネット上で紹介しました」(同・記者)
軍事ジャーナリストも「既に昨年末の時点で、『宿舎で新年パーティーを開く予定』とSNSなどに投稿していたようです」と呆れ返る。
「宿舎は最前線から20〜30キロしか離れていません。HIMARSどころか榴弾砲でさえ射程距離は20〜40キロです。こんな危険な場所でパーティーを開くこと事態があり得ない。それがパーティーの情報を事前にSNSで拡散させたというのですから、何をか言わんやです。普通の軍隊なら考えられません」
アメリカ軍の休息ルール
ロシア軍に限らず最前線の近くに駐留する部隊は、手元に武器や弾薬を置きたがる傾向があるという。
「そこにミサイルが直撃したら、たとえアメリカ軍でもかなりの被害が出るのは避けられません。だからこそ部隊の現在地は機密情報として扱われるのです。これは軍事作戦における“イロハのイ”ですが、被害を受けたロシア軍の部隊は基本的なことさえできていなかったことになります」(同・軍事ジャーナリスト)
兵士や士官も人間だから、息抜きが必要なのは当然だろう。だが、それを最前線で行うというのも軍隊の常識では考えられないという。
「アメリカ軍はベトナム戦争ではタイで、湾岸戦争ではカタールで兵士を休ませました。一定の期間が経つと、本国にも一時帰国させます。戦地、近隣国での休息、本国への一時帰国、これをローテーションするのです。ロシア軍の場合、モスクワ近くの部隊なら新年のパーティーを許可してもいいでしょう。しかし、最前線に駐留するマキイウカの部隊には、臨戦態勢を取らせるべきでした」(同・軍事ジャーナリスト)
情報源は「人間」の可能性
こうした事実を繋ぎ合わせると、ロシア国防省の「兵士が携帯電話を使ったのが原因」という説明は、やはり責任転嫁の可能性が高いという。
「ウクライナ軍が携帯電話の電波をチェックし、『大晦日の晩、多数のロシア兵が特定の地域で携帯電話を使っている』ことをキャッチするのは可能でしょう。とはいえ、その情報を得てから急いでHIMARSを手配し、移動させ、照準を合わせてミサイルを発射するとなると、なかなか簡単なことではありません」(同・軍事ジャーナリスト)
HIMARSの動きを考えると、ウクライナ軍が事前にパーティーの開催を把握していたと見るのが自然のようだ。
「以前から親ロシア派が掌握している地域だとしても、反ロシア派の住民も残っているでしょう。ロシア軍の動きを察知しようと、ウクライナのスパイも活動しているはずです。そもそもパーティーの開催を事前に明かすような部隊ですから、誰でも情報を掴み、ウクライナ側に通報できたに違いありません」(同・軍事ジャーナリスト)
情報提供を受けたウクライナ軍はHIMARSを極秘裏に移動。狙い撃ちの準備を着々と進めたと考えられる。
死者に責任転嫁
状況証拠もある。何しろHIMARSのミサイルが宿舎に着弾したのは、モスクワ時間で午前0時1分だったことも判明している。ロシア軍が新年を迎えた瞬間を狙ったと考えるのが自然だろう。
パーティー中のロシア軍を壊滅させようと、ウクライナ軍は事前に入念な作戦計画を立てていたのだ。さらに大晦日の当日は、アメリカの軍事衛星やドローンの情報も活用した可能性があるという。
「最後の補完的な情報として、携帯電話の発信状況、位置情報などを参考にしたかもしれません。しかし、メインの情報ではなかったでしょう。いずれにしても、ウクライナ軍は新年早々、劇的な戦果を挙げました。ウクライナ軍の士気は高揚するでしょうし、ロシア軍は文字通りの赤っ恥を世界に晒しました」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア国防省が異例の発表を行ったのも、あまりに軍の実態がお粗末だということと関係があるという。
「ロシア国内でも、軍を疑問視する声が沸騰しました。その全てが正論です。ロシア軍が沈黙を続けても、世論は沈静化しないと考えたのでしょう。自分たちにとって都合のいい事実を小出しに発表することで、現場の徴集兵に責任転嫁を図ったのだと考えられます。まさに『死人に口なし』です」(同・軍事ジャーナリスト)

 

●プーチンを知る米国元高官の見方「一進一退の攻防で有利になるのはロシア」 1/11
「ウクライナ国内での戦闘がこのまま今のような一進一退で続くと、時間の経過はロシアのプーチン大統領にとって有利となる」という見解が、米国政府の元国務長官と元国防長官により発表された。
両元高官は在任中にプーチン氏と直接折衝した経験がある。その経験に基づき、プーチン氏がロシア帝国再興のためにウクライナ制圧を自らの歴史的使命とみなし、米欧諸国のウクライナ支援の衰えを時間をかけて待つ覚悟を持っているという考察を明らかにした。
同高官たちは、この暗い展望を打破するためには米国などがウクライナへの軍事支援を一気に拡大し、ウクライナ軍が早い時期にロシア軍に大きな被害を与えることが必要だと提唱した。
プーチン氏と直接折衝した経験を基に提言
米国のコンドリーザ・ライス元国務長官とロバート・ゲーツ元国防長官は共同で1月7日、「時はウクライナ側を利さない」と題するオピニオン記事を米国大手紙ワシントン・ポストで発表した。
ロシアのウクライナ侵略の展望はこのままの戦闘状態が続くと、ロシアのプーチン大統領にとって有利な見通しとなる。ウクライナ側がその状況を崩すためには早期に大規模な軍事攻勢に出てロシア側に手痛い被害を与えるべきである、という提言だった。
ライス氏は米国史上初の黒人女性の国務長官として、2005年から2009年まで2代目ブッシュ政権に加わった。1990年代には先代ブッシュ政権の中央情報局(CIA)長官だったゲーツ氏は、2006年から2011年まで2代目ブッシュ政権とオバマ政権の国防長官を務めた。両氏とも在任中にはロシアの大統領や首相だったプーチン氏と直接折衝した経験があり、その際の経験に基づいてプーチン大統領のウクライナ問題への思考や戦略を判断した、としている。
ロシア帝国を再興するという使命感
ライス、ゲーツ共同論文は、まずプーチン大統領のウクライナに関する狙いや真意について以下の骨子を述べていた。
・プーチン氏はウクライナ全域をロシアの支配下におくことを決意し、もしその支配が達成できなければ、ウクライナの国家機能を奪い徹底破壊するつもりでいる。同氏はロシア帝国を再興するという救世主的な使命感を抱いているが、その使命においては、ウクライナを含まないロシア帝国は存在し得ないと考えている。
・私たち(ライス、ゲーツ両氏)は、米国政府を代表してプーチン氏と何回も直接交渉をした。その経験から、プーチン氏は長期間の戦闘でウクライナを疲弊させ、米欧諸国のロシアに対抗する団結やウクライナ支援の熱意もやがて減退させられると確信している、と判断する。戦争が継続するとロシアの経済も国民も苦難の道をたどるが、かつてロシア人たちはもっと苦しい状況を耐えてきた。
・プーチン氏にとって敗北という選択肢はない。同氏が、ロシアへの併合を宣言したウクライナ東部ルハンスク、ドネツク、南部ザポリッジャ、ヘルソンの4州をウクライナに返還することは絶対にない。プーチン氏はもし2023年に軍事的成功を得られなければ、同4州での軍事拠点をなんとか確保して、さらに翌年の新たな軍事攻勢の準備を進めるだろう。その新攻勢は、黒海の沿岸地域とドンバス地方全域を制圧して、西方へと進出することを狙いとする。ロシアのクリミア併合と今回のウクライナ攻撃との間には8年の時間があったのだから、プーチン氏がどんなに時間を要しても自分の使命達成のために忍耐することは明白だ。
停戦交渉はウクライナ側を不利に
ライス、ゲーツ論文は、プーチン氏の意図や戦略を以上のように分析する一方、ウクライナの対応については、きわめて現実的な認識を示していた。以下が、その部分の骨子である。
・ウクライナのロシアへの軍事反撃は勇敢かつ見事だが、経済は破壊され、数百万の国民が逃亡し、産業インフラ、鉱山資源、工業生産力も大被害を受け、農耕地の多くがロシアに奪われた。その結果、ウクライナは軍事も経済も今や米欧諸国からの支援に依存しきっている。この現状では、ウクライナが軍事的な新作戦で大成功を早期に達成しない限り、米欧諸国からウクライナに停戦交渉に応じることへの強い圧力がかかることは避けられない。
・現状での停戦交渉では、どのような交渉を行ったとしてもウクライナ国内のロシア軍の存在をそのままにせざるを得ない。その結果、このまま戦争が継続するとロシア側をずっと有利にする見通しが強い。つまり現状での停戦交渉はウクライナ側を不利にすることが確実だといえる。一方、米国や西欧諸国のウクライナ支援は今後それぞれの国内事情などによって縮小へと向かう可能性も否定できない。その可能性がロシア側の狙いであることは当然である。
さらなる支援で積極果敢な新攻勢を
同論文は、以上のようにウクライナ側にとって悲観的な状況を報告しながらも、ウクライナの苦境を救う唯一の方法を示していた。それは、米国や西欧諸国がウクライナへの軍事支援を質、量ともに劇的に強化して、ロシアへの積極果敢な新攻勢をかけることだという。その部分の主旨は以下の通りだった。
・ウクライナが現在の戦況を決定的に有利に変えるには、東部と南部のロシア支配地区を猛烈な攻撃で奪回することが必要だ。そのためには、まずウクライナ軍の地上戦闘用機動力を増強することが欠かせない。バイデン政権が準備したウクライナ軍事支援予算の範囲内でも、その種の増強は可能だ。すでに決まったブラッドレー戦闘装甲車の供与は有効だが、さらに戦闘能力の高いエイブラムス重戦車の供与も必要となる。
・北大西洋条約機構(NATO)諸国はウクライナの新軍事攻勢の実現のために、より長距離射程のミサイル、より高性能の無人機、より増量しての弾薬、より高度の監視、偵察能力などをウクライナに供与すべきである。この種の軍事供与は数週間以内という緊急性を要する。
ライス、ゲーツ両氏は以上のような主張と提案の総括として、米国や西欧諸国の側にウクライナへの支援の疲れのような傾向が現れたことを指摘し、「米欧がウクライナへのロシアの侵略と拡大を許すと、過去の歴史が証明したように、やがては米欧全体への避けられない脅威となって迫ってくる」と警告する。だからこそ、ウクライナの画期的な軍事抵抗が速やかに必要だと提唱するのだった。
●国防契約違反に刑事罰警告 ロシア前大統領、軍需企業に 1/11
ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は10日、北西部サンクトペテルブルクの戦車修理工場を視察した。侵攻したウクライナでの軍事作戦を念頭に、軍に必要な兵器を早急に供給するよう求め、要求に応えられなかった場合は刑事罰が科されると警告した。タス通信が伝えた。
ロシア通信によると、プーチン大統領は昨年9月、国防に関する国との契約に違反した場合は最高で懲役10年を科す刑法改正に署名した。
メドベージェフ氏は、欧米がウクライナへの軍事支援を強化していると指摘。「われわれはもっと早く、粘り強く、より効果的に対応しなければならない」と強調した。
●戦況の“焦点”東部の街 ロシアが反撃 「ワグネル」戦闘員を大量投入し… 1/11
戦いの重要な鍵を握るとされるウクライナ東部の街で今、戦闘が激化しています。そこにロシアが大量に送り込んだのは、プーチン大統領に近いとされる民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員でした。
北東部・ハルキウでは、ロシア軍によるミサイル攻撃が続いています。9日に公開された映像には、がれきの中で炎が激しく上がる様子や、がれきの中から幼い子どもが救出される様子が映っていました。
警察官「ロシア軍は市民を標的にしている。パニックにさせようとしています」
AP通信によると、この攻撃で2人が死亡、13歳の少女を含む5人がけがをしました。
激しい攻防が続く東部・ドネツク州のバフムトでもロシア軍による攻撃が続いています。取材に応じた地元住民は「私たちの町は、以前はとてもきれいでした。多くの花が咲いていて、道が整備されていて…」と侵攻以前の様子を振り返りました。取材中にも砲撃のごう音がとどろき、破壊された街からは黒煙が上がっていました。
地元住民「言葉が出ません。(ロシアが)何を求めているのかわかりません」
そして今、戦況の焦点となっているのが、バフムト近郊の街、ソレダールです。ソレダールをめぐっては、ウクライナ側が制圧を試みたものの、ロシア側が民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員らを大量投入した上、集中的に砲撃を行うなど反撃しているのです。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、自身のSNSに公開した動画で、「(ソレダールでは)全てが完全に破壊され、生命はほとんど残っていない。ソレダールの土地全体が死体とがれきで覆われている。狂気の姿だ」と述べました。
「ワグネル」は、プーチン大統領に近い関係とされるエフゲニー・プリゴジン氏が創設しました。戦闘員を大量投入している理由は、どのようなものなのでしょうか。
ロシア政治に詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授は「ワグネルは(ロシアで)最も影響力があり、かつ力が強い民間軍事会社。去年の4月段階で(戦闘員が)8000人くらいと言われている。特に今回の戦闘の中で、(戦闘員の)人数が増えている。『ワグネルなくしてロシア軍は、戦えない』とまで言われています。(要衝の街)バフムトとセットでソレダールにも相当注力して、(ワグネルとしても)絶対に守り抜くという姿勢なのだと思う」と分析しています。
●ロシアの砲撃、一部で75%減少と米当局者ら 苦境の表れか 1/11
ロシアがウクライナに侵攻して11カ月目に入る中、米国とウクライナの当局者らはロシアの砲撃がピーク時に比べて大幅に減少しており、場所によっては75%減っているところもあるとCNNに明らかにした。
両国の当局者らはその明確な理由をまだ把握していない。ロシアは供給の少なさから砲弾の割り当てを制限しているのかもしれない。あるいはウクライナ軍の効果的な攻撃に直面し、広範にわたる戦術の見直しの一環の可能性もある。
いずれにせよ、砲撃の著しい減少は間もなく1年を迎える戦闘でロシアがますます苦しい状況に追い込まれていることを示すさらなる証拠だと当局者らはCNNに語った。
こうした情勢はウクライナが西側の同盟国からの一層の軍事支援を受けている中でのものでもある。米国とドイツは先週、ウクライナ軍に初となる装甲車両と、空からの攻撃に対抗するのに役立つ地対空ミサイル「パトリオット」を追加で供与すると発表した。
一方、ロシアのプーチン大統領は当初「特別軍事作戦」としか説明しなかったウクライナとの戦争について、国内の政治的支持を補おうと明らかに必死になっている、と米情報当局者らはみている。
●ナワリヌイ氏の健康懸念=医師ら170人、大統領に書簡―ロシア  1/11
ロシアで収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の健康状態が懸念されるとして、医師をはじめ医療関係者約300人が10日、プーチン大統領宛ての公開書簡を出した。独立系メディアが伝えた。必要な措置を受けさせないことによる「虐待」をやめるよう訴えている。
弁護士によると、ナワリヌイ氏は「発熱やせき」がある中、繰り返し独房に入れられている。公開書簡はこれを踏まえ「意図的に健康を害されている」と表明。憲法と法律により、全ロシア国民は医療を受ける権利があると強調し、外部の医師の診察と病院での入院を認めるよう迫った。  
●「ロシア政権内の権力闘争が激化か ラピン氏が復権、一方ワグネルは暗躍」 1/11
ウクライナ侵攻で苦戦が続くロシアのプーチン政権内で権力闘争が激化しているとみられます。
ロシアメディアは10日、中央軍管区司令官を昨年、解任されたロシア軍のラピン大将が陸軍の参謀総長に就任したと伝えました。
ロシアの独立系メディア「重要な歴史」は関係者の話として、ラピン氏の急な復権は独自の部隊を持ち、プーチン政権内で台頭する強硬派のプリゴジン氏やカディロフ首長に対して戦闘はロシア軍が主導で行っていることを示すメッセージだと報じています。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者のプリゴジン氏とチェチェン共和国のカディロフ首長は昨年10月、ウクライナ東部・ドネツク州の拠点リマンからの撤退を巡って当時、司令官だったラピン氏を痛烈に批判し、解任に追い込んだとみられています。
ロシア軍の敗退が続くなかで、独自の部隊を持つプリゴジン氏やカディロフ氏の影響力が高まっていて、プリゴジン氏は今月11日、自身のワグネルの部隊がウクライナ東部・ドネツク州のソレダルを攻撃し、制圧したと主張しました。
プリゴジン氏は、この戦闘にロシア軍が関わっていないことを強調していて、ワグネルの影響力の拡大を狙っているものとみられます。
●殺人に強盗…“凶悪犯”の兵士が街に?最大50万人の追加動員を計画か 1/11
地面に空いた大きな穴。そのすぐ近くで、バチバチと音を立てながら炎が激しく燃え上がっている。年が明けても、ウクライナを攻撃し続けるロシア。住民にインタビュー中、「あちこちに花が咲くきれいな街だったんです」と話す声をかき消すように突然、爆発音が響いた。市民に心の安まる時はない。
そうした中でウクライナ側は、ロシアが1月15日にある計画を立てているとの情報を明らかにした。それは戦場への追加動員。しかも、その規模は2022年9月の30万人を大きく上回る、最大50万人。社会的分野や経済分野の人も対象になるという。
ロシアをめぐる不穏な情報は他にも。
プーチン大統領の側近、プリゴジン氏。自分が創設した軍事会社「ワグネル」の兵士たちに向かって、こう話していた。
プリゴジン氏「酒を飲み過ぎるな!薬物を使うな!女性を襲うな!トラブルを起こすな!」
実はこの兵士たち、殺人や強盗などを犯した凶悪犯罪者。戦場の最前線で半年間戦ったことで恩赦が与えられ、自由の身になったという。海外のメディアによれば、この中には覚醒剤密売組織や宝石強盗グループのトップ、複数の殺人を犯した人物が含まれているとのこと。
「犯罪者が街に帰ってくる」などの声が出ているという。

 

●ロシアの大規模攻勢を跳ね返すウクライナの自信 1/12
ウクライナ侵攻は2023年に入り、大きな局面を迎えそうだ。2022年8月末に始まったウクライナ軍による反転攻勢で主導権を奪われていたプーチン政権が、早ければ2023年1月末から2月にも大規模な逆攻勢に打って出る可能性が高まってきたからだ。
もともと大規模な反攻作戦開始を計画していたウクライナ軍は、これを奇貨として正面から迎え撃ち、撃退する方針を決定した。領土奪還と勝利に向け「最後の戦い」を合言葉に準備に入った。米欧もこのウクライナの戦略を支持し、地上戦での攻撃を想定した軽戦車の供与に初めて踏み切った。2022年2月24日に始まったウクライナ侵攻開始から丸1年を迎え、プーチン氏は政権の存亡を賭け、最大の軍事的正念場を迎えそうだ。
プーチンのメンツを潰した攻撃
この局面転換の直接のきっかけになったのは、ウクライナ軍が2022年12月31日夜にウクライナ東部ドネツク州マケエフカのロシア軍拠点に行ったロケット砲攻撃だ。宿舎への高機動ロケット砲「ハイマース」(HIMARS)による砲撃でロシア兵士多数が死亡した。ウクライナ側は約400人が死亡と主張、ロシア軍は執筆時点で死者89人としている。
この攻撃はプーチン氏にとって最悪のタイミングで起きた。兵士らが新年を祝う食事をテーブルに並べ、日付が変わる直前にプーチン大統領が行う国民向けメッセージが放送されている時刻に行われたためだ。
ウクライナ国境に近い南部軍管区司令部を訪問したプーチン氏は、演説でロシア軍が窮地にあることを将兵に率直に語りかけた。「ロシアはすべてを引き渡すか、戦うかというところまで追い詰められた。だが、降参するわけにはいかない。何一つ敵に引き渡してはならない。前進あるのみだ」と述べ、軍事作戦を続ける決意を示した。それだけに演説をあざ笑うかのようなハイマース攻撃は、プーチン氏にとって屈辱的なものになった。
ロシア国防省は公表していないが、同様の部隊宿舎などを狙ったハイマース攻撃はその後も続き、ロシア兵士の死者は1000人規模に達したとの説もある。マケエフカでの兵力損失については、すでにロシア国内で国防省への批判が出ている。
2022年6月以降、戦場での勝利がないまま、兵力のいたずらな損失が続いている。このような状況が今後も続けばプーチン政権への支持が落ち込み、政権内部で自らの権威も大きく揺らぐのは必至だ。ウクライナの軍事筋は、この危機感ゆえにプーチン氏が政権維持に向け、攻勢を決断したと話す。
ロシアの攻勢は、東部ドンバス地方(ドネツクとルガンスク両州)と南部ヘルソン州が想定されている。2022年9月の「部分的動員令」で集めた約30万人の動員兵のうち、隣国ベラルーシなどで訓練中だった20万人を一挙に前線に投入するとみられている。ロシアは今回の侵攻で正規軍などすでに約20万人を投入しており、兵力は計40万人規模になる計算だ。
これに対し、ウクライナ軍はこのロシア軍の攻勢がなくても2023年春には自ら大規模な地上戦を仕掛ける計画だった。そのため、ロシア側の動きは「好都合」と受け止めている。ウクライナ大統領府や国防省内では、これからのロシア軍との戦闘を「ラスト・バトル(最後の戦い)」と呼び意気込みをみせている。ラスト・バトルとは、この戦闘でロシア軍を決定的な敗北に追い込むという意味だ。
ロシアの大規模攻勢は「破れかぶれ」
ウクライナ側は、ロシア軍の大規模攻勢について「破れかぶれの作戦だ」と撃退に自信を示す。これまでロシア軍は、ウクライナ軍の火砲の場所を特定するために、動員兵にほとんど武器を持たせずに最前線におとりとして飛び出させるというお粗末な使い方が目立っていた。
今後の攻勢で動員兵が一転して強力な戦力になるとはウクライナ側もみていない。このため、ウクライナのレズニコフ国防相は、現状では正規軍を中心に約40万人規模といわれる自軍兵力について、追加動員で増強する必要は現段階ではないとしている。
これまでは軍事作戦の計画を事前に公表するのを避けてきたウクライナ軍最高幹部の中には、今回はメディアに向けて作戦計画を大胆に発信する者もいる。ブダノフ軍情報局長は2023年1月4日放送のアメリカABC放送との会見で、「(2023年)3月に戦闘は最も熱くなるだろう」と予告した。そのうえで自軍の攻勢を「ロシアに最終的な敗北を与えるものだ」と強調したほどだ。
この自信の背景にあるのが、今後の戦争方針をめぐって米欧と意思が一致していることだ。ウクライナ軍事筋はウクライナ軍の攻勢戦略に「アメリカも乗った」と指摘する。公表されてはいないが、具体的戦略・戦術について「2022年末から何度もアメリカとは打ち合わせを行った」と証言する。
これは2023年1月5日のアメリカとドイツ両国の共同首脳声明に反映された。アメリカはブラッドレー歩兵戦闘車を、ドイツはマルダー歩兵戦闘車をそれぞれ提供する方針を明らかにした。アメリカ政府は1月6日発表した総額約30億ドル(約4000億円)の追加軍事支援に、ブラッドレー50両を含めた。
今回の追加支援の規模は、1回の支援額としては過去最大となった。今回の支援には対戦車ミサイル500発も含んでいる。ドイツはアメリカに続いて地対空ミサイルシステム「パトリオット」も送る。フランスも兵員装甲車の供与を発表。米欧はウクライナの地上戦での攻撃能力を増強する方向で一斉に動き出した。今後、アメリカ・イギリス・ドイツから戦車が提供される可能性も十分にある。
ブラッドレーは、ウクライナ側がアメリカ側に以前から求めているエイブラムス戦車とは異なる軽戦車だ。歩兵の輸送に加え強力な対戦車ミサイルを装備しており、イラク戦争ではイラク軍戦車を多く破壊した実績から「戦車キラー」と呼ばれた。
ウクライナ軍関係者は、ぬかるんだ戦場で戦車より機動的に動くことができ、ロシアの戦車部隊を相手に戦闘もできるブラッドレーのほうが望ましく「維持が難しいエイブラムス戦車はそれほど強く望んではいない」と打ち明ける。そもそもロシア軍の戦車はすでに相当部分が戦闘で破壊されており、ウクライナ側は今後の地上戦でそれほど脅威になるとは考えていないという事情もありそうだ。
ロシア領内の攻撃をアメリカが容認
もっとも、ロシア軍が近く大規模攻勢をかけてきた場合、上記した米欧からの攻撃用兵器は戦闘開始には間に合わないとみられる。この場合、ウクライナ軍は当面ハイマースのほか、アメリカなどから供与された榴弾砲やドローンを使って攻撃するという。
2022年夏以来の反転攻勢で、ウクライナ側に戦局の主導権をもたらす「ゲームチェンジャー」になったのはハイマースだ。2023年には「ドローンが新たな主役になる」と軍事筋は指摘する。ドローンはアメリカから多数供与されているが、これとは別に、旧ソ連時代には軍需産業の中心地だったウクライナは軍需企業がよみがえりつつあり、現在では自国製攻撃ドローンの開発に躍起となっている。
2022年12月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領を招いて開いたワシントンでの首脳会談で、バイデン大統領は実は重要な確約をウクライナ側に示していた。アメリカ製兵器を使わなければ「ウクライナがロシア領内を攻撃するのは構わない」との方針を伝えたのだ。これにはウクライナ側も喜んだ。
インフラや住宅を狙ったロシア軍のミサイル攻撃に悩まされているウクライナは、ロシア空軍の出撃拠点などへの攻撃は侵略を受けた主権国家として当然の反撃と捉えているためだ。この確約を得て、ゼレンスキー氏は帰国後、今後のロシア領内への攻撃の戦略を決めた。それは「道徳的高みに立って行う」というものだ。
つまり、国際法に違反して民間人を狙う攻撃を繰り返すロシア軍とは一線を画し、ウクライナ軍は民間人を狙わず、空軍基地など軍事施設に目標を限るということだ。今後、ウクライナ軍は自国製ドローンを使って、ミサイルを発射する爆撃機が配備されているロシアの空軍基地などを攻撃することになるだろう。この戦術をとっている限り、米欧や日本などのパートナー国家からの支持を得られるとみているようだ。
戦闘を2023年秋で終わらせたいウクライナ
ゼレンスキー政権はなぜ2023年春に大規模攻勢を準備していたのか。その理由は、現在の戦争状態を2023年秋以降は続けたくないと考えているからだ。その思いは米欧も同じだと軍事筋はいう。あまりに戦争の犠牲や負担が大きいからだ。
一方で、プーチン政権は戦場で窮地に追い込まれつつも、防御を固めて戦争の長期化を目指している。人口は1億4000万と4000万強のウクライナより多い。戦争を半ば膠着状態のまま引き延ばして、その中でウクライナの戦争疲れを待って戦局の好転をうかがう戦略だった。
このため、ロシア軍はドネツク州の拠点バフムトなど一部戦線で攻撃をかける一方で、残りの延べ1000キロメートル以上ある戦線では、塹壕戦を展開するなど防御態勢をひたすら続けていた。
ウクライナ軍は、このままでは戦争遂行上の「体力」が持たなくなる恐れもあるため、ひそかに大規模攻勢の計画を練っていた。その意味で塹壕から部隊がはい出すロシア軍からの攻勢は、むしろウクライナ側からすれば、渡りに船の展開といえる。
ロシア軍と正面から戦う中で、ウクライナ軍は2014年のクリミア併合以来、ロシアに占領されたままの全領土奪還を目指す方針だ。この背景には、クリミア半島の武力奪還を含め、ウクライナの戦略を追認したアメリカ政府の方針がある。
2022年夏まではプーチン政権を刺激し戦術核使用につながる恐れがあるとして、クリミア奪還にも難色を示していたバイデン政権は、今や全領土奪還に反対していない。核使用につながるとしてアメリカがウクライナに示していた軍事行動上の限界線、いわいる「レッドライン」は変化しているのだ。
実は、米欧が2022年秋以降、強力に展開してきた外交工作の結果、プーチン政権が核使用に踏み切る可能性についての米欧側の懸念は大幅に減少している。このため、ウクライナのロシアへの軍事作戦をめぐるアメリカからの異論は大幅に減ってきている。
こうしたアメリカとの腹合わせの成功について、ウクライナ政府のナンバー2であるイエルマーク大統領府長官は2023年1月3日、地元テレビとの会見で嬉しそうにこう誇示した。「サリバン(国家安全保障問題担当の米大統領補佐官)と電話で話し、今後のことに関し完全な一致に達した。勝利とは何か。受け入れられない妥協とは何か。戦争の目的とは、などでだ。われわれにとっての勝利は、彼らにとっても勝利となったのだ」と。
岸田首相は早期にウクライナ訪問すべき
サリバン氏との合意はウクライナにとって大きな意味を持つ。なぜなら、ウクライナ側に徹頭徹尾同情を示し、軍事的支援に積極的姿勢を示してきたオースチン国防長官とは対照的に、サリバン氏は対ウクライナ武器支援をめぐりバイデン政権内で最も慎重な立場をとってきた人物だったからだ。それゆえ、イエルマーク氏はサリバン氏との調整成功を喜んだのだ。
このため、ウクライナ側は、今後も米欧からさらなる強固な軍事支援を得ながら、ロシア軍に攻勢をかけることになろう。同時にプーチン政権や国際社会に対しては、ウクライナからのロシア軍完全撤退を和平交渉開始の前提とする姿勢をアピールしていくことになるだろう。
一方で、ウクライナ政府は2023年1月4日、ゼレンスキー大統領の意向として岸田文雄首相に対し、都合のよい時期にウクライナを訪問するよう招請した。これは米欧との連携強化を実現したゼレンスキー政権が2023年、先進7カ国(G7)議長国となった日本からもより強い支援のメッセージを受けたいという願望の表れだろう。
岸田首相は6日のゼレンスキー氏との電話会談で、越冬支援などウクライナとの連携を強化する方針を示した。筆者はこの発言がウクライナにとって、心強い発言だったと評価する。ただ、G7首脳会議(広島サミット)開催は5月だ。開催前の時点で越冬支援はもはや議論にならないだろう。このため、岸田首相にはなるべく早い時期にキーウ訪問を実現し、議長国にふさわしいより包括的なウクライナ支援策を提示してほしいものだ。
●ロシア・プーチン大統領、 軍への兵器・物資の供給加速を表明 1/12
ロシアのプーチン大統領は、国の防衛能力を向上させるとして、ウクライナに展開する部隊を含め、軍への兵器や物資の供給を加速させていく考えを表明しました。
ロシア プーチン大統領「我々は防衛能力を向上させ、ウクライナでの特別軍事作戦に参加する部隊を含めた軍への供給に関する全ての問題を解決する」
ウクライナ侵攻をめぐり、ロシア軍の兵器や装備の不足が指摘されるなか、11日、政府の会議にオンラインで参加したプーチン大統領は、兵器などの供給を加速させると表明。「我々は国の安全と利益を保証する」と強調しました。
また、一方的に併合したウクライナの4つの州をめぐっては、戦闘が続いている地域もあるとして、「厳しい状況にある。多くの地域で住民が安全を確保できていないことは理解している」と発言し、地域開発の計画を今年3月末までに作成するよう、あらためて指示しています。
こうした中、ロシアとウクライナの人権担当者が11日、トルコで協議しました。ロシア側の担当者は、ウクライナ側と捕虜のリストを交換し合い、互いに40人の捕虜をすでに帰国させたと明らかにしています。
●プーチン大統領 イラン大統領と電話会談 2国間協力の拡大など協議 1/12
ロシアのプーチン大統領とイランのライシ大統領が電話会談を行いました。軍事協力の強化にも触れた可能性があります。
ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は11日、イランのライシ大統領と電話会談を行い、2国間協力の拡大などについて協議したということです。
ウクライナ侵攻をめぐり、ロシアはイラン製の無人機や弾道ミサイルの調達を進めていると指摘されていて、会談では軍事協力の強化についても触れた可能性があります。
●「ロシアが核使用に踏み切れない」事情 1/12
今も継続するロシア・ウクライナ戦争において、ロシアが核を使用する可能性はどれくらいなのか? 同問題をロシア軍事の研究者の小泉悠氏が解説。
核兵器の使用という賭け
一方、垂直的エスカレーション――つまり、核兵器の使用にプーチンが踏み切れなかった理由は、西側がウクライナへの軍事援助を制限し続けてきたのとほぼ同様の構図で理解できる。つまり、ひとたび核兵器を使用したが最後、事態がどこまでエスカレートするかは誰にも予測できないということだ。
『現代ロシアの軍事戦略』でも述べたとおり、ロシアの軍事理論家たちは、通常戦力で戦争に勝利できない場合に核兵器を使用する方法について長年議論し続けてきた。
これはロシアの通常戦力が冷戦期と比較して大幅に低下したという現実を反映したものであり、大きく分けて次の三つのシナリオに分類することができる。
・戦術核兵器の全面使用によって通常戦力を補い、戦闘を遂行する(戦闘使用シナリオ)
・大きな損害を出す目標を選んで限定的な核使用を行い、戦争を続ければさらなる被害が出ることを敵に悟らせることで停戦を強要する(停戦強要シナリオ)
・第三国の参戦を阻止するため、「警告射撃」としてほとんど(あるいは全く)被害の出ない場所で限定的な核爆発を起こす(参戦阻止シナリオ)
第一の戦闘使用シナリオ自体は冷戦期から存在してきたが、冷戦後には、そのような能力をもって抑止力として機能させようという考え方が生まれてきた。「地域的核抑止」と呼ばれるもので、1997年頃には既にロシアの軍事出版物に登場していたことが確認されている。
ただし、地域的核抑止戦略が実際にどこまで機能しうるかについては、これを疑問視する見方が根強い。
イスラエルのロシア軍事専門家であるドミトリー・アダムスキーによると、ロシアのいう地域的核抑止が機能するためには戦術核兵器の配備状況や使用基準が高度に透明化されている必要がある。
要はどんな状況でどの程度の戦術核兵器を使用するのかを敵が認識していなければ戦術核使用の脅しは役に立たないということだが、現実問題としてロシア側からはこのような情報が明確に宣言されたことはなく、断片的な情報は相互に矛盾していたり、ズレを抱えている場合が非常に多い。
したがって、地域的核抑止は高度に統合された核運用政策などではなく、軍と戦略コミュニティが独自に主張している曖昧な概念の集合体に過ぎないというのがアダムスキーの結論であった。
ロシアの戦術核戦力がほぼ無傷のまま温存されているにもかかわらず、ウクライナが現に戦争継続を諦めていないことからしても、「地域的核抑止」は機能していないと考えるべきであろう。
脅しを目的とするのではなく、純粋に戦場の形勢を有利に転換するために核兵器を使用するというシナリオはさらに可能性が低い。このような場合にはかなりの数の戦術核兵器を使用する必要が出るが、こうなると西側はもはやウクライナに対する軍事援助を制限しなくなり、場合によってはNATOの直接介入(飛行禁止区域の設定から地上部隊の展開まで)さえ真剣に考慮せざるを得なくなるためである。だが、第三次世界大戦を恐れているのはロシアも同様であって、これはあまりにも危険な賭けと言えるだろう。
エスカレーション抑止は機能するか
これに対して第二の停戦強要シナリオは、近年、西側で「エスカレーション抑止」戦略として広く知られるようになり、多くの懸念を呼んできたものである。
戦闘使用のように核兵器で敵の損害の最大化を狙うのではなく、軍事行動の継続によるデメリットが停止によるメリットを上回ると敵が判断する程度の「加減された損害」を与えるというのがその要諦であり、1990年代末から2000年代初頭にかけてその原形は概ね完成していた。
米国による広島と長崎への原爆投下のロシア版とでも呼べるような核戦略であり、現在のウクライナに当てはめるならば、まだ大きな損害を受けていない都市(例えばリヴィウやオデーサ)を選んで低出力核弾頭を投下するようなシナリオが考えられるだろう。
もっとも、ジェイコブ・キップが指摘するように、核兵器によるエスカレーション抑止型核使用は、紛争が極限までエスカレートした場合に限られていた用の敷居を大幅に引き下げる点で危険性を孕んだものでもあった。
しかも、2010年代以降、ロシアのエスカレーション抑止型核使用に懸念を募らせた米国は、トライデントUD‐5潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に出力を抑えた核弾頭(W78‐2)を搭載しておき、ロシアの限定核使用には同程度の核使用で応えるという戦略を採用している。
つまり、ロシアがウクライナに対して「加減された損害」を与えた場合には、これと同等の損害が自国にも返ってくる可能性があるということであり、そうなった場合には全面核戦争へのエスカレーションさえ覚悟せねばならなくなるだろう。ウクライナを攻めあぐねるロシアがそれでも限定核使用を決断できない理由が、おそらくこれだと思われる。
また、それゆえにロシアもエスカレーション抑止型核使用を公式の核戦略として採用しているわけではなく、そのような可能性を示唆することで脅しとするための心理戦ではないかという見方が従来から西側の専門家の間で広く持たれてきた。
核のメッセージング
最後の参戦阻止シナリオも、ほぼ同様のリスクを抱えている。この場合、核兵器はまだ参戦していない大国へのメッセージングを目的として使用されるものであるから、これは核戦略用語でいう「先行使用」ではなく「予防攻撃」に相当しよう。
前者は通常兵器による戦闘が始まっている中で先に核使用を行うことを意味するのに対し、後者はまだメッセージの受け取り手とは戦争が始まっていない段階で核使用に踏み切ることを意味するからだ。
こうした核戦略がロシア軍の中でいつ頃から生まれてきたのかははっきりしないが、国際的な注目を集めたのは、2009年10月に『イズヴェスチヤ』紙が行ったニコライ・パトルシェフ国家安全保障会議書記へのインタビューであった。
今後の軍事ドクトリンにおいては、武力紛争や局地戦争(ロシアの軍事ドクトリンは、戦争を規模や烈度によって四つに分類しており、この二つは最も規模・烈度の小さなものとされている)でも予防的に核使用を行うことを想定すべきだ、というのである。つまりはロシアが行う小規模な軍事介入を西側が実力で阻止しようとした場合、核兵器を使って警告を与えるという考え方と解釈できよう。
しかし、繰り返すならば、限定的であろうと損害が出なかろうと、核兵器を使用したが最後、事態がどこまで転がっていくのかは誰にもわからない。
米国の国家安全保障会議(NSC)が2017年に行ったという図上演習は、このことをよく示している。ジャーナリスのフレッド・カプランが描くところによると、この演習のテーマは「ロシアが在独米軍基地に限定核使用を行った場合にどう対応すべきか」であったが、この際、あるチームは限定核使用による報復をベラルーシに行うことを選択し、もう一つのチームが通常兵器による報復を選んだという。
つまり、全く同じロシアの限定核使用という事態であっても、米国からどのような反応が返ってくるかをロシアは確信できないということを以上の事例は示している。実際には、ここに大統領の性格や国民の気分といった、より曖昧な要素が加わるわけであるから、ロシアがそう簡単に核使用に踏み切れるとは思われない。
核兵器をウクライナに対する「警告射撃」として使用するという考え方もあるが、これも問題がある。例えば黒海で核兵器が爆発したとして、ゼレンシキーが「だから何なのだ」と言って領土奪還作戦を続ければロシアのメンツが潰れるだけであろうし、かといってロシアが都市への核攻撃へと踏み切れば前述のエスカレーションの危険が立ちはだかることになる。
それでも核使用リスクは払拭できるものではない
2017年に承認されたロシア海軍の長期戦略文書「2030年までの期間における海軍活動の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎」や2020年に公開された「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎」が核兵器によるエスカレーション抑止に言及しつつ、あくまでもこれを一般論に留めていることからしても、停戦強要シナリオと同様に心理戦の域を出ないとの見方が有力視されている。
ただし、ロシアが実際に限定的な核使用の思想を長年にわたって温めており、そのための能力も実際に有しているという事実自体は決して軽視されるべきではない。エスカレーションのリスクに関するプーチンの利害計算が西側のそれと同様であるという保証はどこにも存在しないからである。
●「日本には珍しい自立した政治家」ロシアが安倍元首相を信用した納得の理由 1/12
安倍元首相が銃撃で亡くなった際、プーチン大統領が感情のこもった弔電を送ったのはなぜか。元外交官で作家の佐藤優氏は「ロシアの政治エリートは安倍氏が独自の理念を持ち、日本の他の政治家のように米国の代弁者的な振る舞いをする人物ではなかったと評価している」という――。
プーチンが送った弔電に表れた親愛の情
2022年7月8日、銃撃されて亡くなった安倍晋三元首相の妻・昭恵氏、母・洋子氏に宛てた、プーチン大統領からの弔電が話題になった。その冒頭は次のようにつづられている。
〈尊敬する安倍洋子様 尊敬する安倍昭恵様 あなたがたの御子息、夫である安倍晋三氏の御逝去に対して深甚なる弔意を表明いたします〉
安倍氏の死去が発表されて間もないタイミングで送られた弔電は次のように続く。
〈犯罪者の手によって、日本政府を長期間率いてロ日国家間の善隣関係の発展に多くの業績を残した、傑出した政治家の命が奪われました。私は晋三と定期的に接触していました。そこでは安倍氏の素晴らしい個人的ならびに専門家的資質が開花していました。この素晴らしい人物についての記憶は、彼を知る全ての人の心に永遠に残るでしょう。 尊敬の気持ちを込めて ウラジーミル・プーチン〉
プーチン大統領はKGBという情報機関出身者らしく、さまざまな情報・報告を収集し吸収することを重視する一方、それらの情報をどのように政策に反映させるのか明かすことはない。冷徹さが特徴と言える。もちろん自身の感情を文章に表すことはほとんどない。
ところがこの弔電の文面は儀礼の域を超えたものだ。安倍元首相に心の底から親愛の情を抱いていたのだと感じさせる。
ロシアの政治討論番組で語られた安倍氏の評価
安倍氏が亡くなった当日夜に放映された政治討論番組「グレート・ゲーム(ボリシャヤ・イグラー)では、出演者が安倍氏と安倍外交について言及した。
「グレート・ゲーム」は、ロシア政府系放送局「第1チャンネル」が制作する番組で、政府がシグナルを送る機能を果たしている。この日の出演者は、ヴャチェスラフ・ニコノフ氏(国家院[下院]議員、ヴャチェスラフ・モロトフ元ソ連外相の孫)、イワン・サフランチューク氏(モスクワ国際関係大学ユーラシア研究センター所長)らだった。
ニコノフ氏はゴルバチョフ・ソ連共産党書記長のペレストロイカ政策、エリツィン・ロシア大統領の改革政策を積極的に支持した知識人であるが、現在はプーチン大統領のウクライナ侵攻を正当化する論陣を張っている。
彼らの評価からプーチン大統領が親愛の情を隠さない弔電を送った理由を垣間見ることができる。
「安倍氏は米国の代弁者ではない」
番組では、ニコノフ氏が、安倍氏の死についての経緯と、生前の業績に触れた後、次のように述べた。
〈安倍氏は日本では珍しい自立した政治家だった。私は首相になる前の安倍氏と会ったことがある。当時、年2回、ロ日間の副次的チャネルでの対話が少なくとも年2回行われており、私もメンバーだった。安倍氏がそれに参加したことがある。安倍氏は独自の思考をしていた。日本の知識人と政治家は、しばしば米国の立場を自分の見解のように述べる。しかし、安倍氏はそうではなく、自らの理念を持っていた。もちろん安倍氏は反米ではなかったし、親ロシアでもなかった。偉大な政治家として独自の行動をした。現実としてもロシアと日本の関係発展のために重要な役割を果たした。プーチン大統領が安倍氏の母親と妻に感情のこもった哀悼の意を表明したのも偶然ではない。実に偉大な政治家で日本の歴史に道標を残した〉
安倍氏が独自の理念を持ち、日本の他の政治家のように米国の代弁者的な振る舞いをする人物ではなかったと評価している点に注目してほしい。サフランチューク氏は、日本の対ロ外交を安倍氏以前と以後に分けて述べる。
〈私にとって安倍氏は以下の点で重要だ。日本は長い間、米国によって設定された地政学的状況を受け入れていた。対して、安倍氏は現代世界において、特にアジア太平洋地域において日本の場所を見出そうとした。安倍氏は米国との同盟関係を維持しつつ、日本の独立性を確保しようとした。安倍氏のロシアに対する姿勢は非常に興味深かった。安倍氏が権力の座に就くまでの20年間、日本はロシアの弱さに最大限につけ込もうとした。この時期、日本は親西側的外交を主導した。この論者はすべての分野でロシアの弱点につけ込もうとした。日本は際限なく提起するクリル諸島(北方領土に対するロシア側の呼称)問題を解決することができず、そのため日本には不満がたまっていた〉
ロシアを援助することで北方領土問題の解決を試みた橋本氏、小渕氏、森氏
〈米国によって設定された地政学的状況を受け入れていた〉とは、東西冷戦期、日本列島は北東アジアにおける、共産主義勢力に対する防波堤の役割を果たしていたことを指す。日本の政治エリートのソ連観もイデオロギー対立に加え、地政学的状況にも拘束されていた。やがて東西冷戦が終結し、ソ連崩壊によって誕生したばかりの、国家としては弱かったロシアを援助することで北方領土問題を解決しようとしたのが、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗と続く政権だった。
ロシアの弱さに最大限につけ込んだ小泉氏
当時の北方領土交渉は「日ソ共同宣言」に基づいて進められていた。しかし、この流れは小泉純一郎政権の誕生によって断たれてしまう。サフランチューク氏の言う〈ロシアの弱さに最大限につけ込む〉外交を日本は展開した。当然、北方領土交渉は動かなかった。
民主党政権を経て、安倍氏が首相に就任した頃のロシアは、ソ連崩壊直後の弱いロシアではなく、資源輸出大国として力をつけていた。安倍氏は対ロ外交を大きく転換させた。それをサフランチューク氏は次のように解釈する。
〈安倍氏はロシアが強くなることに賭けた。強いロシアと合意し、協力関係を構築する。アジア太平洋地域においてもロシアを強くする。それが日本にとって歓迎すべきことだ。地域的規模であるが、アジア太平洋地域において多極的世界を構築する。ロシアの弱さにつけ込むという賭けではなく、ロシアの力を利用し、強いロシアと日本が共存する正常な関係を構築することだ。これが、安倍が進めようとしていた重要な政策だ。(2014年に)クリミアがロシアの版図に戻ったとき、日本では再び西側諸国のロシアに対する圧力を背景に、ロシアが日本に対して何らかの譲歩をするのではないかという発想が出てきた。私の考えでは、安倍氏は賢明な政策をとり、西側諸国の単純なゲームが成り立たないことを理解し、ロシアの戦術的弱点につけ込むという選択をしなかった。そして、ロシアと長期的で体系的な関係を構築しようとした〉
ロシアと長期的で体系的な関係を構築しようとした安倍氏
欧米諸国にとってロシアは基本的な価値を共有できない国であり、強くなれば脅威の側面がせり出してくる。
しかし、日本の場合は事情が異なる。
自国の「価値の体系」「利益の体系」「力の体系」、そして北東アジアの地政学的状況を長い目で見るならば、強いロシアとの関係強化を進めたほうが国益に適う。したがって、すべてのケースで欧米諸国と歩調を合わせる必要はない。安倍氏はそれを行動で示した――サフランチューク氏はそう言いたいのだろう。
日米同盟の枠内で日本の独立性を確保しようと努めた
2氏の話は、追悼の意という趣旨を差し引いても、安倍氏を政治家として高く評価している。それは次の2点に集約される。
一つは、「日米同盟の枠内で日本の独立性を確保しようと試みた政治家だった」ことだ。
2016年の日ロ首脳会談後の共同記者会見でプーチン大統領は「日本と米国との関係は特別です。日本と米国との間には日米安全保障条約が存在しており、日本は決められた責務を負っています。この日米関係はどうなるのか、私たちにはわかりません」と述べた。
つまり、平和条約の締結後、日本領となった歯舞群島、色丹島に、安保条約に基づいて米軍が展開する可能性を示唆した。公の場で安倍氏に対してこの懸念にどう応じるのか、大きな問いを突きつけたことになる。
ロシアにとって、ウクライナ戦争の一因であるNATO東方拡大と構造的には同じ安全保障上の危険が生じることになる。安倍氏による北方領土交渉は未完に終わったが、その問いに対する回答を真撃に探っていたのではないだろうか。
2020年、アメリカからの購入が決まっていた迎撃ミサイル防衛システム「イージス・アショア」配備が中止された。当時、河野太郎防衛大臣が決定したかのように報じられたが、安倍氏の了承があったことは間違いない。
中止理由として、迎撃ミサイル発射時に周辺民家の安全が担保できないこと、イージスアショアの発射コストが膨大過ぎることが挙げられた。
その代替の一つとして、日本は国内で戦闘機から発射するスタンド・オフ・ミサイルの長射程化を進め、三菱重工が開発している。これも日米同盟の枠内で模索された安倍流の国家主義だと言える。
ロシアに対するシグナルにもなったと思う。
強いロシアと関係を結び日本の地位の確立を試みた
安倍氏をロシア政治エリートが評価するもう一つは、「安倍外交には、アジア太平洋地域においてロシアに一定の影響力を発揮させ、強いロシアと結ぶことで、この地域での日本の地位を担保しようとする戦略性があった」点だ。
アメリカが進めてきたロシアの台頭を抑える政策に日本も加担し、ロシアを中国に接近させてしまうほうが、日本にとって不安定要因が増すことになる。強い国同士が安定的な関係を築いたほうが、地域的な問題が解決しやすくなると考えていたのだ。
サフランチューク氏の岸田政権評価
ウクライナ戦争が起きた現在、岸田文雄政権の対ロ政策は、ロシア側にどう映っているのか。
サフランチューク氏は、日本が欧米との連携を強めており、「安倍氏の遺産は遠ざけられている」と言う。しかし、現在のような欧米の価値観に歩調を合わせた外交はいつまでも続けられないと見ている。
〈日本が世界の中で独立して生きていかなくてはならず、どのようにアジア太平洋地域の強国との関係を構築し、強いロシアと共生していくかという考え方は、日本の社会とエリートの間で維持される。いずれかの時点で日本はこの路線に戻ると私は見ている。なぜならそれ以外の選択肢がないからだ〉
今後の対ロ政策は安倍外交路線に戻るのか…
日本が安倍外交路線に戻るかどうかは、ウクライナ戦争の帰結に左右される。
ロシアがウクライナ戦争で一定の成果を得た場合、アメリカは実質的な敗北を喫する。バイデン大統領は、ただでさえ低い支持率をさらに低下させ、次期大統領選挙で政権交代が起きる可能性も排除できない。政権が変わったときにアメリカの対ロ外交の論理は転換するだろう。
「価値の体系」が肥大化した西側の外交が行き詰まったとき、日本は、「価値の体系」「利益の体系」「力の体系」の三つの体系をうまく操ってきた安倍氏の外交遺産を活用せざるを得なくなるとロシア側は見ている。
ニコノフ氏が、安倍氏のことを反米でも親ロシアでもないと認識していたように、自国の利益のために何が最適かを模索する愛国者で、かつ、交渉相手国の利益にもつながる戦略的思考ができ、リアリズムに徹した対話可能な外交ができる政治家――ロシアの政治エリートが安倍氏を尊敬し、信用した理由である。
●ロシア、原油販売で問題なし 制裁や価格上限でも=副首相 1/12
ロシアのノバク副首相は11日、西側諸国による制裁や原油価格上限に直面しているものの、原油輸出の契約取り付けで問題はないと言明した。
ノバク副首相は政府のオンライン会議で、国内の石油業者が2月の契約締結を完了したと指摘し、「現時点で問題があるとは報告されていない」と語った。
西側諸国は昨年12月5日、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの追加制裁として、ロシア産原油の上限価格を1バレル=60ドルとする措置を導入。これに対し、プーチン大統領はロシア産原油の価格上限を導入した国への原油と原油製品の供給を2月1日から5カ月間禁止する大統領令に署名している。
プーチン大統領も同会議で、ロシア経済について「金融および銀行システム、経済全体が安定した状態にあり、前向きに発展していると断言できる」とし、「2023年もこのテンポが維持されると信じるに足る十分な根拠がある」と述べた。
レシェトニコフ経済発展相は、2022年のインフレ率が11.9%に達したとした上で、今四半期末までに伸びは大幅に鈍化し、第2・四半期には目標の4%を下回る公算が大きいという見方を示した。
●「核大国への軍事介入を忌避する米国」 論じられるべき核共有 1/12
ロシアは、2021年秋から約15万〜20万の兵力をベラルーシとの共同演習と称してウクライナ国境に展開していた。そして、昨年2月24日、ウクライナへの侵略を開始した。
ロシアに言う資格がない「約束破り」
当初は、ロシアが国家承認したドンバス地方の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」からの要請によるとして、ウクライナ東部へ侵攻した。だが、次第にクリミア半島を繋ぐ南部地域に侵攻し、そしてついにべラルーシ国境から首都キーウに向かっていった。
ロシアの目的は、ゼレンスキー政権を倒し、ウクライナを非軍事化、中立化することである。これはすなわち、少なくとも安全保障に関してはウクライナの主権を認めないということである。
プーチン大統領は、「冷戦直後に米欧諸国はNATOを拡大しないとロシアに約束したにもかかわらず、それを守らなかった」という主張を繰り返している。この「約束」は、米国のベーカー国務長官(当時)やドイツのゲンシャー外相(当時)らが口にしたとされるもので、文書として残っているわけではない。
そのような流れの中で2008年4月のブカレストNATO首脳会談で、ウクライナとジョージアの将来的なNATO加盟の方針が確認された。
これに反発したロシアは、2008年にジョージアに侵攻し、南オセチア及びアブハジアを実効支配した。2014年には、ウクライナのクリミア半島をいわゆるハイブリッド戦により併合した。
ロシアはNATOが約束を破ったと主張するが、文書に残っていないものを根拠にすることは国際政治では通用しない。一方で文書として残っていた日ソ中立条約を一方的に破り我が国に侵攻したソ連の歴史を鑑みると、その末裔であるロシアは言える立場ではない。
プーチン氏が「特別軍事作戦」と呼ぶ理由
通常、戦争は領土、民族、宗教的対立等で起こるが、この戦争の厄介なところは、プーチン大統領の歴史観、世界観から発している点である。
プーチン大統領の歴史観、世界観は2021年7月に発表された「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」の中で示されている。それは簡単に言えば、「ロシア、ウクライナ及びベラルーシは三位一体であり、同根である」「ウクライナ及びベラルーシが独立したのはソ連の手違いだった」というものだ。
ロシアは、兵力不足を補うため動員をかけた現在でも、この戦争を「ロシア・ウクライナ戦争」と言わず、「特別軍事作戦」と呼んでいる。
それは、彼にとってウクライナは外国ではないからだ。すなわち、彼にとってはこの戦争は「国内治安問題」なのである。
例えば領土問題が原因であれば、どこかの時点で妥協点が見出せるかも知れない。だが、この戦争がプーチン大統領の歴史観・世界観から発している以上、妥協点を見出すことは極めて困難に思える。
今年に入って米独仏は機動性の高い歩兵戦闘車や装甲車という戦闘能力の高い兵器の供与に踏み切った。しかしながらウクライナ戦争の今後の推移は、執筆時点ではどうなるかはまだ分からない。
だが、この戦争が世界の安全保障に一大転機をもたらしたことは確かだ。当然のことながら日本の安全保障にも大きく影響することとなった。
「安心してください」崩れたNPTの前提
第一には、戦後の核管理を支えてきたNPT体制の実質的な崩壊である。
NPTすなわち核拡散防止条約は、核軍縮を目的に1968年に国連総会で採択され、1970年に発効した。190カ国が加盟しているが、インド、パキスタン、イスラエルは未加盟である。北朝鮮は脱退し、核開発を進めていることは周知のとおりである。
NPTは米国、中国、イギリス、フランスそしてロシアの5カ国以外の核兵器の保有を禁止する条約である。つまり5カ国に核の管理は全面的に委ねて核兵器の拡散を防ごうとするものであるが、その前提は「核保有国である5カ国は責任ある大国なので、非核保有国は安心して下さい」というものだ。
ところが今回のロシアによるウクライナ侵略は、その前提が崩れたことを白日の下にさらすことになった。
2014年のクリミア併合の際にも核兵器を準備していたことを、プーチン大統領は1年後のメディアのインタビューで答えている。その時も世界は驚愕したが、今回は軍事作戦遂行中に核の威嚇を行ったのである。
これは、NPT体制への信頼を喪失させるものであり、日本のみならず世界の安全保障に大きく影響することは疑う余地がない。
少なくとも北朝鮮の核廃棄は望めなくなったと言えよう。その意味でウクライナ戦争は北朝鮮に核保有の正当性を与えたとも言える。
第二は、世界は核戦争を考慮して軍事的に動かない米国を初めて見たということである。1991年の湾岸戦争は、当時のイラクのサダム・フセイン大統領が隣国クウェートを侵略したことにより生起した。
当時のブッシュ大統領(父)は、「これを放置すれば、冷戦後の国際秩序は崩れる」として米国を中心に多国籍軍を編成し、1カ月でイラク軍をクウェートから追放した。
その後、息子のブッシュ大統領はイラクが核兵器を保有しようとしているとして、2003年にイラク戦争を開始し、最終的にサダム・フセイン大統領を捕獲している。
一方、ウクライナのケースも、ロシアが自国の安全保障を名目として、隣国ウクライナを侵略したわけであり、事象としてはイラクのクウェート侵略と何ら変わりはない。しかし、ウクライナでは、米国のバイデン大統領は、早々に軍事介入はせず、厳しい経済制裁で対応することを宣言した。
何が米国の対応に違いをもたらしたのか。
明らかにイラクは核保有国ではなく、ロシアは核大国だからだ。
日本はウクライナと同じ境遇にある
米国がウクライナに軍事介入すれば、ロシアと直接ぶつかることになり、核戦争へエスカレーションする可能性があるためだ。
ウクライナはNATO加盟国でないから米国は軍事介入しなかったという見方もあるが、湾岸戦争当時クウェートと米国の間にも軍事同盟関係はなかった。
言うまでもなく我が国は、その米国の核の傘に全面的に依存しているのである。台湾海峡そして尖閣諸島問題を抱える我が国の最大の脅威は中国であるが、中国はロシア同様NPT体制を支える核大国である。
冷戦時代、世界の安全保障の最前線であったヨーロッパ各国とりわけ当時の西ドイツは自国の生き残りをかけて米国に核シェアリングを迫った。これは核使用に関する判断と責任を米国と共有しようとするものだ。
米中対立の枠組みの中で、世界の安全保障の最前線に立ってしまった我が国は、この新たな情勢を踏まえて、核シェアリングについても正面から議論する段階に来ている。 
●ロシア、ウクライナ侵攻の総司令官を交代 3カ月で2度目 1/12
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は11日、ウクライナ侵攻の指揮をとる総司令官を、就任からわずか3カ月で解任した。総司令官の交代はここ3カ月で2度目。
解任されたのは、シリアへの軍事介入で残忍な人物と評され、「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を持つセルゲイ・スロヴィキン将軍。昨年10月にウクライナ侵攻の総司令官に任命され、最近の残忍な攻撃を指揮してきた。
後任にはワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長が選ばれ、プーチン氏が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナでの軍事侵攻を率いることとなった。
この配置転換は、ロシア側がここ数カ月間の戦闘で立て続けに敗北した後、ウクライナ東部で前進していると主張する中で行われた。
ゲラシモフ氏は2012年に軍参謀総長に就任。ソ連崩壊後のロシアで同ポストを最も長く務めている。
スロヴィキン将軍は今後、ゲラシモフ氏の下で副司令官となる。
スロヴィキン氏は冬の到来を迎えたウクライナでエネルギーインフラ破壊作戦を開始し、住民数百万人を電気も水道もない状態に陥らせた。また、南部の街ヘルソンからのロシア軍の撤退を指揮した。この撤退はウクライナ側にとって大きな成功となった。
配置転換の理由は
ロシア国防省はスロヴィキン氏の配置転換について、「軍隊の異なる部門間の連絡を緊密なものにし、ロシア軍の管理の質と効果を向上させる」ことが目的だと説明した。
しかし、スロヴィキン氏が権力を持ちすぎたことの表れだとみる向きもある。
軍事アナリストのロブ・リー氏は、「ウクライナ(侵攻)における統一部隊司令官として、スロヴィキン氏は非常に強力な人物になりつつあった。プーチン氏と話す際に(ロシア国防相のセルゲイ)ショイグ氏やゲラシモフ氏を通していなかったようだ」とツイートした。
ロシアのタカ派の軍事ブロガーの中には、「特別軍事作戦」の新責任者となったゲラシモフ氏らロシア軍指導陣を強く批判する者もいる。こうしたブロガーはウクライナでの戦争を支持しながらもその遂行方法を頻繁に批判している。
ウクライナ東部で戦闘続く
総司令官の交代は、ウクライナ東部の町ソレダールで戦闘が続く中発表された。
ソレダールはウクライナ東部ドネツク州にある小さな塩鉱山の町で、ロシア軍が戦略的に重要視する街バフムートから約10キロの位置にある。ソレダールを掌握すれば、ロシア軍はバフムートを射程圏内とする、安全な砲撃場所を確保する可能性がある。また、地下の採掘トンネルを、ウクライナ軍のミサイル攻撃からの避難や、部隊の駐留、装備品の保管に利用することも可能になる。
ソレダールに雇い兵を投入しているロシアの民間雇い兵組織「ワグネル・グループ」は、ソレダールにおける「襲撃」に加わっているのはロシア軍に属さないワグネルの戦闘員だけだと主張している。
ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は10日夜、「ワグネルの部隊がソレダールの全領土を制圧した」と主張した。しかし、ロシア国防省は11日にプリゴジン氏の主張を否定する内容の声明を発表した。
これを受けてプリゴジン氏は11日夜、同じ主張を繰り返した。メッセージアプリ・テレグラムに投稿した短い声明の中で、ワグネルの雇い兵がウクライナ側の約500人を殺害したと豪語した。「街全体にウクライナ兵の遺体が散乱している」。
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は先に、「我々の陣地へ向かう道のりには敵の戦闘員の遺体が散乱している。我が軍の兵士は勇敢に防衛している」と述べている。
これらの主張は独自に検証できていない。
ロシア国防省と雇い兵組織に亀裂か
ソレダール周辺での直近の出来事をめぐり、ロシアの公式見解に食い違いが生じている。これは、とりわけワグネルと国防省の間で亀裂が生じていることを示唆している。
一方でウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ソレダールは陥落していないとしている。
ゼレンスキー氏は11日夜のビデオ演説で、「テロ国家とそのプロパガンダを広める者」が、ソレダールで何らかの成功を収めたかのように「見せかけようとしている」が、「戦闘は続いている」と述べた。
「我々はウクライナの防衛強化のために1日も休むことなく、あらゆることを行う。我々の潜在能力は高まっている」
●プーチン大統領自国も裏切り≠竄ヘり「停戦」まっ赤なウソ 攻撃継続 1/12
ロシア正教会の提案を受け、クリスマスに合わせて36時間(現地時間6日正午から8日午前0時)の軍事作戦の停戦を命令したプーチン大統領。だが、案の定、命令は真っ赤なウソでウクライナへの攻撃を継続。国際社会はおろか、停戦を歓迎した国内を裏切る形となった。専門家は「プーチン氏への信頼低下を決定的にした」と指摘する。
ロシア正教会最高位のキリル総主教は旧暦のクリスマスに当たる7日未明、モスクワの救世主キリスト大寺院で礼拝を行った。これに先立ち、国営テレビで「祖国のために祈ろう。神の恵みにより真実が勝つことを願う」と述べた。
プーチン氏もクレムリンの聖堂で礼拝に出席した後、「この聖なる祝日は善行を促し、社会における精神的価値と道徳観を高める」と国民向けメッセージを発表した。ただ、厳粛なムードの裏で、停戦はあっけなく反故(ほご)にされた。
ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は6日、ロシアが一方的に設定した停戦期間中の3時間に、ロシア軍が同州を14回砲撃し、集落への突入も3回試みたと通信アプリに投稿した。
隣接するドネツク州のキリレンコ知事も7日、前夜にロシア側の砲撃があり、激戦地のバフムトと周辺で民間人2人が死亡したと明らかにした。州内の集合住宅や病院も被害を受けた。
一方、ロシア国防省はウクライナ軍が砲撃を続けたなどと主張。2014年にロシアが併合したクリミア半島セバストポリのラズボジャエフ市長は、7日未明にウクライナ側からの無人機攻撃があり防空システムで迎撃したと通信アプリに投稿した。
ロシア政治に詳しい筑波大学の中村逸郎名誉教授は「停戦を宣言しておいて、相手の攻撃を口実に反撃する偽旗作戦の一種かもしれない。国際社会はこれまでも、プーチン氏の約束を信じてこなかったが、停戦を破ったことで、信用失墜は決定的となった」とみる。
24年にはロシアで大統領選が控える。政権内部では、プーチン氏に反旗を翻す強硬派が勢力を増し、プーチン氏の地位を脅かしている。
「反戦世論もある中、停戦命令に国内からプーチン氏を歓迎する向きもあったが、約束を破られた格好だ。大統領選前にますますプーチン氏の求心力の低下につながり、政権内部の反プーチン派を勢いづかせることになるだろう」と中村氏。
ロシアの独裁者に終わり≠ェ近づいていることは確かだ。
●プーチン大統領「遅い、ふざけているのか」と副首相を叱責… 1/12
ウクライナを侵略するロシアのプーチン大統領は11日、出席した政府のオンライン会議で軍用機を含む航空機の調達作業が遅れているとし、担当のデニス・マントゥロフ副首相に対して「ふざけているのか」と厳しく 叱責しっせき した。
この模様は露主要メディアが報じた。プーチン氏は、侵略で苦戦が続く中、他の閣僚や関連産業の引き締めを図るとともに、自身に向かう批判をかわそうとした可能性がある。
会議には、首相や各分野を担当する副首相らが参加した。プーチン氏は、侵略を巡る露軍部隊への物資供給の徹底や防衛力の強化を改めて指示した。
一番手で報告させたマントゥロフ氏に対し、「(契約作業が)遅い。遅すぎる。今年の受注を受けていない企業もある。ふざけているのか。1か月以内で作業を完了させよ」とまくし立てた。マントゥロフ氏が「最善を尽くす」と応じると、プーチン氏は「最善を尽くすではなく、実行せよ」と念を押した。

 

●東部戦線で重大局面 ロシア包囲、ウクライナは抵抗 「侵攻」総司令官交代 1/13
ロシアが一方的に「併合」を宣言したウクライナ東部ドネツク州の拠点都市バフムトを巡り、両国軍の戦闘が重大局面を迎えている。
半年近く攻防戦が展開されたが、ここ数日間で戦況が急変。ロシア国防省は11日、バフムト近郊の町ソレダルを南北から包囲したと主張した。ウクライナは「戦闘は続いている」(ゼレンスキー大統領)と抵抗の構えを崩さないが、陥落は時間の問題という見方もある。
ロシア軍がソレダルを攻略すれば、バフムトの戦いが激化するのは必至。欧米の追加兵器支援を待つウクライナ軍が、多大な人的損害を被る恐れもありそうだ。
プーチン政権は昨年7月、東部2州のうちルガンスク州全域を制圧。残るドネツク州に戦力を集中させたが、バフムト周辺の前線がこう着し、これより西方に進軍できなかった。先にはウクライナ軍が死守する事実上の州都クラマトルスクがある。バフムト攻防戦は東部戦線の行方を決定付けることから、両国軍とも重視していた。
「プーチンのシェフ」の異名を取る実業家プリゴジン氏は10日、自身が創設した民間軍事会社「ワグネル」が「自力でソレダル全域を掌握した」と主張。一方、ロシア国防省は11日、精鋭の空挺(くうてい)部隊が主力になっていると指摘した。米シンクタンクの戦争研究所は9日、プリゴジン氏の意図について「戦果を繰り返しアピールし、国内でワグネルの評価を高めようとしている」と分析した。
こうした中、ショイグ国防相は11日、ウクライナ侵攻を統括してきたスロビキン総司令官の交代を決定。制服組トップのゲラシモフ参謀総長が新たな総司令官として「特別軍事作戦」を指揮することになった。劣勢でワグネルなどの存在感が高まる中、ロシア軍が主導権を取り戻した上で「決戦」に備える意図があるとみられる。 
●外交で止められなかった独裁者プーチン、核使用に踏み切るか? 1/13
2022年2月24日、ロシア軍がウクライナへの軍事侵略に踏み切り、第2次世界大戦後、最大級の侵略戦争となるとともに、国際社会に大きな衝撃を与えた。2014年3月のクリミア併合をはるかに越える「力による現状変更」であり、ウクライナの主権及び領土の一体性を侵害する国際法及び国連憲章への重大な違反行為である。
国連安保理常任理事国であり、核大国であるロシアの侵略に対して、国際法や国連は無力であった。国際社会での孤立を恐れることなく、プーチン大統領はルビコン川を渡ってしまったが、その暴走を止めることはできるのか。
外交で侵略は抑止できたか?
2021年10月末より、ロシアはウクライナ国境付近に10万人以上の兵力を集結させ、米国や北大西洋条約機構(NATO)に対して、NATO不拡大の法的保証などを要求した。結果的に両者間の交渉が決裂し、プーチン大統領は軍事侵略という最悪のシナリオを決断した。
一見、この外交交渉がうまくいけば侵略が回避されたかのように見えるが、ロシア側の要求は米国・NATOが決して受け入れることができないものであり、最初から交渉決裂を侵略の口実に利用しようとしたのではないかと思われる。つまり、外交交渉でウクライナ侵略を抑止することはできなかったのである。
私を含めた内外の多くの識者は、プーチン大統領が大規模な侵略という非合理な決断を行う可能性はそれ程高くないと予想していた。なぜなら、十数万の限定兵力でウクライナ全土を軍事制圧することは難しく、国際社会での孤立や制裁など政治的な損失も計り知れないからである。
残念ながら、悪い意味でその予想は外れてしまった。外部の観察者が計算する損得勘定は、プーチン大統領には通じなかったのである。
プーチンの強い被害妄想と「思い込み」
一般市民への容赦ない攻撃や頻繁な核使用を示唆する発言など、当初、プーチン大統領は理性を欠いたとの見方も指摘されたが、本人は必ずしも非合理な主体ではない。なぜなら、プーチン大統領には独自の内在的論理があるからだ。
まず、ロシアが「影響圏」とみなす旧ソ連地域に、ロシアが敵視する米国率いる軍事同盟NATOが拡大することは容認できない。しかも、プーチン大統領は、2021年7月に明らかにした論文の中で、ロシア、ベラルーシ、ウクライナは同一の政治空間にあるべきと主張していた。
冷戦時代から続く米国に対する強い被害妄想と、ウクライナはロシアの保護下にあるべきという偏狭な歴史認識が折り重なり、外部からは非合理に見えるロジックがプーチンの頭の中で出来上がった。これが、ネオナチであるゼレンスキー政権からロシア系住民を保護するという軍事行動にたどり着く。独裁者のこうした思い込みを、他者が変えることは簡単ではない。
力で暴走を止められるか?
2014年のクリミア侵略と2022年のウクライナ全土侵略には、ロシアから見るとある共通点がある。それは、当時のオバマ大統領と現在のバイデン大統領のそれぞれが、ロシアが侵略しても米国は直接介入しないと早い段階で宣言した点である。
「世界の警察官」を辞めたとする米国にとって、同盟国ではないウクライナを防衛する義務はない。もし、「軍事オプションを含めてあらゆる選択肢がある」とあいまいな姿勢を示していれば、プーチン大統領が2回の侵略を躊躇した可能性はあるだろう。通常戦力で劣勢のロシアからすれば、米国との全面戦争は自滅行為であるからだ。
部分動員を発表した9月21日の演説でプーチン大統領は、「もし我が国の領土保全が脅かされた場合、我々はロシアと国民を守るために、使用可能なあらゆる兵器システムを必ず使う。これはブラフ(はったり)ではない」と述べ、領土防衛の観点から核使用も辞さない構えを見せた。さらに、占領したウクライナ4州を「併合」した上で、戒厳令まで導入した。
圧倒的な軍事力を有する米国の対応が鍵に
プーチン大統領が核使用に踏み切るかどうかは、最終的に米国の出方をどう計算するかによる。ロシアが核を使用した場合、米国は通常戦力を用いて、ウクライナ領内や黒海上のロシア軍に攻撃を加えるというメッセージを、水面下でロシア側に伝えているとみられている。その場合、それに対するロシア側の報復も予想され、ロシアと米国の全面戦争に発展する恐れがある。
4州の「併合」を宣言した9月30日の演説でプーチン大統領は、「ウクライナにおける戦争はロシアの存亡を賭けた西側との戦い」であるとし、西側を「サタニズム(悪魔主義)」と呼んだ。これに対して、10月6日にバイデン大統領は、「キューバ危機以来、我々は初めて核兵器使用の直接の脅威に直面している。戦術核を安易に使用すれば、アルマゲドン(世界最終戦争)が避けられなくなる」と述べた。
プーチンは核使用に踏み切れるのか、バイデンはそれに報復してロシアとの戦争を決断できるのか、お互いの腹を探り合う心理戦が始まっている。米露間の対立と緊張は、一層深まりつつある。果たしてロシアと事を構える決断を下すことができるのか、その決断を米国民が支持するのか、中間選挙後のバイデン大統領の政治力をプーチン大統領は見極めようとしている。
プーチン大統領の暴走を止められるのは、もはや力しかない。その場合、圧倒的な軍事力を有する米国の対応が鍵となる。米国が参戦の構えを見せてロシアが折れれば、戦争終結の出口が見えるだろう。しかし、ミスカルキュレーション(計算違い)で軍事衝突に至れば、第3次世界大戦や核戦争のリスクが生じる。
冷戦以上に、緊張と分断が極まり、力がものを言う難しい時代に突入したと言えるだろう。 
●プーチン大統領「合併のウクライナ地域、状況厳しいところ多い」 1/13
ロシアのプーチン大統領が11日、ロシアが昨年9月末に併合宣言をしたウクライナ地域の状況について「地域によって厳しい」と述べた。
この日、プーチン大統領は生中継された高官会議でこのように指摘した後、「それでもロシアはこの4つの地域の生活をより良くさせるすべての資源を持っている」と強調した。
ロシアはウクライ軍の奪還作戦が成果を出し始めると、9月末にヘルソン州、ザポロジエ州およびドンバスのルハンシク(ルガンスク)州とトネツク州など侵攻後に面積の半分以上を占領した4地域で同時住民投票を実施し、90%近いロシア併合賛成を引き出した。
10月初めにロシア議会と法で4州のロシア編入が確定したが、ウクライ政府はもちろん西側は不法併合だしてこれを認めていない。
プーチン大統領のこうした発言が、11月にヘルソン州、12月にルハンシク州の西端の一部がウクライナ軍に奪還されたことを意味するのか、経済的な困難を意味するのかは明確でない。
プーチン大統領は以前にも4つの併合地域での「困難」を対外的に言及していた。
●中国の“眼鏡”を通して見たロシア・ウクライナ戦争 1/13
12月30日、習近平とプーチンがビデオで会談した。ロシアのウクライナ侵攻について習近平は曖昧な形で懸念を表明し、交渉を通じた解決を求めているが、ロシアを非難することは避け、他方ロシアからの石油購入を増やし、結果的に西側の制裁の埋め合わせをしている。
ロシア・ウクライナ戦争勃発以来、中国人学者達がどう論じているかを分析すると、やはり中国独特の認識が見えてくる。
プーチンの国家観を分析する
龐大鵬・中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所副所長は、ロシアの国家観念の展開を説明し、それが、今回のロシア・ウクライナ間の衝突と密接に関係があると論じた。ロシアの国家観と、西側の価値観が対立し、そのことが衝突の重要な原因だとする。「ウクライナ危機は一つの国家の問題ではなく、冷戦後の世界の基本矛盾の展開の産物である」と主張する。
ロシアには伝統的に国家について独特な認識を持つ“国家学派”があり、それは西側とは異なる。プーチンは政権初期の2003年に“大欧州”の理念を提唱したが、それは失敗に終わったという歴史も説明する。
龐大鵬は、プーチンが“文化主権”を重視することも注目している。西側からの文化侵略、そして「カラー革命」を防ぐことが重要であり、「ウクライナ問題は文化主権の危機とロシアは見ている」。
趙会栄・中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所ウクライナ室主任も、「カラー革命」、NATO拡大へのロシアの懸念に触れ、ユーラシアの主導権を追求するロシアとグローバルな覇権を追求する米国の間にあって、ウクライナが西側陣営に加入し独立を求めることに、ロシア・ウクライナ衝突の主要矛盾があると主張する。
米国はこの衝突を「最も積極的に扇動した者」、「衝突から最大の利益を得た者」であり、ウクライナは「衝突の最大の被害者」とする。
龐大鵬も趙会栄も、プーチンの考え方を「ロシアの考え方」として説明しようとしている。プーチンが「カラー革命」を恐れているのはその通りだろう。それは中国が“和平演変”(武力によらない政権転覆)を恐れるのと共通している。しかしプーチンの考え方が、どれだけのロシア人により支持されているのかは説明していない。
ウクライナの国家建設の困難さから中国が引き出すべき教訓
劉顕忠・中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所研究員は、ウクライナの歴史を概観し、宗教、文化、言語などが様々で、国民文化と呼べるものも形成されておらず、国としてのアイデンティティを確立することに困難があると主張している。
ウクライナにおいてロシア語、ロシア文化を圧迫・排斥し、ウクライナ化を強行したことは、「法的根拠もなく、(以前から住む)ロシア人その他の少数民族の感情を傷つけ、社会の分裂を悪化させた」と指摘する。
劉顕忠は、多民族国家においては、国家の共通語を普及させると共に、「少数民族の言語・文字も学習・使用できることを尊重・保障する」ことが必要であり、そのことは中国にとっても教訓になると結論を述べる。この結論は、結構なことである。
劉顕忠の論説を読んで読者が疑問に思うであろうことは、それではなぜ国家建設やアイデンティティ確立でいまだに苦しんでいるとされるウクライナ人が、このように団結して戦いを継続しているのかである。それは民主化という過程を通じて、ウクライナの人たちが勝ち得た一つのアイデンティティなのだろう。アイデンティティには様々な要素があり得る。
世界秩序への影響と中国の対応
楊潔勉・前上海国際問題研究院院長(楊潔篪前国務委員・元外交部長の弟)は、ウクライナ危機の本質は、米露間のゲーム(賭け事)との認識を述べ、その背景には米国が中国とロシアを攻撃していることがあると述べる。
ウクライナ危機は、国際秩序の根幹たる国家主権と領土の一体性の原則に関わるが、この点について楊潔勉は、ロシアがコソボの先例に言及していることを引用している。コソボがセルビアから独立した際、欧米そして日本はコソボの独立を支持したが、ロシア、中国はコソボの独立を認めていない。
この問題について、コソボに関して、西側が“保護する責任(R2P)”を唱えて、「(セルビアへの)内政不干渉という基本原則が空っぽにした」と楊潔勉は指摘する。この点で、楊潔勉はロシアの主張を支持しているかのようである。
しかしだからと言って、中国はドンバスなどの“独立”や、ロシアによるドンバスなどの併合を認めてはいない。少数民族の独立は、中国にとり扱いが極めて厄介な問題であり、何かを言えば“両刃の剣”となって自分に返ってくる。
楊潔勉は、ウクライナ危機に途上国がいかに対応するかを注目しており、中国としてこれら諸国の行動に二国間、多国間の枠組も通じて、積極的に関与し、グローバル・ガバナンス、国際システム作りに貢献していく意欲を表明している。
このように楊潔勉は、ウクライナ危機を、中国の見方である二極対立と多極化という観点で解釈し説明している。多極化という観点からは、中国は途上国への働きかけを強めていくのだろう。他方、国家主権と領土の一体性の原則については、国連憲章上の大原則を守るために、中国としてどう尽力するのかについて、明確な立場を示していないように見受けられる。
ウクライナ危機が、核拡散、気候変動、テロリズム、海賊、貿易、金融、様々な物資の供給等のグローバル・ガバナンスに悪影響を与えるとの懸念と、対応の必要性を訴える論文も発表されている。その点では協力できることもあるだろうが、中国は自国の経済発展に悪影響が及ぶことをやはり強く恐れている。
更に于遠全・当代中国世界研究院(中国のシンクタンク)院長は、中国の対応が西側から非難されていることに言及し、また徐明棋・上海国際金融経済研究院特別招聘研究員は、台湾問題と結びつける議論に警戒感を示している。
中央アジアなど旧ソ連諸国への波紋
鄭潔嵐・上海外国語大学ロシア東欧中央アジア学院講師は、ロシア・ウクライナ戦争が旧ソ連諸国に様々な波紋をもたらしたと指摘している。たとえば旧ソ連諸国からロシアへの出稼ぎ労働者が大量に失業した。物価上昇も経済に打撃である。「中央アジア諸国の指導者の殆どが曖昧な中立の立場をとっており、その理由は理解に難くない」と指摘する。(同じような立場をとっている中国が、中央アジアをそのように評しているのは興味深い。)
更に米国が中央アジアとの関係強化に動いていることも注目している。
中央アジア諸国などの旧ソ連諸国の「政治、経済、安全等各方面の形勢が更に複雑になり、地域が“一体化に逆行する”傾向が増大している」との認識を示し、中国としてこれらの地域の動向への懸念を持っていることを示している。その上で、「ロシア・ウクライナの和平達成を促進するよう国際社会が尽力すべき」との結論を述べる。
まとめ
中国は、ロシア・ウクライナ戦争を自分の“眼鏡”を通して、独特に解釈している面がある。(どこの国も、自分の立場から見ていると言えば、そうなのだが。)ロシアの実情、ウクライナの実情についての理解も、我々とは異なる面が少なからずある。
同時に様々な悪影響が中国自身に及ぶことに強い懸念も持っている。
“グローバル・ガバナンス”という言葉を使って、中国として貢献する意欲も表明している。
コロナ禍の下で世界的にコミュニケーションが途絶えがちになっているが、ロシアのウクライナ侵攻という大事件を受けて、その原因や対応などについて意識的に意見交換、認識のすり合わせをしていく必要があると言えるだろう。
●米紙が詳細な調査報道「ロシア軍の“歴史的失敗”はなぜ起きたか」 1/13
ロシア軍のウクライナ侵攻は、ウクライナ軍が1月1日未明、東部ドネツク州マケエフカのロシア軍臨時兵舎を米国製精密誘導ミサイル、ハイマース(HIMARS)で攻撃し、動員兵ら多数の死者を出して越年した。
ロシア国防省は89人が死亡と発表、ウクライナ側は約400人が死亡したとしており、単独の攻撃では最大規模の犠牲者が出た模様だ。兵舎のそばに武器・弾薬が置かれていたため、引火して大爆発が起きたとされる。ロシアのSNSでは、軍幹部の不手際を非難する政治家や元軍人らの書き込みがあふれた。
ロシアのジョーク・サイトでは、「ロシア軍はウラジーミル・プーチン大統領の軍改革のおかげで、ウクライナ領内で2番目に強力な軍隊になった」とする自虐的なアネクドートも登場したが、冷戦期以来、米国と並ぶ強大な軍事力を誇ったロシア軍が予想外に弱かったことは、ウクライナ戦争の大きな謎だ。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」(電子版、12月16日)は、「プーチンの戦争」と題して、ロシア軍の「歴史的失敗」に関するインサイド・ストーリーを報じた。 この調査報道を基に、ロシア軍がなぜ苦戦するのかを探った。
パトルシェフ書記らが軍指導部の責任追及
クレムリンの内情に詳しいとされる正体不明のブロガー、「SVR(対外情報庁)将軍」は3日、SNS「テレグラム」で、兵舎攻撃の報告を受けたプーチン大統領が1日夜のオンラインによる安全保障会議で、国防省や軍参謀本部の幹部を口頭で叱責したと書き込んだ。
それによれば、会議では各組織から死者数に関する異なる情報や報告がなされたが、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記は、死者・行方不明者312人、負傷者157人という数字を、名簿を添付して報告。「悲劇」の原因を軍指導者に求め、責任者の処罰と人事異動を要求したという。連邦保安庁(FSB)のアレクサンドル・ボルトニコフ長官もパトルシェフ書記の報告を支持し、軍参謀本部の責任を追及、大統領も同調したとされる。
パトルシェフ書記やFSBは、軍指導部がこれまで、実際の損失や苦戦を秘匿し、大統領に虚偽の報告をしてきたことも問題視したと「SVR将軍」は伝えている。ただし、「SVR将軍」の書き込みには、フェイクニュースも少なくない。
攻撃を受けた臨時兵舎は職業訓練学校を改装したもので、ハイマース4発の攻撃で全壊した動画がネット上で公開された。攻撃は1月1日午前零時1分に発生、犠牲者の大半は昨年9月の部分的動員令で徴兵された動員兵だったという。ロシア国防省は、携帯電話の使用を禁止していたにもかかわらず、多数の兵士が携帯を使っていたことで位置が特定されたと説明した。
実際には、ウクライナのパルチザンが事前に施設を特定し、通報していた可能性もあるが、大量の部隊や砲弾を集約させるなど「人災」の要素もありそうだ。
米英の特殊部隊も協力か
ドネツク州の親露派指導者、デニス・プシーリン「ドネツク人民共和国」代表代行は、自身のSNSで、負傷者のほぼ全員がモスクワなどロシアの他地域に移送され、治療を受けたとし、「仲間の仇を討つ英雄的な行動」を呼び掛けた。プーチン大統領は、負傷者らを救出した6人の軍人を表彰することを決めたという。
ロシアのネット・メディア「ブズグリャド」は、「戦地での携帯電話の使用は強制的に禁止すべきだ。敵はそれによって軍の陣形や位置を探知し、司令部に送信してデータをリアルタイムで特定できる。米英の特殊部隊は通信手段を読み取るシステムを持ち、ウクライナ軍と共有している」とする軍事専門家の発言を伝えた。
ドネツク州親露派のネット・メディア「今日のドンバス」も、軍事専門家の話として、「北大西洋条約機構(NATO)軍は衛星300基以上を保有してロシア軍の動向を追跡し、情報戦で圧倒的に優位に立つ。今回の攻撃は、ウクライナ軍が米軍顧問団と調整し、ゴーサインが出るとすぐに元旦攻撃を実行した」と伝えた。
別の「ドネツク人民共和国」幹部は、「州の占領地には、頑丈な建物や地下室のある廃墟が多数あり、部隊を分散させるべきだった」とし、ずさんな部隊配備を決めた責任者の処罰を要求した。「マケエフカの悲劇」は、ロシア軍に多くの教訓と反省を残したようだ。
一方、ロシア国防省は8日、ロシア軍が報復として、ドネツク州クラマトルスクのウクライナ軍臨時兵舎を攻撃し、600人を殺害したと発表したが、ウクライナ政府は全面否定した。各国のメディアもこの攻撃を確認しておらず、ロシア側は「報復攻撃の成果」を国内にアピールする必要に迫られたようだ。
地図は1960年代、武器マニュアルはウィキペディア
ウクライナ侵攻後のロシア軍のずさんな戦闘ぶりは、「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道に山のように紹介されている。同紙は、ロシア軍や当局者の数百通のメールや文書、侵攻計画、軍の指令、捕虜の証言など大量の情報を集め、「世界最強の軍隊がなぜ、はるかに弱いウクライナ軍に惨敗を喫したか」を描いている。
同紙によると、ロシア軍は緒戦で古い地図や誤った情報に基づいてミサイル攻撃を行い、ウクライナの防空網は驚くほど無傷だった。ロシアが誇るハッカー部隊のサイバー攻撃も失敗に終わった。ロシア兵の多くは携帯電話を使って家族らに電話したために追跡され、攻撃の餌食になった。ロシアの航空機は次々に撃墜されながら、危機感もなく飛行を続けた。
ロシア兵はわずかな食糧や弾薬、半世紀前のカラシニコフ銃、1960年代の地図を持ち、過密状態の装甲車に載せられて移動。使い方を知らない武器の説明書代わりにウィキペディアを印刷して戦場に赴いたという。
ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍旅団の兵士は同紙のインタビューで、「部隊の中には、これまで銃を撃ったことがない者もいた。航空機の援護や大砲はおろか、弾薬も乏しかった。当初は怖くなかったが、砲弾が飛び交い、仲間が倒れる戦場で、いかに自分たちが騙されていたかを悟った」と話した。
1時間前に侵攻を命令
同紙によれば、侵攻計画そのものが杜撰で、ロシア軍は数日内に勝利することを想定、首都キーウで行う軍事パレードを意識し、将校らに軍服や勲章を梱包して持参するよう指示していたという。
2022年2月24日の侵攻前、ベラルーシ領内には数万のロシア兵が駐留していたが、ある自動車化歩兵旅団は、駐留は演習目的と聞かされており、前日に指揮官から「明日ウクライナに入る」と指示された。侵攻1時間前に行軍を知った部隊も多く、「前の車両について行き、18時間以内に首都に入る」よう命じられたという。
しかし、巨大な車両の動きは鈍く、道路が荒れ、車列はすぐに詰まった。当時、ベラルーシから一本道を南下する戦車・装甲車両の60キロに及ぶ大渋滞が報じられたが、ウクライナ軍の待ち伏せ攻撃で大量の車両が破壊され、多くの死傷者を出したという。
キーウ北東のチェルニヒウ攻略に向かったロシア軍の中核である3万人の戦車部隊は、森に隠れたウクライナ軍の対戦車ミサイル、ジャベリンの餌食となって隊列がバラバラになり、敗走した。「ロシア軍はウクライナ軍の攻撃の素早さにショックを受けた。チェルニヒウ近郊での敗北が首都包囲作戦を台無しにした」(同紙)という。
ロシア軍は首都近郊のアントノフ空港を制圧し、キーウ攻略の拠点にしようとしたが、空挺部隊のヘリが到着すると、待ち構えたウクライナ軍が米国製の携行型対空ミサイル、スティンガーで次々に迎撃して撃墜。300人以上の空挺部隊が殺害され、空港制圧は失敗した。
お菓子や靴下を略奪して喜ぶロシア兵
電撃作戦が失敗すると、ロシア軍は補給という基本的な問題に直面した。長期戦に必要な食糧や水、その他の物資を持ち込んでおらず、兵士らはウクライナの食料品店や病院、家屋に侵入して略奪した。
ロシア軍が制圧した南部ヘルソン州の州都、ヘルソンで、兵士がスーパーや電気店を略奪し、電化製品などを運び出す防犯カメラの映像が世界に報じられたが、ある兵士は日記に、「必要な物資だけ盗む者もいれば、テレビやパソコン、高価な酒まですべて奪う者もいた。お菓子を見つけると、皆子供のように喜んだ」とし、最も価値の高かったのは靴下だったと書いているという。
ロシア軍の中にはパニックに陥り、自滅的な行動に走る者も出た。運転手は戦場に出るのを避けるため、車両の燃料タンクに穴をあけ、走行不能にした。ウクライナ側が押収したT-80型戦車約30両は無傷だったが、調査すると、燃料タンクに砂が混入し、作動不能になっていたという。
ウクライナ側の電話盗聴も効果を挙げたようだ。ウクライナの盗聴担当者は同紙に「ロシア兵がパニックになって友人や親族に電話するのを探知した。彼らは普通の携帯で今後の作戦を決めていた。敵の居場所や今後の行動も分かった」と話した。ロシア人はウクライナ語を解さないが、ウクライナ人の大半はロシア語を理解する。盗聴作戦では女性のチームが活躍したという。
黒幕は「メディア王」コバルチュク
同紙は、非合理で無謀なウクライナ侵攻作戦を決断し、命令したプーチン大統領の「狂気」にも肉薄している。
それによれば、プーチン大統領にとって、ウクライナはロシアを弱体化させるため、西側が利用した人工国家であり、ロシア文化発祥の地であるウクライナを取り戻すことが22年間の統治で「最大の未完の使命」と考えたという。
政権に反旗を翻したオリガルヒで元銀行家のオレグ・ティンコフ氏は「22年間、周囲の者が天才だと称賛し続ければ、プーチンもそれを信じるようになる。ロシアのビジネスマンや役人はプーチンの中に皇帝を見た。皇帝の気がおかしくなっただけだ」と指摘した。
同紙は、ウクライナ侵攻で大統領を後押ししたキーパーソンとして、メディアや銀行を牛耳る大富豪のユーリー・コバルチュク氏を挙げている。新型コロナ禍で2020年から隔離生活に入ったプーチン大統領は、欧米指導者とは会わず、居場所も不明で、会議もオンラインで行ったが、コバルチュク氏はこの間も頻繁に会い、「西側との存亡を賭けた戦い」を促したとされる。
保守派の物理学者だったコバルチュク氏はサンクトペテルブルク出身で、1990年代からプーチン氏と親交が深い。ロシア銀行頭取として銀行業をバックに影響力を拡大。テレビや新聞を傘下に収め、「メディア王」と呼ばれる。
「西側は弱い」とプーチンに進言
米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(22年12月2日)も同氏を、「ウクライナ侵攻を後押しした陰の実力者」とし、「2月の侵攻開始以降、コバルチュク、プーチン両氏は頻繁に会っているほか、電話やビデオを通じても連絡を取っている」とする関係者の証言を伝えた。
同紙は「コバルチュク氏はプーチン氏との個人的な関係の深さや世論の誘導で突出した存在だ。戦況が悪化すると、コバルチュク氏のメディア帝国は侵攻を絶賛するプロパガンダを大量に投下し、反政府派を弾圧。懸念を強める国民の注意をそらすなど、政権にとって極めて強力な役割を果たした」と指摘した。
プーチン大統領の愛人とされる元新体操選手のアリーナ・カバエワさんが、コバルチュク氏率いるナショナル・メディア・グループの会長を務めていることも、コバルチュク氏が大統領の最側近であることを示唆しているという。
同紙によると、コバルチュク氏はプーチン氏に対して、「西側は弱く、今こそロシアの軍事力を見せつける時であり、ウクライナに侵攻して国家主権を守るべきだ」と訴えたとされる。コロナ禍とコバルチュク氏の台頭が、プーチン大統領の判断を誤らせたかもしれない。
●ダニエル・シロ 「プーチンの登場は共産主義革命の帰結である」 1/13
独裁者の登場はたいていの革命の帰結であると、アメリカの研究者ダニエル・シロは「誰が革命を望むのか?」において指摘している。歴史から学ぶべき教訓について、仏紙「レクスプレス」がシロを直撃した。
問題山積の国で革命が起きる
彼の名前はフランス人のように聞こえ、そして彼の来歴は20世紀ヨーロッパの悲劇的な運命を示している。ワシントン大学でロシア・ユーラシア研究に携わるダニエル・シロは、ロシア系ユダヤ人の両親のもと1942年にフランスで生まれ、6歳のときにアメリカ合衆国に移住した。
彼は独裁政治や、専制主義、ジェノサイドの研究を専門とする。スイスの出版社マルクス・ハラーから出版された『誰が革命を望むのか? ラディカルな理想主義の悲劇』において、歴史上の大規模革命をふるいにかけ、その繰り返されるモチーフを描き出している。始動はリベラルで、急進派に転じ、そして急進性を維持するか、あるいは反動的になる。学識豊かで含意あるこの著作では、過去の知識と同時に現在の教訓を学ぶことができる。
──なぜ革命に興味を持たれたのでしょうか?
私は、ロシア革命が起こったときにフランスに避難した、ロシア系ユダヤ人の家系の出身です。共産党は、私の祖父の工場を接収しました。私は1942年11月27日にヴィシーで生まれました。トゥーロンでのフランス艦隊自沈の日です(ヴィシー政府による接収に対抗してフランス海軍が艦艇を自沈させた出来事)。
第二次世界大戦が始まると、両親はパリを脱出し、アンドル県の小さな村に身を隠しました。そこなら、ユダヤ人であることを密告する人がいなかったからです。父はドゴールの解放軍に加わってスペインに行き、そのときにフランス風に聞こえる姓を求められたので、シロと名乗るようになりました。私は6歳のときに家族と共にフランスを離れ、アメリカ合衆国に移住しました。
多くのアメリカ人はヨーロッパ人やロシア系ユダヤ人の末裔なので、アメリカ合衆国ではよくある話ですが、この逸話は私が革命の経緯に関心をもったきっかけでもあります。私は東ヨーロッパの歴史を、特にルーマニアの歴史を研究しました。私の最新の著作では、フランス、ロシア、イランなどのいくつもの大規模な革命が、あるいは、アルジェリアのように正当な動機で始められた植民地解放運動が、なぜ上手くいかないのかを解き明かそうとしました。
──あなたはこの本で、ほとんどの革命を説明する見取り図を提示しています。
一般的に、革命は解決できない問題が山積する国で起こります。フランス革命が典型的な例です。ロシアではもっとひどい状況でした。
イランにおいて、シャー(王)は自国で何が起きているのか理解していませんでした。これはビデオ・インタビューで見ることができます。彼は国民に愛されていると、自分が国民の父であると、イランの政治体制は西欧民主主義よりも優れていると語っていました。王政が転覆する1年前にも彼は同様に語っていました。
インドシナ半島やアフリカでのフランス植民地政策については、1920-30年代に起きていたことに気づいていれば、フランスはもっと上手くやることができたでしょう。しかし、フランス植民地政策は何も変化せず、あとは暴力によって終焉を迎えるだけになりました。
そして、革命が始まると、急進派はつねに穏健派を排除することになります。このことを私は、悲劇的な人生を送ったフランス人将軍の名前を借りて、「ラファイエット症候群」と呼んでいます。
ラファイエットは本当の意味でリベラルで、奴隷制がアメリカにとって良くないとワシントンを説得しようと試みたほどです。彼は君主制維持を望んでいましたがリベラルでした。貴族からは裏切り者とみなされ、左派の共和党からも同様に裏切り者とされました。もし逃亡しなかったら、彼は逮捕され処刑されていたでしょう。その後、彼はオーストリアで5年間収監されました。
ところでヒトラーに権力を握らせたのは誰だったか? リベラル派ではなく、右派です。ヒトラーより急進的ではなかったのですが、右派はヒトラーを利用できて、コントロールできると考えたのです。右派の人々は考えが甘く、命を落とす者もいました。
イランでも同様です。ホメイニ師は初期の革命家たちを、さらには穏健派たちを排除してしまいました。アルジェリアでも同様のことが確認できます。初期のナショナリストたちよりも急進的だったFLNは、よく組織され、唯一暴力行使を厭わなかったので、権力を握ることができました。
いずれにせよ、より強力で、より苛烈だからこそ、急進派は権力を掌握することになります。急進派は戦争のような外部への干渉も利用します。というのも、穏健派も危機に直面したときには急進的な手段を選ぶことになるからです。
排除される穏健派
──フランス革命についての言及が多いのはなぜですか?
フランス革命は、ロシア革命など全ての革命のモデルです。多くのロシアの革命家は、フランスの革命家や歴史家の著作を読んでいました。そして、急進派が権力握った際、反動の危機を前にしてどうすれば権力を維持できるのか、理解していました。たとえばスターリンは、もし自らが穏健派だったら1930年代に政治システムが瓦解することを分かっていました。それゆえに彼は人を殺しに殺して権力の座を保ったのです。
フランスでは革命の1年半後に反動が来ました。テルミドールの反動です。こうしたことは、どの革命にも起こりうることですが、たとえばロシアでは、非常に長い時間、70年も経ってから起こりました。権力の座に居ることは、反対勢力の抹殺を正当化します。同じ勢力の者でも、革命を推進できない者はそうなります。
しかしながら、一、二世代後になると、民主的なコントロールを欠いた革命のシステムは腐敗し始めます。フランス革命後の総裁政府は腐敗しました。ソビエト社会主義連邦共和国も、チャウシェスク政権のルーマニアも、現在のイランも同様です。
──あなたは穏健派の無力を指摘していますが、どういうことでしょうか?
無力というよりむしろ、甘さです。ヒトラーに権力を掌握させた右派は、彼があそこまでのことをするとは考えていませんでした。『我が闘争』には、ユダヤ人を殲滅するか、あるいはロシアを侵略するべきだと、はっきりと書かれていました。しかし、あまりにも信じ難いことだったので、そのことを誰も真剣に受け止めませんでした。理性の信奉者である穏健派には、狂気が勝利を収めることなど想像もつきません。
同じような動きが今日のアメリカの共和党の中に見受けられます。彼らはトランプのような人間が存在して、そのような人間に支配されることなど、信じることができないでいます。さらに言うと、私がこの本を書き始めた頃よりもさらに、アメリカ合衆国は革命に近づいているように思えます。
特に、穏健右派が穏健左派との対話を拒むときに、こうしたことが起きます。このとき、それぞれの陣営は、中道派との妥協を模索するのではなく、それぞれの極論を重視しがちです。
ケレンスキーのケースがそれです。彼は非共産党員の社会主義者で、1917年12月7日からロシア暫定政府を指導していました。右派に支持されたコルニーロフ将軍がサンクトペテルブルクに進軍し始めることは、誰の目にも明らかでした。その対応策として、ケレンスキーはかつて自らが排除した共産主義者たちを動員したのです。
ドイツでも同様です。カトリック党(中央党)が穏健社会主義者と対話をしていれば、ナチス政権は誕生しなかったでしょう。しかし、カトリック党は、自分達の立場により近いと思われる──判断を誤っていましたが──極右勢力を選んでしまいました。今日のヨーロッパでも、同様の危険が確認できます。
──というと?
たとえばフランスです! 穏健左派は、中道派ではなく、極左と組むことを望んでいます。合衆国では、穏健な共和派は、穏健民主派よりも急進共和派を望ましいとしています。中道が消え去るとき、悲劇はもうすぐそこです。
──穏健派はどのような姿勢をとるべきでしょうか? 急進化に対して断固とした態度をとるべきでしょうか?
ひとたび革命の論理が動き始めたら、もう手遅れです。その前に手を打つ必要があります。革命的だとみなされるいくつかの変化は、革命なしでも実現可能です。
たとえばイギリスです。イギリスでは、1800年から重要な変化が起こっていますが、血の海が流れたことはありません。貴族もブルジョワも、新たな社会的手札に適応しなければならないことを分かっていました。この適応に際して、ディズレーリ首相のような穏健右派が重要な役割を持っていました。彼は、社会的要求が過熱する前に、自らの支持層を拡大しなければならないことを分かっていました。
──あなたは「理想信者たちの専制と空想のユートピア」に一章を割いています。なぜこのような発想に至ったのでしょうか?
ロシア/イギリスの哲学者アイザイア・バーリンは、ユートピアとは文字通り「どんな繋がりもない」ことを意味するので、ユートピアが存在し得ないことを見事に示しています。必要に駆られて何かを変えようとすることは望ましいことですが、杓子定規でユートピア的なイデオロギーは権力と暴力なしに実現することはできません。なぜなら常に反対勢力があるからです。
そしてまた、イデオローグたちは、自分たちの計画に信念をもち、自分たちは絶対に正しく、この計画を望まない者たちは間違っていると信じ込んでいます。それゆえ、いつか誰もがこのイデオロギーだけが正しいと理解するだろうから、皆が自分たちに従わなければならない、という訳です。
たとえば中国では、極左のマオイズムは、社会を反映せず、経済危機をもたらし、何千万人もの人を死に至らしめました。毛沢東は自らの理想を諦めるのではなく、自らが正しいと結論を出しました。トロツキーが言うのとは逆に、スターリンは官僚の一人ではなく、革命の信奉者でした。システムが崩壊するのは、信念のない新たな世代が権力の座につくときです。
その意味で、全体主義は宗教の一種です。全体主義は現実世界において、「歴史」という神と、天国とを持っています。それを信じるならば、すべてが可能になります。空想的宗教や全体主義的発想は、神は自分たちの味方だから、自分たちこそが正しいということになります。それに従わない者がいるなら、抹殺されなければなりません。この文脈においてアメリカ独立革命は例外的です。
アメリカ独立革命はフランス革命のようには進展しませんでした。前者は、すでに権力の座にある者によってコントロールされていました。アメリカ人たちは、すでに議会に慣れ親しんでいました。というのは、どのコロニーにもイギリスモデルの議会があったからです。そして、アメリカには出版の自由がありました。権力者は決してコントロールを緩めることなく、革命は急進的なものではありませんでした。
しかしそれは、未解決の諸問題を残さなかったということではありません。奴隷制と人種差別というアメリカの大問題はいまだに存続しているのですから。南北戦争を独立戦争の第二部と考える歴史家もいます。南北戦争では、3000万人の人口のうち、70万人以上の死者が出ました。現代に換算すると、700〜800万人の死者が出た計算になります!
──イギリスのケースを参考にすることはできるでしょうか? なぜ「革命」がこうも上手く進んだのでしょうか?
歴史家たちによると、最初の近代的な革命は1688年の名誉革命だとされています。このとき英国王ジェームズ2世はフランスに逃げ、1701年にフランスで亡くなりました。この挿話は暴力的なものですが、すぐさま議会はコントロールを保ち、君主制は徐々に立憲君主制になっていきました。絶対的な君主制に進んだフランスとは逆方向の動きです。
最初のうちは英国議会もそれほど民主的ではありませんでした。限られた家の者しか投票も立候補もできませんでした。しかし、最初から議会は意見交換と討論の場であり、国家も徐々にそのやり方に適応するようになりました。これが民主主義の特性であり、議論と透明性を認めるからこそ、諸問題に対応することができるのです。
これに対する完璧な反例を見つけるには、今日のロシアを見れば充分です。プーチンは共産主義革命の間接的な帰結です。共産主義革命の帰結は独裁者であり、そして一人の独裁者が全てを決定するとき、決して自らの過ちを省みることはありません。プーチンはまさに今ロシアを破壊しており、仮に戦争に勝ったとしても、ロシアは破壊されてしまっているでしょう。
プーチンはウクライナを侵略するという巨大な過ちを犯しています。ウクライナで実際に起こっていることを、取り巻きの誰も彼に伝えないからそのようなことになっているのです。多くの人が無駄に命を落としています。プーチンを失脚させる必要があります。
習近平も大きな過ちを犯していますが、変わらなければならないと敢えて彼に言う者はだれもいません。彼もまた、台湾を侵略するなどして、国を破滅へと導くかもしれません。あらゆる批判を遮断しているからです。
──結局、ロシアや中国のような革命は、19世紀の終わりに共和制を選んだフランスのような革命よりも、極端なものではないのでしょうか。
私はそんなにフランスに寛大ではありません。フランスは共和制という安定した政治システムを見出したように見えますが、それほど単純なことではありません。たとえば、ヴィシー政府の件から分かるように、意見の一部は革命を認めず、共和制を抹消しようと目論み、そのような意見が政府内でも思想界でも多くの政治的支持を集めました。1940年代、フランスのリベラルな民主主義は死に絶えました。ナチスが敗北してやっと、フランスはこの傾向から解放されました。
一方ロシアでは、その名に値する議会組織というものが存在したことがないという事実が、今日重くのしかかっています。1993年、ボリス・エリツィンはその政権の初期に、議会の反対にあい、街に戦車を出動させることで対抗しました。
ロシアで唯一の改革者はゴルバチョフでした。幸運、あるいは不運がここにもあります。プーチンが権力の座につくことは避けられないことではありませんでした。
腐敗したエリツィンがプーチンを選んだのは、プーチンが腐敗したサンクトペテルブルク市長の右腕であり、エリツィンには不安の要素が何もない、こうした類の後継者が必要だったからです。プーチンは約束を守りました。政治家の個性も重要です。たとえばベトナムでホーチミンが行使した権力はかなり暴力的でしたが、カンボジアのポルポトの暴力ほどではなく、ホーチミンは理性的な側面も見せていました。
取り返しがつかなくなる前に改革を
──民衆の革命的暴力は、過去のことなのでしょうか、あるいは再び出現するのでしょうか?
アメリカやフランスは今日でも多くの問題を抱えていますが、18世紀ほどではありません。とはいえ、革命的暴力は、どんな所でも出現しうるということです。
1960年代に私が大学で学んでいたとき、私たちにとっての疑問のひとつが、ナチスによるユダヤ人虐殺が別の国でも起こり得たのか、あるいはそれはドイツ文化の一部なのかということでした。別の国では決してそのようなことは起こり得ないと考える人もいます。
しかし、あらゆる場所で、命令されれば隣人を攻撃するような人間がいるということを、歴史は証明しています。ドイツの歴史はナチズム解説の一助となるでしょうが、どんな国でもこうした極端に走る可能性はあります。
──現段階で、革命の研究からあなたはどのような教訓を引き出しますか?
改革を望むなら、取り返しのつかない状況になる前に行う必要があり、そして革命に至らないようにするということです。フランスはその良い例です。1789年以前にも、特に税収システムにおいて、改革の可能性はありました。改革が必要な時に、改革を遅らせたり、妨害してはなりません。エリートたちがしばしば理解していない重要な点です。
同時に、エリートたちが自信を失って、周囲の状況を変える意志を完全になくしてしまう事態も避けるべきです。これは、貴族が啓蒙主義の思想を受け入れながらも、変わろうとしなかったフランスやロシアで見られたことです。
最後に具体的事例を挙げましょう。今日、西欧諸国は重要な問題に直面せざるを得ません。移民の問題です。もし、穏健派が移民を真剣に取り上げなかったら、ますます多くの人々が不満を募らせ、極端な方向に向いてしまう危険があります。私たちの国にはトランプがいて、あなたの国にもトランプに相当する人物がいるのですから。
●激戦地 負傷兵の収容中... ロシア側は「全域を制圧」 1/13
ウクライナの戦場を走る、装甲兵員輸送車。ボロボロになった建物の近くに止まった。車体には、赤い十字マークが。すると、建物の中から、けが人が運び出された。砲弾が飛び交う中、傷ついた兵士を収容する瞬間。けが人を乗せて、荒れ果てた街の中を走っていると、すぐ近くで爆発が。ここは今、最も激しい戦闘が行われている東部ドネツク州の街ソレダル。
プーチン大統領の側近・プリゴジン氏は、「われわれは、ソレダル全域を制圧した」という声明を出した。ソレダルには、プリゴジン氏がトップを務める軍事会社「ワグネル」の兵士たちが、大量に動員されている。
一方、ウクライナ側は、制圧報道に反発。
ゼレンスキー大統領「われわれの部隊はソレダルを守り、ロシアに大きな損失を与えている」
情報戦が繰り広げられる中、ロシア側に動きがあった。現場の最高司令官スロビキン氏が、突然交代。事実上、解任させられた形。代わって、その地位に就いたのが、ゲラシモフ参謀総長。
戦況が思うようにいかないロシア。プーチン大統領としては、制服組のトップを戦場に送る異例の人事で、軍の士気を高めようと決断したとみられている。
●プーチン氏5期目へ大統領選の準備着手 ロシア紙報道 1/13
ロシアの有力紙コメルサントは13日、ロシア大統領府が2024年3月の次期大統領選に向けた準備に着手したと報じた。ウクライナへの軍事侵攻を続ける中、現職のプーチン大統領が出馬することを前提に予定通り実施するという想定だ。戦況の大幅な悪化や内政の混乱が起きなければ、プーチン氏の5期目の当選は確実とみられる。
大統領府(クレムリン)に近い複数の情報筋の話として伝えた。クレムリンの内政部門が、次期大統領選に向けて専門家たちとの協議に入った。まだ事前協議の段階で、どのような政治方針で臨むかも未定だ。
コメルサント紙によると、ロシアの次期大統領選は24年3月17日に投票される見通しだ。23年12月に上院の決定により公示される。前回、18年3月の大統領選では、プーチン氏は公示直前の17年12月6日に出馬を表明した。24年の次期大統領選への出馬はまだ明言していない。
ロシアでは20年7月の憲法改正を問う国民投票の結果、大統領任期について「通算2期」と定める一方、これまでの任期は適用外とした。これにより、首相在籍期間を除いて、00年からすでに合計4期20年近く大統領職にあり、独裁的な権力を持つプーチン氏が5期目を目指す出馬が可能になった。
大統領選に向けた内政上の今後の焦点は、22年に実施を見送られた大統領の年次教書演説と23年秋の統一地方選だ。軍事侵攻の戦況や有権者の意識を見極めつつ、大統領選の圧勝をどう演出するかがクレムリンの課題となりそうだ。

 

●ウクライナ戦争で浮上する朝鮮戦争型「休戦案」は実現不可能 1/14
ウクライナでは、東部のドネツク州で激しい戦闘が繰り広げられている。ロシアが、民間の軍事組織ワグネルを使って、ウクライナ側の拠点バフムトの掌握をねらって攻勢をかけ、近郊の町ソレダールを掌握したと主張している。
ロシアのショイグ国防相は、ゲラシモフ参謀総長をウクライナ軍事侵攻の総司令官に任命した。参謀総長が総司令官というのは極めて異例のことである。国防省は「遂行すべき任務の範囲が拡大したことに対応し、部隊間の緊密な協力を進めるため」としているが、ロシア軍の作戦が上手く行っていないことの表れだという意見も西側にはある。
また、航空機関連の調達が遅れていることについて、プーチン大統領がマントゥロフ副首相兼産業貿易相を叱責し、迅速に対処するように指示したことをロシアのメディアが伝えている。
欧米から供与された最新鋭兵器を使って反撃するウクライナ軍の前に、ロシア軍は劣勢に立たされている。今後、東部での戦闘がどのような展開を見せるかを注視したいが、停戦への可能性を見出すのは困難である。
朝鮮半島型の休戦シナリオとは
戦線が膠着する中で、ウクライナのメディアが8日に伝えたところによると、ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は、ロシアが朝鮮戦争の「休戦」協定のようなものを提案してくる可能性があると述べたという。
ダニロフは、「ロシア人は今、何でも思い付くだろう。提案してくる可能性があるシナリオの一つが『38度線』であることは、確実に分かる。最近、韓国人と話したのだが、彼らは譲歩したのは間違いだったと考えている。今も(北朝鮮)問題を抱えている」と発言している。
要するにこれは、東部のドネツク、ルガンスク、南部のヘルソン、ザポリージャの計4州については、プーチンはロシア領と宣言しており、ウクライナを分割して、残りの領土をウクライナ領とする分割案にならざるを得ないだろう。もちろん2014年に併合したクリミアはロシア領のままである。
これは、朝鮮半島が38度線で分断されて、北朝鮮と韓国という二つの国家が対峙している状況を念頭に置いている。
ダニロフはまた、プーチンの側近であるコザク大統領府副長官が、水面下で欧州の政治家と接触しており、現状維持を前提に、譲歩案も示していると述べた。
ウクライナ、ロシアともに完全な勝利を収めることが難しいまま、お互い多大な犠牲を払い続けるよりは、とりあえず戦闘を凍結する「休戦」にすることで、実質的に戦争を終結させる朝鮮戦争方式は、確かに双方に一定のメリットがあるとも言える。
またダニロフの情報がどこまで正しいのかは不明であるが、ロシア軍の侵攻から来月で1年が経過する時点で、停戦の可能性について、ロシア、ウクライナ双方から様々な観測気球が打ち上げられるのは当然である。
このダニロフの発言に対して、ロシアのペスコフ大統領報道官は、9日に、ダニロフのいう朝鮮半島方式の提案はデマだと否定した。
朝鮮半島型の停戦という発想であるが、そもそも朝鮮戦争とはどのようにして勃発し、またどのような経緯で「休戦」したのかをしっかりと把握しておく必要がある。
米ソに分割占領された朝鮮半島
第二次大戦終結時に、朝鮮半島は、ドイツと同じように、米ソで分割占領された。戦後の国際秩序をめぐって、スターリンはアメリカとの関係に最大の注意を払わねばならず、過度にアメリカを刺激することは避けた。
その慎重さの理由は、ソ連がアメリカには力で対抗できないという現実を直視したからである。そこで、スターリンはアメリカに負けない国力、とりわけ軍事力を持つことに腐心する。
金日成は、1930年代後半から満州で中国軍と共に抗日闘争を行っていたが、1940年秋にソ連領の沿海州に逃亡し、ハバロフスク近郊でソ連軍による教育・訓練を受けた。
日本の敗北後、1945年9月に金日成はソ連の軍艦で北朝鮮に帰国し、1946年2月、北朝鮮臨時人民委員会を設置し、委員長に就任する。1年後の1947年2月に、これが正式に北朝鮮人民委員会となり、臨時政府となった。
朝鮮半島の南は米軍が占領し、アメリカに亡命していた李承晩が帰国し、アメリカの後押しで、大統領として1947年3月に大韓民国臨時政府を樹立した。
南北間では、小規模の武力衝突が頻発したが、米ソ両国とも本格的な戦争は望んでおらず、駐留していたソ連軍は1948年末、米軍は1949年夏には朝鮮半島から撤退する。
これをチャンスと見た金日成は、武力統一を敢行しようとするが、スターリンは承認しなかった。
朝鮮戦争勃発
ところが、1949年10月1日に中華人民共和国が誕生し、さらには翌年の1月、アチソン米国務長官が、アメリカの「不後退防衛線」の範囲の中に朝鮮を含めないと述べたために、スターリンは慎重論を転換させ始める。
このアチソン声明の後、スターリンは、金日成の南への侵攻準備を了承する。4月には、金日成がモスクワを訪問し、スターリンと共に詳細な侵攻の計画を立てるが、スターリンは金日成に対して、中国が北朝鮮の侵攻に賛成する必要があると述べた。そのため、金日成は5月に毛沢東を訪ね、毛沢東は、アメリカが介入すれば、中国も北朝鮮に軍事支援を行うと約束した。
こうして、1950年6月25日、北朝鮮は北緯38度線を越え、韓国に侵攻したのである。
国連安保理を欠席したソ連
北朝鮮の進撃は進み、釜山にまで到達する勢いであったが、金日成とスターリンにとって誤算だったのは、アメリカが迅速に対応したことである。
6月27日、国連安保理は緊急会議を開く。ソ連は、共産党政権の中華人民共和国ではなく、国民党政権の中華民国を中国の代表とする国連に抗議して、この年の1月から安保理をボイコットしていた。安保理は、北朝鮮を侵略者と認定して非難し、軍事行動の停止と撤退を求める決議を可決した。ソ連には拒否権があり、出席していたら、この決議案は通らなかったはずである。
スターリンが、マリク国連大使に「安保理に出席し、決議案に反対せよ」という指示を出さなかったのはなぜか不明であるが、70歳を超える独裁者は正常な判断力を失っていたようである。しかし、粛清を恐れて誰もスターリンに反対することはできなかったのである。
この点は、今回のウクライナ戦争と大きな違いで、安保理にはロシアは欠席せず、常任理事国として拒否権を発動し、国連を機能不全に陥らせていることは周知の事実である。
朝鮮戦争に話を戻すと、7月7日、国連安保理は、アメリカを中心に、イギリス、フランス、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、トルコ、タイなど22カ国によって、マッカーサーを司令官とする国連軍を形成し、韓国に派遣することを決議した。派遣された国連軍は緒戦は苦戦するが、何とか釜山を防衛することに成功する。そして、9月15日には、マッカーサーは仁川上陸作戦を敢行する。これに勢いを得た韓国軍と国連軍は、10月になると38度線を越え、北朝鮮に進撃し、20日には平壌を陥落させた。
中国参戦
このような状況を見て、10月13日、スターリンは金日成に対して、ソ連への亡命すら提案したのである。そして、毛沢東の中国を参戦させることが反転攻勢に繋がると考えたが、毛沢東にすれば、ソ連の支援のない形で参戦すれば、リスクが大きすぎる。そこで、毛沢東は周恩来と林彪をソ連に派遣し、1月11日にスターリンと会談させ、中国は参戦を決めていないと言わせ、ソ連の支援を引き出そうとした。結局スターリンは、ソ連が航空支援することを約束し、毛沢東に参戦を促したのである。
毛沢東は、朝鮮半島の状況を慎重に検討し、参戦したほうが有利だという判断を固め、10月12日の夜の政治局緊急会議で、参戦を決定する。
10月19日、毛沢東は中国人民義勇軍を参戦させ、鴨緑江を越えて反撃に出た。中国軍の猛攻を受けて、国連軍は後退し、12月には平壌、さらに翌年1月にはソウルまで制圧される状況となった。マッカーサーは全力で反撃し、3月にはソウルを奪還し、中国・北朝鮮軍を38度線まで押し返した。その状態で戦況は膠着状態となった。
マッカーサーは、戦況を打開するために、中国国内への爆撃や原子爆弾の使用を提言するが、トルーマンは第三次世界大戦を引き起こすことを危惧して、その提案を容れず、1951年4月にマッカーサーを全ての軍のポストから解任した。
そして、休戦交渉を開始するが、長い交渉の結果、1953年7月27日、休戦協定が調印された。この年、アメリカでは1月にアイゼンハウアー政権が誕生し、3月5日にはスターリンが死去したが、それも休戦への弾みとなったのである。
二つの戦争の比較
朝鮮半島方式の停戦というが、朝鮮戦争とウクライナ戦争はその中身が大きく異なる。
第一に、ソ連の承認の下、北朝鮮が半島統一を目指して南に侵攻したのと、ロシア自らがウクライナに侵攻したのとは違う。朝鮮戦争のときには、韓国と共に米軍を中心とする国連軍が戦っている。また、途中から中国が北朝鮮側に参戦している。
NATOは武器支援はするが、自らは参戦しない。戦争の参加者の構成がそもそも違う。
第二に、朝鮮戦争の場合、1950年6月に始まり、1953年7月に休戦に至るまで3年間も戦闘を続け、38度線で膠着状態となったが、ウクライナの場合、東部戦線においても、まだそのような状態には至っていない。ウクライナは西側からの支援が続く限り、戦い続けることができる。国民の士気も盛んである。ロシアにしても、劣勢に立たされているとはいえ、継戦能力はまだ維持している。それに核兵器も保有している。
第三に、核の選択については、朝鮮戦争の場合、トルーマン大統領が、マッカーサーを解任することによって阻止した。ウクライナ戦争では、クリミア奪回まで戦うというゼレンスキーを誰が解任、あるいは翻意させることができるのか。
朝鮮戦争の場合、1953年に国連主導の休戦提案が出ると、韓国の李承晩大統領は、「停戦反対、北進統一」を唱え、休戦に反対した。しかし、国連は彼を無視し、国連軍や米軍と対立したため、孤立してしまった。その結果、休戦を受け入れざるをえなくなったのである。
休戦協定は、韓国政府代表が署名しないまま、国連軍と米軍の代表、中朝連合軍の代表が署名して成立した。
一方、今のロシアでは、プーチンを解任できる権力がない。ロシア兵の犠牲がさらに増え、国民の不満が爆発するまでにはまだ時間がかかる。アフガニスタンにソ連軍が侵攻したときには、撤兵まで10年間が必要だった。
第四に、指導者の交代である。朝鮮戦争停戦のきっかけとなったのは、トルーマン政権からアイゼンハウアー政権への交代、それにスターリンの死である。プーチンもゼレンスキーも健康状態は不明だし、具体的な暗殺計画があるのかどうかも分からない。そのような不確定な情報を根拠に休戦の可能性を判断すべきではない。
以上の相違点を見ただけでも、朝鮮半島型の解決は無理である。ウクライナ戦争の終結には、別の道を探る必要がある。
●既に「詰んでいる」プーチン・ロシア、戦争終了後に考えられる2つの展開 1/14
戦闘開始から1年と経たずに追い詰められ、誤算が続くロシア。核のボタンを握る孤独な独裁者が指導する大国は、これからいかにして未来を切り開くことができるのか。西側諸国はプーチン後のロシアをどのように扱えばいいのか──。『この世界の問い方 普遍的な正義と資本主義の行方』(朝日新書)を上梓した社会学者の大澤真幸氏に聞いた。
──本書の中で、「プーチンは、ヨーロッパへの劣等感やルサンチマンを持っている」「ヨーロッパを選んだウクライナに、ロシアが見ているのは、否認し、斥けようとした自分の姿である」こう書かれています。ロシアのウクライナ侵攻には、日本人には見えにくい国家が抱える心理的な葛藤があるという印象を受けました。改めて、なぜロシアがウクライナに侵攻したと考えますか。
大澤真幸氏(以下、大澤): この戦争がどうして起きているのかということを考えてみると、プーチンが意識している問題と、プーチン自身にも十分に意識されていない無意識の衝動の2つがあるように思います。
まず、プーチンが意識している問題には、ロシアが抱えるヨーロッパに対するコンプレックスがあります。
我々は単純に「ロシアもヨーロッパの一部である」と考えがちですが、ヨーロッパの中にもヨーロッパというアイデンティティの密度や濃度があり、西に行けば行くほど、そして、イギリスに近い場所ほど、よりヨーロッパであるという感覚があります。
宗教にしても、ヨーロッパにはカトリックがあり、カトリック以上にプロテスタントの世界ですが、「我々が最も先進的である」という意識がヨーロッパにはあります。
「俺たちだって本当のヨーロッパなのに」と思いつつ、現実には「そこに追い付いていない」という実感をプーチンは持っています。ですから、ヨーロッパに対して憧れを持つと同時にルサンチマンを抱えている。
ヨーロッパの中にいるのに、その中で一流国と見なされていない。本当は一流国として見てほしいという本音があるように思えます。
さらに、最もヨーロッパっぽいところが新大陸に移植されてアメリカとなり、ヨーロッパ以上に威張っている現実もある。
そして、ロシアには自分たちは「大国である」という意識があります。自分たちは大国で、自分たちこそが本物のヨーロッパなのだ、という大国ナショナリズムをプーチンは背負っている。
このような前提がある中で、ロシアはウクライナが気に食わない。
スネ夫に裏切られたジャイアンなプーチン
大澤: ウクライナには自分たちが大国であるという意識はなく、ロシアにつくか、ヨーロッパにつくかという選択を迫られてきました。ロシアは「ウクライナはもちろんロシアを選ぶ」と思っていた。
ところが、ウクライナの中では長い間、揺れる気持ちがあり、「ヨーロッパの方に向かった方が良さそうだ」という結論に至った。
ロシアからすると、スネ夫に裏切られたジャイアンのような心境です。「お前は絶対に俺を裏切らないと思っていたのに」という本音がある。こうなるとジャイアンは、のび太以上にスネ夫が憎い。
ここまでが広く周知されているロシアの状況ですが、さらにその根底に、こういった状態を生み出す無意識の情動がある。
ここから先は、アメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンが唱えた「文明の衝突」という概念が手掛かりになります。
西側ヨーロッパ、ビザンチンのような東側のヨーロッパ、イスラムや中華文明など世界は様々な文明で分割され、文明圏同士が対立するという考え方です。
しかし、「文明の衝突」というビジョンだけでは、国家が国家に侵略戦争を仕掛けるという状況の説明にはまだ不十分です。ここに資本主義から生じる対立というものがあり、これを昔のマルクス主義者たちは「階級闘争」と呼びました。
「文明の衝突」に「階級闘争」が加味されている、というのが現在の状況だと私は考えます。
ロシアは西側の先進国と比較すると貧しく、西側諸国の価値観の中では階級的には冷遇されている。このことに対する反発を、文明の衝突という構図に紛れ込ませプーチンは利用している。
ですから、今日の戦争はロシアとウクライナの争いではなく、もっと大きな対立です。ただ、ロシアとヨーロッパの闘いなのかというと、そればかりでもなくて、ロシアは最終的にはヨーロッパの抱える理念と闘っている。
ウクライナ戦争後に考えられる2つの展開
大澤: これは単なる領地や国境線をめぐる争いではなく、例えば、平和、人権、民主主義、対等な処遇やフェミニズムといった進歩的な理念と闘っていると見るべきです。だからこそ、ウクライナにも大勢の応援が付いてくる。
ロシアには西側の理念に対して「それはお前たちの理屈だろ」という相対主義的でポストモダンな姿勢がある。
プーチンの周りには哲学者や歴史学者のブレーンがいて、自分たちのビジョンを主張するために理論武装してきました。プーチンは決して遅れた封建主義の人間などではなく、やはり侮れない存在です。
──ロシアはウクライナ侵攻以降、日に日に追い込まれて、取り返しがつかないほど多くのものを失っているように見えます。戦争がどのように決着するかはまだ予想がつかないところですが、ロシアはこの戦争を経て、西側と距離を縮める方向を選び、グローバル市場に復帰することを望むのか、権威主義的な閉じた政治を今まで以上に徹底しようと考えるのか、どちらでしょうか。
大澤: このまま何となく戦争が終息していくというシナリオは一般的に考えてもあり得ないと思います。ロシアの置かれた状況は、将棋に例えるならば「もう詰んでいる」状態で、どう逃げたところで玉は詰まされる。
私はこの先、2つの展開が想定されると考えています。
1つ目の展開は占領統治です。ロシアが今のような体制だと、この先も何が起こるか分からず危険がある。だから、日本が受けたような占領統治を行う。時間をかけてロシアの生態を作り直す。このようなやり方をイメージする人は少なくないでしょう。
ロシアのダメージがどこかで決定的となり、これ以上の戦争の継続が困難となった段階で、全面降伏に近い状態に至り、そこから10年ほどロシアは占領統治される。
冷戦後に放っておいたら今のようなロシアになってしまったので、次は「よきにはからえ」と放っておくわけにはいかない。徹底的に、日本以上に、厳しい占領統治をしなければならない、という考え方です。
しかし、これはたいへん難しいと思います。
新しいロシア革命に必要なビジョン
大澤: よく言われることですが、占領統治が成功した例は日本しかありません。あの小さくて、国の体をなしていたか疑問のあるアフガニスタンに対してさえ、占領統治は成功しなかった。多くの時間を費やしたにもかかわらず欧米風の民主主義を導入することができませんでした。ましてやロシアは「自分は大国である」という誇りを持つ国家です。
西側の冷戦後のロシアに対する対応は冷淡でした。「ぼくらの仲間になりたかったら、オブザーバーとして末席に来てもいいよ」といった待遇です。
西側からしたらそれでも歓迎したつもりかもしれません。しかし、ロシアからすると「なんだ、その扱いは」という印象だったと思います。ここでさらに占領統治などということになれば、気持ちよく民主主義を導入とはいかない。いったん受け入れるフリをしたとしても必ず強い反動が出ます。
そこで考えられる2つ目の展開は、ロシア国内からプーチン政権を倒す運動が出てきて、西側がそれをバックアップしていくというものです。
この時に重要なのは、この運動の持っているポテンシャルです。目の前のプーチンを倒すことが目標では足りません。「また新しい権威主義体制ができました」ではダメなのです。
自分たちの体質を変える市民革命がロシアの中から発生し、これが世界の政治秩序さえ変えていくようなビジョンを打ち出す必要がある。
グローバル資本主義にも大いに問題があり、ロシアの抱える階級闘争もその中から生まれてきたもので、欧米の価値観に賛成できないたくさんの国々をロシアが代弁して闘ってきた側面もある。
ですから、現在の資本主義的な経済秩序を乗り越えるための暗中模索の動きがロシアから新たにスタートして、何十年もかかる世界永続革命の始まりのようなものになれば、ロシアの置かれた状況は「詰んでいる」から「まだ詰んでいない」となり、いくらでも展開を新たに生み出していくことが可能になります。
新生ロシアから生まれる新秩序
──それはつまり、ロシアの中でプーチンを倒す新しい流れが始まり、西側や世界がその動きをバックアップして、今の西側よりもある意味ではよい、あるいはもっと新しい価値観が生み出される、ということがロシアのいい形での生き残り方であるということでしょうか。
大澤: そうです。私たちはついつい西側がよくて、それに歯向かう愚かな国があるという図式で現状をとらえがちです。しかし、必ずしもそうではなくて、西側自体にも問題があり、今日のロシアの状況は西側の抱える問題とも連動している。だから、かなり多くの国が西側と一緒になってロシアを叩くことを拒否しているのです。
西側にも乗り越えなければならない問題がある。ですから自分たちを見直し、より良い秩序を構築するためにも、新しい革命がこれからロシアから起きた時には、西側を含めて世界がそれを支えていく必要があるのです。 
●プーチン氏、5選へ準備 ゼレンスキー氏も再選目指すか 1/14
ロシア紙コメルサント(電子版)は13日、同国の大統領府が2024年3月の大統領選に向け、プーチン大統領(70)の陣営が5選の準備を始めたと報じた。ウクライナ政府高官も年末の段階で、ゼレンスキー大統領(44)の再出馬を期待する意向を表明していた。両国が戦闘収束の見通しを立てられない中、大統領周辺が共に来春の選挙をにらんだ情報発信を本格化させている。
コメルサント紙に語ったロシアの当局者によると、大統領府の内政担当者は次期大統領選に関連し、専門家との協議を始めた。ロシアでは9月に統一地方選が予定されていることから、プーチン氏の陣営は与党がどの程度の支持を得るのかを見極め、大統領選に臨む方針を固めていく意向とみられる。
ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターの調査では、22年2月にウクライナ侵攻を始めた後、プーチン氏への支持率は70%台後半〜80%台前半で推移してきた。ただし多くの国民が率直な回答を避けてきた側面もうかがえる。そのためウクライナでの戦況が悪化し、支持率が如実に低下する場合、プーチン氏が出馬を見送る可能性も残されていそうだ。
00年に初当選したプーチン氏は首相に横滑りしていた期間(08〜12年)を除き、大統領の座に就いてきた。20年には大統領任期に関する憲法条項が修正されており、通算4期目の今任期を終えても、次も出馬できる。
ウクライナでは、イエルマーク大統領府長官が22年12月末、国内のテレビ番組に出演した。ロシアとの戦闘を指揮してきたゼレンスキー氏について「(独立を達成した後の)過去30年間で最も優れた大統領だ」と称賛。本人とは24年春の大統領選への出馬の有無を話し合っていないとしながらも「(ゼレンスキー氏が)この国に更に貢献できると信じている」と述べた。
19年大統領選では7割の票を得て当選したゼレンスキー氏だが、その後は内政を混乱させたことなどもあり、支持率が20%を切った時期もあった。しかしロシアから侵攻を受けた後は、国民の先頭に立ち抵抗してきた姿勢が評価されており、各種の世論調査では8〜9割の支持率を記録。この後は戦況を見極めながら、再出馬の有無や表明する時期を判断するとみられる。
1991年にソ連から独立したウクライナだが、長い間、社会と経済の混乱が続いてきた。結果として、94〜05年に務めた第2代大統領のクチマ氏を除き、大統領経験者で再選した人はいない。ゼレンスキー氏が再選に成功すれば、四半世紀ぶりに2期目を務める大統領になる。
●国民が戦死する一方で...ロシア高官の子供が、ドバイや米国で「贅沢休暇」 1/14
ロシアがウクライナへの本格侵攻を開始した際、ロシア高官たちは口を揃えて欧米諸国を激しく非難していた。だがそうした高官たちの息子や娘が、紛争が始まってからも北大西洋条約機構(NATO)加盟国を含む諸外国を頻繁に訪れ、優雅な休暇を過ごしていることが、その証拠となる写真とともに明らかになった。
これは、ロシア語の独立系ニュースメディア「ザ・インサイダー」が調査したもの。同メディアはセルゲイ・ナルイシキン対外情報局長官、セルゲイ・ショイグ国防相、ウラジーミル・ジャバロフ上院外交第1副委員長など、同国高官の子供と関係のある人物のインスタグラムアカウントを分析した。
その結果、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が昨年2月24日にウクライナへの本格侵攻を開始した後も、一部のロシア高官の子供がイタリア、ギリシャ、トルコ、アメリカなどのNATO加盟国で休暇を過ごしていたことがわかった。
ナルイシキンの娘ベロニカのインスタグラムアカウントは非公開だが、ザ・インサイダーは彼女の親友であるビクトリア・コソラポワが撮影した休暇の写真を分析。2人は頻繁に一緒に旅行をしているという。コソラポワは、ロシアでは禁止されているはずのインスタグラムに、トルコやイタリア、ギリシャで撮影したベロニカとの写真を投稿していた。
ナルイシキンは昨年7月、NATOが「ロシアと、その同盟国であるベラルーシに対してハイブリッド戦争を仕掛けている」と非難していた。
国防相の娘はドバイで優雅な新年
ナルイシキンはまた、ロシアがウクライナを攻撃したのは、ウクライナを「脱ナチス化」し、「ネオナチ」の指導者を権力から排除するためというクレムリンの主張を繰り返してきた。同年4月には、国防省が発行する雑誌のウェブサイトに掲載された記事で、欧米諸国は「ナチス」の支配下に置かれる危険性があると主張した。
「(欧米諸国の覚醒は)欧米諸国において、国家志向で分別があり、現実主義の政治家が権力を握ることではなく、紛れもなく完全にリベラル・ナチスの独裁政権が樹立されることによって終わる可能性がある」とナルイシキンは述べた。
ザ・インサイダーは、ショイグ国防相の娘クセニアがドバイで豪勢に新年を迎え、ホテル「シーザーズ・パレス・ドバイ」に滞在していたことも明らかにした。
さらに、ジャバロフ上院外交第1副委員長の息子のアレクサンダーは最近、休暇でトルコとアメリカを訪れていた。ザ・インサイダーは、「(親のジャバロフが)『親米』の反対派を暴露していた時、息子のアレクサンドルはアメリカを旅行していた」と指摘している。
アレクサンドルは2021年8月に、妻とサンフランシスコとロサンゼルスを訪れ、過去数カ月の間にトルコとドバイも訪問しているという。
●ロシア軍、東部ソレダル制圧と主張 雇い兵組織やウクライナと食い違い 1/14
ロシア軍は13日、長く戦闘が続いていたウクライナ東部の町ソレダルを制圧したと主張した。ロシアの攻勢にとって「重要な」一歩だとしている。
ロシア軍報道官は、ソレダル制圧によって戦略的に重要なバフムートへ軍を進められるようになるほか、ウクライナ軍を孤立させられると説明した。
ロシア政府による声明としては、これは非常に自信にあふれた、野心的なものだ。
一方、ウクライナ当局はソレダルでの戦闘は続いているとしており、ロシアがかく乱用の「雑音」を情報として出していると非難した。
ソレダルでの戦闘は、この戦争でも特に多くの犠牲を出している。
戦争前の人口が1万人と比較的小さなソレダルが、戦略的にどれほど重要な場所なのかについては、異論がある。しかし、仮にロシア軍による制圧が確認された場合、ロシア政府にとっては大きな安心要素となる可能性が高い。
ソレダルでは、ロシア軍と民間雇い兵組織「ワグネル・グループ」が互いに、ソレダル攻略は自分たちの手柄だと主張しており、縄張り争いが起きている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9日、ソレダルには「生命はほとんど残っていない」、「すべての壁が残っている建物はない」と述べた。まるで世界の終わりのような光景で、町はミサイル攻撃によって傷を負い、ロシア兵の死体が転がっていると語った。
13日の演説でも、ソレダルでは引き続き激戦が続いていると述べたが、ロシア側によるソレダル制圧の主張については触れなかった。
現地ドネツク州のパヴロ・キリレンコ知事によると、15人の子どもを含む559人の民間人がソレダルに留まり、移動することができない状態だという。
ソレダルが町として比較的小さいことから、ロシア軍にとっての重要性は、軍事アナリストの間でも意見が分かれている。米シンクタンクの戦争研究所 (ISW)は、ロシアがソレダルを制圧した可能性は高いとした一方で、ここからバフムートを包囲できるとは思えないと述べた。
それでも、ロシアのソレダル制圧が確認されれば、ロシア政府はそれを前進、あるいは勝利と捉えるとみられる。
そしてそれこそ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に必要なことだ。ロシア軍によるウクライナの町制圧は昨年7月以降、途絶え、それ以来ロシア軍は屈辱的な敗北を続けている。
ウクライナは昨年、反撃を成功させ、北東部ハルキウ地域からロシア軍をほぼ撤退させた。10月にはロシア本土とクリミア半島を結ぶケルチ橋を攻撃し、11月には南部ヘルソンからロシア軍を追い出した。ヘルソンは、ロシアがこの戦争が始まってから唯一、制圧していた州都だった。
こうした中、ソレダル制圧はロシア国民と冬の戦線にいるロシア軍にとって「朗報」となる。
しかし、ウクライナ軍東部司令部のセルヒイ・チェレヴァティ報道官は、ロシアによるソレダル制圧を否定。「戦闘員の戦術的な位置を明らかにしたくないので、これ以上の詳細な説明はしない」とした。
ハンナ・マルヤー国防次官は、戦闘は「一晩中ソレダルで熱く」行われていたと発言。ウクライナ兵は困難な局面でも、「勇敢に防衛を維持しようとしている」と付け加えた。
深まるワグネル・グループとの亀裂
西側諸国とウクライナの当局者は、ソレダルとバフムートでの戦闘の大半は、悪名高く残虐な「ワグネル・グループ」が行っていると述べている。
創設者エフゲニー・プリゴジン氏はここ数日、ソレダルにいるのはワグネルの部隊だけだと繰り返し主張している。10日夜には、ワグネルが町を占領したと発言。しかし翌11日には、ロシア国防省がこれと矛盾する発表を行った。
国防省による日々の報告には、ワグネルへの言及がない。13日に報告でも、ソレダル制圧ではロシア軍の空挺部隊が大きな役割を果たしたと述べている。
プロゴジン氏はこれに対し、国防省の報告を読んで「驚いた」という声明を発表した。ソレダルには「空挺部隊は一人もいなかった」と主張し、「(ワグネルの)戦闘員を侮辱」し、「他人の功績を盗む」ことを戒めた。
また、ウクライナでのワグネルの進攻を阻む最大の脅威は「自分の場所に留まりたい役人たち」だと非難した。
国防省はその後に出した声明で、ワグネル戦闘員の戦闘における「勇気と無私の行動」を称賛したが、正規ロシア軍が主役であることを再度強調した。
軍事アナリストらは、ロシア軍とワグネル・グループ間の緊張について長く議論してきた。オリガルヒ(富豪)のプリゴジン氏は公の場で軍高官を批判しており、これには11日にウクライナ侵攻の指揮をとる総司令官に任命されたワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長も含まれる。
ロシア軍は9月末以来、30万人の予備役を動員してきた。一方、プリゴジン氏はロシア国内の刑務所で戦闘員を募集しているとみられている。
ウクライナのアンドリイ・イエルマク大統領府長官は、仏紙ル・モンドの取材で、ロシアの犯罪者が前線へ直接送り込まれては死亡していると指摘。
「ソレダルは市街戦になっており、両陣営とも町を制圧したとは言えない」と語った。
●ロシア国防省と民間軍事会社「ワグネル」の対立浮き彫りに  1/14
ウクライナに侵攻するロシアの国防省は東部のソレダールを掌握したと発表しましたが、ウクライナ側はこの地域で防衛が続いていると主張しています。一方で、ソレダールを巡ってはロシア国防省と、戦闘に参加しているロシアの民間軍事会社「ワグネル」との間の対立が浮き彫りになっています。
ロシア国防省は13日、激しい戦闘が続く東部ドネツク州で、ウクライナ側の拠点の一つバフムトの近郊の町ソレダールを12日夜に掌握したと発表しました。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は今もこの地域で防衛を続けていると主張しています。
ロシア軍としては、ウクライナ側の反転攻勢に対して軍部への批判が続く中、重要な戦果だと誇示したい思惑もあるとみられます。
一方でソレダールをめぐってはロシアの民間軍事会社「ワグネル」が多くの戦闘員を投入していたとされ、ワグネルの代表で強硬派とされるプリゴジン氏はロシア国防省の発表に先立ってロシア軍の部隊ではなく、ワグネルの戦闘員によってソレダールを掌握したと主張していました。
ロシア国防省が13日に行った当初の発表ではロシア軍の部隊による功績だと強調していましたが、およそ6時間後に声明を改めて出し「戦闘はロシアの多様な部隊によって行われた。ワグネルの志願兵の勇敢な行動によっても達成された」などとしています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は13日「ロシア国防省がソレダールの掌握をめぐりワグネルを参加している部隊として認めなかったため、ロシア国内で大きな反発を引き起こした」として軍部に批判的な強硬派勢力から圧力があったと指摘しました。
そのうえで「今回の発表はワグネルと国防省との間の対立を浮き彫りにしている」としたうえで、ウクライナへの軍事侵攻でワグネルの代表プリゴジン氏の存在感が増していると分析しています。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻14日の動き 1/14
ウクライナ大統領府「キーウの重要インフラにミサイル攻撃」
ウクライナ大統領府のティモシェンコ副長官は日本時間の14日午後4時半すぎ、現地時間の14日午前9時半すぎにSNSに投稿し「キーウの重要インフラにミサイル攻撃が行われた。詳細は調査中だ」としたうえで、市民に対し、シェルターに避難するよう呼びかけました。NHKの取材班が滞在しているホテルでは日本時間の14日午後4時半ごろ、現地時間の14日午前9時半ごろ、少なくとも3回、「ドーン」という音が聞こえました。これについてキーウのクリチコ市長は「市内で爆発があり対応している。シェルターにとどまるように」とSNSに投稿しました。
ゼレンスキー大統領「ソレダール 戦いは続いている」
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日に公開した動画で、「ドネツク州での激しい戦いは続いている。バフムトやソレダール、そして東部の町や村をめぐる戦いは続いている」と述べ、ロシアがバフムト近郊の町ソレダールを掌握したと発表するなか、いまもこの地域で防衛を続けていると主張しました。そのうえで、「敵はこの方面で最大の戦力を集中させているがウクライナ軍が国を守っている。ソレダール付近で敵を撃破するために重要な働きをしている部隊に感謝をしたい」と述べました。
イギリス政府 ウクライナに主力戦車の供与を検討
イギリス政府が、ウクライナへの軍事支援を強化するため、主力戦車の供与を検討していることが分かりました。スナク首相がウォレス国防相に供与を検討するよう指示し、今後数週間のうちに方向性が示される見通しです。イギリスメディアは、候補となっているのは120ミリ砲を搭載する陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」で10両程度の供与が検討されているとしています。イギリスの首相官邸は、NHKの取材に「われわれはこの戦争でウクライナを勝利に導く次世代軍事技術の支援を加速させる。戦車の供与は、形勢を一変する能力をウクライナに与えることになる」と、その意義を強調しています。ウクライナのゼレンスキー大統領は、攻撃力の高い戦車の供与を各国に求めていて、隣国ポーランドは1月11日、保有するドイツ製戦車を供与する意向を表明し、ドイツがこれを認めるかどうかが焦点となっています。一方で、各国の間では攻撃力の高い戦車の供与は戦闘のさらなる激化を招くとして慎重な意見があり、アメリカ、フランス、ドイツは今月、装甲車の供与を表明しています。
IAEAグロッシ事務局長 来週ウクライナ訪問
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は13日声明を発表し、来週ウクライナを訪れ、安全性への懸念が広がっているザポリージャ原子力発電所を巡り、ウクライナ政府の高官と協議を行うと明らかにしました。ザポリージャ原発は施設周辺への砲撃により原子炉の冷却に必要な外部からの電力供給が失われる事態が相次いで起きていて、IAEAは、原発周辺を安全が確保された区域に設定するための協議をウクライナとロシア双方と続けています。グロッシ事務局長は声明で「双方との協議は求められるほどのスピードではないが前進している。すみやかに合意できることを願っている」として協議に意欲を示しました。
ウクライナの人権担当者「人道回廊設置でトルコが調整」
ウクライナ議会の人権保護委員会の委員長、ルビネツは、NHKの取材に応じ、今月12日までアンカラで3回にわたり、ロシア議会で人権問題を担当するモスカリコワ氏と協議してきました。ルビネツ氏は、ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領がトルコの仲介で「人道回廊」の設置に合意した場合、ロシア側と詳細を詰めた上で、両国が連絡を取り合う事務所をトルコに設置したいという考えを示しました。ルビネツ氏は「去年の侵攻開始以来、2万人以上の市民がロシアの人質になっている。家族のもとに帰せるようロシア側と協議したい」と話していました。ウクライナでの戦闘が長期化する中、今後、具体的な成果に結びつくのかが焦点となります。
米シンクタンク「ロシアはソレダールの重要性を誇張」
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は12日、ロシア軍がソレダールの大部分を掌握したとみられると指摘する一方で「ソレダールの占領は、軍事作戦上、重要な進展ではなく、バフムトの包囲に即座につながりそうにない。ただ、ロシアはソレダールの重要性を誇張している」という見方を示しています。
ウクライナ軍の報道官「ロシア軍はソレダールを掌握していない」
ウクライナ軍の報道官は13日、地元メディアに対し「ロシア軍はソレダールを掌握していない。彼らの発表は事実ではない」と述べ、ロシア側の主張を否定しています。
ロシア国防省 ソレダールを掌握したと発表
ロシア国防省は13日、激しい戦闘が続いていた東部ドネツク州で、ウクライナ側の拠点の1つバフムトの近郊の町ソレダールを12日夜に掌握したと発表しました。国防省は、ロシア軍の精鋭とされる空てい部隊が軍事作戦を展開したなどとしたうえで「ソレダールを掌握したことで、 バフムトでウクライナ軍の補給路を遮断し部隊を封鎖できる」と主張していて、バフムトへの攻勢を強めたいものとみられます。ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は、ロシア軍が新たな町を掌握するのは去年7月以来だと指摘しています。ロシア軍としては、去年の夏以降、ウクライナ側の反転攻勢を受けて劣勢が続き、ロシア国内でも強硬派などから軍部への批判が強まる中、重要な戦果だと誇示したい思惑もあるとみられます。

 

●“プーチン大統領側 来年の大統領選へ立候補の準備” ロシア紙  1/15
ウクライナでは14日、ミサイル攻撃を受けた東部の都市で少なくとも12人が死亡するなど、ロシア軍は各地への攻撃を強めたとみられます。こうしたな中、ロシアの有力紙は、プーチン大統領側が来年3月に行われる予定の大統領選挙への立候補に向けて準備を始めたと伝えました。
ウクライナでは14日、ロシアによるミサイル攻撃が首都キーウや西部リビウなど各地で相次ぎました。
東部ドニプロペトロウシク州のドニプロでは9階建ての高層住宅が攻撃を受け、ウクライナ軍の幹部は、少なくとも子どもを含めた12人が死亡し60人以上がけがをしていると明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は14日に公開した動画で「ロシアによるテロを止めるために必要なものは、パートナーたちが保有している兵器だ」と述べ、さらなる軍事支援の必要性を強調しました。
こうした中ロシアの有力紙「コメルサント」は13日、ロシアの大統領選挙が来年3月に予定通りに行われ、プーチン大統領側が立候補に向けて準備を始めたと伝えました。
プーチン政権に近い関係者の話として伝えたところによりますと、政権の担当者がプーチン氏の立候補に向けて最近、専門家たちと協議を行ったということです。
2000年から大統領を続けるプーチン氏は次の大統領選挙に立候補するかなど、みずからの去就については明らかにしておらず、軍事侵攻が続くなか5期目を目指して来年以降も政権を担うのか、動向に関心が集まっています。
●「裏切り者ではない」 ウクライナ側で戦うロシア人部隊 1/15
ウクライナ側に付いて戦う「自由ロシア軍団」に加わるロシア人にとって、最も重要なのは秘匿性だ。
自由ロシア軍団の正確な人数は機密事項であり、所在が明かされることもなく、声明を出す際には慎重に言葉が選ばれる。
カエサルという仮名を使っている同軍団の報道担当者が、昨年秋にウクライナ軍がロシア軍から奪還したウクライナ東部ドネツク州の村ドリナで取材に応じた。
カエサル氏はロシア語と英語を交えながら、「祖国と戦っているわけではない。(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンの体制、悪と戦っている」と語った。その上で「私は裏切り者ではない。国の行く末を案じる真の愛国者だ」と強調した。
自由ロシア軍団は、ロシアがウクライナに侵攻してすぐに創設され、ウクライナ軍の外国人部隊の一端を担っている。そのエンブレムは、突き上げた握り拳に「ロシア」と「自由」という文字でデザインされている。
カエサル氏によると、同軍団には「数百人」のロシア人が加わっており、2か月間の訓練を経て東部ドンバス地方に昨年5月に配置された。
軍団の兵士の一部は、数か月にわたって激しい戦闘が続いている東部前線のバフムートで任務に就いている。
匿名を条件に取材に応じたウクライナ関係者は、自由ロシア軍団について「士気の高い熟練した部隊で、任務を完璧にこなす」と語った。志願者には忠誠心を確認するため、数回に及ぶ面接や心理テストのほか、うそを発見するといわれるポリグラフによる検査も課されるという。
政治的な宣伝工作で役割
自由ロシア軍団の戦争遂行努力における貢献は、戦場以外でより大きな意味を持つと解説するのは、軍事専門家のオレグ・ザダノフ氏だ。
ザダノフ氏は軍団について「戦闘行為に参加するものの、数が少ないために大勢には影響しない」と指摘する。その上で、「その重要性は政治的な側面にある。民主主義や自由を支援し、正しい側で戦うロシア人が存在することを示せるのはウクライナにとって好都合だ」との考えを示す。
ソーシャルメディア上では、軍団は主にプロパガンダ動画を投稿し、数千人の入隊希望者がいるとしている。
サンクトペテルブルク出身で理学療法士として働いていた報道担当のカエサル氏は、入隊したのは政治的な動機があったためだと明かした。
自身を「右派のナショナリスト」と形容するカエサル氏は、プーチン政権は武力でしか打倒することができないと考えている。
カエサル氏は「ロシアは死につつある。地方に行けば、酔っ払いや薬物依存者、犯罪者が目に付くだろう。民衆は苦しんでいる」と訴える。20年もプーチン政権が続いたことが原因なのは明らかだと強調する。
「プーチンを支える体制や政府、側近のすべてが最低だ。敗者であり、地位を悪用した泥棒だ。金や快楽のために生きることにしか関心がない。国家を運営できるわけがない」と断じた。
ロシアが昨年2月にウクライナに侵攻した後、カエサル氏は妻と4人の子どもをキーウに連れて来た。家族がウクライナにいることで自由に発言でき、家族の身もより安全だと考えている。
「家族の皆も爆撃の恐怖におびえ、寒さの中での暮らしを余儀なくされている。だが、私の選択に賛成している」と話した。
●ロシア前大統領「岸田日本首相、米国の随行員のよう…切腹せよ」 1/15
ロシアのメドベージェフ前大統領は14日、日本の岸田文雄首相に対し「米国の随行員としての姿だけ見せている」として切腹だけが彼の名誉を回復できると主張した。
ロイター通信がこの日報じたところによると、メドベージェフ前大統領は岸田首相がバイデン米大統領との会談後に出した共同声明に対する不満を吐露しながらこのように話した。
これに先立ち日米首脳は前日の声明でロシアのウクライナ侵攻に言及し、「世界のいかなる場所においても、あらゆる力または威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対する」と明らかにした。
その上で「ロシアによるウクライナでのいかなる核兵器の使用も、人類に対する敵対行為であり、決して正当化され得ない」と警告した。
これに対しメドベージェフ前大統領は、声明はロシアに対する被害妄想を見せているとし、「広島と長崎の原爆で犠牲になった日本人数十万人に対する記憶を無にするもの」と話した。1945年の第2次世界大戦が終戦間際に米国が日本に投下し多くの被害者を出した原爆に言及したのだ。
メドベージェフ前大統領は岸田首相が米国に謝罪を要求する代わりに「米国の随行員としての姿だけ見せている。こうした恥は岸田が日本に戻って閣議で切腹してこそそそぐことができる」とした。
メドベージェフ前大統領は一時親西側の政治家と見なされたりもしたが昨年2月のロシアのウクライナ侵攻後は激しい言葉を継続しプーチン大統領の友軍の役割をしてきた。
●ロシア 新たな総司令官のもとでも大規模ミサイル攻撃 5人死亡  1/15
ウクライナでは14日、ロシア軍によるミサイル攻撃が各地で行われ、東部の都市では少なくとも5人が死亡するなど被害が相次いでいます。ロシアは新たな総司令官となったゲラシモフ参謀総長のもとでも大規模なミサイル攻撃を続けた形で、ウクライナ側は非難を強めています。
ウクライナでは14日、ロシアによるミサイル攻撃が各地で相次ぎ、ウクライナ軍は、ロシア側が撃った38発のミサイルのうち25発を迎撃したと発表しました。
一連の攻撃によって各地で被害が出ていて、このうち東部ドニプロペトロウシク州の知事は、ドニプロの高層住宅が攻撃を受け、少なくとも5人が死亡、子ども12人を含むおよそ60人がけがをしたとSNSで明らかにしました。
また、首都キーウでロシア軍による攻撃が確認されたほか、西部リビウでも重要なインフラ施設への攻撃があったと地元の知事が明らかにしています。
ウクライナでは、先月31日にもキーウなど各地でロシア軍による大規模な攻撃があり死傷者が出ていました。
ロシアは今月11日に軍事侵攻の指揮をとる総司令官となったゲラシモフ参謀総長のもとでも大規模なミサイル攻撃を続けた形で、ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、「このテロに関わったすべての人間を見つけだし、責任を負わせる」とSNSに投稿し、非難を強めています。
一方、イギリスのスナク首相は14日、電話会談を行ったゼレンスキー大統領に対して、追加の軍事支援の一環として陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」を供与することを伝えました。
イギリスの新聞テレグラフは「数週間以内に14両が供与される」と報じています。
ゼレンスキー大統領は攻撃力の高い戦車の供与を各国に求めていて、これまで隣国ポーランドとチェコが旧ソビエト製の戦車を供与していますが、欧米製の戦車は初めてです。
これに対し、ロンドンにあるロシア大使館は14日、声明を発表し、「イギリスはウクライナを武装し、紛争をエスカレートさせようとしている。イギリスが率先してとった行動は、他の西側諸国にも自国の戦車をウクライナ軍に提供するよう説得することが目的だ」などと反発しています。 
●プーチンの愛人と噂される元清掃員、大富豪になっていた...驚きの資産額 1/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の愛人とされるスベトラーナ・クリボノギフが、1億ドルを超える純資産を保有していることが分かったとロシアメディアが報じた。
ロシアの独立系メディア「Mozhem Obyasnit(モーヘム・オブヤスニト)」が、別の独立系メディア「プロエクト」による推定を引用してメッセージアプリ「テレグラム」に投稿した内容によれば、元清掃員であるクリボノギフの純資産は、77億ルーブル(1億900万ドル)にのぼるという。
これに加えてクリボノギフは、ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルクに広さ130平方メートルの高級アパートを所有しているとされている。
モーヘム・オブヤニストが入手した記録によれば、彼女がこの物件の所有者になったのは2004年8月。プーチンとの間にできたとされる娘のエリザベータ(またはルイーザ)を出産したわずか数カ月後のことだ。また記録によれば、クリボノギフはこのアパートにある地下駐車場の駐車スペースも所有している。
問題の高級アパートは19世紀半ばに建てられた賃貸物件で、2001年に外観のリノベーションが行われている。不動産会社の目録には、「豊かな緑や花に囲まれベンチや遊び場を備えた、外からは見えない中庭」が特徴だと記されている。
銀行やスキーリゾートの共同所有も
さらにクリボノギフはサンクトペテルブルク市内に、この物件のほかにも、少なくとも2つのアパートを所有しているという。1つ目は市内を流れる川の中州であるカーメンヌイ島にあるアパートで、2022年の賃貸料は1カ月あたり70万ルーブル(9900ドル)だった。2つ目はフォンタンカ運河のほとりにあるアパートだ。
クリボノギフはさらに、ロシアのプライベートバンク大手「バンク・ロシア」の共同オーナーだとも報じられている。同銀行を支配しているのは、プーチンの盟友であるユーリ・コワルチュクだ。クリボノギフは、この銀行の少なくとも8億ルーブル(1130万ドル)相当の株式を保有しているとされる。
また世界の富豪の租税回避などについて暴露した財務資料「パンドラ文書」によれば、クリボノギフとコワルチュクはソチにあるイゴラ・スキーリゾートも所有している。
クリボノギフは学生時代に経営学を学び、1990年代にまだサンクトペテルブルクの副市長だった頃のプーチンと出会った時には清掃員として働いていた。その後、彼女は2003年3月に娘のエリザベータ(ルイーザ)を出産。当時プーチンはまだ、元客室乗務員のリュドミラ・シュクレブネワと結婚していた。
●ウクライナ侵攻で台頭してきたロシアの民間軍事会社「ワグネル」 組織の実態 1/15
受刑者さえ戦場に送り込んでいるロシアの民間軍事会社「ワグネル」。“プーチン大統領の料理人”の異名をとる人物が創設し、“影の軍隊”とも呼ばれるワグネルとは、どういった会社なのでしょうか。
主導的立場で残虐行為
2014年に創設されたワグネルですが、イギリス国防省の分析では、ロシア軍が侵攻当初から支配するウクライナ東部の戦闘で中心的な役割を果たしていたほか、ドイツの調査によると、虐殺のあったブチャでは、主導的な立場で残虐行為を行っていたと言います。また、ウクライナのゼレンスキー大統領に対し、何度も暗殺を仕掛けてきたとも伝えられています。
多数の受刑者を戦場に
ワグネルは、本来、給料を払って雇った「傭兵」を派遣する会社ですが、ウクライナ侵攻で、ワグネルが投入している5万人のうち4万人が受刑者。現在、激しい戦闘が続くバフムトでは、ワグネルの戦闘員だけで1000人が死亡し、このうち9割が受刑者だといいます。AFP通信によると、ワグネルは、受刑者に対し、最前線で”決死”の前進を命じ、発砲するウクライナ軍の位置をあぶり出すことに利用。いわゆる、捨て駒として受刑者を投入しているというのです。
“プーチン大統領の料理人”
代表を務めるのは“プーチン大統領の料理人”と呼ばれるプリゴジン氏です。イギリスのメディアによると、プリゴジン氏は10代のころ、強盗などの罪で10年間刑務所に服役。出所後にホットドッグの屋台を開いて資金を貯め、自分のレストランを構えるまでに成り上がりました。その後、プーチン氏が来店し、繰り返しケータリングを受注する中で、親密な仲になったといいます。2002年には、プーチン氏とブッシュ元大統領との食事会が、プリゴジン氏の経営する水上レストランで催されました。
「ワグネル」の由来
さて、その「ワグネル」の名前の由来ですが、ドイツの作曲家ワーグナーのロシア語読みに ちなんだとされています。ワーグナーの「ワルキューレの騎行」。かつて、ヒトラー率いるナチス・ドイツも、戦意高揚に利用したとされます。
シリアやアフリカの紛争国へ
ワグネルが戦闘を行うのは、ウクライナだけではありません。ロシアが支援しているアサド政権のシリアの内戦では、反体制派を抑え込む役割で暗躍。その後、アフリカの紛争国などにも顧客を広げていったとみられています。
世界の中でも特殊な民間軍事会社「ワグネル」
実は、この民間軍事会社、ワグネルだけではなく、アメリカやイギリスなどに、数多く存在します。イラクでは2007年、アメリカの軍事会社「ブラックウォーター」が要人の警護中に銃を乱射。民間人17人を殺害、大きな問題となりました。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、そもそも、民間軍事会社の主な業務は、警備や物資の補給など、後方支援でワグネルのように、最前線で戦闘に参加するなど、戦争そのものに大きな役割を果たすのは、極めてまれだといいます。ワグネルの問題点として、正規軍ではないため、例えば多数の死者を出しても『戦死者にはカウントされない』ことなどをあげます。プーチン政権は、戦場で大きな犠牲を出したとしても、隠ぺいが可能となります。事実上、ロシアの“影の軍隊”として暗躍する、民間軍事会社。国際社会は、どう対処して行けばいいのでしょうか。
●ロシアの情報収集の実態を聞かされビビる「皆さんの身の安全を」 1/15
歴史学者でウクライナ研究会会長の岡部芳彦氏(49)が15日放送の読売テレビ「そこまで言って委員会NP」に出演。ロシアの情報機関の実態について言及した。
番組では、ロシアのプーチン大統領の料理人といわれる民間軍事会社「ワグネル」グループのボス、エフゲニー・プリゴジン氏について特集した。
プーチン大統領の闇の仕事≠一手に担っているといわれるプリゴジン氏だが、岡部氏は、日本のロシア専門家がプリゴジン氏に関しては歯切れが悪いと指摘。その理由として「ワグネルを取材していた記者が3人、アフリカで殺されている」と紹介し、自身も「今、テレビで話しながら怖くて。ロシアのブラックリストに載っても、ロシアの工作員にポロニウムを飲まされるとか殺されるとかはないと思うんですけど、ワグネルのことを悪く言ったら、僕も危険なのかなというのは頭の片隅にはある」と語った。
岡部氏によると、ロシアの情報機関はそうした発言を訳し、イノスミ≠ニいうウェブサイトに掲載しているそうで、共演者の発言を確認したところ、元外交官で立命館大学客員教授の宮家邦彦氏が5回、作家でジャーナリストの門田隆将氏と元朝日新聞記者で青山学院大学客員教授の峯村健司氏がそれぞれ1回掲載されていたという。
3人の記者の殺害命令はプリゴジン氏が下したとされ、議長の黒木千晶アナウンサーは「おおおお」と身震い。門田氏から「議長も発言、気を付けてよ。新婚なんだから」と呼びかけられると、「皆さんの身の安全を」と答えるのが精いっぱいで、峯村氏は「止めましょうか、このコーナー」と締めくくっていた。
●作戦「計画通り」とロシア大統領 経済情勢安定と強調 1/15
タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は15日放映の国営テレビとのインタビューで、ウクライナでの軍事作戦について「肯定的に推移している。全て国防省と参謀本部の計画通りだ」と述べ、順調に進んでいるとの見方を示した。
欧米が武器供与などの軍事支援を続けるウクライナ軍が反撃を強め、戦況は膠着しているとの見方が多い。発言には、批判を受けるショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長への信頼を強調し、ロシア国内の動揺や保守強硬派の不満を抑える狙いがあるとみられる。
欧米の制裁で悪化が指摘される経済情勢に関しプーチン氏は「安定しており、予想したよりはるかにいい」と指摘した。

 

●子どもが自動小銃の訓練、「Z」の文字でダンス…戦慄の愛国&軍事教育 1/16
〈学校で軍事訓練の経験のある兵士は、経験のない兵士よりはるかに有能だ。平和を望むなら、戦争に備えなければならない〉
昨年末、ロシア紙『イズベスチヤ』の取材に対し与党「統一ロシア」のシュハゴシェフ副議長はこう答えていた。
ロシアが軍事教育を強化している。教育省が昨年まとめた7〜18歳が通う学校向けの新教育プログラムでは、次のような指針がまとめられているのだ。
・今年1月1日までに各学校の教師は軍事訓練の研修を受講。
・9月までに自動小銃カラシニコフや手榴弾の投げ方などを生徒に指導。
・140時間の基礎教練を行い核や化学兵器への対応も学ぶ……等々。
「ウクライナ情勢が影響しているのは明らかでしょう。当初は短期間でウクライナを制圧できると考えていたプーチン大統領の期待を裏切り、欧米の支援によりロシア軍は予想外の苦戦。損害が激しく兵力不足が著しいんです。
プーチン大統領は、慌てて予備役の兵士30万人を動員しました。民間軍事会社『ワグネル』は、レイプ犯など凶悪犯罪者まで投入する始末です。それでも兵力不足を補えない状況なんですよ」(全国紙国際部記者)
校内のいたるところに「Z」の文字
ロシアでは、愛国教育の徹底にも余念がない。ロシアの独立系メディア『メデューザ』が報じた、小学校の様子は異様だ。
「同メディアが報じた映像には、白、赤、青の3色のロシア国旗を持った子どもたちが映っています。後方の窓には、ロシア語の『勝利のために』の頭文字とされる『Z』のマークが。教師が『プーチン大統領とともに戦いましょう!』と掛け声をかけると、子どもたちがこう叫ぶんです。『大統領のために、国家のために! ウラ〜!(万歳!)』と」(同前)
校内のいたるところに見られるのが、この『Z』の文字だという。子どもたちは『Z』と書かれたシャツを着て、愛国歌『進めロシア』を熱唱。国旗を持って『Z』の人文字を作り、プーチン大統領を讃えるダンスを踊る。
「児童に配られているのは、『平和の守護者』と題したビデオ教材です。女児が国営テレビの司会者に、『特別軍事作戦』(ウクライナ侵攻のロシア側の呼称)について質問するという内容。西側諸国が報じた、ロシア軍によるウクライナ市民への攻撃は『フェイク(嘘)だ』と断じています。さらにウクライナでは、親ロシア派の住民が不当に弾圧されていると主張しているんです」(同前)
ロシア情勢に詳しい、筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が解説する。
「ロシアの学校で行われているのは、プーチン大統領への洗脳教育です。子どもたちは思考停止状態になり、プーチン大統領にとって都合の良い人間に育てられています。ウクライナがロシアの支配下になれば、同じような教育が行われるでしょう」
プーチン大統領は24年3月の大統領選で、5選を目指しているといわれる。独裁政権が続けば、ロシアの子どもたちはますます思考を停止させられ、泥沼の戦争が支持されることになるだろう。
●プーチン的思考から予想するウクライナ侵攻の行方 1/16
「死」への不可解なこだわり
ロシア国民に厭戦気分が漂ってきているなか、プーチン大統領のまるで狂気に陥っているかのような発言に、非難の声が上がっている。昨年11月25日、ウクライナへの軍事侵攻で戦死した兵士の母親たち20人ほどを相手に、プーチン氏はこう切り出した。
「私たちはみんな、死ぬものなんです。ウォッカを飲み過ぎたり、不慮の交通事故に遭遇したり、いろいろいな死因があります。皆さんの子どもたちの死は、価値のあるものだったのです」
母親たちへの何の慰めにもなっていない、と私は思う。参加者といっても、与党の女性議員や支援団体から動員された人々であり、いわば身内のメンバーで占めていた。でも、画面からはとても重苦しい雰囲気が伝わってくる。みんな、押し黙ったまま。
私はこの席で、プーチン氏が「死」という言葉を連発したことに驚いた。硬い表情からも、「死」への不可解なこだわりが感じ取れるのだ。政治家は国民の命と財産を守ることが責務なのに、プーチン氏は「人間の死は避けられない」と言明し、「息子たちの戦死を諦めなさい」と言わんばかり。私は率直に言って、今回の戦争はプーチン氏の死への恐怖心が引き起こしたのではないかと疑っている。
冷水につかって何を想う
ロシア国民の7割ほどがロシア正教会の信者であり、プーチン氏も敬虔(けいけん)な信者として知られる。たとえば毎年1月中旬に執り行われる宗教行事「神現祭(洗礼祭)」では、聖堂内や敷地に設置されたタンクに水を満たし、司祭が十字架を浸して十字を描き、水の成聖を行う。この聖水につかるために、信者と同様にプーチン氏も裸で冷水に身を沈めて魂を清める。彼が零下20度の屋外で冷水を浴びるシーンが何度もテレビで放映されたり、カレンダーにも掲載されたりした。
プーチン氏は実質的に約23年間最高権力者の座にあり、「神現祭」は年初に欠かせない宗教行事のようだ。在職中、チェチェン紛争やシリア内戦に軍事介入したり、ロシア新興財閥(オリガルヒ)や野党指導者、ジャーナリストの不審死が続発したり、物議を醸している。真偽のほどは不明だが、プーチン政権絡みの事件ではないかと見られている。恐らく罪の意識を抱いているプーチン氏にとって、神現祭は魂を清め、罪に向き合う大切な行事なのかもしれない。
ロシア正教会はキリスト教の分派であり、ビザンチン帝国を経由して11世紀頃にロシアに流入した。ただ両者が異なるのは、ローマ・カトリックとは死後の解釈に大きな隔たりがあることだ。
カトリックでは死者の霊魂は天国、または地獄に行くことになるが、その両者の間に「煉獄(れんごく)」が存在する。生前の罪の「償い」が不十分だった人たちの霊魂が、煉獄の苦しみという「罰」に清められると、天国に迎えられる。死後に罪への「償い」を成就させる試練の場が用意されており、天国に迎えられるチャンスがあるというのだ。
このカトリックと違って煉獄の場が教義に明示されていないのが、ロシア正教会だ。人間は生きている間に悔い改めないかぎり、天国へは行けないと解されているようだ。死後にどんなに贖罪(しょくざい)を求めても、地獄から脱して天国に渡る橋は架かっていない。だから信者たちは、生前に罪にしっかり向き合うことが大切だと考えている。
70歳になったプーチン氏は、身体的にも肉体的にも衰えを感じ取っているはずだ。ロシア男性の平均寿命は約68歳と報じられており、プーチン氏はかなりの高齢といえる。否応なしに「死」の予兆を感じ取っており、過去を振り返り、そして現実を見つめると、もはや地獄に行く運命にあると覚悟を決めたのだろうか。そのことを、身近な司祭などの誰かがプーチン氏に囁いたのかもしれない。
煉獄なき罪人、戦争は「地獄への道連れ」か
もはや遠い過去となった2010年1月。プーチン氏と親交のある司祭に、私はこんな質問をした。
「国内では、プーチン大統領を聖人と崇める雰囲気が漂ってきています。スルコフ大統領府第一副長官(当時)は、プーチン氏を神の使者と評しています。あなたは、どう思いますか」
司祭は教会内の静まり返った夜の事務室で、声を荒げた。
「ばかな話だよ。彼を聖人と呼ぶなんて・・・」
司祭はクレムリン内で、プーチン氏と並んで歩く写真を見せてくれた。黒い法衣の胸に金色に輝く十字架を、司祭は手のひらで握り締めている。十字架を、プーチン氏のけがれから守っているかのようだ。
プーチン氏の神現祭への参加は2021年が最後で、ウクライナへの軍事作戦に踏み切る1カ月前の神現祭には参加していない。地獄に突き落とされるであろう、破れかぶれの自暴自棄に陥っているプーチン氏にとって、親米路線に走るウクライナは、ロシアへの裏切りに映る。ゼレンスキー大統領も地獄に引きずり落としてやろうという魂胆かもしれない。プーチン氏はこれまでの多数の蛮行の罪を現世で洗い流すのは無理。だから、ウクライナを巻き込んで自滅への道に突き進んでいるのだろう。ウクライナへの残虐性が、増すばかりの情勢だ。
本物の「皇帝」でないなら
今後予想される展開だが、1月末にはロシアが総攻撃を仕掛けるのではないか。この「総攻撃」の中にはキーウ(キエフ)に対する戦術核の使用もあり、首都が殲滅(せんめつ)するのではないかと懸念されている。そのような悲劇でもって戦闘はいったん休止になるが、北大西洋条約機構(NATO)軍がロシア本土に反撃するような事態になれば、まさに第三次世界大戦の開始となる。
その一方で想定されるシナリオでは、ロシア国内で反戦機運が高まり、プーチン政権打倒に市民たちが立ち上がる。民衆が地方の行政府の建物を包囲し、反政府運動がモスクワなどの都市に拡大する。16世紀以降、ロシアでは「皇帝信仰」が民衆の間に広まってきた。本物の皇帝ならば、民衆を不幸にすることはないという考えだ。今回の戦争では戦死者は10万人に及ぶという数字がロシア国内で飛び交っており、犠牲者の増加、さらに経済の疲弊が進めば、プーチン氏は本物の「皇帝」ではないとして全土で暴動が起こりかねない。
ロシア国内の最新世論調査では「反戦」に賛成の回答者が65%に達した。プーチン政権の打倒でもって戦争はストップし、欧米からの軍事支援を受けるウクライナが領土を奪還する。
ただ、ロシアの若者や起業家たちは開戦後、総勢970万人が国外に脱出している。ロシアの労働人口の13%に相当する深刻さであり、2年後には国内総生産(GDP)が30%も激減するとの予測が報じられている。戦後のロシア社会は、「暗黒の時代」を迎える。あまりにも代償の大きな戦争となるであろう。
●2023年油価が示すプーチンの末路、“本能寺の変”は必至か 1/16
プロローグ マスコミ界を徘徊する神話
「一匹の妖怪がヨーロッパを徘徊している。共産主義という名の妖怪が」
「一つの神話がマスコミ界を徘徊している。石油・ガス収入によりロシアの戦費は問題ないという神話が」
前者は『共産党宣言』(K.マルクス)冒頭の一句、後者は筆者のパロディーです。
筆者は2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ全面侵攻開始以来、戦費問題に言及してきました。
しかし、マスコミ界では戦費に言及する報道・解説記事はほぼ皆無で、民間テレビには「ロシアは石油・ガス収入があるので、対露経済制裁措置は効果ない」と解説する経済評論家も登場しました。
ロシア軍は2022年2月24日にウクライナ全面侵攻開始。この原稿を書いている本日1月14日はプーチンのウクライナ侵略戦争から325日目となり、ウクライナ侵略戦争は既に11か月目に入っており、もうすぐ丸一年を迎えます。
本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都キエフ(キーウ)は制圧され、ロシア軍は解放軍としてウクライナ国民から歓呼の声で迎えられ、V.ゼレンスキー大統領は追放・拘束され、V.ヤヌコービッチ元大統領を新大統領とする親露派傀儡政権を樹立する予定でした。
その証拠に、露国営RIAノーヴァスチ通信は侵攻2日後、キエフ陥落の予定稿を流すという珍事が発生しています。
ゆえに、ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化は露V.プーチン大統領にとり大きな誤算となりました。
戦況悪化と正比例するかのごとく、ロシア政治に内包されていた矛盾が次々と顕在化・表面化してきました。
祖国防衛戦争を標榜する現在のプーチン大統領の姿は、大東亜共栄圏を標榜する太平洋戦争末期における旧日本軍大本営末期の姿と瓜二つと言えましょう。
プーチン大統領は2023年1月11日、ウクライナ特別軍事作戦総司令官にV.ゲラーシモフ参謀総長(上級大将)を任命。
S.スロヴィーキン総司令官(上級大将)は3か月で副司令官に降格。戦闘中に総司令官を更迭するのは、戦況が不利に展開している証拠です。
換言すれば、それだけプーチン大統領は追い詰められているとも言えます。
今回の人事異動の特徴は、3人の副司令官が任命されたことです。
O.サリューコフ地上軍総司令官(上級大将)とA.キム参謀次長(大将)も副司令官に任命され、国防省として背水の陣を敷いたことになります。
これでロシア軍敗退となれば、S.ショイグ国防相(上級大将)は解任必至です。
なお、今回国防省権限を強化する戦争指導体制を敷いたことは、「民間軍事会社ワーグナー(実態はワーグナー独立愚連隊)」の突出を嫌ったプーチン大統領の意向を反映しているとの見方も出ていますが、正鵠を射た見解と考えます。
継戦能力の原動力は経済力と資金力(戦費)です。
ロシア経済の規模は小さく(GDPは日本の4分の1程度)、経済は既に弱体化しており、戦費は枯渇しつつあります。筆者は開戦当初より、カネの切れ目が縁(戦争)の切れ目と主張してきました。
ウクライナの大地では今春、日露戦争の奉天会戦、第2次大戦の欧州戦線におけるクルスク戦車戦のような大規模な会戦が展開し、会戦後に停戦・終戦の姿が垣間見えてくるものと予測します。
本稿の結論を先に書きます。
ロシア経済は油価依存型経済構造です。油価の長期低迷がソ連邦崩壊のトリガーになりました。
油価低迷により露経済は破綻の道を歩み、戦費が枯渇・消滅する結果、早晩プーチン大統領は停戦・終戦を余儀なくされるでしょう。
第1部 プーチンの夢想
ソ連邦は今から101年前の1922年12月30日に誕生しました。
「強いロシア」を標榜する、旧KGB(ソ連邦国家保安委員会)出身のV.プーチン大統領(70歳)は、2005年4月25日に発表した大統領就任第2期2回目の大統領年次教書の中で、「ソ連邦崩壊は20世紀の地政学的惨事である」と述べました。
本人にとり、偉大なるソ連邦崩壊は20世紀最大の惨事でした。
意味も意義も大義もないウクライナ全面侵攻に踏み切ったプーチン大統領の頭の中には、この偉大なるソ連邦復活の野望が蘇っていたことでしょう。
換言すれば、ウクライナ侵攻は本人の夢想を実現する一つの過程であったのかもしれません。
1917年の「2月革命」(旧暦)で帝政ロシアが崩壊し、ケレンスキー内閣が樹立。その年の「十月革命」でケレンスキー内閣が倒れ、レーニンを首班とするソビエト政権が誕生しました。
その後ロシアは赤軍と白軍に分かれた内戦状態となり、ソビエト連邦は1922年12月30日に成立。
そのソ連邦は1991年12月25日に崩壊し、ロシア共和国は新生ロシア連邦として誕生。
ゆえに2021年はロシア連邦崩壊30周年、昨年2022年はソビエト連邦誕生100周年記念の年になりました。
ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は2022年2月24日に発動され、原稿執筆時の1月14日は侵攻開始後325日目となりました。
戦争は既に11か月目に入っており、戦闘は長期戦・消耗戦の様相を呈しています。
侵攻開始数日後にはウクライナの首都キエフ(キーウ)を制圧、親露派ヤヌコービッチ元大統領を首班とする傀儡政権が樹立されるはずでした。
しかし、戦争長期化・泥沼化によりプーチン大統領は国内マスコミ統制強化と実質「戦時経済」への移行を余儀なくされ、情報統制された露マスコミ報道にはロシア軍大本営発表があふれることになりました。
プーチン大統領は、戦争でもないのに2022年9月21日には「部分的動員令」を発令。
9月30日にはウクライナ東南部4州を一方的に併合宣言、10月19日にはウクライナ東南部4州に戒厳令を導入。10月22日には、ロシア政府もついに戦争であることを認めました。
これも大誤算で、ロシア軍の苦戦・苦境が透けて見えてきます。
NATO(北大西洋条約機構)東進を阻止すべくウクライナ侵攻開始したのに、逆にフィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請を誘発。
従来は対ノルウェー国境196キロがNATO対峙線でしたが、新たに1272キロのフィンランド国境がNATO対峙線にならんとしています。
これはプーチン大統領の戦略的失敗と言えます。
戦況不利となったプーチン大統領は2022年12月19日、ベラルーシの首都ミンスクを訪問。A.ルカシェンコ大統領に軍事作戦への協力を求めました。
迷走する「プーチンの戦争」は今後どうなるのでしょうか?
来年2024年3月は大統領選挙です。プーチンは再度立候補するのでしょうか?
あるいは、信頼できる部下・側近に後を託すのでしょうか?
この問題を考える上で重要な出来事が1月13日、隣国カザフスタンで発生しました。
旧ソ連邦時代からカザフスタン共和国の独裁者であったN.ナザルバエフ前大統領は、自分の長女ダリガへの権力継承の繋ぎとして、忠実な番犬を大統領に引き立てました。
番犬を繋ぎの暫定大統領に引き上げる条件として一族郎党の不逮捕特権を確認させたのですが、部下が大統領になると逆に残った権力も剝奪され、長女も権力の座から追放されました。
そして1月13日、本人の名誉称号と家族の不逮捕特権も反故にされてしまいました。
すなわち、家族の投獄も今後あり得るということになります。
隣国カザフスタンの政治情勢を見て、プーチンはますます権力の座にしがみ付くことになるでしょう。
第2部 ウクライナ開戦
2022年2月22日の朝目覚めたら、世界は一変していました。
ロシアのV.プーチン大統領(当時69歳/1952年10月7日生まれ)がウクライナ東部2州の親露派が支配する係争地を国家承認したのです。
これは明らかに2015年の「ミンスク合意2」に違反するもので、筆者は即座に、ロシアは今後欧米側からの大規模経済制裁必至と考えました。
方針大転換の日は現地2月21日深夜。
プーチン大統領はロシア安全保障会議を開催して、ロシア高官全員から形式上の賛意をとりつけた上で、上記2地域の国家承認を行う手続きを開始しました。
2月24日には米露外相会談が予定されていました。
その場で次回米露首脳会談の日程が協議・決定されることになっており、2月21日のタイミングでウクライナ東部2州の係争地を国家承認することは無意味でした。
なぜなら、この2州の係争地は既に実質モスクワの支配下にあったからです。
この東部2州国家承認を受け、2月24日に予定されていた米露外相会談は破綻。
それまでのプーチン大統領の対米外交は上手く進展しており、あと1週間我慢すれば、本人の望み通りのものが手に入らなくとも、多くの外交成果が期待できたはずでした。
象徴的な言い方をすれば、「ミンスク合意2」から7年間待ったゆえ、あと7日間待てば、ロシアの歴史に新しい1頁が拓かれていた可能性も十分あったはずです。
では、なぜあと7日間我慢できなかったのでしょうか?
外交交渉が成立・合意すると困る勢力が、プーチン大統領をして係争2地域を国家承認させたことが考えられます。
あるいは、困る勢力とは、畢竟(ひっきょう)プーチン大統領自身であったのかもしれません。
その後、事態は急速に悪化。
米露外相会談が予定されていたまさにその2月24日、プーチン大統領はウクライナ侵攻作戦を発動。ロシア軍は対ウクライナ国境を越えて、ウクライナに全面侵攻を開始しました。
筆者は当初よりロシア軍のウクライナ侵攻はあり得ない・あってはならないと考えていたのですが、筆者の予測は大外れ。結果として、最悪の事態になりました。
原稿執筆時の2023年1月14日はロシア軍が2022年2月24日にウクライナ全面侵攻開始以来325日目となり、ウクライナ戦争は長期化・泥沼化。プーチン大統領にとり予想外の展開となりました。
1月14日のウクライナ大本営発表によれば、ロシア軍がウクライナに全面侵攻開始した2月24日から1月14日朝までの325日間におけるロシア軍戦死者数は累計11万4660人に達しました。
本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都は制圧され、短期電撃作戦のはずが長期戦・消耗戦となり、一番困惑しているのはプーチン大統領その人と筆者は想像します。
現地での戦闘は激化しています。
特に、バフムート周辺とバフムート北側10キロに位置するソレダールでは白兵戦の様相を呈しており、ロシア側傭兵部隊ワーグナー独立愚連隊は1月11日、ソレダール制圧を発表。
続く13日には、ロシア国防省が「ロシア軍、ソレダール制圧」と発表しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は戦闘継続を報じていますが、筆者個人的には、ウクライナ側も局地戦に拘泥しないで守備隊を撤退させて勢力温存する方が賢明と考えます。
プーチン新ロシア大統領が2000年5月に誕生した時、彼のスローガンは強いロシアの実現と法の独裁でした。
しかし結果として弱いロシアの実現と大統領個人独裁の道を歩んでおり、プーチン大統領は自らロシアの国益を毀損していることになります。
その結果、対ウクライナ戦争はロシア経済の衰退をもたらし、プーチンの墓標になるでしょう。
第3部 ウクライナ戦況 ロシア軍の被害状況 (2023年1月14日現在)
ウクライナ侵略戦争は既に11か月目に入り、もうすぐ丸一年になります。
ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化は露プーチン大統領にとり大きな誤算となり、ウクライナ侵略戦争により、プーチン自身、様々な不都合な真実に直面しています。
ロシア憲法によれば毎年大統領年次教書発表が規定されています。
発表する期間は、大統領就任日からの1年間です。ある民間テレビ報道番組では、「前回の大統領年次教書は2021年4月に発表されたが、22年は未発表です」と解説していました。
しかし、これは不正確です。
2021年4月21日に発表された大統領年次教書は21年度の年次教書ではなく、20年度の教書です。すなわち、21年の大統領年次教書は未発表です。
2022年の大統領年次教書発表も未定です(発表期限は23年5月6日まで)。
毎年中葉に実施されてきた「国民との対話」も2022年は中止となり、毎年年末には恒例の「マスコミ大会見」が開催されてきたのですが、それも中止になりました。
ここで、ウクライナ戦況を概観します。
露軍の自軍被害に関する大本営発表は2022年3月25日に発表した戦死者1351人が最初ですが、ショイグ国防相は9月21日、「露軍戦死者は5937人」と公式発表しました。
この戦死者数自体、もちろんロシア大本営発表の偽情報の類ですが、ここで留意すべきは「ロシア軍戦死者」とはロシア軍正規兵の将兵が対象であり、かつ遺体が戻ってきた数字しか入っていないことです。
ウクライナ軍は毎日、戦況報告を公表しています。もちろん大本営発表ですからそのまま鵜呑みにすることは危険ですが、一つの参考情報としてウクライナ軍発表のロシア軍被害状況は以下の通りです。
なお、露軍戦死者には新たに動員された予備役30万人も含まれているので、総兵力を115万人と仮定すれば、戦死者比率はちょうど1割になります。
戦車は保有数量の4分の1、装甲車は5分の1が撃破されており、ロシア軍の戦闘能力は大きく低下しています。
付言すれば、戦車は4分の3も残っているので、ロシアはまだ十分戦闘能力があるとテレビで語っている軍事評論家がいました。
ロシアは約2万キロの陸路国境線を有し、日本の国土の46倍あり、その国土を5軍管区に分けて防衛しています。
すなわち、戦車総数の中にはサハリン島や千島列島(クリル諸島)、カムチャッカ半島などに配備されている戦車も含まれているのです。
それらの防衛用戦車を算入して、ロシアにはまだ4分の3の戦車が残っているので十分な戦闘能力があると言えるのでしょうか?
もちろん、隣国との国境に配備された戦車隊をガラ空きにして、ウクライナに転用するなら話は別ですが。
第4部 3油種週次油価推移概観
ここで、2021年1月から23年1月までの3油種(北海ブレント・米WTI・露ウラル原油)週次油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より22年2月末までは傾向として上昇基調が続きましたが、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル原油は下落。
他油種は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。
ちなみに、日本が輸入している(いた)ロシア産原油は3種類(S−1ソーコル原油/S−2サハリンブレンド/ESPO原油)のみで、すべて軽質・スウィート原油ですが、2022年6〜11月は輸入ゼロでした。
今年23年1月3〜6日の平均油価は北海ブレント$77.20/bbl(前週比$4.63/スポット価格)、米WTI $74.27(同$4.96)、ウラル原油(黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$41.84(同$2.91)になりました。
この超安値の露産原油を買い漁っているのが中国とインドです。
ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油FOB)はバレル$45.3、実績は$69.0。2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2、通期実績は$76.1になりました。
上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線は、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日です。
この日を境として、北海ブレントや米WTI油価は急騰。6月に最高値更新後に下落。12月末で北海ブレントと米WTIは$80を割り込んでおり、油価は下落傾向です。
一方、露ウラル原油は、ウクライナ侵攻前は$90でしたが、侵攻後下落開始。11月中旬には2022年国家予算想定油価を割り、12月末には遂に$40台前半まで実に$50も下落。
欧米はロシア産原油に$60(FOB)の上限油価を設定しましたが、現実は既にこの上限設定価格を大きく下回っています。
第5部 露ウラル原油月次油価推移概観 油価下落による損害
次に、過去4年間の露ウラル原油の月次油価推移を概観します。
下記のグラフより明らかな通り、ロシア軍がウクライナ全面侵攻開始した2022年2月の露ウラル原油の平均油価はバレル$92.2でしたが、以後毎月ウラル原油の油価は下落して、12月度は$50.5になりました。
上記グラフより明らかなごとく、ウクライナ侵攻がなければロシアはバレル$90の油価水準を享受していたことでしょう。
政府想定油価が$62.2ですから、ロシア経済は順風満帆のはずでした。
ロシアの原油生産量は約10mbdです(mbd=百万バレル/日量)。ロシアは半分を原油として輸出、残りの5mbdを国内で精製して石油製品(主に軽油と重油)を生産し、そのうちの半分を輸出しています。
油価は、バレル$90から$50まで$40も下落しました。この油価下落がロシア経済にどのような損害を与えているかは算数の問題です。
原油輸出量は5mbdですから、$40下がると1日の損害は5mbd×$40で2億ドルになります。
石油製品も勘案すれば、1日あたりの損害は約3億ドルになり、年間では1000億ドル以上の輸出金額減になります。
天然ガス事情もロシア国庫財政にとり悲劇的な数字になります。
欧州ガス市場は露ガスプロムにとり金城湯池の主要外貨獲得源であり、PL(パイプライン)ガス輸出関税(FOB金額の30%)は露石油・ガス税収の大黒柱でした。
今年2023年1月からはPLガス輸出関税はFOB金額の50%に増税となり、本来ならばガス輸出税収は大幅増収となるはずでした。
付言すれば、露LNG輸出関税はゼロゆえ、露がいくらLNGを輸出しても関税収入はゼロです。
今年の露天然ガス輸出量は1000億立米減少するとの予測が出ています。露国庫財政の大黒柱たるPLガス輸出税収が今、減少・消滅しつつあります。
これが何を意味するのかと申せば、露戦費主要供給源の一つが減少・消滅するということです。
第6部 国家予算案概観(2023〜25年)
ロシア政府は2022年9月28日、2023〜25年国家予算原案を露下院に提出しました。
ロシア国家予算原案は下院にて3回審議・採択後上院に回付され、上院にて承認後、大統領署名をもって発効します。
ロシア政府は2022年9月28日、露下院に2023〜25年国家予算原案を提出。
11月24日の下院第三読会にてこの原案は可決・採択され、上院承認後、プーチン大統領は12月5日にこの予算案に署名して政府予算案は発効しました。
ロシア政府が9月28日に提出した国家予算原案の概要は下記の通りにて、想定油価はウラル原油です。
2022年の期首予算案は想定油価$62.2で黒字予算案でしたが、ウクライナ戦争により$80でも大幅赤字となりました。想定油価の見通しは$80でしたが、2022年実績は$76.1になりました。
これが何を意味するのか申せば、2022年の赤字幅はさらに拡大するということであり、実際拡大しました。
昨年(2022)12月27日に発表された政府見通しでは油価$80.0で国庫収支案はGDP比2.0%でしたが、今年1月10日に発表された政府速報値は22年油価実績$76.1、国庫収支3.3兆ルーブル(GDP比2.3%)になりました。
付言すれば、ウラル原油の現行油価水準(FOB)は既に$40程度ゆえ、今年の予算原案想定油価$70.1(赤字2.92兆ルーブル)は既に実現不可能な油価水準になっています。
これが何を意味するのかと申せば、2023年露国家予算案の赤字幅は今後さらに拡大する(=戦費減少・枯渇)ということです。
一方、露会計検査院の22年予算案見通しは以下の通りにて、政府期首予算案では国防費3.5兆ルーブル(約500憶ドル)でしたが、実際には4.7兆ルーブル(約670億ドル)にまで膨れ上がるとの見通しです。
露予算案に占める国防・情報・治安費は3分の1になるので、文字通りロシアは戦時経済と言えます。
エピローグ 国破れて山河在り
最後に、ロシア軍によるウクライナ全面侵攻とプーチン大統領の近未来を総括したいと思います。ただし、現在進行形の国際問題なので、あくまでも2023年1月14日現在の暫定総括である点を明記しておきます。
筆者の描くウクライナ侵攻を巡る背景とウクライナ戦争の近未来予測の輪郭は以下の通りです。
あくまで推測ですが、ウクライナへのロシア軍関与は当初、ウクライナ東部2州に親露派政権樹立→その政権から治安部隊の派遣要請を受ける→ロシア治安部隊が平和維持軍として駐留する→国民大多数の賛成により併合されるという筋書きが想定されていたと考えます。
これがかつてのソ連邦指導者の思考回路であり、ソ連軍の行動様式にて、この方式で“合法的に”併合したのがバルト3国です。
今回はウクライナ東部2州の親露派が支配する地域の国家承認に始まるウクライナ限定侵攻作戦のはずが、プーチン大統領の妄想によりウクライナ全面侵攻に拡大したと、筆者は考えます。
プーチン大統領によるウクライナ東部2州国家承認と“合法的に”国家併合する期首構想が妄想により膨れ上がり、ロシア軍にとり不利な戦況の中で東南部4州の国家併合・戒厳令まで猪突猛進。
その結果、戦況はますます不利となり、占領地からのロシア軍順次撤退を余儀なくされているのが現実の姿です。
ロシア国内では一部に厭戦気分も出ており、世論調査でも戦争に反対する声が大きくなっています。
国内に戦争反対の機運が醸成され、プーチン大統領の支持率が低下すると、ロシア国内が流動化することも懸念されます。
かつてのロシアの裏庭たる中央アジア諸国でも、ロシア離れが表面化・顕在化してきました。
特にカザフスタンのロシア離れは、既に「The Point of No Return(回帰不能点)」を超えた感じです。
プーチン大統領は従来、外交交渉を重視してきました。
せっかく2022年2月24日に米露外相会談が設定されており、長いトンネルの先に光明が見えてきたまさにそのタイミングで、プーチンはルビコン川を渡ってしまったのです。
プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争はプーチン時代の終わりの始まりを意味することになるでしょう。 
ウクライナへの軍事侵攻は意味も意義も大義もありません。対ウクライナ全面侵攻に踏み切ったことにより、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しました。
今後、プーチン大統領を支えてきた利権集団間の対立が激化・表面化することも予見され、本人の失脚も十分あり得るものと筆者は予測します。
継戦能力の原動力は経済力と資金力(戦費)です。
ロシア経済は既に弱体化しており、戦費は枯渇しつつあります。プーチン大統領は「戦費使用に制限はない」と豪語しました。
しかし戦費使用枠に制限を設けなくても、戦費そのものがなくなれば、「使用制限を設けない」とする政策も無意味となります。
ロシアは戦争している場合ではありません。
油価下落とガス輸出量減少はロシア経済を破綻させるでしょう。ロシア経済再生の道、それは即時停戦・撤退しか有り得ません。
ロシアはプーチン大統領の所有物ではなく、ロシア悠久の歴史の中で彼は一為政者にすぎません。
その一為政者がロシア国家の信用を失墜させ、ロシアの歴史に汚点を残す侵略者になったのです。
換言すれば、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになります。
このまま戦争を継続すれば、「国破れて山河在り 城春にして草木深し」となるでしょう。筆者はそうならないことを祈るのみです。
●分断化される世界−2023年はエネルギーと半導体、台湾が火種か 1/16
世界は今、大国間の対立が経済の地図を塗り替えており、企業経営者は増えつつあるグローバルな火種を慎重に回避しながら進むことを余儀なくされている。
ロシアのウクライナ侵攻に伴う激しい戦闘や米国と中国の間の対立エスカレートを受け、世界の国々はどちら側につくか決断を迫られている。天然ガスや半導体など重要な品目の不足を回避しようと取り組んでいる政治指導者らは、新たな経済的優先事項を定めるとともに、自国が支配力を有する商品を国益の追求に活用しようとしている。
グローバルな結び付きがかつてないほど緊密化し、大企業は世界のフラット化に成功したと考えていたが、スイスのダボスで今週開催される世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)に参加する有力企業幹部らにとって、現在の状況はそうした時代からの転換を意味する。
WEFではこうした新たな地政学的リスクを中心に議論が行われる。ロシアのウクライナ侵攻開始以降、エネルギー安全保障が世界的に重視されており、米国は中国による最先端技術へのアクセスを阻止しようと取り組んでいる。そして、台湾有事をはじめとする地域的リスクもある。
コンサルティング会社ベインの「マクロ・トレンズ・グループ」のマネジングディレクター、カレン・ハリス氏(ニューヨーク在勤)は、「われわれの住む世界は、金融の脆弱(ぜいじゃく)性を含め一段と分断化されている。このため誰もが抱いている疑問は、一層多極化された世界において、どこにどのように投資するかだ」とダボスに向かう前に語った。
各国の経済的な国政術によって緊張が一段と高まっている世界において、今年ホットスポットとなりそうな分野を幾つか挙げる。
武器化されるエネルギー
米国と同盟国によるロシアとの経済戦争ではエネルギーがその中心にある。双方ともエネルギーを武器化しようとしており、2023年にはさらなる混乱も起こり得る。
ロシアのプーチン大統領は、米国と他の主要7カ国(G7)が発動させたロシア産原油の価格上限に参加する国への原油と同製品の輸出を禁止する大統領令に署名した。現在の上限価格は1バレル当たり60ドル。G7のルールはロシア産原油の輸出価格が同水準を大幅に下回ることにつながっており、ロシアの戦費調達能力を圧迫する可能性がある。
ロシア産原油にはまだインドや中国、トルコといった買い手がいる。ロシアにはさらに、供給を完全に停止する選択肢もある。そうなれば石油市場は大混乱に陥り、世界中でインフレ率を押し上げた昨年の原油価格高騰が繰り返される恐れがある。
原油に限った話ではない。ディーゼルなどロシア産の精製品に対する同様の規制が来月から実施される。欧米当局者の一部は、これが供給不足の引き金になり得ると懸念している。
ロシアから天然ガスを輸送するパイプラインの稼働停止は、世界の供給に大きな穴を開けた。これまでのところ欧州の暖冬がガス不足の深刻度を和らげ、ガス・電力価格は下落している。それでも各国は今年、不足する液化燃料の供給確保に追われることになりそうだ。
半導体巡る攻防
電気自動車や弾道ミサイル、新たな人工知能(AI)技術などあらゆるものに不可欠な部品である半導体は、世界経済の最も重要な戦場の一つになりつつある。
バイデン米政権はこの1年間、中国による最先端半導体の購入・製造を阻止するため、輸出規制を含むさまざまな手段を行使してきた。また、製造業の米国回帰のため国内半導体産業向けに520億ドル(約6兆6500億円)の補助金プログラムを立ち上げた。
米国はこうした規制について、中国の軍事力強化を抑止するものだと説明。これに対し中国政府は、同国の経済発展を阻むことを狙った幅広い取り組みの一環だと批判している。いずれにせよ、この規制が機能するには米国の同盟国の協力が必要だ。最先端半導体の製造に必要な装置の有力メーカーにはオランダと日本の企業が含まれており、両国は既に協力に同意した。
米国の規制に従うことはコストを伴う。半導体および同製造装置のメーカー各社は、巨大な中国市場を失う可能性があるためだ。一方、中国政府は自国の半導体産業の育成に多額の資金を投入しているが、自国での最先端技術の開発は恐らく難しく、規制強化の動きに報復することもあり得る。
台湾巡る冷戦懸念
米欧の指導者らは、台湾が新たな冷戦における次の前線となり、武力行使に至ることを懸念している。
米国防総省は最近、中国による台湾への軍事的手段の行使が差し迫っている兆しはないと指摘。ただ、昨年8月のペロシ米下院議長(当時)の訪台に強く反発した中国は軍事演習を強化し、領海・領空侵犯を繰り返しており、こうした行為が今後も増えると同省は分析している。バイデン大統領はウクライナへの米軍派遣の可能性は否定したものの、中国が軍事侵攻すれば米国は台湾を守ると明言した。
超大国同士が直接衝突することに伴うリスクに加え、対立には経済的な側面もある。半導体の受託生産世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)を擁する台湾は、あらゆる種類のグローバルサプライチェーン(供給網)に不可欠な存在だ。中国による封鎖など、戦争には至らない程度の緊張エスカレートでも巨大なドミノ効果を引き起こす恐れがある。
中国による台湾侵攻とそれへの西側諸国の対応は、「誰もが備えている不測の事態だ」と、国際金融協会(IIF)のティム・アダムズ専務理事は指摘。「どの企業も、制裁がどのようなものになるか、誰が米国の味方になるかなどについて思いを巡らしている」と語った。
「フレンド・ショアリング」と補助
各国政府は、国政術の手段として自国の経済力をてこに国益を追求する姿勢を強めている。攻めの面ではライバル国による製品や市場のアクセスを阻止することであり、守りの面では、信頼できる同盟国に限定して戦略的に重要な製品のサプライチェーンを構築する「フレンド・ショアリング」といった構想だ。
しかし、友とは仲たがいすることもあり、最も友好的な地は自国にある。そのため各国は国内生産業者への補助を増やし、自由貿易の王道から離れようとしており、これはすでに摩擦を引き起こしている。
米国では500億ドル余りの国内半導体業界支援を盛り込んだ法が昨年成立。また、税制改正や気候変動対策を盛り込んだ4370億ドル規模の「インフレ抑制法」には電気自動車業界を支援する税優遇措置が含まれた。こうした措置に欧州は強く反発。米国に拠点を戻すよう促すインセンティブを与える不公正な貿易慣行だとし、対抗手段として独自の財政支援を打ち出す姿勢を示した。
世界的な補助金合戦では最も懐の豊かな国が勝者となり、増大する債務負担に苦しんでいる途上国の経済が敗者となるリスクがある。
ドルの支配
ドル以外の通貨でビジネスを行う方法を模索する国が増えており、これは米国と敵対する国に限られた話ではない。米国が外交目標を推し進める手段として自国通貨を活用しようとしていると、これらの国々は見なしているためだ。
バイデン政権は、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン率いる政権を財政難に追い込むため、アフガン中央銀行の準備金のうち約70億ドル相当を凍結した。米国と欧州連合(EU)はロシアの準備金のうち約5000億ドルを合法的に押収しウクライナ復興に充てる方法を探っている。
世界の基軸資産としてのドルを置き換えることは、実現するとしても何年もかかりそうだ。ドルの安全資産としての地位は、昨年のウクライナ侵攻開始後の激動の数カ月間に見られた急伸からも明らかになった。中銀から商品取引に至るまであらゆる分野で定着しており、明確な代替候補は見当たらない。
しかし中国やロシア、イランだけでなく、米国とより友好な関係にあるインドや湾岸諸国などの間でも、ドルを排除した貿易関係を構築する方法が模索されている。中国の習近平国家主席がサウジアラビアを先月訪問し、中国人民元建てのエネルギー取引などが議題となったことは、来るべきことの兆しなのかもしれない。
米国とその同盟国にとってのリスクは2つある。ドルの支配力に依存する制裁措置が威力を失う可能性と、西側諸国以外の国々の間で行われる貿易取引によって主要商品が市場に出回らなくなり、他の買い手にとって価格が上昇しインフレ高進が進むことだ。
シンガポール元外相のジョージ・ヨー氏は先週の会議で、「米ドルはわれわれ全員にとって呪いだ。もし国際金融システムが武器化すれば、それに代わるものが育つだろう」と語った。 
●春の地上決戦<Eクライナ大攻勢とロシア苦境 「核のボタン」可能性も 1/16
ロシアとウクライナの消耗戦が新局面を迎えるのか。米欧各国が年初から、ウクライナに戦車など装甲兵器を供与すると相次いで発表した。ロシアはミサイル攻撃を続ける一方、軍幹部の人事などで態勢立て直しを図っている。春にも行われるとみられる「地上決戦」の展望を軍事専門家に聞いた。
英首相官邸は14日、数週間以内に英軍の主力戦車「チャレンジャー2」14両をウクライナに供与する方針を発表した。30両前後の自走砲「AS90」の投入も検討、ウクライナ兵らへの訓練を数日中に開始するという。
ポーランドのドゥダ大統領は11日、ドイツ製主力戦車「レオパルト2」をウクライナに供与する方針を決めた。ドイツの承認が必要となる。
レオパルト2は東西冷戦期の西ドイツで開発され、攻撃力、防御力ともに西側の主力とされる。軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「射撃精度が高く、米国の『M1A2』などと並び、世界最強の戦車といえる。導入されれば、ロシアの主力戦車『T72』などを撃破する能力があり、クリミア半島奪還に向けた反攻も夢ではなくなる」と解説する。
米国は戦車より軽量で機動性が高い「ブラッドレー歩兵戦闘車」50両を含む約30億ドル(約4000億円)の追加軍事支援を発表した。ドイツもマルダー歩兵戦闘車、フランス装輪装甲車「AMX10RC」を提供する。
「歩兵戦闘車は機関砲を搭載し、兵員の輸送と対歩兵攻撃が主任務になる。装輪装甲車は『歩兵戦闘車以上、主力戦車未満』の位置付けだ。105ミリ砲を搭載し、戦車よりも展開の速さが持ち味だ。主力戦車を撃破する能力はないものの、占領地域を取り戻すことに貢献する可能性はある」と世良氏は話す。
ロシア側も兵器の調達は急務だ。プーチン大統領は11日のオンライン会議で、航空機調達の遅れについて「時間がかかり過ぎている」「ふざけているのか」とマントゥロフ副首相を叱責した。
14日にはウクライナ全土をミサイル攻撃し、東部ドニエプロペトロフスク州の州都ドニプロでは集合住宅に着弾した。ゼレンスキー大統領は15日の声明で、15歳の少女を含む30人が死亡したと述べたが、死傷者はさらに増える恐れがある。
ロシア軍は人事面の混乱も目立つ。制服組トップのゲラシモフ参謀総長が侵攻の統括司令官に任命され、昨年10月から司令官を務めていたスロビキン氏は約3カ月で事実上の降格となった。昨秋に作戦司令官から解任されたラピン大佐が陸軍の参謀長に任命されたとの情報もある。
ウクライナ側は春の大規模反攻を示唆している。前出の世良氏は「東部ドンバスや首都キーウなどで地上の決戦が繰り広げられる可能性がある。兵器供与後も訓練に時間を要するため、大規模反攻まで間に合うかが課題だが、ロシア軍の戦力や資源の枯渇も想定され、戦力ではウクライナの優位は保たれそうだ」との見方を示す。
ただ、西側の戦車供与を受けて、プーチン氏が「核のボタン」を押す可能性もあると世良氏は語る。「戦術核使用を決断するなどの懸念は残るが、エスカレーションを十分に留意した上で、米欧が最新兵器の供与など軍事支援を続けるしか方法はないのではないか」
●「非ナチ化」を掲げウクライナ侵攻を続けるロシアから、ユダヤ人が逃出す背景 1/16
ロシアの元首席ラビ(ユダヤ教指導者)が「ロシアで反ユダヤ主義が台頭しつつある」として、ユダヤ人に国外脱出を呼び掛け、世界的に波紋が広がっている。「非ナチ化」と称し、ウクライナ侵攻を続けるプーチン大統領の下、むしろユダヤ人が迫害されるというのは杞憂きゆうなのか。それとも—。
ロシア・東欧のユダヤ人 / 現在のベラルーシ、ポーランド、ウクライナを含むロシア帝国領では、14世紀以降、ユダヤ人の居住が進み、特にベラルーシでは人口の半分をユダヤ人が占める街もあった。一方で社会では反ユダヤ感情も根強く、ソ連誕生直後は指導部に多くのユダヤ人がいたことから「社会主義革命はユダヤ人の陰謀」とのデマも拡散。第2次大戦でナチスによるユダヤ人迫害に加わる住民らもいた。
昨年末、英紙を通じてユダヤ人にロシアから去るよう呼び掛けたのは元首席ラビのゴールドシュミット氏だ。同氏はウクライナ侵攻で社会混乱が広がれば、ロシア国民の不満と憎悪はユダヤ人に向くと予想。キリスト教世界で差別を受けてきたユダヤ人らが「スケープゴート(いけにえ)になる」と懸念した。
ロシアでは昨年2月のウクライナ侵攻後、わずか半年でユダヤ系の約2万500人がロシアから逃げ出した。16万5000人と推定される同国のユダヤ系住民の12%に相当する。
ゴールドシュミット氏によれば、「ロシアの国家権力は政治体制が危機的状況になると、大衆の怒りと不満をユダヤ人社会に向けようとしてきた」という。現在のベラルーシやポーランド、ウクライナを含むロシア帝国の各地では19世紀から20世紀初め、ユダヤ人への集団的迫害「ポグロム」が起きた。英BBC放送はユダヤ人社会の現状について「迫害を受けた歴史の亡霊がよみがえり、人々の心に影を落とした」と分析した。
「自由にモノを言えず、息苦しい。自分の血筋を生かしてイスラエル国籍を取得すべきかも」。こう語るのはモスクワの大学4年、ナスチャさん(仮名)。ロシア正教会の信徒だが、母方がユダヤ系のためイスラエルに逃げることも検討中だ。
ユダヤ人社会が特に問題視するのが、ウクライナ侵攻を「ナチズムとの闘い」とするプーチン政権の政治宣伝だ。
ロシアの前身、旧ソ連は第2次大戦で、ユダヤ人を「ホロコースト」によって虐殺したナチス・ドイツに勝利。プーチン政権も「欧州をナチスから解放したのはソ連」と誇り、愛国心を国民統合の要としてきた。ソ連と続くロシアを「正義と善」、逆らう勢力を「ナチスのごとき絶対悪」とする構図は、ウクライナ侵攻にも活用されている。
ユダヤ人社会は、ウクライナにおけるロシア系住民の境遇を、第2次大戦中のユダヤ人迫害に例えて侵攻を続けるプーチン政権に不快感を抱いているもよう。ユダヤ教はロシアの宗教界で例外的に侵攻への支持を表明していない。
対するプーチン政権はユダヤ民族主義団体の活動停止をちらつかせる。ラブロフ外相も昨年5月、イタリアのテレビ局のインタビューで「(ナチス・ドイツの首領)ヒトラーにはユダヤ人の血が入っている」と発言し、イスラエルのベネット首相が強く反発した。
ユダヤ系のゼレンスキー・ウクライナ大統領はロシアとファシズムを合わせた「ラシズム」との造語を用い、ロシア軍による民間人殺害の非道を訴えている。
●ロシア、核搭載可能なスーパー魚雷「ポセイドン」を初生産=タス通信 1/16
ロシアは核兵器の搭載が可能な(訂正)スーパー魚雷「ポセイドン」を初めて生産した。近い将来に原子力潜水艦「ベルゴロド」に搭載する。
タス通信が16日、匿名の防衛筋の話として報じた。
後にポセイドンとして知られることになる魚雷は、プーチン大統領が2018年に初めて発表。独自の原子力電源を持つ全く新しいタイプの戦略的核兵器と説明していた。
プーチン氏は2018年の演説で、魚雷の射程は無制限になり、潜水艦や他の魚雷の何倍ものスピードで深海を進むことができると発言。
「音は非常に小さく、操縦性が高い。事実上、敵による破壊は不可能だ。今日の世界に対抗できる兵器はない」と述べていた。
●エネルギー危機で絶好調のアルジェリア、ロシアとの武器取引 1/16
アルジェリアはアフリカ最大の天然ガス輸出国。現在は、大国間の対立とエネルギー危機という時代の新局面を利用し尽くそうとしている。
同国のアブデルマジド・テブン大統領は昨年11月、新興国の経済グループBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)への加盟を正式申請した。12月には、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への参加を延長する協定に署名している。
アルジェリアはロシアのウクライナ侵攻以来、ヨーロッパにとって重要なガス供給国だ。アルジェリアのエネルギー輸出による利益は2020年に約200億ドル、21年には約340億ドルだったが、昨年は500億ドルを超えている。
しかしアルジェリアは、同盟国にロシアとの経済関係の断絶を求めるアメリカから目を付けられている。
「アルジェリアとロシアの関係拡大は、全ての国に脅威をもたらす」。リサ・マクレーン米下院議員は昨年9月にこう述べて、他の26人の議員と共に署名したアントニー・ブリンケン国務長官宛ての書簡を発表した。
「(21年だけでも)アルジェリアはロシアとの間で総額70億ドルを超える武器購入を承認した。この取引でアルジェリアは、スホーイ57を含むロシアの最新型戦闘機の購入に同意した」と、この書簡にはある。
「アメリカは、ウラジーミル・プーチンと彼の野蛮な戦争に対する支援は許されないというメッセージを世界に送る必要がある」
アルジェリアがBRICS加盟を目指すのは、中国やロシアとの貿易関係を維持し、エネルギー輸出国として拡大する経済的機会を守りたいためだ。
中国は13年以来、旧宗主国のフランスに代わり、アルジェリアへの主要輸出国になっている。ロシアはアルジェリアの兵器の約80%を供給。アルジェリアはロシアからの武器輸入額で、インドと中国に次いで世界第3位だ。
中国とロシアがアルジェリアのBRICS加盟申請を歓迎したのは、当然だろう。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、昨年5月にアルジェリアを訪問。
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は昨年12月にサウジアラビアを公式訪問した際、アルジェリアのエイムン・ベンアブデラフム首相と会談し、さらなる関係強化を誓った。
ただし、加盟への道は簡単ではなさそうだ。
「問題はBRICS加盟国に課される一定の義務を受け入れられるかどうか。一部の法律を共通の基準に調和させる必要がある」と、首都アルジェのモハメド・アブデヌール・ラベヒ市長は昨年12月に語った。しかもBRICSは2010年の南アフリカを最後に、新たな加盟国を受け入れていない。
民主化デモが再燃する日
アルジェリアでは軍が実権を握っており、19年に軍の支援を受けて当選したテブンは反政府派を弾圧している。当局は昨年12月、著名なジャーナリストのイフサネ・エル・カディを逮捕し、彼が運営する独立系ネットラジオ局「ラジオM」を閉鎖した。
国内政治的な正統性を欠くテブン政権は、より積極的な外交政策を選択した。外貨収入の約9割を占める石油・ガス輸出の需要が伸びている今、アルジェリアは絶好調だ。
だがこの好景気が終わったとき、国民は19年に起きた大規模な民主化デモのように、再び変化を要求するかもしれない。

 

●「裏切り者ではない」 ウクライナ側で戦うロシア人部隊 1/17
ウクライナ側に付いて戦う「自由ロシア軍団」に加わるロシア人にとって、最も重要なのは秘匿性だ。
自由ロシア軍団の正確な人数は機密事項であり、所在が明かされることもなく、声明を出す際には慎重に言葉が選ばれる。
カエサルという仮名を使っている同軍団の報道担当者が、昨年秋にウクライナ軍がロシア軍から奪還したウクライナ東部ドネツク州の村ドリナで取材に応じた。
カエサル氏はロシア語と英語を交えながら、「祖国と戦っているわけではない。(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンの体制、悪と戦っている」と語った。その上で「私は裏切り者ではない。国の行く末を案じる真の愛国者だ」と強調した。
自由ロシア軍団は、ロシアがウクライナに侵攻してすぐに創設され、ウクライナ軍の外国人部隊の一端を担っている。そのエンブレムは、突き上げた握り拳に「ロシア」と「自由」という文字でデザインされている。
カエサル氏によると、同軍団には「数百人」のロシア人が加わっており、2か月間の訓練を経て東部ドンバス地方に昨年5月に配置された。
軍団の兵士の一部は、数か月にわたって激しい戦闘が続いている東部前線のバフムートで任務に就いている。
匿名を条件に取材に応じたウクライナ関係者は、自由ロシア軍団について「士気の高い熟練した部隊で、任務を完璧にこなす」と語った。志願者には忠誠心を確認するため、数回に及ぶ面接や心理テストのほか、うそを発見するといわれるポリグラフによる検査も課されるという。
政治的な宣伝工作で役割
自由ロシア軍団の戦争遂行努力における貢献は、戦場以外でより大きな意味を持つと解説するのは、軍事専門家のオレグ・ザダノフ氏だ。
ザダノフ氏は軍団について「戦闘行為に参加するものの、数が少ないために大勢には影響しない」と指摘する。その上で、「その重要性は政治的な側面にある。民主主義や自由を支援し、正しい側で戦うロシア人が存在することを示せるのはウクライナにとって好都合だ」との考えを示す。
ソーシャルメディア上では、軍団は主にプロパガンダ動画を投稿し、数千人の入隊希望者がいるとしている。
サンクトペテルブルク出身で理学療法士として働いていた報道担当のカエサル氏は、入隊したのは政治的な動機があったためだと明かした。
自身を「右派のナショナリスト」と形容するカエサル氏は、プーチン政権は武力でしか打倒することができないと考えている。
カエサル氏は「ロシアは死につつある。地方に行けば、酔っ払いや薬物依存者、犯罪者が目に付くだろう。民衆は苦しんでいる」と訴える。20年もプーチン政権が続いたことが原因なのは明らかだと強調する。
「プーチンを支える体制や政府、側近のすべてが最低だ。敗者であり、地位を悪用した泥棒だ。金や快楽のために生きることにしか関心がない。国家を運営できるわけがない」と断じた。
ロシアが昨年2月にウクライナに侵攻した後、カエサル氏は妻と4人の子どもをキーウに連れて来た。家族がウクライナにいることで自由に発言でき、家族の身もより安全だと考えている。
「家族の皆も爆撃の恐怖におびえ、寒さの中での暮らしを余儀なくされている。だが、私の選択に賛成している」と話した。
●西側の武器でウクライナでの戦争が激化とプーチン氏 エルドアン氏と電話 1/17
ロシアのプーチン大統領は16日、トルコのエルドアン大統領と電話会談を行い、西側諸国によるウクライナへの武器の供給が戦争行為を激化させているとの見解を示した。また正教徒にとってのクリスマス期間中の停戦をロシアが提案した際、ウクライナ政府がこれを拒絶したことは同政府の「偽善的政策」の一例だと述べた。
クレムリン(ロシア大統領府)が声明で明らかにした。それによるとプーチン氏は、ウクライナ政府が当てにしているのは戦争行為の激化に他ならないと注意を促し、西側の支援がそれをもたらしていると指摘。武器や軍装備の輸送量の拡大に言及した。クリスマス停戦の提案を拒んだのも、ウクライナ政府による「偽善的政策」の表れだと主張した。
その上で、トルコ側の主導により、ロシアとウクライナ両国の人権委員が捕虜交換の問題について話し合う見通しだと明らかにした。交換はまず負傷者を対象に行われるとしている。
電話会談ではこのほか、ウクライナ産穀物の黒海経由の輸出などに関する一連の合意の履行も議論。その上でロシアとトルコの協力関係を一段と進展させる意向を再確認したという。優先事項としてはロシア産天然ガスの供給など、エネルギー部門での協力を挙げた。
会談の数日前には、ロシアのミサイルがウクライナ東部の都市ドニプロのアパートに着弾し、少なくとも40人が死亡した。
●ロシア動員兵に大量の犠牲、それでも戦争は続く  1/17
ウクライナ東部にあるロシアの仮設兵舎を狙ったミサイル攻撃で、新たに動員されたロシア兵数十人が死亡してから2週間が経過した。しかしロシア国内の多くの人々は、自分たちの親類は生きているのか、それとも死んだのかという問いの答えをいまだに得られていない。
ある36歳の女性は、この兵舎を使っていた連隊の1つに所属していたいとこを探したところ、採用事務所からは彼が任務を行っているとの説明を受けたという。「ニュースを待て」と言われたと、この女性は話す。彼女は現在、病院に電話して、いとこが運ばれてこなかったかどうか尋ねている。
しかしロシア国防省によると、ロシア占領下のマキイウカにおける元日の攻撃で少なくとも89人のロシア人動員兵が殺害されたが、死者の多くの出身地であるロシア南西部のサマラ地域では、ささやき程度の不満の声が聞かれただけだった。サマラでは、ロシア政府の戦争継続の方針に公然と抵抗する人はほとんどいない。開戦から1年近くがたち、これまでに何千人ものロシア兵の命が奪われた。
サマラ出身のこの女性は戦争に反対で、ウラジーミル・プーチン大統領に投票したことは一度もなかったという。しかし、いとこの動員についてどう思うか尋ねると、「私は何も思わなかった。彼は招集されたから、行かなくてはならなかった」と答えた。
女性は「私たちの曽祖父母は第2次世界大戦を経験した。家族に臆病者はいなかった」と話した。
攻撃から影響を受けた人々が示す諦めの態度は、長期戦への備えを固めるロシア政府にとっての強みを浮き彫りにする。プーチン氏は、死者数が増えているにもかかわらず、国内から戦争のコストをめぐる圧力をほとんど受けていない。30万人の男性を動員する彼の決断は、一連の敗北で昨年後半に弱まったロシアの戦線を強化したとみられ、昨年7月以来初となる前進を可能にし、ウクライナ東部の町、ソレダルの制圧を主張するに至った。
ここで問題となるのは、士気が低く、古い装備しか持たない訓練不足の動員兵をウクライナに大量投入する戦略で、ウクライナの抵抗を低減できるかどうかだ。
また、強い動機を持つ兵士と次第に強化される西側諸国製兵器に支えられたウクライナ軍の士気が、戦争の長期化に耐え切れるのかという点も、問われることになる。
1月1日午前0時1分すぎ、ウクライナの精密誘導ロケット弾が、鉱業の町マキイウカの職業訓練校に着弾した。この学校は、ロシアの占領軍によって新兵用の兵舎に転用されていた。
その何時間か後には、近くの兵舎にいた動員兵たちが被害現場に向かわされ手袋を渡された。がれきの中で遺体を探し回っていた27歳の動員兵は、何十もの遺体が積み重なる中で時間の感覚を失ったと語った。彼は徴集される前は、電気技師だった。その後ロシアの戦争ブロガーらが伝えたところによれば、この攻撃による死者は少なくとも200人に上ったという。
この動員兵は、遺体処理時の状況を振り返り「なぜこんな悲惨な状況になってしまったのかということ以外、何も考えられなかった」と語った。
その数日後、彼は配置された塹壕の中で身をかがめ、砲弾の嵐が降り注ぐ下で、明確な任務もないままに、ソ連時代のライフルを握りしめていたという。
「士気などない。ただ恐怖と絶え間ないストレスがあるだけだ」とその動員兵は語った。「この戦争はわれわれが望んでやっているものではない。自分たちは単に生き残ろうとしているだけだ」
この動員兵には、ロシアの独立系メディア「ヴョルストカ」がまず話を聞き、招集状をウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した。この兵士は今、どう戦闘を逃れるか、生き残って家族のもとに帰るかということしか考えていないという。
「動員兵の多くはここにいたいなどと少しも思っていない」とこの兵士は話す。
サマラの企業経営者アナスタシア・アンドレイチェンコ氏(36)は、2014年にロシアがひそかにウクライナ東部を侵略して以降、ウクライナ東部に駐留するロシア軍に何度となく物資を運んできた。マキイウカの攻撃から数日のうちに、アンドレイチェンコ氏と彼女のボランティア仲間は、生き残った兵士のためにクラウドファンディングで装備品(冬用の制服とブーツ、防寒下着、発電機、暗視ゴーグル、ドローン)を調達し、これを西方約850マイル(約1368キロ)離れたウクライナの都市マキイウカに届けた。
アンドレイチェンコ氏は、この攻撃はサマラの人々に恐怖を与えたが、それでも自身はこの侵攻を支持すると語った。ロシア社会が戦場の兵士と故郷の親族を支援する姿勢を示すのは、彼女のような市民の義務だと同氏は話す。
同氏は「今一番大事なことは後方を守ることだ」と語る。「社会から信念とスピリットを失わせるわけにはいかない。皆の士気をできる限り維持する必要がある」。
攻撃に巻き込まれた兵士の一部やサマラにいる彼らの家族の多くは、ロシア国防省が、攻撃を受けた責任を軍の司令官ではなく、動員兵のせいにしたことに対して憤っている。国防省は、ウクライナ側が兵舎の位置を特定できたのは、兵士たちが携帯電話を使用していたからだとした。戦争ブロガーや家族らによると、兵舎の場所は、前線からわずか10マイル(約16キロ)しか離れていない上に分かりやすく、弾薬庫の場所ともなっていたため、明らかな標的になった。
2014年にウクライナ東部で非正規軍を率いたロシアの元情報当局者イゴール・ガーキン氏はこの攻撃の後、ロシアの将官は「訓練のしようがない」とソーシャルメディアのテレグラムで語った。軍事ブロガーのウラドレン・タタルスキー氏(昨年9月にはウクライナ4州の併合式典のためプーチン氏からクレムリンに招かれている)は、マキイウカへの攻撃を受けてロシア軍幹部を裁判にかけるよう求め、ロシアのトップ当局者たちを「訓練不足のとんでもない愚か者」だと表現している。
こうした批判について、ロシア国防省はコメントしていない。
●ロシア軍のミサイル攻撃 少なくとも40人死亡 30人以上行方不明  1/17
ウクライナに侵攻を続けるロシア軍が今月14日、東部の都市に行ったミサイル攻撃で、ウクライナの当局は子ども3人を含む、少なくとも40人の住民が死亡したほか、依然として30人以上の行方がわかっていないと発表し、犠牲者が増え続けています。
ロシア軍が今月14日、ウクライナ各地に行ったミサイル攻撃で、東部の都市ドニプロでは9階建てのアパートにミサイルが着弾しました。
攻撃には、ロシア軍の対艦ミサイルが使用されたとみられ、ウクライナの非常事態庁は16日、これまでに子ども3人を含む少なくとも40人の住民が死亡し、75人がけがをしたほか、依然として30人以上の行方が分かっていないと発表しました。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は16日、「ロシア軍は住宅や社会的なインフラ設備を攻撃しておらず、標的は軍事施設のみだ」と述べたうえで、今回の被害は、ウクライナ側の対空ミサイルによる誤爆の可能性があるとする主張を一方的に展開しました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が16日、電話で会談し、トルコ大統領府によりますとエルドアン大統領は、和平を仲介する用意があることを改めて伝えたとしています。
一方、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は、「ウクライナ政府は破壊的な政策をとり、欧米の軍事支援で敵対行為を激化させている」と主張しました。
さらに今月上旬、ロシア正教のクリスマスにあわせてロシア側が一方的に停戦を宣言したことをめぐっても、「ウクライナ側が、偽善的な政策によって停戦を拒否した」と非難したということで、停戦に向けた歩み寄りの兆しはみられない状況です。
●ロシアによる侵攻開始後、ウクライナで7000人超の民間人が死亡 国連発表 1/17
ロシアによる侵攻が始まってからウクライナではこれまでに7000人以上の民間人が攻撃で死亡したと国連が発表しました。
OHCHR=国連人権高等弁務官事務所は16日、去年2月のロシアによる侵攻開始から15日までに、攻撃で死亡したウクライナの民間人が7031人に上ったと明らかにしました。14日に起きたウクライナ東部・ドニプロへのミサイル攻撃では9階建ての集合住宅が倒壊し、40人の死亡が確認されています。いまも20人以上の行方が分かっていません。
一方、ロシア側が制圧したと主張するウクライナ東部ドネツク州のソレダルについて、イギリス国防省は16日、ウクライナ軍が態勢を維持していることがほぼ確実だとの分析を示しました。
●ウクライナ侵攻 民間人の死者7000人超に 国連発表 1/17
国連はロシアによる侵攻開始以降、ウクライナにおける民間人の死者が7000人以上にのぼると発表しました。
国連人権高等弁務官事務所は16日、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった去年2月末から今月15日までに、民間人7031人の死亡が確認されたと発表しました。また「死傷者のほとんどは、重火器やミサイルなど広範囲に被害をもたらす兵器によるものだ」と指摘。攻撃が激しい地域からの報告が遅れていることなどから、実際の死者数はさらに多くなる可能性があるとしています。
一方、中部ドニプロで14日、集合住宅が破壊されたミサイル攻撃について、ウクライナ当局はこれまでに子ども3人を含む40人が死亡したと発表しました。34人が行方不明のままで死者はさらに増えると見られます。
ロシアのペスコフ大統領報道官は16日、「ロシア軍は住宅などを攻撃していない」と述べ、ウクライナ軍に迎撃されたミサイルが着弾したものだと主張しました。
こうした中、ロシアと隣国ベラルーシの空軍による合同軍事演習が16日から始まりました。演習は来月1日までの予定で、合同パトロール飛行や地上部隊の支援などの訓練を行うとしていて、ベラルーシ国内のすべての軍用飛行場を使用するということです。
一方、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は16日、トルコのエルドアン大統領と電話会談を行いました。プーチン氏は、ウクライナが欧米からの軍事支援により戦闘を激化させているとして「破壊的な政策だ」と指摘。
自らが一方的に提案したロシア正教のクリスマスにあわせた停戦にウクライナが応じなかったことについて、「偽善だ」と述べたとしています。また、両首脳はロシアとウクライナの人権担当者がトルコで接触したことに関連し、捕虜交換についても言及したということです。
●ロシアの軍事侵攻でウクライナ市民7000人超が死亡 国連発表  1/17
国連はロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった去年2月以降、ミサイル攻撃などにより、ウクライナで死亡した市民が7000人を超えたと発表しました。今月14日にも東部でアパートにミサイルが着弾して、これまでに少なくとも40人が死亡し、市民の犠牲者が増え続けています。
ロシア軍は14日、ウクライナ各地にミサイル攻撃を行い、東部の都市ドニプロでは9階建てのアパートにミサイルが着弾しました。
ウクライナの非常事態庁は16日、これまでに子ども3人を含む少なくとも40人の住民が死亡し、依然として25人の行方が分かっていないと発表しました。
これについてロシア側は、ウクライナ側の対空ミサイルによる誤爆の可能性があるとする主張を一方的に展開しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、公開した動画で「戦争犯罪をおかしたすべての人は必ず特定され、裁判にかけられる」と述べ、ロシア側を強く非難しました。
こうした中、国連人権高等弁務官事務所は16日、ウクライナでの市民の犠牲者数を発表しました。
それによりますと、軍事侵攻が始まった去年2月24日以降、今月15日までに、ミサイル攻撃などによって少なくとも7031人の市民の死亡が確認され、このうち433人は子どもだとしています。
侵攻による被害は拡大し、市民の犠牲者が増え続けています。 
●ドイツ国防相が辞意 ウクライナ軍事侵攻をめぐる不適切発言で  1/17
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって、不適切な発言をしたと批判を浴びていたドイツのランブレヒト国防相が16日、辞意を表明しました。ウクライナへの軍事支援の強化が焦点になる中での辞任で、ショルツ首相は空白が生じないよう後任の選定を急ぐ方針を強調しています。
ドイツのランブレヒト国防相は16日、ショルツ首相に辞意を申し出て、了承されました。
ランブレヒト氏は先月末、首都ベルリンで打ち上げ花火の音が響く中「ヨーロッパの中心で戦争が行われていて、それに関わりすばらしい人たちと出会えた」などとする新年のメッセージをSNSに投稿し、地元メディアや野党から、ウクライナが侵攻を受ける中不適切な発言だと強い批判を浴びていました。
ランブレヒト氏をめぐっては以前から資質が疑問視されていてロシアの侵攻直前に軍事支援を求めるウクライナにヘルメットの供与を決め「ドイツがともにあるというシグナルだ」と述べて批判を招いたことや、去年4月には軍のヘリコプターに私的に息子をのせたことなど多くのミスをしたと報じられています。
ショルツ首相は16日、空白が生まれないよう後任の選定を急ぐ方針を強調しました。
ドイツでは、今月20日、ウクライナへの軍事支援を話し合う欧米各国による会合が開かれ、イギリスが主力戦車の供与を決める中、ドイツも戦車の供与に踏み切るかが焦点となっていて、そうした判断にも影響が出るか関心が集まっています。
●ウクライナ ドニプロ住宅攻撃の死者40人に、ドイツ国防相辞任 1/17
ウクライナ東部ドニプロの9階建て集合住宅に対するロシア軍のミサイル攻撃で、死者が40人に増加した。ロシア軍は他の都市にも攻撃を広げている。
欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会のボレル副委員長(外交安全保障上級代表)は「こうした犯罪に免責は一切ない」とツイートし、EUは「必要な限り」ウクライナを支援すると表明した。ウクライナ空軍司令部はロシアの長距離対艦ミサイルによる攻撃だったと説明した。
進退を巡って臆測が続いていたドイツのランブレヒト国防相が辞任した。同国製戦車「レオパルト2」を含む兵器のウクライナ向け供給で重要な決定を検討しているショルツ首相にとっては打撃になる。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ウクライナ、円借款の返済延期で日本と合意−5000万ドル相当
ウクライナは、約5000万ドル(約64億3000万円)相当の円借款の返済を2027年−31年に延期することで日本と合意したと、ウクライナ財務省が電子メールで発表した。
プーチン、エルドアン両大統領が電話会談
ロシアのプーチン大統領は、トルコのエルドアン大統領と電話会談した。ロシア大統領府が声明を発表した。会談では天然ガス供給やトルコに地域のガス集積地を設置するなどのエネルギー分野の協力を協議したほか、捕虜交換を含むウクライナ情勢や、穀物合意の履行について意見交換を行った。
ワグネルの元部隊司令官、ノルウェーに政治亡命を申請
ロシアの民間軍事会社ワグネルの元部隊司令官が先週末に陸路国境を越えてノルウェーに入国し、同国で政治亡命を申請した。ロシアの人権活動家が投稿した動画の中で、この元部隊司令官、アンドレイ・メドベージェフ氏は、ウクライナの前線に展開していた自らの部隊を辞めた後、命の危険を感じてロシアを脱出したと説明した。戦いを拒否したワグネル戦闘員に対する超法規的な殺害について証言できると同氏は語った。
●22年のロシアGDP、2.5%減 専門家の予測ほど悪化せず―プーチン大統領 1/17
ロシアのプーチン大統領は17日、2022年の同国の国内総生産(GDP)が前年比2.5%減になったとの見通しを示した。ウクライナ侵攻に伴う欧米などの制裁措置の影響でマイナス成長となったものの、多くの専門家の予測ほど悪化しなかったとの認識を強調した。ロイター通信が報じた。
●かつて強盗犯だった男が軍事会社設立しプーチンに接近 ワグネル創設者 1/17
旧ソ連邦時代の末期、エフゲニー・プリゴジン氏(61)は盗みの罪で惨めな獄中生活を強いられていた。それが今や、ロシアで最も強力な傭兵集団の創設者として、ウクライナにおける戦果をアピールしてプーチン大統領からより大きな「寵愛」を得ようと一層の接近を図っている。
プリゴジン氏が率いる民間軍事会社「ワグネル」の部隊は、激戦が続くウクライナ東部ドネツク州バフムト北東郊外のソレダルを制圧したと表明。この軍事的成功を積極的に利用しようというのが、同氏の目論見だ。
プリゴジン氏によると、ソレダルを巡る戦闘はワグネルが単独で行った。だが、ロシア国防省は当初、正規軍が活躍したと主張。国防省側は13日、ソレダル制圧を正式に発表するとともに、勝利には正規軍の空挺部隊とミサイル部隊、砲兵部隊が貢献したと説明した。
これについてプリゴジン氏は、政府はワグネルに正当な称賛を送っていないと非難。「彼らは常に、ワグネルから勝利を盗もうとたくらみ、ワグネルの評価をおとしめるためだけに名前も知らない別の集団の存在を話題にしている」と憤った。
国防省はその後、状況をより「明確にする」として新たな声明を公表。ソレダル突入部隊の一角に「勇敢で自己犠牲的な」ワグネルの戦闘員が含まれていたと述べた。
このように存在感を増すプリゴジン氏は、いつかロシア国防相になってもおかしくないと、何人かの評論家は予想する。もっともプーチン氏が側近グループを互いにけん制させて「分割して支配する」政治手法を用いる傾向にある以上、プリゴジン氏が果たしてどの程度、プーチン氏への影響力を持っているのか、実際のところは良く分からない。
新しい英雄
プーチン氏の有力な支持者(そのうち何人かは同氏との直接的なパイプを持つ)は、さえない結果しか残せていない正規軍と比べ、プリゴジン氏が見事な成果を上げていると指摘する。
プリゴジン氏を「新しい英雄」をほめそやす元ロシア大統領顧問のセルゲイ・マルコフ氏は「プリゴジン氏にも欠点はあるが、私はそれらを口にしたくない。なぜならプリゴジン氏とワグネルは現在、ロシアの国家的な宝だからだ。彼らは勝利の象徴になっている」と自身のブログに記し、政府がワグネルにもっと資源を回すべきだと提言した。
政府系メディアRT編集長で大統領側近でもあるマルガリータ・シモニャン氏も、ソレダル制圧に関してプリゴジン氏に感謝の意を表した。
大統領府のスピーチライターだったアッバス・ガリアモフ氏は自身のブログで、プリゴジン氏はプーチン氏がショイグ国防相を更迭する事態をにらんで行動しているとの見方を示した。
プーチン氏はこれまでワグネルに関して、国家を代表していないが、ロシアの法令にも違反しておらず、世界のどこにおいても活動し、ビジネス上の利益を増進させる権利があるとの見解を明らかにしている。
ただ、ウクライナ戦争に対するロシア側の世論形成に関与してきた軍事ブロガーの1人はプリゴジン氏について、法の枠外での活動を認められた古代ローマ帝国の「百人隊」の指揮官になぞらえた。
その上で、ワグネルがさらに何度か成功を収め、今はオンライン投票レベルに過ぎないプリゴジン氏の国防相就任という話がこの先、現実味を帯びてくると述べた。
一方で、プリゴジン氏はワグネルの戦闘員の命など何とも思っていない、と元連邦保安局(FSS)幹部は批判する。この幹部の話では、ソレダルとバフムト周辺の確保に軍事的な重要性がないという。
政治分析を手がけるR・ポリティクの創設者、タチアナ・スタノバヤ氏は「要するにプリゴジン氏は、当局との関係の密接さに大きく左右される民間ビジネスマンであり、これは非常に脆弱な立場と言える」と話した。
プーチン氏の対策
ロシア政府は、プリゴジン氏が刑務所で何千人もの囚人をワグネルの戦闘員として徴募するのを許可している。複数の米政府当局者によると、その数は約5万人に上る。また、ワグネルは戦車や軍用機、ミサイル防衛網の装備も認められている。
正規軍との関係で言えば、プリゴジン氏は時折、軍上層部を無礼な言動で批判してきたが、何人かの西側の軍事専門家の見立てでは、こうした表面上のあつれきにもかかわらず、裏ではワグネルと正規軍は緊密に結びついていると考えられるという。
もっとも西側軍事専門家の間では、ウクライナ戦争の指揮官として軍の最上級幹部が指名されたのは、プリゴジン氏の影響力を抑える狙いがあったとの見方も出ている。
経営破綻したロシア大手石油会社・ユーコスの重役だったレオニド・ネブズリン氏は、実際のところワグネルが政府の統制から外れるリスクはあると警告する。
ロシア当局と近いある人物は、大統領府はプリゴジン氏を「使える手駒」とみなしつつも、そうした軍事組織の指導者に対しては暴走させないための「安全措置」をきちんと講じていると述べた。
●「戦闘拒否なら銃殺、恐ろしく」…「プーチン私兵」ワグネル指揮官の脱出 1/17
ロシア民間傭兵会社ワグネルグループの元指揮官が服務延長を拒否してノルウェーに亡命を申請したと、ノルウェー当局とロシア人権団体が16日(現地時間)明らかにした。ウクライナ東部戦線で悪名高いワグネルグループは昨年、ウクライナ・ブチャでの民間人虐殺の主犯と見なされたりもした。
CNNによると、元ワグネルグループ指揮官のアンドレイ・メドベージェフ氏(26)はワグネルグループの服務延長を拒否し、国境を越えてノルウェーに渡った。メドベージェフ氏は脱出の理由について「ワグネルの服務更新を拒否した後、命を失うのではないかと恐ろしかった」と明らかにした。
これに先立ち昨年11月、ワグネルの傭兵からウクライナ軍に転向したある男性がロシア側に処刑される映像が公開され、衝撃を与えた。メドベージェフ氏は自分も殺害されるのでないかと恐ろしくなったと伝えた。
メドベージェフ氏は自身の脱出を支援した人権団体代表オセチキン氏のインタビューで「我々は盾のように戦うよう投げ出された」と話した。また「戦闘を拒否したり裏切ったりすれば銃で撃たれて死んだ」と暴露した。
メドベージェフ氏は自身が昨年7月6日にワグネルと服務契約を結び、指揮官に任命されたと明らかにした。ウクライナ戦場で多くの傭兵を失ったワグネルグループは、ロシアの犯罪者までも傭兵として募集しているという。西欧ではワグネルグループがウクライナ駐留ロシア軍の約10%を占めるとみている。
メドベージェフ氏は「囚人が合流してからワグネルの雰囲気は完全に変わった。我々は人間として扱われなかった」と語った。続いて「毎週、より多くの囚人が来て(戦場で)多くの死傷者が発生した」と伝えた。
メドベージェフ氏の弁護士はBBCに「メドベージェフ氏はワグネルの傭兵としてウクライナ戦場で服務する間、多数の戦争犯罪を目撃した」とし「彼が戦争犯罪の証拠をノルウェーに持っていき、これを戦争犯罪調査団体と共有する計画」と明らかにした。
オセチキン氏によると、ワグネルグループを率いるエフゲニー・プリゴジン氏は昨年11月からすべての傭兵契約が自動更新されるよう指示した。プリゴジン氏はプーチン露大統領の側近として知られる。
しかしメドベージェフ氏はこれを拒否し、ワグネルを離れることに決心した。オセチキン氏はワグネルの手配で追われる身分になったメドベージェフ氏の脱出を支援した。
BBCによると、メドベージェフ氏は命がけで国境を越え、13日にノルウェーに不法入国した。メドベージェフ氏はノルウェー到着後、現地民間人に拙い英語で助けを求め、国境守備隊に拘禁された。その後、ノルウェー警察によって不法入国者のための施設に収監され、取り調べを受けている。
今回の事例はワグネルの傭兵が西欧に亡命を申請した最初のケースとみられると、メディアは伝えた。
●一触即発♂「米vsロシア ウクライナ軍支援拡大 1/17
ロシアからの領土奪還作戦に向けて、米軍などによるウクライナ軍支援が拡大している。欧州での訓練に加え、地対空ミサイルシステム「パトリオット」に関する米国本土での訓練も近く本格化する。欧米の積極的な軍事支援にロシア側は神経をとがらせており、ロシア軍の戦闘機がドイツ軍機に緊急発進(スクランブル)をかけるなど一触即発だ。
AP通信によると、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は15日、ウクライナ兵約500人を対象とした新たな訓練がドイツで同日に始まったと述べた。
米軍による訓練はこれまで月平均約300人に対し、米国が供与した兵器の使い方を教えるのが中心だった。新たな訓練は戦場での部隊連携を重視した指導を進め、戦車や大砲、戦闘車を効果的に使えるようにする。
また、FOXニュースは同日、パトリオットの使用訓練を受けるウクライナ兵90〜100人を乗せた航空機が南部オクラホマ州の陸軍施設フォート・シルに到着したと報じた。部隊をウクライナの戦場から離脱させ、米本土で訓練するのは異例だ。ロシア軍はウクライナで民間施設を含めたミサイル攻撃を続けており、ウクライナにとって防空システム強化は大きな課題だ。
さらに英国防省は16日、英軍の主力戦車「チャレンジャー2」に加え、無人機や自走砲AS90をウクライナに供与すると明らかにした。多連装ロケットシステムや近距離防空ミサイル「スターストリーク」も含む。
ウォレス国防相は「ウクライナの国土からロシア軍を追い出すことを可能にする。プーチン大統領による占領の終結を加速させる」と強調した。
ウクライナ国防省のブダノフ情報局長は、大規模な攻撃を春に計画していると発言。米欧各国の支援を受けて、ロシアが一方的に併合を宣言した東部や南部での反攻に弾みを付ける考えだ。
これに対しロシア国防省は16日、ロシア国境に近いバルト海上空に飛来したドイツ海軍の対潜哨戒機P3Cに、ロシア軍のスホイ27戦闘機が緊急発進(スクランブル)したと発表した。
ドイツはウクライナにマルダー歩兵戦闘車などを提供すると発表している。欧米の支援強化にロシアの反発と焦りもうかがえる。
●ロシア軍ミサイルに対抗できない──ドニプロ住宅に被弾、ウクライナの焦燥 1/17
ウクライナ軍の防空担当司令官ニコライ・オレシュク中将は14日、ロシアがウクライナ東部ドニプロ市の攻撃に使用したような巡行ミサイルKh-22を迎撃・撃墜できるシステムは自国にはないと述べた。
オレシュクによると、Kh-22ミサイルの発射、高度、飛行速度は探知できるが、ミサイルの軌道は「数百メートル」ずれる可能性があるという。
ウクライナの識別システムは、飛来するミサイルがKh-22であることを識別できるほど洗練されているが、それでも1発も撃ち落とせていない。
「ウクライナ軍には、この種のミサイルを撃ち落とすことのできる兵器がない。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって以来、このタイプのミサイルは210発以上発射されている。いずれも防空兵器で撃墜されていない」と、オレシュクは語った。
Kh-22は重量が約950キログラム、射程は600キロメートルに及ぶ。このようなミサイルを追跡し、破壊することができるのは、西側諸国の特定の防空システムだけだとオレシュクは言う。
「西側諸国からウクライナに将来提供される可能性のある対空ミサイル複合システム(パトリオットPAC-3やSAMP-Tなど)だけが、飛行中のこうしたミサイルを迎撃することができる」
ドニプロ市の被害は甚大
ロシア軍が多くの地域を支配しているウクライナ東部のドニプロペトロウシク州の州都ドニプロ市では、14日のロシア軍の攻撃で大規模な破壊と多くの死者が出た。ロシアの攻撃の主役となったのがこのKh-22ミサイルだった。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、ドニプロ市内の9階建てのアパートが瓦礫と化し、少なくとも5人が死亡した現場を映した動画を公開した。
「ロシアのテロで命を奪われたすべての人々を永遠に忘れない!世界は悪を止めなければならない。ドニプロの瓦礫撤去は続いている。すべてのサービスが機能している。われわれはあらゆる人、あらゆる命のために戦っている。テロに関与した者全員を探し出す。誰もが最大限に責任を負うことになる」と、ゼレンスキーは書いている。
ウクライナ内務大臣顧問アントン・ゲラシチェンコも、建物の破壊状況を示す写真をツイートした。この爆発による死者は子どもを含む40人に達している。
「ドニプロで集合住宅が被弾。被害は深刻。瓦礫の下に人がいる。レスキュー隊が働いている」と、ゲラシチェンコは書いた。
ロシアとウクライナ戦争は、2月24日で1年を迎えようとしている。ロシアはこれまでの戦争で推定11万4000人の自国軍兵士が死亡しているが、戦争を続けることに固執している。

 

●ロシア軍、兵力を150万人に増強へ 1/18
ロシアのショイグ国防相は17日、プーチン大統領がロシア軍の兵力を150万人に増強することを決定したと発表した。行き詰まるロシアによるウクライナ侵攻は間もなく11カ月を迎える。
ペスコフ大統領報道官によると、プーチン氏は国防省が発表した提案に「概念上、同意した」という。
ペスコフ氏はロシア軍の増強の詳細はまだまとまっていないとも述べた。
ロシアは昨年9月に、ウクライナ軍の反撃により一部で大きく撤退するなど戦況の悪化を受けて部分的動員を行った。その後、30万人を徴兵するという目標は達成されたとして11月に部分的動員を終了した。
同月にはプーチン氏は、殺人、強盗、窃盗、薬物取引などロシア刑法上の重罪で保護観察を言い渡されたり、最近刑務所から出所したりした犯罪者の動員を可能にする法改正に署名した。
ペスコフ氏はロシア軍の増強について「これは西側諸国が行っている戦争のためだ」と述べた。さらに「代理戦争には戦争行為への間接的な関与の要素と、経済、財政、法的な戦争の要素の双方が含まれる」と主張した。
米国、英国、欧州連合(EU)を含むウクライナを支援する国々は、ウクライナ侵攻を受けてロシアに経済制裁を科しており、ロシアと西側諸国の外交関係はかつてなく冷え切っている。
●ウクライナ東部で戦闘続く ロシア軍は2026年までに兵士を150万に増員へ 1/18
ウクライナ東部などで激しい戦闘が続くなか、ロシアは軍の兵士の総数を150万人にまで増員することを決めました。
ロシアのショイグ国防相は17日、プーチン大統領が現在115万人のロシア軍の兵士を2026年までに150万人に増やすことを決定したと明らかにしました。ロシアが一方的な併合を主張するウクライナの4つの州に新しい部隊を創設するとしています。
こうしたなか、ウクライナ東部ドネツク州の知事によりますと、バフムトなどで16日から17日にかけロシア軍によるミサイル攻撃があり、市民2人が死亡しました。
一方、14日に攻撃を受けた中部ドニプロの集合住宅での救出活動が終了。ゼレンスキー大統領は45人の死亡が確認されたと発表しましたが、未だに多くの人の行方が分かっていません。
ウクライナ情勢をめぐる会合が開かれた国連の安全保障理事会では。
ウクライナ キスリツァ国連大使「人が密集する住宅街を狙った攻撃は明らかに戦争犯罪です」
ウクライナの大使はこのように訴え、各国からも非難の声が相次ぎました。
●習近平・プーチン会談に見る中露の「正義」の欠如 1/18
2022年12月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に、同紙モスクワ支局長のマックス・セドンと同紙中国テクノロジーリポーターのライアン・マクモロウが、「プーチンと習近平が2国家関係を深化させることを誓う」との記事を書いている。
プーチンと習近平は12月30日のビデオ会談でプーチンが「歴史上もっとも偉大である」とした両国関係を深化させると誓った。
9月の中露の対面会談では、中国は、ロシアによるウクライナ侵攻を非難せず、戦争の責めをウクライナに対する西側支援に帰した。
中国は値引き価格でロシアの石油を買い、西側制裁の効果を弱めている。習近平はウクライナ戦争を交渉で解決するとのロシアの意思を評価すると述べ、中国として危機を解決するのを助ける用意があると述べた。習近平は「和平の見通しはいつでもある。中国は客観的で公正な立場を引き続き堅持し、国際社会を団結させ、平和的にウクライナ危機を解決する建設的な役割を果たす」と述べた。和平交渉は、4月にロシア軍が占領した町で民間人に対する残虐行為があったとの告発の後、崩壊した。
最近、プーチンは、ウクライナが交渉を拒否していると責任を負わせ、ロシアは戦争を終わらせる用意があると主張している。ただ、ロシアは、ウクライナが南部と東部の州のロシア支配を認める場合のみ交渉を始めると述べ、全ての領土の奪還を交渉の前提条件とするウクライナにはこれは受け入れられない条件である。
台湾をめぐる習の主張についての西側と中国との戦略的対立関係、技術産業への米国の制裁は、中国がロシアとの関係を切ることを躊躇させている。
プーチンは中露のパートナーシップは地政学的緊張の高まりの中で安定化要因として益々意義深くなっていると述べ、習は双方は「国際情勢で緊密に調整し協力し、一方的な政策に反対すべきであり、制裁や干渉は失敗する運命にある」と米国を非難して述べた。
習は2012年に中国共産党総書記になって以来、年一度の首脳の相互訪問を続け、春にはロシアでプーチンに会うと期待されている。プーチンは2022年2月初め、ウクライナ侵攻の2週間前に北京に習を訪問した。プーチンは2022年12月、習へのメッセージを託してメドベージェフ前大統領を北京に派遣した。
12月30日、プーチンと習近平はビデオ会談をしたが、この記事はその模様を報じているものである。
米欧日にも、中国がロシアにウクライナ戦争をやめるように圧力をかけることを望んでいる人がいるが、この記事を読む限り、中国にはそのようなことをする気はないと判断してよいと思われる。
習近平は、一方的な外交政策に反対であり、制裁や干渉は失敗する運命にあると言ったと言うが、何もしないのに制裁が発動されたのではなく、ロシアが戦争を始めたから制裁が発動されたのである。これを一方的というのは公平でも公正でもない。ウクライナへの侵攻こそが一方的な行為である。
さらにウクライナ戦争が熾烈を極めている時に、平和的にウクライナ危機を解決する建設的な役割を果たすという習近平発言は何を意味しているのか、理解に苦しむ発言である。
国際法や正義の尊重の姿勢を持たない中露
要するに、制裁で困っているロシアの足元を見て、石油・ガスを安価に入手し、中国と米国との関係が悪化する中で、ロシアとの関係を良好に維持することを狙い、中国の国益を最大化しようとしているだけである。国際情勢の健全化や国際関係の公正・公平化には言葉の上では言及しているが、そこに重点を置く姿勢は一向にないといってよいと思われる。
中露はともに猜疑心の強い国である。今の状況では、両国ともお互いに良好な関係を維持することが得策であると考えていると判断してよい。
中露両国には国際法や正義の尊重の姿勢はなく、状況対応主義以外の原則はないのではないかと思われる。この中露が国連の平和機能の中心である安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国であることは、大きな問題である。
両国が状況対応主義で国際法や正義の尊重の姿勢を持たないならば、ロシアと中国には、力を重視した対応以外にうまく対応するやり方はないと考えられる。言い換えると、両国に力による現状変更を思いとどまらせるためには、当方も力を重視していく以外に手はないように思われる。
●国連安保理 ロシアミサイル アパート着弾で欧米や日本が非難  1/18
日本が議長国を務める国連の安全保障理事会でウクライナ情勢をめぐる会合が開かれ、東部のドニプロでロシア軍のミサイルがアパートに着弾し多数の市民が犠牲になったことについて、欧米や日本などからロシアへの非難が相次ぎました。
安保理の会合は17日、ロシアの要請で開かれ、ネベンジャ国連大使がウクライナ政府によってロシア系住民の権利が侵害されているなどと主張し、改めて軍事侵攻を正当化しました。
しかし各国からは、東部のドニプロで14日、アパートにロシア軍のミサイルが着弾し、子どもを含む40人以上が死亡したことについて、ロシアに対する非難が相次ぎました。
このうちアルバニアのホッジャ国連大使は「この残忍な攻撃は1トンの弾頭を積んだミサイルによるものとされ、罪のない市民の命を奪った」と述べたほか、フランスのドリビエール国連大使も「数十人の市民が犠牲になったロシアの攻撃を断固として非難する」と述べました。
また、議長を務める日本の石兼国連大使も「いかなる主張をしても、ドニプロの住宅に対するミサイル攻撃を含め、国際法の明白な違反や恐ろしい行為は正当化できない」と述べました。
これに対してロシアのネベンジャ国連大使が再び発言し「ミサイルは住宅地に配備されたウクライナ側の対空ミサイルによって迎撃され、アパートに落下した」として、民間施設は標的にしていないと反論しました。
一方、中国やブラジルなどの代表は、今回の事態には言及せず、あくまでも戦闘の早期終結を目指すべきだと訴えました。  
●プーチン氏「勝利は確実だ、疑いない」…ロシア軍35万人増強へ 1/18
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は17日、プーチン大統領が、露軍兵士の定員を現在の115万人から35万人増やして150万人とする方針を決定したと発表した。2026年までに実施する。ウクライナに侵略する露軍兵士の死傷者数が10万人を超えていると指摘されており、兵力増強を図る必要に迫られたとみられる。侵略に総力戦で臨む布石との見方も出ている。
露国防省の発表によると、ショイグ氏は侵略作戦に関する国防省や軍の幹部らとの会合で兵力増強の方針を明らかにした。
昨年2月の侵略開始前の定員は100万人で、実働数は約90万人とされていた。定員は昨年8月の大統領令に基づき、今月1日から115万人に増員されたばかりだった。
ショイグ氏は会合で「軍事的な安全保障は軍の構造強化によってのみ可能になる」と述べ、26年までに実現を目指す軍の改革案も明らかにした。海軍や航空宇宙軍、核戦力を扱う戦略ロケット軍の戦闘機能を強化する方針も示した。
ロシアが一方的に併合したウクライナ東・南部4州に常設部隊を創設し、併合の既成事実化を進める構えを見せた。
米政策研究機関「戦争研究所」は17日、露軍の改革案について「ウクライナ侵略の長期化に備える一方、短期間で軍の強化を図る狙いがある」との分析を明らかにした。プーチン氏が近く予備役の大規模な動員再開を表明するとの指摘が増えていることにも言及した。
露国営テレビなどによるとプーチン氏は18日、露西部サンクトペテルブルクの兵器工場を訪れて職員らと懇談し、ウクライナ侵略に関し「勝利は確実だ。疑いない」と述べ、協力を呼びかけた。第2次世界大戦でのナチス・ドイツによる包囲戦での犠牲者の慰霊碑にも献花し、愛国心の鼓舞に腐心した。
●プーチン大統領 80年前の激戦地訪問 侵攻継続を示すねらいか  1/18
ロシアのプーチン大統領は、第2次世界大戦でナチス・ドイツとの激戦地となったサンクトペテルブルクで犠牲者を追悼しました。国民の愛国心に訴えウクライナへの軍事侵攻をさらに続けていく姿勢を示すねらいがあるとみられます。
第2次世界大戦中レニングラードと呼ばれたロシア第2の都市サンクトペテルブルクは、ナチス・ドイツが1941年9月からおよそ900日間にわたって包囲し数十万人の犠牲が出た激戦地となりました。
18日は、ちょうど80年前、当時のソビエト軍が街の包囲網を突破し、翌年の完全解放につながった節目だとして現地で記念の式典が開かれました。
式典でプーチン大統領は、自分の父親も戦った地に建てられた記念碑や共同墓地で花をささげて犠牲者を追悼しました。
このあとプーチン大統領は退役軍人や愛国者による団体の代表と面会するほか、軍需工場を視察する予定です。
ウクライナへの侵攻を続ける中、プーチン大統領は去年8月、兵士の総数をおよそ115万人に増やすことを決めましたが、ロシアのショイグ国防相は17日、さらに150万人に増やすことをプーチン大統領が決定したと明らかにしました。
これについてロシア大統領府の報道官は「欧米諸国による代理戦争に対応するためだ」と主張しています。
プーチン大統領としては当時の激戦を追悼し功績をたたえることで国民の愛国心に訴え、国際社会の批判を顧みることなくウクライナへの軍事侵攻をさらに続けていく姿勢を示すねらいがあるとみられます。
●プーチン大統領「新たな脅威に対応を」第2次世界大戦 激戦地で  1/18
ロシアのプーチン大統領は、第2次世界大戦でナチス・ドイツとの激戦地となったサンクトペテルブルクを訪問し、犠牲者を追悼しました。また「われわれの国への新たな脅威に対応できるようにすることが非常に重要だ」と述べ、国民の愛国心に訴えウクライナへの軍事侵攻をさらに続けていく姿勢を示すねらいもあるとみられます。
第2次世界大戦中レニングラードと呼ばれたロシア第2の都市サンクトペテルブルクは、ナチス・ドイツが1941年9月から、およそ900日間にわたって包囲し数十万人の犠牲が出た激戦地となりました。
18日は、ちょうど80年前、当時のソビエト軍が街の包囲網を突破し、翌年の完全解放につながった節目だとして現地で記念の式典が開かれました。
式典でプーチン大統領は、自分の父親も戦った地に建てられた記念碑や共同墓地で花をささげて犠牲者を追悼しました。
また、プーチン大統領は、訪問先の歴史博物館で演説し、80年前の戦争を振り返り「大祖国戦争で経験したような悲劇が二度と起きないようにわれわれの国への新たな脅威に対して即座に対応できるようにすることが非常に重要だ」と述べました。
さらに現在の国際情勢に触れたうえで「総力戦で、われわれの国に圧力をかけ続けている」と述べ欧米側を批判しました。
また、プーチン大統領は退役軍人たちとの会合でウクライナの東部ドンバス地域について「われわれは、だまされてきた。平和的な手段で解決しようとあらゆることを行ったが、不可能だったことが明らかになった」と述べ、軍事侵攻に踏み切ったことを改めて正当化しました。
プーチン大統領としては、過去の激戦を振り返り功績をたたえることで国民の愛国心に訴え、現在の国際社会からの批判を顧みることなくウクライナへの軍事侵攻をさらに続けていく姿勢を示すねらいもあるとみられます。
●プーチンは再びキーウ陥落を狙う──ウクライナ議員 1/18
ロシアのウクライナ侵攻が始まって11カ月の節目が近づく中、ウクライナの国会議員、イェホル・チェルニウが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領には、今後の戦略に関して2つの道があると発言した。
プーチンは2022年2月24日、電撃的勝利を収めようという目論見のもと、ウクライナで「特別軍事作戦」を開始した。しかし、西側の軍事支援を得たウクライナの国防力は、予想よりも強力だった。大勢を見ると、ロシア軍は何カ月にもわたって、はかばかしい戦果を得られない状態が続いている。
だがウクライナ国会議員のチェルニウは油断はできないと言う。この秋から冬にかけてはウクライナ側が戦局を優位に進めているものの、プーチンには今でも、勝利につながる可能性をもつ方法が少なくとも2つあると警告した。
「第1の選択肢は、首都への素早い攻撃によって完全な勝利をおさめ、ウクライナを降伏に追い込むというものだ。プーチンは、キーウに対して新たな攻撃作戦を仕掛けようとする可能性がある」とチェルニウは1月17日、ツイッターに投稿した。
東西を分断する
ロシア軍は開戦当初、ウクライナの首都キーウを攻略しようとしたが、陥落させることができず、退却を余儀なくされた。
それ以降、ロシアはいくつもの困難に直面してきた。兵員不足や経済制裁により、占領した領土をウクライナに奪還されてしまう状況だ。
チェルニウは第1のシナリオにおいて、ロシアがウクライナ西部における「複数の目標を攻撃する」おそれがあると警告した。その狙いは、ウクライナをヨーロッパのほとんどの地域と結びつけている輸送ルートを断ち切ることだ。このルートは、ロシアの侵攻が始まって以来、軍事および経済的支援の重要な供給源となってきた。
もっとも、米戦略国際問題研究所(CSIS)のセス・ジョーンズは17日、本誌の取材に対し、この戦略がプーチンにとって実行可能なものとなる可能性は低いとの見方を示した。
「話を聞く限り、これは2022年2月時点でのロシア側の戦略だったように思える」とジョーンズは述べた。「この時点で、ロシアはこの戦略を成功裏に実行することができなかった。彼らには、各軍の連携、士気、指揮統制、兵站が欠けていた。しかも、それ以降のロシア軍の行動を見る限り、これらの点が大幅に改善したと考えられる証拠はまったくない」
また衛星写真を見る限り、電撃戦でウクライナの領土を奪取する作戦の再実行に向けて、ロシア軍が兵力を増強している兆しは見当たらない点も指摘した。
一方でチェルニウは、プーチンが勝利に向けて「長期戦」の道を選ぶ可能性にも言及した。この作戦には、ドンバス地域を含むウクライナ東部をロシア軍が掌握することが含まれる。
プーチンは2022年、ドネツク、ヘルソン、ルハンシク、ザポリージャの4州を一方的に併合した。住民投票の結果を受けたものだが、この投票には不正があったとの声が西側では大勢だ。これらの領土を自国の支配下に収めたのち、ロシア政府は次の作戦を準備するだろう、とチェルニウは警告した。
「同時に彼ら(ロシア軍)は、自らの目的を達成するため、6〜12カ月にわたる次の軍事作戦の準備を進めるかもしれない。我が国の独立国家としての地位を奪い、ウクライナを併合するためだ」とチェルニウはツイートした。
核攻撃は見合わない
CSISのジョーンズも、こちらの選択肢が「ロシア軍が取り組む作戦」だと考えている。そして、ロシア軍は今後数カ月のうちに、東部の主要地域でウクライナ軍を包囲する作戦を試みる可能性はあるとした。ジョーンズはさらに、ロシアが取る可能性があるもう2つの戦略を挙げた。その1つは、ウクライナ軍の前進を押しとどめつつ、今後の攻勢に備えて自軍を再構築するまで時間を稼ぐというもの。
二つめは、ロシアが最終的に核兵器の使用を検討する可能性だが、これは「リスキーなステップ」になると述べた。
「核兵器の使用が軍事的にどれほど効果的かは疑わしい」とジョーンズは述べた。「核兵器は、ロシア軍が直面している軍の連携に関する問題を解決してはくれないし、代わりに大規模な報復や制裁、外向的な孤立を招くのはほぼ確実だ」とジョーンズは指摘した。
一方、チェルニウは、自身が挙げた2つのシナリオに関して、そのどちらに関しても、ウクライナは自国の領土を守り抜く準備ができていると述べた。
「ウクライナとその支援国も、プーチンに対抗する作戦を擁している」とチェルニウはツイートした。「プーチンはまもなく戦場で、その作戦を目の当たりにするだろう」
●ロシア外相会見、停戦へ欧州安保の再構築要求 1/18
ロシアのラブロフ外相は18日、モスクワで記者会見を開き、ウクライナ軍事侵攻の停戦と和平に向けた交渉の可能性について「真剣な提案であれば応じる用意がある」と述べ、欧州大西洋地域全体の安全保障体制の再構築を含めて協議したい意向を示した。
年初の恒例の記者会見で、ラブロフ外相は「欧米とウクライナに関してだけ話すのは意味がない」と指摘した。「(欧米は)欧州大西洋地域に長年存在してきた安保体制を壊すためにウクライナを利用している」と主張し、欧州安保の枠組み全体を和平に向けた協議のテーマとしたい考えを示した。
ウクライナへの軍事侵攻で劣勢にあるロシアは、戦闘を続けながらも、和平交渉開始への糸口を探っている。ただ、ウクライナのゼレンスキー大統領が提唱しているロシア軍の全面撤退など10項目の和平案については「支離滅裂だ」と改めて否定した。
記者会見では日本にも触れ、「日本は再び軍事化の道を進んでいる」と批判した。「(軍拡へ)憲法の条文改正が行われるだろう」とも指摘した。ロシアは2022年3月、軍事侵攻を巡り対ロ制裁を発動したとして、一方的に日本との平和条約締結交渉を打ち切った。
インド太平洋地域の情勢については「軍事ブロックがつくられている」と発言した。米国と英国、オーストラリアによる安保協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を例として挙げ、「反ロシア、反中国」だと主張した。「日本もこのブロックに引き込まれようとしている」と警戒を示した。

 

●ウクライナでの勝利「必然」、軍需産業生産拡大で=ロシア大統領 1/19
ロシアのプーチン大統領は18日、国内の強力な軍産複合体が生産を拡大しており、これがウクライナでロシアが勝利する要因の一つだと語った。サンクトペテルブルクの防空システム製造工場で従業員に対し述べた。
プーチン氏はロシアの軍需産業が製造している対空ミサイルの数は世界の他の国々の合計とほぼ同じであり、米国の3倍だと指摘。「勝利は確実だ。間違いない」と言明した。
●ロシア軍の“歴史的失敗”はなぜ起きたか、米紙が詳細な調査報道 1/19
ロシア軍は開戦時、キーウで軍事パレードを行うことを想定し、将校たちに軍服や勲章を持参するよう指示したという。「なぜ、世界最強の軍隊がウクライナ軍に惨敗を喫したか」――開戦以来のこの疑問に対して、米「ニューヨーク・タイムズ」紙は数百通に及ぶロシア軍や当局のメールや文書、捕虜の証言などを集め検証を試みた。
ロシア軍のウクライナ侵攻は、ウクライナ軍が1月1日未明、東部ドネツク州マケエフカのロシア軍臨時兵舎を米国製精密誘導ミサイル、ハイマース(HIMARS)で攻撃し、動員兵ら多数の死者を出して越年した。
ロシア国防省は89人が死亡と発表、ウクライナ側は約400人が死亡したとしており、単独の攻撃では最大規模の犠牲者が出た模様だ。兵舎のそばに武器・弾薬が置かれていたため、引火して大爆発が起きたとされる。ロシアのSNSでは、軍幹部の不手際を非難する政治家や元軍人らの書き込みがあふれた。
ロシアのジョーク・サイトでは、「ロシア軍はウラジーミル・プーチン大統領の軍改革のおかげで、ウクライナ領内で2番目に強力な軍隊になった」とする自虐的なアネクドートも登場したが、冷戦期以来、米国と並ぶ強大な軍事力を誇ったロシア軍が予想外に弱かったことは、ウクライナ戦争の大きな謎だ。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」(電子版、12月16日)は、「プーチンの戦争」と題して、ロシア軍の「歴史的失敗」に関するインサイド・ストーリーを報じた。
この調査報道を基に、ロシア軍がなぜ苦戦するのかを探った。
パトルシェフ書記らが軍指導部の責任追及
クレムリンの内情に詳しいとされる正体不明のブロガー、「SVR(対外情報庁)将軍」は3日、SNS「テレグラム」で、兵舎攻撃の報告を受けたプーチン大統領が1日夜のオンラインによる安全保障会議で、国防省や軍参謀本部の幹部を口頭で叱責したと書き込んだ。
それによれば、会議では各組織から死者数に関する異なる情報や報告がなされたが、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記は、死者・行方不明者312人、負傷者157人という数字を、名簿を添付して報告。「悲劇」の原因を軍指導者に求め、責任者の処罰と人事異動を要求したという。連邦保安庁(FSB)のアレクサンドル・ボルトニコフ長官もパトルシェフ書記の報告を支持し、軍参謀本部の責任を追及、大統領も同調したとされる。
パトルシェフ書記やFSBは、軍指導部がこれまで、実際の損失や苦戦を秘匿し、大統領に虚偽の報告をしてきたことも問題視したと「SVR将軍」は伝えている。ただし、「SVR将軍」の書き込みには、フェイクニュースも少なくない。
攻撃を受けた臨時兵舎は職業訓練学校を改装したもので、ハイマース4発の攻撃で全壊した動画がネット上で公開された。攻撃は1月1日午前零時1分に発生、犠牲者の大半は昨年9月の部分的動員令で徴兵された動員兵だったという。ロシア国防省は、携帯電話の使用を禁止していたにもかかわらず、多数の兵士が携帯を使っていたことで位置が特定されたと説明した。
実際には、ウクライナのパルチザンが事前に施設を特定し、通報していた可能性もあるが、大量の部隊や砲弾を集約させるなど「人災」の要素もありそうだ。
米英の特殊部隊も協力か
ドネツク州の親露派指導者、デニス・プシーリン「ドネツク人民共和国」代表代行は、自身のSNSで、負傷者のほぼ全員がモスクワなどロシアの他地域に移送され、治療を受けたとし、「仲間の仇を討つ英雄的な行動」を呼び掛けた。プーチン大統領は、負傷者らを救出した6人の軍人を表彰することを決めたという。
ロシアのネット・メディア「ブズグリャド」は、「戦地での携帯電話の使用は強制的に禁止すべきだ。敵はそれによって軍の陣形や位置を探知し、司令部に送信してデータをリアルタイムで特定できる。米英の特殊部隊は通信手段を読み取るシステムを持ち、ウクライナ軍と共有している」とする軍事専門家の発言を伝えた。
ドネツク州親露派のネット・メディア「今日のドンバス」も、軍事専門家の話として、「北大西洋条約機構(NATO)軍は衛星300基以上を保有してロシア軍の動向を追跡し、情報戦で圧倒的に優位に立つ。今回の攻撃は、ウクライナ軍が米軍顧問団と調整し、ゴーサインが出るとすぐに元旦攻撃を実行した」と伝えた。
別の「ドネツク人民共和国」幹部は、「州の占領地には、頑丈な建物や地下室のある廃墟が多数あり、部隊を分散させるべきだった」とし、ずさんな部隊配備を決めた責任者の処罰を要求した。「マケエフカの悲劇」は、ロシア軍に多くの教訓と反省を残したようだ。
一方、ロシア国防省は8日、ロシア軍が報復として、ドネツク州クラマトルスクのウクライナ軍臨時兵舎を攻撃し、600人を殺害したと発表したが、ウクライナ政府は全面否定した。各国のメディアもこの攻撃を確認しておらず、ロシア側は「報復攻撃の成果」を国内にアピールする必要に迫られたようだ。
地図は1960年代、武器マニュアルはウィキペディア
ウクライナ侵攻後のロシア軍のずさんな戦闘ぶりは、「ニューヨーク・タイムズ」紙の調査報道に山のように紹介されている。同紙は、ロシア軍や当局者の数百通のメールや文書、侵攻計画、軍の指令、捕虜の証言など大量の情報を集め、「世界最強の軍隊がなぜ、はるかに弱いウクライナ軍に惨敗を喫したか」を描いている。
同紙によると、ロシア軍は緒戦で古い地図や誤った情報に基づいてミサイル攻撃を行い、ウクライナの防空網は驚くほど無傷だった。ロシアが誇るハッカー部隊のサイバー攻撃も失敗に終わった。ロシア兵の多くは携帯電話を使って家族らに電話したために追跡され、攻撃の餌食になった。ロシアの航空機は次々に撃墜されながら、危機感もなく飛行を続けた。
ロシア兵はわずかな食糧や弾薬、半世紀前のカラシニコフ銃、1960年代の地図を持ち、過密状態の装甲車に載せられて移動。使い方を知らない武器の説明書代わりにウィキペディアを印刷して戦場に赴いたという。
ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍旅団の兵士は同紙のインタビューで、「部隊の中には、これまで銃を撃ったことがない者もいた。航空機の援護や大砲はおろか、弾薬も乏しかった。当初は怖くなかったが、砲弾が飛び交い、仲間が倒れる戦場で、いかに自分たちが騙されていたかを悟った」と話した。
1時間前になってキーウ侵攻を命令
同紙によれば、侵攻計画そのものが杜撰で、ロシア軍は数日内に勝利することを想定、首都キーウで行う軍事パレードを意識し、将校らに軍服や勲章を梱包して持参するよう指示していたという。
2022年2月24日の侵攻前、ベラルーシ領内には数万のロシア兵が駐留していたが、ある自動車化歩兵旅団は、駐留は演習目的と聞かされており、前日に指揮官から「明日ウクライナに入る」と指示された。侵攻1時間前に行軍を知った部隊も多く、「前の車両について行き、18時間以内に首都に入る」よう命じられたという。
しかし、巨大な車両の動きは鈍く、道路が荒れ、車列はすぐに詰まった。当時、ベラルーシから一本道を南下する戦車・装甲車両の60キロに及ぶ大渋滞が報じられたが、ウクライナ軍の待ち伏せ攻撃で大量の車両が破壊され、多くの死傷者を出したという。
キーウ北東のチェルニヒウ攻略に向かったロシア軍の中核である3万人の戦車部隊は、森に隠れたウクライナ軍の対戦車ミサイル、ジャベリンの餌食となって隊列がバラバラになり、敗走した。「ロシア軍はウクライナ軍の攻撃の素早さにショックを受けた。チェルニヒウ近郊での敗北が首都包囲作戦を台無しにした」(同紙)という。
ロシア軍は首都近郊のアントノフ空港を制圧し、キーウ攻略の拠点にしようとしたが、空挺部隊のヘリが到着すると、待ち構えたウクライナ軍が米国製の携行型対空ミサイル、スティンガーで次々に迎撃して撃墜。300人以上の空挺部隊が殺害され、空港制圧は失敗した。
お菓子や靴下を略奪して喜ぶロシア兵
電撃作戦が失敗すると、ロシア軍は補給という基本的な問題に直面した。長期戦に必要な食糧や水、その他の物資を持ち込んでおらず、兵士らはウクライナの食料品店や病院、家屋に侵入して略奪した。
ロシア軍が制圧した南部ヘルソン州の州都、ヘルソンで、兵士がスーパーや電気店を略奪し、電化製品などを運び出す防犯カメラの映像が世界に報じられたが、ある兵士は日記に、「必要な物資だけ盗む者もいれば、テレビやパソコン、高価な酒まですべて奪う者もいた。お菓子を見つけると、皆子供のように喜んだ」とし、最も価値の高かったのは靴下だったと書いているという。
ロシア軍の中にはパニックに陥り、自滅的な行動に走る者も出た。運転手は戦場に出るのを避けるため、車両の燃料タンクに穴をあけ、走行不能にした。ウクライナ側が押収したT-80型戦車約30両は無傷だったが、調査すると、燃料タンクに砂が混入し、作動不能になっていたという。
ウクライナ側の電話盗聴も効果を挙げたようだ。ウクライナの盗聴担当者は同紙に「ロシア兵がパニックになって友人や親族に電話するのを探知した。彼らは普通の携帯で今後の作戦を決めていた。敵の居場所や今後の行動も分かった」と話した。ロシア人はウクライナ語を解さないが、ウクライナ人の大半はロシア語を理解する。盗聴作戦では女性のチームが活躍したという。
黒幕は「メディア王」コバルチュク
同紙は、非合理で無謀なウクライナ侵攻作戦を決断し、命令したプーチン大統領の「狂気」にも肉薄している。
それによれば、プーチン大統領にとって、ウクライナはロシアを弱体化させるため、西側が利用した人工国家であり、ロシア文化発祥の地であるウクライナを取り戻すことが22年間の統治で「最大の未完の使命」と考えたという。
政権に反旗を翻したオリガルヒで元銀行家のオレグ・ティンコフ氏は「22年間、周囲の者が天才だと称賛し続ければ、プーチンもそれを信じるようになる。ロシアのビジネスマンや役人はプーチンの中に皇帝を見た。皇帝の気がおかしくなっただけだ」と指摘した。
同紙は、ウクライナ侵攻で大統領を後押ししたキーパーソンとして、メディアや銀行を牛耳る大富豪のユーリー・コバルチュク氏を挙げている。新型コロナ禍で2020年から隔離生活に入ったプーチン大統領は、欧米指導者とは会わず、居場所も不明で、会議もオンラインで行ったが、コバルチュク氏はこの間も頻繁に会い、「西側との存亡を賭けた戦い」を促したとされる。
保守派の物理学者だったコバルチュク氏はサンクトペテルブルク出身で、1990年代からプーチン氏と親交が深い。ロシア銀行頭取として銀行業をバックに影響力を拡大。テレビや新聞を傘下に収め、「メディア王」と呼ばれる。
「西側は弱い」とプーチンに進言
米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(22年12月2日)も同氏を、「ウクライナ侵攻を後押しした陰の実力者」とし、「2月の侵攻開始以降、コバルチュク、プーチン両氏は頻繁に会っているほか、電話やビデオを通じても連絡を取っている」とする関係者の証言を伝えた。
同紙は「コバルチュク氏はプーチン氏との個人的な関係の深さや世論の誘導で突出した存在だ。戦況が悪化すると、コバルチュク氏のメディア帝国は侵攻を絶賛するプロパガンダを大量に投下し、反政府派を弾圧。懸念を強める国民の注意をそらすなど、政権にとって極めて強力な役割を果たした」と指摘した。
プーチン大統領の愛人とされる元新体操選手のアリーナ・カバエワさんが、コバルチュク氏率いるナショナル・メディア・グループの会長を務めていることも、コバルチュク氏が大統領の最側近であることを示唆しているという。
同紙によると、コバルチュク氏はプーチン氏に対して、「西側は弱く、今こそロシアの軍事力を見せつける時であり、ウクライナに侵攻して国家主権を守るべきだ」と訴えたとされる。コロナ禍とコバルチュク氏の台頭が、プーチン大統領の判断を誤らせたかもしれない。
●プーチン大統領侵攻を改めて正当化 「平和的解決は不可能だった」 1/19
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻の理由とする東部での紛争をめぐり「平和的な解決を試みたが不可能だった」として、侵攻を改めて正当化しました。
ロシア プーチン大統領「我々は合意に達しようと長い間我慢してきたが、今となっては、翻弄され、だまされていたことが分かった」
プーチン大統領は18日、第2次世界大戦の激戦地となったサンクトペテルブルクを訪問、退役軍人らとの会合で、ウクライナ東部で2014年から続いた紛争について「平和的な解決を試みたが不可能だった」として、侵攻を改めて正当化しました。
プーチン氏はその後、防空ミサイルを生産する軍需企業を視察。ロシア軍の兵器不足が指摘される中、ロシアで生産される防空ミサイルの数は全世界の生産量に匹敵すると主張し、「最終的なロシアの勝利に疑いはない」と強調しました。
一方、ラブロフ外相は18日、年頭の記者会見を行い、日本について「再び軍事化の道を進んでいる」と批判しました。ラブロフ氏は「北朝鮮への対応としているが、ロシアと中国も念頭に置いているのは明らかだ」と主張しています。
●武器供与、新たな段階に 20日にウクライナ支援国協議 1/19
ロシアの侵攻を受けるウクライナへの軍事支援が新たな段階を迎えている。20日にはドイツ南西部ラムシュタイン米空軍基地で、支援を協議する国際会議が開かれる。これまで西側諸国がウクライナの要望に応じてこなかった攻撃力の高い戦車の供与などが議論の軸になる見通し。ロシアが春にも大規模攻勢をかけるとの見方が出る中、一致した対応でウクライナ軍の補強を急ぎたい考えだが、戦闘の激化は避けられない。
年明け早々にフランス、米国、ドイツが戦闘車両供与を相次いで表明。その後も英国が主力戦車の提供を明らかにした。17日にはオランダのルッテ首相がバイデン米大統領との会談で、地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」を送る意向を伝え、支援の動きが広がっている。
一方で支援国も一枚岩ではない。ドイツ製主力戦車「レオパルト」の供与を巡っては、前向きなポーランドやフィンランドと、慎重な製造国ドイツの間の不和が露呈した。ロシアとの全面衝突を避けたい思惑から武器を限定してきた西側諸国の間で、戦況の変化に対応できず乱れが生じた側面もある。
ドイツのハーベック副首相兼経済・気候保護相は17日、自国からの供与への言及は避けつつ、「他の国が支援したいなら、妨げないことが適切だと思う」と指摘。他国の独製戦車引き渡しを容認する考えを示唆した。同時に、最終決定には米国の後押しが必要だとして、米側に関与を求めた。
ショルツ独首相は同日、バイデン氏との電話会談で、ウクライナ支援について意見を交わした。20日の会議を主催するオースティン米国防長官は前日にベルリン入りし、ぎりぎりまで調整に当たる。ロシアの侵攻が新たな局面に移りつつある中、ウクライナ支援国が団結した姿勢を打ち出せるかが試されている。  
●もはや西側の政策もプーチン自身も、ロシアの崩壊を止められない理由 1/19
ウクライナの首都キーウ(キエフ)を制圧し傀儡政権を樹立するロシアの試みは早い段階で失敗、ロシアの敗北は日ましに現実味を増しているようだ。
だが軍事侵攻から1年近くたつというのに敗北が招き得る結果についてはほとんど論じられていない。ロシア崩壊の可能性を思えば、危険なほど想像力に欠けている。
敗色がさらに濃厚になった場合ロシアで何が起きるのか、最悪のシナリオは複数ある。
最も可能性が高いのは、ウラジーミル・プーチン大統領が権力の座を去り、戦争継続と既存の政治的ヒエラルキー打倒を望む極右ナショナリスト、現体制に利害を有する保守派、息を吹き返して戦争終結とロシアの改革を誓う民主主義運動との間で熾烈な権力闘争が起きることだ。
その場合は誰が勝っても政権は弱体化し、戦争遂行にかまけてはいられなくなるに違いない。その結果、機能不全の経済とも相まって不満を抱く国民は抗議デモを繰り広げ、一方、タタール、バシコルトスタン、チェチェン、ダゲスタン、サハなどロシア連邦を構成する共和国は自治拡大を目指すだろう。
こうした混乱を生き延びた場合、ロシアは中国の弱い従属国と化しそうだ。生き延びられなければ、ユーラシアの地図は大きく変わる可能性がある。
ロシア帝国の何世紀にも及ぶ征服がもたらした広大な国土、反体制派勢力地域の長い歴史、非ロシア民族の多さを考えれば、はるかに注視すべきシナリオは中央集権制の崩壊とロシア連邦の分裂だ。
歴史上、戦争や革命や体制崩壊や経済危機が画期的な変化をもたらした例はいくらでもある。ナポレオンの帝国は1812年のロシア遠征失敗と翌年のライプチヒの戦いでの敗北を受けて崩壊。1918年には第1次大戦で敗北した4つの帝国(オスマン、オーストリア・ハンガリー、ドイツ、ロシア)が崩壊に追い込まれた。
同様に1985年にミハイル・ゴルバチョフがソ連共産党書記長に就任した際、ソ連崩壊を予想した者はほとんどいなかったが、図らずもソ連を葬ったのは彼のペレストロイカ(改革)だった。
「空白地帯」化を危惧する声も
ロシアがこれらの国々と同じ道をたどるとしたら、それはロシアのエリートの意図や西側の政策とはほとんど無関係で、より大きな構造的要因によるものだ。
ウクライナでの軍事的、道徳的、経済的敗北などさまざまな葛藤が積み重なったことがプーチンのロシアを彼の大言壮語とは懸け離れた脆弱国家にしている。
そうした要因はほかにもある。行きすぎた権力集中体制のもろさと無能さ。敗北や病や加齢に伴う個人崇拝の破綻。ずさんな石油価格政策。社会の隅々にまで蔓延する腐敗。世界最後の旧態依然とした帝国における大きな民族的・地域的亀裂。
ロシア崩壊は誰も望んでいないかもしれないが、政治的・経済的・社会的混乱が拡大し、連邦を構成する各共和国が独立を模索するシナリオは想像に難くない。
現在は一触即発の状態なのかもしれない。ウクライナ戦争の失敗がプーチンとロシアの脆弱さを露呈し、それが崩壊寸前のロシアの体制の骨組みに飛び火する可能性は大いにある。
何が引き金になるかは予想できず、ロシアが現在の体制のまま危機を乗り切る可能性はあるが、その場合も国家は大幅に弱体化し、構造的緊張は続くはずだ。
プーチンはロシア崩壊の可能性も考えているのか、1月の新年の国民向け演説でウクライナ戦争がロシアの独立性を脅かす可能性に初めて言及した。
しかし現実にロシアが崩壊した場合、その結果は不安定で暴力的なものになるのだろうか。
ジョージ・ワシントン大学ヨーロッパ・ロシア・ユーラシア研究所のマルレーヌ・ラリュエル所長によれば答えはイエス。「崩壊は複数の内戦を生む」「新たに誕生した小国同士が国境と経済資産をめぐって争う」一方、ロシア政府の支配層は「いかなる分離主義にも暴力で応じる」ためだという。
ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官も「ロシア連邦が崩壊もしくは戦略的政策を実行できなくなれば、11の時間帯にまたがる領土はさまざまな勢力が権力争いを繰り広げるリーダーシップの空白に陥りかねない」と指摘。
領内の勢力は暴力的な方法で紛争を解決しようとし、諸外国は力ずくで領土拡大を図る可能性があり「大量の核兵器の存在がこれらの危険性に拍車をかけるだろう」と警告した。
近隣国の安定が「防疫線」に
ただしどちらも最悪のシナリオであり、歴史上、帝国の崩壊は近隣国や世界にとっては必ずしも悪いことばかりではない。
例えばナポレオン失脚後のヨーロッパは比較的平和で、オーストリア・ハンガリー帝国の場合も崩壊直後はポーランドとウクライナの領有権争いなどはあったものの数年で安定。ソ連崩壊後でさえ驚くほど平和だった。
恐らく、独立した元共和国と新たに誕生したヨーロッパの衛星国で国境が画定し、行政が機能し、支配層が国家建設に着手できる状態だったからだろう。
その半面、オスマン帝国の崩壊はトルコとギリシャの領有権争いを招き、ロシア帝国の崩壊後はバルト海から太平洋まで広範囲で紛争が起きた。ドイツ帝国崩壊は第2次大戦につながったと言えるかもしれない。
ロシアの残党が分離主義国家と戦うと悲観論者は指摘するだろう。ロシア軍はウクライナでの敗北で弱体化し複数の戦線では戦えないと楽観論者が反論すれば、悲観論者はロシアの核兵器に言及する。
双方の意見が唯一一致するのは、ロシアには大規模で重装備の民兵組織が存在する故に、内戦が起きる可能性だ。
結局、西側の政策もプーチン自身も崩壊は止められない。ロシアの体制危機の根は深い。ロシアを不安定にし、崩壊のきっかけをつくった張本人がプーチンなのだ。
それでも西側はロシア崩壊に備えるべきだ。かつて死にゆくソ連を救おうとしたように近隣国よりもロシアのニーズを優先するようなことがあってはならない。
バルト海沿岸から中央アジアまでロシアと国境を接する国々が安定を維持し「防疫線」を形成できれば、ロシア国内で何が起きてもそれを封じ込めることができる。
プーチン帝国崩壊の余波を最小限にとどめるには、ウクライナに対して、ゆくゆくは解放されたベラルーシやカザフスタンなどの重要な国に対しても、強力な支援を続けるに越したことはない。
●プーチン氏「ロシア人の結束」訴え ナチス戦「80年」イベント出席 1/19
プーチン露大統領は18日、第2の都市サンクトペテルブルク(旧レニングラード)を訪れ、第二次大戦時にナチスドイツが同地を包囲した攻防戦に関するイベントに出席した。プーチン政権はナチスとの戦争とウクライナ侵攻を重ね合わせ、現在の軍事侵攻を正当化するとともに、国民に戦いの継続と協力を訴えている。
レニングラードでは1941年9月からナチスによる包囲が始まり、44年1月に解放されるまで2年4カ月の戦闘が続き、100万人を超す市民が死亡したとされている。ロシア大統領府は43年1月18日に包囲網が破られ始めたとして、この日を「80年の記念日」と位置づけた。
レニングラード出身のプーチン氏の家族では、父親が攻防戦に従軍したほか、母親が救護活動に当たったという。また、兄が包囲されていた時期に死亡しており、プーチン氏は毎年のように攻防戦に関するイベントに参加してきた。
この日は黒いスーツとネクタイを身につけて、市内にある犠牲者の追悼碑に献花した。さらにナチスに包囲されていた当時の生存者や退役兵らと面会したほか、ミサイル製造工場を視察し、従業員と対話する機会を設けた。
工場の従業員の質問に答える形で、プーチン氏は第二次大戦時のウクライナ独立運動の指導者ステパン・バンデラがナチスと協力したうえで、一般市民を襲撃していたと指摘した。現在のウクライナ軍が東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州の一帯)で「一般市民を撃つような行為を続けている」と主張し、ウクライナのゼレンスキー政権が「ネオナチであると見なす論拠がある」と訴えた。
またプーチン氏は「勝利は必然だ」と述べ、そのためには「ロシア人の結束と団結」「あなた方のような軍産複合体と工場の仕事」が必要だとして、従業員らに支持を求めた。
ウクライナはナチズムに関するロシアの主張を一顧だにしていないが、プーチン政権は侵攻開始から間もなく11カ月となる今でも、このロジックを唱え続けている。
ロシアのラブロフ外相も18日の記者会見で、ナポレオン時代のフランスやナチスが帝政ロシアやソ連を攻撃してきた歴史を取り上げ、現在の米国が同盟を築き、ロシアとの戦いを組織化していると指摘。そのうえでナチスがユダヤ人の撲滅を試みた「最終的解決」を持ち出し、「これはロシアに関する問題への『最終的解決』だ。ヒトラーもユダヤ人に関する問題を最終的に解決しようとした」と語った。
ラブロフ氏はウクライナへの兵器支援を続ける欧米諸国とナチスを関連付けて、軍事侵攻の正当化を試みたが、イスラエル政府はこの発言に反発している。タイムズ・オブ・イスラエル紙によると、イスラエル外務省は「現在起きている出来事とヒトラーの『最終的解決』を比較することは歴史の真実を損なわせる」と非難する声明を出した。
●苦戦が続くロシア、新たに「動員令」か 軍の定員を50万人増強する方針 1/19
ウクライナ軍がロシア軍への大規模反攻に向けた準備を加速させている。ウクライナ兵が米本土で地対空ミサイルシステム「パトリオット」の使用訓練を始めた。欧米の戦車の供与も進むが、弱腰≠フドイツがカギを握る。対するロシアのプーチン大統領は侵攻継続の姿勢で、軍の定員を50万人増強する方針だ。近く新たな動員令を打ち出すとの観測もある。
米国防総省は17日、ウクライナ兵90〜100人を対象にした地対空ミサイルシステム「パトリオット」の使用訓練を、南部オクラホマ州の陸軍施設フォート・シルで始めたと明らかにした。訓練は10週間続く見通し。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は同日、ポーランドで米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長と対面で初めて会談した。
ウクライナでは18日に首都キーウ近郊でヘリコプターが墜落し、モナスティルスキー内相を含む計14人が死亡した。
ゼレンスキー大統領は同日、スイスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でのオンライン演説で、「西側の戦車提供は、ロシア軍戦車による侵攻ペースを上回らなくてはならない」「防空システムの提供は、次のロシアのミサイル攻撃に先んじなければならない」と強調、支援に向けた決断の迅速化を求めた。
欧米がウクライナ支援で足並みをそろえるなか、判断が注目されているのがドイツだ。ドイツ製主力戦車「レオパルト2」を保有するポーランドが、ウクライナへの供与を表明しているが、製造国ドイツの承認が必要となる。
南ドイツ新聞と米紙ウォールストリート・ジャーナルの電子版は18日、ドイツのショルツ首相は米国が主力戦車「エーブラムス」を提供する場合に限り実施する意向だとし、米国次第だと条件を付けた。
一方、ロシアのショイグ国防相は17日、軍の定員を現在の100万人規模から2026年までに150万人に増やすことをプーチン氏が決定したと明らかにした。
苦戦が続くロシアだが、プーチン氏はなおも戦争継続の意欲を崩していないとみられる。
米シンクタンクの戦争研究所は「プーチン氏が軍を拡大するための、第2の動員令を発表する可能性がある」と分析した。
●プーチン氏謀った独産業の破綻は失敗、ハベック経済相 1/19
ドイツのハベック経済相は19日までに、ウクライナに侵攻する中でロシアのプーチン大統領が謀っていた独産業界の破綻(はたん)は失敗したとの認識を示した。
同国ベルリンで開かれた地元経済紙「ハンデルスブラット」が主催したエネルギー問題関連の会合で表明した。
経済相は侵攻に伴ってドイツが抱え込んだエネルギー危機は2024年までに克服されるだろうと予測。天然ガスの輸入のための早急な基盤整備や保管施設は23年あるいは24年の冬季に備えて全面的に整うとの見通しを表明。
そうなれば「妥当な水準」での「安全かつ安定した」ガス供給の態勢につながるだろうとした。
ドイツのガス供給網の行政当局によると、昨年12月には凍えるような寒さの日々が短期間あったものの1月に入ってからはこれまで温暖な天候が続き、国内のガス備蓄施設では収容能力の約90%を確保できているとした。
今冬にガス不足が起きる可能性は少ないとしながらも、状況がさらに悪化し得る事態も警戒した。
ハベック氏は気温が氷点下になれば、国内のガス消費量は1日あたり備蓄量の約1%消える計算になるとも報告。「今冬の数カ月を適切なガス備蓄量を保って乗り切れば昨年のような非常事態には再びならないだろう」とも言明した。

 

●プーチン大統領まさかの追放も…泥沼ウクライナ侵攻で激化する権力闘争 1/20
ウクライナの要人を乗せた非常事態庁のヘリコプターがキーウ近郊で墜落、モナスティルスキー内相ら16人が死亡するまさかの出来事に衝撃が広がっている。ヘリは前線へ向かう途中だったが、現場付近でロシア軍による攻撃はなかったという。墜落原因は調査中だが、プーチン大統領が戦端を開かなければ起きなかった悲劇だ。
「特別軍事作戦」の総司令官を制服組トップのゲラシモフ参謀総長に交代させたばかりのロシアでは、ショイグ国防相が2026年までに兵士の定員を現状の115万人から150万人に引き上げると発表。さらなる長期戦に備えた動きにも見えるが、来年3月に実施予定の大統領選で5選を狙うプーチン大統領の焦りが透けて見える。というのも、手足となってきた民間軍事会社「ワグネル」の存在が肥大化しているのだ。
ワグネルを率いるのは「プーチンのシェフ」と呼ばれる実業家のプリゴジン氏で、強硬派の筆頭格だ。プーチン大統領の意向に沿って世界のアチコチに傭兵を派遣しウクライナではロシア軍がおののくほど残虐な戦闘を展開させているとされる。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「大統領選を執り行うのは大統領府ですが、キリエンコ大統領府第一副長官やシルアノフ財務相、ナビウリナ中央銀行総裁ら経済畑の面々はロシア経済を疲弊させる作戦継続に反対の立場。クレムリンがプーチン氏の続投に向けて一枚岩になれていない。穏健派の対極にいるのがプリゴジン氏で、プーチン氏は板挟みになっている。そうした隙を突くように、プリゴジン氏はポスト・プーチンをにらんだ動きを強めています」
ワグネル代表が裏社会から表舞台へ
プリゴジン氏は昨年11月、プーチン大統領の故郷であるサンクトペテルブルクに公式事務所「PMCワグネル・センター」を開設。裏社会から表舞台に躍り出た。
「ワグネル・センターが先日、法人格を取得したことからも、プリゴジン氏の勢いにプーチン氏が押されていることが見てとれます。プリゴジン氏は囚人をスカウトしてウクライナの戦地に送り込んでいますが、その延長で、収監中の反体制派指導者ナワリヌイ氏の釈放に動く可能性がある。理由はどうあれ、国民的な同情を集めるナワリヌイ氏を自由の身にし、『反汚職』『反ブルジョア』を旗印に大統領選に挑めば、勝機はあります。プーチン体制を象徴する汚職やブルジョアによって弱いロシアになった、と訴えれば世論に響く」(中村逸郎氏=前出)
どう転んでも、ロシアの混迷は深まりそうだ。
●ロシア経済の大幅縮小予想も 戦争混迷で動員逃れの人口減が重荷に  1/20
英国に住む筆者は、クリスマスイブ(12月24日)の夜には、英国国教会でのクリスマス礼拝に参加するのが恒例となっている。大聖堂の聖歌隊に所属する娘の送迎や教会でのボランティアも担当しているため、昨年もイエス降誕を祝う深夜12時を大聖堂で無事迎えられた。ちなみに日本でも有名なクリスマスソング、Silent Night(きよしこの夜)はキリスト教のHymn(賛美歌)であり、聖歌隊による生の合唱で聞くことはお勧めである。
一方、ユリウス暦で動くロシア正教会のクリスマスは年明けの1月7日である。クリスマスイブとなる1月6日には、英国国教会をはじめとするキリスト教宗派と同様に真夜中に礼拝があり、例年ロシア国営テレビはプーチン大統領が出席する様子を放映する。
通常はモスクワ郊外の地元の教会において、複数人で礼拝に参加するプーチン大統領だが、今年はモスクワ市内の大聖堂で、たった1人で参加するという異例の事態となった。ちなみにロシア正教会は英国国教会と違い、椅子がないため礼拝中は終始立ちっぱなしである。(ロシア正教会での)結婚式も同様で、参加者全員立ったままで行うのはそのためである。
現時点では、ロシアとウクライナが停戦交渉の席に着く可能性は低く、侵攻の長期化は避けがたい。プーチン大統領が提案した1月6日から36時間のクリスマス停戦も、ウクライナはロシア軍の態勢立て直しのための時間稼ぎであると批判して応じず、実現しなかった。
ロシアによる徹底的ともいえるインフラ破壊攻撃で、電気や暖房、水道といったライフラインすら絶たれた中でクリスマスを迎えるウクライナ国民にとって一方的な停戦提案は、到底受け入れられるものではなかったといえよう。礼拝でのプーチン大統領の孤独な姿や悲しげな表情が強く印象に残るクリスマスであったが、それもそのはず、2023年のロシア経済の見通しには相当悲観的にならざるを得ないからだ。
2022年2月末のウクライナ侵攻、そしてそれに伴う西側諸国の制裁開始から数週間で、ルーブルのレートは過去最低の水準に落ち、ロシア経済が急降下の状態に陥ったことは記憶に新しい。しかし政策金利を20%にまで引き上げ、通貨および資本に大幅な制限を導入するなど、ロシア中央銀行が金融危機を阻止するため機敏に動いたことが功を奏し、市場は徐々に安定を取り戻した。そのため、足元の経済は予想されていたほどの低迷を見せていない。
2022年4月には国際通貨基金(IMF)が2022年のロシアの実質GDP成長率を8.5%減と予測していたが、10月には3.4%減にまで上方修正した。さらに12月のロシア経済発展省の見通しでは、2022年1〜11月のGDPは2.1%減(通年では2.0%減)とIMFよりも高く推計している。
動員逃れで全労働人口の約1.5%が減少も
ただ、中長期的にみればロシア経済の下振れリスクは大きいといわざるを得ないだろう。2022年第3四半期のGDPは3.7%減と、第2四半期(4.1%減)に続く低下幅を示し、既に景気後退に陥っていることは明らかである。インフレによって消費者の購買力も損なわれているため、個人消費も弱く小売売上高はやや持ち直しているとはいえ、11月には前年比7.9%減を記録した。
プーチン大統領は侵攻開始以降、年金支給額、最低賃金の10%の引き上げや、8〜16歳の子供に対する新たな給付金、企業融資や住宅ローン返済猶予の延長などを拡充するなど、なりふり構わぬばらまき政策を加速している。大統領選挙を2024年3月に控え、今後もばらまきが拡大する可能性は高く、財政の悪化は免れないといえよう。
さらに侵攻が長期化するにつれ、ロシアが直面することになる最大の課題は人口の減少である。特に深刻なのは軍事侵攻への動員逃れのため国外に逃れる国民の増加である。ロシアは9月に30万人の部分的動員に踏み切り、ウクライナ側の発表によると50万人の追加動員に踏み切る可能性が高いという。
そのため動員から逃れるために海外へ出国する人は後を絶たない。2022年第3四半期にロシアを離れた人数は前年比で120万人も増加し、ビザが不要なカザフスタンとジョージアがその主要な受け入れ先となっている。ロシアの全労働力の約1.5%が他国に流出したといわれており、追加動員が発令されれば、さらなる人口減に直面する可能性が高い。人口減は労働人口の減少はもちろん、消費需要の減少を生み出すこととなり、さらなる経済の悪循環を招く恐れがある。
既にロシア国民の行動パターンには変化が現れつつあり、特に顕著なのは現在進行中の貯蓄ブームである。12月末に発表された家計貯蓄に関する統計データでも明らかとなり、ロシア中銀は再三にわたり、貯蓄率の伸びに関し、警戒を込めてコメントしている。貯蓄率が伸びたのは、侵攻の長期化で今後訪れる困難な時期に備え、金銭的な備えを国民が求めていることが一因と考えられる。
過去最大の石油輸出収入も戦費に使われ財政赤字は拡大
エネルギー価格の高騰により、2022年のロシアの輸出収入は過去最高の水準に達している。ロシア統計局の発表によれば、石油生産量は1月から10月で、前年比2.4%増でその多くが輸出され、最も重要な石油産業がロシア経済を引き続き下支えしていることに変わりはない。
ロシアにおける主要輸出分野は、1石油、2ガスおよび3石油製品である。これら3製品は、ロシア総輸出収入の約50%を占め、その動向が貿易収支に重大な影響を与えることになる。石油は2022年12月より海運輸送される場合には主要7カ国(G7)やオーストラリアが参加した石油価格上限スキーム制裁の対象となっている。ただロシアは新たな輸出先を開拓し市場の多様化に成功し、1年前には欧州連合(EU)諸国がロシアからの輸出先の約50%を占めていたが、2022年末の時点では約30%まで低下している。
ロシアの原油輸出収入の70%に相当する海上輸送される原油の輸出先がEUから新しい市場、主にトルコとインドにシフトしたことも背景にある。国際指標の北海ブレント原油とロシア産のウラル原油の間で生じた価格差が現在1バレルあたり20〜25ドルに達しているにもかかわらず、ロシアの石油輸出収入は過去最大となっている。
ただ過去最大の石油輸出収入にもかかわらず、景気後退も重なり、ロシア政府の財政に着実に悪影響が出ていることも確かである。さらに原油に比べ輸出先を容易に変更することが難しい石油製品に対し、2月からEUの禁輸措置が発効するため、輸出減の可能性も指摘されている。
ロシアの石油精製産業は世界第3位の規模だが、部分的動員による労働者不足が原因で、既にロシアの精製業は苦境に陥っているという。特に貨物タンカーはこれまで輸出してきた欧州よりも遠く離れた国へ輸出するため、輸送費が増している。このため、精製業の利幅は圧迫され、2023年を通じ前年比で1日あたり60万バレルの減産になるといわれている。
シルアノフ財務相は12月末、一連の価格上限スキームによって輸出収入が減少し、2023年の財政赤字はさらに拡大する可能性があることを認めている。ロシア政府の2023年1月10日の発表によると、2022年の財政赤字は対GDP比で2.3%(3.3兆ルーブル)にまで拡大している。過去最大の石油ガス収入により、歳入は2.6兆ルーブル増加(前年比10%増)したものの、同時に歳出が7.4兆ルーブルも増加(前年比26%増)したことが原因である。
財政支出の詳細は2022年6月より欧米など非友好国の圧力を理由に公開されていない。しかし、その大半が軍事費に利用されていたと考えられる。シルアノフ財務相は2023年1月の会合でも、支出を増大させたが、これは主に社会保障や国民支援に使われているとし、(上述の)年金引き上げや住宅ローン返済猶予の延長などを挙げたが、ウクライナ侵攻については触れなかった。
また財政赤字を解消するための2022年の原油価格に対する国家予算の損益分岐点は、ウラル原油が1バレル101ドル程度といわれるが、価格上限スキームの影響もあり、12月の平均は1バレル51ドルにとどまっている。さらに、2022年のガスプロムからの特別利潤税1.8兆ルーブルがなかったと仮定すると、損益分岐点の石油価格は1バレル115ドルまで上昇するなど、財政リスクは非常に深刻である。ロシア政府が2023年の予算案で想定した原油価格は1バレル70ドルのため、引き続き支出を削減する方法を模索するものと思われる。プーチン政権は既に戦費や選挙対策以外の支出の削減または延期を開始しており、財政赤字を補うために、一部大企業に対する増税を検討している。
公式発表よりも格段に悲観的な経済見通しがリークされた
ロシア中銀は12月の金融政策決定会合で、市場コンセンサス予想通り、主要政策金利を7.5%で据え置いた。ただ声明の文言はタカ派的で、短期的にもインフレ寄りのリスクが、ディスインフレのリスクよりも高まっている点を強調している。その背景として、侵攻開始から夏頃までは急激なエネルギー価格の上昇によりルーブルが急伸したが、直近ではこのトレンドが反転していることがある。
このルーブル安の理由のひとつとして考えられるのは、海外の銀行口座におけるロシア人の預金の増加といった例にみられるような資本の流出である。ロシア中銀によると、2022年初め、ロシア人が国外に保有する預金は300億ドル未満だったが、2月の侵攻以降、9月時点で660億ドルに達するなど、加速度的に資本が流出している。
また2022年を通じ、多くの外資企業がロシアでの活動を停止、あるいは市場から撤退した。ロシアから撤退したブランドには、米マクドナルドや独メルセデス・ベンツグループ、スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)、デンマークのレゴなどあまたある。ロシア商工会議所の調査によれば、西側諸国の制裁により、悪影響を受けた企業は60%に及んでいるという。またその相当数が海外提携先を失い、これを置き換える新たな提携企業を見つけたのは、約25%にすぎないとの結果が出ている。さらに同調査に回答した企業の3分の1以上が、失った取引先を埋め合わせることができていないという。
さらに海外からの輸入も西側諸国の制裁厳格化とルーブルの下落により、2022年春より急減したままである。資本の移動への制限や経済制裁により、過去最高を記録した輸出収入はロシア国内にとどまっている。西側諸国の対ロシア輸出制限の多くは、ハイテク製品を対象にしており、ロシア軍事産業の生産能力をそぐことを目的としている。
ロシアは侵攻開始後、国際貿易統計を非公開にしたが、戦争と制裁の影響でロシアの輸入は急減したとみられている。特に技術製品の輸入減は顕著で、主要貿易相手国の輸出データからの間接的な推計ではあるが、9月の製品輸入は侵攻前の水準を約3割は下回っている。ロシアはこれまで何年にもわたり、輸入品を国内生産に置き換えようと努力してきたが、依然としてハイテク製品や中間財は輸入に依存している。ロシアの生産構造は数十年前から変わらず、採掘やローテクの資本集約的な産業が圧倒的である。制裁により技術や資金調達の利用が制限されている今、技術製品の代替品輸入の見通しはさらに限られている。
そのような中で重要商品の輸入減や欧州へのエネルギー供給の遮断により、ロシア経済への悪影響が今後拡大することを予測した内部報告文書がリークされたことは注目に値する。報告書では、金属や石油、ガスなど、ロシア経済の生命線である「さまざまな輸出志向型セクターでの生産量の減少」について警鐘が鳴らされている。
米メディアが報じたこの文書で想定されている3つのシナリオのうち、ワーストシナリオではロシアのGDPは2024年までに2021年比で12%減と大幅に縮小し、2030 年までには完全には回復しない。またベースシナリオでも、来年にかけてロシアのGDPはピークから底まで8.3%の落ち込みに直面し、回復には2020年代後半までかかるとしている。2023年の戦況にもよるが、当面、プーチン大統領には苦難の道が続くことが予想されている。
●プーチン氏がイラン大統領と電話会談、イラン製無人機などの供与巡り協議か  1/20
ロシア大統領府の発表によると、プーチン大統領は19日、イランのエブラヒム・ライシ大統領と電話会談した。両首脳は今月11日にも電話会談しており、プーチン氏がウクライナ侵略で、イラン製の無人機(ドローン)や短距離弾道ミサイルの供与を求めた可能性が指摘されている。
メドベージェフ前露大統領は19日、自身のSNSに「通常(兵器で)の戦争での核大国の敗北は、核戦争を誘発する可能性がある」と投稿した。米欧によるウクライナへの兵器供与の拡大をけん制したものとみられ、メドベージェフ氏は「核大国は自国の運命を左右する紛争で負けない」とも主張した。
一方、ウクライナ軍参謀本部は19日、南部ザポリージャ州などで同日、ロシア軍から4回のミサイル攻撃と、15回の空爆を受けたと明らかにした。
ミサイル攻撃のうち2回は、ザポリージャ州の集落にある民間のインフラ(社会基盤)施設を狙ったとみられる。被害状況など詳細は不明だ。激しい攻防が続いている東部ドネツク州のバフムトやソレダルなどでも露軍の砲撃が続いたという。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相とオレクシー・レズニコフ国防相は19日、連名で声明を発表し、欧州各国などに対し、戦車の早期供与を求めた。
声明は、ドイツ製戦車「レオパルト」を保有するドイツやデンマーク、オランダなど12か国の国名を挙げ、英政府が陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」の供与決定を発表したのに続くよう訴えた。
ドイツ以外の国がウクライナにレオパルトを供与するには、ドイツの再輸出許可が必要になる。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日のビデオ演説で、「ドイツのリーダーシップの強さは変わらない」と述べ、ドイツに再輸出許可を出すよう呼びかけた。
●ゼレンスキー大統領、プーチン大統領が生きているか分からないと発言 1/20
ロシアの侵攻が始まってもうすぐ1年になるウクライナのゼレンスキー大統領が、スイス・ダボスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の朝食会で、集まった人々を前にロシアのプーチン大統領がまだ生きているか分からないと発言し、死亡している可能性を口にしたとウクライナのメディアが報じた。ゼレンスキー大統領は18日、各国の代表者らを前にオンライン演説し、武器供給の加速や国際社会の団結を訴えていた。
ウクライナのオンラインニュースメディアPravdaが情報筋の話として伝えたところによると、「私は誰と何を話したら良いのか分からない。時々、グリーンスクリーンの前に現れるロシアの大統領が本物なのかどうか分からない。彼が生きているのか、彼が決定を下しているのか、誰かが(代わりに)決断を下しているのか、私にはよく分からない」と演説したという。
プーチン大統領の健康状態を巡っては、以前からがんとパーキンソン病が進行して重病である可能性が度々メディアを賑わせてきた。昨年12月に年末恒例となっていた大規模な記者会見を10年ぶりに取りやめ、連邦議会での伝統的な演説もキャンセルしたことも、健康不安説に拍車をかけている。
ロシアのSNSテレグラム・チャンネルにあるGeneral SVRという軍事関連サイトは、プーチン大統領は抗がん剤の副作用に苦しんでおり、ほとんど誰とも面会できない深刻な状態であると主張。また、ニューヨーク・ポスト紙も17日、薬の副作用で衰弱し、めまいを訴え、食欲も失っているとプーチン大統領の現状を伝えている。
●ウクライナ 西側が追加兵器支援を相次ぎ表明−20日に国防相会議 1/20
ウクライナ支援で一致する西側同盟国が20日にドイツのラムシュタイン米軍基地で開く国防相会議を前に、ウクライナへの追加兵器支援を表明する国が相次いだ。
バイデン米政権は、約25億ドル(約3200億円)規模の次回のウクライナ軍事支援パッケージで米軍の装甲車「ストライカー」約100台を供与する計画だ。英国は地上・空中発射型ミサイル「ブリムストーン」を追加で600発、デンマークはフランス製榴弾砲をウクライナにそれぞれ供与する。ウクライナ当局者は同盟国に戦車や砲弾、長距離ミサイルシステムの追加提供を強く訴えていた。
バイデン政権はロシア産原油の輸出上限価格を引き下げる動きには反対に傾いている。ロシアのプーチン大統領はイランのライシ大統領と今年2度目の電話会談を行った。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ロシア産原油の上限価格、米国はバレル60ドルでの維持求める
一部の欧州諸国はロシアの収入源に対し一段の圧力を求めているが、バイデン政権は現在の上限価格を引き下げる動きには反対へと傾いている。ロシアの代表的な油種であるウラル原油の取引価格は、主要7カ国(G7)が昨年12月5日に導入したバレル当たり60ドルの上限価格や国際的な相場を大幅に下回っている。欧州連合(EU)は市場の平均価格を少なくとも5%下回る水準に上限価格を維持することを目的に、1月中旬から2カ月ごとに上限を見直すことで合意している。
ゼレンスキー氏、年内のEU加盟交渉開始を切望
ウクライナのゼレンスキー大統領は首都キーウでミシェルEU大統領と記者会見し、EUへの完全加盟について年内の交渉開始を望んでいると表明した。ゼレンスキー氏が「必要な前提条件は全て整っており、強力な意欲もある」と述べると、ミシェル氏は「EU加盟へのウクライナの願望をわれわれは応援する」と答えた。
プーチン、ライシ両大統領が今年2度目の電話会談
ロシア大統領府の発表によれば、プーチン大統領はイランのライシ大統領とエネルギーや輸送面の協力を話し合った。両大統領の電話会談は今年に入り2回目。また、シリア情勢についても協議した。ロシアとイランは、ロシアによるウクライナ侵攻後にさまざまな分野で協力を広げている。
ポーランド、ドイツの承認なしでも戦車供給する可能性
ポーランドはドイツ製戦車「レオパルト2」のウクライナ供与について、ドイツ政府の承認が得られなくても行う可能性があるとモラウィエツキ首相が語った。首相は18日遅く、ポルサット・ニュースに対し「承認は二次的な問題だ」と主張、「この承認を近く得るか、さもなければ必要なことをわれわれ自身で行う」と述べた。ポーランドはレオパルト2戦車をウクライナに14台提供する用意がある。 
●ハゲタカが虎視眈々?戦争で疲弊しきったロシアのどこに儲けのチャンス・・・ 1/20
ロシアに儲けのチャンスがある? / ロシアの何が狙われるのか
広大な領土からのエネルギーなど資源の採取に偏するロシア経済と逆なのが中国です。漢王朝の時代から模倣ばかりやってきた国柄ですから、よその国で開発したものを模倣して生産する製造業でも効率のいい方法に長けていて、そのうえ勤勉な国民性があります。最近はメリットが薄くなってきているようですが、人口も多いので人件費も比較的低く抑えることができます。
その中国に比べれば、ロシア人は大量生産・大量消費の伝統をもたない国民性で、製造業に向かない国柄です。だからペレストロイカ以来、製造業を国の柱にすることを悲願にしてきたにもかかわらず、なかなか実現しませんでした。それは、ウクライナ戦争後も変わることはないでしょう。
そうであれば、戦争後のロシアに西側諸国の投資家が乗り込んでいっても、投資する対象がないように思われがちです。しかし、そんなことはない。戦争で疲弊し切ったロシアは、じつは儲けのチャンスが転がっている場所でもあるのです。
ボロボロになった資産でも、それを証券化して売りさばいてしまうのが金融市場です。米国の信用度の低い借り手向け住宅ローン、いわゆるサブプライムローンも証券化されて世界中で取引されました。それがリーマン・ショックを引き起こす原因にもなったわけですが、それほど広範囲で取り引きされていたということです。リーマン・ショックでは損失ばかりが注目されますが、それ以前に大儲けした人たちもかなりいます。
言い方を変えれば、ボロボロになったものほど証券化することで儲けにつながる可能性は高くなるということです。破壊は儲けるチャンスです。その意味では、ウクライナ侵攻でボロボロになったロシアには、投資家が儲けるチャンスがゴロゴロしていることになります。それを見逃す投資家はいないはずです。
安値で買い叩いた証券や債券などの資産を高値で売りさばいて大儲けするのが、いわゆるハゲタカファンドです。バブル崩壊後の日本でも、このハゲタカファンドが暴れ回って大儲けしています。同じことが、戦後のロシアでも間違いなく起きます。
ソ連の崩壊後に政府と結託して事業を拡大し、プーチンとも密接な関係を築くことで急速に富を増やしていったオリガルヒと呼ばれる大富豪がロシアに存在しますが、プーチン失脚後には彼らの政治的影響力が失われるはずです。それをハゲタカファンドが見逃すはずもなく、身ぐるみ剝がれてしまうのは確実です。
国際金融という場で、ロシア経済の荒廃は儲けのチャンスです。そこで誰が得するかといえば、間違いなく米国です。ウクライナ侵攻は、ますます米国のドル覇権が強まる結果をもたらすことになります。
プーチンが脱ドルによってロシア帝国の再興を狙うのがウクライナ戦争なのですが、北欧フィンランドとスウェーデンの二ヶ国、さらに肝心のウクライナまでもがNATO陣営に加わる結果になりそうです。
結局、ロシア経済再生のためには西側金融資本に頼らざるを得ません。それが嫌なら、核を使って徹底的に周辺国を叩きのめすしかありませんが、そうするとロシア自体も核の報復攻撃を受けて焼け野原、そうでなくとも死の灰に覆われて、住めなくなる恐れがあります。
天然ガス代金のルーブル決済を要求するワケ
旧ソ連時代に蓄積した核など兵器産業以外に製造業をもたず、エネルギー収入に頼るロシアは、いくら外貨をエネルギー輸出で稼いでも、所詮はドル支配からは逃れられないのです。
だからひたすら強権的な指導者が「剣」を振るって、周辺諸国を屈服させるしかない。しかしながら通貨ルーブルは「剣」を支えることもできません。せいぜい通貨で頼れるのは中国の人民元だということで、CIPS決済を媒介にした中露通貨同盟を築こうとしているわけです。
しかし一方で先述したようにそもそも人民元自体、ドルに準拠しています。人民元がドルの裏付けを失えば信用が失墜し、CIPS経由のロシアのルーブル決済は困難になります。
だからこそ、プーチンは欧州の天然ガス代金決済をルーブルにせよと迫っているのです。狙いのひとつはそれだけ西側のルーブル需要が高まり、ユーロに対するルーブル価値が安定すること。ユーロはドルと同等の国際通貨ですから、ルーブルはドルに対しても安定するということになります。
そればかりではありません。プーチンは通貨当局に金本位制の検討を命じているという情報が2022年4月にロイター電で流れ、日本国内でもちょっとした話題になりました。
ロシアは石油、天然ガス、穀物さらに金という代表的な国際商品の産出国です。国際商品市況はエネルギー価格に引っ張られて上昇を続けています。金もそうです。石油や天然ガスに連動して相場が上昇する金とルーブルを一定の交換比率で結び付ける。ロシアにはそれができるし、ルーブルの価値は高く、安定します。それで世界はルーブルを欲しがり、ロシアに投資が殺到するだろうと、金融制裁に脅かされているプーチン大統領が夢想してもおかしくないでしょう。
ただし金本位制といっても、ロシア国内で出回るルーブルをもつロシア国民が、そのルーブルを金に公定価格で換えてもらえるという意味ではありません。ルーブルの現金と当座性預金合計は2022年5月時点でドル換算約5400億ドル、これに定期性預金を加えると1兆700億ドルに達します。ロシア中央銀行の金準備は1342億ドルですから、金が圧倒的に足りない。ロシア国内のルーブルを公定レートで金に換えることは不可能なのです。
つまりルーブルの金本位制というのは、海外の通貨当局が保有するルーブルについて、ロシア中央銀行は金への交換に応じるという意味です。
当然、金に裏打ちされたルーブル相場はドルやユーロなど他通貨に対して数段強くなるはずです。
それでも、金との交換はとても無理です。世界全体の外貨準備総額は12兆5500億ドルとロシア中央銀行の金準備額の94倍にもなります。世界全体の公的金準備は2022年5月時点で3万5427トンですが、このうちロシアは2298トンにすぎません。米国8133トン、ドイツ3355トン、イタリア2451トン、フランス2436トンと、米欧に圧倒されています。
その米国は1971年にさっさとドルと金の交換停止に踏み切っています。それでも基軸通貨の座は確保どころか、さらに強化されました。世界で流通するモノや金融商品がドル建てであるからこそ覇権通貨になれるのです。
ちなみにロシアは世界第3位の産金国で、産出量は年間300トン、第1位の中国が370トンです。金本位制は通貨覇権を狙う中国ならやりそうだとの見方がありますが、中国共産党がストックや生産に限りがある金と心中するはずはありません。人民元は金リンクなしで量的拡大が進む基軸通貨ドルと連動させることで、価値を保ちます。
それと同時に、経済成長の原資となるのです。ドル、ユーロ、日本円と違って人民元だけが金と交換できるというなら、人民元の対ドル相場は数倍、数十、数百倍にも上昇するでしょう。しかし、そのときは中国の輸出競争力が失われ、深刻なデフレ不況に見舞われ、共産党独裁体制は根底から揺らぐでしょう。
●米、ウクライナに追加軍事支援へ 歩兵部隊の前線展開に注力 1/20
バイデン米政権は19日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し最大25億ドル(約3210億円)の追加軍事支援を実施すると発表した。米軍の装甲車「ストライカー」が初めて盛り込まれた。すでに供与を決めているブラッドレー歩兵戦闘車と合わせ、激戦が続くウクライナ東部の前線でウクライナ軍の機動力を高めるのが狙いだ。
ウクライナ側が要請している米軍の主力戦車「M1エイブラムス」は含まれていない。米国防総省によると、今回の軍事支援には、ストライカー90台▽ブラッドレー歩兵戦闘車59両と対戦車ミサイル590発▽耐地雷伏撃防護車(MRAP)53台▽高性能地対空ミサイルシステム「NASAMS」用の追加砲弾――などが盛り込まれた。
ストライカーは、ブラッドレーよりも軽量で高速に走行できる。一方で、ブラッドレーは対戦車ミサイルの搭載が可能で強力な火力を持つ。合わせて使用することで迅速に歩兵部隊を前線に展開することが期待されている。今回とは別に米政府は6日にブラッドレー50両の提供を表明している。
米国のウクライナに対する軍事支援は昨年2月に侵攻が始まって以来、約267億ドルに上る。 
●プーチン氏「引退説」現実味、追放恐れ後継者指名か 1/20
ウクライナ侵攻で国内外の批判が高まるロシアのウラジーミル・プーチン大統領(70)をめぐり、「引退」情報が西側メディアで飛び交っている。権力の座から追放されることを恐れて2024年3月の大統領選に出馬せず、後継者を指名する計画があるというのだ。プーチン氏が出馬するとの報道もあるが、どちらを選ぶのか。
ペスコフ大統領報道官は19日、プーチン氏がロシア正教の「主の洗礼祭」に当たる同日未明、モスクワ郊外で水浴をしたと明らかにした。例年、映像や写真を公開しているが、今年は公開の予定はないという。
露有力紙コメルサント(電子版)は13日、プーチン氏が大統領選に向けて立候補準備を進めていると報じた。しかし、クレムリン(大統領府)の元スピーチライターで、イスラエルに亡命しているアッバス・ガリャモフ氏の見方は全く異なる。
ガリャモフ氏の証言を報じた英紙デイリー・ミラー(電子版)などによると、プーチン氏は、軍事的敗北や人気急落で追放されるリスクを冒すよりも、後継者を選び、自身は黒海沿岸のリゾート地にある「宮殿」で終身上院議員として過ごす計画を立てているという。
政権中枢では民間軍事会社「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジン氏の台頭が警戒されているとした。
こうした情報について「信憑(しんぴょう)性のある話だ」と話すのは、筑波大学の中村逸郎名誉教授。プーチン政権の現状について「経済畑からも軍事畑からも、『もはやプーチン氏を支えられない』という空気が流れている。プーチン氏は20年以上も権力を掌握してきた分、悪事や内実を暴露されるリスクがあり、政権を降りることを恐れている。だが、とどまればクーデターのリスクもあり、八方塞がりだ」との見方を示す。
「ポスト・プーチン」としてこれまで有力視されてきたのは、プリゴジン氏ら強硬派勢力のほか、ドミトリー・メドベージェフ前大統領や、セルゲイ・キリエンコ大統領府第1副長官らだ。
だが、前出のガリャモフ氏は、プーチン氏は後継者として、モスクワ市のセルゲイ・ソビャニン市長や、ミハイル・ミシュスチン首相ら「忠実な部下」を指名する可能性が高いと指摘する。
プーチン氏は00年から08年まで大統領を2期務めた後、いったん首相に就き、12年に再び大統領に就いた。現在は、憲法改正で6年となった任期の2期目だが、24年の大統領選に出馬して勝てば、さらに2期12年務めることも可能だ。
「ポスト・プーチン」について中村氏は次のように予測した。
「プーチン氏が身の安全を確保するため、先手を打ってプリゴジン氏を後継者に指名する可能性もある。キリエンコ氏は行政手腕もあり、最もプーチン氏に近いが、プリゴジン氏に対抗できるほどの力があるかは不透明だ。いずれにしてもプーチン氏自身は『弱体化するロシア』の象徴的存在になりつつあることは間違いない」
●ロシアの新総司令官ゲラシモフはどんな人物か。スロビキンと交代した理由。 1/20
1月12日、ロシアのショイグ国防大臣は、統括司令官の交代を発表した。
昨年10月8日から統括司令官を務めたスロビキン総司令官(航空宇宙軍司令官)は副司令官と降格になり、ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長が統括司令官に任命された。
このことは、クレムリンの権力に近い人々さえ、驚かせたという。
スロビキンは、司令官として初めて権限拡大の恩恵を受けた人物だった。別名「ハルマゲドン将軍」。
2016年に「反乱軍」の抵抗を断ち切るためにシリアのアレッポの空からの破壊を命じ、同年末にシリアの都市を陥落させたことから、このあだ名がついた。
任命されてから、たった3ヶ月で交代。様々な憶測を呼ばずにはいられない。
新しく統括総司令官になったゲラシモフとはどういう人物で、なぜスロビキンと交代となったのだろうか。
ゲラシモフ総司令官とはどんな人物か
ヴァレリー・ゲラシモフ、67歳。ソ連が崩壊したとき、30代半ばだった。現在70歳のプーチン大統領と、同世代である。
タタールスタン共和国の首都カザン出身で、ソ連流の実力主義の賜物であり、素晴らしいキャリアの持ち主である。
タタールスタンの質素な家庭に生まれ、ソ連、そしてロシアの主要な軍事学校を卒業し、1997年には軍参謀本部付属の軍事学校を卒業した。
彼は、第2次チェチェン紛争で、北コーカサス軍管区の第58軍の司令官となった。
この紛争中、チェチェン共和国の若い女性を残虐に殺害して有罪となったロシア軍人「ユーリ・ブダノフ事件」で、ゲラシモフが彼を逮捕し責任を追及したことで、有名になった(チェチェン人はロシアを非難するが、ロシア人の中には、ブダノフの無罪を支持する者が少なくなかった)。
2012年、プーチンにより、ロシア連邦軍参謀総長兼ロシア国防副大臣に任命された。その後、軍歴はシリア、2014年にクリミアとドンバスと続く。
フランスのピエール・ド・ビリエ将軍は、2017年まで仏軍参謀長を務めた人物で、ヴァレリー・ゲラシモフとの会談の思い出をBFM TVで語った。
「私が気づいたのは、彼は一つのものしか認識していなかったということです。パワーバランスです。言葉の要素ではなく、声の大きさでもなく、本当の意味でのパワーバランスです」と述懐する。
また、ゲラシモフ参謀長は、2014年にはクリミアとドンバスで、ウクライナ領の占領に加わっている。そのため、欧州連合(EU)とウクライナの保安局から逮捕状が発行されている。
ビリエ将軍は、彼が会談の中で、軍人のウクライナ駐留を正当化するために、「彼は私に、ロシアに対する西側からの脅威NATOについて、私が認めることのできない攻撃性をもって話し続けたのです」という。
また、ヴァレリー・ゲラシモフは、ロシアの「新世代戦争」論の中核と言われる「ゲラシモフ・ドクトリン」の生みの親として知られている。
2013年2月、軍事科学アカデミーで行われた、ハイブリッド戦争に関する発表である(本当に本人が著者なのかについては異論がある)。
ハイブリッド戦争とは軍事戦略のことで、政治の戦争があり、昔ながらの戦争、正規ではない戦争、サイバー戦争をまぜあわせるものだ。フェイクニュース、外交、法律の戦争、外国の選挙介入など、他の影響力をもつ方法も一緒に使うというものだ。
ただ「ゲラシモフ・ドクトリン」は、ハイブリッドという言葉から連想されるような新しいものではないという分析がある。
ソ連は、敵陣のはるか向こうで活動する反政府武装集団への軍事支援を行って隠蔽しようと努力してきた。それの継続にすぎないという評価である。
なぜ総司令官は交代したか
昨年の2022年10月、スロビキンが権限を拡大した総統括司令官に任命されたとき、ロシア国家はプロパガンダを張った。
まるで軍が重ねていた失敗の状況(つまりウクライナの成功)を一変させる、一大事件であるかのように。
このような異例の方法で人事を公表したのは、クレムリン自身であった。『ル・モンド』が報告した。
それなのに、3ヶ月で更迭。様々な憶測を呼ばずにはいられない。
このことも含めて、どのような分析が欧米メディアでなされているか、紹介したいと思う。
1、体系的な問題
まず、米国防総省のライダー報道官は12日の会見で、ロシアのウクライナ戦争における体系的な問題が、最近の司令官交代につながった可能性が高いとの見方を示した。
これは独自の見解とはいえない。当のロシア国防省が公式発表で、交代をそのように説明しているからだ。
ロシア国防省の公式発表によると、この人事は3つのことに関連しているという。
1)(特別軍事作戦の)実施において解決される(べき)任務の規模の拡大。
2)軍隊の職務と各支部の間のより緊密な相互作用を組織する必要性。
3)同様に、すべての種類の支援の質と、指揮統制の有効性の改善。
言い換えれば、以下のようになるのではないか
1)今後、戦争(領土奪取)の規模を拡大する。
2)今は軍の各組織や職務が縦割りになっており、バラバラで困っている。これを改善して、一体性のあるものにしなくてはならない。
3)今はすべての種類の支援の質が満足できるレベルにない。指揮統制もバラバラで効果に疑問符がつくので、すっきりと改善しなくてはならない。
2)と3)は明らかに、以前から続く「体系的な問題」を語っている。構造的と言ってもいい。
ライダー米報道官は、「われわれは、兵たんや指揮統制の問題、継続性の問題、士気、ロシアが設定した戦略的目標を達成できていないという観点からこの状況について議論した」と説明した。
2、ロシア国防総省の優位性を示す
ロシア内部で権力闘争が起きている。そのためにこの人事が行われたとする説である。たくさんの識者が指摘している。これに反対する意見は、ほとんど聞いたことがない。
スロビキン前統括司令官は、ワグネル・グループを率いるオリガルヒ、エフゲニー・プリゴジン氏の公けのお気に入りであった。かつ、ショイグ国防大臣のライバルであると言われてきた。
つまりスロビキン前統括司令官 &プリゴジン(ワグネルのトップ) VS ゲラシモフ新統括司令官&ショイグ国防大臣 のように言われている。
多くのロシアのミルブロガー(軍人でブログ等を書く人たち)やシロビキ(治安や国防関係省庁の関係者)は、クレムリンの戦争遂行のやり方を批判してきた。
(誤解を恐れずに言えば、甘すぎる、無能だ、という批判である)。
ロシア軍に大変強く批判的なモスクワの超保守界は、ワグネル・グループがウクライナにおけるロシアの数少ない成功の先頭に立ったと考えている。そして、ロシア国防総省を批判するのである。
そのため、ワグネル VS ロシア国防総省 の様相を呈している。
つまり危険なほど単純化するとーー「スロビキン司令官・プリゴジン(ワグネルのトップ)・超保守派や超国家主義者・シロビキ・ワグネル VS ゲラシモフ参謀長・ショイグ国防大臣・保守派・国防総省」となる。「主戦派」という時は、どちらなのかは不明である。
プリゴジンは、2022年5月にロシア軍が首都キーウ等から撤退した後ごろから、ロシア国防総省の戦争遂行をますます批判していた。
さらに、ドンバスのロシア武装勢力の元司令官で、著名なミルブロガーであるイゴール・ガーキンは今年の1月10日に、これまでで最も直接的なプーチン批判を行い、プーチンの解任を支持すると大きく示唆した。
だから政権は彼らに対して、ロシア国防総省のほうが上なのだと示すための、政治的決断をしたというのだ。
アメリカのシンクタンク戦争研究所は、そのように主張している。
「ウラジーミル・プーチンからエフゲニー・プリゴジンへの、『好き勝手やっていいと思うなよ、という戒め』と見ることだろう」と、英バース大学のロシア政治専門家スティーブン・ホール氏はFrance 24に語る。
ホール氏は、今回の人事によって「イデオロギー的にプリゴジンに近いと考えられている前任者のスロビキンよりも、ワグナー・グループに与える自由度はかなり低くなると思われる」という。また、この人事は、ショイグ国防大臣の肩の荷を軽くするものでもあるとも説明する。「これまで、自分の背中を刺すために時間を使っていたスロビキンと、もう付き合う必要はない」とも語る。
しかも、リマン陥落の責任者と糾弾されて解任された、ラピン司令官(大佐)が、ロシア陸軍の参謀総長に任命された。復権と言える。
彼は、ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長や、プリゴジンをはじめとする強硬派から批判された経緯がある。
(ただし、プロパガンダに満ちたテレビでは、リマン陥落さえまともに報道されていないという)。
ロシアメディアは情報筋の話として、ラピン氏の陸軍参謀総長就任は軍に盾突くなというプリゴジン氏への警告だと伝えた。BBCが報じた。
外交政策研究所の上級研究員でロシア軍の専門家であるロブ・リーはツイッターで、「ウクライナの統一司令官として、スロビキンは非常に強力になっており、プーチンと話すときにショイグ国防大臣やゲラシモフ参謀長を回避していたようだ」という。
戦争研究所は、プーチン大統領が、シロビキ系の軍事ブロガーに媚びる試みから脱皮しようとしていることを示唆するもの(つまり、今まで彼らに媚びてきた)であるかもしれないと分析する。
ホール氏は、スロビキ司令官は今後、ゲラシモフ新統括司令官が転ぶように仕向けながら、実際には今までと同じように続けるのではないかと述べている。
その3、失敗したから更迭した
2022年10月にスロビキンが職務につくと、ウクライナの民間インフラに対する大規模な爆撃作戦が開始された。
この戦略は、ウクライナ社会を降伏寸前まで追い込むことを意図したものだったが、期待された結果をもたらさなかった。
2022年2月の攻勢開始後、最初に占領された都市で、重要な地方首都ヘルソン。11月11日にウクライナ軍が奪還して、ロシア軍が撤退したことも記憶されている。
そして12月31日の夜、ドンバス州のマキイウカへのウクライナ軍の攻撃は、動員されたロシア兵を多数殺した。数十人か数百人か。彼らが使った携帯電話で居場所が知られてしまったという失態。ロシア国防省は、公式の死者数を89人と発表したが、これは事件になった。
このような失敗をしたので、更迭したという意見である。
ロシアのテレグラム(SNS)で100万人以上のフォロワーを持つロシアの軍事ブロガー「Rybar」。当局の厳しい管理下にある。
スロビキン将軍の「疑わしい」結果に躊躇なく言及していると、『ル・モンド』は報告している。
このことは、英国国防省の意見にも一致するかもしれない。
「劇場司令官としての総司令官の配置は、ロシアが直面している状況の深刻さが増していることを示すものであり、作戦がロシアの戦略目標を下回っていることを明確に認識するものである」と発信している。
ただ、この見解には異論もある。
マキイウカで動員兵が殺されたことで批判されたのは、ワグネルではなく、正規軍のほうであるというのだ。
プリゴジンのほうは、ドンバス州のソレダルでワグネル・グループが「勝利」と発表して以来、誇り高い男を演じ続けていたという。
ロシア軍はこの姿勢を快く思っていなかった。参謀本部は、正規軍の空挺部隊が戦闘に大きく貢献したことを急いで明言し、ワグネルだけによる勝利ではないと主張した。
そして英国国防省が分析するように、今回の人事は「戦争の遂行能力の低さをゲラシモフのせいにしてきたロシアの超国家主義者や軍事ブロガーのコミュニティの多くから、極めて不愉快な思いで迎えられる可能性が高い」のである。
その4、ヘルソン撤退だけが仕事だった
なかなか興味深い意見がある。
「Republic(共和国)」という名前の、ロシアの独立系メディアがある。
戦争前、2010年に同サイトは、ROTOP(Russia Online Top)コンテストの「今年の情報サイト」カテゴリーで1位を獲得した。しかしこのメディアの会社は、2021年10月、ロシアで「外国代理人」としてレッテルを貼られた。『ル・モンド』によると、現在亡命中のようだ。
ドミトリ・コレゼフ編集長は、こうした指導者の交代は「スロビキンの任務は、ヘルソンを明け渡すという『難しい決断』(当時の言葉)を下すことだけだったことを示唆しているようだ」と指摘したという。
スロビキンが10月に総司令官になって翌月の11月、露軍が制圧できた唯一の州都ヘルソンから撤退しなくてはならなかった。プーチン大統領が、ヘルソン州、ザポリジャ州、ドネツク州、ルハンスク州の4つを「併合」、この地域は「永遠にロシア」だと宣言してから、わずか6週間後のことだ。
スロビキンの就任前、『ニューヨーク・タイムズ』紙で、無名のロシア軍将校がヘルソンからの撤退を進言し、プーチンがそれを拒否したという報道があったという。
ロブ・リー上級研究員は、この報道について、「スロビキンはドニプロ川を渡って撤退しようとしたが、プーチンに基本的にダメだと言われたと私は解釈しています。ドニプロ川は大きな川であり、大きなバリアであり、ロシアにとっては戦線を固め、他の場所で前線を維持するための容易な方法だったのです」と述べる。
リー研究員は、この措置はロシアの戦線に安定をもたらしたと、スロビキンの能力を評価している。
当時、ロシア・チェチェン共和国の指導者ラムザン・カディロフと、ワグネルのプリゴジンは、ヘルソン撤退を進言したスロビキン司令官の判断を讃えていた。
しかし、BBCの報道によると、ロシアの主戦派ブロガーたちの意見は異なっていた。彼らは撤退について、怒りの投稿をせっせと書き続けていた。
「ロシアの希望が殺された。絶対に忘れない。この裏切りは何世紀も、自分の心臓に刻まれる」(「ザスタフニ」)
「プーチンとロシアにとって、とてつもない地政学上の敗北だ(中略)国防省はとっくの昔に社会の信頼を失っているが(中略)大統領への信頼もこれで失われる」(「ズロイ・ジュルナリスト」)
ヘルソンの撤退は、スロビキン司令官と協議後に、ショイグ国防相が撤退を命令した様子を、テレビで流している。テレビには(おそらくわざと、責任逃れのためか)登場しなかったプーチン大統領の威信をも揺るがせたのだった。
スロビキンの進言を受け入れて、彼に「汚れ役」を負わせた形になったが、それは陰謀ではなく、むしろ能力の問題だったようだ。
正規軍は、ソ連をひきずる官僚組織にどっぷりつかって、能力を疑われている。スロビキンは、非難されるのを覚悟で、西岸撤退という合理的な判断を下せたということだ。
スロビキンは56歳で、ソ連崩壊時にはまだ25歳だった。若い学生のような年代時に、ペレストロイカを経験した世代である。
しかし、プーチン大統領は撤退には反対していたようだ。受け身の姿勢で西岸撤退とスロビキン総司令官就任を承諾したが、主戦派は予想どおり怒ってしまい、自分の立場も揺らいでしまった。
その後戦況も思うように改善しなかったので、その3に挙げた「失敗」を理由に降格させてしまった、という流れの可能性は否定できない。
その4、ゲラシモフを調整役に
プリゴジンは、総司令官から、副総司令官に「降格」になった。
とはいえ、ゲラシモフ参謀長は制服組トップであり、輝かしい経歴をもち、ロシアの軍事でナンバー3と言える人物だ(大統領、国防大臣に次ぐ)。年功序列からもスロビキン氏の先輩である。
参謀総長がトップに立つのは異例とはいえ、ある意味、あまり変わったとは言えないと分析が可能なことを、CNNや英ガーディアンは伝えている。
序列から言えば、スロビキン降格というよりは、さらに上が登場したという意味だろう。
前述のコレゼフ『共和国』編集長は、「参謀長が指揮を執るのは、敗北の時代が終わり、ロシア軍が新たな大攻勢に備えていることを期待しているからだと考えることができる」と言っている。
ゲラシモフ参謀長の登場は、戦線での動きと重なっている。ドンバスのソレダル村の運命は、広報によれば完全には決まっていないようだが、ロシア軍の侵攻は疑う余地がない。数カ月間見たこともない前進である。
ソレダル陥落が確認されれば、ロシア軍には久々の勝利であり、新たな展望が開けそうである。
この新しい参謀長の任命は「本質的に、春には大規模な攻勢を期待すべきであり、部隊間のより良い調整が必要であることをプーチンも認識していることを確認した」と、英国王立サービス研究所のロシア安全保障問題の上級研究員マーク・ガレオッティはツイッターで述べている。
陸軍参謀総長とウクライナ作戦司令官という2つの顔を持つヴァレリー・ゲラシモフは、この調整を改善するためのあらゆる手段を手にしていると思われるという。
その5、プーチン大統領の策略
最後に、プーチン大統領のポジションについてである。
政治学者のタチアナ・スタノバヤは、「彼はさまざまな人物を試し、その間を行き来し、その時々に説得力のありそうな人物にチャンスを与えるのです。今日はゲラシモフが説得力があるように思えたが、明日は別の人物になるかもしれない」と指摘する。
「実際には、問題は達成すべき任務にあり、人物にあるわけではありません」、「プーチンは、潜在的な敗北の中で有効な戦術を模索している」とも言う。
米国のニューラインズ研究所(地政学)の外部コンサルタントであるジェフ・ホーンは、この決定は、ロシア大統領が「最も得意とすること、つまり協力者同士を戦わせ、彼らが互いに議論するのに忙しく、ロシア大統領がレフェリーの役割を果たせるようにする」、教科書のような例だ、という。
クレムリンの主人は、宮廷内のある派閥が優位に立ちすぎて、「公の場で居心地の良さを感じ始める」ことを好まない、とホール氏は付け加える。そのため、ヴァレリー・ゲラシモフには、ワグナー・グループを少しずつ軌道に乗せる権限が与えられていたのだろう、という。
プーチンは、ウクライナでの軍事的な後退が裏目に出る可能性を察知していた。「今後、ロシア軍にとってウクライナ情勢がさらに悪化した場合、ゲラシモフは最前線に立ち、他人のせいにすることができなくなる」と指摘する。
たとえ失敗したとしても、プーチンはゲラシモフを排除する口実を得ることができる。ゲラシモフを正規軍の無能のやり玉にあげてきた超保守界を喜ばせることができる。プーチンはどちらに転んでも安泰ということになる。
このような状態をさして、ガレオッティ上級研究員は、「(ゲラシモフの)降格のようなもので、少なくとも最も毒のある聖杯だ」と述べた。
この「毒のある聖杯」という表現は、欧米メディアのあちこちで使われた。
「毒入り聖杯」でなければ「避雷針」だ。前述の軍事ブロガー「Rybar」は、ゲラシモフが輝かしい経歴をもっているにもかかわらず、今や「避雷針」の役割を果たし、さらなる挫折の場合には爆発する可能性があると指摘している。

以上、欧米メディアに見られる5つの理由を解説した。
おそらく全部本当なのだと思う。ただ、どうしても今ひとつ納得できない。
筆者は6番目の理由を考えてみた。それにはワグネルと民間軍事会社の本質を考えなくてはならない。そもそもなぜ、国防総省とワグネルは対立しているのだろうか。
●ロシア雇い兵組織ワグネル、セルビアで勧誘 強い反発招く 1/20
ロシア兵と一緒に、セルビア人「志願兵」たちがウクライナで戦うために訓練を受けている――。そんな内容のニュース映像をロシア側が作成し、セルビアで怒りの声が噴出している。同時に、セルビアのロシアとの複雑な関係もあらわになっている。
問題の映像は、ロシアの雇い兵集団「ワグネル」がセルビア語で作った。ウクライナで続く戦争に参加するよう促すのが目的とされる。
セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領は憤慨。国営テレビで、「なぜワグネルは、私たちの規則に違反すると知りながら、セルビア人に呼びかけるのか」と話した。
同国の首都ベオグラードを拠点とする弁護士や反戦団体も19日、セルビア人をワグネルに勧誘したとして、ロシア大使とセルビア保安・情報局(BIA)のトップを刑事告発した。
ベオグラードでは挑発的な壁画があちこちで見られるが、中心部の建造物の壁に先週、ワグネルのどくろのエンブレムが現れた。極右団体「国民パトロール」の署名入りだった。この団体は、ロシア支持の集会を開催したことがある。ただし、参加者はわずかだったという。
セルビア人が国外の紛争に参加するのは違法だ。
ウクライナでの戦争に関わっているセルビア人は、多くはないとみられる。2014年にロシア軍と一緒にウクライナで戦った人もいたが、公的には承認されていなかった。
実際、セルビアの裁判所は25人ほどに対し、「外国の戦場での戦闘」に参加したとして有罪判決を出している。
ロシア優先と批判されてきたが
セルビアは、欧州連合(EU)加盟の野心よりも、ロシアとの長年の友好関係を優先していると批判されることが多い。ただ、最近の状況は、現実がそれほど単純ではないことを示している。
ヴチッチ大統領は、ウクライナでの戦争に関し、セルビアは「中立」だと発言している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とは「何カ月も」話をしていないとも説明。両国関係が良好とは言えないことをうかがわせている。
主要政党はどこも、ロシアのウクライナ侵攻への支持をほのめかしてすらいない。
国連でもセルビアは、ロシアの侵攻を非難する決議に一貫して賛成票を投じてきた。
欧州議会では今週、ヴチッチ氏が、「私たちにとって、クリミアはウクライナであり、ドンバスはウクライナだ。今後もそのままだ」と発言。セルビアのスタンスを明確にした。
EU加盟めぐる力学
しかし、欧州議会はセルビアに好印象をもっていない。ロシアへの制裁実施を、セルビアが繰り返し拒んでいるからだ。
欧州議会は、セルビアが制裁に同意するまでEU加盟交渉を中断するよう求める決議を可決。セルビアが交渉中断を決議されたのは、これが2回目だ。
セルビアがロシアとの友好関係を維持することは理にかなっていた。ロシアから安価なガスの供給を受けられる、ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムがセルビアの石油会社NISの過半数を所有している、ロシアがコソヴォの独立を認めない――といったことが、その理由だった。
だが、ウクライナ侵攻が認識を変えた。プーチン氏は、ウクライナ東部の占領地域の独立を承認する際、正当化の理由として、コソヴォの一方的な独立宣言に言及。セルビアは悪印象をもった。
一方のEU側も、西バルカン諸国への無関心が、ロシアに干渉の余地を与えていたと、遅まきながら気づいた。アルバニアと北マケドニアの加盟交渉が速やかに始まり、ボスニアが加盟候補となった。
セルビアのヴチッチ大統領は今週、同国が西側に近づいて行くと、改めて強調した。
「EUが私たちの取るべき道だと分かっている」と、ヴチッチ氏は米ブルームバーグに話した。「他に道はない」。
●10年前に主席就任直後の習氏がモスクワ訪問、プーチン氏は「同志」と呼んだ 1/20
早くも旧聞になる。
昨年末の12月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領がワシントンを電撃訪問したその日、ロシアのメドヴェージェフ前大統領(現安全保障会議副議長、与党「統一ロシア」党首)が北京を訪れ、習近平国家主席と会見した。
バイデン大統領は、ウクライナに地対空ミサイルシステム“パトリオット”一基の供与を含む18億5千万ドル支援(約2400億円)のビッグな“クリスマス・プレゼント”を約束した。
他方、習近平国家主席は、現下の戦争について、対話による解決が重要だとの従来の立場を崩さなかった。
ロシアにとり、事前の前触れなしにおこなわれたこの会談が、太平洋の向こうでおこなわれたもうひとつの首脳会談に当てた「政治ショー」であったことは明らかだ。中国の立場が変わらないことなど事前に承知していたにちがいない。
私が注目したのは、中国側がロシアに対して示した「礼節」だ。
プーチン大統領は、自らのいわば「名代」として、メドヴェージェフ前大統領を北京へ派遣している。そして、これに応えて中国は、いまや力関係の逆転が明白になったロシアの前大統領を、国家主席自らが立って北京の釣魚台国賓館で迎えている。
思い起されるのは10年前。
2013年3月14日、習は午前に開催された第12期全国人民代表大会で中国の新しい国家主席に就任するや、プーチンと電話会談をおこなって「史上もっとも友好的な中ロ関係の構築」を約束し合うと、翌週モスクワへ飛んだ。
そして、プーチンは習をクレムリン宮殿の騎馬儀じょう隊で迎えると、「タヴァ―リシチ(同志)!」と声も高らかに呼びかけて、ふたりの格別な盟友ぶりを世界に示したのだった。
昨年2月24日、プーチン大統領は、専制的権力者としての自らの限りある政治余命を考えて、ロシアから離反していくウクライナを欧米の影響下から取り戻すことを急ぎ、ウクライナに侵攻した。
だが、短期間で終わるはずだった作戦は、未だ終結への出口を見ない。
いま、一年後に大統領選挙を控え、クレムリンの主はいったい何を思うだろう?彼は正義を誤り、兄弟国を侵略した。もはやこの軍事作戦の勝利のみが、彼の政治的立場を救い得る。時折、テレビに映る表情に、追い詰められた独裁者の苦衷が滲むとみるのは私だけではないはずだ。
習近平国家主席は、自らメドヴェージェフ前大統領と会見することで、同じ専制的権力者としてプーチン大統領と結んだ長い誼(よしみ)に最大限応えたとみるべきだろう。
ところで、メドヴェージェフ氏は、プーチンから習に宛てた「親書」を携えていたという。
むろん、その中味は不明だ。
だが最後に、こう記してあったかもしれない。
「タヴァーリシチ・シー(習同志)、彼を宜しく頼む」
●「戦場カメラマン」横田徹がウクライナで感じたロシア兵の不気味さ 1/20
世界を震撼させたロシア軍のウクライナ侵攻からもうすぐ1年が経つ。当初、電撃的に首都キーウ制圧を目指したロシア軍の動きはウクライナ軍によって阻まれた。その後、ウクライナ軍はロシア軍による占領地域の約4割を奪還した。ただ、戦場での情報を厳しく統制するウクライナ軍は前線への取材をほとんど許しておらず、戦闘の様子を目にした報道関係者、特に日本人は極めて少ない。その一人、ベテラン「戦場カメラマン」の横田徹さんに話を聞いた。

横田さんと会ったのは1月11日。ウクライナに出発する前夜だった。昨年5月と9月に続く、3度目のウクライナ取材だという。
まず、横田さんが語ったのは、昨年の大晦日にロシア軍のミサイル攻撃で朝日新聞の関田航記者が足を負傷したことだった。
「関田さんが滞在していたキーウのホテルの写真を見るとかなり大きく壊れている。軽傷で本当によかったと思います」
横田さんは1997年のカンボジア内戦取材以来、東ティモール、コソボ、アフガニスタン、イラク、シリアなどに足を運んできた。そんな戦争取材のベテランが口にしたのは、ウクライナには安全な場所がない、ということだった。
「ウクライナは、どこにいてもミサイルが飛んでくる。だったら、本当に危ないところに行って、パッと帰ってくる。取材はほどほどにしますよ」
そう言って、ときおり笑みを見せながら話す様子は気負いをまったく感じさせない。
「今、ウクライナ東部は暖かくても氷点下という世界です。そういう過酷な状況のほうが絵になる映像や写真が撮れる」と、今回の取材のねらいを説明する。
むろん、ロシア軍侵攻から1年になる2月24日に向けて増える報道需要も想定している。
「戦争取材にはお金がかかります。ぼくは状況次第ではアメリカの大手テレビ局なみに、1日20万円くらいコーディネーター料を支払います。それをどう回収するか、というのはこの仕事では大切なことです」
淡々と、そう話す。
ロシア軍の支配地域へ
今回の戦争ではNATO諸国がミサイルや大砲などの兵器をウクライナに供与するほか、さまざまな国の義勇兵がロシア軍と戦っている。横田さんはこの義勇兵に焦点を当てた。
昨年5月、キーウの基地を訪れた際、横田さんを出迎えてくれたのは国際義勇軍の中核を担うジョージア人部隊の司令官、マムカ・マムラシュビリ氏だった。
黒海の東岸にあたる旧ソ連の構成国ジョージアは、2008年、ロシアに侵攻された。そんなジョージアの人々は、ウクライナに対して強い親近感を抱いている。
横田さんはウクライナ東部の前線から数十キロのところにあるジョージア人部隊の後方基地に案内された。
「行ってみたら、兵士たちはもうびっくりするような装備を身に着けていて、完全に特殊部隊じゃないか、と思いました。キーウ近郊の国際空港の奪還にも関わった部隊でした」
横田さんが同行したのはロシア軍支配地域への偵察任務だった。兵士を乗せた車は舗装されていない道を全速力で前線に向けて突き進んでいく。
「スピードを出さないとやられてしまうんです。前線の近くまで行って、パッと車を降りて移動する。頭上を飛ぶロシア軍のドローンから逃げながら(笑)」
ロシア軍の陣地が見えるところまで近寄ると、小型ドローンを飛ばす。上空から敵の陣地を撮影し、それをもとに攻撃のプランを立てるという。
しかし、目の前にロシア軍の陣地が見えるということは、相手からも横田さんらが見えるのではないのか?
「そのとおりです。だから、砲弾を撃ち込まれて、背後に着弾しました。ロシア軍はわれわれの位置を上からドローンでつかんでいるので、かなり正確に弾が落ちてきます」
信頼の厚い日本人義勇兵
ドローンが飛んでいると、ブーンと、独特の回転翼の音がする。しかし、音がしない場合もあるという。
「だから、どこへ行っても空を見上げている。もしくは建物の中に隠れる。地雷が埋まっているかも、と足元ばかりを気にしていると、上からやられてしまう」
国際義勇軍の傘下にはジョージア人部隊のほか、日本人が加わっている部隊もある。
「戦闘訓練を受けたことがあるなしに関わらず、戦場を体験して、すぐにウクライナを離れる人がとても多いので、出入りが激しいのですが、平均すると常時10人弱の日本人義勇兵がさまざまな部隊で活動しています」
その多くは元自衛官で、アメリカ人やイギリス人の義勇兵よりも信頼されているという。
「アメリカ人は、ウクライナの戦闘に参加することで寄付金を集める、いわば金稼ぎを目的にした義勇兵が多い。アメリカ人やイギリス人は使えないのが多いんだけど、日本人はよくやっていると、ジョージア人部隊の広報官は日本人義勇兵のまじめな戦いぶりと生活態度を高く評価していました。日本人の気質からしてわかる気がしますね」
ロシア軍陣地で目にしたもの
一方、ロシア兵の戦いぶりはどうだろうか?
「広大な畑の中に幅20〜30メートルの防風林があったんです。そこにロシア軍は陣地を設けていた。でも、周囲から見れば、そこに身を隠していることは誰の目にも明らかだった。案の定、ウクライナ軍にミサイルを撃ち込まれて、ロシア兵はみんなやられてしまった。穴の中で待ち構えていた戦車がひっくり返っていた。なぜロシア軍はこんな素人のような戦い方をするのか。優秀な指揮官が本当に不足しているんでしょうね」
昨年9月の取材では、砲撃を続けながら敗走するロシア軍を追いかけるように、抜け殻となった陣地を次々に訪れた。そこで目にしたのはたくさんの兵器や弾薬だった。
「まだ洗濯物が干されて、食べかけの食料がそのまま残されているようなロシア軍陣地に足を踏み入れると、弾薬箱が放置され、中にはミサイルや砲弾が奇麗に詰められていた。それをウクライナ軍が全部回収して使う。戦車もそうです。修理するため、戦車をけん引していくシーンをあちこちで目にしました」
ウクライナの民間人がロシア軍陣地から兵器をくすねてくる話も山ほど聞いた。
「大きなトラクターで戦車を引っ張って盗んできたとか、そういう話はどこにでもあります。最初は信じられなかったけど、本当なんですね。ロシア軍の塹壕(ざんごう)に行ったら携帯ミサイルが2本立てかけてあったので、かっぱらってきたって、写真を見せてくれた人もいました。ミサイルを担いでくるときにロシア兵と間違われてウクライナ兵に発砲されたそうです。ロシア軍の兵器の管理はどれだけずさんなんだよ、って感じです」
ロシア兵の劣悪な環境
兵器だけでなく、ロシア軍の兵士の扱いの劣悪さにも驚かされた。
「どこの陣地もひどい環境で、いくらなんでもこれでは戦意を保てないだろうと感じました。食料は全部缶詰で、野菜などは食べていないでしょう。戦場での唯一の楽しみである食事がとても貧しいうえ、泥だらけの塹壕の中でおびえながら何カ月もいたら、さすがに戦うのが嫌になるはずです」
一方、ウクライナ兵は一定期間、前線で任務につけば休暇をもらえるという。休暇中はレストランで食事をしたり、インターネットで外の世界とつながったりすることもできる。
「食事については快適で、どこに行っても困らないどころか、おいしい肉やチーズを堪能しました。結構田舎でも寿司が食べられたりする。この差は大きいと思いますね」
豊かな自分たちの国を守ろうと戦っているウクライナ軍の兵士と、無理やり劣悪な環境に送り込まれて戦っているロシア軍の兵士では、士気に大きな差があるのは当然だと感じた。
相手がロシア兵は危なすぎる
しかし、だからといって、ロシア軍が弱いとは横田さんはまったく思わない。むしろロシア軍に感じるのは西側の常識がまったく通用しない、不気味さだ。
「今、激戦が行われているバフムートなんか、ロシア軍は1人のウクライナ兵を倒すために、10人のロシア兵をおとりにおびき出して攻撃する。それが成功したら、また別の10人を送り出す。いったい、いつの時代の戦いだよ、と思うような戦い方をしている」
ロシア軍は伝統的に兵士の命を粗末に扱ってきた。それがウクライナの戦場でもまったく変わっていないことを実感した。
横田さんは以前、シベリアの奥地を訪ねた際、ロシア人の文豪ドストエフスキーがシベリア流刑を経て描いた不条理な世界が現代にも脈々と受け継がれていることを目の当たりにして衝撃を受けた。
「あれを見たことは大きいですね。だから、今回の戦争が始まったとき、ウクライナへ取材に行くのは嫌だった。相手がロシア兵では危なすぎると思いました。ものすごく怖かった」
横田さんは戦争取材の際、前線に足を運ぶことが多く、しばしば周囲から「無謀だ」と言われてきた。
「でも本当は、ぼくはすごくビビりなんです。逃げられないところには絶対に行きたくない。ここは無理だ、と思う場所には行かないようにしています」
昨年5月からウクライナを取材するようになった理由は、戦いの焦点にあったキーウがロシア軍に包囲される可能性がなくなり、退路が確保されたことと、取材費の援助が得られたことが大きいという。
地面が凍っている2月に動き
今回、このタイミングでウクライナに入るのは冒頭に書いた報道需要もあるが、2月になれば、何が起こるかわからない恐ろしさがあるからだという。
「雪が解けると、ウクライナの土は本当にぐちゃぐちゃになります。昨年9月にもぬけの殻となったロシア軍陣地まで畑の中を歩いて行ったとき、足にまとわりつくような泥を体験しました。この状態で戦うのは無理だな、と感じました。なので、戦況に大きな動きがあるとすれば、地面がまだ凍っている2月だろうと、いろいろな人が言っています。危ないときに行くのは嫌なので、2月の前に行って、帰ってくる」
別れ際、横田さんは近所の保育園にウクライナ避難民の子どもが通っていることを口にした。
「言葉はできないし、大丈夫かな、と思っていたら、すぐにうちの娘と仲良くなった。ぼくはウクライナ人と関わりがあるし、娘もウクライナ人の友だちができた。すごい時代になったなあ、と思いますね」
数日後、横田さんからメールが届いた。
<キーウに着き早々、ミサイルの洗礼を受けました。危ないので早く前線へ向かいます>
●ウクライナ軍、ソレダルからの撤退を認める 反撃に備えたものと説明 1/20
ウクライナ軍が、激戦の続いていた東部ソレダルからの「撤退」を認めた。ロシア軍は先週、ソレダルを占領したと主張していた。数カ月にわたって撤退を繰り返していた同軍にとって久しぶりの大きな勝利となった。
しかしBBCが取材したウクライナ兵士らは、計画されている反撃に備え、統制のとれた戦術的な動きとして引き下がったのだと述べている。
ソレダルと近隣のバフムートの間で前線となっている、作物の刈り取られた灰色の畑では、激しい銃撃と砲撃による戦いが続き、自動小銃の長い銃声が響いていた。
長身のウクライナ部隊指揮官アンドリイさんは、破壊されたコテージの陰から東部に広がる暗い木々を見据えながら、「敵はとても近い、1キロぐらいだ」と話した。
何が起きているか、確信を持つのは不可能だ。だが、頭上で鳴る自動小銃の銃声と、絶え間ないロケットや砲弾の爆発音が、ロシア歩兵部隊が近くにいることを示唆していた。我々に同行している第46独立空中強襲旅団の報道官によると、前線は常に変動しており、予測できず、1日に数キロ移動することもあるという。
がれきの中にうまく隠された司令部に入り込む直前、アンドリイさんは「状況は厳しい」と認めた。彼のチームは先ほど、自軍のドローンから、ロシアの装甲兵員輸送車(APC)の詳細な情報を受け取ったばかりだった。少ししてから、そのAPCを標的に、イギリスから供与された軽砲で3発が発射された。
「我々は毎日、敵を50〜100人破壊している」と、アンドリイさんは話した。
ソレダルと周辺での戦闘は、この戦争が始まって以来最も激しいものとなった。ロシア軍は「ワグネル・グループ」の雇い兵と募集に応じた受刑者たちを先頭に、大きな損害を被ったものの、最終的にはこの丘の上の小さな町を占領した。ソレダルは今、攻撃を受けた建物とがれきばかりの荒れ地だ。
一部のウクライナ兵は内々に、異なる部隊の連携がうまくいかなかったことがソレダルでの敗北につながったとしている。その上で、ロシアが現在、ここの南に位置する、はるかに大きく戦略的重要性も高いバフムートを包囲する優位な立場にあると認めた。
しかし、ロシア軍から数百メートルしか離れていないパラスコウィウカ村などの前線にいるウクライナ部隊には、静かな自信が満ちている。ウクライナの怒りが込められた空爆や砲撃が、北側や南西側からバフムート近郊へ向かうロシアの動きを阻止しているようにみえる。
「これは制御された状況だ」とアンドリイさんは話す。
「私は司令官を信じている。時には(中略)反撃し敵を撃退するために、退いた方が良い場合も本当にある。我々は毎日、敵の陣地を破壊している」
「いつ戻れるか?」
今週のある曇った朝、バフムートの北の端にある雪に覆われた田舎道は、軽い雪解けで泥道と化した。冬の間、木立や低木による貴重な目隠しがほとんどない中、多くの道が露出し、ウクライナ側の車両がロシアの砲撃にさらされた。
我々が小さなコテージに身を潜めていると、300メートルほど後方の道に砲弾が落下した。我々の同行者は、戦闘はさらに激しくなっていると話した。数秒ごとにロケット弾の爆発音や砲撃が聞こえる中、負傷兵を野戦病院へと運ぶウクライナの救急車両のサイレンが鳴り響いていると言った。
「銃で撃たれた傷も、砲弾の破片によるけがもある。ここでは特に激戦になっているようだ。それから凍傷やインフルエンザといった症状も起きている。そして人々は疲れている」と、第46独立空中強襲旅団衛生中隊のアンドリイ・ゾロブ医師は話した。
だが、兵士の士気はなお高いと言う。
「みんな疲れて、寒くて、けがをしている。それなのに『先生、いつ戻れますか?』と聞いてくる。誰も『けがをしたから休める』とは言いたくない。兵士たちの心はまだ燃えているし、私たちもするべき仕事がある」
ゾロブ医師は、兵士の肩から砲弾の破片を摘出する動画を見せながらそう語った。
バフムートに近づくと、頭上をウクライナのジェット機がうなりを上げて飛んで行った。地上では、目立たないよう隠された戦車や大砲がロシア軍への攻撃を続けていた。

 

●習近平とプーチンが握手をし、台湾侵攻の準備が整いつつある事の意味 1/21
ロシアと中国は仲たがいさせるべきだが
1949年の中国建国以降、ソ連は同じ共産主義国家として支援を行った。だが、この関係は当初からずれがあり、中国から見ればソ連は「兄貴分」であった。しかし、逆にソ連は中国を、朝貢国のような「子分」として扱った。
「中華思想の国」を率いる毛沢東からすれば不快なことではあったが、ヨシフ・スターリンの独裁は彼の手本でもあり、耐え忍んで友好関係を維持していた。
だが、1956年のソ連共産党第20回大会においてニキータ・フルシチョフがスターリン批判を行ったことが毛沢東を激怒させた。スターリンの「コピー」ともいえる毛沢東は、自分も批判されたと感じたのだ。
そして1969年には、珍宝島事件(中ソ国境紛争)が起こった。
さらに、1991年にソ連邦が崩壊した後、ロシアの経済的地位は暴落し今や韓国と同程度である。それに対して、中国はその頃から大躍進を遂げ、今や世界第2位のGDP大国である。
かつてほとんど何も持たず自国(旧ソ連)が支援した国が急成長し、国際社会でわが物顔で振舞っていることをどのような気持ちでロシアは見ているであろうか。
このような関係のロシアと共産主義中国を仲たがいさせる方法はいくらでもある。そうなれば、彼らの脅威はそれほどでもないであろう。
だが、外交・軍事音痴の民主党の流れを引き継ぐバイデン政権は、昨年3月7日公開「プーチンは米国を見透かしていた? ウクライナの悲劇はだれの責任か」、同3月18日公開「プーチンだけが悪玉か―米国の『幅寄せ、煽り運転』がもたらしたもの」で述べた問題を引き起こしてしまった。
世界はジャイアンに辟易しているのだ
さらに、その後の「経済制裁」は、まさに昨年6月24日公開「ナポレオン大陸封鎖令の大ブーメランに学ぶ経済制裁で自滅する歴史」のデジャブである。このおかげで「2023年、『確率50%』の5大予測-米景気崖落ち、EU分裂、ウクライナ敗戦、バイデン不出馬、習近平暴発で台湾有事」の「2. ユーロ崩壊、EU分裂」が益々現実味を帯びている。
これらの愚策は、露中接近だけではなく、インドも含めた昨年3月29日公開「まさかRIC=露印中が大同団結? 『第2次冷戦』の世界の本音とは」という恐ろしい事態を引き起こしかねない。さらには、OPECの盟主サウジアラビアと米国の関係も微妙になっている。
世界中の多くの国々が、昨年5月29日公開「戦争と米国の存在感の時代こそ日本は『のび太+ドラえもん』で行こう」で述べた米国のジャイアンのようなふるまいに怒っているのだ。
さらに、習近平氏とプーチン氏が昨年12月30日にオンライン会談を行った。両首脳の会談は、同9月15日にウズベキスタンのサマルカンドで行った対面会談以来だ。
中露の間の意思疎通は、バイデン民主党政権の愚かな政策のおかげで、残念ながら極めて風通しが良いものになった。「敵の敵は味方」であると思わせてしまったのだ。両者の会談では、当然ウクライナ戦争と台湾有事について話し合いが行われたであろう。
中国とロシアが手を組んで「対米共闘」を行えば、かなりの力になる。
ウクライナ侵攻はあくまで「他国」への侵略と国際社会でとらえられている。しかし、1971年のアルバニア決議案によってすでに、「中国」の代表は共産主義中国であると国連を含めた国際社会が認めてしまっている。
昨年12月12日公開「与しやすいバイデンがいる間に〜習近平の台湾侵攻が2023年の理由」5ページ目「結局、中国は『内政問題』と突っぱねる!?」と予想されるので、米国は国連を始めとする国際社会への「大義名分」という点でも弱い。
実際、例えば慶應義塾大学経済学部教授・八嶋由香利氏の「カタルーニャ独立問題」や英国の北アイルランド問題などの火種を欧米を含む多くの国々が抱えている。
RICとOPECプラス
露中接近は、単純に2つの国だけの問題だけではない。例えば、ロシアはOPECプラスの一員である。
サウジアラビアなどの中東諸国は、米国の「イスラエル優遇政策」などから歴史的に反米感情が根強い。さらには世界史の中でも最大級の蛮行である「十字(虐殺)軍」のことを中東の人々は忘れてはいない。はるか昔のことではあるが、被害者は受けた仕打ちを忘れないものだ。したがって、冷戦時代、憎き欧米と対峙したソ連の流れを引き継ぐロシアは彼らの好感度が高い。
逆に、日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を破った東郷平八郎の人気は海外、特にロシアから圧迫を受けていたトルコ(オスマン帝国)で高い。エルトゥールル号事件と並ぶ、彼らが親日である理由だ
さらに、アフリカやアジアの多くの国々も欧米の植民地にされ、昨年12月24日公開「世界の分離・独立、『自国民ファースト』の流れは止められない」3ページ目「苛烈だった植民地支配」を経験している。例えば、米国のかつての奴隷制度はその派生形にしか過ぎない。
国連の加盟国の中では、過去に欧米の植民地として蹂躙されたり米国のジャイアン的振る舞いを苦々しく思ったりしている国々が非常に多い。
しかもバイデン民主党政権は、金融制裁において中央銀行の資産にまで手を出すという愚行を犯してしまった。このことにより「米国は信用できない」という認識が広まり、ドルなどでの決済を排した「非米国経済圏」の構築が急速に進んでいる。
もちろん、この「非米国経済圏」をけん引するのは、世界第2位のGDPを誇る共産主義中国である。
それに対する米国は、1月4日公開「バイデン・ゼレンスキーはもう手詰まりか〜交戦中の訪米首脳会談の意味は」4ページ目「ベトナム戦争当時よりも弱っている米国」と言う状況だ。
そのように下り坂で世界中から嫌われている米国だけを、台湾有事を含めた「日本の安全保障の要」として考えたままでよいのであろうか? 
台湾有事はウクライナ戦争とはけた違いの危機
私がかねてから恐れているのは、「米国を上回る核弾頭を保有するロシア」と「GDP世界第2位の大国である中国」が結束することである。日本だけではなく世界の安全保障に関する重大な脅威だ。
例えば、北方領土(本来は日本の領土)南端である歯舞群島の貝殻島から根室半島の納沙布岬までの距離がたったの3.7kmである、ロシアが関わるウクライナ戦争も見過ごせない脅威である。だが、現在戦場となっているウクライナから日本は遠く離れている。
それに対して、与那国島と台湾の距離は111キロしかない。F-15戦闘機の最大速度で飛べば2〜3分の距離に過ぎないのだ。台湾が戦場となることが、どれほど日本の安全保障を脅かすのかがよくわかる。
さらに、「大原浩の逆説チャンネル<第2回・特別版>安倍元首相暗殺事件と迫りくるインフレ、年金・保険破綻」で触れたように、昨年7月8日に安倍元首相が卑劣な手段で暗殺された。
台湾有事の際に、安倍晋三氏が首相あるいは影響力のある政治家として存在していることは習近平政権にとって大きな障害であったはずであるから胸をなでおろしたであろう。
岸田文雄首相であれば、赤子の手を捻るのも同然だ。さらに、米国ではいまだに疑念が燻る2020年の大統領選挙でトランプ氏の再選が阻止された。
西側陣営の外交にとって、この2人を失った事実は大きく、バイデン大統領や岸田首相では、到底その穴埋めをできない。逆に言えば、優れたリーダー不在の西側は、習近平氏やプーチン氏に対して前記「与しやすいバイデンがいる間に〜習近平の台湾侵攻が2023年の理由」で述べたような「攻め込むための未曽有のチャンス」を提供していることになる。
しかも、前記記事冒頭で述べたように、選挙での惨敗の責任をとって蔡英文氏が党主席辞任を表明している。
米国に「おんぶにだっこ」はやめよう
ウクライナはかつて核保有国であったが、1996年に米英露の圧力に抗しきれずに核を放棄した(詳細は前記「プーチンは米国を見透かしていた? ウクライナの悲劇はだれの責任か」5ページ目「核の抑止力」参照)。だが、現状を見れば、その時の米英を含む大国の「ウクライナを守る」という約束は果たされていないと言える。核戦争を回避するために直接参戦を回避しているのは明らかだ。
日本はこれまで米国の「核の傘」に守られていると信じていたが、果たしてどうであろうか? 
台湾、尖閣、さらには沖縄が侵略された時に米国は「核の傘」で守ってくれるであろうか? 1月7日公開「岸田首相が防衛費を増税で賄うことを推し進める背景に米国の『相手に手を出させる』いつもの『お家芸』が」6ページ目「日本のどこまでが防衛ラインか」の状況を考えると、沖縄でさえ米軍の守備範囲から離れつつあるように思える。
現代の戦争において「核兵器」は、「実際には使えないかもしれないが極めて重要な装備」である。北朝鮮は、大みそかに続いて元旦にもミサイルを発射した。あまりにもミサイル発射が繰り返されるので日本国民は不感症になってしまっているが、それこそが敵の狙いである。この多数のミサイルの打ち上げ費用はどうしているのか? 台湾侵攻を狙う隣国から何らかの「援助」があると考えても不自然ではない。
また、北朝鮮は、今年の目標に「戦術核兵器」の大量生産を掲げた。日本はそれを手をこまねいて見ているべきなのだろうか? 
「核の抑止力」という防衛手段を持たない日本が、ロシア、中国、北朝鮮という核保有国に囲まれているのである。岸田政権が高らかに宣言した(通常兵器の)防衛費の増額だけでは日本は守れない。
残念ながら、現代の戦争は「核兵器」なくしては語れない。「核の抑止力」を手に入れてこそ、「日本の防衛」が完成するのである。
●露、モスクワ市内に対空防衛システム設置か 1/21
ロシア国防省が、モスクワ市内の複数箇所にミサイルなどの撃墜が可能な対空防衛システムを設置したと、ロシアの独立系メディアが報じました。
20日、モスクワの国防省庁舎の屋上に、対空防衛システムとみられるものが設置されています。去年の映像には映っていませんでした。
ロシアの独立メディア「ビヨルストカ」などによりますと、対空防衛システムの「パンツィリS1」が、国防省など市内3か所とプーチン大統領の公邸がある郊外の村に設置されたということです。また、モスクワ市内には、地対空ミサイル「S400」も2基配備されたとしています。
この報道について大統領府のペスコフ報道官は、「国防省は、国と首都の安全に責任を持っている」と答え、間接的に認めています。
去年12月、モスクワから200キロにある空軍基地が、ウクライナ側によるとみられるドローン攻撃を受けたことで、首都の防空網の強化を図っている可能性があります。
●ロシア軍がウクライナに最新型戦車「T-14」を投入できない理由 1/21
Newsweek日本版は1月10日、「ロシアの最新鋭戦闘機は怖くてウクライナ上空に飛べない──英国防省」との記事を配信した。記事のタイトルから、ある程度の内容は推察できるが、軍事ジャーナリストは「陸上の戦闘でも同じことが起きています」と指摘する。
陸上戦で何が起きているのかを解説する前に、まずはNewsweekの報道を確認しておこう。担当記者が言う。
「Newsweekの記事は、イギリス国防省が発表した最新の報告書を元に、ロシアの戦闘機Su-57について報じています。同省はSu-57を《ロシア最新鋭の第5世代超音速ジェット戦闘機》と位置づけ、ロシアにとっては“虎の子の最新戦闘機”であるため、撃墜のリスクを恐れてウクライナ戦争では使用できないというジレンマを指摘したのです」
軍事ジャーナリストは「同じことは陸戦でも起きています。ロシア軍は“虎の子の最新戦車”の出撃を躊躇しているようなのです」と言う。
「ウクライナ戦争の緒戦では、ロシア軍の戦車部隊は1992年に正式採用されたT-90が中心でした。ところが予想外の激しい抵抗を受け、甚大な被害が出たのです。2015年にデビューした最新鋭のT−14は生産台数が充分ではないため、少数を早い段階で投入すると思われていました。ところがロシア軍は、1961年に試作品が完成したT-62を最前線に送ったのです。世界中の軍事関係者やジャーナリストが、『あんな骨董品がまだ残っていたのか』と驚きました」
戦車部隊の大損害
オランダの軍事情報サイト「Oryx」は、SNSなどに公開された画像や動画からロシア軍とウクライナ軍の損害を計算し、発表している。
デイリー新潮は2022年10月、「ロシア兵は戦場から自転車でトンズラ…じつはロシアがウクライナの最大の武器支援国という真実」という記事を配信した。
この時、Oryxは《ロシア軍の戦車1280両のうち、734両が破壊》、《ウクライナ軍に鹵獲されたものは442両》と発表していた。鹵獲(ろかく)とは《敵の軍用品・兵器などを奪い取ること》(デジタル大辞泉)という意味だ。
では最新の数字をチェックしておこう。1月18日にOryxを閲覧すると、《ロシア軍の戦車1619両のうち、951両が破壊》、《鹵獲されたものは536両》との調査結果が掲載されていた。確実に数字が増えていることが分かる。
「ロシア軍の戦車部隊が敗北を重ねていることが分かります。にもかかわらず、最新型のT-14は投入されていません。NATO(北大西洋条約機構)陣営のイギリスは、チャレンジャー2のウクライナ軍への供与を決めました。西側が主力戦車の投入を発表したのですから、ロシアは今こそT-14を投入すべです。T-14が“ゲームチェンジャー”になり得る可能性もあるのです。それでもロシア軍がためらっているのは、Su-57と同じ理由だと考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)
高性能のT-14
T-90は「びっくり箱」という不名誉なあだ名がつけられている。回転式砲塔の内部に多数の弾薬を搭載しているため、攻撃を受けると誘爆しやすく、大爆発が起きると砲塔部分が「びっくり箱」の中身のように飛び出してしまう。
「T-14は、この『びっくり箱』を防止する設計になっています。砲塔部分は無人で、3人の戦車兵が入るスペースはカプセルで守られています。最大出力も最高速度もT-90を上回り、125mm戦車砲からは長射程のミサイルを発射することも可能です。同時期に発表された自走砲や兵員輸送車と車体プラットフォームを共用しており、いわゆる戦闘車体のファミリー化も実現しました。まさにロシア軍が心血を注いだ最新鋭の戦車なのです」(同・軍事ジャーナリスト)
T-14は2015年の「モスクワ戦勝記念日パレード」で初めて公開されたのだが、西側諸国には当初、発表された高性能を疑う声すらあったという。
「国威発揚のためのニセ兵器で、パレードに登場した戦車もハリボテではないのかという推測もあったほどです。しばらくすると実在する戦車だと分かりましたが、ロシア軍はずっとT-14を“ベール”で隠してきました。機密保持という目的もありますが、『かなり高性能の戦車らしい』という一種の神格化も狙っていたと考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)
“プレゼント”の危険性
T-14の投入をロシア軍が躊躇するのは、「無能な戦車兵」の存在も大きいという。Oryxの調査から浮かび上がるのは戦車の損失だけではない。それを動かす戦車兵にも多数の犠牲が出ていることが考えられる。
「ベテランの戦車兵が不足していることは明らかです。いくら最新型の戦車でも、経験の浅い戦車兵が使えば“豚に真珠”でしょう。おまけにロシア軍は、400両を超える戦車をウクライナ軍に鹵獲されるという大失態を犯しています。通常、戦車が敵軍に奪われる可能性が生じたら、なるべく自分たちで破壊するというのが戦場のセオリーです」(同・軍事ジャーナリスト)
専門家でさえ首を傾げるのは、ロシア軍の兵士は緒戦の時点から戦車を乗り捨てる傾向があったことだ。
簡単な修理で動くどころか、無傷の戦車さえ少なくなかったという。しかも、戦車を操縦していたのは熟練兵が中心だった。にもかかわらず、破壊を試みることはなく、みすみすウクライナ軍に“プレゼント”してしまった。
「経験不足の戦車兵となれば、鹵獲のリスクはさらに上昇するでしょう。最新のT-14で出撃させ、これまでと同じように無傷でウクライナ軍に鹵獲されてしまえば、最高の軍事機密をみすみす西側諸国に公開することになってしまいます」(同・軍事ジャーナリスト)
世界中が注視
戦争だけでなく、経済の視点からも懸念があるという。T-14を最前線に投入すると、“戦後のロシア経済”に致命的なダメージを与える可能性があるというのだ。
「軍事産業はロシアの基幹産業の一つです。中でも戦車は、その商品価値が評価され、中東や中南米、アフリカ、東南アジアなどへの輸出実績を重ねてきました。ロシアはT-90を看板商品と位置づけ、セールスに注力してきたのです」(同・軍事ジャーナリスト)
T-90を売るために、ロシアはプライドすら捨て去った。「他国の部品と交換してもOKです」という方針を明らかにしていたのだ。
「『もしロシア製の電装品が信用できないのなら、フランス製やイスラエル製の電装品と交換しても大丈夫』とPRしていたのです。そこまで譲歩して、1台でも売ろうと努力を重ねてきました。ところがウクライナ戦争でT-90の大敗が明らかになり、兵器マーケットでの商品価値が大暴落してしまったのです」(同・軍事ジャーナリスト)
ウクライナ戦争に勝とうが負けようが、いつか必ず“戦後”は訪れる。ロシアは戦時体制をやめて、通常の経済活動を復活させなければならない。
「うかつにT-14をウクライナ戦争に投入し、T-90と同じように大敗したら、『大切な戦車だから輸出せず、自国防衛に充てる』と考えていたT-14ですら、マーケットでの価値は暴落します。T-90だけでなくT-14も商品価値がゼロになってしまうとなれば、もう売る兵器はなくなってしまいます。ロシアの軍事産業は壊滅の危機に瀕するでしょう。今後、ロシア軍はT-14を戦場に投入するか否か、世界の軍事関係者が注目しています」(同・軍事ジャーナリスト)  
●ウクライナ侵攻に抗議 在日ロシア人ら “ストップ プーチン”  1/21
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、日本に住むロシア人らが都内で集会を開き、侵攻を続けるプーチン政権に対して抗議の声を上げました。
抗議集会は、日本に住むロシア人のグループがSNSなどで呼びかけて開いたもので、JR渋谷駅前にはおよそ20人が集まりました。
参加者たちは「戦争反対」などと書かれたプラカードや、侵攻に反対する運動のシンボルとなっている白・青・白の旗を掲げて、抗議の意思を示しました。
そして「ウクライナに平和を」とか「ストップ、プーチン」などとシュプレヒコールをあげて、ロシア軍の一刻も早い撤退と侵攻の終結を訴えていました。
日本に5年住んでいるという女性は「市民が亡くなるのは本当に最低なことです。ロシア出身者として責任を感じていて、抗議の声をあげ続けるとともにウクライナの人たちを支援していきたい」と話していました。
また、日本でおよそ6年働いているという男性は「ロシア国内では当局の取締りにより抗議行動がやりにくくなってきている。こうした人たちのためにも自分たちが訴えていきたい」と話していました。
●ゼレンスキー大統領…「プーチン生存を確信できない」爆弾発言 1/21
ウクライナのゼレンスキー大統領がプーチン露大統領について「まだ生きているとは確信できない」と述べた。
20日(現地時間)のキーウインディペンデント、ビジネスインサイダーなどによると、ゼレンスキー大統領は19日、スイスで開催中の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)にオンラインで参加し、「ウクライナはロシアと平和交渉ができるのか」という質問にこのように答えた。ゼレンスキー大統領はこの日、プーチン大統領の健康異常説を強調するような発言を続けた。
ゼレンスキー大統領は「私は彼(プーチン大統領)がまだ生きているのか、特に意思決定をする人が彼なのか、または誰が意思決定をするのか、どんなグループの人たちが意思決定をするのか知らない」と述べた。続いて「ロシアから誰が対話のパートナーとして出てくるのか分からない」とし「私は(ロシアメディアに登場する)その人がプーチンなのかよく分からない」と主張した。
ゼレンスキー大統領は背景など映像の一部を任意に変えるクロマキー技術にまで言及し、プーチン大統領の生存に関する疑問を表した。キーウインディペンデントによると、ゼレンスキー大統領は「誰と何について話をすべきかも分からない。私は時々、クロマキー画面を通じて登場するという疑惑があるロシア大統領が本当にその人なのか分からない」と語った。
ゼレンスキー大統領が言及したプーチン大統領のクロマキー合成論争は、昨年3月に米オンラインコミュニティーReddit(レディット)で初めて提起された。作成者は低解像度で録画されたプーチン大統領の会議場面を載せ、シルエットにクロマキーの緑の背景が映ると主張した。プーチン大統領が実際の会議の現場には出席せず、合成を通して登場したということだ。
しかし高解像度の映像からは特に問題点は見つかっていない。レディットもこの掲示物が誤った情報を広めたとして削除した。
現在までプーチン大統領が死亡したと考えられるほどの明確な証拠は発見されていない。ビジネスインサイダーはゼレンスキー大統領の発言がプーチン大統領が主要政策決定に参加していないようで批判しようとしたのか、本当にプーチン大統領の死亡説を示唆するためのものか不明だと説明した。
一方、ロシア大統領府はプーチン大統領の健康異常説が浮上するたびにこれを全面的に反論した。18日にはプーチン大統領がサンクトペテルブルクの第2次世界大戦記念碑を訪問するなど日程4件を消化したとし、写真を公開した。
ただ、大統領府はこの日、プーチン大統領の氷水浴写真を非公開とし、健康不安説は続く雰囲気だ。プーチン大統領は健在を誇示するように毎年、上着を脱いで氷水浴をする写真を公開してきた。この日、ロシア大統領室はロシア衛星通信社を通じて「19日午前、プーチン大統領が正教会の公現祭の行事のためモスクワで氷水浴をした」という事実だけを伝えた。
●ウクライナ、ドイツと戦車供与めぐり「率直な議論」交わす 1/21
ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は20日、同国がロシア軍に対抗するために緊急に供与要請しているドイツ製戦車「レオパルト2」について、ドイツ側と「率直な議論」を行ったと明らかにした。
ドイツにある米軍のラムシュタイン空軍基地では20日、アメリカなど西側諸国の代表による、ウクライナへの軍事支援に関する会合が開かれた。
会合では、ウクライナに装甲車や防空システム、弾薬を追加供与することで合意した。
ウクライナはドイツ以外の多くの北大西洋条約機構(NATO)加盟国から、兵器を確保できることになる。
レズニコフ国防相は会合後、「我々はレオパルト2について率直な議論を行った。今後も議論は続く」と述べた。
現時点ではポーランドとフィンランドが、所有するレオパルト戦車をウクライナに供与すると表明している。ただ、実行するには製造国ドイツの承認が必要。
ドイツ政府は、レオパルト戦車をウクライナへ供与するか、第三国が供与するのを認めるよう、国内外から圧力を受けているが、これまでのところいずれの判断も示していない。
レオパルト2はウクライナにとって、形勢逆転につながる「ゲームチェンジャー」になる可能性があると考えられている。整備が容易なのに加え、ウクライナ侵攻に投入されているロシアのT-90戦車への対抗手段として、特別に設計されているためだ。
ドイツのボリス・ピストリウス国防相は、レオパルト戦車の供与をめぐって意見が分かれているとし、独政府がそうした動きを妨げているわけではないとした。
ドイツの輸出法では、同戦車の供与を表明しているポーランドやフィンランドなどの国々は、独政府の許可が出ない限り実際に供与することはできない。
「決断を下さなければならない」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はNATOのパートナー国の軍事支援を称賛しつつ、「近代的な戦車を供給してもらうためにはまだ戦わなければならないだろう」と述べた。
「代替手段はない。そして戦車について決断を下さなければならない。これを我々は連日、より明白に示している」
ウクライナが現在使用する戦車のほとんどは旧ソ連型で、その数や火力でロシア軍に劣っている。
欧州各地の倉庫には2000台以上のレオパルトが保管されている。ゼレンスキー大統領は、そのうち約300台がロシアを倒すのに役立つと考えている。
ドイツのピストリウス国防相は、独政府は同盟国間で合意に至った場合に迅速に行動できるよう準備をしているとしたが、戦車に関する決定がいつ下るのかは分からないと述べた。
ドイツはかつて、紛争地に武器を送らないという政策をとっていたが、昨年2月にロシアのウクライナ侵攻を受けてそれが一変した。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は昨年末、ドイツは現在、大砲や防空システム、マルダー歩兵戦闘車などを供給し、「ウクライナに最も多くの軍事的、財政的および人道的支援を提供している同盟国の1つ」となっていると述べた。
ただ、レオパルト戦車については、アメリカの強力なM1エイブラムス戦車を含む、より幅広いNATOの支援パッケージの一部として供与することが望ましいとして、難色を示している。アメリカ側は、エイブラムス戦車はメンテナンスが難しくコストもかかるため、ウクライナ軍には実用的でないとして供与を拒否している。
ドイツに戦車を供与させるため、アメリカに戦車を送るよう圧力をかける動きもある。
ロイド・オースティン米国防長官は、独政府はアメリカが先に動くのを待っているわけではないとし、「私の考えでは、ロックを解除するという概念が問題なのではない」と述べた。
ドイツも第2次世界大戦でのナチス時代の惨状にとらわれており、オラフ・ショルツ独首相はウクライナでの状況のエスカレーションに関わることには慎重だと考えられている。
独野党・キリスト教民主同盟(CDU)のヨハン・ヴァーデプール氏は、レオパルトに関する政府の「拒否政策」はドイツの国際的評判に影響を及ぼすと非難。「ショルツは何を待っているのか」と述べた。
ポーランドのズビグニェフ・ラウ外相も、ドイツの消極的な姿勢を批判した。
「ロシアの侵略を撃退するためにウクライナを武装することは、ある種の意思決定作業ではない。実際にウクライナ人の血が流れている。レオパルトの供与をためらったことの代償だ。我々はいま行動を起こす必要がある」と、ラウ外相はツイートした。
西側諸国は他の兵器支援に数十億ドルを投入している。しかし、戦車へのドイツのコミットメントがなければ、ウクライナが期待する結果にはつながらない。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 21日の動き 1/21
バルト三国外相が一斉にドイツに戦車供与求める
ドイツがドイツ製戦車「レオパルト2」のウクライナへの供与について判断を先延ばしにするなか、バルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアの外相は21日、ツイッターでドイツに対しただちに供与するよう一斉に求めました。3か国の外相が同じ内容の文章をほぼ同じ時刻にツイッターに投稿する形で「ロシアの侵略を止め、ウクライナを支援し、ヨーロッパに早く平和を取り戻すために必要だ」と指摘し、ドイツに供与を求めています。
“3つの前線で一進一退の激しい攻防” イギリス国防省
イギリス国防省は21日、ウクライナの主に3つの前線で一進一退の激しい攻防が続き、全体として戦況はこう着状態にあるという分析を示しました。このうち東部ルハンシク州のロシア側が支配するクレミンナでは、ウクライナ軍が奪還に向けて前進する動きがみられ、南部ザポリージャ州では双方が部隊を集結させ、砲撃が行われたとしています。一方、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点のひとつバフムトの攻防については「ロシア軍と民間軍事会社ワグネルは近郊の町ソレダールを掌握したあと部隊を再編していて、バフムト周辺ではロシア側が前進する可能性がある」と指摘しています。
“北朝鮮がロシアの軍事会社に兵器を提供” 米ホワイトハウス
アメリカ・ホワイトハウスは20日、北朝鮮がロシアの民間軍事会社、ワグネルにウクライナで使用する兵器を提供していると非難したうえで、兵器を積んだとする貨物列車を捉えた衛星写真を公開しました。公開されたのは去年11月18日に撮影された2枚の写真で、ロシアの貨物列車だとする5両編成の車両が写っています。このうち1枚は両国の国境のロシア側、もう1枚は北朝鮮側を撮影したものだとしています。ホワイトハウスは去年12月、ワグネルが北朝鮮から歩兵用のロケット弾やミサイルを調達していると非難していて、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は20日の会見で、写真に写っている列車にこうした武器が積まれているという見解を示しています。そのうえで、現時点では輸出された武器は戦況を大きく変える規模ではないとしています。また、ワグネルがウクライナなどで残虐行為や人権侵害を続けているとして、国際的な犯罪組織に指定し、制裁を科すことも明らかにしました。
ドイツに避難 ウクライナ人がデモ “ドイツ政府は戦車の供与を”
ウクライナへの軍事支援についての会合に合わせ、ドイツの首相官邸の前では20日夜、ドイツに避難している数十人のウクライナ人や支援者などが集まり、ドイツ政府に戦車の供与を決断するよう求めました。多くの参加者がウクライナ国旗を身につけ、ドイツ製戦車の「レオパルト2を提供しろ」と声をあげたり「ロシアをウクライナから追い出せ」などと書かれたプラカードを掲げたりしていました。デモに参加したドイツ人の女性は「戦争で勝つため、ひどい戦争を終わらせるためにウクライナが必要な武器をまだ入手できないことに失望している。もっと戦車が必要だ」と話していました。
ゼレンスキー大統領 「戦車を供与以外の選択肢ない」
欧米各国によるウクライナへの軍事支援の会合についてウクライナのゼレンスキー大統領は20日、公開した動画で「今回話し合われたことが、われわれの力を強化すると結論づけることができる。われわれの勝利のために必要なかぎりウクライナを支援するというパートナーたちの姿勢は確固たるものだ」と一定の評価を示しました。一方で「最新の戦車を供与してもらうために、われわれはまだ闘わなければならないが、戦車に関する決断を下す以外の選択肢がないことは日々、明らかになっている」と述べ、会合でドイツ製戦車の供与について結論が出なかったことを踏まえ、改めて戦車の供与の重要性を強調しました。
米軍制服組トップ「ことし中にロシア軍を追い出すことは困難」
アメリカ軍の制服組トップ、ミリー統合参謀本部議長は20日、ドイツでの会合のあと記者会見し、ウクライナ国内で激しい戦闘が続いているとしたうえで「ロシアが占拠したウクライナの地域には多くのロシア軍が残っている。ことし中にウクライナからロシア軍を軍事的に完全に追い出すことは非常に困難だ」と指摘しました。そして、ミリー氏は「前線で安定した防衛を続けることはできる。ウクライナが領土をできるだけ多く解放するため大規模な攻撃作戦を展開することも可能だ」と述べました。また、ミリー氏はロシア側の死傷者数は10万人を大幅に超える一方、ウクライナ側も市民が多く犠牲になっていると指摘し「遅かれ早かれ、どこかの時点で事態を収束させるため交渉を行う必要がある」と述べて最終的に外交を通じた解決が必要になるという認識を示しました。
ロシア国内でウクライナの犠牲者を追悼する動き
ウクライナ東部のドニプロで今月14日、9階建てのアパートがロシア軍によるミサイル攻撃を受け、子どもを含む40人以上が亡くなったことを受けて、犠牲者を追悼する動きがロシア国内でも出ています。このうちロシア第2の都市で、プーチン大統領の出身地サンクトペテルブルクでは、ウクライナの国民的な詩人シェフチェンコの像に多くの花やぬいぐるみが手向けられ、ロイター通信が配信した映像では、リボンにロシア語で「ごめんなさい」と書かれています。追悼に訪れた男性は「犠牲者はごく普通の人たちだった。大統領に聞きたい。なぜこのようなことが起きるのか」と述べ、プーチン大統領への怒りをあらわにしていました。首都モスクワでも市民が追悼する姿が見られましたが、ロシアの人権団体は、警察がこうした人たちを拘束したと伝えていて、国内で反戦の動きが広がることに政権側が神経をとがらせている様子もうかがえます。ドニプロで起きた惨事について地元の州知事は19日、亡くなった人が46人に増えたほか、11人の行方が依然として分かっていないとSNSで明らかにしました。
IAEA ウクライナ国内の全原発に専門家が常駐へ
IAEA=国際原子力機関は20日、グロッシ事務局長が19日にウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領やシュミハリ首相と会談したと発表しました。IAEAは去年9月以降、ロシア軍が占拠を続けるウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所に専門家を常駐させていますが、IAEAによりますと、今週、さらにリウネ、南ウクライナ、そして廃炉作業が続くチョルノービリの原発でそれぞれ2人の専門家の常駐が始まったと明らかにしました。また、西部にあるフメリニツキー原発にも数日以内に専門家が派遣され、これでウクライナ国内のすべての原発に専門家が常駐されるとしていて、グロッシ事務局長は「ウクライナ全域で深刻な核事故を防ぐためのIAEAの現場支援が大幅に拡大した。重要な一歩を踏み出した」と強調しました。一方、戦闘が続き、安全性への懸念が広がっているザポリージャ原発をめぐり、IAEAは原発周辺を安全が確保された区域に設定するため、ウクライナとロシアの双方と協議を続けていますが、グロッシ事務局長は「非常に複雑な交渉だ。実現するまで、ウクライナとロシアと集中的な協議を続けていく」としています。これについて、ロシア大統領府は20日「プーチン大統領がグロッシ事務局長と会う予定は現時点でない。外交官や原子力企業ロスアトムが対応する」としています。
●米軍制服組トップ「今年中に全てのロシア軍を追い出すのは困難」… 1/21
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は20日、ドイツでの記者会見で、ウクライナでのロシアによる占領地域について、「軍事的に、今年中に全てのロシア軍を追い出すのは非常に困難だ」と述べ、領土の奪還にはさらなる長期戦が避けられないとの認識を示した。
侵略に伴うロシア軍の死傷者数については、雇い兵らを含め「10万人をはるかに超えている」との見方を示した。

 

●欧米諸国、武器供与で温度差=戦車の合意見送り―ウクライナ支援会議  1/22
20日にドイツ南西部ラムシュタイン米空軍基地で開かれたウクライナ軍事支援会議では、参加した欧米諸国を中心に50カ国超が今後も団結して支援を加速させる方針を確認した。しかし、ウクライナが本命視していたドイツ製主力戦車「レオパルト2」の供与では合意が見送られた。ロシアによるウクライナ侵攻は来月で1年を迎えるが、支援の度合いを巡り温度差が生じ始めている。
独、軍事的責任負えず
ピストリウス独国防相は20日、レオパルト供与の決定について「ドイツだけが邪魔をしているという印象は誤りだ」と述べ、他の支援国の中にも異論があることを示唆した。供与に向けた協議が継続されるが、具体的な決定の時期などは示されていない。
ショルツ独首相は、供与の決定には米国の後押しが必要との意向を示してきた。レオパルト投入で戦局に響きロシアの矛先が北大西洋条約機構(NATO)に向かうことを警戒しており、米国を巻き込んでけん制する狙いがあったもようだ。ドイツ自体も米国の「核の傘」に守られており、軍事的な責任を負いきれない側面もある。
米国は独側にレオパルト供与を勧めつつ、「ドイツが独立して決めることだ」(米軍)と深入りは避けた。ロシアが対応をエスカレートさせるのを回避したい考えは米国も同じだ。
一方、ウクライナと国境を接し、ロシアの脅威にさらされるポーランドは前のめりだ。本来必要とされるドイツの承認なしに自国のレオパルト2を引き渡す考えを示唆した。AFP通信によると、ブワシュチャク国防相は20日、15カ国がレオパルト供与の実現に向けた連携を協議したと明かし、ドイツへの圧力を強めた。
停戦への思惑も
ウクライナの戦況はこう着状態が続いているが、東部の激戦地では多数の犠牲者が出ており、ミサイル攻撃で市民への被害も相次いでいる。ゼレンスキー大統領は20日夜の声明で、「戦車について決定を下す他に選択肢がないことは、日に日に明白になっている」と決断を促した。
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は20日、支援国による武器の追加供与や訓練の提供を踏まえて「前線の守備が安定する可能性は大いにある」としつつも、年内に軍事力で圧倒することは「極めて難しい」と認めた。
年明け早々にフランスが「軽戦車」供与を表明したことを皮切りに、主要国はこれまで供給してこなかった米欧製の戦闘車などの提供を相次ぎ決めた。だが、ウクライナが強く求めてきた主力戦車は英国の14台にとどまり、長射程ミサイルについては供与を表明した国はなかった。支援国はロシアとの全面衝突を避けつつ、ウクライナを優位に立たせた上で停戦に持ち込みたい思惑があるとみられ、難しい調整を迫られている。 
●「レオパルト2」供与めぐり関係国の駆け引き激化か 1/22
ウクライナへの軍事支援をめぐり、ドイツ政府は20日、ウクライナが供与を求め、焦点となっていたドイツ製戦車「レオパルト2」について供与するかどうかの判断を先延ばしにしました。
これに対し、21日、ウクライナのポドリャク大統領府顧問がツイッターで「優柔不断さは、より多くの人々の殺害につながる」と投稿し、一刻も早く戦車の供与に踏み切るよう促しました。
また、バルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアの3か国の外相は21日、同じ内容の文章をほぼ同じ時刻にツイッターに投稿する形で「ロシアの侵略を止め、ウクライナを支援し、ヨーロッパに早く平和を取り戻すために必要だ」と指摘し、ドイツに供与を求めています。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は20日、欧米側のウクライナへの軍事支援はさらなる緊張の拡大を招くと批判したうえで、戦車の供与については「ロシアが軍事作戦の目標を達成するうえで何の変化ももたらさない」と主張しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は20日、「クレムリンは緊張の拡大を持ち出して、軍事支援について欧米側の意欲を弱体化させようとしている」として、戦車の供与を議論する欧米諸国に対し、今後も情報戦を仕掛けていくとの見方を示していて、関係国の駆け引きが激しくなるとみられます。
●地下室の夫婦たち ウクライナ侵攻で深まる絆、時にあつれきも 1/22
ウクライナ東部ドンバス地方では、戦闘と厳しい寒さから、多くの夫婦たちは長い時間を狭い地下室の中で共に過ごさざるを得ない状況に置かれている。これにより絆が深まる人もいれば、関係がぎくしゃくする人もいる。
オレクサンドル・ムレネツさん(68)と妻リュドミラさん(66)は侵攻以降、1日に2人で過ごす時間が、40年の結婚生活の中で最も長くなっており、あつれきが生じ始めている。
ある朝、リュドミラさんが自家製ウォッカを作る際に必要な水の量を説明していると、ムレネツさんが「お前はしゃべり過ぎだ」とちゃちゃを入れた。
こうしたいさかいは、採鉱の町シベルスクのアパートの狭い地下室に10か月も閉じこもるうちに日課になってしまった。かつて前線だったシベルスクは、激しい砲撃で町の面影がほぼ消え失せ、現在でも昼夜を問わず砲撃の衝撃音で窓が鳴る。
侵攻以前は鉄道車両の修理工として働いていたムレネツさんは「以前は2人とも出勤して、顔を合わせるのは夜だけだった。今では口げんかが増えた」と話した。「ときどき『黙れ』と言うが、黙らないんだ」とうんざりした様子。
複数回にわたりシベルスク制圧を試み、失敗したロシア軍は昨年夏、町にミサイル、ロケット攻撃を浴びせ続けた。
ウクライナ軍はロシア軍を押し返す事に成功したが、町の民家や学校、工場は廃虚と化し、侵攻前に1万2000人いた住民もほとんどが去った。
2人はいつミサイルが飛んでくるか分からない恐怖におびえながら、電話もなく、飲料水もほとんどない暮らしに耐えなければならない。熱源といえばまきを使うストーブだけだ。
冬の寒さが厳しくなると、リュドミラさんはSF小説に心の平穏を求めた。本を読んでいる間は夫と口論しなくて済むからだ。
リュドミラさんは天井を指しながら「わたしたちの部屋が近くて助かる」「簡単に他の本を取りに行ける」と話した。
「自分一人だったら耐えられなかった」
オレクサンドル・シレンコさんとタマラさん夫婦は、まきを割り、それを積み上げることをストレス解消法としている。まきはいくらでも必要だ。
それでも8か月も2人で地下室にこもっていれば影響はある。
シレンコさんは「最初はもちろん、ひたすら一緒にいることが苦痛だった。『毎日かゆを食べれば、数日後にはスープが欲しくなる』という格言があるように」と語った。
だが真剣な声で、タマラさんがいなければもっと悲惨な生活になっていただろうと言う。
「たとえ妻がずっと不平不満を漏らしているだけでも、少なくとも地下室に誰かがいる。そうでなければ、何も聞こえず、しゃべらず、じっとしているだけになる」
シレンコさんは毎日、糖尿病を患っているタマラさんのむくんだ足に包帯を巻く。シレンコさんは妻を介助できるのを誇りに思っているようだった。
「彼女は、自分が冗談ばかり言うやつだって知っている。戦争中でもそうでなくても、誰にでも冗談を言う。(妻を)落ち込ませたりはしない」
タマラさんも「自分一人だったら耐えられなかった」と同意した。
口論になる時はあるものの、夫婦のどちらかを亡くした人たちよりも自分たちははるかに幸運だと2人はうなずき合った。 
●ロシア“囚人兵”4万人投入…NATO軍事支援加速 1/22
ロシア国防省は18日、軍突撃分遣隊の志願兵が、ウクライナ東部ドネツク州バフムト近郊の集落・シル占領を発表した。バフムトでは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が数カ月にわたり、ウクライナ軍と消耗戦を展開する。今回のロシアによるシル制圧は、要衝バフムトを拠点とするウクライナ軍を包囲するための作戦と見られる。
英国防省は18日、ウクライナ軍が東部ドネツク州ソレダルから撤退し、西側に新たな防衛線を構築した可能性があるとの分析を示した。米安全保障会議のカービー報道官は20日、「両軍によるバフムト、ソレダルの争奪戦が継続しているが、ウクライナ軍は2つの町を放棄していない」とウクライナ撤退を否定する。
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の存在感が際立つ。今回のシル制圧などウクライナ激戦地の掌握を自ら公表する一方、創設者のプリゴジン氏は、ロシア劣勢の戦況をめぐり、軍幹部の批判を繰り返してきた。侵攻が長期化して消耗戦になる中、ロシア軍は作戦を続けるために「ワグネル」に依存する実情が明らかになっている。昨年10月、「ワグネル」は、プーチン大統領の故郷であるサンクトペテルブルグに本社を開設、法人化するなど表舞台の活動を展開する。
一方、米ホワイトハウスは20日、財務省が「ワグネル」を「国際犯罪組織」に指定したと公表すると同時に、北朝鮮による「ワグネル」への兵器提供の証拠となる衛星写真を公開した。米安全保障会議のカービー報道官は、「ワグネル」が4万人の囚人をウクライナに配備していることを指摘した上で、「ワグネル」の傭兵採用を巡り、難色を示すロシア国防省との間に、緊張関係があることを明らかにした。
米国防総省は19日、ウクライナ向けの25億ドル規模の追加軍事支援を発表した。装甲兵員輸送車「ストライカー」90台を供与する。「ストライカー」はイラク戦争で展開され、都市部での侵入困難な場所でも対応が可能となり、戦地での機動力が評価されている。
英国は地対空ミサイル「ブリムストーン」600発の供与を発表した。また、スウェーデンは、ロシアの侵略に対抗するため、「アーチャー自走榴弾砲」を提供することを明らかにする。
●露前大統領「大戦になれば勝つのは我々」 戦車供与巡り皮肉る 1/22
ロシアのメドベージェフ前大統領は21日、欧米諸国がウクライナへのドイツ製戦車供与を決められなかったことを皮肉るメッセージを通信アプリ「テレグラム」に投稿した。そのうえで「(欧米との)戦争が起これば、(ロシアにとって)新たな祖国防衛戦争となり、1812年や1945年のように勝つのは我々だ」と息巻いた。
ウクライナに兵器を支援してきた関係国は20日の会合でドイツ製戦車の供与について結論を出せなかったが、欧州連合(EU)のボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)は20日の記者会見で「いくつかの欧州の国々はウクライナに重戦車を供与する用意ができている」と述べた。
メドベージェフ氏はテレグラムで、この会見を念頭に「ボレルの生気のない表情は傑作だった」とやゆした。さらに帝政ロシアやソ連が、侵攻してきたナポレオン時代のフランスやナチス・ドイツを撃退した歴史に言及。「ウクライナのナチストや西欧はロシアと戦ってきた勢力の直接の後継者だ」として、新たな大戦に発展した場合でも自国が勝利すると書き込んだ。
ロシア首脳部や閣僚は欧米諸国がウクライナを背後で操っていると主張し、ナポレオンやヒトラーが自国に侵攻してきた歴史との類似性に繰り返し触れている。
ラブロフ露外相も18日の記者会見で、米国がロシア包囲網を築いていると指摘。そのうえで、ナチスがユダヤ人の撲滅を試みた「最終的解決」を持ち出し、「これはロシアに関する問題への『最終的解決』だ。ヒトラーもユダヤ人に関する問題を最終的に解決しようとした」と語った。タイムズ・オブ・イスラエル紙によると、イスラエル外務省は「現在起きている出来事とヒトラーの『最終的解決』を比較することは歴史の真実を損なわせる」と非難する声明を出した。
●ロシア無人機で偵察強化か ウクライナ軍はミサイル攻撃を警戒  1/22
ウクライナ軍は、軍事侵攻を続けるロシアが無人機を使った偵察活動を強めているという見方を示し、新たなミサイル攻撃の準備を進めているとみて警戒を強めています。
ウクライナ軍は22日、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点バフムトに向かってロシア軍が攻撃を繰り返しているという認識を示し、東部などで一進一退の攻防が続いているものとみられます。
また、ロシア側が無人機を使ってウクライナ側の軍事施設を偵察する活動を強めているという見方を示し、ロシア軍が重要インフラなどを狙った新たなミサイル攻撃の準備を進めているとみて警戒を強めています。
こうした中、ウクライナのレズニコフ国防相はイギリスが供与した軍用ヘリコプター「シー・キング」がウクライナ南部の黒海周辺に届いたと21日、SNSに投稿しました。
ウクライナの通信社によりますとあわせて3機が届けられ、主に捜索や救難などの任務にあたるということで、レズニコフ国防相は「両国は引き続き協力し、ともにヨーロッパ全体の海と陸を守っていく」と連帯を強調しました。
一方、ロシア議会下院のボロジン議長は22日、「ウクライナへの攻撃的な武器の提供は世界的な大惨事につながる」などとSNSに投稿し、戦車の供与を巡って議論が進む欧米各国をけん制しました。

 

●ロシア軍の“嘘の戦果報告”が次々発覚…“大本営発表”を続ける苦しい事情 1/23
ロシア軍はウクライナ戦争で数々の“あり得ない大戦果”を発表し、世界中の軍事専門家やメディアの失笑を買っている。例えば、YAHOO! ニュースのマイケル・ワイス記者は1月13日、皮肉たっぷりのツイートを投稿した。日本語に訳すと以下のような感じだろう。
《ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ報道官は、『ロシア軍はウクライナ国内で、すでに4両のブラッドレー歩兵戦闘車を破壊した』と発表した。これは実に並外れた戦果だろう。なぜなら、まだ戦闘車はウクライナに到着していないからだ》
1月9日には「BBC NEWS JAPAN」が、「ロシアがウクライナ兵600人を殺害と発表、ウクライナは『プロパガンダ』だと否定」との記事を配信した。担当記者が言う。
「ウクライナ軍は1月1日、ロシア軍の宿舎をHIMARSのロケットで攻撃しました。年越しのパーティーに興じていた徴集兵など約400人が戦死したと発表し、親ロシア派の軍事ブロガーもその信憑性を認めました。この報復としてロシア軍は8日、ウクライナ軍の宿舎をロケット攻撃し、600人を殺害したと発表しました。ところが、現地で取材をする複数の記者が、すぐに信憑性を疑う記事を配信したのです」
BBCも現地の様子を撮影した写真を配信した。大きな爆発が起きたことは確認できるが、《建物2棟がひどい爆撃を受けたことや、ロシアが主張するような規模の大量死があったという視覚的証拠はない》と伝えた。
ロシア軍の焦り
「ロシア軍の8日の発表は、実際にロケット攻撃で爆発が起きたことは事実です。一方、コナシェンコフ報道官の12日の発表は、そもそも戦闘車が存在しなかったわけです。ネットの発達でファクトチェックは迅速になりました。『なぜロシア軍は、すぐにウソだとバレる発表をするのだろう?』と誰もが首をひねっています」(同・記者)
軍事情報の総合ニュースサイト「ミリレポ」は1月14日、「ロシア国防省がウクライナにはまだ無いブラッドレー歩兵戦闘車の破壊を発表! 過去にもあった虚偽の戦果報告」の記事を配信した。
この記事ではロシア軍の虚偽発表として、他にも「44両のHIMARSを破壊したという嘘」と「ウクライナ空軍の兵力より多い撃墜数」の2点を指摘している。
軍事ジャーナリストは「戦史を紐解けば『敗色が濃厚な国は嘘の発表をすることが多い』という事実が浮かび上がります」と言う。
「旧日本軍の大本営発表はもとより、ベトナム戦争ではアメリカも事実と異なる発表を繰り返しました。ウクライナ戦争でロシア軍は多大な被害を出し、その焦りから嘘の戦果を発表しているのでしょう。ウクライナやNATO(北大西洋条約機構)諸国は冷静に事実と照らし合わせ、ロシア軍がどれくらい追い詰められているのか分析を重ねていると考えられます」
嘘が通用するロシア社会
ただし、戦いを有利に進めている国が常に正確な発表を行うとは限らない。戦果発表はまさに情報戦だ。劣勢の国だけでなく優勢の国も、戦果は大きく伝え、被害はなるべく隠す。
「ウクライナもロシアも“虚偽すれすれ”の発表を繰り返しています。ロシアの場合は、プーチン大統領の岩盤支持層に高齢者が多いことも大きな影響を与えていると考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシアの高齢者にはネットを使いこなせる者が少なく、欧米メディアの報道に触れる機会もほとんどない。そのため、ロシア軍の“大本営発表”を信じてくれる。少なくとも信じようとはしてくれる。
「ロシア軍は嘘がNATO側にバレるのを承知の上で、岩盤支持層である高齢者の戦意を高揚させるために虚偽の発表を繰り返しているに違いありません。現場では嘘の積み重ねで感覚が麻痺し、チェック機能が低下した結果、『存在しない戦闘車を破壊した』という赤っ恥の発表を行ってしまったのです」(同・軍事ジャーナリスト)
NATOがロシアの暴走を恐れ、ロシア領内には攻撃しないよう、ウクライナに釘を刺していることも重要だという。
「大多数のロシア国民にとってウクライナ戦争は、今も“対岸の火事”です。高齢者も口コミなどでロシア軍の劣勢を把握していて不思議はありません。それでも自分や子供、孫に被害が出なければ、虚偽発表に怒ることはないでしょう。ロシア国内が空襲でもされない限り、ロシア軍が嘘をつきやすい状況は続くはずです」(同・軍事ジャーナリスト)
目を背けたい現実
何より最も大きな理由として、もしロシア軍が真実を国民に発表すれば、国民が激しく動揺することが挙げられる。
「もしロシア軍が『実はウクライナ軍の激しい抵抗で、我々には深刻な被害が生じています』と公に認めたらどうなるでしょうか。国民は、これまでの不満を爆発させるはずです。一気に大規模な反戦デモ、反政府デモが発生し、プーチン政権の信頼度は地に墜ちます。最悪の場合は保守派と改革派で国内が内戦状態になるかもしれません」(同・軍事ジャーナリスト)
ウクライナで何が起きているのか──人によって差はあるだろうが──ロシア国民も様々な情報は得ている。だからこそ“嘘の大本営発表”が必要になってくるという。
「制服を着た偉い軍人が『我が軍は戦果を挙げています』と発表することで、ロシア国民がギリギリで踏みとどまっているという側面もあると思います。老若男女、誰だって自国が崩壊してしまうのは嫌でしょう。現実から目を背けるため嘘の戦果を必要としているのは、ロシア軍だけでなくロシア国民も同じなのです」(同・軍事ジャーナリスト)
●米独が主力戦車をウクライナに供与できない本当の理由 1/23
レオパルト2供与を躊躇する理由は何か
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの戦車支援をめぐって米国とドイツが正面衝突している。
ドイツ西部にあるラムシュタイン米空軍基地で1月20日、ロイド・オースティン米国防長官(軍人出身)などおよそ50か国の代表が参加して、ウクライナへの軍事支援について協議する会合が開かれた。
焦点となったのは、欧州各国が保有する攻撃力抜群のドイツ製戦車、「レオパルト2」(1両574万ドル=約7億4000万円)をドイツはじめ保有国がウクライナへ供与するかどうか、を決めることだった。
8回行われた会合でも結論は出なかった。
実は、ポーランドはすでに供与することを表明、フィンランドもドイツ政府の許可が得られれば、レオパルト2を供与するとしている。
レオパルト2は、ドイツ以外にポーランド、フィンランド、カナダなど15か国が保有しており、その数はあわせて2000両を超える*1。
*1=ドイツはこれまでレオパルト2を3600両製造し、328両保有、ポーランド347両、ギリシャ353両、スペイン327両、トルコ316両、フィンランド200車両などがそれぞれ保有している。
問題は、供与には製造国のドイツ政府の再輸出許可が必要で、ドイツが供与に踏み切るか、また、ほかの国の供与を認めるか、だ。
就任したばかりのドイツのボリス・ピストリウス国防相*2(中道左派・社会民主党、前内相)は1月20日時点では判断を先延ばしした。
*2=前任者のクリスティーン・ランブレヒト氏(社会民主党)は、ショルツ閣僚は男女同数にする「公約」で女性国防長官になったが、行政能力が問われたうえ、息子を軍用ヘリに搭乗させるなどでマスコミに叩かれ、辞任に追いやられた。ウクライナ侵攻直後にヘルメット5000個を供与すると宣言して国内外から批判を浴びたこともある。
攻撃力の高いドイツ製戦車レオパルト2のウクライナ供与については、ドイツは条件を付けてきた。
中道左派・社会民主党(SDS)のオラフ・ショルツ独首相は米国も主力戦車の「エイブラムズ」(1両621万ドル=約8億円)をウクライナに提供することを条件としていると、ドイツ紙に報じられたのだ(ドイツ政府は否定している)。
報道によると、ショルツ氏は1月17日のジョー・バイデン米大統領との電話会談でこう述べた。
「米国からエイブラムズが提供される場合に限って、レオパルト2を供与したい」
こうした動きに対してウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1月19日、憤りを隠さなかった。
「『別の誰かが提供するならば』と言ってためらっている場合ではない。ことは急を要するのだ」
ドイツの「国防体制大転換」は大嘘?
なぜ、ドイツがそこまで供与を躊躇しているのか。
米シンクタンク、「グローバル・パブリック・ポリシー研究所」(ベルリン)のソーセン・ベナー所長はずばりこう指摘する。
「ウクライナへのレオパルト2供与は、ドイツにとっても重大なステップだ」
「高い機動性を有するレオパルト2がウクライナの戦場に投入されることで戦闘はエスカレートし、ロシアがドイツに対して報復に出る可能性は十分考えられる」
「ドイツは、供与した後の米国からの最大限の保証が欲しい。ショルツ氏は躊躇する理由について具体的な言及は避けているが、ロシアがドイツを標的にするのではないか、と恐れている」
さらに別の米シンクタンクのドイツ問題専門家P氏は次のように分析する。
「ドイツは自分が直に供与することは言うに及ばず、ポーランドやフィンランドがウクライナに供与するのを承認することにも消極的だ」
「供与によってウクライナに対する武器支援の拡大が、遅かれ早かれ北大西洋条約機構(NATO)とロシアの全面衝突につながりかねないことを懸念しているのだ」
「とくに社会民主党は過去20年間、平和主義を掲げてきた。自分たちが武器支援拡大の先駆けになることだけは避けたい」
「ウクライナ問題はいずれ収拾するだろうし、その時になって自分たちが独ロ関係に致命傷を与えた張本人にはなりたくない」
「そこで、自らは先頭には立たずに、米国を巻き込みたいのだろう」
ドイツ世論もウクライナへのレオパルト2の供与については、賛成47%、反対37%と二分されている。
ショルツ氏は、ロシアがウクライナを侵攻した3日後、戦後ドイツの平和主義への傾倒との決別、『Zeitenwende』(転換点)と宣言し、米国を喜ばせた。
それがレオパルト2の供与では及び腰になっている。まさに総論賛成各論反対だ。
米国との国家安全保障関係を深化させるドイツに強い警戒心を抱いてきたロシアもほっとしているのではないのか。
それよりも何よりもレオパルト2という「恐るべき助っ人」の導入をめぐる新ウクライナ陣営のごたごたは、2月以降に大攻勢を準備しているロシアにとっては朗報だ。少なくとも時間稼ぎにはなる。
米国内で上がるウクライナ支援批判の声
ウラジーミル・プーチン大統領を喜ばせているのは、ドイツの狼狽ぶりだけではない。今ロシアが重大関心を持って見守っているのは米国内の「変化」だろう。
それは、ドイツが条件に出している米主力戦車「エイブラムズ」供与には御託を並べて躊躇していることに現れている。
コリン・カール米国防副長官はこう述べている。
「25億ドル(約3200億円)の追加支援の中に『エイブラムズ』の供与は含まれていない」
「今回米国が供与する武器には甲装車『シャストライカー』90門、歩兵戦闘車『ブラッドレー』59車両、防空ミサイル・システム『ナサムス』用追加砲弾、移動式防空システム『アベジャー』8基が含まれている」
「同戦車はターボ・エンジン稼働で燃料費が嵩む。ウクライナには向いていない」
また別の米国防総省高官はこうも言っている。
「エイブラムズ戦車のメンテナンスは複雑で、ウクライナ軍兵士が操縦を習得するにも時間がかかりすぎる」   
一連の言い訳には裏がある。
先の中間選挙で下院を共和党に明け渡したバイデン民主党の政局運営、とくに予算編成は多難だ。
ウクライナへの追加軍事支援のめどは全く立っていない。
共和党、とくに保守強硬派の間にはウクライナへの「ブランク・チェック(金額欄が空白のまま振り出された小切手)は認めない」という意見が台頭。
軍事費を審議する下院歳入、軍事、外交各委員会の委員長*3には対ウクライナ支援に対する慎重派大物が勢揃いしている。
*3=予算委員長にはローレン・ボーバート(コロラド州選出)、軍事委員長はマット・ゲーツ(フロリダ州選出)、外交委員長はティム・バーチェット(テネシー州選出)各議員が就任。
一方、軍事通のダン・ビショップ(ノースカロライナ州選出)、ジョシュ・ハウレー(ミゾーリ州選出)、JD・バンス(オハイオ州選出)3議員は、サンドラ・ヤング行政管理予算局長に書簡を送り、ウクライナに対する軍事支援の詳細について全断面的な報告書を公表するよう要求した。
書簡では「議会における今後の予算審議に賢明な判断をするため」とダメを押している。
こうした共和党の対ウクライナ支援に対するスタンスを、軍事外交専門家たちも取り上げ、メディアを賑わしている。
戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンジアン上級研究員は、こう指摘する。
「ウクライナはロシアと戦うために今後も武器弾薬を必要としている。NATO加盟国も軍事支援しているが、その規模では米国が抜きん出ている」
「長期的には備蓄量が減り、米国は新たに製造せねばならない。だが製造には時間がかかり、まさかの時には間に合わない」
「短期的には旧式の兵器や弾薬を供与することになる。問題はそれを第三国から回すことだ。すでに弾薬などでは始まっている」
「だがこれらの武器・弾薬は同盟国との法的約束事として供与されているものだ。米国家安全保障エスタブリッシュメント内で予算上のプライオリティ(優先順位)について真剣な論議をすべき時期に来ている」
嘉手納基地の弾薬もウクライナに移送?
キャンジアン氏の見解を敷衍すればこうなる。
米国は、すでに在韓米軍が備蓄している弾薬をウクライナに移送、またイスラエルに供与した弾薬の一部をウクライナ向けに当てているとの情報がある。
沖縄の嘉手納基地からは移送されている可能性は十分あり得る。ウクライナ軍事支援は対中戦略にも影響を及ぼしかねない。
つまり、共和党保守派がウクライナ支援に消極的になっている理由の一つは、まさにこの点だ。
「このままズルズルとウクライナ支援を続ければ、米国および米国の同盟国の武器・弾薬の在庫は目減りしてしまう」というキャンジアン氏の主張そのものと言える。
米シンクタンク「クウィンシー・インティチュート」のウイリアム・ハーティング上級研究員はこう強調している。
「米国が2022年2月以降、ウクライナに行った軍事支援額はアフガニスタン戦争のピーク時を超えている。長期的には対イスラエル軍事支援よりも多い」
「ウクライナ国内に存在する2つの国家のうち、その一つの国の戦闘力強化を図るというユニークなケースだ」
そして軍事外交サイト「SPRI」の共同創設者、ステファン・セムラー氏は、バイデン政権の対ウクライナ軍事支援政策を厳しく批判する。
「ウクライナに対する軍事支援は、戦闘の早期終結を目的として始まったはずだ。軍事支援を続ける中で停戦、終結に向けた容赦なき外交努力がなされるべきだった」
「ところがバイデン氏は外交的解決を目指すようなシグナルは一切出していない」
「対ウクライナ軍事支援は米国防費の一部だ。終わりなき支援は、史上最高額に達している米国防費を青天井のリスクに陥れる」
話を本題に戻すが、エイブラムズ供与にオースティン国防相が首を縦に振らない理由は、共和党内に勢いを増す「ウクライナ・ファティーグ(ウクライナ疲れ)」と無関係ではない。
このまま新たな追加予算を議会に要求してもそう簡単には通らないことを百も承知なのだ。
1月18日、対ナチス戦勝の地となったサンクトペテルブルク(旧レニングラード)で演説したプーチン氏は、ドイツに歴史認識を思い起こさせ、返す刀でバイデン氏のアキレス腱を蹴り上げたつもりだろう。
●ザポロジエ州で砲撃戦 露が「優勢」と主張もウクライナは否定 1/23
ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ南部ザポロジエ州で、両軍による前線での砲撃の応酬が続いている。ロシア国防省は22日、ロシア軍がザポロジエで陣地を拡大させるなど戦況が有利に進んでいると主張したが、ウクライナ側は否定している。
ロイター通信によると、ロシア国防省は22日「ザポロジエでの攻撃作戦で、東部軍管区の部隊がより有利な地点を確保した」と主張。ウクライナの戦闘車両や榴弾砲(りゅうだんほう)、米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS)などを破壊し、ウクライナ側に死傷者が出たとした。ウクライナ側は「ロシアの主張は誇張だ」と反論している。
英国防省は21日、同州での戦況について「ロシア、ウクライナ両軍が大規模な部隊を編成し、砲撃戦や小競り合いを繰り返しているものの、大規模な攻勢は回避されている」との分析を示した。
ウクライナ南部では、ロシア軍が昨年11月にザポロジエ州の西隣ヘルソン州の州都ヘルソン市から撤退して以来、双方とも足踏み状態が続いている。一方、ウクライナ東部ドネツク州北部の要衝、バフムト周辺では、同地を拠点とするウクライナ軍が、民間軍事会社「ワグネル」を中心に部隊を構成するロシアとの消耗戦を繰り広げている。
ロシアは今月13日、バフムト包囲作戦の一環として北東に約10キロ離れたソレダルを制圧したと発表したが、この地域全体の戦況への影響は限定的とみられている。
●ウクライナ 東部に加え南部でも戦闘激化し一進一退の攻防か  1/23
ロシア軍が侵攻を続けるウクライナでは、東部に加えて南部でもロシア側のミサイルや少人数の部隊による攻撃にさらされるなど戦闘が激化し、ウクライナ軍との間で一進一退の攻防が展開されているとみられます。
ウクライナ東部では、22日も各地で激しい戦闘が続きました。
ウクライナ軍は、ドネツク州のウクライナ側の拠点バフムトに向かってロシア軍が攻撃を繰り返しているという認識を示したほか、ルハンシク州のハイダイ知事も地元メディアに対し「非常に激しい戦闘が続いているが、一歩ずつ解放されている」と述べました。
また、ロシア国防省は22日、ウクライナ南部のザポリージャ州で部隊を前進させているなどと主張しました。
これに対しウクライナ軍は、ロシア側のミサイルや少人数の部隊による攻撃にさらされ、一部でロシア側の前進を許したものの、多くの場所で押し返しているとしており、東部に加えて南部でも戦闘が激化し、一進一退の攻防が展開されているとみられます。
一方、ウクライナへの軍事支援をめぐって、ドイツは今月20日、焦点となっていたドイツ製戦車の供与についての判断を先延ばしにしましたが、ショルツ首相は22日、訪問先のフランスで「ウクライナへの支援は必要とされるかぎり続けていく」と強調しました。
こうした中、ロシアの前の大統領で安全保障会議のメドベージェフ副議長は「ウクライナへの武器の供与は、われわれを破壊しようとする行為にほかならない」などとSNSに投稿し、欧米側を改めてけん制しました。  
●ワグネルのトップ、「ラスプーチン」と比較の英紙記事に反応 1/23
ウクライナ侵攻に兵士を派遣しているロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏は22日、帝政ロシア末期に皇帝ニコライ2世の妻に取り入って陰の実力者となった僧侶ラスプーチンと自らの類似性を指摘した英紙の記事に反応した。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の記事について、ラスプーチンの歴史には詳しくないと前置きした上で「ラスプーチンの重要資質は若い王子の流血を呪文で止めたことだ」と指摘。「残念ながら、私は流血を止めることはしない。私は呪文ではなく、直接的な接触によって祖国の敵に血を流させる」と主張した。広報担当が発言内容を公表した。
ワグネルはこれまで、概して反政府勢力と戦うアフリカの国々に部隊を派遣してきた。ここ数カ月は、プリゴジン氏がロシアの刑務所の受刑者をウクライナで戦う兵士にスカウトしている動画がインターネット上で出回っている。
●ドイツ、ウクライナへの戦車供与で玉虫色<vーチン氏の脅しに逃げ腰か 1/23
ウクライナの対ロシア大規模反攻で焦点となるのが西側各国による戦車の供与だ。だが、「世界最強」といわれるドイツ製戦車「レオパルト2」をめぐって決断を迫られるドイツの「玉虫色」が目立つ。プーチン大統領らロシア側の脅しに腰が引けているのか。
レオパルト2をめぐっては、保有するポーランドなどが供与を表明しているが、製造国ドイツの承認が必要となる。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「ドイツのリーダーシップの強さは変わらないと信じている」と期待を示すが、ドイツで20日に開かれたウクライナ防衛に関する関係国会合では結論に至らなかった。
22日にはフランスとドイツ両政府がパリで合同閣議を開き、ウクライナへあらゆる分野で支援を続ける方針を確認した。しかし、ドイツのショルツ首相はレオパルト2の供与に関しては「既に武器供与を拡大し、全ての決定はフランスや米国など重要な同盟国と密接に調整してきた。将来も連携することが重要だ」と従来の立場を強調し、今後の供与の可否には言及しなかった。
ロイター通信によると、ドイツのベーアボック外相は同日、ポーランドがドイツの承認なくレオパルト2を供与した場合にどうなるかと仏テレビに問われ、「現時点で質問は受けていないが、質問された場合、邪魔はしない」と述べた。
一方、ピストリウス国防相は同日、戦車供与について近く決定するとの見方を示しつつ、「性急な決定はしない」と慎重な姿勢を崩さない。
ロシアのウォロジン下院議長は同日、ウクライナへの攻撃的兵器の供与は「グローバルな破滅を引き起こす」と述べ、欧米側を強く牽制(けんせい)した。ドイツの決断が戦況を左右しそうだ。
●ロシア、ウクライナ侵攻で18万人死傷 ノルウェー軍試算 1/23
ノルウェー軍制服組トップのエイリク・クリストファーセン(Eirik Kristoffersen)司令官は22日、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う人的損失について、ロシア側の死傷者は18万人、ウクライナ側は兵士10万人が死傷、民間人も3万人が死亡したとの試算を明らかにした。
司令官は同国テレビ局TV2のインタビューで、「ロシアの死傷者は約18万人に近づきつつある」と述べた。試算方法は示さなかった。
また、「ウクライナ側の死傷者は10万人以上だろう。民間人約3万人もこの悲惨な戦争で命を落とした」と語った。
ロシア、ウクライナ両国とも、自国の損失について明確な数字を出していない。
米軍制服組トップのマーク・ミリー(Mark Milley)統合参謀本部議長は昨年11月、ロシアの死傷者は10万人以上で、ウクライナ側にも同程度の死傷者が出ている可能性があると指摘していた。
クリストファーセン氏は、ロシアの動員能力と武器生産能力に言及し、同国は多大な損失を被っているにもかかわらず「長期にわたって(戦争を)継続することが可能だ」と述べた。
●ウクライナ軍、東部ソレダルから「撤退」報道…ロシアが占領地域拡大 1/23
ウクライナの英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」は22日、東部ドネツク州ソレダルからウクライナ軍が「既に撤退した」と報じた。
ソレダルは同州の要衝バフムトの北東約10キロ・メートルにあり、露国防省が13日、露軍が制圧したと発表していた。ウクライナ軍やウォロディミル・ゼレンスキー大統領はソレダル陥落を公式には認めていないが、キーウ・インディペンデントの軍事専門記者は「ソレダルの戦いは終わった」と指摘した。英BBCも19日、現地司令官の話として、ウクライナ軍が「将来的な反撃を視野にソレダルから戦術的に後退した」と報じた。周辺での激しい戦闘は続いているという。
露軍にとっては昨年7月にルハンスク州の全域制圧を宣言して以来の占領地域の拡大となる。ロシア軍は、露民間軍事会社「ワグネル」戦闘員に加え、年明け以降、精鋭部隊を投入していた。
ドネツク州の全域制圧を目指す露軍は約半年前から、幹線道路が交差するバフムトを攻略しようとしてきた。露国防省は20日の発表で、バフムト南方約5キロ・メートルの集落も制圧したと主張しており、南北からバフムトに進軍する狙いとみられる。
●ロシア 外相が南ア訪問など 欧米対抗で関係強化の動き活発化  1/23
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、ラブロフ外相が南アフリカを、また、プーチン大統領の側近がイランを訪問するなど、ウクライナへの軍事支援を進める欧米に対抗した関係強化の動きを活発化させています。
ウクライナでは東部や南部で戦闘が繰り返されていて、ロシア国防省は22日、南部ザポリージャ州で部隊を前進させていると主張したのに対し、ウクライナ軍は多くの場所で押し返していると主張し、一進一退の攻防が続いているとみられます。
こうした中、ロシアのラブロフ外相が南アフリカを訪問し、23日には外相にあたるパンドール国際関係・協力相と会談します。
ロシアは、ことし7月にロシア第2の都市サンクトペテルブルクで、アフリカ諸国との首脳会議や経済フォーラムを開催する予定で、BRICS=新興5か国のメンバーでロシア寄りとされる南アフリカとの関係強化を図るねらいがあるものとみられます。
さらに、プーチン大統領の側近でロシア議会下院のボロジン議長をはじめとする議員団がイランを訪問し、イランの国営通信は、議会関係者の話として、23日に議会の議長と会談したあと、ライシ大統領とも面会する予定だと伝えました。
ウクライナで電力インフラなどへの攻撃を繰り返すロシアは、イランから無人機を獲得するなど、軍事面での連携を強めているとみられ、ウクライナへの軍事支援を進める欧米に対抗した関係強化の動きを活発化させています。
●ポーランド、ドイツ戦車供与を正式申請へ=米国から加勢の動き  1/23
ポーランドのモラウィエツキ首相は23日、自国軍が保有するドイツ製戦車「レオパルト」について、ウクライナへ引き渡す許可を独政府に正式に申請すると発表した。欧州諸国が保有するレオパルトは計2000台程度。製造国である独政府がポーランドの申請を認めれば、他の保有国が続き、ウクライナへの供与が加速する可能性がある。
ベーアボック独外相は22日、ポーランドから正式な要請があれば「道をふさぐことはしない」と容認する姿勢を示唆していた。ただ、ショルツ首相は同日の記者会見で「武器供与は米国やフランスとの緊密な協議が引き続き重要だ」と従来の主張を繰り返した。ショルツ政権を支える連立与党間の温度差も表面化しており、ポーランドの申請が承認されるかは予断を許さない。
独政府が決定を先延ばしする中、供与を後押しする動きも活発化している。マッコール米下院外交委員長(共和党)は22日、米ABCテレビのインタビューで「米国が戦車一台でも差し出せば、ドイツはレオパルトを解放する」と述べ、米国として戦車を提供するようバイデン政権に要請した。 

 

●EU、ウクライナに710億円の追加軍事支援 1/24
欧州連合(EU)は23日、ブリュッセルで外相会合を開き、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、新たに5億ユーロ(約710億円)の軍事支援を行うことで合意した。
昨年2月の侵攻開始後に始めたウクライナ支援の7回目。「欧州平和ファシリティー」(EPF)と呼ばれる基金から支出する。会合後に記者会見したボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)によると、この枠組みによる支援総額は約36億ユーロに達することになる。
●ロシア大統領府、プーチン氏24年再出馬の可能性にコメントせず 1/24
ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は23日、プーチン大統領が現在の任期が終了する2024年に再選を目指すかどうかについて、コメントを避けた。
ロシアのメディアでは、憲法の規定で次期大統領選が開かれる24年に関し、プーチン氏の去就が取り沙汰されている。
ペスコフ氏はプーチン氏が再出馬する意向か問われ「大統領はこれに関して、まだ何も発表していない」と応じた。
●プーチンは天候にも見放された…記録的暖冬で「貴重な収入源」失ったロシア 1/24
ウクライナ侵攻前の価格まで下落した天然ガス価格
ヨーロッパの天然ガス価格が下落している。指標となるオランダTTFの天然ガス価格(図表1)は、昨年2月24日にロシアがウクライナに侵攻したことを受けて急騰し、8月21日週の終値で339.195ユーロ/MWhまで上昇した。その後、天然ガス価格は下落に転じ、昨年の最終週の天然ガス価格は76.315ユーロ/MWhまで落ち着いた。
   【図表1】ヨーロッパの天然ガス価格(オランダTTF)
年明け以降も天然ガス価格の下落トレンドは続いており、今年1月15日週の天然ガス価格は66.900ユーロ/MWhとなっている。ロシアがウクライナに侵攻する直前の昨年2月13日週の天然ガス価格が73.760ユーロ/MWhであったから、ヨーロッパの天然ガス価格はロシアによるウクライナ侵攻前の水準まで落ち着いたことになる。
ヨーロッパの天然ガス価格が安定した理由にはさまざまな要因が考えられる。まず、天然ガスの消費量そのものが減少したことがある。EU(欧州連合)の閣僚理事会(各国の閣僚からなる政策調整機関)は昨年7月、今年3月までに各国で天然ガスの消費量を15%削減することで合意した。その後、各国は天然ガスの節約に努めてきた。
記録的な暖冬に救われたEU
EU統計局(ユーロスタット)によると、最新時点(昨年10月)におけるEUの天然ガスの域内消費量(inland consumption)は前年比23.2%減と、3カ月連続でマイナス幅を拡大させた。もちろん、後述のようにロシアから天然ガスの供給が絞り込まれた影響も大きいが、EUはEUとして天然ガス消費の節約に努めてきたのである。
加えて、ヨーロッパが年末年始に記録的な暖冬となったことも、天然ガスの消費の抑制につながったようだ。中東欧にあるハンガリーの首都ブタペストの元日の最高気温は実に18.9℃と、春並みの気温になった。フランスでも年末の気温が過去最高を記録し、地中海の都市には元日に夏日(25℃)となったところもあるようだ。
温暖化対策に注力するEUは、脱炭素化と脱ロシア化の両立を図っている。いわばEUは「二兎にとを追う」戦略に出たわけだが、脱ロシア化の観点からすれば、少なくとも今年の冬に限っては温暖化がプラスの方向に働くという皮肉な結果となっている。
とはいえ年明け以降、ヨーロッパの気温は例年並みに低下しており、天然ガスの消費量は相応に増えたと考えられるので、今後、天然ガスの消費量がどの程度減っていくのかは不透明だ。
天然ガスの供給再開をチラつかせるロシアの意図
すでに述べたように、主要先進国からの経済・金融制裁に反発するロシアは、ヨーロッパに対するガス供給を絞り込んできた。主要なパイプラインによるロシアからヨーロッパへの天然ガスの供給量は、ノルドストリームとヤマルパイプラインによる供給の停止を受けて、ウクライナ侵攻直前の5分の1程度にまで減少している(図表2)。
   【図表2】主要なパイプラインを通じたロシアからヨーロッパへの天然ガス供給量
そのロシアは、EUに対して天然ガスの供給再開を持ちかけているようだ。昨年12月25日付でロシア国営の通信会社タス通信が伝えたところによれば、ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相は、ベラルーシとポーランドを経由するヤマルパイプラインを通じた天然ガスの供給に関して、それを再開する用意があると発表した。
ヤマルパイプラインによる天然ガスの供給が停止された背景には、ガス料金の支払いに関するロシアとポーランドの交渉の決裂があった。ロシアによるルーブルでの支払い要求をポーランドが拒否したため、ロシアがヤマルパイプラインを通じたガスの供給を停止したのである。ではなぜこのタイミングで、ロシアは再開を持ちかけたのだろうか。
国家財政は火の車になっている
最大の理由は、ロシアの国家財政が急速に悪化していることにあると考えられる。ロシアの昨年10〜12月期の連邦ベースの財政収支は3兆3608億ルーブルと、赤字幅は7〜9月期(1兆3192億ルーブル)から1.5倍に増えた。前年比でも、昨年10〜12月期の赤字幅は一昨年から2倍に膨らんでいる(図表3)。
   【図表3】ロシアの連邦財政収支
歳入は堅調に増えており、特に石油・ガス収入といわれる資源企業からの税収は3兆796億ルーブルと近年にない高水準だった。にもかかわらず財政が悪化しているのは、歳出がそれ以上のペースで増えているためだ。歳出の細目はまだ不明だが、その増加をもたらしているのは、ウクライナとの戦争に伴い急増が続く軍事費であろう。
軍事費が膨張しているにもかかわらず、兵士への報酬は支払いが停滞し、士気を低下させているようだ。ロシアの独立系メディアThe Insiderは昨年11月2日、ウリヤノフスク州にある軍事施設で給与の未払いに抗議した兵士による100人規模のストライキが発生したと報じている。つまり、軍事費の多くは兵器など資材の調達や訓練の費用に充てられているのだろう。
ウクライナとの戦争が長期化すれば、軍事費のさらなる膨張は避けられない。政策的経費である軍事費が膨張すれば、経常的経費(通常の行政サービスを提供するための経費)が圧迫され、政府による公共サービスが劣化を余儀なくされる。目に見えるかたちで市民の生活が悪化すれば、ロシアの厭戦えんせんムードは一段と強くなる。
とはいえ、ウクライナとの戦争がすぐに停戦に向かう展望は描けない。中国やインドに代表される新興国向けに石油やガスの輸出を増やしたところで、歳入を増加させるには限度がある。こうした状況に鑑みて、切れるカードは切っていくという観点から、ロシアはEUに対してヤマルパイプラインの再稼働の可能性をチラつかせているのだろう。
ロシアのもくろみは外れることになる
EUはロシアの提案には乗らない公算が大きい。EUはこの間、天然ガスの使用量の削減に取り組むとともに、ロシア以外からの天然ガスの調達を増やしてきた。このこと自体は、ロシアも想定していたはずだ。そしてロシアは、この動きは緩やかに進むか、あるいは限定的なレベルにとどまると想定したと考えられる。
しかしながら、EUの天然ガスの脱ロシア化は、ロシアの想定以上のペースで進展した。もちろん、ロシアからの天然ガスの供給に依存していたドイツや中東欧の内陸国の天然ガス需給は厳しいままだが、一方で米国産を中心とする液化天然ガス(LNG)の輸入は、地中海や大西洋に面した国々を中心に、着実に増加しているようだ。
それに経済・金融措置の報復として、ロシアがヨーロッパに対してパイプラインによる天然ガスの供給を削減したことで、EUはロシアに対する不信感を一段と強めた。EUもまた、ロシアからの天然ガスの供給が完全に停止する事態を恐れていたが、それが現実味を帯びたことで、EUはむしろ腹をくくったものと考えられる。
もちろん、EU側にも懸念される要素が多い。今冬の天然ガス需給は逼迫ひっぱくを免れるだろうが、来冬は分からない。引き続き消費の節約を試みたところで、厳冬となれば天然ガスの消費量は増加する。それに、再気化や貯蔵のためのターミナルを増やしていかなければ、第三国からのLNGの調達を増やすことはできない。
こうした状況に鑑みれば、ヨーロッパのエネルギー事情は引き続き不安定であり、そのためディスインフレ(インフレ率の低下)も順調には進まないであろう。こうした点がヨーロッパの経済の圧迫要因となるが、とはいえEUが天然ガスの脱ロシア化を見直すとはまず考えにくく、ロシアのもくろみは外れることになるのではないだろうか。
●ゲラシモフ総司令官任命はロシア軍崩壊への序章か? 1/24
ロシアのウクライナ侵攻開始から間もなく1年が経過する中、ロシア軍を取り巻く状況が混迷の度を増している。昨秋以降のウクライナ軍の反撃を受け、東部戦線でも目立った戦果を出せず、ロシア国内では私兵集団を率いる強硬派が台頭して軍への批判を平然と行う状況に陥っている。
プーチン大統領は1月、軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長をウクライナ侵攻の総司令官に据える異例の人事に打って出たが、補給面での問題も抱える戦局を打開できる見通しは立っていない。今後実施が予想される総攻撃で失敗すれば、ロシア軍はさらに危機的な状況に追い込まれるのは必至だ。
なぜ、ゲラシモフが任命されたのか
「ゲラシモフ氏の総司令官任命は、プーチン大統領が誤った認識≠フもとで達成しうると考えた軍事作戦を達成するために実施されたと推察される」。米国の軍事シンクタンクは1月上旬、ゲラシモフ氏の総司令官任命の問題点を端的に表現した。
ゲラシモフ氏はサイバー攻撃や正規の戦闘などを組み合わせた「ハイブリッド戦」を提唱した人物として知られ、2014年に起きたロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合や、その後の中東・シリアでのロシア軍の軍事作戦を成功させた軍功を持つ。ソ連時代からのエリート軍人で、ショイグ国防相が軍務経験を持たないなか、実質的な軍トップの立場に立つ人物だ。
ただ、総司令官としてのゲラシモフ氏の先行きを楽観視できる要素が多いとは言い難い。
ロシア軍は昨秋にウクライナ軍による東部ハリコフ州の奪還を許して以降、南部ヘルソンでも撤退し、東部戦線においてもこれまで目立った戦果があげられないままでいる。武器・弾薬の補給もままならない状況が続き、不十分な装備で戦闘に送り込まれる兵士の士気も低下していると国内でも批判されている。
ゲラシモフ氏の下には、前任の総司令官だったスロビキン大将ら3人が副司令官として任命されたが、彼らの具体的な役割なども判然としていない。兵站が不十分な状態が続き、10万人規模ともいわれる死傷者を出す中、ロシア軍が組織上の変更だけで事態を急激に好転させられる可能性は低い。
そのような状況にもかかわらずゲラシモフ氏が総司令官に任命されたのは、戦略上の妥当性ではなく、急速に台頭する私兵集団を率いる強硬派からロシア軍を守ろうとするプーチン氏による政治的判断があったとみられている。
超法規的な存在が主役≠ノ
「ここにロシア軍の兵士はいない。ソレダルで戦っているのは、ワグネルの戦闘員だけだ」 
1月上旬、SNSのテレグラム上で衝撃的な内容の告発を行ったのは、民間軍事会社「ワグネル」の代表者であるエフゲニー・プリゴジン氏だった。
ウクライナ東部ドネツク州の戦闘でロシア軍が攻略を目指す交通の要衝、バフムトをめぐり、ロシア軍はバフムトに隣接する都市ソレダルを陥落させ、そこからバフムトに攻勢をかける狙いだとみられている。プリゴジン氏は、そのソレダルでの戦闘に参加しているのは、ワグネルの傭兵だけだと暴露した。
プリゴジン氏の発言には信ぴょう性がある。ロシア国防省は1月中旬、ソレダルを掌握したと発表したが、そのわずか6時間後に発表内容を変更し、その戦闘には「ワグネルの志願兵」が加わっていたと認めた。当初の発表はワグネルに言及しておらず、それがプリゴジン氏らの逆鱗に触れたためとみられている。
変更された国防省の声明は、ワグネルはあくまでもロシア軍とともに作戦を実行していたという主張だったが、それでもロシア軍が発表した内容を自ら訂正し、ワグネルに言及せざるを得なかった事実は重い。
この事象が示すのは、乏しい戦果をめぐる奪い合いがロシア国内で起きているという問題にとどまらない。重要なのは、ワグネルという超法規的な存在の傭兵集団が前線において正規のロシア軍よりも重要な役割を担っていると主張し、それを裏付ける事実が浮かび上がっているという実態だ。
民間軍事会社であるワグネルはもともと、その存在℃ゥ体が否定された影の組織だった。表立った活動が指摘されはじめたのは、14年のロシアによるクリミア併合がきっかけだった。
ロシア南部ソチで冬季五輪が閉幕した直後、クリミアでは国の記章を着けない正体不明の兵士らが空港や議会を占拠し、クリミア併合作戦が始まった。プーチン大統領は当初、彼らを「ロシア軍の兵士ではない」と主張していたが、後にロシアの関与を認めた。この正体不明の兵士らに、ワグネルの戦闘員らが加わっていたとされる。
ほぼ同時に起きたウクライナ東部での親ロシア派勢力による軍事活動にも、ワグネルの兵士らが参画していたとされる。中東シリアにおいて、アサド政権軍を支援したロシアの軍事作戦にも、ワグネルが参加していた事実が明らかになっている。
受刑者を招集
ワグネルが受刑者を戦闘に参加させている事実も広く知られている。昨秋にはプリゴジン氏自らがロシア国内の刑務所に赴き、受刑者らにワグネルの参加を呼びかけたとされる動画が拡散し、世界に衝撃を与えた。
「私はお前たちをここから出すことができる。しかし、再び生きて戻ってこられるかどうかの保証はできない」。プリゴジン氏が受刑者の前でそう演説する中、刑務所の職員らは脇に並び、その内容を聞いていたという。
プーチン大統領はワグネルへの入隊者に対し、秘密裡に恩赦を与えていたと指摘されている。さらにワグネル加入後に戦地から生きて帰還できれば、過去の罪状は問われない。ウクライナでどのような蛮行を行っても一切無罪となる。
ワグネルへの入隊は、「私たちは存在しない」という前提で行われるからだ。ワグネルをめぐっては、ウクライナで戦う海外の傭兵から見ても、高い給与が支払われているとされる。
このような私兵集団がロシア側の軍事作戦の中枢を担っているという事実は、ロシア軍の能力に深刻な疑問を投げかける。さらにロシア国内では、ワグネルは愛国者集団≠ネどとして評されているという。
傭兵に依存する構図はウクライナ軍も同様だが、世界最大規模の軍事力を持つとされたロシア軍がすでに、軍としての体をなしていない実態が浮かび上がる。
チェチェン首長も
ロシア軍を公然と批判する強硬派はプリゴジン氏だけではない。侵攻開始当初に、民間人の虐殺が判明したキーウ近郊のブチャなどでの作戦に参加していたことでも知られるチェチェン共和国の私兵集団を率いるラムザン・カディロフ首長も同様だ。
カディロフ氏は昨秋、ロシア軍がウクライナ東部リマンから撤退した際には「前線から150キロメートル離れた場所でどうやって軍の状況が分かる。司令官を即座に降格させて、最前線に送りこめ」などと主張した。さらに、小型核兵器の使用を主張し、「米国の目を気にする必要などない」とも発言していた。
カディロフ氏が率いる私兵集団もまた、装備に恵まれ、ロシア軍よりも高い士気を持つと指摘されている。プーチン氏には忠誠を誓うカディロフ氏だが、ロシア軍幹部に従う意思は弱いとされ、仮にウクライナ紛争を契機にプーチン氏が失脚するような事態が起きれば、カディロフ氏が再びロシアに反逆する可能性も否定できない。
組織として崩壊状態に陥る危険性
私兵集団を操る強硬派にロシア軍が批判を浴びるさなかで、プーチン氏が強行したゲラシモフ参謀総長の総司令官任命は、そのような批判を封じ込め、ロシア軍を立て直す意図が強く伺える。前任のスロビキン大将がわずか3カ月で副司令官に降格された背景には、スロビキン氏がプリゴジン、カディロフの両氏と緊密過ぎたからだとみられている。
ただ、ロシア軍をめぐる状況がここまで厳しくなるなか、ワグネル、チェチェン兵らを押しやる形で形勢を立て直せるかには疑問符が付く。ロシア軍は間もなく総攻撃に打って出るとの見方もあるが、武器・弾薬の補給面で深刻な問題を抱える中、その成否は見通せない。
大規模攻勢をかけて失敗するような事態になれば、ロシア軍が受けるダメージは単に兵力の損失という次元では済まない。ロシア軍は組織として立ち直りが効かないほどの打撃を受けることは確実だ。
●「戦後最大の困難」認める 露参謀総長、ウクライナで 1/24
ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長がロシア紙「論拠と事実」と会見し、ウクライナ侵攻について「現代のロシアがこのレベルの集中的な軍事行動を取ったことはなかった」と述べ、ロシア軍が第2次大戦以降で最大の困難に直面していることを認めた。同紙電子版が24日に伝えた。
国家の主権と領土の一体性保持のため「持てるあらゆる手段を講じる」と強調。プーチン大統領の指示に従い軍事作戦の目的を達成する決意を示した。
ゲラシモフ氏は、ウクライナ軍への攻撃と状況の安定化、昨年9月にプーチン氏が一方的に併合を宣言したウクライナ東部・南部4州の防衛のため30万人規模の部分動員を迫られたとし「このようなことは第2次大戦以来だった」と述べた。
ゲラシモフ氏は今月11日、ショイグ国防相によりウクライナでの作戦の統括司令官に任命された。
●「プーチンはクレイジーだ」 中国が露を見限り欧米との関係修復を始める 1/24
1月24日で開戦から11ヶ月となるウクライナ紛争。西側諸国はウクライナへのさらなる武器供与を表明していますが、ロシアはこの先どのような動きを見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、最新の戦局とロシア軍が「活路」を見出した戦術を紹介。さらにプーチン大統領が、何があっても敗戦だけは避けなければならない理由を解説しています。
プーチンの逆襲。ロシア軍は「人海戦術」で優位に
バフムト・ソルダーの攻防戦で、ロ軍は、人海戦術でウ軍を押し切ったことで、ロ軍は人海戦術で戦うようである。今後を検討しよう。
ロ軍は、1ケ所に大量の歩兵を集めて、波状攻撃をする人海戦術で成果が出たことで、その戦術を実行し始めた。このため、ウ軍の弱い部分を見つけて、そこに歩兵での大量攻撃を実施している。
バフムト・ソルダー方面
ロ軍・ワグナー軍はソルダーを占領し、ウ軍は撤退している。ソルダーの西にあるシイル鉄道駅を中心としたエリアに陣地を作ったが、ワグナー軍はそこに攻め込み、ウ軍はT1503号主要道の西側まで後退して、今、シイルを越して、バフムトカ川の付近までロ軍・ワグナー軍はきている。
大規模な人的損害を出しても、波状攻撃でウ軍を攻めているので、どうしても人的損害を出したくないウ軍は押され気味である。
ブラホタデやクラスノ・ホラなどのバフムトの北側にもワグナー軍は人海戦術で攻撃してきている。損害も大きく、1日800人程度の戦死者を出している。負傷兵は戦死者の3倍とすると3,200人前後が戦線離脱していることになる。1ヶ月で10万人もの戦線離脱者が出ることになる。このため、ロ軍は、第2次動員が必要になる。
ロ軍兵の戦死者は5月までに22万人を超える可能性があり、戦死者数を隠すために移動式火葬場を発注したともいう。戦死者数は1ヶ月で2万5,000人であり、5ヶ月12万人であり、今までの戦死者数の10万人であることから頷けることになる。何人死なすのであろうか?
バフムトの南側のクリシチウカ、アンドリウカへもワグナー軍が攻撃し占領したようであり、イワビフスクにワグナー軍が攻めてきたという。このまま行くと、バフムトが包囲される状況であり、そろそろ、バフムトからウ軍を撤退させる可能性が出てきた。
この地域に、ロ軍とワグナー軍が兵力を集めて、人的被害を無視した攻撃で戦局を開くようであり、他のドネツク方面の攻撃がなくなっている。
ロ軍の勝てる方法は、損害無視の人海戦術しかないようである。それを見つけたという段階であり、砲弾も一部地域に優先的に補給しているようである。砲弾の枯渇しているので、攻撃地を絞っているようだ。
このため、ワグナー軍の経費は非常に高く、人海戦術での攻撃では、ロシア人の動員で安い人員をかき集めるしかなく、プーチンもロ軍の立場をとるしかない。ワグナー軍のフリゴジン氏の立場でロ軍全体を貶すことにプーチンも付いていけなくなっている。
このため、プーチンはプリゴジンン氏と対立関係のペトロフスク州のベグロフ知事と会い、プリゴジン氏の意見で解任したラビン大将を陸軍参謀長に任命している。
このため、プリゴジン氏を支持する強硬派は、クーデターなどをする可能性もあり、逆にプリゴジン氏を暗殺になる可能性も出てきた。
スバトボ・クレミンナ攻防戦
一歩一歩と前進しているが、ロ軍も大量の人員と装備を集めているので、ウ軍も前進するスピードが遅くなっている。ロ軍を押しているが、攻撃時の損害を少なくするために、無理をしていない。
ソノフイの高地を制圧して、スバトボ市街地を見通せるポイントを押さえるべく、攻撃をしているが、ロ軍も分かっているので、防備を固めている。塹壕を作り防衛しているが、精密砲撃で、損害が大きくなっている。
クレミンナ包囲網も徐々に狭まってきているが、ロ軍は防御に集中して、攻撃をしなくなっている。停滞状況である。
ロシアとウクライナの状況
ウ軍は大規模攻勢ができずに、停滞している。一方、ロ軍は200万人動員計画もあり、ウクライナより多い人的資源を使い人海戦術で、押しきる戦術を見出した。現在、戦争の主導権は、ロシアに傾いたようである。
このため、プーチンは、ゲラシモフ総司令官に、「3月中に東部ドンバス地方を占領して、戦争を止める」とした。中国の習近平主席からの手紙で、「いつまで戦争をしているのか。戦争終結までのスケジュールを明確にしてほしい」ときた。
このため、メドベーシェフを送り、対話を促進するとしたが、それもできずに、No..2のパトリシェフも中国に送り釈明している。
しかし、直近のロシアのラブロフ外相と中国の秦外相の電話会談では、「中露関係の成り立つ基礎」として、「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」という「3つのしない」方針を提示したという。
これは、中国はロシアと同盟関係にならないし、敵対もしないし、中露で米国を敵対視しないということであり、明確に中国は、ロシア離れになってきた。中国は、ロシアのプーチンをクレイジーだと言っているようであり、明確に欧米との関係修復方向になった。
このため、ロシアは、同盟国通貨と思い、貯め込んだ手持ちの人民元を売り、ルーブルに変えた。しかし、生活必需品の供給を中国に依存するロシアは、それ以上の対抗処置は取れない。
このような中国の動きを見て、セルビアのヴチッチ大統領は、「私たちにとって、クリミアはウクライナであり、ドンバスはウクライナだ。今後もそのままだ」と発言。ロシアに近いセルビアも、明確にロシア離れになっている。セルビアは、ウクライナに電源修理の機器を援助したことでウクライナ側と明確にした。
同盟国と思い、ワグナーはセルビアで、要員募集をしていたが、セルビア人が国外の紛争に参加するのは違法だ。このため、セルビアのヴチッチ大統領は、憤慨して「なぜワグナーは、私たちの規則に違反すると知りながら、セルビア人に呼びかけるのか」とした。
イラン外相も「イランとロシアの関係は良好だが、ロシアによるクリミア半島・ルハンスク州・ドネツク州等のウクライナ占領地の併合を我々は認めない。我々は国際法の下で各国の主権と領土保全を認めている」とした。しかし、ドローンとSu-35の交換は行うようである。政治的にはロシアの味方ではないが、ビジネス上での関係はあるということであろう。
このような状態になり、国際的孤立が深まるロシアも戦争を終結させないといけない状態になってきた。
このため、150万の軍隊を作り、人海戦術でウ軍を圧倒することであり、今、ロシアのできることは、国民を戦場で大量に殺しても、戦局を有利にして停戦に持ち込むしかない。
これに対して、ウクライナは、ロ軍の人海戦術で停滞した戦況を転換するために、レオパルト2戦車と装輪装甲車、F-16戦闘機、アパッチヘリやATACMSなどの長射程爆弾などの迅速な攻撃ができる兵器・弾薬やロ軍のインフラ攻撃防止の防空システムの供与を欧米諸国に要請している。
この要請に対して、「前線を突破する必要がある。詳細は言えないが、現下の状況では、われわれはそうした必要性を認めている」と、コリン・カール米国防次官(政策担当)は、記者団に語った。「この挑戦をウクライナがどう克服するか、われわれは熟慮しなければならない」と。
このような欧米攻撃兵器がウクライナに提供されると、ロシアは負ける可能性が出る。このため、「通常戦争での核保有国の敗北は、核戦争の引き金になり得る」とロシアのメドベージェフは、けん制の発言をしている。
ウ軍は、ポーランドから提供された200両のPT-91などの攻撃兵器を温存してきたので、戦局転換の攻撃をしようとしたが、カール米国防次官から、米国による新たな兵器供給と訓練が完了するまで、ロ軍に対し大規模な攻撃を展開することを控えるよう提言された。
人的損害を少なくして、効果的に戦局を転換した方が良いということである。このため、ウ軍は攻撃に必要な兵器や弾薬のリストを作り、武器供与の第8回支援国会合が20日、ドイツ西部ラムシュタイン米空軍基地で開かれたが、その会合前にリストを提出した。
この会合で、オースティン米国防長官は会議の冒頭で、ウクライナ紛争に転換点が訪れていることを宣言した。防御から攻撃への転換という意味だ。
しかし、ドイツは、米国がM1エイブラムス戦車を供与しない限り、レオパルド2戦車の提供を承認しないという。ドイツのボリス・ピストリウス新国防相も、この件はショルツ首相次第だと指摘した。
政治資金援助をロシアから受けていたので、ショルツ首相はロシアからの非難を受けたくないので、ドイツの認可を取らずに、ウ軍に提供してほしいようである。
このため、ポーランド政府は、ドイツの許可なしにレオパルド2戦車をウ軍に供与するとした。
そして、ホーランドの他に、フィンランド、デンマーク、ポルトガルは既に供与を表明しているが、チェコとスロバキアも供与すると表明した。これらにより、レズニコフ国防相が要請した300両のレオパルド2戦車が、手に入る目算は立っている。
後は、ドイツの承認かドイツの承認なしの提供かのどちらかでの実行が必要なだけになっている。
フランスは「ルクレール」戦車の提供を表明、スウェーデンはCV90装甲車、アーチャー自走砲の供与、英国は精密誘導弾ブリムストーン600発を提供するとした。デンマークはカエサル自走榴弾砲19台の提供、オランダはF-16戦闘機の供与を検討し、多数の国から大量の攻撃兵器の供与をウ軍は受けることになる。
特に、射程150kmのGLSDBが供与されると、ロシア国境地域まで届き、軍物資集積所を破壊できることになる。また、ロ軍は、物資集積所をこのロケット弾の届かない場所に移すことが必要になる。
このように、大量の攻撃兵器がウ軍に渡ると、ロ軍の勝ち目がなくなるので、最新鋭のT14アルマータ戦車の戦場投入した大規模攻勢を近く始めるようである。キーウへの再攻撃もあるかもしれない。
そして、このような攻撃兵器がウ軍に渡っても、ミリー米統合参謀本部議長は、「今年中に、ウクライナの隅から隅まで軍事的にロ軍を駆逐することは極めて難しいだろう」とした。2024年まで戦争は続く可能性がある。
それでも、ロシアの戦争犯罪を裁く国際特別法廷を設置することをEU会議で決議し、EUの特別検察官からも、国際的な特別刑事検察官を設けるべきとの意見が出ている。しかし、国際的な法廷設置には、国連の決議が必要であり、まだ道のりは長い。しかし、ロシアが敗戦になると、プーチンを始め、今のロシアの指導者は、すべて死刑になることが確定している。
このため、トルコのエルドアン大統領は、ゼレンスキー大統領との電話会談で、ロシアとウクライナの仲裁を行うという申し出を改めて伝えた。ロシアとしては、ドンバスとクリミアを確保することで、停戦したいようである。戦争を止めるには、クリミアとドンバス確保で諦めるしかない。その他の地域からの撤退でも、戦争には負けていないとするようだ。それと、停戦で国際法廷を阻止するしか、ロシア指導者の生きる道はない。
そして、キッシンジャー元米国務長官も、停戦の条件として「ロシアが侵攻前の境界線に達したとき」というので、ロシアも戦争を終結させるために、その辺りを目指すしかないようである。
もう1つが、ベラルーシのプリビトキ空軍基地にS300が設置されていて、このS300から発射されたミサイルは、キーウまで2分しかかからない。防空ミサイルでは撃ち落せない。
このため、ウ軍は、このS300を破壊する必要になる。しかし、ロ軍の早期警戒機やMIG31などの戦闘機、ka-52戦闘ヘリなどがいる。ウ軍ミサイルが空軍基地に着弾すると、ベラルーシも参戦するしかなくなる。そして、キーウへの大規模攻勢になる可能性もあり、このS300は、要注意である。
もう1つ、戦争の推移では、ウクライナの航続距離1,000kmの無人機「キジバト」やTu-141などがあり、これらから守るために、モスクワのプーチン大統領官邸から10キロの地点に防空システムを設置した。
徐々にロシア国内を攻撃する手段がウ軍も独自で持ち始めたことで、「目には目を、歯には歯を」ということになる。インフラ攻撃には、インフラ攻撃。キーウ攻撃にはモスクワ攻撃になる。
余談であるが、現在、10人弱の日本人義勇兵がウ軍で戦っている。多くは元自衛官であり、米英の義勇兵よりも信頼厚い。まじめな戦いぶりと生活態度が高く評価されているようだ。
この義勇兵で、日本の評価も高いことになっている。ガンバレ日本人義勇兵たちよ。
世界の状況
米国は、傭兵企業「ワグナー」を「国際犯罪組織」に指定した。
もう1つ、心配なのが、イスラエルとサウジが連合して、イランとの中東戦争である。イランは、Su-35戦闘機を手に入れて、シリアでの戦争と同じような通常戦争でも負けないと見たら、イスラエルやサウジに攻撃を仕掛けることになる。
イスラエルは、在イスラエル米軍の30万発の弾薬をウクライナに送ることを了承した。イランのドローン対応策にもイスラエルは積極的に機器の提供を開始した。
米国は、イランのドローン工場の破壊を依頼した可能性もあり、この2ヶ国の戦争になると厄介である。
●軍事侵攻11か月 ロシア大規模攻撃準備か ウクライナ戦車求める  1/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから24日で11か月となります。ロシア軍は新たな司令官のもとで大規模な攻撃に向けた準備を進めているとみられるのに対し、ウクライナは攻撃能力の高い戦車の供与を欧米諸国に訴え、反転攻勢を目指しています。
ウクライナへ侵攻するロシアは、1月、軍の制服組トップ、ゲラシモフ参謀総長を新たに軍事侵攻の司令官に任命し指揮系統の立て直しを行い、大規模な攻撃に向けた準備を進めているという見方が出ています。
ロシア軍は、東部ドネツク州や南部ザポリージャ州などで攻撃を続けているほか、1月16日からはウクライナ北部と隣接するベラルーシで合同演習を実施し、軍事的な揺さぶりを行っています。
また、ロシアのラブロフ外相は23日、訪問先の南アフリカで「ウクライナで起きていることはハイブリッド戦争ではなく、もはや本物の戦争となっている。欧米側はロシアのすべてを破壊しようとしている」と述べ、ウクライナを支援する欧米側を強くけん制しました。
これに対し、ウクライナは、反転攻勢のため攻撃能力が高く、ヨーロッパ各国が保有しているドイツ製戦車「レオパルト2」の供与を求めるなど欧米諸国にさらなる軍事支援を訴えています。
「レオパルト2」をめぐってはドイツ政府はウクライナに供与するかどうかの判断を先延ばしにしましたが、バルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアの外相が直ちに供与するようドイツに呼びかけたほか、ポーランドのモラウィエツキ首相は23日、自国が保有する「レオパルト2」の供与に向けてドイツに対し許可を求める考えを示しました。
今後、「レオパルト2」がウクライナに供与されるかどうかが焦点となっています。
専門家「双方が次の大攻勢のタイミング見計らっている」
ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の長谷川雄之研究員は、現在のウクライナの戦況についてこう着状態にあるとした上で「ロシア、ウクライナ双方が、次の大攻勢に出るタイミングを見計らっている段階だ」と指摘しました。
ロシア側が掌握を目指す、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の一つ、バフムト周辺での攻防について「ロシア側は、じりじりと占領地域を拡大している。ウクライナ側は、どの程度、この地域に戦力を割くのか難しい選択を迫られている」と分析しました。
一方、ウクライナと北部で隣接するベラルーシに、ロシア軍が合同演習の名目で部隊を展開していることについて「首都キーウとゼレンスキー政権にプレッシャーをかけて、ウクライナ軍を北部に配置させるねらいがあるとみられる」として、ウクライナ側の戦力の分散を図り揺さぶりをかけているという見方を示しました。
今後の見通しについて、長谷川研究員は、ロシア側は軍事侵攻の指揮を執る新たな総司令官に軍の制服組トップ、ゲラシモフ参謀総長が就いたことを注目点に挙げ「ゲラシモフ氏はロシアの軍事戦略の新たな概念を提唱し、実現してきた人物で『最後の切り札』ともいえ、彼の失敗は許されない。プーチン大統領に対してアピールするような象徴的な作戦を実施する可能性がある」として、ロシア軍が明らかな戦果を求めて激しい攻撃に出る可能性を指摘しました。
一方、ウクライナ側について「さらに長期化すると、国際世論の関心を高い水準で維持し続けることが徐々に難しくなる。欧米の軍事支援が続く限られた期間のなかで大きな成果をあげる必要がありゼレンスキー政権においても焦りがあるのではないか」と指摘しました。
そのうえで「ウクライナはいま、欧米の軍事支援を本格化してほしいと以前よりもさらに強いトーンで呼びかけているし、欧米側もこれに沿う形でより高次の軍事支援を始めている」と述べ、ウクライナ側が準備を進める春の大規模な奪還作戦に向けて、欧米側が、戦車の供与などどの程度まで軍事支援を進めるかがカギになると指摘しました。 
●ロシアは多くの国家に分裂し、中国の弱い属国になる 1/24
ウクライナがロシアに勝利すれば、私たちが知る「ロシア連邦」は崩壊することになるかもしれない──あるエコノミストはこう指摘した。
イギリスのシンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」の客員研究員であるティモシー・アッシュは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とロシア軍がウクライナに敗れるのは避けられないと考えている。ロシアによる軍事侵攻が始まってから11カ月目を迎える今、ロシア政府にのしかかる真の問題は、プーチンのロシアがどうなるのか、そして歴史は繰り返すのか、ということだと彼は言う。
ウクライナとロシアの問題をめぐる政策について、複数の政府に助言を行ってきたアッシュは、1月21日付のウクライナの英字紙「キーウ・ポスト」に論説を寄稿。その中で、戦争に敗北すればロシアは複数の国家に分裂することになるだろうという考えを示した。これはプーチンが約1年前にウクライナに軍事侵攻を開始した時に目指した「大ロシア」再生とは真逆の結末だ。
「プーチン時代の終わりを目の当たりにすることになる可能性は十分にあるし、1991年のソ連崩壊の時のように、ロシア連邦が崩壊して数多くの新国家に分裂する可能性もあると思う」とアッシュは論説の中で述べた。
領土拡大の野心が裏目に
現在のロシア連邦は89の構成主体──21の共和国、6つの地方、2つの連邦直轄都市(モスクワとサンクトペテルブルグ)、49の州、1つの自治州と10の自治管区──によって構成されている。これを基に考えると、ロシア連邦が崩壊した場合、20の国家が誕生する可能性があるとアッシュは予測する。
「プーチンはロシアの領土拡大を狙ってこの戦争を始めたが、それによってかえってロシアが縮小することになるかもしれない」
1991年のソビエト連邦崩壊で、主権国家としてのソ連はその存在を終えた。それがウクライナに独立をもたらし、そこからロシアとの対立の歴史が始まった。
ロシア崩壊の可能性を予想する専門家は、アッシュだけではない。
米ラトガーズ大学ニューアーク校の政治学教授で、ウクライナとロシアの問題に詳しいアレクサンダー・モティルは、1月7日のフォーリン・ポリシー誌の論説の中で、プーチンが権力の座を去った後には「熾烈な権力闘争」が起き、「中央集権制が崩壊し、ロシア連邦が分裂する」可能性が高いと指摘した。
「その場合は誰が権力を握っても政権は弱体化し、ロシアは戦争遂行にかまけてはいられなくなるだろう」とモティルは述べた。「この混乱を生き延びた場合、ロシアは中国の弱い属国と化す可能性が高いし、生き延びられなければ、ユーラシアの地図は大きく変わる可能性がある」
フランスのシンクタンク「モンテーニュ研究所」の地政学専門家であるブルーノ・テルトレも、ウクライナ戦争が「二度目のソ連崩壊」をもたらす可能性が高いと指摘した。
テルトレは昨年12月に、「プーチンはロシア世界(ルースキーミール)の統一に失敗しただけではない。今回の戦争によってロシアに最も近い複数の隣国も『脱ロシア』を望むようになった」と書いている。
米シンクタンク「ジェームズタウン財団」の上級研究員であるヤヌシ・ブガイスキは、西側の政策立案者たちは「差し迫る」ロシア崩壊に向けた備えがまったく出来ていないと警告する。
ブガイスキは1月12日発行のポリティコ誌に寄稿した論説の中で、次のように述べた。「西側の当局者たちは、ロシア崩壊の影響に備えたり、ロシア帝国主義の崩壊につけ込んだりする代わりに、冷戦後の過去に戻れると信じたがっているように見える」
●プーチン大統領と側近・プリゴジン氏の間で“深刻な対立”か  1/24
アメリカのシンクタンクは、ロシアのプーチン大統領と、側近で民間軍事会社「ワグネル」のプリゴジン氏との間で深刻な対立が生じていると指摘した。
アメリカの「戦争研究所」は22日、「ワグネル」のプリゴジン氏がドネツク州のバフムトを攻略しきれなかったため、プーチン大統領が正規のロシア軍を重視するようになったと指摘した。これを機にプーチン氏への影響力が衰退し始めたとしている。
一方、イギリスの調査報道機関「ベリングキャット」は、プリゴジン氏が「ワグネル」の兵士の期待に応えるためにプーチン氏への要求を強めていると述べ、政権内の対立が深まる可能性を指摘している。
●ロシア政権内の対立深まるか プーチン側近・プリゴジン氏の影響力衰退 1/24
ロシアのプーチン大統領の側近で、民間軍事会社『ワグネル』創設者のプリゴジン氏について、アメリカのシンクタンクは22日、影響力が衰退し始めたと指摘した。
「プリゴジン氏が、自身の手でバフムトを攻略しきれなかったため、プーチン氏が正規のロシア軍を重視するようになった」(アメリカのシンクタンク・戦争研究所)
一方、調査報道機関『ベリングキャット』のジャーナリストは、プリゴジン氏がプーチン氏への圧力を強めているという見方を示した。
「プリゴジン氏は、プーチン氏を攻撃し続け、より多くの権力を取り戻そうとするだろう」(ベリングキャットのジャーナリスト)
今後、ロシア政権内の対立が深まる可能性を指摘している。
●プーチン邸に防空システム配備、と報道。西側の長距離兵器を警戒? 1/24
ロシアの防空システム「パーンツィリ-S1」が最近、ウラジーミル・プーチン大統領邸の近くに配備されたと、ロシアの独立系報道機関が1月23日に伝えた。
2021年創設の調査報道サイト「アゲンツトヴァ(Agentstvo)」はテレグラムに、ロシア西部のノヴゴロド州にあるプーチン邸の近くにパーンツィリが配備されたというメッセージを投稿した。プーチンの家を守るために設置されたパーンツィリだという写真も付いていた。
1月19日以降、モスクワにある複数の主要政府機関の屋上に設置されたパーンツィリだとする写真や動画が拡散していた。ロシアの首都であるモスクワに防空システムを配備するこの動きは、2022年末にロシア領内の標的に向けたドローン攻撃が実施された後に起きたものだ。
アゲンツトヴァによれば、ノヴゴロド州に配備された防空システムも、数週間前、前述したドローン攻撃の直後に設置されたものだという。地元住民の話では、パーンツィリは迎撃体制にあり、少なくとも3人の兵士が配置されているという。
S-400地対空ミサイルも全土に
12月にロシア領内で発生したドローン攻撃について、ウクライナは関与を認めていない。ただし、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナ軍は、アメリカからロシア領内に到達可能な兵器をさらに受け取る予定だと報じられている。
パーンツィリ防空システムは、対空機関砲とミサイルで構成されており、7キロ圏内に入ったミサイル、ならびに20キロ圏内の戦術航空機を迎撃する能力を持つ。アゲンツトヴァによると、ノヴゴロド州にあるプーチンの邸宅は、パーンツィリが配備された場所から6キロの距離にある。
パーンツィリがモスクワの政府機関の屋上に配備されていることを示す証拠がネット上で拡散すると同時に、地対空ミサイルシステム「S-400」もロシア全土で目撃されている。S-400は、最長250キロ先の標的を撃ち落とす能力を持ち、弾道ミサイルも60キロ先で迎撃できる。
ロシア政府報道官のドミトリー・ペスコフは1月20日、ロシアの戦略拠点にミサイル防衛システムが配備されたことに関して明言を避けた。防空システムの目撃情報について記者から質問が飛ぶと、ロシア国防省に問い合わせるようにと述べた。
アゲンツトヴァの記事によると、ノヴゴロド州の町、ヴァルダイにあるプーチンの邸宅は、同大統領の公邸の1つと考えられている。プーチンはこの建物を、親戚や友人、セレブなどをもてなすための別邸として使っているというのが定説だと、アゲンツトヴァは記している。
●ロシア ゲラシモフ参謀総長“前例ないレベルの軍事行動展開”  1/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから24日で11か月となります。今月、侵攻の総司令官に就いたゲラシモフ参謀総長は、ロシアの新聞のインタビューで、前例のないレベルの軍事行動を展開しているとしたうえで、「あらゆる手段を講じる」と述べ、ウクライナ側は警戒を強めています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は今月、制服組トップのゲラシモフ参謀総長が軍事侵攻の総司令官に就き、大規模な攻撃に向けた準備を進めているという見方が出ています。
ゲラシモフ参謀総長は24日、ロシアの新聞「論拠と事実」の電子版に掲載されたインタビューで、軍事侵攻について「現代のロシアでこれほどの軍事行動のレベルと激しさは前例がない。ロシアは事実上、西側諸国の全体から敵対行為を受けている」として、前例のないレベルの軍事行動を展開しているという認識を示しました。
そのうえで、「最高司令官が定めた目標を成し遂げ、国の軍事的な安全を確保するために、あらゆる手段を講じる」と述べ、プーチン大統領の指示に従って、作戦をさらに進めていく構えを強調しました。
ウクライナ国防省 “ドンバス地域で戦闘一層激しくなる”と警戒
一方、ウクライナ国防省の情報総局の幹部は23日、ウクライナメディアに対して、ロシア軍が再編成される中で、来月から3月にかけて東部ドンバス地域でロシア軍が大規模な攻撃を仕掛け、戦闘が一層激しくなるという見通しを示し、警戒を強めています。
ゼレンスキー大統領は23日、ロシアによる軍事侵攻の開始から24日で11か月になることについて、「ウクライナの勝利のために力を結集する日だ」と述べ、国民に改めて結束を呼びかけたうえで、欧米諸国にさらなる軍事支援を求めました。
軍事侵攻の長期化 子どもたちの心のケア一層重要に
ロシアによる軍事侵攻の長期化に伴って、ウクライナの子どもたちの心のケアが一層重要になっています。
首都キーウにある学校では、子どもたちの異変を察知し、支援につなげようという取り組みが進められています。
およそ200人の子どもたちが学ぶ私立学校では、防空警報が出た際も授業が続けられるよう教室も兼ねたシェルターが地下に整備されています。
また学校では、ロシア軍の攻撃が続くなかでストレスを感じる子どもが急増しているとして、心のケアを重視しています。
心理学を学んだ専門のカウンセラー5人が常駐し、去年5月から子どもたちの心の状態を把握するため「アートセラピー」の講座を開いています。
絵を描くことで心をいやす効果が期待されるほか、どのような絵を描くかで心理状態を把握することにもつながるということです。
カウンセラーは黒など暗い色を多く使って絵を描いた子どもなどに対しては異変がないか話を聴くようにしています。
学校によりますと、絵を描いた子どもたちのうち、およそ50人について心理状態に問題がある可能性があるとして、カウンセリングを行ったということです。
このうち4人については、PTSD=心的外傷後ストレス障害などの可能性もあるとして、医師の診察を受けるよう助言したとしています。
学校では、侵攻から1年となる来月からはドイツのNGOとも協力し、こうしたセラピーを週2回、ウクライナ国内の別の場所からキーウに避難してきている子どもたちにも受けてもらえるようにするということです。
カウンセラーのクズメンコさんは、「絵を描いている間は、感情を発散して、いくらかリラックスできると思いますが、本当の意味でよくなるには、長い時間が必要です。また、絵だけでは戦争との結びつきが分からなくても、話してみると不安を抱えていることがわかることもあります」と話していました。
またティホノワ校長は、「子どもは国の未来であり、外の世界で何が起ころうと、教育は絶対に止めてはいけないと考えています。心のケアのためには、絶え間ないコミュニケーションとサポートが必要です」と話していました。
●ウクライナ侵攻11カ月、増え続ける両軍の死者数 今年に入り急増か 1/24
ロシアによるウクライナ侵攻から24日で11カ月を迎える。終わりの見えない戦争で、前線の兵士の死傷者の数は増え続けている。ただ、正確な数はウクライナ、ロシアとも明らかになっていない。
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は昨年12月、地元テレビで、ウクライナ軍の兵士の死者数について、「公式な評価」として1万〜1万3千人と述べた。一方で、ロシア軍兵士の死者数は10万人に上ると強調した。英BBCによると、ポドリャク氏は6月の時点では、毎日100〜200人のウクライナ兵が亡くなっているとしていた。
死傷者数をめぐっては、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長がロシア軍の死傷者について「10万人以上」とし、ウクライナ軍についても「恐らく同様である」と述べている。
一方、ロシア政府は死者数について、9月に「5937人」とした以降に明らかにしていない。
BBCがロシアの独立系メディア「メディアゾナ」と調査したロシア兵の死者数は、名前が確認できた者だけで1月6日時点で1万1009人に上る。最も少ない推定でも2万2千人以上としている。
今年に入り、東部ドネツク州などでの攻防戦が激化しており、両軍での死傷者が急増している可能性がある。
CNNは今月11日、同州の激戦地ソレダルで戦うウクライナ兵の発言として、「(死者が多いため)誰も何人が死亡したのかを数えていない。誰も分からない」と伝えた。一方、同州マキイウカでは同月1日未明、ロシア軍の臨時兵舎をウクライナ軍が高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」で攻撃。ロシア国防省は、ロシア兵89人が死亡したとしているが、ウクライナ側はロシア兵の死者は約400人、負傷者約300人と発表した。
●ロ参謀総長「戦後最大の困難」 ウクライナ高官、解任続く  1/24
ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長はロシア紙が24日報じたインタビューで、ウクライナ侵攻について「現代のロシアがこのレベルの集中的な軍事行動を取ったことはなかった」と述べ、ロシア軍が第2次大戦以降で最大の困難に直面していると認めた。24日で侵攻から11カ月となった。
一方、ウクライナ国防省は、軍の食料調達を巡る汚職疑惑が報じられたことで、後方支援担当のシャポワロフ次官を解任。人道支援用に寄付された車を私的に流用したと指摘されたティモシェンコ大統領府副長官も23日付で解任された。汚職疑惑による高官の相次ぐ引責は、ゼレンスキー政権に打撃となりそうだ。

 

●ロシアの対空防衛は世界最高水準=プーチン大統領 1/25
ロシアのプーチン大統領は24日、ウクライナ軍から定期的に攻撃を受けているロシア南西部ベルゴロド州の知事とのテレビ会談で、ロシアの対空防御は世界最高水準だと述べた。
会談で、知事はプーチン大統領に対し、ウクライナ戦争が始まって以来、砲撃により地元市民の25人が死亡、96人が負傷したと伝えた。
●ロシア参謀総長「大戦以来の危機」、作戦の継続強調… 1/25
ロシア軍のウクライナ侵略作戦を指揮するワレリー・ゲラシモフ参謀総長は、露有力紙が24日に公開したインタビューで、侵略作戦に関し「現代ロシアが経験したことがない規模と激しさになっている」と述べ、困難に直面しているとの認識を示した。侵略の目的達成のため「あらゆる手段を講じている」と述べ、24日で開始から11か月となった侵略作戦を継続する姿勢を改めて強調した。
露週刊紙「論拠と事実」に語ったもので、ゲラシモフ氏は「西側がほぼ一体となって我が国と軍に敵対している」と主張し、ロシアは、前身のソ連がナチス・ドイツを破った第2次世界大戦以来の「脅威」にさらされていると説明した。
プーチン政権はウクライナ侵略を、ロシアで「大祖国戦争」と呼ばれる独ソ戦になぞらえて、国民の協力を得ようと腐心しており、ゲラシモフ氏の発言は、その一環とみられる。
露治安当局は反戦運動の封じ込めも続けている。露独立系人権団体「OVDインフォ」などによると、治安当局は21日、モスクワ中心部にあるウクライナ詩人の銅像付近で、「ウクライナは私たちの敵ではなく、兄弟だ」とのプラカードを掲げた女性を拘束した。
女性は、46人が犠牲になった今月14日のウクライナ東部ドニプロの集合住宅への露軍のミサイル攻撃に抗議したものとみられる。
ドニプロの集合住宅の被害を露国営メディアはほとんど報じていないが、ウクライナゆかりの像や記念碑に花束を置く動きは、治安当局の監視下にもかかわらず続いており、モスクワ以外でも確認されている。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国ノルウェー軍の司令官は22日、地元テレビで、ロシアの侵略開始以降、露軍兵士は約18万人が死傷し、ウクライナ軍の死傷者数も約10万人に上るとの推計を明らかにした。根拠は明示しなかった。ウクライナの民間人約3万人が死亡したとの見方も示した。
一方、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は23日、公共放送で、ロシアの戦争犯罪を裁く「特別法廷」の設置に向け、来週にも複数の関係国が会合を開く見通しを明らかにした。
●ロ大統領側近が兵士のネガティブ報道の規制を依頼 1/25
ロシアのプーチン大統領の側近が、自ら創設した民間軍事会社に所属する兵士のネガティブ報道を規制するよう求めた。
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を創設したプリゴジン氏は24日、自身の会社のSNSで、ロシア下院議長宛てに文書を出したと明らかにした。
プリゴジン氏は文書の中で、「公然と兵士をおとしめるメディアやブロガーがいる」と指摘。
兵士の中に、殺人や性犯罪などの元受刑者が含まれていることから、「メディアはネガティブな情報を探し出し、われわれのために命をささげてくれている兵士たちを悪人のように見せている」としたほか、「社会の一員となるチャンスを与えず、彼らの功績を故意に軽んじて、一般市民との対立を生み出している」と批判した。
そして、ロシア刑法に新しい項目を盛り込み、兵士のネガティブな報道や、過去の犯罪歴に対する批判に5年以下の禁錮刑を科すべきと提案した。
ロシアでは、ウクライナへの軍事侵攻後、軍や国家を陥れるような報道を禁じる法律が成立し、違反者には最長禁錮15年が科される。
プリゴジン氏の指摘で、ロシアで報道の自由がさらに縛りつけられる可能性がある。
●原発に西側兵器なし ロシアの主張を否定―IAEAトップ 1/25
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は24日、ブリュッセルの欧州議会で、ウクライナ国内の全ての原発敷地内を確認し、西側諸国から提供された兵器は発見されなかったと明らかにした。ロシアが兵器の存在を主張していたが、これを真っ向から否定した。
グロッシ氏はこの日、ウクライナ国内のIAEA支援チームに対して、ウクライナの施設管理者と共に全原発を確認するよう指示したという。「点検の結果(兵器は)なかった」と述べた。
●アメリカ 主力戦車をウクライナに供与検討 複数メディア伝える  1/25
アメリカの複数のメディアは、バイデン政権がロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの軍事支援としてアメリカの主力戦車を供与する方向で検討していると伝えました。
アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルなど複数のメディアは24日、アメリカ政府当局者の話として、バイデン政権がアメリカの主力戦車「エイブラムス」をウクライナに供与する方向で検討していると相次いで伝えました。
早ければ今週中にも発表する可能性があるとしています。
アメリカ国防総省のライダー報道官は24日、記者会見で、現時点で発表することはないとした上で「ウクライナが緊急に必要とする安全保障上の支援についてウクライナや同盟国などと緊密に連絡を取り合っている」と述べました。
ウクライナへの戦車の供与をめぐっては、ドイツの複数のメディアが24日、ドイツ政府がドイツ製の戦車「レオパルト2」を供与する方針を固めたと一斉に伝えました。
ドイツやアメリカはこれまで戦車の供与に慎重な姿勢を示していたことから両国が供与に踏み切れば足並みをそろえた可能性があります。
●ドイツ、ウクライナに戦車供与を「決定」 米も最終調整 1/25
独誌シュピーゲルは24日、ドイツのショルツ政権が同国製主力戦車「レオパルト2」をロシアの侵攻を受けるウクライナに供与することを決定したと報じた。ポーランドなどレオパルト2の保有国による供与も承認するという。欧米の軍事支援がより攻撃的な兵器にレベルが上がり、ウクライナ東部や南部での地上戦が激化する可能性がある。
一方で、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルも同日、複数の米政府関係者の話として、バイデン米政権が米軍の主力戦車「M1エーブラムス」をウクライナに提供する方向で最終調整していると報じた。ドイツの判断を後押しするとともに、強力な火力を持つ兵器の提供で足並みをそろえる狙いがあるとみられている。
ウクライナ軍はロシアに占領された領土奪還に向けた地上戦のため、欧米の戦車の供与を再三求めてきた。欧州では十数カ国がレオパルト2を計2000両以上保有する。各国が融通すれば負担は少なく、整備や訓練も柔軟にできることからウクライナに提供する最適な戦車とされている。
ポーランドやフィンランドはすでに自国が保有するレオパルト2をウクライナに提供する意向を示していた。しかし、供与には製造国ドイツの承認が必要。ポーランドのブワシュチャク国防相は24日、ドイツに対し供与の承認を正式に要求したことを明らかにしていた。
ショルツ政権はロシアと北大西洋条約機構(NATO)の全面的な対立につながることなどを懸念し、供与や承認に慎重だった。しかし、欧州各国からはドイツに早期の決断を迫る声が強まり、供与に踏み切ったとみられる。米独メディアは、これまでにショルツ首相が供与の条件として、米政府もエーブラムスの提供に踏み切ることを挙げていると報道していた。
一方で、米国防総省はこれまでエーブラムスの提供には消極姿勢を示してきた。レオパルト2などと使用する燃料が違い、維持管理も難しく、訓練にも相当の時間を必要とすることから「合理的な選択肢ではない」(同省のシン副報道官)と説明していた。
●ウクライナ侵攻のロシア、春にも大規模攻撃か 米研究所 1/25
米シンクタンクの戦争研究所は24日までに発表した戦況分析で、ロシアがウクライナに対して数カ月以内に決定的な行動を起こす可能性があると指摘した。ウクライナ当局も、春か初夏にロシア軍が大規模な攻撃を仕掛ける準備をしているとみている。ウクライナが欧米諸国に軍事支援を求める中、ドイツが主力戦車の供与を認めるかどうかが注目されている。
戦争研究所は、ロシア軍が大規模な攻勢に備えてウクライナ東部ルガンスク州などで軍備の再編を進めていると分析した。「ロシアの新たな軍事作戦に対してウクライナが主導権を失わないようにするには、西側諸国のパートナーによる支援が引き続き必要だ」と指摘した。
英国などが戦車や装甲車のウクライナへの供与を決める中、ドイツの対応が注目されている。同国製の主力戦車「レオパルト2」を保有するポーランドなどが供与する意向を示しているが、ドイツの承認が必要だ。ショルツ独首相は「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の戦争になるのを避ける」と繰り返し述べており、武器供与で目立つことには慎重な立場だ。
一方、タス通信などによると、ベラルーシのルカシェンコ大統領は24日、ウクライナから不可侵条約を締結する提案があったと述べた。ベラルーシはロシアの侵攻に協力しており、ウクライナにはベラルーシ軍が参戦することへの警戒感がある。
●ベラルーシ大統領「ウクライナから不可侵条約締結の提案」 否定的な姿勢示す 1/25
ロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領は、ウクライナから不可侵条約締結の提案があったと明らかにしました。
ロシアメディアなどによりますと、ルカシェンコ大統領は24日、ロシアの侵攻を受ける隣国ウクライナから互いに領土を侵さないことを約束する不可侵条約締結の提案があったと述べました。
詳しい内容や提案の時期については触れておらず、詳細は不明です。
ルカシェンコ氏は「なぜそうした提案があったのかわからない。一方ではウクライナ領土に軍を送るなと言いながら、他方でベラルーシの過激派を武装させている」などと主張し、否定的な姿勢を示しています。
ベラルーシにはロシア軍との「地域合同部隊」が駐留するほか、来月1日にかけて空軍の合同軍事演習が実施されていて、ウクライナ側からはベラルーシが侵攻への関与を強めるのではとの見方も出ています。
ロシアのペスコフ大統領報道官は24日、不可侵条約締結の提案について「何の情報も持っておらずコメントできない」としています。
こうした中、侵攻を指揮する総司令官に今月就任したゲラシモフ参謀総長は24日、ロシアの新聞のインタビューで「現代のロシアにおいてこれほどの軍事行動のレベルと激しさは前例がない。我々は事実上、西側諸国全体から敵対行為を受けている」と述べました。
そのうえで「軍事作戦の目標を達成し、わが国の安全を確保するためにあらゆる手段を講じる」として、侵攻を継続する姿勢を示しています。
また、ラブロフ外相も訪問先の南アフリカで「ウクライナで起きているのはハイブリッド戦争ではなくもはや本物の戦争だ。欧米はロシアの全てを破壊しようとしている」と主張、ウクライナへの軍事支援を続ける欧米を強くけん制しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、条約について直接の言及はしなかったとみられますが、「私たちは攻撃するつもりはない」「ベラルーシが独立性を失わず、この恥ずべき戦争に参加しないことは重要です」と呼びかけています。
●ウクライナの子供たち、連行疑い多発 ロシア軍占領地で今何が? 1/25
ロシアが侵攻するウクライナで、露軍の占領地からウクライナ人の子供がロシア領に連行された疑いのある事案や、ロシアに行った子供が露領内で留め置かれるケースが多発し、国際的に非難の声が上がっている。露軍占領地の子供たちに何が起きているのか。
「迎えに来てくれるの? いつ来られるの? お母さん、今どこにいるの?」
東部ハリコフ州クピャンスク近郊の村に住むリュドミラ・コズルさん(48)は昨年8月、約3週間の予定で次女ベロニカさん(13)をロシア南部ゲレンジークで行われるサマーキャンプに送り出した。だが、当初のキャンプ終了期日を過ぎてもベロニカさんは帰国のめどが立たない。代わりにベロニカさんから迎えに来てほしいという声が電話などでコズルさんに届いた。「何度もそう言われるのが一番つらかった」というコズルさんは「子供を連れ戻すことができない。そう思うと恐ろしくてたまりませんでした」と振り返る。
村はロシアとの国境から約40キロ。昨年2月24日の侵攻開始とともに露軍が一帯に侵入し、翌25日には露軍が制圧。9月9日にウクライナ軍が奪還するまで約半年間ロシアに占領された。
占領下の5月ごろ、ロシアで行うサマーキャンプに無料で参加できるという情報が学校などを通じて広がり始めた。ロシアに送る不安はあったが、近所の子供たちの中には参加して無事に帰ってきた子もいたので安全だと思えた。周辺で続く砲撃の音などを嫌がったベロニカさんはキャンプに行きたがった。説明会にも行き、夫と話し合った末、行かせることに決めた。
8月28日、地域の200〜300人の子供が5台のバスで出発した。参加者によると、露領内に入るとバスの前後をロシア警察の車両が挟んで移動したという。
しかし9月9日、ウクライナ軍は占領地域であるこの村を奪還、露軍は撤退した。ロシア側のキャンプ管理者に連絡すると、戦況を承知しているので10月10日までキャンプ期間を延長すると言われた。
キャンプの運営側は参加した子供の親がキャンプまで直接迎えに来れば帰す姿勢を示した。しかし危険な前線を越えてロシアに向かうのは難しい。迂回(うかい)してポーランドなどを経由するしかないが、大金がかかる。最終的にコズルさんら地域の母親14人はNGOの支援を受け、12月に陸路でポーランドとベラルーシを通過しロシアに入国。コズルさんは南部アナパのキャンプに移動していたベロニカさんと再会し連れ戻すことができた。「キャンプに行かせたことをとても後悔しています。もうどこにも行かせません」。コズルさんは取材にそう涙を浮かべた。
それでもコズルさんたちは運が良かった方かもしれない。コズルさんらと一緒にキャンプに行き、娘のダーシャさん(15)を取り戻したタイシア・ポジダエバさん(32)によると、そのキャンプにはまだ51人の子供が取り残されていた。一方で、侵攻後にウクライナからロシアに移住した親に対しては既に子供が引き渡されていた。
ウクライナ政府の推計では、キャンプ参加者も含め、侵攻後にロシア側に「移送」された子供の数は1月23日段階で少なくとも1万4450人で、ウクライナ側に戻れたのは126人だけという。欧州連合(EU)は「ロシアは不法行為をやめ、子供たちを直ちに安全に帰国させなければならない」と批判する。
●ロシア 兵器増産し侵攻継続姿勢 ウクライナでは要人解任相次ぐ  1/25
ロシアのプーチン政権は、軍需工場に兵器の増産を指示するなどウクライナへの侵攻を続ける姿勢を示しています。一方、ウクライナではゼレンスキー大統領の側近など政府の要人が解任される事態が相次ぎ、反転攻勢への影響が懸念されています。
ロシア軍のウクライナへの侵攻から11か月となるなか、イギリス国防省は23日、ロシア軍が侵攻以降に掌握した領土のうち、ウクライナ軍がおよそ54%を解放したと指摘しました。
また、クリミアなど国際的に承認されたウクライナの領土のおよそ18%が、いまもロシア側の支配下に置かれているとしています。
こうしたなか、ロシアの前の大統領で、安全保障会議のメドベージェフ副議長は24日、ロシア中部のイジェフスクにある軍需工場を視察しました。
そして、欧米などがロシア軍の兵器不足を指摘しているのに対し「彼らを失望させたい。すべてが十分にそろっていて、年初から兵器や弾薬などは部隊に供給されている」と強調した上で、特に無人機の需要が高まっているとして兵器の増産を求めました。
一方、ウクライナでは、政府の要人が解任される事態が相次ぎ、このうち、ゼレンスキー大統領の側近で大統領府のティモシェンコ副長官と国防省の幹部が24日までに解任されました。
また、地域発展省の幹部が、前線への物資の調達をめぐって賄賂を受け取っていたなどの疑いで逮捕され22日解任されたほか、成人男性の国外への渡航が原則禁じられている中で、検察の幹部がスペインで休暇をとっていたことが明らかになったあと解任されました。
ゼレンスキー大統領は、綱紀粛正の徹底を図る姿勢を示していますが、政府の要人が次々に解任される事態に、地元メディアは、政府が早急に対応をとる必要性を強調していて、反転攻勢への影響が懸念されています。
●ウクライナ大統領府 “ティモシェンコ副長官解任”の大統領令  1/25
ウクライナ大統領府は24日、ティモシェンコ副長官を解任したとする大統領令を公表しました。
これに先立ち、ティモシェンコ氏は自身のSNSでゼレンスキー大統領に対し、辞表を提出すると明らかにしていました。
ティモシェンコ氏は、ウクライナでの戦況などについて、たびたびSNSなどで情報を発信してきました。
大統領府が副長官を解任した理由は明らかにされていませんが、地元メディアはティモシェンコ氏をめぐるスキャンダルを報じていました。  
●ロシア「避けられない傷 残す」 独や米の“戦車供与方針”に  1/25
ウクライナへの軍事支援をめぐり、複数のメディアは、ドイツやアメリカ政府が、焦点となっていた主力戦車を供与する方針を固めたなどと伝えています。
これに対し、ロシア側はこうした欧米側の動きを強くけん制しています。
ドイツの有力誌シュピーゲルなどは24日、ドイツ政府が攻撃能力が高いドイツ製の戦車「レオパルト2」をウクライナに対して供与する方針を固めたと伝えました。
また、アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどは、バイデン政権がアメリカの主力戦車「エイブラムス」をウクライナに供与する方向で検討していると報じています。
ドイツのショルツ政権は、戦車の供与について戦闘が一層激化するという国内の懸念などを背景に、慎重な姿勢を示してきましたが、アメリカなどとの協議も踏まえたうえで、どのような決断をするのかが焦点となっています。
ウクライナ軍は、近く大規模な反転攻勢を目指しているとみられ、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は先月、イギリスメディアのインタビューに対し「300両の戦車や600から700の歩兵戦闘車などが必要だ。そうすれば軍事侵攻前までの領土の奪還が現実的になる」と述べています。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は24日、ドイツ政府が供与を決定した場合「将来の両国関係にとってよいことにはならず、必ず避けられない傷を残すことになる」として、強くけん制しています。
また、ワシントンに駐在するロシアのアントノフ大使も「供与が決まれば、アメリカの戦車は、ほかのNATO=北大西洋条約機構の兵器と同様、破壊されるだろう」としています。
米 戦争研究所 “欧米諸国の供与 領土奪還に貢献”
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は24日、イギリスが主力戦車「チャレンジャー2」を供与する方針を示しているのに続き、ドイツやアメリカが主力戦車をウクライナに供与する方針を固めたなどとメディアが伝えているとしています。
さらにフランスも、フランス製戦車「ルクレール」を供与する可能性を排除しないという立場を示していると指摘しています。
そのうえで「欧米諸国のウクライナへの主力戦車の供与は、ロシア軍を打ち負かし、領土を奪還することに貢献するだろう」として、戦況がこう着する中、ウクライナ軍が主導権を握る可能性があると分析しています。
ロシア大統領府 米の戦車供与の可能性「ばかげた計画」
ロシア大統領府のペスコフ報道官は25日、アメリカの主力戦車「エイブラムス」がウクライナに供与される可能性について「ばかげた計画であり、技術的な側面から失敗するだろう。明らかに過大評価されている。他の戦車のように燃え尽きることになる」と強くけん制しました。
また、戦車「レオパルト2」を供与する方針を固めたと伝えられていたドイツ政府とロシアは対話を行っていないと主張しました。
そして、アメリカの科学雑誌が「人類最後の日」までの残り時間を象徴的に示す「終末時計」で、これまでで最も短い「残り1分30秒」と発表したことについて質問されたペスコフ報道官は「ヨーロッパと世界情勢は極めて緊迫している。アメリカが主導するNATO=北大西洋条約機構が選んだ路線によって、緊張緩和が見通せていない」と欧米側を批判しました。
●ロシアで一部医薬品が不足、備蓄の必要ある=プーチン大統領 1/25
ロシアのプーチン大統領は24日、国内で増産努力にもかかわらず一部医薬品が不足しているとして、需要に応えるため一般用医薬品の備蓄に踏み切る可能性を示唆した。
ウクライナ侵攻に対する西側の対ロシア制裁は処方薬を対象外としている。だが、業界のデータを見ると、戦争やその他規制による輸送や保険、税関面の障害でロシアへの納品が打撃を受けている実態が表れている。
プーチン氏は当局者との会議で、「昨年初めから第3・四半期までに医薬品生産は約22%増えているが、一部に不足が生じている。市販薬の60%は国内製だが、それでも一部に不足が見られ、価格が上昇している」と発言。ロシアは医薬品輸入を規制しておらず、今後も海外製造業者と協力していくと述べた。
その上で、「一定期間内に最も使われ医薬品の供給を確保する必要がある」とし、冬季に備えたガス備蓄と同様の方法でインフルエンザ流行期に向けて医薬品備蓄を行う可能性を示唆した。
●「こんなにウクライナに力いれていいのか」 森元総理が政府に苦言 1/25
ロシアによるウクライナ侵攻を巡る日本政府の対応について、自民党の森元総理大臣は「こんなにウクライナに力を入れていいのか」などと持論を展開しました。
森元総理「こんなにウクライナに力入れちゃっていいのかなと。どっちかが勝つ負けるっていう問題じゃない。ロシアが負けるってこと、まず考えられない。そういう事態になれば、もっと大変なことが起きる」
森元総理はこのように述べたうえで、ロシア側とのパイプの維持を念頭に「その時に日本が大事な役割を失ってはいけない。それが日本の仕事だ」と指摘しました。
森元総理は総理大臣当時、大統領に就任したばかりのプーチン大統領と親交を深め、ロシア外交を進めてきたこともあり、ウクライナ支援を強化する方針の政府の対応に苦言を呈した形です。
●露「米欧戦車を破壊」と強弁も…滲む焦りと苛立ち 1/25
ドイツが主力戦車「レオパルト2」のウクライナ供与を決め、米国も主力戦車「エイブラムス」を供与する見通しとの報道にロシアは反発している。ロシアは「米欧の戦車が供与されれば破壊する」「戦況に影響はない」などと強弁しながらも、実際には主力戦車の供与がウクライナによる将来的な反攻の加速につながることを危惧。ロシアの反発の背後に、焦りといらだちがあるのは確実だ。
米欧の主力戦車の供与に関し、アントノフ露駐米大使は「仮に供与された場合でも露軍に破壊されるのは確実だ」と強調。「戦車の供与を『防衛兵器』だとの名目で正当化することはできず、ロシアへの新たな挑発になる」とも警告した。タス通信が25日伝えた。
露下院国際問題委員会のスルツキー委員長も24日、交流サイト(SNS)を通じ、「前線で露軍が優勢になりつつあることに米欧が懸念を深めている証拠だ」と主張。その上で、米欧が供与してきた携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」や高機動ロケット砲システム「ハイマース」などは露軍の作戦を停止させられず、大半が破壊されたとも主張し、米欧の主力戦車も「同じ運命をたどる」などと述べた。
しかし現実には、ジャベリンやハイマースなど米欧供与の兵器は露軍の前進を遅らせ、各地でのウクライナ軍の反攻を可能にした。
露軍は最前線に旧式戦車を投入するなど戦力の低下が進んでいるとされ、米欧の主力戦車への対抗手段は限られているのが実情だ。米シンクタンク「戦争研究所」は24日、主力戦車の供与は「ウクライナ軍が露軍を敗退させ、領土を解放するのを助ける」と評価した。
ロシアはウクライナ侵略の開始当初から「ウクライナへの軍事支援は対露参戦とみなす可能性がある」と米欧を威嚇し、兵器供与を停止させようとしてきた。それにもかかわらず米欧が兵器供与を拡大し続けていることにもロシアはいらだちを強めている。
ウクライナは米欧の主力戦車を東部や南部の前線に投入し、領土奪還を進めたい構え。ただ、旧ソ連製兵器を主力としてきたウクライナ軍にとって、北大西洋条約機構(NATO)規格の主力戦車が実際に供与された場合、習熟訓練や修理・補給態勢の構築に一定の時間が必要となる。主力戦車が実戦投入される前に戦果を拡大しようと露軍がさらに攻勢を強める可能性も排除されない。
●「中国国営企業がロシアに非殺傷軍事・経済支援」を確認…米が警告 1/25
ロシアのウクライナ侵攻に関連し、中国の国営企業がロシアを支援している状況を米国政府が確認して中国側に警告したと米ブルームバーグ通信が24日(現地時間)、報じた。
ブルームバーグ通信はこの日、事情に精通した複数の消息筋を引用して「バイデン政府が最近、中国の国営企業がロシアに対して意図的に『非殺傷軍事支援および経済的支援』をしたとの証拠を確認し、このような動きの意味を評価している」と伝えた。消息筋はメディアに「中国企業の関与がロシアに対する(米国など西側の)制裁を全面的に回避する手前の水準」としながら「このような行為がロシアに対する戦争物資支援を意味することになるという点を米政府が中国側カウンターパートに警告した」と明らかにした。中国企業が具体的にどのような物資をロシア側に渡していたのか等の詳しい内容は確認されなかった。
中国の国営企業が中国共産党の影響力下にあるという点で、バイデン政府は今回の事態を慎重に検討しているという。「中国がウクライナ侵攻を支援している」という結論がくだされればロシアと中国の両側に対する米国の政策変化に重大な影響を及ぼしかねないためだ。
習近平国家主席は昨年2月ロシアのウクライナ侵攻以降、プーチン大統領とのオン・オフライン会談で直接的にロシアの肩を持つような言動はしたことがない。それでも「これまで以上に中露関係は密着している」というのが米政府の評価だ。戦争を前後して欧州・米国など西側諸国はロシアに対する経済制裁を断行したが、ロシア産石油・天然ガスの輸出物量の相当数は中国とインドに流れて行ったことが確認された。中国とインドのロシア産原油輸入量は昨年3月基準で欧州連合(EU)27カ国を超えた。中国のロシアに対する輸入は昨年基準で50%増加し、輸出は13%増加した。
ブルームバーグ通信は「バイデン政府が今回のことで、中国政府が直接関与するか、少なくとも国営企業の支援を黙認していると判断するなら、米中関係において完全に新しい次元のリスクが発生する」と指摘した。
米中は台湾問題と先端産業サプライチェーン問題で鋭く対立しながらも正面衝突を回避するためにあらゆる力を動員している。昨年11月バイデン大統領と習主席が初めて対面会談したことに続き、新年に入って高官交流を活発に継続している。今月18日ジャネット・イエレン財務長官が劉鶴・国務院副首相と会談したほか、来月5〜6日にはブリンケン国務長官が中国を訪問する予定だ。このような流れの中で米国側が中国政府に中国企業のロシア関与問題を取り上げた可能性がある。
一方、ブルームバーグ通信は今回のことに関連して米国家安全保障会議(NSC)と国家情報局(CIA)が公式論評を拒否したと付け加えた。在ワシントン中国大使館もブルームバーグの質問に答えなかった。
●ウクライナ、より長距離のミサイルを要望 ロシアは過去の失敗から学ぶ 1/25
ウクライナの当局者らはロシアが戦場での失敗から学び、弾薬集積所や兵站(たん)拠点へのミサイル攻撃を難しくする措置を講じているとの見方を示す。ウクライナがロシア国内を射程に収める、より長距離のミサイルを必要としている理由はそこにある。
当局者らはロシアのゲラシモフ参謀総長がウクライナ侵攻の総司令官に任命された人事にも触れ、軍の序列を何度も入れ替えてきたロシア政府による最後の賭けだとの見方を示した。
ウクライナ国防情報総局の幹部バディム・スキビツキー氏は23日、CNNに対し、ロシアが「ロシア連邦内の各地」に軍事物資を分散させ始めたと指摘。
特に、ロシアのロストフ州にある兵站拠点から「あらゆる物資がクリミア半島を通って南部へ運ばれている」との見方を示した。
このため、ロシアの占領下にあるクリミア半島だけでなく、「ロシア連邦内の施設」に対しても攻撃を行う必要が出てきている。
スキビツキー氏によれば、ロシアの兵站施設は前線から80〜120キロ離れた地点に置かれている。つまり、ウクライナがこうした施設を狙うには今より長射程の攻撃システムが必要になる。
長距離火力が必要な理由は他にもある。複数のウクライナ当局者はロシアの増援部隊の装備が整い、移動可能な状態になる前に反攻に出たい考えを示したが、そのためにはより長い射程が必要だ。
「反攻や攻勢作戦を準備するには、多くの施設を破壊する必要がある。前線だけでなく、敵の戦線から100〜150キロ離れた奥深くにある施設を攻撃しなければならない」(スキビツキー氏)
昨年夏に行われたウクライナ南部ヘルソン州の占領地への攻撃では、米国製の高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」がこうした拠点の排除に高い効果を発揮した。だが、ハイマースの射程ではロシア領に届かない。
バイデン米政権はこれまでのところ、ロシア国内に届くシステムの供与に慎重な姿勢を崩していない。
●ウクライナ軍、ソレダル撤退認める ロシア軍「制圧」から10日余り 1/25
ロシアからの侵攻を受けるウクライナの東部軍の報道官は25日、激戦地だった東部ドネツク州のソレダルから撤退したことを認めた。
同国の公共放送が伝えた。ロシア側が13日までに「制圧」を発表したが、ウクライナ側は「戦闘は継続中だ」としていた。
同放送によると、報道官は「軍の人員の命を守るためソレダルを離れ、事前に準備したラインにそって部隊を強化した」と述べた。
同州の交通の要所バフムートに近いソレダルの攻防では、ロシア側の主力となった民間軍事会社「ワグネル」のエフゲニー・プリゴジン氏が11日に「掌握」を表明。ロシア軍も13日に制圧を発表したが、ウクライナのゼレンスキー大統領は「激しい戦闘が続いている」などとしていた。

 

●「じきにロシアは革命、内戦、破綻」…プーチンが青ざめる「恐るべき調査」 1/26
衰退が免れないロシア
アメリカの安全保障分野を扱う有名シンクタンク「大西洋評議会」(Atlantic Council)は、世界を代表する167人のグローバル戦略家に実施した調査『Global Foresight2023』を1月9日、公開した。
その調査結果で、ウクライナ戦争によって、地球上で最大の核兵器保有国であるロシアに、重大な動揺がもたらされる可能性が指摘されている。ウクライナ戦争によって、世界の安全保障はどう変わるのか。ロシアは、今後どうなっているのかを考えていこう。
ロシアによるウクライナへの侵略戦争は、もう少しで1年を迎えようとしている。ロシアによる攻勢は、侵略から半年で鳴りを潜める結果となり、ウクライナの反転攻勢が続いていた。ロシアは、この戦争を「特別軍事作戦」として、あくまで「通常の戦争」とは違うことを強調しているが、敗走が続き、ロシアにおける兵員動員や産業政策は、すでに「大規模な戦争」と同等のものとなっていることが、米シンクタンク・戦争研究所(ISW)によって指揮されている。
同研究所によれば、ロシアは、このウクライナ戦争における主導権を取り戻し、一連の軍事作戦を「成功」として終わらせるべく、準備をおこなっているのだという。早期に終わらせることができなければ、ロシアの衰退は免れないだろう。現在、ロシアには世界各国から厳しい経済制裁が課されていて、半導体が輸入できないことから、外資系企業が撤退したり、制裁で金融機関の経営環境が厳しくなったりと、多くのロシア人は所得が減少している。
民間軍事会社「ワグネル」とは
ロシアの戦況打開のためにキーとなることが、2つある。一つは、民間軍事会社「ワグネル」。もう一つは、ウクライナ民間施設、住居への無差別攻撃だ。
ロシアのウクライナ侵攻では東部ドネツク州の北部バフムト一帯の攻防が激しさを増していて、ロシア側は民間軍事会社「ワグネル」の部隊が主力となっている。ウクライナにとってバフムトは重要な戦略拠点ではないとされているものの、敗戦つづきのロシア軍にとって、バフムトでの大善戦は久々の明るいニュースとなっている。ウクライナ民間人や民間インフラへの無差別とも思える攻撃もあわせて、ウクライナ国民の気持ちを萎えさせようということなのだろう。
しかし、ウクライナが(局地的にはあるものの)劣勢とみるや、ヨーロッパ各国がこれまで供給していなかった戦車をウクライナへ供与するようになった。特にイギリスは、英国陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」、大型の自走式砲であるAS90を納入している。
他にもポーランドはドイツ製のレオパード戦車14両を送る予定で、1月初め、ドイツと米国はフランスと共にウクライナに装甲戦闘車を送ることで合意した。これらは、ウクライナの戦場での軍事力を大幅に高めると考えられている。さらに、アメリカでは、ウクライナ兵が、パトリオットミサイルの発射訓練をしているところだ。ロシアが企図しているかもしれない大規模攻勢への備えは、進んでいる。
ロシアが破綻国家に…
「強力な武器をどうせ送るのだったら戦争当初から送ってあげなよ…」と内心思ってしまわないでもないが、ロシアの立場に立ってみると、ウクライナに対して戦場で優勢に立てば立つだけ、西側諸国がより強力な武器を送ってこられるというのは、厄介な問題だろう。どんなに頑張ったところで、侵略の意思を捨てない限り、戦争の大規模化と長期化が想定される事態になりつつあるためだ。プーチン大統領は激怒し、ロシア国民の失望は大きいものとなるかもしれない。
冒頭の調査に戻ろう。
調査によれば、グローバルストロテジスト(国際戦略家)167人の半数近く(46%)が、2033年までにロシアが破綻国家になるか、崩壊するかのどちらかになると予想している。5分の1以上(21%)が、今後10年以内にロシアが破綻国家になる可能性が最も高いと見ており、これは次に多いアフガニスタンの2倍以上の割合だという。また、回答者の40%が2033年までに革命、内戦、政治的崩壊、あるいはその他の理由でロシアが内部分裂すると予想していることである。
ロシアのウクライナ侵攻は、国際安全保障を強化するための制度の限界を明らかにした。グローバルストロテジスト167人は、台湾をめぐる紛争、ロシア国家の脆弱性、ロシアによる核兵器使用、パンデミックや経済危機の増加など、今後10年間に人類の安全保障にとって様々な主要課題が発生すると予測しているが、世界の安全保障の構造はほとんど変わらないと考えているようだ。
例えば、回答者の82%が、今後10年間、NATOは相互の安全保障に基づく北米と欧州の国々の同盟であり続けると考えている。NATO加盟国の国民である回答者の85%が同盟の現在の形態が維持されると考えており、その他の国の回答者でも71%が同じように考えている。
役に立たない国連
この調査から、対ロシアの戦略について、このNATOという集団安全保障体制の枠組みが機能していることが窺い知れる。
プーチン大統領やロシアの有力者が演説で繰り返す「西側=悪魔」論に与するつもりはないが、ロシアはNATOを恐れていて、手出しができないものとなっている。調査の回答者もロシアがNATOやアメリカと直接戦闘を行うリスクは小さいと見ているようだ。
この調査から考えると、やはり日本もロシアや中国を封じ込めることができるような軍事同盟を日米を中心に広げていくことが必要だろう。
ウクライナ戦争では、ロシアや中国が常任理事国として拒否権を持つ国連が何一つ役に立っていない。読売新聞の元旦社説は、「強制力はなくても、国連緊急特別総会では対露非難決議などが圧倒的多数の賛成で採択されていることは、注目に値する。国際世論の高まりが、穀物輸出の封鎖、原子力発電所への攻撃などの最悪事態を部分的ながら回避させ、改善策が講じられてもいる。国際世論は無力ではないのだ」などと主張しているが、このような無能な組織をアテにするほうがおかしいというものだ。
自分の国は自分で守る、という基本原則はありつつも、ロシアや中国が攻めて行きたくなくなるような強固な軍事同盟が必要なのだ。
●ロシア正教とも亀裂か…ますます怪しいプーチン氏の精神状態 1/26
「プーチンの戦争」が始まってから11カ月が過ぎた。ウクライナのゼレンスキー大統領は徹底抗戦の構えを崩しておらず、無謀な侵略に終止符を打てるのはロシアのプーチン大統領にほかならない。だが、その精神状態はいよいよ危ぶまれている。
タフな指導者を売りにしてきたプーチン氏は釣り、乗馬、狩猟などさまざまなシーンでマッチョな肉体を誇示。「強い男」をアピールし、求心力を高めてきた。真偽は怪しいが、野生のアムールトラに襲われたカメラマンを救出するため、素手で野獣を倒したとも喧伝されている。
そうしたプロパガンダの中でも重要なのが、ロシア正教の「神現祭」(主の洗礼祭)だ。キリストが洗礼を受けたとされる日にあわせ、毎年1月中旬に各地で信者らが極寒の海や川で沐浴する伝統行事。敬虔な信者として知られるプーチン氏も氷点下20度を下回る屋外で聖水に漬かり、その姿は毎年テレビで流されていた。それが、ウクライナ侵攻の前年を最後にパッタリ。今年もプーチン氏の沐浴は報じられなかった。ロシア正教との持ちつ持たれつの関係に、ついに亀裂が生じたのか。
「ロシア正教会最高位のキリル総主教は昨年10月、70歳を迎えたプーチン氏を称賛し、健康を祈るよう聖職者に呼びかけた。侵攻を支持する姿勢に表向きの変化はありません。ソビエト時代の無神論によって迫害されたロシア正教は、プーチン体制下で息を吹き返した。その見返りとしてお墨付きを得たプーチン氏は、皇帝のごとく振る舞ってきた。互いに政治的に利用しあってきたわけですが、もともとプーチン氏のやり方に眉をひそめる高位聖職者は少なくなく、侵攻への批判もくすぶっている。体調不安による判断力の低下を疑われるプーチン氏は、心のよりどころでもある宗教にも見放され、平常心を失いつつあるともみられています」(外交関係者)
筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)もこう言う。
「プーチン氏はキーウ攻略を諦めてはいない。地獄行きの運命を悟り、道連れとばかりにトンデモない行動に出る可能性は否定できません」
心身ともにむしばまれ、異様な歴史観に取りつかれた独裁者の脳裏にあるのは、まさか「死なばもろとも」なのか。
●ロシアの「ワグネル」批判報道に禁錮刑も 下院議長が検討指示 1/26
ロシアの民間軍事会社に所属する兵士の信用を失墜させる報道を規制する法律について、ロシア下院議長が検討するよう指示した。
ロシア下院は25日、ボロジン議長が下院の国防委員会などにワグネル兵の信用失墜に対して責任を定める改正刑法の可能性を早急に探るよう指示したことを発表した。
これはプーチン大統領の側近で、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を創設したプリゴジン氏が24日にボロジン議長に文書で提案したことを受けたもので、成立すれば、信用を失墜させる報道や兵士の犯歴情報に対する批判に対し、5年以下の禁錮刑を科すことになる可能性がある。
プリゴジン氏は「ワグネルの兵士ら国を守るすべての人々は英雄だ。彼らは敬意を持って扱われなければならない」と主張していた。
●アメリカ、ウクライナに主力戦車供与へ 軍事支援は新たな段階に 1/26
バイデン米大統領は25日、ホワイトハウスで演説し、ロシアの侵攻を受けるウクライナに米軍の主力戦車「M1エーブラムス」を供与すると発表した。ドイツも同日に主力戦車の供与を表明しており、これまで慎重だった戦車の供与で米独が足並みをそろえた。ウクライナの領土奪還に向けて米欧の軍事支援は新たな段階に進んだ形だ。
バイデン氏は同日に英独仏伊の首脳と電話協議し、ウクライナへの全面的な支援に向けて緊密に連携することを確認した。演説では「米欧は支援で十分に、徹底的に、完全に結束している」と強調。春に向けてウクライナ軍が反撃の準備を進めているとし「機動力を向上させ、ロシアの侵略を抑止し防衛する永続的な能力が必要だ」と説明した。
供与する予定のエーブラムスは31両で、ウクライナ軍の戦車大隊1個分にあたるという。ウクライナ兵に対し、維持管理や操縦の訓練などをウクライナ国外で実施する。ただ、米軍の余剰在庫から供与する緊急の支援ではなく、米政府が新たに戦車を調達する形をとる。そのため、実際にウクライナ側に引き渡されるのには数カ月以上かかるとみられている。
米政府に先だって、ドイツのショルツ政権も欧州で広く保有されているドイツ製戦車「レオパルト2」の供与を表明。ポーランドなどの保有国による供与も承認した。高い攻撃力を誇る戦車の供与は戦闘を激化させ、反発したロシアと米欧との直接的な衝突につながりかねない。ドイツのみが突出して供与に踏み切ることを懸念したショルツ政権は条件として、米政府によるエーブラムス供与を挙げていたとされる。
バイデン政権もこれまでウクライナ側から再三要請がありながら、供与は控えてきた。特に国防総省は、高性能のエーブラムスは維持管理が難しく、訓練にも相当の時間がかかるとして慎重な姿勢を見せていた。しかし、レオパルト2の供与に二の足を踏むドイツに対して北大西洋条約機構(NATO)内から批判の声もあがっていたことから、バイデン政権は米欧の同盟関係に亀裂が入るのを避けるため方針転換した。
●ドイツ ウクライナに戦車供与を発表 ロシアは強く反発  1/26
ドイツ政府はウクライナに対してドイツ製の戦車「レオパルト2」を供与すると発表するとともに、戦車を保有している国がウクライナへ供与することを認める方針も示しました。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは強く反発しています。
ドイツ政府は25日、ウクライナに対してドイツ製の戦車「レオパルト2」を供与すると発表しました。
2個大隊を速やかに編成することを目標に、第1段階としてドイツ軍から14両をウクライナに供与する方針で、ピストリウス国防相は25日、最初の戦車を3か月後に届けられるという考えを示しました。
またドイツのメディアは国防省の報道官の話として来月にもウクライナ軍の兵士向けの訓練が始まると伝えています。
さらに発表ではポーランドなどヨーロッパ各国が保有する「レオパルト2」についても、ウクライナに供与することを認める方針をあわせて示しました。
攻撃能力が高いことで知られる「レオパルト2」のウクライナへの供与についてドイツは慎重姿勢から転じた形で、ショルツ首相は議会の演説で「われわれは国際社会と連携し、戦車の供与がドイツにとってリスクにはならないよう行動している」と国民に理解を求めました。
ドイツ政府の発表についてウクライナのイエルマク大統領府長官は25日「最初の一歩が踏み出された」とSNSに投稿して歓迎した上で、各国から多くの戦車が供与されることに期待を示しました。
これに対してウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは強く反発していて、ドイツに駐在するネチャエフ大使は25日、声明を出し「極めて危険な決定は紛争を新たな対立のレベルにまで引き上げるものだ」と主張しました。
ロシア専門家「ロシアにとって極めて深刻」
「レオパルト2」をはじめとする欧米からの戦車の供与について、安全保障に詳しいロシアの専門家、ドミトリー・ソロンニコフ氏は25日、NHKのオンライン取材に応じ「ロシアにとって極めて深刻で、かなり真剣に対応する必要がある。ロシア軍にとっては困難な挑戦で、最大限集中して対応すべき課題となる」と述べ、これまで同じ旧ソビエト製の戦車を相手にしてきたロシア軍は厳しい戦いを強いられるという見方を示しました。
その上で戦車の供与が戦況に与える影響については「ウクライナ軍は明らかに、春の終わりから初夏にかけて攻撃に打って出ようとしている。南部の都市メリトポリやクリミアの方面に向かうことが目標だ」として、ウクライナ軍が戦車を活用し、ロシア軍が掌握している南部の都市の奪還などに向け、反転攻勢を強めようとすると分析しました。
また今後のロシア側の対応については「ウクライナへの兵器の供与を止めるため、作戦を変える必要がある。ロシアはこれまでのところウクライナの輸送インフラを破壊できていない」として、欧米からの戦車の供与を妨害するため、ロシア軍がウクライナ国内の鉄道など戦車の輸送ルートへの攻撃を強めていく可能性があると指摘しました。
●日本がウクライナに戦車を送れない理由 1/26
日本は一国平和主義から脱却して、ウクライナに歩兵戦闘車(89式装甲戦闘車)を供与すべきである。
2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、解決の糸口を見いだせぬまま来月で1年となる。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は2022年12月15日に英エコノミスト誌のサイトで公開されたインタビューで、ロシア軍が2023年1月末から3月にかけて新戦力で大規模な攻勢をかけるとの見方を示した。
攻撃は東部ドンバス地域や南部で始まり、首都キーウにまで及ぶ恐れもあるとみている。
ウクライナは反攻作戦を視野に、ロシア軍との地上戦に有効な戦車や装甲車の供与を欧米に要請している。
既に東欧などの旧東側諸国は旧ソ連製の戦車を供与していたが、欧米諸国は、ロシアとの軍事的緊張の高まりを恐れ西側製の装甲車や戦車の供与に慎重だった。
ところが、2023年1月4日、米国は「M2ブラッドレー」歩兵戦闘車を50台、フランスは「AMX10RC」歩兵戦闘車(台数不明)を、同6日にはドイツが「マルダー」歩兵戦闘車を40台、ウクライナに供与すると明らかにした。
さらに、1月11日、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は、ウクライナに対しポーランド保有のドイツ製の主力戦車「レオパルト2」を供与する方針を明らかにした。これにはドイツの承認が必要となる。
また、1月14日、英首相官邸は、数週間以内に英軍の主力戦車「チャレンジャー2」14両をウクライナに供与する方針を発表した。
現時点のウクライナ戦争の焦点は、ドイツがポーランドの「レオパルト2」のウクライナへの供与を許可するかどうか、および米・仏・独が自国の主力戦車をウクライナに直接供与するかどうかである。
ところで、話は変わるが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まった2月末、岸信雄防衛大臣宛に、ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相から、「防御用の兵器、兵站、通信、個人防護品」などの支援要請が届いた。
そして、日本がウクライナに送ったのが、防弾チョッキとヘルメットである。
「ウクライナはこんなひどい目に遭っているのに、なぜ日本は武器を支援しないんだ。普通の国(normalcountry)とはいえない。価値(value)の判断もできない国なのか」と、欧州のある国の外交官は2022年春、日本の外務省幹部を非難した。
外務省幹部は「価値判断という表現は『善悪すらわからない国』という意味に感じた」と振り返る。(出典:日経新聞「「普通の国」と戦後民主主義」2022年10月22日)。
今、湾岸戦争の教訓を想起すべきである。
1990年8月2日、イラクによるクウェートへの軍事侵攻で始まった湾岸戦争は、冷戦後の世界が経験した最初の国際危機であった。
この危機に際し、日本の貢献は130億ドルの資金的貢献のみであった。日本が莫大な資金的貢献をしたにもかかわらず、クウェート政府が米国の主要英字紙に掲載した感謝国30カ国には日本の国名がなかったことは日本人に大きなショックを与えた。
ウクライナ戦争におけるウクライナの勝利は、欧米諸国からの兵器の供与にかかっている。戦後、ウクライナが、軍事支援しなかった日本を感謝国に加えるとは思えない。
筆者は、日本が一刻も早く「一国平和主義」から脱却し、ウクライナに兵器を供与することを願っている。
日本がウクライナを支援する理由の一つは、今回のロシアの力による一方的な現状変更の試みを国際社会が許してしまえば、アジアでも同じような事態が起こりかねないということである。
以下、初めに一国平和主義からの決別について述べ、次にウクライナへの防弾チョッキ供与の顛末について述べ、最後に防衛装備移転三原則の撤廃について述べる。
1.一国平和主義からの決別
本項の前段は、元在リビア特命全権大使小河内敏郎氏著『変わらざる合衆国と変われない日本』(桜美林大学北東アジア総合研究所2016年)を参考にしている。
筆者は、日本の一国平和主義の源流は、敗戦後、昭和20年代に7年2カ月にわたり首相の座にあった吉田茂氏の軽武装・経済重視の、いわゆる吉田ドクトリンにあると見ている。
戦後日本が、日本の防衛・安全保障は米国任せとし、通商問題を最優先する経済中心主義国家への変身を決意したのは、当面の方針としては最も現実的な選択だった。
日本は、日米安保を基軸とした経済中心主義のもとで、持ち前の正直さと勤勉さに不断の努力を重ねて、独立から30数年後には経済超大国といわれるまでに日本の国際的地位を押し上げることができた。
こうした通商国家としての成功は、それまで当面の方針だった経済中心主義を際限なく続けさせることとなった。
だが、冷戦後まもなく国際政治の怒涛が日本を襲ってきた。
新たな世界秩序が依然見えてこない情勢の中で湾岸危機が発生し、湾岸戦争へと発展した。
そこで判明したことは、日本には絶対に守らなければならない国の理念も、すべての判断の基準となる原則も、自らの行動に対する信念も日本が果すべき役割に対する使命感もない、精神的バックボーンのない国になってしまっていたということだった。
同盟国が血を流して戦っているとき、日本には対処すべき指針も備えもなかった。結果、ただ右往左往する様だけが目立ってしまった。
日本が必要とする石油の約90%を依存していた中東地域の死活的重要性を考えれば、日本は何をもたもたしているのかと罵声が浴びせられるのも仕方なかった。
このとき戦後初めて、日本は国際安全保障の軍事面においても経済力に見合った責任を果すことを真剣に求められていること、さらには同盟国が血を流して戦っている事態において、最も重要なことは、コストの分担ではなく危険の分担だということを思い知らされた。
このときのショックは日本国民の目を半分開かせる効果があった。
ちなみに、多国籍軍への国際貢献として日本が行った130億ドルの支援は、クウェート政府の注意と感謝を引き出すことすらできなかった。このときすでに、日本の経済中心主義の立回りは限界に達していた。
こうなるまで、戦後、日本の政治は一体何をしてきたのだろうか。
日本が最優先したことは、一つは何をおいても戦争や武力衝突に捲き込まれることへの危険を回避することであった。
もう一つは防衛・安全保障問題に関する限り、日本をとりまく危険も、世界と地域の戦略環境の変化についても、正面からの議論は極力避け、ひたすら憲法9条に抵触することにならないか、ただこの一点を議論し政治的紛糾を避けることだけだった。
あとは米国との関係をうまくやってさえすればよかったからである(以上が前段である)。
第2次世界大戦後、米国が世界の警察官である間は、それで何ら問題がなかった。
米国の一極時代が終わったのは2008年のリーマンショックを契機とした世界的な金融危機であろう。
そこにBRICs(Brazil、Russia、India、Chinaの頭字語)の台頭が重なり、米国の「相対的衰退」が指摘されるようになった。
中国が、日本を抜いて世界第2位の経済大国となったのは2010年である。そして、バラク・オバマ大統領が戦後の米大統領として初めて「アメリカは世界の警察官ではない」と表明したのは2013年9月である。
日本では、2012年12月26日、第2次安倍晋三内閣が発足した。2013年1月、安倍首相は所信表明演説で「地球儀を俯瞰する外交」という理念を外交上の基本方針とすることを明言した。
そして、我が国が「一国平和主義」への決別を宣言したのは2013年12月17日に策定された「国家安全保障戦略(2013年)」である。
同戦略で、「我が国は、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく」と宣言した。
2014年7月1日、政府は集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を閣議決定した。
2016年8月に、安倍首相は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱した。この戦略に基づく枠組みであるクアッド(QUAD=日米豪印戦略対話)も発足した。
2022年12月16日、政府は、反撃能力を明記した「国家安全保障戦略2022年」を閣議決定した。
また、同閣議で2027年度には防衛費をGDP(国内総生産)比2%、11兆円に増額するとし、この5年間で総額約43兆円とすることを決定した。
防衛費のGDP比2%増額は、米を含むNATO加盟国との連帯の表明である。
以上のように我が国は、「一国平和主義」から決別したはずであった。
ところが、ウクライナへの支援を巡り、防衛装備移転三原則が円滑な支援の妨げとなっていることが明らかとなった。次項で、その右往左往振りを述べる。
2.ウクライナへの防弾チョッキ供与の顛末
本稿は、NHK政治マガジン「防弾チョッキ提供ウクライナに武器輸出?」(2022年3月23日)を参考にしている。
2022年2月末、岸信夫防衛大臣に1通のレターが届いた。差出人は、ウクライナ国防相のレズニコフ氏である。内容は次のようなものであった。
「ウクライナ国民とウクライナ軍はロシアからの全面侵略を撃退している。親愛なる閣下に対し、この機会に、ウクライナへの最大限の実用的な支援、すなわち防御用の兵器、兵站、通信、個人防護品の物品供与をご検討いただけないか、お願いする」
「ウクライナ軍は、特に対戦車兵器、対空ミサイルシステム、弾薬、電子戦システム、レーダー、通信情報システム、無人航空機、防弾チョッキ、ヘルメットが深刻に不足している。私は日本とウクライナの連帯が強固であることを信じている」
岸防衛大臣は当初、日本ができる支援の枠組みを超えるものばかりだと感じたという。
岸防衛大臣が、「何かできることがあるはずだ。できることを探せ」と指示した背景には、ウクライナへの前例のない軍事支援に乗り出す世界各国の姿があった。
3月18日現在、NATOの加盟国を中心に23の国とEUが、ウクライナに軍事支援を行っている。
軍事支援の中心的な兵器が、対戦車ミサイル「ジャベリン」や、携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」だ。
これまでの防衛政策を大きく転換した国々もある。
ドイツは、ロシアによる侵攻開始のおよそ1か月前の1月26日、ヘルメット5000個を送ることを表明。
しかし、ウクライナやドイツ国内の失望や不満を招いたことなどを受けて、その後、紛争地に武器を送らないという原則を転換し、2月26日には対戦車ミサイルやスティンガーなどの供与を発表した。
NATO非加盟で中立国でもあるスウェーデンやフィンランドも、対戦車兵器の供与を相次いで発表した。
アジアでは、韓国が軍服や装具類を、台湾が医薬品や医療器材の支援を表明した。
岸防衛大臣の命を受けて始まった政府内の検討で、いくつかのハードルをクリアする必要性が浮上した。
その一つが「自衛隊法」だった。
自衛隊法の116条の3(開発途上地域の政府に対する不用装備品等の譲渡に係る財政法の特例)は、開発途上にある国などに、自衛隊の装備品を譲与したり、廉価で譲り渡したりできるとする条文だ。
しかし、条文には、譲渡できる装備品等から武器(弾薬を含む)を除くとなっている。武器・弾薬を除いて、何を送ることができるのか。
候補として絞られたのは次の物資だった。
〈第1優先〉防弾チョッキ、ヘルメット、テント、発電機、防寒服、毛布、軍用手袋、カメラ、ブーツ。
〈第2優先〉医療器材、白衣、医療用手袋。
しかし、簡単にはいかない。問題になったのは、「防衛装備移転三原則」だった。
「防衛装備移転三原則」では移転を禁止する場合が明示されている。
その第1原則では、赤字表記したように「紛争当事国」への移転は禁止されている。
ロシアの軍事侵攻に対して武力で立ち向かうウクライナは、「紛争当事国」に見える。
しかし、外務省によると、防衛装備移転三原則で定義する「紛争当事国」は「国連安保理の措置を受けている国」である。そこで、ウクライナは「紛争当事国」ではないとして、防衛装備品を送れる可能性は残された。
しかし、「運用指針」に引っかかることが分かった。「運用指針」には、移転を認める得る案件が明示されている。
ロシアによる軍事侵攻が続いているウクライナは、どのケースにも当てはまらなかった。運用指針“違反”となるため防弾チョッキとヘルメットは送れない。
そこで、浮上したのが、運用指針の変更だった。
政府は2022年3月8日、ロシアの侵攻が続くウクライナに自衛隊の防弾チョッキを無償提供するため、条件付きで武器輸出を認める「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正し、上表の赤字表記の(オ)項を追加した。
政府は、ウクライナを「国際法違反の侵略を受けている」国と明記し、その上で、今回のやむを得ないケースに限定するという形をとり、運用指針に新たな1項目を加える案をひねり出し、防衛装備品の防弾チョッキを送れるようにしたのだった。
ちなみに、ヘルメットは、防衛装備品の「軍用ヘルメット」に該当しないと政府は判断した。
今回、ウクライナに送った「88式鉄帽」というタイプのヘルメットは、民間で類似の物が販売されていることなどが、その理由とされた。
3.防衛装備移転三原則の撤廃
元来「武器輸出三原則」は、輸出を行うことを前提として、その際の注意事項を定めたものであった。
しかし、三木武夫内閣時に、これが拡大解釈される形で、全面的に禁止されたことにより日本は自らの首を絞めることになってしまったのである。
武器輸出三原則等の時代は、官房長官談話を発表することで例外措置を重ねてきたが、それが限界となった。
そこで、移転できる範囲を厳密に決めて、『これ以降、例外措置を設けない』ということで防衛装備移転三原則と運用指針ができた。
それなのに、今回いとも簡単に運用指針が改正されてしまった。このことは、武器輸出を規制すること自体の限界を示している。
また、防衛装備移転三原則は輸出促進を狙ったものだったが、現実には完成品の輸出はフィリピンへの防空レーダー1件しかない。
将来の共同開発された次期戦闘機の輸出を視野に入れた場合、遅からず防衛装備移転三原則を撤廃しなければならないであろう。
以下、初めに武器輸出規制の経緯を述べ、次に防衛装備移転三原則の撤廃について述べる。
   (1)武器輸出三原則等
日本は、1967年に佐藤栄作内閣で、次の3つの場合には武器輸出を認めないという「武器輸出三原則」を制定した
1共産圏諸国向けの場合
2国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
3国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
これらの原則は、本来、上記3つの原則に合致した場合に武器を輸出することを禁止することを示したものであって、決して武器の輸出そのものを禁止したのではなかった。
ところが、1976年、三木内閣で次の原則を打ち出し、実質的に全地域向けに武器輸出は禁止ということになった。
1三原則対象地域については「武器」輸出を認めない
2三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする
3武器製造関連設備の輸出については「武器」準じて取り扱う
この佐藤内閣、三木内閣の原則を総称して、「武器輸出三原則等」と言われる。
   (2)武器輸出三原則等の緩和
1983年、米国政府から日米間の防衛分野における技術の相互交流の要請を受けた中曽根康弘内閣は、米国の日米防衛技術相互交流の要請に応じ、対米武器技術供与に限って、初めて武器輸出三原則等の例外とすることを決定した。
この「対米武器技術供与」を皮切りに、2010年までに18件が内閣官房長官談話や関係省庁了解により「例外化措置」として積み上げられ、徐々に三原則が緩和されてきた。
また、2011年12月27日、民主党政権の野田佳彦内閣は、武器輸出三原則等を個別に例外化してきたこれまでの措置を改めるため、「防衛装備品等の海外移転に関する基準」(いわゆる「包括的例外化措置」)を内閣官房長官談話として表明した。
この基準は、防衛装備品等の海外への移転について、これまで個別に例外化してきた手法を改め、
1平和貢献・国際協力に伴う案件
2我が国の安全保障に資する防衛装備品等の国際共同開発・生産に関する案件
これらについて包括的に例外化措置を講じるものである。
ただし、我が国の事前同意なく、目的外使用や第三国移転がないことが担保されるなどの厳格な管理が行われることが前提となった。
   (3)防衛装備移転三原則と運用指針
安倍内閣は、2014年4月1日、国家安全保障会議および閣議において、従来の「武器輸出三原則等」に代わる防衛装備の海外移転に関する新原則として「防衛装備移転三原則」を決定した。
また同日、国家安全保障会議において「防衛装備移転三原則の運用指針」を決定した。
「防衛装備移転三原則」と「防衛装備移転三原則の運用指針」の概要は上記のとおりである。
ちなみに、「防衛装備」とは、武器および武器技術をいう。
「武器」とは、輸出貿易管理令(昭和24年政令第378号)別表第1の1の項に掲げるもののうち、軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるものをいい、「武器技術」とは、武器の設計、製造又は使用に係る技術をいう。
   (4)防衛装備移転三原則の撤廃
佐藤内閣の「武器輸出三原則」は、ココム・リストの順守など国際社会との連携を表明したものである。
三木内閣の「三原則」は、一国平和主義そのものである。
衆議院予算委員会(1976年2月27)において当時の三木首相は次のように述べている。
「武器の輸出については、平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するものとし、その輸出を促進することはしない」
では、憲法改正、自衛軍の創設、自主防衛などを唱えていた中曽根内閣と安倍内閣は、なぜ、「武器輸出三原則」等を撤廃しなかったのであろうか。
内的要因と外的要因が考えられる。
内的要因には、防衛産業は「死の商人」のレッテルを張られることを嫌った。そのため、政府も防衛産業も輸出に積極的でなかったことが挙げられる。
政府が輸出推進を言い出したのは最近である。その背景には防衛産業の衰退がある。
外的要因には、米国の意向があったのではないかと筆者は見ている。
筆者の憶測であるが、米国は「FS-X」の国産を認めなかった。それは日本の防衛産業が力をつけることを警戒したからである。
米国が日本を信頼できる同盟国と見るようになったのは2014年に集団的自衛権の行使を容認した頃ではないかと筆者は見ている。
今、米国は、日本が「防衛装備移転三原則」を撤廃し、防衛産業を強化することを支持するであろう。
さて、話は変わるが、日本国憲法は日本の武器輸出を禁止していない。
佐藤首相は、三原則提議した同じ委員会で「武器輸出を目的には製造しないが、輸出貿易管理令の運用上差し支えない範囲においては輸出することができる」と答弁している(衆議院予算委員会1967年4月26日議事録)。
今、日本には、武器輸出で他国の武力紛争に加担したくないという国民もいるだろう。逆に、困っている国を積極的に支援したいという国民もいるだろう。
そこで、日本国民に、日本がウクライナに武器供与などの支援をすることに賛成か反対かを問えば、多くの国民は賛成するであろう。
一方、日本がロシアに武器供与などの支援をすることに賛成か反対かを問えば、多くの国民は反対するであろう。
このように、ウクライナへの武器輸出は良くて、ロシアへの武器輸出はダメだという価値判断が必要である。それは国家安全保障会議で審議すればよい。
筆者の結論は、現行の防衛装備移転三原則を撤廃し、武器輸出については、ケースバイケースで、国家安全保障会議において価値判断すればよいと考える。
おわりに
岸田首相は、今月9日から15日の間、G7の議長国として欧米5か国を歴訪した。欧米諸国の現時点の最大の関心は、G7サミットの成功よりもウクライナへの戦車供与の問題であろう。
この件について日本は蚊帳の外である。
2022年2月24日、ロシアがウクライナ侵攻を開始した3日後、岸田首相は次のようにロシアを批判した。
「力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす行為である。明白な国際法違反であり、断じて許すことはできない。今こそ国際秩序の根幹を守り抜くため、(国際社会は)結束した行動しなければならない」
国際社会が結束しなければならない今、日本がなすべきことは何か。
「防衛装備移転三原則」を撤廃して、欧米のように戦車とは言わないが、欧米諸国より一歩下がり、歩兵戦闘車(89式装甲戦闘車)をウクライナに供与してもよいのでないか。
政府は、日本には平和憲法があるので兵器は供与できませんというのであろうか。
そして、政府は欧米諸国からの「(日本は)普通の国とはいえない。価値の判断もできない国なのか」という非難を甘んじて受けるつもりでいるのであろうか。 
●「モスクワ・ヘルシンキ・グループ」に解散命令 ロシア最古の人権団体 1/26
東西冷戦期に米ソの緊張緩和などに尽力してきたロシア最古の人権団体「モスクワ・ヘルシンキ・グループ」が25日、首都モスクワの裁判所から解散命令を受けた。プーチン政権下では人権団体の活動停止や解散が相次いでいる。
同団体は解散命令の取り消しを求めて上訴する構えで「人権保護活動への攻撃は、ロシアにとどまらず世界に対する深刻な一撃だ」と憂慮を示した。当局は昨年12月、同団体が許可されたモスクワ以外で活動したとして、裁判所に解散を申し立てていた。
1975年にフィンランドで米欧ソの首脳らが「国家主権の尊重」「紛争の平和的解決」「人権と自由の尊重」を掲げる「ヘルシンキ宣言」を採択したのを受け、同団体は翌76年、物理学者オルロフ氏やサハロフ氏らによって設立された。
ロシアでは2021年末、ソ連時代の粛清の歴史を発掘してきた人権団体メモリアルが解散命令を受けたが、22年にノーベル平和賞を受賞している。モスクワでリベラル派の活動拠点となっていた「サハロフセンター」も今月24日、当局から退去を求められたと明らかにした。
●ロシア軍が空爆、11人死亡 戦車提供巡りけん制 ウクライナ 1/26
ウクライナの首都キーウ(キエフ)など各地に26日朝(日本時間同日午後)、ロシア軍の空爆があった。
全土で空襲警報が発令され、非常事態庁によれば、11人が死亡。飛来したミサイルは50発以上といい、イェルマーク大統領府長官は通信アプリ「テレグラム」で「ロシア軍のミサイルを撃墜した」と明らかにした。
米独両政府は25日、主力戦車のウクライナへの提供を発表したばかり。ロシアはさらなる反転攻勢を狙うゼレンスキー政権をけん制したとみられる。
ロシア国防省は26日、ウクライナ各地で米国が供与した榴弾(りゅうだん)砲などを破壊したと一方的に主張。しかし、ウクライナ側はエネルギー施設などが狙われたと説明し、ザルジニー軍総司令官はフェイスブックで、飛来したミサイル55発中47発を迎撃したと強調した。
フランスのコロナ外相が訪問した南部オデッサにも攻撃があった。オデッサの歴史地区は25日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録が決まっており、ウクライナのクレバ外相は「これがプーチン大統領のユネスコへの対応だ」とツイッターで非難した。
●ロシア検察庁 独立系メディア「メドゥーザ」の国内での活動を禁止 1/26
ロシアの検察庁は独立系メディア「メドゥーザ」のロシア国内での活動を禁止する措置を講じました。プーチン政権によるメディア統制が一段と強まっています。
検察庁は26日、メドゥーザの活動が「憲法秩序の基盤とロシア連邦の安全に脅威を与える」として「望ましくない組織」に指定しました。
2021年春から指定を受けている「外国エージェント」より、さらに厳しい措置となります。
メドゥーザはロシア国内での活動を完全に停止しなければならず、違反を繰り返すと最大4年の懲役刑となります。
また、他のメディアや読者がメドゥーザの記事をロシア国内で引用したり、拡散することも罪に問われることになります。
活動を支える寄付も最大5年の罪に問われる可能性があります。
メドゥーザは「望ましくない組織」の指定を受け、SNSで「ロシア当局は独立系メディアを破壊しようとしているが、何もできない。メドゥーザも閉鎖しない」と報道を続けていく姿勢を強調しました。
●ロシア戦争犯罪のキーマン 亡命求め保護も 一転逮捕 1/26
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」。刑期中の犯罪者をスカウトし、ウクライナで戦闘を行わせているとされている。そのワグネルで、指揮官を務めていた人物が脱走。ノルウェーに亡命を求めたとのニュースが、先週、世界を駆けめぐった。
元指揮官は、ワグネルから脱走した当時の様子について...。元ワグネル指揮官・メドベージェフ氏「フェンスを乗り越えて、森へと逃げ込みました。背後で犬がほえ、ライトを持った人たちが、わたしを追いかけてきました。発砲の音も聞こえました」
ノルウェーでは、当局が提供する場所に滞在していたという元指揮官。ところが、海外のメディアが「警察に逮捕された」と報じた。何があったのだろうか。元指揮官は、ワグネルの創設者で、プーチン大統領の側近であるプリゴジン氏が、数千人の殺害に関与したことを証言する準備があるとしている。海外のメディアによると、元指揮官の弁護士は、「警察が『非常に危険な状況にある』と判断した」とコメント。逮捕されたことで、警備がより厳重になるとしていて、立場は、これまでと変わらないとしている。一方、そのプリゴジン氏は、「彼はとても危険な人物なので、気をつけてほしい」と話している。
真実は、どこにあるのだろうか。
●ドイツは戦車提供を決断「日本はウクライナの核施設からロシアを撤退させて」 1/26
ウクライナの政策専門家やNGO(非政府組織)代表でつくる女性だけの政策提言グループ「ウクライナの勝利のための国際センター(ICUV)」のハンナ・ホプコ元最高議会議員が24日、筆者のZOOMインタビューに応じ、今年、先進7カ国首脳会議(G7サミット)議長を務める岸田文雄首相に「ウクライナの核施設からロシアを撤退させて」と訴えた。
「東京を訪れ、核の安全について協議してきた」
キーウのウクライナ市民活動ネットワークに参加していたホプコ氏は、親露派のビクトル・ヤヌコビッチ大統領を追放した2014年のユーロ・マイダン革命後の最高議会選挙で当選し、外交委員会の委員長を務めた。ホプコ氏はICUVなどでつくる代表団の一員として来日し、外務省や防衛省、首相官邸、国際協力機構(JICA)、企業関係者にさらなる支援を要請した。
「東京を訪れ、世界の核の安全について協議してきたばかりです。次のG7サミットは広島で開催されます。先の大戦では広島の市民に原子爆弾が使用されました。いまロシアは原子力を使って世界を恫喝しています。それを阻止しなければなりません。ロシアを止める必要があります」とホプコ氏は話し始めた。
5月にお膝元の広島市でG7サミットを開く岸田文雄首相は「核兵器による威嚇、その使用を断固として拒否」する姿勢を鮮明にしている。
ホプコ氏は「日本はロシアに対して、ウクライナの核施設でのすべての行動を直ちに停止するよう求めた国際原子力機関(IAEA)の決議を履行して、ザポリージャ原発から撤退するよう要求することができます」と強調する。
「ロシアのウクライナに対する戦争に膠着状態はない」
「日本にはロシアが戦術核兵器の使用をちらつかせて世界をゆすることを阻止する道義的権威があります。日本はG7、20カ国・地域(G20)に働きかけてロシアに圧力をかけ、厳しい制裁を科す一方で、ウクライナにもっと武器を提供するよう求めることができます」
ホプコ氏は日本が今後2年間、国連安全保障理事会非常任理事国を務めることにも注目する。
「国連安保理における日本のプレゼンスを利用して核の安全に関する解決策を採択し、ロシアや中国、その他の核保有国に対して、核の威嚇を諦めるよう要求することも重要です」(ホプコ氏)
しかし米欧首脳はウラジーミル・プーチン露大統領を追い詰め過ぎたら核兵器を使いかねないという核エスカレーションのシナリオに取り憑かれている。
「ロシアのウクライナに対する戦争に膠着状態というものはありません。激しい戦闘が東部ドネツク、ルハンスク両州の前線に沿って続いています。ロシアの占領軍は町や村を物理的に破壊しています。彼らがウクライナの村落でしていることは悪夢以外の何物ではありません」(ホプコ氏)
ウクライナ軍発表ではロシア軍の死者は12万2170人。英大衆紙は米情報機関の話としてロシア軍の犠牲者は18万8000人と報じたが、真相は藪の中だ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)のバリー・ポーゼン教授は米外交誌フォーリン・アフェアーズで「米国の推計によれば当時も今もロシアとウクライナの犠牲者の比率は1対1だ」と指摘している。
昨年、ロシア軍に攻撃された医療機関は747件
ホプコ氏によると、ロシアは意図的にウクライナの都市やコミュニティーで産科産院、子供病院を攻撃している。病院や軍事病院を破壊し、医師が負傷兵を治療できないようにしている。
「マリウポリの小児科・産科病院への爆撃で多くの犠牲が出たのを覚えておられるでしょう。これは人道に対する戦争です。ロシアはテロ国家です」と憤る。
世界保健機関(WHO)の監視システムは昨年2〜12月にロシア軍の攻撃を受けたウクライナの医療機関は747件にのぼると報告している。
「ロシア軍は組織的に国際人道法に違反し、現実に人道的大惨事を引き起こしています。医療関係者や医療施設にも攻撃を加えています」とホプコ氏は糾弾する。
「ロシア軍はウクライナ国民へのテロを続けています。私は1カ月前にキーウにいましたが、常に大規模なロケット攻撃が行われていました。ロケットとミサイル攻撃、カミカゼ・ドローン(自爆型無人航空機)を組み合わせて重要なエネルギーインフラを破壊し、ウクライナ国民を凍えさせようとしています」
「ウクライナ軍がさらに多くの武器、戦車、戦闘機を求めているのは東部戦線で戦うためだけでなく、ロシア軍の新たな攻勢に備えるためです。ロシアはウクライナでより多くの人を殺すために動員をかけています。100万人が追加動員されると予想されています。南部や東部だけでなく、北部のベラルーシから再びロシア軍が攻めてくる恐れもあります」
「独政府がウクライナにレオパルト2を送ることを決定」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は春から初夏にかけて予想されるロシア軍の攻勢に備えるため、ドイツ製の主力戦車レオパルト2と米国製の主力戦車M1エイブラムスの提供を要求している。複数の独メディアは24日「ドイツ政府が同盟国(ポーランドとフィンランドか)とともにウクライナにレオパルト2を送ることを決定した」と速報した。
ドイツがレオパルト2の提供をためらってきたのは、ロシアの勝利は避けたいものの、ウクライナが勝利すれば追い詰められたプーチン氏が核兵器を使うかもしれないという恐怖心が根底にある。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中で突出してウクライナを支援するのは回避したいという政治的な配慮も働く。
結局、ドイツ政府は14両のレオパルト2を送ると表明した。レオパルト2を保有するポーランド、フィンランドのほか、スペイン、ノルウェーも提供する可能性がある。米国は30両以上のM1を提供するとみられている。
「ドイツは集団で決定するのを待っていました。米国がM1を提供することが必要だとの議論もありました。ドイツはウクライナにレオパルト2を提供すれば、ロシアが戦争をエスカレートさせることを恐れていたのでしょう。しかし現実には戦車や戦闘機が不足しているためウクライナは兵士を失い、ロシアは新たな攻撃を準備しているのです」
「韓国の戦車でも英国の戦車でも構いません。ロシア軍の新たな攻撃から国民の命を守るには戦車と戦闘機が必要です。ドイツはロシアの石油やガスに依存してきましたが、現在はそれを止めています。戦車がなければウクライナが交渉に応じると期待している人がいるのかもしれませんが、わが国民の96%がこの戦争に勝っていると信じているのです」
「私たちはロシアを打ち負かしたい」
ホプコ氏は「日本がエネルギーシステムを提供してくれたことや約2000人のウクライナ避難民を受け入れてくれたことに感謝します。ウクライナの領土保全と主権を支持し、財政支援もしてくれました。ロシアに制裁も科しました。私たちはロスアトムを含むロシアの原子力産業を制裁し、原子力技術分野でのロシアとの協力を止めるよう求めています」と語る。
日本は先の大戦や2011年の東日本大震災のあと見事な復興を遂げた。ロシア軍のミサイル、ロケット攻撃を受けたウクライナでは多くの瓦礫が発生したため、日本から洗練された瓦礫の処理方法を取り入れている。ホプコ氏はG7議長を務める岸田首相にウクライナへの財政・人道支援、武器供与、対ロシア制裁の強化を世界全体に働きかけるよう求める。
ホプコ氏は「私たちはロシアを打ち負かしたい」と力を込めた。しかし、その道のりは険しい。ロシア軍は東部ハルキウ州と南部ヘルソン州から戦略的に撤退した。短くなった接触線に沿って防御陣地を掘り、コンクリート製障害物や掩蔽壕(えんたいごう)を築いている。地雷も敷設しているだろう。ウクライナ軍が防御陣地を突破するのは並大抵ではない。
ウクライナ戦争を終わらせる方法について、ホプコ氏は「ロシアの敗北によってしかこの戦争を終わらせることはできません。ウクライナ領土からロシア軍を無条件に撤退させ、あらゆる損害に対する賠償を含む国際的に誤った行為の全ての法的結果を負担しなければならないという国連総会決議を履行するよう岸田首相にはG7で指導力を発揮してほしい」と訴える。
「より多くの武器をより早く受け取ることができれば、ウクライナ軍はより良い装備で反攻作戦を継続し、さらに領土を解放することができるようになります。西側諸国がその責任を理解し、より多くの武器を提供してくれることを期待しています。ロシアにもっと厳しい制裁を与え続けることが重要です」
G7議長としての岸田首相の責任は重大だ。
●ウクライナへの戦車供与、米欧の直接関与示す=ロシア大統領府  1/26
ロシア大統領府のぺスコフ報道官は26日、米独がウクライナへの戦車の供与を決定したことについて、米欧が紛争への直接的な関与を強めていることを示すと述べた。
ぺスコフ氏は記者団に、戦車を含むさまざまな武器をウクライナに送ることは紛争への関与を強めることを意味しないとの発言が米国や欧州諸国から聞かれると指摘した。
「われわれはこれを完全に否定する」とし、こうした行為は紛争への直接的な関与であり、関与を強めるものだと非難した。
インターファクスによると、プーチン大統領の最側近の1人であるパトルシェフ安全保障会議書記は、米国と北大西洋条約機構(NATO)が紛争に参加し、これを長引かせるつもりであることはこれまでの経緯で明らかと主張した。
「ウクライナ戦争が終わってもアングロサクソン世界はロシアと同盟国に対する代理戦争を止めることはない」と述べた。
●米独 ウクライナに戦車供与表明 ロシアでは批判的論調広がる  1/26
アメリカやドイツが相次いで主力戦車をウクライナに供与すると表明しました。これに対してロシアでは批判的な論調が広がっています。
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナに対してドイツ政府は25日、戦車「レオパルト2」を供与すると発表し、この戦車を保有する国々からウクライナへの供与を認める方針も示しました。
また、アメリカのバイデン大統領も25日、主力戦車「エイブラムス」を供与すると発表しました。
これについて、ロシアでは各メディアが大きく報じていて、26日付けの政府系「ロシア新聞」は議会上院のコサチョフ副議長の寄稿を掲載しました。
この中でコサチョフ副議長は、ドイツがアメリカの圧力に屈して戦後歩んできた平和路線を放棄する過ちを犯したと批判しました。
コサチョフ氏は「ショルツ首相は面目を保とうとしたのかもしれないが、ドイツの歴史的な功績だけでなくヨーロッパの文明的で平和な未来まで失われかねない」と主張しました。
また、有力紙の「ベドモスチ」は、アメリカとドイツはNATO=北大西洋条約機構の分裂を招かぬよう方針転換を余儀なくされたという見方を伝えました。
さらに「戦況を好転させることにはつながらない」とする専門家の主張も伝えています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ロシア側が戦車供与を脅威と受け止めていることの表れとみられる」と分析しています。
戦車供与 各国の動き
ウクライナに対しては、これまでポーランドやチェコがソビエト時代の戦車を供与していました。
ウクライナ側が攻撃力の高い戦車の供与を求める中、今月11日、ポーランドのドゥダ大統領はウクライナを訪問した際、自国が保有するドイツ製の戦車「レオパルト2」を供与する意向を表明しました。
ドイツ政府は25日、戦車を保有する国からの供与を認める方針を示しました。
こうした状況の中、フィンランドとノルウェーが自国が保有する「レオパルト2」の供与を表明したほか、各国メディアの報道によりますと、スペインやオランダ、ポルトガル、それにカナダも供与を検討しているということです。
このほか、イギリスのスナク首相は今月14日、陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」の供与を表明しました。
フランスも今月供与を表明した大型の砲を備えた装甲車に加え、フランス製戦車「ルクレール」を供与する可能性を排除しないとしています。
ロシア “欧米各国は紛争へ直接的関与”
アメリカやドイツがウクライナへの戦車の供与を発表したことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は26日、記者団に「欧米各国は、兵器の供与が紛争への関与を意味するものではないと繰り返し主張するが、全く同意できない。すべてが紛争への直接的な関与とみなされ、われわれは、これが拡大していると見ている」と述べ、欧米をけん制しました。
また、ロシアの国営通信社によりますと、プーチン大統領の側近のパトルシェフ安全保障会議書記は26日、会合で「アメリカなどNATOが紛争を長引かせようとし続け、その当事者になったことを示している」と主張したということです。
欧米によるウクライナへの軍事支援の強化をめぐっては、ロシアのラブロフ外相も23日、「ウクライナで起きていることはハイブリッド戦争ではなく、もはや本物の戦争となっている」と述べています。
●バイデン氏、米欧関係の亀裂懸念か 戦車供与へ方針転換 1/26
米国のバイデン大統領は25日、ホワイトハウスで演説し、ロシアの侵攻を受けるウクライナに米軍の主力戦車「M1エーブラムス」を供与すると発表した。ドイツも25日にドイツ製戦車「レオパルト2」の供与を表明しており、これまで慎重だった戦車の供与で米独が足並みをそろえた。ウクライナの領土奪還に向けて米欧の軍事支援は新たな段階に進んだ形だ。
バイデン氏は25日に英独仏伊の首脳と電話協議し、ウクライナへの全面的な支援に向けて緊密に連携することを確認した。演説では「米欧は支援で十分に、徹底的に、完全に結束している」と強調。春に向けてウクライナ軍が反撃の準備を進めているとし「機動力を向上させ、ロシアの侵略を抑止し防衛する永続的な能力が必要だ」と説明した。
供与する予定のエーブラムスは31両で、ウクライナ軍の戦車大隊1個分に当たるという。ウクライナ兵に対し、維持管理や操縦の訓練などをウクライナ国外で実施する。ただ、米軍の余剰在庫から供与する緊急の支援ではなく、米政府が新たに戦車を調達する形をとる。そのため、実際にウクライナ側に引き渡されるまでには数カ月以上かかるとみられている。
米政府に先立って、ショルツ独政権も欧州で広く保有されているレオパルト2の供与を発表。ポーランドなどの保有国による供与も承認した。高い攻撃力を誇る戦車の供与は戦闘を激化させ、反発したロシアと米欧との直接的な衝突につながりかねない。ドイツのみが突出して供与に踏み切ることを懸念したショルツ政権は条件として、米政府によるエーブラムス供与を挙げていたとされる。
バイデン政権もこれまでウクライナ側から再三要請がありながら、供与は控えてきた。特に国防総省は、高性能のエーブラムスは維持管理が難しく、訓練にも相当の時間がかかるとして慎重な姿勢を見せていた。しかし、レオパルト2の供与に二の足を踏むドイツに対して北大西洋条約機構(NATO)内から批判の声も上がっていたことから、バイデン政権は米欧の同盟関係に亀裂が入るのを避けるため方針転換した。
一方、ショルツ政権の供与発表を受け、欧州各国は25日、レオパルト2をウクライナに供与する意向を相次いで表明した。
ロイター通信によると、スペインのロブレス国防相は地元メディアに対し、同国が保有するレオパルト2を供与することを表明。ウクライナ軍に操縦方法を訓練するほか、装備の維持についても協力する方針を明らかにした。オランダのルッテ首相も、レオパルト2の供与を準備すると述べた。ドイツから借りている戦車を購入した上で供与することを検討するという。ノルウェーのグラム国防相も供与に協力するとした。
欧州では十数カ国がレオパルト2を計2000両以上保有している。ドイツ政府は25日、総計で約100両をウクライナに供与する目標を掲げ、まずは14両を供与すると明らかにした。最も早く供与の意向を表明していたポーランドも最大14両を供与するという。
ウクライナ軍は同国東部などでの地上戦を優位に進めるため、欧米に戦車の供与を求めてきた。クレバ外相は25日、ツイッターで「できる限り多く」のレオパルト2を提供してほしいと各国に呼び掛けた。また、「皆が実現は難しいと思っていた戦車連合が結成された。ウクライナとそのパートナーに不可能はない」と強調した。
●ウクライナ・オデーサ、世界遺産に ロシアの侵攻で「危機遺産」にも指定 1/26
ウクライナの港湾都市オデーサの歴史地区が25日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録された。ロシアによる侵攻で普遍的価値を損なう重大な危機にさらされているとして「危機遺産」にも指定された。
ユネスコは今回の決定について、オデーサの「卓越した普遍的価値」を認めたものだと説明した。
ロシアは「政治的動機によるもの」だと批判した。
「黒海の真珠」と称されるオデーサは、昨年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、何度も空爆を受けてきた。
住民たちは市内の記念碑や建物を保護しようと、急いで土嚢(どのう)を積み上げた。
ユネスコのオードリー・アズレ局長はオデーサを世界遺産に登録することは重要な一歩だとした。
「まず、この都市は世界遺産に属し、私たち全員に関わるもので、私たち全員が注目し、私たち全員がその歴史と遺産への貢献を認識しているという象徴的側面があった」とアズレ氏は述べた。「これがすでに、重要な象徴的側面なのです」。
また、今回の決定はロシアを含むユネスコの全加盟国が世界遺産に「意図的な破壊をもたらさない」義務を負っていることも意味しているとした。
今回、オデーサの一部地域が「危機遺産」リストにも登録されたことで、「ウクライナがその財産を確保し、必要であればその復興を支援するために要求できる」技術・財政支援にオデーサがアクセスできるようになったと、ユネスコは説明した。
ロシアは反発
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今回の決定を歓迎し、「ロシアの侵略者の攻撃から我々の真珠を守る手助けをしてくれるパートナーたちに感謝する」と述べた。
オデーサの世界遺産登録をめぐる投票の実施を繰り返し遅らせようとしたロシアは、ウクライナが自国の記念碑を「破壊している」と非難した。
ロシア外務省は、ウクライナの申請書類に不備があったと非難。投票は「西側からの圧力のもと」で「手続き上のルールを無視して」行われたと主張した。
「ユネスコの現在の高い基準を尊重することなく、急いで準備されたものだ」と、同省は指摘した。
ウクライナでは首都キーウの聖ソフィア大聖堂や西部リヴィウの歴史地区など、オデーサ以外に7件が世界遺産に登録されている。

 

●ロシア プーチン政権高官 欧米を相次いで批判  1/27
ロシアのプーチン大統領に最も近い側近の1人、パトルシェフ安全保障会議書記らロシアの高官は26日、ウクライナを支援する欧米を相次いで非難した。
パトルシェフ書記は、ロシア第二の都市サンクトペテルブルクでの海軍などとの会合で、「アメリカとNATO(北大西洋条約機構)が軍事紛争を長引かせるよう仕向けている」としたうえで、「ウクライナでの紛争の“激戦期”が終わったとしても、アメリカはロシアとその同盟国に対する代理戦争を止めないだろう」と指摘している。
ペスコフ大統領報道官も26日、「我々はNATOや欧米が行っていることは全て紛争に直接関与しているとみなしている」と述べ、ヨーロッパとアメリカの両方が、戦車を含む兵器をウクライナに供与したことについて批判した。
●「ロシアは負けない」森喜朗氏また出た残念発言 1/27
元首相と呼ぶのが残念なほど、またもあきれた発言だ。森喜朗氏(85)が25日に東京都内で開かれた会合で、ロシアのウクライナ侵攻を巡る日本政府の対応について「こんなにウクライナに力を入れてしまってよいのか。ロシアが負けることは、まず考えられない」と公言した。
さらに「せっかく(日露関係を)積み立てて、ここまで来ている」とも。自らの功績をちらつかせて、暗にこのままでは日露関係が崩壊しかねないとの認識を示した。百歩譲って、ロシアとウクライナの戦力を比べれば森氏のように認識する向きもあろう。しかし、民主主義の西側諸国が対露制裁で団結している現実に、冷や水をかける発言だ。
しかも、ドイツが世界最強の戦車をウクライナに供与することを決めたばかり。製造国のこの決断で、欧州各国の保有する同じ戦車も、大量にウクライナへ供与される見通しとなった。ロシア軍が近く大攻勢をかけるという予測が広がる中での英断。それだけに、西側諸国の日本への信頼を落とすきっかけにもなりかねない。
元をたどれば、森氏が首相を務めた2000年当時、1期目のロシア大統領に就任したプーチン氏(70)が来日。2人は盟友とも呼ばれる関係を築き、日露外交を進めた。しかし、今のプーチン氏は人相も悪くなった。フィリピンにいて「ルフィ」などを名乗り、遠隔操作で実行犯を操る広域強盗事件の首謀者と同類。残虐な冷血漢にしか見えない。
もしも戦争被害者が身内にいれば、森氏も黙ってはいられまい。プーチン氏と直接会えなくとも、手紙やSNSなどでまず「侵略はやめよう」と強く諭すべきだ。和して同ぜず。それが真の友情だろう。
●米、ロシア軍事会社ワグネルを国際犯罪組織に指定 追加制裁 1/27
米政府は26日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」について、ウクライナに侵攻しているロシア軍を支援しているとして「国際犯罪組織」に指定し、追加制裁を科した。
財務省は、ロシアの戦争遂行能力の低下を目的とした措置の一環として、ワグネルを「重要な国際犯罪組織」に指定したと表明。制裁措置の下、ワグネルの米国内の資産が凍結され、米国人がワグネルに対し資金、商品、サービスを提供することが禁止される。
イエレン財務長官は声明で、ワグネルに対する今回の追加制裁措置により、ロシアのプーチン大統領の戦争遂行能力が一段と妨げられると述べた。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は先週、プーチン大統領は軍事行動を巡りワグネルに一段と依存していると指摘。ワグネルとロシア国防省との間の緊張が高まっていることを示唆する兆候が出ているとし、「ワグネルはロシア軍やロシア省庁の対抗勢力になりつつある」と述べていた。
カービー氏によると、米政府はワグネルが現在、約5万人の人員をウクライナに送り込んでいると見なしている。このうち1万人が契約社員で、残りの4万人はロシア国内の刑務所から集められた囚人という。
●戦車供与、地上戦激化へ ロシア反発、背景に独ソ戦 ウクライナ侵攻 1/27
ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、米国とドイツが主力戦車を供与すると発表し、西側諸国の兵器支援は新たな段階に入った。
ウクライナのゼレンスキー大統領は歓迎する一方、ロシアのプーチン政権は「極めて危険な決定」(ネチャエフ駐ドイツ大使)と反発。多大な死傷者を出している地上戦は、さらに激しさを増しそうだ。
ロシアのペスコフ大統領報道官は26日、兵器支援は「紛争への直接関与」と警告。一方で「特別軍事作戦」という位置付けは変えず、西側諸国との全面戦争を避けたい考えもにじませた。
ドイツとロシアは第2次大戦の独ソ戦で、史上最悪の地上戦を繰り広げ、市民を含む双方の計約3000万人が死亡。ロシアは19世紀のナポレオン戦争(祖国戦争)に続く「大祖国戦争」と位置付けており、戦車供与を巡るドイツの慎重姿勢にも影響した。
くしくもロシアは、ウクライナ侵攻の理由について「非武装化」「中立化」から「祖国防衛」にすり替えを図り、長期戦に布石を打った。プーチン大統領は18日、80年前のレニングラード包囲戦で「多くの欧州諸国が封鎖に参加し、罪を犯した」と独自の歴史観を披露。今回の侵攻も「(西側諸国が仕掛けた)戦争を終わらせるためだ」と主張した。
一方、主力戦車として「最も成功したモデル」(英シンクタンク)とされるドイツの「レオパルト2」を前に、ロシアが最新の兵器で応じられるかは不透明だ。
プーチン政権は戦意高揚の「プロパガンダ」(英国防省)を狙い、初の実戦として少数のT14主力戦車の展開を検討中とされている。ただ、英国防省は25日の戦況報告で、T14の「不十分な状態」を理由にロシアは投入に迷いがあるようだと分析した。
東部ドネツク州では激しい攻防が続く中、ロシアの「頼みの綱」は民間軍事会社「ワグネル」だ。戦車戦ではなく、捨て身の突撃作戦で、重要拠点バフムト近郊の製塩業の町ソレダルを制圧した。独立系メディアによると、元受刑者の戦闘員約5万人のうち残る兵力は約1万人とされ、人的損害は甚大だ。
米CNNテレビは24日、ロシアが20万人の追加動員を検討中だと報じた。ペスコフ氏は否定に追われたが、人数が伏せられた昨年9月の動員令が今も有効だという見解を表明している。 
●バイデン氏、来月の欧州訪問を検討 ウクライナ侵攻1年 1/27
バイデン米大統領は来月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年を迎える時期に欧州を訪問することを検討している。2人の政権高官がCNNに明らかにした。
訪問はまだ確定しておらず、詳細もまとまっていない。だが高官の1人は候補に上がっている訪問先の1つはポーランドだと述べた。北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドには何千人もの米軍兵士が駐留しており、ウクライナへ西側諸国の武器を送る拠点にもなっている。また、米軍はポーランドでウクライナの軍隊の訓練を行っている。
高官によると、安全上の懸念からバイデン氏がウクライナを訪問する可能性は極めて低いという。
米政権はここ数週間、バイデン氏の演説などを含め、ウクライナ侵攻開始1年をどのような形で迎えるかを検討している。開戦時、多くの人がウクライナは数日でロシアの手に落ちるだろうと予想したことに触れてウクライナ国民の力強さを強調したい考えだ。
バイデン氏が欧州訪問を検討しているニュースは米NBCテレビが最初に報じた。 
●苦戦と屈辱が続くも 「プーチンの戦争」は今年も終わらない 1/27
もし1年前の今頃、その後にウクライナで起きたことを正確に言い当てていた人がいたとしても、誰もその言葉を信じなかっただろう。
世界2位の強大な軍隊を擁するロシアが隣国のウクライナに猛攻を仕掛け、その全土を支配下に置こうとした。ところが、ウクライナは11カ月にわたりロシアの攻撃を持ちこたえただけでなく、首都キーウ(キエフ)からロシア軍を追い払い、さらにはハルキウ(ハリコフ)やヘルソンでも反転攻勢に成功している。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(侵攻前の時点では支持率が極めて低迷していた)は今も健在であるばかりか、世界で尊敬を集める指導者になった。
ウクライナ戦争は、これまで多くの人の予想を裏切り続けてきた。この先の展開を見通すことも難しい。報道によると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナでの軍事作戦を指揮する総司令官として、これまでのセルゲイ・スロビキンの代わりに、軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長を任命した。
これは、ロシア軍が近く大攻勢をかけるために、軍の制服組トップを責任者に据えたと解釈すべきなのか。それとも、民間軍事会社ワグネルを率いる実業家エフゲニー・プリゴジンの増長ぶりが嫌われて、プリゴジンとは犬猿の仲として知られるゲラシモフが総司令官に任命されたとみるべきなのか。
戦争開始直後の私がまだモスクワに滞在していた頃、初期の攻勢に失敗したためにゲラシモフが解任されたという噂が広がったことがあった。開戦後1週間もたたずにキーウが陥落するだろうというのが世界の情報機関の大方の予測だったが、実際にはロシア軍が敗走する結果になっていたからだ。
核のボタンは押されるのか
ロシア寄りの軍事ブロガーですら、現代の戦争の歴史で最も無能な司令官だとゲラシモフを嘲笑していた。それに対し、スロビキンは、シリアでの残忍な戦いを指揮したことで名をはせ、今回の戦争でもウクライナ軍の反撃の勢いを止める成果を上げた人物だ。このロシア軍人事をどのように理解すればいいのだろうか。
プーチンは、この戦いを「特別軍事作戦」と一貫して呼び続けてきた。しかし、軍参謀総長の職にあるゲラシモフを総司令官に任命したということは、これが本格的な戦争であると正式に認めたと見なせるだろう。
この戦争のとりわけ恐ろしい点の1つは、プーチンが諦めることはないということだ。自身をロシア帝国の創始者であるピョートル大帝になぞらえるプーチンにとって、敗北は許されない。ウクライナを征服して支配下に置くことの意義とてんびんにかければ、途方もない数の死者が出ても大した問題ではないと考えかねないのだ。
核戦争に発展するのではないかという不安の声も高まっている。実際、ロシアの軍事ドクトリンでは、ロシアの国家存続が脅かされれば核兵器による攻撃が許される。
アメリカや西欧諸国は、ロシアが戦術核を使用したとしても、核兵器で対抗することはしないという方針を示唆している。エスカレーションを避けるという意味では理にかなった姿勢だ。しかし、皮肉なことに、核による報復がないと見切ったプーチンが核のボタンを押しやすくなるという側面は無視できない。
現在、プーチンが自身の手柄と位置付けてきた2つの歴史的業績、すなわちロシア経済の再生とクリミアの併合が覆されかねない状況になっている。欧米などの経済制裁がいよいよ効果を発揮し始めており、しかもウクライナは東部の奪還に成功している(ことによるとクリミアも奪還するかもしれない)。
このような状況で、プーチンがロシアの国家存続が脅かされていると判断し、核兵器の使用を正当化しないと言い切れる人はいないだろう。核兵器の使用にまでは踏み切らないとしても、ロシア軍の攻勢がさらに激化する可能性は十分にある。
ロシアは、既に国際社会で孤立している。国際世論の厳しい非難を浴びても失うものはほとんどない。しかも、戦争の結末がどうなるにせよ、ロシアはこの戦争により屈辱を味わっている。強大だったはずのロシア軍が張り子の虎にすぎなかったことが白日の下にさらされたのだ。
ロシア人のアイデンティティーの多くの部分を占めるのは、勇猛果敢な強さへの誇りと、近隣諸国に対する優越意識だ。私の知人のロシア人の中には、今回の戦争に強く反対し、抗議してロシアを離れた人たちもいる。しかし、彼らですら、ロシア人よりもウクライナ人のほうが聡明で勇敢だという評価には、いら立ちをあらわにする。
自国より圧倒的に弱いはずの隣国に戦場で敗れるようなことがあれば、近隣諸国に対する優越意識を保つことは難しい。
西側の分析は非現実的?
あるロシア人研究者は私にこう語った。「ロシア人の精神を支えてきたのは、(第2次大戦でナチス・ドイツの侵攻をはね返した)『大祖国戦争』の記憶だ。英雄的な行動と犠牲心と高い能力により、多くの人命を救ったことを誇りにしていた。ところが、チェチェンやウクライナでは、戦闘に勝つことができず、町を瓦礫の山に変えただけだった。私のアイデンティティーは崩壊した」
ロシアにとって最良のシナリオは、2014年に奪った領土を拡大することだが、そのために10万人をはるかに超えるロシア兵の命が失われる公算が大きい。さらに無数の子供や母親を殺したロシアの行為に対し、欧米では民間人虐殺の悪評が定着している。シリアやチェチェンと同様に多くの犠牲を伴う勝利を収めたとしても、ロシアは経済成長や国民の繁栄のためではなく、欧米に接近したウクライナを罰するためだけに残虐行為を行ったことになる。
ほぼ欧米の手で設計され、運営されている国際社会で、プーチン政権はどうやって地位を保つのか。残り少なくなった同盟国でさえ、ウクライナ侵攻とその犠牲を積極的に支持しているわけではない。
ただし、欧米の解説や分析には問題が1つある。ロシア側の苦戦を過度に強調していることだ。あるロシアの友人は、欧米の非現実的な戦争の評価をこう嘲笑する。
確かにウクライナは屈服していないが、まだ1年しかたっていない。ウクライナの国土はイラクより40%近く大きく、後ろに控える世界最強のNATO軍はウクライナ軍の訓練に10年近く費やしてきた。まだ完全に屈服していないことがそんなに不思議か。ならばアメリカはアフガニスタンでどうなったか――。
実際、プーチンは欧米のどの指導者よりも国内での人気が高く、ロシア経済は制裁を何とか耐えてきた。また、ウクライナでの傀儡政権の樹立というロシアの至上命題が未達成でも、まだウクライナを徹底的に破壊してロシアへの脅威を除去するという2次的、3次的目標がある。
昨年、ウクライナのGDPは少なくとも30%以上減少した(ロシアは4%未満)。国外に脱出した何百万人ものウクライナ人が戻ることはなく、ロシアへの難民(強制であれ自発的であれ)は、ロシア軍の死者の10倍いる。一方、侵攻当初に国を離れたロシア人は帰国しつつある。
ロシアの管理下にある天然資源は、クリミアを併合した14年よりも増えている。たとえヘルソンやハルキウを奪えなくても、1月13日に制圧したとされるソレダルの豊富な塩は手に入るかもしれない。
言語と文化を傷つける行為
元教え子のロシア人はSNSへの投稿で、ロシア軍は少数民族やイスラム教徒の兵士が多く、戦死者の割合も高いので、人口構造の補正ができていると主張した。だからロシア人が今後20年間で支配的地位から転落する可能性は低いというのだ。
プーチンの精神分析を行う識者が最もよく語る「驚き」の1つは、明らかに負けているのに、どうして自信満々なのかというものだ。だが、本当に負けているのだろうか。
実は時間はロシアの味方だ。23年中にウクライナが決定的勝利を収めなければ、24年には欧米の国々が選挙の年を迎える。そこで現職以外が勝てば、ウクライナが戦争を継続する能力の見通しが一変する可能性もある。欧米の全面的援助がなければ、ウクライナは武器も食料も自力では調達困難だ。次期米大統領を当てる賭けサイトでは、ジョー・バイデン現大統領の支持率は32%にすぎない。
だが、戦争賛成派のロシアの友人にも痛恨の出来事が1つある。たとえ軍事的に勝利しても、文化的な威信が大きく傷つくことだ。私は彼に、あるヨーロッパの空港で私の幼い娘がロシア語を話したら、周囲の視線が集中したという話を伝えた。生まれたばかりの妹と遊ぶ天使のような2歳児が、ロシア語を話しただけで刺すような視線を向けられたのだ。
14年にウクライナからクリミアを奪ったプーチンは、併合を正当化する理由の1つとしてロシア語話者とロシア文化の保護を強調した。だが、今後はウクライナ語が苦手なロシア語話者でさえ、たとえコミュニケーションがうまく取れなくてもウクライナ語だけを使うようになりそうだ。
エストニアやラトビアでも同様の動きが起きている。ラトビアは最近、20のロシア語テレビ局の放送免許を取り消し、ナチスに対する勝利を祝う首都の記念塔を取り壊した。
23年のプーチンは大方の予想を裏切り、想定以上の戦争目的を達成するかもしれない。だがウクライナでさらなる軍事的成功を収めても、未来の歴史書がロシアの言語と文化に対するプーチンの貢献を評価することはなさそうだ。
●蜜月も終了?プーチンを「気が狂った」と批判を始めた中国・習近平 1/27
中国とロシアが裏で繋がっていることはロシアのウクライナ侵攻でも強く感じられることになりました。しかし、今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、 現在の中国はプーチンへの信頼を失ったとして、その理由を解説しています。
プーチンは「気が狂った!」中国はプーチンへの信頼を失った
私が『中国ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』という本を出版したのは16年前、2007年のことです。
今なら、「中国ロシア同盟」という言葉、誰でも受け入れることができるでしょう。ところが当時は、「中国ロシア同盟?????そんなものは、どこにも存在しない!」という感じでした。
私は、「事実上の中国ロシア同盟は、2005年に成立した」と見ています。だから、07年にそういう名前の本を出したのです。どういう話でしょうか?
プーチンは、2000年に大統領になると、当時の有力新興財閥二人を征伐しました。一人は、「クレムリンのゴッドファーザー」と呼ばれていたベレゾフスキー。もう一人は、「ロシアのメディア王」と呼ばれ、「世界ユダヤ人会議」の副議長だったグシンスキー。ベレゾフスキーはイギリスに、グシンスキーはイスラエルに逃げました。
石油最大手ユコスのCEOだったホドルコフスキーという男がいます。彼も、上記二人と同じくユダヤ系。彼は、ベレゾフスキー、グシンスキーがアッという間にプーチンにやられたのを見て恐怖します。それで、何をしたか?
まず、イギリスのジェイコブ・ロスチャイルドに接近しました。そして、共同で「オープンロシア財団」を立ち上げたのです。なんだか「陰謀論」みたいな話ですね。ここでは細かい証拠を挙げるスペースがありません。詳細に興味がある方は、拙著『プーチン最後の聖戦』をご一読ください。
もう一つ、ホドルコフスキーは、ネオコンブッシュ政権に接近しました。そして、ホドルコフスキーは、「自分を守ってくれれば、ロシアの石油最大手ユコスをアメリカに売る」と約束したのです。実際、エクソンモービル、シェブロンテキサコとの交渉がはじまっていました。
ロシアにとって、石油、天然ガスは最大の収入源です。プーチンは、それをアメリカに売ろうとするホドルコフスキーを許すことができなかった。それで、ホドルコフスキーは、脱税、横領などの容疑で03年10月に逮捕されたのです。彼はそれから、10年間刑務所にいました。
その後、プーチンが「ロシアの勢力圏」と考える「旧ソ連諸国」で相次いで革命が起こるようになっていきます。03年、ジョージアで。04年、ウクライナで(オレンジ革命)。05年、キルギスで。
プーチンは、「これらの革命の背後にアメリカがいる」と確信。「このままでは、ロシアでも革命が起き、俺も失脚させられる!」と恐怖したプーチンは05年、「中国との同盟」を決断したのです。そこから中国とロシアは、ず〜〜〜〜〜っと、「事実上の同盟関係」にあります。
プーチンは、習近平の「成功モデル」だった
さて、近藤大介先生によると、習近平には尊敬する人が3人いるそうです。
一人は、お父さんです。習近平の父親、習仲勲は、国務院副総理などを務めた大物でした。
2人目は、毛沢東。毛沢東は、天才的な戦略家でしたが、国内政治は破滅的ダメでした。大躍進政策、文化大革命などで、数千万人が犠牲になった
といわれています。習近平は中国経済を発展させたトウ小平ではなく、毛沢東を尊敬している。そのことが、中国の未来を暗くしています。
3人目がプーチンです。プーチンは、習近平にとって、「成功モデル」でした。習近平がトップになった2012年、プーチンは大統領就任から12年が過ぎていました(正確にいうと、2000〜08年大統領。08〜12年は首相でしたが)。習近平は、「プーチンをモデルにして、長期独裁政権をつくろう!」と考えたのです。
ちなみに私は、プーチンを現代のムッソリーニ、習近平を現代のヒトラーと呼んでいます。ムッソリーニが首相になったのは1922年、ヒトラーが首相になったのは1933年。ヒトラーにとって、ムッソリーニは、「成功モデル」だった。
同じように、習近平にとってプーチンは、「成功モデル」だったのです。しかし…。
習近平は、プーチンへの信頼を失った
「The Moscow Times」1月10日は、「中国がプーチンへの信頼を失った」と報じています。
重要ポイントを要約してみましょう。
・中国指導部は、プーチンへの信頼を失っている
・中国の指導部は、プーチンの決定の冷静さと、ウクライナでの冒険の罠から抜け出す能力を疑っている
・中国は、ロシアはウクライナに勝てない可能性があると考えている
・そして、ロシアは戦後、国際社会で政治的、外交的に弱体化した、とるに足らない国家になってしまうと考えている
・中国の当局者は、プーチン個人に対する不信感を認めている
・プーチンは、ウクライナ侵攻の意図について、習近平に話していなかった
・プーチンは、ウクライナがロシア領を攻撃し、人道的惨事を引き起こした時は「措置をとる」といっただけだった (註 / 皆さんご存知のように、ウクライナはロシア領を攻撃していません。ウクライナ侵攻当初、プーチンは、「2〜3日で終わる」と考えていました。だから、ウクライナ侵攻を「戦争」と呼ぶことを禁じ、「特別軍事作戦」という用語を強制したのです。習近平と話した時は、「措置」といった。つまり、「戦争とか大げさな話ではないのですよ」と。プーチンは当時、そう見ていたのでしょう)
・ある中国の当局者は、ファイナンシャル・タイムズに、「プーチンは、気が狂った!」といった
・さらに「侵略の決定は、ロシアの非常に少数の人々によってくだされた。中国はロシアを理解できない」とも
・中国は今、西側との緊張を緩和し、欧州での地位を強化することを望んでいる
・中国は、停戦の仲介の役割を担うだけでなく、ウクライナの戦後復興に参加する準備もできている。
この記事を読んで、習近平の最近の発言の意味が理解できました。というのも、習近平は、プーチンを批判するようになっているからです。たとえば2022年11月5日のNHK NEWS WEB。
中国の習近平国家主席はドイツのショルツ首相と会談し、ウクライナ情勢を巡って「国際社会は核兵器の使用や威嚇に共同で反対すべきだ」と述べました。
習近平はショルツに、「一緒にプーチンの核兵器使用や威嚇に反対しよう!」と提案した。さらに2022年11月15日の産経。
両氏は、ウクライナ侵略を続けるロシアによる核兵器の威嚇・使用に反対すると強調した。
両氏というのは、バイデンと習近平のことです。習近平は、はっきりとプーチンを批判しています。
これからの中国、ロシア関係
さて、これから中国とロシアの関係はどうなっていくのでしょうか?
今は、「ロシアーウクライナ問題」がメインですが、その後世界は再び、「米中覇権戦争」を軸にまわっていくようになるでしょう。その時、中国が陸続きの資源超大国ロシアとの関係を切るとは思えません。中国が台湾に侵攻する際も、国連安保理常任理事国で拒否権を持つロシアが味方だった方がいいでしょう。さらに、台湾侵攻時、ロシアが軍事的サポートをしてくれれば完璧です。
というわけで、中国とロシアは、「アメリカの覇権を終わらせる」という共通の目的をもった事実上の同盟国でありつづけるでしょう。あるいは、ロシアが弱体化し、「中国の属国」になるか。
ただ、プーチンが核でウクライナや西側を脅迫したり、「俺たちは悪魔主義者と戦っている!」とトンデモ発言をするので、習近平は、「同類に見られたくない」ということなのでしょう。
プーチンはかつて、習近平にとって「成功モデル」「メンター」でした。しかし今は、「失敗モデル」「反面教師」になっています。習近平は、プーチンの失敗から教訓を得て、台湾侵攻を永遠に止めてほしいと思います。
●対ロ制裁打撃なし プーチン氏報道官 1/27
ロシアのペスコフ大統領報道官は27日、ウクライナ侵攻に絡んで日本政府が追加経済制裁を発表したことについて「(ロシアに)悪影響は及ぼさない」と述べ、自国への打撃にならないとコメントした。
ただ「既にひどい状態となっている2国間関係のさらなる悪化は避けられない」という認識を示した。
●ロシア、独立系メディアの活動禁止 厭戦の機運恐れ 1/27
ロシア検察当局は26日、バルト三国ラトビアに拠点を置く独立系露語オンラインメディア「メドゥーザ」を、露国内での活動を禁じる「望ましくない組織」に指定した。メドゥーザはプーチン政権の強権統治を批判し、ウクライナ侵略でも露政権が隠蔽する露軍の損害やウクライナ市民の被害などを伝えてきた。侵略の「戦果」が乏しい中、露政権は自身に不都合な情報を封殺し、国内に厭戦(えんせん)機運が高まる事態を防ぐ思惑だとみられる。
タス通信によると、露検察当局は、メドゥーザの活動が「露憲法秩序と国家の安全への脅威になると確認された」ため指定したと主張した。
露経済紙コメルサントによると、「望ましくない組織」の運営者や従業員には刑事罰や行政罰が科される。関係者でなくても、組織が作成した記事や資料を拡散したり、金銭的に支援したりした場合は刑事罰などの対象となる。
メドゥーザは露国内の協力者とともに取材や記事執筆をしているほか、スポンサーや読者からの寄付を運営費の柱にしているとされる。組織指定により、報道活動の継続や資金確保が困難になると予測される。
メドゥーザの記事を引用しただけでも罰則対象になるとされ、ロシアの言論状況のさらなる悪化は確実だ。
組織指定を受け、メドゥーザは26日、声明を発表。「記者や取材相手、寄付をしてくれる読者に害が及ぶことを恐れている」と懸念を示す一方、「私たちはロシアの民主化を信じている」とし、指定後も活動を続ける方法を模索する意向を表明した。複数の露ジャーナリストや人権団体からは指定を非難する声が上がった。
メドゥーザはプーチン政権による言論統制の強まりを危惧したロシア人記者らが2014年に設立。政権側の汚職や人権侵害を追及する調査報道で高い評価を得たほか、政権によるデモ弾圧や反体制派指導者ナワリヌイ氏の拘束などを非難する報道を展開してきた。
露政権は21年、メドゥーザをスパイと同義の「外国の代理人」に指定した。スポンサー離れを引き起こし、メドゥーザの資金状況を悪化させて活動停止に追い込もうとしたとの観測が強い。
さらに露政権はウクライナ侵略後、「虚偽情報」を拡散したとして、複数の他のリベラル派メディアとともにメドゥーザのウェブサイトへの接続を遮断。それでもメドゥーザは、規制を回避できる「VPNアプリ」の使用によるサイトの閲覧を読者に呼び掛けたほか、匿名性が高い通信アプリ「テレグラム」を使って侵略の実態を伝えてきた。
メドゥーザのテレグラムアカウントの登録者数は120万人超に上り、政権側に検閲されていない報道を求める露国民にとって貴重な情報源となってきた。
プーチン政権は近年、デモ規制の強化など言論統制を進めてきたが、ウクライナ侵略の開始後はさらに厳格化。政権や軍への批判を事実上禁止し、リベラル派メディアを相次いで活動停止に追い込んだ。
●ウクライナ各地にロシア軍のミサイル攻撃、11人死亡 米独の戦車供与の翌日 1/27
ウクライナ各地で26日、ロシアによるミサイル攻撃が相次ぎ、11人が死亡した。ウクライナをめぐっては前日にドイツとアメリカが戦車を供与すると発表していた。
ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は、ロシア軍が空と海から計55発のミサイルを発射したと発表。首都キーウ周辺に飛来した20発を含む47発を撃墜したと付け加えた。
ウクライナ国家緊急事態庁によると、一連の攻撃で11人が死亡し、11人が負傷した。合わせて35棟の建物が破壊された。 
住宅への被害が最も大きかったのはキーウ州だったという。
また、オデーサ州のエネルギー施設2カ所にも攻撃があった。
これに先立ち、ウクライナ空軍は、ロシア軍がウクライナ南部のアゾフ海から発射したイラン製攻撃ドローンの一団を撃墜したと発表した。
キーウ南部では非居住用建物が攻撃を受け、男性(55)が死亡、2人が負傷したと当局は発表した。
ウクライナ最大の民間電力会社DTEKによると、電力系統のひっ迫を緩和するためにキーウなど一部地域で緊急停電が実施された。
今回の攻撃の前日には、アメリカとドイツがそれぞれ、戦車を供与すると発表。これについてロシアは、西側諸国がウクライナでの戦争への「直接的関与」だと受け止めているとしていた。イギリスもすでに、陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」の供与を決定している。
カナダも戦車供与を発表
ウクライナへの戦車供与をめぐり、数週間にわたり国際的圧力を受けてきたドイツのオラフ・ショルツ首相は25日、ドイツ製戦車「レオパルト2」14台をウクライナに供与すると発表した。レオパルト2は最も効果的な戦車だと広く受け止められている。
同戦車は3月下旬から4月上旬にウクライナに到着する見込み。
アメリカのジョー・バイデン大統領も同日、米軍の主力戦車「M1エイブラムス」31台を供与すると発表した。米国防総省は長らく、M1エイブラムスはウクライナの戦場での運用には適さないとしてきたが、この主張を一転させた。
26日にはカナダも、同国が保有するレオパルト2を4台、数週間のうちに供与すると約束した。専門家によるウクライナ兵への操作訓練も行うとした。
「戦車連合」に12カ国参加と
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は26日、同氏が「戦車連合」とするものに12カ国が加わったと述べた。
しかし、300〜400台の戦車がなければ戦闘での形勢を逆転する「ゲームチェンジャー」にはならないと、ウクライナ国防省顧問ユーリ・サク氏はBBCラジオ4の番組「トゥデイ」で語った。
「西側の兵器を使って戦場でロシアを打ち負かす時期が早ければ早いほど、我々はより早期にこのミサイルテロを止め、平和を取り戻すことができるだろう」とサク氏は述べた。
同番組には北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長も出演。ウクライナに戦車を送ることで、戦争で勝利するためのウクライナ側の能力に大きな違いをもたらすことができると述べた。
ストルテンベルグ氏はまた、ロシアが新たな攻撃を計画していると警告した。ちょうどそのころ、夜間のドローン攻撃の後にミサイル攻撃を受けたとの報告がウクライナ側から出始めていた。
ロシアの雇い兵組織を犯罪組織に指定
こうした中、アメリカは26日、ウクライナに数千人の雇い兵を投入しているとされるロシアの民間組織「ワグネル・グループ」を国際犯罪組織に指定した。
ジャネット・イエレン米財務長官は声明で、「(ロシアのウラジーミル)プーチン大統領の戦争マシンの武装をさらに妨げる」ために、ワグネルとその関係者に新たな制裁を科したと述べた。
●政府 ロシアへ追加制裁措置 資産凍結対象に新たに36人と3団体  1/27
ウクライナ情勢をめぐり、政府は、27日の閣議で、ロシアに対する追加の制裁措置を了解しました。資産凍結の対象にロシア政府関係者ら36人と3団体を、新たに加えるなどとしています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いていることを受けて、政府は、G7=主要7か国と連携して圧力を強める必要があるとして、ロシアに対する追加の制裁措置を、27日の閣議で了解しました。
具体的には、日本国内にある資産を凍結する対象として、ロシア政府の関係者やウクライナ東部や南部の親ロシア派の関係者ら、合わせて36人と3団体を新たに加えるとしています。
また、日本からの輸出を禁止する対象として、ロシアの飛行機修理工場や無線工場など49団体を加えるとともに、禁止する物品の範囲も催涙ガスやワクチン、ロボット、レーザー溶接機など合わせて40品目と関連する17の技術、それに35の化学物質を加えるとしています。
木原官房副長官は、閣議のあとの記者会見で「平和と秩序を守り抜くため、G7をはじめとする国際社会が結束し、断固たる決意で対応していく必要がある。引き続き国際社会と連携し、対ロ制裁とウクライナ支援を強力に推進していく」と述べました。
ロシア大統領府報道官「対抗策を検討」
日本政府がロシアに対する追加の制裁措置を閣議で了解したことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は27日に「われわれは制裁のもとでの生活に適応している。新たな決定は何の効果もない」と強気の姿勢を示しました。
その上で「当然、自国の利益を最優先に対抗策を検討することになる」と述べ、制裁への対抗措置を講じる考えを示唆しました。

 

●ロシア軍のあまりの無能さは「驚き」であり「謎」...戦争の現状と教訓 1/28
「将軍は常に過去の戦争を戦う」という格言がある。だが目を向けるべきは、これからの在り方だ。ウクライナ戦争は、世界秩序をどんな形で再編成しているのか──。
イラク・アフガニスタン駐留米軍司令官を務めたデービッド・ペトレアス元CIA長官と、ニューアメリカ財団CEOで元米国務省政策企画本部長のアンマリー・スローターに、フォーリン・ポリシー誌のラビ・アグラワル編集長が話を聞いた。
――アメリカ史上、最長レベルの戦争で軍事戦略を指揮した将軍として、ウクライナ戦争に意外な点はあるか。
ペトレアス 意外だったことは多い。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、これほど(第2次大戦当時の英首相ウィンストン・)チャーチル的な人物であるのには感心し、少しばかり驚いた。
戦略的リーダーは目的を正しく把握し、効果的に伝え、その遂行を監督し、どう改善するかを決定しなければならない。さらに、このプロセスを繰り返す必要がある。(ゼレンスキーは)見事にそれを実行している。一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はもちろん、そうではない。完全に失敗している。
ロシア軍の無能さには本当に驚かされた。欠陥があるのは分かっていたが、(ウクライナ侵攻前の)演習期間に何もしていなかったらしいという事実は意外だった。
普通なら、ただ戦車を送り込むようなことはしない。戦車の前方に歩兵隊を配置し、対戦車ミサイルの攻撃を防ぐ。迫撃砲などで援護し、防空体制を敷き、電子戦で相手の通信を妨害する。進軍中に障害物や爆発物に遭遇する可能性に備えて、工兵隊や爆発物処理隊も派遣する。だがロシア軍は絶望的なほどお粗末だ。
対ウクライナ国境地帯での演習期間に何をしていたのか、謎だ。私だったら、研ぎ澄まされた状態で侵攻に臨めるよう、訓練していただろう。
それだけではない。作戦計画が極めて不適切だった。指揮統制が構造的に混乱していて、現代化も衝撃的なまでに進んでいなかった。ロシア軍の作戦行動は、予測していたよりひどい。準備期間があれほどあったことを考えると、本当に驚きだ。
――アンマリー、あなたにとって意外だったことは?
スローター 最大の驚きは、特にインド、ブラジルや南アフリカの反応だ。ジョー・バイデン米大統領が掲げる「民主主義国と独裁国の戦い」という新たな構図の下、アメリカはこれらの国に積極的に接近してきた。太平洋地域で中国と向き合うなか、インドに対しては、クアッド(日米豪印戦略対話)などの数多くの話し合いに引き込む努力を傾けてきた。
それでもインドは立場を明確にすることをあからさまに拒絶し、今もロシア産石油を輸入し、ロシアから武器を購入する用意もある。欧米の大半のアナリストの評価よりも、はるかに大きな変化が世界秩序に起きていることを示すシグナルだ。
20世紀の非同盟運動とは事情が異なる。インド、ブラジル、南アフリカ、ASEAN諸国という重要国の一団が「これはもう私たちの戦争ではない。私たちが本当に懸念しているのは、私たち自身の地域内紛争だ」と主張している。
――軍事面の話に戻るが、世界各国はウクライナ戦争からどんな教訓を学んでいるのか。
ペトレアス 重要なのは、これは未来の戦争ではないと認識することだ。むしろ、冷戦の最盛期に逆戻りしたような戦いだ。私が旧東西ドイツ国境地帯に駐留する米軍旅団の少佐だった当時、戦争が勃発していたら、こんなふうだったのではないか。
未来型の戦争の要素はあるが、非常に限定的だ。例えば、アメリカがウクライナに供与した高機動ロケット砲システム(HIMARS)は80キロ先の食卓を標的にできる。これは大きな変革だ。ロケット砲の射撃目標を観測するのは、今やドローン(無人機)だ。とはいえ、これはインド太平洋地域で紛争が発生した際、想定される国際的な情報・監視・偵察活動の在り方とは異なる。
これから起きる劇的な変化として考えられるのは、無人システムの利用の激増だ。そうしたシステムは遠隔操作型に、それどころかアルゴリズムで管理されるものになるかもしれない。そうなれば(攻撃や殺害の)最終的判断は、マシンに状況判断や決断を行う能力を与えるアルゴリズムの設計者が下すことになる。
「見えるなら攻撃可能で、攻撃できるなら殺害可能だ」という冷戦時代の格言がある。では、全てが可視化されたら? 地上や上空、海上だけでなく、海中や宇宙空間も無人システムでカバーできる未来を想像してほしい。見えるものは攻撃できるし、全てが見えるようになる。その意味については、ごく慎重になるべきだろう。現実に待ち受けている未来は、今とは全く違うもののはずだから。
――ウクライナ戦争に対する中国の見方はどうか。中国はどんな教訓を得ているのか。
スローター 中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は「友人にこんなことをされるなら、敵だとどうなるか」と思っているのではないか。現状はほぼ確実に、わずか1年ほど前、北京冬季五輪開催に合わせて訪中したプーチンと会談し、無制限のパートナーシップを約束し合ったときに習が思い描いたものとは懸け離れているからだ。
ロシアの行動のせいで、中国は極めて難しい立場に置かれている。今や(中ロは)とても居心地の悪い関係だ。この点で、米政府の「民主主義国対独裁国」という戦略には疑問を感じる。アメリカは中国をロシアの側に押しやっているからだ。
だが実際には、欧州各国が気付いているように、中国がコストに目覚める確かなチャンスがある。親ロ路線が経済制裁の面や、ロシアの行動を後押ししているイメージがもたらすコストだ。アメリカはより微妙な戦略を採り、中国と接触を図る方法を探るべきだ。
台湾に関しては、中国の思惑を予測すべきではない。台湾を(防空ミサイルで)「ハリネズミ化」して、少なくとも攻撃した際の中国のコストを上げることは可能だ。非常に効果的な兵器を島全体に擁することで、台湾は中国と中国軍、中国社会にとってのコストを引き上げられる。さらに、極めて効果的な制裁計画があれば、習が(台湾侵攻を)先延ばしする理由になるだろう。
●ロシア国民からも湧きあがる民主化議論 地政学の新展開 1/28
周知の通り、ロシアの民主化に向けて既に運動が始まっている。政治犯として服役中のアレクセイ・ナワリヌイ氏はワシントンポスト紙に投稿し、「ロシアは議会制民主主義を実現し、今までの権威主義を止め、問題を生むのではなく、問題を解決する良き隣人になるべきだ」と論じた。
今回、世界的な人権活動家として知られるチェスの元世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフ氏と政治犯罪者として英国に亡命中のロシアの大富豪ミハイル・ホドコルスキー氏が連名で2023年1月のフォーリン・アフェアーズ誌で論じた議論は注目に値する。
2023年ロシアは民主化する?
彼らはプーチン政権の全体主義を拒否する「ロシア行動委員会」の名の下でおよそ次のように論じている。ウクライナ戦争でプーチン政権はいずれ近いうちに崩壊する、プーチン以降のロシアは議会制連邦共和国に移行する――。
ウクライナは国際的に認められた1991年当時の領土を回復し、プーチンの侵略によって生じた損害を正当に補償され、すべての戦争犯罪者に責任を取らせると論じている。そしてロシアを「ならず者独裁国家」から議会制連邦共和国に変身させるとしている。
彼らは更に、「米国はプーチン支配の終焉は核武装したロシアが混乱に陥ることになり、中国が強大化すると恐れているが、それは間違いだ。プーチン支配の継続こそ、その危険が増大する。むしろウクライナの勝利とロシアの民主化こそが世界中で民主主義の大義を後押しすることになるのだ」と議論を展開している。
この二人の議論の重要な論点は1991年の国境線は国際的に認められたものだとして、その維持を前提としているところだ。そして、プーチン大統領の「失われたロシア帝国の再建」の試みは失敗する運命にあり、民主主義への移行と地方への権力委譲の機は熟している。従って何よりも大統領がウクライナで軍事的に敗北することが必要だと論じている。
この論考は、「法の支配、連邦制、議会制、明確な三権分立を目指し、抽象的な『国益』よりも人権と自由を優先する」という原則のもとに、ロシア国家の再生を目指す青写真を描きだしている。 「私たちのビジョンは、ロシアが議会制共和国であり、中央政府には外交・防衛と国民の権利の保護に必要な権限だけを残し、それ以外の統治権限は地方政府に移管する。ロシアはそういう連邦国家となる」と論じている。
更に、プーチン政権が崩壊して2年以内に、ロシアは小選挙区制を採用し、新しい憲法を採択し、新しい地方機関のシステムを決定する。しかし、短期的にはその前に、立法権を持つ暫定的な国家評議会が必要であり、それが臨時のテクノクラート政府を監督する必要がある。その核となるのは、法の支配にコミットするロシア人だとし、ロシア新政府はプーチン派を排除し、迅速に行動し、西側諸国と協力して経済の安定化を図るとしている。
国家評議会はウクライナと和平協定を結び、91年の国境を認め、プーチンの戦争による損害を正当に補償する。また、旧ソ連諸国の親プーチン派に対する支援を停止するなど、ロシア内外でプーチン政権の帝国主義的な政策を正式に否定する。そして、ロシアが長年続けてきた西側との対立を終わらせ、代わりに平和、パートナーシップ、欧州・大西洋制度への統合に基づく外交政策に移行するとしている。
ユーラシア地政学上の重要な展開
この論考の重要な点はロシアが民主化する時、直面する根本的な問題を抉り出し、ユーラシアの地政学的見地からロシアにとって正しい方向性を示そうとしていることだ。どういうことか?
仮にロシアが今回のウクライナ侵攻を契機にして、内部的な大混乱に陥れば、隣接する大国中国や多くの民族共和国などが自己利益推進のため行動を起こすことは目に見えている。周知の通り、中国は「極東の中国領150万平方キロが、不平等条約によって帝政ロシアに奪われた」と理解している。
中国はある日突然、ウラジオストクを「中国固有の領土」として返還を要求しかねないのだ。多くの非スラブ自治共和国もその混乱に乗ずる可能性がある。そうなると、ユーラシア全体が名状しがたい大混乱に陥る危険がある。
この論文はその危険を完全に察知していて、正直にこう論じている。「プーチンの軍事的敗北の後、ロシアは中国の属国となるのか、それともヨーロッパとの再統合を目指すのかを選ばなければならない」。そして「大多数のロシア人にとって、平和、自由、繁栄を選択することは自明である」と。
そして、民主化するロシアはウクライナと共にヨーロッパの一部となって平和と自由と繁栄を選択するべきだと明快に述べている。これは91年のソ連崩壊後の国境が国際的に承認されていることを確認しつつ、ロシアと云う国全体の地理的継続性を維持し、それを欧州社会に統合し、民主的繁栄を確保する姿勢を表したものだ。ユーラシア地政学上の非常に重要な展開を目指している。
このフォーリン・アフェアーズ誌の論考が論じている「限定的な中央集権と強力な地方政府」の具体的内容はこれから議論されて行くだろう。しかし、非常に重要なことはこの提案が、ロシアの現在の地理的一体性を維持しながら民主化し欧州社会に統合して行くと云う方向性を明白に打ち出していることだ。
二人の著者は問題の本質を正しく理解し、国としての一体性を堅持して民主化を図ろうとしていることだけは明らかだ。要するに、ロシア人は自分たちが正しく行動しなければ、中国がユーラシアで勢力を伸ばす可能性があることを明確に意識しているのだ。
ロシアの民主化が生み出す地政学上の地殻変動
まず何よりも、ロシアが民主主義の価値体系の下で行動し始めれば、北大西洋条約機構(NATO)との関係は根本的に変化する。ロシアは極東ロシアを含めて欧州民主主義圏の一員となる。
このようにして、ロシアはNATOの敵対国でなくなるので在欧米軍などはアジア太平洋地域に移動できるようになるだろう。西側の安全保障上の基本構造が変わることになる。日本自体の安全保障の上でも大きな前向きの展開だ。
その上、民主化するロシアは中露専制強硬同盟から離脱するので、中国は地球上で唯一の強硬専制国家と云うことになる。国連の安保理事会でも常任理事国ロシアはその行動を一変させるので、国際政治の議論と雰囲気は一変する。さらに多くの変化が生まれてくるに違いない。 地政学的には殆ど歴史的な地殻変動と云うべき事態が生まれてくる。
ロシアが議会制連邦共和国として西欧社会の一部になろうとするなら、西側諸国全体で民主ロシアを全面的に支援するだろう。それは西側には過去への強い反省があるからだ。
ソ連崩壊当時、西側はロシアの民主化を支援する行動を取らなかったのだ。米国内の冷戦思考が災いしたためだ。
連合国側が第二次大戦後ドイツと日本の民主化には大きな資源を投入したのとは大きな違いだった。これがロシアにプーチン的な独裁を生んだという有力な議論がある。
この反省もあって、今日の欧米ではロシアが民主化するなら全面的に支援しようとするモメンタムが非常に強くなっている。欧州では欧州の繁栄はロシアの繁栄と表裏一体と云う観念が横溢している。それが大きなダイナミズムを生み出す気配である。当然日本は隣国としてロシアの民主化とその経済的発展に大規模に支援をしていくべきだ。
しかし本当にロシアは民主化するのか?
勿論ロシアの将来、特に民主化の可能性について、楽観視は禁物だ。プーチン政権の専制が20年も続いた。この国の専制の歴史は長い。ロシアの民主化は簡単ではない。
何よりも国の地理的な図体が大きく、民族や文化も多様だ。統治するにも余程しっかりした価値体系と指導力が無ければ上手く行かないだろう。中国などと渡り合う時は特にそうだ。 
この関係では西側諸国間の意見調整とロシアへの協力も大切だ。ロシアが歴史的な方向転換を図るにしても、西側諸国は上手に且つ賢明に協力する必要がある。その為には、西側諸国の政策当局者がよく話し合わなければならない。何が有効なアプローチかを議論していく必要がある。
しかし今やロシアの民主化は勿論可能だとする議論は非常に数多くある。今回のこの著名な二人のロシア人の論考はロシア社会に広く流れている強い願望、帝政時代から苦難に苦難を重ねてきたロシア人の心の奥底にある強い願望、発言を封ぜられてきたロシア人の心の叫びとでもいうべきものを文字にしたものだ。
外ならぬ「フォーリン・アフェアーズ誌」はそこを理解してこの記事を世界中に発信した。そう受け止めたい。
●米欧の主力戦車供与でウクライナ戦争が変わる  1/28
開始からもうすぐ1年。ウクライナでの戦局が大きな曲がり角を曲がった。アメリカとドイツが2023年1月25日、ついに両国の主力戦車をウクライナへ供与することを決めたからだ。この決定が意味するのは大きく分けて2つある。
1つは、ロシアに占領された領土奪還を目指し、大規模な反攻作戦をこの近く始める構えのウクライナ軍が地上戦での本格的な攻撃能力を得たこと。もう1つは戦争のエスカレーションを懸念し、攻撃能力の提供に慎重だった米欧が「ウクライナを防衛面だけでなく、攻撃面でも支援する」との政治的意思を曲がりなりにも表明したことだ。
一方で、ロシアのプーチン大統領にとって今回のアメリカとドイツによる決定は、軍事面はもちろんのこと、国内政治的にも極めて大きな打撃になった。なぜか。ロシアでは、戦車が「大祖国戦争」と呼ばれる第2次世界大戦でのソ連勝利のシンボル的存在だからだ。
ロシアにとって「戦車」の意味
2019年、ロシアでは「T34」という戦争映画が大ヒットした。ソ連時代の主力戦車T34が活躍するアクションもので、おまけに監督はプーチン氏の盟友であり、今回の侵攻も強く支持するミハルコフ氏だ。この映画の制作にあたっては、国民の愛国心を刺激し、プーチン氏の求心力を高めるという狙いがクレムリンにあったことは間違いないところだ。
1943年にソ連軍が勝った「クルスクの戦い」は「史上最大の戦車戦」ともいわれ、ソ連の最終的勝利につながった記念碑的出来事だ。つまり、ロシアでは今でも「戦車=ナチドイツに対する戦勝」というのが社会の根底に横たわる強固な固定観念の1つなのだ。
こうした経緯を考えれば、欧州各国からの提供分も含めると、約100両ものドイツの主力戦車レオパルト2が旧ソ連地域、それも大祖国戦争で大きな戦場になったウクライナの広大な平原でロシア軍戦車部隊と対峙するという事態は、極めて衝撃的なことなのである。
仮に今後、戦闘でロシア軍の戦車がドイツ製戦車に多数破壊されることになれば、国民が大きな屈辱感を抱くのは確実だ。ずらっと並んだ大戦車部隊を前面に進軍する。これが今までロシア軍の地上戦戦術を象徴するイメージだが、これが一挙に崩れることになる。
2014年にクリミアを一方的に併合し、「戦勝」という誇りを国民にもたらし、高い支持を集めたプーチン氏に対する幻滅感や批判が広がる可能性もおおいにありうる。
プーチン氏はウクライナ侵攻の苦しい大義名分の1つに、ネオナチ的なゼレンスキー政権を打倒するという「非ナチ化」も挙げている。それなのに、ナチスドイツを否定する現代ドイツが、直接兵士部隊を送るのではないにしろ、戦車部隊を送ってくる事態をどう説明するのか。プーチン氏は苦しい説明を求められるだろう。
あせり、いら立つプーチン
侵攻から1年の節目となる2023年2月24日を控えた2023年明けから、プーチン政権は国民に誇示できる勝利を挙げるべく、近く大規模な攻撃を開始する計画を進めており、準備は最終段階にあるとみられている。
攻勢に向けた軍指揮系統の再編成も行った。2023年1月11日には、ロシア軍制服組トップであるワレリー・ゲラシモフ参謀総長を現地の統括司令官兼務にする異例の人事を断行したのだ。侵攻開始以来、拙攻が続くロシア軍に業を煮やし、ゲラシモフ氏に直接、侵攻作戦の直接指揮を命じたもので、プーチン氏のあせりやいら立ちを感じる。
そのあせりの背景には2つの「日程」がある。1つは2023年5月9日の対独戦勝記念日だ。ロシアで最大の祝日であり、モスクワの赤の広場では軍事パレードが行われ、軍最高司令官でもあるプーチン大統領が毎年、演説を行う最重要イベントだ。
しかし、2022年9月に一方的にロシア領への「編入」を宣言したウクライナの東部・南部4州でさえも、ウクライナ軍の反攻により完全制圧ができないままにいる。このままでは、プーチン氏としては勝利宣言もできないとの観測もあるほどだ。
もう1つの日程は、2024年3月に予定されている次期大統領選だ。クレムリン内ではすでに選挙の準備も始まったとロシアのメディアが伝えている。プーチン氏自身は出馬の意志をまだ示していない。通算5期目に向け出馬の構えと見られていたが、このままでは出馬宣言もできないとの見方も出ている。
ウクライナの軍事専門家である、ジュダノフ氏は、ウクライナ軍情報部の情報として、プーチン氏がゲラシモフ氏に対し「(2023年)3月までに東部ドネツク州の完全制圧を命じた」と話す。これを裏付けるように、別の軍事筋は「ロシア軍がベラルーシに配備していた自軍兵力の一部を今ドネツクに向け移動させている。ドネツクでの攻撃の準備だ」と指摘する。
このロシア軍の大規模攻撃計画について、ウクライナ側では脅威と受け止める見方がある一方で、撃退できるとの強気の見方が根強い。その根拠の1つがロシア軍の戦闘能力への疑問だ。
ジュダノフ氏は「侵攻に投入された約20万人規模のロシア兵部隊のうち、約10万人が死傷した。このため、今後ロシア軍が兵力を増強しても戦場での経験不足は否めず、戦力は大幅にダウンする」と分析する。ジュダノフ氏によると、ロシア軍が兵力を増強する動きがあるものの、兵器・弾薬不足のため「新たな師団を編成できない」という。
東部ドネツク州の要衝バフムト攻撃などでウクライナ軍を苦しめ、正規軍と比べ比較的高い戦闘力を発揮した民間軍事会社ワグネルの部隊も戦力が急速に落ちているという。ジュダノフ氏によると、ワグネルが服役者から志願者を集めて編成した「受刑者部隊」は当初5万人規模いたが、その後は戦死者、脱走兵、あるいはウクライナ軍への投降などで減っていき、今では1万人規模となっているという。
しかも、攻撃作戦をめぐりロシア軍最高指導部内で大きな対立が発生する異常事態が起きていることもプーチン氏にとって懸念材料だ。それは、2023年1月末、ロシア軍空挺部隊のチェプリンスキー司令官が解任されたのだ。作戦会議の場でゲラシモフ氏を公然と批判したためという。
SNSに流れた情報では、チェプリンスキー司令官は大規模攻撃の柱として、首都キーウへの空挺部隊による急襲作戦を提案したゲラシモフ氏に対し、自分の部下をいたずらに死なせることになると大反対したという。
ロシア軍の大規模作戦は2月か
いずれにしても、大規模攻撃作戦の開始時期について、前ウクライナ大統領府長官顧問のアレストビッチ氏はまだ決まっていないとの見方を示す。「クレムリンでは2つの意見で対立している。早期に大規模攻撃作戦を始めて、並行して30万人を新たに動員する、という意見がある。もう1つはまず30万人を動員してから攻撃すべきという意見だ」と指摘する。
他方で、ウクライナ軍も2023年2月以降に大規模反攻作戦の開始を計画している。ゼレンスキー政権としては、領土奪還とロシア軍に侵攻継続を断念させるために、2023年夏の戦場での決定的勝利と今秋での事実上の戦争終結を目指している。「最後の戦い」がウクライナ政府内での合言葉になっている。
この流れの中で今回決まった米欧からの大量の武器支援のうち、アメリカ軍主力戦車エイブラムス31両について、アメリカ政府はウクライナに到着する時期を曖昧にしており、実際は早くても2023年末になる可能性もある。ドイツ側はレオパルト2戦車については3〜4カ月かかるものの、一部は3月末には届く可能性があるとしている。
しかしウクライナの軍事筋は、武器供与全体のスケジュールについて「一部公表されている時期は表向きで、実際の到着はもっと早くなる」と明かす。ウクライナ軍が機甲作戦の先頭に立つと期待しているアメリカ軍の主力軽戦車ブラッドリーについては「早ければ、2023年2月初めに前線に配備される可能性がある」と語る。イギリスが供与する主力戦車チャレンジャー2も同様に一部が2月初めに前線に到着するとの見通しを示した。
一方で、今回の供与決定を前に、ウクライナとアメリカの間で実はさざ波が立っていた。ウクライナの反攻作戦に関し、バイデン政権から反転攻勢の開始を遅らせるようにとの予想外の提案が来たからだ。要請してきたのは2023年1月半ばにキーウを極秘訪問し、ゼレンスキー大統領と会談したバーンズ中央情報局(CIA)長官だ。
バーンズ氏とゼレンスキー氏との詳しい会談内容は公表されていないが、ウクライナの軍事筋によると、バーンズ氏の要請は以下のような趣旨だった。アメリカ政府の情報ではロシア側では近く大規模な攻撃を行う作戦計画が完成している。攻撃は逼迫している。このため、ウクライナにとって必要なのは、しっかりした防御作戦だ。この攻勢をはね返すことが先決だ。撃退できなければ、この戦争は長期化が避けられない。戦争終結は遠い将来の話になる。撃退できれば、ウクライナ軍は反転攻勢を始められるし、戦争の結果も見えてくる。
領土奪還作戦でアメリカと溝
つまり、本格的反転攻勢は、米欧が供与する攻撃用兵器が到着し、ウクライナ部隊への訓練が完了した段階で始めるべきとの提言だ。夏までに決定的な勝利を果たし、年内に戦争を終結することを目指しているゼレンスキー政権としては、計画の修正を迫られた形だ。ウクライナ軍のブダノフ情報局長はすでに、ウクライナ軍の反転攻勢開始を前提に「3月に戦闘は最も熱いものになるだろう」と言明していたほどだ。
アメリカ側の提案について、ウクライナがクリミア半島奪還に向け攻撃を急ぐ構えなのに対し、アメリカ軍はまず東部ドネツク州などでロシア軍の大規模攻撃をはね返すことが先決と勧告した可能性がある、と筆者はみる。
もちろん「さざ波」は今回のアメリカ、ドイツの主力戦車供与発表以前の段階の話だ。ゼレンスキー大統領が米欧の戦車供与決定をロシアと戦うための「自由の拳」と大歓迎したことを考えると、ウクライナがアメリカ軍の今回の「防御先決提案」を受け入れる可能性もあると筆者は見る。
しかし、いずれにしてもウクライナとアメリカとの間で領土奪還作戦をめぐりまだズレがあるのは事実だろう。アメリカ国防総省制服組トップのミリー統合参謀本部議長が、ウクライナへの軍事支援問題を協議した2023年1月20日の関係国会合後の記者会見で、ウクライナ側に対し、年内終結戦略を見直すよう半ば促すような発言をしていたからだ。
「軍事的観点からいえば、2023年中にロシア軍をウクライナ全土から軍事的に追い出すことは極めて難しいというのが私の意見だ」と述べた。議長はこう付け加えて、ウクライナ側に配慮も示した。「決して不可能と言っているわけではない。しかし、極めて難しい」と。
2023年内の全占領地奪還を目指して士気が高いウクライナに対し、米欧が共同で軍事支援するという団結姿勢を誇示したアメリカのバイデン政権。だが、その間には微妙な温度差が残っていることを理解しておく必要があるだろう。
●北朝鮮 キム・ヨジョン氏がアメリカの戦車供与など強く非難  1/28
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)氏は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり初めての談話を発表し、アメリカが主力戦車をウクライナに供与することについて「戦争の状況をエスカレートさせている」と強く非難しました。
国営の朝鮮中央通信を通じて27日に発表された談話で、キム・ヨジョン氏は「ウクライナに天文学的な金額の軍事装備を譲り渡している」とアメリカなどによる軍事支援を批判しています。
そのうえで「帝国主義連合勢力がいくらあがいても強い精神力を備えたロシア軍と人民の英雄的な気概をくじくことは絶対にできない」と強調しています。
北朝鮮の報道を分析しているラヂオプレスによりますと、キム・ヨジョン氏が、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について談話を発表するのは初めてだということです。
北朝鮮は、ウクライナへの軍事侵攻をめぐりロシアを擁護する立場を侵攻当初から鮮明にしています。
一方、朝鮮半島情勢をめぐり、ロシアは、弾道ミサイルを発射する北朝鮮を擁護していて、北朝鮮としては核・ミサイル開発を加速させる中、両国の関係をさらに強化したい思惑があるとみられます。
●ロシア軍 ウクライナ各地を攻撃 欧米の戦車供与けん制か  1/28
ロシア国防省はウクライナ各地をミサイルなどで攻撃して欧米からの兵器などの輸送を断ち切ったと主張しました。ウクライナへの戦車の供与を決定した欧米諸国をけん制したい思惑もあるとみられます。
ウクライナでは26日、首都キーウや南部オデーサなど各地でロシア軍によるミサイルや無人機の攻撃がありました。
ウクライナ政府は、あわせて11人が死亡したと発表し、電力会社によりますと各地の電力インフラも被害を受けたということです。
これについてロシア国防省は27日「上空や海上から大規模なミサイル攻撃を行った。この攻撃で、NATO=北大西洋条約機構から供給されたものを含め、戦闘地域への兵器や弾薬の輸送を断ち切った」と主張しました。
ウクライナに対してはイギリスやドイツ、アメリカなどが相次いで主力戦車の供与を表明していて、ロシアにはこうした支援をけん制したい思惑もあるとみられます。
一方、ウクライナに戦車「レオパルト2」を供与することを決めたドイツ政府は27日、ウクライナ軍の兵士が戦車を扱えるようにするための訓練を、来月はじめにドイツ国内で開始する予定であることを明らかにしました。
また、戦車「チャレンジャー2」を供与するイギリスも26日、国防省の高官が来週30日からイギリス国内でウクライナ軍の兵士に対して、戦車の操縦や整備についての訓練を開始する見通しを示しました。
ドイツ・イギリス両政府ともに戦車は3月末にもウクライナに届くとしています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、イギリスのテレビ局「スカイニュース」のインタビューで反転攻勢には少なくとも300両の戦車が必要だと強調したうえで「戦車を供与する決定に感謝している。しかし、われわれはまだ受け取っていない。われわれが戦場で兵器を使って初めて安心できる」と述べ、迅速な支援を訴えました。
●プーチン氏、ウクライナ戦争の長期化に身構え−新たな攻勢も準備 1/28
数週間で決着を付けるはずだった侵攻から1年近くがたつ中で、ロシアのプーチン大統領はウクライナで新たな攻勢を準備している。同時にロシア国内では、自身が今後何年も続くとみる米国やその同盟国との衝突に身構えさせようとしている。
ロシアの狙いは、数カ月にわたって劣勢続きの軍が再び戦争の主導権を握れることを誇示し、ロシアが現在支配する領土が認められる形でのある種の停戦に合意するよう、ウクライナとその支援国に圧力をかけることだ。事情に詳しい政府の当局者や顧問、関係者が述べた。
非公表の内容だとして匿名を条件に語った関係者によると、当初占領した面積の半分以上を失い、プーチン氏ですら自身が数十年かけて作り上げてきたロシア軍の弱さを否定できなくなっている。後退続きでロシア政府の多くが短期的な目標についてより現実的にならざるを得なくなり、現在の占領地を維持するだけでも成果だと認めている。
だが、プーチン氏はこれまでの失敗にもかかわらず、規模に勝る軍と犠牲をいとわない姿勢がロシアを最終的な勝利に導くとなお確信している。米国や欧州の見積もりによると、ロシア軍の死傷者数は既に数万人に上り、第2次世界大戦後のどの紛争よりも多い。ロシア大統領府関係者は、新たな攻勢は2月か3月にも始まる可能性があると述べた。ウクライナとその支援国も、米国や欧州が新たに約束した戦車が届く前にロシアが攻勢を開始する可能性があると警戒している。
プーチン氏が示す決意は、戦争が再びエスカレートする前兆となる。一方でウクライナも国土からロシア軍を駆逐する新たな攻勢を準備しており、ロシアの占領維持を認める停戦協定には応じない姿勢だ。関係者によると、プーチン氏はロシアの存亡を懸けて西側と戦っているとの認識で、戦争に勝利する以外に選択肢はないと信じている。新たな動員が今春行われる可能性もあるという。ロシアは経済や社会を二の次とし、戦争のニーズを最優先する性格をますます強めている。 
●アフリカ諸国と関係深めるロシア プーチン政権の狙いは 1/28
ウクライナへの侵攻を続けるロシアは、国際的な批判に対応するため、アフリカ諸国との関係強化に力を入れている。ラブロフ露外相は23〜26日にアフリカ4カ国を訪れ、ウクライナ侵攻での自国への支援などを訴えた。ロシアは軍事協力を通じ、アフリカでの影響力拡大も図っている模様だ。
ラブロフ氏は南アフリカ、エスワティニ、アンゴラ、エリトリアを訪問。ロシアは7月にアフリカ各国首脳を招いたサミットを予定しており、ラブロフ氏は下準備として訪問先の首脳らと意見を交わした。ロシア紙RBKによると、ラブロフ氏は2月にもチュニジアなどへの訪問を予定している。
ロシアの前身であるソ連は欧米諸国に対抗する狙いから、アフリカで積極的に活動していたが、ソ連崩壊後は影響力が低下していた。近年のプーチン政権はアフリカ政策に注力しており、2019年に初めてのサミットを開催。今回のサミットでは、食糧の安全保障▽資源の安全保障▽医療▽技術移転――を主要議題に掲げている。
ラブロフ氏は25日、アンゴラのロウレンソ大統領との会談で「西側がウクライナを利用して、ナチズムの思想と実践を促進しようとしている」点などを協議したと主張。今回のアフリカ訪問で関係国から理解が得られたとの説明を繰り返した。
一方で、南アフリカを訪れた際の記者会見では、記者から「ロシア軍はミサイルや無人機を用いて、ウクライナの民間インフラや民間人を攻撃している」と指摘されると、ラブロフ氏が「我々は民間インフラを攻撃していない。この点は広範に確認されている」と反論する場面もあった。
ラブロフ氏のアフリカ訪問を通じ、各国がロシアと軍事面で協力を維持している側面も見られた。南アフリカはラブロフ氏の来訪に先立ち、2月17日から東部ダーバンを拠点に中国、ロシアと海軍の合同演習を実施することを発表していた。開催時期がロシアのウクライナ侵攻開始から1年のタイミングに近いこともあり、国内では政府を批判する声も出ている。
南アフリカのパンドール外相は会見でこの点を問われると、「世界的に全ての国が友好国と軍事演習を実施している」と反論。同席したラブロフ氏も「三つの独立国が国際法に違反せずに演習を実施する」と援護した。
近年のロシアはアフリカ諸国に対し、兵器輸出に力を入れるほか、民間軍事会社「ワグネル」の部隊を派遣するなど、軍事面での関与を強めていると伝えられている。
●世論調査に振り回される「孤独な独裁者」...戦争を終わらせないで延命 1/28
[ロンドン]ウラジーミル・プーチン露大統領によるウクライナ全面侵攻から間もなく1年。「死傷したロシア側の兵士は18万人に近づき始めている。ウクライナ軍の死傷者はおそらく10万人以上だろう。加えて約3万人の市民が殺害された」。ノルウェー軍の事実上の最高司令官エイリク・クリストファーセン氏は22日、同国のテレビ局TV2に明らかにした。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のバリー・ポーゼン教授は米外交誌フォーリン・アフェアーズで「ロシア軍は多くの間抜けなことをし続けたし、実際今でもしている。しかし軍事戦略全般に関して言えばモスクワはより賢くなったようだ」との見方を示し、「米国の推計によれば当時も今もロシアとウクライナの犠牲者の比率は1対1だ」と指摘している。
ロシア軍はウクライナ東部ハルキウ州と南部ヘルソン州から戦略的に撤退した。これで間延びした前線が大幅に短縮され、守りやすくなった。前線に沿って防御陣地を掘り、コンクリート製障害物や掩蔽壕(えんたいごう)を築く。地雷も敷設する。プーチン氏はクリミア半島とロシア本土を結ぶ「陸の回廊」を確保するのを優先しているように見える。
これに対して「プーチンの料理番」と呼ばれるロシア民間軍事会社ワグネル・グループ創設者エフゲニー・プリゴジン氏と、2014年の東部ドンバス紛争で親露派分離主義武装勢力を指揮したロシア民族主義者イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官はプーチン氏の戦争のやり方を批判し始めた。
「世論調査はロシアの政治的意思決定の主要部分を占める」
プリゴジン氏とガーキン氏は対ウクライナ戦争を支持するタカ派政治家を味方につけようとしている。米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は、露国防省を批判するロシア民族主義者はロシア軍の退役軍人、自分の傭兵部隊を持つ民族主義者、ロシアの軍事ブロガーと戦争特派員の3グループに分裂していると分析する。
ガーキン氏は退役軍人を代表しており、プリゴジン氏は傭兵部隊を持つ自称・民族主義者。2人は醜い主導権争いを繰り広げている。プーチン氏は戦争を終わらせないことで自分の延命を図り、ミサイルやロケット、カミカゼドローン(自爆型無人航空機)攻撃でウクライナ市民を疲弊させ、泥沼の消耗戦に持ち込み米欧に厭戦ムードを醸成しようとしている。
棒が垂直にそびえ立ったような極端な独裁体制を確立したプーチン氏だが、「世論調査や国民感情の評価がロシアの政治的意思決定の主要部分を占めている」と英シンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャック・ワトリング上級研究員は指摘する。ワトリング氏はロシア連邦保安庁(FSB)が実施した世論調査などの機密情報を入手し、分析してきた。
そもそもウクライナ侵攻に踏み切ったのも世論調査の結果が一因をなしていたとワトリング氏はみる。なぜプーチン氏とその取り巻きたちがいとも簡単にウクライナを占領できると思い込んでしまったのか。侵攻直前の昨年2月、旧ソ連諸国での情報活動を担当するFSB第5局が裏で糸を引く形で、ウクライナ各地で世論調査が行われた。
世論調査で大別されるロシア国民の5グループ
それによると、ウクライナ人は将来に悲観的、政治に無関心であり、政治家や政党、国家機関の大部分を信頼していなかった。67%がウォロディミル・ゼレンスキー大統領に不信感を抱いており、外国の侵略に抵抗するかどうかについては40%が「ウクライナを守らない」と答えていた。地域別に見ると、東部と南部ではウクライナ国家への信頼度がかなり低かった。
生活に困窮する東部と南部の住民の多くは占領当局がサービスを提供してくれるなら、進んで受け入れる用意があることを示唆していた。こうした調査結果を鵜呑みにしたプーチン氏とその取り巻きたちが、キーウのゼレンスキー政権さえ追い落とせば、東部や南部は簡単に支配できると過信した様子が浮かび上がってくる。
ワトリング氏はRUSIのホームページに掲載された論評の中で「世論調査はロシア人を5グループに大別する傾向がある。コスモポリタン、ニヒリスト、ロイヤリスト、グローバリスト(外向き)愛国者、万歳(内向き)愛国者だ。コスモポリタンは人口の12〜15%を占め、積極的な反対派の中核を形成するとみられている」と指摘する。
コスモポリタンの半数弱はウクライナと個人的なつながりがあると評価されている。人口の10%強を占めるニヒリストは政府に批判的だが、無関心で、受動的とみられている。残りのグループは程度の差こそあれ、いずれも政府を支持すると考えられている。しかし人口の20〜25%の万歳愛国者は戦争に深く関わっているため、失敗には厳しく反応する可能性がある。
ロシア人も核戦争を懸念している
昨年5月と8月に実施された世論調査ではウクライナ戦争に対する高い支持とごく限られた懸念が示された。しかし9月に部分動員を宣言した後は戦争についてより広く議論されるようになり、幅広い層の人々が、自分たちの見通しとロシアへの経済的影響の両方に悲観的であることが示されたが、その多くは戦争の成功をもたらす方策に賛成していた。
調査で最も懸念されていたのは核戦争で、回答者は核戦争の可能性を減らす手段を講じることに賛成していた。「ロシアが核兵器使用をちらつかせるのは、ウクライナや米欧を威嚇するのと同程度に、ロシア国内の恐怖心を高める狙いがある。その恐怖を低減するためには政府を支持する必要があると思い込ませるのだ」とワトリング氏は分析する。
今のところ万歳愛国者の批判は特定の司令官や地方行政官の動員対応、社会の態度に向けられている。しかし、こうした批判がプーチン氏に向けられ始めたら、ロシアで最も不満を抱いている層が「ポスト・プーチン」を模索することになるかもしれない。しかし世論は5グループに分かれ、その中の万歳愛国者は3つに分裂している。
プリゴジン氏とガーキン氏が対立している限り、プーチン氏は安泰だ。戦場で死傷者が出ても非難の矛先が自分に向かってくることはないと高を括っている。「世論調査から読み取れるのはクレムリンが戦争の損失を維持できるということだ。世論に与える影響が少ないため、クレムリンは戦争の長期化に安住しているように見える」とワトリング氏は指摘する。
●ロシアが「併合」したウクライナ4州、モスクワ時間に切り替えへ…実効支配 1/28
ロシアの産業貿易省は27日、ロシアが昨年9月、一方的に併合を宣言したウクライナ東部と南部の4州について、近く、モスクワと同じ時間に切り替えると発表した。モスクワは、ウクライナより1時間進んでいる。ウクライナ側の反発は必至だ。
プーチン政権は4州に対し、ロシアの行政や経済、司法制度を段階的に導入し、実効支配を強める構えだ。
東部ドネツク州とルハンスク州では、2014年に一方的に「独立」を宣言した親露派武装集団が、実効支配地域をモスクワ時間にすると主張してきた。ロシアは、14年に併合したウクライナ南部クリミアでも、モスクワ時間に切り替えている。
●「使い捨ての突撃兵」 ワグネルの過酷な戦術、ウクライナ諜報で明らかに 1/28
ウクライナ東部におけるロシアの攻勢で使い捨ての歩兵となっているワグネルの戦闘員。だが、CNNが入手したウクライナ軍の諜報(ちょうほう)文書からは、バフムート周辺のワグネルがいかに効果的な部隊かが浮かび上がる。そして、彼らを相手に戦うのがいかに難しいかも――。
ワグネルはオリガルヒ(新興財閥)のエフゲニー・プリゴジン氏が経営する民間軍事会社だ。プリゴジン氏はこのところ前線で非常に目立つ存在となっており、ロシア軍が前進すればすかさず、自らの功績だと主張する。ワグネルの戦闘員はバフムートの北東数キロにあるソレダルや周辺地域の奪取作戦に深く関与した。
ウクライナ軍の報告書は昨年12月のもので、ワグネルが近接戦闘で類を見ない脅威になっていると結論。死傷者数は膨大だが、「ワグネルの兵士が何千人死亡しようとロシア社会には関係ない」と指摘している。
「突撃部隊は命令なしでは退却しない。無許可でチームを退却させたり、負傷せずに撤退したりすれば、その場で処刑されうる」
ウクライナの情報筋が入手してCNNと共有した電話の傍受記録からも、戦場での情け容赦ない姿勢が浮かび上がる。傍受記録の一つでは、兵士の一人がウクライナ側に投降しようとした別の兵士について言及する声が聞こえる。
「ワグネルの関係者は彼を捕まえ、局部を切り取った」と、この兵士は語っている。
CNNは昨年11月のものとされる当該の電話について独自に真偽を確認できていない。
負傷したワグネルの戦闘員は戦場に何時間も放置される場合が多い。「突撃歩兵は自分たちで負傷者を戦場から運び出すことを許されていない。彼らの主任務は目標達成まで突撃を続けることだからだ。突撃が失敗しても、撤退は夜にしか許されない」
冷酷なまでに犠牲に無関心なワグネルだが、ウクライナの分析はワグネルの戦術について、「ろくに訓練を受けていない動員兵にとって効果的な唯一の戦術だ。ロシアの地上部隊はそうした動員兵が多数を占める」との見方を示す。
ロシア軍が戦術を修正してワグネル化を図っている可能性もあり、「ロシア軍の従来の大隊戦術グループに代わり、突撃部隊が提案されている」という。
そうなれば、伝統的により大規模な機械化部隊に頼ってきたロシアにとって大きな変化になる。
ワグネルの戦い方
ウクライナの報告書によると、ワグネルは十数人以下の機動部隊で戦力を展開。ロケット推進擲(てき)弾(RPG)や、無人機からリアルタイムで届く情報を活用している。
このほか、ワグネルの兵士は米モトローラ製の通信機器も使用しているとされる。
モトローラはCNNに対し、ロシアへの販売はすべて停止しており、ロシアでの事業も閉鎖したと述べた。
ワグネルによって数万人規模で採用された囚人たちは多くの場合、攻撃の第1波を担う。最も大きな損害を被るのは彼らで、ウクライナの当局者によると、損耗率は8割に上る。
その後、熱線映像装置や暗視装置を装着した経験豊富な兵士たちが続く。
ウクライナ軍の側でも、塹壕(ざんごう)に擲弾攻撃が浴びせられる事態を防ぐため、ドローンの情報が不可欠になる。今回の文書には、ドローンが前進するワグネルの部隊を発見したおかげで、RPGの発射前に守備隊による排除に成功した例が記されている。
ワグネルの兵士は陣地の奪取に成功すると、火砲の支援を受けながら蛸壺(たこつぼ)を掘り、獲得した陣地を固める。ただ、こうした蛸壺は開けた場所での攻撃に対してぜい弱だ。そしてウクライナの傍受によると、ここでもワグネルとロシア軍の調整不足が目立つ。真偽の確認はやはり不可能だが、傍受されたある電話では兵士が父親に、所属部隊が誤ってワグネルの車両を破壊したと語っている。
プリゴジン氏はロシア軍にとって数カ月ぶりの戦果となったソレダルや周辺集落の制圧をめぐり、ワグネルの戦闘員の功績だと繰り返し強調。「ワグネル以外の部隊はソレダルへの攻撃に関わっていない」と主張する。
ワグネルの戦いぶり次第で、プリゴジン氏はより多くのリソースを確保する道が開け、ロシア軍の既得権益層との争いに利用できるようになる。プリゴジン氏は軍の既得権益層の無能さと腐敗を批判する場面が多い。
ロシア国防省がさえない戦いぶりを続ける限り、プリゴジン氏は彼らにかみつき、ワグネルへのリソースを増やすよう要求するだろう。
ワグネルが兵器を獲得する手段は他にもあるとみられる。米当局者は先週、ワグネルが北朝鮮から兵器を調達していると指摘。米国家安全保障会議(NSC)のカービー報道官は「先月、北朝鮮がワグネルの使う歩兵用のロケットとミサイルをロシアに輸送した」と明らかにした。
新たなラスプーチン?
プリゴジン氏は野心に事欠かない。先週ソレダル入りした際には、ワグネルはおそらく「現在の世界で最も経験豊富な軍隊だ」と豪語した。
プリゴジン氏は、ワグネルが既に多連装ロケットシステムや自前の防空システム、火砲を手にしていると主張する。
また、ワグネルとトップダウン式の硬直したロシア軍をそれとなく比較し、「現場の全員の意見が尊重されている。指揮官は戦闘員と話し合い、PMC(民間軍事会社)の経営陣は指揮官と話し合っている」とも述べた。
「ワグネルが前進してきた理由、今後も前進を続ける理由はここにある」(プリゴジン氏)
カーネギー国際平和基金のシニアフェロー、アンドレイ・コレスニコフ氏は2カ月前、プリゴジン氏の拡大する影響力を皇帝ニコライ2世の宮廷におけるグレゴリー・ラスプーチンの影響力になぞらえ、カレントタイムTVの取材に「プーチン氏はなりふり構わず軍事的有効性を求めている」との見方を示した。
「(プリゴジン氏には)悪魔的な負のカリスマがあり、ある意味で、そのカリスマはプーチン氏に匹敵する。いまのプーチン氏はこうした役割、こうした形のプリゴジン氏を必要としている」(コレスニコフ氏)
プリゴジン氏自身、ラスプーチンとの比較に興味をそそられているようだ。ラスプーチンはニコライ2世の息子の血友病を治療した神秘的な人物として知られる。ただ、先週末に自身の会社「コンコルド」が公開した発言で、プリゴジン氏はそこに持ち前のひねりを加えてみせた。
「残念ながら、私は出血を止めるわけではない。祖国の敵に血を流させるのが私の仕事だ。それも祈とうではなく、敵との直接接触によって」
●ウクライナ “ロシア軍が極超音速ミサイル使用 大規模攻撃も”  1/28
ウクライナは、ロシア軍が今月26日に各地で行った攻撃で、極超音速ミサイルも使ったと明らかにするとともに、侵攻が始まって1年になる来月24日までに再び大規模な攻撃を仕掛けてくるとみて、警戒を強めています。
ウクライナで今月26日、首都キーウや南部オデーサなど各地でロシア軍によるミサイルや無人機の攻撃があり、ウクライナ政府などによりますと合わせて11人が死亡したほか、電力インフラにも被害が出たということです。
ロシア国防省は27日、「この攻撃でNATO=北大西洋条約機構から供給されたものを含め、戦闘地域への兵器や弾薬の輸送を断ち切った」と主張し、ウクライナに対して主力戦車を供与すると相次いで表明する欧米側をけん制するねらいもあるとみられます。
26日の攻撃をめぐって、ウクライナ空軍のイグナト報道官は27日、ロシア軍が極超音速ミサイル「キンジャール」も使ったと地元メディアに明らかにしました。
キーウや南部ザポリージャ州の重要インフラが標的だったとしたうえで、今のウクライナ軍には「キンジャール」を迎撃する能力がないという認識を示しました。
また、ウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、メディアのインタビューで、ロシアが軍事侵攻を始めて1年になる来月24日までに東部ドンバス全域の掌握をねらって、再び大規模な攻撃を仕掛けてくるとみて警戒を強めています。
●ウクライナの穀物生産量 今年さらに減少と業界団体が推計 1/28
ウクライナの今年の穀物の生産量について、ロシアによる軍事侵攻の影響で大幅に減少した去年から、さらに下回るとの推計を業界団体が明らかにしました。
ロイター通信によりますと、「ウクライナ穀物協会」は26日、2023年の穀物と油用種子の生産量について、およそ5000万トンになるとの推計を明らかにしました。
協会によりますと、2021年の生産量はおよそ1億600万トンでしたが、去年はロシアによる軍事侵攻の影響で、およそ6700万トンに減少、今年はこれをさらに下回るとの推計です。
ウクライナは小麦やトウモロコシなどの穀物の世界有数の輸出大国でしたが、軍事侵攻後、黒海に面する南部オデーサの港をロシアが封鎖したことなどにより輸出が停滞。
その後、国連とトルコの仲介で輸出が再開していますが、協会によると今季の穀物と油用の種子の輸出量はおよそ3000万トンに留まっているということです。

 

●ウクライナへの「戦車供与」に折れたドイツの苦悩  1/29
2022年2月24日のロシアのウクライナ侵略を機に、ドイツはそれまでの平和外交や対ロシア宥和姿勢から、「安全保障政策の転換」(ドイツ語で「時代の変わり目」Zeitenwende=ツァイテンヴェンデと呼ばれる)を成し遂げたはずだった。
しかし、戦車供与をめぐる逡巡を見れば、安保面でヨーロッパを主導するにはまだ限界があることは明らかだ。
欧州諸国の批判に押された
ショルツ・ドイツ首相は1月25日、ドイツ軍の改良型「レオパルト2A6」14台(1個中隊相当)、弾薬、保守整備をウクライナに供与すると発表した。ウクライナ戦車兵の訓練をドイツ国内で行い、欧州諸国に配備されているレオパルト2のウクライナへの供与も承認する。合わせて2個戦車大隊(1個大隊は戦車44台)を編成できる見通しという。
冬季に入りウクライナ戦争が膠着状態となる中、戦局打開の切り札として議論されてきた戦車供与問題は一応の決着を見たが、西側諸国の結束の難しさが明らかになるとともに、供与をためらったドイツに対する不信感が残る結果となった。
毎年恒例のダボス会議(1月16〜20日)、ドイツ南西部ラムシュタイン米空軍基地で開かれたウクライナ軍事支援を話し合う国防相会議(20日)で、ドイツの供与表明に期待が集まった。
しかし、ショルツ・ドイツ首相、ピストリウス国防相とも供与を明言せず、欧州諸国の批判が高まった。ドイツ政府の急速な政策決定がこうした圧力に押されてのものだった印象はぬぐえない。
ドイツ製戦車は、ウクライナが2022年3月にドイツに示した供与希望の武器リストにすでに入っていた。この数カ月、ロシア軍が近く大攻勢をかけるとの情報が伝わる中、ロシア軍を押し戻し、領土を奪回するには、ロシア軍戦車に性能が勝る西側の戦車が不可欠として、ウクライナは要求のトーンをあげていた。
レオパルト2は、1978年に生産が開始された第3世代の戦車だが、その後も改良が加えられ、世界で最も強力な戦車の1つに数えられる。これまでに3500両が生産され、ドイツをはじめ欧州諸国を中心に世界14カ国で使用されている。
旧ソ連製戦車の砲撃に耐えられる装甲を持っており、ロシア軍の塹壕を突破するなど威力を発揮すると見られている。欧州諸国に多数配備されていることから、政治決定があれば供与は比較的容易だ。
シュルツ氏に反戦世論の手紙やメール
ショルツ氏が戦車供与をしない理由をはっきり説明してこなかったことが、ドイツに対する不信感を高める結果となった。ただ、公共放送ARDやシュピーゲル誌の報道などを総合すると、以下のことが言えそうである。
これまでにショルツ氏は、ウクライナ兵器支援に関する3つの原則を挙げている。
1ウクライナは断固として支援されねばならない
2ドイツとNATOは戦争に引き込まれてはならない
3(国際社会でのドイツの)単独行動(Alleingang=アラインガング)はあってはならない
このうち戦車供与をためらう理由となる原則は2と3である。
日本と同様、第2次世界大戦の敗戦国であるドイツには根強い反戦平和主義がある。ショルツ氏が自ら明らかにしたところでは、彼のもとには、国民から毎日、ドイツが戦争に巻き込まれることを懸念する数百通の手紙やメールが届いているという。世論調査では、戦車供与への賛否はほぼ拮抗しているが、ショルツ氏としては国内の反戦世論にも配慮する必要がある。
ショルツ氏の政党であるドイツ社会民主党(SPD)は、歴史的にドイツの反戦運動の担い手の1つである。党内左派は平和主義に加え、親ロシアの傾向も強く、依然として影響力がある。
中心人物がミュッツェニヒ連邦議会(下院)議員団長で、欧州配備の米戦術核撤去や兵器輸出、国防費増額に反対してきた。ピストリウス国防相もかつて、2014年のクリミア併合に対する対ロシア制裁の見直しについて言及したことがある。
親ロシア傾向の党内左派に配慮
SPD議員団は1月12日にウクライナ戦争の外交的解決を訴える文書を採択した。ショルツ氏とプーチン・ロシア大統領の電話会談などで、ロシアとの対話の可能性を閉じてはならないとする一方、すでにウクライナへは多量の装備や兵器を供与してきたとして、戦車供与に関しては言及していない。
SPD議員からは、戦車供与が決まれば、次は戦闘機、その次は戦闘部隊と、戦争がエスカレートする事態への懸念が表明されている。また、そうしたエスカレーションの中で、プーチン氏が核使用に踏み切る可能性も否定できない。
ショルツ氏自身はSPD党首を兼ねていないため党内基盤が弱く、左派に余計に配慮しなければならない事情もある。ロシアの出方やドイツ国内のさまざまな意見を見極めて一歩一歩進む、彼の慎重な政治スタイルも大きいだろう。ドイツ・メディアはしばしば、ショルツ氏のコミュニケーションのまずさをやり玉に挙げている。
3の「単独行動はあってはならない」という原則は、ナチ・ドイツが欧州を侵略した反省から、アメリカや他の欧州諸国との多国間協調を重視し、単独行動はしないという戦後(西)ドイツ以来の外交方針で、今でも何かにつけて強調される。
今回もその原則に盾に、アメリカと共同して戦車を供与すると主張した。ただ、ドイツが率先して供与すると、ロシアからことさら敵視される恐れがあり、それを避けるための口実に使っていた面は否定できない。英国、ポーランド、フィンランド、フランスなどが相次いで戦車供与を表明し、「単独行動を避ける」という口実は有名無実になっていった。
アメリカの戦車供与が後押し
ドイツからM1エイブラムス戦車の供与を求められていたアメリカは当初、「欧州に配備されていないので大西洋を運ばねばならず、ガスタービンエンジンのジェット燃料補給が難しい」と消極的だった。しかし、最終的にはドイツの供与を促すという「軍事的判断というより政治的判断」(ARD)で、アメリカもM1エイブラムスを供与することを決断した。
アメリカが供与に同意し、リスクの分散が可能になったと説明できるようになったからこそ、ドイツがレオパルト2供与に踏み切ったと見られている。
ドイツ国内では、これまで戦車の早期供与を主張してきた連立与党の緑の党、自由民主党(FDP)、野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、ショルツ氏の決断を歓迎しているが、「もっと迅速に行うべきだった」という留保付きである。
確かに、依然として軍事に関する忌避感があるドイツとしては、火砲、対空砲、歩兵戦闘車といったこれまでの供与実績だけでも、侵略前はとても考えられなかったタブーの破壊と言えるだろう。
しかし、「緩慢な意思決定は時間を無駄にした。ドイツは常に新たな理由をつけて兵器供与に同意せず、それでも結局は供与する、という印象を植え付けてしまった」(ARD)という批判も出ており、欧州の安全保障に主導的役割を果たすにはまだほど遠いドイツの姿をさらしてしまったことは否めない。
ドイツのウクライナ戦争に対する姿勢は今後も問われ続けることになるだろう。
すでにウクライナ政府の閣僚などから、ドイツなどに配備されているトルネード戦闘機の供与を求める発言も出始めている。しばらくすれば、新たな兵器供与の是非をめぐる議論が浮上しそうである。
●ウクライナへ戦闘機供与か 戦車に続き、紛争激化懸念 欧米諸国 1/29
ロシアの侵攻を受けるウクライナへ欧米諸国が主力戦車の提供に踏み切ったことで、「次の段階」の支援として戦闘機供与が浮上している。
攻撃性の高い戦車供与で「タブー」が破られ、先進兵器の本格支援に道が開かれた形だが、戦闘力のさらなる増強は紛争激化につながると懸念も根強い。
米国とドイツは25日、それぞれの主力戦車「エイブラムス」と「レオパルト2」をウクライナに送ると発表した。レオパルト2を保有するポーランドやフィンランドなども追随。英国も先に「チャレンジャー2」の供与を表明し、各国の戦車は3月ごろから供給が開始される見込みだ。
戦車供与に慎重だった米欧が方針転換したことで、軍事支援は新たな局面を迎えた。領土奪還を目指すウクライナは、戦車決定から時を置かずに一層の支援拡大を要請。報道によると、ウクライナ国防相顧問は25日、「当初西側は重砲や高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)、戦車の供与を望まなかったが実現した」と述べた上で、「戦闘機が次の大きなハードル」と指摘。戦車と並び戦況に影響する可能性の高いF16戦闘機などが手に入れば「戦場での利点は巨大だ」と提供を改めて呼び掛けた。
戦闘機に関しては、米独とも現段階では供与計画を否定している。しかし、英紙フィナンシャル・タイムズによれば、欧州防衛当局者の間で既に「初期段階」の協議が進められ、米ロッキード・マーティン社もF16増産を準備中。オランダの閣僚も議会審議で、保有するF16の提供検討を表明するなど、「かつて不可能とみられたF16のウクライナ上空飛行は今ならあり得る」(英スカイニューズ)状況になりつつある。
ただ、戦闘機の提供は戦争を泥沼化させるリスクをはらむ。戦車供与発表から間もない26日、ロシアはウクライナ各地に空爆を仕掛けており、戦闘機が送られれば反発を一層強めるのは必至だ。ロシアと西側の直接対立につながる恐れも否定できず、関係国は極めて慎重な判断を迫られる。
●ウクライナ侵攻 軍事会社の参戦 残虐行為は露政府の責任 1/29
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がウクライナで残虐行為を繰り返しているとして、国際社会から非難を浴びている。
露実業家のプリゴジン氏が2014年に創設し、中東やアフリカの紛争地でも活動してきた。
元兵士を雇い入れてきたほか、刑務所で高額報酬など有利な条件を提示して受刑者をリクルートしている。今では戦闘員約5万人のうち8割が受刑者とされる。
ウクライナ東部のドネツク州ソレダルを陥落させ、露国防省から「ワグネル志願兵の行動で制圧に成功した」とたたえられた。
ウクライナ政府によると、首都キーウ(キエフ)郊外ブチャでの大量殺害にも関与した。ノルウェーに逃げたワグネルの元指揮官も組織の残虐性を証言している。
米政府は「残虐行為と人権侵害を続けている」として国際犯罪組織に指定した。欧州諸国でも批判が高まっている。北朝鮮から武器を提供されたとの指摘もある。
民間軍事会社は冷戦終結後、兵員の削減を補うため、米欧などで設立が相次いだ。メンバーの多くは武器の扱いに慣れた元兵士だ。
2003年からのイラク戦争では、米軍事会社の警備員が市民を殺害し国際的な問題となった。
米欧の軍事会社が、要人警護や物資輸送など後方支援に携わっているのに対し、ワグネルは実際の戦闘に参加している。
国際人道法では、正規軍の兵士が民間人を殺害した場合、兵士だけでなく、命令を下した上司や派遣国の責任が問われる。
一方、民間軍事会社の行為については想定されておらず、国は責任がないと主張する余地がある。
ロシアは法律で民兵組織を禁じ、ワグネルについても公式には軍事組織と認めていない。政府や軍の幹部が自分たちに責任が及ぶのを避けるため、隠れみのに利用しているとも指摘されている。
プリゴジン氏はかつて、露大統領府の食事サービスを請け負うなど、プーチン大統領と関係が深いとされている。
ロシアが侵攻して始まった戦争だ。受刑者が参加していることからも、当局者の関与は否定できない。ワグネルの残虐行為に関しては、プーチン政権が責任を負わなければならない。
●ロシア軍の攻撃続く ウクライナは供与戦車が300両超と明かす  1/29
ロシア軍は今月26日の大規模な攻撃のあとも東部や南部で攻撃を繰り返し、市民の犠牲が増え続けています。
こうした中、欧米からウクライナへの戦車の供与をめぐって、フランスに駐在するウクライナの大使は、供与される戦車の数があわせて300両を超えたことを明らかにしました。
ロシア軍は、今月26日にウクライナ各地でミサイルや無人機による大規模な攻撃を行ったあとも、東部や南部で攻撃を繰り返しています。
東部ドネツク州の知事は28日、ウクライナ側の拠点の1つ、バフムトからおよそ20キロ西にあるコスチャンチニウカの住宅地でロシア軍による砲撃があり、市民3人が死亡し、少なくとも2人がケガをしたとSNSで明らかにしました。
ウクライナ側は、ロシアが軍事侵攻を始めて1年になる2月24日までに再び大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性があると、警戒を強めています。
こうした中、フランスに駐在するウクライナのオメリチェンコ大使は27日、現地のテレビ局に対し、欧米からウクライナに供与される戦車の数があわせて321両になったことを明らかにしました。
一方で、各国が供与する戦車の数の内訳や具体的な型式などは、明らかにしていません。
ゼレンスキー大統領は27日、イギリスのテレビ局スカイニュースのインタビューで「300から500両の戦車が必要だ」と述べていて、今後も戦況に応じて引き続き軍事支援を求めていくものと見られます。
●ロシア軍攻撃続く ゼレンスキー大統領 “長距離ミサイル必要”  1/29
欧米からウクライナへの戦車の供与が相次いで決まる一方、ロシア軍は東部や南部で攻撃を繰り返し、市民の犠牲が増え続けています。ウクライナのゼレンスキー大統領は「十分なミサイルがあれば、このロシアのテロを止めることができる」と述べ、長距離ミサイルなどさらなる武器の支援を各国に求めています。
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナにむけて欧米各国は主力戦車の供与を相次いで表明していて、フランスに駐在するウクライナのオメリチェンコ大使は27日、現地のテレビ局に対し、欧米から供与される戦車の数があわせて321両になったことを明らかにしました。
一方、ロシア軍は、ウクライナの東部や南部で攻撃を繰り返していて、ゼレンスキー大統領は28日、公開した動画で、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点のひとつバフムトからおよそ20キロ西にあるコスチャンチニウカの住宅地でロシア軍による砲撃があり、市民3人が死亡、14人がけがをしたと明らかにしました。
ウクライナ側は、ロシアが軍事侵攻を始めて1年となる2月24日までに再び大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性があると、警戒を強めています。
ゼレンスキー大統領は「ウクライナ軍に十分なミサイルがあれば、このロシアのテロを止めることができる。ウクライナには長距離ミサイルが必要だ」と述べ、アメリカが供与に応じていないより射程が長いミサイルなどさらなる武器の支援を各国に求めています。
●元NATO軍事委員長がチェコ大統領に 西側とのつながり強化 1/29
チェコで28日に大統領選の決選投票が行われ、退役将軍で元北大西洋条約機構(NATO)軍事委員長のペトル・パヴェル氏(61)が、アンドレイ・バビシュ前首相に勝利した。
パヴェル氏の得票率は57.6%だった。2017〜2021年にチェコの首相だったバビシュ氏は、結果発表後すぐに敗北を認めた。
現職のミロシュ・ゼマン大統領は、3月に退任する予定。
パヴェル氏は結果発表後、真実や誠実、敬意、謙虚といった価値観が勝ったのだと述べた。
「チェコ国民の大半がこの価値観を共有している。今こそこの価値観を『城』と政治に戻すべきときだ」
チェコの大統領府はプラハ城に置かれている。パヴェル氏の支持者らは、1989年11月に共産党政権が崩壊したビロード革命で使われたスローガン「ハヴェルを城へ!」にちなみ、「パヴェルを城へ!」と叫んだ。
チェコの大統領職はほとんど儀礼的なものだが、影響力は大きい。首相や中央銀行総裁を任命するほか、外交方針に関与できる。
ウクライナ支援も争点
今回の決選投票は、大衆主義者で少数独裁的な政治を行ってきたバビシュ氏か、リベラルな民主主義政治を掲げるパヴェル氏かの2択だと目されていた。
パヴェル氏はチェコを欧州連合(EU)やNATOに留めおきたい考え。ロシアのウクライナ侵攻に関しては、ウクライナへの軍事支援を強く支持していた。2015年から2018年には、NATO軍事委員長として、加盟30カ国で構成する軍事機構のトップを務めていた。
一方のバビシュ氏は今週初め、NATO加盟国が攻撃された場合、その国を守る義務を果たすつもりはないと示唆して批判を浴び、撤回を余儀なくされた。
バビシュ氏はテレビ討論会で、「私は平和を望み、戦争は望まない」として、「どんな状況でも、我々の子供や、女性の子供たちを戦争に送るわけにはいかない」と述べていた。
西側の一員
ヴァーツラフ・ハヴェル氏は、革命後に共和制となったチェコの初代大統領。チェコのEUやNATO加盟を強く後押ししてきたパヴェル氏は、ハヴェル氏の精神を引き継いでいると言われている。
パヴェル氏の大統領選出により、チェコが西側の一員となることがあらためて確認されたと受け止められている。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、パヴェル氏の当選を祝福し、「我々、欧州の価値観への強い寄与」を歓迎した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領やコソヴォのヴィヨサ・オスマニ大統領も、ソーシャルメディアでパヴェル氏を祝った。
同じく西側寄りでリベラル派のズザナ・チャプトヴァ・スロヴァキア大統領は、結果が発表された数時間後にチェコを訪れ、パヴェル氏と対面した。
偽情報と殺害予告
選挙中、両陣営は鋭く対立した。殺害予告や偽情報の拡散も、選挙戦に影を落とした。
先週には、ロシアのヤンデックスのサーバーを使った偽のウェブサイトや電子メールが、「パヴェル氏死亡」という偽情報を拡散した。パヴェル氏はツイッターでこれを否定しなければならなかった。
バビシュ氏はこの偽情報を非難。自身も匿名の殺害予告を受けたため、数日前から全ての対面の選挙活動をとりやめていた。
バビシュ氏率いる「ANO」の事務所では、職員が笑顔を浮かべていたものの、落胆の色は明らかだった。
バビシュ氏は記者団に対し、パヴェル氏の勝利を祝福するとともに、ネガティヴ・キャンペーンを行ったことを否定した。
また、ツイッターにいる大勢の反対派への返答として、「バビシュのいない世界をお迎えください。バビシュのことは忘れて、バビシュなしで生きてみてほしい」と語った。
「バビシュを憎みながら朝を迎え、バビシュを憎みながら眠りにつくのはやめよう」 
●退陣願う「プーチンの遺灰」 ロシアの反政権バンド、新曲動画を公開 1/29
プーチン政権への批判を続けるロシアのパンクバンド「プッシー・ライオット」が28日、新曲のビデオクリップを公開した。「プーチンの遺灰」と題し、プーチン氏の早期退陣を願ってつくったとしている。
約3分の新曲の動画では、目出し帽をかぶった女性たちが「ウラジーミル・プーチン氏を無力化する」と書かれた赤いボタンを運んでいる。ボタンが押されると、女性たちは3メートル四方のプーチン氏の肖像画を呪文を唱えながら燃やす。
動画の説明などによると、撮影は昨年8月に行われ、ロシア、ウクライナ、ベラルーシなどの女性12人が出演しているという。
メンバーのナジェージダ・トロコンニコワさんは2012年、他のメンバーと共にモスクワの「救世主キリスト聖堂」でプーチン氏を批判するゲリラ演奏を行い、暴徒行為罪で自由剝奪(はくだつ)2年の実刑判決を受けた。
現在、主要なメンバーはロシアを脱出して活動しているという。新曲の発表に際し、トロコンニコワさんはSNSに「私たちの自由を奪えても、私たちを黙らせることはできない」と投稿している。
●ロシアから中国向けの天然ガス供給拡大 その狙いは?  1/29
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、中国向けの天然ガスの供給を拡大しています。先月には東シベリアにロシア東部最大のガス田が操業を開始し、中国へのパイプラインが全面的に開通しました。ロシアの天然ガスをめぐる状況は? プーチン政権の狙いは何か? 最新の状況などをまとめました。
新たなガス田とは?
ロシアの政府系ガス会社ガスプロムは、去年(2022年)12月21日、東シベリアのイルクーツク州にあるロシア東部最大のコビクタ・ガス田の操業を開始しました。
ガスプロムによりますと、このガス田で採掘可能な天然ガスの埋蔵量はおよそ1兆8000億立方メートルで、計画では、2026年以降、年間270億立方メートルを生産するとしています。
ガスプロムは、式典に先だってコビクタ・ガス田の生産拠点をロシアのメディアに加え、中国メディアやNHKに公開しました。
現場は、冬には気温がマイナス60度まで下がることもある極寒の地にあります。
ガスプロムの担当者は厳しい環境下にもかかわらず、ロシアの技術でプロジェクトを実現できたと強調していました。
ここで産出された天然ガスは「シベリアの力」と呼ばれるパイプラインを通して中国に輸送されます。
「シベリアの力」は、ロシアから中国へ直接ガスを送る一大プロジェクトで、2019年に別のガス田からの供給を始めていましたが、今回、このガス田とパイプラインがつながったことでおよそ3000キロにわたって全面的に開通したことになります。
コビクタ・ガス田の操業開始の式典にオンラインで出席したプーチン大統領は「ロシアのガス業界、経済全体にとって、特別で記念すべき出来事だ」と意義を強調しました。
別のパイプライン計画も
さらに、ロシアは、モンゴルを経由して中国にガスを送るパイプライン「シベリアの力2」の建設計画も進めています。
ロシア国営のタス通信によりますと、2024年から建設が始まる可能性があるとして、完成すれば、年間500億立方メートルの天然ガスをさらに中国に輸送できると見込まれているとしています。
ロシア政府でエネルギー問題を担当するノバク副首相は去年(2022年)9月、国営テレビのインタビューで「シベリアの力2」について、ロシアとドイツを結ぶ「ノルドストリーム2」の年間輸送能力に匹敵するとして「ノルドストリーム2の代替になる可能性がある」と述べ、開発への意欲を示しました。
プーチン大統領は、12月15日に開いた政府の会議で天然資源の供給先について「ヨーロッパよりも有望なパートナーを探していく」と述べ、制裁を科すヨーロッパ側をけん制する一方、中国などとの連携を強調し強気の姿勢を示しています。
ロシアのガスに依存していたヨーロッパは
天然ガスなどのエネルギー供給で、ロシアに大きく依存してきたのがヨーロッパです。
ヨーロッパ最大の経済大国ドイツは、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始める前までは、輸入する天然ガスの50%以上をロシア産が占め、EU=ヨーロッパ連合全体でも2021年の時点でおよそ40%に上っていました。
侵攻後、EUは、ロシアに対して石炭や海上輸送される原油の輸入禁止など制裁を科すとともに、2030年までにエネルギーでロシアに依存してきた状況から脱却する方針を示しています。
一方、ロシアは、ドイツ向けの天然ガスパイプライン、ノルドストリームによるガスの供給を大幅に削減し、ヨーロッパでエネルギー価格の上昇を引き起こしました。
ロシアとしては、制裁を科すヨーロッパに揺さぶりをかけるねらいがあるとみられます。
ドイツやフランスなどユーロ圏の消費者物価指数では、エネルギー価格が大幅に上昇していて、去年の9月から10月には2か月連続で前の年の同じ月と比べ40%を上回る値上がりとなりました。その後、上昇はやや緩やかになっていますが、家計や企業にとって負担となっています。
ドイツの首都ベルリンで市民に話を聞くと「ガス代がこれまでの3倍になりました。光熱費以外はすべての出費を抑えています」という声や「暖房の温度を低くしたり、シャワーの時間を短くしたりして節約しています。この先の天然ガスの確保にも不安を感じます」といった声が聞かれました。
専門家「ロシアと中国、インドなど 連携強まっている」
ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の長谷川雄之研究員はウクライナへの軍事侵攻後のロシアの経済・エネルギー戦略について「欧米側とは違う世界で生き延びようとしている」という見方を示しました。
また「ロシアと、中国やインド、トルコ、中東諸国などとの経済的な連携は、軍事侵攻以降ますます強まっていて、欧米の制裁には一定の限度があることに留意する必要がある」と指摘しました。
またロシアが中国へのガス供給を拡大している状況については「侵攻を受けて、中国は、ロシアから少し距離をとるような態度を示したこともあるが、エネルギーの協力関係をより深めている。ロシアはますます経済的・軍事的な面で、中国への依存を強めている関係にある」としました。
その上で「中国やほかの国とのエネルギーの協力関係が深化していけば、やはりロシアの戦費の確保であったり、さまざまな物品の調達に役立つ可能性がある」として、欧米の制裁強化にもかかわらず、ロシアが軍事侵攻を続ける資金源となる可能性があると指摘しました。
●国外脱出するロシアの高官たち、支援者が語る亡命の実態 1/29
ウラジーミル・オセチキン氏は、自宅の食堂のテーブルに向って歩いていた。手には子どもたちが食べるスパゲティーの皿。その時、赤いレーザーの光が壁の上で閃(ひらめ)くのに気づいた。
次に何が起きるかは分かっていた。
すぐに照明を消し、妻と共に子どもたちを床に伏せさせる。姿を隠しながら、別の部屋へ急ぐ。数分後に暗殺者が発砲する。慌てて駆け付けた警察官を、狙っていたロシアの反体制派と間違えたのだ。
その後30分間、妻と子どもたちは床に伏せていたと、オセチキン氏はCNNに語った。妻はぴったりと子どもたちに寄り添い、さらに発射される弾丸から彼らを守った。それが昨年9月12日に起きた襲撃の様子だ。
「この10年間多くのことをして、人権と他の人々を守っている。しかしこの瞬間に、他人を助けるという自分の使命が極めて大きな危険を家族にもたらすのだと理解した」。オセチキン氏はCNNの取材に対し、フランスからそう語った。2015年にロシアを脱出し、亡命申請を行って以降、同氏はフランスで暮らしている。現在は常時警察の保護下にある。
今では、西側へ逃れてくるロシアの高位当局者らを支える立場だ。そのような当局者の数は増える一方となっている。背景にあるのはロシア政府によるウクライナでの戦争に対する反発であり、元将官や情報機関の捜査官が脱出するケースもあるとオセチキン氏は明かす。
ロシアのプーチン大統領は、政府が国外の敵とみなす人物らを捕まえる決意を表明。オセチキン氏はロシアで不在のまま逮捕され、現在はロシア当局の「指名手配リスト」に名を連ねる。フランスは保護を提供してくれているが、身の安全を確保するのは全く容易なことではない。
調査ジャーナリスト、また反汚職の活動家として、オセチキン氏はロシア国家の秘密をつかむ仕事に携わってきた。それはある程度役に立っている。同氏によると過去に2度、極秘に入手した情報のおかげで自宅に迫る殺し屋から逃れたことがあるという。
「ウラジーミル、気をつけろ」。昨年2月には、本国を離れて暮らすチェチェン人の情報筋からこんなメールが届いた。「もうオファーが出ている。お前を消せば報酬が上乗せされる」。
オセチキン氏の返信は恐ろしく冷静だ。「どうも。すごい話だな。それで、俺の白髪頭にいくら払うって?」
同氏は現在、フランス当局の派遣する武装衛兵の保護を受けながら生活する。住所や日々の行動は秘密となっている。
強力な敵を作る
影響力を持つ人権活動家でありジャーナリストであるオセチキン氏は、長年にわたってロシアの権力者たちを悩ませてきた。ロシア国内での汚職や拷問を標的にした人権団体「グラーグ・ネット」を11年に創設してからは、注目を集める調査に相次いで関わり、政府機関及び省庁の犯罪を糾弾した。
プーチン氏がウクライナに対するいわゆる「特別軍事作戦」を開始した昨年2月24日以降、ロシアの当局者らが母国を去る「大波」も発生したと、オセチキン氏は語る。今では毎日、誰かが自分たちに助けを求める状況だという。
多くは階級の低い兵士たちだが、中には閣僚経験者や元将官クラスといった大物もいる。CNNはこれまで、ロシア連邦保安局(FSB)の元将校や民間軍事会社「ワグネル」の傭兵(ようへい)がロシアを脱出した事例を確認した。
今月、オセチキン氏はワグネルの元戦闘員1人を支援した。この戦闘員は国外脱出した後、徒歩で隣国ノルウェーに入り亡命申請していた。ワグネルとの契約更新を拒否して以降、命の危険を感じたためだという。
オセチキン氏のネットワークを通じてロシアから逃れた当局者らは、ロシア政府の内部情報の提供に合意する。その中には欧州の諜報(ちょうほう)機関の手に渡る情報もある。こうした機関とは定期的に連絡を取っていると、オセチキン氏は話す。
FSBの元上級将校で、オセチキン氏が欧州での支援に携わっているエムラン・ナフルズベコフ氏の用意した情報は、欧州でのスパイ活動に関するFSBからの指令だった。
「FSBの上司は欧州の工作員に対し、ウクライナに向かうとみられる『傭兵』について探るよう求めた。ウクライナのために戦おうとする義勇兵を、彼らはテロリストと呼んだ。私はそうした内容のやり取りを保持していた」。ナフルズべコフ氏はCNNの取材にそう答えた。
助けた人々の情報の中には、たとえ軍事機密であっても自身の人権団体にとってそれほど利益にならないものもあると、オセチキン氏は認める。しかし西側の諜報機関は、全く異なる優先順位を持っていた。
フランス軍の元将官で、北大西洋条約機構(NATO)の作戦の副司令官を務めたミシェル・ヤコフレフ氏はCNNの求めに応じ、オセチキン氏が入手した複数の軍事ファイルを精査した。それによると、軍の司令官にとっての重要性はあまりないかもしれないが、「断片的な情報は含まれており、個別ではさして興味をそそられないとしても、集まれば1つの構図が浮かび上がる。それこそが情報を収集する上での利益になる」という。
ファイルから浮かぶ秘密
ヤコフレフ氏にとって、文書の中身だけが亡命者のもたらす価値ではない。
「本当に問題になるのは、その人物がどの階級にいたのか、どれだけ信用できるのか、周囲で信頼を置いていたのは誰か、どの情報に対してどういった種類の経路を持っていたのかということだ」「ファイル自体ではなく、当該の人物がどれだけそれにアクセスしていたかに関心がある」と、同氏は説明する。
オセチキン氏によると、上記のファイルを提供したロシア軍の元将官は、軍内部の汚職に関する情報も伝えた。さらに引き渡した秘密の記録からは、軍隊さえ陰で操るFSBの実態もうかがえるという。
もう1人の亡命者、マリア・ドミトリエワ氏(32)は、FSB上層部内の秘密とされる情報を携えて国外に脱出した。CNNの取材に対し、FSBの医師として1カ月間勤務したと明かす。亡命の準備として、患者たちの会話を密かに記録していたという。彼らの症状に国家の秘密が隠れていることがあるからだ。
患者のうち、悪名高いロシア軍参謀本部情報総局(GRU)に所属する工作員はマラリアにかかっていた。公表されていないアフリカでの任務の後で発症したという。別の会話からは、チェチェンの当局者らに対して司法上の免責が与えられていることが分かったと、ドミトリエワ氏は指摘。ロシア軍の汚職について議論する当局者もいたとしている。
CNNはこうした内容の真偽を独自に確認できていない。
ドミトリエワ氏は現在、フランス南部で亡命を申請中だ。家族とボーイフレンドはロシアに残してきた。同氏によるとボーイフレンドはロシアの情報機関に関係する仕事をしている。今回提供した情報で、自身への永住許可が保証されるのかどうかは確信が持てないという。
脱出の理由
FSBの当局者だったナフルズベコフ氏は、ウクライナでのロシアの勝算が絶望的となった現状に突き動かされ、同僚の多くが脱出を図っていると主張。「もはやFSBに頼れる者はいない。誰もがロシアから逃げたがっている」「彼らは既に、ロシアがこの戦争に決して勝つことがないと理解している。無理にでも何らかの解決策を見つけようとするだろう」と述べた。
ドミトリエワ氏にとっても、ウクライナでの戦争が引き金だった。今期待するのは、自らの行動によって体制の内部にいる人々が触発され、プーチン政権を弱体化させることだ。
「プーチン氏とその取り巻き、この戦争を容認する全ての人々は殺人者だ。なぜこの国を苦しめるのか。30年間うまくやってきたのに」(ドミトリエワ氏)
内部告発者たちを支援してきたオセチキン氏によると、ロシア当局者の多くが有するウクライナのルーツと家族の絆が国外脱出の際に重要な役割を果たしているという。
同氏はまた、ウクライナへの侵攻によってプーチン政権下でのロシアの安定が失われたとの思いも口にした。
「プーチン氏は自身の体制の内部に数多くの敵を抱えている。彼らはプーチン氏と共に20年以上働いてきた。安定や富を手に入れ、優雅な生活を次世代に残すためだ。ところがここへ来てプーチン氏は、こうした彼らの人生の展望を台無しにしてしまった」(オセチキン氏)
●ロシア・ワグネル「バフムト近郊の集落制圧」 東部で攻勢継続か 1/29
ロシアによるウクライナ侵略で、露軍側で参戦している露民間軍事会社(PMC)「ワグネル」トップのプリゴジン氏は29日、最前線である東部ドネツク州の要衝バフムト近郊の集落ブラゴダトノエを同社部隊が制圧したと交流サイト(SNS)で主張した。露軍側は今月、バフムト近郊ソレダルの制圧を発表し、ウクライナ軍も同市からの撤退を認めるなど、露軍側の攻勢が続いているもようだ。
これに先立ち、露国防省は28日、バフムト方面で「露軍部隊が前進に成功し、有利な陣地を確保した」と主張していた。ウクライナのゼレンスキー大統領もバフムト方面での戦況が「深刻だ」としている。
露軍は同州全域の制圧を主目標に設定。州の中心都市クラマトルスクへの進出ルート上にあるバフムト方面では過去数カ月間にわたって激戦が続いてきた。露軍はバフムト周辺の拠点を確保することで、同市を防衛するウクライナ軍を孤立させ、同市の制圧を達成する狙いだとみられている。
一方のウクライナ軍は、バフムト方面で露軍に損害を強いることで将来的な反攻につなげる方針を示しており、同方面での攻防が改めて焦点化している。
●“ロシア軍が民間施設砲撃で市民に死傷者” ウクライナ国防省  1/29
ウクライナへ侵攻を続けるロシア軍は、東部や南部で攻撃を繰り返し、市民の犠牲が増え続けています。ウクライナ側は、ロシアが再び大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性があると警戒を強めていて、ゼレンスキー大統領は長距離ミサイルなどさらなる武器の支援を各国に求めています。
ロシア軍はウクライナの東部や南部で攻撃を繰り返していて、ウクライナ国防省は29日、東部ドネツク州や南部ヘルソン州の民間施設が砲撃を受け、死傷者が出ていると発表しました。
このうちドネツク州のキリレンコ知事はSNSで、28日にウクライナ側の拠点の1つバフムトと、およそ20キロ西にあるコスチャンチニウカなどでロシア軍による砲撃を受け、合わせて市民5人が死亡、15人がけがをしたとしています。
一方、ロシア国防省は28日、東部ルハンシク州の支配地域にある病院がウクライナ軍の攻撃を受けて14人が死亡したと発表し、アメリカがウクライナに供与した高機動ロケット砲システム=ハイマースによる攻撃だと主張しています。
この攻撃について、ウクライナ側は関与したと発表をしていませんが、ルハンシク州のハイダイ知事は、SNSに「ロシアの差別主義者らが治療を受けていた病院で何か悪いことがあったようだ」と投稿し、攻撃をほのめかしているという見方もあります。
またウクライナ側は、ロシアが再び大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性があると警戒を強めています。
こうした大規模な攻撃について、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は28日、「ロシア軍が東部や南部でウクライナ軍との戦闘に対応しながら、複数の大規模攻撃を行うのに必要な戦闘力が不足しているようだ」とする分析を発表し、ロシア側にこれまでの戦闘で多大な人的被害が出ていて、攻撃に影響する可能性もあるとみられます。
欧米各国はウクライナに対して、主力戦車の供与を相次いで表明していますが、ゼレンスキー大統領は「ウクライナには長距離ミサイルが必要だ」と述べ、アメリカが供与に応じていない、より射程が長いミサイルなど、さらなる武器の支援を各国に求めています。
●ウクライナのもう一つの戦争、汚職……ゼレンスキー氏の対応は 1/29
これは普通とは違う内閣改造だ。
私がこの記事を書いている時点で、11人の政府高官が、汚職撲滅を目指すウクライナ政府の取り組みの一環として、辞任あるいは更迭された。
このためアメリカでは、ウクライナへの支援を制限すべきだと言う政治家も出ている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、一刻も早く世間の信頼を取り戻そうとしている。しかし、汚職疑惑の内容は深刻で、タイミングも悪かった。
汚職の指摘のいくつかは、現地メディア「ウクラインスカ・プラウダ」の調査報道記者、ミハイロ・トカチ氏のおかげで、表面化した。
トカチ氏は最近、とある政府高官のパーソナル・トレーナーの会社が、ロシアの侵攻開始以来、数百万ポンドを受け取っていた疑惑を伝えた。ウクライナ大統領府のキリロ・ティモシェンコ副長官の汚職についても報じた。
ティモシェンコ氏が大手デベロッパーの邸宅に家族を引っ越しさせていたとトカチ氏が報じた2カ月後、ティモシェンコ氏は辞任した。
トカチ氏はさらに、ティモシェンコ氏が高額なポルシェに乗っていると様子に見える動画を公開している。ティモシェンコ氏は、自分は何も問題のある行動はとっていないと主張している。
「資金の出所がはっきりしない資金について、政治家や政府関係者は、その資産を近親者名義にすることが非常に多い」と、トカチ氏は話す。
「これは、不透明な手口を示すものだ。今は政府関係者の一挙手一投足が、社会に明示されるべき時なのに」
トカチ氏は、汚職が横行するのはよその国も同じだ認めた上で、何より大事なのは、汚職にどう対応するかだと言う。
首都キーウ近郊ヴォルゼルでパン屋を経営するイワンナさんは、政府が無名の会社と水増し価格の取引に合意していたことや、政府高官が35万ドルの賄賂を受け取ったとされること、さらには政府幹部が高級車を乗り回したりしていたことなどに、あきれていた。
夫のヴィヤチェスラウさんが店の奥でパンの種をこねている間、イワンナさんは「そういうのは嫌いです」と語った。
「そのお金が、ウクライナのためになることに使われる方がよかった」
「何年も職にとどまっている政治家たちをみんな排除すべきだ。汚職が当然になって、汚職でおなかをいっぱいにしている」
ウクライナが軍事、人道、財政面で数十億ドルの支援を受け取ることには、責任が伴う。監視の目も厳しくなる。
一方で、こうした資金が間違った相手にわたる可能性も増している。
「我々はウクライナの存在について話している」とトカチ氏は話す。
「ウクライナにとってこの1年は、ありきたりのものではなかった。ゼレンスキー大統領が引き起こした、大勢の辞職は、事態の重みを認める大切なもので、必要な対応だった」
31年前に独立を宣言して以来、ウクライナでは公共事業と政界のほとんどに汚職が蔓延(まんえん)してきた。
2014年にはなんとしても民主化を求める国民の反政府デモによって、親ロ派のヴィクトル・ヤヌコヴィチ大統領が失脚した。
それ以来、ウクライナ政府はさまざまな政治改革に取り組んできた。ロシアはウクライナに軍事介入を繰り返すようになったのが、改革への大きな原動力となった。西側から継続的な支援を受けるためにも、ウクライナには改革が必要とされた。
新しい反汚職機関が設置され、公金の使い方にはに新しいシステムが取り入れられ、警察組織が再編された。政治家は資産公開を求められ、時につらくなるほどの蓄財ぶりが明らかになった。
ウクライナ議会の反汚職委員会で副委員長を務めるヤロスラフ・ユルチチン議員は、「我々には結果が重要だ」と語った。
「確かに、過去の汚職の残りがまだある。だが少なくとも今は、それについて黙っていない。次の段階は汚職防止だ」
ユルチシン議員は、西側諸国からの支援が危うくなったとしても、今回の政府高官の違法行為発覚は最高のタイミングだったと話す。
「西側のパートナーは、ウクライナが2つの戦争を戦っていることを知っている(中略)ひとつはロシアとの戦争、もうひとつはウクライナの将来に向けた内部の戦争だ」
昨年2月にロシアが全面侵攻してくる以前、欧州連合(EU)やアメリカはウクライナの反汚職対策に満足していなかった。
2023年に持ち上がった疑惑がゼレンスキー大統領にどのような政治的ダメージを与えるかは不明だが、今回の大統領の対応は、アメリカから「迅速かつ断固としている」と評価されている。
今後、さらに複数の汚職疑惑が浮上すると予想される。それだけにゼレンスキー氏としては、アメリカ以外の支援国からも同様の好意的な反応が欲しいところだろう。

 

●「プーチン、ハイヒール履いていた」嘲弄…カメラに捉えられた「超大型ヒール」 1/30
最近、ロシアのプーチン大統領が「ハイヒール」並の高さの靴を履いて公式席上に登場した姿がカメラに捉えられた。
プーチン大統領は25日、ロシア学生の日を迎えてモスクワ州立大学を訪問した。プーチン大統領はこの日、学生と一緒に立ったままの姿の写真を撮ったが、両足をハの字に開く姿勢を取ったため、カメラの位置から靴のヒールの様子がひと目で分かる状況になった。
これについて英デイリー・メールは26日(現地時間)、「身長170センチのプーチンがモスクワの学生と写真を撮るためにハイヒールを履いた」と報じた。
続いてプーチン大統領が普段からマッチョ的イメージに執着してきたとし「1999年の執権以降、そのイメージを徹底的に統制してきた」とした。
一例として、プーチン大統領は2009年シベリア南部で休暇を過ごしていた時に上半身に何も着用しない姿で乗馬している様子が写真に撮影されて話題になった。
2015年英国日刊デイリー・エクスプレスはクレムリン宮の消息筋を引用して「プーチンは身長が高い人という印象を与えるため、身近に置く警護員の身長はいつも低かった」と報じた。プーチン大統領は2017年自身を「ゲイピエロ」に描写した風刺イメージをシェアすることも極端主義の宣伝として禁じたことがある。
デイリー・メールは「プーチン大統領と閣僚はプーチンの大衆的イメージを管理してきたが、人々は彼が身長を高く見せようとしてかかとに細工している場面を目撃することになった」と嘲弄にした。
英国日刊メトロも「クレムリンのトップは若者たちとポーズを取るために『超大型ヒール』の靴を履いた」とし「数年間プーチンがこのようなヒールを履いている姿が確認されてきたが、今回のことは今まででも最も大きなものとみられる」と皮肉った。
●プーチン大統領、北極海の大陸棚延長巡り高官らと協議 1/30
ロシアのプーチン大統領は27日、北極海における大陸棚の外側の境界を合法的に延長する取り組みの現状について安全保障当局者らと協議した。
ロシアは2021年、未開発の石油・ガス資源が豊富に存在するとされる北極海における自国の大陸棚の延長を国連に申請した。この地域で独自の権利を主張するカナダやデンマークにも影響を与えることになる。
ロシア大統領府によると、会議にはショイグ国防相やナルイシキン対外情報局長官ら複数の高官が出席した。それ以上の詳細は公表されていない。
ロシアによる昨年2月のウクライナ侵攻を受け、隣国は戦略的に重要な北極圏でのロシアの野心に警戒を強めている。
●囚人を「強制自爆」、「遺体の山」で銃撃回避…最悪の傭兵集団「ワグネル」 1/30
バフムトの占領に固執する理由
ここ数ヶ月、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」は、ウクライナ東部ドネツク州のソレダルとバフムトの占領を執拗に試みている。ロシアにとってこの2都市は「戦略的価値」が低いにもかかわらず、莫大な損失を出しながら撤退を拒否し、ジリジリと包囲を固めている。
軍事アナリストのマイケル・クラーク氏がイギリスニュースサイト「Express.co.uk」に語ったところによれば、ロシアがこうした小さな町を征服しようとするのは、戦略的利益ではなく、ロシアのプーチン大統領の個人的な関心を集めようとする高官同士の「象徴的な内部権力闘争」に基づいているのだという。ドネツクの小都市に頑なに固執することによって、ロシア軍の「戦略を横取り」し、前線の他の兵士を犠牲にしてこの「戦略的袋小路」(strategic blind alley)に目を振り向けざるを得なくしているそうだ。
バフムートは、ウクライナ戦争の前には、8万人の住民がいたが、いまは1万人程度が街の残っている程度で、両軍の激しい戦闘によって焼け野原、ほぼ廃墟しかない地域になってしまった。ウクライナにとってもロシアにとっても、軍事戦略上の意味合いはなく、象徴的な意味合いしかない。
ワグネルのリーダー・プリゴジン氏は、ケータリング会社を経営していた時に、プーチン大統領と親しくなったことから、「プーチンのシェフ」と呼ばれている。2016年のアメリカ大統領選挙に介入した罪でFBIに指名手配されている。プリゴジン氏は、ロシア国防省の戦争の運営方法に対する国内批判派の急先鋒となっている。最近、プリゴジン氏は、ロシア政府内での評判が悪くなっているという報道もあり、この都市を攻略できないと失脚するというリスクがあった。
「遺体の山」を利用
他方、ウクライナは、ゼレンスキー大統領が12月に訪れたことから、この地域をロシアにとられることは心理的な打撃になるかもしれないという指摘がある。
いずれにしろ、あまり戦争の勝敗にとってはあまり意味はなさそうだが、すでに数千人の兵士が死んでしまった。
ウクライナ国防情報部長のキリーロ・ブダノフ氏は12月末のインタビューで、2つの都市で死亡した兵士の数があまりにも多くなったため、ワグネルは、地元の銃撃から身を隠すために「遺体の山」を利用するようになっていると述べた。
ワグネルの戦場での戦いについては、まさに「人柱」ともいえるような人海戦術を採用していることが、オーストリアの軍事専門家トム・クーパー氏に明らかにされている。
<彼(プーチン大統領)はこの戦争で何人殺されるかなんて気にも留めていない。彼は皮肉屋で、遅かれ早かれ「ロシアの刑務所にいる最悪の人間のクズを空にする」と自慢し始めるだろう - ワーグナー(ワグネル)が集めた囚人の多くがこの戦争で殺されるから... したがって、犠牲者がプーチンに対する深刻な内乱を引き起こすようになった場合のみ心配するかもしれない。今のところ、ロシア国民はその地点から「何光年も」離れており、これがすぐに変わるとは思えない>
<GenStab-Uのリリースから推測すると、ワグネルとロシア軍はこの地域(ドネツク)だけで毎日400-600人の兵士(死傷者等)の損失を被っていることになる。この種の、あるいはこのような ビデオを考えると......まあ、驚くにはあたらないが......>
囚人を「自爆テロ」に利用
ワグネルは具体的に以下のような戦術を用いているようだ。
まず、囚人を中心とするほとんど訓練もされておらず士気も限りなく低い新兵たちで突撃隊を結成する。この突撃隊に、ウクラナイの前線部隊に対し、自爆テロを敢行する(ただし、突撃隊に、自分たちが自爆テロの集団であることを伝えているかは別だ)。ウクライナ軍は、この突撃隊に対して、反撃をするが、当然ながら、貴重な弾薬を使い、疲弊もする。
ウクライナ軍に、消耗を強いたところで、最も訓練された傭兵部隊が、第2波、第3波として、攻撃を加えるのだ。この人柱戦術がよほど効果的と考えているのか、最近になって、ロシア軍は「突撃隊」の数を補強しているのだという。
戦略的には無意味な拠点を「人柱」によって奪取する攻撃と占拠を、ワグネルは自ら「成功」と評し、ワグネルを率いるプリゴジン氏は「ワグネルのほうが正規軍よりも効率的だと主張し、ロシア大統領への圧力を強めている」「クレムリン(ロシア政府のこと)に、領土を奪える唯一の将軍は自分だと主張しようとしている」(軍事アナリストのマイケル・クラーク氏)のだという。
民間組織でありながら、敗走を続けるロシア国軍を罵倒し、国家権力の一部も任されているワグネルのプリゴジン氏を、プーチン大統領はどう考えているのだろうか。いまや、ワグネルはロシアの囚人を人柱として活用することもできる。
プリゴジンの「評判」とは
イスラエルに永住する慈善家で(元ロシアの)大富豪レオニード・ネフジリン氏は、ウクライナのオンラインメディア「Obozrevatel」のインタビュー(2022年12月17日)でこう解説している。
<ワグネルを国家という視点を通してみると、何が起きているかを説明するのは難しいし、間違った結論に達するだろう。しかし、ワグネルをマフィアの視点から分析すれば、理解できる。弱っているプーチンには、自分が強いということを示すお気に入りが必要なのだ。プリゴジンは、海外でも国内でも戦場でも、プーチンの命令をなんでも実行し、問題を解決するという役割を担っている。プーチンより若く、狡猾です>
<プリゴジンは今、まさにマフィアの執行者、警備主任の役割を担っている。彼はドンバス、アフリカ、シリアで何万人もの傭兵を雇っていることで有名である。重武装で、危険で、自分の力の及ぶ範囲内で敵をやっつける。そして、彼が嫌いな内部の人間にとっても、彼が嫌いな外部の人間にとっても、危険な男なのだ>
<しかし、プーチンがプリゴジンを常に必要としているかという質問であれば……違うと思います。プリゴジンが常にプーチンを必要としているとは思いません。なぜなら、プーチンが弱くなったからこそ、プリゴジンが強くなった。現在、プリゴジンは世間の注目を浴びる明るい存在である。彼の発言は筋が通っている。クレムリンの腐敗したエリート、役人にとって、プリゴジンは間違いなく「問題を解決する人」なのです>
ロシアは、1月13日、ロシア軍がソレダルを制圧したと発表した。これは数か月に及ぶ敗退の中では初めての勝利宣言だ(ただし、ウクライナは「戦闘が続いている」としてロシア側の発表を否定)。ロシア国防省は、その前日に、ソレダルの「解放を完了した」と発表し、この勝利はドネツク地域におけるさらなる「攻撃作戦の成功」に道を開くとし、また別の声明で、ソレダルを襲撃した傭兵グループ「ワグネル」は「勇気と無私の部隊」だと賞賛した。これは、ワグネルとロシアの正規軍との間の内紛や対立が取り沙汰される中、異例ともいえる評価であった。
この動きについて、ロシア軍がワグネルを懐柔にでたとも捉えることができようが、歴史で繰り返されてきた教訓から考えれば、そんなことで飼い慣らされるワグネルではなかろう。いま、ワグネルの動向に世界中の注目が集まっている。
●ウクライナへの戦車供与を急げ 交渉にも軍事支援は不可欠 1/30
1月7日付のワシントン・ポスト紙で、コンドリーザ・ライス元国務長官とロバート・ゲーツ元国防長官が、ウクライナ側に時間の猶予はない、米国を含む北大西洋条約機構(NATO)諸国はウクライナに戦車などの武器を緊急に供与すべきだと主張している。
プーチンは、ウクライナをロシアの統治下に置くことを決め込んでいる。彼は、ウクライナ国民の戦意を挫くことができ、米欧の団結とウクライナ支援はいずれ崩壊すると考えている。プーチンは辛抱強く自らの運命を達成しようとする。
ウクライナは英雄的に反撃しているが、その経済は壊滅し、何百万の人々は逃避、インフラは破壊され、豊かな鉱物資源や産業力、農地の大半はロシアに支配されている。ウクライナは、今や西欧からの生命線に全面的に依存している。
今交渉をすれば、ロシア軍は自分の都合の良い時に何時でも侵略を再開できるような強い立場を残したままに停戦になる可能性がある。これは受け入れられない。
こうしたシナリオを回避する唯一の道は、米国と支援国が緊急に対ウクライナ軍事物資供与と軍事力支援を劇的に増大し、ロシアの再攻勢を阻止し、ウクライナが東部と南部でロシアを押し返すことが出来るようにすることしかない。
米国などは、ウクライナが今必要とする追加的な軍備、特に装甲車両を供与すべきだ。1月5日の米国によるブラッドレー歩兵戦闘車供与の決定は遅きに失するが、評価できる。戦車については、ドイツなどが供与すべきだ。NATO諸国は、長距離ミサイル、先進ドローン、相当量の弾薬・砲弾、偵察監視能力などの物資を供与すべきだ。これらの能力は、ここ数週間に必要となる。
われわれは、ロシアとの直接対決は回避するとのバイデン政権の決定には同意する。しかし、大胆になったプーチンは、そのような選択をわれわれに与えないかもしれない。ロシアとの直接対決を避けるためにも、ウクライナによる侵略者排除を支援すべきだ。これこそが歴史の教訓であり、遅すぎることにならないために緊急に行動せねばならない。
ライスとゲーツは、今最も重要なことはウクライナへの武器供与を緊急に行うことだと主張する。両者の意見は重要だ。その立場は、当面軍事的有利を確実にすることが最重要との考えに立っている。中途半端な停戦は「受け入れられない」旨の主張や、米国などNATOはウクライナが必要とする装甲車両、長距離ミサイルやドローン、偵察監視物資などを緊急に供与することが必要との主張は、理屈に合っている。
両者は、米国のブラッドレー歩兵戦闘車供与決定について、それを評価するも、遅すぎたと批判する。さらに米露直接対決の回避を図るとのバイデン政権の立場に「同意する」と述べつつも、将来に火種を残すような解決では将来再び戦闘せねばならない、その場合米露直接対決回避の選択はなくなるかもしれないと示唆する。
しかしこの2人が最終的な外交的解決を全く排除しているとは思えない。交渉のためには、ウクライナの軍事的立場をもっと優位なものにすることが不可欠と考えているのであろう。
こうした考え方は、プーチンと渡り合った過去の経験と、プーチンはウクライナの支配を自分の歴史的運命と考えているとの確信から来るのであろう。2人は、プーチンは決してウクライナを諦めないと分析している。
4州併合を認めよと迫るプーチン
実際、ロシアの発表によれば、1月5日にプーチンはエルドアンとの電話会談で、「新しい領土の現実を受け入れるのであればロシアは真剣な対話にオープンだ」と述べ、ロシアが併合したウクライナの4つの州をロシア領と認めることが交渉の条件だとの立場を示したという。しかし侵略の結果を「現実」として認めよと言うのは全く不当だ。
日本は今年、主要7カ国(G7)の議長国となり、国連安保理非常任理事国になった。ウクライナ戦争に対する反対とウクライナの支援につき西側の結束を維持するために良い役割を果たしていくことが期待される。
ウクライナの戦場は冬に入り、目下東部ルハンシク州のバフムトとその近郊の町ソレダールで激しい戦闘が起きているようだ。戦況は重大な局面に入っているように見える。NATO側は、米国(ブラッドレー50両)やフランス(AMX-10RC装甲車)に続き、英国(チャレンジャー2戦車14両)が戦車など重装備のウクライナ供与を決定し、ドイツも戦車「レオパルト2」を供与する覚悟を決めた。
1月14日、ロシアはウクライナ東部ドニプロの集合住宅をミサイル攻撃し、多数の死傷者が出た。市民への攻撃は正当化されず、ロシアの責任は重大だ。また翌15日、ベラルーシは、ロシアとの空軍合同演習を1月16日から2月1日まで実施すると発表した。警戒が必要である。 
●ジョンソン元英首相、「プーチン氏からミサイル攻撃の脅迫受けた」 1/30
イギリスのボリス・ジョンソン元首相は、30日放送予定のBBCのドキュメンタリー番組の中で、ウクライナが侵攻される前に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領からミサイル攻撃の脅迫を受けていたと明かした。
ジョンソン氏は番組で、ウクライナ侵攻が始まる直前の2022年2月2日に行われた、プーチン大統領との「異例の」電話協議について語った。ジョンソン氏はこの前日、ウクライナでウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談していた。
ジョンソン氏は「非常に長い」電話の中で、プーチン氏に対し、戦争は「まったくの惨劇」になると警告したという。
また、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟することは「当分」ないと話し、ロシアのウクライナ侵攻を阻止しようとしたという。
ジョンソン氏はさらに、「(プーチン氏は)電話の中で私を脅迫した。『ボリス、君を傷つけたくはないが、ミサイルを使えば1分もかからない』というようなことを言った。まったく」と、当時の やりとりを説明。
「だが、彼のとてもリラックスした口調や、どこか冷静で無関心な様子から思うに、私が彼を交渉に応じさせようとするのを、適当にあしらっていただけなのかもしれない」と振り返った。
その上で、この「最も異例な電話」の中で、プーチン氏は「とても打ち解けた様子だった」と、ジョンソン氏は述べた。
プーチン氏の脅迫が真実なのか、確かめる手段はない。
しかし、2018年に英ソールズベリーで起きた元ロシアスパイ殺人未遂事件など、近年のイギリスに対するロシアの攻撃を背景に、ジョンソン氏はロシア指導者からの脅迫を、それがどんなに軽いものであっても、深刻に受け止める以外の選択肢がなかったことがうかがえる。
この電話から9日後の2月11日、イギリスのベン・ウォレス国防相はモスクワに飛び、セルゲイ・ショイグ国防相と会談した。
BBCのドキュメンタリーでは、ウォレス氏がこの会談で、ロシアはウクライナに侵攻しないとの確約を得たものの、双方ともそれがうそだと知っていたことも明らかになった。
ウォレス氏はこれについて、「横暴や強さのデモンストレーションだった。『私はうそをつく。あなたは私がうそをついていると知っているし、私も、あなたが私がうそをついていると知っていると分かっているが、それでも私はうそをつくつもりだ』ということだった」と話した。
「『自分たちは強い』と言いたかったのだと思う」
ウォレス氏は、「かなり恐ろしい、直接的なうそ」から、ロシアが侵攻するという確信を得たと話した。
さらに、会談の後、ワレリー・ゲラシモフ参謀長から、「我々は二度と屈辱を受けない」と言われたという。
侵攻の夜にゼレンスキー氏から電話
この会談から2週間もしない2月24日、ロシアの戦車がウクライナ国境を越えた。ジョンソン氏は真夜中にゼレンスキー大統領から電話を受けたという。
「ゼレンスキーはとても、とても落ち着いていた(中略)それでも、ロシアがそこら中を攻撃していると言っていた」と、ジョンソン氏は当時を振り返った。
ジョンソン氏は、ゼレンスキー氏を安全な場所へ移動させる支援を申し出たが、断られたという。
「彼は申し出を受けず、英雄的にその場にとどまった」
●「ミサイルなら1分で済む」 プーチン氏から脅し 元英首相 1/30
ジョンソン元英首相はロシアのウクライナ侵攻前の昨年2月、プーチン大統領から電話会談で「あなたを傷つけたくないが、ミサイルならたった1分で済む」と脅されたと語った。
ジョンソン氏がプーチン氏に対し、侵攻は大惨事になると警告した直後の発言だったという。
英BBC放送が30日に放映するドキュメンタリー番組の概要で明らかにした。
ジョンソン氏は電話会談で、ウクライナに侵攻すれば西側諸国はより厳しい対ロシア制裁を科すとけん制。ロシアとの国境に北大西洋条約機構(NATO)軍を増派することにつながると強調したという。一方で、ウクライナのNATO早期加盟はないと説明し、侵攻を思いとどまるよう説得を試みたとも主張した。
ただ、ジョンソン氏はプーチン氏が「リラックスした口調、ある種の無関心な雰囲気で、私が彼を交渉に引き込もうとするのをあしらっていただけだと思う」とも語り、脅迫の真意は不明だ。
ジョンソン氏は電話会談の直前、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談していた。 
●ドイツ製戦車供与に対抗のロシア《世界経済の麻痺作戦》か 1/30
―――ドイツ製の戦車「レオパルト2」のウクライナへの供与が決定しました。これに対してロシアはどう動くのかについて、佐々木正明教授の解説です。教授によると、欧米諸国に対してロシアは「世界経済全体を麻痺させる作戦」例えば小麦でやエネルギー、日本もやはり影響を受けるということになりそうです。(佐々木正明・大和大学教授 元産経新聞モスクワ支局長、ゴルバチョフ元大統領に3度直接取材した経験がある)
昨年7月ぐらいに小麦の輸出が止まって、アフリカ諸国が食糧危機に陥りかけましたよね。やはり戦況で劣勢になりますと、ロシアは小麦やエネルギーを使って世界経済を麻痺させ長期化させて、ロシア側になびく国を集めようとする、それがおそらく戦略だと思います。例えば昨日もですね。イギリスとドイツで、サイバー攻撃がありました、そういったことも警戒しなくてはいけない。
―――もう一つ、EU内でも足並みの乱れがある。
ドイツ国内でも、戦争に巻き込まれたくないと戦争当事国になりたくないという声はかなり多いです。ハンガリー、セルビアは親ロ派的な政策をとっておりますので、欧州の分断を図ろうとする揺さぶりをかけてくる可能性がありますね。
(三澤肇解説委員)特にハンガリーのオルバン政権は、特徴を持ってまして、昔から接点だったという歴史的経緯もありますし、相当な右派政権で、EUの概念とはちょっと違うことをやったりします。セルビアもロシアの影響力を受けていますし、そこら辺を巧みにロシアは突いてくるってことですね。
―――ロシア国内はどうなんですか?「第2の動員令」で国内脱出を阻止するとの情報もあるということですが。
第1の動員令は去年9月下旬に出ましたね。その際に動員を避けようとして、多くのロシア国民の健康な男子が数十万人隣国に逃れた経緯があります。これはプーチン政権にとっても諸刃の剣です。動員やれば反発が起こる。そうしますと、何らかの理由が必要なんです。
森元総理の発言 ロシアウォッチャーはこう見る
「第2の動員令が出る」おそらく1月や2月に出るのではないか、といった憶測や観測がロシア国内でも12月ぐらいから出てるんです。おそらく主力戦車の供与というものが一つの理由になるんではないか、これが使われるということになりますと、戒厳令を敷いて戦時態勢を強めて、「ロシアはこの戦争に負けると国家の命運がかかっている」ということを言って第2の動員令をするんではないか、というふうな可能性があると私は考えています。
―――日本国内の話ですけれど、皆さんこの発言はどういうふうに思われますでしょうか。森喜朗元総理です。「今のロシアの問題もそうです。せっかく積み立ててここまで来ているのに、こんなにウクライナに力入れちゃっていいのかな。」こうとも言いました。「ロシアが負けるってことはまず考えられない、そういう事態になればもっと大変なことが起きる。そのときに日本がやっぱり大事な役割をしなきゃならない、それが日本の仕事だと思います」と話しました。
これは、私も真意がちょっとよくわからないです。「ロシアが負けることがまず考えられない」っていう言葉が、1人歩きする可能性もありますし、ウクライナでは昨日キーウで爆撃があって11人が死亡している。毎日のように戦争犯罪が積み重なっている状況の中、やはりロシアを支援するような言葉というのはなかなか考えられないなと、私自身は考えます。
ただですね。私自身が思うのは、かばうわけではないですけども、ロシアが戦闘で勝っても、もう既に国際社会での地位は低下しておりますし、これは敗色濃厚だと思いますが、負けるということになりますとなかなか負けない。そのように負ける前にですね、様々なことをして、揺さぶりをかけたり、エネルギーを使ったり、様々な手を使って、負けない戦争をしてくるんではないか。そうなりますと森元総理何を言ったかはわかりませんけども、そこのポイントっていうのは少しあるんではないかなというふうにも考えます。
現役閣僚は「G7の主要議題なのにとんでもない」
―――現役閣僚は「G7の主要議題なのにとんでもない」。自民党のベテラン議員は「サービス精神で、ああなっちゃうんだよな」と話しています。
(三澤肇解説委員)また出たな、という感じはしましたけど、これ場所が日印協会っていう日本とインドの協会のレセプションだったんですね。インドっていうのはロシア非難に乗らず、一線を画してきた外交をやってきましたよね。それに対するリップサービスで、森さん流のリップサービスでもあるということと、やっぱり自身がプーチンさんと親しくしてきたということと、和平交渉等々で日本が間に入りたいというような意図もある中での発言だと思うんですが、今G7の議長国やっててですね。この発言はちょっと、っていうのが正直なところです。
―――そして岸田総理はウクライナ訪問を検討。国会で自民党の茂木幹事長は「G7広島サミットでは、ウクライナ支援がテーマになる、総理のウクライナ訪問が望ましい」と発言しました。岸田総理は「現時点では何ら決まっていないが、諸般の状況も踏まえ検討していく」と話しています。佐々木教授によると、可能性ゼロではないと。
私はウクライナ訪問するのは、かなり確率が高いと思います。よっぽどのことがない限り、治安上の問題、諸事情がない限りですね、私はこのドイツの訪問の際にですね、ウクライナに寄るんではないかと考えています。ウクライナ側は「復興力」を期待してるんですね。日本のテクノロジー、震災等でうちひしがれた街を蘇らせる力というのはありますので、この復興力を期待して、ウクライナと岸田さんとの会談はあるんじゃないかなというふうに考えております。
●ショルツ独首相、ウクライナ支援巡り南米諸国と温度差 1/30
ドイツのショルツ首相は、南米歴訪の機会を利用してウクライナへの支援強化を実現させようとしているが、アルゼンチンのフェルナンデス大統領が武器供与を否定するなど、ウクライナ支援を巡りドイツと南米諸国の温度差が浮き彫りになっている。
ショルツ氏はアルゼンチン、チリ、ブラジルの3カ国が昨年の国連総会でロシアによるウクライナ軍事侵攻を非難したことに言及し、南米諸国との結束を強調しようとしている。
ただ、欧米諸国による対ロシア制裁で食料やエネルギー価格が高騰し、南米地域にも影響が及んでおり、ウクライナ戦争を巡る欧米の姿勢に疑問が生じている。
アルゼンチンのフェルナンデス大統領は28日、首都ブエノスアイレスで行ったショルツ氏との共同会見で、ドイツ同様、ウクライナの早期和平達成を支援することを望んでいると述べた。ただ、武器供与について質問されると、「アルゼンチンや中南米諸国がウクライナやその他紛争地域に武器を送る計画はない」と否定した。
チリのボリッチ大統領は29日のショルツ氏との共同会見時に発表した声明で、ウクライナ戦争には言及せずに商品部門などにおける2国間協力を強調した。
ショルツ氏は30日にブラジルのルラ大統領と会談する予定。
●ウクライナ南部へルソンにロシア軍砲撃、9人死傷 戦車供与への報復か 1/30
ウクライナ政府は29日、南部ヘルソンの中心部がロシア軍の砲撃を受けて3人が死亡、6人が負傷したと発表した。東部ハリコフでも同日、ロシア軍のミサイルが住宅地に着弾し、女性1人が死亡した。いずれも、米欧がウクライナへの戦車供与を決めたことに対する報復攻撃とみられる。ロシアはウクライナの反転攻勢に警戒を強めており、戦闘はさらに激しさを増している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は29日の演説で、ロシアが戦闘を長引かせてウクライナを疲弊させようとしているとの見方を示し「武器供与のスピードが戦争の鍵になる」と欧米の軍事支援の加速を求めた。ウクライナは欧米から300両超の戦車の供与を受けるほか、米軍の地対地ミサイル「ATACMS」などさらなる支援強化を要請している。
ウクライナメディアによると、ウクライナ兵が同日、主力戦車「チャレンジャー2」の供与を決めている英国に到着した。近く戦車を扱うための訓練を開始する見通しという。
一方、ロシアメディア「ウラ・ル」は30日、ロシアが米欧に武器供給を思いとどまらせるため、核兵器の大規模実験を近く再開するとの政治評論家の見方を報じた。ロシアのネットメディアでは、米国がウクライナに対し、クリミア半島奪還のための長距離ミサイルを新たに供与するとの観測が出ている。
ロシア政府は29日、「併合地」と主張するウクライナ東部ルガンスク州の病院が、米国製の多連装ロケットシステムによるウクライナ軍の攻撃を受け、14人が死亡したと主張した。プーチン政権は侵攻の長期化を受け「米欧はウクライナを操り、ロシアに戦争を仕掛けている」との政治宣伝を強めている。
 

 

●プーチン氏、サウジ皇太子と協議 原油価格安定維持への協力巡り 1/31
ロシアのプーチン大統領は30日、サウジアラビアのムハマンド皇太子と電話会談を行い、原油価格の安定維持に向け、石油輸出国機構(OPEC)およびロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」の枠組みにおける協力を巡り協議した。ロシア大統領府(クレムリン)が声明を発表した。
●侵略1年を前にプーチン氏演説か 「戦局好転」背景 1/31
ロシアのタス通信は30日、下院関係者の話として、プーチン大統領がウクライナ侵略の開始から1年の節目を迎える直前の2月20日か21日に上下両院に外交や内政の方針を示す年次教書演説を行う見通しになったと報じた。露軍の攻勢が伝えられる中、プーチン政権は戦況が好転したと判断し、年次教書演説の実施を決めた可能性がある。
プーチン氏は年次教書演説を原則として年1回行ってきたが、昨年は国民との対話行事や年末恒例の大規模記者会見とともに実施を見送った。露軍の苦戦などを受けた措置とされる。同氏自身も昨年12月、演説の見送りについて「情勢が変動しており、ある時点での結果や近い将来の計画を取りまとめるのは困難だった」と認めていた。
露軍は今月に入り、大きな損害を出しつつも、最前線である東部ドネツク州バフムト近郊の都市ソレダルを制圧するなど一定の前進を果たした。
ウクライナ国防省情報総局は、プーチン氏が3月までにドネツク州全域を制圧するよう露軍に指示したとみる。演説が行われれば、同氏は東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)全域の制圧という作戦目標を完遂する意思を改めて表明するとみられる。
一方、露経済紙ベドモスチ(電子版)は30日、露大統領府に近い筋の話として、2月下旬に中国の王毅前外相がモスクワを訪問し、プーチン氏と会談する可能性があると伝えた。プーチン氏は昨年12月、中国の習近平国家主席とのオンライン会談で、今年春にも習氏をロシアに招待する意向を表明。同紙は、王氏が習氏の訪露に向けた調整を行う見通しだとした。
●ロシア軍パニック♂「米結束、ウクライナに主力戦車321両供与 1/31
ロシアによるウクライナ侵攻に対峙(たいじ)するため、米国とドイツは先週末、主力戦車の供与を表明した。これに対し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、軍事作戦が「ネオナチとの戦い」だと改めて侵攻を正当化した。米ブルームバーグ通信は、欧米の戦車がウクライナに到着する前の2月か3月、ロシアが新たな攻勢をかける可能性があるとの見方を伝えている。追い込まれたプーチン氏の逆襲の一手と、日本の危機とは。ジャーナリストの加賀孝英氏が最新情報を報告する。
「ロシアの敗北は確実だ。『プーチン氏の極秘亡命工作は失敗した』という情報がある。18万人以上のロシア兵が死傷し、経済は破綻状態で、ロシア国民の怒りは爆発しつつある。側近たちが裏切り始め、暗殺やクーデターの動きがある。プーチン氏は狂乱し、クレムリンは崩壊寸前だ」
外事警察関係者は、こう語った。
ジョー・バイデン米大統領と、ドイツのオラフ・ショルツ首相は25日、米軍の主力戦車「M1エイブラムス」31両と、ドイツ軍の主力戦車「レオパルト2」14両をウクライナに供与すると、それぞれ発表した。
M1エイブラムスは、1991年の湾岸戦争で、当時「無敵」といわれたイラク軍戦車部隊を壊滅した。イラク軍の主力戦車はソ連製だった。レオパルト2は、「世界最強」とされる攻撃力と防御力を誇る。
外務省関係者は「バイデン氏は発表前、ショルツ氏と、英国のリシ・スナク首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、イタリアのジョルジャ・メローニ首相と電話会談を行った。『ウクライナの勝利まで支援を継続する』と決意を確認し、『われわれは完全に団結した』と宣言した。これは西側陣営が結束した歴史的決意表明だ」と語った。
防衛省関係者は「ロシアは水面下で、米国やNATO(北大西洋条約機構)に対し、『ウクライナへの戦車の供与は止めろ。核戦争になる』と脅してきた。それを完全に拒否して、ロシアへの全面対決を宣言した。この決定に、12カ国以上が賛同した。戦車は百数十両になる。ロシアはパニックに陥っている」と語った。
《ウクライナのオメリチェンコ駐フランス大使は27日、欧米が供与表明した戦車が総計321両になったと明らかにした。フランスのテレビでの発言を、ロイター通信が報じた》
そのロシアで、異常事態が勃発している。
ロシア独立系メディア「モスクワタイムズ」が一部報じたが、今月に入って、首都・モスクワなどで、プーチン氏の複数の住居(=隠れ家も含めて)を中心に5カ所以上、対空ミサイル防衛システムが極秘配備された。
ウクライナ軍は昨年12月、攻撃用無人機(ドローン)で、国境から約400〜700キロ離れたロシア国内の複数の軍事基地を攻撃した。ウクライナの首都キーウからモスクワまでは約700キロ。対空ミサイル防衛システムの配備は、ウクライナ軍の攻撃に備えたものとみられた。
以下、日米情報当局関係者から入手した驚愕(きょうがく)情報だ。
「プーチン氏は『西側諸国が、自身の斬首(暗殺)計画を発動させている』と異常におびえている。セルゲイ・ラブロフ外相は昨年12月、国営タス通信に『米国防総省の高官が、斬首攻撃を実行すると脅迫してきた』と明かした。実は、ロシア情報機関の反プーチン一派が、西側情報機関に対し、『プーチン氏の居場所』『本物か影武者か』をリークしている。ウクライナ侵攻を早く終わらせるためだ」
暴走するロシア「日本を標的」の危機
さらに衝撃情報がある。昨年12月、「ウクライナ攻撃の秘密作戦会議」があったという。日米情報当局関係者の情報はこうだ。
「高官の一人が諜報機関の情報として、『ウクライナ軍の特殊部隊が、ロシア本土とクリミア半島を結ぶクリミア大橋を完全破壊する極秘攻撃計画を立てている。Xデーは2月だ。クリミア大橋が完全破壊されれば、ロシアは敗北するしかない』と報告した。プーチン氏は逆上して、核の使用を口にした。ただ、賛同者はゼロだった。米国やNATOは、ロシア高官に『核攻撃を行えば、ロシア軍を殲滅(せんめつ)する。ロシアは崩壊する』『プーチン氏の暴走を止めろ』と水面下で説得していた」
バイデン政権は「1962年のキューバ危機以来、最大の核危機だ。第三次世界大戦前夜だ」と警戒している。
そのロシアが「日本を狙っている」との情報がある。
苦境を打ち破るため、日本に卑劣な攻撃を仕掛け、日本を恫喝(どうかつ)・屈服させて、「日米同盟と西側陣営の結束を崩す」というものだ。中国と北朝鮮も危ない。連動した日本攻撃の危険がある。
事態は想像以上に緊迫している。政府は、国家安全保障会議(NSC)の開催を含め、あらゆる事態を想定した対応策を、早急に準備すべきだ。
●日本大使、ロシア外務次官と会談 ウクライナ、四島漁業巡り 1/31
上月豊久駐ロシア大使は30日、ロシアのルデンコ外務次官と会談した。モスクワの日本大使館によると、日ロ関係やウクライナ情勢を巡って意見交換したほか、北方四島周辺水域の日ロ政府間協定に基づく日本漁船の操業が一日も早く実現するよう求めた。
●要衝付近の集落巡り情報交錯 ロ側「制圧」、ウクライナ軍は否定 1/31
ウクライナ侵攻に加わっているロシア民間軍事会社「ワグネル」が、東部ドネツク州の要衝バフムト近郊の集落を制圧したと主張した。だが、ウクライナ軍はこれを否定し、情報が交錯している。ロシア側が制圧を急ぐバフムトと周辺地域で激戦が続き、詳しい情勢の確認は困難な状況だ。
ロイター通信によると、米国から「国際犯罪組織」に指定されたワグネルは28日、通信アプリ「テレグラム」を通じ、バフムト北方の集落ブラゴダトノエを制圧したと発表した。州全域の制圧を目指すロシア側にとって、集落確保は重要な足掛かりとなる。
これに対し、ウクライナ軍参謀本部は29日の戦況報告で「ブラゴダトノエ周辺で、占領者の攻撃を退けた」と主張。それ以外に州内の13集落でロシア側を撃退したと発表した。現地の情勢に関し、ロシア国防省は論評していない。
東部では連日激しい攻防が繰り広げられ、ロシア側は特にバフムト一帯に集中攻撃を仕掛けているもようだ。ウクライナの地元当局によれば、28日にバフムトと近郊で住民4人が死亡し、17人が負傷。ゼレンスキー大統領は先週末、現地の戦況に関し「極めて深刻だ」と警告を発した。
昨年11月にウクライナ軍がヘルソン州の州都ヘルソンを奪還して以降、それまで大きな戦闘の動きが見られなかった南部でも交戦が激化。ゼレンスキー氏によれば、ヘルソンは29日、ロシア軍の激しい砲撃に一日中さらされ、少なくとも3人が死亡した。一方、南部ザポロジエ州の親ロシア派は、ウクライナ軍が29日に州内の鉄道橋を爆破し、4人が死亡したと主張した。
●米欧の戦車供与 1/31
ロ軍撤収への道筋にしたい
昨年2月24日にロシアの軍事侵攻で始まったウクライナ戦争が、1年を迎えるのを前に新たな段階に入った。米国とドイツがこれまでの消極姿勢を転換し、世界最強とされる主力戦車のエーブラムスとレオパルト2をウクライナに供与する。
主力戦車の供与はロシアのこれ以上の侵攻を防ぐとともに、ロシア占領地域をウクライナが取り戻すのに道を開くものだ。
また米国とドイツの転換は、強力な軍事支援を示威することで戦争継続に利がないことをプーチン・ロシア大統領に分からせる狙いもありそうだ。英国も既に戦車の供与を発表し、また米国とドイツの決定を受けて欧州各国やカナダも戦車の供与を発表。ウクライナ軍の戦力が大幅に向上する見通しだ。
プーチン大統領は戦争が長期化すれば、支援疲れから欧米に亀裂が生じ有利に立てると判断しているようだ。だが核使用の示唆やエネルギー制裁による混乱にもかかわらず、ウクライナを支援する自由民主主義陣営の結束は依然維持されている。
ロシアはこの戦争には勝機がないとの結論に達し軍を全面的に撤収すべきだ。これ以上のウクライナへの残虐な攻撃と破壊、人道危機、世界経済の混迷をもたらしても望む勝利が得られないのは明らかだ。
米国とドイツは、ウクライナ軍には高性能の戦車を使う能力がなく、またロシア領を攻撃し戦争がエスカレートする恐れを挙げて供与にこれまで消極的だった。核を使ったロシアと北大西洋条約機構(NATO)の全面戦争も懸念された。
今回の供与決定でも、ナチス・ドイツによる侵略の歴史を踏まえショルツ・ドイツ首相は一時ためらったが、国際的な圧力にさらされ米国によるエーブラムス供与を条件に合意した。バイデン米大統領は供与に反対した国防総省に対し、米欧が結束する意義を強調して決断した。
現在表明された戦車の供与総数はウクライナが求めていた300両には到達したものの、訓練には時間が必要だ。米国のエーブラムスはこれから製造されるものが供与される。
だが、昨年までの対戦車、対空ミサイルやロケット砲の供与に比べて、今年に入って決まった歩兵戦闘車や戦車などの兵器は、ウクライナ軍が今後地上戦で反転攻勢をかける展開を予想させる。
日本は今年は先進7カ国(G7)議長国である。日本には軍事面での支援は限界があるが、民生面での支援やロシアに対する制裁徹底などでG7の結束を強化する責任がある。同時にロシアに軍事力で対抗するのがいかに不毛であるかを説得する役割も担う必要がある。
●冬の攻勢はロシア軍最後の賭け 1/31
戦車提供とロシア軍の攻勢
ロシアがウクライナに侵攻して間もなく1年を迎えようとしている。ウクライナは粉砕されると予想されたが実際は逆襲に成功。ウクライナ北部のロシア軍は敗走しウクライナ東部と南部で戦線が膠着した。
ウクライナは欧米からの軍事支援でロシア軍に対抗し、時には反転攻勢を成功させる。ロシア軍はウクライナ軍よりも数は多いが、損害を出すことを繰り返している。だがウクライナ東部でロシア軍は徐々に攻勢を増す。第一次世界大戦型の塹壕戦が再現されるが損害無視のロシア軍が前進を始めた。
そんな時に、1月25日にアメリカはエイブラムス戦車をウクライナに30両提供することを公表。その後ドイツもレオパルト2戦車をウクライナに提供することを公表。これでレオパルト2戦車を保有する国はウクライナに提供することが可能になった。その後ロシアはウクライナに対してミサイル攻撃を実行した。
ウクライナ東部ではロシア軍の攻勢が続いている。欧米からの軍事支援が強化されるニュースが流れるほどロシア軍の攻勢は激しくなっている。レオパルト2戦車がウクライナに到着するのは早くて3月。さらにウクライナ軍が実戦運用できるのは早くて7月。これでロシア軍は勝利を急ぐことになった。
ウクライナが求めていた300両
ウクライナは以前から欧米の戦車300両以上を求めていた。この数字は戦車師団であり戦略単位の戦力を求める意味を持っている。基本的に戦術の最小単位は一個大隊。戦車であれば約50両。戦車200両で戦車連隊であり400両で戦車師団。一個師団は戦術の最大単位であり戦略の最小単位になる。
このため戦術で影響を与えるのは戦車50両の一個大隊から。そして戦略で影響を与えるのは戦略の最小単位である一個師団からになる。ドイツ製戦車レオパルト2はA4・A5・A6と型式が異なる。このため同じレオパルト2戦車だがA4・A5・A6で性能と装備が異なる。兵站・訓練・整備で負担になるが、今後提供されるレオパルト2戦車はA6に改修されると思われる。何故なら、そうでもしなければ兵站・訓練・整備でウクライナ軍の負担になる。少しでも負担を軽減するなら型式を統一することが望ましい。これは製造元のドイツが担当するので今後のサポートで対応できる。
アメリカはエイブラムス戦車30両、イギリスはチャレンジャー2戦車14両をウクライナへ提供する。両国合わせて約一個大隊になる。現段階ではレオパルト2戦車が大半を占めるが全体で321両。国ごとに編成が異なるが概ね一個師団の戦力になる。これでウクライナ軍は戦略を左右する駒を獲得したので、今後の戦局を左右する権利を獲得した。
だが直ぐに問題が解決するわけではない。最初のレオパルト2戦車がウクライナに到着するのは3月からで、一個大隊から運用できるのは早くても夏からだ。さらに300両の戦車で運用するなら早くても冬からになると推測する。
ロシア軍の焦りと賭けの攻勢
ロシア軍はウクライナ東部で攻勢を行ったが長らく膠着状態が続いた。だが1月になりウクライナ東部のバフムト付近でロシア軍が前進を開始。ロシア軍の攻勢は損害を無視したものだが、もしかすると欧米の軍事支援を察知したので攻勢を急いでいる可能性がある。
ウクライナの春と秋は泥濘期。泥濘になると道路以外は機動が困難。このため泥濘期では攻勢は困難。そうなると攻勢を行うなら冬と夏になる。欧米の軍事支援として戦車がウクライナに到着するのは3月から。さらに訓練と数が揃うのは7月以降になる。到着する戦車は300両以上だから、7月以後からウクライナ軍の戦力は増強され、ロシア軍よりも優勢になることは明白。
つまりロシア軍は、ロシア軍から攻勢が行えて、ウクライナ軍の戦力が増強される2月末までにウクライナ軍に対して致命的な損害を与えなければならない。しかも最低でも一個師団をウクライナ軍から消し去る必要に迫られている。
3月からは泥濘が始まるからロシア軍は春の攻勢を行えない。仮に夏に攻勢を行うとウクライナ軍は欧米の戦車で強化されている。秋になると泥濘になり攻勢は行えない。では冬に攻勢を行うとウクライナ軍はさらに強化され300両の戦車師団になっている可能性がある。
こうなるとロシア軍の選択肢は一つだけ。2月末までにウクライナ軍を撃破すること。これができなければロシア軍に勝利はない。だからロシア軍はウクライナ東部のバフムト付近で損害無視の攻勢を行っている。バフムト付近ではロシアの民間軍事会社ワグネルが囚人兵を投入している。
ワグネルの囚人兵5万人が投入され残ったのは1万人。4万人は戦死・脱走・捕虜に該当するが、それだけ損害無視で攻勢を行っている証し。ならばロシアは欧米の軍事支援が強化されることを知っていた可能性が高い。だから春までに損害を無視した攻勢で前進を行う理由になる。
同時にロシア軍最後の攻勢であり、賭けの攻勢だ。今年の2月までに勝利できなければ7月からウクライナ軍が優勢になるのは明白。今後アメリカはF-16戦闘機をウクライナに提供する可能性が示唆されており、仮に実現すればウクライナ軍は航空優勢を獲得できる。戦闘機は20機から戦力になるので、20機以上の機体数になればウクライナ軍が主導権を持つことになるだろう。
ロシア軍の賭けとプーチン大統領の決断
ウクライナ情勢は2月までの戦闘が戦局を左右する。ロシア軍がウクライナに対して致命的な損害を与えればロシア軍が勝利する。もしくは欧米からの軍事支援があっても膠着状態になる。だがウクライナ軍が遅滞行動で損害を軽減すればロシア軍の敗北が決定する。
今のウクライナ軍は損害回避を選んだ遅滞行動か、ウクライナ南部の攻勢でロシア軍を撃破することもできる。ウクライナ軍に選択肢はあるがロシア軍にはない。ロシア軍は2月末までに勝利を得られないと敗北が確定する。だから損害無視で前進するしか道はないのだ。
ロシア軍には悲壮な最後の賭けになった攻勢だが、プーチン大統領には最後の決断になるかもしれない。何故ならウクライナ軍が7月から強力になるのは明らか。そうなると戦場はウクライナからロシアに変わる。これではプーチン大統領は失脚するか亡命。最悪の場合はクーデターで殺害される未来が待っている。これを回避するためにプーチン大統領は、ロシア軍が2月末までに結果を出せないなら戦術核を使う可能性がある。これは2月末までに判明するが、世界の運命をプーチン大統領が握っている。
●F16戦闘機は供与せず 米大統領明言、ウクライナに 1/31
バイデン米大統領は30日、ホワイトハウスで記者団の取材に応じ、ロシアの侵攻を受けるウクライナにF16戦闘機を供与しないと明言した。1月に米国などが主力戦車の供与を発表したことで、次の武器支援は戦闘機だとの見方が強まっている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、ドイツで開かれたウクライナ軍事支援会議でオンライン演説し、F16の供与を呼び掛けていた。しかし、バイデン氏は供与するかを記者団に問われ、「いいえ」と即答した。
●バイデン氏、ウクライナへのF16戦闘機供与「ない」  1/31
ジョー・バイデン米大統領は30日、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの軍事支援として米国製のF16戦闘機を供与することはないと述べた。
バイデン氏はホワイトハウスで、ウクライナの指導者らが求めているF16を提供するかとの記者団の問いに対し、「ノー」と答えた。
西側諸国は、北大西洋条約機構軍標準の主力戦車の対ウクライナ供与問題をめぐって立場が二分していたが、今月ようやく提供することでまとまった。
ウクライナとしては、西側からさらにF16が提供されれば、旧式の空軍力も強化できると期待しているが、西側諸国の間では議論が続いている。
一方バイデン氏は、ロシアのウクライナ侵攻開始から1年となる2月24日を控え、日程は未定としながらも「ポーランドへ行くつもりだ」と語った。ウクライナの隣国ポーランドは、東欧における米国の主要な同盟国としてウクライナ支援の中心的な役割を果たしている。
●日本の軍事大国化をめぐる不都合な真実 1/31
軍拡競争と複合危機の悪循環 市民社会が軍縮公論化に乗り出すべき
日本が反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有と5年以内に防衛費2倍引き上げを骨子とする新たな国家安全保障戦略を採択したことを受け、韓国でも様々な声があがっている。まず尹錫悦(ユン・ソクヨル) 大統領は「頭上でミサイルが飛び交い、核が飛んでくるかもしれないのに、それを防ぐのは容易ではない」とし、これに対応するための日本の軍備増強について「誰もとやかく言えないだろう」と述べた。
一方、韓国内の中道・革新陣営では日本の軍事大国化とこれを擁護する尹錫悦政権に対して批判の声を高めている。日本が平和憲法と専守防衛の原則を無視し、攻撃能力の保有を試みること自体が問題だという主張だ。野蛮な植民統治と慰安婦および強制徴用など歴史問題の解決に消極的な日本を見てきた韓国国民にとって、日本の軍事大国化について不快感を抱くのは当然といえる。また、日本は有事の際、韓国の同意なしに北朝鮮を攻撃できるという立場を示しているが、これは北朝鮮を領土と明示した大韓民国憲法を無視するものだという批判もある。
しかし、国内ではあまり取り上げられない、しかし直視しなければならない不都合な真実もある。まず、北朝鮮は国連加盟国であり159カ国と国交を結んでいる。厳密に言えば、国際法的には主権国家である。また、南北の和解協力と平和共存および統一の大前提は、互いの体制を認めることにある。国際法的に主権国家であり、北朝鮮政策の上で認めるべき対象である北朝鮮を韓国領土だと主張し、日本の敵基地攻撃論を批判することに果たして説得力があるのかという問いは、ここから始まる。韓国も北朝鮮の核使用の兆候を把握した場合、先制攻撃を認める軍事戦略を採択しているため、なおさらそうだ。
現実的にはさらに重要な問題もある。世界のほとんどの国は自衛力を求めており、その要となるのは抑止力であり、抑止力を強化するためには攻撃力を備えなければならないという立場だ。こうした傾向は米中戦略競争の激化、ロシアのウクライナ侵攻と戦争の長期化、そして北朝鮮の核武力の強化などと相まってさらに強まっている。韓国もその先頭グループにいる。米国の軍事力評価機関「グローバル・ファイヤーパワー」によると、韓国は2021年から3年連続で世界6位の軍事大国となっている。一方、日本は今年の順位が8位に落ちた。韓国が日本の再武装を批判することが、日本に不快感を抱かせるかもしれない理由だ。
むろん、これらは日本の軍事大国化とこれを事実上支持している尹錫悦政権の態度を擁護するためではない。韓国のリベラル勢力が朝鮮半島や韓日関係の特殊性を掲げて批判ばかりしていては、国際社会から疎外されかねないという点を指摘するためだ。さらに重要なのは、普遍的価値に基づいた新たな代案の公論化の必要性を強調するためだ。
こんにちの世界は「複合危機」に直面していると言われている。安全保障危機、暮らしの危機、そして気候危機などが同時多発的に現れているためだ。新たな代案の出発点はこれらの危機の相互関連性に注目することにある。例えば、激しい軍拡競争は安全保障ジレンマを激化させ、安保危機を煽り、貴重な資源の無駄遣いを招き、庶民の暮らしをさらに困難にし、炭素排出の増加と国際協力の低下で気候危機を深化させる。
このような複合危機の悪循環に注目すれば、代案の公論化も可能になる。多国間による軍拡統制と軍縮がまさにそれだ。ちょうど5月には日本の広島でG7サミットが開かれる。また、9月には新しい気候サミットの開催が推進されている。もちろん、主要国の政府が自発的に軍縮に乗り出す可能性はほとんどない。そのため、国際市民社会が乗り出さなければならない。「何が重要なのか」を問いかけ、軍縮を公論化することに力と知恵を集めなければならない。 
●反プーチンの指導者は「殺されるか刑務所入り」 加速する弾圧の実態 1/31
ウクライナへの侵攻開始から間もなく1年も経つというのに、攻撃を続けているロシア―
その国内では、今年に入ってから、我々外国メディアもニュースソースにしていた独立系メディア「メドゥーザ」が国内での活動を完全に禁止されるなど、政権の主張にそぐわない「異論」の封殺がますます激しくなっている。反論は沈黙させられ、急速に多様性が失われている。
いま、ロシアの社会で何が起こっているのだろうか?
モスクワの新年は厳戒 赤の広場は閉鎖 路地裏には機動隊
2022年12月31日、深夜のモスクワ―
新年をむかえる街には色鮮やかなイルミネーションが随所で輝き、一見、隣国に武力侵攻している戦時下の国とは思えない。例年、モスクワっ子の多くは、自宅や郊外の別荘で家族や友人とともに新年を迎えるが、若者や地方からの旅行者たちは「赤の広場」に集まってシャンパンで乾杯して新年を迎える。
プーチン政権は、多くの人が一カ所に集中し不測の事態が起きることを警戒したのだろうか。この年越し、31日の夜から1日にかけて「赤の広場」は閉鎖された。当局は閉鎖について事前からSNSやニュースを通して周知を図っていた。しかし、知ってか知らずか、多くの人々が中心部に詰めかけている。警察や治安部隊が赤の広場の手前で拡声器を使い引き返すように促している。その時、赤の広場に通じる目抜き通りのトベルスカヤ通りで、異様な光景を目にした。
路地裏に機動隊が息をひそめて隊列を組んでいるのだ。いざというときに出動するのだろう。通りでは警察犬も周辺を嗅ぎまわっている。独立系メディアによれば、この時、ただ歩いているだけで拘束された人も多かった。
政府関係者「いまのロシアは『ポチョムキン村』」
煌びやかな装飾の一方で、路地裏で息をひそめる治安部隊。その強烈な対比は、あるロシア政府関係者が耳打ちした言葉を思い出させる。
「いまのロシアは『ポチョムキン村』のようなものです」
1787年に女帝エカテリーナ2世がクリミア半島を旅した際、グレゴリー・ポチョムキン公は、自分が治める地域がみすぼらしくあってはならないと考え、エカテリーナ2世の一行が通る道に面した家々の外壁だけを豪華絢爛に飾り立てたという。見せかけだけ取り繕った美しいものの意味で使われる「ポチョムキン村」の逸話は、今のロシアの国全体にも当てはめることができるというのだ。
プーチンの政治システムはツァーリの統治の影響か
「悲しいことかもしれませんが、これが私たちのシステムです。それが現実です。物事を決定できるのは、プーチン氏だけです」その政府関係者は、なかばあきらめたようにそう告白する。合意形成に不可欠な議会は形骸化し実質的な権限はほとんどない。ロシア人の多くは国会議員や地方議員のことを「純粋な名目上の存在」だとみなしていて、期待する人はほとんどいない。さらにプーチン氏は、憲法も改正し最長で2036年まで大統領の座に居座ることを制度上可能にした。このような統治が可能なのは、ロシアが伝統的にツァーリ(皇帝)によって統治されてきたことにも影響されていると言われている。単純化していえば、ロシア人は強いリーダーに指示されることを望み、自分の身を預けてしまいがちなのだ。
プーチン氏が2000年に大統領に就任して以来、ロシア経済が上向いたこともあり、ソ連崩壊後の「悲劇の90年代」といわれる時代を知る人々は「今の不自由ない生活はプーチンのお陰だ」と口を揃える。プーチン氏の強力なリーダーシップが政治的な停滞を打破し、成長を生み出したと考え、プーチン氏に進んで身を預けてきた。プーチン氏が推し進める権力集中を容認してきたともいえる。
侵攻で浮き彫りになったプーチン政治の恐ろしさ
ただ、ウクライナへの侵攻をめぐり、ロシア国内で誰もプーチン氏を止めることができないという現実を目の当たりにして、プーチン政治の恐ろしさが改めて浮き彫りになった。政策決定に影響力を持てるオリガルヒ(富豪)やエリートたちさえ止めることはできず、むしろ身の危険を感じて早々にロシアを去った。不審な死を遂げた者もいる。ロシアの独立系メディアなどは、「エリートの多くは大統領に不満を抱いているが、その決定に反対する手段をもはや持っていない」と指摘している。
いま、声高にプーチン大統領が嫌がるような主張を表立って展開するのは、昨年来、昨年来、一連の記事で指摘し続けているように、より強硬路線を突き進む民間軍事会社「ワグネル」を束ねるプリゴジン氏らだけという事態は深刻だ。
政権の限界? 見送った「ホットライン」と「大規模記者会見
一方で、プーチン氏の統治に限界が迫りつつあるとも考えられる事態が生じている。昨年、「国民とのホットライン」と「年末の大規模記者会見」という2つの重大な恒例行事を見送ったのだ。
「ホットライン」はプーチン氏とロシア全土の住民とを直接テレビ電話でつなぎ、毎年6月に放送されてきた。
「工場の煙が健康に悪い」「給与が遅滞している」といった住民が訴える不満に対してプーチン氏が生放送の場で対応を約束する。時には目の前で官僚に指示を出し、ロシア人特有の「救済願望」を満たし、ツァーリのように振舞うことで求心力を維持してきた。
年末恒例の「大規模記者会見」も同じだ。外国メディアも参加するが、プーチン氏にとってより重要なのはロシア国内の地方からの記者が多いことだ。ここでもプーチン氏は、地方から出張でやってきた記者の質問に丁寧に答え、地方の問題に真剣に取り組んでいることをアピールしてきた。
なぜプーチン氏は国民への求心力を維持するために重視していた2つのイベントを行わなかったのか? あるロシア政府関係者はこう指摘する。「国民はいつ『特別軍事作戦』が終わるのかと思っている。これに明確に答えられない限り、国民と向き合うことは難しいだろう」。指摘の通り、動員令などにより積もりつつある国民の不安や不満は、終結の見通しを示す以外に解消できない。
厳しい弾圧 失われる多様性……
では今後、高まりつつある国民の不満にプーチン氏はどう対処するのだろう?
プーチン氏は、国民と向き合うのではなく、力で不満を封じ込めようとしている。1月18日、サンクトペテルブルクの兵器工場を訪れたプーチン氏は「勝利は確実だ。疑いはない」と述べた。プーチン氏は一歩も引きさがる様子はなく、その態度はむしろ硬直化している。異論を封じ、社会を画一化させ突き進もうとしているのだ。
モスクワの新年のイルミネーションにさえ「我々はともに」というスローガンがならぶ。一方的に併合を宣言したウクライナの東部4州がロシアと一体だという意味と同時に、ロシアはプーチン氏を中心に一つにまとまらなければならないという意味も読み取れる。
プーチン氏の決断に異論を唱える存在は「テロリスト」ないしは「外国エージェント」と見なされ、弾圧される。その動きは年が明けてから、加速しているようにも見える。
1月14日、ウクライナ中部ドニプロの集合住宅攻撃で多数の死傷者が出るとモスクワでは、ウクライナの詩人で作家のレーシャ・ウクラインカの記念碑の前に追悼の思いを込め自然発生的に花が添えられた。人権団体はそこにやってきた人が拘束されたと報告している。
1月26日には、独立系メディアの中では最大規模の「メドゥーザ」を「外国エージェント」よりもさらに厳しい「望ましくない組織」に指定し、ロシア国内での活動を完全に禁止した。
ロシアで最も古い人権団体「モスクワ・ヘルシンキ・グループ」は1月25日に解散命令を受けた。また、その人権団体の創設者でノーベル平和賞受賞者のサハロフ氏の功績と理念を顕彰する「サハロフセンター」も建物からの退去を求められている。
弾圧は反戦・反体制派に留まらない。たとえば、この半年でLGBTへの弾圧は厳しさをまし、関連する本も販売に制限がかけられている。今のロシアでは、少数者による意見表明は、社会的な混乱を生み出すとみなされ、徹底的に排除されることが正当化され、社会の多様性は急激に失われている。
それでも民主化しかない…
弾圧の中、反戦の声を上げ続けるサンクトペテルブルクの地方議員ニキータ・ユフェレフ氏はANNの取材に、プーチン氏が20年かけて、反体制派を弱体化させる一方で、480万人にのぼる治安部隊を築き上げたと指摘する。「私たちの指導者たちは殺されるか、刑務所に入れられています。資金も絶たれています。抗議活動を行えば強力な治安部隊によりすぐに阻止されてしまい、ロシア社会には、路上での大規模な抗議行動は何にもつながらないというコンセンサスができてしまいました」
プーチン政権を前にリベラル勢力は歯が立たないという。では、ロシアはこの先プーチン体制が続くしかないのだろうか? あるいは、別の道があるのだろうか?その質問に対し、彼はきっぱりとこう答えた。
「ロシアは民主化しなければなりません。他の道はありません」 議員は、無力だと認めつつ、それでも抵抗の火を絶やしてはならないといい、身の危険を覚悟で発信を続けている。
●独ソ激戦80年「スターリンの町」へ プーチン氏、祖国防衛にすり替え 1/31
タス通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は31日、プーチン大統領が2月2日に南部ボルゴグラード(旧スターリングラード)を訪れると明らかにした。この日は、第2次大戦で最も激しかったスターリングラード攻防戦(1942〜43年)の終結から80年に当たる。
スターリングラードは「(ソ連の独裁者)スターリンの町」を意味し、攻防戦はナチス・ドイツに対するソ連勝利への分岐点となった。プーチン氏は最近、ロシアが開始したウクライナ侵攻の説明を「(西側諸国が仕掛けた)戦争」とすり替えている。過去の戦勝をアピールすることで、現在の「祖国防衛」を国民に強く訴える狙いがあるとみられる。
地元メディアは、民間軍事会社「ワグネル」創設者プリゴジン氏や、南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長も、攻防戦の記念式典に出席する可能性があると報じている。両者は「強硬派」として侵攻を支持する一方、高級軍人を「弱腰」と批判し、ロシアの内部に不協和音を生む要因となった。同席が実現すれば、ウクライナに対する「一枚岩」を強調する場となる。
一方、タスなどは下院関係者の話として、延期されているプーチン氏の年次教書演説が2月20日以降に行われる公算が大きいと伝えた。同月24日の侵攻開始1年の当日はないという。プーチン氏は上下両院議員を集めてメッセージを発し、長期戦をにらんで国内の引き締めを図るとともに、侵攻の正当性を改めて主張する見通しだ。
●中国はプーチン大統領のウクライナ戦争から学ぶ−NATO事務総長 1/31
中国はロシアがウクライナで行っている戦争を注視し、そこから教訓を得ていると、ストルテンベルグ北大西洋条約機構(NATO)事務総長が述べた。この教訓が中国の将来の決定を左右する可能性があると指摘し、台湾への圧力など中国の行動を強く警告した。
ストルテンベルグ氏は31日、岸田文雄首相と東京都内で会談した後の共同記者会見で語った。ロシアの「プーチン大統領がウクライナで勝利すれば、独裁主義の体制が暴力によって目的を達することができるというメッセージを送ってしまうことになる。欧州で今日起きていることが、明日の東アジアで起こり得る」と話した。
会見でストルテンベルグ氏は、「大西洋の両岸とインド太平洋地域の安全は深く結びついている」との見解にNATOと日本は同意していると説明。インド太平洋地域で「起こることはNATOにとっても関心事だ」と付け加えた。
さまざまな分野で中国による安全保障上の脅威が増していることを欧州各国はますます強く感じつつある。ストルテンベルグ氏は中国の軍事力と核兵器の増強をあらためて警告し、近隣諸国・地域に対する強圧的な行動や偽情報の拡散、重要インフラ支配の取り組みにも警戒感を示した。
岸田首相は日本とNATOの協力を新たな水準に引き上げることを確認したと述べ、サイバー分野の連携に言及。インド太平洋地域へのNATOの関心と関与に歓迎を表明した。日本はNATO連絡事務所を設置し、NATOの各種会合に定期的に参加することも検討すると、首相は付け加えた。
共同声明では日本とNATOの協力強化方針を説明し、「ロシアと中国の軍事協力拡大への懸念」を強調。「東シナ海において武力やどう喝によって現状を変更しようとする一方的な試み全てに強く反対する」と言明し、「中台間の問題の平和的な解決」を呼び掛けた。
日本やオーストラリアなどアジア太平洋地域のパートナーも参加した昨年6月のNATO首脳会議は、中国が「体制上の挑戦」だとの認識で一致し、中国とロシアの戦略的パートナーシップ強化について警告していた。
●深刻化するアフリカ食糧危機、プーチン大統領の目論見は? 1/31
世界は大きなうねりの中にある。
まもなくウクライナ戦争の開戦から1年。現在も収束の兆しはなく、刻々と変化する戦況に世界中が揺り動かされている。
昨夏には各国で深刻な干ばつや大水害が起こり、世界中が極端な異常気象に見舞われた。
一方で、コロナ禍によるさまざまな制限が少しずつ緩和され、世界を行き来する自由も戻りつつある。
戦場カメラマン・渡部は昨年、ウクライナを中心に世界を撮り続け、「1000枚の戦場」としてシンクロナスで発表してきた。
戦場のリアルを見続けてきた渡部が語る、2023年の世界情勢を紹介する。TVなどでは報道されない、喫緊の“世界のうねり”――。
2023年も続く、ウクライナの苦しみ
こんにちは、戦場カメラマンの渡部陽一です。
今回は、世界を回るなかで僕が感じた、2023年に注目するべき国際情勢、ウォッチしていきたい国、それらの予想や展開をお伝えしたいと思います。
まず、2022年は「ウクライナ戦争」によって、世界情勢が引きずり込まれ、悲しい時間を突きつけられてきました。2023年も、ウクライナ戦争が尾を引く、または悪化することも想定しています。
こちらの美しい写真は、ウクライナの首都キーウにある「ウクライナ正教会」の教会です。
こういった教会は街中にいくつも点在しており、たくさんのオペラ劇場や、伝統的な建築技法の街並みが広がり、それこそ世界中の人々が、その美しい建造物をひと目見ようと足を運ぶ芸術の都です。誇り、尊厳、美しさ、歴史など、さまざまな魅力あるウクライナですが、今は戦争の苦しみの真っ只中です。
核弾頭保有数 世界第一位の「ロシアの圧力」
ウクライナのゼレンスキー大統領と国民が連帯し、欧米諸国から武器の供与、戦略・戦術などの後方支援を受けながら、ロシア軍に対して少ない兵力で効果的な戦いを繰り広げていることは事実です。
ただ、絶対的な兵力を持ち、約5800発という核弾頭保有数世界第一位のロシアは、核による抑止力を使ってきています。ウクライナ北部のベラルーシで長距離弾道ミサイルの軍事演習を行ったり、ロシアの陸海空軍が、ロシア全域で同様の軍事演習を繰り返しています。
これらは、欧米諸国、特にアメリカ、ドイツ、フランスなど、対ロシアとして軍事支援を行う国々に対する「核の圧力に向き合うのか?」というメッセージ。
2023年、ロシアのプーチン大統領は、ゼレンスキー大統領をなにかしらの方法で排除し、勝手な大統領選を行い、ロシア寄りの大統領を立て、ウクライナをロシアの完全同盟国に落とし込もうとするだろうと、僕は想定しています。
それは、隣国のポーランド、ルーマニア、ハンガリーなどのヨーロッパ諸国が、ロシアの国境と直接向き合わないように、まるでサンドイッチのように、ウクライナを軍事的な緩衝地帯とすることが、プーチン大統領の戦略的イメージだと見ています。
一方で、ウクライナ側の軍事的圧力や、欧米諸国の外交圧力、経済制裁による効果が、2023年には表に出てくるのではないかというメッセージも現場では広がっています。ウクライナ戦争、2023年もつばぜり合いが続くと僕は感じています。
「食糧危機」から生じる、暴動、デモ、テロ組織
ウクライナ戦争は、世界中の国々にも大きな悪影響を及ぼしています。特に「世界食糧危機」が深刻さを増しています。
穀倉地帯であるウクライナ。トウモロコシ、サトウキビ、ひまわり油、特にパンやパスタの原料となる小麦は、世界トップクラスの産出量を誇っています。
ウクライナ産の小麦に頼ってきた中東やアフリカ大陸の国々は、戦争によって小麦が入ってこないため、食料の価格、特にパンの価格が高騰しています。生活が厳しいだけでなく、主食であるパンも買うことができない。生活そのものが成り立たなくなっていく。
不安定な情勢によって、国民の怒りが暴動となり、国家を揺さぶるほどの大規模なデモ、反政府抗議活動が広がっていく可能性が指摘されています。
さらに情勢が不安定になると、政権そのものを崩壊させようと、国際テロ組織といった世界情勢に関わる武装組織が、それぞれの国や地域で暗躍。武器をみせ始める時期を迎えているのでは、と感じています。
SDGsを掲げ、世界規模でアンテナを向けたい「砂漠化」
この写真、映画『アラビアのロレンス』のワンシーンのような砂漠の地平線。これは、インドとパキスタンの国境に広がるタール砂漠です。
パッと見れば美しい風景ですが、僕が世界を回っていて強く感じた変化が「砂漠化」です。
パキスタンやインドでは、タール砂漠が町を飲み込んでいく状況が続いています。ほかにも、アフリカのサハラ砂漠や、中国北西部のタクラマカン砂漠など、世界中が砂漠化によるさまざまな影響を受けていると強く感じています。
砂漠化が進めば、水の問題や、穀物の産出に影響を及ぼし、緑地化を進めていた場所までもが壊されてしまいます。
今、世の中で大きなうねりとなっている持続可能な開発目標「SDGs」。豊かな地球環境、限られた資源を、国境、領土、民族、国籍問わず、皆で支えていく。そういった地球規模での連携や支援が広がってきています。
ただ、それらの支援が必要になった要因は、人間が自然環境に強烈な負荷をかけ、破壊し、自然を無視した開発や、戦争による締めつけによるものであると、世界中の前線を回っていくなかで感じました。
SDGsという開発目標を掲げながら、環境破壊を止め、見つめていくなかで、この「砂漠化」というものにも、世界規模でアンテナを向ける必要があると感じています。
●ポーランド、国防費を大幅増 ウクライナでの戦争を受け 1/31
ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は30日、国防予算を大幅に増加させると発表した。ウクライナでの戦争を受け、変革が必要だと説明した。
ロシアがウクライナを侵攻して以降、ヨーロッパの国々は軍事支出を増やしている。ポーランドはその最新例となる。
同国の軍事予算は現在、国内総生産(GDP)の2.5%弱となっている。
モラヴィエツキ首相は、これを今年増やすと表明。「ウクライナにおける戦争を受けて、私たちは軍備拡大をさらに加速させる。そのため、今年は前例のない努力をする。GDPの4%をポーランド軍に充てる」とした。
また、国防予算のGDP比4%は、「北大西洋条約機構(NATO)加盟国で(中略)最高比率かもしれない」と付け加えた。
ポーランドは、北部でロシアの飛び地カリーニングラードと接している。
これまでに、アメリカのエイブラムス戦車116台の購入を明らかにしており、最初の納入が今年春に始まる予定。
ロシアによるウクライナ侵攻では、モラヴィエツキ首相はドイツに対し、同国のレオパルト2戦車をウクライナに供与するよう強く呼びかけた。
欧州諸国の軍事費増の動き
ロシアがウクライナを侵攻してから、多くの西側諸国が軍事費を見直した。そして多くの場合で、大幅に増加させた。
NATO加盟国は、2024年以降はGDPの2%以上を軍事費として支出することで合意している。NATOは長年、この2%を目標にしてきた。
フランスは最近、ウクライナでの戦争も理由に、軍備を大幅増強させる計画の概要を発表。2024〜2030年の7年間の予算を4130億ユーロ(約58兆円)に増やすとした。直前の7年間の予算は2950億ユーロだった。
スウェーデンとフィンランドは、NATO加盟に向け、軍事予算の大幅増を発表している。
ドイツは、昨年2月にロシアが侵攻を開始した数日後、軍予算を1000億ユーロ上積みすると宣言した。
イギリスは昨年6月、当時のボリス・ジョンソン政権が、GDPの2.5%に軍事支出を増やすと約束した。
 
 

 

●プーチン氏、アルジェリア大統領と電話会談 エネルギー市場での協力巡り 2/1
ロシアのプーチン大統領は31日、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」およびガス輸出国フォーラム(GECF)における世界のエネルギー市場での協力について、アルジェリア大統領と電話会談を行ったと、ロシア通信(RIA)がロシア大統領府(クレムリン)の発表として報じた。
●アルメニア首相、プーチン氏にナゴルノ巡る危機打開を要請 2/1
アルメニアのパシニャン首相はロシアのプーチン大統領に対し、アゼルバイジャンとの係争地ナゴルノカラバフにおける人道的危機について伝え、打開に向けてロシアが必要な措置をとることの重要性を「強調」した。アルメニア政府が31日、発表した。
声明で「ナゴルノカラバフにおけるロシアの平和維持軍の活動について言及した」と指摘。ナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の陸路「ラチン回廊」におけるアゼルバイジャンによる封鎖をロシアの平和維持軍に止めさせるよう要請したという。
ナゴルノカラバフはアゼルバイジャン領内と国際的に認められているが、12万人の住民は主にアルメニア人となっている。
ラチン回廊においては環境活動家を名乗るアゼルバイジャンの民間人が12月12日以降、ロシアの平和維持軍と対峙。アルメニア政府は、抗議者たちは政府の支援を受けた扇動者と指摘する一方、アゼルバイジャン政府は回廊封鎖を否定し、一部の援助物資などの運搬を認めているとしている。
ロシア大統領府(クレムリン)は「ロシア、アルメニア、アゼルバイジャンの指導者による三カ国間合意全体の一貫した実施の重要性に重点を置きながら、ナゴルノカラバフにおける現在の状況が議論された」とした。
その後、ロシアのラブロフ外相がアゼルバイジャンのバイラモフ外相との電話会談で「ラチン回廊周辺の状況を解決する方法」について協議。ロシア外務省の発表によると、ラブロフ外相は、ロシアにはこの対立を仲裁する用意があると述べたという。
●「違法動員」の9000人が帰宅 ロシア検事総長 2/1
ロシアのクラスノフ検事総長は31日、「違法に動員」された9000人余りが帰宅したとプーチン大統領に報告した。
クラスノフ氏はクレムリン(ロシア大統領府)でプーチン氏と会談し、監視の取り組みにより、健康上の理由など、いかなる場合であっても動員されるべきでなかった人を含めて違法に動員された民間人9000人余りが帰宅したと伝えた。
クラスノフ氏は、ロシアでは長い間、動員は行われていなかったが、今回の動員で多くの重要な問題が明らかになったと述べた。
クラスノフ氏によれば、防弾チョッキや制服を前線に供給する問題は大部分が解決された。
動員された兵士に対する冬服の支給や、適切な倉庫の構築とその安全性について、管理ができているという。
ウクライナに派遣された兵士から基本的な装備でさえ不足しているとの声が出たことを受けて、ロシアの民間人は兵士に装備を送るためクラウドファンディングを利用していた。
ロシア軍がウクライナで立て続けに後退を余儀なくされたことを受けて、プーチン氏は昨年9月、「部分的動員」を発表していた。
●実は日本も関わっている、ロシアの「勢力圏」中央アジアの「法と制度」 2/1
ロシア「勢力圏」にある中小国のしたたかさ
「ロシアは父、ウクライナは弟、タジキスタンは息子」
筆者はタジキスタン駐在中、ロシアとその他旧ソ連諸国との関係性について、タジキスタン人が半ば自嘲気味にこう言及するのを幾度か耳にした。
「父と子」の関係性に対する「子」の積年の不満は、2022年10月にカザフスタンの首都アスタナで開催された独立国家共同体(CIS)首脳会合における、タジキスタンのラフモン大統領からロシアのプーチン大統領への次の発言から看取される。
「ソ連時代のような宗主国的振る舞いをしてほしくない、中央アジアの小国であっても敬意を払ってほしい」と。公の場でロシアに対する不満を表明するのは異例のことであり、同発言は中央アジア諸国のロシア離れとして日本のメディアでも報じられた。
もっとも、その真意をめぐっては諸説あり、ロシアの苦境を機に投資や援助等を引き出そうとする外交上の駆け引きといった見方も示されている。
しかし、ロシアの家父長的ないし大国主義的な振る舞いに不満や恐れを抱く人々がいる一方で、概して中央アジアでは、ロシアへ親近感を持つ人々も少なくない。また、現在の格差社会を嘆き、ソ連への郷愁の念を口にする者もいるのも事実だ。
『アステイオン』97号「特集 ウクライナ戦争──世界の視点から」 では、ウクライナ戦争について、国際政治学、国際経済学、地域研究、歴史学など多様な角度から議論が展開され、示唆に富んだ様々な論点が提示されている。
なかでも、竹森俊平氏のロシア強権主義の原点を経路依存性に求める見方は、比較法、法と開発を研究する筆者の問題意識とも重なり大いに刺激を受けた。
そこで以下では、国際協力実務経験を素材にロシアの「勢力圏」とみなされる中央アジアから見た冷戦終結後の制度変化の素描を通じて、この見方を比較法および法と開発研究の視角から掘り下げてみたい。
社会におけるゲームのルール「制度」と体制転換
冷戦終結後、開発援助機関は、市場経済化と民主化を旗印に旧ソ連諸国、中・東欧諸国の体制転換に向けた大規模な支援を実施してきた。そこでは「制度」こそが経済パフォーマンスの決定要因であると仮定され、支援に際して、新制度派経済学を理論的支柱に「制度」が重視された。
ここで言う「制度」とは社会におけるゲームのルールである。これにより、「法」は体制転換という制度変化を促す原動力としてにわかに注目を集めるようになった。
ロシア法というレンズを通しての理解
実はこの「法」と「制度」に日本も関わっている。日本の法分野への国際協力(以下、「法整備支援」と称す)は、旧ソ連諸国についてはウズベキスタンを中心に中央アジアで2000年代初め頃から開始され、筆者自身も2005年10月から2011年3月まで日本の政府開発援助(ODA)によるウズベキスタンでの法整備支援プロジェクト等に従事した。
当時、計画経済から市場経済移行のための主要な法制定は、ロシア法経由でひととおり整備されたところであった。
ロシア法の移植に加えて、裁判実務においてロシア法の解説書が参照され法学教育でロシア法の教科書が用いられるなどロシア法の影響は大きく、当時筆者がウズベキスタンで目の当たりにしたのは、まさにロシア法というレンズを通した市場経済化や民主化、あるいはその理解といっても過言ではなかった。
民商事法をはじめとする基本的なビジネス法が整備されれば、経済活動が円滑に進むかというと必ずしもそうはいかない。
世界銀行グループの国際金融公社(途上国の民間セクター開発を専門とする開発援助機関)が当時年次刊行していた『ウズベキスタンにおけるビジネス環境』によれば、頻繁な行政調査や、行政庁による営業の許可およびその取消しといった行政行為の恣意性および不透明性が中小企業の経済活動を阻害していた。
このような状況下で、行政行為の透明化・適正化を図る日本の法整備支援プロジェクトが始まった。ところが、ソビエト法をほぼそのまま引き継いだウズベキスタン行政法には、「行政行為」という法概念がそもそも存在していなかったのだ。
「行政行為」とは、行政庁が法令に従って、国民の権利義務を具体的に決定する行為のことである。行政庁による営業の許可やその取消しは日常的に行われていたが、「許可」や「取消し」を一般化した法概念(行政行為)は存在しなかった。
法令が定める「許可」や「取消し」の審査基準はブラックボックスであることが多く、行政庁には巨大な裁量が認められていた。行政庁は、免許の取消しのような国民にとって不利益な処分を下す場合において、国民へその理由を開示することもほとんどなかった。
さらに、ウズベキスタンにおける行政法は、日本や欧米諸国のように行政による侵害からの国民の権利保護を目的とするものではなく、端的に言えば、行政上の義務違反によって公共の秩序を乱した者の責任を追求し処罰するための法と理解されていた。
ソビエト法においては行政と国民の利益が対立しうるという発想に乏しい上に、行政に対する司法審査を十分に制度化していなかった。したがって、行政行為を不当とする者が取りうる法的な救済手段の第一は、裁判へ訴えるのではなく、ソビエト法の遺制である行政機関への訴願であり行政の自己規律に依っていたのだ。
このような行政法理解や救済の仕組みには、ソ連時代の社会主義的な国家権力観が色濃く残っている。すなわち、ソ連では、国家権力は一体不可分のものとして把握され、国家権力が憲法に拘束されるという発想は希薄であった。
そして国家権力と国民は、政府と共産党こそが国民にとって公益が何たるかを熟知しているというパターナリスティックな関係にあった。
論考「二つの神話の崩壊とエネルギー地政学の復活」を寄せた竹森氏は、このような強権主義の原因について、ロシア政治史専門家のリチャード・パイプス氏等に依拠しながら、中世西欧に成立したような封建制度が歴史を通じてロシアに確立しなかったことに求める。
ソ連解体後に導入された「国家権力が憲法に拘束される」という立憲主義は、「行政行為」と同じく、ロシアや中央アジア諸国にとって外来の馴染みのない法原則であった。比較法の研究対象である法移植論では、馴染みのない法の移植は当該社会に根付く難易度が高いとされている。
依然として残ったソビエト法的思考回路
上述の日本の国際協力による行政行為の透明化・適正化を図る法整備支援プロジェクトが開始された2005年には、ソ連解体から14年経過し、憲法には権力分立が定められ、市場経済に適合的な民商事法が制定されていた。
しかし、ソビエト法的な国家権力観は行政法だけでなく人々の法的思考に依然として残っていた。その大きな原因は、法学教育では法律の暗記が中心であり、体制転換後の法制度運用に必要な法的思考を教授できる学識者が圧倒的に不足していたことにある。
経路依存性を有しない法の移植とその運用のために
法整備支援プロジェクトの支援対象の一つであった行政手続法は、行政による侵害から事前に市民の権利や利益を保護する性格を有することから、ソビエト法的な国家権力観に自ずと変更を迫るものであり、日本だけでなくドイツや米国の開発援助機関も支援していた。
同法は、日本の法整備支援プロジェクト期間中に制定されることはなかったが、2017年12月に国会で採択、2018年1月に大統領に裁可され、2019年1月に施行されるに至った。起草に着手してから約15年の年月が経っていた。
経路依存性を有しない法を当該国が内発的に制定するには時間を要する。さらに、移植された法を運用するには、その法の根底にある価値や原理を理解し、法的思考方法を身につけた法律家の厚い層が求められよう。
多数の法曹を輩出しているタシケント国立法科大学に、日本の支援で設置された日本語で日本法を教育する名古屋大学・日本法教育研究センターがある。
筆者は同センターの学生へ講義したとき、彼らの知への渇望に圧倒された。これら学生の中には日本の大学院へ留学し、後に母国で行政法研究者となった者もいる。筆者をその知的好奇心で圧倒した学生の一人は、今や、共同研究仲間となった。
法を運用するのは結局のところ人である。とすれば、上述のような法律家を自前で養成できるよう、法学者ないし学識者を育成する長期的視野に立った息の長い支援──例えば留学、教科書・学術書作成など──こそが効果的ではないだろうか。
●ロシア・ウクライナ、節目巡り心理戦 大規模攻勢「2月24日説」 2/1
ロシアのウクライナ侵攻は2月に差し掛かり、24日の丸1年の節目が間近に迫る。
プーチン政権が一方的に「併合」した東・南部の戦闘と並行し、双方のどちらが戦争の長期化に耐え得るかを巡る心理戦が展開されている。ロシア軍による都市部への空爆や砲撃が続き、民間人の死傷にも歯止めがかからない状況だ。
「プーチン政権は新たな大規模攻勢を準備し、2〜3月にも踏み切る可能性がある」。米ブルームバーグ通信は1月27日、クレムリン(大統領府)関係者の話を伝えた。昨年秋から劣勢と撤退が続く中、戦局の主導権をウクライナから取り戻すのが狙いという。
侵攻1年の節目に攻勢があるとウクライナ側で警戒されてきたが、今回の報道は「クレムリンが認めた」という点で異例だ。ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記も2月24日説について「彼らが言う通りで、秘密でも何でもない」と指摘した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、敵軍撤退を柱とする10項目の和平案を国際社会に提示。実現に向け、国連本部での「平和サミット」開催を目指すが、ロシア包囲網の強化が目的なのは明らかだ。ロシア側が攻勢の準備をほのめかす背景には、ウクライナの計画を頓挫させる思惑もありそうだ。
「ロシアは長期化させ、われわれの戦力を消耗させようとしている」。ゼレンスキー氏は1月29日の動画でこう述べ、西側諸国の兵器支援を急ぐよう訴えた。本命視するドイツ製の主力戦車「レオパルト2」は保有国から順次引き渡される予定だが、運用が難しい米国の主力戦車「エイブラムス」は今年中に間に合わない可能性もあると伝えられている。 
●フランス、ウクライナに榴弾砲を追加供与 戦闘機も「排除せず」 2/1
フランスのルコルニュ国防相は31日、ロシアが侵攻を続けるウクライナへの軍事支援として、自走榴弾(りゅうだん)砲12門を追加供与すると発表した。これまでに18門を提供している。パリを訪れたウクライナのレズニコフ国防相との共同記者会見で明らかにした。
ルコルニュ氏は、仏軍関係者150人をウクライナの隣国ポーランドに派遣し、ウクライナ兵の訓練に当たる方針も示した。
一方、マクロン仏大統領は30日、ウクライナに戦闘機を送る可能性について「排除されない」と発言。ただ、戦争を拡大させないことなどが条件だとも強調した。ウクライナは西側諸国に、戦闘機や長射程ミサイルの供与を求めている。
●ウクライナへ戦闘機供与 英報道官「現実的でない」 2/1
ロシアが侵攻するウクライナへの軍事支援として、戦闘機を供与するかどうかについてイギリスの首相官邸の報道官は「供与は現実的ではない」と話し、消極的な考えを示しました。
イギリスメディアによりますと、首相官邸の報道官は31日、「イギリスの戦闘機は非常に高性能で、操縦方法を習得するのに何か月もかかる。それを考えると、戦闘機のウクライナへの供与は現実的ではない」と述べたということです。
その一方で「ウクライナへの軍事支援は継続・加速し、要望には注意深く耳を傾ける」と強調しました。 
●「プーチンは戦争から手を引いた」──元ロシア軍情報将校 2/1
ロシアの軍事ブロガーでウクライナにとってはテロリストのイーゴリ・ギルキンは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻の進め方を痛烈に非難する見解を発表した。
イーゴリ・ストレルコフという名でも知られるギルキンは、元ロシア軍情報将校で、2014年のロシアのクリミア併合で重要な役割を果たし、ウクライナ東部ドンバス地域の紛争でドネツク人民共和国の武装勢力を組織した。
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ウクライナにおけるロシアの軍事的失敗や、プーチンと軍司令官たちの欠点についてギルキンは鋭く、手厳しい評価を下した。
1月30日にSNSの「テレグラム」に投稿した動画で、ギルキンはロシアのいわゆる「特別軍事作戦」は、動員が進まないために「失敗」に終わることを2022年5月の時点で予測していたと語った。
この戦争の間に、海外からの物資の供給が途絶え、ロシアの製造業は「崩壊した」と彼は述べた。そして、戦争を遂行しているロシアの「将官と官僚」を非難した。彼の見解によれば、このような連中のもとでは、「本当の意味で動員も準備も行えないし、戦争もできない」
昨年夏と同じ泥沼へ
プーチンは昨年9月に動員令を発表したが、召集には「ブレーキ」がかかっている。総動員令を発令せずに部分動員に留めたからだ。ロシア軍は現在の兵員ではやっていけない、とギルキンは考えている。
「だからプーチンは特別軍事作戦の指揮から完全に手を引き、セルゲイ・ショイグ国防相に委任したが、ショイグの戦争準備はひどいものだった」とギルキン氏は言う。「あれを準備と呼べるかどうかさえ、わからないが」
「すべてが昨年の夏と同じ道をたどっている」とギルキンは言う。当時ロシア軍はウウライナの反撃で手痛い挫折を味わった。「戦いの場が(東部ドネツク州の)ピスキーではなく、バフムトになっただけだ」
昨年8月、ロシア軍はピスキーを掌握したと発表したが、ウクライナ側はこれを否定した。バフムトをめぐる戦いはもう数カ月にわたって続いている。
ウクライナのアントン・ゲラシチェンコ内務省顧問はギルギンの動画をリツイートし、「テロリストのギルキン=ストレルコフが、戦争の準備を怠ったロシア指導部とロシア軍を批判し、ロシアが戦争に負ける運命にあると予言している」とコメントした。
愛国で反プーチン
2014年に始まったウクライナ東部ドンバス地方での戦争の首謀者の一人として、ウクライナはギルキンを誘拐と殺人容疑で起訴している。また、2014年のマレーシア航空17便撃墜事件で乗員乗客298人全員を殺害した容疑でも訴追され、2022年11月にはオランダの裁判所に終身刑を言い渡されている。
ロシアでは昨年、政府の軍事作戦に対する批判を厳しく禁じる法律が施行されたが、ギルキンはプーチンやロシア国防省を非難しても罰を免れている。
それは、キルギンの見解は退役軍人を含むロシア軍や治安組織内のかなりの勢力の意見を反映しているものの、「彼自身はそれほど重要な存在でないからだ」と、ロシア専門家でコンサルタント会社マヤク・インテリジェンスのディレクター、マーク・ガレオッティは、1月29日のポッドキャスト番組で述べた。
「ロシア政府はキルギンを殉教者にするのではなく、安全弁として利用するのが最善だと判断したのだろう。勢いを増すこうした愛国主義の反プーチン勢力が何を考えているか、まったくわかっていないのだろう」
●「ロシアは勝てないが、ウクライナも勝てない」──「粘り勝ち」狙いのプーチン 2/1
ロシアのウクライナ侵攻が始まって11カ月。8年も続く紛争の最終段階でもあるこの侵攻が、近いうちに終わることはまず期待できない。
昨年2月24日の侵攻開始後まもなく停戦交渉が始まったが、双方の要求に決定的な隔たりがあり協議は難航を極めた。しかもウクライナでは、首都キーウ(キエフ)郊外からロシア軍が撤退した後、むごたらしい住民虐殺の証拠が見つかると、徹底抗戦を求める声が一気に高まり、4月までに交渉は完全に頓挫した。
戦争を終わらせるには交渉が必要なことは双方とも認めるが、ウクライナとロシアの現実認識は大きく懸け離れている。ウクライナが望むのはロシア軍の全面撤退と領土の完全回復、賠償金の支払い、ロシアの戦争犯罪が国際法廷で裁かれること、NATO加盟によりロシアの軍事的な脅威から自国が守られることだ。
一方、ロシアは部分的に占領したウクライナの4地域の「併合」を正式に承認するよう国際社会に求めるとともに、ウクライナの「非武装化」と「非ナチス化」を引き続き作戦目標に掲げている。
ウクライナは昨年11月、10項目から成る和平案を提示し、2月に国連を巻き込み「平和サミット」を開催することを提案した。いずれも既にロシアは拒否しているが、ウクライナはこの2案に西側の主要国の賛同を取り付け交渉の枠組みを設定したい考えだ。
もっともロシアは春に大規模な攻勢を開始するとみられ、ウクライナも反撃の準備を進めている。どちらも交渉のテーブルに着くどころではなく、「長丁場になると覚悟すべきだ」と、イボ・ダールダー元米NATO大使はクギを刺す。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に「腹を割った会談」を呼びかけたこともある。だがゼレンスキーの顧問ミハイロ・ポドリャクの見方は厳しく、プーチンは「責任を逃れたいだけで、交渉などする気はない」と吐き捨てている。
ウクライナが和平の条件として挙げた10項目には、ロシアが占領したザポリッジャ原子力発電所周辺を安全保護区に指定することや、捕虜と連行された人たちの解放などが含まれる。加えてNATOに代わる新たな安全保障の枠組みづくりも提案している。
これらの要求は「ウクライナだけでなく世界全体にとっても非常に重要なものだ」と、ウクライナ内務省の顧問を務めるアントン・ゲラシュチェンコは本誌に語った。
しかし和平の条件をあまり高く設定すると、裏目に出る恐れがあると、ロシア専門家のニコライ・ペトロフは警告する。「ロシアはこの戦争に勝てないが、おそらくウクライナも勝てないだろう」
勝者なき状況ではロシア軍の完全撤退は「非現実的」な要求だと、ペトロフは言う。
プーチンの描く勝ち筋
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はウクライナの10項目の提案を「ただの幻想」だと一笑に付した。ロシアは今も侵攻時に掲げた戦争目的を撤回する気配を見せておらず、ゼレンスキー政権打倒も含め全ての目的を完遂する構えだ。
プーチンは持久戦に持ち込んで「我慢比べ」をするつもりだと、ペトロフは言う。「今はロシアもウクライナも(春の)大攻勢に向けて準備を進め、双方とも今より支配地域を広げるつもりでいる」
そのため現段階ではどんな形にせよ交渉が始まることは期待できない、というのだ。
プーチンが譲歩することはどう考えてもあり得ないと、ペトロフは断言する。「プーチンはウクライナが劣勢に追い込まれ防衛能力を失うまで辛抱強く待つ気でいる。持久戦になればロシアにはるかに勝ち目があるとみているのだ。その見方には一理ある」
粘りに粘ってずるずる戦争を続ければ、ウクライナと西側は精根尽きて、ロシアは「まずまずの勝利」を挙げられる。それがプーチンの狙いだと、ペトロフはみている。
もっとも、今のところウクライナを支援する西側諸国に「支援疲れ」が広がる兆しはない。アメリカなどで極右のノイジー・マイノリティー(声高な少数派)が終わりの見えないウクライナ支援に不満を唱えているだけだ。
プーチンは西側の一部に見られるこうした不満が組織化され、支援つぶしの一大勢力になることを期待していると、ペトロフは言う。「大規模な支援をしているのに一向に状況が好転しなければ、世論は支援を続けることに意味があるのかと騒ぎ出すだろう」
プーチンが失墜すればどうなるか。たとえトップの首がすげ替わっても、いきなり方針が変わることはまずないと、元米NATO大使のダールダーは予想する。
彼によれば、プーチンの命運は作戦の成功に懸かっている。
「失敗したらロシアはおしまいで、プーチンもおしまいだ。もしもプーチンが失敗したら、後を継ぐのはさらに強硬な連中だろう。(クレムリンには)ハト派はいない......いたら投獄されている」
昨年12月にゼレンスキーはワシントンを訪問。ジョー・バイデン米大統領は、2人は戦争の終結について「全く同じビジョンを共有している」と語り、2014年以降にロシアに占領された全ての領土を奪還するというゼレンスキー政権の目標を支持していることを示唆した。
ゼレンスキーの訪米を受けてロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、「ワシントンの会談で、ウクライナもアメリカも平和を求めていないことが分かった」と批判した。「彼らは戦闘を継続することだけを考えている」
米政府関係者は、ウクライナとロシアの交渉の再開はほとんど期待していない。一方で、アメリカがウクライナの要求を軟化させようとしている節もある。マーク・ミリー米統合参謀本部議長は11月に、14年にロシアに併合されたクリミア半島を、ウクライナ軍が近く解放できる見込みは「高くない」と述べている。
アメリカはウクライナの限界を認識する必要があると、ダールダーは言う。「ウクライナが勝つ可能性は低い。現実としてロシア軍はかなり深く食い込んでおり、少なくともウクライナ軍がハルキウ(ハリコフ)やヘルソンで行ったような戦略的な方法で彼らを追い払うことは、非常に難しいだろう」
開かれた扉のジレンマ
NATOとEUの指導部は、ウクライナが定義するウクライナの勝利を、引き続き支持することを明確にしている。イエンス・ストルテンベルグNATO事務総長とウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長は1月10日に共同の記者会見で、加盟国にウクライナへの武器供与を継続するように促した。
ただし、NATOとEUへの加盟というウクライナの究極の野望は、より複雑な状況に直面している。ゼレンスキーは加盟について「迅速な手続き」を求めたが、加盟諸国から非現実的だとして退けられた。ウクライナが欧州大西洋圏の仲間入りを果たすまでには、公には温かい言葉を投げかけられているが、長い道のりが待ち受けている。
NATOとEUの加盟を目指す方針はウクライナの憲法に明記されている。昨年6月にはEUの加盟候補国として承認され、9月末にNATO加盟を正式に申請した。
1月中旬に発表された新欧州センターの世論調査では、ウクライナ人の69%が自分たちのNATO加盟を排除するような和平交渉は考えられないと答えている。NATOは加盟を望む国への「開かれた扉」政策を断固として守り、ウクライナを排除しろというロシアの要求を拒否している。
一方、EUの主要国はロシアとの対話にも扉を開き続けるとしており、ウクライナをいら立たせている。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領とドイツのオーラフ・ショルツ首相はその先頭に立ち、ヨーロッパの大国が和平の名の下に、ウクライナに代償の高い譲歩を強いるのではないかという懸念を生んでいる。ただし、両首脳はここ数カ月、ウクライナへの軍事支援を大幅に拡大している。
NATOにとって、ウクライナの加盟は頭の痛い問題だ。ハンガリーとウクライナのような厄介な2国関係や、NATOが将来、ロシアとの対立に引きずり込まれるのではないかという懸念から、加盟30カ国が全て積極的に賛成することはないだろう。
ウクライナ大統領府は昨年9月、アナス・フォー・ラスムセン前NATO事務総長ら専門家と取りまとめた「キーウ安全保障協定」を提唱した。
これはNATO加盟までの防衛力強化として、欧米やカナダ、トルコ、オーストラリアなどと法的拘束力のある条約を結ぶというものだ。ウクライナをNATOの武器で武装したハリネズミに変えて、今後ロシアが侵略してきた場合はさらなる武器供与と懲罰的制裁が行われることになる。
安全保障協定の提案は、NATO加盟国の人命を危険にさらすことなく、ウクライナの長期的な安全を確保するための枠組みを示しているかもしれない。これが加盟への進入路になる可能性もある。
NATO諸国が戦車や装甲車、防空システムの供与を新たに約束したことは、ウクライナにとって心強く、西側の結束がプーチンやその同盟国が期待したようには弱まっていないという証しでもある。
「新たな武器の供与について発表があったということは、西側はプーチンの野望に終止符を打たなければならないことを理解したと言える」と、ウクライナ内務省顧問のゲラシュチェンコはみる。
ウクライナ政府関係者は、14年にロシアが侵攻して以降の東部のように停戦後も緊張状態が続く「凍結された紛争」は、受け入れ難いリスクだと警告する。「戦争が長引くことはウクライナ経済だけでなく、ヨーロッパや世界の経済にとってもグローバルな脅威となる」と、ゲラシュチェンコは言う。
西側は決して訪れない平和を待ってはならないと、ダールダーは言う。「ほとんどの戦争は、勝利や平和で終わるのではない。戦争は断続的に続く。だからこそウクライナの欧州大西洋圏への統合が優先されるべきだ」
NATOは無条件でウクライナを加盟させるのではなく、腐敗の撲滅や民主主義と法の支配の強化などの改革を求めるだろうと、ダールダーは言う。それでも(加盟申請中の)フィンランドとスウェーデンを除いて、申請時に現在のウクライナほど準備が整っていた加盟国はないという。
「ロシアが核保有国であるという現実と、ウクライナ支援とロシアとの対立激化を避けたいというバランス取りが、足かせになっている。そのバランスは常に変わり、NATOをめぐる議論に影響を与えている。だから誰も話したがらない。でも遅かれ早かれ議論しなければならないのだから、今、始めるべきだ」
●ムハンマド皇太子、プーチン大統領と電話会談を実施 2/1
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は1月30日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との電話会談に応じた。1月30日付サウジアラビア国営通信(SPA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、サウジアラビアとロシアの2国間関係や多くの分野の関係発展の道筋についてレビューを行うとともに、多くの相互の関心事について話し合いを行った。
一方、ロシア大統領府外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、政治、貿易、経済、エネルギー分野の2国間協力のさらなる発展や、世界の石油市場の安定をもたらすためのOPECプラスグループ内での協力について議論されたと発表した。
次回のOPECプラスの共同閣僚監視委員会(JMMC)は2月1日にオンライン形式で開催が予定されている。
●ロシア軍、バフムト包囲戦を強化 ウクライナ東部の要衝 2/1
ウクライナ軍事侵攻を続けるロシア軍が、ウクライナ東部の交通の要衝バフムトの包囲戦を強化している。主力部隊を投入し、1日には東部2州にあるロシア占領地の複数の幹部が、実質的に包囲したと主張した。ウクライナ軍は同日朝、ロシア軍をバフムトなどで撃退したと発表しており、激しい攻防が続いているもようだ。
東部ドネツク州のロシア占領地の幹部は1日、ロシア国営テレビで、同州北東部のバフムトを巡る戦況について「実質的に包囲し、包囲網を狭めている」と語った。ルガンスク州幹部も同日、ロシア政権系のテレビで「3方向から包囲した」と指摘した。
これに対して、ウクライナ軍参謀本部は1日朝、SNS(交流サイト)のフェイスブックで「(バフムトなど東部の前線で)ロシア軍は攻撃を止めていない」と発表した。バフムトやブラゴダトノエなどで「(ロシア軍を)撃退している」と強調した。
ロシア側によると、ウクライナ軍との攻防は特に、最後の主要な補給ルートとされるバフムト西方のチャソフ・ヤルとバフムトを結ぶ幹線の支配権を巡って激しさを増しているもようだ。
ウクライナ軍参謀本部は1日朝、過去24時間にロシア兵920人以上を壊滅させたと明らかにした。1日で900人を超えたロシアの側の人的損失について、ウクライナの通信社ウニアンは「記録的だ」と報じた。
ロシア側は、攻撃の主力だった民間軍事会社ワグネルの部隊が大きな損失を被ったことを受け、正規軍の主力部隊や東部占領地で招集した兵力の投入を急いでいる。
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は1月31日の戦況分析で、バフムトのウクライナ軍司令官の話として、ロシア軍が空挺(くうてい)部隊など正規軍を投入していると伝えた。
ISWはまた「ウクライナの司令部は容認しがたい損失のリスク(にさらされる)よりも撤退することを選ぶかもしれないが、バフムトがロシア軍により直ちに制圧されるとは予想しない」との見方を示した。
●東部ドネツクの集落制圧、プーチン大統領がボルゴグラードで演説へ… 2/1
ロシア国防省は1月31日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムト北方約10キロ・メートルの集落を制圧したと発表した。州都ドネツクの南西ウフレダルなどでも攻防の激化が伝えられている。プーチン大統領は2日、第2次世界大戦の激戦地だった露南部ボルゴグラード(旧スターリングラード)で演説する予定で、露軍は演説を前に戦果を誇示している。
バフムトのウクライナ軍司令官は、露軍について「戦闘力の非常に高い正規軍兵士が、民間軍事会社(ワグネル)の戦闘員を支援している」と米CNNに述べた。米政策研究機関「戦争研究所」は1月31日、「バフムトが直ちに陥落する可能性は低い」としながらも、過去に示した「露軍の攻撃は停滞する」との分析を修正した。
露大統領報道官によると、プーチン氏は2日、ロシアの前身・ソ連がナチス・ドイツに勝利する転機となったスターリングラード攻防戦の終結80年の記念式典に出席する。タス通信とロシア通信は1月末、プーチン氏が2月24日の侵略1年に先立つ20日か21日に、年次教書演説を行う方向で調整していると報じた。戦果を求められる露軍が今後、攻勢を強める可能性が高まっている。
●「ウクライナ甘く見た」 プーチン氏にNATO事務総長 2/1
欧米の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長が1日、東京都港区の慶応大で講演し、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について「大きなミスをしている。ウクライナ国民の勇気を甘く見た。そしてNATOと同盟国を甘く見ている」と述べた。学生の質疑に答えた。
1月31日に岸田首相と官邸で会談したストルテンベルグ氏は、ウクライナ侵攻や中国の軍事活動拡大に関する日本との共同声明に触れ「力による支配が世界に広がるのを防ぐため、NATOと日本は力を合わせて対抗するべきだ」と強調。「安全保障は地域単位ではなく地球規模で考えなくてはいけない」と訴えた。
●「我々は防弾盾だった」…脱走ロシア傭兵、戦場の惨状を暴露 2/1
「数えることができない。遺体が増えるほど、私の下により多くの囚人が補充されるということが繰り返された」。
ロシア傭兵企業ワグネルグループから脱走してノルウェーに入国した元傭兵アンドレイ・メドベージェフ氏(26)は先月30日(現地時間)、米CNN放送のインタビューで自身が率いた兵士の数を尋ねられると、このように答えた。
メドベージェフ氏は軍服務経歴があったため、昨年6月に傭兵契約を結んだ直後、激戦地の一つ、バフムトに投入され、現場指揮官として活動した。
メドベージェフ氏は「最初に自分の下に配置された人員は10人にすぎなかったが、その後、囚人を戦争に動員しながらその数が急激に増えた」と説明した。これはプーチン露大統領の側近、エフゲニー・プリゴジン・ワグネルグループ代表がロシア各地の矯正施設から囚人を傭兵として迎えて戦線に投入したからだ。
しかしメドベージェフ氏によると、このように補充された兵力の多数は作戦指示もまともに受けられないまま戦場に送り出されて犠牲になった。メドベージェフ氏は「実質的に戦術などはなかった。我々に下された命令にはただ敵の位置程度しかなく、どのように行動するかという明確な指示はなかった」と話した。メドベージェフ氏は自身を含むワグネルグループの傭兵を「防弾盾」と呼んで自嘲した。
こうした状況にもかかわらず、ワグネルグループの上層部は士気が落ちた傭兵を脅しながら操ったという。メドベージェフ氏は「彼らは戦闘を望まない人たちを取り囲んで新兵の目の前で銃殺した。戦闘を拒否した囚人2人をみんなの前で射殺し、訓練兵が掘った塹壕の中に埋めた」と伝えた。
メドベージェフ氏はワグネルグループを創立したプリゴジン代表とロシア軍特殊部隊将校出身のドミトリー・ウトキン氏に直接報告することもあったとし、この2人を「悪魔」と呼んだ。
また、プリゴジン代表がウクライナの戦線で戦死した囚人の傭兵の遺族に1人あたり500万ルーブル(約8700万ウォン、約920万円)の慰労金を支払うと約束したが、実際には「誰もそのようなお金を払うことを望まなかった。(戦死者の)多数はただ行方不明者として処理された」と主張した。
結局、昨年末に部隊から脱走したメドベージェフ氏はロシア内に潜伏し、最近国境を越えるのに成功してノルウェーに亡命を申請した。メドベージェフ氏はこの過程で10回以上も逮捕の危機に直面し、最後には白い服を着て凍結した川を渡ったと説明した。
メドベージェフ氏は自身の陳述がプリゴジン氏とプーチン大統領を法廷に立たせるうえで役に立つことを望むとし、「遅かれ早かれロシアでは宣伝戦が通用しなくなるはずで、民衆が蜂起して新しい指導者が登場することになるだろう」と主張した。
プリゴジン氏はCNNに送ったメールの声明で「現在までワグネルグループが保険金を支給しなかった事例は1件も記録されていない」とメドベージェフ氏の主張に反論した。
ワグネルグループが所属傭兵を防弾盾のように扱って即決処刑を繰り返したというメドベージェフ氏の発言に関しては「軍事上の事案」として言及を拒否し、「ワグネルグループは現代戦のすべての規範を遵守する模範的な軍事組織」と強調した。
●逃亡者は局部を切られ元凶悪犯の兵士4万人が消えた… 内紛勃発 2/1
前線にいた「ワグネル」の兵士約4万人が姿を消した――。
1月23日に独立系メディア『メデューサ』は、ウクライナでロシアの民間軍事会社「ワグネル」の被害が拡大していると報じた。全兵力5万人のうち前線で戦っているのは1万人で、残り4万人は死亡したかウクライナ軍に投降、もしくは逃亡したという。
「『ワグネル』は非エリート集団を自称し、プーチン大統領と親しいプリゴジン氏が創設した集団です。性質は横暴で残酷。プリゴジン氏はみずから刑務所におもむき、殺人やレイプを犯した凶悪犯を兵士として採用しています。彼らは半年ほどの契約で『ワグネル』に参加しているそうです。今年1月に一部の凶悪犯が前線から戻った際、『ワグネル』は彼らと幹部が握手する動画を公開しました。
幹部は、こう言って凶悪犯をねぎらっています。『君たちは半年間アドレナリンを使ったので、1ヵ月は事件を起こさないだろう。酒を飲み過ぎないように。ドラッグを使わないように。もうレイプをしないように』と。一方で逃亡兵に対しては、見せしめとして局部を切断するなど残忍な処置もとっているそうです」(全国紙国際部記者)
「失態続きの司令官は裸で前線に送れ」
ロシアでは傭兵を認めていない。「ワグネル」は非合法的な集団だが、正規軍でできない拷問や虐殺など残酷な手口で、一時ウクライナ東部のソレダルを掌握するなど華々しい戦果をあげたとされる。昨年末に動員された予備兵の敗退が続く中、ロシア内での存在感が増していたという。
「プリゴジン氏は、ロシア当局の幹部たちを『快適な生活を続け彼らの子どもたちは決して軍に動員されない』と批判します。一方で凶悪犯を『良心的だ』と絶賛。『失態続きのエリート司令官は裸で前線に送れ』と、過激な発言を続けたんです」(同前)
しかし欧米の最新兵器を次々に投入するウクライナ軍に対し、最近は「ワグネル」も大苦戦しているとされる。前線には「ワグネル」の兵士のものとみられる墓地が大量に出現。冒頭で紹介したとおり、兵士5万人のうち4万人が逃亡するなどして姿を消したというのだ。
「ロシア軍内では、内紛が勃発しているといわれます。囚人を動員してエリートを批判し、結果を出すためなら手段を選ばないプリゴジン氏への反発が大きいんです。以前は『ワグネル』を重用していたプーチン大統領も、苦戦続きのため徐々に正規軍へ重きを置くようになったといわれます。今年に入ってから『ワグネル』に代わり、精鋭の『空挺軍』を前線に投入していますから。
ただ、これまで自分たちがロシア軍を支えてきたという自負のある『ワグネル』も黙っていないでしょう。自分たちが軽視されていると自覚すれば、正規軍に公然と反発するかもしれません。ロシア軍が内部から分裂し、崩壊する可能性があるんです」(同前)
残忍な手段で戦果をあげてきた「ワグネル」。その凋落は、統制がとれていないロシア軍の現実を如実に表しているのかもしれない。
●ロシアが新STARTに違反し査察拒否 米当局者が指摘 2/1
米国務省の報道官は1月31日、ロシアが新戦略兵器削減条約(新START)に基づく査察を受け入れず、同条約に違反していると指摘した。
同報道官は声明で、ロシア側が拒否しているために米国は新STARTに基づく重要な権利を行使できないと主張。また、ロシアは同条約が定める日程に沿った二国間協議の開催にも応じていないと述べた。
新STARTは米ロ間で2011年に発効し、21年に5年間延長された。核関連施設の相互査察を義務付けているが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)により、査察は20年から停止している。
二国間協議は昨年11月末にエジプトでの開催が決まっていたが、突然中止された。米国務省報道官は、ロシア側が一方的に中止を決めたと述べた。
ロシアのリャブコフ外務次官は30日、ロシア国営RIAノーボスチ通信とのインタビューで、新STARTが26年に後継条約のないまま期限切れとなる可能性に言及し、「非常に可能性の高いシナリオだ」と語った。
ロシアのプーチン大統領は昨年12月、ウクライナでの軍事衝突は「しばらく時間がかかる」との見通しを示し、核戦争の脅威増大を警告。核先制使用の可能性を全面的には否定しないまま、自国が保有する核兵器は挑発でなく抑止のためとする認識を示した。
●G7首脳会議、24日開催へ 侵攻1年、ウクライナ支援 2/1
日本政府はロシアのウクライナ侵攻開始から1年を迎える24日に合わせ、先進7カ国(G7)首脳によるオンライン会議を議長国として開催する方向で調整に入った。実現すれば、岸田文雄首相が今年のG7議長として臨む初会合となる。対ロ制裁強化やウクライナ支援継続を確認。首脳声明を発表し、G7が結束して国際秩序を守り抜く決意を発信する方向だ。ウクライナのゼレンスキー大統領への参加要請も検討している。複数の政府関係者が1日、明らかにした。
ウクライナ情勢を巡っては、ロシアが春にも大規模攻勢を仕掛けるとの見方があり、米欧諸国はウクライナに戦車を供与するなど軍事支援を強めている。戦況が新たな局面に入るのを前に、G7でウクライナへの連帯を示す狙いがある。首相にとっては、5月の広島サミットでの議論に向けた環境整備の意味もある。
オンライン会議では、ロシアによるウクライナのエネルギー施設など重要インフラへの攻撃を「非人道的」と非難。ロシアを孤立させるため、国際社会が結束して制裁を強化する必要性を訴える見通しだ。
●スナク英首相、ウクライナ侵攻の膠着は「ロシアを利するだけ」 2/1
英国のスナク首相は1月31日、ロシアとウクライナとの紛争の「長期的な膠着(こうちゃく)状態」はロシアを利するだけだと述べた。発表された閣僚会議の内容から明らかになった。
スナク氏によれば、今回の結論に至った背景として、昨年10月に首相に就任して以降、英国の紛争への取り組みを検証したためだと説明。これを受けて、英国によるウクライナ支援を「加速させるための機会」だと判断したと述べた。
支援強化によって、ウクライナ政府に対して、ロシアが劣勢に立っている機会を最大限に利用し、成功の好機を与えることができるという。
スナク氏は、支援を加速させる英国の新しい戦略には、外交努力の強化や戦後の再建計画も含まれると述べた。
●ウクライナの前線は「肉弾戦」 逃亡のワグネル元指揮官が証言  2/1
ロシアが侵攻するウクライナの前線を離れ、北欧ノルウェーに逃れ亡命を求めているロシア民間軍事会社「ワグネル」の元指揮官とされる男性が、1月31日にノルウェー国営放送NRKが報じたインタビューで、前線は戦車にマシンガンで戦う「肉弾戦」だったと証言した。
男性はアンドレイ・メドベージェフ氏(26)。ウクライナで4カ月ほど戦闘に加わった後、今年1月13日にロシア国境を越えてノルウェー北部に入国した。ノルウェー警察当局が不法入国の疑いで身柄を拘束したが、1月下旬に釈放された。NRKによると、ノルウェー当局が亡命申請を審査している。
●ウクライナ高官 “今後2-3週間でロシア軍の大規模攻撃も”  2/1
ロシア軍が侵攻を始めて1年となる2月にも大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性があると指摘されていることについて、ウクライナ政府の高官は「今後2、3週間でそのシナリオになることを排除しない」と述べ、警戒を一層強めていると明らかにしました。
ウクライナでの戦況をめぐってアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は31日、ロシア軍はウクライナ東部のドネツク州で、ウクライナ側の拠点の一つバフムトの最前線に戦力を投入し、作戦の主導権を維持していると分析しました。
また、この戦闘では、これまで存在感を示してきたロシアの民間軍事会社のワグネルにかわり、ロシアの正規軍が主力を担おうとしているという見方を示しています。
一方、ウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は31日、イギリスメディアのインタビューで、ロシア軍が侵攻を始めて1年となる今月にも大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性があると指摘されていることについて「今後2、3週間でそのシナリオになることを排除しない」と述べ、警戒を一層強めていると明らかにしました。
また、ダニロフ書記は「大きな戦いの時はまだ来ていないと認識しているが、2、3か月以内に起きるだろう。それが戦争の今後数か月の行方を決定づけることになるだろう」と述べました。
ウクライナ軍は、欧米諸国から戦車に続き戦闘機の供与も求めるなど、さらなる軍事支援を訴えていて、ことし春以降に計画しているとみられる、大規模な反転攻勢に向けて戦力を整えたい考えとみられます。
●ウクライナ 欧米に戦闘機の供与も訴え ロシアは反発強める  2/1
ウクライナは領土の奪還に向けて欧米諸国から戦車に続き戦闘機の供与も求めるなど、さらなる軍事支援を訴えています。これに対し、ロシアは欧米の支援の動きに反発を強めています。
ロシア軍はウクライナ東部のドネツク州で、ウクライナ側の拠点の一つ、バフムトに加え、州都の南西に位置するウフレダル周辺でも部隊を前進させたとみられ、激しい戦闘が続いています。
一方、ウクライナのクレバ外相は31日、欧米諸国から供与される戦車をめぐり「第1弾として、最新型の欧米の戦車120から140両を受け取る」と述べました。
ポーランド首相「戦闘機供与はNATOとの協調が重要」
ウクライナは戦車だけでなく戦闘機の供与も求めていて、ポーランドのモラウィエツキ首相は30日、記者会見で戦闘機の供与について聞かれ、NATO=北大西洋条約機構の加盟国と協調して行うことが重要だとの考えを示しました。
リトアニア大統領「欧米は戦闘機供与に踏み切るべき」
また、バルト三国のリトアニアのナウセーダ大統領は30日、地元テレビ局のインタビューに対し、欧米側は戦闘機の供与に踏み切るべきという考えを示しました。
さらに、フランスのルコルニュ国防相は31日、ウクライナのレズニコフ国防相とパリで会談したあとの記者会見で、ウクライナに戦闘機を供与するかどうか質問されたのに対し「タブーはない」と応じました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は31日「バルト三国とポーランドは非常に攻撃的だ。さらなる対立を引き起こすためには何でも行う構えだ」と述べ、反発を強めています。

 

●ロシア領土への砲撃の可能性排除が「最優先」 プーチン氏 2/2
ロシアのプーチン大統領は1日、ウクライナ軍による砲撃からロシア領土を守ることを優先するよう国防省に命じた。
プーチン氏は住宅インフラの復旧に関するビデオ会議で演説し、同国内のベルゴロド、ブリャンスク、クルスクの各州、そして2014年にロシアによって違法に併合されたクリミアの住宅がウクライナ軍によって「損傷し、破壊された」と述べた。同氏はウクライナ軍について「ネオナチ軍による砲撃」と言及した。
また「もちろん、最優先課題は砲撃のあらゆる可能性をなくすことだが、これは軍事部門の仕事だ」とも述べた。
さらに、多くの人が困難な状況にあり、「家を失い、親戚の家か仮住まいに移ることを余儀なくされ、水や暖房、電気のない状況に直面している」と付け加えた。
ウクライナ軍はロシア領土への砲撃を公式に認めていない。
●ウクライナからのロシア領内への砲撃阻止すべき=プーチン氏 2/2
ロシアのプーチン大統領は1日、ロシア軍はウクライナからのロシア領内への砲撃を阻止すべきだと述べた。砲撃により多くの人々が家を失い、停電が発生しているという。
ウクライナと国境を接するロシア南西部の地域で破壊された住宅やインフラの復旧に関する政府の会合で演説し「もちろん、砲撃の可能性を排除することが最優先課題だが、これは軍事部門の仕事だ」とした。
ウクライナ側はロシア領内への砲撃を認めていないが、ロシアは侵攻によってウクライナの都市を破壊し、エネルギーインフラを組織的に狙い、冬季の停電や断水を引き起こしているため、ロシア領内への砲撃は「カルマ(報い)」との見方を示している。
プーチン氏は、住宅が被害を受けたり破壊されたりした地域として、ベルゴロド、ブリャンスク、クルスクのほか、2014年に併合したクリミアを挙げた上で、市民らが「非常に深刻な」問題に直面しており、修理や補償が必要とした。
●ウクライナでの戦争と文化戦争の交差 2/2
筆者はしばらく前から、安全な距離を置いて文化戦争をながめてきた。
文化戦争にからむ問題は興味深いこともある。だが、たちが悪く、人のキャリアを終わらせる論争の性質のために、実際に議論に加わることはやめた。
そのため自分の地政学的なレーンにとどまり、トランスジェンダーのトイレのような爆発的な題材を避け、ブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)や核戦争といった比較的物議にならないトピックを取り上げてきた。
西側は悪魔崇拝?
ところが今、不本意ながら、自分の安全空間である地政学が文化戦争と融合していると判断している。
ウラジーミル・プーチンの演説を見るといい。
ウクライナ侵攻を正当化するためにロシア大統領が挙げる理由は、安全保障や歴史だけに根差していない。
プーチンはますます、ウクライナでの戦争を文化戦争の一環として描くようになっている。
ロシアによるウクライナ4州併合を祝った昨年9月30日の演説では、プーチンは西側が「悪魔崇拝に向かっている」とか「子供に性的倒錯を教えている」と批判した。
さらに「我々は子供たち、孫たちを、彼らの魂を変えようとするこの実験から守るために戦っている」と主張した。
プーチンのロシアに引かれる文化的保守
こうした主張はロシア国民だけに向けられたものではなく、主にロシア人を目がけているわけでもない。
プーチンは西側の重要な構成要素とも戯れている。自国社会の退廃とされるものを嫌悪するあまり、プーチンのロシアに引かれる文化的保守派だ。
ウクライナでの戦争が勃発する直前に、ドナルド・トランプの首席戦略官を務めたスティーブ・バノンは自身のポッドキャスト番組で「プーチンはウォーク(woke、意識が高い系)じゃない。反ウォークだ」と語った。
これに対し、インタビュー相手のエリック・プリンスは「ロシアの人たちはまだ、どちらのトイレを使うか分かっている」と返した。
(編集部注:エリック・プリンスは民間軍事会社ブラックウォーターの創業者で共和党エスタブリッシュメントと深い関係がある)
同じ頃、恐らく米国で最も影響力が大きいトランプ派テレビ司会者であるタッカー・カールソンは視聴者に向かって、次のように自問するよう呼びかけた。
「プーチンは私を人種差別主義者と呼んだことが一度でもあるか。キリスト教を根絶しようとしているか」
「対ウォーク戦争」が共和党政治の核に
「対ウォーク戦争」は今、間違いなく共和党政治の中核をなしている。
こうした問題について、多くの共和党支持者は民主党よりもプーチンの方に親近感を覚える。
保守米国の鋭い分析で鳴らすジェイコブ・ハイルブランが最近筆者に語った言葉を借りると、共和党の極右は「プーチンのことを、伝統的なキリスト教の価値観の擁護者、LGBTQの反対派、トランスジェンダーの反対派、そして西側の台頭に貢献した男性的美徳の弱体化の反対派と見なしている」。
2021年には共和党上院議員のテッド・クルーズが、筋骨隆々とした丸刈りの兵隊でいっぱいのロシアの兵士募集広告と、レズビアンのカップルに育てられた女性兵士を取り上げた米国の広告とを比較した動画をリツイートした。
そしてクルーズは「多分、ウォークで去勢された軍隊は最も優れたアイデアではない」とコメントした。
ウクライナでのロシア軍の悲惨な戦績は、クルーズに返す言葉を示唆している。多分、自国の軍隊を容赦なく酷使し、砲弾の餌食かのように扱うことは最も優れたアイデアではない。
「男が男」だった過去への郷愁
だが、プーチンのロシアを礼賛することは今やそれほど流行しなくなったとはいえ、米国の右派は文化戦争における味方として、外国の別の権威主義者に飛びついた。
昨年5月、ハンガリー首相のオルバン・ビクトルは米国保守派の大規模集会「保守政治活動会議(CPAC)」のホスト役を務め、「ウォークさの夢に酔っている急進的なリベラル派やネオマルクス主義者、ジョージ・ソロスにカネで雇われている連中」に対する共通の戦いを仕掛けるよう呼びかけ、「彼らは西洋の生活様式を滅ぼしたいと思っている」と言った。
オルバンはプーチンに最も同情的なEU首脳と見られている人物だ。
ナショナリズムと反ウォーク運動が重なり合ったのは偶然ではない。
両者は国家的な偉大さと文化的な均質性の神話化された過去、「男が男」であり、女性と少数派がそれぞれの分をわきまえていた時代への郷愁によって結び付いている。
米国第一を掲げるトランプのナショナリストたちが、ハンガリーやロシアの仲間のナショナリストに親近感を覚えるのは意外ではない。
戦線には大きなズレ
だが、ウクライナでの戦争とウォークとの戦いの戦線が重なるとしても、決して同一ではない。
ポーランド政府は性的少数派のLGBT問題についてはオルバンと似た見解を取るが、ウクライナとロシアについては全く異なる路線を取る。
西側の味方と目される人々に近づこうとするプーチンの努力には、極端に不器用なものもあった。
プーチンはかつて、ロシアの運命を英国人作家のJ・K・ローリングの運命になぞらえようとし、ロシアが「キャンセル」されていると訴えた。
これにはローリングが辛辣な言葉を返し、「西側のキャンセルカルチャーの批判は多分、現在民間人を虐殺している人たちによってなされるべきではない」とコメントした。
分断をまたぐイスラエル
イスラエルはこの分断をまたいだ国の興味深い例で、文化戦争の問題では左に傾き、ナショナリズムについては極右の路線を取った。
イスラエル人は時折、「ピンクウォッシング」を批判される。
パレスチナ人に対する厳しい政策を覆い隠すために、LGBT問題についてのリベラリズムを利用しているというわけだ。
このアプローチは「ガザを無視し、我々の『ゲイ・プライド・パレード』を見よ」という言葉で要約できるかもしれない。
だが、ベンヤミン・ネタニヤフがトップに立つ現在の連立政権は、この慎重な両にらみを危険にさらしている。
政権には、医師は同性愛者の患者の診療を拒むことを許されるべきだと主張する宗教右派政党出身の閣僚がいる。
ネタニヤフは過去に、オルバンやプーチン、ゲイ叩きで鳴らしたブラジル前大統領のジャイル・ボルソナロと緊密な関係を育んだ。
だが、恐ろしいウォークなリベラルが確かに存在するホワイトハウスとの関係を維持しなければならないことも知っている。
文化戦争は今日の地政学的闘争の一部になった。だが、こうした紛争で重複する連合は、奇妙な同志を生み出している。
●ロシアとウクライナのはざまで揺れるIOCの苦悩 バッハ会長の手紙 2/2
国際オリンピック委員会(IOC)が1月25日に声明を出した。ウクライナとの連帯、オリンピック休戦を破ったロシアとベラルーシへの制裁、そして同国選手の立場について、IOC理事会がまとめた形だ。
IOCバッハ会長がゼンレンスキー大統領と会談 2034年五輪はウクライナで決まりか?
ロシア選手の五輪復帰を検討すると声明を出したIOCだが…
衆目が集まったのはロシアの選手がパリ五輪に出ることができるかどうかだった。来夏に迫るパリ五輪の予選は始まりつつあり、もしロシアとベラルーシの選手に門戸を開くとしたら、このタイミングでIOCは決心を表明する必要があったのである。
昨年、北京五輪終了直後にロシアがウクライナに侵攻したことで、IOCは隘路に陥った。スポーツで世界平和構築を唱えるオリンピズムに真っ向挑んだロシアに対する制裁は必然でも、その国の選手たちのオリンピックへの道を閉ざすことはオリンピズムに反する。しかし、現実に試合会場でロシアとウクライナの選手が戦うとすれば、戦時下では戦う相手国を強烈に意識せざるを得ない。背後に戦火で失われた友人が見えたりするだろう。IOCは国際競技連盟に対して、主催大会にロシアとベラルーシの選手を参加させない要請をしていた。
戦争をなくす手段としてのオリンピック休戦の思想を真摯に考えるべき時期に来ていると思った私は、昨年4月にバッハ会長に手紙を書いた。五輪憲章改正の提案である。要約すれば、「オリンピック休戦を破った国のオリンピック委員会は資格剥奪(五輪に代表を派遣できなくなる)。ただし、選手は参加資格宣言の署名によって五輪参加資格が得られる。その宣言には戦争反対が記載される」というものであった。
プーチンとゼレンスキーのはざまで揺れる
五輪参加意思のある国は必然的に休戦を守らなければならず、選手は自らの平和遂行意思を五輪参加によって達成できる。
10月に入って長文のレターが届いた。
「そのとおりだが、それを規定化する中で、戦争を起こした国の選手の危険性を回避できないジレンマがある」
ロシアでは戦争反対表明が15年の禁錮刑になるという。
IOCの今回の声明は私の主張をくみ取ってはいる。ロシアやベラルーシの選手が参加する道は示しつつ、彼らは国旗も国歌も国を示すものが一切ない状態で、IOCの平和使命を尊重しなければならない。ロシアからは「国の代表として認めろ!」という叫びが聞こえる中、IOCとしての精いっぱいだったのだろう。すると今度はゼレンスキー大統領から「IOCの偽善を正す。激しい戦火にバッハ会長を招待する。中立というものが存在しないことを自らの目で見ることができるだろう」と強烈に非難された。
プーチンとゼレンスキーのはざまで揺れ動くIOCの苦悩は続く。「奇麗事を言っている場合か?」ということだろう。ならばバッハはゼレンスキーの招待に応えてウクライナを再び訪れるべきかも知れない。昨年7月に訪れた時は、ウクライナ選手救援基金を250万ドルから750万ドルに引き上げると約束した。今度は五輪憲章改正を伝えたらどうだろう。ジレンマを打ち破り、「戦争反対を表明する者のみが五輪に参加できる」と。
そうなるとプーチンはもちろん、ゼレンスキーも五輪から排除されることになる。 
●「プーチンのレッドラインはモスクワ攻撃だ」──ロシア元外務次官 2/2
ロシアの元政府高官が、最近出演した国営テレビの番組の中で、ウクライナもしくはその同盟国によるモスクワ攻撃は「避けられない」との見通しを示した。
元外務次官で、ロシアの首相および副首相の顧問を務めたアンドレイ・フェデロフは、ロシアの外交政策アナリストであるマクシム・ユシンが司会を務める、国営テレビNTVの討論番組に出演。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が西側諸国にジェット戦闘機の供与を求めていることについて、ほかの有識者らと議論した。
その中であるパネリストがフェデロフに、ウクライナ軍に対する戦闘機の供与は、ウラジーミル・プーチン大統領の「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えることになり、彼が戦闘をエスカレートさせる引き金になるだろうかと質問。これに対してフェデロフは、戦闘機の供与はロシア政府の「レッドライン」には含まれないと答えた。
ではロシア政府は何を「レッドライン」と見なすか知っているか、と尋ねられると、フェデロフは「知っている」と答えた。具体的には「モスクワの司令部への攻撃だ」という。
それは「(ロシアに対する)攻撃を試みる」という意味かと問われると、「試みではなく実際の攻撃だ。今後行われることになる攻撃は、レッドラインと見なされることになる」とフェデロフは述べた。
以前もモスクワ攻撃を予想
ウクライナ内務省の顧問であるアントン・ゲラシュチェンコは、一連のやり取りの動画をツイッター上で共有した。
フェデロフがモスクワへの攻撃の可能性について、このような断定的な口調で予想を述べたのは、今回が初めてではない。
昨年10月にウクライナ軍が東部ドネツク州の要衝リマンをロシア軍から奪還したことを受けて、フェデロフや、NTVの同番組に出演しているほかの有識者たちは、ウクライナ軍の強さに驚きを示していた。
ウクライナ侵攻をロシアのテレビがどのように伝えているかを紹介しているYouTubeチャンネル「ロシアン・メディア・モニター」の創設者である、ジャーナリストのジュリア・デービスは、2022年10月1日に、リマンが解放されたことに対するフェドロフの反応を収めた動画を投稿した。
この動画の中でフェドロフは、「急激な変化が起きつつある。ロシアがこれらの地域を占領した、あるいは『併合』したから、ウクライナがこれらの領土を解放するための戦争を始めた」と述べてこう続けた。「特別作戦の類ではない。これは戦争だ」
彼は続けて、ウクライナ軍は今後、ロシア国内に攻撃を行う可能性があると指摘。モスクワが標的になる可能性を問われると、「もちろんある」と答えている。
首都攻撃に備えるロシア
ロシア政府が既に、ウクライナによるモスクワ攻撃に備えていると示唆する報道も一部にある。
1月には、モスクワの複数の建物の屋上に対空ミサイルシステム「パーンツィリS1」が設置されている様子を捉えたとする写真や動画が、ソーシャルメディア上に出回った。それと同時期にロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官が、西側諸国がウクライナに対して、ロシア国内を攻撃可能な長距離兵器を供与すれば、ウクライナでの戦闘がエスカレートすることになると警告していた。
●ウクライナ東部住宅に“ミサイル直撃”3人死亡 ロシア軍は“フーリガン”も動員 2/2
ウクライナ東部で1日、ロシア軍のミサイルが住宅に直撃し、3人が死亡しました。ロシアが今後、「追加動員」を行うと見られる中、ロシアメディアは、ロシア軍がサッカーの応援で過激な行動に出る「フーリガン」や、スポーツ選手を含む部隊を結成したと報じました。
1日夜、ウクライナ東部クラマトルシクの住宅をロシア軍のミサイルが直撃しました。警察によると、これまでに3人が死亡し、20人がケガをしました。まだ、がれきの下に閉じ込められている人がいる可能性もあり、必死の捜索活動が続いています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、「これが私たちの国で日々、起きている実情だ」とロシアを非難しました。
「戦況を好転させるためには武器が必要だ」と訴え続けている『ゼレンスキー大統領は、この日もSNSで――
ウクライナ ゼレンスキー大統領「必要な武器の入手を支援してくださるみなさまに感謝します」
今、ウクライナが期待しているのが、欧米から供与される戦車です。ドイツのピストリウス国防相は、主力戦車「レオパルト2」を視察。「ウクライナが生き残るためにできることをすべて行う」として、今後、ドイツ国内で訓練を行い、早ければ3月末にもウクライナに配備できるとしています。
一方、ロシアと同盟関係にあるベラルーシは、ロシアから購入した短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を配備したと発表しました。核弾頭も搭載可能なミサイルで、核戦力を誇示することで、欧米各国をけん制する狙いがあるとみられます。
また、イギリス国防省やロシアの独立系メディアは、ロシアが今後、「追加動員」を行う可能性を指摘しています。
さらにロシアメディアは、兵力増強を目指すロシア軍が新たな部隊を結成したと報じました。サッカーの応援で時にスタジアムで火をつけるなど、過激な行動に出ることで知られる「フーリガン」や、国際大会で活躍するスポーツ選手を含む部隊で、偵察や襲撃などの訓練を受け、戦闘地域に送られるということです。
ロシアでは2日に第二次世界大戦中にナチス・ドイツに勝利した最大の激戦から80年を祝う式典が行われます。式典に出席する予定のプーチン大統領が、何を語るのか注目されます。
●「侵攻1年」前にロシア攻撃激化か ウクライナ北部・東部で7人死亡 2/2
ウクライナ東部と北部で1日、集合住宅などがロシア軍の攻撃を受け、計7人が死亡した。ウクライナのゼレンスキー大統領は1日夜のビデオ演説で「攻撃が増加し、状況は激化している」と述べ、ロシア軍が24日の侵攻開始1年の節目に向けて戦果を急ごうとしていると指摘した。
東部ドネツク州知事らによると、同州クラマトルスクで1日、集合住宅がロシア軍のミサイル攻撃を受け、3人が死亡、18人が負傷した。北部チェルニヒウ州でも住宅への攻撃で4人が死亡したという。
ダニロフ国家安全保障防衛会議書記は1月31日、英メディアのインタビューでロシア軍が最大規模の攻勢を準備していると指摘。侵攻1年の節目に北部、東部、南部の各方面から攻撃を仕掛ける可能性もあるとし、「今後2、3週間はいかなるシナリオも排除しない」と警戒感を示した。
●国連専門家、ロシアの復帰を評価 軍事侵攻でIOC検討  2/2
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は1日、ウクライナ侵攻でスポーツの国際大会から除外されたロシアとベラルーシ選手の復帰を「中立」の立場などの条件付きで国際オリンピック委員会(IOC)が検討する方針について、専門家が評価したと発表した。
国連の人権理事会から特別報告者として任命された専門家2人は「私たちがその方向で決断するよう、さらに国籍に基づいて選手が差別されることのないよう促した」と談話を出した。「戦禍に苦しむウクライナ選手を支持したいという願望は理解する」としつつ「IOC、さらに五輪を取り巻くスポーツ界は差別を禁じる国際人権の規範に従う責務がある」とした。
●ウクライナ侵攻1年で安保理閣僚級会合へ “クレバ外相の出席も検討” 2/2
ロシアによるウクライナ侵攻から今月24日で1年となるのにあわせ、国連の安全保障理事会で閣僚級の会合が開催されることが決まりました。
今月の国連安保理の議長国を務めるマルタの大使は1日、記者会見し、軍事侵攻から1年となる24日にウクライナ情勢をめぐる会合を開くと発表しました。会合は安保理理事国の閣僚級が出席して行われる予定で、関係国としてウクライナの代表なども参加する見込みです。
ウクライナの政府関係者はJNNの取材に対して、「クレバ外相が出席する可能性も検討しているが、国内の戦況や訪問に伴う警備状況などを踏まえて最終的に判断する」と話しています。
●ベラルーシ、ロシア製の短距離弾道ミサイルを配備 ウクライナ侵攻に警戒高まる 2/2
ウクライナの隣国、ベラルーシの国防省はロシア製の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を配備したと発表した。
ベラルーシ国防省は1日、ロシアでの習熟訓練を終え、国内に「イスカンデル」を配備したと明らかした。
「イスカンデル」は核弾頭の搭載が可能なミサイルで、ロシアのプーチン大統領がベラルーシへの配備を急ぐ考えを示していた。
ベラルーシでは1月中旬から、空軍がロシア空軍との合同演習を実施していて、ウクライナ侵攻にベラルーシも加わるのではないかという警戒感が高まってる。
一方、ドイツのピストリウス国防相は、ウクライナへの供与を決めた戦車「レオパルト2」の部隊を視察した。
ピストリウス国防相は「ウクライナがこの戦いで生き残るためにあらゆることをするのが我々の仕事だ」と強調した。

 

●ロシア、ウクライナの「ネオナチ」に勝利 プーチン氏ボルゴグラードで演説 2/3
ロシアのプーチン大統領は2日、第2次世界大戦で旧ソビエト軍がナチス・ドイツ軍に勝利した「スターリングラード攻防戦」80年を記念する演説で、ウクライナでの戦争を巡りロシアが再びドイツと対峙(たいじ)していると述べた。
プーチン大統領は、1961年までスターリングラードと呼ばれていた南部のボルゴグラードで行われた式典に出席。ドイツが同国製戦車「レオパルト2」をウクライナに供与する決定を非難した上で、ロシアは80年前と同じようにウクライナで勝利すると確信していると言明。核兵器を含むあらゆる兵器を使用する用意があると改めて表明した。
プーチン氏は演説で「ナチズムのイデオロギーが現代的な形になり、再びロシアの安全を直接脅かしている」とし、「われわれは繰り返し、西側諸国の集団的な侵略に対抗しなければならない。信じられないことだがこれは事実だ。ドイツのレオパルト戦車に再び脅かされている」と述べた。
スターリングラード攻防戦は第二次世界大戦における独ソ戦の決定的な転換点となったが、ソ連軍は100万人を超える死者を出したほか、5カ月に及んだ戦闘でスターリングラードは廃墟と化した。
プーチン大統領は、スターリングラードの戦いが「わが民族の不滅」の象徴になったとし、ロシアがウクライナで勝利すると考える理由を説明するためにスターリングラードを防衛したソ連兵の精神を想起。
「ドイツを含む欧州諸国をロシアとの新たな戦争に引き込み、ロシアに勝利することを期待する者は、現代におけるロシアとの戦争が全く異なるものになると理解していないようだ」とし、「ロシアは彼らとの国境に戦車は送らないが、対応する手段を持っている。装甲車の使用にとどまらないことを誰もが理解しなければならない」と述べた。
●プーチン大統領「再びドイツに脅かされている」侵攻継続を強調  2/3
ロシアのプーチン大統領は第2次世界大戦で旧ソビエト軍とナチス・ドイツ軍が激戦を繰り広げたロシア南部の都市で演説し「再びドイツの戦車に脅かされている」と述べ、ウクライナでは欧米側が全面的な戦いを仕掛けているとして批判しました。そのうえで、不屈の精神で祖国を守り抜いたとする歴史を引き合いにウクライナ侵攻を続ける姿勢を強調しました。
プーチン大統領は2日、第2次世界大戦で旧ソビエト軍とナチス・ドイツ軍が激戦を繰り広げたロシア南部のボルゴグラード、かつてのスターリングラードで演説しました。
このなかで「ナチスのイデオロギーが現代的な形を装い、再びわれわれの国の安全保障に対して直接的な脅威をもたらしている。再びドイツの戦車レオパルトに脅かされている」と述べ、ウクライナでは主力戦車レオパルト2の供与を決定したドイツなど欧米側が全面的な戦いを仕掛けているとして批判しました。
そして「ドイツを含むヨーロッパ諸国をロシアとの新たな戦争に引きずり込み、ロシアを打ち負かすことを期待しているものがいる。われわれは彼らの国境に戦車を送ってはいないが対応する手段がある。それは装甲車の使用にとどまるものではない」と述べ、ロシアの軍事力を誇示して欧米側をけん制しました。
そのうえでプーチン大統領は「スターリングラードを防衛した人々の不屈の精神はロシア軍やわれわれすべてにとって最も重要な道徳的な指針であり、兵士や将校はそれに忠実だ」と述べ、不屈の精神で祖国を守り抜いたとする歴史を引き合いにウクライナ侵攻を続ける姿勢を強調しました。
●独ソ戦80年、プーチン氏「再びドイツ戦車の脅威」と演説…侵略を「祖国防衛」と 2/3
ロシアのプーチン大統領は2日、第2次世界大戦の激戦地だった南部ボルゴグラード(旧スターリングラード)を訪れ、ロシアの前身、ソ連がナチス・ドイツに勝利したスターリングラード攻防戦の終結80年に合わせて演説した。プーチン氏は「祖国や真実のため、不可能に挑む血が我々には流れている」と述べ、ロシアのウクライナ侵略を独ソ戦に重ねて国民に結束を訴えた。
プーチン氏は演説で、独ソ戦の勝利につながった分岐点とされる攻防戦について「不屈の象徴」と偉業をたたえ、ウクライナ侵略での「勝利を確信している」と語った。しかし、ロシアが自ら始めた侵略を、ソ連がナチス・ドイツに攻め込まれて始まった独ソ戦と同一視するプーチン政権の手法は、国際社会から強く批判されている。
プーチン氏はドイツがウクライナに主力戦車「レオパルト2」を供与することに触れ、「我々は再びドイツの戦車に脅かされることになった。ナチズムが現代の装いで、我々の安全保障を脅かしている」と主張した。
2日、ロシア南部ボルゴグラードで、記念式典に参加するプーチン大統領=ロイター2日、ロシア南部ボルゴグラードで、記念式典に参加するプーチン大統領=ロイター
独ソ戦で米英の支援を受けた事実には言及せず、「再び集団的な西側を撃退しなければならなくなった」と述べた。ウクライナ侵略を「祖国防衛」の戦いにすり替え、国民に侵略への協力を呼びかける姿勢を鮮明にした。
一方、ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相は1日、フランスのテレビ局とのインタビューで、ロシアが侵略1年となる24日頃に「大規模な攻撃を試みる」との見方を示した。
●プーチン氏、核使用示唆 戦車供与に「対抗手段あり」 2/3
ロシアのプーチン大統領は2日、露南西部ボルゴグラード(旧スターリングラード)で演説し、ウクライナへの戦車供与を決定した欧米諸国について、「ロシアは彼らとの国境に戦車を送らないが、対抗手段がある」と述べた。「ロシアに勝利できると考えている者は、ロシアとの現代戦が(過去とは)別物だと理解していない」とも発言。核兵器の使用を示唆し、ウクライナや米欧を威嚇した。
演説は、第二次大戦で激戦の末に旧ソ連軍がナチス・ドイツ軍を撃退した「スターリングラード攻防戦」の戦勝80周年を記念する式典で行われた。
ロシアは米欧の主力戦車について「戦況を変えられず、脅威にならない」と主張しているが、実際は戦車が前線に投入され、露軍が劣勢に陥る事態を危惧しているとの観測が強い。プーチン氏の威圧的な発言の背後には、米欧によるウクライナ支援の拡大を阻止したい思惑があるとみられる。
プーチン氏はドイツが戦車供与を決定したことに関し、「十字が描かれたドイツの戦車が、ウクライナでヒトラーの末流の手によりロシアを再び脅かすとは信じがたいが、事実だ」と指摘。「ナチズム思想が現代もロシアの安全保障を脅かしている」とも述べ、ウクライナ侵略を対ナチス戦になぞらえて正当化した。
プーチン氏は昨年2月24日の演説で、ウクライナを「ナチ国家」だと一方的に断じた上で、同国の「非ナチス化」などを掲げて軍事作戦の開始を宣言した。
●プーチン氏、西側への対抗示唆 「戦車以外のもの」で 2/3
ロシアのプーチン大統領は2日、西側諸国がドイツ製の戦車「レオパルト」で「またも」ロシアを脅かしていると批判した。
ロシア南部のボルゴグラードで開催された、第2次世界大戦のスターリングラードの戦いでの旧ソビエト軍の勝利80周年を記念する式典での演説で述べた。
プーチン氏は「ドイツを含む欧州の国々をロシアとの新たな戦争に引きずり込み、特にこれを既成事実と無責任にも宣言している人々、戦場でロシアを打ち負かすことを期待している人々は、ロシアとの現代の戦争は完全に異なるものであることをどうやら理解していない。我々は国境に戦車を送らないが、彼らに対抗する別のものを持っている。装甲車の使用では終わらないだろう」と警告した。
ウクライナのオメリチェンコ駐仏大使は先月、欧米諸国がウクライナに戦車300両超を供与するとの見通しを示した。
オメリチェンコ氏は「今日時点で多くの国が計321両の戦車をウクライナに供与することに正式に同意した」とフランスのメディアに述べた。
オメリチェンコ氏は供与される戦車の国別の数やモデルは示さなかったが、米国は「M1エイブラムス」31両、ドイツは「レオパルト2」14両、英国は「チャレンジャー2」14両を提供することを決めている。 
●ウクライナ「ナチスの精神的後継者はロシア」…プーチン氏「祖国防衛」演説  2/3
ロシアのプーチン大統領は、2日に露南部ボルゴグラード(旧スターリングラード)で行った演説で、ドイツがウクライナに戦車「レオパルト2」の供与を決めたことについて、「我々は再び脅かされている」と主張した。ウクライナ侵略を「祖国防衛」の歴史にすり替える演説に対し、ウクライナ側は批判を強めている。
演説は、ソ連がナチス・ドイツと戦った第2次大戦の独ソ戦(1941〜45年)で、勝利への転換点となったスターリングラード攻防戦の終結80年に合わせて行われた。
プーチン氏は演説で、レオパルト2の供与を批判し、「ナチズムが現代の装いで出現し、再び我々の安全保障を脅かしている」と主張した。プーチン氏は「ロシアとの現代の戦争は全く異なるものになる」としたが、具体的な方針については言及しなかった。
ロシアの侵略を巡り、途上国などが経済制裁に慎重な姿勢をとっていることについて、プーチン氏は「我々には世界中に多くの友人がいる」と主張した。
これに対し、ウクライナ国防省は、「ナチスの精神的後継者であるロシアは、ウクライナの都市を地上から消し去っている。ロシアにとってスターリングラードは敗北を思い起こさせるものとなるだろう」とツイッターで反発した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2日夜のビデオ演説で、「ロシアの戦略的な敗北はすでに明らかだ」と強調した。ゼレンスキー氏は「戦術的に見れば、ロシアはまだ攻撃的な行動を試みる資源を持っている」とも述べ、さらなる武器供与が必要との認識を示した。
●ウクライナにいるロシア軍兵士、大半が戦争は誤りと認識 元ロ軍尉官 2/3
ロシア軍の元尉官がCNNの取材に応じ、ウクライナで戦うロシア軍兵士の多くは戦場への準備ができておらず、兵士らを取り巻く環境は悲惨だと語った。
コンスタンティン・エフレモフ氏は「彼らは訓練されておらず、現地でどんな恐怖が待ち受けているかに気づいてもいない」と述べ、兵士は軍人ではなく便利屋だと語った。
ロシアのプーチン大統領は昨年9月、戦場で大きな後退が続いたことを受け、部分動員令を出した。当局者は11月に30万人動員の目標が達成されたと発表した。
エフレモフ氏は、ロシア軍のほぼ全員がこのミッションは誤っているとわかっていて、「ウクライナからの侵攻の脅威に関するプーチンの作り話を信じていない」と語る。
それでもウクライナに兵士がいるのは他に選択肢がないからで、「自分たちの家族や子どもが路上に追われるか、自分たちが塹壕(ざんごう)の中に入るかのどちらかだ」と説明する。
兵士らは招集された人員のため、辞めれば刑務所行きに直面するという。「だから基本的には選択肢はない。そこに残るか、逃げ出す方法を探すかのどちらかだ」と述べ、兵士らの状況は悲惨だと続けた。
エフレモフ氏はまた、副司令官が戦争捕虜を拷問したり、性暴力を振るう脅しをかけていたのを見たとも語った。報復を恐れて誰もそれを止めようとしなかったという。
「彼はウクライナ人の戦争捕虜を撃ったように、自分や意見を異にする人なら誰でも容易に撃っただろう」
エフレモフ氏は先月ロシアを脱出し、米国での亡命受け入れを希望している。
●暗躍するロシア“民間”軍事会社「運営は国家予算で」 元傭兵が証言 2/3
ロシアによるウクライナ侵攻では、戦果をアピールする露民間軍事会社「ワグネル」の存在が注目されている。同社の傭兵(ようへい)だったと明かすロシア人男性、マラート・ガビドゥリン氏(56)が1月下旬、長期滞在先のフランスで毎日新聞の取材に応じた。謎が多いワグネルについてガビドゥリン氏は、純然たる民間会社ではなく国家予算で運営されていると明言したうえで、「ロシア指導部にとって帝国的な野望を実現するための道具の一つだ」と指摘した。
「ロシア指導部の野望の道具」
ワグネルは、プーチン露大統領に近い新興財閥オーナー、エフゲニー・プリゴジン氏と、露軍参謀本部情報総局(GRU)元中佐ドミトリー・ウトキン氏らが2014年に創設した。同年春に始まったウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州一帯)での紛争で親露派武装勢力に加勢してきたほか、シリアなどの中東、アフリカ諸国でもロシアや自社の利益に沿う形で軍事活動を展開する。ワグネルとその関係者は、欧米の制裁対象となっている。
ガビドゥリン氏は空挺(くうてい)部隊出身の元露軍中尉で、15年にワグネルに参加。19年の脱退までにルガンスク州とシリアに派遣され、一時はロシア北西部サンクトペテルブルクでプリゴジン氏を補佐する仕事もしたという。
ガビドゥリン氏はワグネルについて「法律で規定されていないが軍同様の武力組織であり、国家予算で運営され、国防省や軍の兵站(へいたん)に依存している」と述べ、プーチン政権との密接な関係を明らかにした。
「プロパガンダは全てうそ」
ウクライナでは露軍の劣勢も報じられる一方、ドネツク州ソレダルなど戦略拠点をワグネルが制圧したという戦果が伝えられてきた。これに対し、ガビドゥリン氏は「ワグネルが最前線の(兵力の)半分を支えているといった誤った印象が生まれているが、実際は前線の一部分のみで活動している」と分析、プリゴジン氏らの宣伝による誇張との見方を示した。
ウクライナの戦争が長引く中、ワグネルには大勢の受刑者が採用され、戦線に投入されていると報じられる。この点については「志願者が既に足りず、(戦闘による)人的損失が大きくなっているからだ」と述べ、苦戦を示唆した。
「私たち(ロシア)のプロパガンダは全てについてうそをついている」とプーチン政権を批判したガビドゥリン氏は、2月下旬で開戦1年となるウクライナでの戦争に対して「ロシアにおける帝国主義の表れと言える。露指導部による全ての(開戦の)口実がこじつけであると理解していないのは愚か者だけだ」と断言。今後については「ロシアがどうにか状況を勝利と呼べる状態にまで修正できたとしても、その勝利は悲惨な結果へと至るだろう」と述べ、ロシアにとって暗い未来を予想した。
●プーチン大統領が演説で軍事侵攻正当化 ウクライナは強く反発  2/3
ウクライナはロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻を、第2次世界大戦中のナチス・ドイツとの激戦に重ね合わせる形で正当化したことに強く反発し、徹底抗戦の姿勢を改めて強調しました。
ウクライナ東部では激しい戦闘が繰り返されていて、ハルキウ州の知事は、3日の未明にロシア軍が住宅地に砲撃を行い、住民2人が死亡したとSNSに投稿しました。
また、南部ヘルソン州の当局は3日、過去24時間でロシア軍の砲撃によって、合わせて2人が死亡し、5歳の子どもを含む9人がけがをしたと発表しました。
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は2日、第2次世界大戦中に旧ソビエトがナチス・ドイツと激戦を繰り広げたロシア南部の都市で演説し「ナチスのイデオロギーが現代的な装いで再びわが国の安全保障に直接的な脅威をもたらしている」と述べ、過去のナチス・ドイツとの戦いと重ね合わせる形でウクライナ侵攻を正当化しました。
これに対してウクライナ国防省は2日「ナチスの精神的な継承者であるロシアは、ウクライナの都市を地上から消し去ろうとしている。占領できない都市は廃虚と化している」とSNSで強く反発したうえで、徹底抗戦の姿勢を改めて強調しました。
ウクライナでは3日、ゼレンスキー大統領とEU=ヨーロッパ連合の首脳との会談が行われる予定で、ウクライナが目指しているEU加盟や支援について意見が交わされる見通しです。
●中国の台湾侵攻準備に警鐘 ウクライナ戦況、あと半年が重要―米CIA長官 2/3
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は2日、ワシントンのジョージタウン大で講演し、中国の習近平国家主席が台湾侵攻の準備を指示したとして、「習氏の台湾に対する真剣さと野心を裏付けている」と警鐘を鳴らした。また、ウクライナに侵攻したロシア軍の攻撃が最近激化していることを踏まえ、「今後6カ月が重要だ」と語った。
バーンズ氏は、習氏が人民解放軍に対し、2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう指示したことを「情報として知っている」と主張した。習氏がロシア軍の苦戦ぶりに「動揺」し、「(台湾侵攻にも)少し冷静になった」と述べる一方、「CIAとして習氏の野心を過小評価しない」と強調した。
●侵略から1年 ロシアへの厳しい声が最多に 内閣府「外交に関する世論調査」 2/3
ロシアのウクライナ侵攻から今月24日で1年となります。政府の世論調査で日ロ関係を「良好だと思う」と答えた人の割合は、わずか3.1%と調査開始以来、最も低くなったことが分かりました。
いまだウクライナへの軍事侵攻をやめないロシアに対し、日本の国民感情が極めて悪化していることが今回の調査で裏付けられる結果となりました。
内閣府が行った「外交に関する調査」によりますと、ロシアに「親しみを感じる」人が5.0%、今後のロシアとの関係発展を「重要だと思う」人が57.7%と、いずれも調査開始以来、最低となりました。
都内のロシア料理店で働くカリナさんは言葉を慎重に選びながら、悔しさを語りました。
都内で働くロシア人女性・カリナさん:「これは残念。今、ロシアのイメージが悪くなっていてすごく残念だと思うので。今までずっと友達だったし、原因は皆、分かっていますので、戦争をなくせば原因もなくなるんじゃないですかね」
また、今回の調査では、中国に対しても「親しみを感じる」が17.8%、日中関係が「良好だと思う」が11.0%と、前年より低下しました。
中国政府の新型コロナウイルスへの対応や、尖閣諸島や台湾を巡る強硬姿勢などが影響したとみられます。
さらに、北朝鮮については何に関心があるか聞いたところ、「ミサイル問題」と答えた人が過去最高の割合で、「日本人拉致問題」と答えた人を上回りました。
一方、日韓関係については「良好だと思う」が前年の調査から10ポイント近く増加するなど、肯定的な意見が増えました。尹(ユン)政権が誕生し、徴用工問題を含む懸案解決への期待が高まったことが要因の一つとみられます。
●「勝利を確信」プーチン大統領 独ソ激戦の地で団結訴える 2/3
ウクライナ侵攻1年を前にロシアのプーチン大統領は第2次世界大戦の激戦の地で演説し、「勝利を確信している」と強調しましたが、多くの戦死者を出す地元市民の一部からは冷ややかな反応も聞かれます。
記者「ボルゴグラードを象徴する高さ85メートルの母なる祖国像です。このあと、プーチン大統領が訪れるということで、辺り一帯が封鎖され、物々しい警戒態勢が取られています」
JNNのカメラが捉えたプーチン大統領が乗っているとみられる専用車。
記者「市内一帯では、朝からこのようにインターネットの接続が制限されています」
厳戒態勢のなか、プーチン氏は2日、第2次大戦の激戦地であるロシア南部ボルゴグラードに姿を現しました。
独裁者スターリンの名を取り、かつて「スターリングラード」と呼ばれたこの地では、80年前、旧ソ連軍が激しい攻防の末、ナチス・ドイツ軍を撃破しました。
その記念式典でプーチン氏が訴えたことは。
ロシア プーチン大統領「信じられないことだが、これは事実だ。ドイツの戦車が再びロシアを脅かしている」
「ナチスのイデオロギーが現代によみがえり、我々を脅かしている」と主張。ウクライナへの軍事侵攻から近く1年となるのを前に、ウクライナに対し、主力戦車の供与を決めたドイツを名指しし、軍事支援を強める欧米を批判して見せたのです。
「万歳、万歳」
軍事パレードには、第2次大戦当時の戦車やウクライナ侵攻で使用されている主力戦車なども登場。会場の一角には、子供たちが戦車に触れることのできるコーナーも設けられました。市民に話を聞くと。
市民「パレードは素晴らしかったです。これは市民全員のお祝いです。なぜなら、どの家庭にもあの戦争の戦死者がいるのです」「ウクライナ国民と我々は兄弟です。ただ、そこにファシズムがあることを知っています。プーチンが我々のための戦いだというのは正しい」
「愛国心」高揚の場となった式典でプーチン氏は、再び勝利を呼びかけました。
ロシア プーチン大統領「我々には対応する能力があり、それは戦車にとどまらないことを理解すべきだ」
かつてのナチスドイツとの戦いと侵攻を重ねるかのように国民に団結を訴えた今回の動き。ただ、ボルゴグラード州は侵攻での戦死者がこれまでに350人以上と推計され、ロシアの中でも多い地域の一つです。
現地では、こんな声も聞かれました。
市民「このような形で解決すべきではありません。すべての男性が哀れです。神様、動員はもうしないでください」「戦争はいつの時代でも悪いことです。『グレート・ウォー』という言葉があるが、戦争が偉大なはずがありません」
一方、EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は2日、ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談。ロシアの戦争犯罪の証明に向けた「国際センター」をオランダ・ハーグに設置すると明らかにしました。
EU フォンデアライエン委員長「ロシアはこの憎むべき犯罪について、法廷で責任を問われなければならない」
ウクライナ侵攻から24日で1年となるなか、欧米は連携を強めていますが、今後、ロシアによる大規模な攻撃も懸念されています。

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 4日の動き 2/4
ゼレンスキー大統領「ドネツク州で厳しいまま」
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日夜、新たに公開した動画で「前線の戦況は、特にドネツク州で厳しいままだ。敵の激しい圧力に耐えているすべての兵士に感謝する」と述べ、前線で戦う兵士たちを鼓舞しました。またアメリカが発表した追加の軍事支援について「バイデン大統領やすべてのアメリカの人々に感謝する」としたうえで「これらの支援が、ウクライナにできるかぎり早く届くようわれわれは協力しなければならない」と訴えました。
米 射程距離150キロのロケット弾供与へ
アメリカのバイデン政権は3日、ウクライナに対しておよそ22億ドル、日本円にして2850億円の追加の軍事支援を行うと発表しました。この中には、GLSDBと呼ばれる射程がおよそ150キロのロケット弾が含まれ、これまでアメリカがウクライナに供与してきたロケット弾に比べ2倍近い射程になるとされています。GLSDBは、アメリカがすでにウクライナに供与している高機動ロケット砲システム=ハイマースなどから発射することができるということです。これによって、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミアなども射程に入るとみられ、国防総省のライダー報道官は3日の記者会見で「ウクライナが長い射程の攻撃能力を手にすることで自国を防衛し、領土を取り戻すことができるようになる」と述べています。
仏伊 共同開発のミサイル ことし春にウクライナへ供与で合意
フランスのルコルニュ国防相とイタリアのクロゼット国防相が3日、電話で会談し、両国が共同で開発した地対空ミサイルシステム「マンバ」をことしの春にウクライナへ供与することで合意しました。フランス国防省によりますと、この地対空ミサイルシステムは移動式で、弾道ミサイルや航空機、それに無人機などの迎撃が可能で射程はおよそ100キロだということです。フランス国防省は、この地対空ミサイルシステムについて、今月1日にウクライナへの供与を発表したレーダー「グランド・マスター200」と組み合わせて使うと、より大きな効果を発揮でき、ロシア軍の攻撃に対する迎撃能力の向上に役立つとしています。
EU・ウクライナ首脳会談 支援継続を強調
ロシアによる軍事侵攻から1年になるのを前に、EUのミシェル大統領とフォンデアライエン委員長が3日、侵攻後、初めてそろってウクライナの首都キーウでゼレンスキー大統領と会談しました。会談のあと開かれた会見でミシェル大統領は「ウクライナの未来はEUとともにある」と述べてウクライナとの連携を強調し、支援を継続していくことを改めて示しました。またフォンデアライエン委員長は、ロシアによる軍事侵攻から1年となる今月24日までにロシアに対してミサイルや無人機に使用される技術などを対象にした追加の制裁を科す意向を示しました。
ウクライナのEU加盟へ向けたスケジュールは示されず
ウクライナはEUへの加盟を申請し去年、加盟交渉開始の前提となる「加盟候補国」に認められていて、会談ではこれについても話し合われました。会見でゼレンスキー大統領は「われわれの目標は明確だ。加盟に向けて手続きを加速させていく」と述べました。これに対しフォンデアライエン委員長は「ウクライナが達成しなければならないゴールがある」と述べ、さらなる改革が必要との認識を示したうえで加盟に向けた具体的なスケジュールは示しませんでした。
ロシア軍 死傷者20万人に迫る 米有力紙
軍事侵攻を続けるロシア軍はウクライナ東部のドンバス地域の掌握をねらい、戦闘を激化させているとみられています。一方、アメリカの有力紙は当局者の話としてロシア軍の死傷者が20万人に迫っているという見方を示しています。特に、ドネツク州のバフムトや近郊のソレダールをめぐる戦闘で、ロシア側は訓練が不十分な新兵や刑務所の囚人などを戦闘員として投入し、甚大な損害が出ていると指摘しています。ただ、プーチン大統領は2日も第2次世界大戦中のナチス・ドイツとの激戦に重ね合わせるかたちで、ウクライナ侵攻を続ける姿勢を強調していて、ニューヨーク・タイムズはロシアの専門家の話として「人命の損失がプーチン大統領の戦争の目的を抑止する可能性は低い」とする見方を伝えています。
“侵攻さらに半年以上続く”68% ロシア世論調査
ロシアの独立系の世論調査機関はロシア国内で行った調査で、ウクライナへの軍事侵攻がさらに半年以上続くと予想する人が68%にのぼり、これまでで最も多くなったと発表しました。独立系の世論調査機関「レバダセンター」は、毎月下旬に全国の1600人余りを対象に、対面形式で調査を行っていて2日、1月の調査結果を発表しました。それによりますと、侵攻が「今後どれだけ続くか」という質問に対して、「1年以上」と答えた人が43%、「半年から1年」と答えた人が25%で、合わせて68%がさらに半年以上続くと予想しています。これは去年11月から4ポイント増えて、最多となっていて、2月で軍事侵攻から1年となるものの長期化は避けられないという見方が、ロシア国内で広がっていることがうかがえます。また「ウクライナをめぐる情勢に注目しているか」という質問に対して、「まったく注目していない」、もしくは「あまり注目していない」と答えた人は合わせて43%にのぼりました。これは、予備役の動員が始まった去年9月から10ポイント増えていて、「レバダセンター」はロシア国内での関心が次第に低下していると指摘しています。一方、「レバダセンター」が今月1日に公表したプーチン大統領の支持率は82%と依然、高い水準が続いています。「レバダセンター」は、政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています。
●バイデン大統領、プーチン大統領に「ウクライナ領土20%受けて終戦を」提案 2/4
バイデン米大統領が先月、プーチン露大統領にウクライナ領土の20%を受ける条件での終戦を提案したが、実現しなかったという報道があった。
2日(現地時間)、ドイツ語圏メディアのノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)はドイツ高官の発言を引用し、米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官が先月、極秘でモスクワを訪問し、バイデン大統領の平和提案を伝達したと報じた。
これに先立ちワシントンポスト(WP)はバーンズ長官がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会った事実を伝えていた。しかしバーンズ局長のロシア訪問事実が伝えられたのは今回が初めて。
バイデン大統領が提案した「ウクライナ領土の20%」はプーチン大統領が欲を見せてきたドンバスの面積とほぼ同じ。この提案なら、終戦時にロシアは2014年に違法に占領したクリミア半島に続いてウクライナ東部地域まで掌握することになる。
しかしバイデン大統領の提案をロシアとウクライナの双方が拒否したと、NZZは伝えた。ウクライナは領土分割の意思がなく、ロシアは長期的に戦争で勝利すると考えているからだ。NZZは「終戦の提案を双方から拒否された米国がウクライナにM1エイブラムス戦車の支援を決めることになった」と伝えた。
現在、米政府内ではウクライナ戦争の解決策をめぐり意見が分かれている。バーンズ長官とジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は、戦争を早期に終えて外交力を中国との対決に集中しようという立場だ。
半面、ブリンケン国務長官とオースティン国防長官はウクライナに対する軍事支援を増やしてロシアに対抗すべきという立場を見せている。ウクライナへの主力戦車支援が決まったことでブリンケン・オースティン長官案が採択されたと把握されると、NZZは伝えた。
一方、ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)の副報道官とCIA関係者はNZZの報道について「正確でない」と話したと、米ニューズウィークは伝えた。ロシアのポリャンスキー国連次席大使もニューズウィークに「NZZの記事は興味深いが、推測性の報道だ。これには言及できない」と述べた。
●選手やコーチ231人死亡 ウクライナ外相IOC批判 2/4
ウクライナのクレバ外相は3日、ロシアの侵攻でウクライナの選手やコーチ231人が死亡したとツイッターで明らかにした。国際大会から除外されたロシアとベラルーシの選手復帰を中立の立場などの条件付きで検討している国際オリンピック委員会(IOC)を「(中立を示す)白旗でロシアの犯罪を隠蔽するのをやめるべきだ」と批判した。
クレバ氏は「この大量虐殺の戦争はプーチン(ロシア大統領)が命じたものだが、通常のロシア人たちが実行した」と訴えた。選手やコーチはほかに15人が負傷、28人が拘束され、4人が行方不明だとしている。
●EUとウクライナがロシアの軍事侵攻後初となる首脳会議 共同声明を発表 2/4
EU(=ヨーロッパ連合)とウクライナは、ロシアの軍事侵攻後、初となる首脳会議を開き、EUが軍事面や財政面の支援を強化することなどを盛り込んだ共同声明を発表しました。
首脳会議は3日、キーウで開催され、EU側からはミシェル大統領とフォンデアライエン委員長が代表として参加しました。
共同声明では、EUはウクライナを「必要な限り支援する」とした上で、軍事面でウクライナ軍の兵士およそ3万人を訓練するほか、財政面では総額およそ7兆円を支援するなどとしています。
ウクライナのEU加盟については、「多くの努力を認める」としながらも、政治や経済の分野などで、加盟基準を満たすよう更なる改革を求めています。
EU・フォンデアライエン委員長「(EU加盟の)スケジュールが厳密に決まっているわけではないが、達成すべき目標はある」
一方、ゼレンスキー大統領は、「EUへの加盟は不可逆的だ。我々は加盟プロセスを加速させる」と強調しました。
EUは軍事侵攻から1年となる今月24日までにロシアに追加制裁を科す考えも示しています。
また、ドイツ政府の報道官は3日、主力戦車「レオパルト2」のほかに、旧型戦車「レオパルト1」の輸出を許可したことを明らかにしました。
提供される時期や戦車の数などの詳細は「今後、数日から数週間のうちに具体的になるだろう」と述べています。
●米、ウクライナに長射程のロケット弾供与 「ハイマース」射程2倍に 2/4
米国防総省は3日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに高機動ロケット砲システム「ハイマース」で使用できる長射程のロケット弾などを含む約21億7500万ドル(約2850億円)の軍事支援を発表した。ロイター通信によると、ロケット弾は「地上発射型小直径弾(GLSDB)」で、初供与となる。従来提供されてきた砲弾よりも射程が2倍長く、ロシア軍の後方に下がった補給線や指揮拠点の攻撃に効果を発揮するとみられている。
バイデン政権は、提供する兵器がロシア国内への攻撃用に用いられないように配慮して軍事支援を実施している。ハイマースの最大射程は300キロだが、これまでは射程70〜80キロの砲弾に制限して提供してきた。ロイター通信によるとGLSDBの射程は約150キロ。ウクライナ東部のロシア軍の全補給線とロシアが2014年に一方的に併合した南部クリミア半島の一部を射程に収めることになるという。
今回の軍事支援は他に▽追加の155ミリ砲弾▽耐地雷伏撃防護車(MRAP)181台▽対戦車ミサイル「ジャベリン」250発――など。ウクライナ側は射程約300キロの地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」などの提供を繰り返し要求しているが、今回の軍事支援には含まれていない。
米国によるウクライナへの軍事支援は昨年2月24日の侵攻開始以降、293億ドル以上にのぼる。
●バルト3国首相 いかなる条件もロシア選手 五輪出るべきでない  2/4
ウクライナへの軍事侵攻で、国際大会から除外されているロシアと同盟関係にあるベラルーシの選手の復帰をめぐり、バルト3国の首相たちは、いかなる条件でも認めるべきではないという考えを強調しました。
IOC=国際オリンピック委員会は、ウクライナへの軍事侵攻で国際大会から除外されているロシアと、同盟関係にあるベラルーシの選手について、国を代表しない中立の立場とするなどの条件付きで、復帰を検討すると1月発表しました。
バルト3国の首相たちは3日、エストニアの首都タリンでの記者会見で、これについて、認めるべきではないという考えをそろって示しました。
このうち、ラトビアのカリンシュ首相は「この戦争のさなかに、いかなる形であれ、参加が認められることは道徳的に非難されるべきものだ」と述べました。
また、エストニアのカラス首相は「参加は間違いだと、同盟国を説得することに力を注ぐべきだが、次のステップはボイコットだ」と述べ、ロシアやベラルーシの選手の復帰が認められた場合、国際大会への参加をボイコットすることも辞さないと強調しました。
ウクライナ五輪委「現時点でのパリ五輪ボイコット決定見送り」
ウクライナのオリンピック委員会は3日、オンラインで開いた臨時総会で、軍事侵攻を理由に国際大会から除外されているロシアとベラルーシの選手が復帰した場合の対応を協議し、現時点での来年のパリオリンピックのボイコットの決定は見送りました。
IOC=国際オリンピック委員会は1月、ウクライナへの軍事侵攻を理由に国際大会から除外されているロシアとベラルーシの選手について「いかなるアスリートもパスポートを理由に競技への参加が妨げられてはならない」として復帰を検討すると発表しました。
これを受け、ウクライナのオリンピック委員会は、両国の選手の復帰が認められた場合、来年のパリ大会をボイコットする可能性について各競技の国際競技連盟と協議を始める方針を示し、3日、オンラインで臨時総会を開きました。
会合後、ウクライナの青年スポーツ相も務めるオリンピック委員会のワジム・フトツァイト会長は「まだ、ロシアとベラルーシの国際大会への参加が正式に認められた訳ではない」と話し、現時点でのパリ大会のボイコットの決定は見送り、引き続き協議する考えを示しました。
この臨時総会に先立つ2日、IOCはコメントを発表し、オリンピックをボイコットすることはオリンピック憲章に違反するとしたうえで「時期尚早な段階で、ボイコットの脅しで議論をエスカレートさせることは極めて遺憾だ」としました。
また、今回の復帰の検討についてはパリ大会への参加を前提としたものではなく、この夏などにアジアで行われる国際大会に両国の選手が出場してもアジア勢の出場枠などに影響はないという見解も示しました。 
●クリミア攻撃なら報復 「ウクライナ炎上」警告 ロシア前大統領 2/4
ロシアのメドベージェフ前大統領は、米政府がウクライナに供与すると発表した長距離ロケット弾が、ロシア支配地域の南部クリミア半島に撃ち込まれれば「(ゼレンスキー政権が統治する)ウクライナ全域が炎上するだろう」と報復を警告した。
4日に通信アプリで公表された親政権派ジャーナリストのインタビューで表明した。
欧米では自らの軍事支援の結果、ウクライナに有利な条件で停戦交渉にロシアを引き込めるという見方がある。これについて、メドベージェフ氏は「正反対の結果になる。行われるのは交渉ではなく、報復攻撃だけだ」と主張。プーチン大統領が言及した通り「あらゆる対抗手段がある」と指摘し、脅威次第で核兵器を準備する考えを示した。 
●ロシア新興財閥の没収資産をウクライナへ初の移譲、米司法省 2/4
米国のガーランド司法長官は3日、ロシアのプーチン政権に近いとされる新興財閥(オリガルヒ)から没収した資産を初めてウクライナへ移譲し、同国の支援用途に充てると発表した。
米司法省でウクライナのコスチン検事総長と共に臨んだ記者会見で述べた。
資産を剥奪(はくだつ)されたオリガルヒはコンスタンチン・マロフェーエフ氏で、同長官は昨年4月、米国の対ロシア制裁に違反した容疑での訴追を発表。同月には被告自身も制裁対象となり、米財務省は当時、被告は直接的あるいは間接的にロシア政府のための行動などに関与していたと説明していた。
同年6月にはマロフェーエフ被告が保持する米国内の銀行口座にあった数百万ドル規模を押収していた。
ガーランド長官によると、没収した資産はまず、米国務省へ引き渡され、 ウクライナ国民を支援する方途に使われるとした。「ロシアの戦争犯罪人に米国内での隠れ家はない」とも強調した。
コスチン検事総長によると、米国務省へ提供された没収資産は540万米ドル(約7億740万円)相当で、ウクライナの復興支援に回される。米国の断固たる努力と支持への謝意を示し、「ウクライナ国民は決して忘れないだろう」と述べた。
●侵攻継続ならロシア国家崩壊≠ヨの内戦も 元将校が衝撃発言 2/4
ロシアの先行きについて衝撃的な発言だ。24日のウクライナ侵攻開始1年に向けて攻勢を強めるロシア軍だが、軍元将校が、侵攻が継続した場合、「国家の崩壊を招くほどの内戦が起こる」と述べた。プーチン大統領ら「体制派」と「強硬派」「民主派」の3派の争いに加え、ロシア連邦を構成する共和国の反乱に発展すれば、領土の現状維持も容易ではないとの見方もある。
元将校はイーゴル・ガーキン氏。ウクライナのヘラシチェンコ内相顧問が投稿した動画で、ガーキン氏は「あらゆる種類の内戦がある。冬場の3日間でわれわれの国を滅ぼすような内戦もある」と発言。数百万人の犠牲者が出る可能性にも言及した。
ガーキン氏はウクライナ東部の親露派「ドネツク人民共和国」で「国防相」を務めた。2014年にウクライナ上空でマレーシア機が撃墜され298人が死亡した事件では、地対空ミサイルを配備したなどとしてオランダの裁判所に有罪判決を言い渡されるなど悪名高いが、プーチン政権の表も裏も知る人物だ。現在は軍事ブロガーとして活動している。
ロシア軍では、民間軍事会社「ワグネル」創設者で、「強硬派」のエフゲニー・プリゴジン氏が発言力を増してきた。これに対し正規軍はゲラシモフ参謀総長を統括司令官に任命するなどさや当てが始まっている。
筑波大の中村逸郎名誉教授は「ウクライナでロシアが敗北した場合、ワグネルと国防省が主導権を争って武力衝突に発展する可能性はゼロではない。オリガルヒ(新興財閥)もどちらの支持に回るかで分裂し、全土を巻き込む事態も想定される」とみる。
「第3極」と目されるのが野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏だ。「プリゴジン氏が国民の支持を獲得するため、ナワリヌイ氏を解放する動きも想定されている。政権の求心力が低下し、反プーチン議員が増えているとみることもできる」と中村氏。
米国の専門家も多くがロシアの将来に悲観的だ。米シンクタンク、大西洋評議会がロシアの将来について外交・安全保障の専門家に尋ねたところ、約46%が「今後10年間に破綻国家になるか、崩壊する」と予想した。
米ラトガーズ大のモティル教授(政治学)は米外交誌フォーリン・ポリシーへの寄稿で、「タタールスタンや、バシコルトスタン、チェチェン、ダゲスタン、サハなど連邦を構成する共和国が自治拡大を目指すだろう」という展開を予測した。
中村氏は「反戦機運の高まる地方で自治拡大や独立を目指す反乱が起こる可能性もある。その場合、戦争の舞台がウクライナからロシア国内に移行する」と強調した。
●フィンランドはロシアの脅威にどう立ち向かう 歴史的な政策転換… 2/4
去年2月のウクライナ侵攻後、わずか3か月でNATO=北大西洋条約機構への加盟申請という歴史的な政策転換を決断したフィンランド。その舞台裏を、駐日フィンランド大使のタンヤ・ヤースケライネン氏に聞いた。
ロシアの隣国フィンランド…ウクライナ侵攻の衝撃
――フィンランドはロシアと約1300キロにわたり国境を接していて、観光や貿易などの繋がりも深いですね。ロシアのウクライナ侵攻はフィンランドの人々にどのような衝撃を与えたのでしょうか。
フィンランドの人々は、ロシアが国際的なルール・秩序に反する恐ろしい行為に踏み切ったということ、このようなことが私たちの身近で起こりうるということに、とてもショックを受けたと思います。ご指摘のとおり、フィンランドには多くのロシア人観光客が訪れていました。パンデミックやウクライナ侵攻が起こるまでは、年間100万件近くの入国ビザをロシア国民に発給していましたし、私たちはロシア国民と交流することにとても慣れていたのです。
―― 一方で、フィンランドはロシアの脅威に備えて軍事力を維持してきましたね。
ロシアは以前からフィンランドに対して、領空侵犯や移民の道具化など、さまざまな影響力を行使してきました。ですから、私たちは万が一の事態に備えて準備を重ねてきたのです。フィンランドは長年にわたって非常に強力な軍隊を維持していて、軍隊は自国を守るというとても強い意志を持っています。私たちにはこのような備えがありますが、それでもウクライナ侵攻は多くの国民に衝撃を与えました。
歴史的な政策転換…NATO加盟申請を迅速に決断できたワケ
――ウクライナ侵攻から約3か月後、フィンランドはNATOへの加盟を申請しました。
私たちはウクライナ侵攻後すぐに、欧州全体の安全保障環境がこれからどのように変化していくのかということを分析し、4〜5週間で報告書を書き上げました。その結果、NATOに加盟する、あるいは加盟を申請することで、フィンランドやバルト海、欧州全体の安全保障環境がより良くなるだろうという結論に達したのです。
――ご自身も外務省幹部として加盟申請に携わられましたが、歴史的な政策転換を迅速に決断できたのはなぜなのでしょうか。
理由の1つとして、プロセスが非常にオープンかつ透明だったことが挙げられます。私たちは完成した報告書を国会に提出し、国会では専門家も招いて議論が行われました。入手可能な情報はすべてまとめられ、誰もが確認できるようになっていました。同時に、フィンランドの人々がウクライナ侵攻を受けて、NATO加盟についての意見を変え始めていることに気づきました。侵攻前はNATO加盟の重要性など誰も口にしませんでしたし、加盟に賛成する人々は全体の約30%でした。しかし、その数字は侵攻後上昇に転じ、最終的には80%程度に上ったのです。国民が加盟を広く支持していたために、プロセスを迅速に進めることができたと言えるでしょう。
正式加盟までの道筋は…ロシアとの国境にフェンスを設置する計画も
――トルコやハンガリーがフィンランドのNATO加盟に難色を示していますが、加盟への道筋について教えてください。
NATO加盟のためにはすべての加盟国の批准が必要ですが、去年6月のNATOサミット以降、記録的な早さで28カ国の批准を得ることができました。これほど多くの国が迅速に批准したのは歴史上初めてで、とても喜ばしいことです。そしてご指摘の通り、私たちはトルコとハンガリーの批准を待っているわけですが、この2つが揃えばあとは非常に迅速かつ円滑に手続きが進められるでしょう。
――フィンランドは、ロシアとの国境にフェンスを設置する計画を進めていますね。
はい、政府は国境の一部にフェンスを建設することを決定しました。国境の全長は約1300qですから、もちろんすべてに設置するわけではありません。国境検問所とその周辺に集中させ、全長の15%にあたる約200qに設置されることになるでしょう。まずは今年、リスクの高い地域で試験的にプロジェクトが進められる予定です。
フィンランドに女性リーダーが多いワケ…大使も“3児の母”
――最後に、マリン首相をはじめ、フィンランドに女性リーダーが多いのはなぜなのでしょうか。大使ご自身も3人の子育てとキャリアを両立されていますが、秘訣を教えてください。
それは私の秘訣というより、フィンランド社会の「レシピ」と言ったほうが良いかもしれません。「生活の平等」と「男女の平等」は、ごく自然な価値観として社会に定着しています。男性も含めて誰もがこの平等の恩恵に気づいていますし、女性を含むすべての人が社会に貢献する必要があると考えられているのです。国の経済力や競争力を考えたときに、労働市場における人口の50%を無視することはできませんよね。ですから、私のキャリアは特例ではなく、「平等」を実現しているフィンランド社会を反映したものと言えるでしょう。
●米が追加の軍事支援発表 ロシア「紛争をエスカレート」と反発  2/4
ウクライナの東部や南部で激しい戦闘が続く中、アメリカがウクライナに射程の長いロケット弾を含む追加の軍事支援を発表したことに対して、ロシア側は「アメリカは意図的に紛争をエスカレートさせようとしている」と反発しています。
ウクライナの東部や南部では激しい戦闘が続き、ウクライナ国防省は、東部ハルキウ州と南部ミコライウ州の民間施設が攻撃を受け、市民に犠牲が出ていると4日、SNSで発表しました。
こうした中、アメリカのバイデン政権は3日、ウクライナに対しておよそ22億ドル(日本円で2850億円)の追加の軍事支援を行うと発表しました。
この中には「GLSDB」と呼ばれる、射程がおよそ150キロのロケット弾が含まれ、これまでアメリカがウクライナに供与してきたロケット弾に比べ2倍近い射程になるうえ、すでに供与されている高機動ロケット砲システム=ハイマースから発射することができます。
これに対して、ワシントンに駐在するロシアのアントノフ大使は「ウクライナに強力な武器を供与することで、アメリカは意図的に紛争をエスカレートさせようとしている」と3日、SNSで反発しました。
欧米が相次いでウクライナへの軍事支援を強化する中、ロシア国防省は3日、北西部レニングラード州の演習場で最新鋭の戦車「T90M」を使った射撃訓練を行ったと発表し、欧米をけん制するねらいがあるとみられます。
またロシアの国営通信社によりますと、ロシア国防省は、一方的に併合したウクライナの4つの州について、南部ロストフ州に司令部がある南部軍管区の管轄下に置くことを決めたということです。
これについて、イギリス国防省は4日の分析で「ロシア軍が新たに占領した領土を長期的な戦略態勢に統合しようとする考えが浮き彫りになった」と非難しています。
●米 ウクライナに射程約150キロのロケット弾供与を発表  2/4
ウクライナ東部でロシア軍とウクライナ軍の激しい攻防が続く中、アメリカがウクライナに対し射程およそ150キロのロケット弾の供与を発表するなど欧米諸国の間で軍事支援をさらに強化する動きが広がっています。
ウクライナ東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つバフムトでは、包囲をねらうロシア軍とウクライナ軍の間で激しい攻防が続いています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日開かれた記者会見で「誰もバフムトを手放さない。われわれはできるかぎり戦う」と述べ、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
こうした中、アメリカのバイデン政権は3日、ウクライナに対しておよそ22億ドル(日本円にして2850億円)の追加の軍事支援を行うと発表しました。
これにはGLSDBと呼ばれる、射程がおよそ150キロのロケット弾が含まれ、これまでアメリカがウクライナに供与してきたロケット弾に比べ2倍近い射程になるとされています。
国防総省のライダー報道官は3日の記者会見で「ウクライナが長い射程の攻撃能力を手にすることで自国を防衛し、領土を取り戻すことができるようになる」と述べています。
以前から射程が長いミサイルなどの供与を求めていたウクライナのゼレンスキー大統領は3日夜、公開した動画で「バイデン大統領やすべてのアメリカの人々に感謝する」としたうえで「これらの支援が、ウクライナにできるかぎり早く届くようわれわれは協力しなければならない」と訴えました。
また、フランスとイタリアも3日、両国の国防相が電話で会談し、弾道ミサイルなどの迎撃が可能な移動式の地対空ミサイルシステムを供与することで合意するなど、軍事支援をさらに強化する動きが広がっています。

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 5日の動き 2/5
ゼレンスキー大統領「前線の状況はますます困難に」
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、新たに公開した動画で、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つバフムトなどについて「占領者がわれわれの防御を突破するために今、より多くの部隊を投入してきている。前線の状況はますます困難になっている」と述べました。一方、4日、イギリスのスナク首相と電話会談したことを明らかにし「重要な会話だった。彼と極めて重要なことを準備している」と述べました。また、イギリスが供与を決めている主力戦車「チャレンジャー2」をウクライナ兵が扱うための訓練がすでにイギリスで始まっているとしたうえで、「戦場では大きな意味を持つことになるだろう」と述べ、戦車の投入が戦況の流れを変えることに期待を示しました。
ロシア前大統領 再び核戦力ちらつかせ威嚇
ロシアの前の大統領で安全保障会議のメドベージェフ副議長は4日、ロシアの記者の質問に文書で回答した中で「われわれは核抑止力の原則に従い、脅威の性質に応じてあらゆる種類の兵器を使う用意がある。その対応は迅速で厳しいものになる」と主張し、再び核戦力をちらつかせて威嚇しました。メドベージェフ氏は、これまでも強硬な発言を繰り返し、欧米によるウクライナへの軍事支援をけん制しています。
ロシア外務省「欧米の努力はむだに終わる」
ロシア外務省は、EU=ヨーロッパ連合が、ウクライナへの支援を継続していく姿勢を改めて示したことについて、4日、報道官のコメントを発表し「欧米の努力はむだに終わる。ロシアの軍事作戦の目的は完全に達成される」として、軍事侵攻を続ける姿勢を重ねて強調しました。
ゼレンスキー大統領 米追加軍事支援「軍の機動力向上」
アメリカが追加の軍事支援を発表したことを受けて、ウクライナのゼレンスキー大統領は3日「われわれはアメリカとともに、テロに立ち向かう。射程の長い兵器はウクライナ軍の機動力を向上させ、ロシアの残虐な侵略を早く終わらせるだろう」と自身のツイッターに投稿し、バイデン政権に謝意を示しました。
●ロシア・ウクライナ戦争終結の鍵を握るのは「中立国」だ─ 2/5
開戦からまもなく1年たつが、ロシアとウクライナの戦争は混迷を深めるばかりだ。先の見えないこの戦いを終わらせるには、トルコやインドといった中立国が和平交渉に積極的に関与すべきだと、米経済学者のジェフリー・サックスは主張する。
ロシアもウクライナも、現在進行中の戦争で決定的な軍事的勝利を収められそうにない。それどころか両国とも、この争いをエスカレートさせる可能性が高い。
ウクライナと西側の同盟国が、南部クリミア半島と東部ドンバス地方からロシアを駆逐する見込みは低い。一方のロシアも、ウクライナを降伏に追い込めそうにない。
バイデン米大統領が2022年10月に指摘したように、この戦争が「過激化のスパイラル」に陥れば、「核兵器によるアルマゲドン (最終戦争)」の可能性は、60年前のキューバ危機と同レベルにまで高まるだろう。
戦場とはまた別の次元で、他の国々も苦境に陥っている。欧州の景気は後退しているし、途上国は飢えと貧困に苦しんでいる。米国では国内経済が悪化しているにもかかわらず、武器メーカーや大手石油会社が棚ぼた的に利益を得ているが、サプライチェーンの混乱や核の脅威にさらされた世界は不安定化している。
戦争の当事国は、自分たちが敵より軍事的に優位だと信じて、戦い続けるかもしれない。その場合、少なくとも一方が間違っている。いや、おそらく両方が間違っているのだろう。消耗戦は両陣営を荒廃させるだけだ。
世界が恩恵を受ける「和平合意」を結ぶには
だが戦争が、別の理由で続く可能性もある。戦争の当事国が、強制力のある和平合意に同意しない場合だ。
ウクライナは、戦闘を中断すればロシアがその隙に再軍備すると考えているし、ロシアもまたNATO(北大西洋条約機構)がウクライナの軍拡を加速させると踏んでいる。ゆえに彼らは、いま戦うことを選ぶのだ。あとでより強くなった敵に対峙するより、そのほうがいいと考えている。
戦争の当事国が納得できて、かつ強制力も信頼性もある和平合意を結ぶ方法を見つけなければならない。ウクライナを「永遠の戦場」にしないため、そして当事国と世界の利益のため、もっと多くの人が和平交渉に関する議論に関心を払うべきだろう。
多くの国・地域が恩恵を受ける和平合意を成立させるためには、中立国を巻き込まなければならない。これには、確固たる根拠がある。
和平合意の信頼性を高めるには、すべての戦争当事者の安全保障上の利益を満たす必要がある。1963年、ジョン・F・ケネディ元米大統領は旧ソ連と部分的核実験禁止条約を成功裡のうちに結ぶ過程で、こう述べている。
「条約の規定する義務が自国の利益になるものなら、最大の敵国同士も、その義務を受け入れて遵守するだろうとお互いを信頼できる」
和平合意を結ぶためには、ウクライナに主権と安全を保証しなければならないし、NATOには東方への勢力拡大を断念してもらわなければならない。NATO陣営は自分たちを「防衛的な同盟」と称する。だが、ロシアは明らかにそうは見ておらず、NATOの勢力拡大に断固として反対している。
クリミア半島とドンバス地方については、一定期間、停戦して非武装化するなど、いくらかの妥協が必要になるだろう。西側は、ロシアへの制裁を段階的に解除しなくてはならない。加えて、紛争で被害を受けた地域の復興にロシアと西側が協力する合意が得られれば、和平はさらに持続可能なものになる。
和平合意の成功は、その交渉と履行に誰が関わるかに左右されるだろう。戦争の当事者だけでは、このような和平を成立させることはできない。第三者の関与が必要だ。
どちらの国も勝利しそうにない
アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、インドネシア、南アフリカなどの中立国は、これまでに交渉を通じた戦争終結を繰り返し呼びかけてきた。こうした国々は、ロシアとウクライナが和平交渉の際に合意した条件を遵守することを助けるだろう。
これらの中立国は、反ロシアでもなければ、反ウクライナでもない。また、ロシアのウクライナ支配も、NATOの東方拡大も望んでいない。
NATOの東方拡大は、ロシアだけでなく他の国々に対しても「危険な挑発」になると考える向きは多い。米国の強硬派が中国と対抗するよう同盟国に求めた結果、NATOの東方拡大に対する中立国の反発は強まった。
2022年6月に開催されたNATO首脳会議では、本来なら「北大西洋」の代表だけが顔を合わせるはずだった。だが、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドといったアジア太平洋地域の指導者たちも出席したことに、中立国は驚きを隠せなかった。
中立国は、ロシアとウクライナの和平交渉において、重要な役割を果たすだろう。ロシアの経済と軍事力は、中立国との強力な外交関係と国際貿易に依存している。西側がロシアに経済制裁を課した際、インドなどの中立国はそれに追随しなかった。こうした国々は、どちらかの肩を持つことを望まず、ロシアとの強固な関係を維持し続けた。
主要中立国は、世界経済でも存在感を発揮する。IMF(国際通貨基金)の統計によると、アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、インドネシア、南アフリカの2022年の購買力平価GDPの合計は、全世界の約32%に相当する51.7兆ドル(約6634兆円)だった。これは、G7(米英仏独伊日カナダ)の合計を上回る。
中立国はG20の議長国を4年連続務めるほか、主要な地域機関でも主導的立場についており、グローバル経済のガバナンスにおいても重要な地位を占める。ロシアもウクライナも、これらの国々との関係を失いたくはない。ゆえに中立国は重要な「平和の保証人」 になるだろう。
中立国のなかには、ブラジルやインドのように国連安保理の常任理事国になることを長年、望んでいる国もある。彼らにとって和平交渉への参加は、外交上の信頼を得られるという利点もある。
ロシアとウクライナが和平協定を結ぶとすれば、国連安保理といくつかの主要中立国がそれを共同で保証する形が考えられる。先に言及した国々のほか、信頼できる「共同保証国」の候補としては、ロシアとウクライナの会談を巧みに仲介したトルコ、永世中立国のオーストリア、2023年の国連総会の議長国であり、戦争終結に向けた交渉を繰り返し呼びかけてきたハンガリーが挙げられる。
国連安保理と共同保証国は、和平合意に違反したあらゆる当事者に対して、国連で合意した貿易・金融措置を科すことができる。これに対し、違反した当事者が拒否権を行使することはできない。安全保障上の目的を達成し、平和を取り戻したいのなら、ロシアとウクライナは中立国の公正な判断に従わなければならない。
この戦争を続けるのはナンセンスだ。ウクライナの国土は荒廃し、ロシアは多くの人命と財を失う。世界中に損害を与えているこの戦争では、どちらの国も勝利しそうにない。
中立国こそが国連と連携し、新しい平和と復興の時代の共同保証国の役割を果たせる。世界はこの戦争が、激化のスパイラルに陥るのを見過ごしてはならない。
●米シンクタンク 「米国に中国と戦争する余裕はない」…その理由とは 2/5
米国は、ウクライナに支援した武器や弾薬を補充する上で困難に見舞われるほど防衛産業基盤が弱体化しており、中国と戦争をする準備はできていない、という分析が登場した。
米国の代表的な外交・安全保障シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、1月23日(現地時間)に発行した「戦時環境において空になった弾薬箱(Empty Bins in a Wartime Environment)」というタイトルの報告書で、米国の防衛産業基盤は現在の複雑な安全保障環境に対し十分な備えができていない、と診断した。
CSISは、米国の防衛産業は平時に適合した状態にあり、台湾海峡での中国との戦争など大規模な地域紛争が起きたら弾薬の需要に耐えられないだろうと指摘した。ロシアによるウクライナ侵攻後、米国は取り急ぎウクライナに武器を支援しようとしたが、米国の在庫自体があまりなく、急に武器を大量生産する余力もなかった点があらわになったのだ。特にスティンガー地対空ミサイル、155ミリ曲射砲および砲弾、ジャベリン対戦車ミサイルなどの在庫が足りなかった。
CSISは、米国が昨年8月までにウクライナに提供したジャベリンは7年分の生産量に当たり、スティンガーは過去20年間に米国国外へ販売した量に相当する規模だと推定した。また、今月までに155ミリ砲弾107万4000発を提供したが、量が足りなくなったことから、代わりに105ミリ曲射砲とその砲弾での支援を始めた。加えて、武器・弾薬を生産するには長い時間がかかるが、米国防総省が防衛関連企業と新たな購入契約を結んだのはウクライナに支援した一部の武器についてのみだった。
CSISは、ウクライナは問題の一部に過ぎず、インド・太平洋などで起き得る未来の戦争に備えることがより大きな課題だと指摘した。「米国と中国の競争激化から、ロシア・イラン・北朝鮮の引き続き存在する脅威に至るまで、米軍は少なくとも一つ、または二つの大規模戦争を進める準備を整えるべき」としつつ「強力な防衛産業と十分な武器・弾薬の在庫が、中国の行動を抑制する上に非常に重要だが、米国は戦争をする準備ができておらず、抑制力も減少した」と述べた。
またCSISは、中国がいつ台湾に侵攻するか予測は難しいが、武器の生産を増やすのに必要な準備期間を考慮すると、生産拡大が手遅れになる可能性が高い、と指摘した。CSISが台湾海峡で米中戦争の状況をシミュレートした結果、米国は開戦から3週間以内に5000発以上の長距離ミサイルを使った。特に、中国の防空網の外から艦艇を攻撃できて非常に有用な長距離対艦ミサイル(LRASM)は、わずか1週間で全て撃ち尽くした。LRASMを生産するのにほぼ2年かかるが、米国の2023会計年度の国防予算は、88発の購入に必要な予算を配分するにとどまっている。
CSISは、米国だけでなく英国など欧州の同盟国も武器の在庫が十分でない、と指摘した。また、同盟国は米国の武器に大きく依存しているが、米国が外国政府に武器を販売する際に適用する対外軍事販売(FMS、有償援助)と国際武器取引規則(ITAR)の手続きはあまりに複雑で、武器を引き渡すのに時間がかかりすぎるという。FMSは、米国の防衛関連企業が米国政府外の顧客を確保し、営業基盤を維持して単位当たりの生産コストを下げる前向きな効果を有しており、主要同盟国に対して関連手続きを簡素化する必要がある−とCSISは主張した。
逆に中国は、弾薬生産に大規模な投資を行い、最先端の装備を米国より5−6倍早く確保すると分析された。
CSISは、防衛関連企業が武器・弾薬の生産に必要な施設などに長期投資する誘因が生じるように、米国政府が企業と多年契約を結ぶなど、安定的な需要を創出すべきだと勧告した。続いて、中核となるパーツや材料の調達元を増やすなど、防衛産業界のサプライチェーンを強化し、主な武器・装備を戦略的に備蓄することを提言した。これとともに、国防総省は戦時の需要を予測し、戦争が起きた場合に武器の生産と取得の手続きを簡素化できる非常計画を樹立すべきことを主張した。
このほかCSISは、米国が日本・オーストラリアとSM6迎撃ミサイルの部品やトマホーク巡航ミサイルを共同生産している事例に言及しつつ、米国が主要同盟国と武器を共同生産して「規模の経済」を実現する「アライ・ショアリング(ally-shoring)」を勧告した。 
●利用される“歴史” なぜプーチン大統領は「ナチス」発言を繰り返すのか? 2/5
ウクライナ侵攻が始まって、まもなく1年。ロシアのプーチン政権は、過去の歴史を戦争に利用するような発言を繰り返しています。
スターリングラード攻防戦から80年
ロシア・プーチン大統領「ナチズムから世界を解放したスターリングラードの戦いを過小評価したり、歪曲したりすることは許されないー」
2月2日、プーチン大統領が訪れたのはロシア南部のボルゴグラード。かつて独裁者スターリンの名を冠し「スターリングラード」と呼ばれました。
第2次世界大戦で、ナチス・ドイツと旧ソ連が戦った独ソ戦の中でも、熾烈を極めた市街戦となった「スターリングラード攻防戦」。
ソ連軍が勝利したことで、ナチス・ドイツが降伏に至る転換点になったといわれる戦いの終結から、ちょうど80年となる記念日でした。
“ナチス”との戦いを訴えるワケ
前日にはスターリン像の除幕式が行われており、プーチン大統領は、その勝利の歴史を称え、改めて「ナチス」との戦い、祖国防衛を訴えたのです。
ロシア・プーチン大統領「ナチズムのイデオロギーが現代的な形になり、再びロシアの安全を直接脅かしている。我々は繰り返し、西側諸国の集団的侵略に対抗しなければならない」
振り返れば、まもなく1年となるウクライナへの軍事侵攻。それはこの宣言から始まりました。
ロシア・プーチン大統領「キーウ政権によって8年間いじめられ大量虐殺を受けた住民を守るために、ウクライナの非武装化と『非ナチス化』を目指す」2022年2月24日
プーチン大統領は、今回の「特別軍事作戦」の目的の一つに、「ロシア系住民を迫害するナチスからの解放」を掲げ、ウクライナ侵攻を正当化しました。
以来、プーチン大統領は、国内向けの演説などで、「ナチス」という言葉を度々登場させます。なぜプーチン大統領は「ナチス」を強調するのか。小泉悠さんは…
小泉悠さん(東京大学先端科学技術研究センター専任講師)「ロシアの社会にとって、『ナチスとの戦い』は極めて特別の意味を持っている。ですから、プーチン政権が最大公約数的に人々に訴えかけられると考えたのは、『ナチスという人類悪を我々は倒した仲間だ』ということだったんです。要するにロシアの言うことを聞かない奴はナチスだと。転倒した論理が生まれてしまい、戦争の正当性として利用されている」
強制収容所解放から78年
プーチン大統領が、勝利の歴史を国民に思い起こさせようとする中、1月27日、ポーランドにあるアウシュビッツ強制収容所で解放から78年となる追悼式典が開かれました。
ナチス・ドイツが、ユダヤ人110万人以上を虐殺したアウシュビッツ強制収容所。ここをはじめ各地の収容所を解放したのは旧ソ連軍でした。
しかし今回初めて、この式典にロシアは招かれませんでした。その訳を式典の主催者は…
アウシュビッツ・ビルケナウ博物館・シウィンスキ館長「第二次大戦中に各地で大量殺戮が行われました。そして今、(ウクライナの)ブチャ、マリウポリ、ドネツクなどで、またしても罪のない人々が、大量に命を奪われているのです」
これに対し、プーチン大統領は主催者などにあてた電報で抗議。「わが国の偉大な勝利への貢献を見直す試みは、ナチス復活の道を開く。ウクライナのネオナチによる民族浄化がまさにその証拠だ」
欧米にも“ナチス”を利用して非難するプーチン政権
ナチスとの戦争を持ち出して、ウクライナ侵攻を正当化するプーチン政権。対立する欧米に対しても―
ロシア・ラブロフ外相「欧米各国はウクライナを利用して、ロシア問題の最終的解決として戦争を仕掛けている。ヒトラーがユダヤ人に行った虐殺のように」
また主力戦車「レオパルト2」の供与を行ったドイツに対しても、「ナチスの犯罪を巡る歴史的責任を放棄した」と非難したのです。
ウクライナ情勢の中で、歴史を利用するプーチン政権。その一方で、今や本来の歴史の記憶が薄らぎつつあります。
広がるホロコーストの風化
アンネの日記で知られるアンネ・フランクの隠れ家があったオランダ。調査によれば、「ナチスが600万人のユダヤ人を虐殺したことを知らない」人が、いまや若者の6割近くに達したといいます。
歴史の風化が進む中、それを利用するプーチン政権に、小泉さんは…
小泉悠さん「一言で言うと『歴史の政治化』と言っていいと思う。歴史をどう描くかということは政治そのもの。歴史観の政治化の仕方によっては、『戦争を肯定する』とか、『虐殺なんかなかったんだ』という方向に向かってしまう。だから、痛みを伴うんだけど、きちんと(歴史を)直視する、それができる社会が、本当は強いんだと思うんです」
歴史と向き合う姿勢が、いま改めて問われています。
●ロシア、3月までにドンバス全体の攻略狙う ウクライナ諜報 2/5
ウクライナ軍情報総局は5日までに、ロシアのプーチン大統領は「今年3月までに」ウクライナ東部ドンバス地方全体の攻略をもくろんでおり、東部での戦闘は今後数カ月にわたって激化するだろうとの分析を示した。
同情報総局のユーソフ報道担当者が公式サイト上で発言した。その上でこの計画は機能しないだろうとし、制圧の目標期限も既に多数回延ばされていたとも明かした。
ドンバスで現在起きている激しい戦争はこの計画を完遂させるための反映と指摘。「人員や装備での損失は勘定に入れず、敵は独裁者の仕事を実現させることを試みている」とした。「ウクライナ軍は座視しているわけではない」とも述べた。
ドンバス地方はドネツク、ルハンスク両州から成る。
一方、ウクライナ国防省情報総局のチェルニャク報道担当者も先に、ユーソフ氏と同様の見立てを表明。
ロシア軍が追加の攻撃部隊、兵器や装備を東部へ再配置していることに気づいていると説明。ウクライナ軍の諜報(ちょうほう)に言及し、「プーチン(氏)は3月までにドネツク、ルハンスク両州の(残る)地域を押さえることを命じた」と述べた。
●“世界最強”の軍事同盟NATOトップ訪日の目的? ウクライナ侵攻の口実にも 2/5
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長が来日し、岸田総理と会談しました。今なぜNATOは日本と連携を深めようとしているのでしょうか?そもそも軍事同盟NATOとは?プーチン大統領を苛立たせウクライナ侵攻の口実にもなったNATO拡大の経緯とは?手作り解説でお伝えします。
NATOのトップが日韓歴訪
今回、日本と韓国を訪問したNATOのストルテンベルグ事務総長。韓国に対しては、ウクライナへの「武器提供」を求め、日本に対しては、安全保障の協力強化を確認しました。欧米諸国の軍事同盟であるNATOのトップが、日韓に協力を求めてきた背景には、何があるのでしょうか。
NATOとは
そもそもNATOは、ソ連に対抗する軍事同盟として1949年に発足しました。アメリカが主導していて、当初の加盟国はこちらの12ヶ国です。「集団防衛」という考え方に基づき、加盟国が攻撃を受けた場合、それをNATO全体への攻撃とみなして反撃などの対応をすることになっています。一方のソ連側も、1955年、東ヨーロッパ8ヶ国による軍事同盟、ワルシャワ条約機構を作ってNATOと対峙していました。
NATOの東方拡大
しかし、ソ連が崩壊すると、ワルシャワ条約機構はなくなり、民主化された東欧や旧ソ連諸国など14の国が雪崩を打ってNATOに加盟していきました。現在では、加盟国は30ヶ国、兵力はおよそ331万人に上ります。NATO軍の主な軍事行動としては、1990年代後半、旧ユーゴスラビアを巡る紛争での空爆や、2011年、カダフィ政権のリビアに対する空爆があります。
ロシアとNATO
こうしたNATO拡大に不満を募らせたのがロシアのプーチン大統領です。ウクライナがNATOに接近したこともあり、そうした状況を口実にウクライナ侵攻へと踏み切りました。そして今、ロシアの脅威を前に、新たにスウェーデンとフィンランドもNATOへの加盟を申請。プーチン大統領をさらにいら立たせています。NATO加盟国からはウクライナに対し戦車など攻撃力の高い兵器の供与も決まり、ロシアとの緊張は高まるばかり。
一方で、NATOのストルテンベルグ事務総長は、「ロシアと対決すれば待っているのは破滅だ」と明言。アメリカのバイデン大統領も、「ロシアとNATOの間の戦争は求めない」として、直接の衝突を避ける難しいかじ取りを迫られています。
NATOトップ、日韓歴訪のねらい
こうした中で、NATOトップの日韓歴訪には、どんな狙いがあるのでしょうか。「ロシアに接近を強める中国も見据えた動きだ」と指摘するのは、安全保障問題に詳しい小谷哲男(明海大学)教授です。「中国は、サイバー攻撃などでも欧米諸国の大きな脅威となっていて、NATO軍だけでは対応が難しいため、日韓と連携を強めて、中国をけん制したい」思惑があるといいます。冷戦のような枠組みが、再びよみがえりつつあるのでしょうか。
●ロシア、「併合」4州を南部軍管区の管轄下に…既成事実化進める狙いか  2/5
タス通信などは、ロシア国防省が、ロシアが一方的に併合したウクライナ東・南部4州を露軍の南部軍管区の管轄下に組み込んだと報じた。プーチン政権が、併合の既成事実化を進める狙いとみられる。
報道によると、露国防省のホームページで3日、露南部ロストフ州に司令部がある南部軍管区の地図にドネツク、ルハンスク、ヘルソン、ザポリージャの4州が加えられた。タス通信によると、南部軍管区の広報担当者は「管轄地域の拡大はロシアによる4州の併合宣言などによるものだ」とコメントした。これまではロシアが2014年に併合した南部クリミアだけを南部軍管区に含めていた。
英国防省は4日、「露軍が、新たに占領したウクライナ領を長期的に戦略体制に統合しようとする考えだ」と非難した。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4日のビデオ演説で、ロシア軍が、ドネツク州北方の要衝バフムトや州南西ウフレダルなどに「戦力を次々と投入している」と明らかにした。ウクライナの国防次官は4日、露軍が昨年秋に撤退したドネツク州北方のリマンに向けても「強力な攻撃」を開始したとSNSに投稿した。
●ウクライナ国防次官 「ロシア占領地で人権侵害」領土奪還の決意 2/5
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官が「BS朝日日曜スクープ」の独自取材に応じた。2023年1月29日の放送で特集したが、今回は、その発言をウクライナ語で動画公開(日本語翻訳テロップ付き)。ウクライナ国防省の中枢メンバーが日本メディアを通じて発信した、領土奪還の決意を改めてお伝えする。
マリャル国防次官の主な発言内容
マリャル国防次官は日曜スクープの取材に対し、ロシアに占領されているウクライナ領について、深刻な人権侵害が横行していると指摘。「占領された地域には、多くのウクライナ国民が残っており、人権侵害が行われている。ロシアは支配地域で国籍の付与、パスポート登録などのロシア化を進めている」と語った。さらに、占領地での子どもたちへの教育について、「幼稚園や学校は、子どもたちのためではなく、軍隊のために使われている。占領した地域で、無理矢理にロシア教育を行っている。学校では、ロシアの教科書に変わり、ロシアに都合の良い歴史などの教育を子供たちに行っている」として、ロシア化の強要を批判した。
子どもたちへの人権侵害は、教育にとどまらない。ウクライナは、去年2月の侵攻以降、約1万4000人の子どもがロシアに連れ去られたとしている。マリャル国防次官は、「ロシアは、ウクライナの領土からロシアに連れて行った子どもたちをすぐに養子にできるよう新しい法律を作った」と語り、ロシアが養子縁組を容易にするための法整備などを進めていることを明らかにした。さらに、マリャル国防次官は、ソ連時代のスターリン体制に言及し、「スターリン時代の1930年から40年代、多くの民族が強制移動させられるなど、ロシアは同じようなことを行った。まさに今、ウクライナの占領された領土で行われている」と、ロシアを非難する。
欧米から戦車の供与が決まったが、ウクライナは各国からの軍事支援をどのように受け止めているのか。マリャル国防次官は、「ウクライナ人は十分勇敢で、もちろん最後まで戦いますが、私たちの勝利は、他の国のパートナーなしではできないのです」と、各国に対する謝意を強調。日本からの支援にも感謝の言葉を続け、「特に医療器具や薬、医療に関しては日本から頂いたものに非常に感謝しています」と述べた。希望する戦車の台数や供与の時期については「具体的な話を言ってしまうと、交渉がうまくいかなくなる場合もある。どんな支援でも感謝したい」と語るにとどめたが、「民間人への残酷さに驚いています」と、
民間施設に1日約100発ものミサイル攻撃が起きていると改めて説明。防空システムや長距離兵器の必要性を訴えた。
マリャル国防次官はインタビューの最後、侵略阻止に対する国際的な理解と結束を熱弁した。「私たちは皆、同じ地球に住んでいる。戦争・侵略を止める方策を見つける必要がある」「宇宙まで行ける高い技術を使っている時代に、戦車で隣国に入り、破壊と人殺しを続ける人たちも存在する。私たち自身が(ロシアを)止めるために団結しなければならない」

 

●煮え切らない中国、焦るプーチン 露中経済関係の実情 2/6
今を去ること約1年前、2022年2月4日の北京冬季オリンピック開会式には、30ヵ国ほどの国家元首が出席したと言われている。その中で、明らかにV.プーチン・ロシア大統領は別格の大物であった。欧米日等が外交的ボイコットを実施する中で、曲がりなりにも大国であるロシアの出席を得たことは、中国としても最低限の面目を保った形であった。
プーチン訪中の機会を捉え、習近平国家主席との首脳会談が開催された。会談後に出された共同声明には、「北大西洋条約機構(NATO)をこれ以上拡大しないことなどを法的に保証するよう、ロシアが米国などに求めていることについて、中国側は共感し、支持する」との文言があった。むろん、ロシア側も、「『1つの中国』の原則を改めて支持するとともに、台湾を中国の不可分の領土と確認し、いかなる形の『台湾の独立』にも反対する」と、中国の国益への最大限の配慮を示してみせた。
このように、北京五輪の際には、露中がお互いの中核的国益を擁護し合っていた。国際場裏において両国が共同戦線を張っていることを、強く印象付けた。
それからほどなくして、プーチン・ロシアは2月24日に、ウクライナへの軍事侵攻に踏み切った。欧米とは決定的に対立し、網羅的な制裁を科せられた。それでは、こうした難局でロシアは、当初期待したような支援を中国から受けられているだろうか? 今回のコラムでは、経済面から、露中関係の実情を考察してみたい。
輸出入とも確かに拡大
ウクライナへの軍事侵攻開始後、ロシアは貿易統計を国家機密扱いとし、一切公表しなくなった。したがって、露中貿易の動向を知るには、中国側の統計を紐解くしかない。
図1は、中国の貿易統計にもとづき、2021〜22年の中国の対ロシア輸出入額を、月別に跡付けたものである。実は22年2月の開戦ショックで対露輸出が落ち込んだのは、中国も同じであった。
中国は対露制裁に加わらなかったものの、送金や輸送の不確実性が大きすぎ、多くの中国企業が出荷を見合わせたからだった。ようやく7月くらいから対露輸出が上向くようになった。一方、対露輸入は、侵攻直後の3月から増加に転じ、年間を通じて高い水準を維持した。
結局、22年の中国の対ロシア輸出は761億ドルで、前年比12.7%増であった。対ロシア輸入は1141億ドルで、前年比43.9%増であった。確かに、国際的なロシア包囲網が形成される中で、中国は悪目立ちしている。しかし、中身を見ると、若干印象が変わってくる。
図2は、中国の対露輸出の商品構成を、21年と22年とで比較したものである。なお、図中でたとえば「84.機械・設備」とあるのは、国際的に用いられている商品分類のHSコードにおける第84類の商品であることを意味する。図2を見ると、主要品目の輸出で、目立って伸びているのは自動車くらいであり、他の品目の拡大はそれほど顕著ではない。
自動車に関して言えば、22年にChery(奇瑞汽車)、Haval(哈弗)、Geely(吉利汽車)などの中国車がロシア市場で大幅な販売拡大に成功したことは事実である。ロシアの乗用車販売市場に占める中国ブランド車のシェアは同年、18.1%にまで拡大した。ただ、これは欧米日韓のブランドがロシアから撤退したため、消去法的に中国車が選択されたものである。
先進国に制裁の包囲網を敷かれたロシアは、電子部品、とりわけ半導体の不足に苦しむことになった。注目されたのは、中国が抜け穴となり、ロシア向けの電子部品供給を拡大するのではないかという点であった。
電子部品はHSコードでは第85類に分類される。図2を見ると、2022年に中国はロシアへの第85類の輸出をむしろ減らしている。今のところより詳細なデータが得られないので、断言はできないが、中国がロシア向けに電子部品輸出を大幅に増やした様子は見られない。
ハイテク分野で象徴的だったのは、中国の通信機器大手・ファーウェイの対応である。先進諸国の制裁で、ロシアにおける通信機器確保に不安が広がる中で、ファーウェイは22年末をもってロシアにおけるBtoB事業を打ち切ったのである。中国は対ロシア制裁に加わっていないにもかかわらず、ファーウェイは二次制裁の懸念などから自主的にロシアへの通信機器供給から手を引いた形であった。
もっとも、米ウォール・ストリート・ジャーナルが今般報じたように、中国企業が水面下でロシアに軍需部品、汎用品を供給しているとの疑いは否定できず、それには第三国経由の輸出も含まれる可能性がある。今回のコラムで筆者は、公開された中露二国間の貿易統計から一次的な考察を試みたが、本格的な実態解明にはより多角的で精緻な分析が求められる。
一方、中国の対露輸入の商品構造を21年と22年とで比べたのが、図3である。そもそも、中国の対露輸入は大部分が第27類エネルギーから成り、22年の輸入総額の急拡大をもたらしたのもまたエネルギーだったことが分かる。22年には、ロシアからのエネルギー輸入が59.5%も伸びたのに対し、エネルギー以外の品目は11.6%しか伸びなかった。
バーゲン価格で石油を買った中国
このように、22年の中国の対露輸入増は、ほぼエネルギー輸入増に尽きると言って過言でない。
ロシアがウクライナ侵攻を開始すると、米国はすぐにロシアからの石油輸入を禁止し、欧州もロシア石油からの脱却を打ち出した。行き場を失った石油のはけ口となったのが、インド市場と並んで、中国市場であった。
中国もロシアによる侵攻開始当初は、あからさまにロシアを支援しているように見られて自国の国営石油大手が制裁を食らうのを恐れ、ロシアからの石油購入を見合わせたようだ。しかし、しばらくすると、対応を変えた。ロシアのウラル原油は国際価格から1バレル当たり30ドルほどもディスカウントされて売られるようになり、中国としても価格の安さに抗えなかったのだ。
中国によるロシア原油のタンカー輸入は、21年には日量80万バレル、22年第1四半期には75万バレルだったが、それが5月には過去最高レベルの110万バレルに跳ね上がった。これ以外にも、元々中国は東シベリア太平洋(ESPO)パイプラインを通じて日量80万バレル程度の原油を輸入しており、両者を合わせると最盛期には日量200万バレル近くの石油がロシアから中国に向かうこととなった。
結局、22年通年では、中国によるロシア産原油の輸入は8625万トンに上り(日量172万バレルに相当)、前年から8%拡大した。首位となったサウジアラビアの8749万トン(日量175万バレル)に次いで、ロシアは僅差の2位となった。
ロシアから中国向けには、19年12月に天然ガスパイプライン「シベリアの力」が稼働し、それを利用したガス輸出が年々拡大してきている。輸出量は、22年に155億立法メートルとなり、ロシアのパイプラインガス輸出全体の15%ほどを占めるまでになっている。
このほか、22年にはロシアから中国への石炭および液化天然ガス(LNG)の輸出も顕著に拡大した。
「シベリアの力2」は正式決定せず
22年には、石油だけでなく天然ガスについても、ロシアは主力の欧州連合(EU)向けの輸出を激減させた。問題は、中国がそれに代わる市場になれるかであるが、タンカーによる海上輸送が可能な石油に比べて、液化しない限りパイプラインで運ぶしかないガスは、市場シフトの難易度がはるかに高い。
露中が「シベリアの力」で合意しているピーク時の供給量は、年間380億立法メートルである。これまでその供給源はサハ共和国のチャヤンダ・ガス田のみであったが、22年12月にイルクーツク州のコビクタ・ガス田もこれに加わり、380億立法メートル達成に一歩近づいた。また、22年2月のプーチン訪中の際に、さらに100億立法メートルを追加で供給する旨の契約が結ばれたが、本件は供給源のサハリン沖のガス田が米国による制裁の対象となっており、先行きが不透明である。
いずれにしても、ロシアの主力ガス産地は西シベリアのヤマロ・ネネツ自治管区であり、そこからアジア方向へのパイプラインを新規建設しない限り、ロシア産天然ガスの本格的な東方シフトは不可能だ。ロシアはヤマロ・ネネツから中国に至る「シベリアの力2」という新パイプラインを検討中で、年間500億立法メートルの輸送能力を予定している。
ただ、本件は経由国となるモンゴルとは合意済みだが、肝心の中国はまだ最終的なゴーサインを出していない。おそらくロシアとしては、22年9月にウラジオストクで開催した「東方経済フォーラム」でシベリアの力2合意をぶち上げ、「ロシアは欧州ガス市場なしでもやっていける」とアピールしたかったのではないか。しかし、出席した中国共産党ナンバー3の栗戦書全国人民代表大会常務委員長は、本件につき明言を避けた。
ロシアが息を吹き返す唯一のシナリオは……
22年12月30日にプーチン大統領と習近平国家主席のリモート首脳会談があった。その席でプーチンは、22年の露中貿易は25%ほど伸びており、このペースで行けば24年までに往復2000億ドルの貿易額を達成するという目標を前倒しで実現できそうだと、手応えを口にした。
しかし、上で見たとおり、22年の露中貿易の拡大は、国際石油価格が高騰する中で、中国が割安になったロシア産原油を積極的に買い増したという要因にほぼ尽きると言っていい。シベリアの力2をめぐる駆け引きに見るように、中国はプーチン・ロシアに救いの手を差し伸べているわけではなく、経済協力を進めるにしても、自国にとっての利益を最優先している。
このように頼みの中国が積極的に支えてくれないとなると、筆者が以前のコラム「プーチンによる侵略戦争はいつ終わるのか」、「2023年ロシア経済を待ち受ける残酷物語」で論じたように、ロシア経済が中長期的に衰退に向かうことは、やはり不可避であろう。
ただし、一部で警鐘が鳴らされているとおり、もしも近いうちに中国が台湾に軍事侵攻するような事態となれば、話はまったく違ってくる。その場合、中国はロシアとのより強固な同盟関係を構築するはずなので、経済面で相互補完性の強い中露が支え合って、ロシアが息を吹き返す可能性が出てくる。
●プーチン大統領「ウクライナ侵攻設計者」再び呼んだ…彼が最初にしたこと 2/6
「ウクライナ侵攻の設計者が帰ってきた。すなわち大攻勢が始まる恐れがある」。
ロシア軍の最高指揮官であるゲラシモフ参謀総長が先月11日にウクライナ戦総司令官に任命されると外信は一斉にこのように報道した。ゲラシモフ参謀総長は昨年2月24日にロシア軍が南部、北部、東部の3面から攻め込む全面戦争を画策した張本人だ。
彼をはじめとするロシア首脳部は2日でウクライナを掌握できると豪語した。だがロシア軍が最低の成績を繰り返し戦争は1年近く続いている。それにより戦争を設計したゲラシモフ参謀総長解任説が飛び交った。ロシア政府は明言しなかったが、彼に向けられたプーチン大統領の強力な信頼は落ちたものと観測された。そんな彼が約10カ月ぶりに前面に再登場した。
これに対しプーチン大統領がゲラシモフ参謀総長を後押しするとの分析が支配的だとニューヨーク・タイムズが伝えた。これに先立ち最近までプーチン大統領はロシアの民間軍事会社ワグネルグループの傭兵部隊を率いるエフゲニー・プリゴジン氏、悪名高いチェチェン共和国部隊を指揮するラムザン・カディロフ氏らなど非政府要人を頼った。
ところが彼らが囚人まで動員して人海戦術を展開するのにもウクライナ東部でこれといった成果が出ず、プーチン大統領はゲラシモフ参謀総長を再び選択した。ロシア安保専門家のマーク・ガレオッティは「いまやロシアのすべてはゲラシモフ参謀総長にかかっている。彼は『毒入りの聖杯』をあおった」と評した。
「頭からつま先まで軍人」…ウクライナでも尊敬
ゲラシモフ参謀総長と会った人たちは彼を無愛想でいかつい人物と描写し、天生の軍人だと表現する。ロシアのショイグ国防相は彼を「頭からつま先まで軍人」と話した。ゲラシモフ氏は1955年にロシア連邦所属のタタール共和国の首都カザンで生まれた。平凡な労働者家庭で育ったが、早くから軍人を夢見た。16歳でカザンのスボロフ軍事学校に入り2年後に優秀な成績で卒業した。その後高等戦車司令部学校(1974〜76年)を出て1977年に22歳でソ連軍に入隊した。
1991年にソ連が解体されロシア軍に編入し、その後将軍参謀軍事学校(1995〜97年)を出てモスクワ軍区副司令官を務め出世の道が開かれた。1999年の第2次チェチェン戦争に参戦して活躍し2001年に司令官になった。2009年から2012年まで戦勝記念日の軍事パレードを指揮し、2012年11月に57歳で参謀総長に就任して世界2位の軍事大国を率いる最高階級になった。その後10年以上にわたりプーチン大統領のそばを守っている。
●各国のウクライナ支援、15兆円超 米独の戦車供与にロシア反発 2/6
ロシアの侵攻が続くウクライナに対し、西側諸国は相次いで支援を表明した。キール世界経済研究所(ドイツ)のまとめでは、これまでの支援表明額(2022年11月20日時点)は、軍事支援・人道支援・財政支援の3分野を合わせて少なくとも計1080億ユーロ(約15兆3000億円)に上る。
国別では、米国が479億ユーロで、全体の4割強を占める。このうち軍事支援が229億ユーロで最も多く、財政支援151億ユーロ、人道支援99億ユーロと続く。米国はこれまで、高機動ロケット砲システム(HIMARS)や耐地雷装甲車「マックスプロ」など多くの武器を供与し、ウクライナ軍への使用訓練も実施して戦局に影響を与えてきた。地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」や主力戦車「M1エーブラムス」の供与も表明し、引き続き軍事支援をリードしていく姿勢を示している。
欧州各国の軍事支援は英国が41・3億ユーロ、ドイツ23・4億ユーロ、ポーランド18・2億ユーロ――など。ドイツは1月、欧州で広く保有されている自国製主力戦車「レオパルト2」を供与すると表明した。ポーランドなどの保有国もこの戦車を供与する方針で、ロシアは猛反発している。
●ウクライナ国防相「ロシア軍が2月中に大規模攻撃の可能性」 2/6
ウクライナのレズニコフ国防相は5日、記者会見で、同国への侵攻を続けるロシア軍が2月中に大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性があるとの見方を示した。ロイター通信が伝えた。
レズニコフ氏によると、大規模攻撃は、露軍が完全制圧を目指す東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州一帯)か、2014年に一方的に併合した南部クリミア半島の周辺で始まるとみられるという。ただ、レズニコフ氏は、露軍の装備や物資は十分に整っていないと分析し、「我々は攻撃を食い止めることができる」と主張した。
一方、英国防省は5日、露軍が激戦地となっているドネツク州の戦略的要衝バフムトの包囲を徐々に強めているとする戦況分析を発表。ウクライナ軍はなお複数の補給路を確保しているものの、「バフムトは孤立を深めている」と指摘した。
●世界はウクライナを見捨てはじめた。隠せない「綻び」と支援疲れの現実 2/6
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により、一気に崩れてしまった国際社会の均衡。世界はこの先、どちらに向かって進むのが正答で、そのために私たちはどのような行動を取るべきなのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、現在我々が直面している問題を改めて整理し各々について解説。その上で、今後各国が遵守していく新ルールと秩序の「あるべき姿」について考察しています。
綻びが進む国際秩序‐ウクライナ戦争の泥沼化と世界の不安定化
「ロシア政府内でもプーチン大統領の方針とロシア軍の体たらくに対する非難が顕在化してきた」と報じる欧米メディア。
「ロシアからの攻撃は相変わらず衰えることを知らないが、ドローン兵器による攻撃などは悉く撃ち落とした」と主張を繰り返すウクライナ政府。
「プーチン大統領によるウクライナ侵攻は世界にショックを与えたが、ロシアは結果的に失敗することになる」という論評。
「この戦争は長期化の様相を呈してきた。両リーダーが和平に向けた動きを取っている兆しは見られない。ロシアの企てが通用しないことを示すために、NATOはさらなる軍事支援をウクライナに提供する」という来日中のストルテンベルグNATO事務局長の言葉。
ウクライナでの戦争(ロシアによるウクライナ侵攻)の現状および見通しについて、いろいろな発言がありますが、皆さんはこれらの発言をどれだけ信用しているでしょうか?
「IT技術が発展し、まさに事が起こると同時に動画で世界に配信できるようになった今、情報をでっちあげることはできないだろう」というご指摘を今でも耳にすることが多々ありますが、実際には“今でも”戦時に提供される“当事者”からの情報の多くは、大本営発表的な性格のものであり、自身が優位に立っているようなイメージを創り出すか、さらなる支援を得るための材料として負の部分が強調され、cry for help的な形式で使われており、実情は伝えていないと言えます。
ロシア軍は思いのほか、ウクライナ軍に押し返されていて苦戦していますが、武器弾薬の量、動員できる兵士の数、そして戦略的な武器の種類と攻撃能力においてはまだまだ余力を残している上に、イランや中国などからの支援も受けていて、まだまだ戦闘執行能力は高いと言われています。
欧米諸国・NATOからの軍事支援が予定通りにウクライナに供与されているという前提でいうと、ウクライナの戦力は質が量を上回る傾向になってきていますが、それが本格的に作動して、ロシアを苦しめると予想されるのは、まだ数か月先のことです。もし、予定通りに、約束通りに供与されるのならば。
ロシア軍によるウクライナの民間施設・生活インフラ、そして補給路に対する集中的な攻撃は、ウクライナ国民の生存を脅かし、確実に戦意を削ごうとする戦略が見え、それによってリーダーシップへの反感を煽るように仕向けられています。
攻撃は確実にウクライナの力を削いでいますが、ウクライナ軍による反転攻勢はウクライナ国民と政府に勇気を与えているため、まだゼレンスキー大統領とその周辺への反感は高まってはいないようです。
このような状況下で見えてくるのは、ロシアもウクライナも多大な犠牲を払いながらも、まだ自分たちは負けてはおらず、和平プロセスについて話し合う段階ではないという思惑です。
プーチン大統領も、ゼレンスキー大統領も、和平について口にするものの、常に強調されるのは「私が出した条件に沿う内容であれば」というBig Ifであるため、実際には「話し合うことはない」というメッセージになってしまいます。
つまり戦争はまだまだ続くという見込みが立ってしまいます。
戦争の長期化は確実に支援疲れを起こし、戦争への非当事者による関心の薄れが顕著になり、各国民の関心事は「自分の生活の改善」といった内政に向き始めることで、ウクライナを世界が見捨てざるを得ない状況を作ってしまうかもしれません。
それを引き留めるためにストルテンベルグ事務局長の発言のように欧米による支援の強化と維持が必要という内容が繰り返されるのでしょう。
しかし、今月24日には開戦から1年を迎えることになってしまう“ロシアによるウクライナへの侵攻”は、確実に国際秩序を変えてしまい、国際協調の下に成り立っていた世界は崩壊したと言えます。
それは「領土の不可侵」、「法の支配」、「航行の自由」、「自由貿易」、そして「恐怖からの自由」といった国際社会が長年にわたり相互に遵守し、尊重してきた国際ルールを踏みにじり、代わりに世界の分断と混乱を鮮明化し、相互不信を高めたと考えます。
シリアでの内戦は継続していますし、イエメンも泥沼の内戦状態です。これらの内戦に対する国際社会の関心は薄れ、調停努力も進んでいません。
さらにはミャンマー国軍によるクーデターで、民主化の試みが砕かれたと思われるミャンマーも、クーデターから2年経った今も、国軍はまだ人心を掌握できておらず、民主派グループの武装勢力(PDF)による反転攻勢に直面して、各地で戦闘が繰り返されて治安状態は悪化の一途を辿っています。
結果として国民には強いAnti国軍感情が生まれ、経済活動もままならない中、欧米諸国の企業が早々と撤退した中、我慢強く操業を続けてきた日系の企業もついに撤退を決断しなくてはならない事態になっています。
そしてミャンマー国軍にとって重要な後ろ盾だったロシアは今、ウクライナでの戦争に忙殺されており、ミャンマーへのコミットメントは大きく低下しています。中国については、“隣国”という地政学的な位置づけもあり、ミャンマーの安定は大事なマターではあるものの、その安定の担い手は誰でもよく、あまり国際社会からの風当たりを強くしたくない習近平指導部は、あまり露骨なコミットメントを控えるようになってきています。
結果として経済は低迷し、雇用も失われる中、ミャンマーは再び忘れられた国となってしまい、困窮を極めるという悲劇を生んでいます。
UNによる調停も不発ですし、ASEANからも見捨てられた感が強い中、ミャンマーは行き先を失っているように見えます。
こじつけかもしれませんが、ロシアによるウクライナ侵攻が生んだ国際分断の被害者と言えるかもしれません。
以前、このコーナーでも取り上げたエチオピアにおけるティグレイ紛争も、最近はあまり報じられなくなったので解決したのかと思われがちですが、実際にはまだ継続しており、首都アジスアベバはかろうじて平静を保っていると言われていますが、多民族・多宗教国家でもある性格上、ティグレイ紛争を機に、国内のintegrityにほころびが出てきています。
ロシアによるウクライナ侵攻が起きるまでは、国連安全保障理事会でも特別会合を開いて取り上げるほどの注目度でしたが、その国連安保理が真っ二つに割れて機能不全を起こしている今、エチオピアで起きている悲劇と、その影響が飛び火して不安定化してくる東アフリカの懸念にコミットする余裕がなくなっています。
そして北東アジアでは北朝鮮による威嚇がエスカレーション傾向にあり、核の脅威は高まっていると思われますが、こちらについても今、口頭での非難や懸念の表明はあっても、実質的な措置を取るための基盤が存在しない状況になっています。つまり北朝鮮のやりたい放題になりかねない事態です。
そしてイラン絡みの緊張は今、広域アジア地域に新しい戦争の火種を作っているように見えます。
以前から懸念されている核開発問題にかかる分断はもちろんですが、ウクライナでの戦争の裏で、イスラエルとイランの間の緊張がこれまでになく高まっているようです。
未確認情報ではありますが、今週、イランの複数都市の軍事施設がミサイル攻撃を受けたと伝えられましたが、規模と精度から見て恐らくイスラエル軍による攻撃と思われるようです。イスラエル政府は肯定も否定もしていないようですが、イランは確実にイスラエルへの報復攻撃を準備しているようで、そうなった場合は報復攻撃の応酬に繋がり、その戦争が一気にアラビア半島全体に飛び火することになりそうです。
このようなシナリオが実現してしまった場合、国際社会はウクライナ・ロシアと広域アジア両面で起こる戦争に対応しなくてはならず、ここに噂の台湾情勢が絡んでしまった暁には、冗談ではなく世界第3次大戦に繋がりかねません。
イラクやアフガニスタンでの大失敗を経験するまでは、旧ソ連崩壊後、唯一の超大国として世界中の治安維持に直接乗り出していたアメリカが出てくる状況だったのですが、すでに間接的にではありますが、ロシアとウクライナの戦争にどっぷりとコミットしていると同時に、アメリカ軍の直接介入を嫌う国民感情に押されて、アメリカが助けてくれる時代は終わってしまいました。
今回のウクライナでの戦争に対しても、武器弾薬の供与は行っても、アメリカ軍を派遣することはなく、NATOという枠組みの下、欧州の戦争は欧州が対応すべきと考えて動いているのと同じく、その他の地域でのいざこざも、その地域で解決すべきという姿勢に変わってしまっています。
結果、当事国が自ら解決するという枠組みが出来上がり、それが各地で起こる戦争の火種になっていると思われます。
私も参加している調停グループでも、多くの案件が持ち込まれますが、実際に調停トラックを走らせるためには当事者全員の同意が必要で、なかなか調停の実施には至りません。
国際社会の分断そして国際秩序の崩壊はすでにロシアによるウクライナ侵攻前から進行していたと思いますが、これまでの相互承認による国際ルールが踏みにじられ、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、欧米諸国とその仲間たちが実施した対ロ制裁の実施は、確実に世界の分断を決定的にしてしまいました。
しかし、国際社会の関心がロシアによるウクライナ侵攻に集まり、結果、他の火種に手が回らなくなっているという恐ろしい現状を前に各国も呆然としているだけではありません。
ウクライナでの戦争が長期化の様相を呈する中、新しい国際ルールとそれに基づく新国際秩序づくりの動きがスタートし、広がってきています。
どのような要素が加えられるのかはまだ方向性が見えませんが、一つ確実に見えてきていることは、これまでのような欧米型民主主義の押し付けは、世界の大多数の国々と地域の支持・参加を生むことは難しいということです。
アジアには一党独裁の国もあれば、王政の国もあります。同じアジアでも中東に目を向けると王族による支配と宗教思想をベースにした統治形態も存在します。アフリカでは、比較的民主主義的な統治形態は広がっていると思われますが、部族・民族ベースの統治形態もまだ根強く存在します。そしてラテンアメリカでは、ポピュリズムもあれば、左派もありますし、社会主義的な統治も存在し、必ずしも欧米型の民主主義を受け入れてはいません。
このような多種多様な統治形態と思想を持つ国々が署名して参加できるようなルール作りとそれに基づく新国際秩序づくりは大きな混乱が予想されますし、激論が交わされることは容易に予想され、その道のりは難航が予見できますが、これまでのルールが踏みにじられ、秩序が崩壊する状況に直面する今、早急に議論・協議を始める必要があるという認識では、多くの国々が一致しています。
具体的な参加国についてはあまり触れないようにしますが、個人的に嬉しいニュースとしては珍しく日本がそこにスタートから参加し、かつ主導的な役割を果たそうとしているということでしょう。
私的には、これはこれまで携わってきた紛争調停グループの拡大版と位置付けており、多くのメンバーも参加していますが、今、議論を急ぐ中、結論を急ぐのは、「誰(どの機関)が音頭を取るのか?」そして「どこで行うのか?」、さらには「いつまでにそれなりの方向性を示すのか」という要素です。
国際社会における主体・アクターが、旧来からの国家・政府はもちろん、市民セクターなど非政府組織にも広がってきていることを踏まえると、どこかの国が主導するのは難しいかと思いますが、数か国で(またはマルチセクターの代表たちで)まとめ役を務めるのは可能かと思います。
その場合、私個人としてはUN(国連)が話し合いの場を提供すべきではないかと考えています。
今回のウクライナ問題への対応のまずさから、すでに権威も存在意義も失墜していますが、場の提供には適していると思われます。
私はグティエレス事務総長を個人的に敬愛していますが、ロシアによるウクライナ侵攻の際には遅きに失した対応しかできず、その影響力と威光は地に落ちました。昨年には再任され、あと5年の任期を与えられましたが、個人的には再任に臨むべきではなかったのと考えています。それはまた別の機会にお話ししたいと思いますが、国連が場を提供する際、大事なのは、国連事務総長をはじめとするUNオフィシャルが決して前面に出ないことです。
各国や非政府系のアクターの意見集約に奔走し、整理し、議論を進める手助けをするという裏方に徹することが出来るかがカギです。
安保理や総会という常設の古い枠組みではなく、あくまでもアドホックな場・箱(特別委員会やタスクフォースなども一案)を用意して、できるだけフラットな環境での議論が必要だと考えます。
もし、このような試みを通して、大枠でも新しい国際ルールの形を示し、それに基づく国際新秩序のイメージを作り上げることが出来れば、恐らくそのタイミングでロシアとウクライナの戦争に対する調停および和平協議が実施できる素地が整うのではないかと感じています。
もうすでに見えてしまったように、従来の国際ルールは崩壊し、国際秩序も崩壊したため、旧来の考えに基づいた紛争の解決は、世界を二分・三分することになったロシアとウクライナの戦争に対しては不向きです。
大国間の代理戦争の様相を示す地域戦争も、内戦も、そして、世界を終焉させかねない大国間の直接対決も、この際古い国際秩序の悪しき例として葬り去り、代わりに国々がそれぞれの違いを超えて協力し、遵守していく新ルールと秩序が今、必要になってきているのではないでしょうか?
ここ数週間ほどですが、この世界的な取り組みに関わることが出来て、とても光栄ですし、非常に刺激を受けていますが、その裏側で日々多くの犠牲が生まれ、罪なき一般市民の安寧が奪われているという悲しい現実に衝撃を受け、一日も早い解決を手助けしたいと考えています。
●東部ハルキウにミサイル着弾 “ロシア軍が2月に大規模攻撃か”  2/6
ロシア軍は東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の掌握に向け激しい攻撃を続けています。ウクライナのレズニコフ国防相はロシア軍が2月、大規模な攻撃を仕掛けてくるという見通しを示したうえで徹底抗戦する姿勢を強調しました。
ロシア軍が侵攻するウクライナでは東部のハルキウで5日、市内中心部に2発のミサイルが撃ち込まれ、このうち1発は集合住宅の近くに着弾しました。
ハルキウ州のシネグボフ知事によりますと、集合住宅では複数のけが人が出ているということです。
さらにロシア軍は東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つバフムトの掌握に向けて激しい戦闘を続けています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は4日、ロシア軍が東部ルハンシク州の州内西部とドネツク州のバフムトで決定的な攻撃を行うため、部隊や兵器を集中させていると指摘しました。
こうした中、ウクライナのレズニコフ国防相は5日、記者会見を開き「2月にロシアが攻撃を仕掛けてくる可能性がある。象徴的な理由からで軍事的には論理的ではなく、ロシアも準備ができているわけではない。それでも彼らは来るだろう」と述べ、侵攻から1年となる今月に合わせロシア軍が大規模な攻撃を行うという見通しを示しました。
そのうえで「欧米側の兵器がすべて間に合うとは限らない。しかしわれわれは準備ができている」と述べ、徹底抗戦する構えを強調しました。 
●プーチン氏、地震被害のトルコとシリアに支援申し出 2/6
ロシア大統領府によるとウラジーミル・プーチン大統領は6日、同日早朝発生したマグニチュード(M)7.8の地震で壊滅的な被害を受けたトルコとシリアに対し、支援を申し出た。この地震ではこれまでに両国で計1400人以上の死者が報告されている。
プーチン氏は、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領とシリアのバッシャール・アサド大統領にそれぞれメッセージを送り、犠牲者への哀悼の意を表するとともに、「必要な支援を提供する用意がある」と述べた。
またロシア国防省も、セルゲイ・ショイグ国防相がトルコのフルシ・アカル国防相に電話で弔意と支援提供の意思を伝えたと発表。「医療支援を含め、軍部を通じて必要なあらゆる支援の提供を申し出た」と述べた。
●中国がロシアに軍事援助、「ウクライナ侵攻を支援」との見方 2/6
中国の気球が米国本土の上空を飛行していた問題や、その後のブリンケン国務長官の北京訪問の中止など、米中間の緊張が高まる中、中国は米国主導の制裁措置に反してロシアに軍事援助を行っていることを、2月4日のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。
WSJが入手したロシアの税関記録によると、中国の国営軍事企業は、ロシアにナビゲーション機器や戦闘機の部品などの軍事装備を発送している。
今回のニュースは、中国の馬朝旭外務次官が先週ロシアのラブロフ外相と会談し、中国の当局者が「ロシアとの相互の政治的信頼を強化した」と発言した翌日に明るみに出たとロイターは報じている。さらに、ブリンケン国務長官が、モンタナ州上空に中国のスパイ気球が浮かんでいるとの米当局の報告を受け、予定していた中国訪問を突然中止したタイミングとも重なった。
米当局は先週、対ロシア制裁を拒否しているアラブ首長国連邦とトルコに対しても、ロシアへの輸出を抑制するよう迫ったと複数のメディアが情報筋の話として報じた。両国から輸出された物資は、ロシア軍がウクライナへの侵攻を進めるために使用される可能性があるという。
ここ数カ月、ウクライナ軍は東部および南部のロシアによる占領地域を奪還したが、ロシアはウクライナの主要都市へのミサイル攻撃を続けている。米国当局は、気候が暖かくなるにつれてロシアの攻勢が勢いを増す可能性があることを警告し、米国は新型戦車エイブラムスを、ドイツはレオパルト2の供与を決定した。一方、バイデン大統領は、中国がロシア軍を支援していることを示唆する証拠を米当局が発見したと報じられた後、中国企業がロシアに軍事装備を供給することに懸念を表明したと1月24日のブルームバーグは報じていた。
プーチン大統領は2022年9月、ウズベキスタンで中国の習近平国家主席と会談し、ロシアのウクライナ侵攻について中国が「疑問と懸念」を抱いていることを認めていた。中国は、西側諸国がロシアのエネルギーを締め出す動きを見せているにもかかわらず、ロシアからの石油の輸入を増やしており、昨年2月のウクライナ侵攻の開始前にはロシアとの「無限大の信頼関係」を宣言していた。
●ワグネル創設者プリゴジン、バフムトでの苦戦を認める 2/6
ロシアの民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジンは2月5日、激戦が続くウクライナ東部の要衝バフムトの戦況について、ウクライナ軍を退却させるに至っていないことを認めた。ウクライナ軍は撤退も近いと言われたが、それは嘘だったのだろうか。
「状況を明確にしたい。ウクライナ軍はどこからも撤退はしていない。ウクライナ軍は最後の最後まで戦い続けている。アルチョモフスク(バフムトのこと)の北部ではすべての街路、すべての住宅、すべての吹き抜け階段で、激しい戦闘が行われている」と、プリゴジンはテレグラムに投稿した。「もちろん、メディアがウクライナ軍の撤退を期待するのはありがたいが、北部でも南部でも東部でも(撤退は)起きていない」
バフムトは数カ月間にわたってロシア軍の集中攻撃の対象となり、無数の砲撃にさらされてきた。バフムトの制圧を目指すロシア軍は、今年に入り同じドネツク州の小さな町ソレダルを奪取し、さらに前進していると伝えられるが、勝利宣言するには至っていない。
米シンクタンクの戦争研究所が5日に発表したレポートによると、ロシア部隊は「バフムトとブフレダルの周辺では攻勢を続けているが、ドネツク市西郊における攻撃のペースは落ちている」という。
包囲されても戦う理由
またレポートは「ロシア軍の正規部隊、予備役、ワグネルを合わせ、バフムトの制圧に向けて(合わせて)数万人規模の部隊が投入されているが、すでにかなりの人的被害が出ている」としている。
米シンクタンク、ディフェンス・プライオリティ―ズで大規模戦略プログラムのディレクターを務めるラジャン・メノンは5日、本誌にこう語った。「ワグネルとロシア正規軍の合同部隊は何カ月にもわたってバフムトとソレダルを攻略しようとしてきたが、人数と火器、特に砲撃力に勝っているにも関わらず、最近になってようやくソレダルを制圧できたに過ぎない」
「世界第2の超大国と呼ばれてきた国としてはいい成績とは言いがたい。特にワグネルは大きな人的被害を出している。中でもプリゴジンが恩赦を約束して戦いに駆り出した不運な元受刑者たちの犠牲が大きい」
「目下、ロシア軍はバフムトを3方向から包囲しているように見える。ならばなぜウクライナ軍はここまで踏ん張っているのか。ウクライナ軍の狙いは、この戦いをできるだけロシア軍にとって犠牲の多いものにすることと、(敵の)部隊を足止めしてよそで使えないようにするなり、ドンバスの西側のウクライナ支配地域まで追いやることだ。血みどろの戦いだが、ウクライナ軍の士気を高めるとともに、ロシア軍の軍事的能力の低下につながっている」
●ウクライナには戦闘機Su-27があと何機残っているか 2/6
ウクライナはここ数週間でようやく同盟国に北大西洋条約機構(NATO)スタイルの戦車を提供するよう説得した。戦車は同国に向かいつつあり、ウクライナは次に最も必要としているものに目を向けている。それは新しい戦闘機だ。
ウクライナ当局者らは米国や欧州が所有する余剰の戦闘機F16、あるいはフランス製の戦闘機ミラージュさえ求めている。その要求にどれほどの緊急性があるのか、問う価値はある。
ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻して以来11カ月間に、ウクライナの戦闘機や攻撃機が52機以上破壊されたことが外部のアナリストによって確認されている。しかし、開戦時にウクライナ軍は何機の戦術戦闘機を持っていたのか。また、損失を補填するために飛べない機体を何機修理したのだろうか。
ウクライナの当局以外は誰も正確なことは知らないが、推測は可能だ。しかしSu-27は特に把握が難しい。
ウクライナ空軍は、ロシアの侵攻時に戦闘機MiG-29を50機ほど保有していたとみられる。この軽量の超音速戦闘機のうち少なくとも16機は大破したが、ひとまずのところ失ったものと同数のMiGを修理したか、外国から入手したようだ。
ウクライナ空軍は1年前、超音速爆撃機と偵察機であるSu-24を24機ほど保有していた。ロシア軍は少なくとも13機のウクライナ軍のSu-24を破壊したが、おそらく古いSu-24が非常に多く保管されており、ウクライナの技術者は失った分を補充することに何の問題もなかった。
戦前、ウクライナが所有するSu-25は約30機だった。2022年2月以降に失ったのは15機。NATO加盟国は自国が所有する亜音速のSu-25を計18機供与した。これは戦闘での損失を補って余りある。
ウクライナ軍は、ロシア軍の攻撃前にMiG-29、Su-24、Su-25を計約105機保有していたようだ。それから1年、これらの機種はまだ105機ほどある。
つまり、主要な戦闘機は超音速で飛び、迎撃能力があるSu-27のみとなる。これらの数を把握するのは最も困難だが、それはもっともだ。高速で機動性に優れ、適応性のあるSu-27はウクライナで最も有用な戦闘機かもしれない。
ロシア機のパトロールを行い、かなりのリスクをともなう爆撃を行い、ロシア軍の防空に向けて米国製の対レーダーミサイルを発射することさえある。
ロシアはSu-27を破壊したい。ウクライナは維持したい。ウクライナの同盟国はSu-27を所有していないため、この戦闘機の1機、1機が非常に貴重なものとなっている。代替機の明確な外部供給源はない。
ウクライナ空軍が戦前にSu-27を何機保有していたかは、よく議論される問題だ。1991年にソビエト連邦が崩壊したとき、ウクライナは当時新品だったSu-27を74機受け継いだ。その23年後に現役で活躍していたのはわずか24機だった。
2014年にロシアがウクライナのクリミア半島に侵攻したことが、ウクライナ政府にSu-27の数を拡大させる動機となった。36機もの飛行不可能な機体が保管されていた可能性がある。そして少なくとも1人のアナリストは2016年までに、確認可能な「ボート」番号が機首に記されたウクライナのSu-27を57機数えた。
もし57機すべてが飛行可能であれば、ウクライナがすべての機体を復元したことになるかもしれない。
ウクライナ空軍は過去11カ月間に少なくとも7機のSu-27と少なくとも5人のパイロットを失った。最初の喪失の1つは、ウクライナの人々にとって最も悲劇的なものだった。
2月25日、キーウ上空をパトロールしていたSu-27が爆発した。ロシア軍が長距離地対空ミサイルで撃墜した可能性がある。また、ウクライナの防空部隊がロシア機と間違えた可能性もある。
いずれにせよ、航空ショーで有名なパイロット、オレクサンドル・オクサンチェンコ大佐はこの撃墜で死亡した。もしオクサンチェンコがいつものSu-27に搭乗していたら、ウクライナはほぼ間違いなく最も有名な彼の機体も失ったことになる。
ウクライナ軍は理論上50機のSu-27を保有しているが、その数を確認するのはますます難しくなっている。番号と迷彩柄の組み合わせは特定のSu-27を識別する最も簡単な方法だが、空軍はそのことを知っており、ボート番号を塗りつぶし始めた。
現在でも時折、特にSu-27、そして23や24といった有名な戦闘機を正面からとらえた公式写真やスマートフォンの動画を見つけることができる。
24のパイロットは訓練飛行で低空飛行し、道路標識をすくい上げたことがある。23のパイロットは現在展開されている戦争の初日、哨戒中にロシア軍のミサイル集中砲火で滑走路が損傷したため、やむなくルーマニアに想定外の着陸をした。
ウクライナのSu-27を正確に数えることは不可能だ。もしウクライナが最大限の努力をしていたら、この強力な戦闘機のうち50機がまだ飛行可能な状態にある可能性がある。
しかし、ウクライナが失ったSu-27はすべて代替できないSu-27だ。そのため、新しい戦闘機がウクライナにとって調達を最も優先すべき武器となっているのだろう。結局のところ、戦争がすぐに終わると信じるに足る根拠はない。
●北からの奇襲に備える守備隊 ウクライナ国境は警戒態勢 2/6
ベラルーシ国境、ウクライナ、2月6日 (AP) ― ベラルーシとの国境に沿って広がる樹林帯の奥深くに隠れた陣地から、ウクライナ軍は1日に数回偵察用のドローンを飛ばして、空と陸を偵察、隣国領内のロシア軍の動きを逐一監視している。
ほぼ1年前、首都キーウ陥落を狙った北方からの侵攻は失敗に終わったが、ロシア軍の奇襲を想定して、ウクライナ軍は湿地と森林に囲まれた約1000キロの国境地帯の情報収集を怠っておらず、油断はない。
昨年夏以降、ウクライナ軍は北方からのロシア軍の春季攻勢を予測して、森林地帯の防御陣地を補強、塹壕を構築と拡張、地雷の敷設などを進めてきた。
西側の軍事専門家や情報筋は、ロシア軍による北からの新たな奇襲攻撃はないと見ているようだ。現に英国防省は1月11日、ベラルーシ領内で演習を実施しているロシア軍航空機と陸上部隊が、「信頼できる攻撃部隊を構成する可能性は低い」とツイートした。
現地報道によると、ベラルーシ当局は国境沿いの部隊配備を「戦略的抑止力」と見ており、航空偵察、国境の共同パトロール、物資の搬入などの合同演習は2月1日で終了した。
また、同国のルカシェンコ大統領は、昨年はベラルーシ領内からのロシア軍の侵攻を許可したが、自国の兵士をウクライナに派遣することはないと主張している。
これに対してウクライナ当局は、モスクワが今後数カ月間にどんな手を打ってくるか誰にも分からないとして、国境地帯での警戒態勢を緩めてはいない。
そのため、これからも国境を挟んだ両側でドローンのゲームが続くことになりそうだ。
●レオパルト2戦車供与は長期戦覚悟の証拠 2/6
米国とドイツなど欧州諸国が戦車をウクライナに供与することを決め、米欧の対ウクライナ軍事支援は新しい段階を迎えた。長期戦を見据えた決定であり、戦争は何年も続くかもしれない。
昨年2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻して以来、米欧諸国は段階を踏んでウクライナに軍事支援を供与してきた。対戦車ミサイルのジャベリン、携帯式防空ミサイルのスティンガー、そしてハイマース(M142 高機動ロケット砲システム)、地対空ミサイルのパトリオットと続き、今度は主力戦車だ。
残るは戦闘機と長距離ミサイルのATACMS(エイタクムス)。戦争のエスカレーションを懸念して控えてきたのだが、戦闘機については舞台裏で協議が進んでいるともいう。今後も新たな軍事援助の供与とロシアの反発が繰り返されるのだろう。
ドイツ政府は25日、同国が誇るレオパルト2 / Leopard 2*戦車をウクライナに供与することを決めた。とりあえず14両を供与する。ポーランドなどすでにレオパルト2を保有している国がウクライナにそれらを供与することも承認した。ドイツほかの欧州諸国から届けられるレオパルト2は約80両になると現時点で見積もられている。
ドイツ製のレオパルト2は1979年に実戦配備され、これまでに4つの型式が製造されている。細かな仕様の説明は各紙に任せるとして、射撃能力、機動性、防御性に優れ、使い勝手がよく、軍事の世界で高く評価されている。欧州諸国やカナダなど19カ国で3500両以上が配備されていると言われる。
この戦車をドイツのほか、ポーランド、スペイン、ノルウェー、オランダ、フィンランドなどが手持ちの中から供与する見通し。
別途、英国は今月、自前のチャレンジャー2戦車14両の供与を決定、フランスも主力戦車のレクレールの供与を検討している。
一方、ジョー・バイデン米大統領はドイツの新方針発表と同じ25日に最新鋭のM1エイブラムズ戦車31両をウクライナに送ると発表した。
こうして米欧が主力戦車の供与で足並みをそろえた。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は従来、ウクライナからレオパルト2供与の強い要請を受け、ポーランドなどからも供与するようにとの強い圧力に晒されながらも慎重だった。
戦争のエスカレーションを招くのではないかと懸念、さらにドイツの軍事援助が突出するとの印象を国内に与えたくなかったようだ。
ショルツ首相は今回の決断に際して米国と緊密に協議、米国が最新鋭のエイブラムズ戦車の供与に踏み切ることを条件にしていたと伝えられている。
バイデン政権はつい先週までエイブラムズ戦車の供与を強く渋っていた。あまりにハイテク過ぎて保守修理が難しく、操作技術の習得に時間がかかる。燃費効率が悪く、燃料の補給が簡単ではないといった理由を挙げていた。
このため、米独間では厳しいやり取りがあったが、バイデン大統領はNATOの結束を重視し、エイブラムズの供与を受け入れたという。
戦争のエスカレーションの危険、つまりロシア軍が首都キーウの官庁街を狙うとか、ウクライナの隣国ポーランド内の戦車の輸送基地を攻撃する可能性、さらには戦場核の使用といったエスカレーションの可能性については、米国とドイツの首脳は高くないと判断したのであろう。
ドミトリー・ペスコフ・ロシア大統領報道官は25日、米独はそれら戦車の能力を技術的に過大評価していると一蹴した。ロシアの戦力に自信があり、戦車の供与をあまり重大視していないようでもある。
米欧の優秀な戦車の投入は戦局を大きく変えるのか、変えないのか、西側の軍事専門家はどうみているのか。彼らも控え目のようだ。
レオパルト2やエイブラムズがウクライナ軍の戦力を高めることは間違いない。だが、問題はどの程度かだ。それはまず、いつ、どのくらいの数の戦車をウクライナ軍が駆使できるかにかかっている。
レオパルト2は操縦しやすいと言っても、訓練には数週間、場合によっては数カ月かかる。ドイツ国防省によると、6週間をめどに直ちに訓練を始め、第1四半期の終わり、つまり3月末までにはウクライナに引き渡すという。ただし、それは14両にとどまる。
ほかの欧州諸国の戦車がいつ、どのような形でウクライナに届くのかは現時点では明確ではない。計約80両のレオパルト2がウクライナに実戦配備されるまでには、長い時間を要するのだろう。
米国のエイブラムズ戦車に至っては、訓練時間や兵站の整備などを考慮すると、実際に引き渡せるのは1年後だという見方もある。
それに戦車もほかの重兵器同様、本体を運び込めば、継続的に使い続けられるわけではなく、保守修理、燃料補給などの体制の構築が重要だ。レオパルト2はそうした課題を比較的克服しやすいというが、予想されているロシア軍の春の攻勢に間に合うのかどうか。ロシア軍は戦車の配備が本格化する前にウクライナ軍を叩いておこうとするかもしれない。
多くの軍事専門家は、戦車だけで戦局が大きく変わることはないだろうとの見解を取る。
NATOの欧州連合軍最高司令官のクリストファー・カボリ陸軍大将は、すべての兵器システムのバランスが取れていて初めて戦車も機能を発揮できると指摘する。つまり戦車とほかの火砲、歩兵戦闘車両、対空システムを組み合わせる必要がある。
米軍退役将校で現在CSIS(国際戦略研究所、ワシントンDC)研究員のマーク・カンシアンは、ウクライナが得られる戦車の数が限られるだろうことも考えて、戦車だけでロシア軍に苦戦を強いることは難しいとみる。
それに戦車は万能の兵器ではなく、空からの攻撃を受けやすいし、対戦車歩兵部隊の攻撃も受ける。
ウクライナ戦争は昨年2月24日のロシア軍の侵攻開始以来、紆余曲折の末、現在はドンバス地方の西側でほぼ膠着状態にある。ウクライナ軍は戦車の投入で前線を東に押し戻したいと考えている。米欧はその作戦を主力戦車の投入で後押しすることにした。長期戦を考えていることは間違いない。
ウラジーミル・プーチン大統領は、これまでNATO諸国が軍事支援を追加するたびに、この戦争はウクライナを舞台にしたNATOとの戦争だとの認識を明らかにしてきた。これはロシアがNATO諸国を攻撃することもあり得るという警告だろう。昨年10月27日、内外のロシア研究者や国際政治学者が参加したフォーラム「バルダイ討論クラブ」での発言がその例だ。
似たような発言は他の高官からも聞こえてくる。
セルゲイ・ラブロフ外相は今月23日、訪問先の南アフリカ共和国で、ロシアと西側諸国の対立は「ほとんど真の」紛争になったと述べた。
NATO諸国ではNATOの兵士がウクライナ戦争に直接参戦していないから、ロシアがNATO諸国を直接攻撃することはないと思われているかもしれない。しかし、ロシアの認識は異なるようでもある。戦争がエスカレートする可能性が徐々に高まる中で、和平は無理にしても停戦をめざした接触くらいは持ってほしいと思う。

 

●ロシア、シリアとトルコに救助隊派遣 地震受けプーチン氏が電話会談 2/7
ロシア大統領府は6日、トルコ南東部のシリア国境付近で発生した大規模地震への対応支援に向け、シリアとトルコ両国に救助隊を派遣すると発表した。
ロシアのプーチン大統領はシリアのアサド大統領、およびトルコのエルドアンと電話会談を実施し、両国に対し救助隊の派遣を申し出た。ロシア大統領府によると、両国はプーチン氏の申し出を受け入れた。
ロシアはシリアにタルトス海軍基地などの軍事施設を設置しているが、ロシア国防省によると地震の被害は受けていない。
また、ロシアの国営原子力会社ロスアトムによると、ロシアがトルコ南部で建設中のアックユ原子力発電所にも地震の被害は出ていない。
●ロシア、トルコとシリアに救援の意向 大規模地震で軍輸送機を準備 2/7
ロシアのプーチン大統領は6日、大規模な地震に見舞われたトルコのエルドアン、シリアのアサドの両大統領と相次いで電話で協議し、必要に応じてロシアの救援チームを両国に派遣する意向を伝えた。欧米諸国と対立するロシアはトルコと多方面で協力関係を深めているほか、内戦が続くシリアには2015年から軍事介入し、アサド政権を全面支援している。
ロシア大統領府によると、プーチン氏はエルドアン、アサド両氏に対し、地震で生じた人的、物的被害を見舞う言葉を伝えた。ロシアメディアは、ロシアが両国での救援活動に向け、軍の輸送機イリューシン76を飛行させる準備を整えていると報じた。
ロシアはシリア西部のタルタスに海軍基地、フメイミムに空軍基地を持つが、これまで地震による被害は伝えられていない。タス通信によると、ロシアのショイグ国防相は6日、シリアに駐留する軍に対し、救援活動に当たるように指示したという。
●ロシアとウクライナ、指導者の支持率はいずれも上昇 2/7
ロシアとウクライナの指導者は、数字の上では国民から高い支持を得ている。プーチン露大統領はウクライナ侵攻後、80%前後の高い水準を維持しており、政権基盤は揺らいでいない。一方、ウクライナの世論調査結果でも、徹底抗戦を支持する姿勢が鮮明となっている。
ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターの調査によると、プーチン氏の支持率は侵攻前の2022年1月時点では69%だったが、侵攻開始後の3月の調査では83%に上昇。9月に30万人規模の予備役を招集する部分的動員令に署名した後は77%まで下落したが、12月には81%に回復した。
一方、ウクライナの世論調査機関レイティングによると、「ウクライナはロシアに勝利する」と考える人は、22年3月時点で88%だったが、11月の調査では97%に達した。また、85%の人が、ロシアが14年に一方的に併合したクリミア半島と同年から戦闘が続く東部ドンバス地方の奪還が、この戦争の「勝利」を意味すると考えていた。ウクライナ軍は9月以降、東部ハリコフ州や南部の都市ヘルソンなどを奪還しており、戦局の好転が世論にも影響した可能性がある。別の世論調査によれば、侵攻前に40%台だったゼレンスキー大統領の支持率は6月時点で91%に上っている。
●「北方領土の日」ロシア側は北方領土で愛国心高める動き 2/7
ロシアが事実上管轄する北方領土ではロシア人の島民がウクライナへの軍事侵攻を支持する活動を行っていると伝えられるなど、ロシアへの愛国心を高めようという動きがみられます。
ロシアメディアは、北方領土の島々で軍事侵攻を支持する象徴にもなっている「Z」の文字を記した車が列になって島を走る様子や島民が戦地にいるロシア軍の兵士へ支援物資を送ったとする動きを伝えています。
また、島民が軍事侵攻に兵士として参加し、死亡した事例も相次いでいるとみられ、このうち、択捉島では1月、ウクライナ東部ドネツク州の激しい戦闘が続くバフムトで島出身の兵士が死亡し、葬儀が行われたと伝えられています。
また、色丹島では去年12月にウクライナで死亡した島出身の兵士を「英雄」としてたたえるとする特別授業も学校で行われたということです。
ロシア側は軍事侵攻に関する動きを通じて北方領土においてもロシアへの愛国心を高めようとする狙いがあるものとみられます。
北方領土をめぐってはウクライナへ軍事侵攻を始めたロシアに日本が欧米と歩調を合わせるかたちで制裁を科したのに対してロシア側は反発し、去年3月には北方領土問題を含む平和条約交渉の中断を一方的に表明するなど、強硬な態度を示しています。
元島民らと交流重ねてきたロシア人島民は
ロシアはウクライナへの軍事侵攻をめぐり制裁を科す日本に反発し、北方領土の元島民らによる「ビザなし交流」と、元島民らが故郷の集落などを訪問する「自由訪問」について、日本との間の合意を破棄したと去年9月、一方的に発表しました。
北方四島との交流事業は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で2020年から中断されたままで、さらにロシア側による一方的な停止の発表で再開の見通しは立っていません。
これまで日本人の元島民などと交流を重ねてきたロシア人の島民からは日本による制裁に反発する声があった一方で、交流事業の再開などを望む声も聞かれました。
このうち、第1回目の「ビザなし交流」からおよそ30年にわたって交流に携わってきた択捉島に住むナタリア・エフトゥシェンコさんは中断している現状について「日本側が踏み込んだ制裁を発表したからロシア側もすぐに対応した」と主張しました。
ただ、今後の交流については「互いに良い関係を維持すべきで、双方とも制裁など必要ない」と話し、ウクライナへの軍事侵攻が交流事業に影響することには反対だと話しました。
また、択捉島の地元紙「赤い灯台」の編集長オリガ・キセリョワさんは交流事業は互いを知る重要な役割を果たしてきたと指摘した上で、「日本の友人たちに会えず、さみしい。『ビザなし交流』は友好的で強い結びつきであった。政治状況はかわったが、人々はかわらない」と話し、島民の中にも交流事業の再開を望む声もあると明かしました。
●「北方領土の日」根室で住民大会開催へ 交流事業は中断続く  2/7
2月7日は「北方領土の日」です。北海道根室市では、3年ぶりに一般の参加者を入れて住民大会が開かれます。一方で、ロシアが事実上管轄する北方領土では、ロシア人の島民がウクライナへの軍事侵攻を支持する活動を行っていると伝えられるなど、ロシアへの愛国心を高めようという動きがみられます。
「北方領土の日」は、1855年2月7日に、北方四島を日本の領土とする条約が、日本とロシアの間で結ばれたことにちなんで定められ、北海道根室市の総合文化会館では、7日正午から、3年ぶりに一般の参加者を入れて住民大会が開かれます。
北方領土をめぐっては、ロシアが去年3月、ウクライナへの軍事侵攻に対する日本の制裁措置に反発して、北方領土の問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明しているほか、ビザなし交流などの交流事業も中止されたままです。
住民大会では、元島民や地元の高校生の代表などが、北方領土返還に向けた決意表明を行うほか、新型コロナウイルスの道の感染対策が緩和されたことを受けて、返還を求めるシュプレヒコールも、参加者全員で声を出して行う予定だということです。
北方領土の島から兵士として参加し死亡の事例も
ロシアメディアは、北方領土の島々で軍事侵攻を支持する象徴にもなっている「Z」の文字を記した車が列になって島を走る様子や島民が戦地にいるロシア軍の兵士へ支援物資を送ったとする動きを伝えています。
また、島民が軍事侵攻に兵士として参加し、死亡した事例も相次いでいるとみられ、このうち、択捉島では、先月、ウクライナ東部ドネツク州の激しい戦闘が続くバフムトで島出身の兵士が死亡し、葬儀が行われたと伝えられています。
また、色丹島では、去年12月にウクライナで死亡した島出身の兵士を「英雄」としてたたえるとする特別授業も学校で行われたということです。
ロシア側は、軍事侵攻に関する動きを通じて、北方領土においてもロシアへの愛国心を高めようとする狙いがあるものとみられます。
北方領土をめぐっては、ウクライナへ軍事侵攻を始めたロシアに、日本が欧米と歩調を合わせるかたちで制裁を科したのに対して、ロシア側は反発し、去年3月には北方領土問題を含む平和条約交渉の中断を一方的に表明するなど、強硬な態度を示しています。
ロシアはウクライナへの軍事侵攻をめぐり制裁を科す日本に反発し、北方領土の元島民らによる「ビザなし交流」と、元島民らが故郷の集落などを訪問する「自由訪問」について、日本との間の合意を破棄したと去年9月、一方的に発表しました。
北方四島との交流事業は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、3年前から中断されたままで、さらにロシア側による一方的な停止の発表で再開の見通しは立っていません。
これまで、日本人の元島民などと交流を重ねてきたロシア人の島民からは、日本による制裁に反発する声があった一方で、交流事業の再開などを望む声も聞かれました。
このうち、第1回目の「ビザなし交流」からおよそ30年にわたって交流に携わってきた、択捉島に住むナタリア・エフトゥシェンコさんは、中断している現状について「日本側が踏み込んだ制裁を発表したから、ロシア側もすぐに対応した」と主張しました。
ただ、今後の交流については「互いに良い関係を維持すべきで、双方とも制裁など必要ない」と話し、ウクライナへの軍事侵攻が交流事業に影響することには反対だと話しました。
また、択捉島の地元紙「赤い灯台」の編集長オリガ・キセリョワさんは、交流事業は互いを知る重要な役割を果たしてきたと指摘した上で「日本の友人たちに会えず、さみしい。『ビザなし交流』は友好的で強い結びつきであった。政治状況はかわったが、人々はかわらない」と話し、島民の中にも交流事業の再開を望む声もあると明かしました。 
●プーチン政権も被災地支援 ウクライナから反発の声―トルコ地震 2/7
トルコとシリアを6日に襲った大地震では、ウクライナ侵攻を継続するロシアのプーチン政権も緊急援助隊を被災地に送った。インタファクス通信によると、モスクワ郊外の空港から同日夜、非常事態省の輸送機3機がトルコへ、1機がシリアへと出発した。
プーチン政権は被災地支援の一方、ウクライナ各地に空爆を続け、民間人を多数死傷させている。インターネット上では「ロシア軍のミサイル攻撃で大地震と同じように住宅の崩壊が生じている」と反発するウクライナ人もいる。
トルコには野戦病院を設置し、支援活動を展開。シリアではロシア軍が駐留する北西部ヘメイミーム空軍基地から軍人・軍医を派遣することになった。
プーチン大統領はこれに先立ち、両国首脳と電話会談。「心からのお見舞い」と支援の用意を伝えたところ、謝意を表明されたという。
トルコは、プーチン氏が敵視する北大西洋条約機構(NATO)加盟国でありながら、ロシアと比較的良好な関係を維持し、ウクライナ穀物輸出合意などを仲介。一方、シリアのアサド政権は、2015年に内戦に軍事介入したロシアの後ろ盾を得て巻き返しに成功した経緯がある。
プーチン政権が西側諸国から制裁を受けて孤立する中、被災国がトルコとシリアだったこともあり、トップ会談を通じた支援の調整がスムーズだったもようだ。
ロシアは周辺国での大規模な災害のたびに、非常事態省の緊急援助隊を派遣。メドベージェフ政権時代の11年、東日本大震災の津波被害を受けた宮城県石巻市でも支援活動を行った。
●プーチンの頭の中の世界 2/7
いったいどんな考えをすれば21世紀にこのような無謀な侵略戦争を起こすことができるだろうか。1年前にロシアのプーチン大統領が始めたウクライナ侵攻の話だ。ニューヨーク・タイムズのウクライナ戦争企画報道でプーチンの頭の中を類推するのに役立つ部分を探した。
「プーチンは16カ月間西欧の指導者らとただの一度も直接対面しなかった。代わりにどこかわからないミステリーな場所でオンライン会談だけした」。また別の一節。「プーチンに会う人たちはまず3日間隔離した後、15フィートの距離を置いて対面できた」。プーチンが対面接触に鋭敏だったのは新型コロナウイルスのためとみられる。
自発的であれ強要されたのであれ孤立は代償を要求する。孤立は歪曲された信頼の螺旋効果を強化する。外部との疎通を避けるほど自分たちだけの世界がすべてになり、自分の信じるものだけがさらに真理になり偏見と意地が螺旋のように頭の中に食い込む。反対に外側では門番権力が政事を思うままにして公式システムを跳び超える。
孤立を選択したプーチンが頭の中に作った世界、これを「プーチンユニバース」と称するならば、その最初の柱は「外部の脅威」だった。プーチンはウクライナ侵攻を半年ほど控えた2021年7月に発表した『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』という論文で、ウクライナで「反ロシアプロジェクトが進行中」と主張した。「ウクライナ国内のロシア人がルーツと先祖を否定しロシアを敵と考えるよう強要されている」と憤怒した。彼はウクライナのNATO加盟を西欧の包囲と考えた。
彼の2番目の柱は「純潔なわれわれ」だ。プーチンは同じ論文でロシアとウクライナとの関係を「精神的つながり」と描写した。「われわれの精神的一体性が攻撃を受けている」と規定した。これに対し彼に西欧は道徳的に混濁した。「男女平等政治により母親と父親が『親1』と『親2』に代替された」というのがプーチンがしばしば取り上げた西欧批判だった(NYT)。
プーチンユニバースの3番目の柱は義を重んじた戦争だ。外側の悪の勢力に対抗し精神的なつながりを守る聖戦だ。プーチンは旧ソ連が悪の勢力「ナチスドイツ」と戦争をしたとすればいまはウクライナを飲み込もうとするネオナチと戦わなければならないという論理を作った。彼は論文で「急進主義者らとネオナチがますます無礼に野心を表わしている。官僚組織と地域土豪が彼らを保護している」と主張した。
2021年10月にイスラエルのベネット首相(当時)がプーチンと会い、ウクライナのゼレンスキー大統領がプーチンとの会談に関心があるという話を切り出したという。するとプーチンは「この人と話す言葉はない。ゼレンスキーはいったいどんなユダヤ人なのか。この人はナチスの助力者」(NYT)と非難した。ユダヤ人であるゼレンスキーがユダヤ人の敵であるナチスに附逆するとは理解できないという憤怒が込められている。だがゼレンスキーが「ユダヤ人ナチス附逆者」なのか。
こうして見ると、プーチンの世界はハリウッドアクション映画やSF映画を思い起こさせる。善良な私たちと悪党という二分法の中で悪党追放に向けた対決の構図だ。だが現実は複雑系で見る位置によって見える像が変わる。「東欧に1インチも拡張しない」という西欧の約束が旧ソ連衛星国のNATO加盟で破られているのは事実だが、西欧の東進は根本的に「ロシアクラブ」より「西欧クラブ」がより魅力的なので広がっているものだ。
政治で最も危険なことはスターウォーズリーダーシップだ。世界を不正な帝国軍と苦痛を受ける抵抗軍に分けた後に無法的で堕落した者を振り払って正義を実現しようというリーダーシップは現実を分かつ盲目的支持を量産したりする。善と悪、純潔と堕落は絶対者である神と不完全な自分との関係で追求する信仰の領域に残しておかなければならない。
プーチンと追従者にウクライナ侵攻は荘厳な戦争かもしれないが世界はこれによって苦痛を受け試験を受けている。ウクライナ侵攻でロシアが得るものがあるのかも不透明だ。ロシアが地上軍を動員してウクライナの首都まで進撃したのに反ロシア政権が健在な状態で戦争が終わる場合、ロシアの失敗だ。
その上ロシアがウクライナで後ろ盾である米国と戦争しながら国力を注ぎ込んだがその戦いの利益を中国が取る可能性が出ている。苦労はロシアがして利益は中国が得るというケースだ。ロシアのウクライナ侵攻で台湾侵攻の名分を作った中国が欧州で力を投射し気力がなくなった米国を相手に両岸で正面対決を行うシナリオだ。
●ロシア・ウクライナ戦争の重大局面「春季攻勢」、夏以降は「政治の季節」か 2/7
12月に次回大統領選の公示、9月に統一地方選を控えるプーチン大統領は、8月までに一定の戦果を誇示する必要がある。目下の焦点である「春季攻勢」は、南部を現状維持として、東部ドンバス地方の完全制圧を目指す公算が大きい。一方、米独の主力戦車やHIMARSを超えるミサイルシステムの導入でもウクライナが状況を打開できなかった場合、米国内の政治交渉論が力を持つ可能性がある。
2月24日で満1年になるロシア軍のウクライナ侵攻は、双方に決め手がなく、長期化の様相を呈している。ロシア軍は春季攻勢に着手しつつあり、特に東部ドンバス地方の完全制圧を目指す構えのようだ。
一方、ウクライナ側は、ドイツ製「レオパルト2」などの主力戦車が到着する4月以降、失地回復を狙った大規模な反攻作戦に出る模様だ。春から夏にかけての戦況が重大局面となる。
来年3月17日に予定されるロシア大統領選も注目点で、秋以降のロシアは政治の季節に入る。夏までの展開が戦争の行方を左右しそうだ。
長期化はロシアに有利
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領とウラジーミル・プーチン大統領の新年ビデオ演説は、ゼレンスキー大統領が「今年の勝利」を訴えたのに対し、プーチン大統領は「長期戦」を示唆している印象を与えた。
ゼレンスキー大統領は17分間の動画で、「私たちは戦うし、これからも戦い続ける。最も重要な『勝利』のために」と述べ、今年を「兵士が家族の元へ、捕虜が自宅へ、難民が自国へ、占領地がウクライナへ、生活が元の日常へと戻る『帰還の年』にする」よう訴えた。
プーチン大統領は「軍人」をバックにした9分間の演説で、ウクライナ東・南部4州の併合を正当化し、「ただ前進し、家族や祖国のために戦って勝利する」と述べたが、今年の目標は示さなかった。
米紙「ワシントン・ポスト」(1月8日)は、「ウクライナ側は今年の勝利を呼び掛け、ロシア側は長期戦への準備をさせている」と指摘。「ウクライナが大きな突破口を開けなければ、戦争がプーチンに有利な長期戦に持ち込まれる危険がある」とする米専門家の分析を伝えた。
米国では、長期戦になれば、潜在力のあるロシアに有利に働くとの見方が強まっている。コンドリーザ・ライス元国務長官とロバート・ゲーツ元国防長官は「ワシントン・ポスト」(1月7日)に「時はウクライナに味方しない」と題する共同論文を発表。「ウクライナの対応は英雄的であり、軍もすばらしい活躍をしたが、経済は荒廃し、何百万もの国民が脱出し、インフラは破壊され、工業能力や多くの農地がロシアの支配下に置かれた。ウクライナ軍の大躍進と成功がない限り、軍事的膠着が続き、欧米の停戦圧力が高まる。ロシアは停戦が成立しても、いつでも侵略を再開できる」と警告した。
新型兵器供与で失地回復へ
米独両国が1月25日、主力戦車をそれぞれウクライナに供与すると発表したのは、膠着状態に陥る前にウクライナ軍の攻勢を支援し、「大躍進」を可能にさせるためとみられる。ドイツは欧州諸国がドイツ製戦車「レオパルト2」をウクライナに供与することも認めた。
ロイター通信(1月31日)によれば、米政府は射程150キロの地上発射精密誘導ロケット弾「GLSDB」を含め、総額20億ドル以上の追加支援を行う方針という。従来の射程80キロのロケット弾を発射してきた高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」から発射が可能で、これもウクライナ軍の攻勢に道を開くことになる。
ちなみに、ハイマース及び現在使用されているロケット弾は世界最大の軍需企業ロッキード・マーチンが生産して戦果を挙げたが、より精度が高いGLSDBはボーイング社が製造しており、ボーイングが国防総省や議会国防族に売り込んで巻き返したとの情報がある。
ウクライナ側が新型兵器を駆使し、春以降の大規模攻勢で失地をどこまで回復できるかが焦点だ。
ロシア大統領選は11人が出馬の意向
長期戦を想定するプーチン政権にとっても、来年3月の大統領選に向けて国民に勝利を誇示する必要がある。
ロシアの有力紙「コメルサント」(1月13日付)は、クレムリンがプーチン氏の5選に向けて大統領選の準備に着手したと報じた。次回大統領選は今年12月に公示され、2024年3月17日投開票の見通し。プーチン大統領は出馬の意向をまだ表明していないが、出馬しなければ戦争指導が困難になるだけに、出馬は既定路線だろう。
政府系紙「イズベスチヤ」(1月23日)によれば、来年の大統領選に向けて、前回2018年大統領選に立候補して2位だった共産党の農園経営者、パベル・グルジーニン氏、同4位の女性改革派ジャーナリスト、クセニア・サプチャク氏、柔道家のドミトリー・ノソフ氏ら既に11人が出馬の意向を表明し、準備を進めているという。
下院に議席を持つ5政党以外の候補の擁立は、推薦人集めなど困難を伴うが、候補者乱立はプーチン氏の求心力を弱める。ウクライナ戦争が争点に浮上しかねないだけに、政権にとって得策ではない。
プーチン大統領は秋には与党・統一ロシアの候補として出馬宣言するとみられ、8月までに一定の戦果を誇示する必要がある。9月にはモスクワ市長選など統一地方選があり、秋以降のロシアは微妙な「政治の季節」に入る。
ゲラシモフ総司令官起用の意味
プーチン政権が1月11日、ウクライナ侵攻を指揮するセルゲイ・スロビキン総司令官を事実上更迭し、後任に制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長を任命したのは、春季攻勢を成功させるため、背水の陣を敷いた可能性がある。
ウクライナ軍情報部によれば、プーチン大統領はその際、ゲラシモフ氏に対し、東部ドネツク州を3月までに完全制圧するよう命じたという。
総司令官交代は、プーチン大統領が民間軍事会社ワグネルと正規軍の対立で、ワグネルを遠ざけ、軍を擁護したともとれる。ワグネルの創始者、エフゲニー・プリゴジン氏はSNSで参謀総長を口汚く罵るなど、軍との対立が先鋭化していた。
クレムリンの内情に通じた謎のブロガー「SVR(対外情報庁)将軍」によれば、プーチン大統領はワグネルが前線で大量の犠牲者を出し、消滅しかねないこと、国防省内部にプリゴジン氏への反発が強いことを報告され、プリゴジン氏に近いスロビキン総司令官の更迭を決断した。大統領はその際、ゲラシモフ氏に「3カ月以内に期待に応えれば、侵攻当初の失敗は忘れる」と伝えたという。
逆に言えば、「春季攻勢」に失敗すれば、参謀総長更迭の可能性もある。ロシア軍にすれば、主力戦車など新型兵器が届く前に叩きたいところだ。
ドンバス完全制圧が至上命題
プーチン大統領は春季攻勢で、ドンバス地方の完全制圧を目指す一方で、南部のヘルソン、ザポリージャ両州は現状のままでいいと考えている形跡がある。ロシア軍は昨年11月、ヘルソン州の州都ヘルソンから退却。ザポリージャ州もドニプロ川南方を押さえ、州都を含む川の北部は制圧していない。
大統領は昨年2月の侵攻後、「ドンバス地方の完全制圧」を何度も命じたが、南部2州の境界線には言及していない。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官も昨年10月、ロシアが想定する「国境」について、東部2州は「州境だ」としながら、南部2州については、「地域住民と協議を続ける」と説明。政権にも定見がないことを示唆した。
ロシアは昨年9月の住民投票で4州を一方的に併合し、憲法にロシア連邦領として書き込んだが、東部は「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」としながら、南部は「ヘルソン州」「ザポリージャ州」と規定し、差別化している。
南部2州については、ドニプロ川を渡河して攻略するのは困難で、当面あきらめた可能性がある。
ロシア軍は昨年末からベラルーシ領内に再集結して軍事演習を実施しており、首都キーウ攻略を目指すとの見方もあるが、ベラルーシ領にいた約2万の兵力の多くは既に東部に移り、5000人に削減したと報じられた。
昨年2、3月のキーウ攻略作戦失敗の衝撃が大きく、再度首都攻略を目指すとは思えない。
ただ、ウクライナ軍情報部によれば、1月末にロシア軍空挺部隊のミハイル・テプリンスキー司令官が解任されたのは、キーウ攻略作戦をめぐってゲラシモフ参謀総長と対立したためとされる。ゲラシモフ氏が首都キーウへの空挺部隊投入を指示したのに対し、司令官は「部下を無駄死にさせる」として反対したという。事実なら、キーウ攻略で軍内部に対立があり、春季攻勢の作戦計画は明らかでない。
米国内に政治交渉論
プーチン大統領にとっては、来年3月の大統領選から逆算して一定の政治的成果を挙げる必要がある。その場合、「ドンバス地方完全制圧」を最優先し、南部は現状のまま防衛を固めて、停戦に持ち込みたい意向かもしれない。
ワグネルが半年前からドンバス地方のバフムトやソレダルで大量の犠牲を出しながら攻撃を続けたのも、ドネツク州制圧の一環だろう。バフムトなどは戦略的要衝ではないものの、「ドンバス完全制圧」には攻略が不可欠になる。ロシア側はルハンシク州をほぼ制圧しているが、ドネツク州は6割程度にとどまる。現在は、ワグネルに代わってロシア軍空挺部隊がバフムトに投入された模様で、今後、ドネツク州の攻防が激化しそうだ。
これに対し、ウクライナ側はクリミア半島を含む失地回復を掲げており、ウクライナがこれで停戦交渉に応じることはあり得ない。
しかし、外交筋によれば、プーチン大統領はこの春に中国の習近平国家主席の訪露を要請しており、中国に仲介を依頼する可能性もある。ただし、対米戦略を最優先する中国がロシアの側に立って調停に奔走することは考えられない。
一方、国防総省に近い米シンクタンク、ランド研究所は1月末、「戦争長期化の回避を」と題する報告書を発表し、「領土の奪還はウクライナにとって重要だが、米国にとっては最重要の要素ではない」「ロシアとの戦争や核使用を阻止し、長期戦を回避することが最優先だ」と指摘。「米国が領土の線引きを調整する能力は限られているが、ウクライナの方針に一定の影響を与えることは可能だ」と指摘した。
マーク・ミリー米統合参謀本部議長も昨年11月、「ウクライナ軍が軍事力でロシア軍を国外に物理的に駆逐することは極めて困難であり、近いうちに達成される可能性は低い」とし、「政治的にロシア軍を撤退させる方法もある」と政治交渉に言及していた。
ウクライナ軍の春・夏攻勢が成果を挙げられない場合、政治交渉の可能性が浮上するかもしれない。
●ロシアの平野レミ≠ェプーチン批判で資産没収および懲役9年の刑に 2/7
ロシアのナイジェラ・ローソン≠烽オくは日本風にいえばロシアの平野レミ≠ニして有名な料理研究家がプーチン大統領を批判したとして、欠席裁判で全財産没収および懲役9年の判決を下された。英紙デーリー・スターが7日までに報じた。
ウクライナ侵攻中のロシアは厳しい言論弾圧を行っている。現在、フランス滞在中のロシアの人気料理研究家ベロニカ・ニカ・ヴェロツェルコフスカヤさん(52)はSNSでプーチン氏と戦争への批判を繰り返してきた。モスクワ裁判所は6日、ヴェロツェルコフスカヤさんが法廷に不在のまま、ロシア政府の行動に対するすべての批判を禁止する法律≠ノ違反した罪で、ヴェロツェルコフスカヤさんの全財産没収と懲役9年の判決を下した。モスクワ裁判所はすでにヴェロツェルコフスカヤさんと家族がロシアに所有する家と土地を押収している。
ヴェロツェルコフスカヤさんはSNSで「正直に言うと、何よりも赤いボタン(核ミサイルのスイッチ)が怖い」「プーチンは絶対的な純粋の悪」「ロシア軍による子供の殺害、マリウポリの小児病院の爆撃、ブチャの民間人殺害」などと記してきた。
特にプーチン氏を怒らせたのは、ヴェロツェルコフスカヤさんの「帝国を再興しようというプーチンの野心が18歳から20歳までの少年たちをひき肉にしている」「私はウクライナの人々を敵とは考えていません。兄弟姉妹だと思っています」「この不必要なクソ戦争が毎日、巨大な憎しみを生み出している」という発言とみられる。
判決を知ったヴェロツェルコフスカヤさんはSNSで「これまでの発言で、二度とロシアに戻れない可能性が高いと思っていた」としている。
●次の決戦の場は北極圏か?──ロシアが狙うカナダと北欧諸国への牽制 2/7
この1月、日中でも氷点下のいてつく演習場でアメリカ各地の州兵(連邦軍の予備役)が大規模な砲撃訓練を行った。
初めてのことではないが、今年はヨーロッパからラトビア軍の兵士も参加した。ロシアのウクライナ侵攻が始まって1年、北方でもロシアとの緊張が高まり、武力衝突に発展する恐れがあるからだ。
演習はミシガン州北部のグレイリングで1月20日から29日まで実施され、予備役を統括する陸軍大将ダン・ホカンソンが指揮を執った。
今のアメリカは北極圏の防衛態勢を一段と強化している、と語るのは米シンクタンク北極研究所のモルティ・ハンパートだ。
「第3次世界大戦への備えではないが」とハンパートは言う。「アメリカはロシアが基本的に敵性国家であり、北極圏でも牙をむく可能性があることを理解している」
NATOの一員であるノルウェーだけでなく、スウェーデンやフィンランドも、いざロシアとの対決という事態になればアメリカが支援してくれるものと期待している。そして米軍は、もちろんその期待に応えるつもりでいる。
今のロシアはウクライナ戦で手いっぱいに見えるかもしれないが、実は北極圏の軍備強化にも励んでいる。昨年末のCNNの報道によれば、新たなレーダー基地や滑走路の建設も確認されている。
米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)によれば、ロシアは北極圏でもハイブリッド戦術を駆使しており、ドイツ向けの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の破壊工作にも関与した疑いがある(ロシア側は否定している)。
アメリカ政府も昨年10月に、ロシアのウクライナ侵攻によって「北極圏の地政学的緊張」が高まり、「意図せぬ紛争の生じるリスク」が高まったと発表した。
北極圏は天然ガスの宝庫
それでもCSISは、北極圏におけるロシアの軍事的活動はもっぱら防衛的なものだとみている。
フィンランドとの国境に近いコラ半島のムルマンスクには原子力潜水艦の基地があるし、液化天然ガス(LNG)や石油精製の大規模工場もある。地球温暖化によって通年の航行が可能になりそうな北極海航路の防衛という目的もありそうだ。
だが、それだけではなく、北極圏におけるロシアの軍事力強化には攻撃的な側面もあるとCSISは指摘する。北極圏に接するカナダや北欧諸国などを牽制し、「可能性は低いが、あり得ないとは言えない」NATOとの全面対決に備えるためだ。
「死活的に重要なコラ半島の核戦力を守るためなら、ロシアはノルウェーやフィンランドへの限定的な侵攻に踏み切る可能性もある」。CSISは今年1月の報告書で、そう警告している。
それに、北極圏は今でも全世界のLNG生産量の約8%を占めている。だから経済的にも戦略的にも、ロシアの未来は北極圏における権益の維持に懸かっている。
北極圏の資源争奪で戦争が始まる可能性は低いとしても、よそで起きた紛争の火の粉が北極圏まで飛んでくるシナリオは十分あり得る。北極研究所のハンパートは言う。
「今となっては、もう2022年以前の北極圏には戻れない」
●ロシア 今月中旬以降 東部で大規模攻撃か 弾薬不足との分析も  2/7
ウクライナでは、ロシア軍が今月中旬以降、東部の掌握を目標に大規模な攻撃を仕掛けるという見方が出ています。一方、イギリス国防省はロシア軍は弾薬などが不足し、攻撃に向けた部隊の戦力が整っていないと分析しています。
ロシアが侵攻を続けるウクライナでは、東部ルハンシク州のハイダイ知事が6日、地元メディアに対し、ロシア軍の部隊が、前線の森林地帯に装備品を隠したり、弾薬の使用を控えたりする動きがみられるとして、新たな攻撃に備えている可能性があると指摘しました。
そして「今月15日以降攻撃が予想される」と述べ、ロシア軍が今月中旬以降、東部の掌握を目標に大規模な攻撃を仕掛けてくるとみて警戒を強めています。
ロシア軍は、東部ドネツク州でもウクライナ側の拠点バフムトの掌握に向けて攻撃を激化させています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は6日、バフムト周辺の幹線道路で攻防が続いているとし「ロシア軍はバフムトの包囲にはまだ成功していない」と分析しました。
また「ウクライナ当局は、ロシア軍が今月中旬から下旬にかけて東部で大規模な攻撃を開始する準備をしていると分析している」と指摘しています。
さらに、イギリス国防省も7日「ロシア軍の目標が東部ドネツク州の全域を掌握することなのは、ほぼ確実だ」と指摘しています。
一方で「ロシア軍は1週間で数百メートルの領土しか掌握していないが、これは必要な弾薬と機動部隊を欠いているからだ。ロシア指導部は圧倒的な進展を求める可能性が高いが、今後、数週間の間に必要な戦力を増強できる可能性は低い」として攻撃に向けた部隊の戦力が整っていないと分析しています。
●ロシア戦争犯罪の証拠、「数百点」収集 独検察 2/7
ドイツ連邦検察のペーター・フランク検事総長は5日、ウクライナにおけるロシア軍の戦争犯罪の証拠「数百点」を収集したことを明らかにした上で、ロシア指導者を裁くため、国際的な取り組みを呼び掛けた。(写真は資料写真)
フランク氏は、独紙ウェルト日曜版に掲載されたインタビューで「現時点では(ウクライナの首都キーウ近郊の)ブチャでの大量殺害および民間インフラ攻撃に焦点を合わせている」と語った。
フランク氏はまた、証拠の大半はウクライナ避難民からの聞き取り調査に基づくものと説明。今後は「ドイツ国内もしくは他国との共同方式での裁判、あるいは国際裁判に備える」と述べた。
ただしドイツ国内で戦争犯罪者を訴追するには、容疑者が国内にいることが前提となると認めた。
アナレーナ・ベーアボック外相も先月、ロシアのウクライナ侵攻をめぐり特別法廷の設置を呼び掛けた。
国際刑事裁判所(ICC)は昨年、ロシアの戦争犯罪について独自の調査に着手したが、ロシア、ウクライナ両国はICCに加盟していないため、原則的にはロシアの容疑者を訴追できない。
ブチャでは昨年3月、ロシア軍の撤退後に数百人の遺体が見つかった。これを受けて国際社会では非難と戦争犯罪追及の声が高まったが、ロシアは繰り返し犯罪行為を否定している。
●ウクライナ紛争の拡大危惧 国連総長  2/7
国連(UN)のアントニオ・グテレス事務総長は6日、ウクライナ紛争がエスカレーションの末、世界を巻き込んだ「広範な戦争」へと発展する可能性を危惧していると述べた。≪写真は国連のアントニオ・グテレス事務総長≫
ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で1年を迎える。国連総会で演説したグテレス氏は「和平の公算は小さくなる一方だ」と指摘。「私が恐れているのは、世界が無意識のうちにではなく、意識しながら広範な戦争に突入することだ」と語った。
グテレス氏はまた、人類が滅亡するまでの残り時間を象徴的に示す「終末時計」の針が先月、過去最短となる「残り90秒」に設定されたことについて、警告のサインと受け止めていると述べた。
その上で「2023年は課題山積の、未曽有の危機的状況の中で始まった」とし、「われわれは目を覚まし、対処しなければならない」と強調。ウクライナ危機以外にも、パレスチナ紛争やアフガニスタン、ミャンマー、アフリカのサヘル地域、ハイチにおける情勢などが世界の平和にとって脅威になっていると語った。

 

●プーチンに焦り…200人連続殺人鬼『アンガルスクの狂気』を傭兵にスカウト 2/8
ロシアによるウクライナ侵攻から、間もなく1年が経過しようとしている。
当初、ウクライナの首都キーウを3日ほどで落とす算段が、気付けば泥沼の消耗戦に。軍事力で大きく勝るとみられていたロシアだが、直近では兵士や武器が枯渇し、欧米の軍事援助があるウクライナにじわじわと戦局を奪われている。
こうなると、ロシアはなりふり構ってはいられない。
エフゲニー・プリゴジンの軍事会社『ワグネル』が刑務所で服役中の囚人をスカウト。恩赦をチラつかせて動員し、最前線に次から次へと送り込んでいる。
「時代遅れの装備で前線に投入され、大半の囚人兵士はそのまま帰らぬ人になっている。ウクライナ側が最新兵器で戦略的に攻撃しているのに対し、ロシアはあくまで人の数で押し切る作戦。前線の兵士は“使い捨て”で、いかに戦況が苦しいかを物語っている」(全国紙記者)とはいえ、中には生き残り、晴れて自由の身になった囚人もいる。
4人家族の契約殺人を行ったことでロシアを震撼させた『黒い不動産屋』ことアレクサンドル・チューチン(66)もその1人だ。
不動産業者だったチューチンは’05年、仕事相手だったドミトリー・ゼイナロフさんと妻、15歳の長女と11歳の長男の4人家族を殺し屋を雇い殺害。約100万円で雇われた殺し屋は、暗殺用のライフルで家族を射殺し、斧でとどめを刺した。
そのことが発覚し、チューチンは’21年1月に契約殺人の罪で懲役23年を言い渡され、収監。妻は契約殺人がわかった’17年に自殺している。
そのチューチンは昨夏、ワグネルを通じて戦地へ向かった。ワグネル側は「6ヵ月戦い抜いたら、恩赦を与える」と約束。そして彼は生き残った。ロシア独立系メディア『ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』などによると、1月6日にチューチン含む20人に恩赦が与えられ、解放されたという。
それも「犯罪者」としてではなく「英雄」として…。
プリゴジンは恩赦を与えるシーンをSNSで公開し「殺人者である彼らは乳飲み子の3、4人分以上の価値がある」と称賛。チューチンは現在、逮捕前に再婚していた妻とトルコで旅行を楽しんでいるという。
同様に“自由の身”になろうと、激戦地入りを決意した殺人鬼もいる。ロシアで200人の女性を殺害したとされる連続殺人鬼ミハイル・ポプコフ(58)だ。
元警察官のポプコフは『アンガルスクの狂気』として知られ、’92年から’10年の間に少なくとも78人の女性を殺害した罪で有罪判決を受けた。しかし実際にはそれより多く、犠牲者は200人近いと考えてられている。
’12年に逮捕され、’18年から2回の終身刑と9年の懲役刑に服している。
ロシア国営テレビは刑務所内のポプコフにインタビューすると、「戦争に参加することをためらわない。私は無線電子機器を扱った経験がある。刑務所にずっといるが、新しいスキルをすぐに習得するのは簡単だろう」と述べ、ワグネル傭兵部隊に入ることを表明した。
英紙『サン』は〈ミハイル・ポプコフは戦争に志願し、最前線で6ヵ月生き残り、恩赦をもらおうとしている〉と報道。前出の記者は「国民は『殺人鬼が再び解放される可能性がある』と恐怖し、一部で反対運動も起きています」と話す。
一般兵よりも殺人に対する“抵抗感”が低い凶悪犯を積極的にスカウトする一方で、ワグネルは脱走兵に対しては極めて厳しい。英紙『デイリー・スター』によると、ウクライナに降伏しようとする兵士はその場で去勢されるという。
米国諜報機関が隊員間の電話を傍受。ある隊員が「隊長が逃げようとした彼を捕まえて、睾丸を切り落とした」
と告白し、別の隊員が「どうせほとんどが元囚人だから、国民は気にしない」と答えたという。
もはや正常ではないロシア。地獄のような光景はいつまで続くのか――。
●何故プーチンはウクライナに拘るのか?  2/8
プーチン支配の本質とは?
プーチンはロシアにおいて独裁体制を築くために、経済の自由化を担保すると称してオリガルヒたちに自分への忠誠を誓わせた。エネルギー輸出が経済の柱であったロシアは、オリガルヒに富を偏在させることで、自分に逆らえない経済支配体制を作りつつ、更に周辺国への影響力を増してきた。
数多くの証言が明らかなように、プーチンは独裁体制の構築と自らの富を膨らませることで、ソ連時代から連綿と続く汚職と権力による支配体制を継承してきたのだ。共産主義体制の本質を知れば知るほど、如何にプーチンがその権力構造をソ連時代に培ったかが分かる。
プーチンがKGB時代に人心掌握と汚職の構造を作り上げたと言うことについては、私は懐疑的で、むしろ猛烈な権力欲、金銭欲が潜在的にあり、公務員として役職が上がるにつれ汚職で儲かることに気づいたから権力集中と蓄財により強く傾注したと考えている。
エリツィンが政権を追われる時、汚職によって蓄財したのを覆い隠してくれる人材として登用されたことで、プーチンは自分が大統領になる夢に大きく近づいた。その為なら、エリツィンが行った蓄財の手法を引き継ぎ、エリツィンの政治的な手腕も自分のものにしながら権力基盤を固めていった。そして、チェチェン共和国によるクーデターをでっち上げ、ロシア国民の安全を確保すると数万人を虐殺した。
プーチンは自分のやりたいことのためなら、人を殺すことなどなんとも思っていない。チェチェン共和国で(でっち上げられた)テロ集団を平定したことで名を上げたプーチンは、国内でも圧倒的な支持を得てきたが、同時に世界の指導者もプーチンを評価するようになった。
プーチンが引き起こしたことについては、具体的にはエリツィン大統領の不正が暴かれ始めた時、プーチンの指示でロシア共和国内のFSB(ロシア連邦保安庁)がチェチェンの独立運動に併せて行われたテロ事件であるとでっち上げることでエリツィンへの追求を防ごうとしたことが、証拠付きで証明されている。
その後、エリツィンからプーチンに政権移譲する際、子ブッシュは、プーチンをして国家の為に生きている立派な指導者だと言ったが、それほどにプーチンは人心掌握する術を心得ていた。
彼は政敵やプーチン蓄財の真相を究明するジャーナリストを徹底的に排除することで権力にしがみついてきたし、それは現在のロシア国内でも繰り返されている。ソ連時代を知るロシア人は、政権が世論を誘導し、余計なことを言う人々を粛清することを知っている。それがソヴィエト連邦の歴史であり、ロシアの歴史であることもよく知っている。
つまり共産党とはそう言う政党だし、プーチンはそのソ連の流れを汲むやり方で政権維持を行おうとしていることを知っている。事実、ウクライナ紛争が勃発した後、多くの反プーチン勢力が各地でデモを行ったが、デモ参加者は秘密警察によって相次いで検挙されることで、国内での反プーチンの動きは鎮静化されたと言われている。同時に海外メディアが行うロシア国内の報道も急速にその報道が減少したが、これも秘密警察の検挙を恐れて、海外メディアが相次いでロシアを脱出したことによると言われている。
プーチンにしても習近平にしても金正恩にしても、共産主義のような専制政治を行う体制は、情報をまず遮断する。国民の知る権利を奪うことで、国内で何が行われているのか?或いは、ウクライナ-ロシア戦争の実態は何か?を知らせない。そして、それらを追求するジャーナリストは、いつの間にか人々の前から姿を消す。
それは恐怖政治以外の何者でもない。
プーチンとKGB
プーチンは、国家の形とは何か?については、ソ連しか知らない。ソ連とは共産党という特権階級が、贈収賄、暴力、騙し合いといったあらゆる手段を行使してでも国民をコントロールする体制であり、その為には、情報を統制し、国民を労働者と見做し、特権階級が権力と財力を維持することで下々の国民を平定するものだと思っている。
裏を返せば、特権階級である共産党は、何をやってもいいのだ。
自分たちが国民を国民らしくあらしめているのだから、特権階級者が美味しいものを食べ、綺麗な服を着て、豪奢な邸宅に住むことはむしろ当然とさえ思っている。つまり、国民を奴隷にして特権階級が国を収める帝政がプーチンが思う国家なのだ。だから普通の家庭で生まれ育ったプーチンが、自分の代で成功するには、何より共産党での地位を上げるしかなかった。その最も近道が、KGBに入り、共産党の闇の部分でのし上がるしかなかった。
そして、彼はその最終的なゴールとして、ロシアの大統領という現代の皇帝を目指す以外に彼の道はないのだ。しかも、その道はマルクスやレーニンが思い描いた理想の平等な社会などではない。資本家を倒し、ブルジョアな生活を打破するという労働者の味方のフリをしたスターリン時代から連綿と続いている特権階級構造でしかない。ソ連を汚職と腐敗と格差のある社会にしたのがスターリンその人だが、実はスターリンの圧政を許した当時のソ連共産党も同罪と言えるだろう。つまり、ソ連共産党で偉くなれば、誰もがスターリンになれると思わせてしまった。むしろ、スターリンの恐怖政治側に立てば、自分も汚職と賄賂のある豪奢な生活が担保されると思い込み、ソ連邦を猛烈な格差のある軍国主義国家に仕立て上げた。
余談になるが、それが共産主義の実態なのだ。マルクスは人間の本質をまるで理解せず、計画経済に従って人間は機械のように動くと思った。そんなことはあり得ない。人間には無限の自由が与えられているが、それは他者と関わる社会によって許される範囲がある。それが、社会道徳であり、法律だ。しかし、共産主義は人間の内心をもイデオロギーがコントロールできると考えた。そこが根本的に間違っている。だから、共産主義国家、社会主義国家は相次いで破綻し、崩壊した。その原因は、独裁体制という人間の強欲さが生み出したコントロール不可能な専制政治を執る国家になってしまったから、国民の不満が爆発したことによる。
プーチンが生まれたソヴィエト連邦が、まさにそんな特権階級にならなければ人間ではない社会だった。レーニンは共産主義革命が実現した時、「ソヴィエト(評議会)こそが国家である」と宣言したが、労働の共産化とはつまり上も下も無い、平等な社会であり、合議制で各人、各コミュニティが連帯して互いに衣食住に必要な物を生産し、物流を盛んにすることで必然的に物資は供給され人々は豊かになり、そこには平等な社会が実現すると本気で信じられてきたのだ。
平等がイデオロギーの柱である以上、そこに資本家のような特権階級が存在してはならないし、誰かが誰かを犠牲にして贅沢な生活を送ることも出来ず、それはすなわち労働を提供する人民の敵となる。
この考え方が共産主義の底流になり、また同時に労働者から搾取する資本家を敵視する理由だ。その民衆の敵となる集団や個人を監視するのがKGBの仕事であり、プーチンはKGBに入ることで、監視する側とされる側、特権を有する側と特権を持たない側の違いを学んだ。
つまり、共産主義、全体主義しか知らない彼が「成功」を勝ち得るにはどうすればいいか?の答えが、皇帝であるロシア大統領という権力構造のトップに居続けることだ。
いみじくも旧ソ連時代に先祖帰りしようとするプーチンを長年調査してきたあるロシアのジャーナリストは、「プーチンは全てを手にしたかもしれないが、その権力故にクレムリンから出ることは出来ない囚われの身でもある」と評したが、それがプーチンとは何者か?をよく表現していると思う。
●ドイツ ウクライナに戦車少なくとも100両供与 ロシアはけん制  2/8
ウクライナに対する軍事支援の一環としてドイツは、かつてドイツ軍などで使われていた戦車「レオパルト1」を少なくとも100両供与すると発表しました。こうした動きに対して、ロシア側は「紛争は予測不可能なレベルまで拡大する可能性がある」とけん制しました。
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の一つ、バフムトの掌握をねらい、ウクライナ軍と激しい攻防を続けているとみられます。
戦闘が激化するなか、ドイツのピストリウス国防相は7日、ウクライナの首都キーウを訪れ、すでに供与を決めた主力戦車「レオパルト2」とは別に「レオパルト1」を少なくとも100両供与すると発表しました。
ことしの夏までに20両から25両が供与され、来年の前半までに100両以上になる見通しだとしています。
ドイツメディアによりますと、「レオパルト1」は1960年代から1980年代にかけて生産され、「レオパルト2」よりも旧式だということです。
現在、ドイツ軍では使用されていませんが、ドイツ政府は、頑丈な主力戦車だとして、ウクライナの国防力を強化するためには有益だとしています。
軍事支援を強化する欧米側に対して、ロシアのショイグ国防相は、7日開いた会議で、「アメリカと同盟国はできるかぎり衝突を長引かせようとしている。紛争は予測不可能なレベルまで拡大する可能性がある」と述べけん制しました。
●ロシア外相 アフリカ諸国歴訪 連携強化で欧米に対抗する狙いか  2/8
ロシアのラブロフ外相は、先月に続いてアフリカ諸国の歴訪を開始し、途上国との連携を強化する狙いとみられ、ウクライナに対する軍事支援を強める欧米側に対抗するためにも外交の動きを活発化させています。
ロシアのラブロフ外相は7日、アフリカの3か国の歴訪を開始し、最初の訪問国、西アフリカのマリで外相会談を行いました。
マリでは、クーデターで実権を握った軍が行ったイスラム過激派の掃討作戦にロシアの民間軍事会社ワグネルが関与した可能性が指摘され、欧米側がロシアの影響力拡大に懸念を示しています。
会談後の共同会見で、ラブロフ外相は「欧米側は私たちの関係に否定的だ。アフリカに植民地時代のやり方を持ち込もうとするがロシアは対抗していく」と強調しました。
ラブロフ外相は、先月も南アフリカなどアフリカの4か国を訪問したばかりで、ロシアとしては、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や途上国との連携を強化しウクライナに対する軍事支援を強める欧米側に対抗する狙いもあるとみられます。
また、ロシアのショイグ国防相も7日、国防省で開いた会議で欧米について「アメリカと同盟国はできる限り衝突を長引かせようとしている。紛争は予測不可能なレベルまで拡大する可能性がある」と述べけん制しました。
●2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆 2/8
ウクライナ情勢などの地政学リスクや、それを機に進んだ円安、米中対立による経済のデカップリング(分断)への対応などで、日本の製造業が「国内回帰」の姿勢を強めている。かつて、バブル経済崩壊やリーマン・ショックが誘発した円高を背景に、安い人件費などを求めて生産拠点は海外に移った。今起きているのは、国内生産のメリットを再認識し、拠点を強化する動きだ。人手不足やエネルギーの確保など課題も多いが、敗れざる工場によって「メード・イン・ジャパン」はかつての輝きを取り戻せるのか。
混沌とする世界情勢を受けて経済安全保障の意識が急速に高まり、国内で工場新設や生産能力増強のニュースが相次いでいる。こうした国内製造回帰は、長らく空洞化に苦しんできたニッポン製造業の復権への序章だ。その象徴の1つが、国内では製造できなくなっていた最先端半導体の国産化を再び目指そうとするラピダス(東京・千代田)の挑戦だ。
2019年、東京エレクトロン元社長の東哲郎氏は、半導体メーカーからの断りの返事に落胆した。「ご提案の半導体は、我々が製造できる技術世代のはるか先。現状でも精いっぱいで、そこにジャンプするのは難しい」。実は、東氏は世界最先端の半導体を国内で量産しようと、半導体メーカー数社に打診をしていた。「これでは脈はない。深追いしてもしょうがない」。東氏はすぐに気持ちを切り替え、最先端半導体の国産化を目指す新会社の立ち上げに動き出した。
米IBMとの連携に商機
きっかけはビジネス関係が深い米IBM幹部から持ち掛けられた提携構想だ。「回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端半導体の開発にめどがついた。日本で製造できないか」。東氏は思わず身を乗り出した。「最先端半導体を国産化する、またとないチャンスだ」
1980年代、記憶用半導体DRAMで世界シェア5割を誇った国内半導体産業。だが米国の強烈な巻き返しに遭い、水平分業の流れについていけず国際競争から脱落した。2000年代、電機大手は半導体部門の赤字に苦しみ再編を繰り返す。そして研究開発や量産に巨額費用がかかる最先端分野から一斉に手を引いた。
その結果、日本は最先端半導体の空白地帯となった。国内工場では40ナノの成熟品までしか生産できない。モバイル端末やパソコン、データセンター、自動車向け最先端半導体は、半導体受託生産(ファウンドリー)を担う台湾積体電路製造(TSMC)などに生産委託している。
TSMCはファウンドリー市場の過半を握る巨大企業だが、他に最先端半導体の受託生産をできる企業がほとんどない。世界中の半導体メーカーからTSMCに注文が押し寄せ、半導体メーカーは何年も先の分を発注して行列を作って出来上がるのを待つ。
限られたパイを世界中の有力顧客が奪い合うなか、例えば日本の通信事業者が新規事業のため最先端半導体の量産を依頼しようとしても、小規模の発注量では対応してもらいにくい。今後、人工知能(AI)や高速通信、ビッグデータ活用など、最先端半導体のニーズは高まり、デジタル社会の「頭脳」として欠かせなくなる。日本企業が最先端半導体を試作段階から入手できなければ、製品開発や事業の速度が遅くなる。
「国の産業競争力が落ちる」。東氏の懸念
「あらゆる産業のデジタル化が進むなか、最先端半導体を生産できる能力がなければ日本全体の産業競争力が現状よりさらに落ちてしまう」。東氏はこう危惧した。国内に最先端半導体の量産拠点がなければ、それらを使う新規事業も育たず、日本の地盤沈下に波及してしまうという懸念があった。
さらに米国と中国の技術覇権争いを背景に、欧州、韓国、台湾、インドなど各国・地域が半導体産業強化やサプライチェーン(供給網)の自立化を急いでいる。半導体の国内製造回帰という世界の潮流を逃せば、しばらく浮上のきっかけはないかもしれない。
だが、焦燥感を抱く東氏に呼応して挑戦する経営者はついぞ現れなかった。「だったら、自分でやるしかない」。国内の装置、材料メーカーの技術と、IBMから供与される技術を組み合わせれば、実現可能だ。東氏はそう判断し、日立製作所出身で半導体製造技術に詳しい旧知の小池淳義氏らに技術の検証を頼んだ。
「本当にものになる技術か、日本で製造できるか、そしてファウンドリーの事業化が可能か、検討に検討を重ねた」(東氏)。経済産業省に相談し、トヨタ自動車やNTTなど8社の経営陣を説得して出資を依頼。22年8月に設立されたのがラピダスである。IBMと技術を共同開発し、20年代後半に2ナノ品の生産工場を国内に設けて、ファウンドリー事業を展開する。小池氏を社長に据え、東氏は自ら会長を務める。
ラピダスは「国からの支援のほか、新規株式公開も検討」(東氏)しつつ、今後10年で開発と量産ラインの建設などに約5兆円の資金を投下し「日の丸半導体」の復権を期す。
東氏は半導体製造装置の経営トップとして、米インテルやTSMC、韓国のサムスン電子など世界の半導体メーカーと豊富な人脈を培ってきた。「世界の最先端の技術に接してきたなかで、日本の半導体メーカーは『諦めすぎ』ではないかと感じていた」。日本企業は決して技術力で負けていない。にもかかわらず、自信がない。そこに歯がゆさを感じていた。
終戦ムードが漂っていたのは、周辺もそうだ。半導体を使う側の産業界、政界、省庁の間にも、「半導体は輸入品でいい、という意識がずっとあった。でも自由貿易で何でも手に入る状態ではなくなってきている」(東氏)。
また新型コロナウイルス禍やウクライナ危機によって世界のサプライチェーンは混乱し、半導体不足が製造業の足元を揺さぶった。
東氏は「出資企業とは、最先端半導体が手に入らなくなることへの危機感を共有できている」と話す。幅広い産業の技術革新を左右する最先端半導体の開発や量産を国家が競い合う今、その国内生産は日本企業の競争力を担保するには欠かせない。
●1日のロ軍死者が1030人とウクライナ側発表、過去最多 東部で戦闘激化 2/8
ウクライナ軍は7日、ロシア軍の死者数が過去24時間で1030人に上ったと発表した。侵攻開始後で最多となり、この2日間の死者数は1900人になったとしている。
同軍は、これまでのロシア側の死者は13万3190人と主張。一方、ロシアはウクライナ軍の1月の死者が6500人に上ったとしている。
敵軍の死傷者数の集計は信頼性が低いとされ、ウクライナも最近は詳細な戦況をほとんど明らかにしていないが、こうした主張は塹壕戦が激化しているという双方の説明と一致する。
ウクライナや西側諸国によると、ロシアは侵攻開始から丸1年となる24日までに新たな戦果を上げるため、東部に軍や傭兵を投入しているという。
一方、7日はドイツのピストリウス国防相が予告なしにウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問。戦車「レオパルト1」を年内に80両、2024年に100両供与すると発表した。これまでの発表を上回る規模。
また、ウクライナのクレバ外相は同日、ブリンケン米国務長官と協議したとツイッターに投稿。新たな軍事支援や対ロシア制裁のほか、24日に向け「重大イベントの備え」が議題だったと明かした。 
●プーチン大統領は国民から飽きられている…「プーチン氏の後継者報道」 2/8
「プーチン後」の報道が拡散するのは異例
ロシア軍のウクライナ侵攻が長期化する中、年明けのロシア・メディアは2024年3月の大統領選をめぐる展望記事を次々に掲載した。プーチン大統領の病気説が公表され、後継者候補を紹介、意外な人物の名前も挙がった。
英国のロシア専門家、マーク・ガレオッティ氏は、「プーチンの賞味期限は切れた。現状にうんざりする人が多く、後継者を期待する声が強い」と指摘する。世論調査のプーチン支持率は引き続き高いものの、戦争長期化で社会に厭戦えんせん気分が広がっているようだ。
ウクライナ侵攻は「プーチンの戦争」であり、プーチン氏が退陣すれば、戦争は終結に向かうことになる。メディア統制が厳しいロシアで、「プーチン後」に触れる報道が拡散するのは異例。いずれ規制される可能性もあるが、現時点で大統領選の有力候補を展望する。
野党、ジャーナリスト、柔道選手、実業家…
ロシア有力紙「コメルサント」(1月13日付)は、クレムリンがプーチン氏の5選に向けて大統領選の準備に着手したと報じた。次回大統領選は今年12月に公示され、24年3月17日投開票の見通し。プーチン氏は新たに2期12年の続投が可能で、12年間勤め上げると、計36年の長期政権となる。
プーチン氏自身は昨年11月の会合で、大統領選出馬の可能性について、「私には憲法上、再出馬の権利がある」としながら、出馬するかどうかは明言しなかった。
とはいえ、5選出馬は既定路線だろう。プーチン氏が出馬しないと表明すれば、すぐにレームダックとなり、ウクライナの戦争指導は困難だ。後継政権が戦争を終結させれば、苦戦の責任や戦争犯罪を問われかねない。憲法規定では、大統領経験者は終身上院議員として訴追を免れるが、この種の規定は意味がない。プーチン氏はあくまで、戦争を長期化させて政権延命を狙うだろう。
とはいえ、ロシアのメディアでは年明け後、後継者問題をめぐる話題がにぎやかだ。
政府系紙「イズベスチヤ」(1月23日)によれば、2018年大統領選に野党・共産党から出馬し、次点だった農場経営者のパベル・グルジーニン氏、野党・公正ロシア幹部でプスコフ市議会議員のオレグ・ブリャチャク氏、改革派政党・ヤブロコ幹部のニコライ・リバコフ氏、18年大統領選にも出馬した女性改革派ジャーナリストのクセニア・サプチャク氏、五輪にも出場した親日家の柔道選手、ドミトリー・ノソフ氏、実業家のセルゲイ・ポロンスキー氏ら、少なくとも11人の多彩な面々が早々と大統領選立候補を表明しているという。
注目はプーチン氏に物申したクドリン氏
選挙法によれば、下院に議席を持つ5政党は優先的に候補者を擁立できるが、それ以外の候補者は30万人の署名を集める必要があり、署名審査で失格しかねない。それでも、戦時下での相次ぐ出馬表明は政権にとって好ましくない。
注目株は、ウクライナ侵攻に反対するプーチン氏の古い友人、アレクセイ・クドリン元財務相の動向だ。10年間財務相を務め、欧米諸国の評価が高い改革派のクドリン氏は、昨年2月のウクライナ侵攻直後にプーチン氏に面会し、「戦争はロシア経済を破綻させ、社会に重大な亀裂を招く」として直ちに中止するよう求めたという。
昨年秋、会計検査院長を辞めて民間のネット企業に移ったが、下院に議席を持つ新興政党「新しい人々」がクドリン氏の大統領候補擁立を検討中と報じられた。「クドリン大統領」なら、戦争は終結に向かうだろうが、本人は出馬を否定している。プーチン陣営は全力で出馬を阻止しようとするだろう。
岸田首相をののしったメドベージェフ前大統領も?
ネットメディア「レポルチョール」(1月2日)は、ドミトリー・メドベージェフ前大統領が極右政党・自由民主党の大統領候補として出馬し、プーチン氏と一戦まみえる可能性があると報じた。
メドベージェフ氏は2008年から4年間大統領を務めた後、首相に転出。2020年に安全保障会議副議長に左遷された。当初のリベラル派から極右に変身し、SNSで欧米諸国を激烈に批判している。
「ロシアを通常戦力で脅せば、核戦争だ」「ドイツはポーランド、チェコなどを衛星国にし、第四帝国を創設しようとしている」「日米首脳会談でロシアの核使用に警告した岸田文雄首相は閣議で切腹すべきだ」といった罵詈ばり雑言の強硬発言は、ロシア国内でも顰蹙を買っている。
それでも、極端な愛国主義発言は昨年死去した極右政党・自由民主党の故ウラジーミル・ジリノフスキー前党首に匹敵し、自民党大統領候補として出馬するのでは、との臆測が出ている。
「レポルチョール」は、12月31日に新年のあいさつをしたプーチン大統領に続いて、メドベージェフ氏もビデオあいさつしたことを指摘。「メドベージェフ氏のSNS発信はプーチン氏より強硬で、愛国主義者の支持を得ている。自民党党首に就き、大統領選に出馬する可能性がある」と伝えた。とはいえ、30年にわたり忠実な部下だったメドベージェフ氏が、ボスに反旗を翻すとは思えない。
プーチン氏の後継者は「45歳の若手閣僚」か
「軍保養所」と題したネットメディアは1月、大統領選の分析記事で、1政治エリートが自分たちの身の危険を感じてクーデターを起こす可能性がある、270歳のプーチンはもう若くなく、膵臓すいぞうがん、白血病、パーキンソン病などの臆測があり、統合失調症の疑いもある――とし、プーチン時代は長くないと分析した。
同メディアは後継者として、プーチン氏のボディーガード出身で、モスクワ南部トゥーラ州知事を務めるアレクセイ・ドゥーミン氏を挙げた。同氏は連邦警護局(FSO)出身で、プーチン氏がシベリアで休暇中、クマの襲来から守った忠誠心で知られるが、根拠は示していない。
「面白い人生」という新興ネットメディアは昨年11月、プーチン氏が出馬しない場合の与党・統一ロシアの後継者として最も有力なのは、ドミトリー・パトルシェフ農業相(45)だと伝えた。プーチン氏の盟友で保守派のニコライ・パトルシェフ安保会議書記の長男で、「世代交代の象徴になる」という。
農業相は「教養があり、数カ国語を話し、若く、戦争の経験もない」という。経済学博士号を持つ銀行家で、30代で閣僚になった。父親の睨にらみが利き、オリガルヒとシロビキ(軍や諜報機関出身者)の両方から支持を受けやすく、「ダークホース」とされる。
体制への不満が社会に広がっていることの表れ
このほか、後継候補として挙げられるのが、ミハイル・ミシュスティン首相、モスクワ市長のセルゲイ・ソビャーニン氏らだ。憲法規定では、大統領が職務執行不能に陥った時、首相が大統領代行に就任する。ただし、ミシュスティン首相は経済テクノクラートで、ウクライナ侵攻についてほとんど発言していない。プーチン氏は近く議会で年次教書演説を行い、首相を交代させるとの説もあり、その場合、後任の首相が有力後継候補になり得る。
ソビャーニン市長も今年9月の統一地方選が改選時期に当たる。来年の大統領選を控えた今年のロシアは「政治の季節」で、政治的緊張が高まろう。戦時下で多彩な後継候補が取りざたされること自体、プーチン体制への不満や嫌悪感が社会に広がっていることを示唆しており、要注意だ。
もう一人、大統領選出馬の大穴が、収監中のアレクセイ・ナワリヌイ氏かもしれない。2020年に化学兵器「ノビチョク」を盛られて重体になり、ドイツで治療を受けて帰国後、拘束された同氏は懲役9年の刑で服役中。その経緯を描いた映画『ナワリヌイ』は今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。
可能性は極めて低いものの、プーチン政権が突然終焉を迎える事態でも起きれば、釈放され、大統領選出馬の道が開かれるかもしれない。
●「プーチン大統領を勝たせてはいけない」NATOトップが語ったこととは? 2/8
「プーチン大統領は新たな攻撃を計画しています。そう遠くない時期に」 日本を訪れたNATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長はウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について、そう語りました。世界最大の軍事同盟のトップは今後のウクライナ情勢をどう見ているのか。そして、ロシア、中国にどう対峙たいじしようとしているでしょうか?
NATOトップが6年ぶりに日本訪問
アメリカやヨーロッパ各国など30か国が加盟する世界最大の軍事同盟NATO。そのトップ、ストルテンベルグ事務総長が1月30日から2月1日まで日本を訪問しました。岸田総理大臣などと会談し、ウクライナへの支援を続けることの重要性を訴えたストルテンベルグ事務総長。NHKとの単独インタビューや都内での講演で何度も強調していたのは「この戦争でプーチン大統領を勝たせてはいけない」ということでした。以下、インタビューや講演の内容などをもとにストルテンベルグ事務総長の発言をまとめました。
ロシアのウクライナ侵攻どう見る?
これまで何十年にもわたって続いてきた世界の秩序が危機にさらされています。ロシアと中国を筆頭に、権威主義的な国がこれまでの秩序に抵抗しています。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻はヨーロッパの平和を打ち砕きました。北朝鮮はむこうみずなミサイル発射で世界の安全を脅かしています。テロや気候変動、サイバー分野での脅威や核拡散などの世界的な課題も増しています。これが新たな安全保障の現実なのです。
なぜウクライナへの支援続ける?
ウクライナでの戦争は単にヨーロッパの危機なのではありません。世界の安全保障と安定に対する挑戦です。もしプーチン大統領が勝利すれば、中国の習近平国家主席をはじめ世界中の権威主義的な国の指導者に「軍事力を使えば欲しいものが手に入る」という危険なメッセージを送ることになります。そうすれば世界はより危険になり、わたしたちはより攻撃を受けやすくなってしまいます。ウクライナが確実に、占領された領土を解放し、ロシアの侵略者たちを押し戻し、独立した主権国家として勝利できるよう、ウクライナに兵器や弾薬の供与などの軍事支援を行うことが極めて重要なのです。ウクライナは緊急に追加の兵器を必要としています。ロシアという侵略者を退ける唯一の方法は強力に武装した軍です。ウクライナはNATO水準の近代的な重装備を必要としているのです。
今後どう支援を強化する?
NATO加盟国やウクライナの間で継続して協議がおこなわれています。協議の過程では、国によって評価もさまざまですから、今の時点で次に何を供与するのか、言うことはできません。NATOはこれまでウクライナに前例のない支援をしてきましたし、最近では装甲車や戦車の供与などでさらに支援を強化しました。支援を続けることが必要です。NATO加盟国は今後もウクライナを支えていきます。ウクライナが独立した主権国家として勝つよう支援することが、私たちの安全保障上の利益だからです。重要なのはこの戦争が始まってから「NATO加盟国が常に結束してきた」ということです。これが支援のカギであり、ロシアに向けたメッセージです。
ウクライナ情勢 今後の見通しは?
プーチン大統領は新たな攻撃を計画しています。その攻撃がいつか具体的には踏み込みませんが、そう遠くない時期にです。和平に向けて準備しているきざしはなく、逆に戦争の継続に向けた準備を進めています。追加動員の可能性もありますし、兵器の増産も試みています。イランや北朝鮮からも兵器を調達しています。プーチン大統領がウクライナを支配するという目標を変えた兆しはありません。ロシアは隣国の行動をコントロールできる、今とは違うヨーロッパを求めているのです。
ウクライナ侵攻の教訓は?
私たちはウクライナでの戦争から「レアアースやエネルギーなど重要物資の調達において、権威主義的な国に過度に依存することは危険だ」という教訓を学びました。ヨーロッパで今起きていることが、明日、東アジアで起きる可能性もあります。中国はNATOの敵ではありませんが、彼らがますます攻撃的な主張を強め、威圧的な政策をとっていることは、インド太平洋の安全保障にも、北大西洋の安全保障にも影響を及ぼします。NATOの加盟国はこれからも中国と貿易をしますが、安全保障にどのような結果をもたらすか考慮し、今後私たちの利益に反する使い方をされる可能性がある技術は中国に輸出しないようにする必要があります。
中国とはどう対峙していくのか?
中国との対立を求めているわけではありませんが、中国は私たちの安全保障や価値観、利益に難題をもたらしていると言わざるを得ません。中国はますます、権威主義的な勢力になっていると認識しなければなりません。香港だけでなく国内のいたるところで人権を弾圧しています。新たな近代的な戦力、NATOの加盟国を射程におさめる長距離ミサイル、核兵器、AIなど革新的な技術を使った先進的な兵器などに大幅に投資しています。南シナ海での領有権を主張し、台湾を威嚇しています。これらはすべて私たちの安全保障にかかわります。インド太平洋地域はもちろんですが、NATO加盟国にとっても、です。サイバー空間、アフリカ、北極圏で中国の存在があり、ヨーロッパの重要インフラを支配しようとしています。中国は私たちに近いところまで来つつあり、NATOにとって関係ないというのは誤りです。安全保障は世界的なもので、地域的なものではないのです。私たちは日本を含むインド太平洋の友人たちと連携し対処しなければならないのです。
●核戦争の脅威を話すプーチン大統領、上空にはUFOが!?  2/8
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が核戦争の脅威が高まっているとスピーチした際、その上空にはUFOが飛んでいたという話が出てきた。ロシア南西部の都市ヴォルゴグラードでのことで、色や高度を変えながら飛ぶ未確認飛行物体をロシア人パイロットたちが目撃していたそうだ。
ソーシャルメディアのテレグラムによると、旅客機4機のクルーたちからUFOの目撃に関する連絡が航空当局へ行っていたそうで、その報告書にはこう記されている。「ソチからモスクワへのフライトS72046を運行するS7航空のエアバスA321のクルーが、ヴォルゴグラードに到着する12分前、高度1万メートルの所で、航空機から直角の角度、左側に未確認飛行物体を確認しました」「その物体は色と高さ、動きの方向を変え続けていました」
さらに報告書はこう続く。「管轄当局は、その特定の時間に飛行の予定はなかったとの通知を受けています。その空域の使用許可は取られていませんでした」
●核戦争は“ラクダ”のあとで。半年後にロシア必敗プーチンの腹の内 2/8
今月24日で開戦から1年となるウクライナ戦争。一貫して強気の発言を繰り返してきたプーチン大統領ですが、国際社会を敵に回した代償は決して小さなものではないようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、最新の戦況と露軍が取り始めた作戦の内容を紹介。さらに2月2日に行われたプーチン氏の演説内容を引きつつ、この紛争が核戦争となる可能性を強く指摘しています。
ロ軍が「ラクダ」と「肉の波」でウ軍に大規模攻勢
ロ軍が「ラクダ」と「肉の波」でウ軍に対して、大規模攻勢をかけてくるという。今後の戦況を検討しよう。
ロ軍本体も、1ケ所に大量の歩兵を集めて、波状攻撃をする人海戦術を各所で実施している。ウ軍も対抗上、戦闘員を集めているが、人命重視のウ軍は押されている。ロ軍より優秀な兵器が必要であるし、対抗戦術の開発も必要がある。
ロ軍は、人海戦術の上に、輸送部隊をウ軍の手薄な場所に潜入し、突破する戦術を取り始めている。
欧米戦車の供与が決まって、戦車到着までにロ軍は大規模攻勢を仕掛けてくると、ウ軍は見ているし、ロ軍の攻勢が始まっているとも見える。
ロ軍が人海戦術で攻勢をかけているのが、スバトボ・クレミンナの反撃、バフムト包囲、ボハレダラの3ケ所である。そこに集中的に、ロ軍の兵員を集めている。
バフムト・ドネツク方面
ロ軍・ワグナー軍はシイルとブラホダトネも占領し、ウ軍主力は、T1503号主要道の西側まで後退した。しかし、現在、ウ軍の在留部隊がいる南のクラスノ・ホラと北のロズトリフカとミコライフカをロ軍は攻撃している。この北の街の延長上にシベリスクがあり、ここまでロ軍は進軍したいようである。シベリスクを取られると、クレミンナ攻撃のウ軍は、撤退する必要になる。
それと、ウ軍のいない地点からバフムトフカ川までロ軍は来たが、その渡河でロ軍は大損害を出している。このため川を渡った西側にあるブラホダトネから川に沿って南下している。
川の反対側にあるパラコビフカにもロ軍は攻撃している。ウ軍のいない地点で川を越えたたようである。ウ軍のいない地点を探るためには、戦車や軍人とは違う民間人に偽装したトラックなどの輸送隊を使い探すことで、ウ軍からの攻撃を受けないで潜入できることをロ軍は知ったようである。
このため、輸送隊で潜入し、その後、ウ軍のいない場所から人海戦術で攻撃するという方法を取り始めたようである。これで、人員の損耗を少なくするようである。そして、この輸送部隊を「ラクダ」と呼び、人海戦術を「肉の波」と言っているようだ。
バフムトの南側のクリシチウカ、アンドリウカもロ軍が占領して、西にあるイワニフカにロ軍が攻めてきたが、ここはウ軍が防衛している。
ここで止めないとチャシブ・ヤールを取られる。チャシブ・ヤールは、バフムトへの00506道の補給路上であり、ここを取られるとバフムトへの補給が難しくなる。このため、執拗にロ軍は攻めてくる。
そして、まだ南側のロ軍は、人員補充が効いているので、人海戦術攻撃を止めない。すでにT0504主要道は補給に使えなくなり、今は地方道00506を使って補給をしているという。今使える補給路はM03高速道路と00506道の2本である。
ドネツクのボハレダラには、ロ軍海軍歩兵部隊が攻撃したが、ウ軍機甲部隊の反撃で大損害を出したが、GRUのスペツナズや特殊部隊などを増援して、街を2方面から攻撃しているが、ボハレダラを包囲するようであるが、今のところ成功していない。
ロ軍の勝てる方法は、損害無視の人海戦術と輸送部隊の潜入しかないようであるが、逆に、それに対応したウ軍の人的被害の少ない防御体制が確立していない段階である。このため、ウ軍は苦しくなっている。
大量の人員が突撃してくるので、重機関銃などを水平に打つなどの方法を取っているが、弾薬がなくなる時点で熟達したロ軍兵が攻めてくるので、機関銃が効かなくなり、人的損害が出ている。しかし、物量で押すロ軍の砲撃量も少なくなってきたようである。
マリンカでは、露軍は焼夷弾などのロケット弾で攻撃しているが、砲撃はほとんどないので、砲弾が欠乏している可能性があると。
そして、ロ軍の攻撃が下火になるのは、人員の損害が大きくなり、人員補充が効かなくなる時である。そこまで、ロ軍は突撃をしてくる。
このような攻撃であり、ロ軍は、いくら動員で兵隊の数を揃えてもまともな軍用車両と弾薬が足りないため、やっても自殺行為になるだけとも見える。勿論、ウ軍にも犠牲者は出るが、その比は、100倍以上になる。
スバトボ・クレミンナ攻防戦
ロ軍が、大量の人員と装備を集めて、大規模反撃を計画しているようだ。このため、ロ軍は、クピャンスクに対して砲撃も増えている。ロ軍の反撃もあり、ウ軍は前進せずに、ロ軍の2月24日以降の大規模攻勢に備えて体制を固めている。
クレミンナ包囲網も前進を止めて、ロ軍の反撃に備える体制であるが、コズマネとディプロバをロ軍に占領されて、ウ軍は後退した。ロ軍の空挺部隊はヤムポリフカを攻撃したが、ウ軍は撃退した。ロ軍の反撃が開始したようにも見える。
ロシアとウクライナの状況
ウ軍は、ロ軍の人的損害を覚悟の上での大規模攻勢に備える体制を取り始めた。この背景には50万人以上の訓練済の動員兵を前線に配備したからである。秋の動員数は30万人であるので、その後も動員を続けていたことになる。この人員で大攻勢を仕掛ける可能性を、ウ軍は警戒している。
このため、ロ軍は、契約軍人が契約期間を満了しても契約解除に応じず、動員兵の退役も認めないという。突撃させて死ぬことでしか退役できないようにしている。脱走や投降、撤退も監視して、させないようにする督戦隊を配備して、士気が低くても戦える体制にしている。脱走兵は、皆の前で殺すようであり、逃げ出すこともできないようだ。
このような状態であり、今までにロ軍の人的被害は、死傷者数が20万人を超えていると見られている。
もう1つ、2023年2月2日に、ロシアは新規のパスポート発行を停止した。動員逃れで、海外に逃げ出す人を止めるためである。
プーチンは、欧米戦車などの兵器が揃う前に、ウ軍に攻勢を掛けるしかないので、3月中に東部ドネツィク・ルハンシク両州の完全占領することを命令したという。ということは、クレミンナ・スバトボやバフムトで大規模反撃があることになる。
そして、再度、ロ軍はリマンを目指すことになりそうである。そうしないと、ドネツクの完全占領はできないからである。
その攻勢は、2023年2月24日以降に始まる可能性があるとのこと。
ダニロフ国防会議書記やレズニコフ国防長官は、50万人のロ軍が大規模反撃に参加するが、多くの損害が出て弱体化して、ウ軍が5月欧米戦車などが揃った後の反転攻勢でのロ軍防御力を弱めることになるとみているようだ。このため、ロ軍の大規模攻勢に、ウ軍がどう持ちこたえるかが、重要なことになる。
ウ軍は、レオパルト2戦車が100+α両、ラインメタル社のレオパルト1戦車が88両供与される方向である。しかし、訓練が必要であり、早くても3月終わり、戦場に出てくるのは、5月になる可能性もある。
なお、前回ギリシャも供与する可能性があるとしたが、ギリシャは供与しないことになった。トルコとの紛争があり、現時点では、それに備えることが必要であり、余力がないとした。
続いて、ポーランドもレオパルト2戦車14台供与と言っていたが、すぐにはできないと言い始めている。カナダを除く、その他の国もすぐにではないというので、ドイツは逆に説得に懸命になっているという。ということで、ラインメタル社のレオパルト1戦車の88両が非常に大きいことになっている。T-74戦車と同じ世代の戦車であり、戦場では活躍が期待される。
それと、レオパルト1戦車の主砲は、105mm砲弾であるが、あまりこの砲弾が使われていない。このため、ドイツはブラジルに105mm砲弾の供与を打診したが断られたという。アメリカのストライカーMGS用の105mm砲弾やイタリアの105mm砲弾、それと韓国のM48とK1用砲弾などである。日本も使用しているが法的制約がある。
そして、ウ軍は、レオパルト2戦車と装輪装甲車が手に入り、次にF-16戦闘機、アパッチヘリやGLSDBなどの長射程爆弾などの兵器・弾薬の供与を欧米諸国に要請している。
この内、GLSDBの供与が決まった。HIMARSから発射できるが、ウ軍にすでにあるHIMARSは、100km以下のロケット弾しか発射できない制限がついているので、GLSDB用の発射HIMARSを提供するという。
GLSDBは、150kmの射程があり、クリミア半島まで届くことになる。このため、前線から100km程度離れた場所にロ軍は、補給基地を作り補給体制を完成させたが、この補給基地を150km離れた場所に作り直す必要がある。
そして、残念ながら、F-16の提供について、米国は供与しないと表明しているし、ウォレス英国防相は戦闘機供与に対し、「この恐ろしい紛争において魔法のつえはない」という。間接的な否定のように聞こえる。というので、供与は当分先になるようだ。
ポーランドはF-16の供与を表明しているが、EU全体の承認が必要というので、難しいようである。言い出しっぺのポーランドでしょうね。
フランスもミラージュ戦闘機の供与と述べたが、これは英国が供与する巡航ミサイルの発射機として、少数の提供を検討するということで、前線近くでの戦闘を想定していないようだ。
もう1つ、防空システムでは、フランスが「グランドマスター200」レーダーシステムを供与するし、地対空ミサイルシステムSAMP/T-Mambaをフランスとイタリアは供与する。このレーダーとミサイルの組み合わせは強力である。
イスラエルのネタニエフ首相は、「アイアンド−ム」の提供を検討しているという。もし、提供されると、砲撃にさらされているヘルソンやハリキウなどの砲撃を駆逐できる可能性がある。
このような供与で、プーチンは、ボルゴグラード(旧スターリングラード)で、ウクライナへの戦車供与を決定した欧米諸国について、「ロシアは彼らとの国境に戦車を送らないが、対抗手段があるし、ロシアに勝利できると考えている者は、ロシアとの現代戦が(過去とは)別物だと理解していない」とも発言。核兵器の使用を示唆した。ということで、最後は核戦争になると見た方が良い。
ラブロフも、「西側諸国がロシアの永続的な敗北を目論んでいる」し、「モルドバを次のウクライナにする為に、自由民主主義とは程遠い方法でサンドゥ大統領を国のトップに据えた」ともいう。
逆に、CIAバーンズ長官は、今後6ヶ月がウクライナでの戦争の最終結果を左右する「間違いなく決定的な」ことが起きると発言した。勿論、ウクライナが勝利することになるが、プーチンが1ヶ月ごとに支配地域が減少する事態が起きて、交渉にシフトすることになるか核使用の可能性があるようだ。
実をいうと、米国は、ウクライナが領土の20%をロシアに割譲する条件の和平案を打診したが双方が拒否したとのことで、ウ軍の攻撃制限を緩和して、より攻撃できる兵器を供与しだした。
このことで、ロシアを負け込ませて、交渉の場に着くことを目指し始めたようだ。ウ軍は交渉の場に出すことは簡単で、兵器の供与を止めればよいが、ロシアを交渉の場に出すには、負けて領土が縮小する事態が必要である。そして、2月24日の線まで戻して、停戦にするというのが、米国の終戦目標であろう。米国の真の敵は中国あり、ロシアではない。
そして、プーチンは、交渉を蹴ったことで、現在より多くの領土を獲得する必要が出て、総動員に近い体制にした。
それと、ロシアの味方が徐々に少なくなってきた。ロシアの味方はイランと北朝鮮ではあるが、ウクライナ東部の「復興支援」のため、北朝鮮が建設作業員として軍人や警察官の派遣を進めているが、一方、戦争が長引き、ロ軍が負けそうであるため、北朝鮮は労働者の派遣を一旦凍結しているともいう。北朝鮮もロシアの味方をすることは、危険だと気が付いたようである。
逆に、ハンガリーとオーストリアがウクライナ支援をしないと述べているし、中立国のスイスは、ウクライナへの自国兵器輸出が第3国経由でできるように法改正する審議を議会で始めるという。
オーストリアは、ウィーンの国連機関に勤務する2人を含むロシア人外交官4人を追放する方針を明らかにした。オーストリアは中立に拘っている。スイスは中立の中でどう支援するかを考えている。中立の中でも色が出ている。
そして、フォンデアライエン欧州委員長とミシェル欧州大統領は、訪宇して、ゼレンスキー大統領と会談した。この中でフォンデアライエン委員長は、オランダのバークに国際法廷を作る準備のための「国際センター」を設置して、ロシアの侵略と戦争犯罪の検察を行うとした。ロシア敗戦時の法廷の準備を行い始めている。
もう1つが、ウクライナ復興費用で、没収したロシア資産を転用する方向で欧米は動いている。
米国とロシアの核軍縮条約「新戦略兵器削減条約(新START)」に規定された査察をロシア側が拒否しているとした。戦争での核使用が徐々に、その可能性を増している。
世界の状況
CIAのバーンズ長官は、中国の習近平国家主席が2027年までに、台湾侵攻の準備を行うよう軍に指示しているとの見方を示した。
本当は、この状況で米中対話を行い、米中の対話で事態の進行を遅らせる必要があると思うが、米本土上空で中国のものとみられる偵察気球が発見されたことを受け、ブリンケン米国務長官の中国への訪問を延期した。なお、気球は大西洋上に出た時点で、空対空ミサイルで破壊したという。
しかし、この気球で米国の世論は、大騒ぎになっている。空港では一時的に航空機の発着を見合わせるなど、大変である。このため、ブリンケン米国務長官の中国への訪問を延期になったともいう。
ロシアの複数の国営軍需企業に対し、中国企業が戦闘機の部品や電波妨害機器などの軍用品を輸出し、ウクライナ侵攻を支援している問題で、早急に中国と話し合うことが必要になっている。
ということで、対ロ政策上、中国と対話が必要であるとは認識しているようであり、これ以上の両国関係悪化は、インフレを加速することも認識しているともいう。 ・・・
●一般教書演説 「世界的な物価高はプーチンの戦争で…」 2/8
バイデン米大統領は7日夜(日本時間8日午前)、上下両院合同会議で行った一般教書演説で、世界的な物価高騰について「プーチン(露大統領)の戦争でエネルギーや食料の供給が途絶えたためだ」として、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を指摘した。また、「感染症のまん延でサプライチェーン(供給網)が寸断されたこと」も要因だと述べた。
●衰退する欧米主導の世界 ロシアのウクライナ侵攻から1年 2/8
ロシアがウクライナに軍事侵攻してから2月24日で1年となる。ロシア軍をウクライナ国境に集めたプーチン大統領は、ウクライナの東部と北部の4ヶ所から一斉に攻撃を開始。侵攻が開始された24日だけでもウクライナで少なくとも50人以上が死亡、170人あまりが負傷したと報道された。侵攻当初は首都キーウの陥落も時間の問題だと言われた。
すぐに露呈したロシア軍の劣勢
だが、その後の状況はまったく異なるものだった。アメリカなど欧米から軍事支援を受けるウクライナ軍は徐々に戦況で優勢となり、ロシア軍は首都キーウの掌握どころかロシア国境に近いウクライナ東部に追い込まれ始めた。兵士が脱走し、武器が不足するなどロシア軍の劣勢が顕著になっていった。プーチン大統領が昨年秋に軍隊経験者などの予備役を招集するため部分的動員令を発令し、ドネツク、ルハンシク、サボリージャ、ヘルソンの東・南部4州のロシアへの一方的併合を宣言したことはそれを物語る。
今後、戦闘は春にかけて再び激化する見込みだ。ウクライナ国防省のブダノフ情報局長は米ABCニュースが1月に報じたインタビューで、ウクライナ軍は3月あたりに大規模な攻勢を仕掛けると述べており、またM1エイブラムスやレオパルト2など300を超える欧米諸国の戦車がウクライナに輸送される。一方、プーチン大統領は3月までに東部ドンバス地方の完全制圧をロシア軍に命じたとされる。戦況はロシア劣勢のままだが、プーチン大統領の野望は1年前から何も変わっていない。
疑われる対ロ制裁の効果
一方、1年が経って顕著に見えるのが、欧米諸国、特にアメリカの影響力の衰退だ。侵攻直後、バイデン大統領はほかの国々を主導する形でロシアへの経済制裁、ウクライナへの軍事支援に踏み切った。しかし、ロシア政府は1月、2022年のロシアの原油輸出量が前年比7%増え、歳入は28%、2兆5000億ルーブル(約4.7兆円)分増加し、液化天然ガスの輸出量も8%増加したと発表した。欧米主導の対ロ制裁が効いているかどうか、これについてはいまだにはっきりしない。しかし、上述のロシア政府の発表が真実であれば、制裁の効果は極めて限定的で、欧米の影響力が衰退していることを示す一つの指標になるだろう。
現実路線に徹する中国、インドなど
それを示す出来事が昨年3月にあった。国連総会でロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議が採択されたが、賛成が欧米や日本など141ヶ国に上った一方、ロシア、同国と友好関係にあるベラルーシ、シリア、エリトリア、北朝鮮の5ヶ国が反対し、中国やインドなど35ヶ国が棄権した。
中国の習国家主席は昨年9月、侵攻以降対面で初めてプーチン氏と会談した際、ウクライナ問題に話が及ぶと無言を貫き、その後ドイツのショルツ首相やバイデン大統領と会談した際、核兵器使用や威嚇に反対すると間接的にもロシアを否定した。インドのモディ首相も昨年秋、経済フォラームでプーチン氏と会談した際、「今は戦争をしているときではない」と明確に侵攻を批判した。
だが、両国とも機能主義、実利主義のもと、イデオロギーや価値観でロシアと対立する欧米とはまったく違う外交を展開している。中国もインドもロシアへの制裁を実施しないどことろか、経済制裁で安価になったロシア産エネルギーへのアクセスを強め、両国のロシア産原油や天然ガスの輸入量は増加している。
また、上述の141ヶ国のなかでもロシアへの姿勢は千差万別で、非難決議で賛成に回ったものの、それ以上の非難や制裁に踏み切る国はむしろ少数派だ。実際、ロシア制裁に踏み切った国は欧米や日本など30ヶ国あまりしかない。東南アジア諸国連合(ASEAN)でもロシアを非難して制裁を行っているのはシンガポールのみで、インドネシアやマレーシア、タイ、ベトナムなど日本と良好な関係にある国々も極めて現実路線に徹している。アフリカや中南米諸国も同様だ。この1年、我々はこれまで以上に欧米の力が衰退した世界に直面している。
●「シャベルで指揮官を集団暴行」…ドローンに捉えられた「露軍規の崩壊」 2/8
ウクライナとの戦闘に参加中の傭兵が上官を集団暴行する様子が捉えられた。
7日(現地時間)、英国ガーディアンはロシアのワグネルグループ傭兵の軍規紊乱行為が確認できる映像がウクライナ・セネカ(Seneka)特殊部隊所属ドローン部隊によって撮影されたと報じた。
6日、ウクライナのテレグラムチャネルを通じて公開されたこの映像にはロシア・ワグネルグループ所属の傭兵4人がウクライナ東部バフムートのある住宅街でけがをした指揮官の腕と足を捕まえて倉庫建物の後ろに移動させた後、シャベルとみられる物体で繰り返し暴行する様子が収録されている。
暴行を受けた指揮官の生死は確認されなかった。この事件について、ガーディアンは傭兵の士気低下を示していると伝えた。
ウクライナ側はワグネル傭兵が劣悪な待遇を受けていると主張している。傭兵が進撃できない場合、処刑されることもあるとの脅迫を受け、実際に処刑された後にそのまま死体が捨てられることがあるという。
これに先立ち、先月30日、ワグネルグループから脱走した元傭兵のアンドレイ・メドベージェフ氏(26)はCNNとのインタビューで、ワグネルグループ上層部が志気の落ちた傭兵を恐怖で支配していると暴露した。
現場指揮官として活動したアンドレイ氏は「彼らは戦うことを望んでいない者を取り囲んで新兵の目の前で銃殺した。戦闘を拒否した囚人2人を全員の前で射殺し、訓練兵が掘った塹壕の中に埋葬することもあった」と話した。
ワグネルグループはプーチン大統領の元料理人であるエフゲニー・プリゴジン氏が2014年設立した。シリアやアフリカなどロシアが介入した紛争地域に傭兵を送り込んで悪名を轟かせ、ウクライナ東部ドンバス地域でも親露分離主義勢力を非公式的に支援してきたという。今年はじめウクライナのゼレンスキー大統領暗殺のために傭兵を首都キーウに浸透させるなど戦争初期から深く介入していた。
プリゴジン氏はウクライナ侵攻に投じる兵士を用意するためにロシア刑務所に収監中の犯罪者などを募集してきた。米国とウクライナ議会はワグネルグループを国際犯罪組織に指定した。
ウクライナのシンクタンク国防戦略センターによると、最近ワグネル傭兵部隊はロシア軍空輸部隊とともにバフムート北部にあるウクライナ陣地を攻撃している。
●西側企業はロシア市場から撤退せず 2/8
米国大手ファーストフード、マクドナルドがロシアから撤退というニュースを聞いた時、ロシア軍のウクライナ侵攻を理由に欧米諸国が一斉にロシアに制裁を科したという事実を肌ではなく、胃袋で理解したモスクワっ子も少なくなかったはずだ。当方は「これでビックマックを食べれなくなるのだな」という思いがわいてきて、少なからず同情した。
当方は旧ソ連・東欧共産圏時代、ハンガリーが民主化直前、東欧でマクドナルド第1号店が開店するということで、ブタペストのマクドナルドのオープンの日、ブタペスト市民と共に店の前で並んでドアが開くのを待った1人だ。そのマクドナルドのモスクワ店が閉鎖するのはプーチン大統領にとっては大したことでないかもしれないが、若いモスクワっ子には寂しかっただろう。
対ロシア制裁を受け、西側の企業は次々とロシアン市場から撤退したと考えていた。米国の報復措置を恐れる銀行との間で問題が発生するリスクも大きいからだ。しかし、現実はそうともいえないのだ。スイス公共放送(SRF)が発信するウェブニュース国際部からニュースレター(2月2日)が配信されてきた。結論からいうと、西側企業のロシア市場からの大規模な撤退はまだ実現していないのだ。
SRF発信の記事は、欧米の対ロシア制裁はどうしたのか、西側企業はなぜロシアから撤退しないのか、といった問題について説明していた。以下、SRFのニュースレターの概要を読者にも紹介する。
ザンクト・ガレン大学とIMDビジネススクールが1月13日に発表した調査では、マクドナルド、ルノー、シーメンスといった大企業がロシアから撤退する一方で、欧州連合(EU)と主要7カ国(G7)で事業を行う企業の圧倒的多数は、ビジネスを続行、あるいは撤退の計画を完了していないことが明らかになったという。
世界最大級のグローバル企業情報データベース「Orbis」によると、ロシアがウクライナに侵攻した昨年2月24日の時点で、EU・G7企業1404社が所有する合計2405支社がロシアで活動していた。昨年11月下旬段階でロシアを拠点とする支社を少なくとも1社売却した企業は8・5%と、1割にも満たなかったというのだ。
Orbisの報告書を作成したサイモン・イヴェネット氏はフランス語圏の日刊紙ル・タンに対し、「これは驚くべき結果だ。戦争の勃発以来、ロシアからの撤退を求めてきた政府やメディア、NGOからの圧力を、企業は巧みにかわしてきたことを示している」と述べた。同時に、地政学的な緊張が高まるなか、主要市場から撤退することが、企業にとって如何に難しいかという現実も浮き彫りになったわけだ。戦争が長引いて世論の圧力が弱まるにつれ、企業がロシアから集団撤退する兆しはほとんどなくなったという。
ロシア支店を閉鎖した企業はロシアでの経済活動による収益が大きくないケースが多い。Orbisによると、昨年11月までにロシア支社を売却した企業(計120社)が出す利益は、ロシアで活動する全企業の税引前利益合計の6・5%に過ぎない。逆に、農業や資源採掘など、収益性の高い分野の企業の撤退は少なかったという。簡単にいえば、ロシアで収益を上げていない企業は撤退し、儲けている企業は留まっているというわけだ。
次の情報は興味深い。企業の国別比較によると、米国企業の約18%がロシアから撤退した一方で、日本企業は約15%、EU企業に至っては8・3%しか撤退していない。イタリア企業は、撤退した企業よりも残留した企業の方が多い。欧米企業の政府の制裁順守の圧力が弱かったからだというわけではない。
ロシアに残った9割の企業が撤退しない理由としては、1多くの企業が制裁の対象外であること、2ロシアの顧客や従業員を見放せない(例えば医薬品は、人道的な理由から制裁の対象外)だ。ロシュやノバルティスといった製薬会社はロシアから撤退する計画はない、3事業の買い手探しが難航したり、事業売却がロシア当局によって阻止されたケース、等々が挙げられている。
ロシアのウクライナ侵攻開始直後の数週間、多くの多国籍企業がロシアからの撤退を表明した。「企業がロシアに留まることについて、倫理的に正当化できる理由は見当たらない」といわれた。しかし、多額の資金を投入し、何百人もの従業員を抱える企業が「制裁だから」と言って営業活動を停止し、ロシアを離れることはできない。もちろん、ロシア当局は、残された資産の没収を可能にする法律を施行する計画といわれれば、閉鎖もできない。
例えば、時計製造のスウォッチはロシア撤退の予定はないという。スウォッチの広報担当者はSRFに対し「この悲惨な戦争が終わることを今も望んでいる。(スウォッチが100%所有する)支店は引き続き営業し、従業員も残留している」と述べている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は昨年3月、スイスの食品大手ネスレ(Nestle)について、ベルンでのデモにオンライン参加して、「ウクライナで子供たちが死に、都市が破壊されてもロシアでビジネスを続行している」と述べている。企業に関わる者にとって、厳しい批判だ。
戦争と経済、そして企業の倫理問題、その狭間にあって多くの西側企業は口にこそ出さないが、苦しい選択を強いられているわけだ。
●ウクライナ戦争、ドイツさえ手玉に取る「再エネ先進国」ノルウェーの野心 2/8
新年早々、ドイツのロベルト・ハベック副首相兼経済・気候保護相は雪深いノルウェーの首都オスロに赴いた。バルト海に巨大なパイプラインを建設する計画をまとめるためだ。
いや、ロシア産の天然ガスを運ぶパイプラインではない。緑の党に所属するハベックが欲しかったのは、北欧のエネルギー大国ノルウェーから自国へ年間400万トンの水素燃料を運ぶ総延長750キロのパイプライン。完成予定は2030年とされる。
「ノルウェーは今もわが国への最重要なエネルギー供給国であり、今後もそうであり続ける」とハベックは言った。「それが脱炭素社会への道だ」
ロシアがウクライナに侵攻して以来、ノルウェーは欧州諸国にとって、ロシアに代わる良心的なエネルギー供給源となった。天然ガスでは文句なしの1位、石油でもトップクラスだ。
昨年3月、ノルウェーのヨーナス・ガール・ストーレ首相との共同記者会見に臨んだデンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、欧州諸国の指導者たちが抱く切実な思いを率直に語った。「エネルギーは、ロシアではなくノルウェーからもらいたい」と。
だが戦闘の長期化でエネルギー価格が高騰すると、ノルウェーだけが潤うのはおかしいという批判が出た。実際、ノルウェーの石油産業は昨年だけで1210億ユーロも稼いでいる。侵攻前の21年は約270億ユーロだった。
そんなノルウェーに対し、その「超過利益」をウクライナの再建に投じるよう求めたのはポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相。ノルウェー側は無視したが、それでもエネルギー政策の方向性を転換し、今後はほかの欧州諸国が脱炭素社会へ移行するのを支援するために自国の資源を役立てると表明した。
「今度の戦争でノルウェーは気付いた」と言ったのは、ノルウェー国際情勢研究所(NUPI)エネルギー研究センター長のロマン・バクルチュク。「この国が、次なるクリーンエネルギーの超大国となり得るという事実に」
緑の水素と青の水素
実際、ノルウェーは以前から化石燃料で稼いだ資金を「緑の投資」に振り向けてきた。早くも1980年代前半には、国内の再生可能エネルギー供給体制を整えるために巨額の投資を始めている。
今や国内で消費する電力の98%を再生可能エネルギー(再エネ)が占めている。その約9割は水力発電だが、90年代からは陸上・洋上風力発電に莫大な投資をし、二酸化炭素の回収・貯留にも巨額の資金を注いできた。再エネのインフラ整備を急ぐ欧州諸国にとって、ノルウェーは模範的な大先輩と言える。
余った再生可能エネルギーは輸出に振り向ければいい。例えばドイツは、国土の面積はノルウェーと大差ないが人口は15倍以上。現実問題として、エネルギーの自給自足は不可能に近い。
水素は燃焼後に水しか出さないクリーンな燃料だから、ドイツの重工業を脱炭素化するには必須とされる。そもそもEU自体が、2050年までには世界のエネルギー需要の24%を水素で賄えるという見通しを示している。
だが、問題はどんな水素燃料なら真にクリーンと言えるかだ。定義上、真に「排出ゼロ」と言えるのは再生可能電力で生産された「緑の水素」だけだ。対して「青い水素」は天然ガスを燃やして生産されるので、その過程で排出される二酸化炭素を回収・貯留する必要が生じる。
ちなみに、ドイツで緑の党を率いるハベックは原則として「青い水素」を否定する立場だ。昨年1月には、「青い水素」を用いる事業にはドイツ政府の水素発電補助金を支給しないと表明している。
だが現実は厳しい。ノルウェーからパイプラインで運ばれてくる年間400万トンの水素も、少なくとも最初のうちは「青い水素」だ。その後は段階的に「緑の水素」に転換することになっているが、その時期は明示されていない。
つまり、ハベックは厳しい現実を前に妥協を強いられた。ドイツ国際安全保障問題研究所のフェリクス・シェヌイットに言わせれば、ノルウェーは「緑の大臣に青い水素を認めさせた」のだ。
この1月の2国間協定で、ドイツ側は水素社会への移行に必要なインフラ整備の約束もした。既に水素パイプラインの第1区間工事がザクセン州で始まっている。
これ以外に、洋上風力発電や蓄電技術の開発、ドイツで回収した二酸化炭素をノルウェーの大陸棚に運んで埋めるためのパイプライン建設など、広範な協定も結ばれた。うまくいけば、ドイツはEU全域における脱炭素社会への移行で主導権を握れる。
しかし、ノルウェー側にも厄介な障害がある。国民の意識だ。現時点でストーレ政権の支持率は低い。真冬なのに電気代が急騰しているからだ。原因はウクライナでの戦争にあるのだが、国民は納得しない。何十年も高い税金を払ってきたのに、まだエネルギーの自立はできないのかという不満がある。
ノルウェー人はこう思っている、と同国の国際気候・環境研究センターのボード・ラーンは言う。石油は売って稼ぐためにあり、再エネは自分たちが使うためにあると。
拡大する化石燃料採掘という皮肉
「困ったことだが」とラーンは言う。「今のノルウェーでは、化石燃料の輸出よりもクリーンエネルギーの輸出のほうが悪とされている。なんとも皮肉な話だ」
なぜか。クリーンな再エネは化石燃料並みの利益をもたらさないからだ。ノルウェーが昨年、化石燃料の輸出で稼いだ額は1210億ユーロ。対して再エネで稼いだのは10億ユーロ程度。この先、輸出が増えても2030年時点で80億ユーロ前後とされる。
ラーンによれば、将来的に化石燃料による収入が失われた場合、再エネの輸出でそれを補うのは「不可能に近い」。
ノルウェー国民は今も石油産業を支持しており、この皮肉な現実を受け入れている。そして現下の戦争によるエネルギー危機は、環境に優しい国を自称するノルウェーがせっせと化石燃料で稼ぐことを許している。
この戦争が始まる前まで、EUは北極圏で石油や天然ガスの採掘を続けるノルウェーを批判していた。だが今のEUは、まさにその資源に依存している。だからノルウェーも野心的に生産を拡大している。
昨年11月には石油会社エクイノールが、ノルウェー海の新しいガス田開発に14億4000万ドルを投じると発表した。今年に入ってからも、同国政府は北極圏で新たに92カ所での石油探査を認めている。昨年の3倍以上だ。
ノルウェーが化石燃料に執着するせいで、ほかのEU諸国との再エネ連携協定の交渉は進まない。昨年2月、ノルウェーとEUは産業界のための「グリーン・アライアンス」の検討を開始したが、いまだに合意に至っていない。
昨年11月には国連の気候サミットで合意を発表する段取りだったが、間に合わなかった。交渉の舞台裏をリークした地元紙によれば、2030年以降も石油と天然ガスの採掘を続けたいというノルウェー側の意向を、欧州委員会は断固として拒否していた。
ノルウェーの経験に学ぶ
ノルウェーのアンドレアス・ビェラン・エリクセン石油・エネルギー副大臣は、EUの「心変わり」は残念だと述べた。
ウクライナ戦争でエネルギー不安が高まっていた昨年6月には、欧州委員会のバルディス・ドンブロフスキス副委員長がノルウェーとの共同声明に署名していたからだ。
そこには、北極圏のノルウェー領に眠る石油資源は欧州全体にとって貴重であり、ノルウェーは「継続的な探査・発見・開発を通じて、2030年以降も長期にわたり欧州への主要供給国であり続ける」と明記されていた。
「世界は30年以降も、まだ天然ガスを必要としているはずだ」とエリクセンは言う。「化石燃料から再エネへの完全な転換には時間がかかる」
ラーンによれば、ドイツがパイプラインによる「青い水素」の購入を受け入れたのは明るい兆しだ。これでノルウェーの石油産業は、脱炭素社会への移行において新たな役割を果たすことができる。
再生可能エネルギーを売るだけで石油に匹敵する利益を上げるのは無理だろう。しかしエリクセンに言わせれば、ノルウェーには電力以外にも、輸出できる技術やノウハウがたくさんある。
例えば、ノルウェーの石油産業には世界中の洋上風力発電施設の建設・運用に役立つ浮体式ターミナルの建設で50年の経験がある。二酸化炭素の回収・貯留でも25年の実績がある。風力や水力、そして水素を用いるのに適した産業構造もある。
ほかの欧州諸国が今後、本格的に再生可能エネルギーへの転換に取り組むとき、ノルウェーの経験はきっと役立つはずで、そこに必ず商機があるとエリクセンは考える。
「そうしたパートナーシップができれば誰もが潤うはずだ。ノルウェーの企業と国民だけでなく、脱炭素へ向かう世界にとってプラスになる」
ドイツ国際安全保障問題研究所のシェヌイットも、ノルウェーにとっては今がチャンスだと考える。今後は再エネ市場も多様化し、各国のニーズに見合う形で発展していく。どの国もエネルギーの自立を目指し、他国への依存を減らすのは間違いない。
だからこそ今が大事だ、とシェヌイットは言う。今こそノルウェー政府は指導力を発揮し、自国のエネルギー産業に対して大胆な方向転換を迫るべきだ。さもないと、戦争による燃料価格の高騰でノルウェーだけがいい思いをしたと非難されかねない。
「それが今年か、5年後かは分からない。しかし(対応が遅れれば)いずれ不愉快な問いを突き付けられるだろう」
●ロシア兵の死者数、侵攻開始から13万人超か ウクライナ軍が推定 2/8
ウクライナ軍参謀本部は8日朝の戦況報告で、ロシア軍が昨年2月24日に大規模侵攻を始めて以来、ウクライナで13万4100人のロシア兵が死亡したとの推定を発表した。過去24時間でのロシア軍の死者数は910人に上ると主張している。
同本部のSNSに投稿された報告によると、ロシアはこれまでに戦車3253両、装甲車両6458台、大砲システム2236基などを失ったとしている。
一方、ロイター通信によると、ロシアはウクライナ軍の1月の死者が6500人に上ったと主張しているという。
ウクライナで死傷したロシア軍兵士については、米紙ニューヨーク・タイムズが今月2日、米政府高官らの話として20万人に近づいていると報じた。ロシアは、東部ドネツク州バフムートがドンバス地方全体を掌握するためのカギと見て、最前線に訓練が不十分な新兵や元受刑者を送っており、1日に数百人の死傷者が出ているという。
●ロシア軍 戦果強調し大規模攻撃準備か ウクライナは徹底抗戦  2/8
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は東部での戦闘を激化させる中、戦果を強調して、ウクライナへの新たな大規模な攻撃に向けた条件を整えているとの見方も出ています。
ウクライナ東部では、ウクライナ軍とロシア軍の激しい攻防が続いていて、ウクライナ国防省は8日、SNSに「ロシア側は、ドネツク州とルハンシク州の完全掌握をねらい、バフムトなどへの攻撃に主力を置いている」と投稿し、拠点の1つ、バフムト周辺などで戦闘が激しくなっていると明らかにしました。
また、ゼレンスキー大統領は7日、あらゆる方面で防衛を強化しているとして「すべての敵のシナリオを想定して取り組んでいる」と述べ、徹底抗戦する姿勢を改めて強調しました。
こうした中、ロシアのショイグ国防相は7日、国防省で開いた会議で「バフムトでの作戦は順調に進展している」として戦果を強調しました。
一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は6日の分析で、「ロシア軍はバフムトの包囲にはまだ成功していない」として、バフムト周辺の幹線道路で双方の激しい攻防が続いていると指摘しています。
また「戦争研究所」は、7日の分析で、ロシアで7日に行われた会議について「ウクライナでの大規模攻撃を準備する中、ロシア国防省を有能な指導的組織と位置づけることが目的だったとみられる」と指摘し、ロシア軍がウクライナへの新たな攻撃に向けた条件を整えようとしているなどと分析しています。
●ウクライナ、ロシア領土に対する攻撃能力を示唆 2/8
ウクライナのダニロフ国家安全保障防衛会議書記は8日までに、ウクライナには占領下にある自国領土を越えてロシアを攻撃する能力があると示唆した。
ダニロフ氏はCNNの取材に答え、「ロシアの領土に関して、ウクライナで生産された兵器で目標を破壊することを誰も禁止していない。われわれにそのような武器はあるのか。答えは、あるだ」と述べた。
西側諸国はウクライナに対し、西側が供与した兵器によるロシア領への攻撃を制限している。ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、原因不明の爆発がロシアの戦略拠点で発生しているものの、ウクライナは攻撃の責任について公には認めていない。
ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は先月、攻撃が前線から離れたロシア国内のより奥地で行われるとの見通しを示したが、ウクライナの役割については何も認めていない。
ブダノフ氏は米ABCニュースの取材に答え、ロシア国内で攻撃が起きているのを目撃するのはうれしいと述べた。しかし、そうした攻撃にウクライナが関与したかどうかについては、戦争が終結するまで答えることはできないとしていた。
●大攻勢控えロシアに対抗…西側、ウクライナとポーランドに火力支援強化 2/8
EU特別首脳会議、ゼレンスキー氏を招待
ウクライナはロシアが侵攻1年となる24日前後に大攻勢を始めると予想している。ルハンシク州のハイダイ知事は6日、現地メディアとのインタビューで「ロシア軍が大攻勢に備えて弾薬を備蓄し始めた。備蓄確保に10日ほどかかるので、15日以降はいつでも攻勢が可能だ」と懸念を示した。ウクライナ国防情報総局のスキビツキー副局長は「ロシアがこの春と夏にウクライナ南部と東部で大攻勢を展開するため30万〜50万人を動員するだろう」とCNNに伝えた。
ドイツなど3カ国がレオパルト1戦車を支援することに決めた背景もロシアの大攻勢を控えたウクライナの防衛力強化だ。ドイツのハベック副首相は「レオパルト1が正確に何台供給されるのか確実でないが、ロシアの春季大攻勢を撃退するのに十分だろう」と話した。
欧州連合(EU)は9日と10日の2日間にわたりベルギーのブリュッセルで開かれる特別首脳会議にウクライナのゼレンスキー大統領を招待した。ゼレンスキー大統領が招きに応じれば、昨年12月の米ワシントン訪問に続き開戦後2度目の海外訪問になる。イタリア紙ラスタンパはEU消息筋の話しとして「ゼレンスキー大統領が訪問する予定で、彼の演説に向けた準備作業が進んでいる状況」と伝えた。
米、NATO加盟国ポーランドに100億ドルの兵器輸出
一方、米国務省はこの日ウクライナと国境を接する北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドに100億ドルに達するミサイルシステム販売を暫定承認した。ポーランドはロシアの友好国ベラルーシとも国境を接するNATOの対ロシア最前線の国だ。
ポーランドはこれまでロシアとNATOの緩衝地帯の役割をしたウクライナが戦場になり実質的なロシアの脅威にさらされていた。これに対しこれまで国内総生産(GDP)の2.4%水準だった国防予算を今年は4%まで大きく引き上げ再武装に出た。
米国の支援兵器は18基の高速機動砲兵ロケットシステムのハイマースと45基のATACMSミサイルシステム、中距離誘導多段階ロケットシステム(GMLRS)用ロケット1000発などだ。ポーランドはウクライナの戦場でハイマースとGMLRSがロシア軍撃退に成果を見せており、米国にこの兵器の購入を打診したという。
この中で地対地ミサイルのATACMSはウクライナが米国に支援を要請したが、戦争拡大への懸念などから米国が拒否した兵器だ。射程距離が297キロメートルに達しロシア領土深くまで飛んで行ける。
今回米国がポーランドに販売承認した兵器はエストニアなど他の欧州諸国も購入を検討しているという。ブルームバーグは「米国はロシアの侵略の可能性に備えポーランドなどその他のNATO加盟国に対し自ら防衛する能力を強化することを模索してきた」と伝えた。今回の兵器販売は米国議会の承認を受けて最終的に執行できる。
●「レオパルト2」が届く前に大規模攻勢を計画か──ロシア 2/8
ロシアが、早ければ今後1週間のうちに、ウクライナ軍に対する新たな攻撃を仕掛けるべく準備を進めていることが、最新の軍事分析で明らかになった。西側の主力戦車(MBT)がウクライナに到着する前に攻撃を行おうと急いでいるもようだ。
複数のウクライナ政府高官が、ロシアが「2月の中旬から下旬にかけて、ウクライナ東部で大規模で決定的な攻撃」を開始しようと準備を進めていると警戒を強めていると、アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)が2月6日に明らかにした。
2月3日には、ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相がメディア向けの会見で、今後数週間のうちに新たな大攻勢が予想されると発言した。その理由として同国防相は、この攻勢が持つ「象徴的な意味」を挙げた。
現地メディア「ウクラインスカ・プラウダ」によると、同国防相は、ロシア軍からの新たな攻勢は2月24日よりも前に始まる可能性が高いと述べたという。24日は、本格的なウクライナ侵攻が始まってから1年となる節目の日だ。
2月15日以降いつでも
ウクライナ東部、ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ知事は2月6日、テレグラムへの投稿で、「敵軍の攻勢は、2月15日以降のいつでも起きうる可能性がある」と述べた。さらに同知事は、同日のこの投稿のあと、ルハンスク州で攻撃が増えていると指摘し、「これは本格的な攻勢ではなく、むしろその準備だ」との見解を示した。
フィナンシャル・タイムズ紙に匿名で語ったウクライナ側の顧問も、同様の時期に言及した。さらに、ウクライナ南部作戦管区の報道官を務めるナタリヤ・フメニュクは、ロシア政府がウクライナ南部よりも東部に作戦を集中させる可能性が高いと発言した。
ISWはレポートで、ロシア軍が大規模な攻勢をかけられる時期は限られており、それを過ぎると実行が難しくなると指摘した。情報源は、ロシアのある軍事ブロガー(民間軍事会社ワグネルとも関連がある人物)だ。
別の軍事ブロガーも、ロシア軍の司令官は「徹底攻撃を開始しようと事を急いでいる」と指摘していると、ISWは付け加えている。
ドイツの主力戦車「レオパルト2」を含む、西側からの新たな軍事援助の到着や、4月前後からの「地面がぬかるむ春季」より先に作戦を仕掛けたいという意図があるとみられる。「2022年の春にも、ロシアの機甲部隊による作戦が、(ぬかるんだ地面によって)妨げられた」と、ISWは指摘している。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は1月25日、同国政府が「レオパルト2A6」戦車14両を供与すると発表。さらに、同型戦車を保有する他の国がウクライナ政府にこの主力戦車を提供することも認めると述べた。
アメリカのジョー・バイデン大統領も、同国が「M1エイブラムス」31両を供与すると発表した。ただし、これらの戦車が戦場に到着し、ウクライナ軍の兵士が必要な訓練を終えるまでには、今後数カ月かかると予想されている。
2月6日には、カナダからの供与分の第一陣となるレオパルト2がポーランドに到着し、今後ウクライナに輸送される予定だ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、1月26日の時点で、最新型戦車の供与を「大変うれしく」思い「感謝している」と述べた。これらの戦車は、ウクライナ軍が現在使用している旧ソ連時代の主力戦車と比べて、大幅に性能がまさっている。
「この決定を下してくれたことに、ドイツ、イギリス、アメリカに感謝の言葉を伝えたい」と、同大統領はスカイ・ニュースの取材に対して述べた。
「しかし率直に言えば」と大統領は話を続け、こう述べた。「戦車の数と、(戦地に)届けられるタイミングがきわめて重要だ」
<追記> 米オンライン誌ポリティコが7日に伝えたところでは、ドイツとデンマークとオランダの国防相は共同で、「レオパルト2」の旧型の「レオパルト1」と最低でも100両、ウクライナに供与する計画を発表した。これで数は飛躍的に増えたが、ウクライナに届くのは数カ月先になる見込みだ。
●ウクライナ和平仲介継続 駐日トルコ大使 2/8
トルコのギュンゲン駐日大使は8日、東京都内で記者会見し「ロシアとウクライナの厳しい戦争が続いており、和平交渉の努力は欠かさず続ける」と表明した。
トルコ政府として、同国南部で6日未明に発生した地震への対応を優先するとしつつ、引き続きウクライナ危機解決に向けた仲介役を担う姿勢を示した。
トルコは昨夏、国連と共にウクライナからの穀物輸出に関する合意を仲介。大使は会見で、合意履行のための努力を「変わりなく続ける」と語った。

 

●プーチン氏が提供決定か マレー機撃墜ミサイル 2/9
親ロシア派勢力が支配するウクライナ東部上空で2014年7月にマレーシア航空機が撃墜され、乗客乗員298人が死亡した事件で、オランダなどの合同捜査チームは8日、ロシアのプーチン大統領が親露派勢力に地対空ミサイルを提供する決定をした可能性が高いとの捜査結果を発表した。
捜査チームは声明で、プーチン氏がロシア製ミサイル「ブク」の提供を決定したことが「強く示されている」と指摘。一方で「完全かつ決定的な証拠は見つかっていない」として、訴追は困難との結論に達した。
これ以上の進展は望めないとして、捜査をいったん打ち切りにすることも明らかにした。オランダの検察官は8日、同国ハーグでの記者会見で「捜査は限界に達した。全ての手がかりを使い果たした」と失望感を示した。同機はアムステルダム発クアラルンプール行きで、犠牲者の多くがオランダ人だった。オランダのルッテ首相は声明で「事件におけるロシアの役割について責任を問い続ける」と訴えた。
●英、新たな対ロシア制裁発表 ドローン製造業者など 2/9
英政府は8日、ウクライナに侵攻しているロシアに対する新たな制裁措置を発表した。ウクライナに対して使用されているドローン(小型無人機)を製造する軍事企業など6団体のほか、8人の個人が対象になる。
クレバリー外相は声明で「ウクライナはロシアのプーチン大統領の専制的な侵略に屈しないことを示した。プーチン氏はこれに対しウクライナ全土の民間住宅や重要インフラを無差別に攻撃している。プーチン氏を成功させてはならない」とした。
新たな制裁措置は、ウクライナのゼレンスキー大統領の訪英に合わせて発表された。
●「ロシアが勝利なら他国侵攻」 ウクライナ大統領主張―仏紙 2/9
フランス紙フィガロ(電子版)は8日、ウクライナのゼレンスキー大統領がインタビューに応じ、「ロシアのプーチン大統領がこの戦争に勝利すれば、(ウクライナ侵攻と)同じことを他でも繰り返す」と述べたと報じた。侵攻を食い止めなければ、各国は後悔することになると訴えた格好だ。
ゼレンスキー氏は「プーチン氏がウクライナで立ち止まり、他国を攻撃しないという保証はない」と強調した。
●ロシア、政権批判や戦地の声遮断=ネット検閲の実態流出 2/9
南ドイツ新聞と独立系のロシア語メディア「バージニエ・イストーリー」は8日、ロシア当局によるインターネット検閲の実態について報じた。プーチン大統領への批判やウクライナでの民間人殺害情報などを組織的に遮断。政権の描くプロパガンダの浸透に重要な役割を果たしているもようだ。
ベラルーシに拠点があるとされるハッカー集団が昨年11月、ポルノや暴力描写といった違法コンテンツを取り締まるロシア通信監督当局に関連するメールや報告書など200万点以上の内部文書を漏えいさせた。
南ドイツ新聞などが内容を調べたところ、同当局が、「民間人の殺害」「ロシア経済の危機」といったテーマに関する通信アプリ「テレグラム」やユーチューブへの書き込み・投稿を収集していたことが判明。当局は、運営会社に削除を要請したり、投稿へのアクセスを遮断したりしていた。こうした活動はウクライナ侵攻以降、活発になっているという。
内部文書には、昨年2月24日〜11月10日に20万件以上のコンテンツについて問題が指摘され、約6割を「排除」することに成功したとの記録があった。プーチン氏に対する批判や中傷も厳しく監視。「はげ頭の低身長」「最高汚職責任者」などの検索ワードで特定していたという。
ロシア政府はインターネット交流サイト(SNS)各社への弾圧を強めており、一部は既にアクセスが制限されている。南ドイツ新聞は「戦争への抗議や占領地からの悲鳴が遮断されることで、ロシアの人々は『強いプーチン大統領がウクライナでファシズムと戦っている』と信じるしかない環境に置かれている」と指摘した。
●捕虜施設で涙浮かべた「ウクライナ人」ロシア兵 「金のためだった」 2/9
2月上旬、ウクライナの情報機関・保安庁が、捕虜収容施設の取材を朝日新聞に許可した。ウクライナ中部ドニプロ郊外の施設を訪ねると、ロシア軍将校に続いて現れたのは4人の「ウクライナ人」のロシア側戦闘員だった。
4人は「ルガンスク人民共和国」の出身だった。
「ルガンスク人民共和国」はウクライナ東部ルハンスク州に位置し、2014年に親ロシア派武装勢力が占拠し、一方的に独立を宣言した。昨年9月にはプーチン大統領が一方的にロシア領への「編入」を宣言した地域だ。
4人のうち、ある捕虜は「金のためだった」と語り、別の捕虜は戦闘員になったのを後悔しているとして、目に涙を浮かべた。感情を抑えたロシア人将校とは対照的だった。
4人ともルハンスク州の同じ町の出身という。
彼らはウクライナ人だ。だが、ロシアが事実上支配権を握り、ロシア化が進められた故郷でロシア側の「軍隊」に入隊。その後ロシア国籍を取得した。4人とも、昨年9月に同州ビロホリウカでウクライナ軍に捕まった。
「マロイ」とニックネームを名乗った44歳の戦闘員は21年8月に入隊したという。
「関心は金だけだった」。建築作業員だったが現場の仕事がなく、生活に困っていたという。東部では当時ウクライナ軍と親ロシア派との紛争が続いていたが、自分が戦場にかり出されるとは考えなかった。
「ロシアに支配され、何ができるか?」
昨年2月にロシアが侵攻すると、上官から「軍事訓練」と言われ、戦闘経験もないまま前線に送られた。「行ったら本当の戦争だった。そうなると、戦う以外に自分にできることはなかった」
地元がロシアに占領されたことについて、「なぜロシアになる必要があるのか。以前は、裕福ではないが、仕事もあって安定していた。私はただ、安定が欲しいだけだ」と述べた。
ただ、こうも付け加えた。
「自分が育った地域がロシアに支配された時、何ができるか。一般人にあらがうすべはない」
「入隊を後悔しているか?」と問うと、「とても」とつぶやき、目を閉じてうなずいた。
●ヨーロッパ諸国のエネルギー政策とロシアウクライナ戦争の因果 2/9
「欧州の経済制裁などたかが知れている」と読んだプーチン大統領は、2022年2月、ウクライナ侵攻に踏み切った。プーチンは欧州が自ら作り出した「脆弱性」を突いたのだ。
欧州の経済制裁などたいしたことはないと見たプーチンは、2022年のウクライナ侵攻を決断し、ロシアは今も戦争を続けている。これによって、欧州ばかりか世界中でエネルギー危機が叫ばれるようになった。欧州各国は「エネルギー危機はすべてプーチンのせいで起きた」と言うが、本当のところはどうなのか? 日本のエネルギー・環境研究者の杉山大志氏が語ります。
プーチンを暴走させた「ネット・ゼロ(脱炭素)」政策
世界の先進諸国は、冷戦の終結後30年間にわたり、熱心に地球温暖化問題を議論してきました。1997年には日本で京都会議が開催され、先進国に温室効果ガス削減を義務化した京都議定書が合意されました。2015年のパリ協定では、産業革命前からの気温上昇を2℃に抑制するという世界共通の目標が合意されました。
そしてここ数年、先進国、なかんずく欧州では、脱炭素政策が採られるようになりました。この結果、石油・ガス・石炭といった化石燃料への開発投資は停滞し、2021年には欧州でエネルギーが不足し、価格が高騰していました。それに加えて、ウクライナでの戦争が勃発し、ロシアからのエネルギー供給が激減したのです。
欧州のエネルギーは、ロシアに強く依存していました。2021年時点で、EU諸国の天然ガスはロシアからの輸入が45.3%を占めていました。ドイツでは脱炭素だけでなく脱原発も進めてきましたが、それによって不足するエネルギーを賄うため、天然ガスの輸入に頼っていたわけです。
脱炭素に邁進した欧州では、ロシアからガスを輸入する一方、石炭火力は縮小されました。脱炭素の政策優先順位が上がり、足下に埋まっている石炭やガスを開発することもありませんでした。
在来型のものとは異なる新しい天然ガスであるシェールガスは、アメリカでは技術開発が進み、投資ブームが起こり、アメリカはそれまでの輸入国から転じて、世界一のガス大国になりました。それを受けて、2011年頃からポーランドやハンガリー、ルーマニアなど東欧では、シェールガスの試掘がブームとなりました。
かつて旧ソ連の衛星国だった東欧は、まだ一部ではロシア産ガスへの依存度が高く、シェールガスブームはロシアへのエネルギー依存の低減という面で歓迎されたのです。ところが、2015年に開発企業が相次いで撤退し、ポーランドでは莫大な投資を行ったにもかかわらず商業化ができませんでした。
資源の賦存(ふぞん)状況が思ったほどよくなかったという点もありますが、環境規制も大きな理由だったようです。規制や税制、採掘に必要な水圧破砕技術の禁止・停止のほか、環境保護を訴える抗議活動も影響したと言われています。
欧州、なかんずくドイツのロシアへの傾斜を、アメリカは苦々しく思っていました。2019年2月、ドイツによるロシア産ガス輸入を拡大する新パイプライン「ノルドストリーム2」計画に対し、アメリカのトランプ政権は「安全保障上の大きなリスク」だと反対しました。
EU内でも加盟国間の対立が表面化していました。ドイツは安いロシアのガスが欲しかった。けれども、ドイツ以外の国は反対したのです。特にこれまで別ルートのパイプラインでガスの通行料を徴収して潤っていたウクライナやポーランドは、その利益が失われるとして大反対でした。
「ノルドストリーム2」が稼働する以前の2020年において、ドイツのロシア産天然ガス依存度はすでに49%に達していました。2014年のロシアによるクリミア併合に対して、ドイツは一応は経済制裁を科したことになっているのですが、実態としては、まったくおかまいなしにロシア依存を高めてしまっていたのです。もしも「ノルドストリーム2」が稼働すれば、この依存度は70%を超える見込みでした。
この状況を見たプーチンは、欧州の経済制裁などたかが知れていると読み、2022年にウクライナ侵攻に踏み切りました。プーチンは欧州が自ら作り出した脆弱性を突いたのです。
エネルギー政策の誤りを認めない欧州諸国
このように、ウクライナの戦争が起きた大きな理由の一つは、間違いなく欧州のエネルギー政策の失敗にあるわけです。脱炭素ばかりを追い求めたものの、再生可能エネルギーだけで足りるはずもなく、実態としてはロシアのガスへの依存をどんどん高めて、エネルギーの安定供給という根本がお留守になっていました。
ところが、欧州諸国の政府は、今のところエネルギー政策が過っていたことを認めておらず、脱炭素という看板も下ろしていません。それどころか、ドイツなどは「化石エネルギーに頼ってきたことが誤りだった。今後は再生可能エネルギーをさらに推進する」などとしています。これではますます高コスト体質になり、エネルギーの安定供給が脅かされることは目に見えています。
それに、太陽光発電も風力発電も電気自動車も、中国依存を高めるだけです。対ロシア依存を減らすためとして、対中国依存が高まるのでは意味がありません。
欧州の「ロシア中毒」は、ウクライナでの戦争の原因になったわけですが、では欧州の「中国中毒」は、これからいったい何についての原因となるのでしょうか。
台湾海峡での戦争でしょうか。あるいは、中国による日本の属国化でしょうか。
東アジアで中国と台湾、あるいは中国と日本の対立が激化したときに、欧州はどちらの味方になるのでしょうか。
欧州は中国との経済関係を断ち切って、敢然と自由陣営側にとどまってくれるのでしょうか。
その決意が疑われるとき、台湾も日本も一段と危うくなります。これがウクライナ戦争から学んだ“教訓”なのです。
欧州諸国がこれまでのエネルギー政策の誤りを認めないのは、今の政権がいずれも2021年末まではネット・ゼロ(欧州では脱炭素のことをこう言います)を掲げていたからです。急に前言を翻すわけにはいかないので、今のところはエネルギー危機をすべてプーチンのせいにしています。つまり「エネルギー危機はすべてプーチンという一人の人物のせいで起きた」というわけです。
しかし、エネルギー価格の高騰はウクライナでの戦争以前の2021年からすでに始まっていました。そのことからも明らかなように、今のエネルギー危機も本質的には欧州のエネルギー政策の“大失敗”が招いたものだったのです。
欧州は今はまだ誤りを認めていませんが、いくら威勢よく再生可能エネルギー倍増などと言っていても、ネット・ゼロ政策の破綻は今後ますますはっきりしていくでしょう。方針転換せざるをえないときが来るのは、そう遠くないと思います。
●ゼレンスキーはEU議会で演説 米・戦争研究所「ロシア大規模攻撃を開始」 2/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は、EU議会で演説し、ロシアとの戦いはヨーロッパ全体を守る戦いだと訴えました。
演説は、約15分間行われ、ゼレンスキー大統領は、「ウクライナはヨーロッパであり、ウクライナが負ければ、ヨーロッパの価値観が消滅する」として、「ロシアとの戦いはヨーロッパを守る戦いだ」と訴えました。議場は、スタンディングオベーションに包まれ、最後には、メツォラ議長からEUの旗が渡されました。
その後、EU首脳会議にも参加し、感謝を伝えるとともに、戦闘機の早期供与など、さらなる支援を求めました。
一方、アメリカの戦争研究所は8日、ウクライナでの戦況について「ロシア軍が主導権を取り戻し、東部のルハンシク州で、次の大規模な攻撃を開始した」との分析を発表しました。ただ、ロシア軍の攻撃は、まだ“最大限”には達しておらず、ウクライナ軍が現時点では前進を阻止しているということです。
●ロシア軍、東部で攻勢開始か 2/9
米シンクタンク、戦争研究所は8日、ウクライナ東部ルガンスク州でロシア軍が攻勢を開始したもようだとの戦況分析を発表した。ただロシア軍の攻撃はまだ「最大限」には達しておらず、ウクライナ軍が現時点では前進を阻止しているとしている。ウクライナ側では、ロシアの侵攻開始から1年の節目の今月24日前後にロシア軍の攻勢が強まるとの警戒が高まっている。
分析によると、ロシア軍はこの1週間でルガンスク州西部のスワトボとクレミンナを結ぶ地域で作戦を活発化。自動車化狙撃、戦車、空挺の少なくとも3師団が作戦に加わっていることがロシア軍の攻勢開始の兆候だと指摘した。
●ウクライナ東部で戦闘激化 ロシア軍 ルハンシク州で攻撃開始か  2/9
ウクライナに侵攻するロシア軍は完全掌握をねらうウクライナ東部で戦闘を激化し、このうちルハンシク州では新たな攻撃を開始したという分析も出ています。ウクライナ側は、24日で侵攻から1年となるのを前に、ロシア軍が大規模な攻撃に踏み切ると警戒し、徹底抗戦する構えを強調しています。
ウクライナに侵攻するロシア軍は、東部のドンバス地域の完全掌握をねらっていて、このうちドネツク州では、ウクライナ側の拠点バフムトを包囲しようと激しい攻撃を続けています。
また、東部ルハンシク州についてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は8日、「ロシア軍はウクライナで主導権を取り戻し、ルハンシク州では次の大規模攻撃を開始した」と指摘し、特に州西部のスバトベからクレミンナの前線でロシア軍は、戦車や空てい部隊などの3つの師団を投入し、攻撃のペースが増していると分析しています。
これに対して、ウクライナ軍はこれまでは、ロシア軍の大幅な前進を食い止めているとしていますが、「ロシアの攻撃はまだ最大限に達していないようだ」と指摘しています。
ウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は7日、ロイター通信のインタビューに対し侵攻から1年となる2月24日を前に、ロシア軍が大規模な攻撃に踏み切るという見方を示しました。
そのうえで、ドンバス地域に加え、東部ハルキウ州や南部ザポリージャ州も新たな攻撃の標的となる可能性があると警戒感を示し、徹底抗戦する構えを強調しました。
●ゼレンスキー大統領イギリス訪問 戦闘機の供与求める 2/9
ウクライナのゼレンスキー大統領が8日、去年2月にロシアの軍事侵攻が始まって以来初めてイギリスを訪問して「自由を守るための翼が必要だ」と訴え、さらなる軍事支援として戦闘機の供与を求めました。
ゼレンスキー大統領は、8日、事前の予告なしにイギリスを訪れ、ロンドンの首相官邸でスナク首相と会談しました。
そして議会内のウェストミンスターホールで、スナク首相や議員を前に演説し「すべてのウクライナ人は、勇気を持てば想像を絶する困難を乗り越え、最終的に勝利で報われるということを知っている。イギリスは私たちとともに、生涯で最も大きな勝利に向かっている」と強調しました。
その上で、下院議長にウクライナ空軍のヘルメットを贈り「自由を守るための翼、戦闘機が必要だ」と訴えました。
スナク首相は、ゼレンスキー大統領との共同記者会見で、戦闘機の供与について「あらゆることを検討している」と述べるにとどまりました。
一方、ウクライナ空軍などを対象にNATOの戦闘機を操縦できるように訓練を行うと表明したことについて、有力紙「ガーディアン」は、「スナク首相は戦闘機の供与に布石を打った」と伝えています。
また、RUSI=イギリス王立防衛安全保障研究所は「ウクライナ空軍の訓練は戦闘機の供与をただちに意味するものではない」と強調する一方で、「今後、供与に向けた議論を加速させることになるだろう」と指摘しています。
欧米はウクライナへの戦闘機供与に進むのか
各国の間では温度差も出てきています。
アメリカのバイデン大統領は先月30日、F16戦闘機の供与について記者団から問われ、「ノー」とひと言答えて否定しています。
また、ドイツも強く否定する立場です。
一方、フランスのマクロン大統領は「可能性を排除しない」と述べて「事態のエスカレートにつながらないこと」などを条件に、必ずしも否定しない立場を示しています。
また、そもそも仮にウクライナへの戦闘機の供与が決定したとしても、戦況に影響を及ぼすまでには時間がかかりすぎるという指摘もあります。
たとえば、供与の対象になる可能性があげられているひとつ、イギリス空軍の主力戦闘機「ユーロファイター・タイフーン」。
イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」によりますと、この戦闘機は、経験を積んだパイロットでもおよそ6か月間の訓練が必要で、配備なども考慮するとウクライナの戦場で実際に運用されるようになるのは早くて来年の初めになるということです。
ただ、欧米のウクライナへの兵器供与をめぐっては、事態をエスカレートさせないためとして当初は慎重だったものの、ロシアの攻撃が強まるにつれ段階を上げてきた経緯があります。
そして先月には長い間戦車の供与を拒んできたドイツが、アメリカと協調する形で戦車の供与を決めました。
ゼレンスキー大統領はイギリスに続いて8日、フランスに到着しました。
マクロン大統領とドイツのショルツ首相と会談します。
ロシアが今月中旬以降、新たな大規模攻撃を行うという見方が広がる中、ゼレンスキー大統領はここでも戦闘機の供与を含むいっそうの軍事支援を求めるものとみられます。
●ゼレンスキー大統領 仏独にさらなる軍事支援求める  2/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、イギリスに続いてフランスを訪れ、マクロン大統領とドイツのショルツ首相とともに記者発表に臨み、両国にさらなる軍事支援を求めました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、イギリスに続いてフランスのパリを訪れ、大統領府でマクロン大統領とドイツのショルツ首相と共に記者発表に臨みました。
この中で、まずマクロン大統領が「ロシアが勝つことがあってはならない。ロシアが攻撃を続けるかぎり、われわれがウクライナとその将来のために軍事支援を続けることが必要だ」と述べました。
これに対し、ゼレンスキー大統領は「私はきょうのことではなく、数週間、数か月先の平和のために必要な兵器について話している。フランスとドイツはこの先の戦況を変える潜在力を持つ存在だ」と述べ、両国にさらなる軍事支援を求めました。
また、ショルツ首相は先月、ドイツ製の戦車の供与を決めたことに触れたうえで「われわれはウクライナへ大規模な支援を行ってきた。今後も必要なかぎり続けていく」と述べ、支援を継続する考えを強調しました。
ウクライナでは、今月24日の侵攻から1年の節目を前に、ロシア軍が大規模な攻撃に踏み切るという見方が広がる一方、ゼレンスキー政権は徹底抗戦する姿勢を崩していません。

 

●プーチン露政権、ウクライナとの長期戦に備え 防空壕から兵員確保まで 2/10
ロシアのプーチン政権は、西側諸国の兵器支援を受けるウクライナ軍との長期戦を見据え、国内の態勢固めを急いでいるもようだ。ロシア軍の死傷者が「約20万人」(米紙ニューヨーク・タイムズ)に達するとされる中、刑務所では民間軍事会社「ワグネル」戦闘員の募集が続いているという見方が根強い。
「クレムリン(大統領府)が全土の防空壕(ごう)改修を命じた」。英字紙モスクワ・タイムズ(電子版)は6日、昨年9月の部分動員令、同10月の占領地への戒厳令に続く形で「戦時体制」が強化されている実態を報じた。首都モスクワには既に対空防衛システムが配備されている。
兵員不足も深刻で、独立系メディアは8日、刑務所でワグネル戦闘員を確保するため、治安機関が「募集に応じなければさらに訴追する」と受刑者を脅しているという弁護士の話を伝えた。ワグネル創設者のプリゴジン氏は9日、「受刑者の募集は完全停止した」と主張したが、批判の回避が主眼とみられる。受刑者はウクライナ東部ドネツク州の激戦地に投入され、約4万人が戦死したとの推計もある。
ロシア紙RBKは7日、通常は精鋭から成るロシア軍の「平和維持部隊」について、新兵でも担えるよう法改正が提案されたと報じた。精鋭部隊はドネツク州バフムトなどで戦闘に従事しており、損耗が激しい。平和維持部隊に人員を割く余裕はないと国防省が判断した可能性がある。
平和維持部隊の派遣先の一つは、アルメニアとアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフ。同地では昨年秋、紛争が再燃した。平和維持部隊はこれまでも「機能していない」(アルメニアのパシニャン首相)と批判されており、新兵に置き換われば、ロシアの影響力低下に拍車が掛かりそうだ。
●ロシア経済、今年は穏やかな成長へ 制裁の影響切り抜け 2/10
ロシアのプーチン大統領は9日、ロシア経済が西側諸国による制裁の最悪の影響を切り抜け、今年は穏やかな成長を達成するという見通しを示した。
プーチン大統領は「われわれが経済および特定の生産部門への脅威に効率的に対抗していることは、ロシアに対し問題を引き起こそうとしている多くの者にとり驚きだった」とし、「ロシアが予想された衝撃に対処しただけでなく、ロシア経済が今年、小幅な成長が見込まれると国際機関は認識する必要がある」と述べた。
ロシアの国内総生産(GDP)伸び率の具体的な予想は示さなかった。
●ロシア軍死傷者は「最大27万人」 安上がりな人海戦術の代償 2/10
少なくとも20万人、最大で27万人──ロシア軍がウクライナ侵攻開始から11カ月間で出した戦死者、負傷者、行方不明者の数について、専門家はこう見積もっている。
これほどの犠牲を伴っては、新たな攻勢をかけることはおろか、現行の作戦を維持する能力すら損なわれかねない。
米紙ニューヨーク・タイムズは先週、米政府高官の推計として、ロシア側の死傷者数を「20万人に迫っている」と報じた。しかし、独立系調査組織「紛争情報チーム(CIT)のアナリストは、ロシア軍の人的損失を最大27万人と推計している。
CITはメディア報道、特にロシア側の死亡記事に関するBBCの独自分析を精査し、2022年2月以降にロシア兵3万3000人が家族によって埋葬されたと結論づけた。
次に、戦闘中に行方不明となったロシア兵の人数を、ウクライナ側が昨年春に入手したロシア第1戦車軍の報告書に記された作戦行動中行方不明者(MIA)の割合から推計した。キーウ周辺での3カ月間に及ぶ激戦の後に第1戦車軍が記録した死者は61人、行方不明者は44人。同じ比率をロシアの全戦闘に適用できるとすれば、MIAは数万人に上り、CITはそのほとんどが戦死したとみている。
ウクライナ侵攻全体では、合わせて6万5000人のロシア兵が死亡したか行方不明になったとCITは推測する。歴史的に見て、現代の軍隊は戦死者1人につき3、4人の負傷者を出していることから、死傷者の合計は27万人となる。
言い換えれば、11カ月前にウクライナに進軍したロシア兵は、統計上では一人残らず戦死したか病院に収容された可能性があるということだ。
当然、ロシアは損失を補填するため数十万人を新たに動員し、民間軍事会社ワグネル・グループがロシアの刑務所から囚人を徴募するのを許可した。
だが、無限に人員を動員できるわけではない。また、堅固な部隊育成体制がなければ、損失に動揺した指揮官が作戦ペース維持に必死になり、新兵の訓練時間や装備に割くリソースがますます減るので、さらに大きな損失につながる。
自殺行為の「人海戦術」
ワグネルは、バフムートでの戦いで訓練も装備も十分な大隊の大部分がウクライナ軍に壊滅させられた後、やや変則的な新しい部隊構造を採用した。訓練を受けていない元囚人4万人を統制の緩い軽装備の大隊に編成し、経験豊富な少数の中核部隊の指揮下に置くというものだ。
これらの大隊は、戦場での優位性を確保する作戦行動(資金も時間もかけた訓練と、前線兵士の規律の高さ、指揮官の創造性が求められる)はせず、直接ウクライナ軍の陣地に突撃する傾向がある。いわゆる「人海戦術」だ。時間や資源に余裕のない軍隊がとる、手っ取り早くて安上がりな一時しのぎの戦法である。
ウクライナ軍は前線の大半で塹壕(ざんごう)を掘り、大砲の支援を受けているため、この戦法は自殺行為でもある。ロシアのニュースサイト「メドゥーザ」によると、ワグネルは9カ月間にわたり失敗続きのバフムート攻略戦で戦力の80%を失ったという。
ワグネルの戦いに志願することは事実上の死刑宣告であり、ロシアの囚人たちもそれを知っているようだ。米シンクタンク戦争研究所(ISW)によれば、「これまでに動員された元囚人の死傷者が多いため、ロシアの通常部隊と非正規部隊は、矯正収容所からの新兵徴募に苦慮しつつあるもようだ」という。ISWは、死傷者数の多さがロシア軍の戦闘能力を阻害し続けており、当局が今後の攻撃に備えて第2次動員に動くきっかけとなりそうだと指摘している。
しかし、動員可能な人の数は減っている。ロシア軍の人員100万人のうち、約半数は長期の契約軍人で、残りは18〜27歳の徴兵軍人だ。徴兵制の兵役は1年間で、規定上は戦闘に参加しないことになっている。徴兵対象年齢のロシア人青年約100万人のうち、およそ3分の1が医療や教育上の理由で兵役を免除されており、クレムリンは年に2回、適格者70万人の中から約20万人を徴兵する。
徴兵適格者に余剰人員はあまりない。そこでプーチン大統領は昨年の第1次動員の直前、新兵の年齢制限(40歳)を撤廃する法律に署名した。
ロシア指導部は何カ月も前に、ウクライナでの人的損失を補うには中年男性を徴兵し、囚人も徴募しなければならないと気付いていた。そうして集めた中年兵士や元受刑者らが死傷し、軍が新たな人員を必要としている今、クレムリンは教育免除を廃止し、さらに高齢者を徴兵するのか、それとも囚人に戦闘を強制するのだろうか。
●ウクライナを全面支援 ゼレンスキー大統領も参加―EU首脳会議 2/10
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は9日、ブリュッセルで開催されたEU首脳会議に参加した。EU側は改めて全面支援の継続を表明。対ロシア追加制裁として100億ユーロ(約1兆4000億円)超相当の輸出禁止措置を盛り込むことを明らかにした。
EUのフォンデアライエン欧州委員長は共同記者会見で、EUが過去1年でウクライナ支援に670億ユーロ(約9兆4300億円)を拠出したことに触れた上で、「さらに(支援)しなければならない」と強調した。近く提案する対ロ追加制裁では、輸出禁止措置に加え、ウクライナの要望に応じてロシアのプーチン政権のプロパガンダ拡散に関与する個人・団体も対象にする考えを示した。
●ザポロジエ原発巡り協議継続 IAEAトップが訪ロ 2/10
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は9日、モスクワを訪れ、占領下のウクライナ南部ザポロジエ原発を管理するロシア国営原子力企業ロスアトムのリハチョフ社長と会談した。グロッシ氏は、砲撃にさらされる原発での「安全・保護区域」設置を提唱しており、実現の必要性を改めて強調。ロスアトムによると、リハチョフ氏は「協議を継続する用意」を表明した。
ロシアは自国による占領・管理が前提でなければ、安全・保護区域の設置に応じないとみられ、合意に至るかは不透明だ。訪問は2日間で、グロッシ氏は「協議はあす(10日)も続く」とツイッターに記した。プーチン大統領との会談は予定されていない。
●ウクライナに届かない戦車、約束守られず 2/10
ドイツは何カ月にもわたり、近隣諸国がウクライナに対してドイツ製戦車を供与するのを認めるよう求める国際的な圧力に耐えてきた。ドイツ政府は先月ついに折れたが、それ以降、欧州でまとまった数の戦車引き渡しに同意したのは1カ国のみだ。
欧州の同盟・友好諸国は、ここ数日のドイツによる熱心なロビー活動にもかかわらず、それまでに示してきた姿勢に反して、供与することを渋っている。そのため、今後予想されるロシアの新たな攻撃に間に合うように十分な数の戦車がウクライナに届くのかどうか疑問が生じている。
またこうした状況により、ドイツ政府は回避に努めてきた厄介な立場に置かれている。それは、ウクライナ向けの西側製主力戦車を大規模に供与する唯一の国になるというものだ。ドイツのオラフ・ショルツ首相は開戦以降、兵器供与に関して同盟・友好諸国との調整を重視してきた。
欧州で突如、ウクライナへの戦車供与に懸念が生じたことは、地政学的な緊張が高まる中、地域の北大西洋条約機構(NATO)加盟国には、弾薬や重火器と同様に戦車についても、戦火で使用でき、かつ供与可能なものが専門家や当局者の当初の予想ほど存在しないことを示している。
元ドイツ国防省の高官で、現在はミュンヘン安全保障会議のシニアフェローを務めているニコ・ランゲ氏は「使用可能な戦車の数があまりにも少ないこと、しかも、それを互いに融通できないことは、欧州において警告のサインと受け取られるべきだ」と述べる。
オンラインのデータベース「グローバル・ファイヤーパワー」によると、欧州のNATO加盟国で最大の軍事力を有する英国とフランスは、それぞれ220両前後の戦車を持つが、実際に戦闘の準備が整っているのがどれほどあるかは不明だ。ドイツも同程度の戦車を持つが、政府の調査によると、修理が必要なものがあるため、配備できるのは半数以下にとどまる。これとは対照的に、ロシアは開戦時に1万2000両超、ウクライナは2000両近くを保有していた。
これまでのところ、ウクライナへまとまった数の戦車供与を承認したのはドイツとポーランドだけだ。新型、旧型を合わせてドイツは約200両、ポーランドは74両の供与を予定している。それ以外にカナダが、ドイツ製の新型戦車4両の供与を約束している。
米国は確かに主力戦車「エイブラムス」31両の供与を約束しているが、米当局者らはここにきて、同戦車が戦場に届くまで最長2年かかる可能性があると述べている。英国は主力戦車「チャレンジャー2」14両の供与を約束しており、来月末までにはウクライナに届けられるとしている。一方、フランスは装輪装甲車「AMX−10RC」を供与する方向だ。この装甲車は無限軌道ではなく車輪が接地する形で走行するが、火力が大きいためしばしば軽戦車とみなされる。
ドイツは、同盟諸国によるドイツ製戦車のウクライナ向け再輸出について、ウクライナや他の欧州諸国からの要請にもかかわらず何週間も承認を渋った後、先月になって再輸出を容認すると発表した。これを受けて、ドイツの近隣諸国が保有するドイツ製戦車「レオパルト2」と、旧型の「レオパルト1」の在庫からの大量供与の約束が相次ぐと期待された。レオパルト2は、軍事専門家の間で、世界最高クラスの能力を持つ戦車とみなされている。
欧州には2000両以上の「レオパルト2」が存在しているが、ドイツ以外では今のところ、ポーランドが「レオパルト2」の一部と旧ソ連製戦車を改良した戦車60両をウクライナに供与することを約束しているほか、ポルトガルが3両の供与を表明しているのみだ。ドイツは来月までに「レオパルト2」14両をウクライナに引き渡し、さらに予備として5両を待機させることを約束しており、政府が民間企業に払い下げた旧型「レオパルト1」178両の輸出も許可した。
ジョー・バイデン米大統領が米国製戦車の供与を表明したことを受けて、ショルツ氏はようやくレオパルト2の引き渡しに応じた。ドイツ当局者によると、同氏はその後、欧州各国の首脳に電話をかけ、供与の約束を取り付ける努力をしてきた。
ショルツ氏のこうした外交努力は7日に最初の成功を収めた。オランダとデンマークが、独防衛大手ラインメタルとFFGから退役した「レオパルト1」約100両を購入するための資金援助を約束したのだ。ドイツは「レオパルト1」を20年前に退役させたが、民間企業や他国の政府はまだこの旧型戦車を所有している(数は非公表)。
今回の合意では、オランダ、デンマーク、ドイツが共同で戦車の再整備に資金を提供し、ウクライナの戦車兵に訓練を提供する。だが、当局者によれば、オランダとデンマークは自国の戦車をウクライナに提供することはないという。
フランスは、保有する主力戦車「ルクレール」200両余りの一部を供与する可能性を否定した。その理由として、同国当局者は、技術的および物流的な問題を挙げている。これに対し、ウクライナ国防省は「ルクレール」の供与を求める動画を作成。この動画はソーシャルメディア上で拡散した。
ポルトガルのアントニオ・コスタ首相は9日の国会で、同国がレオパルト2の整備を行っており、3月に3両を供与する予定であることを明らかにした。
フィンランド、スウェーデン、ベルギー、スペインも当初、ドイツが認めればウクライナに戦車を供与する可能性があることを示唆していた。これらの国は、これまでのところ何の約束もしていないが、一部の国の当局者は、訓練や資金調達で同盟国と協力する意向を表明している。
●国連安保理 ウクライナ武器供与めぐりロシアと欧米各国が応酬  2/10
国連の安全保障理事会でウクライナ情勢をめぐる会合が開かれ、欧米によるウクライナへの戦車などの武器の供与について、ロシアが「ロシア人やウクライナ人の命を犠牲にして武器の実験をするものだ」と非難したのに対し、欧米などは軍事侵攻に対する正当な自衛権への支援だと反論しました。
安保理の会合は8日、欧米によるウクライナへの戦車などの供与に反発するロシアの要請で開かれました。
冒頭、国連の軍縮部門のトップを務める中満泉事務次長は武器の流入が紛争を激化させる懸念を示すとともに、ロシアがウクライナへの攻撃を続けていることも改めて批判しました。
このあと、ロシアのネベンジャ国連大使は「欧米による武器の供与は軍需産業を潤すための口実だ。ロシア人やウクライナ人の命を犠牲にして武器の実験をするものだ」などと非難しました。
これに対し欧米各国が相次いで反論し、このうちイギリスのウッドワード国連大使は「ロシアは国連制裁に反してイランや北朝鮮から入手した武器も使っている。ウクライナが行使しているのは国連憲章が認める自衛権で、われわれは支援を続けていく」と述べました。
また、日本の石兼国連大使も「ロシアの行動は国際法の明白な違反で、侵略を阻止するための支援は、国際平和と安全の維持のために正当なものだ。ロシアはみずからの行いから関心をそらすために安保理を悪用すべきではない」とロシアを非難しました。 
●外資撤退はロシア企業に利益、プーチン氏が皮肉 2/10
ロシアのプーチン大統領は9日、ウクライナ侵攻に伴う外国企業の撤退はロシア企業に有益だと皮肉を込めて語った。
プーチン氏はテレビ中継された政府高官らとの会合で、撤退した外資企業は大規模で利益をもたらす市場を去ったことで多大な損失を被ったと指摘。「多くの西側企業は(自国)政府の圧力を受けてわが国を去っている。幸運を祈る」と述べながら、手を振って別れを表した。
さらに、「ロシアでは何も崩壊していない。わが国の企業と起業家がこれら企業と部門全体の受け皿となり、成功裏に仕事を続けている」と述べた。
西側による制裁に伴い、過去1年に外国企業がロシアを大量撤退したが、わずかな額で国内企業に資産を売却したケースもあった。
●プーチン氏、21日に教書演説 ウクライナ侵攻後初、1年の節目―ロシア 2/10
ロシアのペスコフ大統領報道官は10日、プーチン大統領が昨年から延期していた内政・外交の基本方針を示す「年次教書演説」について、21日に行われると発表した。タス通信が伝えた。
ウクライナ侵攻開始後、教書演説は初めて。24日に開始1年の節目を迎えるのを前に、ゼレンスキー政権を支援する「欧米との戦争」を改めて印象付け、長期戦を見据えてロシア国民に協力を訴える見通しだ。また、21日は侵攻前にウクライナ東部2州の「独立」を一方的に承認した日から1年に当たる。
●安倍元首相回顧録、米国で報道…米朝首脳会談前のトランプ氏との会話 2/10
米メディアが、安倍晋三・元首相が長期政権での首脳外交などの舞台裏を語った8日発売の「安倍晋三 回顧録」につづられた発言を、相次いで報じている。
米ブルームバーグ通信は8日、「ロシアのプーチン大統領を含む世界的リーダーとの交流の詳細が描かれている」と論評した。ビジネスライクで知られた米国のオバマ元大統領と、個人的関係を構築するのに難渋したとする安倍氏の証言などを紹介した。
9日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、2018年に史上初の米朝首脳会談に臨む前のトランプ前米大統領と安倍氏とのやりとりなどを伝えた。
トランプ氏は北朝鮮と取引を行う姿勢だったが、安倍氏はトランプ氏に「金正恩(キムジョンウン)(朝鮮労働党総書記)が最も恐れているのは、突然トマホークを打ち込まれて、自分の命、一族の命が失われることだ」と述べ、米国から軍事的な圧力をかけ続けるべきだと求めたことに注目した。
●ロシア 戦車など兵器増産を主張 ウクライナの支援訴えに対抗  2/10
ウクライナのゼレンスキー大統領が、EU=ヨーロッパ連合の首脳会議で軍事支援の強化を訴える中、ロシア側は、戦車など兵器の増産を主張し、対抗姿勢を鮮明にしています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻が始まって以来、初めて、イギリスとフランスを訪れたのに続いて、9日にはベルギーで、EUの首脳会議に出席し、各国の首脳に対して戦闘機や、より射程の長いミサイルなどの供与を求めました。
一方、ロシアの前の大統領で、安全保障会議のメドベージェフ副議長は9日、地方都市の軍需工場を視察し、この場で「敵は海外で戦闘機やミサイル、戦車をねだった。われわれは当然、最新型の戦車を含む兵器の増産が必要だ。何千もの戦車の製造と近代化が目下の課題だ」と主張し、対抗姿勢を鮮明にしました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は9日、ロシア軍は、戦闘で多くの戦車を失っているとする調査報告を伝えながら、「ロシア軍は、ウクライナ東部で攻撃を強める可能性があり、戦車の損失を速やかに補充する必要に迫られている」と分析しています。
こうした中、ロシア大統領府のペスコフ報道官は10日、プーチン大統領が2月21日に年次教書演説を行うと明らかにしました。
年次教書演説は、大統領が年に1度、議会や政府の代表を前に内政や外交の基本方針を示すものですが、去年は、ロシアがウクライナ侵攻を続ける中で延期され、侵攻開始以降では、初めてとなります。
ペスコフ報道官によりますと、演説は、ロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ侵攻についても言及されるということで、侵攻開始から1年を前にプーチン大統領がどのような主張を展開するかが焦点になります。

 

●ウクライナ問題、実利優先 苦言の一方、対ロ貿易拡大―インド 2/11
ウクライナ侵攻から1年となる中、インドは実利優先の外交姿勢を貫いている。ロシアに停戦を促し、欧米諸国とも良好な関係は維持する。一方で、原油をはじめ対ロ貿易は拡大している。
「戦争の時代ではない」。昨年9月、モディ首相はウズベキスタンで会談したロシアのプーチン大統領に対し、直接苦言を伝えた。旧ソ連時代からの友好国で、欧米の経済制裁にも加わらないインドの侵攻批判は波紋を呼んだ。
モディ氏は昨年12月にもプーチン氏、ウクライナのゼレンスキー大統領と立て続けに電話会談。停戦に向け仲介役を担うことに意欲を示した。
一方で、印ロの経済的な結び付きは侵攻後、強まっている。インド政府の統計によると、昨年のロシアからの輸入総額は2021年と比べ、約4.4倍の約360億ドル(約4.7兆円)に急増した。制裁で販売先を失ったロシア産原油を割引価格で購入していることが大きい。
インドのメディアはエネルギー市場調査会社のデータを基に、1月のロシア産原油の輸入量が1日当たり127万バレルに達し、過去最高を更新したと伝えた。輸入した原油の総量にロシア産が占める割合は侵攻前の0.2%から、輸入相手トップの28%に急上昇した。
インドが「対ロ制裁の抜け道になっている」と欧米から批判されても意に介さない。昨年11月にロシアを訪問したジャイシャンカル外相は、安価な原油購入は「インドの消費者のため」と言い切った。世界3位の石油消費国としてロシアとの関係を重視する考えを示した。
一方、軍事面ではリスク回避のためロシア依存の脱却を図る。インド軍事専門家ラケシュ・シャルマ氏は、インドの軍備の約6割は現在、ロシア製と指摘した上で「イスラエルやフランス、米国といった調達先の幅を広げ、兵器や装備の自給自足にも全力を注いでいる」と述べた。ウクライナ戦争が軍備の国産化や調達先の多様化に拍車を掛けている。
●米独など35カ国、ロシアとベラルーシのパリ五輪出場禁止を要請 2/11
米国、ドイツ、オーストラリアなど35カ国が、2024年のパリオリンピック(五輪)にロシアとベラルーシの選手を出場禁止とするよう要請していることが分かった。リトアニアのスポーツ相が10日発表した。
国際オリンピック委員会(IOC)に対する圧力が高まり、パリ五輪を巡る不透明感もさらに深まった。
北欧諸国の五輪委員会などは7日、IOCに書簡を送り、ウクライナ侵攻を続けるロシアと隣国ベラルーシの選手の国際大会出場に反対する姿勢を改めて表明している。
またウクライナは、ロシアやベラルーシの選手がパリ五輪に出場した場合、大会をボイコットすると警告している。
35カ国の担当閣僚によるオンライン会議には、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加・ロシアの攻撃によりウクライナの選手やコーチら228人が死亡したと指摘し「テロとオリンピック精神は相反するものであり、両立はできない」と述べた。
同じく会議に参加したフレイザー英スポーツ相は、ツイッターに「プーチン大統領が野蛮な戦争を続ける限り、ロシアとベラルーシを五輪に参加させてはならないとの英国の立場を明確にした」と投稿した。
一方、ポーランドのスポーツ相は、ボイコットは今のところ選択肢にないと表明。「まだボイコットについて話す時期ではない」と述べ、IOCに別の方法で強く要請することをまず検討すべきとの見解を示した。
●ロシア 生放送中に反戦訴えた女性が逃亡劇語る 2/11
ウクライナ侵攻開始から1年を前に、ロシアの国営テレビの生放送中に反戦を訴えた元職員の女性がロシアからの脱出について語りました。
ロシアの国営テレビの元職員、マリーナ・オフシャンニコワさんは10日、11歳の娘とともに車7台を乗り継いだものの国境手前で車が泥にはまり、「森の中を歩いてロシアを脱出した」と明らかにしました。
オフシャニコワさん「正しい道を見つけるまで事実上、永遠に歩いたといえる。予定より数時間遅れたが、最終的に国境を超えることができた」
オフシャンニコワさんは昨年、「プーチン大統領は人殺し」と書いたプラカードを掲げた動画を公開したことが「ロシア軍について虚偽の情報を広めた」として起訴され、自宅軟禁を言い渡されました。
その後、行方が分からなくなり、ロシア当局から指名手配されていました。
侵攻開始から1年を迎えるなか、ロシア当局は言論弾圧を強めていて、今月1日にはモスクワの裁判所が「ロシア軍に関して虚偽の情報を広めた」として、ロシア人ジャーナリストのアレクサンドル・ネブゾロフ氏に禁錮8年の実刑判決を言い渡しました。
「ロシア軍がマリウポリの病院を意図的に攻撃した」と批判したことが故意に虚偽の情報を流したとされました。
ネブゾロフ氏はロシア国外で活動しています。
独立系メディアによりますと、昨年8月までに少なくとも504人のジャーナリストがロシア国外に避難しています。
●ゼレンスキー大統領「プーチンはモルドバも占領する計画…情報を入手」 2/11
ロシアによるウクライナ侵攻から1年になるのを前に、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアのプーチン大統領はモルドバを占領する計画を進めている」と主張した。
AFP通信など外信によると、ゼレンスキー大統領は9日(現地時間)、ベルギーのブリュッセルで開催された欧州連合(EU)特別首脳会議に出席した際に上記のように述べた。ゼレンスキー大統領は演説で「モルドバを破壊し占領するプーチン大統領の計画を入手した」「ウクライナに対する計画と非常によく似ている」などと指摘した。ゼレンスキー大統領はこの情報をモルドバにも伝えたという。モルドバ情報・保安庁(SIS)はこの日声明を出し「モルドバを崩壊させ、公共秩序を破壊しようとするロシアの工作についてはウクライナとともに確保した情報で明らかになった」とコメントした。
東欧の小国モルドバは人口400万人(親ロシア派が掌握する地域を含む)で、ウクライナと同じくソ連崩壊と同時に独立した。現在東部のトランスニストリアを親ロシア派が掌握しており、ウクライナ戦争初期からロシアによる侵攻の可能性が指摘されてきた。ウクライナとモルドバは昨年2月にロシアがウクライナを侵攻してからEU加盟を申請し、昨年6月に加盟候補国とされた。モルドバは北大西洋条約機構(NATO)には加盟していない。
モルドバでは親欧米派のガブリリツァ首相が10日に突如辞任した。ガブリリツァ首相は「ウクライナ戦争の影響で深刻化する経済難の責任を取る」との理由で辞意を表明したという。
●バイデン氏、今月ポーランド訪問へ ウクライナ侵攻から1年を前に 2/11
米国のバイデン大統領は、ロシアによるウクライナ侵攻から1年の節目となる今月、ウクライナの隣国ポーランドを訪問する。戦争は情勢の定まらない新たな段階に突入しており、和平に至る明確な道筋は見えていない。
バイデン氏のポーランド訪問は今月20〜22日の日程で予定されている。ホワイトハウスによれば同国のドゥダ大統領をはじめとする指導者らと会談するほか、侵攻開始から1年となる24日に向けた発言も行う見通し。
バイデン氏の側近らはこの数週間、侵攻開始から1年となる日をどのように迎えるかについて、大規模な演説の可能性も含めて計画を練ってきた。念頭に置くのはウクライナ国民の強靱(きょうじん)さを前面に出しつつ、先行きの不透明な今後数カ月に向けて団結の重要性を強調することだ。
ホワイトハウスの高位当局者はバイデン氏について、今回の外遊でウクライナを支える姿勢を改めて表明したい意向だと述べた。今後の追加支援に関する明確な発表もそこに含まれるという。
ドゥダ大統領はホワイトハウスの発表を受け、同盟国同士の関係が「かつてないほど強くなっている」との認識を示した。
バイデン氏は昨年4月にもポーランドを訪れ、ウクライナ国境に駐留する米軍とポーランド軍を視察。ウクライナを脱出した難民らに面会し、ワルシャワで演説を行った。
演説ではロシアのプーチン大統領について「権力の座にとどまることはできない」と発言。ロシアにおける体制の変革を求めていることを初めて示唆してもいた。
●ロシアをたたくだけでは人命の犠牲を防げない めざすは即時停戦 2/11
ロシアのウクライナ侵攻が始まって1年が経とうとしている。両軍の激戦は今も連日続き、兵士もウクライナ市民も命を落としていく。この戦争が意味しているのは何か。我々は今、「安全保障のジレンマ」の典型例をまさに見せつけられているのではないか。
ウクライナ戦争の熱に浮かされるかのように、岸田文雄政権は昨年12月に安全保障関連3文書を閣議決定した。国会審議も経ずに敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記し、2023年度から5年間の防衛費大幅増を盛り込んだ。岸田首相は年明け早々、バイデン大統領への報告のため渡米した。
ドイツのメルケル前首相が昨年12月にドイツ紙「ディー・ツァイト」のインタビュー記事で述べた発言が注目されている。かつてウクライナ軍と同国東部の親ロシア分離派勢力との戦闘で14年と15年に結ばれた停戦協定「ミンスク合意」について、「ミンスク合意はロシアとの軍事対立に備える時間をウクライナに与えるために署名された」という趣旨を述べたのだ。
この発言にロシアのプーチン大統領が「思いもよらぬことで落胆した」と反応した。ウクライナ前大統領のポロシェンコ氏もミンスク合意の履行など考えてもいなかったと語っていたとするロシア側は、メルケル氏の発言がそれに符合するとみている。これが本当だとすれば、ウクライナは米欧の全面支援で軍備増強をしたから侵攻を受けたという構図になる。これは教訓としてくみ取るべきことではないか。
もちろん今回の戦争の第一義的な責任はプーチン氏にある。ウクライナ国民が反撃に立ち上がり、それを西側諸国が支援するのは当然だろう。ただ、米国と欧州の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大の究極地点に位置づけられたウクライナを見ていると、ロシアを弱体化させるために米国の盾としてウクライナが焦土化し、人命と財産が差し出され、米国の代理戦争を強いられているようにも映る。台湾をめぐる中国への盾として日本も利用されないかと懸念が募る。
岸田政権は、日米同盟強化と中国抑止の名のもとに、日本の人命と国土を提供しようとしているのではないか。だが、そうした事態に国民を巻き込まないよう予防することこそ政治の役割である。「軍備を増強して備えたけれども事態をエスカレートさせて先制攻撃を受けた。仕方がなかった」ではすまされない。安全保障のジレンマを回避する戦略的な慎重さが必要なのだ。
この間、ウクライナ戦争をめぐるエモーショナルな報道はあっても、この戦争の本質に迫ろうという記事にはなかなか出合わない。「戦え一択」の世論や論壇主流への迎合なのか。現地では、双方がより有利な停戦条件を狙って相手の犠牲を増やし合うという負のスパイラルのような戦局が続いている。その先に一体何があるのだろう。
ロシアをたたくだけでは人命の犠牲を防げない
今回のロシアのウクライナ侵攻は国際法的にも人道的にも容認できない暴挙である。だが、ロシアを悪魔化し、それをたたいて留飲を下げるだけでは人命の犠牲を防げないのもまた現実だ。地球を何度も破滅させられるほどの核兵器と原発を抱えてしまった今の時代に、戦闘の長期化で人類に重大な危機が迫っているにもかかわらず、自由と民主主義、人権の価値を共有すると標榜(ひょうぼう)している国々はなぜ、即時停戦と即時対話を叫ぼうとしないのか。
今めざすべき道は即時停戦に向けて関係国が動くことだ。「ウクライナ頑張れ」の熱気の中でこうした声はかき消されてきたが、民主主義対専制主義の二項対立を追い求めるだけでは立ちゆかなくなっている。自由と民主主義を掲げるNATO諸国が武器支援のレベルを次第に引き上げ、ロシア対NATOの戦争に発展しない範囲でウクライナの徹底抗戦を支えていく限り、人命損失にも終わりは見えないだろう。
その行き着く先は核戦争リスクの高まりである。今は第2次世界大戦時と状況はまったく違う。大量の核兵器と原発があふれた世界だ。相手と二度と戦わずにすむよう徹底的にたたく「紛争原因の根本的解決」など、もはや無理な世界なのだ。これ以上紛争がエスカレートする芽を育ててはならない。
●ゼレンスキー大統領の空席狙ったのか…露、ウクライナ全域をミサイル空襲 2/11
ロシア軍が10日(現地時間)、ウクライナ東南部の都市ザポロジエに少なくとも17発のミサイルを発射するなど全域に対する空襲で基幹施設を破壊した。
ロイター通信などによると、ウクライナ政府は10日午前、全国に空襲サイレンを鳴らし、勤務中または在宅の民間人に避難を促した中、ウクライナ軍の防空網を避けたミサイルが各地に落下した。
東南部の都市ザポロジエ地域には17発以上のミサイルがエネルギー設備をはじめとする基盤施設を打撃した。このほか西部のフメルニツキ、東北部のハルキウ(ハリコフ)、中部のドニプロペトロウシク地域でも基盤施設が破壊された。
ウクライナ軍はこの日、ロシア軍がイラン産自爆ドローン7機、カリバー巡航ミサイル6基、対空ミサイルS−300などを使用したと把握した。空軍のイナト報道官はこの日、テレビ放送で「我々の防空網がロシア軍が発射した自爆ドローン7機のうち5機、カリバーミサイル6基のうち5基を撃墜した」とし「ハルキウやザポロジエに発射されたS−300ミサイル35発は撃墜できなかった」と明らかにした。
南部オデーサ州のマルチェンコ知事は「ロシア軍の戦闘機が飛行中で、カリバーミサイルを搭載した軍艦も海にある」とし、民間人に迅速に安全なところに避難するよう呼びかけた。
ロシア軍は前日、東部ルハンシク地域でタンクなどと共に重武装した歩兵部隊を前線に投入し、進撃を図った。
この日のロシア軍のウクライナ空襲について、国際社会では「ウクライナのゼレンスキー大統領が戦闘機の支援を要請するために英国・フランス、ドイツなど欧州主要国を訪問した時期に合わせて攻勢の程度を強めた」という見方が出てきた。また「ロシア軍がウクライナ戦争1年を迎え、大攻勢を成功させて機先を制する考えだ」という分析もある。
●ロシア 3月に50万バレル自主減産と発表 上限価格設定に対抗  2/11
ロシア政府でエネルギー問題を担当するノバク副首相は10日、G7=主要7か国などがロシア産の原油などに上限価格を設定したことに対抗し来月、日量50万バレルの自主減産を行うと発表しました。
ノバク副首相は声明で「上限価格の設定は市場への干渉で、将来の原油不足を招く可能性がある」などと指摘し、G7やEU=ヨーロッパ連合などがロシア産の原油や石油製品に上限価格を設定する制裁措置を導入したことを批判し、減産は対抗措置だとしています。
また、3月以降の対応については市場の状況を見ながら決めるとしています。現地メディアによりますと、減産規模は、1月の生産量のおよそ5%に相当するとしています。
ロシアは、OPEC=石油輸出国機構に非加盟の産油国が加わる「OPECプラス」のメンバーでOPECプラスは2月1日、一日当たり200万バレルの協調減産を維持する方針を明らかにしたばかりです。
一方、ロイター通信はOPECプラスの関係者への取材として「ロシアの自主減産を受けて計画を変更する予定はない」として、ロシアの減産を補う考えはないと伝えています。
●ロシアが今年最大の攻撃、インフラ標的−小麦が大幅高 2/11
ロシアはウクライナに対し、エネルギーなどの主要なインフラ施設を標的に今年最大規模の攻撃を加えた。ウクライナのゼレンスキー大統領は武器の追加支援を求めた欧州歴訪を終えた。
商品市場ではロシアの攻撃を手掛かりに小麦が上昇。ロシアが来月の原油生産を日量50万バレル引き下げると発表したことを手掛かりに原油も値上がりした。
小麦先物が大幅高、ロシアの攻撃で
シカゴの小麦先物は4%余り上昇し、日中ベースで昨年10月以降で最大の値上がりを記録した。
ウクライナは戦時下にあっても穀物輸出を続けているが、インフラ設備への攻撃で物流が滞っている。1年前のウクライナ侵攻以降、商品市場はリスクプレミアムをほぼ解消したが、少なくともリスクの一部を考慮する必要があるかもしれないと、ストーンXの最高商品エコノミスト、アーラン・スーダーマン氏がレポートで指摘した。
ゼレンスキー大統領、ロシア人選手の競技会出場禁止を訴え
ゼレンスキー大統領は同盟諸国のスポーツ担当相に向けて、ロシア人選手の国際競技会への出場を禁止するべきだとあらためて訴えた。
同大統領によればウクライナのスポーツ選手228人が戦死した一方、ロシアのスポーツ選手は軍の階級を保持していたり、軍のクラブに所属している。プーチン政権がそうしたスポーツ選手を戦争のプロパガンダに利用するのは「時間の問題だろう」と、ゼレンスキー氏は語った。
世界銀行、ウクライナの輸送網復旧プロジェクトに5000万ドル
世界銀行は人道支援を目的としたウクライナの輸送網の復旧および輸出入回廊の機能拡大を目指し、新たに5000万ドル(約65億7250万円)のプロジェクトを発表した。世銀の発表によれば、ウクライナの輸送網が直接受けた被害は計299億ドルを上回る。
ゼレンスキー大統領、ロシアの大規模攻撃を非難
ゼレンスキー大統領はロシアによる少なくとも70発のミサイル攻撃を非難し、「残念ながら犠牲者が出た」と述べた。
ゼレンスキー氏は今週、ブリュッセル、パリ、ロンドンを訪問。ウェブサイトに掲載した声明で同氏は、ミサイルがモルドバとルーマニアの領空を通過したと指摘、これは「北大西洋条約機構(NATO)への挑戦」だと主張した。
ルーマニア政府は10日、ウクライナ軍が主張するロシアのミサイルの領空侵犯を否定。モルドバ外務省は領空侵犯についてロシア大使を呼び出した。 
●伊首相、ゼレンスキー氏訪仏を改めて批判 2/11
イタリアのジョルジャ・メローニ(Giorgia Meloni)首相は10日、フランスのエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領が今週、欧州連合(EU)首脳会議に先立ちウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領をパリに招いたことについて、独仏を除く25人のEU首脳が「欠けていた」と改めて批判した。
メローニ氏はEU首脳会議後の記者会見で、「エリゼ宮(Elysee Palace、仏大統領府)でのゼレンスキー氏との会談に招かれていたら、(マクロン、ゼレンスキー両氏に)こうした会談を行うべきではないと忠告していただろう」「ウクライナ問題に関しては、EU内で結束したメッセージを出すことが何よりも重要だからだ」と述べた。
ゼレンスキー氏は8日、英仏を訪問。パリではマクロン氏とオラフ・ショルツ(Olaf Scholz)独首相と夕食を共にした。
メローニ氏は9日にも、マクロン氏がEU首脳会議に先立ちゼレンスキー氏を招待したのは「不適切だ」と批判。同日にブリュッセルでゼレンスキー氏と会談した後、来るキーウ訪問について話し合ったと明らかにしていた。
マクロン氏は同日、仏独はウクライナ東部紛争の停戦合意である「ミンスク合意」に関与しているため、ウクライナ情勢で「特別な役割」を果たしていると主張。パリでの夕食会を正当化した。
●ロシア軍が100発以上のミサイル攻撃 侵攻1年を前に戦闘激化か  2/11
ウクライナ国防省はロシア軍が10日、ウクライナ各地のインフラ施設などを標的に100発以上のミサイルで攻撃を行ったと発表し、軍事侵攻から1年となるのを前にロシア軍が戦闘を激化させているとみられます。
ウクライナ国防省は11日、SNSで「ロシア軍はウクライナのインフラ施設などに向けて106発のミサイルを発射し新たな激しい攻撃を行った」と発表しました。
ウクライナ軍はこのうち61発を迎撃したということですが、民間のインフラが標的になっているとしてロシア側を非難しました。
首都キーウのクリチコ市長は10日、SNSに「ロシア軍のミサイルの残骸で車や住宅の屋根に被害が出た」と投稿したほか、東部ドニプロペトロウシク州の知事も11日「夜間にロシアの無人機による攻撃が続き重要インフラも攻撃を受けた」としています。
ウクライナ側は、ロシア軍が今月24日で侵攻から1年となるのを前に大規模な攻撃を仕掛けてくると警戒を続けていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は8日に、ロシア軍が東部ルハンシク州の西部に戦車や空てい部隊などの3つの師団を投入し、攻撃のペースが増していると分析しています。
また、ロシア軍が掌握をねらう東部ドネツク州のウクライナ側の拠点バフムトについて、ウクライナの軍事専門家、イーホル・カバネンコ氏は10日、NHKのインタビューに対し「地理的に非常に重要で、バフムトをおさえれば、東部のハルキウや南部のザポリージャにも軍を展開できるため、ロシア側は集中的に攻撃し続けている」と述べました。
そして「侵攻から1年となる24日に向けて、国内向けに戦果をアピールするため、犠牲を顧みず激しい攻撃を続けている。ウクライナ軍は今後、反転攻勢を仕掛けるため、バフムトから一時撤退する可能性もある」と述べ、バフムトがロシア軍によって一時的に掌握される可能性にも言及しました。
軍事専門家「バフムトに集中的な攻撃」
ウクライナの軍事専門家、イーホル・カバネンコ氏が10日、首都キーウでNHKのインタビューに応じ、東部ドネツク州にあるウクライナ側の拠点バフムトについて「地理的に非常に重要で、バフムトを押さえれば、ザポリージャやハルキウにも展開できるため、ロシア側は集中的に攻撃し続けている。ウクライナ軍は現在守備に回り、踏みとどまっている」と述べました。
そして「ロシア軍はバフムトで1日に1000人以上の兵士を失ったこともあるが、それでも侵攻から1年となる今月24日に向けて、戦果を国内にアピールするため、犠牲を顧みず激しい攻撃を続けている。ウクライナ軍は今後、反転攻勢を仕掛けるため、バフムトから一時撤退する可能性もある」と述べ、バフムトがロシア軍によって一時的に掌握される可能性にも言及しました。
また、ロシア軍が今後、攻撃の対象を首都キーウを含むほかの地域にも拡大し、ミサイルや無人機を使った攻撃を強めるおそれがあると指摘しました。
一方で、ゼレンスキー大統領がイギリスやフランスなどを歴訪したことについては「今回の訪問はヨーロッパとの軍事的協力を継続させ、さらに強力な兵器の供与に向けて重要な訪問だった」と評価しました。
そのうえで「実際に欧米諸国から供与された武器を実戦で使うまでには、もう少し時間が必要だ。ウクライナ側が攻勢に出るのは春になるだろう」と述べました。
来週には、ウクライナへの軍事支援について欧米各国が話し合う会合がベルギーで開かれる予定で、カバネンコ氏はこの会合でウクライナ側が、戦闘機や長距離ミサイルなど追加の兵器供与を求めるという見通しを示しています。
●ウクライナ東部前線 ロシア軍、一部地域で前進か 英国防省分析 2/11
ウクライナ侵攻で苦戦を強いられてきたロシア軍だが、2月上旬からウクライナ東部で攻勢に出ている模様だ。英国防省は10日、ロシア軍が一部地域で前進に成功したとの分析を発表。侵攻開始から1年を迎える24日に向け、大規模な攻勢を仕掛けるのかも注目されている。
英国防省の情勢分析は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の部隊が7日以降、ウクライナ東部ドネツク州北部にあるバフムト近郊の前線を2〜3キロ前進させたと指摘。1月下旬から攻撃を続けている同州南部ウグレダルの近郊でも、ロシア軍が支配地域を拡大したと見立てている。
インタファクス通信によると、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は10日、ドネツク州などを中心にして、ウクライナ軍の戦車や装甲車、りゅう弾砲などを破壊し、125人のウクライナ兵を殺害したなどと発表。具体的な前線での前進には触れていないが、ドネツク州での戦果を印象づけている。
一方、米国のシンクタンク「戦争研究所」は8日、ロシア軍がドネツク州に隣接するルガンスク州を直近の最大の攻撃目標に定め、攻撃を始めた公算が大きいとの分析を発表した。州西部のスワトボとクレミンナを結ぶ地域に3師団を投入し、攻撃を活発化させているとの見方も示している。
ロイター通信によると、ルガンスク州の知事はテレビ放送で、ロシア軍がウクライナ東部で攻撃を激化させており、クレミンナ付近のウクライナの防衛線の突破を図っているとの見解を表明。このラインが破られれば、ドネツク州中部の主要都市クラマトルスクに進軍される恐れも出てくるという。戦争研究所は9日の情報分析でも、スワトボとクレミンナを結ぶ地域が攻撃にさらされ続けていることをあげている。
ロシア軍ではウクライナ侵攻を開始した初期の段階から、人員不足の問題点が取り上げられてきた。そのため非正規部隊であるワグネルが受刑者を徴兵して前線に送り込むなどして、戦力不足を補ってきたといわれてきた。
ワグネルの創設者プリゴジン氏は9日、通信アプリ「テレグラム」で、すでに受刑者を部隊に徴集することをやめたと明かした。これはロシア軍が2022年秋以来続けてきた動員により、兵力を整えてきたことの裏返しとも見てとれそうだ。最近になりロシア軍がドネツク州バフムトなどの前線を前進させている背景には、正規軍の兵力を充実させてきたことがあるとも指摘されている。
2月に入ると、ウクライナ軍の関係者らはロシアが侵攻開始から1年の節目に向け、大規模な攻勢に出る可能性を取り上げている。一方で英国防省は9日の戦況分析で、今後3月半ばぐらいまでウクライナの前線の地表がぬかるんでくるとみられており、ロシア、ウクライナ双方の指揮官が大規模な攻勢を避ける公算が大きいとしている。それでもロシアが前年にウクライナ侵攻に踏み切ったように、政権トップが判断した場合には悪い条件の下でも大規模な攻勢を始める可能性が捨てきれない点にも触れている。

 

●ウクライナ 軍事侵攻1年前に さらなる大規模攻撃への警戒続く  2/12
ロシア軍が10日にウクライナ各地で行ったミサイルなどによる激しい攻撃について、ロシア国防省は11日、軍事関連施設などを標的にしたものだと主張しました。
ウクライナ側は、民間のインフラ施設が標的になったと非難し、軍事侵攻の開始から1年になるのを前に、さらにロシア軍が大規模な攻撃を仕掛けてくると警戒を続けています。
ウクライナでは10日、各地でロシア軍による激しい攻撃が行われました。
これについてロシア国防省は11日「ウクライナの軍事産業や輸送システムにエネルギーを供給する重要施設への攻撃を行った。標的の施設にすべて命中した」と主張しました。
これに対してウクライナ国防省は、民間の電力インフラが標的になったと非難した上で、発射された106発のミサイルのうち61発を迎撃し、無人機22機を撃ち落としたと発表しています。
また、ウクライナ国営の電力会社「ウクルエネルゴ」も11日、SNSへの投稿で、火力発電所や送電網が無人機による攻撃を受けたことを明らかにしました。
軍事侵攻の開始から2月24日で1年になるのを前にウクライナ側はさらに、ロシア軍が大規模な攻撃を仕掛けてくると警戒を続けています。
●ウクライナ各地でロシア軍が激しい攻撃 2/12
ウクライナでは10日、各地でロシア軍による激しい攻撃が行われました。
これについて、ロシア国防省は11日、「ウクライナの軍事産業や輸送システムにエネルギーを供給する重要施設への攻撃を行った。標的の施設にすべて命中した」と主張しました。
これに対してウクライナ国防省は、民間の電力インフラが標的になったと非難した上で、発射された106発のミサイルのうち61発を迎撃し、無人機22機を撃ち落としたと発表しています。
また、ウクライナ国営の電力会社「ウクルエネルゴ」も11日、SNSへの投稿で、火力発電所や送電網が無人機による攻撃を受けたことを明らかにしました。
軍事侵攻の開始から今月24日で1年になるのを前にウクライナ側はさらに、ロシア軍が大規模な攻撃を仕掛けてくると警戒を続けています。
●ロシア、戦車の半数失う ウクライナ侵攻で 米 2/12
米国防当局は、ウクライナで戦争を続けるロシアが戦車の半数を失った可能性があると考えている。
ウォランダー米国防次官補(国際安全保障問題担当)が10日、米シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」のオンライン会合で語った。
ウォランダー氏は、ロシアの戦力について「保有していた主力戦車の半数を、戦闘で破壊されたり、ウクライナ軍に奪われたりして失ったと考えられる」と語った。具体的な数字には言及しなかった。対照的にウクライナには、欧米が提供を約束した主力戦車のうち英国製の「チャレンジャー2」が3月、ドイツ製の「レオパルト2」が4月までに届くとみられている。 
●ウクライナ、国連総会決議原案でインフラ攻撃停止訴え…「ロシア訴追」 2/12
ウクライナがロシアの侵略1年に合わせて国連総会に提出する決議案の原案が判明した。露軍による重要インフラや病院などへの攻撃の即時停止を訴え、露軍の無条件撤退を求めている。多くの国々の賛同を得るため、原案の内容を巡って各国間で最終調整が進められている。
国連総会は22、23日に緊急特別会合として開かれ、決議案には日本や欧米などが共同提案国として名を連ねる見通しだ。
原案では、国連憲章に基づき平和的な手段で紛争を解決し、永続的な和平を早期に達成するよう求めた。また、ロシアの重大な戦争犯罪に対しては、公正で独立した調査と訴追を要求している。全面的な捕虜の交換や民間人の帰還を進めることも盛り込んだ。
戦争犯罪に対する「調査と訴追」は、侵略に関する過去5回の国連総会決議には盛り込まれておらず、最終案に明記されるかが焦点となる。
ロシアの戦争犯罪を巡っては、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)が捜査を進めているが、ロシアはICCに加盟せず、裁くのは難しい状況だ。ウクライナは年内にロシアの侵略を裁く特別法廷の設置決議案を国連総会に提出する見通しで、今回の決議案採択によって、ロシアに対する戦争犯罪の追及に弾みを付けたい考えだ。
一方、国連外交筋は「多くの国が納得できる原理原則に基づく内容に仕上がっている」と指摘し、「ロシアの影響を受けるグローバル・サウス(南半球を中心とする新興・途上国)の賛同を得る狙いもある」と説明した。
国連決議を巡っては、安全保障理事会の決議に法的拘束力がある一方、総会では拘束力がない。安保理では常任理事国ロシアが拒否権を行使すると否決されることから、ウクライナは決議案を総会に提出し、採択を目指す考えだ。 
●“プーチンの頭脳” ドゥーギン氏語る…「ロシアの勝利か人類滅亡かの二択」 2/12
「3月までに東部ドンバスの制圧を」とプーチン氏が命じたと報道されているが、その報道を裏付けるように日に日にロシア軍の攻撃は激しくなっている。プーチン大統領は21日に、これまで延期していた年次教書演説を行うというが果たして彼の頭の中はどうなっているのだろうか。
「報道1930」では“プーチンの頭脳”とも言われる政治学者で極右思想家でもあるアレクサンドル・ドゥーギン氏にロシアによる侵略の意味、そして今のプーチン氏について話を聞いた。少なくともウクライナ侵攻以降日本のメディアに語ったのはこれが初めてだという。
まずは2022年8月に自らの娘を何者かによって爆殺された事件について話を始めた。
「怒りは全くありません…ウクライナは存在しなくなる」
“プーチンの頭脳” とも言われる思想家 アレクサンドル・ドゥーギン氏
「捜索の結果によると、おそらく私を狙った犯罪でした。」
2022年8月。直前まで自らが乗るはずだった車が何者かに爆破され、娘を失った極右の思想家ドゥーギン氏は淡々と事件を振り返った。
「私を殺す理由は、西側が作った私のイメージにあります。プーチンと会ったことのない独立した思想家である私のことを西側は“プーチンのラスプーチン”と呼んでいました。テロは実際にはウクライナのブダノフ情報総局長が関与しましたが、彼の判断ではなかった。アメリカというよりも、これはテロを使って歴史に影響を与えたいと思ったイギリスの判断でした。テロリストたちは私の娘を殺害しましたが、私の中に怒りはまったくありません。報復したい気持ちもないし怒りもありません。ウクライナは存在しなくなります。チャンスはありましたが、そのチャンスを失ってしまったのです。」
ウクライナは存在しなくなると断言をしたドゥーギン氏。だが、去年2月24日の侵攻が始まった時は今のような自信に満ちたものではなかったという。
「ロシアの勝利か人類滅亡かの二択…ロシアが敗けることはない」
ドゥーギン氏「この特別軍事作戦は軍事的な側面で見ると、失望に近いものになったと思います。2月24日に我々が行った先制攻撃によって敵は混乱し(負ける)と思っていました。素早く勝利が出来なかったことは社会を失望させたということを強調したいです。」
ドゥーギン氏によれば当初はウクライナとの単なる紛争という位置づけだと国民は思い、すぐに勝利しないことに失望していたが、その状態は秋ごろから徐々に変化していったという。そのきっかけは、9月に踏み切った部分動員。そしてヘルソンからの撤退を発表した11月にプーチン氏が、伝統的な価値の保護に関する第809号の法律に署名したことだと言う。これによってロシア的なものでないことや外国勢力とのつながりを持つことなどが厳しく制限された。
ドゥーギン氏「国民はこの対立の規模を理解し始めました。これは限定的な反テロ作戦や領土の統合ではなく、文明の戦いだということを国民が理解し始めたのです。特別軍事作戦の目的を国民も政府も理解している通り、多極世界の構築であり、ロシアは中国やイスラム諸国や南米諸国等と同様に独立した極になります。一極集中の世界と多極世界との戦いである長期的で大変な戦争に準備しなければならないということを理解したのです。」
90年代、経済を優先しロシアを発展させてきたエリート層やオリガルヒと呼ばれる超富裕層は“プーチンの戦争”にこれまで反対を示してきた。ドゥーギン氏はこのような層が、私利私欲に走りロシアをダメにしてきたと非難した上で、そうした人々の声は、今はもうなくなっていると言う。
「これは国民戦争です。今この戦争はロシア社会にとって聖なる戦争です。ロシア社会はかろうじて第3次大祖国戦争に適応しようとしています。第1次大祖国戦争は1812年のナポレオンとの戦争で、第2次大祖国戦争は1941年〜1945年の戦争です。私たちは欧米との戦争に入ったということを国民が理解し始めました。勝利するまでは欧米との交渉、ましてや操り人形のウクライナとの交渉はありえないということはわかっています」
ロシア国民はこの戦いをナポレオンやナチスと同じように西側を見立て、祖国防衛のための戦争考えるようになったと主張するドゥーギン氏。この戦争にどのような終わり方があるのか尋ねると・・・
ドゥーギン氏「ロシアが勝利するか、人類滅亡になるかの2択です。3つ目のシナリオはありません。我々は勝利しなければ止まることがないのでこの戦争はいつまでたっても続く可能性もありますが、人類滅亡であっという間に終わる可能性もあります。西側がロシアかベラルーシに対して戦略核兵器、戦術核兵器を使えば、もうおしまいです。NATO諸国が直接参加すれば状況が緊迫化し終末の日が早まります。ロシアはこの戦争で負けることはないということを理解しないといけません。クリミアや4つの新しい地域だけを失うだけではなく、自分自身を失うからです。ロシアのすべての人がそれを分かっています。ウクライナは既に存在しません。もう終わっています。勝利することはありません。ロシアに負けるか、全人類とともに滅亡するかです」
プーチン氏の二面性「西側は見えていない」
ナポレオンやナチスは現在のロシアの領土に攻めて来たのだが、現在ウクライナはロシアを侵略したことはない。西側もそうだ。しかしプーチン氏の頭の中ではその時代と今が結びついているのか…。果たしてプーチン氏とはどういう人物なのかをドゥーギン氏はこう分析している。
ドゥーギン氏「プーチンは二面性を持つ政治家であり、正反対のパラダイム(規範)に基づいています。特別軍事作戦を開始し、それに向けて準備を行い、多極世界を守る必要を理解しているのは「太陽のプーチン」です。しかしもう一つのプーチンも存在します。私が「月(陰)のプーチン」と呼んでいるプーチンです。愛国者である私にとってこの(太陽の)プーチンは親しい存在であり、精神的に近い存在でもあります。」
ドゥーギン氏によれば「太陽のプーチン」は愛国者で、一極の世界を作ろうとする西側と徹底対決を辞さないプーチン氏。もう一つの「月のプーチン」は経済を優先させていたプーチンだと言います。
「オリガルヒに頼るプーチン、欧米の価値を認める、というより、特別軍事作戦開始前に認めていたプーチン、ロシアは欧米社会、欧米の文明の一部であるという論文を書いたプーチン、経済は命(ほど重要)なので貿易はすべての問題を解決してくれるものだと思っているプーチンです」
そしてドゥーギン氏はプーチン氏の中に今も「月のプーチン」がいると指摘しました。
「残念ながら特別軍事作戦が行われている今でも(「月のプーチン」は)存在しています。「月のプーチン」は国内の人には見えています。私たちに彼の内面が見えます。彼の迷い、優柔不断、十分でない社会の動員、矛盾した行動や人事が私たちに見えています。」
しかし、西側にはこの月のプーチンが見えていないといいます。
「欧米には「太陽のプーチン」しか見えず、欧米はこの太陽のプーチンのことを嫌っています。「月のプーチン」が(和平)交渉を始めたいと思っても、相手は交渉を否定しているので交渉は非現実的です。この1年間は「太陽のプーチン」の構造の中で行われていました。」
こうしたプーチンのシグナルに目を向けず、行われた欧米からのロシアへの経済制裁やウクライナへの武器供与がプーチン氏を頑なにし、愛国的になるプーチンに対し国民が結束したと言うのだ。
「プーチンは我々のリーダーであり、「太陽のプーチン」として認識されます。その意味でロシアの社会の中にいかなる疑問や分断はありません。」
●「戦争犯罪」抗議の記事=プーチン氏愛読紙、すぐ削除 2/12
ロシアのプーチン大統領の愛読紙と言われる大衆紙コムソモリスカヤ・プラウダ(KP、電子版)に11日夜、ウクライナに侵攻したロシアの「戦争犯罪」を非難する記事などが掲載され、少なくとも10本が約10分後に削除された。
独立系メディアは、編集部に無断で載せたというKP記者を特定。「罪の償い」を意図した親政権メディア内部の抗議行動だと伝えた。
ロシアでは昨年3月、政府系テレビの元職員マリーナ・オフシャンニコワさんが生放送中に「戦争反対」の紙を掲げて抗議。最近になり、当局の捜査後に亡命したことが明らかになった。
KP記者はウラジーミル・ロマネンコ氏(24)。独立系メディアに語ったところでは、戦争に反対する一方で昨年9月、給与を得るために不本意ながらもKPに就職。今回の行動は、昨年2月下旬の侵攻開始から1年に合わせたもので、掲載した記事はウクライナ政府の発表や欧米メディアの報道を基に「自分で書いた」という。
失業も覚悟の上で行動に移したというロマネンコ氏は「(政権におもねってうそをついた)罪の償い」だと吐露。ウクライナ人に謝罪したいと述べた上で「プロパガンダ機関の中に抵抗者がいる。親政権メディアの他の記者が私の行動に気づいてくれることを願う」と表明した。
記事では「ロシアが一方的に併合したクリミア半島はウクライナ領」「ロシアは首都キーウ近郊ブチャで戦争犯罪に手を染めた」と主張。獄中の反体制派指導者ナワリヌイ氏への「拷問」も告発しており、ナワリヌイ氏陣営は「支持者がプーチン氏の愛読紙を攻撃した」と歓迎した。 
●「国としてのロシアと、ロシアの人々とはまったくの別物」 21世紀の悲劇 2/12
フィンランドとロシア。1300キロ以上にわたる国境線を持つ隣国だが、常に緊張した関係に置かれてきた。2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻したことにより、フィンランドは中立政策を転換し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を決断した。
2月10日から全国で順次公開される映画「コンパートメントNo6」は、モスクワに留学中のフィンランド人学生ラウラと、粗野なロシア人労働者リョーハを主人公に描いた。侵攻前の2021年に製作されたこの映画では、最初は反目していた2人が徐々に心を通わせる過程が描かれている。フィンランド生まれのユホ・クオスマネン監督は、それだけにロシアによるウクライナ侵攻に強い衝撃を覚えたという。
ロシアのウクライナ侵攻ですべてが変わってしまった
この映画は、フィンランド、ロシア、エストニアによる共同作品でもある。長編デビュー作「オリ・マキの人生で最も幸せな日」がカンヌ映画祭ある視点部門でグランプリを受賞したクオスマネン監督は、「フィンランドの映画産業は小さく、私たちは通常、他の国からの財政的支援を必要としています」と説明する一方、大勢の人々と仕事を進めるうえで、さまざまな問題や感情のぶつかり合いがあったと明かす。
映画の大半は、狭い列車の中で撮影された。ムルマンスクとテリベルカという寒村での撮影は悪天候の連続だったという。「それが、この映画のコンテンツの一部になりました。祖父母がお互いに仕掛けた残酷な行為(ソ連とフィンランドが1939年から44年にかけて戦った冬戦争と継続戦争のこと)にもかかわらず、私たちが同じ列車に乗り合わせて、どうやってその空間を共有できるかを見つめることは素晴らしい作業でした」。
実際、クオスマネン監督はこの映画の撮影を通じ、「本当に一瞬、私は未来に楽観的になりましたが、」と明かす。「昨年2月にすべてが変わってしまいました。世界が数十年後退したようにも感じました」
国に対して何の力も持てないロシア人
監督が明かしたように、2022年2月24日に起きたロシアによるウクライナ侵攻を契機に、フィンランドの世論は大きく変化した。ロイター通信などによれば、NATO加盟を望む世論は2020年ごろには2割程度にとどまっていたが、侵攻直後の世論調査では過半数を超えた。22年5月に来日したサンナ・マリン首相は、岸田文雄首相との共同記者会見で「ロシアの行為は明白な国際法と国連憲章の違反だ。ロシアの戦争は止めなくてはならない」と強調した。
フィンランドとスウェーデンは同月、NATOへの加盟を申請した。現在、トルコとハンガリーの批准が遅れているが、フィンランドとスウェーデンは今年の早い時期に加盟を実現したい考えだ。
クオスマネン監督は「国としてのロシアと、ロシアの人々は別のものです。ロシアは民主主義ではありませんが、人々はそれを変える力を本当に持っていません。プーチン(ロシア大統領)と政権が行っている全ての犯罪が、罪のない人々に対する憎悪を助長していることがとても悲しい」と語る。
先の大戦でも、旧日本軍の兵士たちは、中国大陸や南太平洋の島々で現地の人々と温かい交流を持ったという証言を数多く遺している。真珠湾攻撃を立案した山本五十六連合艦隊司令長官も戦前、米国に留学して大勢の米国人との間で知己を深めた。
ウクライナを強く支援するフィンランド
ロシアとフィンランドの人々が、ラウラとリョーハのような心の触れ合いを再び持てる日が来るのだろうか。ロシア社会に生きる市井の人々に優しい視線を投げかけるクオスマネン監督ですら、「これらの(ロシアによるウクライナ侵攻が与えた)傷を癒やすためには1世紀かかるでしょう」とも話す。
昨年6月3日、東京・南麻布にあるフィンランド大使館は「フィンランド国防軍国旗の日レセプション」を開いた。参加者に配られた記念品にグレーの毛糸玉と編み棒、説明書2通などがあった。毛糸玉は、フィンランドの毛糸メーカーNOVITAのものが100グラム(130メートル分)。
説明書は、1996年に日本に設立され、フィンランドの社会や文化などを伝える「フィンランドセンター」によるもので、1通は日本語で、毛糸の靴下の編み方を教えるもの。もう1通は「Knits for the Unknown Soldiers」と題された1枚の説明書だった。そこには、英語で、冬戦争当時、フィンランド女性たちが極寒の戦いを強いられた兵士たちのため、毛糸で靴下やヘルメットの内張り、ライフルカバーなどを編んだ歴史が紹介されていた。毛糸の玉は、フィンランドの人々が誓った祖国防衛の決意を語っているようだった。
フィンランドには、クラウドファンディングの代わりに、ウクライナ軍が使う砲弾にメッセージを書くことができるサービスを提供する非営利団体「Sing My Rocket」もある。すでにフィンランドだけで700件の注文があり、寄付は総額14万ユーロ(約1940万円)にのぼるという。フィンランドはNATO加盟を目指すとともにウクライナへの軍事支援にも積極的な姿勢を示している。
ロシアによるウクライナ侵攻は今も続いている。
●ロシア軍の死傷者数が急増「侵攻直後以来の多さ」の分析も  2/12
ロシア軍はウクライナへの軍事侵攻から1年となるのを前に戦闘を激化させています。
こうした中イギリス国防省は最近、ロシア軍の死傷者数が急増し、去年2月の侵攻直後以来の多さになっていると分析しています。
ウクライナ軍は、ロシアが軍事侵攻の開始から1年となるのを前に、大規模な攻撃を仕掛けてくると警戒を続け、ロシア軍は東部などで戦闘を激化させています。
一方、イギリス国防省は12日にウクライナ軍参謀本部のデータを引用する形でロシア軍の死傷者数を分析しました。
それによりますと直近の一日当たりの死傷者数は平均824人と、去年6月から7月のころと比べて4倍以上になっているとしています。
そして、ロシアは去年2月の侵攻後、最初の1週間以来、最も多くの死傷者がでている可能性があると分析しています。
その理由について、イギリス国防省は訓練を受けた兵士が不足していることや、現地での兵器など軍備品の補給不足など複合的な要因があると指摘しています。
さらにアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は11日に、「ウクライナ軍の当局者などはロシア軍が大規模攻撃を行うのに必要な十分な戦力を保持していないと発言している」としたほか、ロシアの軍事評論家からも前線のロシア兵の士気が下がっているという見方を報告書の中で示しています。
●ロシア大規模攻撃 激戦地で攻勢“兵力倍増か”ウクライナの反撃は 2/12
ロシアはエネルギーなどの主要インフラ施設を標的に大規模な攻撃を仕掛けた。ゼレンスキー大統領の欧州訪問に対する抗議と牽制と見られる。10日、ロシア軍によるミサイル攻撃がウクライナ各地で多発した。ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、ロシア軍が黒海の艦艇から発射した巡航ミサイル「カリブル」2発が、モルドバとNATO、北大西洋条約機構加盟国であるルーマニアの領空を通過し、ウクライナ西部上空に入ったことを明らかにした。ルーマニア国防省は事実関係を確認できないとしたが、モルドバは領空通過を確認した。また、同総司令官は、9日夜から10日にかけて、ロシアが防空ミサイル「S-300」など106発を、ウクライナ・ハルキウ、ザポリージャなどに向けて発射したことも発表した。
現地英字メディア「キーウ・ポスト」によると、ロシアは大規模攻撃を展開するために、ウクライナとその周辺に50万人の兵士を集結させたとの情報も。昨年2月の侵攻開始時を大幅に上回る規模となる。ロシア軍は当時、首都キーウ、東部、また、南部と兵力分散による多方面で展開、失敗に終わったことから、今回は東部に集中して兵力を投入するとの見方が有力視される。
ニュースサイト「ウクラインスカヤ・プラウダ」は9日、ロシア軍は戦車1800台と装甲車両3950台、戦闘機400機などを待機させ、戦闘に備えていると報じた。ウクライナがロシアからの奪還を宣言した東部ドネツク州の要衝リマンは、ロシアによる大規模攻撃の標的の一つとされている。ロシア軍は、要衝リマンの奪還を図ることで、イジューム、スロビャンスクへと勢力を拡大し、ロシアの拠点化を目指すものと見られる。欧米による供与予定の主力戦車がウクライナに到着する前に、作戦展開を急ぐ可能性が指摘される。
ウクライナは、ロシア大規模攻撃に備えて対応に追われる。国営通信社「ウクル・インフォルム通信」によると、長期化する侵攻で兵力不足が顕在化する中で、ウクライナ内務省は「国家警察隊」、「国家国境警備隊」の一部である「突撃旅団」に入隊する志願者の公募を開始した。募集初日の4日、527人が申請書を政府に提出した。一方、欧米からウクライナに対する独製戦車「レオパルト2」の供与に加えて、同車の1世代前の主力戦車だった「レオパルト1」の追加供与が決定した。ドイツ、デンマーク、オランダの3国が、ウクライナに対して178台を送ることになる。ドイツ・ハベック副首相は、3月までにウクライナが2桁の数の「レオパルト1」を自由に使えるようになる見込みだとした上で、「ロシアの春の攻勢を撃退する大規模な数となる」と語った。
米シンクタンク・戦争研究所によると、ドネツク州ブフレダルで活動中のロシア軍の「海軍歩兵旅団」2部隊が激しい損失を受けた。同旅団の人員に対する戦闘指揮ではなく、訓練不足が戦術的失敗を招いたものと分析している。ロシア軍は保有する戦車の半数を失うなど、苦戦する側面も。オランダの調査団体「Oryx(オリックス)」の集計を報じた米CNNによると、ロシア軍は侵略開始時点で運用可能だった戦車約3千台のうち、約1700台を喪失した可能性があるという。ロシア軍の戦車の損害は、破壊1008台、損傷79台、放棄87台、ウクライナ軍による鹵獲が546台に達する。ロシアはウクライナ戦争の開始以降、運用可能な戦車の半数を失った可能性がある。ウクライナ、ロシア両軍にとって、今後の戦闘は戦車が重要な鍵となる。欧米によるウクライナへの主力戦車の供与が決定しているが、戦地への到着時期などの詳細は判明していない。・・・
●ポーランド大統領、ウクライナへの戦闘機供与は「簡単ではない」 2/12
ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は11日、ロシアによる侵攻が続くウクライナへのF16戦闘機の供与について、「非常に重大な決断」であり「簡単にできることではない」と、BBCの単独インタビューで語った。
ドゥダ大統領は、BBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」の司会を務めるローラ・クンスバーグ前政治編集長の取材に応じた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアとの戦争に勝つには戦闘機が必要だと各国に訴えている。
ウクライナの隣国であるポーランドは侵攻開始以降、ウクライナを最も声高に支持してきた国の一つ。
先月にはポーランドを含む欧州11カ国が、ウクライナへの追加の兵器供与を表明した。これには戦車や弾薬などが含まれる。
戦闘機の供与は「深刻な問題」もたらす
ポーランドの首都ワルシャワでBBCの取材に応じたドゥダ大統領は、F16戦闘機の供与は「深刻な問題」をもたらすだろうと述べた。その理由として、ポーランド空軍が所有するF16戦闘機は50機未満で、「十分な数ではなく(中略)もっと多くの機体が必要」なことを挙げた。
そして、F16のような戦闘機には「非常に重要なメンテナンスの必要性」があるため、「数機送るだけでは不十分だ」と強調した。
また、ポーランドは北大西洋条約機構(NATO)の一員であり、戦闘機の供与は一国の判断ではなく「共同決定」のもと行われなければならないとした。
戦闘機の供与をめぐっては、NATOが直接戦争に巻き込まれる事態につながるのではないか、さらにはロシアとの戦争に引き込まれるのではないかとの懸念が出ている。ドゥダ氏は侵攻が始まった当初は、戦闘機の供与は「ウクライナでの戦闘への軍事干渉を招く」ことになると述べていた。
ドゥダ氏はゼレンスキー氏の熱心な支持者の1人で、 歩兵戦闘車や大砲、ドローン、弾薬といった重火器の主要供給者として多大な軍事援助を行ってきた。
ここ数週間では、他の同盟国に戦車の提供を約束するよう熱心に働きかけている。
ポーランドはまた、何百万人ものウクライナ人に避難場所を提供してきた。
先週イギリスなど欧州数カ国を訪問したゼレンスキー氏は10日、ワルシャワも訪れてドゥダ氏と面会した。
ドゥダ氏は「ウクライナには常に兵器が届けられなければならない。(中略)武装が必要だからだ」との強い考えを示している。ただ、少なくとも短期的には、ポーランドや他の同盟国が大量の戦闘機を送る可能性は低いと、同氏が考えていることは明らかだ。
イギリスも同様に、当面の間はウクライナに戦闘機を供与するのは現実的ではないとしている。
ドゥダ氏ら各国指導者は、自国への脅威を感じていると強調している。
ドゥダ氏がワルシャワでロシアの侵攻について話した内容と、イギリス議会で話されている内容は、まるで違う。ポーランドは、北部でロシアの飛び地カリーニングラードと接しており、ワルシャワからその国境までは320キロほどしか離れていない。
●スイス、自国製対空砲のウクライナ向け再輸出承認を拒否 2/12
スイス経済省経済事務局(SECO)は12日までに、スペイン政府によるスイス製対空砲のウクライナへの再輸出の承認申請を退けたことを明らかにした。
CNNの取材に述べた。スイスの戦争物資の関連法に抵触することを理由にした。
同局の報道担当者は、デンマークとドイツも昨年、同様の要請を寄せたが同じ理由で拒絶したと指摘した。
スイスには同国製の兵器や他の戦争物資の再輸出を厳しく制限する連邦法がある。スイス国会では現在、同法の規定を緩和させるため今月3日に提出された法案が審議されている。
スイスは、ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った際には「非常事態」の到来を根拠に、固持し続けてきた中立主義を捨て欧州連合(EU)が発動したロシアへの制裁に同調していた。
●ウクライナ支援で蘇った英国の外交:外交力を回復させることはできるのか  2/12
ロシア軍のウクライナ侵攻から今月24日で1年目を迎える。ロシアのプーチン大統領は軍の再編成を終え、大規模な軍攻勢を仕掛けてくるのではないかと予想されている。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は今月8日からロシア軍侵攻以来2回目の海外訪問に出かけ、英国、フランス、欧州連合(EU)の本部ブリュッセルを次々と訪問し、軍事支援を訴えてきた。
興味深い点は、ゼレンスキー大統領が最初の欧州訪問先に英国を選んだことだ。ある意味で当然の選択ともいえる。ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、英国は欧米諸国の中で最も早く支援を実施し、キーウが願う軍事支援を迅速に応じてきたからだ。攻撃用戦車の供与が問題となった時、ドイツのショルツ首相が世界最強の戦車「レオパルト2」の供与問題で国内のコンセンサスを得るのに時間がかかった。スナク英首相は1月14日、同国の主力戦車「チャレンジャー2」の供与をいち早く申し出ている。ショルツ首相が「レオパルト2」の供与を決定したのはそれから11日後の1月25日だ。
軍事的観点からいえば、ウクライナ軍にとって北大西洋条約機構軍(NATO)で最も広く配備されているドイツ製「レオパルト2」が最適だったが、英国の攻撃用戦車の供与はショルツ独政権や他の同盟国に戦車供与への圧力となったことは間違いない。その意味で、ゼレンスキー大統領は欧米諸国の中で常に先頭を切って支援を実施してくれる英国に感謝しているはずだ。
一方、EU離脱(ブレグジット、2020年1月31日以降)後、英国は厳しい経済事情、国内問題を抱えていた時、ウクライナ戦争が勃発した。ジョンソン首相(当時)はいち早くキーウを訪問し、ウクライナへの軍事支援を世界に向かってアピール。ジョンソン氏は辞職後もキーウを再度訪問し、ゼレンスキー大統領と会談している。表現は不適切かもしれないが、ウクライナ戦争はEU離脱後の英国の外交を復活させる絶好の機会となったわけだ。
インスブルック大学の政治学者、ゲルハルト・マンゴット教授はオーストリア国営放送とのインタビューで、「英国はウクライナ戦争に深く関与することで、往年の英国の外交力を回復させようとしている」と述べている。
英国にとって対ロシア関係は久しく険悪な関係だったこともあって、英国の外交は全面的にウクライナ支援に傾斜していった。英国で2018年3月4日、亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が、英ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見された通称スクリパリ事件が起きた。調査の結果、毒性の強い神経剤、ロシア製の「ノビチョク」が犯行に使用されたことが判明し、英国側はロシア側の仕業と判断し、ロシア側の情報機関の蛮行に対して、強く反発してきた経緯がある。
英国の外交にとって有利な点は、EUの盟主ドイツが第2次世界大戦時のナチス・ドイツ軍の戦争犯罪という歴史的な負い目もあって、紛争地への軍事支援が難しい事情があることだ。ショルツ首相が「レオパルト2」をウクライナに供与するかどうかで多くの時間をかけた姿が世界に流れ、「ドイツはウクライナ支援にブレーキをかけている」といったドイツ批判がメディアで報道された。
一方、ドイツの過去の負い目を巧みに利用し、欧州外交の主導権を狙うマクロン仏大統領にとってドイツ抜きでは経済支援を含めウクライナ支援は難しい。27カ国から構成されたEU加盟国の中には、フランス主導のパフォーマンスを中心としたEU外交を良しとしない国が少なくない。慎重だが、経済力を持つドイツ抜きではEUの問題を解決できないからだ。
ゼレンスキー大統領は8日、ロンドンでスナク英首相と会談し、議会で演説を行った。そこで同大統領は、「ウクライナの勝利のために戦闘機の供与を」と訴えた。スナク首相はキーウの願いに対して快諾したわけでないが、検討を約束している。
攻撃用戦車の供与問題でもそうだったが、欧州諸国が決定するまで時間がかかることを学んだゼレンスキー大統領は攻撃用戦車の供与が決定した直後、時間を置かず素早く「次は長射程ミサイルと戦闘機の供与を」と要求した。ゼレンスキー大統領がその最初のアドバルーンを英国で上げたのは当然だった。
EU加盟国の間では、ウクライナを支援する点でコンセンサスはできているが、ハンガリーのオルバン政権はロシアのプーチン大統領に親密感を持ち、その人脈で低価のロシア産天然ガスを獲得するなど、加盟国内で対ロシア政策、制裁では一致はしていない。
ちなみに、マクロン仏大統領がEU首脳会議の前日の8日、欧州歴訪中のゼレンスキー大統領をパリに招き、ショルツ独首相と共に会談し夕食会まで開催したことについて、招待されなかったイタリアのメローニ首相は9日、「不適切だ」と批判している。EUの首脳陣の中には、いがみ合い、嫉妬、嫌悪といった感情が皆無ではないわけだ。
なお、EUのフォンデアライエン欧州委員長によると、EUは過去1年でウクライナ支援に670億ユーロ(約9兆4300億円)を拠出したという。EUは9日、対ロシア追加制裁として100億ユーロ(約1兆4000億円)超相当の輸出禁止措置を盛り込むことを明らかにしたばかりだ。
英国はEUから離脱したこともあってブリュッセルの意向に拘束されず、フリーハンドでウクライナ支援を決定できる。これは、英国がウクライナ支援でEUのドイツやフランスより一歩先行している大きな理由だ。
ウクライナで戦争が続く限り、英国の外交はEUの外交を上回るスピードと決断力を発揮するだろう。戦争が終わり、「ウクライナの復興」問題が前面に出てきた時、ドイツを中心としたEUの外交が英国に代わって主導的な役割を果たすのではないか。

 

●独裁者プーチン ウクライナ戦争後に「ロシア中心の世界を構築」という皮算用 2/13
間もなく開戦から1年が経過するものの、依然として膠着状態が続くウクライナ戦争。ロシアの暴挙により分断されてしまった国際社会はこの先、どのような道を辿ることになるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、現在起きているという「世界の3極化」について詳しく解説。さらに各国の思惑を分析しつつ、ウクライナ戦争の今後の予測を試みています。
プーチン大統領が作り出した「歪み」。ウクライナ戦争が国際情勢に与える分断
Keeping at it.「諦めずにやり遂げる」というのが日本語訳だと思いますが、ロシアによるウクライナ侵攻を巡って、ロシア・ウクライナ双方がこのような心理に陥っていることがよくわかります。
ウクライナにとっては当然のことですが、自国および自国民の存亡をかけた最大の戦いであり、諦めることは即座に国家の消滅か、不可逆なロシア化が進むことを意味し、20年余りの“独立”に終わりが訪れることを意味します。
それを何としても食い止めるために、欧米社会を味方につけてロシアによる蛮行に対抗し、反攻しているのがウクライナの人たちであり、それを後方支援しているのがNATO諸国という構図です。
そしてロシアにとっては、プーチン大統領が抱くグランドデザインに沿って、自国に次いで地域第2位の軍事大国になり、欧米諸国の影響が強まってきたウクライナの力の伸長を食い止めるという“国家安全保障上”の懸念と、ウクライナを未だに独立国とは見なさないという基本姿勢も合わさって、今のうちにロシアに対抗する芽を摘もうという狙いがあっての軍事作戦(侵略)という性格が見られます。
プーチン大統領の行動に対しての価値判断はあえて避けますが、国内外に抑えるべき対象(190以上の少数民族、14の国境など)が満載のロシアの大統領で、ロシア国民の生命と安全を守るための行動としてのウクライナへの攻撃というのは、彼を支持する人たちにとっては筋の通った話なのでしょう。
どちらの国もリーダーもkeeping at itの姿勢に陥り、雌雄を決すまで止めることが出来ないのが現状と言えます。
ゆえにゼレンスキー大統領は、当たり前の主張なのですが、「ロシアに不当に侵略された領土全てが返されるまでは戦い続ける」と言わざるを得ませんし、プーチン大統領は、多くの誤算があったにせよ、一度始めてしまった戦争をやり抜く以外には選択肢がないと信じて、攻め続ける姿勢を崩していません。
ロシアが隣国に侵略をしたということに対して支持を表明する国はありませんが、ロシアが抱く懸念にシンパシーを感じたり、欧米諸国とその仲間たちによるロシアに対する制裁はやりすぎと考えたりする国々はそれなりの数に上っています。
そこで何が起きているかと言えば、世界の3極化です。
欧米諸国とその仲間たち、つまりロシアに対しての制裁措置を取っている国々のグループが一つ目。中国やイラン、北朝鮮、ミャンマー、シリアなど、ロシアに対してシンパシーを持ち、反欧米諸国の姿勢を崩さないのが2つ目。そして3つ目が、ロシアによるウクライナ侵攻は非難するものの、経済制裁には加わらず、逆に実利主義の立場からロシアとの貿易も積極的に続ける国々が第3極で、その筆頭例がインドとトルコと言えます。
Emerging economiesに分類される中南米諸国、中東諸国、そしてアフリカ諸国は、中ロから受けている経済的な支援の存在に加えて、国内にロシアや中国と類似した内政問題を抱えており、欧米諸国とその仲間たちからは人権問題を指摘されているという共通点から、明日は我が身との認識も働き、対ロシア制裁には加わりません。しかし、totalitarianな性格を持ち、中央集権的な統治を進める特徴がある第2グループには近いものの、その場の利益に沿った動きをする特徴もあることから、別のグループ(第3極)に属します。
自らの行動によって欧米諸国とその仲間たちとの関係修復が不可能に近くなったロシアは、対ロシンパシーを拡大するために、第3極に属する国々に接近して国際社会における完全なる孤立を避ける戦略に出ています。
ここ最近のラブロフ外相の南アやマリ、ケニアをはじめとするアフリカ諸国歴訪、少し前に行われた中東諸国(サウジアラビア王国、UAE、カタールなど)との対話と戦略的パートナーシップの締結を行っています。
その結果、第3極の国々からのロシア非難が収まり、ロシアはそれらの国々に安価でエネルギー資源と食糧、軍事的な技術などを輸出するという構図が出来上がっています。そうすることで、ロシアの孤立はかろうじて免れ、新たな勢力圏・パートナーシップが形成されているのが現状です。
以前、ウクライナ戦争後の世界のために新しい世界秩序を作り始めることが必要とお話ししましたが、ロシアサイドは、現在、ウクライナで戦争を遂行しつつ、外交面では“ロシア中心の新国際秩序”または“グループ”を形成しようとしているように思われます。それがどこまで拡大するかは、今後のウクライナでの戦況にもよるでしょう。
では、ウクライナはどうでしょうか?
新国際秩序云々の話にまでは恐らく考えは至らない状況かと思いきや、しっかりと停戦後の国としての生存方法も考えているようです。
先日のワシントンDCへのサプライズ訪問に続き、今週は英国・ロンドンを皮切りに、フランス・パリ、そしてベルギー・ブリュッセルを訪問して、EU内での立ち位置を確保しようとしています。
もちろん主目的は、現在、ロシアによるウクライナ侵攻に対する反攻攻勢を強め、ロシアの企みを挫き、ウクライナを守るための手段と支援の確保・拡大ですが、何らかの形で生き残った場合、戦後の立ち位置、そして安全の保障のため、EU加盟も含めた策を考えています。
当初はロシアからのaggressionに対して直接的に反撃してもらうためにNATOへの参画を望んでみましたが、ロシアに与える刺激の大きさを懸念して、NATOは選択肢として取り上げない決定をしました。
一応、表向き、プーチン大統領がウクライナ侵攻に乗り出す理由として挙げたのが、NATOの東進への危機感ですから、NATOとしてロシアとの直接的な戦闘を避けるためには致し方ないと言えます。
ただEU加盟も非常にハードルが高いと思われます。今年に入ってEU加盟に必要とされる政治の透明性(transparency)条件に応えるため、汚職の恐れがある政権幹部を、戦時中であるにもかかわらず次々と更迭する決定を行いました。多少、士気に関わる副作用が出ているようですが、ゼレンスキー大統領の目は、現在の戦闘よりも、生き残った後の位置づけに注がれているように感じます。
それは同時にウクライナ側も戦況の膠着状態を認識しており、急に戦況が動くことはないとみている証拠と言えるかもしれません。
東部ではまだ戦略的な地域の帰属をめぐる非常に凄惨な戦いが続いていますが、一進一退の攻防が続いており、ロシア・ウクライナ双方に多くの犠牲を出しつつも、決定的な状況には至っていません。
ただ長期戦の中で疲弊し、消耗が激しいのは実際にはウクライナ側だと思われ、その場合、NATO諸国からの支援の遅れは直接的に反転攻勢の停滞または失敗に繋がりかねないぎりぎりのラインまで来ているとの情報もあります。
ゆえに身の危険を顧みずに欧州各国を訪れて、ドイツのレオパルト2戦車に代表される最新兵器の供与の時期を一刻も早めてほしいという要請を行っているようです。
ただ、アメリカにも断られたように、欧州各国も戦闘機の供与はロシアを過度に刺激することとなるという理由から断り、ウクライナが敷く防衛戦略上、必要とされるレベルの戦力には届かないというジレンマに陥っているようです。
そうしている間、2月に入って頻繁に囁かれるようになったのが、「ロシアが2月中に大規模な攻撃に乗り出す可能性が高い」という見解です。
今週に入ってウクライナ国境に20万人から30万人規模のロシアの精鋭部隊が配置され、同時にミサイル戦略部隊の動きも活発になってきたという情報があります。
思惑としては、4月から5月にはウクライナに配備されると言われている欧米諸国が供与する戦車が投入される前に、ウクライナ東部・南部4州(ロシアが一方的に編入した)を完全に掌握し、今回の“特別軍事作戦”の目だった成果としたいということのようです。
今回の戦いでロシア側も多くの戦車を失っていますが、まだ余力はあるようで、質では欧米の最新鋭戦車には劣っても、その分、量で圧倒したいと考えているようで、戦車部隊もまた国境地帯に集結しています。
空軍の空からのサポートが得られるかは不透明な状況のようですが、雪解けを待たずに地上戦のスタートが切られる可能性が高まっているようです。
それに加えて、以前よりお話ししているNATOからウクライナへの供給を断ち、ウクライナを孤立させるために、ポーランド国境地域にあるリビウ周辺、特に戦車などを輸送する鉄道網へのミサイル攻撃を徹底する作戦を実行すると言われています。
そうすることで以前より行われているウクライナの生活の破壊とそれによる厭戦気分の創出という戦略が進められ、NATO各国からの戦車が投入されるまでに東部・南部の支配を確立できたら、ロシア側に有利な条件で停戦協議に持ち込めるという算段があるようです。
それがうまく行く保証はありませんが、ウクライナ全土を掌握することがほぼ不可能な中、ロシアが追求できる“勝ち”の戦略はこれしかないのではないかと考えます。
ウクライナから欧米諸国への戦闘機の供与要請はそれを理解したうえで、それを阻止するための手段のはずですが、戦闘機を供与することでこの戦争がウクライナ外に広がり、ロシアとNATOとの対決を生み出す戦闘のエスカレーションに進むことを恐れたNATO諸国は二の足を踏んでいるのが実情です。
ただNATOの腹の中には別の思惑もあるようです。現時点では、まだ核のボタンに手をかけていないロシアを過度に刺激せず、何とか落とし前をつけたいと考え、ロシアとの水面下での協議が進められています。ここではまたウクライナは蚊帳の外に置かれているという悲しい状況なのですが、ロシアを弱体化し、凶暴性をしばらく閉じ込めた上で、ロシアを活かした新しい態勢づくりを画策しているようです。首謀者は英国と米国と思われますが、米国は現在、国内政治の対立が顕在化しているため、対ウクライナ支援を表明しつつも実際にコミットメントを深めることはできないため、この計画の主導権は英国に渡しているようです。
ただフランスとドイツは上記のようなアレンジメントを100%支持はしておらず、米英の出方によっては対ロシア包囲網がさらに綻ぶ可能性も見えてきました。今回に関してはさすがにないとは思いますが、元々、フランスもドイツもロシアに近い関係があるため、自らの存在を国際社会に示すためにロシアに対する非難と制裁の網を緩めるようなことが起こってしまったら、今回のウクライナ戦争の形勢は一気に変わることになってしまうかもしれません。
今回トルコ南部とシリア北西部で起きた大地震により、トルコ政府がしばらくは調停役の任を果たせない可能性が高いこともあり、非常に複雑な紛争のバランスを取る存在の不在が懸念されます。
そのトルコ・シリアの震源地近くでは、敵味方なく、米国もロシアも、ウクライナも中国も災害対応と復旧支援を行っているのは非常に望ましい情景ですが、その裏でウクライナの人々の心理的物理的な状況は悪化の一途を辿っているのも事実で、もしロシアが今月に大規模な攻撃に打って出るようなことがあれば、その際は世界において同時多発的に生存の危機に瀕する状況が点在し、さらなる悲劇を生み出すことになるかもしれません。
残念ながら世界は分裂し、相互不信が高まっています。今後、世界はポリクライシス(複合的危機)に直面し、その解決のためには国境を越えた協力が必須となりますが、そのための土台はコロナのパンデミックをめぐる不均衡の拡大と、ウクライナ戦争が生み出した歪みによって崩れそうになっていると感じています。
以上、国際情勢の裏側でした。
●ウクライナ東部2州「制圧に2年」 ロシア軍事会社幹部 2/13
激しい戦闘が続くウクライナ東部ドネツク州とルガンスク州について、部隊を派遣するロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者、プリゴジン氏は「完全制圧に1年半から2年かかる」との見通しを示した。ロシア軍のブロガーに語った。プーチン大統領は3月までに両州を制圧するよう軍に指示しているが、兵士の訓練不足や兵器不足から実現が難しい状況だ。
米政府によると、ワグネルはウクライナに約5万人の兵士を派遣し、両州の侵攻を支援している。プリゴジン氏は12日、ドネツク州の要衝バフムトの北にある集落の一つを占領した、とSNS(交流サイト)のテレグラムで発信した。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は11日、ドネツク州でロシア軍が毎日50回程度の攻撃を仕掛けてきていると明らかにしたうえで「ドネツク州東部の最前線に沿って防御を維持している」と語った。ウクライナ軍によると、11〜12日には12回のミサイル攻撃、90回以上の多連装砲での攻撃があったという。
ただロシア軍は東部で大きな戦果を上げていない。米シンクタンクの戦争研究所は11日、ドネツク州でのロシア軍の攻撃失敗について「新たに動員された兵士が短期間で効果的な攻撃を仕掛ける準備を整えられなかった」と兵士の訓練不足による戦力低下の可能性を指摘した。
英国防省は12日、ロシア軍兵士の1日あたりの死傷者数が増えているとのデータを公表した。2023年2月の1日あたりの死傷者数は平均824人。22年7月の5倍近くに達し、侵攻当初を除いて、最も多くの損害が出ている。英国防省は「訓練を受けた兵士の不足や前線全体の兵器・物資不足など複合的な要因による」と指摘する。
ウォランダー米国防次官補は10日、ロシアの戦力について「保有していた主力戦車の半数を失ったと考えられる」と語った。オランダの戦争研究サイト「オリックス」によると、視覚的に損壊を確認できたロシア軍の戦車は1000両に上り、このほか544両がウクライナ軍に奪取されたという。侵攻前の保有戦車数は3000両だったとみられ、損失は半数に相当する。
侵攻1年となる24日に向け、ロシア軍が大規模攻撃に打って出るとの観測が強まっているが、足元の兵士・兵器不足から実行を疑問視する声も出てきている。
●プーチンがモルドバ占領…ゼレンスキー発言後、ミサイルがモルドバ領空通過 2/13
今月24日にロシアによるウクライナ侵攻から1年となるのを前に、ロシア軍が大規模攻勢に乗り出す可能性が指摘されている。そのような中で10日(現地時間)にはロシア軍がウクライナ南東部の都市ザポリージャに向け少なくとも17発のミサイルを発射するなど、ウクライナ全土に空襲を行った。ロイター通信が10日に報じた内容によると、ウクライナ軍の防空システムを回避したミサイルはエネルギー関連のインフラ施設などを攻撃したという。「ロシア軍は10日だけで少なくとも70発以上のロケット砲を発射した」とウクライナ軍は考えている。
とりわけ今回黒海から発射されたミサイルの一部がウクライナ西部に隣接するモルドバの領空を通過したことをウクライナ軍は確認した。ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、ベルギーのブリュッセルで開催された欧州連合(EU)の会議で「モルドバを崩壊させ占領するプーチン大統領の計画を入手した」と発言したが、今回のミサイル通過はその翌日に起こった。
ゼレンスキー大統領は「ミサイルの一部がモルドバと北大西洋条約機構(NATO)加盟国のルーマニア領空を通過した。これは軍事同盟と集団安全保障に対する挑戦だ」と批判した。モルドバ国防省も「ミサイルの領空通過を探知した」と明らかにした。しかしルーマニア国防省は「黒海のロシア軍艦艇によるミサイル発射は探知したが、ルーマニア領空は通過せず、国境から北東35キロ離れた地点を通過した」と説明した。
人口400万人の東欧の小国モルドバは現在東部のトランスニストリア地方を親ロシア派勢力が掌握しており、ウクライナ戦争直後からロシアによる侵攻の可能性が指摘されてきた。
●ウクライナ政府高官「ロシアが東部で戦闘激化も 力強く撃退」  2/13
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、東部のウクライナ側の拠点を掌握しようと周辺で攻撃を強めています。これに対してウクライナ政府の高官は、ロシア軍が大規模な攻撃を開始しているという認識を示しながらも「われわれは力強く撃退している」と述べ、徹底抗戦を強調しました。
ロシアは東部ドネツク州のウクライナ側の拠点のひとつバフムトの掌握を狙って戦闘を激化させていて、民間軍事会社ワグネルの代表は12日、SNSでバフムト近郊の集落を掌握したと主張しました。
ウクライナ側は、侵攻開始から1年となる今月24日に合わせたロシア軍による大規模な攻撃への警戒を続けています。
これについてウクライナの国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は11日、地元メディアに対し「ロシアはすでに大規模攻撃を開始している」としながらも「われわれは力強く撃退している」と主張しました。
そして「ロシアが計画していた攻撃は徐々に行われているが、彼らが期待していたものにはなっていない」と述べ、徹底抗戦を強調しました。
こうした中、ウクライナのレズニコフ国防相は11日、アメリカのオースティン国防長官と電話で会談したことをSNSで明らかにしました。
この中でレズニコフ国防相は、近く予定されている、欧米各国がウクライナへの軍事支援を話し合う会合に向けて、最新の戦況を説明するとともに、優先課題についてオースティン長官と意見を交わしたということです。
また、ウクライナ軍のザルジニー総司令官も11日、アメリカ軍の制服組トップ、ミリー統合参謀本部議長と電話で会談したことをSNSで明らかにしました。
ザルジニー総司令官はドネツク州の戦況が最も緊迫しているものの、バフムトではウクライナ軍が抵抗を続けていると伝えたとしています。
そのうえで「戦場のカギを握るのは火力であり、適切な兵器と弾薬が必要だ」としてアメリカ側に引き続き軍事支援を訴えたということです。
●「EU離脱を後悔」 人手不足、光熱費1000%上昇...止まらない英国の衰退 2/13
あの店も閉店か──。町の中心部で、店の窓が白いペンキで塗られていく。近くの店では、家族連れが毛布を大量に買い込んでいる。フードバンクは大行列だ。パブは閉店時間が早くなり、まるまる休業する日も増えてきた。
ここはイングランド北西部の田舎町ペンリス。寒くて、惨めで、数え切れないほどの問題にがんじがらめになった町だ。2月は例年よりも一段と寒くなると予想されているが、暖房も入れられないなか、人々の暮らしは一体どうなってしまうのか。
ほとんどの店が、週に数えるほどの日しか営業しておらず、営業日も午後4時には閉まってしまう。創業25年の人気パブや、18年前からある食料雑貨店も閉店した。安売り衣料品店さえも、売り上げが半減したため店を畳んだ。
サプライチェーンの問題でスーパーマーケットには、空っぽの棚が目立つ。卵がない。ジャガイモがない。Wi‐Fiも入らない。
筆者はこの1年ロシアの侵攻を受けたウクライナで取材活動をしてきたが、ミサイルが降ってくる危険を別にすれば、ウクライナのほうがペンリスよりもよほど仕事をしやすい環境だった。
今年はマイナス成長へ
イギリスは多くのトラブルに見舞われている。コロナ禍の余波、インフレ、エネルギー危機、生活費の高騰、交通機関や病院のスト、食料不足、貧困と格差の拡大、ウクライナ戦争の影響、そして忍び寄る不況の影。問題は大きくなる一方のように見える。
どうしてこんなことになったのか。「犯人」はたくさんいるが、最大の原因はブレグジット(イギリスのEU離脱)と劣悪な統治だろう。
2016年にブレグジットを問う国民投票が行われたとき、離脱派は、EUから「主導権を取り戻す」と主張したものだ。
だが、IMFが1月末に発表した世界経済見通しによると、イギリスは今年、主要国で唯一マイナス成長に陥るとみられている。戦争にかかりきりで欧米諸国の経済制裁を受けているロシアよりも、成長の見通しは悪い。
20年1月31日にEUから正式に離脱してから3年、イギリスは一体何の主導権を取り戻したのか、多くの人が考えあぐねている。
ブレグジットにより、国内外の企業では事務作業やコストが大幅に増えた。貿易障壁の復活で輸出入は急激に落ち込み、投資も減った。労働力が不足し、物価が上昇した。
英政府の財政運営を監視する予算責任局(OBR)によると、長期的にはイギリスのGDPはブレグジットによって4%落ち込む見通しだ。総生産額は毎年1000億ポンド、公的収入は400億ポンドずつ減っていく計算だ。
ロンドンは世界有数の金融センターだったが、ブレグジットにより、金融業界の専門職はごっそりパリ(とヨーロッパの他の都市)へと移住していった。このためヨーロッパの金融の中心というシティーの座は危うくなっている。海外直接投資も、10年から21年にかけて4%減った。
だが、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の報告書によると、長期的に見てブレグジットの最大の打撃を受けるのは家計だ。イギリスでは19年からの2年間で、食品価格が平均210ポンド(約3万3000円)上昇した。その痛みは低所得者ほど大きくなる。
一方、1707年からイギリスの一員であるスコットランドは、イギリスからの独立を問う2度目の住民投票の準備をしている。2016年のブレグジットを問う国民投票で、スコットランドでは有権者の62%がEU残留を希望したのだから無理もない。
16年当時、イギリス全体では52%が離脱を支持したが、今は違う。調査会社ユーガブの最近の調査によると、EU離脱は正しかったかとの問いに対して、イエスと答えた人はわずか34%で、54%がノーと答えたのだ。
それなのに、EU離脱を推進した保守党は政権を握り続けており、相変わらずブレグジットこそが成長への道だと主張している。野党の労働党も、ブレグジットが英経済にマイナスの影響を与えることを、公には認めていない。
光熱費が1000%上昇
だが、ブレグジットで出稼ぎ労働者が激減したことにより、イギリスでは33万もの人手不足が起きている。そのほとんどが運輸業、倉庫業、接客業、小売業の仕事だ。イギリス社会に欠かせないパブもピンチに陥っている。
低価格で人気のパブチェーン「ウェザースプーン」の創業者であるティム・マーティンは、16年にEU離脱を猛烈に訴えた有名人の1人だった。だが、32店舗もの閉店に追い込まれた今は、EUからの出稼ぎ労働者を増やすよう政府に働きかけている。もはや皮肉を通り越して、茶番だ。
伝統的に保守党が強いペンリスでも、16年は離脱支持が53%に達した。そして今、商店や企業の88%が人手不足に陥っている。イギリス人は接客業に就きたがらないからねと、あるバーの店員は語った。ずいぶん前から、こうした低賃金の長時間労働は、出稼ぎ労働者が担っていたのだ。
人手不足に苦しむ店に、燃料費の高騰が追い打ちをかけた。ペンリスにあるメキシコ料理店は昨秋、光熱費が1000%上昇するという見積もりを事業者から受け取った。
過去10年近く国外で仕事をしてきた筆者にとって、母国の衰退ぶりは衝撃的だ。本稿も、カーディガンを重ね着し、毛布にくるまりながら書いている。なにしろ自宅の暖房を数時間入れただけで、10ポンド(約1580円)もするのだ。
物価は高騰しているのに、賃金はほとんど上がらないことに抗議して、鉄道から郵便局、国民保健サービス(NHS)までが代わる代わるストライキをしている。このため救急病棟でさえ、待ち時間が12時間を超えることもある。
交通機関の運賃が大幅に引き上げられたため、ペンリスからバスで40分ほどの大きな町ケズウィックまで買い物に行こうにも、往復24ポンド(約3800円)もかかる。ちなみにイギリスの最低賃金は、1時間10ポンド程度だ。
イギリスを破綻させたのはブレグジットだけではない。だが、過去100年で最悪の生活水準の低下とされるものを目の当たりにすると、ブレグジットが不要だったことは明らかだ。
長期的な影響はさておき、人々は今、より貧しく、より惨めになり、イギリスは世界から孤立している。最悪なのは、イギリスがそれを自ら招いたことだ。 
●ロシア強硬派、「アラスカ奪還」主張で米ロ間に新たな火種 2/13
ロシアはアメリカからアラスカを取り戻すべきだ、とロシアの有識者が国営放送で主張した。
デイリー・ビースト紙のコラムニスト、ジュリア・デイビスが運営するYouTubeチャンネル「ロシアン・メディア・モニター」は2月10日、ロシアの国営ニュースチャンネル「ロシア1」の動画を掲載した。そのなかで、ロシアの中東研究所のエフゲニー・サタノフスキー所長はナポレオン戦争後に欧州で開かれたウィーン会議についてこう語っている。
「ウィーン会議(1814〜15年)はポーランドがロシア帝国に属することを認めた。フィンランドがロシア帝国に属することも認めた。私は(ソ連・東欧社会主義体制の崩壊に道を開いた)1975年のヘルシンキ宣言で確認された国境線ではなく、少なくともウィーン会議当時の国境線に戻るべきだという意見に同意する」
アメリカ議会図書館によると、アメリカがロシアからアラスカを720万ドルで購入したのは1867年だ。
「ロシアとの条約は、ウィリアム・シュワード国務長官とエドゥアール・ド・ストエクル駐米ロシア公使の交渉で締結され、署名された。何の役にも立たない土地を買ったとアラスカ購入を批判する人々は、この売買を『シュワードの愚行』と呼んだ」
ワシントンポストによると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2014年に国民との対話で、アメリカからアラスカを取り戻すことはできないかと質問された。プーチンは「なぜアラスカが必要だと思うのか」と聞き返し、ロシア国民はアメリカの州について「騒ぎたてるべきではない」と述べた。
米ロは戦争状態
だがウクライナ戦争が続く中、ロシアとアメリカの緊張は高まり続け、最近ではロシア政府内の強硬派がアラスカ奪還の可能性を口にし始めている。ウクライナ戦争において、アメリカをはじめ欧米諸国がウクライナに防衛のための兵器など軍事支援を続けていることを、ロシアは非難している。
昨年7月、ロシア国家院のビャチェスラフ・ボロージン議長は演説を行い、アメリカの対ロシア制裁への対抗策の一環として、アラスカ奪還を取り上げた。
AP通信によると、ボロージンは「海外でわれわれの資産を収奪しようとするアメリカの議員らは、ロシアにも取り戻すものがあることを認識すべきだ」と述べたという。
また、昨年7月にはシベリアの通信社NGS24が、ロシア連邦中部のクラスノヤルスク市内に「アラスカはわが領土」と訴える看板がいくつか出現したと報じている。
アラスカ州のマイク・ダンリービー知事は、ボロージンの発言に反応し、「アラスカを取り戻せると信じているロシアの政治家たちへ。幸運を祈る」とツイートした。
ロシア国営テレビの番組に出演したウクライナ侵攻を支持する政治評論家ドミトリー・クリコフは、アラスカについて語っただけでなく、ロシアとアメリカは 「1945年以降、戦争状態にある」と述べている。
●米大使館、ロシア滞在の自国民に即時出国指示  2/13
在モスクワの米国大使館は、ロシアに滞在している米国人に対しロシアから直ちに出国するよう指示した。ウクライナ戦争で法執行機関による恣意的な身柄拘束や嫌がらせのリスクがあると警告している。
米大使館は「ロシアに居住もしくは旅行している米市民は直ちに出国すべきだ」と表明。「不当な拘束のリスクがあり警戒を強める必要がある」とし「ロシアに渡航すべきではない」と述べた。
米政府は自国民に対しロシアから出国するよう繰り返し警告している。ロシアのプーチン大統領が部分動員令を発令した昨年9月にも同様の警告を発した。
米大使館は「ロシア治安当局は虚偽の容疑で米国市民を逮捕し、ロシアに滞在する米国市民を選んで拘束や嫌がらせの対象にしている。公正で透明な扱いを拒否し、秘密裁判や信頼できる証拠を提示せず有罪を宣告している」と述べた。
ロシア連邦保安局(FSB)は1月、スパイ容疑で米国市民1人に対する刑事手続きを開始したことを明らかにしている。
●スイスが「永世中立」返上か?紛争当事国への武器輸出承認の動き 2/13
紛争当事国への武器輸出は「中立法」違反
スイスがウクライナ紛争をきっかけに、200年余国是にしてきた「永世中立」を返上するかもしれない。
スイスの中道右派の自由民主党(FDP)指導者のティエリー・ブルカート氏はこのほど「武器輸出に関わる規制緩和」を求める動議を連邦政府に提出した。
スイスは「永世中立」の立場から、紛争当事国への武器輸出を禁止するだけでなく第三国が再輸出する際もスイスの了解を必要と定めている。
事実、ウクライナ紛争にあたって昨年4月ドイツがスイス製の弾薬をウクライナへ再輸出を求めたのを却下。6月にはデンマークがスイス製の装甲車「ピラーニャ3」20両の再輸出を申請したのも認めなかった。
しかしブルカート氏は英国紙「デイリーメール」電子版7日の記事で「我々は中立でありたいが、同時に西側社会の一員でもある。他国のウクライナへの援助を拒否すべきではない。もし拒否すれば、中立ではないロシアを支持することになる」と再輸出を認めるべきと主張している。
スイス国民も武器のウクライナへの再輸出には賛成派が多く、調査会社Sotomoの世論調査では回答者の55%が賛成しており、自由民主党以外の政党も賛意を表明しているという。(「デイリーメール」紙)
EUのロシア制裁にスイスも同調
スイスは欧州連合(EU)に加わっていないが、ウクライナ紛争にあたってEUのロシアに対する制裁を適用して国内のロシアの資産の凍結を行っている。これで「永世中立」の立場から一歩踏み出したことにもなっていたが、もし第三国経由でもスイスの武器がウクライナの戦場に送られることになれば、中立法に違反することになる。
スイスはナポレオン没落後の欧州の成り立ちを決めるウィーン会議で「永世中立国」であることが認められた。その後1907年のハーグ平和条約で中立国は領土の不可侵と引き換えに戦争に関与せず、戦争当事国の公平な扱いを保証し、武器や兵力を提供しないことが義務付けた中立法が成文化されている。
スイスは第一次、第二次世界大戦を通じてこの義務を基本的に守っただけでなく、1945年に設立された国際連合が「集団安全保障」をうたっているので中立国の義務を果たせなくなる恐れがあるという理由で、ジュネーブに国連欧州本部を招致しながら2002年まで加盟しなかった。
なぜ今「永世中立」を見直すのか
そのスイスがここへきて中立政策を見直そうというのは、言うまでもなくウクライナ紛争で戦争のあり方が大きく変わったからに他ならない。核保有国がその気になれば、小国の不可侵の権利もないに等しいということを示したからだ。それはスイスだけでなく、スウェーデンやフィンランドが軍事同盟の北大西洋条約機構(NATO)の加盟を申請して中立の宣言を実質的に返上したことにも表れている。
ウクライナ紛争は、現代の戦争には「中立」という立場はあり得ないことを示したようだ。
●ロシア軍が「少しずつ優勢に」 ウクライナ東部バフムート周辺で支配地域拡大 2/13
「壁のそばから離れないで。素早く動いて。一列で。一度に数人ずつ」
戦闘で荒廃したウクライナ東部バフムートの軍事拠点へ私たちを案内するウクライナ軍の護衛兵から、細切れの指示が飛んだ。ここはかつて、スパークリングワインで有名な街だった。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこの東部の街を「我々の要塞(ようさい)」と呼んでいる。ロシア軍はこの6カ月、バフムートを占領しようとしてきた。そしていま、侵攻開始から丸1年となる今月24日を前に、ロシア軍はバフムートは破壊すべく猛攻を強めていると、ウクライナ側はみている。
私たちはウクライナ兵の指示に従い、がれきが散乱する凍った通りを急ぎ足で進んだ。頭上には澄んだ青空。ロシア軍の無人ドローンにとって、理想的な天候だ。
私たちが道路を横断した直後、背後にロシア軍の砲弾が2発落ちてきた。振り返ると黒煙が上がっていた。私たちは進み続けた。
無差別なのか、それとも私たちを狙ったものかは分からない。バフムートでは動くものすべてが標的だ。兵士だろうが、民間人だろうが。
何時間たっても砲撃の音は止まない。上空ではロシアの戦闘機が轟音(ごうおん)を立てている。私たちから最も近い場所にいるロシア軍との距離はわずか2キロだ。
市内の一部では市街戦も起きている。気温が氷点下にまで落ち込み、弾薬が少なくなっている中、ウクライナ軍はこの街をまだ維持している。
「あらゆる種類の弾薬、特に砲弾が不足している」と、ウクライナ陸軍第93機械化旅団のミハイロ大尉は言う。大尉のコールサインは、「多言語を話す者」などを意味する「Polyglot」だ。
「西側同盟国の暗号化された通信機器や、部隊移動用の装甲兵員輸送車も必要だ。それでもこちらは何とかやっている。限られた資源でいかに戦うか。これがこの戦争で得た大きな教訓のひとつだ」
弾薬をめぐる問題は、ウクライナ軍が60ミリ迫撃砲でロシア軍の陣地を狙う場面で明らかになった。1発目は大きな音を立てて飛び出したが、2発目は発射されなかった。
煙がシューシューと音を立てながら立ち上った。兵士が「不発だ」と叫び、迫撃砲部隊は避難場所に逃げ込んだ。この弾薬は外国から送られてきた古いものなのだと、兵士は私たちに説明した。
バフムートの戦いは、大きい戦争の一部であると同時に、それ自体がひとつの戦争だ。ロシアの侵攻開始以来、特に激しい戦闘の多くがここで起きている。ロシア軍は1メートル、また1メートルと前進している。1人、また1人と犠牲者を出しながら。ロシアの悪名高い民間雇い兵組織「ワグネル・グループ」の戦闘員が次々とこの戦地へ送り込まれている。ロシア人の遺体が散乱しているとの報告もある。
ロシア側は現在、バフムートに通じる主要道路を実質的に支配しており、残されている裏ルートは細い補給線のみだ。
「(ロシアは)昨年7月からこの街を奪おうとしている」と、第93機械化旅団の広報担当イリナ氏は言う。
「いま、少しずつ向こうが勝ちつつある。向こうの方が資材が豊富なので、長期戦になれば向こうが勝つだろう。いつまでかかるかは言えないが」
「それまでに、向こうが資源を使い果たすかもしれない。頼むからそうなってもらいたい」
私たちは、敵に見つからないよう慎重に隠された発射拠点から、バンカーへと移動した。ここでは発電機がうなり、ストーブが温かい。兵士たちは居場所が察知されないよう、煙が外へもれないように気を配っている。戦争という日常の一部だ。ここで出会った兵士たちの間には、この先も戦い続けるという、静かな決意が漂っていた。
「(ロシアは)我々を街から撤退させるために包囲しようとしているが、うまくいっていない」と、迷彩服姿のイホル指揮官は話す。
「街は我々の支配下にある。砲撃を受け続けても、輸送手段は機能している。当然こちら側も損失を被っているが、何とか持ちこたえている。勝利に向かって進み続けるという、その選択肢しかこちらにはない」
しかし、選択肢はほかにもある。手遅れになる前にバフムートから撤退することだ。しかし、現場で街を防衛する兵は、この案を歓迎しない。
「本部からそうした命令があれば、仕方ない、命令は命令だ」と、ミハイロ大尉は言う。
「だが街から撤退する必要があるなら、何のためにこの数カ月持ちこたえたんだ? いや、撤退はしたくない」
ミハイロ大尉は、バフムートのために命を落とした人々についても語った。「ただウクライナを愛していた、勇敢で善良な男たちが大勢いた」と。
何より、バフムートを防衛してきた部隊が撤退した場合、ロシアにクラマトルスクやスロヴィヤンスクといったウクライナ東部の大都市への進攻の道を与えてしまう。
ロシアは、東部ドンバス地方や南部の前線地帯で攻撃の手を強めている。ウクライナ当局は、すでにロシアの新攻勢が始まっていると指摘する。
ロシア政府は侵攻開始1周年となる2月24日に向けて、歩を進めている。「ロシアは日付や、いわゆる『戦勝記念日』というものに強くこだわっているので」と、ミハイロ大尉は言った。
しかしバフムートをめぐる消耗戦はロシアを疲弊させるかもしれないと、ウクライナのヴィクトル司令官は話す。長身で細身のヴィクトル司令官はバンカーで、ロシア製の弾倉を手に取った。
「ロシアは今、防戦しないで、ひたすら攻撃していくる。数メートルずつ進んではいるが、こちらは極力、領土を奪われないようにしている。敵をここに引き留めて、ここで疲弊させる」
そうかもしれない。
行くところに行けば、バフムートにもまだ人々の暮らしが残っている。
寄付された食料を通り過ぎ、「不屈センター」と呼ばれる避難所の扉をくぐると、強い熱と光に包まれる。かつてボクシングクラブだった場所を生活支援センターに作り替えたもので、地元住民が携帯電話を充電したり、温かな食べ物や、他人との交流でひと息をつくために使われている。
私たちが訪れた時、「不屈センター」は混雑していた。ストーブの周りには高齢の女性たちが集まり、若い男の子が2人、リングに座ってテレビ画面にくぎ付けになり、戦闘ゲームをしていた。
水も電気もないバフムートに、約5000人が残っている。多くが高齢で、貧しい境遇だ。ウクライナ人の同僚が暗い表情で、「一部は親ロシア派で、ロシア人が来るのを待っている」とつぶやいた。
心理学者のテティアナさん(23)は、弟妹の面倒を見ながら、ここでは誰もが自分自身の闘いをしていると話した。テティアナさん自身は、86歳の祖母が移動できず、自分を頼りにしているため、バフムートに残っているという。
「多くの人が神に祈ることでどうにかやっている」とテティアナさんは話す。
「信仰は助けになる。人間であることを忘れた人も、攻撃的な人もいる。動物よりもひどいふるまいをし始める
外界では、この壊れた街をめぐる闘いが激化しており、爆撃の音がドラムのように鳴り響く中、私たちはバフムートをあとにした。
●ロシア紙サイトに反戦記事10本、10分で削除…無断掲載の記者「ウソの償い」 2/13
ロシアのプーチン政権寄りの大衆紙「コムソモリスカヤ・プラウダ」の公式サイトに11日夜、ウクライナに侵略するロシアの「戦争犯罪」を非難する反戦記事が少なくとも約10本掲載された。記事は10分足らずで削除された。
同紙は過去に、プーチン大統領が編集部を訪れたこともあり、政権と近いメディアとされる。ロシア語の独立系メディア「メドゥーザ」によると、一連の記事は侵略に反対するウラジーミル・ロマネンコ記者が無断掲載した。24日の侵略1年を前に「ウソをついてきた罪の償い」のためだったと説明しているという。
一方、昨年3月に露国営テレビの放送中の番組で、反戦を呼びかけた元テレビ局職員マリーナ・オフシャンニコワさんは10日、パリで記者会見し、国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」の支援を受け、フランスに亡命したことを明らかにした。
オフシャンニコワさんは昨年8月、露軍に関する「虚偽情報」を流布したとして起訴された。自宅軟禁中の昨年10月に露国外に出国したが、その後の動向は不明だった。記者会見でオフシャンニコワさんは7台の車を乗り継いで国境にたどり着き、徒歩で越境したと語った。
●軍事侵攻1年 ウクライナ外相 攻撃強めるロシア側をけん制  2/13
ウクライナのクレバ外相は、軍事侵攻が始まって1年となる今月24日にあわせて、世界各地やニューヨークの国連本部などで、ロシアを非難する一方、ウクライナとの連帯を確認するさまざまな活動が行われると強調し、ロシア側をけん制しました。
ウクライナ側は、侵攻開始から1年となる今月24日にあわせて、ロシア軍による攻撃が一層激しくなるとして警戒を続けています。
ウクライナ国防省は13日、ロシア軍は、ウクライナ東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の一つバフムトやリマンなどへの攻撃に力を注いでいるとSNSで明らかにしました。
また「ロシア側は大きな損失を被っている」と指摘し、多大な犠牲を払いながらも攻撃を強めるロシア軍との間で戦闘が激化しているとしています。
一方、ウクライナのクレバ外相は、地元メディアに対して12日、24日にあわせて、世界各地やニューヨークの国連本部などでロシアを非難する一方、ウクライナとの連帯を確認するさまざまな活動が行われると強調しました。
そのうえで「ロシアのプーチン大統領に対し、非常に明確なシグナルを送ることになる」と述べ、攻撃を一層強めるとみられるロシア側をけん制しました。

 

●NATO弾薬備蓄引き上げ、ロシアは新たな攻勢すでに開始=事務総長 2/14
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は13日、懸念されていたウクライナでのロシアの新たな大規模攻撃がすでに始まっていると述べ、NATOは枯渇しつつある弾薬の備蓄目標を引き上げると表明した。
記者団に対し「全面侵攻開始から約1年が経過したが、ロシアのプーチン大統領が和平に向けて準備している様子は全くなく、新たな攻勢をかけている」とし、「プーチン大統領およびロシアはウクライナをなお支配しようとしている」と指摘。「ロシアがより多くの軍隊、兵器、能力をどのように送るかを確認する」とした。
その上で「われわれがロジスティックスの競争にさらされていることは明らかだ。ロシアが戦場で主導権を握る前に、弾薬、燃料、予備部品などの重要な物資がウクライナに届けられなければならない。スピードが命を救う」と語った。
また「プーチン大統領は何千何万という軍隊を増派し、極めて多くの犠牲を容認し、大きな損失を出しながらもウクライナに圧力をかけている。ロシアは質で不足するものを量で補おうとしている」と述べた。
こうした中、ウクライナでの戦争で枯渇しつつある弾薬の備蓄目標を引き上げる計画を表明。「ウクライナでの戦争で膨大な量の弾薬が消費されており、防衛産業に負担をかけている。そのため、われわれは生産を増やし生産能力に投資する必要がある」とした。
ウクライナ軍は毎日最大1万発の砲弾を発射。ストルテンベルグ氏は「ウクライナの現在の弾薬使用ペースは、われわれの現在の生産ペースを何倍も上回っている」と述べた。
大口径弾薬の確保にかかる時間が28カ月と、これまでの12カ月から伸びているため、西側諸国は生産を増強する必要があるとし、NATOが自国の領土を守りながらウクライナを支援し続けるためには、弾薬の供給量の増加が不可欠と述べた。
また、あすから2日間の日程で開催されるNATO国防相会合で、航空機を巡る問題が議論されると言明。ただ、NATO加盟国がウクライナに戦闘機を供与してもNATOが紛争の一部になることにはならないと強調した。
NATO国防相会合では、加盟国が国内総生産(GDP)の2%を国防費に充当するというNATOの目標を巡る議論も開始される見込み。一部の加盟国は、域内で戦争が起こっていることを考慮するとこの目標は過度に低く、軍事費を拡大すべきと主張する一方、ドイツなどは2%の目標達成さえ困難な状況となっている。
●東部制圧狙うロシア軍、戦死者急増か… 2/14
ウクライナ軍で東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)を管轄する部隊の報道官によると、ロシア軍が攻勢を強めるドネツク州の要衝バフムトを巡る12日まで過去24時間の戦闘で露軍の兵士212人が死亡し、315人が負傷した。露軍側の戦死者が急増している可能性がある。
英国防省は12日、ウクライナ軍参謀本部の発表に基づき、最近2週間で露軍兵士の死傷者が急増し、昨年2月の侵略開始直後に次ぐ水準になっているとの分析を示した。過去1週間の死傷者数は1日平均824人となり、昨年6〜7月の5倍近くになっているという。
露国営テレビは12日、プーチン大統領が9日のオンライン会合で、ドネツク州ウフレダル周辺で最近、壊滅状態に陥ったとされる海軍太平洋艦隊に属する歩兵旅団などは「英雄的だ」と述べて、称賛したと伝えた。人的犠牲を度外視してウクライナ軍の防衛線突破を図る手法に拍車がかかる可能性がある。
露国防省は13日、露軍中央軍管区の部隊が「ウクライナ軍の激しい抵抗にもかかわらず防衛線を数キロ・メートル突破した」と主張した。同部隊はドネツク州との州境に近いルハンスク州クレミンナ方面の戦闘に参加しているとみられている。
露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏は12日、SNSで、戦闘員がバフムト北郊の集落を制圧したと主張した。一方、軍事ブログの主催者が10日に配信したインタビューで、ドンバス地方の全域制圧には「1年半から2年かかる」として、3月までという目標達成は困難との見方を示した。
●プーチン氏「ドイツ戦車の脅威が再来。しかも十字の印を付けている」 2/14
プーチン大統領は2月2日、ロシア南部の都市ボルゴグラードで、意味深長な演説を行った。
この日、ボルゴグラードでは、独ソ戦の最中の1943年に、同市をめぐる攻防戦で、当時のソ連軍がナチス・ドイツ軍を破ったことを記念する式典が行われた。
当時スターリングラードと呼ばれたこの町をめぐる戦いは、第2次世界大戦で最も激しい戦闘の1つだった。アドルフ・ヒトラーがこの工業都市の攻略にこだわった理由の1つは、「スターリンの町」という名前がついていたからだ。
だがヒトラーの第6軍は、冬将軍の訪れとともにソ連軍の大反攻に遭い、逆に包囲された。ドイツ兵たちは、廃虚と化した町で袋のネズミとなった。約15万人のドイツ軍将兵が戦死、または飢餓や病気、寒さで死亡。約11万人が捕虜とされシベリアの収容所へ送られた(そのうち、戦後ドイツに帰ることができたのは約6000人にすぎない)。
これはヒトラーにとって、独ソ戦を開始してから最初の敗北だった。ドイツ軍が得意とした戦車の密集陣による破竹の進撃は、ここスターリングラードで潰(つい)えた。ソ連軍も約50万人の戦死者を出した。スターリングラードの戦いは、第2次世界大戦でソ連が反攻作戦を始め、45年にベルリンを陥落させるきっかけを作った重要な転換点だった。
戦後にソビエト共産党の書記長になるニキータ・フルシチョフもスターリングラードで政治委員として戦った。同氏がソ連の最高指導者の座に上り詰めることができた背景には、この激戦地で兵士たちを鼓舞し、戦いを勝利に導いた功績がある。
つまりスターリングラードという地名は、ソ連がドイツを打ち破った場所として、ロシア人にとって極めて重要な意味を持つ。このためロシア政府は毎年2月2日に限って、この町の名前をスターリングラードに改称し、記念式典を開いて町の大通りで軍事パレードを挙行する。
プーチン大統領は、この激戦地で死亡した兵士、市民を追悼する式典で「我々はいま再び、新しい顔を持つナチズムのイデオロギーによって脅かされている。我々はまたもや、ウクライナでヒトラーの後継者たちの攻撃を受けている」と発言した。同大統領は、ウクライナ侵攻を「ナチスとの戦い」として正当化した。
「我々は再びドイツ戦車に脅かされている」
プーチン大統領はこの場で初めて、レオパルド2A6型戦闘戦車14両をウクライナに供与するドイツの決定を公式に批判した。オラフ・ショルツ独首相は1月25日、ドイツによる供与だけでなく,レオパルド2を保有する欧州諸国がこの戦闘戦車をウクライナに送ることも承認した。プーチン大統領は「信じがたいことだが、我々は再びドイツ戦車の脅威を受けている。しかもその戦車は、側面に十字のマークを付けている」と述べ、ロシアが再びドイツに脅かされていると強調した。
第2次世界大戦中にナチス・ドイツ軍が使った戦車には、黒の十字に白の縁(ふち)を付けたマーク(バルケンクロイツ=棒十字)が描かれていた。一方、今日のドイツ連邦軍もレオパルドやゲパルト対空戦車、マルダー装甲歩兵戦闘車などの側面に黒十字を描いている。
ドイツ連邦軍が現在、国章として使っている黒十字(タッツェンクロイツと呼ばれる)は先端が末広がりになっており、ナチス・ドイツの戦車に付けられた国章と同一ではない。しかしプーチン大統領が言うように、「十字のマーク」であることには変わりない。またウクライナ軍の一部の戦車部隊は、ロシア軍の戦車と区別できるように、自軍の戦車の側面に白い十字章を描いている。第2次世界大戦のごく初期にナチス・ドイツ軍は、白の十字を戦車に描いていた時期がある。
ウクライナ戦争を独ソ戦と重ね合わせる
なぜプーチン大統領は、この演説でドイツ戦車に言及したのだろうか。ロシア人にとって、ソ連が約2700万人という多大な犠牲者を出しながらもナチス・ドイツを打ち破った事実は、市民たちを結びつける社会的つながりとなっている。ロシア人のアイデンティティーの源の1つと言ってもおかしくない。この国ではいまも独ソ戦のことを大祖国戦争と呼ぶ。
当時、ソ連の独裁者だったヨシフ・スターリンに対して一部のロシア市民が好意的な感情を抱くのはそのためだ。ボルゴグラードでは今年、ナチス・ドイツ軍壊滅80周年を記念してスターリンの胸像を設置し、除幕式を執り行った。つまりプーチン大統領は、ウクライナでの戦争を第2次世界大戦でのナチスとの戦争に重ね合わせることによって、ウクライナ侵攻に対するロシア国民の支持を強固にしようとしているのだ。
プーチン大統領は2022年2月24日に侵攻を開始して以来、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権をネオナチと呼び、同国を非ナチ化して武装解除することが戦争の目的だと説明していた。最近は、「ウクライナは悪魔に支配されている。同国を非悪魔化することが必要だ」という表現も使っている。
つまりプーチン大統領は「ウクライナ侵攻はネオナチとの戦いだ」という庶民にも分かりやすいレトリックを使用する。同大統領はボルゴグラードでの演説で「ドイツの戦車」に言及することで、この戦争が単にウクライナ・ロシア間の戦争ではなく、西側陣営とロシアとの戦争でもあるという点を一段と強調した。
さらにプーチン大統領は「ドイツのような欧州諸国がロシアとの新たな戦争に突入し、戦場で勝てると考えているとしたら、それは誤りだ。彼らは、ロシアに対する今日の戦争が過去の戦争とは全く異なることを分かっていない。我々は、ロシア軍の戦車を彼らの国境に向けて送ることはないが、別の手段を持っている。我々がこの戦争に勝つことに、疑いの余地はない」と発言。欧米諸国がウクライナに戦闘戦車を供与すれば、対抗措置を取る可能性を示唆した。
ドイツのメディアの中には、「別の手段」という表現について、プーチン大統領が戦術核兵器などを使用する可能性を示唆したものと見る向きもある。
近づくロシア軍の大攻勢
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからまもなく1年になるが、収束の見通しは立っていない。ゼレンスキー大統領は「ロシア軍が2月中にも大攻勢を開始するかもしれない」という見方を繰り返し打ち出している。
ウクライナ政府が数カ月前から、ドイツや米国などに対し戦闘戦車や装甲歩兵戦闘車、長距離ミサイルなどの供与を強く求めてきたのは、そのためだ。これを受けて欧米諸国は、ロシア軍の反攻作戦が始まったときにウクライナ軍が対抗できるよう、ドイツ製のレオパルド2型戦闘戦車やマルダー装甲歩兵戦闘車だけではなく、米国製のM1エイブラムス戦闘戦車、M2ブラッドレー歩兵戦闘車、英国製のチャレンジャー2型戦闘戦車、フランス製のAMX-10RC型偵察戦闘車など、重火器の供与を拡充すると決めた。
ウクライナ軍は現在約1500両の戦闘戦車を保有するが、全てロシアか旧ソ連製だ。敵国ロシアからの補給は受けられないので、砲弾や交換部品が急速に不足している。このためウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は「レオパルド2など西側の戦闘戦車が300両、西側の装甲歩兵戦闘車が600〜700両、榴(りゅう)弾砲が500門必要だ」と語っている。
ウクライナ軍が戦闘戦車と装甲歩兵戦闘車を希望したもう1つの理由は、同国がロシアに占領された地域を奪還する上で、これらの兵器が不可欠だからだ。ゼレンスキー大統領は「クリミア半島とドンバス地方など、ロシア軍が不法に占拠した地域からロシア兵を完全に撤退させるまで、停戦や和平交渉の席には着かない」という姿勢を取っている。
在欧米国陸軍の司令官を14〜17年に務めたベン・ホッジス将軍(ドイツのフランクフルト在住)は、22年11月25日のリモート講演会で、筆者に対して「ウクライナ軍は、23年4月に大攻勢を開始してクリミア半島を奪回するだろう」という予測を示した。筆者が「欧米は『戦闘戦車』の供与に踏み切るか? ウクライナ戦争決める鍵」の回で指摘したように、大量の戦闘戦車を投入しなければ、ウクライナ軍がロシア軍を駆逐することは不可能だ。ウクライナが侵略戦争を終わらせるための前提を作る上で、戦闘戦車は重要な鍵を握っている。
ウクライナの抵抗精神を過小評価したロシア
ウクライナ戦争はある意味で、これまでの戦争の常識を覆す戦いである。ウクライナの人口は約4200万人。ロシアの人口は約1億4500万人。つまりロシアはウクライナの約3.5倍の人口を持つ。ウクライナ軍兵士の数は約20万人。これに対しロシア軍の総勢は、予備役も加えると約120万人と、ウクライナの約6倍だ。さらにロシアは多数の核兵器を保有している上、戦闘戦車や戦闘機を製造するための強大な軍事産業のインフラを抱えている。いわばウクライナは、巨人ゴリアテと戦うダビデのような存在だ。
過去における大半の戦争では、人口や兵士の数が多い国(あるいは陣営)が、少ない国(同)に勝っている。特に長期間続く消耗戦では、人口や兵士の多い国が有利だ。
だがロシアはウクライナ侵攻の緒戦で、重大な誤算を犯した。14年のクリミア半島制圧・併合のときのように、短期間でウクライナを制圧し、ゼレンスキー政権を転覆できると考えたのだ。さらにプーチン大統領は、クリミア半島併合のときと同様に、ウクライナ軍が頑強に抵抗することなく、欧米諸国もウクライナを強力に支援することはないと予想した。このため、ロシア軍が昨年2月にウクライナ戦線に投入した兵士の数は、約20万人にすぎなかった。
プーチン大統領の予想は完全に外れた。22年のウクライナ軍は、豊富な実戦経験を積み、14年とは異なる軍隊に成長していた。ウクライナ軍の兵士たちは、ウクライナ東部ドンバス地方における親ロ派武装勢力との内戦で、実戦経験を積み重ねてきた。同国はすでに9年前からロシアとの戦争を続けていたのだ。
ロシアは制空権を確保しないまま、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の空港に空挺(くうてい)部隊を送り込もうと試みた。輸送機はウクライナ軍に撃墜され、乗っていた兵士たちは全員死亡した。
さらにプーチン大統領は、ウクライナ人の激しい抵抗精神を過小評価した。ウクライナでは学生、会社員、オペラ歌手、弁護士、IT(情報技術)エンジニアらが進んで軍事教練を受け、命を賭けて前線で戦っている。仮にロシア軍が昨年2月にキーウを陥落させて、ゼレンスキー政権を崩壊させていたとしも、ウクライナ人たちは地下に潜ってロシア軍に対する激しい抵抗運動を続けたはずだ。ロシア軍に対してウクライナ人が抱く憎しみと怒りは、それほどまでに根深い。
欧米の強力な軍事支援が戦場での勢力を拮抗させた
ダビデが、巨人ゴリアテに屈しないもう1つの理由は、欧米諸国から流れ込む大量の兵器と弾薬だ。欧米諸国は、プーチン大統領が予想しなかったほどの勢いで、ウクライナに兵器や弾薬などを供与している。特に米国や英国が大量に供与した歩兵携帯用の対戦車ミサイル、ジャベリンは、キーウに向けて進撃するロシアの戦闘戦車を次々に破壊した。
ロシアと欧米どちらの戦闘戦車にとっても、建物や灌木(かんぼく)の陰など、見通しがきかない場所から飛んでくる携帯式対戦車ミサイルは頭痛の種だ。第2次世界大戦後期に、ドイツ軍の歩兵が使う携帯式対戦車ロケット弾「パンツァーファウスト」にソ連の戦車兵が悩まされたのと同様である。
このため近年の戦闘戦車は、リアクティブ・アーマー(爆発反応式装甲)という補助装甲を付けている。ロシアのT80型戦闘戦車などが車体にびっしりと取り付けている大量の四角い箱が、それだ。リアクティブ・アーマーの内部には、少量の爆薬が入っている。リアクティブ・アーマーは、敵のミサイルやロケットが表面に当たると、内部の爆薬を爆発させることで、ミサイルやロケット弾の貫通力を減殺する。
だが、ジャベリンは、ロシア軍のリアクティブ・アーマーを無効化する力を持っている。ジャベリンは地表に平行して水平に飛ぶのではなく、放物線を描いて飛び、リアクティブ・アーマーが比較的少ない砲塔の屋根や機関室など車体上部を狙う。さらに、ジャベリンのミサイルの爆発は2段階に分かれる。アクティブ・アーマーの減殺反応が終わった後に、2回目の爆発が起き、火流と破片が戦闘戦車の装甲板を突き破って内部を破壊する。
ウクライナ軍兵士たちは、ジャベリンが持つ威力に感銘を受け、この兵器に「サンクト・ジャベリン(聖ジャベリン)」という、聖者のようなあだ名を付けた。ネット上には、ジャベリンの発射筒を抱えた聖女のイラストがアップされている。
ジャベリンは、欧米が大量に供与する軍事支援の氷山の一角にすぎない。ドイツのキール国際経済研究所のウクライナ・サポート・トラッカーによると、昨年1月24日〜11月20日に米独仏など27カ国がウクライナに送った兵器、弾薬、装備などの軍事援助の総額は約380億ユーロ(約5兆円)にのぼる。そのうち米国、英国とドイツの3カ国が77.4%を負担している。
特に米国は昨年5月9日、ウクライナへの武器供与に関する22年レンドリース法を施行させ、約230億ユーロ(約3兆円)分の武器をウクライナに送った。米国政府が今回もレンドリース法という名前を付けたことに、バイデン政権がウクライナ戦争に大きな歴史的意義を見いだしていることが感じられる。
米国が前回レンドリース法を施行したのは第2次世界大戦中の1941年のこと。米国政府はナチス・ドイツ軍と戦っていたソ連、フランス、英国などに武器や食料など、約500億ドル(2021年の貨幣価値に換算すると約7190億ドル=約93兆円)を供与した。米国製のM4シャーマン戦車やM3リー戦車、ジープ、トラックなどはロシアやウクライナの戦場において、ソ連の戦車と肩を並べてナチス・ドイツ軍と戦った。
1940年代に米国は欧州諸国とソ連を強く支援し、ナチス・ドイツ軍が抱く欧州征服の野望を打ち砕いた。現在バイデン政権は、当時と同じように、独裁者の侵略戦争を潰えさせる必要があると考えている。もちろん、プーチン大統領とヒトラーを同列に並べることはできない。しかし武力によって隣国支配を試み、欧州全体の秩序を揺るがしている点は、共通である。第2次世界大戦、東西冷戦の終結により、欧州で死滅したと思われていた、帝国主義が息を吹き返しつつある。
30年代に英仏はナチス・ドイツに対する宥和政策を取った結果、第2次世界大戦という惨事を招いた。欧州諸国はいまなお、独力で欧州の紛争を解決する力を持っていない。したがって米国は、帝国主義の芽を早いうちに摘み取り、欧州の秩序を回復する必要があると考えている。バイデン政権が大西洋のかなたで戦うウクライナに対し、巨額の支援を行っているのは、そのためだ。ウクライナ戦争の行方は、今後数十年間の欧州の行方を左右する。つまりこの戦争は、世界史の中で特筆すべき意味を持っている。
つまり人口や兵士の数でロシアに大きく劣るウクライナは、欧米諸国からの軍事支援、特に米国からの強力な支援があるからこそ、人口や兵士の数がはるかに多いロシアに対抗することができる。いわば、ダビデとゴリアテの間で、力の均衡状態が生まれている。ロシアがウクライナ侵攻を始めたときの米国大統領がジョー・バイデン氏であったことは、ウクライナにとって大きな僥倖(ぎょうこう)である。同氏は欧州との関係を重視する。前任者のドナルド・トランプ氏は、NATO(北大西洋条約機構)に懐疑的な姿勢を取っていた。
「第2次世界大戦後、最も困難な10年」
プーチン大統領もゼレンスキー大統領も、後に引くことはできない。プーチン大統領は、ウクライナの非ナチ化と非武装化を達成するまで「特殊軍事作戦」を続けると言明している。同大統領は2022年10月27日の演説で「欧米が世界を支配する時代は終わった。現在我々が経験しているのは、世界に新しい秩序を生む革命の時代だ。支配階層は限界に突き当たり、被支配階層は抑圧をもはや受け入れない」と語った。
プーチン大統領が発した「欧米に抑圧されるロシア」という言葉には強い被害者意識が表れている。同大統領が「ソ連の崩壊は20世紀最大の破局だ」と述べたことが思い出される。ソ連の国家保安委員会(KGB)出身のプーチン大統領は、失われた帝国に強いノスタルジーを抱いている。「被支配階層は、抑圧をもはや受け入れない」という言葉は、ロシア革命の指導者ウラジーミル・イリイチ・レーニンの言葉だ。つまりプーチン大統領は、この戦争がロシア・ウクライナ間の戦争であるだけでなく、西側陣営とロシアの戦いであると強調した。
さらに同大統領は「第2次世界大戦後、最も危険で不透明、かつ困難な10年間が訪れる」と述べ、戦争が長期化するとの見方を示した。この言葉から、同大統領が長い戦いを覚悟していることが感じられる。
筆者が住んでいるドイツをはじめとする欧州諸国も後には引けない。ロシアの侵略行為がウクライナで終わる保証がないからだ。仮にプーチン大統領が引退または失脚しても、同大統領以上に国粋主義的な政治家が大統領になる可能性がある。ロシアの政治家の中には、ポーランドやバルト3国への侵攻を露骨に提案する者がいる。
これまで長年にわたって中立を維持してきたフィンランドとスウェーデンが、伝統と決別し、NATOへの加盟を申請したことは、ロシアが持つ攻撃性に対する懸念が強まっていることを示している。
ドイツでは、11年に廃止した兵役義務の復活について議論が始まっている。フランク・ヴァルター・シュタインマイヤー大統領は昨年6月、「若者に対し、1年間にわたり社会奉仕に携わる義務を導入すべきだ。兵役か社会福祉業務(介護業務など)に就かせる」と提唱した。欧州の安全保障をめぐる状況がさらに悪化した場合、ドイツが社会奉仕義務を導入する可能性が高い。
欧州でポーランドの地位が上昇
ドイツのメディア報道で最近「ドイツの安全は、ウクライナによって防衛されている」という表現が目立つ。万一ウクライナがロシアに征服された場合、侵略行為が他の国へ飛び火する危険があるという意味だ。NATO加盟国がロシアに攻撃された場合、ドイツも同盟国を守るために戦わなくてはならない。
いま欧州で、ウクライナを最も強力に支援している国はポーランドだ。昨年、約220両のロシア製戦闘戦車T72をウクライナに供与したほか、レオパルド2戦闘戦車をウクライナに供与する許可をドイツ政府に申請した。これは、ウクライナへのレオパルド2供与をためらうドイツのショルツ首相に圧力をかけるためだった。ショルツ首相は結局ポーランドなどの圧力に屈して、自国および他の欧州諸国が保有するレオパルド2のウクライナへの供与に青信号を出した。つまりポーランドは、ショルツ首相が清水の舞台から飛び降りる上で、重要な役割を果たした。
ポーランドがウクライナを積極的に支援する理由の1つは、ウクライナがロシアに占領された場合、ポーランドの東国境がロシアの勢力圏と接することになるからだ。東西冷戦の時代には、ソ連の勢力圏に接する「最前線国家」は西ドイツだった。NATOとワルシャワ条約機構との間で戦端が開かれたならば、東西ドイツが戦場となった。ポーランドは、かつての西ドイツのような最前線国家になるのを防ぐため、ウクライナを強力に支援している。
米軍が今年、欧州に駐留する第5軍団の総司令部をドイツからポーランドに移す。このことは、ポーランドが持つ戦略的な重要性を浮き彫りにする。ドイツの論壇では、ロシアのウクライナ侵攻がきっかけとなって、欧州の安全保障の「重心」が、ドイツやフランス、英国からポーランドなど東欧諸国に移動していくとの見方が浮上している。
ウクライナの意向を無視した和平交渉はあり得ない
したがって欧州諸国の首脳の間では、「ロシアと停戦・和平交渉を行う場合には、ウクライナの頭ごなしに行ってはならない。ウクライナ軍がロシア軍を領土から駆逐した後に、ウクライナが受け入れられる条件に基づいて停戦・和平交渉を進める以外に道はないと考えている。さもないとロシアによる不法な領土の占領を、欧米が追認する形になる」という意見が強い。
日本で時折聞かれる「ウクライナは譲歩して、ロシアとの和平交渉のテーブルに着くべきだ」という意見を言うのは、ドイツでは極右勢力か親ロシア派などの少数派である。
停戦・和平交渉においてウクライナは、ロシアに再び攻撃または侵略された場合に備えて、安全保障措置(セキュリティー・ギャランティー)を欧米諸国に求めるだろう。NATOに正式加盟する道を事実上閉ざされているウクライナとしては、NATO加盟に準ずる何らかの「保険」を要求するに違いない。欧米諸国は、ロシアの攻撃が再開されたときに、再びウクライナに多額の軍事援助を行うことを、条約の形で義務付けられるだろう。
日本のビジネスパーソンから「ビジネスへの影響を減らすために、一刻も早く戦争が終わってほしい」という声をよく聞く。しかし欧州の現実を見ると、戦争が短期間で収束する可能性は低いと言わざるを得ない。
●ロシア軍が「大攻勢」開始か 戦果急ぐ、ウクライナ正念場 2/14
ウクライナのゼレンスキー政権が、ロシア軍の大規模攻勢が既に始まりつつあるとの認識を示している。
ウクライナ東部ドネツク州の重要拠点バフムト周辺では、ロシア側の包囲が一段と進行。西側諸国の主力戦車が今春、ウクライナ軍に配備されるまでが正念場とみられ、激しい攻防が続きそうだ。
ロシアが当初、「最低ライン」として目指したドネツク州の完全制圧は進んでいない。今月24日の侵攻開始1年を控え、プーチン大統領は21日に年次教書演説を予定しており、戦果を急いでいるもようだ。
「ロシア軍は始めたと言わないだけで、既に大攻勢に出ている」。ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は11日、地元テレビにこう述べた上で「われわれは撃退している」と説明。朝鮮半島分断のようなシナリオを念頭に、プーチン政権で「二つ目のウクライナをつくる計画が進行中だ」と警戒を促した。
実際、戦闘は激しさを増している。英国防省は12日、過去2週間のロシア軍の戦死者数が、昨年2月以来の多さになったと指摘。1日平均で昨年6〜7月は約170人だったが、1月は701人、今月は824人に増えたというウクライナ側のデータを紹介した。原因としてロシア側の「訓練不足」などを挙げており、投入された予備役や元受刑者も死傷したとみられる。
独立系メディアによると、ロシア各地で招集された予備役らは最近、窮状を動画で告発。後方支援という予想に反し、親ロシア派武装勢力の配下に置かれ、突撃を命じられたと訴えた。
こうした中、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のエブゲニー・プリゴジン氏は12日、バフムトの北約6キロの町クラスナヤゴラを「制圧した」と主張した。事実なら、ウクライナ軍は補給・退避ルートの一つを絶たれ、苦戦を強いられている可能性がある。米シンクタンクの戦争研究所も、クラスナヤゴラはロシア側の支配下にあると分析した。 
●ロシア国防省 “ウクライナ東部の拠点近郊を掌握” 攻撃激化か  2/14
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの国防省は東部でウクライナ側の拠点の近郊を掌握したと主張し、攻撃を激化させているものとみられます。NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は、ウクライナなどが軍事侵攻の開始から1年に合わせて行われると警戒しているロシアによる大規模な攻撃は、すでに始まっているという認識を示しました。
ロシア国防省は13日、東部ドネツク州で、軍の支援を受けた突撃部隊が、ウクライナ側の拠点の1つ、バフムトの近郊にある集落を掌握したと発表しました。
これに先立って、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表は、この集落を掌握したと主張していました。
また、ウクライナ国防省は13日、バフムト周辺の16の集落で砲撃を受けたと明らかにし、バフムトの掌握をねらうロシア軍が攻撃を激化させているという見方を示しました。
こうした中、NATOのストルテンベルグ事務総長は13日、ベルギーで会見し、ロシア軍による大規模な攻撃について「すでに始まっている。プーチン大統領は多大な犠牲をも顧みず、何千もの部隊を新たに送り込んでウクライナに圧力をかけている」と述べました。
ウクライナなどが軍事侵攻の開始から1年となる今月24日に合わせて行われると警戒しているロシアによる大規模な攻撃は、すでに始まっているという認識を示した形です。
ウクライナ政府の高官も11日、地元メディアに対し「ロシアは大規模攻撃を開始している」としながら「計画していた攻撃はロシアが期待していたものにはなっていない」と述べ、徹底抗戦を強調していました。
●ロシア孤立の試み続く 侵攻1年で結束へ―国連総会 2/14
ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、国連総会(193カ国)の場でロシアの国際的孤立を際立たせようとする試みが続いている。ウクライナは24日の侵攻1年に合わせ、新たな総会決議案を提案。多くの国の支持を得て採択することで、ロシアへの外交的圧力を改めて示し、和平実現への弾みにしたい考えだ。
国連総会はロシアの侵攻開始後、これまでに関連する決議を5本採択した。昨年10月、ロシアによるウクライナ東・南部4州の一方的な「併合」を非難する決議には、過去最多の143カ国が賛成。今回の決議案も、同規模以上の支持を獲得し「結束を示す」(国連外交筋)ことができるかが焦点となる。
国連では、安全保障理事会(15カ国)が「国際平和と安全維持の主要な責任を負う」とされる。安保理は昨年1年間で、ウクライナ情勢に関して40回以上の公開会合を開いたが、侵攻当事国のロシアが常任理事国で拒否権を行使。米欧主導の安保理決議案を2度否決に追い込むなど、実質的な行動を取れずにいる。
そこで米欧側が取った手段が「平和のための結集」と呼ばれる国連総会の緊急特別会合の招集だ。1950年、朝鮮戦争を巡るソ連の拒否権発動を受けて導入された仕組みで、安保理が常任理事国の不一致で問題に対応できない場合に開かれる。
侵攻が始まった直後の昨年2月末から計5回開かれ、侵攻1年を前に今月22日午後3時(日本時間23日午前5時)に再開される予定。欧州諸国を中心に外相の参加も見込まれ、決議案の採決に加え、演説によってロシアを糾弾する構えだ。
ただ、過去の総会決議採択では、アフリカやアジアの途上国を中心に35カ国以上が棄権した。ロシアは、ラブロフ外相が積極的にアフリカ諸国を歴訪するなど、影響力拡大を図っている。国連外交筋は侵攻1年に合わせて「いかに大きな数を示せるかが重要だ」と強調。国連を舞台にした対ロシア包囲網形成を継続していると語った。
●モルドバで「破壊工作」計画 ロシアのハイブリッド戦か― 2/14
旧ソ連構成国モルドバのサンドゥ大統領は13日、記者会見し、隣国ウクライナからロシアによる「モルドバ破壊工作」の情報提供があったと確認し、その詳細を公表した。デモをたきつけて政権転覆を図るため「訓練を受けた軍人が民間人を装う」「政府機関を襲って人質を取る」ことが計画されていると明かし、警戒を促した。
情報が信頼できるとすれば、破壊工作は軍事力と非軍事力を組み合わせたロシアの「ハイブリッド戦争」とみられ、プーチン政権による2014年のウクライナ南部クリミア半島「併合」作戦と酷似。モルドバは親ロシア派とサンドゥ氏ら親欧米派の対立が続いてきた点もウクライナと重なり、同国に対する侵攻の延長線上に位置付けられている可能性がある。
サンドゥ氏が説明したところでは、破壊工作はロシア人やベラルーシ人、セルビア人らをモルドバに入国させ、実行させる計画。かつての内政の混乱を背景に、サンドゥ政権に反発する「一部の内部勢力」も利用する恐れがある。プーチン政権の目的の一つは、モルドバが昨年6月に「候補国」となった欧州連合(EU)の加盟プロセスを止めることだという。
●モルドバ大統領、ロシアを非難 「指導者失脚を計画」 2/14
旧ソ連・モルドバのサンドゥ大統領は13日、ロシアが外国の妨害工作員を使ってモルドバの指導者を失脚させ、欧州連合(EU)加盟を阻止し、ウクライナとの戦争に利用しようとしていると非難した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先週、ロシアがモルドバの破壊を計画しているという情報を入手したと発言。その後、親欧米派のガブリリツァ首相が辞任した。
モルドバはウクライナと国境を接する。サンドゥ氏はこれまで自国に対するロシアの意図や東部トランスニストリア地域のロシア軍駐留を巡り、繰り返し懸念を示してきた。
13日の記者会見で、ロシアの計画はロシア、モンテネグロ、ベラルーシ、セルビアの市民がモルドバに入り「合法的な政府をロシア連邦が支配する違法な政府に変える」ための抗議行動を引き起こそうとするものだと指摘。
「モルドバに暴力を持ち込もうとするロシアの試みは、うまくいかないだろう」と述べた。
米ホワイトハウス国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官はこの計画について、独自に確認されていないとした上で「深く懸念される。ロシアの行動の範囲から逸脱するものでないことは確かだ」と述べた。
●政治利用してきたロシア正教会の「神現祭」に姿見せず2年…今年は? 2/14
「うえーん、うえーん」 ウクライナの寒空に響き渡る5歳の男の子の泣き声。両親を失い、キーウ市郊外からポーランド国境まで約500キロを1人で歩いている。彼の痛ましい姿を昨年末、CNNがとらえた。
子どもを不幸のどん底に追いやるロシアのプーチン大統領。ウクライナ東部4州の併合を発表したものの、ウクライナ全土のインフラ設備や病院、学校を標的とする非人道的な攻撃が激しさを増している。プーチン氏の精神状態を不安視する声が、欧米諸国で広まっている。
その一方でロシア国内では昨年来やたらと富豪やジャーナリストの不審死が相次いでおり、プーチン政権絡みの事件ではないかとみられている。
プーチン氏といえば、ローマ・カトリックをルーツとするロシア正教会の敬虔な信者として知られている。毎年1月中旬の宗教儀式「神現祭(洗礼祭)」に参加してきた。教会周辺の氷結した池を割って、司祭が十字架を浸して十字を描き、水の成聖を行う。他の信者と同様にプーチン氏も裸になって十字を切りながら、頭から3回冷水に身を沈める。穢れた魂を清めるためらしい。
2021年の神現祭では、プーチン氏が例年の黒色ではなく派手な青色の海水パンツで登場。前年8月にプーチン政権の汚職を告発するナワリヌイ氏が体調不良を訴えて昏睡状態に陥った。青色のパンツに毒物が盛られた疑いが報じられた。
青パンツで現れたプーチン氏の真意は不明だが、罪に向き合う姿を国民にアピールするためだったのか。心のどこかに少しでも罪悪感を抱いていたとすれば、まだ救いがある。でも、今のプーチン氏は欧米路線に舵を切ったウクライナにやぶれかぶれの復讐をしているとしか思えない。
ウクライナへの軍事侵攻直前の昨年は神現祭に参加しなかった。今年は、どうだったのか。ペスコフ大統領報道官の発表はこうだ。
「大統領は、モスクワ郊外で聖水を浴びました。でも、動画を配信することはありません」
では例年、プーチン氏の映像を配信してきたのはなぜか。思わずツッコミを入れたくなる。ウクライナへの軍事侵攻を欧米諸国から非難されても、皮肉たっぷりに言い返すペスコフ氏。今回は歯切れの悪い、あやふやな説明に終始した。
ところでペスコフ氏は神現祭に参加したのだろうか。 ・・・ 
●プーチン氏「装甲列車」導入か 追跡困難、戦時下で活用 2/14
ロシアの元石油王ホドルコフスキー氏が創設した調査団体は13日、プーチン大統領が2021年から国内移動用として政府専用機に加え、装甲を施した「特別列車」を導入し、ウクライナ侵攻下で積極的に活用しているとみられると指摘した。鉄道を使えば航空機位置情報サイトのように追跡される心配がなく、身辺警護に好都合なことが理由という。
●懸念されたロシアの大規模攻撃「すでに始まっている」NATO、バフムトに砲撃 2/14
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は13日、懸念されていたウクライナでのロシアの新たな大規模攻撃がすでに始まっていると述べた。ロシアは目下、東部の主要都市バフムトの陥落を目指しており、ウクライナ軍によると、バフムト近郊の16の集落がロシアの砲撃を受けたという。
ウクライナ侵攻から1年が近づく中、ロシア軍は13日、ウクライナ東部のバフムトを攻撃。NATOの事務総長は、長い間恐れられていたロシアの大規模攻撃が始まったとの見方を示した。
NATO ストルテンベルク事務総長「現実にはすでに始まったとみている。というのもプーチン大統領は現在、きわめて高い死傷率を覚悟で何千もの兵員を増員しているからだ」
軍当局者らによると、数カ月にわたって持ちこたえてきたウクライナ軍は、新たな攻勢に備えている。プーチン大統領にとってバフムトは目下、主要な軍事目標だ。そこを占領すればロシアはドネツク地方において新たな足掛かりを得るとともに、後退が続いたロシアにとって貴重な勝利になる。
ウクライナの工業生産の中心地でありドネツク州とルガンスク州から成るドンバス地方は、その一部をロシアが支配している。ロシアはこの地方の完全掌握を目指している。
バフムトへの攻撃は、民間軍事会社ワグネルの戦闘員が先頭に立っており、小さいながらも着実に成果をあげている。またロシアの新たな砲撃が、バフムトの状況をさらに深刻なものにしている。
ウクライナ軍によると、バフムト近郊の16の集落がロシアの砲撃を受けたという。そのうちの1つチャシウヤールではボランティアが村人の避難を進める一方、兵士らは困難な気候の中、防御を固めていた。
部隊長は、この地は「故郷」だと語った。「だからわれわれはしがみついてでも、ここにとどまる覚悟だ。武器が供給され、対応できるようになることを望んでいる。そうすれば反転攻勢を開始できるだろう。天候が許せばすぐにでも。今は土壌や天候の関係で、たとえ武器があっても前進することはできないからだ」
国連人権高等弁務官事務所は13日、2月24日の侵攻以来、民間人7000人以上が死亡し、約1万2000人が負傷したと発表した。砲撃やミサイル攻撃、空爆によるものが大半だという。また実際の死傷者数は、これよりも多いとの見方を示した。
ストルテンベルグ氏は、プーチン氏が和平の準備を進めている様子も、ウクライナの主権を尊重する意思も見られないと述べた。「プーチン大統領とロシアは、依然としてウクライナを支配しようとしている。したがって、ウクライナの主権国家としての勝利を確実にする唯一の方法は、同国に軍事支援を提供し続けることだ」
ストルテンベルク氏は、NATO同盟国が現在、ウクライナ防衛を支援するため航空機派遣の検討を始めたと述べた。支援が至急必要だという。
●ワグネルは「恐るべき敵」 仏陸軍参謀長 2/14
フランスのピエール・シル陸軍参謀長は13日、ウクライナで活発な動きを見せるロシア民間軍事企業ワグネルについて、目標を達成するためには犠牲をいとわない「恐るべき敵」だとの見解を示した。
ウラジーミル・プーチン大統領に近い実業家エフゲニー・プリゴジン氏が経営するワグネルは、ウクライナでの存在感を強め、ロシアの刑務所で戦闘員を勧誘するなど型破りな手法を取っている。
シル氏はパリで報道陣に対し、「ワグネルは目標達成に向け極めて多くの犠牲を払うことができるため、同社の戦闘員と対峙(たいじ)することになった場合には恐るべき敵になるとのメッセージをわれわれに送っている」と述べた。
またシル氏は、ワグネルのような組織が将来的に重要な位置を占めるようになると予測。ただ、「背後である程度の国家的な支援」を受けている同社のような戦闘力を、全ての組織が持っているわけではないと指摘した。
ワグネルは、ブルキナファソや中央アフリカ、マリなどアフリカのフランス語圏で軍事活動を展開。仏軍はこれらの3か国から撤兵しており、フランスは当該地域に対する戦略的な影響力を低下させている。
●ロシア軍 死傷者数急増も軍事侵攻開始1年を前に激しい攻撃か  2/14
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は、東部で激しい攻撃を繰り返し、NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は、ロシアによる大規模な攻撃がすでに始まっているという認識を示しました。ロシア側の多くの犠牲も指摘される中、プーチン政権は軍事侵攻の開始から1年を前に、なりふりかまわぬ攻撃を仕掛けているものとみられます。
ウクライナ東部ドネツク州でロシア軍は、ウクライナ側の拠点の一つバフムトの掌握をねらって周辺で連日、激しい攻撃を繰り返しています。
ドネツク州のキリレンコ知事は13日、地元メディアに対して「バフムトには敵の砲撃や無人機による攻撃が届かないような安全な場所は1平方メートルもない」と述べ、厳しい戦況にあると訴えました。
NATOのストルテンベルグ事務総長は、13日の記者会見で「プーチン大統領は多大な犠牲をも顧みず、何千もの部隊を新たに送り込んでウクライナに圧力をかけている」と述べ、ロシアによる大規模な攻撃がすでに始まっているという認識を示しました。
一方、イギリス国防省は14日、バフムト周辺ではウクライナ軍の組織的な防衛が続いているほか、東部ルハンシク州の北西部の前線でもロシア軍が継続的に攻撃を仕掛けているものの「その規模は小さく、突破口を開くには至っていない」と分析しています。
そして「ロシア軍は多くの方面で進撃を命令されているが、十分な戦闘力を1か所に集中できていないとみられる」という見方を示しました。
イギリス国防省は先に、このところロシア軍の死傷者数が一日当たり平均800人以上と急増していると分析していて、プーチン政権は、軍事侵攻の開始から今月24日で1年になるのを前に、なりふりかまわぬ攻撃を仕掛けているものとみられます。
●弾薬の在庫、ウクライナの戦争で激減 NATO事務総長 2/14
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は13日、ウクライナでの戦争によって加盟各国の弾薬の在庫が激減していると述べた。14日に開催される国防相会合では、弾薬の備蓄や防衛産業の能力の引き上げが焦点になるとの見通しを示した。
ストルテンベルグ氏によれば、現在ウクライナで弾薬が消費される割合は生産される割合を何倍も上回っている。
大口径の弾薬の待ち時間は12カ月から28カ月に延びたため、現在注文すると弾薬が届くのは2年半後になると説明した。ストルテンベルグ氏は、弾薬の枯渇は国防省の負担になるとし、「生産と生産能力を増強する必要がある」と述べた。
弾薬備蓄の減少に対する懸念はNATOのウクライナ支援への関与を揺るがすようなものではなかったようだ。ストルテンベルグ氏はウクライナ政府に、より多くの兵器を供与することの必要性を強調した。
ストルテンベルグ氏は、ロシアによる新たな攻勢がすでに始まっているとし、「ウクライナにより多くの兵器を供与することが急務だ」と述べた。
●ロシア軍また大敗戦、精鋭部隊を含む一個旅団5000人を失う 2/14
ウクライナ軍は1月末、5000人以上の兵士からなるロシア軍の一個旅団をほぼ壊滅させたと、ウクライナ軍の報道官が明らかにした。ウクライナ東部ドネツク州ブフレダールにあるウクライナ側拠点を攻めようとしたロシア軍部隊をウクライナ軍が殺傷、もしくは捕虜にしたという。
ウクライナ軍タヴリスキー管区の合同プレスセンター長を務めるオレクシー・ドミトラシキフスキーによれば、ロシアが1月末に攻めてきた際にウクライナ軍が反撃し、旅団の指揮官を含む数千人のロシア軍兵士を死に追いやったという。またロシア軍は、ウクライナの攻撃によって36両の戦車を含む130の軍装備を失った、とドミトラシキフスキーは主張する。
米政治ニュースサイトのポリティコも、ロシア軍が旅団を失ったと報じている。この時壊滅状態に陥ったのが、ロシアの「精鋭部隊」である第155海軍歩兵部隊だったという。
ロシア強硬派が失望
アメリカのシンクタンクである戦争研究所(ISW)も、この週末にレポートを発表し、ブフレダールでロシアの作戦が失敗に終わったと詳述している。
「ロシア軍は、ドネツク州ブフレダール近郊で攻撃の限界点に達し、戦術的な失敗を喫したようだ。これにより、ロシア軍の攻撃作戦遂行能力に対する超国家主義者たちの信用はさらに弱まったとみられる」と、ISWのレポートは指摘する。
またこのレポートは、ウクライナがこの地域に多くの兵力を割いて反撃したことで、ロシア軍はブフレダール占拠作戦の「主導権を失った」と述べている。
英米で刊行されている週刊誌「ザ・ウィーク」は、ロシアがブフレダールを占拠しようとした理由について、この町がウクライナ軍への補給の重要な拠点であることと、ドネツク州全体の制圧においても中心的な位置にあることを挙げている。
しかしウクライナは、ロシア軍の部隊の一部を無力化するほどの強力な防衛力を維持している。
1月にロシアがおこなった、ブフレダール占拠の試みが失敗に終わったことで、ロシアの軍事ブロガー(ミリブロガー)からは、ロシアの軍事力に対する批判が噴出している。ブロガーの一部からは、ロシアがドネツク州全土で攻撃作戦を展開できないのではないか、との声も挙がっている。
ISWのレポートは、以下のように述べている。「このミリブロガーによればウクライナ軍はブフレダール近郊で、統率が取れていないロシア機甲部隊の車列を撃退した。ネット上で拡散した映像を見る限り、ロシア側は攻撃の限界点に達したとみられる、と言っている」
「ロシアのミリブロガーたちはこの映像に飛びつき、ウクライナでの戦争では何度も同じミスを繰り返す悪癖がはびこっているとして、ロシア軍司令部を批判した。ある有力なミリブロガーは、このような事例は、ロシア軍にはドネツク州の前線全体で攻撃作戦を実施する力はないことを示すものだと主張している」
●押収したイランの武器、米がウクライナに供与検討  2/14
米軍は、押収したイランの武器をウクライナに供与することを検討している。これはイランがイエメンの武装組織に供与しようとしたもので、実現すればウクライナを支援するための前例のない措置になると、米欧の高官が明らかにした。
米高官によると、ウクライナへの供与を検討している武器は、ライフル銃5000丁以上、小火器弾薬160万発、対戦車ミサイル数基、近接信管7000個以上。この数カ月間にイエメン沿岸でイランの指揮下にあるとみられる密輸業者から押収したものだという。
ウクライナとロシアの戦争がまもなく2年目に突入する中、米国や同盟国はウクライナの軍事支援要請に応じるのが難しくなっており、武器調達に向けてこうした異例の措置に踏み切る可能性がある。
首都ワシントンのウクライナ大使館は今のところコメント要請に応じていない。米国家安全保障会議(NSC)はこの件についてコメントすることを控えた。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国は今週ブリュッセルで会合を開き、ウクライナへの武器供与を加速させる方法や、この戦争による軍需品不足を巡って議論した。
14日に米ニューヨークおよびイラン首都テヘランのイラン高官にコメントを求めたものの、回答は得られなかった。
バイデン政権にとっての課題は、ある紛争で押収した武器を別の紛争に移転することを法的に正当化する理由を見つけることだ。国連の武器禁輸措置は、米国とその同盟国に対し、押収した武器を破壊するか保管するか処分するよう求めている。米当局者によれば、バイデン政権の弁護士は、武器をウクライナに移転する余地が国連決議にあるかどうかを調べている。
ウクライナへの武器移転を支持する人たちは、バイデン大統領が大統領令を出すか、議会と協力して米国が民事没収権限で武器を押収し、ウクライナに送ることによって、法的問題を解決することができるかもしれないと述べている。
ワシントンのシンクタンク、新アメリカ安全保障センターの中東安全保障プログラムディレクター、ジョナサン・ロード氏は、ワシントンではこの構想に超党派の支持があると述べた。
「これはホワイトハウスと議会が協力して解決するには、とても簡単なことのように思われる」と同氏は述べた。
●弾薬と戦闘機の必要性訴える ドネツク戦線のウクライナ軍 2/14
ロシア軍がウクライナの東部戦線で攻勢を強める中、前線を守るウクライナ兵は、「この戦争に勝つためには弾薬と戦闘機が必要だ」と、さらなる緊急支援の必要性を訴えている。
「クルト」という名で呼ばれる現地軍司令官は、「来ないかもしれない助けを待ってはいられない」という。
旅団の作業場では、床に置かれた箱の中には数百発の使用済みカートリッジが詰め替えられるのを待っており、そのそばでは2人の兵士が即席多連装ロケット砲用のロケット弾を組み立てている。
ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)国防相会合で、ストルテンベルグ事務総長は、ウクライナ軍が同盟国の生産ペースをはるかに上回る速さで、弾薬を使い果たしていると警告。一部の推定によると、ウクライナ軍は1日6000〜7000発の弾薬を消費しているという。
多くのNATO加盟国が、ウクライナとの2国間で武器を供給しているが、NATOとしては非殺傷性の支援しか行っていない。
NATOの警告について、前線では「弾薬が届かなければ、あるものでやりくりするしかない」と反発する。
●なぜロシア兵の死者が増えているのか? 1日に800人超 2/14
ロシア兵の死者数が一段と増加している。海外報道によると、その数字はウクライナ侵攻以降の最大を記録しており、まるで「射撃場を逃げ惑う七面鳥のように撃たれている」という。対ウクライナで以前から想定外の弱さを露呈しているロシア軍だが、ずさんな作戦によりさらに死者が増加。兵が反乱寸前に至るなど、死者増加が統率の乱れを招く悪循環に陥っている。
1日あたり800人超が死亡、侵攻以来最悪に
英BBC(2月12日)は、「ロシア兵の死亡率(期間あたり死者数)が、開戦第1週以来で最大」になっていると報じている。ウクライナが発表したデータによると、2月の1日あたり死亡数は824人に上る。BBCはこの数字を独自に検証できないとしながらも、イギリス国防省が「正確と思われる」との判断のもと取り上げたと補足している。昨年の6月から7月にかけての1日あたりの死亡数は約172人であったが、現在ではこの4倍以上となっている。
米ニューヨーク・タイムズ紙(2月2日。以下「NYT」)は米高官による発表をもとに、開戦以来の死傷者をすべて含めると、その数はロシア軍全体で20万人に近づいていると報じた。わずか11ヶ月の間に、20年間にわたるアフガン戦争でアメリカに生じた死傷者の数の8倍の犠牲を払っているという。当局者は「プーチン大統領の侵攻がいかにひどいかを示すまぎれもない象徴である」と語る。
「七面鳥のように撃たれた」粗末な攻撃作戦
惨状にロシア側も頭を抱える。米CNN(2月13日)によると、新ロシア派として独立を宣言しているドネツク共和国のイーゴリ・ストレルコフ元国防相は、「彼らは射撃場の七面鳥のように撃たれた」と述べた。これはウクライナ戦で要衝となっているドネツク州ブフレダールの占領作戦の不調を批判したものだ。
不調の原因の一端は、無計画な進軍にあるようだ。同記事によると、11月のブフレダール占領作戦では第155海兵旅団に多数の死者が生じ、よもや兵が反乱に蜂起する寸前となった。同地で1月末に実施された作戦でも狭いルートを進軍し、建物の上に配置されたウクライナ兵から丸見えという状況だったという。軍事歴史家のトム・クーパー氏は、ロシア側の粗末な作戦によりウクライナ軍は「兵站ルートと退路に使えるルートの両方を絶つ」ことが可能だったと指摘する。
BBCによると、ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は「我が軍は(敵の攻撃を)非常に強力に退けている」「彼らが計画した攻勢はすでに徐々に行われているが、彼らが思い描いた攻勢にはなっていない」と述べ、防衛が効果的に行われているとの見解を示した。
頼みの綱のワグネルも……
統率の乱れで弱体化が顕著となったロシア軍は、軍事企業ワグネルの支援を頼りたいところだ。しかし、軍とワグネルの間には望まざる緊張が走っている。BBCによると、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は通信アプリ「テレグラム」上で、戦場を見渡す限りロシア兵は見当たらず、ワグネルの戦闘員しかいないと吹聴した。BBCは「この発言は、ロシア軍とワグネルとの長年にわたる緊張関係を示唆している」と指摘する。
ワグネルに関してNYT紙は、囚人を傭兵として採用し、「大砲の餌」として使い捨てにしていると報じている。
ロシア兵の死者数が上昇する背景には、正規軍内部の統率に乱れが生じていること、頼りのワグネルと連携が不足していること、そしてワグネルが人命を軽視していることなど、複合的な要因が介在するようだ。
●「昔のソビエト赤軍と変わらない...」「30万人」は大げさでもロシア軍を侮れない 2/14
いよいよロシアの熊が押し寄せてきた。既に数十万の大軍がウクライナ東部のドンバス地方に集結している。圧倒的な砲弾の数と人海戦術で、ウクライナ側の防衛網を突破する構えだ。
前線では戦闘が激化している。昨年2月24日の侵攻開始から1年、大方の予想どおり、ロシア軍は今度こそ総力で東部を攻めてくるようだ。
「あの国の東部では何かが始まっている」と言ったのはエストニア外務省のヨナタン・フセビオブ次官。「とんでもない数のロシア兵が、前線に集まっている」
昨年9月に事実上の総動員が始まって以来、既にウクライナ領内に30万を超えるロシア兵が送り込まれたと、ウクライナ当局は見積もっている。
さすがに「30万」は大げさだとしても、1年前の侵攻開始時点より多く、しかも(あえて首都キーウ〔キエフ〕を狙わず)東部戦線に戦力を集中しているのは間違いない。
「10日以内に、(ロシア軍の)新たな大規模侵攻が始まるだろう」
ウクライナ軍の当局者は匿名を条件に、そう語った。ちなみにウクライナ国防相のオレクシー・レズニコフ(当時)も、侵攻開始1年の節目に総攻撃が始まるとの見通しを示していた。
キーウの制圧を狙った初期の作戦で、ロシア軍は大きな損失を出した。そこでロシア政府は昨秋、「部分的動員令」を発して約30万の新兵をかき集めた。徴兵を嫌って国外へ脱出する人もいた。まともに新兵を訓練する時間もなかった。それでも銃を持たせ、ともかく前線へ送り込んだ。
それでどうにか、ウクライナ側の反転攻勢を食い止めた。ただしロシア側も壊滅的な打撃を被った。欧米の軍事筋による推定ではロシア軍の死傷者は20万人に迫っていると、米ニューヨーク・タイムズ紙は報じた。
こうした新兵は、1年前にウクライナに投入された部隊に比べて装備も劣り、訓練も足りない。だがロシア側は意に介さない。
アメリカの保守系シンクタンク「ランド研究所」のダラ・マシコに言わせれば、彼らは昔のソビエト赤軍と変わらない。ひたすら人海戦術で、どんなに激しい砲火を浴びてもじわじわと前進してくる。
今も新規の動員は続く
ロシア側の物量作戦はウクライナ軍に打撃を与えている。今ではより密集したロシア軍との戦いを強いられる。
かつてのハルキウ(ハリコフ)攻防戦ではウクライナ側の士気が高く、統制も取れていたが、これからの戦いは違うとマシコは警鐘を鳴らす。「向こうは兵員を増やし、地雷を仕掛け、着々と塹壕を掘って決戦に備えている」
ロシア側は来るべき攻勢に向けて装備を拡充し、準備を進めている。ウクライナ軍の推定では、ロシアは既に戦車1800両、装甲車両3950台、重火器2700台、ソ連時代の多連装ロケット発射システム810基、戦闘機400機、ヘリ300機を動員し、新たな波状攻撃に備えているという。
ただし米国防総省は、現時点で戦場に送り込まれているロシア軍は「装備が不十分で訓練不足、そして急ぎすぎ」だと分析している。
一方で欧州諸国には、昨年9月に始まった動員が今も続いているとの見方がある。エストニアのフセビオブも、「動員は終わっていない。国内事情があるから大きな声では言えないだけだ」と述べた。
米シンクタンク「戦争研究所」のカロリナ・ハードも、水面下で徴兵が続いていることを示す情報は山ほどあると言う。「続々と招集されているとの報告があるし、軍隊に引き渡すべき従業員の名簿を受け取った会社もある」
米国防総省は、東部ドンバス地方のバフムートやソレダルでの激戦で被った損失を補うために、ロシアが数万人規模の部隊を補充したとみている。
だがウクライナ側は、それだけではないと考える。侵攻開始から1年の2月24日に向けて、ロシアはさらなる軍隊を送り込んでくるはずだと。
「1年前の比ではないだろう」と、ウクライナ軍の当局者は言った。「戦場でどれだけの死傷者や損失が出ようと、向こうは気にしない」
弾薬も兵器も遅すぎる
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、今もウクライナ全土の制圧という目標を下ろしていない。だが多くのアナリストやウクライナ政府は、新たな攻勢が東部戦線に集中すると予想している。具体的にはドネツクとルハンスク(ルガンスク)の両州だ。
「私の思うに、おそらくプーチンから(参謀総長のバレリー・)ゲラシモフに指示が出ている。目指すのはドネツク、ルハンスク両州の全域を確保することだ」とマシコは言う。ちなみにドネツクもルハンスクも、ロシアは既に「併合」を宣言している。
たとえ装備が劣り訓練が不十分でも、ロシア軍は物量作戦でウクライナ側を圧倒するかもしれない。そう思えばこそ、ウクライナ側は一日も早い追加の武器支援を欧米諸国に求めてきた。
これに応えて、アメリカはミサイル防衛の切り札であるパトリオットや、地上で進撃する装甲戦闘車両や戦車などの供与を約束しているが、それらがウクライナに届くのは早くても3月か4月だ。その前に、ロシア軍の砲弾と肉弾による総攻撃は始まっているだろう。
ロシアは既に、ドンバス地方での軍事活動を強化する兆しを見せている。西側が新たに供与する兵器が到着する前に、できるだけ前進して占領地を増やすこと。それがロシア軍の狙いだ。
「ロシアからの反撃にどうやって耐えればいいのか、私には分からない」。ウクライナ議会のサーシャ・ウクティノワ議員はそう言った。「弾薬は足りない。とにかく、全てが足りない。戦車はなかなか来ない。全てが後手に回っている。アメリカの戦車が届く頃には、もうロシアが攻め込んできているでしょう」

 

●「戦局はウクライナ有利」は本当か?米国で「ロシアの攻勢は激化する」の見方 2/15
ロシアのウクライナ侵略について米国では、プーチン大統領はウクライナ完全制覇への野望をまったく揺るがせておらず、イランからの協力まで得て兵器の増産を着実に進めている、といった見解が打ち出されるようになった。
米欧諸国がウクライナへの新たな戦車供与など軍事支援を強めてはいるが、戦況はこのままだとロシア側の攻勢がさらに激しくなるという見通しが強くなってきた。
イランと合同で無人機製造工場を新設
米国の民間研究機関の中でウクライナの戦況を最も細かく追っている「戦争研究所(ISW)」は2月9日の「ロシア攻勢評価」報告で、プーチン大統領が、ウクライナ政権に対して長期の消耗戦を断固として続けるという前提に基づき、ロシア国内の兵器製造工場を中長期にわたり継続的に稼働し拡充することを改めて命令した、と伝えた。
同報告によると、プーチン大統領は2月9日に、軍事生産を管理するロシア政府の戦略構想局の最高幹部と会談し、兵器や弾薬の生産量を徐々に増やしていく中長期の安定増産という方針を伝達した。この方針は、ウクライナに対する長期戦を可能にするための防衛生産インフラを拡大する意図に基づいているという。
また同報告は、ロシア政府・国家安全保障会議のディミトリ・メドベージェフ副議長(前首相)が、ウクライナ戦のために偵察用、攻撃用の無人機の増産を急ぐ方針を2月初めに言明したことを伝え、イラン当局の協力を得てロシア国内にロシア・イラン合同の無人機製造工場を新設し、当面、合計6000機の無人機製造を目指す政策を公表したことを強調していた。
さらに同報告は、ロシアの傭兵組織「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏が2月9日にロシア国内の刑務所内の受刑者を徴募することを止めたと発表したことを「ロシア正規軍の役割が復活し拡大することの兆し」として伝えていた。同報告によると、この2〜3週間ほど、ウクライナ全土での戦闘でワグネルが果たす役割は減る傾向にあり、その分、ロシア軍が増強された様子だという。
一方で同報告は、ワグネルの幹部が最近ロシア政府の国防大臣の能力欠如を非難するメッセージを発信しており、ワグネルとロシア政府軍との関係がなんらかの理由で悪化した可能性もあると指摘していた。
「このままだとウクライナ側が有利に」は危険な見方
米国では官民の両方でロシアのプーチン大統領のウクライナ戦での意図について多様な観測が発表されているが、「プーチンの挫折」や「ロシアの失敗」を強調する分析も出ている。この種の分析は、プーチン大統領は当初のウクライナ完全制圧の目標をあきらめ、なんらかの停戦や和平の交渉に手をつけるだろう、という見解につながる場合が多い。
ところがその一方で、ISWの報告に象徴されるような「プーチンは決してあきらめない」とする見解も広範に表明されている。
その代表例は大手紙ワシントン・ポストの1月末の社説だった。「重戦車、そして米国からの支援こそがウクライナの成功へのカギ」という見出しのこの社説は、ロシアがウクライナ攻略に失敗しつつあり、このままだと戦況はウクライナ側に有利に展開する、というような見方は的外れであり危険である、とも断じていた。
この社説の骨子は以下の通りだった。
・ウクライナ国内のロシア軍の戦闘ぶりを断片的に見て、この戦争はロシア側に不利な状態で膠着したという結論を下すことは間違いである。プーチン大統領はなおウクライナの現体制を破壊する意図を固く保ち、和平協議などにはまったく関心を抱いていないのだ。
・プーチン大統領は今後数週間、あるいは数カ月の間に、新たな部隊を投入しての大規模な攻撃の準備を進めている。米欧の軍事専門家たちは、プーチン大統領が改めてウクライナの首都キーウを占領し、現在のウクライナ政府を斬首することを計画しているとみている。
・プーチン大統領のその狙いが成功した場合、ロシアの完全勝利となり、西側陣営全体の敗北となる。米国も北大西洋条約機構(NATO)の同盟諸国もそんな事態を許すことはできない。その防止には、単にロシア軍のキーウなどへの新たな攻撃の阻止だけでなく、ロシア軍を2022年2月以前の侵略前の位置まで撃退することが必要となる。
以上の趣旨を主張したこの社説は、米国のバイデン政権に対しても、これまで以上の規模と威力の兵器類のウクライナへの供与を求めていた。
こうした見方が正しいとすれば、ウクライナでの激戦はまだなお長い期間続く、という展望となる。この種の展開では、日本もこれまで以上のウクライナ支援が国際的に期待されるという状況になりそうである。
●ロシア、ウクライナで子供6千人を施設収容 愛国教育や軍事訓練 2/15
ロシアによる戦争犯罪の証拠を収集する米国務省の関連団体「紛争監視団」は14日、ロシアが侵攻を続けるウクライナで、子供計6千人以上を組織的にロシア側の施設に収容し、愛国教育や軍事訓練を施してきたと発表した。そのままロシア人の養子にするケースもあり、社会や文化に同化させる目的だとみている。
国務省は声明で、ロシアが子どもの家族との絆を断ち切り、ウクライナに帰るのを阻もうとしていると強調し「戦争犯罪だ」と非難した。
紛争監視団は衛星画像やソーシャルメディア、行政機関の発表などの公開情報を基に調査。ロシア政府のあらゆるレベルが関与し、収容された子どもの人数はさらに多い可能性があると指摘した。
紛争監視団はロシアがウクライナから一方的に併合したクリミア半島や、モスクワ周辺、シベリアなどで43の施設を特定。ウクライナ侵攻が始まった昨年2月〜今年1月、生後4カ月から17歳までの子供6千人以上が収容された。
●モルドバ大統領 “ロシアが政権転覆企てている”と厳しく非難  2/15
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナの隣国モルドバのサンドゥ大統領は13日に行った会見で、ロシアが工作員を使ってEU=ヨーロッパ連合への加盟を目指すモルドバの現政権の転覆を企てているとする情報を得たとして、ロシアを厳しく非難しました。
サンドゥ大統領によりますと、この情報は、ウクライナ側から寄せられたということで、訓練を受けた工作員が市民の抗議を装って政府施設に破壊活動などを行い政権転覆を企てるという内容でロシアやベラルーシなどから要員が送り込まれる手はずになっているとしています。
ウクライナのゼレンスキー大統領も今月9日「モルドバの秩序を破壊しようとするロシアの情報機関の計画を傍受した」として、モルドバに情報提供を行ったことを明らかにしていました。
サンドゥ大統領は、「モルドバをロシアの支配下に置いてEU加盟へのプロセスを阻止する試みだ」と述べ、ロシア寄りの政権を樹立する企てだと非難しています。
これに対しロシア外務省は14日、公式サイトでザハロワ報道官のコメントを掲載し、サンドゥ大統領の発言について「全く根拠がなく事実無根だ」と反論しました。
そのうえで「検証できない情報をもとに非難し、それを根拠に自分たちの不法な行為を正当化するのは欧米各国やウクライナの常とう手段だ」と主張し、ウクライナがうその情報を流したとして批判しました。
モルドバは、国内に一方的に分離独立を宣言してロシア軍が駐留を続ける地域があり、ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する警戒感を強め、欧米寄りの姿勢を鮮明にしています。
一方、AFP通信などによりますと、モルドバの航空当局は14日、領空を一時的に閉鎖し、航空機が領空を通過したり着陸したりすることを禁止したということです。
モルドバの国防省は今月10日、ロシア軍のミサイルが領空を侵犯したと発表していて警戒が続いています。
●米NATO、ウクライナ支援揺るがずと表明 侵攻1年で重要局面 2/15
ウクライナの防衛支援を協議する関係国会合がブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部で14日、開かれ、ウクライナが緊急的にさらなる軍事支援を必要としており、西側諸国による支援は揺るがないと表明した。
オースティン米国防長官は、ロシア侵攻が重要な局面を迎え、ウクライナは緊急に軍事支援を必要としていると指摘。
「(侵攻開始から)1年を迎えようとする今もわれわれの団結は変わらない。この共通の決意が、今後数週間の重要な時期にウクライナの勢いを維持するのに役立つだろう」と述べた。
また、ウクライナ軍が春にもロシア軍に対する攻勢をかけると予想しており、ウクライナの同盟国はウクライナ軍の攻勢を効果的にするために兵器や兵たんの確保に取り組んでいると語った。
ストルテンベルグNATO事務総長は、ロシアが24日の侵攻1年を前に攻勢を強めているとして、西側諸国はウクライナへの弾薬供給を拡大する必要があると述べた。
「(ロシアの)プーチン大統領が平和に備えている様子はない。われわれが目にしているのはその逆であり、彼はさらなる戦争、新たな攻勢、新たな攻撃の準備をしている」と記者団に述べ、ウクライナへの新たな兵器に加え、既に供給した武器を機能させ続ける必要があるとした。
一方、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は「ロシアは今や世界ののけ者(pariah)で、世界は引き続きウクライナの勇気と回復力に鼓舞されている。ロシアは負けた。戦略的に作戦的に、そして戦術的に負けた」と語った。
こうした中、ドイツはウクライナに供給した対空砲「ゲパルト」向けの弾薬生産を再開するため、武器メーカーのラインメタルと契約を締結したと発表した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は毎晩定例のビデオ演説で、ウクライナと同盟国が力を結集する前に、ロシアは最新の攻撃でできる限りの成果を上げようと急いでいると指摘。「そのためスピードが命だ。意思決定と決定の実行、物資の輸送、訓練、全てにおいてスピードが求められる。スピードが人々の命を救い、安全を取り戻す」と訴えた。
防空兵器や戦車、大砲、砲弾、訓練の追加供与の約束を巡り、同盟国に謝意を表明した上で、討議された内容の多くは非公開とすべきという考えを示した。
●戦後秩序も見据えたウクライナへの米国の戦車供与 2/15
1月24日付の米ワシントン・ポスト紙(WP)で、同紙コラムニストのデイヴィッド・イグネイシャスが、バイデン政権はウクライナ戦争後の軍事バランスをいかに構築し、ウクライナが将来のロシアによる侵略を抑止することをいかに支援するかにつき検討を始めていると述べている。
ブリンケン米国務長官は、1月23日、ウクライナ戦争の終結と戦後の抑止力についての戦略を明らかにした。彼は、ウクライナが将来の侵略を抑止し、必要とあれば自国を防衛することが出来るようにいかに正当かつ永続的な平和を築くことができるかについて検討を本格的に始めるべきだと考えている。
ブリンケンの抑止の枠組みは、昨年ウクライナと協議した北大西洋条約機構(NATO)条約第5条と同様の安全保障体制とはやや違ったものになっている。米政府関係者は、そのような正式の条約上の約束というよりも、ウクライナが自衛のために必要とする道具をウクライナに与えることが鍵になるとの考えを強めている。ウクライナの安全は、武器の力や強い経済、欧州連合(EU) への加盟が相まって確保される。
米国防省は目下、武器の供与と機動戦訓練に重視している。「機動戦武器は、単にウクライナの領土の奪回だけでなく、将来のロシアの攻撃に対する抑止にもなる」と国務省は説明する。
ウクライナ支援連合の結束は、戦争が終結に向けて動くにつれて一層重要になる。今年も戦いは続くだろう。しかし第二次大戦の最後の数年に起きたように、戦後秩序の計画と、ロシアが破壊した平和を回復し、維持するための軍事的、政治的同盟体制の構築は既に始まっている。
イグネイシャスは、米国務省、米国防省、米国家安全保障会議(NSC)は、ウクライナが将来の侵略を抑止し、必要とあれば自国を防衛することが出来るようにウクライナを支援していくことなど、ウクライナ戦争後の秩序につき本格的な検討を始めていると述べる。
さらにブリンケンの考えは、NATO条約第5条とは違ったもので、今や「米国の政府関係者は、そのような正式の条約上の約束というよりも、ウクライナが自衛のために必要とする道具を与えることが鍵になるとの考えを強めている」という。
この記事によれば、今や米国はウクライナをハリネズミのような国にしていくことを描いていると理解できる。ウクライナ戦争の終結については、停戦・撤退・ウクライナの安全保障を保証する国際体制の合意が理想であるが、今の状況を見るとそのような解決は難しい。
今最も現実的なシナリオは、ハリネズミ国家――すなわち、ウクライナは当分の間ロシアと闘いを続け、ロシアの侵略を最大限に阻止する力を保有する、そのために西側支援を通じて戦車や防空戦力など軍事力を整え、強い、汚職のない経済をつくり、他方でEUに加盟するというハリネズミ・経済強化・EU加盟国家モデルを追求することかもしれない。
この点、1月21日付WP社説「ドイツが戦車のウクライナ供与を拒んでいる。バイデンはそのままにしておくことはできない」の判断は評価できる。この社説は、ドイツが米国による戦車「エイブラムズ」戦車の供与を条件にしていることに言及した後、「エイブラムズの供与が目下の膠着打開の鍵だというのであれば、バイデンはそれを承認すべきだ」と述べた。
実際その後1月25日、バイデンは米国の立場を変更し、エイブラムズ(31両)の供与を発表し、これを受けショルツ独首相が戦車「レオパルト2」の供与と他の欧州国によるレオパルト2供与の承認を発表した。今回の決定は、将来を顧みた時、大きな分岐点だったと評されるだろう。ここで米独双方が解決を図ったことは重要である。
戦後の抑止力構築も視野に
米国は何故エイブラムズを供与することにしたのか。西側結束の維持という大目的があったことは自明だが、もう一つ、米国にはエイブラムズの供与は戦後のウクライナの軍事力、抑止力構築に資するとの深慮遠謀があったのだろう。それは、米政府の思考が既に戦後のウクライナの抑止力構築に向かっているとのイグネイシャスの指摘と平仄が合う。
さらに、米国のエイブラムズは米国の備蓄から供与するのではなく、メーカーから新たに購入した上でウクライナに供与し、実際の納入は大分先になるとも言われており、米国の計画は短期よりも中期的な戦略に基づくように見える。
3月頃とされるロシアの攻勢の前に、迅速な戦車供与が重要である。第一弾は120〜140両という。必要な訓練がドイツなどで開始される。訓練は、単に戦車の「運転」だけでなく、「作戦・戦術」の仕方も含まれる。
日本は、ウクライナ問題を欧州問題と捉え、アジアと切り離して考えがちであるが、これが一定の戦後国際秩序の構築に影響を与えることに鑑みれば、日本も積極的に関与して行く姿勢が大事であろう。今年は主要7カ国(G7)議長国であり、国連安保理非常任理事国にもなった。岸田総理のキーウ訪問も検討されており、それなりの役割が期待されよう。
●「ウクライナの勢い支える」 米国防長官、防衛支援の関係国会合 2/15ロシアの侵略を受けるウクライナへの軍事支援について欧米各国が協議する関係国会合が14日、ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部で開催された。NATOは同日、ブリュッセルで国防相会合を開催。2日間の日程で、加盟国によるウクライナへの戦闘機供与の可能性を討議する。戦争が長期化する中、加盟国が弾薬などの備蓄を増強する計画についても話し合う見通しだ。
関係国会合には、ウクライナのレズニコフ国防相も出席。オースティン米国防長官は会合で「今後数週間の重要な時期にウクライナが勢いを維持できるように支える」と強調した。
NATOのストルテンベルグ事務総長は13日、記者会見し「ロシアのプーチン大統領は平和のための準備をしておらず、新たな攻撃を仕掛けている」と非難。ロシアがすでに新たな大規模攻撃に乗り出したと述べた。また、「ロシアが主導権を握る前に、弾薬、燃料、予備部品などの重要な能力をウクライナに届けなければならない」とした。
さらに、ストルテンベルグ氏は「戦争は膨大な量の軍需品を消費し、(加盟国の)備蓄を枯渇させている」と指摘。「消費される弾薬は現在の生産量の何倍にも達している」と説明した上で、国防相会合では備蓄の補充策が焦点になるとの見方を示した。英メディアによると、ウクライナ軍は、毎日5千発以上の砲弾を発射していると推定されるという。
●米国防長官「ウクライナは春ごろ攻勢に」 支援急ぐ考え強調  2/15
ロシアによる侵攻が続くウクライナへの軍事支援を欧米各国が協議する会合が開かれ、アメリカのオースティン国防長官は、ウクライナ軍がことし春に新たな反転攻勢に出るという見通しを示し、各国と連携して支援を急ぐ考えを強調しました。
この会合はロシアによる軍事侵攻が始まって以降、アメリカが定期的に開いているもので、ベルギーのブリュッセルにあるNATOの本部で14日、オースティン国防長官らおよそ50か国の代表のほかウクライナのレズニコフ国防相が参加して今後の軍事支援について協議しました。
会合のあとオースティン国防長官が記者会見し「ウクライナは可能なかぎり早い段階で勢いをつけ、自国に有利な戦況を確立したいと考えている。春ごろに攻勢に出ることが見込まれる」と述べて、ウクライナ軍がことし春に新たな反転攻勢に出るという見通しを示しました。
そして会合ではウクライナ軍の反転攻勢を見据え訓練を含む今後の支援について集中的に議論したとした上で「われわれはウクライナと協力して、差し迫った要望に対応する。春は数週間後に迫っており、われわれは多くのことを行わなければならない」と述べて、各国と連携して軍事支援を急ぐ考えを強調しました。
●ロシア、日本の反ロ的言動批判 「北方領土の日」巡り  2/15
ロシア外務省のザハロワ報道官は14日、日本が今月7日の「北方領土の日」に絡み「ロシア嫌い」を前面に打ち出し、ウクライナ情勢を巡りロシアに対する「悪意のある攻撃」を行っていると非難した。
北方領土の日のイベントでの日本政府当局者の発言や、ロシア在外公館周辺での日本の極右勢力の「攻撃的な行動」を例に挙げた。今年はとりわけ、「南クリル諸島(北方領土)に対する根拠のない領有権主張が、ウクライナ情勢に関連したロシアに対する悪意のある攻撃を伴った」とした。
ザハロワ氏はまた、北方領土へのロシアの主権を改めて主張し、日本が歴史を書き換え、戦後の現実を無視していると批判した。日本の外務省にコメントを求めたが、すぐに回答はなかった。 
●ロシア上院、22日に臨時会合 併合州巡る法案審議 2/15
ロシア通信は15日、ロシア上院が22日に臨時会合を開催すると伝えた。ティムチェンコ議員は、同通信にロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部・南部4州の法律をロシアと統合する法案を審議すると述べた。
プーチン大統領は会合に先立つ今月21日、連邦議会に対する年次報告演説を行い、ウクライナ情勢に言及する見通し。ロシア紙RBK電子版は、翌22日にプーチン氏がモスクワでの大規模集会に出席すると報じている。
●ロシア北方艦隊が冷戦後初の核武装航海──ノルウェー情報部 2/15
ノルウェー情報部は2月13日に公開した年次報告書のなかで、ロシア海軍北方艦隊の複数の艦艇が、戦術核兵器を搭載して配備された、と述べた。核兵器を搭載した艦が海上へ出たのは、ここ30年で初めてとみられる。
「核戦力の中心は、北方艦隊の複数の潜水艦と何隻かの水上艦に置かれている」という。
そして報告書は、ロシアの戦術核兵器がNATO加盟国にもたらす「とりわけ深刻な脅威」について指摘する。
「加えて、ロシアの有する潜水艦戦力、衛星攻撃兵器、サイバー攻撃ツールは、ノルウェーとNATOの脅威となりうる」
冷戦後では初めて
冷戦中には、ソ連北方艦隊の戦艦がしばしば核兵器を搭載して海に出ていた、と米ニュースサイト、ポリティコは伝える。だが、冷戦後にロシアが核兵器を搭載した艦を配備したのは、今回の展開が初めてだとされている。
さらに、2023年のロシアの防衛費が34%増になると推定される現状を踏まえれば、ロシアにとって核兵器の重要性は増しているとも述べている。
「通常戦力の競争力低下に伴い、核兵器の重要性は大幅に増加している」と報告書は述べる。「したがって、ロシアの戦略的および地域的な核抑止は、ロシア軍事力にとっていっそう重要になる」
ノルウェー情報部は、ロシアは今後も核戦力を維持し続け、さらに開発していくだろうと結論する。
ロシアがウクライナに侵攻してから2月24日で丸1年になるが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は概ね、この戦争での核兵器使用について直接言及することは避けてきた。だがこの数週間は、ドミトリー・メドベージェフ(ロシア安全保障会議の副議長で前ロシア大統領)などのロシア政府高官や、ロシア国営メディアの関係者が、核兵器使用の可能性に言及している。
メドベージェフは1月、自身のテレグラムチャンネルへの投稿のなかで、ロシアがウクライナで敗北すれば核戦争が起きる可能性があると警告した。「通常戦における核保有国の敗北は、核戦争の引き金になりうる」
ノルウェー情報部は、「偶発的な出来事」によりNATOがウクライナ戦争にじかに引きずりこまれる危険について警告する。
「ロシアの決断は、西側諸国の意図に対する強い不信感で特徴づけられる。その不信感は、ウクライナ侵攻に対する西側諸国の反応の結果として、著しく強化されている」と、報告書は述べる。「ロシア・NATO間の誤解や偶発的事故が起こる可能性は高まっており、それゆえエスカレーションのリスクも高まっている」
●露軍の新鋭主力戦車50%近く損失、ウクライナ軍も主力戦闘機を多数失う… 2/15
英国際戦略研究所(IISS)は15日、世界の軍事力を分析した報告書「ミリタリー・バランス2023年版」を発表した。ロシア軍がウクライナ侵略に伴い、新鋭主力戦車の50%近くを損失したと分析し、「人員と装備で甚大な打撃」を受けていると指摘した。中国の22年の軍事予算は過去最大を更新し、アジアの安全保障の不安定化が進んでいることも強調した。
報告書によると、露軍が22年に保有する実戦投入可能な主力戦車の総数は約2000両だった。21年には約3400両と見積もっており、ウクライナ侵略を経て大きく減少した。
露軍は、1970年代にソ連で採用されたT72戦車をベースに現代化改修した「T72B3」や「T72B3M」を大量にウクライナに投入したが、米欧が供与した対戦車ミサイルを駆使するウクライナ軍に多くを破壊された。報告書によると、両タイプの保有数は21年時点で1700両超だったが、22年には800〜970両程度まで半減した。露軍はより高性能の「T80」も多くを失ったという。
損失の背景については、過度に楽観的な情勢分析や訓練不足があったと指摘した。ロシアは2000年代後半から軍隊の現代化を急速に進めたものの、「改革は望まれた結果をもたらさなかった」と結論づけた。
一方、ウクライナ軍も主力戦闘機の多くを失い、ヘリを除く航空機は、21年時点の約120機から約80機に減った。報告書は現役の戦術戦闘機は保有の約半分を失ったと推定した。ロシア、ウクライナ両軍で装備の消耗が進んでいる。
中国に関しては、22年予算で軍事費は名目ベースで前年比7%増の約2420億ドル(約32兆円)となり、絶対額では過去最大になった。報告書は、戦闘機「殲(J)20」の数を増やし、国産ジェットエンジンを搭載した新型軍用機の配備も始めるなど、空軍力強化の動きを強めていると指摘。こうした中国軍の急速な現代化が、日本や韓国、オーストラリアなど周辺国の軍の現代化計画も加速させていると強調した。

 

●「ロシアは戦争をやめない」 ノルウェーとエストニアが共通見解 2/16
エストニアとノルウェーの情報機関が最近発表した戦略報告書では、いずれもロシアのウクライナ侵攻について同じ結論に達している。
11カ月間にわたり続くウクライナ侵攻では、ロシア側の戦果が乏しく、膨大な数の死傷者を出していることは確かだ。しかし、だからといってロシアが間もなく軍撤退を命じる見込みはない。
ロシア軍はさらに人員を徴集し、古い戦車を修理し、そして無期限に戦い続けることが、あらゆる面から示されている。そして、それを止められる者は、ロシアにはいない。
エストニアの情報機関は報告書で「ロシアがこれまで和平交渉に誠実な関心を示さなかったことから、ロシアとウクライナの戦争は2023年も続くだろう。和平交渉はロシアの戦略的目標の達成を保証しないからだ」と言明。「ロシアはウクライナでの戦争で、時間が自分たちに味方してくれると信じている」とした。
エストニアの情報機関はまた、「動員されたロシアの予備人員は現在、訓練を受けている。失われた軍事装備は、動員用施設に保管されていた武器で置き換えられている。同時に、ロシア軍はウクライナの重要な民間インフラを計画的に破壊し、ウクライナ人の防衛の意志を砕くことを狙っている」とも指摘している。
ウクライナがこれに屈するか否かは、過去の戦争の歴史から推測できる。都市が爆撃されても、そこに住む人々の意志が砕かれることはほとんどない。むしろ、都市への無差別集中攻撃は、市民の士気を高める。市民の抵抗の意志は強まるばかりだ。
このため、ウクライナが降伏する可能性はロシア以上に低い。ということは、どちらかが決定的な軍事行動を起こさない限り、戦争はおそらく延々と続く。ノルウェーの情報機関は「ウクライナを支配するというロシアの野望に変わりはない」と指摘した。
11カ月間にわたるウクライナ侵攻では、最大27万人のロシア兵が死傷したとみられる。ウクライナ軍がこれまでに破壊または奪取したロシア軍の戦車や戦闘車両、大砲、トラックは、計9000台に上る。その数は、大半の国の軍隊が保有する重装備品の数よりも多い。
こうした損失により、ロシア軍は戦闘力が低下しているが、機能不全には陥っていない。ロシアでは健康な徴兵適齢の男性の数は多くないが、政府は代わりに、優秀な兵士とはならないような中年男性たちを徴集して満足しているようだ。
●ロシアが「勝てない」戦争を続ける理由、プーチン氏の失脚は? 2/16
ロシアのウクライナ侵攻から約1年。民主主義研究の世界的権威として知られ、米スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローで、同大学政治学・社会学教授でもあるラリー・ダイアモンド氏は、ロシア・ウクライナ戦争を、経済制裁や国際的な孤立でロシアを破壊へと導く「破滅的な戦争」だと警告する。「ロシアを再び偉大な国に」という野望に突き動かされたプーチン大統領が恐れていることとは? プーチン大統領の失脚はあるのか? なぜウクライナは、民主主義にとって戦略的にもっとも重要な国なのか? 『侵食される民主主義:内部からの崩壊と専制国家の攻撃』(‎勁草書房、市原麻衣子監訳)の著者でもあるダイアモンド教授に話を聞いた。
「NATO問題は誇張されすぎている」 ウクライナ侵攻の最大の動機は?
――2022年9月に開かれたアメリカ政治学会(APSA)年次総会を取材しましたが、教授は9月17日、「How Autocracies Die」(独裁政治の死に方)と題するセッションに登壇されましたね。
ロシアや中国は存在感を増していますが、中国では、厳しいコロナ対策への反発が国内で起こるなど、変化も見られます。
ラリー・ダイアモンド(以下、ダイアモンド) 独裁政権は長期的な危機の時代に入りつつある。まさに独裁支配という特性に起因した危機だ。
10〜20年前、独裁政治は「次代を担う体制」になるのではないか、という議論が盛んになされた。民主主義よりもうまく機能するというのが、その理由だった。だが近い将来、そうした議論は、今よりもっと通用しにくくなるだろう。
――教授の著書『侵食される民主主義:内部からの崩壊と専制国家の攻撃』の原著刊行は2019年6月ですが、ロシアとウクライナに関する記述もあります。例えば、上巻第6章「ロシアによる世界的な攻撃」では、プーチン大統領が2000年の就任から約20年間、「経済の近代化、一般的なロシア人の生活の質向上、ロシアの人口減少食い止めなどに失敗してきた」ため、国民の注意をそらす必要があったと書いていますね。
改めてお伺いしますが、2022年2月のウクライナ侵攻に当たり、プーチン大統領にとって最大の動機づけとなったものは何だと思いますか?
ダイアモンド 北大西洋条約機構(NATO)拡大に対する恐れでないことは確かだ。
NATO問題に注目しすぎると、プーチン大統領の真意を見失ってしまう。一方、自らの権力を維持するために侵攻に踏み切ったとも思わない。プーチン大統領は国粋主義者だ。ロシアの偉大さを取り戻すという野心を心の中に抱き続けている。トランプ前大統領の「米国を再び偉大な国に」というスローガンと相通ずるところがある。「ロシアを再び偉大な国に」するためなら、他国の犠牲もいとわない。
ロシアの国粋主義者らは、道義的にも歴史的にも誤った不当な考え方に取りつかれている。ウクライナを独立国家ではなく、「ロシアの一部」だとみなしているのだ。または、そうあるべきだと。国際法の侵害だ。プーチン大統領は、非公式な形でのソ連邦復活を望んでいる。旧ソ連邦構成国を傘下に置き、ロシア政府の意のままに従わせたいと考えているのだ。
ウクライナ侵攻は ロシアにとっても「破滅的」だ
ダイアモンド 例えば、ベラルーシのルカシェンコ政権との関係が好例だ。2020年8月、ベラルーシで行われた大統領選挙で(親ロシアの)ルカシェンコ大統領が勝ち、不正を訴える大がかりな抗議デモが起こった際、プーチン大統領は国境周辺に治安部隊を派遣し、同政権を守った。
また、2008年8月には、ジョージアの南オセチア紛争をめぐり、ロシアは、ジョージアからの独立を目指す南オセチアを支援すべく、ジョージアに軍事侵攻を行った。
西側諸国が後押しすべきなのは、ウクライナにとどまらない。自国の完全な主権を望む国々や、ロシアと敵対するつもりはないがロシア政府の属国になる気もない国々も、支援すべきだ。
著書(下巻第11章「自由のための外交政策」)でも書いたが、かつて存在した米国の政府機関で現在は国務省に統合されている米国情報局(USIA)が行ったような、エネルギッシュで創意に富み、民主主義を推進するための大規模でポジティブな情報キャンペーンを繰り広げるべきだ。
そして、ロシアに向けて、こう発信するのだ。「イエス、ロシアも『再び偉大な国』になれる。国内の科学的・技術的人的資本を破壊的目的ではなく、イノベーションというポジティブな目的のために使うのであれば」と。
――第6章で、1991年のソビエト連邦崩壊は大半のロシア人に「近代化や西側との統合ではなく、貧困と国家の屈辱」をもたらし、それは、世界大恐慌が米国経済に与えた打撃を大きく上回るものだったと指摘していますね。
そして、そこに現れたのが、ロシアを「再び偉大な国にする」と誓った新指導者、ウラジーミル・プーチン氏だったと。プーチン大統領は独裁政権の指導者ですが、彼も一種のポピュリスト(大衆迎合主義者)といっていいのでしょうか。
ダイアモンド プーチン大統領がロシア経済の回復に取り組み、1人当たりの国民総所得増などで、経済がある程度持ち直したのは確かだ。その結果、ロシアは国際舞台で再び力を誇示するようになった。「再び偉大な国に」とまではいかなかったとしても、少なくとも国家機能を取り戻し、再び世界の大国の座に返り咲いたのだ。
だが、彼は、「ロシアを再び世界の超大国にしたい」という野心と欲望に取りつかれる一方、国内の課題を前に疑心暗鬼に陥った。そして、自国の独裁体制や汚職から国民の目をそらすべく、2014年にウクライナのクリミアを併合し、親ロ派を支援して東部ドンバス地方の大半を支配下に収め、2022年2月にはウクライナに「破滅的な戦争」を仕掛けるという、国際的な侵略行為と領土拡大に走ったのだ。
ウクライナのインフラ施設破壊や驚くべき数の死者数、戦争犯罪、大規模な人権侵害に加え、経済制裁や国際的な孤立でロシアを破壊へと導いているという意味でも、まさに「破滅的な戦争」といえる。
そして、これは中国と台湾の問題を想起させる。絶対的な権力を手にすると、誰もその指導者に進言しなくなることは歴史を見てもわかるが、中国も同じだ。私たちはウクライナ問題だけでなく、台湾に迫りくる難題にも直面している。
――欧米や日本を含めた西側諸国は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、厳しい対ロ経済制裁を続けています。一方、第11章にはこう書かれています。「ウクライナほど、民主主義にとって戦略的に重要な国は考えにくい」と。
ウクライナは、ロシアと欧州連合(EU)の間に位置する「最大の独立国」であり、その人口はロシアのほぼ3分の1に匹敵するそうですね。民主主義にとって、なぜウクライナは戦略的にもっとも重要な国といえるのでしょうか?
世界は「新冷戦」へと突入 核兵器の使用に踏み切る可能性は?
ダイアモンド ウクライナが、ロシアとEU、つまり西側諸国との間に位置する大きな国で、かつ戦略的に大きな意味を持つ国だからだ。ユーラシアと欧州の懸け橋となる重要な国は2つ。ウクライナと(黒海を隔ててウクライナの南方に位置する)トルコだが、トルコがロシアの属国になるリスクがあるとは思わない。
一方、ウクライナは、同書執筆当時、ロシアがすでにクリミアを併合しており、それ以前にも、ロシアはウクライナに再三、政治介入していた。2010年には、ウクライナに親ロ派ヤヌコビッチ政権(注:ロシアのクリミア併合に有利な状況をつくったとされる)が誕生している。
その後、ウクライナでは民主主義が機能しており、汚職対策も進んでいる。同国はゼレンスキー大統領という改革者の下で西側への統合を目指し、法の支配や自由民主主義体制の実現に向けて前進している。腐敗した国のほうがコントロールしやすいため、ウクライナがこのまま自由な民主主義国家になれば、ロシアによる政治介入やコントロールの余地が少なくなる。プーチン大統領には耐えがたいことだ。
彼が、ウクライナのNATO加盟を差し迫った問題だと考えていたとは思わない。それよりも、ウクライナが永遠にロシア政府の属国でなくなり、汚職も減って、強固な法の支配の下で、より自由民主主義的な国家として成功することを危険視したのだ。
とはいえ、ロシアにもウクライナと同じチャンスがあった。安定した自由民主主義国家へと変貌し、NATOに加盟するという選択肢もあった。現在のロシアと西側諸国との「新冷戦」は、プーチン大統領の攻撃性とウクライナ侵攻、そして、視野の狭さが招いたものだ。
――教授は著書の中で、民主主義にとって「新冷戦」は望ましくないといった趣旨の指摘をしています(下巻第9章「独裁者の挑戦に対応する」)。しかし、世界はもう「新冷戦」に突入していますよね?
ダイアモンド 多くの点で、もう「新冷戦」が始まっていると考えていい。相手はロシアだけでない。中国もそうだ。「新冷戦」という言葉は使いたくないが、西側諸国はイデオロギーや規範をめぐり、民主主義ではなく独裁政治を広めようとする世界でもっともパワフルな2つの国との戦いのさなかにいる。イデオロギーだけでなく、地政学的な闘争も多くの場所で起こっている。
残念なことに、新冷戦は、かつての冷戦をほうふつさせるような、すさまじい様相を呈している。
――プーチン大統領が大規模な経済制裁で追い詰められることで、核兵器の使用に踏み切る可能性は?
ダイアモンド 経済制裁が核兵器の使用を招くとは思えない。
経済制裁以外にどんな選択肢があるというのか。ロシアと直接戦火を交えるより、はるかにましだ。私たちは、第2次世界大戦後に築いた世界――主権や人権の尊重、国境不可侵――の中で生きている。ロシアによってそうした世界が侵害されているのを目の当たりにしながら、ただ手をこまねているわけにはいかない。
ロシアのウクライナ侵攻を看過すれば、他の独裁国家が、さらに憤激に満ちた武力行使を行いかねない。他国に侵攻しても、ほとんどおとがめがないと感じるからだ。そんなことになれば、日本にとっても重大問題だ。日本も(地政学的に)脆弱な立場にいるからだ。
「ロシア版シリコンバレー」を目指していたら ロシアは今日よりはるかに成功していた
――ロシアは大規模な経済制裁を科される前から、グローバル化の点で後れを取っていました。
ダイアモンド ロシアだけではない。さまざまな国々で、多くの人々がグローバル化から取り残されて失業や有期雇用、経済的苦境といった問題を抱え、人生やキャリアの見通しが立たなくなっている。例えば、グローバル化や経済の極端な金融化などで空洞化した米国の製造業もそうだ。
欧米や日本など、社会全体がグローバル化に取り残されていない国々にも、経済的に苦しい人々は大勢いる。どのような経済的・社会的政策を導入すれば、そうした人々にセーフティーネットや支援、職業訓練を提供できるのかを考えなければならない。
確かにロシアはグローバル化の点で、成功できなかった。だが、それは、自国の選択が招いた結果だ。
ロシアにも、テックのエンジニアやコンピュータ科学、ソフトウエア開発の専門家が数多くいるが、プーチン大統領が彼らを動員して米国政治への介入やデマ拡散を行うのではなく、「ロシア版シリコンバレー」の構築を目指していたら、ロシアは今日よりはるかに成功していたはずだ。武力行使の代わりにテック分野でイノベーションを起こし、他国と競い合い、経済開発に専念していたら、状況は大きく違っていた。
――第11章には、次のような一文があります。「慢性的に腐敗しているウクライナの政治システムに単に資金を投入するだけでは、民主主義にとって有望な賭けとは言いがたい」(注:2019年6月に原著が刊行された『侵食される民主主義』は、同年5月まで続いたポロシェンコ政権を念頭に書かれている)。しかし、ゼレンスキー政権下でも汚職は一掃されておらず、ウクライナは政治システムの改革途上にあります。
一方、西側諸国は、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア中央銀行排除なども含め、厳しい対ロ経済制裁を続けています。西側によるウクライナへの大規模な支援について、どう思いますか?
ダイアモンド まず言っておきたいのは、ゼレンスキー大統領が、ポロシェンコ政権下で始まった多くの改革を続行・加速させ、会計処理の向上や(政府機関などの)汚職監視・摘発を行い、統治の質を高めてきたことだ。
もちろん、西欧や日本、台湾、米国のような自由民主主義体制のレベルにはまだ至らないが、かなりの進歩だ。私たちはウクライナへの財政支援を通し、もっと責任を伴うメカニズムや統治改革が実現されるよう後押ししなければならない。
ひるがえって西側諸国の厳しい対ロ制裁は、ロシアがウクライナにそれだけひどい武力侵略を行っていることの裏返しだ。第2次世界大戦以降、これほどあからさまでショッキングな他国への武力侵略はなかった。人権や法の支配を侵害している。だからこそ、私たち先進民主主義国家が団結したのだ。
第2次世界大戦の終結とともに、他国を侵略できるという規範は闇に葬られたと思っていた。他国に軍事侵攻し、制圧することなどできないという根本原則が築かれたと思っていたのだが。
――プーチン大統領が失脚する可能性はあるのでしょうか?
ダイアモンド 何とも言い難いが、彼は今も政権をまとめ、権力を維持している。近いうちに追い落とされるとは思わない。ロシア軍がウクライナ戦争で崩壊するようなことがあれば、失脚する可能性もあるだろう。だが実際のところ、プーチン大統領は数多くの新鋭部隊を動員し、「勝てない」戦争を続けている。
たとえ勝利はつかめなくても、敗戦だけは避けたいはずだ。となれば、彼がすぐにでも政権の座を降りるようなことになるとは思わない。・・・
●「ロシア・ウクライナ最終決戦」が始まった… プーチンは「戦術核」使用に・・・ 2/16
筆者は1月19日付の記事で、ロシアーウクライナ戦争について「大きな戦いが近づいている」と書いた。そして予想通り、この戦争の行方を左右するであろう決戦がはじまった。
ロイター2月14日付には、こうある。
〈 北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は13日、懸念されていたウクライナでのロシアの新たな大規模攻撃がすでに始まっていると述べた 〉
〈 ウクライナ侵攻から1年が近づく中、ロシア軍は13日、ウクライナ東部のバフムトを攻撃。NATOの事務総長は、長い間恐れられていたロシアの大規模攻撃が始まったとの見方を示した 〉(太字筆者)
本稿では、とうとうはじまったロシア軍の大攻勢において注目すべき点について考えてみよう。
戦略家ゲラシモフの実力とは
今回の大攻勢がこれまでと違う点は、ロシア軍制服組のトップ・ゲラシモフ参謀総長自身が指揮を執っていることだ。
プーチンは1月11日、ゲラシモフをウクライナ特別軍事作戦の総司令官に任命した。一般の日本人で、ゲラシモフを知っている人は多くないだろう。しかし、世界の軍幹部は、誰もが彼の名を知っている。彼が、ロシアのハイブリッド戦争理論「ゲラシモフ・ドクトリン」の提唱者だからだ。
ロシアは2014年3月、ウクライナからクリミアを無血で奪うことに成功した。「ロシア、ハイブリッド戦争の勝利」と語られることが多いが、「ゲラシモフ・ドクトリンの勝利」とも言える。
ちなみに、今回の戦争についても、「プーチンがゲラシモフの言うことを聞いていれば、ロシア軍はウクライナ軍に勝てた」という見方も存在している。
元モスクワ国際関係大学教授のソロヴェイ氏によると、ゲラシモフは、「陸軍が侵攻する前に、1ヵ月ほど空爆を行い、ウクライナの軍事インフラを破壊しつくすべきだ」と主張したという。ところが、プーチン自身は、FSB第5局の超楽観的な情報を信じ、即座に首都キーウを目指すという大失敗を犯した。
既述のようにゲラシモフは、制服組のトップだ。彼が戦って敗北したら、後はない。だからこそ、ゲラシモフは、自分自身とロシア軍の威信にかけて、全力で挑んでくるだろう。
今、多くの国の軍幹部が、「世界的に有名な戦略家ゲラシモフは、どんな戦いをするのだろうか」と注目している。
キーウ再侵攻はあるか
もう一つの注目点は、ロシア軍が、再度ウクライナの首都キーウ制圧を目指すかどうかだ。
ロシア軍がキーウに侵攻するなら、ウクライナの北隣の国ベラルーシから南下するのが最短ルートとなる。
ところが、1月19日付記事でも触れたが、ロシアの同盟国ベラルーシでは、大きな異変が起きている。昨年11月26日、「欧米とのパイプを持つ大物政治家」として知られるマケイ外相が急死したのだ。
ルカシェンコ大統領は、「マケイは、プーチンに暗殺されたのではないか」と恐怖している。
ニューズウィーク2022年12月1日を見てみよう。
〈 11月末に急死したベラルーシの外相は、西側との接触がばれて「ロシアに毒殺された」ともっぱらの噂だ 〉
〈 「ヨーロッパ最後の独裁者」と呼ばれるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領といえば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の忠実な盟友として知られる。それが最近は、ロシア政府に暗殺されるのではないかと疑心暗鬼に陥っているという。11月末にベラルーシ政府No.2の外相が急死したからだ 〉
事の真偽はともかく、ロシア軍とベラルーシ軍は1月半ばから2月初めにかけて、合同軍事演習を行っている。
思い出されるのは、昨年2月のことだ。ロシア軍がウクライナ侵攻を開始する前にも、両国軍は、合同軍事演習をしていた。今回も同じことが繰り返されるのだろうか。
ロシア軍が、再度キーウ制圧を目指すのは、作戦的には合理的と言える。
ゲラシモフが戦う戦場は、東部ドネツク州だ。北からロシア軍が南下してキーウを目指せば、ウクライナ軍は二正面作戦を強いられることになる。首都を脅かされたくないウクライナは、かなりの戦力をキーウ防衛に割かざるを得なくなるだろう。
戦車、戦闘機が届くまで耐えられるか
プーチンとゲラシモフが、今、大攻勢を開始したのには理由がある。
それはつまり、「欧米からウクライナに戦車が届く前に決着をつけてしまいたい」ということだ。
ゼレンスキーも、ロシアが大攻勢の準備をしていることを知っていた。それで彼は、欧米に戦車の供与を求めていたのだ。
そして、イギリスは「チャレンジャー2」を14両、米国は「M1エイブラムス」を31両、ドイツは「レオパルト2」を14両供与することを決めた。
欧州でもっとも広く使われている「レオパルト2」については、ドイツだけでなく、ポーランド、フィンランド、カナダなど12か国が供与する意向を示している。
ウクライナのクレバ外相によると、合わせて120〜140両の戦車を受け取ることができる。
米英独は、ウクライナに戦車を供与することを決めた。しかし、アメリカは、「エイブラムス」を新たに生産するので、ウクライナに届くまでに約1年かかるという。それでは、決戦に間に合わない。
一方、「レオパルト2」は、すぐに届けることができる。だが、ウクライナ兵がこれを操縦できるようになるには、最低2ヵ月の訓練が必要だ。
ドイツ政府がレオパルト2の供与を決めたのが1月26日。そうなると、レオパルト2がウクライナの戦場に投入されるのは、早くても3月末ということになる。
プーチンやゲラシモフは、「レオパルト2が戦場に届く前に、大攻勢をしかけよう」と考えたのだろう。しかし、逆の見方をすれば、「ウクライナ軍は戦車が到着する3月末まで耐えれば、戦局を変化させる可能性がでてくる」となる。
欧米の支援は、戦車にとどまらない。ゼレンスキーの要望に応じて、NATOは戦闘機供与の協議に入っている。実現すれば、これも戦局に大きな影響を与えることになるだろう。
プーチンが戦術核の使用を決断する条件
ロシア軍大攻勢の結果を予測するのは、現段階では困難だ。
ウクライナ軍が、ロシア軍の「ラスボス」ゲラシモフを破ったとしても、「それで戦争は終わり」とならない可能性がある。「打つ手」がなくなったプーチンが、「戦術核を使え」と指令を出すかもしれないからだ。
ウクライナ侵攻が始まる前、「プーチンが核を使う」といえば、「トンデモ系」のレッテルを貼られたことだろう。しかし、今や全世界の大手メディアがそのことを報じている。プーチンやメドベージェフ前大統領などが、戦術核使用の可能性に言及しているからだ。
たとえば2022年9月30日ロイターには、こうある。
〈 ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナ東・南部4州の併合を宣言する演説で、米国が第二次世界大戦末期に広島と長崎に原爆を落とし、核兵器使用の「前例」を作ったと指摘した。プーチン大統領は最近、自国の領土を守るために核兵器を使用する用意があると述べ、核兵器使用が懸念されている。プーチン氏は演説で「米国は日本に対し核兵器を2回使用した」とし「米国が核兵器使用の前例を作った」と述べた 〉
これを聞いて納得できる人はいないだろうが、つまりプーチンは、「アメリカが最初に核兵器を使ったのだから、ロシアが使ってもOKだろう」と主張しているのだ。
では、どのような状況になれば、ロシア軍が戦術核を使う可能性が高まるのか? 
一つ目は、ゲラシモフが大攻勢で敗北した時、あるいは敗北しそうになった時だ。
ゲラシモフは、ロシア軍の「ラスボス」だ。彼が負けたら、後には誰もいない。それで、プーチンが、「戦術核を使って戦局を打開しよう」と考えてもおかしくはない。
もう一つのタイミングは、ウクライナ軍が、クリミア奪還に動いた時だ。これは、メドベージェフ前大統領が断言している。
読売新聞2月5日を見てみよう。
〈 ロシアのメドベージェフ前大統領は4日、ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミアが長射程の兵器で攻撃された場合、核兵器を含む「あらゆる手段」で報復し、「ウクライナ全域が炎上する」と主張した 〉
なぜプーチンはクリミアにこだわるのか
プーチンが大統領になってから、今年で23年になる(08年〜12年、彼は首相で、メドベージェフが大統領だった)。彼は、この長い期間で、何を成し遂げたのだろうか? 
確かに、1期目2期目(2000〜2008年)、プーチンには「偉大な大統領」になるチャンスがあった。
彼は、90年代ロシアの政治経済を牛耳っていたユダヤ系新興財閥ベレゾフスキー、グシンスキー、ホドルコフスキーを打倒し、人気者になった。この8年間、ロシア経済は年平均7%の成長を続け、ソ連崩壊で失われた「大国の地位」を取り戻すことに成功した。その後、プーチンは、大統領の座をメドベージェフに譲り、4年間は名目上のナンバー2である首相を務めている。
だが、彼が大統領に返り咲いた2021年、すでに世界は変わっていた。米国でシェール革命が進展し、原油、天然ガスの供給量が大幅に増加。2000年代右肩上がりだった原油価格は、もはや上がらなくなっていたのだ。
このことは、すなわち「ロシア経済右肩上がりの時代」が終わったことを意味していた。
経済成長できなくなった後、プーチンは、どうしたのだろうか? 
2014年3月、彼は無血でクリミアを奪い、ロシア国内で「歴史的英雄」になった。
日本人には理解しがたいが、ロシア国民のほとんどは、「クリミアは歴史的にロシアの物」と確信している(ロシア帝国は1783年にクリミアを併合した)。それで、そもそも自分の物であるクリミアを「取り戻してくれた」プーチンは、英雄になったのだ。
だが、その結果、ロシアは欧米日から経済制裁を科され、経済はまったく成長しなくなった。クリミアを併合した2014年から2020年までのGDP成長率は、年平均0.38%にとどまっている。
ロシアのGDPは2021年、世界11位。人口1億4200万人のロシアの経済規模は、人口5170万人の韓国以下。ロシアの一人当たりGDPは2021年、12218ドルで世界65位。これは、12561ドルで62位の中国以下だ。
というわけで、プーチンの治世23年を振り返ると、実績と呼べるものは、「クリミア併合」しかない。
だが、ウクライナは、本来自国領であるクリミアの奪還を目指す。もしそれを許せば、プーチンには何も残らない。だから、ウクライナがクリミア奪還に成功しそうになった時、プーチンが戦術核の使用を決断する可能性が高まるのだ。
FSB、SVRによるクーデターの可能性
ところで、この戦争は、どう終わるのか? 
プーチンのメンターと呼ばれる地政学者アレクサンドル・ドゥーギンは、TBSとのインタビューで驚愕の発言をしている。
〈 「ロシアが勝利するか、人類滅亡になるかの2択です。3つ目のシナリオはありません。我々は勝利しなければ止まることがないのでこの戦争はいつまでたっても続く可能性もありますが、人類滅亡であっという間に終わる可能性もあります 〉(TBS NEWS DIG 2月12日)
「ロシアが勝利するか、人類滅亡」の2択だそうだ。
つまり、ウクライナ軍が優勢でも、ロシアは核を投入することで勝たせないということだろう。そうなると、NATO軍が介入し、第3次世界大戦、核の撃ち合いがはじまり、人類が滅亡する……。
このような男が、「プーチンのメンター」と呼ばれているのだから、人類の未来は絶望的に思える。
では、希望は全くないのだろうか? 
情報筋によると、ロシアの諜報機関であるFSB(連邦保安庁)やSVR(対外情報庁)の中にも、核使用に何度も言及するプーチンに対し、「ついていけない」と考える人が増えているらしい。
常識的に考えれば、戦術核の使用は、第3次世界大戦を引き起こし、人類滅亡に発展する可能性がある。反対派が増えるのは、当然だろう。
今後、FSB、SVRの「常識派」がクーデターやプーチン暗殺を画策する可能性が高まっていくのではないか。
●ロシア国防省も受刑者採用 ワグネル同様「突撃部隊」 ウクライナ前線投入 2/16
米CNNテレビ(電子版)は14日、ロシア国防省が受刑者を採用して「突撃部隊」を編成し、昨年10月にウクライナ東部の前線で「壊滅的な損害」を被っていたと報じた。
これまで民間軍事会社「ワグネル」が刑務所で戦闘員を募集したことは、広く知られている。国防省もワグネルも「プーチン大統領の恩赦」を受刑者に提示したとみられ、国家ぐるみの関与が浮かび上がった。
元受刑者は東部ドネツク州の激戦地バフムト周辺に投入された。5万人のうち4万人が戦死したという推計もある。ロシア軍は同州で「大規模攻勢」を開始し人的損耗が激しいとされ、兵員増強が急務になっている。
ワグネル創設者のエブゲニー・プリゴジン氏は9日、「受刑者の募集は完全に停止した」と説明したが、実際は停止していないという情報がある。国防省も受刑者募集を続けている可能性があり、実態はほとんど変わっていなさそうだ。
独立系メディア「ビョルストカ」が13日に報じたところでは、国防省は昨年9月から受刑者を対象に兵員を募集。冬季を中心に今月までに5地方の刑務所で採用した。
「プーチン氏のシェフ」と呼ばれ影響力を誇るプリゴジン氏は1月、バフムト近郊ソレダルの制圧をワグネルだけの「手柄」と主張。国防省とのあつれきが露呈していた。プリゴジン氏の「停止宣言」は、同氏に不満を持つ国防省が兵員募集で主導権を握ったことを示していると、ビョルストカは伝えている。
ワグネルを巡っては、逃亡するなどした戦闘員への「超法規的な処刑」も波紋を広げた。部隊運用の主体が国防省となっても、元受刑者らは同様に過酷な環境に置かれているもようだ。元受刑者らはCNNの取材に「最前線に送られ、敵軍だけでなく友軍からも意図的に撃たれた」「負傷しても治療を受けられず、銃弾などが身体に残ったまま戦闘に戻された」と証言している。 
●EU ロシアへの追加制裁案を発表 プロパガンダ関連も 2/16
EU=ヨーロッパ連合はウクライナ侵攻から1年となるのを前にロシアに対する追加制裁案を発表しました。イランの団体や偽情報を拡散する団体も対象に含まれました。
EUのフォンデアライエン委員長は15日、ロシアに対する第10弾となる制裁案を発表しました。
電子機器や特殊車両など110億ユーロ、日本円で1兆5700億円規模の輸出禁止措置が含まれます。
また、ロシアへのドローン提供に関わったとしてイランの革命防衛隊の7つの関連団体も制裁対象に加えました。
さらに、ロシアのプロパガンダや偽情報を拡散する関係者も対象としました。
「プーチン大統領は公共の場でも戦争を繰り広げていて、社会を分断するために有害な嘘を拡散している」と非難しました。
●ロシア軍の“信じがたいミス”がまた発覚…最新兵器が破壊された事情 2/16
Forbes JAPANは2月7日、「ロシア、北極圏用防空車両をウクライナに派遣するも吹き飛ばされる」との記事を配信した。
Forbesが伝えた「北極圏用防空車両」とは、「Tor-M2DT」という短距離・地対空ミサイルシステムのこと。記事によると製造されたのは12台だといい、ロシア軍にとっては虎の子の最新兵器だ。
「Tor」は地対空ミサイルシステムの総称になる。ミサイルとレーダーを1台の車両に搭載したことが特徴とされ、敵の戦闘機、攻撃機、ヘリコプター、ドローンなどを撃墜するための兵器だ。軍事ジャーナリストが言う。
「『Tor』シリーズのうち『M2DT』は北極専用で、マイナス50度まで耐えられる設計になっています。2台でワンセットですが、これは雪道で1台がスタックしても、もう1台が押したり引いたりして脱出できるようにするためです。1台につき地対空ミサイルを8発、2台で16発を搭載し、その射程は約16キロと推定されています」
Tor-M2DTが開発されたのは、ロシアにとって「北極海航路」が国益に直結しているからだという。近年、地球温暖化の影響で、夏季であれば北極海の一部を船が航行できるようになった。
「北極海航路を使えば、ロシアは北方で産出される液化石油ガス(LNG)などを、ヨーロッパ側にもアジア側にも海路で輸送することが可能になります。その北極海航路の防空を担うために、Tor-M2DTが開発・配備されました。ちなみにアメリカは、『航路の自由を保障するため、むしろミサイルシステムは不要』と配備に反対を表明しています」(同・軍事ジャーナリスト)
国営テレビ局が詳報
ロシア軍は昨年末、Tor-M2DTをウクライナ戦争の最前線に投入した。だが、“軍事の常識”に照らし合わせると、専門家でも首をひねるようなことが多々あったという。
「そもそもTor-M2DTが必要なのかという根本的な疑問があります。ウクライナ軍は航空戦力の不足に苦しみ、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領(45)は今月、NATO(北大西洋条約機構)加盟国を歴訪し、戦闘機の支援を強く要請しました。ロシア軍が地対空ミサイルを使う場面など、そうは考えられません」(同・軍事ジャーナリスト)
おまけにロシア軍は「Tor-M2DTがウクライナに向かう」と大宣伝したのだ。国防省が運営する国営テレビネットワーク「ズベズダ(Zvezda)」が詳報した。
「陸上部隊や軍艦、軍用機の移動は、極秘中の極秘が軍の基本です。ところがロシア国防省は、Tor-M2DTの出撃を大々的に報道しました。太平洋戦争で言えば、日本海軍が新聞社に『明日、わが連合艦隊は奇襲攻撃のため、真珠湾に向かって出航します』と発表するようなものでしょう。Tor-M2DTが出撃するからといって、ロシア国民の戦意が高揚したり、最前線の兵士の士気が上がったりすることもありません。要するに全く理解できない発表だったのです」(同・軍事ジャーナリスト)
“ターミネーター”の末路
士気が上がったのは、むしろウクライナ軍だ。ズベズダの報道などでTor-M2DTの投入を知り、周到に準備しながら待ち構えていた。そして何が起きたのか──Forbesの記事から紹介しよう。
《ウクライナ軍第406砲兵旅団の保有するドローン群がヘルソン州でTor-M2DTの位置を突き止めた。報道によると、砲手はGPS誘導エクスカリバー弾を発射して、1月下旬から2月初旬にかけてのわずか数日の間に2台のTorを破壊した》
ウクライナ軍はTor-M2DTが爆発・炎上する様子をドローンで撮影、動画をTwitterなどで公開した。これは今でも視聴が可能だ。
ロシア軍が自軍の動きを不用意に広報し、多大な損失を被ったのは、これが初めてではない。
「BMP-Tという戦車支援車両は、ロシア軍自慢の兵器です。戦車は小回りがきかないので、歩兵の攻撃に弱い。そのために開発されたBMP-Tは、戦車を護衛し、敵の歩兵を攻撃します。“ターミネーター”というあだ名が付けられ、『攻撃力も防御力も非常に高い』と宣伝してきました。ウクライナ戦争にはT−72戦車の車体を流用したBMPT−72が投入されています」(同・軍事ジャーナリスト)
昨年の5月18日、ロシア国営のRIAノーボスチ通信は「ウクライナ東部にBMPT−72を投入する」と報じた。
「報道を把握したウクライナ軍は“ターミネーター”を待ち構えていました。そして今月10日、ウクライナ国防省はTwitterにBMPT−72が爆発する動画を公開しました。発表によると、東部のクレミンナ近くで撃破したそうです。映画『ターミネーター』には“I'll be back(俺は戻ってくる)”という有名なセリフがあります。それをもじって“It won’t be back(元には戻らない)”という一文をツイートに記しました」(同・軍事ジャーナリスト)
大晦日の惨事
専門家が首をひねるのは、ロシア軍の学習能力がゼロだということだ。デイリー新潮は1月10日、「HIMARSでロシア軍の徴集兵400人死亡 背景に『兵士のパーティー情報漏れ』というお粗末」との記事を配信した。
「大晦日から元日にかけて、ウクライナ東部に駐留していたロシア軍部隊が新年のパーティーを開きました。ところが、SNS上でパーティーの予定を投稿していたため、ウクライナ軍は高機動ロケット砲システム『ハイマース(HIMARS)』で攻撃、多数の戦死者が出たのです。他にも、地対空ミサイルの配備位置が不用意なSNSの投稿で特定されたこともありました。同じミスを何度も犯しているのに、ロシア軍は機密保持を徹底させることができないのです」(同・軍事ジャーナリスト)
昨年、「ロシア軍の弾薬庫が爆発」というニュースが何度も伝えられたが、今は減少傾向にある。
「弾薬庫に関しては、ロシア軍は学習しています。HIMARSや榴弾砲の射程を考慮し、兵站を前線から下げたと考えられます。にもかかわらず、Tor-M2DTやBMPT−72の投入はメディアで発表し、ウクライナ軍にマークされるという信じがたいミスを犯しました。ロシア軍の上層部には無能な軍人がおり、何も考えずに情報を垂れ流しているのか、と疑いたくなります」(同・軍事ジャーナリスト)
●ロシア、陸軍の97%をウクライナに配備=英国防相  2/16
英国のベン・ウォレス国防相は、ロシアが陸軍の97%をウクライナに配備しているとの見方を示した。ロシア軍はウクライナ東部の前線で攻勢を強めているが、戦局を打開するには至っていない。
ウォレス氏は15日の英国放送協会(BBC)の番組「トゥデー」で「現時点のわれわれの推計では、ロシア陸軍全体の97%がウクライナに配備されている」と話した。
●ウクライナに陸軍戦力の97%投入したロシア…戦車戦力の40%失った 2/16
ウクライナ戦争勃発1年が近づく中でロシアが陸軍戦力の97%をウクライナに配備し、戦争前に保有していた戦車戦力の40%を失ったという分析が出てきた。ウォール・ストリート・ジャーナルと英紙ガーディアンが15日に報道した。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、ウォレス英国防相がこの日BBCに出演し、「ロシアが陸軍の97%をウクライナに配備したと推定される。これを通じすべての戦線で前進しようと努めている」と話したと伝えた。
ウォレス国防相は続けて「ロシア軍がこれらを単一戦力として集結させ一気に大規模攻勢を行うことはなかった。すべての戦線で前進しようと努力したがこれはロシア軍の大きな犠牲につながった」と付け加えた。
ウォレス国防相の今回の発言は、米国と西側同盟国がドイツのミュンヘン安全保障会議で2日にわたりウクライナ支援に関し議論する中で出てきた。米国と同盟国はこの会議でウクライナに対しさらに多くの防空システムと軍訓練支援を約束し、ウクライナのレズニコフ国防相はこの日の議論の焦点は戦車の提供に合わされると話した。
一方、ガーディアンは英国際問題戦略研究所(IISS)の報告書を引用し、ロシア軍が昨年のウクライナ戦争初期9カ月の間に戦争前に保有していた戦車戦力の40%ほどを失ったと報道した。IISSは戦争開始から11月末までドローンと人工衛星で撮影された戦場の写真などに基づいてロシア軍の戦車戦力を分析した報告書で、ロシア軍の戦車台数が2927台から1800台に38.5%減ったと推定されると明らかにした。
IISSのチップマン所長は戦場での莫大な戦車の損失を考慮すればロシアの戦車損失率は50%に高まる可能性もあるとし、兵器生産が遅いためロシアは今後冷戦時代に備蓄した戦力を使うほかない状況に追い込まれると話した。
IISSはこの期間にウクライナ軍の戦車は858台から953台に増え、ウクライナ軍はロシアの戦車約500台をろ獲して相当数を戦場に再投入することで自国の戦車損失を補充したほか、ポーランドとチェコなどから戦車を支援されたと伝えた。
●アラブ諸国、燃料価格高騰で明暗 外交は「中立」堅持 ウクライナ侵攻1年 2/16
ロシアによるウクライナ侵攻開始からの1年間で、中東地域は湾岸諸国が燃料価格高騰で利益を上げたのに対し、他のアラブ諸国は食料危機や物価高に苦しんだ。
一方、外交面では欧米を中心としたロシア包囲網と距離を置く立場で一致している。
「脱ロシア」で恩恵
ロシア産やウクライナ産の小麦に依存する中東諸国では、侵攻が始まって間もなく両国からの輸入が停滞。主食のパンが値上がりし、食料安全保障の問題に直面した。ウクライナからの輸出再開後も国民生活は改善せず、燃料価格などの高騰が既に疲弊した経済に追い打ちを掛けた。
エジプトのインフレ率は26%超。政府の政策への批判に、シシ大統領は「これまで行ったことに誤算はない」と反論するが、状況改善の兆しは見えていない。
対照的にアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアなど湾岸の産油国は、燃料価格高騰で潤っている。欧州がエネルギー供給で進める「脱ロシア」の恩恵を受ける形で、カタールはドイツと液化天然ガス(LNG)の長期供給契約を締結。UAEでは制裁下のロシアからの投資が増えた。アルアハラム政治戦略研究所(エジプト)のフセイン・スレイマン氏は「エネルギー輸出国と輸入国で明暗が分かれた」と語る。
米の「中東離れ」も影響
ウクライナ侵攻への対応を巡り、アラブ連盟(21カ国・1機構)は昨年11月の首脳会議で、共同宣言に「非同盟の原則を堅持する」と明記。中立の立場で足並みをそろえ、西側諸国による対ロシア制裁とも一線を画している。
米シンクタンク「アラブセンター」非常勤フェローのチャールズ・ダン氏は、ウクライナ侵攻について「中東諸国の多くは、自国と利害関係のない戦争と捉えている」と指摘。「軍事と経済の両面で関係があるロシアを遠ざけることには消極的だ」と説明した。
例えばエジプトは、米国だけでなくロシアから武器を輸入し、ロシアの協力で原発建設を進めている。サウジやUAEなどは、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国で構成する「OPECプラス」でロシアとパートナー関係にある。
米国が外交の重点をインド太平洋に移し「中東離れ」を進めていることも、中東諸国の姿勢に影響している。サウジは昨年、中国の習近平国家主席を迎え、関係強化を印象付けた。エジプト外交評議会メンバーのラカー・ハッサン氏は、国際関係が多角化する中、中立を志向する立場は「今後も変わらないだろう」と予想している。 
●マクロン仏大統領、中国の王毅氏と会談…ウクライナ情勢「同じ目標」確認  2/16
フランスのマクロン大統領は15日、パリで、中国外交トップの 王毅ワンイー 共産党政治局員と会談した。AFP通信は、仏大統領府の説明として、両氏はロシアによるウクライナ侵略をめぐり、「国際法を尊重し、平和に貢献する同じ目標」を確認したと報じた。
仏大統領府は、マクロン氏が会談で、「侵略を受けている国に対する支持」を強調したとしている。対露非難を避けてロシアと接近している中国に配慮し、ウクライナ支持を明言しなかったことを示唆した。
中国外務省の発表によると、王氏はウクライナ情勢を巡る中国の立場について、「客観的で公正な立場を維持し、和平に向けた話し合いを促していきたい」と強調した。
マクロン氏は昨年11月、今年早期に訪中する意向を示しており、王氏との会談でも議題になった可能性がある。
●ウクライナ国防相 “ロシア軍が空から大規模攻撃 追加支援を”  2/16
ウクライナではロシア軍が東部のドンバス地域で激しい攻撃を繰り返すなど、ウクライナ軍との攻防が続いています。ウクライナのレズニコフ国防相はロイター通信のインタビューに対し、ロシア軍による空からの大規模な攻撃の可能性について言及し、欧米各国に対し追加の軍事支援を求めました。
ロシア軍は東部のドンバス地域で激しい攻撃を繰り返していて、ロシア国防省は15日、ルハンシク州の一部で、ウクライナ軍の防衛線を突破したと主張するなど各地で攻防が続いています。
こうした中、イギリスのフィナンシャル・タイムズは14日、NATO=北大西洋条約機構の複数の当局者の話として、ロシアがウクライナとの国境近くに飛行機やヘリコプターを集結させ、空からの大規模な攻撃を準備している可能性があると報じました。
NATO加盟国の外交官は「ロシア空軍はおそらく戦力の80%以上が使える状態で、空からの攻撃によってウクライナの防空施設を破壊しようとしている」という見方を示したということです。
さらに、ウクライナのレズニコフ国防相も15日、ロイター通信のインタビューに応じ「もしロシアが大規模な攻撃を仕掛けるとすれば、航空機を使って空を支配するだろう」と述べ、ロシア軍による空からの大規模な攻撃の可能性について言及しました。
そのうえで「こうした状況はウクライナにとっての真の脅威だ。それに対抗するため、私たちには洗練された最新の航空機が必要だ」と述べ、欧米諸国に対し、ウクライナに戦闘機を供与するよう改めて求め、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
●NATO ウクライナに大量の弾薬供給へ加盟各国が生産強化で合意  2/16
NATO=北大西洋条約機構は、2日間にわたって国防相会議を開き、今後、ウクライナへの軍事支援として大量の弾薬を供給するため、加盟各国が弾薬の生産能力を強化することで合意しました。
欧米の主要国を中心に30か国が加盟する世界最大の軍事同盟・NATOは15日までの2日間、ベルギーにある本部で国防相会議を開き、ウクライナへの追加の軍事支援などについて意見を交わしました。
ウクライナではロシア軍との戦闘の激化に伴い、大量の弾薬が消費され、軍事支援の一環として弾薬を供与する欧米各国では生産が追いつかなくなり、各国の軍の在庫が大きく減少する事態が懸念されています。
NATOのストルテンベルグ事務総長は会議のあと記者会見を開き「加盟国は、防衛産業と協力して弾薬の生産能力を強化することが必要だという認識で一致した」と述べました。
そして、口径155ミリの砲弾は増産が進んでいるとしたうえで「取り組みは成果をあげてきているが、さらなる強化が必要だ。ウクライナで起きているのは過酷な消耗戦であり、消耗戦とは補給をめぐる戦争だ」と述べ、軍事支援を継続する姿勢を改めて強調しました。
●ロシアの侵攻長期化で不足の弾薬供与などウクライナ支援強化を確認 NATO 2/16
NATO=北大西洋条約機構の国防相会議は、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対して不足している弾薬を供与するなど支援の強化を確認して閉幕しました。
ベルギーのブリュッセルで行われていたNATO国防相会議は15日、2日間の日程を終え、閉幕しました。
会議ではウクライナへの軍事支援について意見が交わされ、侵攻の長期化によって不足している弾薬の供与など、支援を強化することを確認しました。
NATO ストルテンベルグ事務総長「NATO加盟国がより多くの武器供与や軍事訓練などの支援で新たに合意したことを歓迎します」
NATOのストルテンベルグ事務総長は閉幕後に記者会見し、加盟国のトルコに対し、フィンランドとスウェーデンの加盟を同時に認めるよう改めて説得する方針を強調しました。
ストルテンベルグ氏は15日から16日までトルコを訪問し、エルドアン大統領と会談する予定です。 
●ロシア軍事会社「ワグネル」の位置づけに変化 「正規軍」の成果 2/16
ウクライナ戦争でロシアの民間軍事会社「ワグネル」が報道されるようになった。どんな組織か。元駐ロシア外交官で著述家の亀山陽司さんに聞いた。
──ロシア軍は1月、ウクライナ東部ソレダルを制圧したと発表しました。昨年夏以来の主要な戦果とみられています。そのソレダルを制圧したのは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」だと同社は主張しています。いったいどのような組織なのでしょうか。
ロシアでは民間軍事会社を法的には認めておらず、ワグネルの存在は公然の秘密でした。今は明らかにロシア軍の一部として動いていますが、組織の詳細ははっきりしません。
裏の仕事もする側近
ワグネルの創設者と言われているエフゲニー・プリゴジン氏は、レストランやケータリング会社などを経営して成功しました。彼はプーチン大統領に特に近いビジネスマンのうちの一人だと思います。場合によっては裏の仕事もする側近です。
あまり表に出てこない人でしたが、昨年秋、自身がワグネルのスポンサーであることを認めました。
──ワグネルとロシア正規軍とは、何が違うのでしょうか。
ワグネルの兵士は訓練を積んできた職業軍人だと言われています。だから強い。シリア内戦でも戦いました。それに比べて、秋から正規軍に徴兵されている人たちは戦いの経験がほとんどありません。
──ワグネルは囚人を雇って、前線に送っていると報じられています。
確信をもって言えるわけではありませんが、おそらくそうでしょう。ただ、だから強いというわけではないと思います。
ワグネルは2014年からウクライナ東部のドンバス地方で、現地の分離主義勢力を支援して戦ってきました。現在も東部の集落を少しずつ占領しながら侵攻を進めています。
ですが、ここにきて、ワグネルの位置づけが変わってきていると思います。
──どういうことですか。
そもそも民間軍事会社を投入するのは、正規軍を使うより都合がよいからです。兵士の練度が高いだけでなく、戦争に関する通常の法律が適用されません。兵士が亡くなっても国の責任にはならないでしょう。
合理的判断よりも感情
でも、ロシアは昨年9月、国民30万人の動員を発表しました。動員するからには、国民の支持の下に戦わなければなりません。国民からすると、自分や、自分の息子が動員されるかもしれないからです。民間軍事会社も使った作戦的なレベルから、国を挙げた総力戦になったということです。全面的な戦争に近づきつつあるわけです。
──プリゴジン氏が支持していたスロビキン総司令官が1月に更迭され、代わりにロシア軍トップのゲラシモフ参謀総長が任命されました。プーチン政権で、ワグネルと軍主流派との対立が注目されています。
おそらく参謀総長の任命も絡んでいて、正規軍が主役でないとだめな状況になりました。ワグネルだけが目立つことは、ロシアのプロパガンダとしても望ましくないわけです。
プーチン大統領が国民に見せたいのは、ワグネルのような一企業ではなく、ロシア軍が成果を上げる姿です。「特別軍事作戦」が「国民の戦争」に変質しつつあることを表していると思います。
──ロシアにとってウクライナ侵攻の位置づけが「特別軍事作戦」から「戦争」になると、どうなるのでしょうか。
合理的な判断で押したり引いたりできなくなります。「国民の戦争」は、合理的判断よりも感情に支配されやすくなります。止めたり交渉したりすることがより難しくなっていきます。かつて日本が第2次世界大戦に突入したのも、引くに引けない感情論の部分があったのと同様です。ワグネルうんぬんという次元ではなく、戦争の形態が変質しつつある兆候だと思います。
●米国務副長官「ロシアは結局ウクライナに負けるだろう」…警告 2/16
シャーマン米国務副長官は15日、米ブルッキングス研究所が主催した対談で「ウクライナはロシアのプーチン大統領に戦略的失敗を抱かせるだろう」としながらロシアの敗戦を主張した。シャーマン副長官は1年にわたり続くウクライナ戦争でロシアを支援する中国、北朝鮮、イランに対しても制裁を示唆するなど警告を出した。
シャーマン副長官は「中国に対する米国のアプローチ法」を主題に開かれた今回の対談で終始一貫して中国を牽制する発言を続けた。
まず「ウクライナ人はプーチンに戦略的な失敗を抱かせるだろう。ロシアを支援する国は結局大きな負担を背負うことになるだろう」と話した。続けて中国を狙い「国際社会で地位を高めるために『終戦に向け仲裁に出る』と言いながらも、実際にはロシアと『無制限の協力関係』に没頭して戦争を支援している」と批判した。
シャーマン副長官は、攻撃用ドローンをロシアに提供し続けるイランだけでなく、北朝鮮のロシアへの支援も懸念する。彼は「最近北朝鮮と関連し(ロシアの民間軍事会社の)ワグネルグループを制裁した」とし、こうした行為が国連安保理の対北朝鮮決議違反だという点を強調した。
これに先立ち米ホワイトハウスは先月20日、北朝鮮とワグネルグループの武器取引状況を示す衛星写真を公開した。続けて米財務省は先月26日にワグネルグループを超国家的犯罪組織(TCO)に指定し、ワグネルグループと関連する人物と企業などに対する追加制裁を発表した。
シャーマン副長官は中国を牽制するため同盟との協力も強調した。彼は13日にワシントンで開かれた韓米日外交次官協議会での協議内容に触れ、「国際規範を傷つけようとする中国の努力に対応し国際規範に対するわれわれの支持を繰り返し強調した」と明らかにした。その上で「中国は規範に立脚した国際秩序を再編しようとする意図と手段を持っている唯一の競争国。偵察気球問題はこうした現実を示す直近の事例」と話した。
偵察気球問題で中止されたブリンケン米国務長官の訪中と関連しては「条件が適切と判断される時(に再推進する)」という立場を明らかにした。ただブリンケン長官が17〜19日のミュンヘン安保会議出席を契機に中国の外交トップである王毅氏と会うとされる報道に対しては「発表する内容はない」として答弁を避けた。
「韓国内のイラン石油代金凍結に関与」
一方、米国務省のプライス報道官は15日の定例会見で、「中ロに比べ北朝鮮への対応が後回しにされているのではないか」という質疑に、「これらすべては重要な問題で優先順位をつける余裕はない」と話した。その上で「ロシアのウクライナ侵攻、台湾海峡での中国の現状変更の試み、北朝鮮の核・ミサイル開発などはいずれもそれぞれ異なるやり方で規範に基づいた秩序に対する挑戦」と付け加えた。
プライス報道官はこれまでイランが持続して解決を要求してきた対韓石油販売代金凍結問題と関連した質問に「イランが核脅威を解消するまで(同盟国が)制裁を維持するよう関与している」と答えた。韓国内の凍結資金は70億ドルで、イランの海外凍結資産のうち最大規模だ。
これに先立ちイラン外務省は9日、「韓国政府の凍結資金返還約束の履行を待っている。凍結資金解除は両国の他の懸案と関係のない問題」と主張した。これは先月尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領がアラブ首長国連邦を訪問した際に議論を呼んだイラン関連の発言を念頭にしたものと分析される。当時イラン政府は韓国大使を呼び出すなど強く抗議した。
また、プライス報道官は日本の福島原発の処理水問題と関連しては「科学的な基準に従うべき」という趣旨で説明し、「国際社会に対する日本の透明性と緊密な共助を歓迎する」という既存の立場を繰り返した。
●ウクライナのマンションにロケット砲攻撃で14人死傷…ロシア軍 2/16
ロシア軍が多段階ロケット砲でウクライナの都市の住宅地を攻撃し民間人死傷者が多数発生した。
ウクライナメディアのウクラインスカヤ・プラウダなどが15日に伝えたところによると、この日ウクライナ東部ドネツク州ポクロフスクのマンションがロシア軍のロケット砲攻撃を受け3人が死亡し11人が負傷した。
負傷者1人は重症で近くの病院で治療を受けている。
攻撃されたマンションの女性住民はロシア軍の今回の攻撃により夫が台所で死亡したと涙声で話した。ポクロフスクはドネツク地域の西部に位置し、「ドネツクの西の玄関」と呼ばれる。現在ドネツク地域最大の激戦地に挙げられるバフムトからは西に車で1時間半の約80キロメートルの距離にある。
ロシア軍がプーチン大統領の命令を受け3月までにバフムトを含むドネツクとルハンシクまでドンバス全域を掌握するにはこの都市もやはり占領しなければならない所だ。この日ドネツク州のキリレンコ知事はテレグラムに「ロシア軍が午前10時ごろに多段階ロケット砲を発射した」と明らかにした。多連装ロケットBM30スメルチは世界最大300ミリの口径を持つ戦略砲兵器で、さまざまな目標に対し多様なロケット弾を運用できる。対人・対戦車子弾ロケットだけでなく爆発時に発生する高い圧力波が人の臓器に損傷を起こし非倫理的な大量破壊兵器とされる熱圧力弾まで使うことができる。
ロケット弾は固体推進体を使う1段ロケットで、長さ7.6メートル、発射重量810キログラムだ。射程距離は基本形が25〜70キロメートル、改良型は90キロメートルに達する.キリレンコ知事はテレグラムへの投稿で「ロシア軍の攻撃により4棟の高層ビルと1棟の学校が被害を受けた」と明らかにしながらも、建物の残骸からの救助作業は完了したと伝えた。その上で被害を受けたすべての住民に臨時居住地と衣服、食料などあらゆる必需品を提供するだろうと付け加えた。
現地当局は、被害住民14人がドネツク地域に避難することに決めたが、残りの住民は現地に残るだろうと伝えた。
ウクライナ軍総参謀部はこの日、ロシア軍がドネツクのほか南部ヘルソン地域の民間インフラ施設に多連装ロケット攻撃を行ったと発表した。攻撃は28回にわたり続いた。ウクライナ検察総長室は民間人居住地に向けた今回の攻撃を戦争犯罪とみて捜査中だと明らかにした。
●欧州防衛、耐久力重視へ ウクライナ侵略に転換迫られ 2/16
欧州の安全保障は1年に及ぶロシアのウクライナ侵攻で、大きな変化を迫られた。北大西洋条約機構(NATO)は東西冷戦終結後、中東やアフガニスタンといった域外での作戦を主な活動としてきたが、ロシアの脅威に直面し、領土防衛の態勢見直しに動いている。特に火砲や砲弾の生産増強は急務の課題となった。
本格戦争を視野に
フランスのマクロン大統領は1月、2024〜30年の7年間の国防費を19〜25年比で3割増やし、4130億ユーロ(約59兆円)とする計画を発表した。無人機や防空システムの予算増額に加え、現在4万人の予備役を倍増する方針を提示。国防の耐久力強化を目指す。
フランスはこれまで、アフリカのテロ掃討など欧州域外への緊急展開を重視してきた。だが、昨年夏にはビュルカール仏軍統合参謀総長が下院委員会で「高強度紛争(本格戦争)に即時対応できなくなっている」と警鐘を鳴らした。
欧州各国は昨年、相次いで国防費を国内総生産(GDP)比2%とするNATOの目標達成を目指す考えを示した。ポーランドは4%、リトアニアは2・52%まで高める方針だ。
急がれる補給
NATOのストルテンベルグ事務総長は13日、国防相会合前に、砲弾の備蓄目標を引き上げる方針を示した。ウクライナ支援で大量に必要になったからだ。大型口径弾は「いま発注しても、届くのは2年半後だ」と述べ、各国に生産体制の強化を訴えた。
各国は備蓄の穴埋めを急ぐ。フランスは今年、ミサイルや砲弾の調達に20億ユーロの予算を充てた。昨年より3割増やした。ドイツは今月、自走式対空砲の35ミリ口径弾を30万発注文した。
国防への長年の投資不足で装備の脆(もろ)さも露(あら)わになった。ドイツでは1月、最新鋭の装甲歩兵戦闘車プーマをNATOの任務に送る予定だったが、訓練中に全車両に不具合が見つかり、直前に計画変更を迫られた。
英紙ガーディアンによると、英陸軍のサンダース参謀総長はウクライナへの戦車や砲弾支援で「わが軍が一時的に弱まるのは否定できない」と認めた。火砲増強を急ぐポーランドやフィンランドは、韓国からの戦車調達を進める。
情報戦の「敗北」
欧州連合(EU)は仏独主導で「EU独自安保」を目指してきたが、ウクライナ侵攻で欧州安保の主役はNATOを主導する米国だと示された。
特に情報力の格差は決定的だ。ボレルEU外交安全保障上級代表は昨年秋の演説で、ロシアの侵攻開始時の苦い思い出を語った。
「われわれは『ロシアが攻撃する』との米国の警告を信じなかった。ある時、ブリンケン米国務長官が私に電話で『今度の週末だ』と告げた。2日後の午前5時、キーウ爆撃が始まった」。ウクライナが反撃できるとも信じていなかったと明かした。
一方、侵攻を機に欧州ではバラバラで進めていた軍備で共同調達を進める動きも出てきた。EUは今後2年で5億ユーロの予算を組み、輸送機や無人偵察機などの装備共有を進める。不要な重複を減らす狙いがある。
●「ロシア即時撤退を」侵攻1年にあわせ国連総会決議案 2/16
ウクライナへの侵攻から1年となる2月24日に合わせて国連で行われる総会に、「ロシアの完全撤退」を求める決議案が提出されることがわかった。
国連では、ウクライナへの軍事侵攻から1年に先立つ22日から総会が開催される。
外交筋によると、総会に提出される決議案の草案には「ロシアがウクライナの領土から無条件に即時撤退することの要求」が盛り込まれている。
また、学校や病院などへの攻撃の停止を求めるほか、ロシアの戦争犯罪に対して独立した調査や訴追が必要としている決議案は賛成多数で採択される見通しだが、一部の国が反対や棄権することも予想される。

 

●プーチンはどの国の首脳と会談しているか調査 2/17
ロシアによるウクライナ侵攻から1年。欧米日などの西側諸国はウクライナのゼレンスキー政権を支援するとともに、対露制裁を強化し、ロシアの継戦能力を弱めようとしている。一方で、プーチン政権は友好国に対露制裁の枠組みには入らないよう働きかけて、孤立化を防いでいる状況にある。
戦争犯罪を続けるロシアへの非難が高まる中で、プーチン政権が関係を深めようとしている国はどこなのか? この1年間でプーチン氏がどの国の首脳と会談をしたのかを網羅したデータから、主要7カ国(G7)とは距離を置く、アフリカやアジアなどの「グローバルサウス」の国々に狙いを定め、積極外交をしている構図が浮かびあがってきた。
グローバルサウスは米国や欧州の先進国である「グローバルノース」から見て、主に南半球のアフリカやアジアなどに位置する新興国や発展途上国の勢力を示す。財政やインフラなど社会基盤が脆弱な国が多く、ここ数年の経済危機や新型コロナウイルス禍によって、国の屋台骨が大きく揺らいでいる。
G7のように特定の国々がグループを構成しているわけではないが、1964年に発足した国連内の途上国グループ「G77プラス中国」を指すことが多い。現在は134カ国に増え、今や国連加盟193カ国の約7割を占める一大勢力となっている。
ロシアによるウクライナ侵攻が招いたエネルギーや食糧危機によって、国民の間には「戦争疲れ」も起きている。代表格のインドは今年1月に「グローバルサウスの声サミット」をオンライン形式で開催。約120の国が討議に加わった。
会議の冒頭、モディ首相は「われわれは新型コロナや気候変動、ウクライナ紛争の影響などにさらされている」と訴えた。
侵攻後1年でロシアの首脳会談が劇的に変化
プーチン大統領はこれまでも国際社会の中でロシアの存在感を示すため、欧米に与しない独自外交を繰り広げてきた。首脳会談では相手国との貿易取引を活発化させ、軍事やエネルギー、食糧分野などでの2国間関係を強化することを目的にしてきた。
ロシア軍の最高総司令官でもあるプーチン大統領はウクライナ侵攻開始後、クレムリンに止まって作戦指揮に集中し、一見して外交を控えているような感覚に陥るが、実際はそうではない。むしろ真逆で侵攻前に比べて、各国首脳との会談を増やしている情勢にある。
このたび、ロシア大統領府の公式発表をもとに、プーチン大統領がどの国の首脳と直接会って、または電話会談によって協議を行っているのかの実態を調べてみた。
2020年以降、コロナ禍の影響で直接会談の回数は減ってしまったが、侵攻を開始した22年2月24日以降は、特定の国との首脳会談の回数も増え、相手国の傾向にも大きな変化が現れている。
重要性を鑑みて、直接会談を3ポイント、電話会談を1ポイントとして総ポイントを計算し、21年2月からの侵攻前1年と22年2月からの侵攻後1年の状況を比較してみた。
それによると、侵攻後も侵攻前も旧ソ連諸国で構成される独立国家共同体(CIS)の国々がランキングトップ10を占めた。ロシアではCIS諸国のことを「近い外国」と呼ぶが、従来のロシアの勢力圏を保とうと、頻繁に首脳会談を重ねていた。
このうち、侵攻後にプーチン大統領が直接会って最も首脳会談を重ねた相手がアルメニアとベラルーシだった。アルメニアは隣国アゼルバイジャンとの領土問題を抱え、プーチン氏の調整力を頼ったため、ポイントが増えた可能性がある。
一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領と頻繁に直接会談を行っているのは、ウクライナ侵攻をめぐる協力体制のあり方を討議しているためだろう。プーチン氏は昨年末にラブロフ外相ら主要閣僚を引き連れてベラルーシに飛び、首都ミンスクで会談を行っている。
これに対し、産油国のトルクメニスタンは侵攻前の19位から侵攻後は6位に大幅に順位があがった。協議内容が全て明らかになっているわけではないが、欧米などの露産石油・天然ガスの受け入れ制限に伴う両国間の連携体制が議題テーマにあがっている可能性がある。
プーチン大統領との首脳会談が増えていることは、従来のCIS間のパワーバランスに微妙な変化が生じていることを意味する。
同様に、プーチン大統領は中近東の資源国に積極外交を仕掛けていることも明らかになった。
アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、アルジェリア、イラクの4カ国は、侵攻前は会談数ゼロだったのに、侵攻後、プーチン大統領は首脳会談の相手に選んでいる。ウクライナ支援・対露制裁国側にまわらないよう要請している可能性がある。特にUAEとは直接1回を含む計4回の会談を行っている。
サウジアラビアのムハンマド皇太子との会談は侵攻前の1回から5回(いずれも電話会談)に増えている。カタールは1回から2回に回数が増えただけだが、18年にサッカーワールドカップ(W杯)開催国だったロシアが、22年大会のホスト国のカタールに対して支援を表明したことで、直接会談が実現することとなった。
カタールのタミム首長は22年10月13日、ロシアが加わった国際会議を催したカザフスタンを訪れ、プーチン氏と直接、協議をした。CNNによれば、現地の情報筋は両国間の緊張緩和が狙いだといい、ロシアとカタールが欧米主導の対露制裁網にくさびを入れようとしていることがわかる。
活発化するアジア、アフリカへのプーチン外交
国連総会では昨年、2回にわたって対露非難決議の採決がとられた。いずれも賛成国が圧倒的多数を占めるのだが、3月4日に行われた露軍の即時撤退を求める非難決議では反対票が5カ国(ロシア、北朝鮮、ベラルーシ、シリア、エリトリア)に対して、棄権国が35カ国に上った。
10月13日に行われたウクライナ南部・東部の4州併合に関する非難決議では反対票が5カ国(ロシア、北朝鮮、ベラルーシ、シリア、ニカラグア)に対して、棄権国数は同様に35カ国だった。
棄権した国々には、ロシアとエネルギー、食糧、武器輸出などで密接に結びついているアジア、アフリカ諸国が多い。アジア方面では、中立をかかげる中国やインドのほか、モンゴル、ベトナム、ラオス、スリランカなどの国々が投票2回とも棄権にまわっている。
アフリカ諸国でもロシアの武器輸出国として上位に入るモザンビーク、スーダン、中央アフリカなどがどちらの回の投票も棄権した。
ウクライナ侵攻後のプーチン首脳会談でもこの状況が裏付けられている。
アジアでは中国が9ポイント(全体14位)、インドが7ポイント(全体15位)となった。両国とも対露制裁に加わらず、石油・天然ガスを輸入して、ロシアの国家財政を支えている。両首脳はウクライナ侵攻の緊迫化に伴う要の時期にプーチン大統領と会って、今後の対応を話しあっている。
モンゴルのオヨーンエルデネ首相は9月、露極東ウラジオストクを訪れ、プーチン大統領と中国の習近平国家主席とともに、モンゴル経由の露産天然ガスの供給プロジェクトについて協議した。西側の制裁逃れのロシア支援の枠組みは確実に前進している。
アフリカ諸国は会談回数は少ないものの、プーチン大統領は欧米とは一定の距離を置くセネガル、ギニアビサウ、マリ、中央アフリカ、アンゴラの首脳と会談し、露産の資源や食糧などの供給体制について話しあわれている。
一方、欧州や北米・南米ではポイント低下が顕著になっている。フランス、ドイツ両国のポイントが高いのは、両国首脳が開戦前後に侵攻を止めるよう、プーチン大統領に説得を試みたから。同様にウクライナ・ロシアの仲裁国となったトルコのエルドアン大統領は侵攻後、プーチン大統領と直接会談4回、電話会談は13回行って、なんとか休戦・停戦に持ち込もうと接触を増やしている。
プーチンの誕生日を祝福した国は?
10月7日はプーチン大統領の誕生日だ。毎年、この日を祝う親露国の首脳がおり、ウクライナでの戦闘が激化する中で70歳の節目となった昨年も親露国首脳から祝福のメッセージが寄せられた。
BRICSの枠組みを通して親交を深めてきた南アフリカの首脳からはここ10年、プーチン大統領の誕生日を祝福することはなかったが、昨年にはラマポーザ大統領がクレムリンに電話をつなぎ、祝意を伝えた。
キューバのディアスカネル大統領は侵攻前の21年にはプーチン大統領に電話をかけてこなかったのに、22年には電話で直接、祝福のメッセージを送っている。ディアスカネル氏は翌月の11月にクレムリンを訪れ、「不公平で一方的な制裁を科してくる(ロシアとの)共通の敵」と米国を非難。ロシアのウクライナ侵攻を支持する立場も示した。
一方で、プーチン氏は昨年12月30日に、各国に新年のメッセージを送っている。露大統領府の公式サイトには、どの国にどんなメッセージを送ったか、詳細に記されているが、これらの国は現時点で、ウクライナ支援をめぐって西側諸国と一線を画している。公式発表に記載されている国々の羅列は、米国主導の国際秩序に反対する「親露国リスト」と言っても過言ではないだろう。
全20カ国で、内訳は旧ソ連諸国が8カ国(アゼルバイジャン、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)、中南米5カ国(ブラジル、ボリビア、ベネズエラ、キューバ、ニカラグア)、アジア3カ国(中国、インド、ベトナム)、欧州2カ国(ハンガリー、セルビア)、中東2カ国(トルコ、シリア)となっている。
さらに各国首脳に加え、元イタリア首相のシルヴィオ・ベルルスコーニ氏、元ドイツ首相のゲアハルト・シュレーダー氏、元アルメニア大統領のロベルト・コチャリン氏とセルジ・サルキャン氏、元カザフスタン大統領のヌルスルタン・ナザルバエフ氏の5人にも新年のお祝いメッセージを送っている点も注目に値する。プーチン大統領の判断に影響を与えかねない有力政治家とも言え、特にベルルスコーニ氏とシュレーダー氏はウクライナとの停戦交渉に入る際に背後で一定の役割を果たす可能性は捨てきれないだろう。
グローバルサウスの国々の動向は今後のウクライナ情勢の行く末を左右するにちがいない。西側諸国はこれらの国々に対して、対露制裁に加わるよう働きかけており、ロシアとの激しい綱引きが行われている情勢にもある。
侵攻2年目も西側諸国に負けまいとするプーチン政権は自国産のエネルギーや食糧の安値供給をダシにして、グローバルサウスの国々に積極的外交をしかけていくことになるだろう。
●ロシアとの距離に苦心 対米警戒で立場微調整―中国 2/17
ウクライナ侵攻から間もなく1年となる中、中国は友好国であるロシアとの距離の取り方に苦心している。ロシアに巻き込まれる形で国際的に孤立する事態は避けたいものの、中国包囲網を強める米国をにらみ、ロシアとの関係と距離の近さは保つ必要がある。習近平政権は微妙な立場の調整を続けている。
「中ロ関係に天井はない。給油所はあるが終着点はない」。ウクライナ侵攻直前の昨年2月上旬、習国家主席が北京でロシアのプーチン大統領と会談した際、筆頭外務次官だった楽玉成氏は中ロの強固な関係をこう表現した。楽氏はその後、畑違いの部署に異動。侵攻に関する情勢分析を誤った責任を問われたとみられている。
中国では政府方針に反するロシア批判はタブーだが、ウクライナ侵攻を巡っては、中国を「戦略的窮地」に陥れるものだとの指摘が国内からも出た。習氏の母校である清華大の閻学通教授は昨年5月、香港メディアの取材に対して「(侵攻は)中国に損失を与えるだけで、何の利益ももたらさない」と明言した。
中国は「ウクライナの主権と領土保全を尊重する」との立場で一貫しており、核使用にも反対している。一方で、習政権はロシアの侵略行為を明確に非難したことがなく、対ロ制裁にも加わらない。ロシア側の主張にも理解を示し、北大西洋条約機構(NATO)拡大に反対する、あいまいな立場を維持。経済面では、中国は対ロ制裁を続ける欧州に代わるロシアの資源輸出先となっており、戦費調達を間接的に支える構図だ。
3年近く続いた「ゼロコロナ」政策の影響などで中国経済が低迷する中、米欧との関係安定化は習政権の急務だ。ロシアへの過度の肩入れは障害になりかねず、「習氏はロシアと距離を置きたがっている」(有識者)との見方も聞かれる。
しかし2月初旬、中国から米国に飛来した気球を巡り、米中間の歩み寄り機運が一転して冷え込むと、中国は再びロシアとの関係をちらつかせ始めた。ブリンケン米国務長官の訪中延期が決定した直後、中国外務省は馬朝旭外務次官が2〜3日にロシアを訪問し、ラブロフ外相らと会談したと発表。「両国間の政治的相互信頼は深まり、国際協力はより緊密になっている」と友好関係をアピールした。月内には、中国外交トップの王毅・共産党政治局員がロシアを訪問し、習氏の訪ロに向けた道筋を付けるとみられている。
●バイデンの破壊工作が暴露された…ロシアの「パイプライン」を爆破した可能性 2/17
衝撃的な暴露記事
米国の著名な調査報道記者、シーモア・ハーシュ氏が北極海の天然ガス・パイプライン、ノルドストリーム爆破事件について「米国の仕業だった」という暴露記事を発表した。事実なら、米国はウクライナ戦争の舞台裏で大胆な軍事作戦を実行していたことになる。いったい、何があったのか。
ノルドストリームはロシアとドイツを海底で結んだパイプラインだ。延長は約1200キロ。ノルドストリーム1と2が、それぞれ2本ずつあり、1は2011年に開通、2は21年9月に完成した。ただし、ロシアのウクライナ東部2州の独立承認を受けて、ドイツは2の稼働を認めなかった。
1と2を合わせれば、ロシアから欧州に輸出する天然ガス輸出の約半分を供給する予定だった。ドイツにとっても、2だけで年間国内消費の半分以上が賄える量になる。
ノルドストリーム計画をめぐっては、当初から欧米で激しい賛否の議論があった。
ドイツは天然ガスの安定供給に期待する一方、米国のドナルド・トランプ前大統領や中東欧諸国は「欧州のロシア依存を強める」「既存のパイプラインの価値が下がる。安全保障上も戦略的に不安定になる」などと、強く反対していた。
ロシアによるウクライナ侵略戦争が始まった後の2022年9月26日、バルト海に面したデンマーク領のボーンホルム島沖でパイプラインが爆発し、4本のうち3本が損傷した。当時から、何者かによる破壊工作が指摘されていた。
バイデン大統領が爆破を指示した?
そんななか、ハーシュ氏が2月10日、自身のブログに「爆発はドイツのロシア依存を食い止めるために、ジョー・バイデン大統領の指示で実行された」という衝撃的な記事を発表したのである。この記事が無視できないのは、ハーシュ氏が世界的に知られた調査報道記者だからだ。
同氏は1969年、ベトナム戦争で起きた米軍中尉による「ソンミ村虐殺事件」のスクープでピューリッツァー賞を受賞したほか、イラク戦争中の2004年に起きた「アブグレイブ刑務所における捕虜虐待事件」など、数々の国際的スクープを放ってきた。記事は長文だが、ごく一部を紹介する。
〈米国の政治的懸念は現実のものだった。プーチンはいまや、必要とされる収入源の大部分を手に入れ、ドイツと西欧はロシアが提供する低コストの天然ガス中毒になって、米国への依存を減らしている。実際、まさしく、それが起きたのだ〉〈NATO(北大西洋条約機構)とワシントンから見て、ノルドストリーム1は十分、危険だったが、もしもノルドストリーム2がドイツの規制当局に承認されれば、ドイツと西欧が利用できる安い天然ガスの量は2倍になってしまうのだ〉〈西欧が安い天然ガスのパイプラインに依存する限り、ワシントンは「ドイツのような国が、ロシアを打ち負かすために必要としている武器や資金を、ウクライナに提供するのを嫌がるようになる」という事態を恐れていた〉
こうした事情で、ロシアの侵攻が迫った21年12月ごろから、米政府は「秘密の爆破計画」を練っていった。
〈米国海軍は新たに認可された潜水艦を使って、パイプラインを直接、攻撃するよう提案した。空軍は外部から遅発的に起爆できる爆弾を投下する案を議論した。中央情報局(CIA)は「何をするにせよ、秘密が守られなければならない」と主張した。全員が重大さを理解していた。情報源は「これは子供の遊びじゃないんだ」と言った。もしも攻撃の痕跡が米国に辿りついてしまったら、それは「戦争行為」だった〉〈ロシアによるウクライナ侵略まで3週間を切った2月7日、バイデン大統領はホワイトハウスでドイツのオラフ・ショルツ大統領と会った。…記者会見で、バイデンは断固として言った。「ロシアが侵攻すれば、ノルドストリーム2はない。我々が、それを終わらせる」〉
この会見の模様は、映像として、YouTubeに残っている。それを見ると、記事はそこまで触れていないが、記者に「どうやって、終わらせるのか」と問い詰められた大統領は「貴方に約束しよう。我々には、それができるのだ(I promise you, we will be able to do it)」とまで、断言していた。
〈この計画に関わっていた何人かの関係者は、発言が「攻撃に対する間接的な言及」のように見えることに困惑した。「それは、まるで東京の地下に原子爆弾を仕掛けて、日本人にオレたちは爆発させるぞ、と言っているようなものだった」と情報源は言った。「計画は侵攻後に実行される選択肢であり、公に宣伝するようなものではない。バイデンは、それが理解できなかったか、無視したのだ〉
大統領は、かねて失言癖が指摘されているが、これもまた明らかな失言である。いまにして思えば、自ら爆破予告したようなものだ。爆破計画には、ノルウェーも加担していた。
〈ノルドストリームの破壊は、もし米国にできるなら「ノルウェーが欧州に自国の天然ガスを大量に販売できるようになる」という話だった。…ノルウェー海軍はデンマークのボーンホルム島沖数マイルの浅い海に、いい場所を見つけた。だが、心配の種もあった。島の沖で変な動きを見せれば、スウェーデンとデンマークの海軍の注意を引いてしまうかもしれなかったのだ〉〈ノルウェーは「BALTOP22」と呼ばれる、6月のNATO軍事演習が機雷を仕掛ける絶好のカモフラージュになると提案した。…ところが、ワシントンが考え直した。ホワイトハウスは「だれかが後から指令を受けて、パイプラインを吹き飛ばせないか」というのだ〉〈計画を作っていたチームの中には、大統領の優柔不断に怒り出したり、フラストレーションを感じる人もいた。…(海軍のダイバー学校)であるパナマシティのダイバーは、パイプラインにC4爆弾を取り付けることを繰り返し練習していたが、いまや大統領が望む方法を考え出さなければならない〉〈ノルウェーで働いていた米国人は、新しい問題、すなわち、バイデンの命令を受けて、どうやってC4爆弾を外部から離れて起動させるか、という問題に取り組んだ。ノルウェーのチームは、いつ大統領がボタンを押すか、知ることはできない。数週間か数カ月、それとも半年後なのか〉
〈パイプラインに取り付けたC4爆弾は、航空機から投下されたソノブイ(注・音波で海中の潜水艦を探知する装置)で起動できるが、それには最新の信号加工技術が必要だった。…別の信号が誤って爆弾を起動したりしないように、信号は十分に明確でなければならない。国防総省の海軍作戦科学顧問のセオドア・ポストル博士は私に言った。「爆弾が水に使っている時間が長くなればなるほど、ランダムな信号が起爆させてしまうリスクが大きくなる」〉〈2022年9月26日、ノルウェー海軍のP8偵察機が、いつものルートを飛ぶようにみせかけて、ソノブイを投下した。信号は水面下に広がって、まずノルドストリーム2に、次にノルドストリーム1に届いた。それから数時間後、高性能のC4爆弾が起動し、4本のパイプラインのうち3本が使用不能になった。数分後、壊れたパイプラインに残っていたメタンガスが水面に広がり、世界は「何か取り返しのつかないことが起きた」と知ったのだ〉
以上である。
余波が広がりつつある
ハーシュ氏の記事は情報源について匿名の単数で記しているが、本当に1人なのか複数なのか、は分からない。記事が発表されると、ホワイトハウスの国家安全保障会議の報道官は、ロシアのタス通信に対して「記事は完全な誤りで、まったくの創作」と否定した。
ロシア外務省の報道官はテレグラムに「米国はすべての事実についてコメントしなければならない」と投稿した。一方、中国共産党系の新聞、グローバル・タイムズも2月10日付の社説で「ワシントンはノルドストリームの爆発について、世界に説明する責任がある」と指摘した。中国はスパイ気球問題の仕返しとばかり、ノルドストリーム問題を追及する姿勢である。
米国の主要メディアは2月12日時点で、ほぼ黙殺している。ロイター通信がホワイトハウスの否定談話を中心にして、短く紹介したくらいだ。ロシアはノルドストリーム問題を国連安全保障理事会に持ち出す姿勢だ。いつまでも、沈黙はできないだろう。
私は、先に紹介したバイデン大統領の発言からみて「米国の仕業である可能性が高い」とみる。ポーランドのラドスワフ・シコルスキ元外相は爆発の直後「ありがとう、USA」とツイートしていた。ポーランドはノルドストリーム計画に反対していた。これも傍証の1つである。
ノルドストリームには、ドイツ企業も出資している。米国による爆破が事実なら、米国はロシアを追い込むためには、同盟国にとっての重要施設爆破も辞さなかったのだ。中国は米国の空にスパイ気球を放っていた。米中ロの対決は一段と、きな臭くなっている。
●再送米、NATO第5条にコミット バルト3国防衛の用意=国防長官  2/17
米国のオースティン国防長官は16日、バルト3国のエストニア、ラトビア、リトアニアの防衛が必要になれば、米国にはその準備が整っているとし、この地域の軍事的プレゼンスを維持すると述べた。
オースティン長官はエストニア首脳との会談後にタリンで行った記者会見で「(集団的自衛権を定めた)北大西洋条約機構(NATO)条約第5条にコミットしている」とし、この地域の軍事プレゼンスを維持すると表明。「米国は同盟国であるバルト3国の自由と主権に揺るぎなくコミットしている」とし、「われわれは共通の安全保障に対するいかなる脅威も抑止し、防御するために、団結して立ち上がる」と述べた。
また、ロシアのプーチン大統領はNATOを分断できると考えていたがその逆が達成されたとし、NATOはこれまでになく強く結束し、強固になっていると指摘。「エストニアに対する攻撃があれば、われわれはここにいるはずだ」と述べた。
ロシア軍とウクライナ軍の激しい戦闘が続いているウクライナ東部の状況については、ドンバス地域のロシア軍部隊は装備も訓練も不十分で、多くの死傷者を出していると指摘。今後もこうした状態が続くとの見方を示した。
その上で、米国はウクライナに対する軍事装備支援を実施すると改めて表明。「この戦争は展開し続ける。ウクライナが成功するための手段を確実に供与するため、協力してできる限りのことを実施していく」と述べた。
エストニアのペフクル国防相は、ロシアによる侵攻がウクライナにとどまらない場合、エストニアが攻撃を受けるのを阻止しようとしているとし、「抑止力がキーワードになる。 NATOが新たな地域防衛計画を策定しているのはまさにこのためだ」と述べた。NATOの新地域防衛計画は7月にビリニュスで開かれるNATO首脳会議での承認が期待されているという。
旧ソ連のバルト3国は現在はNATOと欧州連合(EU)に加盟。2019年以降、米国はリトアニアに約500人の部隊と装備を巡回配備しているほか、昨年12月にはエストニアに高機動ロケット砲システム「ハイマース」小隊などを配備すると発表した。
●ウクライナ戦争のカギを握る戦車、世界的には廃棄が進む“絶滅危惧種” 2/17
戦車が「地上戦の花形」と言われた時代の各国保有数
「早く西側戦車を」と懇願するウクライナ・ゼレンスキー大統領の粘り勝ちだったのか──。2023年1月、及び腰だったNATO(北大西洋条約機構)の主要国、米・英・独3カ国は、最強クラスの現用主力戦車(MBT)をウクライナに供与すると決意した。
提供するのは「M1エイブラムス」(米)、「チャレンジャー2」(英)、「レオパルト2」(レオ2/独)の“西側MBT三羽烏”。3車種が同じ戦場で顔を合わせることになれば恐らく史上初で、ロシアのプーチン大統領が「NATOが参戦した」と過剰反応しそうなほどのインパクトがあるだろう。
ウクライナ戦争で地上戦のカギを握る主軸兵器としてロシア・ウクライナ双方がMBTを繰り出した結果、いまや台数が不足気味の状態にある。だが、MBTは「地上戦の花形」と言われながらも、冷戦終結後は欧米を中心に無用論が大勢を占め、数年前まではリストラ対象の筆頭で、「絶滅危惧種」と言っても過言ではない状態にあったのだ。
少なくとも1989年の冷戦終結まで東西両陣営は欧州大陸を舞台に強大な軍事力で対峙し、その主役がMBTだった。
英国のシンクタンク国際戦略研究所(IISS)が公表している『ミリタリー・バランス1990年版』で1989年のMBT数を調べてみると、NATOは総計約3万4000台。主要国別では、アメリカの約1万5400台が圧倒的で、西ドイツ約5000台、フランス約1300台、イギリス約1300台、イタリア約1500台、ギリシャ約2000台、オランダ約900台、トルコ約3700台など、軒並み1000台規模だった。
いま話題のM1やレオ2の割合に目をやると、アメリカはM1が約6400台で3台に1台、西ドイツはレオ2が約2000台、同じくオランダは450台でどちらもほぼ2台に1台の割合だった。
対するソ連を中心としたワルシャワ条約機構(WTO)のMBTは圧倒的で、約7万9000台とNATOの2倍に達し、西側は当時“赤い津波”と恐れた。
冷戦終結で“お荷物”となった鉄の塊
だが冷戦終結でMBTは鉄の塊の“お荷物”となり、各国とも処理に血道を上げた。
最新の『ミリタリー・バランス』(2022年版)でMBT数を調べると、NATO全体では約1万2000台で1989年の半数以下の状況になっている。冷戦終結後NATOがポーランドやチェコなど旧ソ連側にいた東欧諸国の大半を自陣営に組み込んだにもかかわらず、MBTはすさまじい勢いで廃棄され台数を減らしていることがうかがえる。
主要国別ではアメリカが約2600台(別に保管中が約3600台)と6分の1に減らし、独仏英も200台規模に落とした。このほかトルコ約2400台、ギリシャ約1200台、イタリア150台と続き、かつて「MBTの重さで低湿地の国土が沈む」と揶揄されたオランダはMBTを全廃、つまり「ゼロ」とするなど劇的だ。日本のMBT数は現在約600台なので、かつて「戦車王国」を謳歌した欧州の主要国は、いまや日本の半分以下という状況にある。
ちなみに経済規模が小さいトルコとギリシャのMBT保有数が現在も多い理由は、NATO加盟国同士にも関わらず、両者は歴史的に敵対関係にあり、多数の戦車を備えているから。このためNATO内でのMBT保有数ランキングは、1位アメリカ、2位トルコ、3位ギリシャ、4位ポーランド(約800台)と、一般的に予想される顔ぶれとはだいぶ異なっている。
一方のロシアもかなり減らして現用は約3400台で、別に1万200台が保管中と推測される。車種別では一世代前の「T-72」系が約2400台で大半を占め、次いで比較的新しい「T-80」系が約600台、新型の「T-90」系は約400台に過ぎないと見られる。保管中のMBTのうち1万台がT-72だという。
200〜300台の戦車供与では心もとないウクライナ
こうした数字を見ると、実はNATOが保有するMBTに意外と余裕がない現状が浮かび上がる。
“MBT三羽烏”のM1、チャレンジャー2、レオ2は、現在主流の「第三世代」(IT機器が強化された一部車両は「三・五世代」とも言われる)と呼ばれ、「120mm戦車砲」「最高時速70km前後の俊足」「重量50t以上」などの特徴がある。
だがゼレンスキ―氏が熱望したレオ2はNATOと準加盟国のスウェーデン、フィンランドを合わせても2000台強しかなく、イギリスのチャレンジャー2も予備・保管分を考えても最大で400台弱といったところ。
NATOで第2、第3のMBT数を誇るトルコ、ギリシャ両国はいずれもレオ2を300台規模で有するが、前述した通り両国対立の関係で、ギリシャは早々に「トルコに備えるためMBT供与はしない」と宣言。トルコもロシアとの特別な関係や、海千山千のエルドアン大統領のことを考えると、すんなり供与に応じるとは考えにくい。
その点、アメリカは先に挙げた「約6200台」全部がM1系列で余力はあるが、最大の課題はエンジンがジェット機の原理と同じ「ガスタービン」方式であること。一般的なディーゼル・エンジンの2倍燃料を食うため、産油国でないウクライナで大量使用すれば、燃料調達や輸送など兵站(へいたん)が破綻しかねない、との指摘が大半だ。
しかもより深刻なのが装甲に「劣化ウラン」を注入して装甲をより堅固にした車両が相当数あり、仮に敵弾が命中し劣化ウランが大気中に飛散した場合、放射能による人体や環境への影響も心配されており、こちらも右から左へすんなりとはいかないらしい。
このため最近になって一世代前の「第二世代」に属する「レオパルト1」(レオ1)を100台規模で“蔵出し”する計画が、開発国のドイツを中心に進められている。
「第二世代」は1960年代後半〜1980年代に主役だったMBTで、戦車砲は105mmで「第三世代」と比べて見劣りするものの、世界的にはまだまだ現役だ。一部ではレオ1と肩を並べ、アメリカが数千台規模で保管中と見られる第二世代の米製「M60」の動員も想定しているのでは、との声もある。すでにロシアが大攻勢を仕掛けたとも見られているため、今後確実視されるMBTの消耗戦に備える模様だ。
ちなみにオランダの軍事情報サイト「Oryx」によれば、ロシアは運用可能な約3000台のMBTのうち、実に2000台近くが破壊やウクライナ軍の鹵獲(ろかく:戦利品として奪うこと)で損失していると分析されている。
逆にウクライナ側は「459台を失うが逆にロシアから500台以上を捕獲し、計算上プラスになっている」とも。ただ、少なくともウクライナ軍は過去約1年間の戦闘で500台近いMBTを消耗しており、200〜300台のMBT供与では心もとないことも数字が物語っている。
いまや戦車王国は「中国、インド、北朝鮮」
このように目まぐるしく塗り替わる世界の「MBT勢力地図」。だが、欧州に限らず世界規模で激変が起きている。
例えば、現在世界のMBT保有数トップ5は、1位=中国約5400台、2位=インド約3700台、3位=北朝鮮約3500台、4位=ロシア約3400台、5位=アメリカ約2600台で、アジア勢がトップ3を独占する。もちろん冷戦期は「1位ソ連、2位アメリカ」が“指定席”で台数も桁外れだった。
この他にも韓国2100台、ベトナム1400台、パキスタン2500台、台湾700台という具合で、欧州と比べても保有台数の桁が違うことが分かるだろう。
驚きなのがインドネシアとシンガポールで、ともに約100台MBTを持つのだが、両国とも20年前まではまともな戦車など保有していなかったにもかかわらず、いまや両国とも配備するMBTが全部レオ2という事実だ。これだけを見ても、近年の東南アジアの経済成長を背景にした軍拡ぶりが分かるだろう。
逆に昔に比べてMBTの数が減っているのが、意外にも中東・北アフリカだ。冷戦期はイスラエルとアラブ諸国が何度も戦火を交え「米ソの代理戦争」と揶揄されたが、砂漠や乾燥地帯が広がる地勢だけにMBTが主役で、イスラエルを筆頭に、エジプトやイラク、シリア、リビア、アルジェリアなどが数千台を第一線に置いた。
だが冷戦終結後は国際情勢が急変し、イスラエルとアラブ諸国側との“雪解け”も徐々に始まる。また湾岸戦争(1991年)、イラク戦争(2003年)で中東の軍事大国・イラクのフセイン政権は崩壊し、続く2010年代に吹き荒れた「アラブの春」では、リビアのカダフィ政権が瓦解。シリアも内戦状態に陥るなど、多数のMBTを装備していた国々が事実上壊滅してしまう。
現在でもエジプト2500台、サウジアラビア1000台、イラン1500台、アルジェリア1500台と、主要国は千台規模で維持するが、周辺のイスラム諸国がイスラエルに戦車で攻め込む危険性はかなり減ったため、以前はMBTを数千台単位で抱えたイスラエルは、現在400台(別に保管中が900台)にとどまる。
欧米の戦車メーカーにとっては「干天の慈雨」
ウクライナ戦争が勃発するまで、欧米の戦車産業はいわば「斜陽産業」とさえ言われる状態だった。イギリスはすでに戦車製造を諦め、独仏は「EMBT」(欧州主力戦車)と銘打ち次期MBTの共同開発に挑むが、要は開発コストが膨大な反面、生産台数が見込めず単独開発は採算割れの危険性が高い、との計算も働いたからだ。
また依然として大量のM1を抱えるアメリカはバージョンアップを続けることで何と2050年まで使い倒す計画だという。
現在、独仏もMBTの新造は休止中で、アメリカもM1の生産ラインを細々と続け、戦車製造技術という“伝統芸能”の伝承に努めている状況だが、今回の戦争で欧米各国は国防費の大幅増を決めており、早くも産業界からは「長く冷え込んでいたMBT市場に活気が戻ってきそうだ」と期待の声もあるという。まさに「干天の慈雨」だろう。
いずれにせよ世界を主導する欧米先進国は屈指の工業力・科学技術を有しながらも、現状はMBTの増産に即応できる生産ラインもサプライ・チェーンも労働力もなく、倉庫で埃を被っていた中古在庫を引っ張り出すことで糊塗しているのが実態だ。
事実ポーランドは戦争勃発でMBTの大量装備に舵を切ったものの、期待していた隣国ドイツの生産体制ではとても間に合わないと見切りをつけ、同国が保有するレオ2と戦車砲弾など多くの点で互換性のある韓国の「K-2」に千台規模の大量発注を決断するほど(以前からドイツと確執のあるポーランドの“当てつけ”との説も)。
「21世紀の先進工業国同士の戦争は、20世紀のレガシーを引っ張り出し在庫一掃処分する戦争」とも皮肉られているが、ウクライナ戦争により「絶滅危惧種」と言われたMBTの有効性が見直されたことだけは確かだ。
●ロシアとウクライナ、新たに101人の捕虜交換 2/17
ウクライナとロシアの当局は16日、101人の捕虜を交換したと発表した。
ロシア当局は「解放された兵士らは航空宇宙軍の軍用輸送機でモスクワの国防省医療施設に移送し、治療やリハビリを受けさせる」と説明した。
一方、ウクライナ大統領府のイエルマク長官は、100人の軍人と民間人一人が帰還したと発表。兵士らが帰国後にポーズを取って撮影した画像を投稿した。ほぼ全員が、ロシアに包囲・占領された南部都市マリウポリの防衛にあたっていたという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は今月、昨年2月の戦争開始以来、政府はロシアの捕虜となっていたウクライナ人1762人を帰還させたと述べていた。
●死に物狂いのロシア軍には欧米最新戦車だけでは勝てない 2/17
ロシアがウクライナに軍事侵攻してから2月24日で1年になる。戦闘は継続されたままで、すぐに収束するとは思えない。
米国とドイツは1月25日、ロシア軍に対抗するために米「エイブラムス」戦車31両、独「レオパルト2」戦車14両をウクライナに供与すると発表し(JBpress2月3日「ドイツとロシアは戦争状態にある、こう言い放った独外相の真意と影響」参照)、戦況の好転を図った。
戦車供与については多くのメディアがすでに報じているとおり、実際に戦車がウクライナに渡ったとしても、ロシア軍を撃退して戦争を早期に終結させることはほとんど無理であることが、複数の軍事専門家によって明らかになっている。
現代の地上戦では、戦車は確かに非常に有効な兵器で、戦車の主砲は最も殺傷力が高いとも言われている。
しかしジョー・バイデン大統領がウクライナへの戦車供与を決断した背景を取材すると、国防総省(ペンタゴン)の忠告を無視して発表したことが分かってきた。
まず米軍は現在、ウクライナに供与できるだけの余分なエイブラムス戦車を所有しておらず、製造元のジェネラル・ダイナミクス社が戦車を製造するには何カ月もかかるというのだ。
つまり、バイデン氏は表面的なウクライナ支援を口にすることがまず重要であると判断して、ウクライナ支援を公表したようなのだ。
さらにエイブラムス戦車の操縦は大変難しく、ウクライナ軍の兵士が自在に戦車を操れるようになるまでには多大な時間が必要になる。
米大量破壊兵器等に詳しい軍事評論家のスコット・リッター氏によると、「米エイブラムス戦車の基本的な訓練には22週間が必要」という。
戦車がウクライナに到着しても、翌日から戦場で使えるわけではないのだ。
また、戦車は適切にメンテナンスされていないと、すぐに故障が発生する。
極端な話として語られるのは、エイブラムス戦車が戦場で1時間使われると、3時間のメンテナンスが必要という。
さらにエイブラムスのような戦車の機甲部隊には、高度に専門化された整備班が必要となる。
実践で戦車が使用されたとしても、こうしたバックアップ体制が敷かれないかぎり、故障によって使えなくなる台数も増えることになる。
戦車の運用はいま、大変複雑なうえに維持が困難なばかりか、航空機を含めた支援兵器と共に戦うことで最高の性能を発揮できるとされているので、戦車の単独運用はむしろ効果が下がるという。
こうした要件が揃わないかぎり、主力戦車の提供はウクライナ軍をむしろ弱体化させることになり、「自殺行為」になりかねないとも言われている。
こうした状況を踏まえると、ウクライナ戦争が短期的に終結する可能性は低いと言わざるを得ない。
米「ディフェンス・ニュース」は2月13日、次のように記している。
「ウクライナ戦争は費用がかかり、人命が失われ、少なくともあと数年は長引く可能性がある」「特に軍需品については、米国やヨーロッパの防衛産業に負担がかかる」「ウクライナが勝つためには米国は同国への継続的な支援を保証する必要がある。それでも勝利が確実なわけではない」
米制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は今年1月、ドイツを訪問した時、次のようなことを述べている。
「今年、ロシア軍をウクライナやロシア占領下のウクライナ地域から軍事的に追い出すことは非常に難しい」「実現できないわけではないが、非常に困難なことだ。戦争はたぶん交渉の場で終結するだろう」
米軍トップがいずれは交渉によって戦争が終わるとの予測を口にしながら、他方では軍事専門家がロシア軍によるさらなる兵力の増強があると見ており、これまで以上に血なまぐさい状況が生まれる可能性がある。
さらに元米軍大尉で軍事コンサルタントのダニエル・ライス氏は米メディアに新たな憂慮を示した。それはロシアによる新たな軍事行動だ。
「ロシアが今後、大規模な軍事行動を起こせば、ウクライナの首都キエフ(キーウ)は占領されるかもしれない」「この戦争で勝利を手にするためには、攻撃的な武器を持たなくてはいけない。関係者はそのことに気づきはじめている」
そこで必要になるのが戦車を主軸にした機甲部隊なのである。
ただウクライナはいま、支援してくれている西側諸国を含めて、軍事費がかかりすぎていることから、モスクワに侵攻をやめさせ、和平交渉をを開始する方向も探り始めているという。
前出の「ディフェンス・ニュース」誌は、ロシアが戦争に負ければプーチン大統領の政治生命に終止符が打たれるため、プーチン氏が自ら戦争を止めることはないと予測する。
それでは、ウクライナ戦争はどういった形で終結するのだろうか。
ウクライナが最も信頼を寄せている軍事支援国はいまでも米国であることに変わりはない。バイデン政権も米議会もウクライナ支援でほぼ一致している。
米下院軍事委員会のアダム・スミス委員長(民主党)は、戦争は最終的には交渉の席で決着がつくと述べる。そして米メディアにこう話す。
「究極的にはウクライナ側が2022年2月24日以前の領土を可能なかぎり取り戻すという前提で、プーチン氏を交渉のテーブルにつかせることだ」「そしてウクライナはクリミアや東部の一部地域でロシア側に妥協したとしても、今後の安全保障体制をしっかりと整えなくてはいけない」
同時に、米議会内にはロシアが今後4か月以内に、ウクライナに対して大規模な攻撃を仕掛けてくるとの情報がある。
こうした動きに対し、ウクライナ国内でもバイデン政権内の一部でも、ロシアに占領されたクリミアを武力で奪い返すことは大きなリスクを伴うばかりか、戦争のエスカレーションにつながる可能性があるので勧めないとの声がある。
一方、米議会には真逆の意見もある。
今年1月、ウクライナを訪問したリチャード・ブルメンタール上院議員(民主党)は次のように語っている。
「ウクライナ人が抱く対ロシアの決意を学んだ」「クリミア奪還は手の届くところにあり、ロシア側の標的を攻撃できる大砲が必要であるという結論に至った」
そしてバイデン大統領に射程300キロの地対地ミサイル「ATACMS」ミサイルや「F-16」戦闘機など、ウクライナのゼレンスキー大統領が求めるほとんどの兵器を供給すべきだというのだ。
ただ米国側にも問題はある。
ウクライナへの支援をいつまで続けられるかということだ。
ウクライナ軍はいま「驚異的なスピードで砲弾を使い果たしている」と言われている。
バイデン政権は2022年12月に議会が可決した450億ドル(約5兆9000億円)のウクライナ支援を進めている。
その資金は今年度末まで維持できると言われているが、反対する議員もいるばかりか、米国の武器供与がどこまで続けられるかは明確になっていない。
ウクライナ戦争はいま、単に戦車を供与したから解決するという段階を通り越し、軍事的、資金的、政治的に適切な判断を下さなくてはいけない時期にきている。
●ロシア軍、国境に航空機集結か 「今も相当の攻撃能力」欧米警戒 2/17
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は14日、西側情報機関の分析として、ロシア軍がウクライナ国境付近に航空機やヘリコプターを集め始めたと伝えた。苦戦している地上部隊の支援目的とみられるという。
さらにFTは米政府高官の話として、ロシアの地上部隊は損耗が激しく、今後は「航空機による攻撃」中心に切り替える可能性があるとも報じた。この攻撃を防ぐため、ウクライナ側には早急な防空態勢強化や十分な弾薬が求められるという。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の別の高官は、ロシアは今なおかなりの空軍力を維持しており、今後はウクライナの防空態勢を無力化する作戦を準備していると指摘した。
ブリュッセルでのNATO国防相会合に参加したオースティン米国防長官は14日、ロシアによる大規模空爆について「差し迫った兆候はない」と述べる一方、「ロシアが相当の航空機を保有し、攻撃能力を維持していることは分かっている」と改めて警戒感を示した。 
●ベラルーシ大統領、攻撃受ければロシアと共に参戦すると表明 2/17
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領ほど、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領をよく知る人物は少ない。
独裁的な政治スタイルのルカシェンコ氏は、ロシアの強固な同盟者であり、プーチン氏の「特別軍事作戦」を支持している。世界の大半の国はこの軍事行動を「ウクライナでのロシアの戦争」と呼んでいる。
プーチン氏は1年前にウクライナへの本格侵攻を開始してから、西側のジャーナリストのインタビューに応じていない。
しかし、ルカシェンコ氏は16日、ベラルーシの首都ミンスクで、BBCなどの少数の外国メディアの取材に応じた。
「あなたは昨年、自国がロシアの侵攻の中継地として使われるのを許した。再びそうする用意があるのか」とのBBCの質問には、ルカシェンコ氏はこう答えた。
「その通り、用意はできている。再び(国土を)提供する用意がある。ベラルーシの領土から、ロシア軍と共に戦争をする用意もある。だが、誰かが、それがたとえ兵士1人だろうと、私の国民を殺す武器を持って、そこ(ウクライナ)からこちらの領土に入った場合だけだ」
ロシアとベラルーシの軍事協力は強化されている。共同訓練を実施し、軍事グループを形成している。しかし、ルカシェンコ氏はこれまでのところ、ロシア軍と共に戦うためにウクライナに軍隊を送ることはしていない。
●ルカシェンコ氏、プーチン氏に軍事協力拡大を提案 2/17
ロシアの同盟国、ベラルーシのルカシェンコ大統領は17日、ロシアを訪問し、プーチン大統領と会談した。ルカシェンコ氏は会談冒頭、プーチン氏に「ベラルーシはロシアから技術支援を受ければウクライナで活躍している攻撃機を製造する準備がある」と表明。両国の軍事協力の拡大を提案した。
国営ベルタ通信によるとルカシェンコ氏は16日、「他国の兵士がベラルーシに侵入して国民を殺害した場合に限り、ベラルーシはロシアとともに戦う」と強調。ウクライナのゼレンスキー大統領は、英BBC放送が17日までに放映したインタビューで「ベラルーシが参戦しないことを望む」としつつ、参戦すればウクライナ軍が撃退するとした。
ゼレンスキー氏は一方、「露軍の攻撃は複数の方向で既に起きている」と述べ、ウクライナや欧米諸国が警戒する露軍の大規模攻勢が既に始まっているとの認識を示した。「近代兵器が和平を促進する。ロシアが理解できる言語は兵器だけだ」とし、兵器供与の迅速化を米欧諸国に訴えた。
ウクライナ軍は16日、最激戦地の東部ドネツク州バフムトなど5方面で激戦が続いていると発表した。
●プーチン氏、長期の権力維持に不確実性=西側高官 2/17
西側政府の高官は16日、ロシアのウクライナ侵攻によって、プーチン大統領が長期にわたって権力を維持するとの見通しに不確実性が生じたと指摘した。ただ、プーチン氏がその地位を譲る時がいつ来るかを予測することはできないとした。
当局者によると、1年前にウクライナ侵攻を開始する前のプーチン氏の政治的地位は今よりはるかに安泰だった。
「人々は1年前とは違う形で後継者について話している。しかし、ロシアのような場所では(指導者)交代への明確な道筋は存在しない」と高官は匿名を条件に記者団に語った。
2024年に予定されているロシアの大統領選挙にプーチン氏が再出馬した場合、敗北するとは考えにくいと述べた上で、20年の憲法改正時はプーチンが30年代まで権力の座に居座ると考えられていたが、今ではその可能性が低くなったようだと説明。ただ、不確実性は増したものの、指導者の交代が「間近」に迫っていると言うつもりはなく、そのタイミングは「予測不可能」だと述べた。
●侵攻から1年 プーチン政権から逃れるも、新天地で孤立するロシア人 2/17
東欧の丘陵地帯に位置するジョージアの首都トビリシには、ウクライナ戦争のために祖国を逃れた多くのロシア人が住んでいる。ジョージア政府によると、全員が残留したわけではないが、いまも数十万人がとどまっているという。
しかしジョージアの世論は圧倒的に親ウクライナで、ここに暮らすロシア人は侵攻から1年がたとうとしている今も、一部の住民からは必ずしも歓迎されていないようだ。それはたとえ反戦の考えを共有していてもだ。
サンクトペテルブルク出身のグレブ・クズネツォフさんは、トビリシで手工芸品の店を開いている。「一度、『ロシア人はくたばれ』と書かれた、ウクライナの紋章をかたどったビラやステッカーを店のドア一面に張られたことがあった」
「グーグルマップ上でも、店のレビューに否定的なコメントで攻撃されたことがあった。10件ほどあった」
「ジョージア語を話す店員を募集したが、残念ながら見つからなかった。フェイスブック上でジョージアの若者向けページに広告を出したが、1通たりとも返事がなかった」
クズネツォフさんが言う通り、言葉の壁が一因になっている可能性はある。多くの人が英語を共通語として使っており、このようにロシア人にジョージア語を教える教室もある。
だが、実際にはそれだけではない。ジョージアは、ロシアと長く敵対してきた歴史がある。1990年代にはロシアの支援を受けた分離主義勢力が、ジョージアの2地域からジョージア人を追放した。その後両国の間で短期間だが戦争が起こった。ジョージアは旧ソ連の国でもある。
ジョージアの野党は、ロシア人の入国者数の制限を求めている。トビリシの街頭で学生らに意見を聞いたところ、賛否が分かれた。
こちらの男性は、ロシア人と一緒に酒を飲むことはできないし、彼らがジョージアでビジネスを始めるのはひどいことだ語った。男性は、ロシア人は友人ではなく敵だと話す。
こちらの女性は、ロシア系の店にはいかないと話す。
一方こちらの男性は、自分は気にしない、ロシア人がみんな悪い人ではないと話す。
ニコライ・キリーフさんは侵攻当時、ロシアにいたという。彼は3歳の息子と一緒にそのニュースを見て泣いたという。「その日の夜、一刻も早くこの国を出なければならないと決心した」
現在キリーフさんは、ロシアから逃れた人たち向けに書店を経営。ロシアで出版が禁止された反体制作家の本も置いている。キリーフさんは、ロシア語から英語の書籍へと軸足を移していき、店を「国際的な場所」にしたいと話している。
●ミュンヘン安保会議開幕、武器支援「遅れればプーチン独裁が続く」 2/17
世界の安全保障課題を議論する国際会議「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)が17日、ドイツ南部ミュンヘンで開幕した。米欧や日本、中国、韓国などから首脳・閣僚級ら200人以上が参加し、ロシアによるウクライナ侵略やインド太平洋情勢などについて、3日間の日程で討議する。偵察用気球問題を巡る米中の2国間協議も焦点の一つだ。
MSCの開催は、昨年2月24日のロシアの侵略開始以降初めて。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はオンラインで参加した。
ゼレンスキー氏は、米欧の武器支援を急ぐよう求め、「決定の遅れはプーチン(露大統領)の独裁政権が続く源となる」と訴えた。また、ロシアは今後モルドバなど周辺国にも侵略するとの見方を示し、「ウクライナの勝利以外に道はない」と呼びかけた。
ロシアは今回、「プロパガンダに利用される」として招待されなかった。「グローバル・サウス」と呼ばれる南半球中心の新興国・途上国からは多数の政府代表団が出席する。ロシアのウクライナ侵略に中立的な立場を取る国が多く、米欧はロシアへの包囲網を広げることを狙う。
各国の個別会談も活発に行われる見通しで、元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題を巡る日韓外相会談の開催も調整されている。
●ロシア・中国海軍、南アフリカ沖で3か国合同演習…結束誇示か 2/17
ロシアと中国、南アフリカの3か国の海軍による合同軍事演習が17日、南アフリカ東部ダーバン沖のインド洋で始まる。中露は米欧主導の国際秩序に対抗し、結束を誇示する狙いがある。南アフリカを取り込む思惑もありそうだ。
演習は27日まで、「海賊対策」などを想定して行われるが、ロシアは極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」を搭載したフリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」を派遣した。プーチン露大統領は、音速の5倍超の速さで飛行する極超音速兵器の開発で先行していると強調しており、米欧諸国をけん制する機会と位置付けているようだ。
中露両海軍は、昨年12月下旬にも東シナ海で合同演習を実施している。ロシアは、南アも加わる演習を通じ、「世界中に多くの友人がいる」(プーチン大統領)ことを誇示。米欧の対露制裁と一線を画すアフリカや中南米、東南アジアなど「グローバル・サウス」への働きかけに活用する構えだ。
一方、米欧諸国は、ウクライナ侵略でロシア非難を控えてきた南アが今回の演習を主催し、一段とロシア寄りの姿勢を強めたことに不信感を募らせている。
南アの与党・アフリカ民族会議(ANC)は、社会主義を信奉する左派を中心に反欧米思想が強い。少数派白人が多数派黒人を差別したアパルトヘイト(人種隔離政策)の撤廃運動で、旧ソ連から軍事支援を受けた経緯があり、現在もロシアに親近感を持つ幹部が多い。中露とともに構成する新興5か国(BRICS)の枠組みを米欧への対抗軸にすべきだとの主張もある。
南アのシリル・ラマポーザ大統領は昨年10月の中国共産党大会に、「ANCと中国共産党との兄弟関係の土台には共通の価値観がある」との祝電を送り、中国とイデオロギー面での親和性を強調したこともある。
●テクノロジーの勝者が未来をつくる ウクライナ戦争が浮き彫りにした技術競争 2/17
超大国間の競争をめぐる昔ながらの教訓がよみがえった2022年は同時に、テクノロジーが競争の戦略的側面を変えつつあるという新たな教訓を授けてくれた。
独裁主義的な中国やロシアが国際法治、主権の尊重、民主主義的原則や市民の自由に挑戦状を突き付けていることに、もはや疑いはない。中ロが新技術を利用して国民を監視し、情報を操作し、データの流れを制御するなか、脅威は膨らんでいる。
地政学的緊張が高まる一方で、破壊的技術が公的・私的生活のあらゆる側面に踏み込んでいる。こうした現状が今後に持つ意味は明らかだ。戦略的競争の新たな領域は未来のテクノロジープラットフォームにある。
ロシアの侵攻に対し、ウクライナが(民主各国の大きな支援を得て)示す抵抗は、テクノロジーが地政学を変容させた具体例だ。
高度にネットワーク化され、テクノロジーに精通するウクライナは、軍事的に圧倒的優位とみられた強大な敵を前に、たちまち結束した。ソフトウエアの革新を活用し、オープンソーステクノロジーや分散型システムを最大限に利用して、今や史上初のデジタルネットワーク型戦争に勝利しつつある。
個人用携帯電話などを通じて、政府がクラウドベースのサービスで市民と直接つながり、革新的な若き政治家が才能あるテクノロジー部門と密接に協力し、数十年来の硬直化した官僚主義を一掃する──。ウクライナは、テクノロジーに対応した民主国家の将来像の一端も示している。ウクライナが戦時下でも革新を実現できたなら、ほかの民主主義国にも同じことが可能なはずだ。
ウクライナの変革に力を貸した民主主義世界の大小の企業は、重要な戦略的存在として浮上している。
これらの企業は早い時点で、ウクライナ政府の重要データなどをクラウドに移行して保護した。ロシアのサイバー攻撃への警告・対応を行い、ウクライナ人がインターネットに接続可能な状態を維持できるよう手助けして、ロシアの虚偽や戦争犯罪、軍事的失敗が知れ渡るようにした。こうした環境やアクセスが存在しなければ、戦争は全く別の展開になっていたかもしれない。
中国は世界各地の消費者向けに、ハードウエアとソフトウエア、サービスを一体化した統合ネットワークソリューションを輸出することに成功している。おかげで中国政府は影響圏を拡大し、技術競争のみならず地政学的競争でも、アメリカなどの民主主義国に対して優位に立っている。TikTok(ティックトック)の急激な台頭と、それが示唆する安全保障上の懸念が格好の例だ。
ならば、民主主義各国にとって政策上の課題は何か。答えは明白だ。
第1に、技術的発展に対する不干渉主義を捨てなければならない。近年の危険な展開は、アメリカがテクノロジー戦略に対して自由放任の方針を取り続けるなかで起きた。
ハードウエアやソフトウエア、ネットワークという中核分野で、アメリカと同盟国は「守り」を迫られている。その一例が、5Gで先行する華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の排除キャンペーンや、米半導体産業の強化を目的とするCHIPSおよび科学(CHIPSプラス)法の成立だ。受動的な対策は最悪の事態を防ぐ措置でしかない。
第2に、「次の半導体チップ」を見極め、公共政策を適応化しなければならない。必要なのは、長期的国家技術戦略の策定・実施をめぐる再現性のある官民モデルだ。特定部門に大規模な公共投資を行うことには、政治的・経済的リスクがある。だが技術産業の中核機能を戦略的ライバルに譲り渡したり、サプライチェーンのチョークポイント(難所)に対して極めて脆弱なまま放置するリスクに比べれば取るに足りない。
アメリカと同盟国は、未来のテクノロジーの構築に不可欠な鉱物資源の採掘・精製を推進している。その方向性は正しいが、より大きな注目や投資を要するハードウエア製造部門も存在するのではないか。例えば、バッテリーや太陽光パネルのバリューチェーン(価値連鎖)における中国の優位は強く懸念すべきだ。
第3に、次なる経済発展を導く技術への投資を協調して行う必要がある。先端製造技術は先発優位の刺激的な分野だろう。人工知能(AI)を用いた核融合エネルギーの革新も、戦略的影響の大きい画期的なクリーンテック手法になるのではないか。
最後に、新技術は未知のチャンスや利益をもたらすという楽観的視点を持ち続けるべきだ。AIやバイオテクノロジーなどの先端技術の将来性を見失ったり、問題にとらわれて過度にリスクを回避すれば、戦略的袋小路にはまり込むことになる。
勝利のカギは変化の体系化
誰もが認めるように、強力な技術プラットフォームは深刻な倫理的・経済的・政治的問題を引き起こす。それでも、破壊的技術分野の革新と規制、および国益のバランスを民主的に実現できると信じるべきだ。
プラットフォームをめぐる競争に勝利しても、テクノロジーの管理をめぐる民主主義各国内の複雑な論議に答えは出ない。ただし、独裁体制が相手のこの競争に勝利しなければ、議論することも許されなくなる。
となれば、政府などの組織的関与が欠かせないはずだ。民主主義各国はこれまでも、この手の課題に直面してきた。いい例が、20世紀半ばから続く宇宙開発競争だ。
しかし今の時代、冷戦当時の戦略を繰り返すことはできない。技術革新や資金調達の新たな担い手の台頭に対応する必要がある。戦略的競争の新たな現実に適応し、技術サプライチェーンは今後も、未来を形づくる大学や研究者や企業と同様、世界各地にまたがるという事実を受け入れなければならない。
一連の変化を体系化し、活用して、民主主義各国がテクノロジー分野の主導権を維持することは可能だ。しかし、22年に得た新たな教訓を忘れてはならない。どのプラットフォームで未来をつくり上げるか――世界がそんな選択に迫られたとき、この教訓が役立つはずだ。
●ロシア、ウクライナ最大級の製油所を砲撃… 2/17
16日(現地時間)、ロシアの大々的なミサイル攻撃でウクライナ最大級の石油精製工場が被害を受けたとロイター通信が報じた。ウクライナ軍当局はこれに先立ち、「16日の空襲で少なくとも36発のミサイルがウクライナ全域に落下し、インフラなどに火災が発生した」と明らかにした。当局はこの日夕方、追加ブリーフィングで「東南部の24カ所以上がミサイル攻撃の被害を受けた」と付け加えた。
ミサイル攻撃を受けた場所の中には、ウクライナ中部のポルタバスカ所在のクレメンチュク製油所が含まれていることが分かった。これに先立ち、ロシア軍は昨年4月と6月にもクレメンチュクの施設を狙った空襲を行うなど、製油施設を主なターゲットにしてきた。ウクライナ空軍は「この日16発のロシアミサイルを迎撃した」とし「ロシアの空対地ミサイル『KH31』と対艦巡航ミサイル『オーニクス』などにウクライナの防空網が貫通した」と明らかにした。ロシアの今回の攻撃はウクライナが15日、米国をはじめとする北大西洋条約機構(NATO)加盟国と兵器支援を議論するウクライナ連絡グループ会議を開いた翌日に行われたことだ。
特に、ミサイルの残骸はウクライナの西側に国境を接しているモルドバにも落ちたことが分かった。モルドバ警察は16日、「北部のラルガでロシアのミサイルの残骸が発見された」と発表した。警察は「昨年11月以降、モルドバで関連残骸が発見されたのは少なくとも4回目」と話した。昨年末以降、ウクライナはもとよりモルドバを狙ったロシアの威嚇砲撃が続いていることを示唆した。
ちょうどこの日はモルドバ議会が新しい親西側政府を承認した日だった。ドリン・レシアン新任首相は議会で明らかにした政策計画で「我々は国家間問題が対話を通じて解決され、小さな国に対する尊重がある安全な世の中で暮らしたい」とし「欧州連合(EU)の正会員になることを希望する」と明らかにした。これに先立ち、モルドバのマイア・サンドゥ大統領は「ロシアが合法的権力をロシアの統制を受ける(政府の)権力に変えようとしている」とし「モルドバのEU加盟を妨げ、ウクライナ戦争に利用しようとしている」と主張した。
このような中、ロシアがドネツク州のバフムート戦線を突破するために奮闘しているという分析が出ている。ウクライナ第80空襲旅団報道官はロイター通信に「ロシアがこの地域に多くの兵力を派遣し続けている」とし「塹壕にロシア軍の遺体がそのまま積まれているが、ロシアが負傷者や死亡者を避難させずに放置している」と話した。さらに「このような攻撃は持続可能ではないと思う」と付け加えた。
これに先立って、ロシアの最大攻略地点であるバフムートに対して「少なくとも4月陥落」を公言したロシア傭兵団ワグネルグループの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は「結果は、我々が血を流し続けるかによって変わるだろう」と話した。
●クリミアの非軍事化必要、ウクライナの攻撃は正当=米国務次官 2/17
ヌーランド米国務次官(政治担当)はロシアが2014年に併合したクリミア半島について、最低限でも非軍事化する必要があるとの見解を示し、クリミアの軍事目標に対するウクライナの攻撃を米国は支持すると表明した。
クリミアのセバストポリ港はロシアの黒海艦隊が拠点を置いている。
ヌーランド氏はカーネギー国際平和財団での講演で「クリミアが最低限非軍事化されない限りウクライナは安全にはならない」と述べた。
ウクライナ戦争がエスカレートするリスクを巡る質問に対し、ロシアはこの戦争に欠かせない多くの軍事施設を有していると指摘。「これらは正当な目標だ。ウクライナは攻撃しており、われわれはそれを支持している」と語った。
ロシア外務省のザハロワ報道官は17日、クリミアの軍事目標に対するウクライナの攻撃を米国は支持するとのヌーランド氏の発言は、米国がこの紛争に関与していることを示すと指摘した。
●負けられないプーチン氏、ウクライナで展望なき消耗戦へ 2/17
ロシアのプーチン大統領の構想では、同国がウクライナ侵攻によってついに西側に立ち向かい、歴史が分岐点を迎えるはずだった。しかし、同国のエリート層からは、プーチン氏が無駄に人命と資源を消耗する戦争に母国を引きずり込んだのではないか、と不安視する声が上がっている。
プーチン氏はウクライナに侵攻した昨年2月24日、速やかに勝利してロシアの歴代皇帝と並ぶ存在として歴史に名を残し、旧ソ連崩壊からの「ロシア復活」を米国に知らしめる心積もりでいた。
だが、目論見は外れた。戦争による死傷者は数十万人におよび、ロシアとその国民は西側から侵略者の烙印(らくいん)を押され、軍隊は米国を中心とする北大西洋条約機構(NATO)の支援に支えられたウクライナの根強い抵抗に遭っている。
プーチン氏の意思決定に詳しいロシア政府高官の1人は、自身の評判に磨きをかけたいという同氏の希望がくじかれたと言う。
「これから先、ウクライナとロシアの両方にとって状況は一層困難さを増し、コストも増えるだろう」と予測。「領地を数カ所征服するのに、これほど多大な経済損失を負うのは割に合わない」と述べた。
その高官によると、多くのエリート層が同じ見解だが、すぐさま報復されるため公言しないという。
プーチン氏の意思決定に近い5人のロシア政府高官によると、それでも同氏の権力の座を脅かすような政敵はいない。しかも、あからさまな造反は完全に抑え込まれているため、プーチン氏(70)は2024年3月の大統領選挙を恐れる必要がないという。
だが、戦争による悪影響はしばらく波紋を広げ続けるかもしれない。
別の高官は「文明世界全体に対するロシアの大規模攻勢や、勝利の可能性を信じてはいない」と明言。ロシアは技術的にも士気の上でも不利だが、それでも戦争は「非常に長い期間」続くだろうと話した。
プーチン氏の代わりは不在
今のところプーチン氏への批判が見逃されている数少ない懐疑派の1人、イーゴリ・ギルキン氏でさえ、この戦争の明確な結果は見えないと言う。同氏はウクライナ東部の親ロシア派元幹部で、2014年のマレーシア航空機撃墜事件で国際法廷から起訴されている。
ギルキン氏は「ロシアは完全に逆説的な状況にある」と話す。「代わりがおらず取り換え不可能な大統領が直接組織した、完全に無能な指導部がロシアを動かしている。しかし、大統領が変われば直ちに破滅が訪れるだろう」と説明した。
ギルキン氏にとって破滅とは、敗戦や内戦、外国勢力によるロシア征服などだ。同氏は、秘密主義、意思疎通のお粗末さ、うまく機能しない司令構造などが原因で、ロシアよりずっと小さい隣国から次々と屈辱的な敗退を余儀なくされていることに不満を募らせている。
ロシアは、西側による制裁で甚大な経済的損失も被っている。数十年かけて獲得した欧州天然ガス市場の大部分を失い、おそらく石油価格に上限を設けられたことが原因で、石油生産を今年3月に縮小すると発表。西側企業はロシアから撤退し、経常収支黒字は縮小して財政赤字は拡大した。
米シンクタンク、RAND研究所のロシア専門家、サミュエル・チャラップ氏は「この戦争はプーチン氏がこれまで実行した中で最も大きな跳ね返りを伴う行動であり、ロシアにとって旧ソ連崩壊以来、最も重大な賭けであることは間違いない」と言う。
負けるわけにはいかない
何よりも今後の状況を左右するのは戦況だ。米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は、プーチン氏は究極的には時間の経過をあてにしているのかもしれない、と言う。
長官は2日の講演で「私見では、そしてCIAの見立てとしては、向こう6カ月間が極めて重要になる」と予想。ロシア軍は前進できず既に制圧した領土を失うしかない、という戦場の現実が「プーチン氏の尊大さ」に穴を開けるだろうと語った。
だが、ロシアのエリート層の一部は、負けるのは西側であってロシアではないと主張している。
あるロシア政府高官は「大統領はウクライナで勝てると信じている。彼はもちろん負けるわけにはいかない。勝利はわれわれのものだ」と言い切った。
ある西側の上席外交官は「プーチン氏は、死んだりクーデターを起こされたりしない限り、最後まで権力の座にとどまるだろう。今のところ、どちらも起こりそうにないシナリオだ」とし「プーチン氏は戦争に勝てないが、負けるわけにはいかないことを知っている」と続けた。

 

●プーチン氏 ベラルーシ大統領と会談 侵攻1年を前に軍事面など連携アピール 2/18
プーチン大統領は17日、ロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領をモスクワ郊外の公邸に招いて会談を行いました。
ルカシェンコ氏は会談冒頭でウクライナ侵攻にロシアが投入しているスホイ25攻撃機を「ベラルーシ国内でも生産する準備ができている」と述べました。
ベラルーシはロシアに対し、ウクライナとの対話を求めていますが、軍事面ではロシアとの足並みを崩さない姿勢を見せています。
●ロシア側の死傷者、最大20万人も 英国防省が分析 2/18
英国防省は17日、ウクライナ侵攻後のロシア側の死傷者数が17万5000~20万人となり、そのうち死者数は4万~6万人にのぼったとの分析結果を公表した。ウクライナ東部と南部ではロシアの攻撃が続いており、米CNNなどによると、16~17日に少なくとも8人が死亡したことが明らかとなった。
英国防省による分析の対象は、ロシア軍とロシアの民間軍事会社の死傷者数。ロシアが部分動員令を発動した2022年9月以降に大幅に増加したとみている。軍の大部分で極めて粗末な医療しか提供されていないことで死者数の割合が大きくなっているという。
民間軍事会社「ワグネル」は多数の囚人を動員しており、最大でその半数が死傷したとも推計している。
ロシアがウクライナに侵攻して24日で1年となるのを前に、プーチン大統領が一方的な併合を宣言した地域での戦闘が激しくなっている。南部のヘルソン当局は17日、ロシアの砲撃で16日に同地域で3人が死亡し、7人が負傷したと明らかにした。港湾施設や付近の住宅も攻撃対象になったもようだ。
東部ドネツクでも過去24時間に5人が死亡し、10人が負傷したという。負傷者の多くは、最大の激戦地のバフムトで発生したとみられる。
プーチン氏は17日、モスクワ郊外の公邸でベラルーシのルカシェンコ大統領と会談した。ウクライナ侵攻中の経済協力や軍事協力が議題で、侵攻1年を前に緊密な関係を改めて確認した。ロシアが使用するスホイ25攻撃機について、ルカシェンコ氏は「ベラルーシで生産する用意がある」と提案したという。
●フィンランド、「ロシアビジネス」大打撃 客足激減、遠のく「共存」 2/18
北欧のフィンランドは、隣の大国ロシアの存在を警戒しつつ、ビジネス面では地の利を生かして国境を越えた活発な交流を続けてきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻が始まった後、そうした関係は途絶え、ロシア人観光客を当て込んだ「ロシアビジネス」は大打撃を受けている。侵攻1年を前にした2月上旬、フィンランドの国境の町を訪れるとどこも閑散とし、侵攻の影響が如実に表れていた。
「皇帝」モールは閉鎖
フィンランドの首都ヘルシンキから東へ車で約2時間。ロシア国境に位置するバーリマーは、ヘルシンキからロシア第2の都市サンクトペテルブルクにつながる幹線道路が走る交通の要所だ。国境検問所の約300メートル手前を曲がると、雪景色の中に突如として豪華な装飾の建物が現れた。大型アウトレットモール「ツァーリ」。名称はロシア語で「皇帝」を意味する。
ツァーリは国境を越えてやって来るロシア人客を当て込み2018年に開業。ロシアで人気の有名ブランドなど約60店舗が入り、当初は盛況だった。ところが20年、新型コロナウイルスの流行で3カ月休業。その後は営業を続けたものの、昨年からのウクライナ侵攻の影響で客足が激減し、同年10月に破産を申請した。店舗は次々と閉まり、年末には施設全体が閉鎖された。
営業再開に備えて週に数日、点検作業に来るというミコ・トミネン施設管理部長の案内で中に入ると、まず目に入ったのが上部に王冠の付いた巨大な椅子。皇帝の椅子を模したオブジェだが、座る人はもちろんいない。真新しい店舗はどれも空っぽ。静まり返った様子はまるで「ゴーストタウン」のようだった。
トミネン氏に再開の見通しを聞くと「戦争後か、もっと先か、全く分からない」。欧米による対ロ制裁の影響が響いているほか、フィンランド政府が観光目的のロシア人入国を禁じたため国境は事実上閉鎖。侵攻が終わってもすぐに物流や人的交流が通常に戻る可能性は低い。トミネン氏は「隣人同士としてうまく共存していくには時間がかかる」と表情を曇らせた。
中心街も閑古鳥
国境の町の実情はいずれも似通っている。バーリマーの北東約100キロ、ロシアと国境を接するイマトラも以前は大勢のロシア人でにぎわい、活気があったが、今は閑古鳥が鳴く。営業中の店やレストランは少なく、中心街も人通りがほとんどない。
タクシー運転手のアンシ・イナネンさん(26)は「町はとても静かだ。ロシア人に(営業を)頼ってきた店は閉まり、今はスーパーマーケットなどがほそぼそと続けているだけ。若者は就業などの機会もなく、出て行ってしまう」と話す。別の年配の運転手も「前は(買い物に来る)ロシアナンバーの車を何十台も見掛けたが今は皆無だ。経済に打撃だ」と嘆いた。
フィンランドの戦争の歴史をたどる展示品があるイマトラの退役軍人博物館。老舗ホテルの真向かいにあり、町の観光スポットの一つだが、ここも訪れる人は見られなかった。
館長のヤルモ・イカバルコさんは「ロシアのプーチン政権がウクライナでしていることは受け入れられない」と憤る。ただ、ロシアの人々に悪感情は抱いておらず、イマトラに住むロシア人とも普通にあいさつを交わすという。「われわれは文化や歴史を共有してきた。国境が閉ざされ交流がなくなるのは良くない。ロシア人は町にとって大切だった」と遠くを見詰めた。
●米副大統領と仏大統領が会談、中国巡る緊密な連携継続で一致 2/18
ハリス米副大統領は17日、安全保障会議が行われているドイツ・ミュンヘンでフランスのマクロン大統領と会談し、中国がもたらす課題について協議し、緊密な連携を続けることで一致した。米ホワイトハウスが声明を発表した。
声明によると、両氏は「ルールに基づく秩序を順守することの重要性を含む中国が呈する課題について協議し、緊密に連携していくことで合意」した。
ウクライナ情勢およびロシアへの次の対応についても協議したという。 
●最大の制裁は人材流出 打倒プーチン狙うホドルコフスキー氏 2/18
ミハイル・ホドルコフスキー氏は他の著名なロシア人と共にウラジーミル・プーチン大統領と戦っている。好戦主義者プーチンに戦争をやめさせる方法として有能な人材の国外流出を画策し、スイスをモデルに未来のロシアを構想する。
プーチンにとってミハイル・ホドルコフスキー(59)はロシア人最強の敵だ。かつてはロシア一の富豪で、10年間労働収容所に入れられた後スイスに滞在していたこともある。政治亡命中の同氏はプーチン大統領が去ったあとに新国家を建設しようともくろんでいる。
「オープン・ロシア」だけでなく反戦委員会(RUSSIAN ANTI-WAR COMMITTEE)の設立者でもある。この委員会にはチェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフ氏(59)、元ロシア首相ミハイル・カシヤノフ氏(65)、歴史家ウラジミール・カラムルザ氏(41)などの著名人が所属し、クレムリンのエリートと戦っている。チェスの天才カスパロフ氏はホドルコフスキー氏をポスト・プーチン時代の中心人物になるべき人と呼んだ。
スイスの大衆紙ブリックがロンドンにあるホドルコフスキー氏の自宅兼仕事場で行ったインタビュー他のサイトへ(2月10日付掲載)を、そのまま内容を変えずにswissinfo.chに転載する。インタビューで同氏は、この戦争をどのように終わらせられるのか、プーチンなき新生ロシアの姿はどうあるべきか、そして再び急いでスイスを離れたのはなぜだったのかを語った。
ブリック:ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は先週、この戦争はウクライナが降伏すればすぐに終わらせられると述べました。あなたもそう思いますか?
ミハイル・ホドルコフスキー:あきらめるのか、それとも人命を犠牲にして今後も自国の領土を守り続けるのか。それはウクライナが決めることです。しかし経験豊富な政治家オルバンは、プーチンがいるかぎり戦争終結はないと分かっているはずです。
ブリック:ウクライナはどうすればこの戦争に勝てるでしょうか?
ホドルコフスキー:この戦争がどうなるか、3つの可能性があります。1つは、プーチンが心臓発作などで死亡し、ロシア政権が崩壊するというもの。次は、大きな犠牲を払いながら戦争が何年も続き、どんな結果になるか見通せないという事態。
そして3つ目は、戦争を早く終わらせるために必要な武器を欧米がウクライナに供与するというもの。ただしこれは、プーチンに自分が負けると確実に思わせる規模の支援でなければなりません。
ブリック:欧米は制裁でプーチンを降参させようとしています。実際のところロシアは大きなダメージを受けているのでしょうか?
ホドルコフスキー:制裁は、長期的に見れば確実に効果があるでしょう。けれども紛争解決の要諦は(経済よりも)人、すなわち専門知識と技術のある人材なのです。西側諸国は例えばロシア人エンジニアを採用し、すんなり定住許可を出すよう計らうべきでした。
プーチンにとっては経済制裁よりも専門家を失うほうがはるかに大きいダメージです。そのうえ、欧米は不況であるにもかかわらず専門家が不足していますから、プロフェッショナルな人材の獲得もできて一石二鳥だったはずです。
ブリック:このところメディアは、ロシアが資金欲しさに金を売りたがっていると報道しています。ロシアはいつ破綻するのでしょう?
ホドルコフスキー:ロシアの金準備高は少なく見積もってもあと3年分はあります。
ブリック:プーチンは来週新たに総攻撃を開始するため、数十万の兵士を集めているようです。この攻撃でロシアはどこまで進むでしょうか?
ホドルコフスキー:プーチンが攻撃を計画していることに疑いはないでしょう。もっとも、プーチンが決断を下すのは最後の瞬間で、使える戦力がどれほど集められるかにかかっています。ミサイル次第と言っていいでしょう。ウクライナがどんなミサイルを手に入れるのか、それによってだれが制空権を握るのかで変わってきます。
ブリック:アントニオ・グテレス国連事務総長はプーチンが核戦争を企てているのではないかと警告しました。実際のところ、どうなのでしょう?
ホドルコフスキー:チャーチルは、核戦争の危険は永遠に排除されるべきだと述べました。核爆弾という手段が存在する限り、争いが始まるとすぐにそれが唯一の論点になってしまいます。プーチンが自暴自棄になるのをいったいだれが止められるでしょう?
核戦争は無意味です。通常兵器でも十分プーチンの軍隊を壊滅させることのできる米国が黙っていないでしょう。ロシア政府高官の家族も皆殺しです。それをみんな分かっています。
ブリック:あなたは他の有名な反プーチン派の人々と共に新しいロシアを作ろうと計画しています。プーチンがいなくなったロシアはどうなるとお考えですか?
ホドルコフスキー:道は2つあります。ひとつはロシアをいくつかの国家に分割するユーゴスラビアモデルです。非常に危険で、核戦争や新たな独裁政権が生まれる可能性があります。
私が支持しているのは完全な再建を目指す道であり、スイスのような議会制・連邦制モデルへと進むことです。このモデルは都市部で多くの支持を得ています。
ブリック:そうなるのはいつ頃でしょうか?
ホドルコフスキー:少なくとも20年はかかるでしょう。ロシアは今、第二次世界大戦直後のドイツと同様の発展途上にあります。
ブリック:どのように進めるつもりですか?
ホドルコフスキー:私たちのモデルをロシア社会に納得してもらわなければなりません。それにはメディアが必要です。エリートたちに、今いる状況から命を落とすことなく抜け出す方法があることを知らしめる必要があります。
そのために私たちは、ロシアを分断するためではなく再建するために制裁を行うよう、欧米を説得するつもりです。
ブリック:ロシアでは、メディアは統制されています。どのようにして人々にあなたの考えを伝えるつもりですか?
ホドルコフスキー:YouTubeとソーシャルメディアは以前と変わらずオープンな媒体です。現在私たちのコンテンツは1000万から1500万人が視聴しています。
加えて、エリートたちとは密かに連絡を取っています。コロンビアの山岳地帯で活動するゲリラとは違い、ロシアの抵抗運動は、体制が揺るぎ始めないと表に出ないのです。
ブリック:あなたには大きな希望がかかっています。チェスの天才ガルリ・カスパロフ氏は、あなたのことをポスト・プーチン時代の中心人物だと言いました。どういう意味でしょうか?
ホドルコフスキー:新政府のための新しい組織を構築する方法を私は知っています。反対勢力はこういうことに経験が乏しいのです。
ブリック:新生ロシアの大統領に就任してプーチンの後継者になるつもりはありますか?
ホドルコフスキー:新しいロシアでは、私も含め、だれであろうと大統領は存在してはならないのです。だれが大統領になっても、再びプーチンと同じ目標を目指して新たな独裁国家が誕生するでしょう。ですからこの地位はなくさなければなりません。
ブリック:では大臣ならどうでしょう?
ホドルコフスキー:ガルリは私が政治家に向いていないことを知っています。私は危機管理に長けた経験豊富な経営者にすぎません。それにもうすぐ60歳です。週7日、1日14時間働くのは無理です。燃え尽きるつもりはありません。
ブリック:プーチンは2024年の選挙に立候補すると思いますか?
ホドルコフスキー:現状を見る限り、立候補するでしょう。戦争に負ければ二度と戻ってこないでしょうが。
ブリック:プーチンは病気だとうわさされています。大統領の健康状態についてなにかご存じですか?
ホドルコフスキー:それについては知りません。重病でないことは確かです。
ブリック:8年前からここロンドンにお住まいですが、これまで国家反逆者としてロシア人が毒殺される事件が何度も起きています。恐怖は感じませんか?
ホドルコフスキー:多くの人がリスクにさらされながら働いています。ジャーナリストも同じでしょう。それでも自分の職務を遂行しています。リスクは私の職業の一部なのです。
ブリック:今までに命を狙われたことはありますか?
ホドルコフスキー:いいえ、刑務所から釈放されてからはありません。
ブリック:メディアによると、クレムリンはあなたの首に50万ドルの懸賞金をかけたそうです。
ホドルコフスキー:ワグネル・グループのトップ、エフゲニー・プリゴジンが発表しましたが、政府から出されたわけではありません。プーチンが本気で私を捕らえるつもりなら、もっと確実な方法をとりますよ。
ブリック:出所後はスイス東部ラッパースヴィールに滞在されていましたが、わずか1年後にはロンドンに引っ越されました。スイスに留まらなかった理由はなんでしょう?
ホドルコフスキー:その質問に答えるには、そもそもなぜ私がスイスに来たのかということから始めないといけません。私が拘留されている間、妻は自分が気に入っているスイスで双子の子供たちを学校に通わせました。
私は釈放されて家族と合流し、子供たちが学年末を迎えるまで待っていただけです。ロンドンには以前から自分のオフィスがありました。スイスの法律では他国にセカンドオフィスを置くことが認められていないので、どちらかに決めざるを得ませんでした。
ブリック:現在のスイスとの関係を教えてください。
ホドルコフスキー:ラッパースヴィールにはまだ家があり、特に妻はしょっちゅう訪れています。以前はよくチューリヒで週末を過ごしました。自分の考えを整理するのにぴったりの場所です。
ブリック:収監されていた間にスイスはどう変わりましたか?
ホドルコフスキー:スイスは、ほとんど変わることのない国です。10年ぶりにスイスに帰ってきたとき、どの店も以前と変わらずにありました。
それどころかショーウィンドウも昔のまま!一方でデパートのマノールが閉店したのは、ここ数年のチューリヒで最大の変化でしたね。
ブリック:さらにイェルモリも2024年末に閉店するそうです。
ホドルコフスキー:ほんとうですか?それはスイスにとって革命に等しいことですね!
ブリック:この戦争でスイスがとった行動をどう評価しますか?
ホドルコフスキー:最初の頃は絶対的な中立性を保とうとするスイスを私は強く批判しました。EUに加盟していないとはいえ欧州圏にあり、倫理的な観点から欧州の意見を無視することはできません。
その後スイスは考えを改めてロシアの口座を凍結し、ウクライナの難民も受け入れました。
ブリック:来週末には、待ちに待ったミュンヘン安全保障会議に登壇されます。どんなことを話す予定でしょうか?
ホドルコフスキー:重要なテーマは2つ。まず、西側諸国にはロシアの専門家を引き抜いてプーチンの力を削ぎ、自国経済を強化するよう促します。
そして、ロシアを1つの国として保ち、戦争によって崩壊させないよう、西側諸国を説得するつもりです。
●米国vsロシア、アラスカで一触即発=@露軍の戦略爆撃機が連日飛行 2/18
米国とロシアが緊迫の度合いを高めている。ロシア軍の爆撃機や戦闘機が連日、米アラスカ州の周辺空域を飛行し、ロシア国内では「アラスカ奪還論」も出始めた。一方、在モスクワの米国大使館は米国人に即時出国を求めている。ウクライナへの戦闘機供与問題や海底パイプライン爆破事件も火種となり、「米露対立」は不測の事態を招くリスクをはらむ。
北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は16日、ロシア軍の長距離戦略爆撃機「ツポレフ95」や、戦闘機「スホイ35」など4機が14日に米アラスカ州の防空識別圏に接近したため、F35戦闘機を発進させて対応したと発表した。13日にも4機が防空識別圏に入り、F16戦闘機が対応したばかりだ。
米海空軍や沿岸警備隊の基地があり、「米国防衛の最前線」とされるアラスカ州の「奪還論」を口にする強硬派もいる。米誌ニューズウィークによると、ロシアのシンクタンク、中東研究所のエフゲニー・スタノフスキー所長が「ロシアは1815年のウィーン議定書で画定された国境線を回復すべきだ」と発言、アラスカ奪還を示唆した。
アラスカは19世紀に米国に売却されるまでロシア帝国の領土だった。昨年7月にもウラジーミル・プーチン大統領の側近、ビャチェスラフ・ウォロジン下院議長が米国の制裁に反発し、「われわれにも取り戻すべきものがあることを認識すべきだ」と発言している。
反米をあおる宣伝工作もみられる。タス通信は13日、対外情報庁(SVR)の話として、米軍がイスラム過激派を募り、ロシアや旧ソ連諸国で外交官や行政機関などを狙ったテロを画策していると伝えた。
ロシアが反米の姿勢を強める背景は何か。
筑波大の中村逸郎名誉教授は「初動で大規模攻撃に失敗したプーチン氏が戦術核使用を決断するにあたり、米国が対抗することも想定され、出方をうかがっている可能性もある。ロシア国内にはアラスカを『第2のクリミヤ』とみる議論もあったほどで長期的に武力による奪還を狙っているとも考えられる。『米露の戦い』が意識されてきた」と分析する。
米露間のキナ臭さはほかにもある。ロシアからドイツに天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム」で昨年9月に発生した爆破事件について、米ジャーナリストが10日、「米海軍のダイバーが爆発物を設置した」とする記事をブログに掲載した。
13日には在モスクワの米国大使館が米国人に即時出国を勧告した。「ロシア当局が不当に拘束したり、嫌がらせをする恐れが高まっている」と呼び掛けている。
米国政治に詳しい福井県立大の島田洋一教授は「米議会ではウクライナへの戦車や装甲車などの供与に続き、戦闘機を供与すべきだとの意見も加速するだろう。実現すればロシア領内への攻撃が可能となり、北大西洋条約機構(NATO)との『準戦争状態』となりかねない。ロシアの奪還論も『アラスカが戦場になる』という示威行為にもみえる」と指摘した。
●ウクライナ東部で空爆 ロシア 拠点掌握ねらい攻撃激化か  2/18
ウクライナ国防省は17日、東部ドネツク州などでロシア軍によるミサイル攻撃や空爆があったと明らかにしました。軍事侵攻が始まって今月24日で1年になるのを前に、ロシアがウクライナ側の拠点の掌握などをねらって攻撃を激化させているものとみられます。
ウクライナ国防省は17日、ロシア軍による10発のミサイル攻撃があり、29か所で空爆が行われたと明らかにしました。
そのうえで激しい攻撃が行われたのは、ロシア軍が掌握をねらう東部ドネツク州のウクライナ側の拠点バフムトや東部ハルキウ州などだとしています。
ロシア軍は16日にもウクライナ各地でミサイル攻撃を行い、ウクライナ側は中部ポルタワ州の燃料施設が攻撃を受けて被害が出たと非難しています。
ウクライナのベレシチュク副首相は16日、バフムトに残る市民およそ6000人に対して危険が迫っているとして早急に避難するよう呼びかけています。
軍事侵攻が始まって今月24日で1年になるのを前に、ロシアはウクライナ側の拠点掌握などをねらって攻撃を激化させているものとみられます。
●マクロン氏「今はロシアと対話の時ではない」…独仏首脳、ウクライナ支援継続 2/18
フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相は17日、当地で開幕したミュンヘン安全保障会議で演説し、ロシアがウクライナで攻勢を強めている状況を踏まえ、ウクライナの軍事支援を継続する必要性を重ねて訴えた。
マクロン氏はロシアに関して「侵略をエスカレートさせ、戦争犯罪まで犯している」と非難し、「今は(ロシアと)対話する時ではない」と語った。「ウクライナの反撃を可能にするための支援と努力を強化することは絶対的に必要だ」と述べ、軍事支援を通じて「ウクライナが望む時期と条件の下」で和平交渉が行えるよう後押しするべきだとの認識を示した。
「これが、受け入れ可能な方法でロシアを議論のテーブルに戻し、永続的な平和を構築する唯一の方法だ」とも強調した。
ウクライナに独製戦車「レオパルト2」の供与を決めたショルツ氏は「ウクライナに戦車を送ることができる国は今すぐ送るべきだ」と述べ、レオパルト2の保有国に賛同を呼びかけた。「ウクライナに最善の支援を提供することと、意図しないエスカレーションを避けることのバランスを両立させる」とし、北大西洋条約機構(NATO)が戦闘に巻き込まれないよう配慮する考えを示した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が同日のオンライン演説で迅速な武器支援を求めたことに関連し、ショルツ氏は「慎重さは性急な決定よりも優先されなければならない」と持論を展開した。
●林外相「中国気球」けん制 王毅氏と会談、懸念も表明 2/18
ドイツ南部ミュンヘンを訪問中の林芳正外相は18日午後(日本時間同)、中国外交トップの王毅共産党政治局員と約50分間、会談した。
2019〜21年に日本国内で確認され、政府が「中国の無人偵察用気球と強く推定される」と発表した飛行物体について、林氏は日本側の立場を伝達。「いかなる国の気球であれ、許可なく他国の領空に侵犯すれば領空侵犯になる」とけん制した。
林氏は会談で「日中関係は依然として多くの課題や懸案に直面している」として、沖縄県・尖閣諸島情勢やロシアとの連携を含む軍事活動の活発化に懸念を表明。「台湾海峡の平和と安定」を重視する姿勢も示した。
林氏はウクライナ情勢に関し「責任ある大国としての対応」を取るよう強く促した。
一方で両氏は「建設的かつ安定的な日中関係」の構築を進めることを確認し、首脳間を含むあらゆるレベルで緊密に意思疎通を続けることを申し合わせた。次官級の安保対話や外交当局間協議、経済パートナーシップ協議を近く開く。 
●ロシア 軍事侵攻まもなく1年 ウクライナ全土 緊張高まる  2/18
ロシアによる侵攻から、まもなく1年となるウクライナでは、大規模な攻撃が行われるとの見方が強まる中、全土で緊張が高まっている。
ウクライナでは17日、ハルキウ州の民間施設がミサイル攻撃を受け、首都キーウでも2度にわたり、空襲警報が鳴り響いた。
ロシアによる大規模攻撃の可能性が言われる中、キーウ市民は不安を口にする一方、多くの人は、ウクライナ軍の反撃を信じている。
市民「自分のこと、子どものこと、孫のこと、みんなのことが心配」、「ロシアが再び攻めてくると思っていた。どんなに激しく攻撃してきても、成功することはないだろう」
市内の市場は買い物客でにぎわっているほか、地下鉄の駅やバス停では通勤客が行き交うなど、市民生活の様子が見られる一方で、軍事関連施設などを中心に、警備が強化されている。
ロシアの大規模攻撃をめぐっては、ウクライナのゼレンスキー大統領が「すでにいくつかの方向から起こっている」と述べるなど、侵攻から1年を前に、全土で警戒と緊張が高まっている。

 

●ロシア軍攻撃機製造の用意、ベラルーシ大統領が表明…プーチン氏と会談  2/19
ロシアのプーチン大統領は17日、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領とモスクワ郊外で会談した。露大統領府の発表によると、ルカシェンコ氏は会談で、露軍がウクライナ侵略に投入している攻撃機Su(スホイ)25をベラルーシで製造する用意があると表明した。プーチン氏は侵略参戦に否定的なベラルーシの立場を「承知している」と述べた。
ルカシェンコ氏は、自国内に民生用も含め航空機製造施設が3か所あると言及し、米欧主導の経済制裁を念頭に「障壁克服のために可能なことは何でもする」と述べた。兵器製造をフル稼働で続ける露国内の軍需産業を支援する姿勢を強調したものだ。露軍はベラルーシをウクライナ攻撃の拠点としており、ルカシェンコ氏はプーチン氏と会談するたびに間接的な関与を深める形になっている。
一方、露国防省は17日、侵略に部隊を派遣している露国内軍管区の司令官に関する公式サイトのデータを更新し、侵略開始以降、地域で管轄を分けている4軍管区の司令官がいずれも交代していたことを正式に認めた。中央軍管区の司令官にはアンドレイ・モルドビチェフ中将が就任した。
●ロシア支援に「深刻な代償」 プーチン氏の責任追及―G7外相 2/19
先進7カ国(G7)外相会合を開いた林芳正外相は18日、ウクライナに侵攻したロシアを支援する第三者に「支援をやめなければ深刻な代償に直面する」と警告する議長声明を発表した。自国製ドローンをロシアに供与するイランの動向を念頭に置いているとみられ、G7による追加の制裁を示唆した。
声明では、ロシアによる民間人や重要インフラへの継続的な攻撃を非難し「戦争犯罪の責任を逃れることはあってはならない」と強調。国際法に従って、プーチン大統領を含めロシアの政治指導者らの責任を追及する方針を明確にした。
侵攻開始から近く1年が経過し「支援疲れ」も懸念される。こうした中で「ウクライナとの必要な限りの揺るぎない連帯」を再確認し「いわれのない残酷な侵略戦争」を批判した。
●帝国の解体は止まらず  2/19
ウクライナ東部のドニプロで年明け早々、集合住宅がミサイルで破壊され四十人余が亡くなりました。二つに裂かれてしまった九階建ての集合住宅の写真を見て、二十四年前にモスクワでそっくりの惨状を目の当たりにしたのを思い出しました。
ウクライナを失って
プーチン大統領がエリツィン政権の首相に就任したばかりの一九九九年のことです。モスクワで二件、ほかにロシア南部のカフカス地方などで集合住宅が爆破される事件が立て続けに起きました。
プーチン氏は一連の事件をチェチェン共和国の独立を目指す武装勢力の犯行だと決めつけ、対チェチェン軍事作戦を再開しました。世論は軍事作戦を支持し、これを追い風にプーチン氏は翌年の大統領選で初当選を果たしました。
ただし、連続爆破事件をめぐっては、軍事作戦に国民の支持を取り付けて正当化するため、体制側による自作自演のテロではないか、との疑念が当初からついて回りました。事件の内幕を内部告発した元情報部員は亡命先のロンドンで毒殺され、英当局はロシアの犯行と断定しています。
プーチン氏は軍事作戦を再開した当時を振り返ってこんな趣旨のことを語っています。
ロシアは崩壊の寸前だった。チェチェンの動きはソ連崩壊の続きだ。どこかで食い止めないとロシアは消滅してしまう−。
首相に就任したばかりのプーチン氏が見せた不安そうな表情を覚えています。その人物を最高権力者の座に押し上げたのは、犠牲をいとわない力の行使でした。
プーチン氏は今、力を使って同じことを繰り返しています。本人が指摘したように、九一年末のソ連崩壊後も進行する崩壊プロセスを食い止めて帝国の解体を阻止するために。それがウクライナ侵攻の目的です。
プーチン氏が描くのはロシア、ウクライナ、ベラルーシのスラブ三カ国を中核とした帝国。ところが、軍事侵攻は逆にウクライナを失う結果になりました。ウクライナはロシアの引力圏を脱し欧州へ向かう「脱露入欧」路線を進んでいくでしょう。
ロシアが縄張りと見なす旧ソ連圏諸国は対ロ警戒感を強めています。ロシア系住民の保護を名目に侵略が許されるなら、多くのロシア系住民を抱える各国にとっては、明日はわが身かもしれない。ロシアにはウクライナ喪失だけではすまないかもしれません。
二〇一九年にロシアと中国の国境地帯を訪ねました。中国・内モンゴル自治区の満州里は中ロ国境貿易の中心地です。市中心部は民芸品のマトリョーシカ人形の外観をした高級ホテルをはじめロシアのテーマパークのようになっていて観光客でにぎわっていました。
国境ゲートを通ってロシア側の通関窓口に行くと、大きなビニールバッグを持ったロシア人が長い列を作っていました。中国に衣類や日用雑貨品を買い付けに行った担ぎ屋です。
混迷の九〇年代、生活に困った医師や教師を含め多くのロシア人が担ぎ屋に転身しました。ネットショッピングが盛んな今でも、こうした商売が成り立っていることに驚き、両国の経済格差を思い知らされました。
国の未来食いつぶす
満州里と接する一帯はロシアの極東地域に入ります。極東地域は四千キロ余に及ぶ国境で中国と接していて、面積はロシア全土の四割を占めます。
日本の国土の十八倍に相当するこの広大な地に暮らす人々はわずか八百万人ほど。大阪府よりも少ない人口です。対する中国は国境地帯の人口が九千万余。人口格差も膨大です。
ウクライナ侵攻に伴う西側の経済制裁によってロシアの国力衰退は避けられません。人口減も加速するでしょう。モスクワは極東を統治していけるのでしょうか。
欧米と決別したロシアは中国傾斜を一層強めています。巨大な中国に呑(の)み込まれてしまうという懸念はかねてロシアにはあります。それが現実味を帯びてくるのは否定できません。
ウクライナ侵攻は二十四日で一年を迎えます。和平機運はうかがえず、出口は見えません。
ロシアの将来を担う大勢の若者が戦場で倒れ、海外への頭脳流出も止まらない。帝国を維持するために国の未来を食いつぶしていることに、プーチン氏は気づかないのでしょうか。もう、やめなくてはいけません。
●ロシア、核の脅しで揺さぶり 原発占拠し「武器化」―ウクライナで惨事の恐れ 2/19
ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は核兵器の使用を示唆し、ウクライナを支援する欧米を揺さぶっている。ロシア軍が占領するウクライナ南部のザポロジエ原発も核惨事の危険を抱える。核保有国による露骨な脅しに打てる手は乏しく、国際社会は新たな課題に直面している。
「われわれには対抗手段がある」。プーチン氏は2日、欧米の主力戦車供与に反発し、核の使用をちらつかせた。昨年10月には放射性物質をまき散らす爆弾を「(使う)必要はない」と発言しており、威嚇による緊張とそれを緩和する発言を繰り返している。
侵攻開始から半年間の核攻撃を巡る言動を詳細に分析したドイツのシンクタンク、国際安全保障研究所(SWP)の研究者らは「ロシアの脅し文句は、欧米の介入を抑制するために慎重に調整されている」と解析、攻撃実行の可能性は低いと結論付けた。識者の間では、核の使用は軍事的な成果が乏しく、放射能汚染の問題や外交的な孤立が極まる恐れがあるとして、合理的ではないというのが通説だ。
一方、元英外交官のティム・ウィルシー・ウィルゼイ氏は、ウクライナ側がすさまじい勢いで進軍し始め、ロシア内政が制御不能に陥れば「最後の手段として核装置の起動が選択肢になり得る」と推測する。1986年のチェルノブイリ原発事故の記憶が今も強く残るドイツは核に敏感だ。国民は「何よりも放射能を恐れている」(外交筋)とされ、こうした世論はドイツの兵器供与の遅れの背景としても指摘されている。
ザポロジエ原発はウクライナ南部の前線に位置する。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は「爆発や砲撃が核惨事の恐れを高めている」と警告。戦闘が及ばないよう「安全・保護区域」の設定を呼び掛けている。
しかし、ロシア軍は電力不足や核事故の脅しがウクライナに対する「武器」になると考え、侵攻当初から原発を狙ってきた。ロシアの原発占拠が既成事実化することをウクライナは恐れる。仲介するグロッシ氏は今月9、10両日もロシア入りして協議したが、事態が改善する兆しはない。
欧米は必要な限りウクライナへの兵器支援を強化する構えだ。戦闘の激化と、ロシアの威嚇の中で、核惨事の危険がくすぶっている。
●中国への依存強めるロシア 2/19
第2次世界大戦以来、欧州で最も悲惨な戦争が始まって1年、中国は弱体化したロシアと孤立したプーチン大統領を最大限に利用することに冷酷なまでに集中している。中国にとっては、ロシアを支配し、2049年までに世界の支配者になるという大戦略を加速させる好機だ。
プーチン氏と中国の習近平国家主席は、12年の習近平政権発足以来40回以上会談し、米国が支配する「一極集中」に対抗するために二国間関係を強化してきた。両国軍は日常的に大規模な軍事演習を行っている。情報を共有し、米国、北大西洋条約機構(NATO)、両国が破壊しようとしている国際的ルールに基づく秩序に反対する政策やメッセージを定期的に発信している。
化石燃料買い叩く中国
昨年12月のオンライン首脳会談でプーチン氏は、ロシアと共産中国との関係を「史上最高」と評し、習氏をモスクワに招いた。昨年の侵攻の直前、2人が独裁者としての協力関係に「限界はない」と宣言したことはよく知られている。
しかし、この残虐な戦争を見ると、今日の「中露同盟」は、前世紀のソ連と共産中国との関係と同様、明らかに限界があり、多くの領域で両国が競合する関係にあることが分かる。
冷戦時代と異なり、今回、その境界線を設定しているのは中国だ。習氏が「同盟国」を犠牲にして大きな勝利を得ようとしていることは明らかだ。
ロシアは、14年のクリミア併合とウクライナ東部占領に対して欧米が制裁を科した後、経済面で中国に方向転換し始めた。中国は今、欧州連合(EU)に代わってロシアの重要な経済パートナーになろうとしている。
中国はロシアの化石燃料を安価で輸入し、ロシアの戦略物資の市場に参入している。ロシアが資金繰りに窮する中、22年のロシアからの中国の石油、ガス、液化天然ガス、石炭の輸入額は600億jを超えた。21年から410億j増だ。
その結果、大規模な貿易不均衡が生じ、ロシア経済は中国への依存度を強めている。その一方で中国は、世界各地でかつてないほど多様な貿易関係を享受している。
プーチン氏の関心はウクライナに集中し、軍隊も疲弊している。中国はロシアの伝統的な勢力圏である中央アジアを侵食する機会をつかんだ。習氏は22年9月、上海協力機構(SCO)首脳会議に出席するため、ウズベキスタンの首都タシケントに異例の訪問をした。中国は同国との戦略・経済的パートナーシップの強化を積極的に進めている。
カザフスタンは、中国の建設プロジェクトの推進など、経済圏構想「一帯一路」の橋頭堡(きょうとうほ)となっている。中国のカザフ産原油の輸入量は昨年5倍以上に増加し、習氏は、ロシアのウクライナ侵攻を支援せず中立を保つカザフを公に擁護している。
プーチン氏は政権維持に必死で、自国の長期的な戦略的競合国とファウスト的な取引をした。プーチン氏が政権を維持する限り、ロシアは経済的にも戦略的にも中国に従属し、強大化する中国のジュニアパートナーにならざるを得ない。
プーチン氏は、ウクライナでの「特別軍事作戦」を数日で完了させると主張した。ところが、誤った選択をした戦争から1年、ロシアは大量の血を流し、富を流出させ、新しい加盟国を迎えようとしている拡大NATOと戦わなければならず、中国の搾取の格好の標的になってしまった。
西側の利益となる戦略
ウクライナは、ロシアの大胆な侵略を食い止めるために、NATOのどの加盟国よりも多くの犠牲を払い、多くの成果を挙げてきた。そして、プーチン氏の支持者やその側近に対し、この戦いで中国の好意に大きく依存することがいかに愚かかを示した。
NATOは民主主義の武器庫として、ウクライナの自衛権を擁護し、核武装した国家が領土拡張戦争に勝利するのを防がなければならない。一方でこの戦略は、この見せ掛けの中露「同盟」を暴露し、圧力をかけ、終わらせるという意味でも西側の利益につながることを心に留める必要がある。
●物価高、債務危機で妥協探る 侵攻1年、終結見えず―G20財務相会議 2/19
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が23〜25日に、インド・ベンガルールで開かれる。会合中の24日でロシアのウクライナ侵攻開始から1年となるが、戦争終結の兆しは見えない。エネルギーや食料の価格高騰が続き、インフレを抑え込むための米欧による金融引き締めは、世界経済の減速や途上国の債務危機に波及した。ロシアとの距離感が異なるG20各国が、山積する課題に妥協点を見いだせるかが問われる。
軍事侵攻から1年の節目を迎えるのに合わせ、日米欧の先進7カ国(G7)は、議長国日本の呼び掛けで対面での会合を開く方向で調整。ロシアへの非難とウクライナ支援を改めて打ち出したい考えだ。
鈴木俊一財務相は10日の閣議後記者会見で、ロシアの金融機関への送金停止や同国産原油の禁輸などの経済制裁に関し、「財政赤字の拡大や鉱工業生産の落ち込みなど、ロシアの戦争継続能力の低下に一定の効果を与えてきた」と強調する。
だが、国際情勢に詳しい識者は「戦争の早期終結という点では効果が出ていない」と口をそろえる。制裁に距離を置くインドや中国がロシア産の原油などを買い支えているためで、「ダメージは限定的だ」(国際金融筋)との指摘もある。
G20議長国はそのインドが務める。ウクライナ侵攻後、G20財務相会議は共同声明を採択できていない。「議長総括」との位置付けで、侵攻や世界経済への影響に関する各国の主張を説明するにとどめており、今回も対ロシアで一致した姿勢を打ち出すのは困難だとみられる。
戦争長期化が懸念される中、国際通貨基金(IMF)は1月末、2023年の世界経済の成長率見通しを2.9%(従来は2.7%)に引き上げた。中国の「ゼロコロナ」政策撤回などがその理由だが、ゲオルギエワ専務理事は「数カ月前の見通しほど悪くはないが、決して良くはない」と指摘した。
ウクライナ危機を契機としたインフレはピークを越えたとみられるが、収束には程遠い。債務危機は低所得国だけではなく、新興・中所得国にも広がる。G20会合では、貸し手の中国を巻き込んで支援の枠組みを広げられるかどうかも重要な課題となりそうだ。
●各国でウクライナ情勢関心 2/19
公益財団法人「新聞通信調査会」は18日、米国と英国、フランス、中国、韓国、タイの6カ国で実施した世論調査の結果を公表した。各国約千人が回答。ロシアの侵攻が続くウクライナの情勢について「関心がある」「どちらかと言えば関心がある」とした人は、英国(87・8%)と韓国(87・2%)、フランス(83・3%)、米国(81・4%)で8割を超えた。
一方で中国は69・3%、タイは64・5%にとどまった。
世界平和への最大の脅威と思われる国を尋ねる質問では、中国を除く5カ国でロシアが最多だった。中国では66・8%が米国と答え、ロシアが17・5%で続いた。
●米中外交トップ会談 「気球は主権侵害」「武力の乱用」 2/19
米国務省は18日、ブリンケン国務長官と中国外交担当トップの王毅(ワン・イー)氏がドイツ南部のミュンヘンで会談したと発表した。中国の気球問題やウクライナ情勢を協議した。軍事衝突の回避に向けて対話の維持を探った。
米中外交トップが対面で会談するのは、米軍が4日に南部サウスカロライナ州沖で中国の気球を撃墜してから初めて。ブリンケン氏は2月上旬、米本土への気球飛来を受けて予定していた中国訪問を延期し、米中対立に拍車がかかった。外交トップの会談で関係悪化を食い止めるきっかけをつかめるかが焦点になった。
国務省によると、ブリンケン氏は中国の偵察気球の飛来に関し「受け入れられない米国の主権や国際法の侵害だ」との考えを伝え、再発防止を求めた。「米国はいかなる主権侵害も容認しない」と強調した。同様の事案があれば飛行物体を撃墜する立場を示したとみられる。
中国外務省は王氏が米国側の要請に応じてブリンケン氏と「非公式に接触」したと発表した。偵察気球の撃墜を巡り米国に「武力の乱用が中米関係にもたらした損害を直視し、解決する」ように求めたという。
ロシアによるウクライナ侵攻に関し、中国がロシアに「物資援助」をしたり、「体系的な制裁逃れ」を支援したりすれば対抗措置を辞さないと示唆した。物資援助は軍事支援を意味しているもようだ。
外交トップの会談に先立ち、ハリス米副大統領はミュンヘン安全保障会議で演説し、ウクライナ侵攻後に中ロが協力を深めていると懸念を表明。「攻撃的な(武器の)支援につながる全ての措置は侵攻を後押しし、殺害を継続させてルールに基づく秩序を弱体化させる」と断じ、中国に警戒感を示していた。
中国がロシアに軍事支援を実行する恐れがあるとの兆候を米国がつかんでいる可能性がある。
台湾情勢をめぐって、ブリンケン氏が「台湾海峡の平和と安定が重要だ」との立場に重ねて言及した。米国の「一つの中国」政策に変更はないと触れた。「一つの中国」政策は「中国本土と台湾は不可分」という中国の立場に異を唱えない一方、台湾の安全保障に関与する政策を意味する。歴代の米政権が踏襲してきた。
北朝鮮情勢も議題にのぼった。ブリンケン氏は北朝鮮が18日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験をしたと非難し「責任ある大国はこのような大きな国際的な課題に対応する必要がある」と断言した。北朝鮮の挑発行為を抑えるため中国に協力を求める発言だ。
ブリンケン氏は「中国との紛争を望まず、新冷戦も求めていない」と発言した。「常に外交的対話や開かれた対話ルートを維持することが重要だ」と唱えた。台湾情勢をめぐり米中対立が高まっており、バイデン米政権は偶発的衝突の回避に向けて対話ルートの確保を重視している。
バイデン米大統領は16日の演説で、気球問題をめぐって中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と直接協議する意向を示していた。外交トップ会談で首脳協議を調整した可能性がある。
●米ハリス副大統領「ウクライナ侵攻を機に中国とロシアが関係深める」 2/19
アメリカのハリス副大統領はミュンヘン安全保障会議に出席し、ウクライナ侵攻を機に中国がロシアとの結び付きを強めていると非難しました。
ハリス副大統領「戦争が始まって以来、中国がロシアとの関係を深めていることを問題視している」
ハリス副大統領は18日、ロシアがウクライナ侵攻に成功すれば、「他の国もロシアの暴力的な事例にならう勇気を持つかもしれない」と警戒感を示しました。
また、中国を念頭に「他の権威主義的な国々が威圧や偽情報、さらには武力によって、世界を自分たちの意のままにしようとするかもしれない」として同盟国などとのさらなる結束の強化を訴えました。
中国については、「ロシアへの決定的な支援を行えば、侵攻を後押しし、殺戮を続けてルールに基づく秩序を一層損なうだけだ」と述べ、ロシアと連携を強める動きを牽制しています。
●米中けん制し合い 溝浮き彫りに ウクライナ侵攻 気球撃墜など  2/19
世界各国の首脳らが安全保障について話し合う国際会議でアメリカと中国の代表が演説しました。ロシアによるウクライナ侵攻やアメリカ軍が中国の気球を撃墜したことなどをめぐって双方がけん制し合い、両国の間の溝が改めて浮き彫りとなりました。
ドイツで開かれているミュンヘン安全保障会議では18日、アメリカのハリス副大統領と中国で外交を統括する王毅政治局委員がそれぞれ演説しました。
この中でハリス副大統領はロシアによるウクライナ侵攻に関連して中国に言及し「戦争が始まって以降、中国がロシアと関係を深めていることを懸念している」と指摘しました。
その上で「中国が今後、ロシアに軍事的な支援を行うようなことがあればルールに基づく秩序がさらに損なわれるだろう」とけん制しました。
これに対して王氏はアメリカ軍がアメリカ本土の上空を横断した中国の気球を撃墜したことについて発言し「常軌を逸脱した想像もできない行為だ」などと非難しました。
その上で「アメリカが誠意を示して過ちを正し、今回の事態が両国関係に与えた損害を直視して解決するよう要求する」と述べました。
アメリカは中国と対話を維持することが重要だと強調していますが、国際会議の場で双方がけん制し合い、両国の間の溝が改めて浮き彫りとなりました。
●G7外相会合 ロシア制裁維持・強化で一致 ウクライナ外相も参加  2/19
ロシアによるウクライナ侵攻から1年となるのを前に、ドイツでG7=主要7か国の外相会合が開かれました。侵攻が長期化する中、ロシアに対する制裁を維持・強化するとともにウクライナと積極的に協力し支援を継続することで一致しました。
日本が、ことしG7の議長国として初めて開く外相会合は、世界各国の首脳や閣僚らが集まり安全保障について話し合う「ミュンヘン安全保障会議」に合わせて行われ、ウクライナのクレバ外相も参加しました。
冒頭、林外務大臣は北朝鮮のミサイル発射に言及し「北朝鮮による過去に例のない頻度での弾道ミサイルの発射は、日本の安全保障への差し迫った脅威であり、国際社会の平和と安全にとっても脅威だ。到底容認できず、G7で緊密に連携していきたい」と呼びかけました。
会合ではウクライナ情勢を中心に議論が行われ、ロシアに対する制裁を維持・強化し、ロシアを支援している国にやめるよう呼びかけるとともに、ウクライナと積極的に協力し支援を継続することで一致しました。
その上でロシアによるウクライナの民間人や重要インフラ施設への攻撃を非難し、国際法にのっとって責任を追及していく方針を確認するとともに、法の支配に基づく国際秩序を堅持することが重要だという認識を共有しました。
そして、林大臣は4月に長野県軽井沢町で開く外相会合や、5月の広島サミットに向けて、ウクライナ情勢だけでなくインド太平洋地域の情勢でも、引き続きG7各国と緊密に連携していきたいという考えを示しました。
議長声明「ウクライナとの揺るぎない連帯 確認」
外相会合のあと議長を務めた林外務大臣が声明を発表しました。
声明では、冒頭、トルコで発生した大地震について、トルコとシリアの人々に深い哀悼の意を示し、シリアの反政府勢力が支配する地域に新たな人道支援のルートを確実に設けることが重要だとしています。
またウクライナ情勢をめぐっては、ロシアによる侵攻開始から今月24日で1年となるのを前に、ウクライナとの揺るぎない連帯を改めて確認し、ロシアによるいわれのない残酷な侵略戦争を最も強いことばで非難するとしています。
その上でロシアに対しウクライナからすべての軍をただちに無条件で撤退させ、ウクライナの独立と主権、それに領土の一体性を尊重するよう強く求めています。
そしてウクライナの民間人やインフラ施設への攻撃を含む戦争犯罪や残虐行為は処罰されるべきだと強調し、プーチン大統領とロシアの指導部の責任を追及するとしています。
さらにロシアへの制裁を維持・強化し、第三国に対してロシア軍や関連する部隊への支援を停止するよう求めるとともに、軍事面や防衛装備品の提供などを含めたウクライナへの支援を継続するとしています。
また、77年間にわたって核兵器が使用されなかったことを踏まえ、核兵器や化学兵器、生物兵器などの使用は深刻な結果をもたらすと指摘しています。
一方、北朝鮮がICBM=大陸間弾道ミサイル級のミサイルを発射したことについて、最も強いことばで非難するとともに、北朝鮮に対し国連安全保障理事会の決議を順守するよう強く求めています。
そして力や威圧によるいかなる一方的な現状変更にも強く反対し、世界の平和と安全、繁栄を確保するために協力していくとしています。 
●「ロシアの敗北望むが、崩壊は望まない」 マクロン仏大統領が持論 2/19
フランスのマクロン大統領は18日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアについて「敗北を望んでいるが、崩壊は望んでいない」と話した。仏紙フィガロなどのインタビューに答えた。
マクロン氏は「いま必要なのは、ウクライナがロシアの前線を妨害する攻撃を実施し、交渉への動きを作ることだ」と発言。「フランスの立場は、ロシアを完全に敗北させて崩壊させることではない。ウクライナとロシアのいずれも完全な勝利をおさめることはできない」と持論を展開した。
その上で、ロシアの今後について「今のロシアのシステムでは、プーチン(大統領)以外のいかなる(指導者の)選択肢も良いと思えない。現在のロシアの市民社会から民主的な解決策が現れると考えられるだろうか。それを願っているが、実際に起きると信じることはできない」と話した。
ロシアによるウクライナ侵攻の開始以来、マクロン氏はしばしば「ロシア寄り」と受け取られる発言で物議を醸している。
●ウクライナ侵攻1年、疲弊する西側諸国、台頭する「グローバルサウス」 2/19
2022年2月24日のロシアによるウクライナの侵攻から1年。世界のパワーバランスが大きく変わろうとしている。その象徴となるのが、第二次世界大戦以来、再び戦場となった欧州と西側諸国の疲弊だ。
今年の1月に入って、英国が同国製主力戦車「チャレンジャー2」の供与を表明したのを皮切りに、米国は最新鋭の主力戦車「M1エーブラムス」を、ドイツは欧州で広く保有されている自国製主力戦車「レオパルト2」を、ウクライナへ供与すると表明した。
独ソ戦以来の戦車戦
それに対し2月2日、ロシアのプーチン大統領は旧ソ連がナチス・ドイツに勝利した「スターリングラード攻防戦」終結80年式典で、「我々は再びドイツの戦車に脅かされている」と発言した。
13日にはウクライナ東部の戦略的要衝バフムトが露軍の激しい攻撃を受けた。新たな大規模攻撃の前哨戦とも受け止められ、欧州では今後、さながら独ソ戦(1941〜45年)以来の大戦車戦が勃発してもおかしくない状況だ。独ソ戦は、旧ソ連の工業都市スターリングラードにおける半年に及ぶ市街戦で200万人以上が死傷した。43年7月から8月に、ロシア・ウクライナ国境で行われた「クルスクの戦い」はドイツ2800両、ソ連3000両の戦車が激突した史上最大の戦車戦だ。
なぜ、戦争激化のリスクを承知しながら、西側諸国は戦車の供与を決めたのか。安倍政権を首相補佐官兼秘書官として支え、岸田政権でも内閣官房参与を務める今井尚哉・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、国内有権者に顔を向けたポピュリズムが根底にあると語る。「弱腰という言葉に政治家は弱い。国内に強気を見せると、もう後に戻れなくなる」
インド、仲介に意欲
G7(主要7カ国)を中心とした西側先進国が戦争で消耗する中、存在感を高めているのが、中国やインド、トルコといった新興国・発展途上国からなる「グローバルサウス」だ。今年にも人口が世界一となるインドのように膨大な数の生産年齢人口と、豊富な天然資源を武器に世界経済の主役の座を、西側諸国から奪いつつある。
これらの国々は、経済のグローバル化の恩恵を受けて、成長してきた。インドではデジタル分野の成長も目覚ましく、「シリコンバレーよりベンガルールだ」とまで言われるようになった。日本総合研究所会長の寺島実郎氏は、「彼らが放っているメッセージは、『世界を単純に二極に分断するな』ということだ」と説明する。実際、インドのモディ首相は、西側諸国とグローバルサウスの橋渡し役を本気で務めようとしているという。
戦争でも経済関係は継続
高橋氏は、「この戦争の最も興味深いことは、戦争が始まってからも、米露外交は続いているし、世界的な経済関係が完全に途切れたわけではない」ことだと見る。今井氏も「中国の習近平主席と米バイデン大統領は、ほぼ毎週電話している」と明かす。だから、日本が今こそ担うべき役割は、ロシアとウクライナの停戦を粘り強く促し、世界経済を分断の危機から救うことにあると強調する。また、戦争の悲惨さを最も知る国としての責務でもある。
●ロシア ウクライナ西部にもミサイル攻撃 侵攻1年前に戦闘激化  2/19
ロシア軍はウクライナへの軍事侵攻から24日で1年となるのを前に、掌握をねらっている東部地域に加え、西部の州でもインフラ施設を標的にしたミサイル攻撃を行うなど戦闘を激化させています。
ウクライナ国防省は18日、東部で激しい戦闘が行われ、さらにロシア軍が原子力発電所のある西部フメリニツキー州で民間のインフラ施設などをミサイル攻撃したと発表しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は18日、「ロシア軍は各地でインフラ施設を標的とした新たなミサイル攻撃を実施した」と指摘しました。
そのうえで「ロシアで影響力があるメディアが、ウクライナの原発につながる電力インフラを標的にした攻撃を実施して、原発を緊急停止させるべきだと主張している」と指摘し、ロシア軍の攻撃が原発の停止をねらった可能性もあるとの見方を示しています。
一方、ロシアのプーチン大統領は侵攻から1年を前にした21日に、内政や外交の基本方針を示す年次教書演説を行う予定で、ウクライナへの侵攻についてどのような主張を展開するかが焦点となっています。
戦況を分析するイギリス国防省は18日、ロシア議会のグループが、プーチン大統領に報告書を提出し、この中では、動員兵や家族に対する社会支援についても触れている可能性が高いと指摘しました。
そして、「クレムリンはますます、ウクライナ戦争から国民を切り離すことが困難になっている。世論調査では、軍事作戦に参加した友人や親戚がいるという人が52%に上っている」と指摘し、プーチン大統領は21日の演説でも、国民に大きな負担となっている動員をめぐる問題について言及する可能性があると分析しています。
●フランスの軽戦車が数日以内にウクライナへ まもなく操縦訓練完了 2/19
フランスのルコルニュ国防相は18日、自国製の軽戦車「AMX―10RC」が数日以内にウクライナに引き渡されるとの見通しを示した。仏紙パリジャンのインタビューに答えた。
ルコルニュ氏によると、仏製軽戦車を操縦するためのウクライナ兵の訓練がまもなく終わることから、来週末には引き渡しが可能になったという。
ドイツと米国は1月、それぞれの主力戦車「レオパルト2」と「エイブラムス」をウクライナに供与すると決めたが、フランスはこれまで自国の主力戦車「ルクレール」の供与を見送っている。
ルコルニュ氏はルクレールについて「性能は並外れているが、他国への輸出は限定的だった。ウクライナにまとまった数を供与できないため、効果を発揮することができなかっただろう」として、欧州で計2千両が配備されているドイツのレオパルト2との違いを説明した。
●英首相 “ウクライナに去年1年間に匹敵する軍事支援の方針”  2/19
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから1年となるのを前に、ロシア軍は、東部などで戦闘を激化させています。こうした中、ドイツで開かれているミュンヘン安全保障会議ではイギリスのスナク首相が演説し、向こう数か月間で去年1年間に匹敵する規模の軍事支援を行う方針を示しました。
ロシア軍は、ウクライナ東部で激しい攻撃を繰り返しています。
また、ウクライナ国防省は、ロシア軍が西部にある民間のインフラ施設などを攻撃し、住宅などが破壊され市民の犠牲者が出たと発表しました。
こうした中、ドイツ南部ミュンヘンでは世界各国の首脳や閣僚らが安全保障について話し合うミュンヘン安全保障会議が開かれウクライナ侵攻への対応が最大のテーマとなっています。
この中で、18日、演説したイギリスのスナク首相は「ウクライナは戦争に勝つため、より多くの弾薬、装甲車、それに防空システムを必要としている。今こそ軍事支援を倍増させるべきだ」と各国に呼びかけました。
そのうえでイギリスは、向こう数か月間で、去年1年間に匹敵する規模の軍事支援を行う方針を示しました。
また、ウクライナのクレバ外相がパネルディスカッションに参加し「われわれにとって最も重要な安全保障は、パートナーの国々が、ウクライナの勝利を固く、無条件に信じることだ」などと述べ、追加の軍事支援として弾薬と火砲、それに戦車が必要だと訴えました。
ミュンヘンでは、安全保障会議にあわせてウクライナ系の住民が中心となってウクライナへの支援の拡大を求める大規模な集会を開き、およそ1000人が集まり、「あらゆる支援を」などといったプラカードを掲げる姿もみられました。
●欧米各国 ウクライナ支援継続も温度差 戦闘機供与は不透明  2/19
ドイツ南部で3日間にわたって行われているミュンヘン安全保障会議が19日、閉幕しました。欧米各国は、ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナへの支援の継続を相次いで表明しましたが、ウクライナ側が求める兵器の迅速な供与に応えられるかは不透明です。
会議最終日の19日は、EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表が演説し、ウクライナは今、弾薬不足に陥り危機的な状況にあるとして、軍事支援を加速させる必要性を訴えました。
ロシアの軍事侵攻から今月24日で1年となるのを前に開かれた今回の会議では、欧米各国の首脳なども支援の継続を相次いで表明しました。
会議の主催団体のホイスゲン議長は、NHKのインタビューに「ロシアのプーチン大統領は、われわれにウクライナへの支援を続ける強さがないと思っている。欧米の国々が連帯を維持できるかがカギだ」と述べ、各国が足並みをそろえてロシアに対抗していく重要性を強調しました。
一方、会議ではウクライナのゼレンスキー大統領が兵器の供与を急ぐよう強く求めたのに対し、ドイツのショルツ首相はNATO=北大西洋条約機構の加盟国が戦闘に巻き込まれる事態は避けなければならないという慎重な姿勢を改めて示すなど、温度差も浮き彫りになりました。
ロシア軍の激しい攻撃が続くなか、各国がウクライナ側の求めに応じて火砲や戦車などを迅速に供与できるか、さらに戦闘機の供与にまで踏み切れるかは不透明です。
●中国・王毅氏がウクライナ外相に和平協議促す 「危機長期化は見たくない」 2/19
中国外務省は19日、中国の外交担当トップ、王毅(おうき)共産党政治局員が18日、ドイツ・ミュンヘンでウクライナのクレバ外相と会談したと発表した。王氏は「われわれはウクライナ危機の長期化、拡大を見たくない」と強調。「国際社会とともに情勢のさらなる悪化を避け、平和への努力を根気よく持続したい」と述べ、和平協議を促した。
王氏は「中国とウクライナは戦略的パートナーだ」と指摘。ウクライナ問題に関し、「中国は一貫して平和と対話の側に立ち、和平と協議の促進を堅持してきた」と訴えた。
中国側の発表によると、クレバ氏は「過去1年間、ウクライナと中国は意思疎通を保ってきた」と発言。「ウクライナは、中国の国際的な地位や重要な影響力、ウクライナ危機の政治的解決に関する立場を重視している」と述べた上で「中国が引き続き建設的な役割を果たすことを期待している」と表明したという。

 

●「自由主義秩序は反撃している」 クローニン米ボストン大教授 2/20
ロシアのウクライナ侵攻から1年。バイデン米大統領は今日の情勢を「民主主義」と「専制主義」の戦いと位置付ける。それは自由主義的な国際秩序とロシア・中国が決して相いれないことを意味するのか。最終的にどちらの陣営が勝利するのか。冷戦後の世界秩序を研究しているクローニン米ボストン大教授に話を聞いた。
――岸田文雄首相は1月の訪米で「ポスト冷戦の世界は終わり、国家が再び激しく競争を繰り広げている」と講演した。
冷戦後の最初の30年間とは、全く異なる時代になっている。グローバリゼーションや経済協力などが平和をもたらし、他国への侵略を防ぐことはない、という意見は正しい。各国や同盟国は安全保障にもっと努力する必要がある。
――冷戦に勝った自由主義秩序は、なぜロシアを取り込めなかったのか。
主な原因はロシアの内部に根差している。1990年代のロシアの混乱が、プーチン(大統領)のような人物が権威主義を身にまとう状況をつくり出した。プーチンは2004〜05年にかけて旧ソ連圏で起きた「カラー革命(民主化運動)」に脅威を感じた。ウクライナで14年に親ロ派政権が打倒されたことを非常に恐れ、自由主義秩序と決別する方向へ向かった。
――中国も既存の秩序に挑戦している。
中国が国際社会・経済に参加することで政治的に解放されると信じたのは希望的な観測だった。ただし、例えば中国の世界貿易機関(WTO)への加盟を拒否することが、対中関係で良い結果を生んだだろうか。中国国内の状況を実際に変えられない以上、中国の地位に対する利害関係を構築し、彼らにより良い行動を促すしかないだろう。
――バイデン氏は、民主主義陣営はこの1年で一段と「強くなった」と主張している。
ウクライナはロシアの侵攻に対抗し、この1年間で、ロシアとは異なる確かなアイデンティティーを持った独立国になった。民主主義が強化された証左の一つだ。一方のロシアは、世界から切り離された。自由主義秩序は、その原則に対する重大な侵害に対して反撃している。
●対ロ制裁、限界浮き彫り 抑止効果薄く、戦火やまず―ウクライナ侵攻1年 2/20
ロシアのウクライナ侵攻は、戦争の抑止や早期終結を狙った経済制裁の限界を浮き彫りにした。侵攻開始から1年を迎える今も戦火はやまず、西側諸国が「史上最強」(バイデン米大統領)とうたった一連の対ロシア制裁は、期待通りの効果を発揮したとは言い難い。
世界の銀行決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からの排除、ハイテク製品の輸出規制、プーチン大統領ら要人の資産凍結―。ロシアの侵攻を受けて制裁が矢継ぎ早に発動されると、ロシアの株式や通貨は暴落した。西側企業の撤退も相次ぎ、ロシア経済は短期間で大打撃を被り、プーチン政権の戦意をくじくとみられた。
しかし、ロシアの歳入の4割を占めるエネルギー収入を封じ切れなかった。欧州連合(EU)はロシアの戦費調達を阻むため、同国産原油の禁輸を決めたものの、消費量の4割をロシアに頼っていた天然ガスについては及び腰だった。中国やインドなどがロシア産原油を買い支えたことも制裁の実効性をそいだ。
スイスのザンクトガレン大が発表した共同調査によると、侵攻後にロシア市場から引き揚げた西側企業は2022年11月末時点で120社と、全体の8.5%にとどまった。撤退した米ファストフード大手マクドナルドなどの事業はロシア企業に引き継がれ、国民の間で失業など経済苦による厭戦(えんせん)ムードは広がっていない。
侵攻直後は、22年のロシアの国内総生産(GDP)が前年比で2桁のマイナスになるとの予測もあった。しかし、ロシア中央銀行の推計では2.5%前後の減少と、リーマン・ショック後の09年(7.8%減)と比べても経済への傷は浅い。対照的に22年のウクライナのGDPは30.4%減に落ち込み、打撃は深刻だ。
プーチン大統領は今年1月の政府高官らとの会合で、ロシアは最悪の制裁を乗り切ったと宣言。「(経済の)実際の動きは、多くの専門家の予測を上回る結果となった」と誇らしげに語った。
ロシア産原油に価格上限を設けるといった追加措置が実施され、今年に入りロシアの財政悪化が進んだことで、制裁の効果が出てきたとの指摘もある。ただ、英誌エコノミストは「制裁はウクライナにより多くの資金と武器を提供することの代わりにはならない」と楽観を戒めている。
●米、ロシアの「人道に対する罪」認定 ウクライナ侵攻で  2/20
ハリス米副大統領は18日、ロシアがウクライナ侵攻で「人道に対する罪」を犯したと米政府が認定したことを明らかにした。
ミュンヘン安全保障会議での演説原稿で「ウクライナでのロシアの行動について、証拠を調べた。われわれは法的基準を理解しており、人道に対する罪であることは間違いない」と述べた。
犯罪を犯した全ての者とそれに関与した上層部の責任を追及するとした。
認定は国務省主導の法的・事実分析の結果に基づくもの。現在進行中の戦争に直ちに影響を与えるものではないが、米国はロシアのプーチン大統領をさらに孤立させ、国際裁判所や制裁を通じた政府当局者らの責任追及への取り組み強化につながることを期待している。
ハリス氏は、昨年2月のロシアの侵攻直後にウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで見つかった多数の犠牲者や3人の死者を出した南部の港湾都市マリウポリでの3月9日の産科病院砲撃などに言及し「残酷で非人道的」と非難した。
●米大統領、21日演説 ウクライナ侵攻1年で訪欧―戦闘機供与も議論か 2/20
バイデン米大統領は20〜22日の日程でポーランドを訪問する。ロシアのウクライナ侵攻から1年の節目を控え、21日に首都ワルシャワでウクライナ情勢に関する演説を行う予定だ。
直前にドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議では、欧米諸国の首脳らがウクライナ支援の継続・加速を訴えた。ウクライナの最大の後ろ盾となっている米国のバイデン氏の発言に注目が集まっている。
ブリンケン米国務長官は18日の安保会議で「非常に重要な演説になる」と強調。「ウクライナの成功、われわれ全員の成功への永続的な責務について話す」と明らかにした。ウクライナのクレバ外相も「プーチン(ロシア)大統領の演説よりもはるかに重要だ」と期待感を示した。
安保会議ではウクライナの反転攻勢を後押しするため、戦闘機供与を求める声が強まった。ロイター通信によると、ポーランドのモラウィエツキ首相は記者団に、保有する旧ソ連製のミグ29戦闘機を「供与する用意がある」と表明。ただ、「米国を中心とする(戦闘機供与の)連合が形成された場合に限る」と条件を付けた。バイデン氏はポーランドのドゥダ大統領らとの会談も予定しており、これが議題となる可能性がある。
米国は昨年3月、ロシアとの緊張を高めるとしてポーランドの戦闘機供与案に反対した経緯がある。戦闘機の操縦訓練には少なくとも数カ月かかるとされ、ウクライナのパイロットが操縦に慣れたミグの方が適しているとの見方が広がる。
ただ、ウクライナは性能面で優れた米国製のF16戦闘機を求めている。米国内からは「F16は絶対に必要だ」(野党共和党の重鎮グラム上院議員)との声が上がっており、米国と歩調を合わせるスナク英首相も「長期的な防衛能力のため、ウクライナが(欧米製の)最先端の戦闘機を使えるように訓練することが必要だ」と語った。
バイデン氏は、ポーランドの後にウクライナを訪れる可能性も取り沙汰される。安全上の懸念から困難との見方が大勢だが、先進7カ国(G7)では日米を除く5カ国の首脳が既に訪問している。
●中国製ドローン、ロシアへの輸出続く 戦場でのデータ収集も  2/20
小型で敏しょう性が高い中国製ドローン(無人機)が現在もロシアに輸出され、ウクライナ軍を標的とする攻撃で効果を発揮していることが、欧米当局者・安全保障専門家の話や通関データから明らかになった。欧米諸国は約1年前から、ウクライナ戦争でのロシアへの供給ルートの遮断に取り組んでいる。
通関データによれば、ロシアの業者が前線に供給している商用ドローンの一部は、中国ドローン大手の大疆創新科技(DJI)によるもの。また、アラブ首長国連邦(UAE)経由で輸送されているものもある。
米国防総省は、これらのドローンがロシア軍の戦闘を支えていることだけでなく、戦場での重要な情報の収集を通じて中国の戦闘即応性を高める可能性を警戒している。
米安全保障当局の高官は「DJIと中国は戦闘環境で使用されるドローンを監視し、データを吸い上げようとしている」と指摘。電子戦での攻撃にドローンがどう対応しているかなどを確認できているという。
同高官はさらに、中国の軍民融合政策により、これらの情報が人民解放軍(PLA)の手に渡る可能性があるとした。
DJIは発表文で、民間ドローンが戦場で使用されることには反対しているとし、昨年4月にロシアとウクライナでの事業を停止した件に言及した。だが、DJI製品は電子商取引サイトや多くの国の店舗で購入することが可能だとし、利用者や団体が他の国・地域で購入した製品をロシアやウクライナ向け貨物に積み替えることは阻止できないとも述べた。
●ウクライナ東部でロシア軍に「極めて重大な」損失=大統領 2/20
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、同国軍が東部ドンバス地域のウグレダル付近でロシア軍に「極めて重大な」損失を与えていると述べた。
ビデオ演説で「状況は非常に複雑だ。われわれは戦い、侵略者を打ち破り、ロシアに極めて重大な損失を与えている」と語った。
ゼレンスキー氏は数カ月前から戦闘が集中しているドンバス地域の複数の町に言及し、「ロシアがドンバスのバフムト、ウグレダル、マリンカ、クレミンナでより多くの損失を被るほど、より早くこの戦争をウクライナの勝利で終わらせることができるだろう」と述べた。
ゼレンスキー氏は軍司令部の拡大会議を開催したとし、他の地域の防衛状況についても説明。
黒海のオデーサ(オデッサ)港付近は統制下にあり、ロシア軍が一部支配しているザポロジエではウクライナ軍が中心部を「保護している」と述べた。
また、ロシアとその同盟国であるベラルーシと接する北部国境では「非常に良い結果」が出ているとした。ウクライナ軍は昨年9月と10月にこの地域の複数都市をロシア軍から奪還した。
●ロシア侵攻から1年 ゼレンスキーが見せた「想定外」の徹底抗戦 2/20
その頑張りはいつまで続くのか。ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は毎晩、戦意高揚に向けたビデオ演説を配信している。侵略者ロシアとの戦いの渦中にある将兵らを鼓舞し、世界の関心を自国の苦境に繋ぎ止めようと努めている。
ゼレンスキー氏はこれまで、西側諸国から様々な武器供与を勝ち取ってきた。当初西側は、殺傷能力のある兵器は何であれ供給しない構えだったのが、最近ではウクライナによる反撃を後押しし得る主力戦車の提供を決断。タブーは次々に打破されてきた。
2019年に就任した現在45歳のゼレンスキー氏に、諦める気配はまったくない。
だが、それは相手も同じだ。2022年2月24日にウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始したロシアのプーチン大統領は、長期戦に備えているように見える。
大化けしたゼレンスキー
ロシア軍部隊が国境を越えてなだれ込んで来たとき、ゼレンスキー大統領の「大化け」を予想した人はほとんどいなかった。テレビで活躍するコメディー俳優出身のゼレンスキー氏だが、当時は政治腐敗のまん延と経済の不振、ガバナンスの欠如に対する国民の怒りが高まり、支持率は低下していた。
侵攻前、ロシアがウクライナとの国境に部隊を集結さると、ウクライナから退去しようとする諸外国の大使館や企業が相次いだ。ゼレンスキー大統領はウクライナ経済に打撃を与えているとしてこうした動きを批判しており、少なくとも表向きは本格的な侵攻の可能性は低いと考えているように見えた。
「ゼレンスキー」はいまや世界中で誰もが知る名前となり、ウクライナの抵抗の象徴となっている。国内では支持率が約3倍に上昇し、異例の安定を見せている。
厳重に警備された大統領府で初対面の来客を迎えるときの気さくで温和な人柄に加え、王族に接するときも前線の兵士を視察するときも同じカーキ色の軍用Tシャツ姿で通すゼレンスキー氏の姿は、安定感と不動の意思の強さを印象付けている。
とはいえ、課題はまだ山積している。ロシア軍を押し戻すためには西側の新鋭戦闘機が必要だと主張しているが、まだ確保できていない。欧州連合(EU)早期加盟という公約も実現していない。軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)への加盟も、実現の可能性は見えていない。
ときおり目の下に隈を作り、疲れた表情を見せるとはいえ、ゼレンスキー氏に気力が衰えはみられない。1月には、政治腐敗スキャンダルに対する市民の怒りを鎮めるべく、内閣改造に踏み切った。
キーウの政治アナリスト、ボロディミル・フェセンコ氏は、「ゼレンスキー氏は多くの人々を驚かせた。彼のリーダーシップを過小評価していた」と述べ、プーチン氏も相手を見誤ったと語る。
「プーチン氏は本格的な戦争ではなく、限定的な特別作戦のつもりで準備していた。ゼレンスキー大統領とウクライナ軍は弱体で、長期的な抵抗は無理だろうと考えていたからだ。その判断は誤りだった」
SNSで世界を味方にしたゼレンスキー
ロシアが侵攻を開始した直後、ウクライナの命運が風前の灯火となる中で、ゼレンスキー大統領はスマートフォンによる自撮り映像で、自分もウクライナも戦いを止めないと宣言した。
「ヤ・トゥート」と、ゼレンスキー氏は言った。「私はここにいる」という意味だ。
ゼレンスキー氏が開戦以来続けているソーシャルメディア上の「攻勢」はここから始まった。依頼、「私たちは勝つ」というシンプルなメッセージを発信し続けている。
ロイターの記者は、前線に近い地下壕で、ゼレンスキー氏が配信する年頭演説を見たウクライナ軍兵士が涙を流すのを目撃した。
「今年は、ウクライナが世界を変える年だ。世界はウクライナを発見したのだ。私たちは降伏しろと言われた。だが、私たちは反撃することを選んだ」と、ゼレンスキー氏は語りかけた。
対照的に、プーチン氏は不機嫌で孤立しているように見えることが多く、大統領府にこもって西側諸国やウクライナに脅しの言葉を発信し、演出されたイベントを除けば公の場に姿を見せることもめったにない。
街を見下ろす大統領府でゼレンスキー氏に会うため、キーウには他国の首脳や要人、著名人が長時間の電車移動もいとわずやってくる。他国からの支援も何十億ドルも流れ込んでいる。
側近らによると、ゼレンスキー氏が侵攻開始後にこなした他国首脳や国際機関のトップとの電話会談は377回、各国議会や他国市民の前での演説は41回、会合出席は152回に及び、それ以外にも多数の演説を行っている。
国内政治は「休戦」
ゼレンスキー氏は、製鉄の街クリブイリフでユダヤ人家庭に生まれた、ロシア語話者のウクライナ人だ。キャリアの出発点は俳優だった。
政治腐敗にうんざりしていたウクライナ国民の心情に沿ったテレビドラマ「国民の僕(しもべ)」シリーズの主役を演じ、知名度を上げた。
このドラマでゼレンスキー氏は誠実な学校教師を演じた。教室で政治腐敗への不満をぶちまけた様子がネットで人気を集め、大統領となって、腹黒い政治家やビジネスマンを出し抜く活躍を見せるという筋書きだ。
2019年、現実がドラマを模倣することになった。ゼレンスキー氏は、腐敗根絶を選挙公約に掲げて大統領に当選。選挙運動はソーシャルメディアへのユニークな投稿を武器にしていた。それは、戦火の下で同氏が展開する活発なオンライン活動の予兆だった。
ロシアによる侵攻開始直後に撮影された動画で、ゼレンスキー氏は、情報機関からの報告として、ロシア政府が同氏を第1の標的、妻オレナ・ゼレンスカさんと2人の子どもを第2の標的と宣言したと語った。
国内のゼレンスキー支持率は80%
キーウ国際社会学研究所のアントン・フルシェツキー副所長は、ゼレンスキー氏の支持率は70─80%だと見ている。
「これほど支持率が安定するのは、ウクライナ史上、過去に例がない」と同氏は指摘する。
政界での主要なライバルは意思決定からほぼ締め出されており、他国外交官の中には、ゼレンスキー氏のチームに権力が集中していることをひそかに懸念する声もある。
国内政治が休戦状態となったことで、ゼレンスキー氏は汚職が疑われる政府関係者の一斉摘発に着手できた。対象者には、同氏自身の権力基盤に近い人物もいる。
2019年の大統領選でゼレンスキー氏に敗れたペトロ・ポロシェンコ前大統領は、戦争中に戦時指導者としてのゼレンスキー氏の手腕を評価することは適切ではない、と語る。
ポロシェンコ氏はロイターに対し、「2022年2月24日以降、私は野党の指導者ではない。ゼレンスキー氏もこの私も、2人とも兵士なのだ。すべてのウクライナ人が、特定の人物ではなく、ウクライナという国を中心に結束すべきだ」と語った。
「我が国が勝利した後で、彼や私の業績について、国民が評価を下すだろう」
今のところ、ゼレンスキー氏への国民の支持は確かなように見える。
ウクライナ東部で従軍する部隊指揮官で、「マツダ」の暗号名を持つアントン・フェドレンコ氏は、こう大統領を評価した。
「大統領は国内に留まった。パニックにも陥らず、直ちに行動を開始した。世界の関心をウクライナに集めたことも非常に重要だ。ウクライナ侵攻という問題を世界に広めた」
●ウクライナの内なる戦い「汚職対策」の現在 限定的な反汚職政策から摘発 2/20
ティモシェンコ大統領府長官の解任を始め、ゼレンスキー政権は1月下旬から大規模な綱紀粛正に乗り出している。依然として深刻な汚職レベルにあるものの、その対策が「摘発」という段階に進めば、EU加盟など将来の国家再建に向けても重要な一歩が刻まれる。
1月31日、トランスペアレンシー・インターナショナルは、各国の公的機関がどれくらい腐敗していると専門家に認識されているかを示す指標である「腐敗認識指数」の最新結果を公表した。
2022年のウクライナの点数は100点中33点(スコアが高いほど汚職が少ないことを意味する)。インドネシアやボスニア・ヘルツェゴビナ(34点)に次ぎ、フィリピンと同じ数値となった。
10年前の2012年のウクライナの同指標では26点/100点であり、ロシア(28点:2022年の数値も28点)よりも汚職が深刻であったことを踏まえると、一定の改善は成し遂げたといえる。2014年ごろから改善傾向は続いており、戦争下でもスコアを落とすことはなかった。
実際、前述のトランスペアレンシー・インターナショナルは、最新版の汚職認識指数についての分析レポートにおいて、「戦時下のウクライナは、重要な改善を見せた数少ない国の一つである」と比較的高い評価を下している。この傾向は他の指標でも現れており、各国の腐敗の度合いを公共セクター、行政、体制(政治家)、司法の4領域に分けて測定しているV-Demの指標において、ウクライナはそれぞれの領域で改善傾向を示している。
ウクライナにおける汚職の深刻さはしばしば指摘されるところであり、欧州国家の中で最も汚職が深刻な国家の一つであることは間違いないものの、ウクライナで汚職対策が徐々に進んでいることもまた事実である。いったい何がウクライナの腐敗退治を推し進めているのであろうか。
ウクライナの2010年代からの改革を概観すると、2014年のクリミア併合以後、安全保障上のリスクが顕在化したことにより、透明性の確保といった広い意味での汚職対策から汚職取締機関の設立まで腐敗撲滅に向けた取り組みが少しずつ進んだことが見えてくる。ゼレンスキー政権の発足やウクライナ戦争の勃発はこの流れをさらに加速させた。同時にこのことは、今年G7の議長国を務める日本にとって、ウクライナのさらなる汚職削減の支援を議論する必要性も示している。
クリミア併合の衝撃:安全保障の基盤も損ねた汚職
かねてよりウクライナの汚職は欧州の中でも最も深刻であるとされてきた。政府中枢では政府高官と富を独占してきた新興財閥であるオリガルヒとの癒着が激しく、国家を私物化して食い荒らしていた。また、官僚機構での汚職も蔓延しており、たとえば警官の取り締まりや病院・公務員試験においては賄賂が横行。さらには、大学において学位や授業の金銭による売買が行われるなど、ウクライナで起こる汚職の例は枚挙にいとまがない。
軍需品の調達も例外ではなかった。
2014年にクリミアがロシアにより占領された際、ウクライナ軍はロシアを止めることができなかったが、その理由の一つとして汚職の蔓延が挙げられている。例えば、カーネギー国際平和基金でシニア・アソシエイトを務めたことがあるSarah Chayesは、軍関係者の証言をもとに2014年以前の防衛分野での賄賂や不正の横行の深刻さを以下のように示した。
「司令官たちは、『軍の設備、インフラ、…人員を使って、民家を建てたり、アパートを修理したりする』ようになった。調達における不正、陸軍士官学校への入学や卒業、望ましい配属のための賄賂も横行していた。」
ウクライナでの深刻な腐敗は同国の安全保障の基盤を損ねた。時代遅れの装備品の不当に高い金額での売り買いは、同国の軍事力における備えを妨げる一因となり、調達における不正は、装甲車やヘリコプターなどの装備品の燃料や部品の不足につながり、ウクライナ軍による装備品の効率的な運用を阻害してきた。
言い換えれば、クリミア併合という「大きな犠牲を伴う教訓」を通じて、ウクライナは汚職が単なる国内政治問題ではなく安全保障上のリスクであることを強く認識させられた。以降、ウクライナ政府は国内の汚職との対決姿勢を打ち出した。ロシアとの「外なる戦い」と同時に、汚職という見えない敵との「内なる戦い」が幕を開けたのである。
ポロシェンコ政権「国家汚職対策局」の直面した限界
2014年以降、情報の透明化を図るべく、重要な公的地位を有する者を始めとしたデータベースの作成にも取り組んだだけではなく、実質的所有者に関する情報の報告制度を世界で初めて整えるなどの先駆的な改革も実施された。
さらには、ProZorroという電子調達システムも整備された。マイダン革命が起こった直後に市民のボランティアによって立ち上げられた電子調達システムは、ボランティアのコーディネーターであったOleksandr Starodubtsevがウクライナ政府の経済発展貿易省・公共調達部のトップとして招き入れられるなど、好意的に政府に受け入れられた。立ち上げからわずか1年半後の2015年12月には、電子調達システムに関する法律という、国としての法的なお墨付きも獲得した。
一方で、ポロシェンコ政権が2014年に汚職の捜査を行うための専門機関として設立した国家汚職対策局は、在任期間中にこれといった成果を上げることはなかった。政府のインセンティブが低く、オリガルヒによる反発も根強かったからである。
ウクライナに限った話ではないが、汚職取締機関は、国際機関やドナー国からの要求により設立され、当事国の政権がその機関を維持するインセンティブが低いことから、十分な予算や権限をもらえないという状態に陥りがちである。ウクライナも同様に、EU(欧州連合)とのビザの緩和要件を満たすために設立されたNABUへの政権の意欲は高くなく、組織の整備や汚職疑惑の捜査は遅々として進まず、主要な役職には政権に近い人々が任命され、しばしば権限の縮小の危機にさらされた。オリガルヒによる反発も大きかった。これまで築き上げてきた既得権益を守るために、オリガルヒは自らの非公式なネットワークを通じて政治家へ働きかけ、政府のさらなる反汚職改革を妨げる要因の一つとなった。
政権の意欲の低さとオリガルヒからの反発は、ウクライナで最も腐敗している政府機関であった司法制度の改革においてもみられた。司法制度の改革が進んだことにより、(透明性の高まりにも拘らず)汚職の取り締まりが進まず、司法府内の汚職も解決しないという悪循環に陥っていた。
以上の通り、当時の汚職対策は、透明性を含めた広い意味での汚職対策に関わる改革は行ったものの、汚職の取り締まりや司法改革といった政権やその周辺に多大に影響がある改革には踏み込むことができなかった。オリガルヒを始めとした旧ソ連時代からの負の遺産に鋭いメスを入れるような改革は、ゼレンスキー政権を待つこととなる。
オリガルヒとの対決を打ち出したゼレンスキー政権
2019年のウクライナ大統領選挙にて、ゼレンスキー政権は汚職対策を公約に掲げて当選した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「春が来れば逮捕者が出る」といったスローガンを掲げ、ポロシェンコ政権においてあまり触れてこなかった汚職対策にも着手した。
たとえば、ゼレンスキー大統領は2021年に「オリガルヒがいない国を作る」と述べるなど、オリガルヒとの対決姿勢を明確にし、「脱オルガルヒ」法を制定することによりオリガルヒによる政党への寄付を禁止した。防衛分野においても改革が実施され、政府と国営防衛コンツェルン「ウクルオボロンプロム」に加えて、NAKO(独立反汚職委員会)を始めとしたNGOが一堂に会して防衛産業の汚職削減についての建設的な議論をする場も設けられた。
そして、2022年2月、ロシア・ウクライナ戦争が始まった。
ロシアとの「外なる戦い」が文字通りの戦争となり、G7を始めとした西側諸国からの経済的・軍事的支援がウクライナという国の存続に不可欠となった。このことは、ウクライナ国内の汚職との「内なる戦い」をさらに進める必要を生じさせた。
ゼレンスキー大統領は、ロシア・ウクライナ戦争が始まって以降、汚職の取り締まりや腐敗撲滅に向けた政策を矢継ぎ早に実施している。司法の腐敗のシンボルとされてきたキーウ地方行政裁判所の解散が決まったことは、1つの象徴的な事例であった。2023年に入ってから相次いでいるウクライナ政府高官への汚職疑惑の発覚とそれに対する捜査もその一環であろう。今後のそうした捜査がどのように進展するかやどの程度厳しい判決が出るかにはよるものの、これまでの「汚職の機会の削減」を中心とした反汚職政策から「汚職の摘発」という次の段階に本格的に進んでいるという可能性を秘めているのではないか。
もっとも、依然として(ロシアを除いた)欧州国家の中で最も深刻な汚職レベルにあることに変わりはないし、彼らが当初思い描いたジョージアのような成功体験は成し遂げられていない。
また、司法制度を始めとして改革が十分ではない分野も残っている。たとえば、昨年末にウクライナ憲法裁判所に関する新たな法律がウクライナ議会を通過した際には、ヴェニス委員会(「法による民主主義のための欧州委員会」)によって裁判官の選考課程において政治的な影響を依然として排除できないという懸念が示されたが、現時点でウクライナ政府による追加の対応はなされていない。
ウクライナ在住のジャーナリストVeronika Melkozerovaが表現した通り、現在のウクライナの汚職対策について評価を下すとするのであれば、「2歩前進・1歩後退」の汚職対策という評価になるのであろう。
日本の役割:汚職削減をG7の議題に
ウクライナの汚職は国内の政治問題であり、ロシアによるウクライナ侵攻を正当化する理由とはなりえない。今年開催されるG7サミットにおいて議長国を務める日本には、欧米諸国と連携しウクライナへの支援を続けながら、汚職削減を議題として取り上げ、ウクライナの腐敗撲滅についてもさらなる支援策を探ることが期待されているのではないか。
ウクライナは昨年6月にEUの「加盟候補国」として認められているが、加盟条件の1つとして汚職の削減が大きな鍵となっている。前述の憲法裁判所裁判官の選考過程における政治的な影響の排除など、EUやNATO(北大西洋条約機構)からさらなる対策を迫られている。
一方で、現在のウクライナには汚職退治に必要な条件が比較的多く揃っている。市民ボランティアやNGOはポロシェンコ政権時代から存在感を示しており、電子調達システムProZorroを始めとして政府によって制度が取り入れられたという経験も持つ。そして何より、ゼレンスキー大統領による汚職との闘いに関するコミットメントがあることは重要である。国際機関やNGOは汚職削減を手助けすることはできても、当事国政府の改革意欲とサポートがなければその国の抜本的な汚職対策はなかなか進まない。
また、国内アクター間の利害対立や政敵を排除するといった政治的な思惑により、汚職対策はしばしば政争の道具になることがあるが、ウクライナにおいてロシアという共有の敵の存在はウクライナ国内の主要アクターの利害をある程度一致させ、汚職対策が政治問題化することを防いでいるという側面もあるのではないか。その意味では、ウクライナのロシアとの戦争が続いている今の段階からさらなる透明性の確保や汚職の摘発、そして司法制度の改革といった政策について、いかに日本を含めた国際社会がウクライナに対して要求し、その改革を支援できるかということが重要となってくる。
2016年5月のG7伊勢志摩サミットにおいて安倍晋三首相(当時)は、それに先立ってロンドンで開かれた腐敗対策サミット、および同年3月のOECD外国公務員贈賄防止条約閣僚級会合の流れを受けて、「腐敗と戦うためのG7の行動」をまとめ上げた。ロシアのウクライナ侵略が始まった後、G7を中心とした西側諸国と迅速に連携しながら経済制裁を実施した岸田文雄政権は、EUやNATOからの要求が強まるウクライナを中心とした汚職対策支援においても具体的な支援策を策定することができるのか。
議長国としての岸田首相のリーダーシップは汚職対策支援においても問われている。 
●ウクライナでプーチン氏の戦争は失敗したのか ロシアは何を求めている 2/20
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2022年2月24日に兵20万人をウクライナに送り込んだ時、数日もすれば首都キーウを制圧し、ウクライナ政府を倒せるはずだと、間違った思い込みをしていた。
屈辱的な後退が相次ぐ状況で、その当初の侵略計画が失敗したのは明らかだ。しかし、ロシアはまだ戦争に負けたわけではない。
プーチン氏の当初の目標は
ロシアによるウクライナ侵攻は、第2次世界大戦以降の欧州で最大規模の侵略戦争で、1300万人以上のウクライナ人が国内外への避難を余儀なくされているが、プーチン大統領はいまだにこれを「特別軍事作戦」と呼ぶ。
2月24日にウクライナの北部、南部、東部へ兵を派遣したプーチン氏は、目標は「ウクライナの非軍事化と非ナチス化」だと自国民に説明した。ウクライナ政府に8年にわたり威圧され、ジェノサイド(大量虐殺)行為を繰り返されてきた現地の人々を保護することが、目的なのだと。こうした主張はいずれも、客観的証拠の裏付けがない。大統領はこのほか、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナに足掛かりを得るのを防ぐことも目的の一つに挙げていた。加えて、ウクライナの中立確保も、目的に付け加えられた。
プーチン氏は公言こそしていないが、ロシアにとって特に優先順位が高かったのは、ウクライナ国民が選挙で選んだ大統領を失脚させることだった。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「敵は私を標的その1に、家族を標的その2に指定した」と述べた。大統領顧問によると、ロシア軍は2度にわたり、首都キーウの大統領府を急襲しようとした。
「ウクライナのナチスがジェノサイドをしている」というロシアの主張に、整合性はついぞなかった。しかし、ロシア国営リア・ノヴォスチ通信は4月初めの論考で、「非ナチス化とはすなわち、否応なく、非ウクライナ化でもある」と書いた。つまり、ロシアの目標は現代ウクライナ国家の抹消だというわけだ。
ロシアの大統領はもう何年も前からウクライナについて、独自の国家ではないと主張してきた。2021年7月に発表した長文では、9世紀末にさかのぼり「ロシア人とウクライナ人はひとつの民だった」と論じた。
プーチン氏の主張の変化
侵攻開始から1カ月たつころには、ロシアの戦役が予定通りに進んでいないのは明らかだった。プーチン氏は「第一段階」の完了を宣言し、その野望を劇的に縮小してみせた。ロシア軍はキーウとチェルニヒウの周辺から後退し、北東部で勢力を再編した。戦争の主な目標は「ドンバス解放」にすり替えられた。「ドンバス」とは、ウクライナの東部ルハンスクとドネツク両州にまたがる工業地帯を漠然と指す。
ロシア軍はさらに9月初めには北東部ハルキウ州から、11月には南部ヘルソンからも撤退した。ロシアの目標は変わっていないものの、ほとんど実現できずにいる。
そして9月21日、プーチン大統領はウクライナをめぐり国民向けのビデオ演説で「部分的な動員令」の発動を宣言した。ロシア国防省は、軍務経験がある予備役約30万人を段階的に招集すると明らかにした。しかしこの発表を受けて、戦争がいよいよ身近に迫ったロシア人の多くが、次々と国を逃れた。
劣勢に立たされたプーチン氏は9月30日、ウクライナ東部と南部の4州を一方的にロシアに併合すると宣言した。東部のルハンスクとドネツク、そして南部のヘルソンとザポリッジャの各州がその対象だったが、いずれもロシアの支配は部分的にしか及んでいなかった。それでもプーチン氏は、4州は「永遠にロシア」だと宣言した。
今では、長さ850キロにわたる戦線で消耗戦が続いている。ロシア側の勝利は珍しく、勝っても小規模だ。あっという間に終わるはずの軍事作戦が、今では長期化した戦争となった。そして西側諸国の首脳は、ウクライナがこの戦争に勝たなくてはならないと、意を固めている。ウクライナの中立確保など、現実的な可能性ではとっくになくなっている。
プーチン氏は昨年12月、「長引くプロセスになるかもしれない」と述べつつ、「軍事紛争の円盤を回し続ける」ことがロシアの目標ではなく、戦いを終わらせることこそ目標だと述べた。
プーチン氏はこれまでに何を達成したのか
プーチン大統領が主張できる最大の成果は、ロシアからクリミアまで陸路を確保したことだろう。2014年にロシアが違法に併合したクリミア半島まで、以前はケルチ海峡にかけた橋を利用しなくてはならなかったが、今では陸路でクリミアに行き来できる。
ウクライナ南部のマリウポリやメリトポリといった都市を制圧したことで、ロシアはこの陸路を確保した。これをプーチン氏は「ロシアにとって重要な結果」と呼んでいる。ケルチ海峡内のアゾフ海は「ロシアの内海になった」とプーチン氏は宣言し、ロシア帝国のピョートル大帝にさえできなかったことだと指摘した。
失敗したのか?
クリミアへの陸の回廊を奪取したことを除けば、ロシアが一方的に引き起こした戦争はロシア自らと、その相手となった国に、悲惨な流血の事態をもたらした。これまでのところ、ロシア軍がいかに残虐で能力が低いかを露呈した以外、成果と呼べるほどのものはほとんどない。
マリウポリなどの都市は廃墟と化し、キーウ近郊ブチャなどでは民間人に対する戦争犯罪の詳細が明らかになっている。こうした事態を受けて、ロシア国家そのものが、国家的なジェノサイド(民族虐殺)を画策・扇動したと糾弾する第三者報告も出ている。
しかし、ロシアの弱さを何よりも明るみに出したのは、相次ぐ戦場での失態だった。
・昨年11月にロシア兵3万人が南西部ヘルソンからドニプロ川の対岸へ後退したのは、戦略的な失敗だった
・開戦直後にキーウ近くで全長64キロの装甲車列が立ち往生したのは、補給上の失敗だった
・東部ドネツク州マキイウカで新年早々、動員間もない兵士がウクライナのミサイル攻撃で大勢死亡したのは、情報活動の失敗だった
・昨年4月に黒海艦隊の旗艦モスクワが沈没したのは、防衛上の失敗だった。同様に、昨年10月にケルチ海峡大橋が攻撃され、数週間も閉鎖を余儀なくされたのも、防衛上の失敗だった
ロシアは西側に対して、ウクライナに武器を提供しないよう、再三警告しているが、西側は構わずウクライナを支援し続けている。むしろ、「必要な限りずっと」支援し続けると、欧米諸国は繰り返している。
この結果、ウクライナは攻撃力に優れたハイマース(高機動ロケット砲システム)を入手した。さらに、ドイツ製のレオパルト2戦車の供与約束もとりつけている。
しかし、この戦争は終わっていない。ドンバスをめぐる攻防は続く。ロシアは今年に入り、東部ソレダルの街を制圧し、東部バフムートも抑えようとしている。バフムートを掌握し、さらに西の主要都市への足がかりにして、昨年秋に失った地域を再び奪おうというもくろみだ。
プーチン・ウォッチャーたちは、大統領が昨年4月に併合を宣言した4州すべてを支配しようとするはずだと見ている。そこにはドンバス地域だけでなく、主要都市ザポリッジャも含まれる。
必要となれば、プーチン氏は動員対象を拡大し、戦争を引き延ばすこともできる。ロシアは核保有国だ。そして、プーチン氏は必要となれば核兵器を使ってロシアを守り、すでに占領したウクライナの領土にしがみつく用意があると、その姿勢を示している。
「ロシアと国民を守るため、我々は持てるあらゆる手段を使う。これは、はったりではない」と、プーチン氏は昨年9月の時点で警告している。
ウクライナ政府はこれに加えて、隣国モルドヴァについても、ロシアがその欧州寄り政権を転覆しようとしているとみている。親ロ派が実効支配するモルドヴァ東部トランスニストリア地域には、ロシア軍が駐留している。
プーチン氏の立場は弱くなったのか?
70歳になったプーチン氏は、ロシア軍の失敗から距離を置こうとしている。しかし、少なくともロシア国外では、その権威は完全に失墜しており、大統領が国外に出ることはほとんどなくなった。
国内では、ロシア経済は表向きは西側の相次ぐ経済制裁にも耐えたかのように見える。しかし、財政赤字は急拡大し、石油と天然ガスの売り上げは激減している。
こうした中でロシア国民がどれだけプーチン氏を支持しているのか、実態を把握するのはきわめて困難だ。
ロシアで政府に異を唱えるのは、きわめて危険な行為だ。ロシア軍に関する「偽情報」を広めたとされれば、誰でも刑務所に入れられる。ロシア政府に反対しようとする人は、国外に逃れたか、あるいは野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏のように、投獄されている。
ウクライナ、西側へシフト
この戦争の発端となったのは2013年のことだ。欧州連合(EU)との政治経済関係を強化する「連合協定」をウクライナが結ぶかどうかという事態の渦中、ロシア政府は協定締結をやめるようウィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領(当時)を説得した。
これにウクライナ国民の多くが大いに反発し、大規模なデモが続いた。ヤヌコヴィッチ氏は失脚してロシアへ亡命。ロシアは2014年2月にクリミア半島を併合し、ウクライナ東部の領土を奪った。
その8年後にロシアの今回の侵略が始まってから4カ月後、EUはウクライナに加盟候補国の立場を与えた。ウクライナ政府は、加盟手続きを加速するよう強く求めている。
プーチン氏は、ウクライナのNATO加盟も何としても阻止しようとした。しかし、NATOの東方拡大が今回の戦争の原因だと非難するその言い分は、事実と異なる。
開戦前にウクライナは、NATOに加盟しないとする暫定合意をロシアと交わしていたと言われている。そればかりか昨年3月の時点でゼレンスキー大統領は、ウクライナを非同盟・非核化の国にすると発言。「(NATO加盟は)できないと聞いている。これが事実で、認識しなければならない」と述べていた。
戦争はNATOのせいなのか?
NATO加盟国は、ウクライナの防衛を支援するため、防空システムやミサイルシステム、大砲やドローンを相次ぎ提供した。これがロシアの侵略を押し返してきた。
しかし、この戦争が起きたのはNATOのせいではない。むしろ、スウェーデンとフィンランドが正式に加盟申請したのは、ロシアのウクライナ侵攻のせいだった。
この戦争はNATOの東方拡大のせいだというロシアの言い分は、欧州ではある程度、受け入れられている。開戦前にプーチン大統領はNATOに、1997年の状態に戻るよう要求し、中欧、東欧、バルト半島から軍備を引き上げるよう求めた。
プーチン氏の目線からすると、西側は1990年にNATOは「1インチたりとも東へ」拡大しないと約束したにもかかわらず、東へどんどん拡大してきたということになる。
しかしそれはソ連が崩壊する前の話で、当時のソ連大統領ミハイル・ゴルバチョフ氏への約束は単に、ドイツ再統一の文脈から、東ドイツに限定された内容のものだった。
ゴルバチョフ氏はのちに、当時「NATO拡大の話題はまったく協議に上らなかった」と述べている。
対するNATO側は、ロシアが2014年に違法にクリミアを併合するまでは、東欧に部隊を派遣するつもりなどなかったと反論している。
●「国際秩序への挑戦」 実はその気がなかったプーチン大統領!? 2/20
ロシアがウクライナに侵攻し、国際秩序に挑戦――。こうした見方を目にする機会が増えた。だが、本当にそうか。戦争史研究の重鎮、石津朋之・防衛研究所戦史研究センター長は「プーチン大統領には当初その意図はなかった」と分析する。しかし、戦闘が長引き、西側諸国が支援を拡大する中で「行きがかり上、挑戦することになってしまった」。それは、どういうことなのか。ロシアの動きに触発されて、中国が国際秩序に挑戦することはないのか。
――ロシアがウクライナに侵攻してから約1年がたちます。これを機に、この出来事が戦争史において持つ意義と今後の展開について考えていきたいと思います。
歴史的意義を考えるときのキーワードの1つが「国際秩序」です。「ロシアは、第2次世界大戦後の国際秩序を変えようと挑戦している」との見方があります。第2次大戦終結後、国際社会は武力行使の禁止を国連憲章で改めて明文化した。これに対して、ロシアはウクライナに軍隊を送り、禁を破りました。
ましてロシアは、国連安全保障理事会の常任理事国です。安保理は「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在」の有無と、「国際の平和及び安全を維持し又は回復するために(中略)いかなる措置をとるか」を決定する重要な場。その安保理で拒否権を持つ常任理事国は、他の加盟国以上に大きな責任を負う立場です。であるにもかかわらず、国連憲章が禁止する武力行使に及びました。
ロシアは、この第2次大戦後の国際秩序を変えるべく挑戦したのでしょうか。
石津朋之・防衛省防衛研究所戦史研究センター長(以下、石津氏): 私は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が戦後の国際秩序に意識的に挑戦したとは考えていません。ここでいう国際秩序は「平和」と言い換えてもよいでしょう。
ロシアは、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大に恐怖を感じ、保身の行動を取ったのだと思います。ウクライナはソ連(当時)を構成する共和国でしたし、兄弟国とみなしてきた経緯もありますから。さらに、NATの東方拡大は独ソ戦(編集部注:第2次大戦におけるソ連にとっての欧州戦線)をほうふつさせるものであったとも思います。もちろん、だからといってロシアの行動を正当化するわけではありません。
しかし、プーチン大統領の予想に反して戦闘期間が延び、西側諸国が介入の度を強めてきました。いまだ収束の展望は見えない。そのような状況に陥り、行きがかり上、国際秩序に挑戦することになってしまったのだと思います。そして現在、プーチン大統領は引くに引けない状況にあります。戦果なく撤退することになれば、政権が崩壊しかねません。
ロシアはこの先、国際社会において孤立の度を深めていくでしょう。ロシアと中国が協力関係を深めるとの見方があります。けれども私は、中国がロシアと共に民主主義陣営と決定的に対立することはないと考えます。よって、ロシアだけが孤立していく。
実は、当初は国連憲章に沿っていたロシアの行動
――お話を順に確認していきます。
プーチン大統領は昨年2月の時点においては、国連憲章が禁じる武力行使をし、ウクライナを侵略する意図はなかった――。実は私も、プーチン大統領が初めから国際秩序への挑戦を意図していたとの見方には違和感を覚えていました。ロシアが国連憲章の定めに沿った動きをしていたからです。すなわち、国連憲章が認める「集団的自衛権」を行使し、その事実を「国連に報告」しました。
大阪大学の和仁健太郎教授が論文で、ロシアの国連代表が侵攻の当日、国連事務総長宛てに書簡を送り、それにプーチン大統領が同日に行った演説の原稿を添付していたことに言及しています。演説の中で同大統領は、国連憲章第51条に基づいて特別軍事作戦を実行したと述べています。
「国連憲章 第51条 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。」
プーチン大統領によると、ロシアに集団的自衛権を発動するよう要請したのは、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国。どちらもロシアが一方的に独立を承認しているだけで国際社会が認める国家ではありません。さらに国連加盟国でもない。2つの人民共和国で活動する親ロシア派武装勢力とウクライナ政府との内戦を前者に対する武力攻撃とみなすことにも問題があります。
よって、この主張は国連憲章の規定を満たしているわけではなく詭弁(きべん)です。とはいえ、集団的自衛権は国連憲章が認める権利であるし、規定通り国連に報告している。国連や国連憲章の存在を無視して行動したわけではありません。
ロシアはジョージアでも似たことをしていた
また、プーチン大統領は今回のウクライナ侵攻と似たようなことをこれまでもしてきました。例えばジョージアです。同国がNATO加盟を目指すのを面白く思わず、2008年に軍事介入に及んだとされています。具体的には、同国からの分離独立を図る南オセチアを軍事支援すると共に、その独立を一方的に承認。その後、ロシア軍を駐留させた。アブハジアでもわずかに遅れてほぼ同じ経緯が進行しました。一連の軍事行動はわずか5日間で終了しています。
今回のロシアの動きは、ジョージアでの行動に非常に似ているように見えます。
石津氏: そうですね。プーチン大統領はウクライナでも、短期間で首都キーウ(キエフ)を陥落させ、ウクライナをロシアの勢力圏内に保持する体制をつくり上げる算段だったのだと思います。プーチン大統領としては、ジョージアでもウクライナでも基本的に同じことをしているだけで、今回ことさら国際秩序に挑戦しようとしたわけではないでしょう。
加えてプーチン大統領は、ウクライナをロシア勢力圏に封じ込める既成事実を西側諸国も受け入れると考えていたと思います。米国の力が相対的に衰えていることが、この判断に確信を与えた面があるでしょう。米国はバラク・オバマ大統領のときに世界の警察であることをやめる方針を示しました。バイデン政権によるアフガニスタンからの撤退は、国際秩序を維持する役割を放棄する行動と受け取ることができます。
“大祖国戦争”を放り出せばプーチン政権崩壊へ
ところが、西側諸国の反応はプーチン大統領の想定と異なりました。ウクライナを大規模に支援する行動に出たのです。
その西側諸国の反応がロシアの次の行動を促し、そのロシアの行動が西側諸国のさらなる一歩を促しました。西側諸国が、ロシア中央銀行が保有する外貨準備を凍結。ロシアがキーウ近郊のブチャで民間人の虐殺に及んだ疑いが浮上。西側が、携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」から始めて戦車へと武器供与の質と規模を拡大。ロシアが原子力発電所を攻撃目標に。さらには、ロシアが核兵器の使用を示唆――。
プーチン大統領は今も、NATOと戦争してまでロシアの勢力圏を広げようとは考えていないでしょう。そうした事態を望んでいない。言い換えれば、現行の国際秩序を壊す意図はない。平和というコップの中の水に波を立てることはしても、コップそのものを割る気はない。
しかし、西側諸国がウクライナに提供する支援は非常に大規模で、プーチン大統領から見れば、実質的に西側との戦争になっています。そうなると、もう引くことができません。ここで引けば、プーチン政権は崩壊しかねません。
――プーチン大統領はウクライナのゼレンスキー政権とネオナチとを結び付け、今回の特別軍事作戦を、ナチス・ドイツを下した独ソ戦になぞらえることで国民の支持を得ようとしています。ロシア人にとって、約2700万人という多大な犠牲者を出しつつも勝利した独ソ戦は誇りであり、結束を強める力を持つ。このためロシアでは、独ソ戦を今も大祖国戦争と呼びます。
その大祖国戦争を途中で放り出したり、負けたりすることがあれば、プーチン大統領の権威は崩れ去りかねないですね。
石津氏: おっしゃる通りです。
西側も「侵略」を許すわけにいかない
――西側諸国はどうでしょう。「支援疲れが出ている」との指摘があります。米国では、下院議長となった共和党のケビン・マッカーシー氏が昨秋の中間選挙を前に、ウクライナ支援をめぐって「白紙の小切手を書くことは不本意だ」と発言。予算が拡大するのをけん制していました。
石津氏: 西側諸国も適当なところで終わらせたいと考えているでしょう。
――だとすると、妥協が成立する可能性があるでしょうか。
石津氏: そこが難しいところです。
西側諸国もこの戦いを早く終わらせたいものの、ロシアによる「侵略」という事実をおろそかにするわけにはいきません。「ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州は一時的に諦めて停戦しよう」と言い出すわけにはいかないのです。ロシアによる侵略を事実上容認するあしき前例をつくることになってしまいますから。
加えて西側諸国では今、ミュンヘン症候群が再び広まっています。「侵略者に対して宥和的な姿勢を取っても事態は改善せず、侵略がさらに進むことになる。そうしてはならない」という考え方です。
「生存圏」の拡張を始めたナチス・ドイツが1938年、チェコスロバキアに対してズデーテン地方を割譲するよう迫りました。ドイツ人の住民が多いことがその理由です。この問題をめぐってドイツ、英国、フランス、イタリアの首脳が集まって協議し、同地方のドイツ併合を認めることで、戦争を回避しました。協議が行われたのがドイツのミュンヘンだったので、ミュンヘン協定と呼ばれます。しかし、ナチス・ドイツは侵略をやめることなく、戦火を拡大させていきました。
仮に、西側諸国がウクライナ東部2州を一時的に諦めて停戦する案を持ち出しても、ウクライナが受け入れないでしょう。ウクライナでは「2022年2月24日の侵攻開始前のライン」を停戦の条件にすべきだとの見方があります。さらにウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、クリミア半島の奪還を強く主張しています。
同大統領も、弱腰な態度を見せれば政権が保てません。ウクライナでは「大きな犠牲を払ってでもロシアを追い出す」というコンセンサスが出来上がっているようにみえます。そして、こうした民意があるからこそ、ゼレンスキー大統領も閣僚も強気な発言ができるのだと考えます。
西側諸国がこの条件での停戦をウクライナに認めさせようと思ったら、「受け入れないと、武器の供与を停止する」と迫るくらいの強い圧力をかける必要があるでしょう。しかし、これは現状では考えづらい話です。民主主義、法の支配、武力による一方的な現状変更の禁止、領土保全を大義として掲げて、ウクライナを支援しているのですから。
――日本としても、そのような条件で西側諸国が妥協すると困りますね。「中国が台湾を武力統一するのを認める」との誤ったメッセージになりかねませんから。
石津氏: そうですね。ただし、この大義を掲げ続けるためには、日本を含めて西側諸国は覚悟を迫られます。ロシアがエネルギー供給のさらなる削減に及べば、それに耐えなければなりません。
――ロシア、西側諸国、ウクライナのいずれもが引くに引けない状態になっている。収束にはまだまだ時間がかかりそうですね。
西側の軍事支援をどこまで許す?
そうした中、西側諸国がウクライナに戦車を供与すると決めたことが注目されています(関連記事「プーチン氏『ドイツ戦車の脅威が再来。しかも十字の印を付けている』」)。西側による軍事支援はどこまで拡大するものでしょうか。スレシュホールド(しきい値)はどこか。これを超えると、ロシアが西側諸国を敵国と見なし、NATO軍との直接対決になりかねません。
石津氏: 何がスレシュホールドになるかはプーチン大統領の胸三寸だと考えます。ただし、「西側が○○をしたら」というかたちのものではないでしょう。プーチン大統領が「ロシアはもうもたない」と考えたときが「そのとき」になると思います。
――え、そうなのですか。「もうもたない」と考えるほど劣勢になったロシアが、西側諸国を敵国とみなし、攻撃対象にするのですか。
石津氏: そういうことになります。NATO軍と戦うことになったら、ロシアが勝利する目はないでしょう。それゆえ、清水の舞台から飛び降りるつもりで決断するのです。
西側諸国がロシアの顔色を見ながら、支援の度合いを徐々に高めているのは、プーチン大統領を「飛び降り」させないためです。
加えて、西側諸国は支援の質と量を考えるに当たって、「終わらせ方」を念頭に置き始めたと考えます。
――戦闘が長引くと、思わぬ副作用が生じるからですね。第2次世界大戦を例に取れば、欧州でナチス・ドイツを駆逐したらソ連の存在が大きくなり、冷戦を招きました。東アジアで当時の日本を倒したら、時を経て中国が台頭しました。1979年にアフガニスタンに軍事介入したソ連(当時)軍を駆逐すべく、米国はムジャヒディンと呼ばれるイスラム勢力を支援しました。このイスラム勢力が、後にタリバンを生み出す温床になるという皮肉な事態も起きています。
石津氏: その通りです。ウクライナでの戦闘が長引く中で、中国が力を蓄えているかもしれません。トルコも、ロシアとウクライナの仲裁役に名乗りを上げるなど影響力を高めようとしています。 ・・・
●中国がロシアに殺傷兵器を支援する?「それは世界戦争の始まりだ」 2/20
ニューヨーク・タイムズのコラムニストで外交ジャーナリストのトーマス・フリードマンは2月19日、ロシアとウクライナの戦争は、中国がロシアに武器支援をして「本物の世界戦争」に火を付ける可能性があると指摘した。
フリードマンはNBCの番組「ミート・ザ・プレス」のインタビューでこう述べた。「中国は何より、この戦争を引き延ばしたがっている。なぜならわれわれ(アメリカ)をこの戦争に縛り付けておきたいからだ。そしてわれわれは、兵器や軍用品を使い尽くしつつある」
フリードマンはまた、中国にとって望ましいのは「経済的に(中国に)依存するしかない弱体化したロシア」であり、「破綻したロシア」ではないと語った。
「西側がロシアを倒したとすると、台湾統一にとっても悪いシグナルだ。中国はそういう事態を心配しているのかも知れない。中国がロシアに武器支援をしたらどれほどの大事になるか、強調してもしきれない。そんなことになれば本物の世界戦争になるだろう。世界中の市場に影響を及ぼすし、世界はこれまでと全く変わってしまう」
同じ番組の中でアントニー・ブリンケン国務長官は、ウクライナ侵攻でロシアを支援すれば「深刻な結果」を招くと中国の外交トップの王毅に警告したと語った。
中国がロシアに殺傷力のある兵器の支援を検討しているという証拠はあるのかと問われ、ブリンケンはこう答えた。「中国は両陣営に二股をかけている。表向きはウクライナの平和を望む国のふりをしながら、裏では殺傷力のない軍事物資(軍服や防弾チョッキなどと推測されている)の支援を行ってロシアの戦争を直接、助けている」
「われわれが得ている情報は、中国がロシアに殺傷力のある武器支援を本気で検討していることを示している。ただしわれわれの知る限り、彼らはまだ一線は超えていない」
元米欧州軍司令官で元中将のマーク・ハートリングは19日、本誌に対し、こう述べた。「中国はライバル国、つまりアメリカとロシアの両国はそれぞれ、国家目標の達成に向けて忙しく、自分たちから注意がそれていると考えている」
台湾と南シナ海の運命を左右
同じく米欧州軍の元司令官のベン・ホッジズ元中将は19日、本誌に対し、「制裁に当たらない範囲とは言え、中国が積極的にロシアを援助し、支援していることは明らかだ。中国は、欧米がどの程度団結してウクライナを支援するかを『読み』、それに基づいて行動を計算している。もしわれわれが団結できなければ、台湾や南シナ海にも何をしても大丈夫だと中国共産党は思うだろう」
ホッジズはこう締めくくった。「ウクライナでの戦争をインド太平洋地域における中国の脅威と切り離すことはできない。ロシアとウクライナとの戦争はまさに、専制主義からの自由の防衛、国際的なルールに基づく秩序の防衛だ」

 

●ロシアは侵攻で「どん底」、ナワリヌイ氏がプーチン氏非難 2/21
ロシアで収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(46)は20日、ロシア軍はウクライナで戦争犯罪を行っており、プーチン大統領は個人的な野望のために国の将来を破壊していると非難した。
24日で侵攻1年となるのを前に、ソーシャルメディアに投稿。ロシアは「どん底」まで落ちたと指摘した上で、「プーチン独裁体制」が崩壊し、政府がウクライナの戦災被害復興に向けた「賠償」を始めるまで回復はできないと述べた。
また、「何万人もの罪のない人々が殺害され、さらに何百万人もの上に痛みと苦しみが降りかかっている。戦争犯罪が行われている」とし、残虐行為に対する国際捜査を求めた。
同氏は長年の反政府活動への報復とみられている詐欺罪などで11年6カ月の刑を受け、獄中から反プーチン発言を続けている。今月、今後6カ月間にわたり面会謝絶の独房に移されたと明らかにした。
●ロシア プーチン大統領 軍事侵攻開始以降初の年次教書演説へ  2/21
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻を開始して以降初めてとなる年次教書演説を日本時間の21日に行うことにしています。侵攻開始から1年となるのを前にどのような主張を展開するかが焦点になります。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して24日で1年となるのを前に、ロシア軍は掌握をねらう東部を中心に攻撃を激化させています。
こうした中、プーチン大統領は日本時間の21日夕方、モスクワ中心部のクレムリン近くの建物で年次教書演説を行います。
演説は大統領が年に1度、議会や政府の代表を前に内政や外交の基本方針を示すもので、侵攻開始以降初めてとなります。
ロシアの国営通信社は大統領府のペスコフ報道官が19日、「国民の生活は今やこの軍事作戦を中心に回っている。当然、大統領はこのことに多大な注意を払うはずだ」と述べたと伝え、演説ではウクライナへの侵攻をめぐって多くの時間が割かれるという見方を示しました。
侵攻開始から1年となるのを前に、プーチン大統領は長期化する軍事侵攻を改めて正当化し、国民に理解を求めたいねらいがあるとみられ、どのような主張を展開するかが焦点になります。
ゼレンスキー大統領 バイデン大統領のキーウ訪問に感謝
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、20日に公開した動画で「私たちはことし、ロシアの侵略に終止符を打つために、あらゆる手段を講じなければならない。必要なのは決意だけだ。きょう、アメリカのバイデン大統領からその決意が見えた」と述べて、バイデン大統領が首都キーウを訪れたことに感謝するとともに、引き続き国際社会に軍事支援などの協力を求めていく姿勢を示しました。
●ロシアが米大統領のキーウ訪問を批判 プーチン侵攻後初の年次教書演説へ 2/21
アメリカのバイデン大統領のキーウ訪問をロシア側は批判しています。
国営ロシア通信は20日、バイデン大統領のウクライナ訪問について「西側諸国が紛争の当事者になったことを示している」と報じました。
また、アメリカ政府がバイデン大統領の訪問をロシア側に事前に通知したことについて、ロシアのメドベージェフ前大統領は「バイデンは身の安全の保証を受けて訪問した」としたうえで、「彼は多くの武器を約束し、ネオナチ政権への忠誠を墓場まで誓った」と批判しました。
一方、プーチン大統領は日本時間の21日夕方、モスクワで侵攻後、初めてとなる年次教書の演説をします。
演説では内政や外交の基本方針を示す見込みで、侵攻を巡る言及が焦点となります。
●21日に年次教書演説 プーチン氏、ウクライナ侵攻後初 2/21
ロシアのプーチン大統領は21日、上下両院議員を前に「年次教書演説」を行い、内政・外交の基本方針を示す。
昨年から延期されていたもので、ウクライナ侵攻後では初。ペスコフ大統領報道官が19日の国営テレビに語ったところでは「特別軍事作戦(侵攻)に多くの注意が払われる」という。開始から1年を前にした演説で長期化をにらみつつ、事実上の「戦時体制」に向けて国民の協力を呼び掛ける見通しだ。
演説は21日正午(日本時間同日午後6時)からで、例年通り1時間程度と伝えられ、動員兵らへの支援拡充や戦時経済の在り方について言及があるもよう。ウクライナへの軍事支援を強める西側諸国を批判することにもなりそうだ。
同じ21日には、バイデン米大統領が訪問先のポーランドの首都ワルシャワで、侵攻開始1年を前にウクライナ情勢に関して演説予定。「(プーチン氏の演説より)はるかに重要なものになる」(ウクライナのクレバ外相)と期待する声がある。プーチン氏がバイデン氏を意識して発言することも考えられる。
前回2021年の年次教書演説当日は、獄中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の釈放を求めるデモが展開され、メディアの関心を奪われた。憲法に年次教書演説は「毎年」行うと記されているが、今回は2年弱空くことになる。外国メディアの現場取材は認められていない。
演説翌日の22日には、モスクワの競技場で「コンサート」と銘打って大規模な官製集会を計画。公的部門の労働者を中心に動員されるとみられるほか、独立系メディアによると、参加者に500ルーブル(約900円)の謝礼が支払われる。昨年9月に行われたウクライナ東・南部4州「併合」の祝賀行事の参加者には3倍の金額が支給されており、侵攻中の厳しい懐事情を反映している可能性がある。 
●「人はいつか死ぬ」とロシア国民に言い放つプーチンの狂気=@2/21
ロシアによるウクライナ侵略が開始から1年が経つ中、戦争のさらなる長期化が確実な情勢となっている。戦果が上がらない状況が続くロシア軍だが、東部戦線では引き続き人員の大量投入による苛烈な攻撃を続けてウクライナ軍に圧力をかけている。一方のウクライナ軍も欧米の支援を受け、春には大がかりな攻勢に出る見通しだ。戦闘は今後も激しさを増しながら、両軍の攻防が続く可能性が高い。
ロシアのプーチン大統領は戦死した兵士を賛美するかのような発言を繰り返すなど、事実上国民に犠牲を求める姿勢を鮮明にしている。戦争に反対する多くの若者が国を去り、社会、経済の劣化が確実に続く中、残されたロシア国民は狂気的ともいえる指導層の方針に付き従うしかない生活を余儀なくされている。          
犯罪者を英雄視
ロシア南西部クラスノダール州の村、バキンスカヤ。2014年に冬季五輪が開催されたソチからも近い小さな村でこのほど、大量の墓が新設されている事実が発覚した。埋葬されているのは、ウクライナ東部の戦線に投じられている民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員らの死体だ。
・セルゲイ・マリンコ――サンクトペテルブルク出身、47歳。酔って知人を背中から刺し懲役5年
・フィラレト・ガムリャク――モルドバ出身、47歳。女性を殺害。他にも複数の殺害を試みたとして懲役10年
・アレクサンドル・コルハレフ――出身地不明。母親を殺害した容疑で懲役12年――。
米系の報道機関が墓標に記された名前と生年月日を突き合わせて割り出したのは、死亡者の多くが凶悪な犯罪を行った元囚人だった現実だ。
囚人らは半年の兵役と引き換えに、過去の犯罪歴が消去≠ウれる――。ワグネルの創設者、エブゲニー・プリゴジン氏はロシア国内の犯罪者収容施設をヘリコプターで訪れ、こう説いてまわっていた。囚人をリクルートし、ウクライナ東部の戦線に兵士として大量に投入するためだ。ワグネルがウクライナ戦線に投じた兵士数は約5万人で、4万人が囚人だったともいわれる。
囚人らは契約を交わすなり、バスで大量輸送された。ワグネル側は特に、殺人犯や強盗などの犯罪者を好んだという。
彼らは簡単な訓練で銃器の扱いを覚えると即座に最前線に投じられた。しかし彼らの役割は、精鋭部隊が入る前にウクライナ軍の激しい攻撃の前に身をさらす肉の壁≠フ役割だった。おじけづいて命令を無視した元囚人が、自分で墓穴を掘らされて、処刑されたとの証言もある。
ワグネルの手法から浮かび上がるのは、ロシア国内で法の支配が恣意的にゆがめられ、機能しなくなっている現実だ。私兵になることと引き換えに、公的に認められた重罪が許される。法の正義を踏みにじるプリゴジン氏はプーチン大統領に近しい政商であり、彼は上から承認≠ウれていると公言すらしている。
一部の自治体では、死亡したワグネルの兵士を「犯罪者だ」として埋葬を拒否したというが、プリゴジン氏はそのような自治体の首長に対し、「お前たちの子供を前線に放り込む」と恫喝したという。       
終わりが見えない戦争
攻めている側のロシア社会がゆがみ続ける中、ウクライナ侵略は終わりがまったく見えない状況に陥りつつある。
開戦1年となる24日を前に、ロシア軍が大規模攻勢をかけるとの見方は依然として強く、実際に東部戦線では攻撃が激化しているとも伝えられる。ロシア軍は年初にゲラシモフ参謀総長が総司令官に就任するなど、立て直しを図ろうともしている。ウクライナ国境付近にはロシア空軍の戦闘機やヘリが集結している事実も報じられた。
さらに21日には、プーチン大統領が延期していた年次教書の発表が予定されている。これを機に、ロシアがウクライナ側に対する新たな揺さぶりをかけてくる可能性が高い。
ただ、ロシア軍の攻勢がどこまで占領地の拡大につながるかは見えない。ロシア軍はすでに精密誘導弾の8割を消費したとされるほか、弾薬や部隊の不足も指摘される。ロシア軍はワグネルなどもあわせて膨大な兵力を東部戦線に投じているが、昨秋以降はバフムト近郊の都市ソレダルを制圧したこと以外は目立った戦果は上がっていない。
バフムトは東部の交通の要衝とされ、ウクライナ軍に対する補給でも重要な役割を果たしていた。ただ一方でバフムトは約8カ月にもわたるロシア側の攻撃で激しく破壊され、その戦略的価値を疑問視する声もある。
「あまりに長期間にわたって同市の占領を目指して攻撃してきた手前、ロシア軍はバフムト陥落を目指す方針を変更できなくなっている」(ウクライナ軍幹部)とも指摘される。同戦線にはワグネルの私兵が大量動員されているが、その制圧目標はプリゴジンの政治的動機≠ニ関連があるともいわれ、戦術的な意義以上に激しい攻撃にさらされている。
これに対し、ウクライナ軍は欧米の新たな軍事支援を取り付け、春に向けて攻勢をかけようとしている。ゼレンスキー大統領は2月には英国、フランス、ベルギーを訪問。ブリュッセルでは、欧州連合(EU)首脳会議に初めて参加し、戦闘機の供与を求め、「複数のEU加盟国から前向きな反応を得た」としている。
米国とドイツはこれに先立ち、主力戦車のウクライナへの供与を相次ぎ表明した。ドイツは欧州で使用される最新型戦車「レオパルト2」を製造するが、同戦車を保有する各国に対し、ウクライナへの輸出も承認した。
ドイツは欧州に約2000両のレオパルト2を供給しており、同国の方針転換はウクライナにとり重要な意味を持つ。米国のオースティン国防長官は2月14日、ブリュッセルで行われた欧州各国とのウクライナへの支援会合後に、「ウクライナ軍は春にもロシア軍に対する攻勢に出る」と明言した。
ロシアが対ウクライナ侵略の手を止める意志を見せない一方、ウクライナ軍も欧米の支援を背景にロシアに徹底抗戦する姿勢を崩してはいない。昨秋以降、戦線をめぐる状況に大きな変化が起きておらず、双方とも戦闘を継続する意思を変えていないことを考えれば、今後も戦況は一進一退が続く可能性が高い。
付き従うしかないロシア国民
そのような中、英国防省は2月中旬、ウクライナ侵攻開始以降のロシア軍と民間軍事会社の死傷者数が合計で17万5000〜20万人に上ったとする分析結果を公表した。死者数も4万〜6万人と推計している。
英国防省は、負傷者に対する死者数の割合が極めて高いとの見方を示し、その理由として「極めて貧弱な医療しか提供されていない」ことが原因だと指摘した。民間軍事会社であるワグネルをめぐっては、死傷者数が全体の5割にのぼったとの見方も示している。
ロシア軍は昨年9月に約30万人を追加動員しているが、事実であればその半数以上の規模の人員が死傷したことになる。ロシア軍をめぐっては、新たな動員を行う可能性もくすぶり続けているが、現在のような損失が続けば、新規の動員を避けることは困難だ。
プーチン大統領は昨年11月、ロシア軍兵士の母親らと面会した際に「わが国では交通事故で年間3万人が死亡している。人はいつか死ぬものだ」と言い放ったほか、今年2月には壊滅状態に陥ったとされる歩兵旅団をめぐり、「英雄のように戦っている」と称賛した。戦闘で死亡することを賛美するかのような発言の数々からは、国民に対し、新たな人的犠牲を受けいれるよう求める思惑がにじむ。
ロシア国内で目立った反発が起きない背景には、ロシア経済が欧米諸国の想定以上に制裁に持ちこたえているところにある。第三国を経由して各国がロシアへの輸出を禁じた商品を輸入する「並行輸入」と呼ばれる手法が広がったことで、物資の供給も進んでいる実態も指摘される。
ただ、これはソ連崩壊直後の経済体制への先祖返りであり、賄賂の温床になるとしてロシア政府自身が長年かけて排除しようとした商行為だ。さらに有力外資の撤退や、IT分野などの有能な若年層の国外脱出で、資源依存脱却のカギとされた製造業や新規産業の発展は一層困難になった。資源採掘で技術を供与していた欧米の主要企業もロシア市場から撤退しており、中長期的にはこれらの分野も衰退の危機にさらされる。
このような状況でも、戦争に批判的な数百万人規模ともみられる人口が国外脱出したあとでは、ロシア国内で戦争に反対する運動を担う勢力はもはや皆無の状態だ。出口のない戦争に引き込まれながら、ロシア国民は指導部にただ従うしかない状況に追い込まれている。
●ロシアの核の脅し プーチン氏が犯した大きな過ち 2/21
国際政治学者の岩間陽子氏は毎日新聞政治プレミアの取材に応じた。
「核を保有していない国に核の脅しを使うのは本来あってはならないことで、核の秩序全体を危険に陥れる愚行だ。大国としての責任を放り投げ、国際社会における地位を自ら傷つけた。ロシアのプーチン大統領は本当に大きな過ちを犯した」と語った。
岩間氏は、「現在のところ、核による威嚇によってロシアは政治的効果を得ていない。ロシアに対し、核を使用したら国際社会に重大な亀裂を招くと警告し続けるとともに、ウクライナ支援を続けることが重要だろう。ロシアによる威嚇に動揺しないことが大切だ」と言う。
「ロシアが核による脅しをしたことで、核抑止について改めて考え直すきっかけになった。日本は長年、この問題について十分考えてこなかった。日米間で米国の拡大抑止に関する戦略対話の中身をより実質を伴ったものにしたり、日米韓3カ国で議論をしたりする必要がある」と語った。
●プーチンvsゼレンスキー 「水と油」の両雄、退路断つ 2/21
片や旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元諜報員。冷酷な独裁者として、権力の座に20年以上とどまっている。片や、コメディー俳優から政治家へと華々しく転身。大統領就任から3年とたたないうちに、「戦時指導者」を自認するに至った。
強権的指導者であるロシアのウラジーミル・プーチン大統領(70)と、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(45)。第2次世界大戦後の欧州で最悪の紛争となったウクライナを舞台とする戦争で、両者は対峙している。
ともに旧ソ連生まれ。ただし年齢は25歳離れている。ソ連崩壊後の世界における正反対の価値観をそれぞれ体現する旗振り役となった。
プーチンにとって、ソ連崩壊は災厄だった。これを正さなければならないと決意するに至り、ロシアの影響圏にウクライナを取り戻すには核兵器に訴える必要もあると示唆している。
一方ゼレンスキーは、ロシアからの軍事圧力や旧政権内にまん延していた腐敗に対する反発を追い風に、2019年の大統領選で地滑り的な勝利を収めた。
同年、両者は仏パリで初めて顔を合わせた。エマニュエル・マクロン同国大統領、アンゲラ・メルケル独首相を交えての、ウクライナ東部で続いていた政府軍と親ロシア派武装勢力の衝突をめぐる4か国首脳会談の場だった。その際すでに、両者間の溝は疑いようのないものとなっていた。
ゼレンスキーはおずおずとほほ笑みながらも、国際的なひのき舞台を楽しんでいた。プーチンにならい、カメラの列の方に向いて笑顔を見せる場面もあった。
米シンクタンク、カーネギー国際平和財団のロシア政治専門家、アンドレイ・コレスニコフ上級研究員は、「当時も今も、2人が根本的に対照的な指導者なのは明白だ」と話す。
「片方は現代的で若く、形式ばらない。関心の的は発展にある。もう片方は偏狭で古風、権威主義的だ。コンプレックスと常軌を逸した考えにとらわれている」
ゼレンスキーへのさげすみ
ロシア大統領府(クレムリン)が1年前、軍にウクライナ政権の転覆を命じて以来、2人の行動はいずれも予想を裏切るものとなった。
ゼレンスキーは空爆にさらされている時でも首都キーウにとどまった。それどころか、長期にわたって激戦が繰り広げられている東部バフムートをはじめ、前線を何度も訪れている。
ウクライナの政治専門家、アナトリー・オクティシュクは、ロシアの侵攻前、ゼレンスキーは「平時の大統領」を自認していたと語る。
「プーチンは彼(ゼレンスキー)を道化師かコメディアン、おどけ者のように扱っていた」と、オクティシュクは指摘する。「プーチンが始めた侵攻は、ゼレンスキーに対する過小評価、尊大な態度、さげすみの帰結だ」
侵攻開始後、ゼレンスキーをめぐる見方は一変した。
プーチンの政治的な立ち位置も変容した。
シベリアの大自然の中で自らの写真を撮らせるなど、マッチョなイメージづくりに努めてきたプーチン。しかし、これまでのところ軍事侵攻の目標は達成できておらず、自ら前線へ赴くことも避けている。戦場から遠く離れた安全なクレムリンで、勲章を授けるのがせいぜいだ。
プーチンは世界の嫌われ者になった。それに対し、ゼレンスキーの元には、欧州の高官が続々と面会にやって来る。プーチンは国際舞台から締め出されたが、ゼレンスキーはワシントンで、ロンドンで、敬意をもって迎えられるのだ。
2019年のゼレンスキーはもういない。今や、プーチンが権力の座にとどまっている限り、ロシアとは交渉しない構えだ。
今年になって行われた英メディアのインタビューではこう語っている。「現在の彼(プーチン)は何者なのか。侵攻開始後、私にとっては何者でもなくなった」
ネオナチ呼ばわり
「口撃」はお互いさまだ。侵攻開始の翌日、プーチンはウクライナ兵に、自分たちの政権指導部に対する蜂起を呼び掛けた。
「キーウに居座り、全ウクライナ国民を人質に取っている薬物中毒者どもやネオナチと折り合いをつけるより、君たちと話す方が簡単だ」と、プーチンは言ったのだ。
カーネギー財団のコレスニコフは、クレムリンはゼレンスキーとの交渉にこぎ着けられそうにないとのロシア国内の受け止め方は、昨年2月の侵攻開始以前からあったとAFPに話した。
「プーチンはゼレンスキーを、対話や交渉をするに値する政治家とは見ていない。彼にとってゼレンスキーはエイリアン。2人は水と油のようなものだ」
侵攻開始以来、ゼレンスキーは国際社会からの積極的な軍事・資金支援を勝ち取ってきた。ロシアはと言えば、戦場での進軍ペースは極めて遅く、双方ともにではあるが、損耗を強いられている。
どちらも戦闘継続の覚悟を決めているようだ。ゼレンスキーは国内外での「戦争疲れ」の台頭を抑え込もうと躍起になっている。クレムリンとしても、最後まで戦い抜くしかなくなっている。
コレスニコフは言う。「プーチンはより頑迷に、より攻撃的になっている。独自の陰謀論にはまり込み、各種リソースの枯渇や、名声が傷つくことも顧みず、戦争を続けるつもりだ」
ウクライナの政治専門家オクティシュクは、戦争へのプーチンののめり込みぶりの背景には、ゼレンスキーを権力の座に就かせたのと同じ、変化を求める機運がロシアでも広がってくるのではないかとの恐れがある、と話す。
「道化師、コメディアンとみられていた人物が選挙で勝ち、国を変革する道筋を示した」と、オクティシュクは語る。「ウクライナでそれが起きたのなら、ロシアで起こり得ないと言えるだろうか」
●愛人と地下壕でパーティー 四面楚歌のプーチン 2/21
昨年2月24日にロシアがウクライナへ電撃的に戦闘を仕掛けてから1年が経とうとしている。戦況が膠着する中、政権内部で深刻な亀裂が生じているといわれるが、侵攻を仕掛けた張本人であるプーチン大統領は地下壕を転々とする日々。新年にはその地下壕で愛人とパーティーを開いたといわれており…。
現在、プーチン政権には、二つの火種があるといわれている。元読売新聞国際部長でモスクワ支局長も務めた、ジャーナリストの古本朗氏によると、
「一つ目は軍内部です。今年1月にウクライナ侵攻軍のセルゲイ・スロビキン将軍が総司令官を解任され、ワレリー・ゲラシモフ参謀総長が任命されました。これを巡っては、軍によるミニ・クーデターではないか、との見方も出ているのです」
今回のウクライナ侵攻におけるロシア軍には二つの勢力がある。一つは正規軍、もう一つは非公式に投入されてきた民間軍事会社「ワグネル」などの傭兵部隊だ。そして解任されたスロビキンは「ワグネル」創設者、エフゲニー・プリゴジンの盟友と目されている。
「戦況が悪化するに連れ、比較的高度な戦闘能力を持つ『ワグネル』の力が増してきた。プリゴジンはその功をアピールし、スロビキンを総司令官に推しましたが、それに不満と危機感を抱いたゲラシモフら軍部がプーチンに直訴し、交代を迫ったとの見方が出ているのです」(同)
二つ目の火種は、プーチン大統領の権力基盤であるシロヴィキにあるという。シロヴィキとは、ロシアの支配階級である軍、治安、情報機関系の勢力を指す言葉だ。
「現在、この筆頭といわれるのが、安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記です。KGB出身の彼はプーチンの最側近で盟友。しかし、最近、プーチンと彼の間に対立が生まれたとの情報が出ているのです」(同)
ここでも見られるのは内部での権力闘争だ。時事通信モスクワ支局長を務めた、拓殖大学の名越健郎・特任教授も言う。
「パトルシェフは従来、戦争終結後、プーチンの後継者に農相を務める自らの息子を据えることをもくろんでいたが、プーチンが応える気配が見えない。それに激怒し、安全保障会議のオンライン会議を欠席しているとの話があります」
筑波大学の中村逸郎・名誉教授(ロシア政治)は、四面楚歌のプーチンについて「身体的にも、精神的にもガタがきているのは明白です」と述べる。
「かねて報じられているように、がんやパーキンソン病を患っている可能性が高い。また、精神状態も乱高下しています。最近では、1月に開かれた閣僚会議でのシーンが話題を呼んでいます。ロシアのテレビで流されたその映像を見ると、戦地への兵器輸送がうまくいっていないことについて、“何をやっているんだ、バカ野郎!”“ふざけるな! ひと月以内に終わらせろ!”などと副首相に怒鳴り散らしているのです。これを受けて記者から質問された報道官は、“日常的な光景だ”と言ったとか」
また、ウクライナの攻撃を恐れてクレムリンを離れることも少なくなく、国内にある邸宅や地下壕などを転々としているという。名越教授によれば、
「政権の内情に通じているため、専門家も注目する『SVR将軍』なるSNSアカウントがある。その投稿によれば、地下壕を含めて幾度も居場所を変えるため、“塹壕じいさん”と呼ばれているとか。正妻と離婚して現在、独身のプーチンは、新体操の五輪金メダリスト、アリーナ・カバエワを愛人にしているといわれています。昨年には子を宿したとの情報もありますが、プーチンは新年もウラル山脈周辺のバンカー(地下壕)で迎え、その席には彼女もいて、たくさんのごちそうとケーキが供されたとも投稿されています」
●ロシア・ウクライナ戦争で唯一の仲介者、大地震がウクライナ情勢を変える? 2/21
2月6日、トルコ南部を震源とした大地震が発生。懸命な救助・捜索活動が今も続けられている。何度もウクライナとロシアと会談し、仲介して停戦を呼びかけてきたトルコ。そんなトルコにおける大災害がウクライナ情勢に与える影響とは――。
トルコにはロシアも聞く耳を持つ
2月6日、トルコ南部のシリア国境付近でM7.8とM7.6の大地震が連続して発生し、これまでに両国で4万人以上の死亡が確認されている。同志社大学大学院教授でトルコ現代史に詳しい内藤正典氏は今回の地震を「トルコ共和国建国(1923年)以来、最悪の災害」だと話す。
「トルコはもともと4つのプレートが複雑にひしめき合う地域。そのため地震も多く、1998年には日本とほとんど同レベルの厳しい耐震基準も設けられていたんです。
翌99年に発生したM7.6の大地震の際には、まだ従来の基準の建物が多かったために被害が大きく、死者数は1万7000人を超えました。しかし、今回は新基準を設けてから20年以上が経過している。にもかかわらず、倍以上の死者数を出しているのです」
内藤氏によると、震源地近郊の南部の住宅が耐震基準をクリアしていたのかは疑問だという。
「南部はここ十数年で急速に経済発展してきた地域なんです。トルコの北西にある最大の都市、イスタンブールと比べると物価や教育費も安いため、若年人口が多く、被災地のシャンルウルファの出生率は3.8を超えるほど(全国平均は1.7)。
人口増に合わせて急激に都市化してきたため、基準を満たしていない住宅が造られていた可能性もあったと考えられます。築6年程度の建物も倒壊したという報道もありました。設計者や建設会社、コンクリートなどの建築資材を納入した業者などが手抜き工事の疑いで続々と逮捕されています」
トルコは地質学的には複数のプレートの境界上に位置するが、地政学的にも要衝にある。トルコ北部に広がる黒海の対岸には、西にウクライナ、東にロシアがあり、これまでも両国間の調整役を務めてきたのだ。
「エルドアン大統領はウクライナ戦争の開戦後にもゼレンスキー大統領だけでなくプーチン大統領とも何度も会談し、停戦に向けて働きかけてきました」
プーチンがエルドアンに聞く耳を持つのは、トルコが絶妙な立ち位置を保っているからだという。
「まず、トルコは『ロシアの侵攻は許される行為ではない』と、国連総会でのロシア非難決議に3回とも賛成しています。一方で、『西側諸国の制裁は戦争を膠着(こうちゃく)化させる』と制裁には加担していません。
なぜなら、分断が深まって割を食うのは貧しい人々だとわかっているから。そのため、エルドアンは黒海を通じたウクライナからの穀物輸出もトルコと国連の仲介で実現させました。実際に困っているのは穀物が届かないアフリカの国々です。
1000年にわたってヨーロッパとイスラム世界の間に挟まれていた国ですから、一方の陣営にすり寄らない外交力に優れているんです。一貫した姿勢によって他国からの信頼は厚く、今回の震災後も、戦争状態にあるロシアとウクライナを含む多くの国から援助隊が送られたのです」
西側諸国に寄った政権が生まれたら
外交において両国の均衡を保つ役割を一手に担ってきたトルコだが、今回の大地震で内政に注力せざるをえなくなった。
「もともと通貨のトルコリラが大幅に下落しており、それに伴うインフレで国内経済が不安定だったため、ここ1年くらいエルドアン政権に対する批判は強まっていました」
そんな中、5月には大統領選挙が控えているという。しかし、内藤氏は「現状ではエルドアンが負けることは考えづらい」と話す。
「99年の大地震は、当時の政権にトドメを刺しました。その後に躍進したのがエルドアンの公正発展党でした。それから20年、エルドアン政権も同じ運命をたどるかと思いきや、有力な野党候補がいないんです。
野党6党が連合を組んだのですが、それがまとまらないまま今回の大震災が発生しました。この震災から復興できる政権となると、やはり実行力のあるエルドアン政権しかないと国民も思っているでしょう」
なんとか逃げ切れそうなエルドアンだが、大きな足かせとなるのが今回の地震による住宅・インフラ再建の復興資金だ。
「被害状況を見るに、復興にはかなりの額のお金がかかるでしょう。しかもエルドアンは被災した全世帯に1万トルコリラ(約7万円)を配ると発表しています。
しかし、IMF(国際通貨基金)は内政に干渉してくるため、エルドアンは二度とIMFに借金をしたくないと考えている。また、外交的に中立の立場を保つことに神経をとがらせているから、西側諸国が差し出してくる"ひも付きの金"はもらいたくない。
そこで、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟に反対し続けたトルコを懐柔しようと、アメリカがエルドアンよりもハンドリングしやすそうな野党連合を、ひも付きの金で釣って援助する可能性もある。つまり、エルドアン政権の命運は復興資金をいかに確保するのか、その道筋が示せるかどうかにかかっています」
欧米が野党を応援しエルドアン政権を倒し、欧米寄りの政権が生まれることがあれば、ウクライナ情勢においてトルコが保ってきたバランスが崩れ、よりいっそう停戦が遠のく可能性があるというワケだ。
日本には関係が薄い話に感じるかもしれないが、日本とトルコは100年以上前から友好を育んできた歴史がある。
「もともとトルコが親日国だというのは、大災害などで困ったときに市民が助け合ってきたからなんです。
例えば、1890年にオスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が和歌山県串本沖で遭難した事件では、地元住民たちが総出で救助と介抱にあたりました。
また、1985年、イラン・イラク戦争の際には、イランの首都テヘランに取り残された日本人をトルコ航空機が救出しました。東日本大震災のときにもトルコはいち早く緊急援助隊を送ってくれました。
トルコが親日なのは互いに困難なときに人々が助け合ってきたから。国同士の同盟関係なんて関係ない。日本は政治的な野心なしに付き合える相手なんです」
プレートの境界上に位置するなど、共通点も多い日本とトルコ。トルコが困っているなら今度は日本が返す番だ。
●インド、ロシア産石油輸入が10倍に 欧米が制裁科すなかで買い支え 2/21
ウクライナに侵攻を続けるロシアとの貿易を、インドが活発化させている。欧米などはロシア産石油の取引などに制裁を科しているが、インドなどが買い支えている構図だ。
インド商工省によると、2021年4〜12月に約65億8千万ドル(約8875億円)だったロシアからの輸入額は、22年の同じ期間でほぼ5倍の約328億ドルに急増。特に石油関連の輸入額は約10倍になった。
インドは通常より安価で購入しているといい、ジャイシャンカル外相は昨年12月、議会で「国民の利益のため、最も良い取引ができるところにいくのは賢明な政策だ」と述べた。
インドは、旧ソ連時代からロシアとの関係が深く、現在も主要兵器の約半分を頼る。隣国のパキスタンや中国との国境対立も続いており、安全保障面でも一定の軍事力を持つロシアの存在は大きい。
このため、ウクライナに侵攻したロシアを非難する国連決議をたびたび棄権。欧米が主導する対ロシア制裁にも参加していない。
モディ首相は昨年9月にロシアのプーチン大統領と会談した際、ウクライナへの侵攻を念頭に「今は戦争の時代ではない」と苦言を呈した一方、「我々は何十年も常に一緒にいるような友人であり、この関係を優先している」とも強調した。
来月1、2日には欧米やロシア、中国、日本など主要20カ国・地域(G20)の外相会議がインドのニューデリーで開かれ、議長国としての立ち位置が注目されている。
●「弾薬供給を拒否」 ワグネルトップがロシア軍批判 対立激化か 2/21
ウクライナ侵略を続けるロシア軍側で参戦している露民間軍事会社「ワグネル」トップのプリゴジン氏は20日、露軍上層部がワグネルに弾薬の供給を渋っていると非難する声明を交流サイト(SNS)上で発表した。ワグネルと露軍の間では軍事作戦での主導権を巡る確執が生じているとの観測が強く、プリゴジン氏の声明は両者の対立の激化を改めて示唆した。
プリゴジン氏は声明で、露国内には弾薬があるにもかかわらず、ワグネルの弾薬不足が解消されていないと指摘。露軍のスロビキン副司令官が総司令官を務めていた時期には弾薬供給に問題はなかったとも述べた。1月にスロビキン氏に代わって総司令官に任命されたゲラシモフ参謀総長や人事を発令したショイグ国防相を暗に批判した形だ。
プリゴジン氏は「朝昼晩の食事を金の皿で食べたり、娘や孫に(中東のリゾート地)ドバイで休暇を過ごさせたりしようが恥ずかしがることはない。私は弾薬が欲しいだけだ」とも指摘。ドバイで1月、豪勢な新年パーティーを開いていたと一部で報じられたショイグ氏の娘らを念頭に置いた発言だとみられる。
実業家であるプリゴジン氏は、露政府行事に料理を手配する事業を通じてプーチン露大統領と個人的関係を築き、「プーチンのコック」との異名も持つ。ウクライナ侵略では、戦闘員として勧誘した多数の囚人を東部ドネツク州バフムト方面での戦闘に投入し、ワグネルの存在感を高めた。ただ、露軍上層部は露軍の影響力低下を避ける思惑から、現在はワグネルに「手柄」を与えない方針に転じているとされる。
実際、プリゴジン氏は最近、「囚人の勧誘を停止した」と表明。これについて米シンクタンク「戦争研究所」は、露軍上層部が囚人の勧誘を認めなくなったためだと分析している。
一方、前線の戦況を巡り、ウクライナ軍参謀本部は20日、バフムト方面やリマン方面などドネツク州各地で激戦が続いたと発表した。南部ヘルソン州でも民間インフラが露軍の砲撃を受けたとした。
●プーチンは崖っぷちのネズミ状態 戦争が長引くほど有利になる大国の名前 2/21
2月24日に開戦1年となってしまうウクライナ戦争。なりふり構わぬ歩兵の突撃を繰り返すロシア軍ですが、「もはや限界も近い」という見方もあるようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、この戦争の最新の戦況を解説するとともに、ロシア国内の政争の影響で境地に追い込まれつつある露軍の現状を紹介。さらに各国の対応や思惑を分析しつつ、世界が現在置かれている状況を考察しています。
人海戦術も限界に。開戦1年で打つ手をなくしたロシア軍
ロ軍が人海戦術でバフムト包囲作戦を行うも、ウ軍も増援部隊を送り高速M03号線を死守している。ロ軍の攻撃限界が近い。今後の戦況を検討しよう。
ロ軍の大規模攻勢の成果が出ていない。クピャンスク方面、スバトボ・クレミンナの反撃、バフムト包囲、ボハレダラであるが、ウ軍も春の大攻勢要員をウ軍守備隊の増援として、激戦地に投入したことで、ロ軍の進撃スピードが遅いか、ほとんど前進できないでいる。
このロ軍大規模攻勢に、前線に近い場所に航空部隊を集めているので、今後航空機による攻勢が始まる可能性があるが、地上軍の消耗が激しく、効果があるのか疑問である。
兵士の敵前逃亡阻止のため前線後方に地雷を敷くロシア軍
ロ軍・ワグナー軍はザリジネスクを占領し、直角に曲がり、M03高速道路に向けて攻撃しているが、ウ軍は、第30機械化歩兵旅団を投入して、ロ軍の前進を止めた。
一方、ロ軍とワグナー軍も、パラスコビイウカの一部を占領して、M03補給路の切断を試みている。この切断を試みたのが、ロ軍特殊部隊であるが、その攻撃を待ち伏せしていたのが、ウ軍特殊部隊であり、ロ軍特殊部隊を壊滅させた。これにより、高速道M03補給路は今の所、ウ軍の支配下にあり、無事である。
そして、パラスコビイウカにもウ軍は増援部隊を送り、ロ軍の前進を止めていたが、ワグナー軍に市中心部を占領されたようだ。今は市の南側で戦闘が続いている。このまま進まれるとM03号線になり、補給路が危ないので、ウ軍も全力で防衛している。
それでも、ゼレンスキー大統領は、バフムトからの撤退はあり得ないという。このため、ウ軍は全力でバフムト周辺に部隊を集めて、ロ軍の人海戦術の突撃を止めいるが、ワグナー軍の技量はすごい。
それと、ロ軍の人員損耗が激しく、攻撃要員が不足になり、攻撃力が弱まっている。ロ軍も他の戦線から人員を集めているが、損耗の方が早くて、どうしても、前進できなくなってきた。このバフムトにロ軍は、おそらく5万の兵力を集中しているが、それでも足りなくなったようである。どこまで、ここで消耗するのであろうか?
それと、ロ軍は地雷を前線の後方に敷設している。それには二つ理由があって、一つには、反撃された時の勢いを止める為であり、二つにはロ軍兵の敵前逃亡を阻止するためだという。
ウ軍は、バフムトを要塞都市にしているので、ロ軍の正面攻撃では落ちないことで、包囲作戦を行っているが、その包囲作戦もウ軍機甲部隊の守備陣を崩せないようである。
バフムト市東側の工場地帯、住宅地などにもロ軍が侵入して接近戦になって、ロ軍の一部がバフムト市街に侵入したようであるが、そこから前進できない。南側のオプトネから市内に攻めるロ軍も前進できていない。
バフムトの南側のイワニフカにロ軍が攻めてきたが、ここもウ軍機甲部隊が防衛している。T0504主要道の交差点にもロ軍は攻撃してきたが、ここでも、ロ軍の攻撃をウ軍は撃退している。ここもウ軍機甲部隊が守り、ロ軍歩兵部隊が攻撃しているが、突破できないでいる。
しかし、ロ軍も歩兵突撃方法が進化して、中隊20名程度のグループで突撃していたが、現在は5名程度の部隊で分散して、夜間に忍び寄ってくるという。ドローンに見つけられにくくしているようである。
ロ軍も戦術の工夫をしているようであるが、ウ軍もキルレシオを上げるために工夫している。
前線のワグナー軍への補給を断ったプーチン政権
ウ軍は基本的に暗視装置を全員持っている。ロ軍は精鋭部隊か特殊部隊しか持たない。ウ軍は、暗視装置をドローンに付けて、ロ軍の夜間歩兵攻撃を発見するとクラスター弾を使い、歩兵の突撃を一撃で仕留めている。このことでも、ロ軍の損害が増えているようである。
NATOの情報によると、ロ軍はバフムトで歩兵を前進させようとした際に、90メートル強の距離ごとに約2,000人の兵士を失っていることになり、損失が前進の割りに多すぎるという。1km進むごとに2.2万人の兵士を失うことになる。ロ軍は累計でほぼ20万人の死傷者を出しているようだ。
そして、どんどんウ軍機甲増援部隊がバフムトに到着している。今後、バフムト周辺でロ軍掃討作戦に出るとみる。本来は春の大攻勢用のT-72戦車部隊をバフムトなどの多くのロ軍攻勢地点に派遣している。
このため、プリゴジンも、「バフムトが直ちに手に入ることはない。ウ軍の抗戦が強烈だからだ。(勝利の)お祭り気分には程遠い」と発言し、戦況がこう着状態に陥っていることを認めた。
しかし、プーチン政権は、このプリゴジンの行き過ぎた政治的影響力を弱める方向に動いている。
この一環として、ロ軍は、ワグナー軍の撤退を命令したが、それでも前線にいるワグナー軍には、補給を停止したようである。弾薬が枯渇して戦えないと、ビデオで訴えている。
そして、ロ国防省は、ワグナーが実施していた囚人の募集を開始して、ワグナーが停止した囚人兵を突撃兵として利用するようである。しかし、囚人も戦闘でほどんど生存率がないことを知っているので応募しないが、国防省は強制動員するようである。
これにより、ワグナー軍はお払い箱になるが、現在でもワグナー軍の技能は、正規軍より上であり、ロシア内部の政争で前線のロ軍全体の力も落ちることになる。ウ軍にとっては、良いことではあるが。
無謀な突撃で訓練済みの動員兵の多くを戦士させた露軍
ロシアの軍組織は、それぞれの地域で軍管区司令官により統制される体制にしたことで、正規軍、DNR軍、LNR軍、ワグナー軍、カディロフ軍といった、バラバラの体制から改正することになる。やっと統制取れた体制になる。
バフムトの北のフェドリフカにロ軍空挺部隊とワグナー軍が攻撃をしているが、ウ軍は撃退している。ウ軍もここにも増援部隊を送り、守備陣を増強している。ここからシベリスクにロ軍は前進したいようであるが、前進できていない。
ドネツクのボハレダラには、ロ軍海軍機械化歩兵部隊が攻撃したが、ウ軍機甲部隊の反撃で大損害を出したが、GRUのスペツナズや特殊部隊なども増援したが、この増援部隊も壊滅的損害になっている。ここで、ウ軍は燃料気化爆弾の発射機であるロ軍のTOS-1を破壊した。大損害をロ軍に与えたが、ロ軍は攻撃を諦めないようである。
ボハレダラ攻勢を指揮した東部軍管区司令官ルスタム・ムラドフが、攻勢失敗の1週間後、プーチンはムラドフを大将へと昇格させた。これでロ軍海軍機械化歩兵部隊をボハレダラ攻撃の英雄と述べた理由がわかる。そして、単純な突撃攻撃のソ連ドクトリンの戦術が当分続くことになることがわかる。このため、人的損害は今後も多くなるようだ。
ボハレダラの近くのプレチスティフカにもロ軍は攻撃したが、ここでもウ軍に撃退されている。ボハレダラ攻撃のロ軍は部隊の再編成中であり、攻撃は弱めである。このため、ウ軍機甲部隊が数km以上もロ軍を後退させている。
ロ軍は歩兵部隊の突撃で攻撃してくるが、前進速度が低いので、ウ軍は、攻撃地点に迅速に大量の機甲増援部隊を送れるので、ロ軍の攻撃を早い段階で防ぐことができている。
このような対応で、ロ軍の秋の訓練済の動員兵も突撃で戦死者が多く、早期に兵員の枯渇になるとみる。ロ軍大攻勢も攻撃限界点に早期に達してしまうことになり、次の動員兵を必要となる。
対戦車ミサイルで露軍装甲車を大量撃破のウクライナ軍
ロ軍が、大量の人員と装備を集めて大規模反撃に出てきた。ロ軍は反撃を開始でディプロバを占領した。クレミンナの西側のウ軍は後退している。
ウ軍はリマンに装備と部隊を集めて、セレベッツ川を防御線として、陣地や要塞線の構築をしている。しかし、ロ軍装甲車が出てこない。ウ軍の携帯対戦車ミサイルが相当な確度でロ軍装甲車を撃破しているので、ロ軍も戦車や装甲車を歩兵突撃隊に付いていない。このため、前進速度が遅くなり、ウ軍に防御態勢を整える時間を与えている。
クピャンスク方面でもロ軍が攻勢に出ている。ドベリチネをロ軍が占領し、フリャニキウカ、シンキフカ、マシュチフカなどを攻撃している。ロ軍は、クピャンスクに向けて南下するようであるが、ここでもウ軍増援部隊が到着して、体制を強固にしている。
クピャンスクは、この方面での補給基地でもあり、ウ軍としては、防御するしかない。このため、ウ軍の多数の人員と装備を配備したようである。
ついにジェット戦闘機400機の投入を決心したプーチン
それと、ロ軍陸軍の97%の人員をウクライナに投入したようである。ウクライナに配備した数は総勢55万人である。これに対するウ軍は50万人-70万人であり、数の上ではウ軍の方が多いことになる。
このため、ウ軍を分散させる必要がある。このため、ベラルーシからの攻撃を匂わせるとか、ハリキウへの攻撃を匂わせる必要がある。
ロ軍は戦車の60%以上を破壊か鹵獲されている。開戦時3,400両の戦車が、現時点では1,100両程度になっている。
反対に、ウ軍は開戦時には700両の戦車であったが、400両が破壊されたが、500両以上が供与や鹵獲して、800両程度であり、今後レオパルト2戦車などが、300両供与になるので、1,100両になる。ロ軍と同等な戦車数になる。それも、ロ軍主力のT-72戦車より高性能なレオパルト2が多数存在する。
ロ軍のインフラ攻撃に対応して、ウクライナは燃料備蓄をタンクローリーで行い、ミサイル攻撃を受けないようにして、エネルギー備蓄を守っているという。15日夜間も大規模なミサイル攻撃があり、ウ空軍は32発のロシアのミサイルのうち16発を破壊した。
それと、12台しかないロ軍のTor-M2DT+DT-30の対空ミサイルシステムが、ヘルソン州で2両破壊されている。最新鋭防空システムをなぜ、ウクライナで使用するのかは分からないが、宣伝のためのようである。
ロ軍は、ウクライナに近い空軍基地にジェット戦闘機400機を集めている。とうとう、温存していた航空戦力を使い、ウ軍を破壊するようである。
しかし、このジェット戦闘機は、維持するだけでも毎年大量の部品を消費するので、制裁で部品不足になり、機体から外した部品で他の機体を修理していた。「共食い整備」が常態化していたが、空軍を温存しても、部品がなくなり、時間経過と共に稼働機体が減っていくことになり、温存から積極的攻撃にシフトするようである。
なぜフィンランドは戦車供与を見送ったのか
2月15日からブリュッセルで、54ケ国を集めて会合が行われた。ここで出されたウ軍の要望のトップは、砲弾であり、ストルテンベルグNATO事務総長は、各国に砲弾の増産を依頼した。これを受けて、米ペンシルベニア州スクラントンの弾薬工場で155mm砲弾の生産量が月間1万5,000発から7万発にした。フランスも兵器生産を加速させ、追加のカエサル自走榴弾砲を多数、ウクライナに送るという。
ポーランドは、レオパルト2A4を32両、ドイツがレオパルト2A6を14両を4月までにウ軍に提供するとした。カナダはレオパルト2A6を4両を供与している。A4は改修が必要であり、4月末提供になり、ドイツとカナダ分の18両以下しか3月までには提供できないことになった。
そして、フィンランドはレオパルト2の供与を見送った。NATO加盟後に供与するとした。デンマークとオランダも供与しないという。
このため、ストルテンベルグ事務総長は、トルコでエルドアン大統領と会談して、フィンランドの加盟承認を急ぐように依頼した。
このほかに、ノルウェーは砲弾と弾薬を提供するとしたし、ポーランドは、偵察などの義勇兵をウクライナに送るようである。レズニコフ国防相は、笑顔で欧米製戦闘機も供与の方向であるとしたが、詳細は不明である。しかし、英国ではパイロットの訓練が開始した。
フランスは、AMX-10RC戦闘偵察車14両をウクライナへ引き渡した。EUは、ロシアに対する工業製品など総額110億ユーロ(約1.58兆円)以上の輸出禁止を発表した。このなかには、トイレの便器もある。それと、ロシアにドローンを供与したとして、イラン革命防衛隊の関連団体も制裁対象に加えられた。
2月24日までに大攻勢の成果を出したい露軍が取る戦略
一方、ロシアは、大攻勢を掛けたが、今一である。このため、東部2州を3月中に占領するとしたが、達成困難となり、その代わりにバフムトを3月中に占領するとした。しかし、現時点で困難となり、4月中のバフムト占領とした。バフムトからM03号線を北上して、スロビンシクやクラマトルシクを目指すようであり、もう1つがクレミンナからリマンを占領して、クラマトルシクを目指すようである。
もう1つが、2月24日までに、ロ軍は大攻勢の成果を出したいようであり、今後、航空兵力も使い、成果を出すことになる。
ロシアは、他国からの支援がない分、自国軍事産業での増産が必要である。国家総動員体制になり、費用的には3年間ぐらいの戦費はあるが、部品調達が問題であり、多くを中国から調達している。
中国は半導体とマイクロチップをロシアに輸出している。米国は、中国企業32社を輸出禁止のリストに登録した。このため、米国の半導体製造装置企業の40%が中国から撤退した。
それと、モスクワの小売店舗ではシスコ製品がなお入手可能な状況にある。トルコやアジア諸国の業者がシスコの許可を得ず、規制をかいくぐってロシアに供給しているためで、米当局の取り締まりも総じて届かない。このように並行輸入が横行しているので、ロシアは必要な汎用半導体も入手できるようである。
中国との関係では、気球問題もあり、米中での軍同士の連絡電話が不通になっているともいう。このため、中国の動向が注目されている。ロシアを助けて、欧米との関係を途絶するのか、ロシアを見放して、欧米よりにシフトするのかである。
「ロシア有利」となるアメリカ共和党の対中強硬策
バイデン大統領は、中国との関係を維持して、ロシア包囲網を築く方向であり、共和党はロシアとの関係を正常化してでも、対中での強硬姿勢である。ホーリー米共和党上院議員は、「軍事資源には限界がある。米国は中国を抑止するためにウクライナよりも台湾を優先すべきだ」と述べた。
ここに米国の政治的な対立が、世界動向に影響しそうである。共和党の政策では、停戦を早期に実現することになり、ロシアに有利である。
しかし、バイデン政権内でも、ビクトリア・ヌーランド国務副長官は、戦争の目的は「クリミア半島の奪回とロシアのレジーム・チェンジだ」としたが、ブリンケン国務長官は「米国がウクライナにクリミアを占領するよう積極的に奨励してはいない」という。ブリンケン国務長官は、クリミアを奪還されたら、ロシアは核使用になる可能性があるので、それを避けたいようである。
そして、欧州各国は停戦すると、ロシアの侵略犯罪・戦争犯罪や人道に対する罪が罰せられないし、ロシアは反省することなく力を蓄え、再び侵略することになるとみている。このため、欧州諸国、特にロシア近傍国は、ウクライナを全力で応援することになるし、ドイツもやっと、全力で応援するようになった。
これに引きずられて、イスラエルもウクライナへの支援を本格化するようである。しかし、フィンランドなどは、自国防衛も視野に入れる必要があり、レオパルト2の供与を見送った。
ウクライナ戦争が長引くほど有利になる中国
この中、ミュンヘン安全保障会議が開催された。中国は王毅外交トップをこの会議に送っている。そして、習近平国家主席は、ロシアによるウクライナ侵攻記念日に「平和演説」を行い停戦を呼びかけるが、中国は当面高みの見物であろう。
また、会期中には気球問題で対立する米中間で、ブリンケン国務長官と王毅氏の会談も検討されている。ウクライナ侵攻が長期化する中、西側諸国は法の支配の重要性や戦争犯罪を訴えて対ロシア包囲網を広げたいが、中立的な立場の新興国・途上国の動向にも注目される。
パキスタンは、パキスタンの武器をウクライナに持ち込むためにポーランドと協力を開始したように、ウクライナ側により多くの新興国・途上国がついてくれるように、欧米は働きかけることになる。
G7外相会合で、ロシアを支援する第三者に「支援をやめなければ深刻な代償に直面する」と警告する議長声明をしたが、自国製ドローンをロシアに供与するイランを念頭に置いているし、中国も視野に入れているとみられ、G7による追加の制裁を示唆した。
マクロン仏大統領は、「ロシアを勝たせてはならない」という。また、国際法廷を設置する方向で検討をするともいう。これに対してポーランド首相は「ウクライナが勝たないといけない」という。ここでも、温度差が出ている。
一方、「ウクライナ戦争が長引けば長引くほど中国が有利になり、権威主義的な国家のトップがロシアから中国にかわるだろう」といい、かつ「中国は台湾にソフトに対応する一方で、地下金脈を通じて2024年総統選で民進党を敗北させるのが当面の目標である」と台湾の国策研究院の郭育仁執行長はいう。
世界秩序の大変革が起きているとも見える。
さあどうなりますか?
●「プーチンの征服は失敗」 バイデン氏、制裁強化へ 2/21
ロシアが侵攻を続けるウクライナの首都キーウ(キエフ)を20日訪問したバイデン米大統領は、ゼレンスキー大統領との共同記者会見で「プーチン(ロシア大統領)による征服戦争は失敗している」と述べた。ウクライナを断固として支援し続けると強調。ロシア企業に対する追加制裁を週内に発表すると明らかにした。
バイデン氏は、侵攻開始から24日で1年となるのに合わせてキーウ入りした。米政府によると、過去に大統領がアフガニスタンやイラクなど米軍が駐留した戦地を訪れたことはあったが、ウクライナに米軍はおらず、異例の訪問。支援を加速させ、民主主義陣営の結束を固める狙いがある。
●ロシアに幻滅したインド 進む武器の国産化 2/21
ロシアがウクライナ侵攻を開始したのは2022年の2月24日、約1年前だ。それ以来、世界は大きく変わった。それは、日本もインドも同じである。
1年前、インドが直面したのは、古い友好国であるロシアと、新しい友好国である西側諸国との間で板挟みになったことだ。インドが選択したのは、独自路線をいく、というものだった。
特にインドが困ったのが、今後、インドの武器調達をどうしたらいいか、という問題だった。ロシアのウクライナ侵攻は、現代でも、国家と国家は戦争をする可能性があり、戦争では、大量の武器を必要とすることだった。
そこで本稿は、インドが、武器の調達を通して、どのようにして独自路線へと進もうとしているか、概観する。その上で、インドを日本側に近づけていくには、何をしたらいいのか、提案するものである。
ロシアへの義理と不信のジレンマ
22年3月、国連安全保障理事会(安保理)で、ロシアによるウクライナ侵略への非難決議が出た際、インドは棄権した。インドはロシアを非難しないことを決めたのである。
一方で、4月、ブチャでの虐殺が明るみになった際、インドは国連安保理で、この行為を非難した。9月、モディ首相はプーチン大統領に「今は戦争の時代ではない」と述べ、戦争を止めるよう促している。総じていえば、インドは、ロシアが行ったウクライナ侵攻を、良いことだとは思っていないが、ロシアを非難しないという態度を示したのである。
なぜロシアを非難しないのか、それは過去70年、ロシアは一貫してインドの味方だったからだ。例えば第3次印パ戦争において、米国は、インドを威嚇するために空母を派遣した。インドでは、ソ連が潜水艦を派遣して、米空母の背後に浮上し、米空母を威嚇してくれた、という話が信じられている。
また、インド軍が保有する武器を見ると、約半分がロシア製だ。特に正面装備(戦闘の最前線に立つ戦車、戦闘艦艇、戦闘機をさす)にロシア製が多い。
武器は、高度で繊細なのに乱暴な環境で使用する。だから専属の整備部隊がいて、常に修理して使うものだ。だから修理部品が必要だ。
また、正面装備の場合、弾薬を使う。弾薬の供給が必要だ。ロシア製の武器を装備しているということは、修理部品と弾薬の供給で、ロシアに依存しているということである。
第3次印パ戦争で、インドが、パキスタンへの攻撃準備を進めた際、インドの準備は整っていなかった。例えば、戦車の70〜80%は修理中だった。だからインドはソ連に、修理部品を急ぎ供給してくれるよう頼んだ。
ソ連は、輸送機に修理部品を一杯に積んで、運んできた。輸送機は航続距離が足りず、パキスタンを攻撃するための武器の部品を積んでいるのに、パキスタンのイスラマバードに着陸して一回給油してからインドに運んだ、というエピソードがある。
このような関係だから、インドは、例え、ロシアのウクライナ侵攻が悪いことだと思っていても、ロシアのことを非難しないのである。それは日本的に言えば、義理だ。
しかし、実際には、インドはロシアに対して不信感を増幅させてもいる。そもそも、ソ連が崩壊した時、ソ連依存だったインドは、武器の調達に困った。
今度は、ロシアがウクライナを侵攻してから、インドに武器の部品や弾薬が来なくなっている。ロシア自身が戦争で武器の部品や弾薬が必要だし、西側の経済制裁で製造に支障をきたしているからだ。武器の供給者として、ソ連やロシアは信頼できなくなってきているのだ。
敵対国との関係を深めるロシア
それだけではない。ソ連とロシアは、中国に対する態度が違う。ソ連は、中ソ対立があり、中国には武器を売らなかった。しかし、ロシアになってから、ロシアは中国に武器を売るようになった。それがインドにとって懸念だ。
印中国境での衝突が起き、印中両軍が戦闘準備態勢で展開するようになって、この問題はクローズアップされ始めている。ロシアは、「インドに売っている武器の方が、中国に対して売っている武器よりも、いいものである」と主張してきた。しかし、それが真実かどうか、インドは確認できない。軍事機密だからである。
しかも、最近は、ロシアはパキスタンにも武器を売っている。これは、ロシアと中国の協力が進むにつれて、起きたことだ。
例えばパキスタンは、中国と共同開発したJF-17戦闘機と、中国製のJ-10戦闘機を導入している。この2つの戦闘機のエンジンはロシア製だ。また、パキスタン軍はロシアから戦闘ヘリコプターも輸入し始めた。
これらの取引について、インドはロシアに抗議しているが、結局、ロシアはインドの抗議を無視して、パキスタンに輸出したのである。ロシアがインドの味方なら、なぜそんなことをするのか。
だから、インドは、ロシア製の武器の導入を増やす方向性にはない。ロシア製の武器の内、100以上の部品について、インドは、技術導入を受けて国産化する計画を進めている。
西側諸国への不信感も強いインド
ロシア製の武器のかわりに西側諸国の武器を増やす、そういった動きも顕著になっている。西側諸国からの武器輸入は、過去10年明らかに増えており、米国、英国、フランス、イスラエルからの武器輸入を合計すると(図3の青色部分)、ロシアから輸入(図3の赤色部分)を上回っている。
最近では、例えば、インド海軍の空母艦載機の選定が注目されている。過去、ロシア製のミグ29戦闘機が検討されてきた。しかし、今、米国製のF/A−18戦闘機か、フランス製のラファール戦闘機が優勢といわれている。
インドの西側諸国への配慮は、ロシアのウクライナ侵攻の際も、いくつか細かく、確認されている。その一つは、インドが、西側諸国の対ロシア経済制裁を、非難しなかったことだ。中国は、西側諸国を繰り返し非難しているから、その点で大きく違う。
また、プーチン大統領に対しては「今は戦争の時代ではない」といったが、西側諸国に対しては、何も言っていない。インドは、ロシアに配慮しつつも、今回のウクライナ侵攻はロシアが悪い、という点では、西側諸国と認識を一致しているのである。
ただ、問題は、インドは西側諸国に対しても、不信感を持っていることだ。そもそもインドは、西側諸国である英国の植民地にされていたのである。また、米国との関係が友好的になったのは過去20年で、それまでは関係が安定しなかった。だから、インドは、ロシアだけでなく、西側諸国からの武器輸入に依存することも避けたいのである。
独自の力を持ちつつあるインド
だから、インドにとって目指す目標は、国産化だ。例えば、23年1月26日の、インド共和国記念日の軍事パレードにおいては、その傾向がはっきり見えた。
例年、軍事パレードの花形は戦車だ。毎年、そのパレードにはロシア製のT-90戦車が含まれていた。ところが、今年はT-90戦車がいないのである。国産のアージュン戦車だけだ。
アージュン戦車は、装甲が厚く強力だが、巨大で、多くの問題を抱えていたため、インド軍が採用を渋った戦車だ。インド軍はT-90戦車があれば、アージュン戦車はいらない。開発した科学者たちのために、義理で少しだけ保有する、という立場だった。
ところが、今年、パレードに出たのは、アージュン戦車だけである。この傾向は22年に始まったもので、国産であることが、以前より重要になったのだ。
インドで開かれた武器の展示会「エアロ・インディア」でも、その傾向は顕著だ。国産の戦闘機、戦闘ヘリコプターなどが、主役級として出てくるようになった。インドの国防大臣も、国産戦闘機開発の偉業をほめたたえ、これからは国産であることを強調している。もちろん、どこの国でも国産をアピールするのだが、今年のアピールは、より強い。
日本はどう関与すべきか
今後、インドはどのような方向へ進むだろうか。インドは、ソ連やロシアとの深いつながりからスタートして、徐々に西側諸国と関係を改善してきた国だ。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、その傾向には拍車がかかるだろう。
だが、インドは、西側諸国への不信もあって、国産化へ力を入れていくのは間違いない。そして実際に、戦車も、戦闘艦艇も、戦闘機も、自ら作る力を持ち始めている。
興味深いのは、インドが国産といっている武器が、実際には、多くの輸入部品で構成されていることだ。例えば、アージュン戦車は60%が輸入品といわれている。インドの国産艦艇も、国産戦闘機も、エンジンは米国製である。
インドに対する武器輸出で成功を収めてきたイスラエルやフランスの例を見ても、インドの国産の武器、またはロシア製の武器の改造パーツのようなものを売ることで、徐々にインドの武器体系に食い込んできた歴史がある。
つまり、今後、インドが国産の武器を積極的に推進する中で、その国産の武器の部品を供給する方法がより重要になってきている。まさに「浸透」するように、インドに食い込んでいく方法である。
今、日本とインドの間では、海軍艦艇に搭載する最新型アンテナ「ユニコーン」の取引が協議されている。軍事用無人車両の共同開発も行っている。
それらが成功すれば、「浸透」の好例になろう。インドの国産の武器開発プロジェクトに浸透し、修理や弾薬の供給を通じた関係を強化することが、長い目で見て、インドを日本側に近づけていく、有用な方法と考えられる。
●諦めない露軍に「弾薬生産が追い付かぬ」と焦る米欧、戦争の正念場 2/21
英首相「今こそウクライナへの軍事支援を倍増させる時」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の盟友ボリス・ジョンソン元英首相に突き上げられているリシ・スナク英首相は18日、ミュンヘン安全保障会議で「戦争に勝つためにはウクライナはもっと大砲や装甲車、防空手段を必要としている。今こそ軍事支援を倍増させる時だ。今後数カ月で昨年と同規模の装備を提供する」と演説した。
「日を追うごとにロシア軍は(ウクライナに)さらに大きな痛みと苦しみを与えている。この状況を変えるにはウクライナの勝利しかない。英国は世界で初めてウクライナに戦車を提供し、パイロットと海兵隊員を訓練する国になったばかりだ。長射程の兵器を提供する最初の国になるのもロシアが間違っていることを証明するためだ」
英紙タイムズは対艦ミサイルのハープーン(射程約240キロメートル)や空中発射巡航ミサイルのストームシャドウ(同約560キロメートル)を含めるべきかどうか話し合いが行われていると報じている。実現すればウクライナ軍がクリミア半島を射程にとらえることができるが、戦争のエスカレートを警戒するバイデン米政権が首を縦に振るかどうか。
英国政府は6月にロンドンでウクライナ復興会議を主催する。翌7月、リトアニアの首都ビリニュスで開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に先立ち、英国は同盟国やパートナーを集めて、ロシアの将来の侵略からウクライナを守ることを支援する新しい安全保障上の憲章をビリニュスで打ち立てることを促したいという。
独外相「占領を認める形で停戦すれば国際秩序と国際法が終わる」
フランスのエマニュエル・マクロン大統領もミュンヘン安全保障会議で「ロシアは戦争を選んだのだから対話の時はまだ来ていない。戦争犯罪にも手を染めた。ロシアはこの戦争に勝てないし、勝ってはならない」と述べ、西側はウクライナ戦争の長期化に備える用意があることを強調した。プーチン政権を崩壊に追い込んでもロシアは変わらないとの見方を示した。
ロシアがウクライナに侵攻して間もなく1年。ミュンヘン安全保障会議でのパネルディスカッションにはアントニー・ブリンケン米国務長官、ドイツのアナレーナ・ベアボック外相、ウクライナのドミトロ・クレーバ外相の3人が登壇した。
ベアボック氏はロシアが空爆を止め、撤退しない場合、3つのポイントを意識する必要があると指摘する。
(1)ロシアは西側が疲弊し、国際社会が屈服することを望んでいる、(2)ロシアのウクライナ占領を認める形で停戦すれば国際秩序と国際法、つまり国連文化の終わりを意味する、(3)西側がウクライナを支援していなかったらブチャやマリウポリのような惨劇がウクライナ全土で繰り広げられていた恐れがある――ということだ。
ブリンケン氏は「ロシアが今日、軍を撤退させれば戦争は終わる。ウクライナが戦闘をやめればウクライナは終わる。武力による領土奪取を正当化するような結果を招くことは世界中のあらゆる国の利益に反している。そんなことをすれば世界中でパンドラの箱を開けることになる」と力を込めた。ブリンケン氏は中国がロシアに武器を供与しないよう釘を刺した。
NATO事務総長「ウクライナの弾薬消費率はわれわれの生産率より何倍も高い」
クレーバ氏は「私たちにとって短い勝利は領土の完全な回復だ。長い勝利は損害賠償、犯罪加害者の説明責任、最も重要なのはロシアが変わることだ。ウクライナが欧州連合(EU)やNATOの一員になればロシアは変わる。ウクライナが完全に欧州大西洋地域の一部となることで欧州大西洋地域における耐久性のある安全保障が実現すれば問題は解決する」と訴えた。
ブリンケン氏によると、ロシア軍はウクライナでこの1年足らずの間に20万人もの死傷者を出した。ウクライナへの侵略戦争とウラジーミル・プーチン露大統領の方針には関わりたくないという理由で100万人ものロシア人が祖国を脱出した。ロシアでビジネスをしていた1000社以上の米国企業が撤退した。
ノルウェー軍の事実上の最高司令官エイリク・クリストファーセン氏は1月下旬に「ウクライナ軍の死傷者はおそらく10万人以上だろう。加えて約3万人の市民が殺害された」との見方を示している。
ウクライナ戦争は長期戦の様相を呈し、消耗戦に陥っている。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は次のような懸念を示した。
「現在、ウクライナの弾薬消費率はわれわれの生産率よりも何倍も高い。われわれの軍需産業は圧迫されている。例えば大口径弾薬の待ち時間は12カ月から28カ月に伸びた。今日注文しても納入は約2年半後になる。そのため生産力を増強し、生産能力に投資する必要がある」
NATOは武器・弾薬の備蓄目標を増やす計画だが、そう簡単にはいかない。
ウクライナ軍はNATOと旧ソ連時代の17種類の大砲を使用
シンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャック・ワトリング上級研究員は英紙デーリー・テレグラフへの寄稿で「ウクライナ戦争は歴史的な紛争と比較して過剰な量の砲弾を使用しているわけではない。むしろ冷戦終結後のNATOの空洞化を端的に示している。武器・弾薬の生産引き上げはオン・オフでできるものではない」と指摘している。
例えば砲弾の製造だけでも薬莢の鍛造、火薬の製造、増加発射薬の製造、信管の製造、充填の5つの工程からなる。ウクライナ軍はNATOと旧ソ連時代の17種類の大砲を使用しており、仕様が分からないものもある。砲弾は戦時下では大量に使用されるため納入価格はできるだけ低く抑えられる。軍需メーカーのインセンティブは大幅に低下するという。
ブリンケン氏も「武器・弾薬の生産ラインを再び稼働させるのは電気のスイッチを入れるように簡単ではない。努力と時間が必要だ。正直なところ兵器を製造する側も生産ラインを再開するのであれば6カ月で停止するようなことはないことを知りたがっている」と生産増強の難しさを語っている。
ロシアの国防問題に詳しい米シンクタンク、ランド研究所のダラ・マシコット上級政策リサーチャーは米外交誌フォーリン・アフェアーズへの寄稿で「米欧がロシアを過大評価したように今度は過小評価する恐れがある。ロシア軍は重要な問題点を修正した。劣悪な計画を克服するため指揮系統を修正し、戦術の多くを変更した」とこの1年を振り返る。
「ロシアの作戦が崩壊すると言うのは早計だ」
「ロシアの作戦が崩壊すると言うのは早計だ。プーチンは長期戦に持ち込んでいる。ロシア軍は傷ついたとはいえ、複雑な作戦や適応学習、他に例を見ない激しい戦闘に耐える能力を備えている。ウクライナで大きな損失を被った後、陣地を固め、人員を増やし、ウクライナの反攻を難しくしている」(マシコット氏)
ロシア軍も失敗から学んでいる。マシコット氏によると、ウクライナのエネルギーインフラを無力化する大規模なドローン(無人航空機)攻撃など複雑な作戦を実行している。ウクライナをほぼ無傷で手に入れようとした初期の段階では採用されなかった作戦だ。自軍の通信に影響を及ぼさずにウクライナ軍の通信を妨害する電子戦ツールも使用している。
M142高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」(射程80キロメートル)による壊滅的な攻撃を受けた後、司令部や多くの兵站基地を射程圏外に移動させた。南部ヘルソン州ではドニプロ川右岸から撤退した後、多層防御を構築した。ロシア政府は長期戦に備えるため経済を徐々に戦時体制に移行させている。
「ロシアの軍需産業基盤は経済制裁で疲弊しているかもしれないが、工場は無傷で、24時間体制で需要に応えようとしている。ミサイルは不足気味だが、対艦巡航ミサイルや防空ミサイルを再利用して在庫を増やしている。1月現在、ロシアの攻撃はウクライナのエネルギーインフラの約40%を損傷し、一時は1000万人以上の電力を停止させた」(マシコット氏)
ウクライナ軍が領土を大幅に奪還できることを示せるかがカギ
プーチンは不法に併合を宣言したルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン4州すべてを手に入れると明言し、「長い過程」を経る用意があることをほのめかしている。ロシア軍に詳しい米シンクタンク、海軍分析センター(CNA)ロシア研究プログラム部長マイケル・コフマン氏はポッドキャスト「ウォー・オン・ザ・ロック」でこう分析している。
「ロシア軍の攻勢はすでに数週間前から始まっている。今年中に戦争が終わるとも、ウクライナへの西側支援に区切りが打たれるとも思わない。何かが起きるとしたら来年以降だろう。西側の軍事支援は夏ごろにピークを迎える。今後6カ月、あるいは8カ月でウクライナ軍が領土を大幅に奪還できることを示せるかがカギを握る」(コフマン氏)
英国における戦略研究の第一人者でイラク戦争の検証メンバーも務めた英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授はフォーリン・アフェアーズ誌で「戦争の根本的な問題は始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しいということだ。ロシアはウクライナの社会経済構造を攻撃することで勝利への道を探っている」と指摘する。
「ロシアは非効率的でコストのかかる戦略を取り続け、最終的にはその規模と犠牲を受け入れる覚悟がものを言うと考えている。これに対しウクライナの勝利への道はロシア軍を十分に後退させ、クレムリンに無益な戦争に乗り出したと思わせることにある。長距離システムの精度を活かしてロシアの補給線、指揮系統、兵力集中を叩く必要がある」という。
長距離兵器の供与に慎重なバイデン米政権
しかし、ハイマースから発射できる地対地ミサイル「MGM-140 ATACMS(エイタクムス、射程最大300キロメートル)」の供与について米国は備蓄が減ることを理由に慎重な姿勢を崩していない。ウクライナ軍が長射程の兵器でクリミアを攻撃すればロシアが戦争をエスカレートさせるとの懸念も根強い。
そうした中、2月20日、ジョー・バイデン米大統領は電撃的にウクライナを訪問。ゼレンスキー大統領と会談、ウクライナに5億ドル(約670億円)規模の軍事支援をさらに実施すると表明した。また対ロシア制裁を強化する考えも示した。
だが、焦点のMGM-140 ATACMSや、ウクライナが求める戦闘機の供与については、どのようなやり取りがあったのか、現時点では伝わってきていない。
核戦争への拡大を恐れるあまり消耗戦が続けば、時間はプーチンに有利に働き、ウクライナとその国民は生殺しのような状態に追い込まれていく。プーチンは10年かけてチェチェンを制圧した。チェチェンの首都グロズヌイは瓦礫と化した。西側は戦車だけでなく長距離ミサイルや戦闘機の供与に踏み切れるのか、ウクライナ支援はジレンマに陥っている。
●中国外相、ウクライナ戦争エスカレート「深く懸念」 きょうモスクワ入り 2/21
中国の秦剛外相は21日、ウクライナ紛争のエスカレートと状況が制御不能になるリスクを「深く懸念」していると表明した。
中国政府はロシアのウクライナ侵攻に対する批判を控えており、米政府は中国がロシアに軍事支援を行った場合、重大な結果を招くと警告している。
同相は演説で「一部の国に対し、火に油を注ぐことを直ちにやめるよう要請する」と発言。これらの国は「『今日のウクライナと明日の台湾』をあおることをやめるべきだ」とも述べた。
「いかなる形の覇権にも、中国の内政に対する外国の干渉にも、毅然と立ち向かう」とも表明した。
中国外交担当トップの王毅氏は20日、訪問先のハンガリーで、交渉を通じたウクライナ戦争の解決を呼びかけた。
タス通信によると、王氏は21日にモスクワ入りする予定。習近平国家主席は、ロシアのウクライナ侵攻から1年となる24日に「平和演説」を行う見通し。
中国政府は21日、習近平国家主席が打ち出した「グローバル安全保障イニシアティブ(GSI)」に関する文書も公表した。GSIは「不可分な安全保障」の原則を支持する内容。
ロシアも、他国の安全保障を犠牲にして自国の安全保障を強化しないという「不可分な安全保障」の原則に基づく1999年の合意の尊重を西側諸国に求めている。
●米大統領 ウクライナ予告なし訪問 ゼレンスキー大統領と会談  2/21
アメリカのバイデン大統領はロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの首都キーウを事前の予告なく訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。侵攻開始から1年となるのを前に、アメリカの支援は揺るぎないという姿勢を強調した形です。
アメリカのバイデン大統領は20日、去年2月にロシアによる軍事侵攻が始まって以降、ウクライナの首都キーウを初めて訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。
バイデン大統領は会談で、「ウクライナの独立と主権、領土の一体性に対する揺るぎない支持を示すためにここに来た」と述べたうえで、砲弾などおよそ5億ドル、日本円にしておよそ670億円相当の追加の軍事支援を伝えたほか、新たな制裁を近く発表することも明らかにしました。
アメリカ政府は事前の発表で、バイデン大統領が20日にワシントン郊外の空軍基地を出発し、ポーランドを訪問するとしていましたが、実際は前日の19日に秘密裏に出発し、予告なくウクライナに入りました。
バイデン政権の高官によりますと、政権内のごく一部の関係者が数か月かけて周到に準備したうえで、側近や医療チームなど最小限の人員だけが随行したということです。
ホワイトハウスによりますと、バイデン大統領は19日夜にポーランド南東部の街に大統領専用機で到着したあと、列車に乗り換えてウクライナに入り、およそ10時間かけて首都キーウまで移動しました。
そして、キーウにおよそ5時間滞在したあと、20日昼すぎに再び列車でキーウを出発し、20日夜、日本時間の21日の朝早く、国境に近いポーランドの街に戻ったということです。
バイデン大統領は、侵攻開始から今月24日で1年になるのを前に戦闘が続くウクライナを訪問することで結束を確認し、アメリカの支援は揺るぎないという姿勢を内外に強調した形です。
キーウ市民 バイデン大統領の訪問歓迎とさらなる支援に期待
アメリカのバイデン大統領が、ウクライナの首都キーウを事前の予告なしに訪問したことについて、キーウの市民からは、訪問を歓迎する声やアメリカからのさらなる支援を期待する声が聞かれました。
このうち、18歳の男性は「アメリカ大統領のウクライナに対する支持は私たちにとって重要です。戦争が始まった当初から、彼の訪問を待ち望んでいました。今後重要になるのが武器の供与で、今回の訪問はそれを確実にするものだと思います」と話していました。
50代の女性は、「大統領の訪問は、アメリカがウクライナを見捨てないということの証明です。私たちは戦闘機が供与されることを期待しています」と話していました。
また20代の女性は、「アメリカの支援は、ウクライナがこの戦争を勝ち抜くための保証です。この訪問は前線に大きな影響を与えるでしょう。きょうは記念すべき日です」と話していました。
EU 米大統領のウクライナ訪問を歓迎
EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表は20日、ベルギーで行われたEU外相会議のあと記者会見し、アメリカのバイデン大統領がウクライナを訪れたことについて、「ヨーロッパとアメリカの結束と、ともにウクライナを支援し続けるという、われわれの決意を明確に示すものだ」と述べ歓迎しました。
またEUとしても、ウクライナへの軍事支援として、すみやかに弾薬を供与できるよう来月行われる国防相会議で、具体的な方策を話し合う考えを示しました。
さらに総額110億ユーロ、日本円で1兆5000億円を超える規模の輸出禁止措置などを盛り込んだロシアに対する追加制裁について、軍事侵攻から1年にあたる今月24日までに各国が合意するとの見通しを示しました。
松野官房長官「アメリカが連帯示す動き 敬意表す」
松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「侵略から1年を前に、アメリカがウクライナへの連帯を示す動きとして敬意を表す」と述べました。
また「今週24日にはG7=主要7か国首脳が引き続き結束して対応するべく、ゼレンスキー大統領も招いてテレビ会議を主催し、5月の広島サミットに議論をつなげていきたい。議論を行う中で、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くG7の強い意志を力強く世界に示していく」と述べました。
一方、岸田総理大臣のウクライナ訪問については「現地の安全対策など諸般の情勢を踏まえて検討を行っているが、現時点では何も決まっていない」と述べました。
バイデン大統領のキーウ訪問 時系列でみると…
アメリカ政府の事前の発表では、バイデン大統領はアメリカ東部時間の20日午後7時に首都ワシントン郊外の空軍基地を出発し、ポーランドに向かうとしていました。
しかし、実際には、バイデン大統領を乗せた大統領専用機「エアフォース・ワン」は、前日19日の午前4時15分に空軍基地を出発していたということです。
この訪問にはアメリカの有力紙など、ごく少数のメディアが同行を許されましたが、通信手段も回収されたということで、アメリカ政府は訪問が事前に漏れないよう細心の注意を図ったとみられます。
ホワイトハウスによりますと、バイデン大統領は19日夜にポーランド南東部の街、ジェシュフに大統領専用機で到着したあと、車で、国境に近い街、プシェミシルまで移動し、ここで列車に乗り換えてウクライナに入りました。
列車での移動は、首都キーウに到着するまでおよそ10時間に及んだということです。
同行したメディアによりますと、バイデン大統領は現地時間20日午前8時にキーウに入り、午前8時半すぎにゼレンスキー大統領と妻のオレーナ氏が待つ宮殿に到着しました。
ゼレンスキー大統領との会談や共同発表を終えたバイデン大統領は午前11時19分に宮殿を離れ、キーウ中心部にある大聖堂を訪れました。
訪問にはゼレンスキー大統領も同行し、2人は大聖堂に続いて、戦死したウクライナ兵士を追悼する壁まで歩き、献花しました。
その後、午前11時40分に車で現地を出発し、正午ごろキーウにあるアメリカ大使館に到着しました。
バイデン大統領は46分間、大使館にいたあと再び車に乗り、午後1時すぎに列車でキーウを離れました。
バイデン大統領のキーウでの滞在時間はおよそ5時間でした。
そして、バイデン大統領を乗せた列車は、ポーランドに戻り、国境に近い街、プシェミシルに20日午後8時45分、日本時間の21日午前4時45分に到着したということです。
このあとバイデン大統領は21日、ポーランドの首都ワルシャワでドゥダ大統領らとの会談を行う予定です。
●バイデン大統領 ウクライナ電撃訪問後 隣国ポーランドに到着  2/21
ロシアによる軍事侵攻開始から1年になるのを前にウクライナの首都キーウを事前の予告なしに訪問したアメリカのバイデン大統領は日本時間の21日、ウクライナを離れ、隣国ポーランドに到着しました。滞在中、ポーランドのドゥダ大統領らと会談し、同盟国との結束を確認し、ウクライナへの支援を続ける姿勢を強調するとみられます。
アメリカのバイデン大統領は20日、去年2月にロシアによる軍事侵攻が始まって以降、事前の予告なしに初めてウクライナの首都キーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談し、アメリカの支援は揺るぎないと強調しました。
バイデン大統領としては軍事侵攻開始から1年となるタイミングでリスクを取って訪問することでウクライナを支え続けるというメッセージを鮮明にした形です。
キーウでおよそ5時間滞在したバイデン大統領は列車でポーランドに戻り、その後、専用機で日本時間の21日朝、ポーランドの首都ワルシャワに到着しました。
バイデン大統領は21日はワルシャワでポーランドのドゥダ大統領と会談するほか、演説を行って侵攻が長期化する中でも国際秩序を維持するためウクライナへの支援を必要なかぎり続ける姿勢を改めて強調するとみられます。
翌22日にはNATO=北大西洋条約機構の加盟国のうち東欧諸国の首脳らとも会談し、同盟国との結束を確認したい考えです。
●NATOトップ、プーチン氏に「和平の計画なし」 ウクライナでの戦争は2年目に 2/21
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は21日までに、ロシアのプーチン大統領について、「自身の野心を変えた兆候はない」との認識を示した。ロシアによるウクライナ侵攻から今週で1年が経過する中、戦争がどのように終結するのか誰も見通せない状況だ。
ストルテンベルグ氏はドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議でCNNの取材に答え、「むしろ正反対の事態を目にしている。プーチン氏は和平どころかさらなる戦争を計画している」と強調。ロシア側は「既に攻勢を開始している」とし、ウクライナ東部での戦闘、具体的には同地域の都市バフムートでの戦いに言及した。
「これが春季の大攻勢なのか、それともそれに向けたある種の前触れに過ぎないのかは判断が難しい。しかし彼らは一段と多くの兵士と兵器を投入している」と、同氏は付け加えた。
ストルテンベルグ氏によれば、ロシアは貧弱な装備と兵站(へいたん)をより多くの兵士で埋め合わせようとしている。ひたすら兵士らを波状攻撃に投入しているだけと形容し、第1次世界大戦以来目にしていない種類の戦闘だとの見解を示した。
その上で紛争がどのように終結するのかは見通せないとしつつ、西側によるウクライナへの軍事支援が重要な意味を持つのは確実だと指摘した。
ウクライナが主権国家として勝利し、今後の交渉による平和的な解決を望むなら、今軍事支援を提供することが必要だと述べ、交渉がウクライナにとって有効なものになるかどうかは、「戦場での強さ」にかかっていると主張した。
●侵攻から1年、バフムートの攻防が激化 ロシア軍32万?犠牲払い前進 2/21
ロシア軍によるウクライナ侵攻から2月24日で1年となる。この節目に合わせるような形で、ロシア軍の「大規模攻勢」が始まったとの情報が相次いでいる。欧米はウクライナを支援するため、戦車の供与を決めたが、部隊として実戦に投入されるにはまだ時間がかかりそうだ。戦況はどうなるのか――。
「私はロシア軍が再びキーウを狙うことを疑わない」
ウクライナ軍トップ、ザルージニー総司令官(大将)が昨年末、「エコノミスト」誌にこう述べた。ザルージニー大将はその指導力でウクライナ国民の尊敬を集めている。それだけに、この発言は国民から重く受け止められている。
彼が危惧するように、ロシア軍は本当にキーウ再侵攻を狙っているのか。ウクライナ・プラウダ紙(2月5日)が、レズニコフ・ウクライナ国防相へのインタビューで尋ねたところ、彼は歴史をひもときながら1年前の侵攻劇を振り返った。
「首都征服は、戦争における目的であり、シンボルです。モスクワ征服をナポレオンが狙い、ベルリン陥落が第2次世界大戦を終わらせたように」
現在続く戦争おいてはどうか。国防相はこう述べる。
「ウクライナ征服のため、キーウ侵攻をしようというロシア人の夢は実現しない。彼らは人口4万人の東部のバフムート市だって5カ月も戦って陥落できていない。キーウの人口は400万。市街戦をやろうとしても、非常に多くの市民の抵抗にあうでしょう」
総司令官の言葉については、「(軍人として)意識的に最悪のシナリオを語り、侵攻に備え、抑止しようということだった」という。
隣国ベラルーシでのロシア軍の配置がすべてを物語っている。1年前はロシア兵3万人がいた。そこから南へ侵攻、首都方面を襲った。
レズニコフ国防相によると、今はその4割の1万2千人しかいない。
兵員の輸送ヘリコプターも1年前の10分の1だ。ロシアは、ウクライナ軍の注意をここにひきつけ、兵力分散を狙っている。
「全方面からロシアが再侵攻してくる、との見方が国内で根強いが……」とのウクライナ・プラウダの質問に、国防相は「ロシアの戦略は変化した」と、次のように答えた。
「(1年前は)ロシアは戦力を分散させ、一気にウクライナすべてを占領しようとし、失敗した。多くのエリート部隊を失った。そこで、新しい戦略を採用。それは、兵力を集中し、『10メートルずつ』、徐々に陣地を奪い、(ウクライナの兵力を)押し出すというものだ」
ロシアが兵力を集中し、大攻勢のありうる場所として、「ウクライナの東部と南部」をあげる。南部戦線については次のように説明した。
「ウクライナ軍が奪還したヘルソン州西部への、ロシア軍の再侵攻は至難のわざだ。(州西部と、ロシアが占領中の同州東部をへだてる)ドニプロ川を渡らないといけない。だが、橋はロシアが焼き落とした。舟で渡る彼らを、わが軍は砲撃して沈めるだろう」
危険があるのは、ヘルソン州の東隣、ザポリージャ州だという。
「(ロシアが支配する州南部の)陸上から攻撃してくる可能性がある。(ロシアが占領中の東部ドンバス地方とクリミア半島とをつなぐ)回廊を拡大するのがロシアの夢だからだ」
目下、最大の焦点は、東部戦線だ。「ロシアの大攻勢が始まった」との指摘がウクライナ国内外から出ている。
アメリカのロシア専門家コフマン氏は、ロシアの軍事的な主要目標について、「それは東部ドンバス地方だ」とし、攻勢を強めているとツイートした(2月6日)。
ドンバスでの最大の激戦地、バフムートをめぐり、イギリス国防省は、「ロシアの傭兵集団ワグネルが2、3キロ前進した」とツイートした(2月10日)。
バフムートを包囲しようと、ロシアは、その北、東、南の3方面で前進を見せる。
バフムート攻撃のロシアの主力は、囚人を含む傭兵集団ワグネルだった。今、ドンバスで、正規軍が大幅に増強されつつある。
ウクライナメディアによると、ロシア陸軍はエリートの落下傘部隊の半数をバフムート北方約50キロの地点に投入。攻勢をかけようとしている。
「バフムートの周辺で、ロシアの大規模侵攻がすでに始まった」。元ウクライナ軍人の軍事専門家ジュダーノフ氏は欧米系のロシア語テレビ局「Current Time TV」(ボイス・オブ・アメリカとラジオ・フリー・ヨーロッパが設立)に、そう語った。
装甲車両との連携がない中、歩兵が進軍する「肉弾戦」の様相を呈しているという。
そのため、犠牲者が急増。バフムートをはじめ、各戦線で毎日800人以上のロシア将兵が亡くなっている。イギリス国防省は次のようにツイートした(2月12日)。
「ウクライナ軍参謀本部によると、この2週間、ロシアは侵攻開始の第1週以降で最大の犠牲を出した。このデータの傾向はおそらく正確で、直近の7日間では一日平均824人が死亡。これは昨年6月、7月の4倍以上だ。理由は、きちんと訓練された兵員や連携、(兵器・兵站などの)リソースが欠けていることだ。バフムートなどの状況がそれに輪をかけている」
ジュダーノフ氏はロシア部隊がそれでもバフムート方面で前進している一因に「ウクライナ軍の迫撃砲と、その弾の不足」をあげる。イギリス国防省も「ウクライナ軍は高い損耗率が続いている」と述べる。
防衛に苦戦するウクライナの「ゲームチェンジャー」となりうるのは、欧米製の戦車や戦闘機だ。
西側の戦車は、3月末〜4月にウクライナに供与される予定とされている。イギリスが「チャレンジャー2」を14両、ドイツ製の「レオパルド2」をドイツなど数か国が約80両送ることになっている。アメリカも「エイブラムス」31両を送る計画だが、時期はずっと後になる。
戦車は装甲が厚く、攻撃の際は、射撃目標にほぼ百発百中。しかも一般の乗用車並みの速さで移動できる。ロシアの防御陣地を突破するうえでの「決戦兵器」だ。
西側の戦車は性能でロシア製を上回る面もあるようだ。アメリカのフォーブス誌(2月10日)は、ドンバスで、英国製「チャレンジャー2」とロシア最強の戦車「T90」との直接対決がおこるかもしれないと予測。敵の発見能力など、前者の優位性を指摘した。
ところが、西側の高性能の戦車の実戦投入が遅くなりかねない情勢だ。ウクライナ兵の訓練の難しさについて、レズニコフ国防相は次のように述べる。
「訓練のための最初の戦車部隊をポーランドに派遣している。戦車兵がシステムをマスターし、整備兵が修理を理解すれば完了する。しかし、訓練は一台の戦車や戦車部隊で完結しない。中隊や大隊の規模で作戦する場合、(歩兵、砲兵などとの)連携が必要になる。(その訓練は)数カ月かかる」
ウクライナは「西側の戦車は300台必要」と、さらなる支援を求めてきた。ところが、ここにきて、英国、ドイツなどを除く欧州の戦車供与国の動きが鈍り、3月末に間に合うかは微妙だ。
レズニコフ国防相は「300台の中には、ポーランドなどからのソ連製戦車も含めカウントしている」とウクライナ国民向けには説明している。
戦闘機も先行き不透明だ。ウクライナの軍関係者は「パイロットの訓練に1年はかかる」と述べる。かりにアメリカ製のF16戦闘機などが供与された場合でも、今年は戦力になりそうもない。
「32万人のロシア兵がウクライナの戦場にいる」。ウクライナ政府はこう見積もる。アメリカの専門家コフマン氏は「25万人あまりだろう」とみる。これでも1年前より数万〜10万人多いが、さらなる増派が懸念されている。ニューヨーク・タイムズ紙(2月1日)は次のように伝えた。
「ロシアでは15万〜25万人の兵力が、予備役か訓練中、あるいは国内の基地にすでに配置されている。彼らをいつでも派兵できる状態だ。NATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長も『彼らは、さらなる戦争を準備し、そのため、20万人以上の兵士を動員しようとしている』と述べた」
これからの数カ月、ウクライナはロシアの大攻勢を持ちこたえられるのか。西側はさらなる支援に本腰を入れられるか。戦争は決定的な段階を迎えている。
●ロシア 去年のGDP 前年比-2.1% 軍事侵攻に対する制裁の影響  2/21
ロシアの統計庁が20日発表した去年1年間のGDP=国内総生産の伸び率は、前の年と比べて2.1%のマイナスになりました。ウクライナへの軍事侵攻に対する欧米などの制裁の影響を受け、2年ぶりのマイナス成長となりました。
ロシア国営のタス通信によりますと、このうち卸売・小売業が12.7%のマイナス、製造業が2.4%のマイナスなどとなっていて、欧米などの経済制裁の影響が指摘されています。
一方、農業や林業、漁業などは6.6%、建設業は5%、それぞれ増加したとしています。
専門家などの間では、当初、GDPの伸び率は、ふた桁のマイナスになるとの見方も出ていましたが、輸出の柱となる資源やエネルギーの価格高騰によって、輸出額を押し上げたことなどからマイナス幅は当初の予想よりも小さくなりました。
ウクライナへの侵攻を続けるロシアに対して、欧米などがロシア産原油に上限価格を設定するなど、追加制裁を科していく中で、今後、ロシア経済にどれほどの影響が出るかが焦点となります。 
●プーチン大統領が侵攻継続姿勢を強調 侵攻後初の年次教書演説  2/21
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を開始して以降初めて行った年次教書演説で、軍事侵攻を改めて正当化したうえで「ロシアを打ち負かすことは不可能だ」と述べ侵攻を続ける姿勢を強調しました。
さらに、アメリカとの核軍縮条約の履行を一時的に停止すると一方的に主張し、アメリカを強くけん制しました。
ロシアのプーチン大統領は、日本時間の今夜6時ごろからモスクワ中心部のクレムリン近くの建物で年次教書演説を行いました。
このなかで、プーチン大統領は、「ウクライナのネオナチ政権からの脅威を排除するため特別軍事作戦を一歩一歩、慎重に進め、直面している課題を着実に解決していく」と述べました。
そして「西側諸国がウクライナを使って戦争の準備をしていた。私たちはそれを止めようとした」と述べウクライナ侵攻を改めて正当化したうえで「彼らは、戦場でロシアを打ち負かすことは不可能だと理解すべきだ」と述べ、侵攻を続ける姿勢を強調しました。
プーチン大統領は、欧米側を軍事的にけん制する発言も繰り返し「ロシアの核抑止力は91%以上で最新の兵器を装備している」と述べ、核戦力で威嚇しました。
そしてアメリカとの核軍縮条約「新START」について「条約への参加を停止していることを発表せざるを得なくなった。脱退はしない」と述べ、核軍縮条約の履行について一時的に停止すると一方的に主張しました。
さらにアメリカが新たな核兵器の実験を検討していると主張した上で、「ロシア国防省は準備しなければならない。アメリカが実験を実施すれば、われわれも行う」と述べ、アメリカを強くけん制しました。
また、プーチン大統領は、欧米側が制裁を強化してもロシアの経済と統治システムは欧米側が信じているよりもはるかに強力だと強調しました。
ロシア大統領選挙は来年予定どおり実施されるとも明言し、軍事侵攻が続くなか国民に結束を呼びかけました。
年次教書演説は、大統領が年に1度、議会や政府の代表を前に内政や外交の基本方針を示すものです。去年は、軍事侵攻を続ける中で延期されたことから今回は侵攻を開始して以降初めてで、プーチン大統領はおよそ1時間45分にわたり演説を続けました。
●プーチン大統領発言概要
「ウクライナは西側諸国に隷属し戦争準備」
プーチン大統領は、日本時間の午後6時ごろから始まった年次教書演説で「ウクライナのネオナチ政権からの脅威を排除するため特別軍事作戦を一歩一歩、慎重に進め、直面している課題を着実に解決していく」と述べました。
そのうえで「ロシアは平和的な手段でウクライナの危機を解決するためあらゆることをしたが、その裏では完全に異なるシナリオが準備されていた。ウクライナは西側諸国に隷属し戦争の準備をしていた。私たちはそれを止めようとした」と述べウクライナ侵攻を改めて正当化しました。
「この演説をロシアにとって困難な時に行っている」
プーチン大統領は「私はこの演説を、ロシアにとって困難な時に行っている。それは世界中で根本的に不可逆的な変化の時期で、ロシアと人々の未来を決める最も重要な歴史的なできごとでもある」と述べました。
軍事侵攻継続する姿勢を強調
さらに「欧米諸国はウクライナでの紛争を世界的な対立に変えようとしている。ただ、彼らは戦場でロシアを負かすことは不可能だと理解すべきだ」と述べ軍事侵攻を継続する姿勢を強調しました。
“軍事作戦参加者も招待”
ロシア大統領府によりますと、会場にはウクライナでの軍事作戦に参加している人も招待されたということです。また会場では、プーチン政権の主要閣僚や、ウクライナ東部の親ロシア派の指導者プシリン氏などの姿もみられました。集まった人たちは、時折拍手を交えながら、演説を耳を傾けています。
前回の演説は1時間超
ロシアの国営メディアによりますと、前回、おととし4月の演説はおよそ1時間20分間行われたということです。
“西側諸国がしかけた戦い何も達成されず”欧米側をけん制
「西側諸国は、われわれに対して軍事面や情報面だけでなく、経済面でも戦いをしかけているが何も達成されなかった。ロシアの経済と統治システムは西側諸国が信じているよりもはるかに強力なことが判明した」と述べ、ロシアへの経済制裁を強める欧米側をけん制しました。
自国の核戦力を誇示
「ロシアの核抑止力は91%以上で最新の兵器を装備している。このレベルをロシア軍の全体に拡大する必要がある。ロシア軍の兵器の威力は海外の兵器よりも大きいものだ」と述べ、ロシアの核戦力を誇示しウクライナへの軍事支援を続ける欧米側を強くけん制しました。
来年の大統領選実施を明言
「ことし9月の統一地方選挙と2024年の大統領選挙はすべての民主的および憲法上の手続きに従い、法律に厳密に従って行われる」と述べました。プーチン大統領自身が立候補するかなどは明らかにしませんでしたが、軍事侵攻を続けるなかでも来年の大統領選挙は予定通り実施されると明言しました。
アメリカとの核軍縮条約「参加を一時停止」
そしてアメリカとの核軍縮条約「新START」について「脱退はしないが、参加を一時停止する」と述べ、核軍縮条約の履行についてロシア側は一時的に停止すると一方的に主張し、アメリカを強くけん制しました。
このあと演説は日本時間の午後8時前に終了しました。
●バフムト前線の兵士の寿命はたった「4時間」──アメリカ人義勇兵が証言 2/21
ウクライナ東部バフムトの戦場はおぞましい――ウクライナの前線で戦っているアメリカ人義勇兵は、こう警告している。
ロシアが2022年2月にウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始してから、まもなく1年になる。軍事専門家たちは、冬の寒さが和らいで春が近づくなか、ロシア軍が新たに大攻勢をかけるのではないかと予想している。
なかでも2022年7月から激しい戦闘が続いている要衝バフムト、元米海兵隊員のトロイ・オッフェンベッカーによれば、現地は身の毛もよだつような惨状だという。
外国人義勇兵で構成されるウクライナ防衛外国人部隊に参加しているオッフェンベッカーは米ABCニュースに対し、ウクライナ軍の兵士がバフムトの前線に立ってからの「寿命」は、わずか4時間程度だと語った。
「現地の状況はきわめて悪い」と彼は述べ、さらにこう続けた。「かなり多くの犠牲者が出ている。前線に立った兵士の寿命は、4時間程度だ」
オッフェンベッカーは、バフムトはその凄惨な状況から「肉挽き器」と呼ばれていることを引き合いに出し、戦況はまさに「混沌としている」と説明した。
ロシアは昨夏以降、バフムトの掌握を目指してこの地域に集中的に戦力を投入してきた。だがほかの数多くの地域での戦闘と同様に、ロシア軍はここでもウクライナ軍の激しい抵抗に直面している。
大攻勢は「既に始まっている」が
だがオッフェンベッカーは、現地にいるウクライナ軍の部隊があとどれだけ持ちこたえられるかは分からないとしている。彼はABCニュースに対して、バフムトに焦点を当てたロシア軍による大攻勢は、既に始まっているとの見方を示した。
バフムトの戦いでは、ロシア側もウクライナ側もかなりの戦死者が出していると言われる。オッフェンベッカーは、ロシア軍については、装備の損失や兵士の訓練不足が原因で苦戦を強いられているという報道があるものの、バフムトに対しては「ノンストップで」攻撃を仕掛けてきており、「昼も夜も絶え間なく」砲弾が飛んでくると述べた。
元米海兵隊大佐でシンクタンク「戦略国際問題研究所」の上級顧問であるマーク・キャンシアンは本誌に対し、バフムトにおける戦いは第一次大戦を彷彿とさせると言う、、「第一次大戦では戦線にはあまり動きがなかったが、兵士や装備は激しく消耗した」と述べた。
キャンシアンは、自分もほかの軍事専門家も、ロシア軍による攻勢は「一気に」行われるもので、彼らがある日突然「大規模な攻撃」を仕掛けてくると考えていた、と説明。だがバフムトの場合はそれとは異なり、一気にというよりこの地域に徐々に戦力を集中させていくつもりのように思えると述べた。
バフムトの掌握に成功すれば、ロシア軍にとっては昨年夏以降で初めての大きな勝利となる。しかしロシアはかなり厳しい戦闘に直面している。ウクライナ側はアメリカなどの同盟諸国から軍事支援を得てロシア軍による多くの攻撃に持ちこたえてきた。だが一方で、これら同盟諸国の政治家の間では、ウクライナにさらなる支援を提供すべきかどうかをめぐって慎重論が出始めているのも事実だ。
本誌は2月20日、ロシア軍はとりわけバフムトでの戦いで、多くの戦死者を出しているという英国防省の見方を報じた。同省はさらに、ロシアは実際に勝利を達成しなかったとしても、バフムトでの勝利を発表する可能性があるとも推測した。
米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」も、ロシアが今週中にバフムトを掌握できるとは考えていない。ISWは、現地では激しい戦闘が繰り広げられているものの、戦争開始から1年(2月24日)を目前に控えるなかで、ロシア軍がバフムートで「進軍ペースを上げている」ようには見えないと報告した。
ISWは、24日までにバフムトを掌握することができなかった場合、ロシアが再び民間施設を標的にミサイル攻撃を行う可能性があるとも指摘した。
●バイデン大統領がウクライナへ なぜ今? 舞台裏では 2/21
ロシアによる軍事侵攻開始から1年になるのを前にウクライナの首都キーウを事前の予告なしに訪問したアメリカのバイデン大統領は日本時間の21日、ウクライナを離れ、隣国ポーランドに到着しました。
滞在中、ポーランドのドゥダ大統領らと会談し、同盟国との結束を確認し、ウクライナへの支援を続ける姿勢を強調するとみられます。
こうした詳細が、バイデン大統領がウクライナを離れたあと、明らかになりました。
徹底した情報管理 “実は前日に出発”
バイデン大統領のウクライナ訪問は徹底した情報管理のもとで行われました。アメリカ政府の事前の発表では、バイデン大統領はアメリカ東部時間の20日午後7時に首都ワシントン郊外の空軍基地を出発し、ポーランドに向かうとしていました。しかし、実際には、バイデン大統領を乗せた大統領専用機「エアフォース・ワン」は、前日19日の午前4時15分に空軍基地を出発していたということです。専用機はバイデン大統領が通常乗るものと比べると小型で、小さい空港に向かう際に使われることが多い、C-32と呼ばれる機体が選択されました。
同行記者は2人だけ 通信手段も回収
この訪問に代表取材として出発時から同行が許可されたのはアメリカの有力紙などの記者2人だけで、通信手段も24時間以上にわたって回収されたということで、アメリカ政府は訪問が事前に漏れないよう細心の注意を図ったとみられます。この記者2人に宛てた出発などの詳細を記したメールのタイトルは「ゴルフトーナメントの到着時の案内」とされる徹底ぶりでした。
カービー戦略広報調整官「訪問の予定はない」
また、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官はバイデン大統領が訪問を決断した出発2日前の17日の記者会見で大統領のウクライナ訪問について聞かれ「その予定はない」と明確に否定し、19日に放送されたアメリカのテレビ局のインタビューの中でも否定していました。この番組が放送された時間にはすでに、バイデン大統領は、空軍基地を出発していました。このほか、ホワイトハウスが19日夜に発表したバイデン大統領の日程では、すでに大統領が15時間近く前にアメリカを離れていたにもかかわらず、ポーランドへの出発は20日と公表していました。
ハリス副大統領周辺も訪問知らされず
また、NBCテレビは政府高官の話としてハリス副大統領の周辺も訪問を知らされていなかったと伝えています。ハリス副大統領は先週、安全保障について話し合う国際会議に出席するためドイツのミュンヘンを訪れていましたが、予定を早めてバイデン大統領が出発した前日の18日までに帰国するよう指示されていたということです。大統領と副大統領の2人がともにアメリカ国内にいない事態を避けるためとみられますが副大統領の側近は理由は知らされずに「交渉の余地はない」とだけ伝えられて帰国を早めるよう、促されていたと伝えています。
列車でウクライナに 到着までは約10時間
ホワイトハウスによりますと、バイデン大統領は、19日夜にポーランド南東部の街、ジェシュフに大統領専用機で到着したあと、車で、国境に近い街、プシェミシルまで移動し、ここで列車に乗り換えてウクライナに入りました。列車での移動は首都キーウに到着するまでおよそ10時間に及んだということです。こうした詳細はバイデン大統領がウクライナを離れたあと、はじめて公開されました。
ゼレンスキー大統領との会談や共同発表
同行したメディアによりますと、バイデン大統領は現地時間20日午前8時にキーウに入り、午前8時半すぎに、ゼレンスキー大統領と妻のオレーナ氏が待つ宮殿に到着しました。ゼレンスキー大統領との会談や共同発表を終えたバイデン大統領は午前11時19分に宮殿を離れ、キーウ中心部にある大聖堂を訪れました。
キーウ滞在は約5時間
訪問にはゼレンスキー大統領も同行し、2人は大聖堂に続いて、戦死したウクライナ兵士を追悼する壁まで歩き、献花しました。その後午前11時40分に車で現地を出発し、正午ごろキーウにあるアメリカ大使館に到着しました。バイデン大統領は46分間、大使館にいたあと再び車に乗り、午後1時すぎに列車でキーウを離れました。バイデン大統領のキーウでの滞在時間はおよそ5時間でした。
“窓はカーテンで覆われた” 列車でポーランドに戻る
そして、バイデン大統領を乗せた列車は、ポーランドに戻り、国境に近い街、プシェミシルに20日午後8時45分、日本時間の21日午前4時45分に到着したということです。このあとバイデン大統領は21日、ポーランドの首都ワルシャワでドゥダ大統領らとの会談を行う予定です。バイデン大統領がウクライナの首都キーウを訪れたあと、ポーランドに戻る際に乗車した列車の中の写真が公開されました。列車の窓はすべてカーテンで覆われて外からは見えないようになっていて、車両の真ん中に置かれた机をはさんでバイデン大統領とサリバン大統領補佐官が向き合って座っています。壁にはモニターが備え付けられているほか、ソファーのように見えるいすもあり、特別仕様の車両のようにも見受けられます。
Q.なぜ今のタイミングで突然の訪問?
A.侵攻から1年の節目で、ウクライナへの支援を続けるアメリカの決意は揺るがないと象徴的に示したかったのだと思います。アメリカの大統領が軍事侵攻が続いている国を訪れるというのは異例のことです。今回、あえてリスクを取って訪問することこそがウクライナを支え続けるという明確なメッセージだとバイデン政権の高官は強調しました。アメリカの歴代大統領はこれまでにもイラクやアフガニスタンなどを訪問していますが、アメリカ軍が駐留していないウクライナへの訪問は、そのリスクの大きさと重みが違います。このため今回の訪問では安全面に最大限の配慮がなされ、訪問は直前になってロシア側にも通知されていました。
Q.会談では具体的にどのようなやりとりが?
A.バイデン政権の高官によりますと今後の軍事支援などについて意見が交わされたということです。注目されるのは戦車に続いて、戦闘機の供与をめぐる議論が行われたかどうかです。ウクライナ側が戦況を変える切り札として供与を求めているからです。これについてバイデン政権の高官は「報道で取り沙汰されているさまざまな兵器について議論が行われた」と述べ、議題に上ったとも受けとれる発言をしています。今回、発表された追加の軍事支援に戦闘機は含まれていませんが、アメリカはこの1年間でおよそ4兆円にのぼる軍事支援を行い、支援する武器のレベルも徐々にあげてきています。アメリカとしては引き続きロシアを刺激しすぎないよう慎重に支援の範囲を見極めていくと見られ、最大の支援国、アメリカがどこまで軍事支援を行うのか、その内容が今後の焦点となります。
●中国外相、衝突激化を「深く憂慮」 欧米を批判 2/21
中国の秦剛外相は21日、北京市内で開かれた安全保障フォーラムで、ウクライナでの衝突が激化し続けることを憂慮していると述べ、欧米諸国の対応を批判した。
秦氏はこの日、中国外交部主催の藍庁論壇(ランティンフォーラム)での基調講演で、中国はウクライナ情勢が手に負えない状況に陥ることを「深く憂慮」すると述べた。
さらに、関係国は火に油を注いだり、中国を責めたり、「きょうがウクライナなら明日は台湾だ」という論法をあおったりすることをただちにやめるべきだと語った。
中国はこれまでロシアのウクライナ侵攻を非難せず、北大西洋条約機構(NATO)と米国に責任があると主張してきた。
ロシアの侵攻が始まってからちょうど1年となる24日を前に、中国の外交トップ、王毅(ワン・イー)共産党政治局員はロシアを訪問。中国がロシアに向けて、殺傷兵器の提供を検討している可能性も指摘されている。
一方、中国国営新華社通信によると、王氏は20日、中国は他国と協力して停戦と永続的な和平を目指す用意があると発言した。
●東部のロシア軍精鋭部隊は戦闘不能、主力戦車も1年で半分喪失 2/21
ロシア軍は、ウクライナ東部で多くの人員を喪失しており、これが同地域で一気に攻勢をかけたいロシア軍の作戦に影響が出始めていると、複数のイギリス国防省幹部が語った。
イギリス国防省(MOD)は日次報告で、ロシア側に多くの死傷者が発生していると指摘。特にドネツク州のバフムトやウフレダールでこの傾向が強く、「『精鋭』とされる第155および第40海軍歩兵部隊が非常に多くの人員を喪失し」これにより「戦闘不能に陥っている可能性が高い」と指摘している。
イギリス国防省は2月20日、ロシア軍は、ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナへの侵攻が始まってから1年となる2023年2月24日の節目に合わせて戦果を誇示する政治的な圧力に直面している、とも指摘した。
「ロシアは、開戦から1年目の節目に合わせて、バフムトを掌握したと主張する可能性が高い。ただしこれは、戦場での現状を無視した宣言になる」と、イギリス国防省の高官は語り、この春の大規模作戦で巻き返しができなければ、「ロシア上層部内部の緊張が増すだろう」と指摘した。
イギリス国防省とは別の西側の分析でも、ロシア軍は装備の更新に問題を抱えており、ルハンスク州における冬季の攻撃作戦でも、優勢を得るためのリソースに欠けているとみられるとの見解が示された。
主力戦車の半分を喪失
アメリカのシンクタンク、戦争研究所(ISW)は2月19日、ロシアは「膨大な数の」戦車を喪失しており、失った戦車の規模は16連隊に相当するとの見解を示した。それによれば、侵攻以降の1年間で、主力戦車のT-23BとT-72NB3Mのうちざっと1000両を破壊され、500両を奪われたという。使える戦車はあまり残っていないのではないか、とISWは見る。
ロシア軍が、再構成された機械化部隊を予備軍として保有しているのはほぼ確実だが戦力は限定的で、ルハンスク州の「現在の情勢を大きく変えることはできないとみられる」と、ISWのレポートは述べる。
ロシア軍が「一時的に」勢いを増す可能性はあるが、その場合でも「目標に遠く及ばないところで、攻撃の限界点に達する可能性が高く、戦場で大幅に進軍するには至らないとみられる」と、ISWは付け加えた。
アメリカの軍事関連シンクタンク、海軍分析センター(CNA)でロシア研究ディレクターを務めるマイケル・コフマンは2月18日、出演したポッドキャスト「ウォー・オン・ザ・ロックス」で、ロシア軍の新たな攻勢は、ウフレダールへの攻撃を皮切りに3週間前に始まっていたと指摘。ドネツクおよびルハンスクの2州では、5つ前後の前進軸が設けられていると指摘した。
この攻勢を「迫力不足」と呼ぶコフマンは、ロシアが再び徴兵による兵士の動員を行わない限り、「攻撃の密度が増すことはあっても、支配地域を広げるには至らないだろう」との見方を示した。
「ロシア軍が、現状よりもはるかに規模の大きな攻撃を仕掛けるには、2回目の動員を行わなければならない」とコフマンは言う。「数十万人規模の追加の人員」が必要だという。
一方、アメリカのジョー・バイデン大統領は2月20日にキーウを電撃訪問し、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナへの支援を改めて約束した。

 

●「ロシアを打ち負かすのは不可能」プーチン 年次教書演説で侵攻継続強調 2/22
ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻後初めてとなる年次教書演説を行い、「ロシアを打ち負かすことは不可能だ」と述べ、侵攻を継続する姿勢を強調しました。
ロシア プーチン大統領「我々に立ちはだかる課題を一歩一歩、一貫して解決し続けていく」
プーチン大統領は21日、およそ2時間にわたり年次教書演説を行いました。
その中でプーチン氏は「ロシアへの脅威を排除するため特別軍事作戦を開始した」、「戦争を引き起こしたのは西側で、我々はそれを止めようとしている」などと主張し、侵攻を改めて正当化しました。
そのうえで「一歩ずつ課題を解決していく」、「戦場でロシアを打ち負かすのは不可能だ」と述べ、侵攻を継続する姿勢を強調しました。
また、プーチン氏はアメリカとの間に唯一残る核軍縮の枠組み「新START」=新戦略兵器削減条約について履行を停止すると一方的に表明。ウクライナへの軍事支援を強化するアメリカを強くけん制しました。
さらに欧米の制裁にもかかわらず「ロシア経済は強固だ」と指摘。来年3月の大統領選は予定通り実施されるとも述べ、侵攻のさらなる長期化に向け国民に団結を訴えました。
こうした中、中国の外交トップ・王毅共産党政治局員が21日、モスクワを訪問し、プーチン氏側近のパトルシェフ安全保障会議書記と会談しました。
インタファクス通信によりますと、パトルシェフ氏は会談で、「西側がロシアと中国の封じ込めを図っており、国際舞台で両国の協力を深める必要がある」と述べたということです。
一方、ペスコフ大統領報道官は、プーチン氏と王毅氏の面会について「可能性は排除しない」と述べています。
●プーチン氏、核軍縮の履行停止を表明…ウクライナ侵略を正当化 2/22
ロシアのプーチン大統領は21日、モスクワで「年次教書演説」を行い、米露間の核軍縮枠組み「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を表明した。24日で1年となるウクライナ侵略を正当化し、ウクライナへの軍事支援を続ける米欧を批判した。
年次教書演説を行うロシアのプーチン大統領=AP年次教書演説を行うロシアのプーチン大統領=AP
年次教書演説は年に1度、議会など国内向けに内政・外交の施政方針を表明する。昨年は実施せず、ロシアによるウクライナ侵略以降では初めてとなる。
プーチン氏は演説で、新STARTについて、「ロシアは参加を一時停止していると表明せざるを得ない。脱退ではなく停止だ」と履行停止を表明し、「米国が実験を行えば、我々も行うことになるだろう」と述べ、核実験再開の可能性にも言及した。履行の再開にあたっては、「核を保有するフランスや英国といった北大西洋条約機構(NATO)加盟国の攻撃能力を考慮する必要がある」と述べた。
新STARTの後継枠組みを巡る協議は停止状態が続いており、米露間で唯一存続する核軍縮枠組みが消滅する可能性が出てきた。
ウクライナ侵略について、プーチン氏は「米欧諸国が戦争を始め、我々は停止するため武力を使っている」と主張し、「直面する課題を慎重かつ徹底的に解決していく」と戦闘を継続していく意向を強調した。「戦場でロシアを打ち負かすのは不可能だ」とも述べたが、具体的な戦果について言及することはなかった。

新戦略兵器削減条約(新START) / 米国とロシアの間で2011年に発効した核軍縮条約。21年に5年延長で合意した。戦略核兵器の削減義務や相互査察などを定める。1991年に締結した第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約。
●ロシア企業は国内投資を、西側依存は「危険」=プーチン大統領 2/22
ロシアのプーチン大統領は21日、西側諸国に資金を「乞う」者は代わりに国内に投資すべきだと述べ、財界エリートを批判した。
国内の政治家や軍、財界エリートに向けた演説で「手を広げて走り回り、ひれ伏し、金をせがんでも無意味だ」とし、「新しい事業を立ち上げ、金を稼ぎ、ロシアに投資すべきだ」と述べた。
ロシアのオリガルヒ(新興財閥)や実業家はウクライナ侵攻を受けた西側の制裁対象になり、不動産やヨットなどの資産が凍結または没収されている。
プーチン氏は「安全な場所、資金の避難先としての西側のイメージが幻で偽物であることが最近の出来事ではっきり示された」と語った。
ウクライナ紛争の結果、長年の懸案だったロシア経済の構造転換が起きるのを歓迎するとも述べ、ロシア企業が西側に依存するのは危険だと主張した。
また、昨年のロシア経済縮小が小幅にとどまったことについて、国の強靭性を示していると評価。政府は課題に迅速に対応し、経済が「ロシアの巨大な潜在力」を引き出せるよう取り組んでいると述べた。
国内投資への注力は内向きなシフトだが、ロシアは新しい市場にも目を向けている。プーチン氏はアジア太平洋地域が新しい有望な世界市場の一つだと指摘した。
●バイデン氏「ロシアの勝利にはならない」 プーチン氏演説への言及なし  2/22
21日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問したアメリカのバイデン大統領は、ポーランド・ワルシャワで「ウクライナは決してロシアの勝利にはならない」と連帯を呼びかけた。
アメリカ・バイデン大統領「1年前、世界はキーウの陥落に備えた。しかしわたしは、先ほどキーウ訪問から戻り、キーウの力強さを確認した」
バイデン氏は、演説の中で「ロシアが行った残虐行為から目をそらすことは誰にもできない」と訴え、結束を呼びかけた。
そのうえで、ロシア国民に対し「われわれはロシアを支配したり破壊しようとはしていない。この戦争は、決して必要なものではない」とメッセージを送った。
先立って行われたプーチン大統領の演説については言及はなく、今週、同盟国などとともにロシアへの制裁を強化する考えをあらためて示した。
●「プーチン大統領、7年以内にベラルーシを吸収」文書暴露… 2/22
ロシアが2030年までにベラルーシを吸収統合する具体的な計画を持っているという内容の文書が暴露された。ウクライナ戦争1年を迎えて緊張が高まっている中で出たニュースで、ロシアが計画通りにベラルーシを統合すれば、米国主導の北大西洋条約機構(NATO)がロシアと正面から立ち向かうことになるという分析が出ている。
20日(現地時間)、ウクライナメディアのキーウインディペンデント、ドイツメディアのドイチェ・ヴェレ(DW)などによると、「ロシアは10年内にベラルーシを吸収(absorb)、征服(subjugate)し、解体(dismantle)する計画だ」という内容のロシア内部の秘密文書が最近公開された。
該当文書は「ロシアのベラルーシでの戦略的目標」というタイトルの17ページの文書で、キーウインディペンデント、ドイツ日刊紙ジュートドイチェ・ツァイトゥングなどで構成された国際調査報道ジャーナリスト連合が入手したものだ。これに関連し、DWは「2021年にプーチン大統領直属の対外協力局が作成したものと推定される」と伝えた。
ロシアとベラルーシは1999年に「連合国家創設条約」を結び、経済統合を主に議論してきた。しかし、文書の内容だけによると、「ロシアの最終目標は『連合国家』ではなく、『合併』(merger)に近いものだ」と分析された。これについて、キーウインディペンデントは「ベラルーシに対するロシアの目標はウクライナに向けた野心と同じであり、NATOの立場では緩衝地帯なしにロシアと立ち向かうことになるだろう」と説明した。ベラルーシはウクライナとともに欧州諸国とロシアの間で緩衝国の役割を果たしてきた。
骨子は、2030年までにベラルーシの政治・経済・軍事領域をロシアが完全に統制するということだ。統合分野を政治・軍事部門、経済部門、文化部門の大きく3つに分類し、時期を短期(2022年)・中期(2025年)・長期(2030年)に分けて細部目標を設定した。
最も目立つのは政治・軍事的統合目標だ。2022年までに合同軍事演習を強化し、2025年までにベラルーシ内のロシア軍駐留を増やし、最終的には合同司令部を創設して統合された指揮体系を構築するということだ。また、ベラルーシの外交・国防政策、国境統制をロシアが管轄するという内容も盛り込まれた。
キーウインディペンデントは「2022年の状況だけを見れば、ロシアはすでにこのような目標を達成した」とし「ベラルーシが直接参戦したわけではないが、両国軍の合同演習、ベラルーシ内の兵器配備などがその根拠」と伝えた。昨年、ロシアが同国の領土を通じてウクライナの北部を侵攻したのも重要な点だ。
経済的には、単一通貨、単一関税・税金体系などを目指していることが分かった。単一通貨はロシアのルーブルになる可能性が大きい。ベラルーシは現在、ポーランドとバルト3国の港を利用して輸出品などを運送しているが、今後はロシアを通じてのみ運送できるようにする案も盛り込まれた。キーウインディペンデントは「昨年、両国間の貿易は前年比3倍増加した500億ドル(約6兆7400億円)に達した」とし、「すでに海外市場を多く失ったベラルーシの経済はロシアにますます従属している」と指摘した。このほか、原子力発電システムを統合する内容などが盛り込まれている。
文化・メディア関連政策をロシア政府が統制するという野心もうかがえる。親ロシアの雰囲気を形成するためにモスクワに友好的な非政府機構(NGO)ネットワークを構築し、クレムリン(ロシア大統領宮)の意思に合わせたメディアを拡大するという内容だ。ロシア政府が描く歴史観で教育するという目標もある。ロシアの大学で勉強するベラルーシの学生数を2倍に増やすために支援を拡大するというのが細部計画の一つだ。現在、ロシアで数学中のベラルーシ大学生は1万2000人程度と把握されている。
両国が「ロシア・ベラルーシ連合国家」の創設をめぐる議論を始めたのは1990年代半ばだ。両国は1999年には条約を結び、各自の主権と国際的地位を維持する方式の連合国家を作ることで一致した。しかし、エリツィン元露大統領からプーチン大統領に権力が移ると、ベラルーシのルカシェンコ大統領が足を引いてうやむやになった。
文書だけで残るかと思われた連合国家をめぐる議論が再び始まったのは、長期執権を通じて2020年民主化デモによって困難を強いられたルカシェンコ大統領がプーチン大統領に密着してからだ。プーチン氏とルカシェンコ氏は2021年9月、連合国家の創設に向けた28のロードマップに合意した。しかし当時、経済共同体統合が議論されただけで、政治的統合に関連した内容がなく「完全な合併は難しいだろう」という診断が出ていた。しかし今回の文書によると、「プーチンの軍事・政治的目標が非常に具体的」という評価が出ている。
該当文書の真偽をめぐり、ジュートドイチェ・ツァイトゥングなどは「多数の国の多数の情報機関・取材員を通じて確認した」と明らかにしながらも「真偽を判断することが難しいという意見も一部あった」と伝えた。
一方、ルカシェンコ大統領は20日、最大15万人規模の地域民防衛軍の創設を指示した。ウクライナ戦争1年を4日後に控え、バイデン米大統領がキーウを突然訪問し、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談した日に出たニュースだ。
ルカシェンコ大統領はこの日、国家安保会議で「男女ともに少なくとも兵器を扱うことができるようにし、有事の際には自宅と国家を守ることができるようにしなければならない」と指示した。同時に、「侵略行為がある場合、迅速かつ苛酷で、適切に対応する」と話した。ベラルーシ参戦説が絶えず提起されている中で出た報道だ。
●NATO、インド太平洋に接近=中国への警戒強める―ウクライナ侵攻1年  2/22
ロシアのウクライナ侵攻を契機に、北大西洋条約機構(NATO)が日本を含むインド太平洋地域に接近し、連携を強化している。武力による隣国侵攻と占領地の一方的併合という現実を前に、「台湾有事」への懸念が拡大。安全保障面で欧米とアジアを切り離すことができないとの認識を背景に、中国の覇権主義的な動きに警戒を強めている。
「もしプーチン(ロシア)大統領が勝利すれば、中国の思惑や決断に影響を及ぼすだろう」。NATOのストルテンベルグ事務総長は17日、ドイツのミュンヘンで、欧州の安保問題がアジアへ波及すると危機感を示し、ウクライナ支援の重要性に改めて言及した。
NATOは侵攻後の昨年6月、行動指針となる「戦略概念」を改定し、中国に初めて言及。「われわれの利益、安全保障、価値観への挑戦だ」と明記した。同年11月には軍事部門でも使われるレアアース(希土類)調達などを念頭に、中国依存を認識し、リスク管理を行うべきだという見解で一致した。
NATOにとってロシアは「仮想敵」だったソ連の後継国家で、冷戦後にパートナー関係を模索したものの、現在は「最も重大かつ直接の脅威」となった。欧州のロシア産天然ガス依存がエネルギー危機を引き起こしたことを教訓に、中国に対し「同じ過ちを繰り返さない」(ストルテンベルグ氏)との考えがある。
並行してNATOは、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国との関係を強化している。昨年は4月の外相理事会と6月の首脳会議に4カ国を招待。先月末には、ストルテンベルグ氏が日韓を訪問した。日本との共同声明では、ロシアと中国の「増大する軍事連携」に懸念を示すとともに、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調した。
NATOはリトアニアで今夏開催する首脳会議にも4カ国を招待する意向で、「今後の方向性を示す機会だ」(関係者)と期待を寄せる。米ジョージタウン大のサラ・モラー准教授は、米シンクタンクへの寄稿で「(昨年の招待が)一度限りではなく、近くNATOの新常態になる可能性を示唆している」と指摘。侵攻が続く中での日韓訪問自体に大きな意味があり、インド太平洋を巡るNATOの戦略は「新たな段階に入りつつある」と記した。
●14両のレオパルト2、ウクライナに数週間内に引き渡し ポーランド 2/22
ポーランド外務省は21日、主力戦車「レオパルト2」について、ウクライナ軍兵士の訓練が完了すれば、「今後2週間から3週間」で14両をウクライナに引き渡すと明らかにした。
外務省の報道官は、ポーランド政府はウクライナ政府への戦闘機の供与を支持しているものの、北大西洋条約機構(NATO)間で合意に達するにはまだ時間がかかるとの見通しを示した。
報道官は、NATOが戦車のときと同様に、ウクライナの人々をより支援できるようになることを希望するとし、戦闘機はウクライナでの戦争で非常に有用だと述べた。
報道官は「しかし、我々はNATOの加盟国であり、そのような問題すべてで合意に達し、一緒に参加したい。なぜなら、我々が一緒であれば、同盟はより強固なものになるからだ」と述べた。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 2/22
G7外相が共同声明 軍事侵攻続けるロシアを強く非難
G7=主要7か国の外相は21日、共同声明を発表し「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を可能なかぎり最も強いことばで非難する。ドネツク州、ルハンシク州、ヘルソン州、ザポリージャ州をロシアの領土に編入しようというプーチン大統領の取り組みは、露骨な国際法の無視であり、ウクライナの主権の侵害だ」として、ウクライナ東部や南部のあわせて4つの州の併合を一方的に宣言し、軍事侵攻を続けるロシアを強く非難しました。そして「われわれはロシアにさらなる経済的な代償を払わせる」として、追加の制裁を科す構えを示した上で、ロシアに対し一刻も早くウクライナから撤退するよう求めました。
イタリア メローニ首相がウクライナ訪問 軍事支援の継続示す
イタリアのメローニ首相は21日、ウクライナを訪問し、首都キーウでゼレンスキー大統領と会談したあと、記者会見を行い軍事支援を継続する考えを示しました。イタリアのメローニ首相は、ウクライナを訪問しロシア軍の侵攻で多くの市民が殺害されたキーウ近郊のブチャなどを視察し、ゼレンスキー大統領と会談しました。ロシアによるウクライナへの侵攻のあと、イタリアの首相がウクライナを訪問するのは、去年6月、当時のドラギ首相に続いて、2回目です。ゼレンスキー大統領との会談のあと記者会見したメローニ首相は「国家が攻撃された時に供与されるべきは防御的な兵器だ」と述べ、ロシアのミサイル攻撃に対応するための地対空ミサイルシステムのウクライナへの供与など、軍事支援を継続する考えを強調しました。一方で「航空機の供与は議論のテーブルに載っていない」と述べ、戦闘機の供与には否定的な考えを示しました。また、メローニ首相は「ウクライナの人たちの降伏によってもたらされる平和は真の平和ではない。ウクライナの降伏はロシアによるほかのヨーロッパの国々への侵略の始まりでしかない」と指摘しました。今月20日のアメリカのバイデン大統領に続くメローニ首相の訪問で、G7=主要7か国の現職の首脳のうち、ロシアによる侵攻のあと、ウクライナを訪問していないのは、日本の岸田総理大臣だけとなりました。
中国王毅氏とプーチン大統領側近が会談 首脳会談に向け調整も
中国で外交を統括する王毅政治局委員はロシアの首都モスクワを訪れ、21日にパトルシェフ安全保障会議書記と会談しました。会談の冒頭、パトルシェフ氏は「ロシアと中国の封じ込めを目指す欧米側に対し、国際舞台において両国の協力と関係をさらに深めることはとりわけ重要だ」と述べ、ウクライナ情勢や米中対立を念頭に中国との戦略的な関係強化の必要性を強調しました。一方、王氏は「中国とロシアの関係は成熟した性質を持っている。強固なもので、変化する国際情勢の中でもあらゆる試練に耐えるだろう」と述べました。こうした中、アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルは21日、関係者の話として、中国の習近平国家主席が数か月以内にロシアを訪問し、プーチン大統領と会談する計画を準備していると伝えました。ロシアによるウクライナ侵攻の終結に向けて、中国が和平交渉を後押しするねらいもあると伝えています。王氏とは22日、ラブロフ外相が会談する予定のほか、プーチン大統領が会談するとも伝えられ、中ロ両国の首脳会談に向けて調整を行う可能性もあります。
バイデン大統領 ポーランドで演説「ロシアの勝利 決してない」
軍事侵攻後、初めてウクライナを訪問したバイデン大統領は21日、隣国、ポーランドの首都ワルシャワで演説を行いました。この中でバイデン大統領は「1年前、世界はキーウの陥落に備えていた。私はキーウから戻ってきたばかりだが、キーウは今も力強くあると伝えたい」と述べました。その上で「侵攻によって試されたのはウクライナだけでなく、世界そのものだ。民主主義は弱くなるどころかより強くなった。専制主義こそが弱体化した」と訴えました。そして「残忍さが自由の意志をすり減らすことはできない。ロシアがウクライナで勝利することは決してない」と述べるとともに「われわれのウクライナへの支持が揺らぐことはなく、NATO=北大西洋条約機構が分断されることもない」と述べてウクライナを支え続けていく決意を改めて強調しました。また、バイデン大統領はロシア国民に呼びかける形で「多くのロシア人は隣国と平和に暮らしたいだけだ」と述べ、ウクライナで戦闘が続いているのはあくまで軍事侵攻に踏み切ったプーチン大統領の責任だと非難しました。
バイデン大統領 ポーランドのドゥダ大統領と会談
ポーランドの首都ワルシャワでの演説を前にアメリカのバイデン大統領は21日、ドゥダ大統領と会談しました。この中でバイデン大統領はロシアによる軍事侵攻が始まって以降、ポーランドがウクライナから避難してきた多くの市民を受け入れていることをたたえました。そして前日にウクライナの首都キーウを訪問しゼレンスキー大統領と会談したことに触れ「ウクライナに対するわれわれの支援は揺るぎない」と強調し、結束を呼びかけました。これに対してドゥダ大統領はバイデン大統領のキーウ訪問について「アメリカがヨーロッパや世界の平和と安定に責任をおっていることを示す力強いシグナルだ」と述べ、歓迎しました。アメリカ・ホワイトハウスの発表によりますと両首脳はウクライナへの支援やNATO=北大西洋条約機構を強化するための取り組みについて改めて確認したということです。
米ブリンケン国務長官 核軍縮条約停止は「無責任」
ロシアのプーチン大統領がアメリカとの核軍縮条約「新START」の履行を一時的に停止すると一方的に主張したことについて、アメリカのブリンケン国務長官は訪問先のギリシャで21日「非常に残念で、無責任だ」と述べて強く批判しました。そのうえで「ロシアが実際にどう行動するか注意深く見ていく。われわれはどのようなことが起きてもアメリカや同盟国の安全保障のために適切な態勢をとっていく」と述べました。
プーチン大統領 年次教書演説 核軍縮条約の停止を主張
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を開始して以降初めて行った年次教書演説で、アメリカとの核軍縮条約の履行を一時的に停止すると一方的に主張しました。また、ロシアの核戦力を誇示してウクライナへの軍事支援を強化するアメリカなどを強くけん制しました。ロシアが一方的な併合に踏み切ったウクライナ東部や南部の4つの州については「社会経済の発展に向け大規模なプログラムをすでに開始し、今後、発展させていく」と強調しました。さらにロシアで子どもを持つ家庭に支払われる手当てについては「新しいロシアの領土に住む人々も対象となった」と一方的に主張し、ウクライナの4つの州に対するロシアの支配を既成事実化していく姿勢を改めて示しました。一方、プーチン大統領は「私たちの義務は愛する人を失った家族を支援し子どもたちを育てることだ」と述べ、ウクライナの侵攻に関わって死亡したりけがをしたりした兵士やその家族を支援するための新たな基金を設立する考えを示しました。プーチン大統領としては、予備役の動員をめぐってロシア社会で大きな混乱が広がったことなどからロシア兵やその家族を支援する姿勢を強調し、国民の理解を得るねらいもあるとみられます。
ウクライナ南部 へルソンで砲撃 市民6人が死亡
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は21日、ウクライナの東部や南部で戦闘を激化させていて、南部では市民の死傷者も出ました。ロシア国防省は21日、ウクライナ東部のドネツク州やルハンシク州でウクライナ軍に打撃を与えたほか南部ヘルソン州でも、ウクライナ軍の自走式りゅう弾砲やレーダーなどを破壊したと発表しました。一方、ウクライナ国防省も東部などで激しい戦闘が行われているとしたうえで、南部ヘルソン州の州都ヘルソンでは、ロシア軍が民間のインフラ施設などに対して、30発の砲撃を行ったと発表しました。ウクライナ大統領府のイエルマク長官はSNSに投稿し、ヘルソンへの攻撃についてプーチン大統領が年次教書演説を行っているさなかに行われたとしたうえで「市民6人が死亡したほか、けが人もでている。住宅にも被害が出た」として民間人に死傷者が出たことを明らかにしました。
NATO事務総長「侵略者はロシア」ウクライナ支援強化の考え示す
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は21日、ウクライナのクレバ外相、EU=ヨーロッパ連合のボレル上級代表とベルギーにあるNATO本部で会談したあと記者会見しました。この中で、ストルテンベルグ事務総長はロシアのプーチン大統領が年次教書演説で、軍事侵攻を改めて正当化したことを念頭に「だれもロシアを攻撃していない。他国を侵略しているのはロシアでウクライナは侵略の犠牲者だ。われわれはウクライナが自衛の権利を行使するのを支援しているのだ」と述べ、ウクライナへの支援を強化する考えを改めて示しました。会談ではウクライナが大量の弾薬やさらなる兵器を必要とするなか、欧米の防衛産業の生産能力を強化する必要性や調達を迅速化する方策について協議したということです。また、ストルテンベルグ事務総長はプーチン大統領がアメリカとの核軍縮条約「新START」の履行を一時的に停止すると主張したことについて「遺憾に思う」と述べ、ロシア側に再考を促しました。
林外相 ウクライナ侵攻1年に合わせ開催の国連会合に出発へ
林外務大臣は、22日から4日間の日程で、国連本部のあるアメリカ・ニューヨークを訪問する予定で22日の夜、日本を出発します。一連の日程のうち、日本時間の23日に始まる国連総会の緊急特別会合では、ウクライナが提出し日本などが共同提案国となっている平和を求める決議案について触れ、ロシア軍の即時撤退などを盛り込んだ内容に各国の賛成を呼びかけることにしています。また、日本時間の25日に開かれる安全保障理事会の閣僚級討論では、安保理の機能不全も指摘される中、ロシアを強く非難し、法の支配に基づく国際秩序を維持・強化する重要性を訴える方針です。林大臣としては、G7=主要7か国の議長国で、安保理の非常任理事国を務める日本の外務大臣として、ウクライナ情勢をめぐる対応で存在感を示し、5月の広島サミットにつなげたい考えです。
●バイデン米大統領 約20分の演説でプーチン露大統領を10回も名指しし非難 2/22
アメリカのバイデン大統領が21日、ポーランドで演説し、ウクライナと民主主義諸国の優勢をアピールしました。
バイデン大統領は演説冒頭から前日のウクライナへの電撃訪問に言及し「ロシアが勝利することは決してない」と強い口調で断言しました。
バイデン大統領「ちょうどキーウに行ってきたばかりだが、キーウは強いままだ。ウクライナでロシアが勝利することは決してない、決してだ」
バイデン大統領は今回の演説の場所に、侵攻直後の去年3月の演説と同じ、ワルシャワの旧王宮を選びました。およそ3万人の聴衆の前で、侵攻から1年間で「我々は世界を強く結束させた」「民主主義はさらに強くなり、専制主義は弱体化した」と強調しました。
また、軍事侵攻の正当性を強調したロシアのプーチン大統領を、およそ20分の演説で10回も名指しし「この戦争は決して必要ではなかった。悲劇だ。プーチン大統領の選択だ」と厳しく非難しています。
一方で、バイデン大統領はヨーロッパ諸国で指摘される支援疲れにも言及し「プーチンは、まだ我々の信念を疑っているが、ウクライナへの支援が揺らぐことはない」と述べ、改めて各国の結束を呼びかけています。
●「ウクライナ紛争」が発生した「本当のワケ」 ロシアを激怒させ続けてきた欧米 2/22
なぜ世界各地で戦争や紛争は続くのか。世界経済はなぜ不安定なのか。
実は、現代という時代が今のようになったのは「アメリカとロシアの闘い=冷戦」が多大な影響を及ぼしている。もともと欧米とロシアのこの闘いは、100年以上も前から続いており、地政学の大家・マッキンダーもこの闘いを「グレートゲーム」として考察していた。つまり、ここ100年の世界の歴史は「地政学」と「冷戦」という2つのファクターから眺めると、とてもクリアに理解が広がるのである。
いまウクライナで起こっている戦争も、中東やアフガニスタンで紛争が絶えないのも、この「地政学」+「冷戦」の視点からみると、従来の新聞やテレビの報道とはまた違った側面が見えてくる。まさに、それこそが「THE TRUE HISTORY」なのだ。発売前から一部で大きな話題になっている、「地政学と冷戦で読み解く戦後世界史」から、とくに重要な記述をこれからご紹介していくことにする。
プーチンを支える勢力「シロビキ」の正体
ロシアがどん底から這い上がることができたのは、エリツィンを排除する機会をさぐっていた愛国派がようやく力を回復し、元KGBのプーチンをリーダーに据えることができたためだった。
プーチンはよく言われるような独裁者ではなく、このグループを代表する顔なのだ。このグループはシロビキと呼ばれる安全保障・軍関係の勢力に支えられており、党の官僚出身のゴルバチョフやエリツィンのように甘くはない。プーチンは1990年代にロシアを崩壊させたオリガルヒたちを押さえ込み、アメリカが「テロとの戦争」に気を奪われている間にコーカサス地方を安定させ、ヨーロッパへの石油の輸出を増やして経済と軍を再建した。
結果的に見れば、ソ連が消滅して共産主義を放棄したのはロシアにとって良い選択だった。エリツィンの時代には国内を跳梁する略奪者のおかげで地獄の苦しみを味わったが、ロシアはどん底の時代を通り抜けることで、資本主義の本質や西側の企みの正体など多くのことを学んだ。帝政ロシア時代の圧政とその後の共産主義しか知らなかったロシアは、資本主義にも精通する強国として甦っただけでなく、国際政治を最もよく理解できる国の一つになった。それはアメリカが世界を支配しながら世界の人々をほとんど理解していないのとは対照的だ。
アメリカ敵視による「中ロの接近」
中国では1993年にトウ小平の後を継いで国家主席になった江沢民が親米路線を進めたが、2003年に江沢民から胡錦濤に引き継がれると、北京の主権維持派が上海の江沢民派と衝突を始め、中国は次第にアメリカから離れ始めた。この時期は、アメリカがイラク戦争を始めて壁に突き当たり、ロシアの復活が進み始めた時期と一致する。
2008年、改革開放を始めて25年以上が過ぎ、国力を増した中国は、北京オリンピックを契機に大国としてデビューを果たした。2013年に習近平の時代になると親米派を本格的に排除し始め、ユーラシア大陸のインフラを整備して中近東やヨーロッパとつながる一帯一路計画(新シルクロード計画)をスタートさせた。2015年には中国の上海協力機構にロシアが主催するユーラシア経済連合を合併させる計画が始まり、翌年に大ユーラシア・パートナーシップ構想が発表された。中国とロシアは歴史的に複雑な関係をたどってきたが、こうして戦略的同盟を結んだのだ。もともと仲が良いわけではなかった中露がこのような方向に進んだのは、アメリカによる敵視の結果だった。
現在を深刻な対立に導いた「火種」
東西ドイツの統一は1990年9月に関係6ヵ国が条約に署名して10月3日に成立した。統一ドイツの誕生は冷戦がまもなく終了することを世界に示す歴史的な出来事ではあったが、その合意に至る過程で、後の世界を再び深刻な対立に導く種が蒔かれていた。
ドイツ統一に向けた協議で最も大きな問題になったのは、統一後のドイツはNATO(北大西洋条約機構)に加入するのか、ソ連軍はドイツ東部にとどまるのか、東欧はNATOへの加入を許されるのか、などといった点だった。もしドイツがNATOに加入すれば、米軍はNATO軍としてドイツにとどまり、米軍の核兵器もドイツに残ることになる。そうなった場合、米軍はそれまで東ドイツだった領域にも入って来るのか、ということもソ連にとって重大な関心事だった。またNATOはソ連を仮想敵としているため、ソ連に隣接する東欧諸国がNATOに加入すればソ連の安全保障は大きく損なわれることになる。
ソ連の外務省、国防省、軍の参謀本部、KGB、共産党政治局は、「ドイツの統一は、新しく生まれるドイツがNATOとワルシャワ条約機構との間で中立の立場を取るという条件のもとでなら受け入れる」との考えだった。統一後のドイツを中立にするとは、米英軍が西ドイツから引き揚げ、ソ連軍も東ドイツから引き揚げ、ドイツはNATOに加入しないということだ。
公的な場で最初にこの問題が語られたのは、西ドイツのゲンシャー外相が1990年1月に行ったスピーチだった。ゲンシャーは「ドイツ統合のプロセスは、ソ連の安全保障を毀損するものであってはならない。したがって、NATOは東方に拡大してソ連との国境に近づくべきではないし、現在の東ドイツにあたる地域には(統一後も)NATO軍を配備しない」と述べた。
アメリカのブッシュ(父)政権も、「ソ連がドイツの統一を認めるなら、我々はNATOを東に拡大させない」とゴルバチョフ政権に確約していた。それは次のような経緯による。
ゴルバチョフとアメリカのベイカー国務長官との運命の会談は、1990年2月9日に行われた。ベイカーはその2日前にモスクワに到着し、シェワルナゼ外相と会談して「もしかすると、この話し合いで、(現在の)東ドイツ(にあたる領域)にはNATO軍を配備しないという保証がなされるかもしれません。いや、実際のところ、それは禁止されるでしょう」と述べている。それは西ドイツには米軍が残ることを意味するが、ベイカーは手書きの備忘録に「(西ドイツの)NATOの管轄権は東側に動かない」と記している。
シェワルナゼ外相との会談後、ベイカーは9日のゴルバチョフとの会談でこう言った。
「もしソ連がドイツの中立と米軍の撤退に固執し、その結果、米軍がドイツから引き揚げてしまえば、ドイツは将来またヒトラーのような野望が首をもたげて核を持とうとするかもしれません。あなたはNATO軍も米軍もいなくなったためにドイツがそのようになる事態を望みますか? それともNATOが残って、しかし今の位置から1インチも(東に)拡大しないほうがよいと思いますか?」
これが有名なベイカーの「NATOは1インチも動かさない」発言だ。
ブッシュもサッチャーも約束を反故にした
だが、どれほどアメリカのベイカーが言葉で保証しようが、ソ連軍がカウンターバランスとしてドイツ東部にとどまらない限り、アメリカがNATOを東に拡大させないなどということを信じるロシア人がいただろうか。ゴルバチョフが犯した最大の誤りは、ベイカーの言葉を条約のなかで成文化するよう要求しなかったことだった。
翌2月10日、西ドイツのコール首相はゴルバチョフと会談して「我々はNATOの活動領域を拡大すべきではないと考えている」と述べ、ゴルバチョフから「NATOが東に向けて拡大しない限り、統一後のドイツのNATO加入に基本的に同意する」との重大な言葉を引き出した。ゴルバチョフのその言葉は、前日のベイカーの発言を受けたものだ。
同年5月に開始された東西ドイツ、アメリカ、ソ連、イギリス、フランスの6ヵ国による前述の協議でもその件は話し合われ、9月12日に最終合意して成文化された条約には、西ドイツのゲンシャー外相がその年の1月にスピーチで提示した「現在の東ドイツにあたる地域にはNATO軍を配備しない」という一節が入れられた。だが「NATOは東方に拡大してソ連との国境に近づくことはない」とは記されていなかったのだ。
5月31日にワシントンで行われたブッシュ(父)とゴルバチョフのサミットで、ブッシュ(父)はこう語っている。
「ドイツのNATO加入は、けっしてソ連に対する牽制ではありません。私を信じて下さい。我々はドイツの統合を(無理やり)プッシュしているのではないのです。そしてもちろん、我々にはソ連をいかなる方法でも害しようなどという意図はありません。そんなことは微塵も考えていません」
アメリカとイギリスは、「NATOは軍事的な側面を減らし、政治的な同盟とする方向に変えていく」と明言し、イギリスのサッチャーも6月8日にロンドンでゴルバチョフと会談した時に、「私たちはヨーロッパの未来に関するディスカッションにソ連に全面的に入ってもらうために、ソ連が確実に安全保障を(得られると)確信できる方法を見つけなければなりません」と述べている。
こうしてゴルバチョフは、西側のトップたちから「西側がNATOを東方に拡大してソ連の安全保障に脅威を与えることはない」と確約され、ドイツの統合に同意したのだ。合意文書に署名するのが9月になったのは、ソ連が国内の意見を調整したり、西ドイツから融資を受ける交渉などに時間を必要としたためだった。
翌1991年3月になっても、イギリスのメージャー首相はゴルバチョフに「我々はNATOの強化など話し合っていません」と断言していた。後にソ連の国防相が「東欧諸国はNATOに入りたがっているのではないか」と質問すると、メージャーは「そんなことは一切ありません」と否定した。同年の7月にソ連最高会議の議員たちがブリュッセルのNATO本部を訪れて事務総長と会談した時も、事務総長は「我々はソ連をヨーロッパ共同体から孤立させるべきではないと考えており、私もNATO会議もNATOの拡大には反対しています」と語っていた。
だがCIAのロバート・ゲイツ長官(後にブッシュ[子]政権・オバマ政権の国防長官)は、「ゴルバチョフがNATOの東方拡大はないと信じ込まされている間に、彼らはそれを押し進めていた」と批判していた。NATOがロシア国境に向かって拡大を始めたのは、東欧からソ連軍が引き揚げ、ワルシャワ条約機構が解散してから8年後の1999年だった。
新冷戦─現在のウクライナにつながる新たな闘い
アメリカは2002年にABM条約(弾道ミサイル迎撃ミサイルを制限する条約)から、2019年にはINF全廃条約(中距離核戦力全廃条約)から、ともに一方的に脱退し、ポーランドとルーマニアに弾道ミサイル迎撃ミサイルの発射システムを配備した。この発射システムはモスクワを標的とする中距離弾道ミサイルの発射が可能で、むしろそちらのほうが本当の目的だったとも言われている。ポーランドやルーマニアから核弾道ミサイルが発射されれば、モスクワには7〜8分で着弾する。ロシアの強い抗議は無視された。
さらにNATOは毎年、リトアニアや黒海のルーマニア沖などの、ロシアとの国境に近い地域で実弾発射演習や上陸演習を行っている。これらはみな、地政学で言うところの「ハートランド」、つまりロシアを攻めようとする動きのデモンストレーションに他ならない。
ウクライナでは2014年に政権転覆クーデターが起きた後、東部のロシア系住民が住む地域でロシア系住民の民兵とウクライナ軍の武力衝突が発生した。紛争を解決するため、2015年にロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスの間で「ウクライナ政府はドイツとフランスの監督のもとで、東部のロシア系住民が住む地域の自治権を認める法律を制定する」というミンスク合意がなされたが、ドイツもフランスもウクライナも行動せず、武力衝突は止まらなかった。むしろウクライナ軍とロシア系住民の民兵組織の戦闘は激化し、ウクライナ東部は内戦状態になった。ウクライナ軍はロシア系住民が住む地域に砲撃を続け、8年間に1万数千人のロシア系住民が殺された。ミンスク合意は反故にされたのだ。
2021年12月上旬、ロシアのプーチン大統領はアメリカのバイデン大統領からの電話会談のリクエストに応じ、「これ以上NATOをロシアとの国境に向けて東に拡大しない」との「法的拘束力のある保証とその成文化」を要求し、「ロシアのレッドラインはウクライナにも適用される」と伝えた。バイデンは返答しなかった。
同月下旬にはロシアからのリクエストで再び電話会談が持たれ、ロシア外務省が声明を発表した。それには上記の要求のほか「モスクワをターゲットとするミサイルを、ロシアと国境を接する国に配備しない」「NATOや米英などの国はロシアとの国境近くで軍事演習を行わない」「NATOの艦船や軍用機は、ロシアとの国境から一定の距離を保つ」「ヨーロッパに中距離核ミサイルを配備しない」などを保証する条約を結ぶよう求める内容が記されており、ロシア外務省はアメリカとNATOに条約のドラフトを送った。だがアメリカもNATOも返答しなかった。事情に詳しい欧米の国際政治通の間では、ロシアがこの条約案で示した要求は事実上の最後通牒だったとの見方で一致している。
2022年になるとウクライナ軍はロシア系住民地域を総攻撃するために主力部隊を東部に移動させ、ウクライナのゼレンスキー大統領はNATOへの加入を申請し核武装する意思があると発言した。ウクライナ軍の攻撃が迫った2022年2月24日、ロシアは軍を侵攻させた。
そして闘いは続いていく
こうしてポスト冷戦時代は完全に終わりを告げ、2010年代なかばから姿を現し始めていた新冷戦の時代に本格的に突入した。ロシアは国家の存亡を賭けており、かつてのソ連のように「最後はアメリカに一歩譲る」ことはもうできないと考えている。
米英はなぜこのように危険な「現代のグレートゲーム」を続けているのか。ブッシュ(子)政権時代に国務長官を務めたコンドリーザ・ライスは、以前こう語ったことがある。
「ロシア人は世界の人口の2パーセントでありながら、ロシアは地球の陸地の15パーセントを占め、おもな天然資源の30パーセントを保有しています。私たちはこのような状態を永遠に続けるわけにはいきません」
戦後の世界を形作り、今日の世界を動かしているのは、欧米支配層のこうした考えではないだろうか。
●キーウを短期で制圧できず、プーチン氏が1年戦うはめになった理由 2/22
ロシアがウクライナに侵攻してから約1年がたつ。首都キーウ(キエフ)は「数時間で陥落する」との当初の見立て反して落ちず、戦争は収束する様子がない。それはなぜか。ロシアの軍事戦略に詳しい小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター専任講師は、ロシア軍が抱える「ゆがみ」を理由の1つに挙げる。
――ロシアがウクライナに侵攻してから約1年がたちます。侵攻が始まった当初、ウクライナの首都キーウは「数時間で陥落する」という見立てが盛んに報道されましたが、ウクライナは1年間、ロシアと互角に戦ってきました。これは「ロシアが弱かった」と評価すべきでしょうか、それとも「ウクライナ」が強かったのか。
どちらに評価するかによって、得られる教訓が異なるのではないでしょうか。前者なら、国際社会においてロシアが持つ影響力が今後減退していく可能性が考えられます。他方、後者なら、政治指導者のありようや国民の士気、友好国との関係などに注目することになります。
小泉悠・東京大学専任講師(以下、小泉氏): どちらも正しいと考えます。
まずウクライナについてお話ししましょう。「ウクライナは弱い」というイメージがあるかもしれませんが、実はウクライナは大国です。その軍隊の規模は平時でも約19万6000人。旧ソ連の国々の中で10万人を超える規模の軍隊を持つのはロシアとウクライナだけです。人口もGDP(国内総生産)も旧ソ連で第2位。国土面積は第3位。よって、ロシア対ウクライナの戦争は大国同士の戦争なのです。
さらに、ウクライナは2014年にクリミア半島をロシアに奪われた後、軍改革を進めてきました。大きな力を発揮したのは18年に設置を決めた領土防衛軍です。平時のウクライナ軍は(1)職業軍人である将校と(2)契約軍人(志願兵)である下士官・兵士、(3)国民の義務として勤務する徴兵、そして(4)予備役*で構成されます。このうち(4)の予備役を戦力化する仕組みが領土防衛軍。ウクライナに25ある州ごとに旅団**を、州内にある地方自治体ごとに大隊を組織しています。この階層化された仕組みを動かすことで、大量の民間人を迅速に動員できました。
   *:徴兵を終え、ふだんは社会人として暮らしている人々。有事に動員される
   **:旅団は軍隊の編成単位の1つ。複数の大隊から成る
ロシア軍は国家対国家の戦争を戦える状態になかった
次にロシアについて。ロシアも決して弱くありません。ただ、ゆがみを抱えているのは事実です。今のロシア軍は08年にセルジュコフ国防大臣(当時)が主導した軍改革によって骨格が作られています。この改革の前提は、第3次世界大戦は起きない、国家と国家による戦争はない、です。目的は、小規模な地域紛争に対し迅速に対処できる体制に転換することでした。
――米国は01年の同時テロを機に、軍の体制を対テロ戦仕様に転換しました。これと同様の動きと理解してよいですか。
小泉氏: その通りです。
具体的には、「大隊戦術グループ」を主体とする体制への転換を進めました。1個歩兵大隊を中心に、戦車1個中隊と砲兵2〜3個中隊から成る組織です。それまでは、複数の大隊から成る連隊の単位で行動していました。
このセルジュコフ国防大臣が12年に失脚。それを機にロシア軍は、国家対国家の戦争が戦えるよう徐々に再転換していたのですが、戻りきらないうちに今回の侵攻が始まりました。
――再転換はどうして起きたのですか。プーチン大統領がウクライナ侵攻を真剣に考え始めたからでしょうか。
小泉氏: 理由の1つは、プーチン大統領が14年にウクライナのクリミア半島を併合したことにあります。西側諸国との関係が悪化したため、もしもの国家間戦争に備える必要が生じました。
加えて、プーチン大統領と軍との関係があります。同大統領は基本的には軍の拡大に反対の立場です。大国主義者ではありますが、軍国主義者ではありません。ソ連国家保安委員会(KGB)の出身なので、情報戦や諜報(ちょう)戦の方が嗜好に合っている。また同大統領は経済戦にも理解があります。サンクトペテルブルク鉱山大学で博士号を取得する際、論文のテーマは「エネルギー資源を国家管理下において国家戦略に利用する」でした。部下に書かせたものだとは思いますが。
セルジュコフ改革もこうした嗜好に基づいて命じたのでしょう。しかし、この改革は将軍たちの大きな抵抗に遭いました。セルジュコフ氏は剛腕で、多くの将軍から職を奪った。それで恨みを買い、汚職を暴かれて失脚したとみられています。プーチン大統領といえども、国家間戦争にこだわる将軍たちに思考方法を改めさせることが難しかったのです。
韓国並みの国防予算、しわ寄せは陸軍に
とはいえ、国家間戦争を十分に戦える状態には至りませんでした。1つには時間が限られていたこと。加えて、ロシアの経済力が大規模な軍隊の編成を許さない状況があります。ロシアのGDPは1兆5000万ドル(約200兆円)ほどで韓国と同程度です。そして、プーチン大統領は国防費をGDP比2.5〜3%に抑えてきました。これも同氏が軍国主義者ではないことの表れと言えるでしょう。
韓国の対GDP国防費率も3%程度なので、両国の国防費は同じくらい。その予算でロシアは核兵器を保有し、空母を運用しています。よって、陸軍の大規模化に充当できる額は限られる。核兵器や空母は予算を減らすと維持が困難になります。これに対して陸軍は、平時には人員を減らすことができるので削りしろがあるからです。
ロシアの現行の陸上兵力は陸軍が約28万人、空挺(くうてい)部隊と海兵隊が合わせて約8万人で、合計約36万人にすぎません。これは陸上自衛隊の定員(定員約15万人)のおよそ2.5倍にとどまります。この少ない人数で日本の45倍超ある広い国土を守っているのです。
――「ロシアは陸軍大国」というイメージを持っていましたが、これは間違いですね。
小泉氏: そうなのです。さらに、36万人すべてを投入しても、守るウクライナの約20万人に対して2倍にもなりません。よってロシア軍がウクライナ軍を圧倒することは難しいのです。
――「攻者3倍の法則」を満たせていないですね。一般に、攻め手は守り手の3倍の要員が必要と言われています。
小泉氏: そうですね。さらに、「36万人すべて」とお話ししましたが、現在投入できるのは15万人程度にとどまると思います。プーチン大統領は戦争を宣言しておらず、特別軍事作戦を展開中。よって今は「平時」です。平時においては約20万人に及ぶ徴兵を戦地に送ることはできません。
ロシア軍がウクライナに投入できるのは、職業軍人と契約兵の約15万人。陸上自衛隊が、日本の1.6倍の国土面積を持つウクライナに攻め込んでいるようなものです。兵士の人数が全く足りません。大隊戦術グループは通常600〜800人で構成します。しかし、壊滅した同グループを調べるとその半分程度しか兵士がいなかったことが分かっています。
――陸上自衛隊の定員が適正だとして、日本の国土を守るのに必要な陸上兵力が15万人。1.6倍の国土を守るのに必要なのは24万人、「攻者3倍の法則」を考えれば72万人が必要になる計算です。
小泉氏: 以上の状況を考えると、ロシア軍が苦戦するのも無理ありません。
なので、ご質問への答えをまとめると、以下の3つが言えると思います。第1は、クリミア半島を失った後に改革を進めたウクライナ軍が非常に強くなっていたこと。第2は、ロシア軍のセルジュコフ改革が想定した戦争の姿と、ウクライナ侵攻の現実とが食い違っていたこと。そして第3は、プーチン大統領がウクライナ侵攻を戦争と位置づけていないため、軍の総兵力を最初から投入できなかったことです。
戦史の教科書に載るハイブリッド戦のお手本のはずが……
――ここまで、ロシアによるウクライナ侵攻が当初の見立てに反して、1年にわたって続いてきた理由を伺いました。ロシア軍が弱かったからなのか、それとも、ウクライナ軍が強かったのか。キーワードの1つは「国家対国家の戦争」でした。ロシア軍は国家対国家の戦争に対応できていなかった。
しかし、この侵攻の目的に立ち返って考えると、そもそも国家対国家の戦争が必要だったのか疑問です。小泉さんは、今回の侵攻の目的を、ロシアがウクライナを属国化することにあると分析されています。プーチン大統領の頭の中では、ウクライナは“主権国家”ではなく、ロシアの一部にすぎない。その“本来の姿”に戻すため、親欧米のゼレンスキー政権を倒すことにあった。プーチン大統領が当初、侵攻の理由として挙げた「非軍事化」と「非ナチ化」はそれぞれ武装解除とゼレンスキー政権の退陣を意味する。
そうだとすると、14年のクリミア半島併合時のようなハイブリッド戦が適していたのではないでしょうか。
小泉氏: ロシアは当初、ハイブリッド戦争を仕掛けました。しかし、いくつかの誤算が生じて失敗。ハイブリッド戦がかなわず国家対国家の戦争に進展しまったのです。 ・・・
●大地震被災のトルコ、ロシア・ウクライナでも存在感 多角外交を展開 2/22
ロシアとウクライナ、二つの黒海沿岸国が戦火を交える中、やはり沿岸国で最近、地震に見舞われたトルコが多角外交を展開している。ウクライナの戦争を黒海から見ると、どんな構図が浮かぶのか。黒海地域の国際政治に詳しい六鹿茂夫・静岡県立大学名誉教授に聞いた。
六鹿氏は「黒海は欧州とユーラシア、中東の結節点。21世紀に入ってアメリカの関心が高まり、戦略的重要性が増した。ロシアがウクライナに侵攻し、黒海地域は国際政治のフォーカルポイント(焦点)に浮上している」と指摘する。
黒海をはさんでウクライナと向き合うトルコは、環黒海地域の大国だ。黒海と地中海を結ぶトルコ海峡を抱え、ロシアにも一定の影響力を行使できる立場にある。
六鹿氏は「トルコは不安定な中東を南方に抱え、北方の黒海の安定を重視する。ドローンをウクライナに供与したり、黒海艦隊以外のロシア軍艦が黒海に入ることを禁じたりして、勢力均衡をはかろうとしている」と語る。トルコは差し迫った戦争の脅威にさらされた場合、軍艦のトルコ海峡通過を拒否できるという。
トルコはこれまで、ロシアとウクライナの停戦交渉の仲介役を務めるなど、存在感を見せてきた。ただ、今回の地震被害でトルコは当面復興に注力すると見られ、こうした役割にも影響が出る可能性があるという。
●バイデン氏、「ウクライナ支援揺るがない」 侵攻1年に向け演説 2/22
バイデン米大統領はロシアがウクライナに侵攻して1年になろうとする21日、ポーランドの首都ワルシャワで演説し、降参することなく戦い続けているウクライナを称賛し、「我々の支援は揺るがない」と西側諸国の結束を強調した。
前日にウクライナの首都キーウ(キエフ)を電撃訪問したバイデン氏は「1年前、世界はキーウ陥落に備えていた。私はキーウを訪問して来たばかりだが、同市は現在も力強く立っていると伝えることができる」「街は高々とそびえ立っている。そして何より重要なことに、自由を守っている」と述べた。
また、ロシアの侵攻はウクライナだけでなく全世界と民主主義にとって試練だったと指摘。その上で「我々のウクライナ支援が揺らぐことはない。北大西洋条約機構(NATO)が分裂したり疲弊したりすることはない」と支援を継続する姿勢を示した。
バイデン氏はまた、「ロシア軍と傭兵(ようへい)は恥や良心の呵責(かしゃく)もなく人類に対する悪行や犯罪を犯してきた」と非難した。市民の殺害や破壊行為、レイプ、ウクライナの子どもたちのロシアへの連行などを挙げ、「ロシアが行っている残虐行為から誰も目をそらすことができない。忌まわしい」と断じた。
一方で、バイデン氏はロシア国民に向けて「西側諸国はロシアを支配したり破壊したりしようとしていない」と語りかけ、ロシアのプーチン大統領の主張に反論した。
さらに「この戦争は決して必要ではない。悲劇だ。プーチン氏がこの戦争を選んだ」との認識を表明。プーチン氏が戦争を続ける間、ウクライナは自衛しなければならないが、同氏はいつでも決断さえすれば戦争の終結を選択できると強調した。
プーチン氏は同日、西側諸国が「歴史的にロシアのものである土地」を獲得しようという「野心」を持っていると演説で主張した。
●ウクライナ戦争1年、米ロ大統領が互いに「私たちが勝った」 2/22
バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領が、ロシアのウクライナ侵攻1年(24日)を前にそれぞれ演説を行った。米国主導の自由民主主義陣営とロシア・中国中心の権威主義陣営間の対決が激しさを増している。
プーチン氏は21日(現地時間)、ロシアの首都モスクワ中心部の展示場ゴスチヌイ・ドヴォルで、上下両院議員、軍指揮官、兵士らに対して国政演説を行った。プーチン氏は1年前のウクライナ侵攻、「特別軍事作戦」の成果を強調し、ウクライナへの支援を増やしている西洋諸国を強く批判した。
ウクライナを電撃訪問したバイデン氏は同日、ポーランドの首都ワルシャワで世界市民に向けて演説する。ポーランドは、北大西洋条約機構(NATO)の最前線であり、ウクライナと国境を接している。バイデン氏は、西洋諸国の結束が引き出した成果を強調し、ロシアの大攻勢は成功しないことを強調するとみられる。
米紙ニューヨーク・タイムズは、7時間を置いて行われた両首脳の演説について、「ウクライナ戦争は、西洋諸国が設計した世界秩序がロシアと中国の新たな挑戦から生き残るかどうかに関わる」とし、「戦争が2つの『冷戦戦士(cold warrior)』の代理戦争になった」と分析した。
●プーチン氏最側近、王毅氏と会談…「中国との関係発展は絶対的優先事項」 2/22
ロシアのプーチン大統領の最側近の一人として知られるニコライ・パトルシェフ露安全保障会議書記は21日、モスクワを訪問中の中国外交トップ、 王毅ワンイー 共産党政治局員と会談した。
ロシアのニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記=ロイターロシアのニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記=ロイター
ロシア通信によると、パトルシェフ氏は「西側諸国がロシアと中国の双方を封じ込めようとしている中、国際舞台において両国が協調と連携を一層深化することは非常に重要だ」と述べた。また「中国との関係発展は、ロシア外交において絶対的な優先事項だ」と強調した。
プーチン政権はウクライナ侵略開始から24日で1年になるのを前に、中国と緊密な関係を演出し、米欧をけん制したい考えとみられる。王氏は「中露関係は成熟しており、岩のように強固なものだ」と応じた。
中国外務省の発表によると、両氏は世界の多極化を進めていくことで一致。ウクライナ情勢についても意見交換したとしたが、具体的な発言は伝えていない。
王氏は22日、セルゲイ・ラブロフ露外相とも会談する予定だ。露側は、王氏とプーチン氏が会談する可能性も示唆している。一連の会談では、露側が呼びかける 習近平シージンピン 国家主席の訪露に関する協議も行われているとみられる。
●米バイデン大統領 ポーランド訪問へ 軍事侵攻24日で1年  2/22
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から1年になるのを前に、アメリカのバイデン大統領がポーランドに向けて出発します。侵攻が長期化する中でも同盟国との結束を確認し、ウクライナへの支援を続ける姿勢を強調するとみられます。
バイデン大統領の訪問はロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から1年になるのに合わせて行われ、日本時間の午前9時ごろウクライナの隣国、ポーランドに向けて出発します。
現地で行う演説では、侵攻が長期化する中でも国際秩序を維持するため、ウクライナへの支援を必要なかぎり続ける姿勢を改めて強調するとみられます。
さらに22日までの滞在中、ポーランドのドゥダ大統領やNATO=北大西洋条約機構の加盟国のうち、東欧諸国の首脳らとも会談し、同盟国との結束を確認したい考えです。
アメリカ国内ではウクライナへの軍事支援を続けることに、野党 共和党の一部から慎重な声も出始めているほか、AP通信などが先月行った世論調査でも「軍事支援に賛成する」と回答したのは48%で、去年5月と比べると12ポイント下がっていて、バイデン大統領としては国内向けに支援継続に理解を求めたい狙いもあるとみられます。
一方、ウクライナを訪問するかどうかについては、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官が先週の会見で「その予定はない」と述べています。
●中国外交トップがロシア訪問 ウクライナ侵攻から1年迎える中 2/22
中国の外交部門を率いる王毅(ワンイー)共産党政治局員が21日、ロシアの首都モスクワに到着した。ロシア国営メディアが報じた。ロシアによるウクライナへの全面侵攻がおよそ1年前に始まって以降、中国からこの地位の幹部がロシアを訪問するのは初めて。
王氏は先月、外相から外交部門トップに昇格した。今回の外遊では8日間の日程でフランス、イタリア、ハンガリーを訪れ、ドイツでのミュンヘン安全保障会議にも出席した。
ロシアではラブロフ外相と22日に会談する予定。国営タス通信がロシア外務省の話として報じた。中国、ロシア共に王氏がプーチン大統領と会談するかどうかは明言していないが、ロシアのぺスコフ大統領報道官は20日、そうした会談の予定も「排除していない」と述べていた。
王氏の訪問に先駆け、米国のバイデン大統領は20日にウクライナを電撃訪問。ロシアに侵攻される同国を欧州の同盟国と共に支援する姿勢を表明した。
中国の指導部は今回の紛争に関して中立の立場を主張しているが、ロシアの侵攻に対する非難は拒否。両国の通商関係はむしろ拡充しており、合同軍事演習も継続している。
最近の欧州歴訪では、王氏が和平と交渉とを擁護する中国の姿勢を打ち出したものの、西側の指導者らからはこうした発表に懐疑的な見方も出ている。
米国のブリンケン国務長官は19日、米CBSとのインタビューで懸念を表明。中国政府がロシア政府との連携強化を検討し、ロシア軍が新たな攻勢を準備するに当たり「極めて破壊力の大きい支援」を供給する恐れがあるとの認識を示した。
●プーチン大統領演説 核軍縮条約を停止 核戦力誇示で米けん制  2/22
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を開始して以降初めて行った年次教書演説で、アメリカとの核軍縮条約の履行を一時的に停止すると一方的に主張しました。また、ロシアの核戦力を誇示してウクライナへの軍事支援を強化するアメリカなどを強くけん制しました。
ロシアのプーチン大統領は21日、モスクワ中心部のクレムリン近くの建物で、議会や政府の代表を前に内政や外交の基本方針を示す、年次教書演説を行いました。
去年はロシアがウクライナ侵攻を続ける中で延期されたため、侵攻開始以降、初めての演説となり、この中でプーチン大統領は「西側諸国がウクライナを使って戦争の準備をしていた。戦争を始めたのは彼らであり、われわれは軍事力を行使し、これを止めるということだ」と述べ、侵攻を続ける姿勢を強調しました。
また、プーチン大統領はロシアの核抑止力について「91%以上が最新の兵器だ」と述べ、核戦力をちらつかせて威嚇しました。
そのうえで、アメリカとの核軍縮条約「新START」について「条約への参加を停止していることを発表せざるを得なくなった。脱退はしない」と述べ、核軍縮条約の履行について一時的に停止すると一方的に主張しました。
さらに、アメリカが新たな核兵器の実験を検討していると主張したうえで「ロシア国防省は準備しなければならない。アメリカが実験を実施すれば、われわれも行う」と述べました。
今月24日でウクライナへの軍事侵攻から1年となるのを前に、プーチン大統領は核戦力を誇示して、ウクライナへの軍事支援を強化するアメリカなどを強くけん制した形です。
ウクライナの4州支配の既成事実化を主張
また、ロシアのプーチン大統領はロシアが一方的な併合に踏み切ったウクライナ東部や南部の4つの州について「社会経済の発展に向け大規模なプログラムをすでに開始し、今後、発展させていく」と強調しました。
さらに、ロシアで子どもを持つ家庭に支払われる手当てについてプーチン大統領は「新しいロシアの領土に住む人々も対象となった」と一方的に主張し、ウクライナの4つの州に対するロシアの支配を既成事実化していく姿勢を改めて示しました。
死亡や負傷の兵士や家族を支援する基金を設立へ
一方、プーチン大統領は「私たちの義務は愛する人を失った家族を支援し、子どもたちを育てることだ」と述べ、ウクライナの侵攻に関わって死亡したりけがをしたりした兵士やその家族を支援するための新たな基金を設立する考えを示しました。
プーチン大統領としては、予備役の動員をめぐってロシア社会で大きな混乱が広がったことなどからロシア兵やその家族を支援する姿勢を強調し、国民の理解を得るねらいもあるとみられます。
米 ブリンケン国務長官「非常に残念で無責任」
プーチン大統領がアメリカとの核軍縮条約「新START」の履行を一時的に停止すると一方的に主張したことについて、アメリカのブリンケン国務長官は訪問先のギリシャで21日「非常に残念で、無責任だ」と述べて強く批判しました。
そのうえで「ロシアが実際にどう行動するか注意深く見ていく。われわれはどのようなことが起きてもアメリカや同盟国の安全保障のために適切な態勢をとっていく」と述べました。
被爆者「怒り悲しみ 落胆の気持ち大きい」
長崎の被爆者で日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の代表委員の田中重光さんはNHKの取材に応じ「アメリカとロシアの間で唯一残っていた核軍縮条約がこういう形になったのは非常に残念でしかたありません。二度と被爆者を作るなと、核兵器廃絶を求めて国内外で運動してきたが、まだ核兵器の被害がどんなものか分かっていないのではないかと腹立たしさや落胆の気持ちです。対立では平和は築けないと思うので、外交を通じて少しでも各国の間で信頼関係を作ってほしい」と述べました。
また、長崎で平和教育の確立に取り組んできた被爆者の山川剛さんは「核廃絶にとって非常に大きな障害だと思い、怒りの気持ちです。被爆地・広島出身の岸田総理大臣には世界全体が核軍縮に向かうよう、発言をしてほしいです」と話していました。
●戦闘機供与「検討せず」 イタリア首相、キーウ訪問 2/22
イタリアのメローニ首相は21日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問した。ロシアの侵攻開始1年を前に、ウクライナに対する「全面支援」を強調したが、戦闘機の供与は「現時点で検討していない」と明らかにした。
米大統領、21日演説 ウクライナ侵攻1年で訪欧―戦闘機供与も議論か
メローニ氏はウクライナのゼレンスキー大統領と会談後に共同記者会見に臨んだ。イタリアのANSA通信によると、戦闘機の問題は西側諸国の協議で決まると指摘した上で、「インフラや市民を守るのが最優先だ。イタリアは防空システム(の提供)に力を入れている」と説明した。 
●プーチン大統領 大規模集会で演説「大切なのは祖国守ること」  2/22
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってまもなく1年となるなか、プーチン大統領は首都モスクワで開かれた大規模な集会で「最も大切なのは家族と祖国を守ることだ」と述べ、軍事侵攻に参加している兵士らをたたえ、国民に結束を呼びかけました。
ロシアの首都モスクワ市内のスタジアムでは、プーチン政権の支持者による大規模な集会が開かれ、日本時間の22日夜10時頃、プーチン大統領が演説を行いました。
このなかでプーチン大統領は「われわれにとって最も大切なのは家族と祖国を守ることだ。ロシアの歴史的な境界線でわれわれのために戦闘が行われている」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻に参加している兵士らをたたえ、国民に結束を呼びかけました。
集会ではロシア各地から政権の支持者が国旗を掲げて集まっているほか、ウクライナでの戦闘に参加したとする兵士や東部や南部の親ロシア派の指導者も出席しています。
また、特別軍事作戦だとしてウクライナで行っている軍事侵攻に関連する映像なども上映され、連帯を呼びかけました。
ロシアメディアが20万人規模だとする集会の様子は、国営テレビなどが中継で伝え、プーチン政権としては、軍事侵攻に対する国民の支持は得られていると印象づけたいねらいもあるとみられます。

 

●プーチン氏「核戦力を強化する」表明…ICBMや極超音速兵器など 2/23
ロシアのプーチン大統領は23日、ロシアの祝日「祖国防衛の日」に合わせた国民向けのメッセージで、「核戦力を強化する」と表明した。ロシアがウクライナ侵略を開始してから24日で1年となるのを目前に、ウクライナへの軍事支援を続ける米欧をけん制する意図がある。
プーチン氏は強化する具体例として、核兵器搭載可能な新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマート」(別名サタン2)や極超音速兵器「キンジャル」などを挙げた。ウクライナ侵略に派遣されている兵士についても「我々の歴史的な領土で暮らす人々を守るために英雄的に戦っている」と述べ、侵略を改めて正当化した。
祖国防衛の日は、第2次大戦でナチス・ドイツを相手に戦った旧ソ連の軍人らの功績に思いをはせるもので、プーチン氏は「愛国心の輝かしい見本だ」と指摘して、国民に祖国への献身を呼びかけた。
●プーチン氏はこれからどうする……前アメリカ駐ロシア大使に聞く 2/23
ロシア政府と交渉するのはどのような感じなのか。ウラジーミル・プーチン大統領はなぜウクライナを簡単には諦めないのか。アメリカの前駐ロシア大使がBBCに説明した。
ジョン・サリヴァン氏は、ロシアによるウクライナ侵攻の前まで、アメリカ大使としてモスクワにいた。
戦争を防ごうとロシア当局と話をした人物だが、「向こうは本気でやりとりしてこなかった」と言う。
「ロシアは自国の安全保障を要求したが、ウクライナの安全保障については建設的に話そうとしなかった。決定済みの論点以上のことは決して言わなかった。見せかけだけだった」
アメリカは紛争を終わらせるため、対話を続ける努力をもっとすべきか。そう尋ねると、サリヴァン氏はプーチン氏について「開戦前、交渉に関心がなかったし、今も交渉には関心がない」と述べた。
ロシアは目標を変えていない
アメリカのジョー・バイデン政権は、ウクライナへの軍事支援とロシアに対する制裁について世界各国の支持を集めることに力を入れている。また、アメリカ単独でもウクライナに何十億ドル分もの兵器を供与している。
プーチン氏は21日の年次教書演説で、「西側諸国が戦争を始めた」、「西側がロシアに『戦略的敗北』をもたらそうとウクライナを利用した」、「存在そのもののために戦っているのは、ウクライナではなくロシアだ」という見解を繰り返した。
ロシアは「特別軍事作戦」の失敗にもかかわらず、当初宣言した目標(ウクライナの「脱ナチス化」と「非軍事化」)は変えていないと、サリバン氏は言う。ロシアが掲げるそうした目標は、つまり「キーウにある政府の排除と、ウクライナ国民の服従」を意味すると、前大使は解釈する。
これは、ソヴィエト連邦の崩壊でばらばれになったロシア民族を再集結させるという、プーチン氏が描いている構想の一部でもある。
「民主的に選ばれた政府が、とりわけ(ウォロディミル・)ゼレンスキー大統領が率いる政府が、キーウに存在することを、(プーチン氏は)認めるわけにいかない」とサリヴァン氏は言う。「その政府が存在する限り、彼は決して満足しない。なぜなら、その政府はロシアにとって、そして彼が作ろうとしている大ロシア国家構想にとって、脅威だと考えているからだ」。
では、プーチン氏はどうなれば戦争をやめるのか。
「勝つことはできないと、彼が確信する必要がある」とサリヴァン氏は言う。「勝利は到底不可能だと確信するまで、彼は攻撃を強めるだろう。戦場でどれほど重大な敗退をすれば、その確信に至るのかはわからない。ただ、現時点ではその状態に全く近づいていない」。
サリヴァン氏はまた、プーチン氏は長期的な展望の持ち主だと話す。「達成したいビジョンがあり、それを簡単には諦めない」はずだと。
一方で、ウクライナ人も簡単にはあきらめないはずだと、サリヴァン氏は考えている。そして、ウクライナを構成する4400万人のスラヴ民族に自分への拒否感を植え付けたことが、プーチン氏による戦争の戦略的失敗のひとつだと、前大使は言う。
「ウクライナ人は許さないし、忘れない」とサリヴァン氏は言う。「仮にゼレンスキー大統領が戦争を終わらせようと、領土で譲歩し、基本的に降伏したいと思っても、ウクライナ国民がそれを許さないだろう」。
このような軍事的、政治的、イデオロギー的な対立がある以上、アメリカは長期戦に備えなければならない。
バイデン氏は、侵攻1年に合わせてキーウを電撃訪問し、アメリカの支援継続を強調した。しかしサリヴァン氏は、今年中にこの紛争が終わるとはみていない。
「その先のことは分からない」とサリヴァン氏は言う。「ただ、プーチン氏は出口を求めていない。この特別軍事作戦の目標は達成されると、常に繰り返している」
●プーチン氏、中国外交トップと会談 両国関係は「新たな節目」に 2/23
ロシアのプーチン大統領は22日、同国を訪れている中国の外交部門トップ、王毅(ワンイー)共産党政治局員と会談し、両国の関係が「新たな節目を迎えつつある」と述べた。
プーチン氏は「両国関係は計画していた通りに発展している。全てが前進し、発展している。新たな節目を迎えつつある」との考えを示した。
プーチン氏は「今日の国際関係は複雑で、二極体制が崩壊して以降、改善されていない。それどころか緊張は増している」と指摘し、「我々が繰り返し述べている通り、国際的な場でのロシアと中国の協力は国際情勢の安定化のために極めて重要だ」と主張した。
一方、王氏は新たな国際状況に直面する中で両国はより柔軟になる必要があるとの見方を示した。
王氏は「両国は危機や混乱に度々直面するが、危機には常にチャンスが潜んでおり、危機はチャンスに転じる可能性がある」と指摘した上で、「だがチャンスに変えるには、今以上に自発的に変化を見極め、両国の包括的な戦略的提携を一層強化するためにさらに積極的に変化に対応する必要がある」と述べた。
ロシアがウクライナに侵攻して間もなく1年を迎える中、中ロの緊密な関係がウクライナでの戦争に影響を及ぼす可能性があるとの懸念から、西側諸国は王氏のロシア訪問を注視している。
中国は、ロシアのウクライナ侵攻をめぐり中立の立場を主張してきたが、ロシアを批判することは拒否し、北大西洋条約機構(NATO)が紛争を引き起こしたとのロシアの主張に沿った発言をしている。
●ロシア議会が核軍縮停止を承認、プーチン氏が法案提出…対応は米国次第  2/23
ロシア議会は22日、プーチン大統領が表明した米露間の核軍縮枠組み「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を承認した。下院に続いて上院で承認された。この後、プーチン氏が署名することで手続きが完了する。プーチン氏が21日の「年次教書演説」で条約の履行停止を表明した後、議会に承認を求める法案を提出した。
新STARTは大陸間弾道ミサイル(ICBM)など長射程の核兵器の弾頭数などを制限するもので、ウクライナ戦線に直接的な影響はない。
プーチン露大統領=ロイタープーチン露大統領=ロイター
プーチン氏は米露間で唯一存続する核軍縮条約を持ち出すことで、米国を揺さぶる狙いがあるとみられている。
タス通信などによると、米国との核軍縮交渉を担当するセルゲイ・リャプコフ露外務次官は22日、条約の履行停止中もロシアは核兵器の配備数制限は「順守する」と述べ、露側の今後の対応は「米国次第だ」と強調した。
●バイデン大統領 プーチン大統領の核軍縮条約停止の主張を批判  2/23
ウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、ロシアのプーチン大統領がアメリカとの核軍縮条約の履行停止を一方的に主張したことについて、アメリカのバイデン大統領は「大きな過ちだ」と述べて批判しました。
ロシアのプーチン大統領は21日に行った年次教書演説で、アメリカとの核軍縮条約「新START」について「参加を停止していることを発表せざるを得なくなった」と述べ、条約の履行停止を一方的に主張しました。
この発言について、バイデン大統領は訪問先のポーランドで「大きな過ちだ」と述べて批判しました。
核軍縮条約「新START」は、戦略核弾頭の配備数の制限や関連施設への査察活動、それに弾道ミサイルや戦略爆撃機などの運搬手段の削減などを定めた条約で米ロ両国は2年前のバイデン政権発足当初にこの条約を5年間延長することで合意しています。
ウクライナへの軍事侵攻開始から1年となるのを前にしたプーチン大統領の発言をめぐっては、アメリカのブリンケン国務長官も21日、「無責任だ」と批判したうえで、ロシア側の出方を慎重に見極める考えを示していますが、専門家などからは両国の核軍縮への影響を懸念する声も出ています。
●戦時経済、計画経済の色彩を強めるロシア、戦争から1年で旧ソ連に先祖返り 2/23
2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから1年が経過した。当初、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、短期間のうちに戦争を終わらわせるつもりだったと言われている。
しかし実際は、ウクライナの善戦もあり、戦争は長期化している。同時に、戦争がいつ終わりになるかも、なかなか見定めることができない状況である。
このウクライナとの戦争の予期せぬ長期化を受けて、ロシアの経済は徐々に戦時経済の性格を強めている。それを映し出すのが、財政統計である。
ロシアの2022年通年のロシアの連邦財政収支は3.3兆ルーブル(約5.9兆円)と、コロナショックに見舞われた2020年(4.1兆ルーブル)に次ぐ大幅な赤字となった。
   図表1 ロシアの連邦財政収支(2013~2022年)
ロシアはこれまで、基本的に均衡財政を志向してきた。そのため、3.3兆ルーブルという赤字幅は相応に大きい。注目されることは、歳出が大きく増加していることだ。2022年の歳出総額は前年比25.7%増の31.1兆ルーブルと、過去最大の歳出になった。ウクライナとの戦争に伴う軍事費が歳出を圧迫したものと考えられる。
ここで「軍事費が歳出を圧迫したものと考えられる」と控えめな表現をしたことには理由がある。
ロシアの月次の連邦歳出のうち、軍事費に相当する「国防及び法と秩序」の項目を確認すると、2022年4月に1.2兆ルーブルのマイナスが計上されている。歳出の項目がマイナスになることは、統計の作成法上、まずありえない。
2021年12月に13.5兆ルーブルという近年稀にみる額の「国防及び法と秩序」の支出が計上されており、その返金があったのかもしれないが、それでも腑に落ちない。この4月の1.2兆ルーブルのマイナスがあるため、2022年通年の軍事費は前年からむしろ減少することになるが、これではウクライナとの戦争という事実に反する。
インプリケーションとしては、軍事費に相当する「国防及び法と秩序」の支出が、本来よりも過少に計上されている可能性があるということである。つまり、実際の歳出はさらに膨らみ、財政収支の赤字も一段と拡大する公算があるわけだが、ここでは歳出の総額が正しいという仮定の下で、議論を進めていきたい。
歳入の原資であるガス収入は厳しい状況
2022年12月5日、ロシアの2023年の連邦予算法が成立した。この連邦予算法では、2023年の予算と2024年、2025年の予算計画が策定されている。欧米日の主要国から科された経済・金融制裁やウクライナとの戦争などの要因を加味し、ロシアの連邦財政収支は3年連続で赤字になると想定されている(図表2)。
   図表2 ロシアの財政収支の実績と予測値
歳入に関しては、引き続き、その4割を占める石油・ガス収入(石油・ガス関連企業に対する課税収入)に依存することになる。そのうち石油企業からの課税収入に関しては、ロシア産原油の価格(ウラル価格)をバレルあたり70.1米ドルと想定しているが、足元のウラル価格は同50米ドル半ばであり、15米ドル程度下振れている。
他方で、ガス企業からの課税収入に関しても、厳しい状況が予想される。
売り上げ減が見込まれるガスプロム
ロシアのガス事業を独占するガスプロムの2022年の売上高は、過去最高となる800億米ドルに達するとともに、アレクセイ・ミレル最高経営責任者(CEO)によると、2022年の納税額は歳入総額の2割に相当する5兆ルーブルにも上った模様である。
ガスプロムによると、2022年の輸出量は前年比で46%減と、ほぼ半減した。しかし主要な輸出市場であるヨーロッパでガス価格が急騰したため、過去最高の売上高を記録した。つまり数量の減少を上回る価格の上昇があったわけだが、2023年については、昨年のような価格上昇は見込みにくいため、ガスプロムの売り上げ減少となる可能性が高い。
実際、ヨーロッパの1メガワット時当たりのガス価格(オランダTTF)は50ユーロを下回っており、ロシアがウクライナに侵攻する直前の価格よりも低い。欧州連合(EU)がロシア産ガスの利用の削減を進めたことから、ヨーロッパの輸出増も考えにくい。ロシア経済発展省も、2023年のガス輸出収入が2022年から半減すると見込んでいる。
つまり、ロシア政府にとって、歳入減となるわけだ。
もちろん、市況次第でロシアの石油・ガス収入は上振れする可能性もあるが、不確実性が高い。反面で、ウクライナとの戦争が早期の停戦に向かう展望も描きにくく、軍事費も膨張するか、高止まりの状況が続くだろう。すでに2023年の連邦予算は約3兆ルーブルの財政赤字を見込んでいるが、実際の赤字はさらに拡大する公算が大きい。
財政赤字を補填する機能は二つある。一つが予備費である国民福祉基金(NWF)を取り崩すことだ。
国債消化で懸念されるインフレ加速
このNWFの規模は、2023年1月末時点でGDPの7.2%相当だった。開戦前の2022年1月末時点で10.2%だったことから、この一年間で3割縮小したことになる。このペースで行けば、NWFは2年少しで底をつくはずだ。
もう一つが、国債の発行だ。
ロシアの外貨建て国債は2022年6月にデフォルト認定を受けたが、ルーブル建て国債は引き続き発行が可能である。しかしルーブル建て国債の発行を増やすとして、国内の貯蓄率の低さに鑑みれば、金融市場が消化できる規模には自ずと限界がある。そのため、中銀による発行市場での購入が視野に入る。
中銀による発行市場での国債の購入は、財政規律を弛緩させる財政ファイナンス(債務マネタイズ)となる。これは貨幣的側面から、インフレの加速をもたらす禁じ手である。この場合、インフレを抑えるためには価格・数量統制を敷く以外に方法はないが、それはロシア国民の生活に多大な犠牲を強いるものとなる。
場合によっては、中銀だけではなく、大企業にも発行市場で国債を購入させる展開もあるのではないか。つまり、ガスプロムやロスネフチなどに代表される国営の資源企業や、ズベルバンクやVTBバンクといった大銀行に、相対取引で国債を引き受けさせるわけだ。通常ではあまり考えられない方法だが、政権の強権性に鑑みればあり得ない話ではない。
ロシアのルーブル建て国債発行残高は2021年12月から2022年10月まで15兆ルーブル台で推移してきたが、11月以降急増し、直近1月時点では18.1兆ルーブルと3兆ルーブルも膨張した。この増加分を誰が消化したのか、中銀か、それとも内外の投資家か、定かではない。いずれにせよ、財政は変調をきたしている。
戦時経済、計画経済の色彩を強めるロシア
ウクライナとの戦争で歳出の膨張ないしは高止まりが確実な一方で、歳入の不確実性が強まっている。そうした環境の下で財政を持続させるためには、経済の構造をより統制色が強いものに組み替えていく必要がある。つまりそれは、ロシアが平時経済から戦時経済、ひいては計画経済への性格を強めるということに他ならない。
戦時経済、計画経済の色彩を強めるということは、ロシアの事実上の前身国家である旧ソ連への先祖返りでもある。その旧ソ連の経済が持続可能なものでなかったことは、それこそ歴史が証明している。しかもかつての旧ソ連と異なり、旧東側陣営の国の多くが、今やロシアと距離を置いている。裏庭だった中央アジアも同様である。
つまり、ロシアが単に旧ソ連の体制に先祖返りしても、国力は回復しないし、過去のような大国にはなりえない。ロシアがそうした力のない旧ソ連と化すかどうかは、ひとえに今後の戦局次第といえよう。少なくとも、開戦から一年が経過したことで、ロシアはその道を緩やかながらも着実に歩んでいるように見受けられる。
●ウクライナ侵攻「巨大な過ち」 専制主義後退へ、日本に警鐘も 2/23
ロシアのウクライナ侵攻開始から1年で、国際情勢は大きく変化した。
著書「歴史の終わり」で知られる米政治学者フランシス・フクヤマ氏(70)は、時事通信のインタビューに応じ、ロシアが「巨大な戦略的過ちを犯した」と断じた。ロシアや中国の専制主義体制が民主主義体制に取って代わることはないとする一方、「問題とされているのは、民主主義国が自らを守る決意だ」とも述べ、日米欧各国の覚悟を問い掛けた。
欧州秩序への攻撃
フクヤマ氏はウクライナ侵攻を、旧ソ連が崩壊した1991年以後の欧州秩序に対する「プーチン(ロシア)大統領の攻撃」と位置付ける。経済成長を背景に「ロシアは中国と共に、ここ10年で自信を深めた。地政学的競争の世界に戻ったことは驚きではない」と指摘。侵攻が成功すれば「長期にわたり欧州秩序全体への脅威となり、不安定な状況が続く」と警戒感を示す。
だが、プーチン氏のもくろみに反し、ウクライナは抵抗を続け、欧米諸国も結束を深める。フクヤマ氏は戦況について、ウクライナが南東部マリウポリを奪還し、南部クリミア半島とロシア本土の補給線を断ち切れば、クリミアで守勢に追われるロシアを相手に「より有利な(和平)交渉に持ち込める」と語る。
中国「ピーク超えた」
「歴史の終わり」で「自由民主主義の勝利」を説いたフクヤマ氏は、民主主義への悲観的な見方に「少し大げさだ。欧州でも、分断の問題を抱える米国でも健在だ」と反論する。国際社会で孤立を深めるロシアや、新型コロナウイルス感染を抑え込む「ゼロコロナ政策」で経済が停滞した中国の状況を踏まえ、「専制主義的な政治形態への魅力は、時間をかけて消え去る」とみる。
中国に関しては、地方政府の巨額負債や出生率低下などで「国力は既にピークを迎えた」と判断。バブル崩壊に伴い経済成長が停滞した90年代以降の日本の状況と「とても似ている」と指摘する。国内問題が外交政策にどのような影響を与えるかは予測し難いものの、中国が国力の衰退前に台湾統一に踏み切る恐れもあると分析する。
日本に対しては、最近の訪日時の印象から、台湾有事に「国民が全く準備できていない印象を受けた」と警鐘を鳴らす。
ウクライナ侵攻や中国の軍事的脅威を受け、日本政府は防衛費増額に踏み切ったものの、「台湾攻撃を自国の存亡を懸けたことだと解釈しているかどうかについて疑問がある」と懸念。中国による台湾統一は「日本に深刻な悪影響を及ぼす」として、真剣に考える必要があると警告した。 
●プーチン氏は核兵器使用検討せず=米大統領 2/23
バイデン米大統領は22日、ロシアのプーチン大統領が米国との新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を表明したことについて、プーチン氏が核兵器の使用を検討している兆候として受け止めていないと述べた。
バイデン氏はABCニュースのインタビューに対し、新STARTの履行停止は「大きな間違いで、極めて無責任だ」としながらも、「プーチン氏が核兵器の使用を考えているとは受け止めていない」とし、ロシアの核態勢に変化はないとの見解を示した。
●ウクライナ勝利≠フ近道は汚職対策にある 2/23
ロシアがウクライナへの侵略を始めて2月24日で1年となる。ウクライナの犠牲はもちろんだが、ロシアにとっても良いことは何もない。ロシアの若者が兵士として無駄に死ぬだけだ。
筆者は、プーチン大統領がどうしてもウクライナを支配したいのは、同じスラブ民族で正教徒のウクライナ人が幸せになるのが許せないからだと思う。ウクライナ人は、幸福になる方法を見つけたのだ。それは自由と民主主義の国になることだ。
豊かで自由で幸福な人々をロシア人が見れば、それが同じスラブ民族ならなおさら、ロシアはおかしいと思うだろう。もちろん、おかしいと思ったからといって、秘密警察に公然と反抗する人はそういないから、すぐにプーチン体制が崩れる訳ではない。しかし、国民に疑いを持たれた制度は、いつまでも続かない。それはソ連崩壊で秘密警察の仲間の諜報員だったプーチン大統領が経験したことだ。
なぜ自由と民主主義が幸福をもたらすのか
自由と民主主義が幸福をもたらすことに懐疑的な方もいるかもしれない。しかし、自由とは、自分の好きなように発言し、行動した結果、他人にそしられるかもしれないが、秘密警察が夜中にドアを叩いて侵入することがないということだ。これは幸福の必須の条件である。
もちろん、自由なだけではダメで、人間は食べなければならない。ところが、民主主義が豊かさをもたらすのも明らかだ。
民主主義指数と腐敗認識指数というものがある。民主主義指数は、英エコノミスト誌傘下のエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が作成しているもので、各国の政治の民主主義のレベルを5つの部門―選挙過程と多元性、政府機能、政治参加、政治文化、人権擁護―で評価し、かつ統合している。数が大きいことが、民主主義の評価が高いことを示している。
この指数では、北欧の国々とニュージーランドが最上位層を占めている。ちなみに、台湾10位、ドイツ14位、日本16位、イギリス18位、フランス22位、韓国24位、アメリカ30位、イタリア34位、ロシア146位、中国156位、北朝鮮165位。ミャンマー166位、アフガニスタンが167位で最下位である。
腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)はトランスペアレンシー・インターナショナルが作成しているもので、世界各地の公務員と政治家がどの程度汚職していると認識できるかという指標である。この指数は、毎年ほぼ10の機関が調査した13種類のアンケート調査から作成している。10の機関とは、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行、ベルテルスマン基金、世界銀行、エコノミストインテリジェンスユニットなどである。
調査対象は、世界中のビジネスマンと政府の分析専門家などである。調査対象に「一般市民」ではなく、ビジネスマンや専門家を選んでいるのは、彼らが、いわゆる小口の汚職・腐敗よりも、政治資金、談合など大口の腐敗を、より熟知しているからである。
数が大きいほど腐敗が少ない。こちらは、ドイツ9位、日本と英国18位、フランス21位、米国24位、台湾25位、韓国31位、イタリア41位、中国65位、ロシア137位である。
民主主義と腐敗と豊かさの東欧諸国における関係性は、原田泰『プーチンの失敗と民主主義国の強さ』(第8章、PHP新書、2022年)で解説しているが、ここでは全世界に広げて説明したい。
図1は、2022年の民主主義指数と1人当たり購買力平価国内総生産(GDP)との関係を示したものである。縦軸が1人当たり購買力平価GDP、横軸が民主主義指数である。図から明らかなように、民主主義の度合いが高い国ほど豊かな傾向がある。
民主主義の度合いが低くても豊かな国は、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、オマーンなどの産油国ばかりである。これらの国を除けば、民主主義と豊かさの関係はより明瞭になる。
もちろん、この関係は因果関係が逆であるという議論もある。すなわち、豊かな国だから民主主義を採用するのであって、貧しい国は採用できないと言う。確かに、民主主義指数が6以下の国では豊かさと民主主義の関係がないように見える。独裁、または独裁と民主主義の混合体制と言われている国である。
6以下の国は1人当たり実質購買力平価GDPが2万ドル以下、多くは1万ドル以下の国である。図1の結果は、1万ドル以上の国になって、徐々に民主化が進むのだとも解釈できる。
実際、民主主義と豊かさに関する初期の文献では、豊かさが民主主義をもたらすと解釈されることが多かった。かつて、中国も豊かになるにつれて自由と民主主義の制度を取り入れ、普通の国になると議論されていたことを思い出して欲しい。こちらは豊かさが自由と民主主義を生むという議論の一つの応用である。しかし、この応用は、今のところは間違いであるようだ。
腐敗が少なければ豊かになれる
筆者は、因果関係は、民主主義が豊かさを生むという方向だと思う。それを示すのが、腐敗と豊かさの関係を示す図2である。図に見るように、腐敗が少ないほど(数字が大きいことが腐敗の少ないことを示す)豊かになる傾向がある。両者の関係を示す決定係数も高くなる。
なぜ腐敗が少ないほど豊かになるかと言えば、腐敗があれば政府の支出の何割かは賄賂に使われる。必要な支出ではなく、賄賂を払ってくれる支出に向かう。さまざまな許認可が賄賂次第となる。
日本は腐敗の程度は少ないが、それでも電通は談合の要となってオリンピックから利益を得ていた。スポーツイベントは、コスト高になっていたはずだ。
政府の支出が、人々が本当に求めるのものではなく、賄賂次第になれば、政府の効率が低下する。政府だけでなく、社会のあらゆる面で、すべてのことが賄賂次第となる。これでは、能力のある人はやる気を失う。あるいは、能力のある人が賄賂を取る側になろうとするかもしれない。経済は発展しない。
民主主義は腐敗を抑制する
図3は、民主主義と腐敗の関係を示したものである。図から明らかなように、民主主義の度合いが高いほど腐敗は減る。民主主義の国であれば、自由な報道機関や野党が腐敗を追求する。腐敗は抑えられるのだ。
この点で、スキャンダル報道は重要である。スキャンダル報道をバカにする人が多いのだが、政策の議論をしてもあまり深まることは期待できない。
10年前は、高所得者に児童手当を払うなと叫んでいた人が、いや払うべきだと言い出している(筆者の考えは、「児童手当の所得制限撤廃とN分N乗政策はなぜ異次元か」にある)。政策が正しいかどうかは、そう簡単には分からないが、腐敗を正さなければならないのは明らかで、途中で意見が変わることはない。
世界最古の民主主義国英国で、スキャンダル報道が盛んである。筆者は、スキャンダル報道こそが英国民主主義の根幹の一つであると信じている。 
図3をよく見ると、シンガポール、ブータン、香港、カタール、UAEのように、民主主義ではないが腐敗の少ない国もある。カタール、UAEは産油国の中でも豊かな国である。腐敗が相対的に少ないことが豊かさとも関係しているのだろう。香港は、豊かで自由な国がいきなり自由ではなくなってしまったという事例である。その余沢が残っているのかもしれない。
ブータンの1人当たりGDPは1.1万ドルで、周辺国のインド、ネパール、バングラデシュより豊かである。中国の平均の1.8万ドルよりは貧しいが、その辺境地域よりは豊かだろう。海のない国は経済発展に不利だが、腐敗の少なさゆえに周辺国よりも豊かになっているのかもしれない。民主主義の度合いは低いが、国王が自ら独裁権を捨てて立憲君主制の国になることを選んだので、いずれ民主主義指数も上がっていくだろう。
自由と民主主義の国となるのが最大の答え
自由と民主主義は豊かさをもたらす。その因果関係は、自由と民主主義が腐敗を抑え、それが人々の活動を活性化するからである。確かに、シンガポールは、あまり民主主義的ではないが、腐敗が少なく、日本よりもはるかに豊かである。しかし、民主主義でなくて腐敗していない国は例外である。
例外的な国になるよりも、普通の国になることの方が簡単である。戦争が終われば、ウクライナは自由と民主主義の国となって、自由で豊かで幸福になる。それがロシアの侵略と、無益に死んでいったロシアの若者に対する最大の答えとなる。
なぜ戦わなければならなかったかへの答えであり、無益に死んだロシアの若者に、自由と豊かさと幸福の別の途があると示すことになるからだ。
●ウクライナ戦争の行方、春には決まる ロシアに「残された勝利への道筋」 2/23
ロシアのウクライナ侵攻1年を前に、ウラジーミル・プーチン露大統領は21日の年次教書演説で、米露の間に残された最後の核軍備管理条約である新戦略兵器削減条約(新START)への「参加を停止する」と表明した。射程150キロメートルのロケット弾GLSDBなどウクライナへの長距離兵器供与を始める西側を改めて牽制した。
プーチンは相手に責任をなすりつけて侵略を正当化する転倒した論理を繰り返した。「キーウがロシアの戦略的航空基地を攻撃しようとしたことに西側は直接関与している。にもかかわらず北大西洋条約機構(NATO)から核防衛施設への査察の申し入れがあった。偽善と皮肉の極み、バカの極みというか不条理劇場だ。米国が核兵器実験をすれば、ロシアもやる」
ウクライナ東部、南部を占領するロシア軍はウクライナ軍の砲撃の射程に合わせて後退してきた。米M142高機動ロケット砲システムHIMARSからGLSDBを発射できるようになれば弾薬庫や補給基地をさらに後退させなければならない。そうなると現在の前線を維持するのが難しくなる。一方、西側は自分たちが戦争に巻き込まれないよう慎重に閾値を上げてきた。
プーチンは「愛する人を失った家族を支援し、子供たちを育て、教育と職業を与えることは私たちの義務だ」として国家基金の設立を提案する一方で、戦時経済体制への移行を示した。「石油の代わりに大砲と俗に表現される。国防は最重要課題だが、自国経済を破壊してはならない。昨年、農業生産は2桁の伸びを示した。失業率は3.7%と歴史的な低水準だ」
バイデン氏「世界は見て見ぬふりをすることはない」
「ロシア経済は顕在化したリスクを克服した。昨年、景気が悪化したのは第2四半期だけだ。盤石な国際収支のおかげで、ロシアは外国に頭を下げて借金をし、どういう条件で返済するか、長い協議をする必要がない」とプーチンは胸を張った。演説では4州占領を既成事実化する一方で、大砲と石油の力でウクライナと西側との戦争を継続する姿勢を新たにした。
これに対し、ウクライナを電撃訪問した米国のジョー・バイデン大統領はワルシャワに移動して演説し「プーチンは、炎と鋼鉄で勇気が鍛えられた男が率いる国と戦争になった。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領だ。キーウは強く、生きている。世界は見て見ぬふりをすることはない」とウクライナを全面的に支える姿勢を強調した。
独キール世界経済研究所によると、軍事・人道・金融支援は米国732億ユーロ、欧州連合(EU)と加盟27カ国で計549億ユーロ、英国83億1000万ユーロ。軍事支援に限ると米国443億ユーロ、英国49億ユーロ、ポーランド、ドイツ各24億ユーロ、カナダ13億ユーロと続く。米英とポーランドの支援がなかったらウクライナはプーチンの手中に落ちていた。
「プーチンはNATOをフィンランド化(対ロシア宥和主義)できると考えていた。 その代わりフィンランドとスウェーデンのNATO化を手にした。NATOはかつてないほど団結している。われわれは欧州のロシア産化石燃料への依存を終わらせるため協力している」とバイデン氏は力説した。ウクライナはロシアが一時支配していた地域の50%以上を奪還した。
「EU加盟国の制裁実施は10点満点で4点ぐらい」
「世界の民主主義は弱まるどころか、より強くなっている。世界の独裁者は強くなるどころか弱くなっている」とバイデン氏は言った。昨年10月、国連総会で143カ国がプーチンの違法な4州併合を非難した。棄権は中国、インド、南アフリカ、ベトナムなど35カ国。ロシア支持に回ったのはベラルーシや北朝鮮、シリア、ニカラグアの4カ国だった。
しかしウクライナに軍事支援する有志連合は「50カ国以上」にとどまるのも現実だ。トム・キーティングRUSI(英国王立防衛安全保障研究所)金融犯罪・安全保障研究センター所長は「EU加盟国の制裁実施は10点満点で4点ぐらい。8〜9点の国もあれば1〜2点の国もある。ハンガリーでは99.9%が制裁に反対というまことしやかな調査結果すらある」と指摘する。
「EUの制裁実施と結束は今年、本当に重要になる。クレムリンはアフリカ全域のPRキャンペーンに勝利している。米欧は南アフリカ、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコなど第三勢力を巻き込む必要がある。自国の食糧や安全保障の問題が米欧の制裁によって影響を受けていると考えている国々に外交を展開しなければならない」(キーティング氏)
戦車や長距離ミサイル、戦闘機は戦争を一挙に打開する「魔法の弾丸」になり得るのか――。RUSIのジャック・ワトリング上級研究員は「魔法の弾丸はない。魔法の弾丸は何かに長い間とらわれてきた結果、もっと重要な、ウクライナ軍に提供される兵器の持続性・信頼性・標準化についての議論がおろそかにされてきた」と語る。
「プーチン演説は国民が長い戦争に備えるための試み」
戦争に大きな影響を与えた兵器を一つ挙げるとしたらHIMARSや多連装ロケットシステム(MLRS)から発射できる誘導弾GMLRSだ。「ロシアの兵站や補給線を粉砕したが、備蓄も非常に限られていて製造に時間がかかる」とワトリング氏は指摘する。前線で機会や優位性を生み出す高度な兵器を提供しても優位性を維持できる能力を確保することが重要だ。
陸戦に詳しいワトリング氏は「ロシア軍の攻撃がウクライナ軍の抵抗を一掃するという憶測は事実ではない。ロシア軍にそれだけの戦闘力はない。しかし現在のロシア軍の攻勢に対してウクライナ軍が予備部隊を投入せざるを得なくなる恐れがある。そうなれば多くの異なる軸に兵力を分散させることを余儀なくされ、攻撃能力を台無しにしてしまう」と分析する。
ロシア軍が多軸攻撃、ウクライナは新部隊を増強、その間にロシア軍が追加動員をかける悪循環に陥れば戦争の長期化は避けられない。逆にウクライナ軍が予備部隊を投入することなくロシア軍の攻勢をしのげれば、ウクライナ軍が春季攻勢をかけ、追加部隊で攻勢を強化する好循環に入る。「今後2〜3カ月がまさに戦争の行方を決める」(ワトリング氏)のだ。
キングス・カレッジ・ロンドンのトレーシー・ジャーマン紛争・安全保障学教授は「2時間に及んだプーチンの演説はロシア国民が長い戦争に備えるための試みのように感じられた。興味深いのは『特別軍事作戦』への参加者とその家族を援助する国家基金の設立を発表したことだ。プーチンも犠牲者の規模と支援の必要性を認めざるを得なくなった」と言う。
プーチンは持久戦、すなわち消耗戦に持ち込み、米欧をウクライナから引き剥がそうとしている。核兵器の実験に言及したのは、エスカレーションの次のステップをほのめかしたのかもしれない。米欧には支援の継続と団結、ウクライナに提供する武器・弾薬の持続性・信頼性・標準化を高めていくことが求められる。
●国連事務総長、ロシアを非難 ウクライナ戦争から1年 2/23
国連のグテレス事務総長は22日、ロシアによるウクライナ侵攻は国連憲章および国際法に違反しているとしたほか、核兵器使用を巡るロシアの脅迫を非難した。
ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年に合わせて開かれた国連の会合で「核兵器を使用するという暗黙の脅迫を耳にしている。いわゆる核兵器の戦術的使用は全く容認できない。今こそ瀬戸際から退くべきだ」と指摘。国連はウクライナの主権、独立、統一および国際的に認められた国境内の領土保全にコミットしていると述べた。
またウクライナのあらゆる原子力発電所の安全性を保証する必要があるとした。
総会は23日にも決議案を採択する予定。国連憲章に沿った「包括的で公正かつ永続的な和平に可能な限り早期に達する必要性」が強調される見込み。
草案では、ロシアに対し軍の撤退および敵対行為の停止を再び求めるとみられる。国連総会での決議に法的拘束力はないが政治的な影響は大きい。
ウクライナのクレバ外相は記者団に対し、ウクライナは国連憲章で定められた自衛権を行使しており、「ウクライナへの兵器供与はウクライナによる国連憲章の順守を支援することになる」と指摘。「ロシアは侵略者になることで国連憲章に違反した。ロシアに兵器を供与すれば国連憲章および国連が支持するあらゆるものへの破壊行為を助長していることになる。非常にシンプルだ」と述べた。
●国連総会、平和求める決議案採決へ ウクライナ侵攻1年で緊急会合 2/23
国連総会(193カ国)は22日(日本時間23日)、ロシアのウクライナ侵攻に関する緊急特別会合を開催した。
侵攻開始1年に合わせて日米やウクライナなどが要請したもので、平和の早期実現を求めるウクライナ提案の決議案を23日(同24日)に採決する。
日本など60カ国以上が共同提案国となった決議案は、「ウクライナでの包括的かつ公正で永続的な平和を可能な限り早期に達成する必要性」を強調。ロシア軍の即時撤退や民間施設への攻撃停止を求めるとともに、ウクライナで発生した「極めて深刻な犯罪」について「調査と訴追を通じた責任追及の必要性」も明記した。
米欧は、多くの加盟国の賛成を得て決議を採択することで、ロシアの国際的孤立を改めて世界に印象付けたい考えだ。
ウクライナ侵攻を巡る総会の緊急会合は昨年11月以来で、今回が6回目。グテレス事務総長は冒頭、「戦争は解決策ではない」と演説し、ロシアのプーチン大統領に一刻も早い侵攻停止を訴えた。
ウクライナから出席したクレバ外相は、決議案への支持が「戦争を終わらせる努力を後押しする」と指摘。トーマスグリーンフィールド米国連大使も「この投票は歴史に残るものになる」と述べ、賛成票を投じるよう呼び掛けた。
これに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は「西側諸国はずうずうしくも、われわれの懸念を無視している」と侵攻の正当化に終始した。 
●国連 緊急特別会合始まる 欧米各国 ロシアに圧力かけたい考え  2/23
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから1年となるのを前に、国連総会では、ロシア軍の即時撤退などを改めて求める決議案を協議する緊急特別会合が始まりました。欧米各国としては賛成多数で決議を採択し、ロシアに圧力をかけたい考えです。
193すべての国連加盟国が参加できる国連総会の緊急特別会合は22日午後、日本時間の23日午前5時すぎからニューヨークの国連本部で始まりました。
冒頭、国連のグテーレス事務総長はロシアによる軍事侵攻について「国連憲章と国際法の違反だ。人道的にも人権的にも重大な結果をもたらした」と改めて非難したうえで「戦争は解決策ではない。真の平和は国連憲章と国際法に基づくものでなければならない」と訴えました。
欧米各国や日本などが共同提案した決議案は「武力による威嚇や武力行使による領土の獲得は合法と認められない」としたうえで「ウクライナにおける永続的な平和が可能な限り早期に実現される必要がある」と強調しています。
そして、ロシア軍に対し、即時かつ無条件の撤退を改めて求め、ウクライナの重要インフラ、学校や病院など民間施設への攻撃停止などを求めています。
緊急特別会合は2日間にわたって開かれ、あわせておよそ80か国が演説した後、日本時間の24日午前、決議案の採決が行われる予定で、欧米各国としては賛成多数で採択し、ロシアに圧力をかけたい考えです。
ウクライナ外相「国連憲章や国際法の側に立って」
国連総会の緊急特別会合で22日、ウクライナのクレバ外相が演説し「世界は、非武装の市民の殺害や拷問、無差別の砲撃などロシアによる残虐行為を目の当たりにしてきた」と述べ、改めてロシアを強く非難しました。
その上で、過去の採決でロシアに配慮し棄権にまわった国々を念頭に「さまざまな事情でウクライナ側に立てない国があることは理解している。それならば、国連憲章や国際法の側に立ってほしい。国連憲章を支持していることを言葉と行動で証明する時だ」と述べ、今回の決議案に賛成するよう呼びかけると、議場からは拍手が沸き起こりました。
また、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使も「われわれは歴史的な決議について話し合うために集まった。平和のため、国連憲章を支持するための採決だ」と訴えました。
一方、ロシアのネベンジャ国連大使は、軍事作戦を改めて正当化した上で「西側は新しい武器を供給することでウクライナ危機をあおっている。決議案は平和的な解決に貢献しない。『ロシアが世界で孤立している』と主張できるよう設計されている」と述べ、決議案には反対すべきだと主張しました。
●戦争に負ければ「ロシアは消滅」 メドベージェフ前大統領 2/23
ロシアの国家安全保障会議副議長で前大統領のドミトリー・メドベージェフ氏は22日、ウクライナでの戦争に負ければロシアは「消滅する」と述べた。
メドベージェフ氏は、ウクライナ侵攻を指す「特別軍事作戦」という表現を使いながら「勝利を収めずに特別軍事作戦をやめれば、ロシアは引き裂かれ、消滅するだろう」とSNS「テレグラム」に投稿した。
メドベージェフ氏の発言はバイデン米大統領が21日にポーランドで行った演説を受けてのものだ。
バイデン氏は演説で「ロシアがウクライナへの侵攻をやめれば戦争は終わる。ウクライナがロシアの攻撃からの自衛をやめれば、ウクライナは終わりだ」と述べた。メドベージェフ氏はバイデン氏の発言について「練られたうそ」だと主張した。
メドベージェフ氏は「20世紀と21世紀に起こった戦争の大半を引き起こしながら、ロシアを攻撃的だと非難する米国の指導者を、なぜロシアの市民が信じる必要があるのか」などと述べ、米当局の「そっちこそどうなんだ論法」だと主張した。バイデン氏の目的は「ロシアが戦略的敗北を喫するようにすること」だとも指摘した。
メドベージェフ氏は、ロシアのプーチン大統領の21日の演説についても言及し、特に米国との間で核兵器の削減を約束した「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止について「機が熟した、不可避の判断」と指摘。「この決定は世界、特に米国に大きく響くもの」とも述べた。
メドベージェフ氏は「結局のところ、米国がロシアの敗北を望めば世界紛争の瀬戸際に立つのは避けられない」と続け、「米国がロシアを打ち負かしたいのなら、我々は核を含むあらゆる武器で自衛する権利がある」と述べた。
●「泥沼化」の恐れも…3月が戦況の分岐点か ウクライナ侵攻から1年 2/23
ロシアによるウクライナ侵攻から24日で1年となるが、戦況は3月に「転換点」を迎えるとみられている。
ロシアは「ミサイル不足」の状態か
双方の死傷者数も把握できない中、戦闘は激しさを増しているが、ある政府関係者は最近のロシア軍の異変について次のように指摘する。
「ロシアは兵器が不足してきている」
ここ数カ月のロシア軍は、本来 戦闘機や艦艇を狙うミサイルを、地上に展開するウクライナ軍に向けて使っているという。
ロシア軍は数カ月前から、地対空ミサイルの「Sー300」や地対艦ミサイル「バスチオン」を地上に展開するウクライナ軍に対して発射していることが分かってきた。
精密な誘導爆撃ができず、命中精度が格段に落ちているとされていて、政府関係者はロシア軍の「イスカンデル」や「カリブル」などのミサイルが不足していることの現れだと分析する。
ウクライナも進撃の目処たたず…春に泥沼の戦争か
一方、国土からロシア軍を完全に排除することを目指しているウクライナも、決まったはずのアメリカやドイツなどからの戦車の提供が滞っており、戦いの先鋒を務める戦車部隊が整わず、進撃の目処が立っていないのが実情だ。
「ウクライナ国民の継戦意志をくじかせようとする厭戦機運を醸成するための攻撃だ」(防衛省・吉田陸上幕僚長 21日会見)との指摘もあるように、ロシアによるウクライナの重要防護インフラを狙った空爆も続いている。
ウクライナは、ロシアの爆撃機を迎え撃てる戦闘機の提供を、引き続き各国に求めていく考えだ。
今後の戦況は3月に「転換点」を迎えるとみられている。
冬に凍結したウクライナの地表が春に溶け出してぬかるみとなる3月は、「泥濘期」と言われていて、兵士の歩行はおろか戦車でも進撃が難しくなるとされている。進撃が困難となれば、双方が持久戦に持ち越す展開が予想され、春の訪れとともに戦争が長期化し、まさに「泥沼化」する恐れが出てくる。
核部隊に特異な行動確認されず
また、世界が注目してきたロシアの核兵器の動向については、複数の政府関係者によると去年2月、ウクライナ侵攻直後に、プーチン大統領がロシア軍の戦略核抑止部隊に特別警戒を命じた時からこの1年間に、核兵器を扱う部隊による特異な行動は確認されなかったことが分かった。
この背景には、アメリカのバイデン大統領が「核兵器を使えば途方もない過ちを犯すことになる」などとして、核使用には必ず報復がともなうと繰り返し警告したほか、中国の習近平国家主席も「核兵器の使用に反対する」と表明してきたことが影響を及ぼしているとみられる。
米中がどうしても阻止したいのは、「核保有国」のプレゼンスの低下だ。
仮にロシアが戦術核兵器をウクライナに対し1回でも使えば、核を持たない国に核保有を目指す動機を与えてしまい、核保有国が増えることに繋がりかねないという。
核の抑止力は機能しなかったことが明らかになり、非核保有国は「核を持っていないから核攻撃を受けた」と考え、自らも核を持つことを選択する恐れがある。
その結果、既存の核保有国の軍事的優位性がなくなり、世界のパワーバランスが一挙に不安定化することが懸念されている。
こうした中、習主席のロシア訪問を調整する動きを見せている中国に注目が集まっている。中国が、プーチン大統領に何らかの仲裁案を提案する可能性も囁かれているからだ。
大国の様々な思惑も絡まる中、世界を一変させたロシアによるウクライナ侵攻から、まもなく1年。双方の作戦行動が鈍る春を迎えるにあたり、戦争は更なる長期化に向かうのか、停戦に向けた条件を模索するため歩み寄るのか、両国は重要な分岐点を迎えることとなる。
●ローマ教皇「悲しい記念日」ウクライナ侵攻1年、停戦と和平交渉呼びかけ 2/23
ローマ教皇フランシスコはロシアのウクライナ侵攻から1年となる24日を「悲しい記念日」と述べ停戦と和平交渉を呼びかけました。
ローマ教皇フランシスコは22日、バチカンで「国の指導者らが侵攻を終えるための具体的な方法に尽力することを求める」と語り、停戦と和平交渉を呼びかけました。ウクライナ侵攻から1年となる2月24日を「悲しい記念日」と表現しています。
ロシアのプーチン大統領は22日、年次教書演説で、「ロシアに戦場で勝つことはできない」と強調しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、公開された動画で「今年、ロシアの侵攻に終止符を打つ」と宣言するなど、双方は徹底抗戦の構えを示しています。
●侵攻1年 ロシア砲撃続き5人死亡 核軍縮条約停止で威嚇、G7は制裁強化 2/23
ロシアのウクライナ侵攻が始まって24日で1年を迎える。
開戦を決めたプーチン大統領は当初もくろんだ首都キーウ(キエフ)の短期制圧に失敗し、占領した東・南部4州の「併合」を一方的に宣言。西側諸国の軍事支援を受けるゼレンスキー政権は「平和のため」として勝利を追求する。一進一退の攻防の末、戦況はこう着。双方の立場の隔たりは大きく、停戦交渉の糸口は見えない。
プーチン氏が年次教書演説を行った21日、南部ヘルソン市にロシア軍の砲撃があり、市民5人が死亡した。ここはウクライナが昨年11月に奪還した州都だ。
日々戦火にさらされる前線は、1000キロ前後にも及ぶとされる。その中でもロシアが軍事会社「ワグネル」の助けを借りて猛攻を仕掛けるのが、かねて戦争の口実として「完全解放」を掲げる東部ドネツク州だ。だが、ウクライナ軍も徹底抗戦を続けており、最低限の「戦果」も得られていないプーチン氏には焦りの色もうかがえる。
プーチン氏は21日の演説で、米ロ間に唯一残る核軍縮の枠組み「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を発表。22日に議会で承認された。米シンクタンクの戦争研究所は「(プーチン氏は)演説で侵攻の一時的な目標を示さなかった」と指摘し、長期戦が視野にあると分析した。
日本が議長国の先進7カ国(G7)首脳は24日にテレビ会議を開き、さらなる対ロシア制裁を打ち出す方向。ただ、プーチン政権は制裁を「戦争行為」の一つと捉えており、態度を硬化させるばかりだ。
前線に西側諸国の主力戦車が到着する前に、ロシア軍が航空戦力を本格投入して先手を打つという観測も広がっている。ただ、ウクライナ空軍報道官は21日、侵攻1年に合わせた大空襲はないとの認識を示した。
●揺れる目標、戦争出口見えず 被害意識と正当化に終始―プーチン氏発言 2/23
ウクライナ侵攻を決めたロシアのプーチン大統領の言動に1年間、世界は翻弄(ほんろう)され続けた。「われわれから戦争を始めたのではない」(昨年12月7日)という欧米への被害者意識と、侵攻の正当化では一貫している。しかし、目標を巡っては発言にぶれがあり、戦争の出口を見えにくくしている。
ブチャは偽情報
「(ミンスク停戦合意履行のため)粘り強く闘ったが、すべて無駄となった」。開戦前の昨年2月21日、プーチン氏はウクライナ東部ドンバス地方の「独立」を承認し、停戦合意を破った。翌22日に軍事行動も決め、侵攻は秒読みとなった。
24日の開戦演説で「8年間虐げられてきた(ドンバス地方の)人々を保護することが目的だ」と指摘。「非軍事化と非ナチ化を目指す。ウクライナを占領する計画はない」と言い張った。発言はその後の占領や「併合」と矛盾する。
「権力を手に入れろ」。電撃侵攻の翌25日にはウクライナ軍にクーデターをけしかけたものの、2014年のクリミア半島掌握時と異なり、隣国は強くなっていた。プーチン氏は「ロシアの要求がすべて満たされることが対話の条件」(3月4日)とドイツのショルツ首相に伝達。トルコなどでウクライナと停戦交渉が試みられたが、物別れに終わった。
ロシア軍が撤退した首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでは4月初旬、民間人の遺体が多数見つかった。プーチン氏は4月12日、侵攻後初の記者会見で「フェイク(偽情報)だ」と一蹴。「最初に設定された目的が完遂されるまで、軍事作戦を継続する」と動じる様子を見せなかった。
「(侵攻は)必要かつ時宜にかない、唯一かつ正しい決定だった」。5月9日の対ドイツ戦勝記念日の演説で断言した。
制裁に強がり
ロシア軍は5月に南東部の要衝マリウポリ、7月に東部ルガンスク州全域の占領を宣言したが、死傷者の増加や制裁が重くのし掛かる。プーチン氏は「(制裁は)うまくいかなかった」(6月17日、サンクトペテルブルク国際経済フォーラム)、「ロシアは何も失っていない」(9月7日、東方経済フォーラム)とあくまで強がった。
ただ、9月に北東部ハリコフ州から撤退を強いられると、プーチン氏は国防省に責任を転嫁し、増兵のため9月21日に部分動員令を発出。国民向け演説で、東・南部を「歴史的領土」と位置付けた上で「ドンバス地方全域の解放を目指す作戦の目標は不変」「領土一体性が脅かされれば、ロシアと国民を守るためにあらゆる兵器を使う」と語気を強めた。
「偽の住民投票」(欧米)を経て、9月30日に東・南部の「併合」を宣言。戦況がこう着し、各地を空爆して圧力をかける中でも、プーチン氏は「われわれは常にウクライナ人に敬意を持って温かく接している」(11月4日)と持論を述べた。11月9日には州都として唯一占領していた南部ヘルソンからの撤退命令が下された。
「目標は戦争を終わらせることで、それを今もこれからも目指す。(終結は)早ければ早いほど良い」。12月22日にはモスクワで記者団にこう語り、対話を拒否するゼレンスキー政権を揺さぶろうとした。
核は虚勢でない
目的は、非軍事化か、ドンバス地方「解放」か、終戦か―。プーチン氏の話の力点は揺れ動く。12月31日の新年の国民向け演説で「困難かつ必要な決断の1年だった」「祖国の防衛は、祖先と子孫に対する神聖な義務だ。われわれは道徳的、歴史的に正しい」と改めて主張した。
しかし、ここに来て西側諸国がウクライナへの主力戦車供与を決めた。戦闘は激化の様相を示す。プーチン氏は今月2日、第2次大戦の独ソのスターリングラード攻防戦終結80年に合わせて演説し「再びドイツの戦車の脅威に直面している」と訴えた。
クリミア半島やロシア本土が大規模攻撃された場合、プーチン氏はどう出るのか。「(核使用論は)虚勢でない」(9月21日)という警告が尾を引いている。
●岸田首相のウクライナ訪問 調整続く 最大の課題は安全確保  2/23
ロシアの軍事侵攻が始まって以降、G7=主要7か国の首脳が相次いでウクライナを訪れる中、政府内では5月の広島サミットまでには岸田総理大臣の訪問を実現すべきだという声が出ていて、調整が続く見通しです。
ロシアの侵攻開始から1年となるのを前に、ウクライナには20日にアメリカのバイデン大統領が、21日にはイタリアのメローニ首相が相次いで訪れてゼレンスキー大統領と会談し、連帯の意思を表明しました。
軍事侵攻以降、ウクライナにはG7のうち岸田総理大臣以外の首脳はすでに訪れています。
政府内では、日本もゼレンスキー大統領からの招待を受けているのに加え、G7の議長国としての立場からも5月の広島サミットまでには訪問を実現すべきだという声が出ています。
一方、最大の課題は「安全の確保」で、ほかのG7各国は軍隊や特殊機関なども動いて訪問を実現したとされる一方、日本には自衛隊が対応できる明示的な規定がないことや、事前に国会に対して総理大臣の海外出張を報告する慣例があることなどから情報保全が難しいという指摘があります。
ただ、「国会への報告」をめぐっては、22日に与野党双方から、ウクライナを訪問する際は安全確保のための情報保全を最優先し、例外的に事後報告を認めるという意見もあり、政府としてはこうした点も踏まえて訪問が実現できないか調整が続く見通しです。
●影響力増すグローバルサウス 分断進むほど「漁夫の利」 2/23
ロシアによるウクライナ侵攻は、米欧やロシア・中国との分断を深めただけでなく、どちらにも与しない「グローバルサウス」に新たな光を当てた。グローバルサウスとは何か、どのような外交スタンスなのか、国際社会での影響力はどう変わるのか。アジア経済研究所の川村晃一氏に解説していただいた。
注目される「サウス」
2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、米中対立が激化する時期と重なったこともあり、世界の分断をさらに深めようとしている。ウクライナを支持する米欧側につくのか、軍事侵攻をしているロシア側につくのか、世界中の国が踏み絵を迫られている。
ところが、どちらにも与しない国が相当数あることも明らかになった。侵攻直後の22年3月2日に開催された国連総会でロシアに対する非難決議を採択すると、193カ国のうちインドや中国、ベトナム、南アフリカなど35カ国が棄権した。4月7日の国連総会緊急特別会合で、ロシアの国連人権理事会理事国としての資格停止を求めた決議を採択した際には、棄権する国がさらに増加。ブラジル、エジプト、メキシコ、タイ、インドネシアといった新興経済大国を多数含む58カ国に上った。
これらの国々を含め、発展途上国・新興国のほとんどは、米欧や日本など西側諸国が課している対ロシアの経済制裁にも加わっていない。そうした国々は「グローバルサウス」のメンバーと称される。ウクライナ侵攻は、その独特の行動にスポットライトを当てることになった。
グローバルサウスとは、アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカの地域に含まれる発展途上国や経済新興国の総称である。ただし、ここでいう「サウス」は単に、これらの国々が主に南半球に位置しているという地理的な位置を表しているだけではない。これらの国々でみられる経済発展の遅れや政治・社会的不安定が、先進諸国である「北」によって作り上げられた世界政治・経済の構造に起因するという認識から、「北」に対する「南」という呼び方がなされているのである。
大国インドネシアの苦悩
08年の「リーマン・ショック」後の金融危機を契機として、先進国からなる「主要8カ国(G8)」に新興経済大国11カ国が加わって20カ国・地域(G20)首脳会議が始まったのは、グローバルサウスの世界経済に対する影響力が高まっていたためであった。G20は本来、国際的な経済協力を話し合う場だが、ロシアの軍事侵攻によって安全保障上の対立が持ち込まれた。奇しくも、22年にG20の議長国を務めたのが、グローバルサウスの大国の一つ、インドネシアだった。
インドネシアは、G20サミットが始まった08年当初から、「東南アジア唯一の参加国として地域を代表する」という立場を取ってきた。初めて議長国を担った22年は「グローバルサウス全体を代表する」意識で会議を主導する心積もりだった。ところが、G20はロシアのウクライナ侵攻後、ロシアの排除を試みる米欧日とそうした動きを批判するロシア・中国などとが非難合戦する場と化した。
首脳会議に先立って行われた各種の大臣会合では、ロシアの閣僚が発言しようとすると西側の代表が退席する事態が頻発。ロシア非難の文言を盛り込むかどうかで合意できずに一度も共同声明を出すことができなかった。このG20サミット開催を政権の「レガシー(遺産)」にしようと目論んでいたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、思わぬ事態に苦悩することになった。
「中立」外交に賞賛
しかし、インドネシアはここで独自の外交力を発揮した。西側諸国によるロシア排除の要求を一貫して拒否した。軍事侵攻に対しては交渉による平和的解決を呼び掛けつつ、G20は経済協力を話し合う場であって対立を持ち込むべきではないとの立場を貫き、姿勢がぶれることはなかった。
外交があまり得意ではないジョコ大統領自身も、各国首脳にサミットへの参加を呼び掛けた。ジョコ大統領は22年6月、ドイツで開かれたG7サミットに参加後、ウクライナの首都キーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談。その足でモスクワに飛んでロシアのプーチン大統領とも会談し、両首脳にG20サミットへ出席するよう求めた。
両国の首脳を直接訪問したのは、アジアの首脳では初めてだった。ジョコ大統領が紛争当事国の両首脳と会談できたのは、インドネシアが西側にもロシア側にも与しない中立の立場を取り続けていたからこそである。
11月にバリ島で開催されたG20首脳会議は、そうしたインドネシアの外交努力が結実したものとなった。プーチン大統領は出席を見送り、ラブロフ外相が代理出席したが、ロシア側の出席を理由にボイコットした国はなかった。また、外交当局によるぎりぎりの交渉により、実現は難しいと思われていた首脳宣言の採択にもこぎ着けた。
首脳宣言は冒頭部分で、「G20は安全保障問題を取り上げる場ではないが、世界経済に深刻な影響を及ぼしていることに鑑みて軍事侵攻について触れる」とした上で、「ほとんどの国がウクライナの戦争を非難」し、「核兵器の使用や威嚇は許されない」と明記した。一方で、「情勢に関して他の見解や異なる評価もある」と併記することでバランスをとり、首脳宣言に対するロシアの同意を取り付けた。
その上で、「本来」の議題であった保健分野の国際協力、食料・エネルギ—安全保障、気候変動対策、デジタル経済の促進といった経済協力に関する項目を盛り込んだ。ロシアのウクライナ侵攻後に開かれた主要な国際会議では、対立によって共同宣言の採択が見送られ続けていたため、首脳宣言の採択を成し遂げたインドネシアの努力に、各国は賞賛を送った。
根強い不信感が背景
ウクライナ侵攻という難しい状況下で発揮されたインドネシアの外交力は、一朝一夕に作られたものではない。第2次世界大戦の終結からまだ間もない1955年、インドネシアは、植民地から独立したばかりの29カ国を集めて「アジア・アフリカ会議」を主宰した。開催地の名を取って「バンドン会議」とも称されるこの会議は、東西冷戦が激しさを増していた中、旧植民地国家が国際社会の一員であることを世界に認知させることに成功した。
この流れは、東西冷戦下で資本主義陣営にも社会主義陣営にも属さないことで国家の自立を守っていこうとする、第三世界の諸国による「非同盟運動」につながっていった。インドネシアを「新興独立国の雄」へと押し上げたバンドン会議と非同盟運動は、同国外交の原点となった。
そうした中立外交を展開するにあたって指針となっているのが、「自主と積極」という外交原則である。インドネシアは人口や国土が大きいものの、国力という点では、政治的にも経済的にも先進国に劣っていると言わざるをえない。そこで、大国に支配されがちな国際社会で自国の存在感を示すため、特定の国との同盟関係に依存することなく、むしろ大国からの干渉を排除して外交の「自主」性を維持。同時に、「積極」的な外交の展開を目指すというものだ。
こうした外交姿勢は、グローバルサウスの国々にある程度共通する。彼らは、数百年にわたって欧米諸国の植民地支配を受けた苦い経験を持つ。独立後も、政治・経済的に先進国に従属する立場へ追いやられた。欧米大国に対する根強い不信感を背景に、特定の国の支配は受けない、指示には従わないという思いをどの国も持っている。
ウクライナ侵攻や米中対立が深刻化する中、対立する両陣営はグローバルサウスを自らの陣営に引き入れようと躍起になっている。しかし、非同盟運動の歴史を知れば、グローバルサウスの国々が短期的な利益と引き換えにいずれかの陣営に加わることはない、ということが分かるだろう。
かつて支配する側にいた「北」の先進国は、グローバルサウスの源流をよく理解して、彼らの考えや行動を分析しなければならない。彼らの一つひとつの対外行動から「この国は我々の陣営に入った」とか「あの国は我々を裏切った」と判断するのはあまりに早計である。
引き入れは無駄
しかも、忘れてはならないのは、現代のグローバルサウスは、冷戦時代とは比べものにならないほど経済力を付け、世界経済における存在感を増していることである。一部の東アジアの国々を除き、冷戦下では大国同士の対立に翻弄されるしかなかった「サウス」の国々も、グローバル化が進展するなかで世界経済との結びつきを強め、もはや先進国に従属するだけの存在ではなくなっている。
アジア経済研究所の熊谷聡研究員らが中心となって行ったシミュレーションでは、米欧日と中露の対立で世界経済が分断された場合、中立国であるグローバルサウスが大きな「漁夫の利」を得るという分析結果が示された。しかも、分断が深刻なほどグローバルサウスはプラスの影響を得るという結果だ。世界の分断が進みつつあるこの時代、グローバルサウスの国々にとっては、中立であることがまさに自国の利益になるのである。この点からも、グローバルサウスをいずれかの陣営に引き入れようとする試みがいかに無駄なことかが分かるだろう。
インドネシアを引き継いで23年のG20議長国となったのはインドである。インドも、インドネシアとならんで冷戦時代から非同盟運動を牽引してきた「サウス」の大国だ。インド政府は、23年1月に「グローバルサウスの声サミット」と題するオンライン会合を主催し、G20ではグローバルサウスの代弁者として振る舞う意志を示した。
G20議長国は、インドの後もブラジル(24年)、南アフリカ(25年)とグローバルサウスの国々が続けて務めることが決まっている。国際社会におけるグローバルサウスの影響力がますます高まっていくことは間違いない。
●ウクライナ侵攻、ロシア訪問で薄れる中国の「中立姿勢」 2/23
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、とても長いテーブルが大好きだ。長いテーブルの端にプーチン氏が座り、その反対側に相手が座るという、プーチン流の会談の様子は有名だ。あまりに遠くに座るので、相手に声が届きにくいのではないかと思うほどだ。
しかし、中国の外交トップ王毅氏との会談では、様子が違った。
2人は楕円形のテーブルの両端ではなく中央部分に、握手ができる距離で、向かい合って座っていた。
中国代表団に、長いテーブルの端にではなく中央に座ってもらうことで、関係の近さを物理的に示したかったのかもしれない。
公開された会談映像は、プーチン氏が重要な友好国の代表とあそこまで接近しても安全だと感じていると示すための、わざとシンボリックなものに見えた。
言うまでもなく、いつもそうだったわけではない。数十年前に造られた北京市内の地下核シェルター網は、ソ連との核戦争から首都の市民を守るために設計されたものだ。
しかし、習近平政権からするとロシアは今や、アメリカの影響力に最前線で敵対する国だ。北朝鮮と同様に国際社会から孤立しているものの、地政学的には役に立つ存在だ。
プーチン氏は中国と「限界のない」新たな関係を宣言し、北京冬季オリンピックの開会式に出席し、帰国してから数週間後にウクライナへの侵攻を開始した。それでも中国政府は特に、きまりが悪そうな様子を見せなかった。
習氏は五輪開会式で隣に座ったロシア大統領から、間もなく戦争を始めると警告されたのだろうか。これを大勢が疑問に思った。当時のプーチン氏は、侵攻開始のことで頭がいっぱいだったに違いないのだし。
ロシアに対して慎重に
中国はウクライナ侵攻をめぐり、きわめて慎重にロシアに対応している。習氏はこのやり方で自信たっぷりに歩いているつもりでいるかもしれない。しかし、侵攻に関する中立の主張が維持しにくくなっている状況で、習氏が進もうとする道は隅の方から崩れつつあるという見方もある。
プーチン氏との会談を終えた王氏は、中国とロシアが共に「平和と安定」を推進していくと宣言した。
ウクライナ侵攻開始1年を目前にしたロシア訪問で、「平和と安定」などという表現を使うのは、よそから見れば滑稽(こっけい)なことだ。
しかし、中国政府はそれを承知の上で、自分たちの評判が落ちることを百も承知で、この表現を使った。現時点ではそれよりも、プーチン氏を精神的にしっかり支えるほうが大事だと計算したからだ。
王氏はロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相と面会した際、「親しい友人のあなたと、相互利益の問題について意見交換する用意がある。新しい合意づくりを楽しみにしている」と述べた。
ラヴロフ氏は、「国際舞台で激しい乱気流」が起きているにもかかわらず、両国は連帯して互いの利益を守っていると述べた。この混乱を引き起こしたのはロシア政府ではなく、「乱気流」がただ自然と空中に漂っているかのような表現だった。
軍事・経済支援は
中国の秦剛外相は今週初めに北京で、特定の国が火に油を注ぎ続ければ、ウクライナでの戦闘は手に負えない状況に陥る可能性があると警告した。
アメリカは中国に対して、ロシアに兵器や弾薬を提供しないよう警告している一方で、ウクライナ軍に公然と軍事支援を行っていると、同外相は指摘した。
プーチン氏が戦場で屈辱的な敗北に直面した場合、中国はどのような選択肢を検討するのかが、今では注目されている。
アメリカの研究者たちによると、中国政府はすでに、軍民両用の装備品や、例えばジェット戦闘機の修理に使えるような技術をロシアに提供している様子だ。
また、侵略後にロシアに科された経済制裁で生じた損失を埋め合わせるために、ロシア産原油やガスを買い占めている事実を、中国は隠そうともしていない。
プーチン氏は王氏との会談で、習氏が近いうちにモスクワを訪問することを認めた。今後数カ月のうちに実現するのではないかとみられている。
ある意味、ロシア政府は中国に代わって厄介な仕事をしていると言える。西側の軍事資源を枯渇させ、北大西洋条約機構(NATO)に圧力をかけている。そのためにロシア経済が悪化したところで、中国政府にとってはそれほど問題にはならないだろう。経済を回復させるために、より多くの中国製品が必要になるだけだ。
しかし、西側諸国がかなり結束していること、ロシアがウクライナで勝てそうに見えないことが、中国にとっては問題だ。加えて、長引く残酷な戦争を欧州でしかけた強圧的な国、つまりロシアと、中国は仲間なのだと、周りから見られるようになっている。
自分たちの手に余るものをむやみにわしづかみにしないよう、中国は注意する必要がある。そして世界のほかの国々もまた、アジアの巨人がこの戦争にこれまで以上に引きずり込まれるような展開を、決して望まないはずだ。
●南ア、中ロ海軍と軍事演習 ウクライナ侵攻1年と重なり国内外で反発 2/23
南アフリカ国防軍は22日、ロシア、中国の両海軍との軍事演習を始めたと発表した。演習は27日までの予定だが、ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年の時期と重なることから、国内外から反発の声が上がっている。
南ア国防軍は22日に開いた共同会見で、演習の目標について「中ロと南アフリカの関係強化」や「海上の平和と安定を共同で維持する意志を示すこと」などと説明した。3カ国による海軍の軍事演習は2019年以来2回目で、船隊の隊列を組んだり、空中の目標への砲撃訓練をしたりするほか、機雷の掃討や海賊対策なども行うという。
ただ、今回の軍事演習はロシアがウクライナに侵攻している最中であることや、侵攻から1年のタイミングと重なることで批判が集まっている。
南ア国防軍は、演習が2年前から計画されていたことを明らかにした上で、「軍と政治は異なる」などと主張。同日に発表した声明でも、南アが2022年に米国、フランス、インドとも類似の演習を行ったことを指摘し、今回の軍事演習が外国との唯一の演習ではないことを強調した。
一方、南アフリカの最大野党「民主同盟」は13日の声明で、軍事演習計画を「ばかげた決定」「南アはロシアとウクライナの紛争への中立の立場を放棄することになる」などと批判している。
また、米CBSが先月、在南ア米国大使館の広報官が今回の軍事演習について「懸念を抱いている」と話したと報じるなど、欧米からも批判の声が上がっている。
●IOC 平和推し進める使命 強調 ロシアの軍事侵攻から1年を前に  2/23
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の開始から1年となるのを前にIOC=国際オリンピック委員会が声明を発表し「オリンピックは戦争や紛争を防ぐことはできないが、誰もが同じルールを尊重し、お互いを尊重する世界の模範となることができる」としてスポーツを通じて平和を推し進める使命を強調しました。
IOCは22日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から今月24日で1年となるのを前に声明を発表しました。
この中では「古代オリンピックが始まったころから私たちの使命はスポーツを通じて平和を推し進めることだった。IOCは今日に至るまで平和的な競争で世界を団結させるという使命に力を傾けてきた」としています。
そのうえで「オリンピックは戦争や紛争を防ぐことはできない。世界のすべての政治的や社会的な課題に対処することもできない。これは政治の領域だ」としながらも「オリンピックは誰もが同じルールを尊重し、お互いを尊重する世界の模範となることができる。排除や分断ではできない方法で対話や平和の扉を開くことができる」などと呼びかけています。
そして「言葉では言い表せないほどの苦難に日々直面しているウクライナのアスリートとの揺るぎない連帯を再確認する」として、オリンピックの夢を実現するためにウクライナの選手たちへの資金面や物流面などの支援を続けるとしています。 
●ロシアに近づく国も “プーチンの戦争”で勃発 天然ガスの争奪戦 2/23
「危険でも、ガスが必要なんです。生きるために」
生活のためパイプラインから盗んだガスを使う男性は、こう切実に訴えました。
この冬、アジアでは深刻なガス不足に陥る国が出ています。
背景にあるのが、ロシアにガスの供給を大幅に減らされたヨーロッパによるLNG=液化天然ガスの“爆買い”。
そんななか、そのロシアに接近する国まで出ています。今、何が起きているのか?
ガスが止まる… 頼みは“薪まき”
パキスタンの首都、イスラマバード。夏の平均最高気温は40度近くにもなりますが、12月や1月は最低気温が2度ほどにまで下がり、冷え込みます。
12月中旬。朝晩の冷え込みが厳しくなるなか、一段とつらい冬を迎えていました。ガス不足が深刻になっているのです。都市ガスの供給が半日近く止まる地域も出ています。
「これを見て下さい。火がつかないんです。ここにはガスがないんです…」
首都郊外に暮らすナディア・ハミードさん(37)は、台所のコンロを指さして、力なく語りました。ガスが出ても圧力が弱いうえ、一日中ガスが使えない日もあるといいます。
夫と10歳と6歳の娘、それに2歳の男の子の3人の子供たちと暮らすナディアさん。育ち盛りの子供たちのための毎日の料理のほか、体を洗うお湯や洗濯にガスは欠かせません。
しかし、ガスが思うように使えなくなっているこの冬、頼っているのが「薪」です。自宅の屋上で毎日、薪を燃やして家事をしています。
ただ、ナディアさんのように都会に住む人たちは、薪を使うことに慣れていません。ナディアさんもガスなら10分から20分ほどで済むはずの朝食の準備に、2、3時間もかかってしまうといいます。
子供たちの健康が心配
さらに、ナディアさんが気がかりなのは、子供たちの健康です。
家族5人で使うためのシャワーの水を薪で温めるには、一苦労です。それにガスの暖房器具も使えず、子供たちが風邪をひかないか、毎日気が気ではありません。
それに、薪や木くずなどを燃やした時に出る煙で、子供たちがせきこむようにもなってしまったといいます。
“薪まき”も高騰!? “私たちはどうすれば…”
しかし、今、その薪の値段すら高騰しています。ガスがない中、みんな薪を買わないと生活していけないからです。薪を扱う業者の中には、去年の同じ時期と比べて、売り上げが3倍にも増えているところもあるといいます。
一体いつまで、こうした生活が続くのか。ナディアさんは肩を落としてつぶやきました。
ナディアさん「薪も高くなっていますが、ガスはもっと高くて、ボンベなどはとても買えません。だから、薪を燃やさなければいけません。貧しい私たちはどうすればいいのでしょう、何ができるのでしょうか」
えっ、ガスの“風船”!?
民間の調査会社のデータによれば、パキスタンで発電やいわゆる「都市ガス」として使われているLNG=液化天然ガスの去年1年間(2022)の輸入量は、おととしと比べておよそ16%減少しました。
パキスタン政府はエネルギー消費を抑えるのに躍起となっていて、ショッピングモールなどの営業時間を午後8時半までとするよう要請。各地で計画的な停電も行われてきました。
ガス不足による暮らしの影響について取材を進めていると、SNSに投稿されたある写真が目にとまりました。写っていたのは、パンパンに膨らんだ白っぽい袋のようなものを持って道を歩く人たち。袋は、持っている人の背丈か、それを超えるほど大きなものです。
この風船のような袋は何だろうか。写真が撮影されたパキスタン北西部のある町を突き止め、現地に向かいました。
そこで、見つけました。風船のように大きく膨らんだ袋を手に歩いていました。
両手に抱えて、歩いている人たちもいます。
1人の男性に、身元を明かさないことを条件に家まで連れて行ってもらいました。室内には、いくつもの膨らんだプラスチック製の袋がありました。よく見てみると袋にはチューブが刺さり、空気を圧縮するコンプレッサーを通して、暖房用のストーブまでつながれていました。
袋に入っていたのは、盗んできた天然ガスだったのです。
盗まれた天然ガスを利用する男性「違法だということはわかっています。でも、仕方がありません」
危険でも… 生き抜くために
友人がパイプラインからガスを盗んでいて、それを分けてもらっているといいます。定期的に友人の家に行き、プラスチックの袋に入れてガスを持ち帰り、妻や子どもと料理や暖をとるのに使っています。
男性の家ではプロパンガスを使っていましたが、ガス不足が深刻化する中、プロパンガスの価格も急激に上昇して買えなくなっています。男性は違法であることはわかっているものの、やむにやまれずやっていると弁解しました。
地元のガス会社の関係者によると、プラスチックの袋を使ってガスを盗む行為は、今年に入ってから相次いでいます。さらに袋から漏れ出したガスを吸い込んで体調を崩したり、ガスに引火してけがをしたりする人まで出ているといいます。
それでも、生きていくためにはどうしようもないと、男性は打ち明けました。
「警察は『とても危険だ』と警告しているし、逮捕されている人もいる。でも、冬は寒いし、小さな子どもたちをあたためてあげたいんです。カレーを作るのにも、お茶を飲むのにも、ガスが必要なんです。生き抜くために、危険でも続けていかなければならないんです」
LNG市場でかつてない変化が起きている
パキスタンで起きている深刻なガス不足。原因と指摘されているのがLNG=液化天然ガスの輸入の流れの大きな変化です。
ヨーロッパが爆買いともいえる状況で輸入を増やしています。
JOGMEC=エネルギー・金属鉱物資源機構が民間の調査会社の情報をもとに作成したデータによりますと、2022年の1年間に、ヨーロッパが輸入したLNGは1億2100万トン余り。前年の実に1.6倍に急増しました。
エネルギーの専門家が「エネルギーの歴史上、初めての変化が起きた」と指摘するほどの事態でした。
なぜ、ヨーロッパがLNGを“爆買い”?
この急激な変化を引き起こしたのが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。
軍事侵攻以前、ヨーロッパは、ロシアから大量の天然ガスを輸入していました。ロシアからパイプラインで運ばれる天然ガスは、中東などからタンカーで運ばれてくるLNGよりもコストが安く、魅力的なエネルギーだったからです。EUのロシア産のガスの依存度は全体のおよそ40%にのぼっていました。
しかし、軍事侵攻でこの事情は一変しました。ロシアのプーチン大統領が経済制裁を科すヨーロッパ向けの供給を大幅に絞ったのです。
各国で電気代やガス代が値上がりしましたが、影響が大きかったのがヨーロッパ最大の経済大国ドイツです。2021年の輸入に占めるロシア産ガスの割合は52%。ロシアとの経済協力が、地域の平和と安定につながるとして、関係を深めていたことが裏目に出た格好でした。
スポット市場の先物価格は9倍に!?
ヨーロッパでは、ガスは発電の燃料だけでなく、家庭の暖房の燃料としても広く使われています。そこで目をつけたのが、アメリカや中東で生産されるLNGの「スポット市場」での調達でした。複数年にわたる長期契約ではなく、すぐに取引ができるメリットがあります。
しかし、ガス全体の供給が増えているわけではないため、いわばガスの取り合いが起き、価格が急騰したのです。
調査会社によれば、2022年8月、アジアでの指標となる「スポット市場」の先物価格は5年間の平均のおよそ9倍にまで跳ね上がりました。こうした高騰は日本にも影響を与えています。
専門家はどう見る
ガスの世界的な事情について詳しい、JOGMEC=エネルギー・金属鉱物資源機構の白川裕調査役に聞きました。
――天然ガスの争奪戦ともいえる状況。その影響は?
白川調査役「ロシアのパイプラインガスが大きく減ったため、ヨーロッパがガス不足になり、世界中のLNGが欧州に輸入された。そうすると、LNGが不足して価格が高騰し、あまりにも高い価格になったため、例えばインド、パキスタン、バングラデシュといったところはもうLNGが高くて買えないというような状況になっています。(注釈:パキスタンなどは、もともとは国内でガスを生産していたが、生産が減少したため、スポット市場からLNGを購入している)」
――いまの状況はいつまで続くのか?
「ちょうどいまはLNGの供給が需要よりも少ない時期にあたっています。そこにロシアのパイプラインガスがなくなるということが重なったので、厳しい状況が長く続くということになると思います。かつてのような平時に戻るのは2030年前後と想定しています。このため一番の弱者の国々がLNGを買えないという状況は、この先しばらく続くと思われます。」
さらに白川氏は、ことし2023年に次のようなリスクが想定され、状況次第ではガスの争奪戦に拍車がかかると指摘します。
1. 中国が「ゼロコロナ」政策の終了で経済が活性化し、輸入を急増させた場合
2. ヨーロッパの次の冬が平年どおりの寒さでガス需要が増加した場合
3. LNGの液化プラントにトラブル発生した場合
こうした需給バランスの「リスク」が起きた場合、インド・パキスタン・バングラデシュなどの国々の輸入量は2022年と比べてあわせて3800万トン減り、減少幅は6倍以上になると予測しています。
遠い侵攻より、きょうのガス
ロシアの軍事侵攻が生んだガスの争奪戦。影響が直撃するパキスタンは今、そのロシアに近づいています。
ことし1月、首都イスラマバードにある高級ホテルの一室。固い握手を交わすパキスタンのサディク経済相とロシアのシュリギノフエネルギー相の姿がありました。
記者団に対し2人は、石油や天然ガスのパキスタンへの輸入に向けて調整を進めることで合意したことを明らかにしました。
読み上げられた合意「両国政府は、様々な分野で協力をさらに強化することで合意した。石油や天然ガスの輸入については、技術的な点について合意をしたあと、パキスタンとロシアの双方に経済的な利益をもたらすような形で行うようにする」
一方的なウクライナへの軍事侵攻によって欧米から制裁を受けるロシア。しかし、地元の記者の1人は、パキスタンの多くの市民は、貴重なエネルギーの輸入先としてロシアに期待し、歓迎すらしているといいます。もちろん侵攻に反対する人もいますが、いまはきょうとあすを生きるためのガスが必要なのです。
長年パキスタン経済を取材する地元の記者「ヨーロッパの国々は『団結してロシアに対抗する』と言いながら、その一方でLNGのシェアを独占しています。欧米は、すでに十分発展して豊かなのにもかかわらず、貧しい国々の苦しみや問題を増やしているようにうつっています。もしも、ロシアからガスの輸入をできるようになれば、西側のボイコットのおかげで価格は安くなるかもしれません。パキスタンにとっては『不幸中の幸い』になるかもしれませんね」
ロシアの侵攻が引き起こした格差の教訓は
JOGMECの白川氏は、今回の争奪戦の原因の背景として2つの点を指摘します。ひとつは、ヨーロッパがロシアへの依存を高めすぎたこと。そして、温暖化対策として脱炭素の動きが進むなか、ガスなどの化石燃料を安定的に確保するための取り組みが軽視される傾向があったことを指摘します。
白川調査役「ヨーロッパは従来から、ガスのロシアへの依存度が高すぎると言われていました。しかし、『ロシアが供給を止めるはずはない』として、パイプラインの建設を進めた結果、こういう形となってしまいました。また、この数年間、エネルギーセキュリティー(=エネルギーの安定的供給)よりも、脱炭素を進めていく方向に注意が向いたのは否めません。脱炭素は世界的に重要な問題で解決しなければならないのは当然ですが、エネルギーセキュリティーを軽視していいわけではありません」
ヨーロッパのロシア依存のツケを、ガスを必要としていたほかのアジアの国が払っているとも言える現在の状況。これ以上、格差を広げないために各国はどのような政策をとるべきなのか。白川氏はことし、G7=主要7か国の議長国を務める日本の役割は大きいと指摘します。
「たとえばガスの供給源の多様化とか、十分な在庫を持つとか、省エネを推進する。これは従来どおりに強く進める必要があります。ただ、それに加えて、脱炭素の圧力で停滞している新たなガス田開発も促進しなければいけないと思います。ガスもしくはLNGが安定的に供給され、経済を回すことができれば、利益が生まれる。その利益で、新興国のLNGを含む低炭素エネルギー普及を支援していくことが大切です。そして、エネルギーの取り合いという状況を生まないようにしていく。日本はエネルギーのない国でエネルギーセキュリティーに非常に敏感な国です。その特徴を活かして欧米をうまく説得する役割を期待したいと思います」
●ロシア軍は安定の保証者 プーチン氏、兵器増産誓う 2/23
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は23日、自国軍を国家の安定の保証者と呼び、兵器生産の増強を誓った。
ウクライナ侵攻開始から、24日で1年となる。その前日、「祖国防衛の日(Defender of the Fatherland Day)」に合わせたビデオ演説でプーチン氏は、「近代的で有能な陸・海軍は国家の安全と主権の保証者であり、安定的な発展と未来の保証者だ」と述べ、「だからこそ、これまで同様に防衛能力の強化を優先していく」と強調した。
その上で、ロシアは「軍のあらゆる構成要素において、バランスの取れた、質の高い改良を進めていく」と述べ、特に「新しい攻撃システム、偵察・通信機器、ドローン(無人機)や砲撃システム」の配備を急ぐとした。
プーチン氏はさらに、ウクライナで「英雄のように」戦い、「われわれの歴史的領土で国民を守っている」自国兵をたたえ、ロシアの「鉄壁の結束が勝利の鍵だ」と訴えた。
20年にわたり権力を握り続けているプーチン氏は、軍の強化を最優先事項の一つに据え、「無敵」だとする極超音速兵器も導入した。
●王毅委員を両手広げて歓迎したプーチン大統領… 2/23
中国とロシアが事実上の同盟関係を再確認した。22日、ロシアのプーチン大統領と中国共産党の王毅中央政治局委員兼中央外事工作委員会弁公室主任はモスクワで会談を持って両国関係を議論したとクレムリン宮と中国外交部が公開した。
王委員は「中露の全面的な戦略的協力パートナー関係は第三者を狙わず、第三者の妨害を受けず、さらに第三者の脅迫を拒否する」と強調した。中国がロシアに武器を提供するなと警告した米国に対する抗議性の発言と解説される。王委員は「中露関係は国際的な風雨を受けながらも成熟して強靭になり、泰山のようにびくともしない」と言って両国関係を泰山に例えた。
プーチン大統領は「露中関係が計画通り発展を続けている」とし「新たな境地(milestones)に到達した」と述べた。プーチン大統領は特に両国間の経済関係を強調し、西側の制裁を突破するという意志を表明した。プーチン大統領は「我々の目標は2024年2000億ドル(約27兆円)水準に到達するだろう」としながら「昨年我々は1850億ドルを達成した」と強調した。プーチン大統領は両国間貿易が成長していて計画よりも早く目標を達成できるだろうと自信を持った。
この日の会談ではウクライナ事態も話し合われた。王委員は「ロシアが対話と談判で問題を解決すると繰り返し明らかにしたことを高く評価する」とし「中国は客観的かつ公正な立場を堅持し、危機を政治的に解決するために建設的な役割を発揮していく」と明らかにした。代わりにロシアの発表文にはウクライナ問題について全く言及されていなかった。
習近平国家主席のロシア訪問も両国の発表内容が交錯していた。ロシアは習主席の予定された訪露を強調したが中国は全く言及しなかった。プーチン大統領は全ての発言で「中国国家主席のロシア訪問を期待する」とし「我々は訪問をかつて合意していた。国内の政治的イシュー(全国人民代表大会)を処理したら個人的な顔合わせを進めるだろう」と全ての発言で公開した。来月中国の両会(全人代と全国政協)が終わり、習主席のロシア訪問が予想されている。
代わりに王委員は「年末の画像首脳会談であなたが私を招き、予定に合わせてロシアを訪問した」と話したとクレムリンが公開した。中国側の発表文には習主席の訪露計画は入っていなかった。習主席は4月ないし5月の訪露を準備しているとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が今月21日、内部消息筋の言葉を引用して報道していた。
王委員がロシア訪問をウクライナ侵攻から1年の時点に合わせたのは西側に対する中国のメッセージという評価もある。
オーストラリア国立大学の宋文笛研究員は「北京がイラン大統領を北京に招いたことに続いて、王毅がロシアを訪問して中露関係を深化させたのは、地域安保問題を複雑にさせることができる資源と能力があることを西側に示そうとするもの」としながら「これは中国外交の資源と戦略的実力をアピールするもの」と説明した。
一方、この日英国BBC放送などはプーチン大統領と王委員の会談場面で「異例の席配置」に注目した。この日2人が近く向き合った白いテーブルは、昨年2月ロシアのウクライナ侵攻直前、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相など欧州首脳と会う場面でも登場して有名になった。当時プーチン大統領は欧州首脳たちと5メートルの長さの楕円形テーブルを間に置いて遠く離れて対話をして「意図的ソーシャルディスタンス」という指摘を受けた。だが、この日王委員との会談では同じテーブルを使いながらも中央で近く向かい合って座って話をする様子が見られた。BBCは「プーチン大統領が友好国の代表に安心感を持っていることを示すための意図的かつ象徴的な行為」と評価した。
●ウクライナ侵攻1年 ロシアから人材受け入れ 隣国ジョージアは  2/23
ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアからは、経済制裁や、去年9月に始まった予備役の部分的な動員から逃れようと、多くの人材が国外に流出しています。こうした人たちを受け入れることなどで自国の経済成長につなげているのがロシアの隣国で旧ソビエトから独立したジョージアです。
軍事侵攻始まって以降 ロシアから国外に出る動き続く
去年2月に軍事侵攻が始まって以降、ロシアからは政権側による言論統制への恐れや欧米の経済制裁の影響などを理由として国外に出る動きが続いています。
国外に脱出したり帰国したりといった動きについて公式な統計は発表されていませんが、ロシア出身の経済学者は最初の10日ほどで、少なくとも20万人がジョージアやトルコなどに向けて出国したという見方を示しています。
さらに、去年9月、プーチン大統領が兵力の補強を狙って30万人の予備役を動員すると表明すると、招集から逃れようと出国する人々が相次ぎました。
インターネットの検索サービスでは、出国に関する検索が急増し、国際線の航空券が一時、取りにくくなったほか、ジョージアやカザフスタンなど隣国との国境に車の長い列ができました。
ロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は、出入国を管理するFSB=連邦保安庁が大統領府に報告した内容だとして、動員表明からの4日間に出国した男性の数は26万人余りだと伝えました。
また、アメリカの経済誌「フォーブス」のロシア版は、去年10月上旬、大統領府関係者の話として動員表明を受けて出国した市民は70万人に上ると伝えた一方、大統領府のペスコフ報道官はこれを否定しています。
動員をきっかけに侵攻自体に対する世論にも影響があったとみられ、独立系の世論調査機関が9月下旬に行った調査では、停戦交渉を始めるべきだと答えた人が48%で前の月より4ポイント多くなりました。
「動員についてどう感じるか」を複数回答で聞いた質問では、「不安や恐怖」が47%と最も多く、次いで「ショック」と「国への誇り」がそれぞれ23%、「怒りや憤り」が13%となっています。
一方、ロシアの議会では、国外からのテレワークを禁止することや税制優遇措置の停止に関する議論が始まるなど、締めつけを狙う動きも出ています。
ジョージア ロシアからの入国 11万人超に
こうした人たちを受け入れることなどで自国の経済成長につなげているのがロシアの隣国で旧ソビエトから独立したジョージアです。
ジョージアの人口は、およそ370万と、静岡県とほぼ同じ規模ですが、ジョージア内務省によりますと、去年1月から11月までにロシアから入国し、生活を続けているロシア人は、11万人以上にのぼるということです。
さらに、ジョージアの国立銀行によりますと、去年1年間にロシアから流入した資金は、およそ20億ドル、日本円にしておよそ2700億円と、前の年の5倍に上ったほか、統計当局によりますと、去年の実質経済成長率も、10.1%になったとみられるとしています。
ジョージアの大手金融グループのチーフエコノミスト、オタール・ナダライア氏は「経済成長の主な要因は、ウクライナでの悲劇に端を発する、移民だ。ロシア人の流入は、経済成長や生産性の向上にもつながっている。ロシアから生産力が流出している」と指摘しました。
また、ロシア人の給与水準はジョージア人より高いとして、活発な消費も期待できるとしています。
その上で「住宅を買ったり、子どもを学校に通わせたりするロシア人もいて、かなりの部分は長期間とどまるだろう」として、ロシアからの人材が、長期にわたってジョージア経済の発展に貢献していく可能性があると分析しました。
その一方でナダライア氏は「移民の流入はリスクにもなる。それに依存しすぎると、外的な『ショック』になりかねない」として、ロシアの情勢次第で、ロシア人が一斉に帰国するなどして、ジョージア経済が大きく左右されかねないと、懸念を表しました。
また「ジョージア人はウクライナを強く支援している。ウクライナが苦しんでいるのを目にするのはとても心苦しい」として、ロシア人材の流入が経済に恩恵をもたらしていても、ウクライナを巡る情勢を憂慮する気持ちに変わりはないと強調していました。
多くの企業も相次いでジョージアに移転
ジョージアには、ロシア人とともに多くの企業も相次いで移転しています。
ドイツに本部がある企業活動などを監視するNGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」によりますと、去年3月から9月までにジョージアで新たに登記されたロシアの企業は、個人事業主も含めておよそ9500社にのぼります。
これは、前の年の1年間に登記された数の10倍だということです。
ロシアからジョージア第2の都市バトゥミに去年8月に移転したIT企業が今月、NHKの取材に応じました。
ロシア人が経営し、アプリの開発などを行っているこの企業は、ロシアとベラルーシに事務所を構えていましたが去年3月までにいずれも閉鎖し、ロシア国外でリモートワークを続けながら移転先を探していたということです。
ロシアを去った理由について、責任者は「経済制裁によって、顧客とのビジネスの継続が困難などころか、不可能になった」と述べSWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークからロシアの金融機関が外されたことが、理由の1つだったとしています。
その上で、ロシアによるウクライナ侵攻についても、言葉を慎重に選びながら「とても怖かった」と述べ、ロシア社会の変化に強い戸惑いを感じたことも、ロシアを去った一因だったと明らかにしました。
また、移転先としてジョージアを選んだ理由についてはロシア人の入国に対して政府が比較的寛容であることや、税率が低いこと、そしてロシア語を話せるジョージア人が多いことが決め手になったといいます。
現在、この事務所をはじめジョージア国内では、元々勤めていたロシア人やベラルーシ人のほか、避難してきたウクライナ人などもあわせて52人を雇用しているということです。
責任者は「旧ソビエトが崩壊したときも多くの人が国外に流出し、大きな衝撃だった。いまは当時と同じような状況だ」と話していました。
過度の「ロシア依存」によるリスク懸念
多くのロシア人が流入していることについて、ジョージア国内では、経済効果を期待する声がある一方、過度の「ロシア依存」によるリスクを懸念する声も多く聞かれました。
市場で食品を売る男性は「ロシア人が多く来ることで商品がたくさん売れて、仕事も生まれる。ジョージアにとっていいことだ」と歓迎していました。
また、画家の女性は「ロシア人だからといって、国籍でひとくくりにするのはよくない。悪いのはプーチン体制だ」と話していました。
一方、ジョージアが2008年、ロシアから軍事侵攻されたことを背景に、ロシア人が流入してくることへの強い警戒感を訴える人も多くいました。
書籍の編集者の女性は「ロシア人がたくさん来たが、ジョージアの将来にとっては悪い影響があると思う。ジョージアを『ロシア化』しようとしているのではないか」と話しロシアがジョージアで影響力を強めることにつながるのではないかと不安をにじませていました。
また「ロシア人が来てから、物価が上がった。住宅もアパートも、全部だ。ロシア人は自国にとどまってプーチン氏に抗議していればいい」と不満を訴える男性もいました。
さらに、ロシア軍の駐留が続く、ジョージア西部のアブハジア出身で、いまも避難生活を続けているギオルギ・ジャカイアさん(47)は「良い点をすべて考慮しても、デメリットが上回る。ロシアはジョージアに対して、『ロシア人を守るため』という口実で介入をすることができる」として、ジョージア国内のロシア人の保護を口実に、再び軍事侵攻に踏み切るのではないかと強い懸念を示していました。

 

●プーチンはすでに「絶体絶命」…ロシア経済は「崩壊寸前」で万事休すへ 2/24
もうロシアは敗北している…
ロシアによるウクライナ侵略戦争が2月24日、1周年を迎える。戦場では激しい戦闘が続いているが、少し長い目で見れば、欧米では「もうロシアは敗北している」という見方が共通認識になっている。しかも、国力の回復は当分、絶望的だ。それは、なぜなのか。
米国の外交問題評議会(CFR)が発行する権威ある国際問題専門誌「フォーリン・アフェアーズ」は、昨年11月15日付で「経済的破滅への道を歩むロシア」と題した論文を掲載した。筆者はシカゴ大学公共政策大学院のコンスタンチン・ソニン教授だ。
論文は、戦争の結末について、判断を下していない。だが、勝敗がどうであれ「戦後のロシアは、キューバと北朝鮮を除けば、世界に例がないほど、政府が民間部門に対して権力を行使する国として残る」という点を強調している。
その結果「もしもプーチンが権力を失い、後継者が戦後に大改革を実施したとしても、ロシアの民間部門と国民の暮らしが1年前の水準に戻るには、少なくとも10年以上かかるだろう」と結論付けた。その意味で、ロシアはすでに敗北しているのだ。
壊滅しつつあるロシア経済
以下、概要を紹介しよう。
〈国際的な経済制裁の結果、ロシアは日々、貧困に向かっているようだった。…ところが、開戦から8カ月が過ぎても、このシナリオは実現していない。実際、いくつかのデータによれば、まったく正反対に、ロシア経済はうまく言っているようにさえ見える。ロシアの国内総生産(GDP)は縮小したが、2022年はGDPの縮小が3%以下にとどまるかもしれないのだ〉
実際、国際通貨基金(IMF)が1月31日に発表したロシアの2022年の実質成長率は、マイナス2.2%にとどまった。
〈戦争が始まってからしばらくの間、ロシア人はルーブルの下落を恐れて、ドルとユーロに走った。ロシアがウクライナで敗北を重ねるにつれて、彼らは一層、外貨を買った。普通なら、これはルーブルの急激な下落を引き起こすはずだった〉
〈ところが、制裁を受けて、戦争前に輸入品を購入していた企業は、決済のための外貨購入を止めた。その結果、輸入は4割下落したが、ルーブルは逆に強くなった。制裁が効かなかったのではない。逆に、輸入に対する短期的な制裁の効果が予想以上に強かったのである〉
〈経済制裁によって、ロシアは精密電子部品や半導体を入手できなくなり、自動車や航空機を作れなくなった。3月から8月にかけて、自動車生産は9割落ち込んだ。航空機や武器も同様だ〉
〈「制裁に加わっていない中国やトルコが西側の代わりになる」というロシアの期待は誤りだった。異常なルーブルの強さは、裏口の輸入ルートが機能していないことを示している。もしも、ロシアが裏口で輸入しているなら、輸入業者はドルを買うので、ルーブルは下がるからだ。不可欠な輸入品なしでは、ロシアのハイテク産業は長期的に絶望的である〉
〈ウラジーミル・プーチン大統領は民間部門を国営銀行の監督下に置いた。民間企業は政府の恩恵を受けるために、余剰の労働者を抱えておくように期待された。事実上、労働者の解雇は禁じられたのだ。これは、国民に対して生活の保障を与えた。暮らしの安定こそが、プーチンと国民の契約の決定的に重要な部分だった〉
〈戦争前、政府は外国投資を違法化し、ロシアでビジネスをする外国企業には面倒な手続きを課す一方、政府の保護なしに活動する企業には調査を始めた。その結果、プーチンの友人である政府高官や軍の将軍たちは億万長者になった。一般の市民の暮らしは逆に、過去10年、改善しなかった〉
〈戦争が始まってから、政府の民間部門に対する統制は一段と強まった。9月の動員令はプーチンに一層、棍棒を与えた。企業の経営者が社員を徴兵から逃れさせるためには、政府と取引せざるをえなくなったからだ〉
〈もっと酷いのは、汚職の「脱中央集権化」だ。プーチン政権が最初の10年にうまくいった理由の1つは、クレムリンに権力を集中し、政府の外で動くオリガルヒ(新興財閥)のような競争相手を消し去ったからだ。ところが、ウクライナ戦争のために創設した私兵集団や志願兵部隊は、新たな「権力の拠点」を作ってしまった。それは、ほぼ確実に、再びロシアに「脱中央集権化された汚職」をはびこらせるだろう〉
〈戦争の後、ロシア政府は存在したとしても、武装した帰還兵で組織されたマフィアから、企業を守れるほど強力ではない。少なくとも、マフィアは最初、全国的にもっとも儲かっている企業をターゲットにするに違いない〉
以上である。
人口は減少し、周囲は敵だらけ
この論文だけではない。「長期的にロシアはもう敗北した」と、そのものズバリのタイトルを付けた論文もある。こちらは、もう1つの有力な米外交誌「フォーリン・ポリシー」に2月13日付で掲載された。
筆者はブレント・ピーボディ氏というハーバード大学ケネディスクールの現役大学院生である。学生の論文を同誌が掲載するのは珍しいが、同氏はこれまで、これを含めて計5本を寄稿している。よほど気に入られているようだ。
それはともかく、同氏はロシアの人口と経済力に注目した。以下のようだ。
〈欧州のロシア依存とは対照的に、ロシアの欧州依存は、ほとんど注目されていない。たとえば、ロシアは2021年、石炭の32%、原油の49%、天然ガスの74%を経済協力開発機構(OECD)に加盟する欧州各国に輸出した。日本や韓国、非OECD諸国を含めると、その比率はさらに高くなる。欧州の脱ロシアが進んで、モスクワはまもなく、収益性の高い輸出市場から締め出される〉
〈ロシアはインドや中国に輸出先を振り替えたが、単一の買い手として中国は貧弱だ。欧州では、風力と太陽光を合わせた発電量が昨年初めて、原油と天然ガスを上回った。ヒートポンプへの補助金や米国でのクリーンエネルギーに対するインセンティブ、電気自動車の普及もある。ロシアに対する制裁と需要減の累積的効果は強まる。遅かれ早かれ、化石燃料に対する需要は劇的に減って、原油と天然ガスの価格は持続的に下がるだろう〉
〈ソ連崩壊後、ロシアの出生率は女性1人当たり1.2人に下がり、人口維持に必要な2.1を、はるかに下回った。この戦争で、少なくとも12万人の兵士が死亡した。他国に逃亡した人数は推計が難しいが、イスラエルに移住したロシア人が3万2000人に上ることを考えれば、総計は100万人前後になるだろう〉
しかも、世界で通用するソフト・エンジニアなどのように、将来のロシアを支える優秀な人材ほど、国の将来を見限って、外国に逃亡している。
〈暴力犯罪やアルコール消費の増加などは、出生率をさらに下げる。プーチンは母親への補助金を通じて、なんとか人口減少を鈍化させたが、軍事支出と債務の増大は人口増加政策を難しくする〉
〈もっとも重要なのは、ロシアの侵略がリベラル民主主義の大義を再活性化させてしまったことだ。スロベニアやチェコでは、有権者が非リベラルのポピュリストたちを追放した。ウクライナでは、91%の国民が北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持している。プーチンはウクライナをモスクワの衛星軌道に戻そうとしたが、逆に彼らを西側に追いやってしまったのだ〉
〈平和が戻れば、ロシアは経済と人口の減少に直面する一方、ウクライナは西側の新たなメンバーになるだろう。プーチンはドンバス地方で新たな支配地を獲得するかもしれない。だが、長期的に見れば、そんな獲得物は重要ではない。ロシアはすでに敗北しているのだ〉
西側応援の気分がやや強すぎる感じもあるが、こちらも同じ結論だ。
こうしてみると、目先の戦況がどうであれ「中長期的なロシアの敗北は避けられない」という見方で一致している。ただ、NATO高官は「ロシアは敗北したとしても、同じような野望を持ち続けるだろう。脅威は消えてなくならない」と強調している。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は17日、ミュンヘンで開かれた安全保障会議の冒頭演説で「長期戦に備えるのが賢明だ。プーチン氏が西側の支援疲れに期待しているなら、計算違いをしている」と強調した。残念ながら、プーチン氏に、こうしたメッセージは届いていない。
●ロシアとウクライナ「停戦は政権崩壊に直結」 妥協できない両国の事情  2/24
ロシアのウクライナ侵攻の出口が見えない。プーチン大統領がウクライナを「未回収のロシア領」として、ロシア社会の好戦的な姿勢を呼び覚ます一方、ウクライナのゼレンスキー大統領も国民の高い支持率を追い風に領土の完全奪還を目指す。双方とも妥協は政権崩壊に直結する。停戦交渉は頓挫しており、終結の見通しが立たない。
戦時体制理由に5選への道筋描くプーチン氏
プーチン氏は22日、モスクワで20万人以上が参加した愛国集会で「祖国とは家族である。私たちの歴史や文化、言語を守る戦いがある」と演説し喝采を浴びた。大学生アナスタシアさん(20)は「私は愛国者。プーチンの決定をすべて支持する」と熱狂した。
独立系機関の世論調査でも、侵攻への支持は7〜8割で推移。プーチン氏は来年3月の大統領選に出馬するとみられ、22日は「体制内野党」の党首が戦時挙国体制を理由に、プーチン氏の対立候補を出さないよう呼びかけた。高得票率での5選を目指すプーチン氏は大統領選を前に、不利な形での停戦やウクライナへの妥協は選択肢にない。
「プーチン政権の天敵」と呼ばれ、収監中の民主派野党指導者ナバリヌイ氏は20日、交流サイト(SNS)で「プーチンは個人的な野望のために国の将来を破壊している」との声明を出し、ウクライナで多数の市民が殺害されていると糾弾した。しかし旧ソ連時代を懐かしがり、ロシアの勢力圏回復を願う国民も多い。反政権派のジャーナリスト、ヤコベンコ氏は「プーチンはロシア人の中に眠る侵略思想を呼び覚ました」と指摘する。
欧米が兵器供与を約束 領土奪還目指すゼレンスキー氏
一方、ウクライナはこうしたプーチン政権の膨張主義に苦しんできた。政権が親ロから親欧米に転換した2014年以降、南部クリミア半島が併合され、東部ドンバス地域も親ロ派武装勢力に占領され、昨年2月の全面侵攻開始までウクライナ軍と親ロ派による紛争が8年間も続いた。
プーチン氏は侵攻直前の演説で「歴史的に実態のないウクライナという国家の解体」を明言しており、ウクライナ側には「仮に停戦しても、再びロシアは侵略してくる」(アレストビッチ元大統領府顧問)との見方が強い。欧米から戦車を含む兵器の供与が約束されている現状では、ウクライナが停戦に応じる理由はなく、ゼレンスキー氏は「クリミアを含む領土の一体性回復」を目標とする。
周辺国もロシアの標的、停戦しても火種は消えない
仮に両国の停戦が現実になっても、この地域に平和が戻るわけではない。周辺国がロシアの標的になる可能性があるためだ。モルドバや黒海に面したジョージア(グルジア)など、ロシア軍や親ロ派が領土の一部を実効支配する国々では、反政権デモを装った政権転覆や、ロシアによる併合が起きる恐れがある。
ロシアの軍事評論家ルージン氏は独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」に「ロシアはウクライナで停戦すれば、他地域で紛争を起こす」との分析を寄稿。ロシアは近く、周辺国での紛争の平和的解決をうたって2012年に策定した外交政策を見直す構えだ。
●プーチン氏のウクライナ戦争、ロシア市民は強く支持−弾圧で社会変容 2/24
2年目に突入しようとしているウクライナ侵攻はロシアの苦戦が伝えられるものの、ロシア社会の変容は猛スピードで進んでいる。
プーチン大統領による弾圧は、同氏が英雄視する国家保安委員会(KGB)トップ出身のアンドロポフ氏が最高指導者だった時代をほうふつとさせる。プーチン氏の公式路線を少しでも疑う市民は投獄され、全国の学校や大学ではロシア帝国とソ連への郷愁がない交ぜになったカリキュラムが急いで導入された。
芸術家や作家、俳優は批判的な見解を示唆しただけで表現の場を奪われ、作品はプーチン氏が法制化したソ連的な「伝統的価値観」を忠実に守るものに換えられる。教師や司祭が戦争ではなく平和を唱えれば、子供がそれを非難する。
ロシア政府は国民の支持を取り付けようと、貧しい地方の住民に現金を給付し、政府の公式見解に批判的な目を向けるメディアを残らず閉鎖に追い込んだ。一方で、政府が演出するイベントは国営メディアが大々的に報道。プーチン氏はめったにウクライナでの戦争に直接言及せず、経済的な成功や新たな社会給付、医療施設のリニューアルなどを強調し、戦争は遠い地での出来事だとのイメージを維持している。
今週の年次教書演説でも、伝えられたのは同じメッセージだ。この演説でプーチン氏は、ウクライナでの戦争は米国とその同盟国が原因だと非難しつつ、戦争終結の時期について何ら示唆することはなかった。一方で兵役経験者やその家族に対する新たな給付を約束し、戦闘経験の価値は「人生最良の学び」だと喧伝した。
今のところ、このメッセージはうまく伝わっている。侵攻が当初期待した数日よりはるかに長引き、ロシア軍の死傷者数が数万人に膨らんでも、ロシア人の過半数は独立系の世論調査に対し戦争継続の用意があると答えている。ロシア大統領府のコンサルタントによると、敗北を認めることを意味するとしても戦争の早期終結を望むとの回答は2割程度にとどまった。
経理担当として働くダリヤさん(36)は、昨年の侵攻開始直後に夫が戦争に志願する計画を明らかにした際は断固反対し、それなら離婚すると迫ったという。それでも退役軍人で戦闘経験のあった夫は戦地に赴いた。夫は休暇で夏に戻ってきたが、それまでにダリヤさんの考えも変わっていた。
「今では夫を英雄だと考えるようになった。祖国が必要としているときに、男たちは母親の後ろに隠れているべきではない」とし、夫が3月に帰ってきたら兵役での収入で住宅ローンを完済する計画だと語った。ダリヤさんは米国のメディアに公に話すことを懸念し、姓と居住市を明かさないよう要請した。
ロシア軍がウクライナで敗走を重ねた後、プーチン氏はロシアが戦っているのはウクライナではなく、西側全体だとの説明にシフトし始めた。世論調査会社によると、同氏が当初の侵攻理由として主張していたウクライナ政府の排除よりも、この説明は市民の共感を呼んでいる。米国とその同盟国は実際に戦闘に加わっていないが、それでもこの認識は揺るがない。
強固な支持を得ているとの認識が、はるかに大きな犠牲を伴うとしてもロシアが最終的に勝利できるとの確信を強めていると、ロシア指導部に近い関係者は述べた。
●極右思想家ドゥーギン氏初めて語る 「ロシアの勝利か人類滅亡かの二択」 2/24
ロシアがウクライナに侵攻して1年。ロシア側から見る今回の戦争を、“プーチンの頭脳”ともいわれる極右思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏が日本のメディアに初めて語った。3回シリーズの最終回は、特別軍事作戦はどのように終わりうるのか、今後の展望やロシアから見る日本について聞いた。
「プーチンは長くて激しい戦争に準備をしていなかった」
――特別軍事作戦はプーチンの判断だったと伺ったが、地域限定の作戦ではなく、欧米との長い戦いになることをプーチンが最初から分かっていたのでしょうか?
分かりません。すぐに終わると期待していたのではないかと思うこともあります。プーチンはこの軍事作戦の意味を理解していたが、技術的なディテールに関しては信頼していた特定の人物に頼ったのに、期待外れだったのです。プーチンは彼らを処分しなかった。このような危機的な状況下で期待外れとなった人や任務を果たさなかった人にしっかり罰を与えるべきです。
そういった処分はなかった。プーチンは明らかに失望させられたし、誰が期待外れだったのかも明らかである。プーチンはそれを認識はしたが、処分はしなかった。辞職した人、首になった人、それまでの地位にいる人もいます。プーチンは長くて激しい戦争に準備をしていなかったと私は思います。
「ロシアが勝利するか、人類滅亡になるかの2択」未来を決めるポイントとは
――期待外れとなったのは誰でしたか?
これは国内のマターなので海外のメディアには答えません。
――プーチンは「雨の王様」だと仰っていたと海外のメディアが伝えて
いるが、どうでしょうか?
私は海外のメディアに対してそういった話をしていないのでこれはプロパガンダです。ウクライナのプロパガンダのフェイクニュースです。
――特別軍事作戦はいつ終わるのか、どのように終わるのかご意見を伺いたいです。
どのように終わるのかということならお答えできます。しかしその前にイントロダクションが必要です。歴史とは自由なものです。歴史は機械的に動くものではないので、「明日は〜が起きる」と言えば、その時点で誤りが発生します。
歴史は人類の一つ一つの判断によって形成されます。その(判断の)集合体は歴史となります。歴史はオープンなものなので、物理的なものと同じように未来をプログラミングしようとするのは正しくありません。
今後はどうなるのか、いつになるのかと聞かれると、これはオープンな問題で、私、あなた、一人一人の日本人、韓国人、フランス人、ハンガリー人、アルゼンチン人、ナイジェリア人、サウジアラビアの人やエジプト人(の活動)によって決まってきます。ロシア人、ウクライナ人、ポーランド人、ベラルーシ人、もちろんアメリカ人によって決まってきます。しかしアメリカ人だけが決める、グローバルなエリートだけが(将来を)決めるということではありません。
歴史は全人類によって形成されるものです。一人一人の判断は歴史を形成します。私は未来の特定のポイントにだけ言及します。
第一、ロシアはこの戦争で負けることはないということを理解しないといけません。クリミアや4つの新しい地域だけを失うだけではなく、自分自身を失うからです。ロシアのすべての人がそれを分かっています。
勝利の定義はまた別の問題です。4つの地域、7つの地域で形成されたノヴォロシア、ウクライナ全土になるのか、これはまだ未解決の問題です。しかしロシアの勝利は最低の条件で、最低限の勝利は絶対的です。その勝利のためにロシアはいくらでも、どんな相手とでも戦います。
大祖国戦争と同じです。ドイツ軍がモスクワに近づいたし犠牲者が多いので降伏しましょう、というパターンもあった。しかし自分が目指したことを達成するまであきらめないというのはロシア国民の本質であり、それを証明する事例が歴史の中にたくさんあります。
全世界と戦わないといけないとしても、核兵器を使う必要があるとしても、ロシアは勝利するまでは止まりません。勝利するまでにかかる時間は私には分かりません。
ロシアのあきらめない本質、客観的にも主観的にも、政治敵、心理的、歴史的、地政学的な観点からしても止まることが出来ないと欧米が理解していれば、人類滅亡だけがロシアを止める唯一の手段であることを分かっていたはずです。
我々を止める唯一の手段は戦略的核兵器であるが、そうすれば我々は同じ手(戦略的核兵器)を使います。プーチンはこのことについて何度も話したし、そうなる可能性は高いです。
これはプロパガンダではありません。未来は上記の通りです。我々は勝利し、勝利の後に世界各国が我々に対して今後の方針、つまり制裁を導入するか仲良くするか、圧力をかけ続けるか、圧力を止めるのか、現状を受け入れるのか、ということを決めるが、これはあくまでも我々が勝利をしてからです。
勝利するまで我々は止まることも後退することもありません。後ろに一歩下がったら、100歩も下がるのでロシアが滅亡します。ロシア国民も大統領もそれを理解していますのでこれで十分です。しかも国民は徐々に戦闘に参加するようになった。
新しい地域の市民は武器を手に取りました。彼らはよその人ではなく、ロシア国民であり、武器を手に取った彼らは勝利を逃さないようにします。
(ロシアが)勝利するか、人類滅亡になるかの2択です。3つ目のシナリオはありません。勝利する以前の平和はありえません。(ロシアの)勝利そのものが平和です。ロシアが勝利してから、平和になります。ロシアが勝利しなければ、終末の日(最後の審判)が訪れます。
上記は未来を決める条件です。次に、時間はどれぐらいかかるのか、という質問です。我々は核の危機の可能性も視野に入れているが、それは一瞬で起きます。我々はこの戦争を1年、2年続ける可能性もあるが、西側が極端な手段をとれば、ロシアも極端な手段で対抗することになります。
我々は勝利しなければ止まることがないのでこの戦争はいつまでたっても続く可能性もあるが、人類滅亡であっという間に終わる可能性もあります。
西側がロシアかベラルーシに対して戦略核兵器、戦術核兵器を使えば、もうおしまいです。この紛争は他の国でも展開される可能性があるし、NATO諸国が直接参加する可能性もあります。そうなったら当然(終わる)時期が変わってきます。NATOに武器供与を受けるウクライナの軍と戦うのとNATOと戦うのとは差が大きいからです。
NATO諸国が直接参加すれば状況が緊迫化し終末の日が早まります。もしくは戦争は長引くが、いずれはロシアが勝利します。その場合、多大な犠牲を払うのは我々だけではありません。
ロシアの条件に基づいていない平和の可能性を冷静な分析から排除すべきです。これはあり得ません。ロシアの人は残酷で攻撃的だからではなく、(戦争は)もう始まったので後戻りが出来ないからです。先に進むしかありません。
勝利すれば、多極世界が形成され平和もしくは停戦になる可能性があります。しかしどこかの段階で異常が発生すれば、人類は滅亡します。
核戦争の可能性…「西側もロシアもそれに踏み切ることはない」
――確認ですが、核兵器を最初に使うのは西側諸国ということですね?
ロシアは最初に使うことは絶対にありません。ロシアは具体的な目的とその目的を達成するための具体的な手段の資源があるからです。
ロシアは核兵器を使うことなく目的を達成します。そして西側諸国、ここでウクライナを除外した西側諸国も自らの目的を達成します。彼らの目的とはロシアの孤立化、大多数の国との関係の遮断、技術発展の妨害、欧米にあるロシアの資源の没収であり、その目的をすでに達成しています。
西側は既に目的を達成し勝利しました。しかしウクライナは勝利することはなく、消えるしかありません。全人類とともに消えるのか、我々の勝利によって消えるのか。ウクライナは交渉の切り札です。目的を達成した西側は新たな要求が現れます。
ギリシャ語で「ギュグリス」という言葉があるが、この言葉を他の言語に訳せません。これはタイタニズムの大罪で、過大な欲望を意味します。西側はこの対ロシア戦争で勝利したが、さらに欲張って、ロシアをやっつけたいです。ロシアはそれを容認できないのです。
ウクライナは既に存在しません。もう終わっています。勝利することはありません。ロシアに負けるか、全人類とともに滅亡するかです。核戦争とは全人類の滅亡です。ウクライナだけではなく、日本も含めて全人類(の滅亡)です。すべてが消えます。西側もロシアもそれに踏み切ることはありません。
ロシアは適切な手段で目的を達成できます。西側は既に適切な手段で目的を達成したのです。ウクライナはいかなる手段を使っても自分の目的を達成することはない。
(ロシアと西側の間に)板挟みになった人たちはなんとなく消えることはありません。ウクライナが置かれた状況は悲劇的、悲劇的です。このテロリストたちは私の娘を殺害したが、私の中に怒りはまったくありません。報復したい気持ちもないし怒りもありません。
ウクライナは存在しなくなります。チャンスはあったが、そのチャンスを失ってしまった。存在しないのです。これは悲劇であり、良いことは一つもありません。その国民は存在するチャンスを失ってしまったのです。その国民性、歴史的な経験のなさ、国政のなさによってナイーブな国民は国家を失ってしまいました。良いことは一つもありません。自分自身を失い、自滅したのです。
いくらクレイジーな社会であっても選ぶことはないような人を(選挙で)選んでいるからです。滅亡に導く人達を選んだのです。頑固さなのか継続性なのか、その方向性をあきらめません。ウクライナは自分の手で自分を破壊し存在できなくなることは極めて遺憾です。
30年の間にチャンスはあったが、危険なラインに到着してから戻る国と違って、そのチャンスを失いました。国家を守り切る国がいます。ジョージアは部分的ではあるが守りきれたしアルメニア等の旧ソ連諸国はなんとか持ちこたえています。
しかしウクライナはすべてのラインを越えました。それによって自分で自分を破壊しました。ウクライナの破壊はあとどれぐらい続くのか分からないが、彼らは自滅しないので、それを止めることが出来ません。
ロシアが正しいと認めることはウクライナにとって救いになるが、心理的な理由で彼らはそれを認めることが出来ません。どうすればいいのでしょうか?こんなことを目にするのは怖いし悲しいです。彼らはロシア人で、私たちはウクライナ人です。
これは兄弟を殺す内戦です。西側諸国が彼らの特徴を利用し始めた戦争です。彼らは脳みそを失ってしまいました。これは強大な悲劇です。ウクライナで起きていることは私たちにとっても正教にとっても東スラブ民族にとっても世界にとっても悲劇です。
我々は同じ国民であり、彼らの苦しみと悲しみは私個人の苦しみです。この対立では良いものと悪者はいません。これは歴史的に必要なことであり、ウクライナ人が国家を構築できなかった悲劇的な結果でもあります。
「ロシアの英雄」が死亡した娘に「最後まで戦う決意は強くなっただけ」
――先ほどお嬢様が殺害されたことに触れましたが、その殺人の意味や目的は何だったと思いますか?
ウクライナにとって何の意味はありません。これはヒントでした。捜索の結果によると、おそらく私を狙った犯罪でした。私の娘は我が国の英雄になりました。鮮やかで勇敢で、愛国者で哲学の研究者でした。
彼女も私もウクライナにとっても西側にとっても脅威ではなかった。私を殺す理由は、西側が作った私のイメージにあります。プーチンと会ったことのない独立した思想家である私のことを「プーチンのラスプーチン」と呼んでいました。
私はプーチンの側近者で、彼に悪影響を与えている「プーチンのラスプーチン」だと伝えられていました。西側の諜報機関は英国が関与したラスプーチン本人の殺人を含め、「ラスプーチン」とみなす人物の処分に長けています。
イギリスの意向に反しナポレオンに近寄り始めたパーヴェル1世も同様です。西側諸国のテロリストからすれば、(娘の殺人)はプーチンに対する予告でした。
実際にはウクライナのブダノフ情報総局長が関与したが、彼の判断ではなかった。米国よりもこれはテロを使って歴史に影響を与えたいと思った英国の判断でした。ラスプーチンの殺人は、象徴である人物の殺人です。
そしてこれは私と私の家族に対する報復です。妻も娘も息子も考え方が同じです。私たちは自由主義のグローバリズム、欧米のヘゲモニーに反対し、多極世界のために戦っています。
私の書籍は日本語を除いて世界のすべての言語に翻訳され読まれています。私は全世界で知られ、私の思想は欧米ヘゲモニーの反対派に通じます。イスラム教徒、キリスト教徒、中国人、中国人と対立しているインド人、パキスタン人、イラン人、トルコ人、アフリカの人、南米の人、欧州の人、トランプの側近者の中にも私の支持者が多いです。
私は西側の自由主義ヘゲモニーとの対立にロシア国内外の多くの知識人を巻き込もうと(広めようと)しています。これはバイデン、マクロン、英国の首相にとって脅威となると思います。西側は哲学的な討論等の適切な方法を使ってこの対立に立ち向かうことが出来ないということです。
私は彼らが破壊したくなった象徴的な存在になったのです。私を止めるため、西側のヘゲモニーに立ち向かう国民、文明、文化の統合を止めるためです。
欧米をそのヘゲモニーから解放することも必要です。ドイツや最近NATOに加盟した国々が植民地であるだけでなく、米国も人間の代替を作ろうとしLGBTやAIを推奨するあのグローバルなエリートの人質になりました。
その思想の持主である私を爆発したわけです。そしてプーチンにヒントを与えたのです。プーチンはそのヒントに気づいて、死亡した娘に「ロシアの英雄」(勲章)と勇気の勲章を付与しました。
最後まで戦う決意は強くなっただけです。敵は私を破壊しようとしました。私に痛みを与え、私を人間として、父親として殺しました。しかし思想家としての私はそれによってさらに強くなりました。
私とダーシャ(娘)、私と妻、私と無数の仲間のミッションは引き続き世界で普及しています。
ブログで綴った「雨の王様」の真意は?
――「雨の王様」についての確認ですが、露軍がヘルソンを撤退してから、「国のトップは国を守る責任があり、それをしなければ雨の王様だ」とあなたはブログで綴ったと海外のメディアが伝えています。
その通りで、ブログで綴ったがインタビューではなかった。
私は全面的に大統領を支持しています。西側(メディア)は私のいろんな発言を引用しながら歪曲しています。(撤退に関しては)責任を負うべきだと私は言ったし、実際には(部分的)動員が始まりました。
国民の全面的な信頼を得た大統領は聖なる王様として、ちなみに「雨の王様」とはそういう意味だが、国民に全面的に信頼されているリーダーとしてみんなを救うステップに踏み切る必要があります。これが私が(SNSで)言いたかったことです。
ヘルソンからの撤退は悲劇であり、私たちの心に対する打撃でもあった。プーチンはしかるべき結論をしなければ悲劇で終わっていました。プーチンもそれを分かっていたが、私は圧倒的な多数の意見を述べただけです。
「雨の王様」とは聖なるリーダーです。国民に対して責任を負う聖なるリーダーです。「雨に対する責任」とは何かというと、宇宙や世界に対する責任です。雨の王様は特定の層の福祉、年金の支払い等の特定の分野に責任を負うのではなく、聖なる王様として宇宙の責任を負っています。今我々にとっての宇宙はウクライナです。私たちの将来、宇宙の将来は戦場で決まります。当然ながら(戦場で)全力を尽くすべきです。
ヘルソン(からの撤退)について自分の痛ましい気持ちをSNSで表したのに、その解釈は本来の意味とは全く異なっていました。
ロシアの大統領は欧米の大統領のようなものではなく、聖なる王様に近い存在です。日本の天皇(のようなものです)。首相は特定の領域に責任を負うが、彼(プーチン)は国民の未来に責任を負っています。私はこういうことを言いたかったのです。
その発言が誤解され、歪曲された状態で拡散され、どれが私のブログの引用でどれがそうでないのか分からなくなります。
「ロシアの行動を理解してない」ドゥーギン氏から日本はどうみえるのか
――確認ですが、特別軍事作戦のプーチンの目的はノヴォロシアと呼ばれる新たな領土の獲得ではなく、多極世界の構築だという理解で良いですか?
その通りです。プーチンは多極世界、世界秩序の再構築、つまり一極集中の世界から多極世界への移行についてよく発言しています。
次のことに注目したいと思います。多極世界の構築とその多極世界の参加者としての地位を獲得したい中国は(特別軍事作戦の)意味をしっかり理解しています。親欧米派であるインドもそれをよく理解しています。インドは中国ほどロシアを支持しないが、多極世界の必要性を理解しています。日本はまったく受動的であるのは驚きです。
日本は偉大な文明であり、偉大な国家です。「文明の衝突」の中に日本は独立した一極でした。にもかかわらず、日本では多極世界の考えは全く存在しません。日本の知識人でさえロシアの行動を理解していません。
この戦争の目的は多極世界であるとプーチンやラブロフを含め多くの政治家が言っているのに。日本は(多極世界)の一極になれるチャンスがあります。チャンスがあるのはロシアだけではない。中国、インド、イスラム諸国、アフリカ、南米諸国はそれをよく理解しています。
欧州の野党も分かっています。米孤高のトランプの野党も分かっているのに、日本は分かっていません。ハンティントンは日本のことを「独立した文明」と呼んでいます。
独立した文明であるならば、このユニークなチャンスを活用してください。中国との関係において、同盟国である欧米諸国に従うだけでなく、自分のポテンシャルを発揮してください。しかし日本は全く動かないのは不思議です。
ハンティントンは日本を「独立した文明」として位置付けたのは時期尚早だったのかもしれません。これは一極集中世界と多極世界の戦いであるのをみんなが理解し、自分なりに適応し始めているが、日本は自分のことについて自分の頭で考えてみてはどうでしょうか?
昔、ある日本人の哲学者から聞いた話だが、日本人は自分のことを神だと思っています。その神に勝った者、第二次世界大戦の米国のことですが、彼らはさらに強い神です。このようなアルカイックな思考パターンから脱却しないといけません。
多極世界では米国も日本もロシアも中国も神様です。時には対立も起こるが、自分の主権を優先すべきです。主権が神です。中国、インドは既にそれを実現しました。中国を止めろ、北朝鮮を止めろというのではなく、日本は目覚めるべきです。
●「西側に対する幻滅、プーチンが利用」 背後で実利を得た両国 2/24
ウクライナ戦争勃発から1年、世界は米国対ロシアの構図に分かれた。米国など西側は侵略を行ったロシアに大規模な制裁で圧迫したがプーチンの戦争を立ち止まらせることはできなかった。相当数の国はロシアの「表情」を見て制裁参加を先送るか、一部国家は「戦時特需」の恩恵を得ることもあった。
22日(現地時間)、米紙ワシントン・ポスト(WP)は「ウクライナ戦争を契機に西欧同盟はロシアに対抗して結集し、米国のバイデン大統領はこれを『グローバル連合』と宣伝した」としながら「しかしよく見ると思ったより結集がスムーズではない」と指摘した。あわせて、特にインド・南アフリカ共和国などがどちら側にも立たない「綱渡り外交」で国益をあげたと伝えた。
WPによると、インドの場合、中国と国境紛争が続く限り、武器供給国のロシアと対立する必要がないと判断している。さらに西側の制裁に乗じてロシアと経済的に密着することもインドの立場では得だ。先週、インド政府はロシアとの貿易規模が侵攻以降、400%増加したと発表した。インフレ抑制のために値段の安いロシア産原油を購入した結果とみられる。
元インド外相のカンワル・シバル氏はWPに「米国はウクライナ戦争初期にインドと自国の政策が一致するように圧力を加えたが通じないためインドの立場を受け入れたとみられる」とし「米国は中国との対決構図でバランスを取るためにインドが必要だ」と診断した。「公共の敵」の中国のために米国がインドの立場に目をつぶるということだ。
南アフリカ共和国は米国が最大外国人投資家であり最大輸出市場であるにもかかわらず、最近になって軍事面で中露と密着している。
中国のGlobal Times(グローバルタイムズ)によると、中・露・南アの3国は、今月17日から10日の日程で南アフリカ・ダーバンのインド洋海域で海軍共同訓練「MOSI−2」を実施している。4年ぶりに行われた今回の訓練について、3国は「通常訓練」と主張したが、西側は「アフリカを掌握しようとする中露の軍事的動き」としながら反発した。
WPは「南アフリカの執権勢力であるアフリカ民族会議党はアパルトヘイト(人種差別政策)時代だった数十年間、ソ連の支援を受けた」としながら「特にタンディ・モディセ国防長官など南アフリカの高位要人はソ連で訓練を受けた経験がある」と指摘した。
西欧が犯した植民統治に辛い記憶がある国々がロシア圧迫に中途半端だという分析も提起されている。南アフリカの政治分析家ウィリアム・グミード(William Gumede)氏はWPに「ロシアは植民支配を受けた国々の西欧に対する『幻滅』を利用して攻撃的求愛に出た」と伝えた。ロシアのラブロフ外相は先月アフリカ歴訪期間に「米国・欧州国家がアフリカを以前の植民時代のように西欧国家に依存させようとしている」と話した。
南アフリカに駐在しているウクライナのLiubov Abravitova大使はWPに「プーチン大統領は『ロシアはアフリカ植民地化に参加しておらず、アフリカ大陸国家の解放運動を支持した』というメッセージを強調した」と伝えた。
彼らが米国など西欧の立場に快く同調しない背景を説明しながらだ。
結果的に英国調査機関エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによると、全世界人口3分の2はロシアに対する非難を自制してきた国々に住んでいる。WPは「国連193カ国中141カ国が侵攻以降にロシアを糾弾するのに票を入れたが、実際にロシアに制裁を加えたのは33カ国だけだった」と指摘した。
侵攻から1年を迎えて国連が「包括的で正しく持続的な平和に到達する必要性」を強調した新たな決議案でロシアを外交的に孤立させようとしているが、拘束力がなく、実際の効力は大きくないとの懐疑論が出ている理由だ。
●ウクライナ侵攻に反対の声を上げないロシア国民の本音 2/24
政権打倒の動きは広がっていないのか? 
ウクライナ侵攻から1年が経過した今、当のロシア国民は日々、何を考えているのか――。“戦争”の行方だけでなく、国家の命運すら占うロシアの国民世論は、しかし、外国からその実態を窺い知ることは難しい。数少ない手がかりである“世論調査”をもとに、戦時下にあるロシア国民の素顔に迫ってみたい。
昨年の侵攻開始直後、ロシア国営放送の生放送中に、職員のマリーナ・オフシャンニコワさんが「戦争反対」のプラカードを掲げ、大きな物議を醸した。
その後、約3万円の罰金が言い渡されたオフシャンニコワさんは、政権への抗議姿勢の態度を変えず、昨年7月にはクレムリン周辺で行われた集会に参加し、プーチン大統領を「人殺し」とするプラカードを掲げて戦争の中止を訴えた。
露捜査当局は7月の事案について「故意に虚偽の情報を広めた」と起訴。最高で10年の懲役刑となる可能性が出てきたため、オフシャンニコワさんは密かに出国する意志を固め、今年2月までに政治亡命を果たした。
このニュースが大きく報じられたが、ロシアにはオフシャンニコワさんのような勇気ある行動を取る者は他にいるのか? 侵攻当初に起こり、盛んに報じられた抗議運動は一体、どうなってしまったのかという疑問が頭をもたげる。
事実として、ロシアでは捜査当局の取り締まりが強化されており、街頭での反戦・反プーチンのデモ行為は抑圧されている状況にある。
世論調査の結果がこの状況を映し出している。
広がらない“反政府機運”
親政府系「世論機関」は、政権の取り締まりを気にする回答者が答えやすいようにと、「もし直近の2〜3ヵ月の間に、あなたが住んでいる地域で、抗議集会や抗議デモがあれば、多くの人が参加すると思いますか? それとも小規模に止まると思いますか」という問いをつくり、侵攻当初から調査を続けている。
選択肢は(1)「多く参加する」、(2)「それほど多く参加しない」、(3)「誰も参加しないだろう」、(4)「答えられない」の4つ。結果は常に(2)の「それほど多く参加しない」が全体の45%〜55%で他を圧倒している。
対して(1)の15〜25%、(4)の19〜26%が2番目、3番目をそれぞれ行ったり来たりする。(3)の「誰も参加しない」は常に4番目で7〜10%で推移している。
親政府系組織の調査なので、政権支持の結果が出やすいが、それでもロシア社会の反政権機運はソ連邦崩壊時のように爆発的に広がっていないことがわかるだろう。
一方の独立系のレバダセンターは、ウクライナ情勢を特定せず「もし政治的要求を主張する抗議運動があったら、あなたは個人的に参加しますか?」という問いかけで、ロシア社会の反戦・反プーチンの雰囲気を聞き出している。
侵攻以来、3度の調査を行っているが、5月の調査では、(1)「参加の可能性あり」が16%、(2)「参加する」は9%。8月には(1)17%、(2)11%、11月には(1)17%、(2)12%といずれも情勢が変化していない。
クロス調査によって、参加派の回答者は反プーチン層に比較的多いことがわかるが、それでも反プーチン層の66%は「抗議デモには参加しない」と答えている。
「私たちには政治を変える手段がない」
こうした状況を生み出している理由は、筆者の取材に応じたロシア人の証言で説明できるように思える。
今は、海外に暮らしているある30代のロシア人女性は2011、12年に起こった反政権デモに参加して、プーチン政権下のロシアの新しいうねりを体感した。しかし、今はそんな雰囲気では全くないとして、こう説明してくれた。
「2011年、12年のときは学校や職場を休んでも抗議デモに参加すれば、知った仲間がたくさんいて、その数は次第に増えていった。集会では若者が次々にスピーチし、将来への希望があった。しかし今はない。抗議デモにいっても、多くの人たちが拘束されるのを恐れている。単独で行動しても意味がない。だから反戦の機運が広がらない」
モスクワに居住するある男性も「今は政治を変えようと思っても、選挙も封じられ、私たちには変える手段がない」と訴えた。
反政権運動は治安当局によって厳格に抑えられている。しかし、怒りのマグマは動いており、ウクライナ戦争の悪化によって、日常生活への打撃が膨らめば、いつか「噴火」する可能性を秘めていることは間違いない。
ただ侵攻2年目に入る2023年2月の段階では、ロシア社会が落ち着いた状況にあるのは確かだろう。
軍事行動は支持されているのか? 
プーチン政権はウクライナ侵攻によって決定的になった西側の民主主義諸国との対立を煽り、一方で、ロシア国家への愛国心や忠誠心を高める取り組みを強化している。こうしたことから、「特別軍事作戦」と称する「プーチンの戦争」を支持している社会の雰囲気が広がっている。
レバダセンターは月1回のペースで「あなたは個人的にウクライナでのロシア軍部隊の行動を支持しますか?」との世論調査を続けているが、支持派が圧倒的多数を占めている。反対派は常時、20%前後の割合を推移しており、世論が政権に軍事行動をやめさせるための核にはなっていない。
軍事行動支持派は高年齢層であればあるほど多数となり、例えば2023年1月の調査では18〜24歳で支持派は全体の62%なのに対して、歳をとればとるほどその割合は増え、55歳以上では82%に達している。
ロシアでは、1991年のソ連崩壊前の社会主義国時代を生きた「ソ連人」と、その後に生まれ、西側の民主主義の空気に触れ、スマホやネットにも慣れ親しむ「新世代」との間で、価値観に大きな開きがある。
ウクライナ侵攻をめぐる世論調査の結果でも、この世代間の溝が色濃く反映されている。
無力感を抱えながら、過酷な現実を受け入れるロシア国民
ロシアでは現在、国営メディアが大量のプロパガンダを流して、政権支持の情勢を作り出している。英字紙「モスクワ・タイムズ」は昨年10月、クレムリンに近い情報筋の話として、国営メディアや親政権メディアに、戦争に深入りするようなテーマを取り上げないよう政府が勧告を出したと報じている。状況を過熱させたり、人々を悩ませるような報道をせずに、日常の前向きなテーマに焦点をあてるよう指導しているという。
その結果、世論調査にもウクライナ情勢に関連するテーマを努めて取り上げないようにしている様子がうかがえる。
世論基金、レバダセンター以外のもう一つの大手世論調査機関である「全ロシア世論調査センター」がその代表格だ。2月に入り、バレンタインデーや10年前に落ちた巨大隕石にまつわる宇宙の話、ウィンタースポーツやロシアの科学界などに関する調査結果を相次いで発表し、およそ戦争当事国とは思えない世論調査の内容となっている。
日々、犠牲者が出ているウクライナでは戦争への懸念が高まる一方であり、決してバレンタインデーやウィンタースポーツに関心を持つ人はいないだろう。
モスクワ・タイムズは2月16日までに、ロシア各地の自治体が政府の指示で、ソ連時代に作られた地下シェルターの点検や改修などの整備に着手していると報じた。国民の犠牲と経済の損失を伴う戦争の長期化は避けられず、ロシア社会もその過酷な現実を受け入れているようだ。
レバダセンターは「ウクライナでの軍事行動はいつまで続きますか」との定期調査を行っており、「1年以上」の回答は月をまたぐごとに増加している。
2022年3月の調査で「1年以上」は全体の21%で、「2ヵ月〜半年以内」が23%、「半年〜1年以内」は23%とほぼ同規模だったが、次第に開きが顕著となって、2023年1月の調査では「1年以上」は22ポイントも増加して、全体の43%になっている。
侵攻2年目を迎えるロシア社会は、自分たちでは怒りの声も上げられないという無力感を抱えながら、一方で、政権の抑圧を恐れ、先行き不透明な現実が長期間続くことを受け入れているようにも思える。
●南アフリカ、非難覚悟でロシアと海上合同演習 歴史的に深いつながり 2/24
南アフリカ・ヨハネスブルク(CNN) ウラジーミル・プーチン大統領の残忍なウクライナ侵攻から1年という節目が近づく中、ロシア最強クラスの兵器を積んだ軍艦が先週末、南アフリカ東海岸の港に入港した。
フリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」(プーチン氏によれば、極超音速ミサイル「ツィルコン」を搭載している)の黒ずんだ煙突には、1年前ウクライナに入ったロシアの戦車や火砲と同様、白い「Z」と「V」の文字が雑に描かれている。
ロシア艦はインド洋で、南アおよび中国の軍艦と10日間の合同海上演習に参加する。南アによれば、演習は前々から予定されていたという。
だが西側諸国の外交関係者は、このタイミングで軍事演習が行われたことに内心怒り、公に批判した。南アフリカ政府にとっては、反発を招いて面目を失う危険性がある。
「このタイミングでの軍事演習は特に残念だ。戦争が節目を迎える中、世界の関心が南アに向けられてしまう。西側諸国はこれを見過ごすことはないだろう」と言うのは、南ア国際関係研究所でアフリカ政治外交プログラムを率いるスティーブン・グルズ氏だ。
「平和な国に軍事攻撃を仕掛け、破壊し、ウクライナ国家を根絶しようとする国(攻撃者、侵略者と言ってもいい)との軍事演習を南アが受け入れている状況は、非常に気がかりだ」。ウクライナのリュボウ・アブラビトバ駐南ア大使もこう述べた。
現実政治だけで考えれば、ロシアを締め出すか、少なくとも合同海上演習を延期する方が賢明な選択かもしれない。
有力なウクライナ支援国である米国や欧州連合(EU)諸国は、南アにとっても重要な貿易相手国だ。
南アの対EU、対米相互貿易は、ロシアとの経済関係をはるかにしのぐ。ロシアはさらなる貿易協定を約束するが、困窮したロシア経済が南アの望む直接投資をもたらす可能性は低い。
南ア当局者は、近年フランス軍や米軍とも軍事演習を行ってきたと強調している。
冷戦時代の盟友
だが南アで政権を握る「アフリカ民族会議(ANC)」とロシア政府の絆(きずな)は深く、そう簡単に破ることはできない。
「基本的に我々はロシアの味方だ。我々にとって、ウクライナはいわゆる裏切り者だ。西側に寝返っている」。かつてANCの軍事部門に所属していたオベイ・マベナ氏は、昨年CNNとのインタビューでこう語った。
マベナ氏は南ア政府やANCの代表者ではないものの、同氏の感情と同調するANCの忠実な支持者は少なくないとみられる。
同世代の人々と同様、マベナ氏もアパルトヘイト(人種隔離)時代の1970年代に警察の弾圧を逃れて南アから亡命した。南アの若者の多くが、亡命中にANCや「汎アフリカ会議」といった解放運動の軍事部門に加わった。
他のアフリカ諸国に設置された訓練所には、しばしばソ連の顧問の姿があった。
「旧ソ連圏のように、我々に必要なもの全てを与えようとする国があることを知った。食べ物や制服を与え、訓練と武器を供与してくれた」とマベナ氏は言う。「自分たちを同等に扱ってくれる白人に出会ったのは初めてだった」
解放運動の戦士や政治家は、西側諸国との関係でまったく異なる経験を味わっている。米国からは、80年代中期の包括的経済制裁という形のサポートしかなかった。その時すでに、アパルトヘイト政権が権力の座に就いて数十年が経過していた。
反アパルトヘイトの活動家で、南ア初の黒人大統領となったネルソン・マンデラ氏は2008年までテロ監視リストに名前が挙がっていた。これは冷戦時代の名残だ。ANCのメンバーの多くは、米中央情報局(CIA)がマンデラ氏の逮捕に関与していたと信じているが、真偽は証明されていない。
当然ながら、大勢のANC幹部がソ連時代のウクライナで教育や訓練を受けた。
反アパルトヘイト運動は米国内にも強力な味方がいた。米国議会では当時上院議員だったジョー・バイデン氏が、南ア白人政府を支持したロナルド・レーガン政権の国務長官を厳しく非難した。
武力ではなく交渉を
近年、南アとロシアの関係はBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア5か国の経済外交パートナーシップ)の形成でますます深まるばかりだ。
合同海上演習から離脱すれば、ロシアを侮辱するだけでなく、もっと重要な経済パートナーである中国の顔にも泥を塗ることになる。中国国防省は19日の声明で海軍演習への参加を確認し、演習がBRICS諸国の防衛と協力の促進につながるとの認識を示した。
南アの外交トップは、合同海上演習に対する批判を「ダブルスタンダード」だと述べた。
ロシアによるウクライナ侵攻とウクライナ領土の併合を非難する国連決議の採決が行われた際、南アは他の複数のアフリカ諸国と並んで棄権した。
「我々に与えられた回答方法は、条件をのむか否かの二択だ。そのように横柄な態度を突きつけられては棄権するしかないと判断した」。南アのナレディ・パンドール国際関係協力相は6月、このようにCNNに語った。
国際社会は国連の権限のもと、ロシアとウクライナの間の交渉による和解を目指すべきだというのがパンドール氏の主張だ。南アのシリル・ラマポーザ大統領も、こうした交渉の仲介役を申し出ている。
ロシア、ウクライナいずれも、同大統領の申し出を受け入れていない。だがこうした南アの戦争に対する立ち位置は、同国を国際社会から締め出すには至っていない。戦争の勃発以来、米国からはアントニー・ブリンケン米国務長官やジャネット・イエレン米財務長官、上級外交官がこぞって南アを訪問している。
おそらく米国の上級外交官は歴史を念頭に置いて、南アを名指しで批判しないよう配慮しているのだろう。
だが、たとえ南ア政府当局者がこうしたスタンスを現実的だと考えていても、倫理的というには無理がある。マンデラ氏やケープタウン大主教を務めた故デズモンド・ツツ氏といった偉人を生んだ国なのだから、当然だ。大主教の財団は「どっちつかずの態度を取っている」時ではないと発言している。
噂(うわさ)通り、ロシアが軍事演習でアドミラル・ゴルシコフから極超音速ミサイルのツィルコンを発射すれば、南ア政府はさらに批判にさらされるだろう。
この長距離ミサイルは音速の5倍以上のスピードで飛行し、他のミサイルと比べて探知や迎撃が難しい。
プーチン氏も以前このミサイルを褒めそやし、ロシア国営タス通信によれば「世界のどの国にも、これに匹敵するものはない」と発言していた。さらに「これほど強力な兵器があれば、ロシアは想定される外的脅威から確実に守られ、我が国の国益は確保されるだろう」と続けた。
合同軍事演習でミサイルを誇示すれば、ロシアの指導者にとってはさらなるプロパガンダの材料となるだろう。これまでのところ、ロシア製の兵器はウクライナの戦争で期待通りの成果を挙げられていない。
南アは「中立」の立場を固持することで、戦争の節目でプーチン氏に大きな勝利を与えている可能性がある。
「ロシアはこうした展開を引き出そうとするだろう。これをプロパガンダの材料にして、『我々には味方がいる、協力者がいる』というメッセージを発信するつもりだ」とグルズ氏は述べた。
●G7、終戦へ制裁継続 ロシア財政悪化に手応え 2/24
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対し、先進7カ国(G7)は粘り強く経済制裁を続けていく構えだ。プーチン大統領は21日の「年次教書演説」で、長期戦の覚悟を示しており、終結の兆しは見えない。だが、昨年12月以降、ロシアの財政は急速に悪化。G7は制裁の効果がボディーブローのように効いてきたと手応えを感じつつある。
23日にインド・ベンガルールで開いたG7財務相・中央銀行総裁会議で採択した共同声明では、経済制裁によるロシアの財政悪化に関し「不法な戦争のための戦費を賄う能力を大きく制約することになる」と成果を強調した。
ロシア政府の発表などによると、同国の財政収支は昨年12月に3兆8632億ルーブル(約7兆円)の赤字となり、今年1月も1兆7600億ルーブル(約3.2兆円)の赤字を計上した。ロシア経済の専門家は「23年通年で見込んでいる赤字の半分を1カ月で記録した」と指摘した。
急速な財政悪化の原因は、軍事費の増加や景気下支えのための歳出拡大に加え、歳入の柱である石油・ガス企業に対する課税収入が落ち込んでいるためだ。昨年12月にG7が中心となって発動したロシア産原油への上限価格設定などの制裁が効いているとみられる。インドや中国は依然としてロシア産原油の輸入を続けているが、価格交渉で優位に立ち、割安に仕入れているもようだ。
ロシア政府は、過去の原油高局面で上振れした石油・ガス収入を積み上げた「国民福祉基金」で財政赤字を穴埋めしているが、先の専門家は「このまま1兆数千億ルーブルの赤字が続けば、7〜8カ月で枯渇する可能性がある」と分析する。
もっとも、ロシアの財政収支の動向は国際的なエネルギー価格の動向に左右される。欧州の暖冬による需給の緩和で低下した石油・ガス価格が、中国の経済回復に伴う需要増などで再び騰勢を強める可能性もある。軍事費を賄うロシア財政の耐久力は、なお不透明な面がある。
●ウクライナ侵攻1年、ロシア経済はなぜ「堅調」か  2/24
ロシア連邦統計局の発表によると、ロシアの2022年の実質経済成長率は前年比2.1%減と、2020年(同2.7%減)以来のマイナス成長になった。この数値を評して、ウクライナ侵攻に伴い欧米を中心とする主要国から経済・金融制裁を科されているにもかかわらず、ロシアの経済は堅強であるとの見方が一部で広がっている。
当初、ロシアの成長率が2桁台のマイナスとなるとの見方がなされたことも、ロシアの経済が意外に堅強であるという評価につながっていると考えられる。言い換えれば、それは、主要国から科された経済・金融制裁の効果は限定的だ、という評価でもある。はたしてこうした見方は正しいのだろうか、以下、考えてみたい。
マイナス2.1%をどう読み解くか
もちろん、ロシアが発表している数値にどの程度の信頼が置けるか、定かではない。とはいえ、この前年比2.1%減という数字が正しいという前提で議論を進めたい。ウクライナ侵攻の前年に当たる2021年のロシアの実質経済成長率は同4.7%増と、コロナショックを受けて景気が腰折れした2020年(同2.7%減)の反動で、堅調だった。
2021年といえば、各国とも2020年の反動を受けて高成長を記録した年である。したがって2022年に成長率が低下することは、当然の帰結だった。米国の成長率は前年比5.9%増から同2.1%増に低下し、欧州連合(EU)の成長率は同5.4%増から同3.5%増へ低下した。成長率は低下したが、プラス成長を維持している点が重要である。
しかしロシアの場合、2022年の成長率は前年比2.1%減とマイナス成長に転じている。つまり、世界経済が拡大局面にある中で、ロシアは縮小を余儀なくされたことになる。2桁減という当初の予測も行き過ぎであるのと同様に、2.1%減という数字をもってロシアの経済が堅強であるという評価もまた、行き過ぎた見方だろう。
ところでロシアは、今回の制裁より前、2014年のクリミア侵攻の際にも欧米から制裁を科されている。その時に科された制裁が、ロシアの経済を圧迫したことは、当のロシアが認めている。今回の制裁は、クリミア侵攻の際に科された制裁よりもはるかに強力である。それが効力を持たないという見解には無理があるだろう。
クリミア侵攻の際に欧米から制裁を受け、ロシアの潜在成長力は低下を余儀なくされた。そのためウラジミール・プーチン大統領は、コロナショックの前まで、ロシアの潜在成長率を何とか3%台まで引き上げようと躍起になっていた。13の優先分野に対して、大規模な国家投資プロジェクトを準備していたことは、その端的な表れである。
このプロジェクトは、2019年から2024年までの6カ年で総額25兆7000億ルーブル(約46兆円)の事業規模を想定しており、まさにプーチン大統領の肝いりであった。大統領自身、欧米を中心とする主要国からの経済・金融制裁がロシアの経済を悪化させたと認めたからこそ、大統領はこの大規模な国家投資プロジェクトを準備したわけだ。
しかし、この国家プロジェクトが目ぼしい成果をあげないまま、ロシアはコロナショックを迎え、さらにウクライナとの戦争に突入することになった。そして、欧米を中心とする主要国によって、クリミア侵攻の際をはるかに上回る制裁を科されることになった。そのことへの危機感は、当のプーチン大統領が強く認識しているはずだ。
そもそも、経済・金融制裁というものは、短期的な効果というよりも、中長期的な効果を狙ったものである。制裁に対しては、ロシア側も当然、対抗措置を取る。当初は制裁と対抗措置が拮抗しているように見えても、徐々に制裁を科される側が苦しくなることは、ロシアがクリミア侵攻の際に経験したとおりである。
着実に変容するロシア経済の需給構造
それに前年比2.1%減という成長率の裏で、戦争と制裁の影響を受けて、ロシアの経済構造が需給の両面で変容したことは重要なポイントだ。供給面では、ロシア国内での生産に必要となるヒト・モノ・カネのうち、ヒトの不足(つまり労働力不足)が深刻化した。ロシアから多くの若者が国外に脱出し、働き盛りの男性の多くが戦争に召集されたためだ。
モノに関しても、制裁によってロシアの輸入の約半分を占めた欧州からの輸入がほぼ半減した。ロシアは中国やトルコなどの国々から輸入を増やしているが、それでカバーできる量には限界もある。ヒトとモノという生産に必要な2大要素が減っている中で、ロシア経済の供給力は構造的に低下したと考えるほうが自然である。
需要面では、戦争の長期化で軍需が増大している。軍需は、民間の資金需要を締め出すクラウディングアウト効果の大きい公需であるから、その増大は民間の設備投資需要を圧迫する。加えてロシアの場合、ヒトとモノの不足で供給力が低下している。そうした環境の下で軍需が増大すれば、民需は一段と強く圧迫される。つまり、軍需品の増産を図るためには、民生品の生産を犠牲にせざるを得ないのである。
戦争が長期化すれば、軍需(公需)を満たすことを最優先する形に、経済のシステムを組み替えていく必要がある。それは経済のシステムを戦時経済的に、計画経済的に変容させていくことにほかならない。つまり、ロシア経済のシステムは、その前身国家である旧ソ連の経済システムに近付いていくことになる。
そうすれば、経済は戦争の継続を前提に、ある程度は回り続けることになる。しかしながら、それが持続可能なシステムではないことは、旧ソ連の崩壊という歴史が証明している。いずれにせよ、前年比2.1%減という成長率の裏には、ロシアの経済が、戦争と制裁を受けて、戦時経済的・計画経済的な性格を強めつつあるという事実が隠されている。
国力の回復が見込めないロシア
戦争の長期化が免れない以上、ロシア経済は戦時経済的・計画経済的な性格をさらに強めることになる。ロシアが旧ソ連の経済システムに本格的に先祖返りするとして、旧ソ連の全盛期のような国力を回復できるとはまず考えられない。拡大するのはあくまで軍需であり、拡大再生産に必要な民需が圧迫されたままだからである。
欧米を中心とする主要国からの制裁の中にあって、その制裁に参加していない中国やインドなどの国が、ロシアから原油・石油製品を中心に輸入しておりロシアとの貿易を維持している。中国やインドはかつて旧ソ連が支援を施してきた国々だが、今やロシアをはるかに上回る経済規模を有しており、その意味で国力は逆転している。
その中国やインドといった新興国がロシア産の化石燃料を購入しなければ、ロシア経済は成り立たないため、ロシアの立場は弱い。一方、中国やインドはロシアとの取引は継続しつつも、欧米との関係悪化は望んでおらず、配慮も見せている。つまり、ロシアが中国やインドなどとともに欧米に対抗する構図が成立することも考えにくい。
プーチン大統領は当初、ウクライナとの戦争を短期で終結させるつもりだったといわれている。しかし現実は、ウクライナの抗戦で戦争は長期化している。こうした中で、ロシア経済は前年比2.1%減という成長率となった。それはロシア経済の堅強性を示す数字ではなく、戦時経済的・計画経済的な性格を強めた結果の数値と解釈すべきだろう。
欧米を中心とする主要国からの制裁が効力を持つのは、むしろこれからである。国際通貨金(IMF)は1月の『世界経済見通し』で、2023年のロシアの実質経済成長率が0.3%増となり、2024年には2.1%増に持ち直すと予測している。とはいえ、それは国民生活に多大な犠牲を強いるシステムの下で実現する経済成長といえよう。
●侵略1年、戦争終結は見えぬまま…兵士・民間人の死傷者計32万人超  2/24
ロシアがウクライナへの侵略を開始して24日で1年となる。米欧から軍事支援を受けるウクライナはロシアの力による現状変更に徹底抗戦し、戦況は東・南部で 膠こう着ちゃく している。米欧の推計で双方の兵士計約30万人が死傷し、民間人2万人超が死傷する中、戦争終結の見通しは立たないままだ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日夜のビデオ演説で露軍の攻撃を撃退している自国軍兵士に謝意を表明し「敵に圧力をかける労を惜しまない」と語った。23日には首都キーウでスペインのペドロ・サンチェス首相と会談し、勝利に向けた支持を改めて取り付けた。ゼレンスキー氏は2023年中に勝利を実現するとの目標を強調しており、会談後の記者会見でもロシアとの停戦協議は「不可能だ」との認識を示した。
ロシアのプーチン大統領は23日、軍人をたたえる祝日「祖国防衛者の日」にちなんだメッセージで、通常兵器の増産と合わせ、「核戦力の強化に注意を払う」と述べた。侵略継続の決意を表明したものだ。
ウクライナ軍は昨年2月24日に多方面からウクライナに侵略した露軍の攻撃をしのぎ、これまでに露軍が侵略後、占領した自国領土の半分程度を取り戻した。露軍はプーチン政権が昨年9月に一方的に併合した東・南部4州の防衛態勢も強化しており、膠着状態が長期化している。今月、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)を中心に攻勢を強化したが、制圧地域の拡大につながっていない。
ウクライナ軍が春の着手を目指す大規模な領土奪還作戦は、米欧が供与する戦車など重装備がカギを握る。
米国のバイデン大統領は22日、訪問先のポーランドの首都ワルシャワで、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する中東欧9か国(ブカレスト9=B9)の首脳会合に参加し、各国と共にウクライナへの支援を継続する必要性を訴えた。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は21日、民間人8006人が死亡し、1万3287人が負傷したと発表したが「氷山の一角」にすぎないと位置付けた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によるとウクライナ国外に逃れる難民は、人口の約2割にあたる約808万人に上っている。
●国連総会緊急特別会合 ロシア撤退やウクライナ平和の決議採択  2/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて1年となるのに合わせ、国連総会では、ロシア軍の即時撤退とウクライナでの永続的な平和などを求める決議案の採決が行われ、欧米や日本など141か国が賛成して採択されました。
国連の193すべての加盟国が参加できる国連総会では、2日間にわたって緊急特別会合が開かれ、23日、欧米各国や日本などが共同で提案した、ロシアに対する決議案について協議が行われました。
決議案は、「武力による威嚇や武力行使による領土の獲得は合法と認められない」とした上で、「国連憲章の原則に基づいてウクライナにおける永続的な平和が可能なかぎり早期に実現される必要がある」としています。
そしてロシア軍に対し即時かつ無条件の撤退と、ウクライナの重要インフラ、学校や病院などの民間施設への攻撃の停止などを求めています。
緊急会合では2日間でおよそ80か国が演説したあと、日本時間の24日午前5時半すぎに採決が行われ、欧米各国や日本など141か国が賛成、ロシアや北朝鮮など7か国が反対、中国やインドなど32か国が棄権し、棄権と無投票を除く3分の2以上の賛成で、決議が採択されました。
この1年間に国連総会でロシアに対する決議が採択されたのは6回目で、賛成した国の数はこれまでで最も多かった143か国とほぼ同じで、ロシアの軍事侵攻に対する各国の批判を反映したものとなりました。
一方で、反対や棄権などに回りロシアへの配慮を示した国もおよそ50か国にのぼり、国際社会の分断も改めて浮き彫りにされました。
ウクライナ クレバ外相「ウクライナ支持 西側諸国だけでない」
採決のあと、ウクライナのクレバ外相が会見し、141か国が賛成したことについて「きょうの採決の結果は、ウクライナを支持しているのが西側諸国だけではないという証拠だ。ロシアが国際秩序を弱体化させるために何をしようと、失敗するだろう」と述べ、ウクライナを支持する国々の結束の強さを強調しました。
中国 戴兵国連次席大使「一方的な制裁やめるべき」
ロシアに対する決議案の採決を棄権した中国の戴兵国連次席大使は、採決の前に演説し「武器を送っても平和にはならず、緊張が高まるだけで、紛争の長期化や拡大は一般市民にさらに大きな犠牲を強いることになる。一方的な制裁はやめ、事態を落ち着かせるような行動をとるべきだ」と述べ、欧米各国によるウクライナへの武器の供与を暗に批判しました。
同じく、採決を棄権した南アフリカの国連大使は「この戦争は最もぜい弱な人々の生活に影響を与え、世界で食料やエネルギー、財政の危機を引き起こしている。そして、ウクライナへの武器の流入により、暴力行為と人的被害が拡大している」と述べました。
林外相 ウクライナの平和求める決議案に賛成を呼びかけ
ニューヨークを訪れている林外務大臣は、日本時間の24日未明、国連総会の緊急特別会合に出席し、演説しました。
この中で、林大臣は「193の国連加盟国は異なる立場を代表し多様な意見があるが、ウクライナの平和を望むという一点では一致できると信じている」と述べた上で、ウクライナが提出し日本などが共同提案国となった、ウクライナの平和を求める決議案に賛成するよう呼びかけました。
また、ロシアに対し即時に無条件で軍を撤退させるよう改めて求めるとともに、核兵器の使用や威嚇は決して許されないと強調し、ほかの国は、直接的にも間接的にもロシアへの支援を控えるべきだと訴えました。
そして「ウクライナの人々の悲惨な状況を思うと胸が張り裂けそうになる」として、国際社会と連携してウクライナへの支援を継続する方針を示しました。
さらに、国連の信頼を回復する必要があると指摘し、安全保障理事会の改革だけでなく国連全体の機能強化が必要だと訴えました。
林外務大臣は、ロシア軍の即時撤退やウクライナでの永続的な平和などを求める決議にみずから賛成票を投じたあと、記者団に対し「141票の賛成多数で採択されたことを大変歓迎している。国連加盟国の圧倒的多数がロシアによる侵略の即時停止を求めるとともに、ウクライナへの力強い支持を表明したものと考えている」と述べました。
その上で「平和とは単に敵対行為が停止すればよいものではない。主権や領土の一体性といった国連憲章の原則に基づく、包括的で公正でかつ永続的な平和でなければならない。その前提は、ロシア軍が即時に完全にかつ無条件に撤退することだ。同時に、ロシアの侵略による世界的な食料やエネルギー供給などへの影響に対処するための国際的な連携も必要だ」と強調しました。
ドイツ ベアボック外相「抑圧者と孤立か、平和のため団結か」
採決を前にドイツのベアボック外相は「きょう、ここにいる私たち一人一人が、抑圧者とともに孤立するか、平和のために団結するかを選択しなければならない」と演説し決議案への支持を訴えました。
●ウクライナ戦争、兵器供与で「平和実現せず」=中国国連次席大使 2/24
中国の戴兵国連次席大使は23日、国連総会で、ロシアによるウクライナ全面侵攻開始から1年が経過する中、兵器を供与しても平和はもたらされないことが「残酷な事実」で十分に証明されていると述べた。
戴次席大使は「火に油を注げば緊張が高まるだけだ。紛争を長期化させ、拡大させれば、一般の国民が払う代償がさらに高くなるだけだ」とし、「中国はウクライナ危機の解決に建設的な役割を果たし続け、早期の平和を実現する用意がある」と語った。
ロシアのプーチン大統領は、昨年2月24日のウクライナ全面侵攻開始以来、ロシアが脅威にさらされれば核兵器の使用も厭わないと繰り返し表明。これについて戴次席大使は「核兵器が使用されることがあってはならない。核戦争を引き起こしてはならない」とし、「全ての当事者は核兵器の使用、または使用の脅威に対抗し、核拡散を防止し、核を巡る危機を回避するために団結しなくてはならない」と述べた。
22日には中国外交担当トップの王毅氏がモスクワを訪問し、ロシアのプーチン大統領のほか、ラブロフ外相と会談。プーチン氏が中ロ関係が「新境地」に達したと指摘し、習近平国家主席の訪ロに期待を示す中、米国や北大西洋条約機構(NATO)は中国に対し、ロシアに軍事支援を行わないよう呼びかけている。
国連総会は23日、ロシア軍の撤退と「包括的、公正、かつ永続的な平和の実現」を求める決議案の採決を行う。
●国連総会、ロシアの戦争犯罪訴追を決議 141カ国賛成 2/24
国連総会は23日、ロシアによるウクライナ侵攻から24日で1年になるのにあわせた緊急特別会合で、ロシアの戦争犯罪に対する「調査と訴追」の必要性を初めて明記した決議を賛成多数で採択した。侵攻以来、国連総会での決議採択は6回目。ロシア軍の即時撤退と「公正かつ永続的な平和の実現」も求めた。
決議には日本や欧米などの141カ国が賛成した。中国やインド、南アフリカなどの32カ国が棄権し、ロシアや北朝鮮、マリなどの7カ国が反対した。ロシア軍の撤退を求めた部分の削除などを求めたベラルーシの修正案は賛成票が足りず、廃案となった。
国連総会の決議に法的拘束力はなく、国際社会の総意を示す。戦争犯罪の追及については国際刑事裁判所(ICC)が侵攻直後から捜査を進めているが、ICCにはロシア、ウクライナ両国は加盟していない。
決議はウクライナのゼレンスキー大統領が求めていた「特別法廷の設置」など具体的な方法には言及しなかった。過去には旧ユーゴスラビアの戦争犯罪やルワンダの虐殺などで特別な法廷が設置されたが、いずれも国連安全保障理事会の決議に基づいていた。拒否権を持つ常任理事国であるロシアに対してこの形式で裁くのは難しい。
ウクライナのクレバ外相は決議採択後、記者団に対して「どんなにウクライナの領土主権を侵害しようとしてもロシアは失敗するというメッセージを送った」と述べた。さらに賛成した国について「ウクライナを支持するのは西側諸国だけではないことが明らかになった」と評価した。
日本の林芳正外相は会合で国連憲章に基づく平和の実現がなければ「世界は野蛮な力と威圧が支配するジャングルと化してしまう」と述べ、賛成するよう加盟国に呼びかけた。「ロシアは核兵器保有国としての立場も悪用している」と批判した。
中国の戴兵国連次席大使は「核兵器が使用されてはならない。核戦争が起きてはならない」と強調し、核の危機を回避するよう当事国に求めた。「中国は責任ある国家として常に平和の側に立つ」と語り、近くウクライナ侵攻をめぐり「政治的解決に関する方針を示す文書を公表する」と明らかにした。
●国連総会、ロシア軍の即時撤退など求める決議採択 ウクライナ侵攻1年 2/24
国連総会は23日、ロシアのウクライナ侵攻開始から丸1年となるのに合わせて開催された緊急特別会合で、侵攻を非難する決議案を圧倒的多数で採択した。141カ国が賛成し、ロシアを含む7カ国が反対、中国やインドなど32カ国が棄権した。
決議案は、ウクライナからのロシア軍の撤退や戦闘の停止、可能な限り早期に平和を実現することなどを求めるもの。
また、ウクライナの主権と領土保全への支持を再確認すると共に、占領地域はロシアの一部だとするロシア側の主張を退けている。ロシアは昨年9月、ウクライナの東部ルハンスク、ドネツク、南部ザポリッジャ、ヘルソンの4州を一方的に併合すると宣言した。
国連はまた、「ロシア連邦に対し、国際的に認められたウクライナ国境内の領土から、直ちに、完全かつ無条件にすべての軍を撤退させること」と、敵対行為を停止することを要求した。
この措置に法的拘束力はないが、政治的な重みがある。
決議は大多数の国の支持を得て採択されたが、棄権した国も目立った。
棄権した32カ国には中国、インド、イラン、南アフリカが含まれる。
一方、反対票を投じたのはロシアやベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、マリ、ニカラグア、シリアの7カ国。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、採択について、「ロシアが違法な侵略をやめなければならないことが明確に示された。ウクライナの領土保全は回復されなければならない」と述べた。
「ロシアが全面的な侵略を開始してから1年となるが、ウクライナに対する国際的サポートはいまも強力なままだ」と、クレバ氏はツイートした。
OSCE会合、ロシア代表演説で各国退席
他方、オーストリア・ウィーンでこの日開催された欧州安保協力機構(OSCE)の会合では、ロシア代表の演説が始まると多くの国が退席した。
OSCEへのロシア代表団の参加をめぐっては、渡航に必要なビザを発給することが決まったことに怒りの声が上がっていた。
ウクライナとリトアニアは、ロシアが欧州連合(EU)の制裁下にあるにもかかわらず、オーストリアがロシア高官の招待を決めたことを理由に、会合自体をボイコットした。
オーストリア政府はOSCEの本部が同国に設置されているため、国際法上そうせざるを得なかったとした。
ラトヴィアの国会議員リハルズ・コルス氏は、ロシアの存在を「誰もが認識しているのに、触れないようにしている」、ロシアの参加が認められたことは「恥ずべきこと」だと述べた。
OSCEの会合では、多くの国の代表がロシアの演説の最中に退席した。
ロシア代表団のウラジーミル・ドゥジャバロフ氏は、侵攻はウクライナ政府を率いる民族主義者やナチスとの戦いだとするロシア側の従来の主張を繰り返し、退席した各国代表をあざけった。
OSCEは1975年、東西に分断された欧州諸国の関係を改善するために設置された。現在のメンバーにはNATO加盟国やロシアの同盟国も含まれる。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は昨年2月24日に最大20万人の兵士をウクライナに送り込み、第2次世界大戦以降の欧州で最大規模の侵略戦争を開始した。
この侵攻で、これまでに少なくとも7199人の民間人が死亡し、数千人が負傷したと、国連は推計している。実際の数はこれよりはるかに多いとされる。
●ロシアのウクライナ軍事侵攻から1年 長期化避けられない情勢  2/24
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから、24日で1年となります。ロシアは、欧米との全面的な戦いの構図になっているとして、兵力の増強を図り、欧米の軍事支援を受けるウクライナも、領土の奪還を果たすまで停戦に応じない構えで、戦闘が一層長期化するのは避けられない情勢です。
ロシアのプーチン大統領は、1年前の2月24日、ウクライナ東部のロシア系の住民を保護する「特別軍事作戦」だとして、ウクライナへの軍事侵攻を始めました。
ロシア軍は、動員兵も戦地に派遣するなどして兵力の増強を図り、当面は東部ドネツク州とルハンシク州の完全掌握をねらって大規模な攻撃を行っています。
これに対して、ウクライナ軍は、欧米側から供与された兵器を駆使しながら反撃を続けています。
ウクライナ軍は23日、ロシア軍がこの1年でおよそ8500回のミサイル攻撃や空爆を行い、1100回もの無人機による攻撃を繰り返したと発表しました。
国連人権高等弁務官事務所によりますと、確認できただけでも、これまでに8000人を超えるウクライナの市民が死亡したということです。
また、双方の兵士の死傷者も増え続け、このうちイギリス国防省は、今月、ロシア軍の兵士や民間軍事会社の戦闘員の死傷者数があわせて20万人にも上る可能性を指摘しています。
プーチン大統領は23日、核弾頭が搭載できる新型の大陸間弾道ミサイルを実戦配備するとして、核戦力を誇示しました。
いまや欧米との全面的な戦いの構図になっているとして、軍事侵攻を継続する姿勢を強めています。
一方、ゼレンスキー大統領も、占領された領土の奪還を果たすまで停戦に応じない構えで、この春以降、大規模な反転攻勢に乗り出す考えとみられます。
停戦は見通せず、戦闘が一層長期化するのは避けられない情勢です。
これまでの戦況 ロシア 苦戦強いられる
侵攻開始から1年。ウクライナ軍は欧米諸国から供与された兵器を駆使して抵抗を続け、ロシア軍は苦戦を強いられました。
去年2月24日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部ドンバス地域の住民の保護やウクライナの「非軍事化」などを目的に掲げて「特別軍事作戦」を行うと宣言。
ロシア軍は、ウクライナの北部、東部、南部の3方向から部隊を進め、3月には南部ヘルソン州を掌握しました。
これに対してウクライナ軍は、アメリカの対戦車ミサイル「ジャベリン」などを駆使して抵抗。
ロシア軍は補給線が分断され、首都キーウの早期掌握を断念し、北部から撤収しました。
しかし撤収直後にキーウ近郊のブチャなどで数百人の住民の遺体がみつかり、一部に拷問など残虐な行為の形跡が残っていたことから、国際社会ではロシアの戦争責任を追及する声が高まりました。
ロシア軍は東部や南部で攻撃を強め、激しい戦闘の末、5月には東部ドネツク州の要衝マリウポリを掌握。さらに7月には東部ルハンシク州の完全掌握を宣言しました。
その後、ロシア軍は後退を続けます。ウクライナ軍はアメリカから新たに供与された高機動ロケット砲システム=ハイマースなどを投入して反転攻勢に乗り出し、ロシア軍は9月、要衝のイジュームを含む東部ハルキウ州のほぼ全域を奪還されました。10月にはドネツク州のリマンからの撤退を余儀なくされ、ロシア国内の強硬派は軍の指導部を批判しました。さらに11月には、南部ヘルソン州でも反転攻勢を受け、州の中心都市ヘルソンを含むドニプロ川西岸の地域から撤退しました。ウクライナ軍の総司令官は、ロシアに掌握された領土のうち40%を去年末までに奪還したと発表しています。
9月、プーチン大統領は、職業軍人だけでなく、有事に招集される予備役を部分的に動員すると表明。さらに東部のドネツク州とルハンシク州、南部のザポリージャ州とヘルソン州のあわせて4州の一方的な併合に踏み切りました。
9年前のクリミア併合に続く、力による一方的な現状変更に対して、ウクライナ政府は反発を強め、このあと、ロシアの支配地域にある重要インフラやロシア国内の軍事施設などへの攻撃が相次ぎました。
10月には、ロシアが事実上支配するウクライナ南部のクリミアとロシア本土を結ぶ橋で大きな爆発が起き、橋の一部が崩落。12月には、ロシア中部リャザン州のほか南部のサラトフ州とクルスク州の空軍基地や石油施設で爆発や火災が相次ぎ、ロシア側は、ウクライナ軍の無人機に攻撃されたとしています。
ロシア側は、報復としてウクライナの民間インフラへの攻撃を強めました。この際、発電所や変電所などが標的となり、ウクライナでは深刻な電力不足が引き起こされました。また住宅や集合住宅にミサイルが着弾し、多くの犠牲者が出るケースも相次いでいます。こうした攻撃には精度の低いミサイルやイラン製の無人機が使用され、ロシア軍で兵器が不足しているためではないかとみられています。
冬の間、東部の前線では、双方が長い塹壕(ざんごう)を掘って防衛線を築き、一進一退の攻防を繰り返す、いわゆる塹壕戦が続いています。こうした中、侵攻から1年の節目が近づき、ウクライナ側は、ロシア軍が動員した兵士を前線に投入し、大規模な攻撃を仕掛けるのではないかと警戒を強めました。
焦点となっているのが、ドネツク州のウクライナ側の拠点バフムトで、このところ、ロシア軍やロシアの民間軍事会社ワグネルは、バフムトの周辺で攻撃を激化させています。NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は、ロシア軍がすでに大規模な攻撃を始めているという認識を、今月13日に示しました。
ロシア軍の苦戦は人事にも現れています。去年10月、ロシア国防省は軍事侵攻の総司令官に陸軍出身のスロビキン氏を任命したと発表しました。2017年以降、シリア内戦に介入したロシア軍の指揮を執ったとされ、任命により戦況の立て直しを図ったとみられています。しかしスロビキン氏はことし1月、就任からわずか3か月で総司令官から副司令官に降格しました。代わって総司令官となったのは、制服組トップのゲラシモフ参謀総長です。参謀総長が特定の作戦で指揮を執るのは異例で、国防省は「任務の規模拡大に対応するため」などとしていますが、指揮系統の混乱などの問題を解消したい思惑があるとも指摘されています。
この春には、ウクライナ軍に欧米の主力戦車が届き始め、反転攻勢が強まるという見方が広がっていて、ゲラシモフ参謀総長がこれを抑え込もうと、一層攻撃を強化することが懸念されています。
ウクライナ 善戦の理由は
ウクライナ軍が一部で領土奪還を果たすなど、当初想定されていた以上に善戦している理由としては、まず、欧米側から供与された兵器を活用して反転攻勢につなげてきたことがあげられます。
対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」といった、兵士が肩に担いで発射できる機動性を兼ね備えたこれらの兵器は、キーウ近郊などの市街戦でも活用されました。
戦線が東部や南部に移ったあとは、戦況を大きく変えることができる「ゲームチェンジャー」とも言われた高機動ロケット砲システム「ハイマース」が威力を発揮しています。
ウクライナ軍は、GPSによる誘導で精密な攻撃ができるというハイマースの特徴を生かし、ロシア軍の弾薬や物資の供給網のほか、指揮所などの軍事拠点を長距離からピンポイントで攻撃しています。
また、ウクライナ側は、欧米側から供与された偵察用の小型ドローンやIT技術を駆使した戦術なども効果的に活用することで、火力で優位に立つロシア軍の侵攻を一部で食い止めることができたとみられます。
一方、軍に所属していない市民も各地で「パルチザン」組織を作り、ロシア軍への攻撃を続けていることも善戦の背景にあるとみられます。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、去年11月に公表した分析で「パルチザンによる効果的な攻撃によってロシアは、前線の兵力を後退させることを余儀なくされている。ロシアは、パルチザン活動にうまく対抗できておらず、その能力もなさそうだ」と指摘しています。
また、パルチザン組織は、それぞれ地元で入手したロシア側の拠点や車両などに関する情報を提供することでもウクライナ軍を支え続けているとみられています。
ウクライナでは「勝利を信じている」とする国民は95%に上るという世論調査もあり、人々の士気は高いままです。
戦闘を続ける「意志」が強固である以上、今後もウクライナ軍が善戦できるかどうかは、戦車のほか、射程の長いロケット弾やミサイル、それに戦闘機が欧米から供与されるなどして、戦闘を継続する「力」が強化されるかにかかっているといえます。
ウクライナ 市民の犠牲者 増え続ける
ウクライナではこの1年、市民の犠牲者が増え続けました。
国連人権高等弁務官事務所は、軍事侵攻が始まった去年2月24日以降、ことし2月15日までに、確認できただけでも8006人のウクライナ市民が砲撃や空爆などによって死亡したと発表しました。
このうち487人は18歳未満の子どもだということです。また487人の子どものうち、年齢が確認できたのは441人で、年齢別では、17歳の死者が49人と最も多く、次いで14歳が44人でした。さらに、1歳の赤ちゃんが22人、1歳未満も7人亡くなっています。
地域別では、市民の犠牲は特に東部に多く、ドネツク州で最も多い3810人、ハルキウ州で924人、ルハンシク州で485人と、東部の3つの州だけで5000人を超えます。それ以外では、首都キーウと周辺のキーウ州であわせて1017人、南部のヘルソン州で447人などとなっています。
また、けがをした市民はウクライナ全土で1万3287人に上るとしています。
国連人権高等弁務官事務所は、激しい戦闘が続く地域での死傷者の数については、まだ正確に確認がとれていないとして、実際の数は大きく上回るという見方を示しています。
ロシア側 民間軍事会社ワグネルが存在感増すなかで
ウクライナへの軍事侵攻で、ロシア側は、正規のロシア軍とは別に、民間軍事会社、ワグネルの戦闘員を前線に投入しています。
ワグネルはプーチン政権に近いとされるエフゲニー・プリゴジン氏が代表を務める組織で、これまで内戦中のシリアや政情不安が続くアフリカの国々などに戦闘員を派遣し、ロシアの国益のために活動してきました。
プリゴジン氏は、大統領府や軍などに食事を提供するビジネスで財をなしたとされる実業家で、「プーチン大統領の料理人」とも呼ばれ、去年9月には自分がワグネルの創設者だと初めて認めました。
今回の軍事侵攻でワグネルは、刑務所で服役中の受刑者を「戦えば特赦を受けられる」と勧誘して集め、前線に大勢の戦闘員を送り込みました。
アメリカ ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は、先月、ワグネルは4万人の受刑者を含む5万人の戦闘員を送り込んだとした上で、今月には推計でおよそ9000人の戦闘員が死亡したという見方を示しています。
しかし、ワグネルが存在感を増す中で、ロシア国防省との対立も表面化しました。
先月、東部ドネツク州のソレダールがロシア側に掌握された際には、プリゴジン氏がワグネルの部隊だけで掌握したと主張したのに対し、国防省は軍の功績だと発表しました。
この際、プリゴジン氏が「ワグネルの勝利を奪おうとしている」とSNSで批判したことを受けて、ロシア国防省は新たな声明を発表し、「ワグネルの志願兵の勇敢な行動によっても達成された」と表現を修正しました。
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、「ワグネルと国防省の対立を浮き彫りにしている」と分析しています。
さらに今月21日、プリゴジン氏は「ロシアの参謀総長と国防相が、ワグネルに弾薬を供給しないよう指示を出している」とする音声メッセージをSNSに投稿した上で、「まさにワグネルを破壊しようとする試みだ。ワグネルがバフムトのために戦い、毎日、何百人もの戦闘員を失っている今、祖国への反逆にも等しい」とロシア軍を正面から非難し、軍とワグネルの確執は深まっているものとみられます。
ウクライナから日本に避難 2302人(2月15日時点)
出入国在留管理庁によりますと、ウクライナから日本に避難した人は、ことし2月15日時点で2302人となっています。
性別は、男性が602人、女性が1700人。年代別では、18歳未満が439人、18歳以上と61歳未満がそれぞれ1563人、61歳以上が300人です。
入国日を月別にみると、去年3月が351人、去年4月が471人と最も多く、その後は減少傾向が続き、ことし1月は35人、2月は15日までに29人となっています。
一方、入国した人のうち、112人がすでに日本から出国しているということです。
日本に親族や知人、団体などの身元引受人がいない人については、政府が一時滞在先のホテルを確保して生活支援を行っていて、ことし2月15日時点で64人がホテルに滞在しています。
また、政府は避難してきた人たちに90日間の短期滞在を認める在留資格を付与し、本人が希望すれば就労が可能で1年間滞在できる「特定活動」の在留資格に変更することができます。
この在留資格に変更すると、住民登録をして国民健康保険に加入したり、銀行口座を開設したりすることができ、ことし2月15日までに1998人が「特定活動」に変更したということです。
出入国在留管理庁は、この在留資格について、希望があれば1年間延長するほか、身元引受人がいない人に対して、支給している生活費の支援もさらに1年間継続するということです。
出入国在留管理庁は、「避難が長期化し、定住を求める避難者も出始めている。定住には就労や日本語教育などの支援が重要になるため、自治体とも連携し、支援を続けていきたい」としています。
岸田首相 G7議長国としてウクライナ情勢対応で国際社会主導を
ロシアのウクライナ侵攻から1年となることを受けて、岸田総理大臣は、G7=主要7か国の議長国としてオンラインでの首脳会合を開き、結束を確認したいとしていて、ウクライナ情勢をめぐる対応で国際社会を主導し、5月の広島サミットにつなげる考えです。
侵攻1年にあわせて開かれた国連総会の緊急特別会合で、林外務大臣は、ロシアに対して無条件で軍を撤退させるよう改めて求めるとともに、「ロシアはすべての行為について適切な形で責任を問われなければならない」と訴えました。
侵攻が始まって以降、政府はG7各国と足並みをそろえて、ロシアと同盟国のベラルーシに対し、政府関係者らの資産凍結や輸出入の制限などの制裁を科し、段階的に強化してきました。
また、ウクライナや周辺国などへの財政支援や人道支援として総額およそ15億ドルを決定し、順次実施しているのに加え、岸田総理大臣は今週、新たに55億ドルの追加支援を行うことを表明しました。
岸田総理大臣は24日夜、記者会見を行い、今後の政府対応を説明することにしています。
このあとG7の議長国として、ウクライナのゼレンスキー大統領も招いてオンラインでの首脳会合を開き、結束してロシアへの制裁とウクライナ支援を継続する方針を確認したいとしています。
●F-16供与がウクライナ勝利のカギ、米陸軍大将発言の真意 2/24
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2月21日、年次教書演説の中で、改めてウクライナでの軍事侵攻を正当化し、戦争を始めたのは西側だと断言してみせた。
この2時間弱の演説の中で、「彼らが戦場でロシアに勝つことは不可能だ」とも述べ、西側諸国は勝てないとする一方的な主張を繰り返した。
そうした中、米国からは別な角度からの「勝利宣言」が発せられており、両者の言い分は明白な食い違いをみせている。
2月17日に当欄で、筆者はウクライナに戦車を供与してもロシアには勝てる見込みが少ないとする記事(「死に物狂いのロシア軍には欧米最新戦車だけでは勝てない」)を書いた。
その後、米陸軍大将が少数の米連邦議員に対して内密に、「ロシアの戦争マシンを崩壊させる手立て」を伝えていたことが分かった。
陸軍大将というのは、欧州連合軍最高司令官を兼任するクリストファ―・カボリ氏で、先週ドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議で、次のような主旨のことを議員たちに話している。
正確な引用はできないが、議員たちからウクライナがロシアに勝つためには何が必要かとの質問がだされると、カボリ大将は「F-16」戦闘機の投入が必要であると答えたという。
さらにF-16戦闘機と長距離ミサイルをウクライナに供与すれば「ロシアに勝つはず」と発言してもいる。
ロシアに致命的な打撃を与えるためには、ウクライナ軍がより遠方からロシアの拠点を攻撃することが肝要で、F-16だけでなく長距離ミサイルやドローンも必要になってくるという。
これまで米政府はウクライナへのF-16の供与は行っていない。
同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領は長い間、ウクライナのパイロットは西側の戦闘機で訓練を積んできているため、ロシア軍よりも有能であると主張してきており、F-16は喉から手が出るほど欲しいとの意思表示をしてきた。
しかし、米国のジョー・バイデン大統領は戦闘機よりも戦車の方が重要との判断から、戦闘機ではなく「エイブラムス」戦車の供与を優先させた。
また、戦闘機の供与は戦争の大幅なエスカレーションにつながるとして、F-16の供与には慎重になっているともいわれる。
こうした状況下、カボリ大将の発言もあり、超党派の米連邦議員は先週バイデン氏に書簡を送り、F-16をすぐにウクライナに送るように促した。
共和党リンゼイ・グラム上院議員(サウス・カロライナ州)などは、すぐに対応しないバイデン氏に「ホワイトハウスはすべてにおいて遅い」と非難したほどだ。
戦闘機の供与が戦争の拡大につながり、さらにプーチン大統領を刺激することになるとの言い分に対しては、同上院議員はこう述べる。
「プーチン氏を刺激することは心配していない」
「それよりも彼を打ち負かすことの方が大切。ウクライナからロシア軍を追い出す軍事力をウクライナに与えることが重要だ」
そしてグラム議員はこうも言う。
「ロシアは自分たちが始めた戦争を人道に対する罪と呼びながら、その罪の被害者であるウクライナ人に必要な防衛兵器への供与を認めないということがあってはいけない」
そしてロシアをテロ支援国家に指定し、ウクライナのパイロットにF-16の操縦訓練を開始すべきだとしている。
この件について、米リンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は、米国とウクライナは「何が必要で、いつ必要になるかといった話を緊密に討議している。今後数週間から数カ月で、どういった支援が最善かの答えを出していく」と米メディアに答えている。
元海軍パイロットの民主党マーク・ケリー上院議員(アリゾナ州)は、宇宙飛行士も経験した政治家で、ウクライナF-16を供与することに賛成している。
「F-16は第4世代の戦闘機であり、操作と修理を学ばせる計画を打ち出すことは正しい選択だと考える」
また米下院外交委員会のマイケル・マッコール委員長(共和・テキサス州)は、ウクライナ戦争をまるで自国の戦争であるかのように捉えた発言をする。
「ウクライナがロシアに勝てるように、米国はこの戦いにすべてを投じる必要がある」
「米国がもし紛争の初期段階から長距離ミサイルなどを供与していたら、結果は全く違うものになっていたかもしれない」
同委員長はまた、ウクライナ人が同戦闘機を自由に操れるようになれば、ロシアの防空システムを攻撃できるようになるばかりか、他の航空機やドローンが、特に戦闘が集中しているウクライナ東部と南部でより活発に活動できるようになると話す。
ウクライナに戦闘機を供与しようと提案しているのは米国だけではない。英国のリシ・スナク首相も同じ考えだ。
ゼレンスキー大統領が2月初旬に訪英した時、戦闘機の供与について話し合っている。
「先進的な航空機を供与するための最初のステップは、円滑に操縦できる技術と飛行士を持たせること」
さらに米国のアントニー・ブリンケン国務長官はNBCニュースで、中国がロシアに弾薬と武器を支援することを憂慮し、「致死的支援」という表現を使って、「米国はこのことを非常に懸念」していると語った。
ブリンケン氏は、ミュンヘンで中国の王毅氏と会談した後、この点について述べている。
「中国がロシアに『致命的支援』をすることを私たちは非常に心配しています。それは米中関係にも深刻な結果をもたらすことになるでしょう」
先週の当欄にも書いたが、米国がウクライナに米エイブラムス戦車を供与しても、ウクライナ兵士が簡単には使いこなせないという憂慮がある。
それと同じように、F-16を提供されてもウクライナのパイロットが実践で「自由自在に操縦できるまでには何年もかかる」と言われている。
ウクライナは空軍を持つが、保有機は「MiG-29」や「SU-27といったソ連時代の機体で、今回検討されている最新鋭機とは互換性がない。
兵站の全面的な見直しと整備員の再教育が必要となる。
米国を含めた西側諸国はどこまでウクライナを本質的なレベルで支援できるのか、これからが見ものである。
●この悲しい戦争が教えてくれる5つの教訓 2/24
戦争が残酷であることは確かだが、そこから学べるものは少なくない。戦いによる犠牲から得られた知恵を未来に生かせることもある。開始から1年が過ぎたウクライナ戦争から、世界中の指導者と市民が学べる5つの教訓を挙げてみる。
教訓1 指導者は判断を誤る
今となっては、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が判断を誤ったことは明らかだ。侵攻してもウクライナはまともに抵抗できないと、プーチンは決めてかかっていた。ロシア軍の士気とウクライナ軍の粘り強さを見誤っており、戦争によってエネルギー資源の供給が滞っても西側諸国が代替策を見つけることを計算に入れていなかった。
だが、判断ミスを犯したのは西側も同じだ。ロシアがウクライナに侵攻する可能性は何年も前から指摘されていたのに、まともな対策を取らなかった。その一方で、対ロ制裁の効果を過大評価していた。さらには、ウクライナを自陣に引き込もうとする西側陣営にロシアがどれだけ反発するかを甘くみていた。
教訓2 侵略に対して国々は団結する
この戦いで改めて浮き彫りになったが、国際社会は明白な侵略行為には団結して対抗する。プーチンはこれにも気付かず、NATOがここまで結束するとは予想していなかった。
ウクライナの後ろには、GDPを合計すればロシアの20倍近い支援国がいる。しかも、これらの国々は世界で最も高度な兵器を製造している。
プーチンが楽勝を見込んでいた戦争には、終わりが見えない。だが戦いがどのような形で終結しても、そのときロシアは侵攻前よりはるかに弱体化している。
侵略を仕掛けられた国がそれを押し返そうとするのは、侵略した側の国が味をしめるのを懸念するためだ。その心配は時として的外れになる。実際には侵略を仕掛けた国が、現状をいくらか変えられたというだけで満足することもある。
だが、本当にそれで済むと確信できない他の国々は、結束して事態の悪化を防ぐ。この流れが顕著に表れたのが、スウェーデンとフィンランドが長年にわたる中立の立場を捨ててNATO加盟の道を選んだことだ。
教訓3 最後まで油断禁物
多くのアメリカ人は一般的に、戦争に対して短期決戦で勝利を収めるイメージを抱いている。だが、この戦争は違う。ウクライナは当初の攻撃に耐え、直ちに政権を崩壊させるというロシア側の目標も阻止した。侵攻から1年が過ぎた今も、両国の軍は熾烈な戦いを続けている。
ロシア軍は首都キーウを空爆しても成果を出せず、甚大な損失を被った。そのときウクライナと西側諸国は、武器支援を拡大して制裁を強化すればロシアを撃退でき、大国の地位も奪えるかもしれないと考えた。
ウクライナは昨夏からの攻勢で、クリミア半島を含む全領土の奪還も夢ではないと希望を新たにした。専門家は、プーチンの失脚もあり得るという見方を示した。
それでも、ロシアが大国であることに変わりはない。人口はウクライナの3倍以上、軍事産業基盤も大規模で、軍備も充実している。
消耗戦になれば不利になるウクライナは、戦車を含む兵器の確保と兵士の訓練に躍起になっている。この春には限定的な勝利を収めるかもしれないが、どれほど援助を受けてもロシアの支配地域全ての奪還は難しいかもしれない。戦況は今後もエスカレートする可能性がある(核兵器使用の可能性も捨て切れない)。
教訓4 戦争は強硬派を増長させ、妥協を困難にする
大きな代償を伴う戦時こそ、冷静な論理的思考と慎重な計算が重要だ。だが残念ながら多くの場合、戦時は混乱や希望的観測、うわべだけの道徳や愛国的なおごりが横行する。集団的思考が優位になり、強硬派が慎重派の意見をかき消してしまう。
そのため、双方とも勝利への道筋が見えない状況においてさえ、話し合いで妥協点を探るのが困難になる。戦争を終わらせるのが難しい大きな理由の1つが、ここにある。
この戦争をめぐる論調は異常なほど敵意に満ちている。アメリカのタカ派有識者はウクライナ支持を打ち出し、反対意見を「認識が甘い」「ロシア偏重」などと中傷する。
確かに彼らが主張するように、西側諸国はウクライナが全領土をロシアから奪還できるよう「やれることは全てやる」べきなのかもしれない。だが戦争を長引かせる手助けをすることが、ウクライナにとって悪い結末を招く恐れはないのか。ベトナムやイラク、アフガニスタンの例を思い返すと、その可能性がないとは言い切れない。
教訓5 「抑制戦略」は戦争のリスクを軽減する
最後の、そして最も重要とも言える教訓は、もしアメリカが外交に「抑制的な戦略」を採用していたら、今回の戦争が起きる可能性ははるかに低かっただろうということだ。欧米の政治家が、際限のないNATO拡大が招き得る結末について繰り返された警告に耳を傾けていたら、ロシアはウクライナ侵攻に踏み切らなかったかもしれない。
もちろん、残虐で違法な戦争を起こした一番の責任はプーチンにある。しかし西側諸国の尊大さも、ウクライナ国民を苦しめている。
おまけの教訓 指導者によって事態は大きく変わる(当たり前だが)
ロシアのエリート層の間にはNATO拡大に対する幅広い反発があったものの、ロシアの指導者がプーチン以外だったら、1年前に「イチかバチかの戦争」を選んでいなかったかもしれない。アメリカの大統領がジョー・バイデンより想像力豊かで彼ほど教条的ではない人物だったら、迫り来る危機を食い止めるためにもっと努力していたかもしれない。
もしウクライナの大統領がウォロディミル・ゼレンスキーではなく、2019年までその座にあった前任のペトロ・ポロシェンコだったら、ゼレンスキーのように国民を団結させ、諸外国の支持を勝ち取っていただろうか。その可能性は低そうだ。
いまロシア、ウクライナ、アメリカの指導者は、とりわけ教訓3と、イラク戦争で早々と「任務完了」を宣言したジョージ・W・ブッシュ元米大統領のその後の評価を胸に刻むべきだ。
この戦争はまだ終わっていない。今は有能に(あるいは無能に)見える指導者も、砲声がやんで最終的な損失が判明した後には、評価が変わる可能性がある。
●ロシア軍侵攻1年で戦車1745両を喪失…ウクライナ軍は「3200両を破壊」主張 2/24
24日で満1年となるロシアのウクライナ侵攻戦争で、ロシア軍は推定19万人の死傷者を出したほか、莫大(ばくだい)な規模の武器・装備の損失を被った。
BBC放送は23日、オランダの民間軍事情報機関「オリックス」が写真による照らし合わせを基に推定したロシア軍の武器および装備の損失規模を伝えた。ここで言う損失とは完全破壊、部分破壊、遺棄および捕獲の全てを含む。
1年間でロシア軍は、戦車1745両が失われたり、使えなくなったりした。さらに歩兵戦闘車両2083両、装甲戦闘車両785両、兵員輸送装甲車両296両の損失が確認され、自走砲およびけん引砲515門、ドローン192機、ヘリコプター77機、航空機72機および海軍の艦艇12隻の被害も確認された。
こうした写真対照に基づく損失数は、ウクライナ軍当局が定期的に発表しているロシア軍の武器・装備の破壊規模とは懸け離れている。20日前の今月2日にウクライナ軍が発表したところによると、ウクライナ軍によって破壊されたロシア軍の戦車は3201両で、オリックスの算出した1745両に比べ2倍近く多い。
またウクライナ軍側は、装甲車両を合計6369両破壊し、大砲2196門を使えなくした、と発表した。さらに戦闘機293機およびヘリコプター284機を破壊したという。オリックスが算定した航空機の損害は72機、ヘリコプターの損害は77機だ。
一方、両軍の戦死および負傷者の数はトップシークレットで、推定ができるにとどまる。昨年11月初めに米国のマーク・ミリー統合参謀本部議長は、ロシア軍とウクライナ軍いずれも戦死および負傷した兵士の数が10万人をやや上回るものとみられる、と語った。
また、20日前の今月2日に英国のベン・ウォレス国防相は、欧州の情報機関の算出内容を引用しつつ、ロシア軍の戦死および負傷者数は「18万8000人」だとした。現在はこの数字が、ミリー統参議長の「10万人」発言に代わるものとなっている。
英国防省は、ウクライナ戦争に関する情報を1日単位で提供している。ウォレス国防相がロシア軍の死傷者数を18万人強だとしたその日、ウクライナ軍当局は「ロシア軍の戦死者は合計12万6650人」に達すると発表した。
この戦死者数は、20日後の今月23日には「14万5850人」に増えた。最近20日間で1万9200人のロシア兵が、ウクライナ軍により戦場で命を落としたという発表だ。
●「地獄の1年」 ウクライナ大統領夫人 2/24
ウクライナのオレナ・ゼレンスキー大統領夫人は23日、ロシアによる侵攻を受ける日々を「地獄の1年だった」と振り返った上で、「戦争の1年ではなく、侵略に抵抗した1年、勇気、相互支援、友情の1年を祝う」と語った。リトアニアの首都ビリニュスで開かれた侵攻1年の節目に合わせたイベントでオンライン演説した。
オレナ夫人は「全面戦争の1年は記念するにはひどいものだ。攻撃、侵略、殺りくの1年だったからだ」とロシアを非難。「すぐに最も大切なことを共有できると確信している。それはわれわれの勝利だ」と誓った。
●浜田防衛相 「防衛装備移転三原則」など見直し検討進める考え  2/24
防衛装備品の海外への移転をめぐり、浜田防衛大臣はウクライナのように国際法違反の侵略を受けている国への支援ために重要な政策手段だとして、「防衛装備移転三原則」や運用指針の見直しについて検討を進める考えを示しました。
ロシアによるウクライナ侵攻から1年となることについて、浜田防衛大臣は、記者会見で「ロシアによる侵略を容認すれば、インド太平洋を含むほかの地域でも、力による一方的な現状変更が認められるとの誤ったメッセージを与えかねず、引き続き国際社会と結束し、断固たる決意で対応していく必要がある」と述べました。
そのうえで、ウクライナ政府からの要請を踏まえ、これまでに防弾チョッキやヘルメットなど殺傷能力のない装備品を提供してきたと説明したうえで、引き続き、できるかぎりの支援に取り組む考えを強調しました。
一方、浜田大臣は、防衛装備品の海外移転をめぐり「ウクライナのように国際法に違反する侵略を受けている国への支援などのための重要な政策の手段だ」と指摘し、「防衛装備移転三原則」や運用指針の見直しについて検討を進める考えを示しました。
●武器供与、段階的に拡大 欧米で「支援疲れ」も ウクライナ侵攻1年 2/24
ロシアによる侵攻開始以降、欧米諸国はウクライナへの武器支援を段階的に拡大してきた。
戦場では欧米製の高性能兵器が効果を発揮し、ロシアの進軍を食い止めることに成功。しかし、侵攻が2年目に突入する中、欧米では「支援疲れ」が見え始めている。
総額4兆円
「米国は大西洋から太平洋にまたがる国々をまとめ、前例のない支援でウクライナの防衛を支えてきた。この支援は今後も続く」。バイデン米大統領は20日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を電撃訪問し、支援継続の決意を示した。
米国の武器支援の総額は、侵攻開始から今月20日までで約298億ドル(約4兆円)に上る。ドイツのキール世界経済研究所によると、1月時点で世界全体の支援の3分の2以上を米国が占めた。同研究所のクリストフ・トレベシュ氏は「米国が大規模な支援を主導し、欧州がそれに追随した」と指摘した。
供与する武器は、時間とともに質が向上し、量も増大した。米国は当初、ロシアを過度に刺激することを警戒し、高性能兵器の供与をためらった。しかし、昨年4月にキーウ近郊ブチャでロシア軍による民間人虐殺が発覚。その後も残虐行為が相次ぐ中、欧米諸国は支援強化に傾いた。
戦場で効果発揮
侵攻初期は対戦車ミサイル「ジャベリン」などが、強大な戦力を持つロシア軍を食い止めるのに役立った。昨年6月に引き渡された高機動ロケット砲システム(HIMARS)は、ロシアの後方拠点をたたくのに効果を発揮。同12月には地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」、今年1月には欧米製の主力戦車の供与も決まった。
ウクライナのレズニコフ国防相は、欧米に武器の供与を要請しても「最初はまず『ノー』と闘わねばならない」と述懐。「しかし、それは『現時点ではノー』という意味だ」とも語り、今後も欧米に粘り強く働き掛ける考えだ。
今春の反転攻勢を見据え、ウクライナが目下要求しているのは長距離ミサイルと戦闘機だ。米政府内には慎重論が根強いが、米下院外交委員会のマッコール委員長は「ミサイルと戦闘機の供与へ勢いが強まっている」と明らかにした。
生産上回る弾薬消費
ただ、武器支援にはさまざまな制約も見えてきた。北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は「ウクライナの弾薬の消費量は、NATOの現在の生産量の数倍だ」と強調。防衛産業と連携して武器・弾薬の生産を加速させる必要があると訴えた。一部の弾薬は米軍内でも逼迫(ひっぱく)が伝えられている。
世論の支持にも陰りが見える。シカゴ大と米メディアが今月公表した世論調査結果によれば、ウクライナへの武器支援を支持する米国民の割合は48%で、昨年5月時点の60%から低下した。
米議会内にはウクライナ支援よりインフレ対策などを優先すべきだという声も、一部から上がっている。侵攻が長期化すれば、2024年の米大統領選に向けて支援の是非が争点化する可能性も捨てきれない。 
●プーチン氏の運命、ウクライナでの戦争とひとつに BBCロシア編集長 2/24
ロシアの国営テレビで3年前に耳にしたことについて、私は何度も思い出しては考えている。
ウラジーミル・プーチン大統領の留任をさらに16年可能にするため、改憲を支持するようにと、国民への説得が続いていた時のことだ。
国民を説得するため、ニュース司会者はプーチン大統領を船の船長になぞらえて語った。不穏な世界の荒波を乗り越えて、ロシアという優れた船を導いてくれる、手練れの船乗りだと。
「ロシアは安定のオアシス、安全な港だ」と、司会者は続けた。「プーチンがいなかったら、我々はどうなっていたことか」と。
安定のオアシス。安全な港。それが今はどうだ。2022年2月24日、クレムリン(ロシア大統領府)の船長は自分で作り出した嵐へと出発した。そして氷山へと一直線に船を進めた。
プーチン氏による侵攻は、ロシアの隣国に死と破壊をもたらした。自国の軍に、多大な戦死者と負傷者をもたらした。戦死したロシア兵の数は、数万人に上るという推定もある。
何万人ものロシア市民が軍に徴兵され、ロシアの刑務所にいた受刑者(殺人罪で有罪になった者も含む)もウクライナでの戦いに徴募された。この間、戦争は世界中でエネルギーや食料の価格に影響し、欧州と世界の安全保障を今なお脅かしている。
いずれも巨大な、巨人のような、つまりタイタニックな規模の問題だ。
ではなぜ、ロシアの大統領は戦争と領土制服へと船のかじを切ったのか。
「2024年のロシア大統領選が控えているからだった」と、政治学者のエカテリーナ・シュルマン氏は言う。
「クレムリンは、選挙の2年前に何か勝利と呼べる成果を上げようとしていた。2022年にその目的を果たした上で、これほど優れた船長に導かれるロシアがいかに幸運かと、2023年になったらロシア国民を説得するつもりだった。プーチン氏という船長のおかげでロシアは、荒波を乗り越えるだけでなく、新しい豊かな岸にたどりつけるのだと。そうすれば2024年に国民は投票する。ばっちりだ。失敗などあり得ない」
いや、失敗は大いにあり得る。そもそも、思い込み違いと計算ミスが計画の前提になっていたなら。
クレムリンは、「特別軍事作戦」が電光石火で完了すると予想していた。数週間もすれば終わり、ウクライナはロシアの影響圏に戻るはずだと。ウクライナがいかに抵抗して反撃するか、その強さをプーチン氏は完全にみくびっていた。西側がいかに断固としてウクライナ政府を後押しするかも、プーチン氏は読み違えいてた。
しかし、ウクライナ侵攻は間違いだったとロシアのリーダーはまだ認めていない。ひたすら突き進み、エスカレーションを重ね、のるかそるかを激化させる。それがプーチン流だ。
そこで2つ、重大な疑問が生じる。開戦から1年たって、プーチン氏はこの状況をどう見ているのか。そして、ウクライナで次にどうするつもりなのか。
今週になって、本人からいくつか手がかりが得られた。
その年次教書演説は、西側を敵視する悪口雑言にまみれたものだった。ウクライナでの戦争の責任はアメリカと北大西洋条約機構(NATO)にあると今なお主張し、ロシアには何の責任もないと言い張った。ロシアとアメリカの間に唯一残る核軍縮条約だった「新戦略兵器削減条約(新START)」を停止させるというその決定から、ウクライナから後退するつもりなどなければ、西側との対決をやめるつもりもないのだと、はっきり分かった。
その翌日にモスクワのサッカー競技場で開かれたコンサートでは、プーチン氏は、前線から戻ったロシア兵たちと並んで舞台に立った。式次第が徹底的に決められたこの親政府イベントで、ロシアの「歴史的なフロンティアで現在、戦闘が行われている」とプーチン氏は観衆に述べ、ロシアの「勇敢な戦士たち」をたたえた。
つまり、クレムリンに方向転換を期待しても無駄ということだ。このロシア大統領は決して方針を変えたりしない。
「抵抗されない限り、彼はどこまでも突き進む」。かつてプーチン氏の経済顧問だったアンドレイ・イラリオノフ氏はこう言う。「武力で抵抗する以外、彼を食い止める方法はない」。
しかし、戦車をめぐる協議は? プーチン氏相手の和平協議は可能なのか?
「誰が相手でも話し合いは可能だ」と、イラリオノフ氏は続ける。「しかし、プーチン相手に協議して合意したらどうなるか、過去の事例はたくさん積みあがっている」。
「プーチンはあらゆる取り決めを破った。独立国家共同体(CIS)創設に関する合意も。ロシアとウクライナの二国間条約も。ロシアとウクライナの間の国際的に認定された国境に関する条約も。国連憲章も。1975年のヘルシンキ宣言も。ブダペスト覚書も。それ以外にもたくさんある。プーチンが違反しない文書などない」
合意破りとなると、ロシア側にも西側への不満はたくさんある。その最たるものが、「NATOは東へ拡大しないという1990年代の約束を、欧米は破ったではないか」というロシア政府の言い分だ。
しかし、ロシアの指導者になった当初、プーチン氏はNATOを特に脅威とみなしていない様子だった。むしろ2000年の時点では、ロシアがいつの日かNATOに加盟する可能性さえ、排除していなかった。その2年後に、ウクライナのNATO加盟意欲について聞かれた際には、「ウクライナは主権国家で、自らの安全保障をいかに確保するかは、自分たちで決める権利がある」と述べていた。この件がロシアとウクライナ両政府の関係に影を落とすことはありえないと、そう強調していたのだ。
2023年のプーチン氏は、以前とは非常に異なる。「西側全体」への恨みつらみであふれ、憤懣(ふんまん)やるかたない様子の彼は、包囲された要塞(ようさい)に籠城する城主のようにふるまう。居並ぶロシアの敵が自国を滅ぼそうとするのを、自分は次々撃破しているのだというのが、その姿勢だ。その演説や発言から、さらにはロシア帝国のピョートル大帝やエカテリーナ2世に自ら言及するその口ぶりから、プーチン氏はどうやら、何らかの形でロシア帝国を復活させることこそ自分の運命だと信じているようだ。
しかし、そのためにロシアはどれだけの代償を払うのか。プーチン大統領はかつて、国の安定をもたらした指導者として評価された。それは、戦闘による死傷者の増加と動員令、経済制裁で、無に帰してしまった。何十万人ものロシア人が開戦からこちら、国を離れている。その多くが有能で高学歴の若者だ。この頭脳流出は、ますますロシア経済にとって大損失となる。
この戦争の結果、いきなり、武装したグループが一気に増えている。イェフゲニー・プリゴジン氏の「ワグネル・グループ」といった民間軍事会社や、地方の軍事組織もそこに含まれる。こうした武装グループと正規軍との関係は、決して良好とは言えない。ロシアの国防省とワグネルの対立から、戦争遂行を担うエリート層の間で内輪もめが起きていることが、公然の事実となっている。
不安定な世情。そして私兵組織。これは危険な組み合わせだ。
「ロシアはおそらく今後10年間、内戦に見舞われる」と、ロシア紙「ニェザヴィシマヤ・ガゼータ(独立新聞)」のオーナーで編集長のコンスタンティン・レムチュコフ氏は話す。「今のこの状況なら、富の再配分が可能だと気付いている勢力が、あまりに多すぎる」。
「プーチンの直後に適切な人物が権力を握れば、内戦回避の可能性はある。エリート層に対する権限を持ち、状況の悪用をもくろむ連中を孤立させる強い意志の力がある人間が、権力の座に就くのなら」
「誰がその人物にふさわしいのか、ロシアのエリート層は話し合っているのか」と私はレムチュコフ氏に尋ねてみた。
「ひっそりと。電気を消して、暗がりの中で。確かに話し合っている。いずれは決めるだろう」
「プーチン氏は、そういう話し合いが行われているのを知っている?」
「知っている。彼は何もかも知っていると思う」
ロシア下院の議長は今週、「プーチンがいる限り、ロシアは続く」と宣言した。
これは忠誠の宣言だったが、事実ではない。ロシアは続く。もう何世紀もロシアは続いてきた。しかし、ウラジーミル・プーチン氏の運命は今や、ウクライナでの戦争の結末に否応なく結びついている。
●ロシア軍にいま何が プーチン大統領の思惑とは? 2/24
ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年。圧倒的な軍事力でウクライナに多大な犠牲をもたらしてきたロシア軍だが、欧米の軍事支援を受けたウクライナの反転攻勢を前に、戦闘は長期化。ロシア軍側の死傷者は20万人に上るともいわれている。
SNS上に投稿された動画やプーチン大統領の発言記録などの膨大な公開情報をデジタル解析すると、「祖国のため」という大義のもと、おびただしい犠牲を出しながら暴走する「プーチンの軍隊」の実態がみえてきた。
「もうじきおしまいだ」“包囲”された兵士の悲痛な叫び
2022年9月以降、ウクライナ軍の反転攻勢を前にロシア軍は東部戦線で相次いで撤退を余儀なくされていた。
このとき、ロシア軍が致命的な敗北を喫したのが、ドネツク州リマンでの戦いだ。
5000人ともいわれる部隊が包囲され、ロシア軍が公式に撤退を認める異例の事態となった。
撤退までの1か月間にSNSやメディアで伝えられた現地の映像80本余りを分析すると、リマンを守るロシア軍が撤退も許されず、追い込まれていくまでの経緯がみえてきた。
「リマンはきょうも防衛を維持しています。今は空き家を一軒ずつ回って敵の工作員たちを探しています」(9月14日公開・ロシアメディア映像より)
ウクライナ軍がリマンに向けて進軍を開始していたころ、ロシアメディアはロシア軍の守備は盤石だと伝えていた。
しかし、その2週間後の9月下旬の映像では、ロシア軍部隊の将校がすでに反撃するすべがないとメディアに訴える様子が映し出されていた。
「状況は深刻、大変深刻です。備蓄、装備、人、大砲(が足りない)」(ロシア軍将校・9月27日公開・ロシアメディアによる前線取材映像より)
同じ頃、リマンの市街地でたてこもるロシア側の兵士が自撮りしてSNSに投稿された映像も見つかった。
「どこから味方の援護がやってくるかもわからない。ここにはライフルが1つ。俺はうそをついていない。本当に空っぽだ」(ロシア側兵士のSNS映像より)
このとき、ロシア軍はリマン郊外から攻勢をかけたウクライナ軍にすでに追い詰められていた。
東部戦線でのウクライナ軍の動きを地図で可視化し、ロシア軍が掌握・侵攻した地域を赤色、ウクライナ軍が奪還を主張した地域を青色で示すと、わずか2週間で北と南からロシア軍を包囲していたことがわかった。
9月30日には5000人ともいわれるロシア軍の部隊が、撤退しないままウクライナ軍に包囲されていた。
ウクライナ側が傍受したとするロシア軍の音声には、ロシア兵とみられる男性が妻に最期の別れを告げていた。
「俺たちは包囲されているんだ。もうじきおしまいだ。俺はただ、さよならを言おうとして電話したんだ」(10月1日ウクライナ国防省公開の音声より)
ウクライナ国防省がこの音声を公開した10月1日になって、ロシア軍は「軍隊はより有利な場所に撤退した」と公式に発表、リマンはウクライナ軍によって奪還された。
ウクライナ側が公開した映像には、リマン市街地で道路上に放置されたロシア軍の兵士たちの無残な姿が映し出されていた。
なぜロシア軍はここまでリマンを死守しようとしたのか。
実はこの直前、ドネツク州を含む4州ではロシアへの一方的な併合を進めるための「住民投票」が行われ、9月30日にはプーチン大統領がその4州の併合を宣言した日だった。
専門家はリマンの部隊が撤退を許されなかった背景には、4州併合の宣言に水を差されたくなかったプーチン大統領の思惑があったとみている。
東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠専任講師「ウクライナ4州併合に関する声明を出すまで、ロシア軍がリマンから撤退というニュースを流したくなかったのかなと。完全にプーチン大統領のメンツのために死守を命じられたのではないかと思います」
使えるままの戦車を残し“敗走”無計画な作戦の果てに
さらに、SNS上の動画や写真を詳しく調べると、ロシア軍が撤退したあとには多くの兵器がほぼ無傷で放棄されていたこともわかってきた。
これは何を意味するのか。
ロシア軍の兵器の損失を調査してきた国際調査チーム「Oryx」によると、去年8月からの3か月間でロシア軍が東部戦線で失った戦車と歩兵戦闘車は合計813両に上ったという。
これはドイツやフランスが一国で保有する数に迫る甚大な損失だ。
813両のうち、ウクライナ軍がそのまま使用できる状態で回収されていたのは、半数以上の445両に上っていた。
通常、戦車などは敵に利用させないよう退却する前に破壊するが、その余力さえないまま撤退したと、調査チームは分析している。
調査機関Oryx ヤクーブ・ヤノフスキ−氏「回収した装備は敵が使えるようになるため、ロシアにとっては破壊されるよりも痛い損失です。ロシア軍最高司令部が無計画な作戦を進めた何よりの証拠といえるでしょう」
「指揮官が誰か知らない」捕虜が語る“軍への不信感”
こうしたロシア軍の「無計画」な実態は、ウクライナの捕虜となったロシア側の兵士たちのことばからも浮かび上がってきた。
ウクライナ当局の管理下で私たちに取材が許された捕虜、そして、ウクライナのジャーナリストが取材した捕虜たちは、部隊内での指揮命令系統の乱れが現場に混乱を招いていたとして、次のように語った。
「陣地や配置計画は一切説明されませんでした」(27歳・機関銃手)
「私たちには何の任務もなかった。自分の指揮官が誰なのかすら知りません」(44歳・偵察兵)
「私の大隊長は前進せよと命じたが、(ほかの部隊では)すでに後退がはじまっていました。私たちを置いて全員が退却していったことは、犬やゴミのように扱われたようで、とても嫌でした」(19歳・機関銃手)
さらに、ウクライナのジャーナリストが取材したインタビュー映像に残る28人の捕虜たちが話したことばを書き起こし、詳しく分析した。
すると28人中24人が「指揮官を信頼していない」と発言していたことが分かった。
明確な説明もないままウクライナ軍の攻撃のさなかに送り込まれ、多くの兵士が軍に対して「不信感」を抱えていた。
現役およそ90万といわれるロシア軍の兵士は「職業軍人」「契約軍人」「徴集兵」で構成される。ウクライナへの軍事侵攻の主力となっているのは、最低3年間、給与と引き換えに雇われる「契約軍人」だとされているが、将校として部隊を指揮する「職業軍人」のなかにも不信感を強め、軍を脱出する人も出ている。
「長期戦」を意識か?プーチン大統領の頭の中に迫る
ウクライナの戦況を分析しているイギリス国防省は、この1年でロシア軍の兵士や民間軍事会社の戦闘員の死傷者数は、合わせて17万5000人から20万人に上り、このうち死者数は4万人から6万人とみられるという見方を示している。
ここまでの多大な犠牲を払いながらも、なぜ戦争を継続しつづけるのか?プーチン大統領のことばからそのヒントを探ることにした。
ロシア大統領府のサイトで公開されているプーチン大統領の会議や外交の場などでの発言記録を収集。
2022年1月から2023年2月半ばまでの発言のテキスト45万単語を、AI(機械学習)を使った「トピックモデル」と呼ばれる手法で分析した。
発言を構成する単語と単語の関係から、プーチン大統領がどんなテーマ(関心)で話しているかを分析したところ、浮かび上がったのは、「国際経済」「国内経済」「国際政治」「国内政治」「国民生活」「軍事」の6つのテーマだった。
そして、例えば、「国際経済」というテーマでは「市場」「ガス」「価格」などが、「軍事」に関するテーマでは「ウクライナ」「軍事的」「ドンバス」「作戦」などが重要なことばだと、判別された。
これらのうち「軍事」のテーマに着目し、このテーマのことばが何回発言されたかを月ごとに集計した。
すると、侵攻が開始された2月以降は減少していたが、東部戦線での敗北が相次いだ2022年9月以降、比較的数多く使用される傾向が再び見られるようになっていた。
「軍事」をテーマにした発言内容をさらに詳しく分析したところ、2022年の9月より前と以降で、大きな変化がみられた。
9月より前は「ウクライナ」「NATO」「安全」ということばが目立ったのに対し、それ以降は、「国民」「歴史」「歴史的な」といった、一見、軍事のテーマらしくない単語が目立つようになっていた。
こうしたデータをロシア政治が専門の静岡県立大学の浜由樹子准教授に見てもらった。
浜さんは、プーチン大統領がこの時期から軍事侵攻の「長期化」を意識するようになったのではないかと考察している。
静岡県立大学 浜由樹子准教授「9月より前は具体的にウクライナと戦うとか、NATOと戦うとか、具体的なことばで構成されています。一方、9月以降は歴史や文化、それに『われわれ国民』といった、比較的抽象度の高いことばが入り始めていて、国民に対してのメッセージに力を入れてきているという印象を受けます。軍事侵攻の長期化を視野に入れて、対外的な発信よりも、国民、特に自分たちの支持層が離れていかないようにエネルギーを割いて話しているという印象です」
分析を進めると、さらに注目すべき傾向がわかってきた。
「ナチス」にまつわることばの使い方にも変化が見られたのだ。
軍事侵攻開始直後、プーチン大統領はウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」などと一方的に非難し、ウクライナの「非軍事化」「非ナチ化」を軍事侵攻の目標に掲げていた。
ところが2022年9月、戦況が膠着して以降、プーチン大統領が発する「ナチス」「ナチズム」は、独ソ戦での勝利の記憶を呼び起こし兵士や国民たちを鼓舞する文脈が目立つようになった。
外国からたびたび侵略を受けてきたロシアの歴史において、約80年前、ナチス・ドイツ軍と戦った独ソ戦は「大祖国戦争」と呼ばれ、特別な意味を持つ。
開戦後、ドイツ軍を含む枢軸国の部隊は、モスクワやロシア南部ボルゴグラード(スターリングラード)まで迫っていた。
ソビエトはまさに国家存亡の危機から必死の反撃を加え、勝利へと導き、この歴史は“先人が命がけで守った祖国”という国民意識のよりどころとなってきた。
静岡県立大学 浜由樹子准教授「長期戦になっていくという覚悟をするなかで、第二次世界大戦の記憶、独ソ戦の記憶に今回の戦いをオーバーラップさせて、自分たちの文化や価値観を守る戦いという位置づけに少しずつ変えてきているのではないでしょうか。大祖国戦争のときの英雄たちのように、あのとき一丸となってナチズムを退けたのだから、今回も同じような犠牲が出るかもしれないけれど、頑張りましょうと国民に呼びかけていると感じます」
浜さんは、こう述べたうえで、この「ナチズム」という言葉は「西側から来る脅威すべてに対して実は適用可能」であり、注視が必要だと指摘する。
静岡県立大学 浜由樹子准教授「今後もこうした第二次世界大戦、独ソ戦に関することばを使っていくと思います。というか、『これしかない』。他に国民を統合できるような、そういうイデオロギー的ツールが他にないのです」
各地を“行脚”するプーチン大統領
同じ時期、プーチン大統領の行動にも変化がみられた。
発言記録にはどの場所で発言が行われたかの場所のデータが含まれていて、これをたどることで大統領の足跡がある程度分かる。
プーチン大統領は1年の大半をモスクワの大統領府、もしくは自身の公邸で過ごしている。
人口第2の都市・サンクトペテルブルクには8回、自身の別荘がある保養地のソチには8回と頻繁に足を運んでいるが、それ以外の場所は月に1回ほどだったプーチン大統領が、2022年9月以降、頻繁に各地に足を運んでいた。
浜さんは、こうした動きも、プーチン大統領が長期戦を意識して周辺諸国の支持を固めようとしたことの表れではないかと指摘する。
浜由樹子准教授「旧ソビエトのCIS国、イランなどは、ロシアに比較的近いところで、わかりやすく協力や対応を求めています。国内の地方は、経済的に取り残されているところ、あるいは動員の多いところがけっこう入っています。そういうところにも支持を求めて、『あなたたちを忘れていませんよ』『あなたたちの貢献をちゃんと見ていますよ』と直接言いに行くことを、かなり意識した動きだと思います」
本当は“戦争疲れ”?ロシア国民の本音は
ロシア、ウクライナの双方で犠牲が拡大し続けるなか、ロシアで暮らす市民たちはこの戦争をどのように受け止めているのか。
政権に「外国の代理人」の指定を受けながらも活動を続けている「レバダセンター」の毎月の世論調査では、去年12月の時点で、今回の戦争を「支持する」と回答した国民は7割を超えていたが、「停戦交渉を開始すべき」と回答したのは50%と、「軍事行動を継続すべき」の40%を上回っていて、人々の「戦争疲れ」が高まってきていることを示す結果もでてきている。
また、ロシアの大手検索サイト「Yandex」の検索ワードをみてみると、プーチン政権が予備役動員の方針を示した9月下旬にかけて、「招集・徴兵」や、国外への出国などの文脈で使われる「出発」の検索が急激に増加していた。
一方で、「英雄」「祖国」「ソビエト」といった独ソ戦や歴史にまつわることばも2022年9月以降検索数が増加傾向にあることもわかった。
浜さんは、今回の軍事侵攻が始まるさらに前から政権によるプロパガンダが繰り返されていたとしたうえで、こう指摘している。
浜由樹子准教授「『西側諸国に操られているウクライナの政権がネオナチ勢力と一緒になってドンバスの人たちを虐げてきた、私たちはこの人たちを助けに行く』というストーリーを2014年以降、ロシア国民は繰り返し聞かされている。一定数その物語を信じている人もいるし、信じたいという人もいると思います」
いつまでつづく“プーチンの戦争”
2月21日、プーチン大統領は軍事侵攻開始後初めてとなる年次教書演説に臨み、「ウクライナのネオナチ政権からの脅威を排除するため特別軍事作戦を一歩一歩、慎重に進め、直面している課題を着実に解決していく」と発言。長期化する軍事侵攻を改めて正当化し、国民に理解を求めた。
ただ、戦況についてはほぼ触れず、目立った戦果を上げられていないこともにじみ出た。
浜さんは今後、プーチン大統領が国民の精神性や感情に訴えかける場面がより増えていくと考えられると指摘した上で、ロシア社会に与える不可逆的な負の影響についても危惧を抱いている。
浜由樹子准教授「感情的な内面の動員は、一度やってしまうと終われない。例えばここで和平交渉に合意して戦闘が終わっても、発動されてしまった国民の感情はスイッチを切るようには切れない。
そのときに、戦争に賛意を示した人たちと反対した人たちとの分断や、出国した人たちと国内で地道に反戦運動をした人たちとの間の亀裂によって、ロシア社会全体がバラバラになっていくというのは、あり得るシナリオで、たいへん危惧されます」
分析したデータからみえてきたのは、過酷な戦闘を強いられるロシア兵たちの「リアル」と、その現実を無視するように繰り返されるプーチン大統領が掲げる大義の「空虚さ」だった。
“プーチンの戦争”は、いつまで続くのか。終わりはまだみえない。
●開戦1年「プーチン演説」にロシア人が失望した訳  2/24
侵攻開始から2年目に入ったウクライナ情勢は、今後どのように展開するのか。今後の焦点は何か。ロシア、ウクライナ、そして米欧の3者の思惑を通して考えてみた。
手詰まり感と危機感――。2023年2月24日の侵攻1年を迎えるに当たって、プーチン・ロシア大統領が2月21日に行った長大な年次報告演説を聞いて筆者が感じた印象はこれだった。
高揚感なきプーチン演説
1時間半に及んだ演説では「西側が戦争を始めた」「ロシアに戦場で勝つことは不可能だ」などお得意の歴史の歪曲と軍事的威嚇を象徴するセリフが飛び出したが、会場の拍手に熱気はなく、高揚感のなさは隠しようもなかった。なぜか。その理由は、プーチン氏が話したことではなく、話さなかったことにあった。
その代表的なものは、この1年間、とくに直近の軍事的成果だ。大統領としては、侵攻開始以来初めてだった今回の年次報告演説でシンボル的な戦果を誇示したかったはずだが、結果的に報告に盛り込めるような戦果を挙げられなかった。これはプーチン氏にとって大きな屈辱だったろう。
ロシア軍は大統領の厳命を受け、2023年1月中旬から東部ドンバス地方で攻勢に出ていた。しかし結局、当面最大の標的であった要衝バフムトの攻略も演説までに果たせなかった。つまり、演説が盛り上がるはずのないことを大統領自ら事前にわかっていたといえる。
しかしこの戦果以上に、会場を埋めた政権幹部や国民が聞きたかったのに、大統領がスルーしたものがある。戦争がいつ勝利で終わるのか、そして新たな戦争動員があるか否か、だ。
ロシア軍の攻勢は東部で続いている。しかし、装甲兵器の不足は深刻で、練度が低く、ろくな装備も持たされていない兵士を大量に前線に投入するだけの硬直的な人海作戦に終始している。
当初、ロシア軍の攻勢に身構えていたウクライナの軍事筋も「バフムトは取られるかもしれないが、全体として脅威はない」と強気になっている。これではプーチン氏として戦争終結の展望を示せるわけがなかった。
だが、国民を一番失望させたのは、新たな動員令が出るかどうかに触れなかったことだ。2022年9月に部分動員令が出た直後、動員を嫌って数十万もの若者が近隣国に出国した。都市部を中心に多くの国民は侵攻の行方よりも、自分や家族が招集されるかどうかに関心があるからだ。
つまり、プーチン氏は国民が知りたかったことに何ら回答を示せないという手詰まり状態にあることが明白になったといえる。
プーチンが見せた危機感
一方で、プーチン氏は演説ではこれまで見せてこなかった危機感ものぞかせた。会場にいる政権最高幹部やオリガルヒと呼ばれる富豪たちの多くが西欧に別荘を所有していることを念頭に置いて「西側の魅力的な首都やリゾートで住居を探すことは誰でも権利がある」としたうえで、西側に移住しても、そういうロシア人は結局、「2級市民」のままで終わるぞ、と語り掛けたのだ。
つまり、米欧からの制裁に音を上げて幹部や政権に近い富豪らがロシアから亡命する事態を懸念して、ロシアにとどまるよう警告したとみられる。
この危機感の背景の1つにあるのは、最近ちらちらと聞こえてくる、政権内部で出始めたプーチン政治への不満マグマの動きだと筆者はみる。
かつてクレムリンでスピーチライターを務め、プーチン政権の実情に詳しい政治評論家アッバス・ガリャモフ氏は最近、一部の軍高官が「大統領と異なる立場を取り始めた」と証言した。それによると、軍高官たちの間では侵攻作戦の難航は軍ではなく、大統領の責任であるとの考えが出ており、こうした高官らは表向き大統領の命令に従うふりをしているだけだという。
同様の証言はほかにも出てきた。元ロシア・エネルギー省次官で現在は反プーチン派の野党政治家であるウラジーミル・ミロフ氏も2023年2月半ば、親しいクレムリン高官の話として、プーチン氏の命令には逆らわないものの実質的に「消極的サボタージュをしている」と聞いたと証言した。
この「消極的サボタージュ」が実際どこまで政権内で広がっているのかは不明だ。少なくともすぐに政権を大きく揺さぶる動きになる可能性は低いと筆者は見る。だが、これまで政権内をがっちり掌握してきたプーチン政治に陰りが出てきたことは間違いないだろう。
プーチン氏としては、ウクライナの抗戦姿勢を切り崩し、米欧の支援疲れを引き出すためにも、侵攻を長期戦に持ち込む構えだ。しかしこのまま侵攻作戦が難航し、勝利の展望もなく長期化するようになれば、これまで表面化してこなかったプーチン批判が噴出し、ロシア政治の流動化が始まる事態も否定できない。
プーチン氏の年次報告演説の直後となる2023年2月21日に、訪問先のポーランドでアメリカのバイデン大統領が行った演説は、明言回避の守りの姿勢に終始したプーチン氏の演説とは対照的な攻めのスピーチだった。ウクライナ情勢に3つの点で大きなインパクトを与えた。
その1つは、アメリカがウクライナをロシアの侵攻から守るという固い決意を表明したことだ。前日の2月20日にアメリカ軍の護衛部隊がいないという安全上のリスクを取ってキーウ(キエフ)を電撃訪問したことと合わせ、侵攻開始以降、最も強力なウクライナ支援のメッセージを発信したといえる。
民主主義国家と専制国家の戦い
もう1つは、この侵攻がたんにウクライナとロシアの2国間の戦争ではなく、世界の民主主義国家と専制国家とのグローバルな戦争だと明確に描き出したことだ。「世界の民主主義国家は強くなり、世界の専制主義国家は弱くなった」との言葉がこれを象徴している。
実はウクライナ侵攻が持つこの側面はアメリカや日本を含め、各国内で必ずしも十分理解されているとはいえないのが実情だ。ウクライナとロシアという2国間の戦争であり、欧州の出来事にすぎないとの冷めた見方が一部世論にあるのはこのためだ。
バイデン大統領としては、ロシアの侵攻を失敗に追い込む歴史的意義の大きさを示すことにより、西側社会をいっそう団結させ、これをロシアのみならず中国にも誇示するという狙いがあったとみられる。
3つ目としてはアメリカの内政上の思惑だ。ウクライナ支援への消極論もある共和党をにらんで、ウクライナ防衛の歴史的意義を強調することで、支援継続論を議会で広げたいとの狙いがあったのは間違いないだろう。
それでは、今回のバイデン外交は、今後のウクライナ情勢に具体的にどのような意味があるのだろうか。
最大の意義は、ロシアを戦場で負かすという総論で米欧とウクライナが明確に一致したことだ。これは、2014年にロシアによる一方的併合で奪われたクリミア半島と東部ドンバス地方(ドネツクとルガンスク両州)からロシア軍を追い出し、1991年の独立当時国際的に承認されたウクライナ国境線を回復するという意志を再確認したことを意味する。
この結果、アメリカのF16戦闘機や高性能な長距離ロケットATACMS(エイタクムス)など、ウクライナが今春に大規模反転攻勢を開始するうえで、アメリカに強く求めていた兵器供与にも道が開かれる可能性が高まったとみられる。
しかし、一方で総論では一致した米欧とウクライナの間では今後、すり合わせをしなくてはならない微妙な各論的議論がまだ残っているのも事実だ。
戦後のプーチン氏の処遇は
その代表的な課題は、1ロシア軍敗戦後のプーチン氏の処遇、2ロシア連邦のあり方、の2つだ。この2つの問題をめぐる各論の議論は春にも始まる予定だが、侵略された被害者であるウクライナと米欧の利害が異なっており、調整が難航する可能性も否定できない。
1をめぐっては、今回侵攻に失敗したとしても、歴史的ロシア帝国版図の復活を目指しているプーチン氏が政権の座にとどまることはウクライナにとって、ありえない選択肢だ。しかしバイデン政権が完全に同じ立場に立つという保証はない。
なぜなら、アメリカが最も恐れるロシア敗戦後のシナリオは、ロシア国内が混乱し、予測不可能な新たな独裁者が登場し、核のボタンを握る事態だ。そうした事態を招くくらいなら、暫定的にプーチン氏を政権の座に残し、次に登場する新政権に安全にボタンを移管させたほうがマシと考える可能性は否定できない。
さらにロシアが混乱することで結果的に、中国がロシア極東での権益を手にして、いっそう強大化する事態も懸念しているだろう。
またロシアの現在の連邦制を解体するか否かも大きな議論の対象になる可能性が高い。ウクライナは超中央集権的な今のロシアの連邦体制こそ、ウクライナを含めた周辺国への脅威と認識しており、ロシア連邦制の解体を主張するとみられる。
これに対し米欧は反対する可能性が高い。ロシアでも現在の与党政党だけでなく、反プーチン派リベラル勢力も解体に反対する可能性があり、議論が紛糾することもありえる。
もっとも、こうした各論の議論は、ウクライナ軍が2023年3月にも開始を目指している大規模反攻作戦で結果を出して初めて、意味を持つ。2023年中の戦勝を目指すウクライナ側は、東部でのロシア軍の攻勢に対しては守り抜く一方で、米欧が供与を約束した戦車や火砲などの武器の到着を待って、反転攻勢を開始する計画だ。
反転攻勢の当面の標的は南部ザポリージャ州だ。クリミア半島への物資補給の拠点である要衝メリトポリやアゾフ海沿岸地域を奪還して、これらの地域を拠点に次のステップとして、クリミア奪還作戦を早期に開始したい思惑だ。
なぜ東部ではなく、クリミアの奪還を急ぐのか。それは黒海艦隊の司令部があり、陸空軍基地も多数あるクリミアこそ、今回の侵攻でロシア軍の出撃拠点になっているからだ。
ここを取り戻せないまま停戦になれば、将来再び、クリミアを出撃拠点にしてロシア軍が侵攻してくるとの危惧があるのだ。さらにウクライナ軍はクリミアさえ奪還すれば、東部のロシア軍は士気を喪失し、比較的容易に奪還できると考えている。
クリミア奪還は可能か
またウクライナ側には、本音としてクリミア奪還を優先する事情が別にある。仮にドンバス地方の奪還を先に実現した場合、米欧から「もういいじゃないか」とばかりに、これで停戦してロシアによるクリミア占領を固定化する新たな和平案を押し付けられることを警戒しているのだ。
この懸念は、1991年の国境線回復を目指すとの今回の米欧との総論合意の結果、当面遠のいた形だ。しかし、アメリカ国防総省からは年内の戦勝を疑問視する冷ややかな見解が制服組トップのミリー統合参謀本部議長から飛び出すなど、反攻作戦の成否をめぐりアメリカ政府内でさまざまな意見が錯綜しているのが実態だ。
ウクライナ支援を担当する米欧州軍の元司令官であるベン・ホッジス氏は2023年2月、アメリカが長距離砲を供与することを条件に、同年夏の終わりまでにクリミアを奪還することは可能と発言した。興味深いのは、ホッジス氏が同じ欧州軍司令官経験者であるオースティン国防長官の意見を代弁しているとの見方があることだ。
こうしたアメリカ政府内の微妙な温度差を背景に、仮に今後の反転攻勢でウクライナ軍が苦戦する事態にでもなれば、アメリカから総論合意の立場から離れ、ロシアとの妥協を促す声が出る事態もあながち否定できない。その意味でこれからの反転攻勢の成否がウクライナ情勢の行方を左右する決定的な要素になりそうだ。
●大勢が戦争を見て見ぬふりの1年、何が変わり何が変わっていないのか 2/24
ロシアの侵攻開始に至る数週間、私はモスクワ中心部のザモスクヴォレチイェを何時間も歩いた。ザモスクヴォレチイェには私の家とBBCのオフィスがあり、私がBBCで働くようになってから7年たっていた。
そこはモスクワ市内の閑静な地区で、私にとってはロシアの複雑な過去と現在が詰まっていた。
モスクワ市民はもう何世紀にもわたりザモスクヴォレチイェで家を建て、事業を始め、静かに生活してきた。支配者がもっと大きい舞台でもっと大きい野望を追求するのをよそに。そのような大きい舞台での大きい野望に、普通のロシア人がそもそも関われたためしがないからだ。
ザモスクヴォレチイェの片側にはモスクワ川が流れ、北側にはクレムリン宮殿が建つ。反対側には混雑するサドーヴォエ環状道路に沿ってスターリン時代の威圧的な集合住宅や、21世紀の高層ビルが居並ぶ。
細いまがりくねった道が迷路となって過去を呼び起こす。そこには教会や19世紀の貴族の邸宅が点在する。ボルシャヤ・オルディンカ通りの名前はさらに数百年さかのぼる、モンゴル=タタールに支配されていたころの名残だ。当時はモスクワの諸侯から年貢を集めに、使者がやってきていた。
昨年2月、ザモスクヴォレチイェにいた私のところへ、友人から電話があった。ウクライナ第二の都市ハルキウで生まれた彼は、モスクワで働いていた。
本当にプーチンはウクライナ相手に戦争を始めるつもりか。友人はそう尋ねた。お互いにそんなことは信じたくなかった。
しかし、ロシアの過去はしばしば容赦なく激しく暴力的で、その過去を連想させる遺物に囲まれた私は、戦争はもはや避けがたいと感じていた。私が近所を毎日散歩するのは、二度と元には戻れないひとつの世界、下手をすると決して元に戻れないひとつの国に、私なりに別れを告げていたからだ。
これまでに数十万人のロシア人がロシアを離れた。私も、BBCロシア語の同僚たちもそうだ。しかし、ロシアにとどまる大多数にとって、表向きの生活はたいして変わっていない。
大都市では特にそうだ。
ザモスクヴォレチイェでは、店やカフェはまだほとんど開いている。会社や銀行も営業している。時代の先端を行っていたジャーナリストやITの専門家はもういないかもしれないが、その代わりをする人たちはいる。
買い物客は物価の上昇に文句を言うが、国産品が輸入品の代わりになったものもある。
書店にはまださまざまな本が並んでいる。ただし、不適切とみなされる本はビニールカバーがかかった状態で売られている。
かねて人気のカーシェア・サービスは今もあるが、車のほとんどは今では中国製だ。
世界的な経済制裁を科せられてはいるものの、ロシア経済はまだ1990年代のような破綻寸前の状態には至っていない。しかし、北アイルランド・ベルファストが拠点のロシア人研究者アレクサンドル・ティトフ氏が指摘するように、ロシアが危機の渦中にあることには違いない。
低温でくすぶり続ける危機だが、よくよく見れば、その兆候はあちこちに出ている。
ウクライナ国境に近く、攻撃で激しく破壊されたハルキウからわずか80キロにあるベルゴロドでは、軍用トラックが轟音(ごうおん)をたてて前線へと急ぐ様子に、住民はすっかり慣れてしまった。
ベルゴロドの住民の多くが、ハルキウに友人や親類がいた。その街をロシアが爆撃し続けるのが気がかりだとしても、ベルゴロドの人たちはそれを表に出さないようにしている。
ベルゴロドでは、地元の知事が路上で開く楽しいお祭りに、大勢が集まったと友人が教えてくれた。
しかし、地元の医師たちはどんどんこの街を離れている。市内の病院に戦場から次々と送り込まれる負傷兵に、対応しきれないからだ。
国境に接する小さいシェベキノの町では、住民は見捨てられたと感じて怒っている。ここでは国境を越えた砲撃が、日常の現実となってしまったからだ。
シェベキノでは自分たちの暮らしがひっくり返ってしまったのに、サンクトペテルブルクに行ったら何も変わっていないことにショックを受けた家族もいる。
エストニアとラトヴィアの国境に近いプスコフでは、住民の表情は暗く、戦争など自分には関係ないことだと、誰もがそういうふりをしているのだと、現地の人に教わった。
プスコフは、第76親衛空挺師団の本拠地だ。キーウ郊外ブチャで戦争犯罪を繰り広げたとして悪名をはせた部隊だ。
ウクライナで戦死した兵士が埋葬される地元の墓地へと走る、バスの運行が始まっている。墓地では、戦死兵の墓が増え続けている。橋の下に誰かが大きい赤い文字で、「平和」と書いたのが見える。
フィンランド国境に近いペトロザフォドスクへ向かう電車に乗っていた友人は、10代の若者たちが「街の名前あて」ゲームで遊んでいるのを見た。
「ドネツク」と誰かが言う。それはロシアか、それともウクライナか。はっきりどちらだと言える若者はいない。自分たちの政府が占領し、違法に併合した街だ。
戦争のことはどう思う? 自分たちには関係ない。
ペトロザフォドスクは、厳しい過去の姿に戻ってしまったようだ。
戦争のことはどう思う? 自分たちには関係ない。棚は空っぽで、外国製品はなく、物の値段はとても払えないほど高い。
ロシア人は、自分の名のもとにウクライナで行われている残虐な行為を本当に支持しているのか。それとも、自分が生き延びるために、何も起きていないふりをしているのか。
断片的な印象や会話から、確かな結論を引き出すのは難しい。社会学者も世論調査の専門家も、ロシア国民の意見を推し量ろうとしてきたが、ロシアには言論の自由も情報の自由もないため、ロシアの人たちが正直に答えているか分かりようがない。
大多数のロシア人が戦争を支持しないまでも、反対していないのは確かだという結果が、複数の世論調査で示されている。
これについて、国外のロシア人たちは激しく議論している。私を含め、ロシアについて研究して報道する大勢は、積極的に戦争を支持する人が少数ながら一定数いると同様、積極的に戦争に反対する人も同じように少数だと考えている。
ほとんどの普通のロシア人は、どちらでもないようだ。自分が選んだわけではなく、理解できず、自分では変えられないと無力感に襲われるこの状況について、なんとか受け止めようとしている。
普通のロシア人がこの状況を食い止めることはできたのか? おそらく、できたのだろう。もっと大勢が自分の自由のために立ち上がっていたら。国営テレビが西側やウクライナの脅威を大げさにあおりたてるプロパガンダに、もっと大勢が反論していたら。
しかし、多くのロシア人は政治から距離を置き、決定権を政府にゆだねていた。
しかし、目立たないようにうつむいたままでいると、自分の倫理観と妥協することになりかねない。非常に不穏な形で。
この戦争が自分に直接関わってこないようにするには、ロシア人はこれは拡張主義の戦略戦争ではないと、そういう振りをしなくてはならない。ロシア政府が「特別軍事作戦」と呼ぶもので殺され負傷する何万人ものウクライナ人について、家を追われる何百万人ものウクライナ人について、ロシア人は目をつぶらなくてはならないのだ。
兵士が学校を訪れ子供たちに、戦争は良いものだと教える。そのことを、ロシア人は受け入れなくてはならない。
聖職者が戦争を支持し、平和のために祈るのをやめるのは、普通のことだと受け入れなくてはならない。
自分たちがもはや旅行できないことや、広い世界の一部として活動できないことも、受け入れなくてはならない。
自分たちがそれまで読んでいた独立系メディアのサイトのほとんどを政府が閉ざしたのも、正しいことだと。
国会議員が処刑の映像をツイッターに投稿することや、その処刑の道具が大槌(つち)で、それが今ではロシアの威力を示すポジティブなシンボルになっていることも。
そして、地方議員だろうがジャーナリストだろうが、戦争をどう思うか発言したのを理由に何年も投獄されるのも、普通のことだと。
では、なぜロシア人は抗議しないのか。これは世論調査よりもロシアの歴史を見る方が説明がつく。
ウラジーミル・プーチン大統領は権力を握って以来、自分はロシアを再建し、再び世界に尊敬され重視される国に戻したいのだと、隠すことなく主張してきた。
演説や文章を通じて、ロシアは東洋と西洋をまたがる、世界でもユニークな立場にあるという考えをプーチン氏は示してきた。ロシアには独自の伝統と宗教と、やり方があると。ロシアには秩序と制御が必要で、ロシアは周囲から尊敬されなくてはならないと。
この主張は何世紀にもわたって繰り返されてきたもので、異論は認めない。変化の余地もない。プーチン氏が好む柔道の用語を使うなら、この主張は締め技のようなものだ。
プーチン氏のこの世界観には代償が伴う。ロシア人は自由を失い、ウクライナ人はこのために命を落としている。
ロシアはこれまで、災難や大破局を経験した後に、自由の拡大を経験してきた。
1989年にアフガニスタンで敗退した後には、ゴルバチョフの時代が訪れた。1905年に日本相手に敗れた後には憲法が改正され、1856年にクリミア戦争で敗れた後には、農奴解放が実現した。
ほとんどの世論調査で繰り返される結果がある。それは、ほとんどのロシア人が戦争終結のための和平協議を支持するというものだ。ただし、独立国家・ウクライナにロシアがどういう保証を提供する用意があるのかは、はっきりしない。
しかし、遅かれ早かれ、はっきりさせる必要がある。そしてロシア人はいずれ、自分の国が何をしたのか、本当のことに直面しなくてはならない。
●プーチン大統領、支持率80%前後を維持「国民がプーチンに慣らされた」 2/24
ウクライナ侵攻開始から1年を迎えてなお、ロシアのプーチン大統領の支持率は80%前後を維持しています。その理由の一つとして、専門家は「国民がプーチンに慣らされた」と分析しました。
プーチン大統領の「活動」に対する評価について、独立系世論調査機関「レバダセンター」が1日に発表した調査では、「承認」が82%、政府系「全ロシア世論調査センター」の12日発表の調査でも76%と、1年前の侵攻開始以降、高い数字を維持しています。
プーチン大統領の支持率ともいえるこの高い数字はなぜなのか? 侵攻後、ロシアからの撤退を余儀なくされたカーネギー国際平和財団のアンドレイ・コレスニコフ上席研究員兼会長は次のように分析しました。
「理由の一つは、国民のかなりの部分が、国に関係する分野で仕事をするようになったからです」。
つまり、侵攻開始後、ロシア政府が、公務員、軍人、警察官など、公的機関への支出を増やしたために、公務員の支持が上がったというのです。
さらに重要な点として、プーチン大統領が長期にわたって政権の座にあることで、国民には慣らされた惰性があり、「無力感」に包まれているのではないかと、コレスニコフ氏は見ます。
「ロシアでは何も変えられないという無力感、服従、無批判による受け入れがあり、最後に群集心理もあるだろう」
これは、問題を避けるためには、多数派に加わる方が楽で、群集から突出する価値はないと、ロシア国民が考えるようになってしまったという見方です。加えて、「戦争という衝撃によって、ロシア国民の多くが保守的な行動に転じたのではないか」とも指摘しました。
●中国がウクライナ危機解決への「立場」発表、具体策は示さず  2/24
中国外務省は24日、ウクライナ危機の政治解決に向けた「中国の立場」を示す文書を発表した。ロシアとウクライナの直接対話の再開を求め、建設的な役割を果たすと主張したが、具体策は示さなかった。12項目の提案は従来の主張の枠にとどまった。
中国は文書で、ウクライナ情勢が悪化し、制御不能になる事態を避けなければならないとし、「対話と交渉がウクライナ危機を解決する唯一の道だ」と強調した。各当事者がロシアとウクライナの速やかな直接対話の再開を支援すべきだとし、「中国は建設的な役割を果たしたい」とも記した。
対露制裁を継続する米欧を念頭に「一方的な制裁の停止」を求め、「軍事集団の強化や拡張では地域の安全は保障できない」とも述べた。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大は安全保障上の脅威と主張するロシアに同調する姿勢を見せた形だ。一方、核兵器の使用や脅し、原子力発電所への攻撃には反対し、ロシアと一定の距離があることを示し、欧米などの「中国離れ」の食い止めを図った。
ウクライナ情勢を巡り、中国は自身を「責任ある国家」と主張してきた。ロシアの侵略開始から1年に合わせた文書の発表は、中国が中立的で和平に積極的と国際社会にアピールしたい狙いがあるとみられる。
ただ、文書の実効性には疑問符がつく。中国の 習近平シージンピン 国家主席はロシアの侵略開始後、プーチン露大統領とは対面を含め、4度会談した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とは一度も会談していない。停戦にめどが立つ前から「戦後再建の推進」にも言及している。
中国のSNSでは中国外務省の発表後、文書への賛同を示す書き込みがある一方、「(文書は)新味がなく、建設的でない」「実質的な内容が全くない」とする冷めた見方をする投稿も相次いだ。
●ウクライナ首相 領土奪還へ “春から夏にかけて攻勢強める”  2/24
ロシアによる軍事侵攻から1年となるのに合わせて、ウクライナのシュミハリ首相がNHKのインタビューに応じ「反転攻勢を計画している」と述べ、領土の奪還に向けて今後、春から夏にかけて攻勢を強める方針を明らかにしました。
ウクライナのシュミハリ首相は23日、首都キーウでNHKのインタビューに応じ、1年となるロシアによる侵攻について「ウクライナは耐え抜いただけでなく、この間、占領された領土の50%以上を解放した。私たちは戦いを続けているし、多くの国からは100%の支持を受け、国内には揺るぎのない結束がある。すべての領土を解放するまで戦いを続ける」と強調しました。
そして「支援してくれる国とともに反転攻勢を計画している。計画の準備に向けて新しい、射程の長い兵器や装甲車などの供給を期待している。春か、あるいは夏には反転攻勢を実現できると思う」と述べ、領土の奪還に向けて今後、攻勢を強める方針を明らかにしました。
その上で「私たちの主権と領土の一体性を取り戻すことは、ウクライナにとってだけでなく世界にとっても極めて重要だ。21世紀に誰も軍事力によって国境を変えることを考えてはならない」と指摘し、将来、ほかの地域で同じような侵略が繰り返されないためにもウクライナの勝利が欠かせないとしています。
また、ことしG7=主要7か国の議長国を務める日本の支援に感謝したうえで「議長国の期間中、各国の連携をとりまとめ多くの新たな取り組みをもたらすことを望む」と述べ、財政面や人道面の支援で主導的役割を果たすことに期待を示しました。
●ウクライナ侵攻、調査で「6割支持」 モスクワ市民に直接聞くと 2/24
ロシアが2022年2月にウクライナに対する「特別軍事作戦」を始めてから24日で1年。前線のロシア軍は苦戦が続くが、国内の世論調査を見る限り、国民の大半が「支持する」と回答している。これらの調査は社会の現状を適切に映し出しているのか。首都モスクワの市民に尋ねた。
侵攻は批判しない 矛先は軍に
「多くの人たちが命を落としたし、国の現状は正しくはないと思う」。モスクワ中心部で23日午後、野党の共産党が開いた集会に参加していた男性、アンドレイ・チビコフさん(30)はこう話した。
ただし、ウクライナへの軍事侵攻を批判しているわけではない。「ウクライナ軍は(侵攻される前の)8年間、米国や欧州から訓練を施され、十分に準備してきた。それなのに我々の軍は何をしてきたのか」。アンドレイさんは政府が総動員令を発令し、軍の質の向上を図り、経済改革も進めるべきだと主張する。
ロシアでは22年9月に「部分的動員令」が出され、30万人規模の国民が招集された。今後、総動員令が発動された場合、「徴兵の適齢期」に当たるアンドレイさんは前線に送られるような事態を恐れていないのか。この点を尋ねると、「私は軍事産業に勤めているから……」と打ち明け、対象外となっていることをほのめかした。
プーチン政権が22年2月24日、ウクライナに攻め込むと、ロシア国内の大都市を中心に抗議運動が起こった。しかし、政権は批判や反対の声を上げることへの罰則規定を設け、抗議の声を抑え込んだ。今では反対を表明しづらい空気が社会に充満している。
政府系の全ロシア世論調査センターが2月に発表した調査結果では、68%が軍事作戦を始めた決定を支持し、「支持しない」の20%を大きく上回った。一方で、徴兵を恐れ、成人男性を中心に100万人ともいわれる国民が国外に脱出した。しかし、政権に近い政治評論家アレクセイ・ムーヒン氏は「これらの階層は市民社会に影響を与えない」と指摘し、少数派にとどまるとの見方を示す。
共産党が集会を催していた場所と大通りを挟んだ広場には、世界的に有名なボリショイ劇場が建っている。観劇を終えたばかりの60代の夫婦、アレクサンドルさんとアンナさんに、国と軍事作戦の現状を尋ねた。
「厳しい状況にあると思う」とアレクサンドルさんは切り出した。ただし、それはロシア軍の現状を指しているだけで、軍事侵攻そのものは批判していない。
ロシアは帝政時代の18世紀半ばから、ウクライナで支配地域を段階的に拡大。リビウ一帯を支配下に収めたのは、ソ連時代の第二次大戦のさなかだった。そのため、ロシアとのつながりが薄いリビウなどでは反露感情が強い上に、ドネツクの周辺地域と対立することが多かった。
アレクサンドルさんの一家は30年以上前に、現在の軍事作戦で激戦地となっているウクライナ東部ドネツク州に住んでいたという。「あの頃(のウクライナで)はみんなが仲良くしていた。悪いのは西部の連中だ」として、西部の主要都市リビウなどに住む人々に非難の矛先を向けていた。
つぶやくように「反対。挑発された」
モスクワ中心部の公園には、ウクライナの詩人の碑が建つ。一時期はウクライナで犠牲になった人々を悼み、モスクワの市民が献花に訪れるなど「反戦スポット」の一つになっていた。
携帯電話で碑を撮っていたアンドレイ・ポロンスキーさん(50)に同じように質問すると「戦争と軍事行動には反対している」とつぶやくように答えた。ただし自国が全面的に悪いとは思っていないようだ。14年にウクライナで政府への抗議運動が広がり、親露派政権が倒されたこともあり「ロシアは挑発されていたともいえる」と話す。
それでは、ロシアが隣国に攻め込んだ1年前の決断は正しかったのか。「わからない。(ロシアが東部に軍事介入し、紛争が続いていたウクライナに)何かしらの支援をしなければいけなかったと思うが、軍事ではなく、経済的支援でもよかったのかもしれない」とアンドレイさんは答える。
この先に軍事作戦が収束するような見通しはあるのかも尋ねてみた。「何も言えない。こんな事態すら予想していなかったのだから」と話すのが精いっぱいの様子だった。
ウクライナで起きていることへの戸惑い、過去への憤り、先が見えない暗い思い。自分の思いを探すように答えていたアンドレイさんからは、それらの気持ちがにじんでいたと思えた。
●ウクライナへの支援額 1位はアメリカ GDP比の上位はバルト3国  2/24
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナに対して欧米各国を中心に巨額の支援を続けています。
ドイツの「キール世界経済研究所」は、各国が表明した軍事支援や人道支援などを含む支援額について2022年1月から2023年1月15日までの総額をまとめ、今月21日に公表しました。
それによりますと、支援額が最も多いのがアメリカで731億ユーロ、日本円でおよそ10兆円にのぼり全体の支援額(1436億)の半分を占めています。
次いで、EU=ヨーロッパ連合が350億ユーロ、およそ5兆円、イギリスが83億ユーロ、およそ1兆1000億円、ドイツが61億ユーロ、およそ8700億円、カナダが40億ユーロおよそ5700億円などとなっています。
また、日本は10.5億ユーロで10位となっています。
GDP比ではロシアに近い国々が上位に
一方、支援額のGDP=国内総生産に対する割合でみると、順位は大きく変わります。
おととし(2021)のGDP比でみると、最も高いのがエストニアで1.07%、次いでラトビアが0.98%、リトアニアが0.65%、ポーランドが0.63%となっています。
アメリカは5番目で0.37%です。
また、日本は0.02%で30番目となっています。
上位を占めたバルト三国とポーランドはロシアと地理的に近く、このうちバルト三国は、第2次世界大戦中に旧ソビエトに併合されましたが、ソビエト崩壊で主権を回復しました。
いずれも歴史的にロシアの脅威にさらされていて、ポーランドは1999年に、バルト三国は2004年に、NATOに加盟し、安全保障の強化を図ってきました。
このためロシアによるウクライナへの軍事侵攻に強く反発し、ウクライナを支持する姿勢を鮮明に打ち出していて、国の経済規模と比べて大きな額の支援をウクライナに行うとともに、ロシアに対する厳しい経済制裁の議論を主導してきました。

 

●ウクライナ危機〜メルケル首相が犯した失敗 2/25
ウクライナ東部で高まる緊張
ウクライナ東部のスラビャンスクでは、4月12日に正体不明の武装勢力が警察署などを占拠した。翌日にはウクライナ軍の特殊部隊が、武装勢力を排除しようとして銃撃戦となり、双方に死傷者が出た。これらの武装勢力は他にもウクライナ東部の4つの町で、政府機関の建物を占拠している。北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務局長は、「クリミア半島で住民投票が行われる前に、空港などを武装勢力が占拠した状況に似ている」と述べ、これらの武装勢力の暗躍にロシアが関与している可能性を示唆した。プーチン大統領はロシアの関与を否定している。
国連の安全保障理事会は4月13日に、ウクライナ危機がエスカレーションしたことを受けて緊急会議を召集。米国とロシアの国連大使が非難し合う光景は、東西冷戦たけなわの時代を思い起こさせた。欧州連合(EU)はロシアがウクライナ東部で混乱状態を引き起こしているとして、銀行口座の凍結などの制裁の対象とするロシア人の数を増やすことを決めた。
ウクライナ連邦化を目指すロシア
プーチン大統領の狙いは、ウクライナの東部地域を同国から事実上分離することだ。ロシアはウクライナを連邦化し、東部地域が外交、経済、文化などについて自治権を獲得することを目指している。しかもウクライナがNATOに加盟せず、中立国になることも要求している。「中立」とは言うものの、ロシアがウクライナ東部を事実上の「保護領(プロテクトラート)」にしようとしていることは明白だ。
ウクライナ東部の親ロシア勢力は、この地域をクリミア半島と同じくロシアに帰属させることを要求している。ウクライナの政変で失脚し、ロシアに事実上亡命したヤヌコビッチ前大統領は、ロシアへの帰属に関する住民投票をウクライナ全土で行うべきだと主張している。
問題は、ロシアが民主的な方法ではなく、軍事力を背景にウクライナ東部の分離を実現しようとしていることだ。クリミア半島の住民投票も、武装勢力が同地域を制圧したことで初めて可能になった。
ロシアはウクライナ東部との国境に、戦車や装甲兵員輸送車、戦闘ヘリを含む約4万人の戦闘部隊を集結させている。4万人といえば、2個師団に相当する兵力。NATO関係者は、「ロシアは5日以内にウクライナのすべての都市を占領できるだけの兵力を集めている」と分析する。
つまりプーチン大統領は、「ウクライナの連邦化を認めなければ、ロシア系住民を保護するためにウクライナに侵攻する」という無言の圧力をかけているのだ。
これは西側諸国が「もはや欧州では過去のものとなった」と信じきっていた、帝国主義的な恫喝である。1989年のベルリンの壁崩壊以来、「平和の配当」に酔いしれていたEUや米国の政治家や官僚たちは、突然豹変して牙をむいたプーチン大統領に、冷水を浴びせられたのだ。そう、帝国主義はヨーロッパ大陸の東部ではまだ死に絶えていなかったのである。第一次世界大戦の勃発からちょうど100年目に当たる今年、EUが帝国主義と対決することになるとは、何という歴史の皮肉だろうか。
諜報機関出身の政治家を信用してはならない
EUにとって、プーチン大統領は手ごわい相手だ。彼は3月下旬にドイツのメルケル首相との電話会議で、「ウクライナ国境に集結させた部隊を撤退させる」と約束したが、実際に国境付近から退いたのは、わずか1000人。NATOは「ロシア軍が本格的な撤退を始めた兆候はない」としている。プーチン大統領は外国の最高指導者に平気で嘘をつく政治家なのだ。
またプーチン大統領は3月4日に「クリミア半島を併合する必要はない」と記者会見で語っていたが、そのわずか2週間後にクリミアを併合した。
彼の言葉を信用することは、禁物だ。プーチン大統領は、ソビエトの諜報機関・秘密警察KGB出身。諜報機関の人間にとって、偽の情報で敵を混乱させることは日常業務の一部であり、プーチン大統領の言葉を鵜呑みにはできない。したがって、「ウクライナに侵攻する気は毛頭ない」とするロシア政府の公式見解も、信用することはできない。
プーチン大統領の言葉を信用する政治家は、諜報の世界で育った人間の本質を知らないからだ。北方領土を巡るロシアとの交渉において、日本の政治家は、このことを肝に銘ずるべきだ。私は、KGBの子飼いの諜報機関だった東独の国家保安省=シュタージについて詳しく取材した結果、「諜報機関で働いている人間、もしくは諜報機関出身の人間は一切信用してはならない」という結論に達した。この点については、稿を改めてお伝えしよう。
日本の言論界では、驚くべきことに、ロシアに詳しい外交関係者らを中心に、「行き詰まった事態を打開するために、ウクライナの連邦化を認めるべきだ」という意見が出始めている。例えば佐藤優氏は、毎日新聞社発行のエコノミスト誌(2014年4月15日付)で、「国際秩序をこれ以上混乱させないようにするためには、ウクライナの東部と南部に広範な自治権を持つ地方政府を形成することが現実的と思う。キエフの中央政府が地方政府とロシア語を常用する人々の人権を保障することを約束し、ウクライナが連邦化すれば、ロシアはクリミア方式の介入はしないと思う」と述べている。
EUの原則に矛盾
しかしこうした意見は、私が住む西欧では、全く受け入れられない。武力を背景に、主権国家の領土の割譲を要求する政策は、冷戦終結後の欧州の原則に矛盾するからだ。第二次世界大戦末期にソ連軍が進駐した欧州の東半分は、戦後そのままソ連の影響下に置かれた。
EUの母体である欧州共同体(EC)創設の精神や、ドイツ連邦共和国(西ドイツ)建国の理念は、欧州の東西分割を克服することを最も重要な目標としている。メルケル首相は、「ロシアのクリミア半島併合は、19世紀や20世紀の手法である。ウクライナの主権を侵し国際法を破る行為を断じて受け入れることはできない。時計の針を戻すことを許してはならない」と述べ、プーチン大統領を非難している。
つまり欧州がプーチン大統領の要求を受け入れれば、第二次世界大戦後に打ち建てた重要な理念を破棄することになるのだ。国境の不可侵は、冷戦後の欧州の国際秩序の基本原則である。
76年前の破局の記憶
欧州にとってウクライナ危機が持つ「重さ」は、1930年代に中欧で起きた破局に関する知識なしには、理解できない。
ドイツのメディアは、ロシアがクリミア半島に戦闘部隊を送り込んで制圧した直後、「heim ins Reich(帝国に帰還させる)」という表現を頻繁に使った。これは、第二次世界大戦直前に、ドイツ系住民の比率が高かったチェコスロバキア西部のズデーテン地方のドイツへの割譲を巡り、ナチスが頻繁に使った言葉である。
ドイツのショイブレ財務大臣は3月31日にベルリンで「ロシアがクリミア半島併合で用いた方法は、すでに歴史に見られる。ヒトラーは、ズデーテン地方で同じ方法を使った」と述べた。ドイツでは、「ナチスの犯罪は歴史の中で比較できる物がないほど重大」と考えることが社会の常識となっている。このためショイブレ大臣は「プーチンをヒトラーと同列に並べるのはおかしい」とメディアから批判された。しかし多くのドイツ人は、今日のロシアの振る舞いを見て、76年前のズデーテン危機を思い出している。
ズデーテン地方には、約300万人のドイツ系住民が住んでいた。彼らの大半は、ナチスが1938年3月に併合したオーストリアと同様に、ドイツへの帰属を要求した。ヒトラーはチェコスロバキアに対し、ズデーテン地方の割譲を要求するとともに、国境に戦闘部隊を集結させた。
第一次世界大戦で疲弊していた英仏は、ドイツとの戦争を避けるために、1938年9月30日のミュンヘン会談でヒトラーに対して譲歩し、ズデーテン地方のドイツ編入を認めた。チェコスロバキア政府は会議に招待もされず、その意向を完全に無視された。同国は、戦争回避を望む英仏によって捨て石とされたのだ。1938年10月にヒトラーはズデーテン地方をドイツに併合。ナチスを支援していたズデーテン地方のドイツ系住民は、「heim ins Reich」つまりドイツ帝国への帰還を実現したのだ。
ミュンヘン会談における英仏のナチス・ドイツへの妥協は「宥和政策(Appeasement policy)」と呼ばれ、戦争を避けるために独裁国家に譲歩することの代名詞となった。しかもヒトラーはズデーテン地方の併合だけでは飽き足らず、翌年にはチェコスロバキア全土を占領、ポーランドにも侵攻して第二次世界大戦を引き起こした。英仏の宥和政策は失敗に終わったのだ。
ズデーテン危機が我々に教えていることは、軍事力をちらつかせながら脅しをかける国家に譲歩しても、戦争を防ぐことはできないということだ。
もちろんズデーテン危機とウクライナ危機を同列に並べることはできない。しかし、軍事力を背景に領土問題を解決しようとする手法には、似た点がある。
こうした記憶があるためにEUは、プーチン大統領によるウクライナ分割要求を受け入れることはできないのだ。
「軍事力不行使宣言」をしたメルケルの戦術ミス
しかし、ウクライナ問題に対するEUのこれまでの対応には、及第点をつけることはできない。ロシアがクリミア半島を制圧してから約2カ月間のEUの対応は、実効に乏しいものになっている。ドイツはユーロ危機に対する戦いの中で、EUの事実上のリーダーの役割を果たした。EU加盟国や米国は、ウクライナ危機への対応でも、ドイツが指導的な立場に立つことを期待している。だがドイツのこれまでの行動は、及び腰である。私は前回の連載記事の末尾で、すでに「メルケル首相は、ウクライナ危機を巡って早くも重大なミスを犯した」と書いた。
その理由は、メルケル首相が3月13日にドイツ連邦議会で行った演説の中で「ロシアによる国際法違反を受け入れて、平常の生活に戻ることはできない。この緊張と危険に満ちた状況の中で、不安を持っているすべての人々に言う。この危機を、軍事力によって解決することはできない。軍事力は、我々の選択肢ではない」と述べ、西側諸国がロシアに対して軍事力を行使する意思がないことを強調した。
その代わりメルケル首相は、政治的・経済的な危機管理手段を前面に押し出した。彼女はウクライナ、ロシア、米国などを含めた「連絡会議」を設置、ウクライナへの文民監視団の派遣、さらに経済制裁という3つの措置を提案した。
「軍事力を行使しない」という言葉は、メルケル首相及びドイツ政府の非暴力主義を表現するものであり、正直な発言だ。国際紛争は軍事力ではなく交渉によって解決するべきだという姿勢は正道である。ウクライナのためにロシアと戦争をする気はないというドイツの本音も理解できる。メルケル首相は、軍事手段を放棄することで、ロシアに対する倫理的な優位性を強調したかったのかもしれない。
だがこの正直な発言は、倫理的には正しいが戦略的には誤りだ。外交的には、まるでアマチュアのような発言である。私はメルケル首相のこの言葉を聞いた時、唖然とした。
紛争解決を巡る外交交渉は、ポーカーに似ている。軍事力を行使する気がなくても、そのことを初めから明言せずに、「ひょっとすると西側が軍事力を行使するかもしれない」という不安感を相手に抱かせることが、重要だ。「相手が次に取る手が読めない」という不透明感が、譲歩を引き出す梃子(レベレッジ)になる。したがって初めから「軍事力を行使しない」と宣言して、手の内をすべてさらけ出すのは、得策ではない。
興味深いことに、米国のオバマ大統領も軍事手段の不行使を早々と宣言し、メルケル首相と同じ失敗を犯した。このことは、米国が世界の警察官としての役割を放棄したことを、改めて浮き彫りにしている。
ドイツの安全保障に関する研究所「科学・政治財団(SWP)」の所長を務めたミヒャエル・シュトゥルマー教授は「軍事力に裏打ちされていない外交努力は、張子の虎だ」と主張する。
そのことは1990年代に旧ユーゴスラビアで吹き荒れた内戦で立証された。セルビアの大統領だったミロシェビッチ氏は、NATOが軍事介入するまで、和平交渉のテーブルに着かなかった。EUは何度も調停を試みたが、ミロシェビッチ氏は無視し、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのセルビア系武装勢力に「民族浄化」を続けさせた。その結果、ボスニアとクロアチアだけで10万人を超える死者が出た。
この世界には、ミロシェビッチ氏のように、軍事力による威嚇を背景としなくては、態度を変えない指導者がいる。私は内戦で荒廃したボスニアやクロアチアを訪れて、そのことを肌で理解した。
KGB出身のプーチン大統領も、そうした指導者の1人だ。こんなエピソードがある。クリミアを制圧したのは、国家記章や階級章を外し覆面を付けたロシアの戦闘部隊だった。プーチン大統領は記者会見で「この部隊はロシア軍ではなく、地元の自警軍だ」と嘘をついた。軍服がロシア軍に似ていることを記者から指摘されると、「最近は迷彩服をスーパーマーケットで買える。軍服というのは似ているしね」ととぼけた。これらの発言は、プーチン大統領がもはや理性的な対話や交渉で態度を変える政治家ではなくなっていることを示唆している。その意味で、メルケル首相が早々に「平和路線」を打ち出したことは、EUの選択の幅を狭くした。
メルケル首相は、「EUとロシアのどちら側につくかという二者択一をウクライナに迫るのではなく、ウクライナとロシアの両方を欧州の運命共同体に取り込むべきだ」という理想論を語っている。しかし、プーチン大統領はそうした論理を受け入れる政治家ではない。
ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)のニコラス・ブッセ記者は、4月4日付の第1面に掲載した社説で「オバマとメルケルは手持ちのカードを見せることによって、プーチンに“NATOに加盟していない国を攻撃しても、欧米は軍事力を行使しない”という安心感を与えた。これは、戦略的に賢いやり方ではない」と批判している。ブッセ記者は「安全保障を巡る交渉では、自分の意図を敵に悟らせないことが、立場を強くする。プーチンはその原則を正に貫いている」と指摘する。
誤解を避けるために強調したいのだが、私は「ロシアに軍事力を行使するべきだ」と主張しているわけではない。国益を最優先するRealpolitik(現実政治)の原則から言えば、米国や西欧諸国がロシアと軍事的に対決するとは考えられない。
しかし交渉相手の行動を変えさせたいならば、危機が勃発してからわずか2週間という早い段階で軍事力というオプションの放棄を公言することは、今後の交渉にとって全くプラスにならないということを強調したいのだ。
国境に2個師団を集結して圧力をかけるような国に対し、「軍事力は使わない」と宣言しても、相手が同じように軍事力の不行使を約束してくれる保証はない。
ユーロ危機で、「1国もユーロ圏から脱落させない」という強固な意志を示し見事にリーダー役を果たしたメルケル首相とは思えない、甘い発言である。彼女は、安全保障を巡る国際社会の冷徹な駆け引きに慣れていないのだろうか。
メルケル首相に対して、「危機が勃発して間もない段階では、軍事力を含めてすべてのオプションを維持するべきだ」と進言するアドバイザーは、ドイツ政府にはいなかったのだろうか。
EU内にも不協和音
ドイツの及び腰は、EU内部にも不協和音を引き起こしている。例えばポーランドのドナルド・トゥスク首相は「ドイツがロシアの天然ガスに大幅に依存しているために、欧州の対ロ政策が腰砕けになるかもしれない」と発言し、ドイツ政府を怒らせた。
ドイツは毎年消費する天然ガスのうち、35%をロシアに依存する。大手・中小のドイツ企業約6300社がロシアに生産・営業活動の拠点を持ち、投資額は200億ユーロ(約2兆8000億円)に上る。このためドイツの経済界は、ロシアに対してEUが本格的な経済制裁を実施することに強く反対している。
確かにメルケル首相とシュタインマイヤー外相は、ロシアを刺激しないように神経を使っており、経済制裁に乗り気でない。しかも輸出入規制を伴う本格的な経済制裁は、ロシアが事態をさらにエスカレートさせない限り、発動されない。かつてソ連に占領された経験を持つポーランドやバルト3国は、ドイツが初めから強硬な姿勢を示すことを期待していた。
例えばウクライナ危機の勃発以来、ポーランドはNATOの部隊を同国に常駐させるよう求めているが、ドイツは「事態をエスカレートさせる」として反対している。ソ連崩壊以降、NATOはロシアの感情に配慮して、ポーランドなどの旧社会主義国に基地を建設したり、部隊を常駐させたりすることを避けてきた。ポーランドやバルト3国は、ロシアとの経済関係が密接なドイツが、プーチン大統領に対して「新たな宥和政策」を取るのではないかと懸念を強めているのだ。(ドイツ政府は、そうした疑惑をことあるごとに否定している)
ドイツの「独り歩き」に対する不安
だがドイツには、安全保障政策を巡って独り歩きをした「前科」がある。米英仏は2011年3月に、独裁者カダフィと戦う反政府勢力を支援するために、リビア政府軍に対する空爆を計画。国連安保理の承認を求めた。だが安保理の決議の際に、当時ドイツの外務大臣だったヴェスターヴェレ氏は、「空爆の効果は低い」としてロシアや中国とともに棄権し、他のNATO加盟国から批判されたのだ(この棄権はドイツ外務省の独走ではなく、メルケル首相も了承している)。このため東欧諸国の間には、対ロシア政策を巡るメルケル政権の慎重な態度を、「リビア決議の時の二の舞か」と批判する声もある。
NATOは、典型的な集団自衛組織である。大西洋憲章の第5条に基づき、1国が攻撃された場合、NATO加盟国全体が「自国への攻撃」と見なして、敵国と戦う義務を負う。ウクライナは、NATOに加盟することを希望してきた。同国がNATOの加盟国ではないにもかかわらず、イラクやアフガニスタンに戦闘部隊を送ったのは、実績を重ねることによってNATOに加盟したいという一心からだった。2008年にNATOは、ウクライナを将来の加盟国候補とすることを決定している(だが親ロシア派のヤヌコビッチがウクライナの大統領になって、NATOへの加盟申請を取り下げた)。
これに対しドイツは、ウクライナのNATO加盟に一貫して反対してきた。仮にウクライナがNATO加盟後にロシアに攻撃された場合、NATOはロシアと戦わなくてはならないからだ。ロシアと経済的・歴史的に結びつきが強いドイツは、「Realpolitik(現実政治)」の観点からウクライナへの過度な接近を避けようとしたのだ。
経済制裁に同調せざるを得ないドイツ
しかしEUの事実上のリーダーであるドイツは、現在の状況下でウクライナを見捨てることはできない。ポーランドやチェコなど、半世紀にわたってソ連のくびきの下で喘いできた東欧諸国が、「宥和政策の再来だ」と厳しく批判するからだ。
ドイツ経済東欧委員会という経済団体が4月10日にベルリンで開いた会議で、エックハルト・コルデス委員長は、「ウクライナ危機のために、ドイツの経済界が30年以上かけて築いてきたロシアとの経済関係が、危険にさらされている。我々はロシアとの関係を壊したくない。ウクライナ危機の原因はロシアだけではなく、ウクライナにもEUにもある」と述べ、ロシアを弁護する立場を打ち出した。
会議で講演したシュタインマイヤー外相は「ウクライナ危機の責任がすべての当事者にあるという意見には賛成できない。皆さんは失望すると思うが、今回の危機を簡単に見過ごして、通常業務に戻るわけにはいかない」と主催者に対して真っ向から反論した。
さらに同外相は「EUは、様々な対ロ制裁措置を検討している。ドイツ政府は経済的な不利益を受けても、制裁に参加する。もしも欧州で弱肉強食のルールが通用する時代になったら、それがもたらす被害の方が大きい」と述べ、経済界の楽観論に釘を刺した。
ドイツは、帝国主義に反対するという原則を守るために、少なくとも経済的に血を流す覚悟を決めている。ベルリンの壁崩壊以降、欧州の政局がほぼ経済問題だけによって規定される時代が約25年間続いてきたが、そうした時代は終わりを告げたようだ。今後、欧州の政治家は、経済問題だけではなく「パワーポリティクス」の論理も重視することが求められる。
ウクライナ危機が、EUそしてドイツの将来の安全保障政策を規定する節目(defining moment)になることは間違いない。
●「ウクライナ侵攻」ロシア側のまったく違う見え方  2/25
ウクライナにおける戦争開始から1年が経過する。この戦争は国際秩序を根本から揺るがすものだといわれているが、その意味を理解するのは簡単ではない。いったい何が変わってしまったのだろうか。本稿では、ウクライナ侵攻から1年の今、改めて戦争の現状と見通しを考えてみたい。
ウクライナ侵攻に関して、しばしばロシア帝国の復活という野望について語られる。この戦争がロシアによる帝国主義的な野望のための戦いだとすれば、野望の実現から得られるメリットを上回るデメリット、つまり経済的コストや人的コストを増大させれば、ロシアが野望を追求するのを諦めさせることができるだろう。利益の観点からは、そのほうが合理的だからである。
西側諸国がロシアの侵攻をとどめようとしてとってきた政策はまさにこれである。経済制裁を課し、同時にウクライナに戦車を含む軍事支援を行うことによって、ロシアにとっての戦争継続のコストを増大させようとしてきたのである。
西側諸国の「前提」が違っていたら?
しかし、ロシアが帝国主義的な野望のために戦っていないのだとしたら、問題はまったく違ってくる。
プーチン大統領はたびたび、この戦いはロシアを西側の攻撃から守るためのものだと主張している。2月21日の年次教書演説では、これを19世紀から続く「アンチ・ロシア」プロジェクトだと断じている。
もちろんこんなことは妄想だと西側の人々は言うだろうし、バイデン大統領はワルシャワで同じ日に行った演説で、「西側諸国はロシアを支配したり破壊したりしようとしていない」と反論している。
しかし、問題はプーチン大統領の主張が正しいかどうかではない。西側がまったくそのようなことを考えていないとしても、ロシア自身が西側に攻撃されていると考え、自衛しなければならないと信じているならば、結局は同じことだからである。
ロシア人が祖国を破壊から守るためだと信じて戦っているのだとしたら、そして、この戦争で敗れることがロシアの決定的な弱体化を意味するとすれば、少々コストがかかるからといって、もうこの辺でやめておこうとはならないであろう。
戦争はどうやって収束しえるのか
こういう戦争において国際法に基づく「正論」を主張することはほとんど意味がない。意味がないというのは解決にはつながらないということである。残念ながら、現状は、戦場において決着をつけるしかないとロシア、ウクライナ双方が考えている状況である。
すでに始まっている大攻勢によって激化している戦闘がどのような結果に終わるのか、これが1つのポイントになるだろう。
この戦争ではロシアが勝つのか、ウクライナが勝つのかという問いかけがしばしばなされる。ロシアが勝てば何が変わり、ウクライナが勝てば何が変わるのだろうか。そもそも、何をもって勝利と考えるのかが問題となる。
ポーランドを訪問したバイデン大統領は、「ロシアがウクライナで勝つことはけっしてない」と述べた。森喜朗元首相が「ロシアが負けることは考えられない」と述べて物議をかもしたことも記憶に新しい。ロシアは勝つこともなく、負けることもないというのは案外に核心を突いた見方かもしれない。
ロシアは最終兵器である核戦力を保有しており、これを使えば単独で負けることは避けられる。つまり、相手(または全世界)を道連れにすることで、自分だけが敗北するという事態を避けることができる。これがロシアは負けないということの意味である。
また、ロシアは勝てないと言うとき、それは必ずしもロシアが敗北するということも意味しない。これも同じことで、核戦力を保有する国家を「負かす」ということは、ロシア自身が負けることを望まない限りは不可能なのである。
そのうえで改めて考えると、ウクライナの勝利とは領土の奪還であり、ロシアの敗北とはウクライナ領外への撤退である。ロシアの勝利とはウクライナにドンバスやヘルソン、ザポロジエのロシア併合を認めさせ、NATO加盟を諦めさせることである。
この場合、ロシアが勝てないということは、ロシアがこれらの地域の併合を認めさせることができず、NATO加盟を諦めさせることもできないということであるが、負けないということは、併合した領土を奪還されることも、領外へ撤退することもないということになるだろう。つまり、現状からの大きな変化はないということだ。
「政治的解決」という落とし所
そうすると、現時点で可能性のある解決方法は、機を見て軍事的な停戦協定を締結し、その他の問題は今後の政治的解決に求めるということにならざるをえない。
ただし、これは実は2014年以降の停戦合意であるミンスク合意と同じやり方である。ミンスク合意は完全に失敗に終わって、ウクライナ侵攻を招いてしまった。したがって、同じ停戦合意でも、より実効性のある形での条件作りが求められるだろう。
ここでいう条件作りというのは、どちらかが交渉の場で支配的立場に立つということである。すなわち、ウクライナにとっては領土の軍事的奪還、場合によってはプーチン政権の崩壊による和平である。ロシアにとっては、ドンバス地方の完全な占領と、場合によってはキエフの占領、あるいはゼレンスキー政権の崩壊と親露政権の擁立である。
これは、結局のところ、戦場で雌雄を決するということにほかならず、戦闘は行きつくところまで行きつかざるをえないということを示唆している。残念ながら、ロシアとウクライナの二国間では政治的解決の可能性は極めて低いと言わざるをえない。
そこで、期待されるのが第三国による仲介である。当初から仲介に向けて動いていたトルコの努力は実っておらず、フランスやドイツにはその力はなく、役不足である。ロシアはもちろん、ウクライナでさえ仲介の働きかけに応えることはないだろう。仲介者は十分に強力でなければならない。
停戦のカギを握るのは結局アメリカ
そこでやはりアメリカにその役割を期待してしまうのである。アメリカがいなければウクライナはそもそも戦争を継続できないし、ロシアはもともとアメリカとの間で安全保障条約を協議することを求めていた。仮にアメリカが動けば、停戦の機運は高まるだろう。ただ、それが失敗すればもう後がないため、十分慎重に進めていく必要がある。
バイデン大統領のキーウ電撃訪問は、ウクライナに対する変わらぬ支援を表明するにとどまったが、舞台裏ではどのような話し合いが行われたのか。大攻勢の結果も見通せない現在、停戦交渉を進めるには時期尚早ではあるが、わざわざ自ら出向いて話すほどの内容とは何か、気になるところである。大攻勢後を見据えた話題にも触れられた可能性はあるだろう。
この戦争の意義は何だろうか。バイデン大統領は、ワルシャワで「侵攻によって試されたのはウクライナだけでなく、世界そのものだ。民主主義は弱くなるどころかより強くなった。専制主義こそが弱体化した」と述べている。
この戦争は民主主義のために戦われていると言っており、第1次世界大戦時のウィルソン大統領の言葉を彷彿させる。ウィルソン大統領は、世界を民主主義にとって安全なものにするという目標を掲げて参戦したのであった。だが、全面勝利を追求した結果、戦争は長引き、ヨーロッパの均衡は破壊されてしまった。
この教訓は現在にも当てはまる。最も重要なのは、全面勝利の追求ではなく、戦争をできる限り早期に終息させることではないだろうか。そうしなければ、取り返しのつかないところまでヨーロッパの秩序と均衡を破壊してしまうことになるだろう。それは次の大戦の火種になるかもしれないのだ。
バイデン大統領にとっての戦争の意義が民主主義のためだとすれば、プーチン大統領の教書演説は、あくまでもナショナリズムやパトリオティズムに基づく主張を展開している。演説はロシア民族やロシア文化、ロシア正教、ロシア語、歴史といった言葉に彩られていた。プーチン大統領はこうしたストーリーをもって国民に戦争の意義を訴えかけているのである。
欧米を相手にした「国民の戦争」に変質
ロシアは総力戦体制を整え、30万人の予備役を招集し、国を挙げた戦争へと向かっている。もはや、ロシアにとって、この戦争はウクライナを相手にした「特別軍事作戦」ではなく、欧米を相手にした「国民の戦争」に変質しつつある。
そうなれば、いずれ政策決定者は合理的判断にではなく、「国民の感情」に従うようになってしまうだろう。それがいかに危険なことであるか、われわれ日本人もよく知っている。
一方プーチン大統領は、アメリカ一極主義に対する対抗というロジックも展開している。このロジックに共鳴する国も世界には多々あるだろう。中国や北朝鮮、イランといったアメリカから危険視されている国々は、ロシアの立場に共感せざるをえない。
教書演説の翌日、侵攻から1年を目前にして王毅政治局員(前外相)がロシアを訪問しプーチン大統領と会談したことは注目に値する。戦争が長引けば長引くほど、バイデン大統領の言葉とは反対に、世界はますます分断を深めていくだろう。
ウクライナ紛争において、アメリカの同盟国たる日本がとり得る選択肢は多くはない。しかし、分断の深まりと中露の結託は、日本の安全保障環境をさらに悪化させることは疑いない。
●バイデン氏、中国によるウクライナ戦争の仲裁交渉「合理的でない」 2/25
バイデン米大統領は24日、中国が発表したウクライナ戦争の和平案について、中国が戦争の結末について仲裁交渉を行うことは「合理的ではない」との考えを示した。
バイデン氏はロシアによるウクライナ侵攻から1年となる24日、米ABCニュースとのインタビューで、「(ロシアの)プーチン氏が歓迎している。これがいい案であるはずがない」と指摘。「実現した場合に、ロシア以外に利益を得るものがあるとの示唆が一切なかった」と語った
バイデン氏は「ウクライナにとっては全く不条理なこの戦争の結末について、中国が仲裁交渉を行うことは合理性がない」とも述べた。
中国の仲裁案は、同国外務省が同日に文書で公表したもので、ロシアとウクライナの双方に段階的な戦闘の縮小を呼びかけ、核兵器の使用に警告を発する内容。ロシアが昨年2月24日にウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始して以来、中国が取って来た立場を踏襲している。
バイデン氏はまた、ウクライナが求めているF16戦闘機の供与について、「今は必要ない。現段階では検討から外している」とした。
●トルコ大統領、停戦呼び掛け=ウクライナ、ロシア首脳と電話会談  2/25
トルコのエルドアン大統領は24日、ウクライナのゼレンスキー大統領、ロシアのプーチン大統領と相次いで電話で会談した。ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年がたつ中、改めて双方に停戦を呼び掛けた。
トルコ大統領府によると、仲介努力を続けてきたエルドアン氏は、ゼレンスキー氏に「停戦構築や交渉による解決、和平に向けて努力を惜しまない」と強調。プーチン氏にも「さらなる人命喪失や破壊を防ぐための和平」の必要性を訴えた。
●ウクライナ、停戦に「ロシア軍撤退必要」 ロシアは中国案を歓迎 2/25
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアによる侵攻から1年を迎えた24日、停戦に向けて中国が提示した仲裁案について、一定の要素を歓迎するとしつつも、戦争が行われている国のみが和平案を策定すべきという認識を示した。
中国はこの日、ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場を示す文書を公表。「対話と交渉がウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な方法」とし、「全ての当事者は理性と自制を保ち、対立をあおったり緊張を高めたりせず、危機が一段と悪化したり制御不能になったりする事態を避ける必要がある」と訴えた。
ゼレンスキー大統領は記者会見で、領土保全を巡り国際法を尊重しているのであれば、「この点に関し、中国と連携できるだろう」と語った。同時に、中国が提示したのは複数の「見解」で、具体的な計画ではないとしたほか、「中国がロシアに兵器を供給しないと信じたい。これは私にとり非常に重要なことだ」とけん制した。
ロシアの同盟国である中国が和平の仲介を検討していることは有望としつつも、ロシア軍の完全撤退を含まない計画は受け入れがたいと強調した。
また、明確な時期は示さなかったものの、「中国の習近平国家主席と会談することを計画している」とし、「わが国や世界の安全保障にとり有益と確信している」と述べた。
一方、ロシア外務省のザハロワ報道官は中国の提案を歓迎。「われわれは中国の見解を共有する」とし、ロシアがウクライナで進める「特別軍事作戦」の目的を「政治および外交的手段を通じ達成することに前向き」と述べた。同時に、これはウクライナが「新しい領土の現実」を認めることを意味するという考えを示した。
●ゼレンスキー大統領“徹底抗戦” ロシア軍は作戦継続を表明  2/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1年となる24日、ロシア軍は作戦は継続していると表明し、軍事侵攻は2年目に入りました。これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は国内外のメディアを前に会見し「勝利は必然だ」と述べ、ロシア側に徹底抗戦する決意を改めて示しました。
ロシア国防省は、ウクライナへの軍事侵攻を始めてから1年となる24日「ロシア軍は特別軍事作戦を継続している」としたうえで、東部ドネツク州の最前線への攻撃を行ったと発表しました。
そのうえで、この1日の間にウクライナ側の兵士を最大で240人殺害したとしたほか、戦車やりゅう弾砲などを破壊したと主張しています。
これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、首都キーウで、国内外のメディアを前に記者会見を行いました。
この中で、ゼレンスキー大統領は「ウクライナのパートナーが約束を果たし、われわれ全員が課題を実行すれば勝利は必然だ」と述べ、欧米各国に戦闘機などさらなる兵器の供与を呼びかけるとともに、ロシア側に徹底抗戦する決意を改めて示しました。
現在の戦況について、イギリス国防省は24日「ロシアは現在、新しい領土の獲得に焦点を当てているのではなく、主にウクライナ軍の劣化を目指している」という分析を公表し、ロシア側がこの数週間で作戦の方針を変えた可能性があるという見方を示しました。
そのうえで「ロシアの指導部は、人口と資源の面でのロシア側の優位性が、最終的にウクライナを疲弊させると考えている」として、長期戦に持ち込もうとしていると分析しています。
記者会見でゼレンスキー大統領は、中国が発表したロシアとウクライナに対話と停戦を呼びかける文書について「ウクライナ情勢に関わるつもりなのであればこれは重要なシグナルだ」と評価しました。
そのうえで、習近平国家主席と会談したい意向を示し「会談が両国にとって有益になる」としています。
また、G7=主要7か国の議長国を務める日本について「日本からの支援はこれまでも非常に重要なものだった。私は岸田総理大臣にウクライナを訪れるよう何度も打診している。いつになるかはわからないが訪問を心待ちにしている」と述べました。
記者会見は合わせておよそ2時間半に及び、ゼレンスキー大統領が記者との記念撮影に応じる場面もありました。
最後に家族について聞かれ、ことばを見つけるのは難しいとしながら「妻を誇りに思っている」と答えていました。
●ドイツ製の戦車「レオパルト2」 初めてウクライナに引き渡し  2/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1年となる24日、ウクライナが求めてきたドイツ製の戦車「レオパルト2」が初めてウクライナに引き渡されました。
引き渡されたのは、ポーランドが保有する「レオパルト2」の4両で、モラウィエツキ首相が首都キーウを訪れて発表しました。
モラウィエツキ首相と会談したウクライナのシュミハリ首相は、みずからのツイッターに、戦車を前に握手する2人の写真を投稿し「ウクライナを勝利に近づける決定的な一歩を踏み出したことに感謝する。私たちは戦車連合の拡大を待っている」と呼びかけました。
また、ドイツ政府は24日、ウクライナへ供与する「レオパルト2」の数を4両増やすと発表しました。
ドイツは、先月、ドイツ軍が保有する「レオパルト2」14両の供与を決め、この戦車を保有するヨーロッパのほかの国と合わせて2個大隊、62両の供与を目指しています。
発表によりますと、ドイツが供与する戦車を増やすことにより、スウェーデン、ポルトガルが供与する戦車と合わせて1個大隊を構成する31両がそろうということです。
●米 ロシアへ新たな制裁措置 支援した中国企業の輸出規制も  2/25
アメリカのバイデン政権はウクライナへの軍事侵攻をめぐり、ロシアや第三国の団体などに対する新たな制裁措置などを発表し、この中にはロシアの制裁逃れに関与したとして中国の企業に対する輸出規制も含まれています。
アメリカのバイデン政権は24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1年になるのに合わせて新たな制裁措置などを発表しました。
G7=主要7か国と協調し、ロシアの金融機関や政府関係者に加えてロシアの防衛産業を支援したとしてヨーロッパやアジア、中東の団体など、合わせて200以上の個人や団体を追加の制裁対象にしたとしています。
また、ロシアの企業に加え、ロシアの制裁逃れに関与し防衛産業を支援したとして、中国の企業など合わせておよそ90の企業を、半導体などアメリカ製品の輸出規制の対象に加えました。
ウクライナへの攻撃にも使われたとされるイラン製の無人機に使用されている部品の供給を制限する措置も取るとしています。
さらに、ロシア産の100以上の製品合わせて28億ドル、日本円でおよそ3770億円相当に対して関税を引き上げる措置も発表しました。
具体的には、ロシア産のほとんどの金属製品について関税を70%に、化学品と鉱物は35%に引き上げるほか、アルミニウムと関連の製品については順次、200%の関税を課します。
ブリンケン国務長官は、24日に発表した声明の中で「われわれはプーチン大統領に圧力をかけ、ロシアの経済力に打撃を与えるため、同盟国などと協調して取り組んでいく」としています。
●ウクライナ侵攻1年 国連安保理 閣僚級会合 ロシアを厳しく非難  2/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1年となる24日、国連の安全保障理事会では閣僚級の会合が開かれ、欧米各国や日本などが軍事侵攻は国連憲章と国際法の違反だとして改めてロシアを厳しく非難しました。これに対してロシアは、欧米からウクライナへの武器の供与が事態を悪化させていると主張し、非難の応酬となりました。
国連安保理の閣僚級会合は、15の理事国のうち8か国の外相が出席して、開かれました。
冒頭、グテーレス事務総長が「軍事侵攻は国連憲章と国際法のあからさまな違反だ」とロシアを非難したうえで「外交と説明責任が持続的な平和への道だ。流血を終わらせ和平に向けたあらゆる努力を促す必要がある」と述べ、事態の打開に向けた対話を呼びかけました。
このあと、欧米などから軍事侵攻を非難する意見が相次ぎ、このうちアメリカのブリンケン国務長官は「プーチン大統領は、ウクライナ軍を撃破できないとわかると、今度はウクライナの人たちの精神を破壊しようと躍起になった」と述べ、ロシア軍が電力施設などウクライナの人々の生活を支えるインフラを標的にしていると、非難しました。
また、日本の林外務大臣は、1年前、安保理会合が開催されている最中にロシアが軍事侵攻に踏み切ったことに触れ「国連全体への侮辱で、いかに国連を軽視しているかを示している。日本は可能なかぎり最も強いことばで非難する」と述べました。
これに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は、軍事作戦を改めて正当化したうえで「西側が戦場に武器を送り込み続けていることが事態を悪化させている。ウクライナの領土からロシアへの脅威を軍事的に排除する以外に選択肢はない」と主張し、双方の激しい非難の応酬となりました。
ウクライナとロシアが応酬 犠牲者への黙とうめぐり
ウクライナ情勢をめぐる国連安保理の閣僚級会合では、犠牲者への黙とうをめぐってウクライナとロシアが応酬する場面がありました。
会合に出席したウクライナのクレバ外相は、演説の最後に「この悲劇的な日に、ロシアによって奪われた命を悼み、犠牲者に黙とうをささげてほしい」と呼びかけ、出席者のほとんどが立ち上がって黙とうしました。
これに対して、ロシアのネベンジャ国連大使が発言を求め「ウクライナでのすべての犠牲者のために黙とうをささげるべきだ」と述べ、ロシア側の犠牲者も追悼すべきだと主張し、起立を促された議場の全員が再び立ち上がり、およそ1分間、黙とうをささげました。
林外相 “法の支配の原則 守り抜こう”
ニューヨークを訪れている林外務大臣は、日本時間の25日未明、国連安保理の閣僚級討論に出席しました。ロシアによるウクライナ侵攻は国連全体に対する侮蔑だと強く非難し、法の支配の原則を守り抜こうと呼びかけました。
国連では、ロシアによるウクライナ侵攻から1年になるのに合わせて、安保理の閣僚級討論が開かれ、林外務大臣も出席しました。
林大臣は、ロシアの侵攻が安保理の緊急会合の開催中に始まったことに触れ「安保理と国連全体への侮蔑でいかに国連を軽視しているかを示している。日本は可能なかぎり最も強いことばで非難する」と述べました。
そのうえで、世界の平和と安全の維持に最も重い責任を持つ常任理事国による明白な国際法違反だと指摘しました。
そして、ロシアに対し直ちに侵攻を停止して軍を撤退させ、ウクライナの独立と主権を尊重するよう求めました。
さらに、何の罪もない市民や重要なインフラ施設に対する攻撃を非難し、国際法にのっとって責任を追及する必要があると訴えました。
そして「世界のどこであっても力や威圧によって領土を変更しようとする試みは断固として拒否しなければならない」と述べ、法の支配の原則を守り抜こうと呼びかけました。
ウクライナめぐる中国の立場を示す文書 各国がけん制も
国連安保理の閣僚級会合では、中国が24日に発表したウクライナ情勢をめぐる中国の立場を示す文書について、各国がけん制し合う場面もありました。
会合で中国の戴兵 国連次席大使は「長期的な外交交渉が現在の危機を解決する唯一の正しい方法で、中国はロシアとウクライナがいかなる前提条件もなく交渉を再開するよう促している」としたうえで「われわれはウクライナ情勢に関して、常に客観的かつ公平な立場で建設的な役割を果たし続ける用意がある」と述べ、文書で表明した中国の立場を強調しました。
これについて、ロシアのネベンジャ国連大使は、欧米が訴える和平への取り組みは信用できないと主張したうえで「中国の和平に向けた提案のような真の努力は歓迎する」と述べ、評価する姿勢を示しました。
一方、アメリカのブリンケン国務長官は「われわれは、公正かつ持続的な和平を後押ししなければならない。安保理のメンバーは、暫定的な停戦や無条件の停戦の呼びかけにだまされるべきではない」と述べ、中国の動きをけん制しました。
林外相「丁寧に働きかけを行い 理解を得ていく」
林外務大臣は訪問先のニューヨークで国連での一連の日程を終えたあと記者団に対し「『グローバル・サウス』の国々を含めた国際社会が結束して声を上げていくことが重要だ。法の支配に基づく国際秩序の維持・強化の重要性を訴えつつ、丁寧に働きかけを行い、理解を得ていく」と述べました。
そして「こうした国々は地域紛争やテロ、食料・エネルギー危機などさまざまな問題に直面しており、先進国がしっかり支援の手を差し伸べて対応していくことが重要だ。G7=主要7か国の議長国として国際的な議論を積極的に主導していきたい」と述べました。
●安保理、ウクライナ侵攻1年で会合 武器供与めぐり応酬 2/25
国連の安全保障理事会は24日、ロシアのウクライナ侵攻から1年を迎えたのにあわせて外相級の会合を開催した。ロシアのラブロフ外相は出席しなかった。ウクライナのクレバ外相は「侵攻から身を守る国に対する武器供与は国連憲章を守るための正当な行為だ」と訴え、国際社会に支援を求めた。声明や決議は採択されなかった。
クレバ氏は武器供与について「火事を消すのに消防士が水を必要とするようにウクライナは武器を必要とする」と述べた。中国がロシアに武器供与を検討している可能性があることを念頭に「ロシアへ武器を供与すれば国連憲章を踏みにじり、罪を犯すことになる」と強調した。
国連のグテレス事務総長は1年前の安保理会合を振り返り「当時、平和にチャンスを与えてほしいと呼びかけた。だが、平和にチャンスは全く与えられず、戦争ばかりが続いている」と批判した。ロシアは22年の2月24日、安保理がウクライナをめぐる緊急会合開催中に「特別軍事作戦」の開始を発表した。
米国のブリンケン国務長官は「一時的、または条件なしの停戦を求める呼びかけに理事国はだまされてはいけない。ロシアはその隙を使って違法に奪った地域の支配を強め、次の攻撃に備えて軍備強化するだけだ」として支援継続の必要性を強調した。英国のクレバリー外相は「英国のウクライナに対する支援に期限はない。必要である限り支持を続けて、ウクライナが勝利できるようにする」と述べた。
一方、中ロは米欧による武器供与は火に油を注いでいると反発する。ロシアのネベンジャ国連大使は「西側諸国はウクライナへの武器供与と戦場での支援で状況を悪化させている。軍事的にロシアへの脅威を排除するほかの選択肢がない」と戦闘継続を正当化した。中国の戴兵次席大使は「軍事ブロックの強化や拡大は地域の安全保障を弱体化させるだけで、平和には絶対つながらない」と語った。
中国外務省が24日に発表した和平案についての反応も相次いだ。会合中にクレバ氏は記者団に「制裁発動の抑制を呼びかける部分には賛成できない。制裁は重要なツールだ」との見解を示した。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は会合に先立ち「和平案とはいえない」と話し、具体性に欠けると指摘した。
ロシアと国境を接するバルト3国からはリトアニアのランズベルギス外相が「権力さえあれば何でも正当化される新たな世界秩序を呼びかけるものだ」と批判。エストニアのレインサル外相は「ウクライナ全土の解放を呼びかけないものは偽りの和平案だ」と拒否した。
国連総会は22〜23日に緊急特別会合を開き、ロシアに即時撤退と戦争犯罪の訴追の必要性を訴える決議に141カ国が賛成して採択した。安保理は法的拘束力を持つ決議を採択できるが、常任理事国のロシアが拒否権を行使できるため一致した行動がとれていない。
●ウクライナ侵攻1年 G7首脳会合 岸田首相 ロシアへ追加制裁表明  2/25
ロシアのウクライナ侵攻開始から1年となるのに合わせ、G7の首脳会合がオンラインで開かれました。岸田総理大臣は、ロシアに対する日本の追加の制裁として新たに120を超える個人や団体を資産凍結の対象にすることなどを表明しました。
首脳会合は、議長国・日本の呼びかけで、24日午後11時すぎからおよそ1時間半開かれ、ウクライナのゼレンスキー大統領も出席しました。
岸田総理大臣は、ロシアの侵攻は国際法違反で正当化できないとしたうえで、厳しい制裁やウクライナへの強力な支援などを通じて、侵攻をやめさせ、法の支配に基づく国際秩序を堅持していく決意を強調しました。
そのうえで、ロシアに対する日本の追加の制裁として、新たに120を超える個人や団体を資産凍結の対象にすることや、ドローンに関連する物品をはじめ輸出を禁止する物品を拡大することなどを表明しました。
また、ウクライナに55億ドルの追加支援を行うことも説明しました。
さらに、侵攻を一日も早くとめるには、第三者からロシアに対する軍事的な支援を防ぐ重要性も訴え関係国と緊密に連携していく考えを伝えました。
一方で、ロシアによる核の威嚇は、国際社会の平和と安全への深刻な脅威で断じて受け入れられないという立場を強調しました。
このほか、今後の国際世論の形成も念頭に「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国への関与や支援を呼びかけました。
そして各国首脳は、法の支配に基づく国際秩序を堅持するため、G7の連帯は決して揺らぐことはないという認識で一致しました。
首脳声明でウクライナ侵攻を非難 ロシアに部隊の撤退を要求
会合のあと、首脳声明が発表されました。
声明では、冒頭、ウクライナ侵攻を「違法、不当でいわれのない戦争」と非難し、ウクライナ全土からの即時、完全かつ、無条件の部隊の撤退をロシアに要求するとしています。
また、これまで77年間、核兵器が使われなかった重要性を明記し、ロシアが使用すれば厳しい結果につながると指摘しています。
そして、ロシアがアメリカとの核軍縮条約「新START」の履行停止を決定したことに、深い遺憾の意を示しています。
さらに、ウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所をロシアが引き続き占拠・支配していることに最も重大な懸念を表明するとし、部隊の完全な撤退のみが解決策だと強調しています。
ウクライナへの支援については、軍事や防衛装備のニーズに沿う取り組みの調整に加え、人道面やエネルギー分野における追加支援の提供に関与していくとしています。
G7財務相・中央銀行総裁会議で、ウクライナへの経済的な支援が390億ドルに増額されたことを歓迎し、今後、IMF=国際通貨基金などとの協力のもとで支援を実施する必要性が記されています。
一方、ロシアに対する制裁強化へのG7各国の関与も明確にし、今後数日から数週間のうちに新たな措置を講じるとしています。
具体的には、軍事・製造部門を支える産業技術などへのロシアのアクセスを阻止するほか、ロシアのエネルギー収入と将来的な採掘能力を制限する適切な措置を講じるなどとしています。
また、既存の措置の実効性を高めるため軍事面での物的支援の提供を停止するよう第三国に要求するなどとしています。
そして、侵攻の長期化を背景にした世界的な物価高騰を念頭に、食料などの迅速な支援を提供し続けるG7の結束した意志を改めて表明しています。
最後に、法の支配に基づく国際秩序を堅持するためのG7の連帯は決して揺るがない立場を重ねて示しています。
政府関係者は「侵攻開始から1年のこのタイミングで、議長国日本が主導する形で首脳声明を出せたことは、G7の結束を内外に示す点でも大きな意義がある」としています。 
●プーチン激怒?ロシア軍と傭兵会社「内輪揉め」  2/25
ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループのトップが2月21日、ロシアの国防相と参謀総長は反逆罪を犯しているという批判を展開し、ウクライナ侵攻開始以降、とくに耳目を集めてきた論争に拍車をかけた。
補給を止められたとブチ切れ
ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジンは軍上層部を批判する音声メッセージをソーシャルメディアに繰り返し投稿。その口調は激しさを増しており、「参謀総長と国防相」はワグネルの戦闘員に対し弾薬や物資の供給を止め、ワグネルを崩壊させようとしている、これは「反逆罪とみなせる」行為だと批判した。
「軍と関連した大勢の当局者は、国のことも、国民のことも、すべて自分たちで決めていいと判断したようだ」。プリゴジンは21日、自身のプレスサービスで公開した音声メッセージで、ののしり言葉を連発しながらこう述べた。「やつらは、自分たちに都合がよく、自分たちの好きなときに、国民を死なせることができると考えている」
ロシア国防省は、プリゴジンの主張を否定。プリゴジン氏が戦争遂行を妨害していると間接的に非難することで、対立をさらにあおった。
21日夜に公開した声明で国防省は、ワグネルに対し「有志急襲隊」という婉曲的な呼称を使いつつ、ここ最近供給した弾薬の量と掩護射撃の回数を一覧で示した。
「ロシアの部隊間の緊密な協力と支援の構造に亀裂を生じさせようとする言動は非生産的であり、敵を利するだけだ」と国防省は主張した。
われこそが軍のリーダー
プリゴジン氏の辛辣な批判からは、ウクライナでの戦争が2年目に突入する中、ロシア軍の上層部でリソースをめぐる激しい競争が生じていることがはっきりと読み取れると、ロシアの独立系メディア「メドゥーサ」の軍事アナリスト、ドミトリー・クズネツは指摘する。そうした状況からは、戦争がロシア政治を変えつつある様子も読みとれるとのことだ。
「プリゴジンは、戦争という現在のロシア政治の主要論点において、軍の主流派に対抗する勢力の事実上のリーダーに自らを位置づけようとしている」とクズネツは言う。
サンクトペテルブルク出身のプリゴジンは長らく身をひそめながら事業を進めていた。ウラジーミル・プーチンがかつてサンクトペテルブルクで活動していたときに築いたコネを用いて、政府からケータリングや建設分野の契約を勝ち取ってきた。
このようにして富を築いた後、プリゴジンはワグネルの構築を開始。自身の事業拡大と、ウクライナ東部、シリア、アフリカにおけるロシア政府の政治的目標の達成のために、自らの戦闘部隊を用いるようになった。
ウクライナ侵攻が始まると、プリゴジンの一般的な知名度は急激に高まり、それまでの影の存在が一転。今ではロシアの軍事行動を代表する顔役の1人となっている。そして、ロシアの正規軍が屈辱的な退却を繰り返す中、プリゴジンはワグネルこそがロシアの利益を守る存在だと訴えるようになった。
プリゴジンは、まじめくさった政府の役人とは対照的に、戦場の地下通路、飛行中の戦闘機のコックピット、シベリアの流刑地で撮影した自らの様子をソーシャルメディアに投稿している。
ワグネルの武功に正規軍が嫉妬
ロシアの刑務所から大量の人員をリクルートしたワグネルは、高い戦闘力を持つ部隊として浮上。今回の戦争の焦点となっているウクライナの都市バフムトにおける何カ月にもおよぶ攻撃で主導的な役割を果たし、多数の犠牲者を出す正面攻撃を何度も続けて周辺の村々を占拠、バフムト制圧へと徐々に圧力を高めている。
ロシアの部隊は2月に入って攻撃を強めたものの、バフムト周辺におけるワグネルの前進を除いては有意義な成果を上げられていない。前出のクズネツによると、それが原因で軍の司令系統が妬みを抱くようになった可能性が高い。
だが、プリゴジンが一段と自らの存在感をアピールし、官僚機構を見下すようになったことを受けて、ロシア政府の内部では懸念が広がり始めている。プリゴジンによるソーシャルメディアでのパフォーマンスには、政治的な野望がちらつくためだ。
バフムトをめぐる戦いが重要局面に差し掛かりつつあるとみられる中で、軍のヒエラルキーを長きにわたって批判してきたプリゴジンの当てこすりのトーンは、以前の間接的なものから、攻撃的、あるいは破れかぶれとすらいえるものになってきている。ある音声メッセージでプリゴジンは、軍の司令系統を公に批判することを決意した理由を次のように説明した。「私に選択肢はない。最後まで貫き通すだけだ」
「私の戦闘員が次々と死んでいる」とプリゴジンは言った。
プリゴジンは、ロシアの国防相セルゲイ・ショイグと参謀総長ワレリー・ゲラシモフに対し、2人の氏名ではなく肩書に言及する形で、ワグネルへの補給を意図的に断っていると批判した。
プリゴジンはその数日前に、刑務所から新たに戦闘員をリクルートすることを国防省から禁じられたと語り、ワグネルを「弱体化」させてバフムトでの勝利を阻むもくろみだと主張していた。
ワグネルは昨年の夏以降、戦闘に参加すれば大統領の恩赦が得られるという条件で、何万人という受刑者をリクルートしてきた。こうした動きは、プリゴジンがプーチンに強い影響を与えられる立場にあることを示すものと思われてきた。
ところが、ここ最近の音声メッセージは、プーチンに対するプリゴジンの影響力が弱まってきている可能性を示唆するものだと語るアナリストもいる。
「やけくその行動だ」。政治学者のタチアナ・スタノバヤは20日、メッセージアプリのテレグラムにこのように書き込んだ。「プーチンに公然とアプローチすることで、軍司令部を政治的に脅そうとしている」
プーチンの顔に泥を塗る行為
プリゴジンは20日、上級大将セルゲイ・スロビキンがウクライナにおけるロシア軍事作戦の総司令官を務めていたときには弾薬不足の問題は起こらなかったと、スロビキンの名前を出して語った。総司令官は先月、スロビキンからゲラシモフに代わった。
プリゴジンの辛辣な音声メッセージは、公開されたタイミングも特筆すべきものだった。プーチンがモスクワで年次教書演説を行う直前だったからだ。プーチンは演説で、戦争は西側が仕掛けたものだという偽りの主張を展開しつつ、結束を呼びかけた。
スタノバヤは、ワグネルと国防省の対立が表面化している事態をプーチンは快く思っていない可能性が高いと言う。部下による服従と部下の間の協調を統治の基礎に据えているのがプーチンだからだ。
「こうした衝突、この内輪もめ」がプーチンを「激怒させていると、ほぼ100%の確信を持って言える」とスタノバヤは述べている。
それでも、プリゴジンが引き下がる気配はみられない。プリゴジンは、自身の批判に対する国防省の反応は「民間軍事会社ワグネルに向かって唾を吐くようなもので、ワグネルの戦闘員に対する(国防省の)犯罪を隠す試みだ」と述べている。
●日本の対ロシア貿易額 戦争前より1498億円増加  経済制裁の現状は 2/25
プーチンの戦争から1年。経済制裁は効いているのか?日本の対ロシア貿易額を調べると、戦争前より1498億円増えていることがわかった。
貿易統計によると、2021年(1月〜12月)の対ロシア貿易額は2兆4139億円だったが、2022年は2兆5637億円に増加している。輸入で大きく伸びたのは「ロシア産のエネルギー」。サハリンからの天然ガスなどで、およそ3831億円伸びていた。他にも輸入では「ロシア産のカニ」が105億円余り増加している。なぜカニの輸入が増えたのか。
海外から日本に入ってくるカニは主にロシア産とカナダ産だ。ところが市場関係者を取材すると、「アメリカがロシア産を買わず、カナダ産を吸い込んだためだ」という。
アメリカは制裁措置としてロシア産のカニの輸入をストップ、カナダ産に切り替えた。そのため日本に入ってくるカナダ産が減り、その分、ロシアからの輸入が増えたのだという。
ロシア向け中古車輸出が増加 600万円を下回る車は制裁対象外
一方、ロシアへの“輸出”が増えたモノもある。
日本海に面した富山県・射水市。富山新港にずらりと並ぶのは日本の「中古車」だ。ロシアの貨物船が着岸し、積み込み作業を待っていた。ロシア向けの中古車は、ウクライナ侵攻直後こそ落ち込んだが、6月からは7か月連続で前年を上回る盛況ぶり。金額にして1500億円も増えていた。一体なぜなのか?
この地で中古車の輸出販売業を営むパキスタン人のアリさんは、「戦争後、売り上げが2倍に増えた」と語る。ほとんどがロシア向けで、4WDなどが人気だという。
需要が伸びている背景には、ロシアのクルマ不足がある。ウクライナ侵攻後、日本やヨーロッパの自動車メーカーがロシアから撤退、新車が手に入らなくなった。さらに現状のルールでは600万円を下回る車なら、経済制裁の対象にならない。中古車は楽々クリアなのだ。
アリさんはロシアのディーラーから注文を受け、オークションで落札する。注文や問い合わせは今も1日平均50件も入る忙しさだ。なぜヨーロッパ製ではなく日本車を求めるのか、ロシアのディーラーに聞いてもらうと、「日本車は品質が良く、長く乗れる。走行中に故障することもない」との答えが返ってきた。クルマ不足と日本車の性能、そこに円安が加わり、日本の中古車に目を付けたのだ。
SNS「日本のピックアップトラックに機関銃をのせた」 軍事車両に転用の恐れも
だが、気になることも。
SNSに投稿されたロシア軍の動画。車の荷台に武器のような物をのせている。投稿者は「ロシア軍が日本のピックアップトラックに機関銃をのせた」と書き込んでいた。日本の中古車が軍事車両に転用される恐れはないのか。
プーチンの戦争から1年。経済制裁の検証が求められている。
●鈴木宗男氏「ロシアへの経済制裁やめれば北方領土は返ってくる」 2/25
ロシアに対する日本の経済制裁について、参議院議員の鈴木宗男氏は「日本が経済制裁をやめれば、北方領土は返ってくる」と繰り返し主張した。
これは2月25日にテレビ愛知で放送された「激論!コロシアム」で、経済制裁を見直すべきかとの質問に答えたもの。
宗男氏は「ロシアに対して経済制裁はすべきでない、意味もない。それより停戦、話し合いの場を作ることだ」と発言。その上で、経済制裁をやめるメリットについて問われると、「日本の国益に北方領土がある。経済制裁をやめれば、北方領土が返ってくる」と主張した。
宗男氏「総理がウクライナに行ったら日本の明日は厳しくなる」
北方領土交渉は進展せず、解決のめどは立っていない。他の出演者から「ロシアに加担することで本当に返ってくるのか」と念を押されると、「返ってくる! 安倍さんが(2018年に)シンガポールで合意したラインで交渉すれば返ってくる!」と力説。ムネオ節をさく裂させた。
また、岸田総理がウクライナ訪問を検討していることについて、宗男氏は「総理がウクライナに行ったら日本の明日は厳しくなる。日ロ関係は終わる」と、ウクライナに同情的な世論を批判、ロシアとの関係を重視すべきと訴えた。
●在米ロシア大使館前で抗議集会 侵攻1年「ウクライナが勝つ」 2/25
ワシントンの在米ロシア大使館前で24日夜、ロシアによるウクライナ侵攻1年に合わせた抗議集会が開かれ、数百人が「ウクライナが勝つ」「われわれはウクライナと共にある」とスローガンを叫んだ。参加者らは米国や国際社会による継続的な支援が必要だと訴えた。
集会は、ロシア大使館の壁面にプロジェクターで青色と黄色のウクライナ国旗と「ウクライナに栄光を」といったメッセージを映し出して、ウクライナへの連帯を表明。参加者らは「プーチン(ロシア大統領)は殺人者」「ロシアはテロ国家だ」と厳しく批判した。
●侵攻1年 ゼレンスキー大統領が涙こらえ会見 2/25
ロシアの軍事侵攻から1年、記者会見したウクライナのゼレンスキー大統領は時折、涙をこらえながら国民に語り掛けました。そして世界各地で平和を願い、ウクライナへの連帯を示す一日となりました。
侵攻1年 ゼレンスキー大統領が涙こらえ会見
強い言葉で人々を鼓舞してきた大統領。最後の質問に感極まりました。ウクライナ、ゼレンスキー大統領「(Q.ロシアによる侵攻が親しい人々や家族との関係をどのように変えましたか?)難しい質問ですね…。私は妻と子どもたちを愛しています。子どもたちはとても大切ですが、あまり会えていません」 家族のことを問われ、珍しく言葉を詰まらせたゼレンスキー大統領。ロシアの侵攻から24日で1年。会見でロシアを強く非難しました。ウクライナ、ゼレンスキー大統領「私たちの領土から出て行って下さい。攻撃をやめて下さい。民間人を殺すのをやめて下さい」
ロシアでも献花 当局が女性を拘束
世界がウクライナカラーに染まり連帯を示すなか、当のロシアでも献花に訪れる人々の姿がありました。ただ、悼む人々にすら当局が目を光らせる状況です。献花に訪れた女性…警察が歩み寄ります。花を付き返し、献花に来た女性を警察が拘束しました。拘束され嘆く女性の表情がロシア国内の現状を物語ります。
レオパルト2戦車 4両が到着
首都キーウでは、反転攻勢のカギを握る動きがありました。ポーランド・モラヴィエツキ首相「最初の4両のレオパルト2をポーランドから持ってきました。ロシアの侵略者を一刻も追い払うためです」 ドイツ製の戦車「レオパルト2」。時速70キロ近くの機動性を持つ、ウクライナが熱望した戦車です。ポーランドから届いた“世界最強”とも称される4両。軍事支援の戦車が届けられたのは初めてのことです。ウクライナ、シュミハリ首相「ウクライナを勝利に近付ける決定的な一歩を踏み出したことに感謝する」 とはいえ、いまだ出口の見えない戦局。ある国の存在感が増しています。
停戦を呼び掛ける中国の狙いは?
中国・戴兵国連次席大使「最優先するべきなのは、一刻も早く停戦を進めることです。紛争と戦争に勝者はいません。戦争が長引くほど、人々の苦しみは大きくなります」 停戦と対話を呼び掛けたのは“中国”です。ウクライナにとっては最大の貿易相手国でもあった中国。中国にとっても、ヨーロッパとの経済圏“一帯一路”構想において、カギとなる国です。ゼレンスキー大統領は時期こそ明言しなかったものの、習主席と会う予定があることを明らかにしました。ウクライナ、ゼレンスキー大統領「私は習主席と会談する予定です。お互いのため、そして世界平和のためになると思います」 全く相反する情報も出てきました。
ドローン100機 ロシアに提供報道も
ドイツ誌シュピーゲル「中国のドローンメーカーがロシア側との協議を進めており、ドローン100機を製造して4月までに提供する方針だ」 ドイツ誌が報じた中国のロシアへの武器売却。中国政府は真っ向から否定しています。中国外務省・汪文斌副報道局長「紛争地域や交戦国への武器売却は一切行っていない」 ゼレンスキー大統領も強く釘を刺しています。ウクライナ、ゼレンスキー大統領「中国がロシアに武器を供与しないことを強く信じたい」ただ、この報道は中国側が仕掛けたアメリカに対する情報戦だとみる向きもあります。笹川平和財団上席研究員・小原凡司氏「アメリカが中国の偵察気球を撃墜するなど、強い姿勢を見せて対話の基調が一時途絶えた。アメリカが最も嫌がるロシアに対する軍事協力ということをシグナルとして情報を漏洩させたのではないか」 ロシア寄りの姿勢を崩さず、停戦を呼び掛けた中国。本音は停戦に傾いているという見方もあります。笹川平和財団上席研究員・小原凡司氏「表向きはロシアを支持せざるを得ない。一方で、中国は本当はロシアを支持して国際社会から孤立するのは避けたい。アメリカ・ヨーロッパと歩調を合わせてウクライナ戦争を一時的に停戦させることが、今の国際社会のなかでのステータス(地位)を守るという意味で、重要なことだと考えたのだと思います」
●ゼレンスキー氏、「習主席との会談を予定」 中国の和平案提案を受け 2/25
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日、ロシアの侵攻開始から1年を迎えたのに合わせて首都キーウで記者会見を開いた。ゼレンスキー氏は、同国での戦争終結に関する中国政府の提案について協議するため、習近平国家主席との会談を計画していると述べた。
中国は、和平交渉や国家主権の尊重などを提案している。
内外の記者を大勢招き、その質問に2時間以上にわたり原稿なしで次々と答え続けたゼレンスキー氏は、中国の和平案について質問され、平和実現の方法探しに中国がかかわっていることの表れだろうと述べた。
その上で、「中国がロシアに兵器を提供したりしないと、本当に信じたい」とした。
ただ、中国の和平案に盛り込まれた12項目には、ロシアがウクライナから自軍を撤退させなければならないとは明記されていない。また、ロシアに対する「一方的な制裁」の使用を非難する内容が含まれており、ウクライナに協力する西側諸国を暗に批判しているとみられる。
中国当局はこれまでのところ、習氏との首脳会談を呼びかけたゼレンスキー氏の申し出に、公式には反応していない。
他方、ロシアは中国の和平案を歓迎している。ロシア外務省は声明で、「我々は中国政府の見解を共有する」とした。
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は19日、中国がロシアに対して「殺傷力のある」兵器と弾薬の提供を検討しているとの見方を示した。中国政府はこの主張を強く否定している。米メディアは24日に再び、ロシアへのドローンや砲弾の提供を中国政府が検討していると報じた。
ジョー・バイデン米大統領は24日、米ABCニュースのインタビューで中国の提案について問われると、「(ロシア大統領のウラジーミル)プーチン氏が歓迎しているのだから、いいわけがない」と述べた。
「この計画がロシア以外の誰の利益になるのか。そういう要素はひとつも見当たらない」と、バイデン氏は批判した。
中国はロシア支援に回っているように見えるものの、プーチン大統領の面目を保つ形で何らかの和平協定を整えることで、プーチン氏を救済したいのだろうと、BBCのジョン・シンプソン世界情勢編集長は指摘する。
中国側の提案は、同国の外交トップ王毅氏のモスクワ訪問を受けて示された。王氏は22日にモスクワで、プーチン氏やセルゲイ・ラブロフ外相と会談している。
中国国営の新華社通信によると、王氏はプーチン氏らと会談後、中国政府はロシア政府との「政治的信頼を深め」、「戦略的連携を強化」する用意があると述べた。
欧米の政府関係者は、中国の提案に消極的な姿勢を示している。北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、中国政府は「違法なウクライナ侵攻を非難できていない」ため、「あまり信用されていない」と述べた。
同盟国の支援あれば「勝利は必然」
ゼレンスキー氏は24日の記者会見で、同盟国が「約束と期限を尊重する」なら、勝利は「間違いなく我々を待っている」と述べた。
ポーランドは、ドイツ製戦車「レオパルト2」4台をウクライナにすでに引き渡し、追加の戦車を提供する用意があるとしている。ドイツも同戦車を14台提供すると発表している。スペインやカナダも同様にウクライナに送る予定。
ウクライナに最大の軍事援助を提供しているアメリカは、米軍の主力戦車「M1エイブラムス」31台を、イギリスは英陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」14台を提供すると約束している。
23日に開催された国連総会の緊急特別会合では、侵攻を非難する決議案が圧倒的多数で採択された。ゼレンスキー氏はアフリカやラテンアメリカの多くの国が棄権したことに触れ、ウクライナはこれまで、アフリカや中南米の諸国と十分に関わってこなかったと認めた。
「(ウクライナは)長年、うまく機能せず、注意を払わなかった。それは大きな間違いだと思う」
この戦争における最悪の瞬間について問われると、ゼレンスキー氏は戦争の初期にロシア軍が多数の民間人を殺害したとされる、キーウ近郊のブチャを訪問した時だと答えた。
「私が目の当たりにしたのは、恐ろしい光景だった」と、大統領は明らかに強い思いを込めて述べた。
アメリカは24日、ロシアに対する新たな制裁措置と、ウクライナへの新たな支援策を発表した。
追加制裁は、ロシア国内外の銀行や防衛機器のサプライヤーなど、100以上の団体を対象にしている。ロシアが制裁対象の物品を入手できないよう、抜け穴をふさぐのが狙い。
ウクライナへの追加支援は120億ドル(約1兆6000億円)規模。内訳は、国防総省が提供する弾薬やドローンなど20億ドル相当と、国務省が拠出する100億ドル(ウクライナ政府への予算支援を含む)。
また、ウクライナと隣国モルドヴァのエネルギーインフラ強化のために、5億5000万ドルを拠出する予定という。
モルドヴァは欧州最貧国の1つで、これまでに戦争の影響を大きく受けている。マイア・サンドゥ大統領は、ロシアが外国の「破壊工作員」を使い、モルドヴァで欧州連合(EU)寄りの政権を倒そうとしているとしている。
EUは24日、軍民両用の技術への制限などを盛り込んだ、対ロシア制裁第10弾を承認した。
●ロシアで静かに反戦デモ 54人拘束、1年で機運しぼむ ウクライナ侵攻1年 2/25
ウクライナ侵攻から1年を迎えた24日、ロシア全土14都市で反戦デモが行われ、人権団体OVDインフォによると、計54人が拘束された。
デモはいずれも小規模で、プーチン政権の言論統制と弾圧により反戦の機運は1年間で大きくしぼんだ。
参加者の多くは寒空の下、集団とは違い事前許可が不要となる単独でのデモを選んだ。独立系メディアによると「ウクライナに平和を」「ロシア軍撤退を要求する」などと書かれた紙を所持。ただ、こうした文言は侵攻開始後、ロシア軍に関する「偽情報」と見なされ、流布すれば刑事罰に問われる。
プーチン大統領の故郷で第2の都市サンクトペテルブルクでは、ウクライナの詩人タラス・シェフチェンコの銅像前で献花した人ら18人が拘束された。既にマスク規制が解除されているにもかかわらず、新型コロナウイルス禍の行動制限違反に問われたという。
OVDインフォの集計では、ウクライナ侵攻に関連するデモで拘束された人はこれまでに2万人弱。反戦デモは当初に比べて下火になっているが、昨年9月の部分動員令、今年1月のウクライナ東部ドニプロの集合住宅ミサイル攻撃などに伴い、散発的に起きている。
●ベラルーシ ルカシェンコ大統領 中国訪問へ 習主席と首脳会談  2/25
中国外務省は、ロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領が、今月28日から来月2日にかけて中国を公式訪問すると、25日発表しました。習近平国家主席が招待したとしています。
これについて、ベラルーシ大統領府は25日、首脳会談では両国の経済協力の強化のほか「国際情勢における喫緊の課題への対応に焦点を当てる」と発表し、ロシアによる軍事侵攻から1年がたったウクライナ情勢について双方の立場を確認するものとみられます。
これに先立って24日は、中国の秦剛外相とベラルーシのアレイニク外相による電話会談が行われ、中国外務省によりますと、秦外相は中国が24日発表したウクライナ情勢をめぐる中国の立場を示す文書を説明し「中国は常に和平交渉を促す努力を支持している」などと強調したとしています。
ルカシェンコ大統領は今月17日、ロシアを訪問してプーチン大統領と会談し、両首脳は軍事面での連携をアピールしていて、隣国のウクライナはベラルーシが軍事的な揺さぶりをかけていると警戒を強めています。
こうした中、習主席がルカシェンコ大統領との会談で、中国が発表した文書を踏まえウクライナ情勢についてどのような発言をするのか注目されます。

 

●「同一民族」違い歴然 ロシア人とウクライナ人 失敗の裏にプーチン氏の誤解 2/26
両国民は一つの民族―。ロシアのプーチン大統領は2021年7月、自国とウクライナの「歴史的一体性」に関する論文を発表した。これを下敷きに「口実」をこしらえ、昨年2月24日に踏み切ったのが、今回の侵略戦争だった。権力の座に20年間以上君臨し、自国のみならず隣国の民意もコントロールできると読み誤っていたことが、電撃作戦の「失敗の本質」ではないか。
動揺する侵略国
プーチン政権は14年にウクライナ南部クリミア半島を併合し、ロシア人は愛国心を高揚させた。一方、領土を奪われたウクライナ人は8年間で強くなったと言われる。さらに侵攻で、苦難の1年間を経験した。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)ではもはや、空襲警報は日常茶飯事。今月20日のバイデン米大統領の訪問時も鳴り響いたほどだった。整然と地下鉄駅などに身を寄せる人、警報に慣れて避難しない人もいるが、共通してうかがえるのは「ロシアのファシスト」(キーウ市民)の脅しに屈しないという姿勢だ。
プーチン氏が第2次大戦の「戦勝国」と今でも誇るロシアではどうか。22日朝、国内でラジオから耳慣れない音とメッセージが流れ、動揺が広がった。
「注意、注意、ミサイル攻撃の恐れ」。西はウクライナ国境付近から東はシベリアまでの10都市。「空襲警報」はソーシャルメディアでロシア全土に拡散した。非常事態省はすぐさま「ラジオ局へのサイバー攻撃の結果、誤情報が流された」と発表。しかし、昨年12月に内陸奥深くの空軍基地がウクライナ軍の攻撃を受けており、ロシア国民は現実味を帯びる空爆の恐怖をかみしめた。
恐怖で操れるか
スパイ出身で冷静沈着な印象もあったプーチン氏は、クリミア併合の「成功体験」で目が曇ったようだ。14年のロシアの軍事介入開始から「偽の住民投票」を経て併合に至るまで1カ月弱。今回の侵攻も楽観的なシナリオに依拠し、ゼレンスキー大統領が逃げれば、ウクライナ国民は自分になびくと信じていた節がある。
ところが両国民は「一つの民族」ではなかった。プーチン氏が「歴史的領土」と言い張る南部ヘルソン市では昨年3月、占領軍を歓迎しない市民が抗議デモを展開。「ロシアは永遠にここにいる」と宣伝されたが、同11月にウクライナ軍が奪還し、市民は歓喜に沸いた。
プーチン政権は国内で反体制派指導者に毒物を盛ったり、反戦デモを弾圧したりした結果、保守的で政治変革に無関心な多数派に「戦時大統領」を支持させることに成功した。ウクライナでも空爆で恐怖を味わわせれば、民心を操れると考えた可能性がある。
隣国の信頼失う
モスクワの名所「雀(すずめ)が丘」では22日、防空兵器のレーダー稼働が伝えられた。この高台から眼下に見えるのはルジニキ競技場。ここで官製集会を開いたプーチン氏は、自分が誰よりも命を守られながら「国民全員が祖国の防衛者だ」と戦争協力を呼び掛けた。500ルーブル(約900円)の謝礼を受け取り、歓声を上げたロシア国民は何を考えたのか。
ウクライナ人が選挙で政権交代できる社会を持つのは、ロシア人との決定的な差だと言われる。侵攻はあだとなり、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に接近し、南部オデッサ市では都市の礎を築いたロシア皇帝エカテリーナ2世の銅像が撤去された。そして、プーチン氏は「隣人」の信頼を完全に失っている。
●それでも更迭されないロ国防相、背景にプーチン氏の「情」 2/26
ウクライナ侵攻開始から1年、ロシア軍は3度の屈辱的な撤退を経験し、米国当局の発表によれば20万人近くの兵士が死傷したとされる。だが、ロシア軍を統率する立場にあるショイグ国防相(67)は失脚していない。プーチン大統領が職にとどめている。
欧米当局やロシア政治を長年見てきた専門家、元欧米軍司令官によれば、プーチン氏がショイグ国防相を重用するのにはいくつかの理由があるという。ショイグ氏が「極端なほど従順」なことや、プーチン氏の大統領就任を助けてきたこと、ウクライナの軍事作戦に関してはショイグ氏一人の判断ではなかったことなどが挙げられる。
「プーチン氏の側近の中で重視されるのは、常に能力よりも忠誠心だ」と、カーネギー国際平和財団のプーチン氏の専門家、アンドリュー・ワイス氏は分析する。ワイス氏は米国家安全保障会議(NSC)の戦略策定に携わってきたほか、プーチン氏に関する書籍も執筆している。
ワイス氏によれば、プーチン氏は過去に、人を解雇する決断は難しいもので、個人的な問題として考えることが多いと公の場で認めたことがあるという。
「ショイグ氏を含め、複数の高官は求められているほどの職務を果たしていない。あまり知られていないプーチン氏の『情にもろい』性格によって得している部分がある」
ロシア軍はウクライナ東部バフムトやウグレダルを支配しようと、現在も猛攻を続けている。ショイグ氏やロシア国防省の実績について、同省にコメントを求めたものの、返答は得られなかった。
無骨な強硬派のショイグ氏は、建築技師として経験を積んだのち、1991年の旧ソ連崩壊後にエリツィン政権で非常事態相に就任。以降、ロシア政府の要職に就き続けている。
2012年に国防相に就任してからは、プーチン氏の側近の一人として、ショイグ氏の故郷シベリア地方で狩猟や釣りをして共に休暇を過ごす姿も見られている。
政治分析会社R・ポリティクの創業者でロシア政治に詳しい専門家タチアナ・スタノバヤ氏は、プーチン氏は欠点があったとしても深く知っている人物と一緒に働く方を好んでいると指摘する。
「プーチン氏にとって、そのほうが心理的な負担が少ないのだ」
スタノバヤ氏が注目するのは、1999年にプーチン氏が大統領に就任するにあたり、推薦した政党幹部の一人がショイグ氏だったということだ。
「それ以来、プーチン氏はショイグ氏に対し、何かしらの恩義を感じている。これまでショイグ氏は大失態を犯していないこともあり、ロシア政界の中で安定したポジションが約束されている」とスタノバヤ氏はオンラインサイト「リドル」で指摘した。
メディアへの発言を禁止されているとして匿名を条件に取材に応じたロシアの政権関係者は、古くからロシアに伝わることわざを引用し、ショイグ氏がすぐにでも交代を命じられる可能性は少ない理由を説明した。
「走っている途中で馬をかえることはない」──。
つまり、不安定期には継続性が大切だということを意味する。ロシア軍は失敗から学び、成功に結び付けていると、この関係者は話す。
北大西洋条約機構(NATO)の上級外交官や、欧州連合(EU)の上級当局者は、ウクライナ侵攻を巡る意思決定は、どちらにしてもショイグ氏よりも、プーチン氏と軍の将官らが中心に行っているとみている。
スタノバヤ氏は、ショイグ氏が国防省全体の管理や防衛産業との関係維持に注力しており、ウクライナ侵攻に関連する責任は連帯して負うものだと言う。
「(ウクライナ侵攻について)プーチン氏自身は、複数の軍高官と協議して進めている。1人や2人ではない。内容は、時には細かい戦況の話にまで及ぶ」
ゲラシモフ軍参謀総長は先月、ウクライナでの軍事作戦を現場指揮する最高司令官に任命された。ロシアメディアの間で「アルマゲドン将軍」とも呼ばれるセルゲイ・スロビキン氏はゲラシモフ氏に次ぐ副司令官に降格された。
ゲラシモフ氏とスロビキン氏の両者はショイグ氏とは異なり、生え抜きの軍人だ。ロシア大統領府顧問を務めたこともあるセルゲイ・マルコフ氏によると、スロビキン氏は降格されたものの、引き続き侵攻作戦に深く関わっている。
「敗北の連続」
ロシア政府はウクライナにおける「特別軍事作戦」の目標を達成できるとしており、欧米が発表している犠牲者の数は誇張されているとして否定した。ロシア軍はウクライナの約5分の1の領土を支配下に置いており、同軍がさらに攻勢を強める可能性についてウクライナ側からは懸念の声も上がる。
しかし、首都キーウ攻防からの撤退や北東部での敗走、南部ヘルソンでの降伏など、ロシア軍にとっては不都合なことばかりが注目を集めている。
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は、ウクライナ東部で複数の作戦の先頭に立ったワグネルの人材の方が正規軍よりはるかに効果的だとして、ショイグ国防相を猛烈に批判する1人だ。
プリゴジン氏はロシア大統領府に国防相に対するあからさまな批判をやめるよう命じられた模様で、ここ数週間は個人攻撃を避けているものの、以前には軍幹部を「ろくでなし」と呼び、「自動小銃を持たせ、はだしで前線に送り込むべきだ」などと述べていた。
ウクライナ東部の親ロシア派元幹部イーゴリ・ギルキン氏も、ショイグ氏の能力を再三、疑問視している。ギルキン氏は2014年、ロシア政府を後ろ盾に分離派勢力が起こしたクリミア危機に関わった人物で、現在は米国の制裁対象となっている。ギルキン氏は今月、自身のブログで以下のように記した。
「この怠け者が『戦争のために軍を準備してきた』やり方を巡って、いつになったら軍法会議にかけられるのか知りたい」
米欧州陸軍の元司令官ベン・ホッジス氏はロイターに対し、ショイグ氏とゲラシモフ氏が指揮する陸軍には「与えられたタスクをこなす能力がない。ロシア軍の貧弱なパフォーマンスは否定できない」として、両者とも更迭されると考えてきたと話す。
ホッジス氏や、英国参謀総長補佐を務めた元少将のルパート・ジョーンズ氏は、ロシア陸軍の初期計画、戦略や戦術、後方支援、装備の弱さについて指摘したほか、動員の失敗や汚職問題についても言及した。
ジョーンズ氏は、こうした状況でも防衛大臣が職務を続けることは西側では「想像もできない」という。
「自身の失敗や、犠牲を望むメディアや世論の高まりによっては、ショイグ氏は更迭されたり、辞任に追い込まれたりする可能性もあった」
ロンドンを拠点としたシンクタンク、英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のシニアリサーチフェローであるジャック・ワトリング氏はショイグ氏について、ウクライナ侵攻以前は、軍事力の「大幅な増強」を実現したり、複雑な作戦を成功に導いていたこともあると評価する。
「つまり、ただ威勢が良かっただけではない」
ただ、ワトリング氏はショイグ氏が軍の強さを誇張宣伝し過ぎたとも話す。
「問題はプーチン氏とゲラシモフ氏もこうした神話を信じているようで、自分たちの能力をはるかに過大評価しているということだ」
●暗殺された元スパイの妻、露の将来を悲観「問題はプーチン主義」 2/26
英国で2006年に暗殺された元ロシア連邦保安庁(FSB)のリトビネンコ中佐の妻マリーナさんが24日、ロシアのウクライナ侵攻1年に合わせ、ロンドンで記者団の取材に応じた。マリーナさんは、仮にプーチン露大統領が退場してもロシアに残る「プーチン主義」が問題だと指摘。その内容について「人々の意見を対立させ、互いに争わせ、その間に自分は利益を取る手法だ。だからこそ今は(欧米の)団結が必要だ」と述べた。
旧ソ連の情報機関・国家保安委員会(KGB)の情報員だったリトビネンコ氏は、後継組織のFSBの腐敗を告発し、00年に英国に亡命。その後、ロンドンのホテルで猛毒の放射性物質ポロニウムを盛られて死亡した。英国側は旧KGB職員が暗殺に関与したと指摘するが、ロシア側は否定している。
マリーナさんは「プーチン氏が仮に死去すれば、一見それは最善のシナリオに思える。だが問題はプーチン主義。後任にはそれを引き継ぐもっとひどい指導者が就く可能性もある」と述べ、ロシアの将来に悲観的な見方を示した。
また、夫が殺害された06年やウクライナ南部クリミアがロシアに一方的に併合された14年の段階で、「なぜ西側は強力な制裁を科さず、ロシアとビジネスを続けたのか」と欧米側の過去の対応の甘さも批判した。
●「戦況」「安全の保証」が鍵に=ウクライナ侵攻巡る和平交渉  2/26
ロシアのウクライナ侵攻は開始から1年が経過したが、終結に向けた和平交渉の糸口は見えないままだ。ウクライナを支える米国は「必要な限り」(バイデン大統領)軍事支援を続ける構えで、ロシアとウクライナの攻防は一進一退が続く。米専門家は「戦況」と「ウクライナへの安全の保証」が交渉実現の鍵を握るとみている。
バイデン政権はロシアのプーチン大統領が判断すれば、侵攻は直ちに終結すると強調している。だが、プーチン氏が侵攻をやめる気配はなく、バーシュボウ元駐ロ米大使は「ロシア指導者らの現状認識を変えるため、戦場でのウクライナの成功が不可欠だ」と語る。
ただ、バイデン政権は、ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島を巡っては奪還に難色を示す。米紙ポリティコによれば、ブリンケン国務長官は2月中旬、専門家との会合で、プーチン氏にとってクリミアは「レッドライン(譲れない一線)」と指摘。米国は東部の占領地域を奪取するための支援に集中しているとの考えを示した。
ロシアは併合以降、クリミアの要塞(ようさい)化を進め、防衛を強化。ウクライナ軍による奪還作戦は難航するとの見方は根強い。このため、クリミアにつながる補給線を分断して孤立させることでロシア側に打撃を与え、交渉材料にすべきだとする意見もある。
バーシュボウ氏はまた、ロシアの再侵攻を抑止するため、ウクライナには「安全の保証」が必要だとの認識を示す。北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン前事務総長が昨年9月、ウクライナのイェルマーク大統領府長官らと共に発表した新たな枠組み「キーウ安全保障協定」が「最も見込みのあるモデルだ」と語る。
キーウ安保協定では、米国や英国のほか、ドイツ、フランスなどがそれぞれウクライナと「戦略的パートナーシップ」を結び、軍事支援を実施。NATO軍と同基準の訓練や共同演習も行うが、あくまで防衛主体はウクライナ軍だ。現在の軍事支援を法制化した形ともされる。
バーシュボウ氏は米国とイスラエルの関係を例に挙げ、「イスラエルが侵略されても参戦しないが、米国は軍事支援を続けている」として、同様の関係がウクライナに抑止力を与えると説明。和平交渉には、戦況でウクライナが優位に立つことに加え、こうした「安全の保証」を構築する必要があると指摘している。
●武器支援反対で1万人デモ ウクライナ侵攻1年で ドイツ 2/26
ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年を迎えた翌日の25日、ドイツのベルリンでウクライナへの武器支援に反対するデモが行われた。
警察の報道担当者によると、市中心部のブランデンブルク門周辺に約1万人が集結した。
●貿易・投資で連携強化 ウクライナ情勢も協議 独印首脳 2/26
インド訪問中のドイツのショルツ首相は25日、ニューデリーでモディ首相と会談し、貿易や投資分野を中心とする連携強化を巡り協議した。
ショルツ氏は、インドと欧州連合(EU)間の自由貿易協定(FTA)早期締結に向け協力する考えを表明。両首脳は、ロシアの侵攻が続くウクライナ情勢についても意見交換した。
●G20財務相会議が閉幕も ウクライナ侵攻めぐり4回連続で共同声明採択見送り 2/26
インドで開かれていたG20(=主要20カ国)の財務相・中央銀行総裁会議が閉幕しました。ロシアのウクライナ侵攻をめぐる意見の対立から、共同声明の採択が4回連続で見送られました。
25日に閉幕したG20財務相・中央銀行総裁会議は、ロシアの侵攻開始から1年となったウクライナ情勢をめぐって各国の隔たりが大きく、共同声明の採択は見送られました。共同声明の見送りは4回連続です。
代わりに発表された議長総括は「ウクライナでの戦争が甚大な人的被害をもたらし、世界経済をさらに悪化させているとして、ほとんどのメンバーが戦争を強く非難した」と強調しました。
ウクライナ情勢の部分については「ロシアと中国を除く全ての加盟国が同意した」と注釈を付けています。
●林外相 “国際世論形成へ 「グローバル・サウス」と連携を“  2/26
ウクライナ情勢をめぐり、林外務大臣はNHKの日曜討論で、力による現状変更を容認しないという国際世論の形成に向けて、G20=主要20か国の議長国インドに働きかけながら、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国との連携を図っていきたいという考えを強調しました。
この中で林外務大臣は、国連総会の緊急特別会合で全体の7割以上に当たる141か国の賛成を得て、ウクライナでの永続的な平和などを求める決議が採択されたことに触れ、「世界のどこであっても、力や威圧による現状変更は決して認められないという認識が世界に共有された」と指摘しました。
そのうえで、「国際世論を背景に、しっかりとロシアへの厳しい制裁とウクライナ支援を続け、結束を維持していくことが大事だ。G7やそのほかの同志国との結束を図っていく」と述べました。
そして、力による現状変更は容認しないという国際世論の形成に向けて、G20の議長国インドに働きかけながら、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国との連携を図っていきたいという考えを強調しました。
一方、5月のG7広島サミットにウクライナのゼレンスキー大統領を招待するかについては、「決まったことはないが、いろいろな選択肢を幅広く検討すべきだ」と述べました。 
●「NATOが露の破壊狙う」とプーチン氏 加盟国の核能力注視 2/26
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を巡り敵対する北大西洋条約機構(NATO)が「ロシアの戦略的破壊を狙っている」と主張し、ロシアと核軍縮合意を結ぶ米国だけでなく他のNATO加盟国の核能力も注視する必要があるとの考えを示した。国営テレビのインタビューをタス通信が26日伝えた。
プーチン氏は21日に実施した年次報告演説で、米国との間の新戦略兵器削減条約(新START)の履行を停止すると表明。23日の「祖国防衛者の日」の声明では核戦力の増強を宣言した。
プーチン氏はインタビューで米欧が支配を拡大するため「旧ソ連とロシアを解体しようとしている」と強調した。
●中国がロシア非難を拒否 G20共同声明まとまらず 2/26
インド南部ベンガルールで開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は25日、共同声明がまとまらないまま閉幕した。ロシアによるウクライナ侵攻を非難する文言に、ロシアだけでなく中国が反対した。
共同宣言の中で、ロシアによる軍事侵攻を「最も強い表現」で非難するという部分について、中国が受け入れを拒否した。
ロシア政府は、西側の「反ロシア」諸国がG20を「不安定」にしたと非難した。
G20議長国のインドは「議長総括」を発表。その中で、ウクライナの状況と対ロシア制裁について「複数の異なる情勢分析」があったと指摘した。総括の脚注でインド政府は、ウクライナでの戦争に関する2つの段落について、「ロシアと中国を除く全加盟国が同意」したと説明。その2段落は、「ロシア連邦によるウクライナ侵攻を、最上級の強い表現」で非難したもので、昨年11月にインドネシア・バリで開かれたG20首脳会議で採択された首脳宣言の表現に手を加えたものだったという。
これに先立ち中国政府は開戦1周年の24日、ウクライナでの戦争について和平案を発表。ロシアとウクライナ双方に直接対話の再開や主権の尊重を呼びかける内容だが、ロシアに軍の撤退を求めていないほか、ロシアの侵略を非難していない。そのため、ロシア寄りの提案だという指摘もされている。
「これは戦争」
G20閉幕後の記者会見で、インド財務省高官のアジェイ・セス氏は、ロシアと中国がウクライナについて共同声明の表現に同意しなかったのは、「経済・金融問題への対応が代表団に与えられていた任務だった」からだと説明。ただし、「他の18カ国はいずれも、この戦争が世界経済に大きく影響すると感じていた」ため、共同声明で言及する必要があると感じていたという。
共同声明はほかに、トルコでの地震、低・中所得国の債務、世界的な税制、食料供給の不安定などについて触れた。
ロシア外務省は、「G20の活動が引き続き西側諸国によって不安定化し、反ロシア的な形で利用されている」と遺憾の意を示した。ロシアはアメリカ、欧州連合(EU)、主要7カ国(G7)の各国による「あからさまなゆすり」を非難し、「多極化した世界に客観的な現実を受け入れる」よう西側諸国に求めた。
これに対してドイツのクリスティヤン・リントナー財務相は、「これは戦争だ。そしてこの戦争には原因がある。一つの原因が。それはロシアと、ウラジーミル・プーチンだ。そのことをこのG20財務相会談は、明確に表現しなくてはならない」と強調した。
昨年2月の侵攻開始以来、G20によるさまざまな会議はこれまでも共同声明がまとまらずにきている。
23日の国連総会では、賛成141の圧倒多数でロシアのウクライナ侵攻を非難する決議が採択された。ただしそこでもロシアなど7カ国が反対したほか、中国やインドなど32カ国が棄権した。
中国の和平案について
中国の和平案に盛り込まれた12項目には、ロシアがウクライナから自軍を撤退させなくてはならないとは明記されていない。また、ロシアに対する「一方的な制裁」の使用を非難する内容が含まれており、ウクライナに協力する西側諸国を暗に批判しているとみられる。
ロシア政府は中国の提案を歓迎したが、ジョー・バイデン米大統領は「(ロシア大統領のウラジーミル)プーチン氏が歓迎しているのだから、いいわけがない」と述べた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、24日の記者会見で中国の和平案について質問され、平和実現の方法探しに中国がかかわっていることの表れだろうと答えた。そのうえで、習近平国家主席との会談を計画していると述べた。
欧米の政府関係者は、中国の提案に消極的な姿勢を示している。北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、中国政府は「違法なウクライナ侵攻を非難できていない」ため、「あまり信用されていない」と述べた。
中国はロシア支援に回っているように見えるものの、プーチン大統領の面目を保つ形で何らかの和平協定を整えることで、プーチン氏を救済したいのだろうと、BBCのジョン・シンプソン世界情勢編集長は指摘する。
中国側の提案は、同国の外交トップ王毅氏のモスクワ訪問を受けて示された。王氏は22日にモスクワで、プーチン氏やセルゲイ・ラブロフ外相と会談している。
中国国営の新華社通信によると、王氏はプーチン氏らと会談後、中国政府はロシア政府との「政治的信頼を深め」、「戦略的連携を強化」する用意があると述べている。
●ロシア人の「彼ら」が祖国を捨て、ウクライナのために自国の兵士を殺す理由 2/26
ロシアがウクライナに軍事侵攻してから1年。多くの外国人義勇兵がウクライナ側に参戦していることはすでに報じられているが、そのなかには敵国・ロシアの兵士もいるという。ウクライナのために祖国と死闘を繰り広げるロシア兵の本音を探るため、米紙が激戦地バフムトを訪ねた。
ウクライナ軍の砲撃地点で配置についた兵士が、雪のなかにひざまずいた。彼らはロケットランチャーの狙いを定めると、2キロほど先にあるロシア軍陣地に向けて発射した。
その姿は、激戦地のひとつバフムト南部に従軍する他のウクライナ人兵士と同じように見える。
だが、彼らはウクライナ人ではない。ウクライナ軍の外国人部隊「自由ロシア軍団」に所属しているれっきとしたロシア人だ。彼らは祖国ロシアの兵士を殺すために、この戦争に参戦している。
自由ロシア軍団の兵士たちが、自国の軍と戦うために武器をとった理由はさまざまだ。祖国がウクライナに侵攻したことへの義憤、自分たちを受け入れてくれたウクライナを守りたいという願い、プーチン露大統領への本能的な嫌悪。彼らはウクライナ軍からの信頼を勝ち取り、ロシア軍と激しい戦闘を繰り広げる部隊の一翼を担うまでになっている。
「真のロシア人はこんな侵略戦争などしないし、子供をレイプしたり、女性や老人を殺したりもしない」
そう話すのは、通称「シーザー」と呼ばれるロシア兵(50)だ。
「俺は自分の決断を後悔していない。ただ、自分の任務を遂行するだけだ。すでに大勢のロシア兵を殺してきた」と彼は言う。
目指すは“脱プーチン化”
ウクライナ戦争が始まって1年がたつが、自由ロシア軍団の活動はほとんど外部に明かされていない。ロシア側の報復から彼らを保護するためというのが主な理由だが、ウクライナ軍には、自国に甚大な被害を与えた敵国出身者の存在をなるべく知られたくないという思惑もある。
軍当局によれば、ウクライナ軍には数百人のロシア兵が所属しており、主に東部バフムト周辺に配属されているという。彼らは常に自由ロシア軍団として任務に当たるが、指揮と監督をするのはウクライナ人士官だ。
本紙の取材に応じたロシア兵のなかには、2022年にロシアが軍事侵攻を始めたとき、すでにウクライナに住んでいた人もいた。彼はウクライナ軍に入隊した理由について、自分の住む国を守る義務があるからだと答える。
従軍経験のない者も多かったが、ロシアによるウクライナへの侵攻は理不尽だとの思いから、今回の戦争が始まってすぐに戦いに加わったと話す人もいた。通称「ザザ」と呼ばれるロシア兵は、ウクライナ側で戦う理由を次のように語る。
「ウクライナの領土からロシア軍を完全に撤退させるために、ここに来ました。将来的には、ロシアの“脱プーチン化”を目指しています」
ロシア兵は自身や家族に対する報復を恐れ、名前や経歴を明かすことに同意しなかった。2023年2月、ロシア検察庁は、自由ロシア軍団をテロ組織と認定するよう最高裁判所に提訴している。
金髪で痩身のザザは、高校を出たばかりにしか見えない。年齢を問うと「20歳以下」という答えが返ってきた。
ロシア軍がウクライナに侵攻したというニュースを聞いたとき、ザザは黙っていられなくなったという。SNS上で自分の思いを率直に述べ、反戦を訴える投稿を続けていると、大学と揉めて、やがて警察沙汰になった。2022年秋にロシア保安局の係官が訪ねてくると、彼は祖国から離れることを決意した。その後、国境を越えてウクライナ入りし、戦闘に加わったという。
「自分はまだ若く、政治的意見や世界観が未熟なのはわかっています。それでも自国がひとりの“悪党”に乗っ取られたら、何らかの行動を起こさずにはいられません」
●トルコ大統領の誕生日祝う プーチン氏、電話会談で「親愛なる友」称賛 2/26
ロシア大統領府は26日、プーチン大統領がトルコのエルドアン大統領と電話会談し、69歳の誕生日を迎えた同氏を祝福したと発表した。2国間関係についても話し合った。両氏は24日にも電話会談し、ウクライナ情勢を協議した。
大統領府は26日、プーチン氏が送った祝電も公表。その中でプーチン氏はエルドアン氏を「親愛なる友」と呼び、功績をたたえた。
●なぜ中国はウクライナをめぐる人気取り作戦に出たのか 2/26
この1年間、西側諸国の首脳陣はウクライナでの戦争を終わらせるため、自分たちに協力するよう中国を説得しようとしてきた。そして今、中国政府はこれまでで一番はっきりした反応を示したものの、それは西側の大勢が求めていたものではなかった。
中国はここ数日、人気取り活動を精力的に繰り広げている。外交トップの王毅氏の欧州歴訪は、モスクワでのウラジーミル・プーチン大統領による温かい歓迎で締めくくられた。
中国はこれまでに2つの方針書を示している。1つ目は中国なりの戦争解決方法を提示したもので、もうひとつは世界平和への計画書だ。これは昨年の中国の論点の焼き直しで、(ウクライナの)主権尊重を呼びかけ、(ロシアの)国家安全保障上の利益保護を求め、(アメリカによる)一方的な制裁に反対するものだ。
西側諸国はこれに感心しないだろう。しかしそももそも中国はおそらく、西側の説得を主眼としていない。
中国の目標:アメリカへの明確なメッセージ
まず、中国は明らかに、世界の平和を形作る仲裁者を目指している。方針書のひとつでは、東南アジアやアフリカ、南米など、いわゆる「グローバルサウス(世界の南側に偏っている途上国)」に関わっていくと記されており、中国が誰の機嫌を取ろうとしているのかは明らかだ。
西側諸国がウクライナ危機をどう扱うか注視している国々に、中国はアメリカ主導の世界秩序とは異なるビジョンを示すことで、支持を得ようとしている。
一方で、アメリカに明確なメッセージを送ることも、中国の目標のひとつだ。
豪ニューサウスウェールズ大学の中ロ関係専門家、アレクサンデル・コロレフ博士は、「強気なメッセージでもある」と指摘した。
「米中関係が悪化しても、こちらには手がある。ロシアは孤立していない。ということは、対立があっても中国は孤立しない。気楽に中国をいじめられると思うな……そういう警告が、中国の姿勢には込められている」
中国がこのタイミングで動いたことも、その意図の手がかりになっていると専門家たちは言う。米中関係は、偵察用との疑いのある気球騒動によって、これまでになく悪化している。戦争終結を助けることが本当に中国の狙いなら、なぜ今になって初めて、ウクライナ和平への大々的な外交努力を始めたのかと、疑問視する声もある。
コロレフ氏は、「中国にはリーダーシップ発揮の機会がこれまでもたくさんあったし、早くから戦争終結に貢献するよう求められていあ(中略)もし真の意味で世界的な指導者としてのイメージを示すことが目的なら、1年間も遠くから傍観して外交術で巧みに切り抜けようとする必要もなかった」と指摘する。
3つめの目標は、王氏の旅程表に表れているかもしれない。
王氏はフランス、ドイツ、イタリア、ハンガリーという、ロシアに対する姿勢が相対的に特に強硬ではなかった諸国の指導者たちを訪問した。王氏は、欧州の一部を中国の側に引き込めないか、具合を試していたのかもしれない。
中国政府はこれらの国々の「利害関係が論理的に収束」するものとみている。上海の華東師範大学の国際政治経済専門家、張マ副教授はそう指摘する。
「アメリカには覇権国としての力があるが、大西洋を超えた大部分の地域は、アメリカの覇権システムから切り離された方が得策だと、中国政府は考えている」のだという。
しかし、中国がこの目標を達成できるのかは疑問だ。王氏はミュンヘン安全保障会議で演説してアメリカを批判したが、アメリカを強固に支持する盟友諸国が集まった会議の場では、その言い分はあまり歓迎されなかった。むしろ中国の真意に対する不信感が増しただけだと言う外交官もいた。
米シンクタンク「ジャーマン・マーシャル財団」で欧中関係を専門するアンドリュー・スモール上級研究員は、「王氏の欧州歴訪には、明確なメッセージがあった。『中国と欧州の間には、特になんの問題もない。中国とアメリカの間には、問題がある。中国は欧州の皆さんと一緒に問題を解決できる。皆さんは、アメリカが欧州を連れて危険な道を突き進んでいると理解するべきだ』と、欧州に向けて強調していた」と話した。
「だが、このメッセージは欧州のほとんどの場所で、あまり支持されなかったと思う」と、スモール氏は指摘した。
●ウクライナ戦争、終結への道筋は存在する 2/26
ロシアによるウクライナへの露骨な侵攻から1年が経過して明白になったのは、どちらの側も戦争に勝利するほど強くはなく、かといって和平を求めるほど弱くもないということだ。紛争は膠着(こうちゃく)状態に陥っている。目覚ましい戦果を記録した後、ウクライナ軍には数カ月間、大きな前進がない。一方のロシアは占領地域でこそ支配を強めているものの、さらなる攻撃についてはこれまでのところほとんど成功していない。
現状は数字に表れている。米紙ワシントン・ポストの分析によれば、ロシアは昨年の侵攻開始時にウクライナの領土の約7%を占領した。その後1カ月の間に東部で勝利を収めた時点では、同国の22%を掌握していた。ここからウクライナの反撃が始まり、11月の半ばまでにはこれらの領土の3分の1を奪還した。直近の3カ月間で大勢に変化はない。ウクライナとロシアは共に新たな動きを計画しているが、状況を根本的に変えるには極めて大きな勝利が必要になるだろう。別の言い方をすれば、ウクライナが奪い返さなくてはならない領土は昨年のざっと2倍に相当する。それでようやく2022年の侵攻以降制圧されていた領土を取り返す計算になる。
ロシアの戦いぶりは粗末なものであり続けていたが、ここへ来て改善している。領土を維持することにかけては特にそうだ。また自国の経済も安定化できている。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、今年のロシア経済のパフォーマンスは英国やドイツを上回るという。ロシアは中国やインドのような経済大国とも、トルコやイランといった周辺国とも自由に貿易できている。これらをはじめとする多くの国々のおかげで、先進的なハイテク部門を別にすれば、ロシアは西側のボイコットを通じて失ったあらゆる品目や資本へのアクセスを確保する。今では西側を含まない巨大な世界経済というものが存在しており、ロシアはそうした海域を自由に泳ぐことができる。長期的な戦争のコストや経済制裁の影響は現実的なものではあるが、効果が出てくるのには時間がかかる。この種の孤立や痛みで独裁体制の政策が変わることはまずない。北朝鮮やイラン、キューバ、ベネズエラを見れば分かる話だ。
では、この先の道筋はどうなるのか。短期的に見れば、西側とその同盟国にとっての答えはたった一つ。ウクライナへさらに多くの兵器と資金を与えることしかない。ロシアのプーチン大統領について、侵略戦争による見返りを与えてはならないとの決断を下したのであれば、あらゆる措置を講じてそれを実現すればいい。ウクライナが要請するほぼ全ての兵器を巡っては一定のパターンが存在する。まずは躊躇(ちゅうちょ)があり、次に先延ばし、最後にようやく合意が成立する。なぜもっと多くの兵器を、より迅速に送らないのか。ここからの3カ月間は極めて重要だ。雪解けとともに軍隊の移動がしやすくなるからだ。
そうは言っても、第2次世界大戦のような完全勝利を想定するのは難しい。ほとんどの戦争は交渉により終結する。今回がそうならないとは考えにくい。西側が果たすべき役割は、ウクライナが確実に十分な成功と勢いを戦場で獲得できるようにすることだ。そうすれば、そのような交渉にも極めて強い立場で臨める。ウクライナ側がクリミア半島奪還のような劇的勝利を収めない限り、プーチン氏が交渉のテーブルに着く公算は小さい。
戦争行為を終わらせる方法はあるのだろうか。理論上はイエスだ。昨年2月以降奪取した全ての領土をウクライナに返還する条件での停戦は想定し得る。14年に併合されたクリミア半島など、それ以前に獲得した領土については国際的な仲裁の対象になるだろう。具体的には現地の住民投票をロシア政府ではなく、国際的な組織によって実施するといったことが考えられる。加えてウクライナは、自国の安全保障の確証を北大西洋条約機構(NATO)から得るだろう。ただ領有権が争われている地域は、その適用から外れると思われる。そうした交換条件、簡単に言えばクリミア半島並びに東部ドンバス地方の一部と引き換えにNATO及び欧州連合(EU)の事実上の加盟国になるという取り引きを、ウクライナ国民は受け入れる可能性がある。それによって西側の一部になるという彼らの長年の目標が達成されるからだ。ロシア側も、この条件なら容認が可能になるかもしれない。ウクライナ国内のロシア語圏の一部を守ったとの主張が成立するというのがその理由だ。
この戦争をウクライナの全面勝利で終わらせることができると信じている人は多い。筆者もそう望んでいるが、実際には疑わしいと思っている。21年時点で、ロシアの人口はウクライナの3倍を超えていた。国内総生産(GDP)はおよそ15倍。防衛予算は10倍の規模だった。ロシア人は戦時の痛みに耐える能力が高いことで知られる(ソ連が第2次大戦時に2400万人の人口を失ったのに対し、米国は42万人だった)。またロシア経済は現状緩やかに失速しているが、ウクライナのそれは崖下に転げ落ちてしまった。昨年のGDPは30%前後の縮小を記録。政府支出は(西側の支援による)収入の倍以上に膨れ上がっている。
1300万人以上が難民となり、そのうち約800万人は国外に逃れた。戦争はウクライナの国土で起きている。国内の各都市が爆撃でがれきと化し、工場は完全に破壊され、国民は困窮に陥った。仮に戦争がこのまま何年も人々を苦しめるとするなら、次のように問う価値はあるだろう。――我々がウクライナを破壊させているのではないか。国を救うためという名目で。
●軍事侵攻1年 東部拠点めぐり ロシア側攻撃強めるなど攻防激化  2/26
ロシアによる軍事侵攻が始まってから1年の節目が過ぎました。ウクライナ側の東部の拠点バフムトをめぐり、ロシア側が攻撃を強めるなど攻防が激しくなっています。
ウクライナ東部のドネツク州ではウクライナ側の拠点バフムトをめぐり、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が24日、近郊の集落ベルヒウカの掌握を宣言したのに続き、25日もバフムトの北2キロほどにあるヤヒドネの集落を掌握したと主張しました。
これに対し、ウクライナ側は軍の司令官がバフムトに入り、兵士を激励したと発表し、徹底抗戦する構えを見せています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は25日、ロシア側がバフムト周辺などで僅かに占領地域を拡大していると指摘し、双方の攻防が激しくなっているとみられます。
一方、ロシアでは国営テレビがプーチン大統領のインタビューを行ったとして、26日、国営通信社がその内容を伝えました。
この中でプーチン大統領は、この1年の軍事侵攻について、「国民の結束が成果だ。今後も結束すれば、われわれが負けることはない」と述べ、侵攻を続ける姿勢を改めて強調しました。
またロシアは、NATO=北大西洋条約機構の核戦力を注視しなければならないとして、今後の核軍縮交渉に向けては、イギリスやフランスの核兵器も削減の対象にする必要があると主張しました。

 

●西側、狙いはロシア解体 「団結」が勝利の条件―プーチン氏 2/27
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を巡り「代理戦争」の様相を示している西側諸国との対立について「彼らの目的はただ一つ、旧ソ連とその主な構成国であるロシアを解体することだ」と主張した。もしそうなれば、民族として「ロシア人」が消滅する恐れがあると述べ、国民に危機感を訴えた。
26日放映の国営テレビのインタビューで語った。質疑応答は22日、モスクワのルジニキ競技場で「祖国防衛者の日」(23日)に合わせた大規模な官製集会に参加後、収録された。
プーチン氏はこの中で「国民の団結」を強調し、これこそが勝利の条件とも発言した。
開戦1年に際し、プーチン氏はロシアによる侵略を西側諸国からの「祖国防衛」にすり替える世論工作を強化している。今回はさらに民族の存亡を懸けた自衛戦争だと捉え、国民が団結して長期戦に備える布石を打った可能性がある。
●プーチン氏、ロシア国家・国民の生き残りを賭けた戦争と強調 2/27
ロシアのプーチン大統領は、現在ウクライナに対して進めている戦争について、ロシアの国家・国民が生き残るための戦いだと強調した。国営テレビロシア1が22日に収録したプーチン氏のインタビューを26日に放映した。
1年前のウクライナ侵攻以降、プーチン氏は日増しにロシアの将来が危機に陥っているとの考えを前面に打ち出し、「西側諸国の目的は1つしかない。つまり旧ソビエトとその根幹を成すロシア連邦の解体だ」と訴えた。
さらにプーチン氏は、西側はロシアを分割して世界最大の資源生産国を支配しようとしており、そうなれば多数派のロシア人を含めた多くの国民の破滅につながりかねないと指摘した。
北大西洋条約機構(NATO)や西側諸国は、当然こうした見方を否定し、自分たちの目的は挑発によらざる侵略を受けたウクライナの防衛を手助けすることに尽きると反論。米政府もロシアの壊滅を目指しているわけではないと表明している。
一方プーチン氏は、欧米がウクライナ向けに多額の軍事支援を行っている以上、ロシアは事実上NATOと対決しているのと同じだと主張し、英国とフランスの核戦力を含めた形でない限り、西側との核軍縮協議には応じられないとの姿勢を改めて示した。
●プーチンより恐ろしい ウクライナ利権の独占を目論む中国「習近平の訪露」 2/27
国際社会のさまざまな働きかけも実を結ぶことなく、2月24日に開戦から1年が経過してしまったウクライナ戦争。しかしここに来て、ついにその力を発揮すべく大きな行動に出た中国に注目が集まっています。果たして中国は、世界を破滅から救うことができるのでしょうか。そのカギとして「習近平国家主席のモスクワ訪問」を挙げるのは、元国連紛争調停官の島田久仁彦さん。そう判断する理由を解説。その上で、今年のG7議長国である日本が取るべき動きを探っています。
欧米に一泡吹かせる。習近平のロシア訪問で戦争終結という中国の「好ましい」シナリオ
「中国政府はついにユーラシア大陸を本気で取りに行こうとしているのか?」
王毅政治委員(外交トップ)がミュンヘンでの安全保障会議(MSC)に出席した後、モスクワを訪問してプーチン大統領をはじめとするロシア政府の中心的人物と会談をしたという情報を得た際そう感じました。
ミュンヘン安全保障会議中には、同じく出席していたクレバ外相(ウクライナ)に対して“中国版の調停案”を詳細に説明し、クレバ外相も真剣な面持ちで「真剣に検討する」と述べたのは印象的でした。
そしてその足で王毅政治委員はモスクワに飛び、“中国版調停案”をロシア政府に説明したとのことですが、今のところ、ロシア側の反応については明らかになっていません。
ただ、プーチン大統領が王毅政治委員に対して「できるだけ早く習近平国家主席と会って話がしたい」というメッセージを託したという情報も数筋から来ており、中ロ首脳が近々顔を合わせた時、どのような展開になるのかとても関心があります。
そこで1つ気になるのが【プーチン大統領は習近平国家主席の訪ロを要請していたにも関わらず、中国政府がモスクワに送ってきたのは外交トップの王毅政治委員だった】というアレンジメントです。
重要なのはプーチンの訪中ではなく習近平の訪露
これが意味することについて中国情勢の専門家(調停グループ内の)に尋ねてみたところ、次のような答えが返ってきました。
「断言はもちろんできないが、習近平国家主席が直に出てくるとすれば、ロシア・ウクライナ双方が中国版調停案を停戦協議のベースとして受け入れ、中国に調停・仲介を要請する場合のみだろう。今回、フランスやドイツ、そしてアメリカからオファーされた場合とは違い、クレバ外相が提案を一蹴せずに“真剣に検討したい”と神妙な面持ちで持ち帰ったのは、ウクライナの復興にあたり中国が果たす役割を理解し、期待しているからだと思われる。ロシアによるウクライナ侵攻前から、中国はウクライナに投資しており、中国資本も本格的に進出していることに鑑み、戦後の迅速なウクライナへの復帰をオファーされたのではないか。問題はその提案をロシアも交渉のベースと考えるかどうか。そのためにはワンプッシュが必要となるだろう」
その“ワンプッシュ”とは何なのでしょうか?
調停チーム内のロシア専門家によると、それは【習近平国家主席のモスクワ訪問】です。
「大事なのはプーチン大統領の北京訪問ではなく、習近平国家主席のモスクワ訪問だ。どちらの場合でも話す内容は変わらないだろうが、プーチン大統領が上げた拳を下げるきっかけを与えられるのは、習近平国家主席があえてモスクワに会いに来てくれるという体裁を取ることでプーチン大統領の面子を保つことによってのみだろう。中国はなかなか習近平国家主席カードを切ってはこないと思うが、もし習近平国家主席が仲介をする形でプーチン大統領とゼレンスキー大統領の直接会談が実現したら、これは中国にとってとてもおいしい展開になると同時に、バイデン大統領をはじめとする欧米の(反中国の)リーダーたちに一泡吹かせることに繋がり、それは習近平国家主席にとっても、プーチン大統領にとっても望ましい帰結となるかもしれない」
「人類にとって最悪の事態」を回避するタイムリミット
少し解決に向けた糸口が見えてきたような気はしますが、その実現のためには多くのIFがすべてYESに変わらなくてはなりません。
それは「中国案をウクライナが交渉のベースとして受け入れるか?」「ロシア側も中国案をウクライナとの話し合いのベースとして受け入れるか?」「習近平国家主席自らが調停に乗り出すのか?それともまだそのカードは切らずに、王毅政治委員に調整を任せるのか?」「ロシアとウクライナが中国案への訂正なく話し合いのテーブルに就けるか?」など、なかなか困難な問いが続きます。
仮に中国による仲介の申し出がブレークスルーになるのであれば、次の大きな問いは「いつまでにスタートするか?」「どこで行うか?北京か?それとも第三国か?」というロケーションとタイムラインについての内容になるかと思われます。
By whenというタイムラインについての問いについては、私の私見では「NATOからの軍事支援がウクライナに届き始めるころまでに」となりますが、それは言い換えると日本でいうGW前までにということになります。
このタイミングを逸すると、NATOからの支援を受けてウクライナが対ロ反攻攻勢に集中し、とても話し合いを進めるような心理状態にはならず、戦争は継続され、ここからは究極の消耗戦となります。そして、ロシアが追い詰められていると感じ始めたら、恐らくプーチン大統領本人でさえ制御不能な事態になるかもしれません。それは人類の生存にとって最悪の事態になり得ます。
どこで行うのか?については、現時点では推測ができませんが、中国国内となる可能性は高いと思います。
北京でしょうか?上海でしょうか?それとも…。
それは私には分かりません。
ところで忘れてはいけないのは【欧米諸国とその仲間たちは、中国による調停・仲介を受け入れることが出来るのか?】という問いです。
教訓を学ばずまたぞろ同じ過ちを繰り返す欧州各国
これについては、ウクライナでの戦争が長期化し、戦況が膠着状態に陥ってから、何度かアメリカ政府や英国政府が中国に「もっと役割を果たすべきではないか」と要請していたことを踏まえると、話の行方を詳細に追いかけるとは思いますが、中国による仲介に対して真っ向から反対することはないと考えます。
その理由は【NATOも欧米各国も、自分たちはこの戦争の直接的な当事者ではないという最後の一線を越えないこと】が一つあります。
NATO諸国とその仲間たちは、武器の供与、経済的な支援、国際社会を巻き込んだ厳しい対ロ制裁の発動など、ウクライナに肩入れし、ロシアと対峙する姿勢を鮮明にしていますが、戦争を直接的に遂行はしておらず、停戦協議の当事者とはなり得ないという背景が存在します。
もちろんアメリカ政府も欧州も、中国がまとめようとしている調停案・停戦合意案に対して、物言う権利があるかのように振舞い、当たり前のように外野からいろいろと言ってくるでしょうし、当然、それらの意見は聞き入れられるものと誤解していますが、調停に対して評価は加えることが出来ても、決定的な意見提供や影響力の行使は正当化できないと考えています。
ウクライナ戦争後の世界で何らかの利権を欲し、ロシアの力を削ぎたいと考えている欧州各国は必ず調停がまとまりそうになったら関与しようとしてきますが、EU加盟を遅らせている欧州の真意をウクライナは受け入れることはないでしょうし、ロシアが欧州との仲直りをすることも今後ないと思われます。
本気でウクライナでの戦争を止めさせたいと考えているのであれば、外野からあれこれ口をはさんだり、協議の邪魔をするような行動をしたりしてはいけませんが、恐らく欧米諸国、特に欧州各国はその教訓を学ぶことはなく、また同じ過ちを繰り返すものと予想しています。
国際交渉人も驚愕した中国が画策する仰天プラン
そして欧米諸国が当たり前のようにしてくる口出しは、面子を重んじる中国にとっては許容できないものと捉えられ、すでにアメリカと共に対中包囲網に参加している欧州を中国が許すこともないと思われます。
ロシアと中国は中央アジア・コーカサスにおいて利害対立を経験していますが、欧米主導の世界秩序と余計な口出しに対しての共同戦線をはることでは合意しており、今はウクライナおよび地域からの欧米の影響力の排除に動いています。
そこで驚く内容を耳にしたのが、ウクライナの領土保全と停戦のために、NATOではなく、中国(と協力国)が平和維持・監視部隊をウクライナに派遣するという内容です。
これについては裏付けが取れていませんが、複数ルートから聞こえてくる情報であるため、注目に値すると思います。とはいえ、この案を支持するかと言えば微妙な感覚なのですが、もしロシア・ウクライナ双方が受け入れ可能であれば、それで停戦につなげることが出来ることになるため、それもありかとも考えます。
ただ想像に難くないように、ウクライナにおける戦後復興のディールから締め出されるG7各国とNATO諸国は中国による調停に激しく反発することになります。
そこで起きうるシナリオは2通り考えられます。
1つ目は【欧米諸国による工作で起きてしまう戦争の継続と激化】です。この場合、すでに現在起きているように、欧州各国は共同武器弾薬融通システムによって戦時体制での軍事物資の生産に入り、すでに売り先・供給先が決まっている状態ですので、戦争が継続することで、沈み込んだ経済を復活させる起爆剤になり得ます。とはいえ、それはウクライナ国民の多大な犠牲と、欧州各国市民の経済的なさらなる犠牲のもとになされることになるという現実が突き付けられます。
欧米諸国が巡らせるエゴイスティックなどす黒い思惑
2つ目は【欧米諸国とその仲間たちの間での分裂】です。ロシアによるウクライナ侵攻から1年経ってはっきりしてきているのは、欧米諸国とその仲間たちの関心は、戦争の終結や勝敗よりも、戦後のウクライナ、そして弱体化したと思われるロシアにおける利権の獲得に集中していることです。
かつてのイラク戦争の裏で繰り広げられた欧米諸国による石油利権争いがそのいい(悪い)例ですが、穀物、鉱物、そして豊富なエネルギーを握るロシア・ウクライナにおいて、いかに自国の影響力を拡大するかに、欧米諸国とその仲間たちの関心が移っています。
このような状況下で起きうるのが、ロシアへの対抗とウクライナ支援で一枚岩になっていたはずの姿勢が揺らぎ、それぞれが仲間を出し抜こうとする、何ともどす黒い思惑・企てです。
陰謀論だと揶揄されるかもしれませんが、イラクやアフリカ各地の紛争で起きたように、残念ながら必ず欧米諸国は分裂します。
ロシアとの距離の近さを活かしてフランスはロシアに取り入るかもしれませんが、同時にウクライナにも触手を伸ばしています。英国はあからさまにウクライナに触手を伸ばしていますし、ドイツは表立ってはロシア批判を繰り広げつつも、すでにドイツ政界の深部にまでしみ込んでいるロシアの影響力を反映して、ロシアとの関係維持に努めつつ、同時に戦後のロシアに対する力のバランスを少しでも有利にするために、ウクライナを通じてロシアをできるだけ弱体化させたいと考えて動いています。
アメリカは、特にバイデン大統領はロシアが大嫌いという思いではありますが、外交安全保障上の重点は中国を含むアジア太平洋に置かれており、一刻も早く中国との対峙に専念することを目的として、ウクライナを支援し、ロシアを弱体化してアメリカにとっての近未来的な脅威にならないようにしたいと画策していると思われます。
中露との断絶は不可能。G7の議長国・日本の苦悩
もしこのような構図がすでにできているか、今回の中国による調停・仲介申し立てによってできつつあるのであれば、これこそプーチン大統領が狙い、習近平国家主席の中国が狙う欧米による反中ロ包囲網の切り崩しに向けて着々と進んでいることになります。
それは言い換えると【欧米諸国の分断】であり、G7の弱体化につながり、そして新しい世界秩序作りに向けた動きに繋がることになります。
そのような混沌とした国際情勢において、今年G7の議長国を務める日本はどのように動くとよいのでしょうか?
他のG7諸国と大きく違うのは、その地政学的な位置づけでしょう。中国が隣にいて、ロシアも極東部で隣にいます。残念ながら、他のG7諸国と違って中国と断絶した国際情勢を選択することはできませんし、エネルギー安全保障上のジレンマから、ロシアとの断交もまた選択肢として存在しないと考えられます。ゆえに、中ロとの付き合いをやめるわけにはいかず、何らかの形で復旧可能な状態をキープしておかなくてはなりません。
G7諸国から見れば、日本の存在は中国とロシアに対する勢力拡大阻止のためのストッパーという位置づけだと聞いたことがありますが、その道を今年日本は選ぶことにするのでしょうか?
それとも、先週号で私が望んだように、トルコが大地震後の影響に忙殺されている中、ロシア・ウクライナの戦争のみならず、国際情勢のこれ以上の分断を回避するための調停役を果たすことを目指すのでしょうか?
もしそうだとするならば、中国にそのお株を奪われることなく、要せば中国とも協力して、ぜひ国際情勢のバランサーとしての役目を極めていただきたいと願います。
ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経ちます。これからの国際情勢はどうなっていくのか?
その中でいろいろな役割を果たす身として、とても懸念を抱くと同時に、なぜかとてもワクワクしています。
以上、国際情勢の裏側でした。
●ロシア軍拠点で爆発か 反政権派「破壊工作」主張―ベラルーシ 2/27
ベラルーシの独立系メディアは26日、首都ミンスク郊外のマチュリシチ空軍基地で、同日未明から朝にかけて複数回の爆発があったと伝えた。ベラルーシはロシアのウクライナ侵攻に協力している。同基地はロシア軍の拠点で、極超音速ミサイル「キンジャル」を搭載したロシア軍機が離着陸しているとされる。
反政権派に転じた元ベラルーシ軍・治安当局者の組織は当初、爆発の結果、ロシア軍の輸送機と除雪車が損傷を受けたと発表。その後、損傷したのはA50早期警戒管制機だったと説明を改め、反政権派の破壊工作員がドローンで攻撃したと主張した。ロシア、ベラルーシ両軍とも爆発を確認していない。
●米国産原油の欧州向け輸出が急増、ウクライナ戦争で  2/27
開戦から1年を迎えたロシア・ウクライナ戦争の影響で米国の原油輸出が活気づき、金融面の影響力や地政学的な力の源となっている。
欧米諸国がロシア産エネルギーの大半を敬遠し、ロシア政府の石油収入に圧力をかける中、米国の原油輸出が記録的に増え、ガソリンやディーゼル、ジェット燃料の生産に必要な原油に関して欧州の不足分を補っている。
船舶追跡会社ケプラーによると、ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月以降、欧州への月平均海上貨物量は、その前の12カ月に比べて38%増えた。超高層ビルに相当する大きさのタンカー船団が、欧州連合(EU)の経済大国であるドイツ・フランス・イタリアやスペインにより多くの原油を運んだ。スペインだけでも、この期間の購入量が約88%増加した。
メキシコ湾岸から欧州に向かう原油輸出量(ケプラーによると1月は日量153万バレル)が増えた結果、この数カ月の米国産原油の輸出規模は欧州向けがアジア向けを上回った。
輸出の増加は、市場での影響力が低下していた米国産原油の復活に向けた新たな節目となる。第1次・第2次世界大戦中は石油輸出が連合国を支えたが、その後、生産量は減少し、世界市場に対する米国の影響力も低下した。
米国は現在、水圧破砕および水平掘削技術によるシェールブームによって再び主要生産国となった。ウクライナ戦争によって開かれた目的地へ化石燃料を運ぶ準備が整っている。
ホワイトハウスによると、昨年は米国の欧州向け天然ガス輸出量が2倍超に増加し、ロシアの供給制限に伴う家計や製造業企業への打撃を和らげた。アナリストらの話では、欧米諸国がこの数カ月、禁輸措置や価格上限という新手の措置によってロシアからの原油輸出の大部分を制限したことから、米国での原油生産急増が市場を落ち着かせるのに役だった。
エネルギー史学者でS&Pグローバル副会長のダニエル・ヤーギン氏は「米国は世界のエネルギー面で1950年代以来の支配的地位を取り戻している」とし、「米国産エネルギーは現在、欧州のエネルギー安全保障の基盤の一つになりつつある」と述べた 。
●中国が唐突にウクライナ戦争仲介に乗り出した狙いは何なのか 2/27
「中国の『仲介外交』は空振りに終わった」――早くもこんな声が、アメリカを始めとする西側諸国で広がっている。中国はウクライナ戦争に関して、一体何をしようとしているのか?
12の立場
ロシアによるウクライナ侵攻から丸一年が経った2月24日、中国が唐突に、「ウクライナ危機を政治的に解決することに関する中国の立場」と題した文章を発表した。そこには「12の立場」が示されていて、以下の通りだ。
(1)各国の主権の尊重、(2)冷戦思考の放棄、(3)停戦、(4)和平交渉開始、(5)人道危機の解決、(6)市民と捕虜の保護、(7)原発の安全確保、(8)戦略的リスク(核のリスクなど)の減少、(9)食糧輸出の保障、(10)一方的制裁の停止、(11)サプライチェーンの確保、(12)戦後復興の推進
また、2月14日から22日までは、中国外交トップの王毅氏(党中央政治局委員兼中央外事工作委員会弁公室主任兼国務委員)が、フランス、イタリア、ドイツ、ハンガリー、そしてロシアを歴訪。ウクライナ戦争の解決へ向けて、積極的な振る舞いを見せた。日本の林芳正外相とも、ミュンヘンで会談した。
ウクライナ戦争は、周知のようにこれまで、「ロシアvsウクライナ」、そしてウクライナを支援するNATO(北大西洋条約機構)という構図で展開してきた。ところが、侵攻から丸一年を経て、これまで「沈黙」を保ってきた中国が、急に「表舞台」に名乗りを上げた格好だ。
これまで丸10年にわたって、「習近平外交」を注視してきた私には、中国は主に「4つの目的」を持って動いているように見受けられる。それらを以下に詳述する。
目的1:習近平主席の「善行」を世界にアピールする
中国では3月5日から、年に一度の全国人民代表大会(国会に相当)が10日間ほど開かれ、そこで習近平総書記の「国家主席3期目」が決議される。そして、首相以下を刷新して、3期目の習近平政権を発足させる。本来なら、2期10年を経て今回、引退すべきところだが、習主席は5年前の全国人民代表大会で、強引に憲法を改正して、自らの半永久政権への道筋をつけた。
そうした事情から、中国国民の間では、3期目の習近平政権について、それほど「歓迎ムード」が盛り上がっているわけではない。悪評紛々の昨年までのゼロコロナ政策によって、昨年の経済成長率は3.0%に沈んだ。また、2013年以来続けてきた「プーチンべったり外交」も、ロシアのウクライナ侵攻によって、一定の修正を余儀なくされた。
こういう時、中国でいつも「盛り上げ役」を果たすのは、官製メディアである。2月25日からCCTV(中国中央広播電視総台)は、「総書記的人民情懐」(習近平総書記の人民への心遣い)と題した大々的なキャンペーンを始めた。
この特集番組によれば、習近平主席はこの10年で、100カ所以上の中国の農村地域を視察し、「黄土を金に変えていった」という。習主席の「熱愛人民、造福人民」(人民を熱愛し、人民に福をもたらす)の様子が、次々と脚色されて喧伝されていく。
中国各地の労働者や農民らが、習主席に対する感謝感激を、大仰に語る。習主席が、「中国一定行! 中国一定能!」(中国は必ず為す、中国は必ずできる)と14億人民を鼓舞し、「十年的偉大変化」(10年の偉大な変化)を中国にもたらした「百姓的貼心人」(庶民に心優しき人)というわけだ。
こうした一種の「洗脳番組」の後に、「『ウクライナ危機を政治的に解決することに関する中国の立場』を発表した」というニュースが続くのである。そして今度は、ハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外務・貿易大臣以下、世界中に散らばる「親中派」の面々が、「中国の発表がいかに素晴らしいか」を称賛していった。
中国においては常に、「外交は内政の延長」である。つまり、3月に3期目の政権を発足させる習近平主席の「善行」をアピールしようとしたのだ。
目的2:NATOの分断
昨年6月にマドリードで開かれたNATO首脳会合に、初めて、日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランドの首脳が招かれた。日本からは、岸田文雄首相が参加した。そこで採択された今後10年のNATOの行動指針「戦略概念」では、中国の「組織的な挑戦」を明記した。
この時から中国は、「NATOが東アジアにやって来る」と、一気に危機感を強めることになった。今年1月29日〜2月1日には、NATOのイェンス・ストラテンベルグ事務総長が韓国と日本を訪問。日本とNATOは共同声明を出して、「中国の急速な軍事力の強化及び軍事活動の拡大」に対する非難を明確にした。
こうしたことから、中国としては「機先を制す」、すなわち「NATOが東アジアにやって来る前に、中国がNATOを分断する」ことを謀ったのではないか。具体的には、ヨーロッパに改めて接近し、ますます中国への締め付けを強めるアメリカから引き離そうという戦略だ。
実際、ウクライナと地続きのヨーロッパは、アメリカ以上に「ウクライナ支援疲れ」が広がっている。インフレは一向に収まらず、経済は中国頼みだ。「中国が仲介役を果たそうというなら、それに乗ってもよいではないか」となびきやすい環境にある。
目的3:ロシアとの差別化
これは特にアメリカに向けてだが、「残虐な悪魔」ロシアと、「平和の使者」中国を、一緒くたにするなと言いたいのではないか。中国は「一帯一路」というユーラシア大陸の平和的発展の枠組みを提唱しており、国連と共同歩調で「人類運命共同体の構築」を唱えているではないかというわけだ。
中国はロシアとの「限度のない友好関係」を強調していながら、一方で「ロシアとは違う」という自負も持っている。
目的4:台湾問題に活用
中国のあらゆる外交は、台湾問題に通じる。中国には「4年前の教訓」があって、それは香港の民主化デモを弾圧しすぎたせいで、2020年1月の台湾総統選挙で、蔡英文総統を再選させてしまったことだ。
このため、来年1月の次期総統選挙では、何としても中国に友好的な野党・国民党候補に勝たせたい。そのためには、「平和を希求する中国」をアピールする必要があるのだ。

以上、「4つの目的」を示したが、やはり中でも「目的1」が大きい気がしてならない。その意味で、3期目習近平政権の外交も不透明である。
●ロシア軍 東部で攻撃強める一方 “装甲車破壊”で戦力消耗か  2/27
ウクライナでは東部ドネツク州の拠点、バフムトに対し、ロシア軍が攻撃を強め、ウクライナ側は市民に死傷者が出ているとしています。一方、イギリス国防省は同じドネツク州内でロシア軍の精鋭部隊の装甲車が破壊されているのを確認したとしていて戦力を消耗していることもうかがえます。
ウクライナ東部ドネツク州のキリレンコ知事は26日、ロシア軍のロケット弾による激しい攻撃が前日の夜から朝まで続いたとみずからのSNSで明らかにしました。
この攻撃で、ウクライナ軍の拠点バフムトやその近郊の町で市民3人が死亡し、4人がけがをしたということです。
一方、イギリス国防省は26日、ドネツク州の激戦地のひとつ、ブフレダルを撮影した衛星写真の分析として郊外でロシア軍の装甲車10台が破壊されているのを確認したとしています。
イギリス国防省は、この装甲車はロシア軍の精鋭部隊とされる第155海軍歩兵旅団のものとみられるとして、「この部隊は経験の浅い動員兵を補充せざるを得なくなっていて能力が格段に低下しているとみられる」と分析しています。
ロシア側は、バフムト周辺の集落の掌握を宣言するなどわずかに占領地域を拡大していると見られていますが戦力を消耗していることもうかがえます。
●ゼレンスキー氏「ロシアの侵略はクリミア強奪から始まった」…奪還強調  2/27
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は26日のビデオ演説で「クリミアの解放により、人々の生活を破滅させるロシアのあらゆる試みに終止符を打つ」と述べ、南部クリミアの奪還を目指す考えを改めて強調した。
26日は、2014年にクリミアを一方的に併合したロシアへの抵抗運動が始まった日とウクライナで定めている。ゼレンスキー氏はこの日に合わせて演説し、「ロシアの侵略はクリミア強奪から始まった」と述べた。
ウクライナ外務省は26日、クリミアの不法占拠の終結を目指す外交枠組み「クリミア・プラットフォーム」の参加国などと共同声明を発表した。声明では、クリミアを含むウクライナ領からの露軍の完全撤退や、ロシアの併合に抵抗する先住民族クリミア・タタール人への弾圧の停止を求めた。
ウクライナ最高会議(国会)の人権オンブズマンは26日、ロシアが180人の政治犯を不法に拘束し、このうち116人がクリミア・タタール人だと発表した。
●戦車を供与した欧米諸国はそれでもなぜ「戦闘機の供与」に踏み切れない? 2/27
Q 戦車の供与と戦闘機の供与、その差は何?
ウクライナ情勢をめぐって、ウクライナ側からは欧米諸国らに「戦闘機を供与してほしい」と要望が上がっています。傍から見た印象としても、戦車の供与と比べて各国の首脳の反応は慎重なように見えるのですが、戦車の供与と戦闘機の供与の間には一体どのような“ちがい”があるのでしょうか。(50代・男性・会社員)
A 戦車は地上を走りますが、戦闘機は…
戦車は地上を走りますから、ウクライナに侵攻してきたロシア軍をウクライナ国内で迎え撃つことができます。つまり、自国防衛用として運用でき、ロシアへの脅威になりにくいのです。
これに対し、戦闘機は簡単にロシア上空に達することが可能ですから、ロシアへの攻撃に使われる可能性があります。各国は、自国が供与した戦闘機がロシア本土への攻撃に使われた場合、ロシアによる報復攻撃や第三次世界大戦になってしまうことを恐れて、戦闘機の供与に慎重になっているのです。
また、戦闘機は戦車より高額ですし、戦闘機を渡せば済むというものではありません。戦闘機を有効に飛ばすためには、膨大な部品や補給品が必要だからです。とてつもなく費用がかかる上に、地上での支援要員が必要になります。それだけの人員の要請にも時間と費用がかかるからです。
●ロシア軍の精鋭部隊「能力低下」、英国防省分析 2/27
英国防省は26日、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地で破壊されたロシア軍の複数の装甲車両とされる衛星画像を公表した。前線に展開した精鋭部隊、第155独立親衛海軍歩兵旅団に所属する車両とみられる。同省は、精鋭部隊が軍事作戦を遂行する能力は「ほぼ確実に大幅に低下した」と強調した。
画像はドネツク州西部ウグレダル近郊を9日に撮影したもので、ロシア車両10台の破壊が確認された。ウクライナ軍はその後、ロシア精鋭部隊が「ほぼ壊滅」したと主張したが、英国防省は、ロシアが部隊の立て直しを図るため経験の浅い兵士らを動員しているとの見方を示した。
ウクライナ軍は26日、ロシアが昨年2月の侵攻開始以来、兵士14万8000人、戦車3380両、装甲戦闘車両6600台、軍用機・ヘリ590機などを失ったと分析した。
ただ、ドネツク州の別の激戦地バフムト周辺では、ロシアとウクライナの攻防が続いている。ロイター通信によると、ロシア民間軍事会社「ワグネル」の創設者エブゲニー・プリゴジン氏は25日、バフムト北郊の小村を占領したと表明した。
一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、北大西洋条約機構(NATO)主要加盟国の英国、フランス、ドイツが、NATOによるウクライナ支援強化に向けた協定の締結を検討していると報じた。高性能兵器の供与などが盛り込まれる見込みだが、NATOの根幹を成す加盟国同士の集団防衛は適用されないという。 
●「プーチンは側近に殺される」と ゼレンスキーが語る 2/27
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は最終的に、自分に最も近い側近に殺されるだろう、とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は考えている。
ロシアのウクライナ侵攻1年目にあたる2月24日、ウクライナ人ジャーナリストのドミトロ・コマロフ制作のドキュメンタリー『Year』が公開されたが、そのなかで、ゼレンスキーはこの考えを口にしている。最終的にプーチンの指導力が「脆弱化する」時が訪れ、自分の支持者に刃を向けられるだろう、と彼は予測している。
「ロシアでプーチン政権の脆弱さが感じられる瞬間が必ずやってくる」と、ゼレンスキーは語った。「その時、肉食獣は肉食獣を食らうだろう。それは非常に重要なことだが、正当化する理由が必要になるだろう。彼らはコマロフやゼレンスキーの言葉を思い出すことだろう。殺人者を殺す理由を見つけるだろう。うまくいくか?いつになるか? それはわからない」
ここ数カ月、プーチンの側近の間で不満が高まっているという臆測が頻繁に報じられている。ウクライナでの戦争が長引き、ロシア軍が歴史的に壊滅的な損失を被り、どちらの側にも決定的な勝利が見えないからだ。
昨年12月、ワシントン・ポスト紙は、プーチンに最も近い側近たちが、プーチンは自分が何をしているのかわからず、ウクライナで前進する確固たる計画もないと見て、プーチンに対してますます不満を募らせていると報じた。
側近の反逆は突然に
この記事によると、特に、プーチンが年末恒例の記者会見を中止したことに不満が集中しているようだ。対ウクライナ戦争の明るいニュースがなく、共有する予定もないため中止したのではないかという憶測が流れている。この記者会見はこれまで、長時間かけて徹底的に質疑応答が行われる重要なイベントだった。
情報筋でも、プーチンが側近の手で権力を剥奪される可能性を強調することが多い。元CIA職員のダニエル・ホフマンは、昨年夏にデイリー・ビーストとのインタビューで、プーチンが側近によって追放されるとしたら、突然、秘密裏に行われるだろうと述べた。
「それをやろうとする人々は、プーチンに見つかって先に殺されてしまわないように、秘密裡にことを進めるだろう」と、ホフマンは説明した。「それは突然に起こる。そしてプーチンは死ぬだろう」
●サウジ外相がウクライナ訪問、4億ドル支援表明…「ロシア一辺倒」批判回避 2/27
サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハン外相が26日、ウクライナの首都キーウを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領らと会談した。ウクライナ大統領府によると、サウジの外相がウクライナを訪問したのは1993年の国交樹立後、初めて。
世界屈指の産油国サウジは同じく資源大国ロシアとの協力関係を維持しており、米欧主導の対露制裁にも参加していない。今回の外相訪問には「ロシア一辺倒」との批判をかわす狙いがあるとみられる。ファイサル外相はキーウでの記者会見で「緊張緩和と平和的解決に向け、貢献していく用意がある」と表明した。
ウクライナ大統領府長官はサウジが4億ドル(約545億円)の支援を表明したことを明らかにした。内訳は人道支援が1億ドル、3億ドルが石油製品で、サウジは軍事支援には踏み込まなかった。
ウクライナには16日、イスラエルの外相もロシアの侵略開始後、初めて訪れており、ロシアとウクライナとの間で均衡を取ろうとする動きが広がっている。
一方、ロシアの同盟国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は25日、プーチン露大統領と24日、「長時間、電話で話した」ことを明らかにした。ルカシェンコ氏は28日から中国訪問が予定されており、主要議題になったとみられる。
 

 

●学徒出陣 人海戦術で戦死多数ロシア軍が準備する「動員命令書」 2/28
開戦2年目を迎えようというタイミングで、突如ウクライナ戦争の仲裁役を買って出た中国。彼らが提示したという停戦案を、当事国が受け入れることはあり得るのでしょうか今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、中国をはじめ各国の思惑を分析しつつ、その可能性を考察。さらにアメリカが懸念する、ロシアの崩壊なしでの停戦が引き起こしかねない事態を紹介しています。
ロシア軍の巧みな攻撃で「バフムト包囲」へ前進。ウクライナ軍の撤退は近いのか?
ロ軍が人海戦術とワグナー軍の巧みな攻撃でバフムト包囲を着実に前進させている。ウ軍のバフムト撤退が近いか、ワグナー軍の消耗が早いかという事態である。今後の戦況を検討しよう。
ウクライナ戦争も2年目に入った。冬のロ軍大規模攻勢の成果がバフムトで少し出ているが、それ以外は見るべきものがないようである。ロ軍が攻勢に出たのは、クピャンスク方面、クレミンナの反撃、バフムト包囲、ボハレダラであるが、バフムトだけは、ウ軍守備隊に大増援をして、ロ軍の人海戦術の進撃スピードを止めているが、ワグナー軍は巧みに前線を突破してくるが、その他は前進できないでいる。
「ゾンビが突撃してくる」。犠牲無視の攻撃を各部隊に命令する露現地司令官
ワグナー軍は、ザリジネスク手前まで占領し、直角に曲がりM03高速道路に向け攻撃し、M03号線を超えて西側のベルキウカを攻撃している。そこを超えて、地方道00506線を切りたいようだ。しかし、ザリジネスクの街は、ウ軍が防衛している。
ウ軍は、第30機械化歩兵旅団を投入しているが、ワグナー軍は10人程度の歩兵グループを多数波状的に分散して突撃させて、ウ軍陣地を突破する。突破すると、人数を増やしてその陣地を奪い、次の陣地に向けて、突撃を開始する。ワグナー軍は近代的戦術と取り入れているが、ロ軍は、ソ連式の人海戦術で単純に押すしかなく、その戦術面でも大きく違う。
このため、重機関銃の銃撃が間に合わないようである。ゾンビが突撃して来るともウ軍兵士は表現する。勿論、大量のワグナー軍の戦死者が出ているが、ゲラシモフ総司令官の3月末までに、バフムト占領をしろという命令に、現地司令官も犠牲無視の攻撃を各部隊に命令している。
また、ロ軍とワグナー軍は、パラスコビイウカを全面的に占領して、M40号線を超えてヤギドリウカも占領した。こちらもワグナー軍の波状突撃で、徐々にウ軍は後退している。ステプキー駅周辺の陣地からも退却した。
ウクライナの攻勢発動で戦線維持が絶望的となるワグナー軍
戦車などで、ワグナー歩兵を止めないといけない。しかし、ワグナー軍の歩兵数も少なくなり、どこまでワグナー軍が活躍できるかはわからない。特に前線に全兵力を投入して、後方に予備部隊を置いていないことで、もしウ軍の攻勢が発動すれば戦線の維持は絶望的だとみる。
このため、ウ軍はヤギドリウカでは、予備役の後方に居た機械化歩兵部隊が反撃に出ている。そして、ヤギドリウカ方向から攻撃してくるロ軍を足止めするべくスタフカのダムを破壊した。これにより北部から攻撃してくるワグナー軍の進撃を滞らせたいようだ。
しかし、これにより、メインのM03補給路は切断された。
補給路としては、地方道の00506道とT0504主要道しかなく、その道路もロ軍の砲撃にさらされている。この地方道も切りにワグナー軍が攻撃している。非常に危機的な状態になってきた。バフムトからウ軍撤退の可能性も出てきたようである。
この状況で、ゼレンスキー大統領も、バフムトを固守はしない、状況が悪ければ、縦深防御のために下がることはあると言い始めた。
バフムト市南側のロ軍は、攻撃力がない。ワグナー軍とは違い、全然、前進できずにいる。南にあるマリウポリスケ墓地地区では、ウ軍が反撃している。ロ正規軍とワグナー軍の技量の差が大きい。
実現不可能となった「3月末までのバフムト占領」という露軍総司令官からの命令
それと、ロ軍の人員損耗が激しく、攻撃要員が不足になり、攻撃力が弱まり、攻撃地点を絞っているようである。特にワグナー軍は、西側のベルキウカとヤギドリウカの攻撃を重点的に行い、バフムト東側や南側は、ロ軍部隊が中心になり、前進できないでいる。一部ワグナー軍もいるが、少数なので、ウ軍特殊部隊が反撃している。
バフムトの南側のイワニフカにロ軍が攻撃しているが、ウ軍機甲部隊が反撃して、郊外まで押し戻した。T0504主要道の交差点にもロ軍は攻撃したが、ここもウ軍機甲部隊に撃退されて、押し戻されている。このため、その地点より南のクルデュミフカを、ロ軍は攻撃し占領したが、この先でウ軍守備隊が撃退した。
ということで、T0504主要道を補給路として、ウ軍は確保したようである。ウ軍は、3月末までバフムトを保持できるめどがついた。ゲラシモフ総司令官の3月末までにバフムトを占領しろという命令は実現できないようである。
この状況で、ワグナー軍のトップであるプリゴジンは、「ワグナー軍に弾薬などの補給がなく、ワグナー軍兵士が多数死んでいる。ロシア国民は、ロシアのためにジョイグ国防相やゲラシモフ総司令官にワグナー軍への補給をするように、要求してくれ」と投稿した。
この投稿に応えて、カディロフは、「ワグナー軍は成功している」と述べて、ロ軍に補給を優先的にするべきとした。そして、カディロフも民間軍事会社を立ち上げて、世界から優秀な戦闘員を集めるという。動員兵中心のロ軍兵の士気が低いので、戦闘に勝つためには、世界から優秀な戦闘員を集めるしかないと見たようだ。
次の動員で最前線に送られるロシアの大学生
しかし、なぜ、ワグナー軍に補給されなかったのかというと、ロ軍の弾薬の保管状態が劣悪だったことで使用できる弾薬が少なく、結果的にワグナーへの弾薬も不足したのではないかとの見解も出ている。
この状況でも、現時点で、ウ軍陣地を突破できているのは、ワグナー部隊しかないことで、ロ軍のゲラシモフ総司令官も、ワグナーに優先的に弾薬を補給するしかない。
プリゴジンもロシア国民の要求で、ゲラシモフ総司令官も補給をし始めたと投稿している。このことからか、プリゴジンとカディロフの両名は、プーチンの年次教書の講演会に出ていない。ロ軍への不満から、プーチンへの不満になってきているようだ。
ということで、ロシア内部の政争で前線のロ軍全体の力も落ちると期待したが、それはなかったことになる。ウ軍にとっては、残念だ。
バフムトの北のフェドリフカにロ軍が攻撃をしているが、ウ軍は撃退している。ワグナー軍がいない地点は、ウ軍守備隊で撃退できるが、ワグナー部隊の攻撃は、相当な練度を積んだウ軍兵士多数が必要であろう。
全体的に、ロ軍の積極的な攻撃で、秋の動員兵も戦死者が多く、残数が少なくなっている。このため、次の動員を考える必要があり、現時点で生産活動をしていない学生動員に向けた準備をしている。
動員準備命令書には、トムスク大学の動員対象の学生名簿の作成を指示ししている。次の動員は、学徒動員になることが明確である。
バフムト以外ではウクライナ軍に歯が立たぬ露軍
ドネツクのボハレダラには、ロ軍海軍歩兵部隊が、戦闘参加を拒否しているという。このため、ロ軍も攻撃できなく平穏無事な状態になっている。アウディーウカ要塞の包囲作戦もロ軍は行っているが、ウ軍守備隊に撃退されている。
マリンカにもロ軍は攻撃しているが、ここでも撃退されて、大損害を出している。
バフムト以外では、ロ軍の攻撃力が弱く、秋の動員兵の訓練が十分ではないようであり、ウ軍の守備隊や増援部隊に負けている。
訓練不足で多数の戦車を失い前進できぬ露軍
ロ軍が、大量の人員と戦車、装甲車を集めて大規模攻撃に出てきた。ロ軍の攻勢でディプロバを一時占領して、クレミンナの西側のウ軍は後退したが、精密砲撃で多数の装甲車や戦車を破壊して、再度ディプロバを取り戻したようだ。
このため、前進できずにいる。ロ軍機甲部隊の訓練不足でT-90などの新しい戦車などが破壊されているし、航空優勢がないので、ウ軍を叩けていない。もう1つが、HIMARSの射程外に補給基地を置いていることで、補給ラインが長く、補給も十分でないようだ。
クピャンスク方面でもロ軍が攻勢に出ている。ロ軍がフリャニキウカ、シンキフカ、マシュチフカなどを攻撃しているが、ここでも前進できない状態になっている。何週間も同じ地名が出てくることになる。
ついにウクライナに引き渡されたレオパルト2
マリウポリで12回の爆発があったようだ。HIMARSでは射程範囲外であり、150キロ射程のGLSDBが使用されている可能性がある。GLSDBを発射できる発射機が少ないので、現時点では同時に攻撃できる地点が1ヶ所だけのようだ。
マリウポリは、ロ軍兵站の一大拠点であり、ここを効率的に攻撃されると、南部のザポリージャ州、ヘルソン州への軍事物資が滞ることになる。
しかし、HIMARSを前線近くに移動して、ギリギリの距離で攻撃したともいう。まだ、どちらかは分からない。
HIMARSについては、ロ軍は30両近くを破壊したというが、チェコがHIMARSのデコイをウ軍に多数提供して、そのデコイは前線近くに置いているようで、ロ軍が破壊したのは、デコイのようである。このため、時々には本物のHIMARSも前線に出している可能性がある。
一方、ロ軍は、50年以上も前の古いBTR-50を出てきた。このBTR-50は1952年に開発され1954年にソ連地上軍に制式採用された。この古い兵員輸送車を復活させている。弾薬と兵器の枯渇が徐々に進んでいることで、大攻勢を掛けても、装備も訓練が十分でもなく、攻撃力も弱い。
一方、ポーランドは24日、同国が保有するレオパルト2A4戦車4両をウクライナに引き渡した。ウ軍に欧米製戦車の受領は初めてであり、兵器の欧米化が進むことになる。通常兵器での優位性が徐々に上がってくる。それと、ポーランドのモラヴィエツキ首相は「数日以内に60輌のPT-90も到着するだろう」とキーウで発表した。
さらに、ポーランドのブラスザック国防相は「国内に残るT-72やBMP-1を提供してウクライナ軍の旅団を編成する」というので、相当な数の戦車を渡すことになる。ポーランドは30両のレオパルト2A4を提供するし、ドイツは18両のレオパルト2A6を供与する。
スウェーデンも、10両のレオパルト2A5戦車を提供するとしたし、フィンランドも3両、スペインも6両、カナダも8両提供するとした。米国も多数のM1エイブラムスを提供するし、レオパルド1も大量に提供するということで、春までには大攻勢を行える戦車もそろうことになる。
中国は100機もの攻撃用ドローンをロシアに提供か
2月20日にバイデン米大統領がキーウを訪問した。5億ドルの主に弾薬の供与が発表された。21日には、プーチンが年次教書を発表したが、米ロ核軍縮の新STARTの参加を停止するとしたが、他は今までと同じであり、代り映えしなかった。ロシアも長期戦の覚悟であることが分かった。
中国の外交トップの王毅政治局委員がロシアを訪問して、ロシアに武器を提供する可能性について、ブリンケン国務長官が警告したが、100機の攻撃用ドローンをロシアに提供するようである。中国は、否定している。
当初24日に習近平国家主席が和平提案の演説をする予定であったが、その文書のみが出てきた。国際法の尊重や国家主権と領土の維持と書いている。
しかし、ロシア訪問時に、王毅氏とラブロフ外相の会談で和平協議の話は出なかったとラブロフ外相はいう。ロシアは、ロ軍が少し引く停戦に反対したようである。プーチンと王毅氏の会談は、プーチンの一方的なトークであり、王毅氏は圧倒されていた。
習近平と金正恩を抱き込み第3次世界大戦目論むプーチン
中国の心配は、ロシアの消滅であり、ロシアが負ける前に少し引いてでも停戦する必要があるとみているが、和平案では主権維持とあるが、具体性がなく停戦しか述べられていない。プーチンにやりこめられたようである。
そして、メドベーシェフ前大統領は、ロシアがウクライナ国境に押し戻されたら、ロシアは消滅する。このため、ロシアが負けそうなら、核兵器を使用するということになるという。
既に、タタールスタン、バンコルトスタン、チェチェン、ダゲスタン、サハなどの共和国は、自治拡大を要求しているが、ロシアが負ければ独立する可能性が高い。よって、ロシアの消滅も現実的に起こりえる。
プーチンも「祖国防衛の日」に核兵器の充実を図ると述べている。通常兵器での戦争に勝つ見込みがなくなっているからだ。
このため、プーチンは、この戦争に中国を巻き込みたいようであり、プーチンと習近平と金正恩、そしてイスラム革命防衛隊のタッグを組み、欧米諸国に勝つことである。これの意味することは、第3次世界大戦である。
プーチンが戦争勝利に執着する理由
しかし、中国はロシアに損切させて停戦することを望んでいる。1年前の2月24日以前の状態で停戦するべきとみているようだ。ウクライナのゼレンスキー大統領も中国の提案に、一定の要素を歓迎するとしつつも、戦争が行われている国のみが和平案を策定すべきという認識を示したが、中国政府の提案について協議するため、習近平国家主席との会談を計画していると述べた。ロシアは、現状での停戦と解釈して、中国の提案を歓迎している。
しかしブリンケン米国務長官は24日、中国が発表した仲裁案に対して、「公正で持続可能な」和平を通してロシアに再武装を行うことを許してはならないとし、中国の停戦を巡る提案に惑わされてはならないとした。
しかし、ウクライナの望む平和が戻れば、ロシアは経済と人口の減少に直面する一方、ウクライナは西側の新たなメンバーになり、発展することになる。これがプーチンにもわかるので、勝つことに執着しているようにも見える。
一方、ウクライナは、レオパルト2戦車が届き始めていて、戦争には勝つとの自信を深めている。
事実、レズニコフ国防相は、「今、私たちは新しい時期に入っている。新しい、『勝利』という課題とともにだ。今日、議題にある主な質問は、ウクライナの勝利はどのようなものとなるかである。返答はシンプルだ。勝利とは、1991年国境まで私たちの領土を全て解放し、ロシアからの危険を除去することである」と自信をもって語っている。
中国が懸念する「ロシア消滅」後の世界
ウ軍の自信から、イスラエルもイランの兵器工場をたたき、ロシアへのドローンやミサイル提供を阻止するように動いている。その代わりにヨルダン川西岸の入植地を認めるように、米国に働きかけている。しかし、バイデン政権は認めないようであるが、黙認する可能性がある。
中国は、反米勢力のロシアが消滅して、反米陣営が少なくなると、中国への攻撃が増えることを心配している。
23日に国連でのロシアの即時撤退などの決議案でも、賛成141ヶ国、反対7ヶ国(ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、マリ、ニカラグア、シリア)、棄権32ヶ国であり、賛成が多数である。ロシアの孤立化が目立っている。しかし、グローバルサウスの国々は、積極的なロシア制裁には組しない。中立的な位置にいる。欧米の完全な味方も少ない。
ウクライナへの武器支援反対デモも。援助疲れの欧州各国
25日G7首脳会議では、ロシアへの経済制裁の強化やロシア側にドローンを提供しているイランや提供する可能性がある中国などを念頭に、ロシアに物的支援の提供を停止するよう第三国にも経済制裁をする方向である。
中国の心配は、米国が米国製ツールで作られた半導体チップが中国に送られることを制限する経済制裁を課すことで、これが発効されると、航空部門の部品を含め、中国経済は深刻な被害を受ける可能性がある。このため、ロシアへの武器提供は控えているが、航空部品を提供して、ロシアで組み立てる方法を考えている可能性はあるとみる。
ロシア経済は、GDPが前年比-2.1%であるが、1年でマネーストックが24.4%も増加した。予算不足であり、中央銀行は紙幣の発行を増やしている。この紙幣増発は、その内にハイパーインフレにつながるリスクがあり、ロシア国民生活を破壊する可能性がある。プーチンが惰性で戦争を継続すると、ロシア国民は生活をも破壊することになる。
しかし、欧州の英独仏も和平協議を望んでいる。そろそろ、援助疲れが出てきている。軍事支援が重くのしかかり、国民の福祉予算が押さえられて、国民の理解が得にくくなっている。25日、ドイツのベルリンでは、ウクライナへの武器支援に反対するデモが行われた。
このため、英スナク首相は、ウクライナ停戦終結後、ウクライナと国防目的で最新鋭の軍事機器、兵器、砲弾をより幅広く入手できるような協定を交わす計画を示した。その上で、この提案を7月のNATO年次会合の議題にするよう呼びかけた。フランスとドイツもこの構想を支持している。
和平交渉の中心に躍り出た中国
3ヶ国は、ウクライナの自信を高め、ロシアとの和平協議を促すとみている。スナク首相は、ロシアが不利な停戦を受け入れられるように、西側諸国は戦場でウクライナを「決定的に有利」にする戦闘機などの兵器を提供する必要があるとした。
そして、ロシアが停戦後で軍事拡張をしても、ウ軍が勝てるようにすることで停戦協議を始められることであり、ウ軍の春の大攻勢で1年前の2月24日以前までロ軍を押し戻した時点で、停戦をする可能性が高いようである。人海戦術のロ軍を完全に押し戻すことはできないと英国防省は見ている。
ロシア防衛産業の生産能力が、欧米の30倍もあることで、弾薬や火砲、戦車の製造能力が高い。しかし、精密誘導兵器は作れないことで勝てないが、長期戦・消耗戦を戦い、ウクライナと欧米諸国の疲弊を待つようである。このため、欧米も停戦をどこかで視野に入れないといけなくなる。
という意味では、中国の提案が英独仏に受け入れられた様にも見える。国際安全保障会議に出席して、王毅氏は、欧州で停戦仲介調整したが、大きな意味を持つ可能性がある。中国が和平分野で大きな力を持つ動きをしたことにもなる。この提案を受けて、マクロン仏大統領は、中国を4月上旬に訪問するとした。和平交渉の中心が中国になってきたようだ。
徐々に、停戦協議に向けた動きが出てくる。特に独仏では、国民のウクライナ支援に対する支持が減少していることが、政権内でも危機的であるとみているようである。
中国の和平案を潰しにかかるアメリカ
日本は、ウクライナ寄りの姿勢が強まっているが、欧州や米国では、ウクライナ支援への国民の関心が弱くなっているようである。
しかし、米国は自国を無視して、中国が動くことに違和感を持っている。このため、中国の和平案を潰す方向に動くことになる。このため、三つ巴の動きが出てくることになる。米国の力が落ちているとも見える。
しかし、もし、ロシアの崩壊なしで、停戦になると、中国の台湾有事の際は、中ロとイラン、北朝鮮などが一団で戦争を始めることになり、第3次世界大戦になる可能性が出てくる。米国はそちらを気にしている。
21世紀は、地球滅亡の世紀になる可能性がある。しかし、当面、戦争が終結する可能性が出てきた。5月か6月にウ軍大攻勢後、停戦交渉が開始するようである。
さあどうなりますか?
●プーチン氏、スティーブン・セガール氏に勲章授与する法令に署名 2/28
ロシアのプーチン大統領は28日までに、米国人俳優のスティーブン・セガール氏に対して勲章を授与する法令に署名した。
法令はセガール氏が「国際文化並びに人道上の協力の進展に多大な貢献をした」としている。
セガール氏はロシアを定期的に訪問しており、2016年にはロシア国籍を取得。この時はロシアのパスポートをプーチン大統領から直接受け取った。またロシア外務省の「特使」にも任命され、米国や日本との交流などを担っている。
米アクション映画の人気俳優として活躍したセガール氏はロシアによる違法なクリミア併合やウクライナ侵攻を支持した。昨年夏にはロシアが占領したウクライナ東部のドンバス地方を訪れてもいた。
昨年行われたロシアのテレビとのインタビューでは、同国の存続に関わる脅威をウクライナがもたらしているとの認識を示していた。
●「あすはわが身」沈黙破る旧ソ連圏 思惑裏腹、ロシア求心力低下―侵攻1年 2/28
ロシアのプーチン大統領は、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的惨事」と呼んだ。西側諸国が懸念する「大国の復活」は目指さないとうそぶくが、帝政ロシア以来の「版図」で軍事・経済ブロックを強化してきたのが実情だ。勢力圏死守のためにウクライナに侵攻したが、プーチン氏の思惑と裏腹にロシアの求心力は低下。旧ソ連構成国の中には侵攻に関し「あすはわが身」と感じる国もあり、相次いで沈黙を破り始めた。
「カザフもなかった」
ウクライナやモルドバなどは欧州連合(EU)加盟を目指し、脱ロシアが顕著なのは不変。侵攻開始後の1年間で顕在化したのは、運命共同体とみられた親ロシア国の微妙な変化だ。
「(ウクライナ東部ドンバス地方の独立は)認めない」。中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領は昨年6月の国際会議で、プーチン氏を横に断言した。「偽の住民投票」(欧米)に基づくロシアへの一方的な「併合」は同9月。トカエフ氏は「民族自決」が無制限になれば、地球上に600もの国が誕生して大混乱に陥るとロシアを戒めた。
背景にあるのは、プーチン氏に対する根強い不信感だ。「ロシアがウクライナをつくった」という身勝手な歴史観を持つプーチン氏は2014年に「(ソ連崩壊まで)カザフに国家は存在しなかった」と発言した。カザフはロシア系住民を抱えており、今回の侵攻はひとごとではない。ロシアの核威嚇も旧ソ連核実験場の被害が残るカザフとしては容認し難い。
今冬、空爆で電気や暖房を失ったウクライナ国民にカザフから円形テントが寄贈された。ロシアが「説明を求める」(ザハロワ外務省情報局長)と不快感を示すと、カザフ側は「民間の活動だ」と突っぱねた。
相次ぐ苦言
中央アジアの最貧国タジキスタンのラフモン大統領は昨年10月の会議で、プーチン氏に向かって「小さな民族だが、歴史も文化もある。尊重してほしい」と訴えた。経済発展に協力してこなかった「旧宗主国」への苦言。プーチン氏は最近、欧米への対抗軸として「反植民地主義」を掲げているが、ラフモン氏にロシアの問題点を指摘された。
一方、ウクライナ侵攻でロシア軍は外国駐留部隊もかき集めており、旧ソ連圏で存在感の低下が著しい。南カフカス地方ではナゴルノカラバフ紛争が昨年9月に再燃。アルメニアのパシニャン首相は同11月、「アゼルバイジャンの侵略を防げなかったのは残念だ」として、ロシア主導の軍事同盟に疑問を呈した。アルメニアは今年予定された軍事同盟の演習に関し、自国での開催を拒否した。
欧米はウクライナへの主力戦車供与を決め、ロシアは長期戦を視野に入れる。仮にプーチン政権が親ロシア国の参戦を求めたくても、ドンバス地方などの「併合」を認めた旧ソ連構成国はない。戦争協力するベラルーシも派兵までしておらず、軍事同盟は「機能不全」に陥っている。
●ウクライナ侵略:世界を分断する新しいイデオロギー対立 2/28
ロシアがウクライナに対する全面軍事侵攻を開始してから1年が経過した。
この侵攻にあたり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、短期でウクライナにおける親ロ政権樹立という目的を達成できると考えていたことは、これまでも再三報じられてきた。
ロシアは、軍事侵攻の半年以上前から、親ロ派育成工作、偽情報拡散などによる世論操作、経済圧迫、サイバー攻撃、工作員の潜入、大部隊の集結による軍事的威嚇など、周到に軍事・非軍事のハイブリッド戦争を進めていた。
これらの企ては、このハイブリッド戦争を見抜いていた米英などが、各種の支援を行ったこともあって、ウクライナ側によって阻止され、最後の仕上げのつもりで侵攻を命じられたロシア軍は、泥沼の戦闘に陥ることになった。
結果的に失敗に終わったとはいえ、プーチン大統領が軍事侵攻に踏み切ったのは、ハイブリッド戦争が功を奏して早期に侵略目標が達成できる「可能性」を信じていたからであろう。
しかし、ハイブリッド戦争から軍事侵攻に至る大規模な侵略を行うからには、プーチン大統領は、その「可能性」を信じていただけではなく、このタイミングで侵略を行う「必要性」を強く認識していたのだと思われる。
その「必要性」とは一体、何なのだろうか。
それを解き明かす上で、大きな手掛かりとなるのが、ハイブリッド戦争への着手と同時期、2021年7月にプーチン大統領が公表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文である。
この論文で彼は、ロシアとウクライナが一体であるという歴史観を述べているだけではなく、ウクライナにおいて「完全な外部からの支配が起きつつある」ことが最大の問題であると論じている。
以前からプーチン大統領は、ジョージアのバラ革命やウクライナのオレンジ革命といったいわゆる「カラー革命」や、チュニジア、リビア、エジプトなどにおけるいわゆる「アラブの春」など、1990年代以降に起きた民主化の動きは、欧米によるハイブリッド戦争であると捉えていた。
そのような考え方からすれば、ウクライナで起きている民主化の動きも、外部勢力による工作だということになる。
ロシア人と文化的に多くの共通点を持つウクライナ人が、すぐ隣で民主的な国家を打ち立て繁栄していくことになれば、ロシアにおける民主化の動きを加速させることになる。
これは、2024年に次の選挙を迎えるプーチン体制にとって大きな脅威になるとの判断が、ウクライナ侵略の「必要性」だったのではないだろうか。
これと同じ懸念を、中国の習近平国家主席も抱いていると考えられる。
2019〜20年に香港で民主化デモが高まりを見せたのに対し、中国政府はこれを弾圧し、香港国家安全維持法の施行によって、香港の人々の人権は大きく制限されることとなり、一国二制度は事実上消滅した。
この強硬策も、民主的な香港が繁栄することが、中国国内で習近平体制を揺るがすという判断の下で取られたものだと考えられる。
このように考えると、プーチン大統領や習近平主席という個人のみならず、ロシアや中国において現在の政治体制を何とかして継続させたいと考えている勢力は、民主化の流れが自国に及ぶことを極度に恐れていることが分かる。
自国民と共通の文化を持ち、地理的にも近接した地域で、人々が人権を主張し、民主的な政治体制を打ち立てて、経済的にも安定して発展していくことは、ロシアや中国などの権威主義的な体制にとって、大きな脅威なのである。
民主主義vs権威主義なのか?
それでは今世界を動かしているダイナミクスの源は、米国のジョー・バイデン大統領が言うように、「民主主義vs権威主義の戦い」なのだろうか。
今回のロシアによるウクライナ侵略に対し、日本やオーストラリアなども含む欧米などの民主主義諸国は一致してロシアに対する制裁に参加している。
一方で権威主義国とみなされる北朝鮮やシリアなどがロシア支持、中国やイランなどもロシア寄りの姿勢を取っているのを見ると、一見この構図が当てはまるようにも見える。
その中で、アフリカ、中東、アジア、ラテンアメリカなど、いわゆるグローバルサウスと言われる国々の多くは、明確にロシアを非難することから距離を置こうとしているようである。
これらの国に国際秩序の重要性を説いて、一国でも多く民主主義国と同じくロシアに制裁を加える側に引き入れることが重要だとの主張もある。
しかしこれらの国々の政府は、それぞれ自国を取り巻く地域の国際環境の中で自国の利益を確保するために、厳しい判断を下しているわけであり、ことはそう単純ではないであろう。
このように複雑な計算が錯綜する国際関係ではあるが、権威主義諸国、グローバルサウスの国々、そして民主主義諸国を全体として見通してみると、その中に共通する対立軸が存在している。
それは「人権増進」と「体制維持」の対立である。
これは一見、「民主主義」対「権威主義」という政治体制を巡る対立と同じように見えるが、一概にそのように言うことはできない。
民主主義の政治体制を取る国の中であっても、「人権増進」と旧来の社会文化を含めた「体制維持」、そのどちらかを重視する民意がそれぞれ存在し、民主主義の維持に関しては同意しつつも、意見対立が生じている。
その例として、欧州で移民や難民の増加に対抗する形でナショナリズムが喚起され、米国でブルーカラー白人層の相対的貧困化などを受けてトランプ現象が起こり、日本でLGBTQに対し一部の保守層が強い忌避感を示していることなどが挙げられよう。
このような「人権増進」と「体制維持」の対立を、単純な善悪二元論で切って捨てることも、適切ではない。
現代社会にとって人権が重要な問題であるのは間違いないが、人々の生存を確保していくためには、社会の安定とその上での経済発展が重要であることもまた事実なのである、
特にグローバルサウスの国々は、この「人権増進」と「体制維持」のせめぎ合いの中で、綱渡りの政治を行っている。
そのような中で、ロシアのプーチン権威主義体制は、自国における「人権増進」を現「体制維持」の脅威であると捉え、それを増長する隣国における「人権増進」の動きを力で封じ込めようとして一線を越えた。
冷戦時代の資本主義陣営と共産主義陣営の対峙は、経済体制を巡るイデオロギー対立であったが、今や「人権増進」と「体制維持」という、価値観に関する新しいイデオロギー対立が、世界を分断しつつある。
この一筋縄ではいかない対立を、現代を生きる我々は、一体どのように捉えたらよいのだろうか。
「人権」をどのように考えたらよいのか?
人間も生物である以上、自己が生き延びなくてはならないという生存本能がある。
そこから生まれるのは、各種の危険から生命の安全を守り、かつ生存に有利なように、少しでも快適な環境に身を置きたいという欲求である。
そのような生物としての生存本能を残しつつ、人間が人間として、他の生物とは異なる存在となった起源には、人間が他の人間を自分と「対等」な存在だと認識し始めたことがあると見られている。
ここであえて「平等」ではなく「対等」という用語を使うのは、「平等」には第三者から見た客観的な状態を示すニュアンスがあるのに対し、「対等」は自分から他者を見た場合の主観的な意識を指す言葉として適しているからである。
他の動物は、親子や群れで協力することがあるとはいえ、基本的には自己中心的な存在であり、自分以外は同種の生物でも自分を取り巻く環境に過ぎない。
しかし、他者も自分と同じように一個の人格を持って主体的に考える存在であると気付いたことにより、人間は他の生物と異なる道を歩き始めた。
他の人間たちを、自分と同じように物事を考える「対等」な存在だと見るようになったことで、「社会」が生まれたのである。
同時に、自分だけでなく他者も共通に認めている事実があるとの認識、すなわち「客観」という概念が生まれ、科学的なものの見方が育まれていったと考えられる。
ただし人間も生物である以上、生存本能を忘れてしまったわけではないし、そもそもそれがなくては、種として存在を維持していくことはできない。
生存本能と「対等」意識を併せ持つに至った人間という種は、他の人間との社会関係を発達させることで他の生物に対して優位を得て、勢力を伸ばしてきた。
「対等」な存在とみなす範囲が、家族から部族へ、より大きな共同体へと広がっていく中で、人間には「いたわり」や「名誉」などの道徳感情が生まれ、社会的規範が形成されて、より複雑な社会を営むに至った。
そして400年ほど前から、近代国家を単位とする現在の国際社会が生まれてきたわけである。
近代社会では、基本的には国家が、他国から自国の生存を確保するとともに、国内で一人一人の国民の生存を保証することになった。
その中で、人間同士が「対等」とみなす範囲は、現代になって急速に広がっているという事実がある。
80年前の日本では、女性に参政権がないことに疑問を持たない人が多数だったし、70年前の米国のバスでは座席が白人用と黒人用に区別されていることは普通だった。
急速な経済発展により、生存の保証が進む中で、ジェンダーや人種を超えた人間の「対等」性に、より重きが置かれるようになり、それが1945年の国連憲章に謳われ、1948年の世界人権宣言に結実した。
この人権の基本にあるのが、すべての人間は「対等」だという認識である。
しかし、生存を保証するための仕組みである国家をはじめ、今ある「体制」の維持と、個々の人間の「対等」意識の広がりは、しばしば衝突する。
民主主義という政治体制は、この衝突を緩和するために生まれてきたものであろうが、民主主義になったからと言って、この衝突が一気に解消するわけではない。
まして権威主義国の指導者は、「体制」の安定を理由に国民の「対等」な権利を認めないばかりか、自民族の優越やジェンダー差別を含む価値観を有している場合も多い。
そのような指導者の言動からは、そもそも人間は「対等」ではなく、優秀な者が他を従えるのは当然であるというような人間感も透けて見える。
これは「体制維持」重視に偏重した指導者に共通する傾向であり、権威主義やグローバルサウスの国々において多く見られると同時に、民主主義国においても、近年目立ってきた動きである。
「人権増進」という大きな流れに対する、一種の揺り戻し現象なのかもしれない。
人間の生存を確保するための仕組みである国家が、その「体制」存続を自己目的化させ、国民の「対等」な関係の増進を認めないという例は多い。
また、自国利益のために他国との「対等」な関係を無視し、力による一方的な現状変更を図るという現象も起きている。
これらに起因する国内外の紛争を解決していくためには、今の世界において「人権増進」が重要な価値であることを強く認識した上で、頑なな「体制維持」への固執を排し、柔軟な体制変換を安定的に成し遂げていく必要がある。
「人権増進」は目的か、道具か?
それでは、具体的に日本はどうすればよいのだろうか。
今プーチン大統領に、「人権増進」の重要性について口を酸っぱくして説いたところで、ロシアがウクライナから黙って引き上げることがないのは目に見えている。
しかし現代の世界において、「人権増進」と「体制維持」のせめぎ合いが各地で起きており、その中で「人権増進」をよりスムーズに進めることが、世界の安定にとってのカギであると、強く認識すること自体、重要ではないだろうか。
いずれの国であっても、この「人権増進」という大きな流れを意識することなしに、自国の国益だけを追求するのでは、自国の生存に必要な安定的な国際環境を実現することはできない。
この流れを意識した上で、具体的に世界の「体制」を安定的に変化させつつ、全体として「人権増進」を達成していく方策が必要となる。
もちろん、「人権増進」はあくまでも目的であって、これ自体を手段として利用するのでは、長い目で見て逆効果になる場合もあるという点は、十分認識しておかなくてはならないだろう。
グローバルサウスの国々と対する場合も、権威主義国と向き合う場合も、「人権増進」を意識し続けることは重要だが、具体的にどう相手を動かすかについては、長期を見通した外交戦術が必要である。
個々の国々の個別的事情に基づき、経済発展にも配慮しながら柔軟な「体制」変革を促しつつ、大局としては、少しずつであっても「人権増進」を達成していくという粘り強い知恵が求められる。
もちろん、各論としては非常に難しいことが山積しているわけではあるが、その中で大局を見失ってはならない。
日本が世界に対する上でも、国内外にこのような「人権増進」と「体制維持」のせめぎ合いが存在することを意識しながら、常に「人権増進」という大きな流れへの貢献を見失わないことが、最も重要なのではないだろうか。
●侵攻から一年 ロシアを和平交渉に誘導する中国 2/28
中国のジレンマ
2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻によって、中国は難しい立場に立たされた。中国はロシアとの友好関係を維持する必要がある一方、各国の主権と領土的一体性はこれまで中国が主張してきた原則であった。当然ながらウクライナの主権と領土もそこに含まれる。
侵攻開始翌日の2月25日、プーチンと電話会談を行った習近平は、ロシアがウクライナと交渉を通じて問題を解決することを支持するとしたうえで、各国の主権、領土的一体性を尊重し、国連憲章を遵守する中国の基本的立場は一貫していると述べた。中国はロシアとの関係をとるか、主権及び領土的一体性の尊重の原則をとるかのジレンマに直面した。
それでは中国は、結局どちらを選んだのか。実際の行動をみれば、中国はロシアを非難する側に立たなかった。ひとつの可能性としては、主権及び領土的一体性の尊重をとり、暴走するロシアに見切りをつけ、対米接近をすることも考えられた。中国は赤十字を通じてウクライナに人道支援を行うなどしていたが、それでも中国はロシアを非難する側に立つことはできなかった。
2月26日、国連安保理でのロシア非難決議で中国は棄権した。その後も中国はロシアのウクライナ侵攻を「侵攻」と呼ばず、ロシアに倣って「特別軍事行動」と呼称し続けた。習近平政権は、結局はロシアによる力の行使を是認したのであった。
高原明生によれば、中国は、自国にとって最も重要なのは米国との戦略的競争に勝利することであり、そのためにはロシアとのパートナーシップが不可欠だと判断したという。中国はそれにより、主権及び領土的一体性の尊重を言いながら、実際にはそれをウクライナに適用しないという言行不一致を白日のもとにさらけ出すこととなった。それだけの代償を払ってでも、中国はロシアとの関係を変えなかったし、変えられなかったのである。
和平交渉への誘導
中国の事実上の支持は、その後も2022年を通じて続くこととなる。もちろん中国は暴走するプーチンに対し、もろ手を挙げて支持していたのではない。プーチンに対し「疑問や懸念」も持っていた。2022年9月15日に上海協力機構首脳会議に出席するためサマルカンドを訪れた習近平、プーチンが会見した際、プーチンは、ウクライナ危機に関して、中国の「バランスの取れた姿勢」を高く評価しているとした上で、「この件に関する中国側の疑問や懸念を理解している」と発言した。この発言は各国で報じられ、中国側がロシアのウクライナ侵攻に対し「疑問や懸念」を伝えたことが知られるようになった。
しかし中国では、習近平がプーチンに「疑問や懸念」を伝えたことは公式に触れられなかった。翌日の「新聞聯播」は、両国首脳の会見のニュースをたった2分30秒ほど報じたに過ぎず、その内容も当たり障りのないものであった。これは露中首脳の会見としては異例の短い扱いであり、同日の習近平とルカシェンコ・ベラルーシ大統領との会見のニュース(3分弱)の方が長いほどであった。中国国内では、ロシアから離れて西側に接近することを説くような言説が、公の言論空間から排除されてきた経緯もあり、ロシアに対する「疑問や懸念」を公式に取り上げることはできないのである。
ロシアに対する中国の事実上の支持は、その後も続き、継続的に確認された。12月30日に開かれたオンライン首脳会談においても、「互いの核心的利益に関わる問題では強力に支持し合う」ことを習近平は指摘している。同時にこのとき習近平はプーチンを和平交渉に誘導したようである。中国外交部の発表によれば、このときのウクライナ危機についての意見交換で、ロシア側が外交交渉による衝突の解決を「拒否していない」(従未拒絶以外交談判方式解決衝突)と述べたことを中国側が「称賛」したという。ロシア大統領府の発表には、この部分は記載されていないが、ウクライナと違ってロシアは外交交渉を拒否したことがないという論調はロシア側の主張に繰り返し見られる。
ロシアを支持し、和平交渉に誘導するという方向性は、ロシアとの関係と主権及び領土の尊重の原則との板挟みのなかで、中国が見つけ出した現実的な路線であった。2023年2月22日にプーチンと会見した王毅も、この路線に沿って動いている。中国外交部の発表によれば、このとき王毅は、ロシア側が対話と交渉による問題解決への「意欲」(愿通過対話談判解決問題)を再度示したことを「称賛」したという。12月の首脳会談ではロシアは外交交渉による問題解決を「拒否していない」にとどまっていたが、ここでは「意欲」に発展している。もっとも、ここでもロシア大統領府の発表にはこの部分が記載されていないため、ロシア側がそもそもどの程度の「意欲」を持っていると述べたのかは不明である。とはいえその後の展開をみると、王毅はプーチンの理解をとりつけたと見られる。
王毅とプーチンの会見から2日後の2月24日、中国外交部は「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題した、12項目からなる文書を発表した。第1項目で、各国の主権の尊重を掲げ、従来の原則を堅持する一方、第3項目で停戦を、第4項目で和平交渉を進める意向を表明した。一方、第10項目で一方的な制裁の停止を打ち出し、安保理の承認を経ずに制裁を行う西側を批判している。ロシアに対する譴責はせず、ロシアの顔を立てつつ、和平交渉に促すという中国の考えが、文書のかたちとなって表れた。したがってこの文書は和平案と言われることも多いが、より正確には中国の立場表明と考えたほうがよい。ロシア側も中国のこの立場表明にすかさず同調した。ロシア外務省報道官が中国の立場を評価するとともに、西側及びゼレンスキー政権への批判を繰り返している。
おわりに
ロシアの侵攻開始後、中国は「中露友好」と主権及び領土的一体性の原則の尊重をどう両立させるのかというジレンマに直面した。それから1年が経ち、中国はロシアを支持しつつ、ロシアを和平交渉に向かわせるというパフォーマンスを取り始めた。もっとも、その通りにいくという保証は全くない。この点について、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのアレクサンドル・ガブエフは、和平交渉がまとまる可能性はないことを中国政府上層部も十分承知していると指摘している。
和平交渉がまとまる可能性は全くないとは言えないが、たしかに可能性は低いだろう。何より最大のリスクはプーチンの動きが読めないことである。プーチンが中国のお膳立て通りに動くとは限らない。せっかく中国が用意しても、プーチンが台無しにする可能性がある。しかしそれでも中国が和平の仲介者のように振る舞うのは、たとえ交渉がうまくいかなくても、主権及び領土的一体性の原則を標榜し、和平を提唱した正しい国であるという印象を世界に対して振りまくことができる。これは大きな財産であり、単なるロシア支持とは違う。万一プーチンが倒れた場合の備えともなろう。
●「プーチンの戦争」をこじらせる“独裁者トリオ”一体化の不気味… 2/28
ロシア、中国、ベラルーシ──。米国のバイデン大統領が忌み嫌う専制国家のトップが策謀を巡らせている。無論、ウクライナ情勢をにらんでのことだ。孤立するプーチン大統領を習近平国家主席が支援する動きに欧米が警戒を強める一方、習近平国家主席の招きでプーチン大統領の盟友ルカシェンコ大統領が28日から訪中。どんな企てなのか。
中国による対ロ支援を巡っては、中国企業が4月までに自爆型ドローン約100機を納入する可能性があると報じられた。部品と製造ノウハウも提供し、ロシアでの量産も計画。イラン製「シャヘド136」に似た形状で35〜50キロの弾頭を搭載できるドローンを月100機程度つくれるようになるという。
報道に先立ち、独ミュンヘンで王毅共産党政治局員と会談したブリンケン国務長官は、武器提供は「深刻な結果になる」と警告。23日には、米誌の取材に「いわゆる『中国企業』から武器ではない軍民両用の支援が若干あり、ほぼ確実に国家承認を得ている。だが殺傷力を伴う軍事支援ではない」と発言。「中国がそれを真剣に検討しているという情報もここ2、3カ月に得ている」と明かした。
中国はすでに武器供与
米国はウクライナ側の拠点の画像をロシアの傭兵に渡した中国の衛星会社などに制裁を科している。
「ロシア軍は戦闘で戦車の4割超を破壊されたほか、イラン提供のドローンも失い、水面下で中国製を月100機ほど仕入れています。1日の弾薬使用量が2万発にも上ることから、中国からの武器支援をあてにしている。経済制裁で欧州に輸出できなくなったロシアの石油や天然ガスを振り向けられている中国は、国際価格の半値で買い叩いていて、その見返りとしてプーチン氏が強く求めたのが軍事支援なのです。気球撃墜問題で米中対立が深まった影響は大きい。ベラルーシは中国の一帯一路に協力する友好国でもあり、ルカシェンコ氏は訪中で対NATO(北大西洋条約機構)を理由に、自国への武器供与を取り付ける算段。3カ国の一体化が加速します」(筑波大名誉教授・中村逸郎氏=ロシア政治)
プーチン大統領が熱烈に要請する習近平国家主席の訪ロは、G7広島サミット(5月19〜21日)が目前に迫る4月下旬から5月上旬とみられている。習近平国家主席は停戦の仲介役に名乗りを上げるのか、あるいはG7に挑戦状を叩きつけるのか。先は見通せない。
「不測の事態になれば、バイデン米大統領やショルツ独首相は国を離れられない。欧米首脳陣がはるばる東アジアまで飛び、集うのはリスク以外の何物でもありません。サミット延期の可能性もあります」(中村逸郎氏)
岸田首相の運命やいかに。
●撃破されるロシア軍戦車 映像で見るウクライナの抵抗 2/28
ウクライナ軍参謀本部は、同国東部ドネツク州のブフレダールを目指すロシア軍の戦車や戦闘車両が、地雷や砲撃で次々に破壊されるドローン映像を公開した。
その一コマには、一本道で被弾、爆発炎上するロシア軍戦車から、戦車兵が飛び降り、逃げる様子が捉えられている。
また別のコマには、十字路で擱座した戦車の間を通り抜けようとして爆発する戦車と、その後について進んできたがUターンする戦闘車両が映し出されている。
これらの映像からは、ドネツク州の戦略拠点ハブムートの南西に位置するブフレダールを巡る攻防戦で、わずかな領土を獲得するために、ロシア軍が貴重な装備と兵員を犠牲にしている戦術を垣間見ることができる。
南は黒海からウクライナ北東部のロシアとの国境に至る数百キロに伸びた戦線全体を通じて、ここ数週間ウクライナとロシア両軍にこれといった動きはなく、唯一ブフレダールだけが例外だ。
壮絶な消耗戦の代名詞で、ウクライナの抵抗のシンボルともなっている、バフムートやマリンカな、東部戦線の激戦地にブフレダールがいま新たに加わろうとしている。
廃虚と化した町や村で頑強に抵抗するウクライナ軍を前にして、ドンバス地域の工業地帯全体を制圧しようとするロシアの攻勢は、高い代価を払っており、その割に実際に手にした領土はわずかでしかない。
1年前の侵攻作戦序盤で、首都キーウと北部戦線からロシア軍を撤退させ、プーチン大統領が「特別侵攻作戦」の目標を変更せざるを得なくなったのも、このウクライナの抵抗だ。
ウクライナも大きな犠牲を払っているが、その犠牲以上にモスクワが戦場に投入した兵器や兵力の消耗ははるかに大きい。
●政府、ワグネルなど21団体に禁輸措置 ロシアへの追加制裁、資産凍結も 2/28
政府は28日、ウクライナに侵攻したロシアに対する追加制裁として、民間軍事会社ワグネルなど21団体への禁輸措置の導入を発表した。軍関連など48個人・74団体に対する資産凍結も決めた。ロシアを追い込むため、米国や欧州諸国と歩調を合わせた。
ワグネルはプーチン大統領に近い新興財閥のプリゴジン氏が創設し、雇い兵や受刑者で編成された部隊を派遣している。米国は1月に「国際犯罪組織」に指定した。
追加制裁は、先進7カ国(G7)首脳による24日のテレビ会議で岸田文雄首相が表明。28日に閣議了解した。ロシアの軍事能力強化につながるドローンなどの禁輸措置も発動する。
ロシアのウクライナ侵攻後、日本政府は資産凍結のほか、量子コンピューターや3Dプリンター、工作機械といった軍事転用が可能な物品の輸出禁止などを実施している。
●ゼレンスキー氏、東部前線バフムートの状況「ますます困難に」 ロシア猛攻 2/28
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は27日、東部の前線となっているバフムート市の状況が「ますます困難になっている」と述べた。
ロシア軍は6カ月以上前からバフムートの占領を狙っている。
ゼレンスキー氏は毎晩定例のビデオ演説で、バフムートで足場を固め、防衛線を保つことが、ロシアの新たな猛攻によってかなり厳しくなってきているとした。
また、同地域を「勇ましく守っている1人1人に感謝する」と述べた。
ゼレンスキー氏はさらに、「我々の陣地を守るために使用できるあらゆるものを、敵は絶えず破壊している」と主張。
「我が国の全ての領土」を「ロシアの恐怖」から守るため、現代の戦闘機を供与するよう西側各国に改めて呼びかけた。
この日、ウクライナの首都キーウをジャネット・イエレン米財務長官が訪問。ロシアに兵器を供与しないよう中国に警告した。
昨年2月の侵攻開始以降、工業都市のバフムートでは最も激しい戦闘の1つが起きている。街の一部地域はロシア軍と、ロシアの後ろ盾を受ける分離主義者の支配下に置かれている。
最近、バフムート掌握を狙うロシア軍の攻撃が激化し、ロシア軍が優勢になりつつある。
一方的に独立を宣言した親ロシア派地域、自称「ドネツク人民共和国」の分離主義者のリーダー、デニス・プシーリン氏は、バフムートに続く「実質的にすべての道路」は「(ロシアの)火器管制下にある」と述べた。
イエレン米財務長官がキーウ電撃訪問
27日にキーウを電撃訪問したイエレン米財務長官は、ウクライナへの経済・予算支援として新たに12億5000万ドル(約1700億円)を拠出すると発表した。
イエレン氏はジョー・バイデン米大統領が先週キーウを訪問した際に発した、この戦争でウクライナが勝つために必要である限り、アメリカはウクライナを支持していくとのメッセージを繰り返した。
イエレン氏は米CNNのインタビューで、西側諸国がロシアに科している大規模な制裁措置によって、ロシア経済はまだ崩壊していないものの、時間の経過とともに弱体化していくと予想していると述べた。
また、ウクライナへ攻撃を仕掛ける中で破壊された軍備を補給するロシアの能力は「徐々に危険にさらされている」とし、中国からロシアにそうした兵器を供給する動きがあれば、「深刻な」結果につながるとも述べた。
「我々は、この戦争を遂行するための軍備へのアクセスをロシアから奪うことを目的とした制裁に組織的に違反することを、いかなる国にも容認しないということを極めて明確にしてきた」
「そして、これらの制裁に違反した場合、非常に厳しい結果が伴うことを、我々は中国政府に非常に明確に示してきたし、中国の企業や金融機関にも明確にしてきた」
アントニー・ブリンケン米国務長官は19日、中国がロシアに対して「殺傷力のある」兵器と弾薬の提供を検討しているとの見方を示した。中国政府はこの主張を強く否定している。
ロシア・モスクワで22日に行われた、中国の外交トップ王毅氏とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の会談は、中国とロシアの親密な関係を示すものだと見る向きは多い。
●G20外相会合、ウクライナ戦争や米中の緊張が焦点に 2/28
インドのニューデリーで3月1─2日に開催される20カ国・地域(G20)外相会合では、ウクライナ戦争や米中の緊張の高まりが焦点になる見通しだ。
南部ベンガルールで今月25日まで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議では、大半の国・地域がロシアのウクライナ侵攻を非難したものの、中国とロシアの反対で共同声明の採択が見送られた。
昨年7月のG20外相会合では欧米がウクライナ戦争を強く非難し、ロシアのラブロフ外相が退席した。
今回の会合にはラブロフ氏のほか、ブリンケン米国務長官、クレバリー英外相、中国の秦剛外相らが出席。議長国インドが招待したG20以外の国や多国間機関を含めると40カ国の代表者が参加する。
インド外務省当局者は、気候変動や途上国の債務といった問題に焦点を当てたい意向だとした上で、ウクライナ問題も主要議題になるとの見方を示した。
また「グローバル・サウスの声を伝え続け、この地域に関連する問題を提起していくつもりだ」と語った。
米国のトルーイ国務次官補(経済担当)は、ブリンケン氏が途上国に影響を与えている食料・エネルギー安全保障問題に対する米国の取り組みに焦点を当てると述べた。
ブリンケン氏はまた、ロシアの侵略戦争がもたらした損害を強調し、ロシアに戦争終結を求める働きかけを強化するよう他国に促す見通しという。
会議ではウクライナ戦争などを巡る米中の緊張関係がどう展開するかも注目される。
●中国は「明らかに」ロシア側、ウクライナ戦争で=米国務省 2/28
米国務省のプライス報道官は27日、ウクライナに平和をもたらす取り組みにおいて中国は「正直な仲介者ではない」とし「非常に明らかに」ロシアの側に立ってきたと述べた。
記者会見で、中国はロシアに「外交的支援、政治的支援、経済的支援、修辞的支援」を行ってきたと指摘。中国のウクライナ和平計画は「真剣な提案ではないかもしれない」とした。
●“反転攻勢 クリミア情勢焦点か” 米の元駐ウクライナ大使  2/28
アメリカの元駐ウクライナ大使のウィリアム・テイラー氏がNHKのインタビューに応じ、ウクライナがことし春から夏にかけて反転攻勢を強めるとみられることについて、ロシアが一方的に併合しているクリミアをめぐる情勢が焦点になるという見通しを明らかにしました。
このなかでテイラー氏は「もしウクライナがロシア軍の大部分を追い出すことができれば、交渉のテーブルにつき、クリミアを外交的にどう取り戻すか話し合うかもしれない」と述べ、ウクライナは、戦況を極めて有利な状態に持ち込んだ上で、ロシアに停戦を呼びかけ、クリミアをめぐって交渉を始める可能性があるという見方を示しました。
その一方で「アメリカは、ウクライナに対してアメリカの兵器をロシア領内で使わないよう助言しているが、クリミアは、ロシア領ではない」とも述べ、ウクライナが外交ではなく軍事力でクリミア奪還を目指すことをアメリカが認めていないわけではないとしています。
その際にロシアが核兵器の使用に踏み切る可能性については、「ロシアから見て国内的にも国際的にも合理性がなく、とても低い。プーチン氏は、合理的ではないというわけではない」と述べました。
そして、テイラー氏は「ウクライナは、クリミアを含めていかなる領土も決してあきらめない」と述べ、ウクライナが領土保全を回復するまで欧米各国は、支援を強化していく必要があると訴えました。
●ウクライナ空軍 エースパイロットが語る“空の戦いの現実”…週に20回出撃も 2/28
ロシア軍の侵攻開始から1年。今も、激しい戦闘が続くウクライナ。そんなウクライナの戦況は今、どうなっているのか。26日、最前線で戦う一人の兵士に話を聞くことができた。
日々の任務は?…侵入を撃墜 週に20回出撃も
ウクライナ空軍パイロット ワジム・ヴォロシロフ少佐(29)「私はウクライナ空軍の戦闘機パイロット、ワジム・ヴォロシロフ少佐、29歳です」
ヴォロシロフ少佐は、ウクライナの主力戦闘機「ミグ29」で、日夜防空任務にあたっているエースパイロットの一人だ。
ヴォロシロフ少佐「最前線は今、厳しい状況にあります。マスコミはよく、ロシア軍が“素人同然だ”と言ったりしますが、ロシア軍の力を過小評価してはいけません」
パイロットは、日々どのような任務をこなしているのだろうか。
ヴォロシロフ少佐「一番の任務は、空から侵入してくる敵を撃墜することです。『シャヘド136』などの小型の自爆型ドローンや大型のドローン、それにもちろん、敵の戦闘機です。さらに、地上の目標を攻撃することもあります」「空軍は全国に分散していて、各飛行隊はローテーション制です。例えば、南部の部隊がキーウ方面に移動して、ミサイルの迎撃作戦を行い、翌日、南部に戻って、別の任務に就くということもあるのです」
もちろん、任務が1年中続くわけではないという。
ヴォロシロフ少佐「空軍は医療班がパイロット全員の健康をチェックしています。休みをもらったり、家族に会う時間も与えられますよ。最も戦闘が激しかった時期は、週に20回出撃したこともありましたけどね」
1日に5機撃墜の大戦果で「ウクライナ英雄勲章」
ヴォロシロフ少佐「結婚はしています。子どもはまだいません。家族は皆、私の仕事を理解してくれていますし、幸いなことに皆、無事に暮らしています」
彼の任務中の呼び名であるコードネームは「カラヤ」。去年、その名は一躍、ウクライナ中に知れ渡った。
ヴォロシロフ少佐「去年の秋には、ジトーミルやイジューム方面、そして南部方面の守りに就いていました。南部での作戦中に機外に脱出することになり、リハビリを受けて再び任務に戻りました」
彼は去年10月、イラン製とされる自爆型ドローンを1日に5機撃墜するという大きな戦果を挙げた。だが、運悪く、5機目の破片が自分の機体やコックピットに当たってしまい、傷を負い、緊急脱出したという。
その時、パラシュートで降下している自分を撮影したヴォロシロフ少佐の“自撮り動画”だ。
こうした活躍が認められ、去年12月、ゼレンスキー大統領から「ウクライナ英雄勲章」を授与されている。
ヴォロシロフ少佐「現在、ロシア軍機は、あまりリスクを冒さず、自分たちが安全に飛べる範囲だけを飛んでいます。ロシア戦闘機のミサイルは、ウクライナのミサイルより遠くまで飛びますし、レーダーも遠くまで届き、正確ですから。ウクライナの防空圏に入らずに、外側から攻撃してくるのです。我々は、前線に近づいた時には、できるだけレーダーで発見されないように、高度50メートル以下で飛行しなければなりません。空軍に関しては、敵のほうが量的にも技術的にも優位に立っていると思います」
「空の状況が一変した」レーダー破壊ミサイル
そんなロシア軍に対し、ウクライナ空軍がこれまで持ちこたえられている理由とは…。
ヴォロシロフ少佐「我々が、これまでロシア軍に対抗できている理由は、ウクライナ空軍の兵士全員が高いモチベーションをもって戦っているという点です。それに加えて、戦場では西側諸国から供与された、『HARM(ハーム・AGM-88)』という、レーダーを破壊するための専用のミサイルにとても助けられています。このミサイルのおかげで、空の状況が一変しました。ロシア軍が最前線に置いていた防空レーダーを破壊して、ずっと後方に追いやることができたのです。他にも、アメリカ製の精密誘導爆弾JDAM(ジェイダム)も、とても効果的です」
さらに、ゼレンスキー大統領が強く求めているF16戦闘機の供与については、どう考えているのか。
ゼレンスキー大統領「ウクライナのために戦闘機を!自由のための翼を!」
ヴォロシロフ少佐「F16戦闘機は、ウクライナに勝利をもたらす兵器だと思います。戦場にF16が投入されれば、ウクライナの勝利が早まることになると思います」
1年に及ぶ過酷な戦い。だが、ヴォロシロフ少佐は力強くこう語った。
ヴォロシロフ少佐「ウクライナは間違いなく、必ず勝ちます。私は自信をもって、そう言うことができます。ただし、この戦争がいつまで続くかは、ウクライナにどれだけ近代兵器を供与してもらえるかにかかっていると思うのです。現代の戦争は、テクノロジーの戦争でもあり、兵士の数だけで勝負が決まる時代ではありません」
現場の兵士も強く求める戦闘機供与に向け、西側諸国が協議を始めているという。果たして、今後のウクライナ情勢に、どんな影響をもたらすのだろうか。
●中露と南ア、海上軍事演習終える ウクライナ侵攻1年の最中、米は批判 2/28
ロシアと中国、南アフリカは27日、南ア近海のインド洋で17日から行っていた3カ国合同の海上軍事演習を終了した。タス通信が伝えた。演習はロシアのウクライナ侵攻から1年となる24日をはさんで行われたため、米国などが批判していた。この時期に演習を行ったのは、中国との連携やアフリカでの存在感を誇示する思惑がありそうだ。
演習は露北方艦隊のフリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」も参加。ロイター通信によると、核搭載可能な極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」を積んで南アに入港しており、欧米を威嚇する狙いとみられる。
英BBC放送(電子版)によると、米ホワイトハウスは1月、「ウクライナで残忍な戦争を行っているロシアと演習する、あらゆる国に懸念を持っている」と中国や南アを批判した。
南アではアパルトヘイト(人種隔離)を柱とする白人支配が1990年代初頭まで続いたが、この間に旧ソ連の支援を受けてきたため、現与党などに親ロシア感情が根強く残っているといわれる。
南アは、欧米が制裁対象に指定しているロシアのオリガルヒ(新興寡占資本家)と関係があるスーパーヨットや、露貨物船などの入港も許可してきた。
中国と南アは23日、国連総会で行われたロシアのウクライナからの即時撤退を求める決議案の採決を棄権した。ロシアを含む3カ国とも新興5カ国の枠組み「BRICS」に属し、良好な関係を維持している。
ウクライナ侵略で米欧諸国との関係を決定的に悪化させたロシアは、国際的孤立を回避するためにアフリカへの接近を図っている。ロシアはアフリカ諸国の多くがかつて欧米に植民地支配されたとし、「欧米主導の世界秩序の打破」を主張するロシアとの連帯強化を呼びかけている。
●ウクライナ侵攻から1年、ロシアから事業撤退した日本企業の数は? 2/28
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から1年が経過した。世界各国の企業がロシアから事業撤退する中、日本の企業はどれくらい「脱ロシア」の動きを強めたのか。
帝国データバンクはこのほど、ロシアに進出する日本の主要企業168社の動向について調査・分析を行い、その結果を発表した。
調査の対象は、帝国データバンクが保有する企業データベースに加え、各社の開示情報や報道資料をもとに、工場や事業所、駐在員事務所などの設備・施設、直接出資などでロシア国内に関連会社を有するなどの形で、2022年2月時点に進出が判明した上場企業168社となる。
「脱ロシア」進出企業の半数で判明 ロシア事業撤退は1割超に上る
ロシアでのビジネスから撤退=日本企業の「脱ロシア」の動きが低調ながらも進んできた。ウクライナ侵攻直前(2022年2月時点)にロシアへの進出が判明していた国内上場企業168社のうち、2月19日までにロシア事業の停止や制限・撤退を新たに発表・公開した企業は、全体の約半数にあたる79社で判明した。
このうち、ロシア事業から事実上の撤退、または撤退計画を明らかにした企業は27社に上り、全体の1割超に達した。撤退企業は22年8月時点まで10社に満たなかったものの、今年2月までの半年間で新たに約20社の撤退が判明した。
大手完成車メーカーや関連企業などを中心に、一時的な事業停止措置から完全撤退、事業・現地子会社の売却といった、恒久的な脱ロシア対応へと移行しつつある。いずれも、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化にともない、部品の調達難や現地企業・市場の需要縮小などを理由に挙げたケースが多かった。
一方で、この間に原材料調達のめどが立ったことで現地生産を一部再開させた企業や、受注残などを理由に現地事業を当面継続する企業も少数ながらみられた。
日本のロシア事業撤退、主要先進国で2番目、全世界でも19番目の低さ
帝国データバンクが米エール経営大学院の集計をもとに、各国企業の「ロシア事業撤退(Withdrawal)」割合を分析したところ、全世界の主要企業約1600社のうち約3割に当たる約500社がロシア事業から撤退した・または撤退を表明していることがわかった。
このうち、日本企業における同割合は先進主要7カ国中2番目に低い水準で、ロシアでの事業展開が10社以上判明した全世界約30カ国の中でも19番目の水準にとどまった。国別にみると、ノルウェー・フィンランドの北欧2国は撤退割合が60%を超えるほか、英国も半数超が撤退した。
ただ、家庭用食品大手のダノン(仏)がロシア事業の9割に相当する乳製品・植物由来食品の両事業から撤退する意向を明らかにした一方、同じ家庭用品大手の米英企業ではロシア事業について明確な撤退を示していないなど、欧米諸国のグローバル企業でもロシア事業に対する姿勢の違いが鮮明となっている。
欧米グローバル企業のロ事業撤退、新たな課題も 日本企業の撤退は今後も進むとみられる
直接的な対ロ制裁の対象外である日用品分野や製薬分野などでは、欧米のグローバル大手などでもロシアビジネスを続行するケースが多くみられ、脱ロシアを主導してきた欧米企業でも対応に差異がみられる。
特に、事業売却先の選定が進まない、ロシア当局からの認可が得られないといった新たな問題も発生しており、ロシアからの事業撤退が容易に進まない実態が見えてきた。
こうした半面、日本企業では大手国内完成車メーカーなどを先頭として現地事業の撤退を決断するケースが昨秋以降に増加している。ロシア事業依存によるレピュテーションリスク以外に、部品調達などサプライチェーンの混乱といった物理的で短期の解決が難しい問題を理由として、日本企業の脱ロシアは「様子見=事業停止」の第一段階から「撤退」へ方針転換を決断する第二段階へ移行していくとみられる。
●支援・制裁の実効性高めよ/ウクライナ侵攻と日本  2/28
ロシアのウクライナ侵攻から1年に当たり、先進7カ国(G7)首脳は今年議長国となった日本が主催するテレビ会議を開き、ウクライナ支援と対ロ制裁で結束を強化する方針を確認した。
テレビ会議には冒頭、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加。首脳声明は、ロシアへの武器供与の可能性が指摘される中国を念頭に、第三国に対してロシアへの物的支援を停止するよう要求。ロシアの核兵器による威嚇を非難し、ウクライナへの総額390億ドル(約5兆3千億円)の財政・経済支援を表明した。
昨年2月の侵攻以降、日本はウクライナに対して人道支援や復旧・復興支援を行い、ドローンや防弾チョッキなども提供。岸田文雄首相が20日に発表した55億ドルを含め、総額は計71億ドルになる。議長国の今年は、さらにG7を主導していく責務を担う。1月から国連安全保障理事会の非常任理事国となった立場も併せ、G7だけでなく幅広い国際社会の結束強化への取り組みが求められる。
戦争の終結にはウクライナが侵攻された地域を奪還し、ロシアの占拠を許さないことが前提となる。このため、北大西洋条約機構(NATO)加盟国は戦車の供与など軍事支援を加速している。
ただ、日本は防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針によって戦車など殺傷能力を持つ武器は供与できない。政府や自民党には、輸出できる武器を広げるよう三原則を見直す動きがあるが、原則は崩すべきではない。平和国家の基本理念を堅持し、日本ができる貢献を尽くすべきだ。
その最大の役割は、対ロ制裁に距離を置く国々への支援を通じて、協力を取り付けていくことだろう。国連総会は23日の緊急特別会合で、ロシア軍の即時撤退を要請する決議を、193カ国のうち141カ国の賛成多数で採択した。ただ、中国やインドなど32カ国は棄権し、北朝鮮など7カ国が反対した。
ロシアの国連人権理事会メンバー資格を停止する昨年4月の決議は賛成が93カ国。ロシアに侵攻による損害の賠償を要求する11月の決議も賛成は94カ国にとどまっている。国際社会は一枚岩ではない。特に「グローバルサウス」と呼ばれるアジアやアフリカ、中南米などの新興国や発展途上国には対ロ制裁から距離を置く国が少なくない。
こうした「中間国」はそれぞれ欧米各国やロシアと歴史的なつながりを持っている。G7側の理屈を一方的に押し付けても理解は得られまい。
中間国が抱える貧困や感染症、気候変動、侵攻の影響を受けたエネルギーや食料問題などでの支援を通じて、粘り強く結束を広げていく必要がある。それこそが、日本にできる役割ではないか。
対ロ制裁の「抜け道」をふさぎ、軍事侵攻のデメリットを明確にすれば、日本周辺の安全保障情勢を悪化させないことにもつながるだろう。
先のバイデン米大統領の電撃訪問で、G7首脳の中でウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問していないのは岸田首相だけになった。5月の広島サミット(首脳会議)までの間に訪問の機会を探ることになろう。
ただ、訪問自体が目標になるのは本末転倒である。重要なのは実効性のある支援と制裁だ。その中で戦争終結に向けた「出口戦略」を探りたい。
●政府、ロシアへの追加制裁を発表 ウクライナ東・南部の関係者を対象 2/28
政府は28日、ロシアのウクライナ侵攻に関連し、ロシア政府の関係者と関連団体、同国が「編入した」と宣言したウクライナ東部・南部の関係者を対象に追加制裁を実施すると発表した。計48個人・74団体の資産を凍結し、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を含む21団体に輸出禁止の措置を講じる。
追加制裁には、ロシアの銀行「ロスバンク」に対する資産凍結措置も含まれる。岸田文雄首相は24日の主要7カ国(G7)首脳によるオンライン会議で、個人・団体への資産凍結などロシアへの追加制裁を実施すると表明していた。 
●巡航ミサイル不足で攻撃手法見直しか…プーチン氏が「テロ」への対処指示  2/28
ウクライナ国防省情報総局は2月27日、ロシア軍が高精度な巡航ミサイルの不足に陥り、ウクライナのエネルギー施設などを標的にした攻撃の手法見直しを余儀なくされているとの分析を明らかにした。侵略1年の節目だった24日前後には露軍による大規模なミサイル攻撃が取りざたされたが実施されなかった。在庫不足が影響した可能性がある。
情報総局の幹部は27日、地元通信社に、露軍が投入可能な巡航ミサイルの数が「100発以下」に減少している一方、消費量が露国内で生産可能なミサイル数を上回っていると指摘した。26〜27日の首都キーウなどへの攻撃では、自爆型無人機を夜間に飛行させ、ウクライナ軍の迎撃ミサイルの消耗を狙ったとしている。
ベラルーシの首都ミンスク近郊のマチュリシチ空軍基地で26日に起きた露軍のA50空中警戒管制機を狙った破壊工作も痛手となりそうだ。A50はウクライナの防空網の把握に使用される。英国防省は28日、就役中の同型機は本来6機だけで、露軍の航空作戦も制限されるとの分析を発表した。
一方、プーチン露政権は米欧にウクライナへの軍事支援を停止させるため、核の威嚇を強めている。メドベージェフ前大統領は27日、露有力紙イズベスチヤへの寄稿論文で「ロシアのない世界は不要だ」と主張し、米国などが政権の転覆に乗り出せば、核使用に踏み切る姿勢を暗示した。
プーチン大統領は28日、情報機関「連邦保安局」(FSB)の拡大会合で演説し「西側情報機関が追加の人員を送り込んだ」と訴え、ウクライナによる「テロ」への対処も指示した。
●中国、武器供与と引き換えに「ロシアを子分に」 米が計画暴露し警告 2/28
ロシアのウクライナ侵略から1年となるなか、専制主義勢力である中国とロシアの接近が警戒されている。米紙ウォールストリート・ジャーナルは21日、中国の習近平国家主席が数カ月以内にロシアを訪問すると報じた。アントニー・ブリンケン米国務長官は直前、中国が殺傷力のある武器提供を検討しているとの情報があると暴露した。ドイツ誌が報じた「中国によるロシア軍への無人機(ドローン)売却計画」とは。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日の記者会見で、「中国がロシアに武器を与えないと強く信じている」と牽制(けんせい)したが、西側の自由主義勢力はどう対峙(たいじ)するのか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が最新情報をもとに分析した。
ロシアによるウクライナ侵略戦争が開戦から1年が過ぎた。ここへ来て、中国による「ロシアへの武器供与」の可能性が浮上し、戦いの行方は一段と不透明になってきた。事実なら、中国は何を狙っているのか。
米国のブリンケン国務長官は18日、訪問先のドイツで、中国の外交トップである王毅共産党政治局員と会談し、「中国がロシアに武器供与を検討している、という情報がある」と暴露し、武器を供与すれば「米中関係に深刻な問題を引き起こす」と警告した。
情報の真偽は不明だが、米国は昨年2月の開戦前も、ロシア軍がウクライナ周辺に集結している情報を世界に公開し、ロシアを牽制(けんせい)した実績がある。米国の諜報能力を考えれば、十分にあり得る話だろう。
それを前提に考えると、興味深い点がいくつもある。
まず、中国がこのタイミングでロシアへの軍事支援を検討しているのは、ロシアの戦争継続能力が弱体化している証拠だ。ロシアは北朝鮮やイランから弾薬やドローンなどを調達しているが、頼りにする「本命」は中国だ。その中国は一部で「民生用ドローンを提供している」と報じられたものの、本格的な支援を控えてきた。
だが、いよいよ中国が支援に乗り出さざるを得ないほど、「ロシアは武器調達に苦労している」という話になる。
中国としても、ロシアに負けてほしくない。もしも敗北して、ウラジーミル・プーチン大統領が失脚すれば、その後の政権がどうなるか分からない。ロシアが改革に向かって、親米政権でも誕生したら、最悪だ。
中国にとっては、ロシアの完全勝利は無理でも、何とかプーチン氏が生き残って、中国に頼らざるを得ない程度に弱体化するのが、ベストシナリオなのだ。ロシアから安く天然ガスと原油が手に入り、しかも、経済援助と引き換えに「中国の子分」になるからだ。
武器供与と引き換えに、プーチン氏が戦術核に手を伸ばすのを、阻止しやすくもなる。もしも核が使われてしまったら、戦争は制御不能に陥ってしまう。それは中国も避けたいはずだ。戦闘を制御可能な範囲でロシアに持ちこたえさせるためにも、ここで武器供与を考えたのではないか。
加えて、将来の「台湾侵攻」に備えて、西側を長期の消耗戦に引き込む狙いもあっただろう。
だが、以上は「米国に知られずにすめば」の話だ。
ところが、米国は中国の動きを察知し、中国は公然と警告されてしまった。習国家主席は「オマエたちは、一体何をやっているんだ」と怒り心頭ではないか。「偵察気球(スパイ気球)」問題に続く大失態である。
岸田首相の「平和ボケ」心配
それは、王毅氏がその場で言い返せず、後になって、中国外務省が「米国に命令する資格はない」と負け惜しみのように反発したことに示されている。
中国は米国がどう察知したのかを見極めて、万全の対策を講じるまでは、いったん武器供与計画を中断せざるを得ないだろう。
今回の一件は、中国の肩入れ姿勢を浮き彫りにした。これによって「ロシア+中国・北朝鮮・イランの専制主義勢力」vs「ウクライナ+西側の自由主義勢力」という戦争の構図が一段と明確になってきた。
ジョー・バイデン米大統領は戦地のウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領を激励した。
北朝鮮の弾道ミサイルが発射され、自国の排他的経済水域(EEZ)内に撃ち込まれそうになっても、鼻の治療を受けていた岸田文雄首相の「平和ボケ」ぶりが、ますます心配になる。
●ベラルーシのパルチザンがロシアの貴重な早期警戒管制機A-50を破壊 2/28
ベラルーシが、国境周辺の一部でパトロールを強化していると報道されている。直前には、ロシアの貴重な早期警戒管制機が、同国領内で破壊されるという一件があった。
RFE/RL(自由欧州放送)は2月27日、一部のベラルーシ人からの情報として、リトアニアおよびポーランドと接する国境地帯の警備体制を同国が強化したと伝えた。
「出国口でチェックを行い、あらゆる物を振って確かめ、すべてを綿密に調べている」。27日に国境を越えたベラルーシ市民は、RFE/RLにそう語った。
「通常なら、出国時には持ち物のチェックはなく、国境警備隊がパスポートを確認するだけだった。それが今はこの調子だ。私は機材を持参していたので、それが気がかりだった。すべてが細かいところまで調べ上げられた。バスのドライバーの話によると、少なくともこの1年は、こんな状況は見たことがないとのことだった」
警備強化の直前の26日には、駐機中の早期警戒管制機が、ドローン攻撃を受けて破壊される大事件があった。ベラルーシの破壊工作員たちによるものだ。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、ロシアのウクライナ侵攻以来、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を支持してきた。
ベラルーシの首都ミンスク出身の独立系ジャーナリストで、大西洋評議会の会員であるハンナ・リウバコバは、本誌の取材に対してこう語った。「ドローン攻撃を許したことに加え、ベラルーシでは唯一の貴重な早期警戒管制機が被害を受けたことで、ロシア軍上層部の間では、ルカシェンコ政権にロシアの軍装備品を預けていて大丈夫か、という疑問の声があがるはずだ」
チハノフスカヤも歓迎
一方、ベラルーシの野党指導者で、現在亡命中のスベトラーナ・チハノフスカヤの顧問を務めるフラナク・ビアチョルカは、一連のツイートで、ロシアの早期警戒管制機が破壊されたことを確認したと述べた。
ツイートには、こう書かれている。「ベラルーシのパルチザンたちに栄光あれ! 『勝利の計画』に参加したパルチザンから、ミンスク近くのマチュリシチ飛行場で、ロシアの早期警戒管制機を爆破する特別作戦に成功したとの報告があった。2022年初頭以来で最も大きな成功だ」
「この作戦は、2人のベラルーシ人が実行した。2人はドローンを使ったこの作戦を実行したあと、国を出て、今は安全な場所にいる。破壊した早期警戒管制機の損害額は3億3000万ユーロ(約476億円)にのぼる」と、ビアチョルカは述べる。
チハノフスカヤも、ツイッターにこう投稿した。「ロシアによるベラルーシ支配に抵抗し、ウクライナの自由のために戦い続けるあらゆるベラルーシ人を誇りに思う。あなたたちの勇敢な行動は、世界に対し、ベラルーシは帝国主義的な侵攻に抵抗していることを示してくれた。我々の英雄たちに栄光あれ!」
ルカシェンコはどう出るか
キーウ・ポストによると、今回の作戦で破壊された航空機は、(ロシア全体でも9機しかない)貴重な早期警戒管制機「A-50」だという。
ベラルーシの反政府組織BYPOLも、ロシア航空機の破壊についてテレグラムで投稿をおこない、「マチュリシチでA-50が、上空から攻撃を受けた」と述べた。
ロシアとウクライナの間で戦争が始まって以来、ベラルーシは一貫してロシア支持の立場をとってきたが、戦闘に加わったことはない。
だがルカシェンコは2月に入り、ベラルーシに対する攻撃が行われれば反撃すると発言した。「私は、ある特定の状況になった場合のみ、ロシアと共に戦う覚悟だ。ウクライナの兵士が一人でもベラルーシに侵入し、私の国民を殺そうとした場合だ」と、ルカシェンコは述べた。自国のパルチザンの場合はどうするのだろうか。
●岸田総理がウクライナを電撃訪問出来ない理由 2/28
地政学・戦略学者の奥山真司氏が2月28日テレビで、1年が経過したロシアによるウクライナへの軍事侵略について語った。
アメリカのイエレン財務長官は27日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領らと会談した。ロシアによる侵略が2年目に入る中、ウクライナに対するアメリカの支援を改めて確認した。イエレン氏はG20=財務相・中央銀行総裁会議が開かれたインドのベンガルールから、ウクライナを訪問した。
奥山はワシントン界隈で囁かれている話として「アメリカは戦後のことをすでに考えている。クリミア半島奪回など戦果を持たせ、停戦させたいのではないか。そして早く中国対策に向かいたいと考えている」と指摘。また海外の要人がウクライナを訪問しているのに、岸田総理大臣が訪問しないことについては「アメリカは常に戦争をしている国なのでリーダーを運ぶ、安全に関する意識の差がある」と解説した。
そして岸田総理大臣がウクライナでゼレンスキー大統領と会う意味について「日本国内では、ただ行って写真を撮るだけと言われがちだが、写真を撮って外に向けて発信するパフォーマンスが極めて大事」と述べた。
さらにロシアによるウクライナ侵略から1年が経過したことについて、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が発表した4つのデータを用いて説明した。「一つ目はウクライナが2014年から奪われた領土は合計で20%。これは日本でいう北海道と同じ。もしくは九州プラス四国。ウクライナの人が怒る気持ちも理解出来る。二つ目は戦争が始まってウクライナ経済がマイナス35%。ダメージが大きいことが分かる。三つ目はエネルギーインフラで破壊や占領された部分が40%。これは相当に厳しい。そして一番ショックを受けたのは双方の軍人の被害が13万人以上、出ていること。合わせると26万人。これは第二次大戦後に起こった国家間の戦争では、ほぼ最大レベル。これらを見てもインパクトが大きい戦いだということが分かる」と述べた。
 
 

 

●「ロシア弱体化を阻止せよ」 プーチン氏、治安機関に訓示 3/1
ロシアのプーチン大統領は28日、ウクライナ侵攻を巡り西側諸国との対立が深まる中、「われわれの社会を分裂・弱体化させようとする違法行為を特定し、阻止しなければならない」と述べた。モスクワでの連邦保安局(FSB)幹部会拡大会合で訓示した。
プーチン氏は26日放映の国営テレビのインタビューで、ウクライナを支援する西側諸国の目的は「ロシアを解体することだ」と主張。民族名としての「ロシア人」が消滅しかねないとして国民の危機感をあおっており、FSBに対応を指示した格好だ。
●ロシア、新START履行停止を正式決定 核増強示唆、米欧を威嚇 3/1
ロシアのプーチン大統領は2月28日、米露の新戦略兵器削減条約(新START)の義務履行をロシアが一時停止すると定めた法律に署名し、発効させた。戦略核弾頭の配備数や運搬手段の保有数を制限する同条約は、米露間に残る唯一の核軍備管理条約となっていた。プーチン氏は核戦力を増強する可能性を示唆して米欧諸国を威圧し、ウクライナへの軍事支援の見直しを迫る思惑とみられる。
法律は「履行再開は露大統領が決定する」と規定。ペスコフ露大統領報道官は「米欧がロシアへの敵対姿勢を改めない限り、ロシアは履行を再開しない」との立場を示した。
新STARTの履行停止を巡っては、プーチン氏が2月21日に行った年次教書演説で表明し、関連の法案を同日、下院に提出した。法案は22日に上下両院で可決された。
プーチン氏は年次教書演説で「米国が核実験を行えばロシアも行う」と述べたほか、23日のビデオ声明でも「ロシアは核戦力の強化を続ける」と表明。新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」の配備や核弾頭を搭載可能な極超音速ミサイルの量産を進める方針を示していた。
●プーチン大統領「新START」履行停止の法律に署名 3/1
ロシアのプーチン大統領は、アメリカとの核軍縮の枠組み「新START」=新戦略兵器削減条約の履行停止を定めた法律に署名しました。
プーチン大統領は先月28日、「新START」の履行停止を定めた法律に署名、法律は即日発効しました。
プーチン氏は先月21日の年次教書演説の中で「新START」の履行停止を一方的に表明し、ロシア上下両院が22日に履行停止を承認していました。
「新START」は米ロ両国の間に残る唯一の核軍縮の枠組みで、戦略核弾頭の数の制限や核兵器関連施設の相互査察などを定めています。
「新START」をめぐり、ペスコフ大統領報道官は28日付のロシア紙イズベスチヤのインタビューで、欧米がロシアの安全保障に対するアプローチを変え、ロシアの意見に向き合わない限り、履行を再開しないとの考えを示しています。
●ウクライナ東部ドネツク州で攻防 ロシア 治安機関に対策指示  3/1
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点バフムトを包囲するように攻撃を強めています。一方、ロシアのプーチン大統領は、支配地域やロシア国内でウクライナ側などによる破壊工作のおそれがあると主張して治安機関に対策強化を指示し、引き締めを図っています。
ウクライナ東部では、ロシア側がドネツク州の掌握をねらい、ウクライナ側の拠点バフムトを包囲するように攻撃を強めていて、ウクライナのゼレンスキー大統領は「状況はより困難になってきている」と述べ、防衛線を保つことが難しくなってきているという考えを示しています。
ロイター通信は、27日にバフムトで撮影したとする映像を配信し、この中では、建物のほとんどが破壊された街なかをウクライナ軍の戦車が走行する様子や、砲撃の音や銃声が絶えず鳴り響く中、住民とみられる人々が通りを歩く様子もうかがえます。
一方、プーチン大統領は28日、ロシアの治安機関FSB=連邦保安庁の会合に出席し、ウクライナや欧米側によるロシアへのスパイ行為や破壊工作が増えていると主張して対策強化を指示しました。
プーチン大統領は「われわれの社会を分断し弱体化させようとする人々の違法行為を特定し、阻止することが必要だ」と述べて、ロシア国内だけでなく去年(2022年)9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東部と南部の4つの州でも対策強化を命じ、引き締めを図っています。
●ウクライナ軍はまもなく大敗北喫し戦争終結、これだけの証拠 3/1
開戦から1年を超えたウクライナ戦争に終末が近づいている兆候がみられる。ウクライナが敗北する可能性が高まっている。その背景を探ると共に今後の推移と影響を分析する。
陥落寸前のバフムート
かつては人口7万人の都市で東部ドンバスの交通網の中枢でもあったバフムートは、2014年以降、NATO(北大西洋条約機構)の支援も受けながら全都市の要塞化を進めてきた。
市内にはコンクリートの堅固な要塞陣地が築かれ、大量の武器・弾薬が備蓄され、要所には戦車、各種の対戦車・対空ミサイルが掩体内に配備され、陣地帯の周囲には何重もの地雷原や対戦車障害などが設けられていた。
ロシア軍(以下、露軍)は開戦3カ月後の2022年5月から攻撃を開始し、以来約9カ月に及ぶ攻防戦がバフムートでは続いてきた。
露軍は、ウクライナ軍(以下、宇軍)の対空・対戦車ミサイル、ロケット砲などの射程外から、長射程のスタンドオフミサイルやロケット砲・火砲などにより、徹底的にまず宇軍の陣地を破壊し、必要とあれば地域を犠牲にし占領地域を縮小してでも、宇軍の兵員と装備を損耗させるという「消耗戦略」を採用している。
消耗戦略を支えたのは、無人機、衛星画像、レーダ評定、戦場の偵察兵の報告などの多様な情報・警戒監視・偵察(ISR)システムによるリアルタイムの目標情報と、それにリンクした司令部の指揮統制・情報処理・意思決定システムによる攻撃兵器への目標配分・攻撃命令、それを受けた陸海空各軍種と新領域を横断する、統合レベルの総合火力システムによる、目標への射撃という、一連のサイクルである。
このようなISR・指揮統制機能・領域横断的な火力からなるサイクルは、濃密な対空ミサイル網、航空優勢により掩護され、その掩護下から各種の精度の高い長射程火力の集中射撃が宇軍の目標に対してなされた。
ダグラス・マグレガー米陸軍退役大佐(ドナルド・トランプ政権当時の米国防省顧問)は、このような陸海空の発射母体から発射される対地ミサイル、地上配備のロケット砲・火砲よる損害は、兵員損耗の約75%にも上ったと見積もっている。
堅固な塹壕陣地に対し大量集中火力が浴びせられ、大量の損耗が生じた、第1次大戦中の「肉引き機」と呼ばれたベルダンの戦いに類似した、それ以上の熾烈な消耗戦が、バフムートの戦場で繰り広げられてきた。
今そのバフムートで露軍は完全包囲まであと2.8キロに迫っている(February 25, 2023 as of February 25, 2023)。
バフムートの宇軍は包囲を避けるため離脱中だが、まだ一部の宇軍は市街地に立てこもり抵抗を続けている。
宇軍の残存部隊等に対し露軍は、各種のミサイルや火砲、装甲戦闘車搭載砲などにより集中射撃を行い、宇軍陣地の建物群などを制圧している。
露軍の戦車等は、前進経路上の敵目標を制圧しながらさらに前進を続けている(Hindustan Times, February 13 & February 22, 2023 as of February 26, 2023)。
露軍は宇軍の抵抗が弱まったことから、機動戦に力点を移しているとみられ、進撃速度は1日に1〜2キロに上がり、離脱した宇軍を追撃し前進を続けている。
被包囲下の宇軍兵士は、補給も途絶え組織的戦闘が困難になっていると訴えている。
宇軍はバフムート南北の現陣地帯とスラビャンシク〜カラマトルシクの陣地帯の間の河川の線で防御立て直しを図っているが、配備兵力が不足し、露軍の阻止は困難とみられている(HistoryLegends、2023年2月11日 as of February 27, 2023)。
長期消耗戦の勝敗決する兵站能力
戦いが長期化するに伴い、戦勢を左右する決定的要因となったのが、双方の兵站支援とりわけ各種のミサイル・砲弾など弾薬類の補給能力である。この点では、終始露軍が圧倒してきた。
元米海兵隊のスコット・リッターは、露軍は各種ミサイル、砲弾を1日当たり6万発発射できる兵站支援能力を維持しているが、宇軍は1日6000発を維持するのもやっとの状態である。
NATOはロシアとの戦いに勝てないと指摘している(Scott Ritter- NATO: A Broken Alliance, February 13, 2013 as of February 27, 2013)。
マグレガー退役大佐も、NATOの弾薬生産能力は、米軍すら1日2200発程度であり、他のNATO諸国は併せても米国1国に及ばない。
NATO全体でも所要数6000〜7000発の半数程度しか生産できず、NATOも米軍も露軍と戦うことはできない。戦闘が長期化するに伴い、NATOの弾薬の在庫は枯渇していくとみている。
緊急増産態勢を強化するには、生産ラインと施設の増設、技術者の養成確保などに、数カ月以上かかり、当面の戦闘には間に合わない。装備品についても同様であり、HIMARSのような高度な装備の増産には数年を要する。
装備面でも、露軍のミサイル・火砲や戦車、戦闘車両、航空戦力にはまだ余力がある。他方の宇軍は装備品の多くを9月以降の攻勢で破壊された(Listen to all Straight Calls with Douglas Macgregor, Recorded January 19, 2023)。
2023年2月23日にはNHKが、露軍のイラン製無人機が底を尽きたとの英国防省の発表を報じている。
イランはウクライナ戦争で使用されているのはイラン製ではないと主張しており、撃墜された無人機からは米国以下西側の部品が多数使用されていることが確認されている(NHK NEWSWEB、2023年2月23日)。
西側部品がロシアで入手できなくなり、同型の無人機の生産が止まっている可能性はある。
しかし2019年3月、当時のゲラシモフ参謀総長は演説で、以下の2つの戦略の発展方向を指摘している。このことは、ロシア側が周到な戦争準備を行っていたことを示している。
一つは、現代的な情報通信技術を基礎とする、部隊、偵察手段、攻撃手段、部隊と武器の統制手段を統合した統一システムの構築と発展である。
そのために、リアルタイムに近い状態で、観測し目標指示を行い、戦略および作戦戦術レベルの非核兵器を用いて枢要な目標に選別的な打撃を行うことが求められており、軍事科学は複合的な攻撃システムを基礎づけなければならないとされている。
もう一つの方向性は、ロボット複合体の大規模な使用に関するものであり、広範な任務を遂行するための無人航空機に関連するもの及び無人航空機や精密誘導兵器に対抗する兵器システムの構築である。
対抗システムの構築では、目標の種類、その構成、時間的な緊要性に基づいて選択的に影響を及ぼす電子戦部隊およびその手段が決定的な役割を果たすとされている。
この分野での軍事科学の課題は、ロシア連邦軍の無人兵器の対抗システムに関する戦略策定問題を検討し、将来型戦略電子戦システムの基礎を築くとともに、これを統一システムに統合することであるとされている。
(細部は矢野義昭「ウクライナ軍壊滅の日は近い?  ロシアから見える現在の戦況」『JBpress』2022年8月8日参照)。
このような中長期的な戦略方針のもと、露軍は軍需産業界、科学技術者たちと緊密に連携し、ウクライナ戦争を予期した新型兵器の開発、配備、ミサイル・弾薬の備蓄と緊急増産体制の強化、軍事ドクトリンの開発、編制・装備の改革、訓練などを重ねてきたとみられる。その成果は、ウクライナ戦争でも表れている。
NATOの見積りの2倍の備蓄量と3倍以上の緊急生産能力をロシア側は保持しているとみられている。
弱点とみられていた半導体についても、十分な事前備蓄を行い、第三国を経由し迂回輸入をしているとみられ、半導体不足で兵器生産が低下しているという有力な兆候はみられない(WION, February 20, 2023)。
その意味では西側の経済制裁は、予期したような経済効果をロシアに与えているとは言えないであろう。
開戦から1年を迎える直前の2023年2月、ジョー・バイデン米大統領はキーウ(キエフ)を電撃訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領に戦車700両、戦闘車両数千両など、「揺るぎない支援」を約束した。
しかし、米国はじめNATO諸国の在庫は底を尽きており、米独の戦車がウクライナに到着し戦力化されるのは、2023年8月頃になるとみられている。
現在の戦況から見れば、8月までに、露軍が宇軍を撃滅しウクライナが敗北してしまう可能性が高い。
たとえ一部が届いたとしても訓練時間が不足し、戦車を駆使できる兵員も不足している。また、様々の国の多種類の戦車があり兵站系統が複雑で、整備できる兵員も部品も足りない。
そのために、今から送る予定のNATOの戦車などは、露軍の攻勢阻止には間に合わないとみられている(Listen to all Straight Calls with Douglas Macgregor, Recorded January 19, 2023)。
膨大な戦死傷者でも余力ある露軍
宇軍は人的損耗も甚大になり、既に崩壊状態に等しいとみられている。
開戦当時宇軍は正規軍が約15万人、予備役が約90万人いた。戦時の損耗については、米軍等の見積りによれば、2022年8月頃までは、平均1日千人程度の死傷者と行方不明者が発生したとみられている。
しかし、9月以降南部やヘルソン州で攻勢を繰り返し死傷者が続出した。
2023年1月初めの時点で宇軍は、12.2万人が戦死し3.5万人が行方不明となり、その他に最大40万人が負傷したとみられる。
行方不明者の大半は死亡したとみられ、総計約55.7万人が死傷したと見積もられる。
露軍1人の戦死者に対し宇軍は8人の戦死者を出しており、宇軍では45歳以上の後備役の老兵や徴兵年齢に満たない15・6歳の少年兵まで前線に投入している模様である(Listen to all Straight Calls with Douglas Macgregor, Recorded January 19, 2023)。
このような、総兵力の約6割に達する損耗が出ている宇軍の壊滅的な窮状を支援するために、NATO諸国はポーランド軍約4万人、ルーマニア軍約3万人を始めとし、米英仏、東欧諸国、さらに韓国などの国々が総計9万人から10万人の軍人を、個人契約、義勇兵などとしてウクライナ軍の軍服を着せて、第一線部隊に参加させ、平均4%程度の損耗を出しているとみられている(HistoryLegends、2022年12月15日)。
NATO供与の高度なHIMARS、戦車、対空ミサイルなどの兵器は、宇軍にはなじみがなく、訓練時間もないため、主にNATO諸国からの将校や下士官が現場で指揮・指導しながら戦闘を行っていることが、帰還兵の証言などから明らかになっている。
米軍出身の要員は、HIMARS、ジャベリンなどの高度の米国製兵器システムの操作や現場指揮も担当しており、約1割の損耗率に達しているとの見方もある。
他方の露軍の損害については、2022年10月に、ロシアの独立系メディア「バージニエ・イストーリー」は同月12日、戦死傷者と行方不明者で計9万人以上に上っているとみられると伝えた。
ロシア連邦保安局(FSB)など情報機関の現役将校とOBの話としている。欧米当局はおおむね同等の推計を示していたが、ロシアの内部情報が明るみに出るのは極めて異例と報じられている(『時事エクイティ』2022年10月13日)。
2022年10月、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は同月9日、ロシア軍はウクライナでの戦争の結果、10万人以上の死傷者を出したと述べている(CNN.co.jp, October 11, 2022 as of February 27, 2023)。
2023年2月英国防省は、ロシア軍の1日当たりの戦死者数は、最も多かった2022年2月のウクライナ侵攻開始時の規模に近づいていると発表している。
損害がさらに増えて兵員確保に苦慮すれば、プーチン政権が否定している予備役の動員「第2弾」が現実味を帯びるかもしれない(『時事通信』2023年2月15日)。
開戦から約1カ月経過した時点での宇軍の損耗は約2万人、露軍の損耗は約1万人との米軍の見積りが報じられたことがある。
また宇軍の損耗は2022年8月の攻勢開始前は、平均1日1000人程度とみられていた。この見積を前提とすれば、露軍の2022日2月頃の損耗は最大でも1日500人程度とみられる。
露軍の冬季攻勢は2023年1月中旬頃から路面の凍結を待って開始されており、約50日が経過している。
1日500人の損耗とすれば累積では2.5万人となる。昨年12月までの露軍の損耗か約10万人とすれば、現在約十数万人の損耗が出ていると見積もられる。
英国防省は2月17日、ウクライナに侵略しているロシア軍と露民間軍事会社「ワグネル」戦闘員の死傷者数は「17万5000人から20万人」に上り、戦死者数は「4万人から6万人」とする推計を明らかにした(『読売新聞オンライン』2023年2月17日)。
ワグネルはこれまでソレダル、バフムートなど戦闘の第一線で戦い続けており、死傷率は高いとみられ、ワグネルも含めた戦死傷者数としては、妥当な見積もりかもしれない。
ただし、英国防省の公表数字は、宇軍に有利で露軍の損害を過大に発表する傾向もあり注意が必要である。
仮に露軍が10数万人から最大ワグネルも含め20万人の損害を出しているとしても、露軍の予備役総兵力は開戦前には約200万人とみられていた(日本外務省ホームページ「ロシア連邦」)。
兵員不足に陥っても第2回目の数十万人の動員をかけることはできるであろう。宇軍と比較すれば、兵員不足と見ることはできない。
また砲弾・ミサイルの射撃数は依然として露軍は宇軍を圧倒しており、本格的な冬季攻勢以降露軍の損害が増加しているとしても、露軍の死傷者の比率が崩壊に瀕している宇軍より高いとみることもできない。
約20万人以下の損耗であれば、約30万人の動員兵力の戦線配備により補充でき、露軍が兵員不足に陥っているとはみられない。
ロシアの高い戦意戦力と迫る停戦の決断
問題はロシア国内における戦死傷者家族の反発によるウラジーミル・プーチン大統領に対する支持率低下である。
プーチンの支持率について、開戦直後の2022年4月1日、『ブルームバーグ(電子・日本語版)』は、「ロシア世論調査、プーチン大統領の支持率83%」との記事を配信した。
開戦から1年後の最新の世論調査でも支持率は80%前後を維持していると報じられている。
独立系世論調査機関「レバダセンター」が2023年2月1日に発表した調査では、プーチン大統領の「活動」に対する評価について、「承認」が82%、政府系「全ロシア世論調査センター」の12日発表の調査でも76%と、1年前の侵攻開始以降、高い数字を維持している(『日テレニュース』2023年2月24日)。
支持率が一時8割を切った昨年9月頃より、支持率は回復傾向にあり、国内での政治的不安定要因にはなっていない。
露軍にとり、NATOの支援を受けた宇軍は直接的な国家安全保障上の脅威である。
このため宇軍を殲滅するまで、攻勢を継続するとみられ、その能力も意思も維持されている。
NATOの支援は人的にも物的にも期待できないか、間に合わないとみられる。
結局、宇軍はこれ以上戦争を続けても、領土を回復するどころか、ますます損害が増大し領土を喪失することになるだろう。
バイデン大統領のキーウ訪問直後の2023年2月24日、ゼレンスキー大統領は、キーウで記者会見し、習近平中国国家主席と会談する用意があると明らかにしている。
ウクライナ国営通信によると、ゼレンスキー氏は「習氏との会談を計画している。両国と世界の安全保障のために有益だと考えている」と述べた。
「中国は歴史的に領土の一体性を尊重してきた。ロシアが我々の領土から撤退するためにできることをするべきだ」とも訴え、ロシアへの武器供与の動きを米国などから指摘される中国を牽制したと報じられている(『読売新聞オンライン』2023年2月25日)。
このゼレンスキー氏の呼びかけは、ロシアと戦略的な協力的パートナーシップ関係にある中国の影響力を行使して、ロシアとの停戦協議の機会を探ろうとする呼びかけととることもできる。
その時期が、バイデン大統領のキーウ訪問直後になされたことも、訪問の秘められた目的が、米軍も他のNATO加盟国もこれ以上ウクライナを支援はできず、ロシアとの停戦交渉に応じるよう説得することにあったことを示唆させる。
バフムートでは激戦が続いているとはいえ、バフムート陥落は時間の問題であり、前述したようにNATOの武器、弾薬、兵員の支援もこれ以上は困難か又は間に合わない状況に追い込まれている。
マグレガー米陸軍退役大佐は、現在の露軍の態勢について、衛星画像分析その他の諸情報から、総兵力約70万人、そのうち南部に18万〜22万人、東部に15万〜20万人、北部に15万〜20万人が展開し、北部正面からハリコフ、キエフ、リヴィウなどに攻撃をかけることができるとみている。
装備面でも、戦車1800両、装甲戦闘車数千両、火砲・ロケット砲・各種ミサイル数千門、無人機数千機を既に展開しているとみており、東部ドンバス正面のみならず、北部、南部も含めた三正面から大規模攻勢をかける戦力と態勢を既に展開済みとみられる。
今後の戦略攻勢について最も注目されるのは、北部正面からの攻勢によるリヴィウからポーランド国境の制圧である。
もし国境地帯を露軍に制圧されれば、NATOのウクライナに対する支援路が絶たれ、宇軍の戦闘継続は不可能になるであろう。
その場合、ポーランドなどNATO加盟国が戦闘に直接参加し戦火が東欧諸国に拡大すれば、NATO条約第5条に基づき、全NATO加盟国が被侵略国を支援しなければならなくなるため、露軍とNATOの直接対決を招く。
そうなれば、紛争は世界規模に拡大し、核戦争へのエスカレーションのおそれも高まる。
そのような事態に至る前に、ウクライナ戦争を停戦に持ち込むことが、国際社会全体の安全保障にとり死活的に重要な課題になっている。
日本もそのための停戦交渉成功のために尽力すべきである。
早期停戦実現に努めるべき立場にある日本
日本にとり最も深刻な脅威は中国だが、その中国はウクライナ戦争において漁夫の利を得る立場にある。
ウクライナ戦争が長引けば、その立場はますます強くなる。
他方米国は、台湾向けのHIMARSまでウクライナに転用せざるを得ないほど、弾薬・ミサイルも装備の在庫が底を尽き、緊急増産も当面困難な状況にある。
ウクライナ戦争が長引くほど、米国の日本・台湾有事における装備、弾薬・ミサイルの支援は国難になる。
日本はウクライナに死活的国益を有しているわけではなく、ロシアを主な脅威と見ている欧州のNATO加盟国の国益とこの点で相反する立場にある。
日本は国家安全保障の面からも、ウクライナ戦争の早期終結実現に全力で取り組まねばならない。
ウクライナの戦後処理問題でも過度の負担を背負う必要はなく、むしろその資源を日本自らの国家安全保障態勢強化と同盟国や周辺国との相互援助体制強化に投ずるべきであろう。
ウクライナ停戦後、日本周辺の北東アジアが新たな国際的緊張の焦点になる可能性は高く、それに備えるための残された時間は少ない。
その意味でも、日本は自らの防衛・安全保障態勢の強化に最優先で取り組まねばならない立場にある。
●「次の1年で大きな領土奪取ない」 米高官、当面のロシア攻勢に見解  3/1
米国防総省のカール国防次官(政策担当)は2月28日の下院軍事委員会の公聴会で、ロシアのウクライナ侵攻の戦況に関して「前線は擦り減るような重苦しい戦いになっている。次の1年ほどで、ロシア軍がウクライナ軍を圧倒し、大きな領土を奪うことはない」との見通しを示した。ウクライナが求めるF16戦闘機の供与には、決定から1年半以上かかるとの見通しを示し、戦況を好転させるための費用対効果の観点からも「最優先の支援項目ではない」として現時点で供与しない理由を説明した。
カール氏は、今後数週間から数カ月間の攻防について「(東部ドネツク州の要衝)バフムトで最近数カ月間、ロシアが(民間軍事会社の)ワグネルが雇った囚人たちの『人海戦術』によって実効支配地域を増やしたように、双方とも小さな地域を新たに奪うことはあるだろう」と指摘。その上で「ウクライナがロシアの攻勢を止められるように支援すると同時に、領土を奪還するための能力も与えていく」と述べた。
一方、F16戦闘機については「支援の優先事項だが、三つの最優先事項には入らない」と述べ、最優先項目には車、火砲、防空システムを挙げた。また、F16戦闘機の供与について「新造するなら3〜6年、既存機の供与でも最短で18〜24カ月かかる」と説明。「米空軍は、ウクライナの保有機を置き換えるには50〜80機のF16が必要だとみているが、最新機種でそろえれば100億〜110億ドル(約1兆3600億〜1兆5000億円)かかる。旧型機を36機供与するにしても20億〜30億ドル(約2700億〜4000億円)かかる」と指摘し、時間や費用対効果が課題だとの認識を示した。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 1日の動き 3/1
米 政府高官「中国がロシアに衛星画像を提供」軍事支援けん制
アメリカ国務省でアジア政策を統括するクリテンブリンク国務次官補は28日、議会下院の外交委員会の公聴会に出席しました。この中でウクライナに軍事侵攻を続けるロシアに中国がどのような支援をしてきたのかを議員から問われたのに対し「中国はロシアとの経済的なつながりや、ロシアからの購入を増やしている」と指摘しました。そして「ロシアを援助しているとしてわれわれが制裁リストに載せた中国企業のうちの1社は、ロシアの民間軍事会社ワグネルに人工衛星から撮影した画像を提供していた」と述べました。そのうえで、中国がロシアに軍事支援をすれば「結果が伴うことになる」と述べ、制裁も辞さない姿勢を示して中国をけん制しました。また、米中関係についてクリテンブリンク次官補は「中国は国内ではより抑圧的に、対外的にはより攻撃的になりつつあり、アメリカの外交が試されている」との認識を示しました。そして「アメリカはわれわれの価値観と利益のために断固、立ち上がるが、中国との衝突や、新しい冷戦も望んでいない」と強調し、中国との関係が先鋭化しすぎないようコントロールしていきたいという考えを示しました。
東部攻防激しく ロシアは治安機関引き締め
ウクライナ東部では、ロシア側がドネツク州の掌握をねらい、ウクライナ側の拠点バフムトを包囲するように攻撃を強めていて、ウクライナのゼレンスキー大統領は「状況はより困難になってきている」と述べ、防衛線を保つことが難しくなってきているという考えを示しています。ロイター通信は、27日にバフムトで撮影したとする映像を配信し、この中では、建物のほとんどが破壊された街なかをウクライナ軍の戦車が走行する様子や、砲撃の音や銃声が絶えず鳴り響く中、住民とみられる人々が通りを歩く様子もうかがえます。
プーチン大統領 欧米側のスパイ行為への対策強化を指示
プーチン大統領は28日、ロシアの治安機関FSB=連邦保安庁の会合に出席し、ウクライナや欧米側によるロシアへのスパイ行為や破壊工作が増えていると主張して対策強化を指示しました。プーチン大統領は「われわれの社会を分断し弱体化させようとする人々の違法行為を特定し、阻止することが必要だ」と述べて、ロシア国内だけでなく去年9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東部と南部の4つの州でも対策強化を命じ、引き締めを図っています。
モスクワの南東で「無人機墜落」
ロシア中部モスクワ州のボロビヨフ知事は28日、州内のコロムナに無人機が墜落したとSNSに投稿しました。コロムナは、首都モスクワから南東100キロ余りに位置していて知事によりますと、付近には天然ガス施設があるとして「民間のインフラ施設がねらわれた」と主張しています。無人機の詳細について、ロシアの治安当局が調べているということですが、国営のタス通信は「無人機は外国製だ」と伝えています。また同じ28日、ロシア国防省は、ウクライナに近い南部クラスノダール地方などで民間のエネルギー施設をねらったウクライナからの無人機による攻撃があったが阻止したと発表しました。いずれもけが人などはなく、施設への被害も出ていないということです。ウクライナ側はこれまでのところ、関与についてコメントしていません。ロシアでは、去年12月、中部や南部の空軍基地などで爆発が相次ぎ、ロシア国防省は、ウクライナ軍の無人機に攻撃されたとして、警戒を強めていました。
プーチン大統領 核軍縮条約の履行停止の法律に署名
ロシア大統領府は28日、プーチン大統領がアメリカとの核軍縮条約「新START」について履行を停止する法律に署名したと発表しました。プーチン大統領は21日に行った年次教書演説で「新START」の履行停止を表明し、その後、ロシア議会が履行を停止する法案を可決していました。法律は28日をもって効力が生じるとしていて、一方で新STARTの履行の再開はロシアの大統領が決定できるとしています。核軍縮条約の履行の停止については、アメリカのバイデン大統領が「大きな過ちだ」と批判するなど、国際社会で懸念が強まっています。
米国務長官が就任後初の中央アジア訪問
アメリカのブリンケン国務長官は28日、カザフスタンを訪問し、ウズベキスタンなど中央アジア5か国の外相と会合を開きました。ブリンケン長官は会合のあとの記者会見で「中央アジアの友好国に対し、さまざまな機会を提供できるようできるかぎりのことはする」と述べ、この地域の貿易相手国の多角化などを推進するための基金などに追加で2500万ドル、日本円にしておよそ34億円を提供すると明らかにしました。中央アジアの5か国は旧ソビエトの構成国で、政治的にも経済的にもロシアとのつながりが深い一方、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと距離を置く姿勢もみせています。ブリンケン長官の中央アジア訪問は就任後、初めてで、ロシアと中央アジアの国々の関係にくさびを打ち、ロシアへの制裁の効果を高めるねらいもあるとみられます。
ロシア ラブロフ外相はアゼルバイジャンを訪問
ロシアのラブロフ外相は旧ソビエトのアゼルバイジャンの首都バクーを訪問し、27日にアリエフ大統領と会談したのに続き、28日にはバイラモフ外相と会談を行いました。アゼルバイジャンは隣国アルメニアとの間で、去年、武力衝突が起き死者が出ていて、一連の会談でラブロフ外相は、ロシアが仲介役となって両国の問題解決を進めたい意向を強調しました。一方、この地域をめぐっては、アメリカのブリンケン国務長官が18日にドイツでアゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのパシニャン首相と会談するなど、仲介役としての外交的な働きかけを強めています。ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、勢力圏だとしてきた旧ソビエト諸国の間でロシアの影響力の低下が指摘されていて、ロシアとしては旧ソビエトの構成国である両国に対し、存在感を示したいねらいもあるものとみられます。
きょうからインドでG20外相会合 ウクライナ情勢が主要議題
G20の外相会合は、1日から2日間の日程でインドの首都ニューデリーで開かれ、アメリカのブリンケン国務長官やロシアのラブロフ外相、それに中国の秦剛外相が出席する予定です。実質的な討議は2日に行われ、ウクライナ情勢を主要な議題に、世界的なエネルギーや食料価格の高騰への対応などについて、議論が交わされる見通しです。ロシアによるウクライナへの侵攻を巡っては、アメリカやイギリスなどの欧米各国がロシアに経済制裁を科して厳しく非難する一方、中国は制裁に反対する立場を示しています。
議長国インドはグローバル・サウスの代表格
議長国インドは、欧米とロシアのどちら側にもつかない「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国の代表格で、こうした国々の声をG20に反映させていく考えを強調しています。ウクライナ情勢をめぐって欧米とロシアが対立する中、議長国インドが、G20として各国の意見を取りまとめ、一致した対応を打ち出せるかが焦点となります。
グローバル・サウス 軍事侵攻支持せず 経済制裁にも加わらず
「グローバル・サウス」は明確な定義はありませんが、アジア、アフリカ、中南米などの新興国や途上国を指し、近年、経済規模が大きくなるのに伴い、国際社会で注目されています。冷戦時代には「第三世界」と呼ばれていたこうした国々は、欧米かロシアかといった「二者択一」を避け、みずからの国益や地域情勢に基づいて動く傾向があるとされています。ウクライナ情勢をめぐっても、こうした国の多くはロシアによる軍事侵攻を支持しない一方、欧米などによる経済制裁にも加わっていません。
専門家“グローバル・サウス含めた世界的危機の解決を”
近年「グローバル・サウス」が存在感を増していることについて、インドの元外交官のサラン元国家安全保障副顧問は新型コロナウイルスの拡大とロシアによるウクライナへの軍事侵攻という2つの世界的な危機がきっかけになったと分析しています。サラン元国家安全保障副顧問は「エネルギーや食料、肥料、経済発展などに関する途上国の懸念を国際社会が聞き入れないことが問題だ。2つの世界的な危機が、グローバル・サウスの声を地球規模の問題において確実に反映させたいという考え方に導いた」と指摘しています。そのうえで「ウクライナをめぐって『西側』対『ロシア』や『競争』といった言葉は古臭く、冷戦時代に戻ったかのようだ。持続可能な開発や気候変動といったより深刻な問題に取り組まないかぎり、世界は不安定となり、分断が続くであろう」と述べ、「グローバル・サウス」の国々を含めた世界全体で問題の解決に取り組むべきとの考えを示しました。 
●プーチンの痛恨。ウクライナ侵攻で壊滅的に低下したロシアの影響力 3/1
各地での激戦が止まぬ中、2月24日に開戦から1年を迎えたウクライナ戦争。この間、国際社会はどのように変化したのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、軍事侵攻開始から1年を経た現在、各国が置かれている立場と今後の行く末を解説。さらに長期的・歴史的見地から、「最大の負け組」となる国家を予測しています。
ウクライナ侵攻開始1年〜世界はどう変わった?
2022年2月24日は、まさに「歴史的大事件」のはじまりでした。ここ1年で世界はどう変わったのかを見てみましょう。
ウクライナの可能性
まず、ウクライナ。突然「世界2位の軍事力を持つ核超大国」から侵略された。これほどの悲劇はありません。昨年夏時点で、1,000万人が国外に脱出したといわれています。
プーチンは昨年9月、ウクライナのルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州を併合する決定を下しました。哀れウクライナ。クリミアを含め、約2割の領土を奪われてしまいました。
ちなみにウクライナのGDPは2022年度、約30%減少したそうです。まさに「踏んだり蹴ったり」ですが、そんな中にも、よいことはありました。それは、国際社会におけるウクライナの評判が上がったことです。
私は、フィンランド人、ポーランド人、トルコ人などから、「日本はすごい!日露戦争に勝ったから」あるいは、「日本が好き!日露戦争でロシアを打ち負かしてくれたから」と褒められたことがあります。「この人たちは、100年以上前のことを覚えているんだな」と驚きました。
そう、世界一広大な国、地政学でいうハートランド・ロシアと戦うのは、大変なことなのです。今、ウクライナは、それをやっています。
開戦当初、アメリカとイギリスは、ゼレンスキーに「脱出して亡命政権を作れ。サポートするから」と提案しました。しかし、ゼレンスキーは、米英のオファーを断り、キーウに残って戦うことにした。この決断によって、ゼレンスキーは、ウクライナだけでなく世界的英雄になったのです。
今は、世界一悲惨なウクライナですが、戦後は明るい展望が見えます。莫大な額の復興支援と投資が流れ込んでくるでしょう。
ただウクライナはこれまで、「汚職国家」として知られてきました。ゼレンスキーが戦後、汚職撲滅に失敗すれば、せっかくの名声が失われるかもしれません。
影響力の低下が著しいロシア
次にロシア。私は2021年の12月から、ロシアがウクライナに侵攻する可能性について言及していました。そして、侵攻の結果については、「ウクライナでの戦闘に勝っても負けても、【 大戦略的敗北は不可避 】である」と繰り返し主張してきました。これは、何でしょうか?
ロシアは2014年3月、ウクライナからクリミアを奪いました。鮮やかな【 戦術的 】大勝利です。しかし、その後日本と欧米は、ロシアに経済制裁を科した。それで、ロシアの経済成長は、止まってしまったのです。
ロシアは、プーチンの1期目2期目、つまり2000年から08年まで、年平均7%の成長をつづける高成長国家でした。ところがクリミア併合後、2014年〜2020年の成長率は、年平均0.38%まで落ち込んだのです。
つまり、ロシアは、クリミアを奪ったことで経済成長できない国になった。これを私は、【 大戦略的敗北 】と呼んでいます。
今回は、「クリミア併合」で起こったことが、もっと大規模に起こっています。ロシアは国際社会で孤立し、厳しい制裁で、経済はボロボロになっていきます。
特筆すべきは、プーチンのミスにより、ロシアは、「旧ソ連圏の盟主」の地位を失いつつあること。どういうことでしょうか?
ウクライナ侵攻後の旧ソ連諸国の動きを見ると、
•ウクライナ、モルドバ、ジョージアが、EUに加盟申請をした
•コーカサスの石油大国アゼルバイジャンは、ロシアから離れ、トルコに接近している
•トルコから支援を受けるアゼルバイジャンは2022年9月、アルメニアと軍事衝突
•アルメニアは、ロシアを中心とする軍事同盟CSTOに支援を要請
•しかし、ロシアは、アルメニアを見捨てた
•これを受けてアルメニアでは、CSTO脱退の動きが強まっている
•同じく2022年9月、中央アジアの旧ソ連国キルギスとタジキスタンの武力衝突が起こる
•両国は、ロシアを中心とするCSTOの加盟国だが、ロシアはこの紛争を放置した
•中央アジア一の大国カザフスタンのトカエフ大統領は、プーチンの派兵要求を拒否し、ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国の承認も拒否した
•結果、ロシアとカザフの関係は悪化
•これらの動きから、中央アジアの旧ソ連国とロシアの関係は悪化。中央アジア諸国は中国に接近している
というわけで、ここ1年間、EU、トルコ、中国が旧ソ連諸国での影響力を強めました。それだけ、ロシアの影響力は低下したのです。
ちなみにウクライナ侵攻開始1年目にあたる2月24日、国連総会では、「ロシア軍の即時撤退を求める決議」が圧倒的多数で採択されました。BBC2月24日を見てみましょう。
国連総会は23日、ロシアのウクライナ侵攻開始から丸1年となるのに合わせて開催された緊急特別会合で、侵攻を非難する決議案を圧倒的多数で採択した。141カ国が賛成し、ロシアを含む7カ国が反対、中国やインドなど32カ国が棄権した。
決議案は、ウクライナからのロシア軍の撤退や戦闘の停止、可能な限り早期に平和を実現することなどを求めるもの。
国連加盟国は193か国。そのうち141か国、つまり73%の国々が「ロシア軍の即時撤退」を求めています。
そして、インドや中国など32か国が棄権。これらの国々は、中立の立場。親プーチン派は、中立の国々をちゃっかり「ロシアの味方」にしていますが、中立は、中立です。
この決議に反対し、「ロシア支持」の立場を明確にしたのは、6か国だけ。ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、マリ、ニカラグア、シリア。なぐさめにならない面子です。
というわけで、ウクライナ侵攻から1年。プーチンの大戦略的ミスによって、国際社会におけるロシアの影響力は破滅的に低下しています。
アメリカの得と損
アメリカは、どうでしょうか?これは、得と損があるでしょう。得とは何でしょうか?主に欧州との関係です。
トランプ時代、アメリカと欧州の関係は、かなり悪化していました。トランプが、「事実上アメリカ一国が、他のNATO加盟国29か国を守っている。不公平だ」と主張していたからです。それで、トランプは、欧州でとても嫌われていました。
今回、ウクライナ侵攻が起こり、アメリカと欧州の結束は大いに強まりました。さらに、欧州がロシアからのエネルギー輸入を止めたことも、アメリカに追い風です。欧州は、アメリカ産の液化天然ガス(LNG)を大量に輸入しはじめたからです。
では、損は何でしょうか?ロシアは、原油生産世界3位、天然ガス生産世界2位、小麦輸出世界1の「エネルギー、食糧超大国」です。この国が戦争を開始したことで、世界のエネルギー価格、食糧価格が暴騰しました。それで世界的インフレが起こった。アメリカでも歴史的なインフレ(IMFによると2022年は8.05%)になり、バイデン政権を苦しめました。
損といえば、アメリカは「大戦略的損」もしています。それは、米中覇権戦争の最中に、ロシアが中国に接近したこと。20年前から、「アメリカの敵は中国だけ」と主張しつづけてきたミアシャイマーの憤りは、ここにあります。
金より安全を選んだ欧州
次に欧州は、どうでしょうか?欧州の動き、プーチンには、驚きだったでしょう。
ウクライナ侵攻前、欧州一の大国ドイツは、天然ガスの55%をロシアから輸入していました。それでプーチンは、「欧州は、ロシアに強い制裁をできない」と予想していた。
ところが、ドイツをはじめとする欧州は、ロシアに対し遠慮なく厳しい制裁を科してきた。そして、たとえばドイツは、ここ1年でロシアへのエネルギー依存をほぼゼロにすることに成功しています。ガスは、ノルウェー、アメリカ、アラブ首長国連邦などからの輸入に切り替えました。
しかし、パイプラインで直接くるロシア産ガスに比べ、液化天然ガスは高い。それで、欧州のエネルギー価格は暴騰しました。欧州のほとんどの国々は、それでも、ロシアとの関係を切る選択をしました。
私が常々書いていることがあります。それは、
•主な国益は、金儲け(経済)と安全である
•しかし、金儲けと安全、どちらが大事かといえば安全である
です。欧州は2022年、「安いエネルギー」と「安全保障上の脅威ロシアを止めること」の選択を迫られました。そして、「ロシアを止めること」を選んだのです。
しかし、「金か安全か」というジレンマは、今もつづいていて、欧州のリーダーたちを悩ませています。
最大の勝者中国
ウクライナ侵攻でもっとも得をしたのは中国です。
欧米日とロシアの関係が切れた。それで、中国は、ロシア市場をほぼ独占することが可能になりました。そして、中国は、ロシアが欧州に売れなくなった石油、ガス、石炭を激安で輸入することができます。
さらに、ドル圏、ユーロ圏から追放されたロシアを、「人民元圏」に取り込むことに成功しています。ロイター2022年11月30日。
モスクワの投資会社カデラス・キャピタルのマネジングディレクター、アンドレイ・アコピアン氏は、外貨を預金している銀行が制裁を受ける危険に触れ、「ドルやユーロ、ポンドなど、伝統的な通貨を預けておくことが突如として非常に危険になったということだ」と説明。「誰もがルーブル、もしくは人民元を筆頭とするその他の通貨に切り替えようと思ったし、そうせざるを得なくなった例もある」と語った。
事実、取引所データによると、10月の人民元/ルーブル取引高は計1,850億元と、ロシアが月末近くにウクライナに侵攻した2月の80倍超に膨らんでいる。
モスクワ取引所・外国為替市場部門の幹部、ドミトリー・ピスクロフ氏は、外為市場における人民元のシェアが年初の1%未満から今では40〜45%に急拡大したと述べた。
SWIFTから排除されたロシアは、「中国版SWIFT」と呼ばれるCIPSを使うようになっています。というわけで、ウクライナ侵攻によって中国は、「ロシアを属国化するチャンスを手にした」といえるでしょう。
というわけで、ウクライナ侵攻1年の結果を勝ち組から並べると
   中国 > アメリカ > 欧州 > ロシア > ウクライナ
という感じでしょう。ただ長期的、歴史的に見ると、「ウクライナ侵攻で、ロシアの没落が加速した」となるでしょう。
1年で見ると、最大の負け組はウクライナ。しかし、長期的、歴史的に見ると最大の負け組は、ロシアになるでしょう。
●プーチンのおかげで誰もが気付いた、「核兵器はあったほうがいい」 3/1
平和を維持してきたNPT(核拡散防止条約)が、独立後に核武装と決別し、主権と領土の保全を保障されたはずのウクライナへのロシア軍侵攻により、有名無実になった。これから核武装を目指す国は増えるだろう
ロシアのウクライナに対する軍事侵攻が世界に、そして人類の未来に及ぼす最も深刻な影響は何か。少なくともその1つは、核拡散防止条約(NPT)の存在意義を根本から否定しかねないことだ。
2014年のソチ冬季五輪後にロシアが力ずくでウクライナ領の一部(クリミア半島など)を奪い取ったことで、核兵器の拡散を防いで世界を守るというNPTのロジックは覆された。
ウクライナにはかつて核兵器があったが、1994年のNPT加入に当たり、全てを手放した。そこへロシアが攻めてきた。これではまるで、NPTは弱小国を無力化し、核武装国の餌食にするための条約に見えてしまう。
実際、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は昨年2月24日の侵攻開始に当たり、自国の核戦力部隊を特別警戒態勢に置いたと宣言している。ロシアの行く手を遮る者には容赦なく核兵器を使うという露骨な脅しだ。
1991年に独立を回復した当時、ウクライナには約1900発の戦略核弾頭と2500発の戦術核があった。いずれも旧ソ連の置き土産で、その数はイギリスとフランス、中国を合わせたよりも多かった。
しかし1986年にチョルノービリ(チェルノブイリ)原発で大惨事を経験していたこともあり、冷戦終結後の世界に満ちていた地政学的楽観主義の空気もあって、ウクライナは核武装と完全に決別する道を選んだ。
もちろん、当時のウクライナ軍がこれらの核兵器を使うことは不可能だった。依然としてモスクワの司令部の管理下にあったからだ。だが、ウクライナには核兵器を扱うのに必要な技術と経験の蓄積があった。核弾頭と爆薬に加え、濃縮ウランやプルトニウムもたっぷりあった。だから、その気になればウクライナは容易に核保有国となり得た。
しかしロシアからの執拗な返還要求があり、幸いにしてアメリカが手を貸してくれたこともあって、ウクライナはわずか数年で核戦力の全てをロシアに移送できた。そしてNPTには、「非核保有国」として参加することになった。
これを受けて、アメリカと(旧ソ連の正統な継承者としての)ロシア、イギリスの3カ国はウクライナに追加的な安全保障の約束を与えることで合意し、1994年にハンガリーの首都ブダペストで開かれた欧州安保協力会議(現在の欧州安保協力機構の前身)首脳会議の場で、いわゆる「ブダペスト覚書」に署名した。
この文書には、NPTで認められた核保有国のうちの3カ国(アメリカ、ロシア、イギリス)がウクライナの主権とその領土の保全を保障し、いかなる経済的・政治的圧力もかけないと明記されていた。
条約の前文に、いかなる国も「武力の行使またはその脅迫」をしてはならないと明記
残る2つのNPT公認核保有国(フランスと中国)も追随した。どの国も、それぞれの政府声明でウクライナの国家主権と国境を尊重すると明言した。
ウクライナと同様に旧ソ連の核兵器を継承していたベラルーシとカザフスタンにも同様な約束がなされ、この両国も核兵器をそっくりロシアに返還した。
NPT(いかなる軍縮協定よりも多い191の国と地域が参加している)は1968年に交渉が妥結し、1970年に発効した。その目的は核兵器の拡散を防ぎ、原子力の平和利用に関する国際協力を進め、核兵器の廃絶に向けて努力することにある。
そしてウクライナとベラルーシ、カザフスタンの非核化に成功したこともあり、NPTは1995年に無期限で延長されて今日に至っている。
NPTは核兵器が世界中に拡散するのを防いできた。核廃絶の目標に向けた核保有国による努力を義務付けた拘束力のある条約はほかにない。核兵器の拡散防止は一国の努力だけで実現できるものではなく、国際社会の真摯な努力と協調が不可欠だとも明示している。
またNPTの下では、核保有国には核兵器を他国に供与しない義務があり、非核保有国には核兵器を受領し、製造し、または取得しない義務がある。さらに、全ての締約国が民生用の原子力利用を推進できるよう、核保有国が支援するという約束も含まれている。
そして条約の前文では、国連憲章の精神に鑑み、いかなる国も「他国の政治的独立と領土の一体性を損なうような武力の行使またはその脅迫」をしてはならないと念を押している。
実際、ロシアによるウクライナ侵攻が始まる2022年2月24日まで、NPT体制はそれなりに機能してきたと言えるだろう。現に地球上の大多数の国は、今も核兵器を保有していない。NPTを拒否して独自に核兵器を開発し、保持しているのはインドとパキスタン、イスラエル、そして北朝鮮だけだ。
ただし、これらの国の持つ核弾頭数はNPT公認の5つの核保有国(国連安保理の常任理事国でもあるアメリカ、イギリス、中国、フランス、そしてロシア)に比べてずっと少ない。つまり発効から半世紀以上たった今も、核兵器の拡散はNPTの下で、おおむね防がれている。
しかしロシアは2014年にウクライナへの軍事的・非軍事的攻撃を仕掛け、ウクライナ領の一部を強奪・併合し、昨年2月からは本格的な軍事侵攻を開始した。これでNPTのロジックは根底から覆された。5つの公認核保有国はウクライナの主権と領土の安全を保障していたが、そんな約束は何の役にも立たないことが明らかになった。
繰り返すが、今回のウクライナ侵攻を見れば核武装を目指す国は増える
こんなことが許されるなら、NPT公認の5核保有国(いずれも通常兵器のパワーでも世界の五指に入る大国だ)は好き勝手に、大した犠牲も払わずに自国の領土を拡大できることになる。
一方で国際法の効力を無邪気に信じ、「非核保有国」としてNPTに参加した諸国には何の対抗手段もない。
2014年に始まったロシアのウクライナ攻撃は、じわじわとNPT体制を骨抜きにし、その結果としてロシア自身を含む加盟191カ国の安全を脅かしている。
これほど露骨に国際的な約束を破られたら、誰も約束など信じなくなる。核なき世界を目指そうという意欲はそがれ、逆に核兵器の取得や使用に意欲を燃やす国やテロ組織が増える。こうして、あらゆる国の安全が脅かされていく。
繰り返すが、ロシアによる今回のウクライナ侵攻を見れば核武装を目指す国は増える。それはなぜか。
そもそも、ロシアがウクライナを攻撃できたのは自国に核兵器があるからだ。一方でウクライナには侵略を抑止できる核戦力がなく、NPTによってその入手を禁じられている。もしもウクライナに核兵器があれば、プーチンもロシア軍の指導者たちも、あの国へ戦車を送り出すのをためらったはずだ。
NATOのような多国間安保同盟に加わっていない中小国は、今回の事態で次のような3つの教訓を学んだはずだ。
その1、核兵器はあったほうがいい(他国の領土を奪うにもいいし、他国に領土を奪われるのを防ぐにもいい)。
その2、核兵器を手放すのはよくない。
その3、条約だの覚書だのを信じてはいけない。たとえ世界中の国が批准し、法的拘束力を持ち、全ての大国が支持していても、そんなものは無意味だ。
そして誰もが、核弾頭や濃縮ウランを手放したウクライナ政府の愚を繰り返すまいと思ったはずだ。運よく核弾頭があれば絶対に手放さず、なければ何としても手に入れる。主権と領土を守るにはそれが一番だと、思ったに違いない。
今はまだ、ゼロから核兵器の開発を進めるのは難しい。だが何らかの技術革新があれば、あるいは誰かから買える可能性があれば、誰だって核武装を目指したくなる。隣に乱暴な国があり、そこに核兵器があり、あるいはその存在が疑われる場合はなおさらだろう。
「核兵器さえあれば、何をやっても自国は安全なのだ」と誰もが気付いた
一方で、その手の乱暴な国は知っている。絶対的な殺傷力を誇る核兵器を持たず、かつ国際法を信用するほど無邪気な隣国に攻め入って、その領土を奪い取ることは簡単だと。たとえ隣国を侵略しても、ロシアのプーチンに倣って核兵器の使用をちらつかせれば、誰も本気で助けには来ないだろうと。
そう、プーチンのおかげで誰もが気付いた。核兵器さえあれば、何をやっても自国は安全なのだと。
今回ほどの全面戦争でなくとも、ロシアはジョージアなどで何度も同様な侵略を繰り返してきたが、その罪を問われ代償を払わされることは一度もなかった。国際社会にできるのは被害国に一定の武器を送ることと、ロシアに経済制裁を科すことくらい。しかも制裁はたいてい穴だらけで、どうせ長くは続かない。
いかがだろう? ここまで読めば誰だって、こう思うのではないか。なるほど、核兵器はなかなか素敵なソリューションだと。
●逃亡したロシア兵たちが語ったこと  3/1
「死ぬのが怖い」「戦争に加担したくない」ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年。いま、ロシア軍を離反したいというロシア兵の声が、フランスの人権団体のもとに連日のように寄せられている。亡命に成功したロシアの元兵士たちが語ったのは、機能不全に陥って暴走を続けるロシア軍の驚くべき実態だった。
“戦地から逃れたい” ロシア兵たちから相次ぐSOS
フランスに拠点を置く人権団体「グラーグネット」。いま、ロシア国外への脱出を望むロシア兵からの電話が相次いでいる。指定された取材場所に向かうと、複数の警察官に迎えられた。代表ウラジーミル・オセチキン氏は、ロシアの人権活動家だが、ロシア政府から反政府活動を行っているとして指名手配されている。命を狙われているため、24時間護衛がついている。私たちは1時間に渡る綿密なボディーチェックを受け、ようやくオセチキン氏に会うことができた。挨拶の声をかけようとしたその時、電話が鳴り響いた。
兵士I「ロシアから出るのを手伝ってくれますか?明日の朝には出発したいと思っています。でももし捕まったらどうしたらいいのか…」
オセチキン氏「私たちに何ができるか弁護士と話します。とにかくしっかりしてください!いいですね?」
オセチキン氏「明日にでも出発できるように航空券を手配します」
兵士K「私は軍服しかもっていません。帽子も上着も」
オセチキン氏「出国を拒否されないよう別の服を買ってください。軍服で飛行機に乗らないように」
この団体では、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった1年前から、ロシア兵からの軍の離反や国外亡命に関する相談を受けている。去年9月に30万人規模の予備役が動員されて以降、その数は急増し、これまで500人以上の兵士たちから相談を寄せられているという。しかし亡命させることができたのはこれまでにわずか10人だ。
ウラジーミル・オセチキン氏「兵士たちは、最前線にいて『死ぬのが怖い』、『戦争に加担したくない』、『どう抜け出せばいいか分からない』と連絡をしてきます。彼らの多くは周りの目を盗んで1度だけしか連絡をしてきません。それが明るみに出た場合、見せしめの刑に処されたり、むごたらしく殺されたりすることを恐れているのです。どんなに助けたいと思っても、助けられない人が大半です」
低い士気
団体の支援で、国外に逃れることができた元ロシア兵がスペインで取材に応じてくれることになった。指定されたホテルのロビーで待つこと2時間。帽子を深くかぶり、コートのえりで顔を覆った男が私たちの前に現れた。ニキータ・チブリン氏だ。もともと飲食店などで仕事をしていたが、家族を養うために安定した収入が得られる契約軍人となったチブリン氏。1年前、首都キーウ攻略を担った主力部隊の1つに所属していたが、当初は、戦場に行くことは知らされていなかったと語った。おととしの年末、所属部隊の大佐から「私たちは演習に行く。誰も軍事活動には参加しないし、誰も殺すことはない」と言われ、隣国ベラルーシに向かった。そして、侵攻前日にあたる去年の2月23日の夜のこと。突然、「演習は終わりだ、明日我々はウクライナを攻撃するぞ!2〜3日でキーウを制圧する」と、号令がかかったと言う。実際に戦闘に加わることなどは想定していなかったチブリン氏は戦うことを拒否したが、「そんなことはできない、行くしかない。言うことを聞かないなら、投獄する。殺される可能性もあるんだぞ」と脅され、無理やり戦地に送られたと言う。
ニキータ・チブリン氏「私は強制的に歩兵戦闘車に押し込まれました。取っ手が壊れていて内側からドアを開けることはできませんでした。戦時中は上官の言うことは絶対だと言われ、従わないと射殺すると脅されました」
チブリン氏は、戦地では、多くの兵士たちの士気は上がらなかったと話した。ウクライナの国境を越えてすぐ受けたウクライナ軍の砲撃に、はじめて敵のものだと気づき、散り散りに逃げた。部隊が使用していた歩兵戦闘車や戦車は、整備不良で走行中に壊れたりするものも多かったと言う。キーウの掌握に失敗したが、上官からは「ウクライナ軍を抑えることができた。君たちはよくやった」と告げられ、部隊は東部へと向かった。そこでは、兵士たちは民家を回っては金めの物や高級車を盗んでいたと言う。こうした様子を目の当たりにしたチブリン氏は、部隊からの脱出を決意、監視の目を逃れてロシアに向かうトラックに飛び乗った。その後、7か国を経由し、現在スペインで亡命申請を行っている。
ニキータ・チブリン氏「私は死なないで済むように早く戦地を離れて家に帰ることだけをずっと考えていました。他にも同じように辞めたいと思っていた人たちがたくさん逃げ出しました。こんなことになるなんて知らなかった。知っていたら絶対に行きませんでした」
除隊する将校も
オセチキン氏の元には、部隊を指揮する将校からも離反の支援を求める声が寄せられていた。この日、連絡が入ったのは上級中尉だったコンスタンチン・エフレーモフ氏。「プーチン大統領の掲げる戦争の大義に共感できない」と亡命への助けを求めていた。
コンスタンチン・エフレーモフ氏「もし今ロシア国内で真実を話せば、私は戦地に送り返されるか、姿を消すことになるでしょう。もちろん私はとても家が恋しいですし、国外に出ればいつ自分の友人や母親に会えるのか分かりません。ですが、真実は鳴り響かなければならないのです」
ウラジーミル・オセチキン氏「一番大事なのは、あなたの証言と命を守ることです。今夜、出国のルートとチケットについて決めましょう」
複数の国を経由して、メキシコ・カンクンに滞在するようになっていたエフレーモフ氏に対し、私たちはたび重なる交渉の末、対面で取材することができた。エフレーモフ氏が語ったのは、部隊の指揮系統が全く機能していなかったという実態だった。侵攻前、クリミア半島で演習を行っていたが、上官からは「軍事演習を終えて2〜3週間後には戻る」と伝えられていた。しかし、2月24日の早朝、突然砲撃音が聞こえた。その時、はじめて戦争が始まったことを知ったと言う。エフレーモフ氏によると、ある戦場では、上官たちが姿を消したこともあったという。そのため戦況を理解していない兵士たちが混乱し、互いに銃撃戦を始めたこともあったと証言した。この時はパニックに陥った200人の兵士があちらこちらに逃げ回りながら、同士討ちを続け、数時間後に味方だと気づいた時には60人以上の死者が出ていたと言う。指揮官から標的へのミサイル攻撃を命じられた際に、兵士たちが命令を拒否して上官と対立するケースもあり、指揮系統が機能不全に陥っていたと証言した。戦地に身を置く中で、軍やプーチン大統領が掲げる戦争の大義に疑問を覚えるようになったエフレーモフ氏。そして、これ以上加担できないと、部下6人と将校たちを引き連れ、軍を離反した。
コンスタンチン・エフレーモフ氏「国家元首が引き起こした非人道的なゲームの中で、自分が小さなねじとして利用されているという感覚でした。軍人の10%ほどの人は、プーチンのために自分の命を捨てる用意ができています。残りの40%は、流れに任せて泳いでいて賛成も反対もしません。しかし半数以上は彼を憎み、軽蔑しています。私が知る限り、将校の4人に1人ほどは、この“狂気”に参加するのを拒否しています。軍人も国防省の役人もみな、この軍事侵攻が“おとぎ話”であることを理解しています。何のためにウクライナで戦うのか、その理由は誰にもわからなかったのです」
自らが戦地で見た真実を伝えたいと、エフレーモフ氏は、アメリカへの政治亡命を目指している。
「私はウクライナ国民に対する強い羞恥心と罪悪感があります。罪のない人々にこれほどの痛みと苦しみをもたらしたことを、私も含めた全員が責任を負わなければならないのです。私たちはこの戦争を終わらせなければならないのです」
ワグネル元指揮官は
人権団体の元に連絡を寄せた中には、ロシアの正規軍ばかりではなく、民間軍事会社ワグネルの戦闘員もいた。ワグネルはこれまで、シリアや中央アフリカなどで軍事支援を行ってきたよう兵の集団だ。その存在はこれまで、公式には政府に認められてこなかったが、去年11月には、ワグネルのオフィスビルがメディアに公開され、政府公認の組織として扱われるようになった。ワグネルが新たな戦力として目をつけたのは、ロシアの刑務所で服役する受刑者たち。刑務所をまわり、恩赦と引き換えに戦闘員を募ってきた。これまでワグネルがウクライナに送り込んだ兵力は、5万人に上ると言われている。この日、団体に連絡をしてきたのは、このワグネルで指揮官をつとめていたアンドレイ・メドベージェフ氏。ワグネルから逃れるために、ロシア国外に出られる場所を探っているところだった。
オセチキン氏「国境を越えられる場所を見つけたのですか?」
メドベージェフ氏「はい、そこには森があって国境を越えるには、最良の選択肢だと思います。とにかく行って様子を見てみます。今FSBが私の捜索をしています。もし捕まったらワグネルに引き渡され、“排除”されてしまいます」
その後メドベージェフ氏からの連絡が途絶え、この通話からおよそ1週間後の12月15日、ワグネルに捕らわれたという情報がオセチキン氏の元に届いた。しかし1月13日、メドベージェフ氏はロシア国外に逃れることができた。メドベージェフ氏は、オセチキン氏に国外脱出をした際の緊迫した体験を語った。
アンドレイ・メドベージェフ氏「フェンスを越えて森を抜け、湖に出ました。その時150メートルほど離れたところにロシアの国境警備隊が走ってきているのに気づきました。すぐそばで銃声が2発鳴ったとき、私は携帯を壊して森に投げ込み、遠くに見える民家の明かりを目指して、凍りきっていない湖の上をひたすら走りました。彼らは私を追いかけるのを恐れたようで、犬を解き放ちました。私はただ走って、走って、走りました」
“見せしめの処刑が行われていた”
メドベージェフ氏は、去年7月にワグネルと契約し、激戦地バフムトに投入された。上官からは「殺されないうちは前進せよ」と命じられ、水すらも与えられないまま、2日間、眠らずに戦闘を強いられたと言う。そして、ワグネルが過酷な戦闘を強行する裏で、戦闘員への「処刑」が頻繁に行われていたと、証言した。ワグネルの契約書には「命令を拒否したり、遂行しなかったりした場合、戦時中の法律に従い、あなたは裁かれる可能性がある」と書かれており、“裁き“は射殺を意味しているのだという。“裁き”は、見せしめのために頻繁に行われ、刑務所から新たな囚人たちが戦地に到着するたびに、戦闘員を射殺していたと語った。
アンドレイ・メドベージェフ氏「処刑を行うのは、『ミョド』と呼ばれるワグネルの保安部で、新しく人が到着するたび、『ミョド』によって何らかの規律違反をした戦闘員が射殺されます。私が知るだけでも、10回の銃殺があり、そのうち2件を目撃しました。1人は逃亡したため、もう1人は泥酔したために殺されました。新入りに、恐怖を体験させ、指令の遂行を邪魔するようなことを一切考えないようになるようにするためです。遺体はその場に埋められ、行方不明者の表示がつけられます。死亡補償金を支払う必要をなくすためです」
メドべージェフ氏は現在ノルウェーに滞在、亡命を申請している。
兵士の証言を戦争犯罪の立証に
ロシア兵たちを亡命させ、彼らの証言を集めてきたオセチキン氏。ウクライナ当局や国連、国際司法裁判所に対して、集めた元兵士の証言や内部資料の提供を行っている。ロシアの戦争犯罪の立証に役立てるために、この活動を続けていかなければならないと考えている。
ウラジーミル・オセチキン氏「これは違法で不当な戦争だと思います。独裁者プーチンは兵士たちを狂気のままに動く突撃部隊としか見ていません。そして犬死にさせるのです。この現実はどんなホラー映画をもりょうがする悪夢です。私たちのような小さなチームが、ロシアの治安当局からの巨大な圧力にさらされながら、将来行われるであろう裁判のための証拠を集めるために、できる限りのことをやっています。これは私たちロシア人国民の義務、人間の義務なのです」
●中国とロシア「闇の軍事連携」か 第三国を経由する迂回支援≠ノ警戒 3/1
ロシアのウクライナ侵略から1年が過ぎ、ロシアと中国の「闇の連携」が警戒されている。兵器や弾薬が枯渇しつつあるウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアに、習近平国家主席の中国が軍事支援するという情報を、西側諸国が「深刻な問題を引き起こす」などと警告付きで流しているのだ。こうしたなか、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が2月28日夜、北京の空港に到着した。プーチン氏の盟友による中国訪問に対し、第三国を経由する「迂回(うかい)支援」の疑いが浮上している。
「われわれは国の主権と独立を守る用意がある」「仮に(ウクライナに)侵略された場合は、中国を含む国際社会が支援してくれるだろう」
ルカシェンコ氏は、中国メディアとの記者会見(2月23日)でこう語った。タス通信が伝えた。ウクライナはベラルーシが支持するロシアに侵略されたのであり、この認識の違いには危険な兆候を感じる。
3月2日までの中国滞在中、ルカシェンコ氏は習氏と首脳会談を行う。貿易や経済、投資、人道的協力の発展、大型プロジェクトの実施、現在の国際情勢における喫緊の課題への対応などに重点を置くという。
今回の訪中直前、表向き「中立的立場」を主張してきた中国によるロシア支援情報が一斉に流れた。
アントニー・ブリンケン米国務長官は2月19日、「中国がロシアを支援するために、殺傷能力ある武器提供を検討している」とテレビ番組で暴露した。その後、欧米メディアが軍事支援の詳細情報を次々に報じた。
米シンクタンク「戦争研究所」は、ルカシェンコ氏の訪中が発表された同月25日、ベラルーシが「ロシアと中国の制裁回避を支援する可能性がある」「中国は、ベラルーシとの協定を利用して、制裁違反を分かりにくくしようとする可能性がある」と指摘した。
米国務省のネッド・プライス報道官も同月27日の記者会見で、停戦を呼び掛ける中国がロシアを支援していることは「明らかだ」と強調し、中国は和平の「誠実な仲介者ではない」と訴えた。
ルカシェンコ氏の訪中をどう見るか。
ロシア政治に詳しい筑波大学の中村逸郎名誉教授は「ロシアとベラルーシ、中国による『三国同盟』の布石を打つつもりではないか。ベラルーシは中国の巨大経済圏構想『一帯一路』にも参加しており、多くの中国企業も進出している。5月のG7(先進7カ国)首脳会談前に挑戦状を突き付ける狙いも考えられる」と分析する。
これまでも、中国やイランが、ロシアを支援した疑いは指摘されてきた。
ジョー・バイデン米政権で、輸出規制を担当するテア・ケンドラー商務次官補は来日中の2月16日、ロシアがイランなど第三国経由で軍用品向けの半導体や電子部品を調達する動きを監視していることを明らかにした。
そのうえで、対露規制の効果に触れ、「ロシアは洗濯機や冷蔵庫の半導体を使って軍用品を修理している」と語り、世界各国からイランへの半導体輸出が増えているとした。
中国が、第三国を経由して輸出した疑いもある。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(日本語版)は2月5日、ロシア税関の記録から、中国国有の軍事企業が航法装置や電波妨害技術、戦闘機部品を、制裁対象であるロシア国有防衛企業に出荷したと報じた。中国企業が、ウズベキスタン国有防衛企業を通じて、ロシア国営企業に供給したケースもあるという。中国企業は否定している。
輸出規制されている製品がトルコやアラブ首長国連邦(UAE)などを経由してロシアに渡ったとも伝えた。
まさに、「迂回支援」というしかない。西側諸国の発表・報道が事実なら、中国の思惑は何か。
国際政治に詳しい福井立大学の島田洋一教授は「中国がロシアに軍事支援し、侵略を長期化させれば、米国はじめNATO(北大西洋条約機構)の軍事的備蓄や、体力を消耗させられる。『台湾有事』に向けた条件がそろううえ、ロシアの石油、天然ガスを買いたたく狙いもあり得る。中国の思惑に乗らないためにも、米国は年内にウクライナ侵略を終結させる見通しを付け、ウクライナにF16戦闘機や中距離ミサイルなどを迅速に供給しなければならない」と語った。
さらなる警戒を呼び掛ける意見もある。
前出の中村教授は「米中関係が『偵察気球(スパイ気球)』問題で悪化するなか、中国が今後、堂々と対露支援に打って出ることも考えなくてはならない」と指摘した。
●ロシア知事、「ウクライナが民間インフラ狙った」 モスクワ郊外などでドローン墜落 3/1
ロシア国防省は2月28日、同国南部でウクライナ製ドローン2機が墜落したと発表した。モスクワ州のアンドレイ・ヴォロビヨフ知事は、同州で墜落した1機について、民間インフラを狙っていた可能性が高いとしている。
同省は、ウクライナ政府がロシアの「クラスノダール地方とアディゲ共和国の民間インフラを攻撃するために」ドローンを使用しようとしたと非難。ロシアの「電子戦ユニットによって無効化」されたとした。
ウクライナはロシア領内での攻撃に関与したとは主張していない。
ドローン1機が墜落したモスクワ州の現場から約100キロ離れたグバストヴォ村近郊には、ロシアのエネルギー大手ガスプロムの施設がある。
ガスプロムはロシア国営通信社RIAノーボスチに対し、コロムナ地区での操業に支障はないと語った。
モスクワ州のヴォロビヨフ知事はメッセージアプリ「テレグラム」に、コロムナ地区で見つかったドローンの標的は「おそらく民間インフラだったが、被害はなかった」と投稿した。
「地上での死傷者や被害はない。FSB(ロシア連邦保安庁)およびその他の管轄官庁が調査を進めている」
ロシアメディアや当局が提示した複数の画像には、雪原に損傷したドローンが写っている。背後には樺の木々が広がっている。ガスプロムの施設周辺には森林が多い。
外観はウクライナ製
ドローンの外観は、ウクライナのドローンメーカー「UKRJET」社製の「UJ-22 Airborne」と一致する。
同社によると、航続距離は800キロで、ウクライナからコロムナ地区へ到達するには十分だ。
ウクライナのアントン・ゲラシチェンコ内相顧問はこのドローンの画像をツイートし、「(現場は)ロシアとウクライナとの国境から500キロ以上離れている。これほど遠くまでドローンが到達できることから、プーチンは間もなく公に姿を見せるのを非常に恐れるようになるかもしれない」と書いた。
ウクライナがこの事案の背後にいるとすれば、ロシアが昨年2月にウクライナ侵攻を開始して以降、モスクワに最も近い場所で起きたドローン攻撃未遂となる。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は28日、ウクライナと西側諸国によるスパイ行為や破壊工作が増加しているとして、FSBに活動を強化するよう指示した。
また、ロシア軍が占領しているウクライナ東部の地域での警備強化もFSBに命じた。国境に配置された部隊は破壊工作グループを阻止し、違法な武器や弾薬の流入を防がなければならないと、プーチン氏は述べた。
「西側の特殊部隊は、ロシアに関して、伝統的に非常に活発に活動するため、我々は概して、防諜(ぼうちょう)を強化する必要がある」
「そしていま、彼らは我々に対して、さらなる人員や技術、そのほかのリソースを投入している。我々はそれ相応に対応する必要がある」
ロシアでは28日、サンクトペテルブルク上空で未確認物体が報告されたことを受けて、周辺空域の飛行が禁止された。ロシア国防省はこの数時間後、同省の戦闘機が西部の空域で行われた訓練に参加していたと発表した。
ウクライナがロシア領内を攻撃か
ロシア政府はこれまで、ロシアの軍事インフラへの攻撃の背後にはウクライナがいると非難してきたが、ウクライナ政府はこの主張を認めていない。
ロシア政府は、昨年12月に同国南部にある爆撃機用の空軍基地にウクライナのドローン攻撃があり、3人が死亡したとしている。ウクライナ軍は公式に攻撃を認めていないが、ウクライナ空軍のユリイ・イナト報道官は、この爆発はロシアがウクライナの領土で行っていることがもたらした結果だと述べていた。
この数週間前にも、同じ基地に同様の攻撃を行ったとしてウクライナを非難した。基地にはウクライナへの攻撃に使用された爆撃機が駐機している。
昨年8月には、2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島で、ロシア軍基地に対する空爆があり、ウクライナが攻撃したと認めた。

 

●習主席、ウクライナ情勢「和平と対話を促進する」 ルカシェンコ大統領との会談 3/2
中国の習近平国家主席は、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談でウクライナ情勢をめぐり「和平と対話を促進する」と強調しました。
中国の国営メディアによりますと、両首脳はウクライナ情勢などについて意見を交わし、習主席は「中国の立場は和平と対話を促進することだ。政治的解決の方向を堅持する」と述べ、これに対しルカシェンコ大統領は「中国側の立場と主張に全面的に賛成し、支持する」と表明しました。
また、習主席は「世界経済を政治化すべきではない」と述べ、ロシアへの制裁に反対する考えを改めて示しました。
両首脳は台湾問題や人権問題についても意見を交わしたほか、科学技術や経済・貿易面で連携することでも一致しました。
●プーチンが豪語するロシア「文明」世界に勝つのか? 3/2
2023年2月12日、プーチン氏の頭脳 とも云われる思想家ドゥーギン氏は次のように論じた。 
プーチン大統領が始めたこの戦争は米国支配を打倒しロシアも並び立つ多極世界を作る文明史的な戦いである。ロシアが勝利するか、人類滅亡に至るかの2択しかない。ロシアが勝利しなければこの戦争はいつまでも続く。
「多極世界を目指す文明の戦い」でロシアは欧米より優位に立っている。これがプーチン大統領の考えだ。かつてロシア外相であったコズイレフ氏はプーチン大統領自身がメルケル首相にこの思想を直接吹き込んだことがあるとして、こう書いている。
2014年11月豪州のブリスベンで開かれた主要20カ国(G20)サミットの場でメルケル首相はプーチン大統領と二人だけで会話をした。 ロシア大統領はメルケル首相に対し「欧米でのゲイカルチャーの広がり」を取り上げて民主主義の退廃を論難し、ロシアの価値体系は欧米より優れていると論じた。しかし、この発言を聞いて後にメルケル首相は「プーチンと云う人は西側とは決して和解出来ない人間だ」と悟ったと述べていた。
察するに、メルケル首相はロシアでのゲイカルチャーの只ならぬ広がりを知っていたに違いない。そして鼻白む思いだったに違いない。
プーチン大統領の文明論の矛盾
メルケル首相を説得しようとしたロシアの文明的優位さとは一体何か? プリンストン大学のステファン・コトキン教授によれば、ロシア人は「特有の文明と特別な世界的使命を持っている神聖帝国」だとする「自己イメージ」を持っていると云う。これが結局、ロシア人に文明的な優位感と帝国主義的な指向性を与えているようだ。
そして、それが自分、つまりプーチン氏のような個人と少数の仲間(オリガルヒ)が秘密警察と組んで全てを支配し、西側の民主主義よりも文明的に先を行く世界を目指すと云う観念に繋がっているらしい。
しかし「文明」を問題にするなら、どうしてこれだけ非人道的で残虐なことをするのか? 文明を問題にするなら何故国際法をいとも簡単に踏みにじって隣国を武力で攻撃するのか? 何故普通の罪なき人々を殺戮し、その生活を無残に破壊するのか? 
自国の囚人を監獄から連れ出し、ロクな訓練も無しに戦場に引っ張り出し、恐怖に怯えて少しでも怯んだら背後からロシア人の職業兵士が射殺する。他の囚人兵士への見せつけの為だ。今月、ある将軍の大金横領の事実を知っている軍管区の女性職員はサンクトペテルブルグの高層ビルから飛び降り自殺した。いや、突き落とされたのだろう。この国はそう云う文明なのだ。
また、今どきどんな国でも国民の不満が募れば抗議デモの一つや二つはやる。しかし、ウクライナ侵攻でデモ一つせずに黙って国外に去る100万人近いロシア人。「自分は関与したくない」と云う気持ち。そこは分るが、ドゥーギン氏の云う「勝利するロシア文明」とどういう関係に立つのか? 
自由主義より優れた文明とは?
ドゥーギン氏の云う通り、ロシア文明が勝利するとしてそれが世界に何をもたらすのか? どの価値観でロシアは世界をリードするのか? リベラル・オーダーを凌駕する優れたシステムが登場してくるのか? その点についてビジョンが示されたことは全く無い。ロシア国内で研究された形跡も無い。
抑々ロシアでは甲論乙駁が許されていない。異論に対して議論し、共通項を構築し、失敗したら学習する。そんな柔軟性はない。のみならず、強権が真実を打倒するから、ウソが罷り通る。優れた文明の体系が生まれてくる素地は無さそうだ。
そして底なしに非効率。残酷なシステムの下でしらけ切っている国民。最近は小学校でも国旗の掲揚もやらなくなったらしい。活力よりも無力感が広がっている社会。国民は奮い立ち、鼓舞される機会を求めている筈だが、そう云う喜びが与えられることは無い。モスクワにあるカーネギー平和財団などの多くの議論に当たっているとおよそそう云うことのようだ。
ロシアのエネルギー輸出に暗雲
文明などを論ずる前に、ロシアは現実を直視するべきだろう。私見ではロシアは負け始めている。
典型的な例はエネルギーだ。外ならぬエネルギーはロシア経済の基盤を支える最重要資源だ。連邦予算の45%を化石燃料から得ている石油国家だ。そして輸出先の多くは欧州だ。ロシア産石炭の3割、石油の5割、天然ガスの7割をヨーロッパ諸国に輸出している。
しかし、当の欧州は昨年2月24日にウクライナ侵攻が始まると直ちに重大な危機を認識し、最大至急で対応した。侵攻直後、国際エネルギー機関(IEA)の意見に基づき、欧州連合(EU)は直ちに『ロシア産エネルギー依存からの脱却』に向けて10項目の対策を決めた(「EUで進む『ロシア産エネルギー依存』からの脱却」三井住友DSアセットマネジメント、2022年3月16日)。
欧州委員会は5月18日、具体的な政策文書を公表した。ロシアからの天然ガスや石油、石炭の輸入を最大至急で廃止することになったのだ。
欧州は驚くべき迅速さで省エネ強化と再生可能エネルギーへの大転換を決めた。要するにロシアが始めた「文明の戦争」のせいで、欧州は内部で徹底した議論を行い、「脱炭素持続成長」と云う新文明を素早く手にしたと云うことだ。
その結果、ロシアは自国産のガスなどの最大の顧客と外貨収入の6割を一気に失うことになった。他に競争力のある輸出品は皆無に等しいロシアにとっては国家的な痛手だ。
この先は、誰であれ化石燃料を買ってくれる国、例えば中国やインドなどに買い叩かれてやっと収入を確保することになる。不安定極まりないし、大国ロシアにとっては不名誉だ。中国への従属が一層強まった。
人口も減り始める
もう一つの例は人口減少だ。元々ロシアは深刻な人口問題を抱えていた(「ロシアの人口動態」雲和広)(「侵攻ロシアが直面する人口減と経済悪化の悪循環」日本経済新聞、2022年4月5日)。1990年代のソ連邦崩壊後の混乱の中で、ロシアの出生率は女性一人当たり1.2人にまで落ち込んだ。人口が安定的に推移するために必要な2.1人をはるかに下回ったのだ。その影響は現在でも現れており、30〜34歳(ソ連崩壊直前生まれ)のロシア人は1200万人いるのに対し、20〜24歳(ソ連崩壊後の混乱期生まれ)は700万人に過ぎない。
ロシアの人口減少の問題は以前から深刻だった。それが大統領の大国意識を痛く傷つけてきた。
だから過去10年間、大統領は新婚の母親に国庫から贅沢な報酬を提供してきたのだ。しかし今回の戦争で若年層の死者の規模は大きく、人口の減少傾向を加速している。開戦を決めたことで大統領は自らの手でロシアの長期利益を毀損したのだ。
「ロシアの勝利か人類滅亡」は本当か?
国際社会でドゥーギン氏のこの「2択論」をまともに受け入れる人はいないだろう。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の教授で戦略国際問題研究所(CSIS)で戦略分野のトップであるエリオット・コーエン教授はロシアの将来を醒めた目で長く論じた後、こう述べている。「将来、ロシアが常に恐れ、うらやみ、そしてひそかに称賛してきた西側世界の中に、自国の将来を発見することができるかもしれない」。
これはドゥーギン氏が示唆するロシアのビジョンとは全く違うシナリオだ。ロシア人自身が密かに賞賛してきた西側自由社会の一員になってこそロシアの将来は明るいものになる。黙って国境を超える有能なロシア人を押しとどめる価値体系をロシアは手にするに違いない。
ドゥーギン氏の「2択論」はあり得ないが、別の指導者がプーチン氏の政策を継続する。これは理論上あり得るが長続きはしないだろう。
しかし、ロシアが本当に脱プーチンを実現したら、世界のリベラル・オーダーは必ず全面的で大規模なロシア支援に廻るだろう。既にその議論は多くの論者が始めている。ロシアと西欧の一体化も当然のこととして議論されている。ある専門家は西側が寛大な了見でロシアに対応したらロシアの西欧への統合は可能だと力説している。
実際のところ、ロシアが脱プーチンで生まれ変わればロシアは民主化に向かうことになろう。その場合にはロシア全土で民主主義連邦国家になると云う。
著名な人権・民主化運動家として知られるチェスのグランドマスターのガルリ・カスパロフ氏と政治犯罪者として英国に亡命中のロシアの大富豪ミハイル・ホドルコフスキー氏が連名で2023年1月のフォーリン・アフェアーズ誌で論じている方向性だ。
両氏は2023年2月「ミュンヘン安保会議」に出席して、ロシア民主化論を展開し、「プーチン政権が弱体化するとソ連崩壊の時と同じく、地方の知事がモスクワの命令を拒否する」と述べ、民主化はそのようにして始まる、必ずしも大規模な流血の惨事を伴うわけでもないことを示唆した。
ロシアが全域で民主化するとユーラシアでは全く新しい国際環境が出現する。アジア太平洋の安全保障にも大きな前向きな展開が起きる。そしてロシアは日本を含む西側社会との協調の下で持続成長を実現できる。
民主化に失敗したらロシアは中国の属国となる
しかし重要な点はこの高名な二人のロシア人が「ロシアの民主化が失敗したらロシアは中国の属国になる」と警告していることだ。ロシアが民主化に失敗したら中国の属国になる。それでよいのか?
ロシアは何世紀にもわたり常に専制と独裁に支配されてきた。多くの場合、ロシア人は残虐な支配を耐えて生きて来た。今度はこの国が歴史上始めて、アジアの専制大国に支配される。それは地政学上の重大問題だ。それにロシア人の度重なる不運を不憫に思わざるを得ない。
ロシアが混乱し、ユーラシア全体が不安定化すると中国が勢力を拡大する可能性はある。西側諸国は協調してユーラシア全体の地政学をマネージしていく必要がある。
●米国務長官「プーチン氏は停戦交渉とは反対方向」 ウクライナ侵攻 3/2
ブリンケン米国務長官は1日、ロシアとウクライナに停戦などを呼びかける中国の提案に関連し、ロシアのプーチン大統領の姿勢は停戦交渉とは反対を向いていると指摘した。訪問先のウズベキスタンの首都タシケントで、記者団の質問に答えた。
中国は2月24日、双方に歩み寄りを求め、「早期の直接対話再開」や「全面的な停戦の達成」などを呼びかける文書を発表。習近平国家主席は3月1日にベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、中国国営中央テレビ(電子版)によるとこうした立場に対する支持を得たという。
ブリンケン氏は、侵攻はプーチン氏が始めたのであり、プーチン氏がそれを止められると改めて強調。「もしプーチン氏が、侵略を終わらせるために必要な意味のある外交をする用意が本当にあるなら、我々は真っ先にそれに取り組み、関与する」としたうえで、「しかし、そのような証拠はない。それどころか証拠はすべて反対方向にある」と批判した。
具体的には、プーチン氏が「新しい領土の現実」をウクライナが認めるまでは話し合いをしないと発言している点を挙げた。ロシアが一方的に併合したウクライナの4州を指しているとみられることから、「これは明らかに、ウクライナや我々だけでなく、世界中の国々にとっても非論理的なことだ」と語った。
一方、インドで2日から実質的な討議が始まる主要20カ国・地域(G20)外相会合には、ロシアのラブロフ外相や中国の秦剛外相も出席する。ブリンケン氏は「どちらかに会う予定はないが、何らかのグループセッションに一緒に参加することは間違いないだろう」と述べ、個別に会談する予定はないことを明らかにした。
●ロシアがバフムートに最精鋭傭兵を投入、ウクライナはロシア本土をドローン空爆 3/2
ロシアのウクライナ侵攻が1年を過ぎた中、ウクライナが東部ドンバスの拠点都市バフムートで苦戦している。特に、ロシアのプーチン大統領の「私兵」と呼ばれる民間軍事企業「ワグネル・グループ」がバフムートで攻勢を強めており、ウクライナ軍のバフムート撤退の可能性も指摘されている。ロシアも首都モスクワ近郊のコロムナなど本土各地で大規模な無人機(ドローン)攻撃を受けるなど、双方とも膠着局面に入った様相だ。
先月28日、ロイター通信などによると、ウクライナは東部ドネツク州バフムートでロシア軍に押されている。ウクライナのゼレンスキー大統領は同日、「最も困難なのはバフムートだ」と述べた。地上軍指揮官であるオレクサンドル・シルスキー大佐も、「敵(ロシア軍)がよく訓練されたワグネル部隊を投入した」と明らかにした。
バフムート戦線のウクライナの兵士たちも、際限なく押し寄せるロシア軍に疲弊していると吐露した。大学休学後に入隊したというセルヒ・フネズディロフさん(22)は、英紙ガーディアンに、ロシアが都市を占領するために「止まらないパイプ」のように兵士を投入していると話した。ロシア軍が死傷者の発生には気にも止めず兵力を投入し、「まるで肉挽き器だ。死体は倒れたところに放置されている」と証言した。
米CNNは、ゼレンスキー氏の顧問アレクサンドル・ロドニャンスキー氏が、バフムートからの戦略的撤退の可能性を示唆したと報じた。ロドニャンスキー氏は、「人員を無駄に犠牲にすることはできない」と述べた。
ロシアは先月28日、コロムナや2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島などでウクライナ軍によるものと推定されるドローン攻撃を受けた。コロムナはモスクワから110キロしか離れていない。ロイター通信は、戦争勃発後、モスクワに最も近い地域への攻撃が行われたと伝えた。
ロシア国防省も声明を出し、「ウクライナがクリミア半島と連結されたクラスノダール、アディゲ共和国などに無人機攻撃を加えようとした」と明らかにした。当局は被害がないと主張したが、現地メディアは、ある石油貯蔵所でドローン空爆による火災が発生したと伝えた。同日、2大都市サンクトペテルブルクのプルコヴォ空港の上空にも未確認の物体が現れ、空港の運営が一時停止した。
プーチン氏は同日、ウクライナと欧米のスパイおよび破壊工作(サボタージュ)に対応するための防諜活動を強化するよう指示した。ウクライナ内の4つの占領地に対する警備を強化することも注文した。
●中国の対ロ武器供与、ウクライナの戦況に影響も  3/2
中国がロシアに武器を供与すれば、ウクライナとの戦争においてロシアに命綱を提供することになるだろう。中ロの武器システムは互換性が高く、中国は軍需品の巨大な製造拠点を抱えているためだ。
米当局者によると、中国はロシアに対して火器とドローンの提供を検討している。ロシアは弾薬の在庫を使い果たしつつあり、重要な軍事機器も不足している。中国はロシアへの武器供与を検討しているとの見方を否定。米国など西側諸国がウクライナに武器を提供することで紛争を激化させていると批判している。
中国がロシア軍に何らかの支援を提供すれば、中国と西側諸国の関係、およびウクライナの戦況の双方に大きな影響を与えるだろう。中国はロシアの戦闘部隊が求めている砲弾を含め、あらゆる軍装備品を提供できる能力を有しているためだ。
米シンクタンク、ランド研究所の上級研究員ティモシー・ヒース氏(国際防衛担当)は、「中国の武器供与に対する最大の制約は政治的意思にあり、実務上の課題はない」と話す。
中国はまた、ドローンの主要生産国でもあり、ウクライナ戦争では双方の軍が使用している。
中国はかねて、アフリカや中東など世界の紛争地域に武器を輸出してきた。中国がロシアへの供与を決めれば、ロシアが求めている武器や装備品の大半を在庫から融通できるか、比較的早期に生産することが可能だと安全保障の専門家は指摘している。
中国は共産党支配の初期の時代に、旧ソ連軍のノウハウや輸出に依存してきた経緯があり、これらが当初、中国人民解放軍(PLA)の基礎を形成した。
中ロ両国の関係は常に協力的なものではなかったものの、軍事システムには重複する部分が残っている。中国の兵器の多くは、小型兵器から戦闘機、空母でさえもソ連時代の設計が基になっている。ミサイルシステムなど、ロシア製兵器を解体して、類似の兵器を開発するケースもある。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータによると、2021年までの5年間に中国が輸入した兵器のうち、ロシア製は金額ベースで81%を占めた。
中国は独自色を強めた兵器システムを開発しても、旧ソ連製から派生した軍事機器の生産を継続している。一部は人民解放軍に振り向けられるが、大半は海外市場向けだ。こうした武器貿易によって中国の防衛産業は急速に拡大。中国兵器工業集団といった企業に巨大な利益をもたらしている。
2020年のSIPRI報告書によると、中国兵器工業集団は武器販売で世界のトップ10に入る中国国有大手3社のうちの一つで、ロッキード・マーチンやノースロップ・グラマンなど米防衛大手の後を追う。
中国の武器輸出は迫撃砲や弾薬など低技術のものが大半で、近年ロシアへの輸出実績はほとんどない。21年までの5年間で、中国の武器輸出(金額ベース)の約3分の2がパキスタンとバングラデシュ向けだ(SIPRI調べ)。
とはいえ、ロシアは砲弾の補充が急務となっており、中国は理想的な供給元になり得る。中国の在庫水準がどの程度かは公表されていないが、中国企業は大量に供給できる原料と製造能力を有している、と前出のヒース氏は述べている。
また、中ロは合同軍事演習を強化しており、互いの武器システムの相違に精通しやすい環境にある。両国は毎年、4〜5回の合同演習を実施。一部では、双方の部隊を相手側の指揮系統に置く訓練も行っている。
さらに中国は、戦闘機やミサイルシステムといったロシア製の先端兵器を保有しており、ロシアはスペア部品が不足した場合、中国に部品の提供を要請する可能性もある。中ロ軍事関係を専門とする豪ニューサウスウェールズ大学のアレクサンダー・コロレフ氏はこう指摘する。
同氏は、ウクライナ侵攻に絡み中国が何らかの軍事支援をロシアに行った場合、円滑に実戦配備できるとみている。両国の関係が緊密なことに加え、双方の兵器は技術的に類似点が多いためだという。
コロレフ氏は、ウクライナ軍が米国や欧州諸国から提供された兵器システムに関して訓練が不可欠である点に触れ、「ウクライナが西側から(武器の)供与を受けるよりも簡単だろう」と話す。
●ウクライナ外相「過酷な冬乗り越えた」 3/2
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は1日、数か月にわたり続いたロシア軍による水道・エネルギー施設に対する攻撃に同国は耐え、「史上最も過酷な冬を乗り越えた」と宣言した。
ウクライナに侵攻したロシアは昨年10月以降、主要インフラ施設をミサイルやドローン(無人機)で繰り返し攻撃。水道や暖房、電力の供給がたびたび寸断された。
クレバ外相は声明で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による「冬のテロ」にウクライナは打ち勝ったと強調した。同国が春の初日を迎えられたことは、ロシア側にとってはさらなる「大敗」を意味すると主張。「わが国史上最も過酷な冬を乗り越えた。寒く暗い冬だったが、われわれは不屈だ」と述べた。
●ウクライナ側 “冬の侵攻に耐え抜いた” 反転攻勢 強める姿勢  3/2
ロシア軍がウクライナ東部の掌握をねらい攻撃を強めているのに対し、ウクライナ側は冬の侵攻に耐え抜いたと強調し、3月に入り、領土奪還に向けた反転攻勢を強める姿勢を打ち出しています。
ウクライナのクレバ外相は1日、ツイッターに「3月1日、プーチンは新たな大敗を喫した。寒さや暗闇、ミサイル攻撃にも関わらず、ウクライナは耐えて冬の恐怖を打ち破った。ウクライナを支持してくれたパートナーに感謝する」などと投稿し、冬の間、ロシア軍が各地で行った電力施設に対する攻撃に耐え抜いたことを強調するとともに、各国の支援に謝意を示しました。
またレズニコフ国防相も「ロシアは、われわれを凍らせ、暗闇に放り込もうとしたが、われわれは生き残った。きょうが春の始まりだ。ウクライナは勝つ」などと投稿し、反転攻勢を強める姿勢を打ち出しました。
ウクライナ国防省情報総局のスキビツキー副局長は、先月26日に掲載されたインタビューで、ウクライナ軍がこの春、大規模な反転攻勢に乗り出す計画があると述べました。
その上で「われわれの軍事的な戦略目標のひとつは南部戦線、つまりクリミアとロシア本土の間に、くさびを打ち込むことだ」と述べ、9年前の3月、ロシアに一方的に併合されたクリミアと、ロシア本土を分断する目標を明らかにしています。
一方、ロシア国防省の報道官は1日「ウクライナがクリミアの施設に無人機で大規模な攻撃を仕掛けてきたが、これを阻止した」と主張しました。
ロシア国防省は、前日の28日にもウクライナに近いロシア南部のクラスノダール地方などでウクライナの無人機による攻撃を阻止したと発表し、警戒を強めている可能性もあります。
ロシア軍は、ウクライナ東部のドンバス地域の掌握をねらい、攻撃を強めていますが、ウクライナ側はクリミアを含む領土の奪還に向けて、今月以降、大規模な反転攻勢を目指す構えです。
キーウ近郊 ブチャ市民 心の傷や恐怖抱えながら生活
NHKの取材班が1日、ロシア軍に一時占拠され多くの市民が犠牲になったキーウ近郊のブチャに入ったところ、現地では、破壊された住宅の再建が少しずつ進んでいました。
虐殺された市民の遺体が多数見つかり「死の通り」と呼ばれるようになったヤブロンスカ通りの周辺では、住民が散乱したがれきを片づけたり、業者が住宅の再建に向けた工事を進めたりしていました。
ヤブロンスカ通りの近くに住むオクサナ・ザモギリナ(56)さんは、住宅の窓ガラスや外壁が、ロシア軍のロケット弾による攻撃で破壊されました。その後、窓ガラスを張り替え、外壁を修復したものの、まだ室内にはがれきが散乱し、壁紙の修復など手つかずのままです。
ザモギリナさんは、ロシア軍が街を占拠していた光景を忘れられず、心の傷や恐怖を抱えながら生活しています。ザモギリナさんは「今でもブチャで起きた現実を信じられずにいます。ロシア軍が再び襲撃するかもしれないという恐怖や不安をずっと抱えながら生活しています」と話していました。
●国連は正常に機能している、だがロシアは事実上脱退した 3/2
国連は、2月24日の第11回緊急特別会期(ESS)の総会において、ロシアの戦争犯罪に対する「公正で独立した調査と訴追」の必要性や「露軍の即時・完全・無条件の撤退要求」などを盛り込んだ決議を採択した。
全加盟国193か国のうち141か国が賛成し、緊急特別会期の総会で重要問題の採択に必要な投票の3分の2以上を確保した。
ロシアやベラルーシ、北朝鮮など7か国が反対し、中国やインドなど32か国が棄権した。
ウクライナ情勢を巡る第11回緊急特別会議(ESS)の総会決議は2022年2月24日の侵略開始以降、6回目となる。
過去5回のESSの総会決議には、戦争犯罪の調査と訴追の必要性が盛り込まれず、今回初めて明記された。
このほか「露軍による重要インフラや病院への攻撃の即時停止」や「捕虜の交換や民間人の帰還」なども求めた。
決議案はウクライナが提出し、共同提案国は最終的に日米欧など70か国以上に上った。
総会決議には安全保障理事会決議のような法的拘束力はないが、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は決議採択後、総会の議場前で記者団に「国連加盟国はロシアに改めてウクライナからの軍の撤退を要求した。結果に満足している」と述べた。
林芳正外相は23日の同会合で演説し、「圧倒的多数はウクライナの平和を望んでいる」と各国に賛成を呼びかけた。
ロシアには「即時かつ無条件に軍を撤退させるべきだ」と訴え、「核兵器保有国としての立場も悪用している。核の威嚇は決して許されない」と非難した。
さて、ウクライナ戦争をめぐり、国連の存在意義が問われている。
国際の平和と安全の維持を担う国連安全保障理事会は、常任理事国の拒否権により機能不全に陥っている。
ところが、「大国の興亡」の著者で著名な歴史学者であるイェール大学教授のポール・ケネディ氏は、国連は拒否権の乱発により機能不全になっているのでなく、そのように設計されているという(詳細は後述する)。
従って、大国の拒否権濫用防止策の一つとして生み出された「緊急特別会期(ESS)」の重要性がさらに増してきた。
筆者は、拙稿『ロシアは常任理事国の特権も失うか、40年ぶり開催のESSとは』(2022.3.28)で、「国連は、『平和のための結集決議』に基づき『緊急特別会期(ESS)』を開催し、平和維持部隊の派遣を含む軍事的強制措置を採択すべきである」と述べた。
その考えは今も変わっていない。
以下、初めに国連史上で最も記憶されるべき決議である「平和のために結集決議」について述べ、次にかつて、ESSの総会決議により派遣された国連軍について述べ、最後に国連安保理改革について述べる。
1.「平和のための結集決議」について
   (1)全般
「平和のための結集決議」(決議377A)は、1950年6月の朝鮮戦争勃発後、中国代表権問題のために年初から安全保障理事会を欠席中だったソ連が8月に議長国として戻り、安保理における審議が拒否権の行使により行き詰まったのを受けて、総会で米、英、仏、加、比、トルコ、ウルグアイの共同提案により採択されたものである。
(投票結果は52―5(反対:ソ連、チェコ・スロバキア、ポーランド、ウクライナ、ベラルーシ)―2(棄権:印、アルゼンチン)
決議の核心は主文第1段落で、次のように書かれている。
「平和への脅威、平和の破壊または侵略行為があると思われるいかなる事案においても、安全保障理事会が、常任理事国間の一致がないために国際の平和と安全の維持に関する主要な責任を遂行できない場合には、総会は、集団的措置(平和の破壊または侵略行為の場合には、必要であれば軍隊の使用を含む)について加盟国に適切な勧告を行うことを目的として、その問題を直ちに審議しなければならない」
「総会が会期中でない場合には、そのための要請があってから24時間以内に緊急特別会期(ESS)で会合することができる」
「このESSは、安全保障理事会の理事国15か国(現在、常任理事国5か国、非常任理事国10か国)のいずれかの9か国の投票に基づく要請、または国連加盟国の過半数の要請があったときに招集される」
   (2)これまでの緊急特別会期(ESS)
同決議を根拠とするESSは、過去に第1会期(1956年招集、スエズ危機)、第2会期(1956年、ハンガリー動乱)、第3会期(1958年、レバノン情勢)、第4会期(1960年、コンゴ動乱)、第5会期(1967年、第三次中東戦争)、第6会期(1980年、ソ連のアフガニスタン侵攻)、第7会期(1980年、パレスチナ情勢)、第8会期(1981年、ナミビア情勢)、第9会期(1982年、中東情勢)、第10会期(1997年、パレスチナ情勢)の例がある。
そして、今回が第11回会期(2022年、ウクライナ情勢)となる。
   (3)第11回緊急特別会期における決議
これまでに、第11回会期において、次の6つの決議がなされている。
1ES-11/1(2022年3月2日):「ウクライナに対する侵略」(又は非難決議)
賛成141、反対5、棄権35、欠席12、合計193
2ES-11/2(2022年3月24日):「ウクライナに対する侵略がもたらした人道的結果」
賛成140、反対5、棄権38、欠席10、合計193
3ES-11/3(2022年4月7日):「人権理事会におけるロシア連邦の理事国資格停止」
賛成93、反対24、棄権58、欠席18、合計193
4ES-11/4(2022年10月12日):「ウクライナの領土保全:国際連合憲章の原則を守ること」
賛成143、反対5、棄権35、欠席10、合計193
5ES-11/5(2022年11月14日):「ウクライナに対する侵略への救済と賠償の推進」
賛成94、反対14、棄権73、欠席12、合計193
6ES-11/6(2023年2月24日):「ウクライナにおける包括的、公正かつ永続的な平和の基礎となる国際連合憲章の原則」(または撤退決議)
賛成141、反対7、棄権32、欠席13、合計193
2022年3月2日の「非難決議」と2023年2月14日の「撤退決議」を比べると、「非難決議」の反対国はロシア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、シリアの5か国であったが、「撤退決議」ではマリ、ニカラグアの2か国が増え、7か国となっている。
両決議とも賛成国は141か国と同数であった。
このように加盟国の7割超が支持し、日米欧はロシアの孤立化に再び成功した。
ただ、約50か国が棄権や反対に回り、ウクライナへの連帯拡大にはなお課題が残る結果となった。
また、今回の決議ではロシアの戦争犯罪に対する「調査と訴追」の必要性を初めて明記したが、決議はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が求めていた「特別法廷の設置」など具体的な方法には言及しなかった。
過去には旧ユーゴスラビアの戦争犯罪やルワンダの虐殺などで特別な法廷が設置されたが、いずれも国連安全保障理事会の決議に基づいていた。
拒否権を持つ常任理事国であるロシアに対してこの形式で裁くのは難しいとの見方がある。
しかし、筆者はまさにそのような時こそ「平和のための結集(Uniting for peace)決議」に基づきESSの総会を開催し、国際社会の総意に基づき特別法廷を設置すべきであると考えている。
2.ESSの総会決議により派遣された国連軍
   (1)第1次国連緊急軍
国連は、安保理決議だけでなく、ESSの総会決議により次のような国連軍を派遣したことがある。
1956年10月29日、エジプトのガマール・アブドゥル=ナセル大統領のスエズ運河国有化宣言に衝撃を受けた英国がフランス、イスラエルに働きかけ、共同で出兵し、エジプトに侵攻した。
イスラエルの侵攻が開始された翌日の10月30日、米国は安全保障理事会の緊急会合開催を要請した。
10月31日に、ESSの総会を招集することを決定した安保理決議119を採択した。
11月2日には総会決議997により関係国への停戦とスエズ運河通航の再開を求めた。
カナダの外務大臣であったレスター・B・ピアソンがこの問題の解決に尽力し、国連憲章に規定された強制措置とは異なり関係国の同意を持って展開する国連主導の軍隊の考えを持ち込んだ。
これは受け入れられ、11月4日から7日にかけての総会決議998、1000、1001により、第1次国際連合緊急軍(First United Nations Emergency Force:UNEF1)が設立されることとなった。
11月8日には停戦が得られ、11月14日にはエジプトの合意が得られたことから、11月15日よりUNEF1の展開が開始された。
UNEF1は、
1総会または安保理事会の直接の統制のもとに置かれること
25大国以外の国家が提供する軍隊等から構成されること(最大人員規模は6000人であった)
3派遣先の同意を要すること
4エジプト領内に駐留し、その地域の平穏を保つことなどをその職務にすること
5隊員の給与などについては提供国が負担し、その他の一切の経費は国連が通常予算の枠内で賄うこととされた。
1957年3月に展開されたUNEF1は、監視およびパトロールを通じて休戦協定順守の確保にあたり、中東地域の安定と平穏化に一定の貢献をした。
エジプト・イスラエルの関係が再び悪化した1967年5月16日にエジプトの要請により、任務を中止し撤退した。その後、1967年6月5日に第3次中東戦争が勃発している。
現代的な国連平和維持活動を形作ったレスター・B・ピアソンは1957年にノーベル平和賞を受賞し「国連平和維持活動の父」と呼ばれる。
   (2)ロシアとウクライナの間での停戦成立後の日本の対応
筆者は、ロシアとウクライナの間で停戦が成立したら、国連は第1次国際連合緊急軍のような平和維持部隊を派遣すべきであると思っている。
ここで、国連平和維持活動(PKO)について簡単に述べてみたい。
筆者は、拙稿『自衛隊の日報問題、責任はすべて政府にあり』(2017.8.21)で、「隊員の犠牲を覚悟せずにPKOに自衛隊を派遣すべきでない」と主張した。
その理由は、従来のPKOは停戦監視や復興・復旧援助であったが、近年のPKOのマンデート(派遣団の目的や任務を規定)に文民保護の任務が加えられるようになってきた。
そして、マンデート防衛のための武力行使、すなわち、文民保護のための武力行使が認められている。その結果、PKO要員の安全確保など様々な問題が生じることとなった。
ちなみに、日本でも2015年に改正された国際平和協力法で、武器使用権限の見直しが行われ、いわゆる駆け付け警護の実施に当たっては、任務遂行のための武器使用を認めるとされた。
さて、話を元に戻すが、国連も「平和維持活動要員には、プロとしてそのマンデートを完遂する能力」を有する隊員を選定すべきことを推奨している。
すなわち、これまでのように後方支援業務を任務とする施設部隊でなく戦闘を任務とする普通科部隊を派遣せよと言っているのである。
ロシアとウクライナの間の停戦成立を想定して、日本も国連緊急軍へ派遣する部隊・要員を今から考えておかなければならないであろう。
3.国連安保理改革
2023年3月23日、日本の国会内でオンライン演説したウクライナのゼレンスキー大統領は、国連安保理がロシアの拒否権によって機能不全に陥っている現状を念頭に「国連改革が必要だ。日本のリーダーシップが大きな役割を果たせる」と期待を寄せた。
しかし、国連安保理改革にも常任理事国の拒否権という関門がある。
国連憲章は、総会を構成する国の3分の2の多数で改正案を採択する通常の改正手続(第108条)のほか、憲章の規定を再審議するための全体会議を開催し、全体会議において3分の2の多数で改正案を採択する方法(第109条)の2通りの改正手続が規定されている。
いずれの場合も、採択された改正案が、国連加盟国の3分の2の多数によって、それぞれの憲法上の手続に従って批准されたときに、憲章の改正は効力を生じる。
そして、この批准国の中には、すべての常任理事国が含まれていなければならない。したがって、国連憲章の改正の際も、常任理事国は拒否権を行使することができる。
さて、2022年12月14日、安保理は多国間主義をテーマにした会合を開催した。日本やドイツを含む49か国・地域が参加した。
会合において、各国からも安保理の改革を求める発言が相次ぎ、現在5か国の常任理事国を増やすべきだとか、拒否権の行使に制限を設けるべきだといった意見が出された。
ところが、上記したように、安保理の改革にはすべての常任理事国の同意も得て国連憲章を改正する必要があることから、これまでも繰り返し議論が行われながら、何ら実現には至っていない。
ところで、前述のケネディ教授は、NHKのインタビューに対して、1945年に国連の創設者たちが予期したとおりに国連は機能していると指摘する。
そして、ケネディ教授は次の様に述べている(出典:NHKスペシャル「いま国連に何ができるか『大国の興亡』研究の世界的権威に聞く」2023年2月16日)。
「国連の仕組みとは、大国の考えが一致している場合、そして拒否権の発動によって他の大国の意図を妨害しない時にのみ、そうした活動が機能する」
「国連の創設者たちは1930年代の国際連盟の失敗から教訓を学ぼうとした」
「国際連盟からは多くの国が脱退した。彼らが至った結論は、『国益に絡む問題に関しては大国に拒否権を付与しなければならない。積極的な役割を与えるということでなく拒否権を付与する』ということであった」
「大国の1つが利己的なやり方で拒否権を発動した時、国連のシステムは機能しているということになる」
「国連の創設者たちにはそうなることが分かっていた。その当時引き合いに出されたアナロジーは『サーカスのテント』というシンプルな比喩であった」
「つまり1頭の動物がテントから出るよりすべての動物をテントの中に留めておいた方がマシだという考え方である」
ケネディ教授は、国連は拒否権の乱発により機能不全になっているのでなく、そのように設計されているという。
そして、国連は、米・中・露の自己中心的な3つの大国を閉じ込めておく「サーカスのテント」であるという。言い得て妙である。
また、ケネディ教授は同じインタビューの中で次の2つの国連改革案を提案している。
11つ目は、5大国の拒否権行使を特定のケースに限定する。
例えば次期国連事務総長の人選といったような問題に関して拒否権を発動しないといったことである。つまり拒否権行使に関して自粛してその回数を減らすということである。
22つ目は、常任理事国の数を増やす。
私(ケネディ教授)の提案は、アフリカの大国を1つ、ラテンアメリカから1つ、そして南アジアの大国を1つ増やすというものである。
このとき、基本原則を導入することがポイントである。
北半球の常任理事国は米国、英国、フランス、ロシア、中国の5か国である。これに南半球の地域大国を3か国加えて均衡を取るという考え方は合理的である。
筆者は、拒否権という関門に阻まれてなかなか結果の出ない国連安保理改革に取り組むだけでなく、もっと『平和のための結集決議』に基づく緊急特別会期(ESS)の総会をもっと活用すべきだと考えている。
例えば、国連総会は2022年4月7日、ウクライナでの「重大かつ組織的な人権侵害」を理由に、人権理事会での理事国としてのロシアの資格停止を決議した。
その直後、ロシアは自ら理事会離脱を表明した。
現行の国連憲章の下では、ロシアを常任理事国から排除することは不可能であるが、それ以外のロシアの不法行動に対しては、前述の人権理事会のように国際社会の総意を突き付けることで、ロシアの翻意を促すことができるかもしれない。
おわりに
今、国際の平和および安全を維持するために創設された国連の存在意義が問われている。
国連総会が、2月23日にロシア軍のウクライナ即時撤退と戦闘の停止を求める決議案を賛成多数で採択した。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、直ちにウクライナとロシアを訪問して、ゼレンスキー大統領とプーチン大統領に面会して、国際社会の総意を突き付け、露軍の即時・完全・無条件の撤退などを要求すべきであると筆者は考える。
また、筆者はグテーレス氏が、和平協議を仲介することを期待している。
さて、前述のケネディ教授は以下のように述べている。
「国連は、大国を閉じ込めておく『サーカスのテント』である。そして、拒否権は大国を国連に留めておくための方策として生まれた必要悪である」
「なぜなら大国にテントを出ていってもらっては困るからである。大国が一方的な行動に出て将来戦争になることを恐れるからである」
「また、核の時代にあって大国の平和を維持することの方が、大国に泣かされている小国の権利を守ることより重要だからである」
「これが現実であり、非常に悲しい現実である」
高名なケネディ教授のご高説であるが、筆者はこれに与しない。これは大国の論理である。
筆者は、ロシアは既に「サーカスのテント」から出ていると見ている。
その理由は、ロシアは国連の場における対話や協議を拒否しているからである。
そして、国際社会は今まさに核戦争の瀬戸際にいる。今、核戦争を防止しているのは、国連の力ではなく、「核戦争に勝者はいない」という核戦力の強大な破壊力であると筆者は見ている。
ところで、本来の役割を果たせなくなっている国連を改革しなければならない。
拒否権行使の制限や常任理事国の増加という小手先の改革ではなく、拒否権の廃止や敵国条項の削除など国連憲章を抜本的に改正すべきであると筆者は考える。
国連は、まず初めに『平和のための結集決議』に基づく緊急特別会期(ESS)の総会を開催し、国連憲章改正の新たな手続きを定めることから始めるべきであろう。
国連が拒否権の廃止などの抜本的改革ができないならば、加盟国は自国の平和と安全をNATO(北大西洋条約機構)のような地域の集団防衛体制に頼らざるを得なくなるであろう。
それはすなわち国連が消滅することを意味する。
●米、同盟国に対中制裁の可能性打診 ロに軍事支援なら=情報筋 3/2
米政府は、ウクライナでの戦争で中国がロシアに軍事支援を行った場合、新たな対中制裁を科す可能性について同盟国に打診している。米政府高官や複数の情報筋が明らかにした。
協議はなお予備的な段階で、主要7カ国(G7)を中心に多数の国からの支持を取り付けることが狙いという。
米政府が具体的にどのような制裁措置を提案するかは明らかになっていない。
ホワイトハウスと米財務省はコメントを控えている。
●ワグネル創設者は「戦争犯罪人」 米司法長官 3/2
米国のメリック・ガーランド司法長官は1日、ウクライナ侵攻に参加するロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は「戦争犯罪人だ」との見解を示した
ガーランド氏は上院司法委員会の公聴会で、司法省は、ウクライナが進めているロシアのウクライナ侵攻開始後に行われたとされる戦争犯罪の捜査を支援していると証言。捜査対象にはワグネルによるものとされる戦争犯罪も含まれているとした上で、同社を経営するプリゴジン氏は「戦争犯罪人だ」と述べた。
さらに「ワグネルには(ウクライナ東部)ドンバス地方の住民への攻撃に対する責任がある。ロシアの刑務所から受刑者を(戦闘員として)連れて来るなど、理解し難い行動をしている」と非難した。
●G20外相会合 インドで開幕 米ロ中出席 ウクライナ情勢など議論  3/2
G20=主要20か国の外相会合がインドで開幕し、2日、実質的な討議が行われます。会合にはアメリカのブリンケン国務長官やロシアのラブロフ外相、中国の秦剛外相らが出席してウクライナ情勢などについて議論が交わされる見込みですが、立場の隔たりは大きく、一致点を見い出せるかは不透明な情勢です。
G20の外相会合は1日夜、インドの首都ニューデリーで夕食会が開かれ開幕し、2日に行われる全体討議では、ウクライナ情勢が主要な議題となる見込みです。
1日は、ロシアのラブロフ外相がニューデリーで開催されたイベントに出席し「ロシアとインドは、主権国家に対する不当で一方的な制裁や脅迫、そのほかの圧力など新植民地主義的な行動に一貫して反対している」と主張し、欧米側の制裁を非難しました。
一方、アメリカのブリンケン国務長官は、1日までカザフスタンなど中央アジアを訪問し、政治的にも経済的にもつながりが深いロシアと中央アジアの国々の関係にくさびを打ち、ロシアへの制裁の効果を高める狙いとみられます。
会合にはこのほか、中国の秦剛外相が出席する予定ですが、アメリカは中国に対してロシアに軍事支援を行わないようけん制していて、ブリンケン長官はいまのところ、秦外相との会談の予定はないとしています。
ロシアによる軍事侵攻が始まってから1年がたちましたが、欧米とロシアの立場の隔たりは依然大きく、世界的なエネルギーや食料価格の高騰への対応などについて一致点を見い出せるかは不透明な情勢です。
ロシア外相「欧米側の制裁 新植民地主義的な行動」
G20=主要20か国の外相会合に出席するため、インドを訪れているロシアのラブロフ外相は、1日、首都ニューデリーで開催されたイベントに出席し「真の多国間主義を強化しようとするインドの友人たちをわれわれは支持する」と述べ、議長国のインドをたたえました。
そのうえで「ロシアとインドは、主権国家に対する不当で一方的な制裁や脅迫、そのほかの圧力など新植民地主義的な行動に一貫して反対している」と主張し、欧米側の制裁を非難しました。
ロシアとしては欧米との対立がいっそう深まる中、ことしのG20の議長国であり「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国の代表格のインドとの連携を強化して欧米側に対抗したい考えで、一連の会合でのラブロフ外相の動向も注目されています。
●G20外相会合 全体討議開始 ウクライナ情勢など議題の見込み  3/2
インドで開かれているG20=主要20か国の外相会合は日本時間の午後1時ごろ全体討議が始まりました。ウクライナ情勢が主要な議題となる見込みで、アメリカやロシア、それに中国など各国の主張が対立するなか、激しい議論が行われているものとみられます。
G20の外相会合は1日夜、インドの首都ニューデリーで開幕し、日本時間の2日午後1時ごろ、全体討議が始まりました。
冒頭、2月6日にトルコ南部で起きた大地震による犠牲者を追悼するため黙とうがささげられました。
このあと議長国インドのモディ首相がビデオメッセージで「われわれは世界が深く分断された時代に一堂に会している。きょう行われる討議が結束の精神を反映するものとなることを願っている」と述べました。
会合には、アメリカのブリンケン国務長官やロシアのラブロフ外相、それに中国の秦剛外相らが出席しています。
全体討議は現在も続いていて、ウクライナ情勢を主要な議題に、世界的なエネルギーや食料価格の高騰などについて意見が交わされているものとみられます。
2日は全体討議に加えて、2国間の会談も行われますが、アメリカが中国に対し、ロシアへの軍事支援を行わないよう求めるなか、ブリンケン長官はこれまでのところ秦外相と会談する予定はないとしています。
一方、ラブロフ外相は28日、一足早くニューデリーに入りました。
1日は議長国インドやロシアとウクライナの仲介役を積極的に務めてきたトルコの外相と相次いで会談を行い、欧米側をけん制しました。
ロシアによる軍事侵攻が始まって1年がたちましたが、ウクライナ情勢をめぐって各国の主張が対立するなか、激しい議論が行われているものとみられます。
インド モディ首相「結束の精神を反映を」
外相会合の冒頭、G20の議長国を務めるインドのモディ首相はビデオメッセージで「世界が深く分断された時代にわれわれは、一堂に会している。きょう行われる討議が結束の精神を反映するものとなることを願っている」と述べ、ウクライナ情勢について直接、言及はしませんでしたが、立場の違いを乗り越え一致点を見い出すよう呼びかけました。
また「多くの途上国が、食料とエネルギーの安全を確保するために、持続不可能な債務に苦しんでいる。インドはG20の議長国としてグローバル・サウスの国々の声を反映させていく」と述べました。
●G20外相会合まもなく…ウクライナ情勢で分断深まるか 3/2
インドのニューデリーでG20=主要20か国・地域の外相会合がまもなく始まります。ウクライナ情勢をめぐり、G20内の分断がさらに深まる可能性がでています。
G20外相会合には、アメリカのブリンケン国務長官やロシアのラブロフ外相、中国の秦剛外相らが出席します。主要議題のひとつはウクライナ情勢で、会合に先立ちロシアのラブロフ外相は、インドやトルコなどの外相らと相次いで会談するなど、一部の友好国との関係強化を図っています。
アメリカが中国によるロシアへの武器供与に懸念を示すなか、欧米とロシア・中国が対立し、G20内での分断がさらに深まるとみられています。
一方、日本の林外相が国会審議を理由に外相会合を欠席したことについて、インドの地元メディアは「信じられない対応」などと批判的に伝えています。
●EUとNATO、日本などインド太平洋諸国と会合検討…中国念頭に連携強化  3/2
欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)が4〜5月、日本を含むインド太平洋地域との外相会合の開催を検討していることが、EU関係者らへの取材でわかった。中国を念頭に、日本など民主国家との連携強化を図る考えだ。
EU関係者によると、EUは5月13日を軸に、インド太平洋地域の課題に特化した会合の開催を計画している。EU加盟27か国と、日韓や東南アジアなど20か国以上の外相に参加を呼びかける方針という。会合では、安全保障面で具体的な協力策を話し合う考えだ。
EUは昨年2月にパリで、EUとインド太平洋地域の計約50か国の会合を開催しており、EU議長国のスウェーデンの強い意向で再開催する方針を決めた。
NATOは4月4〜5日にブリュッセルで開かれる外相理事会に、日韓豪、ニュージーランドの4か国外相を招く方針だ。NATOは4か国を「パートナー国」と位置付け、台湾有事などを念頭にサイバー対策や情報共有での連携強化を進めている。4か国の首脳は昨年6月、NATO首脳会議に初参加していた。
欧州は、ロシアによるウクライナ侵略や、中国が覇権主義的な行動を強める中、日韓などアジア諸国との関係の重要性を再認識している。経済協力も進め、貿易の脱中国依存を図る狙いもある。ウクライナ情勢も見据え、対露制裁に加わらないインドや東南アジア諸国との対話も進めていきたい考えだ。 
●プーチンが語り始めた「ロシア崩壊」の脅しは核より怖い? 3/2
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はここ数カ月、前任者のドミトリー・メドベージェフとロシア連邦の崩壊について話し合ってきたと、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の元顧問が語った。
ゼレンスキーの元顧問、オレクシイ・アレストビッチは2月27日、ロシアの弁護士・元反体制派政治家のマルク・フェイギンが運営するYouTubeチャンネル「フェイギン・ライブ」のインタビューで、ウクライナの最新の戦況について聞かれ、ロシアは全面的な敗北も視野に入れていると述べた。
その証拠として挙げたのが、メドベージェフとプーチンの最近の発言だ。現在はロシアの安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフは、メッセージアプリのテレグラムで核の脅しをちらつかせ、ウクライナ戦争はNATOとロシアの代理戦争だと主張してきた。
2月27日付のロシアの新聞・イズベスチヤに寄稿した論説で、メドベージェフは旧ソ連の崩壊を古代ローマやオスマントルコの滅亡にたとえ、「大国が滅びれば、戦争が起きる」と述べ、ロシアの崩壊も大混乱を引き起こすと論じた。「帝国が滅びれば、世界の半分がその瓦礫に埋もれることは歴史が証明している......ロシアが存続するかどうかは、前線の決着で決まることではない。人類全体の文明の存続を考えるなら、答えははっきりしている。われわれはロシアなき世界を必要としていない」
崩壊に伴う大混乱に備えが必要
プーチンも26日にロシアの国営テレビで世界の終末を予言するような脅迫じみた発言をした。西側との対決はロシアの国家と国民の存続を懸けた実存的な戦いであり、この戦いではNATOの核戦力を考慮に入れなければならない、と述べたのだ。
「NATOの目的はただ1つ。ソビエト連邦に続き、その主体であるロシア連邦を解体することだ」
ウクライナを支援する西側主要国はウクライナ勝利のシナリオを検討する中で、戦争の結果としてロシア連邦が崩壊する可能性についても意見を交わしてきた。エマニュエル・マクロン仏大統領はプーチンに「屈辱を与えてはならない」と述べ、外交的な解決の余地を残すべきだと主張してきた。最近ではロシアの「敗北は望むが、崩壊は望まない」とも述べている。
ヘンリー・キッシンジャー米元国務長官は昨年12月、英誌スペクテーターに寄せた論説で、「ロシアが解体されるか戦略的政策の遂行能力が破壊されたら、11の時差にまたがる広大な領土が統治の空白状態に陥ることになる」と警鐘を鳴らした。
ウクライナの国家安全保障防衛会議のオレクシー・ダニーロフ長官も最近、西側は依然として停戦に向けた落とし所を決めかねているが、そろそろ世界はロシアの崩壊に備える必要があると警告を発した。
「戦争は最終局面に突入」
ゼレンスキーの元顧問のアレストビッチは、プーチンとメドベージェフが「ロシアの崩壊について」語っていることは、事態がかなり切迫していることを示すと指摘した。「なにしろロシアの大統領が(自身の懸念を)公然と表明しているのだから」
プーチンとメドベージェフは自国の崩壊を「完全に現実的なシナリオ」とみて、「少なくもここ3、4カ月」、その事態にどう備えるか話し合ってきたと、アレストビッチは言う。
「プーチンは脅威となる可能性がある非常に重大なシグナル、非常に重大かつ深刻なシグナルにしか反応しない」
ウクライナ情報を英語に翻訳して伝えているツイッターのアカウント「ウォー・トランスレイティッド」がフェイギン・ライブのインタビューの要約を紹介し、アレストビッチの指摘を伝えた上で次のように解説している。
「大統領その人が懸念を語ったということは、今やこれが最高レベルの危機となったことを物語る。ロシアは奈落の底へと突き進んでいる......戦争は最終局面、3段階の最後に突入したと、アレストビッチは確信している」
アレストビッチは今年1月まで大統領顧問を務めていたが、ウクライナ東部の都市ドニプロの集合住宅を破壊し、少なくとも40人の死者を出したロシアのミサイル攻撃について、誤ってウクライナの迎撃ミサイルによるものだと示唆し、この発言がロシアのプロパガンダに利用されたため自ら職を退いた。
●ロシア国境付近で交戦 プーチン氏「テロ攻撃」、ウクライナ否定 3/2
ロシアのプーチン大統領は2日、ウクライナと国境を接する南部ブリャンスク州が「テロ攻撃」を受けたとし、民間人を標的に銃撃したウクライナの破壊工作グループを粉砕すると表明した。
ロシアの通信社はこの日、ブリャンスク州でウクライナの破壊工作グループが商店で人質を取り、ロシア軍と交戦していると報道。ウクライナはロシアによる偽装の「挑発行為」と非難すると同時に、ロシア政府に反対する勢力による何らかの作戦が行われた可能性があると示唆している。
プーチン大統領はテレビ放映された演説で、こうした攻撃を行うグループはロシアの歴史と言語を奪おうとする人々で構成されているとし、「彼らは何も成し遂げられない。われわれは彼らを粉砕する」と述べた。
国営タス通信は治安当局者の話として「ウクライナの破壊工作グループが二つの村に潜入し、そのうちの一つで地元住民を人質に取った。ロシア国家親衛隊の兵士と交戦した」と伝えた。ロシア通信(RIA)は地元当局者の話として、ウクライナの国境から1キロメートル足らずのリュベチャネ村の商店で数人が人質に取られたと報じた。
これに先立ちブリャンスク州のボゴマズ知事はメッセージアプリ「テレグラム」に、ウクライナの破壊工作・偵察グループがリュベチャネ村に侵入し、自動車に発砲したと投稿。またウクライナ軍が無人機による攻撃を行い、国境付近の別の地域を砲撃したと指摘した。
ボゴマズ知事によると、攻撃で2人が死亡し、11歳の少年が負傷した。
ロシア連邦保安局(FRB)は事件発生後、「ウクライナ民族主義者の武装集団」が国境を越えてロシア国内に入り、軍とFSBが掃討にあたっていると表明。その後、ロシア通信(RIA)がFSBの発表として、法執行機関が状況を管理下に置いたと報じた。多数の爆発物が発見され、除去が行われているという。
ウクライナ大統領府のポドリャク長官顧問は「ロシア国内にいるウクライナの破壊工作グループに関する話は、典型的で意図的な挑発だ」とツイッターに投稿。ウクライナ軍情報部の報道官は、ロシア国内で内部抗争があることが示唆されているとし、「武器を手にプーチン政権と戦っている人々がいる。ロシア人が目を覚まし、具体的な行動を起こし始める可能性がある」と述べた。
●もはや核しかない。それでもプーチンがボタンを押せぬ単純な理由 3/2
プーチン大統領による「3月末までのウクライナ東部完全掌握」との命令遂行のため、人的被害を厭わぬ攻撃を続けるロシア軍。しかし攻め切るまでには至っておらず、プーチン氏は核の威嚇を以前よりも増して強めています。はたしてウクライナ戦争に人類史上最悪の武器が使われることになるのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』ではジャーナリストの内田誠さんが、その可能性について考察。さらに「プーチンのロシア」の行く末を占っています。
まだ核がある。否、もはや「核しかない」プーチン:「デモくらジオ」(2月24日)から
さて、ウクライナですけれども。1年経って数字的にロシアの戦車がこれだけ破壊されたとか、これだけ人が亡くなった、一般市民も数えられているだけで8千数百人ですか。そんな数字じゃないですよね。全然違う数字だと思いますけれども、そういう数字についても色々言われていますが、先週私がお話ししたことで、「プーチンの絶望」ということを確か言ったと思うのですが、それに対してキッカさんからもメールをいただいていまして、「あんたはウクライナが勝つみたいなことを言って楽観的すぎる」というご批判で、あとで紹介しますけれども。
ただ、私が思うのは、先週どう話したかということとは次元が違ってしまうので申し訳ないのですが、プーチンの絶望、プーチンが絶望せざるを得ないということは、仮にこの戦争に勝ったとしても、つまり何らかの段階でプーチンが目標にしていた三つのことがら、「非ナチ化」、「中立化」、「非軍事化」。これが達成されたとしても、プーチンさんおよびロシアには未来がないと絶望せざるを得ない状況なのではないかなと、実は思っているところがある。
一つ、ややこしい要素が加わってきて、中国が何か急にクローズアップされてきて、王毅さんという外務大臣、あの方、駐日大使をされていたことがあり、一度インタビューしたことが確かあったと思うのですが、日本語も大変お上手な方で、今、外務のトップですよね。その王毅さんがヨーロッパを歴訪し、最後にはプーチンさんにも会ったということがある。
何か、習近平さんが「平和演説」を行うとか。一方でアメリカが色々な事実を公表していて、中国は直接人を殺傷できるような兵器を送る、そのような意味での支援は今のところしていないが、部品の供給など、今の段階で分かっている限りはそのような内容の支援をロシアに対してしている。もしも殺傷能力があるような兵器を供与するようなことになったらとんでもないことになる、レッドラインを超えるぞというようなことをブリンケンは言っているそうでして、そのような問題が急にクローズアップされてきています。
また変数が増えて、連立方程式がどんどん複雑になる、分からん…世界に入っていきますけれど、ただ中国がどのようにロシアを支えたとしても、そしてロシアが中国との同盟関係とか強い連携とか通商関係の発展だとか、そのようなことがあったとしても、ロシアには希望がない。核を持っていることぐらいしか中国に対抗できる要素がない。ロシアは中国の…なんと言うんでしょうね、表現がうまく見つかりませんが、一段格落ちした同盟者という感じにならざるを得ない。
そういうことなのだろうと思うのですが、プーチンさんが、あれは9月の例の4州併合宣言の時だったか、その前にも常に言っていたことだと思いますが、「非ナチ化」と言った。ちょっと、いい神経しているなと思うのですよ。ナチスに一番似ているのはロシアだし、ヒトラーに一番よく似ているのはプーチンさん自身ですよね。まあ、似ているという範囲ですよ。全く同じだというわけではないですし、違うところもたくさんありますからね。でも、ウクライナはロシアと同じなのだ、ウクライナ自身の存在意義は無いのだということを論文に書いて、そして攻め込んでいる。それこそ、ロシア民族至上主義みたいなことになりますよね。
ウクライナなどというのはその程度の連中だから、ちょっと攻め込んだらすぐに万歳してしまって、抵抗もしないだろうと思っていたら、大違いだった。少なくとも2014年以降の8年間でウクライナは非常に強いアイデンティティーを作り出したのだと思います。以前からあったものを飛躍的に強化し、軍の改革も行い、一つの軍事強国のようなものを作り上げていた。そこに攻め込んだので、簡単に勝てないどころか、大変な損耗を強いられる泥沼の戦いに入ってしまったということだと思います。
非ナチ化と言っていることの具体的な中身は何かと言ったら、ゼレンスキー政権の打倒ですね。と当然、その後にロシアの言うことをよく効く傀儡政権を打ち立てると。ルガンスクとかドネツクなどで今擬似的にやっている話の全ウクライナ版。ロシアと仲良しのウクライナ大統領の政権を作り上げることだと思います。
それって、全然無理な話。とにかくロシア軍は最初15万人で攻め込んで、今、予備役を30万人動員した、実は動員したのは50万人だったという話が急に出てきていますが、それを入れて65万という数字。でもウクライナ軍は100万人いる。で、自分たちの領土で戦っている。ウクライナのアイデンティティーが出来つつある中で、大変士気が高くて、一人一人のウクライナ兵がなぜ戦うのかについてよく理解していて、そこはロシア兵と大きく違うところだと思います。
何でも、「祖国防衛の日」とかいう、元々は確か赤軍の記念日だった祝日があるそうでして、そういう日を祝うそうですが、「祖国防衛戦争」を戦っているのはロシアではなく、ウクライナですよね。まさにそういう形になっている。となれば非ナチ化という言葉に組み込まれたゼレンスキー政権打倒とか傀儡政権樹立、こういったことはロシアにとってはおよそ実現できることではない。
中立化はNATOに加盟するなという話ですよ。勿論、傀儡政権が出来ればNATOには近寄りもしないでしょう。それはウクライナの政権ではなく、ロシアの政権になるわけですからね。ただこれはNATO側の事情も当然あるでしょうし、NATOの範囲は今非常に広いですからね。ウクライナ側の事情もあるかもしれませんね。NATOに何も加盟しなくてもいいということがあるかもしれない。ただしその場合には安全保障をどうするかについて、何らかの…こういうのもステークホルダーというのか知りませんが、関係する諸国家による協約のようなものが必要になってくるかもしれませんが、NATOに加盟するなという要求をロシアが持っているということ自身、典型的な冷戦思考に他なりません。ところがプーチンさんの頭の中では全部逆転されている。
で、ウクライナのゼレンスキー政権が要望しているのはNATOに入れて守ってくださいということでは、必ずしもない。というのは支援しているのはNATO以外の国もたくさんあるわけですよね。NATOの論理とは違う理由でウクライナを支援している。侵略を受けるウクライナを支援している。これというのは、ロシアの脅威に共同して対処しましょうというNATOではなく、ロシアがやっている国連憲章に反するような、あるいは戦争犯罪を含む非道に関して、人道主義の立場から批判する、即刻撤退を要求する、困っているウクライナに関しては可能な限り支援する、そういうことじゃないですか。そのような諸国家の連合というのは、これはNATOとは次元が違うので、むしろそのようなものによる安全保障。悲しいことに今は国連ということになってしまうわけですが。
とりあえずは国連の安保理はこの間機能していないので、いや、そんなことを一言で言ったら怒られますが。皆さん必死の思いでやられている、日本の外務省の人たちを含めてね。でも、うまくは行っていなかった。だとすれば、そういう新しい国際的な枠組みの中でウクライナの安全を担保できるようにしないといけないわけですね。
それから非軍事化。ウクライナ軍をなくせ、みたいな話ですね。これはロシアからすれば切り取ったドンバス(切り取れていませんが)と、クリミアをロシア領として確保することを確実ならしむる、ということとつながっているのだと思います。
仮にその状態のまま何らかの形で停戦が成立したとしても、ウクライナ側が失地回復の行動を起こすことはいくらでもあり得ますよね。ロシアにとってもあり得るわけで。だから目標といったところで無理な話ですね。
そうやって見てくると、「非ナチ化」にせよ「中立化」、「非軍事化」にせよ、プーチンさんが目指すと言っていることはことごとく不成立。軍事的には、もうこれは何週間も前から言っていることですが、西側の最新鋭というか、標準的な戦車群がウクライナに供与されて実戦に投入されるまでの間にロシア軍が優勢を確保できてしまうのか否か、今そのつばぜり合いというか、どちらが先にゴールに滑り込むかという争いになっている。
現実には東部地域で激しい戦闘が行われていて、ロシア軍は、大量に動員された予備役の兵隊を前線に押しやって攻め込ませ、何人死のうが突進してその間にウクライナの陣地を突破する。何人目かで突破するというような、人の命を命と思わない戦法さえつかって侵略している。それに対してウクライナ軍側が支えきれなくなった場合には撤退して防御戦を敷き直し、そこを守る。そこにロシアがまた人海戦術を仕掛けて推す、ウクライナ軍が撤退する、というような、ウクライナ側がじりじり押されていくという状況。
ロシア軍の方が人数も多いですし、全体的な力は強いですからウクライナ軍は押されていくのですが、押され切らないようにしてとにかく支援、友軍を待つという状況のようです。それが現状だということだと思います。
このところしきりに核による脅しが行われるようになってきていますが、核弾頭搭載のミサイルの話にしても、今のロシアには、その一部は作り続けられるらしいですが、西側の制裁の結果として高性能の半導体が手に入らないので、モノによっては作りきれないということもあるようです。
プーチンさんはこの間、核に関して二つ大きなことを言っている。一つは新START。米ロ間に唯一残った核兵器削減の条約。この履行を停止すると言っている。現在の条約は2026年まで効力があり、この間にお互いの査察なども入っているのですが、これを停止する。その間に核実験さえやりかねない話になっている。核戦力の強化をすると言い切っていますので。
ただこれは、もはや核しかない。通常戦力の軍隊については既にかなりが破壊されている。装備も人員も大変な数が損耗している。ロシア軍全滅とまでは言いませんが、ロシア軍そのものは敗北した。でも、核がある、いや核しかないのだと思います。
核による強迫、恫喝は出来ますが、実際には核は使えない。いや、確かに、そこに核兵器があり、それを命じることできる人がいて、その人が人間である以上、核が使われる可能性がある。また人の頭の上に核爆弾が落とされる可能性は勿論ゼロではないのですが、そうなったら規模にかかわらず、今現在ロシアをなんとなく支持して、国連の投票などでも棄権することで制裁や批判に加わらない、そのような国がありますが、その中でも、ほとんどが批判の側に廻っていくでしょう。
まして、中国は「平和演説」をやるようですが、そのような国がウクライナに対して核兵器を使ったロシアをそのまま擁護するとは考えられません。仮に核を使うといっても、ウクライナ全土に何十発も落とせば別ですが、さすがにそれは出来ないでしょう。それは「終わり」ということであり、もはやプーチンさんの「勝ち」ですらない。爆発力を押さえた核をどこかで使うことを含めて、そんなことをすれば、ロシアの正当性は誰も擁護しなくなるでしょう。
核を振りかざして、仮に三つの要求の一部が実現したとしても、プーチンさんのロシアに未来はないと私は思っています。客観的な推測とまでは言いません。そもそも人間の口から「客観的だ」というのも変な話。客観性とはそんなに甘いものではないと思いますので。
●米軍 ウクライナへの戦車供与 年内は難しい可能性示唆  3/2
緊張が続くウクライナ情勢。ウクライナへの軍事支援として注目されているのが戦闘機の供与です。
アメリカ国防総省のカール国防次官は2月28日、議会下院の軍事委員会の公聴会でF16戦闘機について機体の供与や訓練も含めて実戦配備するまでにはおよそ1年半かかるとの見通しを示しました。
これはすでに使用されている機体を供与する場合で、新しい機体を供与するには最大で6年かかるとしています。
国防次官「F16戦闘機供与 最良の選択だとは言えない」
カール国防次官は「1年半後にようやく使えるものに30億ドル使うよりは地対空ミサイルや歩兵戦闘車、155ミリりゅう弾砲に使う方が合理的だ」とした上で「F16戦闘機を供与することが最良の選択だとは言えない」と述べ、現時点で供与は現実的ではないとの考えを示しました。
陸軍長官「エイブラムス 数週間や2か月では供与できない」
また、アメリカ政府が先に供与を表明したM1戦車、エイブラムスについても年内は難しいという趣旨の発言があり、物議を醸しています。発言したのは陸軍長官で「数週間や2か月では供与できない」「しかし、2年や1年半はかからない選択肢はある」と述べました。陸軍長官は、できるだけ早期に供与すべく今も検討中としているものの、年内供与は難しい可能性を示唆したのです。このため、アメリカの供与表明は「ドイツ製戦車レオパルトの供与を渋っていたドイツ政府を説得するための単なるポーズだった」という見方も出ているのです。
大統領補佐官「大統領は必要ないものの承諾した」
それを裏付けるかのように、アメリカの大統領補佐官が戦車供与を決めた経緯について「バイデン大統領は当初、エイブラムスを供与しないと決めた。米軍から有用ではないと助言されたからだ。しかし、アメリカが供与を表明しなければドイツもレオパルトを供与しないと伝えてきた。だから、必要ないものの、大統領は承諾したのだ」と発言をしました。
米紙「エイブラムスがウクライナに届かないおそれも」
これについて、アメリカでは批判の声も出ています。アメリカの新聞ウォール・ストリート・ジャーナルは、「エイブラムスがウクライナに届かないおそれも」と題する社説を掲載。「供与する頃には戦争は終わっているかもしれない」と皮肉っています。
米紙「ウクライナは西側の戦闘機が必要」
一方、アメリカの新聞「ワシントン・ポスト」は、社説で「長期戦に直面しているウクライナは西側の戦闘機が必要だ」と題し、F16の供与やパイロットなどの訓練を早く検討すべきだと主張しました。両紙に共通するのは、バイデン政権が後手に回っているという見方です。バイデン政権は、ウクライナに巨額の軍事支援を行ってきましたが、供与する兵器については段階を踏むように徐々に攻撃力を高めた兵器を供与してきました。その段階方式が、時間がかかっている要因とも見られていて、中には、攻撃力の高い兵器を一気にウクライナ側に供与した方がロシア軍を早く撤退させられるという意見も出ている。どの兵器をいつ供与するのか。2年目に入った軍事侵攻は出口が見えないだけに、戦争を早期に終結させたい、その思いや焦りも議論を過熱させているのかもしれません。
●ロシア軍 多くの戦車損失か 気温上昇で地上戦こう着の可能性も  3/2
ロシア軍はウクライナ東部の掌握をねらい攻撃を強めていますが、戦闘で多くの戦車を失っているという見方がでています。またイギリス国防省は、今後気温が上昇することで凍結していた土壌がぬかるみ、部隊の移動が難しくなり、東部の地上戦がこう着する可能性があると指摘しています。
ロシア軍は、ウクライナ東部ドネツク州で、ウクライナ側の拠点バフムトを包囲しようと攻撃を強めていて、ウクライナのマリャル国防次官は先月28日、バフムトの防衛のために追加の部隊を派遣すると明らかにしました。
一方、ドネツク州の激戦地の1つブフレダルについて、アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは、1日ウクライナ軍の話として、ロシア軍が過去3週間の戦闘で少なくとも130両の戦車や装甲車を失ったとみられると伝えました。
戦況を分析しているイギリス国防省も、ブフレダルでロシア軍の精鋭部隊に所属する多くの装甲車が破壊されたのを衛星写真で確認したとしていて、ロシア軍の部隊に多くの損失が出ている可能性があります。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は1日「冬は終わった。非常に困難だったがウクライナにエネルギーを供給することができた」と述べ、冬の間、ロシア軍の侵攻に耐え抜いたと強調し、ウクライナ軍は今後、大規模な反転攻勢に乗り出す構えを示しています。
イギリス国防省は、今後気温が上昇して雪どけが進めば土壌がぬかるみ、部隊の移動が制限されるようになり、特にバフムトの攻防戦では装甲車の移動が妨げられると分析していて、春になって東部の地上戦がこう着する可能性を指摘しています。
●G20外相会議 共同声明発表できず ウクライナ情勢で意見の相違 3/2
G20=主要20か国の外相会議が2日閉幕し、議長国のインドが先ほど成果文書を発表しましたが、去年7月にインドネシアで開かれた外相会議と同様に今回も共同声明の発表には至りませんでした。
インドのジャイシャンカル外相は記者会見で「ウクライナ情勢をめぐり、参加国の意見の食い違いがあった」と説明しました。
一方、「気候変動や食糧安全保障などへの対策を強化することで合意ができた」とした上で、「グローバルサウスと呼ばれる新興国や発展途上国にとって初めてとなる重要な成果を得た」と強調しました。

 

●ロシア義勇兵部隊が露領土入り認める 「われわれは解放軍」 3/3
ロシアが2日、ウクライナとの国境に接する露西部ブリャンスク州に「ウクライナの妨害工作部隊が侵入した」と主張した問題で、ウクライナ側で参戦している「ロシア人義勇兵部隊」は同日昼過ぎ、交流サイト(SNS)に投稿した動画を通じ、「体制と戦えるということを露国民に示すためにブリャンスク州に入った」と露領内に入ったことを認める声明を発表した。
動画では、ロシア人義勇兵部隊所属だと名乗る男性兵士が、同州内であることを示す建物の前に立ち、声明を発表。銃撃音が響く中、男性兵士は「われわれは『妨害工作部隊』ではなく解放軍だ」と述べ、露国民にプーチン政権を打倒するため立ち上がるよう呼び掛けた。また、「われわれはプーチンの軍隊とは異なり、非武装の民間人とは戦わない」とも述べ、「妨害工作部隊が民間人を死傷させた」とするロシア側の主張は虚偽だとした。
一方、国境警備を担う露連邦保安局(FSB)は同日夕、「状況はロシアの制御下に置かれた」とし、「妨害工作部隊」を撃退したと主張した。タス通信が伝えた。タスはこれに先立ち、「妨害工作部隊が露領内から立ち去り、FSBが捜索を行っている」とする地元住民の話も伝えた。
ウクライナメディアによると、ロシア人義勇兵部隊は、プーチン政権によるウクライナ侵略に反発したロシア人らで構成。2022年に部隊編成され、ウクライナ領土防衛部隊外国人軍団に属している。
●「テロ行為」 プーチン“ウクライナ側破壊工作グループが発砲し死者出た”と主張 3/3
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナと国境を接するロシア西部の州で、ウクライナ側の破壊工作グループが発砲し死者が出たと主張し、「テロ行為だ」と非難しました。
プーチン大統領は2日、西部ブリャンスク州にウクライナ側の破壊工作グループが侵入し、住民に発砲して死者が出たと主張。「テロ行為」だとウクライナ側を非難しました。
州知事によると2人が死亡しています。
独立系メディアの「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は、「ロシア義勇軍」を名乗るグループが関与を認めたと伝え、グループはウクライナ軍側で戦うロシア人部隊だとしています。
一方、ウクライナの大統領府長官顧問は「意図的な挑発だ。ロシアは攻撃拡大を正当化するために、自国民を怖がらせようとしている」としています。
●米国務長官とロシア外相が直接対話 ウクライナ侵攻後初 3/3
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官とロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は2日、主要20カ国・地域(G20)外相会合が開催されていたインドの首都デリーで、短時間接触した。ブリンケン氏はウクライナに対する「侵略戦争を終わらせる」ようラヴロフ氏に求めたという。
両氏が対面で言葉を交わしたのは、ロシアが侵攻を開始してから初めて。
米国務省の高官によると、2人の会話は10分にも満たなかったという。一方、ロシア外務省は2人は「移動中に」話をしたとし、このやり取りを軽視している。
ブリンケン氏は、「私は(ラヴロフ)外相に対し、私やほかの多くの人々が先週の国連で主張したこと、つまり、この侵略戦争を終わらせ、公正かつ持続的な和平を生み出すことのできる意味のある外交に従事するよう伝えた」と、接触後のブリーフィングで語った。
また、最近ロシア政府が「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行を停止すると発表したのは「無責任」だとし、新STARTへの再参加をロシアに促したと述べた。
ブリンケン氏は、ロシアでスパイ罪で服役中の元米海兵隊員ポール・ウィラン氏についても言及したという。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、両氏が言葉を交わしたことを認めたが、それ以上の詳細は明らかにしなかった。
ブリンケン氏とラヴロフ氏は2022年1月のスイス・ジュネーヴでの会談を最後に、対面での会談は行っていなかった。
共同声明まとまらず
ラヴロフ氏は先に、ロシアのウクライナ侵攻を非難するよう中立国に影響を与えようとする西側諸国を非難していた。
「西側諸国はすべての人に、すべてのことを押し付けようとする試みを続けている」
G20開催中には、西側諸国がウクライナ政府に戦争を継続するようけしかけていると非難した。
ブリンケン氏はこの間、ウクライナへの支援を呼びかけるため、各国のトップ外交官と会談していたと報じられている。
G20外相会合は、共同声明を出さずに2日に閉幕した。これは、戦争をめぐる相違がこの1年で硬化したことを示している。
ブリンケン氏は2日、スイス・ジュネーヴで行われた国連人権理事会の会合にビデオリンクを通じて出席し、ロシアへの非難を繰り返した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領については、「関与する気がゼロであることを示している」と指摘した。
●アメリカとロシアの外相が10分間接触 ウクライナ侵攻後で初 3/3
米国のブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相は2日、主要20カ国・地域(G20)外相会合が開かれていたインドで接触し、短時間言葉を交わした。ロシアが2022年2月24日にウクライナ侵攻を始めて以降、対面で接触するのは初めて。
ブリンケン氏はG20外相会合後の記者会見で、ロシアが米国と結んでいる「新戦略兵器削減条約」(新START)の履行義務の停止を決めたことに関して「無責任な決定を撤回し、復帰するよう(ラブロフ氏に)促した」と語った。条約の順守は「両国の利益となり、世界中の人々が期待していることだ」と話した。
また、ラブロフ氏に対して「侵略戦争をやめ、持続可能な平和を生み出す意味ある外交に取り組むよう」求めたことも明らかにした。米国はウクライナが提案した侵攻終結に向けた10項目の提案に基づいて「外交を通じてウクライナを支援する用意がある」と説明し、「しかし、こうした外交にプーチン大統領は全く関心がない」と批判した。
ブリンケン氏は、ロシアでスパイ罪で服役している元米海兵隊員のポール・ウィランさんの解放を改めて求めたとも語り、「米国は真剣な提案をした。ロシアは受け入れるべきだ」と話した。
一方、米国防総省のライダー報道官は2日の記者会見で、米国がウクライナに対してロシア国内の攻撃目標に関する情報を提供しているというロシア側の見方について「ナンセンスだ」と否定した。そのうえで「米国はロシアと戦争をしているわけではなく、ロシアとの戦争を望んでいるわけでもない」と語った。
●ウクライナ和平、時期尚早の交渉は危険  3/3
――筆者のマイケル・キンメージ氏はアメリカ・カトリック大学教授(歴史学)で、2014年から16年まで米国務省でロシア・ウクライナ担当の政策企画部スタッフを務めた。ハンナ・ノッテ氏はウィーン軍縮不拡散センター(VCDNP)のシニアリサーチアソシエイト。

ロシアのウクライナ侵攻から1年がたち、外交のエンジンが回転数を上げている。中国は戦争終結に向けた計画を誇らしげに提案し、ハンガリーがそれを支持したところだ。トルコは当初から、ロシアと直接のつながりを持つ北大西洋条約機構(NATO)加盟国として仲介役を名乗っている。他にも、ブラジル、インドネシア、イスラエル、南アフリカ、アラブ諸国など多くの国が仲介を申し出ている。フランス、ドイツ、英国は最近、ウクライナの安全を保障する考えを提案した。NATO加盟諸国からの兵器供与が拡大すれば、ウクライナはロシアとの和平合意に向けて動く可能性があると期待されている。
バイデン政権は「必要な限り」ウクライナを支援すると繰り返し約束してきたが、米国に制約がないわけではない。ウクライナに供与できる資金と物資には限りがある。一部の共和党員はロシアとの戦いを避けたいと考えており、共和党員も民主党員も新たな「永遠の戦争」の責任を負うことを望んでいない。新たな選挙シーズンが始まろうとする中、バイデン政権にはこの戦争の終着点を見つけるよう圧力が増すだろう。ロシアとウクライナのいずれかが決定的な敗北を喫することがなければ、この戦争は交渉による解決で終わるほかない。
しかし、このひどい戦争では、性急に和解して失敗すれば、和解しない場合よりもひどい状況に陥るだろう。ウクライナの問題を長期的に解決するためには、三つの条件を満たす必要がある。一つ目は、ウクライナが欧州を舞台に繰り広げられるポーカーのチップではなく、外交的な対話の相手であることをロシアが受け入れることだ。二つ目は、ロシアが違法に占拠しているクリミア半島やその他の領地を含め、ウクライナの領土の構成についてロシアとウクライナが合意すること。最も重要な三つ目は、欧州におけるロシアの立ち位置、とりわけロシア国境に接する独立国家に関して、ロシアと西側諸国が一般的な合意に達することである。これらの条件のうち満たされそうなものは一つもない。
ウラジーミル・プーチン氏が描くウクライナ像は、9年前に痛々しい状況で明らかになった。2014年にウクライナで革命が起き、親ロシア派のビクトル・ヤヌコビッチ大統領が失脚したのを受け、プーチン氏はクリミア半島を併合し、ウクライナ東部に軍隊を送り込んだ。それはロシアにとって局所的な作戦ではなかった。ウクライナ全土を弱体化する狙いのほか、東欧における米国の影響力に抵抗する意図があった。
ロシアは自国と米国との間に、危険と暴力に関する新たな境界線を確立しようとした。プーチン氏は欧州の改造を目指した。ベラルーシやカザフスタンといったロシアの近隣国が西側に近づくのを思いとどまらせるほか、NATOがロシアの勢力範囲を認め、ジョージアやウクライナなどの他の近隣国を受け入れないようにする狙いがあった。プーチン氏はまた、弾道ミサイル防衛システムなどの軍装備をロシア国境近くに配備する動きを遅らせるか撤回させることも望んでいた。
こうした大きな戦略を念頭に置くロシアは、2014年・15年の一連の外交交渉の中でウクライナを正当な交渉相手として扱ってこなかった。一方で、ウクライナ東部の状況を内戦(実際は違うが)と位置付け、ウクライナ政府に東部の「分離独立派」との直接交渉を求め続けた。ロシアの目標はウクライナの主体性を最小化し、同国をロシアと主要欧州諸国にとっての弱々しい保護対象地域とし、「ウクライナ問題」は外部者にしか解決できないと見える状況を作り出すことだった。ロシアにとって最も重要な外部勢力は米国だ。ドナルド・トランプ前米大統領はウクライナ問題を巡る米ロ間の合意に前向きだったように見えたが、結局合意は達成されなかった。プーチン氏は、自らが望むような新たな欧州を交渉によって手に入れることはできなかったが、当初の野望を諦めなかった。
プーチン氏の過激思想は時がたつにつれて強まった。彼は2021年夏の一連の著述の中で、ウクライナとロシアの歴史的「一体性」について書き記した。同年末にかけて一連の最後通告を行った。要求したのは、NATO加盟国を1998年の状態に戻し、東欧から軍備を撤収し、ウクライナのNATO加盟を正式に禁止することだった。西側諸国にはばかげた内容に思えたかもしれない。しかし、これらの要求は2014年当時の戦争目標と一致している。プーチン氏は新たな欧州の実現を急ごうとしたのだ。
ウクライナへの侵攻開始以降、ロシアが戦場で幾多の後退を強いられたにもかかわらず、二つの目標を追い求めるというプーチン氏の決意は依然変わっていない。一つはウクライナをロシアに恭順させるか、さもなければウクライナを破壊することであり、もう一つは東欧での米国の影響力を低下させることだ。これまでのところロシアが望んでいたのとは逆の展開になっている。ウクライナの独立国家としての地位は強固になり、NATOも強化された。それにもかかわらずプーチン氏は諦めていないようだ。むしろ、この戦争によって自らの判断が正しかったという確信を得たのかもしれない。つまり、ロシアの門前に西側の脅威が迫れば、最後まで戦い続けなければならないということだ。
プーチン氏が自身の戦略的目標の変更を拒否し続ける限り、真剣な和平案への機が熟することはない。とはいえ、何らかの取引や裏ルートでの交渉があり得ないわけではない。トルコは昨年、ウクライナからの穀物輸出についてロシアから合意を取り付ける仲介役を果たした。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は捕虜交換の実現に動いた。こうした紛争管理の取り組みは重要だが、恒久的な解決への準備が整っていることを示唆するものではない。中国はロシアに対して大きな影響力を持っているが、平和を真剣に模索するというよりは、ロシアの戦争目的を肯定するような和平案を提示した。それでもロシアの反応は鈍かった。
ウクライナとロシアが国境に関して合意することは、この戦争を終わらせるための必要条件ではあるが、十分条件ではない。そのような合意は「語彙(ごい)」についての協定にすぎない。この戦争の根底にある、欧州改造というプーチン氏の野心を源泉とする「文法」は、変わらず残る。
ロシアの軍事面での失敗と、西側諸国のウクライナ支援の熱意が、プーチン氏の戦争継続へのかたくなな意志を強めているように思われる。米国とウクライナ、そして仲介しようとする国は、プーチン氏が戦争から手を引くことを検討するなどと考えてはいけない。彼はおそらく戦争をエスカレートさせる方法を模索するだろう。
ロシアは今後どこかの時点で、ウクライナでの戦費や戦闘能力の限界、もしかすると国内の政治的混乱によって、自国の行き詰まりを自覚するかもしれない。こうした要因が戦闘に小康状態をもたらす可能性はある。だが、それを停戦と呼ぶにせよ休戦と呼ぶにせよ、真の平和には程遠いだろう。
むやみな仲裁は、この戦争の最も喫緊な課題――ロシアによるさらなる領土強奪の抑止と、ロシアの撃退を目指すウクライナへの支援――から注意をそらすことになるだけだ。季節は冬から春になり、第2次世界大戦後初の大規模な戦争が始まって1年がたった今、平和を作り上げることは現実的な見通しではない。ウクライナと西側諸国にとって、時期尚早の外交をしない忍耐が重要だ。
●プーチン大統領が愛人カバエワさんとの愛の隠れ家を暴露され激怒か 3/3
プーチン大統領が愛人カバエワさんとの愛の隠れ家をリークされ、激怒しているという。英紙デイリー・メールなどが2日、報じた。
ロシアで作られた極めて匿名性の高いSNSテレグラムに「SVR将軍」というアカウントがある。海外大手メディアも引用するアカウントで、自称SVR(ロシア対外情報庁)の元将軍が真偽不明ながら、クレムリンの内部情報をリークしている。同アカウントが「大統領がこれほど激怒したのははじめてだ。国家機密より重要な情報を守り切れなかったFSB(ロシア連邦保安庁=KGBの後継)指導部をしかりつけ、カバエワとけんかし、カバエワの友人を怒鳴っている」と書き込んだ。
プーチン氏が怒っている理由は、ロシア反政府メディアProektが2月28日に「プーチンとカバエワが子供たちと一緒にヴァルダイの秘密の宮殿に住んでいた」と報じたことのようだ。Proektにはヴァルダイ湖畔に建てられた超豪邸の外観、さらに内部の写真まで公開されていた。そして、カバエワさんを「戴冠式を挙げなかったロシア王妃」と報じた。
前出のSVR将軍は「プーチンは『カバエワの友人がリークしたと100%の確信を持っている』と言った」とつづった。
カバエワさんは新体操の金メダリストで、プーチン氏との間に2人の子供をもうけたとされているが、プーチン氏もカバエワさんも公に関係を認めたことはない。
●戦争がウクライナを汚染、世界の「食糧庫」深刻な打撃 3/3
昨年11月にウクライナが南部の要衝ヘルソン州をロシアから奪還したのに伴い、この地で営んでいた穀物農場に戻ってきたアンドリー・ポボドさん(27)が目にしたのは一面の廃墟だった。2台のトラクターは見当たらず、小麦の大半は消え去り、収穫物貯蔵用の建物と作業用農機全てが爆撃で破壊されていた。
こうした光景はロシア軍による砲爆撃による被害の実態をあらわにしたが、同時に1年にわたる戦争は、「欧州の大穀倉地帯」と称されるウクライナの肥沃な土壌に目には見えない打撃ももたらしている。
ヘルソンから採取した土壌サンプルを調べた科学者は、水銀やヒ素といった、弾丸や燃料からしみ出た有害物質が土を汚染している事実を発見した。
ウクライナの土壌科学・農業化学研究院の科学者チームがサンプルや衛星画像を調査した結果、これまでにウクライナ全体で少なくとも1050万ヘクタールの農地で土壌の質が悪化したと推定されている。これはなおロシア軍に占領されている地域を含め、ウクライナの全農地の4分の1に達する。
ポボド氏はドニエプル川から約10キロ離れたヘルソン州ビロゼルカ近くにある農場を歩きながら「われわれが暮らす地域にとって非常に大きな問題だ。この地は非常に土が良く、もう一度生み出すことはできない」と頭を抱えた。
ロイターが25人前後の土壌分析科学者や農家、穀物企業関係者、その他専門家に取材したところ、汚染物質や地雷の除去、破壊されたインフラの復旧など穀倉地帯が受けたダメージを復旧する作業は数十年単位となり、この先何年も食糧供給がおぼつかなくなる恐れがあるとみられていることが分かった。
砲爆撃は穀物の栄養素となる窒素などに変えてくれる地中の微生物の生態系をかき乱し、戦車が土を押し固めたことで植物が根を張るのを難しくする、とも科学者は指摘する。
一部の土地は地雷が埋設され、まるで第一次世界大戦の戦場のように塹壕や砲弾孔で形状自体が変容してしまった。複数の専門家の話では、これらはもう二度と農業生産に利用できないかもしれない。
失われた豊穣さ
戦争前まで、ウクライナのトウモロコシ輸出は世界第4位、小麦輸出は同5位の規模で、特にアフリカや中東の比較的貧しい国への主要な供給元だった。
ただ1年前、ロシアのウクライナ侵攻によって平時の穀物輸送ルートだった黒海沿岸の港が閉ざされたため、世界の穀物価格高騰につながった。
土壌科学・農業化学研究院のスビトスラフ・バリューク所長はロイターに対し、戦争被害によってウクライナの年間穀物収穫量の減少幅は1000万―2000万トン、つまり戦争前の収穫総量6000万―8900万トンの最大3割強になった恐れがあるとの試算を示した。
土壌破壊だけでなく、ウクライナの農家は至る所に残された不発弾、かんがい設備やサイロ、港湾施設の破壊という問題にも悩まされている。
ウクライナの穀物生産最大手企業の一角を占めるニブロンのアンドリー・バダチュルスキー最高経営責任者(CEO)は、地雷除去だけでも30年かかると見込んでおり、国内農家が事業を続けるためには至急金融支援が必要だと訴えた。
同氏は「今は価格の高さが問題視されているが、食料を手に入れることはできる。だが1年後には、何の解決策も講じられないとすれば、食料不足が起きるだろう」と警告する。
土壌科学・農業化学研究院によると、最も深刻な痛手を受けたのは「チェルノーゼム(黒土)」と呼ばれる非常に養分が多い土壌だ。チェルノーゼムは他の土壌よりも腐植土やリン、窒素といった成分の含有量が多く、最も深い場所で地中1.5メートルまで広がっている。
同研究院のバリューク所長は、戦争による有害物質の増加や微生物の密度低下で、既にトウモロコシの種子が発芽するのに必要なエネルギーが地中から推定で26%減少しており、収穫量減少につながっていると明かした。
第一次大戦の悪夢
ウクライナ政府が立ち上げた土壌科学者の専門部会は、全ての地雷を除去し、ウクライナの土壌を健全な状態に戻す費用を150億ドルと見積もった。
バリューク氏の見立てでは、復旧に要する期間はその土地の汚染度合いによって短くて3年、長ければ200年を超える。
また第一次世界大戦が土地に及ぼした被害が参考になるなら、一部の地域は永遠にも元通りにはならないだろう。
米国のジョセフ・フーピー氏とランダル・シェツル氏という2人の学者が2006年に戦争の土壌に対する影響の研究結果を示しており、目に見えない被害の1つとして爆撃による地下水深度が変わり、植物の生育に欠かせない地中すぐ下の地下水脈を消してしまう現象を挙げた。
第一次大戦の激戦地となったフランス・ベルダン近くでは、戦前に穀物の農地や牧草地だった幾つかの場所が砲弾孔や不発弾のため、それから100年以上経過しても農業に使えなくなっている、とフーピー氏ともう1人の学者が08年の論文で指摘している。
フーピー氏はロイターに、ウクライナの耕作適地の一部もまた、土壌汚染や地形変化が原因で永遠に穀物生産ができなくなるのではないかとの見方を示した。ほかの多くの農地も、大規模な土木作業で土地を平面に戻し地雷も除去しなければならないという。
第一次世界大戦による土壌汚染を研究するカンタベリー・クライストチャーチ大学のナオミ・リンタウル・ハインズ氏も、ウクライナでも同じように土壌が回復不能なダメージを受けつつあるのではないかと心配している。
例えば鉛は、地中の蓄積量が半減するまで700年かそれ以上かかる。リンタウル・ハインズ氏は、こうした土地で育つ植物には多くの有毒物が含まれ、人体に悪影響を与えかねないと述べた。
同氏は、第一次大戦は4年続いた一方でウクライナの戦争はまだ1年だが、鉛は依然として多くの近代兵器の主要な原料の1つだと付け加えた。
難航する地雷除去
米国務省の兵器除去部門で欧州関連プログラム管理を担当するマイケル・ティーレ氏は、ウクライナ政府の見積もりとして、領土の26%に存在する地雷と不発弾を片付けるには数十年かかる公算が大きいと話した。
ウクライナ南東部であるアンドリー・パスチュシェンコさん(39)の家畜飼料農場も、砲弾孔やロシア軍が作った待避壕で穴だらけのありさまだ。
しかもウクライナが昨年11月にこの地域を奪い返した後も、ドニエプル川の対岸からロシア軍の砲撃は続き、毎日新しい砲弾孔や不発弾が農場で生み出されているという。
パスチュシェンコさんは「全てをきれいにして業務を継続するには何カ月か、何年も必要になる」と語りつつ、この場所が最前線なので誰も助けにこないと嘆いた。
ヘルソン州の軍事当局の広報担当者は、専門的な要員が限られているため、同州の農場では今のところ地雷除去作業は実施されていないと認めた。
ニブロン幹部はロイターに、外部の支援がほとんど得られないことから、同社はウクライナ南部の地雷を除去する小規模なチームを立ち上げたが、取り組み期間は数十年にわたるとの見通しも示した。「ニブロンにとって極めて深刻な問題になっている」という。
●米独首脳会談、ウクライナ戦争が焦点 中国懸念に言及も=米高官 3/3
米政府高官は2日、バイデン大統領とショルツ独首相が3日に行う会談ではウクライナ戦争が主な議題になるとした上で、中国がロシアに兵器を供給する可能性への懸念についても触れる可能性があると述べた。
同高官は「会談の包括的な目的は両首脳がウクライナ問題で具体的に協調できる機会になることだが、ウクライナに関する議論の中で、中国に触れる可能性はあり得る」と述べた。
米国はこれまで中国がロシアに兵器を提供した証拠を確認していないが、状況を注視しているという。
中国はロシアを武装化する意図を否定し、ウクライナに兵器を供給している西側諸国に対し、そのよう支援は平和をもたらさず「火に油を注ぐ」ことになると警告している。
●ウクライナ戦争で莫大な漁夫の利、そのインドに求められること 3/3
ロシアによるウクライナへの本格的な軍事侵攻から1年が経った。
西側諸国がモスクワを非難する中、インドは非難するどころか逆に露印関係をむしろ深めている構図が浮かび上がってきている。いったいどういうことなのか。
インドの人口は先月、中国を抜いて世界一になったと人口動態統計を扱う独立機関ワールド・ポピュレーション・レビュー(WPR)が発表した。
ちなみに2022年末時点での人口は中国が14億1200万人だったのに対し、インドは14億1700万人。
インドは世界最大の「民主主義国家」になったことから、本来であればロシアのウクライナ侵攻を非難してしかるべきだ。
しかし、非難していない。
欧米諸国がロシアへの制裁措置としてロシア産の原油の輸入を削減しているなか、全く逆の動きに出てさえいる。
さらにロシア製兵器の発注も続けている。西側アナリストの分析をながめると理由がみえてきた。
最初はインドとロシアが歴史的に外交的な立場を共有してきたという背景がある。
インドは英国から独立した後、旧ソ連に傾斜しながらロシア側に身を寄せる。それは反欧米という感情がインドに根付き始めたということでもあった。
ニューデリー市にあるオブザーバー研究所の政治学者ラジェスワリ・ピライ・ラジャゴパラン氏は次のように説明する。
「当時は反植民地主義と反帝国主義が芽生えた時だった。そして冷戦の激化とともに反欧米という感情が増幅し、ロシアとインドは共感し合うようになった」
こうした政治背景があることから、ウクライナ戦争が起きても非難されるべき国はロシアではなく米国であるとの見方がインド国内で醸成された。
もちろん、インドの野党政党であるインド国民会議の議員などからは「ウクライナ問題でこれまでインドが取ってきた行動には、(ロシアへの)批判が感じられない。むしろ手助けしているかにみえる」といった政権への疑念の声も聞かれる。
インドがロシアを非難しない他の理由は経済的要因がある。
インドはいま、世界でも急速に経済成長を遂げている国の一つで、国民の潜在意識として「政治よりもまず経済」を優先する流れがある。
ちなみに国際通貨基金(IMF)が予測する今年のインドの経済成長率は6.8%。日本は1.8%なので、成長著しいといって差し支えない。
ただインドには原油や天然ガスがほとんどないため、大半を輸入に頼っている。
そこに登場するのがロシアなのだ。
インドはいまでも中東の産油国から原油を輸入しているが、ロシアのシェアが急増している。
原油輸入先としては、これまでイラクとサウジアラビアがロシアよりも上だった。それがいまやロシアが最大の原油供給国になっている。
2022年12月、インドはロシアから1日120万バレルの原油を輸入した。この数字は2021年12月比の33倍という数字である。
ウクライナ戦争が始まる前、ロシア産原油を全体の1%未満しか輸入していなかったインドが、今では総輸入量の28%をロシア産に頼っている。
皮肉なのは、インドに供給されたロシア産原油はインドで精製された後、欧州連合(EU)などに輸出されていることだ。
EUは2022年12月、ロシアへの経済制裁としてロシア原油の輸入を禁止したばかりで、巡り巡って欧州諸国に行きついているのだ。
言い方を変えれば、EUは手を汚さずにロシア産原油を手に入れていることになる。
もちろんインドも割安なロシア産原油を大量に仕入れて、再輸出することで利益を上げている。これが今の国際関係の現実である。
露印関係が深まっている別の理由は、インドがいまでもロシア製の兵器に頼っていることである。
歴史的にインドの軍隊はロシアの兵器を使用してきた。冷戦時代、ロシアとインドは公式には非同盟だったものの密接な関係を維持していた。
ただ近年、ロシア製の兵器の品質に疑問を持ち始めたインドが航空機や大砲の一部をフランス、イスラエル、米国のものに置き換え始めてもいる。
もちろん、すべての軍備を置き換えるには多大の時間とコストがかかるし、いまだにロシアはインドに対し大量の武器を供給しているのも事実だ。
過去5年だけでも約130億ドル(約1兆7742億円)相当の武器がインドに渡っており、過去20年を眺めても、インドが外国から輸入した兵器の約66%はロシア製である。
インドに精通した外交アナリストと話をすると、インドが今採るべき外交上の役割があるという。
それはロシアと国際社会の仲介役を担うことである。
ロシアと密接な関係を築いているからこそ、重要な役回りを担う必要があるというのだ。
ロシアによるウクライナ侵攻が開始された時、ナレンドラ・モディ首相はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談している。
その際、ロシアとウクライナを含む北大西洋条約機構((NATO)との対立を解決する唯一の方策は対話であると述べて、戦争の即時中止を求めている。
プーチン氏はモディ首相の忠告を無視したが、少なくともインド・ロシア両国は首脳同士のパイプがあり、コミュニケーションが取れることを内外に示した。
同外交アナリストが望むのは、このままウクライナの戦況が膠着した場合、ロシアを含めた関係国は「着地点」を探らざるを得なくなるので、インドがロシアと欧米との橋渡し役を担えるのではないかということだ。
モディ首相は今後もプーチン氏をあからさまに非難したり攻撃することはしないだろう。
それだからこそ、ウクライナ紛争の早期解決を提案し、働きかけることができるはずだ。
岸田文雄首相もモディ首相とプーチン大統領の両首脳に対して積極的に和平を働きかけてもいい。
日本は地理的にウクライナから距離があるが、国際社会のなかで存在感を示すと同時に、紛争の収束がいかに一般市民にとって、また世界和平にとって重要であるかを内外に諭さないといけない。
岸田首相は行動を起こすべきだろう。
●ウクライナの越境攻撃に殺気立つロシア国会 3/3
ウクライナ軍はロシアの領土に簡単に手を出せる――歯に衣着せぬ発言で知られるロシアのある国会議員が、こう批判した。
世界のメディアに関する情報を収集・公表しているBBCモニタリング部門のフランシス・スカーがインターネット上に投稿した動画によれば、ロシアの国会議員であるアレクセイ・ジュラブリョフは国営テレビで次のように語った。「それが現在のシステムだ。ロシアのレッドライン(譲れない一線)はゴムでできており伸びたり縮んだりする。既にロシア領のクラスノダール地方まで(ウクライナ軍の攻撃は)きたが許している。今後もっと先まで伸びる可能性もある」
クラスノダール地方はロシア南部に位置し、トゥアプセ市の当局者によれば、この地方で2件の爆発が報告された。
ウクライナ内務省のアントン・ゲラシュチェンコ顧問は、3月1日にウクライナ軍のドローンがクラスノダール地方にあるエイスク空軍基地の近くで爆発したとしている。同基地はウクライナ軍の前線から約130キロメートルのところに位置し、ここまでの越境攻撃を許したのはロシアの恥にあたる。
ジュラブリョフは、厳しい冬を迎えた現在の戦況について、「受け入れ難い状況」だと語った。ロシアの冬の過酷な気候は、過去の複数の戦闘で敵を撃退してきたことから「冬将軍」と呼ばれている。
「奴らにきちんと罰を与えるべきだ」
「これは今やロシアの領土に対する攻撃なのだということを、彼ら(ウクライナ側)は、はっきりと理解すべきだ」とジョラブリョフは述べ、さらにこう続けた。「彼らはクリミアを攻撃し、そのほかにもクラスノダールやベルゴロドに対して相次いで攻撃を行ってきている。そろそろ彼らにきちんと罰を与えるべきだ」
ウクライナと国境を接するベルゴロド州とクルスク州の知事は、ウクライナ軍が繰り返し、境界を越えてドローン攻撃を仕掛けてきていると非難している。
ベロゴロド州のワレンチン・デミドフ知事は2月27日、市内で無人機3機の残骸が見つかったと明らかにした。けが人はいなかったということだ。
ジュラブリョフはこれまで、ロシアの特別軍事作戦について、称賛したり批判したりと、態度をコロコロ変えてきた。2月には、ロシアが「ウクライナを100%非武装化」し、NATOの非武装化を達成できる日も近づいていると大げさに褒めちぎっていたが、そのすぐ後には国営テレビ「ロシア1」の番組「60ミニッツ」の中で、ロシアのメディアは戦場の現実を伝えていないと批判していた。
ジュラブリョフは、ロシア軍に「もっと踏み込む」よう呼びかけている。
「大規模攻勢が順調ならば、なぜロシア軍はキーウ入りしていないのか」と彼は2月半ばに述べた。「私が理解していない何かがあるのだろうか。それとも今後、新たな地域の掌握についてのお祝いが予定されているのだろうか」
過去にはドイツ外相を脅すような発言も
1月には、ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相がウクライナ東部のハルキウ(ハリコフ)を訪問し、ウクライナの外相と会談を行ってウクライナのEU(欧州連合)加盟を支持すると表明したことを受けて、国営テレビ「ロシア1」の番組内で彼女を脅す発言をした。
「ベアボックがハルキウをうろついている」とジュラブリョフはこの時に述べ、さらにこう続けた。「彼女がどこにいるか、我々には分かるはずだろう?我々は精密誘導兵器を持っていないのか?彼女はあそこで何をしているんだ?」
●長距離攻撃の“秘策” 英ミサイルをウクライナ機に搭載 3/3
2年目に突入したウクライナ戦争。ウクライナは、春の大攻勢に向けて、西側のさらなる支援を求めている。中でも、切望しながらも叶わないもの、それが、長距離攻撃能力だ。西側から、戦闘機の供与は表明されている。しかし、操縦訓練が必要なため、実用は早くても秋以降といわれる。残る頼みは、射程の長いミサイルだが、アメリカが新たに供与を表明した『GLSBD』でも150km射程。これでは、クリミアのロシア軍基地も、港も、クリミア橋も攻撃できない。そんな中、驚くような計画が進められていた…
「近くまで飛んで行って発射すればクリミア半島全域をカバーでき、ゲームチェンジャーになりうる」
長距離攻撃能力が求められる中、イギリスが供与を検討しているとされる『ストームシャドウ』。射程250qを超える長距離射程の巡航ミサイルだ。命中精度が高く、ステルス性能まで備えているという。しかしこれ、空中発射型ミサイルだ。つまり、戦闘機に搭載して、空から発射しなければならない。これでは、西側戦闘機の導入を待たなければ使えない。ところが、ここに奇策があった。
イギリス製のミサイルを、ウクライナ軍が扱い慣れている、旧ソ連製の航空機に搭載しようというのだ。ウクライナには、ミグ29戦闘機や、スホイ24爆撃機など111機の旧ソ連機があるが、当然、そのままイギリスのミサイルを搭載できるはずはない。果たして、どうやって搭載するのだろうか?
英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表 秋元千明氏「これは、ウクライナが求めている戦闘機と長距離射程兵器、2つの供与をパッケージにした、一石二鳥のアイディア。イギリスのスナク首相が言い出した」
先週、ミュンヘンで、スナク首相は「イギリスは、ウクライナに長距離兵器を提供する最初の国になるだろう」と述べている。
秋元千明氏「NATO諸国は、かなり、ミグ戦闘機や、スホイ爆撃機を所有してるんです。特にスロバキアとポーランドは今、新しい戦闘機への更新が進んでいて、古いものはいらない。スロバキアに関しては、2022年9月から、領空の防衛はポーランドやチェコに移管している。なので余剰戦闘機なんです。さらに、既にNATOの近代化改修というのを行っていて、NATO兵器を取り付け易い状態になっていて、わずかな改修を加えれば、(すぐ乗りこなせる)戦闘機も供与できるし、『ストームシャドウ』を搭載することもできる。さらに、ウクライナが保有している、旧ソ連製の戦闘機も同じで、これには、イギリスのエンジニアを、ウクライナに派遣して改修作業を進めています」
これは単に『ハイマース』よりも『ストームシャドウ』の射程が長いということではなく、戦闘機で、占領された地域近くまで進出して発射できるため、攻撃範囲は格段に広がる。ウクライナにある戦闘機を改修するだけでなく、すでにストームシャドウ搭載可能になった戦闘機を送る選択もあるのだ。
秋元千明氏「例えば、クリミア半島の近くまで飛んで行って発射すれば、クリミア半島全域をカバーできる。そういう意味では、ゲームチェンジャーに成りうると思いますね」
「NATO、羨ましいなぁ…」
ポーランドの首相はすでにミサイル搭載用に改修した旧ソ連機を供与する用意があると表明。因みに保有数は61機ある。また、11機を提供するスロバキアの首相は「ウクライナを救うのは、国内で退役したミグ戦闘機だ」と語った。こうした支援を加速させているのは、“NATO領空警備”という規定と、東欧で進む“西側戦闘機への置き換え”だ。
スロバキア領空の防衛がポーランドとチェコに移管されたように、NATOでは、戦闘機保有国が、非保有国の領土を守る集団防衛の枠組みを設けている。更に、東欧諸国では、所有していた旧ソ連製戦闘機を、次々退役させている。ポーランドはすでに、アメリカ製F-16を48機保有していた。
秋元千明氏「日本と大きく違う。例えば、対潜水艦の哨戒も、防空警備も、NATOは分担して、得意な分野を担っているんですね。NATO域では、防空警戒レーダーにしても、NATOが運営していて、各国が個別にやってるわけじゃない。ひ弱な国があれば、他の国が守る」
元陸上自衛隊東部方面総監 磯部晃一氏「元米軍高官から言われた話なんですけど、日本は凄いと。自衛隊は、24万人しかいないのに領海、領空警備、いざとなったら地上部隊が島々に行く…。日本というのは、リマーカブル(非凡)だと。日本は自前でやるしかなくて、いざという時は、米軍に援軍を求めるわけですけど…。NATOは、持ち場持ち場で得意なところをやってる。羨ましいなぁ、っていうのが、実は私の率直な印象ですね」
クリミア全体が脅威にさらされる、長距離攻撃能力を、ウクライナが持とうとしていることを、プーチン大統領も既に知っているはずだ。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長(プーチン氏にも脅威になるのでは?)「そう思います。アメリカは戦闘機の供与と、射程300キロのミサイルの供与は、今も否定的なんです。そこを、イギリスとか、ポーランドとかが率先してやる。上手く考えたな。今後、アメリカの慎重姿勢を変えさせていく意図が、イギリスにもポーランドにもあると思う。だから、プーチン大統領からすると、かなり警戒はしている…」
国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏「アメリカが先陣を切るわけではなく、また、常に及び腰のドイツが先陣を切るわけでもない。その代わりに、イギリスとポーランドが、呼び水的な発言や、実際の供与を行う。ここでも(防衛を分担しているように)NATOの役割分担がされていて、引いて見ると、仕組まれた芝居じゃないかと…。まぁ、そこがNATOのある種の柔軟性。機能性の高いところかと…」
クリミア奪還でなく“孤立作戦”も
ウクライナ陣営から長距離、それも空からの精密爆撃能力をウクライナが得た場合どんな作戦をとるのか…
秋元千明氏「南部がウクライナにとって、最も大切なわけで、西側が供与する高性能の戦車321台は、すべて南部戦線に投下する。そして、旧ソ連製の戦車は、東部戦線で相手を蹴散らすために使う。さらにクリミアについて、最近、西側で議論されているのは、軍事的に全面攻撃するのでなく、クリミア内の重要な軍事基地のセバストポリの海軍基地、サキ空軍基地、ドローンを飛ばす基地、弾薬の備蓄基地を長距離兵器でまとめて攻撃して軍事能力を、クリミアから一掃する。それと同時に、クリミア橋を破壊するとともに、ヘルソン州との境界を機能不全にして、補給できないように完全封鎖し、クリミアを孤立化させるという作戦です。とにかく、こうやってロシアが、手も足も出ないようにすることです」
孤立化作戦が議論されている背景には、クリミアには、ロシア系住民がいることや、ロシアの軍事的な重要拠点があることから、ウクライナが奪還を狙っても、大変な犠牲が出るだけで、費用対効果がないと読んでいるからのようだ。
和平案や奪還案、そして今回の孤立案と、様々な議論はあるようだが、ひとつ確かなことがあるという。ロシアにとって、現状維持はないということだ。
秋元千明氏「侵攻前のロシアと、今のロシアの軍事的プレゼンスの意味が違うんです。戦争が終わっても、ロシア軍がクリミアに居座り続けると、黒海を使って、西側は様々な貿易をするんで安心できない。安心感のためにも、ロシアを動きが取れないようにしなければならないのです」
●ウクライナ侵攻後に中国人民元への依存が一気に進んだロシア経済 3/3
人民元での輸出決済の割合が大幅上昇
ロシアでは、貿易決済、企業の資金調達、個人の外貨建て資産運用など多くの面で、中国人民元の存在感が高まっている。きっかけとなったのは、ウクライナ侵攻後に先進国が実施した、ロシアに対する経済・金融制裁措置である。ロシアの外貨準備のうち主要国通貨については凍結され、ロシアの主要銀行がドル、ユーロを中心とした国際的な銀行間決済システムSWIFTから排除された。主要な外貨の調達が困難となる中、中国人民元を用いた貿易決済が広がっていったのである。それは、経済関係においてロシアの中国依存度を高める流れと一体であった。
ロシア中央銀行のデータによると、人民元で代金が支払われた輸出の割合は、ウクライナ侵攻以前は、全体のわずか0.4%だったが、昨年9月には14%にまで上昇した。ルーブル建ては33%程度まで上昇したと推測され、逆にドル、ユーロなど主要通貨の割合が大きく低下した。
ロシアの貿易決済で人民元の利用が拡大するのを支えているのは、中国独自の国際的銀行間決済システムCIPSの存在だ。中国は2015年に、ドル、ユーロといった主要通貨での国際銀行間決済をほぼ支配するSWIFTに対抗する目的でCIPSを立ち上げた。
長らくその利用は広がりを欠いていたが、先進国による対ロシア金融制裁をきっかけに、流れが変わってきたのである。CIPSの今年1月の取引件数は、1日平均で2万1,000件と、侵攻前の約1.5倍になったという(日本経済新聞)。対ロシア金融制裁は、人民元の国際化を促し、国際決済における人民元の存在感を高める役割を果たしているのである。
ロシア政府は人民元の売却で戦争継続の資金を捻出
人民元は、戦争継続でひっ迫するロシア政府の財政を支える役割も果たしている。ロシアのエネルギー輸出業者は、人民元で代金を受け取るケースが増えてきている。税金として徴収された後にそれをプールしているロシアの政府系ファンド「国民福祉基金」は昨年末、石油収入を人民元建てで運用する比率を、最大30%から60%に引き上げると発表した。他方で、ドル資産を今後は保有しないとした。
さらに今年1月には、政府の財源ねん出のため、同基金が保有する金約3.6トンや中国の人民元を売却した。同基金からの金の売却は初めてのことだという。
人民元建て社債の発行を増やすロシア企業
ロシア企業の間でも、人民元による資金調達が広がってきている。昨年は人民元建ての社債の発行額が70億ドル余りに達した(リフィニティブ)。
アルミニウム大手のルサールは、昨年8月にロシア国内で人民元建ての社債発行に踏み切った初の企業となった。その後も、ロシア国営石油大手のロスネフチなど資源関連の輸出業者による起債が続いた。こうした企業の大半は、中国との取引があり、調達した人民元を支払いに充てている。
他方で、人民元を用いた事業を行っていない金融会社ビストロデンギも、昨年、人民元建ての社債の発行を開始した。同社によると、人民元建て社債のクーポンは約8%であり、ルーブル建て社債での発行よりもコストはかなり安いという。ルーブル建てであれば、クーポンはその2倍以上の19%程度になったとしている。ビストロデンギによると、同社の社債の買い手はロシアの個人投資家が大半を占めた。
人民元とルーブルとを交換する取引量が増加し、流動性が高まってきたことが、企業、個人投資家ともに人民元へのアクセスを容易にしている。ウクライナ侵攻前にはゼロに近かったモスクワ取引所における人民元とルーブルの交換は、2022年末には為替の全スポット取引の約半分を占めるようになったという(日本経済新聞)。ルーブルに比べて人民元の信頼性が高いことが、人民元を介した国内での資金の融通を促している面もある。
個人の人民元建て預金も拡大
ロシアの個人も人民元の保有に前向きなっている。50近い金融機関が、現在、人民元建ての預金口座を顧客に提供している(比較サイト「Banki.ru」)。1月には、初の人民元建てETFもモスクワ取引所に上場した。
ロシア中銀によると、ロシアの個人が国内銀行に保有する人民元建て預金は、ウクライナ侵攻前はゼロであったが、昨年末時点では約60億ドル相当に達している。人民元建て預金は、530億ドルに上る個人の外貨建て預金全体の1割以上を占めるまでになっている。背景には、先進国からの金融制裁を受けて、ロシアの銀行がドルやルーブルの調達が困難になったことがある。
人民元建ての預金の利回りは、ルーブル建ての預金の利回りと比べればかなり低めだが、それでもルーブルの価値が大きく下落し、物価が高騰するリスクをヘッジする観点から、ロシアの個人は人民元建ての資産を積極的に持つようになっているのである。
中国にとっては人民元国際化の足掛かりに
このように、ウクライナ侵攻後のロシアでは、貿易決済、財政資金の調達、企業の資金調達、個人の資産運用など多方面で、中国人民元の利用が確実に増えている。これは、経済と金融の双方で、ロシアが中国への依存度を急速に高めていることを意味する。
他方、中国にとっては、ロシアでの人民元利用の拡大は、人民元の利用を新興国に広げていく際の足掛かりとなる。それは、国際金融、通貨におけるドルの覇権に対する中国の挑戦を後押しするものだ。
ロシアと中国は一蓮托生の構図を強めるか
先進国による強い制裁措置のもと、中国への依存を高める以外に、ロシアにとっては経済成長を維持する術はないというのが実情だろう。ただし、経済、通貨の面で中国依存度を高めることは、その分野では中国に次第に支配されていくことを意味する。
また、ロシアがさらに人民元依存を高める中、仮に中国で経済・金融危機が生じ、人民元の価値が急落すれば、ロシアの貿易決済、財政資金の調達、企業の資金調達、個人の資産運用など多方面に深刻な打撃を与えることにもなる。
経済、金融の分野では、ロシアは中国と一蓮托生の構図を強めている、ともいえるだろう。
●ウクライナ戦争とプロパガンダ報道 3/3
2022年2月24日に突如開始されたロシア軍によるウクライナ侵攻から1年が経過した。しかし本稿執筆時点(2023年2月28日)時点でもなお、その決着はついていない。
この紛争は世界史的にも重要なものとなりつつあり、ロシアと国境を接している日本は、今回の紛争を通じて、ロシア軍の実態や彼らの行動原理を冷静かつ正確に見据えることが求められている。しかし現実に私たちが目にしているのはその真逆、つまり大量に流される一方的な報道と感情的な善悪二元論が支配する世論だ。
開戦当初、ロシア軍は破竹の勢いでウクライナ東部から南東部における地域を占拠したが、欧米と日本の大手マスコミは、ウクライナ軍は連戦連勝、ロシア軍は10万以上の戦死者を出して各地で瓦解しており、兵の多くは敵前逃亡や国外亡命、挙句の果てには補給が絶たれて食料がないので野犬を食って凌いでいる、といった類のウクライナ優勢報道を大量に流してきた。
さらにはロシア軍の弾薬不足も深刻で、ウクライナ政府は2022年3月以降、毎月のように「ロシアのミサイルはついに在庫がなくなった」などと言い続けていた。また、対露経済制裁によってルーブルは暴落するからロシアは早晩崩壊する、プーチンはついに狂人に堕した、深刻な認知症になっている、幾つもの末期癌を抱えているので余命幾許もない、といったことが「識者」の間でまことしやかに言われている。
しかし実際はどうか。
ウクライナ進攻から1年経った今、戦術的・戦略的な撤退や部隊の配置転換はあったものの、ロシア軍が劇的な大敗を喫したという事実は確認できていないし、開戦当初ロシア軍が占拠したウクライナの領土の大半は現在もロシアによる占領下にある。また、ロシア軍の精密誘導ミサイルは昨年はずっとウクライナの上空を飛び続けていたし、欧米諸国や日本から経済制裁を受けたにもかかわらず、通貨ルーブルはなんと開戦前より強くなってしまい、ロシア経済は崩壊するどころか好調だ。
そんな偏った情報ばかりを流す欧米および日本の大手マスコミが頼る情報源の1つが、米シンクタンク「戦争研究所」だ。彼らは同研究所の「分析結果」を一切の検証や批判なくお茶の間に大量に流し込んでくるが、この研究所は22年3月の段階で、「ロシア軍は長期休戦を受け入れ、態勢と作戦を立て直す必要があるが、今のところ徴兵、士官候補生、シリア人傭兵など小規模な投入を繰り返すだけで『この努力は失敗する』」と「断言」していた。
しかしロシアが侵攻して数週間後に両国の代表らが討議した休戦を拒否したのはウクライナ側である(事実、ロシアの休戦交渉を行ったウクライナ側責任者の1人は、交渉直後にキエフ市内で射殺体で発見されている)。その背後には対露休戦は絶対に認めないとするバイデン政権の強い意向があったのは明らかだ。さらに戦争研究所は22年9月には、ウクライナ部隊がロシア軍に「大規模な作戦上の敗北」を与えたと発表したが、ロシアはその直後に南部4州を併合している。
この戦争研究所は同年11月にも「ロシアは高精度兵器システムのほとんどを使い果たした」と言ったが、その数日後から今日に至るまでロシアの巡航ミサイルはウクライナの上空を飛びまくっている。
それでも主要マスコミがなぜか信じて疑わないこの組織は、もともとはキンバリー・ケーガンという女性が設立したシンクタンクである。その配偶者の兄はロバート・ケーガン氏というネオコンの代表的論客であり、2001年米同時多発テロの数ヶ月後の段階で「サダム(・フセイン)と9.11テロを直接結びつける必要はない」として、アルカイダとは対立していた。核兵器どころか大量破壊兵器すら持っていなかったイラクへの侵攻を正当化した人物だ。2019年には、トランプの対外政策を批判する論文をブリンケン国務長官と共同執筆したこともある。
ロバート・ケーガン氏の妻は、民主党政権下でウクライナ問題に長年関与し、2014年のマイダン革命では選挙で選ばれたヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権の転覆を狙ってさまざまな工作を行ったとも指摘される米国務省のビクトリア・ヌーランド次官である。
このようにバイデン政権と極めて近しいネオコン一家が私的に経営するシンクタンクに情報の多くを依存することが、果たしてこの紛争を冷静に見極めることに資するのかどうか、という点については再検討が必要だろう。
性犯罪報道についても同様だ。2022年10月、国連性暴力担当代表のプラミラ・パッテン女史は「ロシア軍は軍事戦略の一環としてバイアグラを兵士らに提供」し、大量の性犯罪を行っていると述べたが、そもそもバイアグラはED治療薬であって、前線に送られる健康な若い兵士らの大半には必要ないはずだ。因みにこのパッテン女史はのちに「自分は普段はNYのオフィスにいるので、現場を見ていない。聞いただけだ」と言っている。
2011年4月、当時のアメリカのスーザン・ライス国連大使は「(カダフィ率いる)リビア軍が反政府勢力との戦争でレイプを武器としており、一部の者はインポテンツ防止薬を支給されている」と国連の非公開会議で語ったこともあった。しかしこの直後、アメリカ軍と情報機関の高官らは、バイアグラがカダフィ軍によって組織的レイプを幇助するために使われているという証拠は「ない」と明言している。
今回、プラミラ・パッテン女史にその話を「言い伝えた」のは、ウクライナ政府の人権オンブズマン責任者としてロシア軍による集団レイプといった凄まじい性暴力ニュースを連日西側メデイアに向けて発表し、日本の新聞でも名前が紹介されたリュドミラ・デニソヴァ女史であるが、のちにそれらが全てウソであったことが世間にバレてしまい、2022年の半ばに解任されている。つまりこれは戦時プロパガンダの典型で、日本のケースに当てはめるなら『レイプ・オブ・南京』や「従軍慰安婦の強制連行」のような話だったということだ。
とは言え戦場で性犯罪や残虐行為が起きるのは世の常であるし、ウクライナでも多くの悲惨な事件が起きていることに疑いの余地はない。第二次大戦後、ソ連兵が満州などで日本人婦女子や、ドイツ・ベルリンのドイツ人女性らに対して、筆舌に尽くし難い性暴力を働いたのは有名な話だ。
しかし忘れてならないのは、そんなソ連軍将兵の中には多くのウクライナ人もいたということである。事実、ソ連のブレジネフ政権で国防大臣となったロディオン・マリノフスキー元帥は、終戦時に満州に侵攻して日本軍守備隊の生存者をシベリアに連行し、日本の一般婦女子に対して前述同様の苦しみを与えた司令官の1人であった。ロディオン・マリノフスキー元帥の出身地はウクライナのオデッサであった。
そんなウクライナは、世界で9番目、ヨーロッパ圏では最も腐敗しているとされてきた国であるが、それがいまや西側と同じ自由と民主主義という価値観を有する法治国家陣営の1つのように数えられているのは一体どうしたことだろうか。現在シベリアの刑務所に収監中の反プーチン運動家として有名なナワリヌイ氏でさえ、ウクライナの腐敗はロシアのそれとは比べ物にならないと言っている。
ウクライナと和平交渉を行ったロシア担当者が市中で暗殺され、内務大臣を乗せたヘリコプターが首都上空でいきなり撃墜され(これもゼレンスキー政権内部の抗争の結果だとする指摘がある)、政権に反対する野党やマスコミは全て強制的に閉鎖させられる国だ。
2014年以来、自国民であるウクライナ東部のロシア系住民に対して、ネオナチ民兵のみならず、シリアで散々残虐行為を働いていたISの構成員まで投入し、一般婦女子への凄まじい性暴力や誘拐・拷問、虐殺を行い、万単位の人々を殺害してきてもいる。
日本は米欧と足並みを揃え、ウクライナへの物資や資金の援助してきた。しかしゼレンスキー大統領は昨年、米連邦議会で、ロシアの侵攻を真珠湾攻撃に譬えて演説し、プーチン批判をするウクライナ政府公式ツイッターには、ヒトラーやムッソリーニの写真を昭和天皇の御真影と一緒に投稿した。さらには同ツイッターに投稿した各国の支援に対する感謝の動画で、日本への言及はなかった。
情報分析においては一方的で偏った情報源に頼り切ったり、「愛と憎しみ」を持ち込むことはご法度だ、と言われる。しかし戦後日本人はこれらの点で実にナイーブになってしまった。日本人は感傷的で騙されやすい。この先もずっと騙されたまま、知らず知らずのうちに誰かの利益のために貢がせられることになるだろうか。嘆かわしいことである。
●米、ウクライナ追加軍事支援を3日発表へ 4億ドル規模=当局者 3/3
米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は2日、ウクライナに対する新たな軍事支援策を3日に発表すると記者団に述べた。金額は明らかにしなかった。
米当局者ら複数の関係筋によると、追加支援は約4億ドル規模で、高機動ロケット砲システム「ハイマース」用の「誘導多連装ロケットシステム」(GMLRS)や歩兵戦闘車「ブラッドレー」用弾薬などが含まれる見通し。
支援は、緊急時に大統領が議会の承認なく国内余剰兵器を移送できる権限を活用して行われる。
ウクライナへの継続的な軍事支援は、バイデン米大統領とドイツのショルツ首相が3日にホワイトハウスで会談する際に取り上げられる見通し。
ロイターは1日、ウクライナでの戦争で中国がロシアに軍事支援を行った場合に新たな対中制裁を科す可能性について、米政府が同盟国に打診していると報じた。
対中制裁の可能性が米独首脳会談の議題になるかとの問いに対し、カービー氏は「ウクライナ情勢について協議する文脈で、第三者によるロシア支援の問題が当然持ち上がるだろう」と述べた。
●食料価格高騰で「グローバル・サウス」に日本が5000万ドル支援  3/3
政府は、ウクライナ情勢を背景に食料価格が高騰していることを踏まえ、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国などの食料安全保障を強化するため、新たに5000万ドルの支援を行うことになりました。
これはインドで開かれたG20=主要20か国の外相会合で、林外務大臣に代わって出席した山田副大臣が表明しました。
それによりますと、政府はウクライナ情勢を背景に食料価格が高騰していることを踏まえ「グローバル・サウス」と呼ばれるアフリカやアジアの新興国や途上国などの食料安全保障を強化するため、新たに5000万ドルの支援を行うとしています。
アジアや中東、アフリカの国への緊急食料支援も含み、近く正式に決定する方針です。
「グローバル・サウス」と呼ばれる国々は、ウクライナ情勢をめぐり中立的な立場をとる国が少なくないとされていることから、政府はさまざまな支援を通じて連携強化を図る方針で、今回の表明はこうした取り組みの一環とみられます。
●政府 ウクライナに224億円余の無償資金協力決定 復旧復興支援  3/3
政府は、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナに対し、復旧・復興に向けたインフラ整備などを支援するため、新たに224億円余りの無償資金協力を決めました。
ロシアによる軍事侵攻から先月で1年が経過した中、政府はウクライナの復旧・復興に向けた支援を強化するとして、新たにインフラ整備のための機材の供与など、合わせて224億4000万円の無償資金協力を決めました。
具体的には、地雷や不発弾の処理や、ロシアによる攻撃で破壊された電力施設の整備、それにオンライン教育の環境整備などに必要な機材を供与するとしています。
また、ウクライナの基幹産業である農業の回復に向け、とうもろこしなどの種子を提供する予定です。
財源は、今年度の補正予算を充てるとしています。
外務省は「ウクライナからは、将来の国の再建に向けて今から取り組みたいと言われており、日本らしさを生かしながら支援していきたい」としています。
●ロシア 日本海で巡航ミサイル発射と発表 日米けん制のねらいか  3/3
ロシア国防省は、潜水艦が巡航ミサイルを発射する演習を日本海で行い、成功したと、3日、発表しました。ウクライナへの軍事侵攻などをめぐり対立するアメリカや日本などをけん制するねらいもあるとみられます。
ロシア国防省は、演習の一環として、日本海で太平洋艦隊のディーゼル型の潜水艦「ペトロパブロフスク・カムチャツキー」が巡航ミサイル「カリブル」を発射したと、3日、発表しました。
公開された映像では、潜水艦は極東の中心都市ウラジオストクを出航し、合図があったあと、海上からミサイルが発射される様子が映し出されています。
ロシア国防省はミサイルは、1000キロ以上離れた極東ハバロフスク地方の演習場にある標的に命中したとしています。
ロシアは、この「カリブル」の発射演習を繰り返し行っていて、ウクライナ侵攻ではウクライナの重要インフラなどへの攻撃にも使っています。
演習は、ウクライナ侵攻などをめぐり対立し、アジア太平洋地域で軍事力を強めているとみているアメリカや、ロシアへ制裁を科す日本などを、けん制するねらいもあるものとみられます。
●ウクライナ侵攻 ロシア側の戦死者最大7万人か 3/3
アメリカのシンクタンクは、ウクライナ侵攻におけるロシア側の戦死者が、第二次世界大戦後の軍事作戦による戦死者の合計を上回ったと明らかにしました。
アメリカのCSIS=戦略国際問題研究所は、ウクライナ侵攻開始以降、ロシア側の戦死者の数が最大7万人にのぼるとの推計を発表しました。
第二次世界大戦の後にソ連とロシアが関係したすべての軍事作戦の死者の合計はおよそ4万9300人で、この数を大幅に超えるとしています。
また、ニューヨーク・タイムズは1日、ウクライナ当局者の話として、東部ドネツク州ブフレダルでの戦闘でロシア軍が少なくとも130両の戦車や装甲車を失ったと報じました。
戦闘は3週間にわたり、両軍による戦車戦としてはこれまでで最大だったということです。
●低・中所得国の対外債務、過去20年で最大に ウクライナ侵攻の余波 3/3
「グローバルサウス」と呼ばれる南半球を中心とした新興・途上国の過剰な債務が問題になっている。コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻後、食料やエネルギー価格が高騰し、輸入品を買うための外貨が不足する国も相次いでいる。
世界銀行によると、低・中所得国に分類される国の対外債務高は、2000年に約2兆ドル(約271兆円)だったのに対し、21年には約9兆ドルまで増え、過去20年間で最大になった。マルパス総裁は「途上国の債務危機は深刻化している」と危機感を募らせる。
20年以降、アフリカのザンビアやガーナ、南アジアのスリランカなどが対外債務を返済できなくなるデフォルト(債務不履行)に陥った。エジプトやパキスタンといった国も物価高や外貨不足に直面している。
2月末に開かれた主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議では、新興・途上国の債務問題がテーマの一つとなり、債務の減免や透明性の向上について話し合われた。
欧米諸国が非難するのは、各国でインフラ整備を進め、金利も一般的に高いとされる中国による融資だ。低所得国約70カ国の二国間債務は、中国からの債務が21年に49%を占め、10年の18%から上昇したという。
一方、欧米から制裁を受けるロシアは、原油や防衛協力などを通じて、こうした国の取り込みを図る。ウクライナ侵攻から1年にあたる2月末には、中国とロシアの両海軍が南アフリカ国防軍と軍事演習を実施した。 
●ロシア義勇軍団、プーチン政権への武装蜂起呼びかけ…  3/3
ウクライナと接するロシア西部ブリャンスク州の知事は2日、「ウクライナから破壊工作集団が侵入し、発砲した」と発表した。ウクライナに拠点を置くロシア人部隊が同日、侵入攻撃を認め、プーチン露政権への武装蜂起を呼びかける動画をSNSに投稿した。プーチン大統領は「テロ」と非難し、ウクライナへの報復を示唆した。ウクライナ側は関与を否定している。
州知事によると、集団はウクライナに隣接する二つの集落に侵入して走行中の車両に発砲するなどした。無人機を使った攻撃も展開したという。住民2人が死亡し、男児が負傷したとしている。
タス通信によると、露情報機関「連邦保安局」(FSB)は、激しい砲撃の末、集団を「ウクライナに追い払った」と発表したが、侵入した集団の死傷者は伝えられていない。
プーチン氏は2日に予定していた地方視察を中止し、直後に開かれたオンライン会合で「ウクライナによるテロ行為だ」と非難し、「ウクライナの『ネオナチ』を粉砕する」と主張した。3日の安全保障会議で対応を本格的に検討した。プーチン政権は露国内での反戦運動など政権批判への弾圧を強めるとみられる。
一方、侵入を認める動画をSNSに投稿したのは「ロシア義勇軍団」を名乗る集団。ブリャンスク州内の建物の前で、兵士2人が「(プーチン)政権と戦えることを示すためにやってきた」などと訴えた。侵入攻撃には約40人が関与したとされる。
ドイツの有力誌シュピーゲルなどによると、動画に映っていた兵士の一人は、創設者のデニス・カプースチン氏とみられる。ドイツ育ちのロシア人で、2018年頃にウクライナに拠点を移し、昨年夏頃に義勇軍団を創設したという。ウクライナ軍が組織する外国人部隊には加わっておらず、活動実態は不明な点が多い。
●言論統制強めるプーチン政権 国外に逃れ…「情報発信」続けるロシアメディア 3/3
ロシアによるウクライナへの侵攻が続き、プーチン大統領は市民への言論統制を強めています。そのような状況のなか、国外に逃れ、情報発信を続けるロシアメディアがあります。5歳の女の子の母親でもある人気キャスターに話を聞きました。
軍事侵攻から1年がたった先月24日、ロシア・モスクワでは、ウクライナにゆかりのある広場に献花をした市民が、当局に拘束されました。
国内での締め付けを強めるプーチン政権は、批判的な独立系メディアのウェブサイトへのアクセスを相次いで遮断するなど、言論統制をますます強めています。
しかし、ロシアを逃れ、オランダから情報発信を続けるメディアがあります。ロシアの独立系メディア「ドーシチ」です。ウクライナ侵攻直後からロシアに批判的な報道を続けたため、ウェブサイトへのアクセスを遮断され、去年3月にモスクワから“さよなら放送”を行いました。それでも、国外に拠点を移してYouTubeなどで配信を継続。視聴者の3分の2はロシア国内にいます。
メーク中もスマホでインタビューの質問案を練っているのは、人気キャスターのユリア・タラトゥタさん。ゲストはウクライナ侵攻に反対している有名ブロガーです。
「ドーシチ」キャスター タラトゥタさん「(ロシアの人に)あなたは正気ではないと思われていますが?」
ブロガー ベロツィルコフスカヤさん「ウクライナへの侵攻に心が痛み、私個人の不幸として捉えています」
5歳の女の子の母親でもあるタラトゥタさんは、ジャーナリストとして、子どもたちのためにも“戦争のない世界を”と訴えます。
タラトゥタさん「プロパガンダと戦うには、従来と異なる視点を提供するしかありません。真実を語る人の方が説得力があると思います」
ドーシチと同じフロアには、同じようにロシアを脱出した独立メディアがあります。英字新聞「モスクワタイムズ」です。国営メディアなどが垂れ流すプロパガンダやフェイクニュースを指摘し、事実を伝えようとしています。
「モスクワタイムズ」記者 アレクサンダーさん「私たちは選ぶことができます。『真実を伝える』のか、『プロパガンダ漬けにする』のか。プロパガンダが人々の命を奪うほど恐ろしいと、私たちは知っていますから」
1年がたっても終わりが見えない戦争。事実を伝えようとするロシアメディアの戦いが続いています。
●林外相 アフリカ連合の議長国外相と会談 ウクライナ情勢で連携  3/3
インドを訪れている林外務大臣は、インド洋の島国で、AU=アフリカ連合の議長国を務めるコモロのドイヒール外相と会談し、ウクライナ情勢をめぐる事態の早期解決に向けて連携することで一致しました。
林外務大臣とコモロのドイヒール外相の会談は日本時間の3日午後、インドの首都ニューデリーでおよそ50分間行われました。
この中で林大臣は先月、国連総会で採択されたウクライナでの永続的な平和などを求める決議に、コモロが賛成したことを歓迎したうえで、ロシアに対して国際社会全体が、明確なメッセージを示すことが重要だという考えを示しました。
これに対しドイヒール外相は、ウクライナ情勢はアフリカにも影響を与えており、AUの議長国として確固とした立場で対応したいという認識を示し、両外相は事態の早期解決に向けて連携することで一致しました。
さらに、ともに海洋国家として漁業や廃棄物の管理などの分野で協力するほか、G7=主要7か国とAUのそれぞれの議長国の立場を踏まえ、連携強化を図ることを確認しました。
●ウクライナめぐり共同声明「核兵器使用や威嚇は許さない」クアッド外相会合 3/3
日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国の枠組み「クアッド」の外相が会談し、ウクライナ情勢をめぐって「核兵器の使用や威嚇は許さない」と明記した共同声明を発表しました。
ただ、ウクライナへの侵略を続けるロシアを名指しした非難はしていません。友好関係を維持するインドに配慮した格好です。

 

●武装集団のロシア侵入 反プーチン政権姿勢のロシア人組織が関与主張 3/4
武装集団がロシア西部の国境地帯に侵入した事件を受け、ロシアの安全保障会議は3日、治安対策の強化を議論した。一方、ウクライナを拠点とするロシア人の極右民兵組織が、事件に関与したと主張。この主張が正しければ、ロシアとウクライナの衝突にとどまらず、事件は第三者が絡むという複雑な様相を呈してきた。
ロシアの連邦保安庁は、西部ブリャンスク州の村に侵入したウクライナの武装集団を退却させたが、銃撃により住民2人が死亡したと説明している。プーチン露大統領は3日開かれた安全保障会議の冒頭で、テロ対策の強化に取り組む意向を示した。
一方、反プーチン政権姿勢の武装組織「ロシア義勇軍」は事件発覚後、通信アプリへの投稿でブリャンスク州に侵入したことを認める声明を発表。組織はロシアからドイツに移住した極右活動家のデニス・ニキティン氏がウクライナを拠点として、組織しているといわれてきた。
ニキティン氏は3日の英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)の取材に応じ、事件について「ロシア国民に鎖につながれたまま生きていく必要がないことを教えようとした」と言明。プーチン政権に対する蜂起を促す考えに触れた。
ウクライナ政府は事件への関与を否定しているが、ニキティン氏はウクライナ政府の許可を得て、国境地帯を通ってロシアに侵入したとも主張。ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」によると、ニキティン氏はウクライナ政府の管轄下に置かれた部隊「アゾフ大隊」と密接に関係してきた人物だという。今後、同氏の発言が物議を醸す恐れも出てきそうだ。
フィナンシャル・タイムズ紙は事件発覚を受け「ロシアのゲリラがキーウ(ウクライナ政府)に加担する準備をしてきたことが示された」とも指摘している。
●「ロシア軍は強くて正義」という幻想を捨てられない理由―プーチンの思想と戦争 3/4
ウクライナとベラルーシにルーツを持つノーベル文学賞作家のスヴェトラーナ・アレクシェービッチさん。ロシアによるウクライナ侵攻に大きなショックを受け、その後はロシアの体制を批判し続けてきた。侵攻から一年が過ぎたいま、ロシアをどう見ているのか、聞いた。
「誰も、兄弟と戦争するとは思っていなかった」ひっくり返された世界観
アレクシェービッチさんは、第二次世界大戦中のソ連軍に動員された女性兵士500人を取材した作品などが評価され、8年前、ノーベル文学賞を受賞した。
母がウクライナ人、父がベラルーシ人で、ベラルーシで活動していたが、強権的なルカシェンコ政権を批判し、ドイツへの亡命を余儀なくされた。現在はベルリンで生活してる。
――ウクライナ侵攻から一年が経ちました。 これほど長い戦争になると予想しておられましたか?
「正直に言うと、これが戦争の始まりだとは信じられませんでした。それほど、最初の数日間はショックを受けていました。皆、そこで起きていることが信じられませんでした。しかも、こんなに長く続くとは思っていませんでした。私は半分ウクライナ人ですから(訳注:母がウクライナ人、父がベラルーシ人)、私の愛する祖母が、すでにこの世になく、この戦争を見ずに済んで本当に良かったと思いました。この戦争は、すでにその最初の数日で、帝国(ソビエト連邦)が消滅した後の、私たちの世界観をひっくり返したのです」
――本質的な質問になってしまいますが、なぜこの戦争が起きたんでしょうか?
「90年代に帝国(ソ連)が流血の惨事を招くことなく終わりを迎えようとしていたころ、私たちはロマンチスト(夢想家)だったと思います。戦争と言えば、その帝国の端の方で、小さな衝突があったくらいです。私たちはそれを誇りとさえ思っていました。過去へ戻ろうとする復古の動きが始まるとは誰も思っていませんでした。私は「セカンドハンドの時代」という本を書きました。ロシア国内を沢山見て回りました。そこで見たのは、ロシアの奥深くに鬱積した攻撃性、抵抗のエネルギーでした。ペテルブルグやモスクワ、ミンスクなど、自分が普段いる環境では、共産主義は二度と戻らないと感じていました。しかしロシアの奥深くへ行くたびに、ここで流血の惨事が起きるかもしれないという恐怖を感じました。それは、つまり、帝国(ソ連)の中で、どのようにロシアが分割されるかや、貧富の差の出現、残酷な原始資本主義など、不平等に対する、社会的な抗議が爆発するかもと思っていました。しかし、まさか、外部の、しかも捏造された敵と戦争するとは、まったく想像していませんでした。一面から言えば、それはもしかしたら、プーチンの頭を支配するメシアニズム(救世主信仰)的思想だったのかもしれません。彼の執務室には常に、ピョートル大帝の肖像画が飾られています。そしてもちろん、彼自身もピョートル大帝だと思っている事でしょう。時々そのような発言をしています。でも、私たちの中ではだれも、兄弟と戦争をするとは思っていませんでした」
――1991年から94年までモスクワで特派員としてしてソ連の消滅を取材しました。私も実はアレクシェービッチさんと同じようにロマンチストだった時期がありました。
「そう思います。私たちはあちこちで「自由だ、自由だ」と言っていましたが、誰も自由とは何かを知りませんでした。私たちはいちばん重要なことを知りませんでした。つまり自由は、自由な人間を求める、と。しかしそのような人間はいませんでした。強制収容所を出た人間は、収容所の門を出たらすぐに自由な人間になれるのではありません。なぜなら、彼はそれがなんであるかを知らないからです。そこで彼は何をし始めたか?彼自身の知っている事、不自由なことを始めたのです」
「ロシア国民自身の罪」国民自ら、権力者の言いなりになる「不自由」を選択
ロシア軍は2022年3月30日までの1か月以上キーウ近郊のブチャを占領した。その後市内の至るところに市民の遺体が放置されていることがわかり、ゼレンスキー大統領は、国連の安全保障理事会で「第2次世界大戦後、最も恐ろしい“戦争犯罪”だ」と演説した。
――アレクシェービチさんは何がロシア人からこんなふうに人間性を奪ってしまったのだというふうにお考えになりますか。
「それは、わたしたち皆が考えている問いです。私は何十人もの人々に問いかけ、話を聞きましたが、みんな呆然として、いつこのような概念の問題が発生したのかわからないというのが現状です。プーチンの時代になって、プーチンが国民を鼓舞するプロパガンダのために作ったスローガンがあります。“ロシアは、こんなにも長い間、屈辱を味わってはいけない” “ロシアは、面子をつぶされてはいけない”つまり、“我々は再び偉大な大国になるべきだ”と説いたのです。それは国民自身の思いでした。プーチンは、国民が聞きたがっている言葉を口にしたにすぎないのです」
――プロパガンダの道具として一番影響を受けているものはなんだと思われますか?
「それはテレビと、そこで働いているジャーナリストのせいだと言われています。国民を騙しているという点では、彼らは犯罪者です。しかし、決してそれが全てではありません。人々がプロパガンダを一切受け入れなければ、プロパガンダは彼らに影響を与えることはできないからです。テレビは『国民が聞きたいと思っていること』を伝えているのです。ですから私は“ロシア国民自身の罪”だと思います。彼らが、ロシア軍は強くて正義であるという幻想を捨てられないのは、信じるものがなくなってしまうからです。彼らの世界が壊れてしまうからです。この騙された人間の妄想の世界を、彼らは守りたいのです」
ナショナリズムの危険性に「私たちは言葉を発し続けるべき」
そして、アレクシェービッチさんは国家や民族を重視する「ナショナリズム」が世界に広がりつつあることに警鐘を鳴らした。
「私は、現在のような時代は特に、ナショナリズムの危険性があることを知っておくことが重要だと思います。ナショナリズムの危険はウクライナにもあります。だから、文化に携わる人たちはそのことを常に覚えておくべきであり、それ(ナショナリズム)に反対すべきです。それと同時に、オープンに語るべきです。憎しみは私たちを救いはしない、ということを知らなければなりません。私たちを救うのは愛であり、私たちは人間として生き、自分自身の中の“人間”を救わなければなりません。私たちそれぞれの国に、次のナショナリズムの侵入を許してはいけません」
――「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」とアドルノはいいました。いまではこのフレーズの新しいバージョンができてしまいました。つまり「ブチャ以後、文学に携わることができるのか?」というものです。この点についてどのようにお考えですか?
「私は、芸術や文学は、現在の出来事にあらゆる手段で抵抗すべきだと思います。私たちは人間を完全に矯正できるわけではありません。見ての通り、あまり変化はありません。しかし、もし私たちが人間と話をすることを完全にやめてしまったらどうなるでしょうか?芸術が、文学が、人間と対話することをやめてしまったら? 私たちは言葉を発し続けるべきです。私たちは人間を育てていくべきです。人間は時々、文化がするりと抜け落ちてしまったら、人間らしさを失ってしまうことがありますが、そこで諦めてはいけません。もう一度、取り組むべきです。もう一度、人間を育てていくのです。この先、私たちのこの時代を評価するときに、ブチャや、その他の恐ろしい場所だけを見て判断してほしくありません。私は、ウクライナを守りながら、私たちを守りながら毎日亡くなっていく若い男女の命が、歴史に残ってほしいと思います。私を含む、文学者たちは、絶望に囚われてしまってはいけません。時に、言葉は無力だと感じることもあります。私はその絶望に負けたくありません。自分の仕事を続けて、訴え続けていきたいと思っています」
●「バフムト包囲」ロシア軍が攻勢強化 全土に空爆も…プーチンの狙いは? 3/4
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がウクライナ東部の激戦地「バフムト」を実質的に包囲したと主張しました。ウクライナ全土にミサイル攻撃や空爆を繰り返すなど、ロシアが今、攻勢を強めるワケは…。
「ワグネル」の創設者が公開した映像には、建物の上で旗を振る兵士に、金管楽器やギターを演奏する兵士の姿も映っていました。撮影されたのは、戦況の焦点となっているウクライナ東部の要衝、バフムト。ロシア軍が東部の支配拡大に向けて攻勢を強めています。
「ワグネル」創設者「ワグネルは実質的にバフムトを取り囲んでいます。ウクライナに残された道は1本だけです」
これに対して、バフムトで戦うウクライナ兵は「我々はバフムトに立っている。現時点では誰も撤退するつもりはない。バフムトはウクライナだ」と主張しました。
一方、ザポリージャ州では、ロシア軍によるミサイル攻撃が行われました。5階建ての集合住宅にミサイルが直撃し2人が死亡、70人以上が手当てを受けているといいます。
住民「人々はがれきの下から悲鳴を上げていました。服は今着ているものしかありません。猫はまだ建物に残っていて、生きているかわかりません」
一瞬にして、住む場所を奪われた人々は、バスの中で過ごすことになりました。
ウクライナ軍によると2日、ロシア軍はウクライナ全土に24回の空爆と3回のミサイル攻撃を行ったということです。
侵攻開始から1年が過ぎた今、プーチン大統領が狙っているのは何か、専門家に聞きました。
ロシア政治に詳しい慶応義塾大学 廣瀬陽子教授「3月末から4月初めにかけて西側が供与した戦車を使って、ウクライナが攻撃してくるかもしれない。入手する前に打撃を与えておくことが必要。『これだけロシア軍は攻勢をみせているんだ』『あと一歩なんだ』とロシア側の戦意をあおるということもある」
「news zero」の3月の金曜パートナーになった、俳優でモデルの池田エライザさん(26)に聞きました。
日本テレビ・岩本乃蒼アナウンサー「侵攻から1年、どう見ていますか?」
池田エライザさん「侵攻が始まった当初は“明日はわが身”だと、時々、すごく胸がグッとなっていたんですけど、これが1年間続いていて、どこかこう普段の仕事を続けていく中で、(感覚が)マヒしてくる部分というか…慣れてきてしまうことに罪悪感を持っているというのが…いまだにどう考えるべきか、着地点が見つからないというのが率直な気持ちです」
岩本アナウンサー「多くの人が持っている思いだと思いますが、自身の周りではどうですか?」
池田エライザさん「私の周りには、ロシア人のモデルの友人がいます。その子は日本で育って生活しているんですけど、SNSなどに誹謗(ひぼう)中傷(のメッセージ)が送られてくるということにすごく悩んでいます。そういうのを見ると『どうしよう…』と思うんですけど、その都度その都度、『どうしたらいいんだろうな』と考えていくのが大事なのかなと思います」
●ワグネル「バフムトを包囲した」 ウクライナは徹底抗戦の構え  3/4
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア側は3日、東部ドネツク州にあるウクライナ側の拠点、バフムトを包囲したと強調し、ウクライナ側に撤退を促しました。これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は「いま、敵を撃退することが今後の防衛作戦を成功させるための条件だ」と述べ、徹底抗戦の構えを改めて示しました。
ロシア側は、ウクライナ東部ドネツク州の掌握に向けて、ウクライナ側の拠点、バフムトへの攻撃を強めていて、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏は3日、SNSで「ワグネルの部隊はバフムトを実質的に包囲した。残された道路は1つだけだ」と強調し、ウクライナのゼレンスキー大統領に部隊を撤退させるよう促しました。
これに対しゼレンスキー大統領は3日、公開した動画で「いま、敵を撃退することが今後数か月の防衛作戦を成功させるための条件だ。粘り強く勇敢に任務を遂行し、バフムトを守っている部隊の1人1人に感謝する」と強調し、徹底抗戦を続ける構えを改めて示しました。
また、ゼレンスキー大統領は3日、西部の都市リビウでアメリカやイギリス、それにEU=ヨーロッパ連合などの法務当局のトップやICC=国際刑事裁判所のカーン主任検察官らを招いた会合に出席し「すべての罪が法に基づいて裁かれることこそ真の正義だ」と述べ、ロシア軍による虐殺や人権侵害の責任を追及していく決意を示し、各国にいっそうの協力を求めました。
●ロシア大統領、政府の防衛契約履行を確実にする法令に署名 3/4
ロシアのプーチン大統領は3日、政府との防衛関連の契約を履行できなかった企業の幹部を停職処分にし、政府が任命する新たな外部管理者がこうした企業の運営を引き継ぐことを可能にする法令に署名した。
法令は、納期を保証する措置を取らないなど、政府との契約義務に違反した企業に適用される。
プーチン大統領は昨年10月、一方的に「併合」したウクライナ南部と東部の4州を対象に「戒厳令」を発令。ウクライナ全面侵攻開始から1年が経過した現時点でも、ロシア国内で戒厳令は発令されていないが、軍の需要を満たすために防衛関連企業が24時間体制で生産を続けるなど、プーチン氏は経済を事実上の戦時体制に置いている。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は記者会見で、ロシアの特定の地域で戒厳令が発令される可能性はあるかとの質問に対し、戒厳令の発令は大統領の特権だと述べるにとどめ、プーチン氏が発令を計画しているかについては明らかにしなかった。
●なぜロシア軍はこれほど弱いのか、中国人民解放軍が徹底分析 3/4
ロシア・ウクライナ戦争(=露宇戦争)が勃発してから1年が経過した。ロシアのウクライナ侵略直後、世界中の多くの専門家は「ロシアが短期間でウクライナを占領するだろう」と予想していた。
しかし、米国の統合参謀本部議長マーク・ミリー大将が「ロシア軍は、戦略的にも作戦的にも戦術的にも失敗している」と発言したように、ロシア軍はこの戦争で大苦戦し、多くの失敗を繰り返している状況だ。
世界中の軍事関係者は、露宇戦争から多くの教訓を引き出そうとしている。特に中国にとって、これらの教訓はより重要な意味を持つ。
なぜなら、中国は大規模な戦争の経験がなく、過去数十年間の急速な人民解放軍(=解放軍)近代化のためにロシアの兵器とドクトリンに大きく依存してきたからである。
そのロシアが始めた戦争の帰趨は、中国が目指す台湾統一のための軍事作戦と密接な関係があるからだ。
本稿においては、解放軍が露宇戦争、特にロシア軍をどのように分析し評価しているか、解放軍の機関紙である『解放軍報』を根拠に明らかにしたいと思う。
露宇戦争は長期戦の様相
ウラジーミル・プーチン大統領はロシア軍に対して、「ドンバス地方の2州(ドネツク州、ルハンシク州)の3月末までの完全占領」を命じている。
この命令を受けたロシア軍は、ドンバス2州においてほぼ全力で攻撃している。
しかし、多大の犠牲を伴ったロシア軍の攻撃は順調に実施されているとは言えない。
確かに最大の激戦地であるバフムト正面では、民間軍事会社ワグネルを中心としたロシア側の攻撃が徐々に進捗し、ウクライナ軍を包囲する態勢ができつつある。
一方、ロシア軍が重視しているドネツク州南西部の要衝ウフレダル(Vuhledar)では数千人の犠牲者を出して攻撃が頓挫している。
ルハンシク州のクレミンナやスバトベ正面でも大きな部隊が攻撃しているが、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭遇し、攻撃は進捗していない。
つまり、露宇戦争の現状は「膠着状態にある」と言わざるを得ない。
ロシア軍の人員・兵器の損耗は大きい
ロシア軍がこの戦争で被った人員と兵器の大量損耗は、今後の戦況に大きな影響を与えることになる。
英国防省によると、2月末の時点におけるロシア軍の死傷者は20万人で、死者数は6万人に上る可能性があるという。
この6万人という数字は、第2次世界大戦以降の戦争で死亡したロシア兵士の数よりも多い。
戦略国際問題研究所(CSIS)のリポートは次のように分析している。
「ウクライナ戦争でのロシア軍の死者数は6万から7万人だ。ロシア軍の毎月の死者数は、チェチェン戦争での死者数の少なくとも25倍、アフガニスタン戦争での死者数の35倍である」
ロシア軍の兵器の損耗であるが、オープンソースの情報を分析している組織「Oryx」の分析によると「ロシア軍はウクライナで毎月約150台の戦車を失い、2022年2月以降、合計1779台の戦車を失っている」という。
一方、エコノミスト誌によると、ソ連は1940年代、月に1000台の戦車を生産することができた。
現在、ロシアには戦車会社がウラルバゴンザボード(UralVagonZavod)1社しかなく、毎月20台前後の新型戦車を生産することができるが、1つの会社がウクライナ戦争における膨大な需要に追いつくのは困難である。
ウラルバゴンザボードはまた、毎月8両の古い戦車を改修しており、ロシアの他の3つの修理工場は毎月17両ほどを改修している。
ロシアは近い将来、新たに製造される毎月20両の戦車に加えて、毎月約90両の戦車を復活させることができる可能性はある。
しかし、ロシアはウクライナで毎月約150台の戦車を失っており、再生可能数は損失数には及ばないだろう。
つまり、経済制裁下における兵器生産の限界により、戦車以外の兵器においてもその損耗を穴埋めできない状況だ。
その結果、ミサイルや弾薬は不足し、戦車等の主要兵器が不足する状況である。
ロシアは、イランや北朝鮮から弾薬や兵器を入手する努力をしているが、それでは不足を賄えない状況だ。
そこで注目されるのが、中国からの弾薬や兵器の入手である。
もしも中国が武器や弾薬を大量にロシアに提供すると、露宇戦争に根本的な影響を与えることになる。
そのため、ジョー・バイデン政権は何が何でも中国の武器等の提供を阻止しようとして、その帰趨が注目される。
いずれにしても、中国がロシアの戦争遂行能力に大きな影響を与える可能性があり、中国がロシアの運命を左右する存在であることは確かだ。
ロシア軍にダメ出しする『解放軍報』
解放軍は、露宇戦争におけるロシア軍の動向に注視し、その教訓を将来の台湾統一作戦に生かそうとしている。
解放軍の『解放軍報』は2023年1月12日付の記事で、苦戦するロシア軍に対してダメ出しを行っている。
その記事は、露宇戦争におけるロシア軍の問題点を率直に指摘した興味深い内容であるので紹介する。
   ロシア核戦力の統合
・『解放軍報』の記述内容
通常戦力が立ち遅れるロシア軍にとって、核戦力は米国やNATO(北大西洋条約機構)との戦略的に対等な立場を維持するために不可欠な戦力になっている。
ロシア軍は、戦略核戦力の「3本柱」へのコミットメントを維持し、2022年に核兵器の近代化率を91.3%に高めた。
この年、最初の戦略爆撃機「Tu-160M」が航空宇宙軍に引き渡され、955A(ボレイ)型戦略原子力潜水艦「スヴォーロフ」が北方艦隊に編入され、大陸間弾道ミサイル(ICBM)サルマトが戦闘任務に就いた。
また、ロシアは核封じ込めを効果的に補完するものとして、極超音速兵器に代表される非核兵器の封じ込め戦力を拡充し、「核と通常戦力」による2重封じ込め戦略効果を狙ってきた。
また、核演習によって核戦力を誇示し、核戦力の運用能力の向上を図り、「第3次世界大戦は核戦争になる」と西側諸国に警告を発した。
一方、実戦では戦略爆撃機による巡航ミサイルの発射、極超音速ミサイル「キンジャール」の反復使用などで決意を示し、NATOの直接軍事介入を抑止した。
ロシアはNATOに対する効果的な戦略的抑止力を確保するために、主権と領土保全、国際戦略バランスの重要な保証として、戦略核戦力の「3本柱」を維持し続けるであろう。
・筆者の解説
プーチン大統領が戦争の終始を通じて多用しているのが「核のカード」である。ロシアは、通常兵力ではNATOに劣っており、NATOとの均衡を保つために核抑止力に依存している。
ロシアは、「核演習を行い、核戦力の戦闘態勢を高め、第3次世界大戦は核戦争になると警告する」ことで西側諸国のウクライナへの支援を抑止している。
つまり、プーチンの核の脅しにより、バイデン政権は「F-16」や「ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)」のウクライナへの供与を拒否している。
私はこの状況を「プーチンの核の脅しによる認知戦がバイデン政権に対して効果を発揮している状況だ」と表現している。
『解放軍報』の記事では、ロシアが通常弾頭の極超音速ミサイルを使用することで、「NATOの直接軍事介入を抑止した」と記述しているが、私はこの記述に反対する。
私は、ロシアの極超音速ミサイルの効果は限定的だったと思っている。やはり、非核ではなく核ミサイルの抑止効果の方が圧倒的に大きいのだ。
   陸上部隊を中核とした諸兵連合作戦の態勢構築
・『解放軍報』の記述内容
ロシア・ウクライナ戦争は、依然として陸上での勝敗が戦局のカギを握っていることをロシアに十分認識させた。
戦争開始当初、ロシア軍は作戦目的達成のため、大隊戦術群(BTG)を中核とした多領域連合作戦(多域联合作战)を行おうとした。
しかし、NATOの作戦支援に力を得たウクライナ軍を前に、諸兵連合作戦能力の不足、戦争継続能力の不備など、BTGの弱点が次々と露呈された。
また、ロシア軍の諸兵連合作戦能力は限定的であり、ロシア軍は効率的な諸兵連合作戦を行うことができない状況だ。
報道によると、陸上戦場における戦闘指揮関係を合理化するため、ロシア軍は陸軍を中核とする連合戦力システムを再構築し、戦術作戦レベルで部隊の高度な指揮統一を実現しようとしている。
そして、ロシア軍伝統の大軍団作戦の優位性を最大限に発揮して戦場における主導権を獲得しようとしている。
そのための第1の方策は、旅団の師団化プロセスの推進である。
旅団には柔軟性はあるが、規模が小さ過ぎて戦力に限界があり、長期にわたる高強度の消耗戦に効果的に対処することができない。
ロシア軍は師団を復活させる方針で、7個歩兵旅団を歩兵師団に拡大し、新たに3個歩兵師団を編成するほか、空挺部隊も2個空挺突撃師団の編成を増やす、さらに既存の海軍歩兵旅団をベースに5個海兵師団を編成する予定だ。
第2の方策は、各集団軍に航空・宇宙軍を割り当てて作戦を行うことである。
露宇戦争において、ロシアの航空宇宙軍の出撃回数は少なすぎ、精密打撃の効果がなく、陸軍との連携も限定的であった。
この点で、ロシアは各集団軍に混成航空師団と陸上航空旅団を1個ずつ配置し、空地での統合作戦を確保する方針である。
第3の方策は、西方戦略方面への兵力配置の最適化である。
フィンランドやスウェーデンのNATO加盟後に出現する脅威に対処するため、ロシア軍はモスクワとレニングラードの2つの軍管区を新設する計画で、西部軍管区はウクライナ方面の脅威への対処に特化する可能性がある。
・筆者の解説
ゲラシモフ参謀総長が鳴り物入りで導入した大隊戦術群(BTG)は現在、解体されている。
記事で書かれているように、諸兵連合作戦能力の不足、戦争継続能力の不備など、BTGの弱点が次々と露呈され、BTGは解体されている。
バフムトなどの激戦地では、BTGに代わる小規模な突撃部隊を多数編成して、人海戦術による波状攻撃を行っている。
『解放軍報』は、ロシアが諸兵連合作戦の問題解決に苦戦していることを認め、「ロシア軍は諸兵連合戦の効果的な実行ができていない」と述べている。
西側のアナリストは、戦場におけるロシアの航空戦力の不在を推測している。この点がロシア軍の最大の問題点である。
『解放軍報』は、ロシア空軍は「出撃回数が少なすぎる」と批判し、「精密攻撃の効果が不十分で、陸軍との連携も限定的だった」としている。
   情報化作戦能力の欠如
・『解放軍報』の記述内容
ロシア軍の情報化作戦能力の不足により、特別軍事作戦においては従来の機械化戦争の戦法が継続されている。
ロシア軍は戦略・戦術を積極的に調整し、作戦のスピードアップ化を図り、情報化作戦能力の向上に力を注ぐべきだ。
第1は、指揮・通信システムにおける情報レベルの向上である。
ロシア軍は指揮自動化システムの適用範囲を拡大し、大隊以下の戦闘部隊に指揮自動化システム端末と新世代デジタル無線を優先的に装備すべきだ。
人工知能の技術を積極的に導入し、戦闘システムの有効性を向上させるべきだ。
第2は、戦場状況認識能力を向上すべきだ。
主に分隊や小隊の戦闘部隊に無人機を装備し、戦場の偵察ネットワークを統合し、秘匿された通信チャンネルを通じてリアルタイムで情報を伝達し、「偵察と打撃」間のループの有効性を大幅に向上させるべきだ。
第3は、ドローンなどの知的戦闘装備の開発を加速し、戦略ドローン、監視ドローン、徘徊型自爆ドローンの開発を中心に進め、特に精密誘導砲弾の生産を拡大することである。
また、ロシア軍の初期作戦や動員過程の後方支援に生じた問題や矛盾を受け、ロシアは軍事産業化委員会の役割を重視し、特別軍事作戦の材料や技術的なニーズに焦点を合わせている。
高度な医療キットや防弾チョッキなどの装備を部隊に提供している。
同時に、「外注」の後方警備のシステムをさらに最適化し、軍独自の「随伴」装備の整備と警備能力を向上させ、各レベルの修理部隊を復活させ、警備能力を戦場のニーズに合わせるとしている。
・筆者の解説
解放軍では、作戦の発展段階を「機械化→情報化→智能化」と表現している。
情報化作戦の典型は米軍の湾岸戦争やイラク戦争における作戦であり、ICT(情報通信技術)の進歩に伴い可能になった先進的な作戦である。
情報化戦争を可能にするのが指揮・統制・戦闘システムの開発と配備である。
この解放軍の分析でも、「ロシア軍の情報化戦闘能力は不十分である」と評価している。
ロシアは情報化戦を効果的に実行できないので、この理解によれば、「機械化戦の伝統的な戦術に頼らざるを得なかった」ということになる。
1990年代から2000年代にかけてバルカン半島や中東に展開した米軍の研究から、中国共産党は、将来の戦闘は情報を核として行われ、「非接触戦争」に大きく依存するだろうと考えるようになった。
これは紛争地域周辺から行う長距離精密打撃を意味する。ロシアが長距離精密打撃により、どの程度ウクライナでの作戦に成功したのか、解放軍は疑問視している。
情報化戦におけるロシアの現在の不備に対処するため、中国側は3つの分野に優先的に取り組むべきだと分析している。
それは、大隊以下の戦闘部隊への指揮自動化システム端末の装備を優先して、指揮自動化システムの利用拡大をすること。そして無人機の導入拡大である。
無人航空機(UAV)は分隊や小隊レベルで使用し、戦場の状況把握やリアルタイム情報の伝達により「偵察と打撃ループ(侦察-打击回路)」を改善する。
つまり、リアルタイムの目標情報に基づき、迅速な火力打撃により目標の迅速な撃破を実現するということだ。
ロシア陸軍は、ISR(情報・監視・偵察)のプラットフォームを使用し、最下層の部隊や指揮官に権限を与え、目標捕捉、偵察、攻撃を迅速化することの価値を認識するに至った。
解放軍は、米国の無人偵察機と攻撃用ドローンの導入についてはすでに研究しており、中国の巨大な国内ドローン産業とともに、中国軍のあらゆるレベル、各兵科における高レベルのドローン使用を加速させるものと思われる。
結論として、解放軍はロシア軍の作戦を情報化作戦に至らない古い機械化作戦レベルであると批判しているのだ。
結言
中国共産党は将来的な台湾統一を睨んで、露宇戦争の動向をよく観察している。『解放軍報』の分析記事は、露宇戦争におけるロシア軍の軍事的失敗を率直に認めている。
つまり、ロシア軍は、解放軍にダメ出しされているのだ。
露宇戦争においては、表面上はロシアに有利に見える烈度の高い戦争も、エスカレートするリスクを伴う長い消耗戦に陥りやすい可能性が非常に高い。
中国の指導者たちが、これを単に克服すべき一連の軍事技術上の問題と見ているのか、それともそもそも戦争は避けるべきだという警告なのか、いずれの結論に達するかが注目される。
いずれにしても、露宇戦争で明らかになった問題点を改善するために、北京の政治家や戦略家が日夜努力していることが、中国語の文献から読み取れるのである。
●「戦争止めようとしている」 ロシア外相 3/4
20カ国・地域(G20)外相会合に合わせてインドを訪問中のロシアのラブロフ外相は3日、首都ニューデリーで国際会議に出席した。パネルディスカッションで、ロシアのウクライナ侵攻について「われわれは(戦争を)止めようとしている」と述べると、会場から失笑が漏れた。
●米司法長官がウクライナ訪問=ロシアの戦争犯罪追及  3/4
米司法省は3日、ガーランド長官がウクライナ西部のリビウを訪問したと発表した。同国検事総長の招請を受け、ロシアによる戦争犯罪を追及する国際会議に出席。開会式で「残虐行為の加害者が逃げ切ることはできない」と述べ、ロシアに責任を負わせると誓った。
ガーランド氏は、ゼレンスキー大統領や各国の司法当局幹部らとも会談した。ロシアのウクライナ侵攻後、ガーランド氏がウクライナ入りするのは昨年6月以来2度目。米司法省は、証拠収集など刑事手続き面でウクライナ当局を支援しているほか、対ロ制裁逃れを手助けする者の訴追にも取り組んでいる。
●米司法長官がウクライナ訪問 戦争犯罪でロシア追及強調  3/4
ガーランド米司法長官は3日、ウクライナ西部リビウを訪れ、ロシアによる戦争犯罪の疑惑を話し合う国際会議に出席した。米国からは2月20日のバイデン大統領、同月27日のイエレン財務長官に続くウクライナ訪問。連帯をアピールし、ロシアの責任を追及する姿勢を強調した。
ガーランド氏は昨年6月にもウクライナ入りし、ロシアによる民間人への攻撃や捕虜の虐待といった戦争犯罪の証拠収集などでウクライナを支援する考えを示している。
ウクライナ検察は戦争犯罪の疑いがある約7万件を確認したとし、国際刑事裁判所も捜査を進めている。
●米独首脳が会談、ウクライナ戦争や中国懸念など協議 3/4
バイデン米大統領は訪米しているショルツ独首相と3日、ホワイトハウスで会談し、ロシアによるウクライナ侵攻のほか、中国を巡る共通の懸念などについて協議した。
バイデン大統領はホワイトハウスの大統領執務室でショルツ首相の隣に座り、「力強く安定したリーダーシップ」のほか、ウクライナ支援に謝意を表明。ショルツ氏は「必要な限り」支援を続けるとのメッセージを送ることが重要だと述べた。
バイデン氏はまた、ドイツの国防費増額の決定のほか、ロシア産エネルギー依存からの脱却への対応を歓迎するとし、米独は他の同盟国と共にウクライナ支援で一致団結してきたと指摘。「われわれは北大西洋条約機構(NATO)をより強固なものにしている」と述べた。
両首脳は大統領執務室での1対1の対談を含め、約1時間会談したもよう。米政府は会談に先立ち、ウクライナに対する4億ドル規模の新たな軍事支援を発表した。
ホワイトハウスによると、バイデン大統領は会談でドイツとの「堅固な二国間関係を再確認」し、ウクライナ侵攻を巡りロシアに代償を課すというコミットメントを再表明した。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は記者団に対し、今回の米独首脳会談はウクライナを巡る協調について話し合う機会だと指摘。中国によるロシアへの兵器提供について、米国もドイツも証拠を得たとはしていないが、米政府当局者は状況を注意深く監視しているとしている。
ジャンピエール報道官は「殺傷力のある軍事支援に関連して中国が行動を起こすのをわれわれはまだ確認していない」としながらも、「中国がロシアに向かって一歩踏み出すたびに、中国にとって欧州を含む世界各国との関係が難しくなる」と述べた。
中国を巡る懸念について、欧州連合(EU)当局者はこの日、中国がロシアに武器を提供することは絶対的な「レッドライン(越えてはならない一線)」で、実際に武器が提供されればEUは制裁措置で対応すると表明した。
ドイツは最大の貿易相手国である中国に対し米国ほど厳しい姿勢を取らないことが多いが、ショルツ首相は2日、中国に対しロシアにいかなる武器も提供しないよう呼びかけると同時に、ウクライナから撤退するよう圧力を掛けるよう要請している。
●アメリカ、ウクライナに砲弾などの追加軍事支援発表 在庫不足が懸念される中 3/4
アメリカは3日、ウクライナに4億ドル(約540億円)規模の追加軍事支援を行うと発表した。ロシアとの激しい戦闘で激減しているとされる砲弾・弾薬を補うのが狙い。
アントニー・ブリンケン米国務長官は追加支援について、「ウクライナが非常に効果的に使用している」高精度の米製高機動ロケット砲システム「ハイマース」のロケット砲や、榴弾砲が含まれると説明した。
「この軍事支援パッケージには、ウクライナが自国を守るために非常に効果的に使用しているアメリカ提供の『ハイマース』や、榴弾砲のための追加の弾薬も含まれる」と、ブリンケン氏は3日の声明で述べた。
さらに、「ブラッドリー歩兵戦闘車用の弾薬や架橋戦車、解体用弾薬や装備、そのほかの保守・訓練支援など」も提供する予定だと付け加えた。
「ハイマース」は昨年末のウクライナ軍の電撃的反撃作戦において、非常に有効であることが証明された。この作戦ではハルキウ州のほぼ全域がウクライナ側の支配下に戻った。
こうしたウクライナ軍の前進や、南部の街ヘルソンの解放は、ロシア軍が昨年4月に首都キーウ周辺から撤退して以降で最も大きな前線の変化だった。
ブリンケン氏は声明で、ウクライナの主権と領土一体性を守るため、「アメリカも、ウクライナ支援に向けて世界への働きかけを続ける」と強調した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は先に、「ロシアを止める」には大砲や砲弾が必要だと強調していた。
アメリカは今後予想されるウクライナ側の攻撃に備えて、戦術的な橋を架ける移動式の装備なども提供する。
ウクライナの軍関係者や専門家の多くが、今後数週間のうちに作戦が開始される可能性を示唆している。
弾薬が「危険なまでに不足」か
ロシアがウクライナへの全面的な侵攻を開始してから1年が過ぎ、ウクライナ側の大砲の在庫が危険なまでに不足している可能性があると、米メディアは報じていた。
ウクライナとロシアはこの数カ月、激しい消耗戦を繰り広げており、毎日数万発の大砲を発射しているとみられる。
ウクライナ軍は、弾薬不足の報道について公にコメントしていない。
ただ、ゼレンスキー大統領は2日に、「我々が1番必要としているのは大砲だ」、ロシア軍をウクライナ領内から「追放」するために、ウクライナ政府は「大量の砲弾」と戦闘機も必要としていると述べている。
3日にワシントンで行われた、ジョー・バイデン米大統領とオラフ・ショルツ独首相の会談では、ウクライナへの軍事支援が議題の大半を占めると予想された。
バイデン氏はショルツ氏に対し、ウクライナに「多大な」支援を行っていることへの感謝を伝えた。
ショルツ氏は、「必要な期間、必要な限り」支援を継続していくと強調することが重要だと述べた。
ウクライナの西側の同盟国の多くは、戦車や大砲の供与を約束している。しかしウクライナ側は、ロシアの進軍を阻止するには、より迅速に兵器を供与する必要があるとしている。
東部前線の状況は
こうした中、ロシア政府は3日、数カ月にわたるウクライナ東部バフムートへの攻撃を継続し、ロシアの雇い兵が同市を「実質的に包囲した」と主張した。
ウクライナ軍の最新の報告によると、同軍はバフムートを包囲しようと努力を続けているが、過去24時間に「多数の攻撃が撃退された」という。
昨年9月にロシアの支配から解放された東部ハルキウ州のクピャンスクでは2日、一部地域に避難指示が出された。
地元当局は、ロシア軍による「絶え間ない」砲撃が続いているため、子どものいる家庭や「移動に制約がある人」は街を離れるべきだと述べた。 
●ロシア新興財閥などの没収資産、侵攻後に5億ドル 米司法省 3/4
米司法省は4日までに、ロシアのウクライナ侵攻が始まって以降、ロシア政府を支持し米国による制裁を回避していた同国の新興財閥(オリガルヒ)などから没収した資産は5億ドル以上に達すると報告した。
先月24日時点で公表した数字で、資産には豪華ヨットや不動産などが含まれる。これらの差し押さえ作業に携わった同省の専従班は連邦検事や捜査員らから成り、ロシアのプーチン大統領に近いオリガルヒやロシア大統領府内の側近グループの資産などに狙いを絞っていた。
同省のデータによると、これまで没収した豪華な大型ヨットは2隻、航空機は4機とし、オリガルヒから取り上げた不動産は10物件。
制裁対象となっていたロシア大統領府や同国軍の関係者に対する訴追件数は30件余に上った。一部では逮捕もあったが、被告の多くがロシア居住のため拘束や身柄送還は望めない状況になっている。
米司法省はこれら捜査作業の一環として最近、制裁対象のオリガルヒであるビクトル・ベクセリベルク氏が所有する7500万米ドル相当の不動産の没収を求める民事訴訟を起こしてもいた。
ベクセリベルク氏に近い関係者はニューヨーク・マンハッタンや米フロリダ州などで同氏による数百万ドル規模の不動産購入を幇助(ほうじょ)した疑いがあり、制裁違反やマネーロンダリング(資金洗浄)の容疑で先月訴追されていた。
ベクセリベルク氏については米司法省が先に、9000万ドル相当と評価される豪華ヨットを押収してもいた。
●ロシアの資金、来年に底つく可能性 新興財閥が指摘 3/4
ロシアは早ければ2024年にも資金が底をつく可能性があり、外国からの投資を必要としている。歯に衣(きぬ)着せぬ発言で知られる同国のオリガルヒ(新興財閥)、オレグ・デリパスカ氏がそのような見解を示した。
2日にシベリアで開かれた経済会議で述べた。ロシア国営メディアのタス通信が報じた。
デリパスカ氏は昨年、ロシアによるウクライナでの戦争の終結を紛争初期の時点で求めていた。同氏の発言とは対照的に、ロシアのプーチン大統領は先週、同国経済の先行きを上向きに評価。経済的な強靭(きょうじん)性に触れ、西側諸国が過去1年間に科した前例のない制裁にも耐えてきたと称賛していた。
ロシア政府の初期段階の推計によれば、同国の国内総生産(GDP)は2.1%縮小。エコノミストの多くが事前に予測した水準よりも限定的な落ち込みにとどまった。
それでも今月に入り石油生産を縮小するなど、危険な兆候は表れている。西側が今後一段の制裁強化に動く可能性もあり、ロシア経済の見通しはウクライナでの戦況に左右される。
外国の投資家、とりわけ「友好」国の投資家らも大きな役割を果たすとデリパスカ氏は指摘。同氏によると彼らが出資するかどうかはロシアが適正な状況を作り出し、国内市場を魅力的なものにできるかどうかにかかっているという。
侵攻に充てるロシアの資金を枯渇させるため、西側諸国は昨年2月以降1万1300件を超える制裁を発表。ロシアの外貨準備3000億ドル(現在のレートで約40兆円)余りを凍結した。
中国がロシア産エネルギー購入などで経済的支援を提供している側面はあるものの、ロシア政府の今年1月の収入は前年同月比で35%減少した。一方で支出は59%増加しており、財政赤字は約1兆7610億ルーブル(約3兆円)となっている。
ソ連崩壊後の混乱の中、アルミ事業で財産を築いたデリパスカ氏の現在の純資産は、米誌フォーブスの推計で30億ドル弱。
●ロシア側「バフムトをほぼ包囲」 ショイグ国防相がドネツク州視察 3/4
ロシアによる侵攻が続くウクライナで、東部ドネツク州の要衝バフムトを巡る攻防が重大局面を迎えつつある。ロシア側は3日、バフムトをほぼ「包囲した」と主張。ウクライナ軍は激しい抵抗を続けているが、市内の一部地域では撤退準備を進めているとの観測もある。
バフムトは侵攻前の人口が約7万人で、州内の主要都市へ続く幹線道路が交差するため、戦略的に重要な拠点とされる。ロイター通信などによると、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創始者プリゴジン氏は3日、バフムト近郊で撮影したとみられる動画をソーシャルメディアに投稿し、「ワグネルの部隊がバフムトを実質的に包囲した。残されたルートは一つだけだ」と強調。ウクライナ軍に撤退を呼びかけた。また、ロシア国防省は4日、ショイグ国防相がドネツク州南部を訪れ、前線を視察したと発表した。戦闘に従事する兵士の士気を鼓舞する狙いがあるとみられる。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は3日公開した動画で「いま敵を撃退することが今後数カ月の防衛作戦のためには必須だ」と語り、前線の兵士を激励。ウクライナ軍幹部は地元メディアに「バフムトにいる軍の任務は可能な限り多くの敵を倒すことだ」と述べ、徹底抗戦を続ける姿勢を示した。
ただ、ウクライナ軍は戦況悪化に伴い、戦略的な撤退を行うとの見方もある。米シンクタンク「戦争研究所」は3日、ウクライナ軍がバフムト北東部と西部でそれぞれ橋を破壊したことを確認したと発表。ロシア軍の進軍を阻む目的があるとみられ、ウクライナ軍がバフムト市内の一部地域から撤退する準備を整えている可能性があると分析した。ロイターによると、ウクライナ軍の無人機部隊の司令官はソーシャルメディアで、バフムトから即時撤退するよう命令を受けたと明らかにしたという。

 

●他人事ではない…権威的リーダーが恐怖するクーデターと軍隊の効率低下 3/5
西側諸国のウクライナ支援継続にもかかわらず、長期戦の構えを崩さないプーチン大統領。しかし、戦時における強権的リーダーの弱点は「クーデター」への懸念にある、という。独裁者と軍隊とはどのような関係にあるのか。近刊『プーチンの失敗と民主主義国の強さ』を著したエコノミストの原田泰氏が、イラクのサダム・フセインや独ソ戦前のスターリン、現代のプーチンを例に権威主義国の「弱み」を分析する。
権威主義国家は好戦的だが本当に強いのは民主主義国
ロシアもそうだが、中国や北朝鮮の軍事的な態度を見ると、たしかに、非民主主義の権威主義の国々が好戦的な傾向がある。そして、自らが好戦的で戦争を仕掛けようとするのであれば、当然そういう国の方が戦争に強いようにも思われる。実際、戦争は仕掛けた側の方が勝ちやすい。しかし多くの研究では、こうした権威主義国家ではなく、民主主義国家の方が実際には戦争に強い、という主張がなされてきた。
ウクライナ侵攻後も、バージニア大学のアラン・スタム教授とエモリー大学のダン・レイター教授が「ワシントン・ポスト」に寄稿した「なぜ民主主義国は専制国家よりも戦争に勝つのか」で「【ロシアの苦戦という】ウクライナで起こっていることは、外れ値ではなく、広範なパターンの一部である。戦争は、民主主義が専制政治を秘駕する多くの分野のうちの1つである」と主張し、自身の研究を含むデータを用いた研究に基づいて民主主義国の戦争の強さを改めて論じている。
彼らが民主主義国の強さとして挙げているのは、主に3点である。
第1は、権威主義国家は、民主主義国と比較してリスキーな職争を起こすという点である。第2は、権威主義リーダーは国内的に転覆される恐れがあり、この恐怖にリソースを割く必要がある点である。第3は、権威主義リーダーが周りにイエスマンを抱えて判断を誤る点である。
勝利の可能性、戦争の正当性を考えない
第1は、権威主義国家はリスキーな戦争を始めやすいということである。民主主義国では勝利の可能性、戦争の正当性について十分に考えるが、権威主義国は考えないということである。結果として、負ける戦争に踏み込んでしまう。民主主義国で、自ら戦争を始めて負ければ権力を失う。しかし独数者は、反対派を弾圧し、戦いがうまく行かなくても権力を維持できることを知っているため、リスクの高い戦争を開始するという。
イラクの独裁者、サダム・フセインはイランとクウェートへの2つの悲惨な侵略を開始し、イランとは得るものもなく終わり、クウェートを支援する多国籍軍には敗北した。しかしそれでも、反乱を鎮圧し、権力を維持できた。民主主義の国では、必要のない戦争をしてないことが、民主主義が戦争に勝つ傾向がある理由の1つである。
権力を維持できるとは考えられないので、戦争に慎重になる。つまり、戦争を一か八かでしないことが、民主主義が戦争に勝つ傾向がある理由の1つである。
クーデターの恐怖と軍隊の効率低下
民主主義国家の強さの要因の第2は、リーダーと自国の軍隊との有利な関係である。民主主義国は、一般に選挙を通じた政権交代が起こり、権威主義国でしばしば見られるように、クーデターによって政権が転援される可能性は低い。そのため、権威主義のリーダーにとっての軍は、国内外の安全保障や治安維持に必要であるとともに、場合によっては、自身に対して攻撃を仕掛けてくる存在である。
そのため権威主義のリーダーは、クーデターの発生を恐れて軍隊の権力を分散させ、互いに監視させるなどのクーデター対策を取る必要性が生じる。
ところが、このような対策を取れば、当然に軍隊の効率は低下する。これが、権威主義国が戦争で弱くなる一つの理由である。
このことの典型的な例は、ドイツに侵略される直前のソ連に見られる。民主主義ではなく、独裁国同士の戦争であるが、1941年6月2日、ナチス・ドイツがソ達に侵攻したとき、ソ連軍は緒戦においてあまりにも脆弱であった。ナチス・ドイツ軍330万人がバルト海から黒海までの3000kmの戦線で一斉に攻撃にかかった結果、開戦わずか1週間でソ連領内400kmの地域に突入されていた(大木毅『独ソ戦』30-36頁)。モスクワまで後700kmである。
将軍や将校を粛清しすぎたスターリン
ソ連軍がこのように弱体だったのは、クーデターを恐れるスターリンが、ソ連軍の将軍や将校を粛清しすぎたからであり、また、度重なる警告にもかかわらずソ連軍に警戒態勢を取らせなかったからであるとされている。1937年から38年にわたって3万4301名の将校が逮捕、もしくは追放された。そのうち2万2705名は、銃殺されるか、行方不明になっている。
また、高級将校ほど粛清の犠牲者が多くなっており、軍の最高幹部101名中91名が逮捕され、うち80名が銃殺された。軍の最高階級であったソ連邦元帥も当時5名いたうち3名が銃殺された。指揮を執る人間がいなければ、軍隊は当然に弱まるものだろう。
さらにスターリンは、自ら命じた粛清によって、おのれの軍隊が弱体化してしまったことを承知し、フランスを降したドイツ軍にソ連軍が太刀打ちできないことを認識していたという。
そこでスターリンは、ドイツの侵攻はないものと思いたがった。スターリンは、1941年の初夏にドイツがソ連に侵政するというソ連スパイ網からの警告を無視した。その中には、日本にいたスパイのゾルゲからの電報も含まれていた(大木毅『独ソ戦』2-8頁)。そもそも、330万人もの職車や大砲で武装された軍隊が、何の予兆もなしに侵攻できるはずはない。
ところがスターリンは、緒戦に敗れたのはソ連の将軍が敵に通じていたためだという話をでっち上げて、ドミトリー・パヴロフ上級大将他の将校を解任、人民の敵として処刑した(大木毅『独ソ戦』43-44頁)。
ドイツのソ連侵攻の正確な場所と時間の情報を送ったゾルケは日本が処刑したが、スターリンはゾルゲの妻までも殺した(NHK取材班、下斗米伸夫『国際スパイ ゾルゲの真実』22-254頁、角川文庫、1995年)。私の理解では、スターリンのいかなる過ちも隠蔽するために行ったことなのだろう。
プーチンもロシアの将軍たちを盛んに解任しているが、さすがに銃殺するには至っていない。プーチン体制はスターリン体制よりも文明的になっているようだ。
敵はモスクワにあり―クーデターの方が楽ではないか
私は、ロシア軍はウクライナ軍に勝利するより、クーデターを起こした方が楽ではないかと思う。前線に軍隊が動員され、独蔵者の親衛部隊が弱まったときがチャンスである。
足利尊氏(高氏)は、後醍醐天皇側の反乱を鎮圧するための大軍を任されたにもかかわらず、京都の幕府出先機関である六波羅探題を攻撃した。関東の新田義貞は、鎌倉の軍勢が京都に行き、北条氏の防御が弱まっているときを狙って北条一族を滅ぼした。明智光秀も毛利攻め支援のための大軍を預けられ、信長の警護が弱体のときに謀反を起こした。
ロシアは軍をウクライナに動員し、モスクワの防衛が弱まっている。ナチス・ドイツと戦っているなら、後ろから攻められるから反転できないが、ウクライナ軍は、国境周辺の軍事施設などは攻撃するだろうが、本来のロシア領土までは攻めてこない。プーチンがモスクワに持っているのは警護や情報機関の兵士だから、本来の軍の敵ではない。
プーチン一派を解任して財産を乗っ取り、それを将軍と将校と兵士で分けるだけである。
その財産は十数兆円のレベルである。数百兆円とも言われるウクライナ復興費用や戦争の賠償には到底足りないが、ロシアから賠償を取れると思っている西側諸国はないだろう。自由な民主主義の国にならなくても、ウクライナ戦争を止めるだけで西側諸国は大歓迎だ。反体制派の一部を釈放して、プーチン一派の贅沢な暮らしぶりを自由に報道させれば、クーデタ―は国民にも受け入れられる。しばらくは、権力を維持できる。
いまこそ「敵はモスクワにあり」と宣言するときではないか。戦争を続けたいという連中は弾圧するか、ウクライナの最前線に送ればよい。プーチン体制にはクーデターをさせないシステムがあるのだろうが、そのシステムを解除できない無能な将軍ばかりなのだろう。だから、ウクライナ軍にも勝利できないのではないか。
●ロシアを「北朝鮮化」するプーチン 3/5
昨年11月、英国紙「タイムズ」が、「ロシアの北朝鮮化」という表現を持ち出した。ウクライナ侵攻の長期化で危機に直面したプーチン政権が、権力の維持のため北朝鮮式の思想統制や宣伝・扇動活動に没頭しているという。ロシアは過去1年で、政権に批判的なメディアを全て廃刊した。軍や戦争に対する否定的な言及は「虚偽情報の流布」とし、最高で15年の刑に処している。政府と政権与党は「米国や西側の目的はロシアの破壊」だとし、ウクライナ侵攻は「祖国と民族を救うためのもの」と主張している。
これは氷山の一角にすぎない。ロシアは実にさまざまな面で、北朝鮮と似た存在になりつつある。最近では、国際的孤立の側面でも北朝鮮を肩を並べるようになった。国際行事から、プーチン大統領とロシア政府関係者の姿が消えて久しい。ロシア経済全体が国際金融・貿易システムから排除され、代表的な輸出品である原油と天然ガスの販売は半分に減った。各種の鉱物や鉄鋼、アルミニウムなど原資材の輸出ルートも断たれた。2月24日の追加制裁で、第三国を経由した各種戦略物資の迂回(うかい)輸入も不可能になる見込みだ。
何かあれば「核の脅し」に出るところも、お互い似ている。ロシアは戦況の悪化や西側のウクライナ支援拡大発表があると、決まって核使用の可能性に言及する。2月27日には「ロシア抜きの世界など必要ない」とし「世界の半分、あるいはそれ以上ががれきの下へと葬り去られることもあり得る」という極端な表現まで使った。北朝鮮も、内部の動揺や韓米同盟強化の兆しが見えると、核あるいはミサイルの誇示に乗り出す。彼らは、核兵器の使用が「自殺行為」であることをよく分かっているが、他に手がない。「自分一人だけで死にはしない」という無頼漢式の脅迫のほかに、残されたカードはないのだ。
最も深刻な問題は別にある。ロシアの中国依存度が北朝鮮に劣らず高まったことだ。販路をふさがれたロシア産エネルギーの相当部分が、中国に向かっている。ロシア政府の財政の半分はエネルギー販売の収益だという点から見れば、中国がロシアの線費を負担していると言っても過言ではない。西側の原材料や生活必需品、民需用品が抜けた穴も、やはり全て中国が埋めてやっている。サムスン電子や現代自動車が去った電子・自動車売り場を、軒並み中国産が占領したという。
ロシアは、2月22日にモスクワを訪問した中国共産党の王毅中央政治局委員を、まるで勅使のように極めて丁重にもてなした。プーチン大統領以下、高位の指導者が次々と王毅氏と会談し、中国に対する賛辞を並べた。北朝鮮と同じように、中国からの支援なしには数日と持たない、ロシアの内部事情がそのままあらわになっていた。戦争が長引くほど、ロシアの中国従属は一段と深まるだろう。習近平主席は今や、武器・経済支援を通して金正恩(キム・ジョンウン)政権だけでなくプーチン大統領の命運すら左右できるようになった。これこそが「ロシアの北朝鮮化」の意味する真の危険の実体だ。
●ウクライナ侵略、文化人の出国相次ぐロシアを日本の「反面教師」に… 3/5
ロシアによるウクライナ侵略が2年目に入った。著名なロシア文学者である東京外国語大学の沼野恭子教授は、この戦争をどう見ているのか。侵略の思想的・歴史的背景、ロシア文化への影響、そして日本がこの戦争からくみ取るべき点とは。
ロシア語話者のいるところはロシア
――日本の一般市民から見ると、「そもそもロシアがなぜ、ウクライナに侵略したのか」という基本的な疑問がある。
「ロシアをウクライナ侵略へと突き動かした原動力の一つに、『文化』がある。『文化』と言っても、ロシア国内の極右、愛国的なイデオロギーだ。戦争を起こす理由には政治、軍事、資源などがあるが、今回の戦争の根底にはイデオロギーが色濃くある。つまり、『文化』が後押しした形態の戦争と言える。ロシアのウルトラ・ナショナリスト、極右思想家のアレクサンドル・ドゥギンという人物が提唱しているイデオロギー『ユーラシア主義(ネオ・ユーラシア主義)』に、プーチン大統領は大きな影響を受けたと言われている。ドゥギン氏はプーチン氏を強力に支持しており、プーチン氏の“頭脳”とも、“右腕”とも呼ばれている。この『ユーラシア主義』は『ロシア世界』とも密接に関係しているのだが、これは『ロシア語を話し、ロシア正教を信じる人々が住んでいるところはすべてロシア』という極端な拡大主義だ。この考えに基づけば、『(ロシア語話者がいる)ウクライナも当然、ロシアになるべきだ』ということになる。プーチン氏は侵略開始時の演説で、大義名分として、『ウクライナ東部ドンバス地方で虐待されているロシア語話者を助けるため』と語っており、これはまさに『ロシア世界』の考えに直結している」
――歴史的な側面は?
「ロシアという国のスタートは、9世紀頃にできたキエフ大公国にさかのぼる。自分たちの国・ロシア誕生の地が、『外国』のウクライナにあるというのは、極右愛国主義の人々には許せないことなのだろう。また、ソ連崩壊時には、ソ連に所属していた14の共和国が独立し、ロシアが小さくなってしまった経緯がある。プーチン氏にはウクライナを併合することで、『大きなロシア』を復活させたいという帝国主義的な野望もあると思う」
成功体験重ね、「独裁力」高めたプーチン氏
――プーチン氏がウクライナ侵略に踏み切ることができた背景には、ロシア国内の政治状況も関係しているのではないか。
「プーチン氏の『独裁力』が高まっている。2000年に政権に就いてから、数々の成功体験を重ね、独裁支配を盤石にしている。特に大きな成功体験は、14年にウクライナ南部クリミア半島をあっという間に軍事力で併合できたことだ。また、11年12月の下院選直後、不正疑惑が出て、翌12年3月の大統領選まで、大勢の市民が街頭デモで『プーチンのないロシアを』などのスローガンを掲げて戦ったにもかかわらず、力でねじ伏せることができたことも大きい」
――そんなプーチン氏を普通のロシア人は支持しているのか。
「独立系の世論調査機関『レバダ・センター』でも、70〜80パーセントの人が支持するとの結果が出ているが、どれぐらい実態を反映しているかは分からない。一般市民にとっては、ソ連崩壊後の1990年代の政治的混乱や経済的苦境で悪夢のような日々を過ごしたが、2000年代に入り、プーチン氏が政権に就いた後、石油や天然ガス資源の力で経済的に安定し、新興5か国(BRICS)の一角にもなった。庶民には『ロシアが経済的に繁栄した』ように、生活実感としては見えたことから、プーチン氏を支持している人が多いと思う」
「大祖国戦争」の記憶に働きかけ、恐怖あおる
「プーチン氏は明らかに今回のウクライナ侵略と第2次世界大戦、ロシアで言う『大祖国戦争』をダブらせようとしている。ロシアでは、2000万人以上の犠牲を払った上で、ナチス・ドイツに辛勝したこの戦争の記憶がまだ根強く残っている。大きく傷付いたトラウマであり、ものすごく大きな誇りや栄光体験でもある特別な戦争だ。だから、『NATO(北大西洋条約機構)軍が攻めてきて、ウクライナを取られてしまう』『ウクライナにはネオナチがいる』などのプロパガンダ(政治宣伝)で恐怖をあおって、高齢者を中心に、過去の記憶を思い出させようとしている。政府統制下の新聞やテレビしか見ない高齢者はプロパガンダを信じているが、若者層はSNSで入手した情報で、政府の宣伝だと分かっているので、国外に出て行く人も多い。このような形で、世代間の分断が起きている」
文化人が多数国外へ…反戦活動を続ける
――文化人の動向は?
「反戦を主張する数多くの著名な文化人がロシアからの出国を余儀なくされている。毎年のようにノーベル文学賞の候補に挙げられる作家のリュドミラ・ウリツカヤさんは侵略直後、いち早く反戦メッセージを出したが、言論統制が厳しくなり、ドイツに出国した。小説『メトロ2033』がゲームにもなったSF作家ドミトリー・グルホフスキー氏は出国後、追い打ちをかけるように、当局から指名手配された。日本でも有名な歌「百万本のバラ」で知られる歌手のアーラ・プガチョワさんもイスラエルに渡った。ノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家スベトラーナ・アレクシエービッチさんは親露政権下、3年前に国外に出た後、帰国できない状況が続く。彼らは国外から、SNSや出版などを通じて、反戦活動を続けている。クリミア併合後に英国に出国した人気推理作家のボリス・アクーニン氏は侵略後、有名なバレエダンサーのミハイル・バリシニコフ氏らと「本当のロシア」というプロジェクトを開始し、ウクライナ難民支援の募金活動などを行っている。ロシア文学では、詩が昔から別格の地位を持つ。戦争開始から2か月後に、早くも反戦詩集がイスラエルで出版されており、詩人のアレクサンドル・カバノフ氏(ウクライナ人)やカナダにいるベラ・パブロワさんは頻繁に詩を発表している。多数のロシア文学者が母国を離れているため、今後、新たな亡命文学が出現するのではないか、とまで言われているほどだ。芸術家、映画作家などの反戦活動も続いている」
再び加害者にならないために、ロシアの逆を行く
――ウクライナ侵略を受け、日本人は何を考えるべきか。
「軍事や政治の専門家の方々が『日本がウクライナのように侵略されたら、どうするべきか』という議論をされているが、私は日本が被害者でなく、加害者になる場合のことを想像し、そうならないためには何をすればいいかを考えたい。過去の歴史を振り返れば、今のロシアは満州事変当時の日本とよく似ている。日本は『鉄道が爆破された』という一方的な理由で戦闘を開始し、国際社会から批判を浴びても中国侵略をやめなかった。日本の将来のためには、ロシアのような国際社会から非難され、強権的な独裁国家に再びならないことを考えるべきだと思う。では、どうすればいいのか。ロシアと逆のことをすればよい。現在、ロシアでは学校で洗脳まがいの愛国・軍国教育が行われ、マスメディアではプロパガンダが垂れ流され、市民も弾圧されている。だから、日本は教育や学術研究への政治介入を防ぎ、言論の自由を守り、過剰な国家主義を戒めることが重要ではないか。ロシアには、同性愛を広めるような内容の報道、映画や小説を禁じ、性的少数者(LGBTQ)を規制する法律がある。日本では今、同性婚の論議が高まっているが、男女平等も含めて、人権の尊重も大切だと思う。遠回りなようだが、軍事大国になるのではなく、民主的な開かれた社会をつくり、独裁者を出さないことが、国際的な地位を高め、最終的に平和を守れる国になる道なのではないかと考えている」
●豪華絢爛「愛の巣」の情報がダダ洩れのプーチン、31歳年下愛人を罵倒 3/5
プーチンと愛人カバエワが大喧嘩?
暗号化メッセージアプリ「テレグラム」の匿名チャンネル「対外情報局(SVR)の将軍」は3月1、2の両日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(70)が愛人のアテネ五輪金メダリストの元新体操選手アリーナ・カバエワ(39)と口論になったと書き込んだ。プーチンはカバエワをこう罵ったという。
「お前の周りにいる非常にバカな友だちがあらゆる場所で、知っていることも知らないことも洗いざらい話しているから、こんな記事が表にでるんだ」
問題になったのはロシアの独立系メディア「プロジェクト」の調査報道(2月28日)だ。プーチンとカバエワらインナーサークルの蓄財ぶりが詳細に報じられた。プロジェクトはロシア当局の監視下にある。
「SVRの将軍」によると、プーチンはカバエワの交友関係から漏れたと大声を出した。カバエワは言い返したものの最後には泣き出し、プーチンの激情も収まった。プーチンの怒りは心臓発作や脳卒中を起こすどころの騒ぎではなかった。プーチンの健康状態は最近好ましくなく、激しい吐き気と頭痛のため食事を抜くほどだとまことしやかに綴っている。
「SVRの将軍」は2020年9月に開設され、登録読者は38万5000人に近い。チャンネル主宰者は海外で暮らすSVRの退役将官「ビクトール・ミハイロビッチ」とされ、信頼できる政府筋を情報源にしているという触れ込みだ。しかし真相は分からない。プーチンとカバエワの大喧嘩も真偽不明だが、プロジェクトのスクープの信頼度は高い。
プーチンの愛人、元新体操女王カバエワが築いた不動産の帝国
プーチンが大統領復帰の意志を明らかにしたのは11年9月。プロジェクトの報道では、冬季五輪開催に向け投資が流れ込んでいたロシア随一の保養地ソチでその年の夏から秋にかけ「ロシア最大の物件」が取引された。プール、映画館、噴水のある中庭、屋上ヘリポートを備えた2階建て2600平方メートルのペントハウス。その持ち主とされるのがカバエワだ。
プーチンは黒海に面したソチの北側に位置する保養地ゲレンジーク付近に“プーチン宮殿”を保有していると反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(投獄中)が調査ドキュメンタリー映画で指摘した。プーチンはソチとその周辺で1年の大半を過ごしているとされる。「プーチン秘密ファンド」の関係者がプロジェクトに証言している。
「体操選手(カバエワのこと)がやって来て、どのマンションが欲しいか、誰の名義にするか指定しました」
「プーチン秘密ファンド」は在キプロス企業エルミラとその関連会社を使った裏金で、“プーチン宮殿”やソチの別荘などプーチンとその家族、元妻らの不動産に数百万ドルを支出したという。
カバエワの希望でソチにある4つのマンションが彼女の祖母や長年にわたるプーチンの後援者オレグ・ルドノフ(故人)の名義を使って登記されている。ルドノフはプーチンの祖父が暮らしていた別荘の名義人になったり、サンクトペテルブルクの宮殿広場近くの高価な不動産をプーチンの愛人スヴェトラーナ・クリヴォノギフに譲渡したりしている。
カバエワ以外にも。プーチンの隠し子を生んだサンクトペテルブルクの女性清掃員
プーチンはサンクトペテルブルクで清掃員をしていたクリヴォノギフとの間に隠し子がいるとプロジェクトが以前、調査報道で指摘している。プーチンは90年代にクリヴォノギフと知り合い、10年間にわたって愛人関係にあった。そして03年、クリヴォノギフは父親不詳の女児を出産したとされる。
大学生になった娘がソーシャルメディアに投稿した写真がプーチンにそっくりだと話題になり、プロジェクトは専門家の分析の結果、プーチンの娘と断定できると結論付けている。ルドルフはプーチンの愛読紙コムソモリスカヤ・プラウダのトップに就任。15年他界したが、資産も怪しげなビシネスも息子のセルゲイが相続した。
ソチのペントハウスの名義人は現在セルゲイに移っている。インターネットに掲載された広告では11年時点でペントハウスの価格は1500万ドル(約20億円)。「部屋数20室。暖炉、シネマ、ビリヤードルーム、ギャラリー、バー、スパゾーン、プール、滝の壁とモザイク床のバー、ダンスフロアなどあらゆるホリデーのシナリオを楽しめる」とPRする。
ペントハウスのセールスポイントはこんな感じだ。
   ・いくつかのレクリエーションエリアが設けられたオープンスペース
   ・海が見える屋外プール
   ・金箔を多用した広々とした階段と大理石フロア
   ・ほぼ全面が大理石で仕上げられたダイニングルーム
   ・高級な板張りで囲まれたプライベートシネマと書斎
高額不動産を破格の値段で購入
プロジェクトによると、ペントハウスの代金は「プーチン秘密ファンド」からセルゲイの個人口座経由で不動産開発会社が提示した価格の5分の1の9000万ルーブル(約1億6000万円)で購入されていた。マンションを販売している不動産業者は「このペントハウスがカバエワの所有物だと聞いたことがある」と証言したという。
他の物件も市場価格の3分の1以下で取引されていた。プロジェクトの集計では、カバエワ案件の不動産は23物件で総額1億2000万ドル(約160億円)。カバエワのナショナル・メディア・グループからの年収は約8億ルーブル(約14億円)。彼女の姉妹の給与は年約500万ルーブル(約900万円)とされる。
筆者は、14年に「マイダン革命」で失脚し、ロシアに逃亡したウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ元大統領が愛人と暮らしていた「腐敗の館」を思い起こした。プーチンの“ウクライナ支配人”だったヤヌコビッチの大邸宅の内部は「ヤヌコビッチが逃亡するまで、誰も知らなかった」と案内役の女性は取材に訪れた筆者に説明した。
現在、国有化され、一般公開されている「腐敗の館」の敷地約140ヘクタールにはゴルフコースやテニスコート、ヘリポート、サマーハウス、ダチョウのいるエキゾチックな庭園、プライベート動物園、クラシックカーが並ぶガレージがあり、レストランに改造された実物大の船まで浮かんでいた。実に東京ドームの約30倍の広さだ。
「豪華絢爛な王座と大宮殿が彼らの望み」
ヤヌコビッチは高価な絵画や彫刻を3日がかりで持ち出した。5階建ての大邸宅にはウクライナ正教の礼拝所まであった。自分や家族を模したアイコンのモザイク壁画があしらわれ、琥珀(こはく)が散りばめられている。愛人の部屋のトイレには金メッキが施されたゴミ箱まで置かれていた。米FOXニュースは15年当時、総額7500万ドル(約100億円)と報じた。
独裁者は色を好むのか。08年、プーチンがリュドミラ夫人と離婚し、カバエワと再婚すると報じられた。プーチンは「全く真実ではない。社会は政治家の生活を知る権利があると言われるが、物事には限度というものがある」と全面否定し、“スクープ”した日刊紙モスコフスキー・コレスポンデントは発刊停止に追い込まれた。
カバエワは07〜14年、下院議員(与党・統一ロシア)を務め、米国家族によるロシア孤児の国際養子縁組を禁止する法律や、未成年者に対する「非伝統的な性的関係のプロパガンダ」流布を処罰対象にする法律に賛成票を投じた。そのあとロシア最大のメディアコングロマリット、ナショナル・メディア・グループ取締役会トップに就いたプーチンの広告塔でもある。
プーチンとカバエワの関係は公然の秘密で、複数の子供がいると報じられている。しかしロシア国内では2人の関係はタブーのままだ。
プロジェクトは動かぬ証拠として不動産を洗って、ロシアの富を吸い取る“プーチン皇帝とカバエワ皇后”をあぶり出した。まるで中世に逆戻りしたように「豪華絢爛な王座と大宮殿が彼らの望みだ」とプロジェクトは指摘する。
老いた独裁者は理由なく周囲を疑うように
プーチンのカバエワへの寵愛は若さへの執念なのか。独裁者や怪しげな権力者が国家や国民のおカネを盗み取り、私腹を肥やす泥棒政治は「クレプトクラシー」と呼ばれる。老いた独裁者は理由もなく周囲を疑うようになり、自分が権力を奪われ、力を削がれるのを極端に恐れるようになる。
戦争は歪んだ歴史観を持つプーチンの狂気から始まった。ロシアでは原油や天然ガスなどの資源マネーがばらまかれ、プーチンを頂点とするシステムを「シロビキ」と呼ばれる軍、国防省、情報機関の国粋主義者、メディア、軍需産業、年金生活者が支えている。プーチンはウクライナでの「特別軍事作戦」を続行するため戦時経済に移行した。
プーチンが恐れるのはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領でも、ジョー・バイデン米大統領でも、北大西洋条約機構(NATO)でもない。ヤヌコビッチを追い落としたような反腐敗市民革命がロシアでも起き、自らの権力欲とカネと色を満たす「クレプトクラシー」というシステムが瓦解してしまうことだろう。
●チェチェン独裁者、プーチン氏に長男紹介 健康不安説、権力継承にらむ? 3/5
ロシア南部チェチェン共和国の独裁者ラムザン・カディロフ首長(46)は4日、長男アフマトさんがプーチン大統領と面会したと通信アプリ「テレグラム」で明らかにした。アフマトさんとプーチン氏が握手する写真も公開。ロシア大統領府は発表していない。カディロフ氏は「非公式会合」と説明した。
カディロフ氏を巡っては最近、健康不安説が浮上している。子供への権力継承をにらんだ紹介という見方がある。プーチン氏としても、ウクライナ侵攻に協力するカディロフ氏は無視できない。
アフマトさんは17歳とされる。権力を継承すれば、2004年に暗殺された故アフマト・カディロフ元大統領から数えて3代目。昨年9月、チェチェン共和国の青少年団体トップに就任したことが判明した。4日が結婚式だと報じられたばかりで、カディロフ氏によると、面会したプーチン氏から「おめでとう」と祝福された。
●対ロシア制裁がほとんど成果を生んでいない理由 3/5
ロシアがウクライナに侵攻してから1年が経ったが、西側諸国が鳴り物入りで導入した一連の経済制裁は、ロシアにウクライナ撤退を迫る上でほとんど効果を上げていないようだ。むしろ、逆効果を生んでさえいる。
これは極めて無念なことだ。ウクライナ侵攻ではこれまでに30万人もの命が失われているとも推定される中、制裁が何の助けにもなっていないのだ。
筆者は最近、米国公共ラジオ放送(NPR)デトロイト局の番組に出演し、侵攻開始直後に米誌タイムに寄稿した記事「Why Sanctions on Russia Won’t Work(対ロシア制裁が効果を生まない理由)」で訴えた主張に基づいて、制裁に関する疑問に答えた。
残念ながら、タイム誌の記事で行った予想は現実のものとなってしまった。制裁が奏功して紛争が終結していたら、どれほどよかったことだろう。
しかし実際にはそうはいかず、国家に制裁を科したときにほぼ必ず起きる状況が生まれている。
以下に、NPRデトロイト局で筆者が語った主なポイントをまとめよう。
番組では、制裁擁護派が、対ロシア制裁が成果をあげている理由として、ロシア経済が崩壊しつつあると指摘した。同国経済が縮小しているのは事実だ。経済情報サイト「トレーディング・エコノミクス」によれば、ロシアの国内総生産(GDP)年間成長率は、2022年第1四半期にはプラス3.5%だったが、直近四半期はマイナス3.7%となっている。
しかし筆者の理解では、制裁の目的はロシア経済に打撃を与えることではない。プーチン政権の考えを変えて、ロシア軍をウクライナから撤退させることが目的だったはずだ。その意味で言えば、制裁は失敗だ。
プーチンはまったく手を引いていない。それどころか、自国軍の苦戦を受け、兵士をさらに徴収してウクライナに投入している。
こうした状況は、驚くには値しない。タイム誌への寄稿記事でも述べたが、問題は、国に制裁が課せられると、国民は国への忠誠心が強まる傾向があることだ。
今回の場合は、国民がロシア政府に対して圧倒的な支持を寄せることになる。調査会社スタティスタのデータによれば、プーチン大統領の支持率は、2023年1月時点で82%となっている(支持率は侵攻後に急上昇し、9月には77%まで落ちたが、その後また上昇している)。
また、対ロシア制裁が実行されても、ロシアの主要な貿易品目である原油の輸出は止められていない。原油生産量は、ウクライナ侵攻前と比べると若干減っているが、それでも、1日当たり1000万バレルを超えている。
ロシアがくみ上げている原油は間違いなく、中国などに輸出されている。ロシア経済の規模を考えると、自力で1日1000万バレルもの原油を消費できるとは考えにくい。
制裁を科しても効果がないことは、歴史を振り返ってみても明らかだ。米国は60年にわたって対キューバ制裁を実施してきたが、キューバ側の態度に変化があったわけではない。
イランもまたしかりで、神権政治が始まってからずっと制裁を受け続けているのに、効果はない。それどころか、イスラム革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」をさまざまな国に送り込み、シリアやイラクなど各地で問題を起こしていると報じられている。
では、対ロシア制裁に全くメリットがないのかと言えば、おそらくそうではない。
最も広い意味で見れば、制裁とは、それを科す側の国を率いる政治家たちが、自国民に対して「美徳シグナリング(善行を公の場で見せつける行為)」を行うひとつの方法だ。簡単に言えば、「ロシアが引き起こした惨状はおぞましいものであるため、罰を与える」というメッセージを発しているのだ。
制裁の目的が単にこれであれば、効果があると言えるだろう。しかし、ロシア政府に不当で無益な戦争をやめさせることに関しては、ほとんど成果を生んでいない。
●ウクライナ東部バフムト ロシアが包囲網狭める 防御脆弱に 英分析 3/5
英国防省は4日、ロシアが侵攻するウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトで、包囲網を狭めるロシアに対し、ウクライナ軍の防御が脆弱(ぜいじゃく)な状態にあるとの分析結果を公表した。
同省によると、ロシアは正規軍と民間軍事会社ワグネルがバフムト北郊で前進し、市内の一部と周辺で、ウクライナ軍との激しい戦闘が続いている。ウクライナ軍は精鋭部隊を増強するなどしているが、ロシアによる3方向からの攻勢に対し、防御が手薄になっているという。また、ウクライナ軍の主要な補給路を含む二つの橋が破壊されたことで、補給能力も低下しているという。
ロイター通信によると、ウクライナ軍幹部は4日、ロシアがバフムト包囲を試みたが失敗したとフェイスブックに投稿した。だが、ウクライナ側にとって戦況は厳しくなりつつあるとみられる。
バフムトのオレクサンドル・マルチェンコ副市長は4日付の英BBCの取材に、「無傷の建物など一つもない。市内はほぼ破壊された。通信が遮断され、橋も壊され、ロシア軍は兵糧攻めの戦術をとっている」と述べた。市内に残る約4000人の市民がガス、電気、水を利用できない避難所で生活しているという。
ワグネルの創始者プリゴジン氏は3日、「ワグネルの部隊がバフムトを実質的に包囲した。残されたルートは一つだけだ」と述べ、ウクライナ軍に撤退を呼びかけた。
一方、米シンクタンク「戦争研究所」は3日、ウクライナ軍がバフムト北東部と西部で橋を破壊したことを確認したと発表。橋の破壊は、ロシア軍のバフムト東部での行動を制限し、また西への脱出ルートを閉ざす狙いがあると分析している。
バフムトは、ドネツク州内の主要都市へ続く幹線道路が交差する戦略上の重要拠点とされている。ロシアが占拠すれば、戦果としてアピールできるが、ウクライナ軍にとって、大きなコストを払って防衛する価値があるか、疑問視する専門家の声もある。
戦争研究所は、ウクライナ政府側の過去の発言や行動などを根拠に、ウクライナ軍がバフムトの一部から統制された形で撤退を開始する可能性を指摘している。
●バフムトの包囲強めるロシア ウクライナ抗戦も一部撤退視野か  3/5
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、激戦となっている東部のバフムトを包囲する動きを強め、抗戦するウクライナ側は部隊の一部の撤退も視野に入れた動きを見せているという見方も出ています。
ロシア側は、東部ドネツク州の掌握をねらい、ウクライナ側の拠点バフムトへの攻撃を強め、3日には、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏が「バフムトを実質的に包囲した」として、ウクライナ側に撤退を迫っていました。
一方、ウクライナ軍の参謀本部は4日、バフムトの戦況について「ロシア側が包囲する試みを続けている」と発表し、抗戦を続けていると説明しています。
戦況を分析しているイギリス国防省は4日、バフムトの状況について「ウクライナ側の防衛は一層深刻な圧力にさらされ、市内や周辺で激しい戦闘が続いている」とする分析を公表しました。
そのうえで、「ウクライナ側は精鋭部隊を投入して防衛を強化しているが、バフムトへの補給路は次第に狭まりつつある」と指摘しています。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も3日の分析で、「ウクライナ軍がバフムトの北東部と西部で、橋を破壊している映像がある」と指摘し、ウクライナ軍がみずから橋を破壊してロシア側の進軍を止め、部隊の一部の撤退も視野に入れた動きを見せているという見方を示しています。 
●ロシア「ワグネル」創設者、クーデターでプーチン「追い落とし」を狙う?  3/5
ロシア政府の上層部では、ウクライナ侵攻を指揮する国防省だけでなく、国のトップであるウラジーミル・プーチン大統領への不満が高まっていると指摘される。そうした中、ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループのトップであり、プーチンにとっては長年の盟友的存在であるエフゲニー・プリゴジンが、クーデターによってプーチンの「後継者」の座を狙っているとの見方が専門家によって示された。
欧州における数々の政治キャンペーンで相談役を務めてきたジェイソン・ジェイ・スマートは、キーウ・ポスト紙に寄せた記事のなかで、プリゴジンとロシア政府との間で高まり続けている緊張について論じている。この緊張は、長年にわたって親密な関係にあると報じられてきたプリゴジンとプーチンの関係にも亀裂を生じさせているという。
スマートによれば、プーチンとの関係にほころびがあるとすれば、プリゴジンが「ロシアでの風向きの変化を、自らがトップの座へと階段をのぼるための絶好のチャンスと認識する可能性がある」との推測が出ているという。
スマートは電話インタビューで、本誌に次のように話した。「プーチンは、自分がすべてを掌握していると考えている。だが......歴史上、この手の独裁者は例外なく、ある時点で足を滑らせるまではそう考えるものだ。その瞬間がいつ訪れるかを予測するのは、きわめて難しい」
ワグネル・グループは、ウクライナにおけるロシアの戦争で大きな存在感を発揮してきた。また、プリゴジンは自社の部隊だけでドネツク州の小さな町ソレダルを制圧したと主張し、ロシア政府当局者と公然とぶつかった。
長年にわたり不仲なショイグへの怒りが爆発
プリゴジンとロシアのセルゲイ・ショイグ国防相とのあいだには長年の軋轢があると報じられてきたが、ロシア政府がソレダルにおける勝利をみずからの手柄としたことで、プリゴジンの怒りに火がついたという。
プリゴジンは2月なかば、メッセージアプリ「テレグラム」に投稿したオーディオクリップのなかで、ショイグとワレリー・ゲラシモフ参謀総長を厳しく非難した。
スマートはこう書いている。「歴史が示すことだが、ときに権力者が失墜するのは、市民の目から見てひどいことをしたからではなく、単に若きライオンが老いたライオンキングを追い落としたいと望んだから、ということがある」
ここでいう「若きライオン」はプリゴジンかもしれない、とスマートは言う。「もし私がプリゴジンで、現在の状況にあるとするならば、自分が今まさに権力の中心になりかけていると認識するだろう」と、スマートは本誌に話した。
スマートはキーウ・ポストに寄せた記事のなかで、次のように書いている。「自らの恩人を転覆せんとするならば、プリゴジンはおそらく、いくつかの段階を迅速かつ立て続けに踏む必要に迫られるだろう」
スマートによれば、プリゴジンはまず、権力掌握にあたって敵になりそうな者を処分するところから始める可能性が高いという。これには、ショイグやチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長などの人物が含まれそうだ。
次に、「プリゴジンには正当性が必要となる」という。というのも、プリゴジンが選挙を経ずに指導者の地位を主張しようとした場合、ロシア連邦憲法に抵触するからだ。
スマートによれば、プリゴジンがとれる戦略的な道すじのひとつは、欧米による「後ろ盾」の獲得を試みることだという。米国は、現時点ではロシアの政権交代を支持しない立場を示しているものの、プリゴジンがロシアの核兵器を手中に収めれば、ホワイトハウスの支持を得られる可能性はある。
スマートは、プリゴジンがロシアの核兵器を握った場合、欧米諸国はプリゴジンから、安全に関する保証を得たいと考えるだろうと述べる。また、ワグネルのトップがそれほど大きなものを持つのであれば、国際社会が彼を新たな指導者と認識する可能性はあるという。
プリゴジンは、自らがロシアを支配するという目標を達成できるならば、欧米が求める「ウクライナからのロシアの完全撤退」まで同意するかもしれない、とスマートは述べる。
スマートは本誌に対し、次のように話した。「私が見るところ、最も可能性が高いのは──95%を超える確度だが──、この戦争が終わる道として最も可能性が高いのは、プーチンが誰かにとって代わられるか、死ぬか、殺されるか、いなくなるかのいずれかだと思う」

 

●アメリカが「プーチンの嘘」を簡単に見破れる理由…「インテリジェンス革命」 3/6
ロシア・ウクライナ戦争において、「インテリジェンス革命」が起きていると言われている。米国政府は、ロシア軍の作戦計画やウクライナへの侵攻開始日を事前に暴露するなど、高度な秘密情報を徹底的に公開した。
さらに、商用衛星、ソーシャルメディアなど、これまでの戦争において用いられてこなかった情報収集手段、特に公開情報(オープンソース・インテリジェンス)が重要な役割を果たしている。
バイデン政権による秘密情報の徹底的な公開
2022年2月18日、ロシアがウクライナ侵攻を開始する直前の週末の記者会見において、ジョー・バイデン大統領は、「プーチン大統領がウクライナ侵略の決断をしたと確信した」と述べた。
その根拠を問われたバイデン大統領は、「我々には優れたインテリジェンス能力がある」と、簡潔に答えた。ロシアの侵攻開始前日の2月23日には、アントニー・ブリンケン米国務長官が、「ロシアが明日侵攻を開始する」と明確に述べた。
こうした米国政府による一連の発表は、2つの重大な意味を持つ。一つ目は、米国の高いインテリジェンス能力である。米国のインテリジェンス機関は、ロシア軍の侵攻開始日を含め、プーチン大統領の決断という高度な秘密情報を正確に察知した。
戦車や戦闘機などの兵器の配置であれば、人工衛星や偵察機が撮影する画像により、比較的容易に判明する。しかし、他国の指導者の頭の中は、容易に解明できるものではない。
二つ目は、このような高度な秘密情報を記者会見において公表したことである。これまで、こうした秘密情報は、政府外部に対して厳重に秘匿されることが常識であった。
それは、秘密情報を公開すれば、情報源を重大な危険に晒すことになるからである。特に、これがヒューミント(人間を媒介とした諜報活動)であれば、情報源の生命に危険が及ぶ恐れもある。
2017年、米中央情報局(CIA)は、ロシア連邦政府の中枢にいたCIAエージェントを亡命させたと言われている。
このエージェントは、最高レベルの秘密情報源とされており、プーチン大統領の執務机の上に置いてある文書を写真撮影し、その画像をCIA本部に送信することもできたという。
しかし、このエージェントの存在をロシア側が察知する恐れが生じたため、CIAは緊急時にしか実施しない特別脱出作戦を発動した。
このエージェントの脱出後、ロシア連邦政府の中枢において活動するCIAエージェントはいなくなったと言われている。
しかし、仮にバイデン政権が公表した情報がヒューミントによるものであれば、ロシア政府が情報源の炙り出しを行うため、情報源が重大な危険に晒される。
また、米国の情報活動がヒューミントではなかったとしても、ロシア政府が対策を講じるため、同じ情報収集手段が使えなくなってしまう。
バイデン政権による情報公開の目的
このような危険を冒してまでバイデン政権が情報公開を行った目的として、3つの可能性が指摘されている。一つ目は戦争の抑止、すなわちプーチン大統領にウクライナ侵攻を思いとどまらせることである。
前述の記者会見以外にも、米国政府は多くの秘密情報を公開している。例えばロシアの侵攻開始前の2022年1月、米国政府はロシアの破壊工作員の作戦計画を察知したことを明らかにした。
その作戦計画とは、ロシアの破壊工作員が自作自演の事件を起こし、ロシア軍によるウクライナ侵攻の口実を作るというというものだった。
このような計画が国際社会に公表されてしまえば、ロシアは計画を変更せざるを得なくなり、侵攻開始が遅れ、又は侵攻を中止せざるを得なくなる可能性もあった。
しかし、バイデン政権の情報公開は、結果として目的を達成することはできず、ロシア・ウクライナ戦争を抑止することはできなかった。
二つ目は国際社会の結束である。ロシアがウクライナへ侵攻するという情報をバイデン政権が公開し始めたのは、ロシアの侵攻開始の前年末、2021年12月である。しかし、当初、NATO諸国の首脳や多くの専門家は、これを信じなかった。
こうした中で、米国政府は、ロシアの作戦計画やプーチン大統領が戦争開始を決断したという情報を繰り返し公開することにより、次第に国際社会が結束してウクライナを支援する環境を作り上げた。
ロシアに対する強い経済制裁、ウクライナからの避難民の受け入れ、ウクライナに対する物質的な支援などにおいて、戦争開始直後から国際社会が強い結束を示すことができたのは、米国政府による事前の情報公開によるところが大きいと言われている。
三つ目は、ロシア政府による虚偽の主張への対抗である。ロシアは、ウクライナへの侵攻開始に伴い、「ウクライナにおいて抑圧されているロシア系住民を救出するための特別軍事作戦」を行うと主張した。
ロシアは、2014年のクリミア半島併合に際しても、同様の主張を行った。この主張は、「ウクライナ側にも非がある」という誤った認識を作り出すためのものである。
実際、2014年のロシアによるクリミア半島併合に際しては、こうしたロシアの主張の効果もあり、国際社会によるウクライナへの支援は限定的だった。
しかし、今回のロシアの侵攻において、このロシアの主張は国際社会にほとんど受け入れられていない。これは、米国政府による継続的な秘密情報の公開によるところが大きいと言われている。
後編記事「商用衛星にSNS、オープンソースがロシア・ウクライナ戦争で果たした役割とは」で引き続き、高木氏がロシア・ウクライナ戦争で起こったインテリジェンス革命について分析する。
●最側近の離反でプーチンの終末が近づいた 地下壕を転々“塹壕じいさん” 3/6
1年前には「キエフ」を闊歩する夢を見ていた独裁者は今、空爆を恐れて地下壕を転々とし、病魔に苦しめられながら周囲に当たり散らす毎日を送っているという。一方、軍や側近はクーデターや離反を始め……。ウクライナ侵攻1年、プーチンの終末は近づいた。
「ゼレンスキーは一介のコメディアンだったが、戦争を通じて偉大な政治家になった。プーチンはもともと偉大なる指導者だったが、戦争を通じ、一介のコメディアンになった」
長い間の圧政に耐えてきた歴史がそうさせるのか、ロシア人は政治風刺が大好物である。権力をチクリと皮肉る小話「アネクドート」の傑作が多数生み出されてきたが、このウクライナ侵攻についても早速、SNSなどで冒頭のような例が日々作られている。
中にはこんなジョークも。
「ロシア軍は、偉大なるウラジーミル・プーチン大統領閣下の改革のおかげで、ウクライナ領内で2番目に強力な軍隊になった」
膠着状態
昨年2月24日、ウクライナへ電撃的に戦闘を仕掛けて1年。世界最強の軍隊のひとつと目されてきたロシア軍は、意外なほどの脆さを露呈した。弱小と侮っていたウクライナ軍と互角の戦いを強いられているのは、プーチンにとって決して冗談では済まされない。
この1年を振り返って、「現在の戦況は膠着(こうちゃく)状態に陥っています」と解説するのは、防衛研究所の兵頭慎治・政策研究部長である。
「そもそもプーチンは、戦争開始後、短期間でキーウを陥落させ、ウクライナ全土を制圧することを企図していました。が、欧米諸国の支援を受けたウクライナ軍の抵抗に遭って頓挫したのが初めの失敗です」
20万人に近づく死傷者
それでもロシアは、ルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、へルソンなど東部、南部の州の制圧には成功したものの、「ウクライナ軍の本格的な反抗に遭い、9月には一部を占領したハルキウ州を、11月には州都を含むへルソン州の西部をそれぞれ奪還されています。その後は東部を中心に一進一退の攻防戦が続いていますが、ロシア軍は1月末から2月頭に向けて大規模攻勢をかけ、支配地域を局所的に広げて押し戻す動きが出ている。ウクライナ軍の抵抗も激しく、戦闘の烈度は上がる一方です」
この間のロシア軍の損耗は大きかった。
「これまでに30万人超の兵を投入し、20万人に近づく死傷者が出たとの見方を米軍は示しています。また、イギリス国防省は、ここまで4万〜6万人の戦死者が出ていると分析しています」
1979年からソ連はアフガニスタンに侵攻し、以後9年間で1万5千人の戦死者を出したといわれる。今般、わずか1年でその倍以上から4倍の死者を出しているというのである。
二つの火種
そうした状況だから、政権内部で深刻な亀裂が生じているのは当然といえる。
「現在、プーチン政権には、二つの火種があるといわれています」
と述べるのは、元読売新聞国際部長でモスクワ支局長も務めた、ジャーナリストの古本朗氏だ。
「一つ目は軍内部です。今年1月にウクライナ侵攻軍のセルゲイ・スロビキン将軍が総司令官を解任され、ワレリー・ゲラシモフ参謀総長が任命されました。これを巡っては、軍によるミニ・クーデターではないか、との見方も出ているのです」
今回のウクライナ侵攻におけるロシア軍には二つの勢力がある。一つは正規軍、もう一つは非公式に投入されてきた民間軍事会社「ワグネル」などの傭兵部隊だ。そして解任されたスロビキンは「ワグネル」創設者、エフゲニー・プリゴジンの盟友と目されている。
「戦況が悪化するに連れ、比較的高度な戦闘能力を持つ『ワグネル』の力が増してきた。プリゴジンはその功をアピールし、スロビキンを総司令官に推しましたが、それに不満と危機感を抱いたゲラシモフら軍部がプーチンに直訴し、交代を迫ったとの見方が出ているのです」
正規兵vs.傭兵の主導権争いが激化しているというわけなのである。
時事通信モスクワ支局長を務めた、拓殖大学の名越健郎・特任教授も言う。
「政権の内情に通じているため、専門家も注目する『SVR将軍』なるSNSアカウントがある。その投稿によれば、プリゴジンらは常々ロシアの正規兵を敵対視し、酷評してきた。かつてゲラシモフが将兵にヒゲを短くすることを要求した際は、“われわれは戦闘で忙し過ぎて、正規軍のようにヒゲを剃る時間がない”と反発したほど。プーチンは、そんなプリゴジン派が据えた総司令官を切り、正規軍のトップを据えたわけですから……」
「ワグネル」側の反発は避けられないというのだ。
軍部に怒りのマグマ
しかも古本氏によれば、「侵攻軍指揮の主導権を奪回したゲラシモフら軍側も、プーチンと意見が対立しているといわれています。損耗が激しい軍は、現在占領しているドネツク、ルハンスク両州からなるドンバス地方とクリミア半島を死守し、和平交渉に持ち込みたい。しかし、プーチンは、総攻撃を仕掛けて占領地域をより拡大したいという野心を持っていて、軍部には怒りのマグマがたまっているのです。そしてこうしたプーチンへの不満を、彼の権力基盤であるシロヴィキも抱えているといわれる。これが二つ目の火種です」
シロヴィキとは、ロシアの支配階級である軍、治安、情報機関系の勢力を指す言葉だ。
「現在、この筆頭といわれるのが、安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記です。KGB出身の彼はプーチンの最側近で盟友。しかし、最近、プーチンと彼の間に対立が生まれたとの情報が出ているのです」(同)
名越教授が言葉を継ぐ。
「パトルシェフは従来、戦争終結後、プーチンの後継者に農相を務める自らの息子を据えることをもくろんでいたが、プーチンが応える気配が見えない。それに激怒し、安全保障会議のオンライン会議を欠席しているとの話があります」
なるほど、磐石に見えるプーチン政権の内部もこの1年で揺れているのだ。
精神状態が乱高下
そして当のご本人も、
「身体的にも、精神的にもガタが来ているのは明白です」と述べるのは、筑波大学の中村逸郎・名誉教授(ロシア政治)である。
「かねて報じられているように、がんやパーキンソン病を患っている可能性が高い。また、精神状態も乱高下しています。最近では、1月に開かれた閣僚会議でのシーンが話題を呼んでいます。ロシアのテレビで流されたその映像を見ると、戦地への兵器輸送がうまくいっていないことについて、“何をやっているんだ、バカ野郎!”“ふざけるな! ひと月以内に終わらせろ!”などと副首相に怒鳴り散らしているのです。これを受けて記者から質問された報道官は、“日常的な光景だ”と言ったとか」
愛人とパーティーか
また、ウクライナの攻撃を恐れてクレムリンを離れることも少なくなく、国内にある邸宅や地下壕などを転々としているという。
名越教授が言う。「先のSNSによれば、地下壕を含めて幾度も居場所を変えるため、“塹壕じいさん”と呼ばれているとか。正妻と離婚して現在独身のプーチンは、新体操の五輪金メダリスト、アリーナ・カバエワを愛人にしているといわれています。昨年には子を宿したとの情報もありますが、プーチンは新年もウラル山脈周辺のバンカー(地下壕)で迎え、その席には彼女もいて、たくさんのごちそうとケーキが供されたとも投稿されています」
公の場にはイタリアの高級ブランド、ロロ・ピアーナのジャケットをまとい、ドイツの高級車、メルセデス・ベンツのハンドルを握って登場する。
兵士がバタバタと戦死していくのとは対照的に、酒池肉林の日々を送っているわけだ。
危険なナショナリズム
そんな偉大なる独裁者に率いられたウクライナ侵攻は、今後、どのように展開していくのか。
前出・兵頭氏によれば、「プーチンは3月末までにドンバス地方の完全制圧を目指していると思われます。これまで断続的に投入されてきた30万人の動員兵についても、2月にはすべてを戦場に投入するとみられています」
対するウクライナ軍も、「欧米からの戦闘車両が投入され、東部やクリミア半島などを奪還する作戦を本格的に実行します」
そのため、「これらがぶつかる今後の半年間が、最大の山場になると思われます」と言うのである。
「プーチンが侵攻から手を引くことは絶対にないでしょうし、ウクライナ国民も士気は非常に高く、安易な妥協はしない」
と述べるのは、産経新聞モスクワ支局長を務めた、大和大学の佐々木正明教授。
「帝政ロシア、ソ連時代を通して醸成された、隔絶した大国たらんとする“大ロシア主義”は、プーチン政権下で危険なナショナリズムをあおるようになった。対してウクライナ国民にこの1年で生じた憎しみや怒り、祖国を守り抜くという気持ちは強い。双方とも、現在の戦況の延長線上で折り合いをつけるといった妥協は決してしないでしょう。となれば、戦争が長引くのは必至です」
静かなる衰退
中東では第2次世界大戦後から4次にわたって20年以上もの間、戦争は続いたが、「それと同じようなことが起こる可能性も十分にありえます。ウクライナ侵攻後、ロシアは厳しい経済制裁を受けましたが、中国やインドがエネルギーを買い支えているために、昨年のGDP成長率はマイナス3.5%にとどまった。この年末年始も街にはイルミネーションがともり、ボリショイ劇場でのバレエ『くるみ割り人形』のチケットは完売し、ドレスで着飾った婦人らが観賞していました。現状、生活にさほどの打撃は受けていませんが、さりとて、戦争が長引けば長引くだけ、厳しさは確実に増してくる。静かなる衰退は既に始まっています」(同)
プーチン、そして彼が率いるロシアが終末へと向かっているのは間違いなさそうだ。
冒頭のアネクドートにも、そんな庶民の本音ははっきりと表れている。最後に、そんな中から佳作をもうひとつご紹介。
「モスクワで男が、新聞を買っては1面をちらりと見て捨てていた。翌日も、そのまた翌日も同じ。売り子が聞いた。“どうしてそんなことを?”“訃報を探しているだけだ”“でも訃報は1面には載らないよ”“探している訃報は一人だけさ”」
●プーチンの誇大妄想と被害妄想が露わになった年次教書演説 3/6
米ウォールストリート・ジャーナル紙モスクワ支局長のアン・シモンズらが、プーチンの年次教書を受け、 2月21日付の同紙に「プーチンが露米核兵器条約を停止する。ロシアの指導者はウクライナでの軍事作戦を継続すると誓う」という解説記事を書いている。その要旨は次の通り。
2月21日、プーチンは年次教書演説で、米露間の最後に残った核兵器条約を停止し、ウクライナでの軍事作戦を継続すると誓った。
新戦略兵器削減条約(新START)への参加停止のほかプーチンは、もし米国が最初にそうすれば新しい核兵器を実験する用意があると述べ、核実験の禁止の継続をも問題にした。
年次教書でプーチンは戦闘で愛する人を失った家族への財政支援の増大を約束した。彼はロシアの経済は多くの西側諸国が予想したよりも回復力があったと述べ、戦争中ロシア人を助けるために社会的支援の拡大を約束した。
プーチンは、米国とその欧州の同盟国がソ連の旧衛星国を欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)に引き寄せようとこの紛争を起こしたとの主張を繰り返し、西側に紛争の責任を負わせた。「この戦争を始めたのは彼らである。我々は戦争を止めるために武力行使をしている。西側はウクライナを、ロシアを叩く槌として使っている」と述べた。
核兵器条約への参加を停止するプーチンの動きは、米露間の競争の新しい争点になるだろう。
プーチンの演説は、ウクライナ作戦への国内支持を強化することを目指していたように見える。しかし侵攻兵力は強い抵抗に会い、初期に占領した領土の半分を失ってしまった。
和平の話し合いは遠い。ウクライナはもっと西側の兵器をとアピールしており、一部のロシア人は昨秋の30 万の予備役動員の後、更なる動員があるのではと懸念している。
紛争がひどくなる中、中国は紛争終結にもっと活動的な役割を果たしたいと言っている。西側諸国は、王毅外相によりミュンヘン安全保障会議で明らかにされた中国の考え方の概要に懐疑的になっている。2月22日、ウクライナのクレバ外相は、王毅と会って中国の計画の重要要素を聞いたが、ウクライナの領土の一体性尊重がその成功のための要石であると警告した、とNATO本部で述べた。
北京にとって、もっと中立的な立場に公にシフトすることは意義深い変化になる、習近平とプーチンは戦争の前、冬のオリンピックの際に会い、米主導の世界秩序に挑戦し、友情に「制限」はないとの共同宣言を出した。以来北京はモスクワに、外交上の支持と西側制裁の中、経済的ライフラインを提供してきた。中国はロシアの石油・ガスを購入し軍事的に使えるマイクロチップや他の先進技術を売ってきた。
プーチンが年次教書で言っている新STARTへの参加停止が大きく報道されているが、新STARTは米露双方の利益に合致するものであって、プーチンがそれを破棄することはいわば自傷行為である。
軍備管理合意がなくなれば、核軍拡競争になりかねないが、ロシアの経済力は国際通貨基金(IMF)統計では韓国以下であり、ロシアはその競争に勝てない。ロシア外務省は新STARTの重要規定は守るとしている。新STARTは2026年2月までは有効であり、その時までにはいろいろなことが起こりうるので、この段階で特に心配することはない。空虚な脅しの可能性が強い。
ウクライナ戦争については、これがプーチンの妄想で始められたことが改めてはっきりした。誇大妄想と被害妄想の二つがある。誇大妄想はプーチンが帝政ロシアの首相、ストルイピンを引用し、「強くあること:これがロシアの歴史的な最高の権利」と述べたところに表れている。
被害妄想の方は「米と欧州の同盟国は元のソ連の衛星国をEUとNATOに引き寄せようとしてこの紛争を起こした。この戦争を始めたのは彼らである。我々は戦争を止めるために武力行使をしている。西側はウクライナを、ロシアを叩く槌として使っている」と述べたところに現れている。
プーチンは現実が見られなくなっている。ソ連の衛星国であった国々には主権国家として安全保障政策として同盟国を選ぶ権利があるし、経済連携相手を選ぶ権利もある。EU加盟もNATO加盟もバルト諸国を含む旧ソ連圏諸国の選択として行われたのであって、EUやNATOがこれに応じたという事である。
プーチンはウクライナでの戦争を「特別軍事作戦」と名づけ、エカテリンブルク市長のように「戦争」と言った人を逮捕してきた。にもかかわらず、今回の年次教書では自らこの紛争を「戦争」と言っている。支離滅裂である。
プーチンはこの年次教書前に何らかの戦果を挙げてそれを誇りたいとの意識があったと思うが、東部での戦果も上がらず、それはできなかった。また、この戦争を大祖国戦争という防衛戦争に見せたいと思っているのだろうが、このような試みは国際社会では相手にされない。ロシア国民は臆病であるが賢いところがあり、こういう宣伝には乗せられないだろう。
中国の仲介も信用されず
最後に中国のこの紛争への仲介についてであるが、ウクライナ側がクレバ外相の発言にあるように中国を信頼しておらず、西側も中国を信頼していないので、あまり多くは期待できないと考えられる。中露は、両国の戦略的協力に限界、天井はないと2月に共同で声明している。外交でこういう声明を出すのは異例であり、通常良い結果をもたらさない。
なお、プーチンはこの戦争に勝利するだろうとも言ったと報じられているが、この戦争の行方はまだわからない。戦争に勝つというのが、ロシアが戦争目的を達成するという意味であれば、ウクライナが生き残る公算が大きく、ロシアの戦争目的は達成できないだろう。他方、ロシア領への攻撃には制約が課されており、ロシアは負けないだろうという事も言える。
●「なぜウクライナばかり」の声に考える 「これから」に生かすために 3/6
「想像を超える支援をありがとう」「これ以上、求めるものはありません」――。日本で暮らすウクライナ避難民から、こんな言葉が聞かれた。ロシアの侵攻開始から1年となるのに合わせ、民間で最大規模の支援を展開する日本財団が2月20日に設けた記者発表の場での発言だった。一方で、手厚い支援については「なぜウクライナばかり」との疑問の声もある。日本財団ウクライナ避難民支援室の藤田滋さんは「今回の経験を『これから』につなげたい」と考えているという。
日本は「閉鎖的」と言われる難民・移民施策をとってきた。だが、戦争という究極の緊急事態に直面し、ウクライナから逃れてきた人たちには官民ともに手厚い支援をしてきた。身元保証人のいない人は政府が、いる人は日本財団が日々の暮らしのためのお金を支給する。これまで日本に来た避難民は約2300人。財団の支援実績は約1900人に上る。
財団は当初、支援対象の想定規模を「1000人」と発表していた。侵攻前の在日ウクライナ人の数(約1900人)や難民支援団体のヒアリングなどを参考に算出したが、来日のペースを踏まえて7月には「2000人」に修正した。
支援の最大の目的は、安全な日本に来てもらい、生活してもらうことだった。生活費の支給や渡航費の補助、住環境整備にかかる経費の補助をする。「側面支援」として地域団体に助成金も出してきた。ただ、財団のこうした対応には、電話やメールなどで「なぜウクライナ避難民ばかり」と手厚さを疑問視するような意見が寄せられているという。
「これまで難民支援や多文化共生のために活動を続けてきた人たちも、アフガニスタンやシリアの難民と比べて思うところはあるようだ」と藤田さん。ただ、単なる批判ではなく、これを機に社会が変わることへの期待も込められていると感じた。「私たちも、日本をより開かれた社会に変えたい思いが強い。ウクライナ避難民を最大限に支え、その経験を他の難民・移民、全ての外国人を支援する制度づくりに生かせれば」と話す。
戦争の終息が見通せない中、多くの避難民たちは日本での長期的な生活を見据えている。今後のポイントとして、藤田さんは「思考の転換」を挙げる。避難民について、意識的にも無意識的にも「一時的に日本に逃れた、かわいそうな人たち」と捉えてしまう思考を、「日本社会に貢献してくれる人たち」と受け止め直せば、支援の幅は広がっていくとする。
例えば、仕事の探し方。仕事を求める人と、人手がほしい企業をつなぐマッチングだけでは「不十分かもしれない」と考えているという。避難民へのアンケート(回答750人)では、約6割が大学卒業以上で、専門的な仕事でキャリアを積んだ人が多くいた。母国で積み重ねたキャリアを踏まえれば、その人にしかできない仕事を後押しする起業サポートなど、新たな支援策も考えられる。
「自分のキャリアを生かし、日本社会に恩返しをしたい」と考える避難民は多い。避難生活の長期化の中、生きがいや暮らしの充実をどう図るかが重要な課題になってきた。藤田さんにとって、2022年6月にコルスンスキー駐日ウクライナ大使から財団に贈られたある言葉が一つのヒントになったという。「避難民への支援は未来への投資だと思ってほしい」
財団は23年2月、さまざまな外国人が活躍できる社会に向けた支援制度を提言するため、有識者委員会を設けた。メンバーは、移民施策の専門家や難民支援の実務家、外国にルーツのある著名人ら。日本へ来る▽生活基盤を作る▽地域に定着して活躍する――の3段階に分け、課題を洗い出して議論する。
委員会で整理する課題の一つは、身元保証人のあり方だという。政府の生活費支給の対象は身元保証人のない人に限られる。逆に言えば、避難民の身元保証人になる人は、それなりの負担を背負うことになる。藤田さんは「現場は身元保証人の大変さを実感している。経済状況も家庭事情もさまざまで、避難してきてほしいと呼び寄せた家族でさえ一緒に暮らせなくなる場合もある」と明かす。
日本財団の有識者委は、各国の外国人施策も踏まえて議論を進めるという。カナダでは難民を民間で受け入れる場合、政府に認証された専門団体が支援を主導する仕組みがある。移民先進国とされるドイツでは、外国人を社会に統合していくために、国として語学や文化を教える仕組みを整えている。こうした事例に学びつつ、報告書を7月にまとめる予定という。
●ロシア バフムトで攻撃強める 東部 南部で住宅に砲撃 市民犠牲  3/6
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、東部ドネツク州の掌握をねらい、激しい戦闘が続くバフムトを包囲しようと攻撃を強めているほか、東部や南部では住宅への砲撃も繰り返し、市民の犠牲が増え続けています。
ウクライナ軍の参謀本部は5日、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の1つバフムトについて「ロシア側が街に向かって進み続けている。バフムトや周辺地域への攻撃をやめていない」と、発表しました。
ロシア側はバフムトを包囲しようと攻撃を強めていますが、ウクライナ側は撤退せずに抗戦を続け、激しい戦闘が続いているものとみられます。
一方、ロシア国防省は5日、ドネツク州でウクライナ軍の部隊や装甲車などを破壊したほか、東部ハルキウ州や南部ザポリージャ州などへも砲撃を行ったと発表しました。
一連の砲撃によって市民の犠牲が増え続けていて、2日、ザポリージャ州では5階建ての集合住宅が破壊されてこれまでに13人が死亡したほか、5日、南部ヘルソン州では住宅が砲撃を受けて3人が死亡し、ウクライナ大統領府のイエルマク長官は、SNSで「ロシアのテロリストが市民を殺害し続けている」と非難しました。
こうした中、戦況を分析しているイギリス国防省は5日、「ロシア軍の予備役の兵士が銃器とシャベルだけでウクライナ軍の拠点を攻撃するよう命じられた」とする報告を発表し、ロシア軍は攻撃を強める一方で物資も不足している状況を示すものだと分析しています。
●東部バフムトでロシア攻勢 包囲阻止へウクライナ抗戦 3/6
ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトを巡りロシア軍が攻勢を強めている。ウクライナ軍参謀本部は5日、バフムト周辺での複数の攻撃を撃退しつつも「ロシア側は(バフムトを)包囲する試みを続けている」と発表した。ウクライナはバフムトでの抗戦を続ける考えを示している。
英国防省は4日に「ウクライナによるバフムトの防衛はますます深刻な圧力にさらされている」とした。ロシア軍と民間軍事会社のワグネルがバフムト北部郊外で前進したという。ウクライナは精鋭部隊を再配備したが、バフムトの「最後の主要補給路だった橋が破壊された」と指摘している。
ゼレンスキー大統領は4日に「前線が最優先だ。特にバフムトを守る兵士たちに触れておきたい」と述べ、バフムトで戦闘を続ける兵士を鼓舞した。米CNNなどによると、国境警備隊のナザレンコ副司令官は、バフムトにつながる幹線道路など「中心部は依然としてウクライナの支配下にある」と明らかにした。
米シンクタンクの戦争研究所は4日、ロシア側は位置的に優位性を確保しているが、ウクライナを撤退に追い込むことや迅速な包囲に移ることは困難とみられるとの分析を発表した。
●中国軍、「能力不足」解消急ぐ=ウクライナ侵攻が教訓―全人代  3/6
中国の習近平指導部は5日、経済成長目標を大幅に上回る伸びの国防予算案を公表し、強軍路線の継続を鮮明にした。装備の近代化が急速に進むが、中国軍は実戦経験に乏しい。5日の政府活動報告は「実戦的訓練に力を入れる」と強調。ウクライナ侵攻におけるロシア軍の苦戦も教訓として、「能力不足」の解消を急いでいる。
習指導部発足後、著しいのが海軍の強化だ。昨年の米国防総省報告書によると、中国海軍は世界最多の約340隻の軍艦を保有し、300隻足らずの米軍を上回っている。最近は空母や強襲揚陸艦のような大型艦の建造が続き、2025年までに400隻に達すると予想されている。
一方で、中国軍は1979年の中越戦争を最後に本格的な戦闘を経験しておらず、第2次世界大戦後も実戦を重ねてきた米軍との実力差は大きい。全国人民代表大会(全人代)開幕に先立ち、軍機関紙・解放軍報は頻繁に「能力不足」の解消を将兵に求める記事を掲載。1日付の同紙は「能力が不十分な指揮官がまだ存在する」と苦言を呈した。
台湾への武力侵攻を視野に入れる習指導部が急務としているのが、陸海空などの軍種をまたいで行う統合作戦能力の向上だ。ウクライナ侵攻をきっかけに、中国軍は統合作戦能力の重要性を改めて認識している。1月12日付の解放軍報はロシア軍について「統合作戦能力が不十分だ」と断じた。同紙は、ロシア軍は「伝統的な戦法」にとどまっているとも分析し、中国軍の戒めとしている。
台湾海峡に臨む中国の平潭島で、観光客の上を飛行する中国軍ヘリコプター=2022年8月、福建省(AFP時事)© 時事通信 提供台湾海峡に臨む中国の平潭島で、観光客の上を飛行する中国軍ヘリコプター=2022年8月、福建省(AFP時事)
実力不足を補うため、中国軍は人工知能(AI)に期待している。AIによって自律的に動作する無人機に加え、訓練や作戦立案でもAIを導入。昨年10月の党大会で、習総書記(国家主席)はAIを活用した戦闘力の強化を指示した。
ただ、実戦に基づくデータが不足していては、優れたAIの開発は困難だ。香田洋二元自衛艦隊司令官は「中国が『理論上100点に近いAI』を作ることはできるだろうが、米軍との実戦で機能するとは限らない」と指摘する。
このため、中国が米軍の行動を抑えるには、核戦力に頼らざるを得ないという見方がある。解放軍報はウクライナ侵攻に関する記事で「西側の圧力に直面し、ロシアは核の実力を誇示し、核抑止力のシグナルを高らかに発した」と評価した。 

 

●年次教書マラソン大演説≠ゥら透けるプーチン大統領の苦境 3/7
2月下旬にロシアのプーチン大統領が発表した「年次教書」は、その雄弁なレトリックとは裏腹に、ロシア指導部が終わりの見えないウクライナ侵攻をどう正当化するかに苦慮している様子が強く伺えるものだった。
プーチン氏は、ナチスと同類のウクライナを支えるのは西側諸国で、今回の戦争はロシアの破壊を狙う西側の企みに対抗するためと主張。欧米と経済が切り離されたことでロシアはむしろ発展したなどと述べ、経済面からも戦争を正当化した。そのうえで、国家のために戦う兵士を支えることが美徳だと訴えて、国民にさらなる犠牲を求める内容となっている。
しかし教書では、20万人ともいわれるロシア側の兵士が死傷し、終わりが一向に見えない戦況については一言も触れておらず、虚偽の主張も数多くちりばめられていた。2時間弱に及んだ演説からはむしろ、プーチン氏が置かれている苦境が浮かび上がっていた。
ナチス・ウクライナから歴史的領土≠守る
「1年前、われわれはロシアの歴史的領土≠ノ住む人々を守り、ロシアからネオナチ政権による脅威を排除するために、特別軍事作戦を開始した」
プーチン氏の年次教書演説は冒頭から、従来の主張を繰り返す内容だった。2014年に発足したウクライナの親欧米政権は不当な「クーデター」で政権を奪取しており、同時に始まった東部での紛争は「ドンバスの人々による生存をかけた戦い」だったとして、東部住民の被害がウクライナ軍にもたらされたと強調している。
東部紛争にはロシア軍が介入していた事実が当時の報道からも明らかになっているが、プーチン氏は東部住民が「ロシアが来て、助けてくれることを願っていた」と主張し、あくまでもウクライナの住民らが自ら*I起し、ウクライナ軍に立ち向かったとのロジックに落とし込もうとしている。あくまでも東部住民とウクライナ軍の戦闘だと主張することで、戦禍に巻き込まれた東部住民の被害を、ウクライナ政府になすりつけている格好だ。
今回の戦争を正当化するためにロシア国内で作戦開始当初から使われてきたプロパガンダに忠実に沿った内容ともいえる。
プーチン氏はそこから、「背後では全く異なるプランが実施されていた」と述べ、欧米による陰謀が働いていたと説く。さらに「ウクライナ政府は公に核兵器を入手しようと試みたが、失敗した」「米国と北大西洋条約機構(NATO)は迅速に、彼らの基地と秘密の生物化学兵器研究所をロシア国境付近に設置した」などと根拠のない主張を展開。そして「西側はウクライナの政権を自在にコントロールし、全面戦争に引き込んだ」と述べて、ロシアが開始した全面戦争の責任を西側に転嫁してみせた。
昨年2月にロシアが戦闘を開始した直後は、ロシア側は数日でキーウ制圧に成功するとの見立てをしていたが、その見立てに反し、戦争は1年を超えた。プーチン政権は30万人規模の国民の大規模動員に手を出さざるを得ず、それでも戦況が妥協できない状態に、国民は強いフラストレーションを感じている。
プーチン氏のロジックからは、戦争は西側がウクライナを支えているからこそ苦戦している≠ニの主張につながる。戦争の責任を全面的に欧米諸国に押し付ける狙いが鮮明に浮かび上がる。
ロシア国民に向けた領土拡張の詭弁
プーチン氏がウクライナを「歴史的領土」と位置付けた点も注目される。プーチン氏は「オーストラリア・ハンガリー帝国とポーランドは、現在はウクライナと呼ばれる、歴史的領土をロシアから奪うことを思いついた。何も新しいことはない。彼ら(西欧)は同じことを繰り返しているだけだ」と主張した。
プーチン氏がウクライナの一部か、または全体について言及しているかは不透明だが、ウクライナ=ロシアの領土と、ロシア国民の意識に刷り込む狙いが伺える。明確にウクライナをロシアの「歴史的領土」と位置づけ、ロシアはそれを取り返そうとしている事実は注目に値する。
ソ連崩壊でロシアを含む旧ソ連各国が独立した事実を無視し、都合のよい過去を引き合いに歴史的領土≠ニ言い放つ。プーチン氏の主張は、領土拡張を正当化する究極の詭弁といえる。
プーチン氏はさらに「われわれはウクライナ人と戦争をしているのではない。ウクライナ人は、その政権と、西側の人質になっている」とまで言い切ってみせた。ロシア軍による攻撃で街や生活基盤を破壊され、家族や友人を失いながら懸命に戦い続けるウクライナの人々にとり聞くに堪えない内容だが、プーチン氏は意に介さない。
ただ、同氏の主張は一方で、多くのロシア人の考えを汲んで≠「る点にも注意を払う必要がある。ロシア人は、隣国であるウクライナに侵略をしているという事実から目をそらしたいと思っており、欧米に責任をなすりつける論理は、傷心のロシア人に心地よく聞こえるのは間違いない。プーチン氏には、国際社会からの批判に反論する意図などなく、年次教書も、国民の意見をコントロールすることが主眼である実態が鮮明に浮かび上がる。
戦争支持の姿勢を称賛
そのうえでプーチン氏は、自国民の戦争支持℃p勢への称賛をくりかえす。
「私は誇りに思う。その思いは皆が共有している。この他民族国家において、圧倒的多数の市民らが、特別軍事作戦に厳然とした姿勢(支持)を表明したという事実を。彼らは、私たちが何をなそうとしているのかを理解し、ドンバスを守ろうとしている行動を支持してくれているのだ」と呼び掛け、特に戦場で慰問活動を行う文化人や前線を取材するロシアのジャーナリスト、教師、聖職者らに感謝してみせた。これらの職業人らは、戦争遂行にも重要な役割を担っており、彼らをことさらに称賛することで戦争支持の重要性を訴える思惑が伺える。
さらにプーチン氏は、占領下におくウクライナ東部ドネツク、ルガンスク州、さらに南部のザポロジエ、ヘルソン州の住民に対し「ネオナチの脅しにもかかわらず、住民投票で明確に意志を表明した私の親友たちよ。あなた方が母なる国、ロシアとともに生きようとする意志は、何よりも強い」と言い切って見せた。
軍事侵攻で領土の占領を進めている事実を糊塗して、ウクライナの4州の人々がすすんで<鴻Vアに加入したと強弁している。ロシア軍が侵攻して領土を拡張している事実はロシア人の目から見ても明らかだが、このように主張することで、侵攻への批判を許さない社会的な空気を一層強める効果が狙える。
経済力を誇示
欧米諸国による厳しい制裁に対し、ロシア経済が想定されたほど落ち込まなかった点は、プーチン政権にとり絶好のアピールポイントになっているようだ。
「経済は20〜25%縮小されると予想されたが、結果的にはマイナス2.1%だった」「ロシアのビジネス界はより責任感がある、予想しうるパートナー(ロシア制裁に参画していない国々)たち、すなわち、世界の大多数を占める国々と関係を強化している」「農業分野は二桁成長した」「失業率は減少した」――などと、ことのほか饒舌になった。ただ、製造業の落ち込みや原油生産の減少などへの言及は見当たらない。
プーチン氏はさらに踏み込む。1990年代のソ連崩壊後のロシアの経済混乱は欧米諸国が経済モデルを押し付けたからだと断じ、その結果ロシアが「第一次産品の供給地」に成り下がったと主張。さらに欧米にロシアの富が流れ出し、海外に逃げたロシアの富裕層は今、それらの国で「資産を奪われ」「二流国民に成り下がった」と言い切ってみせた。
この主張は、中高年のロシア人の心の琴線に触れる内容だ。ソ連崩壊後の経済破綻で塗炭の苦しみを味わったロシア人らは、その不満を心に強く抱き続けている。さらに、ソ連崩壊後の国営企業の民営化で巨額の富を得て、海外脱出したロシアの富裕層らは目の敵≠セ。プーチン氏の発言に、多くのロシア人は留飲を下げたに違いない。
プーチン氏はさらに海外に流出したロシア人に「ロシアのために懸命に働け」「国家と社会は必ず支える」とも言い放った。愚かな国民すら救う国父≠ゥのようなイメージを国民に植え付ける狙いが伺える。
不都合な事実には触れず
雄弁にも聞こえるプーチン氏の長広舌は一方で、1年に及ぶ戦闘の現状に触れることはなかった。短期のキーウ制圧の目論見が外れ、私兵部隊を含むロシア軍の死傷者が20万人に達したともされるなか、プーチン氏が国民の前で戦況に言及することなどできない。
昨年9月に30万人の国民を動員し、さらに追加の投入の可能性すら指摘されている。そのようななか、戦況について触れることは、プーチン氏の顔に泥を塗る行為に他ならないからだ。
プーチン氏は年次教書でまた、ロシアの新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止のほか、来年の大統領選の実施を唐突に表明した。プーチン氏自身の出馬の有無には言及していないが、自ら大統領選の実施を表明したことは、同氏の出馬を強く示唆するものといえる。侵攻の終わりが見えず、国内の揺らぎがさらに増しかねない状況で、引き締めを図っている狙いが鮮明に見える。
戦争長期化の責任を欧米に転嫁し、侵攻を賛美しながら国民には犠牲を求める。さらに自身の政権の基盤固めを図る――。プーチン氏の2時間弱に及ぶ長時間演説はそのような最高指導者の思惑と、ロシア社会の現状を鮮明に映し出している。
●ロシア保安局、プーチン氏に近い新興財閥暗殺を阻止 ウクライナを非難 3/7
ロシア連邦保安局(FSB)は6日、プーチン政権に近いとされる新興財閥(オリガルヒ)のコンスタンチン・マロフェーエフ氏に対する自動車爆弾を使った暗殺計画を阻止したと発表した。FSBはウクライナが背後にいたとしている。
FSBは、マロフェーエフ氏が使用する車の下側に遠隔操作で爆発する手製爆弾を取り付ける計画を阻止するために介入したと発表。ロシア国防省系メディア「ズベズダ」は、男が駐車中の車に近づき、車の下に手を伸ばす様子を映したFSBのビデオを公開した。
ロイターはこの動画を真偽を確認できていない。
FSBは声明で、ウクライナを拠点とするロシアの極右活動家「デニス・カプスチン」を名乗る人物が、ウクライナ治安機関の代わりに暗殺を計画したと非難。「デニス・ニキーチン」としても知られるこの人物に対し、テロ行為と爆発物の不正取引の疑いで刑事捜査を開始したと明らかにした。
ロシアでは昨年8月、民族主義的思想家ドゥーギン氏の娘ダリア氏がモスクワ郊外で自動車爆弾の爆発により死亡する事件が発生。FSBは、マロフェーエフ氏に対しこの事件に類似する方法を使った暗殺が計画されたとしている。
ロシア外務省のザハロワ報道官は、国際的な人権を巡る構造による「意図的な不作為」が、ウクライナのゼレンスキー大統領にこのような攻撃の実行を許していると指摘。こうした行動は西側諸国の暗黙の了解の下で実行されていることに疑いはないとの考えを示した。
今回の事件について、ウクライナ側からコメントは得られていない。ウクライナはドゥーギン氏の娘ダリア氏の事件への関与を否定している。
●ロシア“崩壊”にも言及の異常事態。プーチンがついに「戒厳令」を口にした意味 3/7
プーチン大統領の「ドンバス地方完全制圧指令」の期限まであと1ヶ月を切り、猛攻を続けるロシア軍。人的被害無視の戦術で主要都市バフムト攻略も間近との報道もありますが、事はプーチン氏の思いどおりに運ぶのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ戦争の最新の戦況を解説しつつ、ロシア軍とワグナー軍の「仲間割れ」の可能性を指摘。さらに世界が今後、どのような方向に進んでゆくのかについて考察しています。
バフムト陥落か?人的被害を無視して進撃スピードを上げるロシア軍
ロ軍が人海戦術でバフムト包囲完成真近で、ウ軍のバフムト撤退開始という事態である。今後の戦況を検討しよう。
ロ軍は、冬の大攻勢の結果が出ている。バフムト以外の攻撃は失敗しているようだ。このため、結果的に成果が期待できるバフムトにロ軍は兵力を集めていることになる。
そして、ロ軍大規模攻勢の成果がバフムトだけで出ている。ウ軍は、バフムトから撤退して、チャンプ・ヤールに新しい防衛線を作り、その準備ができ次第、撤退なりそうである。
ロ軍は、クレミンナの攻撃要員もバフムトに回した可能性がある。この方面での攻撃が少なくなっている。人海戦術ということは、人的資源を集中して、ウ軍の数倍以上の人員を集める必要がある。
ウ軍も大増援部隊を出して、ロ軍の人海戦術に対抗するので、ロ軍も人員を集める必要になる。そして、人的被害を無視して進撃スピードを上げるしかない。ワグナー軍は巧みに前線を突破してくるが、その戦術もワグナー軍のマニュアルを鹵獲したことで明らかになっている。
ウ軍の陣地正面に多数の10人程度の小隊を突撃させて、ウ軍の機関銃をその迎撃に向けさせている間に、その外側を機甲部隊がすり抜けて、後方の陣地を攻撃して、手前の陣地を無力化することで、前進させるという戦術のようである。
ワグナー軍は、M03号線を超えて西側のベルキウカを占領し、トボボバシリフカを攻撃している。そこを超えて、地方道00506線を切りたいようだ。しかし、今のところ、トボボバシリフもカザリジネスクの街も、ウ軍が防衛している。
また、ロ軍とワグナー軍は、パラスコビイウカを全面的に占領して、M40号線を超えてヤヒドリウカも占領した。そしてステプキー駅周辺も占領した。
侮れないワグナー軍の柔軟性に富む戦術
ウ軍はスタフカのダムを破壊して、ロ軍の侵攻を遅らせる手段をとっているが、前進が止まらないことで、とうとう、ウ軍陸軍司令官のシルスキー大将が、バフムトを訪問して、さらなる増援で撤退戦の支援をするようである。今までに6個旅団を投入したが、追加で数個旅団を投入するようである。ヤヒドリウカから攻撃してくるワグナー軍との戦闘にウ軍国際旅団も投入した。
ウ軍機械化部隊は、M03号線を東に進軍したが、ロ軍の装甲部隊に、パラスコビウカで阻まれた。ワグナー軍とロ軍空挺部隊の混成軍の戦術は柔軟性に富んでいる。このため、ウ軍装甲部隊は押し戻された。
ワグナー軍の歩兵数も少なくなっているが、その穴埋めとして、ロ軍空挺部隊が参加したようであるが、戦術と指揮はワグナーの司令官が行っているようだ。戦術の柔軟性が高いので、ウ軍もおちおちできない。
ワグナー軍の中核は、今や南ア軍退役者になっているようである。このため、柔軟な作戦指揮ができるようである。ワグナー軍を侮ってはいけない。
これにより、メインのM03補給路だけではなく、地方道00506道も切断される可能性が出てきた。
ワグナー軍トップのプリゴジンは、すでにバフムトを包囲したと豪語したが、この状況でロ軍は、ワグナー軍の撤退を命令して、バフムトの前線からワグナー軍を排除して、手柄をロ軍だけのものにするようであり、プリゴジンは、今ワグナー軍がいないと、前線が崩壊すると苦言を述べている。
クーデターへの警戒も怠れなくなったプーチン
この状況で、ウ軍は当初バフムト撤退を決断したが、ワグナー軍を前線から撤退させるのかを見るようである。セベロドネツクでの撤退遅れの過ちをしないように撤退も視野に入れているが、様子見である。
撤退なら、整然と撤退の方向であり、多くの部隊に撤退命令が出したが、踏みとどまっているようである。バフムト市内を流れるバフムトフカ川の橋を破壊したことで、バフムト市東部からは撤退したし、チャンプ・ヤールの東の橋も破壊したが、補給路としてT0504主要道を取り戻した。
バフムトの南側のイワニフカに攻めていたロ軍を反撃して、道から遠ざけて、T0504主要道を確保したことで、まだ十分補給ができるようになったことで、バフムトの撤退を延期した可能性もある。
北から攻めてくるワグナー軍には負け気味であるが、南のイワニフカを攻めるロ軍は弱いとして、ウ軍精鋭部隊は、積極的にロ軍を叩いたようである。その意味では、プリゴジンの言うとおりであり、ワグナー軍を前線から撤退させたら、ロ軍全体は崩壊する可能性が否定できない。
ということで、ウ軍は、ロ軍とワグナー軍の仲間割れに期待する方向のようである。ロシアは、政争でこの戦争に負けた可能性も否定できない。ジョイグ国防相とプリゴジンの戦いがあり、そして、プリゴジンのクーデターもプーチンは意識しないといけない事態になる。ロシア国内対立を見る必要がある。
しかし、撤退時は、ウ軍の殿を務めるのは第93機械化歩兵旅団のようで、撤退のために、T0504主要道の周辺を確保している。
バフムトの北のフェドリフカ攻撃のロ軍もバフムトに移動したようであり、攻撃がない。ビロホリフカのロ軍攻撃は続行しているが、ウ軍が撃退している。
当分、戦況が揺れ動く事態になる。このコラムは、3月5日朝時点での記事であり、今後の展開は変化する可能性がありますので、ご容赦ください。
1万の兵で攻撃に。バフムトの次にロシアが狙いを定める街
ドネツクのボハレダラとマリンカでは、ロ軍は大きな損害をだしたが、攻撃は失敗している。バフムト以外では、ロ軍の攻撃力が弱い。
アウディーイウカ周辺でもロ軍は攻撃しているが、撃退されている。
ロ軍は、この方面で大損害を出して、攻撃を中止したようであり、部隊をバフムトやボハレダラに回しているという。
しかし、クピャンスクに向けて、ロ軍機甲師団と機械化歩兵旅団の1万人で攻めてきている。このため、ウクライナ政府は、クピャンスクの町からの全住民の避難を命じた。砲撃量の増加で危険だからだという。バフムトの次のロ軍攻撃箇所は、クピャンスクのようである。
ロシア領内に次々と攻撃を仕掛けるウクライナ
ロシア西部ブリャンスク州に、ウクライナから武装集団が300kmも侵入したと、ロシア政府は非難したが、ウ軍は否定した。この侵入について、「ロシア義勇軍」が実施したと宣言した。
モスクワ州コロムナでウ軍ドローンを撃墜したとロシアが発表したし、クラスノダール地方の都市トゥアプセの製油所付近で爆発があったが、これもウ軍ドローンやミサイルであったようだ。モスクワ州のは、弾頭重量75kgの1,000kmを飛ぶドローンの「UJ-22」であり、クラスノダールのは航続距離110kmで弾頭重量が220kgの「ビルハ-M」対空ミサイルであろう。ロシア領内への攻撃がウ軍もできるようになったようだ。
そして、クリミア半島でも、ヤルタ、バフチサライ、セヴァストポリ近郊で爆発が起きたというが、これもミサイル攻撃であろう。ロシア領内やクリミアでもミサイル攻撃を受けるようになっている。多数のGLSDB弾もウ軍に到着するので、クリミアも本格的に攻撃できるようになる。GLSDBを用いてのロシア領内への攻撃はできないが、こちらはUJ-22とビルハ-Mがある。
ベラルーシのマチュリシチ飛行場でロ軍のA-50空中警戒機がパルチザンに破壊されたが、この攻撃で、運用可能なA-50はロ軍に6機となる。そして、ベラルーシの防空能力を強化する必要になっている。それと、ベラルーシのA-50は検査のためにロシア本国に移動した。
それと、ロシア連邦ペルミ州で鉄道輸送されているロシアの軍用車両をみると、古いトラックやBTR-50の古い装甲車しかなく、戦車はなかったようである。どんどん、装備が古くなってきたことがわかる。ベラルーシから訓練が終わった動員兵を載せた列車がロシアに帰還しているが、その兵員とともに、T-64戦車が載せられている。こちらも古い戦車である。
ロシア崩壊について語り始めたプーチン
ロシアは、秋の動員数30万人ではなく、2022年9月以降、52万人以上のロシア人を動員したようである。このため、まだ、新しい動員は必要がないが、1日に700人の戦死者が出ているので、そう遠くない将来には、次の動員が必要になる。
クレバ宇外相は、「プーチンは再び、大敗を喫した」と述べた。ウクライナへのインフラ攻撃で、停電が起きたが、ウクライナ人は耐え、冬の恐怖に打ち勝ったと。そして、現在、電力不足はなくなっているという。
ロシアのプーチンもロシア崩壊について語り、戒厳令の可能性も言い始めている。戒厳令により、2024年3月の大統領選挙を、中止する可能性が出てきたようだ。事実、3月末までにドンバス地方を完全制圧することは無理である。今後、ウ軍のレオパルト2戦車で攻撃されたら、南部には精鋭部隊がいないので、長くは持たない。
もう1つ、ロシアの蓄えた戦費が2023年中には、底を突くことになり、その面からも長くは戦えないと、オルガルヒの1人は言う。
それと、前回、陽動作戦に翻弄されて精鋭部隊をヘルソン州に集めたが、東部ハリキウ州を攻撃されているので、その手に乗らないようである。南部は動員兵中心に守るようである。
しかし、精密砲撃により、塹壕戦での防御が難しいことはロ軍でも分かったようである。このため、要塞を各所に作る必要があるが、それは無理で、拠点防衛しかできない。
ついに同盟国にまで見限られ始めたロシア
親ロ派と思われていたセルビアが、第三者カナダ、トルコ、スロバキアなどを経由して、ウ軍に3,500発のグラッドロケットを売却した。セルビアは、とうとうロシアを見限ったことになる。
スロバキアは、ミグ戦闘機11機のうち10機をウクライナに引き渡すことになった。このミグ戦闘機には欧米製ミサイルの発射装置が取り付けられているので、英国供与の射程距離300キロメートルの空中発射巡航ミサイル「ストーム・シャドウ」を発射できる。
ポーランドも60機のミグ戦闘機をウ軍に供与することになり、欧米製戦闘機の供与はなくなったようである。短期にクリミアを航空攻撃が可能になり、クリミアの孤立化ができるようになる。
スイスは134両のレオパルト2戦車を運用中で、さらに96両を保管しているので、ドイツはスイスからレオパルト2を買い取りウ軍に供与することを検討中とのこと。300両以上の戦車が揃うことになる。
155mm榴弾で韓国の備蓄分を買い取り、ウ軍に提供することを検討しているが、どうも成立したようである。現在、砲撃量でロ軍はウ軍の4倍もある。それだけ、ウ軍の砲弾不足が深刻な状態になっている。バフムト前線でもロ軍の砲撃が大変なことになっているという。
逆に、米国はM1エイブラムスの供与は、1年半先になると述べている。バイデン大統領は、当初供与しないと述べていたが、ドイツ説得のために、供与を決定したが、劣化ウランを装甲に利用しているので、その装甲を変える必要があるので、遅くなるという。
独ラインメタル社はウクライナ国内にパンター戦車を年間400両生産できる能力を持つ戦車工場建設を提案した。対ロ戦の前面にいるウクライナは、今後も防衛能力を必要とするという見極めであろう。
徐々に、ロ軍撤退での停戦後体制の構築も始まっている。
ベラルーシ経由でのロシア軍支援を決めた中国
中国は、ロシアのGPSグローナスが余り機能していないので、中国版GPS北斗をロ軍に使わせている可能性があり、それと、中国の衛星が得ている情報を与えているようだ。
中国はベラルーシのルカシェンコを北京に招いて、中国は直接ロ軍への軍事支援はしないが、ベラルーシ経由で軍事支援をするようであり、ベラルーシに経済援助や武器工場の技術支援を行うという。
このような経済制裁逃れを欧米はどう見るかが問題になる。
ドイツは、中国への経済依存度が大きいのに、米国に中国への経済制裁をドイツも同調することを依頼されたが、ドイツのシュルツ首相は、訪米するが晩さん会も記者会見もしないという。
ドイツの方向はどうなるかで、今後の欧米諸国の中露対応が変化する可能性がある。
ドイツの動き次第でロシア支援に本腰を入れる事になる中国
習近平国家主席が和平提案したが、米国は欺瞞であるという。独仏は、中国の和平提案に同調する方向であったが、米国が独仏に中国制裁を呼びかけたが、ドイツ経済は、中国依存が高いので、米国に行って、反論するようである。
もし、ドイツが米国に同調すると、中国はロシア支援に本腰を入れることになる。そして、欧米と中露の分裂が本格的になり、世界が2つに分断した経済圏になる。
米国経済も中国への依存度が高いが、その見直しを行う必要になり、日本や韓国への期待が増すことになる。
逆に、プーチンは長期戦になる方向で体制を立て直すにも、中国の支援が必要であり、軍事援助はベラルーシ経由でよいが、経済援助を期待することになる。ルーブルが下落して、世界に通用しなくなり、人民元を共通通貨として利用するしかない状態である。ドルで持つと差し押さえになるので、ドル資産は持てない。
ということで、世界が2つに分断することになり、その準備を日本も本格的に行う必要になる。
中国への経済制裁も徐々に厳しくなり、中国からの輸入物品などを、日本企業の東南アジア工場に求めることになる。低価格で高品質な物品を日本企業に求めることになる。
もう1つが、ウクライナ侵略戦争の長期化で、欧米諸国の防衛産業の増産が必要になり、そのための素材産業や電子部品産業など、関連企業の業績もよくなる。このことで、景気後退を止めることができる可能性がある。
経済の中心を民需から軍需に変えることで、中央銀行バブル崩壊を何とか切り抜けられないかと欧米諸国は思い始めていたが、ウクライナ戦争は、軍事産業拡大の大義名分を与えたことになる。
自国軍人をワグナーに売りつける国々
欧米諸国の動きに「グローバル・サウス」の諸国は冷ややかな目を向けている。欧米諸国側に着くと、不足気味の小麦やエネルギー価格が高騰するので、中露サイドに着き、制裁を受ける安価なロシア産小麦やエネルギーを得た方が良いということになる。
もう1つが、南アや北朝鮮、イランなどは、軍事物質や軍を派遣すると国家財政が潤うことになる。このため、ワグナーに自国軍人を売りつけている。南ア共和国がすでに始めているが、チャドやマリなどのアフリカ諸国や北朝鮮でも国軍がワグナー軍に参加することになる。このため、アフリカ諸国は、ウクライナ戦争非難決議に棄権するが、実際は、ロ軍への軍事支援を行うことになる。
このときの賃金の支払いは、人民元になるので、大本は中国となるので、こちら側の経済の中心は、中国となる。中国もバブル崩壊をグローバル化で乗り越えられる可能性があり、それにかけてくる。
このように、欧米陣営と中露陣営に世界は徐々に分裂してくることになる。韓国、台湾やパキスタンなどは、欧米陣営になるが、多くの国が中立になる。
その結果、米国の世界における影響力の減退になり、その分、中国の影響力が増すことになる。この戦争は世界の構図を大きく変えることになることだけは、確かである。
2024年は、台湾総統選挙であり、国民党が勝てば、台湾は中国陣営になる可能性もあり、分からないが、もし民進党が勝つと、その後は台湾有事への備えが必要になる。
そして、台湾有事で核戦争になりかねない。21世紀は、地球滅亡の世紀になる可能性もある。
さあどうなりますか?
●トルコのNATO拡大阻止、裏目に出る可能性 プーチンがプロパガンダに利用も 3/7
昨年5月にスウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)加盟の意向を宣言した時、多くの人々がこれをロシアに盾突く動きととらえ、欧州が考え方を転換した証拠だと考えた。それまで両国はロシア政府を挑発しないようNATO非加盟の方針を貫いてきた。ウクライナの戦争がその流れを変えた。
フィンランドとスウェーデン、そして大多数のNATO加盟国が、7月11日に予定されているNATO首脳会談で、両国が正式に加盟することを望んでいる。しかし、実現には非常に大きな障害が立ちふさがっている。加盟申請に対して、トルコからまだ正式な支持が得られていないのだ。
加盟の動きを阻んでいるのはトルコだけではない。ハンガリーでも北欧2国の加盟申請はいまだ批准されておらず、事態はさらに泥沼化している。だが目下のところ、トルコを味方につけることが最優先だとみられている。
NATO支持派には残念なことに、西側当局者の間ではトルコの態度変更に悲観的な見方が強まっている。
表向きには、トルコのエルドアン大統領は安全保障を理由に、スウェーデンとフィンランドの加盟に反対している。トルコ側の主張は、両国、特にスウェーデンが非合法武装組織「クルディスタン労働者党(PKK)」のメンバーをかくまっているというものだ。PKKはトルコ、スウェーデン、米国、欧州でテロ組織に指定されている。エルドアン氏はこれらメンバーの身柄引き渡しを望んでいるが、スウェーデンは拒否している。
トルコが7月の首脳会談前に態度を変えるかどうか、NATO外交筋の間では意見が割れている。いずれの側でも焦点になっているのが、今年のトルコ大統領選だ。エルドアン氏にとっては近年最大の政治的な脅威とみられている。
中東研究所のトルコ部門を担当するグーノル・トール氏は「エルドアン氏が築き上げてきた、トルコ国民のために結果を出す実力者というイメージは砕け散った。現在トルコでは、西側やクルド勢力に対する反感が膨れ上がっている。エルドアン氏にしてみれば、大々的にアピールする格好の話題だ。立場を180度翻せば、弱腰と映ってしまうだけだろう」と語った。
トール氏の考えでは、エルドアン氏にはロシアのプーチン大統領を怒らせたくない理由が他にもあるという。
「シリアでの活動やロシアとの軍事協力、その他の敵対行為が理由で他国から制裁を科されてからというもの、トルコにとってロシアは経済的な命綱だ」とトール氏は説明する。「ロシアの資金がなかったら、エルドアン氏は賃金の引き上げも学生への財政援助も成し遂げられなかっただろう。現在は地震からの大規模な再建を約束しているが、エルドアン氏にとってロシアは今もなお魅力的な友好国だ」
西側当局者と同じくトール氏も、スウェーデンとフィンランドがテロリストをかくまっているというトルコの主張について、エルドアン氏にとって、政治的に都合の悪い時期にNATOの問題に関与しないための口実になっているとの見方を示す。
9日に予定されている3カ国協議ではおそらく何の進展もないだろうが、今のところ話題に上っているのは、仮にエルドアン氏が大統領選に勝利した場合、選挙後にどれほどの政治的資本を費やすことになるのかという点だ。
まずは楽観派の意見を見ていこう。
このグループに属するのはスウェーデンやフィンランド、そしてロシアと国境を接する国や旧ソ連圏だった一部の国だ。そうした国々は、NATO加盟国として多大な恩恵を受けているトルコが最終的には最大の国益を考慮して、反対の姿勢を取り下げるだろうと考えている。
その場合、トルコはテロリストに指定された人物の身柄の引き渡しではなく、もっと現実的な要求をしてくるのではないかと考えられる。たとえば制裁の解除や、戦闘機の購入に対する米国の許可だ。トルコは空軍の近代化に向けて戦闘機を非常に必要としている。
「単独での加盟申請」
要するに、妥協すればNATOにも大きく有利となるというのが楽観派の考えだ。NATO、スウェーデン、フィンランドはすでに立場を表明しているし、NATOにはどんな国も希望すれば加盟できるという「門戸開放政策」がある。スウェーデンとフィンランドは加盟国として申し分なく、両国が加盟できなければ、まさにトルコが恩恵を受けている同盟そのものが笑い者になる。NATO当局者がCNNに語った話では、エルドアン氏はサミットのタイミングを狙って譲歩して、「西側同盟国からの賞賛」をほしいままにするつもりではないかとの憶測も出ているという。
CNNが取材した関係者では悲観的な意見が圧倒的に多い。エルドアン氏が7月11日までに立場を変える可能性は限りなくゼロに近いと考える人々は、サミット後のこともすでに考慮している。
「フィンランドがスウェーデンとたもとを分かち、単独で加盟を目指す公算が高まっている」と、あるNATO外交筋はCNNに語った。
他の加盟国は今もなお、両国の加盟阻止もあり得るとして、NATOがそうしたシナリオに最善に対処するための方途を検討している。
複数のNATO当局者や外交筋はCNNの取材に対し、当面の危険について、トルコが加盟を阻止することで、西側諸国とNATOが分断しているとするロシア政府の言い分が勢いづくことだと語った。その際NATOは、たとえフィンランドとスウェーデンが加盟国でなくても、事実上NATOと足並みをそろえていることを明確にしなくてはならないだろう。加盟国ではないにしても、両国は可能な限り近しい友好国であり、もはや中立国ではないのだと。
仮にトルコの問題が片付いても、別の問題がある。そこまで厄介ではないが、ハンガリーという存在だ。
ハンガリーのオルバン首相は北欧2国の加盟に反対しない立場を公言しているものの、さまざまな手段で正式決定を遅らせている。
オルバン氏が歩みを鈍らせる理由はいくつかある。フィンランドもスウェーデンも、これまでハンガリーにおける法の統治のあり方を批判してきた。首相は最新のインタビューでこの件に言及し、「ハンガリーについて平気でうそを並べながら、我々の軍事同盟に加わりたいなどと言えるのか」と問いかけた。
オルバン氏はEU首脳の中でももっともプーチン氏と親しい人物とみなされている。欧州議会のハンガリー代表議員カタリン・セェ氏は、スウェーデンとフィンランドの加盟申請を拒むオルバン氏の行為を「平たく言って、プーチン氏への好意だ」と述べた。セェ氏は、次第に専制色を濃くしていると非難されているオルバン氏が「10年以上もプーチン氏の政策の模倣とプーチン氏の制度の確立に力を注いできた」と述べた。いかなる形であれ、プーチン氏に対するNATOの勝利は「オルバン氏の体制全体を危険にさらす」という。
EU加盟国から譲歩を引き出すために、オルバン氏が時間稼ぎをしている可能性はある。EU諸国はハンガリーがEUの法律にことごとく違反していると非難し、その結果ハンガリーはEUの支援を打ち切られ、白い目で見られるようになった。NATOとEUは別の組織だが、両方に加盟する国も多く、両組織間の駆け引きからハンガリーとEU諸国の間でなんらかの折衝がある可能性もある。
だがオルバン氏の動きが鈍いとはいえ、トルコが片付けば、ハンガリーもフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を反対しないだろうというのが大方の見方だ。
皮肉なことに、プーチン氏がウクライナ侵攻に踏み切った主な理由のひとつは、NATO拡大に歯止めをかけるためだった。おそらく侵攻が理由で、非同盟を貫いてきた国がNATOに歩み寄ることになった。このことは、今も西側関係者の目にロシア政府のオウンゴールとして映っている。
だが加盟が承認されるまで、NATOの運命は宙に浮いたままだ。ウクライナの戦争勃発以来、フィンランドとスウェーデンは実質的に自分たちの立ち位置を明らかにした。戦争が突如終結したとしても、両国が中立国に戻る公算は低そうだ。
NATOや西側同盟国にとってのリスクは、両国が加盟できず、ロシア政府がこれをプロパガンダの材料にした場合だ。そうなった場合、戦争が早期に終結しても、この先も西側の分断という物言いはNATOに対抗する国々の格好の宣伝材料になるだろう。
●プーチン氏、重なる独裁者像 没後70年のスターリン評価―侵攻に突き進む 3/7
ソ連の最高指導者に29年間君臨したスターリンの死から5日で70年を迎えた。ロシアのプーチン大統領は愛国主義と共にこの独裁者の再評価を進め、昨年2月にウクライナ侵攻へと突き進んだ。内外でスターリンとプーチン氏を重ね合わせる論調は強い。
内外の敵はナチス
スターリンは1953年3月1日に脳卒中を起こし、同5日に死去した。74歳だった。
独裁者の名を冠し、かつてスターリングラードと呼ばれた南部ボルゴグラード。戦勝記念公園「ママエフの丘」の博物館脇に最近、第2次大戦の激戦終結から80年を記念してスターリンの胸像が完成した。
胸像近くには、スターリンの「大粛清」犠牲者の記念碑がある。独立系メディアは「120メートルしか離れていない」ことを問題視した。
攻防戦の終結記念日の2月2日、プーチン氏はママエフの丘を訪れた。演説では、ウクライナを支援する西側諸国を、ソ連に攻め込んだナチス・ドイツと同一視。「ナチズムの思想は現代的な形でわが国の安全保障に直接脅威をもたらしている」と主張した。
こうした発想は、リベラル派の弾圧に「乱用」されている。スターリン時代の弾圧を記録し続け、昨年のノーベル平和賞を受賞した人権団体「メモリアル」は「外国のスパイ」に指定。プーチン政権から敵視され、2021年には最高裁から解散命令が出ている。
今月3日には当局が、メモリアルのスタッフ数人が「ナチズムの復権」を企てたと決め付け、捜査を開始した。
負のイメージ消失
事実、プーチン政権の政策は「奏功」しており、独立系世論調査機関レバダ・センターによると「スターリンは偉大な指導者だと思う」と答えた人は、16年の28%から21年の56%に倍増。こうした中、ウクライナ侵攻が始まっても、政権の支持率は落ちなかった。
「5人目のスターリンだ」。ある作家は昨年12月、ロシア史に残る5人の指導者の最後にプーチン氏を据え、保守派から喝采を浴びた。スターリンから負のイメージは消えつつある。
プーチン氏は現在70歳。20年の憲法改正で再出馬の道が開かれている。仮に来年の大統領選で当選してあと1期6年間の任期を満了すれば、首相時代を含めた権力掌握の期間が30年間に達する。その場合、スターリンを超え、ソ連成立後で最長となる。
●西側はウクライナに必要なものを与えよ 3/7
ロシアによるウクライナ侵攻の1周年記念は、高揚したレトリックで迎えられた。
特に目を引くのは、米国大統領のジョー・バイデンが訪問先のワルシャワで「ウクライナに対する我々の支援は揺るがない、NATO(北大西洋条約機構)は分断されない、そして我々は疲弊しない。領土と権力に対するプーチン大統領の卑怯な欲求は満たされない。ウクライナの人々の愛国心が勝利する」と語ったことだ。
こうした心情は立派だ。だが、このコミットメントは果たして本物だろうか。
西側は実際に、独立した民主主義国としてのウクライナの存続を確実にするために必要なことを何でもやるのか。
交渉による紛争解決を要求している人でさえ、今頃はもう、ウラジーミル・プーチンがウクライナを自分の帝国に吸収することを西側は許さないということを本人が認識することがこの結果の必要条件であることに気づいたはずだ。
西側の価値観を脅かすプーチンの攻撃
過去1年間のロシア軍の失敗から、プーチンもウクライナを吸収する能力に多少の疑問を抱くようになったかもしれない。
だが、それでもまだロシアが勝つと考えている。
主たる敵対国の相対的規模と人的資源などのロシアのリソースに対するプーチンの支配力を考えると、それは非合理な見方でもない。
決定的に流れを変えられる唯一の勢力は、ウクライナの決意と軍事的、金銭的な西側のリソースの組み合わせだ。
バイデンが説明したように、この支援を与えるべき強力な理由がある。これは特に欧州に当てはまることだ。
プーチンの攻撃は、戦後欧州が築かれる基盤となった中核的な価値観と利益を脅かす。国境の不可侵、国家間の平和的な協力、そして民主主義がそれだ。
攻撃は特にロシアに最も近い国々、少し前までソビエト帝国の内側に入っていた国々の安全を脅かす。
もしプーチンが勝ったら、次は誰が出てくるのか。
「リアリスト」が何と言おうとも、我々の価値観と我々の利益の間に線を引くことはできない。我々の価値観は我々の利益だ。
この戦争は、プーチンのような悪党による破壊的な威圧からの自由という理想の上に築かれた生活様式がかかった戦いだ。
それゆえ、ウクライナでの戦争は我々の戦争でもある。
ロシアを倒すための必要条件
残念ながら、西側のレトリックには、まだ行動が伴っていない。このため戦争の結果が不確かになっている。
英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンクは最近、次のように書いた。
「ロシアを今年戦場で倒し、将来の侵略を抑止することができるが、それは欧州がロシアの決意を過小評価するのをやめ、攻撃的で決意の固い敵との長い軍事的競争をしていることを受け入れ、かかっている利害に求められる規模で今すぐ生産能力とウクライナ支援に投資した場合に限られる」
また、求められるのは軍事的なリソースだけではない。ウクライナは国民と経済を支える必要がある。
ロシアが破壊するそばから、今すぐインフラを修復する必要がある。ところが、ロシアは物理的に無傷だ。
また、ウクライナが多くの人が恐れたよりもうまく軍事的に乗り切ってきたように、ロシア経済も多くが期待したよりもうまく西側の制裁をしのいできた。
学者のアダム・トゥーズが最近寄稿で取り上げた独キール世界経済研究所の「ウクライナ・サポート・トラッカー」は、現実にはウクライナ支援がいかに限られているか、特に欧州からの支援がいかに乏しいかについて憂慮すべき情報を提供している。
まだ足りないウクライナ支援
具体的には、二国間でも集団的にも、米国の支援がこれまで欧州連合(EU)加盟国を上回っていると指摘する。
この戦争は米国の将来よりもEUの将来にとってはるかに重大な意味を持つにもかかわらず、だ。
国内総生産(GDP)比で見た二国間支援の約束と難民支援のコストを取ると、群を抜いて手厚い支援を提供してきたのは東欧諸国(ポーランド、ラトビア、チェコ共和国、リトアニア、スロバキア)だった。
軍装備の供与では、米国が断トツで重要な供給国になっている。
だが、米国の対ウクライナ支援はベトナム戦争やイラク戦争に直接投じた額に遠く及ばず、アフガニスタンで費やした額と並ぶ程度だ。
そして欧州諸国の国内エネルギー補助金は各国の対ウクライナ支援より圧倒的に大きい。
例えば、ドイツはGDP比7.2%相当を国内のエネルギー補助金に割り当てる一方で、ウクライナへの支援総額は同0.4%にとどまっている。
プーチンの算段
プーチンとしては合理的に考えて、ウクライナは長期的に戦争を継続するために必要なリソースを手に入れられないと結論づけることができる。
中国からもっと大きな軍事支援を得られると合理的に期待することもできるだろう。となると、時間は究極的にプーチンの味方だ。
西側はこれが間違っていることを証明しなければならならず、戦争が延々と長引かないようにするためには早々に証明する必要がある。
戦後欧州の安定と繁栄が永続することを望むのであれば、この戦争には欧州諸国の重大な国益がかかっているという認識がなければならない。
欧州は米国と力を合わせ、軍事的なものを含め、この戦争に勝つために必要な資源を総動員しなければならない。
この支援がもっと惜しみなく行われなければ、欧州が望むような条件で戦争が終わる道筋は見えてこない。
西側の決意をはっきり示せ
時代は本当に変わった。
欧州では、もはや平和を想定することができない。ロシアは長く、コストがかかる戦争に備えている。
西側も備えなければならない。その過程で、他国に対する政策も見直さなければならない。
西側の過去の行動が途上国の大部分において西側の正統性を損なったことは疑う余地がない。
愚かな戦争の歴史や新型コロナウイルスの大流行に対して適切な規模でワクチン接種を展開できなかったこと、パンデミックと戦争の経済的影響に対してこれらの国に十分な金融支援を与えられなかったことを考えると、これは十分理解できることでもある。
そのような無関心は必然的な代償を伴う。
それと同時に西側は、他国が好むと好まざるとにかかわらず、ウクライナ戦争の結果が決定的に重要な利益と見なされることをはっきり示さなければならない。
そして西側はこの考えに従って、大小問わず、他国の振る舞いを評価する。
こうした国々はどう振る舞うか計算する際、西側はウクライナがこの戦火から民主的な独立国として立ち上がることを固く決意していることを理解する必要がある。
それが事実でもあることを祈るばかりだ。
●ウクライナ兵処刑か、動画に非難 「実行者見つけ出す」「戦争犯罪」 3/7
ロシアによる侵攻が続く中、ウクライナ兵とみられる男性が何者かに処刑される動画がソーシャルメディアで拡散し、ゼレンスキー大統領は6日夜の国民向け演説で「実行者を見つけ出す」と強調した。ウクライナ当局が捜査を開始し、複数の同国高官も「戦争犯罪」だとして非難した。
動画では処刑前、男性が喫煙しながら「ウクライナに栄光あれ」と言い放つ様子が映っている。ウクライナのメディアは、撮影したのがロシア軍か親ロシア派武装勢力かには触れずに「ロシアの仕業」と断定した。ただ、男性の戦闘服は記章などが鮮明に見えず、撮影日時や場所も明らかになっていない。
一方、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」系のメディアは「戦争犯罪は双方が行っていることを誰もが知っている」と主張。ウクライナ側が東部ドネツク州の激戦地バフムトで劣勢となる中、動画が「抵抗を続けるための動機となっている」と指摘した。
●ウクライナ戦争と対中関係、最大の経済懸念─JPモルガンCEO 3/7
米金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は6日、経済が直面する最大の懸念事項としてウクライナ戦争のほか、対中関係を挙げた。ブルームバーグテレビが報じた。
ダイモン氏はブルームバーグテレビのインタビューで「最も懸念しているのはウクライナ情勢だ」とした上で、「石油、ガス、世界のリーダーシップ、米国の対中関係は、誰もが日常的に対処しなければならない経済の振れより一段と深刻だ」と述べた。
米経済については、深刻な景気後退(リセション)入りを免れ、「ソフトランディング(軟着陸)する可能性がある」と予想。「穏やかな景気後退も、深刻な景気後退もあり得る」としながらも、「インフレは低下する可能性が高い」と述べた。
ただインフレは第4・四半期まで十分に低下せず、米連邦準備理事会(FRB)による一段の措置が必要になるとの見方を示した。
また、米国の消費は現在は「極めて好調」としながらも、好調な状態はいつかは終わるとの考えを示した。
●ウクライナ戦争の陰で進むイラン核開発の静かなる危機 3/7
イランが核兵器級の濃縮ウランを製造していたことについて「12日間で核爆弾1個を製造できる」(米国防次官)などとバイデン政権は懸念を高めている。イランは「偶発的な産物」と説明しているが、宿敵イスラエルの疑念は深まる一方だ。米高官からはイランへの軍事攻撃に青信号≠与えるような発言も出ており、ウクライナ戦争の陰でもう一つの危機が動き出した。
米国の姿勢に変化
イラン核合意を再建し、イランを合意に復帰させることを公約してきたバイデン政権は昨年夏ごろまではまだ、再建交渉に望みをつないでいた。欧州連合(EU)などとイランによる再建交渉がほぼ完了し、間接的に交渉に参加していた米国も交渉内容を了承。残っているのはイランの最高指導者ハメネイ師の承認のみ、という状況だった。
だが、ハメネイ師から回答が来ることはなかった。ハメネイ師は革命防衛隊など国内の保守派が核合意や再建交渉に反対であること、米国が「二度と合意から離脱しない保証」を拒否したことなどを考慮したものと見られている。このイラン側の事実上の交渉拒否に対し、バイデン政権の姿勢が変わった。
国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は2月、再建交渉が暗礁に乗り上げていることを認める一方、「交渉には集中していない」と述べ、政権がもはや交渉を重視していないことを示唆した。米紙は複数の米当局者の発言として、バイデン政権が交渉戦略に依存せず「どうやって核計画を阻止できるかに傾注している」と報じている。
ワシントン・ポスト紙によると、バイデン政権の姿勢の変化を顕著に表したのがナイズ駐イスラエル米大使の発言だ。大使は「イスラエルはイランに対処するため必要なことは何でも行うべきだし、米国はそれを援護する」と述べ、イスラエルのイラン攻撃を容認したものと波紋を呼んだ。ブリンケン国務長官は攻撃に青信号≠与えたのかとの質問に「外交的解決を信じる」と述べたにとどまった。
米国が危機感を高めたのは国際原子力機関(IAEA)が2月末に公表した報告書が衝撃的だったためだ。1月にイラン中部フォルドゥの地下核施設で採取したウラン粒子が濃縮度83.7%と核爆弾に使用される濃縮度90%に迫るものだったのだ。バイデン政権のイランに対する疑念は急速に高まった。
カール国防次官の「イランの核開発が異例の進展を見せ、12日間で核爆弾一個分の核分裂性物質を製造可能」という発言が政権の統一的な見解になった。核合意ができた2015年当時は核爆弾製造までには「1年」だったものが、一気に短縮したわけだ。「武力による核開発阻止もやむなし」との議論が浮上している所以だ。
抜き打ち査察がポイントに
こうした事態を受け、IAEAのグロッシ事務局長がこのほど急きょイランを訪問、ライシ大統領やエスラミ原子力庁長官と会談した。イラン側は検知された83.7%のウラン粒子について「濃縮レベルの偶発的な変動」と説明、意図的に製造したものではないとして、核兵器製造計画をあらためて否定した。
事務局長によると、イラン側は査察の強化と監視カメラの再設置に同意したという。しかし、ニューヨーク・タイムズによると、イラン側は昨年11月、IAEAの査察官に対し、ファルドゥの地下核施設で核爆弾級の濃縮ウランを製造する計画であると明らかにしており、「偶発的な変動」という説明には大きな疑問が残る。
ハメネイ師をも動かす影響力を持つ革命防衛隊は核合意に復帰すれば、せっかく製造した濃縮ウランのほとんどを国外に搬出しなければならないことを恐れており、「決断した時にはすぐに核兵器を製造できる選択肢を確保しておきたい」との考えが強いとされる。
核合意では本来、イランは濃縮度3.57%を超える濃縮ウランは製造できないことになっていたが、米国のトランプ前政権が合意から一方的に離脱したため、合意破りに踏み切り、21年には濃縮度60%のウラン製造を開始、現在はそのレベルの濃縮ウランを約90キログラム保有しているとされる。「偶発的な変動」という説明が本当かどうかはイランが今後、IAEAの「抜き打ち査察」をすんなり認めるかにかかってくるだろう。
裏でロシアと交渉≠ゥ
イランが核合意再建交渉を見限った大きな要因の一つはロシアとの関係強化を推進するという戦略的な決断がある。イランには「西側、東側とも同盟は組まない」という革命時の最高指導者の「ホメイニ・ドクトリン」があったが、これを反故にしてロシアに急接近した。イランとロシアはともに国際的な制裁を受ける立場にあり、米国の敵同士がくっついた格好だ。
特にロシアのプーチン大統領が昨年7月にテヘランを訪問後、「前例のない軍事協力」(米高官)が強まった。イランはカミカゼ・ドローン≠ニ呼ばれる自爆型無人機「シャヘド136」のロシアへの供与を開始、米紙によると、最近では戦車砲弾や実弾も売却している。
ウクライナ軍は昨年2月以降、2000機を超える無人機を撃墜した。その多くがイラン製だったと見られており、ウクライナ戦争1年を機に再び無人機の攻撃が激化している。ロシアは攻撃の主力の高精度巡航ミサイルが払底していると伝えられており、安価なイラン製ドローン(約270万円)に今後も依存すると分析されている。
ロシアはこうしたイランからの支援の見返りとして、戦闘機SU35や弾道ミサイルの技術支援、防空システム「S400」などの供与を検討していると伝えられている。こうした兵器がイランに供与されれば、中東地域の軍事バランスに大きな影響をもたらすだろう。
イスラエルの核施設攻撃の懸念も
中東ではロシアがシリアに軍事介入して力を見せつけたことにより、「頼りがいがある」として一時株が上がった。だが、ウクライナ戦争では思うような軍事的優位を見せられず、逆に米欧の支援を受けたウクライナ軍が健闘していることで、米欧への信頼感が増すという副産物が生まれている。ロシアは中東諸国の信頼を取り戻すためにも、イランへの兵器供与に踏み切るかもしれない。
ウクライナ戦争が長期化する陰で、イランの核の脅威を深刻に受け止めたイスラエルや米国が何らかの軍事行動に踏み切ることは十分あり得よう。バイデン大統領は「イランの核兵器入手を容認しない」と繰り返している。
ウクライナに世界の耳目が集中しているのを隠れ蓑に、イスラエルが米国の支援を受け、イランの核施設攻撃を敢行する、と想定するのは非現実的ではない。
●ウクライナへ“NATOの3大戦車”投入も、欧米の「武器の小出し」に透ける思惑 3/7
米国・英国・ドイツが“NATOの3大戦車”と称される兵器をウクライナに供与することが決まった。だが、一部報道によると、ウクライナの正規軍は壊滅状態にあり、他国からの義勇兵によって人員不足を賄っているという。敗色濃厚な状況下で強力な武器を提供しても、戦争をいたずらに長引かせるだけではないか。特に米英をはじめとするNATO諸国は、戦争を延々と継続させる目的で、武器供与を「小出し」にして中途半端な支援を続けているように思える。そういえる理由を詳しく説明する。
“3大戦車”の供与が決まるもウクライナは瀕死状態
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから1年がたった。しかし、停戦の兆しはまったく見えない。
ロシアは「特別軍事作戦を継続している」と表明し、攻勢を強めている。一方、ウクライナもロシアに徹底抗戦する意向をあらためて示し、戦闘機などさらなる兵器の供与を欧米諸国に呼びかけている。
欧米諸国は、対戦車ミサイル「ジャベリン」、ドローン「バイラクタルTB2」、地対空ミサイル「スティンガー」など、さまざまな兵器・弾薬類をウクライナに送り、支援を続けてきた。
直近では、米国の「M1エイブラムス」、英国の「チャレンジャー2」、ドイツの「レオパルト2」といった戦車がウクライナに供与されることが決まり、注目を集めている。
これらの性能は極めて高く、北大西洋条約機構(NATO)の“3大戦車”とも称される。ロシア軍は現在、ウクライナに多数の戦車を投入しているが、3大戦車はこれらに対抗する上で大きな威力を発揮することが期待されている。
だが、戦車の投入だけでは、戦局を抜本的に変えるのは難しいだろう。
ウクライナの反撃によって、この紛争はさらなる膠着(こうちゃく)状態に陥るとみられる。同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領が目的とする「領土回復と人々の解放」の実現に向けては、厳しい状況が続きそうだ。
というのも、現時点でウクライナの正規軍は壊滅状態にあるとみられる。この紛争の開戦時、ウクライナの正規軍は約15万人、予備役は約90万人だったという。しかし先日、「23年1月初めの時点で総計55.7万人が死傷していた」という記事が出た。これが事実であれば、総兵力の5割強が失われたことになる。
この記事によると、ウクライナは今、NATO諸国などから志願して集まってきた「義勇兵」や「個人契約の兵隊」によって人員不足を賄っており、その規模は約10万人だという。要するに、外国の武器を使って、外国の兵士が戦っているのがウクライナ陣営の現実のようだ。
欧米諸国がしていることは、瀕死の重傷患者に大量の輸血をしているのと同じではないか。患者本人の血が失われかけている肉体に、他人の血を送り込んで延命しているようなものだ。
武器供与はいつも「小出し」欧米の「中途半端な支援」の真意とは
筆者の目には、この状況が不可解に映る。米英をはじめとするNATO側は、ロシアに大打撃を与え、ウクライナが失った領土を回復させ、戦争を終わらせようと本気で考えているのだろうか。
もしそうであれば、欧米諸国は武器供与を小出しにするのではなく、戦局を大きく変えられるだけの大量の武器を早めに供与していたはずだ。特に米英は、戦争を延々と継続させる目的で、中途半端に関与しているように思えてならない。
この連載では、そうした姿勢の意図を読み解くべく、ウクライナ紛争における米英の関与に焦点を当ててきた。
というのも、実は米英は、開戦前からロシア軍の動きを完全に掌握していた。当時、約9万人のロシア兵がウクライナ国境沿いに集結していたことも知っていた。いざ戦争が始まると、ロシア軍によるウクライナへの侵攻ルートも的中させた。
開戦直後、ウクライナ軍がロシア軍の経路や車列の規模などを把握し、市街地で待ち伏せして攻撃したことがあった。ロシア軍は多数の死者を出したが、この戦果も米英の情報機関の支援があってこそだった。
ここでも、米英の動きには疑問が付きまとう。ロシア軍の動きをそこまで詳細に把握・予測しているならば、なぜ事前に戦争を止めようとしなかったのか。
その問いに対し、筆者がたどり着いた答えは「米英にとってウクライナ紛争は、損失が非常に少なく、得るものが大きい戦争だから」というものだ。そう言い切れる要因を、経済の観点から説明していこう。
1960年代にソビエト連邦(当時)と欧州の間にパイプライン網が敷かれて以降、欧州諸国はロシア産の天然ガスや石油にエネルギー源を依存してきた。
ウクライナ紛争が勃発する前まで、欧州連合(EU)は天然ガスの4割をロシアから輸入していたという。また、ロシアが海外に輸出する原油の5割超を欧州向けが占めていたとされる。
一方で、実はパイプライン網が敷かれる前まで、欧州の石油・ガス市場は米英の大手石油会社の牙城であった。パイプラインの敷設を機に、米英はソ連に覇権を奪われ、約60年にわたって悔しい状況が続いていたことになる。
そうした中でウクライナ紛争が始まり、欧州各国はロシア産の石油・天然ガスの禁輸措置を始めた。これは米英にとって、欧州の石油・天然ガス市場を取り戻す千載一遇の好機だったといえる。
ロシアからのパイプラインが止まり欧州の「ロシア離れ」進む
実際、ロシアから欧州に天然ガスを送るシステム「ノルドストリーム」経由の供給は22年8月末から完全に停止している。同年9月末には、ノルドストリームで破壊工作とみられる爆発が起きた。近い将来、供給が再開される見込みはない。
パイプラインのビジネスの最大の弱点は「売り先を変えられないこと」だ(第52回・p3)。欧州向けのパイプラインが止まれば、単純に止めた分の売り上げがなくなる。それを他国に振り向けることは物理的に不可能である。
意外なことに、ロシア産の原油と天然ガスの輸出量は22年に増加したが、その要因は経済制裁に加わっていない中国・インド・新興国向けの輸出が増えたことである。
世界的に石油・ガス価格が高騰する中、ロシアはそれらの国々と格安で取引しているようだ。輸出量が増えたとはいえ、財政を圧迫しながら取引しているようでは長続きするはずがない。
この輸出は、次第にロシア経済を追い込むことになるだろう。
一方、欧州では、エネルギー源の「脱・ロシア依存」が進みつつある。その代表例が、ノルドストリームの終着地であるドイツだ。ドイツは22年11月、北海沿岸のビルヘルムスハーフェンに液化天然ガス(LNG)輸入ターミナルを完成させた。
また、ドイツは「浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備」の調達も進めている。船で運搬されてきたLNGを洋上で受け入れて貯蔵したり、既存のパイプラインと接続して陸上に供給したりできる設備である。要は、ロシアに頼らなくてもLNGを調達できる仕組みを整えているのだ。
これらはあくまで一例だが、欧州のロシア産石油・天然ガス離れは確実に進んでいる。ロシアと停戦のための対話を粘り強く続けてきたはずのドイツが、冒頭で紹介した戦車「レオパルト2」をウクライナに供与することを決めた出来事は「ロシア離れ」を象徴しているのかもしれない。
なお、22年1〜9月における米国のLNG輸出量は、同国史上初めて「世界一」となった。言うまでもなく、パイプライン停止を受けて欧州向けが急増したからである。米英の石油大手にとって、欧州の石油・天然ガス市場を取り戻す野望は現実になりつつある。
政治的にも、ウクライナ紛争が長期化・泥沼化したところで、米英へのデメリットはあまりない。紛争が長引けば長引くほど、「力による現状変更」を行ったプーチン大統領は国際的に孤立し、国内でも支持を失っていくからだ。
米英にとってウクライナ紛争とは、20年以上にわたって強大な権力を保持し、難攻不落の権力者と思われたプーチン大統領を弱体化させ、あわよくば打倒できるかもしれない好機である。だからこそ、ウクライナ紛争を積極的に停戦させる理由がないのだ。
ウクライナ紛争が始まる前からロシアは不利な状況にあった
この連載で繰り返し主張してきたが、東西冷戦終結後、約30年間にわたってNATOの勢力は東方に拡大してきた。その反面、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退した。
大きな視点で見れば、ウクライナ紛争が開戦する前の段階で、ロシアは国際的に不利な状況にあったといえる。
ウクライナ紛争をボクシングに例えるならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたロシアという名のボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものだ。
さらに、ウクライナ紛争開戦後、それまで中立を保ってきたスウェーデン、フィンランドがNATOへ加盟申請し、すぐに承認された(第306回・p2)。ウクライナ紛争中に、NATOはさらに勢力を伸ばしたといえる。
万が一、これからロシアが攻勢を強めてウクライナ全土を占領したとしても、「NATOの東方拡大」「ロシアの勢力縮小」という大きな構図は変わらない。世界的に見れば、ロシアの後退は続いており、すでに敗北していると言っても過言ではないのだ。
米英にとって、さらに有利なことがある。ロシアはウクライナ紛争が長引けば長引くほど、密接な関係にあるとされる中国や北朝鮮に関与する余力を失うことになる。
東アジアでは現在、中国による台湾への軍事侵攻や北朝鮮の核実験を巡り、予断を許さない状況が続いている。筆者はかつて、もし今後の世界で「新冷戦」があるならば、その主戦場が北東アジアになりそうだと論じたこともある。
それほど緊迫した状況下で、ロシアが中国・北朝鮮との関係性をさらに強めると、西側諸国との「分断」がさらに進むことが懸念される。
だが、ロシアが政治的・経済的・軍事的なリソースをウクライナ紛争に割いている限り、その危険性は低下する。だからこそ、ウクライナ紛争が長期化することは米英にとって大きなメリットがある。
あくまでこの紛争に限れば、すでにロシア優位は揺るがない状況だ。にもかかわらず、米英はウクライナへの武器供与を続けて“延命”を図っている。その背景には、こうした思惑があるのではないか。
ウクライナ紛争の行く末を見届ける上では、米英による支援の「さじ加減」も大いに注視すべきだといえよう。
●ゼレンスキー、東部バフムートで「作戦を継続」 専門家は撤退の可能性も指摘 3/7
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6日、東部の前線となっているバフムート市を守るための作戦は今後も続くと述べた。ウクライナ軍の上級大将もこの方針を支持しているという。バフムートをめぐっては、西側の複数アナリストが先週末、ロシア軍の接近に伴いウクライナ側が一部部隊を撤退させるだろうとしていた。
ゼレンスキー氏はバフムートについて、複数の上級大将と協議したと明らかにした。
「(上級大将からは)撤退ではなく(防衛を)強化するとの回答があった」
「司令部は全員一致でこの立場を支持した。他の立場の者はいなかった。私は司令官に対し、バフムートにいる我々の仲間を助けるために適切な部隊を見つけるよう伝えた」
ゼレンスキー氏のコメントに先立ち、ドイツ紙ビルトはウクライナ政府筋の話として、ヴァレリー・ザルジヌイ総司令官が数週間前、作戦をめぐりゼレンスキー氏と意見が合わず、バフムートからの撤退を推奨していたと報じていた。
同紙によると、大半の防衛隊はザルジヌイ氏と同じ考えだったという。
また先週末には、米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が、ウクライナ軍はロシア側に「多くの人的損害を与え続け」つつ、おそらく「戦闘からの限定的撤退」を行っていると指摘している。
消耗戦続く
ロシア側は数カ月にわたりバフムートの占領を狙っており、ウクライナとロシアは過酷な消耗戦で大きな損害を被っている。
地元当局者によると、ここ数日は市街戦が起きているという。
しかし、バフムートのオレクサンデル・マルチェンコ副市長は先週末、ロシアはまだ街を掌握していないと、BBCに語っていた。
こうした中、ロシア軍の作戦に加わっている、同国の民間雇い兵組織「ワグネル・グループ」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、弾薬が不足していると訴えている。ワグネルの戦闘員とロシア正規軍をめぐっては、両者の間に何らかの摩擦が生じているとみられている。
プリゴジン氏は、自身の代理人がロシア軍の本部への出入りを禁じられたとも主張している。
ウクライナ紙ウクライナ・プラウダは、5日に前線を訪れたウクライナ陸軍部隊司令官オレクサンドル・シルスキー氏が、バフムートでの戦闘が「最高レベルの緊張」に達したと語ったと報じた。
「敵はワグネル部隊を先頭に追加投入している」、「我が部隊は、バフムート北部の我々の陣地を勇敢に守り、街が包囲されるのを阻止しようとしている」と、シルスキー氏は述べたという。
複数のアナリストは、バフムートには戦略的価値はほとんどないものの、ロシア政府に良い知らせを伝えるのに苦労しているロシア軍司令官たちにとって、重要な場所になっていると指摘する。
この街を占領すれば、ロシアは昨年9月に一方的に「編入」を宣言したウクライナ東部と南部の4州のうちのドネツク州について、全体を支配するという目標に少しは近づくことになる。
●ワグネル、武器を要求 「前線崩壊」警告、不協和音―ウクライナ 3/7
ロシアのウクライナ侵攻の一端を担う民間軍事会社「ワグネル」創設者エブゲニー・プリゴジン氏は5日、ウクライナ東部の激戦地バフムトの情勢に関し、最前線で戦うワグネルの部隊により多くの武器を与えるようロシア軍に要求した。プリゴジン氏と軍の不協和音が再び公然化した。
バフムトは、プリゴジン氏らが「実質的に包囲した」と主張したまま制圧されていない。深刻な武器不足が停滞の背景として指摘される。
ロイター通信によると、プリゴジン氏は通信アプリ「テレグラム」に動画を投稿し「(武器不足の)理由を探そう。よくある官僚主義なのか(軍や政府のワグネルへの)裏切りなのか」と不満を口にした。「ワグネルが今、バフムトから退却したら全ての前線が崩壊する。(その結果)ロシアの国益を守る全編隊にとって状況は一層悪くなる」と警告。戦線維持には、ワグネルへの武器の供給が不可欠だと訴えた。
プリゴジン氏は、これまでにもしばしば正規軍や国防省を批判し、軍や政界との不協和音は、足踏みを続ける侵攻の舞台裏をのぞかせてきた。
交通の要衝バフムトは、ドネツク州北部掌握の足掛かりとなる。ロシアの部隊が犠牲を顧みない猛攻を繰り返している。守勢のウクライナ側は、地元部隊司令官が状況を「地獄のようだ」と表現した。撤退命令は出ていない。「防衛は続いている」と主張している。
ヨルダンを訪問したオースティン米国防長官は6日、今後の展開は見通せないと述べつつ「戦略的と言うよりも象徴的な意味が大きい」とバフムト攻略の意味を読み解いた。ただ「バフムト陥落がロシア軍の次の攻勢につながるとは必ずしも言えない」と語り、甚大な犠牲を出し続けるロシアの戦術への評価は低い。
一方、米シンクタンク戦争研究所は5日の戦況評価で「ウクライナの部隊が(バフムトを南北に流れる)バフムト川の東側堤防の陣地から退く動きがある」と分析した。ただ「限定的な戦術上の撤退」とみられ、完全撤退の意図があるか判断は時期尚早と指摘していた。
●米国防長官、ウクライナ・バフムト陥落でもロシアの形勢逆転「意味せず」 3/7
アメリカのオースティン国防長官は6日、激戦が続くウクライナ東部のバフムトが陥落しても、ロシアに形勢が逆転するわけではないとの認識を示しました。
「バフムトは戦略や作戦というよりも、象徴的な価値がある。バフムトの陥落はロシアが戦闘の潮目を変えることを必ずしも意味しない」(オースティン国防長官)
ウクライナ東部の要衝(ようしょう)、バフムトの攻防について、オースティン国防長官は練度や装備が不十分なロシア軍が多くの犠牲を払いながらも、この7カ月間で大きな進展が見られなかったとして、陥落するかどうかは未知数だと述べました。
そのうえで、バフムトが陥落してもロシア軍が戦闘の主導権を取り戻すことを必ずしも意味せず、ウクライナ軍がバフムト西部に部隊を再配置しても、戦略的な後退とはみなさないとの認識を示しました。
バフムトの攻防をめぐっては、アメリカのシンクタンク、戦争研究所が5日、包囲網を狭めるロシア軍に対し、ウクライナ軍が段階的に撤退を始めた可能性を指摘しています。
●天然ガス市場、ウクライナ戦争で根本的変化=米シェブロンCEO 3/7
米石油大手シェブロンのマイク・ワース最高経営責任者(CEO)は6日、ロシアのウクライナ侵攻によって世界の天然ガス市場に石油市場よりも長期的な根本的変化が訪れていると述べた。
エネルギー業界の国際会議「CERAウィーク」で、欧州はロシアのガス供給への依存から脱却し、将来もそれを変更する意向はないと指摘。ロシアから欧州に天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム」での爆発により、その変化は長期化するとした。
また、ロシア産石油はなお市場に出回っているが、制裁を課していない国にロシアの原油や燃料を輸送する距離が長いためコストが異なっていると言及。そのため、石油市場と物流が逼迫しており、予期せぬ供給の混乱に脆弱になっているとした。
さらに安全かつ手頃な価格の供給を維持すると同時に将来の低炭素産業へのエネルギー移行を管理することは「史上最大の課題の一つ」とし、無秩序なエネルギー移行は「痛みを伴う混とんとした状態」になり得るとした。
●ウクライナ 東部拠点バフムト防衛作戦継続 徹底抗戦の構え示す  3/7
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、ウクライナ側の拠点の1つ、東部のバフムトを包囲しようと攻撃を強めています。これに対し、ウクライナ側は、防衛作戦を継続し、抗戦していく構えを改めて示し、依然として激戦が続いています。
ロシア側は、東部ドネツク州の掌握をねらい、ウクライナ側の拠点の1つ、バフムトを包囲しようと攻撃を強めています。
バフムトについて、ウクライナ軍の前線の部隊に所属する報道官は6日、地元メディアに対し、「厳しい状況で、ロシアは絶えず攻撃している。しかし防衛を続け、部隊は勇敢に街を守っている」として、防衛を維持していると強調しました。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、軍や政権の幹部らと会議を開き、バフムトについて、防衛作戦を継続し、態勢をさらに強化することを確認したと表明し、抗戦していく構えを改めて示しました。
一方、ロシア側でバフムトに部隊を投入する民間軍事会社ワグネルのトップは6日、SNSで、必要な弾薬が届いておらず軍に協力を拒否されたと批判し、ロシア軍とワグネルの間で確執が深まっていることもうかがえます。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は5日の分析で、バフムトの状況について、ウクライナ側が部隊の一部の撤退も視野に入れた動きを見せているとしながらも、「一気に撤退することは考えにくい。ロシア軍を疲弊させるため市街戦を続けながら徐々に撤退する可能性はある」と指摘しました。
さらに、ロシア側がたとえバフムトを掌握したとしても、ドネツク州内の他の拠点への攻撃に展開する人員や装備は残っていないという見方も示しています。
●誰もプーチンを擁護しないが、欧米諸国も支持しない─グローバルサウス 3/7
毎年2月に世界各国の首脳が集まって、外交や安全保障を話し合うミュンヘン安全保障会議。今年の話題を独占したのは、当然、ウクライナ戦争だった。ただ、出席者の間には、2つの重要なギャップがあるように感じられた。
第1のギャップは、この戦争に関する幅広い認識や、好ましい対応策に関する欧米諸国とグローバルサウス(途上国の大半が位置する南半球)の見解の違いだ。
欧米諸国のリーダーたちはウクライナ戦争を、現代の世界でダントツに重要な地政学的問題と見なすきらいがある。アメリカのカマラ・ハリス副大統領は「世界の隅々にまで影響を及ぼす」問題だと語り、ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は、ロシアの完全な敗北と撤退以外の結果は「国際秩序と国際法の終焉」を意味すると主張した。
つまり、ウクライナ戦争には、法の支配や自由世界の未来が懸かっているというのだ。だから、ウクライナが迅速かつ断固たる勝利を収められるように、必要な武器や援助をいくらでも提供するべきだと、彼らは主張する。
だが、欧米諸国以外の世界の考えは違う。もちろん、ロシアのウクライナ侵攻や、ウラジーミル・プーチン大統領を擁護するリーダーはいなかった。だが、インドやブラジル、サウジアラビアをはじめとする「それ以外の国々」は、欧米主導の対ロシア制裁に参加していないし、この戦争をさほど終末論的に見ていない。
これはそんなに意外な反応ではない。彼らにしてみれば、法の支配や国際法の遵守を強いる欧米諸国の態度は偽善にほかならず、自分たちが道徳的優位にあるかのような押し付けに憤慨している。
そもそも、欧米諸国が遵守を強いる国際法は、欧米諸国が作ったものであり、都合が悪いときは平気で踏みにじってきた。2003年のアメリカのイラク侵攻がいい例だ。あのとき法の支配に基づく秩序はどこにあったのかと、欧米以外の国は考えているのだ。
クリミアより気候変動
グローバルサウスの国々は、ウクライナ戦争の行方が21世紀の世界を決定付けるという欧米の主張にも納得がいかない。彼らに言わせれば、クリミアやドンバスの運命よりも、自国の経済発展や気候変動、移民、テロ、中国やインドの台頭のほうが、よほど人類の未来に大きな影響を与える。
大体ウクライナ戦争は、食料価格の高騰などグローバルサウスに大打撃を与えており、勝利するまでウクライナに戦争を続けさせるよりも、早く戦争を終わらせることのほうが、これらの国々にとっては重要だ。
前述したように、だからといってグローバルサウスがロシアを支持しているわけではない。ただ、これらの国には独自の国益があり、彼らはそれを重視した政策を取りたい。これはウクライナ戦争があろうがなかろうが、欧米諸国とそれ以外の国々の間の溝は続くことを意味する。
ミュンヘンで気が付いたもう1つの大きなギャップは、ウクライナ戦争の行方について政府高官らが表向きに示す楽観論と、非公式な場で見せる悲観論の差だ。ハリスやベアボック、アントニー・ブリンケン米国務長官らが登壇したメインイベントでは「西側」の結束や最終的な勝利など威勢のいい言葉が相次いだ。
ミュンヘン会議の直後に、ジョー・バイデン米大統領がウクライナを電撃訪問してウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会ったときもそうだった。まだ厳しい日々が続くだろうが、やがて手にする勝利に焦点が当てられていた。
だが、非公式の場で交わされた会話は、もっと暗いものだった。今後1年間、どんなに莫大な支援をウクライナに与えても、戦争が早く終わるとか、ロシアに奪われた領土(クリミアを含む)をウクライナが奪還できると語る人はいなかった(ただし筆者が出席した非公式ミーティングに、主要国のトップクラスの政府高官はいなかった)。
実際、最新鋭の戦車や陸軍戦術ミサイルシステム、戦闘機など、より致死力の高い武器の援助を求める声が高まっているのは、ウクライナの現状が主要メディアが報じるよりもひどいという認識を反映しているのかもしれない。
筆者が話を聞いた人のほとんどは、過酷な膠着状態が続き、ひょっとすると数カ月後に停戦に至る可能性があると言っていた。つまり欧米のウクライナ援助が目指しているのは、勝利ではない。本当の目標は、いざというときにウクライナが停戦交渉を有利に運べるようにすることだ。
次期米大統領選にも影響
表向きの楽観論と、非公式な場で聞かれる現実主義的な見解のギャップは、なんら驚くべきことではない。
戦争中の国のリーダーは明るい展望を力強く語り、国民の士気と同盟国の結束を維持する必要がある。また、自分たちは勝利できると自信を示し、何が何でも戦い抜くと断言することで、敵に目標の下方修正を強いる必要もある。たとえ交渉に応じるべき時だと思っても、それを口にすれば、交渉における自らの立場が弱くなり、希望以下の結果を招くことになる。
筆者が心配なのはこの点だ。バイデン政権のウクライナを支持する言葉は、どんどん壮大なものになっており、ハリウッド映画的なハッピーエンドを約束するようになった。
バイデンのウクライナ訪問は、彼のバイタリティーと、ウクライナを支持する決意をアピールする大胆な行動だった。だがそれは内容的にも、視覚的にも、バイデンの政治生命をこの戦争の結果に直接結び付けることになった。
もし、バイデンが約束を実現できなければ、今は説得力があるように見えるアメリカのリーダーシップが、来年には輝きを失っているだろう。
ロシアの侵攻から2年目となる2024年2月にも、戦況が膠着状態にあり、ウクライナが破壊され続けていたら、バイデンは支援を一段と強化するか、次善の策を探すプレッシャーにさらされる。これまでの壮大な約束を考えると、完全な勝利以外のものは失敗に見えてしまうだろう。
さらに、中国がロシアへの支援強化を決めたら、バイデンは世界第2位の経済大国に追加制裁を科さなければならない。それは新たなサプライチェーン問題を引き起こし、現在進んでいる経済の立て直しが危うくなる。
そうなれば、24年の米大統領選で、共和党大統領候補の座を狙う面々(そのうちの1人は特に)は、舌なめずりして喜ぶに違いない。
●欧州、原発回帰鮮明に エネルギー安保優先―ウクライナ情勢が影 3/7
欧州諸国で原子炉の新設や稼働延長の動きが相次ぎ、原発回帰が鮮明になっている。ここ数年、脱炭素化の流れの中で「クリーンで安定的な電源」と原発を再評価する機運が高まっていたところに、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー安全保障が優先課題に浮上。政策の見直しが加速した。だが、急な方針転換に産業界が対応するのは難しく、専門家は「すぐに原発が増えることはない」と指摘する。
昨年末に脱原発を完了するはずだったドイツ。安価で安定した天然ガス調達先として依存していたロシアからの供給がウクライナ侵攻後に止まった影響で、完了を今年4月まで先送りした。エネルギー価格上昇による広範な物価高で景気が冷え込む中、1月には閣僚の一人が稼働延長の議論を求めるなど、「脱・脱原発」(有力誌シュピーゲル)論がくすぶる。
2025年の脱原発を目指していたベルギーは昨年3月、7基ある原発のうち2基の稼働を35年まで延長すると発表。デクロー首相はウクライナ情勢を念頭に「地政学的な動乱の中、化石燃料依存からの脱却を後押しできる」と説明した。
オランダは35年までに2基を新設する方針。昨年秋に8年ぶりの政権交代があったスウェーデンでは、中道右派連立政権が原発新設に向け法改正に動きだした。
一方、老朽原発が多い英国は昨年、30年までに最大8基を新設する計画を打ち出した。フランスも35年の一部稼働を目指し6基新設する。発電量の6〜7割を占める「堅固な原子力」(マクロン大統領)を電源に活用し、次世代エネルギーと期待される水素の製造で世界をリードしたい考えだ。
気候変動対策に力を入れる欧州連合(EU)は、脱炭素に貢献するエネルギーとして条件付きで原子力発電を認定。今年1月に新規則が発効し、原発事業者にとって大きな壁である資金調達が容易になった。
ただ、原子力政策に詳しいカーネギー国際平和財団のマーク・ヒッブス氏は、こうした動きを欧州の「原発ルネサンス」と呼ぶことには懐疑的だ。欧州の原発産業の中心であるフランスの事業者は他国の事業を手掛ける余力はないとみられ、「(欧州全体では)投資が進まない可能性がある」と語る。また、ロシア軍がウクライナ南部のザポロジエ原発を占拠したことで、有事への備えの難しさが浮き彫りとなった。欧州の原発回帰には課題も多い。
●中国・秦剛外相がロシアへの武器提供を否定「責任追及は受け入れられない」 3/7
中国の秦剛外相は7日の会見で、ウクライナ情勢をめぐってロシアへの武器提供を否定したうえで、「中国への責任追及は受け入れられない」と反発しました。
中国・秦剛外相「中国は危機の製造者でもなければ当事者でもなく、紛争のどちら側にも武器を提供していない」
秦剛外相はこう述べたうえで、ロシアへの武器提供を警戒するアメリカを念頭に「中国への責任追及や制裁の脅しは受け入れられない」と反発しました。
そのうえで、「制裁や圧力では問題を解決できない」と述べ、ロシア側に制裁を科す欧米などの対応を批判しました。
米中関係については「アメリカの対中認識は大きくずれている」と主張し、気球撃墜をめぐる問題では「過剰な反応で外交的な危機を作り出した」としてアメリカ側を非難しました。
また、台湾問題では「越えてはならないレッドラインがある」としてアメリカの関与をけん制したうえで、台湾統一のため「あらゆる必要な措置をとる選択肢を留保する」として、武力行使を放棄しない姿勢を改めて示しました。
また、日中関係については「善隣友好を望む」とする一方、福島第一原発の処理水の海洋放出については「日本側に責任ある方法でこの問題を処理するよう求める」とクギを刺しました。
●ロシアのサイバー攻撃がウクライナにまるで通用しない意外な理由 3/7
ロシアはウクライナに軍を進めるかたわら、サイバー空間でもウクライナを攻撃しているとされる。だが、テレビ東京の豊島晋作記者は「ロシアのサイバー攻撃のレベルは世界有数といわれるが、今回の戦争では実力をまったく発揮できていない」という――。
「実力」をまるで発揮できていない
もともとロシアは、サイバーセキュリティの世界ではレベルが高いことで知られていた。IT人材が豊富で、サイバー空間での存在感も大きい。特に他国への攻撃では、非常に先端的な技術を駆使している様子が散見されてきた。
ところが今回の侵攻に関しては、その実力を全くと言っていいほど発揮できていない。実際の戦闘でも苦戦が伝えられるロシア軍だが、サイバー空間でも目立った成果を挙げていないのだ。
ロシア側が以前からウクライナのネットワーク上にマルウェアのような破壊プログラムを送り込み、潜ませていたことは間違いない。開戦と前後してそれを稼働させ、ウクライナ国内を混乱させるとの観測もあったが、結局そのようなことは起こらなかった。
ロシアはなぜサイバー戦でも苦戦しているのか?
想定された混乱の一つが、ウクライナの鉄道システムへの攻撃だ。以前からの噂どおり開戦前後に実行されたようだが、鉄道システムは破壊されず、大きな混乱も起きなかった。避難民の輸送にウクライナの鉄道が使われたことはよく知られているが、送り込まれた破壊型プログラムをウクライナ側が解析するなどして防衛したと考えられている。
逆に今回はウクライナ側のサイバー部隊あるいは、ウクライナに味方するハッカー集団の攻撃に注目が集まった。ロシア政府の支援を受けるロシア人著名ハッカーやニュースキャスターの個人情報、メールのやりとりなどが、ネット上に数十テラバイトという規模で大量流出したり、ロシア軍の装備品をベラルーシ経由で運ぶ貨物列車が遅れたりするなどの事態が発生している。
なぜ、サイバー戦については高度な技術を持つはずのロシアが、今回苦労しているのか。それはサイバーセキュリティ業界でも謎とされている。ただ意外なことに、第一に考えられている要因はロシアの“慢心”だ。
「2014年から大きな進歩があったようには見えない」
2014年、ロシアはクリミア半島を強引に併合した。これは単に軍事力だけによるものではなく、現地のロシア語系住民の扇動、特にサイバー戦や情報操作、ネット空間での情報の遮断による人間の集団心理の誘導を組み合わせて行われた。まさに「ハイブリッド戦争」の成果とされたのだ。
行政施設や軍事施設、報道機関などの物理的制圧は軍の特殊部隊などが実行したが、扇動されたロシア語系住民の支持を受け、ロシアはわずか3週間ほどで、200万人以上が住んでいたクリミア半島をウクライナから奪い取ったのである。
その後に始まった東部ドンバス地域での過去の戦闘でも、ロシアはサイバー攻撃によってウクライナ軍の通信や電子装備を使えない状態に追い込んだ。翌2015年にも、電力システムを攻撃して大規模な停電を起こさせるなど、ウクライナ社会に打撃を与えている。
「こうした成功体験のためか、今回のウクライナ侵攻で確認されているロシアのサイバー攻撃は、2014年当時から大きな進歩があったようには見えない。だから有効な破壊もできていないのではないか」と、サイバーセキュリティソフトウェアの開発を手がけるトレンドマイクロの岡本おかもと勝之かつゆき氏は分析する。あまりに華々しい結果を出したため、慢心に陥ったというのだ。
ベラルーシ部隊とも連携がとれていない?
逆に、ウクライナ側はこの敗北から学んでいた。サイバーに関する知識・技術を高めるため、世界最高のサイバー攻撃・防御能力を持つアメリカのNSA(国家安全保障局)など西側の専門家を招いて、軍や情報機関がトレーニングを受けたとされている。このアメリカの支援の力は大きく、それが今回の“勝利”につながったのだろう。仮にロシア側が果敢に新手の攻撃を仕掛けたとしても、ウクライナ側がそれを完璧かんぺきに防御したとすれば、攻撃自体が表に出ないこともあり得る。
また、今回のロシアからのサイバー攻撃は、ベラルーシのハッカー部隊と合同で行っているという見方がされている。サイバーセキュリティ業界では、何らかの事情でこの両者の連携が取れておらず、本来の力を発揮できていなかったのではという推測もある。
<得意なのは軍事パレードだけ…「軍事力世界2位」のロシア軍はなぜこれほどまでに弱いのか>でも述べたとおり、ロシア軍は初戦で部隊間の連携がうまくとれていなかったが、サイバー戦においても同じ問題を抱えていた可能性もある。
ウクライナがSNSで「サイバー義勇兵」募集
サイバー戦は、国家単位で行われるだけではない。トレンドマイクロのようなサイバーセキュリティ企業は多数あるし、MicrosoftやESETのようなソフトウェアメーカーも、顧客を守る観点からマルウェアの情報を公表し、事実上、ウクライナのサイバー防衛に協力している。政府と直接セキュリティの契約を結んでいる企業も複数あると見られる。
また企業のみならず、混乱に乗じる形で複数のサイバー犯罪集団、いわゆるハッカー集団も入り乱れている。例えば世界的に最も有名なハッカー集団アノニマスは、完全にウクライナ側に立ってロシアへのネットワーク攻撃を行っている。サイトをダウンさせたり、情報を窃取して暴露したり、テレビのシステムをハッキングしてウクライナのプロパガンダ映像を流したり、といった具合だ。
ウクライナ政府も、SNS上で「IT Army of Ukraine(ウクライナIT軍)」としてハッカーを募り、ロシアの政府や企業のサイトへの攻撃を呼びかけている。いわば国家が世界からサイバー義勇兵を集めているわけで、こういう事例は過去にない。
犯罪を大目に見てもらう代わりにロシア側につく組織も
一方、ロシア側に加担しているハッカー集団も存在する。その一つが「Conti」と呼ばれる、ランサムウェアの使い手だ。かねてロシアに拠点があると噂されていたが、今回の件でその疑いはかつてないほど強まった。
「ランサムウェアを使うハッカー集団は、もともとロシアもしくはロシア周辺に拠点を置いていることが多い」と岡本氏。サイバー犯罪をロシア当局に大目に見てもらう代わりに、ロシア政府に協力しているとアピールしている可能性があるという。
ただ、彼らの内部で仲間割れがあったのか「我々はどこの政府にも味方しないが、ロシアに攻撃があった場合には反撃する」というよくわからないメッセージも発している。ハッカー集団の特性として、ロシアに拠点があってもロシア人ばかりとはかぎらない。中には反発する者もいたと見られる。
もう一つ、気になるのがNATO、とりわけ米軍とサイバー戦の関係だ。全面戦争への警戒から、リアルの戦闘には建前上、関与しない姿勢を貫いているが、開戦直後の時点ではNATOのサイバー軍が大きく動いた形跡はないとされてきた。もしサイバー攻撃を仕掛ければ、ロシアへの戦闘行為と見なされて反撃を受けたり、場合によっては物理的な報復に発展したりするリスクがあるからだ。
米軍もサイバー攻撃を仕掛けたことを認めた
しかし6月、米サイバー軍のポール・ナカソネ司令官が、ロシアに対してサイバー攻撃を実施していたことを明らかにした。詳細は明らかにしなかったが、開戦後、アメリカがロシアへのサイバー攻撃を認めたのは初めてのことと見られる。サイバー領域では「アメリカはロシアに対して行動する」という明確なメッセージであり、その後、ロシアからの報復があったのかも注目される。
なおNATOの根拠である北大西洋条約の第5条には、「締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける1又は2以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃と見なす」とある。NATOのストルテンベルグ事務総長は、この条文はサイバー攻撃にも適用されるという見解だが、攻撃の程度にもよるだろうし、加盟国の間でも議論が分かれるだろう。
本気になればロシアのインフラを止めることもできる
そのNATOで最大のサイバー攻撃能力を持つのは、やはりアメリカだ。「アメリカのサイバー攻撃能力は世界最強であり、どの国も決して勝てない」というのがサイバー業界の一致した見方だ。アメリカの情報機関はシステムの弱点を突くさまざまな攻撃ツールを保有し、本気になれば相手国に致命的なダメージを与えることができると見られる。都市中枢の社会インフラや交通インフラを止め、社会を混乱に陥れることも、アメリカにとっては難しくないとされる。
その片鱗へんりんを見せたのが、2017年に起きたランサムウェア「WannaCry」の流出事件だ。
これは非常に強力なランサムウェアであり、全世界のインフラや企業が多大な被害を受けた。WannaCry自体はハッカー集団により開発されたが、彼らはワーム活動(感染拡大活動)にアメリカのNSAから流出した「EternalBlue」や「DoublePulsar」といったツールを悪用している。
もちろんEternalBlueやDoublePulsarのみならず、NSAは他にも強力なツールを多数持っている可能性がある。もしそれらを駆使してロシアに攻撃を加えたとしたら、ロシアの社会に甚大な被害が出ることは間違いない。 
●プーチンの「静かな動員」とは──ロシア国民の身代わりにされる外国人 3/7
・兵員不足を補うため、ロシア軍は外国人のリクルートを加速させている。
・その背景には、徴兵に対する国民の批判・不満があまりに強く、ロシア政府がそこに一定の配慮をせざるを得ないことがある。
・いわばロシア人の代わりにされる外国人の多くはロシア在住の外国人労働者で、その弱い立場から逃れることも難しい。
「国民の反発を招かずに兵力を補充する」という離れ技を演じる必要に迫られたプーチン政権は、外国人や移民に目をつけている。
軍務につけば給料は5倍
ロシア政府は1月、軍の改革を発表した。それによると、正規軍の兵員が現状の135万人から150万人に増やされる。
そこには長期化するウクライナでの戦闘による深刻な兵員不足をうかがえるが、リクルートの対象はロシア人よりむしろロシア国内に居住する外国人とみられる。
もともとウクライナ侵攻が始まる以前からロシア軍は、ロシア語を話せるなどの条件を満たす外国人を受け入れていた。軍務を終えた者は優先的に国籍が取得できる(この手法そのものはロシアだけでなくアメリカなど欧米各国でも珍しくない)。
しかし、ウクライナ侵攻後、兵員不足が明らかになるにつれ、外国人リクルートは加速してきた。昨年9月、ロシア軍は勤務期間を5年間から1年間に短縮するなど、外国人の入隊に関する規制を緩和した。
リクルートの主な対象になっているのは、周辺の中央アジア、カフカス、中東などからの外国人労働者で、なかでもロシア国内に約300万人いるとみられるタジキスタン、キルギスタン、ウズベキスタン出身者が中心とみられる。外国人兵士に支給される給与は、他の仕事の平均の5倍ほどといわれる。
その結果、例えば昨年9月には中央アジアのタジキスタン出身者1500人からなる部隊がウクライナに派遣されている。
ロシア政府の危機感
外国人の利用は正規軍だけでなく、ロシア政府の事実上の下部組織である軍事企業ワグネルでも同じだ。
ワグネルなどで雇われる外国人戦闘員も2014年のクリミア危機以降、ウクライナで活動してきたが、その人数はウクライナ侵攻後、中東や中央アジア出身者を中心に急増しているとみられ、去年3月の段階でロシア国防省は1万6000人と発表していた。
1月に発表された軍の拡大にともない、こうした外国人リクルートがさらに加速するとみられるわけだが、それは一般のロシア国民を戦場に駆り立てるのが難しくなっていることと表裏一体の関係にある。
昨年9月にロシア政府は、30万人を徴兵できる「部分的動員」を発令したが、同じような動員令を再び発出することは難しいとみられる(1月の軍制改革は「職業軍人の増員」であって市民の動員とは異なる)。国民の反発があまりに強いからだ。
それをうかがわせるのが、その直後の2月1日に公開された動画だ。ロシア政府が公開したこの動画では、軍高官がプーチンに「9000人が'違法に'徴兵された」と報告・謝罪する様子が流された。
この動画では、部分的動員そのものが間違っていたとはいっておらず、あくまで手続に問題があったといっているに過ぎない。また、SNSなどでの政権批判に対する取り締まりは、むしろエスカレートしている。
それでも、「あの」ロシア政府・軍が自ら失策を認めたことは示唆的だ。戦争に駆り出されることへの批判や不満がそれだけ国民の間に充満し、ロシア政府がこれに強い危機感を抱いていることをうかがわせるからである。
国民の不満を買わない兵力増強
もともとロシアでは保守派を中心に「部分的動員」ではなく「総動員」を求める声も大きかった。
しかし、国民全てを問答無用で戦争に駆り立てる政治的リスクは高い。1916年のロシア革命は、第一次世界大戦で経済が疲弊し、生活が困窮したことへの不満を大きな背景にしていた。
だからこそ、プーチンは部分的動員でお茶を濁したといえる。
それでも、部分的動員を受けてロシアでは抗議デモが加速しただけでなく、徴兵対象の20~30歳代男性を中心に数十万人が出国した。
いかなる「独裁者」も国内の支持を失って戦争を続けることはできない。異例ともいえる動画の公開は、「ロシア国民の不満を無視していない」というプーチン政権のメッセージといえる。
その一方で、ウクライナでの戦闘を続けるため、ロシア政府は兵員を確保する必要がある。そのなかで、国民の不満をできるだけ買わないで徴兵できる対象は限られてくる。
これまでロシアでは刑務所に収監されている受刑者がリクルートされてきたが、ワグネルは2月初旬、その中止を発表した。
特赦を条件に凶悪犯を戦場に送り出すことはもちろん、正規軍兵士の犠牲を減らすため「受刑者あがり」ほど不利な戦場に回す手法が、内外の悪評を買ったためとみられる。
その理由はともあれ、受刑者という「手駒」がなくなった以上、やはり一般の国民から不満を招きにくい人間としての外国人に、プーチン政権がこれまで以上に目を向けたとしても不思議ではない。
公式に不満が出にくい者を戦争に駆り立てる手法を、アメリカの戦争研究所は「静かな動員」と呼ぶ。
逃れられない外国人
ロシア軍に入隊する多くの外国人の出身国である中央アジア各国の政府は、「外国での戦闘に関わること」を禁じている。
それでも中央アジア出身者の間からロシア軍入隊が絶えない一因には、ロシアに対する経済制裁がある。
経済制裁で(西側が期待するほどでなかったとしても)ロシア経済がダメージを受けるなか、外国人労働者ほどレイオフされやすく、これは結果的にロシア軍入隊を後押ししてきたのである。
また、例えばタジキスタンの場合、GDPの約1/4はロシア在住者からの送金が占めるなど、出稼ぎ者の送金に依存する経済構造もある。
とはいえ、当然ながら入隊を望まない外国人も少なくない。そのため、ロシア政府は拉致同然に外国人や移民を入隊させることさえし始めている。
今年初頭から(ロシア人の出国は可能なのに)ロシア国籍を持たない中央アジア出身者に出国が禁じられたばかりか、軍の徴兵所への出頭が命じられる事案が頻繁に報告されるようになった。
さらに1月13日、ロシア検事総長は「ロシア国籍を取得した中央アジア出身者は軍務に就く法的義務を負う」と発言したばかりか、「他の者より優先的にウクライナに派遣されるべき」とも付け加えた。
このような露骨な差別的対応があっても、一般ロシア人からは不問に付されやすく、中央アジア各国の政府が公式に抗議することはない。
こうして無理やり駆り出された兵員で頭数を揃えることが戦術的にどれだけ意味のあることかは疑問だが、それと同時にロシア政府による「静かな動員」は、非常時にマイノリティほど不利な扱いを受けやすいことも象徴するといえるだろう。
●プーチン氏の「エネルギー秘密兵器」は元米銀行員  3/7
ロシアでは、西側の制裁で経済的支柱がむしばまれる中、石油・ガス会社の新市場開拓が急務となっている。そこで利益を上げ続けるために頼りにしているのが、37歳の元モルガン・スタンレー行員、パベル・ソロキン氏だ。
エネルギー次官を務めるソロキン氏は、ウラジーミル・プーチン大統領によって権力上層部にスピード登用された、西側に精通した若手テクノクラート幹部の一人。ロンドンで金融を学んだ同氏は、アフリカや中東でさまざまな取引の交渉を手掛けてきた。ロシア石油業界とサウジアラビア率いる石油輸出国機構(OPEC)との連携枠組み「OPECプラス」では、初期の発展に寄与した。
同氏の元広報官とロシア国営通信社の元記者によると、昨年ロシアが支配する黒海パイプラインの損傷による影響を誇張する上でも影響力を発揮した。この一件は、西側を警戒させ、石油価格を押し上げた。
ソロキン氏、ロシアのエネルギー省と大統領府はいずれもコメントの要請に応じなかった。
先月、ロシアの主力石油輸出品であるウラル原油について、企業の販売価格を市場に決めさせるのではなく、固定価格を設定する上でもソロキン氏が尽力した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。この決定により、資金不足の国庫に82億ドル(約1兆1140億円)の税収が入る見込みだ。
ソロキン氏らによる経済制裁のかじ取りによって、ロシアは今のところ厳しい経済的圧迫にさらされてはいるが、まだまひ状態には陥っていない。長期的な影響が定着するにつれ、その任務は一段と複雑さを増すだろうが、ウクライナで戦争が始まってから1年、彼らは西側の期待を覆してきたとアナリストらは指摘する。
商品(コモディティー)データ会社ケプラーの原油担当リードアナリスト、ビクトル・カトナ氏は、ソロキン氏が西側による制裁の影響を和らげるロシアの「秘密兵器」と化していると指摘する。多くのウクライナ同盟国が、西側で経験を積んだロシア大統領府の新世代の意思決定者が持つ専門知識を過小評価していたとカトナ氏は考えている。元スパイや同郷出身の実業家に長年囲まれてきたプーチン氏だが、英語が堪能で同氏の国家主義的イデオロギーに忠実なそうした新参者をますます頼りにするようになっている。
ソロキン氏は「旧ソビエト連邦には存在しなかったものの典型だ」とカトナ氏は言う。選択肢はあったが、ロシア政府で働くことを決めた「新しいタイプの若者の一人」だという。
ウクライナの戦争は、世界のエネルギー市場や長年の同盟関係を混乱させた。ロシアはかつて欧州をエネルギー製品の最上客とみなしていた。しかし現在では、その多くをインドや中国に輸出しており、それらの国は通常、市場価格よりも大幅な割引価格で購入している。こうした値引きの影響もあり、ロシア財務省のデータによると、1月の石油・天然ガス収入は前年同月比46%減となった。
その分を補うため、ロシアは新たな貿易相手を開拓する必要に迫られている。ソロキン氏らは、それにある程度成功している。ケプラーによると、ロシアの1月の原油輸出量は800万バレル超で、これは月間輸出量の上位5位内に入り、2020年4月以来の水準だ。ただし、概して1バレル=30ドル前後の割引価格で販売されている。
ソロキン氏は昨年9月、コンゴ共和国を訪れている。20時間のフライトを終えて首都ブラザビルに降り立つと、大統領に出迎えられた。
2日間にわたり、植民地時代に建てられた大統領府で黄金の椅子に座りながら、長い交渉の末に取引を成立させた。ロシアがコンゴに石油製品を供給する契約と、ロシア企業2社が全長625マイル(約1006キロメートル)のパイプラインを8億5000万ドルで建設する契約だ。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した文書や、この訪問について説明を受けた現・元政府当局者への取材で明らかになった。コンゴの石油省と同国政府にコメントを求めたが回答は得られなかった。
その前月には、ソロキン氏はアフガニスタンからの代表団とも会っている。同国は現在、かつて旧ソ連と戦ったイスラム原理主義組織「タリバン」に統治されている。この会談の報告を受けた元側近によると、ソロキン氏は燃料と引き換えにレーズンとハーブを取引するという申し出を受け、当惑していたという。その後、タリバン政府とロシア大統領府は、アフガニスタンにロシア産ガソリンを供給する契約を明らかにした。アフガニスタンの通商・産業を担当する省はコメントの要請に応じなかった。
事情に詳しい複数の関係者によると、ソロキン氏はペルシャ湾の小国バーレーンをロシア企業が供給する石油の貿易拠点にすることについても同国と協議した。税関記録によると、ロシアの石油取引の一部は昨年、同国で処理された。バーレーン政府はコメントの要請に応じなかった。
新体制
アレクセイ・サザノフ財務次官(39)もロシア大統領府内で頭角を現している一人だ。英オックスフォード大学で教育を受け、大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)のモスクワ事務所でソロキン氏と働いていた。現在、ロシアの急拡大する赤字を埋める手だてを見つける上で、ソロキン氏と共に重要な役割を担っている。
バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)の元アナリスト、デニス・デリュシキン氏は29歳でエネルギー省の調査部門責任者に就任し、原油価格の最大化を目指すOPEC諮問会議にロシア代表として出席している。
プーチン氏の最も影響力のある経済顧問、マクシム・オレシキン氏は仏銀行クレディ・アグリコル出身で、経済担当大統領補佐官に38歳で就任。制裁を回避するため、外国企業にロシア産天然ガスをドルやユーロではなくルーブルで購入させる戦略を主導し、成功させた。
ソロキン氏はモスクワでロシア人外交官の家庭に生まれ、キプロスで育った。ロシアに戻り、EYの会計士としてキャリアをスタート。26歳でロシアの民間銀行最大手アルファ銀行の上級アナリストとなり、その後、ロンドン大学で金融の修士号を修めた。
後にモルガン・スタンレーのモスクワ事務所に入社。2015年、エクステルとインスティテューショナル・インベスター誌のランキングで、ロシアと欧州・中東・アフリカ諸国の石油・ガス業界を担当するトップアナリストの一人に選出された。
モルガン・スタンレーの広報担当者はコメントを控えた。
若手行員時代を知る人たちによると、ソロキン氏は期待の新星と見なされていたが、よく現地のウクライナ料理店で昼食を取ったり、高級アジア風料理店に夕食に出掛けたりする気取らない同僚とも見られていた。その一方で、ロシアの政治に関して保守的、タカ派的な見解で目立ってもいたという。元同僚の一人は、同氏が1990年代のロシアの政治的開放に批判的だったと話す。また、「彼はロシアを再び偉大な国にしたがっていた」と話す別の元同僚もいる。
政界で頭角
2016年当時のエネルギー相で、現在は副首相を務めるアレクサンドル・ノバク氏がモルガン・スタンレーからソロキン氏を引き抜き、自身のグループのエネルギー研究所責任者に据えた。
ソロキン氏は、冷淡で知られるノバク氏と親しい関係を築いた。両氏を知る複数の関係者によると、ノバク氏はソロキン氏を「パベル」という名前にちなんだ「パシャ」という愛称で呼ぶようになり、モスクワ郊外の別荘で行うバーベキューに頻繁に招くようになった。
ソロキン氏はすぐにノバク氏の通訳として外交行事にも同行するようになった。
また、サウジアラビア・エネルギー相の長年の顧問であるアディーブ・アル・ヤマ氏や、OPECの事務局長を務めた故モハメド・バルキンド氏とも長年にわたる友情を築いた。アル・ヤマ氏にコメントを求めたが回答はなかった。こうした関係などを基に、ソロキン氏はノバク氏がOPECとの連携を計画する手助けをした。これが2016年のOPECプラスの創設につながり、ロシアは世界の石油市場でより大きな発言力を持つようになった。OPECプラスはすぐに減産を承認。石油価格を押し上げることに成功した。
プーチン氏は2018年、ソロキン氏に政府のためにどのようなことをしているのかと尋ねた。2人の会話を書き起こした大統領府の記録によると、ソロキン氏は「最近取り組んでいる大きなプロジェクトは、ロシアとOPEC諸国間で生産を制限する合意を取り付けることだ」と答えた。
プーチン氏は「君を昇進させる時だ」と言った。数日後、ソロキン氏はエネルギー次官に任命された。
ソロキン氏には揺るぎない愛国心がある。「子どもの頃からずっと外国に住み、学校に通ってきた。そしていつも祖国に帰りたいと思っていた」。大統領府の記録によると、同氏はプーチン氏にこう語った。
ソロキン氏は、ロシアのエネルギー業界を近代化する取り組みも主導している。近年、ロシアが世界最大の埋蔵量を誇る天然ガスを自動車燃料として補給するガスステーションを立ち上げたり、エネルギー消費を削減する国家計画を始動したりしている。
情報対策
ソロキン氏はエネルギー次官に就任するとすぐ、当時27歳のジャーナリスト、アルセニー・ポゴシャン氏を自身の広報官に起用した。
ポゴシャン氏はウクライナ前線に9月下旬に召集されることを知り、ロシアを離れ、今も戻っていない。
ポゴシャン氏によると、ソロキン氏は薄切りのパイナップルをつまんだり、ウオッカの代わりにウイスキーで祝杯をあげたりする欧米風の習慣や、民間企業のようなPR手法によってキャリア官僚の中で際立っていたという。「ユーチューブにも出たがったし、報道機関からの問い合わせに1時間以内に応じていた。それは刺激的だった」とポゴシャン氏は述べた。
ロシアと西側の緊張が高まるにつれ、ソロキン氏は報道機関からの質問に答えるのを拒否するか、何時間もかけて声明を出すようになり、近寄りがたくなっていったという。
昨年3月のある晩、ロシア政府系のカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)が、暴風雨で施設が損傷したとエネルギー省に連絡してきた。CPCは、日量120万バレルのカザフスタン産原油を黒海沿岸のロシアの港に輸送している。その原油の大半を米シェブロンとエクソンモービルが生産しており、両社はCPCの少数株式を保有している。シェブロンはコメントを控えた。エクソンモービルはコメントの要請に応じなかった。
ロシア国営タス通信が当時報じたところによると、CPCは事故について浮遊する管の一つが原因であり、大きな支障は生じていないと述べていた。
ソロキン氏は、エネルギー省から世間の反応を呼び起こし、この事故を世界的な出来事へと発展させる後押しをした。ポゴシャン氏とタス通信でエネルギー分野の報道を担当していたユリア・カザガエワ氏はそう明かす。カザガエワ氏はその後、ロシアを離れ、戦争に反対する声を上げている。
ポゴシャン氏は、事故の概要を説明する声明文の草案をソロキン氏に持っていったという。ソロキン氏は大統領府と話した後、厳しさが足りないと指摘した。
ソロキン氏は、その後12時間にわたり、警戒感を強めるため録画されたメッセージを編集するよう繰り返し要請したという。事故の潜在的な範囲と影響について触れた段落は、声明文の下から上に移動された。
「大統領府は西側を警戒させようとしていた」とポゴシャン氏は話す。ロシアのメディアは、その意図をくみ取った。
カザガエワ氏は、当初は比較的軽微な出来事だと知らされていたが、後に編集者から米国・中国・欧州市場が長期にわたって混乱するリスクを強調して報道するよう要請されたという。編集長は同氏にメールで、ソロキン氏らにコメントを求めるよう指示した。
タス通信はコメントの要請に応じなかった。
パイプラインを運営するCPCにコメントを求めたところ、過去の公式声明に言及した。CPCは当時、沖合の三つの積み込み地点のうち二つが暴雨風で被害を受け、修復に2〜4週間かかると述べていた。
ロシア国営テレビでは、ソロキン氏が損傷の修復には最長2カ月を要し、日量最大100万バレルの輸出が失われると警告していた。原油の国際価格は即時に5%上昇した。
ケプラーのデータは、2日以内にパイプライン基地からの積み出しが再開されていたことを示している。CPCは1カ月以内にフル稼働に戻ったと発表した。
●ウクライナの対ロシア戦争を変えた三つの兵器 3/7
ロシアのプーチン大統領が1年前にウクライナに軍を送り込んだ時、大半の観測筋はロシアが短期間で勝利を収めると予想した。
ロシア勝利を予想するこうした初期の見方が現実になることはなかった。専門家はウクライナ側の高い士気や優れた軍事戦術など、さまざまな要因を挙げるが、それだけでなく極めて重要なのが西側兵器の供与だ。
最近の報道では西側の戦車やパトリオット防空システムが戦争の帰趨(きすう)に影響する可能性が盛んに取り沙汰されているものの、これらのシステムはまだウクライナの戦闘に投入されていない。
ただ、既に戦局の変化につながった兵器もある。以下ではウクライナが使用して破壊的な効果を上げた三つの重要兵器を挙げる。
ジャベリン
開戦直後の時点では、ロシアの装甲車列が数日以内にウクライナの首都キーウ(キエフ)に入るものと双方の兵士が予想していた。
ウクライナ側は攻撃を鈍らせる手段が必要だった。そこで目を付けたのがジャベリンだ。ジャベリンは肩撃ち式の誘導式対戦車ミサイルで、ひとりで運用できる。
ジャベリンの魅力の一端はその使いやすさにある。レイセオン社とジャベリンを共同開発したロッキード・マーチンは「発射する際、砲手は選定した目標の上にカーソルを合わせる。ジャベリンの発射指揮装置はその後、発射前ロックオンの信号をミサイルに送信する」と説明する。
ジャベリンは「撃ちっぱなし」の兵器であり、運用者は発射するや否や、ミサイルがまだ目標に向かっている間に避難することができる。
侵攻初期のロシア軍は都市部に入る際、縦隊を維持する傾向にあったことから、撃ちっぱなし機能がとりわけ物を言った。ジャベリンの運用者は建物や木の後ろから発射し、ロシアが撃ち返す前に退散することができた。
ロッキード・マーチンによると、ジャベリンは発射後にカーブを描いて上昇し、上空から目標に向かって降下できるため、ロシアの戦車の弱点である水平面を狙うのにも優れているという。
この点は、砲塔が吹き飛ばされたロシアの戦車を捉えた戦争初期の写真からも確認できる。多くの場合、砲塔を吹き飛ばしたのはジャベリンだった。
実際、ジャベリンのインパクトは非常に大きく、バイデン米大統領が開戦2カ月半後にアラバマ州にある製造工場を訪れ、作業員のウクライナ防衛への貢献をたたえた程だ。
ジャベリンにはもう一つ利点があった。特に開戦当初に重要になった点だが、政治的に受け入れられやすかったのだ。
カナダ・ブロック大学のマイケル・アームストロング准教授はメディア「カンバセーション」で、「低コストで自衛目的に使われるジャベリンは、他国にとって供与しやすい」と説明。「対照的に、軍用機のように比較的高価な攻撃兵器の供与については各国政府の意見がまとまっていない」と指摘した。
ハイマース(HIMARS)
米陸軍における正式名称は「M142高機動ロケット砲システム」。米陸軍の説明では「フルスペクトラム、実戦で証明済み、全天候型、24時間365日稼働可能、高い殺傷力と反応性を備える装輪型の精密攻撃システム」としている。
長い説明だが、より分かりやすく言うと、HIMARSとはロケット弾6発をほぼ同時発射できるポッドを備えた5トントラックのことだ。爆発性の弾頭を前線のはるか後方に向けて発射した後、素早く移動して反撃を避けることができる。
「ジャベリンが戦争初期を象徴する兵器だとすれば、HIMARSはそれ以降の局面を象徴する兵器だ」。米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問は1月、そう指摘した。
HIMARSは「誘導多連装ロケットシステム(GMLRS)」と呼ばれる射程70〜80キロの弾薬を発射する。GPS誘導システムにより極めて高い正確性を実現し、狙った目標の約10メートル以内に着弾する。
イスラエル国防軍指揮幕僚大学のヤギル・ヘンキン教授は米海兵隊大学出版局に寄せた文章で、HIMARSには二つの重要な効果があったとの見方を示した。
一連の攻撃で「ロシアは弾薬庫をさらに後方に移すことを強いられた。これにより、前線付近で使用可能な火力が減少し、兵站(たん)支援が一層困難になった」とヘンキン氏。
さらに、長距離ロケット弾で橋などを攻撃したことで、ロシアの補給に混乱が生じた点も指摘した。
HIMARSシステムはロッキード・マーチンが米国で製造し、特許を取得している。
バイラクタルTB2ドローン
トルコが設計したバイラクタルTB2はウクライナ戦争で使用されたことにより、世界で最も知名度の高い無人航空機(UAV)の一つになった。
バイラクタルTB2は比較的安価で、既成の部品からつくることができる。高い殺傷力を有し、攻撃の様子を動画に記録する。
こうした動画には、バイラクタルTB2がミサイルやレーザー誘導ロケット弾、スマート爆弾でロシアの装甲車や大砲、補給線を破壊する様子が映っている。
「広く拡散しているTB2の動画は、Tik Tokの時代における現代戦の完璧な例だ」。米外交政策研究所のアーロン・スタイン氏は、大西洋評議会のウェブサイトでこう指摘した。
バイラクタルTB2は「魔法の兵器」ではないが、「性能は十分」(スタイン氏)だという。
スタイン氏はバイラクタルTB2の弱点として、スピード不足と防空システムへの脆弱(ぜいじゃく)性を挙げる。戦場の統計もそれを裏付けているように見える。オープンソースの情報サイト「Oryx」によると、ウクライナが受け取った40〜50機のTB2のうち、17機は戦闘中に破壊された。
ただ、スタイン氏によると、こうした機体損失を補って余りあるのが、低コストゆえに比較的簡単に補充可能という点だ。
実際、ウクライナでは開戦前からバイラクタルTB2の製造ラインを設ける計画が進行していた。このドローンを使用することで、任務遂行に当たるウクライナ人パイロットの命が救われた可能性がある。
ウクライナからの最近の報告を見ると、ロシア軍が対応方法を編み出したため、以前に比べTB2の重要性が薄れている可能性もある。ただ、TB2支持派は、ウクライナが窮地に追い込まれていた際にTB2が活躍した点を指摘する。
米海軍分析センターでロシア研究を手掛けるサム・ベンデット氏は戦争初期の時点でCNNに対し、ロシアを攻撃するバイラクタルの動画が「大きな士気向上要因になった」と述べ、「広報上の勝利」との見方を示していた。
をテーマにした音楽動画まで作成された。ウクライナ国民の間で、TB2がそれだけの地位を獲得したということだ。
●ウクライナ戦争、米の「見える手」がけん引=ロシア大統領報道官 3/7
ロシア大統領府(クレムリン)のぺスコフ報道官は7日、ウクライナでの戦争をけん引しているのは米国と非難し、ウクライナ危機が「見えざる手」に操られているとする中国の秦剛外相には同意しない考えを示した。
秦外相はこの日、「見えざる手」が「地政学的な計画のためにウクライナ危機を利用している」と指摘。できる限り早期に対話を開始するよう呼びかけた。
ぺスコフ報道官は、秦外相の発言を「無論これは冗談」とし、戦争を操っているのは「見えざる手ではなく、米国そして米政府の手だ」と強調。「米政府はこの戦争の終結を望んでおらず、戦争を続けるためにあらゆる手段を講じている。これは目に見える手だ」と述べた。
また「巨大かつ強力で、権威がある」中国が先に示したウクライナの和平現実を目指す仲裁案を精査し、中国政府と連絡を取っているとし、「われわれは中国側から耳にする全ての意見に注意を払っている」と述べた。
●ウクライナ バフムト撤退せず抗戦 ロシア側は兵力大きく損失か  3/7
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアとの激しい戦闘が続く東部のバフムトを巡り、撤退せず抗戦していく構えを改めて示しました。一方、バフムトの掌握に力を入れるロシア側は、精鋭部隊などの兵力を大きく失っているという見方も出ています。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、東部ドネツク州の掌握をねらい、ウクライナ側の拠点の一つ、バフムトを包囲しようと攻撃を強めています。
ロシアのショイグ国防相は7日開いた幹部会議で、バフムトについて「ここはドンバス地域におけるウクライナ軍の重要な防衛拠点だ。このまちを掌握すればさらに奥深くまで攻め入ることができる」と述べ、攻撃の手を緩めない姿勢を強調しました。
一方、ウクライナ軍の参謀本部は7日、「ロシア側は大きな損失にもかかわらず、バフムトや周辺を攻撃し続けている」としてバフムト北西の集落に向けて攻撃を激化させていると発表しました。
ゼレンスキー大統領は6日、「バフムトは、ドンバスの戦い全体で最も大きな成果をもたらし続けている」と述べ、バフムトから撤退せず抗戦していく構えを改めて示しました。
戦況を分析しているイギリス国防省は、7日、バフムトについて「ロシア側は、街の北部に向けて前進していたが、週末にかけてウクライナ軍が防衛線を安定させた可能性が高い」と指摘しました。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は6日の分析で、「バフムトでの戦闘は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの精鋭部隊を著しく弱体化させ、代替の難しい突撃部隊の一部を失っている可能性がある」としてバフムトの掌握に力を入れるロシア側が兵力を大きく失っているという見方を示しています。

 

●プーチン氏、ロシア任命のザポリージャ州トップと会談 3/8
ロシアのプーチン大統領は7日、昨年9月に一方的にロシアへの「併合」を宣言したウクライナ中南部ザポリージャ州のロシアが任命したトップ、エフゲニー・バリツキー氏と会談し、安全保障上の問題や志願兵による大隊が置かれている状況について協議した。ロシア大統領府のペスコフ報道官が明らかにした。
ペスコフ氏はロシア国営タス通信に「ザポリージャ州の発展、企業の経済の機能、その他の社会経済状況に関するものなど、さまざまな問題が協議された」と述べた。
同氏はまた、「バリツキー氏が大統領にスドプラトフ志願兵大隊が直面している問題を提起した」と明らかにした。
バリツキー氏は6日のクリミアの放送局とのインタビューで、志願兵による大隊が置かれている状況の「未解決の問題」が武器の受け取りを困難にしていると指摘した。
プーチン氏は昨年9月にウクライナ領土の5分の1近くを占めるルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの4州の併合を宣言。この前には併合の可否を問う、いわゆる「住民投票」を実施した。ウクライナや西側諸国は「偽の住民投票」だとして併合を認めていない。
●ロシア正教会に急接近したプーチン 戦争の背景にあった宗派の対立 3/8
冷戦後、ロシア正教会が政治と一体化していった。他方、ウクライナでもナショナリズム傾向の強い教会とモスクワ寄り教会との間で分裂が生じていた。
政教分離が当然の原則とされている今日の日本だが、伝統的に宗教と政治の関係は複雑で、和解とともに対立の要因ともなる。ロシアの対ウクライナ侵攻について、その背景にあるキリスト教の宗派間の入り組んだ関係を見てみよう。
東欧や南欧で支配的な宗教組織であるキリスト教会は、カトリック教会を率いるローマ教皇と、東ローマ(ビザンツ)帝国の首都コンスタンティノープルの総主教が、相互に破門した11世紀の東西教会の分裂に起源を求められる。しかし、ロシア・ウクライナ正教会の起源は、ビザンツ帝国からキリスト教を導入したルーシが九世紀に創設した、キエフ総主教だった。
このキエフ・ルーシ大公国が13世紀にタタール人の侵攻を受けると、その中心はモスクワに移され、モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会として、ロシア正教会の管轄下に置かれる。
また正教会の総本山のコンスタンティノープルが、15世紀にオスマン帝国の手に落ちると、最古の歴史と伝統を踏まえたキリスト教の正教会の中心はモスクワとなる。モスクワはここで「第三のローマ」と呼ばれるようになり、ロシア人はこれを自負するようになった。
冷戦終結後もモスクワは「第三のローマ」として、特にプーチン出現後は、冷戦後不安定化するロシア治世の安定化を図るために、ロシア正教会が人々の精神的な拠り所として政治と一体的に活動する傾向が高まる。他方でウクライナでは、91年に独立すると、典礼をウクライナ語で行うなどウクライナ・ナショナリズムの傾向の強い教会と、モスクワ総主教寄りの立場を取る教会との間で分裂が生じた。
2014年のロシアによるクリミア半島の一方的併合が起こると、その傾向が一挙に加速した。
ロシア正教会総主教のキリルは、傘下のウクライナの司教に命令し、プーチンを解放者と位置づける説教をさせるとともに、東部の戦闘で戦死したウクライナ兵のための祈祷や埋葬を拒否させ、ウクライナの聖職者の怒りが鬱積した。
そのため、当時のポロシェンコ大統領が直々にコンスタンティノープル総主教に働きかけて承認を得た結果、多数の信者を抱えるキエフ総主教庁も、モスクワ正教会からの独立を果たした。
他方、キリルやプーチンにとって、ロシア正教会に従属していたウクライナ正教会の多数派が分離独立することは、ロシア正教会、さらにはロシア世界の解体に繋がりかねないと見なし、それを阻止しようとしたことが今回の戦争の背景と考えられる。
本来なら共産主義は宗教を否定するはずである。しかし、現実にはソ連時代も宗教活動はある程度許容されたし、必要な場合には利用すらされたこともあった。戦場では死と隣り合わせになる兵士にとっては、宗教の役割は大きい。そのため例えば第二次世界大戦の転回点となったスターリングラードでの激戦では、スターリンはロシア正教会の典礼を一部復活させた。
冷戦後のプーチン政権になると、宗教と政治の関係は緊密さの度合いを増した。現在の対ウクライナ戦争でも、キリルは、兵士だけではなく戦車などの兵器にも祝福を与える儀礼を実行している。もともとプーチン政権が長期化し、反発が強まった2012年に、ロシアで反プーチンデモが起きたことに起因する。
こういった不満を懐柔するために、ロシア教会に急接近したという経緯がある。キリルは大統領選挙で自らプーチンの応援演説を行い、プーチン側はロシア正教会の主張に沿って同性愛宣伝禁止法を成立させるなど、相身互いの関係にある。
キリルがKGBの工作員であったことは、陰謀論ではなく「ミトロヒン文書」によって立証されている。KGBの幹部要員だったミトロヒン(Vasili Nikitich Mitrokhin)は、1992年に大量の旧KGBの極秘文書をもって英国に亡命。
この文書は、現代史の専門家で英国の情報部(MI5)の公式歴史家クリストファー・アンドリューらによって分析され、その一部はミトロヒン文書として発表された。
この文書には、キリルが行っていたスパイ行為が赤裸々に綴られており、西側諸国に衝撃を与えた。これによるとキリルは1979年にロシア正教会の外交を担う機関から、スイスのジュネーブに派遣され、世界教会協議会(World Council of Churches、プロテスタント教会と正教会が集まった国際機関で、バチカンと1965年以降定期的に交流)で、ロシア正教会の代表としてジュネーブでスパイ活動に関与した。
彼はカリーニングラード府主教などを経て、2009年にモスクワ総主教に就任し、2010年にソ連期に共産党政権がロシア正教会から没収した土地や財産を返却したので、これら富を独占出来る立場にいた。彼以外にも元KGBの活動に関与し、ロシア正教会との密接な関係で巨万の富を築き、プーチンと近い「ロシア正教会オリガルヒ」が存在する。
キリルはKGB工作員として、反共産主義の立場のカトリックやプロテスタント等西側のキリスト教会に対し、「マルクス主義的な汚染」を任務とし、ラテンアメリカでは解放の神学(カトリック+マルクス主義)や、欧州ではキリスト教社会主義の「浸透」に貢献し当局に評価された。
ミトロヒン機密文書と英公文書所蔵の諜報関連史料からも、ロシア正教会がソ連共産党体制の下部に組み込まれ、キリルのような聖職者が教会のヒエラルキー制度を活用し体制内の階段を上り、それがソ連崩壊後に引き継がれたことがわかる。
しかしウクライナにはこれら正教会以外に、ユニエイト(東方典礼カトリック)教会があり、典礼方法は正教会と同様だが、教会組織としてローマ教皇を総本山と見なす、いわば正教会とカトリックの中間の存在がある。
ソ連期には徹底的に弾圧されたが、ゴルバチョフ期にバチカンとの交渉と宗教のペレストロイカで弾圧が緩和され、やがてソ連崩壊後はウクライナで信者数を着実に伸ばしてきた。ロシア正教会やプーチンから見ると、信者を盗む許し難い存在である。
ユニエイト教会をめぐる軋轢があるものの、2016年キューバのハバナで、バチカンとロシア正教会の間で歴史上初の会談が実現した。この時点で、中東のIS等イスラム過激派から攻撃を受ける、少数派キリスト教徒を守るという共通の利害があった。特にシリア正教徒はアサド派で、内戦で彼らを守っているのはロシア軍であり、教皇はプーチンに感謝する立場だった。
実際ローマ教皇は、ISが崩壊した後、中東の東方教会との関係強化を図り、そのためイラクの最古のキリスト教会を訪問したり、レバノンのマロン派との典礼のすり合わせ等を行っていた。またイスラム過激派からキリスト教徒を守るという意味では、プーチンは心強い味方でもあった。
2016年のハバナでの両教会の会談は、2014年のロシアによるクリミア半島併合後でもあり、キューバというロシア寄りの国で行われたことから、教皇はキリルとプーチンに利用されたという見方もある。
しかし、そもそも現教皇のフランシスコはアルゼンチン出身で、カトリックの教えとマルクス主義が結び付いたとされる解放の神学シンパである。2013年にこの教皇が誕生したこと自体に、キリルの工作が影響しているのかもしれない。
その後、ISのリーダーがアメリカによって暗殺されるなどし、ISは急速に勢力を低下させていく。イスラム過激主義という共通の最大の脅威が低下すると、ユニエイト教会をめぐるロシア正教会とバチカンの軋轢が再燃。ロシア正教会からすれば「裏切り教会」であるユニエイト教会を、キリルは神聖な正教会を西欧化で汚染する、NATO東方拡大の宗教版であると罵った。
そのためロシア軍のウクライナ侵攻直後、教皇は戦争の仲介を試みるべくオンラインで、キリルに面会し和平を何度か呼びかけた。だが説得するには至っていない。2022年夏に予定されていた教皇のモスクワ訪問はキャンセルされた。2022年9月のカザフスタンでの世界伝統宗教指導者大会でも、キリルは教皇には対面での面会はしないと発表した。
宗教的な対立が、今回の戦争の直接の原因ではない。しかしキリスト教の諸宗派、ロシア正教会、ウクライナ正教会、ユニエイト教会、そしてバチカンを総本山とするカトリック教会は、それぞれの理由から政治的な対立の当事者であって、和解を促進する役割を果たすというよりも、むしろ対立を複雑化させている要因になっている。
長期化の様相を見せる今回の戦争を宗教的な手段によって和平に導くことは、残念ながら困難であると言わざるを得ない。
●親ウクライナ勢力がノルドストリーム破壊か 米報道 3/8
米ニューヨーク・タイムズは7日、2022年9月に起きたロシアとドイツを結ぶ天然ガスの海底パイプライン「ノルドストリーム」の破壊について、親ウクライナの勢力が実行した可能性があるとする米情報当局者の見方を報じた。
米当局者によると、破壊にはロシアのプーチン大統領に反対する勢力が関与したことを示す情報があるが、誰が指示したかなどの詳しい背景は不明だという。ウクライナ政府が関与した証拠はないとも説明した。
ウクライナはロシア産ガスを欧州に運ぶパイプライン計画に反対してきた経緯があるが、報道を受けウクライナのポドリャク大統領府長官顧問はロイター通信の取材に対し、「ウクライナは絶対に関与していない」と否定した。
事件を巡ってはデンマーク、ドイツ、スウェーデンが捜査を続けている。
一方、2月下旬にベラルーシの首都ミンスク郊外の空軍基地で起きた爆発を巡り、同国のルカシェンコ大統領は7日、ウクライナの特殊部隊のメンバーや協力者20人以上を拘束したと明らかにした。ベラルーシの国営通信が伝えた。
空軍基地での爆発についてはベラルーシの反体制派グループが、ロシア軍のA50空中警戒管制機を破壊したとしている。ルカシェンコ氏は「米中央情報局(CIA)の指導をひそかに受けたウクライナの情報機関がベラルーシで破壊活動に従事している」と主張した。
ルカシェンコ氏は「ウクライナが米国の指示でベラルーシを戦争に引きずり込もうとしている」などと述べ、参戦する考えはないことも強調した。
ウクライナ外務省は7日、声明で「(ベラルーシが)ロシアの侵攻に協力していることを正当化するため、偽りのウクライナの脅威を演出する試みだ」として関与を否定した。
ロシアが攻勢をかけるウクライナ東部ドネツク州バフムトでは激しい戦いが続いている。ロシアのショイグ国防相は7日に開かれた国防省の会議で、ウクライナ軍の死者が「2月だけで1万1000人を超えた」として作戦の成功を強調した。1月と比べ4割増えたとしている。
●ウクライナ支援が米国と世界の利益になる3つの理由…駐米大使が語る 3/8
ロシアによるウクライナ侵攻は2年目に入った。最大の支援国としてウクライナの戦いを支えるのが、民主主義陣営の盟主・アメリカだ。対米外交の最前線を担う駐米ウクライナ大使のオクサナ・マルカロワ氏にアメリカの「支援疲れ」への懸念や「核なき世界」への思いについて聞いた。
「バイデン大統領の訪問は日本や同盟国にも重要なメッセージ」
今月3日、首都ワシントンのジョージタウン大学にほど近い、ウクライナ大使館。マルカロワ駐米大使はインタビューを行う部屋に姿を見せると、ほほえみながら「こんにちは!」と日本語で挨拶してくれた。家族が茶道をたしなんでおり、日本文化にも親しみがあるという。
いまワシントンの中で、最も有名な大使と言っても過言ではないマルカロワ氏。財務相などを経て、2021年に駐米大使に着任。去年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、最大の支援国であるアメリカとの外交を最前線で担ってきた。去年12月のゼレンスキー大統領によるワシントン電撃訪問、そして先月のバイデン大統領のキーウ電撃訪問の際は、水面下での調整に奔走した人物だ。
インタビューではまず、このバイデン大統領のキーウ訪問を「非常に重要な訪問だった」と振り返った。
マルカロワ氏「バイデン大統領から『アメリカは友人として、戦略的パートナーとして、勝利するまで、より長く私たちと共にいる』という言葉を聞けたことは非常に重要でした。このメッセージは、ウクライナの人々やゼレンスキー大統領にも高く評価されました。しかし、私は主権や領土保全という同じ価値観を信じる、日本を含む、すべての友人や同盟国に対する非常に重要なメッセージでもあったと思います。この戦争で勝利し、21世紀には平和な隣人を攻撃して国境線を引き直すことは許されないということを示すために、私たち全員が団結しなければならないという、非常に重要なメッセージです」
バイデン大統領は現時点でのF-16供与を否定も…
ウクライナ東部戦線では、ロシアによる大規模攻勢がすでに始まったとの見方が強い。こうした中マルカロワ大使は、あらゆる種類の軍事支援が必要だと強調する。
マルカロワ氏「防空システム、大砲、長距離兵器、航空機、ヘリコプターなどです。私たちは巨大で、非常に残忍で、非道な敵と戦っているので、その全てが必要なのです」
ウクライナはアメリカに、さらなる長距離兵器や、F-16戦闘機の供与などを求め続けている。ただ、バイデン大統領は先月24日、F-16戦闘機の供与は「現時点では考えていない」と否定した。これについて尋ねると、大使は「私は『現時点では』というところが気に入っています」と笑顔を見せ、すぐ真顔に戻って続けた。
マルカロワ氏「(軍事支援については)訓練が可能か、また今一番優先されるのは何かという点などが考慮されますが、率直に言って、我々は航空戦力を含むあらゆるものの供与について議論しています」
この大使の発言を裏付けるように米メディアはインタビュー直後、ウクライナ軍のパイロット2人がアメリカ国内でF-16など戦闘機を供与した場合、操縦訓練にどれくらいの時間がかかるかを判断するための評価を受けていると報じている。
支援継続がアメリカと世界の利益になる「3つの理由」
一方、アメリカ国内ではバイデン大統領の掲げる「必要な限りウクライナを支援する」方針への是非が議論となってきた。特に野党・共和党は、多数派を握る議会下院を中心に「白紙の小切手は切らない」と、聖域なき予算の見直しや、国内問題へのさらなる歳出を要求。こうした議会の状況を背景に、バイデン政権の高官であるバーンズCIA長官も、1月のキーウ訪問で、「ある時点からは、今の規模での支援は難しくなる」との見通しをウクライナ側に伝えたと報じられている。
戦闘が長期化すれば、アメリカ世論の支持や関心が低下するリスクもある中で、不安や懸念は本当にないのだろうか。大使は、「もちろんどの国にとっても、自国民の問題や懸念が最優先されるのは当然だ」と配慮を見せた上で、ウクライナへの支援継続は、アメリカの利益にもなると3つの理由を挙げて指摘した。
マルカロワ氏「まず第一に、支援継続は道徳的に正しいことだからです。民主主義、自由、主権といった価値観を信じるアメリカ人は、私たちを支持してくれます。なぜなら、この戦いは、この国(アメリカ)と同じ価値観を守るためのものだからです。第二に、支援継続は効率的な行動でもあります。もしプーチンがウクライナを征服すれば、彼はウクライナだけに留まらず、さらに先へと進むでしょう。そして、すべてのNATO加盟国が(NATO条約第5条に従い)相互防衛をしなくてはならなくなるのです。プーチンが他のNATO諸国を攻撃することはあり得るし、プーチンは実際『これはウクライナだけの問題ではない』と言っています。そうなれば、NATO加盟国であるアメリカは、武器を送り、資金援助するだけでなく、人(=軍)も送らなければなりません。第三に、これも非常に重要なことですが、ロシアはこの戦争によって、世界的な食糧危機のリスクやエネルギー危機のリスクも生み出しました。この戦争に早く勝利し、終結が早ければ早いほどこうしたリスクにより早く対処することができます。ウクライナは、以前はヨーロッパの穀倉地帯であり、大半の食料品目で輸出国のトップ5に入っていたのですから、より多くのこと(支援)ができます。私たちは多くのグローバルな課題の解決策となることができるのです」
マルカロワ大使はその上で、「私はアメリカの人々がどんなに大変でも、私たちを支え続けてくれると確信しています。なぜなら、独裁者が勝利を手にするような世界になることは許されないからです」と断言した。さらに、経済・財政支援も重要だとして、日本が先月行った財政支援についても「大きな感謝を伝えたい」と述べた。
「核なき世界」への思い…ウクライナだからこそ分かること
最後に大使に尋ねたのが、核兵器に対する考えだ。ロシアが米露の核軍縮条約「新START」の履行停止を表明する中、ロシアによる核の脅威は一層高まっている。岸田首相は5月のG7広島サミットで「核兵器のない世界」を目指す思いを発信したい考えで、この理念はバイデン大統領も共有している。大使はどう見ているのか。
マルカロワ氏「ウクライナは1994年当時、世界3位の核兵器保有国でした。 その核兵器を安全の保障と引き換えに手放した(ブダペスト覚書)。ウクライナは、世界は平和であるべきだと信じていますし、核戦争や核による惨事が起こらないようにする責任があると強く信じています。ウクライナや日本のような国々は、核による大惨事が起きた時の悲惨な結果がどのようなものかを知っています。我々にはチョルノービリ原発事故がありました。日本もそうでしたよね。なので、そのような事態を避けるために出来る限りのことをしなければならないと分かっているのです。では、だからといって、ロシアを(核兵器を使う懸念があるからと)恐れる必要があるのでしょうか? そうではありません。私たち全員が一致団結して、ロシアに『核の使用や威嚇は容認できない』と、強く明確なメッセージを送る必要があるのです。そのひとつの側面が、ウクライナにあるヨーロッパ最大級の原発(ザポリージャ原発)をロシアが違法に占拠し、攻撃したことです。ロシアに対し、ウクライナに原発を引き渡すよう明確なシグナルを送らなければならないと思います」
トランプ氏は「自国の国境」優先…続く正念場
インタビューを通じて、アメリカへ支援継続を訴えたマルカロワ大使。一方で取材の翌日、ワシントン近郊で行われた全米最大規模の保守系集会「CPAC」では、トランプ前大統領が「遠く離れた国の国境を守るために多額の資金を使うのではなく、我々の国境防衛を最優先する」と強調し、支持者が大きな声援を送った。ウクライナ支援をめぐるアメリカ国内の路線対立が大統領選挙とも絡む中、マルカロワ大使にとっては正念場が続く。
●ロ軍バフムト包囲継続へ−ゼレンスキー氏は増派命じる 3/8
ロシアのショイグ国防相はウクライナ東部の要衝バフムトを制すれば、ウクライナ軍への攻撃をさらに強めることができると述べ、引き続きバフムト包囲を続ける方針を示した。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、軍司令官にバフムト防衛のために増派を命じた。ベレシチューク副首相によれば、今もバフムトには子供38人を含む4000人未満の民間人が取り残されている。ロシア侵攻前の人口は約7万人だった。
ウクライナ、戦闘地域から子供たちを強制避難へ
ウクライナ政府は、戦闘が活発な地域から当局が子供たちを強制的に避難させ始めることを可能にするメカニズムを承認した。
当局によれば、子供たちは少なくとも1人の保護者もしくは法的な代理人とともに避難する必要がある。避難が正式に始まれば、親が子供の移動を阻止することは認められないという。 
ウクライナとロシア、捕虜を交換
ウクライナとロシアは捕虜交換を行った。これによりウクライナに130人、ロシアに90人が帰還した。
ウクライナのイェルマーク大統領府長官によれば、帰還者にはマリウポリ、バフムト、ソレダルの戦闘でロシア軍に捕らえられた兵士も含まれる。大半は「重傷」を負っているという。
●「いつまで支援を続けるのか?」米国で漂い始めた「ウクライナ疲れ」の気配 3/8
米国のウクライナ支援に微妙な影が広がってきた。ウクライナのロシアに対する反撃に大規模な支援を長期的に続けると米国にとっての最大脅威である中国への適切な対処ができなくなる、という意見が連邦議会の一部で生まれてきたのだ。
その背景には、ウクライナ長期支援への米国の一般世論の支持が後退していることや、米国以外の西欧諸国のウクライナ支援が不十分だとする不満の高まりも指摘される。この米国での「ウクライナ疲れ」の広がりは、今後の世界情勢全体をも大きく左右しかねない。
「中国こそ最大の敵」と主張するホーリー議員
現在、米国議会でバイデン政権のウクライナへの長期にわたる支援に対して最も明確な反対論を述べているのは上院のジョシュ・ホーリー議員(共和党・ミズーリ州選出)だろう。
たとえば同議員は2月中旬のワシントンの大手研究機関ヘリテージ財団での講演で1時間にわたり、バイデン政権のウクライナ支援は総合的な戦略的思考に欠けるという趣旨の主張を述べた。
「中国とウクライナ」と題したこの講演でホーリー議員は、ウクライナのロシア軍への反撃を支援することは米国にとっても重要だと認めながらも、バイデン政権のその方法はどこまでどのような支援を続けるのかについて長期戦略に欠け、とくに米国に対する最大脅威である中国への軍事抑止を怠る結果を招きつつある、との警告を強調した。同議員はまた西欧諸国のウクライナ支援が米国に比べてあまりに少ないと指摘し、「より公正な分担を」と訴えた。
上院では最年少に近く、共和党内でも保守色の強いホーリー議員はこの講演で、「中国こそ最大の敵だ」「国防予算を増額せよ」といった主張を繰り返した。
ポートマン前議員の発言にシンポジウム会場が固まる
ただし米国議会の上院でも共和党の多数派は、同党院内総務のミッチ・マコーネル議員をはじめとしてバイデン政権のウクライナ支援策に賛意を表明してきた。ウクライナへの支援に金額の上限や期限をつけることには基本的に同意しないという立場である。
ところが、議会共和党内では少数派とはいえ、ホーリー議員と同様の意見は確実に存在し、しかも広がる気配をみせていることが最近印象づけられた。
その一例は、ワシントンの別の大手研究機関「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュ―ト」(AEI)が2月24日に開いたシンポジウムだった。
「ロシアの対ウクライナ戦=2023年の前途になにがあるのか」と題されたこのシンポジウムは、ロシアのウクライナ侵攻開始から1年が経過したことを機に民間研究機関「戦争研究所」(ISW)との共催で開かれた。
4時間にも及ぶこの大シンポジウムの中で、共和党のベテラン議員のある発言が、熱気のある会場を一瞬固まらせた。総括部分で、以下のような発言をしたのだ。
「米国にとって国家の根幹を揺さぶられる戦略的な脅威は中国だけだ。ウクライナへの支援が中国への対処を不十分にさせてはならない」
ウクライナへの全面支援の継続が多数派のなかで、この発言は異彩を放っていた。だが発言者は意外にも、つい昨年(2022年)末まで米国連邦議会の上院で共和党の主流派として長年活動してきたロブ・ポートマン前議員だった。つまり上院共和党側でのバイデン政権のウクライナ支援への反対は、決してホーリー議員一人だけではないということだ。
ちなみに、このシンポジウムの共催団体となったISWは、ウクライナ戦に関する情報発信では世界でも最もその活動が注視されている組織だといえる。ロシア軍のウクライナ侵攻に関して詳細で新鮮な軍事情報を発表してきた。日本の主要メディアや専門家の報道や解説も、ISWの情報に依拠していることが多い。
このシンポジウムでは、第1のパネルでISWの軍事、ロシア、ウクライナの専門家たちが登壇し現在の戦況を報告した。そして第2のパネルでは、AEIのベテラン学者や政治家たちがこの戦争の意味や展望を語った。ポートマン前上院議員の上記の発言が出たのは、第2パネルの総括部分だった。
シンポジウムには、ワシントン駐在のウクライナ大使、オクサナ・マルカロバ氏も出席していた。この女性大使が冒頭の挨拶に立つと、それだけで聴衆は全員が起立拍手で歓迎した。同大使は、ウクライナへの支援が世界の民主主義や国際秩序の保持につながると、とつとつと訴えた。だからこそ、その後のポートマン氏のウクライナ支援抑制論は目立ち、会場を一瞬静まり返らせたのである。
米国の一般世論に「ウクライナ疲れ」の動き
だが、この種の抑制論がホーリー議員のような共和党の現役議員たちからも出ていることは知っておくべきだろう。
上下両院とも共和党議員はその多くがバイデン政権の対外政策を批判しているが、ことウクライナ支援に関しては賛同者が多数派である。しかし中国への抑止政策との関連でウクライナ支援への反対や留保が少しずつ広がってきたことは否定できない。
議会下院では、中国の脅威に対処するための特別委員会が、下院の多数を制した共和党の主導で新設された。その特別委員会の第1回の公聴会が2月28日に開かれたが、米国や国際社会にとっての中国の脅威への警告が、共和、民主両党議員たちから表明された。
その種の意見のなかでは、「米国の存立を脅かす軍事的な能力や意図を有するのは中国だけであって、ロシアではない」という指摘が再三、出た。バイデン政権のウクライナに対する無期限、無制限の軍事支援が中国の軍事脅威への対処を抑えつける結果になる、とする意見も、直接的もしくは間接的に複数の議員から表明された。
議会でのこうした動きは、米国の一般世論の動向を反映した結果ともいえる。
ワシントン・ポストなどの世論調査では、「米国は無期限にウクライナ支援を続けるべきだ」という意見が昨年(2022年)7月には全体の58%だったのが、今年2月には47%へと減少した。「米国のウクライナ支援はすでに過剰だ」と答えた人が昨年5月には10%台だったのが、今年2月には30%近くになったという調査結果も報じられた。
ピュー調査センターの世論調査では、「米国のウクライナ支援は多すぎる」と答えた人が昨年5月には12%だったのが今年2月には26%に増えた。また「米国のウクライナ支援はまだ不十分だ」と答えた人が昨年5月には42%だったのが、今年2月には20%にまで大幅下降したという結果も明らかにされた。
また、ホーリー上院議員が批判した西欧諸国のウクライナ支援の規模については、他の議員たちも議会の各種公聴会などでたびたび指摘している。
公式の統計では、昨年2月から今年2月までの米国のウクライナ支援は総額約770億ドルだった。それに対して、イギリスは約80億ドル、ドイツは約60億ドル、ポーランドが同40億ドル、フランスが20億ドルと、米国に比べるときわめて少額である。この点にも米国議会の不満があるわけだ。
こうした種々の要素から米国のウクライナ支援に影が広がる現象は、「ウクライナ疲れ」とも呼ばれる。この現象はバイデン政権の新たな課題となってきたといえそうだ。
●ロシア軍機の被害認める ウクライナの「破壊工作」非難 ベラルーシ大統領 3/8
ベラルーシの首都ミンスク郊外のマチュリシチ空軍基地で2月26日に起きたとされるロシア軍機へのドローン攻撃で、ベラルーシのルカシェンコ大統領は7日、ウクライナの「破壊工作」だったと表明した。
これまで確認していなかった被害を一転して認めて「テロ」と断定した。
狙われたのはA50早期警戒管制機。ルカシェンコ氏は「幸い(A50に)大きな損傷はなかった。(ロシア側に)修理のため引き取り、別の機体を送るよう要請した」と述べ、軽微な損傷だったと説明した。 
●国連グテーレス事務総長 ウクライナ訪問 農産物の輸出話し合う  3/8
国連のグテーレス事務総長はウクライナを訪問し、8日、ゼレンスキー大統領と会談する予定で、今月18日に期限が迫っているウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意について話し合うとしています。
国連によりますと、グテーレス事務総長は7日、ポーランド経由でウクライナを訪問していて、8日には首都キーウでゼレンスキー大統領と会談するということです。
グテーレス事務総長のウクライナ訪問は、去年2月に始まったロシアによる軍事侵攻以降、3回目です。
ゼレンスキー大統領との会談ではウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意などについて話し合うとしています。
ウクライナ産の農産物の輸出をめぐっては、国連とトルコが仲介してウクライナとロシアが合意しましたが、今月18日に期限が迫っていて、ロシアは合意の履行は不十分だと主張し、延長に同意しない可能性も示唆しています。
これに関連して国連のハク副報道官は7日の会見で、グテーレス事務総長がロシアを訪問する予定はないと述べる一方、ニューヨークを出発する前にロシアのベルシーニン外務次官と電話で会談したことを明らかにしました。
また、来週には、合意の延長に向けスイスのジュネーブでロシアの政府代表団と国連との間で協議を行う予定だとしています。
●岸田首相 ルーマニア大統領と会談 対ロシア制裁などで協力確認  3/8
岸田総理大臣は7日夜、ウクライナの隣国、ルーマニアのヨハニス大統領と会談しました。ロシアの軍事侵攻や核使用の威嚇を非難し、対ロ制裁やウクライナ支援などで協力していくことを確認しました。
総理大臣官邸で行われた会談の冒頭、岸田総理大臣は、「ロシアによるウクライナ侵略を受けて国際社会の一層の結束が求められており、連携の深化を確認したい」と呼びかけました。
そして両首脳は、ロシアの軍事侵攻や核使用の威嚇を非難し、対ロ制裁やウクライナ支援などで引き続き協力していくことを確認しました。
また、共通の国際課題に対応しやすくするため、両国の関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げし、安全保障や経済、科学技術など幅広い分野で連携を強化していくことでも一致しました。
会談後の共同発表で、岸田総理大臣は「戦略的パートナーとして、ルーマニアとの間で幅広い分野で協力関係をさらに発展させるべく、ともに取り組んでいくことを楽しみにしている」と述べました。 
●要衝バフムト「東側全域を制圧」ワグネル創設者が主張 3/8
激しい戦闘が続くウクライナ東部の要衝バフムトをめぐって、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者は「東側全域を制圧した」と主張しました。
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏は8日、SNSに音声メッセージを投稿。ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトについて「市内を南北に流れる川の東側は、ワグネル部隊の完全な支配下にある」とし、「バフムト東側全域を制圧した」と主張しました。
ロシアのショイグ国防相は7日、バフムトを制圧すれば「ウクライナ軍へのさらなる攻撃が可能になる」と発言。攻略が重要だとの認識を示していて、ロシア側が攻勢を一層強めているものとみられます。
こうした中、プーチン大統領は…
プーチン大統領「あなた方の勇気や決意には、最も屈強な兵士でさえも驚く」
「国際女性デー」の8日にあわせてビデオメッセージを発表し、「祖国防衛という最高の使命を選んだ女性兵士や看護師たちを特別に祝福したい」として、ウクライナ侵攻に関わる女性を称えました。侵攻の継続に向け、国民に支持を呼びかける狙いもあるとみられます。
●IMF専務理事、ロシア経済縮小の見通し示す 3/8
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事は8日に放送されたCNNとのインタビューで、ロシア経済が中期的にみて大幅に縮小するとの見通しを示した。
ゲオルギエバ氏は、来年以降のロシア経済の見通しは「壊滅的」だと発言。中期的な見通しとして、少なくとも7%縮小するだろうと述べた。
IMFはこれまで、ロシア経済について楽観的な予測を立ててきた。1月の発表では、今年の成長率が0.3%と英国やドイツを上回り、来年は2.1%の成長が見込まれるとしていた。
ロシア経済の今年の成長率については、世界銀行がマイナス3.3%、経済協力開発機構(OECD)がマイナス5.6%になると予想。
ロシア自体の中央銀行も、今年の国内総生産(GDP)成長率予想をマイナス1%と発表している。
米エール大学経営大学院のジェフリー・ソネンフェルド教授は6日、IMFがこれまでぼんやりした態度で、プーチン・ロシア大統領の宣伝文句を受け売りしてきたと批判した。

 

●プーチン氏のウクライナ侵攻、「数年」続く可能性 米情報機関 3/9
米国の情報機関が、ロシアはおそらく米国や北大西洋条約機構(NATO)軍との直接的な軍事衝突を望んでいないものの、衝突のリスクはあり得ると考えていることがわかった。また、ロシアは核兵器への依存を高めているともみている。脅威に関する年次評価報告書で明らかになった。
ヘインズ国家情報長官や中央情報局(CIA)のバーンズ長官、連邦捜査局(FBI)のレイ長官、国防情報局(DIA)のベリア局長、国家安全保障局(NSA)のナカソネ局長が8日、上院情報委員会の脅威に関する公聴会で証言した。
報告書は「ロシアの指導者らは紛争をウクライナ国外へと拡大する行動をこれまでのところ避けているが、エスカレートするリスクは依然大きい」と指摘した。
ヘインズ氏は公聴会で、ウクライナでの戦争が「どちらの側も決定的な軍事的優位を持たない過酷な消耗戦」になっているが、ロシアのプーチン大統領はおそらく何年も戦争を続ける可能性があると述べた。
ヘインズ氏はさらに「ロシア軍が今年、ウクライナで領土を大きく獲得できるほど戦力を回復させることができるとは考えていないが、プーチン氏は時間がロシアに味方すると計算している可能性が極めて高い。たとえ何年かかろうとも、戦闘の一時停止を含め、戦争を長引かせることが自国のウクライナでの戦略的な利益の確保につながる残された最善の策だと考えているのではないか」と説明した。
報告書によれば、ロシアはウクライナでの戦争による「甚大な被害」に対処する中で、今後は核やサイバー、宇宙などの分野の能力により依存するようになる」という。
ヘインズ氏は報告書で、ウクライナでの大きな損失により、地上と空中での従来の戦闘能力が失われ、ロシアの核兵器への依存が増したと指摘している。
●プーチン大統領の年次教書演説、経済面でも非友好国と距離置く姿勢強調 3/9
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2月21日、年次教書演説を行った。西側諸国との間のウクライナを巡る情勢認識や歴史認識などの差異を強調し、戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を表明するなど、国際関係や安全保障面で西側諸国との対決姿勢を強調した。経済関連でも、西側諸国とは距離を置き、それ以外の国々との関係強化を図る姿勢を明確にした。
経済情勢認識では、2022年の実質GDP成長率はマイナス2.1%(2023年3月6日記事参照)と、ウクライナ侵攻当初の落ち込み予想を大きく下回ったと強調。ロシアの金融システムは安定的に推移し、労働市場も安定的、国内向け必需品の供給も滞りはないと述べた。穀物輸出の大幅な増加についても触れ、全般的に制裁で予想された危機は乗り越えたとの自信を示した。
その背景として同大統領は、ロシアに経済制裁を科す「非友好国・地域」(2022年3月9日記事参照)に代わり、アジア太平洋地域をはじめとした新規市場開拓が成功したことを挙げた。これに伴い、通貨ルーブルやそれら諸国の通貨による決済比率が高まっている(注)。
ロシアにとっての新たな市場との関係強化に向け、物流網の整備に注力する考えも示した。具体的には、国内鉄道・高速道路網整備とそれらのカザフスタン、モンゴル、中国の物流網との連結(2022年9月27日記事、10月19日記事参照)。また、黒海・アゾフ海の港湾整備の進展と国際鉄道輸送路「南北」(2018年2月1日記事参照)との連結などを挙げた。
国内産業の育成・強化もあらためて強調した。製造拠点設立のための土地購入・施設建設や設備更新に向けた最大5億ルーブル(約9億円、1ルーブル=約1.8円)の低利長期融資を創設するほか、国産ハイテク機器・設備や人工知能(AI)導入の企業向け優遇税制の対象となる製品リストの策定を政府に命じた。
産業力強化のためには人材育成も必要となる。プーチン大統領は「実業分野で求められる人材の養成が急務」とし、電機・電子、工作機械、冶金(やきん)、薬品、防衛、農業、輸送、建設、原子力などの分野で専門の技術者を5年間で100万人養成する構想を披露した。
(注)ロシア中央銀行によると、2022年9月の外貨決済における各通貨の比率はドル33.9%(1月より17.8ポイント減)、ユーロ18.7%(16.4ポイント減)、ルーブル32.4%(20.1ポイント増)、人民元14.1%(13.7ポイント増)。
●ロシア バフムト東側を支配と主張 ウクライナは徹底抗戦の構え  3/9
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア側は、激しい戦闘が続く東部バフムトの東側を支配下に置いたと主張しました。一方、ウクライナ軍はバフムトへの攻撃を退けていると発表するなど徹底抗戦の構えを崩しておらず、攻防は一層激しくなっているものとみられます。
ロシア側はウクライナ東部ドネツク州の掌握をねらい、ウクライナ側の拠点のひとつバフムトへの攻撃を強めていて、8日にはロシアの民間軍事会社ワグネルのトップがバフムト市内を流れる川の東側を支配下に置いたと主張しました。
これに先立ち、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も7日の分析で、ロシア側がバフムトの東側を掌握した可能性が高いと指摘しています。
これに対して、ウクライナ軍の参謀本部は8日、ロシア側がバフムトへの攻撃を続けているものの市内や周辺への攻撃を退けていると発表しました。
ウクライナのゼレンスキー政権はバフムトの防衛態勢を強化するなど徹底抗戦の構えを示していて、攻防は一層激しくなっているものとみられます。
また、NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は「ロシア側は大きな損失を出しているが、バフムトが近く陥落する可能性も排除できない。戦争の転換点ではないが、ロシアを過小評価してはならない」と述べ、ウクライナへ支援を続ける必要性を強調しています。
一方、ロシアのプーチン大統領は3月8日の「国際女性デー」にあわせて、モスクワのクレムリンで各分野で活躍する女性を表彰し、ウクライナ東部や南部の占領地域で活動するという従軍記者や医療従事者も招かれました。
プーチン大統領は「ロシアは再び、安全保障や主権への脅威に直面している」としたうえで、女性たちは軍事侵攻を支えるために献身的に活躍しているとして功績をたたえ、国民に対して結束を呼びかけた形です。
●憧憬か、反感か フランスが抱くロシアへの感情とは 3/9
2023年2月16日付の英エコノミスト誌が、フランス人は歴史的にロシアに惹かれる傾向があり、ウクライナに関するマクロンの外交もその影響を受けていたが、最近それが変化し正しい方向に向き始めたと論じている。
1760 年代から1770年代、ロシア帝国に魅了されたフランスの思想家ヴォルテールは、ロシアのエカテリーナ女帝を「賢明な専制君主」と褒め称えた。
ウクライナ戦争は、フランスのロシアへの宿命的な憧れを露呈した。極左はロシア革命や反米主義など、極右は愛国主義や権威主義的な指導者への憧れがある。
フランスの政治的議論の場では、地政学的に相反する意見が競い合っている。オランド前大統領は、ロシアがクリミアを併合した後、軍艦 2 隻をロシアに引き渡す契約を取り消した。世論調査では国民の6割がウクライナのゼレンスキーを支持しており、プーチンに対する支持は1 割以下だ。
マクロンにとって、今は正念場である。彼は、従来の慎重さと自制を勧める声と、ウクライナで指導力を発揮しロシアの抱く幻想を払拭するよう促す声の両方に耳を傾けている。
マクロンは、戦争中のウクライナを支援することと、和平交渉のテーブルで仲介役を務めることの両方を望んでいる。しかし、ここ数週間、マクロンは、明確にフランスはウクライナを勝利するまで支援すると宣言し、より多くの重火器を提供すると宣言した。
ただし、戦車の供与はまだ約束していない。ゼレンスキーが、「彼は今度こそ本当に変わったと思う」と、ロンドンからパリに移動した 2 月8日、フランス紙『ル・フィガロ』 紙に述べた。フランス大統領に、フランスのロシアへの憧れを完全に捨て去ることを期待するのは無理かもしれないが、彼は正しい方向に進んでいる。
この記事は英国人ジャーナリストによるものと思われるが、いかにも英国人らしいフランスに関する見方である。
現代のフランスのロシア政策を分析するのに、絶対王政時代のエカテリーナ女帝の話を持ち出すことには違和感を覚える。歴史を辿れば、ナポレオン戦争の際はロシアへの憧憬といった感情は働かなかったようであり、また、19世紀末の露仏同盟はドイツに対抗するための地政学的理由によるものであった。
国益に敏感なフランス人が、感情からロシアに有利な政策をとることも考えにくい。記事の筆者も、親ロシア的傾向が普遍的だという訳ではなく、相対する傾向もあることは認めつつ、マクロンのウクライナ政策については、このロシアへの憧憬という要素が作用していたが、ようやくマクロンも正しい方向に向き始めたと論じている。
そもそも、フランスのみならず、ドイツやイタリアの立場も、ロシアとの地理的な近接性により、安全保障上の脅威に関する切迫感とエネルギー供給源や市場としての経済関係への期待感という点で、米国や英国とは異なるだろう。
プーチンの権威主義的手法やその政策に強い親近感を持つフランスの極右のルペンや極左のメランションは勿論、中東におけるキリスト教徒の保護に関心を持つ伝統的保守派などもロシアに親近感持つ理由は、文化的憧憬とは異なる。フランスメディアも、ウクライナ侵攻以前からロシアを脅威とみなしており、要するに、ロシア文化に魅せられて親ロシアとなる傾向は決してフランスでは一般的とは言えないし、対ロシア政策に影響を与えているとも思えない。
ロシアとの対話は欧州の戦略的自律の文脈上
マクロンは、その持論とする欧州の主権の強化や欧州連合(EU)の戦略的自律の立場から、当初からロシアを含んだ欧州の安全保障の枠組みの必要性を一貫して考えており、その戦略的目的のためにプーチンとの対話を重視して来たのであって、この記事が示唆するフランス人のロシアに対する憧憬とは異なろう。
ウクライナ・ロシア間に緊張が高まる中で、マクロンが、ロシアの侵攻を防ぐためにプーチンと折衝を重ねたことも、そのような認識の延長線上にある。結局、プーチンは既に軍事侵攻を決断しており、マクロンとの交渉は時間稼ぎに利用されたことは否めない。また、ウクライナ侵攻により、バイデン政権の登場で修復に向かっていた米国と北大西洋条約機構(NATO)諸国の結束が、劇的に強化される結果となった。
最近のウクライナとロシアの根競べのような状況において、マクロンは、今は西側がウクライナ支援に結束する局面と判断して、2月8日、パリでゼレンスキーとの会談前の記者会見で、「ウクライナが勝利するまで支援し続ける」と宣言し、1 月 17 日のミュンヘンの安全保障会議でも、「ロシアを勝たせてはならない」と述べた。
しかしマクロンには、一貫して、西側が結束してウクライナを支援すると共に、その結果、停戦が成立した後はウクライナとロシアの仲介役として永続的な平和の枠組みを構築するという二段階の目標があり、状況に応じて強調する点が変わっているのであって、状況が変化すれば再度ロシアに配慮する発言が出る可能性もあろう。
●ウクライナ、祝い日にも戦争の影 女性デー、花売り上げ激減  3/9
「国際女性デー」の8日、ロシアの侵攻を受けるウクライナでも、親類や知人の女性に花束を買い求める男性の姿が多く見られた。だが女性や子供、お年寄りは国外に逃れている人も多く、花を買い求める人は激減したと嘆く生花店もある。本来はお祝いムードにあふれる日にも、戦争の暗い影が落ちた。
8日、首都キーウの中心部の花屋は朝から大忙し。地下鉄駅に通じる地下道で花を売り続けて35年になるイエレナ・アントノワさん(59)は「国際女性デーは、ウクライナ人の心に刻み込まれた日」と話す。
例年なら休日となるため、前日には職場の同僚女性に贈る花を買い求める男性が殺到する。だが戒厳令下の今は公式には「祝日」ではないため比較的静かというが、花を買い求める男性が途切れることはなかった。
ウクライナは総動員令により、18〜60歳の男性は原則として出国が禁じられている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、7日時点で欧州に逃れたウクライナ人は810万人に上っており、離れ離れになっている家族も多い。
●中国は「ウクライナ戦争」をどう見ているのか 3/9
米国では最近、台湾有事ともからめ、中国が混迷化する「ウクライナ戦争」から何を学んだかについての論議が活発化しつつある。
西側の対応を学習材料とする中国 
ロシア軍のウクライナ侵略から1年――。戦争が長期化する中で、バイデン政権にとっての直近の最大関心事は、中国が対露軍事支援に踏み切るかどうかに集まっている。
しかしそれとは別に、中国は今次戦争そのものをどう見てきたかの論議も無視できない。
米側専門家の間では、1侵攻開始20日前に中露首脳会談が行われたにもかかわらず、プーチン大統領から習近平国家主席に事前通報もなく、中国側を困惑させた、2ロシア側は十分な準備なしに侵攻作戦に乗り出したため、苦戦を強いられてきた、3世界の目がアジアにおける第二のウクライナ・シナリオ≠ニして、にわかに中国の台湾進攻問題に集まり始め、中国側は意表を突かれた、4中国は世界世論と対露友好関係重視の間で今後難しい対応を迫られている――などの見方が目立つ。
では中国は、具体的に「ウクライナ戦争」からどんな教訓を学んできたのか。
伝統ある外交問題専門誌「Foreign Affairs」(電子版)は去る先月14日号で、エヴァン・ファイゲンバウム「カーネギー財団」副所長らによる「米国主導の秩序維持で多国間結束が続く限り、(中国のような)大国といえども、経済戦争から難を逃れられない」と結論付けた以下のような分析記事を掲げた:
「ロシアがクリミア半島を占領した2014〜15年のウクライナ危機当時、西側諸国はロシア側にそのコストを負担させ、行動を再考させ、停戦交渉を有利に進めるために、何カ月もかけて慎重な対露制裁を画策してきた。ところが、22年、プーチンがウクライナ領のさらなる拡大のみならず、国全体の占領に乗り出した途端、西側の対露制裁は直ちに大規模かつ全面的経済戦争へと化していった。豪州、カナダ、日本、英国、米国に至る同盟諸国が、ロシアのすべての外貨準備金の凍結を発表し、ロシアを国際送金システム『SWIFT』から締め出した。このことから中国は、新たな教訓を学んだ」
「ウクライナ侵攻開始当時、ロシアは日産1100万バレルの石油産出国であり、国内総生産(GDP)世界第10位の経済大国であり、地政学的にも、中国同様に核保有の国連安全保障理事会常任理事国として、もろもろのグローバル組織に関与してきた。中国の経済規模はロシアの10倍と巨大であり、グローバル経済特に、貿易,投資、キャッシュフローなど米国とのつながりの面でも、ロシアとは比べものにならないほど甚大であることは事実だ。しかし、もしその中国指導部が、自国ほどの第一級経済国は巨大すぎて、(台湾などの国際危機の際に)制裁対象外となると考えたとしたら、昨年の出来事は心穏やかならざるものになったはずだ」
「中国は(ウクライナでの教訓から)、仮に台湾侵攻に踏み切った場合、多大な経済的リスクゆえに西側政界が対中制裁を踏みとどまるとは推定できなくなった。なぜなら、米国および欧州同盟諸国は、アジアで第7位の経済規模を誇り、グローバル・サプライチェーンとの重要なリンク役を果たしている台湾と比較しても小規模な経済国でしかないウクライナに対してさえ、国家的かつグローバルなリスクを冒してまで支援に乗り出したからに他ならない。すなわち、西側の主だった制裁は弱小国に限定され、(中国のような)主要国に対する制裁は軽微なものにとどまる保証はなくなったのだ」
「実際のところ、北京指導部は、ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の迅速かつ猛烈な反応ぶりに驚かされた。14年ウクライナ危機の際は、習近平、プーチン両首脳は、西側世界特に欧州およびアジアの多くの国がリスクを恐れ、ロシアに対する大規模制裁を回避しようとしたことを教訓として記憶している。しかし、今回は別だった。これらの諸国は、ロシア軍戦車が首都キーウに侵入すると間髪入れず、死活的に重要なロシア産石油、天然ガス輸入制限措置に踏み切り、輸入した場合でも上限価格設定で合意するなど共同制裁で足並みを揃えた。中国は、関係各国が国際秩序に対する甚大な脅威に対しては、たとえコストを伴う場合でも制裁を厭わないという、まごうことなき教訓を学んだはずだ」
しかし、中国が上記のような教訓をウクライナで学んだとしても、それは、近い将来、台湾武力統一の延期や断念を意味するわけでは断じてない。むしろ、その逆に、今回露呈したロシア軍の対ウクライナ作戦の欠陥ぶり、西側諸国の反応を十二分に研究、分析し、台湾進攻作戦をより精巧なものにするための恰好の学習材料とみていることは確実だ。
教訓となったロシアの失敗
この点に関連して注目されるのは、イェンス・ストルテンベルグ北大西洋条約機構(NATO)事務総長の発言だ。
同事務総長は去る2月1日、来日した際、慶應義塾大学での講演で、台湾有事を念頭に「中国はロシアによるウクライナ侵略作戦を極めて注意深く観察、学習しており、その結果が(台湾侵攻のような)インド太平洋のパワー・バランスを揺るがす同国の将来の政策決定に影響を与えることになる」と警告。さらに具体的に以下のように述べた:
「もし、ロシアのプーチン大統領が今回の戦争で勝利すれば、中露両国とも強引な武力行使によって目的を達成できるとのメッセージを発することになる。その結果、世界はより危険で、脆弱性をさらけ出す。中国はNATOの敵国ではないが、より一段と権威主義国家の体をなしつつあり、一連の覇権的強圧的政策は欧州大西洋そしてインド太平洋地域に重大な安全保障上の結果をもたらしかねない。また、中露両国は近年、軍事面での関係緊密化、日本近海における海空両面での合同軍事演習などを含む戦略的パートナーシップを強化しつつある点も懸念材料だ。これに対処するには、地域ではなくグローバルな協力関係が不可欠であり、NATO諸国と日本などアジア諸国との関係強化が望まれる」
ではこれまで、戦争作戦面で中国側は具体的に何を学んだのか。
この点に関し、2月24日付の米「TIME」誌(電子版)は、ロシア軍が短期決戦で勝利できなかった「4大要因」として以下の点を挙げているが、これらは台湾武力統一の可能性も排除しない中国軍部にとっても、無視できない重要な教訓になっていると推察される:
1 兵站面での長期計画欠如=ロシア軍は当初、「作戦開始後数週間での目的達成」を確信していた。従って、長期戦に備えた兵站支援の備えが不十分だった。メイソン・クラーク「戦争問題研究所」上級研究員は「軍指導部のみならず、クレムリンも、戦争がこれだけ長期化し、しかも戦線も拡大することを予測できなかった」と述べている
2 ウクライナ側レジスタンスの過小評価=マーク・キャンシアール「米戦略国際問題研究所」(CSIS)上級顧問によると、ロシア軍侵攻直前までのゼレンスキー・ウクライナ大統領の国内支持率は27%と低迷し、ウクライナ国民自体も政府不信を募らせていた。このため、プーチン氏は電撃作戦によって、ゼレンスキー政権は短期崩壊を招き、容易に占領できると読んでいた。侵攻当時、そのゼレンスキー氏がよもや『第2次大戦におけるチャーチル以来の偉大なリーダー』になると予言していたとしたら、笑い飛ばされていたはずだ。いかなる戦争であれ、長期戦となった場合、国のリーダーシップが極めて重要なカギとなることを示した。
3 NATO結束の読み違え=14年ウクライナ危機の際、西側諸国の反応はバラバラかつ優柔不断だったため、クレムリンは同程度の反応しか予想していなかった。ところが、今回の場合、欧州およびアジア同盟諸国は侵攻開始後、短期間のうちにつぎつぎに対露経済制裁に踏み切った。さらにNATO諸国は制裁のみならず、軍事面でも果敢にウクライナ支援に乗り出した。中でも米国は、すでに249億ドルもの対ウクライナ軍事支援を行っており、米国防総省も今後、20億ドルの長期軍事支援を約束している。
4 兵器・弾薬類の大量損失=ウクライナ軍は米国製最新鋭ロケットシステム「HIMARS」投入により、国内各地のロシア軍兵器・弾薬庫多数を破壊した。それ以降、ロシア軍は被害を最小限にとどめるため、前線から離れた作戦地域に弾薬類を移し替えたが、この
結果、必要時に前線基地にタイムリーに兵站支援することが困難になった。このため、ロシア軍は今後、長期戦に備えた作戦練り直しを迫られている。
吟味される台湾とウクライナの違い
ただ、ロシアにとってのウクライナと、中国にとっての台湾との間には、国勢、地政学上など、さまざまな違いがある。このため、もし中国が近い将来、台湾侵攻に踏み切った場合、ウクライナの教訓がただちにそのまま生かされるわけでもないことは自明の理だ。
たとえば、ウクライナは人口4200万人で国土面積約60万平方キロメートル(日本の1.6倍)と広大なうえ、東欧、NATO諸国とは地続きだ。陸海空軍合わせ最大兵員数24万人、予備役100万人であり、周辺諸国ではロシアに次ぐ兵力規模を維持している。
これに対し、かつて「中華民国」と呼ばれた台湾は今日、国際的に独立国ではなく国連でも「地域」扱いを受けている。人口2300万人で面積は約3万平方キロメートルと、ウクライナの20分の1に過ぎず、周囲を海に囲まれ孤立状態にあり、しかも中国本土とは至近距離にある。
これらの点だけを見る限り、中国は、ウクライナで苦戦するロシアに比べ、台湾侵攻上、条件としては優位に立っているとみることもできる。
しかし、中国にとって、難題もある。1]台湾島民の大半が中国大陸への帰属を望んでいない、2]台湾はウクライナとは異なり地理的には孤立しているが、米国、日本、カナダ、豪州などの主要国と太い経済的結びつきがある、3]台湾は地形的に、平野の多いウクライナと異なり、山地、丘陵地、盆地、台地、平野からなり、山地、丘陵地が全島面積の3分の2を占めているため、中国軍にとって侵攻、占領は容易でない、4]台湾の経済力とくに半導体をはじめとする最先端テクノロジーが世界に果たす役割は増大しつつあり、有事となった場合、世界経済全体に深刻な影響が及ぶ恐れがある、5]このため、軍事最強国米国も以前にもまして、台湾安全保障に重大な関心を示している――などだ。
結論として、中国は今後も、ウクライナ戦争の展開を引き続き注意深く見守ると同時に、軍事も含めた台湾政策を長期かつ多角的視野で検討していくことを迫られている。
●ウクライナ復興投資に関心高まる、ジェトロがセミナー 3/9
ジェトロは、在ポーランド日本大使館およびポーランドのコハンスキ&パートナーズ法律事務所との共催で、セミナー「(新たな)ウクライナの(再)構築『日本企業のためのウクライナとポーランドの戦中と戦後の協力関係』」を3月2日に開催した。ウクライナとポーランドの専門家が登壇し、戦争の被害状況、ウクライナ経済の現在と将来を踏まえたニーズと有望分野、ウクライナ復興に向けた入札などについて講演した。
講演に先立ち、宮島昭夫駐ポーランド大使がスピーチし、ウクライナ支援物資の9割がポーランドを通過するなど、ポーランドはウクライナ情勢における最大の戦略拠点ハブになっていると説明した。続いて、ジェトロ・ワルシャワ事務所の石賀康之所長が、ウクライナに関する問い合わせ内容が、最近は戦後復興支援ビジネスにシフトしてきていると述べた。
コハンスキ&パートナーズのウクライナ・デスク主任で元リビウ州知事のマルキヤン・マルスキー氏によると、ウクライナのインフラ被害総額は現在約1,400億ドル、復興費用は5,000億〜6,000億ユーロと見積もられている。戦時下でもエネルギーインフラと避難所、住宅、病院、学校などの国民生活に関わる施設の復興が急務で、これら分野への投資が着実に増えている。(ロシアによる)侵攻開始以降の事業再開と起業を支援するウクライナ政府の投資プラットフォーム「アドバンテージ・ウクライナ」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが立ち上げられ、内外の投資家から多数の問い合わせが寄せられている。有望分野としてIT、農業・食品加工、鉱工業、インフラ、物流、エネルギーなどが注目されている。
続いて、公共調達法務主任のヤクブ・クリサ氏が、復興事業に関する公共調達への入札について解説した。ウクライナ政府のほかに世界銀行や欧州復興開発銀行(EBRD)などの国際機関やEU加盟国、米国による調達があり、各機関の公式サイトで紹介されている。入札期間が短く競争率が高いのが特徴で、最新情報の把握と応札書類提出に向けた迅速な行動が要求される。外国企業が長期的に復興に関わっていくには、ウクライナ国内拠点とウクライナ語ができるスタッフの確保、実績あるパートナーとの提携が必須だ。
ジャパン・デスク主任を務めるヤツェク・コジコフスキ氏は、多額の民間資金の誘致に不可欠な投資リスク最小化の枠組みを紹介した。ポーランドには、日本の国際協力銀行(JBIC)に相当する国家開発銀行(BGK)と輸出信用保険会社(KUKE)がある。JBICとBGKは、2022年9月にポーランドおよびウクライナ周辺国を含む第三国でのエネルギー安全保障、気候変動対策などの分野における連携強化を目的とする覚書を締結した。日本とウクライナは2015年2月に投資保護協定を締結している(同年10月発効)。また、2014年に設立された内閣の常設諮問機関ビジネスオンブズマンカウンシル(BOC)が戦時下でも活動しており、外国投資家を保護している。 
●プーチン 「戦争を長引かせることが最善の策だと考えている可能性が高い」 3/9
米国家情報長官「プーチン大統領は時間が彼に味方すると計算しているようだ」
アメリカのヘインズ国家情報長官は8日、ロシアのプーチン大統領がウクライナでの「戦争を長引かせることが最善の策だと考えている可能性が高い」との見方を示しました。
米ヘインズ国家情報長官「我々はロシアが今年、大きく領土を獲得できるほど回復するとは予想していないが、プーチン大統領は時間が彼に味方すると計算しているようだ。戦闘の中断を含め、何年かかろうと戦争を長引かせることが、ウクライナにおけるロシアの戦略的利益を確保するための最善策だと考えているのではないか」
甚大なダメージを受けたロシア軍の再建には何年もかかる
また、ヘインズ長官は、「ロシアは攻撃を続けているものの、多くの死傷者を出している」「プーチン氏はロシア軍の限界を理解できているようで、今のところ、より控え目な軍事目標に集中している」とも述べました。
さらに、8日に公表された安全保障の脅威に関する年次報告書では、「ロシア軍が今年中にウクライナ東部のドンバス地方のすべてを占領することはおそらくできない」「甚大なダメージを受けたロシア軍の再建には何年もかかる」「今後は核やサイバー、宇宙分野への依存度をさらに高めるだろう」と分析しています。
●バフムト陥落でもその先にロシア軍を待つ地獄 3/9
ロシア軍は激しく消耗しており、ウクライナ東部の要衝で勝利したとしても、大きな代償を払うことになる可能性が高い――米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が、こう指摘した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月7日、米CNNとのインタビューの中で、もしもウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍がバフムトでの戦いに勝利すれば、ロシアが国内のその他の主要都市に進軍する「道が開かれる」ことになると語った。
だが戦争研究所は同日に発表した分析の中で、ロシア軍には、バフムトを制圧してウクライナのその他の主要都市に進軍するだけの「能力が不足」していると指摘した。
同シンクタンクは報告書の中で、「ロシア軍はバフムト占領後、2つに分岐した進軍ルートのうち、どちらかを選ばなければならないだろう」と指摘した。「ロシア軍は消耗しており、進軍成功の可能性を少しでも高めるためには、どちらか一方のみを優先しなければならない可能性が高い。だがロシア軍の司令官は、ウクライナへの軍事侵攻を開始してから繰り返し、複数の進軍ルートに部隊を配備してきた。手を広げすぎだ」
ISWはさらに、ウクライナ側は「これら2つのルートの両方を要塞化し、国土の奥深くに続く補給線も確保している」と指摘。「ロシアが進軍を試みれば、大損害を被る可能性が高い」と分析した。
バフムト陥落でもロシアの勝利は遠い
米情報機関のある当局者は以前、本誌に対して、ロシアがウクライナでの戦いに敗れるのは時間の問題だと語った。またロイド・オースティン米国防長官も6日、バフムトはプーチンにとって「戦略や作戦上の価値というよりも、象徴的な意味が大きい場所」だと述べ、陥落したとしても戦況が大きく変わることはないとの見方を示した。
またアメリカの複数の当局者は、ロシア軍がウクライナの前線で失う兵士の数が、最大で全体の70%にものぼると推定している。
戦争研究所は7日の分析の中で、ロシア軍には、バフムトを越えて進軍するのに必要な「機械化部隊がない可能性が高い」とも指摘。ロシア政府は機動戦よりも、要塞地帯の正面攻撃に適した大隊規模の「突撃分遣隊」に頼るようになってきているとの見方を示した。
同研究所は報告書の中で、「ロシア軍は、より簡略化された戦術を用いる小規模な突撃分遣隊に戦闘を任せることが増えている。このことと、実戦の準備ができている兵士の犠牲が増えていることを合わせて考えると、ロシア軍がバフムト制圧後に開かれる進軍ルートにおいて、有効な作戦を展開できる能力は、大幅に制限されることになる可能性が高い」と指摘した。
●ゼレンスキー氏、プーチン氏とは会わず 「信用できない」 3/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日までに、CNNの取材に答え、現在はロシアのプーチン大統領と会談するという状況を想定していないと述べた。
ゼレンスキー氏はプーチン氏との会談を設定するには何が必要かとの質問に対し、「我々はロシア連邦の大統領と話をする状況にはない。彼が約束を守らないからだ」と述べた。
ゼレンスキー氏はプーチン氏を全く信用していないとし、「ロシアは我々の領土から去るべきだ。その後、我々は喜んで外交的手段に加わる」などと述べた。
ゼレンスキー氏は、先月のバイデン米大統領によるウクライナ訪問について、「非常にうれしい」と語った。
ゼレンスキー氏は「米国が我々を支持しているという全世界に対する重要なメッセージだ。そして、米国は我々が勝つと信じていると思う」と述べた。
制空権をめぐる戦いを支援するために米国がウクライナに対してF16戦闘機を供与するかどうかについての質問では、ゼレンスキー氏は「戦闘機の問題は難しい。我々は決定が下されるのを待っている」と述べた。
ゼレンスキー氏が訴えるところによれば、バイデン氏にはウクライナのパイロット向けの訓練を開始することが可能だという。本人からは検討が行われると言われたとした。ゼレンスキー氏は「米国が我々に空を守るための機会を与えてくれると信じている」と述べた。
その上で、西側諸国が供与する戦闘機が戦況を左右するかどうか質問されると、「はい、我々はそう信じている」と答えた。
ゼレンスキー氏はバイデン氏との戦闘機をめぐる協議を振り返り、バイデン氏とその側近は現時点では戦闘機は必要ないと感じていたと述べた。一方で、ゼレンスキー氏は戦闘機が必要だと訴えたという。
ゼレンスキー氏は、戦闘機が自衛に役立つとし、「だから我々は戦闘機を緊急に必要としている」と述べた。
●ウクライナ各地に大規模ミサイル攻撃、死傷者も ザポリッジャ原発電源喪失 3/9
ウクライナの広い範囲で9日、ロシアによる大規模なミサイル攻撃があり、少なくとも9人が死亡した。80発以上が撃ち込まれた様子で、首都キーウへの攻撃も報告されている。ロシアが支配する南部のザポリッジャ原子力発電所では電力供給が失われたとみられている。
ミサイル攻撃は、北東部ハルキウから南部オデーサ、西部ジトーミルまでの各州に及んだ。また、いくつかの地域で停電が発生した。
ウクライナ軍は、ロシアが81発のミサイルを発射したと発表。ここ数週間で最大規模の攻撃となった。一方で、巡航ミサイル34発と、イラン製ドローン「シャヘド」8機のうち4機の撃墜に成功したとしている。
これほどの規模のミサイル攻撃は、全国で計11人が死亡した1月26日以来。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアが「悲惨な戦術」を再開したと指摘。「厳しい夜だった」と話した。
また、「大規模」なロケット攻撃が重要なインフラや住宅を襲ったものの、エネルギーシステムは復旧し、すべてのサービスが機能していると述べた。
こうしたなか、東部の都市バフムートでは依然、激しい戦闘が続いている。
首都キーウでも爆発
西部リヴィウ州のマクシム・コジツキ知事はメッセージアプリ「テレグラム」で、住宅にミサイルが直撃し、少なくとも5人が死亡したと述べた。
ドニプロペトロウシク州のセルヒイ・リサク知事は、ドローンとミサイルの攻撃により1人が死亡、2人が負傷したと発表した。
キーウ市内では西部と南部で爆発があり、救急隊が駆けつけた。ヴィタリー・クリチコ市長は、集合住宅の中庭で車が炎上しているとし、住民らに避難所にとどまるよう呼びかけた。また、市内の大部分が停電に見舞われており、10人に4人が影響を受けていると述べた。
キーウで取材中のジェイムズ・ランデイルBBC外交担当編集委員は、午前5時50分(日本時間午後12時50分)ごろに「最初に首都で爆発音が聞こえ」、首都の南西部で煙が上がるのが見えたと話している。その際には自分たちもシェルターに避難したものの、その約5時間後にはすでに空襲警報は解除され、市民はいつも通りに歩いて出勤したり、途中でコーヒーを買ったりしているという。
オデーサ州のマクシム・マルチェンコ知事によると、港湾都市オデーサのエネルギー施設も激しいミサイル攻撃を受け、停電が発生した。住宅地も攻撃されたが、死傷者は報告されていないという。
ハルキウ州のオレグ・シネグボフ知事は、ハルキウ市など州内で「15回ほど」の攻撃があり、「重要インフラ施設」と集合住宅が標的になったと述べた。
原子力事業者エネルゴアトムは、欧州最大のザポリッジャ原発への攻撃で、同原発とウクライナの電力システムを結んでいた「最後のリンク」が切られたとした。
同原発が攻撃を受けたのは、ロシアに占領されて以来、6回目。現在はディーゼル発電機で稼働しており、10日間分の物資が確保されているという。
ザポリッジャ州のロシア支配地域にいるロシア関係者は、ザポリッジャ原発にウクライナ領内から電力が供給されなくなったのは「挑発行為」だと述べた。
このほか、西部ヴィンニツァ、リウネ、中部ドニプロ、ポルタヴァの各州などでも攻撃があった。
数州で被害が出た1月末の攻撃以来、最大の攻撃となっている。当時は多数の建物が攻撃され11人が死亡した。
米情報当局の戦局分析
アメリカのアヴリル・ヘインズ国家情報長官は8日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、何年も戦争を引き延ばすつもりかもしれないとの見方を示した。また、ロシアには年内に新たな大規模攻勢をかけるほどの強さはないとした。
ヘインズ氏はさらに、ウクライナにおける戦争は「双方とも決定的な軍事的優位性をもたない過酷な消耗戦」になっていると分析。
「ロシア軍が今年、領土を大きく広げるのに十分な軍事的回復をするとは思わない。だがプーチンは、時間が自らに有利に働くと計算しているようだ。一時停戦も含めて戦争を長引かせることが、たとえ何年もかかるとしても、最終的にウクライナにおけるロシアの戦略的利益を確保するうえで、残された最善の道だと考えているようだ」と話した。
ヘインズ氏は、ロシアが現在制圧している地域の防衛に転じるかもしれないとも述べた。そして、ウクライナでの作戦レベルを維持するためには、ロシアは追加的な「強制動員や第三者による弾薬の提供」が必要になるだろうと付け加えた。
戦闘が続く東部バフムートの状況についてウクライナ軍は、ロシアの激しい攻撃を押し戻したと説明している。ロシアは同市の東半分を制圧したと主張している。
ロシアは数カ月前からバフムートの占拠を狙っている。激しい消耗戦となっており、双方が大きな損害を出している。
ウクライナ軍参謀本部は、「敵は攻撃を続け、バフムート市への襲撃をやめる気配はない」、「私たちの防衛隊はバフムートと周辺地域への攻撃を撃退した」とした。
西側当局によると、バフムートの戦闘が始まった昨夏以降、2万〜3万人のロシア兵が死傷している。この数字は独自に検証できていない。
●ウクライナ戦争、米国の太平洋戦略に追い風 中国の孤立化が容易に 3/9
ロシアがウクライナに侵攻して1年、中国の習近平(シーチンピン)国家主席がロシアのウラジーミル・プーチン大統領を支持する中、米国および太平洋地域の友好国は、時にギクシャクすることもあった協力関係の強化に乗り出している。中国政府にとってはなんとも不都合な話だ。
この数か月間だけでも、日本は防衛費の倍増と米国製長距離兵器の購入を確約し、韓国は台湾海峡の安定化が自国の安全保障に重要だとの認識を示した。フィリピンは米軍基地使用権の拡大を発表し、日米豪と南シナ海での合同パトロールを検討している。
それらは極めて大きな措置と言えるかもしれないが、中国が周辺地域で次第に孤立を深めるに至った唯一の要因というわけでは全くない。中国は友好国ロシアによる主権国家の侵攻を非難しようとせず、その一方で自治権を持つ台湾に軍事的圧力をかけ続けている。
専門家いわく、ウクライナでの戦争がなくても、これらの出来事は全て起きていた公算が大きい。だが戦争が勃発し、中国がロシアを支援したことで、こうした動きに拍車がかかった。
日本の状況を見てみよう。第2次世界大戦後、日本の戦力は憲法で「自衛権」に制限されてきた。それが今、中国本土も攻撃可能なトマホーク長距離巡航ミサイルを米国から購入しようとしている。
岸田文雄首相は昨夏シンガポールで行われた大規模な軍事会議で、ウクライナが明日の東アジアかもしれないとの強い危機感を抱いていると明かしていた。
続いて同首相は昨年12月、日本の領土をはるかに超える長射程兵器の購入と、防衛費倍増の計画を打ち出した。
「確かに日本国民はウクライナ情勢を注視している。国が以前よりも脆弱(ぜいじゃく)な立場におかれていると感じている」と語るのは、シンガポールのS・ラジャラトナム国際研究大学院の上級研究員、ジョン・ブラッドフォード氏だ。
日本が特に脅威を感じているのが中国だ。
中国人民解放軍は長年にわたって戦力増強と近代化を進めてきた。5日には、中国政府が2023年の軍事予算を7.2%増加すると発表した。中国の軍事費が3期連続で前年を上回るのはこの10年で初めてのことだ。
「軍隊は軍事演習と臨戦態勢を全体的に強化し、新たな軍事戦略指針を打ち出して、戦闘を想定した訓練にもっと注力するべきだ。そしてあらゆる方向、あらゆる分野で軍事活動を強化すべく、連携して取り組むべきだ」。退任を控えた李克強(リーコーチアン)首相は、政府活動報告でこう述べた。
中国第一党の中国共産党は長年にわたって台湾に圧力をかけてきた。一度も実効支配したことがないにもかかわらず、台湾を自国の領土とみなしている。習氏も再三にわたり、中国本土との「再統一」の際には武力行使も辞さないとしている。
ロシアがウクライナに行ったのと同じことを、いつか中国も台湾に行うのではないかと懸念する声もある。
日本政府高官は、台湾海峡の平和が日本の安全保障に必要不可欠だと口にしてきた。こうした発言は今に始まったことではないが、日本国内では緊迫感が高まっている。
「日本は長年にわたって防衛体制を強化してきた。ウクライナ情勢により、次の段階と目される岸田首相の新たな国家安全保障戦略の主要項目が、政治的に進めやすくなった」とブラッドフォード氏は言う。
現在の情勢をふまえ、韓国上層部も同じような視点で台湾の状況を見守っている。
「台湾海峡の平和と安定は、朝鮮半島の平和と安定に必要不可欠だ。地域全体の安全保障と繁栄のためにもなくてはならない」。韓国の朴振(パクチン)外相は先ごろ、CNNにこう語った。
台湾をめぐって米軍が中国との争いに巻き込まれた場合、韓国は核で武装する北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)氏の目に格好の餌食として映るだろう。そうした事態を韓国政府は懸念している。
この結果、韓国の防衛力強化を求める声が起きた。中には韓国も独自の核兵器を所有するよう要求する声も上がっている。
一方で、日韓政府は米国との合同海上演習など、防衛面での連携をより緊密にしている。
韓国ではまた、戦車や榴弾(りゅうだん)砲、戦闘機など自国で生産する兵器の需要も増加している。
同国は、米国が主導する北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でウクライナ西部と国境を接するポーランドと、数十億ドル規模の兵器輸出契約を締結した。韓国製兵器はアジア地域にも輸出されている。
先月も、韓国航空宇宙産業(KAI)がFA50戦闘機18機のマレーシア輸出を発表した。
これらFA50戦闘機を運用するもう一つの国がフィリピンだ。フィリピン政府も韓国製兵器や哨戒(しょうかい)艇を輸入している。
協力体制のネットワークはさらに複雑化している。
フィリピンは南シナ海における日米豪との合同パトロールを現在交渉中だ。南シナ海では、フィリピンが主権を主張する島々を中国が占拠している。
さらにフィリピン政府は先月、国内における米軍施設の使用権の拡大に合意した。
専門家の話によると、フィリピンにしてみれば、ウクライナの戦争に対する出方とは無関係に、中国が最大の問題になっているようだ。
ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領は米国をよく思わず、中国政府との協調の道を模索していた。だが中国がこれを高く評価することはなかった。専門家によれば、後継のフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領は、米国や米国の同盟国との協調に熱心な姿勢を見せているという。
「前政権は中国政策の都合のいいように便宜を図ろうとしてきたが、実を結ぶことはなかった。新マルコス政権がこれを正当化することは難しい」と語るのは、独立シンクタンクのパシフィックフォーラムで海上安全保障主任を務める、東京国際大学のジェフリー・オルダニエル助教だ。
「中国海警局がフィリピン沿岸警備隊の乗組員にレーザーを照射して視界を遮った(最近の)事件のように、中国側は弱い者いじめを続けているが、米国とより強力な同盟関係を主張させるだけだ」。米シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ政策研究所で、インド太平洋地域の防衛政策を専門とするブレーク・ハージンガー非常勤研究員もこう語っている。
専門家いわく、中国がフィリピンに圧力をかけていることで、南シナ海の反対側でも反発が起きている。
「シンガポールとベトナムは、この地域で米国の影響力を高めることにさらに積極的になっている。彼らは中国が東南アジアを支配することを望んでいない」(オルダニエル助教)
だが専門家によれば、ウクライナの戦争は、インド太平洋地域における米国との重要な協力体制、すなわち日米豪印間の非公式同盟「QUAD(クアッド)」のプラス材料にはなっていないという。
他の3国と違い、インドはいまだにプーチン氏のウクライナ侵攻を糾弾していない。
「日米豪は共同声明を出してロシアを糾弾しようと試みたが、インドが拒否した……QUADはインド太平洋地域の問題のみを取り上げるべきで、ロシアはこの地域の国ではない以上、この話題を扱うことはできないというのがインドの主張だ」。ランド研究所の国防上級分析官、デレク・グロスマン氏は言う。
だが同氏いわく、QUADで意見が割れても、本来の目的から目を背けることはないという。
「中国にどう対処するかがQUADの一番の目的だ」(グロスマン氏)

 

●プーチンが「極悪非道」尽くしても、世界にまだ「親ロシア国」が少なくない理由 3/10
世界情勢を左右する「グローバル・サウス」
「ウクライナ戦争後の世界」は、どうなるのか。欧米では「自由主義と専制主義の陣営に分裂する」という見方が多い。だが、そう単純ではないかもしれない。「グローバル・サウス」と呼ばれる新興・途上国が両者の間に立って、揺れ動く事態の鍵を握る可能性がある。
「グローバル・サウスが鍵を握る」という見方は、ウクライナ戦争の長期化に伴って、急速に強まっている。1月にスイスで開かれた世界経済フォーラム(ダボス会議)や、2月にドイツで開かれた安全保障会議でも、大きな焦点になった。
ロシアによるウクライナ侵略戦争は、自由主義の欧米をウクライナ支援で結束させた。「ロシアに懲罰を与えなかったら、別の侵略者に『オレたちもできる』というメッセージを与えてしまう」(アントニー・ブリンケン米国務長官)という危機感からだ。一方で、専制主義のロシアと中国、北朝鮮なども連携を強めている。では、両陣営に属さない「その他の国」はどうなるのか。これが「グローバル・サウス」だ。
欧州のシンクタンク、欧州外交問題評議会(ECFR)は2月22日、興味深い世論調査の結果を発表した。それによると、グローバル・サウスの代表国であるインドやトルコは「問題ごとに自国の国益に照らして行動し、両陣営に縛られない」というのだ。
ECFRは昨年12月からことし1月にかけて、米欧と中国、ロシア、インド、トルコなど計15カ国で調査を実施し、約2万人から意見を聞いた。
ウクライナ戦争については、インド(54%)とトルコ(48%)で「ウクライナが一定の領土をロシアに譲っても、早期に停戦すべきだ」という回答が多数を占めた。同じ答えが少数にとどまった欧州9カ国(30%)や英国(22%)、米国(21%)とは対照的だ。欧州9カ国(38%)や英国(44%)、米国(34%)では「たとえ戦争が長引いても、ウクライナはすべての領土を取り戻す必要がある」という回答が多数を占めている。
インドが「親ロシア」な理由
各国はロシアという国を、どう位置付けているのか。
インド(80%)や中国(79%)、トルコ(69%)は「ロシアを利害や価値を共有する同盟国」ないし「戦略的に協力しなければならない不可欠のパートナー」とみている。これに対して、米国(71%)、欧州9カ国(66%)、英国(77%)は「戦っている敵国」ないし「競争しなければならないライバル」と認識している。真逆と言ってもいい。
中国は当然としても、インドやトルコでは、ロシアを「仲間」とみている人が多数派なのだ。とくに、インドの80%という高さには驚かされる。インドは米国、オーストラリア、日本とともに、4カ国の戦略的枠組みクアッド(QUAD)の参加国である。これは、対中包囲網の一環だ。
インドは、なぜ「親ロシア」なのか。
答えは、中国と緊張関係にあるからだ。インドと中国は昨年12月、国境の山岳地帯で衝突した。2020年にも衝突し、双方に計24人の死者を出した。インドは中国をけん制するためにも、ロシアとの関係を悪化させたくないのだ。
インドは、ウクライナ戦争が始まってから、ロシアとの貿易を5倍に増やした。3月3日にニューデリーで開かれたクアッド外相会議の共同声明は「ルールに基づく国際秩序の尊重」や「核兵器の使用や威嚇は許されない」と記した。だが「ロシア」の国名は出さなかった。インドに配慮した結果である。
逆に、ロシアの側もインドを「同盟国ないし戦略的に協力しなければならない不可欠なパートナー」(80%)とみている。
民主主義と世界の行く末
民主主義の考え方についても、米欧と中ロ、インド、トルコでは大きな違いがある。
中国(77%)やインド(57%)、トルコ(36%)は「自国こそが真の民主主義国」と考えている。米欧から見れば、異常な高さと言ってもいい。ロシア(20%)はさすがに、それほど高くない。
ロシアの国力に対する評価も、欧米とそれ以外の国では異なる。欧米では「戦争前に比べて国力は衰えた」とする見方が多数派だが、逆に、インドやトルコ、中国、それにロシア自身も「戦争前に比べて強くなった」という見方が多い。
「10年後に世界はどうなっているか」という設問では、どうだったか。
米国(26%)や英国(29%)、欧州9カ国(28%)では「米国と中国が、それぞれ主導する2つのブロックに分裂する」という見方が多い。これに対して、ロシア(33%)と中国(30%)、トルコ(23%)は「世界のパワーは複数国によって、より均等に分割される」。中国とロシアの政権は「世界の多極化」を目指しているが、国民も目標は達成可能と感じているのだ。インド(31%)は「米国による世界支配」である。
ただ、米国(28%)と英国(39%)、欧州9カ国(34%)は「分からない、どれでもない」が最多を占めている。ここは、やや意外だ。欧米は、実はあまり自信がないようだ。
NATO加盟国のはずだが…
他国はトルコを、どうみているか。
ロシア(74%)やインド(59%)、中国(55%)はトルコを「同盟国ないし戦略的に協力しなければならない不可欠なパートナー」とみているのに対して、米国(39%)や英国(37%)、欧州9カ国(39%)は、それほどでもない。
トルコが北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であることを考えれば、これは驚くべき結果だろう。西側の同盟国としてみられて当然なのに、ロシアや中国は「トルコは、むしろ中ロ側」とみているのだ。
逆に、トルコが相手国をどうみているか、と言えば、欧州9カ国(73%)やロシア(69%)、米国(65%)を「同盟国ないし戦略的に協力しなければならない不可欠なパートナー」とみている。ここで、ロシアは欧米並みに扱われている。
昨年10月30日付のニューヨーク・タイムズによれば、トルコは開戦以来、ロシアとの貿易量を3倍に増やした。この増加幅は中国の64%増を、はるかにしのいでいる。トルコはウクライナに武器を供与しているが、ロシアにとっては、もっとも信頼できる貿易相手の1つになっている。
対ロ制裁に参加しないブラジルと南アフリカ
この調査は対象にしていないが、忘れてならないのは、ブラジルと南アフリカである。
ブラジルはロシアの侵攻を非難しているが、インドや南アフリカとともに、経済制裁には加わらず、ウクライナに武器供与もしていない。一方、ロシアとの貿易量は開戦以来、2倍に増やした。
南アフリカはロシア、中国とインド洋で軍事演習をした。旧ソ連は人種差別が残っていた時代に、南アフリカを支援した。国民は「その恩を忘れていない」という。南アフリカはロシア寄り、とみていい。
グローバル・サウスの人々は、欧米に対して「二重基準」も感じている。ウクライナには莫大な支援を続けているのに、新型コロナの感染拡大では、なぜ途上国に十分な支援をしなかったのか。あるいは、なぜウクライナの難民には暖かく、アフリカや中米の難民には冷たいのか、といった疑問だ。
戦争でエネルギーや食料価格が上がったが、それも、ロシアの侵攻が理由というより「西側の制裁のためだ」という見方が多い。
どうすれば引き寄せられるか
こうしてみると、グローバル・サウスと呼ばれる国の人々や政府は、さまざまな気持ちや事情を抱えて、いまの世界を眺めている。彼らは1枚岩でもない。問題によって、こちら側にもあちら側にも動く可能性がある。グローバル・サウスは、彼らの内側でも「多様化、流動化」している。
西側は、それらを汲み取ったうえで「どう、彼らを自由と民主主義の側に引き寄せるか」が問われている。自由や民主主義、国際ルールの尊重といった「イデオロギー」を唱えるだけでは、まったく不十分だ。きめ細かで、多様な戦略と戦術が必要になる。
にもかかわらず、日本の林芳正外相は国会審議を理由に、先の主要20カ国・地域(G20)外相会合を欠席した。ここで触れたインドやブラジル、トルコ、南アフリカなどグローバル・サウスの重要国は、みなG20のメンバーである。せっかくの重要な機会を、自ら手放してしまった。この調子では、5月の先進7カ国(G7)首脳会議(広島サミット)でも、日本の活躍は大して期待できそうにない。
●ロシア、ウクライナ戦争2年間継続可能=リトアニア軍情報部門 3/10
リトアニア軍の情報部門トップは9日、ロシアにはウクライナでの戦争を2年間継続するのに十分な資源があると述べた。
軍情報部門トップのElegijus Paulavicius氏はビリニュスで記者団に対し「ロシアがどの程度長く戦争を続けられるかは、イランや北朝鮮などからの支援にも左右される」としながらも、「ロシアが現在持っている戦略的予備力、装備、弾薬、軍備を見れば、現在の勢いで2年間は戦争を継続できる」と述べた。
同氏はリトアニア情報当局がまとめた国家への脅威に関する報告を公表した。
それによると、情報当局はロシアが公共の福祉から軍に資源を振り向けているため、軍に資源を供給する能力は制裁の影響を受けていないとの見解を示した。
報告は、ロシアが西側の技術を調達するために一連の仲介者を利用していると指摘。ロシア軍は西側との長期的な対立に適応しており、バルト海地域で軍事プレゼンスを再構築する取り組みを優先させ、この地域の「脅威と不安定要因」にとどまり続けるだろうとした。
また、ロシア政府と中国政府に関連したハッカーが2022年にリトアニア政府のコンピューターへの侵入を繰り返し試みたと明らかにし、「彼らの優先事項はリトアニアの内政と外交に関連する情報の継続的かつ長期的な収集だ」と指摘した。
ハッキングが成功したかどうかには言及していない。
●ロシア軍に手詰まり感 「バフムト制圧」でも―ウクライナ東部 3/10
ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトの東側を制圧したもようだ。米シンクタンクの戦争研究所が指摘し、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」も8日に宣言した。ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、「別の都市への侵攻ルートを開きかねない」と完全撤退を否定。ただ、仮にバフムトが陥落した場合でも、ロシア軍は地上部隊が不十分と見積もられ、さらなる進軍に手詰まり感が漂う。
「チェスで番が回ってくるたびに自ら不利になるケースがあるが、敵(ロシア)をこの状況に追い込むよう全力を尽くしている」。ウクライナのシルスキー陸軍司令官は8日、バフムトを訪れ、抗戦の意図を明かした。
シルスキー氏のバフムト訪問は過去2週間で4回目。陥落は不可避という観測が根強く、一部撤退が進行中と伝えられた中、余力があることを示唆した。米戦争研究所は6日、ウクライナ軍が消耗戦を仕掛けているという見方を公表。「防御的な市街戦で(精鋭部隊に)損害を与える好機」だと分析した。
一方、ウクライナ軍が「戦略的撤退」に踏み切った後、ロシアがドネツク州全域の掌握に向けて作戦を加速させられるかは不透明だ。戦争研究所は7日、ワグネルなどの突撃部隊がバフムトで一定の成果を出したものの、その先への進軍に必要な装甲車などの機械化部隊が不十分である可能性が高いと推定した。
ロシア軍は2月上旬、ドネツク州ウグレダル周辺で防衛線の突破を図ろうとしたが、逆に戦車や装甲車を多数破壊されたとされる。この方面は専らロシア国防省が管轄。ショイグ国防相が前線司令部を視察したという映像が今月4日に公開されたことについて、英国防省は8日、不仲とされるワグネル創設者プリゴジン氏のバフムト訪問に対抗したものだと位置付けた。作戦が進まない焦りもうかがえる。
●プーチン大統領、戦争終結に向け交渉に臨む用意なし=独首相 3/10
ドイツのショルツ首相は9日、ロシアのプーチン大統領にはウクライナでの戦争の終結に向け交渉する用意はないように見えるという認識を示した。
独紙NBRグループによると、ショルツ首相は「残念ながら、現時点で(交渉に向けた)意欲は感じられない」とし、ウクライナは平和に向けどのような条件を受け入れる用意があるか決断する必要があると語った。
また、ドイツのエネルギー供給は来年の冬も十分としたほか、気候保護に絡む多額の投資によって、独経済が1950・1960年代に見られた水準の成長を遂げる見通しとした。
●ウクライナへの武器輸出反対 「法順守」強調 スイス大統領 3/10
スイスのベルセ大統領は7日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対するスイスの武器輸出について、引き続き反対する意向を表明した。
戦地への武器再輸出を禁じる法律を順守し、ドイツやウクライナなどの要請を改めて拒否した。
ベルセ氏は国連の会合に出席した際、記者団に「武器輸出の議論がある中、スイスの法的枠組みでは無理だ」と指摘。「政府として法の枠組みを維持し、その枠内で活動しなければならないし、それを望んでいる」と説明した。
●ロシアのウクライナ侵攻でポーランドが欧州安全保障の中心に 3/10
欧州の安全保障の最前線が、ドイツからポーランドなど中東欧諸国に移りつつある。米国が在欧米軍の司令部を、ドイツからポーランドに移すのはその表れだ。NATOとロシアが対峙する最前線は、ドイツからはるか東に移動する。
米国のジョー・バイデン大統領は2月20日にウクライナの首都キーウ(キエフ)を電撃訪問した後、隣国ポーランドを訪れた。
バイデン大統領はワルシャワでの記者会見で「我々は1年前、ロシア軍の攻撃によってキーウが短期間で陥落するのではないかと危惧した。しかし私は昨日、キーウを訪れた。ウクライナは自由な国として、誇り高く生き残っている」と述べ、ウクライナが頑強な抵抗を続けていることを称賛した。
さらに同大統領は「ロシアのウクライナ侵攻は、自由世界が経験する最も困難な試練だ。この試練に対し、我々は拱手傍観(きょうしゅぼうかん)することなく、同盟国と団結して立ち向かった。ポーランドの人々が歴史の経験からよく知っているように、強権国家の脅威に対しては宥和政策を取ってはならない。戦う以外の選択肢はない。独裁者たちに与える言葉は『NO』以外にない。『独裁者たちは私の祖国、自由、未来を奪うことはできない』と言うしかない」と語った。
バイデン大統領は「北大西洋条約機構(NATO)は、世界の歴史の中で最も高い実行力を持ち、義務を守る軍事同盟だ。NATOの結束が今ほど固くなったことは、過去に一度もなかった」として、NATOの重要性を改めて強調した。
また同大統領は、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領に対し「我々は欧州の安全を保たなくてはならない。そのため、欧州諸国が米国を必要とするのと同じように、米国はポーランドを必要とする」と述べ、ロシアがウクライナに侵攻して以降、ポーランドの重要性が高まったとの見方を打ち出した。
両大統領による共同記者会見で印象に残ったのは、バイデン大統領がドゥダ大統領に対し「ウクライナを力強く支援してくれてありがとう。ポーランドの貢献は本当に素晴らしいものだ」と最上級の謝意を国にしたことだった。
ポーランドは欧州で最も積極的にウクライナを支援している国の1つだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ポーランドは今年2月28日の時点で、ウクライナからの避難民約156万人を滞在させている。これは欧州で最多である。欧州に滞在しているウクライナ避難民(約489万人)のうち32%をポーランドが受け入れたことを意味する。政府が宿泊施設を提供するだけではなく、多くの市民たちもウクライナ人たちを自宅に受け入れている。
戦車の供与をためらうドイツにポーランドが圧力
ポーランドは軍事面でも、ウクライナを最も積極的に助けている。例えばNATO加盟国の中でウクライナに最初に戦車を送ったのはポーランドだ。
ポーランドは、2022年4月中旬という早い時点で、旧ソ連製T72戦車約240両をウクライナ軍に供与した。ポーランドは第2次世界大戦後ワルシャワ条約機構に組み入れられていたため、旧ソ連製の戦車を多数保有していた。当時NATOでは、レオパルト(ドイツ製)やチャレンジャー(英国製)など、西側諸国で製造した戦車や装甲歩兵戦闘車をウクライナに送ることはタブーとされていた。「ロシアが交戦国と見なす」懸念があったためだ。ポーランドは「旧ソ連製戦車ならばこの規則に抵触しない」と独自に判断して、ウクライナに戦車を送った。
さらにポーランドは昨年4月、ウクライナ政府が希望していた旧ソ連製のミグ戦闘機を供与することも検討した。ただし、こちらは断念せざるを得なかった。NATOは、戦闘機についてはその製造国を問わずウクライナへの供与を禁じることを暗黙のルールとしている。
ウクライナへの戦車供与をためらうドイツのショルツ政権の背中を押したのも、ポーランド政府だった。ウクライナ政府はロシア軍の春季大攻勢に対抗するために、約300両の西側製戦車を希望していた。これに対しドイツは「ロシアがドイツを交戦国と見なす」のを懸念し、自国が保有するレオパルト2のウクライナへの供与を半年近く拒んでいた。さらに、他国が保有するレオパルト2のウクライナへの供与も承認せずにきた。ドイツは欧州、カナダ、アジアの国々に約2000両のレオパルト2を輸出している。
多くのNATO加盟国がドイツの態度を批判したが、オラフ・ショルツ首相は「西側製戦車をNATOで最初にウクライナに送る国」になることに二の足を踏んだ。実務的かつ官僚的な性格のショルツ首相は、派手な振る舞いを嫌う政治家で、対外的なイメージやメッセージを重視することがない。同氏にとっては、どんなに時間がかかっても、ドイツにとって正しい決定をすることが全てである。決定に至る過程や、他国からの批判、決定の遅れがもたらすイメージの悪化は気にしない。
ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は1月22日、「ドイツ政府の態度は受け入れがたい」とショルツ政権をあからさまに批判した。ポーランドは、247両のレオパルド2型を保有しており、この一部をウクライナに送ると決定。ポーランドはドイツ政府に対して、ウクライナへの輸出許可を正式に申請した。
さらに英国がチャレンジャー2型戦車14両の供与を発表。続いて米国のバイデン政権もM1エイブラムス戦車を31両供与すると明らかにした。これで、ショルツ政権も戦車供与を拒絶する理由がなくなった。ドイツは1月25日、レオパルト214両をウクライナに供与すると発表、レオパルトを保有する他の国がウクライナに輸出することも承認した。
ドイツは昨年2月以来、重要兵器のウクライナへの供与を幾度も拒否。他国からの圧力に耐えきれなくなってようやく認めることを繰り返した。このため「欧州のリーダー国」としての信用は地に落ちた。
ポーランドのウクライナ軍事支援はドイツを凌駕
ドイツのキール世界経済研究所が定期的に更新しているデータベース「ウクライナ・サポート・トラッカー」の最新版によると、22年1月24日〜23年1月15日にポーランドがウクライナに供与した軍事支援は24億3000万ユーロ(約3400億円)に上り、ドイツ(23億6000万ユーロ)を上回る。米国、英国に次いで世界第3位である。
ちなみに、ウクライナに対する軍事援助、経済援助、人道援助を国内総生産(GDP)比で見ると、ポーランドとバルト3国は世界で最も積極的と言える。この比率が最も高いのは、バルト3国の一角をなす小国エストニアで、GDPの1.3%をウクライナ支援につぎ込んでいる。2位が同じくバルト3国のラトビアで1.19%。3位がポーランドで0.88%。4位がバルト3国のリトアニアで0.86%だ。欧州の経済大国ドイツ(0.36%)、英国(0.32%)、フランス(0.31%)の比率は、ポーランドとバルト3国に比べてはるかに低い。
ソ連(ロシア)による圧制の歴史
なぜポーランドは、ウクライナを必死に支援するのだろうか。それは、第2次世界大戦から東西冷戦終結までの経験と関係がある。同世界大戦が始まるとポーランドには西からナチスドイツ軍が、東からはソ連軍が攻め入った。ポーランドは、スターリンとヒトラーが結んだ独ソ不可侵条約の秘密議定書に基づき2分割され、西部はナチスドイツに、東部はソ連に編入された。ポーランドという国は地図の上から一時消滅した。
スターリン政権は、自国に反逆しそうなポーランド軍人や知識人の抹殺を図った。知識階層や貴族などのエリート層はソ連によって銃殺・投獄されたり、貨物列車に乗せられてシベリアの強制収容所へ送られたりした。ソ連の内務人民委員部(NKWD)は1940年、ポーランド軍の将校約4400人をスモレンスク近郊のカチンの森に連行し、銃殺した。カチンの森以外の場所で射殺されて埋められたポーランド人も合わせると、犠牲者の総数は約2万5000人に上る。これはソ連占領下のポーランドで、いかに激しい粛清の嵐が吹き荒れたかを物語る。ロシアの恐ろしさは、ポーランド人の骨身にまで染みている。
ポーランドの第2次世界大戦中の死者数は約600万人に上る。当時の人口の約17.2%が死亡したことになる。その数はソ連(2700万人)、ドイツ(636万人)に次いで欧州で3番目に多く、その比率は欧州で最も高かった(第2位のソ連は約14.2%)。
筆者は1989年の夏、NHKスペシャル「過ぎ去らざる過去」のための取材で、西ドイツとポーランドに3カ月間にわたり滞在した。このとき、筆者はポーランドのクラクフの近くで、ポーランド人の元兵士にインタビューする機会を得た。彼は第2次世界大戦の初期にナチスドイツ軍の捕虜となり、あちこちの強制収容所を転々とした後、最後はポーランドのアウシュビッツ(現)強制収容所へ送られた。
彼は「私はナチスに捕まって強制収容所に送られた。体力があり労働をすることができたので、すぐにガス室に送られることはなく、何とか生き延びることができた。しかしポーランド東部でソ連軍の捕虜になったポーランド兵たちは、大半がソ連に連れて行かれた後すぐに射殺された。私はナチスの捕虜になったという点で、運が良かった方なのかもしれない」と語った。
「当時のポーランド人たちには、ナチスの収容所へ送られてゆっくりと殺されるか、ソ連の捕虜になって森の中で直ちに射殺されるかの選択しかなかった」。彼の表情には、こうした口惜しい思いがにじみ出ていたように見えた。
筆者がこのインタビューの内容を、ポーランド人の運転手に話すと、彼は大粒の涙を流しながら大声で泣いた。「ペストとコレラの間の選択」しか与えられず、「アウシュビッツへ送られたのは幸運だった」と言わざるを得なかったポーランド人同胞をあわれむ気持ちを抑えきれなかったのだ。多くのポーランド人は愛国心が強く、感情的である。
別のポーランド人は「ナチスイツはガス室を建てて整然と人間を抹殺する。ソ連は機関銃の一斉射撃で抹殺する。どちらも似たり寄ったりの悪だ」と吐き捨てた。
ポーランド人たちが味わったこうした悲惨な境遇を理解しないと、なぜ今、彼らがウクライナを必死で支援するのかを理解できないだろう。
バルト3国も、第2次世界大戦中はナチスドイツとソ連の支配に翻弄され、戦後はソ連に強制的に編入された。ここでも多くの知識人たちが貨物列車でシベリアの強制収容所へと送られた。
ウクライナは中東欧諸国にとって防波堤
ポーランドやバルト3国は、ソ連軍によってナチスドイツの支配から解放されたものの、今度はクレムリンの傀儡(かいらい)政権に支配され、鉄のカーテンの向こう側に閉じ込められた。これらの国々が経験した過酷な過去を考えると、彼らがソ連崩壊後、EU(欧州連合)とNATOの戸をたたいたのも無理はない。ポーランドやバルト3国にとって、米国の核の傘で覆われたNATOへの加盟は、ロシアの牙から身を守る上で最も有効な「保険」だった。
ポーランドやバルト3国の人々は「今、ウクライナがロシアと戦っているのは、我々を守るためでもある」と考えている。特にポーランドは、ウクライナが万一ロシアに占領された場合、ロシアの勢力圏と国境を接することになる。ポーランドやバルト3国は「ロシアの侵略政策がウクライナで止まる保証はない」と考える。
つまりポーランドやバルト3国にとって、ウクライナはロシアの脅威を食い止める「防波堤」でもある。ウクライナが勝つか負けるかは、これらの国々にとって死活問題なのだ。彼らにとって、ゼレンスキー政権が勝利するシナリオ以外は想定できない。ポーランド人たちが「欧州の未来はウクライナで決まる」と言うのは、そのためだ。
仮にロシアのウラジーミル・プーチン大統領が死亡したり失脚したりしても、ドミトリー・メドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)のように、国粋主義的・攻撃的な性格の強い政治家が後継者になる可能性がある。
米国はポーランドが抱く懸念をよく理解し、中東欧地域の兵力を増強している。バイデン政権は、ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、欧州に駐留する米軍将兵の数を2万人増やして10万人にした。これは2005年以来最も高い水準だ。NATO軍は、中東欧地域に配置する将兵の数を21年2月(4650人)に比べて約8.6倍に増やした。現在は4万人規模の戦闘部隊がポーランド、バルト3国、ルーマニア、スロバキア、ハンガリーなどに駐留している。特にポーランドでは、NATOの戦闘部隊の将兵の数が21年の1010人から1万500人に増加した。
米国が在欧米軍司令部をドイツからポーランドへ移転
バイデン大統領は、昨年6月にスペインのマドリードで開かれたNATO首脳会議で重要な発表を行った。在欧米軍の要である第5軍団司令部を、ドイツ南部のアンスバッハからポーランド西部のポズナニに移すとしたのだ。第5軍団司令部は、中東欧に展開するNATOの戦闘部隊の活動、装備調達などを指揮し、コーディネートする。バイデン大統領は「NATOは、域外から攻撃を受けた場合、陸海空で戦い、加盟国の領土を1インチたりとも敵に渡さない」と固い決意を表明した。
同大統領は今年2月21日にワルシャワで行った記者会見でも「第5軍団司令部のポーランドへの移転は、欧州における集団安全保障(collective security)に対する米国のコミットメント(約束)が鉄のように硬いことを示すものだ」と強調した。
第5軍団は1944年にノルマンディー上陸作戦で欧州に進出。パリ解放やアルデンヌでの戦いを経て、ドイツ南部に進駐した。51年以降、第5軍団は西ドイツのフランクフルトに司令部を設置。その任務は、万が一ワルシャワ条約機構軍が西欧への侵攻作戦を始めた場合に、その進撃を食い止めて押し戻すことである。地上部隊が、ワルシャワ条約機構軍が擁する戦車部隊の攻撃を食い止められない場合には、米軍がドイツに保管する戦術核兵器の使用も視野に入れていた。
昨年7月30日、第5軍団が司令部を置く基地の命名式が、ポーランドのポズナニで執り行われた。基地は「キャンプ・コシチュシュコ」と名付けられた。タデウシュ・コシチュシュコ(1746〜1817年)はポーランド・リトアニア共和国の軍人で、米国とポーランドの双方で戦史に名を残している。
コシチュシュコは1776〜83年に米国の独立戦争に参加し、義勇兵として戦った。要塞建設などにおいて功績を上げて陸軍准将に昇進したほか、ジョージ・ワシントンを補佐する副官となった。84年にポーランドに帰国。92年に勃発したポーランド・ロシア戦争でロシア帝国と戦った。この戦争でポーランドは敗北したが、コシチュシュコは94年にロシア支配に抗して、武装蜂起している。
大西洋の向こう側まで行って米国独立のために戦い、祖国ではロシアの圧政から祖国を解放するために戦ったコシチュシュコは、軍事的緊張が増す21世紀の欧州で、米国とポーランドの結束を固める上で適した名前だ。
ポーランドのパウェル・ジャブロンスキー外務副大臣は「ロシアから攻撃を受ける可能性がある国に米軍が司令部を置くのは極めて重要だ。この決定は、長年にわたるポーランド政府の外交努力が実ったことを意味する。NATOのプレゼンスを強化することが、ロシアからの脅威を抑止し、ポーランドの安全保障を維持することにつながるからだ」と述べ、バイデン政権の決定を称賛した。
ポーランドの軍関係者の間では「米軍には、2個師団をポーランドに配備してほしい。できれば現在ドイツの米軍基地に保管している核兵器も、ポーランドに移管してほしい」という声が出ている。
米国は、エネルギー安全保障の面でもポーランドを支援する。バイデン大統領は2月21日のワルシャワでの記者会見で「我々は、ポーランドにおけるエネルギー安定供給を長期的に確保するため、新しい戦略的パートナーシップを結ぶ。米国はポーランドの原子力発電所建設に協力する」と発言した。
ポーランドは現在、原発を保有しておらず、発電量の69%を石炭火力でカバーしている。二酸化炭素排出量を削減し、外国から輸入する化石燃料への依存度を減らすため、2030年までに原子炉を新設する計画だ。19年には、原子力に関する協力のための二国間協定を米国と結んだ。22年には、最初の原子炉を建設する企業として、米国のウエスチングハウスを選んだと発表している。
ロシアはウクライナに侵攻して以降、ポーランドへの天然ガスと原油の輸出を停止している。ポーランドにとって、新しいエネルギー源の確保が重要だ。ポーランドと米国との協力関係は、軍事だけではなく経済分野にも広がりつつある。
防衛費でGDP比5%を目指すポーランド
ポーランドは現在も、NATOで最も軍備拡充に積極的な国だが、今後はさらにその傾向を強める。NATOは、ロシアが14年にクリミア半島を併合したのを受けて、「加盟国は24年までに、防衛予算をGDP比2%に極力近づける」との指針に合意した。この指針をさらに厳しくすべく、最低2%を義務化することを検討している。24年の首脳会議を決定の場にする考えだ。
ポーランドの防衛予算は22年の時点でもGDP比2.4%で、ギリシャ(3.76%)、米国(3.47%)に次いでNATOで3番目に高い。東西冷戦終結後、防衛予算を減らしてきたドイツは、この比率が1.6%にとどまっている。ポーランド政府は22年3月11日に施行した祖国防衛法で、この比率を23年末までに3%に引き上げるとともに、将兵の数を22年の16万4000人から30万人に増やすと決めた。
さらに同国のモラヴィエツキ首相は今年1月、「ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとして、我々は軍備をさらに増強し、今年の防衛予算のGDP比率を4%に引き上げる」と発表した。またマリウシュ・ブラシャク国防大臣は、長期的には5%に引き上げると語っている。つまり同国はNATOにおける最高比率を目指す。その意味でポーランドは、NATOの「優等生」である。
また米国の軍事ウエブサイト「アーミーテクノロジー」は今年1月25日、「ポーランド政府は米国からエイブラムス戦車250両、F-35A戦闘機32機を購入する方針を固めた。さらに、韓国から自走榴(りゅう)弾砲200門、ロケットランチャー218基、ブラック・パンサーK2戦車180両を購入する方針」と伝えている。ポーランドによる韓国製兵器の輸入は、隣国ドイツがレオパルト2の供与をめぐって優柔不断な態度に終始したことも影響している。ショルツ政権が周辺国の信頼を失いつつあることの表れと言える。
欧州でポーランドの発言力が大きくなるのは必至
もう1つポーランドの比重の高まりを示すエピソードがある。それは、2月22日にワルシャワで開かれた会議だ。ポーランドのドゥダ大統領はこの日、NATOに加盟する中東欧9カ国による枠組み「ブカレスト9」を開催。各国の首脳のほか、バイデン大統領やNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長を招き、会議を行った。
「ブカレスト9」は、ロシアがクリミア半島を一方的に併合した翌年の15年に、ポーランドなどが設置した安全保障のための枠組み。ロシアの脅威に対抗するための対策を協議してきた。
バイデン大統領は、ブカレスト9加盟国の首脳らと、中東欧における米国の兵力増強などについて協議したものとみられる。
ドゥダ大統領の補佐官であるマルチン・リュダス氏は「中東欧の8人の首相・大統領とNATOの事務総長が、ポーランド大統領の招きに応じてワルシャワに集まった。欧州の安全保障問題において、ポーランドが中心的な役割を果たしていることを示している」と指摘する。
米国はポーランドに長期的に関与することになりそうだ。バイデン大統領は22年11月、ポーランド人記者から「米軍はどのくらいポーランドに駐留するのか」との質問を受けた。同大統領は「我々は長年にわたり、そこにいるだろう」と答えている。
東西冷戦の時代、東と西に分割されたドイツでは、NATOとワルシャワ条約機構の軍隊が国境線を挟んでにらみ合っていた。当時ソ連は、東ドイツに30万人を超える戦闘部隊を配備していた。戦争の火蓋がいったん切られれば、東西ドイツが最初の戦場になるはずだった。在欧米軍司令部が西ドイツにあったのは、そのためである。1980年代の西ドイツの田園地帯では、NATOの戦車部隊がしばしば演習を繰り広げていた。だが今やNATOとロシアが対峙する最前線は、ドイツからはるか東に移動した。
今後、欧州の安全保障をめぐって、ポーランドなど中東欧諸国の発言力が一段と強くなることが予想される。 
●プーチン大統領、消耗戦に自信 欧米の支援継続が大切と米長官  3/10
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は9日、下院情報特別委員会の公聴会で、ウクライナ侵攻を長期化させるロシアのプーチン大統領が「ウクライナを苦しめ、欧米のウクライナ支援も弱体化できると確信している」と述べた。消耗戦に自信を持っており、和平交渉に応じる見通しはないと語った。
今後数カ月から半年間の戦況が決定的に重要になるとし、欧米諸国ができる限りの支援を続けることが大切だと指摘。ロシア軍内部では弾薬や人員の不足、士気の低下、指導部の対立などがあり、今年中に大きな戦略的成功を収める可能性は低いと予想した。
●プーチン氏「あなたの功績認められた証し」 3期目の習近平氏へ祝電 3/11
ロシアのプーチン大統領は10日、3期目に選出された中国の習近平(シーチンピン)国家主席に対し、「あなたの国家元首としての功績が認められ、中国のさらなる発展と国際社会での国益の保護という路線が幅広く支持されていることの証しだ」とたたえる祝電を送った。
プーチン氏はまた、ロシアと中国の関係における習氏の功績を高く評価しているとし、「地域と国際社会における最も重要な課題で協調していく」と述べた。
●中国がウクライナ戦争「徹底研究」、スターリンクに警戒も 3/10
中国が必要としているのは、「スターリンク」の低軌道衛星を撃墜する能力、そして対戦車ミサイル「ジャベリン」から戦車やヘリコプターを防護する能力だ――これが、米軍主導の勢力との武力衝突の可能性に向けた計画の中で、ウクライナで苦戦するロシア軍を研究した中国の軍事研究者たちが指摘した課題だ。
ロイターは、20以上の国防関連の定期刊行物に掲載された100本近い論文を分析。台湾をめぐる紛争が生じた場合に中国軍に対して展開される米国製の武器とテクノロジーの影響について、中国の軍産複合体全体で精査が行われている様子が明らかになった。
こうした中国語の定期刊行物には、人民解放軍と連携する大学、国営の兵器製造業者、軍情報機関系シンクタンクからなるネットワーク内における数百人もの研究者の取り組みが盛り込まれており、ウクライナによる妨害工作についても検証が行われている。
中国政府当局者は和平と対話を呼びかけつつ、ロシア政府の行動や戦場での行動について公然と批判するコメントは控えているものの、公開の定期刊行物に掲載された論文では、ロシア軍の欠点に関して、より遠慮のない評価が下されている。
研究者らの結論について中国国防省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。研究者らの結論に中国軍上層部の考え方がどの程度反映されているのか、ロイターでは判断できなかった。
中国の国防研究に詳しい大使館付き武官2人と、さらにもう1人の外交官によれば、最終的に研究課題を設定・指示するのは、習近平国家主席がトップを務める中国共産党中央軍事委員会だという。また、研究対象の量からして、軍上層部がウクライナ紛争という機会を活かしたいと考えていることは明らかだという。この3人をはじめとする外交当局者は、業務について公開で発言する権限がないことを理由に、匿名を条件としてロイターの取材に応じた。
米国防当局者の1人はロイターに対し、台湾の状況とは違いがあるとはいえ、中国はウクライナでの戦争に学んでいる、と語った。
「ロシアによるウクライナ侵攻に対して国際社会が示した迅速な反応から世界が学ぶべき教訓は、今後、侵略に対してはこれまで以上に一致団結した行動が生じるだろうということだ」とこの当局者は語った。機密に関わるテーマだけに匿名を条件として取材に応じ、米軍の特定の能力について中国側の研究が警戒を強めていることには触れなかった。
空から見つめるスターリンク
人民解放軍系の研究者による6本の論文で目立っていたのが、中国側が「スターリンク」の役割に対して抱いている懸念だ。スターリンクは、イーロン・マスク氏が米国で設立した宇宙開発企業スペースXが開発した衛星ネットワークで、ロシア側のミサイルによるウクライナ電力網への攻撃にもかかわらず、ウクライナ軍が通信機能を維持することに貢献している。
人民解放軍陸軍工程大学の複数の研究者が共同執筆した9月の論文は、「ロシアとウクライナの紛争においてスターリンクの衛星が傑出した性能を見せている」だけに、アジアにおける対立においても、米国・西側諸国がスターリンクの広範な活用をめざすことは確実だと述べている。
中国もスターリンクに似た独自の衛星ネットワークの開発をめざしているが、論文の執筆者らは、中国がスターリンクの衛星を撃墜する、あるいは無効化する方法を見つけることが「急務」だとしている。スペースXにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
またウクライナ侵攻を機に、中国の研究者のあいだでは、ドローン兵器への投資を拡大する意味は大きいというコンセンサスが生まれているようだ。中国は、台湾を自国の支配下に置くことを宣言しており、台湾周辺空域でドローンの実験を続けている。
人民解放軍に供給を行う国営兵器メーカー、中国兵器工業集団(NORINCO)が発行する戦車戦に関する専門誌に掲載された論文は、敵の防衛網を無力化するドローンの能力に触れ、「将来の戦争においては、こうした無人機が『ドアを蹴破る』役割を担うだろう」と指摘している。
定期刊行物の一部は地方レベルの研究機関が発行しているものだが、それ以外は、兵器生産や軍の現代化を管掌する国家国防科技工業局をはじめとする中央政府機関の公的な刊行物だ。
国家国防科技工業局の機関誌「国防科技工業」10月号に掲載された論文では、ウクライナ兵士が運用する「スティンガー」や「ジャベリン」といったミサイルによって「ロシアの戦車、装甲車、艦艇が受けた深刻なダメージ」を考慮して、中国は装備を防護する能力を改善すべきだと指摘している。
シンガポール南洋理工大学ラジャラトナム国際学院のコリン・コー安全保障研究員は、ウクライナでの紛争は、人民解放軍の科学者が長年続けているサイバー戦争モデルの開発や、西側諸国の現代兵器に対する装甲の改善といった取り組みに勢いを与えている、と語る。
「スターリンクはまさに彼らにとって新しい頭痛の種だ。簡単には真似のできない先進的な民生テクノロジーの軍事利用だからだ」
コー氏によれば、テクノロジー以外にも、ウクライナの特殊部隊がロシア国内で行っている作戦を中国が研究しているのも意外ではない、という。中国もロシアと同様に部隊や兵器の輸送を鉄道に頼っており、破壊工作に対して脆弱だからだ。
人民解放軍は急速に現代化を進めているものの、近年では戦闘経験が乏しい。最後の本格的な戦闘は1979年のベトナム侵攻で、この紛争はその後1980年代後半までくすぶり続けた。
ロイターが中国の定期刊行物を調査している時期、西側諸国では、中国がロシアに対し、ウクライナへの攻撃を支援するため殺傷能力のある兵器を供給する計画ではないかと懸念を強めていたが、中国側はこれを否定している。
台湾争奪、情報戦も
複数の論文は、中国が米国およびその同盟国との間で、おそらくは台湾をめぐって地域紛争に陥るリスクを考慮して、ウクライナ紛争が持つ意味を強調している。米国は、台湾の防衛に向けた軍事介入の有無については「戦略的な曖昧さ」という政策を維持しているものの、法律上、台湾に自主防衛の手段を提供することにはなっている。
米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は、習主席は2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう軍に指示したと述べつつ、ウクライナにおけるロシアの苦戦ぶりに同主席が動揺しているのではないかと指摘している。
人民解放軍国防大学の研究者2人が10月に発表した論文では、米国がウクライナに高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」を供給したことの影響と、人民解放軍が懸念すべきかどうかを分析している。
「将来的に、あえてHIMARSを台湾に投入しようとするなら、一時は『戦況打開のツール』と呼ばれたHIMARSも、別の相手を前に、これまでとは違う運命を味わうだろう」
この論文では、偵察用ドローンの支援を受けた中国側のロケット砲システムに注目し、ウクライナにおけるHIMARSの成功は、米国からスターリンク経由で標的情報の共有を受けているおかげだと指摘している。
前述の大使館付き武官2人を含める外交当局者4人によれば、人民解放軍のアナリストは以前からずっと米国の卓越した軍事力を懸念していたが、ウクライナ紛争を機に、西側諸国の支援を受けた小国を大国が圧倒できていない状況が見えてきたことで、その分析は鋭さを増してきているという。
こうしたシナリオは当然ながら台湾でも通用しそうだが、異なる点もある。特に、中国は台湾を海上封鎖しやすい立場にあり、他国軍が支援を試みようとすれば、直接的な衝突は避けられない。
対照的にウクライナの場合は、西側諸国は隣接する欧州諸国を経由して陸路でウクライナへの供給を行うことができる。
ロイターが分析した定期刊行物には、台湾に言及する例は比較的少なかったが、中国側の研究を追っている外交当局者や他国の研究者らによれば、中国の国防アナリストは、公表される論文とは別に、政府・軍上層部向けの内部報告書を提供する任務を負っているという。ロイターではこうした内部報告書にアクセスすることはできなかった。
台湾の邱国正国防部長(国防相)は2月、人民解放軍はロシアによるウクライナ侵攻から、台湾攻撃を成功させるにはスピードが鍵になると学びつつある、と発言した。台湾側でも、交戦戦略を進化させていくため、ウクライナ紛争を研究している。
複数の論文はウクライナ側の抵抗の強さを分析しており、ロシア国内における特殊部隊の破壊工作、アプリ「テレグラム」利用による市民から提供される情報の活用、マリウポリのアゾフスターリ製鉄所の防衛などが取り上げられている。
弾道ミサイル「イスカンデル」を用いた戦術攻撃など、ロシア側の成功事例も指摘されている。
国営兵器メーカーである中国航天科工集団が発行する「戦術導弾技術」は「イスカンデル」に関する詳細な分析を行っているが、一般に公表されているのは要約版のみだ。
他の多くの論文は、ロシアの侵攻部隊の失敗に注目している。戦車戦専門誌に掲載された論文は、時代遅れの戦術や統一的な指揮の欠落を指摘しており、電子戦専門誌に掲載された論文は、ロシアによる通信妨害はNATOからウクライナへの機密情報提供を阻止するには不十分で、そのために待ち伏せ攻撃による大きな被害が生じていると述べている。
中国人民武装警察部隊工程大学の研究者らが今年発表した論文は、ロシアが占領するクリミア半島のケルチ橋(クリミア大橋)の爆破事件から中国がどのような知見を得られるか評価している。ただし、分析の完全版は公表されていない。
研究の対象は戦場だけではなく情報戦にも及んでいる。ウクライナとその同盟国側が勝利している、というのが研究者らの結論だ。
人民解放軍信息工程大学の研究者らが2月に発表した論文は、中国は、ロシアが体験したようなグローバル世論の反発にあらかじめ備えておくべきだと呼びかけている。
この論文は、中国は「情報認識について対抗するプラットフォームの構築を促進」し、紛争中、西側諸国の情報キャンペーンが国民を動揺させることを防ぐため、ソーシャルメディアの統制を強化すべきだと主張している。
●多種多様なミサイルを発射 露軍ウクライナ攻撃のナゾ 3/10
ドネツク州、ウクライナ、3月10日 (AP) ― ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムートの包囲網を狭めようとするロシア軍に対して、ウクライナ軍は樹林帯に偽装してあったソ連製BM-21「グラート」122ミリ自走多連装ロケット砲で反撃した。
ロシアはこの日、ウクライナ全土の都市に対してミサイル攻撃を行い、少なくとも民間人11人が死亡、数十万人が断続的な停電に見舞われた。
今回の攻撃は、高価なミサイルを多数使用した点で異例であり、ロシアがなぜ今このような数と種類のミサイル攻撃を実施したのかという難しい問題を提起している。
ウクライナは、発射された81発のミサイルのうち34発を撃墜したと発表した。通常より低い撃墜率となったのは、今回の攻撃には迎撃不能な3種類の新型ミサイルが使用されたためだという。
ウクライナが撃ち漏らしたのは、確認されているだけで、Kh-47M2「キンジャル」極超音速空対地6発。同ミサイルは、核兵器搭載可能なイスカンデル弾道ミサイルを航空機から発射できるように改良されたもの。
これに加えて、Kh-22長射程空対艦ミサイル6発、さらに対地攻撃用に改良されたS-300長距離ミサイル13発が、ウクライナの迎撃網をかいくぐったとされる。
●「本物の地獄」バフムート守るウクライナ兵 3/10
ウクライナ東部の激戦地バフムート(Bakhmut)から西に約5キロ離れたチャシウヤール(Chasiv Yar)で、武器や食料を手にした兵士が泥の中で緊張した面持ちで待っている。
25歳から52歳の兵士は、局地戦としては最も長期に及んでいるバフムートに送られる予定だ。
ある前線の兵士はバフムートを「本物の地獄」だと描写する。
ロシアの民間軍事会社ワグネル(Wagner)はバフムートの東部全域を制圧したと主張している。北大西洋条約機構(NATO)は今週、「数日以内」にバフムートが陥落する可能性があると警告したが、ウクライナ政府は防衛強化を命じている。
装備を調整しながら出発を待つ約10人の兵士は、自分たちが具体的にどこに向かうのかは知らない。
「キット」の名で呼ばれる兵士は、目的地は「機密情報」だと話した。「歩兵には移動の直前に告げられる」
この戦闘の最大の目的は、ロシアに完全包囲されるのを阻止することだと兵士らは口をそろえる。
装備はカラシニコフ(Kalashnikov)銃や携行式対戦車ロケット発射機RPG7に加え、比較的新しいスウェーデン製のAT4。寝袋と地面にひく敷物、缶詰の食料やフルーツジュース、エナジードリンクも支給されている。
疲れきった兵士たち
「最も重要なのは、部隊内の意思の疎通だ。そうすれば、戦闘中、仲間がどういう行動を取るか把握できる」とキットさんは話した。
バフムートの攻防ではウクライナ、ロシア共に甚大な損害が出ている。だが、両国とも死者数は公表していない。
兵士を前線まで送り迎えする装甲車を運転するセルギーさん(34)は、疲弊しきった兵士を乗せることよくあると話した。「士気は高いが、疲れている」とセルギーさん。「毎日雪か雨だ」「皆疲れきっているが戦い続けている」
「若者が死ぬのを見るのはつらい」
最近の雨でチャシウヤールの道はぬかるんだ。ウクライナ軍の旧ソ連製の戦車T80が行き来するため、さらにぬかるむ。
救急車も行き来する。
ある救急車の車内では、衛生兵2人が遺体袋の横に座っていた。
「若者が死ぬのを見るのはつらい。死が無駄ではないことを祈る」とし、「ただ野に埋められるのではなく、人間にふさわしい埋葬がされるべきだ」と強調した。
救急車が攻撃を受けることもままあるという。
チャシウヤール郊外ではアンドリーさん(22)が、米製105ミリ榴弾(りゅうだん)砲M119の目標の座標が伝えられるのを待っている。
その合間にも、近くにロシアの砲弾が着弾した。
不要な戦争
アンドリーさんはAFP記者を、掘られたばかりの細長い塹壕(ざんごう)に避難させてくれた。数分間隔でもう2発、近くに着弾した。
「私たちはあそこにいる歩兵隊を信頼している。たとえあそこが本物の地獄だとしても」と語った。
数時間後、アンドリーさんに座標が伝えられた。1時間で15発を発射。上官から「目標に命中した」と伝えられた。
バフムートに向かう兵士らは明日をも知れない身だ。
ある兵士は「これは不要な戦争だ。ロシア人も多分、要らないと思っているだろう」と話した。

 

●エリート層が望む「戦争早期終結」と「独裁継続」 裏で「プーチン後」の議論 3/11
意外かもしれないが、ロシア国内にとどまる支配者層―いわゆるエリートたちの間で、「戦争を早く終結させたい」という考えが広がりつつある。
ただし注意しなければならないのは、ウクライナが考えるようにプーチン政権を倒すことで戦争を終結に導こうとするのとはまったく違う考えだということだ。むしろその逆で、戦争終結を望みつつ、プーチン大統領の独裁支配は継続させることが必要だという。
それはどういう考え方なのか。そして、いま、ロシアのプーチン大統領の背後で一体なにが起きているのだろうか―。
ロシアのエリートたちの望みは「戦争の早期終結」 でも…
「私たちの望みは、戦争を早く終わらせることです」 侵攻開始から1年以上が経過した3月の初旬―。クレムリンに近い関係者は、そう断言した。彼は外交に携わる、いわゆるエリートの一人だ。しかし、彼の話には続きがある。
「同時に今の『ロシアの政治システム』を維持するべきだというのが私たちの考えです。さもなければロシアはひどい混乱に陥るでしょう」 彼が言う「ロシアの政治システム」とは、いわゆる“プーチン氏による独裁的な政治体制”のことだ。
ウクライナ“大規模攻勢”への対応を決断できないプーチン氏
ただ、いまのプーチン大統領は苦境に立たされている。プーチン氏が頼りにしている存在がいるのかどうか尋ねると、クレムリンの関係者はしばらく考えこんだうえで、こう断言した。「プーチン自身。それが答えです」
さらに付け加える。「今の彼はほとんど誰の意見も聞き入れません。会議はビデオを通じて行われ、彼は閉じこもっています。それは大きな問題かもしれません」 「大きな問題」とは、プーチン氏が自分ひとりで考え、何も決断しないことだ。
欧米メディアは、NATO=北大西洋条約機構の圧倒的な支援を受けたウクライナが近く大規模攻撃を仕掛けると報じている。早ければ3月末に始まるという情報もあり、ロシア軍はこの状況に対応するため一刻も早く作戦を立てなければならない。
しかしプーチン氏は、現在ロシア軍が占領している地域の守りを固めるべきなのか、さらに進軍して占領地を広げるべきなのか、大方針を下せていないようだ。実際にプーチン氏は最近のどの演説でも「特別軍事作戦」の明確な目標を示しておらず、軍部は「時間だけが過ぎていく」と焦りを隠せないという。
孤立するロシア―欧州トップ「プーチンの説教はうんざりだ」
ロシアにとって、戦況が行き詰まっているのに加え、対話の可能性も失われている。ウクライナと欧米諸国はプーチン氏との対話の可能性を閉ざしている。
外交筋によると、ドイツのショルツ首相周辺は「プーチンの説教は聞き飽きた」と述べているという。侵攻直前、フランスのマクロン大統領も、プーチン氏から一方的にロシアの主張を長時間聞かされたとこぼしていたと報じられている。「プーチンとは交渉できない」というのは、侵攻前後にプーチン氏と会話を交わしたことのある西側のリーダーたちほぼ全員のコンセンサスとなっているようだ。
頼みのインドと中国は? 「観客席の“ファン”」
では、欧米諸国以外がプーチン氏に停戦交渉を持ち掛けることはできるだろうか?
インドはG20にプーチン氏を招待して、仲介役を演じることで、国際政治の中心になりたいだろう。しかし、ラブロフ外相を招いた3月の外相会合の結果は共同声明を出せないまま閉幕に終わったことで、インドは欧米とロシアの間を取り持つことの難しさを痛感しただろう。
では、中国はどうだろうか? ここにきて中国は和平案を提示するなど、仲介役の意欲を担うようなふるまいを見せている。だが、ロシア側は中国がどこまで支えてくれるのか疑心暗鬼だ。ロシア側の関係者によると、2月22日にモスクワを訪れた中国の外交担当トップ、王毅共産党政治局委員は習近平国家主席の訪ロをめぐり、ロシアからの招待に感謝したものの「急いではいない」という姿勢を伝えたようだ。
中国とインドについては、ロシア側は「支援者」ではなく、「観客席から声援をおくる『ファン』だ」とみている。
ジレンマに陥るロシア それでも「プーチン支配の継続」を望む理由
欧米との交渉の見通しは極めて低く、さらに中国やインドからの全面的な支援も不確かだ。八方ふさがりともいえる現状をロシアのエリート層の一部は、冷静にとらえている。西側諸国の全面的支援を受けるウクライナに対して、軍事的な勝利が難しいことを半ば認めつつある。そしてウクライナ侵攻の軍事的な成否が、プーチン氏の進退に直結するだろうということも理解している。
長期戦に持ち込むことで、事態の打開を図ろうとする声もでているが、経済制裁により財政状況は悪化の一途をたどっている。戦闘に欠かせない高精度のミサイルなどをどこまで自力で生産できるかも不透明だ。
だからこそ一部のエリートは、冷静に情勢を判断して一刻も早い終結を望むのだ。にもかかわらず「プーチンという中心を維持し続けることが必要だ」と断言する。しかも冒頭で触れたように「独裁的な支配」の継続を望むという。なぜか。最大の理由は混乱を避けるためだという。
たしかに、ロシアは9つの時間帯を有する世界で一番広い国土をもつ。160以上の民族を抱え、極東のサハ共和国やイスラム系のタタールスタンやダゲスタンなどは伝統的に独立志向が強いとみられている。20年にわたって中央集権化を進めてきたプーチン氏の足元が揺らげば、広大なロシアが途端に政治的な不安定に陥るという危機感をエリートたちは抱くのだ。
しかし、戦争の早期終結とプーチン政権の存続。そんな二律背反のようなことは可能なのだろうか?
プーチン政権が存続すれば、ウクライナや西側諸国にとってはロシアが再び侵攻を行うという恐怖は残ったままだ。仮にプーチン氏が大統領を退いたとしても、独裁的な体制が続けば、同じことだ。ウクライナや欧米はその状況を受け入れることができないだろう。
ロシアの「独立新聞」の編集長レムチュコフ氏も2月24日のBBCロシアのインタビューで、ロシアが今後内戦に陥る可能性を指摘している。レムチュコフ氏はロシアの内戦を回避する唯一の手段は「適切な人物」がプーチン氏の後に権力を握ることしかなく、その人物選びはひそかに始まっているという。「プーチン以降」を考える動きはすでに表面化しつつある。
独裁体制と別れを告げつつもロシアを安定させる道はないだろうか? 「プーチン氏の後」に誰がロシアのかじ取りをになうことになるのか? それは、今後の国際政治の行方を大きく決定づけることになる。
●プーチン大統領が「ロシア崩壊」を意識か ワグネル創設者が狙う権力の座 3/11
ニューズウィークに「ロシア崩壊の脅しは核より怖い」と題する記事が掲載された。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がここ数カ月、ドミトリー・メドベージェフ前大統領と「ロシア連邦の崩壊」について話し合っていると紹介したもの。
現在はロシアの安全保障会議の副議長のメドベージェフ氏は、旧ソ連の崩壊を古代ローマやオスマントルコの滅亡に例えて、ロシアが崩壊すると大混乱を引き起こすと脅している。プーチン大統領もロシアの国営テレビで「この戦いではNATOの核戦力を考慮しなければいけない」と脅迫じみた発言をしている。
一方、ウクライナの国家安全保障防衛会議のオレクシー・ダニーロフ長官も、「西側は停戦に向けた落とし所を決めかねているが、そろそろ世界はロシアの崩壊に備える必要がある」と警告を発している。
メドベージェフという人は、先月のプーチン大統領の年次教書演説で居眠りをしてしまうなど、おちゃめな面を何度も見せているおっさんだが、基本的には自分たちが攻め込まれてロシア帝国≠ェ崩壊するという認識を持っている。で、プーチン大統領と話し合いを重ねているというわけ。
米国のあのヘンリー・キッシンジャー元国務長官も、昨年暮れ、英誌で「ユーラシア大陸の北東部のカムチャツカ半島の外れからロシア西部の都市サンクトペテルブルクまで11時間も時差があるという広大な領土が、統治不能で空白状態に陥ったときが恐ろしい」と語っている。
つまり、ロシア崩壊ということになったら、ロシア人は皆、「オレが」「オレが」という性格なので、これが群雄割拠すると、戦国時代に戻ってしまうということ。そこで、皆、若干問題のある人物でも強権で統治をしている方がありがたいということを暗に述べているわけだ。サダム・フセインなきイラクと重ねてみると分かりやすい。
ま、私はその考えには必ずしも賛成しないが、あの広大な土地で何かあった場合、すぐにバラバラになってしまう可能性が高いことは理解できる。実際、ソ連邦が崩壊したときも、アッと言う間にバラバラになったし、同じスラブ系という意味ではユーゴスラビアが崩壊して内戦が勃発し、7分裂したのを見ても十分に予想がつく。
それに関連して、同じニューズウィークに「ロシアのワグネル創設者、クーデターでプーチン追い落としを狙う」と題する記事があった。これはロシア軍と民間軍事会社ワグネルの緊張状態が高まっている現在の状況について、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が権力掌握のチャンスととらえていると指摘したもの。そのシナリオは、まずプリゴジン氏が長年の軋轢(あつれき)があるセルゲイ・ショイグ国防相を追い落として、プーチン大統領といい関係のうちに、正規軍と両方の指揮官になり、その後にプーチン大統領の寝首をかくというもの。
雇われ部隊の大将というポジションではなく、政権への野望というものをだんだんとあらわにしてきたわけ。ショイグ国防相とケンカを始めたのも、その流れということ。欧米の後ろ盾を得るため、欧米が求める「ウクライナから完全撤退」にプリゴジンなら同意するかもしれない。
ただ、そのことは、プーチン大統領も当然認識しているだろう。どちらが先に殺(や)るのか。どちらが銃殺刑に処せられたルーマニアのニコラエ・チャウシェスク大統領のようになるのか。この辺、ウクライナ侵攻が泥沼にはまっている今の状況では、まさに予断できないところまできたということだ。
●プーチンが「核使用」を決断する可能性はどれくらいあるか 3/11
ウクライナでは、東部で激しい戦闘が繰り広げられている。バフムトを完全掌握しようとするロシア軍に対して、ウクライナ軍が必死に抵抗している。
錯綜する情報と周辺諸国の動き
ニューヨーク・タイムズは、3月7日付けで、ノルドストリーム爆破事件は、ウクライナを支持するグループによる破壊工作だったことを示す情報があると報じた。ゼレンスキーや側近が関与した形跡やウクライナ政府関係者の指示で実行されたことを示す証拠はないという。また、プーチンに敵対するロシア人も加わっている可能性も示唆されている。
ドイツ公共放送ARDなどが作る調査報道グループは、検察の捜査内容として、「ウクライナ人が経営する会社から国籍不明の男女6人がヨットを借り爆弾を仕掛けた」と報じている。
真相は不明だが、ロシアと戦争中であること、またパイプラインがウクライナを経由したほうがウクライナの収入になることなどを考えると、ウクライナを支援する者による犯行であることは十分に考えられる。
ウクライナの周辺諸国でもロシアは様々な工作を展開している。
ウクライナの隣国、モルドバで、ロシアが親西欧派の政権を倒すためにクーデター計画を練っていることは、2月18日の本コラムで記したが、ロシアは攻勢の手を緩めていない。
2月21日、プーチンはモルドバの主権を尊重するとした2012年の政令の撤回を決めた。親露派が分離独立を宣言した「沿ドニエストル共和国」にはロシア軍が駐留しているが、ロシア外務省は、24日、駐留ロシア軍の安全を脅かす行為は「ロシアへの攻撃とみなす」と警告した。
ジョージアの「外国の代理人」法案に国民の強い反発
ジョージアでは、ロシアのウクライナ侵攻以降、政府の対ロシア宥和政策に反対するデモが起こっていたが、3月にはそれが暴動化した。ジョージアには2008年にロシアが侵攻したため、国民は反露感情が強い。ところが、イラクリ・ガリバシヴィリ首相の与党「ジョージアの夢」は、「外国の代理人」法案を上程したために、これに反対する市民が街頭に出たのである。
この法案は、資金の20%以上を海外から得ている団体に「外国の代理人」登録を義務づけ、登録しない団体に罰金を科すものである。これは人権団体などの弾圧を狙ったものである。同じような「外国の代理人」法は、2012年7月にロシアで制定され、NGOなどの弾圧に効果を発揮してきた。そのこともあって、ジョージアでも反発する声が高まったのである。この民主主義からの退行は、ジョージアのEU加盟を不可能にする。
「ジョージアの夢」は、ジョージアのオリガルヒ、ビジナ・イヴァニシヴィリが、2003年のバラ革命を主導し、2004年から2期にわたって大統領を務めた親欧米派のミヘイル・サアカシュヴィリに対抗するために創設した政党である。2012年10月の議会選挙で第一党となり、このときイヴァニシヴィリは首相に就任した。
ロシアの侵攻後、ウクライナ、モルドバ、ジョージアはEUに加盟申請をおこない、前2国は6月23日に加盟候補国として承認されたが、親露派政権のジョージアは承認されなかった。そのこともガリバシヴィリ政権への国民の不満につながったのである。
「外国の代理人」法案は、抗議活動の激化で撤回されたが、親露派政権への国民の批判は高まっている。
今後のウクライナ戦争の行方、停戦の見通しなどについて予想するのは困難であるが、ロシアの劣勢が際立ったときに、追い詰められたロシア軍が核兵器を使用するのではないかというのが国際社会が危惧するところである。
ロシアの核抑止戦略とは
2020年6月2日、ロシア政府は「核抑止に関するロシア連邦国家政策の基本原則」を公表した。その内容を見てみよう。
「U.核抑止の本質」では、「9. 核抑止とは、ロシア連邦及び(又は)その同盟国を侵略すれば報復が不可避であることを仮想敵に確実に理解させるようとするものである。10. 核抑止を担保するのは、核兵器の使用による耐え難い打撃をいかなる条件下でも確実に仮想敵に与え得るロシア連邦軍の戦力及び手段の戦闘準備並びにこの種の兵器を使用することについてのロシア連邦の準備及び決意である。」と、核抑止の基本的考え方が記されている。
次いで、「12. 軍事・政治的及び戦略的環境の変化によってロシア連邦に対する軍事的脅威(侵略の脅威)に発展しかねず、核抑止によって中立化されるべき主要な軍事的危険は次のとおりである。」(以上、傍線は舛添)として、以下の6点が挙げられている。
(a)ロシア連邦及びその同盟国の領域及び海域に隣接した地域において、核運搬手段をその構成要素に含む仮想敵の通常戦力グループが増強されること。
(b)ロシア連邦を仮想敵と見做す国家がミサイル防衛システム、短・中距離巡航ミサイル及び弾道ミサイル、精密誘導兵器及び極超音速兵器、攻撃型無人航空機、指向性エネルギー兵器を配備すること。
(c)宇宙空間にミサイル防衛手段及び攻撃システムが設置・配備されること
(d)諸外国が核兵器及び(又は)その他の大量破壊兵器並びにそれらの運搬手段を入手し、ロシア及び(又は)その同盟国に対して使用され得ること。
(e)核兵器、その運搬手段、その製造に必要な技術及び設備が管理されずに拡散すること。
(f)非核保有国の領土に核兵器及びその運搬手段が配備されること。
どのような場合にロシアは核兵器を使うのか
それでは、ロシアはどのような事態になったら核兵器を使うのか。それは「V. ロシア連邦が核兵器使用に移るための条件」という項目に書かれている。
「19. ロシア連邦による核兵器使用の可能性を特定する条件は以下のとおりである」として、4つのケースが記されている。
(a)ロシア連邦及び(又は)その同盟国の領域を攻撃する弾道ミサイルの発射に関して信頼の置ける情報を得たとき。
(b)ロシア連邦及び(又は)その同盟国の領域に対して敵が核兵器又はその他の大量破壊兵器を使用したとき。
(c)機能不全に陥ると核戦力の報復活動に障害をもたらす死活的に重要なロシア連邦の政府施設又は軍事施設に対して敵が干渉を行ったとき。
(d)通常兵器を用いたロシア連邦への侵略によって国家の存立が危機に瀕したとき。
ウクライナ軍が核兵器を使わずに、通常兵器でロシア領土内を攻撃した場合でも、以上の4つのうち、(c)や(d)に該当するとロシアが判断すれば、核兵器を使えることになる。
その危険性を十分に認識しているからこそ、NATOは長距離ミサイルなど、ロシアに到達する兵器の供与に慎重だったのであり、またウクライナに対してロシア領土を攻撃しないように釘を刺したのである。F-16戦闘機の供与について、バイデンが即座に否定したのも、核戦争の危険性を念頭に置いてのことである。
付言すれば、限定的に核兵器を使用することによって、敵に参戦や戦闘の継続を断念させるという作戦のことを「エスカレーション抑止」というが、これをロシアが実行するかどうかは疑問である。「基本原則」の「T.総則」では4番目に「エスカレーション阻止」という文言はあるが、上記の4つのケースには「エスカレーション抑止」の場合は含まれていない。この点をどう解釈するかについては、専門家の間で見解が分かれている。
NATOの警告の意味
2022年9月27日、NATOのストルテンベルグ事務総長は、「ロシアによる核兵器のいかなる使用も絶対に容認できない。それは紛争の性質を完全に変えてしまう。ロシアは核戦争には勝てず、決して引き起こしてはならないことを認識しなければならない」と警告した。「ロシアおよびプーチン大統領からのこのような核に関する発言を何度も目の当たりする際、われわれはそれを真剣に受け止める必要がある。そのためわれわれはロシアにとって深刻な結果を招くという明確なメッセージを伝えている」と述べた。
これに対して、ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は同日、「限界を超えた場合、ロシアには核兵器で自衛する権利がある」と発言し、これは「こけおどしでは全くない」と述べた。
10月12日のCNNによると、ブリュッセルで開催中のNATO国防相理事会に出席しているNATO高官が、ロシアが核兵器を用いて攻撃を行った場合、NATOからの「物理的な対応」を「ほぼ確実に」引き起こすだろうと述べ、核兵器の使用はロシアに「前例のない結果」をもたらすと警告したという。
ストルテンベルグは、10月13日にも、「核使用は戦争の性質を根本的に変える。非常に重要な一線を越えることを意味する」と重ねて警告した。
同じ日、EUのボレル外交安全保障上級代表(外相)は、ロシアがウクライナに対し核兵器を使用すれば、米欧は「核ではないが、ロシア軍が壊滅するような強力な対応」が取られると語った。
このような警告が西側から発せられるのは、プーチンが小型の戦術核兵器を使用する可能性を想定しているからである。そして、もしプーチンが核兵器を使用した場合、NATO側は、通常兵器でもロシア軍に壊滅的打撃を与えることができると確信しているのである。
それだけにプーチンも核兵器を使うことには極めて慎重であろうが、その可能性を完全に排除することはできない。第三次世界大戦への歩みが進んでいることを危惧する。
●ゼレンスキー大統領、米アカデミー賞授賞式へのリモート出演を断られる 3/11
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領が、現地時間12日に米ロサンゼルスで開催される第95回アカデミー賞授賞式へのリモート出演を断られたことが明らかになった。
同大統領がアカデミー賞授賞式の出演を断られたのは、昨年に続いて2年連続となる。米ヴァラエティ誌は、授賞式へのリモート参加をハリウッドの大手タレントエージェントを通じて申請したものの却下されたと情報筋の話を伝えている。
理由は明らかにされていないが、米ワシントン・ポスト紙は、侵攻から1年が経過して戦争が長期化する中、バイデン政権の継続的な支援に対して半数以上の国民が「ウクライナへの関与を望まない」とする世論調査の結果が最近発表されたことを受けてのものだと伝えている。
昨年の授賞式で出演が却下された際には、授賞式のプロデューサーであるウィル・パッカー氏がロシアの侵攻による犠牲者が白人であることから有色人種が被害を受けた戦争を無視してきたハリウッドとしてウクライナへの支援とウクライナ情勢だけに注目することを懸念していることが理由だとの臆測が出ていた。
ゼレンスキー大統領は今年1月にロサンゼルスで開催されたゴールデングローブ賞授賞式では、ウクライナ支援を続ける俳優ショーン・ペンから紹介され、「ウクライナでの戦争はまだ終わっていないが、潮目は変わりつつある。勝者はすでに明らかになっている」と動画メッセージを寄せていた。また、先月も世界3大映画祭の1つ、ベルリン国際映画祭の開幕セレモニーにリモートで参加し、「私たちの領土を解放するためにあらゆることをする」と支援を改めて訴えたばかり。
昨年は、5月にカンヌ国際映画祭の開幕式でもスピーチしている他、米音楽の祭典グラミー賞授賞式でも事前収録メッセージが会場で流され、9月にはニューヨーク証券取引所で取引開始を告げるオープニング・ベルにもリモート参加している。
ウクライナ情勢に関するドキュメンタリーの撮影のため、侵攻当日に首都キーウを訪れていたペンは、昨年のアカデミー賞授賞式でゼレンスキー大統領の演説が実現しなければ、過去に自身が受賞したオスカー像を溶かすと発言していた。
●ウクライナ産穀物の輸出めぐりロシアが13日に国連と協議へ 3/11
ロシアの軍事侵攻で打撃を受けたウクライナ産穀物について、輸出に関する合意期限が今月18日に迫る中、ロシアは13日にジュネーブで国連と協議すると発表しました。
ウクライナ産穀物の輸出をめぐっては、去年7月に国連、トルコ、ウクライナ、ロシアの4者が輸出再開に合意し、その後、実施されました。
この合意期限が今月18日に迫る中、ロシア外務省のザハロワ報道官は、ロシアと国連による協議が13日にジュネーブで開催されると発表しました。この輸出継続については、国連のグテーレス事務総長が8日、「今後の世界の食糧供給と価格の安定の鍵を握っている」としています。
一方で、ロシアは合意の実施が十分でないとして、継続の同意をカードにした政治利用もみせており、ロシアが13日に合意を継続するかが注目されます。
●英仏首脳会談5年ぶり再開 安全保障協力など外交関係再構築強調  3/11
イギリスのスナク首相は、主要閣僚とともにフランスを訪れ、マクロン大統領などと会談しました。両国の定期首脳会談は5年ぶりの再開で、安全保障協力や不法移民対策の強化などを通じた外交関係の再構築を強調しました。
イギリスとフランスの間で外相や国防相など主要閣僚を含めた定期首脳会談は、イギリスのEU=ヨーロッパ連合からの離脱に伴う漁業権交渉や、新型コロナワクチンの供給などをめぐる対立から、2018年を最後に開かれていませんでしたが、パリで10日、5年ぶりに再開されました。
会談で双方は、ロシアの軍事侵攻を受けているウクライナの兵士を共同で訓練することや、インド太平洋地域への合同部隊や空母の派遣、それにイギリスに入国する目的でドーバー海峡をボートで渡ろうとする不法移民の取締まりの強化などで一致しました。
このあとの共同記者会見で、イギリスのスナク首相とフランスのマクロン大統領は、ともに「新たな出発」ということばを使い、外交関係の再構築を強調しました。
マクロン大統領が「私たちには共通の歴史や価値観がある。イギリスが再びEUに関わろうとしていることを歓迎する」と述べたのに対し、スナク首相は「あなたと仕事ができて幸運に思う。ともに未来を築いていくことにとても興奮している」と応じ、最後にフランス語で「友よ、ありがとう」と呼びかけました。 
●プーチンの居場所は、愛人と暮らす森の中の「金ピカ」大邸宅...写真が流出 3/11
ロシアのモスクワとサンクトペテルブルグの中間にあるヴァルダイ湖畔近くの森の中には、この国の大統領であるウラジーミル・プーチンの別荘がある。その内部を撮影した複数の写真から、「装飾がゴールドだらけ」であることが明らかになった。
写真を見ると、暖炉の真上にはゴールドの額縁入りの鏡がかけられている。天井からは金色に輝くシャンデリアがいくつも下がっており、ダイニングルームに置かれたガラス製テーブルの周りには、全体がゴールドで覆われた椅子が並んでいる。テーブルの上にも球状のシャンデリアがあり、そこからぶら下がっている飾りもゴールドの葉っぱだ。
写真ではほかにも、長さが3階分あるシャンデリアが確認できる。ルビーや、葉っぱの形をしたゴールドで装飾されたものだ。
CNNのニュースキャスターであるエリン・バーネットは、これらの写真を取り上げた際に、こう述べた。「別荘は、プーチンの書斎から寝室まで、どこもかしこもゴールドで飾られている。『ナイトセラー(night cellar)』と呼ばれる接待用の部屋には、ゴールドで覆われた椅子もある」
この別荘で元体操選手のカバエワと暮らす
この写真は、ロシア独立系調査メディア「プロエクト」が2023年2月28日、「Iron Masks(鉄仮面)」と題して掲載した記事のなかで公開された。同記事は、プーチンがこの別荘で、アテネ五輪の新体操金メダリストで恋人のアリーナ・カバエワと暮らしていると報じている。
同メディアの編集長でジャーナリストのロマン・バダニンはカバエワについて、ロシア「最大のタブー」と呼ぶ。カバエワとプーチンの関係が、秘密のベールに包まれているからだ。
バダニンは、CNNのバーネットに対して、「プーチンは、私生活や家族、とりわけカバエワとの関係を秘密にすることにかけては異常なこだわりをもっている。おそらくカバエワは、ロシア最大のタブーと言ってもいいと思う」と語っている。「(プーチンの側近は)みな、プーチンとカバエワが家族であることを確信している。しかし、カバエワとプーチンが一緒にいるところを目にした人間は誰もいない」
プーチン移動用の秘密鉄道と建設中の巨大スパ
バダニンによる今回の発言の直前には、プーチンがカバエワならびに2人の子どもたちのために、別荘近くに別の居住棟を建てたとプロエクトが報じている。この居住棟の近くには、湖のボート乗り場と、プーチンがモスクワとヴァルダイ湖畔の行き来に利用している秘密の鉄道がある。「カバエワの居住棟」の建設は2020年に始まったという。
さらにプロエクトの記事によると、プーチンとカバエワが暮らす家の近くに、巨大なスパ施設も建設されたという。このスパ施設内には、日光浴の部屋や、極低温で全身を冷却するクライオセラピー用のチャンバー、スイミングプール、サウナ、泥湯用バス、エステ施設、歯科設備があると伝えられている。
なおカバエワについては保養地ソチに、ロシア最大のペントハウスと、1億2000万ドル分の不動産を所有していることも明らかにされている。
●「ロシア→モスコビア」検討を 呼称巡る請願でウクライナ大統領 3/11
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、ロシアの呼称を「モスコビア(モスクワ)」に変更するかどうかの検討をシュミハリ首相に命じた。ロシアのウクライナ侵攻後、ゼレンスキー氏に宛てたウェブサイト上の請願書に、検討着手に必要な規定の2万5000人分の署名が集まったことを受けた。
モスコビアは中世、ロシアが小国だった頃の欧州におけるラテン語呼称。請願には「ロシアはもはや大国に値しない」というニュアンスが含まれる。「ルーシ(ロシア)」はもともとウクライナに存在したキーウ(キエフ)公国の正式名称で、自らが正統な継承国だという歴史観がある。
●「スターリンク」無力化が急務 中国が戦争研究 米ハイテク警戒 3/11
中国軍関係者がウクライナでの戦争の研究に力を入れている。
米欧の新鋭兵器が大量投入されており、台湾海峡危機で西側諸国と衝突した場合などに備え、脅威となる兵器や通信網に対抗する手段を探る狙いがあるとみられる。中国側はウクライナ軍が駆使した米スペースXの衛星通信システム「スターリンク」や歩兵携行式ミサイルを警戒。スターリンクを無力化する能力が必要だとするなど「教訓」を得ようとしている。
「スターリンク無力化の手法の発見が急務だ」
ロイター通信によると中国軍系の研究者は、低軌道衛星を使ったスターリンクの機能を阻害する能力が必要だと主張している。
同通信がロシアのウクライナ侵攻を研究した中国軍事研究者の約百本の論文を分析。複数の論文がスターリンクの脅威をとり上げたという。
ウクライナ軍は露軍のミサイル攻撃でインフラが破壊されても、スターリンクで通信網を維持。露軍の戦車の位置などを把握し、攻撃に役立てたとされる。
昨年9月に中国人民解放軍陸軍工程大学の研究者が出した論文は、スターリンクについて、アジアでの武力衝突の際に「米国が広範囲に使用するのを確実に促す」と指摘した。
一方、昨年10月の国家国防科技工業局機関誌の論文は、米軍の携行式ミサイルのスティンガーやジャベリンが露軍に深刻な損害を与えたとし、「中国は軍事装備を防御する能力を改善すべきだ」と強調した。
中国軍の機関紙、解放軍報(電子版)は1月の記事で、「(露軍は)統合作戦能力が不十分で、伝統的戦法にとどまっている」と分析した。近年、主要な戦闘経験がない中国軍は米軍と実力差があるとされ、露軍の苦戦ぶりに危機感を強めているとの見方がある。
中国政府が5日に公表した政府活動報告は、「実戦的な訓練に力を入れる」と強調した。国防費の伸び率は経済成長目標を大幅に上回る前年比7・2%増となっており、露軍とウクライナ軍の戦闘から得た教訓も参考に戦力を増強する可能性が高い。
●G7広島サミット 地域情勢と経済を柱に成果文書へ 調整本格化  3/11
開幕まで2か月余りとなったG7広島サミットで、政府はウクライナ情勢を踏まえ、地域情勢と経済を2つの柱に成果文書をとりまとめたい考えで、今後、「シェルパ」と呼ばれる各国首脳の個人代表を中心に事務レベルでの調整を本格化させる方針です。
G7=主要7か国による広島サミットは、5月19日から3日間の日程で開かれます。
会議の議題をめぐっては、これまでに「シェルパ」と呼ばれる各国首脳の個人代表が沖縄で会合を開くなど水面下の協議が続けられています。
政府はウクライナ情勢への対応を主要なテーマと位置づけていて、これに向けて、来月の外相会合では、ウクライナを含む地域情勢を中心に意見を交わし、共同声明を発表することを検討しています。
さらに、サミット直前に開く財務相・中央銀行総裁会議では物価高騰が及ぼす世界経済への影響と今後の対応を中心に協議を行うことにしています。
そして、これらの議論を踏まえ、広島サミットでは地域情勢と経済を2つの柱に成果文書をとりまとめたい考えで、今後「シェルパ」を中心に事務レベルでの調整を本格化させる方針です。
●ロシア、ウクライナで欧米製兵器を入手しイランへ輸送 3/11
ロシアがウクライナの戦場に取り残された欧米供与の兵器の一部を回収し、イランへ送っていることが11日までにわかった。この問題に通じる4人の関係筋がCNNに明らかにした。
これら兵器を受け取ったイランは分解して構造や仕様、動作などを分析し、似通っている独自の兵器を製造しているともみている。
ただ、イランがこれら作業で成果を得ているのかどうかは不明。ただ、過去の事例を見た場合、同国は米国の装備品を下敷きにした兵器開発に高い技量を見せつけてきたという。
米国や北大西洋条約機構(NATO)などの当局者は過去1年、ロシア軍が小型で歩兵が携行可能な装備品を入手した複数の事例を把握。対戦車ミサイル「ジャベリン」や対空ミサイル「スティンガー」などが含まれる。
関係筋によると、ウクライナ軍は時にはこれら兵器を戦場に置いたまま移動を強いられる場合もあるという。
ロシアが欧米製兵器をイランへ送る背景には、ウクライナ侵攻への支持の維持を図る報奨の意味合いもあるとみている。
米政府当局者はイランへのこれら兵器の送り込みが広範かつ組織的に実行されているとは判断していない。ウクライナ軍は侵攻が始まって以降、ロシア軍の手に落ちた米国供与の兵器を米国防総省へ常に報告しているともした。
イランの主要兵器では、対戦車誘導ミサイル「トーファン」が1970年代に米国製の対戦車ミサイル「BGM−71 TOW」の技術を模倣して開発されていた。2011年には米ロッキード・マーチン社製のドローン(無人機)「センチネル」を捕獲し、これをまねた新たなドローンを製造。この無人機は18年にイスラエル空域に侵入し、撃墜されてもいた。
ロシアはウクライナ侵攻後、海外からの軍事支援の取りつけに躍起となっており、欧米製兵器の引き渡しはイランとの防衛協力関係の強化を象徴する新たな事例となっている。イランが供与したドローンなどはウクライナ攻撃に大量に投入されているが、ロシアへの傾斜の深まりは中東諸国に脅威を与えかねないとの見方も出ている。

 

●東部激戦地 ウクライナ軍司令官 「反転攻勢まで時間稼ぐ」  3/12
ロシアが掌握をねらうウクライナ東部の激戦地バフムトをめぐりウクライナ軍の司令官は「まもなく始まる反転攻勢まで時間を稼ぐ必要がある」と部隊を鼓舞し、ロシア側の侵攻を食い止める姿勢を強調しました。
ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトをめぐってロシア側は猛攻を仕掛け、市内を南北に流れる川の東側を掌握したとみられる一方、ウクライナ軍は川の西側で防衛線を築き、激しい攻防が続いているもようです。
ウクライナ国防省は11日、軍のシルスキー司令官が前線で指揮を執り続けているとSNSで明らかにし、この中で司令官は「兵力を蓄えてまもなく始まる反転攻勢まで時間を稼ぐ必要がある」と部隊を鼓舞したとしていて、ロシア側の侵攻を食い止める姿勢を強調しました。
バフムトの戦況についてイギリス国防省は11日、ウクライナ軍が川に架かる橋を破壊するとともに川の西側で拠点とする建物から砲撃し、ロシア側で戦闘を続ける民間軍事会社ワグネルの部隊は困難な状況に陥っていると分析しました。
一方、ウクライナ南部のヘルソンでは11日、ロシア軍の攻撃で市民3人が死亡したと当局がSNSで明らかにしました。
ウクライナ南部についてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は10日、ロシアが9年前に一方的に併合したクリミア半島でロシア軍が防衛線を築いていると指摘し「南部の占領地域を長期にわたり維持することに不安を抱いていることを示唆している」と分析しています。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻12日の動き 3/12
ウクライナ国防省 “司令官が部隊鼓舞”
ウクライナ国防省は11日、軍のシルスキー司令官が前線で指揮を執り続けているとSNSで明らかにし、この中で司令官は「兵力を蓄えてまもなく始まる反転攻勢まで時間を稼ぐ必要がある」と部隊を鼓舞したとしていて、ロシア側の侵攻を食い止める姿勢を強調しました。
英国防省 バフムト戦況 “ロシア側部隊 困難な状況に”
バフムトの戦況についてイギリス国防省は11日、ウクライナ軍が川に架かる橋を破壊するとともに川の西側で拠点とする建物から砲撃し、ロシア側で戦闘を続ける民間軍事会社ワグネルの部隊は困難な状況に陥っていると分析しました。
米シンクタンク “クリミア半島でロシア軍が防衛線”
ウクライナ南部についてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は10日、ロシアが9年前に一方的に併合したクリミア半島でロシア軍が防衛線を築いていると指摘し「南部の占領地域を長期にわたり維持することに不安を抱いていることを示唆している」と分析しています。
●「男性の平均寿命が50代まで落ちたあの時代に戻る…」 国民の支持理由  3/12
大きな反発がありながらも、プーチンが大統領に返り咲いたのはなぜなのか。朝日新聞元モスクワ支局長の副島英樹さんは『屈辱の90年代』を恐れたロシア国民が『自由』を制限されても『安定』の方を優先し、それがプーチン支持の基盤になっている」という――。
ロシアの「屈辱の90年代」
ソ連末期のペレストロイカ(改革)からソ連崩壊を経て、混乱する社会経済状況を引き継いだ新生ロシアのエリツィン大統領は、民主化の号令のもと、「ショック療法」と言われた急進的市場改革を進めた。それが「オルガルヒ」という新興財閥の台頭を招き、その影響力は政治をゆがめていく。
医療費や教育費、家賃などの負担がのしかかるようになった庶民は「弱肉強食の資本主義」を味わわされ、デノミ、給与遅配・未払い、汚職の蔓延などの苦境にさらされ、惨みじめな思いを体験した。混乱を抑えきれなかったエリツィン氏は99年末の辞任演説で、「明るい未来には一挙には行けなかった」と国民にわびることになる。これが「混乱の90年代」や「屈辱の90年代」と呼ばれる時代だ。
日本では長期政権を築いた安倍晋三元首相がしばしば、かつての民主党政権時代を指して「あの時代に戻りたいのか」と言っていたが、プーチン氏もよく「あの時代に戻りたいのか」と口にした。それの意味するのが「屈辱の90年代」である。ロシア国民が「自由」を制限されても「安定」の方を優先し、それがプーチン支持の基盤になっていると言われるのは、この「屈辱の90年代」を恐れるが故なのだ。
硬くて食べられない肉や白菜
その90年代のロシアに私もいた。会社派遣の語学留学で96年8月から97年8月まで、モスクワ大学付属の語学センターでロシア語を学んだ。大学の教室は机も椅子も雑然とし、トイレは汚れて便座はなく、建物の10階ぐらいでも旧ソ連製のエレベーターを待つよりは階段で降りる方が早かった。
モスクワ大学の寮はトイレもシャワーも共用だったが、突然の断水や、冬場にシャワーの途中で温水が出なくなることも多々あった。寮の食堂の肉があまりに硬く、アルミ製のフォークが曲がってしまったこともある。
露店で緑の野菜を見つけたら、そのとき買っておかないと後で後悔したものだ。ただ、冬場に露店で白菜を見つけ、すっかり凍っていたが鍋で煮れば大丈夫だろうと思って買って帰ると、煮ても硬くて食べられなかった思い出がある。
地下鉄の出口には、古着や花を手にしたおばさんたちが物売りのためにずらりと並んでいた。子どもから老人まで、街には物乞いがあふれていた。
化粧をしている女性は少なく、ジャージ姿の女性が目立った。売春をしないと生きていけない境遇の女性も大勢いた。旧ソ連型ホテルの従業員も警備の警官も売春システムの一部に組み込まれていた。大学の教授は職にあぶれ、“白タク”の運転手で日銭を稼ぐしかない。給与遅配の警官たちは家族を養うため、頻繁な“ネズミ捕り”に繰り出し、袖の下を受け取って糊口をしのいだ。
暴漢に襲われたモスクワ支局員時代
99年4月から2001年8月まではモスクワ支局員として赴任したが、似たような状況は続き、治安も安定しなかった。
零下20度近い雪のモスクワで01年2月の夜中、支局での夜勤を終えて徒歩で帰宅途中、私は暴漢に襲われ大けがをした。気を失い、金を奪われた。財布からドルだけが抜かれ、ルーブルは残っていた。治療で1カ月仕事を休み、多くの人に迷惑をかけることになった。ロシアのある新聞は、支局が入った建物の駐車場に積もった雪の上に、АСАХИ(朝日)の文字と髑髏どくろマークが描かれている写真を掲載し、ネオナチの犯行を匂わせる事件記事を1面で大きく報じた。
モスクワの日本人社会に動揺が走った。その後しばらくして、その絵柄はカメラマン本人が描いていたことが判明し、新聞社に抗議を申し入れる出来事もあった。
この事件で私が入院していたときのことだ。若い捜査員が犯人のモンタージュを作りにパソコンを持って病室にやって来た。かすかな記憶を頼りに、パソコンに入力されている様々な髪形やあご、耳、口、目の中から一番近いものを選び、組み合わせていく。パソコンを起動させて間もなくすると、画面に縦線が入って動かなくなった。「パソコンが古い。部署に2台しかない。資金不足で新品は買えないのです」と捜査員はぼやいた。文字盤パネルを外し、ナイフで配線をいじり、パソコンの下に本を挟んで斜めに立てたりしていると再び動き出した。
混乱した社会を生き抜くロシアの人々
財政難→捜査不十分→検挙率低下→犯罪多発→財政不足(財政難)、の悪循環を思った。できあがったモンタージュは、まぶたに残る犯人像とは似ても似つかない。検挙など絶望と悟る。被害調書が仕上がると、捜査はそれで終わりという感じだった。
「もうロシアは嫌になっただろう?」と現地の日本人から何度か尋ねられた。その度に、ぽんこつパソコンと悪戦苦闘する捜査員や、目を真っ赤にして革ジャンの血のりをふき取ってくれたお手伝いさんや、「ロシア人として恥ずかしい」と謝ってくれた医師たちの顔が浮かんだ。この混乱した社会を生き抜かなければならないロシアの人々を、私はとても憎めなかった。ロシアの文豪トルストイやドストエフスキーの世界を見ているような感覚さえ覚えた。
プーチン再登板の衝撃
ここまで振り返ってきたのはエリツィン政権からプーチン政権初期にかけての時代だが、それから10年以上が経ち、プーチン氏が首相としてメドベージェフ大統領と「双頭体制」を組んでいたとき、ロシアの将来にとっての大きな分岐点が訪れる。
2011年9月24日にモスクワで開かれた政権与党「統一ロシア」の党大会だ。党首を務めるプーチン首相がこの場で、12年3月の次期大統領選に立候補する考えを表明したのである。実権を握るプーチン氏に有力な対立候補は見あたらず、かつて00年5月から08年5月まで2期8年務めた大統領に返り咲くのは確実な情勢だった。
世界の政治地図が大きく変わる予感…
12年にはロシアだけでなく、米国やフランスでも大統領選があり、中国でも最高指導者が交代する。プーチン氏の再登板で世界の政治地図が大きく変わる予感がした。このため、11年9月24日の党大会で「プーチン大統領復帰」の方針が決まれば大きく報じる必要があると考え、モスクワ支局員の関根和弘記者と予定原稿を3本用意して備えた。党大会が開かれるのは日本時間の夜であるため、決まればすぐに原稿を出さなければならないからだ。
復帰の方針が明らかになると、1面、総合面、国際面それぞれの原稿を手直しして送り、東京の編集局にこのニュースが持つ意味合いの重要性を説明した。降版前の大刷りでは1面3番手の扱いだったが、最終的には「プーチン氏、大統領復帰へ」の見出しで1面トップを飾った。東京の編集局は的確な価値判断を共有してくれたと思っている。
この1面本記の記事は「元情報機関員で『強いロシア』を掲げたプーチン氏には、統治手法や人権問題での批判が欧米に根強い」との表現で締めた。当時、将来への漠然とした不安を感じ、胸騒ぎがしたのを覚えている。米国やNATOへの強い恨みを忘れていないプーチン氏が、再び表舞台に出てくるのだ。2022年についに火を噴くウクライナ戦争は、このときに火種が宿ったように思えてならない。まさしく長期政権の弊害である。
「自由の代わりに安定をもたらす」プーチン体制
プーチン氏復帰への反発は、ロシア国内でも巻き起こった。下院選挙のあった12月にはソ連崩壊後20年で最大規模の数万人が集会に集った。今まで抗議行動をしたことがなかった市民たちが街頭に出たのだ。
その当時、「20歳のロシア プーチン再び」という企画でデモの様子を記事にした。
このデモは、1990年代の混乱を「自由の代わりに安定をもたらす」という図式で立て直したプーチン体制に、「我々の声を尊重しろ」と市民が立ち上がったものだった。もともとは野党勢力が呼びかけた集会だったが、主役は普通の市民たちだった。下院選では政権批判票として共産党や中道左派「公正ロシア」へ投票した層だ。中道の政権与党「統一ロシア」と民族右派、さらに左派系という現行のロシア政治の勢力図からはこぼれ落ちる、「行き場のない有権者層」だった。大規模集会を許可した当局も、民意の動きを感じ取っていた。
民主的な政治を求める中流層
成熟社会の基盤である中流層は、安定した暮らしのもとで民主的な政治を求める。政治学者のラジホフスキー氏は「中流クラスは2000年代の原油高騰期に生まれた。そしていま、政治的に物言う時が来た」と指摘した。こうした中流層は、ロシア国営保険会社の調査では17%とされたが、都市部では3割に達しているとする専門家もいた。欧米では「中流の崩壊」で街頭デモが起き、ロシアでは中流の形成でデモが起きていたのである。
ただし、ロシアはユーラシア大陸に広がる多民族国家だ。中流が育つ都市部と、なお「安定」が優先される地方とでは、地殻変動に時間差があった。集会があった12月10日と翌11日に全ロシア世論調査センターが実施した調査では、大統領選での投票先はプーチン氏が42%。2位のゲンナジー・ジュガノフ共産党委員長の11%を大きく引き離していた。
返り咲いたプーチン
12年3月4日の大統領選挙を前にした2月23日の「祖国防衛者の日」には、プーチン支持の集会に数万人が集まった。「90年代に戻りたくない」と書いたプラカードが掲げられ、参加した女性のひとりは「(多民族国家ロシアで)プーチンさんはどの民族も国民として平等と言っている。私が支持する理由です」などと話した。そして、大統領選の結果はプーチン氏が第1回投票で約64%を獲得し、返り咲きを果たした。
続く反プーチンの大規模デモ
しかし、反プーチンの大規模デモは5月の大統領復帰後も続いた。12年6月12日の祝日「ロシアの日」(国家主権宣言採択の記念日)には、野党勢力がモスクワ中心部で反政権のデモ行進と集会を催し、警察発表では約1万8千人、主催者発表では5万人以上にのぼった。このとき、デモ行進を取材していた私は、参加者が掲げる1枚のプラカードを写真に収めた。
「(集会を取り締まる)集会法はファシズム国家への道だ」という表記の下に、5人の見慣れた顔写真が並んでいる。ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、ベリヤ、そしてプーチンだ。このデモからちょうど10年後、プーチン氏はウクライナ侵攻という市民を巻き込む暴挙に出て、キーウ近郊ブチャでの虐殺や原発占拠、ウクライナ東南部4州の併合強行など数々の非道行為で国際的非難を浴びているだけでなく、国内では欧米の制裁によって経済的苦境を強いられ、予備役動員による混乱や市民弾圧も重なり、ロシアを自壊の瀬戸際に自ら追いやっている。まさにこのプラカードは、10年後のプーチン氏を見通していたのかもしれない。
ただ、反プーチンのうねりが高まっても、支持の岩盤層が厳然としてあるように思えた。それはどういう人たちなのか。同じく「20歳のロシア プーチン再び」の企画で取材した。
「安定への兆し」が受動的なプーチン支持へ
ソ連崩壊後の90年代、ロシア男性の平均寿命は一時、50歳代にまで落ち込んだ。2000年代のプーチン政権以降、ロシアは保健や教育、住宅、農業を優先的国家プロジェクトに掲げ、国民生活の向上をめざしてきた。11年11月、当時のタチヤナ・ゴリコワ保健社会発展相は「07〜11年で出生数は10%伸び、死亡数は8%減った」と報告。「この8月に人口の自然増を記録した。ソ連崩壊後、初めてだ」と述べている。こうした「安定への兆し」が、「90年代の屈辱を味わいたくない」という意識を刺激し、受動的なプーチン支持へと動いていた。
身内を大切にするロシアの国民性
ロシア人にとってのこの「屈辱の90年代」に、まさにNATOの東方拡大が始まったのである。ソ連最後の最高指導者だったゴルバチョフ氏も、新生ロシア大統領のエリツィン氏も、NATO拡大に「ロシアが尊重されていない」という意識を持ち続けていた。敗者であることを自覚するよう強要されているとの意識が、ため込まれていったように見える。
通算8年にわたるロシアでの生活を通して、私にはロシアの人々の国民性のようなものを感じ取ることができた。他者(バーシ=あなたたち)には一見無愛想に見えるが、いったん身内(ナーシ=私たち)の領域に受け入れられると、精いっぱいの歓待をしてくれる。同時に、どんな苦しい境遇にあっても、人間関係は対等であるという矜持を感じた。「ウバジャーチ」される(尊敬される)ことに重い価値を置く国民性のように思えた。それを傷つけられたときに、思わぬリアクションに出るのだ。
「ロシアは頭では理解できない。信じるだけだ」とうたった詩人チュッチェフの詩を想起させるが、そうした特性を勘案した上で向き合っていく必要があると私は考えていた。「露助ろすけ」というヘイトの言葉が物語るように、欧米から蔑視されているのではないかという被害者意識が、ロシアの対外行動に反映されていったのだと思う。
相手を知ることの重要性は、何もロシアに限ったことではないだろう。相手を知ろうとすることは、戦争の芽を摘むことにもなる。戦争は人間の心から起こるからである。
●「祖国愛を教えてやろう」 ロシア歌姫、政権に皮肉 3/12
ロシアで絶大な人気を誇ったものの、ウクライナ侵攻に伴い国外に脱出した女性シンガー・ソングライター、ゼムフィラさん(46)が10日、新曲を発表した。「祖国の愛し方を教えてやろう。靴底へのキスの仕方を」と歌い出すパンクロック。政権による愛国主義の押し付けを強く皮肉ったとみられる。
タイトルは、暗号を思わせるローマ字の羅列「PODNHA」。これをロシア語で使用されるキリル文字として見ると「祖国」と解読できる。曲にはさりげなくロシア国歌のメロディーも織り交ぜられている。
プーチン大統領は最近、自ら起こした侵略戦争を「祖国防衛」にすり替えてロシア国民の危機感をあおり、長期化に備え始めた。今回の曲は、戦争支持は本物の祖国愛ではないと警鐘を鳴らしているかのようだ。
ゼムフィラさんは昨年3月、「撃たないで」と題した過去の楽曲に、ウクライナの戦火やロシアの反戦デモの映像を重ね合わせた動画をユーチューブで公表。その後、すべての楽曲が母国のテレビやラジオで放送禁止となった。今年2月に法務省から「外国エージェント(スパイ)」に認定されており、新曲はそれ以来となる。  
●プーチンはロシア軍の実力を見誤った…この1年で「主力戦車の半分」を失う 3/12
主力戦車T-72のおよそ半数を失った
ロシアのウクライナ侵攻が始まって1年が経過した。この間にロシアは保有する主力戦車の最大半数を失った、と海外情報機関が分析結果を公表している。
英シンクタンクの国際戦略研究所など複数の海外機関は、ロシアが主力戦車T-72のおよそ半数を失ったとするリポートを公開した。
米ワシントン・ポスト紙は同機関によるリポートを取り上げ、もともと2000両あったロシアの主力戦車T-72のうち、約50%が失われたと報じている。同紙はT-72を「ロシアの戦車の中で圧倒的に多く使われている戦車」だと指摘する。
国際戦略研究所の分析によると、これ以外の型式を含めても、戦車全体の40%近くをロシアが喪失した可能性があるという。同研究所はリポートを通じ、開戦からの過去1年間でロシアの兵器庫が「著しく」変化したと指摘している。
調査報道グループの分析も同様の結果に
英経済誌のエコノミストは、調査報道グループ「ベリングキャット」から派生したオープンソースの防衛分析サイト「オリックス」による分析を基に、ロシア側が1700両の損失を記録したと報じた。ウクライナ発表の3250両には及ばないが、それでも目を見張る数字だ。
オリックスは、ネット上などに公開されている写真や動画を基に情勢を分析するオシント(OSINT:オープンソース・インテリジェンス)の手法を活用し、昨年2月24日の侵攻以来、ウクライナで確認されたロシア軍の損失を分析している。
米CNNは同サイトによるリポートを取り上げ、少なくとも1000両の損失が明確に確認されたと報じている。このほか、ロシア戦車544両がウクライナに鹵獲(ろかく)され、79両が部分的に損傷し、65両が放棄された。
同サイトに寄稿する軍事アナリストのヤクブ・ヤノフスキ氏は、この数はオリックスが映像から確認できたものだけを計上したものであり、実際の損失は2000両に近いとの推察を明らかにしている。
ヤフノスキ氏は「ロシアは開戦時、稼働できる戦車を約3000両保有していたことから、その半数を失った可能性が高い」と指摘した。
大規模な喪失により、ロシアの攻撃ペースが鈍化するのではないかとの読みも出ている。同誌は、「ウクライナ戦で優位の確保に失敗したロシアの戦車だが、装甲車両による満足な支援なしには、ロシア軍が再び大規模な攻勢をかけることは困難となるだろう」との見通しを示している。
ロシア紙「月20両しか戦車を作れない」
ただしこの事態は、ロシアが直ちに戦闘不能になることを意味するものではない。ワシントン・ポスト紙は、「喪失にもかかわらず、ロシアは相当な数の旧型戦車を保有しているため、戦力を維持することが可能とみられる」と分析している。
とはいえこのままでは在庫は尽きる。戦闘継続のためには戦車の増産が欠かせないが、経済制裁下のロシアは自動車の製造にも困窮している。戦車の製造ペースは思うように向上しないのが現状だ。
ワシントン・ポスト紙は国際戦略研究所のジョン・チップマンCEOの発言を引用し、「工業生産は継続しているものの依然ペースが遅く、ロシアは消耗を補塡(ほてん)するために、代わりに古い貯蔵兵器に頼らざるを得ない」と説明している。
エコノミスト誌は、ロシアで稼働中の戦車工場は一つしかないと報じている。旧式戦車を改造して戦場に送り出すケースが増えているという。
同誌によると、1930年代に建設されたこの巨大工場は、資金難で近代化が遅れている。労働者たちは「戦車を手で組み立てている」と冗談を言い合うほどだという。
ロシアの独立紙『ノーヴァヤ・ガゼータ』は、同工場の生産能力が月産20両にすぎないと報じた。西側関係者はエコノミスト誌に対し、ロシアでは戦車の需要が供給を10倍も上回っていると語っている。
旧式戦車を改造して戦場に送り出す
ロシアではT-72戦車に最新機材を導入したT-90などを採用しているが、前述のように、これら新型の新造が間に合っていない。そのため、旧式を改良したT-72B3戦車などを多く製造してその場を凌(しの)いでいる。
T-72B3は数十年前のT-72をベースに、より射程の長い大砲や、攻撃の貫通を避けるための爆発反応装甲、通信設備のデジタル化などを盛り込んで強化を図ったものだ。
エコノミスト誌はロシアメディアによる報道を基に、戦車製造のウラルヴァゴンザヴォド社がこうした古い戦車を月間8両のペースで再整備しているほか、その他の修理工場で17両を再生していると報じている。
今後数カ月で間に合わせの修理工場がさらに2つ稼働予定となっているが、とくに半導体チップの不足を受け、生産は難航する見通しだ。同誌は新工場が稼働したとしても、毎月150両のペースで失われているのに対し、供給はこれに満たない月間90両少々のペースにとどまるだろうと指摘する。
1両を失うだけで大ダメージになる
これは第2次世界大戦中の旧ソ連とは対照的だ。ドイツ軍の猛攻を受けたソ連は8万両の戦車を失ったが、持ち前の工業力を大いに発揮し、終戦時にはむしろ開戦時より多くの戦車を保有していた。
エコノミスト誌は、当時に対して現在では、戦車1両あたりの性能と価格が向上しており、そもそも配備されている戦車の数がかなり減少していると指摘する。1両ごとの喪失のダメージは以前よりも重くのしかかるようになっており、製造ペースの鈍化に悩むロシアにとって苦しい状況が続いている。
生産ペースについても同様だ。1940年代であれば月産1000両以上のペースを達成していた旧ソ連だが、現代の戦車は暗視スコープや照準器、そして弾道補正のための風速センサーなど、精密な電子部品を多く必要としている。単純に人手を投入してペースを上げることが難しくなっている。
また、40年代であれば戦時統制の下、一般の生産工場を転用して戦車の量産に舵を切ることが容易だった。だが現代では、精密部品を搭載した戦車を一般の工場で製造することは非常に困難だ。
欧米の戦車で戦力を保つウクライナ
保有戦車の喪失が続くのは、ウクライナ側も同じだ。ワシントン・ポスト紙は、「ウクライナの兵器庫にもまた変化があり、(元来ロシアよりも)著しく少ない戦車の車隊に昨年、喪失が続いた」と振り返る。
ただし、ウクライナ場合は国際的な支援の恩恵を受けている。各国からの戦車の供与により、戦闘をより安定して実施できる可能性がある。同紙は「こうした損失の一部は、ウクライナがポーランドなどの同盟国から確保したソ連時代の戦車によって相殺されている」と指摘する。
ウクライナからの度重なる要請を受け、アメリカはM1エイブラムス、ポーランドはドイツ製レオパルト2、イギリスはチャレンジャー2といったように、それぞれ戦車の供与を決定している。こうした供給網が、ウクライナにとっては戦力維持の「鍵」になるのではないかとワシントン・ポスト紙はみる。
もっとも、戦車の生産体制に悩んでいるのは、ウクライナ側も同様だ。エコノミスト誌は、ウクライナ唯一の戦車工場であったハリコフ近郊の拠点が、戦争のごく初期に破壊されたと指摘している。
支援を申し出た欧米諸国での製産も軒並み遅れがちとなっており、必ずしもロシア側のみが一方的に戦車不足に苛(さいな)まれているわけではない。
砲塔がびっくり箱のように飛び出る
ただしエコノミスト誌は、一般論として攻撃側が防衛側よりも多くの戦車を必要とすると論じている。紛争の長期化で戦車の在庫が問題視されるようになったいま、ロシア側がより厳しい状況に置かれる展開はありそうだ。
また、西側からの供与に加え、ウクライナ領内で鹵獲したロシア戦車もウクライナ軍の戦車数を補塡している。CNNはオリックスの発表を基に、ウクライナが500両以上のロシア戦車を鹵獲していることから、これはウクライナが失った459両を補って余りあると報じている。
ロシアの戦車については、数だけでなく質の問題も指摘されている。
開戦後の早い段階で、被弾時に砲塔が飛び出してしまう「ジャック・イン・ザ・ボックス(びっくり箱)」と呼ばれる欠陥があることが知られるようになった。これは対戦車兵器の攻撃を受けた際、内部に搭載した弾薬が誘爆し、砲塔がびっくり箱のように上部に完全に飛び出してしまうというものだ。
衛生兵が戦車を操縦するほどの兵士不足
軍事情報サイトの「ソフリプ」は昨年5月、「かつて世界最高の軍隊と謳(うた)われたロシア軍だが、隣国によって深刻な弱点と欠陥があることが露呈した」と報じている。
通信の不手際、杜撰(ずさん)な計画、兵站(へいたん)の問題と並び、ロシア軍の「もうひとつのアキレス腱(けん)」になっていると同記事は指摘する。
記事は「ロシアは戦車を設計する際、砲塔部分に弾薬を配置するという悪い癖がある」とし、内部の設計に不備があると指摘した。ウクライナ側は当時からこの弱点を認識し、攻撃に活用していたという。
兵士の不足から、運用面でも限界が来ているようだ。ニューヨーク・タイムズ紙は今年3月1日、精鋭部隊の多くが「壊滅的な打撃」を受け、知識のない専門外の兵士がその欠員を埋めていると報じた。
ウクライナ側が戦車を捕らえたところ、運転席に座っていたのは、配置転換された衛生兵だったという。このように「専門性の欠如がロシア軍を苦しめるようになった」と同紙は指摘する。
世界から見放されたプーチンの誤算
西側諸国の支援を得てウクライナが反転攻勢に出ている現状、地上戦の主力となる戦車の不足はロシア側にとって大きな痛手だ。
戦車は攻勢を強めるだけの存在ではなく、獲得した領土の維持にも欠かすことができない。レオパルト2などの供与を受けたウクライナは春から攻勢を強めるとの観測があり、ロシア側はこれを迎え撃つのに従来よりも苦慮する可能性があるだろう。
侵略に対抗するウクライナ側も相当な苦境にあることは確かだが、唯一の戦車工場が月産20両と頼りないロシアとは異なり、国際的な支援の恩恵を受けている。戦車の確保という観点では、一定の優位を確保したと言えるだろう。
一方でロシアは、自ら仕掛けた戦争で苦汁をなめ、その軍隊は衛生兵に戦車の操縦を委ねるほどの混乱に陥っている。大量に抱えた旧型戦車の在庫に依存しながら当面は急場を乗り切ることが予想されるが、もはやキーウ攻略と言える状況ではなくなってきている。
じりじりと追いやられる現状を見るに、プーチン大統領は、自ら描いた未来予想図とは遠い地点に妥協を迫られる展開となりそうだ。
●ロシア版グーグル「ヤンデックス」で「ウクライナでの戦争」と検索したら… 3/12
ロシアによるウクライナ侵攻が続く今も、インターネット上では両国の政府やメディア、人々のSNS(交流サイト)などから、さまざまな情報が発信されている。当事国の人々は何を信じ、戦争をどう受け止めているのか。両国に精通する通訳者の知識と手を借り、ロシア最大級の検索エンジン「ヤンデックス」や各種SNSなどから、一般ロシア人の今を垣間見たい。
ロシアの検索エンジンとは
協力してくれたのは、「スラブ世界研究所」(東京)主任研究員の河津雅人さん(36)=兵庫県丹波市。ロシア語、ウクライナ語の通訳として、日本メディアの取材コーディネートやファクトチェックの手助け、ウクライナからの避難者の支援などを手がける。日本文化をロシアやウクライナに発信するユーチューバーでもある。
まずは、グーグルを使って、ロシア語の発信を調べてみる。「война」(ヴァイナ=戦争)と打ち込むと、ウクライナ関連の記事が並ぶが、河津さんによると、これらは主にウクライナメディアや英BBC放送などのロシア語版のニュース記事だという。
「ロシアではグーグルは日本ほど使われていない」と河津さん。日本ではあまり知られていないが、ロシア国内でよく使われる検索エンジンがヤンデックスだ。オンライン決済やタクシーの配車、宅配なども展開しており、ロシアの生活に深く浸透しているという。
ロシアは「特別軍事作戦」
河津さんにロシア語版ヤンデックスで「война」と打ち込んでもらうと、検索候補に「ウクライナでの戦争」というロシア語が表示された。そのまま検索した。
ロシアは侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、戦争という言葉を使っていない。そのためか、検索結果の上位には、ロシア政府や国営メディアのページはほとんど表示されなかった。
ページをスクロールしてみて、ようやく政府系メディアの「リア・ノーボスチ」のサイトを発見。しかしヒットした記事も、バイデン米大統領の言葉を報じているだけ。ほかにロシア側とみられる記事もあったが、大手メディアではなかった。
むしろ目立ったのはウクライナ側から発信されるニュース。検索結果の上位には、グーグルと似て「ウニアン」というウクライナ主要メディアや、BBCなどがロシア語で書いた記事が並ぶ。ヤンデックスでも、政府による強烈な検閲はかかっていないのかもしれない。
ウニアンのサイトを覗くと、3月9日付の記事で「ウクライナ参謀本部は、ロシアから1日110回の突撃があったが、成功していないと明かした」と伝えていた。その日の各都市の被害状況や警戒情報を分刻みのドキュメント形式でリポートする記事もあった。
「プロパガンダを流すロシアに対し、ウクライナ側もロシア語で情報を発信し、対抗しているのではないか」と河津さん。「日本からアクセスしており、ロシア国内で同じような検索結果になるかは分からない」とも付け加えた。
ロシアの主要な報道
検索でロシアの主要な報道が見当たらなかったため、リア・ノーボスチと、知名度の高いロシア国営通信「タス通信」のサイトに直接アクセスした。
タス通信にはウクライナの戦況に関する特集コーナーがあった。記事では、ウニアンが伝えたのと同じ9日のウクライナの状況について「リビウで爆発があった」「各地で爆発が相次いでいるとウクライナメディアが伝えている」などと報道していた。
記事中にロシア側が攻撃したことを示す表現は見当たらなかったものの、タス通信の記述は比較的、淡々としている。これが軍事ブログなどになると、ウクライナ東部での攻勢を「解放」と表現するなど、ロシア寄りの姿勢は鮮明になる。
それでも同通信のサイトをざっと見て、河津さんが一言。「自国の被害のニュースがないですね」。ロシアはウクライナ東部で攻勢を強める半面、南部では打撃も受けているとされる。「来年の大統領選挙に向け、国内に社会的な不安を広げる訳にいかないのでしょう」と分析する。
トップページにある国際女性デーの記事で、プーチン大統領が女性たちに笑顔を見せているのもその一環なのか。だが、もしヤンデックスが日本国内と同じように利用できるなら、ロシアの人にとっても、ウクライナや西側諸国の情報に接するのは容易なはずだ。
河津さんは「ただ、積極的に『戦争』や西側の情報に触れようとするロシア人がどれだけいるか。私は戦争が始まった時、ロシアでは無関心な層が大半だったと思っています」と話す。
情報戦の主戦場はSNS動画
主要メディアの記事以外で、両国の情報戦で主戦場になっているのがSNS。特に動画の投稿だ。若い世代ほど動画で情報を集める流れは、日本とロシアで大きく変わらないという。
対ロシアで存在感があるのが、ロシアの反プーチン派がリトアニアで運営しているとみられるユーチューブチャンネル「ポピュラー・ポリティクス」。ロシア政府要人の息子にいたずら電話をしたり、ウクライナ政府要人を出演させたりしている。
チャンネルの説明文で「プーチンによって引き起こされたウクライナの戦争の真実を話す」とあり、登録数は185万人。河津さんによると、「知人のロシア人は『国内でユーチューブの閲覧に規制がかかっているとは感じない』と言っている」という。
日本でもなじみの「TikTok(ティックトック)」や「テレグラム」では、現場のロシア兵やウクライナ兵、市民らが投稿した動画が日々アップされる。ロシア兵が軍の支給品の貧しさに不満を漏らす動画など、日本のメディアでも度々引用された。
ただし、ロシアに批判的な意見にアクセスできるとしても、ロシアの人々が実際に接しているかは別問題だ。SNSでは利用者の興味に沿って、お薦め投稿が表示される。ロシア寄りの軍事ブロガーやロシア関係者も当然、アカウントを保有し、情報を発信するし、フェイク動画が紛れていることもある。
そもそも私的な交流目的でSNSを使っている人が政治的な情報を探したり、発信したりするのか。
たとえば、ロシア版フェイスブックと言える「フコンタクチェ」。河津さんもアカウントを持っているが、さまざまな投稿を検索して回っても、日常的で個人的な内容やビジネスに関する投稿が多く、政治的なものはあまり見かけないそうだ。
「状況は検索エンジンの問題と同じです。関心がない。仮にあったとしても、目にするのがウクライナを悪者にした動画ということがありうる」
動員で状況に変化
河津さんの見解では、ロシア国内の状況に変化も生じている。きっかけは、昨年9月の部分動員令の発動。数十万人のロシア人が国外に脱出し、世論調査でも停戦交渉の支持率は高まった。
「自分が戦場に駆り出されるかもしれない現実を突き付けられ、戦争という現実を意識したのではないか」
河津さんの知り合いのあるロシア人女性は、夫が動員を恐れ、韓国へ出稼ぎに行った。女性自身も「海外で暮らしたい」と話しているが、英語ができるわけでもなく、特別な技能もない。仕事がなくても生活できる富裕層でもない。
娘がいて目の前の生活がある中、仕事を捨てて国を出る決意をできるか。それとも、拘束される危険を冒して戦争反対の声を上げられるか…。「こういった葛藤に置かれているロシアの家族も、かなり多いのではないでしょうか」
●ロシア財政赤字が連続3カ月 IMF専務“壊滅的”厳しい経済見通し 3/12
財政収支が3カ月連続赤字となり、侵攻長期化に伴う戦費拡大と欧米制裁の影響がロシア財政悪化に拍車をかける。ロシア財務省は6日、1〜2月の財政収支は約2.5兆ルーブル(約4.6兆円)の赤字になったと発表した。1月、2月の赤字額だけで、ロシアが今年の予算で想定する赤字額の約9割に達した。ロシアの財政収支の悪化原因は、ロシア産の石油価格の下落が原因とされる。ロシア産石油で代表的なウラル原油は、昨年12月の欧米による60ドルの上限設定の前後から、ニューヨークで取引されるWTIより大きな下げ幅になった。IMF、国際通貨基金のゲオルギエバ専務理事は8日、米CNNのインタビューで、ロシア経済が中期的に見て大幅に縮小すると語り、来年以降のロシア経済の見通しは「非常に壊滅的」と分析した。労働者の移住や技術へのアクセスの遮断、巨大エネルギー産業に対する制裁が被害を招き、ロシア経済は長期的に苦境に入るとの見方を示している。
ロシアのオリガルヒ、新興財閥であるオレグ・デリパスカ氏は、シベリアで開かれた経済フォーラムで、「ロシアは早ければ2024年にも資金が底をつく可能性があり、外国からの投資を必要としている」と、ロシアのビジネス環境に警告を鳴らした。デリパスカ氏はかつて資産29億ドルで、2008年には長者番付でロシアトップ、世界で9位になった富豪。だが、その後、市場暴落や多額負債に資産は急減している。プーチン大統領に近い人物として欧米から制裁の対象になっている。一方、自国通貨ルーブルに対する信用不安から、ロシアでは金の需要が伸びている。ロシア紙「イズベスチヤ」によると、昨年1月から11月の金購入が50トンに上り、例年の10倍に達したと報じられた。ロシアのウクライナ侵攻に伴う経済制裁や戦費拡大を背景に、ロシア通貨ルーブルの価値減少や物価上昇への懸念が台頭し、昨年2月のウクライナ侵攻開始以降、安全資産とされる金の個人需要が急増したためと見られる。一方、ロシア中央銀行は公表した報告書の中で、「1〜2月は国内経済が活性化した一方、インフレ率も上昇した」と報告し、その上で、「この状況は金融引き締めの正当な根拠になる可能性がある」と指摘した。番組アンカーで、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、「財政赤字の拡大が続くと、ルーブル安になり輸入品が値上がりする、その物価高に加えて、国内の生産が軍事物資に向けられモノ不足に陥る。二重のモノ不足になり、通常のインフレではないハイパーインフレになる可能性がある」と危惧する。
●東部バフムト防衛継続 対ロ抗戦は戦略的判断 ウクライナ軍の真意 3/12
殺戮と破壊を繰り返す暴挙に終止符は打たれず、ロシアは今年最大級のミサイル攻撃をウクライナ全土に仕掛けた。9日、首都キーウをはじめ、東部ハルキウ州や南部ミコライウ州など各地で、被害が相次いだ。ウクライナ軍の司令官によると、今回の大規模攻撃では、ミサイル95発を発射、ドローン8機による65回の空爆が確認され、11人が死亡、22人が負傷した。西部リビウ州では、住宅地にミサイルが着弾し、男女5人が死亡した。また、同日、南部ヘルソン市のバス停が砲撃を受け、住民2人が死亡、4人がけがを負った。さらに、首都キーウのインフラ施設が、ロシアの極超音速ミサイル「キンジャール」6発の攻撃を受けた。
米シンクタンク・戦争研究所によると、今回のロシアによる全土攻撃は、多種多様な7種類のミサイルを使用したことが異例と分析。ウクライナ軍は、発射された81発のミサイルのうち34発を撃墜したと発表した。通常より低い撃墜率となったのは、今回の攻撃に迎撃不能な極超音速ミサイル「キンジャール」が使用された上に、多様なミサイルの組み合わせで防御が困難になったと見られる。ロシア国防省は9日、「ロシア西部ブリャンスク州でウクライナ側が行ったテロに対し、大規模な報復攻撃を実施した」と発表した。ウクライナ側はテロに関して否定している。米戦争研究所は「テロ事件に対する報復を求めるロシア国内の戦争推進派や超国家主義者に配慮するために、今回の攻撃に至った可能性がある」と指摘した。
ゼレンスキー大統領は6日の演説で、軍司令官に対し、バフムトに駐留する要員支援にあたる適切な兵力を見つけるよう指示し、増援による防衛強化を表明した。米CNNの取材に応じたゼレンスキー大統領は「ロシア軍がバフムトを掌握すれば、クラマトルシク、スロビャンスクなどに進軍する道を開く可能性がある。バフムトでの兵士駐留は戦略的判断である」と防衛の意思を強調した。一方で、北大西洋条約機構、NATO・ストルテンベルグ事務総長は8日、ウクライナ東部の要衝バフムトが数日以内に陥落する可能性を排除できないとの考えを示した。激しい戦闘が続く東部要衝バフムトでは、ウクライナ軍は防衛作戦を継続、抗戦の構えを示す。戦争研究所は9日、ロシア軍が不特定多数の空挺及び機械化部隊をバフムトに増援し、攻勢を強めていると分析。さらに、同研究所は、ドゥボボ・バシリウカ地区について、バフムトに駐留するロシアの民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員が完全占領を主張したとする報告を発表した。ウクライナ軍のシルスキー司令官は「最も価値が高いとされるロシアのワグネル部隊を失わせている」とバフムトにおける防衛継続の意義を語った。ウクライナ軍は「領土防衛軍第241旅団」、「第93独立機械化旅団」などの精鋭部隊をバフムトに投入、抗戦する。

 

●中国によるウクライナ戦争和平交渉提案、その中身と背景 3/13
中国の外交部は2月24日、停戦や和平交渉の再開など12項目からなる「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題する文書を公開した(12項目の詳細は後述する)。
外交部は同日の記者会見で、「中国はウクライナ問題について、終始、客観的で公正な立場を取り、積極的に和平を促し対話を促進し、危機の解決のために建設的な役割を果たしてきた」との認識を示した。
そして、同文書に基づいて、引き続き国際社会とともにウクライナ危機の政治的解決のために貢献するとした。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、2月24日、中国が同文書を発表したことに対し、「戦争の当事国だけが和平案を提案できる」と慎重な立場を示した。
一方で、習近平国家主席と会談する用意があると明らかにした。
また、ゼレンスキー氏は12項目の中に「いくつか同意できない項目がある」と述べ、ウクライナの領土保全やロシア軍のウクライナからの撤退などが明記されていないことに不満をにじませた。
ウクライナは、ロシア軍の完全撤退や全領土の返還などを求める「10項目の和平案」を既に公表している。
ジョー・バイデン米大統領は2月24日、同文書について、「ロシア以外の誰も利することはない」と否定的な見解を示した。
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は2月24日、訪問先のエストニア・タリンで記者会見した。
同文書について「中国は違法なウクライナ侵攻を非難できないので、あまり信用されていない」と述べ、ロシア寄りとされる中国は仲介役として信用できないとの見方を示した。
アントニー・ブリンケン米国務長官は2月24日、「中国は中立的な立場で平和を追求していると見せかけ、ロシアの誤った言説を広めている」と指摘した。
また、12項目に「主権の尊重」が入っていることに触れ、「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの主権を無視していることが問題の核心だ」と批判した。
さて、中国政府は、平和的解決に向けた積極的な姿勢をアピールしたが、対話や和平の実現のために中国政府がどのように行動するかは示していない。
今、習近平氏のロシア訪問が取り沙汰されている。
現時点で習近平氏の訪露計画は、日程は確定しないものの、4月もしくは、ロシアが第2次世界大戦で対ナチスドイツに勝利した戦勝記念日に近い5月初旬頃になる可能性があるという。
報道によると、習近平氏は首脳会談でロシアが侵攻を続けるウクライナを巡る多国間の和平交渉を後押しし、核兵器使用に反対する考えを改めて示す可能性があるという。
筆者は、中国がロシア・ウクライナ戦争の和平交渉を仲介しても停戦も講和も難しいと思うが、習近平氏がプーチン氏に核兵器使用に反対する旨を直接伝え、プーチン氏が核の使用を放棄すれば、習近平氏のロシア訪問は大成功であると考える。
さて、本稿では、習近平氏のロシア訪問に際して、これまでの中露関係や中国のロシア・ウクライナ戦争の対応などを取り纏めた。
初めに、中露首脳等会議における首脳などの発言について述べ、次に中国のロシアのウクライナ侵略への対応と中露関係について述べる。
最後に、最近中国が発表した「グローバル安全保障イニシアティブ(GSI)」と12項目和平案について述べる。
1.中露首脳等会議における首脳らの発言
以下、2019年以降の中露の首脳等会談を時系列に沿って述べる。
   1 2019年6月5日
サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラムに出席のためロシアを訪問中の習近平国家主席は6月5日、クレムリンでロシアのプーチン大統領と首脳会談を行った。
習近平氏はプーチン氏を「親友」と呼ぶなど、米国との貿易摩擦が激しさを増すなか、中ロ関係の良好さをアピールした。
ロシアは2014年、ウクライナ南部クリミア半島の併合をめぐり西側諸国との関係が悪化して以降、東側の国々との関係重視へと方向転換した。
プーチン氏は両国間の貿易額が年間1000億ドル(約10兆8000円、当時のレートで換算)超に達したとして習主席に謝意を示した。
プーチン氏は、両国関係が「かつてない水準」に到達したとも述べた。
中国メディアによれば、2013年以降、習近平氏とプーチン氏は約30回会合を重ねている。中国外務省は2019年4月、中露関係を「史上最高」の水準と形容した。
   2 2021年5月19日
習近平氏とプーチン氏は5月19日、中国でのロシア製原発の新規建設に関する記念式典にオンライン形式で出席した。
新華社によると、習近平氏は2021年が善隣友好協力条約の締結から20周年となることに触れ、「両国関係を幅広い領域で、より深く、より高い水準へと発展させていく」と強調した。
プーチン氏も「露中関係は歴史上、最も良好で、習近平氏との共通認識は着実に実行されており、協力の範囲は日増しに広がっている」と述べた。
   3 2022年2月4日
北京オリンピックに招待されたプーチン氏は2月4日、習近平氏と会談し、NATOのこれ以上の拡大に反対する共同声明を発表した。
緊迫するウクライナ情勢をめぐり西側諸国の圧力に直面する中、結束を誇示した。両首脳が直接会談するのは2019年以来約2年ぶりである。
共同声明では、ロシアと中国の「友情に限界はなく、協力する上で『禁じられた』分野はない」と述べた。
   4 2022年9月15日
習近平氏とプーチン氏は9月15日、ウズベキスタン・サマルカンドでの上海協力機構(SCO)に合わせ、中露首脳会談を実施した。
両国首脳が直接会うのは、ロシアのウクライナ侵攻以降初めてであり、米国を中心とする西側主導の世界秩序に対抗する姿勢で一致した。
しかし、会談で注目されたのは双方の思惑のずれだった。
プーチン氏は冒頭「ウクライナ危機に関する中国の懸念を理解している」「今日はわれわれの立場を説明する」などと発言し、中国側から事前に懸念が表明されていたことを示唆した。
また、プーチン氏はウクライナ情勢に関して、「中国が中立的な立場を取っていることを高く評価する」と述べた。
   5 2022年12月30日
習近平氏とプーチン氏は12月30日、オンライン形式で会談を行った。
会談の冒頭、プーチン氏は、「親愛なる友よ。来年春にモスクワを訪問するのを待っている。これは世界に関係の強さを示すものになるだろう」と、習近平氏を来年の春にモスクワに招待すると述べた。
中国外務省によると、習近平氏はロシアがウクライナ問題の解決に向けて「外交交渉を拒否していない」点を評価していると述べ、ロシア側の立場に一定の理解を示した。
さらに、中露双方が互いの「核心的利益」を巡る問題への支持を強化し、「手を携えて外部勢力の干渉に抵抗しなければならない」と共闘姿勢をアピールした。
   6 2023年2月22日
プーチン氏は2月22日、中国外国部トップの王毅共産党政治局員をクレムリンに迎え、二国間貿易が予想以上に好調で、2022年の1850億ドル(約24兆9143億円)から、まもなく年間2000億ドル(約26兆9380億円)に達する可能性があることを告げた。
また、プーチン氏は、「中華人民共和国主席のロシア訪問を待っており、我々はこのことで合意している」「すべての物事が進歩し、発展している。我々は新しいフロンティアに到達している」と語った。
ロシア外務省は、「中国が紛争解決にさらなる積極的な役割を果たすことを歓迎し、中国の「バランスのとれたアプローチを高く評価する」と述べた。
2.ウクライナ侵略に対する中国の対応
本項は、日本国際問題研究所(JIIA)の「戦略年次報告2022第2章ロシアによるウクライナ侵略と各国の対応」を参考にしている。
   (1)中国の対応と中露関係
米国に対抗する上で、中国はロシアとの関係を戦略的観点から重視している。
蜜月ぶりがアピールされてきた中露関係であったが、台湾問題や国内の民族問題を抱える中国は、ロシアによるウクライナ侵略を全面的には支持できず、対米戦略上の利益を考慮に入れ、ロシアとの連携を強化すべきか否かの難しい判断に迫られている。
中国は公式には「危機の適切な解決を推し進めるべき」などとして、中立の立場を取っているが、実質的にはロシア寄りの姿勢を維持している。
具体的には、中国は西側諸国によるロシアへの制裁には同調せず、ロシアから石油をはじめとする天然資源を購入し続け、中露間の貿易規模は拡大傾向を見せるなど、むしろロシアとの経済関係を強化しており、間接的に制裁の効果を弱めている。
また、ロシアを直接非難することはなく、「特別軍事作戦」を侵略とも呼んでいない。
だが、中国はロシアを完全に支持あるいはロシアと歩調を合わせているわけではない。中国はロシアに武器を供給せず、軍事面での支援は行っていない。
また国連の場では、複数回にわたるロシア非難決議において、ベラルーシや北朝鮮が反対する一方、中国は棄権している。
ところが、最近、中国がロシアに武器を供給するのではないかという情報がある。
ブリンケン米国務長官は2月19日、「中国がロシアを支援するために、殺傷能力ある武器提供を検討しているのではという懸念を抱かされる情報がある」とテレビ番組で暴露した。
そのうえで同長官は、王毅共産党政治局員との会談で、中国がこうした支援に踏み切れば、両国関係に「深刻な結果をもたらす」と警告したと述べた。
また、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが2月21日、習近平氏が数カ月以内にロシアを訪問し、プーチン大統領と会談する準備を進めていると、関係筋の情報として報じた。
報道では、習近平氏は首脳会談でロシアが侵攻を続けるウクライナを巡る多国間の和平交渉を後押しし、核兵器使用に反対する考えを改めて示す可能性があるとしている。
ロシアを支持しながら、和平交渉を提案するという行動は、ロシアとの関係と主権および領土保全の原則との板挟みのなかで、中国が見つけ出した現実的な路線であると言えるかもしれない。
   (2)中国が全面的にロシアを支持できない理由
中国がロシアを全面的には支持できないのには、いくつかの理由がある。
1 中国が公式にロシア支持を打ち出すことは不可能である。
なぜなら、今般のロシアの侵略が国連憲章の精神から逸脱していることは明確であり、国家主権や領土保全を重視する従来の中国の立場とも合致しない。
2 ロシアはウクライナ東・南部4州の占領地域で「民族自決権に基づいた住民投票」を実施し、その「結果」を踏まえて4州の併合を宣言したが、新疆ウイグル自治区や台湾問題を抱える中国にとっては受け入れられる話ではない。
中国自身の内政上の問題との関連から、ロシアを全面的には支持できないのである。
3 ロシアは強力な経済制裁を受け、国際的にも孤立し影響力が低下していくことは明らかであり、そのロシアと完全に歩調を合わせることはあまりにもリスクが大きい。
4 中国はこれまでウクライナとも良好な関係を築いてきた。中国初の空母となった遼寧は、もとはウクライナで建造が中断されていた「ヴァリャーグ」を購入したものである。
また、2013年に「中国ウクライナ友好協力条約」が締結されており、「ウクライナが核の脅威に直面した際、中国が相応の安全保障をウクライナに提供する」ことが条約に含まれている。
このように、中国はウクライナとの関係も考慮する必要がある。
   (3)中国がロシアとの関係を強化せざるを得ない理由
中国にはロシアとの関係を強化せざるを得ないいくつかの理由がある。
第一に、戦略的な観点から米国に対抗するためである。ロシアの経済的地位は徐々に低下しているが、軍事、国際的影響力、資源供給の観点から見れば、ロシアは依然として大国である。
中国にとって、米国と戦略的競争を展開するためには、ロシアとの安定的な協力関係が不可欠である。
もう一つの要因は、習近平氏の意向である。
とりわけ対露関係については、プーチン氏とは数十回の会談を行うなど直接の交流を深めており、2人の指導者の間には強い個人的な信頼関係が形成され、両国関係の強化に寄与していると見られる。
また、中国とロシアは共に米国から強い圧力を受けており、ウクライナ情勢への米国の「介入」は中国にとっても他人事ではないと共感をもって受け止められたのであろう。
こうしたことから、習近平氏個人の心情に基づく立場が中国の対露政策に大きく反映されていると考えられる。
3.GSIと12項目和平案
日本のメデイアはあまり取り上げていないが、中国はいわゆる12項目和平案を公表する直前に、米国主導の国際秩序に対抗するための新たな安全保障会議の設立を目指す「グローバル安全保障イニシアティブ(GSI)コンセプトペーパー」を発表した。
初めに、GSIについて述べる
   (1)GSIコンセプトペーパー
中国外交部は、2023年2月21日のフォーラム(GSIの説明会)で「GSIコンセプトペーパー」を発表した。このフォーラムには、137カ国・地域の大使と外交官、代表らが出席した。
GSIは2022年4月21日、海南省ボアオで行われたボアオ・アジア・フォーラム2022年年次総会で、習近平氏がビデオ演説で打ち出したものである。
GSIは、次の6つの「理念と原則」(出典:在日本中国大使館)により構成されている。
1 共同、包括、協力、持続的可能な安全保障理念を堅持し、世界の平和と安全を共に堅持する。
2 各国の主権と領土保全を尊重し、他国への内政干渉をせず、各国国民が自ら選択する発展の道と社会制度を尊重する。
3 国連憲章の主旨と原則を順守し、冷戦思考を放棄して一国主義に反対し、集団的政治と陣営を組んでの対決をしない。
4 各国の安全保障上の合理的な関心事を重視し、安全保障の全体性の原則を堅持し、均衡、有効、持続可能な安全の枠組を構築し、他国を安全でない状態にして自国の安全保障を築き上げることに反対する。
5 国家間の見解の不一致と紛争を、対話と協議を通じて平和的な方式で解決することを堅持し、危機の平和的解決に有益なあらゆる努力を支持し、ダブルスタンダードは行わず、一方的な制裁とロングアーム(自国の法令などを自国領域外にも適用すること)の乱用に反対する。
6 従来型の分野と新たな分野の安全保障を統一して維持することを堅持し、地域の紛争やテロリズム、気候変動、サイバーセキュリティー、生物安全など全世界に及ぶ課題に共同で対応する。
当日(2月21日)本文書を説明した中国の秦剛外相は「世界が必要とする安全保障概念とは何か、世界の国々が共同安全保障を達成する方法は何かが、今の時代の主な関心事となっている」とし、「同文書は、対立が起きている地域と世界の問題を効果的に解決するための青写真を提供するだろう」と述べた。
また「中国の発展は安全な国際環境と不可分の関係にあり、中国の安全なしには世界の安全もない」と主張した。
秦氏はさらに「現在80以上の国と地域でGSIを歓迎し支持している」としたうえで、「我々はGSIに加入し世界平和と発展を支援するすべての国を歓迎する」と述べた。
実際、2022年12月に開かれた中国とアラブ諸国の首脳会議で、アラブ諸国の首脳は中国のGSIを支持する意向を示した。
中国はGSIをもとに、国家間の定期的な会議や協議体を構成するものとみられる。
上海復旦大学国連研究センターの張貴洪教授は「中国は西側が作ったミュンヘン安全保障会議のような独自の会議の創設を目指している」とし、「GSIに加入した国の外相、国防相、国務長官などが集まる定期的な会議を組織する可能性がある」と述べた。
世界がますます二極化する中、GSIが特に中近東やアフリカなどから支持を得る可能性やアジアにおける米国の行動に影響を与える可能性を指摘する声もある。
次に、12項目和平案について述べる。
   (2)12項目和平案
この12項からなるこの文書は和平案と言われることもあるが、筆者は、その表題(「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」)にあるように中国の立場表明であると見ている。
今回の提案の狙いは、中国が、中立的な立場で、和平に積極的であるという印象を国際社会に与えようとするものであると筆者は見ている。
さて、2023年2月22日にロシアを訪問した中国の王毅共産党政治局員はプーチン大統領と会見した。
中国外交部の発表によれば、このとき王毅氏は、ロシア側が対話と交渉による問題解決への「意欲」を示したという。
2022年12月のオンラインでの首脳会談ではロシアは外交交渉による問題解決を「拒否していない」にとどまっていたが、ここでは「意欲」に発展している。
もっとも、ここでもロシア大統領府の発表にはこの部分が記載されていないため、ロシア側がそもそもどの程度の「意欲」を持っていると述べたのかは不明である。
王毅氏とプーチン氏の会見から2日後の2月24日、中国外交部は「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題した12項目からなる文書を発表した。
前述したが、中国外交部は、中国は引き続き国際社会とともにウクライナ危機の政治的解決のために貢献すると述べた。
さて、12項目(出典:JETROビジネス短信2023年02月28日)は次のとおりである。第3項と第4項については説明の全文を掲載する。
1 各国の主権の尊重:国連憲章の趣旨と原則を含む、公認された国際法を厳守し、すべての国の主権、独立、領土の完全性を適切に保証する。
2 冷戦思考の放棄:地域の安全が軍事ブロックの強化によって一国の安全が保障されることはない。
3 停戦、戦闘の終了:紛争に勝者はいない。
各当事者は理性と自制を維持し、火に油を注がず、衝突を激化させず、ウクライナ危機をさらに悪化させたり、制御不能となることを防止し、ロシアとウクライナが互いに歩み寄ることを支援し、可能な限り早期に直接対話を再開させ、徐々に事態の沈静化と緩和を進め、最終的に全面停戦を達成すべきである。
早急に直接対話を再開し、最終的に全面的な停戦を達成することを支持する。
4 和平交渉の再開:対話と交渉は、ウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な方法である。危機の平和的な解決に資するあらゆる努力が奨励され、支援されるべきである。
また、国際社会は和平を促し対話を促進するという正しい方向を堅持し、紛争の各当事者が危機の政治的解決への扉をできるだけ早く開くことを助け、交渉を再開するための条件を整え、プラットフォームを提供すべきである。
中国はこの点で引き続き建設的な役割を果たす。
5 人道的危機の解消:人道危機の緩和に資するすべての措置が奨励され、支援されるべきである。
6 民間人や捕虜の保護:民間人及び民生用施設への攻撃を避け、女性や子供などを保護し、捕虜の基本的権利を尊重する。
7 原子力発電所の安全確保:原子力発電所などへの武力攻撃に反対する。
8 戦略的リスクの低減:核兵器の使用および使用の威嚇に反対する。
9 食糧の外国への輸送の保障:ウクライナ穀物輸送の履行
10 一方的制裁の停止:国連安保理の承認を経ていないいかなる一方的制裁にも反対する。
11 産業・サプライチェーンの安定確保:世界経済の政治化、道具化、武器化に反対する。
12 戦後復興の推進:中国はこれに助力し、建設的役割を果たすことを望んでいる。
第1項目で、各国の主権の尊重を掲げ、従来の原則を堅持する一方、第3項目で停戦を、第4項目で和平交渉を進める意向を表明したが、和平交渉プラットフォーム設立などに向けた具体的な方策については言及しなかった。
第10項目で一方的な制裁の停止を打ち出し、安保理の承認を経ずに制裁を行う西側を批判している。
ロシアを非難せず、ロシアの顔を立てつつ、和平交渉に促すという中国の考えが、文書のかたちとなって表れている。
前述したように、この文書は和平案と言われることもあるが、より正確には中国の立場表明であろう。
ロシア側も中国のこの立場表明にすかさず同調した。
ロシア外務省報道官が中国の立場を評価するとともに、西側およびゼレンスキー政権への批判を繰り返した。
近く予定されている習近平氏のロシア訪問の行方が注目される。
おわりに
軍事思想家カール・フォン・クラウゼヴィッツは、その著書『戦争論』で、次のように述べている。
「現実の戦争において講和の動機となりうるものが2つある。第1は、勝算の少ないこと、第2は、勝利のために払うべき犠牲の大きすぎることである」
現時点でウクライナ、ロシアとも和平交渉の席につく気は見られない。なぜならば、両国とも勝算は我にありと思っているからである。
ただし、ウクライナにとっては、西側諸国の兵器などの軍事支援の継続がなければ勝算は小さくなるであろう。
また、ウクライナ軍には犠牲を厭わない高い士気がある。一方、ロシア軍には兵士の死を何とも思わない人命軽視の風潮がある。
したがって、ロシア・ウクライナ戦争終結の見通しは立っていない。
中国は、ロシア・ウクライナ戦争の長期化を避けたいと思っている。
ウクライナ侵攻以降、中国はロシアを一回も非難することなく、制裁にも同調せず、経済的にはロシアとエネルギー上の結び付きを強化し、安全保障的には日本周辺で中露の合同軍事演習を活発化させてきた。
しかし、ロシアをめぐる緊張が長期化するにつれ、中国も戦争の早期解決を望む国際社会から圧力を感じるようになった。
中国はロシアのウクライナ侵攻を巡る西側諸国の介入と、台湾統一を巡る西側諸国の介入を重ね合わせている可能性が高い。
ロシア・ウクライナ戦争から得た教訓は国際社会の支援であろう。
よって、中国としては欧米やロシアだけでなく、他の国々の動向にも配慮する必要があり、そういった国々がウクライナ戦争をどのようにとらえているかに注意を払っている。
先の2月24日の国連緊急特別会期総会おいて「ロシア軍即時撤退」決議に141カ国が賛成したことは中国にとって驚きであったであろう。
さらに、仮に、この問題で中国と中国支援国の政治的立場で乖離が強まることになれば、欧米陣営がそこを突くように中国支援国へ経済的支援を強化し、一部の国が中国寄りから欧米寄りへ舵を切る可能性もある。
そこで、中国は、欧米諸国を中心とする民主主義に対抗するため「グローバル安全保障イニシアティブ(GSI)」を打ち上げ、中東やアフリカ、南米の諸国を中国陣営に取り込むことを狙っている。
また、和平交渉を提案して、中立的な立場をアピールすると同時に、あわよくば、習主席が戦争を終結させたという「功績」をアピールすることを目論んでいると筆者は見ている。
●経済制裁してもロシア人の生活に影響が少ないのはなぜ? 3/13
筆者が以前に所属していたロシアNIS貿易会で先日、ロシア在住日本人ジャーナリストの徳山あすかさんによるリモート講演が開催された。それを視聴していたところ、衝撃的な一言に出くわした。
「ロシア人は抜け道を考える天才です」
やはりそうだったか。何となくそんな気はしていたが、誰よりもロシア社会を良く知る徳山さんにずばり指摘されると、納得する他ない。
プーチンは国民に甘いヒトラー型
欧米日による対ロシア制裁は、ロシアの一般庶民をターゲットにしているわけではない。エネルギー輸出等によって戦費を稼がせないこと、ロシアの軍需産業の機能を奪うこと、プーチン政権を支える政権幹部や富豪に打撃を与えることを、直接的な目的としている。
しかし、われわれは暗黙のうちに、「ロシア国民の生活が苦しくなれば、プーチン政権への反発が強まって、戦争やめろ! の大合唱が巻き起こるのではないか」と期待していることも、否めない。
現実には、ロシアの人々はそれほど不自由はしていない。制裁によって、今まで使っていたサービスが利用できなくなるといった影響は、確かに生じている。それでも、そこはやはり「抜け道の天才」であり、ロシアの人々はそれぞれに解決策を見出している。今のところ、制裁によってロシアの生活水準が大きく落ち込むという事態にはなっていない。
そして、国民生活にしわ寄せが及ばないよう、プーチン政権がかなり気を遣っていることも見逃せない。特に、今のロシアにとり、基礎食料を安定供給することは国是と言ってよく、国内を優先するために2022年には穀物の輸出制限措置も発動された。
独裁者の中には、かつてのチャウシェスク・ルーマニア大統領のように、国民がひもじい思いをしても、食料を「飢餓輸出」する者もいる。ソ連の最高指導者スターリンも1930年代に、工業化に必要な原資を捻出するため、ウクライナ等で穀物徴発を強行し、大飢饉を引き起こした。プーチンは、それらとはかなり異なった政治家である。
プーチンはむしろ、敗戦の直前までドイツ国内の生活水準を落とさなかったヒトラーに近く、自国民に甘い独裁者と言えるかもしれない。もちろん、動員という名のロシアンルーレットに当たったら悲惨だが。
インフレから見えてくるもの
わが国では、「国際的な制裁を受けているロシアは、モノ不足と物価高にあえいでいるに違いない」と考えている人が多いのではないか。そこで、ロシアの物価統計を検証してみることにしよう。
ロシアの消費者物価の動向は図1に見るとおりである。2021年12月の物価を100とすると、最新の23年2月には113.4の水準となっている。うち、食料品は112.6、非食料商品は112.8、サービスは115.2である。
なお、公式統計が国民の感覚と合わないのはロシアも同じであり、ざっくり言うと、22年2月の軍事侵攻開始後に物価が1.5倍くらいに上がり、その後も高止まりしているといったあたりが、庶民の生活実感のようである。
いずれにしても、図1からは、激しい物価高騰が開戦直後の22年3月だけの現象だったことが分かる。開戦によるパニックと、それとも連動したルーブル安が原因だった。その後は、為替の持ち直しや、行き過ぎた値上げの反動もあり、夏にはむしろ価格下落局面を迎えた。
これには、ロシアでは夏に物価が下がりやすいという季節的要因もあっただろう。秋以降は、再び物価上昇に転じている。
図2には、主な食料品の価格動向を示した。目立つのは、砂糖がジェットコースターのような値動きを示していることだ。実は、ロシアでは危機が起きるたびに人々が買い溜めに走る食品がいくつかあり、砂糖はその代表格なのである(他には穀物の挽き割り、缶詰、パスタ類などがある)。
これについては、「第二次世界大戦中の食料危機を、砂糖をなめて乗り切ったから」といった説があるが、正確なところは良く分からない。22年2月の開戦直後も、人々が砂糖を求めて商店に殺到し、品薄と高騰が生じた。ただ、パニックは一時的なもので、その後はむしろ値段が下がっていった。
野菜・果物の価格変動は、ウクライナ情勢よりも、季節的な要因が大きい。寒冷地であるロシアでは、最近でこそ冬でもハウス栽培により一定の青果物が国内生産されているものの、基本的には露地ものが豊富に出回る季節に価格が下がり、冬になると輸入品が増えて価格が上昇するパターンを描く。
日本では最近、「卵が高い」という悲鳴が上がっている。戦争をやっているロシアで、22年に卵がむしろ値下がりしていたというのは、われわれにはショッキングだ。実はこれも季節的要因が大きく、ロシアでは夏になると卵および鶏肉の価格が12〜15%低下すると言われている。日本における卵の価格変動は需要の増減によるところが大きいようだが、ロシアでは養鶏の生産コストが冬場に上がり夏場に下がることが原因ではないかと思う。
ロシアの強みと弱みを見せる
食品以外の商品の値動きを示した図3では、まず開戦直後の家電の値上がりが激しかった。家電は外国メーカーに依存する部分が大きく、ロシアで現地生産されていてもコンポーネントは大部分輸入である。ゆえに、開戦ショックで供給不安が広がり、ルーブル暴落の影響も受け、値段が跳ね上がった。
危機に直面するとお金をモノに代えて資産を守ろうとするロシア国民特有の行動パターンも影響したかもしれない。その後、価格は沈静化していったが、以前と同等の商品は入手しづらくなっているかもしれない。
ロシアでは医薬品も輸入依存度が高く、「ロシア国産」とされていても輸入原薬をパッケージしているだけだったりするので、家電と似た値動きを示した。石鹸・洗剤などもやはり製品または原料を輸入に頼っている分野であり、開戦後に非常に高くなった。
逆に、図3で異常な安定振りを見せているのが、ガソリン価格である。ロシア政府は、22年に原油の輸出が不安定化した分、補助金も投入して国内の石油精製を奨励し、石油製品の安値安定を維持した。23年3月現在、ロシアにおけるレギュラーガソリンの価格はリッター0.64ユーロで、これは欧州諸国の中で断トツに安く、欧州連合(EU)諸国は軒並みその倍以上である(たとえばドイツでは1.90ユーロ)。産油国としてのロシアの強みが端的に表れている分野と言える。
最後に、サービスの料金動向をまとめた図4を見ると、暖房費、電力料金が横這いだった時期が長かったことが見て取れる。これは当然、政府により統制されているからだ。政府は物価全般に合わせて、原則的に半年に一度、公共料金の見直しを行っている。
22年12月の引き上げで、暖房費は侵攻開始前から13.9%増に、電力料金は13.5%増になった。ロシア国民はこれでも不満だが、欧州あたりで空前の光熱費値上げが生じていることに比べれば、恵まれていると言えよう。なお、ロシア政府は現行料金で1年半据え置き、次の値上げは24年7月になるとしている。
食料安全保障の落とし穴
以上見てきたように、軍事侵攻開始後のロシアでは、家電などのように輸入依存ゆえ値上がりした品目は、確かにある。ただ、エネルギー大国だけあって、ガソリンや光熱費の面では恵まれている。全体として、ロシア国民が基本的な衣食住に困っている様子は見受けられない。
ロシアが近年、穀物輸出国として台頭していることは良く知られているだろう。それ以外の基礎食品でも、14年の欧米への逆制裁で輸入を禁止したりしたため、ここ数年で自給率が高まっている。
主な食品の輸入依存度は、図5のようになっている。乳製品の輸入が多いように見えるが、その大部分は子飼いのベラルーシからの輸入であり、実質的に国産のようなものだ。また、鶏肉や豚肉を多少輸入はしているものの、近年ロシアはそれらの輸出を増強しており、純輸出国に転じている。ロシアが世界的なひまわり油供給国となっている植物油については、言わずもがなであろう。
それでは、ロシアの食料安全保障は盤石なのかというと、これがそうとも言い切れないのである。現代の農業では、作物の収穫量や形状を安定させるため、一代限りのハイブリッド種を使って作付けすることが増えている。ハイブリッド種の開発には多大な費用と年月を必要とし、栽培も簡単ではなく、ロシアはその大部分をEU諸国等から輸入しているのだ。
ロシアで作付される作物の種に占める外国産の比率を、図6に示した。なお、じゃがいもでは、外国で開発された品種でも、ロシア国内で種芋が栽培されていることが多いようで、輸入依存度は図に見るほど高くないかもしれない。また、図にはないが、ロシアが世界的輸出国となっている小麦、大麦では、種の外国依存度は低い。
さて、問題は上述のとおりロシア国民の定番非常食である砂糖である。かつてロシアは砂糖生産のためにサトウキビを輸入していたが、最近ではほぼ全面的に国内で栽培されるテンサイ(サトウダイコン)に移行していた。ところが、図6に見るように、テンサイこそ輸入種に依存している典型例なのである。
かつてのソ連は1970年代からテンサイ交配種の選抜や遺伝に関する作業を一切行わなくなった。ロシアはそのダメージを引きずり、2000年代初頭には種子生産を断念してしまった。テンサイの種子が多く栽培されるのは、気候的に適した南フランスと北イタリアで、ロシアには適地がほとんどない。
現在のところ、EUはロシアへの種の輸出を禁止する動きには出ていない。世界の食料安全保障にかかわる問題なので、EUもこの点には慎重なのかもしれない。
逆に、現在ロシア政府が種輸入の制限を検討しているところだ。政府としても、種の輸入依存度の高さを問題視しており、輸入に数量割当制を導入して国産化を推進しようとしているわけである。 この動きに危機感を抱いたロシア穀物同盟をはじめとする各農業団体は、2022年9月にプーチン大統領に公開書簡を送り、割当制は農業生産に破局的影響をもたらすと警告した。
ちなみに、同じような問題は畜産にもあり、最近ロシアで発展を遂げている養鶏業にしても、EU諸国からの種卵(有精卵)の調達なくしては成り立たない。
このように、一見高いロシアの食料自給率は、実は危うい基盤の上に成り立っているのである。
●「ロシア情勢」を軸に世界がトルコ大統領選に注目する理由 3/23
2月6日に発生したトルコ・シリア大地震から1カ月以上が経過した。死者数が5万2000人を超える、大変痛ましい惨事となった。この事態を受けて延期される観測が高まったトルコの国政選挙(大統領選と議会選のダブル選挙)だが、予定どおり5月14日に実施される運びとなった。トルコの国政選挙は2018年6月以来、5年ぶりだ。
ヨーロッパと中東を結ぶ位置に存在する地域大国であるトルコの国政選挙の結果は、周辺の地域にも大きな影響を与えるため、常に世界的な注目が集まる。とはいえ、今回は殊更、注目度が高い選挙となっている。
なぜなら、ロシアとウクライナの情勢に大きく関わるためだ。
最大の争点は「エルドアン大統領が続投するか」
最大の争点は、エルドアン大統領が続投するかどうかにある。
エルドアン氏は2003年3月、トルコの第59代の首相に就任した。2014年まで首相を3期務めた後、2014年からはトルコの第12代大統領を2期務めている。エルドアン氏は20年にわたり、トルコの政治を担ってきたわけだ。
エルドアン氏の政権運営は、首相時代は比較的堅実だった。しかし大統領就任の頃から徐々に独裁色を強め、2016年には大統領に反発する軍隊によるクーデター未遂事件を招くことになった。その後2017年には憲法改正を通じて大統領の権限の強化に成功、2018年の国政選挙も乗り越え、独裁色を一段と強めるようになった。
しかし、その後のトルコ経済は、エルドアン氏の下で大混乱に陥る。輸入依存度が高いトルコ経済は、もともとインフレ圧力が強い。そのため高金利政策を維持し、通貨を安定させなければならない。にもかかわらず、エルドアン氏は、低金利こそが物価の安定につながるという独自の理論を展開し、中銀に圧力をかけた。
通貨リラ「5年弱で価値が5分の1」に
高インフレにもかかわらず低金利を強いるという歪な経済運営の帰結は、通貨の暴落として現れた。トルコの通貨リラの対ドルレートは、2018年から2022年中までの間に、1ドル3リラ台後半から、18ドル台後半と5倍近く下落した(図表)。同時に、消費者物価は3.8倍まで上昇、国民生活に重い犠牲を強いる結果になった。
エルドアン氏が高インフレにもかかわらず低金利を重視する大きな理由に、自身の支持母体である建設業者への配慮があるといわれている。建設業者にとっては、低金利であれば資金調達が容易になるため、建設工事がしやすくなる。それに高インフレで不動産価格が上昇することも、建設業者にとって好都合といえる。
こうした建設業者とエルドアン氏の関係の近さは、国民の間で広く知られるところだ。
2月6日に発生した大地震で倒壊した建物の多くが「手抜き工事」とされ、国民の怒りの矛先が自身に向かうことを避けるため、エルドアン政権は建設業者の責任者の多くを逮捕・拘束した。が、政権に対する批判は止むことがなかった。
   トルコの通貨と物価
こうした状況に鑑みれば、5月のトルコの総選挙でエルドアン氏は敗北必至となりそうだが、そうでもなさそうな点がトルコの政治の難しさだ。エルドアン氏と与党・公正発展党(AKP)の根強い支持者は農村部の保守層に多く、その支持基盤は盤石だ。一方、最大野党・共和人民党(CHP)は、人材難に喘いでいる。
大統領選の野党統一候補は、当初はイスタンブールのイマモール市長が有力視されたが、結局CHPのクルチダルオール党首が選ばれた。クルチダルオール党首は74歳と、69歳のエルドアン氏よりも高齢であり、カリスマ性に欠ける。選挙戦は接戦が予想され、エルドアン氏が続投する可能性も出てきた。
エルドアン大統領の「続投」はロシア=ウクライナ情勢に影響する
「通貨下落と物価上昇に拍車をかけ、国民生活に重い負担をもたらした」という経済的な側面だけを評価するなら、エルドアン氏が敗北したほうがトルコの国民にとっていいのだろう。
他方で、国際関係という観点から評価すると、少なくとも現段階でエルドアン氏が敗北することは、望ましくない結果になりかねない。
エルドアン氏は、ロシアのプーチン大統領と個人的な友好関係にある。同時に、エルドアン氏はウクライナのゼレンスキー大統領とも通じている。ロシアとウクライナが交戦状態となって以降、トルコは国連とともに、停戦に向けてロシアとウクライナの双方に掛け合ってきた経緯がある。
シリア情勢を巡って、トルコとロシアは協力関係にある。またトルコは化石燃料の純輸入国だが、その多くをロシアに依存している。他方で、トルコは穀物や油脂の多くをウクライナから輸入している。長引く戦争でロシアとウクライナの双方が摩耗していくことは、トルコの経済や国際関係にとっても、決して好ましいことではない。
欧米とロシアが双方で対決姿勢を強めている以上、仲介役を担うことができる数少ない地域大国がトルコであることは、間違いのない事実だ。
その担い手が、トルコ国民の生活に大きな犠牲を強いてきたとはいえ、プーチン大統領とゼレンスキー大統領の両者に通じているエルドアン氏であることに越したことはない。
仮にCHPのクルチダルオール党首が大統領に就任した場合、エルドアン氏に比べると親欧米寄りの政権運営となる可能性が高い。そうなれば、ロシアとウクライナの仲介者としての役割をトルコに期待することができなくなる。
トルコの内外事情が複雑に交錯している点が、今回の国政選挙のこれまでにない難しさだ。
注目されるトルコ国民の選択
エルドアン氏が続投となった場合、引き続き低金利政策が維持され、最低賃金の引上げに代表されるバラマキ政策が継続されるだろう。そのため高インフレに歯止めがかからず、通貨も下落が続くことになる。そして通貨の下落が、物価の上昇に拍車をかけるというこれまでの悪循環が、今後も続くことになると予想される。
2019年3月に実施された地方選の結果、トルコの三大都市(アンカラ、イスタンブール、イズミル)の市長は、全て最大野党CHPの出身者が務めるに至った。このように、都市部ではエルドアン離れが着実に進んだ。問われているのは、支持者が多い農村部で有権者が、5月の国政選挙でどのような選択を下すかということに他ならない。
繰り返しとなるが、今回のトルコの国政選挙の結果は、その結果次第で、ロシアとウクライナの問題に大きな影響を及ぼす可能性があることにも注意したいところだ。
両国間で停戦に向けた動きが依然として見通せないからこそ、仲介役を担うことができるトルコの政権選択選挙の行く末には、世界中が注目しているのである。
●ロシア バフムト掌握へ激しい攻撃 ウクライナ軍が徹底抗戦か  3/13
ロシアはウクライナ側の拠点のひとつバフムトの掌握をねらって激しい攻撃を続けていますが、ウクライナ軍が防衛線を築き、侵攻を食い止めているものとみられます。
ロシア側はウクライナ東部ドネツク州のバフムトを包囲しようと猛攻を仕掛けているもようで、ウクライナ国防省は12日、「市内への敵の砲撃はやむことがなく、周辺でも15の集落が攻撃を受けた」と発表しました。
ウクライナ軍はバフムトの東側をロシア側に掌握されながらも、西側で防衛線を築き徹底抗戦しているものとみられ、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は11日、「ロシア側は、さらなる前進が難しくなっているようだ」と分析しています。
またウクライナ国防省は、ロシア側がドネツク州の要衝リマンやアウディーイウカなどでも攻撃を仕掛けているとしながら、多くを撃退したと主張しています。
こうした中、前線に戦闘員を投入しているロシアの民間軍事会社ワグネルのトップは10日、ロシア国内42の都市に戦闘員の募集センターを開設したと発表し、兵員不足に対応しようという意図がうかがえます。
一方、ロシアの複数の独立系メディアは12日、モスクワ州から動員された兵士たちの妻や母親などが、家族が訓練不足のまま突撃部隊に組み込まれ前線に放り出されているとして、プーチン大統領に対して、家族を戻すよう訴えていると伝え、ロシア国内で依然として不満がくすぶっていることをうかがわせています。 
●夫や息子を虐殺の場に送らないで、ロシア女性がプーチン大統領に抗議 3/13
ロシアの女性グループがウラジーミル・プーチン大統領に対し、夫や息子を虐殺の場に送るのをやめるよう訴えて抗議運動を展開した。
SNSに投稿された動画の中で女性たちは、夫や息子が昨年9月の動員以来、4日間の訓練を受けただけで3月初めから「突撃部隊に加わることを強要されている」と訴えた。
女性たちが掲げた紙には「580独立榴弾(りゅうだん)砲兵師団」の名称と2023年3月11日の日付が入っている。
「夫は敵と接触する最前線にいる」と1人の女性は語っている。「動員された(男性たち)は、家畜処理場に向かう子羊のように送り込まれ、要塞(ようさい)化された地域を襲撃している――5人ずつ、重装備の敵の男性100人に対して」
「彼らは祖国のために従軍する準備はできている。だが突撃歩兵としてではなく、訓練された内容に従っての従軍だ。男たちを前線から撤退させ、砲兵に大砲と砲弾を提供するよう求める」。女性はそう続けている。
CNNは、この女性たちが訴えた内容の信憑(しんぴょう)性を確認することはできていない。
ロシアがウクライナの戦場に何十万もの兵士を送り込んでいることに対しては、反発や抗議の声が巻き起こり、大勢のロシア人、特に若い男性が同国から出国している。
●プーチン、国内の情報統制に失敗──政府関係者が認める 3/13
アメリカのシンクタンク、戦争研究所が3月11日に出したレポートによれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻を巡る国内世論をコントロールしきれなくなっていることを同国政府関係者が認めたという。
プーチンの言う「特別軍事作戦」つまりウクライナに対するロシア軍の侵攻が始まって早1年。ロシアとしては短期間のうちに勝利を収めるつもりが、西側の支援を受けたウクライナ軍が予想を上回る抵抗を見せたことで思うような戦果を上げられず、政府内では侵攻を巡って内部対立も起きていると言われる。
ロシア政府は、政府に都合のいい見方をニュースサイトやソーシャルメディアなどの「情報空間」を使って拡散しようとしてきた。ロシアは以前からこの手法を駆使してきたが、侵攻開始後は、国内の政府批判に激しい弾圧も加えてきた。
だが戦争研究所のレポートによれば、プーチンによる情報統制にほころびが見えてきた可能性があり、そのほころびを修復するのは容易なことではないかも知れない。
レポートによれば、ロシア外務省の報道官マリア・ザハロワは先ごろ、あるフォーラムに出席し、「情報と認知戦の実際的、技術的な側面」について話をした。
新たなプロパガンダ機関を作れない理由
ザハロワは、プーチン周辺で内紛が起きていることや、プーチンが「ロシアの情報空間に対する中央からのコントロールを手放した」ことを認めた。
「パネルディスカッションでザハロワは、スターリン時代に情報を中央でコントロールしていたソビエト情報局に匹敵するものを設立することは今のロシア政府には不可能だと述べた。政府内の『エリート』の間で意見が対立しているからだ」と軍事研究所はレポートで伝えている。
戦争研究所はレポートで、ザハロワの発言はロシア政府が世論を制御しきれなくなっているとの見方を「裏付ける」ものだと述べた。
「この発言は、いくつかの見方を裏付けている。まず、プーチンの主要な側近たちの間で対立が起きているというもの。そして時間の経過とともに、ロシアの情報空間をコントロールする力がプーチンから他の人物や機関の手に渡ってしまったというもの。そして今のプーチンにはそのコントロールを取り戻すことも不可能らしいというものだ」とリポートには書かれている。
うるさい軍事ブロガーを黙らせたい?
戦争研究所はザハロワが公の席でこうした発言をした意図について、ロシアの軍事ブロガーからの批判を黙らせようという試みである可能性もあると推測している。ロシアの軍事ブロガーからは政府の戦争の進め方を厳しく批判する声が高まっている。ロシア軍は何カ月にもわたって大きな戦果を上げておらず、反発を招いているのだ。
●ウクライナ大統領は内政不干渉を、ジョージア首相がけん制 3/13
ジョージアのガリバシビリ首相は12日、ウクライナのゼレンスキー大統領に対して内政に干渉しないよう求めた。
ジョージアでは先週、「外国の代理人」に関する法案に激しい抗議デモが起こり、ゼレンスキー氏はこの際にウクライナの国旗が掲げられたことで抗議者らに謝意を表明。ジョージアにおける「民主的な成功」を願うなどと発言していた。デモを受けて法案は10日に否決された。
反対派は法案が2012年にロシアで制定され言論弾圧に使用された法律に類似していると批判。将来的な目標である欧州連合(EU)加盟が遠のくと懸念が高まった。
ガリバシビリ首相はジョージアのIMEDIとのインタビューで、「わが国で数千人が起こした破壊的行動に戦時下にある国の人物が反応を示せば、それはわが国でも変化に向けて事が起きるよう干渉し、煽動していることを示す直接の根拠となる」とした上で、ウクライナ戦争については「適切な時期の終戦と平和を願う」と述べた。
●ウクライナ 激戦地バフムトでワグネルなどと一進一退の攻防  3/13
ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトでは、ロシアの民間軍事会社ワグネルなどの部隊と徹底抗戦するウクライナ軍との間で、一進一退の攻防が続いています。
軍事侵攻を続けるロシア軍は、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトの東側を掌握したとみられています。
こうした中、ウクライナ陸軍の現地の司令官は13日、SNSで「バフムト周辺の状況は依然として厳しい。ロシアの民間軍事会社ワグネルが複数の方向から、われわれの防衛線を突破することで、中央に進撃しようとしている」と訴えました。
そのうえで「敵のすべての試みは、大砲や戦車の火力で撃退した」と徹底抗戦の構えを示しています。
一方、ロシアのワグネルの代表、プリゴジン氏も12日、SNSに音声メッセージを投稿し、「バフムトの状況は非常に厳しい。中心部に近づくほど戦闘が激しくなっている」と述べ、ワグネルの部隊とウクライナ軍の部隊との間で、一進一退の攻防が続いているとみられます。
このワグネルに関して、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は12日、分析を発表し、「バフムトの戦闘で、ロシア国防省とプリゴジン氏の対立が最高潮に達した可能性が高い」と指摘し、双方の確執が深まっていると指摘しました。
そのうえで、プーチン大統領は、最終的に国防省にバフムトでの指揮権を与えたと指摘したうえで、「プーチン大統領と国防省は、バフムトで今後さらに犠牲が拡大することのスケープゴートとして、プリゴジン氏を利用する可能性がある」と分析し、戦闘がさらに激しくなる中、ワグネルに責任を押しつける可能性があるとしています。
一方、イギリス国防省も13日、ワグネルが、ウクライナに送り込んだ受刑者の戦闘員のうち、およそ半分が死傷している可能性が高いと指摘しました。
しかし、確執が深まるロシア国防省からの圧力で、ワグネルは受刑者の採用は中止せざるを得なくなり、代わりにロシア各地の都市で、戦闘員の募集を始めたものの、兵員の損失を穴埋めするのは難しいと分析しています。
●岸田首相 アンゴラ大統領と会談 “ロシアの侵攻容認せず”一致  3/13
岸田総理大臣は日本を訪れているアフリカ南部のアンゴラのロウレンソ大統領と会談し、ロシアによるウクライナ侵攻は容認できないという認識で一致し、連携して対応していくことを確認しました。
会談は総理大臣官邸で、13日午後6時すぎからおよそ1時間行われました。
この中で両首脳は、ロシアによるウクライナ侵攻や核兵器による威嚇は容認できないという認識で一致しました。
また、中国が途上国に返済できないほどの貸し付けを行って影響力を増す「債務のわな」の問題も念頭に、透明で公正な開発金融の重要性も共有し、今後、連携して対応していくことを確認しました。
そして、両首脳はアンゴラ国内のインフラ開発やビジネス投資などを通じ、2国間の協力を推進していくことも申し合わせました。
会談後、岸田総理大臣は「アンゴラは経済的潜在力が高い。民主的に大統領選挙が行われ政治的安定性も高い国で、さらに関係を強化していく」と述べました。
●世界の兵器取り引き 2018〜22年の報告書 欧州で輸入が大幅増  3/13
世界の軍事情勢を分析しているスウェーデンのストックホルム国際平和研究所は13日、2018年から2022年の5年間の世界の兵器の取り引きについての報告書を発表し、ヨーロッパ諸国で兵器の輸入が大幅に増加したことがわかりました。
ストックホルム国際平和研究所は13日、2018年から2022年の5年間の世界各国の兵器の取り引きについて、報告書を発表しました。
それによりますと、ヨーロッパ諸国による主要な兵器の輸入は、2013年から2017年の5年間に比べて、47%増加したということです。
中でも、ヨーロッパのNATO=北大西洋条約機構の加盟国の輸入は65%の増加となり、研究所は「ロシアによるウクライナへの侵攻を受けて、ヨーロッパ諸国はより多くの兵器をより早く輸入したいと考えている」と指摘しています。
また、軍事侵攻が始まった去年1年間でみると、ウクライナが世界で第3位の兵器の輸入国となったということです。
一方、インド太平洋地域では、2013年から2017年までの5年間に比べ、日本の兵器の輸入は171%、韓国では61%、オーストラリアでは23%、増加しました。
これについて研究所は「中国や北朝鮮に対する脅威の認識の高まりにより、日韓やオーストラリアでは兵器輸入の需要が高まっている。特筆すべきは、長距離攻撃兵器が含まれていることだ」としたうえで、3か国に兵器を輸出しているのは主にアメリカだと指摘しています。
●ロシア軍、ザポリージャ州・メリトポリ一帯で防衛態勢強化…主要補給路確保  3/13
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部ザポリージャ州のメリトポリ一帯で、露軍が防衛態勢を強化し、ウクライナ軍の反転攻勢に備える姿勢を鮮明にしている。補給拠点となっているメリトポリが奪還され、露本土とロシアが2014年に併合した南部クリミアが分断される事態を強く警戒しているとみられる。
露側の「州幹部」は9日、露軍の動員兵部隊がザポリージャ州に到着したとSNSに投稿し、態勢強化を強調した。露軍がメリトポリ北方で、防衛線を延長していることも衛星写真で確認された。米政策研究機関「戦争研究所」は11日、「露軍が主要な補給路を確保しようとしている」と指摘した。
同州は露軍がメリトポリなど南側の約7割を占領し、州都ザポリージャなど北部の約3割をウクライナ軍が守る構図だ。州幹部は11日、ウクライナ軍が「約7万人の兵力を集中させている」とタス通信に語り、ウクライナによる反転攻勢への危機感を示した。
東部ドネツク州の要衝バフムトでは13日も、露軍が激しい攻撃を続けた。ウクライナ陸軍の司令官は13日、露民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員が複数方面から市中心部に突破を図ろうとし、情勢は「厳しい」と認めた。
露軍側は市内を南北に縦断するバフムトカ川の東側を掌握し、市中心部まで最短1・2キロ・メートルの距離に迫っていると主張する。ウクライナ軍は川を渡ろうとする露軍を撃退し、進軍を阻止する状況とみられる。

 

●“中国 習主席 来週にもロシアでプーチン大統領と会談” 報道  3/14
中国の習近平国家主席が、早ければ来週にもロシアを訪れてプーチン大統領と首脳会談を行う計画があるとロイター通信が13日、複数の関係筋の話として伝えました。またロシアの政府筋もNHKの取材に対し「習主席のロシア訪問は来週の方向で調整中だ」と明らかにしました。
ロシアのプーチン大統領は、去年12月末に行われたオンライン形式での首脳会談で習主席をことしの春にモスクワに招待する意向を表明し、先月には中国で外交を統括する王毅 政治局委員とモスクワで会談した際にも「習主席のロシア訪問を待っている」と述べていました。
首脳会談が実現すればウクライナ情勢についても意見が交わされるものとみられますが、ロシア大統領府のペスコフ報道官は13日、記者団の質問に「今のところ何も言うことはない。そのような準備が整えば伝える」と述べるにとどまりました。
一方、アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルの電子版は13日、習主席がロシア訪問のあとにウクライナのゼレンスキー大統領とのオンラインの会談も計画していると伝えました。
会談が実現すれば、去年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻後、初めてとなります。
ゼレンスキー大統領は、中国が先月発表したロシアとウクライナに対話と停戦を呼びかける12項目にわたる文書について一定の評価をするとともに習主席と会談したい意向を示しています。
アメリカが中国に対してロシアに軍事支援を行わないよう繰り返しけん制する中、共産党と国のトップとしていずれも異例の3期目に入った習主席がどのような外交を展開するのか注目されます。
●中ロ関係、「世界安定の主な要因」=ロシア国防相 3/14
ロシアのショイグ国防相は13日、ロシアと中国の関係は世界的な安定を支える主な要因になっていると述べた。
ロシアのタス通信によると、ショイグ氏は中国中央軍事委員会の張又侠・副主席へのメッセージの中で「中ロ関係は過去に例を見ない新しいレベルに達し、世界的に地政学的な緊張が高まる中で世界の安定を支える主な要因になっている」と述べた。
張氏は習近平国家主席の側近の一人とされる。関係筋はロイターに対し、習主席は来週にもロシアを訪問し、プーチン大統領と会談する可能性があると明らかにしている。また、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)はこの日、習主席が来週プーチン大統領と会談した後に、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談する予定だと報じた。
●国際刑事裁、ロシア人数人の逮捕状請求へ ウクライナ戦争犯罪 3/14
国際刑事裁判所(ICC)がロシアによるウクライナ侵攻に関連し、ロシア人数人に対する逮捕状を近く請求する可能性があることが13日、複数の関係筋の話で分かった。
関係筋によると、ウクライナからロシアへの子どもの連れ去りのほか、ウクライナの民間インフラを標的とした攻撃に関連して、ICCの検察官が予審判事に対し数人のロシア人に対する逮捕状の発行を承認するよう求める。
ICCが逮捕状を請求する具体的な個人は特定できていないほか、逮捕状請求の時期も不明。この件に関してICC検察官はコメントを控えている。
ICCのカリム・カーン主任検察官は約1年前、ウクライナでの戦争犯罪、人道に対する犯罪、ジェノサイド(集団殺害)の疑いなどについて調査を開始。これまでに3回ウクライナを訪問し、子どもに対する犯罪や、民間インフラを標的とした攻撃などを中心に調査していると明らかにしている。
●習氏、ゼレンスキー氏と会談へ 侵攻後初 3/14
中国の習近平国家主席は来週、モスクワでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談した後、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とオンラインで会談する計画だ。複数の関係者が明らかにした。
習氏とゼレンスキー氏の会談はロシアのウクライナ侵攻が始まって以降で初めてとなる。ウクライナでの戦争の終結に向けて中国が仲介への取り組みを積極化する中での動きだ。
習氏はロシア訪問に併せて欧州諸国の訪問も検討している。ただ関係者によると、訪問先リストはまだ確定していない。
ゼレンスキー氏との直接協議が実現すれば、ウクライナ和平仲介に取り組む中国にとって大きな一歩となる。こうした中国の姿勢に対し、欧州は今のところ懐疑的だ。
また、先週には中国の仲介によってサウジアラビアとイランが外交関係の正常化で合意しており、ウクライナ和平にも寄与できれば、中国は世界秩序に影響を及ぼす実力者としての立場を強化できそうだ。
ロイター通信は、習氏が早ければ来週にもモスクワを訪問すると報じていた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は2月、習氏が向こう数カ月でロシアを訪問する準備を進めていると伝えた。
習氏の外遊は、国家主席として前例のない3期目入りが決まってから初めてとなる。69歳の習氏は世界的な政治家としてのイメージを磨き、激しさを増す米国・同盟国との競争を乗り切ろうとしている。
中国外務省は今のところコメントに応じていない。ウクライナ大統領府の関係者は、習氏との会談について確認がとれておらず、その時期もまだ不明だと語った。
関係者によれば、今回の外国訪問にはサウジとイランの外交正常化を実現させた勢いに乗じる狙いもある。両国の合意により、中国はこれまで米国が圧倒的な役割を果たしてきた中東情勢への影響力を著しく高めた。
中国が中東情勢にこれほど直接的に介入した例は過去になく、仲介努力が実ったのも初めて。
ウクライナで突破口を開くことは、サウジアラビアとイランの仲介よりも難しいだろう。ウクライナ、ロシアのいずれも戦闘をやめようとする気配がない。
一方、中国はウクライナでの戦争を終結させることに強い関心を抱いている。この戦争で中国は不安定な状況に置かれている。ロシアとの「無制限」のパートナーシップやプーチン氏との親密な関係を維持する一方、米国やその同盟国との間では不信と緊張が増大している。習氏は双方の間でバランスを取ることを余儀なくされている。
中国は先月、中立な立場の仲介役として、戦争を終結させるための停戦と和平交渉を呼びかけた。12項目にわたる文書の中で、中国外務省は政治的解決の追求と一方的な制裁の停止を求めている。また、ロシアに対し、核兵器で事態をエスカレートさせないよう警告したとみられる。
ロシア政府は、中国の見解を共有し、和平案を歓迎するとしている。
ウクライナ政府関係者によると、同国は中国が関与する可能性に加え、領土保全や核の安全保証に関する条項を含む和平案の一部について慎重に受け入れている一方、ロシアが占拠した全てのウクライナ領土からロシア軍が撤退する条項が和平案に含まれていないことを指摘している。これはウクライナがいかなる和平案においても譲れない一線だ。
同関係者は「議論の余地があるプランだが、和平案に関しては、ゼレンスキー大統領の平和のフォーミュラを主張したい」と述べた。また、ウクライナ側は何度もゼレンスキー氏と習氏の電話会談を求めていたが、これまで返答がなかったという。 
●「プーチン、ウクライナを地獄にする考え」…骨まで溶かす「悪魔の雨」 3/14
ウクライナ東南部都市ウフレダルの夜空に火が降り落ちる写真が出てきた。ウフレダルは、ロシアが最近、最大規模のタンク戦をしながらも占領に失敗した都市だ。ウクライナ側はロシア軍が人の皮膚まで溶かす焼夷弾を使用して攻撃したと批判した。
13日(現地時間)の英デイリーメールは、11日からSNSに多くの火がウフレダルに降り、木や建物が燃える映像が広まっていると伝えた。続いて「プーチン露大統領がウクライナを地獄にするために致命的なテルミット(thermite)爆弾を使用していることが映像で確認された」と説明した。
公開された映像は、住民1万4000人が暮らす村に夜空から火が降ち落ちる場面。数千もの火は地上のあらゆるものを燃やして避難する場所もなくしてしまう。この映像はウクライナ軍が撮影し、ウクライナ総参謀部がこれを公開したという。
昨年9月にもこうした映像が公開された。当時、ウクライナ国防省は「最近解放されたドネツク州にロシア軍が9M22C焼夷弾を落とした」とし、関連映像を共有した。
アルミニウムと酸化鉄混合物テルミットが充填された焼夷弾は燃焼時の温度が最大2500度にのぼる。人の体に触れれば骨まで溶けることもあり「悪魔の武器」と呼ばれ、白リン弾と同じく大量殺傷および非人道的武器に分類され、殺傷用としての使用が禁止されている。
ロシア軍が焼夷弾や白リン弾など旧型虐殺武器をウクライナで無差別的に使用したという主張は何回か提起されている。
●中国とロシアの「権威主義同盟」は世界を変えるのか 3/14
中国は3月5日からの全国人民代表大会で政府の新陣営を確定した。外交も内政も大きく動き出すだろう。外交の第一手は習近平(シー・チンピン)国家主席のロシア訪問だ。
中ロ間には数々の歴史的因縁があるが、これまではロシアのほうが優勢だった。16世紀末、モンゴル支配から抜け出したロシアはウラル山脈を越え、シベリアに進出。1860年の北京条約で今のウラジオストクまでの支配を清朝にのませた。以後、革命で一時力を失ったものの、新国家ソ連は国民党に取り入って影響力拡大を図る。
1949年に中国共産党が建国しても、スターリンは日本から奪還した満州を中国に直ちには渡さなかった。50年からの朝鮮戦争ではソ連軍を出さず、中国に圧力をかけて義勇軍を参戦させた。しかし56年のフルシチョフによるスターリン批判後、中国はソ連と路線闘争を始め、69年には国境をめぐり両国軍が武力衝突を起こした。
無用な中ソ・中ロ対立に終止符を打ったのがプーチンで、彼は2001年7月に中ロ善隣友好協力条約を、04年10月には国境協定を結んで境界を画定させた。
習近平にとってプーチンは、大統領4選を実現した仰ぎ見るべき兄貴分だ。08年ジョージア、14年クリミア、15年シリアで軍事侵攻・介入を成功させ、アメリカの鼻を明かす。情にも厚く、世界中から総スカンを食らった22年の北京冬季オリンピックの開会式にわざわざやって来てくれた。
中ロの上下関係が逆転した
しかし、この400年余りロシア優位で推移してきた中ロ関係は、今われわれの眼前で中国優位に変化している。GDPで中国はロシアの約10倍、極東方面では軍事力でも大差をつけている。
「習近平が訪ロすれば、権威主義大国同士の『神聖同盟』が成立する。この同盟は、グローバルサウスを従えて、西側の自由・民主主義・市場経済を邪魔する大勢力となる」という声があるが、それは中ロの力を過大評価している。中国とロシアのGDPは、アメリカ、日本、韓国、オーストラリアの合計の3分の1程度でしかない。
世界に展開できる軍事力で、中ロはアメリカに大きく劣る。人民元が国際基軸通貨になると言う者もいるが、中国が国際資本取引を自由化せず、人民元への規制を大きく残す現状ではあり得ない。ドルは「便利で得になる」から皆使っているのだ。
西側諸国がロシアの石油・ガス輸入を停止しても中国がそれを吸収する、という声もある。しかしEUの輸入量は膨大で、中国はそれに大きく及ばない。西側が制限している先端技術や融資を中国から入手することも難しい。中国自身、先端技術の輸入を制限されている上に、中国の銀行はロシアに融資してアメリカから制裁を食らうことを何よりも恐れているからだ。
これまで中国にとってロシアは対米関係で使いでのあるパートナーだったが、今はもっぱらお荷物になった。中国がロシアに兵器を渡すなどして助けると、アメリカとその同盟国に手痛い制裁を食らう。
中国はウクライナ戦争の停戦案なるものを示してはいる。しかしこれは、毒にも薬にもならない原則を並べただけのもの。クリミアの扱い、ウクライナ東部での停戦ラインなど最も重要なことに触れていない。戦争の一方の当事国ロシアだけを訪問する言い訳の道具でしかない。中国はウクライナに軍事技術のかなりを頼っていて、ウクライナを怒らせるような調停はできない。
習近平の訪ロは国際政治とウクライナ戦争に新局面をもたらすものとはなるまい。「中国が上、ロシアが下」という新時代を世界史に刻み付けて終わるだろう。
●バフムト周辺でロシア兵1100人超殺害か、「取り返しのつかない損失」 3/14
ウクライナ東部バフムトをめぐる攻防が激しさを増している。12日夜に演説したウクライナのゼレンスキー大統領は「バフムト地区だけで1100人以上の敵兵を殺害した」と述べ、ロシア軍に大きな損害が出たとの見方を示した。一方、複数の関係筋がロイターに語ったところによると、中国の習近平国家主席が来週中にもロシアを訪問する可能性があるという。
民間軍事会社ワグネルを中心とするロシア側部隊はバフムトの東側を制圧したが、全体を包囲するには至っていない。
ウクライナ軍の現地司令官は13日、バフムトを占拠しようとする敵の試みはすべて撃退したと述べた。また12日夜に演説したウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍に大きな損害が出たとの見方を示した。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「3月6日から1週間足らずの間に、バフムト地区だけで1100人以上の敵兵を殺害することができた。これはロシアにとって取り返しのつかない損失だ」
一方、ロシア側からも激しい戦闘の報告が寄せられている。バフムト攻撃の指揮にあたる、ワグネル創設者のプリゴジン氏は12日、状況は「非常に厳しい」と明かした。
ワグネル創設者 エフゲニー・プリゴジン氏「敵は1メートル単位で戦っている。街の中心部に近づけば近づくほど、戦闘は激しくなり、大砲が砲撃し、戦車が出現する。ウクライナ軍は無限の予備役を投入してくる。しかし我々はこれからも前進していくだろう」
週末にロシアのテレビが放送したバフムト南部だとする映像では、荒廃した建物と、散乱する遺体が写っていた。あるロシア軍兵士は、家々を回り、中にいるグループを「襲撃」したと語った。
ウクライナ側は撤退しないと宣言しており、今年後半に予定されている反転攻勢に向けてできるだけロシアに大きな損失を与えたい考えだ。対するロシア側は、同市を掌握すれば大きな成功となり、ドネツク州全域の制圧に向け道が開けるとしている。
一方、モスクワでは外交面で突破口が開けるかもしれない。複数の関係筋がロイターに語ったところによると、中国の習近平国家主席が来週中にもロシアを訪問する可能性があるという。中国はロシアを非難せず、西側の対ロ制裁に反対する一方、ウクライナ和平を仲介するつもりであるとしている。
だが、中ロが関係を深めていることに西側は警戒感を強めている。英国のスナク首相は13日、中ロは「危険、無秩序、分断によって定義される」世界を作り出す恐れがあると述べた。英政府はこの日に発表した外交方針の改訂版で、中国を世界秩序に対する「時代を定義付ける挑戦」と位置づけた。また英国の安全保障は、ウクライナ戦争の結果次第との見解も示した。
●浜田防衛相 ウクライナ国防次官と会談 “最大限支援していく”  3/14
浜田防衛大臣は日本を訪れているウクライナのハブリロフ国防次官と会談し、ロシアによるウクライナ侵攻は国際秩序の根幹を揺るがすもので断じて認められないと非難したうえで、引き続き防衛省・自衛隊としてウクライナを最大限支援していく方針を伝えました。
浜田防衛大臣とウクライナのハブリロフ国防次官の会談は14日午後、防衛省で行われました。
この中で浜田防衛大臣は「ロシアによる一連の暴挙は、国際社会が長期にわたる懸命な努力と多くの犠牲のうえに築き上げてきた国際秩序を根幹から揺るがすものだ。力による一方的な現状変更は断じて認められない。防衛省、自衛隊としても自由と祖国を守るため勇敢に戦う貴国を支えるべく最大限支援していきたい」と述べました。
これに対し、ハブリロフ国防次官は、防弾チョッキなど、自衛隊の装備品の提供について、「厚く感謝を申し上げる。協力や支援がこれからも続くことを期待している。ウクライナには経験豊富な軍があり、日本を含む国際社会から支援と協力を得ており、間違いなく勝利する」と述べました。
●米・世界食料安全保障担当特使、侵略を非難 「食料安全保障に対する戦争」  3/14
米国のキャリー・ファウラー世界食料安全保障担当特使は14日、東京都内で記者団の取材に応じた。ロシアのウクライナ侵略が世界的な食料価格の高騰を招いたことに触れ、「ウクライナだけでなく、世界の食料安全保障に対する戦争だ」と非難した。
昨年は侵略やコロナ禍の影響で食料危機が起きた年だったとして、ファウラー氏は「異例の年」と振り返り、「ある場所で起こったことは、他の場所にも影響を及ぼすことが侵略で明らかになった」と述べた。
黒海を経由したウクライナ産穀物の輸出に関するロシアやウクライナなどの合意を巡っては「米国は直接的な当事者ではない」と前置きした上で、穀物が流通することで価格の上昇を防ぐ効果があると指摘。「非常に重要な合意で延長する必要がある。特に発展途上国への(価格高騰の)影響を懸念している」と述べた。
●「未来を決する戦いだ」ゼレンスキー大統領 東部の部隊を鼓舞  3/14
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ドネツク州の激戦地バフムトなど東部をめぐり、「非常に厳しく苦しいが、すべてのウクライナ人の未来を決する戦いだ」と述べ、現地の部隊を鼓舞し、徹底抗戦の姿勢を改めて鮮明にしました。
ウクライナ東部ドネツク州のウクライナ側の拠点の一つバフムトでは、ロシアの民間軍事会社ワグネルなどの部隊と、ウクライナ軍との間で激しい攻防が続いています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は13日、ロシア側がバフムトの北西や南西で進軍した可能性があるものの、街を包囲するには至っていないと分析しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、新たに公開したビデオ演説で東部の状況について「非常に厳しく苦しい状況だ。バフムトやブフレダルなどで、今、われわれの未来が決しようとしている。ウクライナ人すべての未来を決する戦いだ」と述べました。
ロシア側がバフムトの掌握をねらって猛攻を仕掛ける中で、ゼレンスキー大統領は改めて現地の部隊を鼓舞し、徹底抗戦の姿勢を鮮明にした形です。
一方、イギリス国防省は14日、「ここ数週間ロシア軍の弾薬不足が深刻化しているようだ。これまでは使用不可能とされていた古い武器弾薬の在庫に頼っているのは、ほぼ間違いない」と分析し、ロシア側も厳しい状況にあるという見方を示しました。
●米、習主席にゼレンスキー大統領との会談促す 3/14
米国が、習近平(シーチンピン)国家主席に対して、ウクライナのゼレンスキー大統領と直接会談を行うよう促していることがわかった。サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が13日、明らかにした。習氏をめぐってはゼレンスキー氏と電話会談を行うとの報道が出ていた。
サリバン氏は大統領専用機「エアフォースワン」で記者団に対し、「我々は習主席に対してゼレンスキー大統領と接触するよう働きかけてきた」と説明。その理由として、中国と習氏自身がウクライナでの情勢について、ロシアの視点からだけでなく、ウクライナの視点からも直接話を聞くべきだからだと述べた。米国は中国政府に対して会談を行うよう提唱しているという。
サリバン氏は、中国に対して公の場でも非公開の場でも対話を促していると述べた。
サリバン氏によれば、米国の当局者が同日、ウクライナの当局者と話をした。ウクライナ側は習氏との電話会談やビデオ会談が行われるという正式な確認を受け取っていないという。
サリバン氏は、習氏とゼレンスキー氏の会談が行われることを希望すると述べた。会談が、中国の取り組み方により多くのバランスと視点をもたらし、ロシアに法的支援の提供を選択することを思いとどまらせ続けてほしいと述べた。
●ウクライナ軍の死傷者「最大12万人」と米紙報道…大規模反転攻勢に不安も 3/14
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は13日、米欧当局者の推計として、ロシアの侵略に抗戦を続けるウクライナ軍の死傷者数が最大約12万人に上ると報じた。実戦経験が豊富な兵士の多くが死傷し、ウクライナ軍が計画する大規模な領土奪還作戦の成功に将校らが悲観的な見方を示したと伝えた。露側も約20万人が死傷したと推計され、兵器不足が指摘されており、戦況こう着が長期化しそうだ。
ウクライナの当局者は、米国で訓練を受け、最前線で部隊を率いてきた下士官の多くが戦死したと明らかにした。東部ドネツク州で戦闘に参加している500人規模の部隊司令官は、部隊のほぼ全員が死傷し、経験不足の動員兵に入れ替わって戦闘能力が低下したことを認めた。弾薬も不足しているという。
複数の米政府当局者は、ウクライナ軍が4月後半から5月初めの間に反攻を始めるとの見通しを示した。しかし、米欧が表明した戦車供与などの軍事支援が本格化しても、熟練した兵士が不足し、抜本的な戦況の打開につながらないとの見方が強まっている。
一方、露下院には13日、徴兵対象年齢を現在の18〜27歳から21〜30歳に変える法案が提出された。2026年まで段階的に変更する予定で、プーチン政権が26年まで侵略を続けることを念頭に置いているとの見方が出ている。

 

●ロシア、ウクライナで「国家存続賭けた戦い」=プーチン氏 3/15
ロシアのプーチン大統領は14日、訪問先の極東ブリヤート共和国の航空工場で行った演説で、ロシアは国家存続そのものを賭けてウクライナで戦っていると述べ、西側諸国がロシア崩壊を企んでいるとの主張を改めて展開した。
プーチン大統領はモスクワから東に約4400キロの距離に位置するブリヤート共和国を訪問し、ロシア軍向けのヘリコプターを製造する工場を視察。労働者を前に、ウクライナでの戦闘について「ロシアにとっては地政学的な問題ではなく、国家存続に関わる問題だ」と述べた。
プーチン氏はこれまでも、欧米諸国がウクライナを利用してロシアに戦争を仕掛け、ロシアに「戦略的敗北」をもたらそうとしていると非難している。
プーチン氏は国内経済について、西側諸国が昨年、前例のない規模の制裁を課した際は経済について懸念していたとしながらも、ロシア経済は予想以上に強固だったことが証明されたとし、「敵はロシア経済は2、3週間、もしくは1カ月程度で崩壊すると期待していたのかもしれないが、ロシアの経済主権は何倍にも増大した」と語った。
その上で、西側諸国は工場が停止し、金融システムが崩壊し、失業率が上昇し、デモ隊が街頭活動を行い、ロシアが「内部から揺さぶられて崩壊する」と予想していたが、「そうはならなかった」と指摘。「ロシアの安定の基盤は誰もが予想していたよりもはるかに強固だった」と述べた。
また、ロシアから撤退した西側諸国の企業はロシア経済が崩壊すると予想していたが、逆にロシアの金融システムは一段と強化され、経済主権は高まったと語った。 
●「ロシアの存続かけた戦い」プーチン大統領 改めて侵攻継続の考え示す 3/15
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻をめぐる欧米との対立について「ロシアの存続をかけた戦いだ」と述べ、改めて侵攻を続ける考えを示しました。
ロシア プーチン大統領「我々にとってこれは地政学的な課題ではなく、ロシアの国家としての存続をかけた戦いであり、国と子どもたちの将来の発展のためである」
プーチン大統領は14日、シベリアにあるブリヤート共和国のウランウデを訪問し、ヘリコプターを製造する軍需企業を視察しました。
プーチン氏はウクライナ侵攻をめぐる欧米との対立について、「ロシアの存続をかけた戦いだ」と述べ、改めて侵攻を続ける考えを示すとともに、「勝利のためには団結が必要だ」と強調しました。
●ロシアの行動は違法なのに、プーチンが頑なに態度を変えない「当然の理由」 3/15
ロシア・ウクライナ戦争が1年以上にわたって続いている。
ロシアの行動の違法性は明白だが、プーチン大統領は引こうとはしない。その背景には、根深い世界観の対立がある。ロシアが信奉する世界観は、ウクライナを支援している諸国の世界観と異なっている。それはどういうことか。
話題の新刊『戦争の地政学』著者で国際政治学者の篠田英朗氏が解説する。
二つの異なる地政学理論/世界観
ロシア側の世界観は、ユーラシア大陸の中央部にロシアの「勢力圏」があるという思い込みに基づいた「圏域」思想によって特徴づけられる。これはいわば「大陸系地政学」理論によって説明されてきたような世界観だ。この世界観があるがゆえに、「勢力圏」の維持を至上命題とし、領土拡張主義的な政策をとりがちになる態度が生まれてくる。
これに対してNATO構成諸国をはじめとするウクライナ支援諸国は、主権国家の独立を尊重しながら、国家間の同盟も重視するネットワーク型の世界観を信じている。これは「英米系地政学」理論の伝統において追求されてきた。大陸における帝国主義的覇権国の領土拡張を封じ込める諸国の政策を支えている。
現代国際法秩序は、「勢力圏」を認めない。現代国際法と親和性が高いのは、後者の「英米系地政学」の世界観のほうである。だが前者の「大陸系地政学」理論の信奉者から見れば、それは現代国際法秩序が、「英米系地政学」理論の世界観の信奉者たちによって形成され、運営されてきたからだ。陰謀論とも重なり合い、世界観の違いは、根深い対立の構造を生み出す。
ロシアの侵略行為の違法性を糾弾することは、ロシアに世界観がないと主張することではない。ロシアを糾弾しながらも、ロシアが持つ世界観を認識し、戦争の背景にある世界観の対立の構造を把握する努力は必要だ。それは、国際法秩序の脅威を認識し、対抗手段を整備するためにも重要である。
複数の戦争原因を貫く世界観
戦争の原因は単一ではなく、複数の要素が介在しているだろう。戦争原因は、たとえば「人間」、「国家」、「国際関係システム」の三つのレベルに分けて整理することができる。
プーチン大統領という「人間」が持つ思想、ロシアという「国家」が持つ権力構造、機能不全を起こした欧州安全保障の「国際システム」のそれぞれに、ロシアのウクライナ侵攻に関わる事情がある、と言える。
だが、それら複数の原因は、相互排他的に存在しているわけでもない。「ロシアは国境をこえた勢力圏を持つ」という思い込みと言ってよい世界観は、複数の戦争原因を貫く特殊な事情だ。
「ロシアは国境をこえた勢力圏を持つ」という思い込みが、政治指導者層を特異な思想へと陥らせる。その思い込みが、ロシアという国家に「勢力圏」を正当化する領土拡張主義を許容する政治体制を作り出していく。そして全く別の主権国家であるウクライナのNATO加盟が自国の「勢力圏」の切り崩しだとみなす態度をとらせていく。 
「勢力圏」思想は、現代国際法秩序に反した世界観である。だが残念ながら、この世界観は、人類の歴史上ただプーチン大統領一人だけが突発的に思いついたような特異な世界観ではない。むしろ数多くの人々が、同じような世界観を信奉してきた。違法ではあるが、長い伝統と多くの信奉者を持つ厄介な世界観である。
大陸系地政学の伝統
かつて大日本帝国も「圏域」思想の信奉者であった。1930年代以降に対外政策の正当化でも力を持った「大東亜共栄圏」は、日本における地域主義的な「圏域」思想の一つの結実であった。
「圏域」思想とは、たとえば西半球世界におけるアメリカの「モンロー主義」の政策を、アメリカの「勢力圏」の確立のことだとみなす見方だ。そしてアメリカが西半球世界をこえた事柄に関わることを、度を超えた「勢力圏」原則からの逸脱だとして糾弾する見方だ。同時に、1930年代・40年代前半のヨーロッパにおけるナチス・ドイツの「生存圏」の政策を、ドイツの「勢力圏」の確立のことだとみなして許容する見方だ。
「圏域」思想の世界観にもとづいて、かつて大日本帝国は、大陸中央部から広がるソ連の「勢力圏」と、太平洋に伸びるアメリカの「勢力圏」を牽制し、遠隔のドイツとの同盟関係を模索しながら、自らの「勢力圏」としての「大東亜共栄圏」を追求する政策をとった。
この大日本帝国の政策を、学術理論の観点から正当化し、さらには実際に軍人ら実務家層に働きかけて促進したドイツの「地政学者」がいた。ドイツのカール・ハウスホーファーである。
ハウスホーファーの学説は、1945年以降に、連合国によって事実上禁止された。ハウスホーファーはドイツで戦争犯罪人の嫌疑をかけられたまま自殺したが、日本でハウスホーファーを好意的に紹介した論者たちもまた、戦争犯罪人の嫌疑をかけられ、大学を辞したりした。「地政学は禁じられた教え」という印象が戦後の日本で作られたのは、自らの理論を「地政学(Geopolitik)」の概念で特徴づけたハウスホーファーが、ヒトラーと深く結びつき、日独同盟の学術的基盤を提供した人物であったからだ。
ハウスホーファーによれば、世界は、ドイツ、ソ連、アメリカ、そして日本を盟主とする四つの「勢力圏」に分割される。小国の主権などは、重要性を持たない。世界の安定は、むしろ四つの「勢力圏」の盟主が、それぞれの「勢力圏」を相互に認め合うことによって、作り出される。ハウスホーファーの大学での教え子の一人が、ナチス党の結党時からの幹部であるルドルフ・ヘスであった。ハウスホーファーは、第一次世界大戦後の失意と混乱の時代に、ヘスを通じてヒトラーと結びつき、後にナチスの政治信条となる「生存圏(レーベンスラウム)」概念を教え込んだ。
第一次世界大戦後に戦勝国陣営の大国の一つとなった大日本帝国は、陸軍幹部の野心につられて大陸への領土拡張の野心を見せたことから、アメリカの不信を買うことになった。その結果、日英同盟の破棄も余儀なくされ、アメリカのみならずイギリスなどの国際連盟構成諸国とも敵対関係に陥っていった。そこで注目されたのが、ハウスホーファーの「地政学」であった。1930年代の大日本帝国の指導者たちは、米英におもねるのではなく、むしろ「大東亜共栄圏」の確立と日独同盟体制を通じて、ソ連とアメリカに対抗する政策をとろうとした。
後に連合国による日本の占領行政を取り仕切ったアメリカが、ハウスホーファーの「地政学」を、大日本帝国の領土拡張主義のイデオロギー装置とみなしたのは、むしろ当然であった。
これは日本の憲法学者らの間で絶大な人気を集めるカール・シュミットが、ヒトラーとの近接性から、連合国から戦争犯罪の嫌疑をかけられた経緯と酷似している。シュミットは、「空間(ラウム)」の圏域概念を重視する思想を持ち、19世紀ヨーロッパ公法を現代国際法に書き換えたという理由で、第一次世界大戦時のウィルソン大統領以降のアメリカを憎んでいた人物である。 ・・・
●「ロシア軍の戦車が底をつく」は本当か、プーチンが隠し持つ“ゾンビ戦車” 3/15
2年目に突入したウクライナ戦争は、無謀な作戦でロシア侵略軍が想定外の大損害を被り続けている。旧ソ連時代から「最強」の誉れ高い戦車部隊は、ウクライナ軍の痛打で各所に戦車・装甲車の「鉄くずの山」を築いており、さしものロシア・プーチン大統領も頭が痛いはずだ。
今年2月にはウクライナ南東部のウグレダルで最大の戦車戦が起きたが、ここでもロシア軍は戦車・装甲車など戦闘車両を何と130台以上も損失、史上希に見る「負けっぷり」である。このペースで消耗が続けば同軍の戦闘車両の在庫はあと数年しかもたないとの見方もあるほどだ。
しかし、一部では「冷戦中に製造したおびただしいほどの戦車・装甲車が、ウラル山脈などに設けた核攻撃に耐えられる地下深くのガレージに保管されている」と噂されている。
死蔵戦車をレストア(補修・再生)して甦らせたほうが、新車のMBT(主力戦車)を製造するよりも「手間・ヒマ・コスト」がかからず、素早く戦力化できる。仮に破壊されても減価償却がとっくに終わったような代物なので、痛くもかゆくもないとの発想のようだ。まさにプーチン大統領の“隠し財産”であり、「ゾンビ戦車」 といえる。
では、果たしてその台数とはどれほどなのか──。英シンクタンク「国際戦略研究所」(IISS)が毎年発行する『ミリタリーバランス(ミリバラ)』を基に1つのシナリオ・可能性を大胆に推理してみたい。
データから見るロシアの車種別のMBT保有台数
まず『ミリバラ1990年版』で冷戦終結の1989年のデータを見ると、旧ソ連の莫大な戦車数に驚かされる。MBTは地上軍(陸軍)と海軍歩兵(海兵隊)合計約6万2000台で、現在全世界の現役MBTのほぼ2倍の規模だ。
車種別で見ると以下の台数になる。
【T-54/T-55】約1万9230台
1950年代から配備で100mm砲搭載。約70年前の活躍で相当古いがアフリカなどでは現役
【T-62】約1万1300台
1960年代から配備で115mm砲搭載。約60年前に活躍でかなり旧式 
【T-64】約9700台
1960年代半ばから配備で旧式だが、現在第一線で通用する125mmに換装
【T-72】約1万台
1970年代初めから配備で、125mm砲搭載。改造を続け現在のロシア軍の主軸MBTの1つ
【T-80】約4000台
1980年代初めから配備で125mm砲搭載。ロシアでは比較的新しいMBT
これ以外にも車種不明の戦車が約7500台あるようだ。一方、先ごろ公開の最新の『ミリバラ2023年版』では、2022年の同国のMBT数を「1800台」と推測。種類別では、
【T-62】約150台
【T-72】約1150台
【T-80】約200台
【T-90】約300台(1990年代初めから配備の最新型で125mm砲搭載)
となっており、他に約5000台が保管中だという。つまりロシアのMBTの“在庫”は保管中も含め6800台で、30数年前に約6万2000台あった旧ソ連時代と比べほぼ10分の1の規模で、あまりにも少なすぎるとの指摘もあるようだ。
ソ連崩壊後、連邦構成国だったロシアなど15共和国は独立するにあたり、戦車・装甲車なども“相続財産”として相応の財産分与がなされ、おそらく圧倒的に規模の大きいロシアが全体の6〜7割を継承した、と見るのが普通だろう。
仮に「7割」ならMBTは約4万3000台で、鉄くずとして「溶鉱炉送り」になったり、第三国に輸出されたり、油田火災の消火車両などに改造されたりするなど、別の途をたどった車両も多いだろう。加えて相当数は現役としていまだに活躍するものも少なくないはずで、これらをまとめて差し引いた残りを、例えば「3万台」と考えると、これらがいまだにロシア領内のどこかに温存されていることとなる。
弾き出されたロシアの“隠し財産”は1万2600台
さらに突っ込んで「3万台」をベースに車種別に稼働可能な台数を大胆に推測してみたい。
前述した1989年時のMBT数を参考に、まず比較的新しいT-72(約1万台)、T-80(約4000台)をそれぞれ「7掛け」し、さらに保存状態の良し悪しも考え無難なところで2台の“共食い”で1台、つまり「2コ1」で造るとすれば、「T-72約3500台」「T-80約1400台」となる。
同様に古いが比較的大事に扱われていたT-64(約9700台)は「3コ1」と考え「約2300台」に、さらに半世紀以上昔のT-62(約1万1300台)、T-54/T-55(約1万9230台)はさらに状態が悪いので「4コ1」とし、それぞれ「約2000台」「約3400台」という値が弾き出される。そして、これらを総計すると、何と「1万2600台」という値が浮かび上がる。
もちろんこれは仮説の1つで、実際はもっと多いかもしれないし、または全く存在しないかもしれない。さらには、「そもそも6万台超という値は旧ソ連の脅威を煽り予算獲得を目論んだ西側の軍産複合体や情報機関による“盛った数字”であてにならない」との見方もある。ただし少なくともロシアは「万単位」のMBTを捻り出す可能性がゼロではない、ということを心の片隅に置くべきだろう。
ところで「半世紀以上前の戦車など役立つのか」と疑問視する向きもあるだろう。だが実際のところ消耗戦に喘ぐロシア軍は多数のT-62を前線に駆り出し、すでに60台以上が撃破・鹵獲(ろかく:敵に捕獲されること)されている。
もしかしたら比較的新しい戦車の温存のため、「ウクライナ軍の弾薬を消耗させる囮(おとり)、撃たれ役」とする意図なのか。こう考えればT-54/-55を最前線に大量投入したとしても不思議ではない。
今後ウクライナ軍にはレオパルト2、M1エイブラムス、チャレンジャー2の強力な「西側MBT三羽烏」が少なくとも321両に加え、ひと世代前のレオパルト1戦車も約180両欧米から供与され、恐らくウクライナ南部とクリミア半島奪還のための作戦に集中投入されると見られている。
旧式の戦車でロシアはどうやって戦うのか
だがロシア側が指をくわえて見ているはずはなく、何かしらの対抗策で臨むはずだ。例えば前述の“隠し財産”から1000台単位で旧式MBTを出動させ、大きな塹壕の中に潜ませる。そして、戦車砲だけを出し、戦車上部には土嚢(どのう:土砂袋)を大量に載せて対戦車ミサイル対策とし、さらにカムフラージュも入念にして迎え撃つかもしれない。
T-54/T-55やT-62が西側の強力なMBTと一騎打ちとなればひとたまりもないが、身を隠してキャタピラや車体後部など弱点を狙えば、多少のダメージを与えることは可能で、装甲が薄い他の戦闘車両の撃破用としても利用価値はあるだろう。
あるいはウクライナ軍の南部での反攻作戦への牽制として、東部戦線で大量の旧式MBTを投入。陽動作戦(敵の目を引き付ける囮作戦)を実施し、西側MBTの分散配置を強いる策に打って出るかもしれない、との指摘もある。
『ミリバラ2023年版』の公表にあたりIISSは、開戦後1年でロシアが失った高性能のMBT(T-72/T-80/T-90)が2000〜2300台に達し、これは実戦配備のMBTの最大半分に相当し、なかなか補充しきれない実情にある、との分析を披露した。
また著名なオランダ発の軍事情報Webサイト『Oryx』も、直近のMBT損失数を、確認しただけでも約1800台とする。
これらを勘案すると、ロシア軍のMBT損失数はどうやら「年間2000台前後」が妥当のようだ。仮にこのペースが続き、年間1000台規模の国内新規生産が不可能で、しかも外国からの援助もないとしたら、確かに額面上は3年ほどでMBTは底をつくだろう。
だが万単位の“ゾンビ戦車”をプーチン氏が隠し玉として大々的に投入し始めたらどうだろうか。侮るのは禁物だ。
●ノルドストリーム爆破、「国家レベル」の行為=プーチン氏 3/15
ロシアのプーチン大統領は14日、昨年9月に起きたロシアと欧州を結ぶ天然ガスの海底パイプライン「ノルドストリーム」爆破は「国家レベル」で行われたとの見方を示した。
ロシア産ガスをバルト海経由で欧州に運ぶパイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」は昨年9月、相次いで破壊された。ロシアは「国際的なテロ」行為と非難している。
この事件を巡っては、デンマーク、ドイツ、スウェーデンが捜査を続けているが、ロシアは捜査結果について知らされていないとしている。
プーチン氏は、国営テレビ局ロシヤ1とのインタビューで「われわれはデンマーク当局に一緒に作業をするか、もしくは国際的な専門家グループを作るという要請をした」と述べ、「答えは、曖昧だった。簡単に言えば答えはなかった。待つしかないと言われた」と説明した。
スウェーデンや他の欧州捜査当局は、破壊は意図的に行われたと指摘しているが、誰による犯行だと考えているかは明らかにしていない。ロシア政府は、証拠を提示することなく欧米による破壊行為だと主張している。
プーチン氏は、親ウクライナの勢力が実行した可能性があるとする報道については「全くのナンセンスだ」と指摘。「素人がこうした行為を行うことはできないため、このテロ行為は極めて明確に国家レベルで行われた」と主張した。
●戦争犯罪容疑者600人を捜査 ロシア虐殺でウクライナ検察当局 3/15
ウクライナの検察が、同国への侵攻を続けるロシアのプーチン大統領やショイグ国防相ら600人以上を戦争犯罪の容疑者として捜査対象としていることが分かった。英紙ガーディアンが14日報じた。民間人多数が犠牲になった首都キーウ(キエフ)近郊ブチャや南東部マリウポリでの作戦を主導した将校らも対象になっている。
ウクライナ当局は、ロシア軍の指揮系統を示す相関図を作成。東部ハリコフ州の検察幹部は、昨年2月の侵攻開始後に相関図をまとめ「毎週更新を続けている」と説明した。現時点で相関図は横4メートル、縦1・5メートルに及ぶ。最高司令官のプーチン氏を頂点にショイグ氏や軍事作戦の統括司令官を兼任するゲラシモフ参謀総長らの名前が記され、写真も添えられている。
ガーディアンは、ブチャでの民間人殺害に関与したとされるオムルベコフ大佐、激戦地マリウポリの制圧作戦を指揮し「マリウポリの殺人鬼」の異名を持つ強硬派ミジンツェフ大将、ハリコフ州で活動したジュラブリョフ大将らを紹介した。
●ブラジル大統領、ロシア・ウクライナ訪問せず 戦争理由に 3/15
ブラジルのルラ大統領は14日、戦争を理由にロシアやウクライナを訪問しない方針を示す一方、引き続き平和的な紛争解決に尽力すると述べた。首都で行われたイベントで発言した。
また、同大統領は「21世紀にささいなことで戦争が起きる事態があってはならない」と述べた。
同大統領は3月初め、ウクライナのゼレンスキー大統領とビデオで会談した際、キエフ訪問を招請されていた。
●世界に向けて解決案を提示、中国がウクライナ戦争和平を促す本当の狙い 3/15
最近になって中国が、ウクライナの和平提案や国際安全保障案といった一連の「対外政策」的な文書を連続して発表している。米国の外交や内政を酷評する文書も多い。
この動きに対して米国では、中国をウォッチしている議会の諮問機関では最有力の委員会が「中国の真の狙いは、ロシアのウクライナ侵略に対抗する米欧の団結を崩し、ロシアを有利にして米国の国際的影響力を弱めることだ」とする見解を公表した。中国側のその動きは、「基本的に空疎な反米プロパガンダ」であるという。
ウクライナ戦争の和平案を発表した中国
米国議会で超党派の議員や専門家が集まり、米中関係や中国の動向を恒常的に研究している米中経済安保調査委員会は3月上旬、「中国のウクライナ政策などの対外文書類の研究」と題する調査報告書を発表した。
この委員会は、中国の状況を調べ、その結果を米国の政府や議会に政策勧告という形で伝えることを活動目標としている。2001年頃から活動を始め、米国議会において中国関連では最も影響力の大きい機関とされている。
同報告書が分析の対象としたのは、いずれも中国の外務省が発表した一連の文書である。具体的には以下の表の5つの文書を挙げていた。
   中国の外務省が発表した5つの文書
この中でも5つ目のウクライナに関する文書は、ウクライナの和平を目指す12項目の提案から成っており、中国のウクライナ和平提案として国際的にも幅広い関心を集めた。
また4つ目のGSI文書も中国による世界の和平のための提案だった。グローバルな安全保障のあり方を提案するような包括的な構想を、6項目にまとめて記述していた。
本来の意図は米国主導の安全保障体制を切り崩すこと
中国のこうした対外発信に勢いをつけるかのように、ちょうどこの時期に、中国政府の外交政策担当者では最高位の国務委員で前外相の王毅氏が、2月18日にドイツのミュンヘンでの国際安全保障会議で演説した。西欧諸国の現在の安全保障の枠組みは偏りが多く、米国からの「戦略的な自立」が必要だとする主張だった。
王毅氏は同月21日にはモスクワを訪問し、「中国とロシアの関係は盤石だ」と宣言した。
米中経済安保調査委員会の報告書は、こうした現実の展開を受けて、中国側の意図などについて以下の要旨の解釈を発表していた。
・中国のウクライナ情勢への政治的立場をまとめたとする文書は、戦闘開始から1年経ったことを機に、習近平国家主席が発表するとも観測されていたが、中国外務省による発表となった。米欧やウクライナ側がこの文書を批判することが確実に予測されたため、国家主席の3選が決まったばかりの習近平氏をあえて矢面に立たせることを避けたともみられる。文書の内容は、実現不可能な空疎な国際用語の羅列であり、ロシアの侵略への非難はなく、結局はロシア支持、米国糾弾というスタンスが明白だった。
・「グローバル安全保障概念」の文書では、米国を名指しこそしていないが、「冷戦思考」「単独主義」「ブロック対決」「覇権主義」「他国制裁の乱用」「遠距離介入」など明らかに米国の対外政策とわかる表現を使って非難していた。一方で、ロシアのウクライナ侵略を擁護するような形で、「複数の国家間の分離できない安全保障」「他国の安全保障への合法的な懸念」といった言葉を強調していた。
・中国が2月の短い期間で連発したこれらの対外声明は、本来の意図は、2月9日、10日、16日に発表した米国に関する3文書にあったといえる。米国の麻薬問題、銃砲問題の文書では米国の国内のかねてのトラブルをとくに拡大して、各国の反米感情をあおることを意図し、米国の覇権に関する文書では、北大西洋条約機構(NATO)での米国の同盟諸国に対米関係への疑念を生むことを狙ったとみられる。
・総合すると、これら5文書は、まず米国についてのネガティブな政治宣伝を先行させた点に注目すべきだ。中国はそのうえで、米国の主導による米欧の安全保障体制の危険性を強調し、中国独自の国際安保構想を打ち上げ、さらには米欧側の一部でも歓迎されそうなウクライナ和平提案を発表するという順番で、空疎なプロパガンダをエスカレートさせた。その基調は反米であり、米国に反発するロシア、イランなどとの連携の強化とみることが妥当である。
・王毅氏は、これらの反米プロパガンダ文書を連発する直前の2022年12月に、対面とオンラインの両方でフランスのカトリーヌ・コロナ外相やハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外務貿易大臣と会談した。また王毅氏は、欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル・フォンテジェス外務・安全保障政策上級代表ともほぼ同じ時期に会談した。中国がNATOやEUの諸国に対して必要だと唱える「戦略的自立」は、軍事面での米国依存の減少を志向する「戦略的自主性」として欧州の一部でも古くからある標語だが、王毅氏は今回の一連の会合でその標語に言及した。
以上のように米国議会・米中経済安保調査委員会の報告書は、中国の最近の国際動向について、基本は米国の力を抑えつけることこそが狙いなのだ、とする見解を表明していたのである。
●ウクライナ、東部要衝の防衛方針確認 住宅損壊で死傷者 3/15
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、最高司令官参謀本部会議を開いた。ウクライナ大統領府によると会議では激戦が続く東部ドネツク州の要衝バフムトの戦況について議論し、同地の防衛を続けることを確認した。同州北部ではロシア軍の攻撃で住宅が損壊し、死傷者が出た。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は同日、「バフムト方面の防衛は全戦線の防衛を安定させるうえで重要な鍵を握っている」と通信アプリに投稿。バフムトの防衛を続ける姿勢を示すと同時に「兵士たちの強さ、勇気に敬意を表する」と防衛に携わる兵士を鼓舞した。
英国防省などの分析によると、ロシアの民間軍事会社ワグネルがバフムト東部の大半を制圧して進軍しようとしており、ウクライナが防戦している。ウクライナのシルスキー陸軍司令官は13日、「バフムトは依然として困難な状況にある」と述べていた。戦闘の激化でロシア、ウクライナ両軍に死傷者が拡大しているとみられる。
ウクライナ軍参謀本部は14日、ロシア軍が同日に30回の空爆と8回のミサイル攻撃を実施したと明らかにした。このうちドネツク州北部のクラマトルスクでは、ロシア軍の攻撃で住宅が破壊された。死傷者が出ているとしている。ウクライナ軍もロシア軍の拠点に対して9回の空爆を実施した。
●リトアニア、ロシア民間軍事会社をテロ組織に指定 3/15
リトアニア議会は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を「テロ組織」に指定する決議案を可決した。
議会のウェブサイトに公開された議決案は、「ワグネルはテロ組織であり、そのメンバーや傭兵(ようへい)は国家と社会の安全保障に脅威を与えている」と述べた。
議決案は、昨年2月のロシアによるウクライナの侵攻が始まって以降、ロシア軍の兵士や、軍事行動に積極的に参加しているワグネルの傭兵が、ウクライナの民間人に対する殺害や拷問、住宅や他の民間の目標に対する爆撃などテロ行為に相当する組織的で重大な犯罪を行っているとした。
リトアニア議会は、ワグネルについて、ロシア権力の「影の道具」と形容した。ワグネルはロシアのプーチン大統領に近い実業家のエフゲニー・プリゴジン氏が創設した。
リトアニア議会は他の国々に対して、ワグネルをテロ組織に指定するよう呼び掛けた。
リトアニアはロシアと297キロにわたって国境を接している。
ワグネルの戦闘員はロシアによるウクライナ侵攻で重要な役割を果たしている。現在は戦闘員の多くがウクライナ東部バフムートの戦場に派遣されている。 
●米露に偶発衝突リスク ウクライナ巡り 機体回収、今後の焦点 3/15
黒海上空で米軍無人偵察機「MQ9」とロシア軍戦闘機スホイ27が衝突したことは、米露がウクライナでの戦争を巡り、偶発的な交戦に発展しかねないリスクを抱えていることを露呈させた。米軍は露軍の行動に警戒監視を強めており、同様の事案が再び起きる可能性がある。今後は米軍が落下させた機体の回収が焦点となる。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は14日のオンライン記者会見で、ウクライナに面した黒海上空でロシア軍による米軍機への妨害行為は「珍しくない」と指摘。この数週間も露軍が妨害行為を繰り返してきたことを明らかにした。
カービー氏は、スホイ27の操縦士が機体をMQ9に衝突させたことに関し「黒海上空の飛行を断念させる意図なら失敗に終わる」と断言し、威嚇に動じない姿勢を強調した。米露は情報収集などのため黒海上空に軍用機を飛行させている。
米軍はこれまでもNATO加盟国の防衛のためウクライナに接するルーマニアなどにMQ9を展開し、偵察活動を実施してきた。
米軍がウクライナ侵略を続けるロシア軍への警戒を強める中、黒海上空を含め欧州地域に展開する米軍機への妨害行為や挑発行為がさらに続けば、軍事的エスカレーションの引き起こす可能性がある。
米軍が落下させたMQ9を巡り、米国防総省のライダー報道官は14日の記者会見で、「現時点でロシアは回収していない」と述べたが、米軍の対応については説明を避けた。
一方、米NBCニュースは関係者の話として、米側がMQ9のソフトウエアを消去し、機体の引き揚げ方法を検討していると報じた。
ただ、偵察や監視を担うMQ9は高度な技術が使われていて、露軍が回収すれば技術やシステム情報が漏洩(ろうえい)する。無人機を巡ってはイランが2016年、撃墜して回収した米無人偵察機の技術を転用し、爆撃能力を備えた国産無人機の量産に成功した事例もある。技術力を高めたイランは現在、露軍に無人機を供与してウクライナへの攻撃を支えている。
今回のMQ9が露軍によって回収されれば、技術や情報の漏洩に加え、露軍の無人機開発を加速させる恐れもあり、米露の緊張がさらに高まる可能性もある。
●フィンランド 世界最大級の新型原発 営業運転へ  3/15
ウクライナ情勢などを受けて原発を活用しようとする動きがヨーロッパで広がる中、世界最大級の新型の原発が来月、フィンランドで営業運転を始めるのを前に、その内部がメディアに公開されました。ヨーロッパで新たな原発が稼働するのはおよそ15年ぶりとなります。
来月、営業運転を始めるのは、フィンランド南西部にあるオルキルオト原発3号機で、14日は試運転が続く巨大な発電用のタービンが公開されました。
3号機はフランス企業などが手がける、ヨーロッパ加圧水型原子炉と呼ばれる新型炉です。
最大出力は160万キロワットと世界最大級で、フィンランドの電力需要の14%を担えるということです。
独立した4つの緊急冷却装置や、溶け落ちた核燃料を冷却する「コアキャッチャー」と呼ばれる設備など、最新の安全対策が取られているとしています。
この原発は2005年に建設を始めたあと、原子炉の基幹部品に不具合が見つかるなどトラブルが相次ぎ、2009年に予定していた運転開始が10年以上遅れていて、地元メディアによりますと、建設費は110億ユーロ以上と、当初の見積もりの3倍以上に膨れあがっているということです。
ヨーロッパで新たな原発が稼働するのはおよそ15年ぶりで、運営会社の担当者は「安全性は向上させている。大きな責任と誇りを感じる」と話していました。
ヨーロッパでは、フランスが新たに6基の原発を建設する方針を打ち出しているほか、イギリスやポーランドなども複数の原発の建設を計画するなど、ウクライナ情勢などを受けて、原発を活用しようとする動きが広がっていますが、原発の安全性の確保に加えて建設期間の長期化やコストの増大などのリスクが課題となっています。
●ウクライナ東部で激戦続く ロシアでは政権に不満の声  3/15
東部バフムトなどで激戦が続くウクライナ。厳しい戦いが続く中、ゼレンスキー大統領は“未来を決する戦いだ”と現地の部隊を鼓舞しました。
一方、ロシア国内では政府に対する不満もくすぶっているようです。油井秀樹キャスターの解説です。
ロシアの民間軍事会社ワグネルなどの部隊と、ウクライナ軍との間で激しい攻防が続く東部バフムト。
アメリカのシンクタンクは13日、ロシア側がバフムトの北西や南西で進軍した可能性があるものの、街を包囲するには至っていないと分析しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「非常に厳しく苦しい状況だ。バフムトやブフレダルなどで今われわれの未来が決しようとしている。ウクライナ人すべての未来を決する戦いだ」と述べました。
一方、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐっては新たな動きが。
去年7月、ロシアとウクライナが輸出再開で合意した枠組みの期限が今月18日に迫っています。
こうした中、ロシア側が13日「合意の延長に反対しない」と表明。
ただ、これまで120日間としていた枠組みの延長を60日間に短縮すると主張しています。
一方、ウクライナ側は”60日間という主張は合意に反する”とロシア側の主張を批判しています。
ウクライナ情勢をめぐって、ロシア国内では政府に対する不満もくすぶっているようです。
ロシアの複数の独立系メディアが取り上げた映像では、モスクワ州から動員された兵士の妻や母親などが、訓練も十分にしないまま兵士を前線に放り込んでいると批判の声を上げたとしています。
「私の夫や他の動員兵たちは敵との前線に派遣され、敵の大砲の餌食になっている。十分武装した100人の敵を相手に、5人で敵の地域に突撃している状況だ」SNS上には、家族に加え、前線のロシア兵たちがみずから惨状を訴える動画も最近、拡散していると言います。
「ここには大砲や砲弾が供与されていない」
ロシアの独立系メディアは、現地の状況が厳しい上に、ロシア本国から新たに派遣された動員兵が戦闘の中心となってこうした不満が噴出しているのではないかと分析しています。
一方、ロシア国内からは、こうした戦争に対する不満や反対意見を抑え込むニュースも入ってきています。
先週、戦争に反対するロシアの元学生に対する判決公判が行われました。
「この戦争はウクライナの人たち全員にとって大きな悲劇だが、隣国と平和に暮らしたいロシア人にとっても悲劇だ。ロシアに自由を、ウクライナに平和を」大学生だったイワノフさんは、ネット上に戦争反対を訴えるチャンネルを開設したところ、ロシア軍に関する偽の情報を拡散した罪に問われ、禁錮8年半の判決を言い渡されました。
ロシアでは、先月も女性ジャーナリストが軍に関する偽の情報を拡散した罪に問われ、禁錮6年の判決が言い渡されています。
抑圧が強まるロシア国内ですが、今回判決を受けたイワノフさんは「大勢のロシア人が戦争に反対している。今はロシアの歴史にとって暗黒の時だが、必ず夜明けを迎える」とも語っています。
プーチンのロシアは本当のロシアではない。夜明けを待ち望んでいるロシア人が多い。そう訴えています。
●中国がロシア、イランと合同海上軍事演習 “侵攻”続く中 連携を強調 3/15
中国国防省は中国、ロシア、イランが参加する海上軍事演習を行うと発表しました。
中国国防省によりますと、3カ国の海軍を中心とする合同軍事演習は中東のオマーン湾で15日から19日までの日程で実施されます。
中国はミサイル駆逐艦の「南寧」を派遣し、海上での救助訓練などに参加するということです。
3カ国の合同軍事演習は2019年と2022年にも実施されていて、中国国防省は「地域の平和と安定にプラスのエネルギーを注入することになる」と意義を強調しています。
中国としては、ウクライナ侵攻を巡り欧米との対立が強まるロシアやイランと軍事面での連携も維持する方針を示した形です。

 

●ウクライナ激戦地でロシア側が白リン弾使用か AFP取材班が目撃 3/16
ウクライナ東部の激戦地バフムート(Bakhmut)に近いチャシウヤール(Chasiv Yar)で14日、ロシア軍の陣地の方から無人地帯に向かって白リン弾が発射されるのをAFP取材班が目撃した。
同日午後4時45分(日本時間同11時45分)ごろ、5分間隔で2回にわたり白リン弾が発射された。現場は、チャシウヤール南部からバフムートに続く道路。
口笛のような音が鳴って爆発があり、その後燃焼する白リンが多数の小さな火の玉となってゆっくりと地面に落下した。これにより道路の両側の草木が燃え、サッカー場ほどの面積が焼けた。
AFPは、標的となったのがウクライナ軍の陣地かどうかは確認できていない。だが焼けた現場の道路脇には、ウクライナ軍の識別マークである白十字が付いた緑色のトラックが止められていた。
延焼した土地から約200メートル先には複数の民家もあった。
白リン弾は民間人への使用が禁止されている焼夷(しょうい)兵器だが、1980年の特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)では、軍事目標に対する使用は認められている。
ウクライナ政府は、ロシア軍が侵攻開始後、民間人に対しても白リン弾を複数回使用したと非難しているが、ロシア側はこれを断固否定している。
●シリア大統領 ロシア支持の立場表明 プーチン大統領との会談で  3/16
ロシアのプーチン大統領はモスクワを訪問したシリアのアサド大統領と会談し、アサド大統領はウクライナに侵攻するロシアを支持する立場を表明しました。
ロシアは欧米との対立が深まるなか、友好国との関係強化を進める姿勢を強めています。
ロシアのプーチン大統領とシリアのアサド大統領との首脳会談は15日、ロシアの首都モスクワで行われました。
会談の冒頭、プーチン大統領は「ロシア軍の貢献によって、シリアでは国際的なテロとの戦いで重要な成果が達成された」と述べました。
ロシアは内戦が続くシリアのアサド政権を支援するため、2015年には軍事介入に踏み切り、その後も和平協議などでアサド政権を支えていて、プーチン大統領はそれを強調した形です。
また、プーチン大統領はトルコ南部で発生した大地震で、シリアでも大きな被害が出ていることについて支援を続ける考えを示すなど、両国の結束をアピールしました。
これに対し、アサド大統領はロシアの支援に感謝の意を示すとともに「ロシアのウクライナでの特別軍事作戦のあと、初めての訪問であるこの機会にナチズムと戦う軍事作戦を支持するというシリアの立場を表明したい」と述べました。
プーチン大統領は、欧米との対立が一層深まるなか中国など友好国との関係を強めていて、中東でも反米のシリアやイランなどと関係強化を進める姿勢を強めています。
●「ロシア、2030年までにモルドバを衛星国化する計画」またも暴露 3/16
ロシアが2030年までにウクライナと国境を接したモルドバを衛星国化する具体的な計画を持っているという暴露が出てきた。先月ロシアのプーチン大統領のベラルーシ吸収統合計画が盛り込まれた秘密文書が流出したのに続くもので、最近のモルドバの不安な政局もあり波紋が予想される。
ヤフーニュースが14日にウクライナメディアのキーウインディペンデント、独日刊紙南ドイツ新聞などで構成された国際ジャーナリストコンソーシアムとともに入手した文書によると、ロシアは7年以内にモルドバから西側の影響力を完全に遮断し親ロシア政府を建てる計画だと明らかになった。このコンソーシアムはこれに先立ちベラルーシ関連の秘密文書を暴露している。
ウクライナとルーマニアの間に位置したモルドバは人口254万人にすぎない小国であり欧州の貧困国だ。旧ソ連構成国だったためロシアがウクライナを侵攻してから「プーチンの次のターゲット」という不安に苦しめられた。最近ロシアがサボタージュ(破壊工作)を通じて親西側政権を転覆させようとしているという情報が公開され混乱していたところにロシアの計画が盛り込まれた文書が公開されたのだ。
2021年にプーチン大統領直属の対外協力局から流出したと推定されるこの文書の核心は、モルドバをロシアの衛星国にするというものだ。分野を政治・軍事部門、経済部門、文化部門の大きく3通りに分類し、時期を短期(2022年)、中期(2025年)、長期(2030年)に分けて細部目標を設定したという点でベラルーシ文書と構成が同じだ。文書作成にはロシア連邦保安局(FSB)と対外情報局(SVR)が関与したことが把握された。
プーチン大統領の最優先目標は「モルドバの内政に干渉して影響力を強化しようとする米国、欧州連合(EU)、トルコ、ウクライナなどに対応すること」だ。このためモルドバ議会などにロシア側関係者を送り込み、究極的には親ロシア政府を樹立して事実上ロシアがモルドバを思うままにするという計画だ。クレイマー元米国務次官補は「この文書にはモルドバを独立国と認めず衛星国として扱おうとするプーチンの強い意志が込められた」と分析した。
EU加盟を夢見るモルドバをロシア主導のユーラシア経済連合に引き込むのもプーチンの主要目標のひとつだ。モルドバはユーラシア経済連合に2017年からオブザーバーとして参加してはいるが、サンドゥ大統領率いる親西側政府はEU加盟を望んでいる。最近の世論調査(国際共和主義協会)によると、EU加盟に対する支持率が63%に達するほど、国民世論も西側編入に傾いている。モルドバは昨年3月にEUに緊急加盟申請書を提出し現在候補国の状態だ。
親ロシア性向の報道機関と非政府組織(NGO)ネットワークを拡大し、メディア・文化分野でロシアの影響力を拡大しようという野心も目に付く。ヤフーニュースは「モルドバにはNGOを標榜しながら実際にはロシアの支援を受けて運営され、親ロシア求心点の役割をする所が多い。特に若い世代を狙っており悩みの種」と報道した。このほかモルドバの学生たちがロシア語教育を受けられるように支援するという内容などが含まれた。
米ホワイトハウスは10日、最近モルドバで親西側政府に対する反政府デモが続いていることをめぐり裏にロシアがいると批判している。国家安全保障会議(NSC)のカービー調整官は「ロシアがモルドバを不安定にさせようとしているという情報を入手した。ロシア政府はここに親ロシア政府を樹立することを目標にしている」と明らかにした。今回の文書がホワイトハウスの発表を裏付けた格好だ。
●「新興財閥の制裁解除」訴え? リベラル派署名に波紋―ロシア 3/16
ロシア有数の富豪である新興財閥(オリガルヒ)がウクライナ侵攻で科された制裁を巡り、その解除を訴えて「リベラル派が署名した」とされる書簡が流出した。リベラル派は戦争に反対し、本来はプーチン政権に融和的な新興財閥と相いれない立場。反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の側近も支持したと伝えられ、波紋が広がっている。
この富豪はロンドン在住でユダヤ系のミハイル・フリードマン氏。共同保有するロシアの民間最大手銀行アルファバンクは、西側諸国から資産を凍結され、同氏個人も制裁対象となった。
フリードマン氏はウクライナ西部リビウ生まれ。開戦早々、侵攻に反対する立場を従業員に向けて表明したとされるが、クレムリン(大統領府)に協力的だとも指摘される。問題の書簡に署名された経緯には不明な点も多く、欧州連合(EU)の心証を良くして制裁の解除を勝ち取ろうと、フリードマン氏がリベラル派を利用したという見方もある。
英紙フィナンシャル・タイムズなどによると、フリードマン氏支持に担ぎ出されたリベラル派には、2021年のノーベル平和賞を受賞した独立系紙「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長も含まれる。ムラトフ氏は署名を巡り、ウクライナのユダヤ人慰霊碑整備を推進する趣旨だと弁明した。
中でも問題になったのは、ナワリヌイ氏率いる反汚職団体の幹部2人による署名。団体は新興財閥に制裁を科すよう西側諸国に呼び掛けていたからだ。うち1人は署名疑惑を否定していたが、書簡の流出を受けて「過ち」を認め、政治活動休止を宣言した。
獄中の野党指導者イリヤ・ヤシン氏は14日、自身も署名した経緯を通信アプリで説明。フリードマン氏の「反戦」の立場を紹介した上で「プーチン大統領に近い新興財閥と同じ制裁リストに載せるのは公正と思えない」と主張した。
●習近平に「平和の使者」が務まるのか?中国が振り返るべきこれまでの行状 3/16
中国の全人代(全国人民代表大会、国会に相当)が3月13日に閉幕した。
習近平の「大国和平外交」に大きな進展
だが、全人代を通じて、習近平が経済、ハイテク、外交、民生、軍事の全方位的政策を自ら差配する方向で人事や機構を調整していることは間違いなかろう。個人的には、習近平独裁に誰かに歯止めをかけてほしいところだが、今、国際社会の風向きが習近平の権力掌握に有利になっているのは事実だ。
というのも、習近平の「大国和平外交」にこのところ大きな進展があった。
全人代最中の3月10日、北京でサウジアラビア、イラン、中国による3国共同声明が発表され、サウジアラビアとイランが7年ぶりに外交関係を正常化させることを含む協議に調印した。これは「習近平の大国外交の勝利である」と中国国内メディアのみならず国際メディアもポジティブに報じている。
さらに、習近平は早ければ来週にもロシアを訪問し、プーチンと会談し、その足でヨーロッパを訪問するらしい。ウクライナとのゼレンスキーと会談する計画も一部で報じられている。
2月に中国は12項目から成る「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」という文書を発表し、両国の和平交渉に建設的な役割を発揮したいとしていた。
サウジアラビア・イランの国交回復の仲介ができたのなら、ロシア・ウクライナ両者から何等かの妥協や譲歩が引き出せるのではないか、という期待も高まりつつある。
中国の仲介が開いたサウジ・イラン関係修復への道
中国の呼びかけに応じ、3月6〜10日、サウジアラビア国務大臣で国家安全顧問のムサード・ビン・モハメド・アル・アイバンと、イラン最高国家安全委員会秘書のアリ・シャムハニがそれぞれ率いる両国代表団が、北京で会談を行った。
中国、サウジ、イランの3カ国による共同声明では、サウジとイランの間で、外交関係の回復に同意し、2カ月以内に双方が大使館と代表機構を開設し、相互に大使を派遣し、2国関係強化のために模索するという内容を含む協議が調印された。両国が2001年に調印した安全協力協定、1998年に調印した経済、文化領域での協力全体協定も再始動する。
サウジとイランは2016年に断交した。緊張緩和のために、両国は長期的な対話を続けていたが、イランは昨年(2022年)12月、サウジがイランの国内抗議活動を支持していると非難し、対話は一度暗礁に乗り上げた。
だが昨年12月、習近平がサウジアラビアを7年ぶりに国事訪問。中国・アラブ諸国サミットなどにも出席して、中東地域の「火種」問題解決に取り組む姿勢を見せていた。
このとき、イランは中国とサウジの接近に反発を示したものの、習近平はすぐさま当時副首相の胡春華をイランに派遣し、ライシ大統領との会談で早急に手当を行った。イラン側の怒りは収まり、ライシ大統領は2月に訪中。中国の仲介によるサウジ・イランの関係修復の道が開かれた。
ちなみに、サウジはウクライナに4億ドルの支援を表明し、イランはロシアにドローンなどを供与して急接近している。サウジとイランの関係修復は、ロシア・ウクライナ戦争が中東問題に波及するリスクも、緩和、予防できたことになる。
世界のメディアが中国の「和平斡旋外交」を評価
環球時報は、専門家(蘭州大学一帯一路研究センターの執行主任、朱永彪)のコメントを引用する形で両国の関係修復を次のように高く評価した。
「サウジとイランはそれぞれイスラム・スンニ派とシーア派を代表し、双方は長期間に矛盾が存在、さらに西側国家(米国)の挑発が加わり、両国関係は一度破綻に追い込まれた。今回の双方の協議の合意は、イスラム国家内部の矛盾を緩和したという重要な意義があるだけでなく、中東情勢の改善にポジティブな影響力を発揮するものだ」
中央政治局委員で党の外交最高責任者である王毅は、北京でのサウジとイランの対話閉幕式の時、「サウジとイランの関係完全は中東地域の平和安定の道を切り開き、対話交渉を通じた国家矛盾対立を解決するモデルとなった」と胸を張っていた。
上海外語大学中東研究所助理研究員の文少彪は、この中国の和平斡旋外交がパレスチナ、イスラエル、イエメン、シリア、リビアの内戦の緩和と解決に向けてポジティブな波及作用がある、とまで語っていた。
中国メディアだけでなく米AP通信も「この協議合意は中国外交の重大な勝利だ」と評価し、米CNBCサイトも「中東地域情勢全体の緩和に大きな助けとなり、内戦が続くイエメンもおそらく両国関係の改善で停戦を迎えるのではないか」「このことは、中国がこの地域で新たな役割、特に(和平の)仲介者としての役割を持ったことを反映している」との専門家のコメントを報じた。
習近平がプーチン、ゼレンスキーと会談か
だが、世界の平和の実現という点ではグッドニュースであるが、米国が湾岸地域から撤退せざるを得ない状況の中で、その空白を埋める形で中国のプレゼンスが強化されることの地政学的な意味を考えると、米国やその同盟国である日本にとっては心穏やかでないところも大きいだろう。
しかも、この流れで、習近平は早ければ来週にもロシアを訪問してプーチンと会談し、その足で欧州のいくつかの国を回る計画もあると一部で報じられている。
ロシア・タス通信は1月30日に、プーチンが春に習近平をロシア訪問に招待していると報じていた。さらにその後、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談する計画だとウォール・ストリート・ジャーナルなどは報じている。
中国のロシア・ウクライナ和平に向けた立場は、簡単に言えば以下の12項目である。(1)各国主権の尊重、(2)冷戦思考の放棄、(3)停戦、戦闘の終了、(4)和平交渉の再開、(5)人道的危機の解消、(6)民間人や捕虜の保護、(7)原子力発電所の安全確保、(8)核兵器の使用および使用の威嚇への反対、(9)食糧の外国への輸送の保障、(10)一方的制裁の停止、(11)産業・サプライチェーンの安定確保、(12)戦後復興の推進。
ロシア側はこれに歓迎の意を示しているが、ウクライナ側は領土主権尊重や原子力発電所の安全確保などには注視するものの、ウクライナが停戦の条件としている占領地域のロシア軍撤退に関しては言及されていないことに、警戒心を示している。
西側諸国は、この12項目発表が発表された段階では、中国はロシア側の味方をしすぎており、停戦に向けた影響力には限界があろうと軽く見ていた。中国の仲介能力に対する国際社会の評価は、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の失敗から、もともとあまり高くなかったからだ。
だが、イラン・サウジの電撃的な外交関係回復が中国の仲介で実現した今、中国の影響力を過少評価しない方がいいかもしれない、という空気が一気に高まった。
「中国式現代化」を武器に目指す国際社会の新秩序
ここで全人代における秦剛(しんごう)外交部長(外相)の記者会見を思い出してほしい。
この会見で、秦剛は「『中国式現代化』は国際社会のホットワードだ。・・・これは人類社会の多くの難問を解き、現代化=西洋化の迷信を打破し、人類文明の新たなスタイルを創造し、世界各国、とくに多くの途上国に、主に5つの点で重要な啓示を与えることだろう」と語った。
わかりやすく言うと、こういうことだ。西側の現代化は民主主義の押し付けであるが、中国式ならば、たとえ西側から見て人権や差別問題があっても、それを独自の文化・文明・国情という理由で包容できるし、共同富裕だから富裕層や先進国だけをのさばらせることもなく、異なる意見を排除するから常に団結奮闘でき、争うこともない。中国式現代化ならば、中東や中央アジア、東南アジアやアフリカの部族社会から発展した権威主義的な国家も、西側の価値観の押し付けに反感を抱くイスラム社会も、受け入れやすかろう──。
習近平の大国外交の最終目標は、途上国、新興国が西洋化ではなく中国式現代化を選択し、そうした国々が中国朋友圏を形成し、それによって米国およびその同盟国陣営とわたり合い、最終的には中国式の国際社会の新秩序、フレームワークを再構築することだ。
秦剛の表現を借りれば、「人類運命共同体構築、一帯一路建設、全人類共同価値観、グローバル発展イニシアチブ、グローバル安全保障イニシアチブなどの理念の核心は世界各国の相互依存であり、人類の運命を共にし、国際社会が団結せねばならない」「習近平主席は世界、歴史、人類の高みからグローバル統治の正しい道を指し示している」ということだ。
中国の外交は、これまでは内政のための外交、つまり国内の団結や党の求心力を高めるための外交パフォーマンス、と言われてきたが、習近平は本気で「世界領袖」の高みを目指しているのかもしれない。
「平和外交」を進める中国がこれまで行ってきたこと
ちなみに、秦剛はロシア・ウクライナ戦争については「残念なことに、平和に向けて対話を促進する努力は繰り返し破壊され、まるでウクライナ危機をある種の地政学的陰謀に利用しようと、紛争をエスカレートさせようとする『見えざる手』があるようだ」と語った。言うまでもなく米国に対する揶揄だ。
習近平3期が全人代を経て全面的に始動し、私は習近平のスターリン化を恐れていたのだが、習近平は今や、ノーベル平和賞にノミネートされてもおかしくないぐらいのピースメーカーの役割が期待され始めている。
実際、米国こそ他国をひっかきまわして戦争を起こすウォーメーカーではないか、と言われて、そう思う人も少なくなかろうし、そういう人が中国に期待を寄せることもあるだろう。
だが、ウイグル・ジェノサイドを行い、香港の自由を弾圧し、民主化活動家や宗教家、人権弁護士らを“失踪”させてきた習近平体制が行う「平和外交」が、本当に私たちの考える「平和」をもたらせるものなのか。それとも、警察が仕切ろうがヤクザが仕切ろうが、治安を維持でき金儲けができるのであれば同じ、というのか。
早く戦争が終わってほしいと思いつつ、微妙な気分にとらわれている。 
●ロシア軍の攻勢鈍化、弾薬と兵力失った影響か ウクライナの反転許す 3/16
米国のシンクタンク「戦争研究所」(ISW)は15日、ウクライナ東部で攻勢を続けるロシア軍の動きが鈍化する傾向にあるとの見方を示した。これまでの攻撃で弾薬、兵力を失った影響という。
ISWは同日の分析で、「ロシア軍のミサイル、砲弾による攻撃が今週に入って大幅に減少した」とするウクライナ軍統合本部広報官の発言を引用。「ISWの見方と一致している」とした。ロシア軍は東部ルハンスク州西部の前線に戦力を投入したにもかかわらず、大きな成果を上げられず、今週に入ってウクライナ軍の反転攻勢を許しているという。
また、東部ドネツク州バフムートでは市内東部を掌握したとされるロシアの民間軍事会社「ワグネル」の部隊がウクライナ軍の守りがかたい中心部ではなく、郊外の小さな村々の占拠を続けていると指摘。こうした動きはバフムート制圧には役に立たず、正規軍の空挺(くうてい)部隊はバフムートの戦闘に十分関与する気配を見せていないという。
●習近平氏 新体制で目指すものは 3/16
中国では今月、全人代=全国人民代表大会が開かれ、習近平国家主席が再選されたほか、新しい政府の陣容が決まるなど、3期目の新体制が本格始動しました。経済の停滞やアメリカとの対立、台湾情勢などの課題と向き合う中、今回の全人代から見えてきた、習新体制が目指すものを読み解きます。
中国で今週13日まで開かれていた年に1度の全人代で、習近平氏が国家主席に再選されました。国家主席として3期目に入るのは習主席が初めてです。去年秋の共産党大会では党と軍のトップとしての続投を決めていて、党、軍、そして国家という3つのトップを引き続き務めることで、習主席への権力集中はいっそう進み、政権も異例の長期化に入っています。
また、首相など政府の新しい陣容も決まりました。新たに首相となった李強氏をはじめ、筆頭副首相の丁薛祥氏など、主要ポストの多くに習主席の地方勤務時代の秘書や部下が配置されているのが特徴です。「ゼロコロナ」政策で停滞した経済の立て直しなどに取り組むことになりますが、習主席としては、忠実な側近を政府の要職にも配置することで、みずからが進めやすい形で3期目を運営する思惑があるとみられます。
しかし、周囲を固めるのは側近ばかりで、歯止めをかける「ブレーキ役」が不在なことから、国際社会からはリスクとも受け止められています。
その新体制で、習主席が目指すのが「強さ」です。全人代最終日の習主席の演説では「強国」というキーワードが16分ほどの演説の中に12回も登場しました。
なぜ、そこまで「強さ」を前面に打ち出すのでしょうか。実は、共産党政権は「改革開放」政策の導入以降、国を豊かにさせることを優先し、対外的には能力を隠して摩擦を避ける、いわゆる「韜光養晦(とうこうようかい)」と呼ばれる方針をとってきました。しかし、中国が世界2位の経済大国となった今、習主席は、共産党政権に対する求心力を維持していくためには、中国には「強さ」が必要だと考えているのです。さらに、「自分には中国を強くする使命がある」と主張することで、みずからの長期政権を正当化する狙いもあると指摘する専門家もいます。
では、その「強さ」をアピールする習主席は、国際社会においては何を目指そうとしているのでしょうか。
それは、最大のライバルであるアメリカへの対立軸を打ち出し、中国に有利な国際秩序を作り出すことだと思います。そもそも米中両国は去年11月、習主席とバイデン大統領が首脳会談を行い、関係改善に向けて動き出そうとしていました。しかし、気球の撃墜をめぐる問題や中国がロシアに軍事支援を検討しているという疑いが持ち上がり、関係改善の機運はしぼんでいます。全人代の記者会見で秦剛外相は、「最初のボタンのかけ違いがあったために、アメリカの対中政策は理性的で健全な軌道を完全に外れてしまった」と批判しました。中国からすれば、政治体制や価値観などをめぐる意見の違いはあるものの、両国関係を安定させようと模索していたのに、「アメリカは自分たちの主張に耳を傾けようとしない」という恨み節にも聞こえます。
こうした中、ウクライナ情勢をめぐっては、侵攻1年となった先月24日、中国の立場についての文書を公表しました。特徴の1つは、軍事侵攻を始めたロシアへの批判を避けるなど、随所にロシアへの配慮をにじませたことです。中国は、ウクライナ侵攻でアメリカがNATO加盟国などとの結束を強化するのを目の当たりにしました。その結束の矛先はいずれ、安全保障や経済などをめぐって対立する中国へと向かいかねないという危機感を強く抱くようになります。アメリカへのけん制という観点からも、ロシアとの連携は維持しておきたい、そのためにもロシアには一定の存在感を持っていてほしい。このように中国は、ウクライナ情勢をめぐっても、アメリカとの対立を常に意識しているのです。一部報道では、習主席が近くロシアを訪問すると伝えられていますが、ウクライナ情勢や今後の国際秩序にどのような影響を与えるのか注視する必要があります。
また、全人代の期間中、世界を驚かせた出来事がありました。外交関係を断絶していたサウジアラビアとイランが、中国の仲介によって外交関係を正常化させることを明らかにしたのです。サウジアラビアはアメリカの同盟国ですが、サウジアラビア人ジャーナリストの殺害事件や原油の増産に応じなかったことなどをめぐって、アメリカとの関係が冷え込んでいただけに、中国がその隙間に入り込んだ形です。また、アメリカと対立するイランとも良好な関係を築いていることも強く印象付けました。
アメリカの影響力が強かった中東地域に中国がどこまで関与するのか、その本気度はまだ分かりませんが、中国の存在感が確実に高まっていることは間違いありません。中東にとどまらず、中国は今後さまざまな地域で、いかにアメリカの影響力を削ぎながら、新しい秩序を作るかに力を入れるとみられます。
一方で中国とアメリカは経済面では深く結びついているという側面もあります。去年1年間の両国間の貿易額は過去最高となりました。
実利面でアメリカとの折り合いをどうつけるかが、新体制での課題となります。
ところで、全人代で毎年、注目されるのが国防費です。ことしの予算案については、去年と比べて7.2%多い、およそ1兆5537億人民元、日本円で30兆円あまりになることが明らかにされました。予算額ではアメリカに次ぐ世界2位で、軍備の増強を続ける姿勢を改めて示しています。
その念頭にあるのが、習主席が統一のためには武力行使も辞さないとする台湾です。全人代では初日の報告で、「平和的統一」という言葉が4年ぶりに加わりました。ソフト路線に転じたという受け止めも広がりましたが、最終日の習主席の演説では、「平和的統一」は抜け落ち、「外部勢力の干渉と台湾独立の分裂活動に断固反対する」として、従来の強気な姿勢を崩しませんでした。こうした硬軟織り交ぜた姿勢は、来年1月の台湾総統選挙を意識したものといえそうです。つまり、中国に融和的な姿勢を示す最大野党・国民党は後押しする。その一方で、独立志向が強いとみなす与党・民進党、そして台湾への関与を強めるアメリカはけん制するという考えです。実際、国民党の訪問団が先月、中国を訪れた際、中国側は輸入を停止している台湾産の農水産物について、再開に前向きな姿勢を示しました。こうした国民党への肩入れとも受け止められる動きを見せるなど、経済をテコに台湾世論の分断を図ろうとしています。総統選挙をにらみながら、台湾への揺さぶりはますます活発化するものとみられます。来月には、蔡英文総統が中米を訪問するのにあわせてアメリカを訪れ、マッカーシー下院議長と会談すると伝えられる中、習主席の新体制の出方が注目されます。
あくなき「強さ」とみずからに有利な国際秩序を目指す習主席の新体制。その姿勢には、これまで以上に国際社会からの厳しい目が注がれることになりそうです。
●ウクライナ激戦地でロシア軍機を撃墜、侵攻後に計304機 3/16
ウクライナのシルスキー陸軍司令官は15日、激戦が続く東部ドネツク州バフムート上空でウクライナ軍がロシア軍のスホイ25型攻撃機を撃墜したと発表した。
バフムート近くで第93機械化旅団がロシア軍用機を迎撃したとのイエルマーク大統領府長官の発言を受けた報告となっている。
CNNは司令官や長官の主張を独自に検証できていない。ウクライナ外務省によると、昨年2月24日の侵攻開始後、ウクライナ軍が撃ち落としたロシア軍用機などは今年3月15日までに少なくとも304機に達した。
スホイ25機の撃墜についてイエルマーク長官はSNS上に同機の墜落場面ともみられる動画を掲載。白色のパラシュートもみられ、パイロットが脱出したことを示唆した。
シルスキー司令官はバフムート市の戦況にも触れ、ロシア軍は包囲や進撃を試み続けているが成功していないと主張。SNS上で第93機械化旅団や他の防衛軍は敵側の激しい圧力に耐えており、戦車や歩兵戦闘車両、多連装ロケットシステムや弾薬貯蔵所を破壊したとの戦果を示した。
ロシア軍はドネツク州リマンや北東部ハルキウ州クピャンスクでも攻勢を強めているが、第93旅団が持ちこたえ、敵のレーダーや司令所を破壊したとも述べた。

 

●プーチンの誤算、NATOのコミット不足、米国の抑止戦略の失敗―侵攻の1年 3/17
2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの全面侵攻。当時は「そのようなことは起きないはず」との見方も根強かったが、侵攻はなされてしまった。
侵攻から1年を迎えた今、プーチン・ロシア大統領はなぜ侵攻に踏み切ったのか、侵攻を防ぐことはできなかったのか――現代欧州政治と国際安全保障が専門で、NATO(北大西洋条約機構)の視座から開戦の経緯をつぶさに見てきた慶應義塾大学准教授の鶴岡路人氏は、抑止を中心とする戦略論の立場から考察を加えている。
プーチンが天秤にかけた「利益」と「損失」
 ロシアによるウクライナ侵攻の本質を考えるにあたって、まずは「なぜ起きてしまったのか」「防げなかったのか」について、抑止を中心とする戦略論で考えてみよう。
この戦争が、ロシアのプーチン大統領によってはじめられたものであることに異論はないだろう。プーチンもさまざまな要素を天秤にかけて最終判断を下したと考える以上、最も根本的だったのは、「侵攻により得られる利益+侵攻を見送った場合の損失」と「侵攻によって被る損失+侵攻を見送った場合の利益」の比較だったはずだ。
プーチンの計算において、前者が後者を上回ったために、侵攻がおこなわれたと考えることができる。開戦前から、ウクライナ侵攻は非合理的であるとの指摘は多く、さらに、ロシア軍の苦戦を受けて、プーチンによる侵攻の判断は批判にさらされている。
他方で、プーチンが、よくいわれているように、数日でウクライナの首都キーウを制圧し、ゼレンスキー政権を容易に転覆できると判断し、米欧諸国による反応も、2014年のクリミアの一方的併合と同レベルのものだと想定していたとすれば、みえてくる構図は異なるはずだ。その前提であれば、侵攻を躊躇している間にウクライナの米欧志向が強まり、ロシアの勢力圏からの離脱がより進むよりも、侵攻に踏み切った方が利益になると考えることは、合理的な判断だったのかもしれない。しかし、そうした前提が大きく狂ったのである。
NATOのコミット不足
今回の戦争を「防げなかったのか」という問いについてはどうだろうか。前述の、プーチンの計算における利益と損失のバランスに照らせば、ウクライナ侵攻を防ぎたい側のウクライナ自身や、米国を含むNATO諸国が、侵攻した場合のロシアにとっての損失を利益よりも大きくできたかが問われる。
そのためには、ロシアの想定する利益を少なくするか、損失を大きくするか、あるいはその両方が必要になる。結果として、ロシアの侵攻を防げなかったということは、それに失敗したということである。ウクライナに関しては、国力をロシアと比較した場合に、単独でロシアを抑止することは、当初からほとんど不可能だった。ウクライナ軍の能力は、実際には2014年にクリミアが一方的に併合された当時とは大きく異なっていたが、ロシア側がそれを認識しない限り、侵攻にあたってのロシア側の計算結果は変わらない。
米国やNATOは、ロシアによるウクライナ侵攻を抑止するための十分な能力を有していたものの、NATOにとってのウクライナの重要性と、ロシアにとってのそれとが非対称的だったことは否めない。ロシアにとっての方がより多くがかかっていたのである。ウクライナのNATO加盟を議論しながら、2022年までに実現していなかった事実自体、NATO側がウクライナの安全保障にコミットしていなかったことの証だったともいえる。
そうしたなかで、均衡が崩れてしまったのが今回の戦争である。
「暴露による牽制」戦略の限界
そして、この戦争は特徴的なはじまり方をした。前年秋からロシア軍部隊がウクライナ国境に集結しはじめ、緊張が高まっていた。ロシア側は、ウクライナ侵攻の意図はないとしつつ、いつでも実際に侵攻可能な装備を着々と前線に配備していった。その数は10万名をはるかに超えた。状況を注意深く監視していた米国は、ロシアに侵攻の意思があると判断し、ロシアに警告しつつ欧州諸国への情報共有を進め、さらには、ロシアの侵攻意図やその方法を「暴露」する手段に出たのである。
ロシアが計画していた作戦などを積極的に公表することで、計画遂行を妨害し、変更を迫ることで時間稼ぎをすると同時に、それでもロシアが、実際には自らが攻撃しつつ、「ウクライナが先に攻撃してきた」と主張する偽旗作戦に出た場合に、国際世論がそれに惑わされないようにするという目的があった。ロシアに対しては、「手の内はすべてバレている」というメッセージでもあった。これらをあわせて、「暴露による牽制」ということだった。
ただし、結果としてそれで侵攻を防ぐことはできなかった。その意味で、ロシアに対して、侵攻を思いとどまらせようという抑止は失敗した。
それでも、こうした動きを支えた大きな要素の第一は、過去10年ほどで急速に発展した商用の衛星画像サービスだった。これにより、ロシア軍がウクライナ国境に集結している様子が、政府の軍事衛星に頼らずとも、研究機関やメディアによって、鮮明な画像とともに明らかにされていった。第二に、オープン・ソース・インテリジェンス(OSINT)と呼ばれる分野の新たな発展が重要だった。OSINT自体は決して新しい手法ではない。機密情報ではなく、公開されている情報をつなぎあわせて真実を突き止めようとすることを指すが、SNSによる情報を網羅的に扱うことで、従来とは桁違いの情報量を実現し、精度の高い分析が可能になった。民間調査集団のべリングキャット(Bellingcat)の活動はすっかり有名になった。
政府によるインテリジェンスの「暴露」のみならず、民間側に層の厚い情報が集まるようになっていたために、ロシアの行動はその一挙手一投足が監視されることになった。ロシアは丸裸にされていた。しかし、繰り返しになるが、それでも、ロシアの行動を抑止することができなかったのは、国際社会の側が直視しなければならない現実である。
実際に起きてしまったのは、第2次世界大戦を彷彿とさせるような戦車戦や砲撃戦、そして、占領下での地元住民への拷問や大量殺戮、さらには強制移住などであった。他方で、例えば戦争犯罪の捜査では、精度の高い衛星画像や顔認証技術といった今日的なツールが重要な役割を果たしている。今回の戦争は、新旧の要素が複雑に入り乱れているのである。
●ロシア・中国・イランが合同軍事演習 3/17
ロシア、中国、イラン3か国の海軍による合同軍事演習が15日、イラン・チャバハール港近くで始まった。
ロシア海軍の発表によると、同国からはアドミラル・ゴルシコフ級フリゲートなどが参加する。
ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ侵攻により西側諸国から一連の制裁を科されて以来、中国とイランとの政治的、経済的、軍事的関係の強化を図っている。
●プーチン大統領勝利に終わるのか? 苦戦ウクライナ軍「死傷12万人」の衝撃 3/17
ウクライナ軍は、想像以上の打撃を受けているのか。ロシアの侵略に抗戦をつづけるウクライナ軍の死傷者が、最大12万人に達しているという。米紙ワシントン・ポスト(電子版)が13日、欧米当局者の推計として伝えている。ロシア軍の死傷者は、推定20万人だ。
ウクライナ軍は、最前線で指揮を執ってきた下士官の多くが戦死しているという。東部ドネツク州では、500人規模の部隊のほぼ全員が死傷し、弾薬も足りない状態だそうだ。実戦経験が豊富な兵士を多く失ったこともあり、ウクライナ軍の将校は、領土奪還に悲観的だという。
日本の報道では“ロシア苦戦”のニュースが目立つが、3倍の人口差を考えるとウクライナ軍はかなり苦戦を強いられている可能性が高い。軍事ジャーナリストの世良光弘氏がこう言う。
いずれ兵士が足りなくなる恐れも
「ロシア軍の死傷者が20万人、ウクライナ軍の死傷者は12万人という数字は、実態に近いと思う。ウクライナ軍は相当、消耗しているはずです。とくに、ここ2週間はロシアが攻勢をかけている。ウクライナ国民全体の士気は高いですが、最前線の兵士は限界に近づきつつあると思う。兵役逃れもあるようです。このままでは、西側から兵器を供給されても運用する兵士が足りなくなる恐れがある。一番の問題は、長期化するほど、人口が多いロシアが有利になる可能性が高いことです」
長期戦を避けるために、ウクライナやアメリカが停戦に動くことはあるのか。国際ジャーナリストの春名幹男氏はこう言う。
「来年、大統領選があるアメリカのバイデン大統領は、早く停戦に持ち込みたいのがホンネでしょう。アメリカ国民は“支援疲れ”しはじめているからです。ウクライナへの大盤振る舞いは、難しくなりつつある。ただ、現実問題として停戦は難しいでしょう。停戦に動き出すかどうかは、ロシアとウクライナの両国に厭戦気分が広がるかどうかがカギですが、まだ両国とも戦意を失っていない。戦争は長期化する可能性が高いと思います」
プーチン大統領の勝利に終わってしまうのか。
●ウクライナ支援は「国益」か 米大統領選の有力候補、異を唱え波紋 3/17
2024年の次期米大統領選への出馬が有力視されるフロリダ州のデサンティス知事(共和)が、ウクライナ支援を続けるバイデン米政権に異を唱えたことが議論を呼んでいる。ウクライナでの戦争は米国の「重要な国益」ではない――。そんな意見には、共和党内でも賛否が分かれている。
話題を呼んだのは、デサンティス氏が今月、FOXニュースの取材に答えた内容だ。米国には、確実な国境警備や、中国共産党への対応といった重要な国益があるとしたうえで、「ウクライナとロシアの領土紛争に一層巻き込まれることはその(重要な国益の)一つではない」と明言した。
民主党のバイデン大統領は、国際秩序や民主主義を守る戦いだとして、米国内外でウクライナ支援を主導してきた。戦争を「領土紛争」だとして距離をとるデサンティス氏の姿勢は、バイデン政権の姿勢とは大きく異なるものだ。
デサンティス氏のこの回答が報じられると、同じ共和党内でも反発する声が相次いだ。
ペンス前副大統領は「ウクライナで起きている戦争は領土紛争ではない」と真っ向から反論し、民主主義を守るために支援を継続するべきだと訴えた。
次期大統領選への立候補を表明しているヘイリー元国連大使も、ロシアに対抗することは米国の重要な国益であると明言した。ウクライナがロシアに勝利する方が「戦争の拡大を回避でき、米国にとってはるかによいことだ」と述べた。
●“ロシアがウクライナで戦争犯罪にあたる行為” 国連調査委  3/17
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの人権状況について国連人権理事会が設置した調査委員会は16日、ロシアが民間人への攻撃や虐殺、それに子どもの連れ去りなど戦争犯罪にあたる行為が確認されたとする報告書を公開しました。
調査委員会はウクライナなどで現地調査を行い、595人から聞き取りを行った一方、ロシア側からの協力は得られていないとしています。
報告書ではロシア側の行為として、民間人への攻撃やブチャを含むキーウ地域などで男性65人、女性2人、それに14歳の少年が処刑されたことを確認したとした上で、手や足を縛られたり、近距離から頭を撃たれたりした遺体もあったとしています。
また、4歳から82歳に対する性的暴力や、子どもの連れ去りについても戦争犯罪に相当すると指摘しています。
さらにロシアによる去年10月以降のエネルギー関連施設への攻撃については厳しい寒さの中、多くの人が電気や暖房を使えず「人道に対する罪」にあたる可能性がありさらなる調査が必要だとしています。
一方、報告書ではロシア側の捕虜に対する銃撃などウクライナ側による戦争犯罪とされる違反行為も確認されたと指摘しています。
●ウクライナ戦争は「長期化」、必要な限り支援提供=独首相 3/17
ドイツのショルツ首相は16日、ウクライナ戦争は長期化するとの認識を示し、ドイツは必要な限りウクライナに資金と兵器を提供すると改めて確認した。
ショルツ首相は独紙ハンデルスブラットに対し「早期終結が望ましいが、戦争の長期化に用意しておかなければならない」と述べた。また、中国がロシアに兵器を供給しないことが絶対的に重要になっているとも語った。
●ロシア軍 ウクライナ東部ドネツク州拠点掌握ねらうも進軍鈍化  3/17
ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州の拠点の掌握をねらって攻撃を繰り返していますが、ウクライナ軍が徹底抗戦する中、ロシア側の進軍の動きが鈍っているという見方が出ています。
ウクライナ側の拠点の一つドネツク州のバフムトをめぐっては、ロシアの民間軍事会社ワグネルの部隊などとウクライナ軍との激戦が続いています。
ウクライナ軍が防衛線を築いて徹底抗戦するなか、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は15日、ロシア側は兵員や砲弾の損失によって、バフムトを包囲したり中心部を掌握したりすることが難しくなっていると分析しました。
そして、東部の戦線でロシア軍の攻撃回数が今週に入って大幅に減っているとするウクライナ側の発表を引用しながら「ロシア側の進軍のペースは前の週と比べて落ちているようだ」として、進軍の動きが鈍っているという見方を示しました。
また、イギリス国防省は16日、ドネツク州の別の激戦地ブフレダルについて、ロシア軍が過去3か月にわたって攻撃を仕掛けながらウクライナ軍の抗戦で失敗を繰り返し、先週の攻撃回数が明らかに減っていると指摘しました。
こうした中、ロシア大統領府のペスコフ報道官は16日、記者団に対してプーチン政権がウクライナ南部クリミアを併合して18日で9年となることに触れ「17日と18日に関連の会議をオンラインで開く」と述べました。
去年の同じ日には、プーチン大統領がイベント会場で演説し、ウクライナへの軍事侵攻の正当性を国民に訴えましたが、ロシアの有力紙ベドモスチは16日、同じような大規模なイベントは行われない見通しだとした上で「動員などもある中、当時の喜びに浸るのは適切ではない」という専門家の見解を伝えています。
●戦時下で急増する財政赤字、ウクライナの戦時財政はどこまで持続可能か 3/17
ウクライナ財務省によると、同国の2022年の財政赤字は8472億フリヴニャ(約3兆円、1フリヴニャ3.62円、以下同)と、前年から362.5%増加した(図表1)。その主因は、歳出が65.0%も急増したことにある。特に軍事費は625%と激増、歳出の総額に占める割合も37.6%と前年(8.5%)から急上昇した。ロシアとの戦争で急増した軍事費が、ウクライナの財政を圧迫したわけだ。
   【図表1 ウクライナの財政収支】
財政赤字の急増を受けて、2022年のウクライナ政府の債務残高は4兆728億フリヴニャ(約14兆7000億円)と前年から52.4%増加した(図表2)。とりわけ目立つのが、対外債務の急増だ。
国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)といった国際金融機関による金融支援や米国と欧州連合(EU)による支援が、こうした対外債務の急増につながった。
   【図表2 ウクライナ政府の債務残高】
いわば、戦時下のウクライナの財政を支えているのは、欧米を中心とする国際社会による金融支援に他ならない。これが継続するうちはウクライナの財政は持続可能であり、ロシアとの戦争も継続できる。そのため、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は国際社会に対し、さらなる金融支援の実施を求めている。
もっとも、戦争の長期化を受け、欧米にはウクライナに対する一種の「支援疲れ」が広がっているという厳しい現状がある。特に米国では、共和党とその支持者を中心に、追加の支援に対して慎重な声が強まっている。戦争が終わる展望が描けない以上、支援額が膨らむことへの警戒感が高まることは当然といえよう。
さらなる問題は、欧米を中心とする国際社会による金融支援は、基本的に返済を前提とする債務だということだ。
中銀による国債の消化にも限度が
戦争が終われば、ウクライナは国際社会に対して債務を返済する必要がある。将来の経済成長につながる債務ならともかく、戦争の継続に費やされた債務を、ウクライナの将来世代が返済していくことになる。
ウクライナ政府の債務残高は国内向けにも増えている。
2022年の政府の対内債務残高は1兆4619億フリヴニャ(約5兆3000億円)と、前年から31.5%増加した。この増加した対内債務の多くが、いわゆる「戦時国債」であり、それを発行市場で引き受けているのが、ウクライナ中銀である。つまり、ウクライナでは現在、中銀による財政ファイナンスが行われている。
実際にウクライナの発行済み国債の保有者の内訳(図表3)を確認すると、ロシアとの戦争が始まる直前の2021年12月時点で、ウクライナ中銀は発行済み国債の29.3%を保有していたが、2022年12月には50.8%にまで急上昇した。直近2023年2月末時点では48.8%とわずかに低下したが、中銀が主に国債を消化する構図に変化はない。
   【図表3 ウクライナの発行済み国債の保有者の内訳】
財政ファイナンスで加速するインフレ
第二次世界大戦期の日本が典型例だが、過去にも本格的な戦時経済を経験した国の多くで、こうした中銀による財政ファイナンスが行われている。確かに中銀による財政ファイナンスは財政の持続可能性を一時的に高め、戦争の継続を可能にする。反面で、貨幣面から物価上昇圧力を強めるという看過できない深刻な副作用を伴う。
すでにウクライナでは、戦争の長期化に伴って供給力の低下を主因とするインフレが蔓延しているが、中銀の財政ファイナンスはそれを貨幣面から促していると考えられる(図表4)。
通貨の暴落も懸念されるところで、中銀は2022年7月に為替レートを1米ドル36.5686フリヴニャに切り下げたが、いつまで維持できるか分からない。
   【図表4 ウクライナの物価と通貨】
ウクライナ中銀は政策金利を2022年6月、政策金利を10%から25%に引き上げ、以降、その水準を維持している。同時に、恒常的なドル売りフリヴニャ買い介入を行い、為替レートの固定に努めている。
中銀の直近2023年1月時点の外貨準備高は299億米ドルと相応の水準だが、これも国際社会からの借款によって支えられている面が大きい模様だ。
停戦後に試される欧米の本気度
ロシアとの戦争は依然として続いているが、ウクライナ経済はロシア以上に本格的な戦時経済と化しており、ウクライナ財政は欧米を中心とする国際社会による金融支援に依存している。戦争が長期化すればするほど、こうした構図がさらに強まり、ウクライナの戦後復興は困難になる。
ここで問われてくるのは欧米の本気度である。まず、ウクライナに対して実施してきた金融支援を実質的に放棄する用意があるかどうかが問われるだろう。日本もウクライナに有償資金協力を実施しているが、支払能力が低下しきった戦後のウクライナに、その返済を求めることは現実として難しい。
そうすると、いわゆる債務再編(支払期限の延長や元本金額の削減、利率の引き下げなど)といった救済措置が必須となる。とりわけ返済そのものを免除する債務救済措置を実施する場合、貸し手側である欧米の有権者が反発する事態も十分に考えられる。そうした反発を制するだけの覚悟が問われるわけだ。
そればかりではない。ウクライナの戦後復興に当たっては、多くの人的・物的・金銭的な支援が必要となる。経緯上、その主な担い手になるのはEUだが、そのEUがウクライナの戦後復興コストをどの程度まで担う意思があるのかは定かではない。そしてそうしたコストは、戦争が長期化すればするほど、雪だるま式に増えていく。
ゼレンスキー大統領が習近平国家主席と会談する理由
確かに、欧米を中心とする国際社会が支援を続ける限り、ウクライナの財政は持続可能であり、戦争も継続が可能である。言い換えれば、欧米を中心とする国際社会の支援がなければ、ウクライナの財政は直ぐに立ち行かなくなり、戦争の継続も困難となる。そして、戦争を続ける限り、ウクライナの戦後復興に伴うコストは膨らみ続ける。
こうした展開はウクライナのみならず、支援をする欧米を中心とする国際社会にとっても望ましいものではない。
ゼレンスキー大統領は停戦に向けた仲裁案を提示した中国の習近平国家主席と会談を計画していると発言したが、このことも、ウクライナ自身が、戦争の継続を前提とした経済運営に限界を感じていることの証左かもしれない。
●“ウクライナに近く戦闘機を供与” ポーランド大統領 表明  3/17
ポーランドのドゥダ大統領は、ロシアの侵攻を受けるウクライナへ旧ソビエト製の戦闘機を近く供与すると表明しました。欧米メディアは、実現すればNATO=北大西洋条約機構の加盟国として初めての戦闘機の供与になると伝えています。
ポーランドは旧ソビエト製のミグ29戦闘機をウクライナに供与する意向を示してきましたが、ドゥダ大統領は16日、首都ワルシャワで行った記者会見で「今後、数日中に4機の戦闘機を引き渡す」と述べ近く4機のミグ29を供与すると表明しました。
欧米メディアは実現すればNATO加盟国として初めての戦闘機の供与になると伝えています。
またドゥダ大統領は4機以上を供与する可能性も示唆しました。
ウクライナと国境を接するポーランドはウクライナへの軍事支援を積極的に進めていて、先に供与が決まったドイツ製戦車「レオパルト2」もいち早く自国が保有する戦車を供与すると表明し、ドイツなどが続く形となりました。
ミグ29を巡っては、同じくウクライナの隣国のスロバキアも供与に前向きな姿勢を示しています。
一方、主要な支援国のアメリカはウクライナ側が求めているF16戦闘機の供与について慎重な姿勢を示しています。
●ウクライナ東部バフムトでロシア軍「多大な犠牲」 米軍制服組トップが指摘 3/17
激しい戦闘が続くウクライナ東部の要衝バフムトについて、アメリカ軍の制服組トップは、ロシア軍が「多くの犠牲を払っている」との見方を示しました。
アメリカ軍のミリー統合参謀本部議長は15日、バフムトで続いている戦闘について、ロシア軍は「小さな戦術的進歩を遂げている」としながらも「多くの犠牲を払っている」と明らかにしました。
また、アメリカのシンクタンク戦争研究所はロシアのバフムト周辺での攻撃数は「著しく減少している」としたうえで、兵力や弾薬などの装備が不足している可能性を指摘しています。
こうしたなか、ウクライナ軍は15日、ロシア軍の戦闘機を地上から撃墜したとする映像を公開しました。
炎と黒煙が立ち上った後、パラシュートが降りてくる様子が確認できます。
ウクライナの親ロシア派支配地域「ドネツク人民共和国」の指導者は、ウクライナ軍が撤退する兆候はなく「状況は依然として困難だ」としていて、今後も戦況は膠着(こうちゃく)状態が続くとみられます。
●ロシアの侵略を認め「道徳的優位」を失う南ア 3/17
英フィナンシャル・タイムズ紙アフリカ担当編集者のピリングが2月23日付け同紙の論説で‘South Africa’s Russia stance show sit haslost the moral high ground’、南アフリカは最近の対ロシア傾斜等により高い道徳的優位を失った、これまでの倫理的非同盟外交から「力は正義なり」に転換してしまった、と述べている。主要点は次の通り。
外交について、南アフリカは道徳大国だった。1994年のアパルトヘイト終焉の直前、マンデラ大統領(当時)は人権や民主主義、正義、国際法の推進等の道徳的、非同盟の外交原則を定め、同国は世界の善意を手に入れた。与党・アフリカ民族会議(ANC)はアパルトヘイト政権を倒し、「虹の国(注:全民族を包含する国の意)」の建設を決意した。
しかし、それも今は昔だ。南アフリカは、ロシア、中国と合同海軍演習を行っている。南アフリカは、ウクライナ戦争の責任は北大西洋条約機構(NATO)拡大で過度にロシアを追い込んだ米欧側にあり、ウクライナは対ロ代理戦争をしている、との見解の擁護者になった。
南アフリカの立場は段々とロシア寄りになった。ロシアがウクライナ侵略を始めた時、南アフリカのパンドール外相はロシアの即時撤退を要求、全ての国の「主権と領土保全」が尊重されねばならないと強調した。
その主張は変わった。その後、南アフリカは西側に対し、プーチンを追い込むなと警告する。1月、パンドールはロシアのラブロフ外相を温かく迎え、ロシア軍撤退要求は「短絡的で子供じみている」と述べた。南アフリカは、人権や非同盟の尊重ではなく、「力は正義なり」になっている。「交渉による和平」要求は、ロシアの侵略に見返りを与えることに等しい。
南アフリカは、BRICSの一員になった時、西側に対抗する大国体制の一部を占めるビッグ・プレーヤーになったと感じ始めた。
2015年、南アフリカは、国際刑事裁判所(ICC)により指名手配されていたスーダンの独裁者バシールのヨハネスブルグ首脳会議への参加を許した。ICCによる同氏の出国阻止命令も無視した。
与党ANCの最近の排外的傾向は、アパルトヘイト闘争を支援してくれたアフリカ諸国に対する南アフリカの道義的権威を傷つけている。ANCは、反移民感情を鼓舞さえしている。最近の南アフリカにアフリカのリーダーシップを求める国は少なくなっている。
南アフリカは外交において、理想主義と国益確保との間で、どっちつかずのリスクを冒している。対露傾斜は、アパルトヘイト時代のソ連からの支援の記憶に動機があるが、その政策は独裁者擁護になっている。それは、ロシアがウクライナ戦争に勝たない限り、実利的とも言えない。今や南アフリカの高い道徳的優位はなくなっている。
最近の南アフリカ外交は、奇異で、不可解だ。ウクライナ戦争に係る国連決議には、一貫して棄権している(2月23日のロシア軍の「即時、完全かつ無条件の撤退」等を求める決議案にも棄権)。中国との関係も一層緊密化している。特に注目されるのは、1月のラブロフ外相の南アフリカ訪問と2月17〜27日の南アフリカ・中露海軍合同演習である。ラブロフとパンドールが満面の笑みで握手する写真は、不可解であり、不吉でさえある。
ピリングは、南アフリカは対露傾斜によりかつての「高い道徳的優位を失った」と厳しく批判する。それは当たっている。侵略という基本的問題に対する曖昧な判断は、致命的だ。マンデラの高い道徳的な価値に基づく外交を取戻すことが望まれる。
日本を含め西側は、南アフリカとの関係を一層強化する必要がある。ブリンケン米国務長官は2022年8月に南アフリカを訪問、同年9月南アフリカのラマポーザ大統領は訪米しバイデン米大統領と会談した。「良い」政治エリート達との関係を推進するとともに、一般国民との関係強化が重要である。今の南アフリカのエリートは玉石混淆だ。
ラマポーザが、今年7月26〜29日開催予定の第二回ロシア・アフリカ首脳・経済会議に出席するかどうかが注目されている。南アフリカを訪問したラブロフが、ラマポーザの参加を求めたことは想像に難くない。
対露・対中傾斜の背景にANCの歴史も?
なぜ南アフリカは対露、対中傾斜を強めるのか。理由として、1反アパルトヘイト闘争支援の恩義、2貿易・経済・資金援助への期待、3西側のやり方への一般的な反感、4BRICSの連帯等が挙げられる。BRICSを通じる有形、無形の圧力はあるかもしれない。それでもウクライナに関する南アフリカの当初の立場が、何故ロシア傾斜に変わったのかなどは分からない。
2月19日付の英エコノミスト誌記事(「なぜ南アフリカは中ロ軌道に漂流するのか」)は、ANCのエリートには親ロシア派が沢山いるとの、ひとつの説得的な分析を示している。アパルトヘイト闘争時代の支援を通じた人間関係が、同国のエリート達の隙間に入り込んでいたとしても不思議ではない。
アパルトヘイト闘争の武器を供給したのは、ソ連、中国、北朝鮮などであった。ANCの幹部はこれらの国に渡って訓練を受けた。ANCの実力部隊は後年に南アフリカ軍に吸収された。こうした経緯もある。
●拷問、強姦…露当局の戦争犯罪認定 国連人権理事会調査委 3/17
ロシアが侵攻したウクライナでの人権侵害状況を調査する国連人権理事会(本部・ジュネーブ)の調査委員会が16日、報告書を公表した。露当局が、拷問や強姦、子供の連れ去りなどをウクライナの多くの地域やロシア国内で行ったと指摘。その行為の多くが「戦争犯罪に相当する」と認定した。
報告書は、ウクライナ国内の現地調査や500人以上の男女の証言などに基づいて作成された。報告書は来週、人権理に提出され、質疑が予定されている。
報告書は、露当局がウクライナの民間人や軍人らに対して、激しい殴打や電気ショックを与えるなどの拷問を行ったと指摘。露当局に拘束されたウクライナ人が「ウクライナ語を話したことに対する罰」として拷問を受けた例もあげた。
報告書は、ロシアによる拷問は「組織的かつ(ウクライナの)広範囲」で行われたとした。露軍の兵士がウクライナの民間人の家に押し入り、強姦を行った事例も紹介。家族が兵士らにレイプされる様子を見ることを強いられた民間人もいたという。
また、報告書は、昨年10月以降にロシアがウクライナのエネルギー施設を標的に繰り返してきた攻撃について、拷問などとともに「人道に対する罪」に相当する可能性があるとの見解を示した。
ロイター通信によると、調査委のエリック・モーゼ委員長は16日、「(ウクライナ侵攻は)さまざまなレベルで壊滅的な影響を及ぼしている」と分析。ウクライナの民間人の命が「軽視されていることは衝撃的だ」と危機感を示した。
調査委は昨年9月にも活動経過を報告し「ウクライナで戦争犯罪が起きたとの結論に達した」と指摘していた。
●膠着状態続くバフムート戦線 泥濘期で前線一帯は泥沼状態 3/17
ウクライナ軍は3月16日、同国東部ドネツク州のバフムート周辺で前線を維持する第1突撃大隊の義勇兵の映像を公開した。
前線に向かう装甲車が通る道路は雪解けでぬかるんでおり、両側に並ぶ民家はどれも砲爆撃で破壊されている。最前線で構築された陣地や塹壕も雪解け水が溜まったままだ。
AP通信は当該映像の撮影日時と場所を確認できていない。
第1突撃大隊は、ウクライナ軍内の義勇兵部隊で、2022年の本格的な侵攻時に誕生した。
バフムートを巡る戦いは、ロシアの民間軍事会社「ワグネルグループ」の部隊が街の東部を占領した結果、バフムートカ川が最前線となっている。 
川の東側に加えて、南北の幹線道路をロシア軍に押さえられているウクライナ軍にとって、バフムートの中心部に続く唯一の主要補給路は西側だが、ここもロシア軍火砲の射程に入るため、泥地が乾くまでは田舎道に頼らざるを得ない状況だ。 
●第2のウクライナか?プーチン氏が次に狙う“東欧の小国”モルドバの緊張 3/17
東部の激戦、南部の膠着、全土への空からの攻撃…。ウクライナ戦争の状況が日々伝えられる中、ウクライナの隣国で異変が起きている。モルドバだ。この国で今、野党支持者たちによる大規模なデモが頻発している。そして、その裏にどうやらロシアがいるらしい…。戦争の陰で始まった小国の緊張を読み解く。
「ロシアの破壊工作員が民間人を装って」「野党による抗議活動を装った暴力行為によって政権交代を…」
ウクライナの南西に位置するモルドバ共和国。九州よりもやや小さく、然したる産業もない東欧の中でも貧しい国だ。憲法には中立主義が謳われているが、ロシアによるウクライナ侵攻後、EU加盟を申請。2022年6月、EU加盟候補国に認定された。
そのモルドバが大きく揺れるきっかけは、ゼレンスキー大統領のスピーチだった。
ゼレンスキー大統領(2月9日 EU首脳会議での発言から)「我々の諜報部が入手した情報をモルドバのサンドゥ大統領に伝えた。だれが、いつ、どうやってモルドバを崩壊させようとするのかを示すロシアの文書だ」
それはモルドバの“政権転覆計画”だった。この情報を伝えられたモルドバの大統領は、文書にあった計画の内容を公表した。
マイア・サンドゥ大統領「ロシアが我が国の領土で破壊的な行動を取る計画は新しいことではない。去年秋にも国家を揺るがす試みがあった。このシナリオを阻止するために、私は全ての国家機関に最大限の警戒を呼び掛ける。クレムリンの試みは成功しない」「近い将来、訓練されたロシアの破壊工作員が民間人を装ってモルドバに侵入し、暴力行為、政府の建物への攻撃などを行うことを計画している。いわゆる野党による抗議活動を装った暴力行為によって政権交代を強行しようとするだろう…」
その後実際に大規模なデモが起こった。デモを先導する野党党首は拡声器で叫ぶ…。
「マイア・サンドゥやめろ!」「政府はモルドバ国民の声を聞かない!」
デモに集まった親ロシア派の民衆は、親欧米派のサンドゥ大統領の退陣を要求。こうしたデモは現在までに度々起きている。
「モルドバがプーチン大統領の想定以上にロシア離れを…」
モルドバのデモは本当にロシアが画策したものなのだろうか。“政権転覆計画”は事実なのだろうか。もしも事実なら、ロシアは何を目指しているのだろうか?
筑波大学 東野篤子 教授「2022年の12月には、モルドバの情報局のトップが『ロシアはモルドバに対する侵略の可能性を捨てていないだろうし、その場合にはロシアの支配地域であるトランスニストリアをクリミアまでの回廊にする恐れがある』と言った。これはドキリとする発言だったんですけれど、首相府も認めているので、急に出てきた話ではない」「ロシアのショイグ国防相も『トランスニストリアを取ればロシアにとってボーナスになる』とプーチン大統領に持ち掛けたという話もあるので、トランスニストリアを含めたモルドバという地域が常に攪乱の対象であることは間違いない」
東野教授が言うトランスニストリアとは、モルドバの東部、ウクライナとの国境に隣接する地域で、親ロシア派の住民が多い。未承認ではあるが事実上の独立国家として『沿ドニエストル共和国』とも呼ばれる。
実はプーチン大統領は沿ドニエストルの一部主権をモルドバに認める大統領令に署名していたが、2月21日これを破棄している。ロシアとモルドバを語る時、この沿ドニエストル(トランスニストリア)抜きには語れない。
朝日新聞 駒木明義 論説委員「モルドバにはドドンという、とても親ロ派の大統領がいた。ところが2020年、彼が負けてサンドゥという非常にEU志向の強い大統領が誕生した。これがまずプーチン大統領は気に入らない。それから沿ドニエストル。ここにロシア軍が駐留しているんですが、空港が機能していないのでモルドバ政府の承認がないと移動できない。この状況を何とかしたい。さらに去年EU加盟を表明して加盟候補国になった。これもプーチン大統領は…」
つまり、現在のモルドバはプーチン氏の気に入らないことだらけなのだ。因みに失脚した親ロシア派のドドン前大統領は2022年5月に国家反逆や汚職の罪で逮捕されている。それにしてもなぜ今、モルドバなのか?
朝日新聞 駒木明義 論説委員「ウクライナ侵攻を機にモルドバがプーチン大統領の想定以上にロシア離れを進めてしまった。例えば国連のロシア非難決議、これにモルドバは賛成している。旧ソ連圏の中ではバルト3国以外では珍しい。それからNATO加盟国ではないので手を出しやすい。そして、やはりトランスニストリア地域を押さえるためには、いま手を付けないと間に合わない。サンドゥ大統領の下、どんどんEU寄りになってしまうという焦りがあるのではないか」
「ロシアによって武器や弾薬が密輸され、他の紛争地域や世界の様々な場所で使用されている」
ロシア系住民が3割〜4割を占める沿ドニエストル共和国(トランスニストリア地域)北部の町コバスナ。ここをめぐって今、ロシアが情報戦を仕掛けているようだ。
ロシア国防省は「ウクライナが沿ドニエストル共和国に侵攻する計画がある」と発表した。実はコバスナには、旧ソ連が設けた東欧最大級の武器弾薬庫がある。これを狙ってウクライナが侵攻してくるとロシアは主張している。
だが、この弾薬庫について番組では興味深い証言を得た。
モルドバ元外務次官 イウリアン・グロザ氏「(コバスナの弾薬庫に)現段階で何が残っているのか正確にはわかっていません。というのも、何年も前からロシアによって武器や弾薬がこの地域から密輸され他の紛争地域や世界の様々な場所で使用されているのを見聞きしてきたからです」
証言が正しければ、ロシアはコバスナの弾薬庫にもう大したものは残っていないことを知りながら、ウクライナがそれを狙って攻めてくると情報を流している。そして、『沿ドニエストルを守る』という名目で、モルドバに侵攻するかもしれない。
これはウクライナ侵攻と全く同じ手口だ。
元陸上自衛隊の渡部氏は、そもそも弾薬庫は中身の有無ではなく、ロシアが軍を駐留させるための口実に過ぎないという。
元陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏「この弾薬庫をウクライナが狙っているというのは、明らかにロシア一流の偽旗作戦だと私は思っています。これまでの情報から見ると、ロシアはモルドバに対しハイブリット戦を仕掛けている最中。非軍事的手段でもってモルドバ全体を占領できるのであれば、どこに効果があるのかと言えば、実はウクライナに対して西側から脅威を与えることができる。(中略)ウクライナに対して360度から脅威を与えられるという価値がある」
偽旗作戦という見方は東野教授も同様だ。
筑波大学 東野篤子 教授「(ロシアが)“ウクライナが狙っている”と言った地域は、ロシアが狙っている地域だと思います。(中略)ただ、ロシアがウクライナから守ると言って沿ドニエストルに飛んで来て攻撃をするということ自体は実現の可能性があるのかどうか…。ヨーロッパでも議論の2分するところです。でも、ここまで度々言及されるということ自体、警戒しておくべきだと…」
どうやら実際に攻める攻めないは別として、“ロシア離れを進める国は、とりあえず掻き回しておこう”というのが“プーチン式”のようだ。
●スロバキア、ウクライナにミグ29戦闘機13機供与へ ロシア反発 3/17
スロバキアのエドゥアルド・ヘゲル首相は17日、戦闘機「ミグ29(MiG29)」13機をウクライナに供与すると発表した。北大西洋条約機構(NATO)加盟国としてはポーランドに次ぐ2国目の戦闘機供与発表となった。
ヘゲル氏は報道陣に対し、「われわれが保有するミグ29のうち13機をウクライナに譲渡する」と話した。さらに、スロバキア政府は防空システム「クープ(Kub)」も提供すると明らかにした。
ロシア政府は同日、ポーランドとスロバキアがウクライナに供与する戦闘機は破壊されるだろうと言明。西側諸国による兵器供与は、ロシアの軍事目標を左右しないと強調した。
ドミトリー・ペスコフ大統領府報道官は記者会見で「今回の軍事装備提供は、これまでも繰り返したように、特別軍事作戦の結果を変えることはない。もちろん、これらの装備は全て破壊される」と述べた。

 

●プーチン大統領らに逮捕状、ウクライナ侵攻めぐる戦争犯罪容疑 3/18
オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)は17日、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領らに逮捕状を出した。
ICCは、ロシアが占領したウクライナの地域から子どもたちをロシアへと不法に移送しており、プーチン氏にこうした戦争犯罪の責任があるとしている。
また、ロシアが全面的な侵攻を開始した2022年2月24日から、ウクライナで犯罪が行われていると指摘している。
ICCは声明で、プーチン氏が直接、また他者と連携して犯罪行為を行ったと信じるに足る合理的な根拠があると説明。また、プーチン氏が大統領権限を行使して子どもたちの強制移送を止めなかったことを非難した。
ロシア政府は、戦争犯罪疑惑を否定し、逮捕状は「言語道断」だとしている。
ICCには容疑者を逮捕する権限はなく、ICC加盟国内でしか管轄権を行使できない。ロシアは非加盟国のため、この動きが何か大きな影響をもたらす可能性は極めて低い。
しかし、海外への渡航ができなくなるなど、プーチン氏に何らかの影響を与える可能性はある。
ICCは当初、プーチン氏らに対する逮捕状を非公開にすることを検討していたが、これ以上の犯罪を阻止するために公開を決めたと説明した。
ICCのカリム・カーン検察官はBBCに対し、「子どもたちを戦争の戦利品として扱うことは許されず、子どもたちを国外へ移送することを許されない」と語った。
「この種の犯罪がどれほど悪質なものか、弁護士でなくても理解できる。人間なら、どれほど悪質なものか理解できる」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「国家による悪」を追及すると決定したカーン検察官とICCに感謝していると述べた。
同国のアンドリイ・コスティン検事総長は、「ウクライナにとって歴史的」な決定だとした。アンドリー・イェルマク首席補佐官は「まだ始まったばかりだ」と称賛した。
アメリカのジョー・バイデン大統領は、逮捕状は「正当だと思う」と述べた。アメリカはICCに加盟していないが、ICCは「非常に強力な主張をしていると思う」、プーチン氏が「戦争犯罪を犯しているのは明らかなので」と述べた。
連れ去った子どもを洗脳か
ロシアで子どもの権利を担当するマリア・リボワ・ベロワ大統領全権代表にも、戦争犯罪容疑で逮捕状が出された。
リボワ・ベロワ氏は過去に、ロシアに連行されたウクライナの子どもたちを洗脳する取り組みについて公然と語っていた。
昨年9月には、ロシア軍に占領されたウクライナ南東部マリウポリから、「(ロシア大統領の)悪口を言い、ひどいことを言い、ウクライナ国歌を歌った」一部の子どもたちを排除したと主張した。
また自分自身が、マリウポリ出身の15歳の少年を養子にしたと主張している。
ロシアの反応
逮捕状が出されてから数分後、ロシア政府は即座に戦争犯罪疑惑を否定した。
ロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官はICCの決定はいずれも「無効」だと主張。ドミトリー・メドヴェージェフ前大統領は、逮捕状をトイレットペーパーに例えた。
メドヴェージェフ氏は、「この紙をどこで使うべきかなんて、説明する必要もない」と、トイレットペーパーの絵文字付きでツイートした。
一方で、ロシアの野党指導者たちはICCの発表を歓迎した。刑務所に収監されているアレクセイ・ナワリヌイ氏の側近イワン・ジダーノフ氏は、「象徴的な一歩」だが、重要な一歩でもあるとツイートした。
プーチン氏が裁かれる可能性は
ICCの逮捕状は、プーチン氏を逮捕するための非常に長いプロセスの最初の一歩に過ぎない。
ロシアはICC加盟国ではない。そのため、プーチン氏やリボワ・ベロワ氏がオランダ・ハーグで出廷する可能性は極めて低い。
ロシア国内で揺るぎない権力を享受しているプーチン氏を、ロシア政府がICCに引き渡す見込みもない。
つまり、プーチン氏がロシアにとどまる限り、逮捕のリスクはないということになる。
国際的な制裁により、プーチン氏の移動の自由がすでに大きく制限されていることを考慮すると、同氏を裁判にかけようとする国に自ら現れることはまずないだろう。
2022年2月にウクライナに侵攻して以降、プーチン氏が訪れた国はわずか8カ国。そのうち7カ国は、同氏が「旧ソ連諸国」とみなす国だった。
「旧ソ連諸国」ではない訪問先は、昨年7月に訪れたイランだった。プーチン氏はイランの最高指導者アリ・ハメネイ師と会談した。
イランは無人偵察機などの軍用装備品をロシアに提供し、ウクライナ侵攻を支援していることから、同国を再び訪問したとしてもプーチン氏に危険が及ぶことはないだろう。
プーチン氏を裁くには少なくとも2つの大きな障害がある。
ICCの設置法「ローマ規程」は、国際犯罪の責任を負う者に対して自国の刑事裁判権を行使することが、すべての国の義務だと定めている。ICCが介入できるのは、国家が捜査や加害者の訴追を行えない、あるいは行おうとしない場合に限定される。
ローマ規程は現在、123カ国が批准しているが、ロシアは含まれない。ウクライナなど、署名はしているが批准していない国もあり、ICCの法的地位がすでに揺らいでいることがわかる。
もう1つの障害は、ICCが容疑者不在の欠席裁判を認めていないことだ。
ウクライナでの戦争にとって何を意味するのか
ICCの逮捕状は、ウクライナで起きていることは国際法違反だという、国際社会からのシグナルだと捉えられている。
同様の犯罪が現在も続いていること、そしてさらなる犯罪の発生を抑止することを理由に、今回の発表に踏み切ったと、ICCは説明している。
しかしロシアは今のところ、逮捕状は無意味だと一蹴している。ロシア政府はそれどころか、自軍による残虐行為はないとの主張を変えていない。
●国際刑事裁判所 プーチン大統領に逮捕状 ウクライナ情勢めぐり  3/18
オランダ・ハーグにあるICC=国際刑事裁判所は、ウクライナ情勢をめぐり、ロシアが占領したウクライナの地域から子どもたちを移送したことが国際法上の戦争犯罪にあたるとして、ロシアのプーチン大統領などに逮捕状を出したと明らかにしました。これについてウクライナ側が歓迎する一方、ロシア側は強く反発しています。
ウクライナで行われたとみられる戦争犯罪などについて捜査してきた国際刑事裁判所は17日、ロシアのプーチン大統領と子どもの権利などを担当するマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表について、戦争犯罪の疑いで逮捕状を出したことを明らかにしました。
ロシアが占領したウクライナの地域からは多くの子どもたちがロシア側に移送されていて、裁判所はこれが国際法上の戦争犯罪にあたり、プーチン大統領に責任があると信ずるに足る十分な根拠があるとしています。
国際刑事裁判所は、日本を含む123の国と地域が参加しているものの、ロシアやアメリカ、中国などは管轄権を認めていないことから、プーチン大統領が実際に逮捕される可能性は極めて低いとみられます。
国際刑事裁判所 検察官 “ロシアでは大統領令で養子促進”
国際刑事裁判所のカーン主任検察官は声明を出し、これまでの捜査から少なくとも何百人もの子どもがウクライナの児童養護施設などから連れ去られ、多くはロシアで養子に出されたとみられるとしています。
ロシアではプーチン大統領が出した大統領令によって、ロシア国籍の付与を促進するよう法律が改正され、こうした子どもたちをロシア人の家庭が養子にしやすくなっているということです。
カーン主任検察官は「こうした行為は、子どもたちをウクライナから永久に連れ去ろうとする意思を示している」としています。
ロシア大統領府「言語道断で容認できない」
ロシア大統領府のペスコフ報道官は17日、ICC=国際刑事裁判所の決定について、ロシアメディアに対して「言語道断で容認できない。この種のいかなる決定も法律上の観点からロシアでは無効だ」と述べ、非難しました。
また、ロシア外務省のザハロワ報道官も「ロシアはICCに加盟しておらず、何の義務も負っていない。法的に無効だ。何の意味もない」とSNSに投稿し、反発しました。
ロシア「連れ去りではなく保護」と主張
ウクライナから大勢の子どもがロシアに連れ去られているとする問題でロシアのプーチン政権は、戦地の孤児らを保護するためだと主張し、連れ去りを否定しています。
ウクライナ東部のロシア系住民の保護を名目に軍事侵攻に踏み切ったプーチン政権は、子どもたちを戦闘地域から避難させるのは当然だと正当化し、ウクライナの子どもをロシア人の養子にする取り組みを進めているほか、政権の主張に沿った愛国教育を行っています。
プーチン大統領はこれらの取り組みを後押しするため、去年5月、大統領令に署名し、ウクライナの孤児がロシア国籍を取得したり、ウクライナ国籍の子どもを養子にしたりする手続きを簡素化しています。
こうした政策を中心になって進めてきたのが、子どもの権利などを担当する大統領全権代表のマリヤ・リボワベロワ氏です。
先月、プーチン大統領と面会した際にも、何千人もの子どもをウクライナからロシアに移動させ、各地で養子縁組を進めていると報告していました。
また、ロシア人の養子になったウクライナの子どもたちの写真をSNSに頻繁に掲載し、プーチン政権の方針を正当化しています。
これに対して欧米各国や日本は、子どもたちの連れ去りに関する責任者だとして、資産凍結の対象にするなどの制裁を科しています。
ゼレンスキー大統領「国家的悪事だ」
ICC=国際刑事裁判所の決定について、ウクライナ政府からは歓迎するコメントが次々に発表されています。
ゼレンスキー大統領はSNS上に公開したビデオメッセージで、「歴史的な決断だ。テロ国家の指導者が公式に戦争犯罪の容疑者となった」と述べ、歓迎しました。
この中でゼレンスキー大統領は、何千人もの子どもをロシア側に違法に連れ去る行為は国のトップの命令がなければ行えないと述べ、「子どもたちを家族から引き離し、ロシアの領土内に隠す行為は、明らかにロシアの国策であり、国家的悪事だ」として、プーチン大統領の責任を厳しく追及していく姿勢を強調しています。
また、シュミハリ首相もSNSに、「プーチン大統領に逮捕状が出されたことは正義に向けた重要な一歩だ。この犯罪やその他の侵略の犯罪に責任があるのはプーチン大統領だ。テロ国家の指導者は法廷に出てウクライナに対して犯したすべての犯罪について述べなければなない」と投稿しました。
ウクライナ大統領府のイエルマク長官もSNSで「これは始まりにすぎない」とコメントしました。
そのうえで、「ウクライナではロシアによる子どもの強制的な連れ去りが、1万6000件以上確認され、捜査が進められている。実際の人数はこの何倍にもなるかもしれない」と記し、子どもの帰還に向けた取り組みを進めていると強調しています。
ウクライナのコスティン検事総長もSNSに、「逮捕状が出されたということは、プーチン大統領は、ロシア国外では逮捕され裁判にかけられるべき人物となったことを意味する。世界の国々の指導者は、プーチン大統領と握手をしたり、交渉したりすることをためらうようになるだろう。これはウクライナと、国際法の秩序全体にとって歴史的な決断だ」と書き込み、逮捕状が出されたことを歓迎しました。
ウクライナ「1万6000人以上の子どもが連れ去られた」
ウクライナの司法当局は軍事侵攻が始まって以降、東部のドネツク州、ルハンシク州、ハルキウ州、それに南部ヘルソン州であわせて1万6000人以上の子どもがロシアによって連れ去られたことが確認されたとして、捜査を進めています。
ウクライナ政府は、ウクライナに連れ戻すことができたのは300人ほどだとしていて全員の帰還に向け、情報収集などにあたっています。
ウクライナのコスティン検事総長は、17日、「ロシアは子どもたちを連れ去ることでウクライナの未来を奪おうとしている」とSNSに投稿し、プーチン政権は、連れ去った子どもたちにロシア国籍を取得させたりしていわゆるロシア化を進め、国家としてのウクライナを破壊しようとしていると非難しています。
その上でウクライナ側がまとめた1000ページ以上にのぼる証拠資料を国際刑事裁判所に提出していることを明らかにしました。
国際刑事裁判所 元裁判官「執行は非常に難しい」
国際刑事裁判所の元裁判官で、中央大学の尾崎久仁子特任教授は「ロシアが身柄を引き渡すとは思えないので逮捕状を執行することは非常に難しい。第3国に出国したタイミングも想定されるが逮捕されるような国に出国するとは思えないので当分の間、身柄をおさえるのは現実的ではないと思う」と述べました。
その上で、「あえて逮捕状を出したと公表したのは子どもの連れ去りがいまも引き続き行われているので、こうした犯罪が繰り返されることを阻止するとともに、ほかの非人道的な行為を抑止する狙いもある」と指摘しました。
そして「ロシアという国連安保理の常任理事国である大国の現職の大統領がこういった犯罪で逮捕状を請求され、正式に被疑者になることが国際社会に与える影響は大きい。いままでロシアに対して中間的な対応をとってきた国々に一定のインパクトを与えるだろう」と述べました。
また、国際刑事裁判所がこれまでロシアによるウクライナでの住民の虐殺なども捜査してきた中、ロシアが占領したウクライナの地域から子どもたちを移送したことが戦争犯罪にあたるとして逮捕状を出したことについては、「プーチン大統領自身が大統領令を出してウクライナの子どもにロシア国籍の付与を促進するよう法改正を行っているという直接的な結びつきを示す証拠が得やすいことがあるのだろう」と指摘しました。
国際刑事裁判所とは
オランダ・ハーグにあるICC=国際刑事裁判所は、世界各地の戦争や民族紛争などで非人道的な行為を行った個人を訴追して裁くための裁判所です。
管轄する犯罪は、民族などの集団に破壊する意図を持って危害を加える「集団殺害犯罪」いわゆる「ジェノサイド」や、一般市民への組織的な殺人や拷問などの「人道に対する犯罪」、戦場での民間人の保護や捕虜の扱いなどを定めた国際人道法に違反する「戦争犯罪」など、国際社会でもっとも重大な犯罪です。
戦争に関する国際裁判は当初、第2次世界大戦後の「東京裁判」や「ニュルンベルク裁判」などのように、特定の戦争や紛争を対象にしたものしかありませんでしたが、冷戦終結後、旧ユーゴスラビアやアフリカのルワンダでの集団虐殺などをきっかけに、常設の裁判所の設置を求める声が高まり、2003年、国際刑事裁判所が設立されました。
現在、国際刑事裁判所には、日本など123の国と地域が参加しているものの、ロシアやアメリカ、中国などは管轄権を認めていません。
ウクライナへの軍事侵攻をめぐって、国際刑事裁判所は、去年3月、ウクライナ国内で行われた疑いのある「戦争犯罪」や「人道に対する犯罪」などについて捜査を始めると発表し、現地に主任検察官を派遣するなどして調べを進めてきました。
米バイデン大統領「強い説得力ある」
アメリカのバイデン大統領は、17日、記者団に対しアメリカはICCの管轄権を認めていないものの「正当だ。強い説得力がある」と述べました。
そのうえで「彼が戦争犯罪を行っているのは明白だ」とあらためてプーチン大統領を非難しました。
EU ボレル上級代表「責任追及のプロセスの始まりだ」
EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表は、ツイッターに「責任追及のプロセスの始まりだ。われわれはICCの取り組みを評価し支援する」と投稿しました。
米調査グループ「極めて重要な一歩」
アメリカ国務省の支援を受けて、ロシアが占領したウクライナの地域から子どもをロシア側に移送している問題などを調査しているアメリカのイェール大学公衆衛生大学院のナサニエル・レイモンドさんはNHKの取材に対し、「ウクライナの人々の正義を実現するため、そして、国際条約などで、子どもの違法な移送が禁じられていることを示すための極めて重要な一歩だ」と評価しました。
また、逮捕状についてロシア政府が「何の意味もない」などと主張していることについては、「その考えは間違っている。この逮捕状は、ロシアの行動をまだ非難していない国々に対しても制裁を含む措置をとるよう呼びかけるものだ」と述べました。
そのうえで、「国際社会は協力して、ロシア政府がこの逮捕状に応じ、プーチン氏を国際的な法執行機関に引き渡すようできる限りの圧力をかける必要がある。それはあすや来年には実現しないかもしれないが、われわれは国際社会として、強い決意で、決して信念を失ってはならない」と述べ、プーチン大統領の責任を追及し続けるべきだとの考えを示しました。
●ロシア、プーチン氏逮捕状に「無意味」と猛反発 国家への攻撃とみなす 3/18
ウクライナの子供をロシアに強制連行したとする戦争犯罪の疑いで国際刑事裁判所(ICC)がロシアのプーチン大統領に逮捕状を出したことに、ロシアは大反発した。ロシアはICC非加盟国で、身柄引き渡しなどの義務は負っていないものの、プーチン氏がICC加盟国への外遊に慎重にならざるを得なくなる事態や、自国の威信失墜を危惧しているとみられる。一方、ロシアの責任追及を訴えてきたウクライナはICCの決定を歓迎した。
プーチン氏への逮捕状発行について、ペスコフ露大統領報道官は17日、「言語道断で容認できない」と指摘。「ロシアは他の多くの国と同様、ICCの法的権限を承認しておらず、ロシアにとってICCのいかなる決定も意味をなさない」と主張した。露外務省のザハロワ報道官も、ICCの決定は「法的に無効で、ロシアはその義務を負わない」と指摘。ロシアはウクライナの子供を「救済」しているとも主張した。
ボロジン露下院議長は「プーチン氏への攻撃はロシアへの攻撃とみなす」と主張。露国営メディア「RT」トップのシモニャン氏も「プーチン氏を逮捕する国を見てみたいものだ。その国の首都までの飛行時間はどれくらいだろうか」とミサイル攻撃を示唆した。
同じく逮捕状を発行された子供の権利問題担当の露大統領全権代表、マリヤ・リボワベロワ氏は17日、「ロシアへの威嚇だ」と述べた。露国営テレビでの発言をタス通信が伝えた。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は17日、ICCの決定を「歴史的だ」と歓迎。コスチン検事総長は「プーチン氏は国外に出れば拘束され、法廷に引き渡される。各国の指導者は彼との握手や会談を熟慮するだろう」と指摘した。クレバ外相も「正義の歯車が回っている」と評価した。
イエルマーク大統領府長官は「ロシアによる子供の連行は1万6000件以上が記録され、実数はさらに多い可能性がある」と指摘。「これまでに返還されたのは308人に過ぎない」とし、今後も返還に向けた作業を続けると表明した。
●米欧、プーチン氏逮捕状を評価 「戦争犯罪は明白」―バイデン氏 3/18
米欧やウクライナからは17日、国際刑事裁判所(ICC)がロシアのプーチン大統領に逮捕状を出したことを高く評価する声が上がった。バイデン米大統領は「明らかに戦争犯罪を犯している」とプーチン氏を非難し、逮捕状は「正当だと思う」と語った。
米国はICCに加盟していない。ホワイトハウスで記者団の取材に応じたバイデン氏はこの事実を認めつつ、「(ICCは)大変断固とした主張を展開している」と評価した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は国民向け演説で、子供の連れ去りは「国家の悪だ」と断じ、ICCへの謝意を示した。クレバリー英外相もツイッターで「ウクライナにおける恐ろしい戦争犯罪の責任者は裁かれなければならない」と訴え、逮捕状を歓迎した。
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は「説明責任を果たすためのプロセスの始まりだ。われわれはICCの活動を評価し、支持する」と表明した。
●「戦争」利用、プーチン氏5選へ準備 ロシア大統領選まで1年― 3/18
ロシア大統領選は、1年後の2024年3月17日に投開票が見込まれる。プーチン大統領は再出馬に関して態度を明らかにしていないが、ウクライナ侵攻が長期化する中でも選挙は予定通り実施されると断言。クレムリン(大統領府)では通算5選に向けた準備が着々と進んでいると伝えられる。政権はむしろ「戦争」を選挙にとってプラスの材料とさえ捉えている節がある。
延期説は封印
「法律に厳密にのっとり、民主的な憲法上のあらゆる手続きに従って行われる」。プーチン氏は2月21日の年次教書演説で、次期大統領選の時期を「24年」と確認。ロシアが一方的に「併合」したウクライナ東・南部で敷いている戒厳令は、選挙実施の足かせにはならないとの立場を示した。
「祖国防衛」を主張して国民の愛国心を高める一方、プーチン氏に逆風が吹いた場合、戒厳令を含む「戦時体制」を理由に大統領選を延期するシナリオもささやかれていた。プーチン氏が予定通りの実施方針を明言したことは、政権が現状について「順風」と考えている可能性を示唆している。
政権はもともと反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏らを弾圧していたが、侵攻開始後は反戦の声を「偽情報」として厳しく取り締まり、リベラル派は出国や沈黙を強いられた。政治参加に無関心な大多数の保守層には「戦時大統領」の姿しか見えず、世論調査でプーチン氏は8割の支持率を維持する。
ロシア紙RBKは今月6日、クレムリンの内政担当が最近、プーチン氏の再出馬を前提に次期大統領選の準備会合を開いたと報道。前回18年の投票率(約68%)と得票率(約77%)を上回る結果を出す目標が提示されたという。
早くも支持表明
「現職プーチン氏を支持するよう党員に提案するつもりだ。最も正しい愛国的な決定だと思う」。政権に従順な左派政党「公正ロシア」のミロノフ党首は2月22日、プーチン氏が態度を表明していないにもかかわらず、国営テレビのカメラの前で早くも支持を打ち出し、プーチン氏の「独り勝ち」を後押しする姿勢を鮮明にした。
ミロノフ氏の発言は、侵攻開始1年を前に国民の「団結」を演出するため、モスクワの競技場で開かれた官製集会で出た。政権はウクライナ南部クリミア半島を併合した「記念日」に当たる18日の集会を見送ったが、5月9日の対ドイツ戦勝記念日は盛り上げる構えで、保守層の支持固めに余念がない。
プーチン氏は欧米メディアで「重病説」が報じられたものの、健康問題を感じさせず内政・外交をこなしてきた。先の年次教書演説では「ロシアを打ち負かすことは不可能だ」と強調。今後も戦況にかかわらず「勝利」をもたらすのは自分だけとかたくなにアピールを続け、侵攻で国民の危機感をあおって選挙シーズンに突入する構えとみられる。
●クリミア併合9年で祝意 ウクライナ支配を正当化―プーチン氏 3/18
ロシアのプーチン大統領は17日、実効支配するウクライナ南部クリミア半島の社会・経済発展に関する政府会議をオンラインで開き、18日にロシアによる「併合」から9年を迎えることに祝意を表明した。
2014年当時、ロシア軍が介入したことはプーチン氏も認めているが、会議では「(人々が併合に向けて)明確かつ最終的な歴史的選択を行った」と「住民投票」の結果を誇示。昨年開始したウクライナ侵攻が長期化する中、かつてのロシア帝国の版図を支配することを改めて正当化した。
●米高官 “中ロ会談でロシア側に有利な形の停戦提案に懸念”  3/18
アメリカ・ホワイトハウスの高官は、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が首脳会談を行うと明らかになったことを受けて、中国がロシア側に有利な形でウクライナとの停戦を呼びかける可能性があるとして懸念を示しました。
ロシア政府は17日、中国の習近平国家主席がプーチン大統領の招きに応じてロシアを訪問し、21日に首脳会談が行われる予定だと明らかにしました。
これについてアメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は17日、記者団に対し、「中国側から、ロシア側の視点に立った一方的な提案が行われることに懸念している」と述べました。
カービー調整官は、ことし2月に中国がロシアとウクライナに停戦を呼びかける文書を発表したことに触れ、会談で再び提案される可能性を指摘して「停戦はロシアの侵攻を事実上、認めるものであり、ロシアが軍を立て直し、今後、自分たちのタイミングで再び攻撃ができるよう時間を与えることになる」と述べています。
さらに、「中国がこうした会談で、『戦争を終わらせることができるのはわれわれだけだ』と主張するのは彼らの典型的な戦略で、影響力を高めようとする試みだ」と述べ、会談の結果を注視していく考えを示しました。
一方、カービー調整官は習主席がプーチン大統領だけでなく、ウクライナのゼレンスキー大統領とも会談し、主張を聞くべきだとも強調しました。
●米、中国のウクライナ停戦呼びかけをけん制  3/18
米政府は中国がウクライナ停戦を呼びかけることに警戒感を募らせている。現時点での停戦は、ロシアによるウクライナ領土の支配を強める可能性があるとの見方だ。
中国の習近平国家主席は来週ロシアを訪れ、ウラジーミル・プーチン大統領と会談する。ホワイトハウスは17日、ウクライナ戦争を巡り中国がロシアとの関係を深めていることに懸念を表明した。
国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は記者会見で、停戦の呼びかけはロシアに有利となる一方的な提案だとけん制。「現時点で停戦すれば、事実上、再びロシアによる征服を認めることになる」と述べた。
●バフムートの戦いで苦境に陥るワグネルの傭兵たち 3/18
ロシアの民間軍事会社ワグネルを束ねる好戦的なトップ、エフゲニー・プリゴジン氏は、反エリートを標榜する一匹狼の役割を楽しんでいる。しかし現在強まりつつある兆候からは、ロシア政府のエリートたちがここへきて同氏を押さえつけ、息を切らす状況に追い込んでいる様子がうかがえる。
プリゴジン氏は部下の傭兵(ようへい)らがウクライナ東部の都市バフムートでロシア国旗を掲げることに賭けた。たとえ部隊の相当数を失い、自身の命運さえ犠牲になりかねないとしても。
同氏は最大4万人の囚人を徴集し、戦闘に投入したものの、数カ月にわたる過酷な戦いと信じ難い敗北の後でワグネルの戦闘員の補充に苦慮。一方でロシア国防省に対し、自身の部隊を絞め殺そうとしているとの非難を展開する。
多くの専門家は、同氏の疑念に十分な根拠があるとみる。ロシアの軍事エリートはバフムートを「肉挽(ひ)き器」として利用し、同氏に身の程を思い知らせるか、あるいは政治勢力として完全に排除しようとしている。
先週末、プリゴジン氏はバフムートでの戦闘が極めて困難なことを認めた。
ロシアの正規軍による支援と弾丸の供給がこれ以上ないほど必要な状況にもかかわらず、現状そのどちらももたらされる気配はない。
ワグネルはバフムート周辺でじりじりと前進し、今は市の東部を押さえているが、それ以外の地域からウクライナ軍を駆逐できるだけの戦力を生み出すことはできていないようだ。さらに戦闘員らは、市郊外の北西及び南西方面に広く散らばっている。
ワシントンに拠点を置くシンクタンクの戦争研究所(ISW)は、ロシアのショイグ国防相が「この機に乗じて故意にワグネルの精鋭と囚人兵の両方を損耗させようとしている公算が大きい」と分析。それによりプリゴジン氏を弱体化させ、クレムリン(ロシア大統領府)での影響力拡大の野心をくじく狙いがあるとした。
またロシア国防省は、プリゴジン氏による囚人の徴集や弾丸の確保といった能力にも一段の制限を加えているという。結果的に同氏は、国防省に依存する自身の状況を公然と認めざるを得なくなる。
国防省にとってプリゴジン氏に対する非難は、自分たちの失敗から注意をそらす意味も持つ。とりわけ正規軍が大敗を喫したケースでその効果は顕著になる。
認可された破壊者
昨年時点のプリゴジン氏は、プーチン氏に認可された破壊者とも呼び得る存在だった。ロシアの刑務所から囚人を徴集し、ワグネルはロシアの戦争機構の極めて重要な一部分を占めるまでにその地位を高めた。
同時にプリゴジン氏は、ショイグ氏やロシアの将軍らを痛烈に批判。能力に欠け、汚職にも手を染めているとこき下ろした。
しかし10年以上にわたり国防相を務めるショイグ氏は、抜け目なく最高司令部を入れ替え。プリゴジン氏の協力者を排除し、同氏が批判した将軍たちを抜擢した。
今年2月、ワグネルが突然刑務所からの徴集を停止するとした背後にはショイグ氏の存在があったというのが、多くの専門家の見立てだ。
今やワグネルのボスは孤立しているように見える。最高の戦闘員たちをバフムートの戦いに投入せざるを得ない中、ISWは国防省がワグネルを利用して過酷な消耗戦を伴うバフムート制圧を遂行させ、従来のロシア軍の温存を図っているとの見方を示す。
モスクワのエリートも、プリゴジン氏の苦境を察知しているようだ。
13日、クレムリンとつながりのあるシンクタンクのメンバーでコメンテーターのアレクセイ・ムキン氏は、SNSのテレグラムへの投稿でプリゴジン氏について、政治的野心を抱いていると非難。司令官としても無能で、軍を批判することによって自らの不手際をごまかしていると主張した。
プリゴジン氏はこれに反論。「政治的野心など全くない。頼むから弾丸を与えてほしい」と訴えた。
仮にワグネルがほぼ壊滅状態になり、バフムート制圧も果たせなければ、プリゴジン氏は自然と蚊帳(かや)の外に置かれることとなりそうだ。
クレムリンの動向に目を光らせるマーク・ガレオッティ氏が英誌スペクテイターに寄稿した内容によると、プーチン氏は政界での地位を上げようとする取り巻きらについて、結果を約束する間はある程度の自主性を与えるものの、失敗した場合は簡単に見捨てるという。
つまりプリゴジン氏にとっては、バフムートでの戦いに全てが懸かっている状況だといえる。
●ロシア、ウクライナ穀物輸出合意の60日間延長を正式通知 3/18
ロシアのネベンジャ国連大使は17日、18日に期限を迎えるウクライナ穀物輸出合意について、60日間に限った再延長の意向をウクライナ、トルコ両国に正式に通知したと明らかにした。ウクライナ情勢に関する安保理会合で語った。合意は当面続く見通しだが、ウクライナや国連などは120日間の再延長を求めていた。
13日に通知したという。合意は、トルコと国連が仲介して昨年7月に成立。同11月、120日間延長されていた。ロシア側は自国の肥料輸出などが滞ったままだと不満を表明しており、米欧けん制のため、期限を短縮した形だ。

グリフィス国連事務次長(人道問題担当)はこの日の会合で、「世界の食料安全保障にとって、合意の継続と完全な履行は極めて重要だ」と強調。国連は「できることは何でもしている」と調整を続けていると明かした。
●東部バフムトでロシアの局地攻撃「最低水準」 英国防省 3/18
英国防省は17日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトでの戦況について「1月以降、ロシア軍による局地的な攻撃が最低水準に落ち込んでいる」との分析を公表した。戦闘の長期化から兵士・兵器が枯渇しており、安定的に局地攻撃を繰り出せない状況に陥っているとみている。
バフムトでは激しい消耗戦が続いている。ロシア軍と民間軍事会社ワグネルの戦闘部隊がバフムトの東、南、北の3方面から攻勢をしかけ、ウクライナ軍が抵抗を続けている。ドネツク州の親ロシア派勢力幹部は「(バフムトの)都市全体の60%、それ以上の最大70%を支配している」と語った。ロシア国営テレビが17日に報じた。
ワグネル創設者のプリゴジン氏は15日、弾薬不足を訴えるとともに、バフムトの北西9キロにある集落を奪取したと明らかにした。米シンクタンクの戦争研究所は「ワグネルが小さな町を占拠しても作戦上の重要な利益を得る能力が高まることはほぼない」と指摘。ロシア側の兵士や兵器の損失によって「完全包囲や領土獲得のための能力が制限される可能性がある」と分析した。
バフムトでの消耗戦でウクライナ軍の死傷者も増えている。米国のオースティン国防長官は15日、バフムトからの撤退は戦争に負けることを意味しないと強調したうえで、「陣地を変えるか、バフムトに残るべきかを決めるのは(ウクライナの)ゼレンスキー大統領だ。我々の目的は支持することにある」と語った。
●「バフムト攻防戦」はウクライナ軍の抵抗でワグネルが苦戦 3/18
共同通信は3月12日、「ウクライナ陸軍『反攻遠くない』 バフムト防衛で時間稼ぎ」との記事を配信した。東部ドネツク州バフムトではウクライナ軍とロシア軍が激戦を続けているが、ウクライナ陸軍の司令官が《近く反転攻勢を目指す考えを示唆した》と伝えている。
この記事はYAHOO! ニュースでも配信され、ウクライナ研究会会長で神戸学院大学経済学部教授の岡部芳彦氏がコメント欄に投稿した。
《日本の高校世界史のほとんどの教科書に載っている「スターリングラードの戦い」ですが、ドイツ軍の攻撃にはじまり8か月あまりの攻防の末、ソ連軍が逆包囲して勝利し、独ソ戦の転機とも評されます》
《ウクライナにとっては反攻の時間稼ぎ、ロシアにとっては「ドネツク州の解放」という政治的目的と異なった意味合いを持つ「バフムトの戦い」ですが、宇露どちらにとっての「スターリングラード」となるかは、まだ予断を許しません》
Twitterを見ても岡部氏と同じ視点でバフムトの攻防戦を見ている人は多く、《バフムトは現代のスターリングラードの再来だ》といったツイートが目立つ。
ここで簡単に「スターリングラード攻防戦」について説明しておこう。軍事ジャーナリストが言う。
「独ソ戦は第二次世界大戦中の1941年6月に始まりましたが、スターリングラード攻防戦は歴史に残る激戦として知られています。42年8月から43年2月にかけ現在のヴォルゴグラードで激しい市街戦が繰り広げられました。ドイツ軍は同盟国のハンガリー軍、ルーマニア軍、イタリア軍と共に攻撃し、一説によると死傷者は約85万人、ソ連軍に至っては120万人とされています。桁違いの数であることは言うまでもありません」
激戦は必然
ドイツ軍は当初、圧倒的な火力でスターリングラードを包囲。42年9月、市内に突入し、凄惨な市街戦の果てに約9割を制圧した。ところが、11月にソ連軍が逆包囲に成功。現地司令部は脱出を試みたが、アドルフ・ヒトラー(1889〜1945)は死守を厳命した。
「司令部はヒトラーの命令に従いましたが、43年1月、弾薬と食料が尽き、翌2月に降伏しました。この大敗北で枢軸国は劣勢に転じ、同年9月にはイタリアが無条件降伏、45年5月にベルリンも陥落したのです」(同・軍事ジャーナリスト)
ロイター(電子版)が3月15日、バフムトの最新情勢を伝えている。それによると《バフムトでは約8カ月にわたり激しい戦闘が続いており、ウクライナ軍は現在、3方をロシア軍に包囲されている》という。
「バフムトで激戦が繰り広げられているのは必然と言えます。2014年2月、ロシア軍はクリミア半島に侵攻して占拠、翌3月に“クリミア共和国”の独立を一方的に宣言しました。ウクライナはロシアとの対決姿勢を強め、NATO(北大西洋条約機構)の専門家に指導を仰ぎ、東部の都市の要塞化を進めたのです。その中の一つがバフムトでした」(同・軍事ジャーナリスト)
バフムトの重要性
要塞化された都市はいずれも、市街地が小高い丘に広がっているという共通点があった。
「ウクライナ東部は広大な平野が広がっているため、ロシア軍は戦車で一気に進行することが可能です。それを防ごうと、ウクライナは視界の開けた小高い街を要塞化し、砲撃などで戦車を撃退する戦略を立てたのです。さらに、要塞化を終えると、物資の備蓄を進めました。充分な備蓄があるからこそ、バフムトはロシア軍の猛攻に耐えられているのです」(同・軍事ジャーナリスト)
丘陵地では激戦が起きやすい。西南戦争では田原坂と吉次峠の戦い、日露戦争では203高地の争奪戦、太平洋戦争における沖縄戦ではシュガーローフの戦いが有名だ。
「バフムトは両軍にとって戦略的に極めて重要な都市です。首都のキーフから東部に延びる幹線道路は、ハルキウからバフムトを経て黒海に向かって南下し、港湾都市のマリウポリにつながります。ウクライナ内陸部からクリミア半島に至る“回廊”上に位置するバフムトは、まさに交通の要衝と言えます」(同・軍事ジャーナリスト)
クリミア半島の重要性
 ウクライナもロシアも、クリミア半島の領有こそが戦争の帰趨を決すると考えている。バフムトの戦略的価値が跳ね上がる理由だ。
「ウクライナはクリミア半島をロシアから奪還し、2014年3月以前の国境線に戻すことを“戦争の勝利”と公言しています。一方のロシアは、今回の軍事侵攻でウクライナ全土を手中に収めるつもりが、激しい抵抗に遭い頓挫しました。さらにクリミア半島も手放すとなると、積み重ねてきた“ウクライナのロシア化”が白紙に戻ってしまいます」(同・軍事ジャーナリスト)
クリミア半島にはロシア軍の重要拠点もある。セバストポリには海軍の基地があり、黒海艦隊の本部が置かれているのだ。
クリミア半島をウクライナ軍に奪還されると、黒海艦隊は“本拠地”を失ってしまう。ロシアにとって最悪のシナリオであることは論を俟たない。
半島を絶対に死守したいロシア軍は、バフムト陥落を目指す必要性があるのだという。
「『戦略的価値のないバフムトにこだわるロシア軍の戦術は理解できない』と報じたメディアもありましたが、事実と異なります。バフムトを陥落すれば、制圧しているマリウポリと兵站がつながるのです。ロシア国内からバフムトを経由して黒海に出るルートが確保できるわけで、クリミア半島の防御が強固になります」(同・軍事ジャーナリスト)
レオパルト2の準備
一方、クリミア半島を奪回したいウクライナ軍にとってバフムト陥落は絶対に避けたい。
「クリミア半島のロシア軍を攻撃するには、まず南部のヘルソンが拠点の候補となります。ところが、ヘルソンの前には広大なドニエプル川が流れています。戦車や榴弾砲といった大型兵器を渡河させようとすると、ロシア軍の返り討ちに遭う可能性が高いのです。一方、ウクライナ東部はクリミア半島と陸路でつながっています」(同・軍事ジャーナリスト)
NATO諸国は戦車レオパルト2のウクライナへの供与と訓練を開始した。ウクライナ軍にとっては、バフムトなど東部の要衝からレオパルト2が出撃し、黒海沿いに進撃を続けてマリウポリなどを解放し、クリミア半島に総攻撃をかけるのが理想のシナリオだ。
「ウクライナの戦車兵はロシア製の戦車しか知りません。そのためレオパルト2を動かすには研修が必要で、簡単には習得できません。というのも、ロシアの主力戦車T-72は乗組員が3人ですが、レオパルト2は4人が必要で、設計思想から異なるからです。レオパルト2の実戦投入は、早くても夏くらいだと見られています」(同・軍事ジャーナリスト)
ワグネルの暗躍
ウクライナ軍がレオパルト2を運用できるようになるためにも、バフムトを死守し、貴重な時間を稼ぐ必要があるというわけだ。
そのバフムトだが、欧米メディアはロシア側に夥しい死傷者が出ていると報じている。ロイター(電子版)は3月14日、「バフムト周辺でロシア兵1100人超殺害か、『取り返しのつかない損失』とウ大統領」との記事を配信した。
「バフムトの激戦が欧米メディアにクローズアップされるのは、戦争の帰趨を決定しかねない重要な戦いだからです。また、もう一つの要素として、民間軍事会社ワグネルが攻撃の主体を担っていることも挙げられます。ワグネルに多大な損害が出ているとなると、ロシア政界にも影響を及ぼしかねません」(同・軍事ジャーナリスト)
ワグネルの創始者であるエフゲニー・プリゴジン氏(61)は、ウラジーミル・プーチン大統領(70)に近い人物とされている。そのプリコジン氏だが、ロイターの記事では自ら激戦の様子を語っている。
《敵は1メートル単位で戦っている。街の中心部に近づけば近づくほど、戦闘は激しくなり、大砲が砲撃し、戦車が出現する。ウクライナ軍は無限の予備役を投入してくる。しかし我々はこれからも前進していくだろう》
「ワグネルはバフムトに最精鋭の部隊を投入しました。難攻不落の要塞都市を陥落させてロシア軍の鼻を明かし、プーチン大統領からさらに強い信頼を勝ち取ろうとしたと見られています。春が近づいたためバフムトの大地は泥濘と化しており、戦車などは移動できません。そのため激しい砲弾戦が行われています」(同・軍事ジャーナリスト)
疲弊するロシア軍
ワグネルはバフムトに火力を集中させ、力で押し切る作戦を採っているようだ。対するウクライナ軍は、都市の要塞化で守り抜き、ワグネルを必死に押し返していると見られる。
「ワグネルは一貫して自分たちの戦果だけを宣伝してきました。半ばバカにされた格好となったロシア軍は、特に幹部が苦々しい思いでワグネルを見つめていました。そこに起きたのがバフムトの激戦です。CNNは14日、ロシア軍が意図的にワグネルを支援せず、ウクライナ軍に撃破されることで弱体化を図っていると報じました。情報の真偽は分かりませんが、ワグネルもロシア軍も共に疲弊しているのは事実でしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
やはりバフムトにおける激戦は、スターリングラード攻防戦と共通点が見出せるようだ。
「バフムトのウクライナ軍は、持ちこたえているだけでロシアに勝利していると言えます。ワグネルやロシア軍を全滅させる必要はありません。自分たちの戦力保持を最優先にしながら、敵に出血を強いることが求められています。ロシア軍は緒戦で将軍クラスを相次いで失い、今では連隊長クラスの死傷者が増加しています。指揮官が払底した軍隊は弱体化が避けられません。バフムトの陥落に失敗したワグネルとロシア軍は、スターリングラードで敗れたドイツ軍のように、後は総崩れという可能性も否定できないのです」(同・軍事ジャーナリスト)  
●クリミア併合9年、プーチン氏死守の構え鮮明… 3/18
ロシアがウクライナ南部クリミアを一方的に併合してから18日で9年となった。ロシア国内ではウクライナからの越境攻撃が相次ぎ、モスクワのサッカー場で計画されていた大規模集会は急きょ中止された。
プーチン氏は17日、クリミアの開発に関するオンライン会合に出席し、ウクライナがクリミア奪還を目指していることを念頭に「脅威を断ち切るためには何でもする」と述べ、クリミア死守の構えを鮮明にした。
18日に予定されていたモスクワでの大規模集会を巡っては、参加者の動員が展開されていると伝えられていた。直前の中止について、ウクライナの攻撃を警戒したとの見方が広がっている。ウクライナ軍は無人機などで露領内への攻撃を展開し、露南部ロストフ州にある情報機関「連邦保安局」(FSB)の建物では16日に爆発が発生していた。
一方、ウクライナ空軍などによると、露軍は17日夜、首都キーウなどに向けて自爆型無人機16機を発射したが、ウクライナ軍は11機を迎撃した。

 

●国連、食料輸出「延長合意」 ウクライナは「120日間」発表 3/19
国連のグテーレス事務総長の報道官は18日、ウクライナからの黒海を通じた食料輸出に関する協定が「延長された」と発表した。協定は18日が期限だったが、ロシアが従来の半分の60日間だけの延長を主張していた。ウクライナ当局は同日、従来通り「120日延長された」と発表した。
ウクライナのクブラコウ・インフラ相は18日、フェイスブックでグテーレス氏、トルコのエルドアン大統領ら関係者に謝意を示した。「ウクライナはこれまでも、これからも、世界の経済と市場にしっかり組み込まれていく。より多くの輸出ができれば、世界の多くの国々でインフレのリスクや社会的緊張を取り除くことができる」と記した。
協定は、ロシアのウクライナ侵攻後に滞った食料輸出を円滑にする狙いで昨年7月、国連とトルコがロシア、ウクライナとそれぞれ合意を締結。昨年11月に120日間延長した。
国連によると協定締結後、約2500万トンの食料が45カ国に輸出され、世界の食料市場の安定化に貢献している。ロシアは欧米の制裁で自国産の食料輸出が制限を受けているとして、今回は60日間だけの延長を主張していた。
国連は、ウクライナの食料輸出の協定だけでなく、ロシアの食料や肥料の輸出を円滑化する覚書に対しても「引き続き強く責任を持つ」とし、すべての関係者に合意内容を完全に履行するよう求めた。
●プーチン大統領 ウクライナ東部マリウポリを訪問 侵攻後初  3/19
ロシアのプーチン大統領は、去年9月に一方的に併合したウクライナ東部ドネツク州の要衝マリウポリを訪問しました。軍事侵攻で掌握した地域をプーチン大統領が訪問するのが明らかになったのは初めてで、支配を誇示するねらいがあるとみられます。
ロシアの複数の国営通信社は19日、ロシア大統領府の発表として、プーチン大統領が、去年9月に一方的に併合したウクライナ東部ドネツク州の要衝マリウポリを訪問したと伝えました。
プーチン大統領が、ウクライナへの軍事侵攻で掌握した地域を訪問するのが明らかになったのは、初めてです。
このうちタス通信は、プーチン大統領がヘリコプターでマリウポリに入り、プーチン政権で都市開発を担当するフスヌリン副首相が現地の住宅や医療施設の建設状況などを報告したと伝えています。
また、大統領は地元の住民と話をしたほか、みずから車を運転して、市内の数か所を視察したとしています。
さらに、プーチン大統領は、ウクライナと隣接し前線に近いロシア南部ロストフ州にある司令部も訪れ、ウクライナ侵攻の総司令官をつとめるゲラシモフ参謀総長から戦況の報告を受けたということです。
プーチン大統領は、18日には、9年前に一方的に併合したウクライナ南部のクリミアを事前の予告なく訪問していました。
南部クリミアに続き、東部ドネツク州で激しい戦いの末に掌握した要衝のマリウポリをプーチン大統領が訪問したと発表した背景には、ウクライナ側が南部や東部で反転攻勢を目指す姿勢を強めているのに対し、ロシア側が掌握する地域の支配を誇示するねらいがあるとみられます。
マリウポリ ロシアが戦略的要衝として重視
ウクライナ東部ドネツク州のマリウポリは、アゾフ海に面し、石炭や鉄鋼の輸出で栄えてきた港湾都市です。
ロシアは、9年前に一方的に併合した南部のクリミア半島とロシア本土を結ぶ線上に位置する戦略的要衝として、マリウポリを重視してきました。
今回の軍事侵攻で、マリウポリはロシア軍から激しい攻撃を受け、ウクライナ側はアゾフスターリ製鉄所を拠点に抵抗を続けましたが、去年5月、ロシア国防省は、マリウポリ全域の掌握を発表しました。
その後、プーチン政権は激しい戦闘で破壊された学校や病院、それに港湾施設などの再建に向けた基本計画を一方的に策定し、ロシアによる支配を既成事実化しようとしています。
●ロシアの中国依存浮き彫り…中ロ国境トラック大行列  3/19
習近平国家主席のロシア訪問が20日に迫るなか、中ロ国境の街では貨物トラックが大行列を作るなどロシアが中国への依存を強める姿が浮き彫りになっています。
中ロ貿易のうち、陸上輸送で取引される製品のおよそ65%が内モンゴル自治区の満州里で国境を通過します。
貿易関係者によりますと、最近はロシア向けに建設用の機械や自動車などの輸出が増え、これまでになく通関手続きに時間がかかっているということです。
貿易関係者「(Q.ウクライナ侵攻で貿易増えた?)うーん、それは話しにくい。“敏感”な話題だから言えない」
中国政府が発表した貿易統計では、1月と2月のロシアとの輸出入総額は前年同期比で25.9%増加しています。
ウクライナ侵攻を巡り、ロシアが中国への依存を強めるなか、習主席とプーチン大統領の会談でも経済の関係強化について議論される見通しです。
●ウクライナの子供1万6226人がロシアに強制移送…戦争犯罪の疑い 3/19
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)は17日、ウクライナを侵略するロシアのプーチン大統領が、孤児を救うとの名目で行ってきたウクライナの子供の強制移送について、戦争犯罪にあたるとの判断を示した。ロシアへの同化を狙った「国家ぐるみの拉致」で、1万6226人の子供がロシアに連れ去られた。ICCは今後も、ロシアの戦争犯罪の捜査を続ける方針だ。
ICCは同日、プーチン氏とマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子供の権利担当)に逮捕状を出した。
ウクライナの子供の移送について、プーチン政権はロシアの侵略が発端にもかかわらず、子供を戦火から救い、ロシアで保護しているとアピールしていた。
プーチン氏は今年1月、リボワベロワ氏に対し、ウクライナの露軍占領地域で保護者のいない子供を見つけ出すよう指示した。昨年5月の大統領令への署名で、占領地域の子供のロシア国籍取得を簡素化し、孤児をロシア人と養子縁組させることを奨励していた。リボワベロワ氏自身もウクライナ南東部マリウポリの15歳の少年を養子にした。
しかし、これは子供の意に反した強制移送だった。国連人権理事会が設置した国際調査委員会は16日の報告書で、親が露軍に殺害されるなどして孤児となった子供の被害が多いと指摘した。
親がいる子供は「キャンプ」や避難名目で親と引き離されてロシアで愛国教育を受けさせられ、戻れなくなる事例もあるという。そのままロシア人の養子にされると発見は困難になる。
ウクライナ政府の集計によると、これまでに1万6226人の子供の移送が確認され、このうちウクライナに戻ったのは308人。ウクライナの最高会議(議会)の人権オンブズマンは、両親と一緒に移送された子供を含めれば15万人近い子供が移送されたと指摘する。
ICCは今回、加盟する約40か国の付託を受け、侵略開始直後から捜査を開始。逮捕状発行まで3〜5年以上かかるのが通例だが、1年でこぎ着けた。カリム・カーン主任検察官もウクライナに入り、地元当局と連携して捜査を進めた。
ロシアのウクライナ侵略を巡っては、キーウ近郊のブチャなどで多数の民間人が虐殺されたが、大統領の指示を立証するには多くの証言が必要になる。プーチン氏の指示が明確な子供の強制移送をまず立件した。
ICCのカーン主任検察官は17日、「具体的な最初の一歩だ。今後も 躊躇なく逮捕状を発行し続ける」と今後もロシアの戦争犯罪を追及していく意向を示した。
●露は猛反発、「子ども連れ去り」でプーチンと「ブラッディ・マリー」に逮捕状 3/19
「プーチンは個人の刑事責任を負う」
国際刑事裁判所(ICC、123カ国加盟)は17日、ウクライナの被占領地域からロシアへ子どもを強制移送し養子縁組をした戦争犯罪で、露大統領ウラジーミル・プーチンと露大統領府子どもの権利担当委員マリア・ルボヴァ=ベロヴァに逮捕状を出した。
ICCは「プーチンが個人の刑事責任を負うと信じるに足る十分な証拠が存在する」と強調した。
ポーランド出身のピョートル・ホフマンスキーICC所長は「被占領地の民間人を他国の領土に移すことは国際法違反。子どもたちはジュネーブ条約で特別な保護を受けている。将来の犯罪を防止するために逮捕状発行を明らかにした。裁判官は検察官が提出した証拠を検討した結果、信頼できる申し立てと判断した」と述べた。
戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドを訴追することを目的としたICCにロシアは米国、中国、ウクライナと同様、加盟していないので、プーチンとルボヴァ=ベロヴァがロシア国内で逮捕されることはない。それにICCの公判は被告本人の出席が必要(いわゆる「欠席裁判」は認められていない)なので、勝手に裁かれることもない。
ただ、プーチンとルボヴァ=ベロヴァはロシア国外のICC加盟国に渡航すれば逮捕される可能性が高い。プーチンはICC加盟国への外遊をためらわざるを得なくなるだろう。
“プーチンの忠実な犬”ドミトリー・メドベージェフ前露大統領は「ICCはプーチン大統領に逮捕状を発行した。この紙を使うべき場所を説明する必要はない」とツイートし、トイレットペーパーの絵文字を添えた。
メドベージェフは民間軍事会社ワグネルにグイド・クロゼット伊国防相殺害の懸賞金1500万ドルを提供したとイタリア紙に報じられた。クロゼット国防相は、ワグネルがウクライナを支援する西側諸国への反撃手段として、欧州への不法移民流入をあおっていると非難した人物だ。
金魚鉢のように小さくなった「プーチンの世界」
クレムリンのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「逮捕状は言語道断であり、容認できない。ロシアは多くの国と同じようにICCの管轄権を認めておらず、ロシアにとっては無効だ」とツイートした。
米国と激しく火花を散らす中国の習近平国家主席は3月20日からモスクワを訪れ、盟友プーチンと会談する。しかし「プーチンの世界」は金魚鉢のように小さくなった。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「歴史的な決定であり、歴史的な責任追及が始まる。テロ国家のトップとロシア高官が戦争犯罪の容疑者となった。何千人ものウクライナの子どもたちをテロ国家の領土に不法に移送した。占領軍による子どもたちの強制移送はすでに1万6000件以上、刑事手続きに記録されている」と憤りを隠さなかった。
ウクライナはロシアからそのうち300人余の子どもたちを取り返したという。
「テロ国家のトップの命令なしにこのような犯罪は行えない。子どもたちを家族から引き離し、ロシア領土内の遠隔地に強制移送する。これらはすべてロシアの明白な国策、国家の悪である。それは国家のトップから始まっている」とゼレンスキー氏は語気を強めた。
ジェームズ・クリバリー英外相は「ウクライナにおける恐ろしい戦争犯罪の責任者は裁かれなければならない。私たちは、プーチンを含むロシア政権トップの責任を問うためにICCが逮捕状を発行したことを歓迎する。残虐行為を調査するため作業を続けなければならない。モスクワが隣国の主権を脅かすのを英国が傍観することはない」とツイートした。
「ブラッディ・マリー」と呼ばれる女
ルボヴァ=ベロヴァはウクライナの子どもたちの強制移送と養子縁組に関わっていることから「ブラッディ・マリー」と呼ばれる。
アゾフ海に面したウクライナ東部ドネツク州の港湾都市マリウポリから強制移住させられた子どもたちの「再教育」を宣言したことで悪名を鳴り響かせた。
アゾフスタリ製鉄所にウクライナ軍の兵士たちとともに最後まで留まった子どもたちは、プーチンを罵倒してウクライナ国歌を口ずさみ、「ウクライナに栄光あれ!」と繰り返した。プーチンにとってウクライナの子どもたちは「ナチ化」の証拠で、浄化する必要がある存在である。逆にウクライナにとっては、それこそがロシア軍を祖国の領土から駆逐しなければならない最大の理由である。
ルボヴァ=ベロヴァは5人の実子と18人の養子合わせて23人の母親だ。今年2月、プーチンとの会談でマリウポリから15歳の子どもを最近、養子に迎えたことを伝えた。
「ウクライナ東部ドンバス出身の子どもの母親になることがどういうことなのか、私は知っています。大変なことですが、私たちはお互いに愛しています。どんなことにも対処できます」
ロシアによるウクライナ侵攻の数日後、メッセージアプリ、テレグラム・チャンネルを開設。昨年7月、ドンバス地方のロシア語で「今週中にロシア国籍を取得したドンバスの108人の孤児が両親に迎え入れられます。幸せな子どもの笑い声を耳にした時、私は涙をこらえられませんでした」と書き込んだ。
ウクライナの子どもたちを「ロシアの社会と文化に統合すること」をたくらむ
米イエール大学公衆衛生大学院人道研究所紛争監視団は「マリア・ルボヴァ=ベロヴァは大統領府子どもの権利担当委員として、ロシアによるウクライナの子どもたちの強制移住と養子縁組、ウクライナの子どもたちをロシアの社会と文化に『統合』する収容所の利用などに最も深く関わっている人物の一人だ」と断罪した。
15歳のときルボヴァ=ベロヴァは弟と一緒に入院した。捨てられた赤ん坊を見て「ロシアのすべての子どもたちが大人からのケア、サポート、関心を受けられるよう、将来、頑張ろう」と誓ったという。露ペンザ州で障害者を支援する非営利団体を創設し、プーチンの政権基盤である与党・統一ロシアに入り、2020年から上院議員を務めた。
21年10月、子どもの権利担当委員(任期は5年)に任命されたルボヴァ=ベロヴァはビデオ通話でプーチンから「あなたは仕事でも家庭でも子育てでも非常に優れた幅広い経験を持っている。この役職はあなたの知識、技術、専門性をすべて使って多くの家族と子どもにとって有意義な結果を出す機会を与えてくれる。引き受ける準備はできているか」と問われた。
ルボヴァ=ベロヴァは「家庭、教育、健康に対する子どもの権利保護に焦点を当て、社会的地位、居住地、健康状態にかかわらず、すべての子どもに平等な条件を整えることが極めて重要です。委員の使命はそれ以外の何物でもありません。私には実子5人、養子4人の計9人の子供がいます。13人の障害者も私の保護下にあります」と答えた。
これが強制移住、養子縁組、再教育の実態
ウクライナの子どもたちの強制移住、養子縁組、再教育の実態はどうなっているのか。
ニュースサイト「ウクライナの新しい声」によると、昨年8月末、当時ロシア軍の占領下にあったハルキウ州東端クピャンスク出身の15歳の少年はロシアにサマーキャンプに出掛けた。20日間滞在の予定だった。9月が過ぎ、クピャンスクはウクライナ軍に解放された。
しかし少年は戻らなかった。母親はウクライナの子どもたちの帰還に取り組む慈善団体「セーブ・ウクライナ」に訴え、12月に他の母親たちとともにサマーキャンプが行われたロシア・黒海北岸の都市アナパに行く計画を立てた。44人の子どもたちが両親のもとに戻ることができた。さらに16人の帰還が予定されているという。
イエール大学の監視団は昨年2月24日以降、拘束されている生後4カ月から17歳までのウクライナ出身の少なくとも6000人の子どもたちの情報を収集した。直近の移送は今年1月に行われていた。両親、明確な後見人がいる子ども、ロシアから孤児とみなされた子ども、重度の身体的・精神的障害がある子ども、戦争で親権が不明確になった子どもがいた。
監視団の報告書によると、43施設のうち41施設はロシア占領下のクリミアやロシア国内のサマーキャンプだった。12カ所は黒海周辺、7カ所はクリミア、10カ所はモスクワ、カザン、エカテリンブルクにあり、ウクライナとロシア国境から800キロメートル以上離れた場所にあったのはシベリア2カ所、極東1カ所を含む計11カ所だ。
収容所の主な目的は政治的再教育
収容所の主な目的は政治的再教育だ。イエール大学の監視団が特定したキャンプのうち少なくとも32カ所(78%)はウクライナ出身の子どもたちをロシア中心の文化、愛国心、軍事教育を施す組織的再教育に組み込まれているとみられている。ロシアが推薦する複数のキャンプは文化・歴史・社会の「統合プログラム」として宣伝されている。
昨年5月には、孤児とみなされたウクライナの子どもや、親の監護を受けずに残された子どもへのロシア国籍付与を迅速化するプーチンの大統領令が施行された。ロシアに連れ去られたウクライナの子どもたちを両親または法的保護者に返さないことは、子どもたちの人権を明らかに侵害している。
ロシアがウクライナ南部ヘルソンを8カ月間占領した際、少なくとも1000人の子どもが学校や孤児院から強制移送された。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのバルキーズ・ジャラー准国際司法ディレクターは「これでICCはプーチンを指名手配でき、長い間ウクライナ戦争における加害者を利してきた不処罰を終わらせる第一歩を踏み出した」と語る。
「ICCの逮捕状発行は民間人に対する重大な罪を犯すよう命令したり、容認したりすると、ハーグの牢獄に入れられる可能性があるという明確なメッセージを送っている。ICCの令状は虐待を行ったり、それを隠蔽したりしている人々に対して地位や階級に関係なく法廷に立たされる日が来るかもしれないという警鐘を鳴らすものだ」とジャラー氏は評価した。
世界40カ国以上の法相が3月20日、ロンドンに集まり、ICCの戦争犯罪に関する調査を支援する国際会議を開く。英国とオランダの共同開催だ。(1)子どもに対する犯罪や性的暴力の被害者や目撃者への心理的支援、(2)デジタル証拠を使用する捜査官の訓練、(3)ソーシャルメディアやスマートフォンの映像など一般に入手可能なソースから戦争犯罪の証拠の収集能力を強化するのが狙いだ。
英国は39万5000ポンドの追加資金を提供する。今年、英国の支援総額は100万ポンド(約1億6000万円)となる。国際社会はプーチンの戦争犯罪に目をつぶってはいけない。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 19日の動き 3/19
プーチン大統領 ウクライナ東部マリウポリに入る 侵攻後初か
ロシアの国営通信社は19日、プーチン大統領が去年9月に一方的に併合したウクライナ東部ドネツク州の要衝マリウポリを訪問したと伝えました。プーチン大統領がドネツク州を訪問するのは、ウクライナへの軍事侵攻後、初めてとされ、ロシア側が掌握する地域の支配を誇示するねらいがあるとみられます。
ウクライナ産農産物輸出の合意 延長発表も期間に食い違い
ウクライナ産の農産物の輸出再開をめぐるロシアとウクライナの間の合意について、仲介役を務める国連とトルコは、期限が切れる18日、「合意は延長された」と発表しました。ただ、延長の期間については言及がなく、ロシア、ウクライナ、双方の主張が食い違っているため、懸念も残る形となりました。延長の発表後、ロシア外務省のザハロワ報道官はSNSに「60日間の延長で合意し書面で通知した」と投稿し、延長期間はあくまでも60日間だとしました。一方、ウクライナ政府で農産物輸出を担当しているクブラコフ復興担当副首相兼インフラ相は「合意は120日延長された」とツイッターに投稿し、双方の主張が食い違っています。
クリミア一方的併合から9年 ロシア各地でイベント
ウクライナ南部のクリミアを一方的に併合して18日で9年になるのにあわせて政権側が主催するイベントがロシア各地で行われ、ロシア極東の中心都市ウラジオストクでは、18日に州政府が主催するイベントで車のパレードや、コンサートなどが開かれました。パレードでは、ロシアの国旗を掲げたりウクライナへの軍事侵攻を支持するシンボルとなっている「Z」マークのステッカーをつけたりした200台以上の車が参加しました。ウクライナ側がクリミアの奪還を目指すとする中、プーチン政権としては各地でこのようなイベントを開くことで多くの国民がロシアによるクリミア支配を支持していると印象づけるねらいがあるとみられます。
プーチン大統領 クリミアを訪問
ロシアの国営メディアは18日、プーチン大統領が、クリミアの軍港都市セバストポリを訪問したと伝えました。プーチン大統領は文化施設などを視察し、施設をあとにする際に車の運転席に乗り込む様子も伝えられました。地元のロシア側のトップは「事前にオンライン会議と言われ準備していたが、突然、大統領みずから来た」とSNSに投稿しました。2014年にロシアがクリミアを一方的に併合してから18日でちょうど9年になるのにあわせて訪問した形で、ウクライナ侵攻後初めてとみられます。
●ロシアの民間軍事会社「ワグネル」新たに約3万人の戦闘員を採用へ 3/19
ウクライナ東部の要衝バフムトなどで、戦闘に参加しているロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者が、新たに約3万人の戦闘員を採用すると明らかにした。
ロイター通信によると、「ワグネル」の創設者・プリゴジン氏は18日、5月中旬までに約3万人の戦闘員を新たに採用する予定だとSNSで発表した。
プリゴジン氏は戦闘員の募集について、応募は予想以上に順調で、ロシアの42都市に開設した採用拠点で、一日に500人から800人を採用していると述べたという。
アメリカ政府は1月、ロシアの侵攻開始以来、ワグネルがウクライナに約5万人の戦闘員を送り込んだとの見方を明らかにした。さらに2月には、3万人を超えるワグネルの戦闘員が死傷したという推計を発表している。
●ロシアの進軍阻むため水浸しになった村、忍耐の限界に ウクライナ 3/19
ウクライナ軍は1年前、首都キーウ制圧を目指し進軍するロシアを阻むため、キーウの北約35キロに位置するデミディウ(Demydiv)村の近くにあるダムを破壊した。村は水浸しになった。イワン・ククルザさん(69)の自宅の地下室は今でも水が引かず、忍耐も限界に近付いている。
「水位を半分に下げてほしい。それでも戦車はここを通れないだろう」とククルザさんはAFPに話した。
ウクライナ当局は、ロシアが再び同盟国であるベラルーシから侵攻してくることを恐れ、対応してこなかった。
住民は自分で排水ポンプを調達したが、あまり効果はない。ククルザさんが自宅用に買ったポンプも冬の寒さで壊れてしまった。
政府からは2万フリブナ(約7万3000円)を賠償金としてもらったが、ククルザさんの地下室が今も氷のように冷たい大量の水に漬かっているという現実は何も変わっていない。
びしょ濡れの沼のような場所での生活は大変だが、それでも引っ越すつもりはないと話す。
住民の苦労
デミディウのウォロディミル・ポドクルガニー村長によると、政府は洪水で自宅が被害を受けたデミディウと周辺地域の住民数十人に移住案を提示したが、受け入れた人はこれまでに一人もいない。
村長は、当初の目標はキーウを防衛することだったと語った。そのため軍はキーウ近郊の貯水ダムの止水壁を爆破、数百万リットルの水がイルピン(Irpin)川に流れ込み、氾濫した。
川周辺は沼のようになり、キーウを目指すロシア軍の進みは遅れ、ウクライナ軍は態勢を立て直し、反撃に出ることができた。
戦略的には成功した。しかし、住民には影響があった。「200世帯が浸水した。住民がこの作戦で苦しんだことは明らかだ」と村長は言う。「私が受け取った、何とかしてほしいという嘆願書の山を見せることもできる」
だが、このままの状態を望む人もいる。
環境保護活動家らは、川の流れをこのままにすれば、旧ソ連時代に干拓されるまで広大な湿地だったこの地域の生態系の回復に有益だと指摘している。
「また楽園に」
ワレンチナ・オシポワさん(77)も自宅の庭の生態系が劇的に変わったことに気付いていた。
ベリーやカリフラワーを育てていた畑は今はない。代わりに、昨夏にはビーバーたちがすみついた。庭で日なたぼっこをするビーバーと「友達になった」という。
デミディウの静かな田園風景に今では排水ポンプの動く音が響いている。だが、オシポワさんは希望を捨てていない。
「水が全部排出されて土地が元の状態に戻れば、ここはまた楽園になる」  
●プーチン氏、占領したマリウポリ訪問とロシア国営メディア 3/19
ロシア国営メディアは19日、ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ南東部の港町マリウポリを訪れたと伝えた。マリウポリは昨年、ロシア軍の徹底攻撃で破壊され、昨年5月に制圧された。事実ならば、ロシア軍が昨年2月以降に占領したウクライナの土地をプーチン氏が初めて訪れたことになる。
国営タス通信によると、プーチン氏はヘリコプターでマリウポリへ移動し、現地の人たちと会談した。
ロシア国営メディアが伝えた公式動画には、プーチン氏が夜に車を運転して市内を移動した後、コンサートホールを訪れる様子が映っている。BBCはプーチン氏がいたとされる場所を検証できていない。
動画では、ロシアのマラト・フスヌリン副首相が車に同乗し、マリウポリ復興の取り組みについて説明している。
プーチン氏はさらに、市内のフィルハーモニー・ホールを訪れた様子。ここでは、昨年5月のマリウポリ陥落の際、アゾフスタリ製鉄所に立てこもり最後まで抗戦したウクライナ兵たちの裁判が夏にかけて行われた。マリウポリの東にあるロシアのロストフ・ナ・ドヌ市も訪れ、ロシア軍幹部と会談したとも伝えられている。
プーチン氏は18日の日中には、ロシア軍による併合9年を記念して、黒海に面するクリミア半島のセヴァストポリを訪問。国営メディアによると、新しいロシア美術学校や新生ロシア博物館などを視察した。
ウクライナ政府は、クリミア半島を含めてロシアが占領したすべての領土を奪還すると主張し続けている。
港湾都市で巨大製鉄所などのある工業拠点でもあったマリウポリは、昨年5月にロシアが完全掌握を宣言して以来、ロシア支配下にある。マリウポリ攻防戦は昨年2月24日の侵攻開始以来、最も激しい戦いの一つで、ウクライナ政府は2万人以上が殺害されたとしている。
国連の分析によると、マリウポリ市内にあった建物の9割が破壊され、開戦前の人口約50万人のうち約35万人が避難を強いられた。
ロシアが復興事業を推進か
現地住民のグループはBBCに対して、今ではロシアが大規模な市内復興事業に取り組み、住民の支持を取り付けようとしていると話した。マリウポリをロシアの一部に融合させるのが目的という。
ロシア当局によると、今では約30万人が市内に住んでいる。
昨年3月にはロシア軍が、マリウポリ住民の避難所となっていた劇場をミサイル攻撃した。建物は崩壊し、少なくとも300人が死亡したとみられている。
ウクライナ政府や複数の人権団体は、この劇場攻撃は戦争犯罪に相当すると非難している。
国連は、プーチン大統領とその政権が国際法違反に問われる可能性がある複数の事案のひとつに、このマリウポリ劇場攻撃を含めている。
オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)は17日、ロシアが占領したウクライナの地域から子どもたちをロシアへと不法に移送しているとして、戦争犯罪の容疑でプーチン大統領らに逮捕状を出した。これを受けて、ICC加盟123カ国にプーチン氏が入国した場合、その時点で逮捕される可能性がある。
●プーチン大統領 ウクライナ マリウポリ訪問 支配誇示ねらいか  3/19
ロシアの大統領府は、プーチン大統領が、去年9月に一方的に併合したウクライナ東部ドネツク州の要衝マリウポリを訪れたと発表し、ウクライナ側が南部や東部で反転攻勢を目指している中、ロシア側による支配を誇示するねらいがあるものとみられます。
ロシア大統領府は19日、プーチン大統領が、去年9月に一方的に併合したウクライナ東部ドネツク州の要衝マリウポリを訪問したと発表しました。
大統領府のペスコフ報道官は、大統領は18日の夕方から19日にかけて現地を訪れたとしています。
去年2月にロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて以降、ロシア側が掌握した地域をプーチン大統領が訪れたとされるのは、初めてです。
プーチン大統領がマリウポリを訪れた際に撮影されたとされる映像では、辺りが暗い中、大統領がみずから車を運転して市内を視察し、助手席に座る副首相から説明を受ける様子が見られます。
また、市内に新たに建設されたという集合住宅を訪れ、住民と立ち話をしたり住宅の中に案内されたりする姿も見られました。
プーチン大統領が一方的に併合した南部クリミアを18日に訪れたのに続いて、激しい戦闘の末に掌握したマリウポリを訪問した背景には、ウクライナ側が南部や東部で反転攻勢を目指す中、ロシア側による支配を誇示するねらいがあるものとみられます。
マリウポリ市の幹部の1人は19日、自身のSNSに投稿し、プーチン大統領の訪問とされる映像が夜間であることについて、「昼間であれば破壊された町並みがあらわになり、再建が進んでいるなどと言えないだろう」などと非難しました。
ロシア側が公開した映像では
ロシア側が公開した映像では、プーチン大統領を乗せたとされるヘリコプターが空港に着陸し、その後、大統領みずから車を運転しながらマリウポリ市内を移動する様子が確認できます。
車内でプーチン大統領は、助手席に座る副首相から、ロシア側が一方的に進めている町の建設や道路の整備状況について説明を受け、うなずいたり、説明を受けた場所を指さしたりしています。
その後、市内に新たに建設されたとされる集合住宅を訪れ、担当者から工事の進捗(しんちょく)などについて時折質問を交えながら説明を受けていました。
さらに、この地域に住む住民たちとことばを交わす姿も見られ、住民から「勝利してくれてありがとう」などと声をかけられていました。
また、別の住民から「よかったら部屋をご案内します」などと誘いを受け、実際に住宅の1室を訪れて台所などを見学し、住民に寄り添う姿勢も強調していました。
首都キーウの市民からは怒りの声
プーチン大統領がウクライナ東部のマリウポリを訪れたとロシア大統領府が発表したのに対し、首都キーウの市民からは怒りの声があがっています。
このうち36歳の女性は「ロシア軍が多くの人々を殺害したマリウポリを訪れるなんて、まともな神経ではありません。ウクライナ人として怒りと憎しみを感じます」と話していました。
また、37歳の男性は「ウクライナ人はみんな怒っているし、プーチン大統領を残虐で非道だと言っています。私にもマリウポリ出身の友人がいて、ひどい経験をしたと話していました。プーチンとこの戦争を絶対に許すことはできません」と話していました。
さらに、20歳の女性は「プーチン大統領の訪問にはなんの意味もありません。彼は残虐で、まともな政治家ではないからです。私たちの土地からプーチンとロシア軍が立ち去ることを願います」と話していました。
マリウポリ ロシアが戦略的要衝として重視
ウクライナ東部ドネツク州のマリウポリは、アゾフ海に面し、石炭や鉄鋼の輸出で栄えてきた港湾都市です。
ロシアは、9年前に一方的に併合した南部のクリミア半島とロシア本土を結ぶ線上に位置する戦略的要衝として、マリウポリを重視してきました。
今回の軍事侵攻で、マリウポリはロシア軍から激しい攻撃を受け、ウクライナ側はアゾフスターリ製鉄所を拠点に抵抗を続けましたが、去年5月、ロシア国防省は、マリウポリ全域の掌握を発表しました。
その後、プーチン政権は激しい戦闘で破壊された学校や病院、それに港湾施設などの再建に向けた基本計画を一方的に策定し、ロシアによる支配を既成事実化しようとしています。
●またロシア大物「不審死」...39人目は英ヘンリー王子夫妻住む豪邸元所有者 3/19
2022年2月にウクライナへの侵攻を開始してからというもの、ロシアではすでに39人の政府関係者や大物とされる人物が死亡しており、3月だけでも2人が謎の死を遂げた。そのうちの1人、金融詐欺師でオリガルヒのセルゲイ・グリシン(56)は3月6日、モスクワで敗血症のため死去。彼は英国のヘンリー王子夫妻に、米カリフォルニア州の9ベッドルームの豪邸を売ったとされる人物だ。
連続するこうした「不審な死」については、ウラジーミル・プーチン大統領が問題のある人物を暗殺しているのではないか、との可能性が指摘されている。グリシンも、プーチンによるウクライナ侵攻を批判していたことで知られる。
3月1日には、ロシアのCOVID-19ワクチン「スプートニクV」の開発に携わったウイルス学者のアンドレイ・ボチコフが、29歳の男性と口論中に、ベルトで首を絞められて死亡した。ロシア連邦捜査委員会がテレグラムで行った説明によれば、ボチコフの遺体が発見された直後に、容疑者は逮捕された。
動員担当者、不動産王、国防当局者...
2022年2月以降に起きた「謎の死」はほかにも多数ある。2022年10月14日には、国民の動員を担当していたロマン・マリクが、「フェンス」から首をつって死亡しているところを発見された。ロシアの不動産王ドミトリー・ゼレノフは、フランスで階段から転落した。
動員責任者を務めていたバディム・ボイコ大佐は、遺体に5発の銃弾を受けた跡があったにもかかわらず自殺とされた。ロシアの国防当局者マリナ・ヤンキナは、アパートの16階にある自宅から真っ逆さまに落ちた。
専門家のジョン・オニールはニューヨーク・ポストの取材に対し、これらの死とプーチンを結び付ける証拠はまだ見つかっていないが、プーチンはこうした状態が続くことを望んでいるように思えると述べている。
「プーチンは、直接人を殺したいとは考えていない。そうすれば、世界中でさらし者になるためだ。彼は、人々が自殺や珍しい病気で死んだように見えることを望んでいる。プーチンは、疑問の残るかたちで人を殺したいと考えている」とオニールは説明する。「同時に、これらの人々が『殺された』ということは、ロシアの全員が知っている。このような死によって、プーチンの関係者にメッセージを送っているのだ。従い続けた方が賢明だ、と」
オニールはまた連続する不審死について、現在、ロシアがウクライナ戦争で直面している「失敗」がかかわっている可能性が高いと分析している。

 

●プーチン氏のマリウポリ訪問、権力掌握をロシア国内に誇示か 3/20
ロシアのプーチン大統領がこのほど、ウクライナ南部の占領地マリウポリを訪問した。多くの死者を出した包囲戦の後、ウクライナ軍の最後の拠点だった製鉄所「アゾフスターリ」の「解放」をロシア軍が宣言してから約10カ月後の訪問となった。
しかし、プーチン氏がある意味で明白な宣伝活動を行うのに、なぜこれほどの時間がかかったのかという疑問が残る。
マリウポリは今回の戦争でロシアにとって最大の成果であり、掌握後の占領をなんとか継続している唯一の大都市でもある。たとえば、ロシア軍は昨年11月、ヘルソン市からの撤退を余儀なくされている。
治安に対する懸念があった可能性がある。プーチン氏は今月に入り、ロシア南部の戦車工場への訪問を取りやめていた。ロシアの治安当局が、ウクライナの武装した小集団が国境を越えて民間人2人を殺害したと主張したことを受けての訪問取りやめだった。
街の破壊の程度が激しかったために、写真撮影の際に背景として使えるような十分な再建が行われるまでに、これだけの時間がかかったという可能性もある。今回のプーチン氏の訪問で公開された映像は全て日没後のものだった。
マリウポリ訪問に向けた作業が、国際刑事裁判所(ICC)がプーチン氏への逮捕状を出す前から進められていたのなら、そのことが決意を固めることにつながった可能性がある。
マリウポリ訪問は、プーチン氏がクレムリン(ロシア大統領府)に閉じこもっていないことを世界に示すための低リスクの機会だ。また、ロシアの国民に対しては、プーチン氏が実権を握っており、自分で車を運転しながら市内を回れるほど若々しく元気であるほか、ロシアに違法に併合したウクライナの領土の統合と再建に注力していると示すことができる。
●ウクライナ プーチン大統領のマリウポリ訪問を批判  3/20
ロシアのプーチン大統領は、一方的に併合した南部クリミアや東部ドネツク州の要衝を相次いで訪問し、ロシア側の支配を誇示しました。これに対し、ウクライナ政府は反発しています。
ロシア大統領府は19日、プーチン大統領が去年9月に一方的に併合したウクライナ東部ドネツク州の要衝マリウポリを訪問したと発表しました。
軍事侵攻以降、ロシア側が掌握した地域をプーチン大統領が訪れたことが明らかにされたのは初めてで、大統領府が公開した映像では、辺りが暗い中、大統領がみずから車を運転して市内を視察し、助手席に座る副首相から説明を受ける様子が見られます。
これに対し、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は「犯罪者は必ず犯行現場に戻るということだ」とツイッターに投稿し、プーチン大統領にICC=国際刑事裁判所から戦争犯罪の疑いで逮捕状が出されたことを念頭に批判しました。
プーチン大統領は18日には、一方的に併合した南部クリミアも訪れていて、ロシア側による支配を誇示するねらいがあるものとみられます。
一方、ロシア側は占領している南部ザポリージャ州の都市メリトポリを州都にすると一方的に宣言したとイギリス国防省が19日、発表しました。
州都ザポリージャの占領をロシアは狙っていたものとみられますが、反転攻勢を強めているウクライナ軍は、この都市を守っています。
ロシアは占領できる可能性が非常に低いと判断し、代わりにメリトポリを州都にすると宣言したのではないかと、イギリス国防省は分析しています。
●プーチン氏「米国に共同対処を」 中露会談前に論文公表 3/20
中国の習近平国家主席のロシア訪問が20日に始まるのを前に、露大統領府は19日、プーチン大統領が中国共産党機関紙、人民日報に寄稿した論文を公開した。プーチン氏は「中露関係は史上最高だ」としつつ、米国が中露に不当な圧力をかけていると主張。中露は「世界の一極支配をもくろむ米欧の試み」に共同対処していくべきだとする認識を示した。ウクライナ情勢に関しては「中国の中立的立場に感謝する」とした。
論文はプーチン氏の現状認識を示すもので、21日に予定される首脳会談でもプーチン氏は同様の立場を習氏に伝達するとみられる。
プーチン氏は論文の冒頭で「間もなく始まる会談を楽しみにしている。会談は中露関係全体に新たな原動力を与えるはずだ」と指摘。孔子の「友が遠方から来るのは喜ばしい」との言葉を引用した。
論文は「過去10年間、世界には多くの良くない変化があったが、中露の友情は変わっていない」と指摘。中露関係は一方が他方の上位に立つものではなく、「東西冷戦期の同盟よりも優れている」と評価した。
プーチン氏は、昨年の中露間の貿易額が過去最高の1850億ドル(約24兆円)に達し、今年中に2000億ドルを超える見通しだと指摘。両国通貨による取引の割合も増え「中露関係はいっそう主権的になっている」としたほか、エネルギー分野や宇宙開発分野での協力も進展していると述べた。
一方でプーチン氏は米欧批判を展開。バイデン米政権がロシアを「直接的な脅威」、中国を「戦略的競争相手」と位置付け、同盟国や友好国とともに中露を封じ込めようとしていると主張した。米欧は「古臭い教条と世界支配に死に物狂いで固執し、世界の運命を危険にさらしている」としたほか、他国を考慮せず一方的な安全保障政策を追求する米欧への懸念を中露は共有しているとも指摘した。
ウクライナ侵略に関し、プーチン氏は「中国は(米欧による世界支配への対抗という)背景と真の理由を理解している」「ロシアに最後通告を突き付けたのは米欧側だ」と強調し、侵略を正当化した。
その上で「ウクライナ危機は米欧の世界支配願望の表れの全てではない」と主張。「北大西洋条約機構(NATO)はアジア太平洋地域にも浸透しようとしている」と中国にとっても他人ごとではないとし、中露の連携強化を訴えた。
●習近平主席 きょうからロシア訪問 プーチン大統領と会談へ 3/20
中国の習近平国家主席は20日から22日までロシアを訪問します。プーチン大統領と会談し、ウクライナ情勢について意見交換する予定です。
習主席のロシア訪問は2019年以来およそ4年ぶりで、ロシアによるウクライナ侵攻後、初めてとなります。訪問はプーチン大統領の招待を受けたもので、20日から22日まで滞在する予定です。
ロシア大統領府によりますと、到着後、プーチン大統領との会談が行われるほか、21日は共同記者会見も予定されています。
習主席とプーチン大統領の会談ではウクライナ情勢についても議論される見通しですが、中国は先月、ロシアとウクライナ双方に停戦を呼びかける声明を発表していて、戦闘を継続する姿勢を鮮明にしているプーチン大統領に対し、習主席がどのような姿勢を打ち出すのかも焦点となります。
●プーチン氏が西側諸国を非難、中ロの発展阻害で 3/20
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日、中国の習近平国家主席によるロシア訪問を翌日に控え、中ロの政治的・経済的関係の深化を歓迎し、両国の発展を阻害しようとする西側諸国を非難した。
プーチン氏は、中国共産党の機関紙「人民日報」日曜版への寄稿で、中ロの「新時代が始まる寸前」だと述べた。
さらに「ロシアと中国の関係は、その歴史の中で最も高いレベルに達し、さらに強さを増している」とし、「その質において冷戦時代の軍事・政治同盟を凌駕(りょうが)している。常に命令する者も従う者もなければ、制限もタブーもない」と述べた。この1100字の寄稿は、ロシア大統領府が公表した。
習氏による20〜22日の訪ロは、ウクライナ戦争を巡って東西の緊張が高まる中、中国のロシア支持をアピールするものとなる。プーチン氏と習氏は、中ロの世界的な野心を米国が封じ込めようとしているとの認識で長年一致しており、それが中ロ関係をますます強固なものにしている。
だが今回の訪問は、地政学的野心を強める中国と、経済的・政治的に不安定なロシアとの対比を浮き彫りにするものでもある。中国は、西側諸国の制裁下にあるロシアに経済的な命綱を提供し、石油やガスを買い上げ、マイクロチップなど軍事利用が可能な先端技術を供給している。
プーチン氏は寄稿で、中国のウクライナ情勢に対する姿勢が「非常にバランスの取れたもの」であると称賛。「中国が危機解決に向けて有意義な貢献をする用意があることを歓迎する」と述べた。
●クリミア半島併合時には侵攻条件整わず NATO対抗軍事力不足とプーチン 3/20
ロシアのプーチン大統領は19日に国営テレビが放送したインタビューで、ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合した2014年の時点では米国主導の北大西洋条約機構(NATO)に対抗するだけの軍事力が足りず、東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)への軍事作戦に踏み切る条件が整っていなかったとの見方を示した。
ロシアは東部紛争を平和的に解決しようとしたが欺かれたとし、和平のための「ミンスク合意」を履行しなかったウクライナを批判、侵攻を改めて正当化した。「地上軍の強化など、やるべきことは非常に多い」とも述べ、侵攻継続の意思を示した。
プーチン氏は「14年にはロシアに極超音速ミサイルなどの最新兵器はなかった。今はある」と述べ、当時は、ウクライナが加盟を求めるNATOに対抗できないと判断したことを示唆した。
●消耗戦と化すウクライナ戦争 西側の支援額倍増は必至か 3/20
イタリアのボッコーニ大学の欧州政策研究所所長であるダニエル・グロスが、非営利の言論サイト「プロジェクト・シンジケート」に‘An Economic Test of Wills in Ukraine’と題する論説を書き、ウクライナにおける消耗戦とその経済的試練について論じている。要旨は次の通り。
ロシアの侵攻後1年が経ち、ウクライナ戦争は消耗戦になっている。ウクライナ人の士気の高さと指導者は、彼らに重要な有利さを与えている。しかし、消耗戦においては、資源のバランスが決定的要因である。
ウクライナの国内総生産(GDP)は2022年に30%以上も低下し、今はロシアの10分の1である。この格差は今後更に大きくなる。国際通貨基金(IMF)は、ロシアは2023年に少し成長すると予想している。ウクライナは自分だけでは消耗戦を長く続けることはできない。
ウクライナは、合計で約45兆ドルの経済になる欧州連合(EU)、英国、米国の支援を得ている。ロシアのGDPはイタリアとほぼ同じで1.6兆ドルで、北大西洋条約機構(NATO)諸国の合計に対し3%でしかない。
この大きな経済的優位は、ロシアとの消耗戦でウクライナが勝利することに繋がらないかもしれない。EUと米国はウクライナ支援にGDPの0.3%の約1500億ドルを約束しているが、その全てが実施されているわけではない。これではウクライナに決定的な有利さを与えるのに十分ではない。
ロシアはそのGDPの4~6%の支出で欧米の支援額のレベルに対抗できる。プーチンがほぼ絶対的権力を持ち、ロシア人の多くがそれに黙従するなか、これは十分に可能である。ロシアに戦争のコストを耐えがたくするためには、西側はウクライナ支援を倍増、または3倍増しなければならないだろう。
ロシア軍はすでに戦術を調整し、消耗戦をしている。ウクライナでの勝利は安価に得られそうにはない。
西側の指導者は間もなく選択せざるを得なくなるだろう。ウクライナへの物的、金融的支援を倍増、または3倍増するか、あるいはロシアが今日占領している領土を保持するのをただ見ているか。ウクライナは領土の征服を受け入れないと誓い、交渉はロシアが完全にウクライナ領土から撤退したときにのみ始まるとしている。もしこれが目標であれば、西側は必要なところへ資金を提供する必要がある。
この論説は、消耗戦になってきているウクライナ戦争の今後について、経済力の強さが決定的になるとして経済面からの分析をし、西側がその支援額を倍増あるいは3倍増しないとウクライナ側が不利になると警鐘を鳴らしたものである。それなりに説得力のある論である。
消耗戦、長期戦になって、時はウクライナにとって味方ではなくなっているとの考え方が多くなっているが、プーチンがこの戦争に部分的であれ、勝利を収めることにならないようにすることが重要である。
そのためには、グロスが言うようにウクライナ支援額を倍増あるいは3倍増する必要があるのかもしれない。武器支援の強化、迅速化も必要であろう。またロシアを追い詰めて核使用やNATO領攻撃のようなエスカレーションを起こさないように、これまでウクライナへの提供をやめてきたロシア領も攻撃しうる長距離兵器、特に地対地ミサイル「ATACMS」の供与や戦闘機の供与も考える必要があるかもしれない。
ロシア領はほぼ安全という状況は戦争の長期化につながる。エスカレ―ションへの恐れからウクライナ戦争の非対称性を維持することが適切か否か、メリット、デメリットを今一度検討する必要があるのではないかと思われる。
プーチンの国内支配は盤石か?
ロシアの継戦能力については、ロシアにとりグロスの評価よりも厳しいのではないか。ロシアは兵器生産、兵員動員の面で相当苦しくなっているのではないかと思われる。
プーチンは来年の3月には大統領選挙を控えている。いま新たに50万人を動員するなどのことをやれば、ロシア国民はこういう戦争はやめてほしいと考える可能性が高い。選挙はインターネット投票を不正に操作して勝つことができるかも知れないが、国内は選挙不正のデモなどに見舞われる可能性がある。
プーチンが絶対的権力を持ち、国民の多くが黙従するとの評価は、ロシア国内での世論を軽視しすぎのようにも思える。プーチンによるウクライナ戦争と「大祖国戦争(独ソ戦)」を同一視するプロパガンダは、SNSを多用している若者にはそれほど影響を与えていないとの説もある。
●中国 習主席のロシア訪問前に両首脳が相手国のメディアに寄稿  3/20
中国の習近平国家主席が20日からロシアを訪問するのを前に、習主席とプーチン大統領が相手の国のメディアにそれぞれ寄稿しました。ウクライナ情勢をめぐって習主席が「解決への合理的な方法は必ず見つけられる」と強調したのに対し、プーチン大統領は中国の建設的な役割を歓迎する姿勢を示しました。
中国の習近平国家主席は、20日から22日までの日程でロシアを公式訪問する予定です。
これを前に両首脳は、相手の国のメディアにそれぞれ寄稿し、このうち習主席は、中国が発表したロシアとウクライナに対話と停戦を呼びかける文書について「各国の懸案を合理的に取り入れ、建設的な役割を果たした」と意義を説明しました。
そのうえで「各国が平等かつ理性的、実務的な対話を堅持すれば、ウクライナ危機を解決する合理的な方法は必ず見つけられる」と強調しました。
これに対しプーチン大統領は、今回の習氏との会談について「両国の協力関係に新たな弾みがつくことは間違いない」と期待感を示しました。
そしてウクライナ情勢について「中国のバランスの取れた方針に感謝する」として、中国の建設的な役割を歓迎する姿勢を示しました。
両首脳は21日、去年9月以来となる対面での会談を行う予定で、ウクライナ情勢をめぐってどのような姿勢を打ち出すのかが焦点となります。 
●ロシア大統領府、プーチン氏逮捕状は「明確な敵意」 冷静に対応 3/20
ロシア大統領府(クレムリン)は20日、国際刑事裁判所(ICC)が同国のプーチン大統領に対してウクライナでの戦争犯罪の責任を問う逮捕状を発付したことを巡り、ロシアと同大統領個人に対して存在する「明確な敵意」の表れだと反発した。
一方で、記者団に対し「(そうした敵意)それぞれを真に受けては何もいいことはない」と述べ、冷静に対応していると強調した。
ペスコフ報道官はICCによる逮捕状発布を受けた当初のコメントでは、ロシアはICCが提起した問題そのものが「言語道断かつ容認できない」として、激しく反発していた。
●ロシア ICCに刑事手続き プーチン大統領に逮捕状への対抗か  3/20
ウクライナ情勢をめぐってICC=国際刑事裁判所がロシアのプーチン大統領に戦争犯罪の疑いで逮捕状を出したことについて、ロシアの連邦捜査委員会は「違法な手続きだ」として、ICCのカーン主任検察官や赤根智子裁判官などに対して刑事手続きを開始したと発表しました。ロシアとして対抗措置を講じたものとみられます。
ICCは17日、ロシアが、ウクライナで占領した地域から子どもたちをロシア側に移送したことをめぐり、国際法上の戦争犯罪の疑いでプーチン大統領など2人に逮捕状を出しました。
これに対してロシアで重大事件を扱う連邦捜査委員会は20日声明を発表し、「違法な手続きだ」として、ICCのカーン主任検察官や赤根智子裁判官などあわせて4人に対して刑事手続きを開始したと明らかにしました。
連邦捜査委員会は声明の中で「国家元首は外国の司法権から絶対的な免責を享受している。ICCの行動は、国際関係を悪化させるために外国の元首を攻撃しようとしている」などと主張しています。
プーチン大統領に逮捕状が出されたことに対してロシア側はこれまでに「容認できない」などと強く反発していて、今回の発表は、ロシアとして対抗措置を講じたものとみられます。
●クレムリンはプーチンの後継者探しを始めている──プーチン抜きで 3/20
ウクライナの情報機関関係者によると、ウクライナ戦争への不満がロシア国内でも高まる中、ロシア政府はウラジーミル・プーチン大統領の後継者を探しているという。
プーチン大統領は2022年2月24日に、ウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始。当時、ウクライナの軍事力は格段に劣ると認識されていたため、迅速な勝利を目指していた。だが西側の軍事援助によって強化されたウクライナの防衛力は予想をはるかに超え、ロシアの軍事的優位性はあやうくなった。
戦闘開始から1年以上経ったが、ロシアの侵攻は停滞を続けている。ウクライナは昨秋、ロシアに占領されていた数千平方キロの領土を奪還した。戦闘は依然としてウクライナ最東部に集中しており、バフムトの支配を狙うロシアの攻勢もここ数日は鈍化している。
ロシアの国民はこの戦争中、ほぼずっとプーチンを支持してきた。だが、損失が拡大し、ロシア軍が16万人以上の死者を出す中で、一部の人々が戦争にうんざりしている気配もある。
だからこそ、ロシア政府はプーチンの後継者を探していると、ウクライナは考えている。
害をもたらす存在に
ウクライナ軍事情報総局のアンドリー・ユーソフ報道官は最近、後継者探しが行われているのは、「プーチンを囲む人の輪がどんどん小さくなっている」からだ、と語った。ユーソフによれば、プーチンはロシア国内でさえ「ますます害をもたらす存在」になっている。
「ロシア政府内部では、起きていることへの不満がますます高まっている」と、ユーソフは言う。「将来の見通しは暗くなるばかりだ。具体的に言うと、プーチン政権は地政学的に破滅的な状況を迎えるだろう。したがって、プーチンの後釜探しはすでに始まっている」
さらに、プーチンは最終的な後継者の選定にはもはや関与していないと付け加えた。ユーソフの発言は、17日に初めてツイッターに投稿され、ウクライナのアントン・ゲラシェンコ内相顧問が翻訳した。ユーソフは、プーチンの後継者候補の名前は挙げていない。
ロシアはユーソフの発言について公式にコメントしておらず、プーチンの更迭でロシア軍内部の問題が解決されるかどうかもわからない。プーチンに批判的な人々のなかには、プーチンが今回の侵攻を「戦争」ではなく「特別軍事作戦」に分類し、軍が完全な動員を開始するための権限を制限したことを批判する声もある。
だが専門家は、ウクライナ侵攻がうまくいかない原因は、他にもあると指摘している。特に冷え込む冬の間に、意欲のある兵士を確保するという難題や、軍のリーダーシップの問題などだ。
プーチンの未来が暗いものに見えるのは、国際刑事裁判所(ICC)が17日にウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑の容疑でプーチンの逮捕状を発行したからでもある。プーチンが実際に逮捕される可能性は低い。だが、ほとんどの国がICCの主権を認めているため、この逮捕状によってプーチンの海外渡航は大幅に制限されるだろう。
●プーチン大統領 一方的併合のウクライナ4州に法律の整備を指示  3/20
ロシアのプーチン大統領は、去年9月に一方的な併合に踏み切ったウクライナの4つの州について、住民を保護するためだとして法律の整備を急ぐよう内務省に指示し、支配の既成事実化を推し進める考えを強調しました。
ロシアのプーチン大統領は20日、首都モスクワで開かれた内務省の関係者が出席する会議で演説しました。
このなかで、プーチン大統領は去年9月に一方的な併合に踏み切ったウクライナの東部と南部の4つの州について「これらの地域に住むすべての住民が法律によって保護されるよう、内務省は、その支援を組織的に行うべきだ」と述べました。
具体的な措置の1つとして、この地域に住む人たちがロシア国民であることを証明するパスポートを早急に受け取れるようにすべきだとしています。
プーチン大統領は、今月18日には9年前に一方的に併合したウクライナ南部クリミアに続いてその後、東部ドネツク州の要衝マリウポリをそれぞれ事前の予告なく訪問し、ロシア側の支配を誇示しました。
ウクライナ側は、ロシアに占領された地域の奪還を目指して東部や南部で反転攻勢を続けていますが、プーチン大統領としては支配した地域の既成事実化を法的にも推し進める考えを強調したものです。
●政治的野心をプーチン氏が警戒か、ワグネル創設者の排除を加速  3/20
ロシアのプーチン政権が、ウクライナ侵略の兵員補充で頼りにしてきた露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏の排除を加速させている。侵略を通じ政治的野心を強めることを警戒し、ワグネルの代替部隊の編成も急いでいると指摘されている。
英BBCなどは今月、露国営ガス会社「ガスプロム」の系列会社が事実上の官製軍事会社の設立を進めていると報じた。志願兵をワグネルより手厚い待遇で集めているとの情報もある。
設立の名目は「エネルギー施設の安全確保」だが、ウクライナ情報機関などは「志願兵を前線に投入するのが目的」と指摘する。米政策研究機関「戦争研究所」は「プーチン政権がプリゴジン氏を戦線離脱させる動き」とし、セルゲイ・ショイグ国防相らと対立するプリゴジン氏を、統制の利く官製軍事会社に置き換える狙いだとの見方を示した。
プーチン大統領は、政治的野心を示し、突出する存在を排除してきた。プリゴジン氏は11日、「私がウクライナの次期大統領選に立候補し勝利すれば、弾薬は必要ない」とSNSに投稿した。右派などを取り込んだ政党創設の可能性も指摘されている。
プリゴジン氏は6日、弾薬を求める書簡を露国防省に送り、拒否されたとSNSで批判。19日には「反対勢力による陰謀が戦いを邪魔する」と投稿し、露国防省の主流派などを念頭にワグネルを「分解」させようとしていると主張した。
ウクライナの軍事専門家は12日、ワグネルについて4万5000人いた戦闘員が7000人に激減したと指摘した。人海戦術で投入してきた受刑者の勧誘も露国防省に妨害されているとされる。東部ドネツク州バフムトでは、受刑者だけでなく、戦闘経験が豊富な主力戦闘員の投入も強いられ、プリゴジン氏はワグネルの部隊が撤退せざるを得なくなるとの危機感を強めているとみられる。
プリゴジン氏は今月、40都市以上の格闘技場などで新たな募集を開始し、今年5月中旬までに「約3万人」の雇い兵を派兵すると主張した。
●ロシアの要衝奪取「不可能」 敵の損失重大と主張 ウクライナ軍 3/20
ウクライナ東部軍の報道官は、東部ドネツク州の要衝バフムトを巡る攻防について「(ロシアは)戦術的に奪取作戦を完遂できない」と語った。
ウクライナのメディアが19日、伝えた。報道官は、激しい戦闘が続いていると認めつつ、ロシア側が「惰性で攻撃しており、重大な損失に苦しんでいる」と主張した。
バフムト攻撃の一翼を担うロシアの民間軍事会社「ワグネル」は8日、バフムト東部を制圧したと宣言したが、ウクライナ側の抵抗で戦況はこう着。ワグネルの兵員に多数の死傷者が出ているとされる。 

 

●習主席ロシア訪問 プーチン大統領と“1対1”の会談 3/21
中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領と1対1の形で会談を行いました。プーチン氏はウクライナ情勢をめぐる中国の「和平案」について協議する姿勢を示しました。
記者「習近平国家主席を乗せた車がモスクワ市内の建物を出てきました。車には中国の国旗がついています」
習主席は20日、プーチン大統領とモスクワのクレムリンで1対1の形で会談を行いました。
ロシア プーチン大統領「ウクライナでの深刻な危機を解決するためのあなたの提案を精査した。もちろんそれについて話し合うことができる」
会談は冒頭のみ公開され、プーチン氏は中国が先月停戦を呼びかける文書を発表したことを念頭に「われわれは交渉に常にオープンだ」と述べ、中国の「和平案」について協議する姿勢を示しました。
これに対し習氏は「中国はロシアとの関係発展に大きな注意を払っている。われわれは包括的かつ戦略的パートナーだ」と強調しました。
両首脳はその後、非公式の食事会を行い、21日に首脳会談を行う予定です。
プーチン氏は週末に一方的に併合したウクライナ南部クリミアと南東部のマリウポリを相次いで訪問。ロシア側支配地域を手放さないという強い姿勢を示した形で、習氏に対してもロシアの立場を改めて主張するものとみられます。
●中国主席、プーチン氏再選を「確信」 24年大統領選出馬なら 3/21
ロシア訪問中の習近平・中国国家主席は20日、2024年のロシア大統領選にプーチン大統領が出馬した場合、プーチン氏が支持を獲得すると確信していると述べた。プーチン氏は再選を目指すか否かを表明していない。
習氏はプーチン氏の「力強いリーダーシップにより、ロシアは近年、繁栄実現に向け大きな進歩を遂げた。ロシア国民はプーチン氏の努力を強く支持すると確信している」と述べ、24年に予定されている大統領選挙で国民がプーチン氏を支持すると確信していると語った。
この発言が中国語からロシア語に翻訳されると、プーチン氏は習氏を見つめて短くほほ笑んだ。
ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は、習氏がプーチン氏の24年大統領選出馬について具体的に語ったわけではないと指摘した上で、ロシア国民がプーチン氏を支持しているという習氏の確信を共有しているとした。
習主席はこの日にモスクワに到着。プーチン氏と習氏の正式な会談は21日に予定されている。
プーチン大統領はクレムリンで行った習主席との非公式会談の冒頭で、習氏を親愛なる友人と呼び、習氏がロシアと中国の関係に多くの注意を払っていることを承知していると指摘。国際情勢にバランスの取れたアプローチを取っていると述べた。
その上で、中国が提案したウクライナ和平計画に目を通し、ロシアは敬意を持ってこの計画を見ているとし、この件について議論すると述べた。
●習氏がロシア訪問、プーチン氏と会談 米は「外交的援護」と非難 3/21
中国の習近平国家主席は20日、ロシアを訪問し、モスクワのクレムリン(ロシア大統領府)でプーチン大統領と会談した。習氏にとっては、今月の全国人民代表大会(全人代)で異例の3期目が決定してから初の外遊となり、訪ロは約4年ぶり。
習氏はロシアとの経済関係深化を目指しつつ、ロシアが侵攻を続けるウクライナでの停戦向けた仲裁役を担うことを視野に入れる。米政府は習氏の訪ロが、ロシアが引き続き犯罪を犯すための「外交的援護」を提供していると非難した。
プーチン大統領は非公式会談の冒頭で習主席を親愛なる友人と呼び、習氏がロシアと中国の関係に多くの注意を払っていることを承知していると指摘。国際情勢にバランスの取れたアプローチを取っていると述べた。
タス通信によると、非公式会談は約4時間半に及び、「両首脳は21日に再び会談し、本格的な協議を行う」という。
プーチン大統領はさらに、ウクライナ紛争の解決に向けた中国の提案に目を通したとし、ロシアは敬意をもってこの計画を見ており、この件に関して討議すると伝えた。
習主席は、プーチン氏の「力強いリーダーシップにより、ロシアは近年、国の繁栄の実現に向け大きな進歩を遂げた。ロシア国民はプーチン氏の努力を強く支持すると確信している」と述べ、2024年に予定されている大統領選挙で国民がプーチン氏を支持すると確信していると語った。
こうした中、ブリンケン米国務長官は、国際刑事裁判所(ICC)がプーチン大統領に戦争犯罪の疑いで逮捕状を出したにもかかわらず、習主席がプーチン氏と会談するためにロシアを訪問したことは、中国がウクライナでの残虐行為についてロシアの責任を問うべきと考えていないことを示していると述べた。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官も「われわれは習主席がプーチン大統領に、ウクライナの主権と領土保全を尊重する必要性について直接圧力をかけるよう促す」と述べた。
さらに習氏とプーチン氏が愛情に基づくものではなく、「ちょっとした政略結婚」でつながっているように見えるとし、「この2カ国は、世界における米国のリーダーシップに長い間、不満を抱いてきた」と語った。
●中国が示すウクライナ停戦案に隠された「罠」と、ロシアを庇護する3つの目的 3/21
中国の習近平国家主席は20日から3日間の日程でモスクワを訪問し、ウラジーミル・プーチン露大統領と会談した。バイデン米政権は中国によるロシアへの武器供与を警戒しており、中国が示す停戦案は「ロシアの侵略」を利するだけだと権威主義国家の中露連携に「深い懸念」を表明している。
「ロシアへの旅は友情、協力、平和の旅になる」という習氏は「プーチン大統領の招きでロシアを公式訪問できることは大きな喜び」と述べた。中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」は「中露両国の専門家は今回の訪問は象徴であり、2国間関係の発展を促進するだけでなく、ウクライナ危機の平和的解決への希望と自信をもたらす」と報じた。
中国は敵対するサウジアラビアとイランの国交正常化協定を仲介するなど、長年にわたる経済重視の外交を転換。環球時報は「ウクライナ危機でモスクワは非西側との関係構築を重要視するようになり、西側の反ロシア政策に従わない国により開放的になってきている。今後の中露協力にはより多くの可能性とチャンスがある」との中国の専門家の見方を伝えた。
英BBC放送によると、習氏はロシア北部のペチョラ川で獲れた白身魚のネルマ、ロシアの伝統的なシーフードスープ、ウズラ入りパンケーキなど7品のコース料理とロシアワインでもてなされた。プーチンは「中国が正義と国際法の基本条項の尊重、安全保障の不可分性という原則に導かれていることを知っている」と中国の停戦案を支持する姿勢をにじませた。
プーチンがこだわる「安全保障の不可分性」
プーチンがこだわる「安全保障の不可分性」とは、一国が単独で安全保障を強化しようとすれば軍拡競争が始まり、「安全保障のジレンマ」に陥ることを指す。ウクライナの安全保障は、ロシアとその影響圏にある国々の安全保障と切り離せないという一方的な考え方だ。ベルリンの壁とソ連の崩壊で多くの旧ソ連圏諸国が西側になびき、ロシアと袂を分かった。
それがロシアの安全保障と国益を損なったとプーチンは思いこんでいる。プーチンがウクライナを自由と民主主義の影響を止める砦とみなしたのと同じように、習氏は手中に収めた香港に続き、台湾を西側に対する砦とみなす。習氏はプーチンのウクライナ戦争に直接加担するのを避けながら、西側の影響力を排除する共同戦線を組む。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は17日「モスクワでの首脳会談で中国側が提示する停戦案は決して支持できない。ロシアを利するだけだからだ。現時点での停戦はロシアの侵略を事実上承認するものだ。ロシアは停戦を利用して防御を固め、部隊を立て直し、好きな時にウクライナを攻撃できるようになる」と批判した。
プーチンは18〜19日、ウクライナ南部クリミア半島の軍港セバストポリと東部ドネツク州の要衝マリウポリを訪問した。不法な占領による安定を既成事実化するためだ。一方、国際刑事裁判所(ICC)は17日、ウクライナの占領地域から子どもたちをロシアに強制移送してロシア化の再教育を進めているとしてプーチンら2人に対して戦争犯罪の逮捕状を出した。
ICC加盟123カ国に足を踏み入れたら逮捕の恐れも
20日、英蘭主導の国際戦争犯罪会議がロンドンで開かれ、40カ国以上が参加した。ドミニク・ラーブ英副首相は「ウクライナで行われた不当でいわれのない残虐行為について戦争犯罪者の責任を問うという1つの大義に結ばれ、ここに参集した。英国は国際社会とともにICCに資金・人材・専門知識を提供し、正義が実現されることを保証する」と強調した。
ICC加盟123カ国に足を踏み入れれば逮捕される恐れがあるプーチンは人民日報に「ロシアと中国 未来を見据えたパートナーシップ」と題して寄稿。「とも有り、遠方より来たる、また楽しからずや」と孔子の言葉を引き「私たちにとって真の友人は血のつながった兄弟のようなものだ。私たちの国はとても似ている」と数少ない友人の1人、習氏を持ち上げた。
「露中関係は歴史上最高レベルに達し、強くなり続けている。冷戦時代の軍事・政治同盟よりも質が高く、リーダーとフォロワーが存在せず、制約も禁じられた話題もない。ロシアと中国を結ぶシベリアガスパイプライン『パワー・オブ・シベリア』は誇張なしに『世紀の取引』となっている」。中露貿易はプーチンと習氏の10年間で倍増した。
「ロシアと中国は地域と世界全体において第三国に向けられたものではなく、公平で開かれた包摂的な安全保障システムを構築するという利益のために一貫して取り組んでいる。われわれはウクライナで起きている出来事に対する中国のバランスの取れたアプローチと、その背景と真の原因に対する中国の理解に感謝している」とプーチンは習氏に感謝した。
習氏の対露外交3つの目的
「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」には次の12項目が掲げられる。ロシアのウクライナ占領や併合には目をつぶり、戦争の早期終結を求める第三勢力を取り込む内容だ。ウクライナには泣き寝入りを強い、プーチンに兵力を立て直す時間を与える。時間はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領ではなくプーチンに有利に働く。
   (1)すべての国の主権の尊重
   (2)冷戦思考からの脱却
   (3)敵対行為の停止
   (4)和平交渉の再開
   (5)人道的危機の解決
   (6)民間人と捕虜の保護
   (7)原子力発電所の安全維持
   (8)核兵器使用と核戦争の回避。中国は化学・生物兵器の研究・開発・使用に反対
   (9)穀物の輸出を促進
   (10)一方的な制裁の停止
   (11)産業とサプライチェーンの安定維持
   (12)紛争後の復興を促進
習氏は露政府発行のロシア新聞に「中露友好・協力・共同発展の新章を切り開くため前進する」と題して寄稿し「ロシアは私が国家主席になって最初に訪問した国だ。この10年で私は8回ロシアを訪問した。中国とロシアは互いに最大の隣人であり、協調の包括的戦略パートナーだ」とプーチンに呼応したが、中露の天然ガス・パイプラインには触れなかった。
米シンクタンク、ブルッキングス研究所のライアン・ハス上級研究員は「中国指導者の対ロシア外交には3つの目的がある。第一はロシアを中国のジュニアパートナーとして長期的に固定化すること。第二にモスクワがウクライナで客観的に負けることがないようにすること、すなわちプーチンが倒れないようにすることだ」と分析する。
「第三の目的はウクライナを台湾から切り離すことである。中国の指導者たちは今日のウクライナは明日の台湾だという見方が広がることに不満を抱いている。ウクライナは主権国家であり、台湾はそうではないこと、両者を比較すべきではないことを世界に認めさせたいのだ」。ウクライナの痛みを和らげるため西側が中国に働きかえる余地はあるとハス氏は言う。
●習近平氏「覇権の横暴が深刻」、プーチン氏「米がロ中を抑圧」 3/21
中国の習近平国家主席がロシアのプーチン大統領の招待で20日、3日間の日程でロシアを国賓訪問した。それぞれ台湾とウクライナをめぐって米国と対立している状況で、対米共同戦線を強化する考えを明らかにした。
両首脳は、国賓訪問の初日の20日、互いに相手国メディアに寄稿文を掲載し、緊密な中ロ関係をアピールした。習氏はロシアのメディアを通じて「患難見真情(まさかの時の友こそ真の友)」と書き、「中ロは最高の隣人」と強調した。プーチン氏も、中国共産党機関紙「人民日報」に、「ロ中関係は過去最高の水準」と主張した。
米国に対しては警告を強めた。習氏は、「覇権の横暴が深刻で、世界経済の回復を遅らせている」とし、「一国が決める国際秩序は存在しない」と事実上、米国を批判した。プーチン氏は、「米国は、指令に屈しないという理由で中国とロシアをますます抑圧している」と米国を名指しで非難した。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は19日、FOXニュースとのインタビューで、「第2次世界大戦後、米国と多くのパートナーが構築した世界秩序を揺るがすことが中ロの戦略」と強調した。
●ウクライナでの戦争犯罪捜査 ICCに支援を 英で国際会議 3/21
ウクライナでの戦争犯罪を追及するため、捜査を担っているICC=国際刑事裁判所への支援強化について話し合う国際会合がイギリス・ロンドンで開かれました。
この会議はイギリスとオランダ政府の共催で開かれたもので、ウクライナなど40か国以上の政府高官のほか、ICC=国際刑事裁判所のカーン主任検察官が参加しました。
ICCは17日、ロシアのプーチン大統領に対しロシアが占領したウクライナの地域から子どもを不法に移送したとして、戦争犯罪の疑いで逮捕状を出しています。
ICC カーン主任検察官「ICCが初めて、国連安保理の常任理事国の指導者や高官に対し逮捕状を出す必要が生じたのは実に悲しく、深刻なことだ」
会議ではICCへの支援強化策として、財政支援や捜査能力を向上させるための協力体制について話し合われました。
また、イギリス政府はICCに対し子どもや性暴力の被害者らに対する心理的な支援や、インターネット上の公開情報から犯罪証拠を収集する捜査官の能力向上などのため、およそ40万ポンド、6300万円あまりを追加支援することを決めました。
●ウイグル集団虐殺続く ウクライナ侵攻で戦争犯罪―米人権報告 3/21
米国務省は20日、各国の人権状況をまとめた2022年版の報告書を発表した。報告書は中国・新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族に対する「ジェノサイド(集団虐殺)や人道に対する罪が続いている」と非難している。
ブリンケン国務長官は20日の記者会見で、中国政府がチベット人の抑圧を継続しているほか、香港では基本的人権を弾圧し、中国本土でも「基本的自由を行使する個人を標的にしている」と批判した。
報告書はまた、ロシアのウクライナ侵攻について、市民の処刑、女性や子供に対する性的暴行など、ロシア軍による戦争犯罪が行われていると言及している。
●日印首脳会談 ウクライナ情勢めぐり連携強化で一致 3/21
インドを訪問中の岸田総理大臣はモディ首相と会談し、ウクライナ情勢を巡り、「法の支配」に基づく国際秩序を維持・強化していく共通の責任があるとの認識で一致しました。
岸田総理は「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国を含め、国際社会が結束して声を上げることの重要性を訴えました。
岸田総理大臣「国際社会が共に声を上げていく。これが重要であり、ロシアによる侵略を一刻も早くやめさせることにつながっていくと考えています」
会談では「グローバル・サウス」が大きく影響を受けているエネルギーや食糧不足などの課題に緊密に連携して対応していくことを確認しました。
そのうえで、岸田総理は途上国などに影響力拡大を試みる中国やロシアを念頭にG20の議長国として「グローバル・サウス」を牽引(けんいん)するインドとの関係強化を前面に打ち出しました。
外務省関係者は「G7広島サミットの成功に向けて、インドの協力を取り付けたことは大きい」と成果を強調しています。
●訪ロの中国・習主席 プーチン氏と会談 「建設的役割果たしたい」 3/21
ロシアを訪問している中国の習近平国家主席は、プーチン大統領との会談でウクライナ情勢をめぐり「政治的解決のために建設的な役割を果たしたい」と強調しました。
習近平国家主席とプーチン大統領は20日、夕食会を含め1対1で4時間半ほど会談しました。
中国外務省によりますと、習主席はウクライナ情勢をめぐり「衝突は結局、いずれも対話や交渉を通じて解決する必要がある」と指摘。
中国が先月下旬に発表した停戦を呼びかける文書に言及し、「冷戦思考や一方的な制裁」に反対しました。そのうえで「矛盾が存在するほど対話の努力を放棄してはならない」として、「政治的解決のために建設的な役割を果たしたい」と強調しました。
一方、プーチン氏は「中国が重大な国際問題において一貫して公正で客観的かつバランスの取れた立場を堅持し、公正と正義を主張していることを称賛する」と応じました。
そして、中国が発表した停戦を呼びかける文書を「真剣に研究した」としたうえで、「和平交渉に開放的な態度を持ち、中国がそのために建設的な役割を果たすことを歓迎する」と表明しました。
両首脳は21日、公式の首脳会談を行う予定です。
●米国、ウクライナに3.5億ドルの追加軍事支援へ 3/21
岸田文雄首相は21日、ウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行う。外務省が発表した。5月の先進7カ国(G7)広島サミットを前に議長国としてウクライナ支援の継続を主導する狙いがある。
米国はウクライナに総額3億5000万ドル(約460億円)相当の追加軍事支援を供与すると発表した。同支援には弾薬などが含まれる。一方、欧州連合(EU)はウクライナに弾薬100万発を提供する案で合意した。
中国の習近平国家主席は訪問中のモスクワで、ロシアのプーチン大統領と共に「中ロの戦略的調協調の青写真」を作り上げると表明。一方、プーチン大統領は中国が提示したウクライナでの紛争終結に向けた構想を称賛した。
ウクライナでの戦争終結の仲介を目指す習氏にとって今回のロシア訪問はこれまでで最も意欲的な試みだ。ブリンケン米国務長官はロシア軍が掌握した地域の「凍結」につながることになる中ロのプランに世界はだまされるべきではないと述べた。
●プーチンを支えるロシア人の「従順さ」と「人命軽視」 3/21
ウクライナ侵攻の戦況は膠着状態が続いている。ロシア軍は東部で攻勢を続けているが、いまだにプーチン大統領が渇望している「象徴的勝利」でさえ挙げられないままだ。
プーチン氏は勝利への展望を示せないまま、最近では「国家存亡」が懸かっていると危機感を国内向けに煽り始めた。それでも今のところ、戦争への支持も高く、プーチン体制は強固だ。それはなぜか。さまざまな要因があるが、今回は問題の根本にあるロシア人の国民性の観点から考えてみたい。
世論調査での高支持率の理由
侵攻開始から丸1年を控えた2023年2月半ば、ある著名な社会学者の発言が注目を集めた。独立系世論調査機関レバダセンターの前所長で、現在はセンターの研究責任者でもあるレフ・グトコフ氏のポーランド紙とのインタビューだ。
レバダセンターの調査では戦争支持が70%から80%前後の高い水準で推移していることについて、実際の支持率はもっと低いとする通説を明確に否定し、本音の支持率を反映しているとの見解を示したからだ。グトコフ氏は「私自身、戦争支持の程度の高さにショックを受けた。侵攻に対し、社会はもっと否定的な反応を示すと予測していたからだ」と述べた。
こうした高い戦争支持率を示す今のロシア社会はどういう状況になっているのか。グトコフ氏はこう分析する。「基本的に、世論は政治への無関心、いつか戦争は終わるという期待、生活は変わらない、という気持ちがない交ぜになっている」と。そのうえで、本当に反プーチン、戦争反対の意見は10%から12%前後ではないかとみているという。
グトコフ氏は戦争支持が根強い要因として、戦死者の実際の規模を含め、実情を伝えないクレムリンによるプロパガンダの影響も大きいとしながらも、「実際のところ、ロシア社会は予想よりもっと(政府に)従順で、受け身であることがわかった」と語った。
グトコフ氏が指摘する国民の政府への「従順さ」。この言葉こそ、戦争とロシア国民の関係を理解するうえでのキーワードである。戦争への高い支持率だけではない。ほかにも「従順さ」という視点から説明できる問題がある。
例えば、なぜロシアで大規模な反戦デモが起きないのか、という疑問だ。ロシアでは小規模のデモでさえ、厳しい取り締まりの対象となる。当局の暴力や投獄への恐怖という要素も背景にあるのは間違いないだろう。しかし反戦デモが起きない要因について、ロシアのリベラル派の政治学者アンドレイ・コレスニコフ氏は、暴力への恐怖ではなく、権力への「従順さ」こそに最大の要因であると指摘する。
国民の「従順さ」はどこから来るのか
このコレスニコフ氏の指摘を深く肉付けする形で、ロシア人の従順さの歴史的「源流」について本格的な論考を発表したのはソ連時代からロシアを代表する政治学者であるアレクサンドル・ツィプコ氏だ。侵攻開始後の2022年6月22日付のロシア有力紙『ネザビシマヤ・ガゼータ』で、「もはや黙っていられない」と公然とプーチン政権による侵攻を批判した。
論考は、ロシア人が、帝政時代から全能なる「父なるツアーリ(皇帝)」に政治を委ねるという伝統的思考を今も受け継いでいると指摘。この結果「法意識、人命の大切さ」などの西欧的価値観を社会に定着させることができなかったと指摘した。
このため、ロシアでは「自律的に思考する人々、ましてや権力に論争を挑む人間は嫌われるのだ」と指摘した。ツィプコ氏は結論として「はっきり言うが、今のロシアの専制体制の根本にあるのは、こうしたロシアの文化的後進性である」と断じた。
2000年に登場したプーチン政権に国民が高い支持を示した背景として、従来「社会契約論」が語られてきた。国民が政治に口を挟まない代わりに、クレムリンは国民に安定した生活を保障するという、一種のギブ・アンド・テーク論だ。 
しかし、1年以上続く侵攻によって多数の戦死者を出し、数十万の若者が動員を嫌って国外に脱出するなど社会全体が大きく揺さぶられている現在でも国民がプーチン政権を支持する理由として、このいかにも社会学的な、スマートな切り方である「社会契約論」だけでは説明がつかないと筆者は考えていた。その意味で、指導者に政治のすべてを委ねるロシア人。これこそがプーチン支持の源流だというツィプコ氏の歴史的考察は極めて説得力がある。
興味深いのは、論考の中で、ツィプコ氏が現在投獄されている反政権派運動の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏を批判したことだ。両氏はともに、欧米的民主主義を志向する方向性を共有しているはずだが、ツィプコ氏はナワリヌイ氏について、ロシア人の「歴史的特性」を理解していないから多くの国民から支持を得られていないと指摘したのだ。
この批判についてツィプコ氏は詳述していないが、念頭にあるのはナワリヌイ氏によるプーチン政権の腐敗追及運動だろう。いくら腐敗を告発しても、指導者にすべてを委ねる国民性からすれば、プーチン氏がどれほど莫大な財を不当に得たとしても自分たちに関係がない政治の話であり、騒ぐ問題ではないと受け止める。だから、いくら腐敗を告発してもロシアの有権者の心には響かないと忠告したのだと筆者は考える。
ツィプコ氏の指摘を裏付ける典型的ケースがあった。ナワリヌイ派が2021年1月、プーチン氏がロシア南部の黒海沿岸に推定1000億ルーブル(約1400億円)相当の豪華な「宮殿」を所有しているとの暴露動画を公開した問題だ。
世界中で騒がれ、大きな政治スキャンダルに発展するとの見方もあったが、世論調査でもほとんど影響は出なかった。民主義国家では権力者の腐敗は大きな問題になるが、ロシアの政治風土ではいくら追及しても「暖簾に腕押し」なのだ。
ツアーリのように振る舞うプーチン氏にすべてを委ねる多くのロシア人。侵攻の必要性をめぐって、これまでプーチン氏がその言説の力点をまるでゴールポストを勝手に移すように変更しても、国民が後を付いてくる理由もここにある。
侵攻開始時には、ウクライナの「非ナチ化」「非軍事化」という、ウクライナ政権のレジーム・チェンジを掲げていたが、その後はウクライナ・ドンバス地方のロシア系住民の保護を掲げ、最近の力点はウクライナへの憎悪より、ロシア連邦の分解を目指す西側との間の国家存亡をかけた防衛戦争だと変わってきている。しかし、どちらにしてもプーチン氏にすべて任せるしかないと国民は思っているのだろう。
「人命の軽視」という国民性
これまで、権力への「従順さ」という切り口で国民の高い戦争支持を見てきたが、戦争をめぐってはもう一つ重要な歴史的国民性がある。「人命の軽視」である。
2022年9月、侵攻でウクライナ軍に主導権を奪われたプーチン政権は、約30万人を対象に「部分的動員」を実施した。この結果、動員兵が、「大砲のえさ」との言葉が象徴するように、ろくな兵器も訓練もないまま最前線で突撃を命じられているとの訴えが動員兵やその家族から相次いでいる。21世紀とは思えない、この兵士の命に対する驚くべき軽視もロシア軍の伝統なのである。
この伝統について2022年12月アメリカの米外交誌『フォーリンアフェアーズ』で詳述したのが、ロシア軍史に詳しいイギリスの軍事歴史家アントニー・ビーバー氏だ。
1812年にロシア遠征を行ったフランスのナポレオン皇帝はロシア軍に撃退され、多数のフランス軍将兵を見捨てながら帰国して非情さを見せた。だが、ロシア軍指導部は自国兵士の損失について、ナポレオンより「はるかに軽視していた」と紹介した。
それによると、ロシア軍は農奴出身の兵士たちを「肉挽き」戦術と呼ばれる非情な人海戦術に使い、計20万人もの戦傷者を出した。ビーバー氏はこの人命軽視の伝統が、「今のウクライナ戦争でも明らかだ」と評した。
現在のウクライナ戦争でも、ロシア軍の人的損失は加速度的に急増している。2023年2月以降、ドンバス地方の完全占領を急がせるプーチン氏の厳命を受け、ロシア軍は人的犠牲をまったく顧みない人海戦術による攻撃を繰り返し、1日に1000人前後という驚くべき数の戦死者が出ている。
これについてロシアの軍事評論家であるユーリー・フョードロフ氏は、「ロシア社会は戦死者を気にしなくなった。非常に残念だが、これだけの損失を許容しているのだ」と嘆く。ロシアでは最近、夫が戦死した寡婦たちが国から贈られた毛皮のコートを並んで披露して政府への感謝を口にするシーンなど、同様の映像がツイッターで相次いで公開されている。映像のすべてが本物かどうかは不明だが、社会の現状を反映しているとフョードロフ氏はみる。「恐ろしい光景だが、これがロシアの現実だ」と指摘する。
とくに経済的に貧しい地方の農村では、夫の極めて少ない収入より、戦死者への国からの補償金が圧倒的に多い。「親戚を含めて命を奪われるのに慣れているのだ」という。
さらに、人権に対するプーチン氏の恐ろしいほどの冷笑的軽視を物語る事態が起きた。国際刑事裁判所(ICC、本部はオランダのハーグ)が2023年3月17日、ウクライナからの子どもの大規模連れ去りに関与した疑いがあるとして、戦争犯罪の容疑でロシアのプーチン氏に逮捕状を出したのだ。
少なくとも1万6000人の子どもを勝手にロシアに連れ去り、養子縁組をさせるという今回の事態は重大な戦争犯罪だ。だが筆者が強調したいのは、この戦争犯罪的行為をプーチン氏が密かに隠れて推し進めたわけではないということだ。堂々と、当然の権利のように行っていたのだ。
戦後の政治生命を失ったプーチン
これを象徴する光景が最近あった。プーチン氏は2023年3月16日、大統領公邸執務室に子どもの権利を担当する大統領全権代表マリア・リボワベロワ氏を招き、養子縁組の進行状況についての報告を嬉しそうに笑顔を浮かべながら受けたのだ。
今回、ICCが各国専門家の大方の予想を裏切る形で、このタイミングでプーチン氏とリボワベロワ氏の2人に逮捕状を出す引き金になったのは、この背筋が凍るような会談の映像の衝撃があったと筆者は見る。
ではなぜ、プーチン氏はこの計画を悪びれることなく進めたのか。この背景には1930年代から50年代に旧ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンが行った大規模な少数民族の強制移住がある。中央政権に反抗的な民族などを強制的に各地に移住させたのだ。全部で計600万人以上が送られ、過酷な生活を余儀なくされた。
ソ連創設時、各民族の自治を認めず中央集権体制を築いたスターリンを、プーチン氏は侵攻直前に高く評価した。そのプーチン氏からすれば、今ロシアに抵抗するウクライナから、取りあえず子供を集団移住させることはソ連復活に向けた大事業と考えているのだろう。
結局のところ、今回の侵攻ではっきりしたのは、プーチン氏も、そして多くの国民も帝政ロシア時代以来のロシアの歴史的な「後進性」から脱却できていないということだ。
そして最後に強調したいのは、今回のICCによる逮捕状の意義である。プーチン氏が今後実際に逮捕されるか否かは当然注目されるが、ウクライナ情勢に照らして最大の注目点はこれではない。戦争終了後のプーチン氏の政治的存命の可能性がなくなったということである。
123の国と地域が加盟するICC加盟国はもちろん、未加盟であるアメリカのバイデン大統領も、今回のICC決定への支持を明確に表明した。これにより、今後戦争がいかなる結末になってもアメリカをはじめ米欧がプーチン氏の政権への居座りを認めるシナリオが消えたということになる。
実は従来、仮にロシアが戦争で敗北しても、核兵器を有するロシア情勢安定のため米欧、とくにアメリカやフランスがプーチン氏の続投を認めるのではないか、との冷めた見方があった。しかし人道上の戦争犯罪で逮捕状が出されたプーチン氏の居座りを米欧が認める道は、これで完全に消滅したと言えるだろう。
この観点から筆者が1つ残念に思うことがあった。2023年3月18日に来日したドイツのショルツ首相との首脳会談後の共同会見で、ICCの決定を支持する立場をショルツ氏が表明したのに対し、岸田首相は支持を明言せずに「捜査の進展を重大な関心を持って注視していく」と述べるにとどめたことだ。通常、「重大な関心を持って注視」とは、その時点で当該の政府が明確にコミットしたくない時に使う外交用語だ。G7議長国でもある日本の首相には、明確に支持を表明してほしかった。  
●岸田首相のウクライナ訪問 ロシアは爆撃機の日本海飛行でけん制? 3/21
岸田文雄首相のウクライナ訪問にロシアが反発するのは確実だ。プーチン政権は日本から相次いで科された制裁に反発して平和条約交渉の事実上の打ち切りを通告しており、今後も日本への強硬姿勢を続けるとみられる。
ロシア国防省は21日、2機の戦略爆撃機TU95が日本海の公海上空を7時間以上にわたり飛行したと発表した。同省は、事前に予定されていた飛行であり、定期的に飛行していると主張した。ただ、岸田首相のウクライナ訪問が報じられた後にSNS(ネット交流サービス)に投稿されたことから、日本をけん制する狙いで発表した可能性もありそうだ。
ロシアが2022年2月24日にウクライナへの侵攻を開始すると、岸田政権は同月末にプーチン大統領ら政権幹部の在外資産を凍結すると決定。ロシアの主要銀行を国際的な送金網から除外する決定に賛同するなど、他の主要7カ国(G7)加盟国との協調を重視した。
これらの措置を受け、プーチン政権は3月上旬に日本を「非友好国」に指定した。更に同月下旬には「現在の状況では、平和条約協議を続ける意向はない」として、事実上の打ち切りを通告。その後も北方領土に住むロシア人と、日本人の元島民が互いに行き来する「ビザなし交流」の破棄も伝えてきた。
岸田首相は今年1月の施政方針演説で「領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持する」と表明。しかしロシア側は「平和条約交渉の議題は終わった」(外務省のザハロワ情報局長)と取り合わない姿勢を繰り返している。
●米国務長官「惑わされるな」 ウクライナ巡り、中露が和平の動き 3/21
ブリンケン米国務長官は20日の記者会見で、ウクライナに侵攻するロシアを訪問している中国の習近平国家主席とプーチン露大統領の会談について、「世界は中国などの支援を受けたロシアが、思い通りに停戦するための巧妙な動きに惑わされてはならない」と強調した。ウクライナの意向を無視し、中露が一方的に和平を呼びかける動きをけん制した。
ブリンケン氏は、ウクライナでの戦争犯罪に責任があるとして、国際刑事裁判所(ICC)が17日にプーチン氏に逮捕状を発行した点を指摘。「発行の数日後に訪露することは、中国がロシアのウクライナでの残虐行為について責任を問う気が無く、犯罪を続けるために外交的に擁護することになる」と批判した。
一方で、ブリンケン氏は「米国は公正で永続的な平和に向けたどのような取り組みも歓迎する」と述べた。ただし、ウクライナ侵攻の終結は、「国連憲章に従ってウクライナの主権と領土保全を確保するものでなければならない」と強調した。
そのうえで、ウクライナ領土からのロシア軍撤収を条件に含まずに停戦を求めることは「主権を持つ隣人の領土を武力で奪おうとするロシアの試みを認めることだ」と指摘。現段階での停戦は「プーチン氏が軍に休息を与え、ロシアの有利な時期に戦争を再開させることを可能にしてしまう」と警戒心をあらわにした。

 

●中国和平案にウクライナ対応を=ロシア大統領  3/22
タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ情勢を巡る中国の和平案について、西側諸国とウクライナが前向きなら解決につながり得ると指摘した。
●ロシア、英がウクライナに劣化ウラン弾供給なら対応=プーチン氏 3/22
ロシアのプーチン大統領は21日、英国がウクライナに劣化ウラン弾を含む戦車用弾薬を供給する計画を表明したことを非難し、実際に供給されればロシアは相応に対応すると述べた。
英国のアナベル・ゴールディ国防閣外相は20日、英国がウクライナに供与する主力戦車「チャレンジャー2」の弾薬の一部には劣化ウラン弾が含まれると表明。劣化ウラン弾は貫通力に優れているが、使用された場合に劣化ウランの粉塵が肺などの臓器に入り込み、健康被害が出るおそれがある。
プーチン大統領は、劣化ウラン弾が供給されれば「西側諸国が集団的に核兵器の使用を開始したものとして、ロシアは対応しなければならない」と述べた。ただ詳細については語らなかった。
国内メディアによると、ショイグ国防相は英国の動きについて「また新たな一歩が踏み出された」とし、ロシアと西側諸国との間で起こり得る「核衝突」の前に残されている手段が徐々に少なくなってきていると述べた。その後、記者団に対し、ロシアは当然、対応するとの考えを示した。
ロシア外務省のザハロワ報道官も、英国によるウクライナへの劣化ウラン弾供給計画を非難。劣化ウラン弾の使用によりがんが引き起こされ、環境が汚染されるとした。
●プーチン氏、イギリスからウクライナへの劣化ウラン弾供与に警告 3/22
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日、イギリスがウクライナに劣化ウラン弾を供与した場合、「対応せざるを得ない」と警告した。西側諸国が「核の材料」を使った武器を配備していると非難している。
イギリスは、主力戦車「チャレンジャー2」と共に、劣化ウランを使用した徹甲弾を供与すると認めている。ただし、放射能汚染のリスクは低いとしている。
英国防省は声明で、劣化ウランは「標準の材料であり、核兵器とは何の関係もない」、「イギリス軍は数十年にわたり、徹甲弾に劣化ウランを使ってきた」と説明。
「ロシアはこれを知っているが、故意に誤った情報を流そうとしている。王立協会を含む科学者グループによる独立した調査で、劣化ウラン弾の使用による人体や環境への影響は低い可能性が指摘されている」と述べた。
鉛の1.7倍の重さ
化学兵器の専門家で、イギリス軍で戦車隊長を務めていたヘイミッシュ・ド・ブレトン=ゴードン大佐は、プーチン氏の発言は「典型的な偽情報だ」と指摘した。
同大佐によると、チャレンジャー2で使用される徹甲弾に含まれている劣化ウランはほんのわずかだという。
その上で、濃縮ウランを使う核兵器と劣化ウラン弾を関連付けるのは「ばかげている」と述べた。
劣化ウランとは、核燃料の生成や軍事目的でウランを濃縮した際の残りを指す。
わずかに放射性がある固形物だが、鉛の1.7倍の重さがあるため、装甲や鋼鉄を貫く目的で弾丸に利用される。
劣化ウランで作られた弾丸が戦車の側面など硬いものに命中すると、貫通する際に蒸気が噴出する。この蒸気はちりになるが、このちりは有毒で、微弱ながら放射性がある。
国連は劣化ウラン弾に懸念
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、ウクライナに劣化ウラン弾を供与することで、イギリスは「1999年のユーゴスラビアのように国際人道法に違反する用意がある」と批判した。
「この件がイギリス政府に悪い結果になることは間違いない」と、ラブロフ氏は付け加えた。
アメリカ国防総省の報道官は21日、同国はウクライナに劣化ウラン弾を供与しないと表明している。
劣化ウラン弾はイラクやバルカン半島などで使われた過去があり、先天性疾患につながったとの主張も出ている。
国連環境プログラム(UNEP)も、2022年に発表した報告書で、ウクライナでの劣化ウラン弾使用に懸念を示している。
報告書の中でUNEPは、「劣化ウランや一般的な火薬に含まれる有害物質は、皮膚刺激や腎不全を引き起こし、がんのリスクを高める可能性がある」と指摘。「劣化ウランの化学的毒性は、その放射能による影響の可能性よりも重大な問題と考えられている」とした。
●プーチン氏、中国の仲裁案「解決の基礎」 中ロ戦略協力強化で合意 3/22
ロシアのプーチン大統領は21日、同国を公式訪問中の中国の習近平国家主席と2日目の会談を行い、両国の戦略的協力に関する合意書に署名した。両首脳はウクライナ停戦に向けた中国の仲介案についても協議し、プーチン氏は平和的解決の基礎とすることができるとの認識を示した。
両氏は共同声明で、ウクライナ戦争を「制御不能な段階」に追い込みかねないいかなる措置にも注意を促し、核戦争に勝者は存在しないと指摘した。
プーチン大統領は会談後、今回の首脳会談は「成功し、建設的」だったとし、今後も習主席と定期的に連絡を取り続けることに期待を表明。
ウクライナでの停戦に向け中国が先に提示した仲介案について「中国が提示した和平計画の条項の多くは、ロシアのアプローチに合致しており、西側諸国とウクライナで準備が整えば、平和的解決の基礎とすることができると考えている。ただ現時点では、西側諸国とウクライナの側でそのような準備は見られない」と述べ、「ウクライナ人が最後の1人になるまで」西側諸国はウクライナで戦おうとしていると非難した。
習氏はプーチン氏との会談は「オープンで友好的」だったと表現。ウクライナに対する中国の「中立的な立場」を改めて強調し、対話を呼びかけた。ロシア通信(RIA)によると、習主席は中国はウクライナ紛争について「公平な立場」を持ち、平和と対話を支持すると述べた。
連携強化
習主席とプーチン大統領は、昨年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始する約3週間前に両国の「無制限」のパートナーシップを表明。今回の首脳会談は、こうした関係の強化を目的に行われた。
両首脳は「戦略的協力」に関する一連の文書に署名。プーチン氏は「われわれの多面的な協力関係は、両国の国民のために発展し続けると確信している」とテレビで発言し、中国がロシアにとって最も重要な経済パートナーであることを明確に示した。
会談で、プーチン氏はウクライナでの戦争を受けてロシアから撤退した西側諸国の企業の代わりに中国企業を支援する用意があるという認識を示した。
共同声明で、米国に対し「世界的な戦略的安全保障の弱体化」を止め、世界的なミサイル防衛システムの開発を中止するよう呼びかけた。
また、より定期的な合同軍事演習の実施を確約する一方、より緊密な二国間関係は第三国に対して向けられるものではなく、「軍事的・政治的同盟」を構成するものでもないとした。
パイプライン「シベリアの力2」
両首脳は、ロシア産天然ガスをモンゴル経由で中国に輸送するパイプライン「シベリアの力2」構想についても協議。プーチン大統領はロシア、中国、モンゴルは、同パイプライン計画について「全ての合意」を完了したと述べ、ロシアは中国向け石油輸出を増やす用意があるとした。習主席に対し、ロシアが中国にとり石油やガス、石炭の「戦略的供給国」との認識を示した。
だが共同声明では、パイプラインの当事者が「調査と承認を進める」と述べるにとどまった。会談後に発表された習氏の2つの声明の英語版ではパイプラインへの言及がなかった。
ロシアのノバク副首相は記者団に対し、パイプラインプロジェクトの詳細を詰める作業がまだ残っていると語った。
シベリアの力2は中国に年間500億立方メートルのロシア産天然ガスを供給するもの。ロシアは何年も前に同計画を立ち上げたが、中国が欧州に代わる主要なガス供給先になっているため、計画の遂行が急務になっている。
プーチン氏は21日、ロシアは2030年までに中国に少なくとも980億立法メートルのガスを供給すると語った。
●ロシアが中国の提案を称賛、岸田首相がキーウ訪問 3/22
ロシアのプーチン大統領は、中国が示したウクライナでの戦争終結を目指す提案が和平に向けた青写真となる可能性があるとして称賛した。プーチン大統領と同国を訪問している中国の習近平国家主席は両国関係の強化を約束した。
ウクライナは中国の提案には冷めた態度を示しており、米国や同盟国は即座に拒否している。プーチン大統領はロシアの意図におおむね沿っている中国の提案事項は、「ウクライナと西側諸国にその用意ができた際には解決策の基礎として取り入れることが可能だろう」と述べた。
岸田文雄首相は21日、ウクライナの首都キーウを訪問。ロシアによるウクライナ侵攻後、日本はG7で唯一、首脳がウクライナを訪問していない国だった。岸田首相はキーウでゼレンスキー大統領と首脳会談を行った。
ロシア、ノーベル平和賞受賞の人権団体を家宅捜索
ロシアの警察当局は同国の人権団体「メモリアル」の複数幹部の自宅を家宅捜索し、このうち1人に対して刑事事件として捜査を開始した。メモリアルがテレグラムに投稿した。メモリアルは昨年のノーベル平和賞を受賞したが、ロシア当局から閉鎖を命じられた。
ロシア、宣言通りの原油減産を6月末まで継続する−ノバク副首相
ロシアは現在の市場状況を踏まえた上で、宣言通りの原油減産を6月末まで続けると決定した。同国のノバク副首相が明らかにした。
ロシアは先月、西側諸国が科したエネルギー制裁措置に対抗し、3月の原油生産を日量50万バレル引き下げると発表。ノバク氏は現在の原油生産量がこの水準に近づきつつあり、数日内に達成する見通しだと声明で述べた。これ以上の詳細には言及していない。
中ロは「一段と接近」−NATO事務総長
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長はブリュッセルで記者団に対し、中ロ首脳会談は両国が「一段と接近する」という「パターンの一部」だと述べた。ストルテンベルグ氏は中国が真剣に和平仲介を望むのであれば、ウクライナの視点に対する理解やゼレンスキー大統領の関与が必要だと指摘した。その上で中国はまだロシアによる不当な侵攻を非難していないと続けた。同氏によれば、中国が軍事利用可能な支援をロシアに提供している証拠は今のところ見られない。
ロシアの爆撃機、日本海上空を飛行
ロシアの戦略爆撃機2機が計画飛行に基づき日本海の国際水域上空を飛行した。ロシア国防省がテレグラムに投稿したところによれば、国際法にのっとり行われた飛行は7時間以上続いた。
●G7広島サミットは、ウクライナ和平を主導する気概を見せられるのか? 3/22 
岸田首相がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。報道では、その理由について、繰り返し「G7を成功させるために、議長国として」訪問したという解説がされています。では、今回の訪問で、岸田首相はG7広島サミットを成功に導く用意が整ったと言えるのかというと、それは違うと思われます。
何よりも、ロシア・ウクライナ戦争についてですが、岸田首相は単に「他のG7首脳がすでにウクライナを訪問している」のだから、G7議長を務める自分も訪問したことで責任が果たせるような口ぶりです。ですが、それでは生死をかけて戦争という事態に直面しているウクライナに対して、単なる政治的な儀式として訪問したと言っているようなものです。
さらに言えば、仮に5月のG7サミットに向けて、ウクライナの応援団であり続けるということは、少なくとも5月まで戦争が継続し、ウクライナでウクライナ人ばかりではなく、ロシア兵士や傭兵グループなども含めて多くの人が犠牲になるということを前提に「サミットを成功させたい」ということです。
これは違うと思います。岸田首相と同じタイミングで、中国の習近平国家主席がロシアを訪問して和平仲介の可能性を示しています。もちろん、習近平としては、ロシアの意向に沿った条件、すなわち最低でも「ロシアが軍事的に制圧している地域」をロシアに併合、もしくは傀儡国家とするという範囲で提案しているものと思われます。仮にそうであれば、そんなことは認められないのは当然です。
G7はベターな和平案を
ですが、このプーチン・習近平の和平案に対抗するG7の選択肢が「戦争の継続」であるとしたら、それは無責任というものです。習近平にしても、戦争の影響による原油高に苦しんでいます。また、これ以上、米中の関係が悪化した場合に、アメリカとの貿易抜きで経済成長を達成できるのかといったら、それはノーだと思います。
習近平にしても、一帯一路構想の中核国家であるウクライナに対して、このような形で「全面敵対」することは損失が大きいわけです。習近平は、ロシアの有利な「戦勝」を作り上げるのが目的ではなく、何よりも中国の国益として和平を望んでいる部分もあると思います。
だとしたら、G7の目標としては、ベターな和平案を示すことが必要だと思います。習近平とプーチンを「引き裂いて」、中国の本音としての「これ以上は戦争状態を継続させたくない」という意向を引き出すのです。その上で、西側として「民主主義を防衛できた」という認識が持てる範囲、ウクライナとして国家の名誉と体裁を保てる範囲を計算しながら、(難しいが)全員が「合意できる」和平案を提示し、粘り強く交渉して合意に持っていくのです。
もちろん、その道のりは簡単ではありません。ですが、少なくともリスクを取ってキーウに乗り込むのであれば、ブチャで悲憤を示し、キーウでゼレンスキーと握手するだけでは全く不十分です。和平という難しい外交へ向けて、G7をどうまとめていくのか、G7和平案として習近平案を上回る内容を提示するために何ができるのか、少なくともその文脈において、キーウ訪問が何らかの前進になるようでなければならないと思います。
西側として、今しなくてはならないのは、とにかく習近平案を上回る有効な和平案を提示し、習近平を上回る交渉力で、その和平案を実現に向けて進める気概があるのかを見せていくことです。
西側は民主国家なので、政治家は選挙を恐れなくてはならず、その場合は戦争という「敵があって他人の血が流れている状態」があった便利であり、その上で敵味方をハッキリすることで劇場型リーダーが内政問題を隠しつつ求心力を維持できる、だから和平でなく戦争を望むのだ......仮に習近平やプーチンにそのような見方をされて、その上でバカにされるようであれば、それこそ自由と民主主義は独裁と権威主義に敗北してしまうのではないかと思います。
●ロシア、中国に殺傷兵器要請の「兆候」 NATO事務総長 3/22
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は21日、ロシア政府がウクライナでの戦争の強化に向けて、中国に対して殺傷能力のある兵器の支援を要請した可能性が高い「いくつかの兆候」があると述べた。
ストルテンベルグ氏はブリュッセルで記者団に対し、「中国がロシアに殺傷力のある兵器を搬送しているという証拠は何もない。しかし、ロシアから要請があり、中国当局が北京で検討している課題だという兆候はある」と述べた。
ストルテンベルグ氏は、中国はロシアに殺傷能力のある兵器の提供を行うべきでなく、そうした行為は違法な戦争を支援することになると警告した。
ストルテンベルグ氏の発言は、中国の習近平(シーチンピン)国家主席がモスクワでロシアのプーチン大統領と会談を行った時期と重なった。ロシアがウクライナに対する侵攻を開始して以降、中国政府は戦争に対して公平な立場を主張している。しかし、中国は、ロシアと同じくウクライナでの戦争をめぐりNATOの責任に言及し、侵攻を非難することを避け、エネルギーの購入を大幅に増やすことでロシアを財政的に支援している。
ストルテンベルグ氏は、習氏による3日間のロシアへの公式訪問について、中国とロシアが近年、より緊密な関係を築いていることを示すものだと語った。
●ウクライナの激戦地・バフムト 3/22
予想外の場所での戦いが左右する場合も / プーチンの「スターリングラード」となるか
戦争の中で、ある場所の攻防戦が戦局全体のターニングポイントとなることがあります。というと、戦略上の要地、交通の要衝が、なるべくして激戦地となるように思う方が多いかもしれません。
ところが、歴史をひもといてみると、意外な事実が浮かび上がってきます。さほどの要地・要衝でもない場所が激戦地となったり、まったく予想外の場所での戦いが、結果として戦局全体を左右するケースが、ままあるのです。 
以下、この稿では、軍事に詳しくない人のために、むつかしい軍事学の専門用語や固有名詞(地名・人名・部隊名)などはできるだけ使わずに、第2次世界大戦中におきた二つの有名な戦いを概説します。
ガダルカナル、という地名は、このサイトを読んでいるような方なら、一度は耳にしたことがあるでしょう。第2次大戦の日米戦における屈指の激戦地であり、凄惨な飢餓の戦場としても知られる島です。
ガダルカナルは、現在はソロモン諸島の首都がある島で、大きさは四国の半分くらい。1942年(昭和17)の夏に、この島が戦場となったとき、大本営の参謀すらガダルカナルの名は知りませんでした。この島が多くの兵士たちを飲みこむに至ったいきさつは、次のようなものです。
対米英開戦にともなって南方に進出した日本海軍は、現在のパプア・ニューギニアにあるラバウルに、拠点となる航空基地をおきました。ラバウルとガダルカナルとは1000キロも離れていますから、ラバウル防衛のためにガダルカナルに基地を造る必要は、本来ならありません。
日本軍がガダルカナルを確保しようと考えた理由は、飛行機の航続距離という意外な問題によるものです。当時、日本海軍が主力としていた零式戦闘機や一式陸上攻撃機は、航続距離が非常に長かったので、ラバウルを中心に広範囲に活動していました。そこで、作戦中にエンジンが不調になったり、敵との交戦でダメージを負った機を一時的に収容できる、補助飛行場がほしいという話が持ちあがりました。
そこで、ガダルカナルに基地設営隊が送り込まれることになります。当時のガダルカナルは、双方の戦力空白地帯のような場所です。日本側は、こんな島に米軍が攻撃を仕掛けてくるとは、よもや思わなかったので、上陸した設営隊はほとんど丸腰です。
一方、ここまで日本軍に苦杯を喫していた米軍は、何とか反撃の機会を得るべく策を練っていました。彼らは、ソロモン方面の島づたいに少しずつ前進してゆく作戦を考え、準備を進めていました。
そんなところに、日本軍がガダルカナルに上陸した、という報せが入ってきたのです。米軍側は、反攻の狼煙を上げるべく、ガダルカナルに海兵隊を上陸させます。丸腰の日本軍設営隊は、ひとたまりもありません。
驚いた日本側では、ガダルカナル奪回を企てます。ところが、軍上層部の認識不足や、現場レベルでのミスなどが重なり、日本軍の奪回作戦はうまく進まず、典型的な「兵力の逐次投入」の様相を呈することとなります。
かたや米軍側は、増援部隊と重装備を次々と送り込み、日本軍の上陸部隊は苦境に陥ります。当然、双方の海軍は相手方の輸送を妨害しにかかりますから、ガダルカナル周辺の海域では大小の海戦が何度も起きることになりました。
ところが、日本側は陸軍と海軍の連携が悪く、せっかく海戦で勝利しても、ガダルカナルの戦局には寄与せず、航空戦でも日本は次第に劣勢に追い込まれてゆきました。ガダルカナルとその周辺は、兵士・艦船・航空機の巨大な墓場と化していったのです。
こうして消耗戦がつづきましたが、最終的に米軍側はガダルカナルを確保し通し、日本軍の敗退は決定的となりました。そして、この間に日米の国力の差が決定的に作用することとなったのです。
ガダルカナルでの戦いが決着したとき、米側は戦時体制下で量産を始めた兵器・弾薬や、動員した人員が戦場に届いて、反攻態勢ができあがっていました。対する日本側、とくに海軍は艦船と航空機、多くの熟練パイロットを消耗して、米側に戦力で大きく水をあけられてしまったのです。(
成りゆきで激戦地化したスターリングラード 
予想外の場所が、「成りゆき」によって激戦地と化した例として、もう一つ、スターリングラード攻防戦を挙げておきましょう。
スターリングラードは、ボルガ川西岸にある工業都市で、現在はボルゴグラードと呼ばれています(現在、ボルゴグラードでは市名をスターリングラードに戻そうという動きがあるようです)。
この都市は、ボルガ川沿岸地方においては交通の要衝といえます。ただ、1941年6月にヒトラーのドイツ軍がソ連侵攻を開始したとき、スターリングラードが戦局を左右するほどの激戦地になるとことを予想した人は、おそらくいなかったでしょう。ドイツ軍は、戦力を集中してモスクワを短期攻略する戦略だったからです。
ところが、モスクワの短期攻略に失敗したヒトラーは、ウクライナ方面の資源地帯を占領するよう、戦略を変更します。この判断については現在でも評価が分かれていますが、ヒトラーは長期戦を見越して戦争経済を優先する判断を下したのです。
ドイツ軍は、おおむねボルガ川までのエリアを占領する方針を立てました。この時点ではスターリングラードは、攻略すべきいくつかの都市の一つにすぎません。ところが、この街には広いボルガ川を渡るフェリーの渡船場があったのです。
強力なドイツ軍の前に総崩れとなったソ連軍は、ボルガ川を渡って東に脱出しようと、スターリングラードに向けて後退します。このため、ドイツ軍の攻撃もスターリングラードに向かって収束し、街はドイツ軍に包囲される恰好になりました。
状況を見たソ連軍首脳部は、焦りました。スターリングラードが敵の手に落ちれば、ボルガ川西岸に対する反攻の足がかりが失われてしまうからです。そこで、フェリーによるピストン輸送で、増援部隊を次々とスターリングラードに送り込むことにしました。
このとき送り込まれたソ連兵の多くは、訓練も装備も行き届かない動員兵です。ソ連軍は、ついには駅前商店街くらいのエリアを残すのみとなりましたが、それでも人海戦術をつづけることで、どうにかドイツ軍の攻撃を凌いでいました。
そして、戦況が膠着するなかで、ヒトラーとスターリンという双方の独裁者が、この都市の名前にこだわりはじめたのです。スターリングラード=「スターリンの街」という名前は、いつしか象徴的な意味合いを帯びるようになり、際限なく兵士の命を飲みむことになりました。
やがて、ドイツ軍側は攻め疲れて消耗し、打つ手のない状態に達しました。専門用語でいう、「攻勢限界」です。一方のソ連側は、この間に兵士の動員と兵器の増産をつづけ、反転攻勢の準備を進めていました。
1942年の11月、ついにソ連軍は全面的な反転攻勢に出て、スターリングラードを包囲していたドイツ軍は、逆にソ連軍に包囲される形となりました。ソ連軍の包囲を突破する試みも失敗に終わり、スターリングラード方面のドイツ軍は、ついに進退きわまってソ連軍に降伏したのです。その数は20万とも38万ともいわれます。ドイツ軍は、この痛手から立ち直ることができず、以後は防戦一方となりました。
ちなみに、ドイツ側(西側)ではスターリングラード攻防戦を、独ソ戦におけるターニングポイントと見なす傾向が強いのですが、ソ連側では、こののちにおきたクルスクの会戦を重要視しているようです。何をもって、その戦争のターニングポイントと見なすか。負けた側と、勝った側とで、評価が異なるというのは興味深いことです。
洋の東西を問わず、普遍的に起きうる現象
ガダルカナルもスターリングラードも、戦争全体の趨勢を左右するような場所とは考えられていませんでした。ガダルカナルの場合、ことの発端は日本軍機の航続距離という、技術的な都合です。スターリングラードの場合も、「成りゆき」で生じた状況に、ヒトラーとスターリンのこだわりが油を注ぐ形で、攻防戦がエスカレートしました。
アメリカ南北戦争におけるゲティスバーグの戦いや、日露戦争における203高地の攻防戦なども、要衝ではない場所、予想外の場所が「成りゆき」から激戦地となった例です。どうやら、古今洋の東西を問わず、普遍的に起きうる現象と考えてよいでしょう。
現場のミス、組織間の連携不足といった事態は、戦争の中ではしばしば起きることです。ここに、上層部の認識不足や独裁者のこだわり、政治・外交上の思惑といった要素が重なると、「成りゆき」で激戦地が生まれ、ひいては戦局のターニングポイントとなるのです。
さて、ウクライナでは東部のバフムトという小さな町で、激戦がつづいています。本稿を書いている3月中旬の時点では、戦況は予断を許しません。ただ、多くの専門家が指摘しているように、バフムトは決して交通の要衝ではなく、もともと戦略上の価値が高い場所というわけではありません。
この町が激戦地となって両軍の消耗を招いているのは、多分に「成りゆき」によるものと考えざるをえないのです。おそらく、この方面に展開していたロシア軍の中で、傭兵集団であるワグネル部隊の正面にたまたまバフムトがあり、指揮官が攻略できそうだ、と判断したのが、ことの発端でしょう。
伝えられるところでは、ロシア正規軍とワグネルとの間には確執があるようです。そうした状況下でワグネルが戦果をアピールするため、バフムトの奪取にこだわり、ウクライナ軍が頑強に抵抗した結果、激戦にエスカレートした、といったところでしょう。
ウクライナ軍の立場で、純粋に作戦上の観点から判断するなら、この場所でいたずらに戦力を消耗するのは、得策とはいえません。しかし、バフムトが陥落すれば、ロシア側は戦果をアピールして勢いづくでしょうし、ウクライナ軍の士気は下がります。
逆に、あえてバフムトで消耗戦に持ち込み、ロシア軍に大きな出血を強いることができれば、正規軍とワグネルとの確執が激化して、ロシア側の足並みが乱れる可能性もあります。また、戦線が膠着している間に反攻態勢を整えることができるとしたら、ウクライナ軍はバフムトでの損失を上回るメリットが得られるかもしれません。
もちろん、同じようなことはロシアについても考えられます。たとえば、バフムトで消耗戦をつづけている間に、クリミアの防衛態勢を整えることができるかもしれません。それなら、ワグネルをすり潰しても見合う、という判断だってありえます。
この小さな町での攻防戦が決着したとき、戦局はどちらに傾いているのでしょう? はたしてバフムトは、プーチンにとってのスターリングラードになるのでしょうか? 今は戦況を見守るしかありません。この戦いの最終的な評価は、後世の戦史研究に委ねざるをえないからです。
●岸田首相、ウクライナでゼレンスキー大統領と会談 装備品供与を表明 3/22
日本の岸田文雄首相は21日、ウクライナを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。その後の共同記者会見で岸田首相は、殺傷能力のない装備品などを供与すると表明。一方のゼレンスキー大統領は、5月の主要7カ国(G7)広島サミットにオンラインで参加することを明らかにした。
昨年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始して以来、首相がウクライナを訪れるのは初めて。
岸田首相は訪問先のインドからまずポーランドへ向かい、そこから列車でウクライナ入りした。キーウには現地時間の昼(日本時間21日夜)に到着した。
日本政府は開戦当初からウクライナを支持し、主要7カ国(G7)の他の国と同様、ロシアに経済制裁を科してきた。日本は今年G7議長国で、今年5月には広島でG7サミットを主催する。これまで岸田首相はG7首脳で1人だけ、開戦後のウクライナを訪れていなかった。
太平洋戦争後に日本の首相が、戦闘が続く国や地域を訪れるのは初めて。
岸田氏はキーウに到着後、近郊のブチャへ移動し、集団埋葬地を訪れて花を手向けた。ブチャは昨年2月末の侵攻開始から間もなく、ロシア軍に占領された。4月初めまでにロシア軍が撤退した後、市街地で多数の民間人が殺害されているのが発見された。
ウクライナ当局や現地住民によると、ブチャでロシア軍は数百人の住民を殺害したとされる。
岸田氏は「残虐な行為に対して強い憤りを感じる。(中略)日本国民を代表して心からお悔やみを申し上げ、お見舞いを申し上げる」と述べた。
岸田首相はその後、キーウ市内に戻り、2014年からのロシアとの戦いで死亡したウクライナ兵を追悼する慰霊碑を訪れた。
この後、岸田首相はマリインスキー大統領宮殿で、ゼレンスキー大統領やウクライナ政府幹部と会談。「特別なグローバル・パートナーシップに関する共同声明」に署名した。ゼレンスキー大統領は、「この文書は、我々が共に守る価値観と、まだ実現されていない私たちの願望の両方を反映している」と説明した。
朝日新聞によると、その後の共同記者会見で岸田首相は、「ロシアのウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙」だと述べ、「唯一の戦争被爆国の我が国として、ロシアの核兵器による威嚇は受け入れられない」と強調した。
その上で、北大西洋条約機構(NATO)の基金を通じて、ウクライナに3000万ドル相当の殺傷能力のない装備品を供与すると表明した。NHKによると、エネルギー分野などでも新たな無償支援として4億7000万ドルを供与するという。
さらに、「ゼレンスキー大統領からは、G7広島サミットではロシアによる核兵器使用の威嚇への対応などを取り上げてもらいたいという話があり、議長国として、法の支配に基づく国際秩序を守るためのリーダーシップを発揮する決意を新たにした。一致した明確なメッセージを発することができるよう準備を進めていきたい」と述べた。
ゼレンスキー氏は、「ウクライナ領土の解放が始まった記念日の今日、岸田首相が初めてウクライナを訪問するのは象徴的なことだ。しかも、彼はブチャからスタートした。このことに非常に感謝している」と述べた。
その上で、岸田首相から5月のG7広島サミットへの招待を受けたとし、オンラインで参加することを明らかにした。
ゼレンスキー氏は、ロシアの侵攻開始以降、日本による復興支援は70億ドル(約9300億円)超に上っていると説明。首脳会談では、医療施設のほか、自動車産業や緑化、水素設備やリチウム電池といった産業の復興に関与してもらいたいと提案したと話した。
また、日本からの人道支援に強い関心を示した。
ウクライナ外務省のエミネ・ジャパロワ第1外務次官はツイッターで、岸田首相がキーウの駅に着いた写真と共に、「ウクライナは日本の岸田文雄首相を歓迎できてうれしい。この歴史的な訪問は、ウクライナと日本の間の連帯と強い協力関係のしるしです。私たちの未来の勝利を日本が強く支持し、貢献してくれていることに感謝します」と書いた。
日本の外務省は首脳会談に先立ち、「岸田総理大臣からゼレンスキー大統領に対し、ゼレンスキー大統領のリーダーシップの下で、祖国を守るために立ち上がっているウクライナ国民の勇気と忍耐に敬意を表し、日本及び日本が議長を務めるG7として、ウクライナへの連帯と揺るぎない支援を岸田総理大臣から直接伝える予定」と説明。さらに、「ゼレンスキー大統領との首脳会談において、ロシアによる侵略と力による一方的な現状変更を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を改めて確認する」と明らかにしていた。
中国・習主席の訪ロとの対比
岸田首相のウクライナ訪問と重なり、モスクワでは訪問中の習近平・中国国家主席がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談中だった。習主席は21日、中国はロシアとのつながりを優先すると述べ、両国を「隣り合う偉大な大国同士」と呼んだ。
日本と中国は今年2月に東京で、日本と中国の外務・防衛当局の高官による「日中安保対話」を約4年ぶりに行ったばかり。その際に中国側は日本の防衛力増強について懸念をあらわにし、日本側は中国とロシアの軍事的結びつきや、中国の使用が疑われる偵察気球について懸念を示した。
BBCのスティーヴン・マクドネル北京特派員は、岸田首相のウクライナ訪問はロシア訪問中の習主席に「相当のプレッシャーをかけることになる」と指摘した。
日本では、ウクライナでの戦争について独自の懸念もある。BBCのシャイマ・ハリル東京特派員は、ロシアによるウクライナ侵攻に類似した最悪のシナリオとして、中国による台湾軍事侵攻が起きれば日本も確実に巻き込まれるだろうという深い懸念が、日本にはあると指摘する。
●中ロ首脳会談 ウクライナ情勢めぐる進展なし  3/22
ロシアを訪問中の中国の習近平国家主席がプーチン大統領と会談し、経済面での連携強化を確認した一方でウクライナの和平では進展は見られなかった。
プーチン大統領と習主席は21日、モスクワで会談し、両国の経済関係などの強化に関する共同声明に署名し中ロの良好な関係をアピールした。
ウクライナ情勢については中国が発表した和平案をプーチン大統領は支持すると表明した一方、停戦交渉が行われない原因は交渉に後ろ向きな西側各国にあると主張した。
また、イギリスが劣化ウラン弾をウクライナに供与しようとしているとして、「西側は核の要素を備えた武器を使用し始めている」「何らかの対抗措置を取る」と強気の姿勢を示した。
習主席は今後、ゼレンスキー大統領との会談も模索していて、ウクライナ側の対応が焦点となる。
●米国防総省 ウクライナへの戦車 期間短縮でことし秋までに供与  3/22
アメリカ国防総省の報道官は、ウクライナへの軍事支援として供与を決めた主力戦車「エイブラムス」について、引き渡しを急ぐため、当初の計画を変更し、ことし秋までに供与できるとの見通しを明らかにしました。
アメリカのバイデン政権は、ことし1月、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの軍事支援としてアメリカ陸軍の主力戦車「エイブラムス」31両を供与すると発表しましたが、具体的な引き渡し時期については明らかにしていませんでした。
これについて、アメリカ国防総省のライダー報道官は21日の記者会見で、できるだけ早期に「エイブラムス」を引き渡すことにしたとして、ことし秋までに供与できるとの見通しを明らかにしました。
当初は、改良型の「エイブラムス」を供与する計画でしたが、引き渡しに1年以上かかるため、すでに在庫のある旧型のものを改修して供与する方針に切り替え、期間を短縮するということです。
またライダー報道官は、ウクライナへの供与を決めている地対空ミサイルシステム「パトリオット」について、ウクライナ兵への訓練が当初の予想よりも早く進んだと明らかにし「迅速にウクライナに届けることができると確信している」と述べました。 
●ロシアに“連れ去られる”子どもたち その実態とロシアの狙いは 3/22
「もう、会えないかと思った」
3か月半ぶりに母親と再会したウクライナ人の少女は、涙を流し母親に抱きつきました。
“サマーキャンプ”に行くだけのはずだったのに、帰る予定の日が過ぎてもロシアから帰れませんでした。
国際刑事裁判所(ICC)は3月17日、占領した地域から子どもたちをロシア側に移送したことをめぐり、国際法上の戦争犯罪の疑いで、プーチン大統領に逮捕状を出しました。
今ウクライナでは、“ロシアによる子どもの連れ去り”とみられる事案が相次いでいます。
“サマーキャンプ”のはずが…
「娘を見て、私は何も言うことができず、ただただ泣いて娘にキスをしました」
13歳の次女ベロニカさんと3か月半ぶりに再会したときの様子について、こう話すのは、ウクライナ東部ハルキウ州在住で3人の子どもを持つリュドミラさんです。
ロシアによる侵攻が始まってから半年ほどがたった2022年8月。
ベロニカさんは、“サマーキャンプ”に行きたいと、リュドミラさんに伝えてきました。
“サマーキャンプ”はロシア政府が主催し、ウクライナの子どもたちをロシアの保養地に連れて行くというものでした。
リュドミラさんは、ロシア政府が主催していることから不安を感じ、当初は、行くことに反対していました。
しかし、ベロニカさんは「クラスメートも行くから自分も行きたい」などと、リュドミラさんに何度も行きたいと言って聞きませんでした。
リュドミラさんが暮らす地域は当時ロシア軍に占領され、10キロあまり離れた所にはクピヤンシクという激戦地があり、昼も夜も砲撃の音が鳴り響いていました。
ときに命の危険も感じていたリュドミラさんは、娘が少しの時間でも戦争のことを忘れ、精神的なストレスから解放されればと、キャンプに送り出すことを決めました。
キャンプの期間は3週間。すぐに戻ってくるはずでした。
いつになっても帰ってこない
“サマーキャンプ”の行先は、ウクライナの国境に近いロシア南部の黒海に面した保養地、ゲレンジク。
8月28日、子どもたちを乗せたバスが出発しましたが、その直後の9月上旬、ウクライナ東部の戦況が大きく変わります。
ウクライナ軍は、リュドミラさんたちの暮らすハルキウ州のほぼ全域を奪還したと発表し、その地域はロシア軍から解放されることになったのです。
ハルキウ州がロシア軍の占領地域でなくなったからか、ロシア側からは「子どもたちを帰す手段がない」と一方的に告げられ、ベロニカさんたちは、予定していた3週間を過ぎても戻ってきませんでした。
スマートフォンでベロニカさんと連絡を取ることができたときもありますが、インターネットの接続が不安定になることもあり、何日も連絡を取れなかったこともありました。
もうこのまま娘に会えないのではないか。
リュドミラさんは、不安と心配に押しつぶされそうになり、毎日泣いていました。
「もう、会えないかと思った」
リュドミラさんはベロニカさんをなんとか助けに行きたいと思いましたが、ロシア側からは「親子関係を証明する書類などを持って、ロシアに引き取りに来れば返す」などと伝えられたといいます。
しかし、戦時下で書類を用意することが難しい上、パスポートの取得に必要な費用を工面することもできず、途方に暮れていました。
そんなとき知人からの情報で、ロシアによって連れ去られたとみられる子どもたちを連れ戻す支援を行っているウクライナの人権団体の存在を知ります。
そして2022年12月、その団体の助けで、キャンプに子どもたちを送り出したほかの13人の親と一緒に、子どもたちを迎えに行くことになりました。
バス2台で、ポーランドとベラルーシを経由して、5日間かけてロシア国内の子どもたちがいる施設に到着。
子どもたちを連れてくる場所として指定された部屋で待っていると、ベロニカさんがほかの子どもたちとともに部屋に姿を見せました。3か月半ぶりの再会でした。
「娘は、私たちがいる部屋に入ってきて私を見つけると、はじめは笑顔を見せました。次の瞬間、私に飛びついてきて、抱きしめながら『もう、会えないかと思った』と言って泣きました。私は何も言うことができず、ただただ泣いて娘にキスしました」(リュドミラさん)
“キャンプ”でベロニカさんたちは、午前中、動物園や海に行くなどの活動をしたあと、午後は3時間から4時間、ロシア語での授業を受けていたということです。
“連れ去り”はほかにも
ベロニカさんのようにロシアに行ったきりウクライナに戻って来られなくなりそうになったり、戻って来られなくなったりするケースは、ほかにも起きているといいます。
リュドミラさんたちを支援した人権団体「セーブ・ウクライナ」によると、ロシアによる侵攻が始まって以降、“サマーキャンプ”に行った子どもたちが戻って来られなくなるケースが起きているとしています。
団体では、これまでに子どもたちを3回迎えに行き、あわせて50人近い子どもたちを連れ戻すことに成功したということです。
団体の弁護士を務めるミロスラバ・ハルチェンコさんによると、親たちの中には「なぜロシア側の“サマーキャンプ”に行かせたんだ」「行かせた方が悪い」と非難されると思い、子どもたちが戻ってこないことを言い出せない人も多いのだそうです。
こうしたことから、ハルチェンコさんは実際にはロシアに留め置かれている子どもたちの数は、さらに多いとみています。
また、ハルチェンコさんは、ウクライナ国内でロシアに占領された地域には、ロシア軍に協力するウクライナ人がいて、子どもたちの名簿を持っていると指摘します。
家族構成、家庭内の事情、経済状況を把握していて、“サマーキャンプ”に行かせない親の所に行って説得しているのだといいます。
「母親がキャンプの参加に反対すると、ロシア軍の協力者は『戦闘が続く場所に子どもを置いておきたいのか。ロシアに行かせれば、明るくぬくもりのある生活が送れる』と説得するのです。脅すこともあります。両親が亡くなり、祖母が親権を持っていたケースでは、電話で『行かせないなら親権を取り上げることになる』と言ったといいます。これは脅しです」
孤児たちを連れ去ろうとするケースも
子どもたちが“サマーキャンプ”に行って戻れなくなるケースに加え、ロシア軍がウクライナの孤児たちを連れ去ろうとしたという証言も出てきています。
その一部始終を見たと話すのは、ウクライナ南部のヘルソン州で、親のいない孤児や複雑な家庭の事情を抱えた子どもたちを一時的に預かる施設の施設長を務めるボロディーミル・サハイダクさんです。
2022年3月中旬、ロシア軍によって州全体が一時掌握されたとみられるヘルソン州。そのとき、施設にいたのは、3歳から18歳の子どもたち52人。
安全な場所に移すため、親や祖父母、それに遠い親戚にまで手当たり次第に連絡し、子どもたちを引き取ってもらいました。
複雑な事情を抱える家庭もありましたが、施設に残ってロシア軍に見つかるよりは安全だと考え、サハイダクさんは判断したといいます。
それでも、親も親戚もいない子どもたち5人が残ったので、地下室に隠れさせたり、近所の家にかくまってもらったりしました。
その施設にロシア軍がやってきたのは6月。彼らは施設に来るなり「子どもたちはどこだ」と聞いてきて、サハイダクさんが「いない」と言っても信じずに、個人情報の入ったファイルやパソコン、監視カメラのデータさえも持っていき、子どもたちを見つけようとしていたといいます。
さらにロシア軍は、ヘルソン州の隣にあるミコライウ州の孤児院から施設長と15人の子どもたちを連れてきて、サハイダクさんの施設で生活させたのだといいます。
なぜ連れてきているのか、理由はわからなかったそうです。
その後、ウクライナ軍がヘルソン州を解放すると、ロシア軍は撤退する際に、15人の子どもたちを連れて行ってしまったということです。
「子どもたちは、ロシア軍に連れて行かれることをとても怖がっているように見えました。なんとかして連れて行かれないようにしたかったのですが、何もできませんでした。彼らが我々の土地で行っていることは犯罪です。我々は、これらの犯罪を許しません」
ロシア側の狙いは何なのか
ロシアは、なぜウクライナの子どもたちを自国の領土内に留め置いたり、連れ去ろうとしたりしているのか。
ウクライナ東部のドンバス地域で2014年から人権保護の活動を行ってきた弁護士や法学者で作る「東部人権グループ」は、2022年12月、ウクライナの子どもたちの「連れ去り」について報告書を出しました。
この調査を行ったパベル・リシャンスキーさんは、ロシアの狙いについて、「子どもたちのロシア化」だと指摘しました。
「ロシアは自国の人口を増やすため、その中でもスラブ系の人口を増やすために、同じスラブ民族のウクライナの子どもたちを連れ去っているのです。ロシア側は、『子どもを避難させている』と主張していますが、子どもたちにロシアのパスポートを発給していて、ウクライナのアイデンティティーを守ろうとしていません。ウクライナのアイデンティティーを破壊し、ウクライナ人を減らそうとしています。これらの行動は違法であり、戦争犯罪です」
その上で報告書では、「連れ去られた」子どもたちを主な3つのカテゴリーに分類して、いずれの子どもたちも、ロシア人の家族の養子などにさせられているとしています。
1 孤児
ドネツク・ルハンシク州の親ロシア派が実効支配する地域で、孤児院や社会福祉施設にいた子どもたちを「避難」という名目でロシア側に連れて行った。侵攻が始まる前の2022年2月18日から始まっている。
2 保護者が養育権を奪われた子ども
ドネツク・ルハンシク州では、父親が強制的に動員され、母親も出稼ぎに行くなどして、祖父母や知人に預けられている子どもたちについて、経済的な理由などから養育に適切な環境でないとして、社会福祉施設などに収容し、その後ロシアに移送する。
3 親と離ればなれになった・なっている子ども
例えば、ロシア側が設置した、思想信条などに基づいてウクライナ人を「選別」する「フィルターキャンプ」と呼ばれる施設で、「選抜」の結果、親が収容所に送られた子ども。
ロシア側「連れ去りではなく、保護」
こうした状況に対して、ウクライナ政府は「CHILDREN OF WAR」というサイトを立ち上げて、ロシア側に「連れ去られた」とされる子どもたちなどの数を公表しています。
それによると、2023年3月19日の時点で、ロシアに「連れ去られた」とされる子どもたちの数は1万6226人。
これに対しロシア側は、強制ではなく戦地の孤児らを保護するためだと主張し、「連れ去り」を否定しています。
また、プーチン政権は、今回の軍事侵攻の目的としてウクライナ東部に住むロシア系住民の保護を掲げ、子どもたちを戦闘地域から避難させるのは当然とも主張してきました。
その上で、ウクライナ国籍の子どもをロシア人の養子にする取り組みを進めたほか、プーチン政権の主張に沿った愛国教育を行ってきました。
プーチン大統領はこうした取り組みを後押しするため、2022年5月、大統領令に署名し、ウクライナの孤児がロシア国籍を取得したり、ウクライナ国籍の子どもを養子にしたりする手続きを簡素化しています。
ロシア側は、これまでに70万人以上のウクライナの子どもたちを「保護」したとしています。
「子どもたちの未来のために戦う」
一方のウクライナ側は、「連れ去られた」子どもたちを取り戻すため、ロシア側と交渉を続けていくとしています。
ロシアは国連の子ども権利条約に加盟しているため、養子縁組をする際には、子どもの出身国と合意しなければならないとして、ロシア側に対して明らかな違法行為だと非難しているのです。
しかし、ひとたびロシア側に子どもたちが渡ってしまうと、ロシア全土に散らばってしまい、把握することができなくなってしまうケースも多いといいます。
それでも、子どもたちの未来のために戦い続ける必要があると、ウクライナの子どもの人権に関する大統領顧問のダリア・へラシムチュクさんは強調します。
「ロシアは、ウクライナから最も価値あるものを奪おうとしています。それは私たちの遺伝子、つまり私たちの子どもたちです。私たちの世代、全世代を奪うため、国家としてのウクライナの発展を否定するため、ウクライナの子どもたちを連れ去っているのです。今は、子どもたちの死や連れ去りを悲しんだり嘆いたりするときではありません。私たちはできる限り団結し、子どもたちを救い、連れ去られた子どもたちを取り戻すのです。私たちの国の未来のため、子どもたちの未来のために、戦う準備ができているのです」
プーチン大統領に逮捕状
この事案をめぐっては、国際刑事裁判所(以下、ICC※)が3月17日、占領した地域から子どもたちをロシア側に移送したことをめぐり、国際法上の戦争犯罪の疑いで、プーチン大統領に逮捕状を出しました。
裁判所のホフマンスキ所長は声明を発表し、この中で「国際法は、占領した国家に対し住民の移送を禁じている上、子どもは特別に保護されることになっている。逮捕状の執行には国際社会の協力が必要だ」と述べました。
これに対して、ロシア大統領府のペスコフ報道官は17日、ロシアメディアに対して「言語道断で容認できない。この種のいかなる決定も法律上の観点からロシアでは無効だ」と述べ、すぐさま非難しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、SNS上に公開したビデオメッセージで「歴史的な決断だ。テロ国家の指導者が公式に戦争犯罪の容疑者となった」と述べて歓迎。
また「子どもたちを家族から引き離し、ロシアの領土内に隠す行為は、明らかにロシアの国策であり、国家的悪事だ」としてプーチン大統領の責任を厳しく追及していく姿勢を強調しました。
裁判所は、プーチン大統領が署名した大統領令によって法律が改正された結果、ロシア人の家庭がウクライナの子どもを養子にしやすくなり、連れ去られた子どもたちの多くがロシアで養子になっているとして、大統領自身の関与を立証できると判断したものとみられます。
しかし、ロシアはICCの管轄権を認めておらず、逮捕状の執行に協力するとは考えられないことから、プーチン大統領が実際に逮捕される可能性は低いとみられます。
国際刑事裁判所(ICC)
オランダ・ハーグにある世界各地の戦争や民族紛争などで非人道的な行為をした個人を訴追して裁くための裁判所で、日本を含む123の国と地域が参加。しかし、ロシア、アメリカ、中国などは管轄権を認めていない。
●ロシア治安機関FSBを爆破したパルチザンの正体 3/22
ウクライナ国境に近い南部の都市ロストフ・オン・ドンにある諜報機関、ロシア連邦保安庁(FSB)の建物で、3月16日に火災が発生した。ロシアの反プーチン派パルチザン組織「ブラックブリッジ」がみずからの犯行だと主張している。
ブラックブリッジはロシア国内で活動するいくつかのパルチザン運動のひとつで、21日にテレグラムにこの建物の爆発炎上について投稿。FSBを「偽善、暴力、不正の牙城」と断じた。
国内の治安とテロ対策を担当するFSBを襲ったこの火災で、少なくとも4人が死亡、5人が負傷したと報告されている。治安当局は公式声明で、作業場で燃料と潤滑油が燃え上がり、爆発と建物の一部崩壊を引き起こしたと発表した。
ウクライナはこの事件への関与を否定した。
ブラックブリッジは、燃料の容器に仕込んだ即席の爆破装置によって火災を発生させた、と主張している。
「FSBに雇われた人間は、国家にとって好ましくない人物に対する刑事事件をでっち上げ、起業家の事業から搾取し、民間人に対する破壊工作を手配し、反対派を拷問し、『競争相手』を物理的に排除している」と、ブラックブリッジは声明で述べた。
過激な方法で政権に抵抗
「ウクライナ侵攻が始まって以降、どのパルチザン運動も、FSBの建物や特務機関の代表者を攻撃することを、十分に検討していなかった」
例えば軍の入隊事務所への放火行為は、ロシア政府の建物に重大な損害を与えることや、「雇われて働く」個人の殺害とは、「効率と(反政府)共感度において」比較にならない、とブラックブリッジは述べている。
「無関心ではない人、過激な方法で政権に抵抗する準備ができている人、すでにそうしている人は、目標をもっと深刻なものに切り替えてほしい」と、ブラックブリッジは訴える。「恐れることはない。ロストフ・オン・ドンで行われた直接行動が、あなた方の手本となり、新たな成果、さらに大規模な成果への動機付けとなるようにしよう」
昨年2月にウラジーミル・プーチン大統領が隣国ウクライナへの本格的な侵攻を宣言した後、ブラックブリッジを含むパルチザングループは、ロシア国内でテロ攻撃を行ってきたことを認めている。
軍の入隊事務所に火炎瓶が投げ込まれ、各所で謎の火災が相次いで発生している。ウクライナでも軍用機材の輸送を阻止するために鉄道の妨害が行われた。
2022年8月にはロシアの超国家主義者アレクサンドル・ドゥーギンの娘、ダリアが殺害されたが、この事件については、別の反プーチン派パルチザン組織「国民共和国軍」が犯行声明を出している。
ブラックブリッジはみずからの活動を、プーチン、ロシア当局、ウクライナでの戦争に反対する運動と説明している。
そして、紛争を通じてロシア政府に異議を唱え、自らを「沈黙したり、逃げたりする代わりに、戦うことを決めた新しいロシアのレジスタンスの一部」と称している。
2022年9月にプーチンが部分動員を発表したとき、ブラックブリッジはロシア政府が「苦悩によるすみやかな死を選んだ」と述べた。
「われわれにとって『戦い』とは、集会やストライキなど、皆が慣れ親しみ、有効な政治形態と考えている合法的で平和的な草の根政治運動ではない。ここでは、それは通用しない。われわれは『戦争に反対』と言っただけで、逮捕され、拷問される。だから、『戦う』ということは、本気で戦うということだ」と、ブラックブリッジはテレグラムの投稿で述べた。
ブラックブリッジはロシアのエリートたちにも激しい怒りをあらわし、彼らを 「嫌悪すべき廃棄物、ロシアで最悪の種類の人々」と呼ぶ。
「プーチン政権下において、彼らの努力はすべて、安全な避難場所、快適な引退生活、保険として西側世界への着地を手配することに費やされている。『実業家』、『政治家』、『芸術家』──どれも違いはない」
目標はプーチン政権の破壊
「ロシアのエリートはロシアを憎み、掘り尽くされるべき鉱山のように扱う。国は彼らにとって収入源でしかない。金儲けのために地域全体のエコシステムを損なうことも、誰かを殺害することも、隣国で大量虐殺を仕組むことも、彼らにとっては問題じゃない。コモ湖畔の素敵な別荘のためなら、この程度のことはやってのける」
ブラックブリッジの最終目標は、「暴力的な抵抗とプーチン政権全体の破壊」だという。
「どの国も、自分たちが選んだ指導者が期待に応えず、権力が腐敗したとき、常に反乱を起こす権利を持っている」と、同組織はテレグラムで述べた。「ロシア連邦の国民のほとんどはロシア政府のテロ行為を支持している。だが、レジスタンスの声が静まることはない。同じ考えを持つ多くの人々が正義が勝つために戦い、戦うだろう」
●岸田首相がキーウ訪問中、ウクライナ各地でロシアの無人機攻撃… 3/22
岸田首相が首都キーウを訪れていた21日から22日未明にかけて、ウクライナ各地では、露軍による自爆型無人機などを使った攻撃が相次いだ。ウクライナ非常事態庁などによると、キーウ近郊では22日未明、露軍の無人機攻撃で寄宿舎と教育施設の建物の一部が崩落して炎上し、7人が死亡し9人が負傷した。
キーウにも無人機の攻撃があったがすべて迎撃したという。キーウ西方のジトーミル州ではインフラ(社会基盤)施設に被害が出た。西部フメリニツキー州も攻撃を受けた。
ウクライナ軍参謀本部は22日、露軍がイラン製自爆型無人機21機を発射し、このうちウクライナ軍が16機を迎撃したと発表した。
ウクライナ国防省系メディアは22日午前9時までの過去24時間に露軍が無人機や砲撃、ミサイルを使って11州を攻撃し、民間人14人が死亡し24人が負傷し、42施設が被害を受けたと伝えた。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日、SNSで、プーチン政権が「再び犯罪的な攻撃を命じた」と非難した。米国の駐キーウ大使も同日、この攻撃について、プーチン大統領がウクライナ侵略の終結に関心がないことを示していると批判した。
●日本とウクライナ 首脳会談受け共同声明  3/22
岸田総理大臣はウクライナの首都キーウで、日本時間の21日夜から22日にかけて、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行いました。会談を受けて発表された共同声明の詳細です。
両国関係の格上げを決定
共同声明では、両首脳が今回の会談で揺るぎない連帯を確認したうえで、両国の関係を「特別なグローバル・パートナーシップ」に格上げすることを決定したとしています。
そして、ロシアによるウクライナ侵攻が違法かつ不当でいわれのない侵略であり、ウクライナの民間人や重要インフラへの無差別攻撃を最も強いことばで非難するとともに、侵攻がインド太平洋地域などの安全や平和の直接的な脅威にもなっているという認識を共有したとしています。
“ウクライナの主権 完全回復が世界平和に不可欠”
そのうえで、ロシアは直ちに敵対行為を停止し、ウクライナ全土からすべての軍や装備を即時かつ無条件に撤退させなければならず、国際的に認められた国境内でウクライナの主権や領土の一体性を完全に回復することが世界の平和や安定、安全にとって不可欠だという見解で一致したとしています。
“ロシアの核兵器使用の威嚇 容認できない脅威”
さらに、ロシアに対する制裁の維持・強化が不可欠であるという認識で一致するとともに、戦争犯罪などへの処罰がないことはあってはならないと強調したうえで、ロシアの核兵器使用の威嚇が国際社会の平和や安全に対する深刻かつ容認できない脅威だと非難するとしています。
2国間 貿易・経済関係やインフラ開発など拡大の可能性
また、2国間関係をめぐっては、日本とウクライナが自由、民主主義、法の支配といった基本的価値を共有していることを確認したほか、貿易・経済関係やインフラ開発など幅広い分野でパートナーシップをさらに拡大する大きな可能性があることを認識したとしています。
両首脳 国際社会で協力深める意図を表明
このほか両首脳は、日本が国連安全保障理事会の非常任理事国となったことを踏まえ、国際社会で協力を深めていく意図を表明したほか、「自由で開かれたインド太平洋」の推進や台湾海峡の平和と安定、それに北朝鮮による拉致問題の即時解決の重要性を強調するとともに、北朝鮮の核・ミサイル開発を強く非難するとしています。
●習氏、訪ロ終え帰国 ウクライナ情勢で突破口なく 3/22
中国の習近平国家主席は22日、3日間のロシア訪問を終え帰途に就いた。ウラジーミル・プーチン大統領との会談では、西側諸国に対抗する結束を誇示したものの、ウクライナでの戦闘を終結させる突破口が見いだされた兆しはない。
西側をけん制したい中ロ両国は、北大西洋条約機構(NATO)のアジアへの拡大に懸念を示すとともに、ウクライナ侵攻開始後緊密さを増している両国のパートナーシップをいっそう深化させていくことで一致した。
プーチン氏は習氏との会談後、ウクライナ危機解決に向け中国が提示した文書を称賛。「各国の主権」の尊重などを呼び掛けた12項目の多くは「平和的解決の基礎として採用可能だ」と評価した上で、ロシア側は「常に協議に臨む用意がある」ものの、ウクライナと西側にはこれに応じる姿勢が依然見られないと批判した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、協議のため習氏を自国に招待したとしている。
ゼレンスキー氏は会見で「われわれは中国に対し、和平案を実行するパートナーになるよう要請した。あらゆるルートでわれわれの案を伝えた」と明かし、中国からの回答を待っていると述べた。
一方米国政府は、中国が公平な仲介者になれるとはみていないとコメントし、ウクライナ紛争終結へ向けた仲介役を目指す中国に対してこれまでで最も直接的な批判を行った。

 

●中ロ関係は「便宜結婚」、ロシアが格下 米国務長官 3/23
米国のアントニー・ブリンケン(Antony Blinken)国務長官は22日、中国の対ロシア外交を「便宜結婚」になぞらえ、ロシアは格下の「ジュニアパートナー」だとやゆした。
ブリンケン氏は上院外交委員会で中ロ両国について、「われわれとは全く異なる世界観を持つ国同士が便宜結婚をしている。確信的かどうかは分からないが」と述べた。さらに「この関係において、ロシアはジュニアパートナーに他ならない」と語った。
また、中国が米国主導の世界秩序に代わる「非自由主義的」なビジョンを推進していることに対し、「ロシアや(同国大統領のウラジーミル・)プーチン(Vladimir Putin)氏が実際に世界秩序を望んでいるかは分からない。むしろ無秩序な世界を望んでいるのではないか」と述べた。
中国がロシアに「殺傷兵器を供与」したかとの質問には、現時点では「その一線を越えたのを確認していない」と答えた。
●批判もあるけど、岸田首相のウクライナ電撃訪問が意外によかったわけ 3/23
先日、英エコノミスト誌に「米中が台湾海峡を挟んだ戦争の準備を進めているでやんす」という衝撃的な記事が出ました。この問題に関心のある人たちからすると、「さもありなん」という受け止めにしかならないのかもしれません。
まあ、言われるまでもなく準備はするでしょうからな。本当に戦争が始まるのかどうかは別として。
ここで、日本だけでなく、世界的なロシア・ウォッチャーや専門家の皆さんが言っていた話が思い出されます。
ロシアがウクライナに侵攻する前、衛星写真などを通して、何か知らんがロシア軍がベラルーシやウクライナ国境に集結しているのを見たほとんどの専門家は、「ロシアはNATO(北大西洋条約機構)に加盟を希望するウクライナに圧力をかけるため、露宇間国境に軍隊を集結させ牽制している」と解釈していました。
その結果が、ご存知の通りロシアによるウクライナ侵略の開始だったことを考えれば、私たちの心の中にはかなり強い「正常性バイアス」が働いているものと考えられます。それを理解したうえで現象を読み解き、未来予想につなげていかなければならないとも思います。
そのような話も踏まえ、前述のエコノミスト記事や現況の米中台の活動を見ていると、何があってもおかしくないという前提で準備を進めなければならないことが明確に分かります。
また、インドを訪問した岸田文雄さんが、2030年までの約7年間に9兆円を超える支援をインド太平洋方面に展開するよという話をしているのも、このあたりの安全保障で関係をつなぎとめておかなければならないというバックグラウンドがあるからだと理解しておく必要があります。
インド太平洋に7年間で9兆円超を支援する意味
この手の対外的支援では、「そんなカネを使うぐらいなら、日本人の生活に振り分けろ」という反論が国内から出てきます。ただ、人口減少の状況にある日本国内にカネをばら撒くより、まだ(日本よりは)経済成長が見込める地域に国家も企業も投資するのは当然の話。その地域で日本企業のサービスや製品を使ってもらえるのであれば、その後の展開を考えてもベターです。日本人が稼げる海外にどんどん出ていって頑張ろうというのも、国益全体を考える上では大事なことになってきています。
インフラ投資の世界でも、道路や鉄道、通信網など日本が担える分野はまだまだあるんだよ、中国系の「一帯一路」では日本企業がパージされるけど、日本がイニシアチブを取っている分野ではまだ頑張れるんだよという話でございます。
「日本オワタ」と言いたい人や、国内にカネを使えと主張する人は、その大多数が日本国内で日本語だけを使って日本人相手に仕事をしているか、日本で上手くいかなくて海外に活路を求めたけどパッとせず「海外出羽守」(海外に比べて日本は駄目だ)と言いたい人たちなのではないかと思うんですよね。それなりに日本で所得を持ち納税している人たちからすれば、国内だろうが海外だろうが収益機会を求めるのは当然ですし。
ただそれ以上に、資源輸入国である日本にとって、世界が平和であるという現状を最も享受しているのは日本だという事実を、日本人はもっと重大に受け止めるべきだとも思います。
台湾で有事があって、仮にマラッカ海峡から台湾経由でやってくるタンカーが迂回するぞとなれば、日本は干上がってしまいます。
そうでなくとも、世界的に燃料高が進んだ1年前を振り返れば、ガソリン代金や電気代の値上がりで国民がひぃこら言い、新電力などが依存していた電力市場は太陽光発電が働かない夜間電力の調達が困難になって価格高騰に見舞われ、「あれ? なんのための電力自由化だったのか」「再生エネルギーに依存して火力や原子力での発電を軽視した結果電源計画が大変なことになったじゃないか」など、さまざまな問題が勃発したのも記憶に新しいところです。
台湾で本当に戦争が起きるとするならば、日本経済が受けるダメージは名目GDP(国内総生産)553兆円の何割にも及ぶ危険があります。国庫から7年間で9兆円を投資することで戦争が回避できるなら、安いものだということは考えておかなければなりません。
もちろん、カネを使ってもそれ以上に大事な政治的目標が中国の台湾併合にあるのだと言われるとぶっ飛んでしまいますから、日本はとにかく世界の安全の守護者なのだという立場をいかに堅持するか、世界がそういう認識を日本に対して持つかに尽きるとも思います。
その点では、日本が東アジアからアジア太平洋地域の安全保障に深くコミットすること自体、非常に価値のあることだと思います。
そして、台湾での有事があるならば、台湾の防衛のためにアメリカが参戦する可能性が高く、その場合、アメリカと同盟関係にある日本が参戦することはもはや前提です。
弱い野党は日本の国益か
憲法第9条の価値は日本人なら皆深く知るところですし、戦争が起きないようにするために日本が全力を尽くすのは当然としても、日本の行動や、その結果に伴う影響とは違うところで戦争が起きてしまった場合は、自動的に巻き込まれる運命にあります。それが台湾有事だとも言えます。
今回、インドの首相・モディさんと会談した後、岸田さんは民間チャーター機でダイレクトにポーランドに入り、電撃的なウクライナ訪問を敢行して大統領ゼレンスキーさんとの会談に漕ぎ着けました。折しも、全国人民代表大会(全人代)を終え、ロシアの大統領・プーチンさんと会談していた中国の国家主席・習近平さんと好対照の図式になったことは、非常に重要であると言えます。
ロシアによる非人道的な戦争犯罪で多くのウクライナ人が犠牲になったキエフ近郊ブチャで献花する岸田文雄さんの写真は、世界でも拡散されました。
総理官邸で情報漏洩が相次ぎ、国会対応も含めてウクライナ訪問が困難になりつつある状況でしたが、いわゆる認知戦・ナラティブの分野において、日本の立ち位置を全世界に明確に示すことができたのは、岸田さんの決断と、それを支えたロジスティック担当の努力の勝利です。
これで、ホスト役となる広島での主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)で岸田さんの面目が立つだけでなく、まあまあ支持率が回復すれば、本格的な岸田長期政権を目指して解散総選挙に打って出るのだという運びもあるのかもしれません。国内政治の安定は、特に世界が焦げ臭い中ではとても重要なことだとも言えます。
悪く言えば、弱い野党の存在、象徴的に言えば高市早苗さんと小西洋之さんのネタで審議が空転して国家運営が滞らないような日本政治であることが、最終的には日本の国益につながるのかもしれません。
ポーランドで浮上した日本の情報管理の不安
蛇足ながら、ポーランドでウクライナ行きの列車に乗り込む岸田文雄さんの姿がテレビに映し出され、「情報管理は大丈夫なのか」という指摘が各方面からありました。確かにあれはどうなのという気も(個人的には)しないでもありませんが、一応は、さまざまな関係国との調整と旅程の関係から、あれが最善のパターンの一つであったというふうには思います。
各方面、情報管理という点ではいろいろなことがありつつも、結構頑張って誠実に対応しているところだろうと思いますので、完璧には程遠いものの、先を見て何とか理解してあげてください。
いみじくも、Twitterでゼレンスキーさんが「ありがとう日本」と書き、世界の平和維持に日本が貢献することを岸田さんが行動で示すことへの謝意を綴ったのは大事なことだろうと思うんですよ。紆余曲折はあったけど、まずは岸田文雄さんお疲れさまでした。
●「和平交渉を求める中露陣営」と「戦争継続に寄与する日米欧陣営」 3/23
和平交渉の早期実現を謳った中露共同声明が発表されていた頃、岸田首相はウクライナを訪れていた。中国の「和平案」に応じないアメリカと歩調を合わせ、G7首脳会談でウクライナ問題を取り上げるためだ。
中露首脳会談と中露共同声明
3月21日、日本時間の真夜中、中露首脳会談のあとに両首脳による共同声明の署名と発表があり、続いて二人による共同記者会見が設けられた。
正式の中露首脳会談では、3月21日のコラム<「習近平・プーチン」非公式会談に見る習近平の本気度>に書いたような習近平の注目すべき表情はなく、普段の姿に戻っていたし、滅多に記者会見などしたことのない習近平の記者会見場での表情は見られたものではなかった。
そうでなくても普段なら眠っている深夜。
ライブで<プーチンと習近平の記者会見中継>を見ていたのだが、息する時間も取らないような勢いで喋りまくるプーチンの手元には数枚の原稿があった。あと「2枚」となったときに、ユーチューブ脇のコメント欄には「あ、あと2枚になった!寝るなよ、習近平!もう少しの我慢だ!」といった種類のコメントが溢れ、思わず笑ってしまった。
そのような中、共同声明にだけは「おっ!」と思わせるものがあった。
3月21日、新華社モスクワ電は<中露元首共同声明に署名 会話によってウクライナ危機を解決すべきと強調>という見出しで、共同声明の要旨を伝えている。それを以下にご紹介する。
ウクライナ問題について双方は、国連憲章の目的と原則は遵守されなければならず、国際法も尊重されなければならないとした。
ロシア側は、ウクライナ問題に対する中国の客観的かつ公正な立場を積極的に評価する。
双方は、いかなる国家または国家グループが、軍事、政治およびその他の利益を追求するために、他国の正当な安全保障上の利益を損なうことに反対する。
ロシア側は、和平交渉をできるだけ早く再開することを重ねて言明し、中国はこれを高く評価した。ロシア側は、中国が政治・外交的手段を通してウクライナ危機の解決に積極的な役割を果たそうとしていることを歓迎し、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」という文書に示された建設的な提案を歓迎する。
双方は、ウクライナ危機を解決するために、すべての国の正当な安全保障上の懸念を尊重しなければならず、陣営間の対立形成や火に油を注ぐようなことを防止しなければならないと指摘した。双方は、責任ある対話こそが、問題を着実に解決する最善の方法であると強調した。
この目的のために、国際社会は建設的な努力を支援すべきだ。双方は、局面の緊張を助長したり、戦争を長引かせる一切の行動を停止するよう求め、危機がさらに悪化したり、最悪の場合は制御不能になる事態になることを防ぐよう求める。
双方は、国連安全保障理事会によって承認されていない、いかなる一方的な制裁にも反対する。(以上)
共同声明の基軸は「ウクライナ問題は話し合いによって解決すべき」というもので、「それをロシアが言うんですか?」と言いたくなるが、ロシアとしては自国を、「和平交渉をできるだけ早く再開することを重ねて言明する」という立場にあると位置付けていることに驚いた。
また、「国連安全保障理事会によって承認されていない、いかなる一方的な制裁にも反対する」という中露両国の共通認識が共同声明文の最後にあることは注目に値する。
「平和案」の冒頭にある「国家の領土主権は尊重されなければならない」という中国側の主張は、ウクライナの領土主権を重視していないプーチンと相矛盾するが、そこは互いに目をつぶりながら、両国は以下のような共通認識を優先しているものと解釈できる。
NATOの東方拡大が全ての原因
アメリカのシカゴ大学の教授で、かつて米空軍の軍人でもあった政治学者&国際関係学者のジョン・ミアシャイマー氏や、フランスの人口論学者で哲学者のエマニュエル・トッド氏も、今般のロシアのウクライナ侵略の背景には「NATOの東方拡大」があると主張している。アメリカとNATOがウクライナ戦争を生んだのだと断言している。
同様に、2022年2月4日、北京冬季オリンピックにちなんで訪中したプーチンと習近平は、共同声明の中で「NATOの東方拡大に反対する」という共通認識を表明していた。
他国の領土を侵略するのは、習近平にとっては台湾問題やウイグルなどの少数民族のことを考えると、プーチンの行動を肯定することはできない。しかしアメリカに一方的に制裁を受けているという意味では被害者同士の連帯感がある。それが今般の中露共同声明にも盛り込まれているが、NATOの東方拡大への危機感は、両国が共有しているものの中の一つである。
中国はNATOの東方拡大が、中国の裏庭であるような中央アジア諸国に及ぶのを警戒している。だから上海協力機構を設立している。
アメリカは一方的な侵略行為をくり返してきた
そのほかに中露両国の共通認識にあるのは、アメリカはベトナム、イラン、イラク、アフガニスタン・・・・・・と、引っ切り無しに他国に内政干渉をしたり一方的に侵略しているという事実だ。その大きな事例だけでも列挙してみよう。
   図表:アメリカが内政干渉をして他国の政府を転覆したり侵略をした相手国
ほかにも数多くあるが、少なくとも習近平は、最後のイラク戦争20周年の3月20日にロシアを訪問するということまでして、「不法な侵略戦争をくり返しているのはどの国か?」ということをアメリカに突きつけようとしている。中露共同声明に内包されているのは、アメリカのこのような行為であり、「どんなに残虐な侵略行為をしても、アメリカなら非難されないし裁かれない」という国際社会への抵抗であるとも言えよう。
中露首脳会談の日にウクライナを訪問した岸田首相
わが国の岸田首相がウクライナを訪問したのは、まさに中露がかかる精神の共同声明を出していた時だった。ポーランドから陸路に変えたのは、ウクライナは制空権を持っていないからだ。武器は欧米から提供を受けているが、戦闘機の供与は受けていないので、制空権を持てないでいる。戦争レベルの許容度は、基本、アメリカが決めている。
そのアメリカは習近平提案の「和平論」によって停戦するのを断固阻止しようとしている。3月20日のコラム<習近平の訪露はなぜ前倒しされたのか? 成功すれば地殻変動>に書いたように、3月17日にアメリカのメディアTHE HILLは、<モスクワでの習近平・プーチン会談に先立ち、ホワイトハウスはウクライナの停戦を拒否>という情報を発信している。
アメリカの思惑通りに動いている岸田首相は、その意味で「中露の話し合いによる停戦には応じない」というアメリカの戦列に加わっており、そのことを「誇り」に思っているようだ。NATOを東アジアに引き込んでくる役割をバイデン大統領に与えられ、それを忠犬のように「誇らしく」実行しようとしている。
アメリカは前掲の図表のように、多くの戦争を仕掛けてきては、数えきれないほどの人命を犠牲にしてきた。次にターゲットになるのは日本だ。
中国を、何としても台湾武力攻撃をせざるを得ないところに追い込んでいき、その最前線で日本人に戦わせる。ウクライナ同様、アメリカ兵が戦場で戦うことはないだろう。戦わせられるのは、ウクライナ人同様、次は日本人だ。
そのことが岸田首相には見えていない。
米軍のミリー統合参謀本部議長が「ウクライナ戦争は軍事力では終わらない」
アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、3月22日、「ロシアもウクライナも軍事力によって目的を達成することはできないと確信している」と述べたという。ミリーは、「さまざまな国の外交官が最終的に戦闘に終止符を打つと信じている」とも語っている。すなわち戦争を継続しても、ウクライナが完全勝利を手にすることはないということを意味する。だからどこかで「外交的に強制終了させるしかない」ということになる。
ミリーは中国が2027年までに台湾を武力攻撃すると最初に言った米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官の言葉も、その可能性は低いと否定している。アメリカにこのような賢い軍人がいることを大変頼もしく思うが、岸田首相は違う。CIA長官やバイデンの言うことを聞いて、「戦争継続」を煽る戦列に並ぼうとしているのだ。
なんとも皮肉なことに、発展途上国や新興国を味方に付けている中露陣営が「話し合いによってウクライナ危機を解決しよう」と呼びかけ、先進国連盟が「戦争継続」を主張して、「ウクライナの完全勝利まで停戦しない」と叫んでいる。
もちろん、プーチンが攻撃をやめれば、それで済むことだろうと言いたくはなるが、3月21日のコラム<「習近平・プーチン」非公式会談に見る習近平の本気度>に書いたように、今となっては習近平に「強制終了」してもらうのを待っているのかもしれない。
●中国、ウクライナ戦争への各国対応を注視=米国務長官 3/23
ブリンケン米国務長官は22日、ロシアによるウクライナ侵攻に米国のほか世界各国がどのように対応するか、中国は注視していると述べた。
ブリンケン長官は上院歳出委員会の小委員会で行われた公聴会で、ロシアによる隣国への攻撃を容認すれば「パンドラの箱」が開けられ、「紛争の世界」が現出すると警告。日本と韓国がウクライナを支援していることに言及し、「ウクライナの利害はウクライナにとどまらず、アジア地域にも大きな影響が及ぶ」と述べた。
ロシアによるウクライナ侵攻で中国の台湾に対する思考がどのような影響を受けるか注視されている。ブリンケン長官は「中国はこの戦争を極めて注意深く観察し、この侵略に世界がどのように対応するか教訓を得ようとしている」と語った。
その上で、中国によるロシアへの政治的・物質的支援は米国の利益に反すると指摘。ただ、中国がロシアに軍事支援を実施しているという証拠はまだ確認されていないとした。
「冷戦後の世界秩序は終り、次に起こり得ることを巡り激しい競争が繰り広げられている」と指摘した。
国務省と米国国際開発庁(USAID)は、ロシアと中国がもたらす脅威に対抗するためバイデン大統領が求める予算(前年比11%増)を必要としていると説明した。
中国の習近平国家主席は今週、ロシアを公式訪問し、プーチン大統領と会談。両首脳は互いに「親愛なる友人」と呼び合い、ウクライナ停戦に向けた中国の仲介案などについて協議した。
●ロシア、米と「事実上の紛争状態」 核紛争の可能性高い=外務次官 3/23
ロシアのリャプコフ外務次官は22日、ロシアはウクライナ戦争を巡り米国と事実上の紛争状態にあるとの見方を示し、核兵器を利用した紛争が勃発する確率は過去数十年で最も高まっていると述べた。国内通信社が報じた。
リャプコフ次官は「新戦略兵器削減条約(新START)のない世界、次に何が起こるか」と題されたイベントで、米国のロシアに対する「敵対的な方針」を批判。「現在、核紛争の可能性が高まっているかという議論に飛びつきたくないが、過去数十年間で最も高まっていると言える」と述べた。
その上で、ロシアは世界を核戦争の脅威から守ろうとしているとしながらも、ロシアが「米国と事実上の公然たる紛争状態にある」ことを踏まえると、通常通りに続けることはできないと語った。
ロシアは2月に米国との新STARTの履行を停止。リャプコフ次官は、新STARTに関する米国との共通基盤はないとし、水面下のものも含め米国との交渉はあり得ないとの考えを示した。 
●プーチン氏逮捕ならロシアへの宣戦布告とみなす=前大統領 3/23
ロシアのメドベージェフ前大統領は23日、国際刑事裁判所(ICC)がプーチン大統領に対しウクライナでの戦争犯罪の責任を問う逮捕状を出したことについて、プーチン氏の逮捕を試みればロシアに対する宣戦布告になると述べた。
メドベージェフ氏は国内メディアに対しICCは法的根拠のない組織であり、これまで重要なことは何もしていないと主張。
通信アプリ「テレグラム」に投稿した動画では「このようなことはどう見ても実際に起こり得ないが、あえて想像してみよう。核保有国の現トップが例えばドイツを訪問し、逮捕されたとする。何が起きるだろうか。これはロシア連邦に対する宣戦布告になる」と発言。
「この場合、ロシアのミサイルなどあらゆるものがドイツ連邦議会や首相官邸に飛んでくるだろう」と述べた。
核戦争のリスクが高まっているとも発言。「ウクライナに日々、外国製の武器が供与され、核攻撃による世界の終末が近づいていく」と述べた。
同氏は西側諸国がロシアを分割して豊富な天然資源を盗むことを望んでいるとの認識も示した。
●プーチン氏、住民から大声のやじ受ける マリウポリ訪問時 3/23
ロシアのプーチン大統領が侵攻で占領したウクライナ東部ドネツク州マリウポリを最近、突然訪れて地元住民と会った際、「全て見せかけ」などとする抗議のやじを浴びていたことが23日までにわかった。
ロシア国営メディアも共有した、この場面を収めた動画では、1人が発した大声のやじが確認された。「真実ではない。全て見せかけ」などと主張していた。
大統領の随行団がやじを飛ばした人物を特定するため、素早い行動を起こす場面も収められていた。
地元住民との接触では男性がプーチン氏に「テレビでは何度もあなたを見ている」と告げる一幕もあった。これに対しプーチン氏は「お互いにより良く知ることが必要」と応じてもいた。
ウクライナ侵攻を受けたマリウポリ市での攻防は熾烈(しれつ)を極め、同国の抵抗の決意を示す象徴的な戦いともなっていた。
●劣化ウラン弾、正しいのはロシアかイギリスか 3/23
イギリスはウクライナに対して、ロシア軍の戦車と戦う上で「きわめて効果的」な劣化ウラン弾を提供することを決定した。
イギリスのアナベル・ゴールディ国防閣外相は3月20日、イギリスがウクライナに供与する主力戦車「チャレンジャー2」の弾薬の一部に、相手戦車の装甲を貫通する劣化ウラン弾が含まれると述べた。イギリスは1月に、ウクライナに対して「チャレンジャー2」14台を供与することを決定していた。
ゴールディは、劣化ウラン弾は「最新型の戦車や装甲車を撃破するのに非常に効果的」だと説明した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、これに強く反発。劣化ウラン弾には「核」の要素が含まれると非難し、ロシアとしては対応せざるを得ないと警告した。ウクライナでの戦争が始まって以降、ロシア政府は繰り返し、核の使用をほのめかしている。
プーチンは中国の習近平国家主席との会談の中で、「(劣化ウラン弾の供与が)実現すれば、西側諸国が集団的に核の材料の使用を開始したものとして、ロシアは対応をせざるを得ない」と述べた。
装甲貫通力が高く射程距離が長い
英国防省の報道官は、「イギリスはウクライナに主力戦車『チャレンジャー2』を供与すると共に、劣化ウランを含む装甲貫徹弾をはじめとする弾薬も提供する予定だ」と述べた。「これらの弾薬は、最新型の戦車や装甲車を撃破するのに非常に効果的だ」
イギリス軍は「何十年も前から装甲貫徹弾に劣化ウラン弾を使用して」おり、これは「標準的な成分」だと同報道官は説明した。
さらに報道官は、「ロシアはこのことを知っているのに、意図的に誤った情報を流している」と批判。調査により、劣化ウラン弾が環境や人体に及ぼすリスクは「低いとみられる」と説明した。
イギリス政府は以前から、劣化ウラン弾など「(イギリス)軍が迅速かつ安全に目標を達成するのに役立つ、合法的で効果的な武器の使用を認めないことは誤りだ」と述べていた。
劣化ウラン弾は密度が鉛の1.7倍で、命中時に装甲に食い込みながら先端が削られる性質を持つ。また射程距離が長いため、敵の砲弾が届かない距離から敵を撃破することができるという。
ロシア国営メディアによれば、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、劣化ウラン弾の使用が過去に「深刻な健康被害」をもたらしたと述べた。
劣化ウラン弾が人体や環境に及ぼす影響については、見解が割れている。IAEA(国際原子力機関)は、劣化ウランは「天然ウランに比べて放射能量が大幅に少ない」と説明。天然ウランおよび劣化ウランが放出する放射線にさらされれば、がんになるリスクがあるとした。ただし「数十年にわたる研究では、がんの明らかなリスクを裏づける証拠は示されていない」とも言う。
WHO(世界保健機関)などが行ったその他の研究では、劣化ウラン弾の物理的・化学的性質や劣化ウラン弾にさらされた度合いによって人体への影響は異なるという結果が示されている。2021年に英国医師会の機関誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」で発表された研究は、湾岸戦争とイラク戦争の際に劣化ウラン弾にさらされたイラク市民について、「劣化ウランへの暴露と体調悪化に潜在的な関連」がみられたと結論づけた。
●ゼレンスキー氏、ロシアが一部占領するヘルソン州訪問 3/23
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は23日、ロシアが一部を占領する南部ヘルソン(Kherson)州を視察した。
ゼレンスキー氏は「ヘルソン州を視察。ロシアの全面的な侵攻で家屋や民間インフラが被害を受けたポサドポクロフスケ(Posad Pokrovske)村。人々は戻りつつある。地元住民と懇談し、問題やニーズを聞いた」とソーシャルメディアに投稿した。
ウクライナ軍は昨年11月、ロシア軍が戦術的に撤退したのを受けてヘルソン市を奪還。ただ、ロシアは依然としてヘルソン州の一部を掌握しており、ドニプロ(Dnipro)川の東岸に陣取り、ヘルソン市を頻繁に砲撃して市民に死傷者が出ている。
同氏は別の投稿で、ロシア軍から奪還した地域について地元当局者と地雷除去や再建について話し合ったと明らかにした。
●ロシア外務省“岸田氏ウクライナ訪問 中ロ会談 焦点そらしか”  3/23
岸田総理大臣によるウクライナ訪問について、ロシア外務省の報道官は、中国の習近平国家主席のロシア訪問に合わせたものでロシアと中国の首脳会談から焦点をそらすねらいがあったのではないかとする見解を示しました。
ロシア外務省のザハロワ報道官は23日、首都モスクワで記者会見を開き、ロシアメディアから、中国の習近平国家主席によるロシア訪問と重なるタイミングで岸田総理大臣がウクライナの首都キーウを訪問したことについての評価を聞かれました。
これに対してザハロワ報道官は「もしかすると習主席のロシア訪問と首脳会談に対する評価を変え、焦点をそらそうとしたのかもしれない」と述べ、中国の習主席のロシア訪問に合わせ、その焦点をそらすねらいがあったのではないかとする見解を示しました。
また、アメリカの論理や圧力で行動しているとする見方を示しながら「日本の立場は以前から分かっているのでそれほど気にしていない」と述べました。
●ブラジル・ルラ大統領が中国訪問、関係強化 米への「圧力」狙いも? 3/23
南米ブラジルのルラ大統領が3月26〜31日に中国を訪れ、習近平国家主席と会談する。ブラジルは貿易で中国依存を強める一方、政治的な関係はボルソナロ前大統領時代に冷え込んだ。ルラ氏は訪中を通じて関係修復を図る考え。ウクライナ情勢を巡っては「中立的」な立場を強調し、停戦に向けた仲介の構想について協議する可能性がある。
今回の訪中には財界からも約240人が同行し、ルラ氏は貿易の多角化やブラジル企業との大型取引を狙う。
12年ぶりに大統領に返り咲いた左派のルラ氏は前回2003〜10年の在任中、中国との関係強化に努めた。世界的な資源ブームを追い風に中国との貿易を拡大し、平均4%の経済成長を達成した。09年には中国は米国を抜いて、ブラジルにとって最大の貿易相手国となった。また新興国間の関係を重視し、同年には中国、ロシア、インドと4カ国で初めての首脳会議を開催。南アフリカを加えた「BRICS」の形成につながった。
これに対し、右派のボルソナロ前大統領はブラジル経済における中国の影響力拡大に警戒を強め、「中国がブラジルを買おうとしている」などの発言を繰り返した。新型コロナウイルス対応では中国製ワクチンに依存しつつ中国批判を展開した。
ブラジルと中国の関係に詳しいジェトゥリオ・バルガス財団リオデジャネイロ法科大学院のエバンドロ・カルバリョ教授(国際法学)は「習氏との会談で、ルラ氏は両国間でトップ外交が戻ったことをアピールするつもりだ」と指摘。その上で、多極化外交を志向するルラ氏は新型コロナ禍からの経済の回復に向けて「中国と関係を強化することが重要だと見ている」と解説する。一方、地元紙フォリャ・ジ・サンパウロは、対中姿勢を強めるバイデン米政権に圧力をかけ、米国から新たな投資などを引き出すことがルラ氏の今回の訪中の目的の一つだと報じている。
ルラ氏は、習氏との会談でウクライナ情勢も議題に上げる考えだ。ブラジルは欧米主導の対露制裁やウクライナへの軍事支援には否定的な姿勢を見せている。ルラ氏は1月以降、停戦の仲介に向けて中国やインドなどと協力する構想を提唱すると、2月には米CNNのインタビューに対し「果たさなければならない役割について、中国の首脳と話し合う。これが、私の務めだ」と強調した。
安全保障に詳しい広告マーケティング大(サンパウロ)のグンテル・ルズィット教授(国際関係学)は、ウクライナ情勢をめぐるルラ氏の姿勢について「中立の立場で(対立する欧米と中露の間で)双方のパートナーになろうとしている」と説明する。一方、中国への接近は西側諸国からはロシア擁護とみなされるとも指摘。分断が進む現在の国際社会では「中立の立場でウクライナ問題を仲介するのは難しい」と述べ、ルラ氏の構想に懐疑的な見方を示した。
気候変動対策でも、ブラジルは中国の協力に期待を寄せる。ルラ氏はアマゾンの熱帯雨林について「伐採ゼロ」を掲げ、環境保護の姿勢を強く打ち出している。地元紙エスタド・ジ・サンパウロによると、両国はアマゾンの違法伐採などを監視する目的で、上空が雲で覆われても状況が把握できる技術を搭載した衛星を共同開発することを検討している。
中国、米欧への対抗軸に期待
中国にとっても、ボルソナロ前政権下で悪化したブラジルとの関係修復は喫緊の課題と言える。
「両国関係は半世紀にわたり、激動する国際情勢の中でも安定して発展し、途上国の連帯、協力、共同発展のモデルとなってきた。今回の訪中は、両国関係を新たな段階に押し上げ、地域と世界の安定と繁栄に貢献すると信じている」。中国外務省の汪文斌副報道局長は17日、ルラ大統領の訪中の意義をこう強調し、歓迎ムードを演出した。
背景にあるのが深刻化する米中対立だ。米国主導の「中国包囲網」に対抗するため、中国は中露主導の新興5カ国「BRICS」などの枠組みの強化や拡大に意欲を示している。BRICSの一員であるブラジルとの関係を改善して結束を強化し、米欧への対抗軸とする狙いだ。
食糧事情もある。中国は国内の大豆消費量の8割以上を輸入に依存するが、輸入量の約6割に当たる5439万トン(2022年)をブラジルに頼っている。トウモロコシについても、21年までは米国とウクライナが主要な輸入先だったが、米中対立やロシアによるウクライナ侵攻に伴い、22年は両国からの輸入量が減少。その代替として、ブラジル産のトウモロコシについて22年5月に検疫条件を緩和し、今年1月から輸入を開始した。
ブラジルは中国の食糧の供給元としても欠かせない存在になっている。

 

●プーチンを“子分”にしてやる…習近平が狙う「ロシア属国化」「大中華帝国」 3/24
習近平が抱く「野望」
中国の習近平総書記(国家主席)が3月20日から22日まで、ロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン大統領と会談した。両国は米国を「主要な敵」とみて、全面的な連携強化で合意した。だが、中国の真の狙いは、プーチン体制の弱体化に乗じた「ロシアの属国化」である。
中ロ両国は会談後、共同声明を発表した。声明は「中ロの新時代における全面的な戦略協力パートナーシップは史上最高水準に達し、持続的に発展している」と、両者の連携を高らかにうたい上げた。
この声明には、興味深い点がいくつもある。
まず、ウクライナについては「両国は軍事的、政治的、その他の優位性を得るために、他国の正当な安全保障上の利益を損なう国家とそのブロックに反対する」と記した。北大西洋条約機構(NATO)についても「NATOがアジア太平洋で排他的な集団機構を構築するのに反対する」と、敵意をむき出しにした。
そのうえで「米国は冷戦時代のメンタリティに固執し、インド太平洋戦略の推進によって、地域の平和と安定に否定的な影響を及ぼしている」と米国を名指しして、批判した。もはや米国を敵視するのに、なんの躊躇もしていない。
「同盟ではない」
ところが、一方で「中ロ関係は冷戦時代の軍事政治同盟ではない。そんな国家関係モデルを超えて、非同盟、非対立であり、第3国をターゲットにしていない」とも記した。たしかに、彼らは双方の防衛義務を定めた軍事同盟条約を結んではいない。
傍から見れば、中ロ「同盟」は、もはや秘密でもなんでもないように思えるが、中国自身は「ロシアと同盟関係にある」とみられるのを、よほど気にしているようだ。国営通信社、新華網は3月22日、わざわざ「なぜ中国はロシアと同盟を結ばないのか」という記事を配信した。
その理由として、記事は「非同盟は中国外交の核心的原則の1つ」「中ロの非同盟は条約として法的に確定されている」「良き隣人関係が中ロの初心であり、同盟関係では完全に平等になれない」という3つの理由を挙げた。だが、米欧で言葉通りに受け取る向きは、ほとんどない。
共同声明は「ロシアは繁栄して安定した中国が必要で、中国は強くて成功したロシアが必要だ」と認めた。そのうえで「両国は定期的に海と空の合同訓練を実施し、軍事的交流と協力を強化し、相互の軍事的信頼関係を深化させる」とも記している。
以上をみれば、中ロは米国を軸とした西側ブロックを敵とみなして、戦略的に対抗する意図は明らかだ。それでも、なぜ「同盟」と認めないかといえば、先の新華網記事が問わず語りに理由を語っている。「同盟関係は平等になれない」という点だ。
記事は米国の同盟関係をとりあげて「米国が兄貴の地位にあるのをみれば、平等でないのが分かる」と指摘した。「米国が主導権を握り、相手は従属的立場に置かれている」というのだ。この米国を「中国」に置き換えたうえで、裏返して話を理解すればいい。まさに、中国はロシアを子分にしようとしている。だが、まさか表立って、そうとは言えないから「同盟ではない」と言い張っているのだ。
蜜月を深める中国とロシア
ロシアはウクライナの戦場で苦境に立っている。
武器弾薬を自国で賄えず、弾薬は北朝鮮、ドローンやミサイルはイランに頼っている。中国の軍事支援は喉から手が出るほど欲しい。中国は米国から「ロシアに武器弾薬を提供すれば、重大な結果を招くぞ」と警告されてしまったので、表立って動けないが、自分が頼りにされているのは、よく承知している。
中長期的にみても、中国の支援なくして、ロシアは立ち行かない。
西側の経済制裁を受けて、西側と貿易できず、肝心の労働力は戦争で犠牲者が続出しているだけでなく、百万人単位で他国に流出してしまった。2月24日公開コラムに書いたように、クリミア半島や東部ドンバス地域の帰属問題がどうなろうと、国家としては「すでに敗北している」という見方が西側の共通認識だ。
一方、中国との貿易は激増した。1〜2月の2カ月だけをみても、中国の対ロ輸出は19.8%増の150億ドルに達し、対ロ輸入も31.3%増の186.5億ドルに上った。2022年を通してみると、中国の対ロ貿易(輸出と輸入の合計)は過去最高の1900億ドルに達している。
3月18日付の英エコノミスト誌は、そんなロシアの将来をこう描いてみせた。
「西側は今後数年以内に、どんなものであれ、経済的にロシアへの依存から脱することになる。ロシアは中国の支援を受けながら、より貧しく、技術的に立ち遅れていく。ロシアの経済システムは「人民元化」する。国のエリートは2014年のクリミア侵攻以来、外国に行ったことがない軍の経験者たちが大部分を占めるようになる。そして、彼らの子どもたちは中国の一流大学で学ぶことになるのだ」
ロシア経済の人民元化は避けられない。たとえば、中国が原油と天然ガスの代金を「人民元で支払う」と言えば、ロシアに断る術はないからだ。中国との国境近くでは「家族の中国化」も進んでいる。中国人男性と結婚するロシア人女性が激増しているのだ。
背景には、かつて1人っ子政策を進めた中国は適齢の独身男性が多い一方、ロシアでは逆、という事情もある。だが、それだけでもない。彼女たちは「頼りになるのは下り坂のロシアではなく、上り坂の中国」と分かっているのだ。
乗っ取りを狙っている…
昨年9月15日にウズベキスタンで開かれた中ロ首脳会談では、ウクライナ戦争について、プーチン氏は習氏に「あなたが疑問が懸念を抱いているのは理解している」と認めざるをえなかった。これに対して、習氏は冷たい態度に終始し、両者には「隙間風」が吹いていた。
ところが今回、一転してロシアとの連携強化に動いたのは、苦境に立つプーチン氏をここで支援すれば「ロシアは中国の子分になる」とみたからだ。プーチン体制の下で、弱体化していくロシアを支援し、自らの影響下に収めていく。その先にあるのは「ロシアを飲み込んだ事実上の中国勢力圏=大中華帝国」の誕生である。
こうしたシナリオを実現するには、ロシアの完全勝利はもはや望めないとしても、プーチン氏には生き残ってもらわなくてはならない。ロシアが敗北してプーチン氏が失脚したら、次の政権がどうなるか分からないからだ。ロシアに民主・親米政権が誕生するような事態になったら、最悪である。
そのために今回、プーチン支援に舵を切ったとみるべきだ。「中ロで米国に対抗する」のはその通りだとしても、裏側には「やがて中国がロシアを乗っ取る」という思惑があるのだ。
プーチンでなければならない
習氏にとって、相手は誰でもいいわけではない。気脈を通じてきたプーチン氏でなければならない。共同声明には、それをうかがわせる異例の下りもある。次の部分だ。
「国家元首による外交指導の下で、両国はあらゆるレベルで密接な交流を維持し、相互の重要関心事項について意思疎通を深め、相互信頼を強め、高いレベルの二国間関係を確実にする。…両国の国家元首の合意にしたがって、我々は二国間関係を常に正しい方向に進むように運営する」
国家間の共同声明に「国家元首の指導」とか「国家元首の合意」などと記すのは異例だ。たとえ元首が変わっても、国家間の約束事は変わらないからだ。にもかかわらず、あえて、国家元首(the head of state)と2度も言及したのは「習氏がプーチン氏を個人的に応援した」とも読める。そのほうが都合がいいのだ。
3月22日付のニューヨーク・タイムズは「両氏は互いの独裁体制を褒めちぎって、習氏は1年後のプーチン再選支持さえ示唆した」と指摘した。ロシア紙のコメルサントによれば、習氏は3月20日、プーチン氏と開いた記者会見で「あなたの努力は来年の大統領選挙で国民の強い支持を得る、と確信している」と述べた。習氏とプーチン氏が「特別の盟友関係」にあるのは間違いない。
首脳会談前には「習氏がプーチン会談に続いて、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領ともオンライン会談するのではないか」という予想が流れていた。だが、3月23日午後時点で「会談が開かれた」という情報はない。習氏は22日午後に帰国した。
習氏とすれば、ロシアとウクライナの停戦を演出できれば、大きな得点になったかもしれないが、それが実現しなかったところで、失敗ではない。プーチン氏を手中に収めた時点で「大成功」なのだ。両国の力関係は、かつてのソ連時代から、いまや完全に逆転した。
●ハンガリー、プーチン氏入国でも逮捕せず 首相府長官が表明 3/24
ハンガリーのグヤーシュ首相府長官は23日、ウクライナの子どもを違法に移送した容疑で国際刑事裁判所(ICC)が先週逮捕状を出したロシアのプーチン大統領について、ハンガリーに入国しても逮捕しないとの方針を示した。
ハンガリーはICCの設立条約「ローマ規程」の署名国で、2001年に批准しているが、グヤーシュ氏はプーチン氏の逮捕には国内法上の根拠がないとしている。
グヤーシュ氏は「我々が参照するハンガリー法に基づけば、我々はロシアの大統領を逮捕できない。ハンガリーではICC関連の制定法が公布されていないからだ」と説明。ハンガリー政府は現時点でプーチン氏の逮捕状に関する立場を決めていないとも述べた。
同氏の発言は、ハンガリーに隣接する欧州諸国にとってはそれほど意外でないかもしれない。
ハンガリーのオルバン首相とその政府は欧州連合(EU)内で最もロシアに近い。プーチン氏が昨年ウクライナ侵攻を軍に命じた後、オルバン氏はEU首脳の中で最も対ロシア制裁に消極的な姿勢を示した。
ハンガリーは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でもあり、欧米諸国によるウクライナへの兵器供与に反対を唱えている。オルバン氏は欧州がウクライナでの戦争になし崩し的に関与していると警告し、ウクライナのNATO加盟阻止を図ってきた。スウェーデンのNATO加盟についても消極姿勢を示している。
ICCに加盟する123国は逮捕状に従う義務があり、プーチン氏がこれらの国の領域に入った場合、国の法執行当局が逮捕する必要がある。ただグヤーシュ氏は今回、ローマ規程はハンガリーの法制度に組み込まれていないため、適用されないと主張した。
ロシアはICCの決定に服しない立場を示し、逮捕状は「受け入れられない」と一蹴している。
●寝室は黄金仕様…⁉プーチンが愛人にプレゼントした「大豪邸」の実態 3/24
プーチン大統領が、愛人とされる元体操選手のアリーナ・カバエワに豪華絢爛な邸宅をプレゼントしたと告発された。報じたのは国外脱出したロシア人資産家の支援で運営される独立系メディア「プロエクト」だ。
豪邸はモスクワとサンクトペテルブルクの中間にある森林の中に建ち、風光明媚なヴァルダイ湖に臨む。内部は書斎、寝室に至るまで黄金で装飾されているという。
「私腹を肥やすプーチンに対し、側近や国民が不満を溜めているのは事実でしょう。ウクライナ東部のバフムトへ攻勢を強めているタイミングで、ネガティブなニュースをぶつけてプーチンの足元を揺らがせる狙いがあったのだと思います」(国際ジャーナリストの山田敏弘氏)
豪邸には巨大スパ施設も隣接し、スイミングプール、サウナ、エステ施設、歯科設備などが完備されているという。カバエワはそこでプーチンとの間に生まれたとされる2人の子供と暮らしている。告発によれば、この豪邸を購入するために裏金が使われたという。
「不正資金は実質的なタックスヘイブン(租税回避地)であるキプロスの企業『エルミラ』が運営するプーチンの秘密ファンドから得たものだとされています。名義は別人のものですが、彼の資産を管理しているファンドのようです。こうした裏金はオリガルヒ(新興財閥)に特権を与える見返りとして受け取ったものでしょう。プーチンは同じような手段で、スイスの銀行口座などにも莫大な資産を蓄えています」(山田氏)
さらにプーチン大統領は権力を笠に着て、その巨大な豪邸を相場の3分の1の破格の値段で購入したとも報じられた。
老いてもなお、色と権力に取りつかれた独裁者の末路は推して知るべしだろう。
●ウクライナ戦争で大儲け、米軍産複合体の内実 3/24
軍産複合体――。
この言葉を耳にして、読者の皆さまはどういったイメージを抱かれるだろうか。
1961年に米国のドワイト・アイゼンハワー大統領が退任演説でこの言葉を使った後、軍需産業と政府が経済的、政治的、軍事的に結託した連合体を形成していることがクローズアップされた。
その後、様々な角度から軍産複合体が研究され、政府が軍需産業と手を組むことで予期せぬ波及効果や受益者が生み出されていることが分かり、それは現在まで連綿と続いている。
近年では、米ロイド・オースティン国防長官が2021年1月にバイデン政権の国防長官に就任以来、特定の軍需企業に多額の政府契約を発注していることが判明している。
その軍需企業というのは防衛・航空宇宙機器メーカーのレイセオン・テクノロジーズ社(以下レイセオン)である。
同社は米東海岸のマサチューセッツ州に本社をおく多国籍企業で、航空機エンジンからミサイル、防衛システム、無人航空機などを製造する巨大軍需企業だ。
2022年の売上高は約670億ドル(約8兆8000億円)で、ロッキードマーティンやノースロップ・グラマンとならぶ業界トップクラスの企業である。
オースティン長官はジョー・バイデン大統領に防衛長官の打診を受けるまで、同社の取締役を務めていた。
いま問題視されているのは、同氏が長官になっても、軍需産業と関係が切れていないのではないかという疑念だ。
オースティン氏は同長官に任命された後、レイセオンの取締役を辞任し、「今後4年間、レイセオンにかかわるすべての問題から身を引く」と約束し、金融資産を売却することにも同意した。
しかし複数の米メディアは、同氏が国防長官に就任して以来、レイセオンに23億6000万ドル(約3100億円)もの契約を発注したと報道している。
政府は長年、国防総省(ペンタゴン)と軍需産業とが結びついた「回転ドア(リボルビングドア)」という指摘を受けて、人の流れだけでなく資金の流れを止めることに努めてきたといわれてきた。
法改正も行ってきているが、今でも回転は止められていないのが現実だ。
レイセオンはパトリオット・ミサイルやトマホーク・ミサイルだけでなく、空対空ミサイルやレーザー誘導弾、携帯式防空ミサイル・スティンガーも製造しており、ウクライナにも販売している。
同社のグレッグ・ヘイズ最高経営責任者(CEO)は決算説明会で、「我々は同盟国を支援し続けるために米政府と歩調を合わせていく」と発言し、ウクライナ戦争によって需要が押し上げられていることを認めているほどだ。
軍需産業の命運として、戦争が勃発すれば売上が上がり、株価も上昇して利益を得るという構図がある。
レイセオンも例外ではなく、ウクライナ戦争で利益を伸ばしていることは事実である。
2022年11月30日、レイセオンがマサチューセッツ州で政府と契約した地対空ミサイルと関連機器の調達額は10億ドル(約1300億円)に達するといわれる。
同じ日、テキサス州での別の契約では、ヘリコプター暗視システムのアップグレードの取引で900万ドル(約12億円)を得ている。
さらに2023年2月、同じテキサス州で成立した契約は、米海軍「P-8A」哨戒機「ポセイドン」のレーダーシステムのアップグレードが目的で、契約額は7700万ドル(約100億円)に達している。
オースティン長官はレイセオンの契約の決定からはすでに身を引いていると主張しているが、多角的に契約状況を眺めると、同長官が契約に手を差し伸べた公算が高い。
オースティン長官はまた、CNNとのインタビューの中で、ウクライナへの軍事支援を引き続き行うことは、将来の「対ロシア戦争」における戦場の力学を変えることになり、将来的にはウクライナの軍隊がロシアの軍隊を駆逐するまでになる可能性があると答えている。
「ウクライナでは数個旅団の歩兵を訓練し、装備も整えている」
「さらに大砲も加えているので、ロシアからの攻撃を突破する能力をもつようになるだろう」
さらに別の契約として、レイセオンは2023年3月、ミサイルの警告・追跡衛星を構築するため、宇宙開発庁から2億5000万ドル(約330億円)を取りつけた。
この衛星は「極超音速ミサイル・システム」を含むミサイル一般の脅威に備えるための装備である。
同ミサイル・システムは、バイデン政権が極超音速兵器に対応するための能力・人材を確保する目的で力を入れているもの。
大統領が直々に「競争力のある国内防衛産業基盤を確保することは米国の安全保障に不可欠である」と書いたメモをオースティン長官に渡したと伝えられている。
極超音速兵器は音速の5倍の速度で移動可能であるだけでなく、機動力もあるため、敵が追跡し、迎撃することがかなり難しくなる。
そのためロシアと中国は極超音速兵器技術の開発を積極的に推し進めている。
ペンタゴンの製造能力拡大・投資優先順位決定室は「バイデン大統領が米国の極超音速能力の向上に前向きになっていることは、技術がさらに前進することにつながるので、大変嬉しく、興奮している」とコメントを出している。
ウクライナ戦争が始まってからすでに1年以上が経ち、ウクライナ側の避難民は500万人以上にのぼり、死亡したウクライナ兵士は1万人にのぼる。
一方のロシアも兵士の戦死者は20万人に達すると言われており、計り知れないほどの損失が出ている。
国のインフラは破壊され、痛ましく無意味で自滅的な戦争の悲惨さがまざまざと思い知らされている。
その中で、世界の石油・天然ガス業界は過去1年、多くの利益を上げた。
というのも世界第2位の産油国であるロシアを巻き込んだ戦争が勃発したことで、欧州諸国がロシアからの供給脱却をはかったため、価格が高止まりしたからだ。
このように、戦争という人間の悲劇を生み出す事象によって、利益を上げる産業があることは今も昔も変わらない。
オースティン長官がレイセオンを退社したからといって、大枠の流れが変わるわけではなく、依然として軍産複合体という「巨人」が幅を利かせているのが現実だ。
●ウクライナ戦争で浮かび上がった「食糧安全保障」の重要性 3/24
ウクライナ戦争から1年が経つが、未だに和平への兆しは全く見えず、ウクライナ東部バフムトを巡る双方の交戦は激しさを増している。
ウクライナ戦争を巡っては軍事や安全保障を領域だけに世界の関心が集まっているが、世界経済への影響も計り知れない。そして、世界経済への影響という意味では、昨年世界の小麦輸出の3割を占めるロシアとウクライナからの輸出が大幅に減少し、小麦など穀物の価格が跳ね上がり、グローバルサウスの国々は大きな影響を受けた。
ペルーでは穀物価格上昇に対して市民による抗議デモが全土に拡大し、暴徒化した市民が飲食店を放火したり、商店で略奪行為を行ったりするなどしたことで、政府が国家非常事態宣言を発令した。スリランカでは食糧や医薬品、燃料など生活必需品が不足するなどして治安が悪化し、一部の欧米諸国は昨年、スリランカへの不要不急の渡航を控えるよう国民に呼び掛けた。
これは日本にとっても対岸の火事ではない。我々日本は多くの食料を海外に依存している。グローバルサウスの国々ほど暴力沙汰にはなっていないが、日本国内でもウクライナ戦争によって物価高にいっそう拍車が掛かっている。それによって、スーパーやコンビニで売られる商品の値上げラッシュが我々の日常生活を直撃している。そして、食糧の安全保障を考えれば、今後我々は以下2つのことを考える必要がある。
1つは、台湾有事だ。台湾有事の可能性については多くの議論があるが、はっきりしていることは習国家主席が台湾統一を強く掲げ、その武力行使を否定しないことから、我々は発生するという前提に立って食糧安全保障を考えなければならない。仮に有事となれば、中国は台湾周辺の制海権を握るだけでなく、台湾周辺の海域は戦場となる恐れがあることから、フィリピンから運搬されるバナナ、最近スーパーでもよく売られる台湾産パイナップルなど食糧の安定的供給に影響が出てくる恐れがある。
また、グローバルサウスにおける人口爆発、経済格差なども不安定要因となる。最近、国内人口でインドが中国を追い抜いたが、グローバルサウスにはこれから経済発展を遂げようとする国が多く、若者の人口が急激な増加傾向にある。若者の人口増加は国の経済発展にとって明るいニュースとなるが、それによって教育や雇用、経済面での格差がいっそう広がり、返って治安悪化要因になることへの懸念も少なくない。日本が多様な食料をグローバルサウスに依存しており、こういった国々で政治や治安が悪化すれば、日本へ輸出にも大きな制限が出てくる恐れがある。
一方、国際連合食糧農業機関(FAO)は2013年、資源を巡る国家間競争の激化、世界的な人口爆発を想定し、食糧問題の解決策のひとつとして昆虫を食用としたり、家畜の飼料にしたりすることを推奨する報告書を公表した。要は、「世界の皆さん、昆虫食をお考え下さい」ということだが、食糧安全保障の脆弱な日本としては、上述のリスクを想定し、昆虫食などの新たな選択肢も取り入れながら、総合的にこの問題を考えていくべきだろう。
●ロシアとウクライナ「民族の起源」巡る主張の対立  3/24
「世界各地の民族紛争はなぜ起こるのか」「各地の民族はなぜその土地土地に存在し、これからどこへ向かおうとしているのか」――。民族にまつわるそうした疑問に対する答えは、多くは「血統と起源」から探ることができます。そうした視点から人類史を読み解く宇山卓栄氏『世界「民族」全史』より、ロシアとウクライナの歴史を紐解きます。
ウクライナ人もロシア人もリューリクが率いたルーシ族に共通の起源を持ちます。
ルーシ族はロシア北部に862年、ノヴゴロド国を建国します。その後、リューリクの親族であったオレーグはビザンツ帝国との交易の拠点となっていたキエフ(キーウ)に南下して制圧します。キエフはドニエプル川の中流に位置する現在のウクライナの首都です。
キエフ公国の始まり
オレーグは882年、ノヴゴロドからキエフに本拠を移します。これがキエフ公国のはじまりです。この時代、ロシアやウクライナに王は存在せず、各地に豪族らが割拠し、分裂状態でした。豪族らは「公」を意味する「クニャージ」を名乗っていました。
キエフ公国の君主も「クニャージ」を名乗りましたが、キエフ公国は他の公国よりも国力が強く、主導的な立場にあったため、君主は「大公」を意味する「ヴェリーキー・クニャージ」を名乗っていました。ちなみに、ノヴゴロド国は「王国」でもなく、「公国」でもないのは、リューリクが王でも公でもなく、ルーシ族の族長という立場に過ぎなかったからです。
キエフ大公位はオレーグの死後、リューリクの息子に引き継がれ、以後、歴代、リューリクの血筋の者が引き継ぎます(リューリク朝)。15世紀、ロシア中部のモスクワ公国が強大化します。
モスクワ公もまた、「ヴェリーキー・クニャージ」を名乗っていたため、モスクワ公国は一般的に「モスクワ大公国」と呼ばれます。モスクワ大公イヴァン3世がロシア人勢力を統一し、この中にウクライナ人も取り込まれていきます。
そのため、ウクライナ人から見れば、キエフ公国の本流に対し、地方勢力に過ぎなかったモスクワ大公国には、正統性がないということになります。傍系が力と暴力によって、自分たちを強制的に従わせたと捉えているのです。
ウクライナ側、ロシア側の言い分
キエフ公国は正式には「キエフルーシ」と呼ばれており、「ルーシ」の名を引き継ぐルーシ族の正統という意味が込められています。
ウクライナ人は自分たちこそが「ルーシ(ロシア)」であり、ロシア人がそれを勝手に自称するべきではないと考えています。ウクライナ人は自分たちの歴史はロシア人によって奪われたと主張しているのです。
しかし、ロシア人にも言い分があります。ロシア人がキエフ公国を滅ぼしたのではなく、13世紀に、モンゴル人が滅ぼしました。そして、モンゴル支配から、いち早く勢力を回復したのがモスクワ大公国です。
また、モスクワ大公は傍系ではあるものの、リューリクの血統を引いているリューリク家の一族であり、「ルーシ」を継承する充分な正統性があるとされるのです。
いずれにしても、ウクライナ人とロシア人は同じ民族で、不可分一体の共通の歴史を歩んできたのであり、両者を民族的に区分することは困難です。
キエフ公国はバルト海と黒海を結ぶドニエプル川流域を支配し、交易によって栄えます。10世紀末、キエフ大公ウラディミル1世はビザンツ帝国(東ローマ帝国)と連携し、自らギリシア正教に改宗し、ビザンツ文化を受容します。この時、ギリシア正教のみならず、キリル文字をも受容し、これを基礎にロシア文字が形成されていきます。
12世紀以降、イタリアを中心とする地中海交易が活発化し、ドニエプル川流域の交易が相対的に衰退し、キエフ公国は荒廃していきます。
そこにチンギス・ハンの孫バトゥが率いるモンゴル人が襲来します。1237年、モンゴル軍はロシアに入り、1240年、キエフを占領します。街は徹底的に破壊されて、キエフ公国は滅亡しました。ウクライナ人はロシア人とともに、「タタールの軛(くびき)」の時代に入ります。
この時期、ウクライナから南ロシアの各地に、コサックという騎馬武装集団が現われます。コサックはもともとトルコ人の馬賊たちでした。
「コサック」はトルコ語で、「自由な人」を意味します。トルコ人馬賊に、モンゴル人も加わります。このモンゴル人は何らかの理由で、モンゴル正規軍から離れた者、正規軍に不満を持っていた者、あるいは正規軍に最初から属さず、馬賊として活動していた者などです。
当初、コサックはトルコ人やモンゴル人のアジア系の混成集団でしたが、ウクライナ人などのスラヴ人もコサックに加わるようになります。ウクライナ人の一部はモンゴル人支配を嫌い、自らコサックの一団に参入することにより、モンゴル人に抵抗したのです。
こうして、黒海に注ぐドニエプル川やドニエストル川流域で、無数のコサック集団ができあがります。
コサックはトルコ人集団をベースにしながら、モンゴル人やウクライナ人、ロシア人を取り込んでいき、多層な混血民族集団へと変化していきます。
ウクライナ人の愛国主義者たちはモンゴル人やロシア人に決して屈することのなかった誇り高いコサックこそが、自分たちの民族の原点であると主張します。ウクライナの国歌の歌詞には、「われらは自由のために魂と身体を捧げ、兄弟たちよ、われらがコサックの氏族であることを示そう」とあります。
ロシア帝国のウクライナ支配
しかし、実際には、ウクライナ・コサックは一部を除いてほとんどが、17世紀末にロシア帝国に屈しています。
ロマノフ朝のピョートル1世はウクライナ・コサックと大規模な戦争をし、大砲の火力でコサックの騎馬兵を打ち破ります。ピョートル1世はウクライナをロシア帝国に編入するとともに、コサック兵をロシア帝国の軍隊に編入します。こうして、ロシアのウクライナ支配がはじまります。
18世紀後半、女帝エカチェリーナ2世は黒海方面へと進出し、オスマン帝国からクリミア半島を奪います。
クリミア半島は黒海の制海権を握る上で重要な戦略拠点でした。ロシアがクリミア半島を得たことで、ウクライナ支配が確立し、北のバルト海と南の黒海をつなぐ物流動脈が形成され、交易が活発になり、国力を急速に増大させます。
先述したように、エカチェリーナ2世は1773年、カザフスタン地方のコサック首長プガチョフの反乱を鎮圧し、中央アジア北部をロシアの支配圏に入れます。
ウクライナはピョートル1世とエカチェリーナ2世によって、従属させられました。そのため、ウクライナ人は「われらを拷問したピョートル1世、われらに止めを刺したエカチェリーナ2世」と2人の皇帝を形容します。
ピョートル1世はウクライナ語を禁止します。ウクライナを「小ロシア」とする呼び方はこの時に定着します。「小ロシア」はウクライナをロシアの従属地域とする蔑称としての意味が込められています。
エカチェリーナ2世はウクライナ語禁止政策を引き継ぎ、帝国の行政統治をウクライナに徹底し、ロシア化を推進していきます。
ウクライナから中央アジア北部に分布していたコサック勢力はロシア人によって支配されますが、彼らの勢力は完全に消滅したのではありません。コサック集団は中央のロシア帝国に不満を持つロシア人やウクライナ人やモンゴル人などの非ロシア人の逃亡先となり、帝国の辺境にあって、半ば独立した勢力となっていました。
ウクライナ人への差別
ウクライナは肥沃な穀倉地帯で、小麦を豊富に産出していました。ロシア人はウクライナ人を農場で強制労働させます。ロシアには、「農奴」と呼ばれる奴隷的な農民階級があり、多くのウクライナ人が農奴に貶められて、搾取され、差別されたのです。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ウクライナ人の民族運動が活発化しますが、ロシア帝国は出版や新聞による言論を厳しく統制し、反抗的な者を容赦なく、シベリアへ流刑にしました。
この頃から、ウクライナ人たちは自分たちをロシア人と区別するため、「ルーシ」の呼称を改め、「ウクライナ」を用いるようになります。「ウクライナ」は中世ルーシ語で、「国」という意味があるとされます。しかし、ロシア人は「ウクライナ」を「国」とは解さず、「辺境」という意味であると主張しています。
●ブルガリア、戦争特需で潤う ウクライナに弾薬、工場は人手不足 3/24
ロシアによるウクライナ侵攻で、ブルガリアが戦争特需に沸いている。
軍需品の輸出が昨年は40億ユーロ(約5700億円)に上り、侵攻前の3倍になったとみられている。ただ、口をつぐむ人も多い。
ガンズ・アンド・ローゼズ
弾薬工場の中心地、ブルガリア中部カザンラクは化粧品などに使われるバラの産地で有名だ。美しいバラ園が延々と続くのどかな土地に、弾薬生産ブームが到来し、ここ1年は米ロックバンドの名前にちなみ「ガンズ・アンド・ローゼズ」の街と異名で呼ばれている。
ブルガリアの老舗の兵器メーカー「アーセナル」はカザンラクの工場だけで7000人を雇用している。海辺のリゾートでの休暇など特典を付けて工場労働者を募集しないと間に合わないほど人手が足りない。
ブルガリアは欧州連合(EU)の最貧国の一つだ。ウクライナ侵攻前は、仕事を求めて若い労働者の国外流出が止まらなかったが、今は戻ってくるようになっている。
工場の前で取材に応じた新人の女性労働者は「雇われた時、最低でもこれから5年は毎日忙しいくらいの注文が既に入っていると言われた」と証言した。「私はまだ働き始めて1週間だが、私より新人がもう3人もいる」と新しい工員が日々増える職場の様子を話してくれた。
沈黙の好景気
ただ、女性は名前を明かすことはかたくなに拒んだ。アーセナル社もAFP通信の取材要請に応じていない。
ブルガリアはオスマン帝国からの独立に際しロシア帝国の支援を受けた歴史があり、カザンラクもかつてはソ連軍のための生産現場だった。こうした経緯から今もウクライナに直接、弾薬を輸出することをためらう。ルーマニアやポーランドに輸出されてからウクライナに送り込まれてきた。
1989年に東西冷戦が終わるとカザンラクには不況が訪れた。しかし「ブルガリア製カラシニコフ銃」で知られる安くて頑丈な兵器への需要は中東で高まるようになり、2010年代に徐々に息を吹き返した。
4月に総選挙を控えるブルガリアで、ウクライナへの弾薬供給は非常に微妙な話題だ。かつての共産主義者の流れをくむ親ロシア派はもちろん、台頭する極右集団もウクライナ支援に強く反対する。
ブルガリアを最近訪ねて兵器産業を回ったブルトン欧州委員(域内市場担当)も少なからず目立たない動きを強いられた。昨年6月に退陣に追い込まれたペトコフ前首相は親欧州派で「侵攻直後のウクライナ軍を支えた弾薬の3分の1は、ブルガリア産だったはずだ」とドイツ誌に強調。EUへの貢献を誇示できない悔しさを訴えている。 
●ウクライナの子ども17人救出 “ロシアへ連れ去り” 人権団体  3/24
ウクライナから多くの子どもたちがロシアに連れ去られているとみられる問題をめぐってウクライナの人権団体「セーブ・ウクライナ」は22日、子どもたち17人を救出したとSNSで明らかにし、首都キーウで家族などと再会を喜ぶ映像を公開しました。
この問題でICC=国際刑事裁判所は、ウクライナ侵攻を続けるロシアが占領した地域から子どもたちをロシア側に移送したことについて、国際法上の戦争犯罪の疑いがあるとして、今月17日プーチン大統領など2人に逮捕状を出しました。
ウクライナ政府の集計では、確認されただけでも、この1年で1万6000人以上がロシアに連れ去られたとされ、人権団体「セーブ・ウクライナ」はNHKの取材に21日にも15人を救出したとしたうえで「助けを求めている子どもたちをたとえ1人ずつでもわが家に帰すため、今後も全力を尽くしたい」と話していました。
ICC ウクライナに現地事務所設置へ
一方、ICCは23日、ウクライナ政府と現地事務所の設置に向けた協力協定を交わしたと発表しました。
この中で、ウクライナ政府を代表して協定に署名したコスティン検事総長は「ウクライナで起きた国際犯罪の加害者が全員裁かれるまで、われわれは決して立ち止まらない」と述べ、ICCと協力してロシア側の責任を徹底して追及していく姿勢を強調しました。
●NATO加盟のスロバキア、ウクライナにミグ29戦闘機4機を引き渡し 3/24
スロバキア国防省は23日、ウクライナへの戦闘機供与の第一弾として、旧ソ連製戦闘機「ミグ29」4機を引き渡したと発表した。
スロバキアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国。同じくNATO加盟国のポーランドとともに、ウクライナへの戦闘機供与を表明していた。スロバキアは計13機を供与する予定で、残りも数週間以内に引き渡される。
●ウクライナ軍、東部バフムトで反転攻勢へ 陸軍司令官が予告 3/24
ウクライナのシルスキー陸軍司令官は23日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムト周辺に侵攻するロシア軍の攻撃が失速しつつあり、近くウクライナ軍が反撃に着手すると述べた。ロイター通信が伝えた。
シルスキー氏はSNS(ネット交流サービス)に、バフムト占領を目指すロシアの民間軍事会社ワグネルの部隊が「相当の戦力を消耗し、勢いを失いつつある」と投稿。「我々はこれまでキーウ(キエフ)や東部ハリコフなどで行ったのと同様に、間もなくこの機会を利用する」と過去の成功例を挙げながら、反転攻勢を予告した。
バフムト周辺では、ロシア側がウクライナ軍への包囲網を狭め、ウクライナ軍が早期に撤退するとの観測が出ていた。
だが、英国防省は22日、「ウクライナ軍がバフムトの西側で反撃し、ウクライナ軍の補給路へのロシア軍による圧力が緩まっている」と分析し、「ウクライナ軍が南北両側から追い込まれるリスクは残るものの、ロシアの攻撃が勢いを失いつつある可能性が現実にある」との見方を示した。その原因の一つとして「ロシア軍が部隊を他に振り向けている」と指摘した。
バフムト周辺の戦況については、米シンクタンク「戦争研究所」も20日、「ロシアの攻勢はピークに近づきつつある。ロシア軍は主導権を失う前に、わずかでも戦果を上げようとしている可能性がある」との分析を公表している。
ワグネルの創始者プリゴジン氏は20日、ロシアのショイグ国防相に送った書簡を公表し、ウクライナ軍がロシア正規軍とワグネル部隊の分断を図っていると指摘。「この動きを防がなければ、良くない結果を招く」と述べ、戦況がロシア側に不利に傾くことへの警戒感を示している。 

 

●ロシア、ウクライナ内に非武装地帯の設定望む=プーチン氏最側近 3/25
ロシアのプーチン大統領の最側近とされるメドベージェフ前大統領は24日、ロシアがウクライナで併合した地域周辺に非武装の緩衝地帯を設定することを望んでいると語った。
メドベージェフ氏は、テレグラムに投稿されたロシアメディアとのインタビューで「われわれの領土、ロシア連邦の領土を守るために設定された全ての目標を達成する必要がある」と強調。「広義の外国人を全て追放し、70─100キロの中・近距離で機能するあらゆる種類の兵器の使用を禁止する緩衝地帯を設定する」必要があるとした。
こうした非武装地帯の設定ができなければ、ロシアはウクライナ国内にさらに深く食い込み、首都キーウや西部リビウを掌握することが必要になる可能性があるという認識を示した。
●ロシア軍とプーチンが犯した犯罪・国際法違反 3/25
国際刑事裁判所(ICC)は3月17日、ウクライナを侵略するロシアが、占領地の子供を違法に自国に連れ去った行為は「戦争犯罪」に当たる疑いがあるとしてウラジーミル・プーチン大統領ら2人に逮捕状を発行した。
ウクライナ戦争を巡る初めての逮捕状である。
ICCが国家元首級に対して逮捕状を発行したのはスーダンのオマル・アル=バシール大統領(2008年、「人道に対する犯罪」と「戦争犯罪」)、リビアのムアンマル・アル=カダフィ大佐(2011年、「人道に対する犯罪」)に続いてプーチン氏が3人目である。
これでプーチン氏は国際社会のお尋ね者になったわけである。
今後、国際社会におけるプーチン氏の威信は失墜し、孤立が強まる可能性がある。
ロシアのウクライナ侵略を巡っては、キーウ近郊のブチャなどで多数の民間人が虐殺された。しかし、大統領の指示を立証するには多くの証言が必要になる。
そこで、ICCはプーチン氏の指示が明確な子供の強制移送を「戦争犯罪」の容疑で立件したものと見られる。
ICCは、ローマ規定(またはICC条約)に基づき、「集団殺害犯罪(ジェノサイド)」「人道に対する犯罪」「戦争犯罪」「侵略犯罪」について国際裁判管轄権を有する。
従って、今後は「集団殺害犯罪」「人道に対する犯罪」または「侵略犯罪」の容疑でもプーチン氏に逮捕状が発行される可能性もある。
ICCのカーン主任検察官は3月17日、「具体的な最初の一歩だ。今後も 躊躇なく逮捕状を発行し続ける」と今後もロシアの戦争犯罪等を追及していく意向を示した。
ICCは、「犯罪は少なくとも2022年2月24日からウクライナの占領地で行われたとみられる。プーチン氏が前述の犯罪について個人的に刑事責任を負うとみなす合理的な根拠がある」とした。
このほか、ロシアの「子供の権利担当大統領全権代表」のマリヤ・リボワベロワ氏に対しても逮捕状を発行した。
ICCの声明によると、プーチン氏は2023年1月、リボワベロワ氏に対し、ウクライナの露軍占領地域で保護者のいない子供を見つけ出すよう指示した。
また、2022年5月の大統領令への署名で、占領地域の子供のロシア国籍取得を簡素化し、孤児をロシア人と養子縁組させることを奨励していた。
これまでの捜査から少なくとも数百人の子供がウクライナの児童養護施設などから連れ去られ、多くはロシアで養子に出されたとみられている。
カーン主任検察官は「こうした行為は、子供たちをウクライナから永久に連れ去ろうとする意思を示している」と述べている。
ちなみに、英国籍のカーン主任検察官は、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所とルワンダ国際刑事裁判所の検察局での法律顧問やイスラム国(ISIS)によるイラクでの犯罪を調査する国連チームを率いた経験がある。
他方、プーチン政権は、占領地からの子供に移送は、戦地の孤児らを保護するためだと主張している。
さて、各国の反応である。
ジョー・バイデン米大統領は3月17日、ホワイトハウスで記者団に対し、米国は自国に対するICCの管轄権を認めていないものの「正当だ。強い説得力がある」と述べた。
そのうえで「彼が戦争犯罪を行っているのは明白だ」と改めてプーチン大統領を非難した。
岸田文雄首相は3月18日、日独両首脳による共同記者会見で、「捜査の進展を重大な関心を持って注視したい」と述べた。
筆者は、日本政府が2022年3月9日にICCに捜査を付託したことを踏まえると、ICCの取り組みを評価するなどの表明があっても良かったのでないかと思う。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月17日、ロシアに連れ去られた子供の実際の数は1万6000人を「はるかに上回る」とし、プーチン氏に責任があると非難した。
「テロ国家の舵取りをする男の決定なしにこのような犯罪的作戦を実行することは不可能だっただろう」とも述べた。
一方、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は3月17日、ICCがプーチン氏に対し逮捕状を出したことについて、「法的な観点も含め、ロシアにとって何の意味もない」とし、「ロシアはICC条約の締約国ではなく、何の義務も負っていない」と述べた。
また、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は3月20日、ロシアはICCが提起した問題そのものが「言語道断かつ容認できない」とし、ICCのロシアに関するいかなる決定も「無効」であると述べた。
ところで、ICCは容疑者不在の「欠席裁判」を認めないため、訴追には容疑者の逮捕と引き渡しが不可欠である。
従って、プーチン氏が失脚しない限り訴追される可能性はない。
しかし、プーチン氏がウクライナやICC加盟国の領域に入れば、彼を逮捕してICCで裁判にかけることが可能となる。
捜査協力はICC約締約国の義務となっている。2023年3月現在のICC条約の締約国は123か国である。
さて、本稿ではウクライナに侵攻したロシアの国際法違反の実態を明らかにしたい。
以下、初めに国際刑事裁判所について述べ、次に子供の移送は国際法のどの条文に抵触するのかを述べ、最後にウクライナでのロシア軍の行為はどの国際法に違反しているのかについて述べる。
1.国際刑事裁判所
   (1)全般
国際刑事裁判所には、常設のものとアドホックのものがある。
常設のものには「国際刑事裁判所(International Criminal Court: ICC)」がある。
アドホックなものには過去に第2次世界大戦後に戦勝国側により設置された「ニュルンベルク国際軍事裁判所」や「極東国際軍事裁判所」、1990年代に国連安保理により設置された「旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所」や「ルワンダ国際刑事裁判所」などがあった。
ICCが設置されたのは2002年で、それほど古くはない。
ICCの裁判官や検察官は、その専門的資格において締約国の国民から選出され、その職務の独立が保障されている。裁判官は18人で、締約国が9年に限定された任期で選出する。
またその裁判手続においては、被害者や証人の保護と併せて、被疑者や被告人の国際的に認められた人権の保障との両立が求められている。
さて、ウクライナ戦争が拡大し、第3次世界大戦になれば戦勝国側がアドホックの国際軍事裁判所を設置するであろう。
しかし、今、現実的にプーチン容疑者の捜査などが可能なのはICCであろう。そこで各国はICCに捜査を付託しているのである。
   (2)ICCの成り立ちと役割
本項は、外務省のホームページに公開されている「ICC(国際刑事裁判所)〜注目されるその役割」を参考にしている。
ア.ICCの起源
ICCとは、国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪を犯した個人を処罰するために設立された常設の国際刑事法廷であり、裁判所はオランダのハーグに置かれている。第2次世界大戦での経験を踏まえ、1947年、国連総会は重大な国際犯罪を裁く裁判所を設立するための裁判所規程の草案を作ることを国際法委員会(ILC)に要請する決議を採択した。これがのちのICC設立につながった。
イ.ICCローマ規程の採択
東西冷戦中は、自国民が裁かれる可能性を危惧した各国の間で積極的な動きは見られなかった。1990年代になって、旧ユーゴでの戦闘状態が激化し大量虐殺などが行われた状況をふまえ、1992年、国連総会がILCに対して改めて優先事項として国際刑事裁判所規程の草案作成に取り組むことを要請した。その後、安保理決議による旧ユーゴ国際刑事裁判所やルワンダ国際刑事裁判所の設置の後、1998年、ローマ外交会議における交渉の結果、ついにICCを設立するための「ICC条約(またはICCローマ規程)」が採択された。2002年7月1日に60番目の国が加盟したことによりICCローマ規程が発効し、ICCは活動を開始した。
ウ.ICCが扱う犯罪
ICCが扱う犯罪は、国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪、すなわち「集団殺害犯罪(ジェノサイド)」「人道に対する犯罪」「戦争犯罪」「侵略犯罪」である。これらの罪を犯した個人を、国際法に基づいて訴追・処罰することにより、犯罪の撲滅と予防を目指し、世界の平和と安全に貢献することがICCの目的である。ICCローマ規程は、それを実現するために裁判の仕組みなどを詳細に定めている。よく、国連の主要な司法機関である国際司法裁判所(ICJ)との違いが挙げられるが、ICCが個人の犯罪を扱うのに対し、ICJの当事者は「国家のみ」、つまり国家間の紛争を扱うという部分に、大きな違いがある。
エ.ICCの役割は「補完」
ICCの役割は、あくまで各国の国内刑事司法制度を「補完するもの」である。関係国が被疑者の捜査・訴追を行う能力や意思がない場合のみ、管轄権が認められる。
オ.管轄権が発生するケース
ICCに事態を付託できるのは、締約国または国連安保理に限られているが、ICC検察官が自らの考えにより捜査を開始することもできる。ある事態が付託された場合、犯罪行為の実行地国または被疑者の国籍国のどちらかが締約国ならば、ICCに管轄権が発生する。また、実行地国と国籍国、両者ともICCに加盟していないときでも、どちらか一方がICCの管轄権を認めれば、これを行使することができる。このほかに、国連安保理が憲章第7章に基づいた決議で付託した場合は、ICCの管轄権が認められる。ちなみに、ロシアもウクライナも、ともにICC非締約国である。しかし、ウクライナは、2015年にICCの管轄権を受け入れることを表明している。
カ.捜査協力は加盟国の義務
既述したが、ICCの捜査が進み、被疑者の逮捕、引渡し、証拠の提出などの段階になったとき、その捜査協力を行うのは、加盟国の義務である。しかし、例えば被疑者がICC非加盟国に逃亡してしまうと、ICCに管轄権があっても、逃亡先の国での捜査協力が得られないため逮捕できず、結局法廷を開くことができない、という事態も発生してしまう。
2.子供の移送が抵触する国際法条文
   (1)ジュネーブ諸条約
ジュネーブ諸条約とは、武力紛争の犠牲者の保護を目的として、1948年に締結された次の4つの条約の総称である。
・第1条約:戦地にある軍隊の傷者等の状態の改善に関する条約
・第2条約:海上にある軍隊の傷者等の状態の改善に関する条約
・第3条約:捕虜の待遇に関する条約
・第4条約:戦時における文民の保護に関する条約
また、1977年にこの4つの条約を補完する次の2つの議定書が結ばれている。
・国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第1追加議定書)
・非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第2追加議定書)
   (2)「戦争犯罪」の定義
ローマ規程第8条(戦争犯罪)では、「戦争犯罪」を次のように定義している。
1 1949年8月12日のジュネーブ諸条約に対する重大な違反行為、すなわち、関連するジュネーブ条約に基づいて保護される人または財産に対して行われる、殺人や拷問又は非人道的な待遇(生物学的な実験を含む)などの行為。
2 確立された国際法の枠組みにおいて国際的な武力紛争の際に適用される法規および慣例に対するその他の著しい違反、すなわち、文民たる住民それ自体または敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に攻撃することや民用物、すなわち、軍事目標以外の物を故意に攻撃することなどの行為。
従って、一言でいえば「戦争犯罪」とはジュネーブ諸条約等に対する違反行為である。
   (3)ジュネーブ第4条約
ジュネーブ第4条約の「第3編 被保護者の地位および取扱」の第24条および第50条には、次のように規定されている。
1 第24条(児童福祉)
第1項には、紛争当事国は、戦争の結果孤児となり、またはその家族から離散した15歳未満の児童が遺棄されないこと並びにその生活、信仰の実践および教育がすべての場合に容易にされることを確保するために必要な措置を執らなければならない。それらの者の教育は、できる限り文化的伝統の類似する者に任せなければならない。
2 第50条(児童)
第2項に、占領国は、いかなる場合にも児童の身分上の地位を変更し、または自国に従属する団体もしくは組織にこれを編入してはならない。
第3項に、占領国は戦争の結果孤児となり、またはその両親と離別し、かつ、近親者または友人によって適当な監護を受けることができない児童の扶養および教育が、できる限りその児童と同一の国籍、言語および宗教の者によって行われるように措置を執らなければならない。
   (3)結論
第24条では、児童の教育はできる限り文化的伝統の類似する者に任せなければならないと規定している。
しかし、ロシアは移送された児童と文化的伝統が異なるロシア人が教育に当たっている。
また、同条ではいかなる場合にも児童の身分上の地位を変更し、または自国に従属する団体もしくは組織にこれを編入してはならないと規定している。
これに対しても、ロシアは移送した児童を自国に従属する組織などに編入している。
第50条では、児童の扶養および教育が、できる限りその児童と同一の国籍、言語および宗教の者によって行われるように措置を執らなければならないと規定している。
しかし、ロシアはロシア国籍のロシア語を話すロシア正教の信者によって扶養・教育を行っている。
従って、露軍占領地の子供を違法にロシアに連れ去った行為は、ジュネーブ第4条約の第24条(児童福祉)と第50条(児童)に違反していることは明らかである。
3.ロシア軍が違反している国際法
本項は、筆者の個人的な見解である。
   (1)ローマ規程第8条の2(侵略犯罪)違反
2022年2月24日、プーチン大統領がウクライナでの軍事作戦を開始すると述べた演説後、首都キーウ近辺を含むウクライナ各地で砲撃や空襲が開始された。
ロシア軍は当初、キーウ攻勢でベラルーシからキーウ方面に、北東部攻勢でチェルニーヒウ州とスームィ州へ向けて、南部攻勢でクリミアから、そして東部攻勢でルハーンシク州およびドネツク州へ侵攻を開始した。
これらの行為はローマ規程第8条の2(侵略犯罪)違反である。
ローマ規程第8条の2(侵略犯罪)では、「侵略犯罪」とは、国の政治的または軍事的行動を、実質的に管理を行うかまたは指示する地位にある者による、その性質、重大性および規模により、国際連合憲章の明白な違反を構成する侵略の行為の計画、準備、着手または実行をいう。
また、「侵略の行為」とは、他国の主権、領土保全または政治的独立に対する、一国による武力の行使または国際連合憲章と両立しない他のいかなる方法によるものをいう、と定義されている。
また、以下のいかなる行為も、侵略の行為とみなすものと規定されている。
1 一国の軍隊による他国領域への侵入または攻撃、もしくは一時的なものであってもかかる侵入または攻撃の結果として生じる軍事占領、または武力の行使による他国領域の全部若しくは一部の併合
2 一国の軍隊による他国領域への砲爆撃または国による他国領域への武器の使用(以下の項目は省略する)
   (2)ローマ規程第7条(人道に対する犯罪)違反
ロシア軍は、民間人を恣意的に殺害し、拷問し、女性と子供をレイプし、医師、聖職者、ジャーナリストを射殺している。
ロシアに包囲されたもしくは占領された都市には、水、食料、薬、電気がなく、占領者は食糧倉庫、学校、病院を砲撃し、人道物資の護送団を通さず、世界の他の地域との接触を全地域から奪い、人道的大惨事を引き起こしている。
これらの行為はローマ規程第7条(人道に対する犯罪)違反である。
ローマ規程第7条(人道に対する犯罪)では、「人道に対する犯罪」とは、文民たる住民に対する攻撃であって広範または組織的なものの一部として、そのような攻撃であると認識しつつ行う次のいずれかの行為をいう。
1 殺人
2 絶滅させる行為
3 奴隷化すること
4 住民の追放または強制移送
5 国際法の基本的な規則に違反する拘禁、その他の身体的な自由の著しい剥奪
6 拷問(以下の項目は省略する)
   (3)ジュネーブ諸条約の第1追加議定書の第56条違反
ロシア軍は、チョルノービリとザポリッジャの原子力発電所への攻撃と占領を行っている。
これらの行為は、ジュネーブ諸条約の第1追加議定書の重大な違反である。
第1追加議定書の第56条(危険な力を内蔵する工作物および施設の保護)は、次のように規定している。
「危険な力を内蔵する工作物および施設、すなわち、ダム、堤防および原子力発電所は、これらの物が軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない」
   (4)ジュネーブ第3条約違反
ロシアの侵略者は、戦争の規則や慣習に違反して、ウクライナの捕虜に対して繰り返し深刻な犯罪を犯してきた。
例えば、解放されたウクライナの女性捕虜の写真からは、頭が剃られていたことが見受けられ、ウクライナ一時的被占領地再統合相によると、ロシア人は彼らに服を脱がせ、座らせず、レイプなどの屈辱を与えている。
これらの行為はジュネーブ第3条約違反である。
ジュネーブ第3条約の下での義務は、捕虜の権利の遵守である。この条約は、捕虜の過去の行動に関係なく、捕虜への肉体的および心理的拷問および非人道的な扱いを禁じている。
また、捕虜には食糧、水へのアクセスおよび親族と連絡をとる権利があるとされる。
   (5)特定通常兵器使用禁止制限条約の議定書3違反
ロシア軍が包囲し、ウクライナ部隊が抵抗を続けるウクライナ南東部マリウポリの製鉄所「アゾフスターリ」をめぐり、同市のアンドリュシチェンコ市長顧問は2022年5月15日、重いやけどを負わせる焼夷弾などをロシア軍が前日14日に使い、製鉄所を攻撃した疑いがあるとSNSで主張した。
燃焼時の温度は2000度以上で消火も極めて難しいとし、「地獄が地上に降りてきた」と記している。
これらの行為は、特定通常兵器使用禁止制限条約の議定書3違反である。
特定通常兵器使用禁止制限条約は,手続事項や適用範囲を定めた枠組み条約および個別の通常兵器等について規制する附属議定書からなる。
現在,以下の5つの附属議定書が成立している。
1 議定書1:検出不可能な破片を利用する兵器に関する議定書(1983年発効)
2 議定書2:地雷、ブービートラップおよび他の類似の装置の使用の禁止または制限に関する議定書(1998年発効)
3 議定書3:焼夷兵器の使用の禁止または制限に関する議定書(1983年発効)
4 議定書4:失明をもたらすレーザー兵器に関する議定書(1998年発効)
5 議定書5:爆発性戦争残存物に関する議定書(2006年発効)
従って、露軍による焼夷弾の使用は、特定通常兵器使用禁止制限条約議定書3に違反している。
付言するが、その他個別の条約によって使用が禁止されている兵器には化学兵器、細菌兵器、クラスター、対人地雷などがある。
   (6)ジュネーブ諸条約の第1追加議定書の第53条違反
2022年6月4日、ウクライナ東部ドネツク州あるスヴャトヒルシク大修道院の木造聖堂が、ロシア軍の攻撃で炎上した。
ウクライナの大統領顧問は、「何も神聖に思わないロシアの蛮行」と強く非難した。
ウクライナ国内ではいま、ロシアによる軍事侵攻後、次々と歴史的な建造物など文化財が破壊されている。その数は160か所以上にものぼるとされているが、全容は分かっていない。
これらの行為はジュネーブ諸条約の第1追加議定書の第53条の違反である。
第1追加議定書の第53条は、「国民の文化的または精神的遺産を構成する歴史的建造物、芸術品または礼拝所を対象とする敵対行為を行うこと」を禁止している。
また、「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約」(通称「武力紛争の際の文化財保護条約」または1954年ハーグ条約)第4条(文化財の尊重)では、締約国は文化財に対する敵対行為を差し控えることおよびいかなる行為によっても文化財を損壊することを禁止することを約束している。
   (6)筆者コメント
ブチャなどにおける民間人虐殺が「ジェノサイド条約」違反に当たるのか。専門家の意見は分かれているが、筆者はジェノサイドであるの認識に立っている。
「ジェノサイド条約第2条」と「ICCローマ規程第6条」のジェノサイドの定義は同一である。両者とも次のように定義している。
ジェノサイドとは、国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部または一部破壊する意図をもつて行われた次の行為のいずれをも意味する。
1 集団構成員を殺すこと。
2 集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること。
3 全部または一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すること。
4 集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。
5 集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。
さて、第2次大戦中にナチスが行ったユダヤ人の大量虐殺は、典型的なジェノサイドであり、戦後のニュルンベルク裁判で「人道に対する罪」として処罰された。
「ジェノサイド条約」はそれを一般化したもので、行為者は国家統治者、公務員、私人を問わず、また共同謀議、教唆、未遂、共犯も処罰することにしている。
「ジェノサイド条約」は、1948年12月、国連総会で全会一致によって採択され、1951年1月に発効した。2023年現在、米国、ロシア、英国、中国、フランスを含む153か国が加盟国になっている。
日本は集団殺害などの行為を犯罪化する国内法がないことを理由に同条約に加盟していない。主要7カ国(G7)のうち、同条約に加盟していないのは日本だけである。
「ジェノサイド条約」は日本でも2021年、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権弾圧を機に注目を浴びた。
ただ、世間的な関心は高まったものの、日本政府は批准に向けた具体的な動きを見せていない。
また、G7のうち、いわゆる「マグニツキー法」を制定していないのも日本だけである。
同法は、人権侵害をした個人や組織を対象に資産凍結やビザ発給制限などの制裁を科すことを目的とする。
人権侵害問題が世界的に注目されるようになったことで、いまやほとんどの主要先進国で制定されている法律となっている。
日本においても「人権外交を超党派で考える議員連盟」は、ウイグル問題に関し、人権弾圧に関与した外国の人物や団体に制裁を科すことが可能な日本版マグニツキー法(人権侵害制裁法)の制定を目指していたが、現在は大きな機運となっていない。
今次のロシアによるウクライナ侵攻に関して、日本政府は一貫して西側諸国と足並みをそろえてきた。
「ロシア軍の行為がジェノサイドである」と西側諸国で意見が一致した時、日本はどのような対応をするのであろうか。
おわりに
今まさにウクライナでは民間人の殺戮が行われている。
誰も殺戮を止められない。国際司法裁判所(ICC)は、殺戮者を逮捕できれば訴追・処罰することはできるが、殺戮は止められない。
本来、武力紛争において現に行われている殺戮に迅速に対応すべきは、ICCではなく、国連安保理である。
しかし、安保理はロシアや中国の拒否権で機能不全に陥っている。
筆者は、国連は「平和のための結集決議」に基づく「緊急特別会期(ESS)」を開催し、平和維持部隊の派遣を含む軍事的強制措置を採択すべきであると考えている。
国連は、安保理決議だけでなくESSの総会決議により国連軍(第1次国連緊急軍)を派遣したことがある。
筆者は、ロシアとウクライナの間で停戦が成立した場合には、国連は第1次国際連合緊急軍のような平和維持部隊を派遣すべきであると思っている。
幸い、日本は現在国連安保理の非常任理事国である。
是非とも日本には平和維持部隊派遣のイニシアチブを取ってほしい。
●すがるプーチン、手を差し伸べる習近平、電撃訪ロで見せつけた圧倒的力の差 3/25
「私の今回のロシア国賓訪問は、友誼の旅、協力の旅、和平の旅だ」
3月20日から22日まで、中国の習近平主席がモスクワを訪問。習主席は出迎えたプーチン大統領に、こう告げた。
だが実際には、9回目となる今回のロシア訪問は、「プーチンを救う旅」、そして「ロシアを従える旅」だった。
「独りぼっちのプーチン」に救いの手
モスクワ時間の20日午後2時過ぎ、クレムリン宮殿で歓迎式典に臨んだ習近平主席は、実に41回目となるウラジーミル・プーチン大統領との首脳会談に臨んだ。初日は、プーチン大統領の希望に応じた「テタテ(通訳だけを交えた1対1)会談」で、計4時間半に及んだ。
その冒頭で、記者団を前に、習主席が強調した。
「ロシアは来年、大統領選挙が行われる。あなたの堅強なリードのもと、ロシアの繁栄実現に向けて長足の進展を遂げた。ロシア国民が必ずや、引き続きあなたに確固たる支持を与えることを、私は固く信じている」
会ったのっけから、カメラの放列を前に、来年3月のロシアの大統領選挙に言及するなど、異例である。そもそも、後に出した中ロ共同声明では、「内政不干渉」を謳っているので、矛盾がある。
つまり習近平主席は、「盟友プーチンを救う」という目的を、明確にしたのである。プーチン大統領は周知のように、ウクライナ戦争の戦況に行き詰まり、7万人とも言われる戦死者を数えたことで、ロシア国内で戦争責任を問う声が出始めている。17日には、国際刑事裁判所(ICC)から、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、逮捕状を出されてしまった。
習主席は、そんな「独りぼっちのプーチン」をバックアップし、救おうとしたのである。なぜかと言えば、「情けは人のためならず」で、自己防衛のためだ。
「プーチンのバックにはこの俺がついている」
もしも、親欧米派の候補者がロシア大統領選に出馬し、「プーチンに飽きた国民」の支持を受けて当選してしまえば、その「熱狂」が、隣国の中国に伝わってくるリスクがある。それは、昨年11月に中国で発生した「白紙運動」(習近平主席と中国共産党の退陣運動)の再現である。
次期大統領選どころか、この先、戦況が悪化していけば、プーチン大統領は来年3月までもたないかもしれない。そもそも、終始右足を引きずって歩くなど、健康不安もある。そのため習主席としては、「プーチンにはこのオレがついている」ということを、ロシア内外に見せつける旅に出たのである。
過去には、2015年11月に、ベトナムを訪問した時に似ている。当時、第12回ベトナム共産党大会を2カ月後に控え、グエン・フー・チョン書記長は失脚寸前だった。
だが、ハノイに降り立った習主席が、「グエン書記長を完全に支持する」と宣言したことで、書記長再選を果たしたのだ。グエン書記長は、この時から習主席に頭が上がらず、昨年10月の第20回中国共産党大会で習近平総書記が3選を果たした時には、真っ先に北京に馳せ参じた。
まるでプーチンが習近平の手下のような絵図
今回のもう一つの目的「ロシアを従える旅」というのは、「中国が上でロシアが下」という両国関係の新秩序を定着させるということだ。2泊3日の随所に、それを象徴するような光景が見られた。
例えば、モスクワのブヌーコボ空港からクレムリン宮殿に向かう道路上やビルの壁面には、「熱烈歓迎 習近平主席 ロシア訪問」と中国語で書かれた横断幕が、大量に掛かっていた。プライドの高いロシアがここまでするのは、見たことがない。
プーチン大統領の習近平主席に対する「気遣い」も尋常でなく、習主席がどんな発言をしても、作り笑いを浮かべて、うんうんと肯いていた。夜遅く習主席がクレムリン宮殿を後にする時には、専用車に乗り込むところまで見送り、会釈して右手を振っていた。
CCTV(中国中央広播電視総台)は、中ロ首脳会談中にプーチン大統領が、習主席の発言を聞いて熱心にメモを取る姿を、何度も大写しにした。中国国内の会議では、習主席が「重要講話」を述べる際には、全幹部がメモを取りながら聞かねばならない。つまりCCTVの映像を見た中国人は、プーチン大統領がまるで習主席の「手下」であるかのように映るのだ。
両首脳とも2030年までは権力を握り続ける腹積もり
中ロ共同声明も、今回は2本も出した。これも明らかに、中国側がロシアの「お願い」を聞いてやった格好だ。
まずメインの「中国とロシアの新時代の全面的な戦略的協力パートナーシップ関係を深化させる共同声明」では、計9項目にわたって長々と、両国の全面的な協力関係を綴っている。注目のウクライナ戦争に関する部分は、こう記されている。
<双方は、国連憲章の趣旨と原則は必ず遵守されねばならず、国際法は必ずや尊重されねばならないと認識する。ロシアは中国のウクライナ問題に関する客観、公正な立場を積極的に評価する。双方はいかなる国家もしくは国家グループが、軍事、政治及びその他の勢力拡大を謀り、他国の合理的利益を損害することに反対する。ロシアは重ねて、再度の和平会談に戻ることとし、中国はそれを称賛する。ロシアは中国が、政治と外交の道を通じてウクライナ危機に積極的な役割を果たすことを歓迎する。また「ウクライナ危機を政治解決することに関する中国の立場」の文書で述べた建設的な主張を歓迎する。双方は、ウクライナ危機の解決のため、各国の合理的な安全の懸念を必ず尊重し、徒党を組んで対抗することや、火に油を注ぐことを防止していかねばならない。双方は、責任ある対話が、一歩一歩問題を解決する最も正しい道であると強調する。そのために、国際社会は関係する建設的努力を支持していかねばならない。双方は互いに一切の局面緊張、戦争を引き延ばす挙動を停止し、さらなる危機の悪化、ひいてはコントロール不全に陥ることを避けねばならない。双方は、国連安保理の決議を経ないいかなる一方的な制裁に反対する>
このように、中国はウクライナ戦争に関して、完全に「ロシア贔屓」というわけではないが、自認するような「客観、公正な立場」でないことは確かだ。そして、武器弾薬など軍事物資を除くあらゆる経済的バックアップを約束しているのだ。
2本目の共同声明「中国国家主席とロシア大統領の2030年までの中ロ経済協力の重点方向の発展計画に関する共同声明」は、そのことを示している。かつ習主席とプーチン大統領を主語にすることで、両者が2030年まで引き続き両国を率いていくことを示しているのだ。
その上で、「双方の貿易、投資、借款その他の経済貿易往来の市場の需要に合わせて、徐々に自分たちの通貨での決済比重を高めていく」と明記している。これは中国からすれば、「ロシアを人民元経済圏に組み込んでいく」ことに他ならない。
総じて言えば、窮地のプーチン大統領を救ってあげる代わりに、ロシアにたっぷり「貸し」を作って、中国を中心としたユーラシア大陸の秩序を構築していく。かつそれによって自己の長期政権を揺るぎないものにしていく――そんな習近平主席の「野望」が垣間見えたロシア訪問だった。
●ゼレンスキー大統領、専用列車内で単独会見…「復興に日本の指導力必要」 3/25
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は23日、読売新聞の単独インタビューに応じ、ロシアによるウクライナ侵略からの復興に向け、先進7か国(G7)議長国でもある「日本の指導力が必要だ」と述べた。民生支援や経済協力に期待感を示した。早期の和平交渉再開を提案している中国に対しては、提案を受け取っていないと指摘し、ウクライナ側の「10項目の和平案」への協力と首脳会談を要請していることを明らかにした。
インタビューは、ゼレンスキー氏がウクライナ南部の主要都市ヘルソンを視察後、首都キーウに戻る専用列車内で約1時間行われた。
ゼレンスキー氏はこの中で、「日本は最初に対露制裁を科した国の一つだ」と称賛し、「冬の間、日本が(自家発電機など)エネルギー支援をしてくれたことに感謝する」と述べた。
21日にキーウで岸田首相と会談した際、より長期的な復興を念頭に、医療や、環境に配慮したエネルギー分野などでの協力拡大が必要だとし、自動車産業やリチウムなどの鉱物生産の分野での日本企業の進出も促したという。
ゼレンスキー氏はまた、ロシアが原子力発電所を占拠している現状に強い危機感を示し、「原子力防護に関する日本の知識が必要だ」と強調した。
ロシアのプーチン大統領との対話の可能性については、和平交渉を行う「条件が全く整っていない。まずロシアが領土から出ていかなければならない」とし、プーチン氏による停戦は「信用できない」と語った。
21日にプーチン氏が中国の習近平(シージンピン)国家主席とモスクワで会談したことについて「ロシアはまだ完全に孤立したわけではないと見せたかったのだろう」と指摘した。
ロシアとウクライナ双方に和平交渉を呼びかける中国の「12項目の提案」に対しては、「主権と領土の一体性の尊重が先だ」と述べ、懐疑的な見方を示した。「中国から仲裁の提案や会談の要請は受けていない」とも述べ、ウクライナの和平案への協力や首脳会談を希望すると「外交ルートで明確に伝えた」と表明した。
ウクライナは米欧に対し、戦闘機の供与を要請している。米欧には、戦闘のエスカレートを招きかねないとの懸念があるが、ゼレンスキー氏は「防空網の一部(として使うの)であり、ロシア領(の攻撃)では使う必要はない」と明言した。
バフムトなど東部の最前線では、「状況は良くない。弾薬がないためだ」とし、欧米に弾薬や戦車提供を加速するよう訴えた。
一方、ウクライナ侵略を巡り、「我々だけの問題ではない。(ウクライナへの)支援は自国の独立と安全につながることを理解してほしい」と述べ、法の支配や民主主義など共通の価値観を持つ自由主義諸国の結束を求めた。
●ロシアとウクライナ“双方が戦争捕虜などを処刑” 国連が非難  3/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、国連の人権監視団は、ロシアとウクライナがそれぞれ、拘束した戦争捕虜などを処刑したとして、非難しました。
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで人権状況を調査している国連の人権監視団は、双方の432人の戦争捕虜とその親族などへの聞き取りや50か所の現地調査などの結果をまとめ、24日に報告書を発表しました。
報告書によりますと、ロシアは拘束した戦争捕虜15人を、ウクライナは拘束した戦争捕虜など最大25人を、それぞれ処刑したということです。
また、ロシア側が拘束した戦争捕虜203人のうち84%以上が拷問や虐待を受け、5人が拷問によるけがで亡くなったほか、ウクライナ側が拘束した戦争捕虜229人のほぼ半数が拷問や虐待を受けたとしています。
一方、民間人については、ロシア側に拘束されたのは621件で、聞き取りを行った127人の90%が性的暴行を含む拷問や虐待を受けたほか、ウクライナ側に拘束されたのは91件で、聞き取りを行った73人の53%が拷問や虐待を受けたとしています。
報告書について会見した監視団のボグナー団長は「戦争捕虜の処刑を深く懸念している。国際人道法を順守しなければ民間人への影響は続いてしまう」と述べて、ロシアとウクライナを非難しました。
●世界は中国の声聞くべき、ウクライナ戦争巡り=スペイン首相 3/25
スペインのサンチェス首相は24日、ウクライナ戦争からの打開策を模索するために世界は中国の声に耳を傾けるべきと述べた。
記者会見で「中国には世界的に存在感がある。われわれ全員でこの戦争に終止符を打ち、ウクライナが領土の保全を取り戻せるかどうかを巡り、明らかに中国の声に耳を傾けなければならない」とした。
●スイスの「永世中立国」としての立場をウクライナ戦争が揺さぶっている 3/25
ヨーロッパの真ん中に位置するスイスは、何世紀にもわたって「永世中立国」としての立場を享受してきた。それでもウクライナ侵攻に際し、スイスはロシアに制裁を科したが、ウクライナに送るための武器や弾薬のNATO加盟国への供給を拒否している。スイスの中立とは何を意味するのか、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が改めて考えた。
「中立性」を試されるスイス
東ヨーロッパでは、ウクライナ人が塹壕に入って戦っている。西ヨーロッパでは、戦争が机上のものではなくなった今、各国政府が新たな秩序に向き合っている。しかし、ヨーロッパ大陸の中心に位置するスイスでは、高い理想について議論が起きている。
雪を頂く山々に囲まれたスイスの首都の連邦議事堂では、この国が誇る「中立」という遺産について話されている。ヨーロッパにおける新たな戦争の時代において、中立とは何を意味するのだろうか。
スイスには武器産業がある。ヨーロッパがウクライナに提供した武器に必要な弾薬や、戦車・レオパルド2の一部などは、スイスで製造された。しかし、スイスは兵器の供給先に関して厳しい規制を課す。スイスの武器を購入した国は、ウクライナのような紛争国に武器を送ることを法律で禁止されているのだ。
スイスはこれまで事態を傍観し、世界のエリートに対等に仕えてきた。一方、この戦争では、スイスは相反する利益を抱え、中立の意味が試されている。
スイスの武器メーカーは、いま輸出できなければ、欧米の重要な顧客を失いかねないと訴える。中立の伝統は、ヨーロッパの近隣諸国が望むのとは、別の方向を志向する。
チューリヒ大学のオリバー・ディッゲルマン教授は、次のように指摘する。
「中立国でありながら武器を輸出してきたからこそ、スイスはこのような状況に追い込まれたのです。スイスは、ビジネスのために武器を輸出したい。そしてその武器を管理したい。さらに、善人でありたいとも思っています。この点が足枷になっています」
何のための「中立」か?
何世紀にもわたり、スイスは中立を守り続けてきた。870万人の国民のうち9割が中立を支持し、国の理想と考える。ジュネーブには国連機関や赤十字の拠点が集まっており、スイス人は、自分たちが世界の平和をつくる人道主義者であると自負している。
しかし、欧米諸国は、武器の輸出や対ロシア制裁に否定的なスイスの態度は、理想主義ゆえではないと考えている。西側の外交官は、スイスが充分な対応を取らないのは、ビジネスをしたい証拠だと見ているのだ。
スイスの銀行は秘密主義を取ることで悪名高い。世界の権力者層の資金洗浄をしているとよく非難されてきたが、いまだに世界最大のオフショア資産センターとしての地位を占めている。世界全体の資産の約4分の1がスイスにあり、プーチン大統領に群がるロシアのオリガルヒの資産の多くもあるだろう。
ある欧州の高官は、変わろうとしないスイスの姿勢から欧米の外交官たちは、同国が「経済的利益のための中立性」を追求していると感じていると指摘する。数ヵ月にわたる懸念から、スイスと近隣諸国の関係は硬化した。
ベルン大学でスイスの中立性を研究するサシャ・ザラは、次のように言う。「これがスイスに損害を与えていることは、みんな知っています。EU全体が迷惑し、アメリカも怒っています。ロシア人からも恨みを買っています。しかし、中立に対する信念は、非常に深く浸透しているのです」
歴史家にとっては、スイスの中立とは、戦争を避けるよりも、戦争を起こすことに関係してきた。
中世から近世にかけ、現在のスイスを構成するアルプス山脈の州は、ヨーロッパ各地の戦争に傭兵を派遣していた。これらの兵士が使うための多くの武器がスイスで作られた。バチカン市国を警護する「スイス衛兵」は、当時の名残である。
「スイスの中立の考え方は、当初、両陣営に仕えるという中立を意味しました」と、ザラは指摘する。
揺さぶられる、中立を維持するための「武装中立」
スイスの中立性は、ナポレオン戦争後の1815年に正式なものになった。ヨーロッパの列強が、スイスを地域の大国間の緩衝材とすることに合意したのだ。
さらに、1907年に締結されたハーグ条約が、今日のスイスの中立の基礎となっている。この条約では、中立国としての義務が定められている。戦争をしないこと、戦争当事者との間に公平な距離を保つこと、自国の領土が戦争勢力に利用されないようにすることなどだ。たとえば、武器を売ることはできても、それは紛争のすべての側に対しておこなう場合に限られると定められている。
このため、スイスでは、中立を維持するための「武装中立」を取るようになった。いま、この自衛能力が脅かされているという議論が起きている。
スイスの兵器産業は1万4000人の従業員を抱えるが、その規模は国内総生産の1%にも満たない。それがスイスに大きな経済的影響を与えることはないものの、武装中立を保つためには不可欠な産業だと考えられている。
「武装中立には、兵士、武器、装備、そして軍需産業が必要です。中立のためには武装が必要で、そうでなければ意味がありません」と保守系スイス人民党のヴェルナー・ザルツマンは語る。
また、スイスの防衛産業は輸出に依存しているため、輸出なしには生き残れないと彼は言う。
スイスは、ウクライナの最大の軍事的支援国の1つであるドイツに大きな影響を与えている。ドイツからウクライナには、すでに数十両の「ゲパルト」自走式高射砲が送られている。その弾薬は、実質的にスイスの旧エリコン・ビュール社(現在のラインメタル・エアディフェンス)だけが生産する。スイスはこれまで、ドイツが新たに弾薬を購入するのを拒否してきた。
ヨーロッパ諸国や主要な防衛産業関係者は、スイスで兵器や重要な部品を製造することにリスクを感じるようになった。旧エリコン・ビュールを所有するドイツの兵器メーカーであるラインメタルは、弾薬工場をドイツに開設する予定だ。
スイスの機械・電気業界団体「スイスメム」の武器産業担当であるマティアス・ゾラーは次のように指摘する。「今後2〜3年は、古い契約を履行する必要があるので、まだ生産は続きます。でも、新たな受注はありません。輸出市場は途絶えてしまうでしょう」
2023年初め、ビジネス寄りのスイス自由民主党は、多くの議員に受け入れられそうな法案を議会に提出した。スイスの民主主義的な価値観を共有する国々に、スイス製の武器の再輸出を認めるというものだ。
しかし、国民議会の第一党・スイス国民党は、同法案を否決した。明らかにウクライナ向けの措置であり、中立性を侵害すると判断したのだ。
その後、スイスの議員たちは6つの対案を作成した。しかし、いずれの案においても、スイスの兵器が1年以内にウクライナに到達することはない。
NATOから恩恵を受けても返さない
NATO加盟国に囲まれたスイスは、実質的に何十年間もNATOに守られてきた。そうやって恩恵を受けてきたにもかかわらず、スイスはNATO加盟国を助けようとはしない。スイスの貢献は表面的でしかないと欧米諸国は認識している。
スイスの都市では、多くの建物にウクライナの国旗が掲げられている。明らかにウクライナに対する同情が見て取れる。輸出規制の緩和に反対する議員の多くも、公然とロシアを侵略国家と呼ぶ。しかし、それでも、中立を貫く姿勢は崩さない。
それどころか、一部の保守的な政治家は、さらに厳格な中立の解釈をスイス憲法に盛り込むための国民投票を実現させようと署名を集めている。
スイスによる対ロシア制裁に関しても、西側の政府は懸念している。スイスは強力な制裁を怠っているからだ。
スイスは、ロシアの資産75億スイスフラン(約1兆円)を凍結した。しかし、スイス経済省は国内にロシアの資産が約493億ドル(約6兆5000億円)あると発表しており、凍結されたのはわずか一部だ。欧州の政府関係者は、スイスにはもっと多くのロシアの資産があり、2000億ドル(約26兆円)に上ると見ている。
それでも、スイスが制裁を発動したとき、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、スイスが中立性を放棄したと非難した。
中立は多くの人が考えるほど明確な概念ではない、ということはスイスの歴史が示しているとザラは主張する。
「中立であるということは、善良なキリスト教徒であるというようなものです。でもそれは実際に何を意味するのでしょう。良いクリスチャンとは何でしょう。中立とは何を示すのでしょうか」 
●プーチン氏訪問なら「逮捕」 対ロ融和の中立国オーストリア 3/25
オーストリア法務省は24日、ウクライナ侵攻を巡って国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状を出されたロシアのプーチン大統領が自国を訪問すれば、逮捕する必要があるという立場を示した。ウクライナ国営通信の質問に回答した。
冷戦時代から中立を維持するオーストリアは、欧州連合(EU)メンバーだが北大西洋条約機構(NATO)には非加盟。ロシアに融和的で、ネハンマー首相は昨年4月、欧米の首脳で侵攻開始後初めてモスクワを訪れ、プーチン氏と対面で会談した。
プーチン氏も2018年、オーストリアのクナイスル外相(当時)の結婚式に出席するため、同国を訪問したことがある。
ただ、中立国であると同時にICC加盟国でもあることから、オーストリア法務省は「協力する義務がある。逮捕状は執行しなければならない」と指摘。スーダンのバシル前大統領の逮捕状を前例として「国家元首でも免責は適用されない」との見解を示した。
ウクライナの占領地の子供連れ去り問題で出されたプーチン氏の逮捕状について、ドイツのブッシュマン法相が最近、自国領内での逮捕の可能性に言及。ロシアは反発し、メドベージェフ前大統領は「(逮捕なら)宣戦布告。あらゆる兵器が(ベルリンの)連邦議会や首相官邸に飛んでいく」と威嚇していた。
●ロシア、戦略爆撃機を増産か 国営企業が声明 3/25
ロシア国営企業のロステクは24日、カザン航空機製造工場がTu160M戦略爆撃機の近代化機を増産しているとの声明を発表した。
声明では「同工場は改良した戦略ミサイル搭載機Tu160Mを生産中だ。生産再開の決定はロシア大統領が下した。改良機は戦闘能力が大幅に向上しており、大きなポテンシャルを秘めている」と説明。同機のさらなる開発により、高度な兵器を含む新型兵器の使用が可能になるとの見通しを示した。
ロシアの軍事産業は西側部品の輸入に大きく依存する。制裁の影響から、ウクライナでの戦争継続に必要な高性能長距離ミサイルなどの生産に苦慮している状況だ。
ロシアは旧式の装備品への依存度も高く、退役した装甲車や戦車を復活させる措置まで打ち出した。西側の制裁が一因とみられている。
ロシアのプーチン大統領は先週、ウクライナでの「特別軍事作戦」に使う兵器を増産するため、大規模な生産能力増強計画を発表していた。
●バフムートの戦闘が「安定化」とウクライナ軍総司令官 3/25
ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は24日、ロシア軍が数カ月にわたって占領を試みている東部バフムートでの戦闘は「安定している」と発言した。
ザルジニー総司令官は、ウクライナ軍の「多大な努力」がロシアを押さえつけていると述べた。総司令官はフェイスブックで、ウクライナの戦線は「バフムート方面で最も厳しくなっているが(中略)防衛部隊の多大な努力によって状況を安定化させている」と説明した。
この投稿は、英軍制服組トップのトニー・ラダキン国防参謀総長との会談の後に行われた。バフムートに関するウクライナ高官の見解として、最新のものとなる。
ウクライナ陸軍の部隊司令官オレクサンドル・シルスキー氏も23日、ロシア軍はバフムート近郊で「疲れ切っている」との見方を示した。
また、ロシアは「人員や装備の損失にもかかわらず、何としてもバフムートを奪取しようと望みを捨てていないものの(中略)著しく戦力を失っている」と指摘した。
その上で、ウクライナによる昨年の反撃成功例を挙げ、「キーウ近郊やハルキウ、バラクリヤ、クピアンスクでそうしたように、我々は間もなくこの機会を活用する」と述べた。
西側諸国は今月初め、ロシア軍は昨夏以降、バフムートでの戦闘で2万〜3万の死傷者を出していると報告していた。
このところ大きな戦果が上げられずにいるロシア軍は、バフムートでの勝利を熱望している。
しかし軍事アナリストらは、同市の戦略的価値は低く、その重要性は象徴的なものになっていると話す。
バフムートでロシア失速か
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も、22日にバフムート近郊の戦線を視察。昨年12月以来の訪問だった。
ウクライナ大統領府が公表した映像では、ゼレンスキー大統領が古い倉庫の中で兵士にメダルを授与し、彼らを「英雄」と呼ぶ姿が映されていた。
イギリス国防省はこの日、ウクライナがバフムート西方で展開する反撃は、同市への主要供給ルートにかかる圧力を緩和する可能性が高いと分析。それに対して、ロシア軍はバフムート攻撃でこれまで維持していた「限定的な勢い」を失いつつあるかもしれないとの見方を示した。
一方で英国防省は、「ウクライナの防衛は北と南からの包囲の危険にさらされている」と指摘した。
23日には米戦争研究所が、ウクライナは今なお、ロシアの雇い兵組織「ワグネル・グループ」に対して劣勢だと分析。その上で、ウクライナ軍は「雇い兵を疲弊させ続けることで将来的な不特定の攻撃作戦を追求できるようになる」とした。
バフムートでは、ロシア側の戦力はワグネルが中心になっている。創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は、同市攻略で評価を上げることを目指しているとされる。
侵攻前のバフムートには約7万人が住んでいたが、現在残るのは数千人。
バフムートを制圧すれば、ロシアはドネツク州全体の支配という目標に、やや近づくことになる。同州は、ロシアが昨年9月に併合したウクライナ東部と南部の4州の1つ。ロシアは併合に先立ち、住民投票を実施したが、多くの国がこれを見せかけだと非難した。
●ウクライナ激戦地バフムト ロシアの攻撃失速 防御重視に移行か  3/25
ウクライナに侵攻するロシア軍は、掌握をねらってきた東部の激戦地バフムトで攻撃の勢いが失速し、大規模な攻撃から防御をより重視する態勢に移行しようとしているという見方がでています。
ウクライナ東部の激戦地バフムトの情勢を巡り、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は24日、イギリス軍のトップ、ラダキン参謀長と電話会談を行ったとSNSで明らかにしました。
このなかで、ウクライナではバフムトの戦況が最も厳しいとする一方「ウクライナ軍の努力によって状況は安定してきている」と評価したということです。
戦況を分析するイギリス国防省は25日「バフムトでのロシア軍の勢いはおおむね失速している。ロシア軍が極端に消耗した結果であり、国防省と民間軍事会社ワグネルの関係が緊張していることによっても状況が悪化している可能性がある」と指摘しました。
そのうえで、ロシア軍がバフムトの南にあるアウディーイウカやバフムトの北側に位置する東部ルハンシク州のクレミンナの戦線に戦力の重点を移す可能性を指摘し、ロシア側はことし1月以降、決定的な結果を得られず大規模な攻撃から防御をより重視する態勢に移行しようとしていると分析しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も24日「ロシアの言論空間ではロシア軍の作戦が停滞し、ウクライナが主導権を取り戻す可能性があるとして大きな不安がでているようだ」と指摘しました。
その上で、戦況を立て直すには相当な数の部隊を投入する必要性があるが、ロシア軍に十分な兵力が残されているとはみられないとしています。
●中露首脳会談での「多極化」は「中露+グローバルサウス」新秩序形成か 3/25
中露首脳会談で頻出した「多極化」という言葉は、アメリカの一極支配的先進国価値観による秩序ではなく、中国がロシアやインドと共にグローバルサウスを包含した世界新秩序を形成するシグナルである。
中露首脳会談で頻出した「多極化」という言葉
中露首脳会談では、両首脳の口から何度も「多極化」という言葉が飛び出した。
会談後の中露共同声明でも、以下のような形で4個所も「多極化」という言葉が出て来る。たとえば
世界情勢は劇的に変化しており、「和平、発展、協力、ウィン‐ウィン」という歴史的潮流を阻害することはできず、多極化という国際的局面は加速的に形成されており、新興市場や発展途上国の地位は普遍的に増強されている。それは全地球的な影響力を持っており、自国の正当な権益を守りたいという地域や国家は絶え間なく増加している。
「普遍性、開放性、包括性、非差別」を支持し、各国・地域の利益を考慮し、世界の多極化と各国の持続的発展を実現すべきだ。
世界の多極化、経済のグローバル化、国際関係の民主化を促進し、グローバル・ガバナンスが、より公正で合理的な方向に向かって発展することを推進する。
中国は、ロシアが公正的な多極化国際関係を築くために努力していることを高く評価する。
といった具合だ。
これらは何を意味しているかというと、アメリカの価値観だけが世界で唯一正しく、その価値観に合致しない国々は滅びるべきであるとして、アメリカが同盟国や友好国と小集団や軍事的ブロックを作り対中包囲網あるいは対露包囲網を形成して中露を崩壊させようとしていることへの、中露両国の強烈な怒りを表している。
ウクライナに軍事侵攻しているロシアに、このような共同声明を出す資格はないとは思う。
たしかにアメリカのバイデン大統領は副大統領だった時に他国政府であるウクライナに内政干渉してクーデターを起こさせ、ウクライナの親露政権を転覆させた。その上でバイデンの意のままに動く親米政権(ポロシェンコ政権)を樹立させた。それまでウクライナはNATO加盟に関して「中立を保つ」として自国の平和を守ってきたのに、バイデンはウクライナ憲法に「ウクライナの首相にはNATO加盟への努力義務がある」とさえ書かせた。これは多くの国際政治学者が認めている事実で、国際法違反である。
それゆえにプーチンがアメリカに抗議するのなら分かるが、ウクライナに軍事侵攻するのは間違っている。あってはならないことだ。習近平も軍事侵攻には反対の立場にいる。
しかし、それを大前提としながらも、なぜ中露はここまで強烈に「多極化」を謳うのか?
そこには習近平の壮大な野望がある。
それは「中露+グローバルサウス」を中心とする新世界秩序の構築だ。
かつて日中国交を正常化させるに当たって、毛沢東は周恩来に「大同小異」と言わせた。
中国はロシアの軍事侵攻には反対であるものの、それを「小異」と位置付けて、「大同」に向かって突進し始めている。
共産中国誕生以来の発展途上国との結びつき
共産中国である中華人民共和国誕生以来、毛沢東は発展途上国との提携を強化せよと指示した。中華人民共和国の国連加盟を目指すためだ。その指示に沿って1954年に中国の周恩来総理はインドのネール首相と会談し平和五原則を発表した。これに沿って1955年に開催したバンドン会議が、のちのアジア・アフリカ会議の軸になっている。バンドン会議の参加国の多くは第二次世界大戦後にイギリス、フランス、アメリカ、オランダあるいは日本(大日本帝国)などの「帝国主義」の植民地支配から独立したアジアとアフリカの29ヵ国で、その時すでに世界人口の54%を占めていた。
以来、中国とアフリカの結びつきは尋常ではなく強固で、中国のどの大学にも「アジア・アフリカ研究所」があり、どの行政機関にも「亜非処(アジア・アフリカ部局)」というのが設立されていたほどだ。習近平政権になってからは、トランプ政権時代に黒人差別が激しかったために、中国とアフリカ53ヵ国との結びつきを、一層強化させることに貢献している。
中国はまた「発展途上国77+China」という枠組みの国際協力機構を持っており、南米やASEAN諸国を含めた発展途上国の頂点に立っていることを自負している。
「BRICS+」という新興国同士のつながりや、中央アジアを中露側に引き付ける「上海協力機構」という枠組みもある。
残るは「中東」だけだった。
中国がイラン・サウジ和睦の仲介をしたことによって新秩序形成は決定的となって
ウクライナ戦争が始まる前から中国は中東諸国との緊密度を高め、石油人民元への移行を求めてきた。アメリカによる制裁が与えるリスクを回避するためだ。
その続きとして今年3月10日に中国の仲介でイランとサウジアラビアを仲直りさせたのである。これほど大きな地殻変動はなく、事態は石油人民元や台湾平和統一へのメッセージを超えて、世界秩序を変える方向に動き出しているのだ。
このことに注目しなければならない。
シリア大統領が間髪入れずにモスクワを訪問しプーチン大統領と会談
このときに見落としてならないのは、まるでスタンバイしていたように3月15日にシリアのアサド大統領がモスクワを訪問し、プーチン大統領に会ったことだ。
シリアはアメリカが敵視する国の一つで、アサドとプーチンは仲が良い。
一方、トルコのエルドアン大統領も、NATOに加盟しながらも、個人的にはプーチンとは昵懇(じっこん)の仲である。
シリア内戦ではシリアの反政府勢力をトルコが支持していたので、シリアとトルコは国交断絶状態だった。ところが2022年12月28日、トルコとシリアの高官がモスクワを訪問して「ロシア・トルコ・シリア」の3ヵ国会談が行われ、プーチンが3カ国間の機構設立を提案したとのこと。これはちょうど、2022年12月7日の習近平によるサウジアラビア訪問と呼応した動きだ。
シリア内戦は、もともとアメリカのネオコン(新保守主義者)の根城である全米民主主義基金会(National Endowment for Democracy=NED)が2010年〜2011年にかけて起こした「アラブの春」(カラー革命)と言われる民主化運動でにより始まった内戦だ。NEDは1983年に「他国の民主化を支援する」という名目で設立された。実際は多くの国をアメリカの一極支配下に置くというのが目的だ。
アラブの春により、エジプトでは30年続いたムバーラク政権が、リビアでは42年続いたカダフィ政権が崩壊した。しかしシリアではアサド独裁政権が40年にも渡って続いており、まだ打倒されていない。だからアメリカはアサドを目の敵にしているが、アサドの背後にはロシアやイランなどがいる。
そのイランとアメリカの同盟国だったはずのサウジアラビアを中国が仲介して和睦させたように、実はプーチンが仲介してシリアとトルコを和睦させようとしている。
今年3月15日のアサドとプーチンの会談では「トルコとシリアの和睦」に関しても話し合われたようだ。
アメリカができなかったことを、中露が実現する。
これはとてつもない地殻変動を招く。
実はアフリカの多くの国はプーチンを支持している
冷戦時代、旧ソ連はアフリカの多くの国に軍事支援や経済支援を提供していた。冷戦終結後のロシアにとってアフリカの重要性は薄れ、影響力が弱まった時期もあったが、ウクライナのクリミア半島を併合した後、ロシアは再びアフリカに注目し、20ヵ国前後のアフリカ諸国と次々と軍事協定を締結してきた。アメリカの干渉はアフリカに混乱を招き、今となってはロシアこそが自国を助けてくれるというアフリカ諸国は少なくない。
そのため、2022年3月2日における「ウクライナからのロシア軍即時撤退の国連決議案」では、アフリカの国は「反対1、棄権17、不参加8」で合計26ヵ国がロシアを非難しなかった。
また、習近平が訪露してプーチンと会った今年3月20日、実は同時に「多極世界におけるロシア・アフリカ会議」がモスクワで開幕していた。その閉幕式でプーチンは「今後もアフリカとの協力関係を深め、200億米ドルを超える国際組支払いを免除する」と表明している。
こうして、中露共同声明の舞台は準備されていたのである。
「中露+グローバルサウス」新世界秩序形成の動きに鈍感な岸田政権
このような動きを知っているのか否か定かではないが、おそらく、そのような大局的動きは目に入っていないであろう岸田首相は、習近平がプーチンと会談しているその時を狙ったようにウクライナを訪問した。
ウクライナはアメリカを中心としたNATOの武器提供によってロシアと戦っている。NATOのメンバー国でない日本は、中立的な立場で停戦交渉を促すことができる数少ない国の一つだが、岸田政権はその大きな役割を放棄して、あくまでも戦争を継続させる方向にしか動いていない。
「必勝しゃもじ」をゼレンスキー大統領にプレゼントしたことから考えて、「戦いを続けることは、ウクライナ国民の命をより多く奪うことだ」ということも考えずに、和平に向かって動こうとはしてないのである。せっかく果たせるはずの、日本の大きな役割を自ら放棄したのに等しい。
かつてアメリカに原爆を落とされる寸前まで、日本人の命を奪ったあの戦争で「欲しがりません勝つまでは」と叫ばされた標語を忘れたのか――。

 

●ベラルーシに戦術核配備へ ロシア・プーチン大統領が表明  3/26
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの隣国で同盟国のベラルーシに戦術核兵器を配備することで合意したと明らかにした。
プーチン大統領は25日、国営テレビで、ルカシェンコ大統領とベラルーシに戦術核兵器を配備することで合意したことを明らかにした。
プーチン大統領は、アメリカがNATO(北大西洋条約機構)加盟国に戦術核を配備してきたように、同じことをするだけだと説明した。
また、戦術核の特別保管施設が7月1日には完成し、ベラルーシには、すでに核弾頭が搭載可能な短距離ミサイル「イスカンデル」が配備されていることを強調した。
戦術核配備の理由についてプーチン大統領は、イギリスによるウクライナへの劣化ウラン弾供与表明を挙げ、欧米諸国によるさらなる武器の提供を強くけん制する狙いがあるとみられる。
●プーチン大統領 “ベラルーシに戦術核兵器を配備で合意”  3/26
ロシアのプーチン大統領は、同盟関係にあるベラルーシに戦術核兵器を配備することで合意したと明らかにし、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米諸国へのけん制を強めるねらいがあるとみられます。
プーチン大統領は25日に公開された国営メディアのインタビューの中で、同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領から戦術核兵器の配備の要請を受けてきたとしたうえで、「アメリカは長年、NATO=北大西洋条約機構のヨーロッパの領土に戦術核兵器を配備してきた。ベラルーシとの間で同様の合意に達した。これは国際的な核不拡散条約に違反するものではない」と主張しました。
そして戦術核兵器は、すでにベラルーシへの配備を発表している短距離弾道ミサイル「イスカンデル」や、ベラルーシ空軍の航空機に装填(そうてん)される可能性があるとして、ことし7月1日までにベラルーシ国内に核兵器を保管する施設が建設される予定だとしています。
またイギリスがウクライナに対して戦車の装甲を貫通する能力が高い劣化ウラン弾を供与すると明らかにしたことについて「危険な兵器だ。もちろんロシアにはこれに対抗する手段がある」とけん制し、「今後ロシア軍の戦車の総数は、ウクライナ軍の3倍以上になる」と述べ、兵器を増産し対抗していく姿勢を強調しました。
ウクライナでは、東部の激戦地バフムトでロシア軍の攻撃の勢いが失速しているとの見方も出る一方、ウクライナ側は欧米から戦車や戦闘機の供与を受け大規模な反転攻勢に乗り出す構えです。
プーチン大統領としては、ベラルーシへの戦術核兵器の配備も明らかにすることで、ウクライナや欧米諸国へのけん制を強めるねらいがあるとみられます。 
●戦術核兵器をロシアがベラルーシに配備へ プーチン氏が方針 3/26
ロシアのプーチン大統領は25日、国営テレビのインタビューで「連合国家」関係にあるベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を明らかにした。米欧のウクライナへの軍事支援強化に対抗する措置で、7月1日にベラルーシの核保管施設建設が完了すると説明。欧米とロシアの緊張が高まるのは必至だ。
プーチン氏は、今回の決定の背景に英国によるウクライナへの劣化ウラン弾供与があると強調。「米国が欧州の他国に自らの核を配備してきたのと同じ」で、核を他国に引き渡すわけではなく、ベラルーシへの戦術核配備は「核拡散防止条約(NPT)に違反しない」との見解を示した。
プーチン氏は、核攻撃への利用も想定されている弾道ミサイルシステム「イスカンデル」も既にベラルーシに配置済みだと述べた。ウクライナへの軍事支援を続ける米欧と北大西洋条約機構(NATO)を強くけん制する狙いとみられる。
ベラルーシでは昨年2月27日、核配備に向けた憲法改正の国民投票が行われ、「非核地帯でかつ中立国」とする条項を削除した。プーチン氏の盟友ルカシェンコ大統領は同日、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する隣国ポーランドやリトアニアに西側の核兵器が配備された場合、ロシアに核兵器提供を要請すると発言していた。
ロシアを盟主とした旧ソ連ではウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに核兵器が配備されており、1991年のソ連崩壊後は核拡散の恐れが生じた。ロシアと米英の3国は1994年、ウクライナなどの「核放棄」を受け、領土保全など安全保障を約束する「ブダペスト覚書」を締結。しかし、ロシアは2014年以降、ウクライナ南部クリミア半島を併合するなど主権侵害を強めている。
●プーチン氏、米欧を批判 「日独伊の枢軸のような同盟めざしている」 3/26
ロシアのプーチン大統領は26日に公開されたロシア国営テレビのインタビューで、「米欧は、1930年代のナチス・ドイツ、ファシストのイタリア、軍国主義の日本からなる枢軸のような同盟をつくろうとしている」と批判した。25日に公開したインタビューの続きとみられ、ロシアと中国との関係については、「軍事同盟でなく、透明性がある」と主張した。
プーチン氏は、ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、「米欧がウクライナの『ネオナチ』を支援している」と批判しており、国民に米欧の脅威を訴える狙いだ。
プーチン氏は北大西洋条約機構(NATO)が2022年、ニュージーランドやオーストラリア、韓国といったアジア太平洋地域の国々との関係を強化する方針を打ち出したと指摘。日本と英国も今年1月、「軍事分野での関係発展に関する協定に署名した」と述べた。
その上で、「我々でなく、まさに米欧の専門家が、1930年代にファシスト政権のドイツやイタリア、軍国主義の日本による同盟と同様の新しい枢軸を、米欧がつくり始めたと言っている」と批判した。
一方、中国との関係は、「軍事技術協力はしているが、それを隠してはいない。すべて透明だ」として、NATOとは違うと主張。ロシアの軍事協力や軍事演習についても、「(ウクライナ東部)ドンバス地方などの出来事にもかかわらず、中国だけでなく他の国とも続いている」と述べた。
●バフムトでロシア軍失速 激戦地で“反転攻勢の好機”領土の死守は 3/26
ウクライナから連れ去った子どもに対するロシアの戦争犯罪の実態が明らかとなった。ロシアが侵攻したウクライナの占領地から連れ去られた子供のうち17人が帰還したことを、ウクライナの支援団体が明らかにした。子どもの証言によると、ロシア側の収容施設内では、「鉄の棒」で体罰が行われ、食事も劣悪で外で調達せざるを得なかったという。支援団体などの働き掛けで、これまでに戻ったのは300人余りとされ、ウクライナ側は、連れ去られた子どもは1万6千人以上と主張している。ウクライナの子どもをロシアに連れ去った問題を巡っては、オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)が、プーチン大統領とリボワベロワ大統領全権代表(子供の権利担当)に対し、戦争犯罪の容疑で逮捕状を出していた。プーチン大統領に対する逮捕状執行を巡り、ICC加盟国であるドイツのブッシュマン司法相は19日、「プーチン大統領がドイツ領内に入り、ICCから要請があった場合、ドイツはプーチン大統領を逮捕しなければならないだろう」と令状執行への強い姿勢を見せた。また、オーストリア法務省は、「(逮捕に)協力する義務がある。逮捕状は執行されなければならない。国家元首でも免責は適用されない」と見解を示した。これに対して、メドベージェフ前大統領は23日、プーチン大統領のICCによる逮捕状発布について言及し、「核保有国の指導者がドイツで逮捕されたと想像してほしい。ロシアからあらゆるものが議会や首相官邸に飛来するだとう」と警告した。
ゼレンスキー大統領は22日、激戦が続くバフムト近郊を訪れ、「この場所にいること、我々の英雄たちに賞を贈ること、皆に感謝して握手できることを光栄に思う」と部隊を激励した。英国防省は、「ウクライナ軍はバフムト西側で反撃を開始しており、同軍の補給路に対するロシアの圧力が緩まっている」と戦況の変化を指摘した。また、米戦争研究所は、ロシア側の情報として、「バフムト西部にあるコンスタンチノフカの高速道路T-0504沿いに、ウクライナ軍の装甲車の車列を確認した」と指摘し、ウクライナ軍がバフムト南西での反撃作戦を準備している状況を明らかにした。さらに、ウクライナ陸軍・シルスキー司令官は、「ロシア軍はバフムトでかなりの戦力を喪失し、エネルギーを消耗している」とロシア軍の失速を指摘し、攻勢に転じる好機にあることを示した。米CNNによると、米国国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は「プーチン大統領は今後数週間、数カ月で多くの方面で新たな攻撃を開始する可能性がある」と述べ、重要な時期が到来すると警告した。
ウクライナ軍の報道官は20日、東部ドネツク近郊にあるアウディイフカについて、「敵は絶えずアウディイフカの包囲を試みており、間もなく“第2のバフムト”になる可能性がある」と危機感を示した。英国防省は同日、「戦術的にはバフムトと似た状況で、ウクライナ軍は組織的防衛を継続するが、西側の補給線がロシアの包囲作戦により脅かされている」と現況を明らかにした。
●ロシア、インドへ兵器供与の約束守れず ウクライナ侵攻で 3/26
インド空軍は26日までに、ロシアがインドに示した兵器供与の約束がウクライナ侵攻の影響で守られていないとの現状を明らかにした。
インド国会の下院委員会が公表した報告書の中で空軍の報道担当者が指摘した。兵器の「大半の引き渡し」が果たされていないとし、ロシア側は文書で「提供できない」とも伝えてきたという。
インドの地元メディアではロシアの兵器製造能力の弱点を示唆する報道やうわさが流れていたが、インド当局者がロシア製兵器の輸出の遅延を公式に認めたのは今回が初めて。インドの兵器輸入でロシアは最大の供給国となっており、引き渡しの不履行が両国関係にしこりを残す可能性もある。
報告書は、インドによる引き取りが遅れている兵器の詳細には触れていない。ただ、調達が続いている最大の目玉の兵器はロシアの対空ミサイル「S400トリウームフ」で、インドが2018年に54億米ドルで購入していた。
ロイター通信によると、同ミサイルの3基は既に届いたが、残り2基の到着を待っている段階だという。さらにインド空軍の主力であるスホイ30MKIとミグ29の両戦闘機の補給部品の確保でもロシアに頼っているとした。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、兵器の輸出額でロシアは世界2位。
ロシアのプーチン大統領は今月、ウクライナ侵攻を踏まえ兵器製造能力の一層の拡大を図るための大幅な努力を訴え、「緊急措置」とも位置づけていた。
インドとロシアの緊密な関係は冷戦時代にさかのぼる。インドと国境を接する中国が強硬姿勢を強め、両国関係が緊張を増す中で、ロシアとの関係は重要な意味も帯びている。
インドの首都ニューデリーに拠点があるシンクタンク幹部は、インド空軍がロシアによる兵器供給の約束違反を認めるのは「非常に深刻な事態」と分析。両国関係をかなり長い間悩ませてきた問題を浮き彫りにしたとも説明した。
インドは長年にわたり兵器輸入で多様化を図り、ロシアへの過剰な依存を懸念してきたが、ウクライナ危機はこの課題を解決させる努力を加速させることになると説いた。
●ウクライナ反攻、兵器の追加供与なければ「開始できない」とゼレンスキー氏 3/26
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、西側の同盟国から追加の軍事支援が届くまでは、ロシアに対する反攻を開始することはできないとの考えを示した。25日付の読売新聞インタビューで語った。
ゼレンスキー氏は、追加の戦車や大砲、M142高機動ロケット砲システム(HIMARS)がなければ、ウクライナ部隊を前線に送り出すことはできないと、読売新聞のインタビューで述べた。
また、ウクライナ東部の戦況は「良くない」とした。
「我々はパートナー国から弾薬が届くのを待っている」
今後予想されるウクライナの反攻について問われると、「まだ始められない。戦車や大砲、長距離ロケット砲がなければ、勇敢な兵士を前線に送り出すことはできない」と述べた。
そして、「あなた方に政治的な意思があるなら、私たちへの支援方法を見つけられる。我々は戦時下にあり、待つことができない」と付け加えた。
侵攻をめぐっては数週間前から、ウクライナ側がロシア軍に対して春の反攻を開始するという話が浮上していた。ウクライナの指揮官たちはその時が間近に迫っている可能性を示唆している。ウクライナ陸軍の地上部隊司令官オレクサンドル・シルスキー氏も、「非常に近いうちに」始まる可能性があると述べていた。
一部のアナリストは、ウクライナ軍はロシア軍の戦意をくじくため、反攻について発言を繰り返しているのだろうと指摘する。ロシア軍の司令官が東部バフムートなど特定の場所に部隊を集中させるのではなく、前線に沿って部隊を展開させ、その勢力が手薄になることが、ウクライナ側の狙いではないかと言われている。
アナリストの中には、すぐにでも反攻が可能だとの見方もある。米シンクタンクの戦争研究所 (ISW)は先週、ロシア側の攻勢そのものに失速の可能性があるとし、こう結論づけた。「したがってウクライナがイニシアチブを取り戻し、現在の前線の重要部分で反攻を開始できるだけの態勢が、十分とれている」。
ただ、ゼレンスキー氏はもっと悲観的だ。同氏はこれまで、西側の同盟国が兵器の輸送スピードを加速させない限り、戦争が何年も長引く可能性があると警告してきた。しかし、西側諸国からの装備の不足が原因で反攻時期が遅れるかもしれないと明言したのは、今回が初めてだ。
今回の発言には、兵器供与を加速を促したいという願いだけでなく、各国の対応が速やかでないと見るゼレンスキー氏の苛立ちも表れている。
ウクライナの同盟国は、戦車や大砲、より長距離のミサイルシステムの追加供与を約束している。ただ、約束したものをウクライナに届けるのに苦労している国もあれば、装備の輸送に予想以上に時間がかかっている国もある。
西側当局者は軍事支援はウクライナに届きつつあるが、訓練や計画に時間を要していることを認めている。また、ウクライナでは冬に凍結した地表が溶け出してぬかるんでいるため、どの軍にとっても、容易に移動を開始したり、前線を突破したりすることが難しくなっているとも指摘している。
ウクライナの反攻をめぐり、とりわけその開始時期や場所について憶測が飛び交っている。ウクライナ国防省は今後の計画について予想し合うのを止めるよう求めている。
同省のハンナ・マリャル次官はソーシャルメディア上で、軍事計画を公にする権利があるのは大統領と国防相、軍総司令官の3人だけだと主張した。
「そのほかの全ての人は、3人の言葉を引用することしかできない」と、マリャル次官は書いた。「反攻について、専門家に質問するのをやめてください。この話題に関するブログや投稿を書くのをやめてください。我が軍の軍事計画について公に議論するのをやめてください」。

 

●プーチン氏、逮捕恐れる 8月の南ア行き焦点―外遊制限で「逃げ」印象に苦慮 3/27
ロシアのプーチン大統領は今年、外遊を大きく制限される。ウクライナ侵攻を巡って国際刑事裁判所(ICC)に逮捕状を出され、123の加盟国・地域を訪れた場合に理論上、逮捕される可能性があるためだ。存在感を示したい国際会議の出席を見送れば「逃げている」という印象を内外に抱かれかねず、対応に苦慮しそうだ。
BRICS重視
当面の焦点は、南アフリカで8月に開かれる新興5カ国(BRICS)首脳会議。プーチン政権は、米国「一極支配」に対抗する「多極主義」の舞台として、中ロ主導の上海協力機構(SCO)と並んでBRICSを重視する。ウクライナを支援する西側諸国を「代理戦争」の敵と見なす中、けん制のためにも南ア行きは外せない。
南アはICC加盟国。ロイター通信などによると、ラマポーザ大統領の報道官は19日、逮捕に関する「法的義務は認識している」と公式見解を表明した。同時に「首脳会議までの間、さまざまな利害関係者と連絡を密にしていく」とも述べ、事前調整でプーチン氏が逮捕されるリスクをゼロにしたいというロシアへの配慮を示した。
南アのパンドール国際関係・協力相も22日、ICCの逮捕状発付にかかわらず、BRICS首脳会議へのプーチン氏の招待は有効だと確認。政府内だけでなくロシア側とも「今後の対応を協議する」と約束した。
南アは「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の一角で、ウクライナ侵攻で「中立」を堅持。ロシアに制裁を科す西側諸国と距離を置いている。プーチン政権は1月にラブロフ外相を派遣したほか、2月に極超音速巡航ミサイルを装備したフリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」を寄港させ、中ロと南アの3カ国で海上合同軍事演習を実施した。
中印は非加盟
ロシアの独立系メディアによれば、クレムリン(大統領府)では、逮捕状の発付を「想定外」と捉えている。外遊時に「どう安全を確保すればいいのか分からない」と悲観的な空気も漂った。
こうした中、ロシアとしては、BRICS首脳会議には展望が開けた形だ。前例ができれば、9月のインドでの20カ国・地域首脳会議(G20サミット)参加も不可能ではなくなる。インドはICC非加盟国だ。
同じくICC非加盟の中国の習近平国家主席は、今月20日から3日間訪ロ。今年計画している経済圏構想「一帯一路」の国際協力サミットフォーラムを念頭に、プーチン氏に訪中するよう招請した。逮捕状の「無効」を訴える立場からも、プーチン氏は訪問に前向きとみられる。
ただ、南アは依然としてICC加盟国であり、逮捕のリスクがゼロになったわけではない。ウクライナのクレバ外相は24日、インターネット交流サイト(SNS)で「政治的同盟国の南アがプーチン氏を拒めないのは分かる」と指摘。その上で「逮捕状を完全に無視できるとは思わない」と揺さぶりを掛けた。招待して加盟国の義務を果たすか、プーチン氏の訪問を認めないか、選択を迫ったもようだ。
●ロシアは中国の「資源植民地」になる…高まる中国への依存 3/27
・ロシアは「中国の資源植民地になる」と、ロシア政府に近い関係者がフィナンシャルタイムズに語った。
・習近平国家主席のモスクワ訪問は、ロシア経済が厳しい制裁の中で中国に依存していることを示した。
・だが、中国はガスパイプライン「パワーオブシベリア2」にゴーサインを出すことはしなかった。
ロシアが経済的に中国に依存するようになり、中国にとっての「資源の倉庫」になると、ロシア政府に近い情報筋はフィナンシャル・タイムズ(FT)に語った。
先日、中国の習近平国家主席はロシアのウラジーミル・プーチン大統領を訪問し、2022年にロシアがウクライナに侵攻して以来初めての首脳会談を行ったことで、この不平等なパートナーシップが明らかになった。
プーチン大統領が戦争を開始した後、ヨーロッパはロシアを世界の経済システムから排除し、エネルギー輸入を控えた。それによってロシアは石油やガスを中国やインドに輸出することを余儀なくされている。
実際、中国のロシア産エネルギーの購入量は2022年に813億ドル(約10兆6000億円)と前年比で54%も増加し、ロシアの収入の40%を占めた。さらに、FTが引用したデータによると、ロシアは2023年1月、270億立方メートルの天然ガスを中国に輸出し、中国に対する最大の供給者になった。
「これは我々が完全に中国の資源植民地になることを示唆している」と、その情報筋はFTに語った。
●ロシアで復活の兆しを見せるソ連式の「市民権剥奪」刑 3/27
ロシアの民主化活動家ウラジーミル・カラムルザが米ワシントンポスト紙に「プーチンは彼の批判者にソ連型の処罰を計画している」との論説を3月13日付で寄稿している。論旨は次の通り。
プーチン政権が復活させていないソ連の異議抑圧の慣行はほとんどない。一連の厳しい新法が特にウクライナ戦争に関し政府を公に批判することを犯罪にしている。政治的反対は今や反逆罪と同一視されている。抑圧的なソ連の慣行だったクレムリンへの反対者の市民権剥奪も近いうちに戻ってきそうだ。
エリツィン大統領(当時)が1993年に承認したポスト・ソ連の最初の憲法は、市民権の剥奪を明示的に禁止した。この規定は今もある。言論の自由や集会の自由を保証する法律もある。しかし、プーチン政権はこの2つの自由を否定している。クレムリンが市民権の原則を、侮蔑をもって扱う事を止めるものは何もない。
クレムリンの法律家は間もなく、市民権の憲法上の保護を形式的に破らずに中立化する方法を考えつくだろう。ロシア議会は帰化したロシア人の市民権の解消の根拠を拡大するプーチン提案について投票を行う。更に、生まれながらのロシア市民にも措置を拡大することも提案されている。
独裁は忠誠を愛国心と同一視する。そのような世界観では、どんな政治的反対者も必ず「反逆者」になり、市民権は政権の気まぐれで褒賞として与えられるか、罰として取り上げられる。ここでもプーチンはソ連の道を辿りそうである。
しかしわれわれはこれがどう終わるか知っている。ソ連崩壊の直前に、政治的理由で市民権を剥奪されたすべての人がその地位と権利を公的に回復した。
作家コルネイ・チュコフスキーは「ロシアでは永く生きなければならない。そうすると何かが起こる」と言ったことがある。彼はわれわれの国で周期的に起こる地殻的歴史変動に言及している。過去数十年、変化のペースは大きく加速した。次の変革はいつでも起こる可能性がある。
この論説は、特にウクライナ戦争開始後、ロシア国内で締め付けがきつくなっていること、ソ連時代の市民権剥奪という処罰も復活しそうであることを指摘している。そのようになる可能性が高いと考えられる。
ソ連時代には、クレムリンへの反対者を収監する政治的コストが高くつく場合、彼らの市民権を剥奪することが広範に行われてきた。
ソ連においては市民権剥奪を禁止するものはなかったが、今はエリツィン時代のロシア憲法がそれを明示的に禁止している。この憲法を改正しないで、法律によって、帰化した人であれ出生により市民権を得た人であれ、市民権を剥奪することは憲法違反である。
こういうことを平気でやるロシアは、いわば無法地帯になっているといってよい。このほかに、言論の自由、集会の自由などの憲法の人権条項は、今は簡単に無視され、反戦集会などは政権の弾圧で蹴散らされている。
民主主義は人権の尊重と選挙による政権交代で担保されるが、選挙の公正性もインターネット投票の操作によって著しく傷つけられている。
プーチンが法を尊重することはない
法の支配(Rule of Law)と法による支配(Rule by Law)は違うが、プーチンは法も支配の道具と考えているのではないかと思われる。
日本はエリツィン時代、北方領土問題について法と正義に基づく解決をロシア側に求め続け、1993年の東京宣言にはそう書いてあるが、プーチンはそういう考えに立ち戻ることはないと思われる。
この論説の最後にカラムルザはチュコフスキーを引用し、ロシアでは周期的に地殻変動的な変化が起きる、そして歴史の進行が加速する中、そういう変化はいつでも起こうると書いている。この観察も的中する可能性がある。ウクライナ戦争の帰趨はプーチン政権の今後に大きな変化をもたらしかねない。
●ウクライナによる“ドローン攻撃”か モスクワ南200キロで爆発3人負傷 3/27
ロシアの首都モスクワの南に位置する州で爆発があり、3人がけがをしました。ロシア国防省はウクライナ側の“ドローン攻撃”によるものだとしています。
ロシアメディアによりますと、トゥーラ州キレエフスクで26日、爆発物を積んだ無人機が爆発し住宅などが被害を受け、3人がけがをしました。
これについてロシア国防省は、ウクライナ側が無人機「ツポレフ141」を使った攻撃を試みたものの、ロシアの電子戦システムにより制御不能となり墜落したと発表しました。
一方、ウクライナ外務省はプーチン大統領がベラルーシへの戦術核兵器の配備を表明したことをうけて声明を出し、犯罪者であるプーチン氏による「新たな挑発だ」と非難しました。
また、ポドリャク大統領府長官顧問は「プーチン氏は敗北をおそれていて、脅すことしかできないことを認めている」と指摘しています。
こうしたなかイギリス国防省は、ロシアが今月だけでイラン製の無人機少なくとも71機を使用したとの最新の分析を発表しました。「ロシアは無人機による攻撃を先月下旬に中断」していて、イラン製無人機の供給が再開したとの見方を示しています。
●「ウクライナ戦争、そろそろ停戦してほしい」と中国がジリジリしだした理由 3/27
岸田文雄首相がウクライナの首都キーウを訪れてゼレンスキー大統領と会談した3月21日、ロシアの首都モスクワでは中国の習近平国家主席がプーチン大統領と会談していた。
中国は、ロシアのウクライナ侵攻から1年の節目となる2月24日に、「停戦」と「直接対話」を呼びかける仲裁案を発表していて、共同声明ではロシア側がこの仲裁案を積極的に評価していることからも、習主席の訪問は仲裁の役回りを果たしたと受け止められている。
なぜこのタイミングで中国は仲裁に乗り出したか
この会談に先立ち、中国は3月上旬にイランとサウジアラビアの外交関係の正常化を仲介している。米国の勢力圏であるはずの中東でも影響力を強め、ウクライナ侵攻にも仲介することで、米国を凌ぐ国際秩序の支配を高める狙いがあると見られる。
だが、ウクライナ侵攻から1年が過ぎて、中国が仲裁に乗り出した理由はそれだけだろうか。
ウクライナを「穀物輸出大国」にした中国
ロシアがウクライナに侵攻を開始して世界がまず直面したのが、食料危機の懸念だった。ウクライナは世界第5位、ロシアは第1位の小麦の輸出国で、両国で世界の小麦輸出量の約3割を占めた。この小麦の供給が不足する恐れから価格が上昇したばかりでなく、黒海の港が閉鎖されたことで倉庫に保管されている小麦が運び出せなくなった。
それにトウモロコシもウクライナは生産量で世界第5位、輸出量は第4位で、ロシアと合わせて世界の輸出の約2割を占めていた。
それも国連とトルコが仲介して黒海海上に「回廊」を開くことで、ようやく輸送が可能になったが、ロシアが揺さぶりの道具にするなど、侵攻以前のように円滑とは言い難い。
実は、世界に影響を及ぼすほどにウクライナを穀物の輸出大国にしたのは中国だ。
2012年から中国がウクライナと農業開発プロジェクトをはじめたことがきっかけだ。中国が30億ドルを融資して、肥料工場の建設などウクライナの農業関連インフラを整備する。その返済手段として、ウクライナは中国にトウモロコシを輸出した。ここからウクライナの穀物生産と輸出が拡大していく。
習近平が大転換させた中国の食料政策
2012年といえば、11月に習近平が中国共産党の総書記に、翌年の3月には国家主席に就任したタイミングだった。そして、その直後に習近平は中国の食料政策を転換している。
それまでの中国は、1996年11月にローマで開かれた世界食糧サミットで当時の李鵬首相が「中国は95%の食料自給率を維持する」と宣言したことが、そのまま食料政策となっていた。
その前々年の94年には、米国の思想家レスター・R・ブラウンが『誰が中国を養うのか』と題する論文を発表。95年には中国を凶作が襲い、コメ、小麦、トウモロコシを純輸入量で1800万トンも輸入したところ、途上国を中心に「穀物価格が上がって食料が買えなくなる」とする食料危機への懸念と批判が集中した。そこで途上国の盟主を自任していた中国は、食料自給の維持を世界に約束したのだ。
ところが、習近平が国家主席に就くと穀類を、人が直接食べるコメや小麦の「主食用穀物」と、トウモロコシや大豆などの「飼料用穀物」「油量種子」の2つに分け、前者の「絶対的自給」と後者の「基本的自給」という方針を打ち出した。人の命を支える主食は絶対的に自給で確保するが、飼料や油になる穀物なら輸入に依存しても構わないと切り替えたのだ。しかも、“基本的に”自給だから輸入はどこまでも増やせる。
その先鞭をつけたのが、ウクライナの肥沃な黒土だったことになる。
その効果はすぐに現れる。プロジェクト開始から2年後の2014/15年度のウクライナ産トウモロコシの輸入は、それまでの米国を抜いて第1位となり、中国の輸入量の約8割を占めた。
さらに中国は、ウクライナ侵攻の直前までトウモロコシの輸入量を急拡大させている。中国のトウモロコシの輸入は2019年まで500万トン以下で推移していたが、20年になると1000万トンを超えて2倍に膨れ上がり、21年は2800万トンを上回って、世界第1位の輸入大国にのしあがった。
しかも、米中関係の悪化が現実化しつつも、緊張緩和を目論んでか、21年の中国のトウモロコシの輸入相手国の第1位は米国で、総輸入量2836万トンのうち、69.9%の1983万トンを占める。それに次ぐのが、ウクライナの29.1%の824万トンだった。この両国で中国のトウモロコシ輸入の99%になる。
豚肉価格の安定は中国共産党の重要課題
中国の対ウクライナの貿易収支を見ても、中国からの工業製品などの輸出が堅調で、2012年から19年まではほぼ黒字で推移してきた。それが20年からはトウモロコシと、それに鉄鉱石の輸入を増加したことで赤字にまでなっている。鉄鉱石は中国の輸入量の1.6%にすぎない。
ウクライナにとって中国は最大の貿易相手国だ。中国と農業開発プロジェクトをはじめた2012年当時の最大の貿易相手国はロシアで、貿易額の29.4%を占めていた。それが減少していくと、16年からは対中貿易が急増。19年に中国がロシアを抜いて最大の貿易相手国となり、21年の貿易額はロシアが6.8%にまで低下したのに対し、中国は13.5%を占めた。
中国は世界の約4割に及ぶ最大の豚肉の生産国で、世界の豚肉のおよそ半分を消費している。トウモロコシはその飼料となる。
中国政府、というより中国共産党がもっとも恐れるのは、国民の間に不満が募って暴動にまで発展することだ。ゼロコロナ政策の転換も各地で発生した抗議デモがきっかけだったことからも、中国共産党が気を揉むことはよくわかる。
経済が順調であれば、国民もある程度のことは我慢できる。だが、大衆がもっとも不満を抱えて暴徒化しやすいのは腹を空かすことだ。だから、中国共産党は食料価格の高騰には神経を尖らせる。それも豚肉価格の高騰はひとつの指標となる。飼料トウモロコシの不足と値上がりが豚肉に波及することは、国体の維持にも影響する。
習近平の「キーウ電撃訪問」もあるか
中国の誤算は、戦闘が長期化したことのはずだ。侵攻の直前には米国の情報機関の分析として、ロシア軍は最大17万5000人を動員して、首都キーウは2日内に陥落、最大で5万人の市民が死傷、最大で500万人が難民になる、と報道されていた。早期にロシアの傀儡政権が樹立されていれば、中国にとっては何の問題もなかった。
それがいまだに収拾がつかず、中国にしてみれば、中国が切り拓いた中国のための農地を戦闘で荒らされ、中国のための穀物庫を自由にできない状況は、面白いはずがない。
ウクライナにしてみれば、最大の貿易相手国である中国が、仲裁案で「建設的役割」と「戦後復興の推進」を提案している。戦後復興に膨大な資金援助を得られるのであれば、決して悪い話ではない。G7の出方と秤にかけたくもなる。それでウクライナが乗ってくるようであれば、中国は国際秩序の支配者にまた一歩近づくことができる。
そうなると、習近平国家主席の首都キーウへの「電撃訪問」もあり得るかも知れない。ただ、それでは中ロ首脳会談と同じ日にキーウ訪問を成し遂げたG7議長国の面目も丸潰れだ。
●なぜゼレンスキー大統領は停戦しないのか…泥沼化させたロシア軍 3/27
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて1年がたった。なぜこの争いは長期化しているのか。慶応義塾大学の鶴岡路人准教授は「当初、ゼレンスキー大統領は停戦を求めていたが、ロシア軍が占領地でウクライナ市民を虐殺していることがわかった。このためウクライナは自国からロシア軍を追い出すまで戦わざるを得なくなった」という——。
プーチンの思い通りにならなかったウクライナ侵攻
2022年2月24日にはじまるロシアによるウクライナへの全面侵攻は、世界に巨大な衝撃をもたらした。この戦争をいかに捉えたらよいのか。筆者自身、悩みながら情勢を追っていたら、あっという間に1年が経ってしまった。端的にいえば、この戦争は「プーチンの戦争」ないし「ロシアの戦争」としてはじまった。しかし、当初のロシアの計画どおりには進まなかったために、戦争の性格が次第に変化した。
ロシアによる誤算の始まり
2月24日のロシアによるウクライナ侵略開始以降、軍事作戦に関しては明確な段階分けが存在する。ロシアは当初、首都キーウを標的にし、ゼレンスキー政権の転覆を目指していた。数日で首都を陥落させられると考えていたようだ。侵略開始からほぼ1カ月の3月25日になり、ロシア軍は、第1段階の目標が概ね達成されたとして、第2段階では東部ドンバス地方での作戦に注力すると表明した。キーウ陥落の失敗を認めたわけではないが、実際には方針転換の言い訳だったのだろう。その後、ウクライナ東部さらには南部での戦闘が激しさを増している。そうしたなかで強く印象付けられるのは、ウクライナによる激しい抵抗である。ロシアがウクライナの抵抗を過小評価していたことは明らかだ。加えて、米国を含むNATO諸国も、ウクライナのここまでの抵抗を予測できていなかった。ロシアの侵略意図については正確な分析をおこなっていた米英の情報機関も、ロシア軍の苦戦とウクライナの抵抗については、評価を誤ったのである。以下では、こうしたウクライナ戦争の推移のなかでみえてきた大きな転換点として、ウクライナにとって停戦の意味が失われてきていることについて考えたい。
降伏したところで命の保証はない
命をかけても守らなければならないものがある。ウクライナの抵抗については、これに尽きるのだろう。つまり、ここで抵抗しなければ祖国が無くなってしまう。将来が無くなってしまう。しかも、このことが、軍人のみならず一般市民にも広く共有されているようにみえることが、今回のウクライナの抵抗を支えている。さらに重要なのは、抵抗には犠牲が伴うが、抵抗しないことにも犠牲が伴う現実である。ロシアとの関係の長い歴史のなかで、このことをウクライナ人は当初から理解していたのではないか。ロシア軍に対して降伏したところで命の保証はないし、人道回廊という甘い言葉のもとでおこなわれるのは、たとえ本当に避難できたとしても、それは強制退去であり、後にした故郷は破壊されるのである。
占領後に起きていた虐殺
首都キーウ近郊のブチャやボロディアンカにおける市民の虐殺は、ロシア軍による占領の代償の大きさを示していた。ロシア軍による占領にいたる戦闘で犠牲になった人もいるが、占領開始後に虐殺された数の方が多いといわれる。抵抗せずに降伏しても、命は守ることができなかった可能性が高い。他方で、ブチャの隣町のイルピンは抵抗を続け、一部が占領されるにとどまり、結果として人口比の犠牲者数はブチャよりも大幅に少なくすんだようである。地理的には隣接していても、運命は大きく分かれた。ロシア軍による市民の大量殺戮を含む残虐行為は、占領下では繰り返されるのだろうし、占領が続く限り実情が外部に伝わる手段も限られる。ブチャの状況が明らかになったのもロシア軍が撤退した後である。こうした残虐行為に関しては、軍における規律の乱れや、現場の一部兵士による問題行動だとの見方もあるが、組織的におこなわれていたことを示す証言が増えている。加えて、ブチャ以外にも似たような大量殺戮の事例が明らかになっており、ロシア当局による組織的行為であると考えざるを得ない。
「ウクライナ人の存在自体を消そうとしている」
組織的だったか否かは、戦争犯罪の捜査、さらにはこれが集団殺戮(ジェノサイド)に該当するか否かを判断する際に重要になる。そのため、証拠集めには慎重を期す必要がある。ジェノサイド条約は、人種や国籍、宗教などを理由に特定集団を組織的に破壊することを、ジェノサイドの構成要件にしている。バイデン米大統領は、「ウクライナ人の存在自体を消そうとしている」として、ジェノサイドであると明言した。国際法上ジェノサイドだと認定可能か否かにかかわらず、ウクライナ東部を含め、ロシアの支配下にある地域で、ブチャと似たようなことが起きていると考えなければならない。これから占領される場所でも同様であろう。実際、東部の港湾都市であるマリウポリでは、すでに万単位で市民の犠牲者が出ていると伝えられている。
停戦で平和は訪れない
こうした現実が明らかになってしまった以上、ウクライナにとっての平和は、ロシア軍が国内から完全に撤退したときにしか実現しないことになる。これは、今回の戦争における構図の大きな変化である。そして、ロシアに占領されている場所がある限り平和があり得ないとすれば、停戦の意味が失われる。停戦とは、その時点での占領地域の、少なくとも一時的な固定化であり、ブチャのようなことが起こり続けるということになりかねない。これを受け入れる用意のあるウクライナ人は多くないだろう。結局のところ、停戦のみで平和はやって来ないのである。従来は、ウクライナ政府も停戦協議を重視してきた。侵略開始から数日ですでに停戦を呼びかけたのはゼレンスキー大統領である。しかし、ブチャの惨状が明らかになるなかで、停戦自体を目的視することができなくなった。あくまでも、平和につながる限りにおいて停戦を追求するという姿勢への転換である。
戦闘が長期化することは必至
そして実際、3月末のイスタンブールでの停戦協議では実質的な前進が伝えられたものの、直後にブチャの惨状が明らかになり、交渉機運は急速に萎(しぼ)むことになった。その後も停戦協議はオンラインで断続的におこなわれたようだが、ほとんど表に出てこなくなった。ロシア側もその後は特に東部における支配地域拡大に重点を移すことになった。それではウクライナは自らの力でロシア軍を追い出すことができるのか。これが最大の問題である。ゼレンスキー大統領は、2022年4月23日の会見で、ロシア軍が「入り込むところすべて、彼らが占領するものすべて、私たちはすべて取り戻す」と強調した。停戦よりも、ロシア軍を追い出すことが先決なのである。戦争による犠牲が日々積み重なっていくことを考えれば、早期終戦が望ましいこと自体は変わらない。しかし、軍事的にウクライナが勝利する早期決着は現実には想定し得ない。そうだとすれば、ウクライナには、抵抗を続け、少しでもロシア軍の占領地域を縮小していくほかなく、NATO諸国を中心とする国際社会は、武器の供与などを通じてそれを支えていくということになる。停戦を唱えるのみでは平和は実現しないのである。
●重戦車が不足するロシア、ウクライナ東部バフムトへの攻撃が減少 3/27
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は25日、東部の要衝バフムトとその周辺におけるロシアの攻勢を何とか阻止し、状況は安定しつつあると述べた。
英国防省も、数カ月に及ぶロシアのバフムト攻勢は部隊に大きな損害が出ているため失速しているとの分析を示した。
軍事専門家によると、ロシアは装備品、特に重戦車が不足している兆候が明らかという。
ザルジニー総司令官は英軍幹部との協議後、「バフムト方面は最も難しい。防衛軍の多大な努力のおかげで状況は安定しつつある」とテレグラムへの投稿で指摘した。
オンラインニュース「Novoe Vremia」がウクライナ軍報道官の話として伝えたところによると、バフムトおよび周辺でのロシアによる攻撃はここ数日、1日当たり20回足らずに減少した。
ロシアのプーチン大統領は国営テレビを通じ、戦車の増産を表明するとともに、英国が戦車用弾薬をウクライナに供給する計画に対して非難を繰り返した。
●ワグネル、ウクライナ戦闘参加の元囚人5000人超を契約満了で釈放 3/27
ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は25日、ウクライナで戦闘を行う同社との契約が満了した犯罪者5000人超が釈放されたと明らかにした。
ワグネルは、ウクライナの最も危険な地域で戦闘に参加すれば釈放するという条件で服役中だった男性数千人を雇用していた。
プリゴジン氏はテレグラムへの音声投稿で、「現時点で、ワグネルとの契約を満了した5000人超が恩赦で釈放された」とした上で、契約終了後の再犯率は0.31%と通常の10─20分の1にとどまっていると述べた。
●ウクライナ 安保理の緊急会合求める ロシアの核配備方針に反発  3/27
ロシアのプーチン大統領が隣国ベラルーシに戦術核兵器を配備すると明らかにしたことに対してウクライナ政府は強く反発しています。ウクライナ外務省は「プーチン政権による新たな挑発行為だ」などと非難し、国連安全保障理事会の緊急会合を開催するよう求めました。
プーチン大統領は25日に公開された国営メディアのインタビューで、同盟関係にある隣国のベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を表明し、ことし7月1日までにベラルーシ国内に核兵器を保管する施設が建設される予定だと明らかにしました。
これに対してウクライナ外務省は26日、声明を発表し「NPT=核拡散防止条約の原則や国際的な安全保障体制の根幹を揺るがす、犯罪的なプーチン政権による新たな挑発行為だ」と非難しました。
そして「ロシアは核兵器を責任をもって管理できないことが再び明らかになった」として核の威嚇に対抗するため、国連安全保障理事会の緊急会合を直ちに開催するよう求めました。
また、日本などG7=主要7か国とEU=ヨーロッパ連合に、ベラルーシ政府に対して「ロシアから戦術核兵器を受け入れれば甚大な損失をもたらすことになる」と警告するよう求めました。
NATO報道官「危険で無責任な主張」
ロシアのプーチン大統領がベラルーシに戦術核兵器を配備すると明らかにしたことについて、NATO=北大西洋条約機構の報道官は声明で「危険で無責任な主張だ。NATOは状況を注視しているが、ロシアの核兵器の配置にこれまでのところ変化は見られない。NATOはすべての加盟国の防衛のため関与していく」と強調しました。
米戦略広報調整官「核兵器の移動示すものはない」
ロシアのプーチン大統領がベラルーシに戦術核兵器を配備すると明らかにしたことについて、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は26日、CBSテレビのインタビューで「プーチン大統領が核兵器を移動させたことを示すものはなく、ウクライナ国内で核兵器を使用する意図を持っているという兆しも見られない」と述べ、現時点でロシアが核兵器を使用する動きはないという認識を示しました。
そのうえでカービー調整官は「侵攻開始以来、日々ロシア側の発言を注視しているが、われわれの戦略的な抑止態勢を変更しなければならないようなものはない」と述べました。
●最前線都市、退避呼び掛け ロ軍包囲で「第2のバフムト」―ウクライナ東部 3/27
ロシアが侵攻を続けるウクライナ東部ドネツク州で、ゼレンスキー政権側が支配するアウディイウカのバラバシ市長は26日、情勢の悪化を受けて住民に退避を呼び掛けた。フェイスブックに動画を投稿した。
アウディイウカは、親ロシア派の拠点都市ドネツクから約15キロの最前線に位置する。ロシア軍による包囲が進んでおり、ドネツク州の激戦地になぞらえて「第2のバフムトになる恐れがある」(ウクライナ軍報道官)と懸念されている。
●プーチン氏、中国との軍事同盟を否定 3/27
ロシアのプーチン大統領は、ロシアは中国と軍事同盟を結成しておらず、いかなる国に対しても脅威ではないと述べた。
プーチン氏の発言の前には中国の習近平(シーチンピン)国家主席が3日間の日程でモスクワを訪問していた。習氏の訪問はロシア支援の強化の可能性があるとして注目を集めていた。
米政権によれば、中国は国内企業を通じてロシアに対して、殺傷能力のない兵器の供給を行っている。
プーチン氏はテレビのインタビューの中で、ファシズムのドイツと軍国主義の日本が構築したものに似た新しい枢軸国の構築を始めているとして西側諸国を非難した。
習氏のロシア訪問はウクライナ侵攻が始まって以降で初めて。中国政府は今回のロシア訪問について「和平の旅」と形容していた。 
●中国、ウクライナ情勢の緊張緩和呼びかけ 露のベラルーシ核配備決定受け 3/27
ロシアがベラルーシへの戦術核兵器配備を決めたことに関し、中国外務省の毛寧(もう・ねい)報道官は27日の記者会見で「各国は情勢(の緊張)緩和を進めるべきだ」と呼びかけた。ロシアを名指ししなかったものの、核戦争の危機を避けなければならないと強調した。
中露首脳は今月会談し、共同声明で「全ての核保有国は国外に核兵器を配備すべきでない」と確認していた。
毛氏は昨年1月に米中ロ英仏の核保有5大国首脳が発表した共同声明を引用し「核戦争をしてはならない」と指摘。ウクライナ情勢解決のため、各国は外交努力をすべきだと訴えた。

 

●プーチン大統領の最側近 核使用の可能性を示唆 3/28
ロシアのプーチン大統領の最側近が、欧米に対する反撃に核を使う可能性がある考えをあらためて強調した。
ロシア安全保障会議のパトルシェフ書記は、プーチン大統領に最も近い側近で、27日、ロシアメディアのインタビューで「ロシアは忍耐強い。軍事的な優位性で誰かを威嚇することはない」と述べた。
一方で、パトルシェフ書記は、「(国家の)存在が脅かされた場合、アメリカを含むあらゆる敵対国を破壊できる近代的な独自の武器を持っている」と反撃時に核を使う方針を示唆した。
ロシアの核戦略の基本原則「核戦略ドクトリン」では、「国家の存在が脅かされる攻撃があったとき」などと定めていて、発言は核を使う基本原則を強調する形で、ロシアと直接衝突すべきでないと、欧米にあらためて警告したとみられる。
●中国にすがるプーチン 習近平の思うがまま≠ゥ? 3/28
中国の習近平国家主席が3月20日から3日間、ロシアを訪問した。その内容から鮮明に浮かび上がったのは、ロシアが米国への対決姿勢を強める中国の手駒≠ノ成り下がった実態だ。
ウクライナ侵攻で膠着する戦況を打開できず、欧米諸国の経済制裁網に囲まれるロシアは中国への依存度を一層強めざるを得ない。一方で、軍事的に劣勢にあるロシアに中国は過度な肩入れをせず、和平の仲介役を演じることで、国際社会で求心力を高める舞台としてウクライナ侵攻を利用している印象すらある。
ソ連時代は共産主義陣営の盟主として君臨し、中国を指導する立場にあったロシアだが、プーチン氏が主導したウクライナ侵攻により、その立場は完全に逆転した。
打開できない戦況
「2つの共同宣言は、ロシア・中国関係の特別な性格を反映している」「われわれの関係は歴史上、最高のレベルにある」「私と習国家主席は常に連携している。首脳会談だけでなく、国際行事、電話、オンラインでも、互いの関心事項を話し合っている」
21日、モスクワでの公式会談後に会見したプーチン大統領は、ロシアが中国といかに深く連携しているかを並べ立てたうえで、貿易、エネルギー、農業、輸送、衛生、スポーツなどの分野を一つ一つ挙げて、中国との関係強化が進んでいると強調してみせた。これに対する習氏の発言は、両国関係の発展を歓迎する内容だったが、プーチン氏より簡潔で、プーチン氏の前のめり≠ニもいえる姿勢が鮮明だった。
昨年2月にウクライナ侵攻に踏み切ったプーチン政権は、1年以上たった今も、戦況を打開できないままでいる。年初には軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長を総司令官に据える異例の人事に打って出たが、東部戦線でロシア軍が攻略の焦点としていた要衝、バフムトは今も陥落できていない。その他の前線でも現時点では目立った戦果は上がっておらず、長かった冬も過ぎ、本格的な春を迎えようとしている。
ウクライナに対する主力戦車の供給を決めるなど、欧米諸国が相次ぎ軍事支援のギアを上げるなか、米国のオースティン国防長官は2月中旬、ウクライナ軍が「ウクライナ軍が春ごろに反撃を行うと予想している」と明言していた。ウクライナ陸軍のシルスキー司令官も3月23日には、バフムトでの作戦でロシア軍が消耗していることを受け「ごく近いうちにわれわれはこの機会を利用する」と発言。本格的な反撃が間もなく始まるとの見通しを示した。ロシアが危機感を抱いていることは間違いない。
ロシア・中国の姿勢にずれ
ロシアが苦戦を続けるなか、中国政府は今年の2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題する12項目からなる文書を発表した。各国の主権の尊重を掲げる一方で、ロシアによるウクライナ侵攻への批判はせず、ウクライナ側が求めるロシア軍の撤退にも言及していないという極めてロシア寄りの内容だった。
主権の尊重を訴えているにも関わらず、侵略した側のロシアを非難せず、ウクライナの領土の回復も要求しない中国の提案にウクライナが応じる可能性は極めて薄い。それでも形式的にでも和平を訴えることで、中国政府は仲介者≠ニしての立場を国際社会にアピールできる。
中国は3月、7年にわたり断交状態にあったイラン、サウジアラビアの外交関係の正常化を極秘裏に仲介し、成功させた。同月には各国の政党指導者らを招き、米欧型の民主主義体制とは異なる、中国独自の近代化の方式を世界に普及させる方針も表明するなど、米国との対立姿勢を鮮明にしている。
ウクライナ侵攻でロシアを直接的に批判しない姿勢を維持する背景には、米国と対峙するうえで、ロシアとの連携は維持した方が得策と考えている可能性がある。
習近平がキングメーカー?
ただ、そのようなロシアに対する中国の姿勢は、両国がすでに、対等の立場にはないことを鮮明に映し出している。
習氏は20日にモスクワに到着し、プーチン氏と非公式の会談を実施したほか、21日には公式会談を行った。20日の会談は夕食をともにしながら約4時間実施されたが、冒頭のあいさつでプーチン氏は中国が2月に公表したウクライナ侵攻をめぐる文書について「詳しく検討していた。ぜひ議論をしたい」と述べており、この場でウクライナ情勢が集中的に協議された可能性が高い。会談の全容は明かされておらず、詳細は不明だ。
20日の会談では一方で、習氏のある発言がロシアメディアの注目を集めた。3期目に入った習氏に対してプーチン氏が祝福の言葉を述べたところ、習氏は「ロシアにおいては来年、大統領選挙が実施されることを理解している。ロシアは大統領閣下(プーチン)による強力な指導のもと、ロシアは大きな発展を遂げた。ロシアの人民は、大統領閣下を強く支持するだろう」と発言した。
プーチン氏は、今年2月に発表した年次教書で2024年に大統領選を実施する方針を明らかにしていたが、プーチン氏自身は出馬を明確に表明してはいなかった。この習氏の発言についてロシアのペスコフ大統領報道官は「習氏は、プーチン氏が大統領選挙に出馬すると言明したわけではない」と火消しに回ったが、ロシアメディアは習氏の発言に強く注目した。
図らずも、中国のトップがロシアの内政の行方について言及し、キングメーカー≠フような役割を担ったことに、ロシアの指導部は内心穏やかではなかったに違いない。
経済で圧倒的な差
冒頭に紹介したプーチン氏の発言に見られるように、ロシアは中国との経済関係強化をことさらにアピールする。米国に対峙する中国と蜜月だとアピールし、国際的に孤立していないと強調する狙いがあるが、同時に浮かび上がるのは、両国の圧倒的な力の差だ。
ロシアの国内総生産(GDP)は現在、1.7兆ドルだが、中国は17兆ドルで、約10倍の差がある。人口規模でもロシアの1.4億人に対して中国が14億人と、同様の差がついている。
中国とソ連の間で国境紛争が起きていた1970年ごろは、ソ連のGDPは中国の約5倍の差があったとされ、経済力は圧倒的にソ連が優位だった。その立場は、その後のソ連経済の停滞とロシアの発展の遅れ、一方の中国の急激な経済成長で、完全に立場が逆転している。
経済規模で米国とほぼ比肩しつつある中国の存在は、欧米や日本からの経済的な封鎖状態に置かれたロシアの命綱となっている。しかしそれは、共産主義国家として中国の手本であったソ連・ロシアが今、完全に中国の格下のパートナーに成り下がったことを意味する。
そもそも約4000キロメートルに及ぶ国境で接し、人口規模で圧倒する中国に対してロシアは長年、慎重な関係を維持してきた。人口が希薄で経済が崩壊状態にあったシベリアや極東地方が中国の圧力にさらされれば、中国の経済圏に飲み込まれてしまうのが明白で、社会的にも中国の強い影響下に置かれてしまうからだ。
しかし、14年のクリミア併合以降、ロシアは中国との関係強化を余儀なくされていった。中国やインド、ロシアなど新興経済国で構成する「BRICS」を重視する姿勢を示すなど、多極化≠旗印に新興国と強調するという立場だったが、実態は中国の国際的な影響力の強さを借りて、自国の孤立を糊塗する思惑がある。こうしてロシアは警戒していたはずの中国と接近を続けた。
ロシアの足元を見られての交渉
プーチン氏は21日の会談では、中国が提唱する「一帯一路構想」と、ロシアが主導する「ユーラシア経済連合(EAEU)」の連携強化などを訴えたが、中国側は内心、「何を言っているんだ」との思いだったかもしれない。EAEUは旧ソ連諸国で構成されているが、発足当初から実態が脆弱で、さらにロシアによる旧ソ連国家のウクライナへの侵攻で、その先行きが一層不透明になっているからだ。プーチン氏は、自らの手で自分の足元を突き崩しながら、中国との関係をアピールしている姿が垣間見える。
中露関係の現実を、象徴しているかのような場面もあった。21日の会談でプーチン氏は中国への天然ガス輸出について触れ、新たなガスパイプラインの敷設計画について「われわれは事実上≠キべての項目で合意した」と語った。「事実上」ということは、実際には最終合意していないことを意味する。
欧州方面へのガス輸出が困難になったロシアは、新たなパイプラインを通じて対中輸出を拡大させる構えだ。しかし中国側は過去のパイプライン輸出の案件でも、ロシアに大幅な値引きを要求してきたとされ、それが両国間の合意の遅れを引き起こしていたと指摘されている。
ウクライナ侵攻以後の現在も、欧州に代わって莫大な規模の天然ガスや原油を中国、インドなどが購入しているが、各国は価格でロシア産燃料を買い叩いているとされる。新たなパイプラインでの対中輸出をめぐっても、中国がロシアにさらに踏み込んだ割引を要求し、価格面で折り合っていない可能性がある。
中国からウクライナへの接近はない
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月、日本のメディアに対するインタビューにおいて、中国からの会談要請は来ていない事実を明らかにした。軍事侵攻の手を止めないロシアと、ロシア軍の撤退を求めるウクライナの立場が余りにも異なり、和平仲介はめどがたたないのが実情で、中国が現時点で両国の間に割って入るメリットをどこまで見いだしているかは分からない。
和平仲介・対露接近という餌につられて、ロシア側が中国に有利な条件で経済案件を飲まされているのだとしたら、プーチン氏は自らの手でロシアを中国の術中に陥れていることにほかならない。
●プーチン氏、ベラルーシに「戦術核」……思惑は? 「NATOに脅威与える」 3/28
ロシアのプーチン大統領が、隣の同盟国であるベラルーシに戦術核兵器を配備すると明らかにしました。ロシアはこれまでも核を持ち出して脅してきましたが、アメリカ側は「使用の兆候はない」と分析しています。自国ではなくベラルーシに置く狙いを考えます。
欧州から戦車や戦闘機供与で…けん制
有働由美子キャスター「ロシアのプーチン大統領が、戦術核兵器を配備すると明らかにしました。場所は隣の国のベラルーシです」「核弾頭を搭載できる弾道ミサイルを既に配備していて、保管する施設も7月までに完成させるといいます。具体的なだけに恐ろしいですが、何をしようとしているのでしょうか?」
小野高弘・日本テレビ解説委員「プーチン大統領は『欧米のウクライナ支援は、越えてはならない一線、レッドラインを完全に越えている』と言っています。今、ウクライナにヨーロッパから高性能な戦車が到着し始めています。戦闘機の供与もついに始まりました」「このことをプーチン大統領はけん制し、『そちらがそうなら、こちらも同盟国のベラルーシに核兵器を置くからな』というわけです」
小型と言われる核弾頭の威力は?
有働キャスター「自分の国ではなく、ベラルーシに置くという狙いは何ですか?」
小野委員「これは大きな意味があります。イスカンデルというロシアの短距離弾道ミサイルは、先端の部分に戦術核の核弾頭を載せて飛ばします。戦術核は小型だと言われますが、ものによっては広島や長崎の原爆と威力は変わりません」
ベラルーシを巻き込む狙いも?
小野委員「そしてこのミサイルの射程は500キロとされています。地図で見ると、仮にベラルーシの中心部分からでも、ウクライナだけでなくポーランドの首都ワルシャワや、リトアニアやラトビアといったNATOの国々も射程に入ります」「どの国も『うちに届くのか』と思うわけです。現代軍事戦略に詳しい、防衛省・防衛研究所の高橋杉雄室長は『ロシア本土からでは届かない所にも核攻撃が可能だと示すことで、NATO諸国に脅威を与えようとしている』と指摘しています」「もう1つの狙いとして高橋室長は『ウクライナ侵攻を支持はするが参戦しようとしていないベラルーシをできるだけ巻き込みたいのだろう』とみています。プーチン大統領が、NATOをにらみつける最前線にベラルーシを位置づけようとしています」
ロシア軍停滞か…また「核」を脅しに
小野委員「ウクライナなどは冷ややかに見ています。政権幹部のポドリャク大統領府顧問は『プーチンの行動はあまりにも予測しやすい。プーチンは脅すことしかできない』と話しています」「アメリカ政府幹部のカービー戦略広報調整官も『プーチン大統領が実際に核兵器を使おうとしている兆候はない』と分析しています」
有働キャスター「今はまだ脅しているだけだと…」
小野委員「そうです。これまでもロシア軍が窮地に追い込まれると、その度に核を持ち出して脅してきました。今もロシア軍の勢いは弱まり、停滞しているとみられています」
有働キャスター「岸田首相は『ロシアの核兵器による威嚇は受け入れられない』とゼレンスキー大統領との会談で強調し、広島サミットでも強く発信すると話しています。原爆で多くの人が命を奪われた国として、核による威嚇を許さない道筋へのリーダーシップを期待したいです」
●ウクライナ戦争終結、西側に具体策なし  3/28
西側諸国の指導者らは、ウクライナでの戦争終結の望ましい形について、以前よりも明確なビジョンを持ち始めている。
欠けているのは、それを実現するための計画だ。
米欧諸国の政府は、戦車を含む西側が供与する新たな兵器に支えられてウクライナが反転攻勢に出れば、今春中にロシアによるウクライナ領土の支配に風穴を開けられるのではないかと期待している。
そうなれば、理論上はウクライナ軍が戦場で優位に立ち、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を和平交渉の席に着かせることも考えられる。少なくとも、昨年2月の侵攻開始以降にウクライナから奪取した土地を手放すところまでは、プーチン氏が譲歩するかもしれない。その後、ウクライナは自由に西側陣営に軸足を移せるようになり、敗れたプーチン氏は力を失い、ロシア国民の怒りにさらされるかもしれない。
しかし、戦況と和平への動きがこれほどうまく進むと自信を持って予想している西側当局者はほとんどいない。そして、ウクライナ支持の西側諸国が、事態収拾に向けた本格的なプランを持っていることを示す兆候もほとんど見られない。
ウクライナ支援諸国の多くは、短期的な優先事項に重点を置いている。それは、ウクライナ東部でのロシア軍の攻勢を食い止めるため、同国に供与する十分な武器弾薬をかき集めることや、ウクライナ軍の電光石火の反転攻勢を物資面で支えることだ。
ただし、はるかに可能性の高いシナリオは、どちらか一方の側が敗色濃厚となって疲れ果て、最終的な目的を達成できないまま戦いをやめるまで、消耗戦が続くというものだ。
多くの外交官は、そうした結果が出るまでには月単位ではなく年単位の時間がかかることを認識している。
そうなったとしても、ウクライナが勝った場合のプーチン氏の処遇に関する明確なコンセンサスはない。
ロシアによる将来の侵攻を回避するため、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するか、あるいはNATOと何らかの協定を結ぶか、ウクライナにはそのどちらかの手段が与えられるべきだという意見でおおむね一致している。
しかし、フランスのエマニュエル・マクロン大統領や一部の同盟国は、ロシアの面目をつぶすことに慎重な姿勢を示しており、ロシアが許容できる安全保障措置をウクライナに提供することを求めている。その一方で、ロシア軍の永久的な弱体化を望む向きもある。
プーチン氏は召集可能な兵員を数多く抱えており、西側諸国の決意が失われるまで待てるのに、なぜ交渉しなければならないのかと考えている。
アブリル・ヘインズ米国家情報長官は今月、「プーチン氏は時間が自分にとって有利に働くと考えている可能性が最も高い」と上院で証言。「停戦の可能性を含め戦争を長引かせることが、最終的にロシアがウクライナでの戦略的利益を確保する上で、同氏にとって残された最善の道かもしれない。たとえ年単位の時間がかかるとしても、だ」と述べた。
2024年には米国で政権交代が起きる可能性がある。共和党の大統領になればウクライナへの支援が減るとプーチン氏が考えている場合、同氏を勇気づけている可能性がある。
一方、米国主導の制裁措置は、ロシアの経済基盤を徐々にむしばんでいる。しかし今のところ、ウクライナを大ロシアに統合するという目標の再考を促すことになりそうな反発は国内でほとんど見られない。ロシア経済は多くが予想したほど崩壊していない。その背景には、中国からの支援のほか、インドなどの国々がロシアから石油を輸入し続けていることがある。
リトアニアのガブリエリュス・ランズベルギス外相は「われわれが懸念しているのは、ロシアが依然として予算を安定して組めているということだ」とインタビューで指摘した。「厳しいのだろうが、われわれがロシアへの制裁措置の効果を期待していたよりもうまくやっている」
最近、中国の習近平国家主席がロシアを訪問したことで、プーチン氏は忍耐力を強めた可能性があると西側の外交官らは指摘する。2008年のロシアによるジョージア(グルジア)侵攻、2014年のウクライナ南部クリミア半島占領、2015年のシリア内戦への軍事介入で、西側諸国の反発が収まるのを待った結果、プーチン氏にとって都合の良い状況が生まれたという。
ウクライナは、米国とその同盟諸国から、戦争をいかに終わらせるかの決定はウクライナ次第だと繰り返し言われてきたが、これら支援国の持久力がいつまでもつのかを懸念する見方も一部にある。
ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相は24日のインタビューで、バイデン米大統領が2月にウクライナの首都キーウを訪問した際の発言に言及し、米国は「ウクライナが敗北するのを決して容認しないだろう。それがバイデン大統領の訪問から私が読み取ったことだ」と述べた。「私にとってのより大きな懸念は、西欧の友好国・友人らがそれほど忍耐強くないことだ」
ゼレンスキー氏が考えているのは、戦争で疲弊した国民が受け入れ可能な終結の仕方は何かという点だ。ウクライナ政府はこれまで、自国の領土保全が回復されるまで、和平には関心がないと主張している。
外交官らによれば、ウクライナ軍は新たに供与された兵器をもってしても、同国政府がすべての領土を取り戻す要求を突き付けるのに十分なほど、決定的に優位な状況を戦場で確立できる見込みは小さい。
ロシアの支配下にあるドンバス地方を巡る戦いは、ロシア軍がさらに深く攻め入っている中で、今後はるかに困難となるだろう。最近のバフムトを巡る戦いでは多くの犠牲者が出ており、小さな領土獲得のためにロシア、ウクライナ双方に大きな損失が出ているこうした状況は、この戦争の今後の展開を何よりも典型的に示しているように見える。
ウクライナを支援する国々は、ウクライナ側に有利になるようさらに加勢することも可能だ。だが、それを実現するための兵器類の提供については、意見が分かれている。
英国とポーランドは、ウクライナの軍備増強を率先して進める立場を取っている。英国は長距離ミサイルを、ポーランドは少数のジェット戦闘機を供与する意向を示している。
米国は、核の使用も辞さない構えのプーチン氏に、米国の行動がエスカレートしていると見られることを警戒し、より慎重な姿勢をとっている。米国はより射程の長い地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」の供与を拒んでいる。提供した高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」も射程が短くなるように変えられたものだ。
そのため、ウクライナは支援国から数十台の戦車を供与されているとはいえ、これまでとほぼ変わらない攻撃力の軍備で、より厳しい戦いに臨まざるを得ない。
米国と欧州の米同盟国は、ウクライナを支えてきた武器や援助の供与ペースを落とすことをちらつかせて、ゼレンスキー氏に早く折れるよう求めることもできる。
だが、プーチン氏に奪取した領土の維持を許せば、ゼレンスキー氏にとっては政治的な致命傷となりかねない。
米シンクタンク、国際共和研究所(IRI)が先週公表した世論調査によると、調査対象のウクライナ人の中で「ウクライナが勝利する」と考えている人の割合は97%と、昨年4月の調査時から変化していない。74%は「戦争の結果、ウクライナは1991年に保有していた全領土を維持する」と答えた。
欧州のある上級外交官によると、ウクライナが勝利した場合と敗北した場合のそれぞれのシナリオや、戦後の和解案の構成について、支援国の間で一定の議論はあるが、近く実施されそうな本格的な外交イニシアチブはないという。
この外交官は「理論上での和平プロセスの策定は難しくない」と指摘した上で、「現実的な選択肢となるような落としどころを実際に見つけるのは、はるかに困難だ」と語った。
●「ウクライナ戦争、そろそろ停戦してほしい」と中国がジリジリしだした理由 3/28
岸田文雄首相がウクライナの首都キーウを訪れてゼレンスキー大統領と会談した3月21日、ロシアの首都モスクワでは中国の習近平国家主席がプーチン大統領と会談していた。
中国は、ロシアのウクライナ侵攻から1年の節目となる2月24日に、「停戦」と「直接対話」を呼びかける仲裁案を発表していて、共同声明ではロシア側がこの仲裁案を積極的に評価していることからも、習主席の訪問は仲裁の役回りを果たしたと受け止められている。
なぜこのタイミングで中国は仲裁に乗り出したか
この会談に先立ち、中国は3月上旬にイランとサウジアラビアの外交関係の正常化を仲介している。米国の勢力圏であるはずの中東でも影響力を強め、ウクライナ侵攻にも仲介することで、米国を凌ぐ国際秩序の支配を高める狙いがあると見られる。
だが、ウクライナ侵攻から1年が過ぎて、中国が仲裁に乗り出した理由はそれだけだろうか。
ウクライナを「穀物輸出大国」にした中国
ロシアがウクライナに侵攻を開始して世界がまず直面したのが、食料危機の懸念だった。ウクライナは世界第5位、ロシアは第1位の小麦の輸出国で、両国で世界の小麦輸出量の約3割を占めた。この小麦の供給が不足する恐れから価格が上昇したばかりでなく、黒海の港が閉鎖されたことで倉庫に保管されている小麦が運び出せなくなった。
それにトウモロコシもウクライナは生産量で世界第5位、輸出量は第4位で、ロシアと合わせて世界の輸出の約2割を占めていた。
それも国連とトルコが仲介して黒海海上に「回廊」を開くことで、ようやく輸送が可能になったが、ロシアが揺さぶりの道具にするなど、侵攻以前のように円滑とは言い難い。
実は、世界に影響を及ぼすほどにウクライナを穀物の輸出大国にしたのは中国だ。
2012年から中国がウクライナと農業開発プロジェクトをはじめたことがきっかけだ。中国が30億ドルを融資して、肥料工場の建設などウクライナの農業関連インフラを整備する。その返済手段として、ウクライナは中国にトウモロコシを輸出した。ここからウクライナの穀物生産と輸出が拡大していく。
習近平が大転換させた中国の食料政策
2012年といえば、11月に習近平が中国共産党の総書記に、翌年の3月には国家主席に就任したタイミングだった。そして、その直後に習近平は中国の食料政策を転換している。
それまでの中国は、1996年11月にローマで開かれた世界食糧サミットで当時の李鵬首相が「中国は95%の食料自給率を維持する」と宣言したことが、そのまま食料政策となっていた。
その前々年の94年には、米国の思想家レスター・R・ブラウンが『誰が中国を養うのか』と題する論文を発表。95年には中国を凶作が襲い、コメ、小麦、トウモロコシを純輸入量で1800万トンも輸入したところ、途上国を中心に「穀物価格が上がって食料が買えなくなる」とする食料危機への懸念と批判が集中した。そこで途上国の盟主を自任していた中国は、食料自給の維持を世界に約束したのだ。
ところが、習近平が国家主席に就くと穀類を、人が直接食べるコメや小麦の「主食用穀物」と、トウモロコシや大豆などの「飼料用穀物」「油量種子」の2つに分け、前者の「絶対的自給」と後者の「基本的自給」という方針を打ち出した。人の命を支える主食は絶対的に自給で確保するが、飼料や油になる穀物なら輸入に依存しても構わないと切り替えたのだ。しかも、“基本的に”自給だから輸入はどこまでも増やせる。
その先鞭をつけたのが、ウクライナの肥沃な黒土だったことになる。
その効果はすぐに現れる。プロジェクト開始から2年後の2014/15年度のウクライナ産トウモロコシの輸入は、それまでの米国を抜いて第1位となり、中国の輸入量の約8割を占めた。
さらに中国は、ウクライナ侵攻の直前までトウモロコシの輸入量を急拡大させている。中国のトウモロコシの輸入は2019年まで500万トン以下で推移していたが、20年になると1000万トンを超えて2倍に膨れ上がり、21年は2800万トンを上回って、世界第1位の輸入大国にのしあがった。
しかも、米中関係の悪化が現実化しつつも、緊張緩和を目論んでか、21年の中国のトウモロコシの輸入相手国の第1位は米国で、総輸入量2836万トンのうち、69.9%の1983万トンを占める。それに次ぐのが、ウクライナの29.1%の824万トンだった。この両国で中国のトウモロコシ輸入の99%になる。
豚肉価格の安定は中国共産党の重要課題
中国の対ウクライナの貿易収支を見ても、中国からの工業製品などの輸出が堅調で、2012年から19年まではほぼ黒字で推移してきた。それが20年からはトウモロコシと、それに鉄鉱石の輸入を増加したことで赤字にまでなっている。鉄鉱石は中国の輸入量の1.6%にすぎない。
ウクライナにとって中国は最大の貿易相手国だ。中国と農業開発プロジェクトをはじめた2012年当時の最大の貿易相手国はロシアで、貿易額の29.4%を占めていた。それが減少していくと、16年からは対中貿易が急増。19年に中国がロシアを抜いて最大の貿易相手国となり、21年の貿易額はロシアが6.8%にまで低下したのに対し、中国は13.5%を占めた。
中国は世界の約4割に及ぶ最大の豚肉の生産国で、世界の豚肉のおよそ半分を消費している。トウモロコシはその飼料となる。
中国政府、というより中国共産党がもっとも恐れるのは、国民の間に不満が募って暴動にまで発展することだ。ゼロコロナ政策の転換も各地で発生した抗議デモがきっかけだったことからも、中国共産党が気を揉むことはよくわかる。
経済が順調であれば、国民もある程度のことは我慢できる。だが、大衆がもっとも不満を抱えて暴徒化しやすいのは腹を空かすことだ。だから、中国共産党は食料価格の高騰には神経を尖らせる。それも豚肉価格の高騰はひとつの指標となる。飼料トウモロコシの不足と値上がりが豚肉に波及することは、国体の維持にも影響する。
習近平の「キーウ電撃訪問」もあるか
中国の誤算は、戦闘が長期化したことのはずだ。侵攻の直前には米国の情報機関の分析として、ロシア軍は最大17万5000人を動員して、首都キーウは2日内に陥落、最大で5万人の市民が死傷、最大で500万人が難民になる、と報道されていた。早期にロシアの傀儡政権が樹立されていれば、中国にとっては何の問題もなかった。
それがいまだに収拾がつかず、中国にしてみれば、中国が切り拓いた中国のための農地を戦闘で荒らされ、中国のための穀物庫を自由にできない状況は、面白いはずがない。
ウクライナにしてみれば、最大の貿易相手国である中国が、仲裁案で「建設的役割」と「戦後復興の推進」を提案している。戦後復興に膨大な資金援助を得られるのであれば、決して悪い話ではない。G7の出方と秤にかけたくもなる。それでウクライナが乗ってくるようであれば、中国は国際秩序の支配者にまた一歩近づくことができる。
そうなると、習近平国家主席の首都キーウへの「電撃訪問」もあり得るかも知れない。ただ、それでは中ロ首脳会談と同じ日にキーウ訪問を成し遂げたG7議長国の面目も丸潰れだ。
●ウクライナにイギリスやドイツなどの戦車到着 軍備の強化進む  3/28
ウクライナには、イギリスの主力戦車など各国の戦車が続々と到着していて、軍備の強化が進んでいます。
ウクライナのレズニコフ国防相は27日、自身のSNSでイギリスの主力戦車「チャレンジャー2」などを受け取ったことを明らかにしました。
レズニコフ国防相は「1年前には、パートナーの支援がこれほど強力なものになるとは誰も考えられなかった。ウクライナは世界を変えた」と書き込み、欧米の軍事支援に感謝の意向を示しました。
ウクライナへの軍事支援をめぐって、ノルウェー軍は20日、8両の「レオパルト2」がウクライナに配備されたと発表しています。
また、ドイツは27日、18両の「レオパルト2」を引き渡したと明らかにし、ウクライナ軍の軍備の強化が進んでいます。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は27日に公開した動画で、南部のザポリージャでIAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長と会談し、ロシア軍が占拠を続けるザポリージャ原子力発電所の安全性などについて話し合ったことを明らかにしました。
このなかでゼレンスキー大統領は「ロシア軍によるザポリージャ原発の占拠が長引くほど、ウクライナとヨーロッパ、そして世界の安全への脅威が大きくなっていく」と述べ、原発の安全確保にはロシア軍の撤退が欠かせないと訴えました。
●日米高官 岸田首相のウクライナ訪問踏まえ “緊密連携で対応”  3/28
ロシアの軍事侵攻などをめぐり、日米両政府の高官が27日夜、電話協議を行い、岸田総理大臣のウクライナ訪問の情報を共有したうえで、今後もG7=主要7か国をはじめ国際社会と緊密に連携して対応していくことで一致しました。
秋葉国家安全保障局長は日本時間の27日夜、アメリカのホワイトハウスで安全保障を担当するサリバン大統領補佐官と、電話でおよそ40分間協議しました。
この中で秋葉局長は先週、岸田総理大臣がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領に日本の連帯の意思や支援策を伝えたことを説明したのに対し、サリバン大統領補佐官は歓迎の意を示しました。
そして両氏は、今後もG7をはじめ国際社会と緊密に連携して対応していくことで一致しました。
また、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射も含め、インド太平洋地域の最新情勢についても意見を交わし、日米同盟の抑止力と対処力を強化するために協力していくことも確認しました。
●ロシアが日本海で超音速ミサイル「モスキート」2発を発射… 3/28
ロシア国防省は28日、露海軍太平洋艦隊のミサイル艦が日本海で対艦巡航ミサイル「モスキート」2発を発射し、約100キロ・メートル離れた標的に命中したと発表した。モスキートはソ連時代に開発された超音速ミサイルで、発射は軍事演習の一環としている。ロシアは日本が防衛面で米国と連携を強化する動きに反発しており、軍事能力を誇示する意図があるとみられる。
露国防省は3日にも、太平洋艦隊が日本海で高精度巡航ミサイル「カリブル」の発射演習を行い、成功したと発表していた。岸田首相が21日、ロシアが侵略を続けるウクライナの首都キーウを訪問した際には、露国防省は露軍の長距離戦略爆撃機2機が日本海上空を約7時間にわたって飛行したと発表しており、岸田政権の動向に神経質になっている。
プーチン露大統領の最側近、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記は露政府紙「ロシア新聞」が27日に公開したインタビューで、日米の防衛連携強化を巡り「米国は日本に軍国主義の精神を復活させようとしている」と主張していた。
●中国の仲介でサウジ=イラン国交回復――その潜在的衝撃理由 3/28
中東のライバル、サウジアラビアとイランが、中国の仲介によって国交を回復させたことは、世界秩序の変化という意味で、ウクライナ侵攻と並ぶほどのインパクトを持つ。
中東発の衝撃を4点にまとめると
サウジアラビアとイランは3月10日、中国の仲介によって国交回復を発表した。両国は2016年に国交を断絶していたが、北京で行われた代表者会合では2ヶ月以内にそれぞれの大使館を再開することが合意された。
両国を仲介した中国の外交担当国務委員、王毅氏は「中国は大国として、憂慮すべき問題に建設的に関与し、責任を果たし続ける」と述べた。
その後、中国政府がサウジを含むアラブ諸国とイランを北京に招いて首脳会合を開く計画が表面化し、イラン国営放送が「サウジ国王がイラン大統領を招待した」と報じるなど、両国関係は急速に改善に向かっている。
この一連の動きは日本をはじめ西側の一般メディアではあまり熱心に報じられないが、国際政治におけるインパクトは極めて大きい。そこには主に4つのポイントがある。
   ・アメリカができなかったことに中国が成功した
   ・不安定な中東情勢に改善の兆しが生まれた
   ・世界の多極化がさらに進みやすくなった
   ・中国のエネルギー安全保障が強化される
以下、この4点に沿ってみていこう。
アメリカの仲介が無視された意味
第一に、今回の国交回復がアメリカにも処理不能なほど難しいタスクだったことだ。
サウジアラビアとイランは、どちらも世界屈指の大産油国だが、中東の二大ライバルと目されてきた。そこにはスンニ派とシーア派の宗派の違いだけでなく、外交方針の違いもある。サウジがアメリカと経済・安全保障の両面で協力してきたのに対して、イランは1979年以来アメリカ政府に「テロ支援国家」に指定されてきた。
国交断絶後の両国関係は、不安定な中東情勢をさらに悪化させる一因となってきた。そのため、アメリカもサウジとイランの仲介に着手していたのだが、結果的に仲介に成功したのは中国だった。
これに関して、アメリカ政府からは「我々はイランと国交がない(だから直接対話が難しくても仕方ない)」という弁明も聞こえる。
しかし、アメリカではなく中国に仲介を頼んだのはイランだけでなく、アメリカが同盟国と呼ぶサウジも同じだった。このサウジの行動については後で触れるとして、ここでのポイントは中東における中国の大きな存在感が鮮明になったことだ。
これまで中東ではアメリカの影響が強かった(その反動で他の地域より反米感情を抱く人が目立つ)。しかし、中国は冷戦時代からイランと深い関係にあるだけでなく、今やサウジ産原油の最大の輸入国でもある。
アメリカにできなかったサウジとイランの国交回復を中国が実現させたこと自体、世界の変化を象徴する。
中東情勢に改善の兆し
第二に、今回の国交回復が不安定な中東情勢を、少なくとも部分的には改善する効果があることだ。
サウジアラビアとイランの対立はこれまで外交的なレベルだけでなく戦場でもみられた。例えば、2011年からのシリア内戦でサウジはアメリカとともにシリアの反体制派を支援したが、これに対してイランはロシアとともにシリア政府を支援した。
また、2015年からのイエメン内戦ではサウジがイエメン政府を、イランが反体制派フーシを支援してきた。中東二大国の事実上の代理戦争によって、イエメンでは今年初頭までに23万人以上が死亡した。
こうしたなか、2019年にはイランの支援するフーシがサウジアラムコの精油施設をドローン攻撃するといった事案も発生している。
サウジとイランの国交回復は、こうした衝突を沈静化させる力を秘めている。アメリカの歴史ある資源コンサルタント、エナジー・インテリジェンスは「うまくいけば中東で経済成長が軍事力をしのぐ新時代を導くこともあり得る」と評価する。
ただし、当然だが中東におけるすべての対立が解消されるわけではない。なかでもイスラエルが今後どのような行動に出るかは不確定要素として残る。イスラエルはパレスチナ問題をめぐってイランと対立を深める一方、サウジなどアラブ諸国と関係改善を進めてきたからだ。
世界の多極化がさらに進む
第三に、今回の国交回復は西側とりわけアメリカの求心力が低下してきた結果であると同時に、それをさらに促す効果があることだ。
先述のように、サウジアラビアは長年アメリカと「石油と安全保障の交換」と呼ばれる関係を維持してきた。そのサウジがアメリカの仲介を事実上スルーしたことをカーネギー中東センターのマリア・ファンタペ研究員は「アメリカに対する不信感が募った結果」と指摘する。
アメリカのトランプ政権は2017年、それまでにない規模の経済制裁をイランに発動した。「イランが核開発している」という疑惑がその理由だったが、この疑惑自体、それまでイランの核査察を行っていた国際原子力機関(IAEA)の報告に反するもので、しかも疑惑の裏付けも不明だった。
ほとんど言いがかりの制裁だったが、経済が疲弊したイランはかえって強硬姿勢に転じ、ウラン濃縮を加速させるなど危機はエスカレートした。ところが、トランプ政権はもちろんバイデン政権も危機を沈静化させる道筋をつけられなかった。
その一方で、アメリカは2010年代半ばから国内でシェールオイル生産を加速させ、中東からの石油輸入を減らした。アメリカにはサウジへの警戒があったのだが、逆に原油市場のシェアを奪われたことはサウジの危機感も招いた。
さらに、「民主主義同盟」のリーダーを自認するバイデンは、歴代のアメリカ政府が事実上黙認してきたサウジの人権問題などにも口を出すようになった。
こうした背景のもと、サウジはウクライナ侵攻をめぐってもアメリカと距離を置き、ロシアと原油価格調整で協力してきた。
つまり、サウジが中国の仲介を受け入れたのはアメリカの中東政策に対する不信感が高まった結果といえるが、それは結果的に世界全体におけるアメリカの求心力をさらに低下させ得る。
サウジ財務相は3月15日、「国交が回復されれば速やかにイランに投資する用意がある」と発言した。サウジの投資は疲弊していたイラン経済を回復軌道に乗せ、世界第3位の確認埋蔵量を誇るイランの(いまだに制裁を残す西側以外への)原油輸出を増加させる。
その場合、世界の原油市場に大きなインパクトを与えるだけでなく、アメリカが主導する経済制裁の形骸化も鮮明になる。それはウクライナ侵攻の場合と似た構図だ。
中国のレジリエンスが高まる
最後に、中国のエネルギー安全保障が強化され、ひいては外交の独立性がこれまで以上に高まるとみられる。
中国はこれまでにイラン産原油の生産に着手してきたが、アメリカ主導の制裁にあわせて現状では輸入していない。
しかし、サウジのテコ入れでイランの石油・天然ガス生産が活発化された場合、中国はエネルギー供給地の多角化をこれまで以上に高められる。ビジネスであれ国際政治であれ、一カ所に依存しないことは独立性を担保する常套手段だ。
そのうえ、イランとの深い関係によって、中国は中東からパキスタン、アフガニスタン、あるいは中央アジア各国を経由し、陸上パイプラインで燃料を輸送する道も開ける。その場合、スエズ運河やマラッカ海峡など、一般的に海上輸送リスクの高い海域(いわゆるチョークポイント)だけでなく、中国はアメリカや周辺国との対立の場になっている南シナ海やインド洋も迂回できる。
これらを鑑みれば、サウジとイランの国交回復を仲介し、中国が中東での存在感を高めたことの地政学的意味は大きい。
サウジとイランの国交回復を受けてアメリカ国家安全保障会議のジョン・カービー議長は「中東の緊張を和らげる、いかなる努力も支持する。それは我々の利益だ」と述べるにとどまった。確かに中東の安定は全世界にとっての利益だが、その恩恵を最も受けられるのはアメリカではなく中国とみた方がよい。
だとすれば、サウジとイランの国交回復で中国が仲介に成功したことは、ロシアによる力任せの軍事侵攻とは表面的には対照的だが、世界全体に及ぼす長期的インパクトという意味では同レベルといえる。サウジとイランの国交回復を西側メディアが熱心に報じたがらないことは、西側の焦燥感の裏返しであり、決してインパクトが小さいからではないと考えた方がよいだろう。
●ウクライナ軍が反転攻勢か 東部戦線「バフムートの戦い」 3/28
ウクライナ軍は3月27日、同国東部ドネツク州の廃虚と化した町バフムートの空撮映像を公開した。
撮影したのは、「ホロドニー・ヤール」の愛称で知られる同国陸軍第93独立機械化旅団だが、撮影日時は明らかにされていない。
ウクライナ軍参謀総長は25日、バフムートの支配を巡る戦いは長く厳しかったが、ウクライナ軍がロシア軍を押し戻していると述べ、英軍事情報筋もロシア軍が防衛的戦略に移行しているようだと指摘している。
ロシアが正規軍と民間軍事会社「ワグネル・グループ」の傭兵を投入して、三方からウクライナ軍に迫っていた7カ月にわたる「バフムートの戦い」は、ロシアのウクライナ侵攻における最も長期間の戦いとなっている。 
●習近平氏が腹を固めた℃繿フ化ロシア飲み込んだ「大中華帝国」 3/28
中国の習近平総書記(国家主席)が3月20〜22日、モスクワでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談した。習氏はプーチン氏と距離を置いたかに見えた局面もあったが、今回の首脳会談で、完全にプーチン氏との連携に舵を切った形だ。
それは、なぜか。
プーチン氏を応援するためではない。逆だ。習氏は「プーチン体制の下で、ロシアを中国の影響下に置くことが可能になる」と踏んだからに違いない。弱体化するロシアを飲みこんで、「事実上の大中華帝国」の創設を目指す腹を固めたのだ。
中露両国の間には一時、冷たい風が吹いていた。昨年9月15日にウズベキスタンで開かれた首脳会談では、プーチン氏が冒頭、習氏に「あなたの疑問と懸念は理解している」と言わざるを得なかったほどだ。ウクライナの戦況が悪化し、習氏は「ロシアが敗北するのではないか」と懸念していた。
今回の首脳会談で、習氏は一転して「プーチン支援」に踏み込んだ。中国外務省によれば、中露は共同声明で「両国は軍事的、政治的、その他の優位性を得るために、他国の正当な安全保障上の利益を損なう国家とそのブロックに反対する」と表明した。名指しこそ避けたが、米欧の西側ブロックを指しているのは明白である。
習氏には、プーチン氏と距離を保っている選択肢もあった。とりわけ、インドやブラジルなど「グローバル・サウス」と呼ばれる新興・途上国の支持を得るには、建前に過ぎなくても「中立の仲介者」という顔を維持していた方がいい。
会談直前には、国際刑事裁判所(ICC)がプーチン氏に対して、ウクライナからの子供の連れ去りに関与した疑いがあるとして、戦争犯罪容疑で逮捕状を出した。そんなプーチン氏と握手すれば、中国の評判にも傷が付きかねなかった。
にもかかわらず、あえて「プーチン支援」に舵を切ったのは、同氏を見捨てれば、ウクライナの戦場でロシアが敗北し、プーチン体制が崩壊しかねないからだ。まかり間違って、民主化・親米政権が誕生するような事態になったら、悪夢である。
ロシアの勝利は望めないにしても、なんとかプーチン体制の下で「弱体化するロシア」が生き残ってくれた方が、都合が良かったのだ。そうなれば、中国に依存する以外にロシアが生き残る道はないからだ。
西側の経済制裁を受けているロシアは、中国に格安で原油と天然ガスを提供する見返りに、民生用半導体をはじめ西側製品を供給してもらっている。戦後は、ますます中国依存が高まる。中国は対露貿易を人民元建てにするだけで、事実上、ロシア経済を手中に収められる。
中露国境に近いロシア内では、すでに中国人の経済活動が活発になっている。中国人ビジネスマンと結婚するロシア女性も増えている。彼女たちこそ、「頼りになるのは中国」と分かっているのだ。
その先にあるのは、ロシアを飲み込んだ「大中華帝国」の誕生である。
一方、岸田文雄首相はウクライナを電撃訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。5月のG7(先進7カ国)首脳会議(広島サミット)を控えて、ギリギリのタイミングだった。行かないよりはマシだが、岸田首相が行ったところで、戦況が変わるわけではない。
米国では「ウクライナよりも台湾を支援せよ」という声も高まっている。「核なき世界」と「国際ルール順守」を叫ぶだけの岸田首相が、世界の大激動をどこまで理解しているのか、はなはだ心もとない。
●プーチン氏の最側近「米国が日本に軍国主義を復活」…日米連携批判  3/28
ロシアのプーチン大統領の最側近、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記は、日米の防衛連携強化に対し、「米国は日本に軍国主義の精神を復活させようとしている」と反発した。露政府紙「ロシア新聞」が27日に公開したインタビューで表明した。旧日本軍の神風特攻隊を引き合いに、日本国民は「他国の利益のためにカミカゼをしたいように見える」と一方的に主張した。
一連の発言は、緊密な日米関係に対するプーチン政権の強い警戒感の表れとみられる。パトルシェフ氏は日本が「反撃能力」の手段として、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入を計画していることに触れ、自衛隊が「攻撃作戦を行える完全な軍隊になっている」との持論を展開した。
ロシアのウクライナ侵略を巡り、パトルシェフ氏は「ロシアの存在が脅かされれば、米国を含むどのような敵も破壊できる近代的な独自の武器を持っている」と核兵器を使用する可能性にも言及した。
●ロシア 部隊の損失継続か 4月 ベラルーシと連携強化の会合へ  3/28
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、東部ドネツク州の激戦地バフムトから戦力の重点を移しているものの、部隊の損失が続いているという見方が出ています。こうした中、ロシア政府は来月、隣国ベラルーシと連携強化に向けた会合を開くと明らかにし、両首脳が戦術核兵器の配備に向けて意見を交わす可能性があります。
ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトをめぐって、ウクライナ陸軍の司令官は28日、SNSで「ロシア軍は街を包囲し掌握する試みを諦めてはいない」としたうえで、バフムトを守り抜く決意を改めて示しました。
一方で、ロシア軍は戦力の重点を、バフムトからおよそ50キロ南にあるアウディーイウカなどに移しているという見方が出ています。
アウディーイウカの戦況について、イギリス国防省は28日「ロシア軍はここ数日、街を包囲する作戦を優先している」としながら、大きな前進はないと分析したうえで、部隊に規律違反や士気の低下などの問題が生じ、損失が続いているようだとする見方を示しました。
こうした中、ロシアのミシュスチン首相は27日、プーチン大統領と、隣国で同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領が、来月6日に両国の連携強化に向けた会合を開催すると明らかにしました。
会合はモスクワで開かれるということで、プーチン大統領が先に表明した、戦術核兵器のベラルーシへの配備に向けて意見が交わされる可能性があります。
これに関連してベラルーシ外務省は28日、ロシア国営タス通信の質問に答える形で声明を発表し、戦術核兵器の受け入れは自国の安全保障と防衛力の強化のために必要で、NPT=核拡散防止条約に違反するものではないと主張しました。
●ポーランド、ハンガリー、チェコ、ルーマニア、西バルカンの経済 3/28
ポーランド:ウクライナ情勢が最重要課題
まず、ジェトロ・ワルシャワ事務所長の石賀康之は、ポーランドはEU内でも率先して対ロシア制裁を実施し、早々にロシア産エネルギーからの独立を表明、ウクライナ復興のハブになると考えられていると述べた。EUとの関係では、「法の支配」などを巡る対立があり、2022年6月にポーランドの復興計画が承認されたが復興基金の執行は一時停止されている(注)など、今後も要注目だとした。内政については、2023年秋の総選挙に向け、2019年の選挙後に増えた小政党候補者の取り込みや連立に向けた駆け引きが活発化する見込みだと解説した。
ポーランド経済について、2022年の実質GDP成長率の速報値は4.9%で、内需拡大などにより、経済は堅調に推移する見込みとした。市場・投資先としての魅力については、(1)中・東欧最大の人口、(2)EU経済を牽引するドイツに隣接する地理的優位性、(3)自動車部品などの製造拠点の集積、(4)安価で質の良い労働力や豊富なIT人材などを挙げた。ジェトロの「海外進出日系企業実態調査(欧州編)」で、ポーランドは「将来有望な販売先」として2019〜2022年に1位だと述べた。ポーランド中央統計局は2022年の消費者物価指数(CPI)上昇率を14.4%と予測。需要拡大と生産コスト上昇による物価高は続いているが、石炭と石油の価格が低下しエネルギーと燃料の高騰は収束してきているとした。
ウクライナ情勢を巡り、ポーランドはロシアによるウクライナ侵攻から約2週間でウクライナ避難民に対する支援法を施行、150万人(2023年1月時点)の避難民がポーランド国民識別番号(PESEL番号)を取得し、社会保障を受けられるようになった。2023年1月には、長期滞在の避難民に一定の費用負担を求める改正法が施行。避難民の6割が失業中で、そのスキル・能力とポーランド企業による需要が不一致との課題がマンパワーグループの2022年9〜11月の調査で浮き彫りになったとした。また、避難民支援、ニーズ調査、ウクライナ復興支援のためのプロジェクト応札に必要なポーランド政府の企業登録制度に関する相談や、戦後を見据えたビジネスなど、日系企業の相談が増えていると説明した。石賀所長は、情報通信技術(ICT)の専門技術者や企業による、近隣諸国(ベラルーシ、アルメニア、ジョージア、モルドバ、ロシア、ウクライナ)からポーランドへの移転をポーランド投資貿易庁(PAIH)が支援するプロジェクト「ポーランド・ビジネスハーバー」にも言及し、ウクライナ進出日系企業が同支援を利用してポーランドに拠点を移す動きがあるとした。
エネルギー問題に関して、ポーランドは、電源構成の8割が石炭だが、2049年までに石炭生産を廃止すると決定(2022年9月6日付地域・分析レポート参照)。国内資源をベースにした技術の多様化や発電設備容量の拡大が必須となる中、新型水素燃料電池システムに関する共同開発や、洋上風力発電所の設備・装置の受注など、ポーランドで商機を捉えようとする日系企業の動きを紹介した。
ビジネス環境については、ポーランド進出日系企業は358社(2021年10月時点)で、自動車部品関連では南西部に集積しているとした。PAIHの支援による2022年の対内直接投資額は過去最高の37億ユーロ超となった。同年7月にダイキン工業が欧州最大のヒートポンプの新工場を設立したこともあり(2022年7月19日付ビジネス短信参照)、日本は3位の投資国になったと紹介。また、ポーランドはスタートアップハブとしても注目を集め、人工知能(AI)やヘルステック、Eコマース、フィンテックなどでの起業が活況で、100万ユーロ以上の資金調達をしたスタートアップの数(約200社)は中・東欧で首位だとした。
ハンガリー:従来のロシアとの距離を維持
次に登壇したブダペスト事務所長の末廣徹はまず、ロシアやウクライナ情勢に対して独自の姿勢を示すハンガリーについて、どのような理由からこのような姿勢を取っているのかを説明した。
ハンガリーの考え方は単純に「親ロシア、反EU」と理解されがちだが、「自国第一主義」だという。政治分野では、オルバーン・ビクトル首相が2010年から4期連続で首相を務めており、「家族主義、愛国、キリスト教主義」などをキーワードに国を運営。外交分野では、自国の「主権」に強くこだわると、特徴を説明した。そのため、EUがハンガリーに求める「法の支配」の確立を巡る問題ではEUと意見が対立。2021年5月に提出したハンガリーの復興計画は、2022年11月末にようやく審査が完了するという事態になった。末廣所長は、今後のEUからの予算配分に関しては、ハンガリーがいかにEUの示す条件を達成していくかがカギになると分析した。
企業活動に強い影響がある直近の経済状況としては、物価高騰があるとした。CPI上昇率は2022年に前年比14.5%、2023年に15.0%と予測されている。ほかにも賃金上昇や労働市場の逼迫などを挙げた。この状況に対しては、雇用創出、物価の抑制、エネルギー確保を経済運営の基本とする現政権は、2022年1月に一部の食料品の強制的な価格引き下げ、2023年1月に全企業を対象とした低利融資プログラムを導入(2023年2月1日付ビジネス短信参照)といった対策を講じている。
経済分野の特徴は製造業重視にあるという。中でも裾野が広い自動車産業を大切にしており、EUの電気自動車(EV)へのシフトは企業誘致の好機と捉えていると説明。ハンガリーへは主に韓国や中国の車載用蓄電池関連の企業進出が相次いでいる。これはドイツのBMWがハンガリー東部へ進出したことが大きな契機となったという。末廣所長は、ハンガリーが目指しているのは、西欧のEVメーカーと東欧に所在する蓄電池メーカーの橋渡しとして両者がハンガリーで出会ってもらえるようになることだとした。対内直接投資の増加の恩恵で、1人当たり名目GDPは2023年に2万ドル台に乗るとの予測も紹介した。実質GDP成長率も2022年は前年比4.8%、2023年は1.5%と成長が続きそうだという。
続いて、日系企業のハンガリー進出も積極的に展開されていることを説明した。背景には、韓国系の蓄電池メーカーなどからの進出要請を受けたということがある。操業開始に至った主な進出案件として、東レ(2018年操業開始、セパレーターフィルム)、東洋インキ(2022年操業開始、正極用導電材)を挙げた。
最後に、ロシアやウクライナ情勢に対するハンガリーのスタンスを解説した。現政権はロシアによる侵略は非難し、ウクライナの主権と領土の一体性を支持という姿勢を堅持しているという。ロシアによるウクライナ侵攻開始以降、日系企業からジェトロに寄せられている質問は、ハンガリーを親ロシアの国と理解して、ハンガリーでビジネスを行うことに対する「レピュテーションリスク」があるのではないかという内容だと要約した。これに対しては、ハンガリーはロシア寄りというわけではなく、従来のロシアとの関係を維持している状況と回答していると述べた。
チェコ:政府はチェコ企業のウクライナ復興への参画を支援
プラハ事務所長の志牟田剛は、2021年に5党連立で樹立したフィアラ政権は親EU・親NATOで、政策の予見可能性が高く、EU復興基金を原資とする補助金を投じてグリーン化・デジタル化を推進中だとした。外政は、2022年1月に中国・ロシアとの関係見直しを明言した一方、日本をはじめとするインド太平洋地域の民主主義諸国・地域との協力の深化を目指しているとした。
チェコの1人当たりGDPは中・東欧で最高、2023年にスペインを超える見込みで、市場性が高いとした。実質GDP成長率は、新型コロナの影響で2020年に落ち込んだ後、順調に回復し、直近の鉱工業生産指数は2019年第4四半期の水準を上回り、失業率などの経済指標も同水準に接近したと述べた。ただし2023年のGDPは、インフレにより個人消費が落ち込み、マイナス成長となるとのチェコ財務省の予測を紹介した。
チェコはウクライナを積極的に支援しており、2022年10月に内閣が承認した「2023〜2025年におけるウクライナの人道、安定化、復興および経済部門の支援プログラム」において、チェコ企業のウクライナ復興への参画支援のための8,500万コルナを含め、年間4億1,500万コルナ(約24億9,000万円、1コルナ=約6円)を投じる予定だと紹介した。
また、2033年までの脱炭素を目指し、原子力と太陽光発電を推進するチェコ政府は、天然ガスを移行期の重要なエネルギー源と位置付けて供給に占める比率を高めていたと紹介。天然ガスは100%(2020年)をロシアから輸入していたため、対ロシア制裁で難しいかじ取りを迫られたが、EUと協調し、天然ガスの備蓄強化、企業の太陽光発電設備やヒートポンプの導入支援などのエネルギー危機対策を、2022年9月以降発表していると紹介した。
「ものづくりの国」チェコのビジネス環境については、進出日系企業272社(2022年末時点)のうち105社が製造業で、日系企業による電気機器・自動車分野での追加投資が続いているとして、需要が急増するヒートポンプ式温水暖房機の生産拡大計画を2022年9月に発表したパナソニックを例示した。日系企業の経営上の問題点は、2020年までは労務面がトップ3だったが、2021年以降コスト上昇も上位入りしていると紹介。それでも西欧と比べれば、労働コストは依然低く、顧客との地理的近接性も加わって、製造拠点としての優位性を維持していると述べた。ロシアのウクライナ侵攻後は、エネルギーコスト高騰についての相談が日系企業から多く寄せられ、2022年11月に政府が発表した大企業向け補助金プログラムを2022年11月8日付ビジネス短信で紹介したところ、反響が大きかったと紹介した。
また、チェコ、ドイツ、スロバキアを含む400キロ圏内には約20の乗用車生産拠点が集積し、この地理的優位性によって、チェコは乗用車生産台数でEU3位を誇るとした。さらに、EV(電気自動車)シフトが進む中、政府はチェコがEU域内のバッテリー供給網の中核となるべく、ギガファクトリーの建設地を選定中のフォルクスワーゲン(VW)グループへの全面的支援を表明したと述べた。
ルーマニア:補助金を活用した工場建設が盛ん
次に講演した、ブカレスト事務所長の西澤成世は、ルーマニアと欧米との関係は以前から良好だが、ウクライナ侵攻後に多数の首脳会談が行われ、イージスアショア・ミサイル防衛システムを実戦用に配備していることから、ルーマニアの存在感が高まった旨の見解を示した。
ルーマニアの1人当たりGDPは中国並み、ブカレストのワーカー賃金(2022年)も上海(2021年)に近い水準であるため、ルーマニアが日本企業の進出先として「チャイナプラスワン」または中国の代替えになり得るとした。
続いて、ルーマニアが強みをもつ産業を紹介。トウモロコシ・小麦の輸出国であるほか、生産額(2021年)がハンガリーの次に多い自動車部品も今後の産業集積が期待されるとした。製造業では2019年から2021年にかけて従業員数が7%減少したが、企業数は8%増、総収益は11%増となり、1人当たり生産性が高まった、と分析した。
さらに、ルーマニアでは、情報通信技術(ICT)分野の従事者数で中・東欧で3位を誇り、IT・ソフトウェア分野の2014〜2019年の年平均実質GDP成長率は15%と製造業全体の4%を上回り、同国経済を牽引していると強調した。IT人材は、クルージュ県、ティミシュ県、ヤシ県の大学などでも輩出され、ブカレスト以外にも分布しているとした。また、IT技術者が手取り給与1,500ユーロを得るために雇用主が負担すべき総コストは、税制優遇により2,360ユーロに抑えられているとした。また、ルーマニアの同産業では人件費と1人当たり労働生産高の両方が低いため、オフショア開発に適しているとした。IT・ソフトウェア企業数は2019年から2021年に31%、総収益は40%、従業員数は19%、それぞれ増加したとの調査結果を示した。
エネルギーに関しては、ルーマニアの電源構成トップ3は水力、原子力、脱炭素に向け比率を下げている石炭だと紹介。エネルギー全体の2020年の輸入依存度は28.2%とEU最低水準で、ロシア依存度は2割未満だとした。天然ガスはロシアから輸入していたが、ロシアによるウクライナ侵攻以降、黒海やオンショアでの採掘開発が急ピッチで進んでおり、2022年12月にはギリシャとブルガリアを結ぶ天然ガスパイプライン「インターコネクター・ギリシャ・ブルガリア(IGB)」経由でモルドバへの輸送が開始したと紹介した。原子力発電については、稼働中のカナダ重水素ウラン方式の原発に加え、ウクライナ侵攻前から小型モジュール炉の建設計画が進行中だと述べた。
投資環境については、EU基金を原資とする新規投資・雇用への補助金を活用した建設ラッシュが起きており、製造業向け国庫補助金(2022年10月17日付ビジネス短信参照)は日本企業も利用可能とした。日本の製造業は、高速道路がありハンガリーへのアクセスが良い西部とブカレスト周辺に多く立地。ウクライナ情勢下で、黒海とドナウ川に通じるコンスタンツァ港への注目が高まっており、2023年6月29日にジェトロは同港視察ミッションを派遣予定だと言及した。
西バルカン:関心高まる「欧州のラストフロンティア」
最後に講演した、ウィーン事務所長の神野達雄は、EU加盟国以外の旧ユーゴスラビア諸国(セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、コソボ、モンテネグロ)とアルバニアから成る西バルカンの経済概況を紹介した。市場規模は6カ国合計で約1,800万人(うちセルビアが683万人で最大)、いずれもEU加盟準備中で、セルビア以外はNATO加盟国または加盟を希望している。
ウィーン比較経済研究所(WIIW)によると2021年、西バルカン諸国のGDP成長率はコロナ禍から回復し総じて高かった(最高のモンテネグロが13.0%、セルビアは7.5%)が、1人当たりGDPは最大のセルビアでも7,802ユーロにとどまるとした。さらに、西バルカン諸国のGDPは2022年も平均2.8%増加するが、2023年はインフレによる消費の冷え込みなどにより減速し、2024〜2025年に回復するとの見通しを紹介した。同諸国の月額賃金水準は上昇傾向にあるが、2021年時点でも欧州最低(最大のボスニア・ヘルツェゴビナでも788ユーロ、セルビアは772ユーロ)。西バルカン諸国の2023年の失業率予測はセルビアの9.0%を除き10.0%超と、他の中・東欧諸国より高く、人材確保面で余裕があるとした。
西バルカン諸国の投資環境については、法人税率は10〜15%で、各国ごとに投資優遇措置があり(例:セルビアでは3,000万ユーロ、150人雇用の製造業投資に対し、投資額の17%を助成)、日・セルビア租税条約が2021年12月に発効したと説明した。また、貿易のシェアが高いEUへの統合に関し、欧州委員会が2022年7月に、アルバニアおよび北マケドニアとの間で停滞していた加盟交渉の開始をようやく決定、12月にはボスニア・ヘルツェゴビナに加盟候補国の地位を付与したと紹介。ウクライナ情勢下で各国がロシアへ傾くことを防ぐ意図で、進捗を示したと考えられるとした。
西バルカンでは、ドイツの自動車部品メーカーが自動車産業集積地であるハンガリーと隣接したセルビアなどに、イタリア・オーストリアの銀行・保険会社などが広く西バルカン諸国で、操業しているとした。日本企業による進出数は、ポーランド、ハンガリー、チェコ、ルーマニアへの進出数には及ばないが、西バルカンでは最多のセルビアへの関心が特に高まっていると述べた。直近ではTOYO TIRE が2022年12月にセルビアに欧州初のタイヤ工場を正式に開所し(2022年12月22日付ビジネス短信参照)、日本電産が2023年中に同国にEV向けインバーター工場を操業開始予定だと紹介した。セルビアはIT人材が豊富なため、NTTデータなどによるオフショア開発も進んでいるとした。
神野所長は最後に、セルビアの外政を説明した。セルビアはEU加盟を目指す一方、ロシア・中国とも良好関係を保ち、対ロシア経済制裁に不参加であるため「親ロシア」と目されることもある。しかし、セルビア側は不参加の理由を「過去にセルビアが経済制裁を受けた際に国民は苦しんだが、政府には影響がなかったため」と説明し、国連のロシア非難決議にも賛成しているため、「完全な親ロシア」ではないと解説した。他方で、2008年にセルビアからの独立を宣言したコソボを承認していないロシアとの完全対立を避けたいセルビアの事情にも言及した。
なお、ブチッチ大統領が2022年4月に再選されて政権は安定しており、外資を積極的に誘致しているが、日本や米国の企業からは、セルビアが西側諸国のサプライチェーンから除外されることを懸念する声もあがっている。しかし、2022年10月に、ジェトロはセルビアへ日本企業によるミッションを派遣したが、米国もIBMなどが参加するミッションを同月派遣して商談会を開催しており、米国もセルビアをサプライチェーンから除外することは考えていない証左ではないかと述べた。また、EU諸国もセルビアがロシアに傾くことは避けたい意向であろうと述べた。

 

●習国家主席がプーチン大統領と会談、両国のつながりを強調 3/29
中国の習近平国家主席は3月20〜22日にロシアを訪問し、21日にウラジーミル・プーチン大統領と会談を行った。会談で、習国家主席は「国際情勢がいかに変わろうとも、中国とロシアの新時代の全面的戦略協力パートナーシップの推進に力を尽くす」と両国のつながりを強調した。
会談後の記者会見で習国家主席は、中ロの関係は2国間関係の範囲を超え、世界情勢と人類の前途と運命にとって極めて重要なものになったと評価した。
また、双方は、エネルギー、資源、機械・電機製品の貿易、産業チェーン・サプライチェーンのレジリエンス強化といった分野のほか、情報テクノロジー、デジタルエコノミー、農業、サービス貿易などでの協力に同意したとされる。
会談終了後には、(1)「新時代の全面的戦略協力パートナーシップの深化に関する共同声明」と、それに基づいた2030年までの経済面での具体的協力内容を示した(2)「2030年までの中国・ロシア経済協力の重要方針発展計画に関する共同声明」に署名した。
(1)では、ガス、石炭、電力、原子力エネルギー分野での協力推進や、エネルギー製品のサプライチェーン安定が盛り込まれたほか、農産品・食糧貿易の多様化と拡大が約束された。また、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、5G(第5世代移動通信システム)、デジタルエコノミー、低炭素排出などで新たな協力モデルを探るとされた。
核兵器の使用回避についても同意した。その上で、米国、英国、オーストラリアの安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に懸念を表明し、日本の東京電力福島第一原子力発電所からの処理水排出についても、近隣諸国や国際機関と透明かつ十分な協議を行うべきとした。
また、ロシアは、中国のウクライナ危機に関する立場を評価し、解決に向けた政治的・外交的ルートでの役割発揮を歓迎するとした。その上で双方は、各国の合理的な安全保障に対する懸念を尊重し陣営対立を防ぐべきだとして、一方的な制裁の停止を呼びかけた。
(2)では、貿易の拡大や物流の相互連結のほか、金融分野での協力では貿易、投資、ローンなどで現地通貨決済比率を高めることが盛り込まれた。
なお、習国家主席は3月20日付の人民日報に「意気盛んに前進し、中国・ロシアの友好協力と共同発展の新章を開く」と題した文章を発表し、両国関係強化の意気込みを述べている。
●アルメニア、ICC加盟の動き プーチン氏逮捕も、ロシアはけん制 3/29
「親ロシア」で知られた旧ソ連構成国アルメニアが、国際刑事裁判所(ICC)加盟に動いている。ICCはウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領に対し、戦争犯罪の疑いで逮捕状を発付したばかり。加盟すれば理論上、プーチン氏が入国した場合にアルメニアが逮捕できるため、ロシア外務省は加盟を「断固容認できない」とけん制している。
アルメニアは、駐留ロシア軍の基地があるほか、ロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)にも加入。一方、ICC加盟に向け設立条約に署名したものの、批准を棚上げしていた。
ところが、昨年12月に批准法案をまとめ、ICC入りへかじを切った。係争地ナゴルノカラバフを巡って対立するアゼルバイジャンの「戦争犯罪」を国際社会で主張するのが狙いだ。
プーチン氏の逮捕状が出た後も、加盟方針に変化はない。憲法裁判所は今月24日、「憲法に矛盾しない」との判断を下し、批准の準備は整った。ロシアに配慮するかは不透明なままだ。
背景にはロシアに対する複雑な感情がある。アゼルバイジャンはトルコが後ろ盾で、アルメニアはロシアが頼みの綱だ。だが、2020年に紛争が再燃した際、ロシアもCSTOも介入できずアルメニアは事実上敗北。プーチン政権の助けが必要な状況に変わりはないが、不満が募っている。
アルメニアのパシニャン首相は昨年11月、首都エレバンで開いたCSTO首脳会議で、プーチン氏を前に軍事同盟の「機能不全」を批判した。自国で今年予定したCSTOの軍事演習も、年明け早々に中止を表明。ナゴルノカラバフに駐留する平和維持部隊への不満から、ロシア軍基地周辺では抗議デモも起きた。
アルメニアがICCに加盟すれば、独立国家共同体(CIS)ではタジキスタンに次いで2カ国目。プーチン氏は西側諸国はおろか、ロシアの勢力圏内も自由に外遊できなくなる。
ただ、プーチン氏が逮捕を恐れてアルメニアを訪問できなくなれば、パシニャン氏が訪ロする機会も減ることになり、デメリットは大きい。タス通信によると、ロシア外務省は27日、ICC加盟は2国間関係に「極めて深刻な結果」をもたらすとアルメニアに警告した。
●プーチン政権 兵器の生産拡大厳しく求める 3/29
ウクライナにドイツやイギリスの主力戦車が引き渡される中、ロシアは兵器の生産拡大を求める姿勢を強めています。
ロシア国防省は28日、ショイグ国防相がウクライナ侵攻で使われているミサイルや砲弾などを生産するロシア中部の2か所の軍需企業を視察したと発表しました。
国防省は「生産体制の見直しで一部の弾薬の生産量は今年末までに7〜8倍になる」と主張しています。
欧米がウクライナへの軍事支援を強める中、プーチン政権は兵器の生産拡大を企業側に厳しく求める姿勢を強めています。
メドベージェフ前大統領は23日、軍事産業に関する会議の場で、第二次世界大戦中に戦車の生産が遅れれば処罰すると警告したソ連時代の独裁者スターリンの電報を読み上げ、企業が要求に応えられなければ刑事罰を科す可能性を示唆して、生産を急ぐよう指示しています。
●英・主力戦車「チャレンジャー2」がウクライナ到着 3/29
ウクライナ情勢です。ドイツやイギリスの主力戦車がウクライナに引き渡されました。一方、ロシアは兵器の生産拡大を求める姿勢を強めています。
ウクライナ レズニコフ国防相「イギリス、ありがとう」
ウクライナのレズニコフ国防相は、28日、到着したイギリスの主力戦車「チャレンジャー2」の動画をSNSに投稿しました。
前日には、アメリカやドイツなどから供与された装甲車などと写った写真を載せていて、「1年前、私たちのパートナーのサポートが、これほど強力なものになるとは、誰も思っていなかっただろう」とコメント。ロシアに占領されている地域の奪還に意欲を示しました。
一方、ロシアのショイグ国防相は、ウクライナ侵攻で使われているミサイルや砲弾などを生産する国内の2か所の企業を視察しました。
国防省は「生産体制の見直しで、一部の弾薬の生産量は今年末までに7倍から8倍になる」と主張していて、プーチン政権は兵器の生産拡大を企業側にさらに厳しく求めています。
●結局「バフムト攻略戦」はロシア・ワグネルの敗色濃厚 “勝敗の分れ目” 3/29
ロイターは3月24日、「ウクライナ軍、近く反転攻勢 バフムトでロシア軍失速=陸軍司令官」の記事を配信し、YAHOO! ニュースのトピックスに転載された。ウクライナのシルスキー陸軍司令官が《ロシア軍の大規模な冬の攻勢は東部ドネツク州の要衝バフムトを陥落させられないまま失速している》と明らかにしたことを伝えた。
「バフムトの激戦」と報じられることが多いが、改めて振り返ると、まさに「血で血を洗う」戦闘が長期間にわたって続いていることが分かる。担当記者が言う。
「バフムトはウクライナ東部に位置し、北部の首都キーウとアゾフ海に面した港湾都市マリウポリを結ぶ、文字通り交通の要衝です。2014年、ロシアはクリミア半島を実効支配し、ウクライナはこれに対抗するためNATO(北大西洋条約機構)の助言を受けながら東部の重要都市で要塞化を進めました。その中の1つがバフムトです」
ロシア軍がバフムトへの攻勢を強めたのは昨年の5月頃。攻撃の主体は民間軍事会社(PMC)のワグネルだった。
ワグネルの創始者であるエフゲニー・プリゴジン氏(61)は、ウラジーミル・プーチン大統領(70)に近い人物とされている。
「ワグネルは刑務所での“リクルート”を許可され、囚人を兵士にするという奇策に打って出ました。バフムトの戦いで無謀な前進を命じられた囚人兵は、それに従ったためウクライナ軍の砲撃で多数が戦死。ワグネルはその犠牲を利用して敵の砲兵部隊の位置を割り出し、反撃の砲撃を行うという非人道的な作戦を実行したのです」(同・記者)
バフムトの戦略的価値
ワグネルと同じくロシアの正規軍も動員兵を消耗品として扱い、多大な犠牲を出しながら攻撃を続行する“出血作戦”を進めた。
「こうしたロシア軍の無謀な攻撃を、ウクライナ国防省の幹部は『文字通り味方の死体を乗り越えて前進している』と表現しています。年が明けて今年1月、ワグネルは勝機を見出したのか、最精鋭の部隊をバフムトに投入。ウクライナ軍はバフムト近郊のソレダルから撤退したことを認めました」(同・記者)
2月に入ると複数のアメリカメディアが「欧米諸国がウクライナ軍に、戦力温存のためバフムトから撤退すべきだと助言している」と報道。だが、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領(45)は「われわれは可能な限り戦う」と撤退を否定した。
「日本の一部メディアは、バフムトが“抗戦の象徴的存在”であるため、ウクライナは引くに引けないとも報じましたが、それはバフムトの戦略的価値を過小評価した分析です。バフムトはキーフとクリミア半島を結ぶ交通の要衝であり、ウクライナ軍にとってもロシア軍にとっても絶対に確保したい重要地点です。だからこそ血で血を洗う激戦が繰り広げられているのです」(同・記者)
ワグネルとの不協和音
読売新聞は2月15日夕刊に「戦場へ受刑者 露国防省も 米報道 突撃部隊 戦死相次ぐ」との記事を掲載した。
記事はCNNの報道を紹介するもので、ロシアの正規軍さえも囚人を兵士として採用していたという内容だった。
《元軍人だったという受刑者はCNNに対し、昨年10月、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムト近郊ソレダル周辺の工場への攻撃に参加したと述べた。生還したのは約130人のうち約40人だったという》
恐るべき戦死率であり、これにはワグネルも悲鳴を上げた。時事通信は3月6日、「ワグネル、武器を要求=『前線崩壊』警告、不協和音-ウクライナ」の記事を配信した。
「プリゴジン氏がロシア軍に対して、『武器が不足している』と強い不満を表明したのです。《ワグネルが今、バフムトから退却したら全ての前線が崩壊する》という脅しのような言葉もありました。プーチン大統領に対する“点数稼ぎ”を露骨に行うワグネルを、ロシア正規軍の幹部は苦々しく思っていました。ワグネルとロシア軍の不協和音は、バフムトの激戦で表面化したのです」(同・記者)
ワグネルの増長
いたずらに死傷者を増やすだけの稚拙な作戦に、PMCと正規軍の不協和音──こんな状態では勝てる戦争も勝てないだろう。
ウクライナ軍はバフムトで持ち堪え、いよいよ反撃に出ると報道された。2014年から要塞化を進め、物資も着々と備蓄してきたバフムトを陥落させるのは難しかったのだ。
ロシアの敗因について軍事ジャーナリストは「そもそもワグネルが攻撃の主体になることがおかしかったのです」と言う。
「PMCは『戦場における警備会社』というのが本来の任務です。正規軍が攻撃を行っている間、基地などの防衛を担うわけです。アメリカ軍もPMCを活用しますが、『敵の要衝を攻撃してくれ』などと依頼することはありません。カネで危険な仕事を請け負う集団ですから、それこそ裏切りのリスクも否定できないのです。ワグネルがバフムト攻略戦で活躍していたという時点で、ロシア正規軍は相当に弱体化していたと考えられます」
緒戦でロシア軍は、大軍でウクライナに侵攻した。だが、ウクライナ軍の必死の抵抗により、まずは将軍クラスに多数の戦死者が出た。
教育レベル
その後もウクライナ軍は善戦を続け、ロシア軍に多大な損害を与えてきた。「ロシア軍はバフムトでワグネルをわざと支援しなかった」という見方もあるが、そもそもロシアの正規軍に充分な戦力があれば、バフムト攻略戦にワグネルは不必要だったはずだ。
「欧米のメディアを中心として、ワグネルと囚人兵が脅威として認識されたのは、『彼らなら人を殺すことに躊躇がない』という考えがあったからでしょう。それは事実かもしれませんが、結局のところPMCは正規軍の敵ではないという事実が証明されただけでした」(同・軍事ジャーナリスト)
特に現代の戦争では、タブレットなどIT機器の活用が当たり前となり、兵士の一人一人に“高い教育”が求められている。
「アメリカの南北戦争(1861〜65年)で、『教育レベルの高い兵士は強い』という事実が証明されました。その後、富国強兵を目指す近代国家は、公教育の拡充が重要政策と考えてきました。率直に言って、囚人兵は教育レベルの低い者も少なくないでしょう。彼らが衛星回線や無線を使い、自分たちの位置を報告しながら砲兵隊と連携して攻撃を仕掛けることなど無理です」(同・軍事ジャーナリスト)
しっかりとした教育を受け、自分の国を守るという気概に溢れたウクライナ兵に勝てるはずもなかったのだ。
砲撃戦の勝者
もちろん、兵士がいくら優秀でも武器がなければ戦えない。NATO諸国の武器供与もウクライナ軍を強くしたことは言うまでもない。
「ゼレンスキー大統領は、自爆ドローンの『スイッチブレード』や歩兵携行式多目的ミサイルの『ジャベリン』などの供与を強く求めていました。ところが最近は、こうしたハイテク兵器に言及することが少なくなっています。実は、イギリスの国防省などがまとめたレポートによると、今回の戦争で最も威力を発揮しているのは榴弾砲なのです」(同・軍事ジャーナリスト)
榴弾砲とは、要するに大砲のことだ。開けた平地の多いヨーロッパでは第一次大戦でも第二次大戦でも大砲が威力を発揮した。
「バフムトではウクライナ軍もロシア軍も大量の砲撃で相手を屈服させようとしました。しかし、ロシア軍やワグネルは砲弾の確保に苦しみ、北朝鮮から調達していたほどです。そのため不良品や不発弾が相当な割合に達したとも指摘されています。一方のウクライナ軍はNATO諸国から多数の榴弾砲と砲弾を供与されています。火力に勝るウクライナ軍がロシア軍とワグネルを退けたのは必然だったと言っていいでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
必要な航空戦力
春にバフムトからロシア軍を駆逐すれば、いよいよウクライナ軍はNATO諸国から供与された戦車を実戦に投入することができる。
「ウクライナはクリミア半島の奪還を公言しています。そのためにはバフムトの南側に位置し、海に面したマリウポリをロシア軍から奪い返す必要があります。マリウポリは昨年6月、アゾフスターリ製鉄所での籠城戦が大きく報道されました。最終的にウクライナ軍は敗走せざるを得なくなり、今はロシアが実効支配しています」(同・軍事ジャーナリスト)
ウクライナとしては大攻勢を仕掛けたいところだが、やはり慎重に行動する必要があるという。
「ロシアにとってウクライナからの完全撤退は最悪のシナリオですが、それでも国が亡ぶわけではありません。一方のウクライナは、安易に反攻を仕掛けて反撃を受けると、領土を失ってしまう可能性があります。NATO諸国から戦車の供与を受けたとしても、本来であれば航空優勢も保持するのがセオリーです。今のところアメリカは戦闘機や爆撃機の供与は否定しています。ゼレンスキー大統領としては粘り強く交渉し、何らかの航空支援を取り付けたいと必死でしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
●米、戦略核兵器の情報共有を停止 ロシアに通知  3/29
ロシアが新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を決めたことを受け、米国は戦略核兵器に関する情報共有を停止するとロシア側に伝えた。複数の米政府関係者が28日明らかにした。
あるバイデン政権高官は、ロシアの履行停止を受けて「条約に基づき初めて講じた措置」だと語り、「ロシアに再び履行を促すことが目的」だと説明した。
ロシアの新START履行停止はウラジーミル・プーチン大統領が先月表明していた。
米国の情報共有停止の決定は27日、ボニー・ジェンキンス国務次官からロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官に伝えた。
米国の情報共有停止について元政府関係者の間では、条約履行停止の代償が大きいことをロシアに理解させる上で必要な措置だと指摘する声も上がっている。
その一方で軍縮推進派などは、米ロの核軍拡競争を長年抑制してきた枠組みが徐々に白紙に戻ることに対し、懸念を表明している。
●ウクライナ戦争とグローバル・サウス 3/29
1.はじめに
ウクライナ戦争がロシアによる理不尽な侵略であることは誰しも認めるところであるが、世界全体を見渡した時、すべての国がロシアを非難する側に回っていないことに気づく。それどころか、ロシア非難に与しない国々が例外的な少数派でなく、むしろ相当数にのぼっている。なぜ、これらの国々は、どちらつかずの態度を取るのであろうか? こうした国々、特にグローバル・サウスの眼に、ウクライナ戦争をめぐる国際社会の対応はどう見えているのだろうか? 本稿では、国連総会におけるロシア非難決議に対する投票行動という切り口から、グローバル・サウスを代表する存在としてのアフリカ諸国を中心に分析してみたい。
2.国連決議における票の割れ方
昨年2月24日の侵略開始から程ない3月2日に国連で対ロシア非難決議(UNGA Resolution ES-11)が採決に付されているが、アフリカ54カ国のうち、賛成は28カ国だけである。反対はエリトリア1カ国のみであるが、残りは棄権17カ国、欠席8カ国である。すなわち、賛成していない(棄権や欠席を含め)国々の数を見れば、アフリカ54カ国中、実に26カ国(48%)が賛成していないのである。アフリカ連合(AU)もその前身であるアフリカ統一機構(OAU)も、政治・経済両面でのアフリカの統合を目的として謳っていたが、ウクライナ戦争を前にして、アフリカは真二つに分断されていると言っても過言ではない。
さて、その後この分断に変化は見られるのだろうか? 昨年10月12日には、ロシアによるウクライナの4地域併合を認めないとする決議(UNGA Resolution ES-11/4)が国連総会で投票に付されたが、アフリカ54カ国中賛成30カ国に対し、24カ国(44%)が賛成しておらず(反対ゼロ、棄権19、欠席5)、その比率は3月2日の48%から若干下がったもののアフリカの分断は解消していない。
比較のために全世界の投票パターンと比較してみたい。3月2日の決議については、賛成141カ国に対し、賛成でない国(反対+棄権+欠席)が52カ国(27%)である。これに対し、10月12日の決議では、賛成143カ国に対し、賛成でない国(反対+棄権+欠席)が50カ国(26%)である。27%と26%ではほぼ同率とみて良かろう。分断の状況は全世界ではあまり変わらず、アフリカだけで見れば僅かの賛成増加に留まっている。
(なお、ロシアによるウクライナ侵攻から一年になるのを前にして、本年2月23日に「停戦とロシア軍の即時撤退」を求める決議が国連総会で採択された。この際の票の割れ方を見ると、全世界で賛成でない国が27%と前2回とほぼ同率、アフリカ諸国では44%と10月12日の決議の時と変わらなかった。ちなみに、賛成していない国の比率の変遷は、全世界では27%→26%→27%、アフリカ諸国では48%→44%→44%となる。)
3.ロシアをめぐる歴史的経緯
こうした分断の理由を理解するには、まず歴史的背景に目を向ける必要がある。アフリカのいくつかの国々には、かつて独立戦争の時代にソ連の支援を受けていた経緯があり、ロシアに対する恩義や親近感が指導層を中心に残存していることが挙げられる。例えば、ナミビアは3月2日、10月12日、本年2月23日と、どの決議にも棄権したが、政権党であるSWAPOは内戦中にソ連からの支援を受けており、それ以来の親露感が現在に受け継がれていると考えられる。アンゴラやモザンビークも、植民地宗主国ポルトガルに対する独立戦争においてキューバと共にソ連からの支援を受けたが、モザンビークは上記国連総会決議のすべてで棄権、アンゴラは10月12日の決議には賛成しているものの3月2日の決議には棄権している。また、本年2月23日の決議にも棄権している。
G20の一員でもある南アにも同様の歴史がある。アパルトヘイト廃止以来の政権党である与党ANC(アフリカ国民会議)は、アパルトヘイト体制下で非合法化されていたが、長年の反アパルトヘイト闘争の間、ソ連から継続的な支援を受けていた。南アのパンドール外相は、1月下旬にEUのボレル外交委員と会談した際、ANCが反アパルトヘイト闘争を闘っていた時代、欧州が軍事支援を行なってくれなかったことを指摘し、欧州は南アに説教する立場にない、と述べたと報じられている。(更に1月には、南アはラブロフ露外相の訪問を受け入れており、2月にはさらに露・中との3カ国海軍共同演習を実施している) ちなみに、南アは一貫して国連での決議に棄権票を投じている。
4.他の人道上の危機との対比
ロシアのウクライナ侵略は決して是認できるものではないが、世界の各地で発生してきた人道上の危機に、先進諸国がウクライナに対するのと同様に取り組んでくれたのかという問いかけがグローバル・サウスの側にあるのは否めないであろう。アフリカや中東からの難民・移民の受け入れに対してEU加盟諸国は概して厳しい姿勢をとってきている。例えば、シリアやイエメン、あるいは南スーダンの内戦などから引き起こされた人道的な危機に対し、西側諸国が現在ウクライナに向けられているのと同様の関心や支援を向けてきたのかという問いかけに合理性がないとは言えまい。
議論はそれだけにはとどまらない。対ウクライナ支援の累計(出典:Kiel世界経済研究所)は、本年1月15日現在で米国から732億ユーロ、EU諸国から549億ユーロとなっており、米欧以外からの支援を除いても、米・EUの合計が1281億ユーロ(約1381億ドル)に達している。他方、OECDによれば2021年のODAの合計は1749億ドル(DAC統計)であり、ウクライナ支援はODA総額に匹敵する金額になっている。
「ウクライナ戦争に起因する支援が開発目的に回されれば、ODAの倍増もあり得たのでは」との思いをグローバル・サウスが抱いてもあながち理不尽とは言えまい。領土保全や主権平等は、国連にとってもアフリカ連合(AU)及び前身のOAUにとっても発足以来の重要原則であり、これに照らしてもロシアのウクライナ侵攻は認められず、国連の対ロシア非難決議に真っ向からは反対できない。他方で、上記の二律背反がある。多くのアフリカ諸国が棄権ないし欠席という消極的な意思表示を選んだのは、このようなディレンマゆえと考えられる。
5.中国による12項目提案
なお、中国は本年2月24日にウクライナ戦争に関する12項目の提案を行ったが、同提案が有効な和解案として機能するかについては懐疑的な見方が多い。たとえば12項目の一つである「戦闘の停止」は、ロシアが占領しているウクライナの領域を現状のまま固定化することにつながり、ロシア寄りの決着になってしまうのでウクライナ側が受け入れられる解決にはなり得ない。だが、中国提案の目的は、和平を現実化するためではなく、グローバル・サウスに対して中国が「平和を求める非同盟中立の仲介者」という姿をアピールするためだったたのではないだろうか。
中国は伝統的に、開発途上国の一員でありその利害を代表する盟主的存在であると自負してきた。こうした立場は、古くは1955年のインドネシア・バンドンにおけるアジア・アフリカ会議にまで遡るが、現在も生きている。たとえば、気候変動交渉において、中国は「G77+中国」というグループに所属しており、世界第2位の経済大国になりハイテク分野でアメリカを脅かすまでに至ってもなおこのグループから外れていない。このような中国のアイデンティティは実態からは乖離しているが、中国がいまだにこれを捨てないのは、そこに国益を見出しているからであり、12項目提案もこうした中国の立ち位置を背景にしたものだと考えられる。
6.プロパガンダの影響
さらに指摘すべきは、ロシアがグローバル・サウスを念頭にプロパガンダを強めていることであり、これがグローバル・サウスの旗幟が不鮮明になる傾向を助長している。ロシアは、自国の国際放送やソーシャルメディアを通じて、たとえば「食料価格の高騰は(黒海における海運を自国が妨害しているためではなく)西側の制裁によるものである」「ウクライナ難民が西側諸国に温かく受け入れられているのとは対照的に、シリア難民は冷たくあしらわれてきた」「アフリカの留学生がウクライナから退避する際のウクライナの扱いが不適切であった」等の主張がロシア側のメディアによってなされている模様である。また、中国がロシアのプロパガンダに便乗している面もあり、ウクライナが国家として存在すること自体は否定しないまでも、戦争の責任を米国とNATOに押し付けるロシアのレトリックは踏襲しているようである。
7.おわりに
米中対立の尖鋭化、ロシアのウクライナ侵攻を経て、世界は民主主義国家群 vs. 権威主義国家群の対立の時代に入ったと言われる。一時期は、コロナの蔓延を防止するのに権威主義的体勢のほうが優れているとの主張も行われたが、中国のゼロコロナ政策が放棄されてからは、さすがにこうした議論は下火になった。しかし依然として変わらないのは、この角逐をじっと見守っているグローバル・サウスの存在である。両国家群の間の競争は、グローバル・サウスの心(hearts and minds)をどちらが掴むかの競争でもある。この意味でも、難民・移民政策を含め従来の政策を見直す余地がある。我が国を含む民主主義国家群が手をこまぬいていても、グローバル・サウスの人々の心は、いずれはこちら側になびくのだと慢心してはいられない状況が続いていることを肝に銘じる必要がある。
●エネルギー危機は23年が本番、日本経済「窮乏化」を阻止せよ 3/29
2022年2月24日――。ロシアがウクライナに侵攻したこの日、私たちは「歴史の歯車」が逆回転する光景を目にした。それから約1年、第2次世界大戦後に培ってきた国際政治の秩序と世界経済の神話が音を立てて崩壊しつつある。
カギとなるのはエネルギー、特に原油価格の動向だ。原油価格が高騰し、かつ円安が進行すれば交易条件が悪化し、日本から巨額の国富が流出しかねない。ゼロコロナ政策を転換した中国経済の動向によっては、エネルギー需給が逼迫することもあり得る。
日経ビジネスLIVEは2月、「ウクライナ侵攻から1年 エネルギー危機は23年が本番、日本経済『窮乏化』を阻止せよ」と題するウェビナーを開催。登壇したのは、みずほ証券エクイティ調査部の小林俊介チーフエコノミストだ。世界秩序の転換が日本経済、そして企業経営にどんな影響を及ぼすのか。経済分析のプロに展望を語っていただいた。
森永輔・日経ビジネス・シニアエディター(以下、森):皆さん、こんばんは。本日は「ウクライナ侵攻から1年 エネルギー危機は23年が本番、日本経済『窮乏化』を阻止せよ」をテーマに、みずほ証券チーフエコノミストの小林俊介さんにご登壇いただきます。小林さん、よろしくお願いいたします。
小林俊介・みずほ証券チーフエコノミスト(以下、小林氏):皆さん、こんばんは。本日するお話の中核部分は、ウクライナ戦争によって世界経済や日本経済がどのようなインパクトを受けているのか、今後、それをどう回避していくかです。
その前提として、ウクライナ戦争が歴史的にどのような意義を持つのかを概観したいと思います。
冷戦後の平和な時代は転換点を迎えていた
小林氏:まず、冷戦後に進んだグローバリゼーションが10年以上前から転換点を迎えていた可能性があります。転換後の世界を象徴する1つの現象として今回のウクライナ危機を位置づけると、これまでばらばらだった点と点が線としてつながる形で国際政治経済を整理することができると思います。
そこで共有したいのが「国際政治経済のトリレンマ」という考え方です(上の図)。米ハーバード大学ケネディ・スクールのダニ・ロドリック教授が提唱しました。「国家主権、民主主義、グローバリゼーションという3つの目標を同時に満たすことはできない。少なくとも、1つか2つは落とさなければならない」ということを示しています。
例えば、民主主義とグローバリゼーションが満たされるケースでは、世界政府のようなものが存在する世界が考えられます。世界政府が存在すれば国家主権は存在することができません。
このトリレンマの中で、各国はどれを落とすのでしょう。いわゆる社会主義国や権威主義国家は国家主権を重視する。よって、民主主義を落とすことがほぼ決定します。もしチャンスがあればグローバリゼーションの恩恵にあやかろうと考えますから、三角形の中では左上の部分に位置します。この状態を国際的なジャーナリストのトーマス・フリードマン氏は「黄金の囚人服」と表現しました。今回の話の主要プレーヤーであるロシアは、ずっと昔からこの位置にいます。
他方、変化してきているのは、ロシアとは反対の軸にいた西側諸国です。このグループは、冷戦期には右上に位置していました。国是として民主主義を落とすわけにはいきません。冷戦を戦い抜くに当たって民主主義と国家主権を選択しました。ロドリック氏はこれを「ブレトンウッズの妥協」と呼んでいます。
しかし冷戦が終結し平和な時代が訪れると、それまでのようながちがちの国家主権は必要なくなりました。代わって、「平和の配当」としてグローバリゼーションが進んだのです。1990〜2010年の約20年間、民主主義とグローバリゼーションのいいところ取り、すなわち「グローバルガバナンス」が進みました。
ところが今日に至る10年の間に、グローバリゼーションから離れる逆方向の動きが始まりました。この点は、今後のトレンドを考える上で重要なカギになると思います。なぜ逆方向の動きが始まったのか。それは、グローバリゼーションがもたらす不都合な真実に直面したからです。
グローバルガバナンスの「不都合な真実」
小林氏:グローバリゼーションがもたらす不都合な真実は大きく分けて2つあります。1つは格差の拡大。これは「底辺への競争」によって生じます。最近、ジャネット・イエレン米財務長官が使用して注目されましたが、新しい言葉ではありません。米国の裁判所が1933年に初めて使用したといわれています。
底辺への競争は、グローバリゼーションを進めれば必ず生じる運命のようなものと言ってもいいかもしれません。具体的には2つあります。1つは、企業誘致を目的とした、法人税減税や規制緩和の競争。企業を誘致できれば大きな税収を得られますから、この競争が加速していくのです。
過去30年間の動きを見ると、多くの国が法人税率を引き下げました。そして、法人税を下げた分を穴埋めするために消費税を引き上げています。
もう1つの競争は、賃金をめぐる新興国との競争です。国際競争が激化し、法人税の安い国に企業が拠点を移すと、先進国の中間層は職を失いかねません。よって、賃金をめぐって新興国と競争しなければならなくなるのです。先進国の中間層は、賃金が目減りするのと並行して消費税が増えるので、実質賃金はどんどん低下していきます。
例えば、米アマゾン・ドット・コムを創業したジェフ・ベゾフ氏は法人減税によってどんどんもうかるのですが、同社に勤めている人々の暮らしはどんどん苦しくなっていく。格差が拡大するわけです。
こうした動きがあちこちで起きており、グローバリゼーションに対するアンチの声が強まりました。トランプ現象しかり、サンダース旋風しかり。ブレグジット(英国によるEU=欧州連合=離脱)もネオナチ運動も同根の問題と言えるでしょう。
グローバリゼーションがもたらす不都合な真実の2つ目は、安全保障の問題です。グローバリゼーションは新興国に力を与え、いずれ覇権国に挑戦する権利を与えてしまう。結果として、米国の国際政治学者サミュエル・ハンティントンが提唱した「文明の衝突」が生じる可能性が高まります。この衝突は、現在から2400年以上も前に古代ギリシャのトゥキディデスによって叙述された『戦史』から変わらない、人類史のさがのようなものだと思ってください。
覇権国が「強い状態」をずっと維持すれば、逆らう国や人はいませんから、戦争は起こりません。しかし、グローバリゼーションは新興国にチャンスを与えます。底辺への競争の結果、力を高めるのは新興国だからです。安い法人税を求めて企業が移転、雇用が拡大し、中間層が成長します。国が富めば軍事力を拡充することもできる。歴史を振り返れば、直近では、第1次世界大戦で疲弊したドイツがチャンスを得ました。現状では、中国にチャンスを与えたと言えるでしょう。
中国は力を強めるにつれ。爪を隠さなくなってきています。従来は、韜光養晦(とうこうようかい)、すなわち「能ある鷹(たか)は爪を隠す」政策を採用していましたが、習近平(シー・ジンピン)政権は方針を転換しました。これに対して、米国を中心とした国々が危機感を募らせている。米国のトランプ政権(当時)は米中関係に冷戦の構造をあからさまに持ち込みました。その背景にあったのは、グローバリゼーションがもたらす不都合な真実だったと言えるでしょう。
以上に述べた2つの不都合な真実のため、西側諸国は変化せざるを得なくなっています。では、どう変わるのか。1つは、グローバリゼーションがもたらす第1の不都合な真実を和らげるため、分配政策を採ること。もう1つは、新興国、特に中国にチャンスが回らないよう制限をかけることです。過去10年間で、こうした変化のフェーズ、すなわちグローバリゼーションをステップバックさせる段階に入ったと考えます。
以上のトレンドが進む中で、今回のウクライナ危機が起こりました。「ウクライナ危機は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がその野望を実現すべく起こした」という言い方は、現象面としては正しいと思います。しかし、その実態は米国と新興国とが冷戦を戦う中で起きた代理戦争の性格が濃いのではないでしょうか。
朝鮮戦争やベトナム戦争を思い出してください。米国とソ連(当時)が冷戦を戦っていて、その傘下に欧州や中国がいた。これらの国々をバックアップにして、朝鮮半島とベトナムにおいて北と南の勢力が戦争を戦ったのです。
現在、米国が冷戦を戦う新興国とは中国を指します。すなわち米国と中国が冷戦を戦う中で、それぞれの代理として、ウクライナとロシアが戦争をした。
このようにとらえるならば、ロシアによるウクライナ侵攻の発端が(1)プーチン大統領が抱く野望だったのであれ、(2)NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大だったのであれ、この侵攻だけで収まるものではないかもしれません。米中を主役とする新しい冷戦構造の中で、代理戦争を加速させるようなモメンタム(方向性や勢い)が働く時代になった。これを疑う余地は少ないと考えます。
ウクライナ戦争がもたらす世界経済への衝撃
小林氏:ウクライナ危機が経済にもたらしたインパクトについてお話しします。
その1つはエネルギー資源と農産物の価格高騰です。ロシアは資源と農産物の有力な輸出国です。原油や天然ガスを中心に、石炭を含めると世界シェア約11%を擁する資源国です。さらに農産物の大きな供給源でもあります。この点は、ウクライナも共通しています。
この2カ国との貿易が途絶すると、エネルギーや食糧においてインフレが高じるのは避け難い。ウクライナ危機が経済に与える打撃は、電気やガス、食べ物など生活必需品の価格にダイレクトに響くところが特徴と言えます。
エネルギーに関して、もう少し解像度を上げて見ると上の図のようになります。国によってロシア依存度が異なることが分かるでしょう。例えばロシアと非常に仲の悪い英国は、エネルギーについてロシアからの輸入に頼る割合は約4.5%しかありません。米ソ冷戦を戦った米国も、1%強しか依存していない。この2カ国は、直接的な打撃をそれほど受けない構造にあります。しかも英米は自身が資源の輸出国でもあります。
これに対し、日本は事情が異なります。これまでロシアから石炭や天然ガスを輸入していて、それを止めると判断したわけですから。代替輸入先を探さなければならず、高値づかみを余儀なくされている。結果として、2022年に日本のエネルギー購入単価はかなり上昇しました。
もっと大変なのは大陸にある欧州諸国です。ロシアへの依存度が約15%もある。このうち原油と石炭は禁輸措置を取りました。天然ガスはまだ禁輸していませんが、残念ながらパイプラインの「ノルドストリーム」が止まってしまったので、その分の供給を欠く事態に陥っています。
今年23年にもう一度危機が高まる
日本と欧州はかなりきつい状況にあると言わざるを得ません。さらに、この危機は22年だけですむ話ではない。むしろ今年23年にもう一度危機が高まる可能性が高いのです。
なぜかというと、22年にはこの危機を相殺するように働いていた3つの要因がなくなるからです。その第1は、欧州諸国が省エネルギーの自助努力に努めたこと。製造業が活動をかなり抑制し、エネルギー需要を低く抑えました。第2は、中国のゼロコロナ政策。結果的に経済活動が抑制されて、エネルギーの使用量が抑えられました。第3は、米国が戦略備蓄を放出したこと。これら3つによって、エネルギー需給の逼迫はかなり抑制されました。
しかし、これら3つの相殺要因は23年は消えていきます。上の図を見ると、欧州の経済活動が活発化し、天然ガスの需要が大きく伸びることが分かります(左グラフの緑色部分)。昨年のような抑制は「もう我慢ならん」というわけです。中国もゼロコロナ政策を転換し、経済活動を再開して天然ガス消費を増やす方向に向かう様子が見て取れます(左グラフの赤色部分)。
原油についても、中国の需要が拡大し、需給がかなり逼迫するとみられます(右グラフ)。原油市場では、需要の拡大に加えて供給の削減が見込まれます。オレンジ色の部分が示すのは、ロシアあるいはOPEC(石油輸出国機構)による供給削減です。この結果、今年23年は22年以上に需給が厳しくなる可能性が高いように見受けられます。
これらを踏まえて、23年末時点の世界全体のエネルギー在庫を見通すと、今よりもはるかに厳しくなり、22年6月ぐらいの状況になるという見方になります。こうなってきますと、例えば指標銘柄であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の相場が1バレル100ドルを超える状況も視野に入る。
日本経済が受ける打撃
小林氏:こうした世相の中で、日本経済がどのような状況に置かれるのか、定量的にお話しします。
昨年、WTIの平均価格は1バレル約80ドルに上がりました。その結果、エネルギー輸入コストは33兆円というとんでもない金額になりました。これは歴史上最も高い値です。21年と比べて約16.5兆円の増加、割合にして2倍に達しました。16.5兆円はGDP(国内総生産)比で3%分に相当します。当然、家計への影響は非常に強く、名目GDPを圧縮させる効果も生じました。
それでも、今年生じるかもしれない打撃に比べたら、昨年の状況はまだ序の口であった可能性があります。先ほど、WTI相場が1バレル100ドルになってもおかしくないとお話をしました。昨年は平均80ドルでしたから、さらに20ドルくらい上がる恐れがあるのです。
原油価格が20ドル上がることでどれくらい負担が増えるのか。日本全体で7兆円くらい増える計算になります。1人当たり6万円くらいのコスト増です。
この状況をもう少しマクロ的にとらえると、交易損失が拡大していると読めます。22年は15.8兆円の交易損失が出ました。これもまた史上最悪の数字でした。
交易条件は、輸出物価指数と輸入物価指数の比で表します。輸出するものの値段の上昇が、輸入するものの値段の上昇より大きいと、交易利得が拡大する。他方、輸入価格の上昇の方が大きければ公益損失が生じます。
従って、日本の交易損失は昨年に続いて今後も拡大し続ける可能性が高いとみられます。エネルギー価格の上昇に見合うだけの輸出価格の上昇が起こらないので、日本は貿易をすればするほど国が貧しくなる状況に置かれていると言えるでしょう。
こういう話をすると「エネルギーコストが上がるのは他国も同じ。日本だけ窮乏化していると言わないでほしい」という意見が寄せられます。しかし、他国と比べたとき、日本の交易条件の悪化は明らかに激しいと言わざるを得ません。
米国は、原油価格が高騰するのにつれて、交易条件が改善しています。ユーロ圏は、原油価格の高騰に伴って交易条件が悪化しているものの、日本ほどではありません。
これはなぜか。米国はシェール革命によってエネルギーの純輸出国になりました。エネルギー価格が上昇すれば、その分、稼げる国になっているのです。ユーロ圏はエネルギーの純輸入国ではあるものの、原子力発電などで代替しており、日本ほど交易条件を悪化させずにすんでいます。
交易条件も同様です。資源価格の高騰に伴って、日本はとんでもなく大きな損をしています。米国は、かつては損をしていたけれど得をする国になった。ドイツは、損をし続けているけれどその幅は非常に小さくなっています。
つまり、エネルギー自給率をどれくらい上げられるかが、(1)ウクライナ戦争、あるいは(2)今後の世界のグローバリゼーションの終わり、その先に待っている(3)デカップリングの中で非常に重要になっていくと言えます。
日本が窮乏化を回避するための選択肢を探る
小林氏:このような状況の中で、岸田文雄政権は原発を再稼働させようとしています。実際は、どれくらい新規分があるのでしょうか。原発の稼働状況を見ると、現在10基が稼働しています。
そして、これから4基が再稼働する予定です。岸田政権は、さらに3基を追加で再稼働させる方針を示しました。つまり、7基が新たに追加で稼働する分になります。では、この7基の再稼働は、経済にどれほどのインパクトを与えるのか。あるいは、現在審査中の残り8基が再稼働したら、どれほどのインパクトとなるのか。
試算すると、再稼働が決まっている4基が稼働するとエネルギーコストが約3737億円抑えられます。岸田政権が方針を示している合計7基が再稼働すると8000億円くらい。審査中のものも含めた全15基が再稼働すると、1兆6867億円くらい抑えられる計算になります。
これらは大きな数字ではありますが、先ほどの33兆円に比べるとかなり小さい。原発の再稼働だけでは、窮乏化を相殺するには力不足だと言わざるを得ません。
原発だけで窮乏化を防ぐならば、新設する必要があります。ただし、新設できるかどうかは政治の手腕の見せどころになります。当然のことながら、電力各社に委ねられている安全性の確保について政府がどうするのかもセットで問われなければなりません。
原発を再稼働させない場合、選択肢は以下の3択になります。すなわち(1)引き続き火力発電を継続し、エネルギーコストを払う。(2)クリーンエネルギーで賄う。(3)省エネを進めて、エネルギーの使用量自体を下げる。
どれを選ぶのが適切なのか。考え方を1つ提示します(上の図)。安全性、安定性、経済合理性、外部経済の4つの評価軸で比較するのです。
伝統的な火力と水力は安全性、安定性が圧倒的に勝る。原子力は、安定性は高いが、安全性については国防も含めて議論しなければならない。一方で、経済合理性や外部経済を考えると火力は厳しい。窮乏化を防ぐなら、火力を使う場合は省エネが必要になる。
あるいは、現在主力をなしている以上のものを全部やめて、再エネに重心を置く。この選択肢は安定性に欠けるし、トータルコストを見ると経済合理性がありません。環境に優しいとうたわれているものの、外部経済がプラスなのかは議論を要します。例えばソーラーパネルを設置するために山を切り開くと土砂崩れの危険が生じます。
どの選択肢で窮乏化を防ぐのか、あるいは、窮乏化を防ぐのはあきらめるのか――。これが、現政権に与えられた選択肢になります。現政権の決断を受けて、企業や個人は、省エネをするのか、また、ほかのいかなる手段で所得を維持していくのか。こうしたことが問われる世の中に私たちは生きていると思います。まさに自助が個人や企業に求められるし、個別の国でも自国を優先するような世相に入っていくのではないかと思います。
私の方からは以上とさせていただいて、ここからは忌憚(きたん)のないご意見、ご質問をいただければ幸いです。
2023、24年の景気回復は限定的になる可能性が高い
森:小林さん、どうもありがとうございました。ここからは視聴者の皆様との質疑応答に移ります。
資源がない日本が交易条件を根本的に改善するためには、輸出産業を育てるしかなさそうです。何か良い手だてはあるでしょうか。
小林氏:交易条件については、輸入側と輸出側の両面から考える必要があります。輸入については、日本は自給率を上げる以外に対処のしようがなく、しばらくは言い値で払うしかありません。
となると、目先のところで、唯一取ることができる方法は輸出価格をしっかり上げていくこと。もっと言えば、高付加価値のものをどんどん売っていくことです。
ただ、日本は1997年の金融危機以降、研究開発に充当するお金が乏しく、他国と比べて製品開発力を失ってしまいました。これからてこ入れするためには、企業に研究開発をどんどんしてもらう。政府はそれを後押しする必要があります。研究開発に関わる人材は、この潮流を生かし、企業と交渉して、自分をどんどん売り込んでいただきたいです。
ただ、日本には悪癖があります。それは、優れた製品を作っても「これは素晴らしいものです」と売り込むマーケティング能力が乏しいことです。今まで以上にマーケティングに力を入れて、価格をつり上げる努力をしていただければと考えます。
エネルギー価格が2023年も再び高騰するかもしれないということでした。個人の生活への影響とともに、景気への影響を懸念します。日本の株価にもネガティブでしょうか。
小林氏:23〜24年の経済は、揺らぎながらではあるものの確実に回復していくと推測します。新型コロナウイルス禍からの経済再開が進み、消費が回復を主導するからです。日本の可処分所得と実際の消費額を比べると、非常に大きなギャップが生じています。
日本の可処分所得は、年間で約315兆円。対して消費は約305兆円しかありません。10兆円くらいのギャップがある。それを埋めていくような回復が起こると考えています。
問題は、それが数量効果を伴って景気拡大につながるのかどうかです。価格の上昇に、この10兆円が全部食われて終わってしまう恐れがあります。せっかく10兆円の余地があっても、輸入コストの上昇に7兆円が食われてしまったら、残りは3兆円しかありません。残念ながら、リベンジ消費で景気が良くなるとの予測は、「大したことなかった」という形で終わる可能性が非常に高いと思います。
エネルギーの需給のお話をしていただきました。量の話も大事ですが、為替の影響が大きいと思います。ならば、日本は金融の引き締めをいつ始めるかが重要になる。小林さんは金融政策の正常化についてどうお考えでしょうか。
小林氏:重要なポイントの1つは、円安が日本経済に与える影響は、黒田東彦氏が日本銀行の総裁になる前と比べて大きく変わってきていることです。かつての日本は貿易収支が黒字で、円安になると輸出で稼ぐ金額の方が大きくなりました。しかし22年を振り返ると、1年間で20兆円 もの貿易赤字を垂れ流した。円安になるととんでもなく損をする国になっているのです。
もちろん現地法人の収益まで含めて考えるとプラスの方が大きいですから、企業業績や株価に対して円安はプラスに働きます。しかし、円安になればなるほど家計の実質所得は下がるので、日本経済や長期的な物価の展望に対してプラスになるかは分からなくなってきています。従って、日銀が進める現行の金融政策は今の日本に見合う戦略なのか、円安のコストも考えるべきではないのかを議論しなければなりません。
森:ありがとうございます。大変残念ではございますが、終了のお時間となりました。小林さん、最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
小林氏:本日の私の話は、あくまでも1つの考え方ととらえていただきたいです。そして、これを1つの踏み台にして、より建設的かつ生産的な議論につなげていっていただければと思います。忌憚のないご意見をいただきつつ、私自身もブラッシュアップしていきますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
●崩壊し始めたロシア経済、来年には資金枯渇か  3/29
ロシアによるウクライナ侵攻開始当初は、石油・ガス価格が跳ね上がり、ロシアに思わぬ巨額の利益をもたらした。だが、こうした局面は終わった。
戦争が2年目に突入する中、西側の制裁による打撃が広がり、ロシア政府の財政は厳しさを増している。経済は低成長軌道へとシフトし、長期的に脱却できない可能性が高まっている。
主要輸出品目である石油・ガスは主要顧客を失い、財政は悪化。通貨ルーブルは昨年11月以降、対ドルで20%余り下落した。若者は前線に送られるか、徴兵への懸念から国外へ逃れ、労働人口は縮小。不透明感が重しとなり、企業の設備投資を抑制している。
「ロシア経済は長期の衰退局面に入っている」。ロシア銀行(中央銀行)の元当局者で、ウクライナ侵攻後にロシアを離れたアレクサンドラ・プロコペンコ氏はこう予想する。
短期的にロシアの戦費調達を脅かすほど、経済への打撃が深刻であることを示す兆候はまだ見られない。だが、財政収支は赤字に転落しており、ウラジーミル・プーチン大統領が市民を生活の困窮から守る一助となってきた補助金や社会保障向けの支出と、膨らむ軍事支出との間でどう折り合いをつけるか、ジレンマが深まっている状況を示している。
ロシアの富豪オレグ・デリパスカ氏は今月の経済会議で、ロシアの財政資金が枯渇しつつあると警鐘を鳴らした。「来年には資金が尽きるだろう。われわれは外国人投資家を必要としている」
欧州市場をほぼすべて失い、他の西側投資家が撤退するのに伴い、ロシアは中国への依存を強めている。かねてくすぶってきた「中国の経済的属国になり下がる」との懸念が実体化しかねない状況だ。
英国際戦略研究所(IISS)のマリア・シャギナ上級研究員は「ロシアが短期的には強い耐性を示しても、長期的な見通しは暗い。ロシアは内向き志向を強め、中国に過度に依存するようになるだろう」と話す。
見通し悪化の大きな原因は、エネルギーを武器に使えば、西側諸国によるウクライナ支援を抑制できるとのプーチン氏の読みが外れたことだ。
欧州諸国の政府はウクライナへの支援を縮小するどころか、ロシア産エネルギーへの依存脱却に向けて代替調達先の確保に迅速に動いた。ロシア産ガスの欧州への供給がほぼ止まると、価格は当初、急騰したものの、その後急落した。ロシアは現在、石油生産を6月まで従来レベルから5%減らす意向を示している。同国の石油価格は国際指標を下回っている。
その結果、ロシアのエネルギー収入は今年1〜2月に前年比でおよそ半減し、財政赤字も膨らんだ。1〜2月の財政赤字は340億ドル(約4兆4600億円)と、国内総生産(GDP)比1.5%余りに達した。そのため、ロシアは危機時の財政緩衝材である政府系ファンド(SWF)から赤字の穴埋めを余儀なくされている。
ロシア政府は依然として国内で借り入れすることが可能であるほか、侵攻前から280億ドル減ったとはいえ、SWFはなお1470億ドル相当を保有する。行き場を失った石油についても、中国やインドが新たな受け皿になった。中国はまた、ロシアがかつて西側から調達していた部品の多くを代わって供給している。
ロシア当局者は厳しい状況にあることは認めながらも、経済は迅速に適応していると話す。プーチン氏は経済への脅威に立ち向かう上で、政府は有効な対応を行っていると述べている。
プーチン氏が約20年前に実権を握って以降、ほぼ一貫して高水準の石油・ガス価格がこの国の社会契約を支えてきた。具体的には、国民の多くが生活向上と引き換えに、政治への反対や抗議を概して控えるというものだ。
国際通貨基金(IMF)はロシアの潜在成長率について、ウクライナからクリミア半島を強制併合した2014年より前の段階では約3.5%だと推定していた。だが、生産性の低下や技術的な後退、世界からの孤立といった要因が重なり、今では1%程度まで下がったと指摘するエコノミストもいる。
前出のプロコペンコ氏は「ロシアのような経済にとって、1%はないも同然で、維持する水準にすら届かない」と話す。
ロシア中銀は今月、輸出の落ち込み、労働市場のひっ迫、政府支出の増加によりインフレリスクが悪化していると指摘した。ロシアの2月のインフレ率は前年同月比およそ11%だ。向こう数カ月には4%を割り込む水準まで一時的に下がる見通しだが、ウクライナ侵攻に伴う昨年の物価高騰というベース効果によるものだという。同じく他の経済指標の多くも、ベース効果から一時的に改善するとみられている。
ロシアのガイダル経済政策研究所は、同国の産業はデータの収集が始まった1993年以降で、最悪の労働力ひっ迫に見舞われていると指摘している。ロシア中銀によると、ウクライナ侵攻開始後の頭脳流出、昨秋の30万人規模の部分動員令により、企業の約半数は人手不足に陥っている。錠前師、溶接工、機械作業員らへの需要が最も高いという。
プーチン氏は先頃行った航空機工場の視察で、労働不足が軍事関連の生産を妨げていると発言。徴兵猶予を認める優先職業のリストを政府として策定していると述べた。
オレグ・マンスロフ氏はウクライナ侵攻前、米著名実業家イーロン・マスク氏の宇宙開発ベンチャー、スペースXの競合になることを夢見ていた。ところが戦争が始まると、投資家はマンスロフ氏が2020年に創業したSRスペースから資金を引き揚げた。
2022年4月には経営破綻寸前まで追い込まれ、マンスロフ氏は生き残りをかけて、ウェブデザインや衛星画像解析などを手掛ける情報技術(IT)サービス企業へと業容を変えた。
西側の衛星画像サービス企業はロシア市場から撤退したため、マンスロフ氏はこれまで相手にされなかったエネルギー企業ガスプロムや原子力企業ロスアトムといった国営大手が関心を示すようになったと話す。
「質的な飛躍を実現するような長期的な商品開発ではなく、単に典型的な企業になり、収入を確保することに注力している」と話すマンスロフ氏。「まずは事業を存続させる必要があると認識している」
ロシア中銀は航空セクターでリスクが高まっているとの見方を示している。新型の機体や部品の不足により、保守で問題が生じかねないという。ITや金融企業も、ソフトウエアやデータベース管理システム、分析ツールなど、西側のテクノロジーが利用できなくなったことで苦戦を強いられている。
鉱工業生産の伸びは、ここにきて戦争で大量に使われているミサイルや砲弾、軍服などの製造がけん引している。
公式データでは軍事関連生産の内訳は明らかになっていないが、兵器や弾薬が含まれるとアナリストが指摘する「完成金属品」の項目は昨年7%増えた。同様に軍事品が含まれるとされるコンピューター、電子・光学製品は昨年2%増となり、12月は前月比41%増えた。対照的に、自動車は前年比およそ45%落ち込んだ。
前出のプロコペンコ氏は、軍事関連の生産は問題を覆い隠すと話す。「これは真の生産の伸びではない。経済を発展させることはない」
ロシア経済は昨年、エネルギー価格高騰に支えられ、最悪の事態は免れた。公式データによると、GDPは2.1%減で、一部で予想されていた10〜15%のマイナス成長ほど悪化しなかった。
欧州へのガス輸出は昨夏になって減り始めた。欧州連合(EU)による海上輸送によるロシア産原油の禁輸や先進7カ国(G7)による原油価格上限が発動されたのは12月になってからだ。また、ディーゼルなどロシア産石油製品に対する制裁は先月に発効した。こうした遅れがロシアのエネルギー収入を支え、ロシア政府は昨年、GDP比およそ4%に相当する大型財政刺激策に踏み切ることができたとIMFはみている。
ところが、今年1〜2月は政府歳入の半分近くを占める石油・ガス収入が前年比46%落ち込む一方、歳出は50%余り急増した。
ウクライナでの戦費が予算の重しとなっており、ロシアが現時点で財政収支を均衡させるには、石油価格がバレル当たり100ドルを超える必要があるとアナリストは推定している。
ロシア財務省によると、同国の代表的な油種であるウラル原油の平均価格は2月、バレル当たり49.56ドルとなった。これは同月に80ドル程度で取引されていた国際指標の北海ブレントに対して大幅なディスカウント水準だ。
ウィーン国際経済研究所のエコノミスト、バシリ・アストロフ氏は「ロシアは石油の販売先が限られるため、今では世界の市場で価格交渉力が弱まっている」と指摘する。
個人消費も勢いを失っている。2022年の小売売上高は6.7%減と、2015年以来、最悪の落ち込みとなった(政府データ)。欧州ビジネス協議会(AEB、モスクワ)によると、2月の新車販売は前年同月比62%減だった。
今年については、マイナス成長が続くと予想する声が支配的だ。だが、IMFなど一部では、わずかなプラス成長を確保するとの見方もある。
もっとも、IMFは2027年までには、ロシアの成長率がウクライナ侵攻前の予想から7%程度切り下がると想定している。「人的資本の喪失、国際金融市場からの孤立、先端技術の入手困難などの要因がロシア経済を損なう見通しだ」としている。
エネルギー調査会社ライスタッド・エナジーでは、ロシアの石油・ガス探査・生産向けの投資額が今年330億ドルと、ウクライナ侵攻前の予想である570億ドルから落ち込むと分析している。これは将来的に生産量が減ることを意味する。英石油大手BPのアナリストは、2019年には日量1200万バレル程度だったロシアの石油生産量が、35年までには日量700万〜900万バレルまで下がると予想する。
前出のアストロフ氏は「われわれは1年や2年の危機を言っているのではない」と述べる。「ロシア経済は異なる軌道を歩むことになるだろう」 
●ロシアによる戦略核合意の一時停止は、米国内での核戦力増強の声強める 3/29
2月21日、プーチン大統領は米国との新戦略核兵器削減条約(新START)への参加を一時停止すると表明した。2月28日、プーチン大統領は新STARTの履行停止を定めた法律に署名した。3月15日、ロシアからの戦略核戦力に関する情報の通知も停止された。
次は何が起きるのか?
『ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』は、国連軍縮研究所(UNIDIR)の専門家のアンドレイ・バクリツキーのインタビューを行い、YouTubeに投稿した。
バクリツキーは、プーチンは新STARTの制限を破るつもりはなく、軍拡競争が直ちに始まることはないだろうと述べる。
しかし合意順守の検証ができなくなり、米国議会内で「新STARTから離脱すべき」との主張が強まる恐れがあり、2025年に米国で政権交代があれば、新STARTの今後は不透明になると懸念する。

冒頭、プーチンの2月21日の演説の映像が流れる。
「まあ、彼らを馬鹿と呼ぶことはできない。結局のところ、彼らは愚かな人々ではない。彼らは私たちに戦略的敗北を与えたいと思っており、私たちの核施設に入りこもうとしている。この点で、私は今日、ロシアが戦略兵器削減条約への参加を停止すると言わなければならない。」(「彼ら」とは米国を指すようである。)
2月21日、プーチンは2021年以来初めてのロシア議会での年次教書演説を行なった。
ほぼ2時間にわたり、大統領はウクライナ紛争を始めたのは誰かを再び説明し、ビジネス界に対して祖国と共にいるように求め、軍への支援を発表し、最後にロシアは新STARTへの参加を停止すると付け加えた。
この条約からの脱退の結果を理解するために専門家に聞くこととした。
(質問)新START(新戦略核兵器削減条約)とは何か?
(バクリツキー)これは、1970年代から始まる一連の条約の最後の環だ。ソ連と米国は、最初に戦略核兵器の制限に関する条約に署名し、次にそれらの削減に関する条約に署名した。
新STARTの意義は、ロシアと米国が戦略的に配備する核弾頭を1,550発以下とすると定め、また査察、情報交換を含め相手の戦略核兵器の状況を確認する権利を認めたことだ。(新STARTは、核弾頭の数に加えて、運搬手段(ミサイル、爆撃機)の数も制限しているが、計算の仕方がやや複雑なこともあってか、バクリツキーは運搬手段についての説明は省いている。)
(質問)新STARTの署名は何時か、そしてこの条約はなぜ重要なのか?
(バクリツキー)新STARTは、2010年にオバマ大統領とメドベージェフ大統領により署名され、2011年に発効した。(新STARTの有効期間は10年間、最長5年間の延長が可能とされた。)
米国とソ連が互いに容認できない損害を与え得るようになり、そのような無制限の核軍拡競争は両国にとり快適ではない状況になったことから、軍備管理が始まった。
ゲームのルールを決め、出費を抑え、状況のコントロールに確信を持ち、相手とのコミュニケーションを保持したいと考えたのだ。
1972年に慎重な試みが始まり、その後十分機能するメカニズムに変わった。すなわち、核兵力がどこを動いているのか、どのミサイルが戦闘任務についているのか、どのようなミサイルが取り外され、修理されているのか等について、不断の通知と情報交換をするメカニズムである。そして関連するすべての問題を解決する二国間委員会の会合が年2回開催されてきた。
これは軍備管理システムの一部となり、緊張のレベルを大幅に下げた。
(質問)新STARTは何を制限しているのか?
(バクリツキー)それは戦略核兵器だけを制限する。
5,500km以上の射程を持つ陸上発射及び潜水艦発射の弾道ミサイル(の数量)を制限した。これはロシアから米国本土までの距離だ。また米国まで飛ぶことができる重爆撃機(の数量)を制限する。
5,500km以下の距離のもの(ミサイル、飛行機)は制御されない。
以前は中距離ミサイルを禁止するINF(中距離核戦力)全廃条約があったが、米国はトランプ大統領の下でそれから離脱した。(訳注:全廃の対象は射程500km〜5,500kmの陸上配備中距離ミサイル。トランプ政権は2019年2月にINF条約からの離脱をロシアに通告し、同年8月INF条約は失効した。)
短距離(射程500km以下)の核兵器はどの条約によっても規制されたことはない。
(質問)かつてソ連はそのような条約に署名したことがあったか?
(バクリツキー)暫定的な核兵器制限条約であるSALT(戦略兵器制限条約)IとSALTIIは、米ソ関係が改善しているときに合意された。1970年代にデタントと呼ばれる政策がとられた時期があった。(訳注:SALTIは1972年、SALTIIは1979年に米ソにより署名された。)
またオバマ大統領下での(米国・ロシア関係の)「リセット」と呼ばれた時代があった。
(質問)今後新しい軍拡競争が起きるのか?
(バクリツキー)私はそうは思わない。少なくとも、クレムリン(ロシア大統領府)は軍拡競争を起こすことに興味がないと思いたい。
あくまでも条約を一時停止するという決定だと理解している。そのような形式をとった。条約からの離脱ではなく、停止にすぎない。
ロシアは特にひどいことは何も起こらないと信じている。そしてロシアは、軍備増強するつもりはなく、相手(米国)も増強しないと思っている。
以上が、現時点で起きていることに対する私のとりあえずの見方である。
しかし、それがどれほど当たっているかは分らない。
たしかに米国民主党政権は軍拡競争に興味がないように見える。
しかし民主党政権は、現在共和党から大きな圧力を受けているようだ。「彼ら(民主党政権)は弱く、ロシアの行動に反応しない」との批判がある。
米側においては、新STARTから離脱を求め、米国の核能力増強のための資金投入を求める声が高まるだろう。
米国は長い間中国の核能力増強を懸念してきた経緯もある。以前から多くの人々が「なぜ新STARTが必要なのか?」「中国は制限していないではないか」と言ってきた。その声は今後、どんどん強くなっていくと思う。彼らは言うだろう。「ロシア人は彼らの義務を果たしていない。」
バイデン政権が何もしないとしても、2025年に新しい共和党政権が誕生する可能性がある。
トランプが大統領になった時、米国は直ちにINF条約から離脱した。
新STARTも無効になるかもしれず、それがどのような影響をもたらすのか?どうなるのか正直なところ、私にはわからない。
(質問)新STARTが政治的駆け引きの道具になったのはいつか?
(バクリツキー)ロシアだけでなく、トランプ政権も、新STARTを政治的駆け引きで使った。それは2020年の秋だった。
(トランプ政権は)「それ(新START)が延長されるべきかどうかわからない」、「オバマが署名した代物だ」、「中国は参加していない」などと言っていた。
米国は長い間ロシアと交渉していた。実際、新START維持のためにロシアは努力もし、様々な譲歩もした。たとえば、米国の交渉担当者が、戦略的だけでなく非戦略的な核兵器を含むすべての核兵器(の増強)を凍結することを提案した。この時、ロシアは、新START延長交渉の一環として、これに一般的に同意した。
そしてオバマ政権はそれを1年間だけ延長することを申し出た、そしてそれからロシアがどのように振る舞うかを見た。5年間ではなかった。
バイデン政権発足後、ほぼ即座に、前提条件なしでの条約の5年間延長を提案した時、ロシアは直ぐに(肯定的に)応じた。ロシア側はこの延長を必要としていた。
当時、ロシア議会は全会一致で延長を承認し、両院の公聴会も1日で済まされたことを想起したい。
(質問)新STARTの停止の後、何が起きるのか?
(バクリツキー)新STARTが停止されたので、同条約は更新もされないことになる。
また新STARTが定める情報交換も停止される。
既に述べた通り、この条約の下で交換される情報はたくさんある。両国は夫々の核戦力の内訳、数量を年に2回相互に通報する。両国は核兵力に関連してどのように行動をとる予定かについて相互に通報する。
これらがもうなされなくなる。
それでも今年、査察しなかったにもかかわらず、ロシアは新STARTに基づく義務を果たしていると米国は述べた。
既にこれらの査察は多くなされてきた。
双方は、相手が何をどこでどのくらいの量で持っているかを知っている。
交換される情報や偵察衛星により、地上で起きていることを見て、相手の軍事力を知ることができる。
衛星はあるが、(相手国からの)情報は来なくなる。最後の査察から時間が経過するにつれ、状況の正確な把握は困難になる。
米国は、ロシアが条約に違反していないこと、1,550発という制限を超えていないことを、確認できなくなる。これは大きな問題だ。ロシアが遵守していても、確認できる十分な情報は無い。
(質問)ロシアの核戦力は今後どうなるか?
(バクリツキー)ロシアはソ連から核を含む非常に強力な軍産複合体を継承した。
その一部はロシアの国外にあった。
ユージュノエ設計局は重い「ヴォエヴォダ」ミサイルを設計していた。それはウクライナ領に残った。(訳注:「ヴォエヴォダ」ミサイルとは、「R-36M2ヴォエヴォダ」で、NATOコードネームは「SS-18サタン」である。)
現在、核兵器は絶えず生産されている。新しいミサイルも製造されている。古いものは活動を停止した。
ロシアは「ヴォエヴォダ」に代わる新しい「サルマート」重ミサイルの飛行試験を行っている。(訳注:「RS-28サルマート」は、「ヴォエヴォダ」の後継ミサイルである。)
新しい原子力潜水艦も、段階的に配備されつつある。
米国では、核兵器が長い間近代化されず、ようやくそれに取り組み始めたばかりだ。
米国とは異なり、ロシアの核兵器は非常によく近代化されており、かなり良いレベルだ。
これらすべては、ロシアとしての計算の上で、開発されてきた。
但し、ロシアは新STARTに参加し続け、戦略的な核弾頭は1,550発以下に抑えられるという事実に立脚して、軍事的な構造が作られてきた。
もしこの制限がなくなるのであれば、それに応じて、更に(核戦力を)増強し、新しいシステムも開発する必要が出てくるかもしれない。
もちろん、そのために追加の資金が必要となり、どこかでそれを見つける必要がでてくる。
もし本格的な軍拡競争が始まり、米国が軍備を大幅に増強すると決定する場合、ロシアが(核戦力の)均衡を維持しようとするかどうか疑問が生じる。そうなれば、(ロシアにとって)更に出費が増えることになる。
そのような可能性はある。
(核戦力において)現在ロシアは米国よりも優勢な立場にある。彼らは(既存の核戦力強化の)プログラムを完了しつつあり、更に新しいプログラムを積極的に進め始めている。
これに対して何よりも米国共和党員は、そしておそらく議会全体として、(核戦力の)「上限」がなくなったという事実を考慮して、核戦力強化に益々多くの資金を費やすように求めるだろう。そのようになるのは間違いないと私は確信している。
●ロシアとの戦いで「ウクライナ軍は世界一の軍隊になった」──豪軍事専門家 3/29
ロシアとの戦争で、ウクライナ軍は現在世界で最も優秀な軍隊になった、とオーストラリア軍退役少将で軍事評論家としても知られるミック・ライアンは語った。
ライアンは2月23日にウクライナの英字紙キーウ・ポストのインタビューに応じ、ロシアとの戦いにおけるウクライナ軍のさまざまな特徴や、ミサイル防衛、ドローン防衛、前線戦闘部隊など、多方面にわたる能力がいかに発揮されたかを語った。
「私の見解では、ウクライナ軍は現時点で世界最高だ」と、ライアンは断言した。「これは臆測ではなく、事実だ。彼らは世界で最高の軍隊だ。近代戦において最も豊富な経験を積んだ軍隊であり、この13カ月間、それを実証してきた」
「今、ウクライナは多くの血を流し、性別、年齢を問わず多くの人材を失った。そして多くの教訓を学んだ。ウクライナ軍は世界で最も優れている。私たちが彼らから学べることはたくさんある」
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2022年2月24日に「特別軍事作戦」としてウクライナで開始した戦争は今も続いている。
ライアンはキーウ・ポストに、ウクライナ軍に関わるいくつかの「要素」を指摘した。
「ウクライナの領土防衛軍には、古参兵と新たに動員された兵士で構成される精鋭部隊がある」と、彼は言う。「多くの独立した部隊があるようだ」
「さらに外国の部隊もいる。そのすべてをまとめることは、急速に拡大した軍にとってかなりの難題だ。そして、どんなに優秀な司令官にとっても困難な任務であり、戦時中にそれを行うとなると、さらに難しい」
訓練は十分ではないが
異論もある。米戦略国際問題研究所(CSIS)で国際保障プログラムの上級顧問を務めるマーク・キャンシアンは23日、本誌にこう語った。
「戦争における人的要素、特に訓練とリーダーシップを強調するライアンの意見は全く正しい。そして、ウクライナがロシア以外のどの国よりも最新の戦闘を経験していることは間違いない。ライアンが何度か指摘しているように、ウクライナ軍はロシア軍よりも優れている。とはいえ、それゆえにウクライナ軍が世界最高の軍隊とはいえない」
キャンシアンは「戦闘に入る前に2〜3週間の訓練を受ける」だけのウクライナ軍と、米軍が行っている訓練の違いを指摘した。
「米海兵隊の新兵は全員、22週間の訓練を受ける」と、キャンシアンは言う。「ウクライナ軍は2個大隊をヨーロッパでの戦闘訓練に送り出している。一方、米軍は例年、約60個の大隊をナショナルトレーニングセンター(NTC)や米陸軍統合即応トレーニング・センター(JRTC)などの戦闘訓練所に送っている。ウクライナ軍の指揮官の多くは、戦場では高い技能を発揮しているが、複雑な共同作戦を実行するのに必要な幅広い訓練は足りないようだ」
ウクライナ軍参謀本部が同日発表した最新情報によれば、東部国境付近の戦闘に関するウクライナ治安当局の特殊部隊グループは、22の標的を「無効化」した。ロシア軍の戦車14台、BMP歩兵戦闘車4台、歩兵部隊の防弾壁2カ所、採掘機1台、弾薬倉庫1カ所だ。
参謀本部の別の最新情報によれば、開戦以来のロシア側の損失は全部で、戦車3000台以上、装甲車6898台、飛行機305機、ヘリコプター290機、273の「対空戦システム」と算出されている。
●ロシアで高まる中国語人気、深まる経済依存 3/29
ロシアで中国語のオンラインレッスンをして生計を立てているキリル・ブロビンさん(20)は、毎日曜日は早朝から夜中まで働きづめだ。
生徒数はこの1年で3倍に増えた。日曜日は一番忙しく、「休憩をほとんど取らずに16時間レッスンをしている」と話す。
中国語人気は、ロシアがアジアに軸足を移していることを示している。
中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は今月、両国の「制限のない」関係を深める目的で3日間の日程でロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領と会談した。
ロシアはウクライナ侵攻に対する制裁を欧米諸国から課されており、国際社会からの孤立を深めている。経済・技術開発は打撃を受け、中国への依存度を高めている。
ロシアのオンライン人材派遣会社大手ヘッドハンター(HeadHunter)のナタリア・ダニナ氏によると、中国語を必要とする求人は昨年は1万1000件近くと、前年に比べ44%増加した。
力を合わせれば「どこにも負けない」
ロシアでの中国語人気は、英語と肩を並べる勢いだ。
両方の言語を教えているアリーナ・ハムロワさん(26)は、今年の英語のレッスン受講者はわずか3人だと話した。中国語は12人いる。
欧州の大学への留学がかなわなくなった今は、中国への留学希望者も増えているという。
教育部門を統括するロシアの国営機関によると、外国語で最も人気があるのは依然として英語だが、高校修了時の外国語試験で中国語を選択する生徒の数は1万7000人と1年で倍増した。
ロシアが孤立を深めるにつれ、国内の多くの語学学校はカリキュラムを変更し、中国語の教師を招聘(しょうへい)している。
2017年に中国語の語学学校を設立したワン・インユーさん(38)とロシア人の妻で中国語を話すナタリアさんは、今年の受講生は昨年の2倍になったと話した。
ワンさんは、「経済制裁によって手に入らなくなった製品を中国の工場に発注している企業も多い」とロシア語でAFPに語った。
一方、ロシアへの輸出に関心を寄せる中国企業の間では、バイリンガルの求人需要が高まっている。
ワンさんは、中ロ関係の緊密化を歓迎している。
「中国の産業基盤は堅固で、ロシアは資源が豊富だ。それぞれが独自に経済を築ける」とワンさん。「お互いが力を合わせれば、どこにも負けることはない」と話した。
●ロシア政府、「非友好国」企業が撤退する際に寄付を義務付け 3/29
ロシア政府は、「非友好国」企業が同国から撤退する際、資産売却額の少なくとも10%をロシア政府予算に寄付することを義務付けた。
財務省のウェブサイトに27日に掲載された文書で明らかになった。これによると、外国投資を監視する政府委員会は、ロシアに制裁を科す「非友好国」企業の資産売却に関する要件を変更。従来は売却額の10%をすぐに寄付するか、1─2年間の分割払いにするかを選べたが、分割払いは選択できなくなった。
ロシアから撤退する外資系企業は既に、昨年12月導入の措置によって、第三者が評価した資産価値を50%割り引いて売却することが求められており、大幅な減損損失を計上する企業が続出している。
一方、当局が西側企業の資産を国有化することを可能にする法案は、昨夏に議会を通過しなかった。
しかし、昨年8月5日にプーチン大統領が署名した大統領令は、非友好国企業が主要エネルギー事業や銀行の株式を売ることを原則禁止した。
●ロシア 核兵器を搭載できるICBMの訓練含む軍事演習開始と発表  3/29
ロシア軍は核兵器を搭載できるICBM=大陸間弾道ミサイルの訓練を含んだ軍事演習を開始したと発表し、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米側へのけん制を強めています。
ロシア国防省は29日、シベリアのノボシビルスクなどの戦略ミサイル軍の部隊が、軍事演習を開始したと発表しました。
なかでは、核兵器の搭載が可能なICBM「ヤルス」の運用を確認する訓練が行われるとしていて、3000人以上の兵士が、3つの地域で演習を行う予定だということです。
ヤルスは、射程が1万キロを超え、アメリカのミサイル防衛に対抗する目的で開発したとされ、アメリカなどを念頭に、核戦力を誇示する思惑があるとみられます。
また、ロシアのプーチン大統領は、同盟関係にあるベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を明らかにし、ベラルーシ外務省も配備の受け入れを表明しています。
プーチン大統領は、来月6日にベラルーシのルカシェンコ大統領と両国の連携強化に向けた会合を開催する予定です。
これについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は28日、「安全保障の問題も話し合うだろう」と説明し、戦術核兵器の配備に向けても意見が交わされる可能性があります。
一方、アメリカ政府高官は28日、ロシアとの核軍縮条約「新START」について、ロシアが条約を順守していないとして、戦略核兵器についての情報提供を停止することを決めたと明らかにしました。
先月、ロシアが一方的に履行を停止すると発表していて、今回の対応について、アメリカは「ロシアが条約を順守することを拒否したため、同じようにすることを決めた」としています。
これに対し、ロシア外務省のリャプコフ次官は29日、国営のロシア通信に対し、「アメリカが責任をロシアに押しつけている」などと批判し、ロシアが欧米側へのけん制を強める中、米ロ間の核軍縮への影響も懸念されています。
ゼレンスキー大統領「国境への砲撃は続いている」
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、新たに公開した動画で、北東部のスムイ州を訪れたとして「この地域は敵に隣接し、常に脅威にさらされている。国境への砲撃は絶え間なく続いている」と述べ、国境周辺の地域を含めて各地でロシアによる攻撃が相次いでいるとロシア側を非難しました。
首都キーウにある経済大学は、ウクライナのインフラ被害などの状況をまとめ、今月22日発表しました。
それによりますと、軍事侵攻が始まって1年がたった先月までにウクライナで確認された住宅や道路などのインフラの被害総額は、推定で1438億ドル、日本円にして18兆円以上になるということです。
このうち、最も被害が大きいのは住宅で、この1年で15万棟以上の住宅やアパートなどが破壊され、被害額は536億ドル、日本円にしておよそ7兆円に上るということです。
また、破壊された道路は合わせて2万5000キロメートル以上となったほか、344か所の橋などが破壊され、道路や橋などの被害額は362億ドル、日本円にして4兆円を上回るとしています。
●三極化する世界 高まるグローバルサウスの不満 3/29
近年、ウクライナ戦争や台湾情勢など大国間の対立が代理戦争を利用して先鋭化している。ウクライナでは欧米とロシアの対立が、台湾では米中の対立が激しくなり、その長期化は避けられない状況だ。一方、インドをはじめ、アジアやアフリカ、中南米の国々、いわゆるグローバルサウスのなかではそういった大国間対立とは距離を置く動きが見られる。今日、世界では三極化が進んでいる。
結束を強める中ロ
欧米との対立を深める中国とロシアは結束を強化している。モスクワを訪問した中国の習近平国家主席はクレムリンでプーチン大統領と会談し、戦略的協力関係を強化していくことで一致した。両者はウクライナ情勢や中国が示した和平案などについて踏み込んだ話をした一方、エネルギーや経済の分野でも協力を加速させていくことで一致した。
現在、プーチン大統領が助けを求められるのは事実上習氏しかおらず、ロシアとしては武器供与など中国から最大限の支援を引き出したい狙いがあったはずだ。中国としては対米共闘でロシアという存在が重要だが、ロシア寄りの姿勢を露骨に内外に示すとかえって中国のイメージ悪化につながる恐れもあり、習主席もそのバランスに悩んでいることだろう。いずれにせよ両国は非欧米世界の拡大という部分で利害が一致しており、今後は国交を回復したイランやサウジアラビアなどもこれに接近する可能性がある。
ウクライナを訪問した岸田首相
偶然だろうが同時期、岸田首相は訪問先のインドからポーランドを経由して列車でウクライナの首都キーウに向かい、ゼレンスキー大統領と会談した。岸田首相はロシアによるウクライナ侵攻を改めて非難し、ともに自由民主主義陣営として専制主義に対抗していく姿勢を示した。岸田首相はウクライナに殺傷能力のない装備品を支援するため3000万ドルを拠出するほか、エネルギー分野などでの新たな無償支援として4億7000万ドルを供与する考えを伝え、5月に広島で開かれる主要7ヶ国首脳会議(G7サミット)にゼレンスキー大統領を招待すると明らかにした。
また、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は3月下旬、ロシアが中国に対して殺傷能力のある兵器の支援を要請した可能性が高いいくつかの兆候があると懸念を示した。最近中国による武器供与疑惑が相次いで指摘されているが、仮にこれが事実となれば欧米による中国への制裁が強化され、関係悪化に拍車がかかることは間違いない。
高まるグローバルサウスの不満
一方、こういった大国間の争いにグローバルサウスの不満はいっそう高まっている。昨年も国連総会の場では、東南アジア諸国連合(ASEAN)やアフリカ連合(AU)から、グローバルサウスを大国間競争に巻き込むべきではない、ウクライナ戦争という大国による代理戦争が世界規模の物価高を誘発したなどといった、大国への不満が強まっている。今後は欧米や中ロとは距離を置く第三世界の拡大が再び顕著になる可能性もあり、そういった懸念から岸田首相はウクライナ訪問直前にインドでモディ首相と会談し、グローバルサウスを主導するインドと関係を強化する強い意気込みを見せた。米中対立が深まるなか、日本にとってはグローバルサウスとの連携がこれまでになく重要になっている。

 

●プーチン氏、低失業と賃金増はロシア経済回復の証拠と指摘 3/30
ロシアのプーチン大統領は29日、政府の会合で、失業率が記録的な低水準にあり、実質賃金が増加していることは緩やかな景気回復の証拠との考えを示した。
プーチン氏は「ロシアの失業率は記録的な低水準にある」と指摘。ただ、失業率が平均を上回っている地域もあることなどに言及し「労働市場の全ての問題が解決されたわけではない」と述べた。
このほか「国全体として賃金と実質可処分所得が再び実質的に伸び始めた」とも指摘した。
ロシア連邦統計局(ロスタット)によると、ロシアの2月の失業率は3.5%と、過去最低水準を更新。また、1月のインフレ調整後の実質賃金は0.6%増加した。
一方、2月の小売売上高は前年同月比7.8%減少。工業生産は1.7%減少した。
ロシアの失業率が低水準にあるのは、プーチン大統領が昨年9月に部分動員を発令したことを受け、労働力不足が一段と顕著になっていることを反映しているとの見方も出ている。
●ロシアで深刻な労働力不足、50万人以上が昨年軍に動員された可能性 3/30
ロシアのプーチン大統領が進める軍備拡大が同国の労働力不足に拍車をかけている。ウクライナ侵攻に伴い、経済のあらゆる部門から軍へ動員された労働者は数十万人に上る。
ブルームバーグ・エコノミクスの推計によれば、ロシア連邦統計局のデータは同国軍の規模が昨年に約40万人純増したことを示唆している。同国の失業率は記録的な低水準にある。プーチン大統領は第2次大戦後初の部分動員で30万人の動員を命じた。
ブルームバーグのロシア担当エコノミスト、アレクサンダー・イサコフ氏によれば、軍に動員された人数は計50万人を突破した可能性が高い。具体的な数字が判明しないのは、ウクライナ侵攻開始以降に軍を除隊した兵士を埋めるために新規採用された人数が不明瞭なほか、民間軍事会社ワグネルといった企業に雇われた採用分が考慮されていないためだ。
事情に詳しい関係者によると、ロシアは長期戦を念頭に今年さらに40万人の契約軍人を集めることを目指している。プーチン大統領は兵士の規模を115万人から150万人へ引き上げる計画を承認しており、2026年に達成する可能性があるという。
昨年9月にプーチン大統領が動員を発表して以来、対象となっている多くのロシア国民が国外に脱出したことも人口動態をゆがめており、労働年齢人口は今後10年で6.5%縮小する可能性がある。ロシア銀行(中央銀行)は昨年12月、「ロシア経済の生産拡大能力は労働市場の状況によって大きく制約されている」と警告した。
プーチン大統領は29日の政府会合で閣僚に労働生産性の向上に注力するよう強く求めた。ロシアの製造業は引き続き弱く、昨年の水準を下回っていると、大統領は警告した。
統計局が調査する経済セクターでは約3分の1が昨年の雇用減を示したが、これに伴うマイナスの影響は軍の採用によってほぼ全て相殺された。動員や国外脱出などが男性労働者の減少やあらゆる産業での労働力不足を招いている。
●プーチン氏側近がインド首相と会談、双方の「相互利益」巡り協議 3/30
ロシアのプーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記は29日、ニューデリーでインドのモディ首相と会談し、双方の「相互利益」について協議した。ロシアの通信社が報じた。
パトルシェフ氏は上海協力機構の会議に参加するためにインドを訪問。報道によると、両氏は「ロシアとインドの二国間協力と相互利益に関する問題」について議論したという。詳細は不明。
●ワグネルトップ、バフムートの戦いで「かなりの損失」認める 3/30
ロシアの民間軍事会社ワグネルのトップ、エフゲニー・プリゴジン氏は29日、ウクライナ東部の要衝バフムートの戦いで「すでにウクライナ軍を実質的に壊滅させた」と主張しながらも、ワグネル側にも「かなりの損失が出ている」と認めた。音声メッセージで明らかにした。
ウクライナのゼレンスキー大統領のバフムートを最後まで守るという約束についての記者からの質問に対し、プリゴジン氏は「西側諸国を味方につけたウクライナと、少ない同盟国を持つロシアが戦っているとすれば、外国人部隊も展開するウクライナ軍とのワグネルの戦いはこの戦争、そして近代史における最大の転機となる」と答えた。
SNS「テレグラム」への音声メモでプリゴジン氏は、ワグネルが「ロシアを屈服させようとしている外国軍を壊滅させる」と述べた。
同氏はさらに「この戦争における大きな転機だ。というのも、ロシアの一つの軍だけがチェス盤に残り、他の駒はすべて除去されるからだ。ワグネルの兵士がバフムートの激戦で死に、ウクライナ軍らを外国の武器で抑え、ロシア軍に国益を守るためにさらに進軍する機会を与えれば、我々は歴史的な役割を果たしたことになる」と意義を強調した。
プリゴジン氏はここ数週間でバフムートやその周辺を数回訪れている。
ウクライナ軍とワグネルは共にバフムートで市街戦が展開されていることを認めており、ウクライナ軍はバフムートの戦況を安定させたと主張している。
●戦争への備え再び、日本とドイツの避けがたい道  3/30
――筆者のイアン・ブルマ氏は米バード大学教授(人権・ジャーナリズム)。近著に「協力者たち:第2次大戦の生き残りと策略に関する三つの物語」がある

ドイツのオラフ・ショルツ首相は、今この瞬間を「時代の転換点」と呼んでいる。日本では、お笑い芸人のタモリが発した「新しい戦前」という(やや曖昧な)フレーズが、ほぼ同じことを表すのに使われている。すなわち、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、両国は自国の軍事面の備えをより真剣に考えざるを得なくなったということだ。
昨年2月、ショルツ氏は1000億ユーロ(約14兆0600億円)の資金を投じてドイツのなおざりにされてきた軍事力を強化し、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に求める国内総生産(GDP)比2%という国防費の基準を超えることを約束した。岸田文雄首相は先週、ウクライナを電撃訪問し、第2次世界大戦後の日本の首相として初めて戦地に足を踏み入れた。岸田氏は終戦後に米国の法学者が起草した平和主義憲法の制約を依然として受けながらも、今後5年間で防衛費を50%増やし、仮に日本が攻撃されれば、敵の標的に向けて反撃できるミサイルを保有すると宣言している。
こうした措置はいずれも、かつて枢軸国だった日独両国が第2次世界大戦中の好戦的なやり方に戻りつつあることを意味しない。日本がウクライナにこれまで供与した装備品はヘルメットや防弾チョッキにとどまり、殺傷力を持つものはない。またドイツは、米国が主力戦車「M1エイブラムス」の供与に同意するより前に、ドイツ製の主力戦車「レオパルト2」に加え、旧式の戦車「レオパルト1」のウクライナ軍への供与に同意しなかった。旧式のドイツ製戦車はまだ改修を終えていない。
ロシアの侵略行為に対するこうした反応には、両国で相当な反発も起きている。2月にはドイツで1万人を超える平和主義者が、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の親ロシア派と一緒に「平和のための反乱」と名づけたデモを首都ベルリンで主催し、ドイツ製武器のウクライナ供与に抗議した。日本では、リベラルな立場の朝日新聞が岸田氏の新しい防衛計画は憲法に基づいておらず、過去の教訓に従っていないと警告した。日本国憲法第9条は、「日本国民は、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定している。それは昔ながらの日本のリベラル派が好む考え方だ。
それでもウクライナに対する侵攻、さらに日本の場合は、沖縄から800キロ足らずの距離に位置する台湾への中国の示威的行動が、指導者たちの演説でのあおるような言葉をしのぐ新しい状況を作り出している。朝日新聞の社説やあちこちで起きる抗議活動にもかかわらず、最近の出来事は、二度と戦争に加わってはならないという両国の戦後におけるコンセンサスを切り崩している。
日本の右派ナショナリスト(日本の防衛力向上に努力した元首相の故安倍晋三氏など)が好んで主張するのは、日本が標榜する平和主義は、壊滅的な敗戦の後に戦勝国の米国から押し付けられたものだということだ。安倍氏は昨年凶弾に倒れるまで、日本が軍事大国になる権利を取り戻し、歴史の汚点を消し去るという祖父の岸信介氏が掲げた野望を成し遂げるため、飽くなき努力を続けた。戦時中、国務大臣兼軍需次官を務めた岸氏はA級戦犯の容疑をかけられたが、米国により不起訴となり、最終的に首相に上り詰めた。
1930年代から40年代にかけての日本の軍事侵略は、ナチスあるいはヒトラーのような独裁者に責任を負わせることができず、米占領軍は日本人自身を彼らの伝統的な軍国主義(言うなればサムライ・スピリット)から切り離そうとした。禁酒会がアルコール依存症患者に有効だとされるように、平和憲法の第9条は日本に有効なはずだった。
憲法改正を望む日本のナショナリストがあえて看過しがちなのは、平和主義が日本国内で圧倒的に支持されてきたことだ。戦争はアジア全域で何百万人もの命を奪ったうえ、日本自身もそのために廃虚と化した。安倍氏のような強硬なナショナリストがいくら9条改正を訴えても、世論は少なくとも1990年代までは断固反対していた。その後は世論が徐々に変化し始めた。米国の核の傘に守られながら国家の富の再構築を進めることは、日本に最適の方法だったばかりか、自ら教訓を学び、永久に戦争を放棄するという道徳的満足感は、多くの日本人が他国に与えた戦慄(せんりつ)を忘れるのにも役立った。
憲法上の平和主義を最初に悔いたのは日本国民ではなかった。1953年にドワイト・アイゼンハワー政権の副大統領として来日したリチャード・ニクソン氏はあぜんとする聴衆を前に、米国は1946年に過ちを犯した、日本は再軍備できるようにすべきだと語った。実際、日本はすでにそれをある程度実行していた。1950年に米国の承認により「警察予備隊」が結成され、後に「自衛隊」へと改編された。
残念なことに、ニクソン氏と意見を同じくする日本の数世代にわたる保守派は、この言い分を通すために、日本が第2次世界大戦中に悪事を働いたことを否定する傾向があった。彼らの見解では結局、太平洋戦争はアジアを欧米の帝国主義から解放する戦いだった。多くの命を失ったことは不幸だったが、そのような流血の事態はどの国でも歴史の一部になっている、と彼らは考える。日本のナショナリスト政治家や知識人がこの論点を主張すればするほど、多くの日本人は(もちろん他のアジア諸国の人々も)現状変更にますます抵抗した。
だがこれもまた変化し始めている。ロシアの侵略と中国の脅威のせいだ。現在では大半の日本人が第2次世界大戦の記憶を持っていない。複数の世論調査によると、日本人の50%以上が今や憲法改正に賛成している。また多くの日本人が武器購入のための増税は受け入れないが、岸田首相の防衛戦略そのものに反対しているわけではない。これは「新しい戦前」に生きていることの結果の一つだ。
ドイツが戦後たどった道のりは、日本とはかなり違っている。西ドイツにも東ドイツにも平和主義の憲法は存在しなかった。先の戦争の責任はドイツの軍国主義ではなく、ヒトラーとナチスにあった。東西ドイツからナチスを排除した後、事実上、東のドイツ民主共和国は冷戦時代のソ連支配下の共産主義前線国家となり、西のドイツ連邦共和国はNATOに加盟し、米国の忠実な同盟国となった。「世界平和」が東ドイツの公式標語となり、西ドイツでは「ネバーアゲイン(二度と戦争を起こさない)」という言葉が浸透した。
東ドイツの兵士はソ連圏の他地域で起きた民衆蜂起(1968年のチェコスロバキアなど)の鎮圧に動員されることはあったが、東西ともに武力戦争に巻き込まれることはなかった。西ドイツの安全保障は米国の手に委ねられ、その結果、自国の防衛がなおざりにされた。東ドイツは「反ファシズム」の継承者を自認しており、第三帝国(ナチス政権下のドイツ)時代の残虐さについて罪悪感を抱く必要すらなかった。また西ドイツの人々は自分たちが教訓を得たと感じる(これはむしろ日本人に近い)一方、彼らを保護している米国人は帝国主義者や主戦論者として平和主義者の左派から都合よく非難の的にされる可能性があった。これは東ドイツが強要されたソ連のプロパガンダとも見事に合致する。
こうした態度は、昨年2月にベルリンで行われた平和デモでもその一端が見受けられた。ただ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を公然とたたえる極右とは異なり、ドイツの平和主義者は依然としていかなる状況も戦争よりはましだと考えている。ウクライナへの軍事支援を強く支持するアナレーナ・ベーアボック外相は、デモ参加者から主戦論者だと非難を浴びた。ドイツで最も著名な哲学者ユルゲン・ハーバーマス氏は、交渉を通じて戦争を解決するよう求める論文を公表し、広く議論を呼んだ。「規範的な問題に細心の注意」を払うことなく「勝利と敗北のレンズを通して戦争を見ている」として、彼もまたベーアボック外相を批判した。同氏の見解では、平和を何より重視するのは、ドイツが「苦労して手に入れた精神性」の一部だ。
日本と同様、これらの議論には年齢が大きな役割を果たす。ハーバーマス氏は93歳で、ドイツが焦土と化した当時、ヒトラーの青少年組織に属する10代の少年だった。彼の知性や感情のDNAには「ネバーアゲイン」がすり込まれている。ベーアボック氏は戦後35年たった1980年に生まれた。だがベーアボック氏に関して特筆すべきは、その比較的若い年齢だけでなく、同氏が「緑の党」のメンバーだという点だ。緑の党はかつて頑として平和主義を貫いていた。同氏はウクライナ戦争を、独裁的な帝国主義侵略者に対する民主主義の防御だと捉えている。同氏の見解によれば、ドイツは暗黒の過去を持つからこそ、抑圧された側に立ち、言葉を発するだけでなく戦車も繰り出して彼らの防衛を手助けしなければならない。同氏は2月に国連で行った演説で、西側が直面する選択を端的にまとめた。「抑圧者の側について孤立するか、平和のために団結するか」
岸田首相は、安倍氏も党首を務めた保守政党・自由民主党の一員だ。しかし岸田氏が日本の戦時中の行為を否定し、憲法改正を目指すタカ派だったことは一度もない。ベーアボック氏やドイツ社会民主党(SPD)所属のショルツ首相にも言えることだが、そのことは岸田氏が自国の軍事的役割の強化を主張するのを容易にしている。岸田氏もまた自身の政策を、過去を正当化する主張ではなく、民主主義の防御と位置づけることができる。
中国とロシアからの差し迫った脅威が、ドイツと日本の変化のきっかけになった。だがもう一つ理由がある。第2次世界大戦後すぐに確立された欧州と東アジアの「パックス・アメリカーナ(米国主導の国際秩序)」は、米国の軍事的保護に対する信頼をよりどころとしていた。ドナルド・トランプ前米大統領がNATO軽視の姿勢やプーチン氏への称賛、米国第一主義の方針を表明したことで、この信頼は大きな痛手を受けた。欧州を自立した軍事大国に作り替え、米国への依存度を下げるというフランスの野望が突然、説得力を増したように思われた。それはエマニュエル・マクロン仏大統領が今も望んでいることだ。日本の目指す防衛力強化も、同じような不安に突き動かされている(ただしその不安が直接的に表現されることはめったにない)
とはいえ、トランプ氏はある一点については正しかった。それがいかにぞんざいな表現だったとしても。パックス・アメリカーナが1945年の後に制定された形で永遠に続くことはあり得ないということだ。米国の経済支配力はもはや過去1世紀と同じではない。欧州とアジアの裕福な米同盟国が米国の軍事的保護に完全に依存することは、米国の納税者から次第に不快に思われるだろう。欧州や日本の人々が自国を守る役割をもっと担い、一定の自主性を主張すべき時に来ていることは明らかだ。
だがウクライナ戦争は実際、逆の効果を生んでいる。西側諸国とNATOがこれほど結束したことはかつてなかった。それはバイデン大統領の器用で良識ある外交術のせいでもある。だが同時に、ドイツや日本のような主要同盟国がいかに軍事的独立性から程遠い状況であるかも示している。「ネバーアゲイン」を掲げる平和主義の左派出身であるショルツ氏が、バイデン氏が「エイブラムス」を供与すると約束しない限り、ドイツ製戦車のウクライナへの供与を拒否するとしたのは、その明白な例だ。ポーランドやフランス、英国の政治家、そして実際にショルツ政権の閣僚の一部は、自分たちがアンクル・サム(米政府)と一緒でなくても行動できると思っているかもしれない。だが独首相はそう思っていない。自身の慎重さがドイツ国民の大多数を味方につけるための唯一の方法だという彼の考えは正しいのかもしれない。
日本は、ドイツや他のNATO加盟国と比べて米国依存度が一段と高い。日米安全保障条約は、日本が攻撃された場合に米国が救援に来ることを義務付けており、これが唯一日本の安全面で保証されていることだ。もちろん、日本がお返しに米国を防衛する義務はない。岸田氏が軍事防衛費を増やし、敵基地攻撃の権利を確立しようとするのはある意味、歴史的転換点だが、これらの措置の主要な目的は自国を守ってくれる米国を支援することにある。
台湾にはそうした保証がない。米国は支援するかもしれないし、しないかもしれない。だが日本は中国の軍事攻撃を恐れ、ロシアがウクライナで成功すれば、中国の武力行動を誘発するかもしれないとの懸念から、米国に一層接近している。ホワイトハウスの住人が誰であろうと日本には他の選択肢がない。
ドイツの「転換点」と日本の「新しい戦前」は決して無意味ではない。自国の防衛により大きな責任を負うための、ためらいがちで慎重な、痛みを伴う第一歩が踏み出された。「ネバーアゲイン」をもう当たり前だと思ってはいけない。一方で、良くも悪くも、パックス・アメリカーナは消滅するにはほど遠い。ウラジーミル・プーチン氏と習近平氏はそれに対処してきた。
●IAEA事務局長 ザポリージャ原発を訪問 現地の状況を確認  3/30
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、29日、安全への懸念が広がっているウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所を訪れ、原発を含む地域で軍事行動が増えていることに懸念を示し、安全の確保に取り組む考えを強調しました。
IAEAのグロッシ事務局長は29日、ウクライナ南部のザポリージャ原発を訪れ、施設の安全をめぐる状況を確認しました。
グロッシ事務局長がザポリージャ原発を訪れるのは去年9月以来、2度目です。
ロシア軍が占拠するザポリージャ原発は、相次ぐ砲撃などによって原子炉の冷却などに必要な外部からの電力の供給が途絶える事態がたびたび起きています。
グロッシ事務局長は施設内で記者会見を開き「状況は改善していない」と述べ原発を含む地域で軍事行動が増えているとして懸念を示しました。
IAEAは原発の安全に向け、ロシア、ウクライナ双方に施設の周辺を安全が確保された区域に設定することを提案してきましたが、グロッシ事務局長は「いまは、原発を守るためどのような行動を避けるべきかに集中している」と述べ、区域の設定にはこだわらず、原発を攻撃の対象にしないための合意を目指す考えを示しました。
さらにグロッシ事務局長は「原発事故は避けなければいけない。すべての関係者が受け入れられる現実的で価値のある提案を示そうとしている」と述べ、ロシアとウクライナへの働きかけに取り組む考えを強調しました。
●ロシア報道官 欧米との対立深まり “軍事侵攻 長期化する”  3/30
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから400日となるのを前にロシア大統領府の報道官は「広い意味の戦争でいえば長引くことになる」と述べ、軍事侵攻が長期化するという認識を示しました。そのうえで「われわれは大統領を中心に結束する必要がある」と述べ、国民に結束を求めました。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して30日で400日となります。
これを前にロシア大統領府のペスコフ報道官は29日、軍事侵攻の見通しについて記者団に聞かれ「敵対する国や非友好的な国々との対決、われわれの国に対するハイブリッド戦争など、広い意味の戦争でいえば長引くことになる」と述べ、欧米との対立が深まる中、侵攻は長期化するという認識を示しました。
その上で「われわれは大統領を中心に結束する必要がある」と述べ、国民に結束を求めました。
これに関連してイギリスの新聞ガーディアンの電子版は28日、ペスコフ報道官が去年暮れに開かれた私的な夕食会で、政界の高官や文化人を前に「状況はさらに難しくなる。非常に長い時間がかかるだろう」と述べたと、匿名の参加者の話として伝えています。
28日にはショイグ国防相が兵器工場を訪れ、増産に取り組むよう指示するなどプーチン政権は、ウクライナへの軍事支援を加速させている欧米に対抗し、軍事侵攻を続ける姿勢を鮮明にしています。
こうした中、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトの戦況をめぐって、ウクライナ軍の参謀本部は29日「敵は攻撃を繰り返し一部で押し込んでいるが、われわれは何度も退けている」と発表し、一進一退の攻防が続いているという見方を示しました。
ウクライナ国防省のマリャル次官は29日、SNSに「残念ながら戦争には損失がつきものだ。しかし敵の損失は何倍も大きい」と投稿し、大規模な反転攻勢に向けてバフムトを防衛し続ける考えを強調しました。
●バイデン大統領 民主主義サミットで結束を呼びかけ  3/30
アメリカのバイデン大統領はおよそ120の国や地域の首脳などを招いて「民主主義サミット」を開き、中国やロシアを念頭に民主主義国家の結束を呼びかけるとともに、各国が民主的な改革を推進するためなどの費用として最大で6億9000万ドル、日本円にして900億円あまりを拠出すると発表しました。
おととしに続いて2回目となる「民主主義サミット」は29日から2日間の日程でオンラインで開かれ、日本やヨーロッパ諸国などおよそ120の国や地域の首脳らが出席しました。
中国やロシアは前回のサミットに続き、招待されていません。
演説でバイデン大統領は「民主主義国家はかつてないほど結束してロシアの残忍な戦いを非難し、民主主義を守ろうとするウクライナの国民を支援している」と述べました。
そのうえで「民主主義は強くなり、専制主義は弱体化している」と述べて軍事侵攻を続けるロシアや覇権主義的な行動を強める中国を念頭に、結束して対抗していくことを呼びかけました。
そして各国が民主的な改革を推進することなどに最大で6億9000万ドル、日本円にして900億円あまりを拠出すると発表しました。
会合ではウクライナのゼレンスキー大統領もオンラインで演説し「ロシアが血塗られた手を伸ばしているのはウクライナだが、ロシアの野望はそれだけにとどまらない。民主主義はただちに勝利しなければならない」と述べて各国に支援を呼びかけました。
ロシア「アメリカは世界の教師としての役を演じたい」
「民主主義サミット」についてロシア大統領府のペスコフ報道官は29日「アメリカは、いわゆる民主主義の問題で世界の教師としての役を演じたいのだろう。世界を1流と2流とに分断しようとする試みだ。重要なイベントとも思えない」と述べ、アメリカを批判しました。
●「私たちはウクライナと共にいわれのない侵略に対し自由と主権を守る」英チャールズ国王が異例のロシア非難 3/30
イギリスのチャールズ国王が即位後初の外国訪問であるドイツで、ウクライナ侵攻を続けるロシアを非難する異例の演説を行いました。
英チャールズ国王「私たちはウクライナと共にいわれのない侵略に対し自由と主権を守る」
チャールズ国王は29日、去年9月に即位して以降、初めての外遊でカミラ王妃とともにドイツを訪れました。
晩餐会では乾杯の挨拶を行いましたが、ウクライナ情勢について触れ、「いわれのない侵略」だとロシアを非難しました。
国王が政治的に踏み込んだ発言を公の場でするのは異例です。
チャールズ国王はドイツ滞在中、ウクライナからの避難民とも会うほか、自らの関心も高い環境問題について政財界などと話し合います。
●ウクライナ、IOCを非難 「侵略国家」競技復帰すべきでない 3/30
ウクライナは29日、国際オリンピック委員会(IOC)がロシアとベラルーシの選手の「中立選手」としての競技復帰を認める方針を示したことを非難した。
IOCは28日、ウクライナ侵攻により国際大会から追放されているロシアとベラルーシの選手について、国を代表しない個人資格の「中立選手」としての競技復帰を認めるよう各競技主催者や連盟に勧告した。
これについてウクライナ青少年・スポーツ省は声明で「ベラルーシの支援を受けたロシアによるウクライナへの軍事侵攻は五輪憲章の原則に反するもので、侵略国家の代表は国際的なスポーツ競技会に出場すべきでないとウクライナは一貫して主張してきた」とし、IOCの勧告を非難した。
IOCの勧告はロシアとべラルーシの選手の国際大会への復帰に関するもので、2024年パリ五輪に関しては別途決定を下す見通し。ウクライナと一部のウクライナの同盟国は、ロシアとべラルーシの選手が「中立選手」としてでも出場した場合、パリ大会をボイコットする姿勢を示している。
●ウクライナ大統領、習近平氏の訪問要請 ロシア侵攻巡り 3/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席のウクライナへの訪問を要請したことを明らかにした。AP通信のインタビューに答えた。ロシアのウクライナ侵攻で中国は独自の仲裁案を示しており、和平に向けたウクライナ側の立場を説明したい考えとみられる。
AP通信によると、ゼレンスキー氏は「我々は習氏と会う準備ができている。彼と話をしたい」と強調。「本格的な戦争の前に彼と話したことがある。しかし、この1年以上は接触していない」と述べ、2022年2月のロシアによる侵攻開始後は習氏と接触がないことも明らかにした。
中国は2月、ロシアとウクライナの双方に「停戦」を呼びかける12項目からなる独自の仲裁案を提示した。核兵器の使用や原子力発電所への攻撃に反対を表明し、戦後復興の支援を国際社会に促しつつ中国も「建設的役割」を果たすとした内容だ。一方、ロシア軍のウクライナからの撤退を明確に求めていない。
習氏は20〜22日にモスクワを訪問し、ロシアのプーチン大統領と会談した。プーチン氏は中国の仲裁案を評価した。両者は21日に出した共同声明で「責任ある対話が最良の道」とも強調。停戦交渉の早期の再開など和平を呼びかける姿勢を示していた。
中国が仲裁役として振る舞うことに、ウクライナを支援する米国は懸念を深めている。ブリンケン米国務長官は28日、ロシアとの停戦協議について「表面的に魅力的に見えることがワナである可能性がある」と指摘。中国の仲裁案に警戒感を示したとみられる。 
●ロシア兵捕虜「大統領信じ後悔」 前線再投入、処罰恐れる 3/30
ウクライナ侵攻でウクライナ軍の捕虜となったロシア兵らが30日までにウクライナ西部の収容施設で共同通信の取材に応じた。「ネオナチと戦う」とのプーチン大統領の言葉は「プロパガンダだったと悟った」と後悔を口にする捕虜のほか、再び前線に送られたり、処罰されたりするのを恐れる捕虜もいた。
ウクライナ当局は、収容施設の詳しい場所を明かさないことを条件に取材を許可した。
取材に応じたロシア南部チェリャビンスク州出身の男性(49)は「ファシズム打倒」に共感し、ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長の部隊に昨年12月に志願。3カ月契約で月22万ルーブル(約40万円)の報酬も魅力だった。だが「実際に見たのは破壊された家々。完全に判断を誤った」
配置先は安全な場所と聞いたが、東部ルガンスク州リシチャンスク郊外の塹壕に着いた直後に砲撃を受け捕虜に。施設からの電話に妻は応答せず、報酬も未払いとみられる。ロシアは昨年の刑法改正で投降などを厳罰化しており「帰国後に処罰されるのは怖いが、家に帰りたい」と吐露した。
●ロシアの戦術核配備でベラルーシ政権転覆の恐れ──ロシア高官 3/30
ウクライナに亡命したベラルーシの反体制派の一部は、ウクライナ軍を支援する外国人部隊に加わってロシア軍と戦っているが、この抵抗勢力が、ベラルーシの現独裁政権の転覆を企てる恐れがあると、ロシアの高官が警告した。
ロシアのミハイル・ガルージン外務次官は、ジョージアのテレビ局RTIVの番組で、ウクライナ東部でウクライナ軍と共に戦っている「ベラルーシの民族主義武装勢力」は「著しく手強い存在となっている」と述べた。
「残虐な傭兵部隊のリーダーや指揮官は、(ウクライナでの)戦闘経験を生かして、いずれベラルーシの現政権を武力で倒すと公言している」と、ガルージンは語った。「破壊工作を目指す連中がウクライナからベラルーシに送り込まれる可能性は排除できない」
ベラルーシを守る代わりに...
ガルージンは、ベラルーシの治安機関と軍の特殊部隊に対し、ロシアと共に設立した「地域合同部隊」の支援を受けて「ピンポイントの挑発、さらにはベラルーシの領土への本格的な侵攻をはね返す」体制を整えるよう訴えた。
「もちろん、われわれの共通の歴史で一度ならずあったように、ロシアは兄弟国と協力して、連合国家の主権と安全保障を守るために戦う」と、ガルージンは述べた。連合国家とは、ロシアとベラルーシが経済と軍事の統合を目指して1999年に交わした条約にうたわれた構想である。
ウクライナ軍参謀本部の昨年8月の報告によれば、ウクライナに対するロシアの戦争に参加すると合意したベラルーシ人は約1万3000人に上ると、ウクライナの英字紙キーウ(キエフ)・インディペンデントは伝えている。
ベラルーシの政治アナリストで、コンサルティング会社センス・アナリティクスの創設者Artyom Shraibmanはメッセージアプリのテレグラムで本誌の取材に応じ、ガルージンの発言はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の考えに添ったものだと述べた。
ガルージンの発言で、プーチンの盟友であるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が引き続き注目を浴びることになった。
ルカシェンコはロシアの要請に応じて、「軍事的な主権を大幅に譲り渡してきたが、その見返りとして経済的なアメをたっぷりと得た」と、Shraibmanはみる。
ルカシェンコ政権下でベラルーシは「ロシアの完全な衛星国」となったと、Shraibmanは指摘する。「それによりルカシェンコの身は安泰になった。いざという時はロシアが守ってくれるからだ」
ガルージン発言と相前後して、プーチンはベラルーシに戦術核を配備する方針を発表した。ベラルーシ軍が保有する旧ソ連の戦闘攻撃機Su24を、核弾頭を搭載できるよう改造し、ベラルーシ人パイロットの訓練も行うという。
ルカシェンコはロシアの高まる圧力に「全く無力」で、ただ言いなりになったのだろうと、元米陸軍大将のベン・ホッジスは言う。
ベラルーシへの戦術核配備は「ロシア政府による情報作戦」だと、ホッジスはみる。「自分たちは核兵器を持っているんだぞと、世界に思い知らせたいのだ。核をちらつかせるたびに、西側の多くの関係者が過剰にビビることをロシアは知っている。西側がウクライナ支援をためらい、及び腰にさせようという作戦だ」
ベラルーシは「核保有国」と吹聴
一方、ルカシェンコは乗り気だ。だが彼が気にかけているのは自身の政治的な利益だけだとShraibmanは言う。
「そのことは以前からベラルーシの将来を危うくしていたが、今はその傾向があまりにも明白になった」
ベラルーシの国営テレビの司会者で、ルカシェンコ政権のプロパガンダに力を入れているRyhor Azaronakは番組で、ベラルーシは今や「核保有国だ」と誇らしげに語り、隣国のポーランドやリトアニアに核攻撃を加えることもできるとまで言ってのけた。
ベラルーシの反体制派のリーダーで、今はリトアニアに逃れているスベトラーナ・チハノフスカヤは、ロシアの戦術核配備はベラルーシの民意に「甚だしく逆らう」動きだと非難した。
チハノフスカヤの政治顧問のフラナク・ビアチョルカはルカシェンコ政権が戦術核配備の受け入れを表明した3月28日に本誌の取材に応じ、「ベラルーシ国内の不服従と不満が高まり、反体制武装組織の活動も活発になるだろう」と語った。「以前にも、(ウクライナ侵攻のための)ロシア軍の装備が鉄道で大量にベラルーシに輸送されたときに、大規模な反体制運動が起きた。ベラルーシ領内にロシア軍の装備や兵士が大量に送り込まれ、ロシア軍の動きが活発化すれば、それに比例して反体制の動きも活発になる」
まして核の配備となると、国民の激しい反発を招くと、ビアチョルカはみる。
ロシアはベラルーシへの戦術核配備の発表に先立ち、米ロの新START(戦略兵器削減条約)の履行を停止し、核戦力に関する情報提供もやめると発表した。アメリカも同様の措置を取った。
●プーチン氏、4月に来訪も ウクライナ和平仲介訴え トルコ大統領 3/30
トルコのエルドアン大統領は29日、地元のテレビ番組に出演し、ロシアの支援で建設が進むトルコ南部の原発で来月27日に予定される式典に「プーチン大統領が来るかもしれない」と述べた。
ただ、タス通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は30日、プーチン氏の式典出席について「どういう形式になるか決まっていない」と指摘しており、オンラインでの参加にとどまる可能性もある。
トルコ南部アックユではロシア国営の原子力企業ロスアトムが原発の建設を進めている。トルコ当局は式典に合わせて原子炉のうち1基に試験的に燃料を注入するとみられ、ロシアとの友好をアピールする方針だ。
一方、エルドアン氏は29日の記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻での和平を目指し、プーチン氏やウクライナのゼレンスキー大統領と「交渉を続けている」と訴え、両国の対面による協議実現への意欲を示した。 
●ロシア、国連安保理議長国に ウクライナ外相「悪い冗談」 3/30
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は30日、ロシアが4月1日から国連安全保障理事会の議長国を務めるのは「悪い冗談」だと苦言を呈した。
クレバ氏はツイッターに「4月1日からロシアが国連安保理議長国になるのは悪い冗談だ。ロシアは(理事国の)席を強奪し、植民地戦争を仕掛け、その指導者は子どもを拉致して国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている戦争犯罪者だ。ロシアが安保理にいる限り世界は安全な場所にならない」と投稿した。
安保理の議長は輪番制で、15理事国の代表が毎月交代で務める。ロシアが議決に影響を及ぼすことはほぼないとはいえ、議題の設定は同国が担当する。
ウクライナ侵攻開始後、同国はロシアを安保理から排除するよう要求している。
●スペイン首相が訪中 習氏とウクライナ情勢協議へ 3/30
スペインのサンチェス首相が30日から2日間の日程で中国を訪問している。
習近平国家主席と会談し、ロシアが侵攻を続けるウクライナ情勢などについて話し合う見通しだ。新型コロナウイルスの流行後、訪中する欧州連合(EU)加盟国の首脳はドイツのショルツ首相に続き2人目。
スペインは次期EU議長国。中国は、対立する米国をけん制するため、欧州との関係改善を目指しており、「スペインとの包括的戦略パートナーシップを新たな段階に進めたい」(外務省報道官)とサンチェス氏の訪問を歓迎している。 
●ウクライナ国防相、大規模な反転攻勢は「複数地域で4月か5月」…  3/30
ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相はエストニア公共テレビとのインタビューで、大規模な反転攻勢に関して「軍参謀本部が複数の地域での作戦を計画している」と述べ、「4月か5月」にロシアからの領土奪還に着手する見通しを示した。
レズニコフ氏は、反転攻勢の開始時期は天候に左右される面があるとも述べた。欧州諸国から到着し始めているドイツの主力戦車「レオパルト2」を投入すると語った。
一方、英スカイニュースなどによると、英国のベン・ウォレス国防相は29日、露軍側の死傷者数について、米国のデータの引用として「22万人を超えた」と述べた。
ロシアの侵略開始から30日で400日となったが、英紙ガーディアンは28日、「非常に長期化する」との露大統領報道官の発言を伝えており、終息の兆しは見えない。
露軍側が制圧を狙う東部ドネツク州の要衝バフムトの情勢について、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が29日のビデオ演説で、「我が兵士に感謝を伝える」と述べ、反撃が一定の成果を上げた可能性を示唆した。

 

●プーチン大統領、春の徴兵で14.7万人徴集へ=報道 3/31
ロシアのプーチン大統領が春の徴兵期間に14万7000人を徴集する法令に署名したと、タス通信が30日報じた。
昨年9月には秋の徴兵規模を12万人とする法令に署名。タス通信は国防省のコメントとして、ウクライナにおける特別軍事作戦とは一切関係はないと述べていた。
ロシアでは18━27歳の男性に1年間の兵役義務がある。
●西側諸国の制裁、ロ経済に打撃与える可能性認める プーチン氏 3/31
ロシアのプーチン大統領はこのほど、ウクライナとの戦争の資金を枯渇させることを目的とした西側諸国の制裁がロシア経済に打撃を与える可能性があると認めた。
プーチン氏は29日のテレビ放送で「ロシア経済に押し付けられた違法な制限が確かに中期的に悪影響を与えるかもしれない」と発言した。国営タス通信が伝えた。
プーチン氏はこれまで、ロシア経済は依然として回復力があり、インフレやエネルギー価格の高騰を引き起こした制裁は西側諸国を苦しめていると繰り返し主張しており、今回のような自国経済への打撃を認める発言はまれだ。
プーチン氏によると、「東と南の国々」との強固な結びつきのおかげで、ロシア経済は昨年7月以降、成長を続けているという。これらの国々は中国と一部のアフリカ諸国を指すと思われる。
プーチン氏はまた、内需が経済成長の主な原動力となっていると述べ、その重要性を強調した。
ロシア政府の1月の歳入は前年同月比35%減、歳出は同59%増で、1兆7610億ルーブル(約3兆円)の財政赤字となった。
今年のロシア経済について、世界銀行は3.3%の縮小、経済協力開発機構(OECD)は5.6%の縮小を予想している。国際通貨基金(IMF)は横ばいを予想しているが、中期的には少なくとも7%縮小するとみている。
ロシアによるウクライナへの侵攻を受けて、西側諸国は昨年2月以来、1万1300を超える制裁を発表し、ロシアの外貨準備高約3000億ドルを凍結した。
●ロシア、米国人記者を人質に  3/31
ロシア当局がウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)記者のエバン・ゲルシコビッチ氏を拘束したことは、米国人を人質にするというロシア政府の常とう手段の悪質化を示している。これはまた、ロシアが文明諸国の一員という立場と決別しつつあることを示す新たな証拠でもある。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領には現在、ゲルシコビッチ氏の健康と身の安全を保証する責任がある。そして米バイデン政権は、ゲルシコビッチ氏の解放に尽力する義務を負っている。
ロシアの悪名高い連邦保安局(FSB)は29日、モスクワの東方800マイル(約1290キロ)にあるエカテリンブルクで出張取材中だったゲルシコビッチ氏を連れ去った。30日の遅い段階で、WSJも米政府も同氏との接触を許可されていない。
FSBは冷戦時代のソ連の国家保安委員会(KGB)の後継組織だ。プーチン氏はKGBで、残虐な手法を学んだ。FSBの30日の発表によれば、ロシア外務省から同国内で有効な記者証を得ているゲルシコビッチ記者は現在、スパイ容疑をかけられている。
WSJはこの容疑を否定する。その容疑は明らかに曖昧だ。ロシア政府は同国で活動する外国の記者を注意深く監視しており、ゲルシコビッチ氏は何年も同国で働いていた。彼が本当にスパイだと考えるなら、FSBはもっと前に彼を国外退去処分にできたはずだ。
拘束のタイミングから考えると、これは米国を当惑させ、今もロシアで活動を続ける外国の報道機関を威嚇するための計算された挑発行為のように思える。ロシア政府は国内の報道機関を脅して服従させているため、外国の特派員は残された唯一の独立した情報源となっている。ゲルシコビッチ氏の拘束は、ロシア経済の衰退について明らかにした同氏の署名記事が幅広く読まれた数日後のことだった。ロシア政府はそうした真実が語られるのを望まない。
拘束はまた、米司法省が先週、セルゲイ・ウラジミロビッチ・チェルカソフ容疑者を訴追したことへの対抗措置である可能性もある。ロシア人の同容疑者は、さまざまな詐欺犯罪や外国勢力の工作員として活動した罪で起訴された。プーチン氏は、米国で罪を犯したロシア人と後に交換することを目的に、人質を取ることがよくある。
スパイ容疑によるゲルシコビッチ氏の拘束は、ロシアで活動する米国人記者に対するものとしては、1986年にニコラス・ダニロフ氏が拘束されて以降初めてのことだ。それは東西冷戦の末期のことだった。ダニロフ氏はおよそ2週間拘束され、訴追されることなく釈放された。一方の米国は、連邦捜査局(FBI)のおとり捜査で何日か前に拘束されていたソ連国連代表部のロシア人職員の釈放を容認した。
米国人ジャーナリストの逮捕という(ロシアによる)臆面もない行為は、自国民への攻撃を阻止する米国の能力の低下を示している。バイデン政権は30日、ゲルシコビッチ記者が拘束されたことを非難すると表明した。WSJで働くわれわれはこれに感謝する。しかし、米国人を拘束することで優位に立てるとプーチン氏が考えているのはなぜかという疑問をわれわれが抱くのは当然だ。
ロシアと米国は昨年、少量の違法薬物所持の容疑でロシアが逮捕した米バスケットボール選手、ブリトニー・グライナー氏と、米国人殺害の共謀やテロリストグループへの武器売却の罪によりイリノイ州で25年の刑に服していたビクトル・ボウト氏の交換を行った。
この囚人交換取引はロシア政府に有利なものと広く受け止められた。それというのも、ロシアにとって交換対象者としてのボウト氏の重要度が高かったにもかかわらず、バイデン政権が米国人のポール・ウィーラン氏も解放するよう要求しなかったからだ。ロシアは元米海兵隊員のウィーラン氏を2018年から拘束している。最近では黒海上空の国際空域を飛行していた米国のドローン(無人機)を、2機のロシア軍機が(衝突により)墜落させたが、米政府は何も対抗措置をとらなかった。
凶悪な指導者は、犠牲を払わずに済むと思えば、凶悪なことをやり続ける。バイデン政権は外交的、政治的姿勢の強化を検討する必要があるだろう。駐米ロシア大使や、米国で活動する全てのロシア人ジャーナリストの国外退去は、最低限期待できるものかもしれない。米政府の第一の義務は自国民を保護することだ。しかし、あまりにも多くの国の政府が、責めを受けることなく米国市民を逮捕・収監できると考えている。
●米国務長官、ロシアによるWSJ記者の拘束を非難 3/31
ブリンケン米国務長官は30日、ロシア当局が米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のエバン・ガーシュコビチ記者をスパイ容疑で拘束したことを非難。声明で「広く報道されたロシアによる米国籍のジャーナリストの拘束をわれわれは深く憂慮している」と述べた。
ロシア連邦保安局(FSB)はウェブサイトに掲載した発表文で、ロシア中部のエカテリンブルクで拘束した同記者について、「米政府の利益のためスパイ行為を働いた疑い」が持たれているとし、「ロシアの軍産複合体1社の活動について国家機密に相当する情報を収集した」と説明した。WSJは同記者の拘束を確認したが、容疑は否定している。
トルコ議会は30日、フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を全会一致で承認し、同国の加盟に向けた最後の障害が取り除かれた。フィンランドは31番目の加盟国となる。
●モスクワ脅かされれば「援軍派遣」 ウガンダ大統領息子 3/31
ウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領(78)の息子のムホージ・カイネルガバ将軍が30日、ロシアの首都モスクワが「帝国主義勢力」に脅かされることがあれば、防衛のために援軍を送ると表明した。
カイネルガバ氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に言及し、「プーチニスト(プーチン信奉者)と呼ばれるかもしれないが、モスクワが帝国主義勢力に脅かされることがあれば、ウガンダは防衛のために援軍を送る!」 「東欧問題に関しては、アフリカ人はプーチン大統領を信じるのみだ。西側諸国は、無益な親ウクライナのプロパガンダを流して時間を浪費している。ウクライナでは、ロシア、中国、アフリカ、インド、南米が勝つだろう。人類の75%が15%に勝利するだろう」とツイッターに投稿した。
カイネルガバ氏は、1986年以来ウガンダを統治してきたムセベニ大統領の後継者と目されており、今月には2026年のウガンダ大統領選に出馬する意向を表明している。
あらゆる問題について自由奔放なツイートをすることで知られているが、現役の軍人であるため、主権国家や外交政策について許可なく発言することは憲法で禁じられている。
しかし、昨年は隣国ケニアへの軍事侵攻を示唆するツイートで物議を醸し、ムセベニ大統領から政治的内容のツイート禁止を言い渡された。
ロシアは旧ソ連時代に独立運動を支援したことから、アフリカ諸国と古くから強い結びつきがある。
●バフムート周辺の戦況、やや改善とウクライナ軍 ロシアによる攻撃減少 3/31
ウクライナ軍は、東部ドネツク州の前線一帯でこの1日の間にロシア軍の攻撃を50回近く撃退したと明らかにした。一方で飛来したミサイルや空爆の数は通常よりも格段に少なかったとした。
ロシアによる砲撃は激戦地バフムート周辺に集中しているほか、ドネツク州のアウディイウカとマリンカ、ハルキウ州のクピャンスクも標的にしている。
ウクライナ軍参謀本部は、バフムートに対して敵の攻撃が続いているとしながらも、自軍の守備隊が持ちこたえ、攻撃の多くを退けていると強調した。
戦場に展開するそれぞれの陣地に変化はほとんどないとみられる。
バフムートで戦う部隊からの報告は、30日が大半の日よりも静かに過ぎていったことを示唆する。ウクライナ国家国境庁は、ロシア軍に加わる民間軍事企業「ワグネル」の突撃部隊2隊が排除されたと述べた。
また第46独立空挺(くうてい)旅団は非公式のSNSアカウントでロシア軍の動きについて、バフムート市内ではより活発になっているものの、周辺の西部及び北西部の集落に対する圧力は弱まっていると述べた。ワグネルの傭兵(ようへい)らと正規軍との間に連携はほとんどみられないとし、バフムート市内に展開するワグネルの部隊がロシアの軍用機から攻撃を受ける状況にもなっていると主張した。
一方でドネツク州の軍政当局トップ、パブロ・キリレンコ氏は、バフムート周辺の前線や同市の北西に位置するチャシブヤール、アウディイウカ、マリンカは依然として継続的な砲撃に晒(さら)されていると述べた。
●ウクライナ東部バフムト 侵攻続けるロシア側と一進一退の攻防  3/31
ウクライナ東部の激戦地バフムトでは、侵攻を続けるロシア側とウクライナ軍との間で一進一退の攻防が続いているとみられます。ゼレンスキー大統領は「領土を回復させる」と述べ、ロシア側に占領されている地域の奪還を目指す姿勢を改めて示しました。
ウクライナ軍の東部方面部隊の報道官は30日、地元メディアに、バフムトは依然として戦闘の中心地になっているという認識を示しました。
軍の参謀本部はSNSで、「ロシア側は攻撃を繰り返しているが、われわれは多くの攻撃を退けている」と強調しています。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、新たに公開したビデオ演説で「われわれは前線で勝利し、領土を回復させる。正義を取り戻す」と述べ、ロシア側に占領されている地域の奪還を目指す姿勢を改めて示し、国民に結束を呼びかけました。
また、ゼレンスキー大統領は、アメリカのAP通信が29日に伝えたインタビューで、「プーチン大統領は、われわれが弱いことをにおわせれば、突き進んでくるだろう」と述べ、バフムトで敗れれば国内外からロシアとの妥協を迫る圧力がかかる可能性もあるとして、激戦を制することの政治的な重要性を強調しました。
●中国人の間で「鎖国が迫る」の胸騒ぎ…習近平の訪露に中国で不安広がる 3/31
世界が二つに割れるかのような「デカップリング」の動きが、いよいよ極まってきた。3月、中国の習近平国家主席はロシアを訪問したが、中国では“新冷戦が深化する兆し”と受け止める若い世代もいる。新冷戦に耐えるため中国が打つ布石に、「鎖国が間近に迫るのではないか」と不安がる声がじわりと出始めている。(ジャーナリスト 姫田小夏)
習氏ロシア訪問で停戦どころか新冷戦が進んだ
「アイルランド、スペイン、マルタ、ギリシャ、カナダ、ポルトガル…。ここ数年で僕の友人たちはみな海外に移住しました。これだけ長い時間、市民を家に閉じ込めた指導部に対する不信感はそう簡単に消すことはできません」
湖北省武漢市出身の男性・張学さん(仮名、30代)は面会に訪れた筆者にこう胸の内を明かした。彼もまた中国を脱出し、日本に逃れてきた一人だった。
その2週間後、張さんは従来の危機感をいっそう強めていた。契機となったのは、習近平国家主席のロシア訪問だ。
習主席は3月20〜22日のロシア訪問で、プーチン大統領と互いに「親愛なる友人」と呼びあった。「戦略的パートナーシップ」を強調し、中国政府が2月に発表したウクライナ戦争に関する12項目の「和平計画」について意見を交換した。また、プーチン大統領と習主席は共同声明で「すべての核保有国は海外に核兵器を配備してはならず、海外に配備された核兵器を撤回すべきだ」と述べた。
その中国の仲裁と前後して、国際社会はさまざまな動きを見せた。
習氏によるロシア訪問中に、岸田文雄首相がウクライナを電撃訪問した。米国では、安全保障上の脅威を理由にTikTokのCEO周受資氏が5時間にもわたって公聴会で質問攻めにあった。また、3月26日には台湾と断交したホンジュラスが中国と国交を樹立した。ブラジルのルラ大統領は予定していた中国訪問を延期し、岸田首相は離任する前中国大使との面会を断った。
張さんは「世界が二つに割れるかのようなデカップリングがどんどん進み、ウクライナ停戦どころか、新冷戦はもはや止めようがないのでは…」と動揺する。
5倍以上も積み増しされた中国の外交費
中国は新冷戦に耐えるための布石を打っている。
3月上旬に開催された全人代(全国人民代表大会)で発表された2023年の予算案にも、それが映し出される。国防費として前年比7.2%増の1兆5537億元(約2256億ドル)が計上され、また外交費は前年比12.2%増の548億元(約79億ドル)が計上された。
中国の一部市民が注目したのは、2022年の2.4%の伸びに対して5倍以上も積み増しされた外交予算だった。対外援助が大幅に増加したとみられており、3月26日に中国がホンジュラスと正式に結んだ国交にも「台湾を切り崩す狙いで、ホンジュラスに数千万ドルが送金された」ともささやかれている。
南半球の国々に触手を伸ばしている中国は、これらの国々との関係強化に、また残り13カ国となった台湾と外交関係にある国を取り込むために、外交予算を巧みに利用する可能性がある。
一方、中国海関総署が行った1月13日の報告によると、中国の対ロシア貿易は2022年に1兆2800億元(約1902億ドル)となった。中国の輸出入総額に占める割合は3%に過ぎないが、中露貿易は約30%の成長を遂げた。
特にロシアからの中国への輸出の伸びが顕著であり、前年比43.9%増の7670億元(約1141億ドル)となった。うち7割以上が石油、天然ガス、石炭などのエネルギー関連である。また同年、ロシアからの穀物の総輸出量は15%の増加となったが、中国への輸出量は小麦などを中心に78%も増えた。
原材料も市場も国外に求めなければならない中国は、西側諸国が敷いた包囲網の突破口をロシアに求め、エネルギーと食料を調達するための後方支援に位置づけているのだろう。中国とロシアの貿易は、二国間で設定した「2024年に2000億ドル」の目標に近づきつつある。
他方、中国の若い世代の中には、中国のロシアへの接近を快く思っていない層も存在し、「貿易を通して中国がロシアに資金提供を行い、ロシアの軍備増強を間接的に支持していくのではないか」と疑念を向ける人もいる。また、こうした布石が「国際社会で中国をさらに孤立させるのではないか」と不安に思う人もいる。
ロシア接近が招く西側との断絶に警戒感
習氏のロシア訪問と前後して、国際社会ではさらにさまざまなことが起こった。
13日には米英豪の3カ国による安全保障の枠組み「AUKUS」の首脳会議が開かれ、アメリカ製の原子力潜水艦のオーストラリア配備をめぐり協力することで一致した。16日は韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が日本を訪れ、翌17日にはハーグの国際刑事裁判所(ICC)が、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑でプーチン大統領らに逮捕状を出した。
20日はバイデン米大統領が新型コロナウイルス感染症の起源に関する情報の機密解除を求める法案に署名し、19日には岸田首相がインドを訪問、その足で21日にウクライナを電撃訪問した。
こうした動きはますます中国を刺激しロシアに接近させ、ますます世界のデカップリングを進行させるだろう。
すでに西側諸国の包囲網は中国経済に打撃を与え、その諸症状が表れ始めている。サプライチェーンの移転による失業、貿易の減少がもたらす工場稼働率の低迷、先行きの不透明感から来る消費の落ち込みなどだ。自動車の消費も伸びず、自動車購入税は397億元(2023年1〜2月、57億ドル)と、前年同期比33%も下落した。
習近平政権の「1期目」(2012年〜17年)では「中国の夢」が14億人の国民の求心力となったが、「3期目」に入った今ではそんなムードもすっかりなくなった。
今の中国が見せるロシアへの接近は、1950年に中国とソ連が結んだ軍事同盟を彷彿とさせる。国営企業に勤務する上海市在住の男性・蔡仁波さん(仮名、40代)は次のように意見を述べた。
「今回の習氏の訪露は新冷戦を象徴する大きな出来事です。建前は仲裁ですが、この時期にロシアを訪問することは二極に分かれた両陣営の片方を選ぶことであり、独裁国家と呼ばれるロシアと一蓮托生(いちれんたくしょう)になるかのような選択です。私は中国と西側諸国の断絶はさらに深まると感じています」
蔡さんによれば、これまで国外脱出を希望したのは“習指導部の強権政治”に嫌気がさした人々が中心だったが、「今回は違う」と言う。そこには“新冷戦の開戦”を強く感じ始めた人たちもいて、「英語も日本語も分からない友人さえも、日本に移住したいと騒ぎ始めている」(同)
中国は鎖国の道を選ぶのか
今回、筆者が対話をしたのは、30〜40代の中堅世代だが、こうした世代は中国の将来を悲観する傾向が強い。中には「習氏の訪露が“鎖国の準備”を早めることになるのでは」と胸騒ぎを起こす人もいる。
確かに「中国は鎖国の道を選ぶ」とする見方も一部にはある。その理由は二つある。世界を二つに割るかのような「デカップリング」と中国共産党の権力基盤の維持存続だ。中国には「国を丸ごとグローバル社会から隔離させることが、中国共産党の影響力を未来永劫(えいごう)、子々孫々に伝えるには有効なのだ」という考え方があるのかもしれない。
自宅に市民を閉じ込めた上海の大規模ロックダウンからちょうど1年になる。今になって思うのは、あのロックダウンこそが、中国共産党が振るう権力の“ここぞの見せ場”でもあり、隔離政策の拡大版ともいえる“鎖国”のための練習台だったのではないか、ということだ。
改革開放政策が導入されたのはわずか40余年前のことだった。世界に向けて開かれたその扉も、徐々に閉じられようとしている。
中国共産党の影響力を維持しながら、仲のいい国々と“半鎖国経済”を回していく――、中国はそんな段階に突き進もうとしているのではないだろうか。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 31日の動き 3/31
ウクライナ東部バフムト 侵攻続けるロシア側と一進一退の攻防
ウクライナ軍の東部方面部隊の報道官は30日、地元メディアに、バフムトは依然として戦闘の中心地になっているという認識を示しました。軍の参謀本部はSNSで、「ロシア側は攻撃を繰り返しているが、われわれは多くの攻撃を退けている」と強調しています。こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、新たに公開したビデオ演説で「われわれは前線で勝利し、領土を回復させる。正義を取り戻す」と述べ、ロシア側に占領されている地域の奪還を目指す姿勢を改めて示し、国民に結束を呼びかけました。また、ゼレンスキー大統領は、アメリカのAP通信が29日に伝えたインタビューで、「プーチン大統領は、われわれが弱いことをにおわせれば、突き進んでくるだろう」と述べ、バフムトで敗れれば国内外からロシアとの妥協を迫る圧力がかかる可能性もあるとして、激戦を制することの政治的な重要性を強調しました。
フィンランドNATO加盟へ トルコ議会が加盟を承認
NATO=北大西洋条約機構への加盟を目指しているフィンランドについて、トルコ議会は30日、加盟を承認しました。これですべての加盟国が承認し、フィンランドの加盟が実現することになります。ロシアと国境を接するフィンランドと隣国のスウェーデンは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、去年5月、NATOへの加盟をそろって申請しました。トルコは、自国からの分離独立を掲げるクルド人武装組織のメンバーを両国が支援しているとして、テロ対策をとることなどを求めてきました。加盟には30の加盟国すべての承認が必要ですが、今月27日に、ハンガリー議会が加盟を認め、30日、残るトルコ議会でも審議が行われ加盟を承認しました。これでNATOのすべての加盟国が承認し、フィンランドの加盟が実現することになります。一方、ロシアはNATOの拡大に反対していて、警戒を強めるものとみられます。
マリン首相「すべての国々へ、支援をありがとう」
フィンランドのマリン首相はツイッターに「すべての国々へ、支援をありがとう。同盟国として、われわれは安全保障を与え、享受し、お互いを守る」としたうえで、「フィンランドは現在も今後もスウェーデンとともにあり、そのNATOへの加盟申請を支持する」と書き込み、隣国スウェーデンも加盟する必要があると強調しました。
NATO事務総長「NATO全体を強化し安全に」
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長はツイッターに「トルコ議会によるフィンランドの加盟承認を歓迎する。NATO全体を強化し安全にするものだ」と投稿しました。
スウェーデンは加盟の見通し立たず
そろって加盟を申請していたスウェーデンについて、トルコのエルドアン大統領は、承認の条件としてきたクルド人武装組織をめぐるテロ対策が不十分だとして対応を見極める考えを示していて、加盟の見通しは立っていません。
アメリカ有力紙の記者 ロシア国内で逮捕
ロシアの治安機関FSB=連邦保安庁は30日、アメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の記者をスパイ活動を行っていた疑いで拘束したと発表しました。連邦保安庁は、拘束したのは、1991年生まれのモスクワに駐在するアメリカ国籍の特派員、エバン・ゲルシュコビッチ記者だとしています。そのうえで「アメリカ政府のためにロシアの軍需産業に関する情報を収集しようとスパイ活動を行っていた疑いがある」として中部の都市エカテリンブルクで拘束したとしています。ロシアの国営通信社はその後、モスクワの裁判所の決定でゲルシュコビッチ記者が逮捕されたと伝えていて、ロシアの刑法では、スパイ活動を行っていた罪で有罪となった場合、最長で禁錮20年となる可能性があるということです。「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、「FSBの主張を強く否定し、即時釈放を求める」とする声明を出しました。
ブリンケン国務長官「最も強いことばで非難」
アメリカのブリンケン国務長官は30日声明を発表し「アメリカ人ジャーナリストの拘束について深く懸念している。われわれは、ロシア政府がジャーナリストなどを抑圧し、処罰する試みを最も強いことばで非難する」と強調しました。AP通信は、東西の冷戦終結後、アメリカの記者がスパイ活動の疑いでロシアで拘束されるのは初めてだと伝えていて、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、両国の対立が一層深まっています。
ホワイトハウスの報道官「ロシア側の主張はばかげている」
アメリカ・ホワイトハウスのジャンピエール報道官は30日、会見で「スパイ活動の容疑というロシア側の主張はばかげている。アメリカ人を標的にするロシア政府の行動は受け入れられない。最も強いことばで拘束を非難する」と述べました。
ロシアと北朝鮮で武器取り引き行おうとした疑いで制裁リストに
アメリカ財務省は30日、声明を発表し、ロシアと北朝鮮の間で武器の取り引きを行おうとしたとして、スロバキア人の男を資産の凍結などを科す制裁リストに加えたと明らかにしました。声明によりますと、男は去年末からことし初めにかけて、北朝鮮の当局者の協力を得てロシアから商業用の航空機や農産物を提供する代わりに、ロシアのために20種類以上の武器や弾薬を入手しようとしたということです。また、男は北朝鮮で入手しようとしていた軍備品に関係するとみられるロシアの当局者からの情報を北朝鮮の当局者へ提供していたということです。ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は30日、記者団に対し「北朝鮮とロシアの間のいかなる武器の取り引きも国連安保理決議に対する違反だ」と非難したうえで引き続きロシアへの軍事支援に対して圧力を強めていく考えを示しました。
パリ五輪 ロシアとベラルーシの選手の参加は
IOCのバッハ会長は30日、スイスで3日間開かれたIOC理事会の総括として会見しました。この中で、軍事侵攻を理由に多くの競技で国際大会から除外されているロシアとその同盟関係にあるベラルーシの選手について、来年夏のパリオリンピックへの出場を認めるかどうか判断する時期に言及し、「大会の1年前以降になることは明らかだ」と話し、ことし7月26日の開幕1年前を過ぎてから判断する考えを示しました。また、両国の国際大会への復帰について、国や地域を代表しない「中立」の立場と認められる個人の選手に限り、団体競技での出場や軍の関係者の出場を認めないなどとする条件を28日に国際競技連盟に勧告したことに対し、一部の政府から批判が出ていることについては「スポーツの自律性を尊重しないことは嘆かわしいことだ。政府が、どの選手が出場できるかどうかを決めたらスポーツの世界の終わりだ」と反論しました。
●プーチン氏を支援する極右「自由党」:EUの対ウクライナ支援に影響も  3/31
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、オーストリア国民議会でビデオを通じて約12分間演説し、オーストリア国民のウクライナ支援に感謝した。
ゼレンスキー大統領は過去1年間で国連を含む世界の議会などでビデオを通じてウクライナ情勢をアピールしてきた。欧州連合(EU)加盟国27加盟国の中では既に24カ国の議会で演説してきた。同大統領が議会演説をまだ行っていない加盟国はハンガリー、ブルガリア、そしてオーストリアの3カ国だけだった。
ゼレンスキー大統領の演説が始まると、極右政党「自由党」の議員たちが、「ウクライナ大統領の議会演説はわが国の中立主義とは一致しない」として議会から一斉に退席した。ゼレンスキー大統領の議会演説中、国会議員が退席したのはオーストリアが初めてだ。
「自由党」のヘルベルト・キックル党首は前日、「わが国は中立主義を国是としている国だ。ウクライナ戦争で一方的にキーウ側を支援することは中立主義とは一致しない」と説明し、ゼレンスキー大統領の議会演説を妨害する意思を表明していた。
「自由党」の議会退席に対して、与党の「国民党」、「緑の党」、そして野党の「社会民主党」と「ネオス」の議会政党は、「自由党は中立主義を守るためと詭弁を弄しているが、実際はロシアのプーチン大統領を支持しているのだ」と説明し、「自由党」は過去、ロシアと密接な関係を有してきたと指摘した。
オーストリアの「自由党」だけではない。欧州の極右政党であるフランスの「国民連合」やイタリアの「同盟」はモスクワと接触し、人脈を構築していることで知られている。モルクワから欧州の極右党に活動資金が流れているという噂もある。
看過できない点は、プーチン大統領は軍をウクライナに侵攻させた時、キーウのネオナチ政権を打倒し、非武装化させることが目的だと主張してきたが、プーチン大統領自身、欧州の極右政治家との繋がりを有していることだ。欧州の政界の結束を破るために、極右政党を利用しているという面は否定できないだろう。
ゼレンスキー大統領は演説の中で、オーストリアの中立主義に言及し、「ロシア軍が昨年2月24日、ウクライナに侵攻して以来、多くのウクライナ国民が犠牲となってきた。ロシア軍は明らかに国際条約に違反している。ウクライナは自国に属していないものを要求しているのではない。わが国に属していたものを取り戻そうとしているだけだ」と述べ、「ソボトカ国会議長を始め、議員の皆さんをウクライナに招待したい。自らの目でロシアがウクライナで何をしてきたかを見てほしい」と訴え、「道徳的に見て、悪なる行動に対して中立であるということはできない」と主張した。
ちなみに、ロシアの前身国家、ソ連はナチス・ドイツ政権に併合されていたオーストリアを解放した国であり、終戦後、米英仏と共に10年間(1945〜55年)、オーストリアを分割統治した占領国の1国だ。首都ウィーンはソ連軍が統治したエリアで、市内のインぺリア・ホテルはソ連軍の占領本部だった。シュヴァルツェンベルク広場にはソ連軍戦勝記念碑が建立されている。
オーストリアのシャレンベルク外相(国民党)は、「わが国は軍事的には中立主義を維持するが、政治的には中立ではない」と述べ、モスクワの抗議に反論している。それに対し、「自由党」幹部で第3議会議長のホーファー氏は、「オーストリアは包括的な国防の枠組みの中で中立国の立場を維持すべきだ」と反論している。
「オーストリアの中立主義は宗教だ」という声がある。ウクライナ戦争が勃発した後も、中立主義を見直して北大西洋条約機構(NATO)加盟に踏み切った北欧の中立国スウェーデンやフィンランドとは異なり、オーストリアでは中立主義の見直し論はほとんど聞かれない。ロシア外務省は3月5日、「オーストリアは中立主義を守るべきだ」と厳しい注文を突き付けている。
オーストリアの複数の世論調査をみると、「自民党」がここにきて第1党に躍進してきた。その背後には、急増する移民問題がある。2015年、中東・北アフリカから100万人以上の移民が欧州に殺到した時、「自由党」は移民受け入れ反対、外国人排斥、オーストリア・ファーストを掲げて国民の支持を獲得し、クルツ「国民党」(当時)と連立を組むまでになった。その後、自由党のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首(当時)のスキャンダル(イビザ騒動)でクルツ政権から離脱し下野した。コロナ感染時代にはワクチン接種反対を掲げて政権を批判してきたが、国民の支持は得られなかった。それが移民の流入がここにきて再び増加してきたことを受け、移民反対の姿勢を明確にして国民の支持率を集めてきている。
オーストリアでは来年秋に総選挙を迎えるが、ネハンマー現政権が早期解散に追い込まれ、選挙で「自由党」が第1党に躍進した場合、EUの対ウクライナ支援に大きな影響を及ぼすことが懸念される。なお、国民議会前には親ロシア系活動家たちがゼレンスキー大統領の議会演説に抗議してデモを行った。 
●背景にプーチン政権批判 拘束の米記者、内幕を報道 3/31
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)モスクワ支局の記者が30日、ロシア連邦保安局(FSB)に拘束された。
「(軍事情報の)スパイ活動を行った疑い」が掛けられ、対米けん制の思惑が透けるが、背景には不明な点も多い。ロシアによるウクライナ侵攻の中、プーチン政権に批判的な記事を書いて「虎の尾を踏んだ」可能性もある。
「不都合な真実を隠している」。拘束された米国籍のエバン・ゲルシコビッチ記者らは昨年12月の記事で、プーチン大統領への日々の戦況報告がねじ曲げられているという内幕を伝えた。
ロシア軍の「戦果」ばかりが誇張され、劣勢の説明は二の次。FSBやプーチン氏最側近のパトルシェフ安全保障会議書記らが戦況報告の「検閲」を行っているのが原因として、政権の問題点をWSJは指摘した。
ザハロワ外務省情報局長は30日、記者が問われた容疑は「取材活動とは無関係」と述べ、メディア弾圧に当たらないとの立場を強調した。ただ、昨年2月の侵攻開始後、外国人記者が「スパイ事件」で摘発されるのは初めてとみられ、内外での衝撃は大きい。
ゲルシコビッチ氏は仮に有罪となれば、最長20年の禁錮刑が言い渡されるとみられる。報道を厳しく規制するロシアでも、記者が重罪に問われるのは珍しい。昨年9月にロシア有力紙コメルサントのイワン・サフロノフ元記者が、軍事情報を巡る国家反逆罪で禁錮22年の判決を受け、収監された例が知られる。
両記者は米ロの国籍の違いこそあれ「エース級記者」として、政権の内情を伝えていたという共通点がある。厳罰を科すため、当局があえて重罪の「スパイ」や「国家反逆」の容疑で訴追した可能性も否定できない。
サフロノフ氏らはコメルサント在籍中の2019年、マトビエンコ上院議長の辞任があり得るという記事を執筆。報道に激怒したマトビエンコ氏が同紙に圧力をかけたとされ、政治部記者が抗議して一斉退職する騒動になった。 
●「春の徴兵」プーチン大統領が法令に署名 14万7000人に兵役義務 3/31
ロシアのプーチン大統領が春の徴兵を行う法令に署名しました。14万7000人の男性が1年の兵役に就きますが、ウクライナ東部などの戦闘地域に送られることはないということです。
ロシアのタス通信によりますと、プーチン大統領は30日、この春に行う徴兵で14万7000人に兵役義務を科す法令に署名しました。
ロシアでは18歳から27歳の男性に1年間の兵役義務があり、国防省によりますと、今年からデータベースを構築し、すでに70万人を登録したということです。
春の徴兵は4月1日から7月15日まででオンラインで通知されます。
ロシア軍参謀本部は31日、徴兵した軍人をウクライナ東部の特別軍事作戦地域に送ることはないと説明しました。
志願兵と動員兵だけで十分に遂行できると強調しています。
一方、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」は巨大な電光掲示板を使い、モスクワ市内で兵士の募集を始めています。
5月中旬までにワグネルの兵士を3万人募集するということです。
●ウクライナで核戦争の恐れ、停戦呼び掛け ベラルーシ大統領 3/31
ロシアのウクライナ侵攻を支持するベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は31日、米国などの支援により核兵器使用を伴う第3次世界大戦の危険があるとして、ウクライナでの「停戦」や同国とロシアによる「無条件の」対話を呼び掛けた。
ルカシェンコ氏はテレビ放映された一般教書演説で、「事態がエスカレートする前に停止しなければならない。敵対的行為の停止や停戦宣言を求めるリスクを私が引き受ける」と述べた。
同氏は「米国やその衛星国の取り組みにより、(ウクライナで)全面的な戦争が展開されている。核の使用を伴う第3次世界大戦の可能性がおぼろげに見え始めている」と述べ、核戦争勃発への懸念を表明した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、戦術核兵器をベラルーシに配備する計画を発表した。ベラルーシは、ロシアの戦術核兵器配備を受け入れざるを得なくなったのは、「前例のない」西側からの圧力が原因との見解を示している。
ルカシェンコ氏は同じ演説の中で、「もし必要ならば、プーチン氏と私の決定で、ここに戦術兵器を導入する」と述べ、「われわれは自国、国家、国民を防衛するためなら何でもする」と強調した。
●戦時下に新法…ウクライナのメディア規制 3/31
戦争と報道…。そのあるべき姿と実際は、戦争のたびに論じられてきた。今まさに激しい戦闘が続くウクライナで、3月31日新しい法律が施行される。メディアに関する法律だ。その中に“特定の自由の制限は、国家安全保障、領土保全または公の秩序の利益のためにのみ出来る”とある。メディアに配慮されているように見える表現だが、これらの条件に抵触すれば、自由を制限出来るという見方もできる。ウクライナの報道の自由は守られるのか、議論した。
「自国の損失ではなくロシアの損失を公開するようになりました。」
戦時下の報道については、一概に規制すべきではないと言い切れない難しさがある。番組では、ウクライナの独立系インターネットメディアの編集長にインタビューした。
この『ウクラインスカ・プラウダ』は、自由な報道を掲げ、2000年に設立されている。設立の半年後、創設者のゴンガゼ氏が首を切断された状態で見つかった。
彼は、ウクライナの当時のクチマ大統領を強く批判していた。実行犯は捕まったが、誰の指示だったのかいまだ不明だ。
この事件を機に“クチマのいないウクライナを”という反政府運動が広まり、その後のオレンジ革命につながった
番組が話を聞いたムサイエワ氏は、ゴンセガ氏の遺志を継ぎ、2014年から編集長に就き、政治家や高官の汚職などを報道している。
『ウクラインスカ・プラウダ』 セウヒリ・ムサイエワ編集長「ウクラインスカ・プラウダが行っている調査報道は、抑止力であると考えます。汚職に関わろうと思っている人も“その汚職は報道されテレビで映る”とわかっていれば、事前によく考えると思います。」
去年の大統領府副長官ティモシェンコ氏が解任されたきっかけとなった調査報道も『ウクラインスカ・プラウダ』によるものだった。
この調査報道では、情報提供者を探そうとする動きがあったなど、権力側の圧力を感じたこともあったという。
『ウクラインスカ・プラウダ』の調査報道は、朝日新聞・駒木明義氏も“尊敬に値する報道を続けてきている”と高く評価している。しかし今、戦時下ゆえに通常の取材や報道ができないという。
セウヒリ・ムサイエワ編集長「ウクライナ社会はウクライナ軍の損失を知りません。2014年(クリミアでの)戦争が始まった時は、ウクライナ軍の損失も公開していましたが、今はやり方が変わって、自国の損失ではなくロシアの損失を公開するようになりました。今ウクライナで起きているような(侵略からの防衛)戦争の中で、そういった規制も理解できます。私たちが規制されているのは軍隊の移動、兵器の移動に関する情報を公開しないこと、立ち入り禁止区域に入らないこと、再攻撃の可能性があるのでミサイル着弾直後の写真や動画を公開しないこと、燃えている工場や発電所を背景に中継しないことです。これらは合理的ルールとして理解できる内容です。民間人、現地人、記者たちの命にとって危険だからです」
「ロシアのミニバージョンを作ってはいけない」
戦時下において、政府や高官の粗探しのような報道をすると、国がひとつに結束しようとしている時に水を差すのはけしからん、といった声が上がるのもまた事実だ。しかし、ムサイエワ編集長はこの点についても断固とした考えを持っている。
セウヒリ・ムサイエワ編集長「“自主規制”という現象があります。支援や社会の団結に影響を与えかねないために戦時下で汚職について報道してはいけないと思っている記者もいます。私はこの意見に大反対です。戦時下においては汚職のような事実を社会から隠してはいけないと確信しています。私たちは色々な規制の中で生活して仕事をしていますが、情報に関する規制もあります。だからと言って検閲をしたり口止めをしたりしてはいけません。ロシアのミニバージョンを作ってはいけないのです。絶対にそうならないし、非常に高い代償を支払ったウクライナ社会はそうさせないのです」
毅然と語るムサイエワ編集長の人物についてウクライナ研究の専門家、岡部芳彦教授は言う。
神戸学院大学経済学部 岡部芳彦教授「ムサイエワさんはクリミアタタール人でして、ウクライナの少数民族出身なんです。実は、本当か噓かわからないんですが、2019年にゼレンスキー氏が大統領に就任した時、彼女に報道官を打診したんじゃないかと伝えられるくらい、かなり有能な、そして芯の強い人。仮に打診されていたとしても受けなかった人なので、自分を曲げて伝えるべきことを報道しない、ということはないんじゃないかと…」
「私たちは民主主義国家になるために戦っているのです。」
独立系のネットメディアが、骨のある調査報道を展開する一方で、ウクライナの大手放送局はどんな存在なのか…。
2021年の段階では視聴率でランキングした放送局上位5社のオーナーを見てみると第1位の局『1+1』のオーナーは、実業家で元知事でもある富豪、コロモイスキー氏。いわゆるオリガルヒだ。
第5位の局『ウクライナ』のオーナーも、実業家で元国会議員のオリガルヒ。驚くのは、2位『STB』、3位『ICTV』、4位『NOVY』のオーナーは同一人物。ウクライナを代表するオリガルヒ、ピンチュク氏だ。
2019年大統領になったゼレンスキー氏が、英BBCに“なぜオリガルヒのテレビ局に出演しているのか”と問われ、“この国のテレビ局は全てオリガルヒが所有している”と答えている。
岡部教授によれば、ウクライナのテレビは、オリガルヒが自らの主張をアピールする場だという。
岡部芳彦教授「番組を見ているとそのものずばりで、オーナーのオリガルヒの主張が流れてます。(中略)前の大統領のポロシェンコさんは『5チャンネル』というのを持っていて、今も資本関係にありますが、かなりポロシェンコ推しの報道をやってた。実は(3月31日施行の)新法は、EUから“EUに入りたければメディアをオリガルヒと資本分離しなさい”って言われて出来たって側面もあります」
つまりウクライナのメディアに関する新法は、言論弾圧、報道規制などとは目的も性格も異なるという。
ただし、ロシアのプロパガンダやソ連時代を賛美するなどは、禁止内容として明記されている。
しかし、法律は時の政権の解釈によって在らぬ方向に機能しないとも限らない。
ムサイエワ編集長に最後に聞いた。
“もしもゼレンスキー大統領の汚職について情報を掴んでしまったらどうするか”
セウヒリ・ムサイエワ編集長「当然私たちはそれについて伝えます。大統領を含め政府高官の汚職について、伝えない理由はありません」
編集長がインタビューの中で強調していた言葉があった。
セウヒリ・ムサイエワ編集長「私たちは民主主義国家になるために戦っているのです。」 
 
 
 

 



2023/1-